適当に魔法科学校で主人公の達也君と遊んだりしたい(願望) (倒錯した愛)
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1話

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卿side

 

 

姫城 卿(ひめじょう きみ)。

 

それが私の名前。

 

白くてすべすべでもちもちの肌、低い身長、高い声。

 

それが私の容姿。

 

高い身体能力と知能、少ないサイオンの量、優れた光系統の魔法。

 

それが私の能力。

 

私は転生者だ、前世は俗に言う男の娘、今世も男の娘の一応性別上は男、種族は至ってふつうの人間。

 

前世ではいろいろあったような気がするけど、前世とは違う世界に飛ばすとのことで必要ない記憶は消してもらったからもうわからない。

 

私のことはこれくらいでいいかな、それじゃあこの世界について教えてもらったことをてきt………簡単に話すよ。

 

この世界は、魔法がお伽話や童話の中だけの存在じゃなくなり、魔法師が存在する近未来世界。

 

誰でも使えるわけではなく、遺伝的素質や適性が必要で、魔法を発動するにはサイオンという非物質粒子(………つまり触れられない極小の粒)で構成される情報体であるエイドス(ようは事象、起こる事がら)を改変させることで魔法を発動させる。

 

その面倒な魔法発動までのプロセスを簡略化・高速化したのがCAD(シー・エー・ディー)というデバイス。

 

魔法発動に必要な起動式を記録してあり、呪符やお札などの伝統的な道具に変わる現代魔法師の必須ツールだ。

 

ライフル、拳銃、剣、ナイフ、ケータイ、腕輪、首飾りなど様々な形状があり、大まかに特化型と汎用型の2タイプがある。

 

要するに、この世界における魔法というものは、おもちゃのゼンマイ式ブリキ車のようなものだ。

 

ゼンマイに繋がるネジを巻き(サイオンでエイドスを構成)、ゼンマイが回って車が進む(魔法発動)。

 

難しいことを言っているが、ようはサイオンはMPなのだ、サイオン量は遺伝で変わるもの、ドラクエで言えば生まれもっての魔法使いのようなものだ。

 

私は一般人と一般人の子供なのでサイオン量は少ない、私と同程度のサイオン量では、どれだけポジティブに考えてもサイオンで情報体のエイドスを構成して、起動式を作り出し魔法を発動するというひとつのサイクルを最短1日で終わらせることができる程度のものしかない。

 

いわば私は、生まれもっての武闘家、もしくはナルトのゲジマユなんだろう。

 

いくら前世の身体能力を受け継いだ転生者の私でも、加速系魔法なんて使われれば勝てるわけない。

 

しかし、自分の身は自分で守れなければならない、だがどうすればいいか、そんな感じで迷っていた私は、沖縄でこの世界の主人公にであった。

 

その時の私は1人で沖縄で旅行していた。

 

本当は両親と3人で行く予定だったが、母の体が弱く、旅行前に体調を崩してしまったので父は看病のため母のそばにいなければいかず、母の食べたがっていたサーターアンダギーが食べさせてあげられないのは辛いと、涙ながらに父に「お土産を買ってきてくれ!!」と頼まれ1人の沖縄珍道中が始まったのだ。

 

蒸し暑い沖縄の宿で魔法の練習をしつつ、もうひとつ魔法に似たよくわからない召喚魔法を練習しながら、海で遊んだり買い物をしたりといった過ごし方をしていた。

 

そんなある日、女の子がやたらガタイのいいナンパ男に絡まれているところへ女の子の兄らしき人物が割って入り、暴力に出た自分の倍以上デカイナンパ男を体術で倒していたのが印象に残っている。

 

そんな彼に思わず話しかけてしまい、転生者であることも話し、信用してもらい、友達になった。

 

思考能力、身体能力、サイオン量、全てにおいて完全な彼、司波達也、この世界の主人公と教えられていたが、チート過ぎる強さだと言わざるをえない彼と、魔法について話すのは楽しかった、もちろん他にもいろいろ話したが、どうやら彼は一般の流行について興味が薄いらしい。

 

そんな素晴らしい友達を得て数日後、突然現れた潜水艦からの魚雷攻撃、それを一瞬のうちに分解する彼、突如上陸してくる兵士たち、それも分解する彼、ただただ、無感情に存在を消していく彼。

 

そのあとはなんかデカイライフルみたいなCADで軍艦蒸発させて終わった。

 

ん?私の活躍?ないよ。

 

強いて言えば、軍艦の砲撃を何発か弾いたくらい、それ以外は何も。

 

全部終わった後、彼の知り合いらしき軍人は敵は大亜連合だとか言っていた、調べたところ国らしいけど、どう見てもテロ国家だった。

 

なんか達也君と軍人に特殊部隊に入らないかと誘われたけど、丁重にお断りさせていただいた。

 

沖縄から家に帰ると先に送っておいたお酒飲んで楽しそうに歌う母を見て悩みとかどうでもよくなった、お酒を飲まされて倒れてた父が言うに、母がお酒飲んだら回復したそうだ。

 

なぜ病人にお酒を飲ませたのかは不明、まあ元気なようなのでよし。

 

その後はケータイで達也君や妹の深雪さんと電話したりメールでやり取りしたり、たまに一緒に出かけたりした。

 

中学卒業後の進路は達也君が第一高校に行くって言ってたからそこを受験した、受験会場に入るまで魔法科高校だとは知らなかったけど、まあなんとか合格した、父と母はかなり驚いていたけど祝ってくれた。

 

そして今日は初めての登校日、入学式の日だ、遅れないようにいかなくちゃ。

 

制服よし、カバンの中身よし、お飾りのCADよし、端末はスクリーン、全てよし。

 

あーそうそう、この世界での移動手段は多種多様で、個人用のタクシー(路面電車?)的なものに目的地を設定すれば勝手に着くっていう便利なものがある。

 

みんな利用するけど速い速度で運行するから渋滞も少ない、電車よりも有用な乗り物だ、もちろん徒歩や自転車を使ってもいい。

 

受験の時もこれに乗って行った、今日もこれに乗って行く。

 

もちろん歩いて登校する方法もあるけど、私の家は第一高校から遠いうえ、結構無理言って入学させてもらったから、交通費はできるだけ抑えるためにも、こういうものを利用していかないと。

 

こういうとき達也君の財力が羨ましくなるけど、向こうは魔法師の家系、対して私はそういうものが一切ない家系だから、まあ仕方ないけどね。

 

とりあえず乗って、第一高校に着くまで寝ようかな………あ、そうだ、制服の胸のあたりとか、肩のあたりにあるこの花冠の刺繍というかワッペンというか、裁縫は苦手だったからよく知らないけど。

 

この花冠のマークが付いているのが一科生って呼ばれるいわゆるエリートに分類されるみたい、新入生200人のうち、上位の100人がこれに相当するみたい。

 

で、下位100人は花冠が付いてない補欠で入学許可された人達みたいだけど………まあ、主人公の達也君とその妹の深雪さんは一科生だろうけどね。

 

にしてもよく受かったもんだよ、魔法師として致命的なまでに低いサイオン量で一科生になれるとか………試験チョロいね。

 

ペーパーテストはまあ苦戦したね、事前に達也君に練習問題をもらってたからよかったけど(なぜこのとき魔法科高校だと気づかなかったのか…)、60点も取れてないと思う。

 

達也君は多分90点超えてるだろうし、深雪さんは達也君に教えてもらってたから80点以上は取れてるんじゃないかな?同じく教えてもらったような私がただ1人60点代とか笑われちゃうよ。

 

っと、着いたみたいだね、受験日も思ったけどやっぱりでかいよね、国が力を入れているっていうのもわかる、そりゃ達也君みたいな人工的な魔法師を作るくらい魔法に力を入れるのも、沖縄の一件で理解してしまう。

 

さて、無駄に広いせいで門から玄関までかなり遠いんだけど、ここにベルトコンベアみたいな道を作ってもいいんじゃないの?

 

あれ?なんか言い争いしてる男女がいる、うーーん……うん、遠目でも達也君と深雪さんだとわかるね、何があったんだろう?

 

「おはよう達也君、深雪さん」

 

「あ………おはようございます、卿さん」

 

「卿か、おはよう」チラッ

 

ん?なんかアイコンタクトされたんだけど………深雪さんがなんか駄々こねたのかな?まあ困ってるっぽいし助けてあげよう。

 

「何かあった?あっ、もしかしてまた達也君が女の子口説いてたとか?」

 

「またってなんだよ、俺はそんなことしたことないぞ」

 

「どうかなー?無意識のうちに女の子口説いてるってのが達也君なんだし、ねえ深雪さん?」

 

「卿さんの言う通りです、お兄様は無意識のうちに他の女子を口説いて………」

 

ドス黒いオーラが深雪さんを包む、同時に周りの温度が下がる………寒いから!寒いからね!?凍っちゃうよ!

 

「……悪かったよ深雪、こんなダメ兄貴を許してくれ」

 

「そ、そんな、お兄様はダメ兄貴なんかじゃありません!」

 

「達也君ってむしろ女の子にモッテモテのイケメンだしね、気遣いできる紳士だし、強いし……そんな素敵な達也君の一番近くに居られる深雪さんが羨ましいよ本当」

 

「そうです!お兄様は素敵でかっこいいんです!決してダメ兄貴なんかじゃありません!」

 

「……ありがとう、深雪、卿」チラッ

 

言葉とアイコンタクトで感謝の意を伝えてくる達也君、いやいや、話の方向を変えるくらいどうってことないよ。

 

「そろそろ中に入らない、季節は春だけどまだ肌寒くてさ」

 

原因は深雪さんだけど、言わぬが吉。

 

「そうだな、深雪、行こうか」

 

「はい、お兄様♬」

 

達也君を褒めちぎって方向転換したから深雪さんものすごい上機嫌だね。

 

一体何の話をしていたのか気になるけど、口は災いの元、言わぬが仏、見猿聞か猿言わ猿、関与しないほうがいいね。

 

達也君を私と深雪さんで挟んで歩く、この陣形は達也君に女子を近寄らせないために考案された深雪さんのためのフォーメーションなのだ、もしこのフォーメーションをせず女子の群れの近くを通れば確実に北海道雪祭りレベルの芸術品ができる。

 

主に女子の氷像とかができる。

 

それでも近寄ってくる女子は………おっと、これ以上は私が危険だ。

 

「それではお兄様、深雪は行きます」

 

「あぁ、頑張っておいで」ナデナデ

 

「はい♡」

 

達也君、爽やかに頭を撫でてるとこ悪いけど、ここ学校、校舎、人たくさんいるから、みんなこっち見てるから、目立つの嫌いって言いつつめっちゃ目立ってるから。

 

私のそんな視線を無視して達也君は深雪さんをひとしきり撫でた後、深雪さんは生徒会に呼ばれているようなのでここで分かれた。

 

「達也君、深雪さんって生徒会に入ってたの?」

 

「いや、深雪の試験の成績がトップだったから新入生の答辞に選ばれたんだ、打ち合わせに行くそうだ」

 

「へえ、じゃあ達也君は2位だったの?」

 

「俺はこれさ」

 

そう言って達也君は花冠のマークの無い制服の肩の部分を引っ張って見せた。

 

「え?達也君勉強は得意じゃ………」

 

「実技のほうだ、俺は2種類の魔法しか使えない」

 

「……そうだったね、まあいいじゃん、入学できたんだし」

 

「そうだな、言い遅れたが入学おめでとう、卿」

 

「ありがとう達也君」

 

入学式の式場の講堂はまだ閉まったままだったので、達也君と話して時間を潰すために中庭に移動して本でも読もうということになった。

 

ベンチに座って端末から本を読む達也君、私はその隣に座って本を取り出して読む。

 

「まだその本を読んでいるのか?」

 

「なぜか飽きないんだよね、この本」

 

本を読んでいると達也君に話しかけられる、今読んでいる本は達也君と出会った沖縄で見つけた挿絵無しの童話本のことだ。

 

伝説とか、封印とか、闇のなんちゃらだとかいう定番の設定があって、一国のお姫様が魔物に攫われて、それを助け出す勇者の物語。

 

この本を買う気なんか無かったけど、立ち読みしてラストまで読んでみると内容がとても面白い、それに挿絵が無いから想像力を膨らませるのに最適で、魔法の練習の時に役に立った。

 

この実用面でも役に立つ挿絵の無い童話本は、私のお気に入りなのだ。

 

「達也君も読んでみる?もしくは深雪さんに読んでもらう?想像力を膨らませるのに最適だよこの本」

 

「機会があったら読ませてもらうよ」

 

勧めてみると結構好感触、興味が湧いたってことかな。

 

「それより卿、時間だ、そろそろ行こう」

 

「もうそんな時間?早いね」

 

意外にも本を読むのに熱中していたようだ、腕時計を見ると講堂は空いている時間で、入学式まであと30分といったところだった。

 

本をしまってベンチから立ち上がり、講堂に足を向けたところで。

 

「新入生ですよね?開場の時間ですよ」

 

声をかけられる、見た感じ上級生、顔のレベルの高い一科生だ、ブレスレットみたいなのはCADかな?

