目が覚めたら何故かユクモ村に居たのでハンター生活をエンジョイする事にした (勇(気無い)者)
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気が付いたらユクモ村に居たけど、いきなり緊急指令が下された

またしてもノリと勢いでやった。後悔と反省をしている。


 その日、俺はいつもの様に仕事を終えて家に帰り、飯を食って風呂に入ってからモンハンをプレイしていた。

 今日は金曜日で明日は休みだから、何も気にする事なくゲームに没頭出来る。やったぜ。

 プレイしているのはモンスターハンターポータブル3rd。PSPで発売された、最後のモンハンである。

 何でそんな古いものをやっているかと言うと、3DSに機種が変更されて以降、新作のモンハンをやっていないからだ。

 何故かって?

 俺は弓使いなのだ。弓以外では碌にモンスターが狩れないヘタレなのだ。逆を言えば、弓を使えば何でも狩れるという事なのだが、今はどうでもいい。

 問題はPSPと3DSで十字キーとスティックの位置が逆だという事だ。これでは俗に言うモンハン持ちが出来ないではないか。

 重ねて言うが、俺は弓ハンターなのだ。モンハン持ちが出来なかったら死ぬしかないじゃない! 何も狩れんわ!

 まぁ、噂によると3DS以降はロックオンシステムが追加されたらしいので、プレイするうえでは問題ないのだろう。

 でも何か嫌だ。

 結局の所、つまらない意地であった。

 

 さてさて、そんな事はどうでも良くて。

 昔やってたデータはプレイ時間が3000時間超の遊び尽くしたデータなので、今は新しく始めている。と言っても、既にプレイ時間は318時間になっているが。称号を埋めようとチマチマ頑張っている所である。

 キャラクターは女性。男の装備は矢鱈とゴツゴツしていて好きではない。

 とりあえず資金繰りの為にアカムでも一発やるべぇなと、装備やアイテムを整え、その前に農場行ったりオトモアイルーを確認したり加工屋で武具を見たり……なんて事をしていたら睡魔が襲ってきた。

 いや、大丈夫だ、問題ない。眠気なぞ、クエストが始まってしまえば吹き飛ぶさ。

 そう思ってクエストを受注し━━━結局眠ってしまった。

 

 ああ、俺もモンハンの世界に行けたらいいのになぁ…。

 

 そんなくだらない事を考えながら、俺の意識は夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「……んぁ…」

 

 目が覚めた。寝ぼけている意識が徐々に覚醒してゆく。

 ぼやけた視界のピントが合わさり━━━

 

「……あぇ?」

 

 目の前には、見知らぬ天井が広がっていた。

 ガバッと身体を起こし、辺りを見回すと━━━矢張り見知らぬ部屋。

 

「……え…あ…え…っ!?」

 

 な、何だここは何処だ!? 俺は何でこんな……。

 ん…?

 待てよ。見知らぬと思ったけど、何だか見覚えがある…。

 とりあえず、俺が居るのはベッドの上。赤いシーツが敷いてあり、藁で編まれた枕が置いてある。

 すぐ左隣は物が乱雑している。ツボの中にピッケルが数本入ってたり箱や道具袋が並べられていたり。

 右方を見遣る。

 左から順に、ちょっとだけ口の開いた大きな箱が置いてあり、その横には桶が置かれている。中には洗濯板と青い布が入っている。更にその横には箒が立てかけてあり、すぐ隣には竈に火がついている。更に更に横には薪が纏めて置いてあり、その手前には紙の貼られたボード。猫の飾りが付いており、手には釣竿が握られている。

 ベッドから降りて、更にその先に広がる外の景色を見遣る。切り立った崖が広がっていた。あと、紅葉の木が生えている。綺麗。

 

「此処って……もしかして…!」

 

 反対方向へ駆け出し、外へ出る。

 其処には、矢張り見知らぬ━━━いや、よく見知った村の光景が広がっていた。

 まず、すぐ左に小さな婆さんが立っている。背には身の丈の倍以上はあろうかという大きな籠。中から猫が顔を覗かせている。可愛い。

 その先には、階段が伸びている。二十段程度で、上には木造の建物が建っている。階段の前に鳥居の様な建造物があり、その脇に設置されたベンチの上には艶やかな着物に身を包んだ女性が座っている。

 その女性の背後には、小さな温泉。湯気が昇っている。

 すぐ近くには橋が掛けられ、その手前には荷物を背負った男が立っている。何となく行商人の印象を受ける。

 男の左隣には、これまた小さな温泉。猫が頭にタオルを乗せて湯に浸かっている。猫の癖に。

 その横には下へ続く階段があり、幾つか建物が並んでいる。

 

 其処まで確認した所で、俺は再び元の建物の中へと引っ込んだ。そのまま入り口の前で呆然と突っ立っている。

 ……どう考えても、今の光景はモンハン3rdのハンターが拠点とするユクモ村だった。カメラの視点ではなく、自分の視点だったから理解するのに時間を要したが、間違いなく此処はユクモ村だ。俺はユクモ村に居るのだ。

 夢かと思い、頬を思い切り抓ったら凄く痛かった。ちょっと涙が出てくるぐらい痛かった…。

 

「夢じゃ……無いのか…?」

 

 フラフラとした足取りで近くのベッドへ腰掛け、自分の身体の異変に気付いた。

 

 ━━━胸がある。

 

 男である筈の俺の胸元に双丘があるのだ。服装も女性用のインナー、ミナガルベストを着ていた。サラシの様な胸巻きにショートパンツ一枚。二の腕辺りにバンドを巻いている。

 恐る恐る胸元の双丘に手を触れてみる。

 

「……柔らかい…」

 

 そして、ハッと気付く。

 またも恐る恐るに足と足の間、つまり股間に手を伸ばす。

 

「……ねぇ…」

 

 男ならある筈のアレが無い。大事なアレが無くなっている。

 

「た……玉がねぇ!」

 

 思わず叫ぶ。

 いや、無くなったのは玉だけではない。竿の部分も無くなっている。俺の息子が丸々消失しているのだ。

 

「嘘だろ……」

 

 意気消沈。まだ一度も使った事もないのに無くなってしまった……。別に使う予定も無かったけどね……。

 そういえば、声も全然違う。女性らしく可愛い声に変わっている。

 一体どうしてこうなった。まさか、自分の使っていたキャラクターに憑依合体でもしてしまったというのか。シャーマンキングじゃあるまいに。

 

「エクシアさん!」

「ふぁっ!?」

 

 突然、家の中へ女性が飛び込んで来た。思わず変な声を出してしまった。

 二十歳ぐらいであろうか。割に可愛らしい顔立ちをしている。

 服装は狩衣をベースに色々と弄った様な衣装。というかどう見てもギルドの受付嬢が着る撫子装備である。色は薄い青。

 という事は、この人はギルドの受付嬢?

 因みに、エクシアとは俺のキャラクターの名前。由来は勿論、ガンダムだ!

 そんな事はどうでもいいのだ。

 受付嬢らしき女性が此方へ駆け寄って来た。

 

「大変ですエクシアさん! アカムトルムが出現しました! このまま放っておくと村の近くまで降りて来て大惨事になるかもしれないとの事です! 至急、討伐へ向かって下さい!」

「………えっ」

 

 モンハンの世界へ足を踏み入れ、数分。

 いきなりアカム討伐指令が下されたのであった。

 



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まだ慌てるような時間じゃない。まずは準備をしっかりするんだ。

「いや、ちょ、ちょっと待って下さい」

 

 とりあえず受付嬢にそう声を掛ける。

 というか、ちょっとと言わずに一年ぐらい待って欲しい。

 俺は自分のキャラクターに(恐らく)憑依合体してからまだ数分である。いきなりアカムトルム討伐してこいとか言われても無理ゲー過ぎる。

 とりあえず……そうだな、確認だ。

 

「えっと、自分以外のハンターは……」

「何言ってるんですか! 近隣の村や街、それにこのユクモ村のハンターの中ではエクシアさん以外にアカムトルムを討伐出来るハンターなんて居ませんよ!」

 

 何…だと…。

 いや、でもそうか。モンハンの筋書きって大体が村にやってきたばかりの新人ハンターが凄い活躍して、最終的にはアカムやらウカムやらアマツマガツチやらのバカでかいモンスターを一人で倒して英雄だーって感じで村の人が騒ぐみたいな、そんな感じのストーリーだ。

 って事は、家の隣の脇道に立ってる女ハンターとか、集会所のクエストボードの前に立ってる女ハンターとかは役に立たない。あいつらそれなりに腕は立つのかもしれんが、流石にアカムトルムみたいな巨大な奴は討伐出来ないだろう。奴らはとても危険な飛竜種なので、上位ハンターの中でも極一部の一流ハンターにのみしかクエストに参加する事を許されないって情報誌に書いてあったし。

 という事は、だ。一応、主人公であるらしい俺が討伐する以外に道は無い。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 アイテムボックスの前に駆け寄る。

 すると、目の前にメニュー画面が出た。

 アイテムボックスと書いてある欄内には、上から『アイテムをしまう』『アイテムを取り出す』『ボックス内調合』『リストから調合』『装備を変更する』『持ち物を整理する』『持ち物を売る』と書いてある。

 ……え、何これ…? 完全にゲームのメニュー画面じゃね?

 まぁ、いいか。『装備を変更する』をタッチしてみる。

 すると新たなメニューが表示される。八項目ある中で、一番上にある『装備選択』をタッチ。

 またまた今度は一際大きなメニューが表示された。色とりどりの武器や兜のアイコンが表示されている。

 それぞれタッチすると、その装備品の詳細が表示される。完全にゲームと一緒だこれ。ボタン式じゃなくてタッチ式になってるけど。

 とりあえず、俺が作った装備品は全部ある様だ。これならいけるか…?

 

「あの、エクシアさん…?」

「あ…? ああ、すみません」

 

 受付嬢の事をほったらかしで思考に没頭していた。何だか不安そうな表情を浮かべている彼女の方へ向き直る。

 このクエストは━━━受けるしかない。

 今、俺がどういう状況にあるとかよく解らないけど、とりあえず俺のマイキャラはギルドからそれなりに信頼を置かれている立場にあるのは間違いない。

 これからどう行動するにしても、評価を下げる様な行動は避けるべきだ。

 

「準備をしたら集会所へ向かいます。先に行って下さい」

「……! はい!」

 

 受付嬢は安堵と歓喜の入り混じった表情を浮かべ、家から出て行った。

 ……相当に期待されてんな。もう逃げられん。()るしかない。

 再びアイテムボックスのメニューを開き、『装備を変更する』をタッチ。次のメニューの『マイセット装備』を選択。

 すると、セット装備一覧が表情された。

 セット装備とは『武器』『頭』『胴』『腕』『腰』『脚』『護石』の武具を予め登録しておき、いつでも簡単に全身の装備を変更出来る便利機能である。

 一覧の中の二十四番目の『アカム殺し』と書かれたセットをタッチ。

 『装備を変更します。よろしいですか?』と確認が出るので『はい』をタッチ。すると、自分の装備品が一瞬で変更された。まるっきりゲームだな…。

 因みに装備は、

 

武器:覇弓レラカムトルム

頭:天城・覇【鉢金】

胴:蒼天【衣】

腕:天城・覇【篭手】

腰:蒼天【帯】

脚:蒼天【袴】

護石:龍の護石

 

 発動スキルは『装填数UP』『力の解放+1』『集中』『通常弾・連射矢UP』。

 正直、それ程強い訳ではないが、個人的にやりやすいスキルをつけたセットである。

 というか、見た目が気に入っている。それが一番の理由。

 見れたら良いんだがなぁと思うが、この部屋に鏡は━━━あった。

 えっ、ベッドの隣にスタンドミラーが置いてある。ゲーム中にはこんなもん無かったぞ……まぁいいや。

 とりあえずスタンドミラーの前に立ち、

 

「……え…っ!?」

 

 ━━━鏡の中には美少女が立っていた。

 線が細く、美しい容姿をした美少女だ。

 銀色をした髪はツインテールで纏めてあり、赤いカチューシャを着けている。チアジャギィという髪型だ。

 服装は俺のお気に入りの防具。白を基調としており、胸元と背中、肩上部のみを覆い隠す様に巻かれた衣装。脇の下辺りから伸びる布は、首の周りをぐるっと半周し、羽衣の様に浮いている。

 下は同じく白を基調とした七分袖のズボン。狩衣の様な印象を受ける。腰回りには、服の羽衣の様な部分と同じ布が、骨盤辺りから腰にかけて二枚伸びている。

 肘辺りから下はゴツい篭手を装着している。

 

 え、何これ…誰…?

 右手で鏡に触れる。中の美少女も左手を俺の手に重ね合わせる。

 ……え…っ。

 やだ、これが私…!?

 超可愛いんですけど!?

 いや、だってモンハンのキャラってもっとブサ……あんまり可愛いくない筈じゃ……何だこの美少女は……!?

 

 ハッと我に返る。今はこんな事している場合ではない。

 再びアイテムボックスへと戻り、メニューを開く。

 とりあえず『アイテムをしまう』を選択し、手持ちのアイテムを見てみるものの、何も持っていなかった。

 次に『アイテムを取り出す』を選択。色んなアイコンが表示され、必要なアイテムを出してゆく。

 出したのは以下のアイテム。

 

回復薬 10

回復薬グレート 10

強走薬 5

クーラードリンク 5

秘薬 2

いにしえの秘薬 1

力の護符 1

力の爪 1

守りの護符 1

守りの爪 1

こやし玉 10

モドリ玉 1

強撃ビン 50

 

「……これで良いかな」

 

 アイテム、装備は整った。

 次に、竈の横にあるボードの前に立つ。矢っ張りメニューが開かれる。

 『オトモ選択』をタッチし、『選択』を選択。別に洒落ではない。

 レギュラーのメンバーが五匹表示される。

 その中の『十六夜咲夜』をオトモ1に、『魂魄妖夢』をオトモ2に設定。名前の由来は言うまでもなく東方である。

 すると、背後から猫の声。振り返ると、二匹のアイルーが立っていた。一匹は白、もう一匹は蒼の毛並みである。どこから湧いて出たのか。急に出てきたので思わずビクッとなった。驚かすなよ…。

 とりあえず二匹共何も装備してないので、武具を整える。

 オトモアイルーの装備品は『武器』『頭』『胴』の三種類のみ。

 

武器:エスカドネコサイス

頭:ニャン天【冠】

胴:ニャン天【衣】

 

 これでよし。ニャン天は自分と同じ様な服装である。ただ、アイルーのそれは狩衣に近い。

 因みに、咲夜の方は武器を弄っていない。初期装備の『ネコボーンピック』のままである。この子は性格が『平和主義』なので、どうせ攻撃に参加しないからだ。基本的に『鬼神笛』や『回復笛』を吹いて貰っている。鬼神笛は攻撃上昇、回復笛はそのまま体力回復。

 対する妖夢は近接タイプ。性格は『勇敢』。小型優先で邪魔な小さい奴らを蹴散らして貰っているが、今回の相手はアカム一匹のみである。小型は居ない。

 ……筈。ゲームと一緒ならば。

 

「よし、行くか」

 

 準備は整った。アカムトルム討伐へと向かう為、俺は自宅を後にした。

 



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いざ行かん、溶岩峡谷へ

「エクシアさん!」

 

 集会所へ赴くと、先程の受付嬢が俺を出迎えた。また不安そうな表情に戻っている。何かあったのだろうか。

 

「どうかしたんですか?」

「それがですね……アカムトルムがもう一頭出現したとの情報が……」

「……ゑ?」

 

 ちょっ、……え? 何て?

 アカムトルムがもう一頭出現…?

 ……え…っ…。

 

「HAAAAAAAAA!?」

 

 驚きの余り変な奇声をあげてしまった。受付嬢の肩がビクッと震えたがどうでもいい。

 アカムがもう一頭……いや、アカム二頭っておまっ……何だその異常震域も吃驚の凶悪クエストは!?

 何だよそれどこのクソゲーだよ!? どう考えても無理だろうが!?

 

「あ、あの……エクシアさん…?」

「……すみません、取り乱しました。続けて下さい」

 

 平静を装うが、内心は全然平静ではないし全然大丈夫じゃない。一番いいのを頼む。

 とりあえず詳しい説明を聞いてみると、アカムが同時ではなく、同じ場所にもう一頭のアカムが近付いているとの事らしい。少なく見積もっても合流するのは一週間以上先の事だとか。

 同時じゃないのか、良かった……。だが、このまま放っておけば同時になりかねない。早々に出発しなければ。

 受付嬢と共にカウンターへ移動し、クエストの手続きへ。

 

 特殊クエスト

獄炎に座す、覇たる者

 

 クエスト内容

アカムトルムの討伐

 

報酬金 38400z

契約金  3200z

指定地 溶岩峡谷

 

 以上の内容。契約金を払ってクエストを受ける。

 

「気をつけて下さいね」

 

 受付嬢の言葉に、思わずドキッとした。可愛いな。

 戻ったらいっそ口説いてみようか?

 ……あ、今は俺も女だった…。駄目じゃん。どの道そんな事しないけど。

 くだらない思考を頭の外へ追いやり、クエスト出発口へと足を運ぶ。

 話によると、溶岩峡谷までは竜車とやらを乗り継いで六日程掛かるとか。大分遠いんだなぁ。

 あ、だったら食料とか持っていった方が良かったか? いや、道中にアプトノスとか居るかもしれないし、食える茸とかも採取出来るだろう。そんなに深く身構える必要はないか。

 そんな事を考えながら外へ一歩踏み出し━━━

 

 ━━━次の瞬間、辺りに溶岩の煮えたぎる灼熱地帯に俺は立っていた。

 

「……ゑ?」

 

 え…? いや…え…? あれ…?

 俺、今集会所の外へ出たばかりで……あれ……?

 考え込んでいる隙は無かった。遠くの黒々しい岩の様な塊が動きだした。アカムトルムだ。巨大な四足獣。まるで岩山が蠢いているかの様だ。

 ヤバい、真っ直ぐこっちに向かって来ている!

 何だよ何なんだよ一体!? まだ心の準備とか全然出来てねーよ何なんだよ!? クエスト出発したら即現地到着ってそんな所までゲームと同じに再現しなくていいんだよ!!

 いや、兎に角! アカムトルムが這いずりながらこっちに迫ってきている。躱すか避けるかしなければ! ってどっちも同じ意味だよ!

 とか一人ツッコミしてる場合じゃなくて!

 えーと、えーっと……そうだ! 閃光玉だ! アカムトルムにはまず最初に閃光玉を投げるんだ! 定石だ!

 アイテム……あっ!? アイテムってどうやって使うんだ!? アイテムポーチに入ってるんだよな!? アイテムポーチって何だ!? どれだ!?

 っていうか俺そもそも閃光玉持ってきてなくね!? 閃光玉持ってきてない気がする!! アイテムポーチに入れ忘れた気がする!!

 っつぅかアカムが迫ってきた迫ってきたヤバいヤバいヤバい!! ジュラ○ックパ○クとかとは比ぶべくもない大迫力ヤバいヤバいヤバい!!

 どどどどどどうする!?

 緊急回避! 緊急回避だ!

 緊急回避ってどうやるんだ!? 走りながら飛べばいいのか!?

 えぇい兎に角飛べ!! 早く!!

 

 この間、僅か数秒の事。

 そして俺は、

 

「ドゥフッ!!」

 

 結局アカムトレインにひかれた。

 瞬間、

 

「ぐぅあぁ………ぁが…ッ!!」

 

 身体中に激痛が走った。全身をハンマーか何かで殴打された様な鋭い痛み。

 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い…ッ!! 滅茶苦茶痛い…ッ!!

 ……けど…痛がっている場合じゃない……! 動かないと…! 追撃がくる…!

 痛む身体に鞭を打ち、フラフラしながらも何とか起き上がる。

 アカムの方に視線を移すと、丁度方向転換をしている所だった。その動きはゲームと全く同じである。いや、もう少し動きは滑らかな気もする。よく解らん。痛すぎてそれどころじゃない。

 とりあえず移動だ。アカムの次の攻撃を躱さなければ…!

 ふと、二匹のオトモ達がアカムへと向かって行ったのが見えた。あいつら、アカムトレインを躱したのか…?

 どうやら囮を買って出てくれたらしい。何て頼もしい奴らなんだ…ゲームの時とは大違いだ…。

 兎に角、その間に俺は移動を済ませ、アイテムポーチを探す。

 それはすぐに見つかった。腰の辺りにいつの間にかポーチが付いていたのだ。

 アイテムを出そうと手を触れると、目の前に道具のアイコンがズラリと並ぶ。すぐ上にはアイテムの名前も表示されている。何だこの新機能。凄いハイテクだ。

 あ…関心している場合ではない…視界が何だかボヤけてきた…。

 とりあえず回復だ。回復薬グレードのアイコンをタッチする。

 瞬間、俺の手にはいつの間にか、緑の液体が入った手の平サイズのビンが握られており、腕が━━━いや、身体が勝手に動く。

 それを一気にグイッと呷り、ガッツポーズ。

 

 ………。

 何だ、今のは…。

 いや、解るよ? ゲームでも回復薬とか飲んだ時にガッツポーズ取るもんね。うん、解る解る。

 でも、身体が勝手に動いたぞ…? 俺の意思とかではなく、勝手に身体が……。

 ま、まぁ今はいい。とりあえず身体の痛みが殆ど消えた。回復した様だ。

 そして、混乱状態だった精神が落ち着きを取り乱して(ようや)く気が付いたんだけど、此処滅茶苦茶暑い!! 尋常じゃないくらい暑い!! 真夏日だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ!! って溶岩がグツグツ煮え立ってんだから当たり前なんだけど!

 再びアイテムポーチに触れ、クーラードリンクをタッチ。矢っ張りあのモーションを勝手に行う。身体が勝手に動くって軽いホラーだよ。

 

「おっ」

 

 暑さが消えた。すげぇ、全然暑さを感じない。何これどうなってんの? そんな冷たい訳でも無かったんだけど。

 まぁいいや。

 因みに味は悪くなかった。何か薄いカ○ピスみたいな味がした。もうちょっと濃いめなら美味しかったと思う。

 回復薬グレードは蜂蜜の味がした。ちょっと苦味もあったが、それ程気にならなかった。

 ってか、何も考えずに二つ連続で使用してたけど、アカムの次の攻撃の事を完全に忘れていた。馬鹿か俺は。ハンター歴何年だよ。ポータブル2ndから始めて8年近くになります。

 

 そんな事はどうでもよくて、急いでアカムの方を振り返ると━━━オトモ達がアカムを相手に善戦していた。

 妖夢はエスカドネコサイスでアカムの顔面を斬り裂きながらも、相手の噛みつき等の攻撃を回避したりと大接戦を繰り広げている。凄まじい闘い振りだ。下手なハンターより上手い。

 そして咲夜の方はというと、どこから取り出しているのか投げナイフを投げまくっていた。無尽蔵に投げている。そう、途切れる事なく投げ続けているのだ。

 お前そのナイフどこに隠し持ってんの? どう見ても服に仕舞(しま)える大きさじゃないし、荷物も持っていない。どっから出してんの?

 っていうか、性格『平和主義』じゃなかったっけ? ナイフをアカムの顔面目掛けて投げまくってるんだが…。

 何かもう……アイツらだけで良いんじゃないかな…。

 何て楽観的な事は言わない。確かに凄い猛攻撃ではあるが、所詮アイルーの攻撃など大したダメージにはならない。

 俺がやるしかないのだ。

 とりあえず確認。レラカムトルムを展開し、背中に背負ってるホルスターの中の矢の数を数える。10本だ。

 その内の1本を取り出し、弓に(つが)えて弦を引き絞り、明後日の方へ向けて、放す。

 と、1本だけだった筈の矢が3本に増え、並列に飛んで行った。今のは間違い無く、レラカムトルムの溜め段階1の『拡散Lv2』である。

 もう一度矢を弓に番えて、今度は少し待つ。キィン、キィンと二回右手が光った。

 そして、弦を放す。

 今度は矢が4本になり、縦列に飛んでいった。溜め段階3の『連射Lv4』である。

 次にホルスターの矢の数を数える。数は……10本。減っていない。どうやらゲームと同じで無限に撃てるらしい。

 

「……よし」

 

 それだけ解れば十分だ。後はアカムトルムを狩るのみである。

 

「このアカム野郎……よくもやってくれたな……」

 

 アイテムポーチに触れ、ビンのアイコンを選択。強撃ビンをセットした。動作は矢っ張り身体が勝手に動く。恐ロシア。

 

「さっきのお返しをたっぷりしてやるぜッ!!」

 

 弓に矢を番えながら、アカムトルムに向かって走り出すのであった。

 




矢のホルスターなんですが、本来は腰にセットされてます。アイテムポーチの為に移動しますた。


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俺が今まで何匹お前を狩ってきたか知っているか?

「くらいやがれ!!」

 

 弓の溜め段階3の『連射Lv4』をアカムの顔面目掛けて側面から叩き込む。当たった瞬間、黒い雷みたいなものがバチバチと走った。龍属性のエフェクト効果だ。ゲームと一緒だけど、リアルだと迫力が凄い。

 更に数度、連射を叩き込む。なるべくクリティカルの位置で撃っているつもりだが、如何せん視点が違うので位置取りがイマイチよく解らない。矢が当たった時のエフェクトも龍属性のそれしか出てこないので、尚更解らない。でも大体合ってると思う。

 ふと、アカムの注意が俺の方へ向いた。あれだけバカスカ撃ってりゃ当然か。

 とりあえずアカムの左側面へ回り込む様に移動。すると、身体を捻って尻尾を持ち上げだした。左側を薙払う気だ。

 俺は尻尾がギリギリ届かないであろう位置で立ち止まり、連射Lv4を二発顔面へ撃ち込む。案の定、アカムの尻尾は俺に届く事は無かった。攻撃範囲はゲームと一緒だ。跳ねた石ころがビシビシ当たって痛かったけど。

 妖夢と咲夜もアカムの顔面へ執拗に攻撃を加えている。何という度胸。あいつら本当にアイルーか?

 アカムの次の攻撃は這いずりだった。此方へ方向転換している隙に側面へ回り込んでいたので、楽々回避出来た。馬鹿め。

 だが、顔が向こう向いているので顔面を狙う事は出来そうにない。しかし、一回ぐらい撃てる隙はある。どこに撃ち込むか……。

 

 ………。

 曲射を撃ってみようか。それぐらいの余裕はある。

 でもどうやって撃つんだ……?

 ええい、ものは試しだ。やってみろ。

 弦を思い切り引き絞り、弓を天に向けて撃つ。

 放物線を描く様に飛んでいった1本の矢が、アカムの背中を射抜いた。それは貫通して地面へと突き刺さり、爆発した。

 おお、成功だ。

 レラカムトルムの曲射は爆裂型なので、地面に落ちると爆発するのだ。一体、あの爆発する矢は何なのだろうか。火薬でも仕込んであるのだろうか。謎である。

 アカムの次の狙いは、妖夢であった。向きを変え、上半身を僅かに起こし━━━右前脚を横薙ぎに振るった。

 

「!?」

 

 何だ今の攻撃!? ゲーム中にはあんなの無かったぞ!?

 でも、妖夢は飛び上がりながら身体を捻り、華麗に躱していた。何だ今のスタイリッシュな避け方。格好良すぎる。矢っ張りあいつらアイルーじゃねぇ。アイルーの見た目をした別の何かだ。パネェ。

 咲夜は咲夜で距離を保ちながら投げナイフを投げ続けている。だからどっから出してんだよそれ。

 何にしても、これならいけるぜ!

 妖夢と咲夜がアカムを翻弄し、俺は上手く立ち回りながらアカムの顔面に連射Lv4を叩き込んでゆく。オトモ二匹の活躍が凄まじく、立ち回りがゲームの時よりも滅茶苦茶楽だ。

 偶に俺を狙ってくる事もあるが、殆どゲームと同じ攻撃方法なので一撃もくらう事は無かった。

 このまま一気に畳み掛けるぜ!

 と思った矢先、アカムが地面へと潜った。デカい穴が地面に空いたと思ったら、アカムの姿が見えなくなった瞬間に穴は消えた。どんな原理だよ。

 俺はというと、奴が潜っている時にレラカムを畳んで背中に背負っていた所だ。アカムが潜った時は、武器を納刀してダッシュ出来る様にするのは常識だろう。

 少なくとも俺はそう思っている。マルチプレイを殆どしないので、他の人がどうとかはよく解らない。

 ドドドドドッ、と地面が揺れる。

 これはアカムが地面の下を蠢いてる音━━━

 

「ッ!?」

 

 地面が僅かに盛り上がりながら此方に向かってきている! 速……ッ!

 

「とわぁっ!」

 

 急いで駆け出し、振動がより強くなった所で思い切り跳んだ。

 瞬間、俺のすぐ後ろの地面からアカムが姿を現した。

 動くのがほんの少しでも遅れていたら巻き込まれていただろう…危なかった…。

 ………。

 いや……巻き込まれたら危ないとか思ったけど、今のって本当にダメージあるんだろうか…?

 だって地面の中から這い出てきただけだろ? 背中に乗ったらダメージとかある訳ないと思うんだが…。

 まぁいいや。

 兎に角、アカムの地面に潜ってからの攻撃、ポケモンでいう所の『あなをほる』攻撃は注意が必要だ。速度がゲームの時よりずっと速かった。チンタラしてたらヤバい。

 だが、それ以外は全く注意するに値しない。ゲームと殆ど同じだ。避けるのは容易い。

 

「うははははっ! くらえボケナス!」

 

 そして、俺とオトモ達はアカムの攻撃を回避しつつ、奴の顔面へ執拗に攻撃を加え続けた。一方的に。

 途中で息切れを起こしたり、腕が重くなってきたりしたが、十数秒程度も時間を置けばすぐに良くなった。スタミナの影響だろう。そのシステムもあるらしい。

 試しに強走薬を飲んだら起こらなくなったので間違いない。

 戦闘を開始してから十分程が経過した。アカムの牙を両方共へし折り、背中のゴツゴツした部分も腹面もズタボロボンボンにしてやった。

 奴も俺達を相手に必死で抵抗したものの、攻撃は全て回避。

 噛みつきも這いずりものし掛かりも尻尾で薙払うも前脚で薙払うもあなをほるも、奴の攻撃は全て容易く避けられる。

 ところでどうでもいい事だけど、這いずりって言葉のニュアンスがパイズ(ry

 

 

 

 ━━━ただいま大変不適切な表現がございました。暫くお待ちください。

 

 

 

 兎に角だ。アカムの攻撃は全て完全に見切った。俺が奴に負ける要素は無い。

 ふと、アカムが地中へ潜った。俺も素早くレラカムトルムを畳む。奴の向かう先は此方ではなく、反対方向。ソニックブラストでも吐く気か。

 ふはははは! 無駄無駄無駄だァッ! 近付いてしまえばそんなものは当たらぬぅ!

 俺がお前を何匹狩ってきたか解るか!? 俺は2ndの時から数えて! お前を1000匹以上は狩っているのだッ!

 もう一度言う…俺がお前に負ける要素は無い!

 全力ダッシュで奴を追い掛ける。

 さぁ、出てこい! また顔面に連射Lv4を叩き込んでやるぜ!

 

 ━━━しかし、アカムは一向に地上へ出て来る気配が無い。もう5分近く経つのにも関わらず、である。

 

 ………。

 これは。

 これはまさか。

 ゲームでは絶対に有り得ない事だが。

 

「………逃げられた…?」

 

 …。

 ……。

 ………。

 いや。

 そんなまさか。

 アカムが逃げるなんて、そんな事が………。

 ……あるの…?

 えっ……何それ…?

 つまりこれって、討伐失敗になるの…? それとも撃退扱いになるの…?

 ………。

 

「何だよもおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 何逃げてんだよ! 巫山戯(ふざけ)んなよ! んなデカい図体して人間相手に逃げるとか何だお前!? 臆病者か!?

 

「戻って来やがれ! 剥ぎ取らせろ!」

 

 憤慨しながら叫ぶが、俺の声は虚しく木霊した。

 ……虚しい…。凄く虚しい…。何か不完全燃焼だわ…。

 くっそぅ……この怒りを何処に向ければ良いのだ……くぅぅ…ッ!

 

 ━━━その時、大地が揺れた。

 そして、遠くの方で地中から黒い塊が姿を現した。巨大な岩石の様な見た目をした四足獣。アカムトルムだ。

 

「は…っ! ははははっ! うははははっ! 戻ってきたかッ!!」

 

 喜び勇んで奴へと駆け出した。弓を展開し、矢を番えながら走る。

 そして、奴の近くまで来て違和感に気付いた。

 

 ━━━へし折った筈の牙が二本共再生している…?

 

 いや、それだけじゃない。ズタボロにしてやった筈の背中のゴツゴツした部分とか腹面も元に戻っている。

 

「……回復した…?」

 

 ……いや。違う。

 何か違う気がする。

 何て言うか……コイツ、一回りデカくなってないか…?

 何となく大きい気がする程度のレベルだが……何か……。

 そして、ハッと気付いた。

 

 ━━━アカムトルムがもう一頭出現したとの情報が……。

 

 集会所で受付嬢が確かにそう言っていた。

 そうだ。こいつはさっきの奴とは違う個体なのだ。もう一頭のアカムトルムなのだ。

 ならば、さっきのアカムが逃げ出したのは、俺からではなくコイツから……? 接近を感知して逃げた、という事か……?

 ………。

 

「まぁ、どっちでもいい」

 

 番えていた矢を、曲射として撃ち出す。放物線を描いて落ちるそれは、アカムの頭に直撃した。

 俺の存在に漸く気付いた間抜けなアカムが、のそりと此方を向く。

 

「お前を排除する」

 

 何処かの鬼サイボーグみたいに決めてみる。

 第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。

 




私は150程しか狩ってませんが…。


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アカムの事を銀行と言うのはやめたげてよぉ!

資金繰りの為にアカムやるとかほざいたのは誰だったか…。


 空を振り仰ぎながら俺は考える。

 確か寝落ちする前にアカムトルムのクエストを受注したんだ。それでアイテムいじったり、温泉入ってグダグダ遊んでいる間に寝落ちしたんだけど……。

 もしかしてだが、こっちの世界に来てからいきなりアカムトルムの討伐指令が下ったのは、それが原因だったりするのだろうか。

 だとしたら、受注したクエストがウカムルバスではなくアカムトルムで本当に良かったと思う。ウカムって嫌いなんだよなぁ、アカムに比べて狩り辛いったらない。

 2ndGの時はゴールドマロウを片手にウカムを討伐しまくってたんだけど。あの時は何となくやり易かった気がする。

 3rdになってから、何故か片手剣で狩り辛くなった。何でだ。

 まぁでも狩れない訳ではない。弓を持った俺はアマツマガツチだろうがアルバトリオンだろうが確実に仕留められる。

 こっちの世界にやって来た俺でも、きっと同様に上手くやれるだろう。

 その自信は今、俺が座っているコイツがつけさせてくれた。

 倒れたまま動かなくなったアカムトルムが、な。

 

「さて、そろそろ一分経つ頃だな」

 

 ゲームでは討伐終了した後、1分経過で自動的に集会所へ戻される。果たしてこの世界でも同じなのか否か。

 まぁ来たときの事を考えると、同じだと思われる。

 ああ、そうそう。因みにアカムトルムは恐らく十分程度で始末出来た。ゲームの時は基本的に14分とか15分、早くて13分台で狩っている。勿論、オトモ二匹連れた状態でね。

 今回は妖夢と咲夜の活躍が異常だったので、何だかいつもより早く感じた。ってかすげぇ楽だった。アカムが全然こっちに向かって来ないんだもの。二匹共ノーダメージだったし、こいつら有能過ぎる。何だこのある意味チート猫。

 そういや、咲夜さん一度も笛吹かなかったな……。ずっと投げナイフを投げ続けていた。まるで、本当に東方projectの十六夜咲夜みたいだったな。性格『平和主義』だった筈なんだけど……。

 あ、妖夢も勿論凄かった。アカムの顔面を終始めった斬りにしていた。本当に魂魄妖夢みたいで格好良かった。別に特筆すべき事が無かった訳じゃないよ? 本当に凄かったからね。うん。

 剥ぎ取りももうやっておいた。流石はモンハン至上最高の切れ味を誇る剥ぎ取りナイフというべきか、いとも容易く剥ぎ取りを行えた。出たのは鱗3枚と、尻尾1つ。どう考えても入らないと思うんだけど、アイテムポーチに入ってる。不思議。

 剥ぎ取りを行えたのは4回までで、それ以上は何をやっても剥ぎ取りナイフが刺さらなかった。その辺はゲームと一緒なんだな。

 あと、死体を貫通する事は出来るのだろうかと思ったけど無理だった。だからこそ、俺はアカムの頭の上に腰掛けているのだが。

 もし入れたら「アカムトルムのテーマパークw」とか言って遊べたのに。

 心底どうでもいい事だった。

 

 そして、俺は一つ悩んでいる事がある。

 一人称や口調についてだ。

 見た目こそ超美少女だけど、中身は今年で25の野郎なのである。自分を貫いて一人称は『俺』で口調は男らしくあるべきか、それとも見た目通りに一人称は『私』で可愛らしく女を演じるべきか。

 うむむと悩んでいると、周囲の景色が突然変わった。俺はいつの間にか集会所のクエスト出発口に立っている。矢っ張りゲームの時と同じで、自動的に帰される様だ。

 NOW LOADINGの間が無いから違和感しか無い。別にいいけど。楽だし。

 

「あぁ、エクシアさん!」

 

 ふと、俺の姿に気付いた受付嬢が此方へ駆け寄ってきた。

 

「良かった、心配していたんですよ…! もう一頭のアカムトルムが急に溶岩峡谷へ移動し始めたって古龍観測隊の方から連絡があって……エクシアさんに何かあったらって心配で心配で…」

 

 やだ、何この娘…超可愛いんですけど……。本当に俺の事を心配してくれてたんだなっていうのが伝わってくる。惚れそうやわ…。

 とりあえず何か返さねば。

 口調をどうするか一瞬迷ったが、

 

「大丈夫、心配はいりませんよ。ただ、最初に遭遇した一頭を逃がしてしまいましたが…」

 

 ひとまず敬語。出発前もそうだったしね。

 

「それでしたら、心配ありません。ギルドからの連絡によれば、エクシアさんが撃退した個体は少なくとも数ヶ月間は大人しくしているであろうとの事ですので、暫くは安全だと思います。……ただ、また活発化してきたのならエクシアさんに再び依頼が回ってくる事になってしまいますが…」

「構いませんよ。いつでも連絡を下さい」

 

 キリッ、と決める。アカムなら俺にまかせろーバリバリー。

 受付嬢は「頼もしいですね」と言って笑顔を見せてくれた。可愛すぎる。思わず抱きしめそうになった。そんな度胸無いからしないけど。

 くっそ、俺は何でキャラクターを女にしちまったかな!!

 今日ほど男にしておけば良かったと思った事はない。でも装備がゴツゴツしてるしなぁ…。

 その後はギルドから報酬金━━38400zから57600zに上がっていた、乱入扱いになったらしい━━を受け取り、総額は172500zになった。加工とかで使ってたからそんなに残ってない。

 アカムの素材は家に送られているとか何とか。討伐報酬の事だろう。アイテムボックスから売れるみたいだし、売ってもいいかもしれない。

 そして俺は集会所を後にした。

 

 

 

 

 

 

「あー、疲れたー」

 

 自宅にて。ベッドに腰掛けながら呟いた。

 アカムの討伐は合わせて20〜30分ぐらいしか掛かってないけど、自分で身体を動かして闘うのはなかなかどうして疲れる。当たり前なんだけど。

 ただ、矢張りハンターだからなのか、この身体は体力あるな。自分の肉体だったら絶対途中でバテてただろう。ってかアカムトレインにひかれた時点で死んでただろう。

 ハンターって凄いなって、改めて思った。うん。ハンター凄い。念能力は無いけど凄い。

 

 ふと、オトモアイルーの毛並みが蒼い方━━━咲夜が此方へ近寄ってきて、

 

「お嬢様、今日のご活躍お見事でした」

 

 ━━━キェアアアアアァァァァァァァッ!? シャベッタアァァァァァァッ!?

 

 いや、アイルーが言葉を解するのは知っていたよ!? 知っていたけど話しかけてきた!? 何だいきなり何だどうしたいきなり何だ!?

 っていうか語尾に『ニャ』が無くね!? お前アイルーだよね!? 語尾に『ニャ』ってアイルーのアイデンティティじゃないの!?

 えっ、俺の勝手な思い込みだった!? 勘違いしちゃってごめんねっ!

 っつぅか今お嬢様って言ったか!? お嬢様って何だ俺の事か!? 俺の事なのか!?

 お嬢様って(笑) 中身は野郎なんですがね!

 こんな事なら名前レミリアにしとけばよかったチクショーッ!

 

 と、まぁ何か突っ込み所満載でちょっと僅かに錯乱したが、もう大丈夫だ、問題ない。

 折角なので、少しお話してみようか。

 

「ありがとう。だが、それも二人(?)のサポートがあったお蔭だよ。礼を言わせてくれ、ありがとう」

「勿体無きお言葉に御座います」

 

 咲夜が深々と頭をたれる。いや、隣の白い毛並みを持つ妖夢も同じ様に頭をたれている。

 何だこいつら…従者か…。従者なのか。

 何かまるで本当に十六夜咲夜と魂魄妖夢がアイルーになったみたいな感じだな……って、本物がどうか知らんけど。

 しっかし、アイルーって本当にただの二足歩行する猫だよな。可愛い。癒される。

 何て言うか、こう……抱っこして撫でたい。モフモフしたい。癒されたい。

 心の内で欲求に負けた俺は、咲夜を抱き上げようと両手を伸ばした。が、咲夜はそれをサッと後ろへ下がる事で回避した。

 ………。

 避けられた?

 いや、まさか…。

 もう一度手を伸ばし━━━矢っ張り咲夜はそれを避ける。

 ………。

 チラリと、妖夢の方を見遣る。彼女━━雌かどうか知らんけど━━も此方を見上げた。可愛い。

 目と目が合う〜♪ 瞬間好〜き(ry

 

 そっと両手を伸ばし━━━妖夢もこれを避けた。

 …。

 ……。

 ………。

 い…いいもん……別に……。悲しくなんかねーし……。触ったら毛とか付きそうだし……別に…いいし……。

 

 俺はいじけて不貞寝した。

 




この小説ですが、実は自分のデータを基にして書いております。
主人公のプレイスキルは私より少し上手い程度と考えておりますが、主人公≠作者であり、憑依した人は……どっかの誰かです。私ではありませんし、私も誰だか知りません(適当)

あと、装備に関しても自分で考えた微妙な感じのセット装備を使っています。生暖かい目で見守ってやっていただけますと幸いです。


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ユクモ村って、村とは思えない程に小さいよなって思ってたのは俺だけじゃない筈。

 目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

 って、もうそのくだりはいいんだよ。

 まぁ、とりあえず寝ても身体は女のままだし、元の世界に戻る事は出来なかったという事が言いたかった。なら初めからそう言えよという話。

 何なんだろうか、この現象は。まるでログ・ホライズンの大災害みたいな現象だな。でも、俺一人だけだから災害とでも呼ぶか。

 あ、待てよ?

 思ったんだけど、この世界に居るのって俺だけなんだろうか? もしかしたら、元の世界から別の人も来たてたりするのかもしれない。そういった人を探す事が、元の世界へ戻る手掛かりになる可能性もある。

 ………。

 まぁ、最悪戻れなくてもいいや。寧ろ、この世界でハンターライフをエンジョイする方が楽しい気がするし。

 ベッドから降りようとして、すぐ横には赤い座布団の上で丸くなっている物体が二つ。オトモアイルーの妖夢と咲夜である。気持ちよさそうに寝息を立てている。服装は相変わらずニャン天姿。

 

 ………。

 今なら……今なら撫でる事も可能なのではないのか…?

 ……ちょっと触るくらい良いよね……?

 起こさない様にそーっと咲夜へ手を伸ばし━━━瞬間、俺の喉もとにナイフが突きつけられた。丸くなったまま咲夜の手には、ナイフが握られている。一体、どこから出したというのか……。

 咲夜の首がニョキっと起き上がり、

 

「あら…? お嬢様……おはようございます…」

「あ……うん……おはよう……」

 

 寝ぼけ眼の咲夜にそう返す。俺はそっと手を引っ込めた。

 教訓。寝ている咲夜に触れようとしてはならない。下手すりゃ命が危ない。

 妖夢も同じ事が起こりそうなので止めておこう…。

 

 

 

 

 

 

 妖夢と咲夜はまだ眠い様なので、俺一人で家から出てきたのだが、寝る前と日の傾きが一緒の様な気がする。

 俺は丸一日眠ってたんだろうか? それとも時間が固定されているのだろうか?

 その辺りも検証してみないといかんな。

 正直、一番の疑問はアカムを討伐しに行く道中の6日、帰りも含めて12日間は何処へいったのかという事だが。

 昨日━━1日経ったのかはまだ解らんけど━━受付嬢から話を聞いた限りでは、移動の日数は経過している様だ。アカムがもう一頭現れた事からも、それは間違いないと思われる。溶岩峡谷に現れるまで一週間は掛かるって言ってたしね。その割に一日早く現れたけど。

 さて、どうしようかなとフラフラ歩きながら考えていると、自分のお腹が『グゥ〜…』と鳴った。

 ……そういやオラ、腹へっちまった。

 でもこの村って小さいし、食事処なんて無いんだよなぁ、と思いながら自宅のすぐ右にある階段を降りて、自分の目を疑った。

 

 ━━━10軒近くの様々な店が軒を連ねている。

 

 ……What?

 おかしい……ゲームでは、道具屋と武具屋と加工屋の3軒のみだった筈なのに……。

 何だ? 何が起こっておるのじゃ…?

 とりあえず、両側に連なっている店を観察してみる。

 右は手前から、ゲームの時と同じ道具屋、野菜類を売っている八百屋、茣蓙(ござ)の上に小物類を並べている露店、色とりどりの花を扱っている花屋、その先はここからじゃイマイチよく解らん。見えん。っていうか人邪魔。

 左は手前から、ゲームの時と同じ武具屋、同じくゲームの時からの加工屋、その脇にアイルーの装備を扱ってるお店、茣蓙の上にアクセサリー類を並べている露店、食事処らしきお店、etc…。

 ゲームの時と違って、凄い活気に満ちている。何だこれは。俺の知ってるユクモ村じゃない。

 

「あ、エクシアさん!」

 

 呆然と突っ立っていると、道具屋の女性が話し掛けてきた。近くまで歩み寄る。

 

「いやぁ、エクシアさんのお蔭で村が凄く活気付いて、ウチは大繁盛だよ!」

 

 ……俺のお蔭…?

 はて。ハンターってモンスターを狩るだけの人ではなかろうか。それで感謝されるとな?

 どういう事なのかよく解らないので、詳しい話を聞いてみる事に。

 そしたら彼女は「何言ってんだい」と色々語ってくれた。

 まず、モンスターを狩る事によって交通の滞りが殆ど無くなったのだとか。街道にモンスターとかが現れると危ないもんね。うん、それは解る。

 次に温泉の質が良くなった事。恐らく、温泉クエストの効果であろうが、それによってユクモ村の温泉が有名になり、色々な人が訪れる様になった。成る程、確かにあの温泉は色々な人が入るものな。

 人が増えた事によって、お店も増え始めたのだとか。そのまま商人が居着き、ユクモ村は更に人が訪れる様になった。

 しかし、人が増えればギルドへの依頼も増える。この村のハンターの人数はそれ程多い訳ではない。当然ながらクエストが滞ってしまう。

 が、村に訪れる人の中にはハンターも居るらしく、そのハンター達がギルドでクエストを受けたりしているので、実質問題は無かったのだそうな。

 そいつらの腕はどれぐらいなのだろうか? 少しだけ気になった。まぁ別にどうでもいいけど。

 それからもユクモ村は少しずつ発展を重ねてゆき、今の形になったのだとか。マジでか。吃驚だわ。

 そこまで話を聞いた所で客が来て、道具屋さんは商売へと戻っていった。

 

 ううむ、まさかユクモ村がそんな事になっていたとは……ゲームとは違うんだなぁ…。

 まぁ、何にせよ腹が減った。食事処も何軒かあるみたいだし、歩きながら色々見てみよう。

 そうしてフラフラ歩いていると、人の視線が矢鱈と自分に向いている事に気付いた。明らかに見られている。

 な、何だろう……俺、何か変なとこでもあるのかな…。確かに防具は天城と蒼天装備を組み合わせてるけどさ…。そんな変かな…。個人的には可愛いと思ってるんだけど…。

 ふと、二人組のハンターらしき女性が小走りで此方に近付いてきた。ジンオウ装備の娘とナルガ装備の娘だ。どちらもガンナータイプで、俺の好みの装備である。見た目が凄く良い。スキル効果的に絶対使わないけど。作ったはいいがアイテムボックスに眠ったままになっている。

 はて、ナルガのガンナーはマスク着用で、顔の下半分が隠れていたと思うのだが……兜のみ剣士用なのだろうか?

 ジンオウ装備の娘がもじもじしながら、

 

「あ、あのっ……ユクモ村で大活躍してる伝説のハンター、エクシアさんですよね…!? 私達、ファンなんです! よろしければ、握手をお願いしますっ!」

 

 と、手を差し出してきた。

 

 …。

 ……。

 ………。

 

 え…っ!?

 な、何……え…? 伝説のハンター…?

 待て待て待て。伝説って何の事だ。意味がよく解らないぞぅ!

 もしかして、アマツマガツチとかアカムやウカムなんかを討伐した事を指しているのか?

 確かに上位ハンターの中でも一流のみって言われてるけど…いや、でも他にも討伐した奴は居るんじゃないのか……?

 そんな風に考え込んでいると、ジンオウ装備の娘が涙目になりながら震えだした。

 やべ、握手を拒否ってると思われたのかも。

 慌てて彼女と握手を交わす。すると、表情が一気にはちきれんばかりの笑顔に変わった。可愛い。

 ナルガ装備の娘とも軽く握手を交わす。此方も嬉しそうな笑顔を見せてくれた。可愛い。

 ジンオウちゃんが更に話し掛けてきた。

 

「あのあのっ。少し前にアカムトルムの討伐依頼がギルドに入ったって聞いたんですけど、それって矢っ張りエクシアさんが討伐したんですか!?」

「あ……うん……一匹逃がしちゃったけどね…」

「一匹……って、もしかして二匹居たんですか!?」

「う、うん……一匹が逃げて、それからもう一匹が現れたからソイツを狩って…」

「凄い凄ーいっ!!」

 

 ジンオウちゃんが興奮した様にピョンピョン跳ねる。これが女の子か……。圧倒されちゃうな…。

 

 っていうか、何気に周囲の人達が話し声が聞こえてくる……。『あれが凄腕のハンター…』とか『蒼天装備凄いなー…』とか『私もお話したい…』とか、男女問わず俺の事を話している。

 ヤバい。何かよく解らんが恥ずかしくなってきた…!

 

「ごめん、用事あるから…!」

 

 ジンオウちゃん達にそれだけ告げると、俺は逃げる様に小走りで農場の方へと去っていくのであった。

 




 おまけ
周囲の人々の話し声。

「あれがエクシアか…」
「たった一人でアマツマガツチやアカムトルムなどの大型種を討伐したとか…」
「結構可愛いよな」
「俺も声掛けてみようかな」
「馬鹿、やめとけ。下位で狩ってるお前なんか絶対相手にされねぇよ」
「蒼天装備って初めて見たぜ…」
「なぁ、蒼天装備凄いなー…」
「エクシア様……ポッ…」
「弓使いだってな」
「双剣を使う事もあるらしいぞ」
「弟子にしてもらえないかしら…」
「強くなる秘訣とか教えてもらえないかな〜」
「私もお話したい…」
「お近付きになりたいわ…」
「あ、去っていくぞ」
「なんか照れてないか」
「可愛いな」
「ああ、可愛い」
「ハンターとは思えないぐらい可愛いよな」
「激しく同意ですね」


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ユクモ農場で焼き肉パーティーを開催。

「はー、吃驚した…」

 

 人気の無い所へ出て、漸く一息ついた。

 一体何だったんだ……俺のキャラクター凄い人気者じゃないか…。

 あんな風に持て囃された事なんて今までの人生で一度も無かったから、思わず逃げてしまった。

 伝説のハンターって何だよ。どんな伝説だよ。聞いてみたいわ。

 

 あー、くそ……途中でチラッと見かけた中華っぽいお店とか行きたかったのに……。でもあれじゃあ落ち着いて飯なんぞ食べてられそうにないしなぁ…。

 はぁ……お腹が空いたよぅ…。

 

「おーい、ご主人!」

 

 ふと、前方より声がしたので俯いていた顔を上げると、一匹のアイルーが此方へ二足歩行で駆け寄ってきていた。ゴールドの毛並みだ。防具は装備していない。

 俺のすぐそばまで近寄り、ぴょんと飛び付いてきた。慌てて抱き留める。モフッとした柔らかい毛並みが心地良い。

 何この子、凄く人懐っこいな。妖夢や咲夜とは大違いだ。可愛い。たまらん。

 

「探してたんだぜ、ご主人!」

 

 はて、探されていたとな。何か用事でもあるのだろうか。

 尋ねてみると、お腹が減ったとの事。奇遇だな、俺もだ。

 でもアイルーって何食べるん? 人間と同じ物食って平気なのか? 葱や玉葱を食ったら食中毒とか起こしそうだけど。猫だし。葱とか玉葱が存在するのかは知らんが。

 その辺りを尋ねてみたら「何言ってるんだぜ、ご主人」と教えてくれた。口調的に考えて、この子は霧雨魔理沙だろうか。そんな気がする。

 アイルーは基本的に人間と同じ物を食べられるそうだ。特に好んで食べるのは果物だって。へぇー。

 でも、好みも人間と同じで個人差があって、肉が好きな奴や野菜が好きな奴、茸が好きな奴と様々だそうだ。へぇーへぇー。

 あと、葱や玉葱は絶対食べないんだって。食中毒を起こすそうだ。へぇーへぇーへぇー。

 個人的には当たり前だろって感じだが。猫だし。

 ってか葱や玉葱が存在する事が判明した。へぇーへぇー。

 8へぇー獲得。おめでとう。

 因みに100へぇー満点な。

 

「で、何を食べるかねぇ」

「何言ってるんだ、農場へ来たんだからアレを食べに来たんだろ?」

 

 アレ? アレってなんだ?

 俺が首を傾げているとゴールドアイルーが、

 

「決まってるだろ。肉だぜ! 肉肉!」

「肉……ハッ!!」

 

 肉ッ!

 そうだ、そうだよ! 折角モンハンの世界に来たんだから、食べなきゃ損じゃん!

 こ ん が り 肉!

 食べずにはいられないッ!

 

「そうだな、肉を食べよう! よし魔理沙、手伝え!」

「任せろ!」

 

 ゴールドアイルーは俺の腕から飛び降り、奥にある『特注よろず焼き機』の所へ駆けていった。

 今、何の気無しに魔理沙って呼んだけど否定しなかったな。矢っ張り魔理沙だったか。

 ゴールドの毛並みは他にも星熊勇儀や八雲紫とか雇ったからな。パッと見じゃ解らん。口調的にどう考えても魔理沙だけど。

 まぁ兎に角、俺もアイテムボックスから生肉を10個取り出し、特注よろず焼き機の元へ向かう。

 魔理沙は先に火を起こしてくれていた。早いな。

 生肉10個全てを、三メートルはあろうかという長い串に突き刺し、二本の支柱で支えて火に掛ける。炭火焼きだ。

 串をグルグル回しながら、じっくりじっくり焼いていく。魔理沙は団扇であおぎ、火の勢いが均等になる様、調節してくれている。

 肉汁が滴り落ち、匂いが空腹を増加させる。見ているだけで涎が出てくるぞ…。旨そう…。

 

 ………。

 ………あれ?

