絶対正義は鴉のマークと共に (嘘吐きgogo)
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1話ープロローグ:喪失

移転作品の、前書き、後書きは当時のものです。

今までは読んでるだけだったんですが、昔にいくつか妄想していた物を一度形にしてみたくなり投稿してみました。
実際、書いてみると妄想してるのと違い難しい物ですね。
東方Projectとワンピースという異色な組み合わせ、しかも東方Projectは能力クロスだけ、という異色な作品ですので、読むにあたってそれでも良いという方だけつたない文章ですがお読みください。
二次設定、オリ設定にも注意。



体が痛い。そして寒い。

 いつも横になって体を休めているベットのスプリングはこんなに固かっただろうか。

 羽毛でふかふかの掛け布団も寝てる最中に蹴飛ばしたのか、冷たい空気が自分の体を冷やしているのがわかる。

 風が吹くたびに顔をくすぐる草と土の香り、指先の砂の感触……砂?

 そこで完全に目が覚めた。

 

 

 

 

 

 何所だここ?

 寝ていたのは一面緑の草の上、上半身を起こして辺りを見渡せば目に入るのは森と青空。

 自分の部屋ではありえない風景。というか部屋の中ですらない。

 寝る前に横になったのは自分の部屋にあったベットのはずで、こんな都会ではもはやお目にかかれない森の中ではなかったはず。

 混乱する頭を落ち着けながら、取りあえずは立ち上がろうすると更に異様なものが目に映った。

 

「……え?」

 

 思わず声が出た。

 緑色のスカート。そこから除くシミの無い白く細い太腿――おそらくまだ年端もいかない少女の足。その先を見れば黒い靴下を履いており、右足首には解けたコンクリートがくっついているよな異様な靴。左足は普通のローファーを履いているが、足首には変な金色の二重のリングをはめている。

 そんな見慣れない物が自分の下半身に付いているのだ変な声が出ても不思議ではないだろう。

 自分に女装趣味などは無いし、まず足からして自分の物ではない。自分の足は一般の二十年前半の男性とそう変わらなくこんなに細くない。

 一度自分の体を見直してみれば、色々おかしい事気がついた。

 左腕も足のようにシミの無いきれいな腕――やはり少女の物のようで男の自分の物とはまるで別物だった。右腕も肘までは左腕と同じだが、その先には膝まで届く、茶色い六角形のまるで砲台のような筒が腕を覆っている。

 上半身には白いYシャツのような服にフリルが付いている物を着ていて、その胸の部分には大きな紅い宝石が付いている。宝石の内部には黒い線が縦に入っておりまるで何かの目のようにみえる。

 

 足やら腕やら見ている間に気がついてはいたが、どうやらこの体は自分の物ではないようだ。

 このコスプレまがいの格好までは説明付く。誰かに着せられたか、無意識の自分の欲求によって着たか……それはそれで問題だが。

 この手足は明らかに自分の物ではない。なにより……胸がある。

 PADかとも思い試しに触れてみるが、どうやら本物のようだ。掴んだ時走った微妙な感覚は極力思い出さないようにしておこう。

 健全な男子であるはずの自分に付いていてはいけない物がついており、多分下には付いていなければいけない物が無い。

 それはもう、頭を抱え酷く取り乱した。

 

 

 

 

 

 途中、腰まで届くほど長い黒髪が絡んで痛かった。

 

 

 

 

 

 数十分はたっただろうか、人間というのはなれる生き物だという事を、まだ少ない人生経験の中で痛感していると、自分の格好に見覚えがある事に気がついた。

 もしやと思いつつ立ち上がり背中に目をやれば、思った通りそこには白いマントを羽織った、黒い一対の翼がある。

 

 霊烏路(れいうじ) 空(うつほ)

 とあるシューティングゲームに出てくるキャラクターだ。

 自分はそのゲームが好きでシリーズ全てもっており、派系作品の格闘ゲームもやっていて、このキャラクターをメインに使っていた。

 シリーズを通して一番好きなキャラクターでもある。

 

 

 

 

 ――そのキャラクターの姿に何故自分はなっているんだ!

 

 

 

 

 落ち着け、もう先ほど十分取り乱したし、大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせるように心の中で何度もつぶやく。

 今は何より現状を把握することが大切だ。

 何故このような見知らぬ土地にいるか、自分がゲームのキャラの姿になっているのか……は、さんざん考えてもわからなかったので、取りあえず自分が何所にいるのか把握しないといけない。

 そう考え、早速森を歩いて見る事にしたんだが……歩きにくい。舗装された道でないので木の根や自然にできた段差が酷い上、木自体が邪魔で道と呼べる物が無い。靴もローファーと像の足()でこういった所を歩くのには向いていない。

 これではそうしないうちに足を痛めるかもな。

 

 

 

 

 そんなこんなで探索していてわかった事はどうやらここは小さな島であるという事だった。森自体かなり小さくすぐに抜けてしまった。

 森があってわかりにくかったが直径約3kmも無いと思う。足を痛めることなくてよかった。

 自分がウツホの姿だったので、いわゆる幻想郷入りの可能性も頭の隅に一応入れていたが、海があるのでどうやら違うらしい。因みに一番可能性のある、夢というのは考えても仕方ない事だったのでほっておいた。

 大型の獣とかはいないみたいで安心したのだが、同時に人もいなく結構落ち込んだ。食べれそうな物もよくわからない木の実だけでうかつに口にできない。遠くにここ以外の島があるのが何とか見える程度で、他の収穫は何も無かった。

 

 このままだと餓死するな。

 

 さてどうしたもんかと考えていて、ふと思いついた。

 

 確かにちょっと考えてはいたが、あまりにも奇抜な考えで頭の隅に追いやっていたんだが……もし本当に今自分がウツホになっているならその能力が使えるんじゃないか? という事だ。

 この体になってあちこち歩いみたが、特に違和感を感じる事はなかった。それどころかいつもより体が軽く感じられて数時間歩いたくせに全く疲れていない。どうやら体力は元の自分の体よりかなりあるみたいだ。

 それが妖怪の身体能力のおかげだとしたら、今の自分に能力があってもおかしくはない。

 霊烏路 空が出てくる作品のキャラクターはそれぞれが特有の能力を持っており、”〜する程度の能力”と表される。ウツホは”核融合を操る程度の能力”を持っており、その能力で圧倒的な火力の弾幕を得意としていた。

 といっても作品をみると核融合の他にも核分裂とかも操っているようなので、どちらかと言うと”核反応を操る程度の能力”と言えるだろう。

 

 まぁ、物は試しと右腕に付いている六角形の筒——制御棒に左手を添えて、ちょと離れた所にある岩に向かって構えてみる。

 たしか格闘ゲームではこの制御棒からビームを出していたので、その姿を思い出しながら集中してみると。キュゥンという何かをためているような独特な音の後、凄まじいジェット音と友に制御棒から一筋の光——レーザーが発射された。

 レーザーは真っ直ぐに岩に向かい、あたった岩を瞬時に溶かし大穴をあけ、そのまま進路上の物を蒸発させながら直進した。レーザーがあたった岩の淵は赤く溶け出しておりまるで溶岩のようだ。……森に向かって撃たなくてよかったなコレ。

 しっかしできるかもしれないとは思ったが、まさか本当にできるとは……反動もそれなりにあったが、あんな物を撃ったにしては少なすぎる。どうやら本当に霊烏路 空の体になっているらしい。

 

 それから色々とゲームでウツホがやっていた事を試してみて、いくつかの事がわかった。

 能力の発動はイメージさえできれば細かい事は考えなくていいみたいだ。ただ、威力がどうしても大きくなってしまう。これは自分が制御できていないのか、それともこういった仕様なのかはわからないが、おそらく前者であろう。ゲームでは人間にも当ててたしな、こんなのあたって無事な人間いないだろうし。ちょっとした火を出そうとして、小さな光球はだせたが温度が異常に高いらしく——自分は熱く感じないからわかりにくかったが、危なくてうかつに使えない。色々やっている間に島の見渡しが少しよくなってしまった。……ほんと気をつけないとな。

 身体能力も以前と比べ物にならないほど高くなったようで、何メートルも高く跳べるし、巨大な岩を持ち上げることもできた。こちらは力加減はできるようで出そうと思わなければ普段は人並の力しか出ない。

 後、空を飛べるかどうか試したのだが何の問題も無く、思い道りに飛べてしまい逆に不安になったほどだ。空を飛ぶといっても別に翼で飛んでるわけではないみたいだが、翼を意識している方が飛びやすい。そのせいか飛んでいると無意識に羽ばたいてしまっている。

 

 取りあえず空も飛べるようになったし、食料もろくに無いこの島にいるより遠くに見える島に一部の望みをかけて向かう事しよう。かなり遠くにあるけど、色々試している時も飛んでる最中もろくに疲れなかったので体力的には多分大丈夫だろう。

 というか結構能力使ってたが、核反応の時のエネルギーは何所から着てるんだろうか? 

 元が幻想の力だし無限かもな、さすが太陽の化身である八咫烏。洒落になってないな。

 などと考えながら海の上を飛んでいたら

 

「ギャァオォォォォォォ!!」

 

 海面から巨大な海蛇のような生き物が大口開けて飛び出てきた。

 

「うっそぉ!?」

 

 まだ聞き慣れていない、以前と比べずいぶんと高くなった自分の悲鳴を聞きながら、怪物の口の中でその入り口が閉じるのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アビス……ノヴァ」

 

 自分を中心にとんでもない熱量が爆発的に広がる。もう一つの太陽が現れたかのようなまばゆい光が、海蛇の肉を塵も残らず焼きつくすのにとどまらず、海水を一瞬で蒸発させる。

 半径数キロに急激に蒸発した水蒸気が立ちこめて何も見えない。沸騰した海から気泡がわき上がる音と、独特な臭いが自分が生きている事を教えてくれる。

 普通ならばこの水蒸気の熱量で肺が焼けただれて死にいたるのだが、どうやら熱に対してはとことん耐性があるらしい。

 

「し、死んだがど思っだ」

 

 ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返し、気分を落ち着けさせようとする。ちょっと涙声なのは仕方ないだろう、食われるような目にあったの初めてなんだ。

 焼けた空気のせいで全然落ち着かないので、冷たい空気を求めて高度を上げる。それにあんなのにまた襲われたらたまらないので海面の近くはもう飛ばないようにしよう。

 雲の近くまで高度を上げて、やっと一息つく。

 空にはいないだろうな? ちょっと不安になりビクビクと辺りを見渡すが、特に何もいないようだ。

 

 何だったんだろうか今の生き物は? 巨大にもほどがある。全長何十メートルあったんだ?

 現実離れした事ばかりだったが、どうやらここが異世界という可能性は結構高いみたいだ。

 今度は辺りを警戒しながら慎重に島を目指す事にした。

 

 

 島に近づいてくると、港があり多数の船がとまっているのが見えた。どうやらまた無人島という事は無いようだ。

 ただ気になるのは、泊まってる船が全て時代遅れの木造船である事だ。先ほどの海蛇と良いどうやら異世界説が大当たりしたらしい。

 人ではありえない視力で上空から町を見下ろすと、元の世界と比べずいぶんと昔の時代風景のようだ。

 町に入り情報集をしたいのだが、困った事がある。今の自分の姿だ。

 もしこの世界に妖怪がいて人間と敵対関係にあるとしたら、町に入る時に困った事になる。その事は羽を隠せば何とかなるかもしれないが、今の格好自体が奇抜なのも問題だし、なにより言葉が通じるかが一番の問題だな。

 問題は多々あるが、このまま悩んでても仕方が無い。心を決め、一応誰にも見られないよう町の外に静かに降り、町に入る事にした。

 

 結構、緊張して入ったのだが意外とすんなり入れてしまった。因みに羽はマントで隠している。それでも制御棒とか他の格好はそのまんまなんだけど、周りの人たちは誰も気にしていない。人がいないからという訳でもなく、港町だからか、かなりの人がいてにぎわってる。

 もしかして港町だから様々な格好な人が着ていて、変わった服装に慣れているのかもしれない。

 大通りには市場ができており、様々な店が出ている。店の人たちも通りの喧騒に負けないように大きな声で呼び込みをかけている。その声に耳を傾けると不思議な事に皆、日本語で会話しているのだ。明らかに異世界、それもどう見ても日本人でない人が流暢な日本語で会話している。はたしてここは何所なのだろうか?

 

「あの〜、すいません」

「ん? なんだい、お嬢ちゃん?」

 

 やっぱり日本語だ。

 道すがら、歩いている気の良さそうなおじさんに声をかけた所、人の良さそうな笑みを浮かべて答えてくれた。

 

「ぼ……んんっ、私、旅の途中でたまたまこの町に付きまして、よろしければここがどういった町か教えていただけませんか?」

 

 まだこの世界の事がわかっていない以上、変に思われないよう一人称や口調に気をつけつつ人受けの良さそうな顔で聞いてみた。

 

「おぉ、いいよ」

 

 見ためどり良い人だったらしく、あっさりと承諾してくれた。

 しかし、見た目、年端も行かない少女が旅をしている事に何も言ってこない所から、随分と流通のある場所なのか? それともそう珍しい事ではないのか?

 

「この島の名はサークリュー島。貿易が盛んな島だ。ここには偉大なる航路(グランドライン)にある島の様々な物が集まってくるんだ」

「偉大なる航路?」

 

 どこかで聞いた事のあるような単語なのでつい呟いてしまった。何かで聞いたような気が……。

 呟いたのが聞こえたのか、おじさんはこちらを見て不思議な物を見たかのように目をしている。

 

「そうだよ? ここも偉大なる航路じゃないか?」

 

 どうやら偉大なる航路というのは地域の名称らしい。旅をしている者が知らないはず無いようだ。変に思われてはいけないので、つい呟いただけだと答えると、おじさんは納得して続きを語ってくれた。

 

「偉大なる航路にある島は知っての通り、それぞれが独特な文化を持っている。サークリュー島はその島の独特な品物を集めて着て、ここで市を開いているのさ。偉大なる航路は島と島の航海が非常に大変だからね。この島に集まる珍しい品物を目当てに様々な人が訪れるのさ」

 

 それから、おじさんは、島の良い所や、オススメのお店などを教えてくれた。わからない所は話しの流れや軽く質問するだけでわかったのでお礼を言って分かれようとした時、とんでもないことをおじさんは語った。

 

「気をつけなよ。こないだ処刑された海賊王、ゴールド・ロジャーのせいで、海賊がわんさかいるからね。まったくワンピースだか大航海時代だが知らないが、貿易を中心としているこの島にとっては良い迷惑だよ」

 

 やれやれと肩をすくめるおじさんをよそに、今聴いた単語が頭に離れなかった。

 

 ゴールド・ロジャー、大航海時代、海賊、そしてワンピース……ONE PIECE!?

 

 どうやら、ここはあの有名な少年漫画の世界らしい。

 

 

 何故にウツホ?

 




——が投稿する時、何故か分かれてしまう。投稿後は繋がってるみたいだからいいんだけど、確認しづらい。
次の更新はいつかわかりません。需要あるかすら謎なので、自分用の駄文置き場になるやも。
文章がどうしても説明口調になってしまうのをどうにかしたい。


東方知らない人のために技の説明です。
「アビスノヴァ」:核エネルギーを体内で循環増幅
         リミットを越えるとおくう中心に周囲を焼き尽くす
         判定が広くガード不能
         彼女にとっても結構熱い技


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2話ー指針

次の更新がいつかわからないという事は、次の日ってこともあるんです。
感想が嬉しかったので、続きが直ぐ妄想できたというのが一番の理由ですがw


「いらっしゃいませ〜」

 

 食べ終わった食器を片付けるのを一度止め、新たに着た客に笑顔で声をかける。

 入ってきたのは男三人。

 

「こちらの席へどうぞ。マスター三名様はいりました〜」

 

 空いてる席に客を誘導し、店長に新たに客が着た事を告げる。

 

「お嬢ちゃん、こっち酒と肉追加ね〜」

「は〜い」

 

 そうこうしている間に、他の席の客からの追加オーダーが入る。人が多いだけあって、こういった町の酒場は毎日大繁盛だ。さっきから休む暇がない。

 そう、ここはサークリュー島の港にある酒場。今、私はそこで従業員をやっている。

 

 

 

 

 おじさんのとんでも発言のおかげで、自分が今いる所がやっとわかった。

 ワンピース。世界的に有名な少年漫画である。

 どうやら自分はその有名な漫画の世界にいるらしい。幻想郷の外とか考えていたのだが、予想の斜め上を軽々と超えて行く事実にまたもや自分を見失いかけた。

 

 ワンピースの事はほとんど読んでいなかったので詳しい事は知らない。数人のキャラの名前と、主人公が海賊のバトル漫画という事ぐらいだ。

 海賊の漫画という事でこの世界にはかなりの数の海賊がいる。つまりはかなり危険な世界と言い換えても良い。

 海で商売している者にとっても危険だが、町で暮らしていても海賊が襲ってくる事も珍しくないとのことだ。

 

 ひとまず、変に思われてはいけないのでおじさんにお礼を言って分かれた後、これからどうするかを考える事にした。

 どうしてワンピースの世界に来てしまったとかは、この際、着てしまったものは仕方が無いとして、この縁もゆかりも常識すら無いこの世界でどう過ごして行けばいいか。

 この世界では何所に行っても海賊がいる。安心して暮らしてくのはまず難しいだろう。

 何より今はウツホといっても、女の体というのは色々まずい。少年漫画だからそういった描写は無かっただろうが、現実の世界となるとそういった( ・・・・・)事もありえる。見た目がまだ少女なのでそういう対象に見られる事も無いかもしれないが、時代的にはこの歳でもありかもしれないというのが難点だ。

 海賊とは妖怪の身体能力とウツホの能力を使えば戦っても勝てるかもしれないが、この世界には悪魔の実の能力者という存在がいる。

 悪魔の実——食べた物を一生泳げなくする変わりに、食べた者に特殊な能力を与える果実。この世界の実力者のほとんどがその実を食べて能力者になっており、その能力者たちの戦いが漫画の醍醐味の一つだった。

 身体能力にしても過信できない。この体になって大岩を軽々と持ち上げる事はできたが、この世界の奴らにもそれぐらい容易くこなしてしまう者もいる。

 試してはいないが体を動かしてる感じでは、まだまだ力は出そうだったがそれでも安心はできない。

 能力にしたって試していない事ばかりで正直どこまで通用するかも不安である。それ以前に喧嘩もろくにした事無い自分が、殺し合いをできる自信など全く無い。

 ただ覚悟さえあれば殺すだけなら簡単だ。先ほど海蛇にやった様に高熱で全て焼き尽くせば、ほとんどの者は対処できないだろう。ただし、周りの被害を全く気にしなければの場合である。

 ウツホの力を操りきれていないからか、それとも元からそういった性質なのか、作品を見ただけでは判断しくいが、威力の高い物はおのずとその効果の範囲も広く、使えば必ず周りにも被害が出るだろう。あまりにも周りに被害が出ればこちらも手配されてしまう可能性がある。

 だからといって戦わずにいられると楽観視するわけにもいかない。それにこちらの能力を無効化できる能力者も、もしかしたらいるかもしれない。あまりにも未知数である。

 

 

 

 深く考えた結果行き着いたのは、この世界にある海賊とは別の勢力——海軍に入るというものだ。

 普通に暮らしていれば海賊に襲われるかも知らない。だからといって周りを気にせずに戦えば自分が手配されるかもしれない。この世界の人間がどれだけ強いかもわからない以上うかつな事はできない。

 ならばどうするか? この世界の情報が入り、この力を使っても手配される事も無く、力の使い方を学べる所。海軍というのは都合のいい所だと考えた。

 軍隊に入るというのは強制的に戦いに参加する事になるが、どのみち今はこの世界で生きて行くしか無いのだ。霊烏路 空の力という規格外な力を持っている以上いずれは何らかの形で戦う事になるかもしれない事を考えなくてはいけない。

 

 

 

 

 で何故、酒場で仕事をしているかというと……無一文だったからだ。

 

 

 海軍に入ろうと決めたのはいいが、いざ入ろうとしたらどうすれば良いのかわからず、結局また人に聞くことになったんだが、この島には海軍の基地は無いらしい。というより偉大なる航路の海軍は島まるごとの基地を持っており、そこから普段は海上を巡回し、要請がある時以外は定期的に他の島に偵察にくる程度らしい。

 随分変わった制度だと思ったが、自分の常識なんてその日一日で当てにならない物だと十分思い知った後だったので、そういう物だと考える事にした。

 

 海軍に入るには海軍の基地に行くか、海軍が着た時に志願するしか無いのだが、そのどちらにもお金がかかるのだ。

 基地に行くには船に乗るか、自分で空を飛んで行くしか無い。船に乗るにはもちろんお金がかかるし、空を飛んで行くには記録指針(ログポース)という特殊な道具が必要らしい。

 この偉大なる航路では島自体がそれぞれ固有な磁力を発しており、通常のコンパスは全く役に立たない。よってその磁力を利用した特殊なコンパス——ログポースが必要になる。ログポースは今いる島の磁気を記録し、その島と磁気で繋がっている次の島を指し示すという物らしい。

 そのログポースの中で特定の島の磁気を覚えさせる事により、その島だけをさす物、永久指針(エターナルポース)という物がある。

 それがなければ、海軍の基地には行けないが、エターナルポースというのは結構な金額らしい。まぁ、どのみち無一文なので関係ないが。

 その事より驚いたのは、偉大なる航路は季節、天候、海流、風向きの全てがデタラメで、様々な超常現象が発生するらしく、突然ハリケーンが発生する事もあるらしい。飛んで行くのはなるべく控えた方が良いかもしれない。船も安全という訳では無いらしいが、全くこの海に慣れてない自分よりは確実に安全だろう。

 

 そうするとこの島に海軍が来るのを待たなければ行けないのだが、次来るのは一ヶ月近く先らしく、こちらもこの町に留まるためにお金が必要となる。

 八方ふさがりなってしまい困っていたが、ともかくなんとかしてお金を稼ごうと色々探してみた。これだけ栄えてる町ならば、いくつか働き手を欲してる所もあるだろうと探したが、住み込み、または宿代を先払いとなるとなかなか見つからなかった。身元不明の少女にいきなり先払いや住み込みで雇うというのも難しい話しなので仕方ない。

 

 それでも探せばある物で、結局はおじさんが教えてくれたオススメのお店の一つである酒場で住み込みで働く事になった。酒場ならば客の会話から情報も入るし、二階が宿になっていて住み込みも心配なかったのが決め手だった。

 

 

 

 

 という訳でここで働き始めて既に十日たった。朝は二階の宿の仕事で各部屋を片付け、昼から夜までは酒場で料理を運んだり清掃をしたり、たまに買い出しなんかもやっている。夜深くなると料理目当ての客から酒の注文を中心とした客となり人数も減る。

 私の一日の仕事はそこでお仕舞いだ。夜も客が少なくなっているとはいえ、繁盛してるので忙しい事に変わりはないのだが、ここのマスターが

 

「女子供が夜の酒場で働くのはよくない」

 

 と言うのだ。雇い主の意向なら聞くしか無いんだが、朝や昼なら酒場で働いていいのかな? 

 ここのマスターは普段、無口で見た目もがっしりした三十代後半の渋いおじさんなんだが、中身は気のいいおじさんだったりする。

 この店は料理も美味しいが、そんな気のいいマスターも店が繁盛する理由だったりする。私には、ただお客さんの愚痴を黙って聞いてるだけにしか見えないんだけどね。

 

 夜は暇な時になるべく体を動かしたり、店の裏で比較的、被害の少ない能力——小さな光弾を生み出す練習をしたりしている。それでも危険なので生み出した後はちゃんと分解しているけど。

 ここで働くにあたって、羽を隠したままというのは無理なので悪魔の実の能力者という事にして説明したのだが、全然気にされなかった。

 悪魔の実の能力者って案外珍しくないのかな? 店の中でも隠さないで仕事してるんだけど、今の所、特に何も言われてない。

 町に入る時、結構緊張したのは全く持って無駄だったみたいだ。

 店にいる時はマントを外して、今の服にエプロンを掛けた物で働いてる。給料で下着やら寝間着やらは買ったが、普段着は何となくこの服以外を着るのに抵抗感がある。何故だかはわからないが、体自体変わってるのだそう言う事もあるんだろう。

 そういった理由で洗濯する時以外は基本的に今の服を着るようにしている。この服も妙な物で、何故か全然汚れない。不思議だな〜。

 

 特訓が終わったら、宿の風呂には入って寝間着に着替えたら寝る。この時代には電気が無いので寝る以外の事もできない。

 初日は風呂に入るのにかなりの抵抗感があるかとも思ったんだが、意外とすんなり入ってしまった。自分が女性の体になっているのに、違和感があんまりないのだ。最初から体を自由に動かせた事もあるし、精神面も多少変化しているのかもしれない。下着を買うために胸のサイズ計った時も、結構大きい、ぐらいしか思わなかったし。

 

 そして、朝になったらまた仕事をしはじめるという日常が続いている。この生活も意外と充実していて、結構気に入っている。このままここで生活するというのもすごく魅力的だけど、楽観視はいけない。初志貫徹、数週間後に来る海軍船を待ちつつ私は今日も仕事に励むのだった。

 

 

 

 港町は魚料理がおいしいです。

 




今回も前回同様に説明文章になってますね。もうちょっと進めば現状把握などが無くなって、キャラの感情が表に出てくると思います。
文章力が欲しい。

今回は日にちがたった後、主人公の精神面がちょっと変わって来てるのを表したかったんですが、性格が一定していないだけに見えてしまったかも。
実際書いてみると小説書いてる人たちはすごいな〜と思う。

この小説のウツホは胸大きめです。ナミほどではありませんがw 二次設定です。でも大きいと思うんだw

IEを使ってないのでうまくルビが振れてるか自信がないです。確認できないので、ルビ振るのは次からやめとこうかな。


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3話ー港町

非常に難産でした。
実は前回の話は今回の分と次回の分が合わさっていたのですが、急ぎすぎと思い分割したせいで、書く事が増えてしまい。まとめるのが大変でした。

昨日の内に更新しようとしたのに大失敗でした。



床をモップで拭いた後、ベットのシーツを新しいの変えて整える。

 既にここで働いて2週間たちました。本日も朝から宿屋の仕事をしています。

 最初はあんまり奇麗に直せなかったシーツも、毎日やっていたおかげからか、今ではピッシリと直せる様になった。ほんの些細な事だが妙な達成感があり、少し嬉しかったりする。

 

 

 空いてる部屋の掃除が終われば、モップとバケツを片付けた後、変えたシーツを洗濯する。

 この時代には洗濯機なんて便利な物が無いので、全て手洗いになる。といっても偉大なる航路の中には科学の進んだ島があり、そういった機械もある島もあるらしいが、この島は見た目通りの時代背景のようでそういいった便利な物は無い。

 井戸から水をくんで洗濯物をタライに突っ込む。タライと洗濯板を使って石鹸で汚れを落とすのは結構な重労働だ。この体になってから体力面で疲れた事は無いが、何度も同じ事を繰り返すのは精神面でかなり疲れる。

 洗い終わったシーツを物干竿に掛けて干すと、かけられた幾つものシーツの裾が風に煽られてヒラヒラと舞う。青空の下、白いシーツが風に舞う姿は見ていて気分の良い物で、洗っていた時の疲れも自然ととれてくる。

 

 洗濯が終わるとちょうどいい時間になったので、いつも通りマスター特製の料理をいただくため一階の酒場へと向かう。

 今日は何かな〜。マスターの料理は何でも美味しいのだけど、やっぱり魚料理がいいな。

 港町なので魚が新鮮で美味しいので、最近、魚料理にはまっている。自分の体の時は魚はそこまで好きではなかったんだけど、この体になって味覚が変わったのも原因だと思う。好みが変わった事にはそこまで困ってないけど、コーヒーが飲めなくなった事と辛い物が食べれなくなった事が非常に残念だ。

 酒場に着くとマスターが既に料理をしてくれていた。

 

「マスター、おはようございます」

「……」

 

 マスターはこちらに目をやると、微妙に頷く。これがここに住み着いてから、毎日交わしてる挨拶だ。

 この人は基本的に何か言いつけるとき以外はあんまり口を開かない。もう慣れたし、これはこれでこの人の魅力の一つだと思っている。

 私がマスターが料理をしている前のカウンター席に座るとちょうど料理ができたようで、マスターはフライパンから皿に料理を盛りつけてカウンター越しに渡してくれた。

 薄い黄色の麺の上に鮮やかな緑の野菜。所々に見える赤い欠片は唐辛子か。皿には殻が着いたままの貝が数個盛られており、オリーブオイルとニンニクの香りが食欲をそそる。

 今日は貝のパスタのようだ。

 

「それじゃあ、いただきま〜す」

「……」

 

 マスターはまた微妙に頷く事で了承の意を示す。

 パスタを一緒に出されたフォークでクルクルと巻いて口に含むと、程よく茹でられたパスタが弾力をもって、しっかりとした歯ごたえを伝えてくる。

 パスタ自身の薄めの味に貝の旨味と、ニンニクの刺激的な味がよく混ざり合っている。オリーブオイルの香りで貝の臭みも感じられない。

 一口食べごとに後味をひいて、止まらない。

 

「やっぱり、マスターの料理は美味しいな〜」

 

 美味しい物を食べたからか、自然にニコニコとした笑顔を顔に浮かべながら料理を口に運ぶ。背中に目をやれば、羽がパタパタと機嫌良さそうに動いているのが見える。この羽、その時の気分で結構動くらしく、機嫌がいいと今みたいに軽く羽ばたき、気分が落ち込んでいると羽もうなだれる。

 

「……ウツホ」

 

 料理を食べていると、渋くて重たい声がマスターから発せられる。相変わらず、良い声してるな〜。

 因みに私は霊烏路 空と名乗っている。自分の名前はこの姿に合わないし、ウツホと呼ばれるのも妙にしっくり来るからだ。そういやこの世界、西洋っぽいくせに名字が前なんだよね。日本名だから特に気にしなくていいけど。

 それとマスターの名前は知らない。「マスターと呼べ」としか言われなかったからだ。

 

「食べ終わったら、買い出しに行ってこい」

 

 そう言ってリストの書かれたメモを渡された。

 この時間にマスターが話しかけるのは大抵、買い出しの事だとわかっていたので特に気にせずにメモを受け取った。

 

「ふぁーい」

「……飲み込んでから、返事をしろ」

 

 ごめんなさい。もぐもぐ。

 

 

 

 

 片手に買い出しメモを持って大通りを歩く。

 今の私の格好は、この世界に来た時のウツホの格好に右手の制御棒を外した姿である。町を歩く時はいつもこの格好をしている。

 

「おっ! お空ちゃん買い出しかい?」

 

 店に着くと店のおじさんが話しかけてくれた。この島に来てから、何度もこの店に来ているので名前を覚えてくれている。

 お空というのはゲームでのウツホのあだ名みたいな物で、私は名前を名乗る時ウツホでもお空でもどっちでも好きな様に呼んでくださいと言っている。マスターはウツホだが、大抵の人はお空と呼ぶ。お空のが発音しやすいからかな?

 

「はい、おじさん。このメモにあるのください」

「あいよ! 全部で一万八千と七百ベリーだよ」

 

 私は買い出し用の財布から言われた通りの金額をおじさんに渡す。

 ベリーとはこの世界の通貨である。一ベリー、約一円なので、金銭感覚がずれる事は無かった。

 

「毎度。これいつも買ってくれるサービスね」

 

 メモに書かれた食材と一緒にリンゴを一つ渡してくれた。

 いつもって言ってもまだそんなに来ていないんですけどね。私ここに着たの二週間前ですし。

 

「わぁ〜、ありがとうおじさん」

 

 リンゴも味覚が変わった後に好物になった物の一つで、とても嬉しかったので些細な事は気にしない事にした。

 おじさんに笑顔でお礼を言うと、おじさんも笑顔でまたおいでと返してくれた。

 

 

 

 

 おじさんにもらったリンゴを齧りながら、着た道を戻っている途中、町の壁に貼られているとある物に気がついた。

 壁には所々に目つきの悪い人物の人相書きが張られている。人相書きにはその人物の名前とWANTEDの文字、そしてベリーのマークの横に数字が書かれている。

 海賊の手配書だ。私が今働いてるの酒場にも沢山張られている。

 ベリーのマークの横にある数字は、その人物の懸賞金である。その値段は様々で、三百万ベリーの物もあれば一億ベリーを超える物もある。

 最近、知った事では、この世界の海賊は懸賞金の額が世界に対する脅威度を表すらしいが、一体どのくらいが高いのか、そして低いのかはよくわからない。

 脅威度=強さという訳ではないらしいが、実力のある海賊はもちろんその懸賞金も高いらしい。

 海軍に入る以上、いつかは懸賞金の懸かっている海賊と戦う事にもなるかもしれないが、今の自分はどのくらいの海賊となら戦えるんだろう?

 そんな事を考えながら店へ戻った。

 

 

 

 今考えても仕方が無いか、そういった事は海軍に入ったらわかるだろうし。

 

 

 

 店に着くまでの道のりで、考えたついた答えはそんなものだった。

 最近、細かい事をあまり気にしなくなってきた気がするな〜。まぁ、環境が変わったからかな。

 買い出して着た食材を決まった場所に置くと、既に客の入っている酒場の手伝いを始める。

 

 酒場で仕事をしていると、客が話している色んな情報が入ってくる。

 といってもたいした事ではないけど。

 家の奥さんの話しとか、新たに入ってきた珍しい品物の事とか、何所のお店の子がかわいいとか、そんな些細な事だ。

 

「例の場所な調査団が向かったが、調査の結果は何も無かったらしいぞ」

「あの、二週間前に海から蒸気が出た奴だろ? ホットスポットじゃなかったのか?」

「あぁ、あの辺には海底火山があったという記録は無いし、あれ以来、蒸気も出ていないらしい」

 

「ここんところ、あの海蛇が出てこなくて助かるぜ」

「あぁ、あの海蛇には手を焼いていたからな〜」

「全くだ、海王類は貿易が盛んなこの島にゃあ海賊と同じぐらい厄介だからな〜」

 

 ……些細な事。うん、些細な事ばっかりだ。

 どこかで聞いた事のあるような話しを内心冷や汗を流しつつ聞き流して、私は新たに注文された料理をマスターに告げるのだった。

 

 

 

 

 

 私がこの町にきてから三週間近くたったある日に、何故かマスターからお休みをもらった。

 海軍に入る事は既にマスターに述べており、海軍が来るまでの一ヶ月間は働くので住み込みで働く事をお願いしたはずなんだけど。

 

「もうすぐこの町を出るんだ。よくこの町を見とけ」

 

 との事です。

 ほんと無駄にかっこいいなマスター。

 

 

 

 そんな訳で久しぶりに朝ゆっくり起きて、町に出て来た。

 といっても何をすることなくブラブラと町を散歩している。普段、町には出ないので何をしようか悩む。

 買い出し以外では一度、服を買いに行ったのと、そのついでに本屋によった事がある程度だ。

 

 ここに来た時、会話は問題なくできたが文字はどうなのか気になって調べたのだが、この世界の文字は日本語と英語が多く普及しているみたいだ。英語でも簡単な物なら読めるので、本屋で何冊か本を買って暇な時に読んでいた。この時代にしては意外と本が安かったのだ。多分、技術の発展した島では印刷技術が普及しているのだろう。

 買った本の中でも目を引いたのが悪魔の実の図鑑だ。

 まさか図鑑があるとは思わなかったな〜。

 即刻、買って読んでみた結果、様々な事がわかったので大収穫だった。

 

 悪魔の実は大きくわけて三種類ある。

 超人(パラミシア)系、動物(ゾオン)系、自然(ロギア)系の三つだ。

 

 超人系は通常ではありえない極めて特殊な体質になったり、他に作用する魔術的な能力が身に付くらしい。また三つの中で最も確認されてる数が多い。また基本的に能力者の原型をとどめる物がほとんどである。

 

 動物系は動物への変身能力が付く物らしい。能力者は人形、獣型、その中間形態への計三つの形態に変身ができる。

 能力者の身体能力が純粋に強化される唯一の物で、動物系中には絶滅動物に変身できる「古代種」や伝説の動物に変身できる「幻獣種」など希少な物もあるようだ。また亜種が非常に多く、その場合はモデル〜と呼び分けるそうだ。

 例えば犬に変身する悪魔の実:イヌイヌの実ならばモデルダックスフンドやモデルウルフ等があるようだ。

 私の場合を悪魔の実に例えるなら、この種になるんだろけど、私は三形態に変身はできないので、幻獣種などの希少な種を名乗ってごまかすしか無いかも。

 

 自然系は身体を自然現象その物に変化させ自在に操る物らしい。三種の中では最も希少で、その特性の強力さから、三種の中で最強の実とされている。

 

 後わかったのは、悪魔の実は二つ以上食べる事ができないという事と同時期に同じ実は存在できないという事だ。

 悪魔の実の能力者との戦いで最も大切なのは、相手が何の実を食べたかを知る事になるね。

 手配書も名前と金額だけじゃなくて、能力者かどうか、能力者ならどんな実かを書いてほしいもんだ。

 

 

 

 

 

 ブラブラと町を歩いていると、中央広場に出た。

 ここには大きな噴水と、教会があり、決まった時間に教会が鐘を鳴らすといった所謂お決まりの西洋の町の姿が見える。

 ここは少し高台となっていて見晴らしがとてもよく、ここから港や海が見えのでこの町の市場に次ぐ人気スポットでもある。

 

 広場に出ていた屋台で穴の空いていないドーナツのような物をいくつか買って、見晴らしの良い草場に座りくつろぐ事にする。

 う〜ん。いい天気で気持ちいいな〜。

 爽やかな日差しの中、羽を広げて日光浴をしながら仰向けに寝転がると、とても気持ちよかった。

 今の姿を想像すると、ちょっと鳥っぽいかも。

 そんな風にのんびりしながら、先ほど買ったドーナツのようなお菓子が入った袋から一つ取り出すと

 

「ミャー」

「ミャー」

「ミャー」

「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」「ミャー」

 

 バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ。

 

「おぉう!?」

 

 大量のウミネコにたかられた。

 

 

 

 結局、お菓子をほとんど取られてしまった。

 目の前で地面に落ちたお菓子をウミネコ達がついばんでるのを見ながら、死守した一個を食べてている。

 

「他の人も食べてるのに、なんでそっちには行かないの?」

「ミャー」

 

 結果的に餌付けになったのか、私の周りから離れないウミネコに聞いてみたが、どうやら地獄鴉は他の鳥の言葉はわからないらしい。

 まぁ、いいか〜。

 しばらくウミネコの群れに囲まれながら日光浴の続きをする事にした。

 

 

 

 

 ただその状況は十分も続かなかった。

 なぜなら、ヒューと何かが撃ち上がるような甲高い音の後に、破砕音と大きな振動を残し目の前の教会が崩れ去ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ウミネコが一斉に飛び立って、群がられてた私はとても痛かったです。。

 




会話、増やすなんて言ったのは誰だ! また説明口調文章ばっかりじゃないか!
俺です、ごめんなさい。会話、増やせなかったよ、ごめんなさい。
まだメインのキャラがいないんで会話できないだけなんです。きっと。
次からは会話も増えると思います。

主人公はワンピースの事あまり知らないので、ワンピースの説明がかなり多くなってしまうのはご勘弁ください。

東方知らない人への設定
地獄鴉:ウツホの種族です。地獄にいる鴉。
    ウツホは八咫烏を飲み込んで姿が以前とだいぶ変わってしまっている。


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4話ー虚像

あ〜、今回は本当に失敗した気がします。
やりたい事は一応書けたんですが、まとめきれず、だらだらとしつこい文章になっちゃいました。
文章量もかなりな物に……しかも収まりきらずまた分割。難産ってレベルじゃあ無かったです。

今回は厨二病全開&今までの雰囲気とがらりと変わっていますので注意。



とある海賊SIDE

 

 マストの上から遥か遠くにある船を見続けて二日目、船の向こうにやっと目的の島をみっけた。

 急いで下にいる船長——赤骨海賊団、血骨のバーダイン船長に伝える。

 

「船長、例の島に着きやしたぜ!」

 

 偉大なる航路のあちこちにある島を行き来して、色んなお宝のたまり場となっている島。

 それが今回のターゲットだ。

 今までも、何度もその島の船を見つけてたんだが、体のいい所で逃げられちまっていた。

 今回はお頭がちまちま狙うより大本ごといただいちまおうてんで、ばれねぇ様にこっそり追いかけてきたってわけよ。

 

「お前等、まずは一発お見舞いしてやれや」

 

「「「「アイサー!!」」」」

 

 船上で船員達が走り回る。

 俺もマストからロープを伝って滑る様に降りて、その中に加わる。

 仲間達がいくつも大砲を町に向け、皆、まだかまだかとざわついている。血の気の多い奴らだぜ。俺もだけどな、ヒヒヒ。

 

「撃て」

 

 船長の一言で皆一斉に大砲に点火する。俺達の中で一発お見舞いするってのは、こういった事だ。

 放たれた大砲の弾は、それぞれ町の至る所に着弾した。

 

 

 その中の一発が、町の真ん中にあるでかい教会を盛大に破壊したのを見て、俺達は歓声を上げた。

 

 

 

 

 

 大砲を幾つも撃ち込みながら、港に乗り込む。

 町は既に至る所で煙を上げていて、あちらこちらで悲鳴が聞こえる。

 三十名を超える仲間達もあちこちに広がって、既に略奪を初めているだろう。

 

「うらぁ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 俺も負けずに目の前を逃げ惑ってる奴を背中から、持っている剣で斬り付ける。

 皆殺しにするかは船長が決める事だ。俺達は細かい事を気にせずただ殺せば良い。俺は楽しいし、皆殺しにしなくても、金品を奪う時の見せしめになってちょうどいい。

 

 何人か斬り刻んで、町の中央に向かう。建物の中に立てこもってる奴は他の奴にまかせて、俺は目についた奴を追いかけて順番に襲って行く。それが俺がいつも町を襲う時にしているポリシーみたいなもんだ。

 おっと。危ない、危ない。見逃す所だった。

 さっき入った大通りを真っ直ぐ進んで行ったので、道の端にうずくまってるガキがいるのを見逃す所だった。

 俺が剣を持って近づくと、ガキはこっちに気づいて震え始めやがった。

 

「ヒヒヒ、逃げ遅れたのか親とはぐれたのか知らねぇが、運がなかったな」

「うぅ……あっ!」

 

 ん? なんだ?

 震えまくって泣きかけてたガキがいきなり、目を見開いて間の抜けた顔になりやがった。

 その視線を追うと、俺の……後ろ?

 振り向いた俺が見たのは、顔面に迫ってくる茶色い何かだった。

 

「へぶぅ!」

 

 とてつもない衝撃を頭に受けて、俺は意識ごと吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

 これで八人目。

 私は右手に付けた制御棒で、今まさに小さな女の子を襲おうとしていた海賊の頭をフルスイングでぶっ飛ばした。

 時間がなかったので、思ったより力が入ったがどうやら死んでいないようだ。歯が何本か抜けて白目向いてるが結構大丈夫そう。

 他の海賊をぶっ飛ばしたときも思ったけど、皆かなり丈夫だな〜。

 

「大丈夫?」

「う、うん」

 

 吹っ飛ばした海賊を近くの出店に使われている紐でふんじばった後、未だへたり込んでいる女の子に話しかける。

 どうやら見た感じ怪我は無いようだ。急に恐怖から遠ざかったため軽く放心状態みたいだけど。

 ここでこうやっているのも危険なので、さっさと女の子を抱える。

 

「わっ、わっ!」

「危ないから捕まっててね」

「へ? きゃあ!」

 

 羽に意識をやると、羽がバサッと一度、力強く羽ばたく。

 私は風を切りながら一気に町中を海賊に見つからない様に低空で進む。一回、飛び立ってしまえば、後は何度か羽ばたくだけでグングン進んで行く。

 

「うわぁあ」

 

 女の子から声が漏れる。怖いというより、楽しい感じの声だった。

 結構、図太いなこの子。

 私は、女の子を今までと同じく、途中で見つけた町の人達同様、町外れに連れていき、そこにいる大人の人にまかせる。

 どうやら避難してた中に親御さんがいたらしく、それを見た女の子は今頃、恐怖が戻ってきたのか泣き出してしまった。

 それを見た私が、町に戻ろうともう一度、羽に意識をやると、泣いてた女の子がこちらを向いて

 

「ありがとう! お姉ちゃん」

 

 と涙に濡れた目のまま笑顔で言ってくれた。

 私もそれに笑顔で答えると、また町に文字通り飛んで戻った。

 

 

 

 

 教会が崩壊した後、私は最初、何が起きたかわからなかった。

 辺りも急な事でパニック状態になっており、あちこちから悲鳴が上がっていた。

 どどどどど、どうしよう。い、いったいなにが?

 私もパニック状態だった。

 

 続いてまたもや先ほどと同じ、甲高い音と破砕音が町のあちこちから上がる。

 港の方からは警鐘の音も鳴り響ており、そこでやっと私はこれが海賊の襲撃だという事に気がついた。

 高台から海の方を見渡せば、ある船が目に入った。帆に赤い髑髏のマーク。その髑髏には上から剣が突き刺さってひび割れた穴があいている。

 海賊船だ。

 そこまで港から離れていないとはいえ、町の中央にあるこの高台に砲台が届くなんてどんな火薬使ってんの!?

 あまり、この世界を見た目通りの時代だと思わない方が良いかもしれない。

 

 ってそんな事考えてる場合じゃなかった。

 海賊と戦うと言っておいてこのざま。落ち着いて対処すればなんとかなるなんて所詮は机上の空論だったな。

 急いで羽織っているマントの内側に右手を突っ込む。ウツホのマントの内側はまるで宇宙の星空を表したかの模様が不可思議にうごめいている。

 マントから右手を引き抜けば、肘から先には今では見慣れた茶色い六角の棒——制御棒がはめ込まれている。

 このマントはウツホ()を包み込むマントル(外殻)、ウツホに関する物なら包み込んでくれる。

 原作にはそういった描写は無かったが、靴や飾りはまだしも、制御棒を普段から付けている訳も行かず、だからといって何処かに置きっぱなしにする訳にも行かず困っていたら、マントにすっぽりと入ってしまったのだ。

 日常品や他の服は取り込んでくれないが、この世界に来た時に身につけていた物は容量を無視して全て入るので、身につけていない物は普段この中にしまっている。

 

 制御棒を取り付けて、完全装備になった私は港の方向に大通りを避け、裏路地を進んで行く。

 広場にいた人達は、私が動き出したときは既に私とは逆方向、港から離れる方向に逃げていった。

 誰一人私と同じ方向には向かわない。海賊は港から来ているのだから当たり前だ。今、港に向かうのは海賊と戦う意思がある者だけだろう。

 つまり私は海賊と戦おうとしている。

 そう考えただけで息苦しくなる。この体で息苦しくなる理由なんて一つだ。

 怖い。

 恐怖を感じている以外に無い。まだ海賊と対面もしていないのにだ。

 所々で煙を上げる破壊された町の風景が、自分がここにいるのを場違いだと訴えてきている様にも感じる。

 それでも、恐怖を押し殺し港に進んで行くと

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴が聞こえた。

 

「ッ!」

 

 それだけで体が強張る。

 恐る恐る裏路地から目をやれば

 

 

 

 そこでは人が剣で斬られ、血溜まりに横たわっていた。

 

 

 

 当たり前で、当たり前でない光景。

 海賊に襲われている町ではごく当たり前の光景。私の常識では全く当たり前でない光景。

 この世界では当たり前の光景。私の世界では当たり前でない光景。

 

 思考が停止する。

 その間にも逃げ惑ってる人々を海賊は襲っている。

 目の前の光景から目が離せない。

 

 あはははは。海軍に入る? この程度のことで動けなくなっている自分が?

 滑稽だった。

 楽観視するつもりは無かった。だから海軍に入ると決めた。

 それこそ楽観視していた事と気がつかずに。

 ここが現実と思いながらも、どこかでここが所詮ワンピース(漫画)の世界だと思っていたのだろう。ウツホの力が使えた事もそれに拍車をかけたのだろう。

 こっちに来てから平和で、直ぐに住む場所も仕事も見つかって、うまく行き過ぎた。

 体がそっくりになったからって、なにも馬鹿な(こんな)所までウツホに似なくてよかったのに。

 自分の命が危険になって初めて実感した。

 

 

 

 私は現実(ここ)にいるって。

 

 

 

 コツッ。っと靴の音が近くからした。

 自分の馬鹿さ加減に呆れていて、気がつくのが遅れた。

 大通りの海賊は既に他の所に言ったようだが、私がいる裏路地の方から別の海賊が来るのが壁越しに見えた。このまま進めば間違いなく見つかる。

 だからといって大通りには出られない。

 

 どうする? どうする!?

 

 どうしようというのだ?

 何もできない。怖くて逃げる事も、能力を使う事もできない。

 能力を使えば勝てるはずだ! 海蛇もそれでやっつけた!

 ここであれを使うのか? 町の人ごと蒸発するぞ?

 だったらもっと弱いのを使えば良い! 

 効かなかったら? 能力者の可能性だってあるぞ?

 火力が高くて周りをそんなにまき込まないのだってある!

 人間相手に使うのか? 蒸発するぞ?

 向こうは海賊だ! 今だって人を殺してる!

 で? 自分にはそれができるの?

 

 靴音はどんどん近づいてきている。チラリと見れば辺りを見回しながら、持っている剣をクルクルと回している。

 その剣には真新しい誰かの血が付いていた。

 

 

 それを見て私の心は完全に凍り付いた。

 膝を抱えて顔を埋める。途中、右手に付いた制御棒が見えた。そこにあるのがまるでなにかの冗談のようだ。

 ……できない。自分じゃあ何もできない。

 

 

 

 

 じゃあ、私(ウツホ)なら?

 

 

 

 

 ハッとする。さっきまで恐怖に固まってた頭が嘘の様にはっきりとしてくる。

 私ならどうする? こんな状況。

 簡単だ。こんなのピンチでも何でも無い。

 私ならどうする? 死体を見て。

 そんな燃料(もの)珍しくもない。毎日、お燐が運んでくる。

 私ならどうする? 今、私を危険にする()を?

 そんなの、決まってる!

 

 動け!

 未だ恐怖に縛られてる体を、無理矢理に動かす。

 海賊はまだこっちに気づいていない。

 だから、いけるはずだ!

 

 隠れていた場所から飛び出る。

 羽に力を込めて両翼を思いっきり羽ばたかせれば、一瞬で海賊の目の前まで近寄る。一瞬で過ぎ去るはずの風景が非常にゆっくりと感じた。

 相手はまだ何が起こってるかもわかっていないようだ。

 遅い。

 既にこちらは右手を思いっきり振りかぶっている。

 

 DB(ダッシュB攻撃)

 飛んだ勢いを付けて、思いっきり振りかぶった制御棒を、轟音と共に振り抜いた時まで考えていたのは、そんな言葉。

 ゲームのウツホの行動。ダッシュした後にBボタンを押せば、制御棒で相手をぶっ飛ばす。

 一大決心の元、行ったのはただそれだけの行動だった。

 

 

 

 ぶっ飛ばした海賊は見た目かなり派手にぶっ飛んだが、死んではいなかった。

 殴る時に一瞬、躊躇したからだと思う。

 あれだけ自己暗示をしておきながら、いざ殴る時には躊躇してしまうんだから、自分の小物っぽさに泣けてくる。

 

 しかし、一回ぶっ飛ばしたおかげか、先ほどまで感じていた恐怖はほとんど無くなり、次いで現れた海賊も気づかれる前に同じ様にぶっ飛ばした。

 正直かなり焦った。いきなり出てくるんもんだから。

 隙をついたとはいえ、相手もウツホの身体能力に付いて行けていないようだったので助かった。それと、殴る時に気がついたのだが、動体視力もかなり上がっているようだ。相手の動きや流れる背景が自分の動きと比べ、てんで遅かった。

 自分の事は結構、把握したつもりだったけど、全然わかっていなかったみたいだ。

 

 

 

 もう一人、二人と隙をついて倒せば結構、慣れたもんで、海賊に襲われている人も助ける事ができた。

 その時、真っ正面から対峙してしまったが、奇襲でなくとも同じ様に普通に倒せた。やはり私の動きはこいつ等には速すぎるみたいで、動きがまるで追いついていない。

 怖い事に変わりはないが、それで一気に安心感が増した。

 真っ正面から戦っても勝てる。これがわかったのは非常に大きい。

 未だに刃物を持つ相手と正面から戦うのはかなりの抵抗があるけどね。

 

 

 

 助けた人は、町の人たちが避難していった方向に飛んで連れて行けば、町外れに避難所みたいな所があり、そこに預けてるようにして何度か同じ事を繰り返した所、先ほどの女の子を助けて今に至る。

 あれから町に戻り、また海賊に奇襲攻撃をしかけて、ちょうど三人目を同じ様にぶっ飛ばした時

 

「てめぇか? さっきから俺達の邪魔してんのは?」

 

 バレた。

 声がかけられた方を向けば、微妙に癖の付いた金髪を肩まで垂らしている、細型の長身の男が部下らしき八名の海賊を引き連れていた。

 男は赤いコートを来ており、右腰には変わった形の刀を差している。

 その偉そうな雰囲気と見た目からして、この男が一味の船長だろう。

 できれば一人づつ確実に倒したかったけど、一度バレてしまえば奇襲はもうできないか。

 

「なんだぁ? ガキじゃねえか。こんなガキのしかも女にやられてんのかよ、家の船員達はよ」

 

 こちらを見下しながら、船長らしき男が吐き捨てるかの様に話す。

 

「いやいや、船長。いくらなんでも、こんなガキにやられるなんてありえないですって」

「そうですよ、大方そいつはよっぽど油断して罠にでもかかったんでしょう。邪魔してんのは別の奴でしょう」

「馬鹿な奴だ。赤骨海賊団の良い恥さらしだ」

「全くだぜ」

 

 それに続いて、周りの部下達が先ほど私がぶっ飛ばした海賊に指差して笑っている。

 油断してくれてるのは良いが、船長も含め全部で九人か。

 多人数を相手にするのは今回が初めての上、他の海賊に比べ明らかに格上だろう船長の男もいるという状況で足が震えそうになるを何とかこらえる。

 大丈夫、さっきまでと何も変わらない。どうせこいつ等は私の身体能力には追いつけない。

 そう自分に言い聞かせる。

 

「おい、何時まで笑ってやがる。良いからさっさと殺せ、どうせ今回は皆殺しだ。いつまでも時間かけてんじゃねぇ」

「へ、ヘイ」

 

 船長の男が一喝すると、私に向かって部下が三人近づいてくる。

 三人だけか。いっその事、船長ごと近づいてくれば一気に攻撃できたのに。

 近づいてきた三人は私が恐怖から動けないでいるとでも思ったのか——まぁ、あんまり外れてはいないんだけど——ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて、一人がその手に持った剣を振りかぶった。

 それが振り落とされるのを待つ訳も無く、私は剣を振りかぶった奴の腹に制御棒を叩き込む。

 そいつが仲間の所に吹っ飛ばされるのを見る前に、引き戻した制御棒を円を書く様に横合いから叩き付け、残りの二人をまとめて壁に叩き付ける。

 あちらでは仲間が一瞬でやられたのを確認した海賊達が驚いているのが見える。

 その驚きが消える前に決める。

 私は羽に力を込め羽ばたくと、これまで同様に一気に距離を詰め、船長らしき男の頭に制御棒を叩き付けた。

 

 

 

 はずだった。

 

 

 私が砕いたのは男の頭じゃなくて、町の道。

 あれ……なんで? 