 

「ありがとうございます、すぐ向かいます」

 

「関心ですね、スクリーン型ですか………当校では仮想型ディスプレイ端末の持ち込みを認めていません、ですが仮想型端末を利用する生徒は大勢います………ですが、あなたは入学前からスクリーン型を利用しているんですね、関心します」

 

「仮想型は読書に不向きですから」

 

仮想型ディスプレイ端末…………そういうのもあるのか。

 

というか雑談始められちゃう困るんだけどね、催促する側が引き止めるとか意味がわからない。

 

「動画ではなく読書ですか、ますます関心ですね----」

 

なんだか長くなりそう、先に行って席を確保しておくと合図を送る、達也君の了解の合図を見て講堂に向かう。

 

講堂内は広く、一際広い通路を挟んでステージに近いほうが一科生、遠いほうが二科生に分かれている模様。

 

特に先生の誘導もないようだし、ここは達也君と同じ二科生の方に座って待とうかな。

 

「んしょっ……と」

 

端っこの方にかなり席が余っている場所があったので、端の席に座る、ステージまでけっこう距離があるけど、遠いから逆に見やすいね。

 

にしても………達也君はより一層イケメンになったし、深雪さんはよりかわいく、いや、綺麗になったかな、大人の色気っていうの?大増量だよね、あんなにいい子が妹だと心底羨ましく思うよ(ただし性格は除く)。

 

「悪い、遅れた」

 

「ずいぶん長かったね、ていうかあの人誰だったの?」

 

時計を見ると7、8分ほど経っていた、女子の会話は長いからね、つき合わされる前に逃げる、それが私の前世知識。

 

「生徒会長の七草真由美先輩だ」

 

「へえ、それで入学式の始まる前に中庭でぶらぶらしてたなんて、生徒会長って暇なんだね」

 

「あれはたぶん見回りじゃないのか?」

 

「見回りにしては、雑談に忙しそうだったけどね」

 

ま、でも気持ちはわかる、達也君との話は面白いんだ、魔法とか深雪さんのこととかCADのこととか、興味深い話が聞けるしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也side

 

 

俺は中庭で生徒会長でありナンバーズ(数字付き)の一家【七草】真由美に非物理的に拘束されている。

 

「入試7教科平均、100点満点中98点!特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学ね、合格者の平均が70点に届かない中………」

 

生徒に試験の成績を話しても良いものなのか?

 

このように七草真由美の独り言のような話に拘束されている、気付かれないように時間を確認すると、卿が中庭を出てから5分は経過している。

 

「どれだけ凄いと言われようとあくまでペーパーテストの成績、情報システムの中だけの話です、その証拠に、自分にはエンブレムがありません」

 

できるだけ早く話をきって卿が確保している席に座り、深雪の答辞を見なければ、見なかったら後で深雪が何をするかわからない。

 

「そんなことないわよ、少なくとも私にはそんな点数取るのは無理だもの、こう見えて私って………」

 

七草真由美の声が耳から入ってくる、環境音としてカットしたいが深雪の生徒会入会後の関係を悪化させたくはない。

 

「そういえば、一緒にいた彼女………彼は?」

 

「姫城卿のことですか?」

 

「彼が姫城卿………そうなのね」

 

卿に興味があるのだろうか?確かに卿の魔法はかなり特殊だ、初対面の時はBS魔法師かと疑ったが調べてもそう言った情報はなく、汎用型CADを渡して様々な魔法を試してもらったが、人より時間はかかるが発動可能だったので結局のところ詳しい事はわかっていない。

 

ただひとつ、わかることは、卿の魔法は強力であるということだ、俺の分解と同じかそれ以上に厄介だと思われる魔法で、サイオン量の少なさからは考えもしない威力だった。

 

加えて卿は転生者………魔法がお伽話でも伝説でもなくなった今の世の中だからあまり驚かなかったが(深雪は驚きのあまり青ざめていた)、問題は卿の持つ知識だ。

 

卿の知識、特に科学に当たる分野の知識は明らかにオーパーツと言わざるをえない、物質を粒子に分解して保存、状況に応じて瞬時に呼び出し可能な技術…………非常に危険な技術だ、世界各国が軍事技術に転用すれば恐ろしいことになるだろう。

 

幸いなのは、当の本人の卿がその技術の一切を公表するつもりも、再現するつもりもないことだ。

 

「そろそろ時間なので失礼します」

 

「え?ちょ、ちょっと!」

 

七草真由美が考え込むそぶりを見せたので強引だが話をきって講堂に入った。

 

二科生が多く座る講堂の後ろのほうの席に、他の二科生や一科生の視線を我関せずの態度で座る卿を見つけた。

 

差別意識など全く気にも留めない卿の行動に内心苦笑いする、本人は流れに乗るとか逆らうだとか、一切考えていないのだろう。

 

もっとも、被差別意識があるのは二科生のほうなので、意識しなければいいだけの話なのだが、この大多数の二科生のうち何人が俺や深雪や卿のような考えを持っているのだろうか。

 

そして、一科生のなかで二科生を差別せず公平に考える人はいったい何人いるのか。

 

どちらにせよ、二科生の意識を変えていかなければ公平公正平等は難しいだろう。

 

「悪い、遅れた」

 

話しかけると卿は振り向いていつも通りの真面目なのか不真面目なのかわからない笑みを浮かべつつ言った。

 

「ずいぶん長かったね」

 

昔沖縄であった時に見た笑顔がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卿side

 

 

パンフレットを見る限り、生徒会の挨拶とかの後に答辞があるみたいだね、それまで寝てようかな………いやそんなんじゃダメだよね、というかたぶん達也君に怒られるから止めとこう。

 

本人の達也君は二科生のメガネかけた女の子と話してるようだけど………っていうか後ろの赤茶っぽい短髪の女の子さ、私を見てなんでそんな不機嫌な顔するの?怖いよ、あ、これがスケバンとか番長とかいうやつかな?

 

まあ違うと思うけど。

 

いつの間にか達也君の横に女の子4人が並んで座ってるんだけど………もうフラグ立てたの?早くない?ねえ、この状況を深雪さんが見たら兄絶許状態(お兄様、今度ばかりは絶対にお許しできません!!状態の略)になると思うんだけど、私も巻き添え食らうからあまり仲良くしないで。

 

………でもまあ、達也君が深雪さんの頭を撫でたり、顎をクイッと持ち上げたり、肩を引き寄せたりすれば、即堕ち2コマになるんだろうけどね、ほんっっっっっとイケメンってズルい、女顔の自分が憎い。

 

だいたいなんだよ、私と達也君と深雪さんの3人で街を歩いてて『あら、かわいい妹さんと彼女さんね』って声をかけられなきゃいけないんだよ!

 

あのあと彼女さんって言われて嬉しくも妹だと思われなくてやや落ち込んでた深雪さんを恋人のように優しく慰める達也君のせいで人目集めたんだけど!その時の私に集まる『あなたの彼氏、シスコンなのね…』っていう同情の視線は要らないよ!

 

私は……僕は……男だよ!!!!

 

「なあ、卿」

 

「ん"!?」

 

「いやなに怒ってるんだよ」

 

「沖縄で達也君と深雪さんと街を出かけた時のことを思い出したらムカムカしてきただけだし!」

 

「俺はなにも悪くなかったと思うんだが……」

 

「わかってるそんにゃ………そんなことくらい……………はあ」

 

思い出したら悲しくなってきた、身長もあの時からほんのちょっぴりしか伸びてないし、変声期どこ行ったってくらい声も高いままだし、私はコ◯ン君か!

 

「気にしても仕方ないだろ、もっと前向きに考えるんだ」

 

「はーい………」

 

「わかったら自己紹介だ」

 

「え?誰に?」

 

「こっちの、柴田さんたちにだ」

 

「相変わらずコミュ力高いよね達也君ってさあ………えっと、柴田さん?」

 

「は、はい、柴田美月です、お名前を教えてくれませんか?」

 

達也君の高いコミュ力に脱帽しつつ隣に座る柴田さん(メガネ)に話しかけると、丁寧に名前を聞かれた。

 

「私は姫城卿、姫城でも卿でも呼びやすい方で呼んでくれていいよ、自称成績ど真ん中、よろしく柴田さん」

 

「はい、よろしくお願いしますね姫城さん(自称成績ど真ん中?)」

 

「あたしは千葉エリカ、よろしく」

 

「よろしくね、千葉さん」

 

達也君さあ、なんでこう、レベルの高い女の子捕まえるのうまいのかなー?深雪さんに刺されても知らないよ?

 

でもとばっちり受けて氷像になりたくないから、監視はしっかりするけどね(深雪さんの魔法マジ敵味方無視のマップ兵器)。

 

「卿、あんまり変な事言って混乱させるなよ」

 

「変な事って言っても………意味そのまんまでたぶんホントのことだしいいじゃん」

 

「いやいや、自称成績ど真ん中って説明不十分だから」

 

「んじゃあ分かりやすく言うと、私の入試の成績が100位だってこと、要するに一科生の中でビリケツ」

 

「そういうのってわかるものなんですか?」

 

「いんや?達也君と私の実技の成績はそこまで差が無いと思うからだよ」

 

「適当すぎるだろ」

 

「うん、適当すぎよ」

 

「ちょっと2人とも酷くない?私だったね、自分の極微量とも言えるサイオンの量でギリッギリなんだよ?これはもうあれだね、私の努力を讃えよ」ドヤッ

 

「少しイラっときた」

 

「同じく」

 

2人ともさ、頭、高くない?処す?処す?…………達也君を処せるわけないんだけど、ちょっと敵キャラのレベルバランス狂ってるんじゃないんですかね、レベル30の勇者の目の前にラスボス出すようなもんだよ、RTA走者でもTASでもないんだよ?死ぬよ?教会で復活するよ?ここら辺教会ないけど。

 

「ちょっとちょっと、ちょっと2人、達也君と千葉さん、私に対する風当たり、強うない?ねえ?ほら、もうちょっとさ、あるよね?いう事がさ、その、さ……………ほら、なにか………どこか褒めるとことか」

 

「あ、姫城さんはかわいいですよ」

 

「私は男だよ!」バァン!

 

バァン!(右手大破)

 

「ご、ごめんなさい!(ゴッ)〜〜〜!!」

 

勢いよく下げた頭が前の席に当たってうずくまる柴田さん、うわあ、なにこの………加護欲をそそらせる動き。

 

正直たまりませんわ、妹に欲しいくらい、もしくは従姉妹に欲しいかな、ドジっ娘とか私得すぎるんじゃぁ^〜〜。

 

「ってちょっと腫れてるじゃないですか………はい、これ貼っててください」

 

「冷え◯タ……」

 

「あ、ありがとうござ………っ!?………ござい、ます」

 

一応受け取ってもらえたけど、なんか私の手を見た瞬間に真っ青になっちゃったんだけど。

 

手にごみでもついてたかな…………達也君ならわかるかな?




中途半端でスマソ。
誰も見てないと思うから適当でいいやっていうね、ある種の安心感がね、でちゃってね。

主人公の魔法は強め設定、サイオン量が少ないのにそりゃねえだろ………って思うでしょ?思うよね?私も思う。
でも規格外っていうかチート系の方が面白そうだからこれでいい(ヤケクソ)


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2話

卿side

 

 

『これより国立魔法大学付属第一高校入学式を始めます』

 

「ようやく始まるね、深雪さんの答辞が楽しみでしょうがないよ」

 

「当たり障りのないものだと思うぞ?」

 

「達也君の側にいられなくてストレスの溜まってる深雪さんが、普通で何の変哲もない平凡な答辞をすると思う?」

 

「………否定しきれないな」

 

達也君と話しているとすぐに深雪さんの答辞の時間になった。

 

『新入生答辞、新入生代表、司波深雪』

 

舞台袖から出てきた深雪さん、ステージ中央のマイクの前に立つと深呼吸し、一礼した。

 

パチパチと拍手が鳴る、私と達也君も同じように拍手をする、拍手が止んで数秒たってから深雪さんは口を開いた。

 

『この晴れの日に歓迎のお言葉を感謝いたします、私は新入生を代表し第一高校の一員として誇りを持ち、皆等しく平等に勉学に励み、魔法以外でも共に学び、この学び舎で成長することを誓います』

 

「………大胆だねぇ達也君」

 

「深雪のやつ……」

 

頭を抱えるポーズをとる達也君、望んでいた妹の晴れ舞台、だが発言は望まないものだった、そんな感じだね。

 

あとそのポーズ早めに辞めてね、達也君を見てる女子が二科生だけでざっと20人はいるから、絶対半分はフラグ立ってるから。

 

早くしないと見惚れてる女子が氷像を越してダイヤモンドダストになっちゃうから、東京で北海道の自然現象観測されちゃうから止めて。

 

あっ、深雪さんこっち見て………あかん、目が真っ黒や、逃げなきゃ(脅迫観念)。

 

あー!やめて!深雪さんやめて!死線送るの私じゃないよ!隣!隣のスケコマシだから!私何も悪くないから!