 

「魔理沙」

「うん? どうしたご主人」

「………肉を上げるタイミングが解らん」

「………は?」

 

 魔理沙が「何言ってんだこいつ」みたいな声を出した。

 あ、うん、まぁ、そうだよね……ゲームの時に何百回と焼いてたもんね……そんな反応するよね…。うん、仕方ないよ…。

 でもさ……ゲームの時と違って、肉を焼く時の音楽が無いんだよね……タイミングが全然解らん。

 結局、肉が完璧に焼けたかどうか魔理沙が見てくれる事になった。凄い呆れた様な目で見られたよ…。

 肉は二三分で焼きあがった。滅茶苦茶美味しそう。

 あっ! こりゃたまらん! ヨダレずびっ!

 ツウ〜よーな味だぜェ〜〜〜っ、きっとおお〜〜っ!

 しかし、焼ける時間は妙にリアルだったな。ゲームだったら10秒程度で焼きあがるのに。まぁ、いいけど。

 

「私もご一緒してよろしいですか?」

 

 背後から声を掛けられ振り返ると、そこには黄トラの毛並みを持つアイルーが立っていた。この子は寅丸星だな。黄トラは星ちゃんしか居ない。

 他のアイルー達も匂いに釣られてやって来た。赤虎とハッカ、桜の毛並みを持つ子だ。

 ハッカはチルノで、桜は幽々子だった気がする。赤虎は霊夢かレミリアのどちらか。

 それぞれ色のイメージで選んだんだけど、霊夢はニャン天着せれば紅白になるな〜とかいう理由で赤虎にした。魔理沙と(ゆかり)は金髪だからゴールド。白黒なんて色は無いし、グレープは何かキモかったからやめた。

 はて、他にも居る筈なのだが…?

 まぁ、いいか。

 

 そして、皆で肉パーティーが始まった。

 円を描く形で地面に座り、こんがり肉を頬張る。

 夢にまで見たこんがり肉!

 ヤベェーよこれマジで旨ぇ! 歯応えがしっかりしていて、それでいながら決して硬い訳ではない! 弾力、食べ応えにおいて、牛以上だぜ!

 アイルー達は基本一つずつ食べたのだが、星ちゃんは2つ、幽々子は3つも食べていた。一体、あの小さな身体のどこに収まったというのだ。不思議。

 それによって俺の分は2つとなり、ちょっともの足りないのでもう少し追加で焼く事に。

 折角なので、生焼け肉にしてみた。肉汁がこんがり肉よりも溢れ出してきて、これが旨ぇのなんの…! 俺は生焼け肉の方が好きかもしれない。

 ただ、コゲ肉は矢っ張り不味かった…。何か炭の味がした…。いや、別に炭を食った事がある訳じゃないが、何となくそんな味なんだという事が言いたかった。食えたもんじゃない。

 

 食後は魔理沙と戯れる事に。どうやら甘えん坊な性格の様で、矢鱈と俺にすり寄ってくる。可愛い。可愛過ぎる。

 毛並みもモフモフのツヤツヤのナデナデ(?)よォッ!

 抱っこして顔をすりすりしたり、身体をナデナデしたり…。

 あぁーッ! 癒されるぅー! 幸せ! 最高!

 

「ちょっと、私にも構いなさいよ」

 

 ふと、赤虎の子が此方へ寄って来た。霊夢かレミリアか、一体どちらなのか…。

 いや、どっちでもいい!

 ぬこ一匹追加でーっす! 魔理沙と一緒に可愛がるのだっ!

 赤虎ちゃんもモフモフだぁー! ツヤツヤだぁー! ナデナデだぁー!

 でも、頬をすりすりしてたら「ちょっとくっつき過ぎよ、離れなさいよ!」と、俺の顔を前足で押しのけた。

 グイグイ行き過ぎたか。怒らせちゃった。

 でも、そんなソナタも可愛いぞぉぉぉーーーッ!

 

「あたいも混ぜろー!」

 

 ウッヒャー! もう一匹追加だぁー!

 若干、身体がひんやりしてるぅー!

 チルノだー! 何でかよく解らんがひんやりしてるよぉー! 猫なのにぃー!

 

「あらあら、楽しそうねぇ。私も混ざっちゃおうかしら」

 

 更にもう一匹追加ぁー! 幽々ちゃあぁぁぁん! 可愛いぃー!

 お前ら俺を萌え殺す気か!? 萌え殺す気なのか!?

 幸せだよぉー! 幸せ過ぎるんだよぉー!

 

「皆さん、仲が良いですねぇ」

 

 一匹だけ混ざらずにお茶を啜る星ちゃん。お婆ちゃんみたいな雰囲気を醸し出している。

 っていうか何処から出したんだ、その湯飲みとお茶は。

 

 それから暫くアイルー達と戯れた。魔理沙は終始甘えてきたし、赤虎のベタベタされるのは嫌だけど構ってくれないと拗ねちゃう性格の子はレミリアだと解った。子供っぽいからそうじゃないかと思ってたけどね。

 まぁ兎に角、四匹もの猫に囲まれて最高に幸せな時間を過ごしたんだ。

 

 でも、一つだけ言いたい。

 

 ━━━お前ら全員、語尾に『ニャ』付けろッ!

 




小説と全く関係ないですが、「狩人宣言」っていうモンハン3rdを題材にした替え歌が好きです。


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ユクモ農場の施設を利用しよう。

話が進んでないぞぅ!
ごめんなさいだぞぅ!


 暫くアイルー達と遊んでいた訳だが、飽きたのか魔理沙以外はみんな俺から離れていった。

 思わず(´・ω・`)ショボーンという顔になる。

 それでも魔理沙は離れないんだけど。凄い甘えん坊な性格。可愛いので、私は一向に構わんッ!!

 

 さて、折角なので農場の施設でも利用して遊ぼうかな。魔理沙は肩車状態で俺の頭にひしっとしがみついている。まぁ、爪を立てなきゃ何でもいいよ。立てたら怒る。

 で、まずは採掘場から。と言ってもピッケルが無いので、アイテムボックスからグレートピッケルを5本取り出す。上限の制約で、それ以上はどうやってもアイテムポーチには入らなかった。というか、ポーチの大きさ的に考えて、1本も入りそうにないんだが。

 そして採掘だけど、どうすりゃいいんだろうか? もしも現実と同じ感じだったら、岩を粉砕しながら掘り進めていかなきゃ鉱石は出て来ない。

 それはいくら何でも面倒くさ過ぎる。HUNTER×HUNTERみたいに念のオーラが使えるのならば楽そうだが、同じハンターでもこの世界はモンスターハンターである。そんなもの使える訳が無い。

 ちょっと話が脱線し掛けたけど、とりあえず採掘出来そうな割れ目の入った岩壁をピッケルで叩いてみる。

 すると、叩いた所から鉱石が転がり出て来た。丸くて青い玉だ。

 それは地面に2、3回転がると、ニュートンの法則を無視して飛び、アイテムポーチの中へと収まった。

 何だ今の怪奇現象は…。日本だったら確実にホラーだぞ…。いや、手品だと思い込むか。「とと、トリックだぁ〜!」みたいな感じで。ミスターサタンみてぇ。

 深く考えても仕方ないので、再びピッケルで岩壁を叩く。今度は青色の鉱石だ。もう一回叩くと、白い鉱石が。更にもう一回叩いたら、何も出て来なかった。採掘出来る回数はゲームと一緒らしい。

 ポーチに触れて確認すると、出て来たのは順に『武具玉』『マカライト鉱石』『大地の結晶』だった。色も形もアイコンと一緒の様だ。

 次はハシゴを登って上へあがり、同じ様に採掘してゆく。先ずは右側から。

 出たのは『鉄鉱石』『大地の結晶』『上武具玉』。左側は『大地の結晶』『堅武具玉』『ベアライト鉱石』。

 またハシゴを登って更に上へ。最後の採掘ポイントから出たのは『ベアライト鉱石』『重武具玉』『ユニオン鉱石』の3つ。まぁ上々の成果ではなかろうか。いや、どれもアホみたいに持ってるからどうでもいいんだけど。

 

 お次は採掘用トロッコ!

 ……とは言ったものの、これはアイルー達の協力が必要不可欠である。

 でもさっき解散したばかりで、また集合させるというのもなぁ…。あんまりベタベタするのは嫌がるよなぁ…。猫だし…嫌われちゃうかもしれんし…。嫌われたくはないなぁ…。でもでも、アイルー達が採掘するのは見たいんだよなぁ…。

 そんな感じにトロッコの前で悩んでいると、

 

「どうした、ご主人? トロッコ採掘したいのか?」

 

 魔理沙が声を掛けてきた。よく解ったな、その通りだ。

 って、トロッコをガン見してたら普通気付くわな。

 

「あー、うん…そうなんだけど…」

「じゃあ、私がみんなに声を掛けてくるぜ!」

 

 そう言うと、魔理沙は俺の肩から飛び降りて他のアイルー達に声を掛けに行った。何て良い子なんだ。あれで元のキャラクターは紅魔館の図書館から本を持ち出しては『死ぬまで借りる』とか言っちゃう物取り窃盗斎なんだぜ…。

 そしたら何でかみんな集まった。レミリア、チルノ、幽々子、星ちゃん、そして魔理沙。4匹で良いんだけど。1匹多くない?

 

「ご主人、ピッケル貸してくれ」

「えっ、あ、うん…」

 

 とりあえず4本渡すと「一本足りねーよご主人」と魔理沙に怒られた。えっ、マジに5匹で行くの?

 

「よし、みんなご主人に良いとこ見せるんだぜ」

「採掘ならあたいに任せろ!」

「うふふ、何が採れるか楽しみね」

「ええ、頑張りましょう」

「面倒だけど仕方ないわね。今日だけよ」

 

 張り切る魔理沙とチルノ。あくまで、のんびりとした雰囲気の幽々子と星ちゃん。というか、お婆ちゃんみたいな……いや……何でもない…。

 レミリアは何というか、ツンデレっぽい。猫の性格を体現しているというか…気まぐれでマイペースで寂しがりや。

 まぁ、みんな可愛いよ。結論。

 そして小さなトロッコにアイルー5匹が乗り込み、レールの上を走って洞窟の奥へと消えて行った。

 さぁ、どうなる。ゲームと同じに鉱石がドッと押し寄せるのか。

 ━━━なんて事は無く、暫くして普通に戻ってきた。

 

「採って来たぜご主人!」

 

 魔理沙が得意気に採ってきた鉱石が入った袋を差し出した。その袋はいつの間に用意したのか。

 成果は『ベアライト鉱石×3』『ドラグライト鉱石×2』『カブレライト鉱石×3』『虹水晶×7』『陽翔原珠×1』『瑠璃原珠×1』

 まぁ、上々なのではなかろうか。

 チルノが「褒めて褒めて!」と飛び跳ねる。うん、偉い偉い。みんなよく頑張ってくれたと抱きしめる。

 レミリアだけは鬱陶しそうに俺の顔を押しのけた。何気に力が強い。

 

 さて、お次は虫取りカゴと虫取りシーソー……なのだが、根本的な問題として虫には触りたくない。キモイ。無理。

 という訳で虫取りカゴと虫取りシーソーは無視しよう。うん、それがいい。そうしよう。

 別に駄洒落ではない。断じて違う。違うからな。

 

「虫取りシーソーはいいのか?」

 

 いいんだ魔理沙。虫なんか無視しとけ。どうせアイテムボックスの中に腐る程ある。

 重ねて言うが駄洒落ではない。

 

 という訳で、お次は仕掛け網!

 綱を引いて仕掛けの網を上げるだけの簡単なお仕事。吊り橋を渡ろうとしたら、魔理沙が俺の肩から飛び降りた。

 どうしたのかと訪ねてみると、過去に橋から落ちた事があるとか。タイガーホースって奴ですねわかります。

 という訳で、一人寂しく吊り橋を渡って仕掛け網の所まで行く事に。いや、別に寂しくなんてないけどね?

 綱を引き上げると、長方形の形をした仕掛け網の中に沢山の魚が入っていた。

 『キレアジ×3』『サシミウオ×3』『ハリマグロ×4』『ハレツアロワナ×1』『シンドイワシ×1』『小金魚×1』。

 そういや、サシミウオって食べられるんだよな。説明文には確か『脂の乗った美味い魚』とか何とか書いてあった気がする。今度食べてみよう。焼いても生でもイケるらしいし。

 吊り橋から戻ると、早速魔理沙が俺の肩までよじ登ってきた。定位置か。別にいいけど。

 

 お次はオトモ撒き餌漁……は、魔理沙が水苦手みたいだし、止めておこう。

 そう思って素通りしようとしたら、

 

「ご主人、撒き餌漁はやらないのか?」

 

 と、魔理沙が聞いてきた。

 お前水が苦手なのとちゃうんかい。その辺りを聞いてみると『吊り橋は嫌だけど、別に水が苦手な訳じゃないぜ』との事。

 何だそりゃ。よう解らん。まぁいいけど。

 再び魔理沙にみんなを呼んできてもらい、早速オトモ撒き餌漁にチャレンジ。また5匹でやるらしい。何故4匹じゃないんだ。いや、逆に何故4匹までなのかって話になるけども。

 餌の種類は『黄金ダンゴ』『ツチハチノコ』『ユクモ温泉たまご』の3つ。

 思い切ってなげるぜそぉいっ!

 温泉たまごは空中で幽々子がパクッと食べてしまった。ナイスキャッチ。じゃねーよ何してんだお前!?

 ……まぁ、いいけど。

 間抜けな魚達が集まりだし、アイルー達が水へ飛び込んだ。熊も吃驚の手捌きで次々に魚を篭へ放り込んでゆく。見事過ぎる。

 で、穫れたのは『眠魚×4』『はじけイワシ×1』『小金魚×6』『シンドイワシ2』『古代魚×1』『ヨロイシダイ×3』。

 眠魚って睡眠作用があるらしいけど、人間が食べても大丈夫なんだろうか。快眠出来そう。怖いから食べないけど。

 穫ってきてくれたアイルー達を抱きしめ褒める。みんなありがとう。魔理沙とチルノは嬉しそうで、幽々子と星ちゃんはされるがままな感じ。

 レミリアはというと「鬱陶しい!」と言い放ち、俺の顔を引っかいた。い、痛い…。

 

 お次はキノコの木。

 ……は、虫が居そうだから止めよう。マンドラゴラとか引き抜いたら死ぬかもしれんし。茸はいっぱい持ってるし。使い道も無いし。

 となると、残りは畑……は、何も埋めてないし、埋める意味もあんまり無い。

 後はハチの巣箱……。

 や、やめよう……。すげぇデカい蜂が飛んでる……。やべぇよ……あんなデカいの日本には居ねぇよ……。怖ぇよ……。

 

「ハチミツは採らないのか?」

 

 い、いいんだよ魔理沙……。あんな蜂に刺されたくない……。ハチミツなら900個ぐらいアイテムボックスに入ってるし、そんな無理する必要は無いんだ……。

 素直にそう打ち明けると、

 

「仕方ないなぁ、ご主人は」

 

 やや呆れ気味ながら魔理沙がハチミツを採って来てくれた。『ハチミツ×4』と『ツチハチノコ』。

 うおぉぉーッ! 魔理沙ぁーッ! ありがとう! 愛してるよぉーッ!

 魔理沙にほっぺをスリスリスリスリ。「くすぐったいぜ」と言いながらも嫌がらない。レミリアとは大違いだな。いや、あれでレミリアも可愛いんだけどね。

 

 とりあえず、農場での収穫はそんな感じに終わった。

 




農場ののんびりとした雰囲気とかすごく好きです。私もユクモ村に逝きたい。


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村長さんから依頼がきたので、準備を兼ねて温泉へ。

 さて、農場施設がどんなものかも堪能したし、これからどうしようかな。またクエストをこなしにでも行くか。モンスターハンターの醍醐味っつったら、矢っ張り狩猟だしね。

 まぁ、とりあえず自宅にでも戻って考えよう。

 そう思い、農場から出ようとした所で、

 

「ご主人、狩りに行くなら私も連れて行ってくれよぅ」

 

 と、魔理沙が訴え掛けてきた。

 ふむ。まぁそれもいいかもな。どうせみんなLvは20だし。

 という訳で、オトモボードから『オトモ選択』で設定しているオトモを入れ替える。どうせなら全員で行きたいんだけど、駄目らしい。何故だ。変な所だけゲームで困る。

 さてさて。とりあえず、オトモ1に選択している咲夜を外して魔理沙に設定する。魔理沙を選択した際、ステータス画面が表示された。

 そういや、アカム行く前は急いでたからちゃんと見てなかったな。ってかステータス画面が表示されてる事自体に気付かなかった。

 えっと、何々…。

 

 霧雨魔理沙

Lv   20

攻撃力 184

防御力 340

オトモ装備

武器:ボーンネコピック

頭 :装備なし

胴 :装備なし

 

 ……えっ、これだけ…?

 いや、もっとこう……攻撃方法とか標的傾向とか性格とか無いの…? オトモスキルは…?

 そんなものは無かった。マジか。

 っつうか、よく見たらオトモボートのメニュー画面から『オトモスキル』の項目自体が消えている。どういう事だってばよ。

 まぁいいけどさ。咲夜も妖夢もそんなもの無くても充分役に立つ。

 折角だから、妖夢も別の子と入れ替えようかな。

 だーれーにーしーよーうーかーなー。

 チルノ! 君に決めた!

 妖夢を外してチルノを選択する。ステータスは魔理沙と同じだ。

 防具をニャン天に変えてと…。武器はどうすっかな。クエストをどうするかによって変わるよなぁ。何のクエストやろう?

 いや、待てよ。思ったけど、クエストって選べるんだろうか。

 ゲームはゲームだから全てのクエストを受けられたけど、此処はゲームとリアルがごっちゃになった様な世界だ。メニュー画面が開けるのはゲームの仕様だし、肉を焼くのに掛かる時間が現実的だったりとな。英語で言うとリアルファンタジー。

 つまり、ゲームの時の様に好きなクエスト、やりたいクエストを受けられるとは限らない、という事だ。

 なら先にクエストを確認するのが先だな。集会所へ行ってみるか。

 そう思い、ユクモ農場から出て集会所へ向かう途中の事だった。

 

「ハンター様、少しよろしいでしょうか?」

 

 艶やかな着物に身を包んだ女性が話し掛けてきた。どこか日本の『舞妓さん』の様な印象を受ける。耳が長く尖っており、亜人種の人であるのが解る。種類までは解らんが。

 この女性こそ何を隠そう、ユクモ村の村長さんなのである。でーん。

 

「何でしょう?」

「実はちょっとお願いしたい依頼がありまして」

 

 喋り方がおっとりしてるな〜とかどうでもいい事を考えながら、依頼の内容を聞いてみる事にした。

 魔理沙とチルノがどの程度の腕なのか見極めるチャンスだ。村長さんの依頼なら簡単だし、ちょうど良いタイミングである。

 で、依頼の内容は要点を纏めると、二匹のクルペッコが渓流で暴れているから、これを狩猟して欲しいとの事。

 オーケー任せろと、二つ返事でこの依頼を受ける事にした。

 ただ、準備をしたいので少し待ってもらう。装備変えなきゃいかん。

 とりあえず自宅に戻って、アイテムボックスのセット装備から変更する。

 

セット27

武器:エーデルバイス

頭:天城・覇【鉢金】

胴:天城・覇【胸当て】

腕:天城・覇【篭手】

腰:シルバーソルコート

脚:天城・覇【袴】

護石:龍の護石

 

 腰だけを弄ったセット装備である。天城・覇の装備は腰を別のに入れ替えるとスキルを組み易い。何しろ、弓に絶対必要なスキル『集中』が必ずつけられるからだ。

 『集中』の無い弓使いはハッキリ言って、素人同然である。弓の中で一番の攻撃系スキルだからだ。手数が増えれば必然的に与えるダメージが増える道理。必ずつけましょう。

 外見は殆ど弓道少女。腰だけちょっとゴツいけど、そんなに変でもないだろう。俺はそう思っている。

 発動スキルは『氷属性攻撃強化+2』『集中』『通常弾・連射矢UP』『見切り+1』。

 氷属性攻撃強化は装飾品の『氷結珠【2】』のみで無理矢理付けたものなので、属性を変えれば水属性の『スコルピオダート』や雷属性の『アルクドスジョーヌ』でも代用出来る。どちらも溜め段階3が『連射』の武器であるからだ。

 また、火属性の『重弓ヘラギガス』でもイケる。俺はまだ作ってはいないのだが。その内作ろうかな。

 龍属性は現状、アカム殺しセットが一番有用かな。龍属性の弓で連射が射てるのはレラカムしか無いから仕方ないね。アルバの弓とかあれば良いのに。まぁいいけど。

 次に魔理沙とチルノの装備を整える。防具は相変わらずニャン天━━見た目が気に入ってる━━で、武器はー…、ベリオSネコ包丁にでもしておくか。

 

 さて、後は……あ、そうだ。風呂に入ろう。

 

 

 

 

 

 

 という訳で、やって来ました集会所。入り口のすぐ脇には、天然━━かどうか知らんが、多分そうだろう━━温泉露天風呂。普通に集会所内から温泉が見える様になっている。混浴です。

 何故温泉が集会所にあるのか。それは勿論、ゲーム的にその方が便利だから。

 例えば2nd、2ndGの時の事を思い出して欲しい。自宅に設置されたアイルーキッチンで、キッチンアイルー達がご飯を作ってくれるのだが、一々集会所から出て自宅に戻らなければならないときた。

 狩猟するモンスターがもう一度同じだった場合、装備を変更する事も無いので面倒臭い。

 そこでCAPC……ゲーム制作陣は『集会所内で同じ効果が得られる様にしよう』という案に乗りでた。その結果、集会所に温泉が出来た……と、俺は思っている。

 あ、これは考察に過ぎないので、余り真に受けない様に。

 

 まぁ、そんな事はどうでもよくて。

 温泉である。露天風呂。

 早速更衣室へ突撃だぁ。

 俺は身体が女の子なので『女』と書かれた暖簾(のれん)を潜り中へ足を踏み入れた━━━

 

 ━━━と思った瞬間、俺は更衣室から出ていた。

 

「…ッ!?」

 

 あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 お、俺は確かに更衣室へ足を踏み入れたと思ったが、いつの間にか出ていた。

 しかも、俺の格好が湯浴み着姿へと変わっている。

 な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのか解らなかった…。幻覚だとか白昼夢だとか、そんなアホな事じゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいゲームシステムの片鱗を味わったぜ……。

 

 とまぁ、一人でボケ倒してないでさっさと温泉へ入りましょうか。この世界ではよくある事。気にしてはいけない。

 早速温泉の所まで移動し、足を入れる。

 

「んぅ…」

 

 ちょっと熱め…かな…? 思わず変な声が出た。

 続いて膝を降り曲げ、身体を湯に浸ける。

 

「んぁ……はうぅ…」

 

 また変な声が出た。何でだ。他に誰も入ってないからいいけどさ。

 魔理沙とチルノも入って来た。気持ち良さげに浸かっている。

 アイルーも一緒に入れるっていいよね。日本だったら絶対無理だぜ。

 しっかし、気持ちいいな〜。貸切状態で開放的だし、最高ー!

 お酒とか飲めたら気持ち良く酔えるんだろうな。俺はお酒飲めないけど。残念。

 

「………」

 

 他に誰も居ないし、少しくらい良いよね。

 そう思い、全身の力を抜いて湯船に身を任せる。背泳ぎの状態だ。

 

「〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら、ゆったりゆっくりと湯船に漂う。めっちゃ気持ち良い〜。このまま寝ちゃいそうなぐらい気持ち良い。本当に寝たら溺れ死にかねないからしないけど。

 魔理沙とチルノも隣に漂ってきた。猫の身体も浮くんだな。アイルーだからだと思うけど。

 

 俺と二匹のアイルーは、暫し時を忘れて温泉を堪能するのであった。

 




以下、作者のどうでもいい話。

新しくセット装備を作るに当たって、銀火竜の尻尾が必要になったんですよ。
それで、尻尾を斬るには剣士でなければならないので、太刀のライトニングワークスを携えて渓流の銀火竜討伐クエストに出発した訳ですよ。
これが辛いのなんの……。
まず、尻尾を斬るのにもたついて10分近く時間を取られます。何であんな高い位置にあるんだ。
何はともあれ、
剥ぎ取り→火竜の上鱗
(゜皿゜#;)
やり直し。尻尾斬る。
剥ぎ取り→火竜の逆鱗
(゜皿゜#;)
やり直し。尻尾斬る。
漸く銀火竜の尻尾が出る。
(*´∀`*)
そのまま銀火竜討伐。掛かった時間は27分。
弓の倍以上時間が掛かるとか……。
もう二度とやらないと心に誓った。


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湯上りのお楽しみを堪能し、いざ渓流へ出発。

 温泉から上がった俺は、浴場の入り口付近に立つアイルーに話し掛けた。ドリンク屋である。

 

「旦那、ぇいらっしゃい! 今日は何にしやしょうか! ニャ!」

「そうだなぁー…」

 

 ドリンククエストは殆どクリアしてある。何種類あるのかは知らないが、とりあえず今出ている19のクエストは全て終わらせた。

 でも『ドリンククエスト』の下に表示される『CLEAR!!』の文字が銀色なので、恐らく何かしら出てないクエストがあるのだろう。

 くっそぅ、こんな事になるんなら調べてやっておくべきだった!

 ……まぁ、今更言っても仕方ない。後悔先に立たずとは言うが、それならそれで今を楽しもう。

 さて、ドリンクは何を飲もうか。ぶっちゃけ、ゲーム時代は『招きネコの激運』が発動する『ラッキーヨーグルト』か『ラッキーラッシー』のどちらかしか飲まなかったけど、折角だから色々飲んでみたい。

 それに、村長さんから受けたクエストであるうえ、相手はクルペッコだから効果は正直何でも良い。

 ……けど、とりあえず『ラッキーヨーグルト』を飲んでみようかな。

 

「あい! 畏まり!」

 

 アイルーが竹筒を取り出し、500zを支払ってそれを受け取る。

 

「ささ、旦那。グイッと一杯やってくだせえニャ」

 

 アルミ缶でもスチール缶でもなく、竹筒。日本育ちの俺からしたら凄く珍しい。

 アイルーに言われるまま、一気に呷る。

 

「んぐっ……ぷはっ!」

 

 くぅ〜ッ! キンキンに冷えてやがるっ……!!

 湯上がりのほてりと………浴場の熱気で…暑苦しい体に……染み込んできやがる……! 体にっ……!

 一言で言い表すのならば、

 

 美 味 す ぎ る ッ !!!

 

 って、所かな。某、伝説の傭兵みたいな感じで。

 爽やかな甘さに、あっさりとした喉越し。コーヒー牛乳なんて目じゃねぇ。犯罪的な美味さだ。

 まさしく天にも昇る味だった。

 

「ニャッ!?」

 

 ふと、アイルーが竹筒を俺の手からぶんどった。何ぞや一体。

 それからアイルーは竹筒の底を見て、

 

「ニャッハー!! ア、アタリが出たニャ! こりゃめでたい!」

 

 ……えっ、アタリって底を見て判明するもんなの?

 

「旦那、次回1本無料になるサービス券をお渡ししやす!」

「あ、ありがと…」

「クエストに行く前には、あっしの店に飲みに来てくだせえニャ」

 

 お決まりの台詞を受けつつサービス券を受け取り、俺は更衣室へ再び足を踏み入れる。

 矢っ張り一瞬の出来事で、あっという間に早着替え。ゲームシステムであるとはいえ、一体何がどうなってこうなるのか謎である。楽でいいけど。

 俺と二匹のアイルーは集会所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 さてさてさーて。

 温泉に入って気力も体力も充実したので、張り切ってクエストに行ってみましょー。

 アカム戦からアイテムを碌にいじってないけど、まぁ村クエのクルペッコなぞはすぐに終わるでしょう。

 赤子を殺すより楽な作業よ、って奴だ。このハンターエクシア、容赦せん!

 ……名前的に、未来を切り開く! のが良かったかな?

 どうでも良かった。

 村クエは自宅の向かいにある吊り橋から出発する。正直、集会所の出発口も変わらんと思うんだが。まぁそこはゲームの事情って奴で。

 オトモ達と共に━━魔理沙は震えながら俺の頭にしがみついている━━吊り橋を渡りきると━━━

 

 ━━━俺はいつの間にか、辺りに岩山の(そび)える切り立った崖の上に立っていた。後ろを振り向くと、岩の穴蔵がある。中には4人は寝られそうな程に大きなベッドが設置されており、その右脇に置いてある壺や箱には、ツルハシやらスコップやらよく解らない道具やらが放り込まれている。

 左脇には、暖炉代わりの(かまど)が設置されており、縄で纏められた薪も横に置いてある。

 穴蔵入り口の両脇には木製の燭台。内部の温度を下げない様にするためか。それぞれの燭台の隣には赤い箱と青い箱。赤い方は納品ボックスで、青い方は支給品ボックスだろう。

 この外観は間違いなく渓流のベースキャンプだ。

 そう、俺は渓流にやって来たのだ。

 いやぁー、ゲームの時から思ってはいたけど、絶景だな。美しい自然。都会では味わえない澄んだ空気。

 これだよ、これこそがモンスターハンターだよ! たまんねぇな!

 

「ヤッホーッ!」

 

 思わず叫ぶ。少し遅れて山彦が返ってきた。

 これが山彦か。現実に体感するのは初めてである。何か感激。

 

「何してんだよご主人?」

「あ、いや、ちょっと山彦を体感しようかと」

「あはは、ご主人は子供だなぁ」

 

 何だとぅ。魔理沙なんて甘えん坊のくせにっ!

 

「あたい、山彦って知ってるよ! こういう山とかで叫ぶと、声がはんきょー…? して返ってくる事でしょ!」

 

 えへん、と胸を張るチルノ。可愛いなぁ。

 っていうか(ばか)の申し子たるチルノなのに中々賢いじゃないか。偉い偉いと褒めてやる。

 

「あたいも山彦したい!」

「あ、うん。いいよ」

「ヤッター!」

 

 ハシャぐチルノ。可愛過ぎる。

 大きく息を吸い込み、

 

「バカヤローッ!」

 

 大きな声で叫んだ。その言葉のチョイスはどうなのか。

 すると、また少し遅れて、

 

「何だとテメーコノヤロー!」

 

 ━━━返答の山彦が返ってきた。

 …。

 ……。

 ………。

 えっと……。

 ……幽谷(かそだに)響子(きょうこ)ちゃんの仕業かな?

 東方projectに出てくる山彦の妖怪である。ぎゃ〜て〜ぎゃ〜て〜。

 響子ちゃんじゃないにしても、山彦の妖怪だろうか。最近はよく解らない事が起こったら、とりあえず妖怪の仕業にしとけっていう風潮が流行ってるし。

 よ〜う〜か〜い〜の〜♪ 所為なのねそうなのね♪

 ちょっと確認してみようか。

 

「1+1はー!?」

 

 ………。

 山彦がない……知能が低い様だ……なんつって。

 これで山彦は妖怪の仕業だというのが確定的に明らかとなった訳だな。

 だから何だ。どうでもいいわ。

 

 さて、そろそろ狩猟に向けて動きますか。

 まずは支給品ボックスを漁ってみよう。青い箱に触れると、支給品ボックスのメニューが開かれた。ゲームと同じでアイコン表示。

 入ってるものは、地図やら応急薬やら携帯食料やら。うん、殆ど要らない。ってか必要ない。所詮は村長クエストだしね。

 あ、でもペイントボールだけは貰っておこう。持ってくるの忘れた。まぁ逃げられる前に仕留めきるつもりだけど。

 よし。では、いざ行かん、渓流地帯へ!

 傾斜となった小道から、下へ下へと降りてゆく。意外と距離あるのな。

 2、3分程を費やし、漸く渓流最初のエリア1番に到着した。木々に囲まれた、美しい自然の景色が辺りに広がっている。

 今、俺は2メートル程の低層断崖に立っており、すぐ左の辺りから水が流れて来ている。それは下へ下へと低い所を目指して流れており、断崖の下には薄い水が張られていた。

 そこには3匹の……いや、3羽と数えた方がいいのか。ガーグァ達が歩き回っている。

 まるで大きくなった鶏……いや、少しだけ小さくなったダチョウとでも表現すれば良いのか。それを鮮やかな青色に染めて、もっとブサイクにした感じ。兎に角可愛くない。

 うむむ……どうせならケルビの方が見たかった…。まぁいいや。

 とりあえずクルペッコを探す事から始めなければ。

 まずは左にある小道からエリア2を目指す。

 

 辺りから徐々に木々が消えてゆき、僅かに草が生えているだけの岩場に到達した。

 右手にはベースキャンプと同じぐらいの切り立った崖が広がっている。思わずタマヒュンしてしまう……あ、俺もうタマ無いんだった…。

 まぁ、兎に角絶景だよ。

 そこを真っ直ぐ進むと、分かれ道に突き当たる。左に進めば、竹の自生する地帯へと行き着くだろう。山菜爺さんの居る3番のエリアだ。

 だが、今回は右のエリア6に続く下り坂を進んでゆく。クルペッコが居るとしたら、エリア6が一番怪しい。

 長い下り坂を進み、漸くたどり着いた。轟々と小さな滝の流れるエリアだ。浅い川が広がっている。

 

「……ご主人、奴だ」

 

 魔理沙がぼそりと小さな声で話し掛けてきた。

 今回のクエストのターゲットである、クルペッコがそこに居た。

 




本当は前話の後書きに貼る予定だったんだけど……。おまけです。

★エクシアの知らない事。

 集会所、温泉外の柵の前に居る者達の会話。

「矢張りエクシアちゃんは可愛いな」
「ああ、可愛い」
「小柄なのに胸はちゃんとあって、バランスが整っているよな」
「激しく同感だが、そういう事は余り口走るな」
「すまん、つい本音が…」
「シッ! エクシアちゃんが湯に浸かるぞ」

「………」

「……いつ聞いても色っぽい声だな」
「ああ」
「全くだ」



 ━━━彼らはエクシアちゃんファンクラブの者達である。ここに居るのはほんの一握りであり、総勢を把握している者は居ない。

 エクシアちゃんファンクラブの掟。

一、会員はエクシアちゃんに近付き過ぎてはならない。
一、会員は自らエクシアちゃんに話し掛けてはならない。
一、会員はエクシアちゃんと混浴してはならない。
一、エクシアちゃんに近付く野郎は死、あるのみ。

 一部抜粋。

 彼等の所為(お陰)でエクシアに近付く男は居ないという事を、当の本人は知らない。


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哀れなクルペッコに魂の救済を。

 クルペッコは川の端にある水の溜まり場の前に立ち、水の中をジッと見詰めている。彼処は確か釣り場だった気がする。魚でも狙っているのだろうか。多分そうだ。

 自宅の本題のギャラリーという項目から見られる『クルペッコの生態』というムービーが結構面白かった。

 水辺で大好物の魚を狙うクルペッコだが、いざ捕ろうという時に横からジャギィが魚をかっさらってしまう。更にもう一度同じ事が続き、三度目の正直と川に視線を落とし━━━ふと、右方を見やれば、そこにはクルペッコを見詰める三頭のジャギィの姿が。

 怒ったクルペッコは大きな咆哮をあげ、ジャギィを追い払うのであった。というムービー。

 話が逸れてしまったが、兎に角隙だらけだ。

 さて、どうしてやろうか。時間はたっぷりあるし、焦る事は無い。

 そう思っていた時だった。

 

「一番駆けはあたいがもらった!」

 

 ━━━チルノがクルペッコ目掛けて駆け出した。お前は戦国BASARAの真田幸村か。確かに会社は同じだけども。

 続いて魔理沙が「あっ、ずりぃぞチルノ! ご主人にいいとこ見せるのは私だ!」と続く。

 うん、意気込みは買うし可愛いと思うが、お前ら勝手に……まぁいいけど。どうせ村クエのペッコちゃんだし。

 俺もエーデルバイスを展開し、矢を番えて弦を引きながら魔理沙の後に続く。

 まずはチルノの先制攻撃。ベリオSネコ包丁を虚空で振るい、刃先から30cm程の氷塊が飛び出した。まるで、初代ゼルダの伝説でHPが満タンの時にビームが出るみたいな……いや、どうでもいい。

 兎に角、氷塊は直線の軌跡で飛んでゆき、クルペッコの後頭部へシュ━━━ッ!! 超、エキサイティンッ!!

 それによってクルペッコがバランスを崩し、つんのめった。

 続いて魔理沙は、一体何処から取り出したというのか。いつの間にか大タル爆弾を抱えており、

 

「ハンティングは火力(パワー)だぜ!!」

 

 とか言いながら、抱えていたそれをクルペッコ目掛けて投げつけた。

 うん、それ投げるもんじゃ無いよね。どんな力してんだお前。

 大タル爆弾はクルペッコに直撃し、爆発。ナイスショット。

 チルノの一撃で既に体勢を崩していたクルペッコは、そのままドボンと水の中へ落ちた。

 そこへ更に魔理沙とチルノの追い討ち。水中でもがくクルペッコ目掛けて氷塊と小タル爆弾を投げまくる。

 

「………」

 

 リンチじゃん……。何だかクルペッコが哀れに思えてきた…。

 だが、そうも言っていられない。悲しいけどこれ、ハンティングなのよね。依頼が出ている以上、狩りを遂行しなければならない。

 でも、俺の出る幕は無さそうなんだけど…。

 ふと、クルペッコが漸く飛翔し、水中から空中へと逃れた。思わず「チャンスだ!」と身体が反応し、クルペッコ目掛けて矢を放つ。4本の矢が縦列で飛んだ。溜め段階3の『連射Lv4』である。

 それはクルペッコの翼に直撃し、空中で体勢を崩して再び水の中へと真っ逆さま。

 そして振り注ぐ氷塊と小タル爆弾。ただもがく事しか出来ないクルペッコ。

 

 こ れ は ひ ど い 。

 

 1分も掛からない内にクルペッコの水死体が出来上がった。

 ………。

 剥ぎ取り出来ねぇよ……。別にクルペッコの素材なんか要らないけどさ…。

 チルノと魔理沙はやったぜとハイタッチを交わしている。

 残忍!! 無邪気!! その魔理沙とチルノがクルペッコを倒したぜ!!

 いかん、この台詞はシーザーを思い出して何だか悲しくなる。

 チルノと魔理沙が「褒めて褒めて」と駆け寄ってきた。

 ああ、うん。偉い偉い。大活躍だったよ。俺の出番が殆ど無かったぐらいに。

 

 さて、あともう一匹のクルペッコが居る筈だから探しに行かねば。

 そう思って振り返ると━━━

 

「…ッ!?」

 

 ━━━そこにはもう一匹のクルペッコが立っていた。目算で十数メートルは離れている。

 いつの間に…!?

 いや、そんな事より喉(?)の部分が大きく膨らんでいる! モンスターを呼ぶ気だ!

 音爆弾……は持ってきてぬぇ! 支給品の音爆弾持ってくるべきだった!

 

「魔理沙! チルノ! 次の獲物だ!」

 

 俺の呼び掛けに反応し、2匹共クルペッコへ向かって走る。が、間に合いそうにない。俺の弓矢のチャージも間に合わねえ!

 次の瞬間、クルペッコが大きく咆哮をあげた。

 何だ……? あんまり聞いた事ねぇ声だ…! 何を呼びやがった…!?

 ええい、よく解らんがくらえ!

 『連射Lv4』をクルペッコの顔面に直撃させ、怯ませた。そこへ続けて魔理沙とチルノが小タル爆弾と氷塊による連続攻撃。執拗に足を狙い、すっ転んだ所で顔面へ更に連撃を叩き込む。非道い光景だ…。

 俺もエーデルバイスの『連射Lv4』で攻撃に参加し、二度叩き込んだ所でクルペッコは息絶えた。

 よし! これでクエストクリアだ!

 ……の筈。1分待てば解るだろう。

 コイツが何を呼んだのかは解らんが、危険な奴だったとしても逃げ回れば村に帰れる。

 あの鳴き声はどのモンスターのものだったか。ナルガクルガやイビルジョーとかではないだろう。その辺りは何度も聞いているから判断がつくだろうし、何よりそういう危険な奴を呼ぶのはクルペッコの亜種である。まず有り得ない。村クエだし。

 リオレイアでもなかった。村クエのクルペッコが呼ぶ中で一番強いと思われるのがリオレイアだが、そんな感じの声でもなかった。

 ドスジャギィ……とも何か違う気がする。兎に角、注意しなければ。

 程なくして、近くの茂みが揺れた。

 さぁ、何が来る……。

 

「………!」

 

 姿を現したモンスターは。

 青い毛並みをした熊。

 通称『青熊獣』。

 ハチミツ大好き、アオアシラさんだった。

 

「てめぇかよボケ!」

 

 透かさず連射を叩き込む。

 脅かしやがって! 巫山戯(ふざけ)んな! 全然狩ってなかったから、お前の声なんぞ完全に忘れとったわ!

 魔理沙とチルノと共にアオアシラを袋叩きにし、ものの20秒で渓流の熊さんを仕留めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 戻ってきました、ユクモ村。

 

「あら、ハンター様。モンスターは仕留めていただけましたか?」

「ええ、バッチリです」

 

 村長さんの問いに、親指をグッと立てて答える。拍子抜けするほど余裕でした。余裕過ぎて狩りをした実感が余り湧かない。

 渓流に居た時間も、考えてみれば10分も経っていないのだ。その内の殆どは移動に費やした時間だし。まぁ、渓流の景色を眺めるのは楽しかったけど。

 村長さんから報酬金とお礼の言葉を受け取り、そのまま自宅へと戻る。

 うーむ、暇を持て余すな。狩りがあっという間に終わったうえに、移動の時間も端折(はしょ)られてるから全然疲れてないし眠くもない。大体、まだ昼間だし。夜が来るのかどうか怪しいけど。

 兎にも角にも暇だ。どうしようかな。

 ベッドに座りながら、これからの方針について考えていると、魔理沙が此方に寄ってきた。

 

「なぁなぁご主人。お店巡りに連れて行ってくれないか?」

 

 デートのお誘いだった。

 いや、冗談です。はい。

 しかし、何故俺と一緒になのか。アイルーなんだし、普通に出歩いても文句は言われないと思う。

 その辺の事を聞いてみると、人混みを歩くのは危険だからだとか。人間が小さなアイルーの存在に気付かず、誤って蹴られたりする事も屡々(しばしば)

 成る程、だから一緒に行こうと誘っているのか。てっきり、魔理沙が甘えん坊だからかと思った。

 

「まぁ、ご主人と一緒に行きたいからっていうのもあるけど」

 

 本当にその通りだった。可愛い奴めっ!

 

「まあ、構わないよ。どうせ暇だし」

「やったー!」

 

 魔理沙が嬉しそうに俺の肩へ登ってきた。更にチルノも「あたいも行く!」と言って、同じく肩によじ登ってくる。可愛い奴らめっ!

 俺は両肩に二匹のアイルーを乗せ、自宅を後にした。

 



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お買い物をしていたら久しぶりの再会。

評価に色が付いている…だと…⁉︎
いつの間にか投票して頂けていた様で、恐縮です。励みになります。ありがとうございます。
至らぬ拙作ではありますが、出来る限り続けていこうと思います。

それでは、本篇をどうぞ。


 アイルーと共にお店巡りをする事になったでござるの巻。

 自宅を出て、軒を連ねるお店を見て回っているのだが、相変わらず人々の視線が自分に集まっている様な気がする。何故だ。美少女だからか。きっとそうだ。

 余り気にしない事にした。というか気にしても仕方がない。俺だってショッピングを楽しみたいし。アイルーが一緒なら、そうそう声を掛けられる事も無いだろう。

 

 さてさて。

 まずは買い食いでもしようか。まだそんなに時間経ってない筈だけど、小腹が減ってきた。

 焼き鳥━━本当に鳥かは解らないが、そんな感じはする━━の屋台から、肉の焼ける芳ばしい匂いと、タレの芳醇な薫りが漂ってくる。見ているだけでヨダレが…。

 その隣には、俺が目をつけていた中華飯店。キャンプ地にありそうな木製の机と椅子が6つ並んでおり、数人の客が天津飯やら麻婆豆腐やらを食している。正直、ガッツリ食う程お腹が空いている訳ではないのだが、中華料理は見ているだけで食欲をそそる。

 また、肉まんらしきものも販売している。中身が本当に肉かは知らんけど。

 他にも、和食や洋食と思しきお食事処、果物を取り扱っているお店や菓子類を取り扱うお店などがある。

 うーむ、目移りしてしまうな。決めかねる。

 なので、魔理沙とチルノに食べたいものが無いか聞いてみる事にした。

 

「「コココ・コナッツ!」」

 

 二匹は口を揃えてそう答える。

 うん。何それ。

 

「知らないのかよご主人!」

 

 魔理沙が信じられない物を見たような声をあげる。

 知らねーよ。俺はユクモ村に来たばかりなんだよ。モンハンの世界にある物の事なんかわかんねーよ。

 ……とは言えないので、黙っておく。本当の事を話しても頭がおかしくなったと思われるのがオチだ。

 とりあえず魔理沙が後方を指差したので其方を見遣ると、其処には果物屋が建っていた。コココ・コナッツとやらは果物屋に並んでいるらしい。

 店番をしているのは小さな少女だ。年の頃は13、14ぐらいだろうか。あと数年したら美人になりそうな顔立ちをしている。成長するのかどうかは解らないが。この世界で年をとるのかどうかも怪しい所だ。

 とりあえずコココ・コナッツとやらが無いか聞いてみると、少女はにこやかな笑顔を浮かべながら教えてくれた。

 それは、見た目少し大きいトマトであった。僅かに横長の球体で、全体が真っ赤に染まっている。頭頂部には緑色の(ヘタ)

 どこからどう見てもトマトだ。まごうごとなきトマトだ。通常の物より一回り大きいだけのトマト。一体、これのどこにココナッツの要素があるというのか。

 一つ500zで3つ購入。コココ・コナッツと一緒に、20cm程の細い木の棒を渡された。

 いや、よく見ると只の棒ではない。内側がストローの様な空洞になっている。何これ? どうする物なの?

 ふと、魔理沙がトマト……じゃなくて、コココ・コナッツのヘタを毟り、そこへ木の筒を突き刺した。それを口でくわえる。

 ……あ、その木の筒はストローなのか。ココナッツの要素ってそういう…。

 ま、まぁいいや。俺も同じ様に蔕を毟り木製ストローを突き刺し、一口。

 

 

 

 トレッッッッッビアァァァァァァァンッッッ!!!!!

 何だこの味はッ!?

 濃厚で甘美な味わいが口いっぱいに広がり、芳醇な薫りが喉から伝って鼻腔を刺激するッ!! 喉越しもスッキリ爽やかッ!! ジュース類の様な(クド)さも全く無いッ!! ドリンク屋のドリンクに引けをとらない極上の美味さッ!!

 こんな……こんな果実がこの世界には存在するというのか…ッ!

 

 美 味 し い じ ゃ な い か !!

 

 さ…叫びたい…この美味しさを他の人に伝えたい…無性にそうしたい。そう思う心を抑えながら、コココ・コナッツを堪能する。

 この美味しさマジでヤバい。しかも500zとかいう安さ。

 ハマった。また買いに来よう。そう心に固く誓った。

 でも、水分を摂取してもお腹は膨れないんだよなぁ…。焼き鳥━━重ねて言うが鳥かどうかは解らない━━辺りでも買って食べようか。

 そんな事を考えていた時だった。

 

「エクシアさん!」

 

 背後から声を掛けられ、振り返れば其処には前も声を掛けてきたジンオウちゃんの姿が。ナルガちゃんも一緒に居る。

 相変わらず可愛い娘達だな。ギルドの受付嬢といい、この村には美人しかおらんのか。

 まぁ、エクシアちゃんも可愛いけどね!

 って思うのは自画自賛になるのだろうか。どうでもいい疑問だった。

 

「やぁ、君達も買い物かい?」

 

 前回は話もそこそこに逃走するという失態を見せてしまったので、なるべく堂々としていよう。一応、凄腕ハンターって事になってるらしいし。実際の腕は普通なんだけどね。

 

「はい、弓の強化をしようと思いまして……」

「弓使いなの?」

「はい! 元々は剣士だったんですけど、エクシアさんに憧れて弓を使い始めたんです!」

 

 えー…。俺の所為で剣士からガンナーに変えたというのか…。人の真似なんてしないで、自分に合った武器を使った方が良いのに…。

 と思ったけど、話を聞いてみたらそれで狩りがやり易くなったとか。ナルガちゃんも同様らしい。まぁ、それならいいんじゃないかな。

 

「あの、こんな事をお願いするのは失礼だと思ってはいるんですけど、もしよろしければ相談に乗って頂けませんか…? まだ弓を使い始めて日が浅いので、どの弓が良いのかよく解らなくて…」

 

 ほむ、なるへそ。

 全然構わないZE! 弓の事なら俺に任せろー。

 二つ返事で了承すると、ジンオウちゃんが凄く嬉しそうな表情を浮かべる。本当に可愛いなこの娘。

 さて、現在二人がどの弓を使っているのか聞いてみると、ジンオウちゃんは『王弓エンライⅠ』、ナルガちゃんは『ヒドゥンボウⅠ』だそうだ。防具と同じ弓使っとるんかい。

 っていうか下位の弓やんけ。って事は防具も下位装備で、二人共上位に進出していないというのか。

 でもまぁ、防具を揃えているという事は、下位とは言えジンオウガとナルガクルガは狩れるという事だ。

 と思ったんだけど、詳しく話を聞いてみると、二人ともジンオウガもナルガクルガも狩れないときた。親がハンターをやっていたらしく、防具も弓も親のお下がりなのだとか。弓を使い始めたと言ったら、親がくれたんだって。

 ………。

 アカン。これはアカンで。実力の伴わないまま装備だけ充実しているハンターは大成出来ない。

 実際、MHP2ndの時の俺はそうだった。友達に誘われて始めた俺は、その友達と狩りに出掛ける為に、一気に上位まで引き上げられたのだ。

 当時は弓の素晴らしさに全く気付いておらず、双剣を使っては死にそうになったり、実際に乙ったりしていた。

 今でこそ名実共に唯一ぬにの弓使いではあるが、過去の経験上、それが痛い程よく解る。

 この二人に弓使いの何たるかを叩き込まなければ!

 そう! 叩き込まねば気が済まないッ!!

 俺は謎の使命感に駆られていた。

 

「二人共、ハンターとしての腕はどの程度なの? どれぐらいのモンスターを狩れる?」

「え? えっと……そうですね…ついこの間、初めてクルペッコを狩猟しました! 二人でですけど…」

 

 ………。

 ま、マジに言ってんのか…?

 剣士だった時の事を聞いてみると、ドスファンゴやアオアシラが精一杯だったとか。

 ………。

 こ、言葉が無いよ…。完全に素人だこの二人…。

 ヤベェよ、俺が何とかしてあげないとマジにヤベェ…。

 冗談とか抜きで、俺は本当にこの二人をどうにかしなければと思った。

 




どうでもいい話ですが、ココナッツジュースって実際はそんなに美味しくないらしいですね。
と言うのも、ココナッツジュースは甘くてトロピカルな味なんだな、という先入観から実際に飲んでみて「あれ、何か思ってた味と違う…」となるそうです。

ダカラ ドーダコーダ 言ウ 訳デハ アリマセンガ…。


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加工屋の看板娘ちゃん現る。

「二人共、ついて来て」

 

 二人を引き連れ、加工屋までやってきた。

 

「あぅあぅ! よぅ来たなぅ」

 

 そう言って出迎えてくれたのは、背丈が俺の胸辺りまでしかない、小さな爺さん。耳が尖っている。多分、竜人族とやらなんだろう。知らんし興味無いけど。

 

「大至急『真ユクモノ弓』を二つ揃えて頂戴」

「1時間程掛かるけんどなぅ。構わんけぇ?」

「構わないわ」

「よっしゃ。ぅお〜い! レベッカやぃ!」

 

 爺さんが店の奥に向かって叫ぶと、これまた小さな少女……というか、幼女が現れた。爺さんと同じくらい小さい。

 10歳前後だろうか。桃色の髪をしており、腰辺りまで長く伸ばしている。瞳の色も髪と同じ。

 服装はというと、黒のタンクトップに赤の作業用ズボン。同じく赤の作業着は腰に巻いている。

 この幼女も竜人族なんだろうか。案外、年上だったりするのかも。

 あ、因みにこれから人と話す時は女言葉で喋る事にした。女になってしまったので、女の子として生きていこうかと。

 俺、女の子になります!

 既にツインテールだし。あんなに長くないうえに赤くもないけど。

 そんな事はどうでも良くて。

 幼女が俺の姿を見るなり、

 

「あ、エクシアさんじゃないですか!」

 

 と此方へ駆け寄ってきて━━━あと数歩分程度の距離で足がもつれ、俺の身体に飛び込んできた。危ない。

 

「ご、ごめんなさい…」

「ああ、怪我は無い?」

「はい、大丈夫です! …えへへ」

 

 はにかみながら俺の身体に腕を回す幼女。

 何故抱きついてきてるんですかね…。懐かれているのだろうか。幼女に好かれてもあんまり嬉しくない。どうせならジンオウちゃんやナルガちゃんに……げふんげふん。

 

「こりゃぁ! レベッカ! さっさと離れぇ!」

「ぁ〜ん…!」

 

 爺さんが幼女の襟首を引っ張り、引き剥がしてくれた。

 で、この幼女。レベッカちゃんとは何なのか聞いてみると、爺さんの孫娘らしい。年は見た目通り10歳だった。もうじき11歳になるとか。将来は鍛冶師になりたいらしく、爺さんの元で修行を積んでいるんだって。へぇー。

 なので経験を積ませる為に、今後はレベッカちゃんが武具製作を請け負うとの事。

 

「それは、大丈夫なのですか…?」

 

 不安そうな声を発したのはジンオウちゃん。まぁ、普通そう思うよね。俺も思ったし。

 対するレベッカが憤慨する様に声を荒げる。

 

「失礼ですね! 私は5つの時から鎚を握って研鑽を重ねて来たんです! ハンターさんの装備の作製や調整だって行っています! 小さいからって馬鹿にしないでください!」

 

 小さいのは竜人族だからじゃないの?