 浮かんだのは単純な疑問だった。

 右手を地面に叩き付けた状態のまま男の方を見ると、男は腰に手をやり、今まさにその柄を掴んだ刀で私を斬らんとしているのを加速した視界の中で捉えた。

 斬られる!

 体が勝手に身をすくめる。しかし、そのおかげで逆に助かった。

 頭を下げた突撃体勢のまま急に身をすくめたので、羽が勝手に羽ばたき私は転がる様に前に飛んだ。

 私はそのまま五メートルぐらい離れた所に無様に着地し、直ぐさま体勢を整えた。

 周りは何が起こったか未だ分からない様子だったが、船長の男は抜き去った歪な刀——刀身が赤く、金属というより何かの骨でできている様に見える——を肩に担いぎ、こちらを見て、感心したかのような顔で

 

「ほぉ、避けたか。速いとは思ったが、予想以上に速いな」

 

 そんな事をのたまいやがった!

 

「せ、船長! こりゃあ、いったい!?」

「あのガキ、いつの間にあんな所へ!?」

「お、おい! お前等、大丈夫か!?」

 

 遅れて他の海賊達が騒ぎだすが、そっちにかまっていられる余裕は無くなった。

 まさか、反応されるなんて!

 押さえていた恐怖がジワリと染み出してくる。

 もし、こいつに負けたら……いや、負けなんて無いか。

 なぜなら負けたと感じた時点で、私は死んでいるのだから。

 また恐怖で動けなくなる前に、気をしっかりと持つ。

 

「お前等は別の所に行ってろ、邪魔だ」

「えぇ!? 船長がやるんですかい!? こんなガ……、ヒィ! わ、わかりやした!」

 

 ギロリとまるでナイフのような視線で男が睨めば、口答えしていた部下は逃げる様にどこかに向かった。

 それに続いて、他の部下達も倒れてる仲間を担いですぐにその後を追いかけていった。

 それを確認すると男は担いでる刀をゆらりとしたに降ろす。

 

「俺は、懸賞金二千八百万ベリー、赤骨海賊団船長、血骨(ちぼね)のバーダイン」

 

 二千八百万ベリー。相変わらず高いのか低いのかわからないが、私の攻撃が避けられたことに変わりはない。

 最初は三百万ベリーぐらいのから来てほしいものだ。

 

「お前、かなり速いな。その格好を見るに能力者だろ?」

「……だったら?」

 

 本当は違うけど……いや、能力者っていうなら合ってるのかな?

 

「別に、聞いた……だけだ!」

 

 一足。たったそれだけで五メートルの距離を詰めてくる。

 男——バーダインはその勢いのまま刀を振り抜いた。

 

 

 

 が、私はそれを余裕を持って避ける。

 私が避けるとバーダインがまた刀を振るう。

 私が避けると執拗に刀を振ってくる。

 

 遅い……?

 

 私の攻撃を避けたから、同じくらいの身体能力があるかと思ったら全然遅い。

 さっきのがまぐれだとは思えないがけど。もう一度、試してみる事にする。

 よし、今!

 バーダインが刀に振るったのに対し、合わせる様に制御棒をバーダインの腹に向けて横合いから叩き込む。

 私は制御棒を振り抜いた。

 

 

 

 なんの手応えも無く、風切り音だけを残して。

 

 

 

 また!?

 横を見れば、振り抜いた格好のままの私に刀を振り下ろそうとするバーダイン。

 先ほどと同じ様に、とっさに羽に力を入れて前に飛び距離を離す。

 

 距離が離れれば、直ぐにお互いに向かい合う。

 そうすると計らずとも先ほどと同じ構図となった。

 

「っち、また避けたか」

 

 なんでだ!? なんであたらない!?

 

 手を抜いて攻撃をしていた? 

 だったら今ので死んでいてもおかしくないはずなんだけど。

 わからない。わからない!

 恐怖でどんどん不安になっていく。

 

「そろそろ、死ねや!」

 

 だが私が落ち着くのを待ってくれるはずも無く、バーダインはまたもや刀を振るいに突っ込んでくる。

 私は疑問を解決できないまま、またそれを避け始めることになった。

 

 

 

 

 

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

 

 たいした時間はかかってないが、あれから既に何度も同じ事を繰り返して、お互いに息も切れてきた。

 バーダインは刀を振りすぎて肉体面で疲労し、私は刀は避けれるのに何度攻撃しても当たらない事から精神面で疲労した。

 肉体面で疲労している分バーダインのが不利に思えるが、私はもう限界だった。

 身体能力は私の方が遥かに勝ってるのは、何度か繰り返しているうちにバーダインの様子からわかった。

 それなのに倒せない。攻撃は全部避けられて、逆にこっちが危険な目に合う。

 そんな状況に自己暗示でなんとか戦ってた私の心が耐えきれるはずが無かった。

 

 

 

 どうしようもなく、怖かった。

 

 

 

「あぁぁぁぁ!」

 

 無意識に押さえていた力を初めて全力出し、一瞬で低空を駆け抜ける。

 今までと比べ物にならない速度で風景が流れる。バーダインはまだ微動にもしていない。

 右手を肩ごと限界まで引き絞り、力の限り目の前の顔に上から叩き付ける。

 叩き付けられた制御棒からは更に弾丸のように火が吹き出て叩き付けた対象を真っ赤に焼く。

 

 

 叩き付けた対象——地面を。

 

 

 避けられた。

 横を見れば先ほどまでと同じ、バーダインが刀を振り上げている光景。

 唯一、違うのは私は全力を出した分、硬直が長い事。そして、向こうは先ほどと全く同じ条件だという事。

 ギリギリでかわしてた赤い刀は既に必殺のそれとなって私に向かう。

 バーダインは勝利を確信したのか、汗が浮かぶ顔に深い笑みを浮かべて叫んだ。

 

「どんなに速かろうが、来る場所が先に分かってりゃ関係ねぇんだよ! 馬鹿が!」

 

 刀の刃が私に向かうのが見える。このまま行けば左肩から右の脇腹に刃が抜けるだろう。

 

 

 

 左肩に衝撃と痛みを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ……死んだ。

 




もっと簡単な文章にできたら、こんなだるい分にならなかったのに……。

戦闘描写が難しすぎる……、一人称にこだわんないで三人称にした方がよかったかも。
初めて書いたせいか変な文書のオンパレードです。ごめんなさい。

今回の話しでやりたかった事は
一般人が力持っていてもいきなり殺しあいとか無理。
非常識な事ばかり起こると現実逃避に走る人もいる。
恐怖を感じすぎると狂う。
以上です。

今までと随分と雰囲気が違いますが、この話だけだと思います。

東方知らない人への設定
お燐:ウツホと同じく古明地さとりのペットの1人。
   灼熱地獄跡で怨霊の管理や死体運びを任されている妖怪。
   ウツホはお燐と共に灼熱地獄跡の管理を任されており、
   ウツホは火力の管理を担当。お燐が持ってきた死体が燃料。


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5話ー心象

前回の文は随分、雰囲気変えたから読んでくれてる人が離れてないといいな〜。とドキドキでした。
特に感想では何か言われなくて安心しました。
今でもちょいドキドキですがw

今回は昨日投稿するつもりだったのですが、風邪を引いてしまい薬飲んだら書く気分が出なかったので遅れてしまいました。
不定期更新って書いてあるから執筆遅れても大丈夫なはずw



「……、……う」

 

 どこか聞き慣れた声が聞こえる。

 

「ちょっ……の? ……くう」

 

 何所で聞いたんだっけ? 何時も聞いてた声。

 忘れちゃいけない……そうだ、この声は確か……

 

「ねぇ! 聞いてるのお空!?」

「うにゅ? あ、あれ?」

 

 目を開けると、赤い髪を両サイドでおさげに編んでいる少女がこちらを覗き込んでいた。

 

 

 ――ドロドロに溶けた溶岩が止めどなく対流し、燃え盛る炎が辺り一面を焼く。吹き上がる熱風が大気を乾燥させ、熱気で吹き出るはずの汗すら出ない。

 ここは地底の灼熱地獄跡。私は熱せられ、水分が蒸発しきってボロボロになった岩の上に立っていた。

 その光景に呆然としていると、先ほどから話しかけてきた赤い髪少女——お燐が胡散臭気にこちらを見ていた。

 そうだ、お燐だ。なんでわかんなかったんだろう?

 

「なにしてんのよ? 火力が下がってるじゃない」

「あ、うん。寝ちゃってたみたい」

「全く、仕方ないね。ほら、新しい死体(燃料)持って着たよ」

 

 そう言うと、お燐はいつも押している猫車——車輪が一つ付いた手押し車、から死体を降ろす。

 頭に付いている黒い猫耳と、腰から生えている耳と同じ色をした二本の尻尾が機嫌良さそうに揺れている。

 お燐は死体を運ぶのが相変わらず好きみたい。

 

 私はお燐から受け取った死体を眼下に燃え盛る炎に投げ込むと、炎の勢いが段違いに増す。

 勢いの増した炎から出た、更なる熱気が私を心地よく包む。

 

「う〜ん、熱気が気持ちいいわ」

「う〜ん、熱気が気持ち悪いよ。あたいには熱すぎだ」

「そう? この良さがわからないなんてお燐はまだまだだね」

「何がまだまだなのよ?」

「地底の妖怪としての心儀よ」

「無いよそんなもの。あんたが熱くないのは太陽の神様を飲みこんだからでしょ」

「そうよ、黒い太陽、八咫烏様。おかげで私はとっても熱さに丈夫」

「つまり心儀は関係ないじゃない」

「うにゅ?」

 

 お燐は呆れた顔をすると、熱さの限界に着たのか、そそくさと猫車を押して出口——地霊殿の方に向かう。

 

「あっ、待ってよお燐。変な夢を見たんだ。聞いてよ」

 

 私は慌ててお燐を追いかけようと出口に向かう。

 

「え!?」

 

 足が動かない。

 お燐はこちらに気がつかないのか先に行ってしまう。

 私は慌てて体に力を入れると、つっかえてたかの様に急に体が動き、地面に倒れ混んでしまう。

 どうして? とおかしく思い下半身を見れば。

 

 

 足が無かった。

 

 

 それどころか左肩から右脇腹にかけて一直線に上半身が千切れていて、少し離れた所で残った下半身が冗談の様に転がっている。

 その間にもお燐はこちらを向かずにどんどん離れて行く。

 

「待って! 待ってよ、お燐!」

 

 私は頭以外で唯一、残った制御棒が付いている右腕を動かし、地面を何とか這うが、もがくばかりで一向に先に進まない。

 そもそも出口は上にあるため、飛ばないと辿り着けない。

 羽すら千切れている私にそれはかなわない。羽で飛ぶ訳ではないが、鳥は羽が無ければ飛べないのだから。

 それでも私は一心不乱にもがいて、既に出口の穴から出て行こうとするお燐に手を伸ばして助けを求める。

 

 

「お燐! 気づいてよ! おかしいんだよ、私の体が無いの! ねぇ、お燐ってば! おりぃぃぃぃぃん!」

 

 

 私の声が聞こえていないかの様に、お燐は一度もこちらを振り向かず、出口から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「……ぃん!」

 

 がばっと、急激に上半を跳ね起こすと、掛けられていた布団がずり落ちる。

 どうやら私はベットに寝ていたらしい。

 じっとりとした汗が体から溢れていて、服が肌に張り付いて気持ち悪い。

 

 ここは?

 辺りには蠢く溶岩も、燃え盛る火炎も無い。目に入るのはここ数日で見慣れた、木でできた壁に家具。

 サークリュー島の酒場の二階。私が泊まっていた部屋だ。

 

 何時寝たんだっけ?

 昨日は確か休みをもらって……そう、中央広場で休んでたら教会が崩れて、海賊が……。そして、刀で

 

 

 

 そうだ!? 体!

 慌てて体を見るが、左手も下半身もちゃんと付いている。

 汗で張り付いた寝間着の上を脱ぎ捨て、斬られたはずの左肩を見ると、そこには軽く包帯がまかれ、ガーゼが当ててある。包帯とカーゼを剥がせば、左肩に赤く細い傷があった。まるで何かに引っ掛けたような傷で、とても刀で斬られた傷とは思えない。

 そも、あんな勢いで斬られては生きている事自体が不思議だ。

 いったい、何が?

 私が何が置きたのか記憶の整理をしていると、トントンとノックの音に思考を中断させられた。

 

「おい、起きているか?」

「あ、はい」

 

 マスターの声だ。

 それに勢いで答えると、扉を開いてマスターが入ってきた。

 

「起きたか、食事を持ってき……」

「?」

 

 マスターは言葉を途中で区切ると、クルリと体を回し後ろを向いた。

 どうしたんだろう?

 

「服を着ろ」

「うにゅ?」

 

 何か変な声が出た。一度もこんな変な言葉を使った事無いはずだけど、何かしっくり来る。

 それに、ついさっきも使ったような? そんな、わけないか。

 

 それより服って?

 自分の格好を見れば、上着は先ほど脱ぎ捨てていて、見た目の割に大きい胸をさらけ出している。白くきめ細かな肌が汗で濡れているのはどこか官能的だ。

 あぁ、そっか。忘れてた。

 脱ぎ捨てた服をもう一度着る。

 気持ち悪い。 汗で湿ってるのを忘れてた。

 着たのを再び脱いで汗を軽く拭き取り、近くの椅子に掛けられていたいつもの服を手に取って、上着だけ着替える。

 

 マスターにもう振り向いても良いと伝えると、マスターはゆっくりとこちらを振り向いた。

 マスターはしばらく無言でこちらを見た後

 

「大丈夫か?」

 

 何も無かったかの様に話し始めた。

 私が気にしない様にしてくれたようだ。私は元々男だし、そういうのは特に気にならないんだけどね。

 

「はい、もう大丈夫です」

「そうか、食事を持って来たから食べると良い」

 

 そう言って、鍋を机において、おかゆをよそってくれた。

 それを受け取り、一口含めば、柔らかく煮た白米に薄めの味付けがしており、それが卵とニラによく合っている。それとほのかな酸味。梅かなにかが入っているのかな?

 酸味が食欲を増してくれて、起き抜けなのに気がつくと奇麗に食べてしまった。

 やっぱり、マスターの料理は美味しい。おかゆは苦手だったんだけど、美味しくいただけてしまった。

 食べ終わって落ち着けば、あの時——バーダインに斬られた時の事を自然と思い出してきた。

 

 

 

 

 

 バーダインの刀が私に向けて振り落とされるのを見て、全身が強張る。

 左肩に痛みと衝撃を感じ、私は真っ二つに切り裂かれる。

 

 

 はずだった。

 

 

 ギイィィィィィィイ!

 

 耳元で聞こえたのは肉が切り裂かれる音ではなく、まるで金属同士を無理矢理、摺り合わせたかのような音だった。

 加速した視界で捉えたのは、私の体がバーダインの刀を押し返している姿だった。

 叩き付けられたバーダインの刀は衝撃に耐えきれずに、バキンと音を立てて折れる。

 バーダインの顔に浮かべていた笑みがゆっくりと驚愕に変わって行く。

 私の目はそれをどこか人ごとの様に見ていたのに、私の頭はそれを何一つ理解してなかった。

 私の頭を占めていたのはたった一つ。

 

 

 恐怖。

 

 

 斬られた。

 死ぬ? 斬られた。

 肩が痛い。 斬られた。

 血が出て熱いそれが体を垂れる。 斬られた。

 衝撃で体がギチリと軋んだ。 斬られた。

 斬られた。 斬られた。

 赤い刃? 斬られた。

 

 

 飛び散った赤い刃に映るのは……私の目ぇ?  斬られた。

 

 

 斬られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 ジュゥウっと肉が焼ける音。

 

「ぐぁあああああ!」

 

 私は気がつけば地面に叩き付けていた制御棒を、バーダインに叩き付けていた。

 地面を焼いた制御棒は未だその高温を保っており、叩き付けた箇所を焦がす。

 たまらずバーダインが地面に倒れ込み、焼かれた痛みを少しでも逃がすため地面をもがく。

 それを見逃さず、私は未だ転がっているバーダインを上から押さえ込む様に飛び乗り制御棒を振り上げる。

 

「や、やゔぇ……」

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 バーダインが何か言おうとしたのを無視して、私は体を縛る物を吹き飛ばす様に吠え、また制御棒を叩き付ける。

 凄まじい力で叩き付けられた制御棒は、バーダインの頭を地面に沈め、肉を焼く音と叩き付ける音と共に地面に深く皹をを付けた。

 

「か、かぺっ」

 

 バーダインは口から血を吹き出し、白目を向いているが

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 私は止まらない。制御棒を振り上げては、何度も何度も叩き付ける。

 もはや制御棒だけでなく、左手も使い、端から見ると、だだをこねている子供の様にがむしゃらに叩き付けた。

 

 

 

 私が殴るのをやめたのは、バーダインが血と黒い焦げ跡で誰だか判別が付かなくなってからだった。

 私の服と制御棒はバーダインの返り血で赤く染まっている。それだけの血を流しながらもバーダインは時折、痙攣していて死んでいないようだ。

 地面すら砕く威力で叩き付けたというのに、この世界の海賊は何所までも頑丈らしい。

 

 バーダインの上から転がる様に降りて、地面に転がると左手と膝をついてうつむく。

 荒い息を整えていると、鼻から血の独特な臭いと生き物が焦げた香ばしい臭いが大量に入ってくる。

 それでも息が整い、落ち着いてくると肉を撃った生々しい感触が今更、蘇ってきて

 

 

 

 すごく……

 

 

 

 胃の中の物を全部出しきる様に吐いた。

 一度では止まらず、胃の中にはもう何も無いのに胃液だけでも止まらず、何度も吐く。

 吐き終わると、私は立ち上がるが、直ぐさまふらりと倒れ込み意識が遠のく。

 ただ私はそのまま地面に叩き付けられる事は無く、誰かに抱きとめられた。

 涙で歪む視界の中で最後に見えたのは、ここのところ毎日見ていた渋いマスターの顔だった。

 

 

 

 

 

「……治療と着替えは町医者の先生がやってくれたから安心しろ」

 

 私が気絶する前の事を思い出していると、私が食べた食器を片付けながらマスターがそんな事を言ってきた。

 いきなり考え始めたから勘違いしたのかな? さっき胸見せちゃったし、普通の女の子なら気にするかも。

 そうじゃない事を伝えると、思い出した事の中で気になった事があったので聞いてみる。

 

「あの、マスターは何故あの時あそこにいたんですか? それに残りの海賊はどうなりましたか?」

「残りの海賊は俺と町の奴らで捕縛した。あそこにいたのは海賊を捕縛していたら、たまたま辿り着いた」

 

 えっ? マスター戦ってたの!? まだ結構、海賊いたと思うんですけど。

 

「遅くなって悪かったな。あいつ等、お前が倒したのも含めて全部で三十八人もいたから手間取った」

 

 私が倒したのは船長合わせて十三人。半分も倒せてなかった。

 結局、私は今の力を試そうとして無駄に命を危険さらしただけか。

 

「……お前が船長を倒してくれたおかげで、残った海賊達も直ぐに捕縛できた。皆、感謝していたぞ」

「私は……ただ、自分勝手に戦ってただけです。町を助けようとか、一欠片も考えてもいませんでした。」

「……」

「最初は海軍に入る前に、今の自分がどれだけ通用するかとか考えて無謀に海賊に向かって行って……結局、怖くて動けなかった」

「……」

 

 胸につっかえてた事を一度、言葉にすると止まらなかった。

 マスターも何も言わずに聞いてくれる。

 

「何とか奮い立たせて戦ったら、結構、簡単に海賊を倒せちゃって、それで調子に乗って。私の力は使えるんだって。人を助けたのも、正面から戦うついででその人の事なんて考えてませんでした。全部、自己満足の結果で感謝されるのはおかしいですよ」

「……助けた人を避難させたのは何故だ?」

「えっ?」

「戦うためだけならば、助けた人を避難させる必要は無かったはずだ。それにどんな理由であれ助けられた者にとって、助けられた事実は変わらない」

 

 結果、町の助けになった事は間違いない。その事は忘れるな。

 そういってマスターは私の頭を一撫でして出て行った。

 

 私は撫でられた頭に手をやって、起こしていた上半身をもう一度ベットに投げ出した。

 助けられた人には関係ない、か。

 頭に浮かんだのは、助けたあの女の子の笑顔と感謝の言葉だった。

 

 それなら……良いのかも……ね。

 横になって考えていたら、眠気がでてきて、私は少しずつ瞼を閉じて行った。

 

 そういえば寝ていた時に、何か夢を見た気がするけど、思い出せない……な。

 

 

 

 

 

 あの襲撃から五日たった。

 あれから目を覚ました私は壊れた町の修復作業を手伝っていた。酒場の方は今は休業中だし、無駄に力があるので木材やら何やらを運ぶのに向いているしね。

 町の人に変に感謝されて、最初は手伝わせてもらえなかったけど、勝手に材木運びしたらいつの間にやら便利屋扱いに……感謝してたよね?

 

 そして今、港にあの海賊団を引き取りに連絡を受けた海軍船がやってきている。私もこの町とは今日でさよならだ。

 見送りにきたマスターや町の人たちに別れを告げて、私は船から降りてきた海軍のマントを羽織った——髭を生やしていた三十代後半くらいの人に近寄る。

 

「君が血骨のバーダインを捕まえた、霊烏路 空君かね? 話しは聞いているよ海軍に入りたいそうだね?」

 

 海賊の引き取りの連絡の際に、私の事も既に連絡してある。

 私は背筋を伸ばし声を張り上げてそれに答える。

 

「はい!」

「ふむ、いいだろう。今、海軍は人手不足だ。この大航海時代に優秀な人材はいくらいても足りない。海軍は君を歓迎しよう」

「ありがとうございます!」

 

 私は一礼した後、他の海兵達の方を向き、同じく声を張り上げる。

 

 

「霊烏路 うにゅほでひゅ! これからよろしゅくおねがひしましゅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 めっちゃ噛んだ……。

 




実はここまでが当初の3話までの内容でした。
どれだけ長い3話なんだかw

妄想ではすぐ終わるはずだったし、文にする時に考えていた内容も随分変わったりして、考えてる物を小説にするのはやっぱり難しいと感じました。
ただ感想貰えると文が進むっていうのは実感できましたw 嬉しくてついつい書いてしまう。暇な時に書いていたのが、暇を見つけて書く様になりましたね。

前回の終わかたのせいで、覚醒フラグ? と思われたでしょうが、残念、覚醒なんて無いよw
能力的には使おうと思えば使えるので既に覚醒状態と言えば覚醒状態です。度胸と経験が付けば強くなります。

バーダイン相手に能力を使わなかったのは、それまで打撃だけで片付けてしまっていたので、頭にも浮かばなかったのと、あの状態で使ったら町が吹き飛ぶからですw

東方知らない人への設定
地霊殿:ウツホとお燐の飼い主、古明地さとりの館。
    灼熱地獄跡の蓋であり、中庭に灼熱地獄跡に続く入り口がある。

お燐:さとりのペット。詳しくは前回のあとがきへ。
   普段は猫の姿をしている。猫又ではなく、人の死体を持ち去る妖怪、火車である。

どうでも良い設定
血骨のバーダイン:骨のような材質でできた刀を持った剣士。刀が赤いのは過去に斬った者の血で染まっていたため。
本人は能力者ではないもの頭もよく、一歩でかなりの距離を近寄ったり、見切りができたりとかなりの使い手ではあった。
しかし、部下に恵まれず。手下は全て雑魚海賊。その事をかなり気にしていた。

十秒程度で考えた設定w


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6話ー海兵

更新、思った以上に遅れた~。

設定をwikiで読み直したり、これからどうするか思いついても、うまく文章にできなかったり、リアルが忙しかったりと大変でした。

今回の話ももう少し内容があったのですが、思った以上に長くなりそうだったので、またもや分割。
次の話とセットで投稿した方がいいかもと思ったのですが、これ以上更新遅れるのは避けたかったので取り合えず上げました。


盛大に噛んだ自己紹介の後、私は最初に話しをしたマントを付けた男の人――リオレッジ大佐に連れられ、海軍船に乗り込んだ。

 広い甲板から船内に入り、大佐の後ろに続き通路を歩く。

 

「君はたった一人でバーダインを倒したそうだね?」

「へ? あ、は、はい」

 

 初めて見た海軍船の船内を物珍しそうに見渡していたので、気の抜けた返事をしてしまった。

 返事をすると大佐は顔だけこちらに向けて、その口に軽く笑みを浮かべる。

 

「派手に怪我をしてるようにも見えん。なかなか優秀なようだ」

「い、いえ。偶然、勝てたようなもので、今思うと無謀にもほどがありました」

「偶然で懸賞金二千八百万ベリーを捕まえるか。だとしたら、そちらの方が驚きだよ」

 

 そう謙遜するな。そう言って、大佐はいっそう面白そうに顔を歪める。

 いやいやいやいやいやいやいや。本当に偶然なんです。謙遜なんてしてませんから。

 

「いや、そんな私、今まで戦った事も無くて。基地で正式に着任いたしましたら、ちゃんとした訓練を受けたいと思ってます」

 

 実力があると思われて、着任早々前線に出されてはたまらないので、私は精一杯、自分の考えを伝える。

 

「初の実戦であれだけ一方的にバーダインを押さえ込んだのかね? 奴の容態を見たが死にかけだったぞ? これはますます楽しみだな」

 

 大佐は今度は声を上げて笑いだして通路を進んで行く。

 あぁぁぁ~、違うって言ってるのに……聞けよ、おっさん。

 大佐の後ろを付いて行きながら、私が心の中で軽く荒んでいると

 

「ふむ、着いたな。ここが君が基地に着くまで、この船で使う部屋だ」

 

 どいてくれないと見えませんって大佐。

 リオレッジ大佐の身長は見た感じ二メートルもある。軍隊という事でかなり鍛えているのだろう、肩幅もがっちりしていて、そこから「正義」と書かれた海軍独特のコート――マントだと思っていたらコートだったらしい――を付けている。今はせいぜい百六十センチぐらいしか無い私から見たら壁に近い。

 実はさっきから、かなり見上げて話してたりする。この体になってから、人と話す時は基本的に見上げる事になるから、もう慣れたけどね。

 

 さすがに大佐に、どいてくださいとも言えないので、大佐の後ろから横に回り込むと、通路の端にポツンと木の扉が見える。

 大佐を見れば、目で開けろと言ってくるので、扉を開けて部屋に入る。

 部屋に入ると少し埃っぽい空気が鼻をかすめる。

 元々、倉庫なのか部屋の半分は、木の箱が積まれ、モップやバケツ等も置いてあり、使える範囲としては二人部屋ぐらいの大きさになっている。

 横を向けば、随分、放っておかれていた様に見える二段ベットが置いてある。

 

「通常ならば他の海兵と同じ部屋で寝食を共にするのだがな。今、何所もいっぱいでな。それと女という事もあるので、艦の風紀を守るため、この倉庫を使ってもらう事にした」

 

 あっ、やっぱり倉庫なんですね。別に良いですけど。

 

「まぁ、基地に着くまでの短い間だ。多少埃っぽいのは我慢してもらうぞ」

「いえ、別に気にしていません」

「そうかね? それと、これが君の制服だ。早速、着替えたまえ」

 

 私に海軍の制服――半袖のセーラーの上着に、青いズボン。カモメを模したマークにMARINEの文字が書かれたキャップ帽――を渡し。大佐は部屋の外で待っていると、部屋を出て行った。

 他の服を着ると何か落ち着かないので、なるべく今の服を着ていたいのだけど、軍に入った以上そう言う訳にもいかないよね。

 制御棒を外して、今着ている服を脱ぎマントに収納し下着姿になる。

 靴は貰ってないから仕方ないんだけど、このままで良いのかな? 片方、像の足なんだけど……まぁ、いいか。

 さっそく貰った制服に袖を通そうとして

 

 

 

 

 ギィィと部屋の扉を開くと、扉から軋んだ音が鳴る。随分、使ってないのかも。

 

「ふむ、終わったか……む? 何故、着替えておらんのかね?」

 

 大佐が疑問に思うのも無理ない。

 私は貰った海軍の制服でなく、先ほどまで着ていた、いつもの服のまま部屋から出て来たのだから。

 

「気に入らなかったのかね? しかし、海軍に入る以上、規律は守ってもらわないと困る。伍長になれば私服が認められるが、君はまだ……」

「いえ、気に入らなかった訳ではないんです」

 

 ちょっと失礼かと思ったが、長くなりそうだったので大佐の言葉を遮って答える。

 

「ふむ、ではなぜかね?」

「着替えようとはしたんですが……」

「ふむ」

「羽が邪魔で着れなかったんです」

「……」

 

 気まずい沈黙。

 背中の羽が私の気持ちを表すかの様に、申し訳なく垂れ下がっている。

 しばらくお互い無言でいると、大佐は自分の顎に手をやって、しばし髭を撫でると口を開いた。

 

「ふむ、そういえば君は悪魔の実の能力者だったね。動物系はたしか完全な人の形態にも成れたはずだが?」

「あっ、その」

「いや、よく見ると今の姿も人獣型とは言えないね。何の実を食べたのかね?」

 

 やっぱり聞かれたか。

 私はこの世界では異端な存在だ。

 安易に妖怪です。なんて答える訳にもいかないので、悪魔の実の能力者にしておこうと前から決めており、今回、海軍に連絡を取ってもらった際に能力者だと告げておいた。

 一応、悪魔の実辞典でなるべく詳しく調べていたので、考えておいた悪魔の実を告げる事にする。

 

「正式な名前はわからないのですけど、動物系幻獣種・トリトリの実モデル八咫烏。だと私は認識しています」

「なんと! 自然系よりも珍しいと言われている動物系の希少種とは!」

 

 心底驚いたという顔をして、大佐はその高い背を屈めて、しげしげとこちらを見てくる。

 顔近いです大佐。というか見て何かわかるんですか?

 

「え、え~と。それで、モデルになった幻獣種の特性なのか、他の形態への変形はできないんです」

「ふ~む。さすがに私も希少種に関しては全く知らないのでな。そういう事もあるのかもしれんな」

「は、はぁ。そいったわけで制服が着れなかったんです」

「そういったことならば仕方あるまい。君は裁縫はできるかね?」

「うっ、すみません。やったこと無いので難しいのはできないと思います」

「いや、謝ることではないよ。誰だって最初はできんものさ。ただし、これから覚えておきたまえ、海の上では必須技能だ」

「はい!」

 

 それに敬礼して答えると、大佐はかわいらしいものを見たと顔に書いてあるのを隠さず、軽く声を上げて笑い、後で直した制服を渡そう、とそう言って歩き出した。

 いきなり敬礼したのは変だったかな~? いや、でも海軍に入ったんだし、よかったよね?

 私はそんなことを考えながら、若干、恥ずかしさで頬を赤く染めまた大佐の後ろに着いて行った。

 

 

 

 後日、聞いた話しだと。まるで背伸びしたがりな娘――ちなみに大佐に娘はいない――が誇らし気に敬礼をしていた様に見えたので、つい笑ってしまったとのことだ。

 

 

 

 

 

 

 モップをバケツの水に浸し、床を拭く。

 甲板以外に歩く所が無いのに意外と汚れている。モップを置いて、雑巾で壁や窓の縁を磨けば何所から出てるのか埃が結構とれる。

 私が船に乗って早くも数日がたった。

 今、私は背中に羽を出す所を開けた海軍の制服を着て、船のいたる所を清掃している。

 この船に乗った日からの私の仕事である。

 

 所謂、雑用というやつだ。

 

 なんか、サークリュー島にいる時とやっていることがあんまり変わらないな~。

 最初から前線に出ろと言われるよりは良いけどね。

 それに船の上だと私、掃除くらいしかできることが無いし。船のこと何も知らないのは、やっぱり海軍としてはまずいかも。でもここの海軍って、戦闘強かったら良いみたいな所あるしな~。

 とか思いつつ、ここいらの清掃も一段落着いたので他の場所に向かう。

 

 しかし、海の上って……暇だ。

 清掃して、食事の時間になれば食堂で食事を食べ、食べ終わったらまた清掃。

 入ったばかりで知識も無い私には、やることがほとんどない。今の所、天候も落ち着いていて他の海兵ですらやることが少ないのだ。

 清掃以外にも雑用だから、料理とかの雑用もやるものだと思ったのだけど、厨房はコックの仕事場と決まっているみたいで、そういったことはコック見習いがやるらしく、一般の海兵は入ることもでき無い。

 そういった訳で、基地に着くまでの間、私はひたすら船の清掃をすることとなった。

 

 

 

 

 

 ――世界のほぼ中心にある、三日月状の島、マリンフォード。そこに海軍の本拠地、世界中の正義の戦力の最高峰――海軍本部がある。

 その正面には、あまりにも巨大な門「正義の門」が存在しており、その門が開く時できるタライ海流によって、エニエス・ロビ―、インペルダウンと繋がっている。

 門をくぐれば、正面に海軍と大きく書かれている、日本の城のような建物――本部基地と、港に数えきれないほどの軍艦が停泊しているのが見える。

 その前には、海兵達の家族が住む大きな町があるが、その日本風の建築物でできた美しい町並みは、そのほとんどが半壊しており今は見る事ができない。

 

 海賊王、ゴールド・ロジャーが処刑される一週間前、ロジャーのライバルといわれた海賊――金獅子のシキがマリンフォードに襲撃。

 海軍本部元帥、仏のセンゴクと海軍の英雄、モンキー・D・ガープ中将によってシキは取り押さえられたが、その戦闘の余波で町が半壊してしまった。

 

 

 

 との事をリオレッジ大佐が長々と説明してくれた。

 私は初めて見た正義の門の大きさと、半壊はしているが、古い日本風の建物に興奮していたので、正直あんまり聞いてなかった。

 大佐も苦笑いしている所を見ると、たぶん聞いてない事は気づいていたんだと思うけどね。

 なんかこの人、私の事、手のかかる娘扱いしている節があるんだよな~。雑用の合間に頻繁に呼び出されては、やった事も無いチェスの相手をさせられた。

 もちろん全然勝てなかったけどね、大佐が明らかに手を抜いた時を除いて。

 勝った時はすごく嬉しくて気がつかないんだが、後で手を抜かれたと気がついてがっかりする事が何度もあった。

 たぶんその様子も楽しんでたんだろうな~。

 なんか最近、精神年齢が肉体に引っ張られてる気がする。……あれ? 肉体年齢の方が遥かに高いからこの場合は違うのかな?

 

 他の海兵の人達も子供扱いしてたり、最初の自己紹介の時のミスのせいで「うにゅほ」とか呼んできてたし。

 見た目は子供だから仕方ないけど、船の中では始終、娘や妹扱いだった。

 ここ本当に軍隊か?

 

 

 

 マリンフォードの港に船を停泊させると、私はリオレッジ大佐に連れられ本部基地に向かい、海兵になろうと決めて約一ヶ月、ようやく正式な海兵となった。

 これからは、本部で三等兵(新兵)として毎日、過酷な訓練が始まる。

 本来は雑用から始まるのだが、三千万近くの賞金首を倒せる戦力を遊ばせる余裕は今の海軍には無い。元々、慢性的な人手不足であり、更にロジャーの処刑以来、海賊が急激に増えた上、先日のシキの襲来でマリンフォードは半壊し、海軍の威厳も脅かされた。

 使える戦力は直ぐにでも使いたいのが現状だ。

 三千万近くの賞金首を倒せるのならば、もっと高い階級を与えられても可笑しくはないが、任官直後はどんな理由であろうとも三等兵より上は無理なそうだ。

 しかし、これから行われる訓練の成果次第で、どこかの隊に配属する際に一気に階級が上がる事もあるとの事だ。

 実際、能力が高い者は配属時、既に将校(少尉以上の階級)の地位にいる者は珍しくないらしい。

 一部の場合を除いて戦闘能力=階級という、この世界の海軍、特有のシステム故、成り立つ事である。

 

 

 ここまで連れてきてくださった、リオレッジ大佐達とはこれでお別れだ。

 もしかしたら、大佐達の隊に配属される事もあるかもしれないが、そうでなければあまり合う機会も無いだろう。

 

「リオレッジ大佐」

「ふむ?」

 

 娘扱いだったりしたが、お世話になった。それに本当に短い間だったが、なんだかんだいって私はこの人を気に入っていた。

 だから精一杯の感謝をこめて、今度こそ笑われないよう海軍のキャップを深く被り

 

「これまでお世話になりました! そしてこれからも、よろしくお願いいたします!」

 

 自分ができる限りに、奇麗に敬礼した。モデルは船にいた皆だ。

 

「ふむ。君がこれからの訓練の後、何所に配属されるかはわからんが、私達は同じく海軍(ここ)でお互いに信じる正義を行う。なれば場所が違えど共に戦う事に変わりは無い」

 

 リオレッジ大佐は前と違った笑みを顔に浮かべ、次ぎ合う時を楽しみにしているよ。そう言って去って行った。

 

 

 また、笑われてしまった。今度のは良い笑顔だったけどね。

 というか、マスターといい、大佐といい。私の周りにいる中年の男性は異常にかっこいいな~。

 あのかっこよさは見習いたかったな~。

 

 

 

 

 

 

 男だった時に……。

 




メインの内容を次回にしてしまったため、今回はずいぶん内容の無い話になってしまいました。
感想で次回わかるかもといった内容は全て次話になります。

おもわぬ分割だったので今回のは閑話のようなものと思ってください。

ちょいリアルで問題が発生し、忙しくなってきてしまい、更新の速度が落ちそうです。
暇な時になるべく書いていこうとは思ってますが、年末年始はかけないかも。
この話、ようやくこれからなのに……。

不定期更新が本領発揮すると思いますのが、どうかご了承ください。


それはそうとお気に入り100件超えたのが地味に嬉しかったですw
こんな駄文をお気に入りに登録してくれるとは、皆様に感謝!


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7話ー変化

取り合えず、前の話を変に分断してしまったので、早めに上げました。ほとんど話はできていたので。

次の更新は流石に遅れると思います。

前に廚二病注意しましたが、ありゃ嘘だ。だって今回ひどいくらい廚二病なんだもん。
今回に比べればアレも可愛いよ。
というわけで、廚二病注意です!

誤字修正しました。空さん毎度ありがとうございます!



「腕立て二千回、始め!」

 

 塀で囲まれ、松の木がそこかしこに生えている、日本を彷彿させる庭は、走り込みのためトラックが描かれ隅には鉄棒等の訓練器具も設置され、海兵達の訓練場になっている。

 訓練場には何百人もの兵士が、上官の監視のもと厳しい訓練を行っている。

 

「1110、1111、1112……」

「遅い! もっと速くやらんか!」

 

 地面にふせ、両の掌でなく、他の指を握り込み親指と曲げた人差し指だけで、腕を何度も屈伸させる。周りからは苦痛を訴えるうめき声が漏れる。

 上官に怒鳴られ、更に屈伸させる速度を上げると、それに比例して周りから聞こえてくる、屈伸を数える声も辛そうになる。

 

「1998、1999、2000!」

「よし! 次は走り込み二百週! 一時間でできない者はペナルティで百週追加!」

 

 腕立てを終えると、直ぐさま次の訓練になる。大汗をかいて、疲れ果てた兵士達だが、皆、体に鞭打ちトラックに向かって行く。

 兵士達は走る前から息が荒れ、走り出せば吐いた息と共に呻き声を漏らしながらも、庭の真ん中に描かれた巨大なトラックを懸命に走る。

 ただでさえ過酷な訓練の上に更に、追加のペナルティなんて貰ってはたまらないと必死である。

 

 私もそんな兵士達と一緒に走っている。

 しかし、私と周りの兵士達とには見た目でかなりの違いがある。もちろん女である事や羽が生えてる事ではない。

 大汗をかいて必死に呼吸を繰り返している周りと違い、私は汗一つかかず呼吸も全く乱れていない。

 本部で訓練を始めて半月近く。こうやって周りの兵士達と一緒に毎日、訓練しているが……全く訓練をしている気にならない。

 

 なぜなら、訓練中に一度も疲れた事が無いからだ。

 海賊と戦った時も疲れは感じなかったが、肉体面は既に人間の限界を大きく超えているみたいだ。

 いや、全力でどれだけ動いても体に疲れを感じないのは生物としておかしい。もしかしたら、普段から無意識に核融合する事によってエネルギーを供給されているのかもしれない。体に主を置かない妖怪だからこそできることだが、真相はわからない。

 どのみちわかっているのは、私が疲れないという事実だけだ。

 

 そんなわけで、どれだけ肉体面の訓練をしようと成果を感じられないのだ。

 意味の無い事を延々とやらされている感じで、逆に精神的に疲れてくる。周りが息も絶え絶えなのに、自分だけ疲れてないというのも精神的に来るものがある。

 

 ほら、そんな事を考えている内に、また先頭を走っている。更に何週か走っていれば、最後尾を追い抜かし周回遅れにしてしまう。

 追い抜かした兵士の顔を見れば、非常に悔しそうな顔をしている。見た目、少女の私に余裕で追い抜かされるのはかなり悔しいのはあたりまえだ。

 そう言う顔をされるのは、キツイな~。

 私の力はこの人達みたいに、努力して手に入れた物ではない。なにかズルをしているみたいで非常に心苦しい。

 これでも私は一定の速度で走っている。周りに合わせて走ればこういった事も無いが、これ以上遅く走るのはそれ以上にキツイ。

 そうして、私はまた一人と追い抜いていった。

 

 

 

 

「試合稽古始め! 気絶するまでやめるなー!」

 

 走り込みに続いて綱渡り百往復など、その他諸々の訓練が終われば、最後に道場に集まり、各々、手に竹刀を持って戦い合う。

 

「ウリャー!」

「ゼァー!」

 

 上官が開始の合図を告げれば、バシン、バシンと竹刀が打ち合う音と、兵士達の雄叫びがそこら中から聞こえ始める。

 私も右手に竹刀を持ち、半身で相手を見る。右手はブラリと下げ、構えはしない。

 普段、制御棒を付けているのと同じ様にして、訓練でもなるべく実戦を想定するようにしている。

 竹刀で特訓するように、海軍では剣も支給されるが、剣を使うより制御棒を使った方が戦いやすい。というか剣なんて全然使えないので、制御棒のリーチが伸びたかの様に腕全体で振るう様にしている。

 因みに私は今、竹刀を持っている様に、もちろん制御棒を付けていない。訓練する時の格好は、背に穴をあけて羽を出せるようにした海軍の制服に、靴以外の飾りを外してマントだけを羽織り、海軍のキャップを頭に被っている。

 一等兵以下はキャップと制服の着用が義務付けられ、伍長になれば私服が認められる。私は三等兵であるため、マントは外せと言われると思ったが、特に何も言われなかった。

 羽が隠せない事を告げた事と関係してるのかも知れない。どちらにしろマントを外せと言われなくてよかった。制御棒が入っているため、緊急時にいちいち部屋に取りに行くとか困る。

 

「うぉぉぉ!」

 

 私が動かないでいると、相手の兵士が竹刀を振り上げ襲いかかってくるが

 

 

 

 

「ぐはぁっ!」

 

 

 

 頭を下げて姿勢を低くし、相手が近づいてくる前にこちらから飛び込み、腕を上げて無防備な腹を一線する。

 ちょっと力を入れすぎたようで、相手の兵士がくの字に折れ軽く吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ兵士は数メートル転がると、気絶したのかそのまま動かない。

 

 その兵士を道場の端へ持って行き戻ってくれば、他の勝ち残った兵士が私を待っている。

 先ほどと同じ様にして向かいあえば、直ぐさま同じ様に突っ込んでくる。

 そして、同じ様にぶっ飛ばせば、また次の相手と向かい合い、ぶっ飛ばす。

 数度も繰り返せば道場に立っているのは私だけになる。

 これがここ数日の訓練の終わりに見る光景だ。

 

 はぁ~。

 試合稽古でもこれだ。ただの作業。訓練になんてなりもしない。

 身体能力の差がありすぎるうえ、命の危険も無いので度胸も着かない。実戦を勝ち抜き、懸賞金も三千万近いバーダインとの戦いと比べても仕方ないが、実戦もした事の無い、訓練兵との戦いなんて意味の無い事この上ない。

 止まってる的をはたいているような物だ。

 今はまだ基礎訓練期間なのか、戦い方や海の知識には全く触れられていない。夜に自主訓練をしようと思ったが、結局、肉体面の訓練は意味が無いし、戦い方の訓練は一人では不可能。能力の訓練も大げさな事は基地内ではできないから、原作にあった接近戦でも使えそうな技をいくつか練習する以外は島にいた頃と変わらない。しかたなく夜は本を読んで、海の事をわずかに知る事ぐらいになってしまっている。

 

 もしや三等兵では基礎訓しかしないとかないよね? 実戦で勝手に学ぶとか。

 いくらこちらの常識が通用しない世界と行っても、流石にそれは無いはずだよね。

 

 ふと道場を見渡せば、私に打ち倒された兵士達が呻き声を上げてうずくまっている。

 本当にこんなんで私、強くなれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 深夜。昼は数多くの訓練兵で埋め尽くされている訓練場には誰一人おらず、夜空に浮かんだ月の光で美しく飾られている。

 私はその美しい風景にしばし見入った後、地面に描かれたトラックの真ん中に立ち、訓練中には外していた、右手の制御棒に意識を傾ける。

 イメージするのは原作のウツホの姿とこれから使おうとしている力。

 私は左手を目の前に上げ、人差し指を立て、その先に頭の大きさほどの光弾を生み出す。生み出された光弾は白く眩しいほどに輝き、月明かりしか無かった訓練場と私を照らす。

 左手を前に突き出し、力を込めれば、光弾から、前方方向に指向性を持った小さな光の槍が幾つも弾け飛ぶ。

 その中の幾つかは空に消えて行き、幾つかは地面に着弾する。着弾した光の槍は地面をその異常な高温で焼く。

 それを確認した後、もう一度、制御棒に力を込める。今度は先ほどと違い、かなり強く力を集め、イメージを固める。

 すると、シュゴォォオ、とまるでバーナーを噴かしているように制御棒から二メートル近いブレード状の熱線が、激しい音と光と共に溢れ出す。

 それを昼間、竹刀でやったのと同じ様に右手全体を使って振り回すと、振り回した後にできる光の残像と、吹き出ている熱線から溢れた赤い火の粉が飛び散ってとても綺麗だった。

 

 何度か振り回した後、制御棒から火を消しておしまい。

 これが、ここ毎晩、繰り返している能力の特訓。やはりこれも達成感は無い。

 元々、イメージさえできれば使えていた能力だしね。

 できる事と言えば威力の調整ぐらいだが、こちらはいくらやってもうまくできない。光弾くらいならば威力の調整は多少できたが、原作でウツホが使っていた技等は私自身が威力の高いイメージしかできないせいか、弱くするというのが難しい。

 強くするのはイメージしやすいので簡単なんだけどね。

 

 ただ、ここに着てから一つだけ変わった事がある。

 バーダインと戦う時にはわからなかったが、能力を使う際に私を取り巻く、何かの動きが感じられる様になった。

 それは世界中の何所にでもある。地面も、大気も、この海軍の基地も、私自身もそれでできている。

 つまりそれとは――原子。

 ウツホが使う能力「核融合を操る程度の能力」の大本でもある。

 能力を使おうとすると、それが私の中でクルクルと回るのがわかる。私はそれの形を変え、分解し、融合し、ありとあらゆる物にしている。

 

 何故、急にそれが感じられる様になったかはわからない。

 ここに着て、始めて能力の訓練をした時には既に感じられる様になっていたので、能力の練習をしたからという訳ではない。

 

 バーダインとの戦いで、死にそうな目にあったからとか? それなんてサ○ヤ人?

 でもそれぐらいしか思いつかない。他に、何かあったけ?

 

 

 

 たしか……忘れちゃいけない事があった気がする。

 

 

 

 ……考えても特に思いつかないし、そろそろ夜も深けて来たので寮に戻る事にしよう。

 能力で焦げてしまった地面を、電子が絡み付いている様な輪っかが着いた左の分解の足で踏む。

 足を上げれば焦げた地面は分解されて元に戻っている。

 原子の動きがわかってから、自然とこういった事もできるとわかった。詳しい事はわからないが、できるという事がふと頭に浮かんだのだ。

 焦がした所を全部、元に戻すと、私は月明かりに照らされた訓練場を後にする。

 

 

 

 ……どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 

「試合稽古始め!」

 

 次の日もこれまでと特に何も変わらずに進み、いつもどおりに最後の特訓となる。

 さて、今日も後はぶっ飛ばすだけか~。

 本日もいつもと同じ。そう考えていたが

 

「ウツホ三等兵! お前の相手は私がしてやる。こっちに来い!」

「へ? はっ、はい!」

 

 いつも通りだと思って準備していた私に、上官がそんな事を言い出した。

 どうやら、今日はいつもとは違うようだ。

 意味を見いだせない訓練から抜け出せるかもしれない。私の心はそんな期待に満ちていた。

 

 

 

 上官――確か、階級は大尉だったっけ? あれ、中尉だったかも? コートを付けているので将校なのは間違いないんだけど……そう言えば名前知らないな――と竹刀を持って向かい合う。

 私はいつも通りに半身になり、竹刀を右手の直線上になる様にする。上官も竹刀を持っているだけで、同じ様に構えはしない。

 私のは構えが無いだけだが、上官が構えないのは余裕からだろう。

 

 お互い竹刀を持ったまま動かない。

 基本的に特訓中は待ちの体勢で、相手が掛かって来るまで動かなかったんだけど、この場合は私から動いた方が良いのかな?

 

「どうした、掛かってこないのか? ならば、こちらから行くぞ!」

 

 どうしようか迷っていたら、上官から動いてくれた。

 上官は元々そこまで離れていなかった距離を直ぐさまに詰め、竹刀を振るう。

 速い! 

 私は急な動きに着いていけず、避けれないので一歩だけ下がり竹刀で受け止めるが、竹刀を腕に直線上に構えているせいで、受け止めきれずに弾かれる。

 制御棒ならこうはならないのに!

 

「はぁ!」

「くぅっ!」

 

 勢いよく竹刀を弾かれ、体勢を崩した私。

 もちろん上官がその隙をつかない訳は無く、振り抜いた竹刀を再度、振るってくる。

 私は崩れた体制を慌てて戻し、今度は弾かれない様に力を入れてそれを受け止めと、バシンッ、と竹刀同士が打ち合う音が響く。

 一瞬の鍔迫り合いの内に、私は更に力を込め今度は逆に上官を弾き飛ばす。

 弾かれ軽く空中に浮いた上官は問題なく足から着地する。

 

 ここ最近感じられなかった身の危険に、冷や汗をかきそうになる。

 速いかと思ったけど、そうじゃない。

 崩れた体制を直しちゃんと受け止め、なおかつ弾き飛ばすほどの余裕もあった。

 私が訓練兵達の速度に馴れてしまってたから、急な速度の変化に着いて行けなかっただけ。集中してみれば、対処できる。

 

 バシン。

 バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!

 

 何とか受け止めれるだけで、避ける事は難しいけどね。

 

 

 

 

 

 一方的な展開が続く。

 私は受け止めるのに精一杯で、反撃に出れない。

 何度か竹刀を避け、攻撃を入れようとするが、避けさせたこと自体がフェイントだったらしく、避けた所に蹴りや拳が飛んでくる。

 それを避けるために距離を取ると、上官に再度、竹刀を振るう余裕を与えてしまう。

 バーダインの時もそうだったけど、技術を着けないと私の速度に対処でき、私が追いつける速度の相手との接近戦は千日手になりそう。

 その場合は体力面に置いて、長期戦は私の方が有利なのだけど、命がかかっていると精神的に私が先に参ってしまう。

 それに長く接近戦が続くと相手が私の動きに慣れて、攻撃を避けるのが難しくなってくる。

 

 今もそうだ。

 上官は余裕いっぱいで私を攻撃してくる。私の動きに既に馴れたからだ。

 こちらはもう避ける余裕は無いうえ、受け止めるのも大変になってきている。反撃などもうできない。

 

 そんな状況がいくらか続くと、今度は私が上官に弾き飛ばされる。

 私もちゃんと足から着地し、上官の追撃に備えるが、上官はその場に立ち止まりこちらを攻撃する気配がない。

 

「これ以上は竹刀では無駄だな」

 

 上官は竹刀を投げ捨て、壁に立て掛けていた、普段上官が持っている槍を構える。

 えぇ!? 光り物、持ち出すの!?

 

「お前もさっさとそんな物捨てて、自分の武器を構えろ。竹刀の構え方からもして、夜中に訓練場で右手に付けているのがお前の武器なのだろ?」

「えっ、夜に訓練してた事、知っていらしたのですか?」

「当然だ。教官が教え子の事を知らん分けないだろ?」

 

 だから、何で私の周りにいる男性は、こうもナチュラルにかっこいいんだか。

 上官は二十代ぐらいの方で、おじさんという歳ではないけどね。

 

「それからな、先ほどから能力を全く使っていないようだが、今からは使え。でないと無意味だからな」

「私の能力は室内で使うのは……」

「知るか。そういった状況も含めての訓練だろうが、なんとかしろ」

 

 まぁ、使えと言ったんだから、燃えても上官の監督不届きだよね? 

 竹刀で押されてたのに、武器を構えた上官に能力使わないのは無理だし。

 そういえば、訓練中は背中の羽すら使わない様にしていたけど、上官と戦う時ぐらい動かせば、もう少し楽に動けたかも……忘れてた。

 私も竹刀を捨てて、マントに右手を突っ込み制御棒を装着する。

 私の中を蠢く原子をクルクルと回し、加速させ、体中に熱を行き渡らせると、ボォウ、と一瞬だけ私を包む様に炎が走る。

 普段やらないほど、クルクルとドンドン加速させて行く。

 槍を構えている上官と向かい合い、一度、体の熱を外に溢れ出させるかの様に深く呼吸をし

 

「来い!」

 

 羽を力一杯、羽ばたかせ上官に向かって突っ込む。

 

 先ほどより何倍も速い私にも上官は対応し、槍を突き出してくる。

 あの~、上官? 刃がこっち向いているんですけど? もしや殺す気満々じゃないですか?