 

「言い訳考えとかないと………」

 

「何のだ?」

 

「達也君が女の子侍らせてる件について」

 

「そんなんじゃないだろ………」

 

「達也君………深雪さんを侮ったらいけない、死ぬよ?」

 

「それは困るな」

 

一切困ったふうには見えないのがちょっとイラつく、感情表現に乏しいのは知ってるけどさ、丸投げはないんじゃない?少しは罪の十字架を背負ってよ。

 

「私は深雪さんに殺されるのも悪くないけど、達也君に会えなくなるのはごめんだから、まあなにか適当に言い訳を考えとくよ」

 

「助かる、俺のこととなると深雪は視野が狭くなるからな」

 

「あとでお願いひとついい?」

 

「俺のできる範囲ならな」

 

「よし、じゃあこの私が達也君の弁護を担当してあげようじゃないか」

 

気取った言い方をすると横で見ていた柴田さんがクスリと笑った、さっきの怯えたような表情はなんだったんだろうか?私のことが整理的に無理ってわけでもなさそうだし、ますますわからなくなった。

 

入学式も終わって解散となり、ステージ脇の扉から深雪さんが出てくると、あっという間に生徒に囲まれてしまった。

 

「あちゃー、あれじゃあ動けないよ」

 

「卿、すまないが深雪を迎えに行ってくれないか?」

 

「ん?達也君のほうがいいんじゃない?」

 

「深雪の周りを見てみろ、全員一科生だ、俺が行ったって突っ返されるだけだ」

 

「そっか、じゃあ迎えに行ってくるよ、IDカード登録したら合流ね」

 

「あぁ、道に迷うなよ」

 

「深雪さんがいれば迷うことはないから」

 

達也君の「心配だ……」という発言は聞かなかったことにして、深雪さんのいる集団に突っ込んだ。

 

かき分けて進むと深雪さんが見えた。

 

「深雪さーん!」

 

「あ、卿さん」

 

微妙にわかる程度の苦笑いで困ったように応対していた深雪さん、声をかけるとこっちを向いてくれた。

 

「迎えにきm………っとぉ!!??」

 

「卿さん!」

 

何かにつまづいて転びかけたところを深雪さんがとっさに支えてくれなければ危なかった。

 

まるで胸に飛び込んだようになってしまったけど、故意じゃないからいいよね。

 

「すみません、助けてくれてありがとう」

 

「いえ、無事で何よりです」

 

深雪さんの手を引いて集団からさっと抜け出して講堂から出る。

 

「それじゃあ、IDカード発行してさっさと達也君のとこ行こうか、あでも深雪さんってもうIDカード持ってるんだっけ?」

 

「はい、すでに登録は済ませてあります」

 

「うーん………」

 

深雪さんを1人にしてIDカードを登録しに行けば絶対囲まれるだろうし、うーん………あっ、あの女子は確か七草真由美、生徒会長だったっけ。

 

そうだ、生徒会長の側に深雪さんを置いておけば誰も近寄ろうとはしないはず。

 

「深雪さん、私はIDカードを貰ったら達也君を連れてくるから、それまで生徒会長さんと一緒に居てくれない?」

 

「わかりました、それでは、お兄様のことを頼みました」

 

一礼した深雪さんは生徒会長とモブっぽい男子に近づいていった。

 

それを確認すると私も一番人の少ない列に並んで本人確認をしてカードを受け取る、さて、問題は達也君なんだけど………いた。

 

「達也くーん!」

 

「卿か、そんなに走ると危ないぞ」

 

「そんな事より、向こうで深雪さんが待ってるから、早く行って抱きしめてあげなさい」ビシッ

 

「人目につくところで抱きしめられるわけないだろう………」

 

ため息をひとつ漏らした達也君は、深雪さんのいる方向へと歩き始めた、その後ろから女子が続いている。

 

私は達也君の隣に立って歩く、なにやら視線が集まるが、おそらく達也君のイケメンフェイスを見ているのだろう、ふぅ、やれやれ、リア充爆発しろ。

 

「お兄様!!」パァッ

 

『花が咲いたような』っていう文をたまーに本で見るけど、いまいち理解できなかったんだけど、今の深雪さんの笑顔のことを言うんだろうね、いつもの慎ましく柔らかい笑みが水仙とかユリの花なら、今この瞬間の笑顔は………ヒマワリ、かな。

 

嫉妬と怒りの渦巻く笑みは薔薇だよ、それも触れたら即死の毒が棘に塗りこまれているタイプの、そうなったらもう大変、専用の鋏(達也君)に棘を切ってもらわないといけないんだ。

 

ついでに失敗すると高確率で達也君か嫉妬の対象が氷像になる、ひどい時はダイヤモンドダスト。

 

「悪い、遅れた………待ったか?」

 

「いいえ、全然です(お兄様を想えば、待ち時間すら幸福です……)」

 

深雪さん若干トリップしてる気がするんだけど、大丈夫、だよね?

 

「また会いましたね、司波達也君」

 

「……どうも…………」

 

ん?達也君の表情引き締まったね、ちょっとやめて達也君、合流早々深雪さんのコメカミピクピクしてるんだけど、勘違いされてるからね、生徒会長に気があるみたいに勘違いされてるよ深雪さんに。

 

「それから、初めまして、姫城卿君、私は生徒会長を務めております、七草真由美です、よろしくお願いしますね」

 

「初めまして生徒会長、姫城卿です、よろしくお願いします」

 

いきなり私!?

 

「ところで、姫城君は中庭で本を読んでいたようですが」

 

「えぇはい、中学生の時に買った本で、私のお気に入りなんです」

 

「そうなの?どういう内容なのか教えてくれませんか?」

 

あっ、この生徒会長、本読むの好きなんだな………。

 

「良いですよ………と言っても、良くある童話をモチーフにした本なので、あまり面白くないかも知れませんよ」

 

「いいんです、聞かせてください」

 

「わかりました………この本の物語は、とある一国の姫が魔物に攫われるところから始まるんです、とある一国の王様は姫を取り戻そうと何万という兵士を送り出しますが、誰1人たどり着くことができず、ついには姫の肉体を器とし、魔族の王………魔王が復活してしまうんです」

 

「それで?それからどうなるの?」

 

「復活した魔王は、自らの魂を封印したとある一国の王様の先祖への恨みを、とある一国に矛先を向けました、とある一国に何十万という魔物を送り込み、残る兵力を投入し防衛に徹したとある一国でしたが、ついに強固な守りが崩され、とある一国は滅んでしまうのでした」

 

「え?おしまいなの?魔王は?姫様はどうなったの?」

 

いつの間にか口調崩れてないこの人、いや別にいいけど………にしてもワクワクしてる顔だなあ、気持ちはわかる。

 

ただ顔が近いのは勘弁。

 

「まさか………今話したのはほんの序盤も良いところ、プロローグ、序章の部分です、本当の始まり………第一章はここからです」

 

「長編なのね!それで?それで?どうなっちゃうの?」

 

「知りたいですか?」

 

「ええ、興味が湧いたわ、聞かせてちょうだい」

 

「残念ですが、体験版はここまでとなります」

 

「えー………」ぷくーっ

 

あらかわいい。

 

「知りたいのでしたら………自分で読んでみるのが良いでしょう」

 

「この本は……」

 

制服から本を取り出して生徒会長に手渡す、生徒会長は思ったより厚みがあり重たい本だったことに驚きつつも受け取った。

 

パラパラとめくりながらまた驚いている。

 

「すごいでしょう?この本、挿絵は無いし字は細かいうえ子供には難しい言葉が多い、子供向けの童話とはとても考えられませんよね?実はこれ、大人向けの童話本なんです」

 

「大人向けの童話本?最近はそういうのもあるの?」

 

「あったのはだいぶ昔で結局流行らなかったみたいですね、この本の挿絵が無く難しい言葉が多いのはわざとそうして作っているからなんです、読みながら風景を想像し、キャラクターの視点になって物語を読み進めていくと、面白いですよ」

 

「そうなの………そんなのがあったなんて………端末では検索対象外の本もあるものなのね」

 

「まず一回普通に読んでみる、読み終わったら今度は攫われたお姫様の気持ちになって読んでみる、読み終わったら次は魔王の気持ちになって読んでみる………そういう風に登場するキャラクターの気持ちになって読むと何百倍も面白いんですよ」

 

「そうなの………あ、この本、本当に借りても良いの?」

 

「えぇ、むしろオススメしたいくらいですから」

 

「ありがとう姫城君、さっそく帰ったら読んでみるわね」

 

とびっきりの笑顔+上機嫌でそういう生徒会長、本当に読書が好きなんだな………というか、後ろに突っ立ってるモブ上級生の視線がキモい。

 

ふと達也君の方を見ると…………深雪さんと柴田さんと千葉さんが自己紹介をしているところだった、意外と大丈夫だったんだ、まあ被害が倍に越したこと無いよね。

 

しばらくして達也君が。

 

「深雪、生徒会の人たちとの話はもう良いのか?まだならどこかで適当に時間を潰しているが………」

 

「その心配は要りませんよ」

 

達也君の言葉に返したのは深雪さんじゃなく、本を胸元で抱いた生徒会長だった。

 

「今日は挨拶だけで十分ですし、他に用事があるのならそちらを優先してもらって構いませんから」

 

後ろからモブ上がなにか反論しているけど………とりあえず生徒会長、あなた本読みたいだけでしょう?

 

やがて考えがまとまったのか、生徒会長はこっちの方に向き直った。

 

「それでは深雪さん、また後日改めて、司波君も今度ゆっくり話しましょう、姫城君も、また本のお話を聞かせてください」

 

「はい、会長、また後日」

 

「はぁ………」

 

「それくらいの話なら、いくらでも」

 

礼儀正しくお辞儀する深雪さん、困ったように返事をする達也君、内心読書好きの人がいてちょっと嬉しい私の順で言う。

 

振り向いて去っていく生徒会長、モブ上のうざってぇ視線に唾吐きつけたい気持ちをこらえてじっと我慢する、見えなくなったところでため息をはき。

 

「はぁーー………何あのきもっちわるいモブ男子上級生、私と達也君のこと睨んでたし、深雪さんのことも下心全開で舐め回すように見てたしさあ…………ねえ千葉さん、どう思う?」

 

「えー私?……んーぶっちゃけあの人には近寄りたく無いなー」

 

「だよねー、というか、あんなキモいのが生徒会役員とか………マジナイワー」

 

ひとしきり千葉さんと感覚を共有したのち、達也君の方に振り返る。

 

「それでさ達也君、どうする?帰る?」

 

「俺は帰ろうと思う、深雪も帰るよな?」

 

「はい、お兄様と一緒に帰りたいと思います」

 

2人の以心伝心っぷりに周りがちょっと引いてるよ……。

 

「あ、それじゃあ一緒にケーキでも食べに行かない?この近くに美味しいケーキを出すお店があるんだ」

 

「ケーキですか〜」

 

「いいですね、お兄様はいかがなさいますか?」

 

「別に構わない、卿はどうだ?」

 

「うん、ついて行かせてもらうよ」

 

「じゃ決定!」

 

ということで千葉さんの提案でケーキを食べることになった、ケーキ………やっぱモンブランかチーズケーキだよねえ、それに王道のショートケーキもいいよね。

 

「高校周辺のお店事情には詳しいんだな」

 

「当然!これから3年間通う場所だもの!」

 

なにやら達也君が千葉さんの返答を聞いてため息をついていた。

 

「それじゃあ、妹共々、これからよろしく」

 

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

向こうは向こうでなにやら盛り上がっている様子、うんうん、仲が良くて大変よろしい!

 

千葉さんを先頭にケーキの美味しいお店に入り、各々好きなものを注文して食べ始めた、今はもうみんな食べ終わってコーヒーや紅茶を飲んでいる。

 

達也君はおもむろに端末を出すとベンチで読んでいた本の続きを読み始めた、私も読もうと思ったが、今は生徒会長に貸しているため諦めてコーヒーをすすって時間を潰す。

 

…………………にっが。

 

そんなこんなで暇を潰していると解散することになった、沖縄の時と同じように達也君が伝票を掴んで会計を済ませて帰ってきた、さすが達也君、行動が早いね。

 

達也君の行動の早さは深雪さんの心情の変化には無効なのが残念だよ。

 

「悪いね達也君、奢ってもらっちゃって」

 

「これくらいどうってことない」

 

「さすが達也君だね、私もそういう台詞言ってみたいよ……」

 

「そういえば、姫城さんのお家ってどういうところなんですか?」

 

「私?うーん、父は普通の会社員、母は専業主婦、兄姉弟妹はいない、まあ一般家庭だね………だから基本的にお小遣い制で金欠なんだよね」

 

「隠れてバイトとかしないの?」

 

「考えたけど、学校にバレて親に心配かけるのはちょっとね」

 

「姫城さんは家族想いなんですね」

 

「しかもこいつ、中学の成績は常に1位だったしな」

 

「達也君それどこで知ったの?」

 

そんなこと誰にも言ってないのに………。

 

「優等生じゃない、私には1位なんて無理無理」

 

「とは言うけどさ、魔法の勉強は全然だったよ、正直言って達也君が教えてくれなかったら落ちてただろうしね」

 

「あーわかる、私も40点取れたかどうか」

 

「私もペーパーテストのほうは正直………」

 

やっぱりみんな苦手なんだねー、達也君が異常なんだよやっぱり。

 

「ペーパーテスト1位をとった達也君がいてくれて良かったと思うよ」

 

「うっそ!達也君テストで1位とったの!?」

 

「たまたまだ」

 

「すごいです司波君!」

 

お店から出て帰路を歩きつつ達也君ワッショイする、ある意味ノルマみたいなもの、実際この中で最強だし、というか学校で一番強いし、いっそ日本最強じゃねってくらいチート強い。