 いや、竜人族でも背の高い人は居るか…? よく解らないしどうでもいいや。

 そんな事より、

 

「レベッカ、ちょっと聞いてほしい。例えばの話だけど、狩りを始めて数ヶ月程度のハンターがいたとしよう。そのハンターがアカムトルムの様な超大型種を狩りに行くと言ったら、君はどう思う?」

「そんなの、無謀にも程がありますよ! アカムトルムなんて、エクシアさんの様な超一流のハンターでないと…!」

「まぁ、普通はそう思うでしょう。しかし、そのハンターがもしも俺…じゃない、私と同じ技量を持っていると言ったら、君は信じられるかい?」

「……、……それは…」

 

 言い(よど)むレベッカ。駆け出し同然の新人ハンターがアカムトルム狩れます、なんて吹いた所で信じる人などいないだろう。

 まぁ、ゲーム的に考えると、数ヶ月もあればベテラン並みの腕にはなれるけど。勿論、人によって個人差はあるだろうがね。

 どうでもいい話だが、上位のアカムトルムは封龍宝剣C程度の強さがあれば討伐出来る。2ndをプレイしている時によく『アカムチャレンジ』とか言って、色々な縛りを加えて討伐していたものだ。裸でアカムを倒せるか、とかね。それなりの装備があればアカムは狩れるのである。駆け出しハンターでも、討伐は可能だろう。

 話が逸れたな。

 まぁ、兎に角だ。俺が何を言いたいのかというと、

 

「レベッカ。信頼とは作るものではなく、生まれるものなんだよ。今は人から軽く見られるかもしれないが、君がコツコツと仕事を積み重ねていけば、いずれは誰もが認める立派な鍛冶師になれる。もしも君が幼いからと軽んじる人が居たのならば、仕事で見返してやればいい。そうすれば、その人は君の事を見直すだろう。君の腕が確かならば、それが出来る筈さ」

「……エクシアさん…」

 

 レベッカが俯いて僅かに震えだした。

 やべ、言い過ぎたかな…。っていうか、俺は何を偉そうに説教臭い事をほざいているのか。

 どうしよう…。泣くのかな…泣いちゃうのかな…。矢ッ張り子供は苦手だ…。

 そして、数秒程してからレベッカはバッと顔を上げ、

 

「感激しました!」

 

 ━━━何か感銘を受けたらしい。更に続けて、

 

「私今まで調子に乗っていたのかもしれません 自分には確かな技量があると思って相手のハンターさんの事を考えていませんでした そうですよねよく考えたらハンターさんからすれば私はヒヨッコ同然なんだからいきなり信頼される訳がないですよね そんな事にも気付けないなんて私はまだまだだなぁ そして矢っ張りエクシアさんは凄いです!!尊敬します!!大好きです!!いつかエクシアさんの装備を製作するのに相応しい鍛冶師になれるよう精一杯頑張ります!!」

「……アッ、ウン」

 

 マシンガン過ぎて殆ど何言ってたのか理解出来なかったけど、とりあえず俺の言いたい事は伝わった様なので良しとしよう。いい子で良かった。

 レベッカはジンオウちゃんの方へ向き直り、

 

「先程は大変失礼致しました。私の力量をお見せしたいので、是非ともこの仕事を請け負わせて頂けませんか?」

「あ、いえ、私こそ失礼しました…!」

 

 急に謝られてテンパるジンオウちゃん。可愛いです。

 ここでずっと黙っていたナルガちゃんが「あの…」と口を開いた。

 

「依頼したの…私達じゃなくて、エクシアさん…」

「はぇ!? そうなのですか!?」

 

 そうなのですよ。依頼した時、奥に居たレベッカちゃんは事情を知らないのだった。

 

「ああ、依頼したのは確かに私だけど、弓はこの二人用ね」

「えっ!?」

「…!?」

 

 今度はジンオウちゃんとナルガちゃんが驚いた様な表情を浮かべる。

 

「え、エクシアさん!? ど、どういう事です!?」

「どういう事も何も、これから君達には『真ユクモノ弓』を使って狩りをしてもらう為だよ」

「……でも、エクシアさん…私達…お金が…あんまり無い…素材も…」

「ああ、別にいいよ。それは私が出すから」

「ええっ!? いや、エクシアさん!? 『真ユクモノ弓』って製作費用12000zですよ!? 二つ合わせて24000zです!! そんな大金を…!」

「構わないよ、その程度」

 

 製作に必要な素材は『ユクモチケット』『ユクモの木×10』『ドラグライト鉱石×10』の3種類だが、ユクモチケットとユクモの木はそもそも使い道が殆ど無いし、ドラグライト鉱石は300個近くある。

 また、お金に関してもこんな事を言うと感じ悪いだろうが、24000zなどハッキリ言って端金(はしたがね)である。アカムを1匹狩るだけでお釣りが来る程度だ。惜しむ様な金額ではない。

 

「エクシアさん、素材を戴いてもよろしいですか?」

 

 と、レベッカ。

 そうだった。ゲームじゃないんだから、その場でアイテムボックス内の素材を渡せる訳がない。

 とりあえず、俺の双肩に乗ったままコケシと化している魔理沙とチルノに持って来てもらう。2匹は嫌がる事なく引き受けてくれた。ええ子達じゃ。

 1、2分程で取ってきてくれた。近いしね。

 そのまま素材をレベッカに渡す。1時間程で出来上がるとの事なので、俺達一向はそれまで時間を潰すべく加工屋を後にした。

 




『肉焼きセット』を『焼き肉セット』と間違えて読んでいたのは私だけですかね?


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みんなで温泉に入ろう。

「信頼っていうのは作るものじゃなくて、生まれるものだから」

この名言は新・鉄拳チンミにて、主人公のチンミ先生が言っていた言葉です。チンミ先生マジ格好いい。



 という訳で、やって来ました集会所(2回目)。

 時間を潰す事とクエストの準備とを兼ねて、温泉へ入りに来たのである。勿論、ジンオウちゃんとナルガちゃんも一緒。魔理沙とチルノも。

 早速、更衣室へと向かう。俺は例の如くに足を踏み入れた瞬間、着替え完了。

 それを目の当たりにした二人は、目を丸くしていた。

 

「え、エクシアさん、いつの間に…!?」

「凄く…早いです…」

「ふふふ。これぞ早着替えマジック『ザ・ワールド』ッ!!」

 

 格好良くジョジョ立ちを決める。左手を広げて顔の前に置き、左肩を下げて右肩を上げる。右手は真っ直ぐ下に伸ばして、若干外側へ逸らすのがポイント。足も少し傾き気味。ジョナサン・ジョースターのやつである。

 ジンオウちゃんとナルガちゃんは、よく解らないけど、とりあえず拍手しとこうみたいなリアクション。哀れみでウケた様な感じがして少し虚しい…。

 っていうか、ザ・ワールドとか言うぐらいならDIO様のジョジョ立ちしろよ。自分で自分に心の中でツッコむのであった。

 

「先に行ってるよ」

「あ、はい。私達も着替えたらすぐに行きます」

 

 一旦、二人と別れる事に。

 しかし、早着替えのゲームシステムはプレイヤー以外の一般人には適用されないんだな。オトモアイルーには適用されるのに。

 勿論、魔理沙とチルノの事である。俺と同じに一瞬で防具を外しているのだ。不思議。

 っていうか、早着替えシステム無かったらヤバかった。幾ら身体が女であるとはいえ、心は男である。他の女の子と着替えるって事は、その娘の裸を見るという事で……。

 考えただけでもヤバい。そんな状況、25年間DTを捨てずにいた俺には耐えられない。漫画だったら鼻血吹いて倒れてるよ。

 まぁ、そんな事より温泉である。

 

「んんっ…ぁ……ふぅー…」

 

 ……どうにも湯に浸かると変な声が出る。自分で言うのも何だが、ちょっと色っぽい。何故だ?

 前と同じで他に人が居ないからいいけど。

 はぁー、それにしても極楽だわー。風呂は命の洗濯っていうけど、本当にその通りだわ。3rdの世界で本当に良かったと思う。もしも2ndだったら雪国生活だよ。寒いの苦手だからマジで死んでた。3rdは矢っ張り神ゲーだな。実際に体感して、改めてそう思った。

 着替え中の二人が来るまで暇なので、また背泳ぎの状態で湯に浮かぶ。とても気持ちが良い。更に目を瞑って視覚を閉じ、他の感覚器官に意識を集中する事によって温泉をより堪能する。

 触覚。身体が湯に浸かっている部分と、そうでない部分がハッキリと解る。当たり前だけど温度も感じる。とても温かい。

 聴覚。耳が湯に浸かっている所為で外の音が聞こえないけど、吹き出し口から湯が流れ落ちている音はよく聞こえる。何だかとても落ち着く。

 嗅覚。温泉の匂いがする。よく硫黄の匂いって言われるけど、本当の硫黄は無臭なんだって。

 でっていう。

 味覚。後でドリンク飲もう。マジで楽しみ。

 両手を真っ直ぐ上に伸ばして、お湯を一掻き。スイーっとゆっくり、ひと泳ぎ。

 

「ガボガボガボッ!」

 

 ━━━吹き出し口の真下に行ってしまい、お湯が顔に掛かった。

 慌てて湯面から顔を上げ、ゲホゲホと咽せる。

 あー、吃驚した…少し飲んじまったよ。

 

「大丈夫かよ、ご主人」

 

 うん、大丈夫。大丈夫だから笑うんじゃない。顔が何かにやついてるぞ魔理沙この野郎。

 チルノはお湯に漂っている。どうやら見られてはいない様だ。もしも見られてたら爆笑されてたかもしれない。

 

「お待たせしました」

 

 そんな馬鹿な事をやっている内に、着替えていた二人がやって来た。

 俺と同じくユアミスガタ。二人共スタイルが良いなぁ。何しろ俺は背がちょっと低いからね。少しばかり子供っぽい。個人的にはその方が好みだけど。別にロリコンという訳ではない。ちょっと幼く見える女性が好きなだけである。

 うん、どうでもいい。

 二人は俺のすぐそばまで近寄り、ゆっくりと腰を下ろした。俺の様に変な声は出ない。

 

「ここの温泉は矢っ張り気持ちいいですね」

「そうだね。身体の疲れが一気に吹き飛ぶよ」

「それもエクシアさんのお陰なんですよね」

 

 ……うん?

 ……ああ! 温泉クエストの事か。やったの大分前だったから忘れていた。

 確か、設備の補強の為にモンスターの素材が必要だとか、鉱石を採りに行きたいけれどモンスターが邪魔なので狩って欲しいとかって感じのクエストだったと思う。

 全部で7種。一つこなす毎に泉質が上がり、温泉に浸かった時の体力やスタミナの上昇効果が大きくなってゆくのだ。

 7つ目のクエストが面倒だったのを何となく覚えている。アオアシラ、リオレイア、ジンオウガの大連続狩猟だったかな。弱点属性がバラバラだから面倒くさかった。まぁ、所詮は下位だから大した事ないけども。

 

「私はただ、モンスターを狩っただけだよ。泉質を良くしてくれたのは温泉を管理している人達さ」

「でも、エクシアさんがモンスターを狩っていなかったら、温泉を管理している人達も泉質を良くする事が出来なくて、困っていたと思います」

「……、……。ありがとう」

 

 あの程度のクエストは誰でもこなせたと思うが━━━何を言っても無駄な気がするので、素直にお礼を言っておく。

 まぁ、全ては結果論だ。泉質向上に一枚咬んでいるのは間違いないし、無理に否定する事も無いか。

 ジンオウちゃんもこう言ってくれてるし……ジンオウちゃん……。

 ………。

 そういえば、名前を聞いていない事に気が付いた。イマサラタウンだけど。

 聞いてみよう。

 

「私はリリーって言います。こっちの無口な娘はサニーです」

 

 ふむふむ。ジンオウちゃんがリリーで、ナルガちゃんはサニーと。

 ハハッ、どこぞの妖精みたいな名前だな。ファミリーネームが『ホワイト』と『ミルク』だったら笑うわ。

 冗談半分で聞いてみたら、

 

「何で解ったんですか!? 凄いですね!」

 

 ………。

 マジか。

 前言撤回します。笑うとか抜かしたけど、笑えないわ。ビビるわ。怖いわ。

 何で解ったのかと聞かれたけど、何となくそんな名前のハンターが活躍しているのを耳にした事があると言ってごまかした。親がハンターやってたって言っていたしね。

 東方projectで……とか馬鹿正直に言えない。説明するのも面倒だし。

 二人はそれで納得してくれた。チョロくないですか。助かるけど。

 

「エクシアさんのファミリーネームは何と言うんですか?」

 

 えっ。

 ………。

 ……えーっと…。

 エクシアだから……ガンダム…?

 そんなバナナ。

 エクシア・F・セイエイ…。

 ……無いな。それは無い。

 とりあえず、無いと言っておいた。っていうか実際無いし。

 

「珍しいですね……もしかして、孤児だったんですか…?」

「あー……うん……多分…」

「多分…?」

「あ、うん。孤児だよ」

 

 そういう事になった。いや、なってしまった。

 まだ本当に天涯孤独の身かも解らないのに。

 やべーよ。これでもし親とかが存在していて、手紙とか送られてきたら目も当てられない。

 ジンオウちゃん改め、リリーちゃんが凄い同情の眼差しで見てくるし! サニーちゃんも!

 

「ま、まぁ今は沢山の可愛いオトモ達と一緒に暮らしているから全然寂しくはないよ。寧ろ、毎日がハッピーさ」

「…ご…ご主人…っ!」

 

 魔理沙が感激した様な視線を向けてくる。

 うんうん、おいでおいで。苦しゅうない。近う寄れ。よきにはからえ。

 最後のは違うか。

 甘えてくる魔理沙を撫でてあげる。毛が抜け落ちたりしないか心配だが、見た感じ大丈夫そうだな…。

 

 それから暫くして、俺達は温泉から上がった。

 




┏アイテム━━┓
┃>どうてい ┃
┃      ┃
┃      ┃
┃      ┃
┃      ┃
┃      ┃
┃     ┏━━━━┓
┗━━━━━┃>はい ┃
┏━━━━━┃ いいえ┃┓
┃本当に捨て┗━━━━┛┃
┏━━━━━━━━━━━┓
┃それを捨てるなんて  ┃
┃とんでもない‼︎    ┃
┃           ┃
┗━━━━━━━━━━━┛

よくあるネタ。
ダカラ ドーダコーd(ry


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準備も整えた事だし、お食事でもいかがかな。

 お待ちかねのッ!! ドリンクターイムッ!! Yeah!!

 さーて、今日は何を飲もうかなー?

 色々あるから目移りしちゃうなー。

 『ボコボコーラ』と『ボコスカッシュ』は何か炭酸入ってそうなイメージ。炭酸がこの世界にあるのかは謎だが。

 『ライフルーツジュース』と『スナイパンチ』もそうかな。同じく攻撃力が上がる効果だし。『サンダーサイダー』も名前からして確実に炭酸入ってるな。効果はどうでもいいけど。

 色々ある中で『ハコビール』と『採酒』は論外だな。俺は酒が飲めないのだ。

 ってか、料金設定おかしくね?

 『ハコビール』と『採酒』って、どう考えてもアルコール入ってるのに値段は100z。『ユクモミルクコーヒー』だって200zするんだぞ。酒よりミルクコーヒーのが高いって……どういう事なの…?

 モンハン世界では、お酒はそんなに高くないのだろうか……。それとも実はお酒じゃないとか…?

 まぁどっちでもいいや。飲まないし。

 

「二人は何を飲むの?」

「えっ…いえ…私達は…その…ねぇ…?」

「……うん…」

 

 何故か口籠もりながらサニーに目配せするリリー。

 何で? 何で何で何で?

 しつこく聞いたら白状した。ウザイな俺。

 曰く、お金に余裕が無い、だそうだ。

 ………。

 そうか。

 

「……何か、ごめん…」

「あ、いえ……」

 

 凄く居たたまれない空気になった。魔理沙も『空気読めよ』と言わんばかりに俺の足をべしべし踏んでくるし。痛くないけどやめれ。

 

「ラッキーラッシーを3つ頂戴」

「ぁい! 畏まり!」

 

 1500zを払い、3つ受け取る。その内の2つをリリーとサニーに渡した。

 

「…あの…、いいんですか…?」

「いいのいいの。乾杯しよ」

 

 竹筒をコツンと軽くぶつけ合い、3人同時にそれを呷る。

 

「お…美味しい…!」

 

 せやろせやろ。感動したかの様な声を発するリリーに頷く。

 風呂上がりの直後でキンキンに冷えたこのジュースは犯罪的な美味さだ。病み付きになる。

 

「ニャッハー! 当たりが出たニャ!」

 

 ドリンク屋のアイルーが叫ぶ。またかよ。しかも俺のだけ。

 ドリンクの無料チケットを渡され、気付いた。前回貰ったチケット使えば良かったと。

 ……ま、まぁお金に困ってる訳じゃないから別にいいけど。

 というか、正直要らない。こういう券って、貰ったは良いけど結局使わないまま使用期限が過ぎて、最終的には捨てる羽目になるんだよな。この券は期限無いみたいだけど。

 ともあれ、持ってても仕方ないのでリリーとサニーにあげた。二人は遠慮したけど、使わないからと無理矢理押しつけた。ごめんよ…。

 でも本当に要らないんだ。例えて言うなら『アイルー食券・上』並みに要らない。2ndをプレイした事がある人なら、俺がこの券をどの程度必要ないと思っているのかが解る筈。

 

 それから俺は一旦二人と別れて自宅へ戻り、準備を整える事にした。リリーとサニーは着替える時間とかもあるしね。

 アイテムボックスから装備を変えてゆく。

 

武器:新ユクモノ弓

頭:ジンオウキャップ

胴:ジンオウレジスト

腕:ジンオウガード

腰:ジンオウコート

脚:ジンオウレギンス

護石:装備なし

 

 下位の装備である。リリーやサニーと条件を同じにする為だ。セット登録してないから一つ一つ装備を変えてゆく必要があり、かなり面倒くさかった。

 何しろ、アイコンで表示されているだけで、どれが何の装備なのかはタッチするまで解らないのだ。黄色いRank4の装備品も無駄に多かったし。何でこんなに作ったんだ俺は。十字キー操作が懐かしい。

 お次はアイテムを弄ろう。

 

回復薬 10

回復薬グレート 10

強走薬 5

クーラードリンク 5

ホットドリンク 5

秘薬 2

いにしえの秘薬 1

力の護符 1

力の爪 1

守りの護符 1

守りの爪 1

ペイントボール 99

閃光玉 5

こやし玉 10

モドリ玉 1

ピッケルグレート 5

上武具玉 2

 

 以上。

 何れもゲーム時代は常に携帯していたアイテムである。特に『ホットドリンク』と『クーラードリンク』は使った端から買い足していた。そうしておけば、砂漠や雪山へ狩りに行った際、うっかり持っていくのを忘れる心配が無いからだ。備えあれば憂いなしってね。

 上武具玉は勿論『真ユクモノ弓』の強化用。攻撃力のブーストは行っておく。

 これでとりあえず準備は整った訳だ。

 俺はベッドの横に設置された姿見の前へ移動し、その場でクルリと横に一回転。

 

「えへっ」

 

 矢っ張りガンナーのジンオウガ一装備は可愛いなぁ。思わずキモい声が出てしまうぐらいに可愛い。いや声は可愛いけど、言ってる俺自身がキモい。何だよ「えへっ」って。鳥肌立つわ。

 しかし可愛い。主に装備している人間が可愛い。エクシアちゃん可愛い。マジ天使。

 姿見の前で自分に見惚れる変態の図。傍目、ナルシストである。

 だって可愛いんだもん。仕方ないね。相変わらずの手前味噌。

 いや、こんな事してる場合じゃないな。早く準備しよう。何より、誰かに見られたら大変だ。

 ふと、魔理沙とチルノ両名と視線が合った。魔理沙はどこか優しげな瞳で俺を見詰めながら頷いており、チルノに至っては俺の真似をしていた。

 居たよ。見てる奴らが。

 ……や…やめろよ……そんな哀れむ様な目で俺を見るなよ…。何か悲しくなるだろ…。チルノも真似するなよ……お前意味解らずやってるだろ…。やめろよ…。

 凄く居たたまれない空気になった(2回目)。

 

 

 

 

 

 

 準備が整ったので、リリーとサニー両名と合流し、加工屋へと戻ってきた。まだ少し時間が掛かるとの事。まぁ、まだ30分くらいしか時間が経ってないしね。

 武具玉だけ先に渡して、攻撃力のブーストもお願いしておいた。これでOK。

 さて、何をして時間を潰そうか。そう思った、次の瞬間。

 『グゥ〜』と、腹の虫が鳴った。

 ……そういや、腹が減っていたんだった。忘れてたや。

 

「ご飯でも食べましょうか」

 

 リリーが提案する。

 うん、腹の音はバッチリ聞かれていたらしい。ちょっと恥ずかしい…。

 兎も角、反対する理由は無い。賛成である。

 しかも、この二人と一緒なら他人の視線もそれ程気にならない筈だ。

 

「どのお店に行きま」

「中華っ!!」

 

 食い気味で即答し、中華料理屋らしきお店を指差した。俺は中華に目が無いのだ。

 とりあえずカウンターまで行き、店員さんに注文する。

 メニューにはラーメンやら天津飯やら麻婆豆腐やらと、色々載っている。本当に中華料理のお店なんだな。

 ってか、モンハンの世界で普通に中華料理が食べられるってどうなん? 食文化はもっと遅れていると思っていたのだが。

 まぁ嬉しいから何でもいいや。

 俺は天津飯を、リリーとサニーはラーメンを注文した。

 値段は天津飯が250z、ラーメンが200z。とっても安い。

 ……と思うのだが、実際どうなのだろうか。ドリンク屋のドリンクと比較したら間違いなく安い。さっき飲んだ『ラッキーラッシー』とか、あれ一本で天津飯二杯分の料金である。ぼったくりではないのか。

 ……余り考えない様にしよう。考えても仕方が無い。

 数分程して、ウエイトレスさんが料理を運んできてくれた。

 おお、まんま天津飯だ。平たく焼き上げられた卵の上から、黄金糖━━べっこう飴━━の様な色をしたタレがふんだんに掛けられている。世界が違うから、ゲテモノや紛い物が出てきたらどうしようかと。

 ラーメンの方は豚骨スープの様な色をしていた。とは言え、ここはモンハン世界なので必ずしも豚でダシをとっているとは限らない。案外、ポポとかだったりするのかもしれない。ポポ骨スープ。

 ……どうなんだ、それは。

 兎にも角にも、いただきマサチューセッツ。

 卵にスプーンを突き立て、切り開く。おお、卵が意外とぶ厚いぞ! 割れ目にタレが流れ込んでゆく。

 卵とご飯、タレを掬い、一口。

 

「…んはああぁぁぁ……ッ!」

 

 う、美味い…! アツアツのウマウマのプリプリ(?)だ…! 日本に居た時でもこんな美味いの食った事ねぇよ…!

 食が進む進む! あっという間に平らげてしまった。ご馳走様でした。満足じゃ。

 リリーとサニーも遅れて完食。余ったスープを少し飲んでみたけど、矢張り豚骨味だった。ポポ骨かもしれんが。

 

 お腹も膨れた事だし、もう一度加工屋を覗いてみる事にした。

 



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いざクエストを受けようとしたら、喧しいのが突っかかってきた。

「あ、エクシアさん! お待ちしていました!」

 

 加工屋へ戻ると、早速レベッカが出迎えてくれた。

 とてとてと此方へ駆け寄り、また足をもつれさせて俺の身体へと突っ込んで来た。危ないってば。

 

「大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です!」

 

 そう言いながら抱き付いてくる。矢張り懐かれているのだろうか。っていうか、わざとやってない?

 そして、またしても爺さんに引き剥がされる。ナイス爺さん。

 

「それで、弓の方は?」

「バッチリ出来てますよ! これです!」

 

 と、レベッカがカウンターの下から取り出したのは木製の弓。『真ユクモノ弓』である。

 弦を軽く引き、放す。ビイィン、という音を立てて、弦は真っ直ぐに張った状態へと戻る。

 

「うん、良いんじゃないかな」

「本当ですか!?」

 

 レベッカが嬉しそうな声をあげる。

 ……特に何も考えず呟いただけ、という事は黙っておこう。正直、弓の違いとかよく解らないよ…。

 とりあえず弓を畳んでリリーに手渡す。サニーはレベッカから受け取った。

 

「ありがとうございます、エクシアさん」

 

 リリーがお礼の言葉と共に頭を下げ、サニーもそれに続く。いいって事よ。

 爺さんに24000zを払う。残りは14万ちょいか。まだ余裕あるな。

 

「さて、それじゃあ早速集会所へ行こうか」

「はい!」

「頑張って下さいね〜!」

 

 レベッカがぴょんぴょん飛び跳ねながら見送ってくれたので、俺達も手を振り返しながら加工屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 さて、集会所へとやってきた俺達は、早速受付カウンターへと向かう。

 

「エクシアさん、いらっしゃい」

 

 挨拶してくれたのは、いつもの受付嬢。今日も笑顔が眩しいです。

 クエストを受けたいと言ったら、クエストボードから選んで持ってきて下さいと言われた。

 マジすか。そういうシステムなのか。知らなかったとはいえ、ちょっと恥ずかしい…。

 その時だった。

 

「そんな初歩的な事も解らないの!?」

 

 背後から甲高い少女の様な声が耳に届いた。振り返ると、其処には中学生ぐらいの女の子が立っていた。

 緑色の髪をしており、長さはセミロング程度。『ハンタースタイル』という髪型ではなかろうか。

 装備品はドーベル一式。兜から生える、相手を威圧する様な一対の長い角が特徴的。また、布面積が小さく、お腹周りやら脇やら内股やらと、矢鱈に肌の露出度が高い。

 本来はとてもセクシーな装備品なのだが……如何せん装備者は背が低い。俺より10cm以上は低い。胸は多少ある様だが、セクシーとは言い難い。残念。

 背中から見える、二つの白と薄い赤の刀身は……『ホーリーセーバー』か?

 水属性の双剣である。見た目はグンバツに格好いいが、性能的に同じ水属性の『ウンディーネ』にかなり劣る。残念。

 えっと…とりあえず、どちら様で…?

 困惑する俺に、少女が更に続ける。

 

「ユクモ村始まって以来の最強のハンターとか言われてる癖にそんな初歩的な事も解らないなんてどうかしてるんじゃないの!?伝説だか何だか噂されてるけど実は対した事無いんでしょ!!ハンターランク1からやり直したら!?」

 

 ………マシンガン二号現る。早口過ぎて何言ってるかよく解らなかった。いや、何となく俺の悪口言ってるのは解ったけども。

 これに何故かリリーがムッとした様に突っかかる。

 

「エクシアさんは凄い人です! アカムトルムだって、たった一人で討伐しちゃうんですよ!」

「アカムトルムぐらい私だって一人で討伐出来るわよ!!舐めんじゃないわよ!!」

「えぅ…!? う、嘘です…! そんな…」

「嘘じゃないわよ!!舐めんじゃないわよ!!そっちこそ吹いてんじゃないの!?」

「な…っ! 違います、本当です! つい2週間程前に現れたアカムトルムを討伐したのもエクシアさんなんですから!」

「はんっ、どーだか!!口でなら何とでも言えるわよ!!」

「そ、そっちだって…!」

「何よ!!」

「お二人とも、やめて下さい!」

 

 かなりヒートアップしてきた所で、受付嬢が止めに入った。

 

「ここでは一般のお客さんも温泉へ入りに来るんですから、騒ぎは困ります!」

「ぁう…ご、ごめんなさい…」

 

 リリーは即座に頭を下げ、ドーベル装備の少女は「ふん!」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。不貞不貞しいやっちゃな。

 

「確か、新人ハンターのリリーさん、でしたね?」

「は、はい…」

「此方は元、ポッケ村所属ハンターのセツナさんです。エクシアさん同様、アカムトルムだけでなくウカムルバスも討伐した功績がある、一流のハンターですよ」

「え…っ!? セツナ、って……『双刃剣姫』と呼ばれる、あの伝説の双剣使いの…!?」

 

 おぉう。何か廚二ネームが飛び出したぞ。双刃剣姫だって(笑)

 ちょっと格好いいとか思った俺は廚二病を患っているかもしれない。

 っていうか今、ポッケ村って言った? 2ndの主人公が拠点とする、あのポッケ村?

 って事はこのガk……少女は、MHP2ndの主人公…?

 まさかまさか、俺と同じで中身は日本人だったり…?

 アカムトルムやウカムルバスを討伐する程の腕を持つハンターならば、有り得ない話ではない。

 

「……、……この人が、セツナ……」

 

 俺が考え込んでいると、リリーがセツナを見ながらぼそりと呟いた。その表情は何というか『思っていたのと違う…』と言った所だろうか。凄く残念な物を見た様な感じ。隣のサニーも同様である。

 

「何よ、何か文句でもあんの?」

「……いえ…別に…」

 

 視線を逸らしながら、俺の背中へと隠れてしまった。俺を盾にするのはやめたまえ。

 そんな事より、このセツナって奴が日本人なのかどうかを確認したい…! 何か、上手くこの場で確認出来る方法は無いか…!? 説明とかを一切省いて周りの者に悟られず、この少女が日本人だと確認する方法は…!?

 ハッ! そうだ!

 

「………」

「な、何よ…!?」

 

 無言で近付く俺に対して、明らかに警戒の色を見せるセツナ。

 こいつは『ポッケ村所属』のハンターだと受付嬢が言っていた。もしもこいつが2ndの主人公なら、これで伝わる筈だ!

 俺は徐に口を開き、

 

「…(モンスターハンター)(ポータブルセカンド)…」

 

 セツナにだけ聞こえるであろう程度の小さな声で、ぼそりと呟いた。

 対するセツナはというと、数秒程ポカンと間の抜けた表情を浮かべ、

 

「何言ってんの…?意味が解んないんだけど!馬鹿じゃないの!!意味不明なんだけど!!馬鹿なんじゃないの!?」

 

 徐々に語気を強めながら爆発した様に叫んだ。

 ………何なんだ、こいつは…。人の事を馬鹿馬鹿言いやがって…。ム、ムカつく…。

 ……兎に角、この少zy……クソガキが日本人ではない事は解った。

 俺は大きな溜め息を吐き、クエストボードの前まで足を運ぶ。セツn……クソガキが何か喚いてるけど、無視無視。

 えーっと、何か丁度良さそうなクエストは、っと……。

 ん? これは……。

 

 狩猟クエスト

  挟撃の彩鳥

 

 クエスト内容

クルペッコ2頭の狩猟

 

報酬金 3000z

契約金  500z

指定地 孤島

 

 ま た お ま え か 。

 

 何なの、クルペッコ繁殖し過ぎでしょう。ついさっき俺が2匹狩猟したばかりだろうが。

 いや、鳥だから2羽と数えるのか?

 どうでもいいわ。自分で自分にツッコミ。

 兎も角、クルペッコが相手なら丁度良い。コイツを相手に、リリーとサニーの二人に弓のお手本を見せよう。

 依頼書をボードから剥がし、カウンターまで持って行く。受付嬢はクソガキを宥める為に身動きが取れない。何て厄介な小娘なんだ。

 変わりに別の受付嬢がやってきた。服装は同じ『撫子』一式だが、色が違う。この娘は少し薄めの赤を基調とした色である。確か、下位の受付嬢がこの色だった様な気がする。

 

「此方はエクシア様お一人ですか?」

「いや、そっちのジンオウ装備とナルガ装備の娘と一緒で」

「では、三名様での狩猟ですね」

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 小娘が横からしゃしゃり出てきた。何だよもう。

 

「私も行くわ。あんたの実力の程を見極めるいい機会よ」

「あ、うん。このクエストは3人までなんだ」

「ハァ!?何言ってんのよ4人までイケるでしょうが何言ってんのよ馬鹿じゃないの馬鹿なんじゃないの馬鹿なんでしょ!!」

「あ、すみません。この五月蝿いクソガキにクエストを見繕ってあげて下さい」

「クソガキって言ったなゴルァァァッッッ!!!!!」

 

 こっちに飛び掛かってきそうだったけど、青撫子の受付嬢がセツナを羽交い締めにして止めた。ナイス。

 

「兎も角、このクエストは3人でお願いします」

「あ、はい」

 

 契約金の500zを支払い、受託完了。

 

「それでは、3人での出発となります。クエストの達成をお祈りしています」

「ええ。じゃあ行こうか」

「あ、はい!」

「あぁ!?待ちなさいよまだ私との話が着いてないわよ!!待ちなさいよ待ちなさいってば私も連れていけ!!」

「だ、ダメですよセツナさん…!」

 

 受付嬢も大変だぁ、と他人事の様に思いながらも俺達3人はクエストへ出発した。

 



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孤島には絶景スポットが多い。

 という訳で、やって来ました、孤島です。例によって一瞬の内に辿り着いた。

 今はベースキャンプに居るのだが、快晴である。超良い天気。青空が眩しいぜ。

 辺りの状況はゲーム時代と大差は無い。

 大きなテントに、4人は寝られそうなベッド。渓流のに比べると、少し固そう。入り口の両脇には燭台が置いてあるが、火は着いていない。

 隣には赤色をした納品ボックス。その向かいには青色の支給品ボックス。

 低層断崖から少し離れた先には、小さな離れ小島もある。明らかに人の手が加わっているのでは、という岩があちこちに突き刺さっている。大きさはマチマチ。遺跡か何かがあったのだろうか。

 そこから先は、辺り一面見渡す限りの海。ふつくしい。絶景だぜ。

 

「あっ、エクシアさん!」

 

 背後から声。振り返ると、テントの脇からリリーとサニーの二人が姿を現した。一緒に居なかったという事は、別々に此処へ来た事になっているのか…?

 プンプンと若干怒り気味のリリーから話を聞いてみると、集会所を出た所で俺の姿を見失ったのだとか。マジかよ。恐るべしゲームシステム…。

 それで彼女達は、港から船で此処まで来たのだという。いざ着いて見れば、孤島に他の船は見当たらない。

 発つ前に港で聞いたらしいが、他に船は出していなかった。どこぞの漁船に便乗した訳でもない。

 一体、俺はどうやって孤島に辿り着いたのか。

 ………。

 ……えーっと…。

 

「……泳いで…?」

「お、泳いで来たんですか!?」

「…凄い…船でも…1時間は掛かる…距離なのに…」

 

 そんなに離れてんのかよ!?

 

「船より速く泳げるなんて、エクシアさんは凄いですね! 何か速く泳ぐコツとかあるんですか!?」

「あー…、えっと……それはだね………潮の流れが速い海域があってー、……」

「それに乗って泳いで来たんですか!?」

「…私達、も…知りたい…です…」

「えっ!? あー、いや……えっと……、その……かなり危険だから、教えるのは…ちょっと…」

「成る程、泳ぎが得意な人でなければ不可能なルートなんですね!」

「う、うん……(っていうか、俺にしか無理というか…)

「…? …今…何か…言いました…?」

「いんや何でもないよ!」

「ところで、泳いで来た割には余り濡れてないですね…?」

「は、早く来すぎちゃってさ! 乾かしたんだよ!」

「そうなんですね! 流石です!」

 

 嘘が嘘を呼ぶ。まさしく嘘八百。

 このままでは、いつ嘘がバレるか解らん…! 強引にでも話を逸らさなければ…!

 

「そんな事より、見てご覧よ! 孤島の景色って美しいと思わない!?」

「そうですね! 私達、孤島へ来るのは初めてだったんですけど、とっても綺麗な所だと思います!」

「…絶景…です…」

 

 よし、何とか話を逸らせたぞ。二人ともチョロくて助かった。

 そして、孤島の景色が絶景で助かった。

 常夏の島と言われるハワイ、とまではいかないが、それでも美しい景色が広がっている。

 見ろよ、空にはカモメが飛んでるぜ。ゲーム時代では、翼を広げたまま左右上下にゆらゆらと空中を漂っていただけだったが、この世界ではちゃんと羽ばたいている。何とも気持ちよさそうに飛んでいるじゃあないか。

 しかし、帰りにも同じ様に言い訳を考えておかなきゃならないのだろうか。すんごい面倒くさい…。どないしよ…。

 

「ご主人も大変だな」

「ああ、うん━━━うんっ!?」

 

 ━━━魔理沙とチルノが其処に居た。

 …いや…っ…おまっ、おまま、お前ら、何で…!?

 

「お、お前ら何でいるの…!?」

「何でって…オトモアイルーがハンターについて行くのは当然だろ?」

 

 ……いや。いやいや。

 そういう事でなくてね!? ハンターが3人居るんだからオトモが入ってきちゃダメだろ!! しかも2匹も!!

 なんつぅかこう……ダメだろ!?

 ………と思ったけど、まぁいいか。

 この世界がゴチャゴチャなのは今更だし、これからの狩りが楽でいい。

 うん。気にしない事にしよう。そうしよう。

 人生は前向きに生きねば損なのだ。

 因みに、オトモ達は瞬間移動システムの存在を知っている様だ。ゲームシステムのお陰である、という事は解っていない様だが。

 

「ところで、二人はオトモアイルーを雇ってないの?」

「あ、いえ、それは…その…」

「…お金、余裕が無い…」

 

 ……、……そうでした。ちょっと考えれば解るだろ俺の馬鹿…。何度同じ失敗を繰り返すのか…。

 ……魔理沙、足を踏むな。チルノも真似しなくていい。

 

「とりあえず、行こうか」

 

 強引に話題を終わらせ、先へと進む事に。

 まず、細く短い傾斜を上がった所にある、人が立った状態でギリギリ通れる穴蔵に入って奥へと進んでゆく。中は真っ暗で何にも見えない。

 手探り足探り━━穴とかあったら危ないので━━で慎重に進んでゆき、暫くすると外の光が見えてきた。

 穴蔵から抜け出た先は、緩やかな傾斜が続く場所。すぐ左手には、大きく頑丈そうな木製の門が構えている。木の板で打ち付けられており、開きそうにない。

 とりあえず、右手の方へ傾斜を上がってゆくと、開けた場所に出た。地図でいう、エリア1番である。

 断崖から見える景色の美しき事。絶景だよ。孤島には絶景スポットが多い。素晴らしい景色だ素晴らしい。

 

「綺麗ですねぇ…」

 

 リリーがウットリした様に呟く。美しい自然に魅力されている様だ。サニーも同様。

 ゆっくりして行きたい所だけど、そうも言ってられない。遊びに来た訳ではないのだ。

 2人と2匹を引き連れ、真っ直ぐ進んでゆく。今度は緩やかな下り坂。エリア2番へと続く道である。

 これをどんどん下ってゆく。

 どんどんどんどん、どんどん…どんどん……。

 ……。

 な、長ぇよ! エリア2番に辿り着くのに10分近く掛かった。

 ゲームではエリア間の移動がカットされていたから良かったけど、現実は非常に厳しい。

 体力のあるハンターの身体で良かった。もしも自分の身体だったら、この移動だけで死んでる。矢っ張りハンター凄ぇ。

 新人であるリリーとサニーでさえ、ちゃんとついて来られるんだもんな。本当に凄ぇ。

 

 さて、2番へやって来て、漸く辺りが平地となった。

 左手の方には小さな滝があり、その水が川となってエリア5番の方へと流れていっている。

 また、3頭のアプトノスが居る。内1頭は小さく、まだ子供だ。その辺に生える草をもそもそと食べている。ゴッツい尻尾してんなぁ。

 まぁ、コイツらに用は無いので、無視して先へ進む。

 僅かに水の張った細い道が続き、足首辺りまでだった水深が、膝の辺りにまで到達。更に少し進むと、漸くエリア5番に辿り着いた。エリア2番よりも少し広い。

 右側の壁に沿って浅い川が続いている。この水は2番から流れてきたものではなく、更に奥の9番から流れて来ているものだ。

 逆に中央から左側は陸地。岩壁に挟まれた細い道がある。其方をずっと進んでゆけば、僅かな緑とモンスターの骨が散らばるエリア6へと辿り着く。彼処は多分、鳥竜種の巣だったと思う。

 が、其方へ行く必要は無い。

 何故なら、このエリア5番にターゲットであるクルペッコが居るからだ。まだ此方に気付いておらず、浅瀬の中を見詰めながら呑気に歩いている。

 ……魚を探しているのだろうか。だったらエリア10にでも行けよと思うが。

 まぁ、兎も角だ。

 

「魔理沙、チルノ。手出しは一切するなよ」

「えーっ!? 何でだよ!? 折角ついて来たのに!?」

「そーだそーだ!」

「リリーとサニーに弓の立ち回りを教える為だよ」

 

 2匹は渋々ながら納得してくれた。

 

「リリー、サニー。今から私の立ち回りをよ〜く見ていてね」

 

 俺は真ユクモノ弓を展開しながら、クルペッコへ向かって走り出した。

 



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弓の基本というものをご教授しよう。

独学でやってきたので、本当に基本なのかは怪しいです。


 俺が矢を番えて弦を引き、溜め段階が3段目までチャージ完了した頃、クルペッコは漸く此方に気付いた。

 まずは、その間抜けな面に『連射Lv3』を叩き込む。クルペッコは意に介さず、此方に向かってきた。

 この辺りはゲームと同じである。一定以上のダメージを与えなければ、モンスターは怯まないのだ。

 また、どれだけ攻撃を与えようが、部位破壊をする事は出来ても、外傷を負わせる事は出来ない。

 逆に、此方が攻撃を受けても、外傷を負ったり防具が破損したり、という事は無いと思われる。アカムトレインでひかれた時に、凄まじい痛みはあったものの、外傷はどこにも見当たらなかった。

 つまり、モンスターにしろハンターにしろ、設定されたHPが0にならない限りは死なないのである。

 まぁ、ハンターはHPが0になったらベースキャンプに戻されるのかもしれないが。試す気にはならない。そのまま死んだら洒落にならん。

 

 クルペッコが(ついば)みやら突進やらと攻撃を繰り出してくるが、俺はそれを(ことごと)く避けてゆく。

 弓の基本的な立ち回りは、モンスターを中心として時計回りに移動し続ける事だ。これを遵守して攻撃のタイミングを誤ったりしなければ、殆どのモンスターは楽に狩れる。

 まぁ、アルバトリオンの様な例外はあるけども。アイツの突進は曲がる場合があるからな。慣れるまでは苦労させられた。

 ふと、クルペッコが鳴き袋━━喉の辺りの風船みたいに膨らむ部分━━を膨らませ、咆哮。別のモンスターを呼んだのだ。連射は叩き込んでいたが、怯ませるには至らなかった。

 更に攻防が続き、1分程してそのモンスターは現れた。

 

 ━━━森の熊さんこと、アオアシラさんである。此方へ真っ直ぐ向かってきた。

 そして、俺の近くで止まると、立ち上がって両腕を内側へ向けて振るう。

 当然ながら其処に俺は居ない。クルペッコの動きに注意しつつ、既に熊さんの背後へと回っている。

 透かさず空いている右手をアイテムポーチに掛け、目の前に並ぶアイコンの中からこやし玉をタッチ。弓は展開したままである。ゲームと違って、武器を一々仕舞ったりせずともアイテムは使えるのだ。

 右手に何かを掴んだ感覚。それをアオアシラに向かってそぉい!

 ボフッと茶色い煙が吹き出し━━━臭っ!!

 うわっ凄い臭い臭い臭い!! 酷い臭いだっ!! アオアシラが泣くのも解るぐらい臭ぇっ!! うへぇあっ!! えんがちょっ!!

 だが、それで怯んでもいられない。

 臭いのを我慢しながら2匹との立ち位置を上手く調節しつつ、尚もクルペッコに『連射Lv3』を叩き込む。

 幸いにも、アオアシラはすぐに9番の方へ逃げていった。

 ………水洗いをしに行ったんだろう。落ちるといいな。

 兎も角、これで再び1対1だ。

 時計回りを意識した立ち回りでクルペッコの攻撃を回避しながら、ひたすらに頭部、及び喉辺りの鳴き袋を狙って『連射Lv3』を叩き込んでゆく。

 更に1、2分が経過しただろうか。クルペッコが足を引きずり、エリアの中央辺りへ向かって移動し始めた。逃げるつもりだ。

 そうはさせるかとクルペッコの前に立ち、再びアイテムポーチのメニューを開く。使うのは勿論、閃光玉。

 クルペッコの目の前に向かってそぉい!

 両目をギュッと瞑り、更に腕で押さえてガード。もしかしたら自分にも効果があるかもしれないからだ。

 ━━━クルペッコの怯んだ様な声を聞き、腕をどけて目を開く。成功した様だ。

 クルペッコは辺りを見回したり、ヨタヨタと後退(あとずさ)ったりしている。

 チャンスとばかりに攻め立て『連射Lv3』を3発頭に叩き込んだ所で、クルペッコは息絶えた。

 ━━━討伐完了。

 崩れ落ちるクルペッコを見ながら、弓を折り畳む。

 『真ユクモノ弓』にしては、まぁまぁ早く討伐出来た方かな。弱点部位に攻撃の9割以上を叩き込んだからだろう。ゲーム時代と違い、エイム調整が凄い楽だ。何しろ、十字キーで細かく調節しなくていい。

 

 とりあえず剥ぎ取っとこ。

 『彩鳥の鱗×3』。全部鱗かよ…。いいけどさ別に。

 それ以上は剥ぎ取りナイフが刺さらない。殆どぶよぶよした身体だというのにナイフが弾かれるという奇妙な光景。

 

「エクシアさん!」

 

 ふと、リリーとサニー、魔理沙とチルノが此方へ駆け寄って来た。

 

「凄かったです! 格好良かったです!」

「…鮮やかな…お手並みでした…」

 

 あ、ありがとう。ただの基本的な立ち回りなんだけども。

 とりあえず、2人に剥ぎ取っておいたらと促す。

 

「やったな、ご主人。流石だぜ」

「ご主人ってばさいきょーね!」

 

 う、うん、ありがとう…。クルペッコ如き相手に、これくらいは当然なのだが…。 っていうか、何気にチルノが初めて『ご主人』って呼んでくれた。ご主人呼びがデフォルトなんだろうか。ゲームでは『旦那さん』だったと思うのだが。

 さてと。

 剥ぎ取りを終えた二人に、弓という武器と、その立ち回りについて説明する。

 

 まず、基本的にはモンスターを中心として円を描く様に動き回る事。弓は敵の攻撃を喰らわずに射つ武器なので、回避が重要になってくる。剣士と違って防御力が低いのは、その為である。赤い人も言っていた。当たらなければどうという事はない、と。

 次に、弓の溜め段階は極力3段目で射つ事。それが一番強力なのである。溜め1と溜め3の威力は、実に4倍近くの差があるのだ。モンスターに溜め1を連続で浴びせるよりも、溜め3以上の攻撃をピンポイントに弱点部位へ叩き込む方が与えるダメージは何倍も大きい。まぁ、中には例外の弓もあるのだけれど。

 それらを踏まえた上で、モンスターの動きをよく見て、攻撃するタイミングをしっかりと見計らう事。欲張って『まだ射てる』と思い攻撃すると、モンスターの手痛い攻撃をくらってしまう。

 なので、時にはグッと堪えて不用意に射たない事や、臨機応変に溜め2を叩き込んで逃げる柔軟性が必要となる。

 それが、弓という武器なのだ。

 

「━━━とまぁ、そういう事だから。解ったかな?」

「はい! 解りました!」

 

 リリーの元気な返事。

 うむ、よろしい。

 

「じゃあ、今度は実戦ね」

 

 と、俺が指差す方には、もう1頭のクルペッコ。たった今やって来た所である。ナイスタイミング。

 

「リリー、サニー。君達は2人で一緒に闘う訳だから、私の時とは少し違った立ち回りをしなきゃいけない。互いの足を引っ張らない様にね」

「はい!」

「…はい…!」

 

 そして、二人はクルペッコへと駆けて行った。

 弓を展開し、早速攻撃を加えてゆく。きちんと溜め段階3の『連射Lv3』である。

 しかし、狙撃はの方は余り芳しくない。クルペッコの弱点部位は頭と鳴き袋だと既に伝えてあるのだが、翼に当たったり矢が外れて地面に落ちたりと、中々上手く当てる事が出来ないでいる。

 まぁ、弓は始めたばかりだと言っていたし、普通はそんなものだよな。

 因みに、弓の素人である筈の俺が何故、上手く弓を扱えるのかというと、身体がそれを教えてくれるからである。恐らく、ゲーム時代に何百回と弓で狩りを行ってきたこの身体が、弓の扱いを覚えているのだ。

 どの角度で射てば、どう飛んでゆきモンスターのどの部位に当たるか、曲射は何処に着弾するか、等々。そういった事を身体が教えてくれる。

 だからこそ、この世界へ来たばかりの時にアカムトルムを討伐出来たのだと思う。

 まぁ、あの時はまだ身体が馴染んでいなかったけど、アカムとの戦闘で全てを理解出来た。アカムには感謝である。アカムトレインはクソ痛かったけど。

 

 俺と魔理沙とチルノは一切手を出さず、2人の闘いを見守っていた。

 




弓という武器は例えるなら、ジャンプとスライディング(ダッシュ)が出来なくなったロックマンが3Dになってチャージショットが撃てるっていう、ただそれだけの事なんですよ。相手の行動パターンを読んでチャージショットを叩き込むだけの簡単なお仕事。
ロックマンが得意な人は、弓を使えると思います。
………多分。

………恐らく。

………なるべく(?)…。


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暇なので釣りでもしていようかなと思った次第。

 場所は変わって、エリア10番。地図で言うと、一番右上の海岸地帯である。

 エリア5番から北へと進み、膝程度の水深の川が続くエリア9番を伝って、更に奥へ進むと、このエリア10番に辿り着く。

 あ、北っていうのは地図の上の方の事ね。本当に北かどうかは解んないけど、ドラクエ的に考えると上方向は北。

 まぁそれは置いといて。

 先にも述べた通り、このエリア10番は海岸地帯。すぐ右は岩壁がそびえ立ち、真っ直ぐ進むと海が広がっている。

 左方には僅かな砂浜地帯が延びているが、大半は海の水に侵食されている。途中には2つ、大きな岩が距離を置いて佇んでいる。更に進むと岩壁にぶち当たり行き止まりの様に思えるが、途中に上から蔦が降りてきている。それを登れば飛竜の巣であるエリア8番に行けるだろう。最も、地図を見た限りでは、相当に長い距離を移動する羽目になるだろうけど。

 

 で、何故こんな場所に居るかという事だが、リリーとサニーはクルペッコを仕留めきれずに逃がしてしまい、このエリア10番まで追いかけて来たのである。今も彼女達はクルペッコと激しい戦闘を繰り広げている。頑張れ頑張れ。

 因みに、俺は隅の方で釣りをしている。エリア9番から入ってきて、右側の壁伝いに真っ直ぐ進み、浅瀬を渡って急に水位が深くなる所の釣りポイント。すぐ横には採掘ポイントもある。しないけど。

 適当な岩を持ってきて腰掛け、のんびり糸を垂らしている訳だが、俺は一体この釣り竿を何処から取り出したのだろうか。

 いや、アイテムポーチ辺りから取り出したのだけれど、どう考えてもポーチの中にこんな長い釣り竿は入らない。縮める事の出来るコンパクトロッドとかなら解るけど、俺が握っているのは竹竿である。縮む訳が無いし、畳んだらベキッと折れる。HBの鉛筆みたいに。

 まぁ、それを言ったら他のアイテムはどうなるんだって話になるけどね。覇竜の尻尾とか入る入らない以前に、人間よりデカいし。一部だけなのかな。

 因みに、剥ぎ取りの際は切り取っている訳では無く、ナイフを突き立ててグリグリするだけで素材がアイテムポーチに入るという謎仕様。不思議。

 

 ところで、俺は水中を泳いでいる金色の魚を釣り上げたいのだが、他の魚ばかりが食い付く。

 とりあえず釣れたのは『キレアジ×6』『サシミウオ×4』『はじけイワシ×3』『小金魚×3』『ハリマグロ×1』である。

 あの金色の魚がめっちゃ気になる……多分、黄金魚なんだろうけど釣りたい…。中々食い付かねぇ…。

 っていうか、他の魚が食い付いちゃうから黄金魚が食い付けないでいる。もっとガツガツ来いよ。そんなんじゃ食いっぱぐれるぞ!

 ……あ、きた。

 

Fi〜〜sh(フィーッシュ)!!」

 

 叫びながら勢い良く竿を引き、フッキング。これによって釣り針が深く刺さり、魚に逃げられない様にするのだ。

 そんな釣りの無駄知識はどうでもよくて、金色の魚が釣れた。鱗がキラキラと光っている。黄金魚だ。綺麗。

 それをアイテムポーチに仕舞おうとして━━━

 

「ぐえっ!!」

 

 ━━━背後からの衝撃。勢い余って水の中へとダイブしてしまった。

 ぶはっ、と海面へと顔を出すと、其処に立っていたのは森の熊さん。クルペッコが召喚した奴だろう。

 

 ━━━そして、たった今、苦労して釣り上げたばかりの黄金魚に逃げられた。

 

「テメェ上等だコラァッ!!」

 

 そう言いつつ、足場に上がろうとしたが、再び突き落とされた。

 汚いな流石アオアシラ汚い。今のハメでしょ? 俺のシマじゃノーカンだから。

 等とブロントさん関連の台詞を口走っている場合ではない。これでは陸地に上がれない。

 こ…この熊野郎…! 俺を陸地に上げないつもりか…!

 横に泳いでみるが、熊野郎も同じに移動してくる。完全に俺を狙ってやがるな。さっきウンコぶつけた恨みか。

 因みに泳ぎ方は横平泳ぎ。64版ゼル伝の主人公、リンクの泳ぎ方である。何となく真似していたら出来る様になった。

 そんな事はどうでも良くて、この熊をどうするかだが……。

 その時、アオアシラの頭が爆発した。魔理沙の投げた、小タル爆弾である。

 ナイス魔理沙! 熊野郎の注意が逸れた隙に陸地へと上がり、透かさず足に蹴りを入れてやる。此方を向いた隙に横へ回り込み、矢を2本抜きはなって切りかかる。

 7、8回切りつけた所でアオアシラが怯み、更に蹴りを叩き込んで海へと突き落とす。

 ウハハハハッ!! ざまぁ味噌漬け沢庵ポリポリッ‼︎

 追撃の溜め段階1である「連射Lv1」を連続で叩き込みまくる。さっきのお返しじゃボケェ!

 そこへ魔理沙とチルノが攻撃に加わり、あっという間に熊さんの水死体が出来上がった。

 ふぅ。ちょっとだけ溜飲が下がったぜ。

 

「ありがとう、魔理沙。助かったよ」

「なぁに、これぐらいお安い御用なんだぜ」

 

 何とも男らしい物言い。頼りになるぜ。女の子だけど。

 ……いや、女の子なのか…? この子が雌だという確証は無い。猫だし。

 今度確認してみよう。持ち上げて付いているか付いていないかを見るだけだ。

 ……と思ったけど、直接聞いて確認しよう。また引っかかれるのは御免被る。引っかかれたのは今のところレミリアだけだが。あれは痛かった…。主に心が。

 さて、リリーとサニーの方は……まだ時間掛かりそうだな。釣り直そう。

 岩の上に腰掛け、再び釣り糸を垂らす。こういうのんびりとした時間っていいよね。

 もう一度黄金魚を………あっ!? 魚居ねぇ!! 俺が落っこちたから散ってしまったか!?

 …お、おのれ熊野郎……。

 あ、でも魚が1匹戻って来てる。あれは……、サシミウオか…?

 また1匹増えた。ちょっと大きい奴。ハリマグロかな。

 待ってればその内、黄金魚も戻ってくるかな。また1匹。サシミウオだ。

 あ、食い付いた。釣り上げたのはサシミウオ。アイテムポーチへと仕舞う。

 もう少し魚が現れるまで待つか。

 

 何とはなしに空を見上げる。澄み切った青空が美しいぜ。

 ふと、魔理沙が俺の膝に乗ってきた。甘えん坊だなぁ。可愛い奴めっ!

 チルノも俺の背中をよじ登り、肩に乗ってきた。可愛い奴めっ!