 加速した視界を生かし、槍を寸での所で避け、羽を動かし滑る様に上官の後ろに回り込む。

 そのまま、制御棒を叩き付けるが、上官はクルンと槍を手の中で回し、石突でそれを捌く。

 

「ぬぉ!」

 

 が、私はそれを押し切って上官を吹き飛ばす。そのまま、吹き飛んだ上官に向かって、ここ毎日、練習している様に光弾を弾けさせる。

 上官はそれをいくつか空中で器用に体を反らして避け、残りを槍で防ぐ。

 威力を下げていたため、避けた光弾は道場の壁を焦がす程度で、槍で防いだ光弾は掻き消えてしまう。

 

 上官は何とか足から着地しようとするが、既に追いついていた私はその前に空中でサマーソルトの様に像の足である右足で蹴り着ける。

 

「ぐはっ!」

 

 今度は、上官はうまく防げずに綺麗に入る。

 しかし、ただで蹴られるだけではすまさず、蹴り付けられながら私に槍を突きつけて来たので、私は一度と距離を取る。

 着地に失敗し、軽く転がった後、蹴られた部分を庇いながらも、上官は直ぐに立ち上がった。

 私はそのまま、上官が槍を構える前にまた突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 一方的な展開が続く。

 今度は逆に、私が一方的に攻撃を続け、上官がそれをかろうじて受け止めている。いや、何度かは直撃しているので、私の時よりもキツイ状況だ。

 能力によって道場はあちこちと焦げていて。上官も軽い火傷を負っている。

 もはや訓練ではなくなっていた。途中で止める声が聞こえたが、私は止まらなかった。

 

 

 クルクルと回す

 

 

 上官の動きが全然遅い。

 ほら、そんなのじゃあ当たらない。

 上官が横薙ぎした槍を飛び上がり避け、空中で羽を使って一気に上官の目の前に移動し、殴りつける。

 横薙ぎした槍を戻し、盾にして塞がれたが、私は制御棒を押し付けながら、力を込めると、制御棒の先端が爆発する。

 ドンッ、と音を立てて上官が吹き飛ぶ。

 

 

 クルクルと回す

 

 

 なんだろう体の調子がいい。何所までも力がわき上がるみたい。

 鼻を刺激する血の独特な臭いと生き物が焦げた香ばしい臭い。それに、肉を撃った生々しい感触。

 この感覚はバーダインと戦った時にもあった。

 そうあの時も

 

 

 すごく……

 

 

 

 

 すごく……

 

 

 

 

 

 

 ……楽しかった。

 

「あはっ」

 

 つい、笑みが漏れる。

 

 狂々(クルクル)と回る

 

 楽しいと自覚したら、たまらなくなった。

 楽しくてしょうがない。沸き上がる気持ちが押さえきれない。

 

「あははははははははははは!」

 

 楽しい! もっと、もっと! 楽しみたい!

 その衝動を解消するために、吹き飛ばした上官に真っ直ぐ向かう。

 

 その速度はこれまでで一番速かっただろう。

 それなのに全然、追いついてなくても槍を私に向かって突き出した上官は流石ともいえる。

 衝動に突き動かされた私にそれを避ける事はできない。私はただ真っ直ぐに上官(獲物)に向かうだけだ。

 

 

 でも、避ける必要も無い。

 

 

 私の鎖骨辺りに突き刺さった槍は、バキンッ、と音を立てて折れる。

 

 

 ――地獄の鳥は鉄の体と燃え盛る嘴を持ち、地獄の中の一切の罪人の身・皮・脂肉・骨髄を皆喰らい、亡者に大苦悩を与えると言う。

 

 

 この身の硬度は即ち鉄。

 そんな槍、避ける必要もないよ!

 

 私は右手の燃え盛る嘴を叩き込もうと振り上げ

 

 

 

「やめんか! 馬鹿もん!」

 

 

 頭を横からすごい衝撃で打ち抜かれ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………きゅぅ~。

 




やっちゃった感がハンパ無いけど、きっと大丈夫。
この作品を読んでくれてる人は、覚悟ができている人のはずだからw

前の話と繋がってたので実質これが6話でやりたかったことです。

やりたかったことは
能力関係の変化
精神の変化
暴走
ウツホの体が硬いわけ

と以上です。

地獄の鳥の文は、実際に地獄にいるといわれている鳥の文らしいです。
体が鉄でできていると知って、ワンピースお決まりの「硬度は鉄」をやりたかっただけですねw
因みにこれを知ったのは、書き始めてからなので偶然ですw
当初の予定ではウツホの体は人と同じだったんですけどね。


東方知らない人への設定

地底:昔は地獄だった場所。地獄のスリム化で切り離され
   今は忌み嫌われた能力を持つ妖怪が集まって暮らしている。
   
妖怪:人間を襲い食うもの。
   身体能力が高いが存在の比重が精神に置かれている
   
ウツホの足:右足は「融合の足」像の足
      ・左足は「分解の足」。電子が絡みついている。
      ・右腕は「第三の足」。多角柱の制御棒。



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8話ー進退

「もう、分割しないって言ったじゃないですか!?」
「グハハ、そんなことを信じたのかね? 愚か者め!」

というわけでごめんなさい。また分割しちゃいました。
無駄に長い。もっとスマートな文が書けるようになりたい。

誤字修正しました。空さん本当にありがとうございます。
空さんがいないとこの作品は誤字で埋まるw



「指銃「棍」!」

 

 右手の制御棒を的の大岩に向かって、貫く様に叩き付けると、派手な音を立てて岩が砕ける。

 指銃――六式と呼ばれる体技の一つで、極限まで鍛えた肉体によって素手で相手の体を打ち抜く技である。六式は技のバリエーションが豊富で、指銃も一点集中をするという点は変わらないが、今、私がした様に指以外から繰り出す事もできる。

 

 

 ガンッ!

 

「いったーい!」

「バカもん! それのどこが指銃じゃ!」

 

 頭に拳骨が振り落とされる。とんでもない衝撃で頭が揺さぶられ、痛みで涙が出てくる。

 私を殴ったのは、二メートルを超える巨漢の年配の男性――海軍の英雄といわれている、ガープ中将だ。

 

「今のはただ力任せに砕いただけじゃろうが、何度やればわかるんじゃ!」

 

 上官との訓練の後、私が目を覚ますと、何故かガープ中将が私の訓練を見てくれる事となっていた。

 中将は基礎訓練は意味が無いとわかり、訓練開始から今まで私に体技を中心に叩き込んだ。

 教えられたのは海軍に伝えられている体技、六式。

 六式――それは、鉄塊、紙絵、剃、月歩、嵐脚、指銃の六種の体技。六種全てを極めた者は六式使いと呼ばれ、超人的な強さを得る事ができる。海軍の中にも何種か体得している者はいるが、六種全てを体得するのは並大抵の苦労ではすまない。

 

 それで、私はずっと六式の訓練をこなしているのだが

 

 

「剃!」

 一瞬で数メートルの距離を駆け抜ける。

 

 ガンッ!

 殴られる。

「速く走っただけじゃろうが!」

 

 

「月歩!」

 大気を蹴って空中を自在に移動する。

 

 ガンッ!

 殴られる。

「羽で飛ぶな!」

 

 

「紙絵!」

 ヒラヒラと体を動かし、体を攻撃を避ける事を意識する。

 

 ガンッ!

 殴られ、る。

「マントだけはためかせて何やっとんじゃ!」

 

 

「嵐脚!」

 勢いよく蹴りを放ち、鎌風を引き起こす。

 

 ガンッ!

 殴られ……る。

「単に蹴りだけ放ってどうする!」

 

 と習得率が異常に悪い。

 確かに六式を体得するのは非常に難しいけど、それでも何かしらの手応えという物はあるらしいのに、私にはそれが全くない。

 何度も訓練をして思った事なんだけど、私は成長がとてつもなく遅いんじゃないかという事。

 この体になってから、私はあらゆる面で能力が向上したけど、技術を会得する事に関してだけは前の方が上だった気がする。体技だけではなく、他の事に関しても全然身に付かないので、流石に可笑しいと感じた。

 私は今は妖怪だ。もしかしたら、成長という面では人間より非常に遅いのかもしれない。それか、ウツホになったことで、この体がウツホとして完成しているから他の事が身に付かないのかも。

 

 そのせいで、ガープ中将に鍛えられてからも、度胸はかなり着いたけど技術面ではあんまり変わってない。

 それでも、この体を動かすのには馴れたし、ある程度の戦いの勘という物は着いた。

 中将相手ではすぐぶっ飛ばされるけど。

 

 取りあえず、さっきから殴られすぎて意識がなくなりそう。

 目からも痛みのせいで、少し涙がこぼれてしまっている。

 

「鉄塊!」

「……お主、何もしとらんじゃろ?」

 

 事実なので私は目を反らす。元々、体が鉄の硬さなので鉄塊って他の六式に比べてもよくわからない。

 結果的に鉄塊をしているのと同じだと思われるが、中将が言うには、体技でやるのと能力の特性でやっているのは全然違うとの事らしい。

 

「アホかぁ!!」

 

 バギンッ、と下からアッパー気味にぶっ飛ばされ、私は今度こそ意識を失った。

 

 

 

 

ガープSIDE

 

「全く、こやつは……」

「きゅぅ~」

 

 大の字に仰向けに倒れ、目を回して気絶している姿を見ていると呆れてくるわ。

 こやつを鍛えてからしばらく立つが、全くと言っていいほど成長しておらん。ここまで鍛えがいの無い奴は始めてじゃわい。

 何所でどうやって鍛えたのか、基礎体力は他に並ぶ物が居ないほど高い癖に、技術面に関してはずぶの素人並に酷い。どうやったら、こんな変に育つんじゃ? 森に一人で籠って、延々と基礎訓練をしていたとしても、自分の体の動かし方すら碌に分からないなぞ、矛盾し過ぎじゃ。

 初めて見た時は、育てがいのありそうな奴じゃと思ったんじゃがな~。

 

 

 

 

 

 その日、ワシは、金獅子のシキの襲撃の後始末やら、急増した海賊への対処やらで忙しく、ちょいと息抜きに煎餅でも齧りながら本部の庭園を見に行こうと思っとった。

 じゃが道場の前を通った時に聞こえてきよったのは、いつも聞こえとる新兵達の荒々しい声じゃのうて、すがるような悲鳴と爆裂音じゃった。

 監視役の兵士が新兵いびりでもしとるのかと思っとったら、所々焦げて軽い火傷を負った数人の兵士が逃げる様に道場から出てきよったので、これはただ事ではなさそうじゃと、ワシは道場に足を向けた。

 道場の入り口まで来ると、中からまるで竃の中にいるかの様な熱気が押し寄せてきよった。

 なんじゃ、いったい?

 

「やめろ、ウツホ!」

「駄目だ、聞こえてねぇ!」

「おい、どうすんだ!? 止めねーと!」

「俺達で止まるかよ! 大尉ですら止められねーんだぞ!」

 

 入り口では、後ろに居るワシに気がついていない、逃げ出した新兵達が騒いでおる。

 その視線の先を見ると、道場の中で激しく争い合ってる二人の姿が見えよった。

 片方は新兵達の監視役の兵士、もう片方は服装から新兵じゃろう。動物系の能力者なのか背に生えた羽を動かし空中を舞い、右手に付けた棒のような物で監視役の兵士に殴り掛かっておった。

 これだけを見れば目をつけた新兵に監視役の兵士が直々に訓練をしてやっとる様に見えるじゃろう。

 その監視役の兵士が、火傷を負ってぼろぼろになっていなければのう。

 道場のいたるところにも焦げ目が着いており、熱気で今にも火の手が出そうになっておる。原因は間違いなく目の前で戦っておる二人じゃろう。

 そのうち片方は火傷を負っておる。自分の能力で火傷する奴もおらんだろうしの、となると、原因はもう片方の新兵の方じゃな。

 しかし、見た所、動物系の能力者のようじゃが

 

 そう考えた瞬間じゃった。急な熱風が襲ってきたのは。

 その発生源に目をやると、戦っておった新兵が道場の天井を焦がそうとしておるかの様に、炎をその体から吐き出しておった。

 ワシはその光景を見てある人物を思い出した。

 白ひげ海賊団の若造――不死鳥マルコ。動物系幻獣種の悪魔の実の能力者で、その姿を不死鳥に変形でき、体から再生の青い炎を吹き出す。

 自然系より数が少ないと言われておる、希少種の能力者じゃ。

 最近、本部に幻獣種の能力者が入隊しよったと聞いとったが、もしや、あやつがそうかの?

 

 ワシが考えている間に、炎を吹き出していた新兵がもうぼろぼろになっておる監視役の兵士に向かって襲いかかった。

 かなりの速度じゃ。とても新兵が出せる速度ではない。身体能力だけ見れば一流じゃ。

 

 っ! いかん!

 ワシは攻撃を仕掛けた新兵の目を見て、急いでその場から動いた。

 あの目は獲物を狙う目じゃった。止めんかったら殺しておったな。

 ワシが辿り着く前に、新兵は監視役の兵士が繰り出した槍を、まるで無意味だと言わんばかりに、真っ正面からその体で受け止め、なおかつ叩き折りよった。

 入りたての新兵が鉄塊を知ってるとは考えづらいので、能力のおかげじゃろう。

 何の能力か知らんが生半可じゃ通用せんの。

 

「やめんか! バカもん!」

 

 ワシは殴り掛かろうとしていた拳に力を更に加えて、今まさに監視役の兵士に攻撃を加えようとしていた新兵のその無防備な側頭部を横合いから強打した。

 

 

 

 

 

 

「きゅぅ~」

 

 殴り飛ばした新兵は、か細く可愛らしい悲鳴を上げ、床で目を回しておる。

 女兵士じゃったのか。マントと帽子で分からんかった。

 海軍にも女兵士は数は少ないが確かにおる。ワシと同じ中将にも一人、つるという海軍きっての大参謀がおるしの。しかし、珍しい事には変わりがない。海軍の九割以上は男じゃし。

 

「ガープ中将!?」

「ん? おう無事じゃったか?」

 

 ボロボロな体ながらも、しっかりと意識を保っておった。

 監視役の兵士はふらつきながら、立ち上がり敬礼しようとしとったのを手で制し、楽にさせる。

 

「何故こちらに?」

「ちょいと息抜きしようとしたらの、何やら騒がしいので来てみただけじゃ」

「また抜け出したんですか? センゴク元帥に怒られますよ?」

「息抜きじゃ、息抜き……それより、何があったか話せ」

 

 

 

 監視役の兵士が言うには、自分から戦闘を好む性格というわけでもなく、言われた事も文句一つ言わずにやる真面目な奴じゃったらしい。ただ、その卓越した身体能力のせいで、意味の無い訓練の日々にどこか不安を感じている様に見えたそうじゃ。夜中に自主特訓をしているのを見かねて、自分から特訓相手になったら訓練中にいきなり暴走したと。

 

 こやつがのぉ~。

 未だ床で目を回している姿からは、あの時見た凶悪な目は想像できん。

 今までの訓練中に人に攻撃をしても暴走しておらん事から、強者との戦闘になると性格が変わるのかもしれんの。

 戦闘能力が高いが、戦闘技術もそれを扱いきる精神も無い。

 やっかいじゃな。

 一般の兵士と一緒に訓練させておくのは無理じゃとわかったが、あの動きや能力からそこらの奴に任せとく訳にもいかん。

 ワシが思いついたのは一つだけじゃった。

 何かと忙しいが仕方あるまい。それに、こやつが育ったらどうなるか考えると結構面白そうじゃ。

 

「こやつはワシが預かろう」

 

 

 

 

 

 そういった訳で今まで育ててきたんじゃがな~。

 ワシの予想と違い、まったく技術を身につけんし、精神にいたっては会った時より酷くなっとる様にみえるのぉ。

 

「……温泉卵……おりぃ~ん、もう一個とって……」

「はぁ~」

 

 ワシは一度ため息を深く吐くと、先ほどまで気絶しておったのに、いつの間にか幸せそうに涎を垂らしながら眠っとる馬鹿弟子を起こすために、拳を高く振り上げた。

 

 

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

 透き通るような青空に、強過ぎも弱過ぎもしない日差し。まるで春風のようにあたたかな風が帆船のマストを押すのを見ながら、私は船の入り口の屋根に当たる所で横になり、羽をめいいっぱい広げ気持ちよく日光浴をする。

 下の甲板では、船の雑用係が掃除をしているのか、モップで甲板を磨く音が定期的に聞こえてきて眠気を誘う。

 さて、このまま寝ようかと思ったら

 

「大尉~、ウツホ大尉!」

 

 あ~、もう!

 せっかくいい気持ちだったのに、部下の誰かから呼ばれる。

 ガープ中将に訓練をつけてもらってから一年。いきなり「実戦して来い」と言われほっぽり出された。

 ほっぽり出された当初は、訓練のできからも少尉の階級をもらったんだけど、一年も海賊を捕まえていたら大尉になった。

 一年以内に二階級も上がるのは普通は無理だけど、私がこの一年間で捕まえた海賊団は五十を超える。

 捕まえた海賊の総計賞金額はすごい事になっている。

 これだけ捕まえれば、階級も上がる。それに今は海賊が急増した対処のため、海軍の方針として力のある者は階級が上がりやすくなっている。

 将校になった私は私服が認められる階級になったので、海軍の制服からウツホの服に戻っている。少尉になった時に将校に与えられるコートは一応もらったが、私はそれを着ないでいつものマントの背中に「正義」と文字を入れたのを着ている。

 実は結構かっこいいと思って気に入ってる。

 

 私はしぶしぶ体を起こすと、屋根の上からひらりと甲板に飛び降りる。

 

「あぁ!? そこにいらしたんですね、大尉!」

「なによ~、いったい?」

 

 眠りかけた所を邪魔されたので、ちょっと不機嫌になりながら兵士に聞く。

 

「はっ! 三時の方向に海賊船を発見しました!」

「え~、また~?」

 

 うんざりして羽が自然と下がる。

 数日前も発見して、捕まえたばっかなのに。大航海時代とはよく言った物で、海賊がそこら中にゴロゴロしてる。

 まったく、ゴキカブリじゃあないんだから。

 一匹見つけると三十匹は出てきそうで嫌。

 

「発見した海賊は、帆の髑髏マークから……」

「そういうのは別に良いわ。海の上じゃあ関係ないもの。賞金首なのは間違いないのよね?」

「は、はっ!」

「じゃあいつも通り停船命令だして」

 

 まぁ、止まった事無いけど。

 部下の兵士は敬礼すると、自分も慌ただしく動きながら、他の兵士達に船を海賊船に向けるよう指示を出した。

 あれ? あの兵士もしかして副官だったのかな? 皆同じ格好してるから、兵士の区別がつかないよ。

 

 

 拡声電伝虫――カタツムリの様な姿をした生物で、電波で仲間と更新する能力がある。人間が受話器やボタン等を取り付けて、特定の電伝虫と更新する事ができる様になり、多様な種が居て、この世界の電話やカメラ等の映像、音声関連の様々な機械の変わりになっている――が聞こえる範囲まで近づく。といっても、大砲が届くか届かないかという距離だけどね。

 

『そこの海賊! 武装を解除して停船しろ!』

 

 拡声電伝虫で部下の兵士が海賊船に向かって停船命令を出す。

 さてと、今回はどうかしら?

 

 

 

 

 

「あっ、今回も駄目ね」

 

 炸裂音の後、重い物が落ちてくる音。

 

「大尉! 撃ってきました!」

「わかってるわ、いつものことじゃない。それにこの距離じゃあ、そう当たらないでしょ?」

「いえ、あの弾道だと直撃します!」

「うにゅ?」

 

 ヒューン、っと放物線を描いて飛んでくる砲弾をよく見れば、確かに真っ直ぐこちらに飛んできている。

 仕方ないな~。

 フワリと浮き上がり船の前に出て、飛んでくる砲弾に身をさらす。

 砲弾が直撃する寸前、私は体から炎を吹き出させる。

 

 ジュュュウ、っとそのままだと私に当たるはずだった砲弾は、融点を超え沸点を超えて、音を立てて蒸発する。

 

「停船命令無視。ちょっと行ってくるわね」

「はっ! お気をつけて」

 

 私はこれからやる事を考えると、胸の奥から沸き上がる感情を抑えきれずにニヤリと顔に凶悪な笑みを浮かべ、私の中でクルクルと原子を回し核融合を開始した。

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

『そこの海賊! 武装を解除して停船しろ!』

 

 

「お頭、海軍の奴らあんな事言ってますぜ?」

「大砲すら撃ってこないで、舐めた奴らだ。おい! 奴らにその気がねぇならこっちからお見舞いしてやれ!」

「了解、お頭。俺にかかればこの距離でもでっかい的だぜ」

 

 海賊船の狙撃手が大砲の狙いを、停船命令を出してきた船に合わせる。

 海軍船は一隻しか居ないので、あれさえ沈めてしまえば終わりだと海賊達は笑う。

 

「オラよ! くらいやがれ!」

 

 炸裂音を響かせ、大砲から砲弾が勢いよく飛び出る。飛び出た砲弾は狙撃手の狙い通り、真っ直ぐに海軍船へと向かう。

 あれは直撃だ。

 海賊全員がそう思った。

 

「よっしゃ、よくやった。てめーら、一発くらわした海軍を逆に叩きのめして名を上げるぞ!」

「「「「おぉぉー!!」」」」

 

 砲弾が着弾するのを見る前に海賊船の船長は部下達に命令し、部下も雄叫びを上げそれに答える。

 海賊がはびこるこの時代。名が売れた者こそ海賊として成功を収める。財宝がなくとも、名を上げるために戦うのは当たり前の事でもあった。

 戦いだと意気込んだ海賊達が船を煙を上げているだろう海軍船に向けようとしたその瞬間

 

 

 

 ギィィィオオオン!

 

 

 

 何かが高速で通り過ぎ、海賊船の一部を根こそぎ削り取っていった。

 その後少し遅れてとてつも無い衝撃波が海と海賊船を押し付ける。

 船に乗っていた海賊達は船ごと吹っ飛ばされ、立っていられる者はおらず、何が起きたかさえ分からない。

 

「何だー!? 何が起こったー!?」

「分かりません!」

「何かが通り過ぎて行ったようです!」

 

 海には、傷一つない海軍船の少し前から海賊船の方角に、海賊船をかすめる様な軌道で幅数メートルのへこみができていた。

 転覆こそしなかったが、一部が吹き飛び、強力な衝撃波をくらった海賊船はギシギシと悲鳴を上げている。

 

「直撃してないのに。結構もろいね、この船」

 

 何とか体制を立て直した海賊達に、聞き慣れない歳若い少女の声がかけられる。

 

「誰だ! 何所にいやがる!?」

「あそこだ! 海の上!」

「何だあいつ!? 飛んでやがるぞ!?」

「悪魔の実の能力者か!?」

 

 海賊達が声がする方に目をやれば、右手を半ばから棒で覆い、背にある黒い一対の羽にマントを羽織った十代半ばぐらいの少女――ウツホが海賊船の横腹辺りの海の上に飛んでいた。

 

「誰だてめぇ」

「海兵だよ」

「海兵? てめぇみてえなガキがか?」

 

 ウツホはそれを肯定で返すと海賊達はウツホを馬鹿にする様に一斉に笑い出す。

 原因不明な出来事が起きたにもかかわらず、肝が据わっているのかただの馬鹿なのか。

 

「ねぇ、最後通告だけど、武装解除して停船しない?」

 

 ウツホは気にした様子も無く、逆にニヤニヤと海賊達を小馬鹿にするような笑みを浮かべ海賊達に問いかける。

 元々聞く気もないが、そんな態度で海賊達がおとなしく言う事を聞くはずも無く。

 

「これが答えだよ、お嬢ちゃん」

 

 バンッ、っとウツホに鉄砲を向けて引き金を引く。

 しかし、ウツホに向かった銃弾はウツホに当たる直前に砲弾と同じ様に蒸発する。

 

「なっ!?」

 

 ウツホの事を知らない海賊達には何が起きたか分からず、銃を連射する。

 もちろん結果は変わらず、全ての銃弾はウツホに当たる事無く蒸発してしまう。

 わけがわからず、狼狽する海賊達にウツホは、ニッコリと見た目、年相応のかわいらしい笑顔を向け

 

「最終警告終了! 通告無視の場合は反応を再開し、即座に異物を排除せよ」

 

 まるで連絡事項を淡々と告げるかの様に言葉を並べると、キュゥンという何かをためているような独特な音を発しながら、胸の赤い目のような飾りを中心に赤く輝きだす。

 それを見た海賊達は更に慌て、今更ながらに理解できない物への恐怖が沸き上がってくる。

 

「ま、待ってくれ」

 

 

 

 

 

「ロケットダイブ」

 

 

 

 

 ウツホは赤い輝きが最高潮まで達すると、背にある羽の根元から核融合エネルギーを、更に赤い羽が一対増えたかのように噴射して、先ほどここまで来たのと同じ様に海賊船に突進する。

 今度はかすめるような事はせず、横腹から直撃し海賊船を貫通する。貫通した箇所はあまりの高熱に一瞬で焼き崩れ、貫通した後には核反応エネルギーの余剰出力よる衝撃波で何もかもを吹っ飛ばす。

 その衝撃に耐えきれるはずも無く、船は半ばから砕けるが、ウツホは一度突進するだけでは飽き足らず、貫いた後はそのまま旋回しまた船へと何度も突進を繰り返した。

 

 端から見れば、赤い流星が高速で旋回して、一瞬のうちに船を空中で分解してる様が見れただろう。

 

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

「終わった、終わった~」

 

 海賊船をスクラップにした後、船に戻ってくると「お疲れさまでした」と部下達が敬礼してくれる。

 私は部下にいつもの様に、海に落っこちた海賊の回収を頼むと日光浴の続きをするため屋根の上に戻る事にする。

 ここの海賊は本当に頑丈だ。今回みたいな事をしても大抵死んでない。

 私としては死んでても死んでなくてもどちらでも良いんだけど、政府は公開処刑を望んでるからなるべく生かして捕まえろと言われている。

 そのため手配書には「DEAD OR ALIVE(生死問わず)」と書かれているが死亡していた場合三割も金額が減る。

 まぁ、私は海軍だから懸賞金は関係ないけどね。

 因みに何度も海賊を捕まえるために動いていれば必然だけど、私は海賊だが既に人を殺した事はある。けど特に嫌悪感は感じなかった。逆に楽しく感じたぐらいだし。

 ウツホになったから精神構造が変わって来てると前に考えたけど、その通りだったみたい。特に困った事はないし、自分じゃあよくわからないから別に良いけど。

 

 

 さて、海賊の引き上げも終わったようだし、本部に着くまで私は寝る事にする。

 いい天気の中、今度こそ邪魔されないうちにゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

「あららら、俺はこんなお嬢ちゃんの相手するために呼ばれたんですかい?」

「いいから、文句言わずにさっさとやらんか!」

 

 なにやるの? 私、何も聞いてないんだけど?

 海軍本部に着き、捕まえた海賊の引き渡しを終えた後、廊下であったガープ中将に「ちょっと、こんか」と襟元を猫の様に持ち上げられ捕まり、訓練場に連れてこられ、今まさにこんな状況です。

 目の前にはガープ中将と、二メートルは超える巨漢なガープ中将を更に超えるほどの長身、約三メートルぐらいはある丸い小さなサングラスを付けたヒョロっぽい男。頭に海軍のマークの入ったバンダナを巻いており、縮れた髪の毛が両サイドで盛り上がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……誰ですか? というか見上げすぎて首が痛いです。

 




また分割で一番やりたかったことは次回行きです。

今回から主人公がガラッと変わってしまっているので、かなり驚かれてると思います。
もしかしたら、無いわ~。と感じる方もいるかも。先に誤っときます、すみません。

主人公の口調は一応、原作のウツホを意識しています。二次ではもっとバカっぽい喋り方が多いのですが、原作だと結構お嬢口調で難しい言葉で喋るんですよね。基本、馬鹿なのは変わらないけどw

原作風味にするか二次風味にするか迷いましたが、原作風味で行くことにしました。

主人公は原作ウツホより、ちょっとだけ頭のいいのウツホになるように最終的になる予定で、今の状態で性格はほとんど完成されてます。

今回やりたかったこと
精神の女性化というかウツホ化
ウツホに原作台詞を言わせる
キングクリムゾン。一年進めてやったぜ。
第三視点。かなり失敗した。

以上です。もうちょっとやりたいことあったけど、それは次回。

東方知らない人への設定

ロケットダイブ:核融合エネルギーを推力利用した突進技。
        判定が大きく高威力


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9話ー能力

長いな~、文も長いですが執筆時間も一番かかりました。主に資料探すことで。

これでも前の話しから分割したんだけどね。
もっと長くても良いよと言われたので、何時もよりかなり長めです。
いつもの約2倍w

誤字修正いたしました。
空さん、solaさん、ガラスタさん、 さん。
誤字報告ありがとうございます!



「それで、どうなんだ?」

 

 ここは世界のほぼ中心に位置する、偉大なる航路にある島、マリンフォード。そこに存在する海軍本部の部屋の一つに二人の男がいた。

 片方は海軍の英雄とも言われるガープ中将。

 そして残ったもう一方、巨漢であるガープとほぼ同身長の丸い眼鏡をかけたアフロヘアーの男――仏のセンゴク事、センゴク元帥。

 センゴクの傍らにはペットの仔山羊がむしゃむしゃと紙を食べている。

 

「どうって、なんのことじゃ?」

 

 ガープは椅子に座って片手に煎餅の袋を持ち、煎餅を頬張りながらセンゴクの問いかけに答える。

 それに対してセンゴクは不満げな顔をしてガープを睨む。

 

「決まっているだろう、貴様が目にかけてる新兵の事だ」

「おぉ、あやつのことか。何か気になる事でもあるか?」

「この忙しい時に貴様がわざわざ気にかけてやるほどの者かと聞いているのだ。シキによるマリンフォード襲撃の後始末も終わってない時期に引き取るほどの者だったのだろうな?」

 

 まさか、理由をつけて他の者に仕事を押し付けたかったわけではあるまいな? とガープに更に言葉をかける。

 その実力や海軍における信念は、センゴクも認めているが、それ以外はその性格故、難有りとも思っている。普段の行いを鑑みるにその可能性も捨てきれないのだ。

 ガープは心外だと多少の不満を顔に表した後、急に真面目な顔になる。

 それを見たセンゴクも、普段からこうだと良いのだがと思いつつ、これからガープが話す事に対し真剣に耳を傾ける事にする。

 

「力はあるのぉ。それはここ一年の異例な数の海賊の捕縛数を見れば分かるじゃろ」

「それは分かっている。でなければ海軍に入って一年ほどしか立っていない若造に大尉の階級等与えん。俺が聞いているのは、お前が目にかけるほどなのかという事だ」

「あぁ、間違いないのぉ……あれは危険じゃ」

「……そこまでか?」

 

 自然と二人の顔が険しくなる。

 

「技術面や肉体面においてはたいした事は無い。あの程度何所にでもおる。しかし、あの能力だけは別じゃ」

「……」

「ワシは本気で使っている所をまだ見ておらんが、あの殲滅力は異常じゃな。希少種だからとも言えるかもしれんがワシにはよくわからん。悪魔の実に関してはお主の方が詳しいじゃろ? お主もあやつと同じ幻獣種の能力者なんじゃし」

 

 センゴクは動物系幻獣種、ヒトヒトの実モデル大仏の能力者である。

 ガープは同じ能力者ならば何か分かるだろうと思い聞いたのだが、センゴクはウツホに関する報告書を見て渋い顔をしている。

 

「幻獣種、トリトリの実モデル八咫烏……報告書を見るに間違い無いようだな」

「なんじゃ?」

 

 センゴクは目を閉じ深く考えた後、重々しく口を開いた。

 

「動物系の悪魔の実はその名の通り、モデルとなる動物がいる。幻獣種といえそれは例外では無い。ガープ。お前は八咫烏がどんな動物か知っているか?」

「知らんのぉ。白髭の所の若いのに、似たような奴がおるのは知っとるがな」

「不死鳥マルコか。確かに似ているが、あれとは似て非なる物だ。八咫烏。三本の足を持つ怪鳥だ。そして、太陽の化身とも言われている」

 

 それを聞いてガープは顔をしかめる。

 太陽――火よりも、マグマよりも熱く燃え盛る、世界最大の炎。

 もし、ウツホが太陽と同じ力を宿しているとしたら

 

「それは……やっかいじゃのぉ」

「幻獣種の動物系はその動物に変形する以外に、その伝承に基づいた特異な能力を得るが、一度、どこまでできるのか試しておいた方が良いな」

「そのことならば、任せておけ」

「お前がやるのか?」

 

 ガープはニヤリと笑い答える。

 

「いや、もっと適任な奴らがおる」

 

 

 

 

 

 

SIDEウツホ

 

「それで、何で俺はこのお嬢ちゃんと戦うんですかい?」

 

 私が聞きたいよ。というか貴方も聞かされてなかったのね。

 ガープ中将に襟元を掴まれて、いきなり訓練場に連れてこられた私は、どうやら目の前の長身の男の人と戦う事になってるらしい。

 二人して「どうして?」という視線をガープ中将に向ける。

 

「なぁに、ちょっとした力試しじゃよ。こやつがどこまでやれるのかのな」

 

 むんず、っとガープ中将が私の頭に手を乗せる。

 たぶん撫でてるんだけど、力が強過ぎて首ごと動いてしまい、撫でられてるというより頭を掴まれて振り回されてしまってる。

 こういう時、体丈夫でよかったな~と思う。たぶん普通の人だとこれは痛い。

 中将は一頻り撫でた後、手を離す。

 髪が乱れたうえ、リボンがずれたわ。鏡、無いのに。

 適当に直しておこう。

 

「本当は後、二人呼んだんじゃが今お前しか捕まらなくてのぉ」

「まぁ、やれというのならやりますがね。このお嬢ちゃん大丈夫なんですかい?」

 

 よし、たぶん直った。

 えっ? 何? 聞いてなかった。

 なんか長身の男の人と中将がこっち見てる。取りあえず曖昧に笑ってごまかそう。

 私は二人にニッコリと笑みを向ける。

 

「……本当に大丈夫なんですかい?」

「あぁ、本気でやれ。舐めとると痛い目に遭うぞ」

「冗談……じゃあ、無さそうですねえ。わかりましたよ」

 

 あっ、なんか戦う事に決まったらしい。

 長身の男の人が訓練場の真ん中に向かって行く。

 

「お前もさっさと行かんか!」

 

 ガンッ!

 

「いったーい!」

 

 殴られた。

 中将すぐ殴るんだもんな~。

 仕方なく私も訓練場の真ん中に向かい、先に待っていた長身の男の人と向かい合う形になる。

 長身の男の人は特に構えもせず、ぶらり、と自然体で立っている。

 私も特に構えは無いので、半身になって立っているだけだ。

 

「……」

「……」

「………」

「………」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………」

「…………………」

「…………………」

 

「さっさと、始めんか!」

 

 怒られた。

 読み合いとかじゃなく、二人して何もせずに立っていただけなので、当たり前と言えば当たり前なのだけど。

 

「仕方ない。気は進まないが、いっちょやりますか」

 

 そう言うが長身の男の人は動かない。

 かかって来いってことかな?

 このままじゃ、また怒られるだけなので私から動く事にしよう。それに、そろそろウズウズしてきたしね。

 最近は力を使うのが楽しくて仕方なくなったせいか、戦うのは好きじゃなかったけど、いざ戦うとなれば自然と興奮する様になった。

 

 私は体の中の原子をクルクルと回し、体に熱を行き渡らせる。

 それだけで、私の感情が高まって行く。最近は海で能力をぶっ放すだけだったから、陸地で戦うのは久しぶりだわ。

 感情が高まりすぎないうちに、私はいつも通り羽に力を込め一気に駆け寄る。

 一年間の成果はちゃんと出ているようで、その速度は前よりも速い。

 

「ほぉう」

 

 私が一気に近寄り、右手に付けてる制御棒をその勢いのまま叩き付けようとすると、男が感嘆の息を漏らした。

 この速度に追いつけるほどの実力者みたいで、目線もちゃんと私を捉えている。

 ガープ中将以外では初めてね。

 

 一度、下がろうかと思ったが、男が何故か避ける動作をしないので、取りあえずそのまま制御棒を振り下ろす事にする。

 鉄塊の事を考慮して、打ち抜くように男の顔めがけて振り落とす。

 鉄塊程度じゃあ防げないよ!

 振り落とした制御棒は真っ直ぐ男の顔に向かい

 

 パキキッ

 

 

 

 

 ドガァ!

 

「グハッ!」

 

 男の顔にそのままの勢いでぶつかり、男を吹っ飛ばす。

 あれ? 普通にくらった。何かすると思ったんだけど。

 だけど殴った時に奇妙な感じがしたので、殴った制御棒を調べる。しかし、特に異常はない。

 なんだろう? よく知ってる感じがしたんだけど。

 

 私は追撃はせずに一度立ち止まり、男の様子をうかがう。男は吹っ飛ばされ数メートル先に倒れていたが、私が何もせず見ているとのろのろと緩慢な動作で立ち上がる。

 動作は遅いが、しっかりと立っているし、その顔を見るに今の一撃は効いていないようだ。

 男は顔の殴られた部分を摩った後、やっと視線をこちらに向け口を開く。

 

「お嬢ちゃん。その右手に付けてる棒にゃ、海楼石でも入ってるのか?」

 

 海楼石って何?

 よくわからないけど、制御棒によけいな成分は入っていないので首を横に振って答える。

 すると男は、制御棒に向けていた視線を後ろの羽に向けた。

 

「あららら、となると能力かァ。ただの動物系と思ったがどうやら違うみたいだなァ」

 

 そう言うと今度は視線を訓練場の端に居るガープ中将に向ける。

 それに対しガープ中将がにやりと笑って答える。

 

「なるほど。まったく食えないお方だ」

 

 なんだろう? よくわからないけど勝手に納得してるし。

 先ほどの速度では反応されたので、今のうちに私は原子を回す速度を上げる。

 そこら中から原子をドンドン取り込むと、クルクルと回る原子がお互いにぶつかり合い、反応速度が爆発的に加速して行く。

 ある程度の熱が溜まると、私は像の足を軽く上げて、地面を力強く踏む。

 すると

 

 ゴォウ。と像の足から私の体に向かって炎が吹き出し私を包む、その熱で訓練場の気温が一気に上昇した。

 因みにこの行為には何の意味も無い。見た目がかっこ良いのでやっているだけ。

 

「ってえ、よりにもよって炎か。こりゃまた面倒な」

 

 あっ、一応威嚇にはなったみたい。なんか相手がひるんでる。

 取りあえずこの機会を逃さずに、吹き出させた炎を消し、もう一度羽に力を込める。

 さっきのはよくわからなかったけど、私の速度に対応できているのは間違いないので、今度は空中で何度も羽を動かし上下左右に移動しながら突っ込み、横合いから制御棒を真横に振り抜く。

 ブォン、と制御棒を振り抜いた後には、その軌道に沿ってゆらりと陽炎ができている。

 

「とんでもねェ熱量だなァ。だが」

 

 男は私の攻撃を避けて、いつの間にか制御棒を振り抜いた私の真横に居た。

 とっさに私は振り抜いた制御棒をもう一回転させてぶつけ様としたが

 

 ズドンッ、っとまるで大砲でも放ったような音。

 

「かっはぁっ!」

 

 肺から勝手に空気が漏れ、息が詰まる。

 とんでもない衝撃が胸を走り、一瞬で景色が流れたかと思ったら、私はゴロゴロと無様に地面を転がっていた。そこで初めて私は蹴り飛ばされたのだと気づく。

 私は蹴られた箇所を左手で押さえ体を震わせる。

 洒落にならないほど痛い。ただの蹴りなのに私の体を打ち抜くような威力だった。

 

「体技がてんで駄目だな。能力の相性はよくてもそれじゃあ、宝の持ち腐れだ」

 

 男はこちらにゆっくりと近寄いてくる。その体からは微妙に白い霧のようなものが出ていた。

 このまま寝てるわけにはいかないので、痛みをこらえて立ち上がり、私の中でクルクルと回る原子を更に加速させる。

 

 クルクルと回す。

 

 気分が高揚し、痛みが消える。体も頭もグツグツと音を立てそうなほど熱いのに、意識の一部分だけが冴えわたり、原子の動きや反応式がより細かく理解できるようになる。

 鋭敏化した感知能力で訓練場の原子の流れを感じると、ふと気がついた。

 

 あはっ、さっき感じたのはそういうことか。

 あははははははは。

 気がついたら感情が止まらない。さっきのお返しをできるとわかっただけで脳が沸騰しそう。

 

 際限なく高まって行く感情を抑えずに、私は先ほど見せたのとはまったく別の凶悪な笑みを顔に浮かべ、自分からもう一度突撃した。

 先ほどよりも速いが、今度は愚直に突っ込み、炎を纏わせた左足を男の肩口に当たるよう、斜めに弧を描く様に叩き込む。

 

「だから、当たらねェって」

 

 もちろんそんな攻撃が当たるはずも無く、男に難なく避けられる。

 

「なっ!?」

 

 はずだった。

 ギシリっと、男の動きが急に止まり、左足に引き込まれる様に私の攻撃をまともにくらう。

 当たった左足を引き込み、男を地面が砕けるほど強く叩き付けると、派手な音を立てて男は仰向けに倒れ込む。

 今度はかなり効いたようで、男の口の端から血があふれる。

 男は何が起きたか分からないという顔をしたが、直ぐに私を払いのけ立ち上がろうとする。

 けど、それはかなわないわ。

 男を踏みつけている左足に巻き付いてる電子の玉が光を放ちながらクルクル回る。

 

「なにィ?」

 

 男が疑問に思うのも当たり前ね。だって自分の体が言う事を効かないんだもの。

 男の戸惑う表情を見て、私は顔に浮かべている凶悪な笑みを更に深め、歪める。

 

「構成はH2O、水素結合、極性有り、六方晶形の結晶構造を取っている」

「なんの……ことだ?」

「分解し水素ヘ。核融合開始」

 

 何かしようとしたのが分かったのか、男が目を見開く。

 左足の電子がいっそう輝き、ギュンギュン、と音を立てて飛び回る。

 

 

 

 

 

「メルティング浴びせ蹴り」

 

 

 

 ドガガガガガガガガガッ!

 

 左足の下で何度も何度も爆発が起きる。

 分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解、分解!!

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 男がたまらず悲鳴を上げる。

 氷を分解して得た水素で核融合し、そのエネルギーをそのまま直接ぶつけられているのだからたまった物ではないわよね。

 氷、そうこの男の体は氷に変わる。きっと自然系の能力者なのでしょうね。合った事無いから分からなかったけど。

 能力者自体は何人か海賊にも居たから、能力者と戦った事は何度か有ったけどね。

 

 殴った時に感じた違和感はこれ。原子の動きが急に変わった事と、氷――つまりH2O。普段から使い慣れてる水素を含んでいたせい。

 原子の動きをより知覚できるようになったら、直ぐに気がついた。この男の体は普段は人と変わらないみたいだけど、ちょっとした電気信号で氷に転移する。

 電流とは電子の流れ。電子も原子の一部、核反応を操る私に扱えないはずが無い。

 人ほど構成成分が多い物は私では制御できないけど、氷になってしまえば別。原子の動きを制御してしまえば、体の自由すら効かなくなる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その結果がこれ。

 相手の体を直接分解し、そのエネルギーを直接叩き込む。なんて、理想的な核融合!

 黒い太陽、八咫烏様! 私に力を与えてくださった事に感謝いたします!

 

「ああ、今日も絶賛融合中です! 元気な水素達が!」

 

 過剰に水素が反応し続け、テンションが留まる事無く上がって行く。

 男は気絶でもしたのか既に悲鳴すら上げない。

 私は止めの蹴りを放とうと左足に力を込める

 

 

 

 

 

 前に、私は訓練場に変わった原子の動きを感じその場から後ろに飛び退くと、私がさっきまで居た所に細い光のレーザーが通り過ぎる。避けたレーザーは訓練場の壁に当たると爆発を起こす。

 爆風にあおられながら私はビームが飛んできた方向に目をやると、そこには私を止めようとしたのか、腕を組んで私たちの戦いを見ていた姿勢をといたガープ中将とは別に今戦っていた男と同じぐらい背の高い二人の男がいた。

 

 

 

 

 

 

SIDEガープ

 

「さっさと、始めんか!」

 

 何をやっとるんじゃ、まったく。

 ワシは向かい合ったまま何もせんで立ち尽くしておった二人を怒鳴り、腕を組む。

 クザンの奴め、せっかく舐めるなと忠告してやったのに完全にやる気ないのぉ。まぁ、一度痛い目に遭えば真面目にやるじゃろ。

 ワシがこの戦いを組んだ理由はもちろんウツホの能力の測定のためじゃ。自然系の能力者相手にどこまで通用するか。

 もし、あやつの力がただの炎でなく、太陽の力ならば間違いなく通用するはずじゃ。

 本来ならば、呼んだ残り二人も交えての測定じゃったのだが、ちょうど本部におらんもんじゃから一番相性の悪いであろうクザンが一番手になってしもうた。

 太陽程かはわからんが、炎を使っとるのは間違いないしのぉ。氷に対してまったく通用せんという事はないはずじゃ。

 

 ドガァ!

 

「グハッ!」

 

 そうこう考えておったうちに、クザンが吹っ飛ばされおった。

 氷になって攻撃を受けようとしたんじゃろうが、予想しておった通り、無効化されたようじゃな。

 特に炎を使ったようには見えんかったが、かなりの熱を纏っておったのか、それとも太陽の化身という特性故なのか……微妙じゃな。

 

 吹っ飛ばされたクザンが立ち上がりこちらを見てきおったので、忠告を無視するからじゃ、と意味を含めて笑ってやった。

 これでもう油断はせんじゃろ。

 そう思った次の瞬間に訓練場を埋め尽くすような熱風がここまで届いてきよった。ウツホの方に目をやれば炎を吹き出して目を輝かせておる。

 あやつの方もやる気のようじゃな。

 一度目の交差でクザンの力量をある程度掴んだんじゃろうな。あやつ普段からは想像できんが、能力使い始めると急に好戦的になりおるしのぉ。凶暴性が増すのは肉食の動物系の能力者によく見られる傾向じゃし、あやつのもおそらくそうなのじゃろう。

 そのせいで稽古をつけてやっておった時はよく暴走しおった。ワシは技術面以外にも精神面も鍛えてやろうと思っておったんじゃが、結局はどちらもうまく行かんかった。

 仕方なく実戦で能力を使用する事の慣れを経験させるために任務に就かせたんじゃが、ここ一年でますます好戦的になってしもうたようじゃな。

 技術面に関しても特に伸びた様子はないのぉ。報告書を見るに陸地で何度か接近戦はしているようじゃが、捕まえた海賊のほとんどは海の上で一方的に攻撃したようじゃし。

 あやつおれば大砲いらんし、船を沈められればどんな海賊でもひとたまりも無い。

 

 やはり接近戦は駄目じゃな、今度は逆に吹っ飛ばされおった。

 クザンほどの相手になると技術の無さが致命的じゃな、能力がいくら優れていようと使えなければ関係も無い。

 陸地ではもちろんの事、能力者を無効化する海楼石もあるしのぉ。じゃから、技術を身につけさせてやりたかったのじゃが。

 クザンの蹴りを受けて震えながら地面に突っ伏してる姿を見ておると、一層そう思う。

 

 ここまでじゃろうな。

 ウツホは何とか立ち上がっておるが、クザンがやる気になった以上、能力の相性は関係無しに体技で押さえられるじゃろ。

 そう思い黙って見ておるとウツホの目が突如変わりよった。

 先ほどまでは訓練中に何度もワシが見た、戦いに興奮しどこか輝いた目だったのじゃが、今の目はワシが一度だけ見た事のある、輝きなどとはかけ離れた凶悪な目。

 ワシが初めてあやつに遇った時しておった、獲物を狙う目。一方的に弱者をいたぶる者の目じゃ。

 

 何故、今そんな目をする? 実力差は今の蹴りで分かったはずじゃが。

 もしや、ここで大規模な能力を使うつもりかとも思ったんじゃが、ウツホはもう一度クザンに向かって同じ様に飛んで行きおった。

 どうやらまた接近戦を仕掛けるようじゃが無駄じゃ。

 確かに先ほどの倍近くは速いが、真っ直ぐ突っ込むだけでは通用せんぞ。

 ワシの思う通り、クザンは、先ほどの意趣返しのつもりか蹴りを放つウツホの動きに問題なく対処しおった。

 

 

 かの様に見えた。

 しかし、ワシが目にしたのは、問題なく対処していたはずのクザンの動きが急に止まり、ウツホの蹴りをまるで吸い込まれる様にくらいそのまま地面に叩き付けられる姿じゃった。

 

 何が起きよった?

 クザンがわざとくらったわけでは無いじゃろ。それは奴の驚いておる顔を見れば分かる。

 あやつが何かをしたのは間違いないが、あれも能力なんじゃろうか?

 いったい……

 

 

 

 ドガガガガガガガガガッ!

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「なんじゃ!?」

 

 響き渡るのはクザンの悲鳴と爆発音。

 見ればクザンを踏みつけているウツホの足が爆発しているようじゃった。

 クザンは抵抗できぬのか、抜け出せず、やがて悲鳴すら聞こえん様になった。ウツホはそれを見て、さも楽しそうに続けておる。

 

 迂闊じゃった! まさかクザンがやられるとは!

 予想もせんかった事で呆然としてしまったワシは、直ぐにウツホを止めるために駆け出す

 

 が、ワシが動く前にワシの横を通り、ウツホに向かって光の線が走る。

 ウツホはそれを避けたが、おかげでクザンからは離れたようじゃ。

 ワシは今走った光の線、それをよく知っておる。勝負に目が行っており気がつかんかったが、ワシの近くには二人の人物の気配。

 

「なんじゃお主等、今頃来おってからに。おかげで一番相性の悪い奴が戦うはめになりおったぞ」

 

 それが見んでも誰だか分かっておるワシは、今頃来た二人に愚痴を言う。

 

「すまないねェ~。ちょっと本部から離れてたから、着くのに時間がかかってしまってねェ~」

 

 間延びした独特の口調にクザンと変わらぬほどの長身。サングラスを付け、軍帽を被っている男――光の自然系能力者、ボルサリーノ中将。

 

「ワシ等には他の任務も有るんじゃ、無理を言うな。それよりクザンの奴が死にかけちょるが、これはどういう事じゃ?」

 

 同じくクザンとさほど変わらぬほどの長身。フード付きの服に将校に与えられるコートを羽織り、頭に軍帽を被り、その上に更にフード被っている男――マグマの自然系能力者、サカズキ中将。

 

 どちらもワシが呼んどった、クザンを含め海軍の中でたった三人しかおらん自然系の悪魔の実の能力者じゃ。

 ワシが二人に答える前に

 

 

 

 ゴォォォォオオオオオ!

 

 爆発的な炎がウツホを中心に吹き出し、ただでさえ熱せられていた訓練場の気温が、更に上がりおった。

 

 

「まだまだ暴れ足りないよ! 私の中の核反応がもっと暴れろと言っているわ!」

 

 あやつめやはり暴走しよったな。

 ワシが殴って止めてもよいが、クザンは直ぐに医務室に運んだ方がいいじゃろう。被害を出さんために人払いしたのが裏目に出よった。

 ちょうど二人とも来よったし、ここは当初の予定通りこやつ等に任せるとするか。

 

「お主等ちょうどいいから、突っ込んであやつを止めろ。ワシはクザンを医務室に連れて行く」

「じゃから説明をせェというに」

「ええからやらんか、これはセンゴクからの命令でもある。多少の無茶はしてかまわん! 本気でいかんとクザンと同じ目に遇うぞ!」

 

 ワシは返事を聞かず直ぐにクザンに駆け寄り、気を失っているクザンを担ぐと、そのまま訓練場を離れた。

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

 クルクル回る。

 

 止まらない。

 過剰に取り込んだ水素が我先にと融合する。融合して得たエネルギーが私の中で暴れて今にも爆発しそうだ。

 私はたまらず外に熱を逃がす。

 

 

 ゴォォォォオオオオオ!

 

 

 真っ赤な炎が私を中心に燃え盛る。何時も吹き出している炎とは段違いの火力だ。

 あまりの熱さで地面が溶け出している。

 

 

 クルクル回る。

 

 

 それでも、止まらない。

 得たエネルギーで更に原子を取り込み、取り込んだ先から次々に融合して行く。

 私の中で回る原子達が私に訴えてくる。

 もっと! もっと! 

 

 

 

「まだまだ暴れ足りないよ! 私の中の核反応がもっと暴れろと言っているわ!」

 

 溢れ出した炎を邪魔だと制御棒を一線すると、あんなに燃え盛っていた炎が掻き消える。

 炎で隠れていた視界が開け、新たに現れた二人の男(獲物)に喜びを隠せない。

 隠すつもりも無い!

 私は新たに現れた二人の男――フードを被った男とサングラスを付けた男に向けて光弾を打ち込むため、全身を使って熱を集める。

 

 

 ドゴォォォォ!!

 

 が、私が光弾を発射するその前に、私の視界はフードの男の右手から現れた、拳の形をしたマグマに飲み込まれた。

 

「おォ~い、おォ~い、サカズキ。命令は殺せじゃ無くて、止めろだったんじゃ無かったかい~?」

「これでも、止まったじゃろ。それに本気でやれとも言われとったんじゃ、クザンにあれだけの傷を負わせた奴がこれぐらいで参るとは思えん」

 

 ボコボコッ、と音を立てるマグマを私は中からマントで振り払い、体から直径がほとんど私と同じ巨大な光弾を一つと、それを取り巻く様に回る二つの光弾を男達に向けて発射する。

 この程度の熱、私にとっては無いのも同然。太陽である私にはマグマ自体が無意味。

 発射された光弾は通った所を焼きながら二人の男に向かって行ったが、二人とも余裕を持って避ける。

 避けられた光弾は壁を溶かし、そのまま街の上空を通り海の方へと消えて行く。

 

「怖いねェ~、後ろに本部があったら大変な事になっていたんじゃないかいィ~?」

「ならば、そうなる前に潰すだけじゃ」

「君のマグマが効いてない所見るとォ~、彼女も自然系かねぇ~?」

「能力から見ると火じゃが、それならば上位であるマグマで焼けるはずじゃあ」

 

 私は今度は制御棒を構えて、制御棒からレーザーを発射するが、それも避けられる。

 

 あぁ、めんどくさいなぁ! 

 私は制御棒を振り上げるとその場で地面に叩き付け、地中で即座に核融合を開始する。

 

 

 

「ヘルゲイザー!」

 

 

 ドォンッ、と男達が立っている真下の地面から核融合エネルギーが噴出する。

 

 

 ジュワッ!!

 

「ぐう、ウッ!」

 

 サングラスの男は一瞬で移動し躱したが、フードの男には直撃し、男を焼く。

 

「怖いねェ~、サカズキを焼くなんてどんな能力だぃ~?」

 

 声がする方を見るとサングラスの男が私に人差し指を向けていた。

 この男も自然系ね。移動する時に原子が不自然に動いたのが分かる。

 

 ピカッ、とサングラスの男の指が光ると、そこから出たレーザーが私に突き刺さる。

 

 

 

 ドォォォォン!