 

私じゃぶっちゃけ勝てない、相性が悪すぎる、無理不可能意味不明って感じで負けるから。

 

私だけ遠いところなので途中で達也君たちとわかれて帰った。

 

明日が楽しみでなかなか寝つけなかった。

 



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3話

卿side

 

 

登校して学校に入ったところで深雪さんと出会った、何やら不機嫌だったためとりあえずフォローしておいた、まったく、まーたなんかしたのかな達也君は………あとで紅茶でもおごってもらおう。

 

廊下を歩きつつふと思い出したことが口をついて出る。

 

「達也君は………別クラス、なんだよね……」

 

「はい……」

 

深雪さんとそろって落ち込む、今更だけど学校の試験の評価基準やっぱりおかしいって、本当今更だけど。

 

「………まあ今落ち込んでてもしょうがないよ、深雪さんも落ち込んでないで、笑ったほうがいいよ」

 

「善処します……」

 

思った以上に沈んでる、これはあれだね、私が深雪さんを元の調子に戻さなきゃならない感じだね。

 

これは私のせいだから紅茶の請求はなしでいいかな。

 

「あーー………達也君が今の落ち込んでる深雪さんを見たら、今やってる作業とか全部放っぽり出してすっ飛んできそうだなー」

 

「!………そうですね、私がしっかりしなければ、お兄様は心配して自分のことができませんもの」

 

「そうだね深雪さん………そうだ!お昼ご飯の時に深雪さんの友達とか連れて行ってみたら?」

 

「え?私のお友達を?」

 

「うん、きっと達也君喜ぶだろうなぁ、大事な大事な妹がたくさんの友達に囲まれて楽しそうにしてるところを見るっていうのは、兄である達也君からしたら評価高いと思うよ」

 

「そうかもしれませんね!……ですが、私にお友達ができるかどうか不安です……」

 

「大丈夫だよ、深雪さんなら友達の2人や3人簡単につくれるって、達也君も向こうのクラスで男友達の1人や2人簡単につくってくるさ」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうそう、あっそうだ、わかってると思うけど友達はちゃんと選んでね…………二科生をバカにするようなやつは、いらないからね」

 

「………そうですね、お兄様や二科生のみなさんに平等に接せられる方でなければ、お兄様に近づくのに相応しくありませんわ」

 

差別意識を持たない平等主義な素敵な思考を持った友達をつくることにやる気を出す深雪さん、これなら達也君も文句は無いはずだ、ここで友達をつくるってことは、社会でコネとして通用するからね。

 

まあ、明らかに深雪さんのほうがビッグネーム過ぎるんだけど、誰も深雪さんが四葉だなんて知らないだろうし、信じないだろうしね。

 

「おはようございます」

 

深雪さんと一緒にAクラスの教室に入ると、視線が深雪さんに集中する、深雪さんを見るとさっきまでの差別主義者は皆殺しみたいな雰囲気じゃなくて、お嬢様だが接しやすさを醸し出す雰囲気になっている、さすが達也君の妹、規格外だよ。

 

「ぷぎゃ!?」

 

「おっと………」

 

いきなり誰か倒れこんできた……スカートだから女の子だね……って女の子?

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「うぅ……ありがとう司波さん………えっと……」

 

「あーー、まあ知らないよね」

 

一科生最下位の私のことを知ってる人なんて数えるほどしかいないよね……。

 

「う、すみません、助けてくれたのに」

 

「ううん、気にしないで、私は姫城卿

 

「司波深雪です」

 

「わ、私は光井ほのかです、あ、助けてくれてありがとう姫城君」

 

光井ほのか、さんね。

 

「どういたしまして、それじゃ仕切り直すけど、私は姫城卿、よく間違えられるけど生物学上れっきとした男だよ、これから3年間よろしく」

 

「私は司波深雪です、光井さん、仲良くしてくださいね」

 

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

ちょっとしたアクシデントが起きたものの、ノルマの半分は達成した、光井さんなら平等な考えを持ってくれていることだろう。

 

「すみません司波さん、姫城君、この子ちょっとおっちょこちょいで」

 

「雫!」

 

新顔登場、ふぅむ、光井さん同様レベル高いね。

 

「えっと、そちらは?」

 

「北山雫です、お名前はかねがね………ほのかがファンなんです」

 

「ちょっと雫!」

 

「どこかでお会いしましたっけ?」

 

「試験会場で一目惚れしたとか」

 

「あーわかる、わかるよ光井さん」

 

「余計なこと言わないでよ!姫城君もからかわないで!」

 

「理不尽!?」

 

というかこの状況って初対面の女の子2人と即席のコントを披露してる感じなんだけど………奇妙過ぎる。

 

席についてHRにて説明を受け、オリエンテーションで指導教官の話を聞いて、授業見学のために移動しようかと席を立って深雪さんに近づく。

 

どこの馬の骨か知らない男子が話しかけようとしたのでサッと間に入って話しかける。

 

「深雪さん、授業見学どこ行く?」

 

「先生についてまわってみようかと思います」

 

「そっか………そうだ、光井さんと北山さんも一緒にどう?」

 

深雪さんに話しかけたくてウズウズしてた光井さんと心配そうに光井さんを見てた北山さんを誘う。

 

「私たちもいいんですか?」

 

「えぇ、もちろんよ、友達とまわった方が楽しいもの」

 

深雪さんの笑顔と返答に顔を赤らめながら喜ぶ光井さん、北山さんは無表情……いやちょっと笑ってるかな?

 

「それじゃあ先生について行こっか」

 

「そうね、行きましょう」

 

「はい!」

 

「うん」

 

先生にあとについて歩く、いろいろと興味深いものを見ながらついに演習場についた。

 

演習を見学していると教官から質問を出された。

 

「森崎君、説明をお願い」

 

へえ、さっきのモブ男子が森崎だったんだ、冴えない顔してるね、もてたことなさそう、それになんか…………説明が微妙、わかりづらいってわけじゃ無いけど、物足りないっていうか、そんな感じ。

 

「じゃあ姫城君はどう?」

 

「………え?私?」

 

「そうですよ」

 

「んーー、私そういう難しいことよくわから「あら、そんなこと無いでしょう?」

 

「あなたなら、わかるはずよね?入試のペーパーテストで100点満点中91点をとったあなたなら」

 

…………うっそぉ。

 

え?なに?これってもしかして壮大なドッキリだったりするの?たしかに達也君に模擬問題とか教えてもらったけどさ………えぇ……。

 

「あーー………間違ってるかもしれませんが……えーっと………放出系魔法は素粒子及び複合粒子の運動と相互作用に干渉する魔法………ですねたぶん」

 

「はい、よくできました」

 

算数の問題の解答をした小学生を褒めるみたいな対応やめてー、それとモブ崎、そのキモい目を閉じとけ。

 

ん?メール?達也君から………先に食堂で待ってる、か。

 

「それでは昼の休憩に入ります、午後の見学は13:20分からです」

 

「それじゃあ深雪さん、ご飯食べに行かない?……(達也君は先に食堂で待ってるって)」

 

他人を寄せ付けない見事な先制攻撃、ふっ、モブ男子風情が近寄るんじゃあないぜ!

 

「(わかりました)………はい、では行きましょうか、光井さんと北山さんも一緒にどうですか?」

 

即興のアイコンタクトでも通じるんだ………さすが達也君の妹、似てるね。

 

「あ、はい」

 

「一緒に食べさせてもらう」

 

「そんじゃあ食堂にレッツゴー!」

 

昼食に誘えなかった哀れなモブ男子ども、私を後ろから睨むことしかできない…………圧倒的!圧倒的勝者!!美少女3人を連れて歩く!まさしく愉悦!!

 

ただ、悲しいかな、この中の1人でも私に好意を抱く乙女は、いないのだ。

 

食堂に着くまで深雪さんに誰も近づけないようにブロックしつつ立ち回り、声をかけることすらできずに立ち尽くすモブ男子の顔が面白いぞい!

 

食堂に着くと達也君の背中が見えた、さすがに背が高いね………横にいる男子も背が高いけど。

 

「やっはろー、達也君待った?」

 

「いや、待ってない」

 

達也君の隣に深雪さんを座らせ、深雪さんの隣に光井さんと北山さんを座らせ私もその隣に座る。

 

「いやー、深雪さんのあまりの美貌に近寄るハエを撃退しながら来たものだから、思いのほか時間かかっちゃって」

 

「そうだったのか、悪いな、卿」

 

「ジュース9本でいい」

 

「いや欲張り過ぎだろ………俺は西城レオンハルト、レオでいいぜ」

 

「私は姫城卿、卿でいいよレオ」

 

いいツッコミだねレオは、ガタイがいいから肉体で勝負する感じかな?どちらにせよかなり強そうだ。

 

「しかし…………達也の言ってたことは本当だったんだな」

 

ご飯を食べている時にレオが唐突にそう言った。

 

「言ってたことって?」

 

「いや………言っちゃなんだが、一科生ってのは大抵俺ら二科生を嫌うもんだろ?なのに卿と北山と光井はそんな感じに見えねえしよ」

 

「んー、私は実力で判断するタイプだから、強い人と競ったり教えあったりしたほうが互いに得るものが大きいでしょ?………強いかどうか判断するのに、一科二科は関係ない、それが私の持論だよ」

 

「でも二科生より一科生のほうが強いんじゃ………」

 

「それは単縦な魔法の威力とか精度を測ってるだけ、問題はスピードだよスピード」

 

「スピード?威力のほうじゃないの?」

 

「威力なんて練習すればいくらでも上がるよ、重要なのはスピード、次点でコスト、達也君なら私の言いたいことわかるでしょ?」

 

「スピードを重視すると言ったのは、相手より早く起動し先手を取れるから、次点のコストというのは、魔法を連続して起動する時に無駄なものを省いて起動のスピードの向上を狙うということ、そうだろ?」

 

わかりやすい説明に何度もうなづくレオ、見た目だけだと脳筋に見えるけど、第一高校に入学を許可された人、理解力は高いようだ。

 

「そゆこと、実際の戦闘っていうのは、試合みたいに位置についてーとかよーい、なんてない、敵を見つけ次第仕留めるのが普通だよ、つまり…………出会い頭に一発ぶち込む戦法こそ最強!」

 

不意打ち騙し討ち目眩し、卑怯?戦いに卑怯なんてないよ!生き残った方が勝者だよ!!

 

「なるほどねえ………たしかに、普通なら試合みたいに待っちゃくれねえもんな」

 

「いくら強力な魔法を持ってても、起動に時間がかかってちゃ意味ないしね、自分の身を守れる最低限の威力さえあれば、スピードにガン振りするのがいいと思う」

 

そこまで言って一息つく………あれ?なんか私超見られてない?

 

「参考になる」

 

「なるほど、スピードかー」

 

「………ま、偉そうに講釈垂れましたけど……………私の魔法って起動するまでがクッソ長いんだけどね!」

 

「駄目じゃねえか!」

 

「仕方ないじゃん!私のサイオン量の評価知ってる!?『近代稀に見る微量さ』だよ!?微量だよ微量!!魔法が起動できるだけでも大したもんだよ!?」

 

「微量って………微量www」

 

「笑わないでよレオ!自販機でジュース買った時のお釣りが全部10円玉だった時と同じくらい凹んだよ!ガラスのハートが砕けそうだよ!」

 

「ガラスにしては柔軟性があるな」

 

「なに冷静に突っ込んでんの達也君!?」

 

騒がしい昼食も終わり、午後の見学の時間になり、達也君たちとわかれ、先生について行っていろんな場所を見た。

 

さて、授業も全部終わったし、帰ろうか………と思った矢先に……。

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるんです!」

 

「黙れ!ウィード如きが!俺たちブルームにはブルームの話があるんだ!ウィードは引っ込んでろ!」

 

これだ、目の前で口論に発展している柴田さんとモブ一科生を見つつ横目で深雪さんを見る、深雪さんは達也君の隣で小さくため息をはいていた。

 

事の成り行きは、まあ見てわかるとおり、一緒に帰ろうとしたらモブ一科生が自分たちが深雪さんと一緒に帰るから退いてろ、なんていきなりやってきて言うんだよ、そりゃ大人しそうな柴田さんだってキレる。

 

「達也君」

 

「なんだ?」

 

「どーすんの?帰んの?」

 

「帰るつもりだが、柴田さんたちを置いてはいけない」

 

「ふーん………参考までに聞くけどさ、深雪さんは誰と帰りたい?」

 

「もちろんお兄様とです!」

 

「嘘でもそこは『お兄様たち』って言って欲しかったかなー」

 

じみーにテンションが下がったけど、いつもの深雪さんで一安心、もしも深雪さんのご機嫌がナナメだったら、話しかけるだけで殺気を向けられるからね。

 

「んー、達也君ならこの状況どうする?」

 

「どうするもなにも………どうしようもないだろ?」

 

「………それもそうだね」

 

変に騒ぎを起こして達也君の正体がうっかり………なんて馬鹿な真似嫌だし、なにもせず無視するのが得策……なんだろうけどね………。

 

「ウィードが口を挟むな!」

 

「同じ新入生じゃないですか!今の段階でどれだけの差があるっていうんですか!」

 

「そんなに見たいなら見せてやる!才能の差ってやつをなあ!!」

 

「…………あっちはそうは考えてくれないみたいだけど」

 

「…………はぁ」

 

モブ崎がなんか西部劇のガンマンみたいにCADを引き抜いた………ってか。

 

「………遅くない?」

 

「十分早いんじゃないか?」

 

噂で聞いてたあのモブ崎のクイックドロー(早撃ち)が素早いものだって聞いてたんだけど……なんか、うん、遅いよね。

 

「せいっ!」

 

「ふん!」

 

「ぐっ!」

 

レオの陽動で千葉さんに警棒みたいなやつでCADを叩き落とされるモブ崎、そりゃこんな距離じゃあねえ………俗に言うこの距離なら銃よりもナイフのほうが早い、ってやつだね。

 

ただ達也君がナイフを持てばそれ一本で遠距離まで対応できちゃうっていう。

 

あとさ、光井さんさ、魔法起動しようとしないで、モブ崎の腰巾着っぽいのも起動しようとするんじゃないよ…………っ!