 

「なぁ、ご主人…」

「ん? どうした魔理沙?」

「…お腹空いた…」

「…えっ」

「あたいも…」

「…えっ」

 

 ま、マジか…。

 うむむ……どないしよ。エリア2番まで戻って、アプトノスから生肉を剥ぎ取るか?

 …あ、ダメだ。携帯肉焼きセットを持っていない。生肉では流石に食えない。

 うーん…他に……食べられる物、は…。

 あっ、ある!

 サシミウオだ! これなら生でも食べられる!

 ……ただ気掛かりなのは、サシミウオって体力を回復するだけでスタミナは回復しないんだよね…。最悪、食べても腹を満たせない可能性も…。

 ま、まぁ、あげてみれば解るでしょう。

 魔理沙とチルノは喜んで食べ始めた。実に美味そうに食っている。俺も食べようかな……でも、そんなに腹は減ってないし…。

 って、チルノ! 俺の身体にこぼすな!

 ちょっとしたハプニングはあったものの、2匹は満足した様だった。サシミウオでも腹は膨れるらしい。食料に困ったら魚を釣ろう。サシミウオなら調理をせずにそのまま食べられる。鱗とか落とさなくて良いのか、とか色々とツッコミたい所はあるが。気にすまい。

 そろそろ釣りを再開するか。黄金魚も戻ってきた様だし。

 っていうか何で戻って来たんだ? 普通、いきなり人が落ちてきた場所になんか二度と近寄らないだろ。いや、それ以前に人がこれだけ近付いたら、気配を察知して逃げると思うんだが。ゲームシステムという呪いに掛かって、逃げられないのかもしれない。ドンマイ。

 今度はすぐに黄金魚が釣れた。雫に光が反射してキラキラと輝いて見える。綺麗だ。今度こそアイテムポーチへと仕舞う。

 黄金魚って、清算アイテムだったよな? 幾らだったっけ…500か350か…まぁそれぐらいだった気がする。

 

「エクシアさーん!」

 

 リリーの呼ぶ声。振り返れば、彼女達は此方へと走って来ていた。クルペッコの討伐も無事に完了した様だ。

 

 ……さて、クエストが完了された訳だから、1分後に俺は集会所へ転移する事になる。何か言い訳を考えておかなきゃなぁ…。

 若干ブルーな気持ちになりながら、リリー達の方へと歩み寄るのであった。

 



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何故か喧しい人が付きまとってくるんですが…。

 集会所へ戻って来た訳だが、リリーとサニーは矢張り居ない。俺と一緒に居るのは魔理沙とチルノだけである。

 しかし、クエストクリア後に「私は先に戻ってるから」と伝え、2人と別れてから瞬間移動したので、いきなり姿が消える所は見られていない。

 ……何か突っ込まれたら、また適当に話題を逸らそう。

 

「遅かったじゃないの!!待ちくたびれたわ!!」

 

 ………。

 えーっと、とりあえず脇に置いてあるアイテムボックスに剥ぎ取った素材を入れようかな。

 

「ちょっと!!無視してんじゃないわよ!!聞こえてるんでしょ!!」

 

 っていうか、このアイテムボックスからでも預けたり引き出したり出来るというのは不思議だな。一体どういう原理でそうなっているのか。ドラ○もんの4次元ポケットでもあるまいし。便利で良いけどさ。

 

「聞きなさいよ!!ねぇ!!ちょっと!?無視する気!?無視する気なの!?」

 

 えーっと……あ、そうだ。クエストの報酬金を受け取らなきゃ。確か総額が3000zだったから、1人1000zだな。

 矢張り、多人数で狩りに行くと金額が下がるな。リリーとサニーが金欠状態なのは、2人で狩りに出ているからではなかろうか。そんな気がする。

 しかも、今は下位のクエストだしな。大体3000〜5000が相場だよな。それを半分で1500〜2500…。

 まぁでも、狩り友が居るというのは、何物にも代え難い価値のある事だと思う。お金じゃ買えない価値がある。2人の友情、プライスレス。

 くだらない事を考えてないで報酬金を受け取りに行こう。

 

「無視すんなやゴルアアァァァァァッ!!!!!」

「ぐえぇっ!」

 

 背中に衝撃を受け、そのまま倒れてもつれ合う。俺は仰向けで下敷きとなり、彼女は俺の上に乗っている。

 い、痛い…。背中が痛い…。何だ…ロケット頭突きでもされたのか…。

 上半身をガバッと起こし、

 

「何するんだいきなり!」

「そっちが無視するからでしょ!?何で無視すんのよ馬鹿!!馬鹿馬鹿馬鹿!!」

 

 ぐっ……相変わらずムカつ…。

 ………。

 ……何か、涙目になっとるし…。

 

「……泣くなよ…」

「泣いてなんかないわよ馬鹿ァッ!!」

「よしよし」

「子供扱いすんじゃないわよ!!」

「痛…っ! そんな思い切り払う事ないだろ!」

「知らないわよ馬鹿!!そっちがいきなり人の頭を撫でてくるからでしょ!!子供扱いするんじゃないわよ私はこう見えても25よ!!」

 

 何…だと…。こんなチンチクリンな体型してる癖に俺と同い年だというのか…。何の冗談だ…。

 

「よしよし(錯乱)」

「だから子供扱いするなって言ってんでしょ!!舐めてんの!?舐めてんでしょ!!」

「舐めないよ、汚いし」

「汚くなんかないわよ失礼ね!!っていうかそういう意味じゃないわよ!!」

「えっ、そういう意味ってどういう意味?」

「はぁっ!?だから……何言わせるのよ変態!!」

「危なっ!」

 

 飛んできた張り手をギリギリで躱す。あとちょっとで良い音が響く所だった。

 にしても、コイツは中々からかい甲斐があるな。もうちょっとからかって遊んでやろうか。

 そんなくだらない事を考えていた時だった。

 

「お二人共…?」

 

 背後からの声。

 振り返ると、其処には良い笑顔をした青撫子の受付嬢が立っていた。

 ━━━ただし、目は笑っていない。

 

「ここには一般のお客さんも温泉へ入りに来るので騒ぎは困ります、と言った筈ですよね…?」

「アッ、ハイ…」

 

 俺とセツナは2人一緒に受付嬢の説教を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「全く、酷い目にあった…」

 

 説教から解放されると、集会所へ戻って来ていたリリーとサニーの2人と合流した。今は村の中を皆で歩いている。魔理沙とチルノは農場へ行った。どうもセツナが苦手っぽい。俺もだけど。

 しかし、正座しながら説教を受けている所をリリーとサニーに見られてしまった……。は、恥ずかしい…。この年になって説教されるとか…。

 

「ふん!!あんたの所為でしょ!!私までとばっちりだわ!!」

 

 いや、間違いなくオメーの所為だよ。何を人の所為にしてんだよ。

 っていうかさ、

 

「何でついてきてる訳?」

「あんたが逃げない様に見張ってるのよ!!」

「……逃げないよ」

 

 逃げたいけど。

 

「大体、何の為に私につきまとってくるの?」

「決まってるでしょ!!勝負する為よ!!」

「勝負ぅ〜…?」

 

 また面倒な事を…。俺は対人戦は嫌いなのだ。格ゲーとか。協力プレイの方が好き。

 それに、

 

「弓と双剣で勝負するの? 私は怪我をするのもさせるのも御免だよ」

「誰が直接()りあうって言ったのよ!!ハンターなんだから狩りで勝負するに決まってるでしょ!!」

「狩りで? どうやって?」

「そんなものどっちが早くモンスターを狩れるかとか、どれだけモンスターを狩れるかとか色々あるでしょ!!そんな事も解らないの!?馬鹿なんじゃないの!!」

 

 ……コイツの言い方は一々癪に障るというか何というか。

 

「まぁそんな事は置いといて」

「そんな事って何よ!!」

「2人共、今回の狩りで弓に必要な事は解ったかな?」

「あっ、はい! とても参考になりました! エクシアさんのお陰で、弓使いにとって重要な事がよく解りました! 本当にありがとうございました!」

「…ありがとう…ございました…」

「何の話?ねぇ何の話?」

 

 うんうん、良いって事よ。優秀なハンターが増えれば俺も楽出来そうだし。

 

「ああ、そうそう。2人にあげた『真ユクモノ弓』の事だけど、もしも君達が上位に上がったら、まずその弓を強化して使うと良いよ」

「ちょっと無視しないでよ!!ちょっと!?聞こえてんでしょ!?」

 

 『真ユクモノ弓』は溜め段階3が『連射Lv3』であり、かつ上位に上がってから比較的楽に『霊弓ユクモ【破軍】』へと強化出来る弓である。何せ必要な素材が『ユクモの堅木×5』『カブレライト鉱石×8』『ジャギィの上鱗×8』だ。

 ユクモの堅木は渓流の剥き出しになった木の根から剥ぎ取れるし、ジャギィの上鱗は同じく渓流へ行った際にジャギィから剥ぎ取れる。カブレライト鉱石も渓流で採掘してればその内出てくる。全て渓流で揃うのだ。

 俺が2人に『真ユクモノ弓』をプレゼントしたのも、それが理由である。

 『霊弓ユクモ【破軍】』にしてしまえば、上位の殆どのモンスターを狩れる。というか、腕次第でジエン・モーラン以外の全てのモンスターを狩れる。相手によっては時間が掛かるだろうけど。

 

「この弓は一生大事にします!」

「…私達の…宝物、です…」

 

 う、うん……流石に上位へ上がって暫くしたら別の弓を使ってほしいかな…。モンスターの弱点属性を突いた方が効率的だしね…。ジエン・モーランもキツいだろうし…。

 

「ふん!!何よ、弓なんて!!双剣の方が強いんだから!!」

 

 お前双剣廚かよ…。

 まぁ、弓って火力的にはそこまででも無いからね…。使い手によるとは思うが、そりゃあ剣士には負けるわ。

 でもホーリーソードとかいう巫山戯た武器を使ってる人に強い弱いとか言われたくないけど。

 ……そういや、少しお腹空いたな。孤島へ行く前に食べた筈なのに。

 

「ちょっとお腹ちゃった。何か食べに行かない?」

「行きます!」

「…右に同じ…」

「和食なら付き合ってあげない事も無いわ!!」

 

 ………。

 

「……一緒に来る気なの?」

「何よ、不満でもあんの!?」

 

 不満だらけなんですがそれは。

 

「また中華でもいいかな?」

「いいですよ!」

「…賛成…」

「ちょっと!!私は和食が良いんだってば!!」

「うん、じゃあ行ってらっしゃい」

「え…っ!?」

「行ってらっしゃい」

「…な、何よ!!和食なら付き合ってあげるって言ってるでしょ!!」

「私達は中華が食べたい。君は和食が食べたい。なら別々に食べる。OK?」

「……、……和食…」

「………」

「……(和食…)

「……冗談だよ…泣くなよ…」

「な、泣いてなんかないわよ!!」

 

 結局、和食に付き合う事になった。

 




イマサラタウンですが、セツナの名前は勿論、ガンダムエクシアのパイロット『刹那・F・セイエイ』からです。

『ガンダム刹那・FF(ダブルエフ)・セイエイ、出る!』

某MADの台詞。
でっていう。


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再びみんなと温泉に入ったらえらい目に遭った。

ま た せ た な !
百合回だ。
…多分。

あと、前話を見直して思った事が一つ。

エクシア「ロケット頭突きでもくらったのか」

いや、ロケット頭突きされたらドーベル装備のアホみたいに長い角が突き刺さっちゃうからね。

それでは本篇をどうぞ。


 セツナに付き合い、彼女がオススメだという定食屋で食事をしたのだが、これが中々に絶品だった。

 サシミウオのフライ定食を頼んだのだが、衣がサクサクでいながら、身はプリップリで柔らかい。尋常ではない程に美味しかった。一口食べた瞬間に「はわわぁ〜…」とかいう謎の声が出た程である。

 更に味噌汁と漬け物。これらもヤバいぐらいに美味しかった。

 味噌汁のダシはヤオザミからとっていると聞き、思わず「えっ」となったのだが、これが中々どうして美味いのだ。浅蜊でダシを取った味噌汁の様な味がした。いや、それ以上に美味しかった。

 漬け物は大根の様な食感で若干酸味が効いており、それでいながら何処か甘味がある。漬け物とは思えぬ程の美味しさだった。っていうか何の漬け物だったのか。

 とりあえず、結論的に言えば大満足。マジで美味しかったです。ご馳走様でした。

 いやぁ、セツナは良いお店を教えてくれたよ、ホント。お礼に今度は中華のお店に連れて行ってあげよう。

 

「さて、リリーとサニーはこれからどうする?」

「えっと、そうですね……温泉に入ってから、一度家に帰ろうと思ってるんですけど…」

「あー、いいね。温泉。私も付き合って良いかな?」

 

 アオアシラに海へ叩き落とされたので、全身が磯臭いのだ。早急に落としたい。

 

「勿論です!」

「私も行くわ!!」

「………」

 

 もう好きにせーや。

 みんなで温泉に入る事になった。

 

 

 

 

 

 

 例によって早着替えです。ジャン。

 

「あら、あんたもそれ出来るのね」

「えっ?」

 

 そう言うと、セツナは脱衣場へ足を踏み入れ━━━次の瞬間には、彼女の服装がドーベル装備からユアミタオル姿へと変わっていた。

 

「ダ…ッ!?」

 

 思わず某野菜人の王子の如く『ダニィッ!?』と言いそうになった。それ程の衝撃。

 まさかコイツもゲームシステムの加護を受けし者だというのか…!?

 矢っ張り、MHP2ndの主人公なのか…?

 だが、日本人ではなさそうだ。『モンスターハンターポータブルセカンド』という言葉に何の反応も無かったし。

 いや、知らないフリをしている可能性も……と思ったけど、知らないフリをする意味が解らない。

 うむむ、コイツは一体何者なんだ…?

 セツナについて色々考えていると、リリーが、

 

「早着替えマジック『ザ・ワールド』ッ!! って奴ですね!」

「ふふ…っ!」

 

 ━━━いつかの俺の真似をして、ジョジョ立ちを繰り出してきた。サニーも同じく。

 思わず吹き出してしまう。不意打ちはずるい。

 セツナだけは「何言ってんだコイツら…?」みたいな表情を浮かべている。

 ま、まぁ気にするなよ。

 とりあえず2人には「先に行ってるから」と伝え、その場は別れた。ジョジョ立ちの件を追及されたら、またセツナにグダグダと何かを言われそうだ。それはムカつく。

 セツナと一緒に温泉へと浸かる。

 

「んぁ…っ…んぅ…っ」

 

 ……どうにもこの変な声は勝手に出る。我慢しようにも出来ない。

 そして、温泉には他の客が居ない。何でだ。その方が気楽で良いけど。

 ふと、セツナが俺を見ながら顔を赤面させていた。しかも口元が僅かにわなわなと震えている。俺の顔に何か付いているのだろうか?

 暫くしてから彼女は(おもむろ)に口を開き、

 

「…な…なな、何て声を出してんのよ!!へへ、変態!!えっち!!スケッチ(?)!!ワンタッチ(?)!!」

 

 …えー…そんな事言われても…。確かに色っぽい声ではあるなと思うけどさ…不可抗力だし…と言っても信じないだろうな…。

 っていうか、えっちスケッチワンタッチってお前…。別にタッチしてねぇだろ…。

 

「そんな事より、聞きたい事が」

「そんな事って何よ!?そんな事じゃないわよ!!淑女として重要な事よ!!淑女の嗜みよ!!淑女の嗜みがなってないわ!!」

 

 ……んな事言われても、中身は男だし…。

 

「ま、まさかあんた…お、男と…男と、あんな事やそんな事やこんな事を…」

「お()…じゃない、私は男と付き合った事なんかないよ!」

 

 中身は男なんだよ! 何で男なんかと付き合わなきゃならんのだ! 巫山戯んな! 気色悪いわ!

 

「…本当かしら…?」

「本当だよ!」

「どうかしたんですか?」

 

 と、もうリリーとサニーが来てしまった。セツナがくだらない事を言い出すから、聞きたい事を聞きそびれてしまった。

 

「こいつが男と」

「やめれ」

 

 今の流れを説明しようとしたセツナの顔にお湯を掛けて阻止する。

 そしたら「よくもやったわね!」とか言いながらお湯をダバダバ此方に向かって掛けてきやがった。

 この野郎! いや、女だから『この尼』か。

 どっちでもいいわ。

 兎も角、一旦距離を置いて射程圏の外へ逃げる。すると、セツナが追い掛けてきやがった。しつこい奴め。

 これでもくらえと、両手で思い切りお湯を飛ばす。諸に直撃したセツナは「ぶわっ」とか言いながらひっくり返った。ふはは! ざまぁ味噌漬け!

 それでも諦めずに此方へ向かって来る。無駄な事を。

 俺は彼女の側面に回り込む様に時計回りで移動しながらお湯を飛ばす。対するセツナの飛ばすお湯は俺に届いていない。

 馬鹿め、ガンナーの立ち回りを舐めるなよ!

 そのまま一方的な試合が続き、痺れを切らしたセツナが此方に飛び掛かってきた。足元に張られた湯の所為で動きが制限され、躱す事は出来ない。2人一緒にもつれ合って倒れる。

 

「ぶはっ! 直撃攻撃なんて汚いぞ!」

「うっさい馬鹿!!逃げ回ってる奴に言われたくないわよ!!」

「逃げてなどおらん! 戦略だ!」

「何が戦略よ!!正々堂々と勝負出来ないだけでしょ!!この腰抜け!!」

「何だと!? お前の頭が足りないだけだろうが!」

「何ですって!?このっ!!このっ!!」

「わっ! 馬鹿! タオルを引っ張るな! 脱げちゃうだろ! 離せ馬鹿!」

「知らないわよ!!無駄にデカい乳して!!」

「別にデカくねー! 普通だ! っていうかお前が小さいだけだ!」

「何ですってッ!?言ったわねこのっ!」

「やめろ馬鹿! 本当に脱げる!」

「あの、お二人共! お二人共!!」

 

 ふと、リリーの呼ぶ声に俺とセツナは手を止め、其方を見やる。

 

「これ以上の騒ぎは、拙いかと…」

 

 そう言いながら温泉の外、つまり集会所の方を指を差す。

 その先に目を向けると━━━其処には、良い笑顔をした青撫子の受付嬢が立っていた。勿論、目は全く笑っていない。

 

「………」

「………」

 

 俺とセツナは互いに一瞥し合い、静かに温泉へと浸かった。

 …あれは悪戯をした子供を見る様な目だ…お母さんの目だ……。

 受付嬢を怒らせてはいけない。大人しくしていよう。

 リリーとサニーも近くへ来て、湯に浸かった。

 

「………」

 

 沈黙。微妙に重たい空気が流れる。

 暫くしてから、リリーが口を開いた。

 

「セツナさんって、元々はポッケ村のハンターだったんですよね?」

「そうだけど…それがどうかした?」

「どうしてユクモ村へやって来たんですか?」

「……ポッケ村に新しいハンターが来たのよ。新人だったけど、割と使える様になったから私はお役御免になったって訳。……人付き合いとか、あんまり得意じゃなかったしね。お払い箱ってわけよ」

 

 ……村から追い出されたんだろうか。確かに褒められた性格ではないが、何もそこまで…。

 

「セツナさん…」

「何よ?……って、何!?何くっ付いて来てるのよ!?」

「色々あったんですね、セツナさん…」

 

 リリーがセツナをぎゅっと抱きしめる。サニーも反対側から抱きしめる。

 

「な、何よ!?別に寂しいとか思ってないわよ!!同情なんか要らないんだからね!!」

「ええ、解ってます…。でも、ごめんなさい…今、私達はこうしていたいんです…セツナさん…」

「……、…好きに…しなさいよ…」

 

 ……同情だとか、そういう気持ちは置いといて、リリーはセツナを抱きしめずにはいられなかったんだろうな…。その気持ちは何となく解る。

 そして、セツナはそれを受け入れた。リリー達に身を委ねている。

 ……イイハナシダナー。

 おっちゃん、こういう友情には弱いんだよ………誰がおっちゃんだ! 俺はまだ25だ!

 くだらない一人ボケノリツッコミを心中で繰り広げていると、リリーが再び口を開く。

 

「ところで、セツナさんって綺麗な肌をしてますよね……何か特別なお手入れとかしてるんですか?」

「はっ!?し、してないわよ!?」

「そうなんですか……いいなぁ…」

「ちょっ、ちょっと!?そんなに撫でないでよ…!?ひゃぅっ!!ど、どこ触ってんのよ!?」

 

 ……おやぁ? 何だか妙な流れになってきましたよ?

 リリーとサニーがセツナの身体をあちこち触り始めた。

 ……いやらしい言い方に聞こえるかもしれんが、言うほど変な所は触ってない。でも、セツナが無駄に色っぽい声をあげる。

 ………。

 ザ ☆ 復讐チャーンス。

 そっとセツナの背後に回り込み、ボソッと耳打ち。

 

「……(淑女の嗜み…)

「〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 すると、セツナは顔を真っ赤にしながら声にならない悲鳴をあげ、温泉から出て外まで逃げて行った。

 早着替え出来て良かったな。出来なかったらユアミタオル姿で外まで逃げて行った事だろう。

 さり気なくリリーとサニーが「あぁ…行っちゃった…」と残念そうな声を洩らした。あなた達、ノリノリでしたね…。

 ふと、2人の視線が俺の方を向いた。そして、ゆっくりと此方に近付いてくる。

 えっ……な、何…? 何スか…?

 

「……エクシアさんも、綺麗な肌してますよね…」

 

 ななななな何ッ!? ままま、まさかこの俺まで射程圏内だというのか!?

 ちょっ、ちょちょ、ちょっと待て! 一旦落ち着こうか!

 話せば解る! 話せば解りあえ━━━

 

 

 

 アッーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと…気持ちよかった…。

 




とか言ってますが、肌を触られただけで別に変な事はされてませんよ。
ええ。本当に。

以下、おまけ。



 温泉から上がり、集会所から出ようとした所で受付嬢に捕まった。

「ちょっと、来ていただけますか」
「アッ、ハイ…」

 カウンター横の出入り口から外にある別室へ連行される。和室だ。掛け軸とか飾ってある。他には何も無い。何とも味気ない。

「そこに正座して下さい」
「ハイ…」

 そのまま温泉で騒いだ件についてのお説教をくらうのであった。
 ……小一時間程。


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一人で歩いていたら不安になってきたので農場へ逃げ込んだら他のアイルー達が帰ってきていた。

 風呂から出て受付嬢に説教をくらった後、リリーとサニーの両名は帰宅した。部屋を借りて2人一緒に住んでいるらしい。2人暮らしである。実家はもっと遠い所なんだとか。地名は聞いたけど……忘れた。何だっけか?

 兎に角、一人前のハンターになる為、2人で一緒にユクモ村までやって来たのだという。

 何故ユクモ村なのかというと、伝説のハンターとか言われてる俺が居るかららしい。普通の平凡なハンターなんだがなぁ……。

 あ、因みにあの2人は幼なじみらしい。姉妹とかではない。とても仲が良い様で羨ましい。俺は彼女が出来なかったうえに、友達も殆ど居なかったからな…。

 あ…なんか悲しくなってきた…。

 それにしても、さっきは酷い目に遭った。何というかこう……凄かった…。柔らかい女の子の身体に挟まれて……。

 ……思い出したら鼻血が出そうだ。やめよう。

 

 さて、これからどうするかな。

 今は1人で村の中を歩いているのだが、特にする事もない。食べたばかりだから、お腹も減ってないし。

 ……しかし、人々の視線が俺に突き刺さる。何でこんなに見られるんだ。

 個人的には、特に男の視線が気になって仕方ない。一体、何を思って俺を見ているのか。

 普通に凄腕ハンターとして注目されているだけなのか。それとも矢張り、女として見られているのだろうか。エクシアちゃん可愛いし。

 いや、きっとそうだ。そうに違いない。

 ……まさか、いきなり拉致られるとか、そんな展開無いよね…。

 もしそんな事になったら、暗がりで複数の男たちからあんな事やこんな事を……そして、やがては自ら快楽を求める様になり始めるのだ…!

 そう、エロ同人みたいに!

 ………。

 ……や、やべぇよ…洒落にならねぇ…それは洒落にならねぇよ…。何か急に怖くなってきた…。

 もしそんな事になったら、俺は死ぬ。自決してやる。

 歩く速度を速めながら、俺はユクモ農場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「おーい! ご主人!」

 

 魔理沙が二足歩行で此方へ駆け寄り、俺の胸元へ飛び込んできた。慌てて受け止める。相変わらず良い毛並みじゃ。ニャン天を脱がしてモフモフしたい。

 

「どうかしたのか?」

「モンニャン隊のみんなが帰って来たんだぜ!」

「えっ? あっ…」

 

 魔理沙は俺の腕から飛び降り、農場の奥の方へ駆けて行った。もっとモフモフしたかったのに…。

 しかし、モンニャン隊と言ったか? そう言えば、クエストに行かせていた様な気がする。★4の『氷牙竜ベリオロスだニャ!』みたいな名前だったかな。今頃になって漸く戻ってきたのか。

 兎も角、魔理沙の後に続いてゆく。特注よろず焼き機の前に生える大きな木の横に、アイルー達が集まっていた。10匹近くはいる。

 

「よう、大将!」

 

 その中で、ゴツい鎧に身を包むアイルーが話しかけて来た。黒を基調としており、所々に赤い線が入った鎧。まるでアカムトルムの様な見た目。

 『アカムネコサクパケ』と『アカムネコウルンテ』である。兜の『アカムネコサクパケ』は天辺から鳥の様な1枚の羽がはえているのが特徴的。下の方は白で、先へ行く程に赤くなっている羽。綺麗。

 アイルーの毛並みは金色。この豪快な感じは……星熊勇儀だろうか…?

 ……アイルーの身の丈を優に超える、やたら大きな鎚をもっている。薄い黒を基調としており、中心部からは紫色の光が漏れ出ている。おぞましい見た目をした鎚。明らかにオトモアイルーの武器じゃない。何だあれ…?

 

「ご主人さん」

 

 ふと、ニャン天姿で毛並みは赤虎のアイルーが少し大きめの白い袋を差し出してきた。受け取って中を見てみると、木の実やら骨やらがぎっちり入っている。

 これは…素材アイテム…?

 

「それが今回の成果よ」

 

 ……ああ、モンニャン隊のクエストの成果か。

 ちゃんと手に取ってみると、何のアイテムなのかが解る。

 『グラシスメタル×3』『氷結晶×6』『竜骨【中】×2』『上質な鳥竜骨×2』『大きな骨×2』『いにしえの龍骨×3』『バギィの鱗×1』『バギィの皮×2』『上武具玉×3』『ユニオン鉱石×1』『氷牙竜の毛皮×6』『氷牙竜の甲殻×4』『陽翔原珠×1』『瑠璃原珠×2』『耐眠珠×2』『さびた破片×2』『銀のたまご×1』。以上。

 『いにしえの龍骨』が3個もあるじゃあないか。素晴らしい!

 しかも、ベリオロスの素材をぶんどって来ている。……少し多すぎる様な気もするのだが……まるで討伐してきたかの様な量じゃねえか。まぁいいけど。

 あと、何か黄色い虫も入っていた。触りたくないので確認はしていないが。多分、マレコガネとかそんなんじゃないかな。

 

「ありがとう」

「どう致しまして」

 

 赤虎の子は素っ気ない態度で俺の横を通り過ぎて行った。その後を赤いハットと、同じく赤い衣装に身を包んだゴールドの毛並みをしたアイルーが続く。手には白の扇子を持っている。

 あの子は多分、八雲紫だな。髪が金髪だからという安直な理由で毛並みをゴールドにし、高貴な感じを出したいと思ったので防具を『ギルドSネコロポス』と『ギルドSネコスーツ』にしたのだ。

 うん、改めて見ると紫らしさが微塵も感じられない。服が赤だし。

 矢張り毛並みをグレープにするべきだったか……でもグレープは何かキモかったしなぁ…。ゲームで見た時にカラー(ひよこ)ならぬカラーアイルーかよって思った。

 

「どうだい、ご主人? 中々の成果だろう?」

 

 今度は黒の毛並みの子が話し掛けてきた。防具は黒と紫の色をした兜と鎧。

 これは『エスカドネコワイズ』と『エスカドネコソウル』だな。アルバトリオンの端材から作れる防具だ。ゴツゴツしてはいるけど、このデザインは嫌いじゃない。

 この子はナズーリンだな。黒はナズーリンしか雇っていない。

 

「うん、凄いよ。よくこんなに集められたね」

「ふふふ、そんなに誉められたら照れるじゃあないか」

 

 と言いつつ、凄く嬉しそうなナズーリン。誉められて伸びるタイプなのかな。

 

「まぁ、私のダウジング能力を以てすれば、この程度の成果は余裕だよ。でも、一番の功労者は矢張り彼女だろうね」

 

 そう言いながらナズーリンが指差した先には、先程の大きな鎚を持ったアイルー。恐らく星熊勇儀。

 

「何せ彼女は、あの氷牙竜ベリオロスを狩ったのだからね」

「……!?」

 

 うん…っ!? 今、何つった!?

 ベリオロスを……狩った…!?

 それは…つまり…ベリオロスを討ち取ったって事か…!? アイルーが…!? アイルーだけで…!?

 

「おま…っ、それ、本当に…?」

「本当だよ。氷牙竜はあたしが討ち取った。この『猫』の勇儀こと、星熊勇儀がね!!」

 

 ああ…『鬼』じゃなくて『猫』なんだね……まぁアイルーだしね…。

 というか、矢っ張り星熊勇儀だったか。

 それなら何となく納得……する訳ないだろ。アイルーなのに大型種を討伐するとか、何者だよ…。

 多分、アイルーの世界で伝説になってる。

 いや、そんな事よりさ……ナズーリンのエスカド装備を見ていて気付いたんだけど、勇儀が持ってる鎚って『煌黒堅鎚アルメタ』じゃね?

 アルバトリオンの素材から作れるハンマー装備である。あのゴツゴツしたおぞましい見た目といい色合いといい、まず間違いなくそうだと思うんだが? 何でアイルーであるお前さんが持っているんですかね…?

 

「ああ、これかい? 大将のアイテムボックスに入ってたから、ちょっと借りたんだ。いやぁ〜、ちょっと重いけど、これぐらいの方がしっくりくるねぇ」

 

 ……いや…おま……、ちょっと借りたて……ちょっと重いて……しっくりくるて……。

 何かもう、本当に滅茶苦茶過ぎてどこからどうツッコミを入れればいいのか解らん……。

 

「ちょっと、ご主人さん」

 

 足をぺちぺち叩かれた感覚に下へ視線を落とせば、先程の赤虎ニャン天装備の子が足元に居た。お茶の入った湯呑みを持っている。

 

「ここへ座ってくれる?」

「え…っ? あ、うん…」

 

 その場に胡座をかいて座る。

 すると、赤虎ニャン天の子は無遠慮に俺の足の上へ腰掛けた。その隣に紫も座る。彼女も湯呑みを持っていた。

 ……何これ? どういう状況これ?

 更に「ずるいぞ霊夢!」とか言いながら魔理沙も入ってきた。赤虎ニャン天の子は霊夢だった。

 他にも「私も構いなさい」とか言いながらレミリアが入ってきたし、チルノとナズーリンは俺の背中をよじ登ってそれぞれ両肩に乗ってきた。幽々子と星ちゃんは、隣に座ってお茶を啜っている。

 ……マジで何だこれ? どういう状況なのこれ?

 残った勇儀はというと、近くに座って瓢箪から何かをお猪口(ちょこ)に注いで呷っている。

 …酒か? あ、よく見ると瓢箪に酒って書いてある。酒だった。

 

 とりあえず、状況がイマイチよく解らんけどアイルー達は皆、俺に寄り添って寛いでいる。

 本当によく解らん。どうしてこうなった。何で?

 

 まぁでも、幸せだ…。

 俺はアイルー達に囲まれたまま、小一時間程日向ぼっこを堪能した。

 

 

 

 ……ところで、妖夢と咲夜は何処へ行ったのだろうか?

 一番の疑問であった。




アイルーって実際は撫でさせてくれたりするんだろうか。妖夢や咲夜みたいに嫌がるんだろうか。それとも魔理沙みたいに人懐こい個体も存在するのだろうか。アイルーを飼いたい。アイルーを撫でたい。アイルーを抱っこしたい。アイルーと一緒に暮らしたい。アイルーとお話ししたい。アイルー可愛い。可愛いよアイルー。
ただしメラルー、テメーはダメだ。強走薬グレート返せばか。おばか。


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またしてもギルドから緊急の依頼が入った。

 小一時間程すると、アイルー達は皆散って行った。魔理沙だけは矢張り残っている。可愛い奴めっ!

 とりあえずやる事も無いし、魔理沙の装備を脱がして━━オトモボードの『オトモ装備』から選択して外す━━戯れる事にした。モフモフで艶やかな毛並みがたまらんぜ!

 因みに、装備を脱がした時に「ご主人はえっちだぜ…」と言われた。ごめんなさい。でも、アイルー相手に興奮したりしないよ。いや、別の意味で興奮するけど。可愛さ余って可愛さ百倍!

 うん、意味不明だ。

 っていうか、外に居るアイルーやらメラルーやらは防具とか装備してないぞ。何で脱がしたら『えっち』になるんだ。そんな事言ったら、外に居る奴らはみんな露出狂になってしまうじゃないか。大体、レミリアと幽々子と星ちゃんだって防具つけてないんだぞ。

 何故だ。脱がしたからか。脱がしたからなのか。

 まぁ、兎も角だ。そんな感じで魔理沙と戯れていたんだけど、平和でのんびりとした時間は突如現れた闖入者によって終わりを告げた。

 

「大変です! エクシアさん!」

 

 ━━━青撫子装備の受付嬢である。

 

 ま た あ な た か 。

 

 台詞からして、何かしらギルドに緊急の依頼が入ったんだろうな。今度は何ですか? アマツマガツチ? それともウカムルバス?

 まさかアルバトリオン何て事は無いよね? もしその辺の超大型種だったらセツナ辺りに押し付けよう。面倒だし。彼女なら狩れるでしょう。

 とりあえず詳しい話を聞いてみると、

 

「渓流にドスファンゴが大量発生したとの事です!」

 

 ………。

 く、くだらねぇ……。余りのくだらなさに顔が引き攣る。ドスファンゴって……。

 いや、確かに現実で猪と相対するのは危険だよ? 猪相手に大怪我、最悪命を落とす人だっていると聞くしね。

 でも、このモンハン世界の猪であるドスファンゴって、新米ハンターでも楽々狩れる相手なんじゃないですかね…。

 それに大量発生ってさぁ、どうせあれじゃないの?

 集会所下位クエスト★5の『集え! 砂原の土砂竜戦』と同じで、成功条件が『タイムアップもしくは、ネコタクチケットの納品』で、失敗条件が『2頭以上を狩猟せずにタイムアップ、もしくは報酬金ゼロ』と同じやつでしょ?

 後は★8の『謳う! 渓流のクルペッコ!』もそうだな。こっちはやった事無いけど。

 たかだかドスファンゴが現れた程度で何故俺の元へ来るのか。その辺のハンター雇えばいいじゃないですか…。

 何て事は言わないけどね。一応、自分の立場が危うくなる様な行動は避けるべきだ。

 

「解りました、すぐに支度して行きます」

 

 そう返すと、受付嬢は「お願いします」と言い残し、去っていった。

 ……アカムトルムが出現した時と同じ様な慌てようだったけど、何がそれ程までに彼女の危機感を煽るのか。

 まさか、超大型のドスファンゴが相手だったり?

 ……それは確かに、ちょっとだけ恐ろしいな。ちょっとだけね。

 何はともあれ、準備をしなくては。ドスファンゴ相手なら弓よりも剣士の方が早いよなぁ。こっちの世界に来てからは初めてだけど、双剣を使ってみますか。

 近接戦闘になるから、オトモも変えなければ。

 

「魔理沙、今回は留守番ね」

「そんなー!?」

 

 爆弾魔の君を連れては行けないのだ。解っておくれ。

 丁度農場に居る訳だし、ここのオトモボードから変えるか。

 『オトモ選択』の『選択』をタッチし、レギュラーメンバーを表示する。魂魄妖夢、十六夜咲夜、霧雨魔理沙、チルノ、虎丸星の5匹。

 ……あれ、枠の横に『⇒』のマークが表示されている。タッチしてみると、次のページに移動した。

 西行寺幽々子、博麗霊夢、八雲紫、星熊勇儀、ナズーリンの名前が。

 試しに幽々子の名前をタッチしてみると、オトモ1かオトモ2のどちらに設定するかと出た。

 ……控えも選択出来るのかよ。レギュラーメンバーの意味は…。

 ま、まぁいいや。

 今回は近接戦闘がメインになるので、魂魄妖夢と━━━

 

「……!?」

 

 ━━━名前をタッチしたら、ステータス画面が表示された。

 いや、俺が驚いてるのはそこじゃない。それは前から知っていた。

 

「……Lvが、上がってる…?」

 

 そう、妖夢のLvが20から21へと変わっているのだ。

 おかしい。3(トライ)以降の作品がどうだかは知らないが、3rdのオトモアイルーのLvは20が上限の筈だ。何で限界突破してるんだ…?

 よう解らん。解らんけど、ラッキーという事で片付けよう。考えても仕方ない。

 他のメンバーを確認してみると、幽々子と星ちゃん以外は全員21になっていた。つまり、クエストに連れて行ったオトモとモンニャン隊としてニャンタークエストに出していたオトモアイルーのLvが上がっているのだ。

 防具を装備していない魔理沙の能力を見てみる。

 

 霧雨魔理沙

Lv   21

攻撃力 257

防御力 351

オトモ装備

武器:ベリオSネコ包丁

頭 :装備なし

胴 :装備なし

 

 ……防御力は11上がっている。

 攻撃力は、ベリオSネコ包丁が76だからそれを差し引き……181。ボーンネコピックの攻撃力14を足して195。前回見た時の数値は184だったから、攻撃力も11上がっている。

 他のアイルーの数値も計算してみたが、皆同じ値だった。性格はバラバラの癖に、ステータスは一緒なんだな。

 ただ、勇儀だけは装備品がおかしいので攻撃力が突出していた。

 まぁ、そんな事より誰を連れて行くかだ。

 ……そうだな、まずは妖夢をオトモ1に設定。すると、白い毛並みのニャン天装備を纏ったアイルーが背後に現れた。

 ……設定を変えると召喚されるらしい。人(?)権も何もあったものではない。っていうか妖夢を久しぶりに見た。

 何処に行っていたのか聞いてみると、

 

「お呼びが掛からなかったので、剣の修行に励んでおりました」

 

 マジですか。何という剣士の鑑。妖夢さん格好いいです。修行の成果を見せて下せえ。

 さて、もう1匹のオトモを誰にするかだが…。

 

「大将!」

 

 背後からの声。振り返れば、アカム装備に身を包んだゴールドの毛並みを持つアイルーが立っていた。

 『鬼』ではなく『猫』の勇儀こと、星熊勇儀さんである。相変わらず『煌黒堅鎚アルメタ』を携えている。いや、使い終わったら戻しとけよ。……俺はどうせ使わないけどさ。

 

「一狩り行くのかい? だったらあたしも連れてっておくれよ。腕が鈍ってしょうがない」

 

 ……あなた、ニャンタークエストから返ってきたばかりでは?

 ベリオロスを狩ってきたのに、まだ暴れ足りないと言うのか。何という戦闘狂。流石は元のキャラクターが鬼なだけあるな。頼もしいから連れて行こう。

 

「解った、頼むよ」

「そうこなくっちゃ!」

 

 嬉しそうな勇儀姉さん。

 星熊勇儀の名前をタッチしてステータス画面を開くと、

 

 星熊勇儀

Lv   21

攻撃力 536

防御力 361

武器:煌黒堅鎚アルメタ

頭 :アカムネコサクパケ

胴 :アカムネコウルンテ

 

 うん、矢っ張りおかしい。とりあえず武器がおかしい。ハンター用の装備だからね。攻撃力205の龍属性40。切れ味はオトモの武器には無い、白。

 まぁ、頼もしいので取り上げたりはしない。勇儀姉さんがどうやって闘うのかも気になるし。

 とりあえず2匹とも防具は最高の物を装備しているから良しとして、武器の方は妖夢だけ変えておこう。

 ……王牙ネコ剣【猫雷】で良いか。ドスファンゴの弱点って確か雷だったものな。あんまり覚えてないけど。

 よし、これで準備完了だな。

 そう思い、身体の向きを変えたら、いきなり顔にモフッとした何かがくっ付いた。

 な、何だ!? 前見えん…!? 見えんぬ…!? 前見えん…!

 って、ハリスさんの真似してる場合じゃねぇわ。ハリスインパクト。

 顔に貼りついたそれを剥がしてみたら、魔理沙だった。

 

「狩り場についてくのは諦めるけど、せめて村の中では一緒に居る!!」

 

 ……魔理沙…。

 

 可愛過ぎるだろっ!!

 

 魔理沙を肩に乗せた俺は農場を後にした。

 



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これで三度目だけど、この人はストーカーなんだろうか。

 農場を後にした俺は、早速自宅へと戻った。今度は自分の準備をする為だ。とりあえず肩に乗ってる魔理沙を降ろす。

 アイテムボックスの前に立ち、メニュー画面を開いて『マイセット装備』の項目から20番目の『双剣』と書かれたセットに変更。

 更に『装備変更』の項目から青い双剣アイコンをタッチし、武器を変える。

 

武器:王牙双刃【土雷】

頭 :バンギスヘルム

胴 :ナルガUメイル

腕 :ナルガUアーム

腰 :ネブラUフォールド

足 :荒天【袴】

護石:龍の護石

 

 発動スキルは『切れ味レベル+1』『スタミナ急速回復』『ランナー』『力の解放+1』。

 見事にグチャグチャのセット装備。対中型モンスター用である。ドスファンゴとかアオアシラとか。剣士の時はそれぐらいしか相手に出来ない。逆を言えば、弓でやるには面倒だから用意した、という訳だが。

 スキル内容は強走薬をケチりたかったが故に、こんなよく解らないセット装備となった。実用性は微妙かもしれない。

 見た目はというと、昔の女ヤンキーみたいな感じである。

 まず、バンギスヘルムはヘルムといいつつ口元を覆うだけの装備であり、マスクの役割を果たしている。

 ナルガUメイルは胸元だけを隠しているのがサラシの役割を果たし、荒天【袴】が何となくロングスカートに見えなくもない。前が全開だけど。

 これで釘バットでも持ったら完全にヤンキーだと思うのだが。片手剣のドラグロメイスでも装備すればいいのだろうか。2ndGに釘バットの片手剣があった気がする。名前は何て言ったっけか。

 まぁでも、俺はこのヤンキースタイルがそれ程嫌いではない。寧ろちょっと好き。ナルガ装備の胴は露出が多いし、ゴツゴツしていない。KENZENな一般男性の考え方である。HENTAIとか言わないで。

 アイテムは……別にこのままでいいや。どうせただのドスファンゴ狩りだし。必要そうな物は無いだろう。

 ……あっ! 駄目だ!

 アイテムボックスのメニューを開き、中から砥石を取り出す。

 あ、危なかった…。砥石を忘れたら悲惨な事になるところだった。

 まぁ、ドスファンゴは切れ味レベルが赤まで下がっても弾かれる様な事は無いから、それ程困りはしないんだけどね。

 それでも効率が悪くなるのは間違いない。与えるダメージがとんでもなく下がってしまう。

 念の為にキレアジも持っていこうかな。武器を研ぐ事が出来るぐらいに背ビレの硬い魚である。あって困る様な物でもあるまい。必要ないだろうけど。

 さて、これで準備は整った。

 

「じゃあ魔理沙、行ってくるよ」

「うぅ……早く帰ってきてくれよ…?」

 

 可愛い。魔理沙可愛い。まるで夫の帰りを待つ妻の様な……いや、どちらかというと父親の帰りを待つ幼い娘か。俺は今、女だけど。身体だけは。

 でもまぁ、早く帰るという点は心配要らないよ。ドスファンゴなぞ、可及的速やかに瞬殺してあっという間に帰ってくるから。

 

「さて、行こうか。妖夢、勇儀」

「はい、ご主人様」

「腕が鳴るねぇ」

 

 俺達は自宅から直通している通路を通って集会所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃないの!!」

 

 ま た お ま え か 。

 って、この台詞も何度目だ。何でこの人はいつもストーカーの如くに集会所で待ち構えているんですかね…。

 

「えっと、私はこれからクエストに行かなきゃいけないから、構ってあげてる時間は無いんだ。ごめんね?」

「子供を諭すみたいな言い方すんじゃないわよ!!腹立つわね!!」

「よしよし、いい子いい子」

「気安く撫でるんじゃないわよ!!」

「おっと、危ない」

 

 俺の腕を払いのけようとしたセツナだが、その動きを察知した俺は払われる前に手を引っ込めた。そう何度も同じ手はくわぬよ。ヌハハハハッ!

 

「ぐぬぬ…っ!!ぬがーっ!!」

「うわ…っ」

 

 セツナがいきなり飛びかかってきた。

 ……けど、そのまま俺に抱き付いて離れない。何してんの…?

 あ、よく見たら床を何度も蹴っている。もしかして、俺を押し倒そうとしてるのだろうか…?

 ハンターの割に非力だな……いや、チビだし見た目通りと言うべきか。それとも、俺の方が力は上だからなのか。っていうか押し倒してどうするつもりなんだろう。お互いに恥かくだけだよ。

 何にしても、離れてくれないだろうか。この状況は、何というか、抱き合っている様に見えなくもない。変な勘違いされてしまうかもしれない。

 

「エクシアさん……」

 

 背後からの声に振り返ると、いつもの青撫子を身に纏った受付嬢が立っていた。

 …ちょ…、何その表情。引いてます? もしかして引いてます?

 違います、コイツとはそういう関係じゃ……ええい、離れろし!

 しかし、振り解こうとしても振り解けない。何でだよ、非力のくせにぐぬぬ…っ!

 

「セツナさんとは、そういう関係なんですか…? (……私じゃ駄目なんですか…?)

 

 ほらもう勘違いされてるぅぅぅっ!

 違うからぁぁぁぁぁっ! コイツとはそういう関係じゃないからぁぁぁぁぁっ!

 後半はボソッとした声でよく聞き取れなかったけど、兎に角これ以上いらん誤解を招く前に話題を逸らさねば!

 えーっと…そうだ!

 

「そ、そんな事より、クエストを受けたいんですが…」

「あ、はい。では此方へ…」

 

 ナイス俺!

 しかし、セツナがどうやっても離れない。仕方なくそのまま少し持ち上げてカウンターの前まで運ぶ。周囲の視線が痛い…。ハンターショップのお姉さんとかが、こっちを見て笑っている様な気がするし…。どう見ても変態だよ…俺達…。

 とりあえず、受付嬢の提示するクエスト用紙に視線を落とす。

 

 狩猟クエスト

渓流のドスファンゴ狩り祭り

 

 クエスト内容

ドスファンゴの全滅

 

報酬金 20000z

契約金  750z

指定地  渓流

 

 また渓流か。っていうか春のパン祭りみたいに言ってんじゃねーよ。ってか、報酬金高くない? 20000zって何? ドスファンゴだよね? 何これ?

 兎も角、契約金を支払い受託完了。

 

「では、今回のクエストは()2()()での出発になります」

 

 ……うん? 何だって?

 今、2()()での出発って言った?

 

「えっと……2人、ですか…?」

「はい、お2人です」

「私も行くのよ!!」

 

 ふと、今まで俺に引っ付いたまま離れなかったセツナが漸く離れてくれた。

 っていうか、えっ…、セツナと一緒なの…?

 

「何を明らかに嫌そうな表情してんのよ!!」

 

 だって嫌ですし…。

 

「足とか引っ張られそうですし…」

「ぬわぁんですってぇぇぇっ!?」

 

 あ、やべ。口に出しちゃった。そんなつもりは無かったのに。

 

「私はそんな間抜けな事しないわよ!!寧ろあんたに足を引っ張られそうで怖いぐらいよ!!全くこんなクエストぐらい私1人で充分なんだけどね!!ギルドの意向だから仕方なくよ仕方なく!!でなきゃあんたなんか願い下げなんだから!!その辺ちゃんと解ってんの!?」

「……じゃあ、足を引っ張っちゃいけないし、私は降りた方が良いな。クエストは彼女が一人で行くそうですよ」

「ちょっと何勝手な事言ってんのよ!!折角だから勝負するのよ勝負!!降りるなんて絶対に許さないんだから!!逃がさないわよ逃げるんじゃないわよ!!」

 

 どっちやねん……。

 

「エクシアさん、ギルドの意向ですから…」

「冗談ですよ。雑談はこれくらいにして、そろそろ行ってきますね」

「あ、はい。お気をつけて」

「ちょっと!!無視するんじゃないわよ!!何であんたは無視するのよ!!」

「よしよし」

「撫でるなぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「HAHAHAHAHA」

 

 怒るセツナに追いかけられながら、俺はクエスト出発口へと足を運んだ。

 



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ドスファンゴ狩り祭りの名は伊達ではなかった。

 さて、やって来ました渓流━━━

 

「捕まえたぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐふっ!」

 

 右脇腹に強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされた。セツナのタックルである。開始早々の不意打ち。何すんねん。

 そのまま人の上に跨がり、

 

「あんたって奴は!!どうしてそう人を子供扱いすんのよ!!私は25だって言ったでしょ!?聞いてなかったの!?バカなの!?死ぬの!?大体、あんたは幾つなのよ!!どうせ年下でしょ!!教えなさいよ!!」

 

 マシンガントーク。早すぎて何言ってるか解んないっぷー。

 っていうか、いきなりタックルしてきたって事は、コイツも瞬間移動をしてきたという事なのだろうか。もしも違うなら、移動の間に少しは怒りが鎮火する筈だし。というか、渓流へ来るタイミングがズレる筈。

 矢っ張りセツナもゲームシステムの加護を受ける人間という事なのか?

 そうなると、コイツがMHP2ndの主人公という説が濃厚だ。ゲームの主人公だからこそ、ゲームシステムの恩恵に肖る事が出来るのだと俺は睨んでいる。

 まぁ、他のハンターと殆ど関わりが無いので、実際の所どうなのかは解らない。全ては憶測に過ぎないのだ。

 

「ちょっと聞いてんの!?また無視するつもりなの!?幾つなのか教えなさいよ!!教えなさいよ!!」

「あーもー、うるさいな。その口閉じないと舌を入れてキスするぞ」

「な…っ!?なな、な…っ!!」

 

 顔を真っ赤にしながらセツナが俺の上から飛び退いた。

 ふっ、お前がピュアな心の持ち主だという事は、一緒に温泉へ入った時から見抜いていたぜ!

 更にどんどん後退って━━━

 

「馬鹿! そっちは危ない!」

「ぅあ…っ!」

 

 俺はセツナの足を掴んで止めた。彼女のすぐ後ろには断崖絶壁。俺が止めなければ、崖から転落していた。

 

「あ…っ、ありがと…」

 

 セツナは礼の言葉を述べて立ち上がり、崖付近から離れる。気をつけろよな、全く。

 って、脅かした俺も悪いのか。謝らないけど。

 さて、と。

 今現在、俺達はベースキャンプに居る訳だが、このクエストって上位クエストなんだろうか。金額的に考えると間違いなくそうなんだけど、クエストランクを見た訳でもなし。だが、上位クエストならば何処か別の地形から始まってもおかしくない筈だ。

 ……支給品ボックスを覗いてみれば解るか。

 近くの青い箱に触れると、メニュー画面が表示される。中には応急薬やら携帯食料やらが入っていた。

 という事は、このクエストは下位クエストという事になる。……金額がおかしかったが、一体どういう事なのだろうか。

 そういえば、クエスト成功条件もおかしかった。ドスファンゴの()()ではなく、ドスファンゴの()()と書いてあった。

 一体どういう事なのか。

 

「ちょっと、支給品私の分も残しといてよ」

「ん? ああ、解ってるよ」

 

 隣にセツナが来て、支給品ボックスを覗く。

 大体半分ずつが普通だよな。

 『応急薬×6』『携帯食料×4』『携帯砥石×2』『携帯シビレ罠』。

 こんなもんかな。後はボウガンの弾やら弓に使うビン類やらと、剣士の役には立ちそうにない物ばかりだ。

 

「よし、行くか」

「仕切ってんじゃないわよ」

「はいはい、解った解った」

「何よその言い草は!!本当にムカつくわねあんた!!」

「大将、コイツ殴っていいか?」

 

 さり気なく勇儀さんが恐ろしい事を口走る。やめてくれ。こんなでも一応仲間なんです。妖夢も恐い顔しない。

 険悪な雰囲気のパーティーメンバーを宥めつつ、俺達は地味に長い傾斜を下ってエリア1番へと辿り着く。広く浅い川が流れる場所。

 そこを経由して、更に北へと進む。前回は西からエリア2番へと向かったが、今回はエリア4番へと向かう。

 長い長い道をひたすらに走ってゆく。孤島の時よりも更に長い。10分近く走って、軽い下り坂へと差し掛かる。エリア4番にはまだ辿り着かない。長すぎる。何だこれは。何でこんなに長いんだ。

 何キロ走ったのだろうか、傾斜を下り続けて2、3分程して、漸く開けた場所に出た。エリア4番である。こんなに遠いならエリア間の移動こそ瞬間移動してほしいと思う。

 

 さて、エリア4番であるが、かなり広いエリアだ。しかしながら、寂れた木造建築物もある。中央付近にあるものは、恐らく2階建てだったのだろうが、1階が達磨(だるま)落としでもされたかの様に無くなっており、2階部分は壁だけが残っている。床が骨組みだけを残してすっぽり無くなっているのだ。屋根も同様である。

 人が過去に住んでいたのだろうか。その辺りはよく解らないが、一体何をどうすればこのような有り様になるというのか。ジンオウガとかが暴れたか?

 右方にも同じ様な事になっている建物が幾つか存在する。何があったというのか。

 まぁ、そんな事よりも今はドスファンゴ退治である。先程述べた中央付近にある倒壊した建物から西の方角に、緩い上り坂となっている道があるので其方へと向かう。

 右手の方には坂に違い崖があり、その先には美しい自然に囲まれた大きな川が一望出来る。綺麗な景色だ。

 暫く傾斜を上ってゆくと、木々に囲まれている開けた場所に出た。エリア5番である。

 ドスファンゴなら、きっとここに居るだろうと踏んでやって来たの、だが……。

 

「……嘘、だろ…」

 

 そこにドスファンゴは居た。確かに居た。

 

 ━━━6頭ものドスファンゴが、闊歩している。

 

 ……おいおい、何の冗談だよ…?

 ドスファンゴが同時に6頭……しかも同じエリアに存在するとか……。色々と有り得ないだろ。縄張り争いとか起こるだろ。何で反目せずに群れてんだよ。おかしいだろ。

 いや、でもブルファンゴは時として大規模な群れを形成する、と説明文にかいてあった様な気が…。

 

「ボサッとしない!!来るわよ!!」

「…っ!?」

 

 セツナの声に、ハッと我に返る。ドスファンゴ達は既に此方の存在に気付いており、前足で地面を擦っていた。

 拙い、突進してくる気だ…!

 そう思った次の瞬間、ドスファンゴ達は一斉に走り出した。……俺を狙っている!

 すぐに脇へと逸れる。ドスファンゴ達は俺の立っていた場所付近で急停止。再び俺の方へと向きを変える。

 何で俺を狙って来るんだ? 俺、何かした?