 

 爆発。

 また避けられた。やっぱり、直接は速くてあたらないか。

 私がサングラスの男に放った光弾は男に避けられ、着弾した光弾が炸裂し基地の一部を破壊した。

 屋根に当たる部分が少し吹っ飛んだ程度なので、被害は無いだろう。

 

「おかしいねェ~」

 

 避けたサングラスの男はもう一度、私に向かって指を向けレーザーを撃つ。

 レーザーは真っ直ぐ私に向かい突き刺さる。

 しかし、レーザーは私に当たると、私を貫く事も爆発もせずにただ消えて行く。

 

「確かに当たってるよねェ~、どういう事かなァ~?」

 

 私はそれに答えず、今度は外さない様に原子を制御しようとすると

 

「ワシを忘れちょらんか?」

 

 目の前にはマグマの大波。

 フードの男がいつの間にか近づいてきており、マグマとなった腕を振るっていた。

 サングラスの男の原子の動きばっかり気にしてて気がつかなかったわ。もう倒したと思っていたし。

 大量のマグマに燃やされ、訓練場には黒い煙が大量に噴出し、私達の戦いで上がった訓練場の熱気により立ち上っている。

 

 サングラスの男は既に退避していたので、狙いを変える事にした。

 私は羽に力をこめマグマの大波に飲み込まれる前に逆に自分から突っ込み、一気にマグマを駆け抜ける。

 

「そんな火力じゃあ鳥も焼けないよ!」

 

 

 私はマグマの中を突進しながら蓄えたエネルギーを全て制御棒に移し、一気に放射させる。

 蓄えられたあまりのエネルギーによって私の体は眩しいばかりに輝いていた。

 

 

「レイディアントブレード」

 

 

 制御棒から放射されたエネルギーは、前に夜中に訓練していたときと同じ様に約二メートル近いブレード状の熱線となり、私はそれをフードの男に肩口から斬りつける。

 

「ガハァッ!」

 

 制御棒を振るった後は、刃物で斬り裂くというよりバーナーで焼き斬るように、男の体を焼き付けながら一線する。

 この技は見た目はブレード状だが、実質はエネルギーを噴射しているので相手を斬り裂かずに焼き斬る。

 

 フードの男は胸から血を流し地面に落ちる。

 少し浅かったようで、派手に血は出ているが両断はできていない。

 ブレードの噴射を止め、それに追撃をかけようと追うと、私の後ろに急速な原子の乱れを感じ一度止まり振り向く。

 振り向き様に、既に振りかぶり私に振り下ろされて来ているのが見ずにも分かっていた光の剣を、素手の左手で難なく掴む。

 握り込んだ掌の中で光でできた剣が音を立て暴れていた。

 

「これなら効くと思ったんだけどねェ~。素手で掴まれるとはァ~、怖いねェ~」

 

 核の力とは実は光の力。ただその光量があまりにも膨大なだけ。核を操る私に光で攻撃するなんて……愚かだわ。

 

 グッ、と左手に力を込め光の剣を握り潰すと、光の剣が弾ける。

 直ぐさま、光になって逃げ出そうとするサングラスの男の腹を、剣を握りつぶしたその左手で捕まえる。

 光になってくれたおかげで、逆に捕まえやすかったわ。

 左手で掴んでいる男の体の光の力を利用し、エネルギーを一点に集め、そのまま弾けさせる。

 

「ブレイクサン」

 

 男の体から爆散した光弾が辺り一面に飛び散り、既に荒れ果てた訓練場を廃墟へと変えて行く。

 サングラスの男は声も上げずに、奇しくもフードの男の近くへと吹っ飛ばされた。

 

「あははははははは、マグマと光なんて生温いわ。この力は、太陽と同じ、太陽と比べれば貴方達なんてちっぽけな存在。でも同情はしない」

 

 私は頭上に輝く太陽に向けて左手を掲げ、人差し指を向ける。

 その人差し指に核融合エネルギーを収束し、真っ赤に輝く頭ほどの大きさの収束体を生み出す。

 

 

「シューティング……」

 

 

 ズッ!!

 止めに収束体を放とうとした私の体が振動で軋む。

 

「ギッ!」

 

 体が軋む痛みに耐えきれずに、食いしばったような声が漏れる。

 

 ゴォーン!! 

 

「ガハァアア!!」

 

 体中を軋むような振動が鐘を突くような音と共に弾ける。衝撃波は何度も反響し合い私の体と意識を押しつぶす。

 収束体は制御を離れ、安定を失い私の頭上で爆発し、衝撃波で消えかけていた私の意識を完全に途絶えさせた。

 

 

 

 

 

 あれ、前もこんな事が……あった、ような……きゅぅ~。

 

 

SIDEOUT

 

「アホかぁ、貴様! 何が、任せておけだ! この忙しい時期に中将を三人も動けなくしてどういうつもりなんだ!」

「いやぁ~、スマン。まさかここまでやられるとは思っておらんかったんでな」

 

 ウツホを気絶させ、中将二人を医務室へと運んだ後、センゴクはガープに今回の事について問いつめていた。

 能力を確かめる為に自然系の能力者の相手をさせるのは良いだろう。中将相手にどこまで戦えるかというのも、未知数の戦闘能力を測るのに良い策ではある。しかし、任務に差し支えるほどの負傷をさせるというのはいくら何でも容認できない。

 それが分かっているガープも端から見ると、真面目に反省していないようには見えるが、実際はかなり真剣に反省していた。

 

「クザンとボルサリーノは重傷、サカズキもかなりの深手を負って、三人ともしばらくは動かせん。どういう事だ、ガープ? 中将三人を押さえるほどの力が有るなどとは聞いておらんぞ」

「あやつにそこまでの力は有りはせん。能力がいくら強くとも、あやつ等が負ける事はまず無かったはずじゃ。実際、クザンも対応しておった」

「では何故、クザンはあそこまでの傷を負ったのだ? サカズキとボルサリーノもだ。貴様が言った通りならば、俺が出る事は無かったはずだ」

「ワシもそう考えておった。クザンの奴に話しを聞くまではな」

 

 ガープはクザンを運んでいる最中、途中で気がついたクザンから聞いた事をセンゴクに告げる。

 

「体の自由が利かなくなった……か」

「それも海に落ちた時や海楼石を付けた時とは違い、力が抜けるといった感じとも違ったようじゃ」

「クザンの能力を無効化し、サカズキ、ボルサリーノの能力をも無効化したことで、太陽の能力を持っているのはほぼ間違いないな。サカズキが焼かれるとするならば、マグマの上位である能力だけだろうしな」

「ボルサリーノの事もそう考えられるのぉ。この世に太陽を超える光は無いじゃろう」

「しかし、上位の能力者といえど他の能力者の動きを封じることはできんはずだ」

「お主の一撃はすんなり通ったしのぉ。ワシも動きを止められた事なぞ無いぞ」

 

 となると、今までと違う事で考えられる事は

 

「自然系(ロギア)」

「じゃろうな」

 

 自然系は身体を自然物その物に変化させる。自然物の最高峰である太陽ならばその可能性は大いに有る。

 悪魔の実には、ヤミヤミの実という能力者の能力を封じる特異な実も確認されているのだから、何が有っても不思議ではない。

 

「全ての自然系を掌握できるのか、たまたま三人との相性がよかったのかもしれんが、どちらにせよ相性によっては実力を完全に無視できるという事か。相性を考えずに、能力を使わなかった場合の実力はどの程度あるのだ?」

「ギリギリ佐官クラスといった所じゃろうな。体技だけではたいした事は無い」

「……能力込みでは?」

「大佐あたりはいけるかもしれん。ただ、あやつの能力は……」

「「戦闘」より「殲滅」で最大の効果を発揮する所だな。報告書や訓練場の様子を見るにかなりの物だ。貴様が危険といった意味も分かる。最大火力次第で使いどころを考えなければならぬな」

「……どうするつもりじゃ?」

 

 ガープがいつになく真剣な顔で問う。

 センゴクは信頼できる戦友であると同時に世界の秩序を守る海軍のトップでもある。相性によっては海軍中将三人を一方的に倒せる可能性があり、大規模破壊にその真髄を置く危険分子を処分する事も考えられる。

 ガープにとってウツホは既に手のかかる娘のようなものだ。それだけは容認できない。

 センゴクもそれは分かっているのだろう、ガープの顔を見て「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らし、口を開く。

 

「安心しろ、今はどんな物でも戦力が欲しい。前々から実行する予定だった作戦に、奴を参加させる事を考えただけだ」

「作戦じゃと?」

「あぁ……

 

 

 

 

 

 

 

……バスターコールだ」

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、医務室のウツホ。

 

「……う、う~ん。大仏ヘア~の紅白と白黒が~……う~ん」

 

 ……うなされていました。

 




注意!
今回はあとがきも長いです。ちょっとした説明も入ってます。

うちのウツホはよく気絶する。
暴走させると気絶させるしかないので仕方ないんですが、ウツホ化していくと暴走しやすくなる罠。いつかは何とかなるかも。

三大将の言葉遣いがまったく分からず、今回は単行本とDVDひっくり返してました。
蒼雉以外はあまり登場回数ないから大変だった。赤犬は20年前は広島弁じゃないから、口調どっちにしようか迷ったけど、めんどくさいので広島弁で統一しました。

今回は三大将(今は中将)フルボッコの回でした。
別に三大将よりウツホが強いわけでは有りません。単に相性が良かっただけです。
能力使わずに殴れば実は終わってましたね。

自然系に強いというのはこの作品作る時に考えてた物です。
ワンピの世界で一番強い自然系に有利にしようと思ってました。ただ自然系に無敵という訳でなく、相性も有ります。
三大将がたまたま太陽との相性が悪かっただけですね。

ここのウツホは逆に白兵戦が強くなる動物種との相性が悪いです。
ウツホとの相性は
自然系<超人系<動物系 
という順番になってます。

モクモクやスナスナ等は単体物でなく混合物なのでウツホには人体と一緒で制御はできません。
サカズキのマグマも混合物ですが、ワンピ原作の「能力の上下関係」に当たるので一方的になっています。

サカズキの「”自然系”じゃあいうて油断しちょりゃあせんか?」って言葉サカズキに言いたくないですか?
覇気使える奴が居るのに、「やっかい」と言うだけで、頂上決戦時、攻撃一度も避けてないんですよね。

今回、実力差があるのにウツホの攻撃が結構当たってるのは、あまり避ける事を普段からしてないと上記の理由で判断したためです。

蒼雉が一番相性悪いと思った方多かったみたいですが、実は三人の中では一番相性がましです。
一番悪いのは黄猿でした。

核の力=光の力 は疑問に思う方居ると思いますが、東方の原作で言われていた事なので自分も詳しくは分かりません。
たぶん 核の力=太陽の力=光の力 だと思います。



東方知らない人への設定

メルティング浴びせ蹴り:敵を組み敷き分解を司る左足から
            直接エネルギーを叩き込む。
            一種の投げでガード出来ない。

ヘルゲイザー:地中で核融合を発生させ、そのエネルギーを地上へ噴出させ攻撃する。

レイディアントブレード:エネルギーをチャージしつつ接近十分距離が詰まったところで
            相手へ向けて放射して攻撃する。
            突進技と射撃の中間のような技。

シューティングサン:頭上に核融合エネルギーを収束
          それを地面へ叩きつけ爆発させる。
          収束体は空の意思がある限り安定した状態のため
          爆発まで他の射撃の影響を受けない
          爆発すると火柱が上がる。

紅白:東方の主人公。霊夢の事。

白黒:東方の主人公。魔理沙の事。


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10話ー太陽

やっと…やっと、終わった…。
今回は8割原作ですw ぶっちゃけ漫画読めばいいというぐらいほとんど原作のままです。
主人公がいないのにシーンがあるって変えようが無い。

オハラの時点でセンゴク大将だった~!! もうめんどく……仕方ないのでこの小説では早めに元帥になったことにします!
二次設定、オリ設定ありと書いてあるし大丈夫!

誤字修正いたしました。
空さんいつもありがとうございます!!

2013/03/03
あまりに原作と同じところが多かったため規約に反しているのではないかと忠告をもらったので、ロビンサイドを大幅にカットいたしました。
結構味気なくなってしまいましたが、どうかご了承ください。

一応、変更前のものを読みたい方もいらっしゃるだろうので、アップしておきました。読みたい方は下記よりdlしてください。
ttp://firestorage.jp/download/6dd1283aff0334c4444d3344568c4d380e6c30c3


 

10話ー太陽

 

あの試合の後、気絶した私が医務室で寝ているとガープ中将に「この忙しい時に何時まで寝てるんじゃ!」と叩き起こされた。

 理不尽である。

 

 しかし、本当の理不尽はそこからだった。

 どうやら私と戦った三人の男は本部中将だったらしい。

 今の時期に中将ともなると非常に忙しい、それが私が大怪我を負わせたせいで三人が担当するはずだった任務ができなくなってしまった。中将クラスの任務となると、他の中将か又は任務によって、それに見合う実力か地位を持っている者が担当しなくてはいけない。

 しかし、他の中将ももちろんの如く自分の任務で忙しく、しかもあの三人は中将の中でも飛び抜けて強い方だったので、その実力に見合う者も少ない。

 

 それで、その三人が受けるはずだった任務を今回の事件の原因であるガープ中将と私が受け持つ事になってしまった。

 私はガープ中将に言われて戦っただけなのに、理不尽極まりない。

 

 

 本当に……大変だった。

 

 私が代わりに任務を持った五ヶ月間の感想はその一言に尽きる。

 自分自身の任務と代わりに受け持った中将三人分の任務。休む暇がないほどの忙しさだった。

 大尉である私が中将の代わりに受け持てる任務は、必然とそのほとんどが海賊の討伐任務となり、それ以外のある程度の地位が必要な任務はガープ中将が受け持った。

 今までは決まった地域をパトロールしながら、発見した海賊を適当に潰すだけだったのだけれど、任務となるとある場所に居る、目標の海賊を自分から倒しに行か無ければならない。

 偉大なる航路のあちこちに船に向かわせては、そこらに居る雑魚海賊とは違う、実力も賞金額も高い海賊達と戦う。海の上ならばまだしも、討伐に向かった海賊の大抵が町等を占拠していたり、自身の根城に籠っていたりするので、能力の使い難い陸地での戦闘で捕縛しなくてはならなくなった。

 おかげでかなり手間取ったけど、私の手に負えないほどの強さの奴はいなかった。

 たぶんガープ中将が私の実力をちゃんと考えて任務を回してくれていたのだろうけど。

 

 しかし、私の体力がほぼ無限に近い事も知っているので、捕縛して連行してはまた別の任務に出る。と休み無く任務が入った。

 終いには船の整備が間に合わないからって、私だけ一人飛んで先行して討伐してくるという状況にもなったし。

 おかげで帰るときに何回か迷子になって泣きそうだった。

 あまりのオーバーワークに初めて部下に文句言われるぐらいきつかった。

 ヒ~ン、私だって泣きたいよ。

 最後の方なんて、私が飛んで行った方が速いからって、それを計算して任務組んだりされて、それに文句言ったら

 

「ワシだって忙しいんじゃ、文句言うな!」

 

 とかなり強くぶん殴られた。

 ガープ中将は元々の地位もあり、受け持った中将としての仕事も多く、どうやら私よりも忙しかったようで機嫌がかなり悪かったみたい。

 でも、一海賊団を連行している間に他の海賊団を捕縛しに行くって流石におかしいよ。

 私の船が本部に着く頃には五つ近くの海賊団を連行してるんだもん。

 

 おかげで中将三人の傷が癒え、再び任務に就くまでの五ヶ月間で階級がまた上がった。

 ただいまの階級は少佐。

 海軍に入って約二年。上がった階級は十個。

 スピード出世にもほどが有るわね。

 

 

 今も新たな任務に就いてるけど、久しぶりにゆっくりと自分の船で行けるので、既に定位置となった船の入り口の屋根の上で横になり日光浴をしている。

 あ~、こんなにゆっくりしたの本当に久しぶりで、気持ちいいな~。

 すっかり趣味になっていた日光浴だが、最近やる暇がまったくなかったので、今はそれをめいいっぱい堪能する。黒い羽がジリジリと太陽の光を受けて、焼けているのがたまらなく気持ちがいい。

 欲を言えば後は暖かな風が吹いてくれれば良いんだけどね。

 けれど、それはかなう事はまず無い。暖かな風どころか、この海域に入ってからは一度の風も吹いていないのだから。本来、風に煽られるはずの帆は今は畳まれていて海軍のカモメのマークを見る事はできない。

 日光浴しながらあのマークがはためくのを見るのが気に入っている私としては、楽しみが半減してしまい残念だ。

 

 

 今、私の船が居るのは偉大なる航路の両脇に沿って存在している無風海域――凪の帯(カームベルト)。

 この海域ではその名の通り風が吹く事が無いうえ、大型の海王類の巣となっているため通常の船での航行は不可能である。

 海軍の船の底には海楼石という、海と同じエネルギーを発する石が敷き詰められており、これのおかげで海と同化し海王類に発見されないらしい。

 ただ確実に見つからないと言う訳でなく、この海域に入ってから何度か見つかってしまっている。

 その度に私が焼き魚にしてるけどね。

 見た目の割に意外とおいしいです。

 

 何故、私の船がそんな所にいるかと言うと、今回の任務で偉大なる航路から出て、西の海(ウエストブルー)に行かなければいけないからだ。

 

 この世界の海は全てで五つに分類される。

 まずは私が居た偉大なる航路。これが世界を横断するかの様に走っており、その両脇に沿って凪の帯が存在している。そして偉大なる航路に対し直角にこの世界を一周する巨大な大陸、赤い土の大陸(レッドライン)。

 そして偉大なる航路と赤い土の大陸によって四つに分かれている海をそれぞれ、東の海(イーストブルー)、西の海(ウエストブルー)、南の海(サウスブルー)、北の海(ノースブルー)と呼ぶ。

 

 偉大なる航路から他の海に出るには、この凪の帯を通るしか無い。

 まったく不便な話よね。

 そう言えばこの船は帆船なのだけど、風の無い中どうやって進んでるのかしら? なんか出発前に聞いたような気がするんだけど忘れちゃった。

 まぁ、いいか。ちゃんと進んでるみたいだし。と私は考えるのを止め日光浴の続きを堪能する。

 カームベルトの透き通るような青空を、ぼ~っと見ながら、私は今回の任務を命じられた数日前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 ――数日前、海軍本部。

 

 次から次に押し付けられる任務をこなして、今回も帰ってくるまでに七つの海賊団を捕縛して本部に着くと、珍しく直ぐに次の任務の内容が書かれた指令書を渡されずに、ある部屋に通された。

 その部屋には、丸い眼鏡をかけたアフロヘアーの男――海軍のトップ。センゴク元帥が私を待っていた。

 五ヶ月前の三中将との戦いの時、私を止めたのはこの人らしい。

 う~ん、私は全然覚えていないんだけど、確かアフロじゃなかったような~。

 

 

 私がセンゴク元帥の頭を凝視しながら、必死に何かを思い出そうとしていると

 

「お前にはこれから、とある極秘任務に参加してもらう」

 

 センゴク元帥が新たな任務の内容を話し始めたので、私は頭に浮かび始めていた、巫女服を着た元帥と魔女の格好をした元帥に襲われるという、よくわからないがとても怖いイメージを振り払い、元帥の言葉に耳を傾ける事にした。

 

 

 

 

 

「バスターコール?」

「そうだ」

 

 バスターコールってなんだろう? 

 私がよく分かっていない顔をしているのを見ると、センゴク元帥は「ガープの奴、そんな事も教えてないのか」と小声で呟き、どこか呆れた顔をして私に説明してくれた。

 耳が良くて聞こえたけど、耳が痛いから聞こえたくなかったな~。

 未だに海軍の事は部下任せです。

 

 

 バスターコール――海軍本部中将五名と大型軍艦十隻という国家戦争クラスの軍事力を一点に召集する緊急指令。この命令を発動できるのは海軍本部元帥と海軍本部大将、或いは彼らから特例として権限を譲渡された役人のみ。

 

 ふ~ん、中将五人と軍艦十隻で戦争できるんだ~。

 説明を聞いた私の正直な感想はそんな物だった。よくわからなかったし。

 それで、私は少佐なんだけど何で参加するんですか?

 

 

「この間の中将達との試合は、本来はお前の能力を検証するために行われた物だ。少々、予想外のことが起きたが、能力についてある程度の把握はできたので良しとする」

 

 だからいきなりあんな強い人と戦うはめになったんですね。

 因みに私は何も良くなかったです。

 

「今回の作戦への参加は、お前の能力の最大火力を測るためだ。お前の能力が殲滅戦向きなのは、これまでの任務とガープからの報告で理解している。お前に対する命令は只一つ「全力でやれ」だ」

 

 そういや全力で攻撃した事無いや。

 全力でやる必要が無かったし、やれる機会も無かったしね。

 人相手にやる事でもないし。

 

 バスターコールは目標地点への一斉砲撃。確かに私が全力で攻撃しても問題は無い作戦ではあるね。

 どこでやるんでしょうか?

 

「バスターコールの目標は西の海にある考古学の島、オハラ」

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで私の船は今、オハラに向けて航行中。

 実は色んな任務が有ったけど、偉大なる航路から出るのはこれが初めてだったりするので少し楽しみだ。

 移動中は暇だけどね。

 

 それとその楽しみを台無しにするマイナス要素もある。

 青空に向けてる視線をチラリと横を向ければ、他の船が目に入る。私と同じくバスターコールに参加する軍艦だ。

 

 それを見ると自然とため息をつきたくなる。

 なぜなら、バスターコールに参加する中将五名の内、三名が私が五ヶ月前に怪我させた人たちだからだ。

 オハラに着いたらあの人たち怪我させた能力使うのに……気まずいって。

 ガープ中将も来てくれれば良かったのに、任務の皺寄せが終わるやいなや何やら大事な約束があるとどこかに行ってしまっていて、この作戦には参加していない。

 

 どちらにしろガープ中将はこの作戦嫌いそうだし、参加しなかったかもね。

 今回の目標、考古学の島オハラは名前の通り、考古学の聖地と言われ、考古学者達が大勢居る。何故、そんな島にバスターコールが発令されたかというと、その考古学者達が原因である。

 

 歴史の本文(ポーネグリフ)――世界中に点在する、歴史を示した石碑。決して砕けない固い石に特殊な古代文字で歴史が刻まれており、古代文字の知識を持つ者にしか解読できない。そして、世界政府が探索および解読を死罪と定めるほどの重要物でもある。

 

 その歴史の本文をオハラの学者達が研究し、そこに記された古代兵器――太古に滅びたと言い伝えられる古代文明の科学技術で建造された兵器――を復活させようとしているらしい。

 それでその危険な研究と学者達を一掃するためにバスターコールが発令された。

 まだ、研究しているかの確証はないので着いたら直ぐに攻撃する訳でなく、先に到着している政府の諜報部員が証拠を発見してから攻撃するらしいけどね。

 

 

 それにしても古代兵器か~。

 ちょっと古代兵器には興味がある。私の本気とどっちのが強いのかな?

 復活した古代兵器と一騎打ちとかしてみたいな~……えへへ~。

 頭に浮かべた、兵器と打ち合う自分の姿がかっこ良くて、顔が自然とにやけてくる。

 それに、今回初めて全力で攻撃できる私は、能力を使う時の高揚感を想像すると今からワクワクしてきてたまらない。

 私は怪我させた中将達の事なんてパッと忘れて上機嫌になる。

 早くオハラに着かないかな~。

 

 

 

 

 

SIDEOUT

 

 ――西の海にある、全知の樹という巨大な木が島の中心に生えている島、オハラ。

 

 そのありとあるゆる本が集まるといわれる、図書館でもある全知の樹の前の広場には今、この島の誇りであるはずの学者達が有無を言わさずに並べられていた。その周りを取り囲むのは、銃を構える政府の手の者たちであった。

 政府は、学者達が法で禁止されている古代文字の解読研究をやっていたことを突詰め、世界を滅ぼす研究をしているという名目の上、強制調査にでていた。

 ただし、そのやり口は横暴そのものであった。手柄欲しさに、暗躍諜報機関”CP9”の長官、スパンダインが強硬手段を行ったためである。

 

 しかし、それはとても効果的であり、結果、学者達の古代文字の研究結果が発見されてしまった。

 もちろん彼らは世界を滅ぼす研究などしていない。彼らはその有能な頭脳と豊富な知識量から、この世界の歴史がどこか可笑しい事に気がつき”空白の百年”とよばれる歴史の真実を解き明かそうとしていたのだ。

 だが、古代文字の研究は死罪。それが見つかった今、彼らにその歴史を解き明かすチャンスは二度と来ない。だからこそ、最後に彼らのリーダーであるクローバー博士は、彼らが今まで研究してきた”空白の百年”に対する仮説を、古代文字の研究を異常なまでに禁止させる、政府のトップ、五老星に聞かせていた。

 

 

 

 それが自分達の死など生ぬるい、最悪の引き金を引くことになるとも知らずに。

 

 

 

「……全ての鍵を握るかつて栄えたその王国の名は――」

 

『消せ!』

 

 ドォン!!

 

「「「博士!!」」」

 

 五老星と電伝虫を通して会話していたクローバー博士は、スパンダインに銃で撃たれた。

 博士の話す仮説は正しかった。それ故に撃たれた。口にしてはならない事を口にする前に。

 

 

 ――「オハラ」は知りすぎた

 

『攻撃の合図を出せ、誰一人、逃してはならん』

「うわあ~~ん」

 

 博士が打たれた後すぐに、小さな黒髪の少女が泣きながら駆け寄ってきた。その少女の名前はロビン。この島で生まれ育った考古学者の少女だ。話しを聞くと罪になるからと、離れさせていたが、ロビンは心配で遠くからこっそり見ていたのだ。

 この島の学者達が犯罪とされる歴史の本文の研究を密かにしていたのを、未だ八歳の身で有りながらも考古学に深い知識を持ったロビンは知っていた。学者達はロビンには隠しておきたかったようだが、ロビンはハナハナの実を食べた悪魔の実の能力者であり、その能力を使い、歴史の本文が置かれている地下の研究室を覗き見ていたのだ。

 しかし、違法の研究などロビンには関係なかった。学者達は能力者と言う事で島の人から嫌われ、二歳の頃に母が島を出て行ってしまい独りぼっちのロビンに取っての家族同然の人たちだったからだ。

 そして、クローバー博士はそんなロビンの親代わりとも言える人だった。

 

 

 学者達も近寄ろうとするが、政府の者達に銃口を突きつけられ動けない。

 

「ロビン……バカ者。ここにおってはいかん……ハァ、ハァ……走れ!」

 

 クローバー博士は銃で撃たれてもなお、ロビンだけでも逃がそうとロビンに苦しそうに叫ぶ。

 しかし、ロビンは博士にすがりついて言う事を聞かなかった。

 

「……さて、では元帥センゴクより預かったこの”ゴールデン電伝虫”で」

 

 スパンダインは懐から全身が金色の電伝虫、ゴールデン電伝虫を取り出す。

 ゴールデン電伝虫――これこそが三人の海軍本部大将と海軍本部元帥のみが持つ事を許される、バスターコール発動専用の貴重種である。

 

 

 

 

「「バスターコール」だ! 以後よろしく」

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

「暇だな~」

 

 オハラに着いたけど、任務開始まで何もする事が無い。

 最初はでっかい木が生えてる島を見て面白かったけど、船の上で待機していなければならないので上陸もできず、直ぐに飽きた。

 

「うにゅうにゅ」

 

 昼寝をする訳にもいかず、私は手持ち無沙汰になって、むにむに、と白髭の生えた殻が銀色の電伝虫の頬を突く。

 電伝虫って見た目、大きなカタツムリなのに、プニプニしてて微妙に手触りが良いな~。

 電伝虫は嫌そうな顔をしているが逃げる事はせずに黙って受け入れている。

 このシルバー電伝虫が鳴るのが作戦開始の合図らしい。つまりはこの子が鳴くまでやる事が無い。

 

 

 

 

「ヴィヴィヴィーーーーッ!!」

「うっにゅーーー!!?」

 

 いきなりシルバー電伝虫が大きな声で鳴き始めたので、私はビックリして勢い良く頭から転けた。

 あいたたた、甲板にめり込んだ。

 後頭部を甲板から引き抜いて未だ鳴き続ける電伝虫を涙目で見ると、こちらを向いて頬をニヤケさせながら鳴いていた。

 む~、さっきから逃げなかったのはこれを狙ってたな~。

 

 

『バスターコールの要請だ!』

『全艦配置に着き砲撃用意!!』

 

 ヴィー! ヴィー! ヴィー!

 

 他の艦の電伝虫も鳴き出し、拡声電伝虫で湾内に響く様に命令を伝えると、船の上を兵士達が慌ただしく動き回る。

 

 

『バスターコールを発動する!! 一斉砲撃開始――考古学の島「オハラ」その全てを標的とする!!』

 

『オハラの学者達の研究は、我々の想像を超える域に達している』

 

『知識は伝達する、その島から出してはならない。オハラに住む悪魔達を抹殺せよ! 正義の名のもとに!!』

 

 

 ドゴォン、ドゴォン、と他の船から次々に砲撃がオハラに向けて開始される。

 

「ウツホ少佐、我々も砲撃を開始しなければ!」

「? 早く、やりなよ?」

「少佐が命令出さないから動けないんでしょうが!」

 

 えっ、そうなの? ごめんなさい。

 直ぐに命令を出して、私の船も砲撃を開始する。

 なんか、前に文句言われてから私に対する扱いが悪くなった気がする。

 

 

 さぁ、私も見てるだけでなく、砲撃に参加しないとね。

 せっかく、全力でやれるんだし。

 気分よく船から飛び立とうとした時、オハラの近くに二隻の船が停まっているを見つける。

 攻撃して良いのかな、あれ? 

 

「ねぇ、あの船も攻撃対象?」

「いえ、あれは政府の船と避難船だそうです」

 

 避難船ってまだ民間人いるの~? あの船、島から近過ぎ。

 全力がどのくらいの威力があるか分からないし……仕方ないな~、船出るまでは避難船から離れた所に適当に攻撃しとこ。

 

 私はもっと高く飛ぼうとしてたのを止め、船のマストの上当たりに留まる。あんまり高く飛ぶと船が出たか分からなくなるし。

 原子を勢い良く回し、バチバチッと音を立てる不安定な光玉を四つ生み出し、私の周りに滞空させる。

 人相手じゃないので、グングン、と原子の動きを激しくして威力がかなり高めになる様にする。それに比例してグングンと気分も高揚してくる。

 

 

「地獄波動砲」

 

 

 不安定に点滅を繰り返してた光弾が一瞬大きなって一部が弾けたかと思うと、直径一メートル近いレーザーが弾けた光弾と同じく、不安定に火花をまき散らしながら直線状に吹き出す。

 四つレーザーは私が狙った通り島の東辺りにそれぞれ間隔を空けて直撃し、レーザーが当たった部分は炸裂し弾け飛ぶ。そのまま吹き出しているレーザーをそれぞれ自在に東側から中央に向けて移動させ、地面に線を描く様にレーザーで薙ぎ払っていく。

 ある程度レーザーが吹き出ると光弾が消えレーザーの噴出が止まる。

 

 私はもう一度、光弾を生み出し同じ様にレーザーで島を焼いていく。

 能力を使ってるから楽しいといえば、楽しいけど。全力でやれると思ってたから物足りない。

 

 

 

 何度か繰り返し島を焼いて、そろそろ東側の原型が無くなってきたな~と思ったら、やっと避難船が島から出航した。

 

「待ってました!!」

 

 私は声を張り上げて喜び、島の遥か上空に直ぐに移動すると、一度深く深呼吸をして周りの空気を体中で感じた後、核融合を開始する。

 先ほどとは比べ物にもならないほど大量に、そして急速に原子を取り込んで行く。

 あまりにも大量に吸い込んでいるせいで、私を中心に大気が大きく渦まいている。ある程度、核融合をすると左腕を頭上に掲げ、その先に赤く輝く光弾を生み出す。

 すると

 

 

 渦の中心が私からその光弾に代わり、光弾は私の上で徐々に大きくなっていった。

 

 

 

 

 

SIDEOUT

 

 バスターコールが発令された事による、敵味方無視の島全体の爆撃により学者達を取り囲む政府の人間達は、先ほどまで見せていた高圧な態度を豹変させ、学者達などお構いなしに我先にと逃げていった。

 しかし、学者達はなおも砲撃が続くさなか、全知の樹に居残った。全知の樹にある世界中の英知、遥か過去から未来に託されるために綴られた本の数々を砲撃によって起きた火災から守るためであった。

 彼らは自身の命より、学者としての使命を優先したのだ。

 

 そして、その中にはロビンの母、オルビアの姿もあった。オルビアは真の歴史を追い求めるために島を出たのだが、古代文字解読の罪で一度捕まってしまったところ、サウロという海軍の正義を信じられなくなった巨人族の元海軍中将と共に脱出し、このオハラに戻ってきていたのだ。

 しかし、オルビアはロビンを”罪人の娘”にしない様にとロビンを守る為に自ら会う事を拒否し、学者達を捕まえにきたスパンダムに奇襲をかけたところ、逆に捕まってしまっていたが、バスターコールの騒ぎで学者達共々、放置されたのだ。

 指名手配を受けてまで、真の歴史を追い求めるほどの学者だった彼女も、当たり前のごとく、学者の信念のためそこに残ることを決意したが、そのときに問題が生じた。

 

 

 母と再会したロビンが自分も残るといい始めたのだ。いくら学者とはいえ、まだ幼い少女であるロビンにその使命を付き合わせるわけにはいかなかった。いや、つき合わせたくなかったのだ。母であるオルビアはもちろんのこと、ロビンを家族同然と思っているの学者達全員がだ。

 しかし、ロビンは長年会えず、やっと再開した母とも、その家族同然の学者達とも別れたくなかった。

 

 そんな時に現れたのが、サウロだった。なんと、サウロは数日前にオハラに漂着しており、そこでたまたまあったロビンとここ数日交流を持っており、バスターコールが始まり、ロビンが心配になったサウロは混乱に乗じて全知の樹までやってきたのだ。

 

 

 そして、オルビアはサウロに嫌がるロビンを預けその場に残り、サウロはロビンを抱え自分が海に出るために作っていたイカダのある海岸へと逃げ出した。

 しかし、その途中。元同僚であり、親友であった海軍中将青雉、クザンによって、ロビンを守るためにサウロは凍りづけにされてしまう。サウロは凍りづけにされながらも、一人で海に出ることを嫌がるロビンに「いつか必ず”仲間”に合える」と、説得し逃がした。凍りつく最後の瞬間までロビンを安心させるために笑いながら。

 

 

 

 

 ロビンがサウロのイカダのある北西の海岸に辿り着いた時、そこには先回りしたクザンが小舟を用意して待っていた。

 かつての親友サウロが命がけで守った”種”がどう育つのかを見守る為に。

 いざロビンを逃がそうとした時、真っ赤に燃えるオハラの灯りが霞んでしまう程のまばゆい光が頭上より降り注ぎ、あまりの光量に辺りを白く照らす。

 

「……まさか……あの嬢ちゃんか!?」

 

 クザンは焦る様に空を見つめたかと思うと、その顔を驚愕に染める。

 ロビンもつられて空を見上げると、そこには

 

 

 

「……太陽?」

 

 もう一つの太陽がゴォウゴォウと唸り声を上げて浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 ――全知の樹。

 

 世界最大の図書館は軍艦からの砲撃によって今や火の海だった。

 その図書館の中を沢山の学者達が逃げもせずにせわしなく本を持ち走り回っていた。彼らが逃げない理由はただ一つ、世界の遺産である本を一冊でも残す為だ。その中には、ロビンの母オルビアの姿も有った。

 しかし、学者達の懸命な働きもむなしく、火の勢いは衰える事なくそれどころか本を燃やし更に勢いを増していく。

 

「この島はもうダメだ! 全て燃やされてしまう!!」

「本を残すんだ! 伝えるんだ歴史を!!」

「窓から湖へ落とせ! 燃えてなくなるよりマシだ!! 急げ!」

 

 学者達はもはや本を無傷で残すのは無理と判断し、窓を割り本を下の湖に投げ込んでいく。

 

「文献を図書館の外へ!!」

「一冊でも多くの本を! 一冊でも多くの文章を残せ!!」

 

 本が次々と湖に投げ込まれ、湖に本が積み重なっていく。

 

「数千年もの先人達の言葉が……」

 

 

「「「未来へ届く様に」」」

 

 

 学者達は自分たちの体が炎で焼けるのもかまわず、火のついた本ですら素手で掴み湖に投げ込んで行く。

 その最中だった。赤く燃え盛る全知の樹が、よりまばゆい光で白く照らされたのは。

 懸命に本を投げ込んでいた学者達も流石にその異様な光景に目を奪われる。

 割れた窓から見えたのは

 

「アレは……

 

 

 

 

 

……太陽だ」

 

 

 

 

 

 ――島周辺の軍艦

 

 軍艦からは未だ絶えず島への砲撃が続いている。

 しかし、長い間砲撃を受けているはず島はまだそこまで燃え広がっていない。なぜなら当初、十隻も有った軍艦の六隻は怒り狂ったサウロによって沈められてしまったからだ。

 沈められた船の兵士達は既に救出済みだが、一つの船に乗せてある大砲に限りがあるので砲撃が増える事はなかった。

 

 船の上を兵士達が慌ただしく駆け巡っていると、急に甲板が輝いた。もちろん、甲板自体が輝いている訳ではない。あまりに膨大な光量が頭上から降り注いだせいで、甲板が光を反射して輝いていたのだった。

 せわしなく動いていた兵士達は皆一同に立ち止まり、呆然と空を見上げていた。

 

 

 

「太陽が……」

「……二つある」

 

 その視線の先のあまりの光景に、全ての船の兵士達は驚いていた……ただ一隻、やけに島から離れた所から砲撃していた船の兵士達を除いて。

 

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

 グツグツと混ざる。

 

「ふふっ、あははははははは!!」

 

 私が頭上に掲げている左腕の先の光弾は、周りのあらゆる物を吸い込んで巨大化して行き、今やその直径はオハラとそう変わらない大きさまで成長した。

 膨大なエネルギーを制御し続けているせいで、制御棒が溶け出しそう。

 これぞ太陽! 究極の核融合!

 今までも能力を使った時に感情が抑えられない程、気分が良かったけど。あんなもの今の気分に比べれば小火(ボヤ)にも劣る!

 

「さぁ! 地上全てを溶かし尽くす核の炎よ! 究極の核融合で身も心も大地も海もフュージョンし尽くすがいい!」

 

 私は十分に育ちきった光弾をオハラに向けて落とす。

 

 

 

 

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 CAUTION!!   CAUTION!!   CAUTION!!   CAUTION!!   CA

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                「地獄の人工太陽」

 

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 CAUTION!!   CAUTION!!   CAUTION!!   CAUTION!!   CA

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SIDEOUT

 

『退避だ! 全艦退避しろ!』

 

 島を取り囲んでいた軍艦は直ぐさま島から離れて行く。

 

 

 

 

「くっそぉっ! 無茶しやがる!!」

「きゃあ!」

 

 クザンはロビンを担ぎ小舟に乗せると、小舟を壊さない様に遥か遠くに吹き飛ばし

 

「氷河時代(アイスエイジ)」

 

 島と小舟の間に、海を凍らせ何枚もの分厚い氷の壁を作り自分も島から直ぐさま離れる。

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 人工太陽はその質量で何もかもを押しつぶすかの様にゆっくりと落ちて行く。

 ウツホの制御を離れた今でも、太陽の引力で周りの物を一切合切吸い込みながら。

 

 ある程度、島に近づくと破壊された島の一部をも吸い込み、更に巨大なその身を成長させ、成長した人工太陽の熱で島の表面が焼かれていく。

 

 そして、今まさに島の中央にある巨大な木を全部飲み込み、島に着弾したと思った瞬間

 

 

 

 

 ズォオオオオオオオオオン!!

 

 

 

 凄まじい爆風と光が走った。

 

 

 

 

「総員、何かにしがみつけ!」

「うわぁぁぁ!!」

 

 島から離れていく軍艦が吹っ飛ばされるかのような爆風。大型軍艦が横転しそうになるなど、誰も予想だにしなかった。

 

 

 

 

「きゃあああ!!」

 

 氷の壁なぞまるで無意味、と熱風が氷の壁を瞬間的に蒸発させ打ち破る。

 大型軍艦が吹っ飛ばされそうになる爆風に小舟が耐えられる筈もなかったが、ロビンの乗った小舟はかなりの距離を吹っ飛ばされたものの横転する事はなかった。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 しばらくすると、爆風による波も落ち着いたのでロビンは小舟から振り落とされないように潜めていた身を起こす。

 そして、オハラの方向を見たロビンの目に映った物は

 

「あ……あぁ……」

 

 空まで届くほどの巨大なキノコ雲と、島が有った筈であろう所に空いた島と同じ大きさの深い、深い穴だった。その穴は不思議な事に大量の海水が流れ込んでいるにもかかわらず、まるで滝の様にいつまでたっても埋まりはしない。

 

「あ……あぁ……」

 

 あそこには、皆がいた筈だ。本を守る為にお母さんも自分と別れて残った筈だ。とロビンの頭にその時の光景が浮かび上がる。

 

 

『ロビン、「オハラ」の学者なら知っている筈よ。”歴史”は人の財産。あなた達がこれから生きる未来をきっと照らしてくれる。だけど過去から受け取った歴史は、次の時代へ引き渡さなきゃ消えていくの。「オハラ」は歴史を暴きたいんじゃない。過去の声を受け止めて守りたかっただけ。

 

私達の研究はここで終わりになるけど、たとえこの「オハラ」が滅びても

――貴方達の生きる未来を!! 私たちが諦める訳にはいかないっ!!

生きて!! ロビン!!』

 

 

「あ……あぁ……」

 

 しかし、ロビンの母が、学者達が命をかけて守った筈の文献も全て……。

 

 

「あぁあああああああああああ!!」

 

 

 ロビンはキノコ雲に映る巨大な三本足の鳥の影を目にしながら、声がかれるまで泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

「あははははははは、究極のエネルギーに誰もかなうまい! あははははははははははは!!」

 

 

 音も死んだこの地で、どこから聞こえてくる高笑いがいつまでも響き渡り、そこにいた全ての者の心に深く残った。

 

 

 

 




オハラのシーン書くのが異常にだるかった~。原作まんまですしね、書いてても面白くない。
主人公いないから変えようがないし、だからといって全部省くと分けわからないしで、なるべく省略して書いたけど無駄に長い。
この小説読んでる人どうせワンピース読んでるしな~と何度頭に浮かんだことやらw
でもオハラ視点もあった方が盛り上がるから頑張った。

はい、バスターコールあらずお空コールです。自重しませんでした。多分たたかれるw

ロビンのトラウマがバスターコール=ウツホになりましたw

最初からぶっ放した方が早かったけど、ロビンを生存させるために色々時間引き延ばしたりしないといけないから、結局原作とほとんど変わっていませんね~。多分これっきりなので許して。

地獄の人工太陽かサブタレイニアンサンかぺタフレアか迷いましたが、やはり最大出力の技はウツホの代名詞ともいえるスペルにしました。

島消えそうって感想でも言われてましたが、島消えるどころか穴あけましたw エニエスロビーと同じです。

神の名を持つ古代兵器
プルトン=プルート。ポセイドン。が島一つを消し飛ばす威力があるらしいので、ヤタガラスという神の炎を持つウツホも!
とやっちゃいましたw
正直やりすぎた。

二つ名は、原作どおりにしました。センゴクから別のを貰ったのですが、「私なら二つ名はこれしかない!」と押し切りました。オハラの後はまさに地獄でしたので、一応あってるからと許可貰ってます。

東方知らない人への設定

地獄の人工太陽:吸引能力の有るエネルギー体を
        前方へ射出し、空が断続的に
        エネルギーを注入し続け大きくする
        ウツホの代名詞でもある大規模攻撃

CAUTION!!:ウツホがスペルを使う時にでる警告。
      


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11話ー番外編:部下

11話を執筆中に文字変換したらソフトがフリーズして、半分近く書いてたデータが吹っ飛んで泣きそうになった。

今回は番外編です。

あとがきにお知らせあります。

誤字修正いたしました。
空さん、younoさん 
誤字報告ありがとうございます。



――オハラ消失の約一年五ヶ月前

 

 海軍本部のとある船の上で数十名の兵士達が集められていた。

 彼らは新たに編成される隊のために集められた兵士達で、数名を除いてそのほとんどが訓練上がりの新兵だ。

 今、彼らはこれから自分達が任務で使う事になる予定の船の甲板で整列し、自分たちの隊の隊長になる人物を持っていた。

 しかし、隊長を迎える筈の新兵達のその顔は優れず、不安そうにお互いに囁き合っている。

 

「俺達の隊長って新米の少尉なんだろ?」

「任務に就いた事もないらしいな」

 

「聞いた所によると、訓練時に問題起こした奴らしいぞ」

「一応、曹長がいるけど、無茶な事言われないと良いが」

 

 これから偉大なる航路で任務をする新兵達にとって、経験のない新米の隊長と言うのは頼りないものだ。しかも、訓練時に問題を起こしたと言う噂もあるのだから、彼らが不安になるのも無理はない。海軍には階級を盾に無茶な命令をする者がいる。今回の隊に集められた兵士は数名を除いて新兵達とほとんど階級に差がなく、彼らの中で一番階級が高くて曹長なのだ。新米と言えど少尉には強く意見はできない。

 海賊も増えて来たこの時期に、そんな隊長の下に就かなくてはいけないのかと、不安を隠せずにいた。

 

 

 そんな状態で兵士達がこれから来る筈の隊長を待っていたが、いくら待てども目的の人物が来ない。

 仕方なく、隊長の人相を知っている曹長と数人の兵士が探しにいく事になった。

 他の兵士達は甲板からは出てはいないものの列を崩し、所々に集まり、お互いに更に募った不安を口にしていた。

 

「いくら階級が上だからって、新米のくせに時間も守らないのかよ」

「先が思いやられるな」

 

「これは問題起こしたっていうのは本当かもな」

「そんな奴の下に就かないといけないなんてついてないな」

 

 

 兵士達が甲板でそうやって話し合っていると、キョロキョロと辺りを見渡し、恐る恐る歩いている少女が船に乗って来た。

 少女は海軍基地に似つかわしくない格好――変わった靴に、緑のスカートを履き。胸に目のような赤い飾りをつけ、マントを羽織っている――していた。

 そんな少女に兵士達が気づかない筈もなく、直ぐに少女に話しかける。

 少女は間違って乗って来たのだろう。これから曹長達が厄介な隊長を連れてくるのだ。このままだと、少女も自分達も因縁を付けられるかもしれない。と

 

「おい、お嬢ちゃん」

「勝手に乗って来ちゃダメだよ」

「直ぐに降りた方が良い」

「ここにはそろそろ怖い方が来るからね」

 

 兵士達が声をかけると

 

「う、うにゅ? また間違えちゃったのかな? ここ船多過ぎてよく分からないよ。中将も適当に言うんだもんな~」

 

 と少女は愚痴を吐いている。

 やっぱり間違って乗って来たらしい。

 兵士達は少女にどの船に乗るつもりだったか聞いて、それを教えてあげようとすると

 

「時間かなり過ぎちゃったし、初日からこれじゃあ部下に示しがつかないよ」

「へ?」

「ぶ、部下?」

「もしかして……」

 

 

「少尉! 探しましたよ!」

 

 隊長を捜しにいっていた曹長達が戻って来て、少女に驚きの言葉をかけた。

 突然の事で兵士達が呆然としている間に、曹長が少女に敬礼しながら、二、三言葉を交わすと全員に整列する様に叫ぶ。

 それに対し、甲板にいた兵士達も呆然としていた兵士も直ぐに少女の前に整列する。

 

「全員! 霊烏路空少尉に敬礼!」

 

 少女の横にいた曹長がそう命令すると、兵士全員が少女に対し敬礼をする。

 命令で反射的に敬礼をしてしまったが、曹長を除いた隊長の事を知らなかった兵士達は

 この女の子が俺達の隊長? と考えていた。

 どんな厄介なのが来るのかと構えていたが、まさか年端もいかない少女が来るなどとは考えてもいなかった。

 

 

「海軍本部少尉、霊烏路 うにゅほでしゅ! これからよろしゅく!」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

「……また噛んだ……」

 

 少女――ウツホは膝と両腕をつき、背の羽は悲しむかの様に項垂れ、落ち込んだ。

 その時、曹長を含む全ての兵士達の心は一つにだった。

 

 

 

『『『『『また、なんだ』』』』』

 

 問題を起こした厄介者が来るほうがマシだったかもしれない。と思った新兵達であった。

 

 

 

 

 

「しっかし、参ったよな~」

「あんな子が俺達の隊長とは」

「これからどうなるやら」

 

 数名の兵士が船の廊下を歩いている。

 多少の問題は合ったが、あの後無事に巡回任務に就き、船は偉大なる航路を航行していた。

 

「巡回任務って、もし海賊なんて発見しちまったらどうなるんだ?」

「今の時期、発見しないわけないだろ。商船より海賊船の方が多いんだぜ?」

「てっことは?」

「曹長ぐらいしかまともに戦えないだろ、あの少尉じゃあな~」

 

 兵士達は、軍艦に乗っているはずなのに、まるで沈む事が決まった泥船に乗り込んだような気になってくる。

 

「おっ!」

 

 ドンッ、と会話に気を取られていた兵士達の一人が廊下を掃除をしていた兵士とぶつかってしまう。

 気を取られていて前方を見ていなかった自分が悪かったが、兵士は気落ちしていた所に雑用にぶつかって苛立つ。

 

「おい、気をつけろよ!」

 

 ぶつかった兵士は、八つ当たり気味に背の低い海兵の襟元に掴みかかる。

 

「うにゅ?」

 

 掴みかかった時に目深に被った軍帽から雑用の顔が除くと、そこには不思議そうな顔をしたウツホの顔があった。

 海兵の服を着ているが、よくよく見れば、背中にマントを羽織っている。

 

「しょ、少尉!? 申し訳ありませんでした!」

 

 掴みかかった兵士はそれに気がつくと直ぐに手を離し、敬礼をする。一緒にいた兵士達もそれに続き敬礼する。

 それに対し、ウツホは気にしくて良いよ、と手を振り、よれた襟元を直す。

 

「な、何故、少尉が掃除などを?」

 

 兵士は、上官に掴みかかってしまった焦りから頭を占める疑問をとっさにウツホに問う。

 ウツホは襟を直し終え、襟を掴まれた時に落としたモップを手に取ると、また不思議そうな顔をしてそれに答えた。

 

「船乗ってるときって、掃除以外に何かやる事あるの?」

「「「は?」」」

 

 帰って来たのはあまりに予想外の解答だった。

 兵士達は一度お互いに顔を合わせ目配せをすると、兵士の一人がおずおずと答える。

 

「掃除するのは雑用の仕事で少尉の仕事ではないかと」

「そうなの? じゃあ、何をすればいいの?」

「え~と、隊の書類とか、船全体の管理とか……」

「私、掃除以外に船の事何もできないよ? 書類とかよくわからないし」

「……」

 

 絶句。まさかここまで頼りにならないとは。

 兵士はこのまま黙っている訳にもいかず、だからといって何を言っていいのかわからず、場を流すために口を開く。

 

「と、取りあえず、掃除は雑用にお任せください。道具は片付けておきますので」

「そう? せっかく着替えたのに」

 

 ウツホは掃除道具を取られると、「なにをしようかな~」と言いながら去って行った。

 

 その姿を見て、兵士達は更に不安を募らせるのだった。

 

 

 

 

 

 ウツホの船が海軍本部から出港して数日後、偉大なる航路を巡回していると

 

「ん?」

 

 見張りの兵士がとある船を発見する。

 発見した船を確認しようと望遠鏡を覗き込むと、兵士の顔がドンドン青ざめていった。

 

「おい、どうした?」

 

 それを見ていた他の見張り役の兵士が不信に思い声をかける。

 

「か、かっ!」

「か?」

 

 望遠鏡を覗いていた兵士が驚きで開ききってしまった口を何とか動かし、答えようと無理矢理に声を出す。

 

 

「海賊船だ! 二本の爪を構える髑髏のマーク!」

 

 何とか言葉にした声は、勢いがついたせいか大きな叫びとなり甲板まで響く。

 それを聞いた兵士達は同じ様に顔を青ざめ、口を開いて固まる。

 

「相手に食らいつく二本の爪……」

「懸賞金、五千六百万ベリーの凶悪犯、ホーニッド・ウォンの海賊船だぁー!!」

 

 固まっていた兵士の中の誰かが叫ぶと、甲板の兵士達はパニックに陥る。

 それも無理はない。ホーニッド・ウォンは残虐で有名な海賊であり、海軍相手でも積極的に攻撃してくる海賊だ。しかも、五千万ベリーを超える大物の賞金首。新米の少尉と曹長、それに乗組員のほとんどが新兵しかいないこの船に勝ち目などある訳がない。

 

 

 

 ドォン!

 

 近くで波が立ち、船が揺れる。

 海賊船が撃って来た砲弾が船の近くに着水したからだ。

 

「撃って来たぞー!」

「どうするんだ!?」

「俺に聞くなよ!」

 

 パニックになっていた兵士は海賊船からの砲撃で更に慌ててしまい、全く対応できていなかった。

 

 

「うるさいな~、どうしたのよ?」

 

 大慌てな甲板に場違いで眠た気な声が通る。

 その声のした方向に目を向ければ、眠た気に片手で目をこすっているウツホの姿がある。

 実は、ウツホは結局やれる事がないので船の屋根の部分で日光浴兼昼寝をしていたのだが、この騒ぎで甲板に降りて来た所だった。

 そんな気の抜けたウツホの様子に一瞬呆気にとられながらも、それどころではないと兵士は今の状況を伝える。

 

「か、海賊です! 少尉! どうしましょう!?」

 

 切羽詰まった様子で兵士が必死に叫ぶが、ウツホは「うにゅ~」と変な欠伸をして気に留めた様子もない。

 その頼りない様子に、兵士達のウツホに対するただでさえ低かった評価はこれ以上ないくらいまでに下がった。

 そんな中、欠伸が終わったウツホが未だ眠そうな口調で

 

 

「海賊なら捕まえないと……」

 

 等と言い出す。

 ドカンドカンッ、と海賊船から砲弾が近くに着水し船が揺れ、場慣れしていない兵士達の精神を削る中にそんな発言。

 理不尽な命令で死んでいく海兵も確かにいるが、これは酷い。

 現状を何も理解できていない無能な上司のせいで死んでたまるか。と兵士は更に必死な形相でウツホに叫ぶ。

 

「できる訳ないでしょう! 相手は懸賞金五千六百万ベリー、あの残虐で有名なホーニッド・ウォンですよ!?」

 

 その叫びに流石に驚いたのか、ウツホは眠た気に閉じていた目を開き、その大きな目をパチパチと瞬きしながら、驚いた顔で答える。

 

「えっ? できないの?」

「当たり前です!!」

「確かに、五千六百万ベリーは戦うとキツイか~」

 

 仕方無さそうに呟くウツホに対して、兵士は「キツイって、どう考えても無理だろうが」と突っ込みたい気持ちを飲み込む。

 しかし、その様子に兵士達は安堵する。少なくともこれで無茶な命令で死ぬ事はないのだから。

 そう兵士達は思っていた。が

 

 

「じゃあ、戦わないであの船を沈めましょ」

 

「「「「「は?」」」」」

 

 まさか白兵戦で勝つのは無理でも、砲撃戦ならば勝てるとでも勘違いしているのか。と兵士達は考え、慌てて止めようとすると

 

 

「よいしょ、っと」

ブォン。

 

 ウツホがマントに右腕を突っ込み、勢い良く引き抜く。その右腕には先ほどまでは無かった茶色い六画形状の棒――制御棒が付いていた。

 ウツホの急な行動に兵士達が呆然としていると、ウツホは制御棒の付いた右腕を海賊船に向け、左手を添えて構える。

 そして、制御棒からキュゥンという何かをためているような独特な音がしたかと思うと、凄まじいジェット音と共に制御棒から一筋の光――レーザーが海賊船に真っ直ぐと伸び、突き刺さった。

 

 

 

 

「「「「「えっええええええええ~!!?」」」」」

 

 

 その光景に兵士達の誰もが驚愕する。

 しかし、ウツホはそれを気にした様子も無く、撃つ度に少しづつ右手を動かしながら、立て続けにレーザーを海賊船に打ち込む。

 

 

 ドォォオオオオオン!