 

「ふっ」パチンッ

 

指を鳴らすと宙に一本の剣が出現する、右手で掴んで光井さんのほうに向かって振る。

 

「え!?」

 

キィンッ!と甲高い音が鳴り剣が何かを弾く、弾いた角度から誰にも当たらないものだと推測される、次の瞬間、数メートル先の地面から着弾音、おそらくサイオンの弾丸、自分でも思うけどほぼ不可視の高速で飛翔する非物理粒子を弾くなんて、よくできたと思うよ。

 

失敗してたら………考えないほういいね。

 

「止めなさい!自衛目的以外での魔法攻撃は校則違反以前に犯罪ですよ!」

 

新手のスタn………魔法師……いったい何草真由美先輩なんだ………。

 

「七草先輩?………と誰?」

 

「こんにちわ姫城君、彼女は……」

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ、君たちは1-Aと1-Eの生徒だな、事情を聞くからついてきなさい」

 

風紀委員長様のお出ましか、ずいぶんと勿体ぶった登場だねえ。

 

達也君はどう切り抜け…………なるほど、フォローするから私がやれと?期待しておくよ達也君。

 

「いやいや、委員長さん、事情と言われましてもですね〜、見ての通り、そこの………えーーーーーーーっと……………男子がですね、『(俺の十八番のクイックドローを)見たけりゃみせてやるよ(震声)』って言うもんですから、見学のつもりでみんなで見てたんですよお」

 

「君はたしか………姫城君と言ったか、今君は見学と言ったな?ならなぜ君は魔法を使って、そこの女子を切ろうとしたんだ?」

 

「それは誤解って言うもんですよ、彼女に向かって飛んできた正体不明の魔法の弾丸を弾くためにやったんですよ、証拠はそこに空いた穴を見てくれればわかりますよ」

 

指差した先にはさっき弾いた魔法の弾丸が着弾し土がえぐれたところ。

 

「…………ふむ、君の今の言い分を信じよう、だが、そこの女子は君が弾丸を弾く前に、攻撃性のある魔法を発動させようとしていたようだが?」

 

「彼女はたしかに魔法を発動させようとしていましたが、あれは閃光魔法の一種で、威力が抑えられたものでした、失明の危険もありませんでした、おそらく森崎のクイックドローとどちらが早いか試そうとしたのでしょう」

 

「ほぅ」

 

達也君ナイスフォロー!

 

「魔法師として、相手の実力を測りたくなっちゃうのは、渡辺先輩もわかると思います」

 

「………ふっ、そうだな、では、姫城君、さっきの君のあの魔法は?」

 

「想像力豊かな(ヒーローに憧れる)青少年らしい魔法、でしょうかね」

 

「………面白いな、君の魔法は」

 

「それほどでもありません」

 

まずいかな、渡辺先輩の目が野獣の眼光だよ、獲物定めたライオンの目だよ。

 

「もうそのへんでいいじゃない摩利」

 

「真由美!」

 

ここで生徒会長の参入、見たところ渡辺先輩とずいぶん仲よさそうだね、幼馴染だったりするのか?

 

「達也君、姫城君、本当に見学だったんでしょ?」

 

「え、ええ、まあ………」

 

「本当に見学だったんですよお、信じてください会長………それに、仮に見学じゃなかったとしたら、今頃深雪さんに氷像にされちゃってますよ!」

 

達也君の返しが曖昧で怪しまれると思い、見学でなかった場合起こりえたかもしれない惨劇の可能性を示唆する、イケメンでもないモブ崎の氷像なんて見たくないからね。

 

というか、昨日は司波君だったのに今日は達也君って呼ぶんだね、会長は達也君を気に入ったのかな?だとしたら嬉しいね、達也君を正当に評価してくれるかもしれない貴重な人だしね。

 

同じくらい身バレが怖いんだけどね。

 

「会長がそう言うなら、この場は不問とします、以後気をつけるように」

 

ッシャァ!

 

「君、名前は?」

 

「司波達也です」

 

「そうか、覚えておこう」

 

風紀委員長にもロックされるなんて………さっすが達也君!モテモテじゃなイカ!

 

おかげさまで深雪さんがちょっと不機嫌な顔(達也君と私くらいしかわからない)になってるよ!どうしてくれてんの!?

 

会長たちが去るまで頭を下げる、いなくなったようなので頭を上げる。

 

「司波達也………僕はお前を認めない」

 

捨台詞を吐いて去っていくモブ崎、とその腰巾着、まあそんなのはいいんだよ。

 

さて、さっさと帰って寝ようか……おっと?

 

「あ、あの!!」

 

「えっと………光井さん?どうかした?」

 

「はい!さっきは、助けてくれてありがとうございました!」

 

「え?いや、助けたのは達也君だったと思うんだけど………達也君のフォローがなきゃ生徒会長を切り抜けるなんて無理だったし」

 

「はい、それはわかってます、私が言いたいのは、姫城君が私に向かってくる魔法を防いでくれたことについてです」

 

「あ、そういうこと………うん、じゃあお礼は受け取っておこうかな」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

「いや、だからもう受け取ったって………」

 

教室でのことを思い出す、この子、たぶんドジっ娘だ。

 

すっげえ萌えますぜ!!!達也の旦那ぁあ!!!!

 

「卿、帰るぞ」

 

「あ!ちょっと待って!ねえ光井さん、北山さんもさ、一緒に帰らない?」

 

「いいんですか!?」

 

「うん、深雪さんと達也君もいいよね?」

 

「構いません、むしろお供したいくらいです」

 

「俺も異存はない、深雪の友達とも仲良くしたいからな」

 

達也君は本当にフォローがお上手!

 

「友達……」

 

「えぇ、私たちみんな友達だよ、さ、早く来ないと置いてっちゃうよ!」

 

「わわわわわ!?ま、待ってー!深雪さーん!」

 

「ほのか、慌てすぎ」

 

達也君と深雪さんを中心に話しながら帰宅する、途中、ケーキを食べたお店に入って各々話を始めた。

 

千葉さんのCADの話や、深雪さんに普段の達也君の生活を聞く光井さんと北山さん、そして私と達也君とレオは。

 

「サイオンを武器にする?」

 

「そ」

 

私がサイオンを固めて創り出した剣で光井さんに向かってくる魔法の弾丸を弾いた時のことをレオに質問され、達也君と一緒になって教えているところだ。

 

「待ってくれよ、サイオンは触れねえ物体なんだろ?それ自体を武器にするなんて…………物体に硬化魔法を使うならともかくよ」

 

「ノンノン、なにも物理的な攻撃性を持たせればいいってもんじゃないよ」

 

「どういうこった?触れられなきゃ意味ねえんじゃねのか?」

 

「卿の魔法は、少し特殊なところが多いんだ」

 

「まあね、自分でもよく理解できてないけど、要するに、通常の魔法を発動するのと同じ原理でサイオンを固めて剣状にする、ただそれだとサイオンの塊ってだけで触ることはできない、そこで、手のひらにサイオンを密着させ、相互干渉させることでサイオンの剣『ブレード』を保持するんだ」

 

「つうことは………ブレードを創り出す魔法と、それに触ることができる2つの魔法を同時にやってんのか!?」

 

「惜しい!ブレードを創り出した後に干渉できる魔法を発動してるんだ、同時にやったらどっちの魔法も発動できないからね」

 

「そりゃそうだよな」

 

まあ、2つ3つの魔法の同時発動くらい達也君ならやりそうだけど、ってかやりかねない。

 

「んん?けどよ、そうなるとCADの入力はどうなるんだ?」

 

「そこは簡単、あらかじめ音声認識で発動できるよう設定してあるんだ」

 

「音声認識………ああ、それで指パッチンしてたのか!」

 

「その通り(半分はカッコつけだけどね)、指パッチンして武器を召喚する………かっこよくない?」

 

「わかるぜその気持ち!」

 

ガッシィ!(握手)

 

「だが実際は発動が遅く妨害を受けやすく、無防備になるから不利だぞ」

 

「そこ!夢のないこと言わない!!」

 

結局騒がしくなってしまうが、最後の方は急遽達也先生の魔法講座に決まり、みんな静かに聞いていた。

 

そんななか、私は1人ジュースを飲んでいる深雪さんに近づく。

 

「達也君の話を聞かなくていいの?」

 

「お兄様のお話はとても勉強になります、ですが…………今行けば皆さんの邪魔になってしまいます」

 

あー、達也君にも友達ができたから、遠慮してるんだ。

 

「遠慮は無用だよ、ほら、深雪さんは達也君の隣にいないと!」

 

「わっ!?ちょっと卿さん!?」

 

「うおっと………大丈夫か?深雪」

 

「おおおおおおお兄様!?す、すみません!////」

 

勢いあまって達也君の膝のほうに飛ばしちゃって、対面剤みたいになっちゃったけど、問題ないよね!

 

「ヒュー!ヒュー!熱いよ!熱すぎるよー2人ともー!」

 

「わ、わ〜〜………////」

 

「す、すごいわね……」

 

「ほ、本当に兄妹なんだよな!?」

 

「達也さん……深雪さん……」

 

「………アンビリーバボー」

 

みんなして達也君と深雪さんを囃し立てる、日頃のストレスを加えて。

 

「お、お兄様………////」ギュゥ

 

「おい深雪、離れてくれ…………」タジタジ

 

「あーもー!あっついなーあっつすぎるよー!それに超甘々だよ!糖尿病になっちゃうよー!……マスター!アイスコーヒー!ブラックで!とびっきり苦いやつちょうだい!」

 

「俺も同じのください!」

 

耐えきれなくなったのでコーヒーを注文、数分後、注文通りのクッソ苦いコーヒーが出てきた。

 

「ズズッ………ふぅ、落ち着いた」

 

「ズズッ………俺も落ち着いた」

 

甘々な空気にしておいてなんだけど、今日ほどこの2人の絡みに後悔した日はない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう2人とも……」

 

「おはよう卿……ってどうしたんだ?」

 

「顔色が優れないようですが……」

 

解散後に家に帰ってコーヒー飲みまくったら気持ち悪くなったうえに眠れなくなった………なんていえない。

 

「ちょっと面白い番組があってさ、つい夜更かししちゃって………眠くて気持ち悪い」

 

「自業自得だな」

 

「酷いなぁ達也君は………んま、いいけどさ」

 

カフェインフィーバーで新しい魔法を思いついたし、眠気なんて些細なことだよ。

 

やっぱり光魔法がいっちゃん使い勝手いいよね!そりゃあ達也君みたいに破壊力(?)がでかいわけでもないし、どっちかっていうと最低レベルだけどさぁ?光だよ光、相手に自分の認識を阻害させることもできれば、不意打ちに狙撃、咄嗟の防御だってできるんだしね。

 

だからといって達也君に勝てるとかそういうことはないけど。

 

まあ、サポートなら最強レベルって話だね。

 

他愛のない会話をしながら登校する、今日も今日とて、深雪さんは上機嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ったんだけどなぁ、ど〜してこうなるかなぁ?

 

いやさ?生徒会長に昼食に誘われる、生徒会は美少女だらけ、達也君が美少女を褒める、深雪さん不機嫌っていう…………うーん、これ私どうすればいいの?

 

 

 



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4話

呼んでる人いないと思うけど、おまたせ。

今回は風紀委員に入るあたりまで。


卿サイド

 

 

空気が重いんだけど………。

 

ここ本当に生徒会室なの?ってくらい空気が重い、ってか寒い、寒くない?だーれー?エアコンの温度10度にしたの〜?絶対男子でしょ〜!?

 

なんて冗談すら言えない空気ですはい、さっきから隣の深雪さんから伝わる冷気で箸を持つ手が震えてる、温かいご飯はすでに冷えているし、飲み物のジュースは夏場や暑い日に喜ばれそうなシャーベット状になっている

 

こんな時になんだけどシャーベットジュースがすっごい美味しそう。

 

と、ここで深雪さんが達也君に今度から弁当を作ってくることを提案、するも、食べる場所が無いというトラップが………今度は気分が沈んでしまった深雪さん、冷めたご飯が温かさを取り戻していく、ジュースはシャーベットから液体に戻った。

 

正直シャーベットのほうが………。

 

「兄妹というより、恋人みたいですね」

 

会計の市原先輩がそんな爆弾発言をしたことで深雪さんは登校の時のようにふたたび上機嫌に、同時に達也君に近づいて密着、さすが本妻………じゃなくて妹。

 

「そうですね、血の繋がりが無かったら、恋人にしたいと考えたことはあります」

 

「ファッ!?」

 

「もちろん冗談ですが」

 

「「「え!?」」」

 

「チッ……」

 

「なんで深雪まで驚く……あと卿、舌打ちはやめてくれ」

 

「夫婦みたいな空気出しといて冗談とかないわー」

 

さっすがは美男美女兄妹!度胸が違うゼェ!って言おうとしたのに、まったく、ガッカリだよ!