 ふと、6頭の内の1頭がひっくり返った。見れば、勇儀がやったらしい。更に追い討ちとばかりに頭をぶっ叩いている。強っ。本当にアイルーかよ。

 妖夢は別の個体へと斬り掛かっていた。主に顔の辺りを狙っての攻撃。斬る度にバチバチと青い雷が走る。

 ドスファンゴも振り払おうと顔を振ったりするのだが、妖夢はそれを華麗に回避してみせる。流石、アカムを相手に臆せず立ち向かう妖夢だ。ドスファンゴなどは相手にならない。

 セツナも1頭のドスファンゴを相手取っていた。ホーリーセーバー(笑)を抜き放ち、鬼神化からの乱舞攻撃でドスファンゴを斬りつけまくる。その刃が肉を斬り裂く度にホーリーセーバーから水が吹き出る。一体どういう原理でそうなるのか。謎である。

 で、残った3頭は執拗に俺を狙ってくる。何でだ。

 

「上等だ…、ぜっ!」

 

 ドスファンゴの突進を躱しつつ、王牙双刃【土雷】で斬りつける。ゲームと違って、回避と攻撃を同時に行う事も出来るから楽だ。

 さぁ来いよファンゴ! 角なんか捨ててかかって来い!

 そんな風に調子扱いてる時だった。

 

「ぐふぅっ!」

 

 突如、背中に強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。地面に叩きつけられた勢いを利用して跳ね上がり、翻筋斗(もんどり)打って着地する。

 見れば、ドスファンゴの突進をくらったらしい。俺の相手取っていた3頭ではない。セツナやオトモ達もそれぞれ1頭ずつ相手をしている。

 ならばコイツは━━━7頭目か!

 くそ、まだ増えるのかよ!? 何頭居るってんだ! 時間掛けてる場合じゃねぇな!

 透かさず俺を引いてくれたドスファンゴに駆け寄り、

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ━━━ッ!!」

 

 両手に持ったの双剣で、某スタンドの如くに突きまくる。裁くのは俺の双剣だァー!! なんつって。

 いや、どちらかと言えば戦国BASARAの真田幸村が使う『烈火』の方が近いか。武器を用いての突きだし。

 兎も角、ひたすらに突きまくる。ドスファンゴが此方へ向き直るよりも早く、他の3頭が突進してくるよりも早く。ゲームでは絶対に有り得ない超連続突きにて、僅か数秒の内にドスファンゴは息絶えた。

 所詮は下位のドスファンゴだな。体力が全然低い。秒殺出来る程にな。

 さぁ、次はどいつだ!? テメェか!?

 

 俺は残るドスファンゴに向かって駆け出すのであった。

 




みぃぃぃぃぃなぁぁぁぁぁ()ぃぃぃぃぃるぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁッッッ!!!!!

BASARAは2英雄外伝が一番好きでした。


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ドスファンゴ狩り祭りの名は本当に伊達ではなかった。

 ドスファンゴの突進を紙一重で躱しながら、王牙双刃【土雷】でその身体を斬り裂く。すると、ドスファンゴは糸が切れた人形の様に崩れ落ち、ゴロゴロと数度転がった後に倒れて動かなくなった。

 

「よし、これで20頭目だ」

 

 そう、これで俺が狩ったドスファンゴは20頭にも上る。俺一人で20頭だ。セツナや勇儀、妖夢の狩った分を含めれば、更にプラス30頭は狩っただろう。

 合計にして50を超える。ゲーム時代の事を考えれば、明らかに異常な数である。異常発生にも程があるだろ。

 それでいながらドスファンゴはまだまだやって来る。どんどんやって来る。どこからそんなに現れるというのか。

 何にしても、死体が邪魔だ。エリア5番がいくら広いとはいえ、50もの死骸があれば流石に邪魔になってくる。ゲーム時代と違って死体をすり抜ける訳ではないので、何度も足を引っかけては転んでいる。そのくせドスファンゴの突進に全く揺らぎはない。厄介にも程がある。

 

「セツナ、場所を変えよう! 死体が邪魔になってきた!」

「そうね!!何なら二手に別れましょう!!その方が効率的よ!!」

「解った! 私は西へ回ってドスファンゴを討伐しながら北のエリアを目指す!」

「じゃあ私は東からね!!どっちが多く討伐出来るか勝負よ!!」

 

 それだけ言い残し、セツナはエリア4番へと駆けて行った。元気なやっちゃな。

 

「よし、勇儀! 妖夢! ついて来い!」

「了解、大将!」

「承知しました!」

 

 勇儀と妖夢を引き連れ、エリア6番の浅い川が流れる地帯へと向かう。4頭のドスファンゴも後をついて来る。奴らの方が足は速いので気を抜けない。

 幸いにも、エリア5番とエリア6番の道程は短いので助かった。すぐにエリア6番へと辿り着く。

 さて、浅いとは言え川があるのは動き辛い。この世界はゲームと違って現実なのだ。水の影響は受けてしまう。

 とはいえ、ドスファンゴの動きが間抜けにもゲーム時代と全く一緒なので、例え川が流れていようが大丈夫だ、問題ない。

 ドスファンゴは4頭居る。いや、今脇の林から新しいのが出てきて5頭になった。

 早速突進してきたドスファンゴに一太刀浴びせながら横へ飛び、攻撃を回避する。うん、余裕だわ。所詮はドスファンゴだな。これなら一人でも何とかなるだろう。

 

「勇儀、妖夢! お前たちはそこの滝の中の洞窟から飛竜の巣を経由して西へ向かってくれ! それから北の大きな川が流れるエリアで落ち合おう! 道中でドスファンゴを見つけたら可能な限り駆逐する事! ただし無茶はするな! いいな!」

「あいよ、任せな大将!」

「承知致しました」

 

 2匹の姿はすぐに滝の裏側にある洞窟の中へと消えていった。正直、あの2匹のコースが一番遠回りではあるが、流石にエリア8の飛竜の巣にドスファンゴは居ないだろう。

 ……、……雌火竜も居ない、よな…? 多分居ない筈。居ない事を願う。

 まぁ俺の狙いは、その先にあるエリア9番に居るであろうドスファンゴの駆除だ。勇儀はハンター専用である筈のハンマーを勝手に装備して振り回す程の豪傑だ。ベリオロスも狩ったらしいし、ドスファンゴ程度は苦にならないだろう。

 だが、数が異常に多い。流石に1匹だけでは心配なので、妖夢をお供に付けた。2匹居れば大丈夫だろう。

 さて、そんな事よりもこいつらの相手をしなきゃだな。幾らドスファンゴの体力が低いとはいえ、5頭も居れば回避の手間が増えて攻撃の機会が減る。地味に時間が掛かるんだよなぁ…。

 ……あっ。画期的な事を思いついた。出来るか解らんが、やってみよう。

 突進してきたドスファンゴを躱し、その個体が立ち止まったのを見計らって身体の上に飛び乗り、跨がった。そこから真田幸村よろしく『烈火』の如くに突きを繰り出しまくる。刺す度に青い雷が走り、鮮血が飛び散る。

 明らかに致死量の筈なのに死なない。傷にしても、血が盛大に飛び散る割には1秒もしない内に塞がる。この世界のモンスターは究極生命体か何かか。

 10秒程して、ドスファンゴは息絶えた。ゲームと同じ様にいきなりゴロッと倒れるので、俺の身体は投げ出される。ぶへぇ、川の水が鼻に入った…!

 

「……危ねっ!」

 

 慌てて前転移動。俺の元居た場所をドスファンゴが通過していった。あ、危なかった…。

 にしても、さっきの方法は使えるぜ。他のドスファンゴの突進が当たらない上に、一方的に攻撃する事が出来る。画期的な戦闘方法だ。俺は遂に、このリアルモンスターハンター攻略の第一歩を踏み出した!

 とまぁ、それは良いんだけど。突きのラッシュを行ったというのに、ドスファンゴが生き絶えるまでに10秒も掛かってしまった。もしかしたら……いや、もしかしなくても切れ味レベルが下がっているんだ。20頭も討伐してんだから当たり前か。ゲージとかがある訳じゃないから、切れ味が下がっても全く気付かない。

 砥石で……、……この状況でどうやって研ぐんだ…? ドスファンゴ1頭ならどうとでもなる。だが、今この場には4頭のドスファンゴが居るのだ。4頭も、である。

 ……無理だろ。どないせえっちゅうねん。くっそ、こんな事なら弓にすれば良かったか…! 弓が欲しい! 弓でやりたい!

 ……無い物ねだりをしても仕方がない。ゲームなら『砥石使用高速化』のスキルでも無ければどう考えても無理だが、これは現実である。やり様は幾らでもある筈さァー!

 

 プラン1、ドスファンゴに跨がって研ぐ。

 ……無理だな。滅茶苦茶暴れるから、研ぐのはかなり難しい。却下。

 プラン2、逃げ回ってドスファンゴを撒く。

 ……これも多分無理だな。こいつら執拗に追い掛けてくるから撒くのは難しいし、逃げた先で別の個体と遭遇、なんて事もあり得る。却下。

 プラン3、どうしようもない。現実は非情である。

 馬鹿か。諦めてどうするよポルナレフ。その内、切れ味が赤になって討伐が面倒になるだろうがよ。諦めんなよ! もっと熱くなれよ!

 …こうなったら、タイミングを見てダメージ覚悟で使うしかない! 研げればそれで良かろうなのだァー!

 ふと、絶好のチャンス到来。4頭同時に突進攻撃を繰り出してきた。それを難なく躱し、透かさずアイテムポーチに触れて目の前に並ぶアイコンから砥石を選択。すると、右手に何かを掴んだ感覚。目の前まで持ってくると、それは黒い長方形の石だった。まごうごとなき砥石だ。

 ………。

 ……いや、使ってくれないのかよ!? 回復薬とか選択したら、身体が勝手に動いて飲んでたじゃん!? 何で砥石は使ってくれないんだよ!? 自分で使えってかクソッタレー!

 何て考えてる間に、ドスファンゴが再び突進してきた。くっそ、折角のチャンスが……!

 ええい、こうなったら走りながら研いでやる! 双剣の一本を口に加え、もう一本を砥石で研ぐ。

 や、やりづれぇ……。ガタガタ揺れるからやり辛いよ…。面倒くさいよ…。

 それでも頑張って武器を研ぐ。ってか武器の形状的にも面倒くさい。ジンオウガの甲殻みたいにギザギザしてるんだもんよ…。

 先端から根元まで、細かく丁寧に研いでいく。そうして1分ぐらい経っただろうか。砥石がいきなりボロッと崩れて消滅した。

 

「……ッ!?」

 

 な、何で…!? 何が起こった!? まだ片方しか研いでないんだけど!?

 ……何か頭の中で『砥石が!』みたいなメッセージウィンドウを思い浮かべてしまった。モンスターの卵を落とした時の『卵が!』みたいな。若しくはブーメラン投げてどっかに飛んでった時の『ブーメランが!』みたいな。

 よく解らんが仕方ない。もう一個砥石を取り出し、剣を入れ変えて走りながら研ぐ。同じ様に暫く研いでいたら、またしても崩れ落ちて消滅した。恐いわ。

 だが、これで切れ味は最大まで回復した筈だ! 準備万端だ!

 さぁ来━━━

 

「ぐふっ!」

 

 背後からの不意打ち。数メートル程吹き飛ばされる。

 くそ、また新手かよ。5頭に戻っちまった!

 ……いや、もう1頭新しい奴が来てる! 6頭になっちまった!

 マジで何頭居るんだよ!? どんだけ繁殖してんだ!

 

「……上等だぜ…!」

 

 何頭居ようが関係ねぇ! 全部纏めて相手してやらぁ!

 かかってこいやオラァァァァァッ!

 

 俺はドスファンゴの群れに向かって駆け出すのであった。

 



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ドスファンゴ狩り祭りマジでふざけんな。

 日は沈み、美しい満月が顔を出し始めた頃の事。

 場所は変わって、渓流の中で最も西にあるエリア9番。地図で言えば、最も左にある場所である。

 ここには大きな大木が存在する。といっても、縦に背が高いのではなく、横に大きいのだ。目算で横幅が7、8メートルはあるんじゃないかという太さ。枝も長く伸びて紅葉の様な葉を窶しているが、ベッキリと折れた太い枝もある。上の方が平たくなっている様で、そこは何か生き物の巣にでもなっているのではなかろうか。

 また、根元には苔がびっしり生えた鳥居が立っており、そこには蜂の巣が存在する。絶対に近寄りたくない。しかし、鳥居があるという事は、この大木は祀られていたのかもしれない。小さいボロ小屋も建っているし、きっとそうだ。

 東側には断崖絶壁が広がっているが、橋も掛かっている。枝が幾重にも重なって出来た様な、一見するととても脆そうな長く伸びた橋。意外と頑丈な様で、人が渡っても大丈夫ではある。見た目から、とても渡る気にはならないのだが。渡れば山菜爺さんの居るであろうエリア3番の竹林地帯へと辿り着くだろう。

 南側には洞窟がある。中へ入って真っ直ぐに進んでゆけば、飛竜の巣へと辿り着くだろう。更に進めば、俺が孤軍奮闘していた浅い川の張ったエリア6番へと辿り着く。

 北側は緩やかな下り坂が続いている。かなり長いが、ずっと進んでゆけば大きな川が一望出来るエリア7番へと辿り着く。地図で言えば、最も上に位置する場所。

 

「ねぇ…」

 

 ふと、背中合わせに座っているセツナが声を掛けてきた。

 一度は二手に別れた彼女だが、エリア6番で俺が一頻(ひとしき)り暴れてドスファンゴの死体を積み上げ、足の踏み場に困る程に討伐しまくった後。流石にやり辛くなってきたので、場所を移して北の大きな川が広がるエリア7番へと移動したのだ。

 そこにもドスファンゴ共はウジャウジャ湧いていた。この頃には全身に疲労が溜まり始め、腕は重くなっていた。数は一向に減る気配が無かったが、俺は気力を振り絞って必死に双剣を振るいドスファンゴを狩り続けた。

 一時間程経過した頃の事だ。東の方からセツナがやって来た。恐らくはエリア4番で狩り続けて、死体が邪魔になったので流れて来たのだろう。

 それからは彼女と共闘し、ドスファンゴを狩り続けた。

 それでも矢っ張りドスファンゴは次か次へと湧いてきて、7番も足の踏み場に困り始めた頃には日が傾き、時刻は夕方となっていた。

 俺とセツナは再びエリア移動する事を選択し、西側の緩やかな傾斜を登り始めたのだ。それでもドスファンゴ達は追い掛けてくる上、新しい奴が草村から次々湧いてくるので、討伐しながら移動する羽目になった。

 なので、俺達の通った道にはドスファンゴの死体がゴロゴロ転がっている。まさしく死屍累々の光景。

 

 漸く今のエリア9番へ辿り着いた頃には日もすっかりと暮れ、夜空が広がり満月が輝いていた、という訳である。

 そして、そこでは勇儀と妖夢が奮戦を繰り広げており、俺とセツナも加わりドスファンゴを狩り続けた。

 凡そ50匹程仕留めただろうか。漸くドスファンゴが現れなくなり、一息ついて今に至る、という訳である。

 前述の通り、俺と彼女は背中合わせに座っている。もう疲労が限界だった。腕や足は鉛の様に重くなり、身体を動かす気力などは欠片も残っていない。

 また、アイテムポーチのアイテムも殆どすっからぽんとなっていた。回復薬グレートは使い切ったし、回復薬も僅かにしか残っていない。秘薬も使った。砥石も使い切ったが、キレアジは少し残っている。持ってきて本当に良かった。

 あと、途中から空腹がヤバかった。強走薬を飲むと少しは気を紛らわせる事も出来るが、一時的なものでしかない。5個全て使い切り、試しにクーラードリンクやホットドリンクを飲んでみたが、腹が満たされる事は無かった。まぁ、無いよりマシではあったので全部飲んだけど。

 いにしえの秘薬も試してはみたが、腹が満たされる訳では無かった。多少は疲労がとれたので有り難かったけれども。

 

「ねぇ、ってば…聞いてるの…?」

 

 おっといけない。セツナが話し掛けてきていたのだ。今までの出来事を振り返っていて、彼女の事を忘れていた。

 因みに、勇儀は腕や足を放って大の字の体勢で仰向けに倒れている。妖夢は(うつぶ)せに倒れ、お尻を僅かにあげていた。ちょっと可愛い。

 何にしても、みんな満身創痍である。

 

「……どうしたよ…?」

 

 正直、喋るのも億劫だ。でも、何もしなかったらこのまま眠ってしまいそうなので、会話に付き合う事にした。

 

「……あんた、さ…何匹ぐらい狩った…?」

「……さぁ、ね……100までは数えていたけど…、そっから面倒くさくなって……数えてない…」

 

 少なくとも150は狩ったと思うが、詳しい数字は本当に100までしか数えてないので解らない。面倒というより、余りの疲労に数えられなくなった。そんな余裕は本当に無かったのだ。

 

「…そ……奇遇ね…私もよ…」

 

 セツナも同様であるらしい。まぁ、当たり前だろう。重ねて言うが、みんな満身創痍なのだ。腹も減ってる。だが、それ以上に早く帰って眠りたい。

 再びセツナが口を開く。

 

「クエスト……終わったの…かな…」

「……さぁ…」

 

 クエストが終わったのなら、そろそろ集会所へ瞬間移動する筈である。セツナも一緒だろう。

 しかし、暫く待ってもその兆候は無い。

 ……まさか、まだどこかにドスファンゴが残っているのだろうか。クエストのクリア条件が『ドスファンゴの全滅』だった事からも有り得ない話ではない。マジで勘弁だな。もう動きたくない。

 それと、考えられる可能性がもう一つ。ゲーム時代に設定されていた『50分』という制限時間を過ぎてしまった事による影響だ。瞬間移動等はゲームシステムから来るものだから、有り得ない話ではない。だとすると、歩いて帰還しなければならなくなる。

 ………。

 それも本当に勘弁してほしい。ユクモ村の場所だって解らないし、動きたくない。動きたくない。

 心の底から思う事なので2回言いました。

 ふと、離れた所から何かの足音が耳に届いた。

 音源の方へと視線を移せば━━━

 

「……セツナ…」

「……何よ…」

「…どうやら……クエストはまだ…終わってない、らしい…」

 

 気力などはもう残っていない。だから、意志の力でゆっくりと立ち上がる。腕が、足が、身体がガタガタと震えてしまう。

 それでも何とか立ち上がり、双剣を構える。

 

「…お山の、大将の…、おでましの様だ…」

 

 エリア7番の道から姿を現したのは━━━人の三倍はあろうかという、巨大なドスファンゴだった。

 金の王冠だとか、そんなレベルの話ではない。リオレウスよりもデカいのだ。明らかに異常なサイズだ。

 セツナも気力を振り絞る様に立ち上がる。勇儀と妖夢も同じく。

 

「…巫山戯んじゃ、ないわよ…こんな所、で…終わって…たまる…もんですか、…」

「……それだけの、啖呵を切れるなら…安心だ、な…」

 

 ドスファンゴが此方に気付いて鼻息を荒くする。やる気満々って感じだな。マジで勘弁してほしいぜ…。

 

「……行くぞッ!」

 

 俺達は武器を振りかざし、ドスファンゴへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

「………ん……シア…ん…!」

「…ん…ぁ…?」

「エクシアさん…! 良かった…!」

 

 目を覚ますと、目の前には涙目になったいつもの受付嬢さんの顔が。

 ……周りを見回すと、ここは集会所のクエスト出発口の前だった。すぐ隣にはセツナが倒れており、赤撫子の受付嬢さんが介抱している。勇儀と妖夢の姿は見当たらない。どこに行ったのか。

 ……どうにも伝説の(スーパー)ドスファンゴに相対してからの記憶が曖昧だ。俺達はクエストをクリアしたのだろうか。それとも失敗したのだろうか。そもそも、伝説の超ドスファンゴを討伐出来たのかどうかも解らない。

 受付嬢に支えられながら身体を起こす。全身の疲労感は消えていない。とてつもなく怠い。

 でも、クエストの成否は気になる。

 

「…クエストは、どうなりました…?」

「勿論、成功ですよ。エクシアさんとセツナの活躍のお陰です」

「…そう、ですか…、」

 

 良かった…。これだけ頑張っておいて、クエストは失敗ですとか言われたら目も当てられない。ショックの余り引退するわ。

 

「報酬金をお支払いしたいので、カウンターまで来て頂きたいのですが……立てますか?」

「……ええ、…何とか…」

 

 僅かに回復した気力を振り絞り、足に力を込めて立ち上がる。が、バランスを崩して受付嬢に寄り掛かってしまう

 

「きゃ…っ」

 

 受付嬢の小さな悲鳴。見れば、彼女の胸を鷲掴みにしていた。

 ……けど、手に感覚が無いので全然解らない。折角のラッキーイベントも無意味に終わった。くやぴぃ…。

 それから受付嬢に支えてもらいながらカウンターへ行き報酬金━━セツナと折半で10000z━━を受け取った所で、セツナも此方へやって来た。彼女は報酬金を受け取ると、フラフラとした足取りで集会所を出て行こうとしたが、途中で崩れ落ちて膝をついた。

 

「そんな身体で無茶ですよ、セツナ様…。部屋を用意してますから、そこで少し休んでからでも…」

「…嫌よ……私は、ギルドを信用、してないの…、よ…」

 

 再び立ち上がるセツナだが、バランスを崩して倒れそうになった所を、赤撫子の受付嬢が抱き留めた。

 ……ギルドを信用してないだって? 一体、何があったというのだろうか。

 それから暫く受付嬢達がセツナを説得しようとするも、彼女は頑なに首を縦には振らなかった。何をそんな意地になっているのかよく解らないが、見るに見かねて声を掛ける。

 

「…だったら、私の家に来るか…?」

 

 俺の発言に、3人とも目を丸くしていた。その中でも、青撫子の受付嬢が一番驚いた顔をしている。……何故。

 兎も角だ。

 

「…セツナの家が…、どこにあるのかは、知らない…。でも、私の家が一番近いのは、間違いない…少し休んで行くと、いい…。…凄く疲れてる…、筈だ…私も酷く、疲れてるから…ね…」

 

 暫く逡巡していたセツナだったが、やがて、

 

「………そう、ね…」

 

 俺の提案を受け入れ、首を縦に振った。

 

 その後、俺達は受付嬢達に送ってもらい、家に着いた途端にベッドへ倒れ込んで2人一緒に泥の様な眠りについた。

 




勇儀と妖夢は農場へ帰ってますんで御安心ください。


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セツナの悪夢1。

残念なお知らせです。セツナの過去のお話が今から始まります。全3話の予定です。なんてこった。


 セツナがポッケ村へやって来たばかりの頃は、彼女自身の性格が災いして村人達と上手く付き合う事が出来ないでいた。

 加工屋のお兄さんはセツナの事がかなり苦手の様で、彼女に会う度にビクビクとしていたし、道具屋のおばさんとは顔を合わせる度に口喧嘩していた。

 それでも彼女がハンターを続けていられたのは、村長やギルドマネージャーがセツナを庇ってくれたからというのが大きかった。それに、セツナの前にポッケ村のハンターを務めていたオッサンや、訓練所の教官も彼女の腕を高く評価していた。セツナの才能を見抜いていたのだ。やがて凄腕のハンターとして大成するであろう、と。

 彼等の判断に間違いは無く、セツナは村長からのクエストや、ギルドからのクエストを次々とこなしていった。その過程で、村人達は徐々にセツナの事を理解し、彼女に心を開いていったのだ。

 また、村の子供が外へ行ってしまい、半日ばかり行方知れずとなった事もあったが、これをセツナが無事に救出した。彼女の評価は鰻登りとなり、村人達はセツナを村の一員として暖かく迎え入れる様になった。

 

 ━━━ああ、この娘はツンデレなんだな。

 

 これは村人達の共通認識である。

 それからもセツナはクエストをこなし続けた。

 砦に現れたシェンガオレンやラオシャンロン等をたった一人で退け、村を脅かしかねない存在であったアカムトルムやウカムルバスが現れた時にも、彼女はたった一人でこれを駆逐した。

 その活躍ぶりから、いつしかセツナは『双刃剣姫』と呼ばれる様になり、村の英雄として皆に親しまれていた。

 

 それから一年が過ぎた頃の事。

 相変わらずクエストを完璧にこなしていた彼女に、転機が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 今日もクエストをこなそうと、集会所へやってきた。この頃の私の装備は、キリンS一式。無駄にキリンの素材が沢山あったのと、見た目が可愛かったという理由から作った。あと、動き易くて良い。双剣は小回りが利く防具が楽だ。雪山へ行った時は寒くてたまらないけど。

 まぁそんな事はどうでもよくて、どの依頼をこなそうかとクエストボードを見詰めていた私の元へ、ギルドマネージャーのお姉さんがやってきた。

 

「セツナちゃん、ちょっといいかしら〜?」

 

 私の事を『ちゃん』付けで呼ぶのは彼女と道具屋のおばさんだけである。でも、私はそれが不思議と嫌ではなかった。他の奴が気安く同じ呼び方してきたら、即顔面パンチをくれてやるけど。

 

「何?何か用?」

 

 口を突いて出るのは、素っ気ない言葉。それでもギルドマネージャーは嫌な顔一つせず、笑顔で対応してくれる。私はこの人の事が好きだった。

 あ、人としてって意味ね。他意は無い。

 彼女は「う〜んとね〜」と、のんびりとした口調で話し始める。

 

「実は私ね、ちょっとギルドのお仕事でひと月程ドンドルマまで行かなきゃいけない事になったの〜」

「そうなんだ。でもひと月したら帰ってくるんでしょ?」

「勿論よ〜。ただね〜、その間はギルドから派遣されるお偉いさんが村にやって来るらしいのよ〜」

「あー、つまり粗相のないようにしろって事ね」

「その通りよ〜。うふふ、セツナちゃんは賢いわね〜」

 

 そう言いながら私の頭を撫でてくる。子供扱いされてる様で癪な筈なんだけど、払いのける気にはならなかった。だって、こんなにも暖かくて心地いいのだもの。

 

「じゃあ、私は明日からいないからよろしくねぇ〜」

「ええ解ったわ」

 

 話し終えると、ギルドマネージャーはカウンターの奥へと消えていった。

 再びクエストボードへ向き直った私は、適当な依頼書を剥がしてカウンターへ持って行き、受付嬢に見せる。

 

「『アメザリ釣り大会!』、このクエストは黄金魚の納品ですね。確かに受託しました」

 

 うわぁ面倒くさいのを持ってきちゃった。でも、今更キャンセルするなんて選択肢は無い。そんなのは私のプライドが許さない。

 

「それでは、お1人での出発となります。クエストの達成をお祈りしています」

「ええ」

 

 受付嬢のマニュアル言葉を背に受けながら、私はクエスト出発口へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

「つ…疲れた…」

 

 クエストを終えて帰還し、集会所へ戻ってきて一人呟く。

 何で黄金魚を8匹も納品しなきゃならないのよ…。しかも、砂漠だっていうからクーラードリンクを持って行ったのに洞窟内は滅茶苦茶寒いし、何かガノトトスがいきなり襲い掛かってくるし、そのガノトトスは一向に水から上がってこないまま口から水吐いてばっかりだし…。

 結局、クエストを達成するのに2日も掛かってしまった…。釣りは苦手なのだ。というか、ジッと待っているのが苦手だ。もう、早く家に帰って眠りたい…。

 

「貴女がハンターのセツナさんですね」

 

 ふと、背後からの声。振り返れば、そこには20歳ぐらいの男が立っていた。

 茶髪のショートカットで、趣味の悪いサングラスをかけている。服装は白のスーツ姿。総合的に見て、色々と『残念』な男だった。

 何こいつ、誰? 人の事をジロジロ見て気色悪いったらない。

 

「誰?」

「これは失礼、貴女の美しさに見とれて、つい名乗り遅れてしまいました。わたくしは、ギルドマネージャーが不在の間、ここを預かる事になったチースカと申します。以後、お見知り置きを」

 

 名前も残念だった。何て事を思っていたら、チースカとかいう男が私の右手を取って、手の甲に口付けをした。

 

「━━━。」

 

 全身にゾワッと気色の悪い感覚が走る。多分、顔が引き攣っているだろう。鳥肌も立っている。吐き気がする。頭痛もだ。いや、頭痛は流石に気のせいだわ。

 兎に角、気色が悪い事この上ない。思い切り手を引いて振りほどいた。

 

「では、わたくしは少々仕事がありますので、名残惜しいですがこれにて失礼致します」

 

 去り際に投げキッスを放ってきたので、横にズレて躱した。

 

「………」

 

 その場に呆然と立ち尽くす。

 何、あの男……。

 何なのアイツ意味不明なんだけど!!ギルドマネージャーのお姉さんの代わりがあのクソミソカスッタレの変態意味不明ボケキザバカ生物な訳!?有り得ないんだけど!?意味不明なんだけど!?何でよりにもよってあんなのが来る訳!?マジで最悪なんだけど気色悪い気色悪い気色悪いったら気色悪い!!もうちょっとマシな奴を送って来なさいってのよ!!っていうかそもそもギルドマネージャーのお姉さんをわざわざ呼ぶんじゃないわよ!!ドンドルマとか滅茶苦茶遠いじゃないの!!他の奴にやらせればいいじゃないのよ!!バカバカバカバカバカギルド本部のアホアホアホアホアホ!!

 

「……はぁーーー…」

 

 内心で怒りを大きく爆発させるも、外には出さない。お姉さんにも粗相はするなと言われているからだ。私って偉い。

 深い、不快な溜め息を吐き出した後、カウンターへと向かった。

 深い、不快な溜め息……ぷぷっ。

 

「お帰りなさい、セツナさん。……どうしたんです?」

「なっ、何がよ!?」

「いえ、何かニヤついていらしたので……」

 

 やば。顔に出ちゃった。偶々出てきた渾身のギャグが面白くてつい。

 

「なな、何でもないわよ!!それより報酬金!!」

「あっ、はい。では、此方になります」

 

 えーっと……確かに3000z丁度あるわね。前に一度だけ、報酬金が違った時があったからね。しっかり確認しておかないと。

 

「ん、ありがと」

「またお願いしますねー」

 

 受付嬢の言葉を背に受けて集会所を後にした私はすぐに家へと帰宅し、そのままベッドに転がって眠りについたのだった。

 




教官「玉置・ミラアンセス・輝美だ」

モンハン小話はストライキ編と加工屋編1・2が特に好きです。


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セツナの悪夢2。

 あのクソミソカスッタレの変態意味不明ボケキザバカ生物の男がポッケ村へやって来てから、1ヶ月の時が経とうとしていた。

 あのクソ野郎は本当にクソ野郎だった。

 まず、集会所で働く女性職員にセクハラ紛いのボディタッチを平然としてくるのだ。しかも、嫌がっている素振りを見せているのに平気で何度もタッチしてくる。もうこの時点でクズ確定。そもそも嫌がっているのに何でやめないのかが理解不能。嫌がっている事に気付いてないのか。バカなのか。バカなんだろうか。気色悪い。

 それとも知っててやっているのか。もしもそうだとしたら、心臓に毛がはえているとかいうレベルじゃない。剛毛だわ。何の自慢にもなりゃしないけど。気色悪い。

 

 あと、仕事してない。いや、本当にしてないのかは知んないけど、大抵は受付嬢にセクハラしてるか女の子を舐め回す様に観察してるかだ。隙あらば私にも触れようとする。気色悪い。人に本気で死ねと思ったのはこれが初めてだ。思わず殴りそうになったけど、粗相はしないってお姉さんに約束してるし…。急に心臓麻痺とか起こしてショック死しないかな。気色悪い。

 それに、男性職員には矢鱈と厳しい。些細なミスでもネチネチと説教している。器が小さい。まずアンタが仕事しなさいってのよ。手本を見せなさいよ手本を。気色悪い。

 あんなのが上の地位に就いているなんて、ギルドはもうダメかもしれないわね。気色悪い。

 いつ心臓麻痺起こすのかな。早くショック死してほしい。今すぐに。

 

「セツナ君」

 

 くだらない事を考えながら村の中を歩いていると、元ハンターの中年男が話し掛けてきた。彼は私がポッケ村に来る前の常駐ハンターだった人。膝に轟竜の爪を受けてしまってな…とか言ってた気がする。よく無事だったわね。とりあえず、立ったり歩いたりは出来る程度に回復したらしいわ。

 

「何?何か用?」

 

 私の口からは相変わらず素っ気ない言葉が出てくる。でも、この人も嫌そうな顔をしない。ちょっと世話焼き好きで鬱陶しいけど、別に嫌いじゃない。

 

「いや、相変わらずキミはアイルーを雇っていないのかね?」

「またその話?」

 

 彼は偶にこの話を持ち出してくるが、私はアイルーなんて雇う気はさらさら無い。だって、こんな私に毎日振り回されるなんて不幸じゃないの。私だったら絶対に嫌だ、こんな奴。

 ……自分の事ながら傷付くわね…。

 

「しかしだね、アイルーを雇えばキッチンアイルーとして料理を作ってくれたり、オトモアイルーとして狩りをサポートしてくれたりと色々便利で……」

「そんな事言ったって雇う気なんか無いわよ」

 

 プイッと素っ気なく話を切り上げて歩き出す。私がアイルーを雇うなんて、それだけで虐待だと思われかねない。家出なんてされた日には、流石の私でも傷付く。

 それに、キッチンアイルーが料理を作るとは言うけれど、それはどうなの?毛が入ったりしないの?だって、アイルーって全身に毛が生えてるじゃないの。どう考えても毛が入っちゃうでしょうが。何で誰も気にしないの?

 オトモアイルーにしたって、私と上手く連携を取れるとは思えない。前に何度か別のハンターと一緒に狩りへ出た事があるけど、全然上手くいかなかった。誰も私についてこれなかった。ハンターがついてこれない程なのだから、アイルーが私についてこられるとも思えない。1人で狩りをしている方が色々と楽だと思う。

 

「あら、セツナちゃん」

 

 今度は道具屋のおばさんが話し掛けてきた。

 

「何?何か用?」

 

 相変わらず誰に対しても口を突いて出るのは素っ気ない言葉。こんな自分が嫌になる。どうして素直になれないのか、自分でもよくわからない。何でだろう。

 おばさんも最初の頃は口喧嘩ばかりしていたけど、今では嫌な顔一つせずに優しく話し掛けてくれる。

 

「ギルドマネージャーさんがそろそろ帰ってくるらしいわよ。手紙にそう書いてあったわ」

「お姉さんが……そう」

 

 という事は、あのクソ野郎がギルド本部へ帰ってくれるって事ね。長かったわ。何か本気で辞めようとかと考えてる受付嬢も居たらしいし、良かった良かった。

 

「それはそうとセツナちゃん、今日は良いリンゴを仕入れたのよ。買ってかない?」

「そうね…、じゃあ2つちょうだい」

「2つで30zよ」

 

 お金を支払い、リンゴを2つ受け取った。「ありがと」と短く礼を述べ、リンゴを1つかじりながら歩き出す。うん、甘くて美味しい。

 それから私は集会所ではなく、訓練所へと足を運んだ。最近は集会所に行ってはいない。あのクソ野郎に会いたくないからだ。

 なので、暇つぶしに訓練所で闘技訓練とかを行っている。大闘技場の中にモンスターを放ち、1対1で闘うシンプルな訓練。装備品は(あらかじ)め決められていて、訓練所の方で用意してくれる……んだけど、私は背が低いので特注品を用意してくれているらしい。……私は悪くない。

 昨日はイャンガルルガを討伐したんだっけ。今日は何をやろうかな。

 ティガレックス……は、別に訓練するまでもない相手だし、キリンなんかは良いかもしれない。私はちょっとだけキリンが苦手だし。いや、本当にちょっとだけね。それか、基本に立ち返ってイャンクックをやるのも良いかもしれない。基礎は大事だって教官も言ってたし。

 そんな事を考えている内に、訓練所へと辿り着いた。集会所の脇にあるゲートを潜って奥へ進むと、木製の少し大きな小屋が見えてくる。そこが訓練所。

 更に奥へ進めば、闘技訓練を行う為の大闘技場もある。

 ドアを無造作に開け、中へと入る。

 

「教官、居る?」

「む、セツナか」

 

 教官が此方へと振り返る。彼は机の上に置いてある箱の中身をいじっていた様だ。

 

「リンゴ食べる?」

「む、ありがたく戴こう。丁度腹が減っていた」

 

 私の手からリンゴを受け取り、それをひとかじり。

 

「今日も訓練か。集会所のクエストは良いのか?」

「良いのよ、私以外にもハンターは居るんだから別に問題ないでしょ。それとも私がここに来ちゃ迷惑な訳?」

「む、そんな事は無いぞ。寧ろ大歓迎だ。訓練所に来るハンターは最近、めっきりと減ってしまったからな。我輩は暇なのだ」

 

 この訓練所、大丈夫なの?その内潰れるんじゃ?

 私には関係ないけど。

 

「それよか、その箱の中身は何なの?」

「これか? これはセツナ、貴様専用の装備品だ」

 

 って事は特注品の……。

 ……私は悪くない。

 

「で、今日は何の訓練を受けるのだ?」

「そうね、キリンの闘技訓練が良いわ」

「うむ、キリンか。キリンの雷に打たれれば、いくら頑強な鎧といえど、あっという間に消し炭だ! だが気持ちで負けていては話にならんぞ。攻めの気持ちを常に持ち、困難を乗り切るのだ! と言いたい所だが、生憎と訓練所にはキリンが居なくてな……」

 

 ガクッと思わずこける。

 

「居ないなら居ないって最初からそう言ってよね!!」

「うむ、すまん。久しく言ってない台詞だから、ちょっと言ってみたかったのだ」

「そんなくだらない理由で!?もう!!」

「まぁそう怒るな。そうだセツナ、もし暇ならキリンを捕獲してきてくれんか?」

「嫌よ面倒くさいもの。暇なら教官が自分で行けばいいんじゃない?」

「我輩は訓練所を離れる訳にはいかん」

「でも暇なんでしょ?」

「それでもだ」

 

 この人、たまによくわかんないわね。誰も来ないならここに居てもしょうがないでしょうに。

 

「あー……わかったわよ、行ってくるわよ行ってくればいいんでしょ!!」

「おお、すまんな。因みに、キリンのクエストが無かったらティガレックスかディアブロスを頼む」

「はぁっ!?……もう!!仕方ないわね!!ホント、私が居ないと駄目なんだから!!」

「ついでに生肉を頼む」

「それは自分で何とかしなさいよ!!」

 

 

 

 

 

 

「やぁ、セツナさん。お久しぶりです」

 

 で、集会所に来れば当然ながらコイツが居る訳で。

 出会い頭に人の手を勝手にとろうとしたので、後ろに引っ込める。

 

「最近は全然来ていただけてなかったので、心配していたのですよ?」

 

 今度は人の後ろに手を回そうとしてきたので、咄嗟に距離をとる。そのまま背後を見せない様に立ち回る。

 コイツは人の後ろに回るとボディタッチしてくるから、絶対に背中は見せない。しかも、お尻を触ってくる……らしい。もしもコイツに身体を触られたら、私はコイツを半殺しにしてしまう。

 流石にそれは拙い。お姉さんとの約束を破る事になる。

 

「どうしたのです、セツナさん? スキンシップをさせて下さい。何なら私の胸に飛び込んで来てくれて良いのですよ?」

 

 死ね。今すぐ心臓麻痺を起こして安らかにくたばれ。

 

「スキンシップなら、そこに居るアイルーにでもしたら…いいんじゃないですか…?」

「ハハハハ! 私は女性以外にはスキンシップをしないのですよ」

 

 早く心臓麻痺起こしなさいよ。

 っていうか、粗相をしないって約束守る為に一応コイツに敬語使ってるけど、使う必要性が感じられない。っていうか思い切り罵ってやりたい。っていうか殴りたい。

 数分程したら諦めたらしく、奥の部屋へと姿を消した。

 全く、くだらない事で時間とらせるんじゃないわよ。私は忙しいんだから。

 すぐにクエストボードの前に立ち、キリン討伐の依頼を探し……探し………無いわね。じゃあティガレックス……も無い……ディアブロスも無い。

 

「何よ無駄足じゃないの!!もう!!」

 

 仕方ないので、私はグラビモスの討伐依頼を受けるのであった。

 




「キリンもティガレックスもディアブロスも依頼が無かったから、グラビモスを捕まえてきてあげたわよ」
「グラビモスは足りているのだが…」
「………」
「………」
「もう!!もう!!もうもう!!!もうー!!!」
「牛の鳴き真似、か…?」
「んな訳ないでしょ!!」
「ぁ痛っ!!」

訓練所は今日も暇です。バンド組めば二人ぐらい来そう。


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セツナの悪夢3。

今回、残酷な描写に当たるんじゃないかなぁ?という表現が含まれますので、残酷な描写の警告タグを追加しました。閲覧する際はご注意下さい。一応。


 それから数日が経過し、ギルドマネージャーのお姉さんがようやく帰ってきた。集会所の職員達(主に女性)は大いに喜んだ。これで漸くあのクソ野郎が本部へ帰ってくれる、と。

 そして、集会所で宴が開かれる事になった。表向きにはクソ野郎の送別会という名目だが、皆はギルドマネージャーのお姉さんが帰ってきた事を祝ってると思う。少なくとも私はそう。

 宴には色々な人が参加している。ギルドの職員や訓練所の教官、村の一般人など。それぞれ思い思いに料理を食べ、酒をかっくらっている。みんな楽しそうだ。

 因みに、私は隅の方に座って酒をチビチビ飲んでる。大勢で騒ぐのは性に合わない。みんなだって、私なんかと一緒に飲みたいなんて思わないだろうし。

 

「セツナちゃん、隣いいかしら?」

 

 ふと、ギルドマネージャーのお姉さんが声を掛けてきた。手には発泡酒の入ったジョッキを持っている。

 とりあえずコクンと頷くと、お姉さんは隣に座った。

 

「何だか、大変だったみたいね」

「ん?何が?」

「あの人の事。みんなから色々聞いたのよ〜。ごめんなさいね」

 

 ああ、あの無能のクズ野郎の事か。確かに大変だった。殴らない様に必死で堪えるのが。

 

「別にお姉さんが謝る事じゃないでしょ。ギルド本部が無能な人員を送ってきたのが悪いのよ」

「まぁ、そうなんだけど〜」

 

 ギルドの悪口を言った事について言及しないお姉さん。それでいいのか。ギルドマネージャーとして。

 お姉さんは続けて、

 

「セツナちゃん、私との約束守ってあの人に乱暴しなかったんでしょ〜? いつものセツナちゃんなら、ぶん殴ってると思うしぃ〜」

 

 ……見透かされてる。まぁ、当たり前か。それなりに付き合い長いし。

 そして、突然お姉さんが私の身体を抱き寄せ、

 

「ありがとうね、セツナちゃん」

「……、……べ、べべ、別に大した事じゃないわよ…」

「うふふ、よしよし」

「………」

 

 私はそっと、お姉さんに抱きついた。頭を撫でてくれるお姉さんの手が温かくて、心地良くて……ずっとずっと、こうしていたい…。

 何だか眠たくなってきたので、そのままお姉さんに身体を預けて目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

「……んっ…」

 

 次に目を覚ました時、私は見知らぬ地下室に居た。石のブロックを敷き詰めた様な床と壁。どこかジメジメしている。

 ……ここは、どこ…?

 

 ━━━ガシャリ。

 

「……ッ!!」

 

 起き上がろうとして、両腕が上に伸びた状態で拘束されている事に気付いた。手首辺りを鉄の腕輪でガッチリと固定され、鎖に繋がれている。足も同様だった。身動きが全くとれない状態で、ベッドに転がされている。

 更に、服装もキリンS一式ではなく、インナー姿に変わっていた。

 何…これ…。何なの、訳わかんない!!何で…何で私こんな事に…!?

 

「やぁ、目が覚めてしまったのかい」

「…ッ!?」

 

 左の方に視線を移すと、長方形のテーブルの前に人が立っていた。

 声と体格から男だと解る。顔と頭は黒いマスクで覆われており、服装は科学者が着るような白衣姿。

 何…こいつ…誰…!?声は聞いた覚えがあるような…。

 

「結構な量の睡眠薬を君のお酒に混入させておいたんだけどなぁ」

「…睡眠薬…!?」

 

 ……そういえば、集会所でお姉さんにもたれ掛かった後の記憶が無い…。睡眠薬を仕込んだって事は、私はそのまま寝ちゃったって事…!?

 

 でも……何でこんな事に…!?

 いや、そんな事より、

 

「私をどうするつもりよ!?」

「………」

 

 男は無言で此方に寄ってきた。手には黄色い液体が入った注射器を持っている。

 何あれ…どうする気よ…。

 男が徐に口を開く。

 

「ハンターとは、実に興味深い生き物だ。リオレウスやティガレックスといった飛竜種、クシャルダオラやオオナズチといった古龍種、アカムトルムやウカムルバスといった超大型種。これらの強い力を持ったモンスターをたったの数人で仕留めてしまう。興味深い。実に興味深い。そこで私は思ったのだ。もしもハンターがリオレウスやティガレックスなどといったモンスターの力を手に入れたら、どうなるのだろうか、とね」

「……何が言いたいのよ!?」

「…この注射器には、ティガレックスの遺伝因子が含まれている。これを打ち込まれた者の皮膚は硬質化し、爪や牙が伸びるだろう」

 

 …何、言ってんの…こいつ…。

 

「これを今から、君に打ち込む」

「………っ!?」

「殆どのハンターは拒否反応を起こして死んでしまったけれど、君ならきっと大丈夫。何たって、アカムトルムやウカムルバスをたった一人で下す程の強さを持った個体なんだから」

「…く…くるな…!」

「さぁ、これを今から君の首筋に打ち込む。そうする事によって、この遺伝因子は身体の隅々まで行き渡り、君を究極の生物へと変貌させるだろう!」

「来るな!!来るな!!来るな!!来るな来るな来るな来るな━━━ぐぅっ!」

 

 男が私の首を絞める。

 

「暴れるんじゃあないよ。手元が狂ってしまうだろう?」

 

 いやっ…誰か…助けて…助けて!助けてッ!!助けてッ!!!誰かッ!!!!!助けてッ!!!!!

 

「セツナちゃん!!」

 

 バンッ、と開かれたドアからギルドマネージャーのお姉さんが入ってきた。そのまま白衣の男に体当たりをかまし、男は壁に叩きつけられ手に持っていた注射器もすっ飛んでいった。

 

「お姉さん…!!

「今、助けてあげるからね!」

 

 そう言いながら私の手枷を外そうとして、

 

「僕のサンプルに触るな!!」

「きゃっ!」

 

 男がお姉さんを突き飛ばした。そのまま二人は取っ組み合いに(もつ)れ込む。

 お姉さんは竜人族だけど、特別力が強い訳では無い。性別的に考えてお姉さんが不利なのは明白だ。どうにかしなくちゃいけない。兎に角滅茶苦茶に暴れる。

 

「このっ!!この!!千切れろ!!千切れろッ!!」

 

 ━━━バキン。

 思い切り引っ張っていたら、手の拘束が解けた。お姉さんが枷を外そうとした時に緩んだのかもしれない。

 次に足の枷を外して、テーブルの上にあったナイフを手に取る。透かさず男の背後からナイフを首辺りに突き立てた。

 

「がふ…っ…ぁ…」

 

 鮮血が飛び散り、口からも血反吐を吐き出す。それでも私は手を止めなかった。男の首周辺を何度も突き刺し、留めと言わんばかりに背中へとナイフを突き立てた。男の身体はゆっくりと倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「お姉さん、大丈夫!?」

「……っ!」

 

 手を差し伸べたが━━━お姉さんは私の手をとろうとはしなかった。まるで、恐ろしいものを見たかの様な目で私を見て、怯えた様な表情を浮かべている。

 ……それが何を意味しているかを理解した私は、差し伸べた手をそっと引っ込めた…。

 

 

 

 

 

 

 それから更に数日。

 白衣の男は、ギルド本部から派遣されて村へやってきたチースカと同一人物である事が解った。そして、お姉さんが今回の件を包み隠さずギルド本部へ報告したのだけど、その対応は酷いものだった。

 まず、ギルドは今回の件を()()()()事にした。権力に物を言わせて揉み消したのだ。

 そして、事件に関わった者達全員に箝口令(かんこうれい)をしき、私を『ギルドの職員を殺した犯罪者』に仕立て上げた。

 こうなってしまっては、もうお手上げ状態だ。お姉さんは箝口令の所為で今回の件を誰にも話す事が出来ないし、人殺しである私の話になど誰が耳を傾けるというのか。

 それ以前に、私も事件の事を誰かに話す訳にはいかない。そんな事をすれば話は(たちま)ち村中に広がり、お姉さんが話したのでは、という嫌疑が掛かる可能性が高い。

 それに、事件を知った人間に何かしらの()()をギルドが行う可能性もある。迂闊な行動は避けるべきだ。

 

 だから、村に新しいハンターがやって来た時に、私は所持していた装備品の殆どをソイツに押し付けて、村を出た。

 お姉さんは私を引き留めてくれたけど、村人達の私への反応を考えれば、村に残るという選択肢は有り得ない。

 それに、お姉さんだって私と話す時の反応が前と少し違う。どこか余所余所しい。傍目には余り変わらない様に見えるけど、付き合いの長い私にはわかる。明らかに無理をしてる。

 

 だから私は一人で村を出た。

 どこか遠くへ行こう。

 ここではない、どこか遠くへ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

 

「……………ああ……そっか…」

 

 徐々に意識が覚醒し、何があったのかを思い出す。

 ドスファンゴの討伐を終えて集会所に戻ったけど、余りの疲労に意識を持っていかれそうだった。それでも気合いで帰ろうとしていたら、エクシアが家に泊まらないかと誘ってきたので、彼女の家に泊まる事にしたんだ。

 

「……嫌な夢…」

 

 ぽつりと呟き、左隣に視線を移す。エクシアが安らかな寝息をたてていた。防具は外しており、インナー姿。私も同様。

 

「………」

 

 ユクモ村始まって以来の最強のハンターと言われるだけあって、彼女の腕は私に匹敵するレベルだった。あれだけ強ければ、確かにアカムトルムやウカムルバスを討伐するのは容易いだろう。

 でも、逆に彼女と肩を並べられるハンターはそうそう居ない。仲間なんて居ても、足を引っ張られるだけだ。

 矢張り、彼女も私と同じように一人で闘っているのか。それとも、仲間と共に闘っているのか。例えば、この間一緒に居たジンオウ装備の娘とナルガ装備の娘とか。

 ………。

 私だったら……私だったら、彼女と一緒に……。

 ………くだらない事を考えるのはやめよう。人を殺した私が、今更仲間なんて……。

 

「………にしても、よく眠ってるわね…」

 

 顔を近付け、頬を指で軽く突ついてみる。プニプニとした柔らかい感触。起きる気配は無い。

 唇に軽く触れてみる。とても柔らかい。それでも起きる気配は無い。

 鼻先を指で撫でる。と、彼女が「ううん…」と唸って、此方に寝返りをうち━━━

 

「━━━ッ!?!?」

 

 ━━━私の唇と、彼女の唇が触れ合った。

 ……そっと、顔を離す。

 

 …。

 ……。

 ………。

 いいっ、いっいい今い今、キッ、キキキ、キキ、キス……ッ!!?

 

 心臓は早鐘を鳴らす様に高鳴り、どこか寝ぼけていた思考は完全に覚醒する。

 

 な、なな何で唇と唇が触れただけでこんなに動揺するのよ…!?

 そ、そうよ、ただ唇が触れ合っただけじゃないの!!

 そんなので動揺する必要はないのよ!!

 落ち着け私。落ち着け。

 ………。

 だ、だめ!!全然落ち着かない!!心臓が破裂しそう!!なな、何でこんなにも落ち着かないの…!?

 

 エクシアの顔に視線を戻すと、彼女は相変わらず幸せそうな寝顔を浮かべている。

 ……人がこんなにも動揺してるってのに、この女は……!!

 イラッときた私は、彼女の鼻を摘まんでやるのだった。

 



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デートだと思ってたのは多分俺だけ。

 ドスファンゴ狩り祭りを終えてから1ヶ月が過ぎた。

 その間、俺は様々な事を検証した。

 例えば、太陽の傾きについて。クエストから帰ってきたり、ベッドで眠ったりすると必ず定位置に戻ってくる様だが、一応時間が過ぎると沈み始め、やがて夜が来る。

 ユクモ村の夜は静かだったよ。暗いのは余り得意ではないので、すぐに寝たけど。目を覚ましたら、太陽は定位置に戻っていた。不思議。

 それからクエスト。ゲーム時代に見覚えのあった『リオレイア、現る』という渓流でのリオレイア狩猟クエストを受け、本来設定されている『50分』の制限時間をわざとオーバーしてからクリアしてみたり。狩り祭りと同様で、普通にクエスト成功の扱いになっていた。どうやら、制限時間は無いらしい。日にちを跨いだらどうなるのかは、まだやってないが。流石に面倒くさい。

 

 あと、生理が来ない。正直、俺が一番気にしていた部分である。

 これについては、まだ検証不足だ。だって、生理って月一で来るんでしょ? だったら、クエストの移動で消えた日にちの間に過ぎちゃったかもしれないし。最初に受けた『獄炎に座す、覇たる者』のアカムトルム討伐クエストの時なんて、移動だけで合計12日間も消費してるみたいだし。

 にしても、そう考えると女性ハンターって大変だな。モンスターだけじゃなく、生理とも闘わなければならないとは辛そうだ。どれぐらい辛いのかは解らないが。俺もいずれ経験するのだろうか。二日目が一番辛いというのはよく聞く。やだなぁ。

 あー、因みにおトイレはちゃんと行ってる。出るものは矢張り出る。頻度は低いけど。

 

 あとは適当にクエストをこなしたり、魔理沙を脱がしてモフモフしたりと、平和な日々を送ってました。特に魔理沙のお腹に顔をうずめるのがお気に入り。すんげーモフモフしてんの。なんていうかもう、モフモフが集まって合体してキングモフモフ(?)みたいな、兎に角幸せな気持ちになれる。えっちとか言われるから、あんまり出来ないんだけどね。

 それから━━━

 

「ちょっと、エクシア」

 

 ━━━考え事をしながら村の中を歩いていると、背後から声を掛けられた。

 振り返れば、そこにはいつものドーベル装備に身を包んだセツナの姿が。

 

「今日は狩りに行くの?」

「いや、今日は用事があるから行かないよ」

「そ」

 

 素っ気ない返事を残し、彼女は集会所の方へとスタスタ歩いていった。

 ……今みたいに、セツナが狩りについて来ようとする様になった。狩り祭りが終わってからだ。この間なんて、温泉でゆっくりしてたら隣に座ってピッタリくっついてきたし。

 ……何を考えているのか、さっぱり解らん。

 

 でも、彼女の腕が尋常じゃない程に凄いというのは解った。10日程前の事だが、ウカムルバスが出現したから狩ってきて、というギルドの要請があったのだ。

 面倒だなぁと思いつつも準備を整え、集会所に行ってみればセツナが協力を申し出てきた。それ聞いた時は、思わずフリーズしちゃったね。

 まぁ楽が出来ると思った俺は彼女の協力を喜んで受け、いざクエストが始まってみればセツナ無双の始まりだった。

 ホーリーセーバーでウカムの尻尾を切り落とし、腹面をボロボロに破壊し、顔面をズタズタに切り裂いていたのだ。しかも、攻撃を一度もくらわない。お前はTASさんか。

 因みに、俺はアルクドスルージュ━━火属性、集中型の弓━━でウカムの頭に曲射を落としまくっていた。1回だけスタンさせる事に成功。9割近く当てる事が出来たけど、討伐時間がそもそも6、7分程度だったし、もう一回スタンさせるのは流石に無理だった。スタン値低いんだよなぁ、弓…。

 

 討伐が終了した後、セツナは「いつもよりやり易かったわ。流石ね」と言ってきた。

 その言葉、そっくりそのままお返しします。俺の方こそやり易かった。だって、ウカムがこっちを狙って来ないんだもの。曲射を撃つだけの簡単なお仕事だったよ。明らかにセツナの方が実力は数段上だ。

 俺の役割なんてオトモと何ら変わらないよ。オトモハンターだよ。

 本当、自分が伝説のハンターとか呼ばれてるのが皮肉にしか思えなくなる。伝説のハンター(笑)。

 それだけにホーリーセーバーは何とかしろよ、と思うのだが。

 まぁ、そんな事は置いといて。

 

「待たせちゃったかな」

 

 農場の入り口辺りに立っている女性に声を掛ける。

 服装は白のシャツの上に赤を基調としたチェックのベスト、下は同じくチェックのミニスカート。白のソックスを着用し、薄茶色の革靴を履いている。また、リボンの付いたバスケットを手に持っている。

 

「エクシアさん! いえ、私もつい先程来たばかりです!」

 

 はちきれんばかりの笑顔を見せてくれる女性。可愛ぇ〜。

 さて、この女性は誰なのか。

 なんと、彼女は集会所で青撫子を身に纏っている受付嬢なのだ!