 

 ウツホが六発目のレーザーを海賊船に叩き込んだ時、海賊船が爆発した。

 レーザーの余熱で船に積んであった砲弾が連鎖的に爆発したのだろう。船は中から弾け、炎をにくるまれながら海へと沈んでいった。燃えていく海賊旗がどこか冗談の様にも見えていた。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 兵士達は現在目の前にしていても、信じられない光景に沈黙するしか無い。

 

「じゃあ、海に落ちた海賊の回収はよろしくね」

「へ? は、はっ!」

 

 兵士達の動揺など知ったものかとウツホはそう告げると、先ほど降りて来た屋根の上へと戻っていく。

 

 

 

「あっ、折角だから色々、技試せば良かった」

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで気を抜くなー! 怪我をしていても相手は海賊だ!」

 

 ウツホが戻った後、とっさに返事はしたもののどうしたものかと兵士達が戸惑っていると、騒ぎを聞きつけた曹長達が甲板に来て兵士から事情を聞きだし、戸惑っている兵士達に一喝し直ぐに海賊捕縛の指揮を取り始めた。

 

「そっちの縄、持って来い!」

「うわっ! こいつの怪我ヤバいぞ!」

「船医、早く手当てしてやれ! 死なれると厄介だ!」

 

 海に落ちた海賊達は皆酷い怪我と火傷を負っており、抵抗はほどんど無く回収は速やかに行われていた。

 奇跡的にレーザーが直撃したものはいなかったが、その余波や爆発に巻き込まれたのだ。今の所死人は出ていないが、放っておけば死ぬであろうものも多かった。

 

 

「あ……あァ……」

 

「おい、あれ見ろよ」

「あれもしかして、ホーニッド・ウォンか?」

「げぇ、血塗れじゃねか」

 

 新たに引き上げられた海賊は全身に船の残骸が突き刺さり、酷い有様だった。その海賊はたった今壊滅した海賊団の船長で残虐と名高い、ホーニッド・ウォンの成れの果てだ。

 この惨状をあの頼り無さそうな新米の少尉があっさりと引き起こしたとは今でも信じられない兵士達だった。

 

 

 

「うわぁぁああ!」

「でめぇら、よぐもやっでぐれだなぁ!」

 

 この怪我ではとても動けないだろう。という兵士達の隙をついてホーニッド・ウォンが兵士達の拘束から逃れる。流石は五千万越えの賞金首と言った所だが、動くたびに体中から血を吹き出していて無理に動いたりなどしたら死んでしまうのは明らかだ。しかし、そんなのは関係ない。

 彼はただ今まで通りに、やられたらやり返す。その一心で動いているのだから。

 

「何をやっているんだ! 早く取り押さえろ!」

 

 曹長の命令で、何人もの兵士達がホーニッド・ウォンを押さえ込みにいく。

 

「あぁぁあ!! じゃばだー!」

「「「ぐぁあああ!!」」」

 

 しかし海賊の意地か、どこからそんな力が出るのかホーニッド・ウォンは押さえ込みに来た兵士達をまとめて吹っ飛ばす。

 兵士達を吹っ飛ばしたホーニッド・ウォンはそのまま兵士達が持っていた剣を奪い、一人でも多く斬り殺そうと振り回し始める。

 

「曹長! 手がつけれません!」

 

 もはや、ほとんど意識なんてないだろう。ただ、暴れる。彼はそうやってこの偉大なる航路を生きて来たのだから。

 もはや仕方ないかと、曹長が射殺命令を出そうとした時、ふよふよと直径一メートル程の、二つのリングに囲まれた半透明の光弾がゆっくりと、暴れるホーニッド・ウォンに近づいていった。

 もちろん感情のまま暴れ回っているホーニッド・ウォンがそれを無視する訳無く、持っていた剣で切り掛かる。

 

 

「がばっ!!」

 

 光弾に剣が当たった瞬間。バチンッ、と青白い火花が散ったかと思うとホーニッド・ウォンが吹っ飛び、そのまま船の壁にめり込み気絶する。

 

 

「これ火も出ないし、使い勝手良いかも」

 

 一部始終を見守っていた兵士達を他所に、船の入り口の屋根の上から機嫌良さそうなウツホの声だけが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ホーニッド・ウォンの海賊団を壊滅させてからも、ウツホの船は何度も巡回任務で海賊船と遭遇したが、その度に圧倒的火力でウツホが壊滅させていった。

 その容赦のない姿に兵士達は当初、恐怖に近い感情を抱いていたが

 

 

 

 ――とある日、昼間の甲板

 

 航海中のウツホの船の上、数名の兵士がモップブラシで甲板を掃除しながら会話をしていた。

 

「この間の少尉もすごかったな~」

「どんな海賊団でも発見して数分もせずに壊滅だもんな~、普通じゃあ考えられないぜ」

「あぁ、最初はどうなるかと思ったけど、良い船に乗ったな俺達」

「もしかしたら偉大なる航路にいる海軍船で一番安全かもな」

 

 と笑い合う。

 会話の内容は自分達の上司、ウツホの先日の活躍についてだ。

 既にウツホは数ヶ月で幾つもの海賊団を壊滅させており、その姿を目の当たりにしていた部下達の評価も底辺から鰻登りに上がっていた。

 しかし、笑い合っている兵士達の中には表情の優れないものもいる。

 

「でも、少尉怖くないか?」

 

 顔の優れなかった兵士が、ポツリとそう呟く。

 

「は? どこが?」

「お前らだって回収する時の海賊達の姿を見てるだろ?」

「確かに酷い有様だけどよ、相手は海賊だぜ? それとも無傷で捕まえられるとでも思ってんのか?」

「いや、そうは思わないけどさ。少尉……笑いながらやってるだろ?」

「「「……」」」

 

 その言葉に先ほどまで笑いながら答えていた兵士達も二の句を告げなくなる。確かにその通りだからだ。

 ウツホが海賊船を沈める時は、普段からは想像もできない程の凶悪な笑みを浮かべて、さも楽しそうに笑い声を上げて行っている。

 ウツホが壊滅させた海賊達を回収して、酷い有様を実際に目の当たりにしている兵士達に、その惨状を楽し気に引き起こすウツホに対して恐怖を抱くものがいるのも仕方が無いだろう。

 彼らは海軍であり、海賊ではないのだから。

 

 

 ゴトンッ。

 

 とその時、甲板の上に何か固いものが落ちた音が突然響き、驚いた兵士達は音のした方向に目をやる。

 そこには何か白いものに包まれた大きなものが落ちていて、それはかすかに上下に動いていた。

 

「なぁ」

「あぁ」

 

 それを目にした兵士達はそれに近づいてみると

 

 

 ゴロン、っとその物体が突然動き、その物体を包んでいた白い布が捲れる。

 

「すぅ~」

 

「「「「……少尉」」」」

 

 落ちて来たのは屋根の上で寝ていたウツホだった。落ちて来た所の甲板が軽くへこむぐらい強く打ち付けたのにも関わらず、目を覚まさずに気持ち良さそうに眠っている。

 兵士達は先ほどの話しを聞かれたかとも思ったが、ウツホの熟睡している様を見てそれは無いと安堵する。

 

「おい、どうする?」

「起こした方が良いんじゃないか?」

「じゃあ、起こせよ」

「ええ!? 俺がか!? お前やれよ!」

「何で俺なんだよ!」

 

 先ほどまでウツホの事を悪く言っていたうえ、その怖さを再確認してしまっていた兵士達は今はなるべく関わりたくない。だからといってこのまま甲板に寝かせて置くというのも気が引けてしまい、お互いに役目を押し付け合う。

 

 

「すぅ~、うぅ~ん」

 

 その兵士達の騒ぎ声をうるさく感じたのか、仰向けになっていたウツホは自分の羽に寝ながら器用にマントごと包まり、顔以外は外から見えない形に身を抱え、より寝心地の良い体勢へ移る。その姿は端から見ると卵から顔を出した雛の様にも見えた。

 そして

 

「えへへ……」

 

 寝心地のいい格好に移ったおかげか、ウツホは寝ながら見た目の年相応の可愛らしい笑みを浮かべる。

 

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 

 ――また、とある夜まじかの甲板

 

 薄暗くなった甲板では数名の兵士が這いつくばって何かを探しており、甲板の入り口辺りには荷物を抱えた兵士達がそれを見守っていた。

 

「お~い! 見つかったか~?」

「いや~だめだ~、暗くて見つからない。灯り持って来てくれ~」

「ったく、倉庫の鍵を落とすなんてな……」

 

 仕方ないと、兵士の一人が灯りを取りに行き、残りの荷物を持った兵士達も荷物を置いて捜索に加わる。

 しかし、日もくれてしまい中々見つからない。

 もう、灯りが無いとダメだと諦めようとした時

 

 

「はい、灯り」

 

 とうずくまって鍵を探していた兵士達の手元が明るく照らされた。

 

 

「おぉ、助かっ……って!! あっちぃいいいい!!」

「ぎゃぁああああ!!」

「火花が、火花が!」

 

 シュゴォオオ、っと火を噴いている”灯り”の元から飛び散った火花が兵士達に降り掛かり、兵士達はそれに焼かれ慌てて逃げ出す。

 その”灯り”を持っている人物――ウツホは不思議そうな顔で逃げ出した兵士達を見ている。

 

「灯りいらないの?」

 

「「「「使えるか! そんな危ないもの!!」」」」

 

 思わず兵士達は階級の差を忘れて突っ込む。

 そう言われて、ウツホはふてくされた様な顔をして、兵士達を照らしていたレイディアンドブレードを消す。ウツホ自身は熱さを感じないので火花が当たっても気がつかなかったが、レイディアンドブレードは制御棒の口から既に周りに火花を散らしてるので、そんな物を近くで灯り代わりに使われてはたまったものではない。

 

 

 

 ブスブス。

 

 

「?」

「?」

「うにゅ?」

「?」

「?」

 

 ボッ! 

 

 

「「「「「おぉおおおお!?」」」」」

 

 

 どこからか焦げた臭いと音がしたかと思うと、甲板の至る所から火の手が上がる。

 先ほど散った火花の高温で船が燃え始めたのだ。

 いきなりの事でそこにいる全員が驚くが、レイディアンドブレードで熱せられた甲板は思いのほか火の手が回るのが早く、ドンドン火が激しくなった。

 

 

 

「「「「「「し、しししししし消火だぁああああ!!」」」」」」

 

 

 

 その騒ぎは船の乗組員全員を巻き込んで、夜中近くまで続いた。

 その結果、元々の原因である鍵を落とした兵士も罰を与えられたが、ガープ中将に何か有ったら報告しろと言われていた曹長に兵士達の前でウツホは泣きながら謝る事になった。

 涙目で必死に謝るウツホの姿。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 

 食堂ではニコニコと可愛らし気な笑みを浮かべて、嬉しそうに食事をする姿。

 サインをしなければいけない書類を忘れ、ガープ中将に怒られてへこんでいる姿。

 いつのまにやら、雑用に代わって楽しそうに掃除をしている姿。

 

 

 

「「「「「……か、かわいい」」」」」

 

 

 そんな戦闘時の頼りになる姿と普段のどこかほっとけない姿のギャップ。

 男所帯の船の上では、ウツホが兵士達にとって”手のかかる妹……のような上司”という認識になるのにそう時間はかからなかった。

 力への恐怖などそんなウツホの前には有って無い様な物だった。

 

 

 昔から「かわいいは正義」と言う通りに。

 

 

 

 

 一年も立てば、兵士の全員が最初では考えられない程にウツホに対して大きな信頼を置いていた。ウツホと一緒ならどこまでも着いていくと言っても良い程に。

 そしてウツホの階級が大尉になると、部下の者達の階級も何人かは上がり、副官である曹長も少尉へと昇進した。

 

 だからといってその昇進が完全におこぼれと言う訳ではない。

 海賊のほとんどをウツホ一人で片付けてはいるが、一年も巡回しておれば部下の者達も何度か戦闘に駆り出されるのは当然であった。海賊を回収する時にも、まだ反抗する者も少なからずいたし、陸地の町などでの戦闘だとウツホ一人で戦うと言う訳にもいかなかったからだ。

 一年前に新兵だった者達も、今や立派な海兵だと言える。

 

 

 しかし、その更に数日後に任務が巡回任務から討伐任務へと急に変わり、前とは比べ物にならないくらい忙しくなった。

 討伐任務ともなると、相手をする海賊の強さも危険度も飛躍的に上がる。

 そして、そんな命がけの任務が終われば、また次の任務。とあまりの忙しさで船も兵士達も疲労が溜まっていった。

 

 

「あ~、キッツイな~」

「何で、いきなりこんな忙しくなったんだ? 手柄を立てすぎたからか?」

 

 またもや討伐任務を受けてとある島にいた海賊を捕縛し、海軍本部に向かっている船の廊下で、疲れが溜まっている兵士達がつい愚痴を吐いてしまっていた。

 それに対し兵士の一人がコソコソと答える。

 

「噂だと、大尉がとある中将に怪我を負わせてしまったらしいぞ」

「えぇ!? そんなバカな! 中将に怪我させるなんて……いや、大尉なら……」

 

「「「「ありえるな」」」」

 

「と言う事は、俺達が忙しいのって」

「あぁ、大尉の皺寄せだな」

 

「「「「まったく、あの人は」」」」

 

 と皆、溜め息をつきながら廊下を歩いて行くと

 

 

 

 ズゴッ、と何かがめり込む音。

 

 兵士達の数人がどこかデジャブを感じ、他の兵士達も嫌な予感をしながら後ろを振り向く。

 そこには想像していた通り、着替えてモップを持ちながら船の廊下に頭をめり込ませているウツホの姿があった。

 

 メキッ、ベキキキキキ、と頭をめり込ませたまま、ゆっくりと倒れ込んでいく。

 

 兵士達は聞かれてしまった事に焦り小声で話し合う。

 

「おい! なんで気がつかなかったんだ!?」

「それなら、お前もだろ!? 会話に夢中だったし、着替えてて分かんなかったんだよ!」

「今の聞いて、大尉ショック受けて落ち込んで……アレは、落ち込んでるんだよな?」

「うっわ~、頭をめり込ませたまま倒れたから、壁に床に向かって一直線に穴あいてるぞ」

 

「うっ」

 

 ビクリと倒れ込んでいた、ウツホの体が動く。

 それにヒソヒソと小声で罵り合っていた兵士達はピタリと会話を止めてウツホに目を向ける。

 

 

「ウワーン、私だって泣きたいよー!」

 

 とウツホは叫ぶと、泣きながら文字通りに飛んで逃げて行った。

 

 

 

 

「「「「大尉……」」」」

 

 そのウツホの姿に、ウツホを責めるつもりは無かったが罪悪感を覚えてしまった兵士達だった。

 それと

 

 

「「「「……壁が」」」」

 

 穴の空いた壁がウツホの羽の突風をまじかで受けて完全に剥がれ、そこには大穴が空いてしまっていた。

 兵士達は、そこから覗ける青い海と空を途方にくれて見つめていた。

 

 

 

 

「「「「「「「「なにぃいいいい!? 大尉一人で先に行ったぁああ!?」」」」」」」」

 

 その後、海軍本部には無事に着いたが、船の整備が追いつかないと新しい任務にウツホだけが先に行く事となり、後から船が追いかける形となっていた事を聞いた部下達が叫ぶ。

 叫び終わると兵士達は急に不安げな顔つきになり、各々ブツブツと口を開く。

 

 

「あぁ~、大尉、絶対に迷ってる」

「永久指針持ってるのに、泣きながら海の上さまよってる」

「やっと道が分かっても、急いでいこうとして気づか無いうちに能力で周りに被害出してる」

「それどころか、そのせいで永久指針と指令書、燃やしてしまっているかも」

「そして、目標の海賊倒した後にそれに気がついて、どうして良いか分からずに泣いてるかも……」

 

 

 

「「「「「「「「ありえる!!」」」」」」」」

 

 兵士達は整備中の船など待っていられるかと、他の船の使用許可を取りに走る。

 普通ならば緊急でもなければ、その日のうちに他の船の使用許可などまず降りないが、どうやって手に入れたのか少尉がどこからか許可書を持って来て、今までに無い程の手際の良さでウツホの後を追いかけていった。

 

 

 

 

 そんな怒濤の任務の日々は五ヶ月後、やっと途切れを見せた。といっても討伐任務が終わっただけで別の任務に既に就いているが。

 今やウツホの船は他の軍艦と共に、普段ならまず通らない凪の帯を航行し、その目的地に向かっていた。

 

 

 西の海への極秘任務――バスターコールだ。

 

 

 怒濤の討伐任務の嵐が終わったかと思えば今度は極秘任務。

 隊が設立してたった二年間でこれだけの事をする船も、いくら海軍本部とはいえそうはないだろう。

 その過剰スケジュールのおかげか、隊長のウツホも部下達もまたもや昇進。ウツホは少佐に、副官の少尉は中尉になり、乗り込んだ時は三等兵だった新兵達も一等兵や中にはもっと上の階級についた者もいる。

 

 通常ならば、このように部下まで一様に昇進する事はまず無い。部下達までこの速度で昇進するのはこの船ぐらいのものだ。

 その理由はウツホのおかげで通常ではこなせない数の任務をこなしているのもあるが、新兵の数の多さが一番の理由だ。元々、ここまで新兵の多い船は異例だった。偉大なる航路は経験が無ければ非常に危険な海だ。まず一部を除いて新兵ばかりの部隊など機能する筈がない。

 しかし、誰の思惑か考えるまでもないが、その機能する筈のない部隊が設立され、なおかつ通常の部隊よりもうまく機能してしまったのだから驚きだ。成果を上げれば、新兵だらけなのだから階級も皆あがるというものだろう。

 

 

 

 新兵ばかりと言う事は、海軍の船でもめったに通らない凪の帯などもちろん通った事も無いので

 

 

「「「「「ぎゃぁああああああ!!」」」」」

 

「グゥオォオオオオオオ!!」

 

 ほとんどの乗組員が船の何倍もある大型の海王類など初めて目にする。

 海軍の船の底には海と同じエネルギーを発する海楼石が埋め込まれており、凪の帯でも海王類に気がつかれない様になってはいるがそれも絶対ではない。

 襲われる危険性はある。といっても

 

 

 

 ジュゥウウウウウ!!

 

 この船には関係ないようだが。

 海面から出て来た、魚類とほ乳類が混ざったような姿をした海王類が船を襲う前に、その大きな頭を丸ごと包むような光弾に焼かれて死に絶える。

 死んでしまって船の横にプカプカと浮くその死骸を

 

 

「これ食べれるかな?」

 

 とその海王類をしとめた張本人――ウツホが指を加えて食べたそうに見つめていた。

 

 

 

 ウツホの船はオハラに着くまでに数匹の海王類に襲われるという運の無さだったが、その度にウツホが仕留めてコックに料理させていた。

 因みにウツホは美味しそうに食べていたが、兵士達は誰も食べてはいなかった。得体の知れないものを口にしても大丈夫なのは少佐だけだろうと皆言わずとも理解していたからだ。

 兵士達はそのウツホの姿を見て、ある意味お腹いっぱいでは有ったが。

 

 

 

 兵士達は、オハラに着けば興味津々と行った様子で作戦を忘れオハラを見物しに乗り込もうとするウツホを止めたり、止められて仕方なく船の周りから辺りを見渡すウツホがどこか行かない様に見張ったり、結局やる事が無くて暇そうにしているウツホにシルバー電伝虫を渡したりと、任務までの時間をこれまたある意味、有意義に使えていた。

 また、作戦が始まれば、一気に雰囲気が変わるウツホに皆敬慕の念を抱きつつ、ウツホに命令された通り島からなるべく離れた所で砲撃を開始する。

 

 

 

 

 そして、今、頭上には巨大な太陽。

 誰もが驚くその光景にウツホの船の兵士達だけが、静かにその光景を見つめていた。先ほど飛んで行った自分達の隊長の仕業だと全員が理解しているからだ。そしてあの太陽がとてつも無い威力を秘めているだろう事も。

 この時、オハラの消失を想像していたのは彼ら以外は誰一人としていなかった。

 

 

 太陽が落ち、オハラの有った場所には巨大な穴、空まで届きそうな巨大なキノコ雲。辺り一面には灰が黒い雪の様に降り続ける。

 キノコ雲に映る歪な三本足の鳥の様な姿。場違いな楽し気な笑い声が音も死んだこの場所にどこからか響き渡る。

 

 その地獄の様な光景をその場にいた者達が深く心に刻んでいた時に、ウツホの船の者達だけが全く別の事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「笑ってないで早く降りて来て欲しい」」」」」」」」

 

 

 彼女がいないと船が動かせないのだからと。

 

 

 無茶苦茶なウツホの元で一年半近くも働いている部下達は、どこの船の兵士達よりも逞しく成長していたのだった。

 




今回は予期せぬトラブルで更新が遅くなってしまいました。

今回は部下達から見たウツホの話ですね。
ウツホは自分ではしっかりやってるつもりでしたが、実はあんまりしっかりやってなかったみたいな事を書きたかったです。

今回の話のほとんどが皆様の感想からの妄想でできていたりしますw

数日前からアクセス数がおかしいw
1日にユニーク1000近くとか、当初の目標だったのに連日越えていてびっくりですw
お気に入り500近く、感想も90越え。
ユニーク25000近く、PVに至ってはは205000近く。
このような駄文に本当に嬉しい限りですw


!!ちょっとアンケートです!!
前から感想で幼少期ルフィとの接点あるの?
といわれてたんですが、幼少期に会ってた方ががいいですか?
あっても無くても、二通りのパターンは考えてあるのでどちらでもいいんで、アンケートします。
麦わら一味とのつながりは、ロビンとルフィ以外は作らない予定ですので、皆さんの意見がほしいです。



!!!お知らせです!!!

前に書いたとおり、ちょっと問題が起きてしまい。年末年始が忙しくなってしまい、二月辺りまで更新できないかもしれません。
暇な時に少しずつ書いてはいくので、微妙に更新する可能性も無くはないですが、1月は多分かけません。

楽しみにしていただいてる方、誠に申し訳ありません。


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12話ー部隊

二月まで更新しないと言いながら、こっそり更新w

嘘吐きでごめんなさいw
流石にもう二月半ばまで更新は無いです。

誤字修正いたしました。
空さん、ありがとう!

全体的に文章を直しました。
タケブさん、ご指摘ありがとうございました!


「オハラの消滅」

「これはどういう事だ?」

「確かに、我らはオハラへのバスターコールを要請した」

「しかし、島その物を言葉通りに消し去り、海にまで深き爪痕を残すとは」

「そのような戦力があるとは聞いておらんぞ、センゴク」

 

 赤い土の大陸の上に存在する、世界政府の所在地――聖地・マリージョア。

 そこで海軍本部元帥センゴクは世界のトップともいわれる五人――五老星に先日のオハラの件について呼び出されていた。

 先日、世界政府にとって知られてはならない事を知ってしまったオハラにバスターコールの要請を彼ら直々に命令はしたが、報告で知った元オハラの有った場所の惨状は計算外であった。

 なにより自分たちの与り知らぬ所で、あれ程の威力を持つ何かがあるのは容認できない。

 

「その件につきましては、こちらの認識が甘かったと言わざるを得えません」

「ほぉ、それでは貴様にも予想外の事だったと?」

「智将といわれる貴様らしくもないな」

 

 五老星の睨みつける様な視線による圧迫感をセンゴクは静かに受け止める。

 センゴク自身も未確認だったとはいえ、あれ程の破壊を引き起こす物を海軍が保有している事を報告していなかったのでは、五老星の疑惑も無理は無いと考えていた。

 

「それよりもだ」

「あの惨状が一海兵によって引き起こされたと言う方が問題だ」

「その問題の海兵はどうなのだ?」

 

 即ち、政府にとって有益になり得るのか、それとも、有害になるやもしれないのか。

 古代兵器並みの破壊力を一個人が保有している現状は容認しがたい物である。しかし、海賊王の公開処刑により予定していた秩序の回復はその逆の結果となり、海賊が急増し海軍の権威をも失いつつある現状で、その力を手放すのはあまりにも惜しい。

 だから今一度訪ねる。

 その海兵が政府に忠実ならば良し。そうでなければ……

 

 

「その心配はありません。アレは目をつけたガープ中将に恩義も感じているようですし、その性格からして、まず自分から軍を出る事は無いでしょう」

 

 センゴクは五老星の考えを断つ様にはっきりと答える。

 そのセンゴクの様を見て五老星はしばしお互いに目配せをして意思の確認をすると口を開く。

 

「貴様がそこまでいうのならば……信じよう」

「そう、今は世界に対する抑止力が一つでも多く必要だ」

「しかし、その抑止力になりうる海兵をただの一兵士として置くわけにもいかんぞ」

「なるべく海軍から動けなくしなくてはな」

「わかっているな? センゴク」

 

「――ええ、分かっていますよ」

 

 その有無をいわせぬ五老星の態度にも動じず、センゴクは自らの考えを五老星に伝えるとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

「うぅ~」

 

 私は海軍本部のとある部屋で机の上に両手を投げ出して項垂れていた。

 項垂れた私のそばには数枚の書類が散らばっている。数は少ないが私の処理速度からすれば大仕事になる量だ。

 最近、難しい事考えようとすると、頭がごちゃごちゃになってよくわからなくなる様になったな~。

 こういうのは、私には向いてないんだよ~。

 何時もなら私はサインだけして後は部下に任せるのだが、この間のオハラ以来、私がやらなければいけない書類が増え、最近は巡回任務や討伐任務が減り、本部からあまり出ていない。

 討伐任務もキツかったけど、デスクワークは勘弁して欲しい。

 

 

 項垂れながらも、ちょいちょいやっていた書類が一枚完成し、最後に私のサインをする。

 

 ――海軍本部殲滅部隊隊長、霊烏路空大佐

 

 っと。

 これがオハラから帰って来た私にいきなり与えられた地位だったりする。また昇進したよ……しかも二階級昇進って殉職みたいでなんかな~。

 といっても隊員は変わっておらず、隊に名前がついて、受ける任務が多少変わっただけだけどね。

 今までやって来た討伐任務や巡回任務もあるけど、その数が減り通常は本部待機。そして要請があった場合、直ぐさま殲滅任務――対海賊の討伐任務と違い、対地域の殲滅戦を目的とした任務――に就くのがこの隊の主な仕事。

 それともう一つこの隊の設立理由とも言える重要な仕事がある。

 それは

 

 

「うにゅ~、まだあるよ~銀爺(ぎんじい)」

「……」

 

 私が仕事の量に挫け、たまらず声をかけたシルバー電伝虫の銀爺(命名、私)はチラリとこちらに一瞬目をやると、我関せず、といった感じに目の前にある餌の葉っぱを、むしゃむしゃ、と食べてこちらを無視する。

 この部屋にいる時の何時もの光景なので向こうも慣れたのだろう。……最初から無視されてたけど。

 

 私の隊が殲滅部隊になる時に一緒に渡されたのが、このシルバー電伝虫だ。

 バスターコールへの強制参加。それが、この隊の設立理由でもある最重要任務である。

 殲滅部隊隊長は海軍で唯一、シルバー電伝虫を専用で渡されることになった役職らしい。どうでもいいけどね。

 

 

「あっ」

「……」

 

 無視する銀爺に気分転換を含めた仕返しをしようと人差し指を伸ばすと、私の手が届かない所にゆっくりと移動していった。

 その顔を見てみると、どこか小馬鹿にした様な顔で飄々とこちらを見ていた。

 因に、この子はオハラの時に私の船にいた子をそのまま貰っていたりする。

 どうせ貰うなら初めて任務で使った子が良かったからこの子にしたのだけど、任務の時といいやっぱり意地が悪いかも、この子。

 銀爺は私の手の届かない日差しの良い所に移動した後、気持ち良さそうに眠り始めた。

 

 

 まぁ、なんだかんだ言っても気に入ってはいるんだけどね。

 

 気分転換ができなくなった私は諦めて残りの書類に目を通し始めた。

 

 

 

 

 が

「うにゅ~、やっぱり良く分からないよ~」

 

 数分もしないうちにまた同じ様に、机に項垂れることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 ギィ。っと古びた扉が開く音に振り向くと、扉を開けて数人のお客さんが入ってきたので、急いでさっき空いた机の上を片付けて、その席に勧める。

 今はちょうどお昼なので、店内はごった返しており大忙しだ。

 

「おくうちゃ~ん。料理追加ね~」

「お~い、おくうちゃん。こっちもお酒持って来て~」

「おくうちゃ~ん」

 

 あの一件でこの町ではかなり有名になっていたらしく、数年ぶりにも関わらず、ここに来るお客さんのほとんどが名前で呼んでくれる。

 数日前に来てから、久しぶり私を見る為に来ている人もいるそうだ。一ヶ月もいなかったんだけどな~。

 私はせわしなく店内を駆け回り注文を取ると

 

「マスター、料理とお酒これだけ追加で~す!」

「……」

 

 カウンター越しにマスターに酒場の雑踏の音に掻き消されないよう大声で伝える。

 それをマスターは視線だけで答え、今出来上がった料理をカウンターに乗せ、次の料理に取りかかった。

 私はカウンターに乗った料理を客に運ぶ為に手に取るが、それを運ぶ前にピシリと足が止まる。

 

 

「あれ? ……これ誰の注文だっけ?」

 

 料理を手に取ったはいいが、誰が注文したかを忘れてしまった。

 マスターも忙しいから聞くのも悪いしと、必死に思い出そうとしていると頭の上の髪の毛がある方向に軽く引っ張られる。

 その方向にはこっちに気がついたのか軽く手を上げて待っているお客さん。

 

「あっ! あのテーブルか! ありがとう、銀爺」

「……」

 

 そのお客さんが注文した人だと思い出し、直ぐに料理を持っていくと、銀爺は口にくわえ引っ張っていた私の髪を離し、また私の頭の上を静かに陣取る。

 前に働いていた時は忘れるなんて無かったんだけど、何故か今はちょくちょく忘れる。最初に忘れた時に困ってあたふたしてたら、いつの間にか頭にのぼって来た銀爺が今みたいに教えてくれるたのだ。それ以来、私の頭の上に陣取って忘れたら教えてくれる様になった。

 う~ん、意外にいい子だった。

 

 

 先ほどからの様子で分かる通り、私は今、懐かしきサークリュー島の酒場で働いている。

 別に海軍を辞めた訳ではないし、酒場で正式に働いている訳でもない。

 

 

 

 ――数日前

 

 私はここの所毎日の本部待機による書類仕事で、何時もと同じ様に机に項垂れていた。

 巡回任務も討伐任務もまわってこず、殲滅任務にいたっては設立してからまだ一度も就いていない。

 バスターコールのようなものがそうそうあっても大変だろうけど、いい加減デスクワークはキツい。体力面で疲れなくなってからは精神面での疲労を強く感じるようになった。

 よくわからない書類相手より海賊相手のがずっと楽だった。

 バスターコールでもかからないかな~。と物騒な事思っていた時、部屋の外が騒がしくなった。

 気になって耳を傾けてみると兵士達の叫ぶ声が聞こえて来た。

 

 

「クザン中将はいたかー!?」

「やはり、おられません!」

「自転車がありませんので、おそらく……また散歩に出かけたのではないかと」

「あの人、一度出かけると数日帰ってこないんだぞ!?」

 

 

「ガープ中将もいないぞー!」

「あの人もか!? 仕事まだ残ってるのに!」

「休暇でしばらく故郷に帰ると、置き手紙がありました!」

「また勝手に、センゴク元帥に怒られるぞ!」

 

 

 ……そういえば、私もここ数年お休み貰ってないな~。というか、海軍入ってから訓練の日々だったし、ガープ中将に言われていきなり任務の連続とお休み貰った事無いや。

 貰った所で行く場所無いけど、故郷か~…………

 

 

 

 

 

 

SIDEOUT

 

 ――海軍本部ウツホの部屋

 

 

 

『サークリュー島に数日間散歩してきます。書類サインだけはしておいたから、あとは私の字をマネてやっといて。 Byウツホ』

 

 

 

「「「「「「「数日間は散歩って言わねぇー!!」」」」」」」

 

 机の上に書類と一緒に置かれていた置き手紙を彼女の部下達が見つけたのはウツホがサークリュー島に向かって飛んでいった数時間後だった。

 クザンといい、ウツホといい、ガープ中将に恩義がある者は彼の影響を少なからず受けるらしい。

 

 

 

 

 

ウツホSIDE

 

 というわけで、故郷とは違うけどこの世界で最初にお世話にもなったサークリュー島にお休みがてら来て、マスターのお店の二階の宿で泊まっている。

 中将達だって休んでるみたいだし、置き手紙して来たから大丈夫。

 

 そして、最初に来た日に久しぶりにあったマスターとお話ししていたら、お店のお客さんが私の事に気がついて、その事を町の人たちにも広めたらしく、いつの間にかお店にすごい人数が来てしまった。

 私は前に町を襲っていた海賊を倒して、その後の町の復旧を手伝ったのでこの町では結構有名である。それと、町の復旧資金はその海賊団の船長の懸賞金を当てているので船長を倒した私はかなり感謝されていた。

 本来、海軍に入る筈の私が倒した海賊の懸賞金は入らないんだけど、町の復旧資金が必要だったし、町の人たちが海賊のほとんどを捕まえていた事もあったので交渉したら、全額は無理だったみたいだけど何割かは貰えたみたい。

 私は要らなかったので詳しくは聞いてないけどね。

 

 そんなこんなで、町の人たちが食事するついでに私に会いに来て店が何時も以上に繁盛してしまい、マスターが忙しくなってしまったので私から手伝う事にしたのだ。

 ところで、私は給仕の仕事をしていて特に町の人たちと会話はしていないのだけれど、ただ単に物珍しくて見に来てるだけじゃないよね?

 

 

 最初は、マスターの所にはちゃんとお金を払って泊まろうとしたのだけど、お手伝いをしたら

 

「……お前のおかげで店も繁盛したし、仕事をしているのだから金はいらん」

 

 とのことで、お金は払わなくてよくなった。朝の宿の仕事はしないので前みたいに給料は出ないけどね。

 まぁ、要らないけど。海軍本部将校のお給料はかなりお高いのです。

 普段使わないから溜まりっぱなしだしね。……あれ? もしかして、使った事無いかも?

 

 

 

 

 それで、ここに来てから酒場で働いている訳だけど

 

「おくうちゃ~ん、お肉追加~」

「お~い、おくうちゃ~ん」

「こっちもお願いね~、おくうちゃ~ん」

 

「「「おくうちゃ~ん」」」

 

 

 うにゅ~!! 忙しい! 

 三日経っても全然人が減らないし、何故かカウンターの人まで私に注文する。マスターに直接言ってよ、たまに注文忘れて困るんだから!

 休みに来たのに休めてないよ。書類仕事よりはいいけどね。

 

 

 

 そんな食事頃で客がいっぱいの店を私が一生懸命に駆け回っていると

 ガンッ、と酒場のドアが強引に開かれ

 

「おい、酒持って来な! それと、うまいもんもな!」

 

 人相の悪い男達が数人、ゾロゾロと入って来きては、男の中の一人が開口一番にそう偉そうに命令した。

 

 

 ……見た目や態度からして海賊みたいだけど、どうやってこの島に入って来たのかな?

 この島は偉大なる航路の入り口――リヴァース・マウンテンから記録(ログ)を貯めて進む七つの航路からは外れており、基本的に記録指針の指すままに進む海賊はやってこれない。この島に来るには当初の記録指針を無視してこの島と繋がる記録を持つ島に行くか、永遠指針を使って同じ様に航路を外れるしか無い。

 それに、この島は前に海賊に襲われてから海賊に対してそれなりに警戒してるから、海賊船が近づいて来たら騒ぎになる筈なんだけど。

 

 チラリと横目でマスターを見たけど、マスターは特に何も言わないのでお客として扱うみたい。

 私も休暇中で別に捕まえる気は無いので、変な事しない限りお客さんとして扱う事にする。

 

 

「いらっしゃいませ~。すいませんが、ただ今満席なのでしばらく……」

 

「あぁ!?」

「おいおい、お嬢ちゃん。あんまりふざけた事言っちゃダメだよ」

「そうそう、こわ~い目にあっちゃうよ?」

 

 私の言葉を遮って男達がそんなふざけた事を言う。

 にぎやかだった店内も男達のせいで静まりかえってしまい、店内の雰囲気は最悪だった。

 男達の態度に、客として不合格の印を心の中で押した私が動く前に

 

「まぁ、お前ら。そう言うな」

「え、いや。すいやせん」

「けれど、船長~」

 

 男達の中から、ひょろっとした目つきの悪い男が前に出て来て、文句を言ってきた男達を窘める。

 他の男の態度からして、どうやら海賊達の船長らしい。

 

「それに、席は直ぐ空くみたいだしな」

 

 ジロリ、と船長の男が近くの客の席に目をやると、そこにいたお客さん達は焦ってお金を置いて出て行ってしまった。

 そうやって席が空くと船長がその席に座り、それに続いて部下達もそれに続いて座っていった。

 

「それじゃあ、酒と食いもん適当に持って来てくれ」

 

 席に座ると船長の男が笑いながらそう言った。

 う~ん、これは有りなの?

 私はそういった意味を込めてもう一度マスターを見る。

 

「……」

 

 あっ、有りなんだ。

 この程度なら酔っぱらいと変わらないらしい。

 マスターがそういうならいっか、と私はお客さんがいたテーブルを片付け、食べ終わっていた食器と置いていったお金をカウンタ-にもっていった。

 

 

 

 

「「「「「ギャハハハ」」」」」

 

 汚らしい笑い声が響き、店内は先ほどと同じ様に騒がしくなっている。ただ、騒がしいのは海賊達のいるテーブルだけで、他のお客さんは静かに食事をして、食べ終わったら直ぐに出て行ってしまっている。

 やっぱり迷惑じゃない?

 

「……」

 

 確かに港町だから荒くれ者もいるし、そう変わらないかもしれないですけど。

 そういった客はマスターのお店にはあんまり来ないじゃないですか。

 

「……」

 

 あ、はい。向こうから暴れるまで何もしません。

 どうやらマスターの基準では、暴力を振るわなければ厄介なお客さん程度らしい。

 私はお客さん達の注文ラッシュが無くなって急に暇になったので、無口なマスターと目線だけで会話をしてカウンターに座り、唯一注文が来る海賊達の方を見ながら休んでいた。

 

 

 

 

 

SIDEOUT

 

 テーブルについた海賊達は酒を飲んで気分がいいのか、大声で笑いながらこの島に来る事になった経緯を話し合っている。

 

「しっかし、危なかったな~」

「あぁ、だけどうまく逃げ切れたぜ」

「おかげで船の進路がずれちまったけどな」

「こうしてちゃんと島にも着けたし、いいじゃねえか」

 

 そこで一息つき、グッ、と酒をジョッキで煽り、運ばれた大量の料理に手を付ける。

 料理を口に運びながら大口開けて笑ったり、喋ったりしているので食べ物が散って汚ならしいが、彼らにとってはそれが普段の食事のときのあり方だ。

 彼らは、この島には本当に偶然で来れたのだ。

 記録指針が指す通りに航行していると、海軍の船団に鉢会わせてしまい、何とか逃げ仰せたものの航路を大きく外れ、だからといって船団がいるであろう方向に直ぐに戻る訳にも行かずに困っていた所、たまたまこの島にたどり着いたのだ。

 そして、この島の裏手に船を停め、海軍の船が無い事を確認した後にやっとこさ安心してこの酒場に入った所だった。

 海賊達はお互いに海軍を撒けた事に祝い合っていると、海賊の一人が静かにとある話をきりだした。

 

「逃げられたのはいいけどよ~、この辺りにはヤバイ奴がいるらしいぜ」

「あん? なんのことだ、そりゃ?」

 

 問われた海賊の一人は急に顔を暗くして、おどろおどろしく語り始める。

 

「見つかった海賊団は全て壊滅させられ、その海軍とは思えないあまりにも残虐な手口によりそいつを前にした奴に無事な奴は誰一人おらず、その力は島一つをも消し飛ばすと言う、海軍の秘密兵器……地獄の人工太陽」

「「「……」」」

 

 男がさも恐ろしそうに語るので、聞いてた海賊達もその雰囲気に飲まれ、ゴクリ、と息をのむ。

 

「そりゃあ、どんな兵器だ? 噂の古代兵器ってやつか?」

「でも、確かそりゃあ世界政府が禁止してるんじゃなかったか?」

 

 その雰囲気によってある程度の沈黙が続いたが、直ぐに気になる話題に聞いていた海賊達が疑問を飛ばす。

 

「いや、秘密兵器っていっても人間だ。地獄の人工太陽ってのは二つ名だ」

「二つ名なのか? 随分変わった二つ名だな」

「それに、人間が島一つ吹っ飛ばすってありえねぇだろ」

「どんな奴なんだ?」

「俺も聞いた話だからなぁ~、詳しくは知らねぇんだ。でも、この辺りで有名だった何十もの海賊団が忽然と姿を消してるのはマジだぜ」

 

 

「くっ、くっはははははははははははは」

 

 我慢できずといったふうに、高らかに笑い声がある男から漏れる。

 件の話をしていた男達がその主に目をやれば、そこには手で顔を覆って男達の船長がさも可笑しそうに笑っていた。

 

「船長?」

 

 その突然の船長の姿に疑問を持った男の一人が声をかけると、船長は一頻り笑った後、ゆっくりと口を開いた。

 

「いや~、悪い悪い。そんなデマを真顔で話し合っているお前らがあまりにも可笑しくてな」

「えっ、デマなんすか!?」

「なんだ、脅かしやがって」

「真面目に聞いて損したぜ」

 

 船長の一言で、先ほどまで興味深気に質問していた男達がその話をした男に非難の視線を浴びせるが、話をした男は、とんでもない、とそれに慌てぎみに答える。

 

「デマじゃないっすよ! 実際に海軍の秘密兵器の話はあちこちに流れてますし!」

「いやいや、俺が可笑しかったのはよ。お前が出任せを言ってる事じゃなく、海軍が流した出任せをお前らが真剣に信じてるという点だよ」

「へ? か、海軍が流したデマ?」

「ちょっと考えりゃあ分かるだろ? 海賊王の処刑で縮小する筈だった海賊達が逆に急増。しかも、本部も襲撃に合って半壊だったらしいじゃねぇえか。そんな次期に都合良く秘密兵器なんて、そんな大物が出てくるかよ。地獄の人工太陽なんて今まで欠片も聞いた事あるか?」

 

 得意げに話す船長の問いに対し、海賊達は顔を見合わせた後、皆、首を横に振り否定の意を示す。

 それを見た船長は更に可笑し気に語る。

 

「だろ? 増え続ける海賊に業を煮やした海軍が取った苦し紛れのデマとしか考えられねぇよ」

「じ、じゃあ、海賊団が消え去ったのは?」

「俺たちがこの島に来る事になった船団がいただろ? 海軍の奴らこの辺りで大きな網を張ってんのさ」

「「「おぉ~、なるほど」」」

「それに逃げきれなかった間抜けな奴がその噂の切っ掛けだろ。第一、無事な奴が誰一人いないつ~なら、どうやってその情報が流れてんだよ? それが何よりも海軍が流してるデマだって証拠だ」

 

 そりゃあそうだ。とその船長の話を聞いた男達は納得し、酒と料理を煽ってまた騒ぎ始める。

 

「さっすが、船長っすね!」

「懸賞金四千万ベリーは伊達じゃない!」

「お前はもう変なデマを信じねぇようにな」

「ちぇ~」

 

 話をした男は一度不貞腐れた様な顔をしたが、直ぐに調子を戻し笑顔になり料理に手を付けた。

 

 

 

 

 

「おい、そろそろ行くぞ」

「「「うぃ~す」」」

 

 海賊達は一頻り飲み食いをすると船長の一言で次々に席を立ち、酒屋の出口に向かって行く。

 ワイワイ、と食事によって満たされ気分よく歩く海賊達の前をある人物が遮る様に立ちふさがり、それによって海賊達は歩みを止める。

 

 

「お勘定~お願いしま~す」

 

 にっこり、と愛想のいい笑顔を向けて立ちふさがったのは、エプロンを付けた酒場の店員である少女――ウツホだった。

 海賊達は食事を終えると全員がそのまま出口に向かっていき、誰も勘定を払いにこず。また、テーブルの上にも料金を置いていないので、海賊達が店を出て行く前にウツホが先回りをしたのだ。

 

 ウツホのその言葉に立ち止まった海賊達は、ニヤニヤ、と嫌らしい笑みを浮かべ合う。

 

「お~い、誰か金持ってるか~?」

 

 海賊達の先頭を歩いていた船長の男がふざけた様に部下達に聞く。

 部下達も船長が何を言おうとしているのかを理解し、その嫌らし気な笑みを深め、それに便乗する。

 

「俺は持ってないっすよ、へへへ」

「あ~、俺も無いっすね~」

「お前持ってるか?」

「クククッ、いんやぁ~、もってないなぁ~」

 

 誰一人、金は持っていないと明らかに嘯きながら、大げさに振る舞う。

 その予定調和の茶番劇を聞いた船長の男も、大げさに手で顔を覆いウツホに向かって答える。

 

「いや~、それは参ったな~。と言う訳で、悪いなお嬢ちゃん」

 

 そういって海賊達はウツホの横をすり抜けて店から出て行こうとする。

 しかし、それをウツホは軽やかに横に移動し、海賊達の道をもう一度、笑顔のまま遮る。

 そのウツホの行動にふざけていた海賊達は態度を変え、嫌らしい笑みを浮かべていた顔をしかめる。

 

「おい、お嬢ちゃんよ。いい加減にしな」

「あんまり俺達を舐めるなよ?」

「別の方法で払ってやっても良いんだぜ?」

 

 船長の男が部下に目線で合図を送ると、海賊達は腰に付けていた剣やピストルを引き抜き脅しにかかる。

 突然の行動に酒場に残っていた他の客達は叫び、立ち上がり自分に向けられない様に店の奥へと逃げていく。

 ウツホの首にも脅しの為に剣の刃が添えられているが、ウツホは特に怯えた様子も無く、海賊達を視線から外しカウンターの奥にいるマスターの方に視線を向けている。

 それをどう思ったのか海賊達は口元に笑みを浮かべ、ウツホを無視してマスターの方に是非を問う。

 

「どうするよ? 店長さんよ」

「……」

 

 マスターは無言で首を、クイッ、と出口の方向をさす様に動かす。

 

「わかりゃあ良いんだよ」

 

 マスターのその行動を、自分たちに従うと解釈した海賊達は大人しく武器をしまう。元々、脅しだけで暴れる気はさほどなかったのだ。従わなかった場合はウツホを首を斬ってみせしめにしようとはしていたが。

 首から剣を離されるとウツホは小走りに店の二階に通じる階段を駆け上っていった。

 

「あ~あ、怯えちゃって可愛そうに」

「全然そんな事考えてねぇ~癖に」

「「「ぎゃはははははは」」」

 

 その様子を見た海賊達は我が物顔で店の外に出て通りに出る。

 

 

 

 その時

 

 

 バンッ、と通りに出た海賊達の頭の上で酒場の二階の窓が強引に開かれ、海賊達の目の前に先ほどまで目にしていた人物が飛び降りて着た。

 その人物は先ほどと違い、掛けていたエプロンを外し、背にマントを羽織り、右手には奇妙な棒を付けた酒場の店員の少女――ウツホだ。

 

 飛び降りて来たウツホは先ほど見せた人受けの良い可愛らしい笑顔でなく、どこか高慢で見下した様な笑顔を海賊達に向ける。

 突然の事に驚いていた海賊達だったが、自分たちに目の前に飛び出して来たのが先ほど自分たちが脅した時に怯えて逃げた少女だと分かると、怒りに顔を歪め、気の短い奴らは武器を抜きだす。

 ウツホの海賊達を馬鹿にしている様な態度も頭に来たが、先ほどから食事をして気分が良い所に何度も出て来て、いい加減に煩わしくなって来たのが一番の理由である。

 

「おい、こりゃあ何のまねだ? お嬢ちゃん」

「お勘定を貰いに来たのよ」

 

 そのウツホの言葉を聞いた海賊達の何人かがその手に武器を持ちウツホに近づいていく。

 

「あぁ、なるほど。つまり、お嬢ちゃんは……」

「死にてぇらしいな!」

 

 ウツホに近づいて来た海賊の一人が剣をウツホに向かって振り下ろす。

 彼らはもう少しこの町を見回ってから色々しでかすつもりで、殺しなどの面倒ごとはまだするつもりは無かったのだが、荒くれな海賊である彼らに元々計画性など皆無。彼らに取っては多少予定が狂った程度のもので、頭の中では既にウツホを斬り殺したらそのまま暴れる事を考えていた。

 

 

 斯くして、哀れ、酒場の店員の少女は斬り殺され、かつて海賊に襲われやっと復興した町は再び海賊の手によって滅び去るのだった。

 

 

 

 

 実際そうなっていただろう。店員の少女が海賊達がデマだと嘲笑った海軍の秘密兵器――地獄の人工太陽でなければ……

 

 

 

 

 ――数分後

 

「助けてくれ! か、金はほんとに持ってないんだ!」

 

 酒場の前の通路に船長の男の許しを乞う叫びが響く。その周りには部下の海賊達が酷い有様で倒れ苦痛の声を漏らしている。

 ウツホは仰向けに倒れている船長の男の腹を像の足で踏みつけ、ユラリ、と高熱で周りに陽炎を纏わせている制御棒を男の首の横ギリギリに添えている。先ほど自分に剣を添えたお返しだろう。

 

 男の許しを乞う叫びにウツホは制御棒を退かす。

 それに男は助かったと、ほっ、と息をつくが

 

「ここにあるじゃない」

「へ?」

 

 男がその言葉に疑問に思い、ウツホを見上げると

 

「四千万ベリー。お釣りは……えぇっと、よくわかんないけど、貴方達が飲み食いした分と壊した通路の分には十分だしね」

「道を壊したのはお前の……」

 

 ゴシャァ!

 

「ガハッ!」

 

 今度は可愛らしい笑みを浮かべたウツホに男は顔面を潰され気絶した。

 

 

 

 

 因みに、海賊達は知らなかった事だが、ウツホが二階に行ったのは怯えていたからではもちろん無く、給仕の仕事中には外しているマントを取りにいったからで、マスターの合図は海賊達に向けたものではなく、目で「捕まえますね」と言ってきたウツホに「外でやれ」という意味で向けられたものだった。

 

 まぁ無茶な話だが、これに気がついていれば、もしくは海賊達の誰かがウツホの事を知っていれば、この海賊団は壊滅する事無く無事にこの辺りを抜けれたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 襲う筈だった町の住人に名前すら知られなかった海賊団は、酒場の飲食代を船長の懸賞金で払う為にその日、壊滅した。

 

 

ウツホSIDE

 

 懸賞金貰う為に海軍に連絡したら凄く怒られた。……海軍本部に戻ったらガープ中将達も怒られてたけどね。

 

 

 

 

 後、私がサインした書類の続きはやってくれていなくて、溜まった分と勝手に散歩に行った罰として追加された分を泣きながらやる事になりました。

 ぐすん。

 




やっぱり時間無いですね~、更新してますけどw
ちょいちょい、書いてて、短い閑話的な話なら正月にもしかしたら上げれるかもな~。とか考えてて、結局間に合わないし。

今回は閑話的な、状況説明的な物と日常編を一つ。

今回の話は、ガープに影響受けた奴は似る。というが言いたかっただけです。

ここのウツホがよく寝るのは、ガープに教育されて似たからですw
蒼雉とかエースとかもよく寝るのはガープのせいだと思うんですよね。
ルフィは血繋がってるから遺伝だろうけど。

コングだすか、五老星だすか迷って、結局よくわからないコングより五老星にしました。
もっと軍側もたくさん出してくれないと、軍側のキャラ把握ができないよ……。

皆様、アンケートにご回答ありがとうございました。
アンケートの解答が真っ二つに分かれて、あんまり意味はなかったですがw

いや、色々、参考になること書いてもらったので、全然無駄ではないですけどね。

皆様のアンケートのご回答の結果考えまして、幼ルフィとの出会いは無しの方向にしたいと思います。
出会って欲しいと言ってくださった方申し訳ございません。


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13話ー聖地

おっくれましたー!! 

皆様お久しぶりです。本編更新やっとできました。
といっても最初に考えていた分量の3分の2なんですが、あまりにも更新しなさ過ぎだったので、一回切ることにしました。
なので、重要な話は全部、次話に書くことになりました。

とりあえず、生存報告ですよ!
まぁ、細かい愚痴はあとがきでw
では、久々の本編楽しんでもらえたら幸いです!