 

そのあとはいきなり達也君が市原先輩の魚の骨を取り除き始めたので、代わりに私が七草先輩に質問することにした。

 

「七草先輩、私たちを呼んだ理由を聞いてもいいですか?」

 

「えっと、我々生徒会は、司波深雪さんに生徒会に入ってもらいたいと思っています、どうでしょうか?」

 

「……会長は、兄の成績をご存知ですよね?優秀な者を生徒会に入れるのなら、兄を入れることはできないのでしょうか?」

 

勧誘の話を切り出した七草先輩に対し、深雪さんは達也君を持ち出した、やっぱりというか、達也君に対しての扱いが不満なようだね。

 

七草先輩は深雪さんの発言に申し訳なさそうな顔をする、ついで市原先輩から原則として二科生は生徒会に入れないということを言われ、深雪さんの表情は沈んだ。

 

表現するなら、海底の美しい珊瑚礁、見た目は美しいが、物言えぬところがどこか悲しみをまとっているような雰囲気が漂っている………どうにも詩的な表現は苦手だね、それ以上にクサイし。

 

うーん、達也君が生徒会に入ってくれないと、深雪さんは安心して仕事ができないだろうし。

 

「そういえば真由美、風紀委員の生徒会専任枠が決まってないんだが」

 

「それは選別中でしょう?」

 

「たしか専任枠には縛りは無かったよな?」

 

「「あっ」」

 

偶然にも七草先輩と声が重なる、まさに『その手があったか!』ような声音で。

 

そこからはもうトントン拍子、流れるように達也君が風紀委員の専任枠として持ち上げられていく、最後まで拒否の態度の達也君であった。

 

時間もいいところなので、続きは放課後ということになり解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「達也君が風紀委員かー、いいんじゃない?深雪さん喜ぶと思うよ」

 

「しかしな………俺は実技が苦手なんだぞ?(実戦はともかく)一科生を取り締まるなんて無理だ」

 

「でも、風紀委員に入れば、深雪さんものすごーくやる気出してくれるって言ってたよ?」

 

「むぅ………」

 

放課後、お花を摘みに行った深雪さんを待つ間に達也君の入るつもりはないという決心をにぶらせようと、深雪さんをダシに使い話術で丸め込もうとする。

 

実際、風紀委員に達也君が入れば怖いものなんてなくなるんだよね、風紀委員と生徒会は合同会議とか多いから達也君と深雪さんの遭遇率は高めだし、何より風紀委員の巡察と称して深雪さんと公認校内デートもさせてあげられるわけだし。

 

何よりも私の負担が減る!

 

「………わかった、風紀委員に入ろう」

 

「お、やっぱり深雪さんg「ただし、卿も風紀委員に入ってもらうからな」………へっ?」

 

「交換条件だ、仕事のフォローはする、いいだろ?」

 

「んー……まあいいよ」

 

それくらいなら安いもんだし、何か揉め事でもあった時は達也君に投げときゃいいかな。

 

復帰した深雪さんを連れて生徒会室に入る、あ、あの時のキモいモブ上級生がいる。

 

んで、何やら不穏な空気に……いつの間にやら達也君とキモブ上との模擬戦が決定。

 

「七草会長、卿を風紀委員に入れることはできますか?」

 

「え?……本来なら森崎君の予定だったんだけど……どうなの摩利?」

 

「正直、先日の出来事で森崎が風紀委員として動けるか疑問が残るところでな……悪いやつではないんだが、頼りになるかは………」

 

いきなりの達也君の提案に微妙な表情で答える七草先輩一同、え?モブ崎って教師から風紀委員に推薦貰ってたんだ………超意外。

 

「あー………じゃあついでに姫城君もはんぞー君と模擬戦してもらいましょうか」

 

「適当ですね七草先輩………ていうか私超弱いんですけど?」

 

「だいじょーぶ!私のドライアイス弾を弾き返せるんだもの、いけるわ」

 

あの時の弾丸の射手はあなただったんかい!ってかドライアイス!?………弾けなかったらあかんかったんやなかろうか………。

 

「姫城君、あなたがあの時弾くことができなくても、光井さんに届く直前で消えるようにして撃ってたからそんな深刻に考えなくてもいいのよ」

 

「あ、そうなんですか?それなら良かったです」

 

生徒会長に抜擢されるくらいなんだ、それくらいは造作もないんだなぁ…………あれ?この中で一番弱いのって私じゃ?

 

「模擬戦のほうも、やれるだけ頑張ってみせましょう」

 

相手より先に魔法を発動させれば、まあ………いけるかなあ?

 

「それじゃあ、時間もいいところだし、そろそろ解散しましょうか」

 

七草先輩の解散の合図が出たので、恒例になりつつあるお昼休みの会はお開きとなった。

 

1-Aの教室に戻って授業を受ける、あっ、あの問題達也君がやってたとこだ、さすが達也君、予習プリントの範囲もバッチリとは。

 

そして放課後、ついにやってきた模擬戦!達也君、バーサス、モブ上!さあ一体どんな攻防が………。

 

「始め!」

 

「うっ……」

 

「……しょ、勝者、司波達也!」

 

…………はい!達也君の勝ち!

 

いやー………なにこれ?瞬殺とかモブ上君ちょっと弱すぎんよ〜、初めの合図から、5秒も経っていないんじゃないの?

 

敗因は、達也君が強過ぎたってとこでしょ、モブ上(副会長)も強いとは思うしね、生徒会長に次ぐ強さかはわからないけど………。

 

まあでも、深雪さんの目論見通り、これで達也君の実力は証明できたわけで…………あっ、これじゃ余計に怪しまれるだけじゃない?示し過ぎちゃったんじゃかな?

 

CADもトーラスシルバーのやつだってバレちゃってるし、ってかあのちっこい先輩ってトーラスシルバー、のシルバーのほうのファンだったのか、本人目の前ですよー、サインもらうなら今ですよー。

 

「サイオンの波を………」

 

あっ、なんか気づいたら難しい話してる、ループ……キャスト……がなんたらとか…………またよくわからないもの作ったんだねえ達也君。

 

「しかしループキャストでは…………波の合成………変数……………」

 

しっかし、早かった、それに、速かった、始まったと同時に地面を蹴って瞬きするよりも短いほどの時間で後ろに回り込み、CADに位置座標と複数の異なるサイオンの波を入力して発動、異なる複数のサイオンの波を当てられたモブ上は嵐の中に突っ込んだ漁船並みの船酔いを感じることになる。

 

私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

達也君にとってはその場に立って『分解』したほうがずっと早いんだろうけど、さすがにそんなことしたら身バレ確定だし、即死技だからルール違反だし、何よりこの模擬戦は風紀委員として渡辺先輩に推薦された達也君の実力を示すものだし、行動不能にさえできればいいわけだから、これがベストだったんだろうね。

 

「それじゃあ、次は姫城君ね」

 

「え、本当に模擬戦やるんですか?」

 

「ある程度の実力を把握しておかないと、風紀委員に入った後の行動が決められないからな」

 

渡辺先輩がそう言うけど………絶対に私の光剣が見たいだけだあの顔。

 

「私なんて偵察役で十分ですよ………そもそも戦闘には向いてないんですし」

 

「まぁまぁ、軽くだから、ね?」

 

パチリッ、とウィンクをする七草先輩、ちょっとやめてくれないかなー、そういうのに男子は弱いんだよー?

 

ま、たぶんわかっててやってるんだろうけども………悲しい哉、女の子の頼みを断れないのは男のサガ、それにお昼に頑張りますって言っちゃったし。

 

「わっかりましたー………でも誰とするんです?モb…………副会長は伸びちゃってますけど」

 

「そうね…………じゃあ、あーちゃんとやって見るのはどう?」

 

「わ、私ですかぁ!?」

 

七草先輩の提案に達也君に纏わり付いてCADを触らせてもらおうとしてぴょんぴょん跳ねたりして達也君に密着している中条先輩が振り向いて驚いた顔をした。

 

あっ、この人、なんだかあのメガネの女の子の………柴田さんみたいな、加護欲が掻き立てられる感じがする。

 

年上属性持ちで加護欲が掻き立てられるとか、中条先輩、というかあーちゃん先輩やべえ!

 

……………ん?ってことは。

 

「えっと………え?中条先輩とですか?」

 

「そうよ」

 

「無理無理無理!無理ですよ!女の子に攻撃なんてそんなこと………」

 

「あら、女の子だからって手加減をすると痛い目に合うわよ?あーちゃんは結構強いのよ」

 

「いえ中条先輩は上級生ですし、強いのはわかりますけど………その、やはりどうしても女の子相手だと無意識に手加減が出る可能性が……」

 

「ふむ、真剣な勝負で無意識に手加減が出るのはいけない、かと言って、服部副会長はこの有り様だ」

 

モブ上君、まだまだ起きぬ、気絶から(心の一句)。

 

見た感じ、達也君は全力の1割使ったかギリギリ使ってないかのどちらかという絶妙な手の抜き具合だったし、そろそろ起きてもいい頃合いだと思うんだけど………深雪さんの目の前で張り切り過ぎちゃったのかな?

 

「しかし、風紀委員ならば違反者が異性であっても取り締まらなくてはならない、これも良い機会と思って臨んでくれ」

 

「あー、まぁ、そうですよね、女の子が違反者になることもあり得るんですし…………わかりました、やりましょう中条先輩!」

 

「ほ、本当にやるんですか!?か、会長〜!?」

 

「あっ、じゃあ、ルール変更で、寸止めしたら終わりにしましょう」

 

「す、寸止めか………うぅむ………どうする真由美?」

 

「良いんじゃないかしら?そのルールでなら姫城君もやりやすそうだし」

 

「真由美、会長の許可も出た、では姫城が攻撃する際は寸止め、中条の攻撃する際は直撃で構わないな?」

 

「私は構いません」

 

むしろ寸止めじゃないと私の魔法もどきが通用しないし。

 

「うぅ……」

 

それでも中条先輩は乗り気じゃない様子、うーん、傷つけるのが嫌いな優しい性格なのかな?

 

「ほら、あーちゃん、ここで先輩としての威厳を示すの、どう?」

 

「!」

 

違うわ、チョロ可愛い女の子なだけだわこの子、じゃなかった中条先輩。

 

「わ、わかりました…………姫城君!私が先輩だてとこ、み、見せてあげますからね!」

 

「えぇ…………しっかりと見せてもらいますからね!!」

 

胸を張って震える脚で虚勢を保ちつつ私を指差してそう宣言する中条先輩、いや、あーちゃん先輩。

 

あーちゃん先輩は銀河系一かわいいのかもしれない。

 

「それでは両者、位置について」

 

渡辺先輩の声である程度の距離を開けてあーちゃん先輩と相対する、あーちゃん先輩は自前のCADに衣服が干渉しないように少し腕捲りした。

 

対する私は、自前のCADを相手から見えないままにしておく、こうしないといろいろ面倒だしね。

 

達也君と深雪さん以外が不審な目で見てるけど、まあ不審に見えるよね、腕捲りくらいしないとCAD操作がし辛いのに、そのままで挑もうとしてるんだから。

 

「姫城君、頑張ってね」

 

チョーガンバリマス!!!

 

「それでは…………始め!」

 

始まった瞬間に踏み込む、とは言っても、達也君のような力強い踏み込みとは違い、フラリと倒れこむように見える一歩目。

 

そして二歩目で…………相手の視界から消えるように、地面スレスレを擦るような感覚であーちゃん先輩に迫る。

 

右手付近に短剣型の光るサイオンの塊を作り出し、右手の表面にサイオンの塊に干渉できるようにサイオンを吸着、短剣を逆手に握りこむと同時に三歩目を踏み出し、一気にあーちゃん先輩の後方へ。

 

あーちゃん先輩の後ろに回り込んだところで、逆手に持った短剣を首元に近づける。

 

「動かないでください、危ないので」

 

「えっ…………えぇ!?う、うしろ!?え!?前にいたはずなのに!?えぇ〜〜!?」

 

「勝者…………姫城卿……」

 

腕を伸ばしさっきまで私がいた場所にCADを向けていたあーちゃん先輩、どうやら私の移動には全く気がつかなかったみたいで、とても驚いている。

 

「姫城君、もしかしてあなたも達也君と同じように………」

 

「あ、違います違います、私のは…………まあ、独学?と言いますか、インターネットの動画を見て真似してたら自然と」

 

「映像を見て真似しただけで、達也君レベルの回り込みができた、というの?」

 

前世で同じことやっていたのが知識として残ってるから、って言っても信じてもらえないだろうね、達也君は別として。

 

「七草先輩、達也君のは紛れも無い本物の技術です、対し私のは猿真似…………レベルの差が激しすぎますよ」

 

とりあえずこう言っておけばいいかな、達也君持ち上げとかないと深雪さんがね……。

 

「それに、私は光魔法しか使えない、さらにこの短剣も見た目だけで中身のないサイオンの塊、なので、実際には攻撃を当てられない………つまり物体に接触できないんですよ」

 

まあこれについては嘘は言ってないね。

 

「……………うむ、真由美、教師に掛け合って森崎の代わりに彼を風紀委員会に入会させるようにしてくれ」

 

満足気な表情でそう言う渡辺先輩、キリッとしてかっこいいなぁ………なんで男じゃないんですかねえ?