 今日は仕事がオフだという事なので、1日付き合って欲しいと誘われた。

 つまりデートをする事になったのだ!

 ……デートってのは俺が勝手に思ってるだけで、ただ農場でピクニックしましょっていう、それだけの事なんだけどね。

 それでも構わん! 君が好きだ!

 しかし、彼女に比べて俺の服装ときたら……。上から『装備なし』『ユクモノドウギ』『ユクモノコテ』『装備なし』『ユクモノハカマ』だぜ。

 いや仕方ないんだよ。俺が着れるのは防具だけだし、そんなオサレ装備なんて持ってないし。ユクモ装備って一般人にも愛用されてるみたいな事が書いてあった気がするので、これに落ち着いたという訳だ。

 ああ、因みに彼女の名前は『ユーカ』というらしい。

 ……ユーカ…。そう言えば、彼女の服装…どこか風見幽香っぽい様な…。ファミリーネームは『カザミ』だったり…?

 ……やめよう。笑えない。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 

 俺達は吊り橋を渡り、農場の中へと入っていった。

 

「わぁ〜!」

 

 そこに広がる美しい自然の景色に、ユーカが目を輝かせる。

 

「綺麗な場所なんですね!」

「そうだね。それにしても意外だったよ」

「? 何がです?」

「君が今まで、農場に来た事が無かったなんて」

 

 というのも、農場は基本的に一般の人は立ち入ってはいけない事になっているらしい。よく考えれば村長の私有地(?)だし、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

 でも、村長は大らかな人だし、悪さをしなければ勝手に入っても許してくれそう。その辺りをユーカに聞いてみたら『確かに許してくれるでしょうけど、それに甘えてしまうのも気がひけますし…』との事。立派だねぇ。

 しかし、ゲーム時代……というか今もだけど、3rdの主人公って正直、農場を私物化してるよな。施設を勝手に増設したり、オトモにバリバリ訓練させたり。ちゃんと村長の許可があってやってる訳だが。

 

「そうですか? でも、エクシアさんのお陰で入る事が出来ました。ありがとうございます」

「ふふ、どう致しまして」

「おーい、ご主人〜!」

 

 ふと、入り口の方から近付いてくる小さな猫が一匹。魔理沙である。相変わらずの二足歩行。

 ……今日は農場に来ないでねって言ったのに…。後でお〜仕〜置〜き〜だ〜べぇ〜。名付けて、モフモフの刑。ただの俺得。

 魔理沙は俺の近くまで駆け寄ると、いつもの様にぴょんと飛びついてきた。

 

「もう、今日は来るなって言っただろう?」

「あー…うん…ごめんよ……」

 

 く…っ! 何て可愛さなんだ…! これじゃ怒るに怒れないじゃないか…!

 後でお仕置きはするけどね。

 

「で、どうしたんだ一体?」

「……お腹空いた…」

 

 ……、…………。………。

 ……言葉が出てこないよ。でも、確かにお昼時ではある。俺も腹は減っている。

 するとユーカが、

 

「あの、私お弁当作ってきてますから、アイルーさんも一緒にどうですか? サンドイッチですけど」

 

 バスケットを開いて中を見せてくれた。色々な具の挟まったサンドイッチがギッシリと詰まっている。美味しそう。

 

「い、いいのか…私も一緒で…?」

「勿論、私は構いません。エクシアさんは、どうですか…?」

 

 デートェ……。

 いや、まぁデート俺が勝手に(ry

 

「君がそう言ってくれるなら、私も構わないよ」

 

 と答える以外に選択肢がありません(泣)。

 まぁ、別に良いか。女同士で何かある訳でもなし。魔理沙一人━━匹?━━ぐらい、別に…。

 

「じゃあ、みんなを呼んでくるのぜ!」

「うん…!? 魔理沙…!?」

 

 俺が引き留めるのも間に合わず、魔理沙は村の方へと駆けて行った。

 ………。

 いや、おまっ…みんな呼ぶって…。

 

「……あの、エクシアさんは確か、結構多くオトモアイルーを雇ってましたよね…?」

「あ、うん……」

「……足りるでしょうか…」

 

 間違いなく足りないと思われます。こんがり肉をペロリと3つも平らげる幽々子とか居るし! 星ちゃんと勇儀も結構食べるし!

 

 結局、こんがり肉を焼いてみんなでBBQ(バーベキュー)みたいな感じになった。ワイワイ騒ぎながらの食事。

 ユーカのサンドイッチは皆に好評だった。かく言う俺も凄く美味しいと思った。

 食後はアイルー達に囲まれて日向ぼっこ。ユーカも一緒。サンドイッチのお陰なのか、アイルー達は皆ユーカの事を気に入った様だ。

 デートは台無しになってしまったけど、楽しかったので良しとしよう。

 



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クエストの内容はしっかり確かめてから受注しましょう。

 それは、俺が今日は何を狩ろうかなーと集会所のクエストボードを眺めていた時の事だった。

 

「エクシア、ちょっと良いかしら」

 

 背後から声を掛けられ、振り返ればそこにはセツナが立っていた。

 

「どした? クエストならまだ決めてないよ」

「いや、実は折り入ってあなたに頼みがあるのよ…」

「頼み? 何?」

「……ちょっと、手伝ってほしいクエストがあるの…」

 

 手伝ってほしいクエスト? はて、珍しいな。セツナからの手伝ってほしいなんて。彼女の腕なら何でも狩れるだろうに。

 何だろうか。セツナが苦戦する様な相手…? アルバトリオンとか? 確かに、アイツを双剣でやるのは骨だろう。ホーリーセーバーでは無理がある。

 

「これなんだけど……」

 

 セツナが依頼書を見せてきた。どれどれ……。

 

 採集クエスト

 美食家達の宴

 

 クエスト内容

黄金魚30匹の納品

 

報酬金 18000z

契約金  1500z

指定地  孤島

 

「━━━。」

 

 黄金魚3()0()()の納品。

 ………。

 いや。

 いやいや。

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。

 30匹って何だよ!! 漁師を雇えよ!! 何でハンターに依頼出すんだよ間違ってんだろうが!! ギルドもそんな依頼通してんじゃねーよ!! 漁師に回せよ!!

 しかも、この『美食家達の宴』ってクエスト名は何!? 食べるの!? 黄金魚食べるの!? 食べられるの黄金魚って!? 金持ちの食い道楽かよ!!

 つか、

 

「お前、何でこんな依頼受けたんだよ!?」

「やっ……受けたかった訳じゃないのよ!?ただ、手にとった依頼が偶々これだったってだけで…!!」

「確認しろよ! 受ける前に! どう考えても一人じゃ無理だろ!」

「だ、だって、確認しなくても大概のモンスターは狩れるし…」

「こういう採集クエストだってあるだろうが! バカチン!」

「なっ……ば、バカですって!?バカは無いでしょバカは!!」

「じゃあ〜マヌケかこのスカタン!」

「………ッ!!もう、良いわよ!!一人でやるから!!……バカ…ッ!!……うっ…ひぐっ…」

 

 トボトボと重い足取りでカウンターへ向かおうとするセツナ。

 

「〜〜〜ッ! ああ、もう! 解ったよ、手伝ってやるから、泣き止みなさい」

「……ほんろ…?」

 

 う…っ。セツナなのに可愛いだと…。上目遣いの破壊力…これ程とは…。

 

「本当だ、本当。ほら、泣き止みなさい。よしよし」

「……うん…」

 

 ……あれ。いつもなら『泣いてない』とか『子供扱いするな』って怒るのに。今日は腕を払わないどころか、抱き付いてきた。よっぽど堪えたんだろうか。ちょっとキツく言い過ぎたか…。よしよし。

 

「あの…エクシアさん…」

 

 ふと、青撫子に身を包んだユーカが話しかけてきた。

 

「集会所内で騒ぐのと…イチャつくのは…ちょっと…」

 

 えー…。イチャついてる様に見えるんですか、これ……。個人的には子供をあやすお姉さんの図だと思っているのだが…。

 っていうか、ユーカも何でそんな今にも泣きそうな表情してるんだ…。

 

「いや、セツナが不注意でこんなクエストを受けてしまって…」

「クエスト………ええっ!? これを受けたんですか!?」

 

 …まぁ、そんな反応するよね…。明らかにハンターの仕事じゃないし。漁業だし。

 

「こんなクエストを受ける()鹿()なハンターは居ないだろうと思ってたんですが……あっ」

「……うぅっ…」

「……すみません……馬鹿とか失礼な事を…」

 

 実際お馬鹿だと思うし、良いんじゃないかな。ちょっとくらい。

 

「まあ、そんな訳で。私はちょっと人を集めてくるから、セツナはここで待ってて」

「…うん」

「あ、エクシアさん。待って下さい」

 

 集会所から出ようとした所で、ユーカに呼び止められる。

 

「あの、実は今、孤島にリオレウスとリオレイアとジンオウガとアオアシラとドスジャギィとドスファンゴとロアルドロスとクルペッコが集っているらしいので、気をつけて下さいね」

「━━━。」

 

 ……孤島オールスター勢揃いじゃねぇかよ!

 

 

 

 

 

 

 再び集会所へと戻って来た。

 

「━━━という訳で。今からみんなで孤島へ釣りをしに行きます」

「「「おー!」」」

 

 集まった面子を紹介しよう。まず、俺とセツナ。リリーとサニー、レベッカ。以上の5名である。クエストは少なくとも6名までは受けられる様だ。6人組のハンターがクエストを受注して出発したのを見た。7人以上はわからない。

 さて、加工屋の孫娘であるレベッカがメンバーに入っている事を不思議に思う人もいるだろう。しかし、彼女は鍛冶師であると同時にハンターでもある! ……とは、本人の談。

 小さな身体に似合わず、ハンマー使い。武器は『アイアンストライク』という鉄製の鎚。防具はベリオ一式。可愛い。

 リリーとサニーは相変わらず『真ユクモノ弓』。まぁ、上位に上がるまではそのままだろう。防具も前と変わらずジンオウガ一式とナルガ一式。……今更だけど、サニーのナルガ一式って、2ndG時代のものの様な気がする…。

 セツナはいつも通りドーベル一式とホーリーセーバー。早く武器変えろと思う。今度プレゼントしてあげようかな。ツインチェーンソー(笑)とかどうだろうか。いや、冗談だけども。

 俺はというと、攻撃力を追求した弓のセット装備。

 

武器:ファーレンフリード

頭 :シルバーソルキャップ

胴 :天城・覇【胸当て】

腕 :シルバーソルガード

腰 :シルバーソルコート

脚 :シルバーソルレギンス

護石:王の護石

 

 発動スキルは『見切り+2』『攻撃力UP【小】』『弱点特効』『集中』『通常弾・連射矢UP』。

 ファーレンフリードは攻撃力245(武具玉ブースト済)、会心率は15%。曲射は集中型で、溜め攻撃は1段目から『貫通Lv2』『貫通Lv3』『連射Lv3』『連射Lv4』である。『見切り+2』によって会心率は35%となり、『弱点特効』によって弱点部位に当てた際の会心率が+50%。合計会心率が85%という意味不明な数字を弾き出す。

 しかし、見切りが+3に出来なかったのが悔やまれる。もし実現出来れば最大会心率が95%。弱点部位に当たれば、ほぼ確実に会心が出る。でも現状の護石じゃあ+2が限界だったよ…。残念無念。また火山へ採掘でもしに行こうかな。

 

 オトモアイルーを連れているのは俺だけで、今回は魔理沙と霊夢。武器は2匹共『覇剣ネコカムトルム』、防具は相変わらずニャン天一式。服だから抱っこした時にゴツゴツしないのがニャン天の良いところ。デザインした人、マジグッジョブ。

 

 アイテムもいつも通りきっちり持ってく。

 

回復薬 10

回復薬グレート 10

強走薬 5

クーラードリンク 5

ホットドリンク 5

秘薬 2

いにしえの秘薬

力の護符

力の爪

守りの護符

守りの爪

ペイントボール 99

閃光玉 5

こやし玉 10

モドリ玉

ピッケルグレート 5

 

 上記の常備アイテムに『黄金ダンゴ 5』『釣りフィーバエ 10』『ツチハチノコ 10』。この3種類のアイテムは、他4名にも渡してある。

 更に調合書入門編、初級編、中級編も持っていく。こんだけ準備すりゃあ、すぐに終わるだろ。人数も5人だし。

 そして、忘れちゃいけないのが『肉焼きセット』。これは狩り祭り以後に常備する様になった。狩り祭りの時は本当に空腹が辛かったからな…。これがあれば、ガーグァとかアプトノスとか適当なモンスターを狩って肉を食べる事が出来る。

 ゲーム時代は全く使わなかったけど、こっちの世界に来てからはハンターの必需品だというのを理解した。

 

「さて、今回の私達の目的は黄金魚を30匹納品する事だ。エリア10番での釣りになる。しかし、ユーカから聞いた話だと、孤島には大型モンスターが集まっているらしい。その中でもリオレウスとリオレイアとジンオウガが現れた場合は私とセツナで対応するが、その他のものについてはみんなで囲ってリン()……連携をとって速やかに駆逐する。私からは以上だが、何か質問は?」

 

 ……特に無いらしい。

 

「じゃあ、出発しようか」

 

 まず、先にリリーとサニー、レベッカの3人に出発してもらい、少し遅れて俺とセツナが出発。

 …こうしないと、また瞬間移動の事を言及されかねないからね!

 




 以下どうでもいいおまけ。
 エクシア先生の質問コーナー。

レベ「はいはーい!」
エク「はいレベッカ君」
レベ「バナナはおやつに入りますかー?」
エク「おやつに入ると思えば入るし、入らないと思えば入りません。因みにおやつは300zまでです」
リリ「はい」
エク「はいリリー君」
リリ「釣りに使うルアーはスピナーベイトですか? それともラバージグの方が良いですか?」
エク「バスフィッシングじゃなくて黄金魚を釣りに行くので黄金ダンゴを使って下さいねー。っていうかそんな専門的な事言っても読者の方は解らないですからねー」
サニ「…先生…トイレ…」
エク「先生はトイレじゃありません」
レベ「ドクシャ…? の方とは何の事なのですかー?」
エク「毒を操る者の事です」
リリ「ドーモ、エクシア=サン。リリーです」
エク「それはニンジャですよ、リリー=サン」
レベ「ニンジャとは何の事なのですかー?」
サニ「…刀一本のみで…あらゆる敵を斬り伏せる…武士(もののふ)…」
エク「それはサムライでござるよ、サニー=サン」
セツ「あんたら、何言ってんの…?」
エク「暇を持て余した」
リリ「ハンター達の」
サニ「…遊び…」
レベ「なのです!」
セツ「………」

 オチはない。


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今日は孤島が騒がしいな……。

でも少し……この孤島、泣いています……。


 孤島に到着した訳だが、ベースキャンプには俺とセツナ、魔理沙と霊夢以外はまだ誰も来ていない様だった。到着するのは瞬間移動の方が少し早い。俺達は一体、どの様なルート、手段で移動しているのだろうか。目撃者が居ないので、こればかりは確認のしようがない。

 

「他の連中はまだ来てないみたいね」

「そうだな。少し待とう」

 

 それから十数分程して残りの3人が到着した。

 

「矢っ張り早いですね、エクシアさん」

「ほんと、凄いです! 私達よりも後に出たのに、何でそんなに早いんですか!?」

「…潮の流れに…乗って、泳いできてるん…だって…」

「泳いで来てるんですか!? す、凄いですね…でも、それにしては濡れてない様な…?」

「私達より早く着いて乾かしたんですよ、前の時もそうでした」

「そうなのですか! 矢っ張りエクシアさんは凄いです!」

「あ、あー…うん…まぁね…」

 

 ……何か、心が痛いな…。全部嘘っぱちだし…。

 

「それにしても、セツナさんもエクシアさんと同じで泳ぎが得意なんですね!」

「へっ!?何?何のこt」

「あー! あー! …えー…、その話はまた今度にしよう。私達にはやるべき事があるからね」

「あ、そうですね。ごめんなさい」

 

 強引な話題転換にも疑念を抱かないリリーちゃんマジチョロい。

 しかし、いずれはキチンと正直に話した方が良いかもしれない。その方が楽だし、嘘をついているという罪悪感も無くなる。また今度打ち明けよう。

 

「とりあえず、3人で残りの支給品を持ってくと良いよ」

「はい、わかりました」

「わっかりましたー!」

 

 レベッカは子供なだけあって元気いっぱいだな。可愛げがあっていいよね。別に俺はロリコンじゃないけど。

 支給品に関しては、俺以外の4人で4等分である。俺は色々用意してきたので必要ない。

 

「…ちょっと、エクシア」

 

 ふと、小声でセツナが話しかけてきた。同じく小声で返す。

 

「どした?」

「あんた、あの娘達に何を吹き込んだの?泳ぎが得意とかって何の話よ?」

「いや、ちょっと色々あってね…私達は孤島に泳いで来た事になってる」

「はぁ?何それ意味わかんないわよ無理があるでしょどういう事よ?」

「だから色々あったんだよ…説明するとちょい長くなりそうだから、悪いけど今は話を合わせてくれ」

「んー…よく解んないけど解ったわ、合わせてあげる。今回のクエストに付き合ってくれた訳だしね」

「助かるよ」

「エクシアさん、どうかしたんですか?」

 

 不意にリリーから声を掛けられ、ドキッとなった。心臓に悪いよ。びっくらこいた。

 

「いや、何でもないよ。支給品は持った?」

「はい、全部持ちました」

「よし、じゃあ行こうか」

 

 そうして俺達は最初の穴蔵へと入っていった。真っ暗なので、手探りで進んでゆく。何度も通ったので、流石に慣れた。

 そして、暫く進んでゆき、外の明かりが見えてきた時の事だった。

 

 ━━━グオアアアァァァァァァッ!!!

 

 ……モンスターと思しき咆哮が聞こえてきた。今の鳴き声は……リオレウス、か?

 

「ちょっと様子を見てくる。みんなはここで待ってて」

 

 俺が一人で偵察に向かう。全員で行ったら、いざという時に身動きが取れず、大変な事になってしまうからだ。

 で、穴蔵から少しだけ顔を出して外の様子を窺うと━━━

 

「グオアアアァァァァァァッ!!」

「ガアアアアァァァァァァッ!!」

 

 ━━━地上で二頭のリオレウスが、熾烈な争いを繰り広げていた。

 ………。

 えっと、これはどういう状況なんでしょーか。

 (リオレイア)の取り合い? 縄張り争い? 単純に喧嘩?

 そもそも、ここはエリア1番だからリオレウスは来ない筈なんですがね。ケルビも居なくなってるし。

 色々とツッコみたい所だけど、とりあえずどないしよ? 駆逐して先に進むか? それとも無視して走り抜けるか?

 ……無視しよう。放っておけば勝手に潰しあってくれるし、襲ってきたらその時は既に弱っているから大して時間も掛からず駆逐出来る。

 みんなの居る所まで引き返す。

 

「どうだったの?」

「なんかリオレウスが二頭、争いあってた。相手するのも面倒だし、無視して先に進もうと思う。ただ、突っ切ろうとした時に此方へ向かってくる場合は私とセツナで対処する。その間に他のみんなは先に進んで」

「ご主人、戦闘になったら私も一緒に闘っていいよな?」

「いや、魔理沙と霊夢はみんなについて護衛を頼む」

「……うん、わかった。任せてくれ」

 

 表情には余り出ていないけど、明らかに落ち込んでいるのが解る。

 ……耳があからさまに倒れてるから。帰ったらいっぱい可愛がってあげよう。

 

「よし、行くぞ!」

 

 穴蔵から一斉に飛び出し━━━特に問題なく通り抜ける事が出来た。そもそも闘いは空中戦へと移り変わっていたので、巻き込まれる要素が無い。

 そのままエリア2番へと続く長い長い傾斜を下ってゆく。本当に長い。マジで勘弁してほしい。

 エリア2番へ辿り着くとドスファンゴに遭遇したが、セツナが風の様に駆け抜けあっという間に始末した。流石は双刃剣姫様。10秒も掛かっていない。南無南無。

 皆が剥ぎ取ってゆく中、俺とセツナは剥ぎ取りをしない。

 実は狩り祭りの後に追加報酬として、ギルドから30000zとドスファンゴの素材が腐る程送られてきたのだ。まぁ合計で300以上もの死体を積み上げた訳だしね。当然の処置と言えばそうなんだけど、大猪の皮が500個超えちまったぞ。大猪の牙も400近くある。こんなに要らねえよ、使い道も無いし。金に困ったら売ろう。

 

 剥ぎ取りを終えた様なので、再び先へ進む。今度はエリア5番だが、またしてもドスファンゴが現れた。当然、セツナに秒殺される。

 ………。

 また異常繁殖してるみたいなオチはやめてくれよ…? まぁ、ここは孤島だからそんな事は無いと思うが。

 ……無いよね…?

 

「剥ぎ取り、終わりました」

「ん、先を急ごう」

 

 更にエリア9番の方へと進んでゆく……けど、妙だな。エリア9番からは常に海の水が流れてきている筈なのに、今は何故か干上がっている。

 よく解らないけど、そのまま9番を突っ切りエリア10番へと到着━━━した所で、ドスジャギィが岩影から突如として姿を現した。

 

「……ッ!?」

 

 しかも、ドスジャギィはいきなり襲い掛かってきた。大口を開けて噛み付こうと迫る。

 対する俺は、咄嗟にファーレンフリードを展開しないまま前へと突き出した。ドスジャギィの大口が俺の弓へと噛み付く。

 

「あぶっ…ね…!」

 

 間一髪で噛まれずに済んだ。

 しかし、ドスジャギィはファーレンフリードをくわえたまま離そうとしない。

 離しやがれ………ぐっ、駄目だ、コイツ意外と力が強い…! 引き剥がせねぇ…!

 

「…この…ッ……うっ…!?」

 

 蹴りでも入れてやろうかと思ったが、横合いからジャギィが襲い掛かってきた。咄嗟に弓を離して後ろへ下がる。

 ……やべ、つい弓を離しちまった……どうせ大したダメージじゃないのに……。

 

「エクシアさん、囲まれてます!」

 

 リリーが叫ぶ。周りを見回すと、確かにジャギィやらジャギィノスやらがザッと……50ぐらいは居るか…?

 おいおい、いつの間にこんな沢山集まったんだよ…。最近、数の暴力が多くないか?

 再びドスジャギィに視線を戻すと、ファーレンフリードを向こうに放った所だった。このクソ野郎、あれが武器だって事を理解してやがるな…。

 だが、舐めてもらっては困るな。弓使いは弓が無ければ闘えないなどと思ったら大間違いだ。それをすぐに解らせてやるぜ。

 

「どうすんのよ、エクシア?」

「勿論、全滅させる。リリーとサニーはジャギィをひたすらに撃ち、レベッカとセツナは2人にジャギィを近付けさせない様に上手く立ち回ってくれ」

「わかった。けど、あんたはどうすんの?」

「私はアイツに用がある」

 

 ドスジャギィを指差す。

 恐らく、コイツらは俺達を待ち構えていたのだろう。でなければ、あんな急に襲い掛かってくる事はない筈だ。

 なればこそ、教えてやろう。

 狩られる立場にあるのは貴様等の方だという事を。

 

「魔理沙、霊夢。私にジャギィを近付けさせるな」

「了解だぜ、ご主人!」

「ええ、わかったわ」

「……さぁ、狩りの時間だ!」

 

 両手に一本ずつ矢を携え、俺はドスジャギィに向かって走り出した。

 




エク「どうやら孤島に良くないものを運んできたようだ……」
セツ「……あんた何言ってんの……?」

モンスターハンターの日常。



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狗竜など相手になるかァーッ‼︎

最近、戦闘シーンのカットが多い気がするので今回は真面目に書きました。


 ドスジャギィへと駆け出す俺に向かって、ジャギィとジャギィノスが左右から襲い掛かってくる。しかし、左のジャギィは魔理沙の連続小タル爆弾をくらって吹き飛び、右のジャギィノスは針の様な物が幾つも突き刺さって吹き込んだ。

 ……今の針は封魔針って奴だろうか。東方projectにおいて博麗霊夢が妖怪退治に使う針である。アイルーは皆、個性的な武器を使うな…。

 何にせよ、魔理沙と霊夢のお陰でドスジャギィに集中出来る。

 

「さっきはよくも不意打ちしてくれたな!」

 

 ドスジャギィの前に躍り出ると、両手に持った矢で切り掛かる。派手に血が飛び散るものの、怯むことなく俺に噛み付こうと牙を向いてくる。

 それを横に一回転しながら避けつつ右側へと回り込み、両手に持った矢をドスジャギィの胴にグサリと突き刺す。

 再びホルスターから2本の矢を取り出し、此方へ向き直るドスジャギィの顔面を切りつけながら左側へと回り込む。先程と同様、両手の矢を胴に突き刺す。

 更にホルスターから2本の矢を取り出しつつ、今度はバックステップ。そのタイミングで丁度ドスジャギィが尻尾の回転攻撃を繰り出してきた。勿論、それを見越して距離を置いたのだ。尻尾は見事に空をきる。

 攻撃が終わったと同時に距離を詰め、顔面を数回切りつける。その内の2回は鮮血と共に薄紅色の紅い光を放っていた。恐らく、クリティカル判定のエフェクト効果だろう。

 そこでドスジャギィの噛み付く攻撃。身体を横回転させながらまたしても回避。更にその回転の勢いを利用してドスジャギィの頭に切りかかる。

 再び尻尾の回転攻撃。今度は姿勢を低くして躱しつつ、足を切りつける。すると、ドスジャギィが怯んだ。その隙を逃さず立ち上がり、透かさず連撃を叩き込む。

 ドスジャギィが体勢を立て直した所でバックステップ。馬鹿の一つ覚えの様に噛みつき攻撃を行うドスジャギィだが、そこに俺は居ない。

 再び距離を詰め、喉元に2本の矢を突き立てる。

 そして、俺は左方に大きく飛んでゴロリと地面の上を一回転。その過程でファーレンフリードを拾い上げ、展開。矢を番えて弦を引く。キィン、キィン、キィンと、矢が3回光ったと同時に放つ。

 4本の矢が縦列に飛んでゆき、ドスジャギィの胴へと突き刺さる。鮮血と共に薄紅色の紅い光を放つ。クリティカル判定だ。

 ドスジャギィの身体が大きく吹き飛び、放物線を描いて地面へと叩きつけられる。

 ……動く気配は無い。どうやら絶命した様だ。ファーレンフリードを畳みながらみんなの方へ視線を移すと、ジャギィとジャギィノスの群れは殆ど残っていなかった。40近い死体がそこら中に転がっている。

 残った数匹のジャギィ達もエリア9番の方へ逃げていった。ドスジャギィという司令塔を失った為だろう。

 

「終わった様ね」

 

 セツナがホーリーセーバーを納刀しながら此方へ近寄ってきた。

 ……鞘もなく背負っただけだが、納刀と言うのだろうか。今更ながら、むき出しの状態って危険じゃね?

 

「そっちも無事みたいだな」

「当然よ、私が居るんだもの。ジャギィやジャギィノスが何匹居ようが敵じゃないわよ」

「ドスファンゴだったら?」

「……それはもう勘弁ね…」

 

 苦笑を浮かべて肩を竦めるセツナ。それには激しく同意だな。出来るなら余り見たくない。既に2回も遭遇している訳だが。

 

「エクシアさん」

 

 リリー達も此方へ駆け寄ってきた。

 もじもじしながら、

 

「あのー…、素材の剥ぎ取りを行いたいんですけど、良いですか?」

 

 と上目遣いで聞いてきた。

 ……セツナの時にも思った事だが、上目遣いの破壊力はヤバいな……可愛過ぎる。

 

「勿論、構わないよ。私は特に必要ないから、先に釣りを始めてるね」

「はい、ありがとうございます!」

 

 何とも良い笑顔で……多分、金策の為の剥ぎ取りだろうな。ジャギィの素材といえど、これだけ狩ったのだからそれなりの金額にはなるだろう。

 

「セツナはどうする?」

「私も釣りをするわ。素材は特に必要ないしね」

「そっか」

 

 俺とセツナは釣りを、リリーとサニー、レベッカの3人は剥ぎ取りを行う事に。量が量なので、剥ぎ取りには暫く時間が掛かるだろう。

 で、だ。改めてこのエリア10番を見回してみると、水が殆ど引いている。

 ……引き潮か? 潮の満ち引きとかあるんだろうか。月や太陽の引力によって生じるのだから、あってもおかしくはない。数時間ぐらい経ったら満ちてくるのかな。

 

 とりあえず、その辺りに転がっていた手頃な岩を拾って、エリア10番の隅にある釣りポイントの前に置き、その上に座る。

 セツナは離れた所で釣りを始めた。釣りポイント以外でも釣れるのかな。

 ……ところで、ここは一応砂浜地帯なんだが、海に接する部分が崖の様な直角になっているのは何故だろうか。普通の砂浜ってのは、もっと緩やかな傾斜になっているものではないのか。直角ってなんだよ。どういう原理でそうなってんだよ。実は砂でも土でもなかったりするのか?

 地面に手を触れてみるが、普通に砂だ。まごうごとなき砂だ。

 なら、何で波に引っ張られて斜面になっていないのか。

 ……試しに、角になっているの部分を足で削って海に落としてみる。と、砂が下から湧き上がる様に欠けた部分が埋まった。

 ………なにこれこわい。

 何というか、土が再生した、とでも表現すれば良いのだろうか。この孤島は生きているとでもいうのか。実はでっかい古龍とかだったりするのか。

 

 本当に怖くなってきたので釣りをしよう。

 釣り竿を取り出し、アイテムから黄金ダンゴを選択。釣り餌が黄色くて丸いダンゴに変わった。

 ………釣りフィーバエとツチハチノコで何故黄色になるのか。ツチハチノコはオレンジに近い色だったのだが。

 まぁいいや。

 兎も角、黄金ダンゴを使えばそこに居る魚達は皆散って、黄金魚が3匹ぐらい湧いてくるのだ。あとはタイミングを見て竿を上げるだけの簡単なお仕事。黄金ダンゴさえありゃあ、黄金魚なんてすぐに30匹釣れるだろ。何せ5人も居るんだからな。

 さぁ、第一投目。餌をポチャンと投げ入れる。

 

「………えっ」

 

 ………。

 黄金魚が出て来ないんですが……。元々居た魚達も黄金ダンゴには目もくれずに泳いでいる。

 ど、どういう事だってばよ…? まさか、黄金ダンゴパワーはこの世界では通用しないというのか…? 地道に一匹ずつ釣れというのか…?

 ………。

 どうにもそうらしい。数分待ったが、一向に黄金魚は現れなかった。

 マジかよ…。滅茶苦茶面倒くさいんですがそれは…。

 と、愚痴っても始まらない。早速、無限に持ってる釣りミミズにチェンジ。釣り針に触れると、何処からともなく現れたミミズが針に突き刺さる謎仕様。これもちょっとこわい…。

 うねうね蠢くミミズを海面に向けてそぉい!

 すぐさま魚がヒット! サシミウオが釣れたぞぉ。わぁい。

 しかし、新しく湧いて出たのは黄金魚ではない。黒い魚だ。あれはキレアジかハリマグロか…。

 まぁ、まだ始まったばかりだからね。焦ることはないさ。

 

 ふと、魔理沙が膝の上に乗ってきた。甘えん坊めっ!

 一方の霊夢はというと、すぐ近くの採掘ポイントから採取を行っていた。真面目だなぁ。

 魔理沙を撫でながら、釣りを続行。

 キレアジが釣れた。ハリマグロが釣れた。またサシミウオが釣れた。

 キレアジ。はじけイワシ。はじけイワシ。キレアジ。ハリマグロ。古代魚。サシミウオ。サシミウオ。キレアジ。小金魚。はじけイワシ。はじけイワシ。キレアジ。小金魚。ハリマグロ。古代魚。はじけイワシ。キレアジ。古代魚。小金魚。はじけイワシ。古代魚。小金魚。ハリマグロ。はじけイワシ。ハリマグロ。ハリマグロ。サシミウオ。キレアジ。サシミウオ。白金魚。キレアジ。小金魚。小金魚。

 ………。

 黄金魚が出て来ねぇ…!!

 何でだ!? 白金魚は出てくる癖に、何で黄金魚は出て来ねぇんだよ!? っていうか白金魚って上位でしか釣れない筈だろ!! 何これ!? 上位クエストなのこれ!? リリーやサニーを連れてこれた事を考えれば、下位クエストだと思うんだけどね!? そういった制約は無いのかな!?

 ……何にしても、もう30分近く経っているというのに黄金魚は一匹も釣れていない……。これは長期戦を覚悟せねばなるまい…。

 日暮れまでには帰れると良いなぁと思いつつ、尚も釣りを続けるのであった。

 




釣り上げた魚は、作者が釣ったものを殆どそのままの並びで書いてます。
……エクシアと違って黄金魚は3匹釣り上げましたが。


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浮きが沈んだら竿を引くだけの簡単なお仕事。

「エクシアさん、お隣良いですか?」

 

 俺が外道━━釣り用語で本命以外の魚の意━━ばかり釣り上げていると、リリーが声を掛けてきた。ジャギィの剥ぎ取りは終わったらしい。彼女の手には、俺が椅子にしているものと同程度の大きさをした岩。

 ……人を撲殺するのに丁度良さそうな大きさである。それを持っている人に近付かれるのは、若干の恐怖を覚える。いや、リリーがそんな事をする訳が無いのは解ってるんだけどね?

 

「うん、いいよ」

「やった! ありがとうございます」

 

 俺の左隣に岩を置えてその上に座り、釣り竿を取り出すリリー。

 ……にしても、近過ぎる。ぴったりくっついてきている。おまつり━━釣り用語で自分や他の人同士の釣り糸が絡まり合う事━━状態にならないか心配なのだが……。

 サニーも此方へやってきた。

 

「…あの…私も…」

「私もお隣良いですか!?」

 

 何かを言おうとしたサニーの言葉を遮り、レベッカ登場。

 

「あ、うん…良いけど…」

「やったぁ!」

 

 嬉しそうハシャぎながら、手頃な岩を持ってきて俺の右隣にレベッカが座る……って、だから近い近い。何でそんなにピッタリくっついてくるねん。釣りにくいやん。

 ところでサニーはさっき何を言おうとしたんだろうか。それは解らないけど、彼女は暫くウロウロした後、リリーの隣に落ち着いた。

 ……何がしたかったのだろうか。

 と、そんな事やってる間に魚がヒットした。釣り上げたのは、ハリマグロ。

 すぐさま新しい魚がポップするが、矢っ張り黄金魚ではない。何でや。いい加減出て来てもええやろ。このまま釣り続けたら、アイテムポーチに入らなくなるぞ。

 確か、それぞれの魚の最大所持数ってキレアジが20、サシミウオが10、ハリマグロが30、はじけイワシが40、小金魚が99だったかな。古代魚と白金魚は知らんけど。

 

「流石です、エクシアさん!」

「え? あ、うん…」

 

 外道だから喜べないけどね…。というか、いつもリリーからヨイショされてる気がする。気のせい?

 

「実は、私は釣りが苦手でして…。良ければ釣りのコツとかを教えて頂けませんか?」

 

 つ、釣りのコツですか…。リアルの釣りは知らんけど、このモンハン世界の釣りのコツは、浮きが沈んだら引く事。それから……、……それからー……。

 ……それだけじゃね?

 ………。

 いや、いくら何でもそれだけじゃアドバイスとはいえないよな。浮きが沈んだら引くんだよーとか言ったら、当たり前過ぎて呆れられちゃうよ。

 何か無いか?

 考えろ俺。

 こじつけでも何でもいいアドバイスっぽい言葉を何かしかし余り時間は掛けられないぞ間が開きすぎて変な空気になってしまうそれだけは避けなければ何でもいいから閃け頑張れ俺の脳みそ━━━

 

「釣りのコツはね、浮きが沈んだ時に引く事だよ」

 

 ダメでした。そんなすぐに適当な言葉が思い浮かぶ筈もない。結局、当たり前の事が口から出てきた。

 うぐぐぐ…間違いなく好感度は下がってしまった…とか思っていたら、

 

「そうなんですか! 簡潔で解りやすい説明です、流石エクシアさん!」

 

 ……えっ、何その好意的な解釈。おおよそ誰に聞いても同じ答えが返ってくるであろうと思われる事を言っただけなんだけど……。

 ま、まぁいい。兎に角、ここで更なるフォローを入れておくべきだ!

 

「口で言うよりも身体で覚えた方が早いよ。早速やってみよう」

 

 言って膝の上に居る魔理沙を下ろして立ち上がり、後ろからリリーの身体を抱く様に両腕を回し、彼女の手の上から釣り竿を握る。

 フフフ、釣りを教えるついでに、さり気なく密着する事が出来たぞ。我ながら完璧な作戦だ。

 でも、難点が2つ。

 まず、俺もリリーも鎧を着込んでいるからゴツゴツした感触しかなくて、密着しているありがたみが薄い。でもまぁ良い香りがするので、これは良しとしよう。

 2つ目は、リリーと比べて俺がチビだという点。背が低いという事は、腕も短いという事。

 ただでさえリリーの方が身体の大きさは上だというのに、更に鎧を纏っているので腕が回しづらいし、前が見づらい…。

 だ…だが、こんな事でへこたれないぞ……。女の子と密着出来る、数少ないチャンスなんだ…。ちょっと体勢がキツいぐらい屁でもないぜ…。

 出来れば、魚も暫く釣れなくていい。

 ━━━何て思った時に限って魚は食い付いてくる。

 

「今だ」

「は、はい!」

 

 勢いよく竿を上げて暴れる魚を岸際に引き寄せ、竿を手放しリリーに預ける。俺はそのまま彼女の前でしゃがみ、水の中へ手を突っ込んで魚をすくい上げた。少し大きくて黒い魚。ハリマグロだ。

 

「………ッ! やりました、エクシアさん!」

「わっ!?」

 

 リリーがいきなり抱きついてきた。魚が釣れたのが余程嬉しかったのだろうか。危うくハリマグロを落とす所だった…。

 

「こんなに簡単に釣れたのは初めてです! ありがとうございます!」

「う、うん…」

 

 ハリマグロを釣り上げただけで、こんなに嬉しそうに…。もしかして、彼女は釣りの方も完全な素人だったのだろうか。苦手とか言ってたし、それなら俺のショボいアドバイスに好意的な反応を見せたのも頷ける。

 

「あー! 逃げられちゃいましたー!」

 

 今度はレベッカ。魚に逃げられたらしい。

 

「エクシアさん、私にも釣り方を教えてもらえませんかー?」

 

 凄い良い笑顔で聞いてくる。

 ……何となく、わざとらしい声に聞こえるのは俺の気のせいなんだろうか。

 とりあえず「いいよ」と了承し、岩をレベッカのすぐ後ろに移動させて後ろから抱く様に座る。レベッカは身体が小さいからチビの俺でもすんなり収まるな。セツナより小さい。何というか、アイルーに通ずる可愛さがあると思う。

 リリーの時と同様、レベッカの手の上から竿を握る。

 もしも俺が元の男の身体だったら、完全に事案。通報される事、間違いなし。女で良かった…。

 さて……。

 ……魚が掛かりません。今、リリーとサニーの方に掛かったけど、レベッカの方には全く魚が寄り付かない。何でだ。

 

「掛かりませんねぇ」

「うん…そうだね…」

 

 ……おかしい。おかし過ぎる。

 餌を放ってから、10秒もあれば魚が食いつく筈なのだ。現にリリー達の方は入れ食い状態。何でレベッカの方に食い付かないんだ…?

 試しに上げてみる事に。

 

「あっ」

「……あ」

 

 ……餌が付いてない。針だけだ。

 ……そりゃあ釣れねぇよ…。

 

(…もうバレちゃいました…)

「ん? 何か言った?」

「何でもないのです!」

 

 ……?

 よう解らんけど、とりあえず餌を付けてもう一度投下。すると、魚はすぐに食い付いたので、竿を引く。そこからはリリーの時と同じ流れで釣り上げる。はじけイワシだ。

 

「やりましたー!」

 

 レベッカもぎゅっと抱きついてくる。うんうん、よしよし。早くはじけイワシを仕舞ってくれ。コイツは絶命時にはじけると説明文に書いてあった。ハレツアロワナとかカクサンデメキンとかも同様。

 それってつまり、死んだ瞬間に破裂するって事だよね? 見た事は無いけど。いつも手早く仕舞ってたから。

 ……アイテムポーチ内で破裂しないって事は、まだ生きてるって事だよな…? アイテムボックス内の魚も一緒。何で生きてるんだろうか。ハチミツとかも、ずっと入れっぱなしだけど腐らないし。アイテムポーチやアイテムボックスには、現代日本には無いオーバーテクノロジーが使われているに違いない。

 

「…エクシアさん…」

 

 今度はサニー。

 彼女はもじもじしながら、

 

「…私にも…教えて下さい…」

 

 君、さっき普通に釣ってなかった?

 ……なんて勿体無い事は言わない。女の子とのスキンシップタイムを無為に投げ出す程、俺は愚かではない。

 サニーの後ろに回り、同じ様に釣りを教えるのであった。

 




ここまで毎日投稿を続けてきましたが、ちょっと辛くなってきたので更新ペースを少し落とそうと思います。
無理に書いてて話がグダついてきたというのもありますし……。
申し訳ありません。でも、なるべく更新していこうと思いますので、よろしくお願い申し上げます。


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全然釣れないと眠くなってくる。

「……ふわああぁぁ…」

 

 思わず欠伸が出てしまった。隣のリリーとレベッカ、それにサニーがニコニコしながら此方を見詰めている。

 ……手で口元を覆うぐらいすれば良かった。いくら何でもはしたない。もうちょっと女の子らしくしないと。

 しかし、あれから2時間は釣り続けているが、一向に黄金魚が釣れる気配は無い。というか、姿を見せる事すら無い。

 ……どうなってんだ一体……っと、魚がヒットした。ハリマグロだ。既に上限の30匹に達しているのでアイテムポーチには入らない。遠くに放り投げてリリース。2、30メートルぐらい飛んでいった。

 座った状態で軽く放り投げただけなんだが、結構飛ぶんだよな。凄く強い肩をしている。本気で投げれば6、70メートルぐらい飛ばせそう。後で試しに石ころとか投げてみようかな。

 再び膝の上に戻ってきた魔理沙を撫でながら、くだらない思索に耽る。

 

「っと、また来た」

 

 またしてもハリマグロ。即座に遠投リリース。遠くに放り投げてるけど、戻って来ちゃってるんだろうか。

 ……まさかな。流石にそれは頭が悪過ぎるだろ。

 リリーやサニー、レベッカも未だ黄金魚を1匹も釣りあげてはいない。外道ばかりである。白金魚は既に3匹釣り上げたというのに…。有り得ないだろ、この状況。

 有り得ないといえば、4人ピッタリくっ付いて釣りをしているというのに、一度もおまつり状態になっていない。リアルだったら絶対に有り得ない。

 これもゲームシステムとかの関係なのだろうか。不思議。まぁ、お陰で美少女達に囲まれながら釣りが出来るから良いんだけど。

 

「そう言えば、セツナはどうしてるんだろう」

「セツナさんですか? そう言えば、ずっと見てませんね…」

「セツナさんならあっちの方で釣りしてますよ?」

 

 レベッカが左方を指差し、其方に視線を移せば一番向こうの方にセツナの姿が。

 ……あんな所で釣れるんだろうか。ゲームではそもそも釣りポイント以外の場所で釣りが出来なかったが。

 ……試してみようかな。

 

「私、ちょっとポイントを移動してみるね」

「あっ、じゃあ私も行きます」

「私も行くのです!」

「…私も…」

 

 みんなで移動する事になった。マジですか。

 まぁ、移動といっても少しズレるだけなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

「……ふわああぁぁ…」

 

 本日、二度目の欠伸。今度は口元を手で覆ったぞ。

 それでもみんなは俺を見ながらニコニコしている。何というか、微笑ましいものを見た様な表情というか…。

 まぁ、そんな事はどうでもよくて。

 移動してから、魚の食い付きがめっきり減ってしまった。かれこれ1時間ぐらい経過していると思うのだが、釣れたのは5匹。全然魚が寄って来ない。

 だが、黄金魚を1匹だけ釣り上げる事が出来たぞ。やったね。サニーとレベッカも1匹ずつ釣りあげているので、合計3匹。目標数は30匹。丁度10倍。

 

「……ハァー…」

 

 やる気失せるわ…。なんつー面倒くさいクエストなんだよ…。退屈で死ぬ…。膝の上の魔理沙だって寝てるし…。

 

「エクシアさん、溜め息を吐くと幸せが逃げていっちゃいますよ」

 

 と、リリー。逆に君は何故そんな笑顔なのかね…。

 

「あー、ごめんね。なかなか黄金魚が釣れないものだから…」

「そう言えばそうですね。他の魚はいっぱい釣れたのに、不思議ですね♪」

 

 この娘は何でこんなに上機嫌なんだ? 黄金魚が全然釣れていないというのに。俺なんてもう長く座り過ぎて尻が痛くなってきたんだけど…。石の上にも三時間。

 ……慣用句じゃないんだから。

 ふと、右肩にレベッカがもたれ掛かってきた。……寝ている。

 まぁ、この娘は子供だしね……いや、子供じゃなくても眠くなるわな。俺もちょっと眠い。

 気を紛らわす為に魔理沙でも撫でるか。

 そう思った時だった。水面がジャバジャバとはねた。魚が餌に食い付いたのだ。俺の竿ではない。

 

「レベッカ、引いてる引いてる!」

「ふぁぇ…!? あ…っ!」

 

 レベッカを夢の世界から引き戻し、彼女の持つ竿を一緒に引く。釣り上げたのは、本日4匹目の黄金魚。

 

「でかした、レベッカ!」

「ふぇ!? あ、はい! …えへへ」

 

 レベッカを抱きしめて頭を撫でる。よくやった! マジで!

 これであと26匹!

 ……26匹……やっと、か…。先はまだまだ長い…。

 …いかん、数字を意識すると途端にやる気が失せる。考えない様にしよう。

 

 それから再び釣れないまま30分が過ぎた頃の事。

 ……凄く…眠いです…。

 今度は俺に睡魔が襲ってきた。さっきから頭がこっくりこっくりと舟こいでいる…。滅茶苦茶眠い…。ヤバい…。

 ……ちょっと寝ちゃおうかな…。魚も全然こないし、少しぐらい良いよね…。

 

「エクシア!! 後ろ!!」

「ふぁぇ━━━うぐっ!!」

 

 背中に強い衝撃を受け、海の中へと叩き落とされた。

 ……まただよ。何なんだよ一体…。

 水面から顔を出してみると、そこにはブルファンゴの死体が転がっていた。すぐ近くにはセツナが立っている。彼女がやったらしい。

 

「大丈夫?」

「…うん…大丈夫…」

 

 セツナの伸ばした手を掴み、陸へと上がる。

 ……ああ、もう…。また磯臭くなる…。

 

「ごめんなさい、エクシアさん……。エクシアさんなら避けられるって勝手に思い込んでしまって…」

「ああ、いや。リリーが謝る事じゃないよ。私が寝こけてたのがいけないんだし…」

 

 というか、落とされたのって俺だけなのか。膝の上に乗っていた筈の魔理沙ですら落ちていない。何でだ。

 

「……へくちっ!」

 

 …寒っ…。水に濡れた所為もあるけど、日が大分傾いてきたからかな。少し前まであんなに暖かかったのに。

 

「…大丈夫ですか、エクシアさん…」

「う、うん…このくらい何ともないよ」

「何言ってんのよ風邪でもひいたら元も子もないわよ。今日のところはベースキャンプに戻って休みましょう」

「そうですね、そうしましょう」

「…賛成…」

「なのです!」

「えっ? えっ?」

 

 あ、あれ。何だか話が勝手に進んでいくぞ。今日のところはってどゆこと? 明日また釣ろうって事? クエストは日を跨いでも良いのかえ?

 

「さ、行くわよ」

「行きましょう、エクシアさん」

「行くのです、エクシアさん」

 

 みんなに手を引かれながら、元来た道を戻る事になった。魔理沙と霊夢も後をついて来る。

 そうして、エリア2番まで戻ってきた時の事。

 セツナが急に立ち止まり、

 

「ねぇ、誰か肉焼きセット持ってる?」

「あー、肉焼きセットなら私が持ってるけど…」

「そ」

 

 素っ気なく返事を残し、セツナは風の如く駆けだした。その先には3頭のアプトノス。ホーリーセーバーを抜き放つと、アプトノス達に斬り掛かった。いや、襲い掛かったと表現した方が正しいかもしれない。

 アプトノス達はあっという間に倒れて動かなくなった。相変わらず見事なお手前で。

 そして、みんなで剥ぎ取りを行い、ベースキャンプへと戻ってゆくのであった。

 




ギリッギリで間に合った……!


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身を寄せ合えばあたたかい。

 戻って来ました、ベースキャンプ。大分日が傾いてきた。時刻は夕方。

 戻ってくる途中、リオレウスの存在が心配だったが、エリア1番からは居なくなっていた。勝敗はどうなったのだろうか。あんまり興味ないから別にどうでもいいけど。

 

「さ、まずは鎧を脱ぎなさい。その間に私は火を起こすから」

 

 セツナはそう言うと、テントの横で火を起こし始めた。……凄く苦戦してるみたいだが、大丈夫か…。手伝った方が良いんじゃ…。

 ま、まぁ、とりあえずは任せよう。

 さて、鎧を脱げと言われたが、どうやって脱げば良いんだ? いつもアイテムボックスから脱着してるから、どうやって脱いだら良いのやら解らんぜよ。

 とりあえず、兜はそのまま上に上げるだけで外せた。腕も同じ感じで外せる。胴の装備である天城もただの弓胴着だから簡単に脱げた。

 問題は下半身の装備だ。腰のシルバーソルコートとかガッチリくっついてて脱げないぞ……くの…っ!

 ………駄目だこりゃ。でも、普通に考えれば何かしら脱ぐ方法がある筈だよな。呪われた装備品という訳じゃあるまいし。

 こう、どっかにパチッと外せる感じの何かが……あるはず…。はず…。

 

「………」

 

 ……解らん。どないしよ。流石に上だけインナーとかみっともない。

 こうなったら、レベッカ辺りに聞いてみるとか……いや、駄目だ。外し方が解らんのにどうやって装備したんだって話になる。また嘘八百の状態に陥るのは嫌だ。面倒くさいし、心が痛む。

 どっかにある筈なんだって! パチッと外せる何かが……あっ。

 適当に弄っていたら、本当にパチッと外れてシルバーソルコートが地面に落ちた。

 ……やったぜ。さすが俺。

 後は簡単だ。膝ぐらいまで防護しているレギンスを脱いで、スパッツみたいなズボンを脱ぎ━━━

 

「……ッ!!」

 

 あ、危ね! うっかりインナーも一緒に下ろすところだった!

 こんなところでパンツ丸出しとか、目も当てられない。

 ……見られてないよね? と思ったら、リリーとサニーの二人と目があった。彼女達は慌てて俺から目を逸らす。

 ……めっちゃ見られてた…。二人とも凄いガン見してた…。くぅ…恥ずかしい…。というか、何で俺の着替えをまじまじと見てるんだよ!

 兎も角、ズボン脱いで……脱い……脱ぎ……ぬ、脱げねぇ…。ベルトのバックルにインナーが入り込んでて脱げなくなってる…。

 ど、どないしよ…?

 

「どうかしたですか、エクシアさん?」

 

 苦戦してたらレベッカが此方に寄ってきた。

 ……脱ぎ方どうこうの問題じゃないから、正直に話しても大丈夫だよね。

 

「実は、ベルトのバックルにインナーが巻き込まれちゃったみたいで…」

「そうなのですか。ちょっと見せてもらっても良いです?」

「うん…」

 

 レベッカが俺の前でしゃがみ、調べ始める。

 暫くして、

 

「………これは一体脱いじゃった方が良いのですよ。という訳で脱がしますね」

「えっ━━━わひゃっ!!」

 

 ガバッと勢い良く脱がされ━━━インナーどころか、パンツも一緒に脱げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 また少し時間が経って、満月が顔を出し始めた頃。

 俺はセツナの起こしてくれた焚き火の前に座り、呆然と空を眺めていた。

 

「……エクシアさん…元気出して下さい…」

 

 リリーが左隣に座って慰めてくれるが、あんまり元気出ない…。

 だ…だって…パンツが…脱げ…パンツが…脱げ…脱げて…。

 パンツがパンツでパッツンパッツンなパンツがパツパツ…。

 ……いかん、ショックで思考がおかしくなり始めた…。余り考えない様にしよう…。

 そのままリリーに身体を預け、もたれかかる。今は彼女もジンオウ装備を外してインナー姿なので、柔らかく暖かい肌の感触が伝わる。

 女の子の身体って、どうしてこんなに柔らかいのだろうか。ハンターなんだから筋肉がかなりついている筈なのだが。

 

「…お肉…焼けました…」

 

 ふと、サニーがこんがり肉を2本、此方に差し出してきた。既に見慣れた漫画肉。1本はリリーの分だ。

 

「ありがとう」

「ありがと、サニー」

 

 リリーと共に礼を述べて受け取り、もそもそと食べ始める。何度食べても飽きない美味しさ。

 サニーもそのまま右隣にピッタリくっ付いて座った。彼女もナルガ装備を外してインナー姿である。何故そんなに密着してくるのか謎だが、ちょっと寒いなと思っていたので、正直ありがたい。

 

「あーっ!」

 

 今度はレベッカ。トイ……お花摘みから戻って来たようだ。

 言うまでもないが、彼女もインナー姿。

 

「お二人共エクシアさんにピッタリくっ付いてずるいです! 私もエクシアさんにくっ付きたいのです!」

「でも、左右ともうまっちゃってるから」

 

 そう言って俺の背中に腕を回すリリー。

 

「…早い者勝ち…」

 

 同じく俺の背中に腕を回し、フフンと得意気に笑って見せるサニー。それを見たレベッカが「むー…!」と頬を膨らませる。

 何だこの空気は…。

 

「えっと…膝の上が空いてるけど、座る?」

「良いのですか!?」

 

 途端に眩しい笑顔を見せるレベッカ。『お言葉に甘えるのですよ』と言って、胡座をかいて座る俺の膝の上にちょこんと収まった。

 うむ、前が塞がって更に暖かくなったぞ。でも、肉を食べられなくなっちゃったぞぅ!