あっ、今回、新たな原作キャラでます。



一面の暗闇。空には目にしているだけで底なしに引きずり込む沼の様な暗雲が引き締められており、眼下には深い、深い、まるで奈落の様な黒い海がその見た目に反し、何もかもを貪欲に飲込もうと荒波を立て騒ぎ立てる。

 その二つの闇に挟まれ、どちらにも引き込まれぬぞ、と大気が悲鳴を上げるかの如く荒れ狂う。

 超大型ハリケーン ――。

 世界最難関の海、偉大なる航路は昼夜問わず、そこに居る者達に襲いかかる。このハリケーンもその一つだ。

 

 そんな昼間でさえ光一つ通さぬであろう暗闇に、突如、赤く光を放つ流星が現れる。

 その赤い流星は、ハリケーンの発する轟音を切り裂く様な甲高い音を辺りに響かせる。

 

 ――否、正に引き裂いているのだ。

 

 沼の様な暗雲は流星の放つ衝撃によって弾き飛ばされ、そこからは目映い星空が覗く。荒波を立てていた海も、その波ごとたたき潰され、流星が通る直線上に割れていく。そして、普段ならば出会ったら最後ともいわれる、偉大なる航路のハリケーンは流星の直撃を受け、内部から弾け飛ぶ様に消え去ってしまう。

 時速千キロを超える圧倒的スピードで進路上にある障害を物ともせずに進むその赤い流星は――過剰な核融合エネルギーによって輝き、元来ある一対の黒い羽の他に、エネルギーを噴射してできた赤い羽を背に生やした霊烏路 空である。

 

「まだかな~」

 

 たった今、大災害を一つ消し飛ばしたというのに、ウツホの口から漏れ出たのは、そんなありきたりの言葉だった。それも仕方のない事だろう。ウツホは今に至るまで、進路状にあった幾つもの似通った、他人が大災害と呼ぶ恐怖をその身で消し飛ばして進んで来たのだから。中には今のハリケーンの様に本人が気がつかない内に(・・・・・・・・)に、消えていった物も多々あった。

 

「方向は……あってるわね」

 

 ウツホは真っ赤に輝く自身の懐から、海軍本部を出る時に渡された永久指針を取り出し、方角を確認する。豪雨、暴風。ウツホの前方を遮る様に邪魔するそれらは、ウツホ自身が発するあまりの熱量と、エネルギーによって、彼女の肌に触れる事さえできない。そんなエネルギーの暴力の中でも、ウツホの手の中にある永久指針はその機能を一切損なわず、正確に己の役目を果たしている。

 以前、彼女がとある事故のせいで中将三名の変わりに多大の任務に日々をおわれていた時、彼女は同じ移動手段をよういた結果、自己の装備と認識していなかった永久指針と指令書を燃やしてしまい、大変困ったことがあった。その時は、後から追って来た彼女の部下達によって難を逃れたのだが、その後にも何度か同じ様な方法をとる事になったため、永久指針などの軍から渡された物を自身の能力で燃やさぬ様に調整する様にしていた。といっても、やはり元々のウツホの装備で無い物は、最近酷くなってきた鳥頭のせいか時たま加減を間違えて燃やしてしまい、彼女の保護者役の海軍の英雄や部下達にこっぴどく怒られたりする事も珍しい事ではないが。

 

 閑話休題。

 

 オハラのバスターコール後、巡回任務も討伐任務もほとんど回ってこなくなり、一部の殲滅任務を除き、本部に缶詰状態だったウツホが真夜中の偉大なる航路を自身の出せる最高速度で飛んでいるその訳は、数分前に全軍に出された緊急命令の為である。

 ここ数年間、もはやおなじみとなった様に、海軍本部の自室で書類仕事にその言葉の通りに埋もれていたウツホを叩き起こしたのは、部下の怒声ではなく、マリンフォード中に響き渡る様なけたたましいアラート音だった。

 ウツホが海軍に入ってから一度も経験をした事の無い事態に戸惑っている間に、深刻な顔をしながら扉を破壊して入ってきたガープ中将に首根っこを掴まれ有無をいわさずに運び出された。

 

 聖地襲撃――。

 世界政府の中心地、聖地マリージョア。世界貴族――別名、天竜人と呼ばれる八百年前に「世界政府」を作り上げた二十人の王達の末裔であり、この世界での絶対的な権力を保持し、悪質なまでの治外法権を認められている。彼らは大した理由も無く人を殺しても罪に問われないが、彼らが傷つけられた場合は、海軍本部の大将が軍を率いて派遣される程の重要人物とされている――が住んでいる世界最高峰の土地。

 

 その聖地が今襲撃されている。開口一番にガープがウツホに語ったのはその一言だった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 何人の兵士がその報告を聞いた瞬間に信じられただろうか。海軍本部元帥であり知将と呼ばれているセンゴクですら、その報告を聞いた時、数秒の間、驚愕に息をのむしかなかったのだ。

 

 世界貴族は民衆からは嫌われている……否、恐れられている。それは仕方が無い事だろう、彼らの気分一つで一般人の命など、道ばたにある石ころを蹴り飛ばす様に容易く奪われてしまうのだから。

 そんな世界貴族に恨みや妬みを持つ者は少なくは無い。が、彼らに実際に手を出す者は居ない。それは世界政府を丸ごと敵に回す事と同意義だからだ。海の荒くれ者と呼ばれている海賊達でさえ、黙って見て見ぬ振りをするのが通例である。

 その世界貴族達の住む聖地が襲撃されている。到底、信じられる話では無い。世界貴族の住む土地であり、世界政府の中心地である聖地の守りは他に無い程、厳重であり強固だ。そこを襲うとなれば、それこそ多大なる戦力が必要となる。さらに、聖地は赤い土の大陸の上にある為、簡単には辿り着くことさえできない。それが、聖地と戦う程の戦力となれば辿り着く前に発見されてしまう。

 

 

 だからこそ、信じられるはずもなかったのだ。聖地が既に襲撃されており、なおかつ応援が必要な程、滞在軍が押されている事など。

 

 

 しかし、センゴクも伊達で海軍本部元帥をやっている訳ではない。戸惑いは最初の数秒だけで、直ぐさま他のまだ惚けていた兵士達に指令を飛ばし、自分自身も行動を移すため動き始めた。

 マリンフォードから聖地マリージョアまではそう遠く無い距離にあるといっても、帆船ではいくら急いでも数時間はかかる。それではあまりにも遅すぎる。現状、聖地に戦力を送る為に考えられる最速の方法は、ある程度まで赤い土の大陸まで近づき、能力者または六式使いによる強行である。しかし、それでさえ赤い土の大陸近辺までは帆船でいくしかない為、時間はかかる。

 どうするべきか、知将と名高きセンゴクの脳は一瞬のうちに幾つもの解を浮かび上がらせていく。海軍で最速の兵士、ピカピカの実の能力者である、ボルサリーノ中将でさえ、反射する物が無い海上では長距離の移動はできない。今、本部にいる者の中で最も速く聖地へと辿り着く事ができ、なおかつ、応援となる程の戦力を保持する者は……

 

 

 センゴクが、その人物――霊烏路 空に緊急指令を出すのは、彼が動き始めたのとほぼ同時であった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 ガープによってセンゴクの所まで運ばれるやいなや、緊急指令を受けたウツホだったが、船の事すら今だ覚え切れていないウツホが聖地や世界貴族の事など知る由もなかった。

 一刻の猶予もないこの事態。ウツホに詳しい説明をする時間は当たり前のごとくにない。しかし、ウツホというある意味、襲撃者以上の危険物に何一つ説明をせず、世界貴族達が集まっている聖地への救出作戦に行かせる訳にもいか無かった。最悪の結果、聖地消滅などという未曾有の大災害を海軍自身が引き起こす、という事になりかねない。

 

 

 結果、ウツホにはウツホに何とか理解できる最低限の説明だけを受けさせ、聖地に単身、先行部隊として急行させる事とあいなった。

 

 

 ウツホがマリンフォードを出て数十分後。遂にウツホの視界に天高く聳えし、強大なる自然の奇跡の形ともいえる巨大な絶壁が目にはいった。この絶壁こそ、偉大なる航路と直角に交わり世界を分断する、世界で最も雄々しき大地、赤い土の大陸である。

 

”これが……赤い土の大陸……”

 

 視界を埋め尽くす一面の岩の壁。初めて見るその圧倒的な光景にウツホは一瞬だけ、ただ純粋に見惚れていた。

 

 そのまま直進していれば、後数秒で壁に激突していただろう。だがウツホはその驚異的なスピードからは考えられ無い軌道を描き、ほとんどその速度を減衰させずに赤い土の大陸に沿って、その頂上を目指し始める。

 

 昇り始めれば一瞬だ。永久指針を見ずとも、既に視界に捉えた自身とは違う赤い輝き――襲撃され燃えている聖地の灯りを頼りに、ウツホは与えられた任務の内容を、思い出す様に何度も口の中で反芻しながら、急速に近づいていく。

 

「襲撃者を排除して、世界貴族を救助する……襲撃者を排除して、世界貴族を救助する……」

 

 自身に与えられたそのあまりにも短い命令を確認しているその時、ウツホはとある重大な事柄に気がつき、ハッとする。

 

「襲撃者……? と 世界貴族……?」

 

 出発する前に受けた最小限の説明でウツホは、”世界貴族というとっても偉い人達の保護を最優先にしつつ、聖地の襲撃者を排除する”という事はちゃんと認識していたのだが……

 

「……襲撃者と、世界貴族の見分け方が……分からない」

 

 その重大な疑問を口にしたのは、ウツホが赤い土の大地を超え、聖地に辿り着いたのと同時であった。

 

 

            ◇               ◇

 

 ――世界最高峰の土地、聖地マリージョア。

 美しく舗装された道に、立ち並ぶきらびやかな建築物。どこに目をやってもそこに見える物は、どれもかしこも贅沢な装飾がされている。正に世界貴族が住むのにふさわしい土地と呼べるだろう。

 しかし、その本来ならば美しい筈の町並みは、まるでキャンパスに描かれた絵画の上に無造作に絵の具をぶちまけた様に、ただ一色の色によって塗り潰され、台無しにされている。

 

 その色は赤。――そう、美しき都、聖地マリージョアを包み込み、そこに住む人を、華美にたたずむ建築物を、そこにあった思想すらも、何もかも一切合切を飲込む炎。それは、巨大な蟒蛇の舌が這いずり回る様に妖艶に、そして、どこまでも残酷にマリージョアを汚染する。

 それともう一色、マリージョアを包む色がある――いや、その色もまた赤だ。それは、炎の様に見る者を引きつける様な輝かしい赤ではなく、その逆をいく深い真紅。しかし、その濃艶なる重みは時に炎以上に見る者を引きつけ離さない。それは生命の証――すなわち、血液である。

 

 炎が聖地を焼き、まだ炎が届いていない所は襲い襲われた者達の血で染められている。

 その流された血の多くは襲われた聖地に住む世界貴族の物である。しかし、それを流させたのは襲撃者ではなく、世界貴族が所有していた奴隷達によっての物だ。

 

 世界貴族のほとんどはその異常なまでの権限によって、一般人や罪人を人身売買で手に入れ、奴隷として所有している。

 その扱いは正に道具。好き放題に使い回し、役に立たなくなったものや飽きたものは、それこそゴミの様に処分される。そのような人権を無視した行為を自由に行えるのが世界貴族という存在だ。

 そして、奴隷のなかでも人気が高いのが、元高額賞金首の海賊団の船長と魚人である。普段は奴隷の首に付けられた爆弾付きの特殊な首輪によって、大人しくしたがっている奴隷達だが、現在、マリージョアにいる奴隷のほとんどの首にはその首輪は着いていない。

 自由になった彼らは、一目散に逃げ出す者もいたが、そのほとんどが自分達を物扱いにして好き勝手していた世界貴族に襲いかかった。元、有名な海賊団の船長や、生まれながらして人間の十倍の身体能力を持つ魚人が各地で一斉に暴れだしたのだ。いくらマリージョア滞在軍と言えどそれらを抑えるのは不可能だった。 

 

 

 奴隷解放。

 

 それこそ、今回の事件の首謀者であり、一人だけの襲撃者――魚人の冒険家、フィッシャー・タイガーの目的。

 彼は、たった一人で雲より高い赤い土の大陸の絶壁を素手でよじ登る事で、滞在軍に気づかれる事無く聖地に侵入し、暴れ回り、魚人、人間、関係無く奴隷にされていた者達を開放していった。

 

 その結果が、この炎上するマリージョアの現状であった。

 

 

 あちこちで滞在軍と解放された奴隷達による激戦が行われ、鎮火作業すらまともに行われず、ますます火の勢いが増していく。そんな、熱気渦巻くマリージョアを必死に駆け抜ける幾つもの影の中に、年の頃、十五、六であろう三人の少女達がいた。

 彼女達は四年程前、まだ幼い頃に人攫いに合い、世界貴族の奴隷として長い間、酷い扱いを受けていた。

 逃げ出したい。

 そう何度考えたか分からない。しかし、そんな気持ちも、脱走しようとして首輪が爆発した他の奴隷を見た時に崩れ去り、後に残ったのは諦めと深い絶望だった。

 

 そんな少女達にとって今回の襲撃は、正に生涯を奴隷で終わるかも知れなかった彼女達に与えられた、故郷に帰れるかもしれない千載一遇のチャンスであった。

 彼女達は走る。世界貴族を視界に納めても止まらず、わけめもふらずに、ここから逃げ出す事だけを考えて。

 長年、虐げられてきた世界貴族に恨みが無い訳ではない。誇り高き部族の出身である彼女達にとって、虐げられてきた毎日は屈辱という言葉では表す事ができない程だ。部族のしきたりを考えれば、復讐の機会を得た今、誇りの為に戦うべきだった。

 それでも彼女達はただ逃げた。逃げる事しかできなかった。

 

 ……怖かったのだ、どうしようもないほどに。

 

 まだ世界を知らぬ幼かった頃の少女達に与えられた恐怖と絶望は、少女達の心に癒しきれぬ深い傷痕を付けていた。

 

 

 

 

『オォォォォォォォッ!』

 

『抑えろー! ここで抑えるんだー!』

 

「「「ッ!?」」」

 

 一心不乱に逃げ出していた少女達の前方は、滞在軍と奴隷達の激しい戦いによって塞がれていた。

 狂気に目を血走らせる奴隷達。その中には魚人も混ざっている。

 それを必死に抑えようとする滞在軍。

 既にお互いに傷だらけで、体のいたる所から血を流している。お互いが入り乱れ交差する足下には、あまたの力つき倒れた者達の遺体が無造作に転がされ、激しい戦闘の合間に踏みつぶされている。

 

 どうするか。少女達はその光景を目の前にして困惑に立ちすくむ。

 回り道しようにも、辺りには火の手が回り始めていて、元の道を引き返すのはかなり危険だ。だからといって、この激戦の中を通り抜けるのはそれ以上に危険なのは考えるまでもない。どちらを選んでも危険な事に変わりは無い。

 

 冷静に考えるならば、回り道を探すべきだろう。

 

 しかし、彼女達はお互いの顔を見合わせ、その意思を確認し合うと覚悟を決めて前を――血飛沫飛び散る激戦を進む事を決心する。

 彼女達はもう戻りたく無いのだ。この忌まわしき場所から、少しでも遠くへ離れたい彼女達に、例え激戦の中で戦う事になったとしても、この道を後戻りなどしたくは無かった。

 

 

 彼女達が意思を決め、目の前の中の激戦の中を走り抜けるため、その第一歩を踏み出そう力を込め――

 

 

 次の瞬間、燃え盛る聖地の炎を遥かにしのぐ赤き輝きが、天高くから飛来し、滞在軍と激しい戦いを繰り広げていた奴隷達を吹き飛ばしたのを目の当たりにして、驚愕でその足を止める。

 その、あまりにも突然の出来事に対し、驚愕で立ち止まるのは少女達だけではない。今まで戦い合っていた滞在軍も奴隷達も何が起きたのかわからずに、思わず一時争いを止め、粉塵が立ちこめる発生地を見つめる。特に仲間に被害を受けた奴隷達は、更に警戒を強めて、自分達の中心に落ちてきた物を見つめている。

 両者が見つめる中、何かが墜落した衝撃で起きた粉塵が熱気によって沸き起こる気流によって晴れて来て見えたのは、地面が大きく抉れたクレーターの中に、まるで何かの冗談の様に奇怪な格好をした少女が立っている姿だった。

 それを見た奴隷達の戸惑いは一瞬だ。少女が何者かは、少女の背にたなびく白いマントに書かれている”正義”の一文字で直ぐに理解できる。海軍――しかも、その字を背負う事を許されている将校。単純に分かりやすく言い換えれば、彼らの敵だった。

 

 警戒をあらわにしていた彼らの反応は迅速だった。彼らはお互いに確認し合うまでもなく、一斉に少女に襲いかかる。その有様は、餌に群がる蟻のようだ。

 狙うは少女の命。例え狙う相手が年端も行かない少女であろうが彼らには関係がない、自分達の復讐を邪魔する敵は速やかに排除するだけだった。

 

 

 

 「十凶星」

 

 

 奴隷達の凶刃が少女に届く刹那の差に響いたのは、奴隷達の狂気を内包する雄叫びにも、炎上し悲鳴を上げる聖地の音にも邪魔をされずに、その場にいた全員の耳に不思議と染み渡たった少女の呟き。そして、その呟きに呼応する様に少女の体から溢れでた十の火球が、トルネードの様にその身を中心に渦巻き、殺到した奴隷達を焼きながらも引きちぎる怪音だった。

 それだけで、この場で滞在軍と拮抗していた過半数の奴隷はもはや骸とも呼べぬ灰となったが、十の火球の勢いはそれだけでは止まらずに少女の周りを広がる様に旋回しながら上昇し、残りの奴隷を焼いていく。その勢いは凄まじく、既に火の手の回っていた辺り一面の炎すら、その建物ごと焼き消し去り、少女がやってきた空の彼方へと戻っていった。

 

 少女がこの場に到着してわずか数十秒。たったそれだけの時間で、滞在軍が散々手こずった、この大通りの激戦は終結を迎えてしまった。奴隷達の全滅という形で……。

 長い間、世界貴族の奴隷として過ごしてきた彼らは知らなかったのだ。その海兵の少女が、海軍の秘密兵器”地獄の人工太陽”霊烏路 空であり、歯向かわず即逃げ出さなければならない相手だった事など。

 

 

 この日、突如天から降り注いだ奴隷から解放されるというチャンスを得た彼らは、それまでの奴隷から逃げようとした者達と変わらぬ同じ運命を、同じく天から降り注いだウツホによって辿る事となった。

 

 

            ◇               ◇

 

 

 もはや、周りに炎上する建物が無いというのに、未だ燃え続ける聖地の中でその広場(・・)は最も熱を放っていた。

 

「う、ウツホ大佐!」

 

 その広場の中心で大通りに降りて来たときから動かずに佇んでいたウツホに、ウツホの姿を確認した時から、既に他の部隊から入っていた連絡に従い、奴隷達を無視し、一目散に非難した滞在軍の一人が恐る恐る呼びかけると、ウツホはゆっくりと緩慢な動きでそちらを振り向く。

 振り向いたウツホに表情は無く、たった今、奴隷と言えど大量虐殺をした事なんて嘘だったかのようにも思える。

 

「ここの鎮圧は終わったわよね?」

「は? ……ハッ、大佐の活躍のおかげであります!」

「……そう」

「え、ええ。そ、それで我らはこれから……」

 

 ウツホの奇抜な格好も相成ってどこか幻想的な光景に捕われていた兵士は、日常会話でもしているように錯覚するウツホの話し方に一瞬惚けたが、直ぐさま敬礼をして、上官であるウツホの活躍に賛辞を述べ、そのまま他の場所への救援に向かう旨をつげる。

 

 しかし、ウツホはそんなどうでも良い事は聞き流しながら適当に話を合わせて、盛大に燃え続ける聖地をどこか遠い目で眺めていた。

 普段の彼女ならどこか抜けたその独特の性格で、愛くるしい笑顔の一つでも見せていた所だろう。実際に、ここに着いた頃に襲われていた部隊の救助をした時にはそのように接していた。

 それから、見分けの着かない世界貴族を助けるより「世界貴族を守ろうとしている滞在軍を戦っているもの=襲撃者=殲滅する対象」という単純な方程式を組み立て、戦闘が起こっている場所を回り始めていると、奇妙な違和感が彼女を包み始めた。

 それは、彼女の内で徐々に大きくなり、今では無視できない程大きい物へと変貌していた。

 

 その感覚には覚えがあった。ここ何年か、多少だがふいに感じていた物だ。

 だが、それが何かまでは分からない。

 知っては……いる、知っていた筈だった。

 ウツホはここ最近、めっぽうまわりが悪くなった頭で必死に考えながら、その奇妙な感覚を訴えてくる元を見つめる。

 燃える町並み、所々で沸き上がる怨嗟の念――

 

 そう、これは既視感だ。

 

”それはわかっているんだけど”

 

 しかし、その既視感が問題なのではない。その既視感がウツホに何かを訴えてくるのだ。その何かが分からず、ウツホは自らのうちに溜まっていく奇妙な感覚に苛まれ続ける。

 何時もは能力を使えば頭が沸き立ち高揚する筈の気分も、その奇妙な感覚で押しつぶされてしまっている。その代わりと言っては何だが、能力の精度が何時もよりも高く、原子を感じる感覚もいつもより鋭敏だ。

 そして、その感覚のせいなのか、もう一つウツホが奇妙に感じている点が……

 

 

 ウツホはそれを少しでも振り払う為に、頭を左右に振って考えるのを一時止める。

 

「大佐?」

「なんでもないよ。私は暫くしたらまた別の場所に向かうから、貴方達は先に行って」

 

 ウツホがそう告げると、滞在軍の兵士は多少引っかかりを覚えながらも、もう一度敬礼した後に次の防衛地点へと向かっていった。

 

 

 それを確認したウツホも、解決できない悩みにいつまでもかまっていられないと、強引に内に溢れる感覚に蓋をしてその場を離れようとした時、やっとその存在――少し離れていたおかげで、ウツホの火球に巻き込まれなかった建物の瓦礫に、反射的に隠れる事ができた少女達――に気がついた。

 ウツホが通常の状態ならば、もしくは、彼女がここを離れるまでに滞在軍が去らずに人の気配が多ければ、彼女達三人の些細な気配に気がつく事は無かった筈だった。

 言うなれば、少女達は運がなかった。ただそれだけの事だった。

 

 ウツホは仕方なしに少女達が隠れている瓦礫の方へと足を向ける。もしも、世界貴族だった場合は与えられた任務通りに保護しなければならない……のだが……彼女は先に滞在軍を返した事を非常に後悔していた。

 

”しまったな~、どうやって見分けようかな~”

 

 ここに来るまで、世界貴族の保護は全て滞在軍にまかせ、彼女自身は滞在軍に反抗している者のみを排除してきたため、彼女一人ではその人物が保護対象なのか殲滅対象なのか見分ける事が未だにできなかった。

 ウツホは更に増えた問題に頭を悩ませながらも、少しずつその問題の原因へと――少女達が隠れている瓦礫へと近づいていく。

 その歩みは悩み事のせいもあってか緩慢とした物だったが、瓦礫に隠れている少女達にとっては着実と近づいてくるその一歩一歩が、死への恐怖以外の何物でもなかった。

 

 特殊な生まれ故郷を持った少女達は”覇気”と言う特別な力を未熟ながらも幼い頃から身につけていた。

 ”覇気”とは全世界の人間に存在する力だが、引き出すのが容易でなく大半の人間は気づかずに、または引き出せずに一生を終わる。覇気には幾つかの種類があるが、基本的に身体能力を底上げする物であり、物によっては異常なまでに鋭敏になった五感によって人の心の声まで聞き取る事ができる物もある。

 

 普段ならば危険察知などに役に立つ能力だが、今、少女達のその強化された五感は神経を焼き切るかのごとく、少女達の全身に信号を送る。

 

 

 『逃げろ、死ぬぞ』

 

 

 と。

 それは原初の防衛反応であり、全ての生きとし生けるものに存在する本能。例え、自然の理から著しく逸脱した人間といえども、あらがえぬ遺伝子に埋め込まれた絶対命令。

 

 しかし、少女達は動かない――否、動けない。

 震えの止まらぬその体の震えを止める様に自分自身で強くかき抱き、見開かれた目からは止めどなく涙があふれていく。

 

 強化された感覚が伝えてくる圧倒的捕食者の存在。

 野生動物ならば直ぐさまに逃げ出していただろう。しかし、自然の理からずれてしまった人間故に少女達はその濃厚な死の気配によって、ただ己の死に捕われる。もうじき自分達も、先ほど自分達の前で燃え尽きて死んでいった者達と同じ様に至と。

 

 

 少女達の元まで後数歩。そして、ウツホがまたその一歩を踏み出す瞬間

 

 

 

「ッ!! アァァァァァァァァァッ!! に、逃げてください! 姉様方!!」

 

「「ソニア!?」」

 

 瓦礫の影から少女達の中でも最も幼い少女が、自らを奮起させるかのように雄叫びを上げ物陰から一人飛び出した。飛び出すと同時に少女――ソニアの体はその姿を見る見るうちに少女の形から異形へと変わっていく。同年代の標準より多少大きめだった体は、見上げれば五メートルは軽く超えそうな程ふくれあがり、可愛らしかった顔は原形をとどめて入る物の口が耳まで裂け、首から下は四肢のうち二足が消え、鱗に包まれた蛇腹へと変貌を遂げる。

 その姿は巨大な蛇。いや、神話にて語られる怪物――ラミアと呼ぶのにふさわしい姿だった。

 これがソニアが食べた悪魔の実、ヘビヘビの実、モデル”アナコンダ”の能力。動物系の悪魔の実であるその力は、他の動物系の実と同じく自身を三形態へと変化させる事ができる。ソニアが変貌した姿はその三形態のうちの一つである人獣型と呼ばれる物であり、元々の人間としての姿と食べた実の動物の姿を掛け合わせた姿をとる形態である。

 ”アナコンダ”という蛇の中でも最も重いとされる種の特徴に乗っ取ってか、動物系の実の身体能力増加も相成って跳ね上がった速度もくわわり、今やその身はただ存在するだけで破壊をもたらす暴力となっている。

 

 故に力量など関係ない。その巨体が当たればそれだけで相手は致命傷を負うのだから。

 

 只死を待つぐらいならば、大好きな姉達を逃がす為、ソニアは自身の身を言葉通り捨て身でウツホに向かっていった。

 瓦礫の中から急に飛び出してきた焼け残った通路を埋め尽くす様な巨体による一撃。考え事をしていたウツホにそれを避けるような事はできるわけもなく、その小さな身体は巨体に飲込まれる。

 

 

 

 

「攻撃してきたって事は、貴方は殲滅対象で良いわよね?」

「……ッ!」

 

 ソニアは驚愕に息をのむしか無かった。

 確かに、ソニアのその巨体は恐ろしいまでの速度と破壊力を宿しながら、ウツホへと直撃した。が、考え事をして避けるまではできなかったそれをウツホは制御棒を付けていない左手一本で軽々と受け止めていた。その位置は巨大な質量を受け止めたのにも関わらずに、少しも変わっていない。

 

 考え難いその事実を受け止めきれず呆然とするしかないソニアを無視して、ウツホはその邪魔な巨体に左足を上から下へとひねり込むかの様に叩き付ける。

 

「……カハッ!!」

 

 まるで何かの冗談の様に、圧倒的な身長差を無視してソニアの巨体は地面へと叩き付けられる。その威力は恐ろしく、ソニアが叩き付けられた地面は砕かれ皹が数メートルに渡ってできている。

 その絶大な一撃を受けたソニアはその目を裏返し、意識を失っていた。

 

 

「ギャアァァァァァァァァァ!!」

 

 が、ソニアは痛みを伴った絶叫とともに目を覚ます事となる。

 地面へと倒れふした彼女の身体から、激しい閃光とけたたましい炸裂音がその絶叫を掻き消す程に絶えまず続いている。その震源地はウツホが蹴り降ろして彼女のからだを未だに押さえつけている左足からだ。その左足に巻き付いている二つの電子の輪がその存在を知らしめるかの様に力強く飛び回っている。

 

『メルティング浴びせ蹴り』

 

 敵を組み伏せ、分解を司る左足からエネルギーを直接相手に叩き込むといった、ウツホが使う凶悪な技だ。

 今、ソニアの身体の中にはウツホが辺りの原子から分解し得ている、膨大なる核エネルギーが直接叩き込まれている。その分解している物の中には少なからずソニア自身の肉体の構成元素も含まれており、彼女は今までの人生で味わった事の無い……いや、これからの人生を含んでも味わう事の無い激痛に苛まれていた。

 

「イギィィィィィィィィィィッ!!」

 

 それは既に絶叫というより機械が不具合を起こした時に発するような不協音に近かった。身体の機能が異常を発しているのだからあながちそれも間違いではないのだろう。ソニアという生命の形は今確実に壊れていっているのだから。

 通常、一定上の痛みを感じると肉体がショック死を起こさぬ様に自己を守る為、意識をカットするのだが、意識を失った直後にその激痛により目が覚めるという悪純化を起こし、皮肉にもショク死による心臓停止も叩き込まれる核エネルギーが心臓マッサージの役割を起こし彼女を殺させない、痛みから逃がさない。それは正に地獄の責め苦と呼んで相違ないだろう。ソニアは、その身体が生命活動を行えなくなるまでに損傷するまで蹂躙され続けるのだから。

 

 痛みに悲鳴を上げ、何とかそれから逃げ出そうと巨体を力の限りに動かすソニアを片足で押さえつけながら、ウツホは可笑しく感じていた認識を自覚しつつ、何の感情湧かぬ黒い瞳でソニアの痛みもがく様を見つめ続ける。

 

”やぱっり、『人間』が『人』として見えないや”

 

 それが、ウツホがここに来てから感じていたもう一つの違和感。

 妖怪の気質により戦闘狂になりつつ有るとはいえ、ウツホは、元来、どちらかと言えば大人しく、現代社会の人間らしい所謂『お人好し』な性格をしており、殲滅対象とはいえソニアの様な少女に対してこの様な残酷な行為をして胸を痛めない筈は無い。もちろん、ウツホも海軍として行動しているのだから、海賊討伐に当たり、まだ年の若い女海賊をその手にかけた事があるが、気分がいい物ではなかった。

 しかし、今のウツホには何の感情も湧かない。それこそ、ゴミを捨てるかの様な、当たり前の事をしている感覚で人間を殺していた。

 

”そう……そうだよね……たかが『燃料』を燃やすのに何か考える必要があるのかな?”

 

 自分は何をそんなに悩んでいたのか、まだ解決していない奇妙な感覚はあれども、一つ胸のつっかえがとれたウツホは、叫びすぎて喉が切れたのか、それとも内蔵がやられたのか、血反吐を吐きながら壊れたスピーカーの様にノイズを発する、耳障りな眼下の燃料をさっさと燃やし尽くす為に力を込める。

 

 

 

「ソニアを放せ、この化け物!!」

「ま、マリー!?」

 

 その寸での所で、残った二人のうち、もう一人の少女がウツホに向かって飛びかかってくる。死の恐怖と信じがたい光景の連続で思考停止していた少女達だが、妹の生命の危機を目の当たりにして恐怖の呪縛を弾き飛ばした。

 流石にウツホも今回はそれに反応し、向かってくる少女に視線を向けると、ウツホが見ているさなかにその少女の身体も先ほどのソニアと瓜二つな巨大な蛇の姿に変貌させていった。ソニアとの違いを比べるとすれば鱗の模様と、こちらは顔の下が大きく膨らんでいる事だろうか。

 それはソニアの姉である少女――マリーが食べた悪魔の実、ヘビヘビの実、モデル”キングコブラ”による物だった。そう、彼女達は数ある悪魔の実の中で、姉妹で同じのヘビヘビの実を口にするという数奇な運命をたどっていたのだ。

 世界最大の毒蛇と呼ばれるだけあって、マリーが変身した姿もソニアのそれに匹敵する程であり、その質量と速度はそれだけで脅威だが、それだけではソニアの二の舞になるだけだ。しかも、今回は不意を打てずにウツホにしっかりとその姿を捉えられている。

 だが、マリーは止まらない。自身の一撃が目の前の化け物を打ち倒すなどといった高慢な考えなどは頭に無く、一瞬でもいい、自分達の為に今なお苦しみ続けている妹を救う、その一瞬を生み出す為にマリーは己が全てを賭けて失踪する。

 己が全てを――その身に宿す、未成熟な武装色の覇気を、覚悟と死に直面する事で完全な物と昇華させ、マリーは生涯(・・)に置ける最強の”一撃”をウツホへと放つ。

 

 

「……ぁ」

 

 が、その一撃はウツホに届く事さえ無かった。

 その時、マリーが感じたのは喪失感。特殊な生まれ故郷故に幼い頃から未熟ながらも使えていた覇気をたった今完全に物にし、動物系の実の自己強化も相成ったそれは、間違いなく完璧であり、奴隷になる前に見ていた部族の姉達にも引けを取らない――いや、それ以上の物だったとマリーは確信している。ウツホに迫るまでの一瞬とはいえ、そのどこまでも力が沸き上がる様な高揚感、自身が最高に、極限までに高まった感覚が、突如失われた。

 

 零れる。

 落ちる。

 溢れていく。

 

 マリーはその高揚感を失う直前に目にした物を思い出す。それは、赤く燃える炎に照らされてなお輝かない黒い瞳で自分を見つめたまま、奇怪な棒をつかた右手を自分に向ける化け物の姿。

 ふと目をやれば、化け物は『正義』と書いてあるマントをたなびかせ、右手を上げたまま興味無さげにこちらを見ていた。その足下では先ほどまでの炸裂音と閃光は消えさり、絶える事無く絶叫を上げていた妹が弱々しく痙攣しながらもしっかりと生きている事を伝えていた。

 

”……ぁ、ソニアを……”

 

 助けなきゃ。

 そう呟いた筈の言葉は外に出る事は無く、変わりに響いたのは、わずかに身動きした彼女の足下に溜った物の水音だった。

 

 水?

 マリーは疑問に思う。果たしてこんな所に水が当たっただろうか。ここは大通りの真ん中で、まわりには井戸などある筈も無い。そしてなにより、ここは先ほどのウツホによる一撃で、熱気渦巻くマリージョアの中でも一層に高温を保つ場所である。そんな所に水などある訳も無く、あったとしても蒸発している筈だ。

 

 

 零れていく。

 

 

”そういえば、いつの間に私の身体はこんなに……”

 

 

 

 水浸しなのだろうか?

 

 

 マリーの細長い巨体を伝って零れる液体は、マリーが動くたびに、行きをするたびに、その勢いを増して彼女の足下に溜まっていく。今更ながらに、どの液体がどこから溢れてくるのか不思議に思った彼女がその発生源を見て、なぜこんなにも喪失感を味わうのかを理解する。

 

 マリーの視線の先――マリーの右肩は肩先から脇にかけて大きく円上に抉れており、蛇の伸縮性のある丈夫な皮によって何とか右腕がぶら下がっているような酷い有様となっており、その今にも千切れそうな右腕と抉れた肩からは大量に赤い血液が溢れ出していた。

 彼女が放つ筈だった生涯最強の一撃は、遂に放たれる事無く、マリーの戦士として完成する可能性と共に、ただ灰塵と化したのだった。

 

 

 血を流しすぎたためか、自身の一部を失った事を認めたく無いのか、肩先のあった虚空を見つめたまま動かないマリーに向かって、ウツホは足下で意識を失っている邪魔なソニアを踏みつけていた左足で投げるかの様に蹴り飛ばす。

 それは何の冗談か、蹴り飛ばされたソニアの巨体は彼女自身が飛びかかった速度など比にもならぬ、まるで落雷のごとき速度で飛んでいき、ほぼ同程度の大きさを持つマリーを巻き込み、その速度を殺す事無く、焼け残った瓦礫の山へと叩き付けられた。

 

 

 

「ぁ……あぁ……」

 

 その光景を、隠れていた瓦礫の影から一歩も動かずにいた最後の少女は目の当たりにする。少女は、ただ恐怖に震え、口からはか細い嗚咽が漏れるのみで、妹達が投げ飛ばされた瓦礫の山から視線をずらす事もできなかった。

 残された少女――少女達三姉妹の姉、ハンコックも何も最初から最後まで、恐怖に飲まれていた訳ではなかった。ハンコックも、ソニアがウツホに殺されかけ、マリーが飛び出した時には大切な妹の為に恐怖で縛られたその身を動かし共に助けにいく筈だった。

 

 彼女が動けなかったのは、言うなればタイミングが悪かったのだ。

 彼女がその身を恐怖の呪縛から解放したのとほぼ同時に、彼女は目にしてしまったのだ、動物系の実の能力で自分の何倍も強靭な身体になり、未熟だった武装色の覇気を完全な物と仕上げた――そう、まるでかつて憧れていた部族の姉達の面影を見たマリー身体がいとも容易く、光球によって抉られるその姿を。

 マリーが息するたびにポンプの様に溢れ出し、その巨体を赤く染めていく血液と、何かのおもちゃの様に伸縮性の皮によって不規則に上下にゆれる今にも千切れそうなマリーの腕。

 そこで彼女の心は完全におれてしまった。

 戦いを誇りとする部族の出とはいえ、少女達はまだ幼い頃に奴隷として捕まり、今まで奴隷として散々酷い目にあっていたとはいえ、不幸中の幸いと言えば良いのか、飼い主だった世界貴族の趣向から肉体を激しく損傷する様な目には遭っておらず、死を間近に見たのも、逃げ出した奴隷の首輪が爆発したのを遠目に見ただけだったのだ。

 遠目でよくも知らない他人の首輪が爆発した事により逃亡を諦めた少女にとって、自分の肉親が目の前で血にまみれる姿はあまりにも近過ぎた。そう、その姿に自身を重ねる事が容易に想像できる程に。

 

「……ッ……」

 

 彼女は捕われる。死の幻想に。

 妹達はまだ生きていると、自分は姉なのだから速く助けてあげないと、と心のどこかで信じていても動けない。動いたら殺されるから、自分も妹達の様に殺される。生きている筈と信じていながら、既に殺されていると幻想に囁かれ、またそれを認めてしまう。すると、浮かび上がるのは自分が無惨に殺される光景ばかり。

 彼女は心の中で、永遠と同じ事を繰り返し、繰り返し、罵る。今の彼女にできるのはそれぐらいの事だけだから。

 せっかく、逃げ出したのに、自由になる機会を得たのに、それは全てあの怪物に……

 

 

 

「ねぇ」

「……ッ!!?」

 

 その声を聞いてハンコックの心臓は凍り付く。その鼓動は冷たい血液を体中へと送り始め、身体の内から凍えていき、あまりの寒さに可笑しいくらい震えが止まらなくなる。

 

 自分の真後ろから聞こえるこの声は誰の声だ?

 

 そんな事は考えるまでもないのに、疑問を浮かべてしまう。

 ここにはもう、自分とあの化け物以外に誰もいないというのに。

 

 凍り付いた筈のハンコックの身体は、自身の意志に反してゆっくりとだが確実に、声の主を確認する為に後ろを振り向いてゆく。見たく無いのに、見ても絶望しか湧かない事は分かっているのに、目にしないのも恐ろしくてできない。なにをされるか分からないのが溜まらなく怖いから。

 だから、身体は人間がもっとも頼りにしている視覚からの情報を得る為に、嫌がおうにも振り向いてしまう。

 

 

 

 

 

 結局、少女が目にしたのは絶望だった。

 黒い一対の羽を悠然と広げ、その翼に『正義』とか書かれた白いマントをたなびかせ、その奇抜な服装には所々、血で赤く染めている。その血が全て返り血である事は言うまでもないだろう。

 

 

「あ……く? ……のね……わ…………ね」

 

 恐怖。それで少女は壊れる。目の前で話しかけられているのに、何をいっているかなんて理解もできない。

 ハンコックは恐ろしかった。ウツホが行ってきた行為よりも、その血にまみれた姿よりも、ただその瞳が……自分を見つめている黒い瞳が何も見ていない事が怖くてたまらなかった。

 

「だ……? ……つ……て」

 

 反応をしめさないハンコックに、ウツホが左手をゆっくりと近づけていく。

 

 

 

”殺される。化け物に。私が。殺される。ソニア。ころ。黒い目が。何もない。マリーも。赤くて。こわれ。腕が。目が。私を。こ。ころ。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。何がぁ。私を。赤く。黒い目で。胸に。太陽が。黒い。太陽。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。鳥が。だ。れ。助。けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて”

 

 

 

 

 

”助けて!!!!”

 

 

 

 衝撃――否、風圧。自分の頭が化け物に吹き飛ばされたのかと思ったが違った。

 ハンコックの目の前を勢いよく過ぎ去ったそれは……いや、今も少女の目のに存在し、その網膜に映し出される。そこにいた筈のウツホの姿は無く、そこに残っていたのは、腕。といっても人間それではなく、所々に鱗がついており、指の間には水かきが目に映る。ハンコックはその腕を知っていた。それは、数時間前に自分の首に突いていた奴隷の証を外し、自分達を救ってくれた人の物だ。

 ハンコックは恐る恐るとその腕の持ち主の顔を見上げる。今度は先ほどと違い絶望ではなく希望を求める為に、自分の意志で。

 

 

「……二度と捕まるなと言ったぞ」

 

 ハンコックは恐ろしさから止まらなかった筈の涙が、逆の意味で溢れ出すのを感じながら、二度も自分を助けてくれた恩人――魚人の冒険家、フィッシャー・タイガーを見つめていた。

 




はい、原作キャラはボア姉妹と、タイガーさんでした。モロばれだっただろうけどw
タイガーさん、魚に虎だからシャチだと思ってたのに……シャンプには今回、大分翻弄されましたよえぇ。

そして、ロビンに続く、原作、被害者さんたちボア姉妹の登場です。この作品、鳥がトラウマな方が増える増えるw
彼女達がどうなるかはまた次回でw

いや~、なげぇ。
リアルが忙しかったのもありましたが(アンナに忙しくなるなんて思いもよらなかったです)、それに増しても文章が長すぎる。
これで途中で切ってるって、自分でも信じられない。
本来はこの後のタイガーさんとの戦闘シーン&物語にかかわる重大な内容がありましたが、それは次回に持越しです。

今回はやりたかったのは

①擬音を使わない
②三人称
③三人称をねちっこく表現する

の三つなんですが、これのせいで文章が無駄に増えるは、書きにくくて筆は進まないわで、結構大変でした。投稿が遅れた最大の原因ですね。

三人称の擬音、使わない戦いとかやってみたかったんですが、まだ自分いは難しいかも。
でも、個人的には戦闘シーンは擬音あった方が燃える。
擬音や説明を省いて読者の想像に任すって言う手法も好きだけど、難しすぎて無理だw

皆様はどっちの方が読んでて楽しいんでしょうか?
ご意見いただけるとうれしいです。

次回は、これの続きか、番外の続きを上げます。
番外は筆が進まなかったら先に上がるかもってことでw

なるべく早く上げたいですが、やっぱりちょい未定です。すみません。大分忙しくなくなりましたが、まだ色々リアルが慌しくて、ゆくっりかけないかもです。

東方知らない人への設定

十凶星:球状に安定させた核エネルギーを
    回転軌道で制御して攻撃する
    周囲から上方にかけてカバーし
    防御的な使い方も期待できる


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13.5話―聖地~覚悟~帰結

取りあえず、本編も更新したかったので無理くり更新。
またもや分割……というか、数行で終わるはずが、勝手に長くなって一話になった。
元々14話の一部分が長くなっただけで、主人公ほとんどでないので、閑話的な扱いで「.5」です。


ここまでが、移転前の作品となります。


 重傷――否、それは確実に所有者の命まで、その名の通りに到っているのだから致命傷と呼ぶべきか。は虫類系の動物系の能力者なのか、その幼い身体に奇妙な鱗を持つ少女達の身体は、傷の無い所を見分ける方が難しいと言える状態で、その体の大半をまるで傷が少女の存在を喰らい尽くそうとしているかの如く深い傷痕が残されている。その傷痕からは未だに夥しい量の血液が流れ出しており、刻一刻と少女達の短い生を終わりえと誘っている。

 崩れた瓦礫をどかしその下に折り重なる様に倒れていた少女達の現状を見た時、フィッシャー・タイガーは顔を歪める事を止める事ができなかった。冒険家として、そしてそれ以外でも様々な物を見てきた彼だが、この有り様はその体験の中でもダントツに最悪の物の部類と言えるだろう。

 

「こいつは……」

「ひでぇな」

 

 その隣では、ここ迄共に行動してきた元奴隷の魚人達も見るに絶えない現状に対して思い思いに言葉を発する。その言葉に違いはあれど、その胸中は皆同じであった。

 

 即ち――助からない。

 

 二人の少女の内少し大柄の少女――ソニアは、雷の直撃でもうければこうなるのかとでも言うのか全身に裂傷、そして、所々では皮膚が爛れ黒く焦げ付いている。その胸の中心は、その雷が直撃したと思える程に深くぽっかりとした穴が空いていた。その穴を良くのぞけば、波々と溢れ出る少女の胸にできた血の池の中に弱々しくも拍動し、自身を更に血の池の底に沈めようとしている心臓が目に映る。

 残りの少女――マリーなど、そこに隕石でも通ったのか右肩の肩先から脇にかけて円上に抉れており、正に薄皮一枚で右腕が何とか繋がっている――これでは付いていると言った方が正しいかもしれない状態で、こちらも大量の血液を流し続けている。

 少女達が埋まっていた瓦礫の下は、少女達から溢れ出たとは思えない程大量の血液で染まっていた。

 

 実際に目の当たりにしても、そんな今も生きている事のが信じる事ができない様な状態だ。この場には医師もいなければ、道具なぞ当たり前に無い。今もなお激しい戦火に包まれてるこのマリージョアから幼子とはいえ重傷者二人を安全な医師のいる場所迄連れて行く。しかも、もう十分に手遅れと言える傷が本当の手遅れになる前に。

 不可能。それ以外の言葉なぞ、まして楽観的な考えなぞ、ここにいる非情な現実を知っている者達に出せる筈も無かった。

 

「おい、ある程度の所まで連れて行ってやれ」

「……へい」

 

 見捨てる。そう決めれば対応は迅速だった。フィッシャー・タイガーは一緒に行動していた者の中で比較的に人間への嫌悪が軽い魚人に、残された少女――ハンコックを連れて行く様に命令する。命令された魚人も、多少の戸惑いはあったものの、しっかりと頷いた。

 フィッシャータイガーは人、魚人関係なく奴隷を解放する事を望み、今ここにいる者達は逃走でも復讐でもなくそんな彼の目的に賛同し集まった者達であり、人間への嫌悪も他の者達に比べある程度は軽い。その上、相手は同じく奴隷の立場にいた者でもあり、何よりも未だ幼い少女であり、そして、この場で自分達が助けることができる唯一の少女だ。彼らも決して人間が好きな訳ではないが、そんな少女に対して同情できる程には心を向ける事ができた。

 そも、基本的に大半の魚人は人間を嫌悪している。その他の者も関わりたく無いという意見が多く、それこそ人間が好き等というのはほんの一握りもいないだろう。それは、魚人は約200年前まで人類として扱われず、魚類と分類され世界中の人間達から迫害を受けていたからであり、そしてその風習は世界的に改訂されたとはいえ一部地域では根強く残っており、未だ差別の対象となるからでもある。また、奴隷としての価値も高く、法の改定前も後も変わらずに人買いの対象とされる。その証拠に、今現在この聖地を揺るがす騒動の原因となる奴隷達の中に魚・l族が多く含まれていた。

 

「立て、行くぞ」

「え……?」

 

 フィッシャー・タイガーによって助けられてからも、その前からも変わらず地べたに力なく座り込んでいたハンコックにかけられた言葉は、その胸中に同情の色を含んでいるとは思えない淡々としたものであり、ハンコックは急にかけられたその言葉に対し惚けた様な声を返すしかなかった。

 先ほどまで様々な理由によって流していた涙によって赤く腫れた目は、困惑の色を強く宿して声をかけていた魚人を見つめ返す。

 

 未だ妹達が助けられていないのに、どこに行くっていうのだろうか?

 

 ハンコックは彼らが妹達を助けてくれると信じていた。何せ彼は、自分達を絶望的な状況から二度も助けてくれた上に先ほどなんて、あの『恐ろしい化け物』まで倒してしまったのだ。彼はまさしく英雄で、彼にできない事なんて無い。そう盲信的な考えをもつ程にハンコックにとってフィッシャー・タイガーは衝撃的な存在であった。

 その彼――正確には彼と共にいた魚人達だが、ハンコックには彼が行った事と相違ない――が瓦礫をどかし、今正に妹達を助けてくれるのに、何故、自分だけがこの場を離れなければならないのだろうか? ハンコックは妹達が負った怪我の度合いをその目にしながらも、そんな楽観的(・・・)な事を考えていたのだ。

 

「だ、だって。まだ、い、妹達が……」

 

 未だ先ほどの衝撃が抜けていないのか、その口から紡がれた声は弱々しく震えてしまっていた。

 

「……」

 

 それを聞いた魚人の男は顔をしかめる。

 助からないから見捨てる。その選択は戦場となっているこの場では間違いではない。何より彼らは逃亡者なのだ。より多くを助ける為に動いているとはいえ、助からない者の為に時間を割く余裕もなければ、力も無い。今は来る筈も無かった奇襲によって奴隷達のほうが押しているが、それももう長くは続かない。今は炎に包まれ普段の美しい姿の見る影も無いが、ここは聖地マリージョア――世界政府の中心地なのだ。直ぐにでも、世界政府の持つ戦力が救やってくるだろう。

 そうなれば終わりだ。だから、その前に彼らはやれる事だけの事をする。その為に、彼女の妹達は見捨てるしかない。

 そのむねを告げれば良い。だが、所謂お人好しな彼は口ごもってしまい、ただ顔をしかめるしか無かった。

 

「何をしている、早く連れて行け」

 

 動かぬ二人。その頓着を破ったのはある意味その場をつくった原因とも言えるフィッシャー・タイガー自身だった。

 

「タイガーさん、それ「い、妹達は、ソニアとマリーは!?」が」

 

 魚人の男が話しかけている最中なのにもかまわず、ハンコックは口を挟む。

 妹達を助けに行った彼が妹達を連れずに帰ってきては、そんな事を言うのだ。しかも、その後ろには共に瓦礫をどかしにいった他の魚人達も見える。もちろんその中にハンコックの妹達の姿は無い。

 

 何か可笑しい。

 

 流石のハンコックでもそう考えるのは難しく無かった。

 もしかして……。とも恐ろしく信じたくも無い事がハンコックの頭をよぎる。

 だが、直ぐにそんな考えは振り払ってしまう。そんな想像は信じたくも無いし、何より彼が――英雄である彼がいるのだから、と。

 

 

 

「あいつ等は助からん。お前だけでも逃げろ」

 

 

 

 しかし、そんな甘い理想はその彼自身の言葉によっていとも容易く崩されてしまった。

 

「う、うそ。嘘よね?

 そ、ソニアも、マリーも……た、助けて、く、くれるのよね?」

 

 彼から、英雄からそんな言葉が出る筈が無い。信じられない――否、信じたく無い一心でハンコックはすがる様にフィッシャー・タイガーを見つめる。

 ハンコックにそれを、その可能性を認める事はできない、できるであろうはずもない。なぜならば、それを認めるという事は、ハンコックは自分の妹達を……

 

「時間もない。担いででも連れて行け。助けた奴を、むざむざ死なせる事もねぇだろ」

 

 そんな彼女の思い等知らぬ、とばかりにフィッシャー・タイガーはハンコックの言葉に解を返さず、ハンコックを連れて行く様に命じた魚人に再度告げる。

 彼はそうなろうとは思わなかったにせよ、今やこの集団のリーダーである事に違いは無い。彼の采配一つで彼についてきた者達の命が左右する。そんな立場にいるのだ。

 ハンコックに多少の同情は持とう。幼い身ながら奴隷として捕まり、やっと解放されたと思った矢先に家族を失う。確かに悲劇だ。

 だが、その程度の悲劇は珍しくも無い。現実も見据えれない子供の我侭で仲間の命を無駄に危険にさらすわけにはいかないのだ。

 

 

 別にそれはハンコック達が人間だからという訳ではない。確かに、彼は他の多くの魚人同様に人間に嫌悪感を抱いている。

 だが、魚人だったらもっと必死になるのか? もっと手を尽くそうと考えるのか? 

 そう問われたら彼は迷わずに違うと答えるだろう。

 フィッシャー・タイガーは冒険家だ。有りとあらえる場所に行き、それだけ多くの物を見た。だから、彼は人の風評等あてにならない事を知っている。よって彼は自分の見た物を信じる。

 彼は人間がどれほど愚かで、醜いかを知っている。だから人間に嫌悪感を抱いている。だが、同時にそれが全ての人間に当てはまらない事も知っている。そして、奴隷がどれほどに屈辱的で無力で残酷な扱いを受けているかも知っている。

 だから、彼は今回の奴隷解放に置いて人間も魚人も分け隔てなく助ける事を決めたのだ。

 

 

「そんな……」

 

 乗り出しかけたハンコックの身が再び力なく沈む。

 自分だけが助かってしまった。妹の危機に何もできずに、ただ怯え情けなく震え上がっていた自分だけがのうのうと五体満足で生きている。ソニアは恐怖を押し殺し、自分達の為にその身を犠牲にしてでも退路を切り開こうとあの化け物に正面から立ち向かった。マリーもあの化け物の恐ろしさを目の前にしながらも、そんなことよりソニアを助ける為にと、その命を賭け立ち上がった。二人とも故郷のお姉様達の様に、決して仲間を――家族を見捨てず、恐怖に負けず、立ち向かう。その姿は正にアマゾン・リリーの戦士のそれだった。それなのに、何もしていない自分だけが――臆病者の自分だけが……。と、力ない目で地面を見つめ、ハンコックは絶望と不条理の思考の海に捕われる。

 

「……ほら、行くぞ?」 

 

 そんな彼女の姿に何か思う所があったのか、命令された魚人の彼は最初のそれよりも優しい口調で、担ぎ上げる事なぞせずにハンコックを優しく抱き起こす。

 

「ッ、いや!! ソニア!! マリー!!」

「お、おい! 嬢ちゃん!?」

 

 しかし、その刺激で思考の海から抜け出したのか、急に叫んだかと思ったらハンコックはそれを振りほどき妹達がいるどかされた瓦礫の山へと駆け寄よる。

 焼かれた大地が持つ熱と瓦礫の欠片が裸足で駆けるハンコックの足を傷つける。が、そんな物はハンコックとって気にならない。ここに来るまでもそうだったのだから。

 だから、ハンコックが気になっているのは、ピチャリ。ピチャリ。と生温く足に粘ついてくる感触と、瓦礫の隙間から見える、その気味の悪い感触の原因であろう赤い色の液体だった。

 いつの間にか駆け足だった足は急ぎ足になり、徐々にその速度を落としていっては遂には瓦礫の前で止まってしまう。

 呼吸が荒い。熱気とは別に寒気を伴ういやな汗が背筋を流れる。心音が五月蝿いくらいに高鳴り耳が遠い。前に出そうとした足は面白いくらいに膝が震えていて一向に進もともしない。

 目の前にある大きな瓦礫。そこから一歩前に出れば、妹達がいるはずなのに、ハンコックは止まってしまう。

 その場所からでも、妹達の姿を直に見ないでも想像できてしまうために。

 

 赤い。

 

 妹達を助ける為にどかされた瓦礫でできた囲い。その大地一面が赤く染まっていた。先ほどからハンコックの足を濡らすそれが何なのかは考えるまでもないだろう。ハンコックはそれを流す妹達の姿を先ほどまで目にしていたのだから。

 

 動けない。喪失の恐怖がまたもやハンコックの足をすくませる。

 

 何をしてるこの臆病者! 妹達がこの先にいるのに、助けを――私を待っているのに!!

 動け! 動け!動け!動け!

 

 ギリギリ、と手の平に爪が食い込む程に力を込めても、噛みしめすぎた奥歯が悲鳴を上げていても、ハンコックの足にだけは一向に力が入らずガタガタと弱々しく膝を振るわせるだけだ。

 一度、恐怖に屈してしまった心はそう容易くは戻らない。圧倒的な恐怖が身体を狂わせてしまった。身体が恐怖という物を安全への裏返しと勘違いしてしまった。

 

 『恐怖に打ち勝った妹達は死んだ(・・・)が、恐怖に負けた自分は生きて(・・・)いる』

 

 彼女の心がどうであれ、まだ短い時しか生きていない身体は死への可能性を許容しない。例え違う意味での恐怖であれ、恐怖それ自体を勘違いしてしまった身体はハンコックを縛る。

 それは所謂、外傷性精神障害という物であり、幼い少女があの様な衝撃的な事があったばかりで仕方の無い物なのだが、そういった知識の無いハンコックにとっては、妹の安否すらも確かめる事のできない臆病者であり、勇敢な戦士である妹達に命を賭けて助けてもらった価値などない存在であった。

 

「……ねぇ……さま」

 

 思い通りに動かぬ身体を、何とか動かそうと必死に自分を叱咤していたハンコックの耳に微かに届いた掠れた声は、今正にその胸中に思い浮かべていた妹の物だった。

 

「マリー!?」

 

 駆け出す。

 先ほどまで動かなかったのが嘘の様に、ハンコックの足はその意思通りに動き、自分を呼ぶ妹の所へとハンコックを運ぶ。

 

 

 

 

 

 その、生きているのが不思議とも言える程に無惨な妹達の姿を直視した瞬間、ハンコックの精神は限界に達し、その口から胃の物を逆流させ、妹達の血で赤く染まりきっている大地に新たな色を混ぜていく。

 たまらず、突っ伏したその身は妹達の血と己の吐瀉物で汚れるが、そんな事を気にしている余裕等も無く、繰り返し、何度も何度も、胃液すら出なくなって来るまで、それは続いた。不幸中の幸いと言ってよいのか分からないが、奴隷という立場によって元々胃の中の物が少なかったおかげが、そこ迄酷くは吐瀉物を被らなかったが、変わりに手や足はもちろんの事、長い髪や服には、ベッタリと鉄の臭いを発する赤い血がこびりついてしまっていた。

 

「大丈夫か?」

「……うぅ」

 

 後から追いかけてきた魚人が、未だ苦しく嘔吐いているハンコックの背を優しく摩る。水かきのついたその冷たいはずの掌の感触を不思議とあったかいとハンコックは眩みそうになる意識の隅で感じた。

 そのおかげが顔を上げられる程度にはなったが、苦しさと悔しさで、唇を血を流す程強く噛み締めながらハンコックはボロボロとその両目から涙を流す。

 

 妹達はこんなになってまで自分を助けたというのに、こんなになってまで自分を姉と呼んでくれるのに、その姿を見て吐き出すなんて、どこまで自分は!!