 

「えぇ、早速そうするわ……ふふっ、姫城君も十分強いじゃない」

 

「いやぁ………七草先輩が応援してくれたお陰、ですかね」

 

さあて、これで無事、風紀委員会への入会を果たせそうだよ。

 

疲れたなあ、早く帰って寝たいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也サイド

 

 

模擬戦の時に見せた卿の動き、間違いない、暗殺稼業を営む家も者に伝わる秘伝の類いの歩法。

 

卿の歩法からは極々小さな音すらも聞き取れなかった、踏み込むタイミングは完全に見えていた、だが二歩目から追跡は不可能になった。

 

後ろに回り込んだ卿が中条先輩に降伏勧告を発するまで、一切の音は聞こえなかった。

 

靴底が床を叩く音も、呼吸の音も、心臓の音すらも、聞き取ることができなかった。

 

『無音の極技』とも言えるあの技は、紛れも無い卿自身の技術だ、おそらく、転生する前の知識とやらが関係していそうだ。

 

可能性は低いが、卿と対立した場合の勝算は五分だろう、俺の魔法なら卿の魔法を無効化できる、だが全く知覚できないあの歩法を使われれば………。

 

…………考えるのは止しておこう、卿とは今後風紀委員会で顔を合わせる時間がより増える、顔に出てはまずい。

 

知らず知らずのうちに、体が重くなっている気がした。

 

「ん?達也君何してんの?深雪さん待ってるよ?」

 

玄関口で長考していると心配そうに卿が覗き込んできた。

 

「あぁ悪い、すぐ行く」

 

「………………前にも言ったと思うけど、私は達也君と深雪さんの味方だからね」

 

「確かに前にも聞いたな」

 

「うん、だからね、こんな私でよければ、愚痴くらいは聞くから」

 

「…………助かる」

 

嘘偽りを感じないし声の淀みも感じない、いたって普通、リラックスした状態で卿はそう言った。

 

「それじゃあ早く行こう、あんまり待たせると深雪さんが私を凍らせにくるし」

 

自身を抱きしめるようにしてガクガクブルブルと声に出して震えてみせる卿。

 

「卿なら大丈夫なんじゃないか?」

 

「達也君ほど頑丈じゃないので無理ー、深雪さんのあまーいラヴをお受けなさーい」

 

おちゃらけた卿のおかげか、少しだが、体が軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卿サイド

 

 

さあ、やってまいりました!クラブ勧誘の時期が!

 

「というわけで、北山さんに光井さん、この時期は外でも廊下でも学校内を歩く場合は気をつけないといけないからね」

 

風紀委員としてせめて友人にこの時期の脅威を教えようと思い、朝の空き時間に2人を呼んで説明をしていた。

 

「そうなの?」

 

「風紀委員長の渡辺先輩曰く、毎年毎年この時期はトラブル続出!口喧嘩、優秀な部員の取り合い、殴り合いに魔法の撃ち合いまで、トラブル全書ができるレベルだよ」

 

「うっ………巻き込まれたくない」

 

嫌そうな顔をして北山さんはそう言った、そうだよねえ……気持ちはわかるよ。

 

「だと思った、でも残念!北山さんも光井さんも、成績良くてかわいいので勧誘は絶対来ます!絶対です!」

 

「かわっ…………///」

 

「ん…………///」

 

あれ?この2人って、この前の騒動で達也君に興味持ってたような………ひょっとしてかわいいとか言われ慣れてないのかな?

 

「なので、襲われたら自衛できるように心構えをちゃーんと持っておくように!風紀委員も回るから、何かあったら助けを求めるといいよ」

 

「姫城君は、助けてくれる?」

 

「近くにいればね、私じゃなくとも一番近いとこにいる風紀委員の人が駆けつけてくれるから、安心して」

 

「……………ニブチン」

 

「ちょっと北山さん?ニブチンってなにニブチンって!?確かに達也君に比べたらドンガメ反射速度だけども、ニブチンはひどいよ!?」

 

「そ、そうだよ雫!姫城君にもいいところはたくさんあるんだよ!」

 

「そーだそーだ!私にもいいところが………」

 

「こうやって事前に危ないことを知らせてくれるし、いつも場を和ませてくれるし、明るくてかっこいいし、この前の騒ぎの時だって、私を魔法の弾丸から守ってくれたんだよ!?姫城君はかっこいい紳士さんなんだよ!」

 

「あのね、嬉しいけどね光井さん、声、声大きいから」

 

おっかしいなぁ…………達也君にフラグ立ってると思ったのに、これじゃあまるで………イヤイヤナイナイ。

 

「は、す、すみません!////」

 

「あぁでも、高く評価されてるみたいで、とても嬉しかったから」

 

「は、はい、それはそれは大変よろしゅう………」

 

「ちょっ北山さん、いきなりなに言ってるの?言葉遣いおかしくなってるよ?」

 

「ほのか、パニクりすぎ」

 

「うぅ………埋まりたい……」

 

「光井さんが地面に埋まったらヒマワリの花と見分けつかなくなっちゃうよ!」

 

「んぶ!ふぅっ………んっ!………」プルプル

 

「雫!吹き出さないでよ!!」

 

手で口元を押さえ笑いをこらえるレアな北山さんが観れたところで、HRが始まる時間が来たので解散となった。

 

そして、放課後。

 

風紀委員本部にて、集まった風紀委員の先輩方と達也君、あと私。

 

達也君が掃除したらしい本部は綺麗に片付けられていてとても居心地の良さそうな場所だと思った。

 

席が埋まると渡辺先輩が長机の端の方に立ち言い放った。

 

「さて諸君、今年もあの馬鹿騒ぎの季節がやって来た、幸いにして今年は補充が間に合った、教職員推薦枠の1-Aの姫城卿、生徒会推薦枠の1-Eの司波達也だ」

 

渡辺先輩の紹介で席を立つ、タイミングが達也君と被るが先輩方の視線は達也君のイケメンフェイス…………よりも下にある肩の印の無い部分に向けられる。

 

「役に立つんですか?」

 

「両名の腕前は確認済みだ、先日の模擬戦で司波は服部に勝っている」

 

先輩方にどよめきが広がる、対面に立つ達也君の表情が一瞬だけ歪んだ、目立ちたくないのはわかるよ、うん。

 

ってかあの副会長ってそんな驚かれるほど強かったんだ、驚きだよ。

 

二年有数の実力者でも達也君に手も足も出ない……………達也君強すぎじゃないの?

 

「それでも心配なら、お前が司波につくか?」

 

「い、いえ、遠慮しておきます」

 

生徒会室で見た渡辺先輩と今の風紀委員の渡辺先輩はちょっと違うんだ、こっちの方が、なんていうか、『姐御!』とか『姐さん!』って感じがする。

 

そんな押しの強い渡辺先輩に先輩方はタジタジ、うーん、やっぱりイケメンだね。

 

「質問がないなら出動!司波と姫城は残れ、では解散!」

 

「「「「オスッ!!!」」」」

 

先輩方がゾロゾロと出て行く、その途中で2人ほどから声をかけられる達也君、内容を聞くに、二科生だからうんぬんじゃなくて、挨拶とか激励みたいなものだった。

 

「あの先輩と知り合いになってたんだ」

 

「あぁ、とても『常識的』な良い人たちだよ」

 

「へえ、達也君がそう言うなら、私も仲良くできそうだね」

 

二年三年ともなると、副会長みたいな露骨なタイプは珍しいのかな?一科と二科で分けないで考えることのできる常識的な人も決して少なくはないんだろうね。

 

時間さえかければ、居心地も良くなる、といいんだけど。

 

「さて、司波と姫城には、このレコーダーと腕章をつけるようにしてくれ」

 

「レコーダー、ですか?」

 

「迷惑行為や魔法の不正使用があった時に、レコーダーで録画しておくんだ」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「それで、こっちの腕章は見ての通りだが、風紀委員としての身分を示すものだ、これをつけているうちは、我が校の風紀委員としての自覚を持って行動するように」

 

「「はい」」

 

「よろしい、それから、風紀委員はCADの携行を許可されている、魔法の使用に許可を取る必要はないが、不正使用は厳罰だということを頭に入れておくように」

 

「CADは、あちらのものを使っても?」

 

達也君には自前のいいものがあるでしょうが!

 

「あれは旧式だぞ?」

 

とここで渡辺先輩が指差したのは腕につけるタイプのCAD、え?あー、たしかにあれは達也君も使いたそうな感じがする。

 

「あれは………」

 

「エキスパート仕様の最高級品、でしょ?達也君」

 

「そうだ、卿、よくわかったな」

 

「私もそれなりに知識は鍛えられてるんだよ、達也君のおかげだけど」

 

達也君の教えてくれた範囲は小テストにドンピシャだから、あとは復讐を重ねれば高得点はお手の物。

 

今回もあのCADが高級なものだって気づけたのはその副産物、つまるところ、さすおに、ってこと。

 

「そんなものだったのか………だから掃除をやると言ったんだな」

 

「CADについては、中条先輩ならお分かりかと思いますが」

 

「中条は本部に来ないんだ」

 

あーちゃん先輩、きっと風紀委員のいかつい人たちが怖いんだろうなー。

 

でも達也君には普通に接したし…………達也君!あーちゃん先輩ともフラグ立ってるよ!おめでとう!そして御愁傷様!深雪さんが待ってるよ!(^^)b

 

「卿、何か不吉なことを考えたりしてないか?」

 

「いんやぁ?そんなことないけどなあ?」

 

「……………」

 

「ごめんなさい睨まないでくださいマジ怖いんで」

 

「お前たちなかなかに愉快だな………」

 

おっと、渡辺先輩が置いてけぼり食らってるからそろそろ終わりにしよう。

 

「それで司波、そこのCADは好きに使っていい」

 

「ありがとうございます、それでは…………この2基を」

 

「2基?」

 

「達也君、手品でもするつもりなの?」

 

CADを2基、同時に使う気満々だろうけど、それだと互いの起動式が干渉しあってマトモに発動もできやしない。

 

それをわかっててやるってことは………十中八九、なーにか企んでるんだろうね。

 

「おおよそ、卿の言う通りだよ」

 

「くぅーっ!面白そうだからあとで教えてね!」

 

「機会があればな」

 

「私も少し気になるが…………すでに下校中の生徒が勧誘に飲み込まれつつある、出動してくれ」

 

「「はい!」」

 

渡辺先輩の指示にしっかりと返事をして本部から出る。

 

「それじゃあ、私は闘技場から外に向けて行くよ、達也君は?」

 

「俺はエリカと待ち合わせてるんだ、クラブを見学しつつ外から闘技場に向かう」

 

「わかった、気をつけてね」

 

「卿もな」

 

軽い打ち合わせをして分かれる、ここからは別行動、目的地の闘技場、第2体育館に向かった。

 

『闘技場』、って言うくらいだし、何かしら乱闘騒ぎがあってもおかしくない、何事も起きないでくれないかなー。

 



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5話

卿サイド

 

 

第2体育館、通称『闘技場』へ向かう通路を歩く、窓の外にはたくさんの新入生、と、彼らを少し強引に勧誘するクラブの人たちが見える。

 

道を塞いだり、服を掴んだりなど、ある程度乱暴な行為をしない限りは私たち風紀委員は横槍を入れられない。

 

まあ、腕章をつけて近くを歩くだけでも抑圧できる、騒ぎが起きてから制圧するまでが面倒だし、未然に防いで行かないとね。

 

おっと、あそこにいるのは光井さんと北山さん、外の方を回ってるってことは、魔法を使うスポーツ系のクラブに興味があるのかな?

 

ここ第一高校には魔法系・非魔法系両方クラブが充実してるけど、人気があるのは魔法系のクラブ、見ていて派手で爽快感があるところが、新入生の心を掴むんだろうね。

 

非魔法系のクラブは、そういう派手さにはどうしても欠ける、純粋に魔法抜きで競う競技だから派手さが無いのは普通なんだけど…………若者に地味なものは好かれにくいっていうのが、あるのかな。

 

そして、魔法系・非魔法系のクラブには結構大きな溝がある、というのも、魔法系に入るのは優秀な一科生、非魔法系に入るのはあぶれた二科生、っていう配分になってしまってるから。

 

『魔法がろくに使えない集団』みたいなくくりで見られて、どうしてもクラブ毎に優劣がついてしまうのだとか。

 

渡辺先輩曰く、七草会長はこういう優劣差が小さくなるように努力はしているとのこと、一科生が多いからといって予算などを優遇はしていないと聞いた。

 

「七草会長マジ天使」

 

差別撤廃に向けて活動を続ける七草会長に脱帽、というかもう土下座の勢いまであるねこれ。

 

っとと、いつまでもこんなとこにいちゃサボりと思われる、見回り見回り…………あれ?なんだろう、あの、スケボとスノボを足して二で割ったような板。

 

あれも魔法で………あっ、動き出して、って早!?とりあえず録画して…………あ、もしかして勧誘の一環のデモなのかな?