 

「レベッカ、お肉食べる? …私の食べかけだけど」

「えぅっ!? ですが、エクシアさんの分が…」

「実は、そこまでお腹減ってないんだ」

 

 釣りしてる時にサシミウオを食べたからだろう。

 ……2匹も。

 いやね、ちょっと小腹が空いたな〜と思って、サシミウオは生で食べた事なかったから1匹食べてみようかな〜と食べてみたら意外に美味しくて…つい…。

 そんな訳で、お肉1個はちょっとキツいのだ。

 

「じゃあ、いただきます!」

 

 食べかけのこんがり肉をもきゅもきゃと食べ始めるレベッカ。何となくハムスターを連想してしまう。可愛い。

 

「あーっ!! 私の特等席がっ!!」

 

 今度は魔理沙だ。うるさいよ。此方を指差しながら、わなわなと震えている。どうやら、レベッカが膝の上に居るのがショックらしい。

 暫く固まったまま動かなかったが、ハッと我に返った様に走り出し、俺の背後に回って首のところに飛び乗り、頭にひしっとしがみついてきた。

 

「ここは誰にも渡さん!」

 

 誰も乗らねーよそんなところ。強いて言うなら、この場に居る者の中では霊夢が乗れるけど、彼女は一人お茶を啜っている……ってか、いつも思うけどその湯呑みはどっから出してんだよ。もしかして持ち歩いてんのか?

 ここらで一杯、お茶が怖い。俺にもください。

 

「あんたら、何してんの?」

 

 背後からの声。魔理沙の所為で振り返る事は出来ないが、セツナだというのは解る。周囲の偵察から戻ってきたらしい。服装はドーベル装備のままだろう、多分。

 

「エクシアさんが風邪を引いたら大変なので、肌を寄せ合って温めてるんですよ」

 

 とリリー。

 えっ、そうだったの? やばい、みんなの優しさに感動。嬉し過ぎて泣きそうにござる。

 

「ふーん…」

 

 素っ気ないセツナの声。その直後、しゅるりしゅるりという肌と布が擦れる音、そしてコツンコツンという骨と骨がぶつかる様な軽い音が耳に届いた。

 ……この音はもしかして、セツナがドーベル装備を脱いでいる……?

 その音が途切れた直後、背後から誰かが抱き付いてきた……って、セツナ以外に人はおらんわな。何で抱き付いてきたんだ? セツナのキャラと違くないか?

 最近の彼女はよく解らない。

 しかし、小さいとは言えセツナも立派な女性なのだと改めて理解する。背中に何だか柔らかい感触ががががが…。

 などと思っていたら、

 

「にしても、あんたやっぱり胸あるわよね」

 

 と、人の胸を無遠慮に揉みしだいてきた。

 ……本当に無遠慮過ぎるだろ、お前。

 ところで、漫画とかではこういうシーンで女性が「ぁん…っ」とかえっちな声を出すものだけど、俺は別に何も感じない。

 ……もしかして、この身体は不感症だったりするのだろうか。それともこれが普通なのか、セツナの揉み方が下手くそなのか。よく解らない。

 

「あ、あの、私もちょっと触ってみたいんですけど、良いですか!?」

 

 突然なリリーの発言。

 何を言ってるんだこの娘は…。とりあえずこの場は回避した方が良いと本能が告げる。何となく身の危険を感じるのだ。

 

「……えっと……、また今度ね…」

「本当ですか!? 約束ですよ! 絶対ですよ!」

 

 回避失敗。かなり念押ししてきた。

 ……これは、もしかしたらヤバい約束をしてしまったのかもしれない…。

 内心で後悔しつつ、未だ人の胸を弄るセツナの手を払いのけるのであった。

 




セツナさん
淑女の嗜み
どこいった

 エクシア心の俳句。

 尚、リリー氏は「先っちょだけ!先っちょだけですから!」などと意味不明な供述を繰り返しており━━━

 ひ ど い。


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ほんとうの自分は。

 時間は更に進んで、普通の人間達が眠り始めるであろう時刻。

 俺達もベースキャンプ地に備え付けられているテントで眠る事にした……んだけど、

 

「私はエクシアさんの隣が良いです!」

 

 切欠はリリーの一言だった。

 

「私だってエクシアさんの隣が良いのです!!」

「…私も…エクシアさんの、隣…」

「わ、私もエクシアの隣が良いわね!!べべ、別に深い意味はないけどね!?」

 

 何というか、取り合い状態だった。

 何これ? モテ期ってやつこれ? ちょっと嬉しい。

 などと思っていたが、4人は暫く言い合いを続けた後、

 

「こうなったらエクシアに決めさせましょ!!その方が手っ取り早いわ!!」

「な、成る程。その方が公平ですね…解りました、私はそれで良いですよ」

「…異議なし…」

「私もなのです!」

「さぁエクシア!!誰を選ぶの!?」

 

 げっ、こっちに矛先が向いた。

 何これ? 修羅場ってやつこれ? ちょっと嬉しいとか思っていたさっきまでの自分を思い切り殴り飛ばしたい。

 

「え、えーっとぉ…」

 

 どど、どないしよ? 何つーか、誰を選んでも角が立つ様な気がしてならない。レベッカとか、選ばなかったら泣きそうだし。

 どうする俺? どうする俺!? どーすんのよ俺!? ライフカード。

 ……そんな古いCMの話を持ち出して錯乱している場合じゃない。

 何か考えろ! なるべく角が立たない様に進む道を!

 

「……ジャンケンで…」

 

 それしか思い付かなかった。

 で、結局リリーとセツナが勝ち、その二人に挟まれて寝る事になった━━案の定、レベッカが泣きそうになったので、今度家に泊まりにおいでと誘ったらとても嬉しそうな笑顔を見せた━━訳なのだが、

 

「……眠れない…」

 

 美少女にサンドイッチされて眠るなんて25年間DTを守って来た俺には耐えられない。前にセツナと一緒に寝た時は死ぬほど疲れていたからぐっすり眠れた訳であって、今は特にそんな事もない。

 全身に力を入れ、十数秒してから脱力、という快眠法を試してみたけど効果はさっぱり。

 他のみんなは眠りについたというのに、俺だけ寝られない。

 でも、頑張って寝よう。でないと明日に差し支える。

 …。

 ……。

 ………。

 無理。寝れない。

 結局、夜風に当たろうと思い隣の2人を起こさぬ様、慎重に数分掛けてベッドから這い出た。

 

「はぁー…」

 

 テントから出て、すぐ近くの崖の上に立つ。

 ちょっと興奮して火照った身体に夜風が当たって気持ちいい。

 空を見上げると、闇夜の中で無数に輝く星々が一面に広がっている。日本じゃあ、こんな景色を見る事は叶わなかった。夜空に浮かぶ満月も青々と光を放ち、孤島を照らしている。ふつくしい…。

 でも、日本で見ていた月より少し大きい気がする。

 ……なんとなく、ゼルダの伝説ムジュラの仮面に出てくる月を思い出してしまった。3日経過すると地上に落ちてきて何もかもを吹き飛ばす月。時の歌を吹かなければ。角笛で吹けるかな。まぁ、あの月には顔がついてた訳だけど。

 

「どうしたの、ご主人さん」

 

 背後からの声。振り返れば、そこには霊夢が立っていた。テントの脇にある茣蓙(ござ)の上で魔理沙と並んで眠っていた筈だが、起こしてしまったかな。

 

「ちょっと、眠れなくてな」

「そ」

 

 素っ気ない返事。そのまま崖端に足を投げ出して座った。俺も同じ様に霊夢の隣に座る。

 眼下には波が岩壁に押し寄せ、水しぶきをあげている。低層断崖なので、高さはそれほどでもない。

 そのまま特に話をするでもなく、沈黙が続いた。

 ただただ、夜の闇の所為で先の見えない海がどこまでも広がっている。

 暫くして、霊夢が口を開く。

 

「ご主人さん」

「うん?」

「ご主人さんって、前と少し雰囲気が変わったわよね」

「え…っ」

 

 霊夢の言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。

 ……中身が変わっているのがバレた…?

 博麗霊夢は勘の鋭いキャラクターとして知られている。有り得ない話じゃない。

 ……何とか誤魔化そう。

 

「…そ、そうかな…自分ではそんなつもりは」

「誤魔化さなくても良いわ」

 

 俺の言葉は、霊夢の言葉に遮られた。彼女の顔が此方へと向けられる。その瞳に見詰められると、心が見透かされているかの様な気分になる。

 彼女は更に言葉を続けた。

 

「何となく解るのよ、私には」

「━━━」

「ねぇご主人さん。あなた、一体誰なの?」

「━━━」

「どうしてこんなところに居るの?」

「━━━」

「こんなところに居て良いの?」

「━━━」

「あなたの現実(ほんとう)はどこにあるの?」

「━━━」

「あなたの現実(ほんとう)に帰らなくて良いの?」

「━━━」

「ねえ、ご主人さん」

 

 

 

 ━━━あ な た は 誰 ?

 

 

 

 

 

 ━

 ━━

 ━━━

 

 

 

 ふと気が付くと、俺はベッドの上で寝ていた。目の前にはテントの黄色布が広がっている。

 左隣にはリリーが安らかな寝息をたてており、右隣には苦しそうな表情を浮かべているセツナの顔が。

 ………レベッカの腕が伸びてきて、セツナの喉辺りに乗っている。寝苦しそう。

 

「……夢、か…?」

 

 ゆっくりと身体を起こす。

 まだモンハンの世界に自分が居ると知って、安堵している自分がいた。

 ……それは、この世界で生きていたいという事なのだろうか。

 俺は……。

 

「………」

 

 ふと、茣蓙の上で猫の様に伏せている霊夢と目が合った。

 その瞳に見詰められると、心が見透かされているかの様な気分になる。

 俺は思わず、目を逸らしていた。

 

 

 

 

 

 

 今日も地獄の魚釣りが始まるZOY☆

 という訳で皆を起こし、朝食に昨日釣った魚を食べる。サシミウオは生で美味しい、焼いて美味しいで二度美味しいという素晴らしい魚だ。きっとDHAとかも豊富に違いない。DHAが何なのかは知らんけど。

さて、それから俺たちはエリア10番へと戻ってきた訳なのだが。

 

「やっぱり、ジャンケンで決めるしかないと思うの!」

「異議なしなのです!」

「…負けても…恨みっこ…無し…」

 

 えー、彼女たちが何を揉めているのかというと、誰が俺の隣で釣りをするのか、という事らしいよ。昨日からモテ期が続いております。どうしてこうなった。

 いざジャンケンが始まってみれば、20連続のあいこという奇跡。何千分の一の確率だよそれ。そんな奇跡起こすぐらいなら黄金魚を馬鹿釣りしてください。

 今、23連続を突破した。決着が着きそうにない。

 

「私たちは先に釣りを始めてよう」

「えっ!?あ、うん、そうね」

 

 何故か返事が裏返ったセツナと共に、釣りポイントとは真逆の方の隅で釣りをする事にした。

 今日は昨日と違い、辺りに水が浸水しているので立ったままの釣り。満ち潮だろうか。

 昨日は昼過ぎからだったが、今日は朝からだ。もしかしたら、昼過ぎになったらまた水が引くのかもしれない。地球と同じであるとは限らないので、どうなるかは解らないけど。

 さて釣り糸を垂らしてから10分近く経過した訳だが、一向に魚が掛かる気配はない。やっぱり、釣りポイント以外はなかなか魚が掛からない。かといって、釣りポイントで釣っても黄金魚は全くと言っていい程に出て来ない。ゲームだったらバグの領域だよ。

 リリー達の方は流石に決着が……。

 ……何故か勝負があっち向いてホイに移行している。もう放っておこう。

 

 ふと、バチャバチャと水の跳ねる音がして視線を戻せば、セツナの方に魚がヒットした様だ。彼女は難なく魚を釣り上げ……って、

 

「黄金魚じゃないか!」

「ええ、また一歩目標に近付いたわ」

 

 セツナは釣り上げた黄金魚をアイテムポーチに仕舞う。昨日の分と合わせて5匹目である。あと25匹!

 うん、クソゲー!

 というか、セツナの昨日の釣果を聞いてない。

 

「そういえば、セツナは昨日1人で釣りしてたけど、黄金魚はどれくらい釣れたんだ?」

「え?ええ、15匹釣り上げたわ」

 

 ………ん?

 

「……今、15匹って言った…?」

「ええ、15匹よ。今のを合わせたら16匹ね」

 

 何…だと…!?

 それってつまり、全員分合わせたら合計20匹……残るはあと10匹でいいって事じゃあねぇか!

 

「でかしたセツナ!」

「うひゃあ!?ななっ、急に何よ!?」

 

 思わずセツナを抱きしめてしまい、彼女は驚いた様な声をあげる。すまなんだ。でも、抱きしめずにはいられなかった。

 この強運は最早スキルじゃね? 招き女神の激運とでも呼ぼうか。

 戦闘面では無双の強さを誇るし、ハイスペックハンターだよ君は。セツナ愛してる!

 

「……ねぇ、エクシア」

「ん? どした?」

「……そのまま、私の頭を撫でて」

 

 ……Oh?

 セツナは一体どうしたのだ? 急に甘える様に抱き付いてきて。

 まぁいいか。彼女の頭を優しく撫でる。うりうり。

 そうしてセツナとイチャイチャしている時だった。

 

「きゃああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 後方からリリーの悲鳴。

 振り返れば━━━2頭のリオレウスがこのエリア10番に降り立っていた。

 



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孤島オールスター大乱闘ハンティングシスターズ。

皆勤賞を逃したかの様な気分だ……うごごご……。


 2頭のリオレウスがエリア10番の地に降り立った。風圧でリリーとサニーは吹き飛ばされそうになりながらも何とか堪え、レベッカは1人ゴロゴロと転がっていた。

 か、軽いからね…仕方ないね…。

 しかし、2頭のリオレウスはリリー達の事などまるで意に介さず、互いに睨み合っている。

 ……アイツら、まだ喧嘩を続行していたのかよ。てっきり、どちらかがくたばったものだと思っていたのに…。

 昨日から一晩中()り合っていたのか、それとも一旦インターバルを挟んで再び喧嘩を始めたのか。

 どちらにしても、ここで暴れるっつーならそれなりの覚悟をしてもらおう。邪魔だからな。

 

「セツナ」

「ええ、勿論解っているわ。奴らを蹴散らす。━━━私の素敵な一時を邪魔してくれた礼をたっぷりとしてやるわ」

 

 お、おおぅ…。何故だかセツナさんが燃えていらっしゃるぞ。これは早々に決着(けり)が着く予感。

 

「魔理沙と霊夢はリリー達を頼む」

「わかったわ」

「任せとけ!」

「グオアアアァァァァァァッ!!」

「ガアアアアァァァァァァッ!!」

 

 2頭のリオレウスの咆哮。同時、俺とセツナはリオレウス達に向かって駆け出した。リリー達も弓を手に立ち向かう姿勢を見せてはいるが━━━無謀だ。彼女たちは未だ大型飛竜種の討伐経験は無い。いきなり2頭の火竜を同時に相手取るなど、自殺行為に等しい。

 

「私とセツナに任せて下がってるんだ!」

 

 すれ違い様、3人に声を掛けながらファーレンフリードを展開。

 さぁ、2頭同時狩猟の始まり始まりってなぁ!

 まず、俺たちが接近するよりも先に右方のリオレウスが動いた。よく見るとコイツは尻尾が無い。千切られたか。もう片方のリオレウスは尻尾が健在だ。

 尻尾無しの方が高く飛び上がり、足を前に出して急降下。それを尻尾付きは後方へ飛び退いて回避しながら火球を吐き出した。

 巨体のリオレウスでは避ける事など出来ず、見事顔面に直撃。更に尻尾付きは追撃と言わんばかりに身体を回転させ、尻尾無しの顔面を尻尾で叩く。

 2発の攻撃を受け、尻尾無しの方が怯んだ。その隙を突いてセツナが尻尾無しの顔面へと斬り掛かる。相変わらず、勇敢な闘い振りだ。

 ならば、と。俺はもう1頭の尻尾付きの顔面へファーレンフリードの溜め段階4である『連射Lv4』を叩き込む。ヘイトを煽って、このまま1対1の闘いへと持ち込んでやる!

 尻尾付きは見事に俺の方へ意識を向け、此方に突進攻撃を仕掛けて来た。それを横へ走る事で難なく回避。更にリオレウスの足へ『連射Lv4』の追撃。

 一番下の1本が当たらず地面に飲み込まれてしまったが、問題ない。連射の中で最も強い威力を持っているのは、一番上の矢なのだ。下に連なる矢はオマケ程度の威力しか無く、外れてしまっても別に構わない。勿論、当てるに越した事はないのだが。

 リオレウスが立ち上がり、此方へ向き直る隙に溜め3段階の『連射Lv3』を叩き込む。4段階まで溜めている隙は無かった。

 撃ち込んだらすぐにリオレウスの側面へ回り込む様に走る。弓における立ち回りの基本、モンスターを中心として時計回りに移動し続ける事。これはリオレウスにも通用する。

 

 尻尾付きが2度目の突進攻撃を繰り出すが、難なく回避。しかし、距離が離れ過ぎてしまい、撃っても充分な威力が見込めない。

 そんな時は曲射だ。距離に関係なく、一定のダメージを与える事が出来る。3rdから追加された素晴らしい機能だ。

 距離を見極め、天に向かって思い切り矢を放つ。ファーレンフリードの曲射は集中型。此方にケツを向けたままのリオレウスの頭に全弾命中させてやった。この程度の芸当は朝飯前である。

 さて、もう一度その頭に矢を叩き込んでやろうか。そう思った時だった。

 

「エクシアさん! 後ろです!」

 

 突如として飛んできたリリーの声に振り返れば━━━クルペッコが此方に向かって飛び掛かってきていた。堅い翼爪を叩き合わせて火打ち石の様な発火現象を起こす爆発攻撃。

 

「━━━ッ!!」

 

 その場から咄嗟に飛び退く事で難なく回避出来た。

 コイツ、いつの間にエリア10番に現れたんだ? と言っても、襲ってきた方向を考えれば空からやって来たという事以外ありえない。

 親方! 空からクルペッコが!

 ラピュタか。

 くだらない事を考えている場合ではないが、それのお陰で自分の持ち物にアレが入っているのを思い出した。貴様等をラピュタ王の刑に処す。

 

「閃光玉を投げるぞ!!」

 

 皆に伝えるべく、叫んだ。閃光玉は人間にも効果がある。前に一度自分で実験したのだが、1分近く何も見えないままだった。なので、閃光玉を投げる際には必ず味方への声掛けは必須。

 アイテムポーチに触れ、目の前に並ぶアイコンから閃光玉を選択。右手に握られた球体のそれを前方に投げ、腕で両目を覆ってガード。炸裂音と共にモンスター達の怯んだ声。見れば、2頭のリオレウスとクルペッコの3頭全てに効果を及ぼした。

 

「リリー! サニー! レベッカ! クルペッコは任せる! 魔理沙と霊夢はその援護!」

「っ、はい!!」

 

 リリーの力強い返事。魔理沙や霊夢も居るし、クルペッコ程度なら彼女たちですぐに始末出来るだろう。

 俺はリオレウスに集中だ。閃光玉の効果で一時的に目が見えなくなっているリオレウスの顔面に『連射Lv4』を叩き込む。

 すると、リオレウスは2、3歩たたらを踏んで後退し━━━ドボンと海の中へダイブした。

 

「…………」

 

 何てマヌケな個体なんだ……。ラピュタ王の刑に処すとは思ったが、本当に海へ落ちるとは……。頭の中で声が再生されて思わず吹き出しそうになったわ。

 しかし、どんなマヌケであろうと討伐する事に変わりは無い。海面へ顔を出して必死にもがくリオレウスの顔面へ容赦なく『連射Lv4』を叩き込む。

 このまま押し切れるかなと思ったが、4発ほど撃ち込んだところでリオレウスは飛び上がり、上空へ逃げられてしまった。

 うーん、ちょっと高すぎる。矢が届かないな。これでは撃ち落とす事も出来ない。

 そんな事を考えていた時だった。

 リオレウスは突如、物理法則を無視した速度で此方に向かって急降下してきた。

 

「危ねっ!!」

 

 咄嗟に横へ跳び、地面をゴロゴロと2回転。ズドン、という巨大な岩が地面に叩きつけられたかの様な衝撃音と共に、辺りが砂塵に包まれる。

 今のは間違いなく、上空へ飛翔してからの毒爪攻撃である。本来は『回避性能』でもついていなければ避けるのが困難な攻撃だ。ゲーム時代は、必ず武器を納刀してから緊急回避で避けていたが、距離が相当離れていたのでギリギリ躱せた。今のは少しばかり肝を冷やしたぞ……。

 しかし、舞い上がる砂煙の所為で辺りの様子が解らない。とりあえず少し姿勢を低くして足に力を溜め、何があっても対応出来る体勢を整えておく。

 そして━━━砂煙を払う様にリオレウスの顔がヌッと現れ、

 

「ぅっ━━━うわらばっ!!」

 

 まるで身体を真っ二つにされてやられたかの様な声を発しつつ、どこぞの元配管工の様な華麗なるジャンプ。そのままリオレウスの背中を踏みつけ、飛び越える事に成功。

 ……あ、危なかった……。危うく交通事故に遭う所だった……。咄嗟の神回避、俺は自分を誉めてやりたい。

 

「エクシアさん!」

 

 今度はレベッカの声。同じ轍は踏まぬとその場から飛び退きながら振り返ると、上空に大きな影が。

 

「……おいおい、マジかよ……」

 

 この地に降り立ったそれは、雌火竜リオレイア。

 だが、普通のリオレイアではない。身体の色が緑ではなく、()()をしている。

 それは、3rdでは存在しない筈のリオレイア亜種であった。

 



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孤島オールスター大乱闘ハンティングシスターズDX

 2頭のリオレウスに続いて、今度はリオレイア亜種がエリア10番に降り立った。クルペッコも未だ健在だ。

 まぁクルペッコはどうでもいいとして、問題は3頭の火竜をどうするかだが……。

 

「エクシアはそのままリオレウスの相手をしてなさい!!」

 

 ふと、セツナが脇から飛び出し、そのままリオレイア亜種へと斬り掛かった。彼女の来た方を見やると、そこには倒れたまま動かないリオレウスの姿が。

 もう討伐したのかよ! セツナさんマジパネェッス。

 兎も角、これで俺はリオレウスに集中出来……るぅッ!?

 

 ━━━エリア9番の方からジンオウガが姿を現した。

 

 ……おかしいだろ! 何で今日に限ってどいつもこいつも謀ったようにエリア10番へ集結するんだよ! もうちょっと空気読めよ!

 うぐぐぐ……。こうなったら、魔理沙と霊夢にサポートをさせて早急にリオレウスの始末を……。

 

「ご主人、また新手だ!」

 

 魔理沙の言葉に振り返れば、海からロアルドロスがルドロスを引き連れて陸地に上陸していた。

 ……、……。

 ……ウガアァーッ!!!

 

「リリー、サニー、レベッカ! 悪いけどロアルドロス達の相手も頼む! 魔理沙と霊夢は引き続き3人のフォローを!」

 

 こうなりゃヤケクソだ! リオレウスとジンオウガの相手は俺が一人でしてやらァーッ!!

 弓に矢を番えて弦を引き、リオレウスへと駆け出した。そして、目算2、3メートルほどの距離で溜め段階4の『連射Lv4』を発射。全弾顔面に直撃させつつ地を蹴って飛び上がり、ホルスターから矢を引き抜いてリオレウスの脳天に突き刺した。そのままリオレウスの身体を越えて背後へ回り、弓に矢を番えて即座に発射。溜め段階1の『貫通Lv2』をケツにぶち込んでやった。

 続いて此方の存在に漸く気付いた間抜けなジンオウガにも『貫通Lv2』を連続で叩き込む。これはダメージを与える為の攻撃ではなく、ヘイトを煽って俺を狙わせる為だ。

 2対1だけど大丈夫。ゲーム時代では金火竜と銀火竜を同時に相手して生き延びた事もあるのだ。……あの時は一乙したけど。

 でも大丈夫。俺はやれば意外に出来る子。通信簿とかでも、やれば出来るってよく書かれていた。頑張れ頑張れ出来る出来る。

 

 ジンオウガが此方へ向かって走ってきたが、横へ回り込んで普通に回避。更にリオレウスも横合いから突っ込んできたが、先ほどと同じ様に配管工ジャンプで飛び越えて回避しつつ、ケツに『貫通Lv2』を撃ち込む。痔にでもなってしまえ。

 スタッと着地したところで、

 

「おぼふっ!!」

 

 ━━━ジンオウガの、身体を駒の様に横回転させながら尻尾で薙ぎ払う攻撃炸裂。俺の脇腹に尻尾が直撃して吹き飛び、ゴロゴロと地面を3回ほど転がった。

 い、痛い……例えていうなら柱の角に頭をぶつけたぐらいに痛い……。地味に痛いよ……泣きそう……。

 何て言ってる場合じゃない。すぐに立ち上がり、弓に矢を番えて弦を引く。

 次にジンオウガは前足で踏み潰す攻撃を繰り出してきたが、距離がそこそこ離れていたので普通に走って避けた。

 そこへ今度はリオレウスが走って突っ込んで来た。お前そればっかりだな。顔面に『連射Lv4』を叩き込みつつ、リオレウスの身体を踏み台にして飛び越える。

 ゲームだったらどうしようもない状況だが、これはゲームではなく現実(リアル)なのだ。ジャンプするというアクションによって、横だけでなく上にも避け道が存在するのである。

 まぁ、普通の人間はこんなに高く跳べないんだけど。

 

 再びリオレウスのケツに一撃入れつつ着地し、矢を番えて弦を引く。今度はジンオウガが突っ込んで来たが、横に回り込む様に走って回避。すると、ジンオウガは前足で制動を掛けて高く飛び上がり、放物線を描きながらドスンと地面に墜落。ボディプレス攻撃だ。

 ……が、俺はそこに居ない。ジンオウガから凡そ5メートルは離れた場所を走っている。目測、誤り過ぎじゃね?

 アホのジンオウガは放っておいて、まずはリオレウスだ。そこそこ攻撃を加えた上に、エリア10番へ来る前はリオレウス同士で争っていた事を考えれば、もうそろそろ力尽きる筈である。

 と、リオレウスが羽ばたいて宙に浮き上がった。次の攻撃はブレスか毒爪か。

 兎も角、墜ちろと念じながら『連射Lv4』を撃つものの、残念ながら墜ちない。続けて溜め段階1の『貫通Lv2』を撃ちまくるけど、やはり墜ちない。

 リオレウスの身体が此方に向け、足が自転車のペダルを漕ぐように動く。やべぇ、毒爪攻撃だ。恐らく回避は間に合わない。ダメージを受けるのは確実だ。

 ならば、ただでやられてなるものか。リオレウスが此方に向かって急降下してきたのと同時、俺は地を蹴って僅かに飛び上がり、手に持った矢でリオレウスの画面を斬りつけてやった。

 ━━━瞬間、リオレウスは『ブモオォッ』と怯んだ様な声を発して体勢を崩し、ドスンと地面へ落ちた。そして、僅かにもがいたかと思えば、そのまま力尽きる様に動かなくなった。

 …………どうやら、矢尻の一撃がトドメとなったらしい。なんという奇跡。余計なダメージを貰わずに済ん━━━

 

「うべるぽっ!!」

 

 背後からの強烈な一撃。俺はそのまま吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。

 ……い、痛いよ……。リオレウスのトドメが意外過ぎて、ジンオウガの事が頭に無かった……。

 だが、これ以上は攻撃を貰わんぞ。3rdにおいて、討伐数のトップはジンオウガなのだ。1対1ならばノーダメ討伐は余裕のヨッチャンである。黄金の弓使い(自称)と呼ばれた俺が下位クエストのジンオウガに遅れをとる筈がない。本当に下位クエストなのかは微妙だが。

 弓に矢を番えてジンオウガの攻撃を回避しつつ『連射Lv4』の反撃を顔面に浴びせた時だった。

 

 ━━━グオオオオォォォォォォッ!!!!

 

 辺りにおぞましい咆哮が木霊した。音源の方に顔を向ければ、クルペッコの姿が。新しいモンスターを呼んだらしい。

 ……今のは……ヤツの声だ……。3rdをプレイした多くのプレイヤーにトラウマを与えた恐ろしいモンスター。

 恐暴竜こと、イビルジョー。

 

 ……おいおいおいおい、巫山戯やがって! あいつ、亜種でもない癖にとんでもないヤツを呼びやがった! 正直、トラウマモンスターだからアイツの咆哮はよく覚えている! 間違い無い!

 倒せない訳ではないが装備が悪いし、リリー達も居る。他のモンスターも邪魔だ。

 

「セツナ! 逃げるぞ!」

「はっ!?何でよ!?」

「イビルジョーが来るんだよ!」

「いびるじょー……?って何よ!?聞いた事ないわよ!?」

 

 イビルジョー知らねぇのかよ!? 狩猟経験無いのか! だったら尚更逃げるしかねぇ! 所見でアイツは無謀過ぎる!

 ……セツナなら問題無く狩りそうだけど……いや、それでもリリー達が居るのに一戦交えるのはマズい!

 

「兎に角逃げるんだよォ━━━って来た来たキタキタ!」

 

 ズシンズシンという大型モンスターの足音に合わせて地面が僅かに揺れる。見上げれば、エリア8番である飛竜の巣へと続く崖の上からイビルジョーが姿を現したところだった。

 ……あそこから姿を現したモンスターは初めて見た……とか言ってる場合じゃない。ゲームの時から思ってはいたが、何ておぞましい見た目をしてやがるんだ。

 ワニの様にばっくりと裂けた臭いそうな口。獲物を竦ませる鋭い眼光。ゴムの様な黒い皮膚に覆われた巨大な体躯。リアルで見ると、尚更おぞましい。誰だよコイツのデザイン考えた奴は……。

 

「何アイツ!?あれがイビルジョーとかいう奴なの!?」

「そうだよ! さっさとズラかるぞ!」

 

 叫びながらジンオウガの体当たりを躱す。イビルジョーも崖から飛び降りて来た。モタモタしている暇は無い。

殿(しんがり)を俺とセツナが務め、つかず離れずモンスター達の注意を引きながら、ジンオウガ、リオレイア、クルペッコ、ロアルドロスの攻撃を掻い潜り、皆に続いてエリア9番方面へと走る。

 イビルジョーも黒いブレスを吐いてきたが、何故か後退しながらだったので躱すまでもなく当たらない。おつむは余りよろしくない様子。

 そして、

 

「きゃああああぁぁぁっ!!」

「どうし━━━ッ!?」

 

 リリーの悲鳴があがり、振り返ってみれば━━━エリア9番方面から、もう一頭のイビルジョーが姿を現した。

 



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灯台下暗しとはこの事か。

 イビルジョーが更にもう一頭出現した。

 ……マジでどうなってんだよクソが……ッ!! イビルジョーが二頭も居たら広い様で狭い孤島の生態系なんぞあっという間に全滅すんだろうがよ……!!

 そんな事はどうでもよくて、退路を絶たれた形になってしまった。どうする……!? どうすればいい……!?

 頭の中が真っ白になり、思考が止まる。

 その隙を突かれてしまった。

 

「ぐぅッ!!」

 

 背中に強い衝撃を受け、リリー達よりも前の方、つまりエリア9番方面へ続く入り口付近まで吹き飛ばされてしまった。ジンオウガかリオレイアか解らないが、攻撃を受けたらしい。

 一発一発の攻撃自体は大した事が無いものの、蓄積されるとそれなりに痛みが強くなってくる。かなりの激痛が身体を走り、その分だけ立ち上がるのが遅くなる。

 何とか立ち上がろうと膝を地面に突いた時、新しく現れたイビルジョーは既に俺のすぐそばまで来ており、足を僅かに曲げて体勢を低くしていた。

 あの予備動作はまさか……捕食攻撃か!?

 やばい、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ!! モンスターから攻撃を何発かくらったが、一度も回復をしていない!! 今そんなものくらったら確実に御陀仏しちまう━━━

 

「ぐっ……!?」

 

 またも身体に衝撃が走る。今度は誰かに突き飛ばされた様な軽いものだ。

 いや。『様な』ではなく、いつの間にかすぐ近くまで移動してきたセツナに突き飛ばされたのだ。グルグルと回る視線の中、それだけが確認出来た。

 そして、地面の上を2、3回転ほどしてから漸く止まり、ガバッと身体を起こした頃には、セツナの身体は身動きが出来ない様、イビルジョーに踏まれており━━━頭からかじられていた。

 

 せ……セツナァァァッ!!?

 ヤ、ヤバイ! セツナが死んでしまう!!

 こ、こんな時は……そうだ! こやし玉だ!

 急いでアイテムポーチに触れ、アイコンを展開。

 えーと、こやし玉、こやし玉は……これだ!

 右手に何かを掴んだ感覚。それを思い切りイビルジョーへと叩きつける。

 ボフッと茶色い煙が吹き出し、イビルジョーは怯んでセツナを解放した。

 

「セツナッ!!」

 

 急いで駆け寄……うっ、く、臭ぇ……。い、いや、そんな事を言ってる場合じゃない。ぐったりと倒れている彼女の身体を抱き起こす。表情は苦痛に歪んでいた。

 ……無理も無い、イビルジョーにガジガジかじられてダメージを受け続けていたのだ。派手に血を吹き出していた割には外傷が無いけれど、身体に走る痛みは相当なものだろう。

 しかし、どうする。この様子だと、セツナは暫く身動きが取れない。此方へ突っ込んで来ていたリオレイアとジンオウガにこやし玉を投げつけ怯ませたが、それでも猶予は数秒程度。それでセツナが動ける様になるとは考えにくい。それだけダメージが大きいのだ。

 8番方面から現れたイビルジョーだって此方に向かって来ている。それにクルペッコやロアルドロス……は、いつの間にか姿が見えない。死体も見当たらないので、多分逃げたのだろう。次見かけたら絶対殺す。

 だが、今は兎に角この状況から何とか逃げ出さなければ次もクソもあったものでは無い。

 

「どうするんだ、ご主人!?」

「どうするの、ご主人さん!?」

 

 魔理沙と霊夢が叫ぶ。近くに寄ってきたリリーやサニー、レベッカも不安そうな表情で指示を仰ぐ様にジッと俺を見詰めている。

 ……どうすれば……どうすれば全員無事に逃げ延びる事が出来る……!?

 そこで問題だ!

 この絶体絶命の状況をどうやって切り抜けるか!?

 

 3択━━━ひとつだけ選びなさい。

 ①可愛いエクシアは突如素晴らしい逃走のアイデアがひらめく。

 ②誰かが助けに来てくれる

 ③どうしようもない。現実は非情である。

 ④玉砕覚悟で闘りあう。

 

 3択の筈なのに、いつの間にか4択になっている件について。

 とりあえず③と④は論外だ。諦めたらそこで試合終了だし、闘ったとしても確実に全滅する。

 答え②だが、120%有り得ない。まず他に知り合いなんて居ないし、そもそも俺やセツナがどうしようもない状況なのに、他のハンターが数人現れた程度でどうにかなるとは思えない。

 やはり答えは……①しかねえ様だ!

 にしてもどうするか……いっそ海に飛び込んで逃げるか!? 流石に海の中までは追ってこないだろう。

 

「だ、駄目です……私、泳げないのです……!」

 

 とレベッカ。

 ……マジか。ならどうする。考えろ、何かここから逃げる方法を……。

 そうこうしてる間に、モンスター達は態勢を立て直した。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 何か! 何でもいい! 何か逃げる方法を!

 アイテムポーチに使えそうなアイテムが入っていないかを見て、

 

「ッ! これだ!」

 

 本来は一人用だが、一かバチカン!

 

「みんな、私にもっと近寄って!」

「えっ、あ、はい!」

 

 セツナを抱きかかえながら皆を抱き寄せる。イビルジョーやリオレイアがもうすぐ近くまで寄ってきている! 急げ!

 目の前に展開されるアイコンの一つをタッチし、右手に掴んだそれを地面へ勢い良く叩きつけた。

 途端、ボフッと緑色の煙が吹き出し、視界の全てを覆い尽くす。何も見えないし、何も聞こえない。でも、確かに皆が俺の身体くっついたままなのが解る。リリー、サニー、レベッカ、セツナ、4人共離れず一緒に居る。モンスターの攻撃が飛んでくる様子も無い。

 徐々に煙が晴れてゆき、視界が鮮明になる。

 目の前には少しばかり急勾配な短く細い斜面。その先には人1人が通れそうな程度の小さな穴蔵。すぐ真横には僅かに口を開いた青い箱。

 ……ベースキャンプだ。リリーとサニー、レベッカとセツナも一緒に居る。モンスターは居ない。

 

「はぁー……」

 

 その場の全員が同時に安堵の溜め息を吐いた。何とか助かったみたいだな……。

 俺が使ったのは当然『モドリ玉』である。本来は一人用であるモドリ玉だが、固まっていれば複数人でも同時に運んでくれる様だ。

 本当に一か八かだったが、最悪の結果にならなくて良かった。俺だけここに転移されてしまうとか、移動する直前にモンスターの攻撃を受けて失敗してしまうとか、モンスターも一緒に転移してしまうとか。考え出すと色々出てくるが、兎も角俺たちは助かったのだ。

 

「え、エクシアさん、怖かったのですぅ〜…!」

 

 レベッカが泣きついてきた。あんなトラウマモンスターがいきなり現れたのだから無理もない。よしよし。

 リリーとサニーも互いに抱き合って少し泣いている。俺も実際に奴の姿を見た時はチビるかと思った。

 っと、そんな事よりセツナに回復薬を飲ませなければ。あそこで彼女が俺を庇ってくれなかったら、今頃は全滅してたやもしれん。

 アイテムポーチに触れ、目の前に並ぶアイコンの中から回復薬グレートをタッチしながら枠の外側へフリック。すると、俺の右手に緑色の液体が入ったビンが現れた。

 そのままタッチすると自分で勝手に飲んだ上に訳のわからんガッツポーズをとってしまうが、フリックして外側に弾くと使わずにポーチから出す事が出来るのだ。少し前に色々実験して知ったテクニックである。

 

「セツナ、飲めるか?」

 

 彼女の口元までビンを運ぶと、少しずつ飲み始めた。苦しそうだった表情が徐々に和らいでゆく。

 

「……っぷは!!……あー、ありがとエクシア……生き返った心地だわ……」

「そいつは良かった。もう一本飲むか?」

「ん、大丈夫。自分のを飲むから」

 

 言って、セツナは俺と同じようにアイテムポーチから回復薬を取り出し飲み始めた。

 ……他人がポーチからアイテム取り出したのは初めて見たが、俺と同じように取り出すんだな……。いやまぁ、セツナだから、という可能性もあるけど。リリー達はどうなんだろうか。

 とりあえず俺も回復薬を飲んでおこう。アイテムポーチから取り出した回復薬グレートをグイッと飲み干す。身体の節々にあった痛みが消えてゆく。外傷が無い代わりに痛みが蓄積されていくからな。瀕死のダメージとかくらったら動けなくなってしまうのだ。先程のセツナの様に。

 

「リリー達は大丈夫? 怪我は無い?」

「あ……はい、大丈夫です。私達は攻撃を受けてないので……」

 

 あの乱戦の中、攻撃を受けなかったのかよ!? すげぇなおい!?

 彼女たち曰く、魔理沙と霊夢が上手く立ち回ってくれたかららしい。流石は俺の自慢のアイルーだ。

 …………。

 あれ?

 

「そういえば、魔理沙と霊夢は!?」

 

 辺りに姿が見えない。まさか、エリア10番に置き去りに……!?

 顔からサーッと血の気が引いていくのを感じる。

 ヤバイ。いくらあの2匹がアホみたいに強いとは言え、あんな乱戦の状況下で生き残れるとは思えない。

 どうしよう……迎えに行った方が良いのか……!? でも、モドリ玉は使ってしまったから、もしもの時の手段が無い。いや、こやし玉で追い払いながら進めば何とか……しかし、今から行って間に合うのか……!?

 頭の中で思考がグルグルと巡り、悩んでいた時だった。

 突然、背後から土が掘り起こされた様な音が耳に届いた。振り返れば、そこには土の中から魔理沙と霊夢が這い出てきたところであった。

 ……そこは普通にアイルーなんだな……。

 いや、ともあれ2匹が無事で良かった!

 

「うー……ご主人、土を払ってくれ……」

 

 身体をブルブルと震わせながら魔理沙と霊夢が寄ってきた。服(ニャン天)の上からガシガシ撫でて土を落としてやる。うんうん、よしよし。活躍は見てないけど、2匹ともよく頑張ってくれた。

 

「でも、これからどうするんです……?」

 

 と、リリー。尤もな疑問である。これに答えたのはセツナ。

 

「勿論、奴らを蹴散らすわ。私とエクシアだけなら何とかなるだろうし、何より個人的には借りを返さないと気が済まない……ッ!!」

 

 うわぁ、ご立腹……。ガジガジかじられてたもんね。傍目にヤバイ光景だった。

 っつぅか、あの乱戦だと流石に俺も足手まといにしかならないと思う。

 

「落ち着け、セツナ。私は反対だ」

「何よエクシア臆病風にでも吹かれたの?」

「そうじゃないが、きちんと装備を整えてからじゃないと危険だ。それに、私たちの目的はモンスターの討伐じゃないだろ?」

「それはそうだけど……でもアイツら片付けなきゃさっきの二の舞になるわよ」

 

 セツナの言うとおりだが、釣りポイント以外でも魚が釣れると解っているのだから無理に危険を冒す必要は無い。水のある所でなら釣りは出来るのだ。

 例えばそう、このベースキャンプでも……ん……?

 

「あれは……?」

 

 ふと、見下ろした崖下に魚が跳ねているのが見えた。一カ所に沢山集まっているらしく、今もバチャバチャ魚たちが跳ね続けている。

 

「あ、あれ黄金魚じゃないですか?」

 

 隣で崖下を覗きながらリリーが言う。

 って、なんですと? 今、黄金魚と言ったのか?

 ……確かに、よく見ると金色に光っている様な気がする。黄金魚っぽい。

 顔を上げ、それぞれ互いの顔を見合わせる。

 

 

 

 それから俺たちは崖下に降りて釣りを始め、ものの数分で残る10匹の黄金魚を釣り上げた。

 そして納品を行い、リリー達とは別々で帰路につき、無事にクエストをクリアしたのであった。

 




 その後。

「エクシア、あいつぶっ狩りに行くから手伝って」
「まぁ餅つけ。あと数日したらイビルジョーが他のモンスターを全めt……捕食するだろうからそれまで待て」
「他のモンスターなんて関係ないわよアンタやっぱり臆病風に吹かれてんじゃないの?」

 当たり前だボケ。イビルジョー2匹だけでもアッガイなのに他のモンスターがもれなくついてくるお得なセットなんぞ御免被る。

「借りを返すなら一対一の方が良かろ? それとも、また頭からガジガジかじられたいのか?」
「……、……仕方ないわね。エクシアがそこまで言うなら待ってあげるわよ」

 かじられた時の事を思い出したのか、セツナの顔色が少しだけ青くなった様に見えた。


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セツナのお願い。

 黄金魚のクソクエストから3日が過ぎた頃の事。

 ギルドから依頼されたウルクスス10頭狩りという訳のわからないクエストを難なくこなして集会所に帰ってきた俺は、一人温泉に浸かっていた。

 いや、浸かっているというより湯面に浮いていた。とってもキモチガイイです。

 因みにクエストに連れて行ったオトモアイルーは咲夜と妖夢で、一緒に温泉入らんかと誘ったのだが『人前で裸になるなど、はしたないので』とか言われて断られた。

 ……体毛ェ……。

 というか、彼女たちはお風呂に入ったりしないんだろうか。

 そりゃあね、動物は基本的にお風呂入れたりしなくても平気だけどさ……アイルーも一緒なのか?

 ……猫だし一緒なのかも。まぁ、案外知らないところで水浴びなりしてるのかもしらんね。魔理沙とかも温泉には入るし。

 どうでもいい話だが、犬はブラッシングしないと臭くなる場合があります。もしも飼っているのなら毎日ブラッシングしてあげましょう。最悪、皮膚病なんかになる可能性も。

 ……イマサラタウンだけど、魔理沙たちもブラッシングした方が良いかな……。今度聞いてみよう。

 そんなどうでもいい独り言ならぬ独り思考に耽っていると、視界の端に緑色の髪をした少女の姿が映った。

 

「セツナか」

 

 身体を起こして座りながら、我らがヒーローセツナさんに声を掛けた。

 彼女も俺の隣に座って湯に浸かる。

 

「何か用事か?」

「ええ、ちょっとお願いしたい事があるの……」

 

 デジャヴッ!!

 こ、この流れは……また厄介なクエストに巻き込まれるパターン!

 い、いや待てよ。もしかしたら孤島のイビルジョー2頭討伐を手伝ってくれ的な事かもしれない。

 それについては手伝ってやると約束したから別に良いんだけど、他のクエストだったら━━━例えば、特産キノコや特産タケノコ100個納品みたいなクエストだったら流石に拒否るぞ。

 

「……クエスト、か?」

「そうなんだけど……目的はクエストじゃなくて……」

 

 クエストが目的じゃない?

 はて、どういう事なのだろうか。他に目的があるという事か?

 

「目的ってのは?」

「……ここでは話せないわ。目的地に着いたら話す。それと、今回の件は絶対に誰にも話さないでほしいの。守れないのなら今の話は聞かなかった事にして」

 

 いつになく真剣な表情のセツナ。一体どうしたのだろうか。

 よくわからないが、返事は決まっている。

 

「わかった。協力するし、誰にも話さない」

「……ありがとう」

 

 セツナがそっと身体を預け、もたれ掛かってきた。

 ……最近は本当によくひっ付いてくるな。別に嫌ではないんだけど……いや、寧ろセツナが可愛く思えてきた。俺もセツナもどうしたんだ一体。

 

「ところで、クエストは何を受けるんだ?」

「……特産タケノコの納品。20個」

 

 ……、……めんどくせっ!

 

 

 

 

 

 

 温泉から出た俺は家で装備を変更し、集会所へと戻ってきた。

 上から『バンギスヘルム』『ナルガUメイル』『ナルガUアーム』『ネブラUフォールド』『荒天【袴】』。狩り祭りの時に使った双剣セット装備である。別名女ヤンキーセット。

 発動スキルは『切れ味レベル+1』『スタミナ急速回復』『ランナー』『砥石使用高速化』。

 武器は『無双刃ユクモ【祀舞】』。攻撃力225(ブースト済)、会心率0%。スロットなし。切れ味は青で、スキル『切れ味レベル+1』の効果で白。

 正直、納品クエストだから何でもいいかなと思ったのでコレにした。まぁ、セツナの言う目的が何なのかハッキリしないので、属性武器を持って行く選択肢が無いってのも理由の一つだけど。

 オトモアイルーは外してきた。セツナがどうしても秘密だと言うからだ。連れて行かないと魔理沙が毎回ゴネるんだけど、今回はそれ程でもなかった。他のアイルーも連れて行かないからかもしれない。

 

「待たせたか?」

「いいえ、私もいま来たばかりよ」

 

 セツナとデートの待ち合わせをしていたカップルの様な会話を交えてから、特産タケノコ納品クエストを受注しようとした所。

 

「こちらは現在、重複クエストになりますけどよろしいですか?」

 

 青撫子を身に纏ったユーカにそう言われた。

 はて、重複クエストとは何ぞや?

 よく解らないので素直に聞いてみたら、セツナに呆れた様な目で見られた。

 し、仕方ないじゃんよ……俺はゲーム時代の事しか知らないんだもんよ……。

 重複クエストとは何かをユーカが説明してくれた。

 俺たちが受けようとしている特産タケノコの納品クエストは渓流のクエストなのだが、他にも渓流でアオアシラが闊歩していて危険なので狩猟して欲しいというクエストも出ている。

 こういった地域の重なっている狩猟クエストをついでにこなして来て欲しい、というのを重複クエストというらしい。狩猟クエスト同士が重なっていた場合も同様。

 因みに孤島でやった黄金魚納品クエストは重複クエストじゃないのか、という話だが。アレはまだ調査段階であり、クエストが発布されていなかったので重複クエストにはならなかった、という訳だ。情報に無いイビルジョーとか出てきたしね。

 兎も角、今回の重複クエストはアオアシラ討伐である。

 ………。

 ……逆に特産タケノコ納品クエストやらんで良くね?

 

「なぁ、セツナ。アオアシラ討伐クエストだけやれば良いんじゃないか?」

「駄目よそんなの。今回の……あ、(今回の目的を果たす為にはじっくりと)(探索したいのよ。だから納品クエスト)(じゃないと駄目)

 

 ユーカには聞こえないよう、セツナが耳打ちしてきた。

 ふむ、成る程。探索したいって事は、何かを探したいって事なのかな? 確かに、狩猟クエストではアオアシラを討伐してから1分ほどで集会所へと帰されてしまう為、探索には向かない。

 探し物だったらナズーリンの力を借りるのが良いと思うが……まだ目的について聞いてないからよくわからないし、秘密だというので仕方ない。まぁ、向こうに着いたら教えてくれるとの事なので従っておこう。

 

「わかった。なら任せる」

「ありがと。納品と狩猟の重複クエストで良いわ」

「わかりました。ではクエストクリア条件はアオアシラの討伐及び、特産タケノコ20個の納品になります。エクシアさんとセツナさんなら大丈夫だと思いますが、頑張って下さいね」

 

 良い笑顔でフラグを立ててくるユーカさん。また変な事が起きなきゃいいけど……。

 早速、クエスト出発口へと向かう。

 

「準備は良い?」

「ん、多分。というか、目的がイマイチわからないから何を準備すればいいのか……シビレ罠とか要るか?」

「要らない。まぁ特に必要な物は無いし目的も向こうに着いたら話すわ」

「ん、わかった」

 

 何か起きそうで不安だが、万が一何かが起こったとしてもセツナが何とかしてくれるだろう……と考えるのは、少々楽観が過ぎるだろうか?

 兎にも角にも、俺たちはクエスト出発口から足を踏み出し、渓流へと出発した。

 



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強化人間とは何ぞや?

 渓流に到着しますた。いつものベースキャンプである。

 ゲーム時代は上位クエストだった場合、ランダムで違うエリアに放り出されていたが、こちらの世界に来てからそういった事は一度も無かった。更に言うなら、支給品ボックスに支給品が入っていなかった事も無い。

 ……これはどういう事なのだろうか。下位とか上位とかいう括りは無いという事なのだろうか。それとも、上位クエストであっても最初から支給品が届けられているという事なのだろうか。

 クエストの依頼書には(ランク)が書かれていないので、これに関しては検証が出来そうにない。

 まぁ、そんな事は置いといて。

 隣のセツナがキョロキョロと当たりを見回した後、俺の腕を引っ張りしゃがませて小声で話しかけてきた。

 

「エクシア、強化人間って知ってる?」

「強化人間?」

 

 強化人間……ガンダムかな? 人為的にニュータイプを作り出そうとしたっていう……。

 とりあえず思い当たる節は無いので首を横に振る。

 

「……そう」

 

 セツナは真剣な面持ちで顔を伏せ、顎に手を添えて考え込む。

 ……何だか思い詰めている様に見える。大丈夫だろうか。

 少しして彼女が顔を上げる。

 

「いい?これから私が話す事は本当に誰にも言わないでよ」

「……ああ、誰にも話さない」

「……じゃあ話すわね。強化人間っていうのは、モンスターの性質を遺伝因子レベルで取り入れた人間の事よ」

「………」

 

 ……ん?

 今、セツナさんは何て言ったのかな? 何か遺伝因子がどうのとか聞こえた様な……。

 

「すまん、もう一度言ってくれ」

「だから、強化人間はモンスターの性質を遺伝因子レベルで取り入れた人間の事!リオレウスとかジンオウガとかのね!」

 

 ……遺伝因子ってのはそのまま遺伝子の事だな。モンスターは彼女が言った様にリオレウスとか。

 つまり、そのモンスターの遺伝子を人間にぶち込んで強くなった人間が強化人間って事……?

 

「……改造人間みたいだな」

「改造人間なのよ、強化人間っていうのはね。爪や牙が伸びたりするそうよ」

 

 それもう怪人じゃね?

 やめろショッカー! イーッ!

 

「で、その改造人間改め強化人間がどうかしたのか?」

「……強化人間の殆どは拒絶反応とやらを起こして死んだそうだわ」

「へぇ……。……、()()は?」

「ええ。殆どは、ね」

「……まさか」

「そのまさかよ」

 

 殆どが拒絶反応を起こした。()()ではなく、()()が。

 

「居るのよ、この渓流に。その強化人間がね」

「……マジかよ」

「マジよ」

 

 ……なんと、遺伝子操作を受けた人間がこの渓流に居るのだという。おったまげー!