 自分こそがこうなるべきだったのだ。立派な戦士の資格を持つ妹達が無事に生き残るべきだったのだ!! 妹達のために姉が動かずに何が姉だ!? 

 私は……

 

 

 

「ねぇ……さぁ……マ」

 

 

 

 あの光景を見た時からハンコックがたびたび陥ってしまう負の思考の連鎖を断ち切ったのは、またもや妹の声だった。

 その今にも消えそうな掠れた声を聞いた瞬間、ハンコックは立つのも煩わしいと這いずるかの様に妹達の所へと飛びついた。

 その痛ましい姿を見て、身体がまたもやガタガタと震えだすが、それを無視して妹達の手を身体に響かぬ様にそっと握る。

 

「……ぉ……ねぇ……さ……」

「そ、ソニア、マリー。私は、お姉様はここにいるよ。だ、だから、だか、ら、おねが、い。じ、じななぁいでぇ」

 

 何が姉だと。そう思う思考なんてどこかへいってしまっていた。ただ生きて欲しかった。ただ、それだけがハンコックの心を占めていた。

 二人がこの傷を負ってから既にだいぶ時間が経っている。普通なら既に命は無い、その場に溢れかえる血の量も、その年代の少女にしては大分体格の大きいソニアとしても、致死量の血は既に流れ出ている様に見える程だ。どう見ても、もはや助かりようが無い。

 

「ね……さ……ぁ」

「うわごとか。意識なんてある筈も無いか。

 こんな状態で生きているのだって不思議なくらいだ。魚人だってここまで生きていられないだろうさ。動物系の悪魔の実の生命力のおかげなのか?」

 

 彼の言う通り、彼女達がここまで生きて来れたのはその身に宿す悪魔の力と彼女達が潜在的に持つ覇気を操る力があったために相違ない。

 動物系の悪魔の実は能力者の身体能力を強化させると共に強い生命力を与える。それに加え、覇気はあらゆる生物に宿る生きる力そのもの。それが動物系の強靭な生命力を底上げしていた。

 

「……」

 

 魚人の言葉を背に、ハンコックは妹達の手を握りうつむく。

 虚ろな目。二人とも確かに目は薄く開いているが、その視線は虚空を見つめるばかりで呼んでいたハンコックに向いていない。死の間際の幻想でも見ているのか、それとも瀕死の重傷を負いつつも残された姉の事がそこまで心配だったのか、その口からは無意識に愛しいもの求める声が漏れているだけだ。

 求める者は、此処にいるのにそれに気がつく事無く、死ぬその瞬間まで彼女達は愛しいその者を呼び続けるだろう。

 

 

 愛しい妹達の為に最後まで何もできない。もはや、ハンコックには後悔しか残されていない。

 

 幼かったまだ人攫いに捕まる前、部族の姉達に強請ってやらせてもらった、とても仕事とも言えない遊びのような監視役の仕事に夢中になって自分達だけで船の甲板に残っているんじゃなかった。そうすれば人攫いなんかに捕まらず奴隷になんてならなかったのに。

 奴隷から解放される時、何も考えずに救われたなんて思わず、捕まったときの事に恐怖して脱走なんてしなければ良かった。そうすれば、たとえ最低の暮らしでも姉妹全員で一緒にいられたのに。

 この大通りに出た時、戦線の中を突っ走ろうか、なんて考えずに迷わず来た道を引き返せば良かった。そうすれば、あの化け物に出会う事も無かったのに。

 あの化け物に怖がって震えていた時、勇気を振り絞って妹達の為に真っ先に飛び出せば良かった。そうすれば、一人だけ無様に生き残る事も無かったのに。

 

 例え、この聖地を無事抜け出せたとしても、ハンコックは死ぬ。心が死ぬ。

 只々、身体が生きているだけの後悔の毎日を送る事になるだろう。狂った身体のせいで恐怖によって自殺すらできずに、きっとやる事全てに恐怖する日々を生きていく。

 それは正に生き地獄と呼ぶにふさわしい。

 

 悪魔の実のおかげで生きているのに、悪魔の実のせいで妹達はこんな目にあってしまった。

 ソニアもマリーもあの化け物を相手する為に、まだ慣れもしない悪魔の実の能力をつか……って……

 

 

 

『悪魔の実!!』

 

 

 

 ハンコックの思考が一色に塗り潰される。唐突に閃いた絶望の中に輝く一条の光。

 それは、通常な思考では到底不可能だときって捨てる愚考。もし、万一にでもそれが成功したとしても無駄に終わる可能性が高い――否、ほぼ確実に無駄に終わるだろう。

 それでも、妹達の為に何一つできなかった彼女が、唯一妹達の為に今できる事。脅迫観念に近いそれに捕われた彼女にそれを行わずいる事等でできる筈が無い。

 ハンコックは涙に濡れた顔を強引に拭き取ると覚悟を決めた表情で叫ぶ。

 

「マリー! ソニア! 私は此処にいるわ! お願いだから、私を見て!」

 

 しかし、叫ぶハンコックに対しても妹達は虚ろな視点を合わせようとはせず、先ほどよりもか細くなった声で名を呼ぶだけだ。

 それでも諦めずに、ハンコックは叫ぶ。繰り返し、繰り返し叫んでいく。

 心の限り力強く、妹達の為に自分にできる事を只一心に。

 

 しかし、それでも届かない。

 どんなに叫んでも、妹達の目はハンコックには向かず、徐々に、徐々に、名を呼ぶ声さえも小さくなっていく。

 

「お願い! 一度だけでいいの!」

「……嬢ちゃん。気持ちは分か

 

『五月蝿い!! 少し黙ってて!!』

 

 ッ!!?」

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 ドンッ。と空気が揺れたようだった。

 流石に時間切れだと、魚人の男がかけた声を遮り、邪魔をするなとハンコックが叫ぶと、その魚人以外の遠巻きに見ていた魚人達でさえもが衝撃を受けた様に退き、まるでその衝撃に耐えきないかの様に意識を失って倒れる者までいた。

 その中に声をかけてきた魚人も含まれており、ハンコックの目の前で意識を失い力なく大地に倒れる。

 

 その異常な光景をハンコックは見た事があった。

 まだ、ハンコックが故郷にいた頃だ。どんな争いごともアマゾン・リリーの皇帝が一喝すれば、今の様にそれを向けられた者は衝撃を受けたかの様な症状を表し、酷い者は同じく意識を失い倒れた。

 

 今、ハンコックがしたそれは正に皇帝のそれと同じであった。

 

 覇王色の覇気――数百万人に一人の「王の資質」を持つ者しか身を付ける事のできない特殊な覇気である。その覇気の力は意思の力。王のみが持つ事の許されるカリスマとも言い換える事ができ、この世で大きく名を上げる様な人物は、この力を秘めている事が多い。絶対的な力の差があれば相手の意識を刈り取る事もできる。

 

 未だ未熟ながらもハンコックはその身に宿った覇王色の覇気を開花させたのだ。

 

 

 そして、それはハンコックに一つの可能性を見せる。

 

 

 ハンコックは先ほどソニアとマリーに故郷の姉達の姿を重ねた。そして、それにハンコックは魅せられたのだ。

 

 自分の今の姿は汚れに汚れ、決して美しいものではない。

 

 それでも。とハンコックは決意する。

 ハンコックは立ち上がり、ボサボサに乱れた髪を手に付いた血で逆に固め、残ったそれを頬をぬぐう様に指で一閃し、一筋の赤い線を入れ墨の様に描く。

 その決意を込めた瞳で凛として立つ姿は、先ほどまでの少女と同一人物であるとは考え難い程に美しかった。

 

 

 妹達は戦士の姿を重ねさせた。それは、妹達にそれだけの資格があったからできたことだ。

 今の自分にその資格が有るわけはない。それ以前に、重ねる相手もそれ以上の相手だ。最低ラインにも届いてない自分が、最高ラインの相手をまねるなんて普通に考えて、できる訳が無い。

 

「マリー……ソニア……。私を……」

 

 それでも……やり遂げるのだ! 私は姉なのだから! 

 

 

「妾を見るのじゃ! マリー! ソニア!」

 

 

 映す相手は幼き頃に見た皇帝の姿。

 全てを魅了するその凛々しく、美しき姿。

 それならば、妹達の心に届くかもしれないと、全てを望みをかけてハンコックは堂々と叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてそれは届いた。

 

 

 

 

 

 

「ぉ……ねぇ、さま?」

「ね……さま」

 

 人を引きつける「王の資質」は、虚空を見つめていた二人の視点をハンコックへとしかと向けさせた。

 ハンコックは確かに汚れていた。その姿は血塗れで、頬は炎で煤け、服の所々には吐瀉物の後が残っている。

 

『綺麗……』

 

 それでも、その姿を見た二人の心は捕われる。どんなに汚れようとも、その姿は間違いなく美しく、覇王色の覇気を無意識ながらも微弱に放っているその身は人の心を引きつけて離さない。

 何よりも、死の間際でも求め続けていた最愛の姉の姿なのだ。それに見入らないなんてそれこそ嘘だ。

 

 

 二人は魅入られ、そしてその身は石と化した。

 

 

 それは比喩でも何んでもなく、石像そのものだった。

 その幼さが残る張りのある肌は無機質な物と変わり、周りの瓦礫と大差のない色となる。その細く長い髪も、どういう事か着ていた服も、流れ出ていた血でさえも傷口ごと石化している。

 

 

 これこそが、ハンコックが食べた超人系の悪魔の実、メロメロの実の能力である。

 能力者の魅力に見惚れた者を石化する能力である。

 

 そして、石化した者は仮死状態になり、後で石化を解く事によって蘇生する事が可能である。

 

 これで、これ以上状態が悪化する事は無い。後はこの状態の二人を医者のいる安全な所まで連れて行き、石化を解除して治療を施すだけだ。

 もちろん、解除して直ぐ死んでしまうかもしれない。それほどに酷い状態だ。それでも、それだけが、ハンコックにできる唯一の手段だった。

 

 

 成功した事にハンコックは心から安堵するが、一息もつかず、先ほどから黙って事の成り行きを見つめていたフィッシャー・タイガーに向き合い、両手を地面に合わせ深々と頭を下げる。

 

「何のつもりだ?」

「頼みがある。

 散々、迷惑をかけて言える義理ではないのじゃが、妾達を安全な所まで連れて行く事と、その後の妹達の治療を頼みたい」

「ただでさえ足りない時間と人数を更にお前達に使えと? 

 俺達がそこまでする必要があるとでも?」

 

 ギロリ、と凄まじい圧力のある視線をハンコックに向ける。

 背中越しでもハンコックはその視線の恐ろしさが分かる。覚悟が無い者がそれを向けられれば、その圧力に耐える事はできないだろう。

 

「頼む」

 

 しかし、ハンコックは顔を上げ、それを真っ正面から受け止める。

 覚悟は既にできているのだ。命もかけた。妹達を助けれるのならばハンコックは何も要らない。

 恐怖の鎖は未だその身体にしかと根付いているが、皇帝の仮面がそれを少女の未熟な心ごと奥底へと押しとどめる。

 

 

「……」

「……」 

 

 

 長い沈黙が続く。

 

 

 その沈黙を破ったのは、ハンコックでもフィッシャー・タイガーでも無く、その場に最も長くいた存在だった。

 

 衝撃。

 今度は比喩ではなく、物理的威力を持った衝撃が、激しい熱と共にその場にいた全ての者に襲いかかる。

 ハンコックの覇気を受けても無事だった魚人達は気絶している仲間達を庇い、フィッシャー・タイガーは妹達を庇おうとしたハンコックを妹達ごと盾になる様にして庇う。

 

 その爆風の発生源など見なくても分かる。むしろ直視する事が難しい程に輝き、聖地を燃やす炎が全てそこから飛び火した小火なのではないかと思える様な、火の柱が恐ろしい轟音を鳴らしながらそびえ立っていた。その勢いは、天涯を燃やす尽くす勢いで、広大な聖地の半分以上を昼間の様に照らし出す。

 

「ぐぅぅ」

 

 余波だったおかげで大した傷にはならなかったが、あくまで直撃に比べて大した事が無いというだけで、発生源の近くにいたフィッシャー・タイガーの背中は熱と衝撃で大きく爛れていた。

 人より何倍も丈夫な魚人でもこれほどの怪我を負ったのだ、ハンコックが庇われなかった場合どれほどの酷い怪我を負ったか想像に容易い。

 

「大丈夫か!? 

 すまぬ、助かった」

「気にするな。お前は覚悟を魅せた。それを俺が気に入っただけだ。

 おい、お前等! 無事か!?」

 

 フィッシャー・タイガーが大きく声を張り上げると、あちこちから無事を告げる声が上がる。

 流石に、あれで死ぬ様な者は居なかったらしい。全員が無事な事を確認するとフィッシャー・タイガーは直ぐさまに指揮を飛ばす。

 

「お前等、こいつ等と気絶した奴等をつれて逃げろ!」

「タイガーさんは!?」

「俺はここに残ってあれをどうにかする」

「じゃあ、俺達も残ります!!」

 

「馬鹿いってんじゃねー!! 

 倒れた奴、全員連れてくにはテメー等が運ぶしかねーだろ! 仲間を見捨てる気か!?」

 

 ビリビリ、と怒号が響く。

 フィッシャー・タイガーも余裕がないのだ。今度は本当に時間がない。近くにアレがいるのだから。

 

「ッ、せめてこの人間を連れて行かなきゃ数人は残れます!」

「駄目だ。連れて行って治療してやれ」

「なんでですか!? 人間なんグァッ」

 

 ガシッ、と音が出る程激しく、フィッシャー・タイガーは魚人の頭をアイアンクローの要領で掴み上げ、先ほどと変わら眼光で射抜く。

 

「いいか、こいつは覚悟を魅せた。

 俺等が到底無理だと諦めた命を悪あがきだったといえ、不可能から可能性にまで引き上げやがった。

 お前等の半分も無い年の娘が俺を視線を真っ直ぐと受け止めたんだ。これに答えないでいられる男がいるか!」

 

 分かったら速く行け。と、フィッシャー・タイガーが振り払う様に無造作に手を離すと、慌てて意識のある仲間達と共に、気絶している仲間とハンコック達を担ぐ様に行動する。

 ハンコックは連れて行かれる前にもう一度、フィッシャー・タイガーに例を告げる。

 

「妾のせいで迷惑をかける」

「気にするなと言ったぞ。どっちにしたって気絶した奴らを連れて行かなきゃならんかったしな」

「……すまぬ」

 

 その原因も他ならぬ、ハンコックである。

 彼らはハンコック達にかまわなければ、もっと多くの人達を助ける事ができただろうに。

 

「そういう意味で言ったんじゃねぇ。

 お前を助けたのだって、俺が勝手にやった事だ。その結果は全て俺が原因でてめぇの責任はねぇ。

 勝手に人のもの(責任)を取るんじゃねぇ」

「……」

 

 大きい。

 身体も、その器も、何もかもが。

 負の連鎖に飲まれていたハンコックは、心がその言葉で少し救われるのを確かに感じた。

 まだ、仮面を被らなきゃ立ち上がる事さえ難しい心でも。こうやって少しずつ、いつかは救われるのかもしれないと、希望を魅せてくれた。

 

「お前、名前は?」

 

 だから、ハンコックは彼に名を聞かれた時、とても嬉しく感じた。

 そして、そういえば自分も恩人の名前を聞いていなかった事を思い出す。

 

「ハンコック。ボア・ハンコックじゃ。其方は?」

「フィッシャー・タイガー。冒険家だ」

 

 二人が互いの名を交換し終わるのと、ゆらり、と火の柱の中に、一対の羽を持つ異形の影が浮かんだのはほぼ同時だった。

 アレが来る。

 

「行け!!」

 

 ハンコックは石化した妹達と共に、魚人達に担がれるように背負われ、運ばれていく。

 自分達を守った時にできた真新しい傷がある、離れていく彼の背中を見えなくなるまで、ハンコックは見つめていた。恩人の姿を決して忘れない様に。この光景を割れない様に。

 彼にもう一度会う事を望みながら……彼にはもう会えないだろうとも思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く、聖地を走った後、後方からの閃光が聖地を何度も照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンコック達が離れて直ぐに、火の柱から陽炎を伴い出てきたのは、火傷一つ、傷一つ無い、黒い一対の羽を背に持つ異形の少女。

 それは、彼が解放した同胞を多く焼き払った、この時、この聖地において奴隷達にとっての絶望。

 

 地獄の人工太陽――霊烏路 空。

 

 派手な登場の割に無表情に佇むウツホの眼前には、もとより険しい顔を睨みつける事で更に深くした、冒険家、フィッシャー・タイガーが油断無くたっていた。

 




GW中に本編を上げたかったので、取りあえずで更新です。
元々遅い執筆速度がさらに下がったせいで、結局、14話間に合わなかった。

同じ説明が繰り返し入ってしまい全然展開が進まないせいですね。削っては書いての繰り返しです。これでもだいぶ削ったのですが、変ですね。
結局、この話の中での作品中の経過時間は10分~20分しかありません。

この話は3,000文字くらいで済ませるつもりだったんですが、ハンコックとタイガーさんがでしゃばって結局12,000文字近くなってしまいました。
別に好きなキャラではないんですけどね~。勝手に走っていきました。
あ、タイガーさんの口調おかしかったらすいません。今、単行本が手元になくて、うろ覚えの記憶で書いてます。

色々独自設定が多い話ですので、受け付けない方も多いと思いますが、そこのところはご了承ください。

今回は14話(第一部の最終回)を書きたいと思ってたのですが、時間が足りずあきらめて、長くなったところで分割いたしました。
次回は第一部最終回だけあって色々、主人公や小説の設定についてのネタバレ回でして、一番書きたいところでもあるので早く書きたいですのですが、GW明けからすごく忙しくしばらく書けそうになく、次回更新は未定です。
でも、なるべく時間作っては書いていきたいと思います。

今回の知らない方への東方設定は主人公でなさ過ぎて、お休みです。

しかし、どう見ても、ハンコック(主人公兼ヒロイン)、タイガー(相手役兼ヒーロー)、ウツホ(序盤に主人公と少しだけ邂逅するラスボス)
悪役だな~。まぁ、海族側から見たら敵だし仕方ないか。

うちのハンコックはキャラ崩壊起こしましたね。あんまりキャラ崩れるのは好きではないんですが、主人公がいる差異で変わってしまうのはどうしようもない所ですね。異物がいるのに全く変わんないのも、おかしいですしね。

ハンコックはアニメでの子供時代は普通の口調だったので、皇帝になる時に口調変えたのかな、と思って。なんか、へんな妄想が沸きあがり、うちのハンコックは妹たちのため。くじけた心を覆い隠すための仮面『皇帝』を被る様になりました。
なんか原作より皇帝っぽいかも(汗

マリーとソニアは、魚人たちによって輸血と治療され、一応、助かってます。
次の登場はルフィがアマゾン・リリー行くときなので遥かかなただな~。

久しぶりで書きたいことが多くなり、あとがき長くなりましたが、また次回もよろしくお願いいたします。



まぁ、新話の投稿は未定ですが……ただいま、執筆度30%(2013/02/28)


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14話ー帰結

物凄い久しぶりの更新! いや~、去年の8月に上げる予定がどうしてこうなったやら。
更に、もうちょい早めに完成するはずが、13日から急病でダウン。高熱で書くにかけず、やっと昨日完治して急いで上げました。
ちょっと書いてるときに調べたのですが、ワンピース原作者様の、尾田先生も13日の記事で、急病になり連載休止との事。妙な偶然だなと思いつつ、一ファンとして病気の回復と連載の再開を此処で祈らせていただきます。


 燃える様な熱と常人では死に至る重さの瓦礫の下。気を失っていたウツホが目を覚ました理由は、ちょっとした息苦しさと、近くから聞こえる喧騒のせいだった。

 目は覚ましたがその身にのしかかる大量の瓦礫せいで、眼前は本当に目を開けているのかを疑いたくなるほどに暗く、身を動かそうにも押しつぶされて動かない。

 ウツホは自分の置かれた状況が理解できずに混乱する。そも、自分が瓦礫の下にいること自体理解できていなかった。

 

 何があったんだっけ? 

 

 ウツホは今の状況になる前の事を思い出そうと何時も以上に働かないだけではなく、何故かズキズキと痛みを発する頭に疑問を持ちつつ、遠い昔の事のかの様にゆっくりと想起する。

 

 

 ウツホが初めに思い出すのは3人の少女達の姿だった。

 

 

 ウツホがその少女達を発見した当初は奴隷か世界貴族かの判別がつかないため、取りあえず保護しようとすると近づいた所、その少女達の一人がいきなり襲ってきた。どうやら襲ってきた少女は能力者だったようでその身を巨大な蛇と化し、戦車もかくやといった突進をウツホに向けて行ってきたのだ。普段のウツホならまともにくらい潰されていた筈のそれを、何故か鋭敏化した感覚で察知し余裕を持って受け止めると、ウツホはその少女を奴隷側だと認定した。ここまで見た世界貴族は散々文句言って騒ぐか、さっさと軍をつれて逃げ出すかしかせず、逆に奴隷達は恐れをなして逃げ出す者もいるがそのほとんどが有無を言わさずに襲ってきた為の判断だった。

 見た目が蛇人間に変わっていようが少女をこれまでの奴隷達同様に消し飛ばすのもどうかと、普段とは違う覚めた思考でもわずかに引っかかったウツホは、視界を覆う邪魔なそれを取りあえずねじ伏せる事にした。その結果が少女に取っていっそ消し飛ばした方がマシともいえる所行になったのだが。

 

 あぁ、思い出してきた。

 

 邪魔なそれを組み伏せながら、考え事の一つが解決した事に気を良くした所で残り二つのうち、もう一つも何かを喚きながら襲ってきたので燃やしてやったら、先ほどの勢いはどこに行ったのか、といったふうに呆然と立ち尽くした姿が見苦しかったので、足下に残ってたケシカスと一緒に視界の外へ捨てた所まで思い出した。

 

 その後、逃げ出しもせず襲ってもこない残ったのが世界貴族か奴隷かを確認しようとし声をかけたが、一瞬だけ身をすくめただけで何の反応も返さないので、どちらにせよ軍に渡せばいいかと座り込んでいるそれに世界貴族だった場合を考え立ち上がらせようと手を伸ばした所で……

 

 

 

……視界の端から信じられない速さで迫ってきた赤い鱗の拳に頭ごと全身を吹っ飛ばされた。

 

 

 

 ウツホはそこまで思い出すと、すぐさま鋭敏化した感覚で辺りを探り、やっと自分が建物の瓦礫に潰されている事を知った。

 状況から、どうやら最後に見た赤い鱗の腕の持ち主に通りの建物まで殴り飛ばされ、その衝撃で瓦礫が崩れ今まで気絶して埋まっていたようだ。そう判断したウツホが瓦礫から這い出ようとした時、その広げた感覚がウツホが目を覚ました理由でもある外の喧騒を拾う。

 

 それはウツホが気絶させられる前に感じた物達(・・)だった。

 

 先ほどまで感じていた頭痛が、スゥっと引いていくのが分かる。変わりにウツホにやってくるのはグツグツと、今にも噴き出そうな激しさを持つ感情。身体の中からはドロドロと溶け出しそうな程の熱さがこもっているのに、それに反して身体の外からはどこまでも冷えきっていって、相反する二つの感覚に頭の中がどこまでも白く、白く塗り潰されていく。

 

 

 それは、高揚感。

 

 

 聖地に着てからウツホが感じていた違和感のせいで得られなかった、能力を使うたびに得られていた全能感。

 今まで感じる事のできなかったそれが急に感じる様になった理由は分からないが、それが急に湧いてきた原因はウツホには分かっていた。

 

 

 無様にぶっ飛ばされたお返しをできるからに決まっている!

 

 

 ウツホは今までお預けを喰らっていたせいか、止めどなく溢れてくる感情にのせ、何時もより精度が増した力をその字のごとくただ爆発させた。

 

 瞬間、立ち上がるは火柱。

 

 聖地の全てを輝かさんばかりに、天へと立ち上がるそれは聖地を焼く周りの炎と同一の物とみるにはあまりにも激しい物だった。

 火柱はウツホを押しつぶしている邪魔な瓦礫を燃やし尽くすどころか瞬間に消し飛ばし、辺りをその余波で焼き、吹き飛ばす。直上方向へと吹き出しため、その余波は火柱に比べれば大した物では無いはずだが、その場に振りまく熱気と衝撃は恐ろしい物であった。

 事実、その余波をまともに喰らったフィッシャー・タイガーはその身に決して浅くは無い爪痕を被う事になったのだから。

 

 

 そんな燃え盛る火の柱の中、邪魔な瓦礫が無くなった事で立ち上がったウツホは激しく立ち上がる炎の灯りによって白く塗り潰された視界を眼前に、己の身に起こった不可思議にただ立ち尽くす事になっていた。

 その表情には先ほどまであった凶悪な笑みの面影等、初めから無かったかの様な能面。彼女の頭を埋め尽くすのは一つの疑問。

 

 なぜ?

 

 だた、それだけ。

 つい先ほどまで感じていた全能感が急速にどこかえと消えていってしまったのだ――否、消えたのではなく、それは押しのけられたのだ。

 変わりに沸き上がってくる、聖地に着たときからウツホを苦しめる違和感によって。

 

 確かに感じていた筈の高揚感が完全に失せると、ウツホに残るのは無関心だ。それに対する門答は散々やってきた。答えのでない物を延々と考えても苛立が募るだけなのもこれまでの経緯で理解した。

 ならば、後は自分の任務をただこなせば良い。もしかしたら、先ほど燃料(・・)を燃やすのに悩んでいた時の様にひょっこりと答えの方が出てくるかもしれない。ウツホはそう解釈すると、鋭敏化した感覚で捕捉している物達の処理の為、足を火柱の外に向けた。

 

 

 はて、最近の自分はこんな事を考えられる程に頭が回っていただろうか?

 

 

 そんな些細な疑問がウツホの頭の片隅によぎったが、火柱に包まれた白い視界から出た時にはそんな疑問は忽然と消え去っていた。

 火柱を出る時、ウツホにはどこかで猫の鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――睨み合い。否、それは、間違いだ。なぜならそれは両者が行って初めて成り立つ事故、この場合は成り立たない。

 少しずつその激しさが成りを潜めてきた火柱から出てきたウツホを出迎えたのは、ウツホの倍以上はあるだろうか巨体を持ちながらウツホに一切の油断無く睨みつけている魚人――フィッシャー・タイガーの姿だった。それに対し、ウツホは何の関心も持たず、眼前の存在にただ無表情に見つめ返すのみだったのだから。

 

 フィッシャー・タイガーは警戒する。見た目はただの少女のウツホに対し、自身が生まれて来てからこれまでで一番危険な存在として。一部の気もさいては成らぬと、静かに己が身に力を込める。何が起きても直ぐに対処できる様に。

 

 逆にウツホはフィッシャー・タイガーに特別、感情を浮かべない。目の前の魚人が自身を殴り飛ばし気絶させた存在であるのは分かっている。先ほどから捉えていた気配の多くが自身が火の柱から出る際に、この場所から急速に去っていくのを感知したときもそちらを追わずにここに立ち止まった理由もフィッシャー・タイガーがここに残ったからであった。

 目覚めた時感じた怒りの対象と実際に向き合えば、この煩わしさから解放され、何時もの自分(・・・・・・)に戻るかもしれない。

 そう考えたウツホだったが、その目論見は失敗へと終わる。眼前の魚人からは何も感じられるず、何の感情も沸き上がらない。

 

 これならば、逃げた方を追った方が正解だったか? まだ、世界貴族か奴隷か確かめていないかったのもあるし。そう、ふとウツホが視線をフィッシャー・タイガーから外し、急速に離れていく気配の方へと向けると、今まで動かずに黙ってウツホを睨みつけていたフィッシャー・タイガーがウツホの視線を遮る様に立ちふさがる。

 

「俺を無視してどこを見ている?」

「……」

 

 再び己に戻されたウツホの無感情な視線にフィッシャー・タイガーは内心の動揺を押し隠しつつも、身体は無意識に迎撃用意の為に腕を上げて構えを取る。

 彼は焦る。目の前にいるウツホの姿に。

 別にその奇抜な格好の事ではもちろん無い。彼が数刻前にハンコックに手を伸ばしていたウツホを、とっさに殴り飛ばした時の拳の力は全力では無いしにしろ、それなりの威力を乗せた物であり、己の手に伝わった手応えでは、ほぼ間違いなく相手を死に至らしめたと伝えていた。例えそうでなくても、瀕死の重傷を負わせた一撃である事は間違いが無い。

 フィッシャー・タイガーは己が強いとは思っていない。この大いなる海にはそれこそ想像も絶する様な強さを持つ者達が存在する事を冒険者の彼は知っている。しかし、弱いとも思っていない。身体能力に恵まれた魚人達のなかでも荒くれ者達をその腕前で黙らせ、冒険の最中には幾度の危険を超えてきたのだ。己の武に自身が無ければ冒険等やっていはいられない。

 

 だからこそ焦る。

 

 己の不意打ちと成る一撃が直撃したにもかかわらず、傷一つ無く、ダメージも負った様に見られないウツホの姿に。

 

 

 辺りを立ち籠める熱風に晒されてなお流れる冷たい汗が、背中におった火傷を刺激する。その痛みが、己の背の方にいるであろう少女の姿をいやでも思い出させる。

 彼は人間が嫌いだ。それは先程逃がしたハンコックも含まれる。彼の人間への憎悪は直ぐにぬぐえる様な容易いものではない。

 では、何故彼があの少女の為にここで足止めをしているのだろうか。それは至極単純な理由だ。

 

 ――意地。男の意地以外の何ものでもない。

 

 たったそれだけ。しかし、女が魅せた意地(奇跡)に男が意地(命)を張らない道理は存在しない。

 

 魚人の冒険家フィッシャー・タイガーはたったそれだけの理由で、眼前の化け物――海軍の秘密兵器、霊烏路空の足止めに命を賭けた。

 

 

           ◇               ◇

 

 

「貴方は世界貴族? それとも奴隷?」

 

 一分が一刻に感じる様な長いようで短い沈黙を破ったのはウツホのフィッシャー・タイガーに対する疑問にもならぬ愚問なる問いかけだった。

 はじめ何を問われたか理解できない様子をみせたフィッシャー・タイガーだったが、その内容を理解すると沸き上がる怒りに身体を震わせる。ふと、耳を澄ませば聞こえてくるギリギリと耳障りな音の発生源は己の歯か手の骨か。あまりの怒りで頭が可笑しくなりそうな、それほどの怒りが彼を駆け巡る。

 なぜなら、その一言は、魚人族に対する侮辱以外の何物でもなく、この場で散っていった全ての命を冒涜する言であり、フィッシャー・タイガー自身を否定する発言であった。

 

 彼がこの場で、怒りに身を任せウツホに殴り掛からなかったのも、やはり意地。自身の役目は時間稼ぎであり、自分からその時間を短くする事は約束を違える事になる。

 フィッシャー・タイガーは沸き上がる怒りを捻り伏せ、己が役目を果たす為に時間稼ぎ(対話)を始める。

 

「俺は魚人だ」

「……? あぁ、よくみれば少し変わってわね貴方。そういえば、何人か同じ様な人を見たけど、似た種類の悪魔の実の能力者ばかりいるのねここは」 

「何を言ってるんだ? 俺は魚人だと言っている。人間じゃねぇ。お前が見てきた奴らもな」

 

 その返答に少し悩むしぐさをするウツホ。

 少女の初めて見せる、無表情以外の表情をみてフィッシャー・タイガーの中に一つの疑問が沸き上がっては膨れていく。

 

「要は魚人っていう人間の区別なんでしょ? 向こうで言う白人や黒人みたいなものね。で、結局、貴方は世界貴族なの? 奴隷なの?」

 

 「だからそれがどうかしたのか?」といった、ウツホの態度にフィッシャー・タイガーは自分の考えが正しかった事を知り

 

 

 更なる怒りに身を焦がした。

 

 

 つまり、こいつは本当に何も知らず、理解もしようとせず、ただ言われたがままに、数多の命を奪い、我らが同胞にもその手にかけ、奴隷達の解放を邪魔しているというのか!?

 握りしめすぎて掌に爪が食い込み裂傷を作り出している腕を更に一段と強く握り込んだ後

 

「違う!! 俺達を人間なんかと一緒にするな! 区別じゃねぇ、種族が違う! ましてや、多くの同胞を奴隷にしつまらねぇ自尊心の悦に浸っている薄汚い世界貴族なんかと、間違いでも口にするんじゃあねぇ!!」

 

 ――フィッシャー・タイガーは吠えた。それは怒りの咆哮であり、魂の慟哭でもあった。仲間にも、誰一人として話してはいない、彼が奴隷であった頃に付けられた傷。既に後のない筈の傷が、今背にある傷よりも強く彼を痛めつけているようだった。

 しかし、その叫びを無視するかの様にウツホの様子は変わらない。

 

 

「結局、人間も魚人も『人』には変わらないでしょ? 人間も魚人も『奴隷』にされてるんだから」

 

「違う!! そもそも、奴らは奴隷を人とは扱わない。良くて犬、ほとんどの者は物扱いだ」

 

「犬なら『家畜』、物ならそもそも『奴隷』なんて付けないわ。『奴隷』と呼ばれている時点で『人』としてみられている証拠じゃない」

 

「……では、奴隷を、俺達魚人を同じ『人』とよぶお前は何故、我が同胞達をそこまで無感情に手にかける?」

 

「それこそ『人』だからでしょ?」

 

「どういう意味だ? まさか、自分は神の使いで青海人とは違うとでもいうまいな、空島の民よ」

 

「ん~ちょっと惜しい……のかな? それとさっきから貴方何か勘違いしてない? 空島ってなに?」

 

「……その名の通り、雲の様な海に浮かぶ空の島の事だ」

 

「へぇ、雲の上にも海があったんだね。でも残念。私は真逆の地底出身よ」

 

「ほぉ、そりゃあいやに奇遇だな。俺も海底出身だ」

 

「あら、そう。じゃあ、思う存分見てっていいわよ」

 

「何をだ?」

 

「太陽よ。海底じゃあ珍しいでしょ? あぁ、そういえば名乗ってなかったわね、地獄の人工太陽――霊烏路 空。地底を照らす太陽とは私の事よ」

 

「…………陽樹イブ」

 

「?」

 

「光も届かない暗い海底の奥深くにある魚人島が『海底の楽園』等とよばれるのは、暗い海底の中でも唯一、太陽の光を受けれるからだ。その恩恵を与えてくれるのが陽樹イブ。陸上の葉や茎の部分に当たる光を深海一万メートルにまで届く巨大な根を通し運んでくれる。それは俺達魚人に取ってはまさに恵みの光だ。初めて海面に出てその光――太陽を直に見た時はな、ただ綺麗だと、その光景に思わず放心した。そして、それはこの海に匹敵する程に偉大な物だと心から感動した。俺が冒険家に憧れた理由はな、この太陽の光の先に何があるかみてみたいって言う単純な理由からだった。

そう、とても暖かい輝きだった……

 

 

少なくとも目の前にあるまがい物とは大違いだったな」

 

 

「……長々と語って結局何が言いたいのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「もう時間稼ぎはイラねぇってことだよ! この欠陥豆電球が!」

 

「じゃあ、本物かどうかその身で試してみなよ! 私が飲み込んだ神の炎。核エネルギーで跡形も無く溶けきるがいいわ!」

 

 

 

 

 

           ~『荒々しき二つ目の太陽』 Stage_? 元マリージョア大通り~

 

 

 

 

 世界政府の中心地である聖地マリージョアが炎に包まれ、政府と解放された奴隷達の激戦がまだ聖地のあちこちで行われている最中、その戦いの中で最も過激な争いが、聖地には幾つもある大通りの一角で行われていた。

 その大通りの一角はその元来の形を崩し、道の脇にそびえ立っていた高級建築が瓦礫に姿を変え、とある地点を中心に円形に抉られ、ちょっとした広場の様にも見えるさまであった。

 

 その広場を縦横無尽に蠢く影が二つ。

 方や、執拗にもう一方の影に向かって数えきれない程の光弾をばらまき続ける影――霊烏路空。そして、その爆発する光弾を回り込む様に駆けながら避け、時には強靭な肉体を頼りに何発か迎撃しつつ受け止めながら、接近し続ける影――フィッシャー・タイガー。

 

 当初、ウツホに向かって突撃したタイガーだったが、戦いの先手を取ったのはウツホの方であった。

 光弾の雨。突撃したタイガーを向かえたのは、一つが直径、掌大のそれだった。

 いくら怒りに身を任せようが、元々ウツホを警戒していたタイガーは真横に飛び退くことで、初撃のそれを避けることができたが、光弾が地面に着弾することによって生まれる爆風の威力に目を疑う。ほぼ、ノーモーションから多数ばらまかれた筈のそれが、戦艦の大砲レベルの威力なのだからそれも仕方の無いことだが。

 

「ちっ。やはり、悪魔の実の能力者だったか」

 

 遠距離は不利と直ぐさま判断し、次の光弾が来る前にタイガーは爆発的なスピードで接近戦に持ち込む。さほど、二人の距離が離れていなかったため、その行いはうまく行き、タイガーは己の射程に入った無防備なウツホの頭にめがけて、もう一度、渾身の一撃を放つ。

 手にかえるは鈍い、まるで鉄のかたまりを殴った様な感触と痛み。そして、タイガーの目に映ったのは、ウツホが差し込んだ制御棒によって、振り抜けずに拳から血を流す、己の腕だった。

 この対格差で全力で放った一撃を、難なく受け止められた事に驚きつつも、自身が積み重ねてきた経験により、いち早くタイガーは切り返しの一撃が来る前に自分から追撃に入る。今度は直撃し、ウツホが吹き飛ぶ。しかし、先ほどまでとは言わないが、またもや鉄のかたまりの様な感触と痛みが走る。

 立ち止まり、拳を見れば自分から攻撃したとは思えぬ鬱血に出血。

 

「っつ~~~、このぉお!!」

 

 吹き飛ばされたウツホが空中で背の羽を利用し、体勢を立ち直しつつお返しと言わんばかりに、今度は自らタイガーに向かって右手の制御棒を左肩から薙ぎ払うかのように叩き付けてくる。

 それをわずかに身を沈め、身を半歩引くによって回避したタイガーはカウンター気味に、数度殴打を浴びせる。振り抜いた姿のウツホはそれに対応できずに腹部と背にそれを受けとめるが、それを無視し、振り抜いた勢いをそのまま、もう一度回転する事によって、再度、今度は避けれぬ様に深く一歩前進しながら制御棒をタイガーの脇腹から入る様に真横に振り抜く。

 

「ぐっ!!」

 

 まさか、カウンターを受けつつもカウンターを返してくるとは流石のタイガーも思いもよらず、何とか差し込んだ右腕で制御棒を受け止め、直撃は避けたが、差し込んだ腕からはメキメキと骨の軋む音が発っし、その巨体を知ったものかと、ガードの上から今度は逆に吹っ飛ばされ、数メートル先の瓦礫に足をつける事で何とか体勢を立ち直した。

 

 タイガーの身体中を嫌な汗が流れては熱気によって乾かされていく。タイガーはその表情におくびにも表さないが、その胸中ではウツホの危険さを十分に噛み締めていた。

 先ほどの接近戦において、互いにやり通した応酬はほぼ同じ――否、内容的にはタイガーが有利だった。のにも関わらず、与えたダメージと与えられたダメージの差はウツホが圧勝しているのである。タイガーの攻撃は異常な硬度を誇るウツホの身体にはあまり通らず、逆に殴った拳が逝かれる。逆にウツホの攻撃はその驚異的な怪力によって対格差を埋めてくる。

 今のやり取りから、ウツホの体術は大した物ではないと分かってはいても、その恐ろしい耐久力を突破する手段が無ければ、相手よりも先にタイガーの身体が持たない。

 だからといって、タイガーは接近戦に持ち込むのを止めるわけにはいかなかった。

 

「あぁ~、もう! ちょこまかとっ!!」

「ックソ!」

 

 突如、飛んできた光弾を間一髪で躱すが、着弾し爆発する光弾の発した熱風が、ジリジリとタイガーの体力を奪う。

 距離を空ければ、このようにまるでマシンガンを連射するかの如く、光弾が降り注ぐのである。それは、タイガーが躱せば躱す程、ウツホの苛立によって、その大きさと威力が増していくため、否応ながらも、タイガーにはこの光弾の雨の中を、迅速にくぐり抜け、ウツホを直接沈める以外に手は無かった。

 

 しかし、一度離れてしまった距離はウツホの放つ弾幕のせいで中々に埋まらず、どうにかして距離を詰める為に多少のダメージは覚悟するが、それで足が緩めば数秒も待たず光弾が降り注ぎ、結局回り込むしかない。

 一向に縮まらぬ距離と徐々に奪われていく体力。ジリ貧になっているこの現状にタイガーは苛立と焦燥を募らせていく。

 

 

 

 だが、苛立と焦燥を募らせているのはウツホもまた同じであった。

 タイガーとの先の接近戦にて、普段なら直撃したであろうタイガーの初撃は、鋭敏化した感覚によって咄嗟に受け止める事ができたが、もし、制御棒で受け止めていなければ、それで気絶していたであろう事が分かっていた。

 初撃以下の追撃は流石に体術の差で受け止める事はできなかったが、初撃のそれと比べ、手数を意識したものでは堅牢な肉体のおかげで深いダメージにはならずにすみ、お返しに強烈な一撃をガードの上からだが叩き込むことができた。

 しかし、それが通用するのは一回だけだという事がウツホにも理解できている。自分の大振りな攻撃ではもうどれだけ振っても、警戒した相手には当たる事が無いだろう。だからこそ接近戦を避け、遠距離で光弾を振りまくが、タイガーの卓越した経験が生む物なのか、ウツホの実力者との圧倒的経験不足による物なのか、タイガーは大きくそれを躱すか、または紙一重で避ける事によって容易には光弾が直撃しない。

 それどころか、命中率を上げようと広範囲の威力を持つ光弾を生み出す為にタメを作れば、タイガーはその隙に大きく接近してくる始末で、ウツホは、ある程度以上の光弾を生み出す事ができずにいた。

 

 別にウツホに取ってはこの状況は悪い事ではない。大技で一気に決めれないのはウツホの性格上、苛立は溜まるが、戦局的には一方的な嬲り殺しである。

 このまま、小さな弾幕で押していき、いずれ相手の体力が消耗した所で大技で決めれば良いのだから。

 

 

 ウツホが通常の状態ならば、それができただろう。

 

 

「っう~~~……」

 

 広場の様に崩されていた元大通りは、ウツホの放つ無数の光弾の爆撃により、更にその姿は荒れ果て、今ではウツホを中心とした瓦礫だらけの浅い蟻地獄のような様をさらし、高まりすぎた熱が炎と陽炎を纏う。

 

 その光景に何故かウツホは心を酷く揺さぶられていた。

 

 ウツホが聖地に着てから感じる奇妙なザワメキ、もはや自身では抑えきれない喪失感にも似た感情。

 それが、この戦いの最中に無視できぬ程にウツホの中で大きく膨れ上がっていた。そして、それに伴いドンドンと鋭敏化されていく感覚にウツホの精神は振り回される。

 

 早く敵を倒さなければ可笑しくなる。早く、早く、早く、はやく、はやく、はやくはやくはやくはやくハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤク……

 

 ウツホの胸中に吹き荒れる思い。

 しかし、眼前の敵――フィッシャー・タイガーはウツホの胸中の焦りを知るかの如く、淡々とウツホの放つ光弾を避け続ける。それに伴い、燃え広がる炎が更にウツホの感情を刺激していった。

 

 一見ウツホが有利に見えた持久戦は、実のところを明かせば、ウツホにとっては一分一秒でも続けたく無い物であった。

 

 

 

 

 

「……ぁぁああああああ!!」

 

 

 そして、その均衡が崩れるのはやはりと言うべきか、タイガーではなく、ウツホの方からであった。

 

「グラウンドメルト!!」

 

 遂に、己の内から吹き上がる感情を抑えきれなくなったウツホは、光弾をばらまくのを止め、その感情ごとタイガーを薙ぎ払うが如く高らかに咆哮する。

 光弾をばらまくのに常に使っていた左手をタイガーに標準をつけた右手の制御棒に沿え、調節したエネルギーを先端に集中させる事によって、特殊なレーザーを制御棒から放つ。そのレーザーは、制御棒の先端を中心に制御棒を動かすことなくウツホの眼前をフリーハンドで線を描く様に縦横無尽に薙ぎ払う。

 

 一拍後。レーザーが当たった部位は叩き付けられた核エネルギーによって己の内から大爆発を引き起こし、大地一面を光りの海へと変貌させる。見渡す限りの爆裂光によって、白一色に染まったウツホの視界に黒一点――否、既に影半分。

 

 ギシリ。とウツホの頭蓋骨が悲鳴を上げる。

 

「ピカピカ、ピカピカ眩しいぞこの豆電球!!」

 

 悲鳴を上げる間もなく、ウツホの頭を鷲掴みにする巨大な手によって、ウツホは頭から砕ける程に強く地面に叩き付けられる。言うまでもなく、ウツホの頭を鷲掴みにするその手の持ち主は、爆風によって身体の至る所に焦げ跡を作ったフィッシャー・タイガーである。

 もとより、二人の戦いが膠着した状態だったのは、ウツホの絶え間ない弾幕のせいであったのだから、その均衡を崩せばこの結果は見えている。ウツホが技を放つ為に作った僅かな隙。タイガーにはそれで十分だった。ウツホに向かって一直線に駆け出し、後はウツホの放ったグラウンドメルトの爆風に乗って一瞬でウツホに接近する事によって、その頭部を掴んだだけだった。最も、その代償に背の火傷はかなり酷くなったようだが。

 

「うぉぉおおお!!」

 

 タイガーは叩き付けたウツホを直ぐさま高く掲げ、再度地面に叩き付ける。それこそ息をつかせる余裕を与えぬ様に、何度も何度も執拗に繰り返した。

 その光景は端から見れば、化け物がいたいけな少女をボロ雑巾の様に蹂躙している酷い有り様に見える。が、その実態は真逆。タイガーにはこの少女がどれほどの脅威だかを理解できる。どちらが化け物なのかなど考えるまでもないのだ。

 故にタイガーは離さず止めない。驚異的な硬度を誇るウツホに対して打撃よりも内部に衝撃を与えるこの方法のが有効だと推察し、ようやく巡ったこのチャンスを逃す物かと、鯛の魚人の怪力と己の巨体の体重全てを使い、周囲の地面が沈下してもなお止める気はない。

 

 もう、タイガーがウツホを叩き付け十数回目になろうか、まだ足りぬと、タイガーがもう一度全力でウツホを持ち上げた時、タイガーは咄嗟にウツホを投げ飛ばす。

 

 悪寒と灼熱。タイガーが感じたのはその相反する感覚。

 折角掴んだチャンスを自ら棒に振る様な行い。しかし、それこそ正解。でなければ、今頃タイガーは肘から先が無くなった右腕(・・・・・・・・・・・・)の変わりに胴体を真っ二つにされていたのだから。

 

 タイガーの右肘は先端から黒く炭化しており、その先はあるべき物が存在しない。燃え尽きたせいで出血も痛みは無かったが、変わりに無くなった右腕を火にくべ続けている様な拷問のごとき熱さがタイガーを襲う。たまらず右肘を余った左手で押さえると、炭化した肘先がグズグズと音を立てるかのように崩れる。

 

「少しは太陽の力を思い知った?」

 

 タイガーが睨みつけるように視線を投げれば、投げられた衝撃と周囲の熱気のせいで派手に立ち籠る土煙の中で、頭部からの出血によって顔の左半分と白の装束を派手に赤く染めたウツホが立っている。その右手の制御棒からは先ほどタイガーの腕を焼き斬った原因であるレイディアントブレードがゴウゴウと音を立てて火花を散らしている。

 頭部から流れる血のせいで片目のみをタイガーに向けたその表情からは、先ほどまで苛立は感じ取れず、初めに二人が対峙した時にも似た無表情に近い。

 ただ、一つ違う点は、タイガーに向けられている残った目の奥に隠しようの無い怒りの感情が渦巻いているという所だろうか。その血だらけの姿から分かるように、先ほどのタイガーの行いはウツホに少ないとは言えないダメージを与えていた。

 

「……っ俺、一人燃やしきれない程度の火力でそう大層にほざくんじゃねぇ」

 

 毅然と言い放つが、タイガーを取り巻く現状は最悪だ。背の大きな物と体中至る所を覆う火傷と傷。右腕の紛失。全力で動き続けたことによる体力の減少。更には熱せられ続けた事による高温症状も出てきている。火炎渦巻くこの場では吸う空気が灰を焼くのではないかと錯覚する様な熱気を帯びている。全力で動き続けた筈のタイガーは汗などここ数分かいていない。タイガーは既に限界だった。

 ”だが……”

 

「なら、もっと分かりやすく太陽を見せてあげる」

 

 ウツホはレイディアンドブレードを消すと同時に、左手を高らかに天に向かって掲げる。パチンッ。とそのまま掲げた左手の中指をスナップさせると、炎に焼かれた聖地の頭上に立ち籠っていた分厚い黒煙の中から、一つ数メートルはある十の火球が這い出し、赤く染まった聖地を白のキャンパスへと塗り直す。

 

 

 

『ホットジュピター落下モデル』

 

 

 

 それは、ウツホがこの元大通りに着た当初、此処で抵抗していた奴隷達を引き裂き、燃やし尽くした”十凶星”の成れの果て。空へと立ち上った十凶星は、上空に立ち籠る煙の成分を少しずつ分解、吸収し、その身を増大さえ変貌させていった。輝かしくも、近づく物を許さず一切合切を灰燼と化す炎。その圧倒的な存在感。ゆっくりとその存在を降下させるその姿は、確かにもはや火球とよぶより、一つ一つが小さな太陽のようであった。

 

「ちげぇな」

 

 が、上空から迫り来るそれの光を眺めるタイガーは認めない。到底、認められる物ではない。

 

「あんな物が太陽だって? 偽証行為もはだはだしいじゃねぇか」

 

 十の火球が円を描きながらこの大通りを押しつぶそうとゆっくりと迫る。それに比例して只でさえ高かった通りの温度が更に上がり、熱せられ続けた地面が自身からブスブスと異様な音を立て始める。

 

「どれだけの時が過ぎても、どれだけの場所をめぐっても、どれだけの絶望の中でも、俺の中にいつまでも色あせずに残った、あの光景。俺の”信念”……その輝きはこんなちんけな物じゃねぇ!」

 

 直上の火球から降り注ぐ光と地面を反射する光が世界から色を奪い、うねる業火が世界を焦がす。……着弾まであとわずか。

 

「なら、下らない信念ごと真の太陽によって燃え尽きるがいい!」

 

 

 

「こんな紛い物じゃあ、()はつかない!!」

 

 

 

 ウツホを中心に、十の火球は地面へとその身を沈める。そして、同時に爆発。

 大通りを超え、新たな建物を削り消しながら円状に広がる無音の白き世界。破壊の炎は飲み込んだ物を貪欲に消し去りその存在を許さず、業火の唸りは破裂とともに増大することで音すらも飲み込む。

 

 これぞ太陽の中心。核の滅却による完全無の世界。全てが原子へと分解され存在する原始の世界模様。

 そこに存在を許されるのは、世界の核たる霊烏路空のみ。

 

 

 

 

 

「こんな炎じゃあ!! 心に火(・・・)はつかない!!」

 

 白く埋め尽くされたはずのウツホの視界の先には巨大な影。他の音を飲み込む轟音すらも押しのけるその咆哮。このウツホにとっての絶対世界にあってはならぬ存在――フィッシャー・タイガーが引き絞っていたその隻腕を振りぬく。

 

 

『陽光!!』

 

 

 バキンッ。という何かが砕ける音がまたもや無音の世界に響く。真下からしたその音に視線を下げたウツホが見たものは、自身の胸の中央に飾られた太陽の象徴――八咫烏の目に大きくひびが入った姿だった。ウツホが何が起こったのかを理解するその前に、ウツホはその胸から背に抜けた、今まで味わったことのないほど強大な衝撃に吹き飛ばされる。また、同時に白い世界がウツホに引きずり込まれるように続く。

 タイガーが突き出した拳はまるでモーゼの奇跡のように、ウツホが築いた世界を割り、離れた所からウツホへと衝撃を伝えた。そして、世界はその空いた道を埋めるかの如く、己自身をその道へと絶え間なく注ぎ込むことによって消滅した。

 拳の先から伸びた光が一条の光の槍となって、ウツホを吹き飛ばしたその様子は、正にその技の名の如き物であった。

 

 

 

 

 吹き飛ばされたウツホは、幾つもの建造物をつきぬけ、他の建造物と比べても巨大なそれに受け止められ、建物内を無様に転がることでようやく止まる事ができた。建物を突き抜けるごとに刈り取られていったウツホの朦朧とした意識は、ウツホが突っ込んだ衝撃で崩れていく建物の天井が、最後に己を押しつぶそうとする姿を捉え闇へと沈んだ。

 

 拳を振りぬいた姿勢のまま、その様を見届けたフィッシャー・タイガーは限界だった体を支えることをやめて地面に身を投げ出すように倒れこむ。

 ジュー。と肉の焼ける音と臭いが立ち上る。

 

「あ~、あちぃな糞が」

 

 しかし、タイガーは動かない。もはや体全体が焼け爛れているうえ、場所のよっては所々炭化しているので、今更というのもあるが、何より体がいうことを利かなかった。

 

「ぜってぇ死んだと思った。もう金輪際やらねぇぞ」

 

 タイガーは自分の性格上それは無理だなと思いつつも、流石にきつかったせいで、ついつい愚痴をこぼしてしまう。

 疲労困憊に瀕死の重傷。体中の火傷のせいで血は流れていないが、汗腺がやられ、高熱による高体温で臓器に異常が出て急死することもありえる。タイガーには緊急に医師の治療が必要だったが、疲労のため動けない上に、熱を持った地面による追撃が地味だが非常に効果的なコンボでタイガーを殺しにかかっている。

 

 これは、死ぬか? と、折角命がけの勝負で拾った命をタイガーが諦めかけた頃に、タイガーを呼ぶ大勢の声と慌しい足音が大通りに聞こえてきた。ハンコック達を船に届けてきた奴隷だった仲間の数人が恩人のタイガーを探しにきたのだ。

 

「――ったく。あいつ等」

 

 タイガーの口から苦笑がもれる。今まで奴隷として扱われていた彼らにとって、忌まわしい記憶の多いこの場所に戻ってくる事に抵抗がないわけがない。それも、一度は安全圏まで逃げた後だ。見た目は小娘といえ、海軍の将校を相手にしていたはずのタイガーを探しに着た彼らに対して、タイガーは言いようのない感情がわきあがるのを感じた。

 

「居たぞー! タイガーさんだー!!」

 

 ガヤガヤと集まってくる”仲間”の気配を感じつつ、タイガーは疲労の溜まった体の欲求に素直に従い意識を深く落としていった。

 

 

「「「「た、タイガーさんが焼き魚になってるー!!?」」」」

 

 

「――っ、いいからてめぇら、さっさと運びやがれ!!」

 

 が、結局タイガーが欲求を満たせたのは、聖地を去る船の医務室の中であった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 暗い。暗い一本道をフワフワと進んでいる――いや、暗いのに何で一本道ってわかるんだろう? あぁ、よく見れば周りを明かりが照らしていた。

 あたり一面の岩肌に囲まれた一本道はどこかのトンネルのようだ。その薄暗い天井付近にはゆらりゆらりと不安定な照明があっちにいったりこっちにいったり不安定な挙動をとって道を薄暗く照らしている。

 

 しかし、暗い。

 進みにくいから、どうにかならないかな? と思っていると前方が急に明るくなった。そちらを見れば、時代劇などで見るような建物に長屋敷がたくさん並び、大量の提灯で煌びやかに飾られている。

 ちょうど暗いと思ってたので、そちらに向かおうとしたら声をかけられた。

 

「ねぇ、あんた。こんなところでどうしたんだい?」

 

 中学生か高校生くらいの女の子だった。

 真っ赤に髪を染めて昔の不良みたいだが、三つ編みをしているのと、とっつき易そうな笑顔のおかげでマイナスなイメージはない。変な服着てるし、コスプレ?