 

端末で渡辺先輩に聞いてみよう…………。

 

『渡辺だ』

 

ヒューッ!イケメンボイスで蕩けそう!

 

「姫城です、第2体育館と校舎をつなぐ渡り廊下の窓から、スケボとスノボを足して二で割ったようなボードで走り回ってる人がいるんですが、魔法の使用の許可申請はありますか?」

 

『……………そのボードに乗ってるやつの容姿はどんなだ?』

 

あれ?なんか怒ってらっしゃる?

 

容姿…………うーん、そこそこかわいい感じ、と言っても伝わらない……あそうだ。

 

「言葉では難しいので、レコーダーの映像を繋げます」

 

レコーダーのIDから取っている映像を端末経由で渡辺先輩に送る。

 

『姫城、すぐにこいつらを捕まえろ!』

 

「はい?」

 

『こいつらは問題児だ!OBのくせに来るとは予想もできなかった…………魔法の不正使用だ、急いで制圧しろ!』

 

「了解です!」

 

許可が出た、端末をしまって窓を開いて飛び出す。

 

ヒェッ、3階はやっぱり高いし怖い。

 

「だけども!」

 

空中にサイオンで薄い板を形成、エイドスによって事象を引き起こし、空中で静止する金属板を創り出す。

 

「よっ!ほっ!」

 

今の魔法を複写して少し離れたところで転写する、これを繰り返しつつ金属板の上を移り跳び移動する。

 

でもこれじゃあの問題児たち2人には追いつけない、自転車で自動車を追いかけるようなもの。

 

地上に降りて自己加速術式を…………。

 

「きゃぁ!?」

 

「ほのか!?ぁぅっ!?」

 

光井さんと北山さんが問題児に拾い上げられた!?

 

「こいつらだよな?」

 

「あぁ、実技2位と3位だ」

 

あの問題児、優秀な光井さんと北山さんをクラブに勧誘するために、拉致しようっていうのか!?

 

「許さん…………許さんぞ!」

 

跳躍術式で金属板から大きく跳び上がり、地上30mほどからサイオンの槍を多重展開、ターゲットは問題児2人のなぞボード!

 

「止まれぇ!」

 

一斉に槍を投擲する、突如空からの攻撃に唖然として動きが止まる問題児たち、驚いて被害を恐れ問題児のそばから逃げ出す生徒、その判断は正しいね!

 

でも、問題児たちに槍は全部避けられる、あの謎ボード、結構速い、その上かなり小回りが利くみたい。

 

ってか、人のことあんま言えないけど、こんな生徒がたくさんいる場所であんな乗り物は危険だってわかんないの!?

 

でも風紀委員みたいな奴らを撒くのなら、効果的だよ。

 

まったくめんどくさいっていうのに、光井さんと北山さんという大事な友達を、私の目の前でよくも………よくも、私を怒らせてくれたね!

 

「一気にケリをつける!」

 

「なんだあれ!?」

 

「風紀委員の野郎か!チッ!」

 

「風紀委員です!道を開けてください!」

 

周りへの注意はしたからいいよね?良いとするよ!

 

自己加速術式を展開、さっきのを転写して空中に一枚の金属板を斜めに展開、それを思いっきり蹴り飛ばし、自己加速術式によって地面に高速で突っ込む。

 

「ぐっ…………逃がさんと、言った!」

 

問題児たちの眼前に着地、サイオンブレードを展開、問題児の体ごと謎ボードを叩き斬る!

 

「うわっ!?」

 

「風祭!」

 

「落ちろぉ!!!」

 

「っ!?きゃああ!?」

 

実際には体は斬られてないのだが、驚きからか2人とも転倒した、かなりの速度で転倒したため相当痛かっただろうが………今はそんなことよりも空中に放り投げられた光井さんと北山さんだよ!

 

最悪骨折レベルの高さから制御も無しに落ちたら痛いですむはずない!

 

「ぐっ……!」

 

痛っ!足が……着地の時に挫いたかな?でも………。

 

「間に合う!」ズザザザッ

 

よし!間に合った!完璧ぃ!

 

「きゃっ!…………え?」

 

「っ!………」

 

「ふぅ…………」

 

なんとか、間に合った…………。

 

光井さんは驚いてキョロキョロしてる、見た所怪我はないみたい、北山さんは………目をぎゅっと閉じてる、まだ落ちてると思ってるのかな?北山さんも一応怪我はないみたい。

 

よかった………。

 

「光井さん、北山さん、怪我はない?」

 

「え、え!?姫城君!?あれ!?私、持ち上げられて、空を飛んで、落っこちて………」

 

「うん、私がキャッチしたから、もう大丈夫だよ」

 

「……………ん、生きて、る?」

 

「あ、北山さん、怪我はない?」

 

「……………ない……もしかして、助けて、くれた?」

 

「そのまさか、だよ、助けさせていただきました、っとと」

 

さ、さすがに軽いとはいえ、女の子2人を1人ずつ片手でキャッチしたのは負荷が大きすぎたかな。

 

それに、なんだか足も結構な痛みが…………ええい!気のせいだ気のせい!女の子2人の前で弱音は吐かないぞ!

 

「私たち、どうなってたの?」

 

「えっとね、スノボとスケボを足して二で割ったような板に乗った変態に拉致されそうになってたんだよ」

 

「そうだったんだ、ありがとう、卿」

 

「あ、ありがとうございます卿さん!」

 

「いやいや、風紀委員として当然のことをしたまでだよ、光井さんに北山さん」

 

ん?気のせいかな、名前で呼ばれた気がしたんだけど。

 

「あの………ほのか、って呼んでもらえますか?」

 

「私も、雫でいい」

 

「いいの?じゃあ、これからは、ほのかさん、雫さん、って呼ばせてもらうね」

 

深雪さん以外では初の名前呼び!純粋な(?)女友達だぁー!イェーイ!

 

前世はモテた(?)っていうのが知識でわかってたから、今世でモテなかったら泣くとこだったよ!よかったー女の子とより良い友達になれて。

 

最後は達也君にフラグ立つけど、ま、友達で十分だよね!実は前世知識が女の子と親密になることに警鐘を鳴らしてるんだよね、今も鳴ってるんだよね、なんでだろ?

 

「いつつ…………」

 

「な、なんで………」

 

あっ、派手に地面を転がった問題児×2がよろよろだけど起き上がって………痛すぎるのか全然無理そうだね、やり過ぎたかな?

 

「じゃあ2人とも、風紀委員の仕事がまだあるから、またあとで!」

 

2人を下ろして問題児のほうに向かう。

 

「はい!ありがとうございました!」

 

「頑張ってね」

 

くー!レベルの高い女の子2人からのエール!ふーっ!さいっこー!

 

………………あっ、目立ちすぎた、すっごい視線集めてる、これはちょっとヤバイですわ。

 

1年なのに!1年なのにめっちゃ目立っちゃってるし!『ナマ言ってんじゃねえぞゴラァ』とか言われちゃうよ!

 

いや100年くらい前の不良みたいなのがいたら逆に凄いけど。

 

「姫城!問題児供は………」

 

「あっ、渡辺先輩、問題児たちならあっちで転げてます」

 

「よくやった姫城!さあ、お前たち、風紀委員本部でじっくりと話を聞かせてもらおうか!」

 

おお、渡辺先輩カックイー!まるでスケバンだ!

 

かっこいいぜ!渡辺の姐御!

 

「何か言ったか?」

 

「いいいいいいいえいえ何も!」

 

渡辺先輩ってもしかしてヘル・イヤー(地獄耳)をお持ちなんです!?

 

「そうか、ではとりあえず、この馬鹿どもを連行する、手伝ってくれ」

 

「えーっと、一応お聞きしますが、方法は?」

 

「担げばいいだろ?」

 

「ぃやだん、男らしぃ……」ジュン

 

(胸が)きゅんときたぁ………。

 

「あ"っ?」

 

(タマタマが)きゅんときたぁ………。

 

「へい!準備ばっちしですぜ!」ヒョイ

 

「ちょっと!どこ触って………」

 

「行け」

 

「イエス!マム!」

 

このあと問題児2人を背負って本部までめちゃくちゃダッシュした。

 

本部に連れ込んだ後、擦り傷だらけなのが痛々しかったので、逃げられないようにして治療してあげた。

 

「初日から大戦果だな、姫城」

 

「お帰りなさい渡辺先輩、言うほど戦果上がってますか?」

 

「恥ずかしい話だが、姫城が拘束したそこの2人は迷惑行為常習犯で、我々でも手を焼いていたんだ、卒業してホッとしていたんだが…………」

 

あっ、だんだんとイライラしてきてる!逃げよう!

 

「そうだったんですね!では私は任務に戻りますので!お2人のことはお願いします!」

 

「ん?あぁ、わかった、引き続き頼む」

 

逃げるように本部から出た。

 

あっ、レコーダー切っとかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほのかサイド

 

 

2度目だ。

 

1度目は、一科生の人達が、深雪さんを無理やり達也さんから引き離そうとして、トラブルになった時。

 

2度目は、さっきのクラブ勧誘の時、ボードに乗った人に連れ去られそうになった時。

 

真っ先に来てくれた、真っ直ぐに助けてくれた、まるでヒーローみたいに。

 

正義の味方が、悪の組織に囚われたヒロインを助け出すみたいに……………。

 

「卿さん…………」

 

なんだか、体が熱いよぉ…………。

 

「ほのか、ほのか」

 

「ひゃっ………雫?」

 

「ぼーっとしてると、また連れてかれる」

 

「そ、そうだね、うん、気をつけないとね」

 

……………かっこよかったなぁ、卿さんの、真剣な表情………。

 

うぅ………頭から離れない……あっついぃ////

 

『落ちろぉ!!!』

 

「もう堕ちちゃってるよぉ〜////」

 

思わず悶える、ジタバタと足を動かしてどうしようもない思いを虚空に向かってぶつける。

 

いつもは優しい柔らかい表情が、キリッとかっこよくなっちゃうのは反則すぎる!

 

「ほのか…………」ジトー

 

「あ………………ごめんなさい////」

 

うぅ……恥ずかしぃ………。

 

恥ずかしくてジュースを煽る、キーンとした冷たさが頭と体を冷やし━━━━頭痛を引き起こした。

 

「いっ……………つぅ………」

 

「ほのかのドジ」

 

頭痛に襲われる中で、雫の罵倒が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卿サイド

 

 

最初の予定通り、第2体育館に来たよ。

 

色々あって結構時間使っちゃったけど、それでも第2体育館は人が多い。

 

闘技場の名前通り、ギャラリーは満席みたい、まるでコロッセオだね。

 

こういう場所ほど『人の多さ=トラブルの厄介さ』の方程式の解が出やすいんだよね。

 

X=10Yくらい値で、人数に対して10倍くらいのトラブルが起こりそう。

 

「グァ!?」

 

あっ、さっそくトラブルの予感がする。

 

2階から覗くと剣道部と剣術部が言い争いをしているみたい、しかも結構白熱してるよ。

 

あーあー、『剣のうんたらかんたらを見たけりゃ見せてやるよ!』なんていうフラグ立てたよ剣術部の人、ってか声渋くてかっこいいね。

 

剣道部の人は………うんまあ、いいんでない?なかなか可愛い人だと思うよ。

 

睨み合いがつづく…………先に動いたのは剣術部!遅れて動く剣道部!互いに斬り結ぶ!

 

…………同時にあたった、ように見える、これだと、相打ち?

 

「あなたの籠手は浅かった、真剣なら、肩を切られているあなたの方が致命傷よ」

 

あの剣道部の女の人、実戦的なことを言うね。

 

確かにそうだろうけど、手首でも肩でも切り落とされれば致命傷なのは変わらない、たとえ今、剣術部の人が死んだとしても、20分もしないうちに剣道部の人も死ぬだろうね。

 

幸いにもここは魔法科学校、出血を止めることくらい容易にできるから、間に合えば助かるかもね。

 

「真剣なら?…………壬生、お前、真剣がお望みか?」

 

なにやら剣術部の人が怪しい雰囲気…………。

 

「そんなに真剣を相手にしたいなら、見せてやる」

 

あっ!剣術部の人がCADを!

 

キィィィィイイイイイインッ

 

うっさ!うるっさ!なにあれ!?超振動?超音波?……………高周波?高周波ブレード!?

 

竹刀を高周波ブレードにした!?殺す気なの!?

 

「どうだ壬生!これが真剣だ!」

 

真剣じゃないよ!高周波ブレードだよそれ!

 

どうにかして…………あれは、達也君?アイコンタクト…………なるほど、それはいいね。

 

うんうん………もちろん信じるよ、任せて。

 

オーケー、了解ですよ達也君。

 

それではかっこいいとこ、見せましょう?




姫城君の魔法簡単説明。
サイオンの塊を作り出し、それを振るったり投げたり射出したり設置したりして攻撃・防御を行う万能魔法。
微々たるサイオン量をカバーするため、『周囲のあらゆる』サイオンを集め、そこに自身のサイオンを混ぜ込むことでただのサイオンの塊を操作している。
物理的な攻撃力はほとんどない。


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