 ……あれ? そういえば何でこんなところに居るんだっけ?

 

「なんだいあんた迷子なのか。じゃあ、ついて来なよ」

 

 そういうと、その子は何かを包んだ筵を乗せた押して車を押しながら、建物とは別の方向に歩き出した。

 そっちは暗いから道がよく見えないんだけど。

 

「ん? ……あぁ、大丈夫だよもう少しすると明かるい場所に出るし、明かりも持ってるよ」

 

 ボゥッ。と何かが燃える音とともに周囲が少し明るくなる。

 少女が二つの明かりを取り出してくれたおかげで歩きやすくなった。

 

「これで大丈夫でしょ?」

 

 両手(・・)で手押し車を押して先陣を行く少女に、置いていかれないようついていく。明かりは少女が持っているので、離れると困る。

 

 

 

「…………」

「あんた一人旅してたんだ? どんな所回ってたんだい?」

「…………」

「あぁ、その寺か~。ん? いや、あたいは行った事はないんだけどね。名前くらいは他の連中からも聞いてるよ」

「…………」

「じゃあ、何で、もう何度も言ったことある場所に態々行ったんだい?」

「…………」

「――へ~。クラスメイト? が、ね~。自分の好きなところにいけないんだなんて、シュウガクリョコウって奴はめんどくさいもんなんだね~」

「…………」

「イヤイヤ、なんでもないさ。それで? その子の実家に止まった後、どうしたんだい?」

 

 ……どう……した?

 奇妙な違和感。にやけた顔の少女。

 

 会話の始まりは、少女に連れられて歩くうちに、ただ歩くだけじゃあ暇だから何かおしゃべりをしないか? と少女に切り出され、此処に迷い込む前に何をしていたのかを話し……て……

 

 

 ……今、自分は会話をしていただろうか?

 

 それに、修学旅行?? そんなもの行ったのは、とうの昔の話だ。それを何でさっきまでしてたかのように思ったんだ? 

 ぬぐいきれない違和感。少女は何も語らない。同じ速度で歩きながら、横で立ち止まる(・・・・・)こちらを面白そうに眺めている。

 

 ――そう、最初は一人旅をしていたはずだ。それで、寺を回って……夜に……”こ■■”の実家の近くにある、あの■で……”こ■■”ってだれだ? いや、誰って、クラスメイトで友達だろ。修学旅行先で皆で”こ■■”の実家に流れで泊まる事になって……"皆"って?

 

 

『その■、~~っていいじゃない!』

『■■か~、っなにし■んの~?』

『■■かさん~~こ■■てき■すよ!!』

 

 

 ノイズだらけの映像が頭を流れる。鮮明に思い出せないが、顔もわからぬ人たちと楽しげに話している光景のようだった。知らないはずだ……知らないはずの光景なのに何故か酷く泣きたくなるくらいに懐かしいとも感じた。

 

 

  深い入り込んだ思考の海から意識を引き上げたのは、少女の隠す気のない楽しげな声。

 

「やっぱり面白いね。燃料運びの合間の暇つぶしに、と珍しいもの見たさだったんだけど、正解だったよ。普通の怨霊も奇抜な話しをするけど、あんたのはそれに輪をかけてるね」

 

 なにを言って……?

 

「う~ん。普段なら答えないんだけど、あんたの場合もっと面白いことになりそうだし、特別にちょっとだけ教えてあげるよ。――あんたさ、よーく自分の姿見てごらんよ」

 

 ニヤニヤと笑う少女の言葉に嫌な予感がしながらも、混乱した頭は素直にその言葉に従ってしまう。

 

 ”ああぁぁぁぁああああ!!”

 

 手がなかった。足がなかった。それどころか、体がなかった。

 紫色の炎のような薄いもやに包まれた骸骨。それが今の自分の姿だった。

 

 なぜ今まで気がつかなかったか、よくよく見てみれば、その姿は先ほどから少女の周りをフワフワと浮きながら照らしているそれと同じである――立ち止まっていた筈の自分が、歩いている少女の横に今も居る訳は、何てこともない。自分自身が灯りの一つになっていただけであった。

 

 

「ありゃ、意外に普通な反応。しっかし、何であんたみたいのが怨霊になってこんなところに居るんだろうね? あんたみたいな――っ!?」

 

 不確かな記憶。思考の混濁。容認しがたき真実。

 それら全てに潰されていた自分の反応を、少女が期待はずれと愚痴をこぼしている最中、世界がひっくり返ったのではないかと思うほどの揺れが生じ、少女が驚きで口を閉じる。

 そして、同時に立ちこもる異常な熱気。

 

「い、いったい何なのさ!? ……この熱気。まさか、あの馬鹿!」

 

 揺れる世界に立っていられなくなった少女が、ふわりと浮かび上がり何かを叫ぶと、こちらを無視して、熱気が立ち上ってきている前方の巨大な穴の中へと、宙を滑る様に入っていってしまった。

 

 しかし、自分にとって、もはや少女の事などどうでもよかった。矛盾する記憶の海の中で、自身の存在を確立できずに居たからだ。

 

 

”そもそも、自分は誰なんだ?”

 

 

『■■か!』

『■■か~』

『■■かさん』

『おぉ、す■■の!』

『す■■の■■~』

『どうした、■■■■?』

『おはよう、■■■■』

 

 

 ……たくさんの人が自分を呼ぶ光景が浮かぶ。しかし、その人達の顔も姿も鮮明に映ることは無く、呼ばれている自身の名すらも不鮮明だった。

 ――ただ、ただ怖かった。

 

「……帰りた……」

 

 何か答えがほしかった。矛盾する記憶は何一つ当てにならないけど、この場所だけは本当に知らない場所だと確信できた。

 自身の立つべき場所が何処かも分からなくなった自分が最後に思いついたのはそんな迷子の様なものだった。

 

 しかし、その言葉は全て紡がれること無かった。自分の意識は、先ほど少女が飛び込んだ巨大な穴から突如、出てきた何かにぶつかった瞬間、消え去るように失われたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……最後に見たのは、燃えるような赤い瞳だった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 ズシンッ。と地が揺れる感覚と、上からかかる圧力から開放された衝撃で目が覚めた。

 

 ……なにか……大事な夢を……見てた気がする……

 

 急に照らされたことによる眩しさに目を細めながら、目に映る一面の青空をしばし眺めていると、それをさえぎるように顔に影がかかる。

 

「やはりここにおったか」

「……ガープ……中将?」

 

 青空の変わりに視界を覆うのはよく見知った顔だった。

 急な覚醒で未だに意識がはっきりとしないものの、経験上このまま寝てると殴り起こされそうなので、パラパラと服に残った瓦礫を落としながら立ち上がることにする。

 

 ――雲ひとつ無い青空の下に広がるのは、煌びやかな建物が瓦礫の山と化した無残な町並みだった。もはや火の手は完全に消火されたようで、少し見回しても所々水浸しな廃墟と通りがあるだけで煙は既に上がっていなかった。その瓦礫の山の中を海兵と在沖軍が慌しく駆け回っている。

 

 その光景をみてやっと頭がはっきりした。日が上ってることから、どうやら随分と長いこと気絶していたようだ。

 ちらり、と自分の姿を見ると、酷い有様だった。今までほとんど汚れも破れもしなかった服は、遂にその耐久力を超えたのか、肩やら横腹の端のほうが破けてしまい肌が見えている。スカートや靴下も似たような感じで破けて、ちょっと排他的で官能的な雰囲気があるが、隠し切れない黒い血のシミが広がっていて、それらよりも狂気的な何かを連想させる。リボンにいたってはどこかに行ってしまったのか見当たらず、血で固まった髪が邪魔だ。マントや制御棒などは特に破損が無いがこれらも、たぶん自身の血の後であろう黒い染みで汚れてしまっている。

 

 胸の中央に手を這わせると、罅割れたままの八咫烏の目がある。体に特に怪我はないようなので、これが一番酷いところだろう。

 

 ボロボロだな~。

 

 ウツホの姿に強く執着していたわけではないが、これまで霊烏路空としてやってきた身として、今の姿に少し物悲しさを感じてしまうのは仕方の無いことだろう。

 それに、実戦での初敗北も地味に堪えているようだ。まぁ、普段なら敗北=死なので、ましといえばましなのだろうけど。

 

「……聖都はこの有様。奴隷たちの殆どは逃げ出し、首謀者にも逃げられた。通常なら責任物じゃが、おぬしに与えられた正式な任務は、”世界貴族の保護とそれに伴う反逆者の排除”。それに関しては多大な成果を挙げたと、既に各方から報告が来ておる……じゃからな……その……」

 

 少し沈んだ顔をしていたからか、ガープ中将がいきなりそんなことを言ってきた。

 慰めてくれてるのかな? 言いよどむのもそうだが、珍しいこともあるもんだと、かなり失礼なことを考えながら、気になってしまう罅割れた八咫烏の目の表面をなでながら、中将の方へと振り向く。

 

 

 ポンッ。と頭に衝撃ともいえない軽い感触。

 

「……よくやったな」

『……おかえり』

 

「――っあ」

 

 瞬間。優しく笑う中将に何故か二人の男女の姿が被った。それは、とても儚くて一瞬のものだったけど、間違いなく両親のものだった。

 

「……あぁぁ……っ! うわぁぁああああああああああああああん!!」

「うぉお!? な、何じゃいきなり!!?」

 

 目からポロリと一粒涙が流れたと時、まずいと思ったが、膨れ上がった感情はいつもと同じく、歯止めが利くはずも無く、ボロボロと両目から涙を流しながらワンワンと子供のように泣き叫んだ。

 

 周りで駆け回ってた兵士たちも何事かとこちらに注目した後、何を勘違いしたのか中将を攻めたような白い目で見つめてくる。

 それを、中将は「ワシが泣かしたんじゃないわ!!」と一括しては、何とか宥め様と困った顔で笑いつつ、普段からは考えられないほど、やさしく、やさしく頭を撫でてくる。

 

 あぁ、申し訳ないけどそれは逆効果です。

 

 私はより一層、泣きはらしながら、延々と湧き上がってくる感情――それは、この聖地に来た時から感じた、私を戸惑わせた既視感から来る奇妙な感覚。ずっと謎だったその正体にやっと気がついた。

 

 

 私は中将に悪いと思いつつ、ワンワンとしばらくそのまま泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ただ、家に――帰りたかったんだ。




注:いろんな説明のため、あとがき長いです。

今回は、ウツホさん初黒星&中の人の正体を微妙に知らせる話でした。

やりたかったこととしては
・最近影の薄い中の人の正体について
・ウツホに敗北を味あわせる
・ホームシック
以上です。

 13話から長々書いてきたこの聖地編は、要は灼熱地獄みたいになっている聖地を見て、ウツホがホームシックになるという話でした。
 ホームシックになった事で、中の人の記憶が刺激され、途中から中の人成分が強くなったり、中の人が元怨霊という事実をだしたりと色々書きたかったこと書いた回ですね。
 主人公の正体についてはこの作品を書くときから決まってて、いつかこういう感じで出したいな~とは思ってました。つまり、今のウツホは、怨霊(中の人)に取り憑かれる状態です。
 東方の妖怪は精神に主をおいているので、怨霊に取り付かれると即死します。そして、怨霊が主人格の新たな妖怪として生まれ変わります。ただし、ウツホは妖怪の癖に自我が希薄で、物事にとらわれない性格のため、神の八咫烏を内包しても平気という特別な存在。
 この公式設定はこの作品を書いてる最中に出たのですが、自分はこのアイディアはとある同人誌から発想をいただいたので、公式設定見たとき、あの同人誌の作者さんは慧眼の持ち主だと思いましたね。
 まぁ、こんな特性をウツホが持っているため、中の人が取り付いたにもかかわらず、徐々に汚染されていったわけです。中の人が何故ウツホに取り込まれなかったかは、この作品ではなく、微妙に完結まで考えているこの作品の次回作(書ければ)で書きたいと思ってます。いつになるかは不明ですが。

 たぶん突っ込まれると思うので書いておきますが、タイガーさんが燃え尽きなかったのは覇気のおかげです。
 ワンピース世界の住人は何かを決意した時に無意識な覇気を扱っていると思うんですよね。例えば、アラバスタでミスター4の4トンバット食らっても起き上がったウソップ。同じくアラバスタでルフィーがクロコダイルの砂の刃(デザートラ スパーダ)を切り裂かれずに砕いたり。他にもありますが、無駄にワンピースの人達が丈夫だったりと、これらは無意識な覇気のおかげではないかと思ってます。
 今回もタイガーさんは己の信念のため、無意識的に覇気を使って、できると思ってやったらできたその場限りの技『陽光』を使い勝利しました。まぁ、これ自体は威力の高いただの遠当て何ですが、これに加えてホットジュピターの爆発力が引き込まれて上乗せされた結果、あの威力ですかね。……ウツホの自爆とはいわないように。

 今回は長らくお待たせいたしてしまい申し訳ございませんでした。此処で改めてお詫び申し上げます。
 とりあえずこの話までが第一章となります。次の第二章からは原作に一気に近づくかも? 不定期更新ですので、次回はいつになるかは分かりませんが、これからもよろしくお願いいたします。


東方知らない人への設定

火焔猫 燐:詳しくは前の設定で。
      怨霊や死体を自在に操る事が出来る。

怨霊:恨みつらみを持ち人に害をなす、輪廻から外れた人間の魂。
   元地獄だった地底に多く残っている様子。
   妖怪の特性上、妖怪が取り付かれると即死して
   新たに怨霊が主人格の妖怪として生まれ変わる。

ホットジュピター落下モデル:熱弾を回転させながらゆっくり下降させる。
              熱弾は着地すると爆発する。

荒々しき二つ目の太陽:東方原作の地霊殿
           霊烏路空の出る最終ステージ6のサブタイトル。
           この前の会話とこのタイトルは原作を意識して書きました


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外伝:地獄は鴉のマークと共に 1話ー三つ足

前に短編集で出していたおまけIF物です。

一発物の予定だったのですが、感想での評判が意外によく、続きを希望してくれた方が多数いましたので、外伝として連載することにしました。


*注意*

これはあくまで外伝なので、本編、絶対正義とは基本的に関わりはありません。
よって、これを読まなくても大丈夫です。

これは、もしウツホが海軍に入っていなかったとしたらという、ifものです。
時系列も「絶対正義」と違い原作とほぼ同じ時期に来た事になっています。

外伝も移転。


――偉大なる航路のとある島

 

 町が一つしか無い小さな島、そこは今

 

 

「キャァ―!」

「助けてくれー!!」

「イテェよぉ、だれか!」

 

「「「ギャハハハ! 殺せ! 奪え!」」」

 

 海賊に襲われ、建物は所々激しく燃え上がり大量の煙が上がっていた。

 砲撃や放火により町は燃え、略奪する為の殺戮やただ己の欲求を満たす為に町の住人は血に塗れ、その遺体は未だ叫び声が響く町の至る所に放置されている。

 ありとあらゆる海賊が集う偉大なる航路ではさほど珍しい事も無い光景だ。海軍も奮闘しているが、全ての島を守れる程では無い。今回の様に、人知れず海賊によって滅ぶ島もある。

 それほどまでに、偉大なる航路は巨大で、航行が厳しいのだ。

 

 

 

 結局、海賊達がその小さな町の略奪を終えるのに、半時もかからなかった。

 住民は小さな子供から老人に至るまで皆殺しにされ、町はその建物のほとんどが燃え尽き、未だ残っている建物にも火の手が周り、その場に捨て置かれた住民の遺体と共に静かに燃え続けていた。

 

「やりましたね、船長!」

「あぁ、だが、しけてんなぁ~」

 

 海賊達は町の住人達から奪った財産や金目の物を、焼け果てて周りに遺体以外、何も無くなってしまった町の広場に集め、今回の仕事の成果を確認していた。

 部下の海賊達は、好き放題に暴れ回ったうえに金が手に入るので喜んでいるが、やはり小さな町では得られる成果も小さく、集めた物もたいした金額にはなっていない。部下達は暴れた後なので興奮しているが、部下程暴れていない海賊の船長は少々不満げだった。

 

「まぁ、良いじゃないっすか」

「そうそう、無いよりはマシですぜ!」

「ほら、そんな顔してないで船長もどうぞ」

 

 そんな船長を、奪った酒を瓶ごと口をつけ飲んでいる部下達が励まし、もう一つ持っていた酒瓶を船長にも渡す。

 海賊の船長は元々、深く考える性格でもなく、その短絡的な思考で「それもそうだな」と考え、部下から受け取った酒瓶に口をつける。

 海賊達が集めた金を前に酒を煽っている。

 その時

 

 

 

 

 ぐちゃり。

 

「う~ん。いまいちかな~」

 

 と肉を噛み締める音と、鈴を転がした様な高い少女の声が海賊達の後方から聞こえてきた。

 海賊達はその声に驚き振り向く。

 自分たちの仲間には女はいないし、この町の住人は先ほど自分たちが皆殺しにしたので、この場には分達しかいないはず。例え、町の住人の生き残りがいたとしても、この荒れ果てた町の様を見て、この様な陽気な声は出さないだろう。

 海賊達が振り向いたそこには

 

 

 背に一対の黒い翼を生やし、それに体を覆える程の大きなマントを引っ掛ける様に羽織った、見た目十代前半の黒い長髪の少女が、建物の瓦礫の上に座っていた。

 少女の右手には肘の辺りから六角形の奇妙な筒を填めており、逆の左の手は何も付けていない白く綺麗な少女の手だが、その手に持っている物のせいで、変わった右手より目立っている。

 

 

 ぐちゃり。

 

「お、おい」

「何だよ、あいつ!?」

「あいつ、手を……」

 

 その少女の異常な行為に、残虐な殺戮を行った海賊達でさえ不気味に思い、恐れを抱く。

 

 少女は左手に別の左手を持っていた。

 別に少女の左手が二本生えている訳ではない。少女が左手で、肩辺りまで付いた別の誰かの左手を持っていたにすぎない。その誰かの左手は所々煤けていて、傷口が真新しい事から、先ほど海賊達が襲った町の住人の物だと分かる。

 

 

 バリボリ。

 

 海賊達が自分に注目しているのにも関わらず、少女はその異常な行為を続ける。

 何も、少女が左手を持っていただけならば海賊達も恐れはしない。でなければ、住人の虐殺などできないだろう。

 そんな非道な海賊達を恐れさせる、少女の異常な行為とは

 

 

「恨みや嘆きが強いのは良いけど、やっぱり罪人じゃないと味は落ちるわね」

 

 ゴクン、っと貪っていたはじめは肩まであったそれを全て嚥下すると少女は物足りなさそうにそう告げた。

 

「……人の手を食ってやがる」

 

 そう、少女は海賊達が殺した誰かの手を喰らっていたのだ。骨を物ともせず全てをその小さな口で噛み砕いて。

 その衝撃的な光景に目を奪われていた海賊達の誰かが、急にがたがたと震えだす。

 なぜなら、その海賊は更に恐ろしい事実に気がついてしまったからだ。

 

「せ、船長……こ、こいつ」

 

 その海賊の震える声を聞いた船長は、ハッ、と我を取り戻し叫ぶ。

 

「な、何ビビってやがる! ただの頭がいかれちまったガキだ!」

 

 あれしきの事で怯えていたなどと部下に思われては威厳が保て無いと、船長は自分に言い聞かせる為にも部下に言うが、部下の男は未だ震えながら、顔を横に振り、告げる。

 

 

「ち、違います……こいつ……こいつ”三つ足”です!!」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 その一言に海賊達は凍り付く。

 そして凍り付いた体の変わりに視線だけをなんとかもう一度、少女に向けて確信する。

 先ほどは少女の食人という異常な行動で気がつかなったが

 

 黒い翼に白いマント。胸元に赤い目の様な宝石。

 そしてなによりも

 溶けた鉄が絡み付いた様な右足に、クルクルと光弾が回る二重の金色のリングが付いた左足。最後に、まるで一見、三本目の足の様にも見える右手に付いた、地面に付きそうな程に巨大な六角形の筒――制御棒。

 

 

 

 史上最悪の化け物、懸賞金八億八千万ベリー、”三つ足”霊烏路 空。

 

 世界政府、海賊、反乱軍。

 世界のあらゆる勢力の敵として認識され、世界各地を灼熱の地獄と変えている正真正銘の化け物。

 

 

 

「ヒィイイイ!」

「逃げろぉ!」

 

 ウツホの事に気がついた海賊達はなりふり構わずに全力で逃げ出す。

 その姿は皮肉にも、彼らが虐殺した町の住人にそっくりだった。

 

 

 

『”三つ足”に出会ってしまったならばとにかく逃げろ。お前に興味が無ければ生き残れるかもしれない』

 

 

 

 ジュゥウウウウウ!

 

「「「ぎゃぁああああ!」」」

「せっかちね、じっくり焼いた方が好きなのだけれど。美味しく頂く為には時間をかけて焼くのがコツよ」

 

 逃げ出した海賊の数人にウツホが放った光弾が直撃し、一瞬に燃え上がり絶命する。

『奴が腹を空かしていたら駄目だ。焼かれて骨まで食われてしまう』

 

 

「う、うぁあああ!」

「畜生! この野郎!」

 

 その仲間の姿を見て恐怖の限界に来た海賊の数人がウツホに向かい武器を振るう。

 

「何をごちゃごちゃ言っているの? 貴方達は食べられる為に私に向かって来たんでしょ?」

 

 ズルッ、と武器を振り下ろした姿のまま海賊達の体が肩口から横にずれ、そのまま、傷口から上半身が地面に落ちる。

 ウツホはいつのまにか制御棒から出ていた刃状の炎を消し、自分が切り裂いて落ちた海賊の上半身を一切気にもとめずに踏み砕きつつ、逃げた海賊達をゆっくりと追いかける。

『だからといって、奴に襲いかかっても駄目だ。地獄に引きずり込まれてしまう』

 

 

「馬鹿やろう! 早く船を出せ!」

「船長! まだ乗ってない奴らが!」

「ほっとけ! 死にてぇのか!?」

 

 停めていた船に乗り込んだ海賊達は追いつけなかった仲間達を見捨てて、直ぐに船を出し海へと逃げる。

 追いつくのを待っていては、自分達が殺されかねない。それに、多少の時間稼ぎにもなると考えていたからだ。

 

 

 運良く風を味方につけた海賊船は速度を出し、ドンドン島を離れていく。

 島からかなり遠くまで船が離れると、海賊達は「助かった」っと皆、安堵するが、その直ぐ後には理不尽な事態に対する怒りがわいてくる。彼らがそう感じること自体、理不尽だが。

 せっかく、手に入れた金品も置いてきてしまい、戦力となる仲間もかなり減ってしまった。

 また次の町を襲うのが大変になってしまった。と先ほどまで、命からがら逃げてきた者の考えとは到底思えない下衆な考えを巡らせていた。

 

 

 

 彼らがいる船の甲板が白く光るまでは。

 その異常な出来事に海賊達は、自分の考えがどうか外れていることを祈りつつ、空を見上げて、絶望する。

 

 

 

 

『もし、空にもう一つの太陽ができたなら……諦めろ』

 

 海賊達が見上げた先には、巨大な炎の塊が唸り声を当てて自分たちの船に向かって落ちてきていた。

 

 

 

 

 

『お前が地獄に引きずり込まれなくても……お前がいる所が地獄に変わってしまう』

 

 

 船がその巨大な炎の塊に飲込まれると、それは超高熱の熱風と共に海面に沿って溶ける様に一瞬で広がった。

 

 

 

 

 海が燃えている。島が燃えている。空が燃えている。

 見渡す限りの世界が赤く燃えていた。

 

 その世界の中でただ一人だけ生きている少女――ウツホは本当に楽し気にその様を見ていた。

 

「ふふふ、地上は新しい灼熱地獄に生まれ変わる。待っていて下さい、さとり様、こいし様。それに、お燐」

 

 ゴウゴウ、と燃え盛る炎によって染まる、赤い、赤い世界でウツホは一人、暗く底が濁った様な目で笑い続けていた。

 

 

 

 

 

「あっ! ご飯も燃やしちゃった!」

 




というわけで再投稿となりまして、外伝としてちゃんとスタートです。
こちらは本編の筆の進みが遅い時の気分転換や、ネタが思いつき次第書いていくことになりますので、毎回の更新はありません。

こちらは結構ダークな話が多くなりそうなので、苦手な方はすみませんが注意して読んでください。

本編とは違った雰囲気のウツホをお楽しみいただければ幸いです。


↓からは短編集の時のあとがきとなります。



『絶対正義』の、もしもverです。

このウツホは、ワンピ世界に来た時にから、不運の連鎖で狂っています。
騙され、見せ物にされて、売られそうになって、それが嫌で逃げ出すときに能力使ったら指名手配。迎撃していたら懸賞金増えて凶悪犯扱い。一度叩きのめされて、捕まりインペルダウンにも送られています。

踏んだり蹴ったりで何もかも嫌になって、精神がやられて来た時に、灼熱地獄後に似ている、インペルダウンのレベル4”焦熱地獄”をみて、ウツホに大覚醒。能力者と勘違いされていて、付けられていた意味の無い海楼石の手錠を溶かし、インペルダウンを半壊させ脱走しました。

妖怪の本能丸出しなうえ、中の人が狂っているので、地上を灼熱地獄に変えて、いもしない地底妖怪を地上に出て来れる様にしようと考えてます。
しかし、鳥頭なのは相変わらずですけど。

世界中を飛び回って、お腹が減ったり、気が向いたら島や船を襲っています。
世界最速の移動手段なので、居場所を掴む事すら難しいうえ、下手に手を出すと爆発すると言う、正に核爆弾的なあつかいで、世界政府も中々手が出せない化け物となっています。

このウツホは、その内、新世界で四皇辺りに殺される運命です。実はただ単に一人ぼっちで寂しすぎて狂っちゃっただけなんで、白ヒゲ辺りにぶっ飛ばされて「息子」ならぬ「娘」にしてもらえれば、幸せになれそう。
その前に、白ヒゲの家族殺しちゃいそうなんで、難しそうですがw



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外伝:地獄は鴉のマークと共に 2話ー出会い

というわけで短編集以来の外伝の初書き下ろしの話です。

注意:連載化にあたり、この話の結末は1話のあとがきに書いてあったものと変わっております。1話の続きですが、短編版のIF物として読んでください。

本編の方がちょっとにつまっていまして、まだ少しかかりそうなんですが、そろそろ更新しなくてはと思い。外伝を上げて場つなぎという反則すれすれの行為ですw

本編を楽しみにしていらっしゃる方々にはこの場で謝罪させていただきます。
スミマセン。話は大体できてるんでもうしばらく待ってください。



「もはや我らに猶予はないのだ!」

 

 ダンッ、と初老の男が眼前にあるテーブルを強く叩きながら叫ぶ。その声には焦りさえ浮かべてはいるが決して不安から来る弱々しい物ではなく、それはどこか重々しく他人には無い強さと気品と呼べる物が確かにあった。

 そして、それを男と同じ場に座したまま聞く面々たる人物達。その全員が言葉を発する事無くとも溢れ出す、似た威圧感――すなわちカリスマを持っていた。

 それも当たり前とも言えるだろう。ここにいるのは皆、それぞれ一人一人が一国を統治せし王という立場にいる者達なのだから。

 

 ここは聖地マリージョア――世界政府の中心地であり、世界貴族達が住む世界最高峰の土地。そして、今、開かれている各国の王達の会議――世界会議(レヴェリー)の行われる場でもある。

 

 輝かしいばかりの講堂。壁にかけられた絵画から床に敷き詰められた絨毯にいたるまで、その全てが一般人が一生働いても手に入れる事ができぬ程の一級の品で埋め尽くされている。

 しかし、一面、純白の壁とそれを覆う金の装飾に囲まれた室内は、その華やかさとは裏腹に、夜の海を覆う暗がりにも似たあまりにも濃すぎる空気に包まれていた。

 

「これは我らだけの問題ではない! このままでは世界その物の危機なのだ!」

 

 普段からも厳格な空気の中で行われるこの会議だが、今回の会議はその議題の内容の重大さと深刻さに集まっている王達の顔にも余裕が無く苦渋や焦りが浮かんでいる。

 その内容とは……

 

 

 

「『三つ足』霊烏路 空!!」

 

 

 

 初老の男は一枚の手配書を叩き付ける様に取り出す。

 それは、燃え盛る都市を背景に、一対の黒い翼を誇示する様に広げ右腕の制御棒を構えて歪に笑う黒髪の少女――議題の中心でもある霊烏路 空の手配書であった。

 手配書の額は世界政府への危険度を表すのだが、その手配書に書かれている額は他に類を見ない、八億八千万ベリーという高額である。

 

「この化け物を一刻も早くどうにかしなければならない!」

 

「……それは重々理解してはいるが、具体的にどうすれば良いというのだね?」

 

 引き続き、強く叫んだ初老の男に異を唱えたのは、今まで黙って聞いていた王の一人だった。

 

「なんだと?」

「そんなことはあの化け物が出没して以来、誰しもが考えていた事だ。だが、奴を討伐する為に海軍が出した十五隻の艦隊は瞬く間に壊滅させられ、居場所を把握しようにも、”世界最速の移動能力”とまで言われている奴を追う事は実質、不可能。襲撃に備えようにも、偉大なる航路を含めた四つの海(・・・・)に無作為に飛び回る一国の軍事力を軽々と超える相手にどうしようと言うのだね?」

 

 飄々としたその男の言い方に、怒りのあまりに瞠目したのは初老の男だけでは無い。

 

「そのような物言い失礼ではないか!」

「貴様の国は東の海にあるから、そう他人事の様に言えるのだ!」

 

 同じく席をともにする王達の幾人もが立ち上がり、声を荒げ糾弾する。

 

「この世界会議の空席を見ても同じ事が言えるのか!?」

 

 糾弾していた王の一人のが憤りを隠さないまま、不自然に空いている席を指差す。

 百七十カ国以上に及ぶ世界政府の加盟国の王達が一堂に集まる世界会議。その国の事情などがある為に、全ての国の王が集まれる訳ではないが、それでも欠席している国が多過ぎた。その欠席している国の中には、ほぼ毎回、会議に参加していた大国もある。

 

「ぐぅ……」

 

 言われるまま、その空席を見た男はその顔を歪め押し黙った。その不自然な空席の意味は考えるまでも無いからだ。

 

 一斉の沈黙。皆、その空席を見てそれぞれ思いを胸に強く抱き、言葉を飲込んでいた。

 その長い沈黙の中、会議を開いてから沈黙を保っていた、一人の年老いた王が静かに語りだした。

 

「西の海、北の海、南の海、そして、偉大なる航路。そこに存在する、独自の文化を持ち反映した数多の国々……その中にある世界政府加盟国の三十八カ国が、あの化け物によって滅ぼされた。かつての美しい風景は見る影も無く、今そこに見えるのは消えぬ灼熱の炎の大地か、怨霊が沸き上がる底無しの奈落のみ。…… 自分の守るべき国がその様な生き物一匹住めぬ、おぞましい光景にならぬ様、今回の会議が開かれた筈じゃ」

 

 年老いた王はそこで一度、言葉をきり、他の王達の顔を見渡し、その顔に諍いの跡が残っていない事を確認すると言葉を続けた。

 

「あやつが何故、東の海だけを襲っていないかは分からん。ただの偶然かもしれぬ、何らかの理由で後に回しているだけかもしれぬ。いつ襲われるかも分からん。我らが愛すべき国を……否、この美しき世界を守るため……

 

 

……世界会議を続けよう」

 

 

           ◇               ◇

 

 

 ――東の海のとある島。

 その島は凪の帯の近くにあるせいか、特殊な海流と島を常に覆う渦状の気流によって人の手の届いておらず、鬱蒼とした森が島全体に生い茂っている。

 歪な木が一面を占める森の中を暫く進み、島の中心近くにまでいくと直径百メートルはあるであろう深く巨大な穴があいている。その穴からは絶え間なく熱気が吹き出しており、それによって穴の周りには木が一本も生えていない。

 深く巨大の穴の遥か底は、熱気の元であろう絶え間ない炎によって輝いている。そして、まるで炎に蓋でもするかの様に網目状の鉄骨が穴の底を塞いでいた。

 

「う……うん」

 

 そんな地上とは比べ物にもならない程の熱気に包まれた穴の底で眠っていた一つの影――史上最悪の化け物、『三つ足』霊烏路 空は目を覚ました。

 

 よく見れば、穴の壁には奇妙な模様が描かれており、それがどこか機械めいて点滅している。そう、この異常な熱を発する巨大な穴は幻想の核融合炉であり、ウツホ自身が作り上げたこの世界で唯一の居場所であった。

 世界政府が必死になって探している、ウツホの住処とも呼べる場所が、皮肉にも平和の象徴である東の海の外れに存在していた。

 

 通常ならば触れる事すらできない程に熱された鉄骨の寝床に、火傷一つ追っていない左手をついてウツホは静かに立ち上がる。

 目が覚めるたびに目の前に広がるいつも通り(・・・・・)の光景に、いつも通り(・・・・・)に絶望する。

 

 

 ”まだ、私はここにいる”

 

 

 初めは驚きだけだった

 

 次は夢じゃなかった事への驚きと少しの興奮

 

 その次はこの世界を知った事の驚きと不安

 

 そのその次は自分への驚きと期待

 

 そのそのその次は色んな事への驚きと楽しさがたくさん

 

 そのそのそのその次は大きすぎる驚きと疑問だらけ

 

 そのそのそのそのその次は悲しみでいっぱい

 

 そのそのそのそのそのその次は怖くて仕方なかった

 

 そのそのそのそのそのそのその次は怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くてこわくてこわくてこわくていたかった

 

 そのそのそのそのそのそのそのその次はいたいだけだった

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 そのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのそのその次はぜつぼうした

 

 

 

 そのその………………………………………………………………その次はぜつぼうして

 

 

 

 

 

 …………………………こわれた

 

 

 

 

 その次からぜつぼうしかしてない

 

 

 

 

「なんだっけ? ……あぁ、そうだった。今日も……行かなきゃ」

 

 寝ぼけてた頭が覚めてきたウツホは、今考えてた事も忘れてしまう。彼女(・・)は細かい事は考えられず、忘れてしまうのだから、ウツホ(・・・)も直ぐに忘れてしまうのは仕方ないんだ、と。

 

 背の一対の黒い翼に力を込めると、ウツホは疾風と化し、融合炉を駆け抜ける。

 ここを飛び立つ時に、ウツホの頭はただ一つの事で埋め尽くされる。”地上を地獄に変える”ただ、それだけに。

 

 帰れない。それは今までで十分理解した。このよく回らない頭でも理解できる程に重ねてきた。だから、ウツホは世界を変える。”ここ”から帰れないのなら、”みんな”が地底から出て来れないのなら、出て来れる様にすば良いんだ、とウツホは”彼女”になった時に気がついた。

 故に、ウツホは止まらない。先の見えない深い暗闇に見えた、一筋の光明。それは一度見つけてしまった者を食虫植物の如き、巧妙さで捉えて離さない。それに見入った者は、分け目も振らずに求め続ける。どんな犠牲を払ってでも。

 しかし、ウツホは気がついていない。自分が見ている光明は、正に食虫植物のそれと同じく、破滅に向かう罠でしか無いという事に。

 

「『東方』は駄目……幻想郷にあたっちゃったら、さとり様に怒られるもんね。今日はあっちにいこう」

 

 空まで駆け上ったウツホは、忘れない様に毎回繰り返してきた事を呟くと、偉大なる航路の方角に飛び立っていった。

 

 

           ◇               ◇

 

 

「……雪」

 

 核反応のエネルギーで赤く輝く流星となっていたウツホが、それに気がついたのはただの偶然だった。

 本来、雪などウツホの発するあまりの熱量によって、視界に入る前に蒸発してしまう。いや、それどころか、ウツホの通った衝撃で雪雲すらも消し飛ばしてしまう筈だった。

 

 

 だからだろうか、ウツホは見る筈の無かったその雪を見て、見る事無い筈だった地底の光景を幻視した。

 

 

 地底では雪が降る。すると忌み嫌われながらも、明るい地底の妖怪達が片手に酒をもって騒ぎ立てるのだ。

 鬼火が陽気に飛び回り宴会の提灯代わりになって、明るい土蜘蛛と釣瓶落とし達がそれを見て楽しそうに天井からぶら下がってる。いつも他人を嫉妬して陰気を放つ橋姫は隅で一人で飲んでいて、鬼なんかは中心で喧嘩をおっぱじめて、周りでは野次馬が笑いながらも巻き込まれていた。そして、あまり近づけない主達、姉妹といつも通りちょっと遠くから、盗み食いしてる親友の隣で私は歌うのだ。

 

 

 

 幻視は数秒程だった。

 だけど、それはとても、とても……楽し気な光景だったから――

 

 

 そのままウツホは近くにあった、雪降り積もる冬島に誘われる様に降りていった。

 

 

 

 だから、それは間違いなく偶然だったのだろう……

 

 

           ◇               ◇

 

 

 薬草を取りにいったら、歌声が聞こえた。

 薬草探しに夢中になって、人里に近づきかとも思ったけど、ここは何時も採取しに来ている所だし、人なんて近づかないような場所だった。だから、直ぐに逃げずに、まず疑問に思った。

 立ち止まって考えていると、薬草を探しに集中していた時より歌がよく聞こえてきた。

 

 綺麗な歌声だった。

 歌詞が無く、ただ声を出して、歌というより鳥達の鳴き声の様に、純粋に気持ちだけを表していたみたいだった。

 

 でも、その歌声は確かに綺麗だったけれど、どこか泣いている様だった。

 人間は嫌いだ。人間は俺を見ると勝手に怖がって、襲ってくる。俺が好きな人間は俺の事を見てくれた二人だけだ。

 

 だけど、俺は医者だから。その泣いている様な歌声をほおってはおけなくて、歌声のする方向に向かっていった。

 

 

 

 

 森を抜けた山の高台。流石にドラムロックまでとはいかないけど、見晴らしの良いそこからは島が見下ろせる。

 そこに歌声の主はいた。

 後ろ向きで全貌は分からないけど、そいつは白い大きなマントを羽織り、高台から島を見下ろして、やっぱり綺麗だけど、どこか悲し気な歌を歌っていた。

 

 俺は来たは良いけど人間に話しかけるのが怖くて、仕方なく木に隠れる様にそいつを見ていると、そいつが突然、歌うのを止めてこっちに振り向いた。

 

 そいつは改めて前から見ると、見た事の無い奇妙な格好をしていた。寒く無いのか、と思える様な薄着をしているいて、ここいらの人間では無いだろうことが想像できる。右手には何に使うのかわからない、奇妙な棒を肘の辺りから付けている。

 でも、そんな奇妙な格好なんて気にもならなかった。俺は急に振り返ったそいつの目を見た瞬間、それから目を離す事ができなくなったからだ。

 

 そいつの瞳は、どこまでも深く黒い、まるで分厚い雲に覆われた夜空のようだった。

 蕩けたコールタールの様にどこか流動的に蠢きながらも、一切の色を変えず、全ての光を貪欲に飲込もうとする黒い瞳。

 これは引力だ。見た者は皆その瞳にとらわれ、そして最後にはそこに落ちていく。そんな錯覚さえ覚える。

 

 俺がその瞳に捕われたのが瞬間だったのと同じく、その引力を持つ瞳が俺を捉え、斥力に変わったのも刹那だった。

 黒いだけの瞳の中に突如生まれた空白の白。受動器官であるはずの眼球がたちまちに能動器官へと変わったかの様に、暗い瞳の中から放たれた一条の光を放っていた。

 俺は息をのんだ。斥力なんてとんでもなかった、光を放つ太陽を望まぬ者がいない様に、その光もまた間違いなく引力だった。

 

 

 そいつは、その小さな輝きをともした目で、俺を見た時からしていた驚きを含んだ顔を、ゆっくりと、まるで心の底から笑っている様な可愛らしい笑顔に変えて

 

 

「化け物だぁ」

 

 

 俺が一番聞きたく無い言葉を、これ以上無いって言うくらい嬉しそうに言い放った。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 

 だから、それは間違いなく偶然だったのだろう……

 

 

 

……霊烏路 空とトニー・トニー・チョッパーが出会った事は。

 




今回は場つなぎ的な形&気分転換も含めた外伝投稿でした。

三人称の練習と、色々自分で制限して書いてなかった書き方の挑戦をしてみました。

実は自分、執筆する際はその書いてるシーンにイメージを当てた曲を聴いて、妄想力を高めながら頑張ってます。
今回のウツホが歌ってる所の歌のイメージは、東方ボーカルアレンジの「追憶のソール」を元にしたりしてますので、興味有る方はニコニコ等で聞いていただけると、イメージが伝わりやすいかもw
「追憶のソール」は自分かなりお気に入りですw

本当は感想で書かれた質問を纏めてSBSの様な物も作ろうとしたのですが、うれしいことに感想の数が思った以上に多くて、諦めましたw


左腕も大分治ってきましたし、ようやく一昨日、引越しも終わり一段落つきました。

さて、本編書こうとしたら、ジャンプの方で原作が魚人島にいってしまって、大慌てです。
友達にジャンプ借りて、設定との矛盾がないかひやひや確認してますw
今のところは多少の変更はあれど、大きな変更ないんでいいんですが、これからが怖いですね~。
完結してない作品の二次創作の怖さですね。
もう、さっさと書いて「自分が書いたときは出てなかった設定です」って言って逃げたいけど、自分の執筆速度の遅さと週一連載漫画の速度では勝ち目がない罠w


前書きでも書きましたが、今回はちょっと反則な手を使って更新してしまい申し訳なかったです。
本編の方は近いうちに上げると思いますので、もうしばらくお待ちください。


新規あとがき
IF物としての交差点は、外伝のウツホがチョッパーと出会うことです。短編版はここではドラムを素どうりしていたという違いがあります。


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外伝:地獄は鴉のマークと共に 3話ー鏡像

[壁]_・)チラッ

┃壁┃_・)ジー

(ノ`∀´)ノ ⌒ .、●~[次話投稿]

ヾ(・Д・`)ノ≡3≡3≡3



[壁|_-)チラッ

バレテナイ、バレテナイ



「へ~そっか、お前、ウツホっていうのか」

 

「うん。おくうって呼んでいいよ」

 

「えっ、何でおくうなんだ?」

 

「霊烏路 空だからだよッ!」

 

 だから、何で”レイウジウツホ”だから”おくう”になるんだろうか?

 えっへん。と何故か誇らし気に胸を張りながら答えになっていない事を答えるウツホ――おくうに俺は”またか”と思いながらもそれ以上この事を追求をするのを止める。

 

 なぜなら意味が無いからだ。

 

 それは、こいつと会話をし始めてすぐにわかったことだ。

 おくうは言動が可笑しいんだ。

 さっきまで話してた内容が急に別の物になるのは当たり前で、俺が疑問に感じた事に質問をしても独特の意味の分からない理論で答えを返されるか、おくう自身が自問自答になったあげく、結局は話が別の所にいってしまう。

 おくうの名前も辛抱強く会話を続けてやっと今、聞き出せた所だ。それまではヨウカイだとかジゴクカラスとか言っていたが、それは名前ではなくておくうの種族とのことだ。

 そう、彼女は人間じゃないらしい。

 変な格好をしているが、ぱっと見た感じは人間と変わりがない。けど、未だに得意げにしている彼女の背中には、先ほどから嬉しそうにパタパタと動いて自己主張をする人外の証拠とも言える、大きな黒い羽があった。

 言われてみれば、そんなに目立つ物に直ぐ気がつかない自分に呆れるが、後ろから見ていた時はその羽を覆う様に着ているマントによって隠されていたのでわからなかったし、振り向いた時は”あの言葉”でショックを受けていたから直ぐには気がつかなかったのは仕方がないよな。

 

 

           ◇               ◇

 

 

 『化け物』

 

 

 その、俺が一番言われたく無い言葉を言われた時、俺はここに着た事を少し後悔した。自分が受け入れられる訳無いなんてわかっていたのに、医者だからと自分に言い訳をしてまでここに来た。もちろん、もし怪我をしていたら怖がられたって無理矢理にでも治療した。俺はまだまだ未熟だけど医学に携わっている事に対しては誇りを持ってるんだ。患者を目の前に逃げたりしない。でも、今回は最初から怪我をしていない事は少なからず分かってはいたんだ。だって、酷い怪我なんてしていたら悠長に歌なんて歌わずに助けを呼んでいただろうから。それでも、俺がここに来たのはきっとあの悲し気な歌声に『もしかしたら』と少しでも思ってしまったからだ。

 そんな訳無いのに。

 何度も経験してきた筈なのに。

 ”あの人”が特別なだけで普通は自分見たいな化け物を見たら人間の反応なんて皆同じだ。勝手に怖がって、罵って、襲ってくる。

 だから、俺はこれ以上酷い言葉が出てくる前に、直ぐに逃げだす事にした。俺の姿を見た時から嬉しそうな顔をしている様な気がすんだるが、そんな事ありえる筈も無いだろう。”化け物”と出会って嬉しい奴なんていやしない。きっと、自分の都合のいい様に脳が勝手に、恐怖に引きつる顔をそう解釈したんだろうと。

 

 

 ただ一つ残念なのは

 

 

 あの歌声をもうちょっと聞いていたかったな。

 

 

 とかそのときは考えていた。

 そしていざ、顔の半分だけを隠していた木から茂みの方へかけだそうとしたその時だった。

 

 

『私も”同じ”なんだよ! ほらっ!』

 

 

 バサァ。っと背中の翼を大きく広げ、その身を宙に浮かべたかと思うと、体中を吹き出した炎に包まれながらも彼女が先ほど以上の満面の笑みでこっちを見つめてきたのは。

 

 俺は、目玉が零れるんじゃないかってくらい大きく見開いて驚いた。

 

 

 というか絶叫した。

 

 

『ぎゃぁああああ、化け物ぉおおお!!!!』

 

 

           ◇               ◇

 

 

 それから、なんだかんだで結局こうやって隣に座り合って会話をしてるんだけど……

 

「で、貴方はなんていうの? というか、何の妖怪かな? 角有るから鬼かな? 毛玉鬼?」

 

「っだから、俺はチョッパーだってさっきからいってるだろ! 後、俺はヨウカイじゃなくてトナカイだ!!」

 

「そうだっけ? うーん。覚えてないなー。ところで、トナカイって何? なんて言う鬼なの?」

 

「オニじゃネェよ! トナカイっていう動物だよ! つーかオニって何だ!?」

 

「ふ~ん、妖怪じゃなくて妖獣何だ。でも、チョッパーなんて名前の動物いたかな~?」

 

「チョッパーは俺の名前だぁぁぁ!!!」

 

 これだ。

 

 こくこく。と、どうせ分かっていないんだろうに、いかにも理解していますと頭を数回、頷かかせてるおくうを横目に俺は叫んで乱れた息を整えながら、先ほどから何度も(・・・)繰り返されるこの無駄なやり取りにいい加減どうにかならない物かと思う。

 

 けど、それはかなう事は無いだろう。

 その理由を考えると、俺は彼女に対する哀れみと自分に対する無力感に苛まれる。

 

「~♪」

 

 当の本人は、既に先ほどまでのやり取りを忘れたかのように、楽し気に歌を口ずさみながらこの少し小高い丘からの風景に目をやっている。その歌声は何故か初めに聞いていた悲し気な物とは打って変わって、心底楽し気な、まるで溢れ出す喜びが我慢できず無意識に歌っているのではとさえ思ってしまう程に明るい歌声だった。

 

 

 

 しかし、その目は出会った時とほとんど変わらず、ドロリとまるでその眼窩から彼女の中身が溶け出てしまうのではないかと感じられそうな程に濁りきっていた。

 そんな黒ばっかりの瞳から時たま見せる一条の光でさえ救いにはならない。なぜならそれは、この濁りきった瞳から見れば輝かしい光とはいえ決して照らす様なそれではなく、見た者を誘い込む様な刺す様な狂気をありありと含んだ物なのだから。

 

 

 それを横目に見つつ俺はこの患者――うつほをこれからどうすべきかを考える。

 

 そう、うつほは患者だ。

 別にうつほの体のどこにも怪我なんて存在しない。それでもうつほは患者だ。

 

 見た目に対しての言動や行動の幼さ、短期的な記憶の欠如に情緒不安定。

 そして、あの目。

 

 医学書に書いてあった内容にも、ドクトリーヌから聞いた通りの症状と良い間違いないだろう。

 うつほは『心の病』にかかった患者なんだ。

 

 俺はドクトリーヌから様々な医療を学んだけど、その主な部分は外科的な治療や薬の調合がほとんどで、実際に俺自身が治療した少ない事例もその範疇を超える物は無かった。

 だけど『心の病』は違う。それは、体のどこにも傷痕が無く、体のどこも悪く無いのに発祥する病で、対応した薬も存在しないという厄介極まりないものらしい。

 俺も実際に目にするのは初めてだけど、その異常性は一緒にいれば直ぐわかる。こんな風にろくに会話はできず、自分が先ほどまで何を話していたかさえ分からなくなるような状態が普通であるわけが無い。

 うつほは『心の病』にかかってしまっているのだろう。それも、それはかなり酷く、重傷と呼べる程に。

 

 

 『心の病』は精神に酷い付加がかかった時に自己防衛の為に起きる症状だ。主な発症原因としては、短期間に精神が耐えれる限界を大きく上回った付加がかかるか、長時間で少しずつ付加を溜め込み何かを切っ掛けにその付加が一気に溢れ出すかの二つだが、うつほの病の原因は後者ではないかと辺りをつけている。

 俺がそう考えているその理由は、やはりあの一言にある。

 

 

 『化け物』

 

 

 その言葉を紡いだ時のうつほの顔には覚えがあったんだ。

 満面な笑顔なのに今にも泣き出しそうなその顔は、自分を認めてもいないのにひとりぼっちじゃないって、受け入れられるかもしれないって希望にすがる顔は、かつて俺があの人に……ドクターに向けた顔ときっと同じ物だったはずだろうから。

 

 きっと、うつほは俺と同じなんだと思う。

 あの日、ドクターに会わなかった俺。

 まわりから意味なく嫌われ、勝手に理由づけられ、理不尽に襲われ、傷つき、痛む体を無理に動かし這いずり回って、安らぐ場も無く、只々、誰に向けていいかも分からない恨みを溜め込む。

 そして、溜め込んだそれで心が壊れてしまった、いや、壊してしまった(彼女)

 

 俺はドクターに出会って救われたけど、うつほには誰もいなかったんだろう。いや、もしかしたら俺が考えてるよりももっと……

 

「ねぇ、聞いてるの? チョッパー(・・・・・)」

「っき、聞いてるぞ! べ、別に考え事に夢中だったなんて事ないからな!!」

「へ? うん。……え~と、なんだっけ???」

 

 危なかった。つい、考えすぎてうつほが語りかけていた事に生返事を返してしまっていたみたいだ。

 『心の病』の治療には何よりも会話が大切なのに。患者を前に考え事で治療をおろそかにするなんて、やっぱり、俺はまだまだ未熟だ。

 でも俺は……

 

 きっと、自分の話している内容を忘れてしまったのだろう。頭にしきりにひねってるうつほを見つめながら俺は深い決意を固める。

 

 

 俺がドクターに救われた様に、今度は(Dr.)がうつほを救ってみせると。

 

 

 だから、取りあえず今は、やっと名前(・・)を呼んでくれた彼女との会話を続けようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだった! 確か、トカマク型核融合炉のグリーンワルド電子密度に対する計算式の話だった!!」

「ぜってぇ、ちげぇよ!!!」

 




うん。まずは一言。

ごめんなさぁぁぁぁい!!


音信不通で更新停止とかね……もう最低な作者です。ほんと、すいませんでした。
8月中にあげる予定だったのに(しかも本編を)何がどうしてこうなった。
まぁ、実際はちょいリアルで色々問題が重なって何をするのにもやる気がおきなくなってしまい、小説も書く気にならなくなってしまったんです。時間も最近あまりとれず、書く暇が無かったというのも大きいですけどね。

もう、かなり放置してたし、今頃誰も覚えてないよな~とか思ってたんですが、久しぶりにPCをつけて感想がまだあったことに驚いて、しかもまだ待ってくれてる人がいたのに非常に驚き、同時に皆様への感謝と申し訳なさでいっぱいでした。

ここでもう一度いわせていただきます。

本当にすみませんでした。そして、こんな小説を楽しみにしてくださってありがとうございます。

皆様の感想のおかげで、虚脱感に苛まれてた日々から抜け出し『やる気』というものが久しぶりに出てきました。

こんな、嘘吐きな作者ですがどうかこれからもよろしくお願いいたします。

ただ、最近はあんまり時間も無いので、更新はかなり不定期になってしまうのは変わりないのですが(汗 一応まだがんばって書いていきます!



~ここから、あとがき~

今回は久しぶりの執筆のため外伝で練習してます。ので、短いですね。
久しぶりに書くとかけない、かけない。
本編かけるか心配になるレベルの執筆の遅さと話の浮かばなさです。

今回はチョッパー視点Onlyとなっています。ほんとはウツホ視点も入れるつもりでしたが、それだとまた投稿遅れそうなんでとりあえず練習もかねて投稿いたしました。
読み返すと結構説明不足が否めませんが、チョッパーは事情知らないんで少々へんな勘違いしてもらっていこうかな~とお思うため詳しく書きにくいですね。
そして、チョッパーよく性格わからないから書きにくいですね~。変に感じたらごめんなさい。

それでは次こそは本編を投稿し……たいな~。


PS
外伝と番外編と本編が入り混じって読みにくいので、時間が空いたら投稿のしなおしをするかもしれません。


(2013/02/28)
っふ。一ヵ月ごときの音信不通でここまで謝るなんて、俺も若かったな。



いや、この度は本当にすいませんでした。


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