 何だかバイオハザードみたいな話だな。いや、アレはウイルスだったか。

 

「それで、その強化人間さんとやらが目的なのはわかったが、どうするんだ?」

「意思疎通が出来そうなら私たちの手で保護するのよ」

「保護、ねえ……意思疎通が出来そうにない場合は?」

「その時は……、その時よ……」

 

 セツナがバツの悪い表情を浮かべながら顔を逸らした。

 つまり討伐する、という事だろう。仕方のない事だが、決して気分の良いものではない。それは殆ど人殺しと同義なのだから。

 ……セツナが躊躇した場合は俺がやろう。決意と覚悟を決めて立ち上がると、俺たちは近くの傾斜を下り傾斜へと足を踏み入れる。

 数分ほどしてエリア1番に到達した頃、俺は歩きながら口を開いた。

 

「ところで、その強化人間ってのはどんな見た目をしてるんだ? というか、何でこの渓流に居るって知った?」

「いえ、さっきは居ると言ったけど本当にそうなのかはまだわからないのよ。昨日の夜、ジンオウガの狩猟クエストを受けて渓流に来たんだけど、ターゲットであるジンオウガを見つけた時にそのジンオウガと争っている人影が見えてね。最初はハンターなのかと思ったけど、そいつ武器を持ってなかったっぽいのよ」

「武器を持っていなかった?」

「ええ。更に言うなら防具も腕と脚だけしか装備してなかったわ。暗くてはよく見えなかったから何の防具かまではわからなかったけど」

「……それでジンオウガと闘り合ってたって?」

「そうよ。というかジンオウガを押してたわね」

 

 ……素手でモンスターと渡り合うとか、それもう強化人間じゃなくてガンダムファイターとかじゃないのか。

 更にセツナが続ける。

 

「で、その時はエリア5番の森の中に居たんだけど、私の姿を見るなりエリア6番方面へ逃げていったわね」

 

 ……逃げていったとは、また不思議だな。別にハンターが現れたからといって逃げる理由は無いだろう。普通の人間だったのならば。

 

「それからジンオウガを手早く片付けて探しに行ったんだけど、すぐに集会所へ戻されちゃってね。それでもしかしたらアイツが強化人間なのかもと思って確認に来たって訳」

「成る程。で、私を誘った理由は?」

「1人だと逃がす危険があるからよ。それに、二手に別れて探せば早く見つかるだろうし」

「いや、それならギルドに話して手伝」

「ギルドは駄目よッ!!」

 

 急にセツナが大声を出したので、思わずビクッとなり足を止める。そんな俺の様子を見たセツナが顔を逸らして「ごめん…」と小さく謝ってきた。

 

「……ギルドは、信用出来ないから駄目」

「……、そうか」

 

 何かギルドで嫌な目に遭ったのだろうか? 気にはなるが、彼女の落ち込んでいる様子を見ると、どうにも聞こうとは思えない。

 それから俺たちは暫く無言で歩き続け、漸くエリア5番へ辿り着いた。が、それらしき人物は見当たらない。ブルファンゴが1頭闊歩しているのみだ。

 

「どうする?」

「二手に別れて探しましょう。見つけたら……とりあえず話をしてみて、意思疎通が出来そうなら保護を。暴れるようなら捕まえて頂戴」

「了解」

 

 俺は早速エリア6番方面へと小走りで駆け出す。セツナはエリア2番へ戻り、北のエリア7番を経由してそのまま東のエリア9番へと向かう手筈だ。俺はというと、エリア6番を経由して飛竜の巣であるエリア8番を目指す。そこで一旦落ち合うのだ。

 とりあえず此方の存在に気付き、突進してきたブルファンゴを辻斬りしながらエリア6番に移動。そこに居たジャギィとジャギィノスを全滅させる。そうしないと、コイツ等はエリアを越えてまで追ってくる場合があるのだ。

 さて、それでは滝の裏にある洞窟を潜って飛竜の巣へ向かおうかと振り返った、その時。

 

 ━━━滝の中から一人の女性が姿を現した。

 

 背丈は恐らくリリー達より少し高い程度。少々距離があるので、正確にはわからない。蒼く美しい髪をしているが、数年ぐらい切らずに放置したかの様な長さになっており、その様子はまるで某ホラー映画にてテレビから出てくる幽霊の様。

 そして、服装はというと━━━スッポンポンだった。いや、正確には腕と脚だけジンオウガの甲殻の様な装備を着けているのだが、それ以外はインナーすらも纏っていない。

 それはつまり、何というか、その、長すぎる髪で多少は隠れているが、それでも大事な部分が殆ど丸見えという訳で。

 

「ハァッ!? ハッ、へ…ッ、ヘェアッ!?」

 

 それを目の当たりにした俺は、自分でもよくわからない全く以て意味不明な奇声をあげていた。

 



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渓流に現れた野生の痴女さん。

「ハァッ!? ハッ、へ…ッ、ヘェアッ!?」

 

 メダパニ状態の俺は、裸同然の女性を前に訳のわからん奇声をあげていた。

 何この状況? どういう状況?

 すると、女性は此方に向かって全力ダッシュで近付いてきた。その表情にはどこか鬼気迫るものがある。

 対する俺は更に混乱した。いや、魅了されているとでも言えば良いのか。俺の視線は主に女性の胸辺りに釘付けとなっている。ここに来て25年間捨てる事の叶わなかった童貞が仇となってしまった。

 彼女は残り数メートル程の位置で勢い良く跳び上がり、そこから仮面ライダーばりの跳び蹴りを繰り出してき危ねっ!

 咄嗟に前転で回避成功。もうほんの少し遅ければ俺の顔面にライダーキックが決まっていただろう。

 すぐに身体を起こして振り返ると━━━裸の女性は既に眼前まで迫っていた。

 

「ぐぅ……ッ!!」

 

 彼女に突き飛ばされ、更にマウントを取られて上に乗られてしまった。そして、俺の首を両手で絞める。

 

「ぅぐ……ぅ……ッ!」

「……恨みは無いけど、見られた以上は死んでもらうしかないカナ」

 

 俺の首を絞めている手を振り解こうにも、女性の力が強すぎて振り解く事が出来ない。足をバタバタさせてもどうにかなる訳がない。

 ……あ、ヤバい……意識が……段々と……、こんなところで、真っ裸の女性に……首絞められて死ぬとか……笑い話にも……ならねえ……、

 

「ぅぐぅ━━━ッ!!」

「━━━ッ!?」

 

 それは、無意識の行動だった。自分の意識の落ちる直前、俺は手を真っ直ぐ伸ばして女性の顔面目掛けて貫手(ぬきて)を放った。

 すると、彼女はそれが当たる直前に手を放して飛び退いた。もしも目に当たった場合、失明の危険があるからだ。失明しなかったとしても、確実に視力は落ちる。

 ……この世界では外傷を負う事が無いので、視力が落ちる事もない気がするが。

 

「カハァッ! ゲホッゲホッ、ゲホッ……!!」

 

 新鮮な空気を肺の中へ取り入れ、喉を絞められていた苦しさから咽せる。

 し、死ぬかと思った……! マジに今のは死ぬかと思った……! あとほんの数秒遅れてたら死んでた……!

 自分の意思でやった訳ではないので、もしかしたら身体の防衛本能が働いて勝手に動いたのかもしれない。何にしても助かった。

 

「……無駄な足掻きカナ。どっちみち君は死ぬしかないカナ」

 

 ……カナっていうのは、もしかしなくても語尾なのカナ。ちょっと狙い過ぎな気がするカナ。色んな意味で。

 っていうか、何で服来てないのこの人? 新手の痴女か。どうしても胸元に目がいってしまう俺は童貞の鑑。

 そんな事はどうでも良くて、何で俺は目の前の痴女に殺されそうになってるんだ? さっき『見られたからには〜』みたいな事を言っていたような気がするが、痴女ってる所を見られたくないなら服を着ろよという話。

 兎も角、殺されてやる訳にはいかない。何とかセツナと合流するのがいいカナ。

 しかし、どうやって逃げようか。モドリ玉はあるけど、これはいざという時の手段として取って置きたい。

 ……となれば。

 アイテムメニューを開き、目の前に並ぶアイコンの1つをタッチ。瞬間、右手に丸い玉を掴んだ感覚があり、すぐさまそれを前方に投げる。

 すると、辺りに白い閃光が走った。……筈。

 投げたのは当然、閃光玉である。目を固く閉じた上、腕で覆って防いだので本当に白い閃光かどうかはわからない。が、痴女さんの怯んだ様な声は聞こえたので効果があったであろう事は間違いない。

 

「HAHAHAHA! あばよ、とっつぁ〜ん!」

 

 この世界の人間には100%伝わらないネタ台詞を吐きながら、エリア8番へ続く滝裏の洞窟を目指して走る。浅い川が流れている所為で若干走りにくい。とりあえずセツナと合流して、この痴女の事を話すのが先決だ。

 しかし、痴女ながらいい身体してたな。顔も髪に隠れて見づらいけど、さっきチラリと見た感じ美人だった。何で痴女なんかやってるんだろうか。全裸で渓流歩き回るとかアブノーマルにも程があるだろ。何なの欲求不満なの?

 何とはなしに痴女さんの方を振り返ると、

 

「なっ……!?」

 

 ━━━痴女さんが目を瞑りながらも俺の方へ向かって全力ダッシュで近付いてきていた。

 な、何で!? 閃光玉で目が使い物にならん状態にある筈なのに何でなんでナンデ!?

 とりあえず直角に曲がってやり過ごそうと試みる。が、痴女さんは何故か此方の居場所が解るとでも言わんばかりに俺を追ってくる。

 しかも足が速い。俺の二倍近くの速度で、正確に此方へと迫ってくる。お前はニュータイプか。若しくはイノベイター。

 このままではまた捕まってしまう。そうなったら、今度は決して抜けられない方法で殺しに来るやもしれない。

 俺は痴女の方へ振り返ると、強く地面を蹴って飛び上がった。どこぞの元配管工の様に高い跳躍。軽く痴女さんを飛び越えて着地。

 透かさずエリア8番方面へと走る。チラリと振り向いてみれば、またしても痴女さんは目を瞑りながらダッシュで俺に近付いてきていた。

 だから何で俺の居場所がわかるんだよ!? マジでニュータイプとかか!?

 もう一度配管工ジャンプで躱すものの、どうやって逃げるか。何か使えそうなアイテムは……、こやし玉、とか……? うんこをぶつけられたら流石に逃げていくかもしれない。モンスターだって逃げていくし。

 ……いや待てよ? もしも意に介さず此方へ向かって来たら……、それは嫌だな……こやし玉は最終手段にしよう。といっても、他に使えそうなアイテムなど持ってはいない。ペイントボールなんかぶつけても仕方ないだろうし……お?

 ……先ほどまで俺の居場所を把握しているかの如く正確に追い掛けてきた痴女さんが、足を止めて何かを探す様にキョロキョロと周囲を見回している。いや、まぁ目は見えていないようだが。

 これは一体、どういう事なのだろうか……?

 ……もしかして、彼女は何かを頼りに俺の居場所を特定していたのではないか……?

 例えば、音。

 

「………」

 

 音を立てないよう、慎重にしゃがみながら足元に落ちている小石を拾い、それをエリア7番方面へ投げた。ポチャンと、水面に音を立てる。

 瞬間、痴女さんが音のした方へガバッと振り向いた。やはり、俺の居場所を音で特定していたらしい。

 ならば話は簡単だ。痴女さんにバレないよう、抜き足差し足忍び足で音を立てずにこの場から去ればいい。

 ━━━と、思った直後。痴女さんは手で自分の目を擦ると、顔を上げて此方を向いた。目はバッチリ開いており、俺と視線が合う。

 

「………」

「………」

 

 奇妙な沈黙。

 次の瞬間、痴女さんは此方に向かって走り出した。完全に閃光玉の効果が切れている。

 だが、案ずるなかれ。閃光玉はまだ4つも残っているのだ!

 すぐさまアイテムメニューを開き、もう一度閃光玉をそぉい!

 炸裂音を聞いてから目を開けると━━━痴女さんも俺と同様にガードしていた。

 ……ですよねー。そりゃあモンスターじゃないんだから何度も同じ手は通用しないよね。人間だもの。

 再び迫る痴女さん。

 ど、どうしよう……。ぶっちゃけ万策尽きた感じなんだけど……。

 とりあえず意味も無くペイントボールを投げつけたが、難なく躱されてしもうた。仮に当たったとしても止まらないだろうけど。

 そうこうしている内にもう目の前まで痴女が迫っている。怖い顔で迫る! 怖い!

 

「た、タイムッ!!」

 

 俺が咄嗟に取った行動は、両手でTの字を作り、一時休戦の意思表示だった。

 痴女さんの動きが、まるで時間を止めたかのようにピタッと止まる。

 ……一応、意味は伝わったらしい。いや、もしかしたら俺の突然の奇行に何となく止まっただけかもしれない。

 まぁ、今はそんな事どうでもいい。兎も角、今の内に何とか逃げなければ!

 えーっと、えーっと……駄目だ、何も思い付かん。

 互いに固まったまま動かずにいると、痴女さんが先に動いた。ゆっくり歩いて俺の隣に回り、まるでボールを脇に抱えるかのように俺の頭を右腕で抱えて━━━

 

「痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」

 

 ヘッドロックを掛けられた!! 痛いッ!! 何か頭蓋骨がミシミシいってる気がする!! いや、気がするっていうか絶対ミシミシって音してる!!

 痛い! 痛すぎる! 潰れる! 割れるぅっ!

 痴女さんの腕をバシバシ叩いてギブアップを意思表示するものの、絞める力は弱まるどころか強まってゆく。

 く、くそ……こうなったら最終手段……うんこをくらわしてやる……。

 そう思い、アイテムポーチに手を伸ばした、その時。

 突然、痴女さんのヘッドロックが外れて水の中に頭がダイブした。

 頭の痛みを堪えながらも身体を起こしてみれば、そこには二手に別れて行動中の筈のセツナが立っていた。

 



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彼女が強化人間さん。

「エクシア、大丈夫!?」

「あ、ああ……助かったよ、ありがとう」

 

 マジで助かった……頭蓋骨が砕け散るかと思った。セツナ愛してる!

 でも、エリア9番へ向かっている筈の彼女が何でここに?

 

「閃光玉の光がチラッと見えたからね。何かあったのかと思ってコッチに来たのよ」

 

 成る程。セツナ愛してる!

 

「にしても、早速見つけるとは流石ねエクシア」

「ん? 何がだ?」

 

 セツナの横に並び立ちながら聞き返す。

 

「強化人間よ!!強化人間!!私たちの目の前に立ってるでしょ!!」

 

 えっ!? この痴女さんが件の強化人間なん……!?

 そ、そう言えばセツナの言ってた特徴と一致するな……いきなり素っ裸の女の人が現れたからそういうの全部頭から飛んでた……。

 それに、何だか思ってたのと違う……俺はてっきり、ジョジョ7部のS・B・R(スティール・ボール・ラン)に出てくる恐竜人間みたいなのを想像していたのだが……。

 って事は、防具だと思ってた腕と脚のアレって……。

 痴女さんの手の部分を見やる。指や腕は人間と同じぐらい細く、二の腕辺りの継ぎ目の部分━━━つまり、ジンオウガの甲殻のような部分と人間の肌の部分の中間は、まるで一体化しているかの如くに青色と肌色が入り混じっていた。

 いや、まるで、ではない。あれはジンオウガの甲殻が腕と一体化しているのだ。

 足も同様で、太ももの辺りが同じように一体化して混じり合っている。

 これが、強化人間。

 

「……普通の人間とあんまり変わりないよな」

「そうね、私もそう思うわ」

 

 セツナも同じ印象を受けたらしい。

 しかし、彼女が素っ裸な事については何とも思わないのだろうか。ピュアなセツナは俺以上に慌てふためくかと思ったのだが……。

 対する強化人間であるらしい痴女さんはというと、忌々しそうな表情を浮かべながら俺たちを睨んでいる。俺を最初に見た時、彼女は俺を殺す宣言していた。消さなきゃいけない標的が増えたのでイラついている、といったところか。

 

「意思疎通は出来るの?」

「言葉は通じるよ」

 

 変な語尾付きだけど。

 セツナは小さく「そう」と呟くと、背中のホーリーセーバーを抜き放ち━━━川に放り捨てた。

 

「っ!?」

 

 この行動には、流石の俺も驚きを隠せなかった。痴女さんも同様らしい。

 まさか、それで戦意は無いって意思表示のつもりなのか。いや、充分意味は伝わるだろうが、それを相手が聞き入れるかどうかはまた別の話で、

 

「……私たちに争う意思はないわ。話を聞いて頂戴」

「それを素直に信じろと言うのカナ。出会い頭に飛び蹴りかましてきた君が」

「そ、それは私の仲間があなたにやられそうになってたからで……!!」

 

 セツナは飛び蹴りで俺を救出してくれたらしい。ヘッドロックで視界が遮られていたので知らなかった。

 

「と、兎に角よ!私たちはあなたを助けに来たの!お願いだから話を聞いて!」

「………」

 

 痴女さんがじっとセツナを見詰めている。その様はまるで、セツナの言葉が本当かどうかを見極めるようとしているみたいだった。

 ……何となくだが、彼女が何故こんなにも警戒心を露わにしているのか解ってきた気がする。

 恐らくだが、彼女は研究所的なところから逃げ出してきたのではなかろうか。それ故、誰にも見つからないようこの渓流でひっそりと隠れ住んでいたのだ。

 ……その割にバッタリ出会したが。

 兎も角、彼女の存在が人にバレて噂が広まってしまえば、それが研究所とかに伝わってしまう。だからこそ、出会い頭に目撃者である俺を消しに来た、という訳か。個人的な推察に過ぎないけど。

 ……ふむ。ならばまず、信用されなければ話を聞いてもらう事も出来ない。

 俺は軽く溜め息を吐きながら背中の『無双刃ユクモ【祀舞】』を手に取り、両方とも痴女さんの足元近くに投げた。そして、彼女とセツナの中間辺りに移動する。

 痴女さんが明らかに警戒の色を示す。

 

「何のつもりカナ?」

「うん、私たちは君に話を聞いてもらいたいと思っているが、君からすれば私たちは素性の知れない者だ。だから、君が安心して私たちの話を聞く事の出来る措置を取ろうと思ってね」

「……それは、どういう事カナ?」

「もしも君が私たちの話を聞いて信用出来ないと思った時は、その剣で私を斬ってくれて構わない」

「んな……っ!?何言ってんのよエクシア!?」

 

 セツナの言葉に、俺は「全く」だと思った。自分でも何言ってんだと本当に思う。

 でも、痴女さんの境遇を考えると━━あくまで個人的な推察に過ぎないが━━助けてあげたいと思うし、セツナが彼女を陥れるような事をするとは思えない。

 そう、これはセツナを信じているからこそだ。

 以前、レベッカに「信頼とは作るものではなく、生まれるもの」だと言った事がある。だが、今の状況下ではその時間が無い。

 ならばどうするか。

 答えは単純、信頼してもらえるように此方が誠意を見せればいい。勿論、信用してもらえるという保証は何処にもない。もしかしたら彼女は俺たちの話など聞かぬまま、剣で俺を斬りつけるかもしれない。

 それでも、俺たちの方が歩み寄らなければ話は進まないのだ。だから俺はセツナと、目の前の彼女を信じる。

 ……もしかしたら剣で斬られてもダメージを受けないかもしれない、という打算も……いや、前に剥ぎ取りナイフで指を切った時に痛みが走った事を考えると、期待は出来ないか。

 彼女はじっと俺を見詰めている。怖いけど、目を逸らしてはいけない。彼女の信用を勝ち取る為にも。

 そうして、体感時間で何分にも何十分にも感じられる沈黙の中、暫くして彼女が動いた。足元の『無双刃ユクモ【祀舞】』を2本とも拾い上げ、俺の元まで近付いてくる。

 手を伸ばせば届く距離まで歩み寄ると、彼女は俺を見詰めたまま再び動かなくなった。

 ……怖い。今にも彼女が俺を斬りつけてくるかもしれないという恐怖。命を懸けるという行為が、これ程までに怖い事だとは思わなかった。いや、命を懸けているのだから当たり前なのだけども。勢いに任せて発言するもんじゃないな……。

 額に脂汗が滲み、心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなる。

 怖い。

 今、俺の命は彼女が握っていると言っても過言ではない。彼女の意思一つで俺は死ぬかもしれない。

 やがて、彼女は徐に腕を上げ━━━『無双刃ユクモ【祀舞】』の持ち手を、俺の手に握らせてきた。

 ど、どういう事だ……? これはどういう意味だ……?

 極度の緊張の所為で思考が定まらない。混乱している俺をよそに彼女が、

 

「……君たちの事を信じてみたくなったカナ。ワタシも、いつまでも今のような生活が続く事を望んでいる訳ではないしネ。剣は仕舞って構わないヨ」

「……! ……ありがとう」

 

 俺とセツナは武器を背中に戻した。とりあえず、彼女の信用を勝ち取る事が出来たという事実を実感する。

 

「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はエクシア。彼女はセツナだ」

「ウム、ワタシはフェルト。よろしくネ」

 

 俺たちはフェルトと握手を交わし合った。

 



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強化人間とその研究所について色々。

 場所は変わって、渓流の中で最も高く最も西に位置するエリア9番。ハチミツが採取出来る場所に鳥居と小さなボロ小屋があるのだが、その背後に奉られてるかの如くに佇む大木━━━の、上のところ。

 平たくなっており、少なくとも7、8メートルぐらいの広さがある。所狭しと藁が敷き詰められており、寝転がっても木の固さが気にならないだろうと思われる。

 下から見上げていた時は鳥か何かの巣だと思っていたが、別段鳥の羽や卵の殻などは見当たらない。

 ……ここは最近フェルトが寝床として利用しているそうなので、彼女が掃除した可能性も否めないが。

 

「で、ワタシにどんな話があるのカナ」

「それは私が話すわ」

 

 フェルトの問いにセツナが答える。

 ……ぶっちゃけ、俺はセツナに連れてこられて強化人間に関する事もチラッとしか聞いてないので話すに話せない。というか、今更ながら安請け合いしたもんだなぁ、俺。別に後悔なんてしてないけど。

 

「さっきも言った通り、私はあなたを助けたいと思ってる。そして、あなたの力を貸してほしいとも思ってる」

「ホム……どういう事カナ?」

「私は強化人間の研究を行っている研究施設を潰そうと考えているの」

 

 セツナの口から大胆な宣言が飛び出した。

 ……潰すとはまた大きく出たな。まぁ、人体実験してるような施設なんかは潰れて然るべきだとは思うけど。

 セツナは更に続ける。

 

「ひと月くらい前、私の友……知り合いから手紙が送られてきたのよ」

 

 そう言って彼女はアイテムポーチから一通の手紙を差し出した。フェルトがそれを受け取り、俺も横から覗き込む。

 

 

 

 セツナちゃんへ

 

 風の噂であなたがユクモ村を訪れたと聞いたので、お手紙を送りました。お元気ですか?

 私はポッケ村で相変わらずの日々を送っています。

 早速ですが、本題に入ります。強化人間についてです。

 セツナちゃんを村から追放するというギルドの命令を受けたあの日、私はどうしても納得がいきませんでした。それでもギルドの命令に背く訳にはいかず、私にはどうする事も出来ません。

 なので、私はギルドを裏からこっそり調べる事にしました。

 それから半年間をかけてギルドを調べた結果、色々な事がわかりました。

 強化人間の研究は、ギルドの中でも極一部の人間たちが極秘に進めている事。

 被験者の大半はハンターである事。

 そして、研究所はユクモ村から北西十数キロ地点にある、人の近寄りつかないような山脈地帯にある事。

 私は現在、色々な人に呼び掛け、この施設を摘発する準備を着々と進めています。いつになるかはまだわかりませんが、必ずギルドの悪事を暴いてみせます。

 だから、全てが終わったその時は……。

 

 

 

 ……手紙はそこで終わっている。この手紙の主は何て書こうとしたのだろうか。文面から察するに、プロポーズの言葉が続くように思えるがどうだろう。男か女か知らんけど。

 というか、こんな事を手紙に書くのは少し不用心なのではないだろうか。誰かに見られたらどうするんだ。

 フェルトの方を見やると、彼女は手紙を見詰めたまま考え込んでいるようだった。やがて顔を上げ、

 

「この研究所なんだがネ、もう無いよ」

「……ん?無いってどういう事?」

「この研究所、位置的にワタシが逃げ出してきたところと一致するんだがネ、ワタシが逃げ出す時に研究所で古龍が暴れまわったからもうないヨ」

 

 ……えっ。研究所で古龍が暴れまわった?

 

「いやいや、待って。研究所で古龍が暴れまわったってどういう事?」

「アー、ウン。ワタシが研究所から逃げ出してきた時の事を話そうカ」

 

 そう言って、フェルトは事の顛末を小一時間ほどかけて語り出した。その話は簡単に纏めるとこうだ。

 まず、彼女は研究員の杜撰な仕事によって牢屋のような場所から抜け出す事が出来た。しかし、外へ続く出口がどこにあるのかなど知る由もない。

 スネークばりの隠密行動で研究所内をさまよい歩いた彼女は、とある一室に辿り着いた。

 そこにはゴチャゴチャした機械が並んでおり、その奥はガラスで仕切られた広い部屋。中は太い鉄格子で覆われており、白い煙が充満していたそうだ。中に何かあったそうだが、煙の所為でよくは見えない。

 そこで彼女は不用意にも、機械を適当にいじくりまわした。その結果、鉄格子が上に上がってゆき、白い煙も徐々に排出されていった。

 煙が晴れて姿を現したのは、2頭の古龍だった。テオ・テスカトルとナナ・テスカトリ。炎王龍と炎妃龍の名を冠する、ライオンを倍以上大きくして翼を生やしたような古龍である。

 それらは煙が晴れてから数分で目を覚ました。白い煙は睡眠ガスだったらしい。

 テオ・テスカトルとナナ・テスカトリはガラスをぶち破ってフェルトの居るところに入って来た。

 2頭の強力な力を宿す古龍である。たった一人ではどうする事も出来ない。彼女は死を覚悟した。

 しかし、2頭はフェルトにメンチをきりながら彼女の周りをぐるりと一周し、匂いを嗅ぐと興味を無くしたようにフェルトから離れていった。

 そしてテオ・テスカトルとナナ・テスカトリは爆発を起こして研究所の壁を破壊し、外へ飛び出していった。

 暫くして研究員も事態に気付いたが時既に遅し。他にも捉えられていたモンスター達が次々と脱走し、研究所は大パニック。

 2頭の炎龍は粉塵爆発で破壊の限りを尽くし、別の場所で捕まっていたらしいクシャルダオラが嵐を呼び、同じくどこかで捕まっていたらしいオオナズチは姿を消して研究員を襲う。他にもリオレウスやらティガレックスやらジンオウガやらが滅茶苦茶に暴れまわる。

 そんな状況にありながらも、何故かモンスター達はフェルトを襲う事は無かった。炎龍たちと同じように彼女の匂いを嗅いでふいっと去っていったのだとか。

 いや、ジンオウガだけには襲われたらしい。といっても殺気立って襲いかかってきたのではなく、興奮したようにのし掛かろうとしてきたとか。

 ……そのジンオウガ、もしかして雄だったんじゃ……。

 ま、まぁ兎に角。そのジンオウガも何とか撒いて研究所から逃げ出す事に成功したそうだ。

 

「で、数日後に様子を見に戻ってみたケド、研究所は瓦礫に埋もれていたヨ。多分、生存者は居ないだろうネ」

 

 まぁ、だろうネ。古龍プラス大型モンスターが同時に暴れまわったらどうにもならん。この前の孤島のイビルジョー2頭よりヤバいわ。

 

「……じゃ、じゃあ……私が研究施設を潰そうと息巻いてたのって……全くの無駄……」

 

 セツナが呟く。

 ……何ともいたたまれない。

 

「あー、でもさ。研究所って、もしかしたら他にもあるんじゃないか? それも潰さないと」

 

 俺が言い終えるよりも先にセツナがアイテムポーチから手紙を取り出し、突きつけてきた。

 それは同じ差出人からの2通目の手紙だった。

 

 

 

 セツナちゃんへ

 

 お元気ですか? この前はお返事ありがとうございます。

 強化人間の研究について、また少しわかった事を教えます。

 研究所は以前に教えたところ以外には無いようです。全ての研究はそこで行われています。

 また、モンスターの研究も同時に行われています。恐らく、捕獲したモンスターで研究を行っているのだと思います。

 最近わかったのはこれぐらいです。

 今、準備は着々と進んでいて、恐らく半年後には摘発の準備が整うと思います。

 セツナちゃん、決して無茶な事はしないでね。

 

 

 

 手紙はそこで終わっている。

 ……だから、こういう事を手紙でやり取りするのは不用心じゃないのか。どういう経路で送っているのか知らないけども。

 いや、そんな事よりもこれってつまり……。

 

「……一件落着、って事カナ?」

 

 隣から手紙を覗き込むフェルトがそう言った。

 ……事件は始まる前に終わっていた、って事カナ。

 

「まぁ、とりあえず研究所の方はそれでカタが着いたという事でいいカナ」

 

 当事者の割に随分軽いな、この人……それでいいのか。

 

「そんな事より、ワタシの事を助けてくれるって言ったよネ」

「あ、あー……そうね。約束だものね」

「具体的にはどう助けてくれるのカナ?」

「ん、と……とりあえず着るものを何とかしないとね」

 

 確かに彼女は現在スッポンポン状態。完全に痴女だ。日本なら即お縄である。

 

「というか、研究所を脱出する時に服を調達するなり誰かの奪うなりしなかったのか?」

「いやー、脱出する事で頭がいっぱいだったし、研究所では常にこの状態だったカラ余り気にならなくてネ……慣れって恐ろしいカナ」

 

 ……そのまま露出癖がつかない事を切に願うよ。

 

「とりあえず、葉っぱとかで身体を隠すのはどう?胸とか、その……ぉ、お股の部分とかは隠しておいた方が……」

「そんなの痴女じゃないカ!」

 

 今の時点で充分痴女だよ。

 ……いや、葉っぱで隠したら逆に痴女感が増すのか……? 何となくはっぱ隊を思い出してしまう。懐かしいと感じる人は結構な年齢の人だろう。

 

「あれだ、君たちが着ているものを貸してくれればいいヨ」

「え?私たちの防具じゃサイズが合わないでしょ」

「いやいや、防具じゃなくてその下に着ているものだヨ」

 

 防具の下に着ている……と言えば、

 

「インナーの事?」

「そうそう。インナーなら多少サイズが違ってもある程度調節がきくからネ」

「成る程。じゃあエクシア、脱ぎなさい」

「えっ!? 私か!?」

「当たり前でしょ!?私のじゃ流石に小さすぎるわよ。ほら脱いで脱いで」

「い、いや待て、その辺の木陰で脱いでくるから……」

「別に良いじゃないの女同士なんだし」

「そうネそうネ、堅いこと言いっこなしヨ」

「お、おい! 何でそんな楽しそうなんだお前!?」

「そんな事ないわよほら早く脱いで脱いで」

「あ、ちょっ……イヤ━━━ッ!?」

 

 

 

 その日、俺は渓流で素っ裸にされましたとさ。

 めでたしめでた……くないわ畜生。

 



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特産タケノコって美味しいんだろうか。

「な、何か落ち着かない……」

 

 インナーと一緒にパンツまでとられた……何故だ……。

 

「我慢しなさい。あと特産タケノコを取って納品するだけで終わりだから」

 

 たった今、エリア6番にてセツナと一緒にアオアシラを始末したところである。10秒も掛からなかった。

 フェルトはエリア9番で待っている。一応、彼女はセツナの家で暫く匿う事になった。と言っても、俺たちが彼女の元へ戻るのは明日以降になる。

 何故なら、俺もセツナもクエストを終えたらユクモ村に瞬間移動してしまうからだ。これでは一緒にユクモ村へ帰る事は出来ない。

 それにまず、フェルトの腕や足の継ぎ目の部分は布か何かで隠した方がいい。そこさえ隠してしまえば、新式の防具だという事で通せるだろう。いや、無理にでも押し通す。

 

「にしたってパンツまでとらなくても良いじゃないか」

「何言ってるのよ、パンツ無しでインナーなんか穿いたら変な感じするじゃないの」

 

 いや、俺はパンツもインナーも無しに直接防具を装備してるんですがそれは。

 というか、

 

「変な感じするって何で知ってるんだ」

「えっ、や、それはその……(ノーパン健康法を……)

「何だって?」

「な、何でもないわよ!!さっさと行くわよ!!」

 

 ……誤魔化したな。まぁいいか。

 ズカズカ進んでゆくセツナの後に続き、エリア2番を経由してエリア3番へと到着した。竹の立ち並ぶ竹林地帯である。

 右手は断崖絶壁で、美しい自然の景色が広がっている。落ちたら120%死ぬ。

 左手には3、4メートル程の低層断崖があり、段差を2つ上がったところに上へ上がれるよう木の棒が無造作に突き刺さっている。

 ……もうちょっと梯子(はしご)っぽく出来なかったものか。とりあえず、その出来損ないの梯子を伝って上へあがる。

 すぐ近くにタルやら木箱やらカカシやらとガラクタが纏めてある。メラルーにアイテムを盗まれた時、あのガラクタを調べると盗まれたアイテムが戻ってくるアレだろう。この世界で本当に戻ってくるかどうかは疑問だが。というか、未だメラルーに出会した事がない。

 山菜爺は……いない。山菜爺にも会った事ないんだよな。もしかして存在しないのだろうか。寿命で召されちゃったとか?

 ……いや、多分別の地帯に居るとかだろう。火山とか水没林とか。きっと居る。別に用も無いので居なくてもいいけど。

 思考もそこそこに打ち切り、特産タケノコの採取を行う。ゲーム時代と同様の場所にタケノコが生えており、それを引っこ抜くと特産タケノコが手に入るのだが、引き抜いた次の瞬間には手からタケノコが消え、アイテムポーチに入っているという謎仕様。

 しかも、引き抜いた所と同じ場所からすぐさまタケノコが土の中から顔を出す。無限タケノコって怖くね? ちょっとした怪奇現象だよこれ。楽でいいけど。

 ……しかし、美味そうだな……持ち帰っては駄目だろうか。1個ぐらいなら良くね?

 

「駄目に決まってるでしょ。ちゃんと納品しなさい」

 

 ちぇー。せっちゃんのケチンボー。

 

 

 

 

 

 

 さて。俺とセツナは特産タケノコ20個を集め、俺のモドリ玉を使ってベースキャンプに戻り特産タケノコを納品。無事にクエストをクリアして集会所へと戻ってきた。

 

「ソロモンよ、私は帰ってきた」

「……何言ってんの?」

 

 何となく言ってみただけ。

 

「とりあえず私は家に帰ってパンツとインナー着てくるわ」

「私も付き合うわよ」

「……いや、着替えるだけだし付き合う意味がわからないんだが」

「一人で待ってても仕方ないじゃないの。それとも私が一緒だと嫌なの?」

 

 嫌ですけど。

 ……とは言えず、渋々ながらセツナの同行を許可する事に。本来は自分の身体じゃないとはいえ、人に肌を見られるのは苦手なんだがな……。はっきり断れる人間に私はなりたい。

 集会所を出て、階段を下りたすぐ横にある自宅に到着。今更だけど、ハンターにとっては凄い優良物件だよな、主人公の自宅って。

 

「……良いところよね、ここ」

「そうか? 狭いし飾り気もないけどな」

「だから良いんじゃない。落ち着くわ」

 

 ……まぁ、わからんでもないけど。俺も狭い方が好きだし、実際のところ割に快適である。

 とりあえず着替えるかな。ベッドの近くに置いてある棚の引き出しから下着を取り出し、アイテムボックスの前に移動する。防具を外すんならやっぱりアイテムボックスから外した方が早いし楽だからな。

 

「………」

 

 視線を感じて振り返ると、セツナが藁の枕を抱きながら此方をじっと見詰めていた。

 

「あの、そんな見詰められると着替えにくいんだけど……」

「私の事は気にしなくていいわよ」

 

 気になるっちゅうねん。何でそんなにガン見してるんだよ。同性の着替えなんて見てても楽しくないだろ。……俺からしたら異性も嫌だけど。

 軽く溜め息を吐きながら着替え始める。アイテムボックスのメニューから防具を全て外し、無地の白い下着を穿いた。

 

「エクシア」

「うん?」

「渓流の時は上半身(うえ)ばっかり見てて気づかなかったけど、あなたって生えてないのね」

「……ほっとけ」

 

 俺はこの身体をなるべく見ないようにしている━━自分の身体じゃないから━━ので、俺自身も生えてないのは初めてトイレに行ったまで気付かなかった。見て確認したのではなく、拭いた時に気付いた。

 

「そういうお前はどうなんだよ」

「私も生えてないわよ。おそろいね」

 

 ……25歳にして生えてないとはどういう事だ。あり得るのかそんな事。

 というか、俺たちは何でこんな話をしているんだ。どうしてこんな話題に……セツナの所為か。話に乗った俺も悪いけど。

 

「確認してみる? エクシアになら見せてもいいわよ」

「見ない見ない」

 

 軽くあしらうと、セツナは若干不満げな表情を浮かべていた。

 何その反応……見せたかったの? まさかセツナが痴女化してしまったとでもいうのか。フェルトから痴女ウイルスでも感染したか。

 いや、フェルトは別に好きで裸だった訳ではないけど。

 兎も角、ベッドの近くにある棚へ戻る。

 この棚、ゲーム中では近付くと『本棚を開く』って出るんだけど、別に本棚ではないよな。膝の高さしかない台の上に本を7冊積み重ねているだけである。まぁ、便宜上本棚って呼んでるけど。

 そこからメニュー画面を開き、インナーを変更……、……ミナガルベストの項目ががない。空白になっている。

 ……フェルトから返してもらわないと変えれないのか……うう、あれが一番のお気に入りだったのに……。

 仕方ないのでミナガルベストの色違いであるココットチョッキに変更する。正直、色合いがちょっとダサいけど仕方ない。残りのモガ・アンバー、モガ・マリンよりマシだ。

 再びアイテムボックスの前に戻り、防具も先ほどと同じものに変更。

 

「……前から思ってたんだけどエクシアってさ、何でそんな滅茶苦茶な防具を装備してるの?」

「ん? ああ、そりゃあ発動スキルを重要視してるからだよ」

「……はつどうすきる……?」

 

 えっ、何その反応……まさかスキルの事を知らないのか……?

 ……うーん。だとしたら何て説明したらいいんだ。面倒くさいぞ。

 ……うん、面倒くさい。

 

「そんな事より、早くフェルトを迎えに行こう」

 

 強引な話題転換。

 

「行くのは明日。それより、はつどうすきるって?」

 

 失敗。うーん、面倒くさいけど教えるか……。

 

「そもそもスキルっていうのは、防具に付いてるスキルポイントが━━━」

 

 

 

 スキルに関する事をセツナに教える間に日が暮れるのであった。

 



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今は昔MHP2ndGというゲームありけり。

あれから(前回投稿)一年が経過した。完結まで書く事は出来ませんでした。さーせん。
とりあえず書いた分だけ投稿します。


 溶岩の煮えたぎる火山。辺りには白い岩が乱立し、それらは一定以上の攻撃を加えると爆発する。

 そんな場所で俺が相対するのは、金色の毛並みを持つ大きな猿。ラージャンである。しかも、バチバチと黄金のオーラを纏っている。

 どう見てもスーパーサイヤ人2です。本当にありがとうございました。

 ラージャンの突進を回避しながら『崩弓アイカムルバス』の溜め段階4である『連射Lv4』をケツに叩き込む。

 そして、一定の距離を保ちながらラージャンを中心として時計回りに移動し続ける。余程のヘマをしなければ、この方法でラージャンは倒せる━━━なんて言いながら壁に引っかかっちまった!?

 

「オウフ!」

 

 ラージャンの突進を受けてしまい、吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。起き上がったらすぐに弓を納刀。ラージャンから距離をとりながら回復薬グレートを使用する。

 

「やべ!」

 

 そんな事をしている間にラージャンがジグザグ移動しながら突っ込んできた。回復のモーションはまだ解けていない。

 このままだと……いや、ギリギリ回避が間に合う!

 モーションが解けた瞬間、緊急回避を行って横に跳ぶ。するとラージャンは火山岩にぶつかり、

 

【目的を達成しました】

【あと1分で村に戻ります】

 

 ━━━岩の爆発でラージャンは力尽きた。

 

「………」

 

 ……こんな事あるのか。

 

 

 ━

 ━━

 ━━━

 

 

 目が覚めた。目の前には、最早見慣れた天井が広がっている。

 今の夢は……2ndGをプレイしていた時のものだな。何とも懐かしい夢である。

 2ndや2ndGの時は結構面白い事があったものだ。

 ティガレックスにやられて1乙した次の瞬間、ギアノスの爪がティガレックスを倒してしまい、報酬画面で自分のキャラクターが倒れてる上にティガレックスの死体が重なった事とか。

 逃げたフルフル亜種が眠っている隙に大タル爆弾Gを設置して起爆したらそれでフルフル亜種が力尽き、報酬画面では丁度アイルーがドヤ顔決めていた事とか。

 ゲリョスがフラッシュした瞬間に太刀で尻尾を斬ったらそれでゲリョスが力尽き、報酬画面が真っ白だった事とか。

 うん、色々あったなぁ。まぁ、そんな事はどうでもよくて。

 隣に眠るセツナに視線を移す。昨日、スキルの説明にかなりの時間を要した為、すっかり日が沈んでしまったので家に泊めたのだ。今は幸せそうな表情を浮かべながら安らかな寝息を立てている。

 

「……セツナ、か」

 

 夢のお陰で漸く思い出した。何年も前の事だったうえに、2ndG時代はローマ字名だったのですっかり忘れていたのだ。

 

「……昔のプレイヤー名じゃねぇか」

 

 Setsuna。それが2ndG時代のプレイヤー名であった。

 

 

 

 

 

 

 セツナを起こした後、俺たちは温泉で汗を流し、たった今集会所から出てきたところである。

 

「で、渓流ってどこにあるんだ?」

「私は知らないわよ。っていうか、その口振りだとエクシアも知らないように聞こえるんだけど?」

 

 セツナの言うとおり、俺も渓流がどこにあるかなんて知らない。クエスト以外で村の外に出た事なんて無いのだ。知っているのは村から徒歩で約1時間程度の距離という情報だけである。

 何故そんな事を気にしているかというと、フェルトを迎えに行くためである。前にも述べた通り、クエストを受けて渓流に行くと、俺とセツナだけクエストクリア時に村や集会所へ強制的に戻されてしまうのだ。それではフェルトをセツナの家に送る事が出来ない。

 ……本当はセツナが自分の家の場所を口頭で伝える事が出来れば良かったのだが、如何せん彼女は説明が下手だった。ナンテコッタイ。

 村に連れてくるというのも出来れば避けたい。研究所が潰れたとはいえ、関係者が他に居ないとは言い切れない。

 例えば、何かしらの所用で研究所に居なかった、とか。可能性の話でしかないが、用心するに越した事はない。

 

「エクシアさん、セツナさん」

 

 不意に背後から声を掛けられ、振り返ってみればそこにリリーが立っていた。今日もジンオウ装備がばっちり決まっている。

 

「やぁリリー。……サニーは居ないのかい?」

 

 いつも彼女と一緒に居るが、今日は姿が見当たらない。

 

「サニーちゃんは帰省中なんですよ。何でも従姉妹の方が結婚するらしいので、それにお呼ばれしたみたいですよ」

「へぇー……」

 

 リリーはお呼ばれされなかったのだろうか。サニーの幼なじみなのだし、呼ばれてもおかしくはないのだが。

 ……何か込み入った事情があるやもしれんし、無闇に聞かない方がいいかな。

 あ、そうだ。

 

「ごめん、ちょっとそこで待ってて」

「え? あ、はい……」

 

 リリーをその場に残し、セツナの腕を引っ張って少し離れる。

 

「何、どうしたのよ?」

 

 混乱するセツナをよそに、顔を近付け小声で話し掛ける。

 

「渓流への道のりだけど、いっその事リリーに渓流まで案内してもらうのはどうだろう?」

「はぁ!?……それ、本気で言ってるの?」

「本気も本気、大マジだよ」

 

 リリーならば信用出来るし、どうせゲームシステム関連の事を説明してしまおうと思っていたところだ。丁度いい機会である。

 しかし、セツナはこの意見に賛成ではない様子だった。顎に手を添え、じっと考え込むように地面を見詰めている。

 

「……駄目かな?」

「……そうね、ちょっと賛成しかねるわ」

 

 結論は反対だったらしい。何故だ。

 

「私もあの娘の事は好きだし信用してるけど、フェルトの立場から考えてみれば知らない人間を勝手に連れて来られたら困惑すると思うの」

「……そうか……、そうだな」

 

 確かにセツナの言うとおりだ。知らない人間が増えたとなれば、気のいいものではないだろう。

 ……フェルトは性格的に気にしなさそうな気もするけど。

 

「じゃあ、渓流の場所は地道に探そうか。村から割と近いらしいしな」

「ええ、そうしましょ」

 

 最悪、渓流に辿り着く事が出来なかったら俺が一度セツナの家まで赴き、その場所をフェルトに口頭で伝えよう。それならばクエストを受けて渓流に向かっても問題ない。

 俺たちはリリーに用事があると告げてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 2時間後。

 

「……やっと着いた」

 

 ユクモ村を出てから、約2時間。俺たちは漸く渓流へと辿り着いた。

 何て言うか、俺もセツナも方向音痴なんだなっていうのがわかった。大体1時間近くは同じところをぐるぐる回っていた。近くにリンゴォ・ロードアゲインでも居るのかと思ったわ。漢の世界へようこそ……。

 S・B・Rネタは置いといて。

 俺たちが今いる場所はエリア1番である。横の茂みからここに出たのだ。いつもならガーグァかケルビのどちらかが居る筈だが、今日は見当たらない。

 

「意外と掛かったわね……」

「まぁ、迷子状態だったからな。とりあえず、フェルトを迎えに行こう」

 

 左手にある急勾配な短い坂を登り、そのままエリア2番方面へと向かう。ぐねぐねと登りになったり下りになったりと鬱陶しい道を暫く進んでエリア2番に辿り着き、そのまま真っ直ぐ進んで特産タケノコの採れる竹林地帯のエリア3番方面を目指す。

 ……この辺りの崖は相変わらずタマヒュンものだ。いや、タマ無いんだけどね。

 エリア3番に辿り着き、橋の前に到着したところで異常に気付いた。

 

「……橋が、無い……?」

 

 そう、渓流で最も高く最も西に位置するエリア9番へと続く、木の枝が幾重にも重なって出来た一見すると脆そうな橋が無くなっているのだ。

 はて、これはどういう事だろうか。モンスターにでも破壊されたのか……いや、よく見ると僅かに残った橋の部分が焼け焦げている。もしかしたら落雷でもあったのかもしれない。

 

「仕方ないわね、回り道しましょう」

「だな」

 

 どうしようもないのでセツナの案に異論なし。エリア2に戻り、すぐ左手にある下り坂を下りてエリア6番へ。俺が初めてフェルトと出会った場所だ。

 そこを経由して北の細道からエリア7番へ出たところで、視界の右端に赤い影が映った。

 何かと思い、視線をそちらへ向けると━━━そこに巨大な四足獣が立っていた。

 百獣の王ライオンを倍以上大きくして、赤く塗ったかの様な見た目をしており、頭には立派な一対の角。背中には竜種のような一対の羽。

 3rdでは出されなかった筈の、テオ・テスカトルがそこに居た。

 




この話を書いたのは一年前なんですけどね。


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だって熊はたべられるだろう?

12月ごろ、この話の途中から書き始めました。一応読み直しはしましたが、どこか「ここおかしくね?」ってとこあったら教えて下さい。


 テオ・テスカトルがエリア7番のド真ん中に佇んでいる。

 ……えっ? 何で? テオが何でここに? 3rdには出ないでしょ? 何でこんなところに居るの?

 ああ、そういえば研究所から逃げた個体が居るって言ってたっけそれにしても何で渓流に居るんだお前どっちかっつーと火山だろ何で渓流なんだよ山火事になっちまうだろうがしかもよりにもよって何で今日この日なんだ昨日の内にフェルトを迎えに行けばよかった今更後悔しても遅いそういやさっき橋が焼け焦げていたもしかしてこいつの仕業渓流にモンスターが居ないのはこいつが居るから━━━

 

 様々な思考が浮かんでは消え、その場に呆然と突っ立っていると、テオは突然前足を高く上げ、咆哮。

 それによってハッと我に返る。ボサッと突っ立ってる場合じゃない!

 テオは真っ直ぐ俺を見据えると、いきなり飛び掛かってきた。咄嗟に横へ転がり回避に成功。近くに居たセツナも俺とは反対方向に避けた。

 しかし、テオは着地と同時にその場でコマのように一回転。その状態から繰り出されたのは、尻尾による薙ぎ払い。

 

「きゃう……っ!!」

「ぐぁ……っ!!」

 

 避ける隙など無く、俺とセツナは吹き飛ばされた。そして、アカムトルムにひかれた時と同じ━━━いや、それ以上の激痛が身体を駆け巡る。

 

「ぐうぅ……っ…ぅ……!!」

 

 痛みを堪えながら何とか立ち上がる。こっちの世界に来てから痛みには大分慣れた。だが、大きなダメージを受けると、どうしても今のように動きが鈍くなってしまう。ただの尻尾による薙ぎ払いが、とんでもない威力だった。

 そのままふと、視線を上げてみれば━━━今まさに、テオがこちらへと飛び掛かって来ているのが目に飛び込んできた。

 

 ━━━あっ、死んだ。

 

 コンマ一秒にも満たない刹那の中で、俺は自分の死を自覚した。

 

「危ない!」

 

 しかし、その次の瞬間。別の衝撃が横から走り、突き飛ばされた。というか、俺を突き飛ばした誰かと共にゴロゴロと地面を転がる。

 何事かと顔を上げてみれば━━━

 

「……フェルト……⁉︎」

 

 俺を救った人物はフェルトであった。

 

「大丈夫カ⁉︎」

「あ、ああ……何とか……いや、フェルト逃げろ……! 追撃が来るぞ……!」

 

 折角助けてもらったが……俺はすぐには動けそうにない。テオ━━━モンスターが、俺が動けるようになるまで待っていてくれる訳もない。そのテオとは、今まさにこちらを向いたところだ。

 

「くっ……私は動けそうにない……早く逃げろ……!」

「いやダ!」

 

 しかし、フェルトは逃げようとはしない。俺を庇うように両手を広げ、立っている。

 

「君達が死んだら、ワタシはまたここで一人ぼっちになル! そんなのいやダ!」

「ば、ばか……殺されるぞ……!」

 

 そう言ってテオへ視線を向けると━━━何故かテオは、フェルトを見下ろしたまま動こうとしなかった。

 ……何だ? 今の状況は、テオにとって絶好のチャンスの筈。何故、襲ってこない……。

 そのまま暫くフェルトとテオは対峙していたが、やがてテオが動き出した。ゆっくりとした歩調でこちらへと歩み寄る。

 俺の身体は動きそうにない……チラリと横目でセツナの方を見やれば、彼女も動くのは無理そうだ。何とか回復薬を飲んで動けるようになっておきたいところだが、下手に動くとすぐにもテオが襲ってきそうで、動くに動けない。

 とはいえ、このままでは全滅コースは確定的に明らか。何もしなければ、やはりそのまま殺されてしまう。

 今の状況をどうやって打破するか、痛みでまともに回らない頭で思考していると、既にテオはフェルトの目の前に立っていた。

 そのままジッとフェルトを見詰め━━━やがて顔を近付けてフンフンと匂いを嗅ぐ。

 そして、興味をなくしたようにプイと身体を逸らし、テオは飛び上がって何処かへと去っていった。それを見送ると、フェルトは崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 

「……ぐっ、くぅ……!」

 

 痛む身体に鞭を打ち、俺は身体を起こす。そのままアイテムポーチへと手を伸ばし、回復薬グレートを飲む。

 

「んぐ……ぷはっ! あー……死ぬかと思った……」

 

 たかだか尻尾で叩かれただけなのに、凄まじい程のダメージだった。……何というか、下位の防具を装備した状態で上位クエストの大型モンスターの攻撃を受けたような……兎に角、痛かった。尻尾であれなら、爪で引っ掻かれたり突進をくらったりしてたら、それだけで死んでいたかもしれない。

 まぁ、そんな事より。セツナの方へ視線を移すと、彼女も俺と同じように回復薬を飲んでいるところだった。セツナは心配なさそうだな。

 

「フェルト、大丈夫か?」

 

 声を掛けるも、返事がない。いや、よく見るとフェルトの身体は震えていた。

 ……無理もない、防具無しの状態でテオの攻撃をくらえば即死は免れない。剣士装備の俺やセツナですら瀕死に近いダメージを負ったのだ。防具無しでアレと相対するなど、とてつもない恐怖であろう。

 

「二人とも大丈夫⁉︎」

 

 セツナがこちらへと駆け寄ってきた。そして、フェルトを見るなりしゃがんで顔を覗き込む。

 

「どうしたの⁉︎どこか怪我した⁉︎大丈夫⁉︎」

「あっ……や、だ、大丈夫、だヨ……」

 

 フェルトはそう言うが、身体は震えっぱなしだ。余程怖かったのだろう。

 そんな彼女を見て、セツナはフェルトを抱きしめた。耳元で「大丈夫、大丈夫よ」と繰り返し、優しく彼女の頭を撫でる。フェルトもそれを受け入れるようにセツナを抱きしめ返す。

 ……何か俺、空気感があるんだが……何だろう、この疎外感……。いや、フェルトも落ち着いてきてるみたいだし、別に良いんだけどね?

 二人は暫く抱きあっており、俺はそれを何か落ち着かない気分で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 そして、俺たちはユクモ村の近くを目指して━━余り村に近付き過ぎるとフェルトを誰かにみられかねない━━出発したのだが。

 

「あるぇ? また同じ場所に出てね?」

 

 ……見事に迷子になっていた。

 

「ちょっとエクシア、しっかりしてよ……」

「いや、俺にばっか頼ってないでセツナも一緒に考えてくれよ……」

「だって私は方向音痴だもん‼︎」

 

 『だもん』じゃねぇ、胸張って言うな。というか方向音痴は俺も一緒だ。

 つーか、来る途中で目印とか付けておけばよかったな……。こうも迷うと、やっぱりどっかにリンゴォ・ロードアゲインが居るんじゃないのか? それか新手のスタンド使いの仕業か。

 ……なんて現実逃避してる場合じゃないな。何とかユクモ村近辺まで辿り着かなくては……。

 と思ったけど、そういやオラ腹減っちまった。

 

「辿り着きそうな気配もないし、とりあえず何か食べないか?」

「ん〜、そうね、ちょっとお腹空いたわね」

「ワタシもちょっとお腹ぺこぺこだヨ」

 

 ……ちょっとお腹ぺこぺこ? ちょっとなのにぺこぺこ?

 ……ま、まぁいいか。

 

「でも何食べるのよ?私食料は何も持ってきてないわよ?」

「心配無用、私は肉焼きセットを持って来ている」

 

 ドスファンゴ狩り祭りの時、余りの空腹に死ぬかと思ったので、あれから肉焼きセットを常備している。

 

「それはいいけど、この辺生肉とれそうな奴いないわよ?」

 

 う、うん、問題はそこなんだよね。さっきから食べられそうな奴を何も見かけていない。ガーグァとかケルビとか居ても良さそうなものなのに、道中で見かけたのはブナハブラとか食えそうにないものばかりである。仮に食えたとしても、虫は食べたくない。生理的に無理。

 

「せめて川でもあればなぁ……」

「川は既に通り過ぎたよネ」

「釣れたとしてもサシミウオぐらいしか食べられないわよ。てゆーか無い物ねだりしてもしょうがないわよ」

「うーむ……戻るか?」

「今から戻るの⁉︎もしかしたらすぐユクモ村に着くかもしれないのに⁉︎」

「や、まぁそうだけどさぁ……」

「ワタシはどっちでもいいヨ〜」

 

 そんな風に話し合っている時だった。少し離れた場所からガサガサと何かが近付いてくる音が聞こえてきた。

 

「フェルト、隠れろ!」

「う、ウム!」

 

 音のする方とは逆の茂みにフェルトが飛び込む。

 ……今、何気に飛び込み方がルパンダイブだったんだけど、地面に激突しなかったのだろうか……普通に入ればいいのに……。

 そんな事より、音が徐々に大きくなってきている。ハンターかモンスターか……。

 ハンターなら適当に誤魔化してやり過ごさなくてはならない。フェルトの事はまだ人にバレる訳にはいかないからだ。まぁ、適当に言いくるめてお帰り願おう。

 モンスターなら即座に始末する。渓流には大したモンスターは出ないし、仮に出ても俺とセツナなら何とかなる。

 ……まぁ、さっきのテオがもし出てきたら逃げの一手だが。弓じゃなきゃ倒せん。いや、弓でも倒せるか解らん……何せ攻撃力が高すぎる。G級かってぐらいの攻撃力だったし、剣士であのダメージならガンナーは即死も有り得る。

 が、今回の相手は違うようだ。もしテオだったなら、茂みから身体がはみ出てる筈だ。近付いてきているのはもっと小さい。

 そして、音がどんどん近付いてきて、ついにすぐ近くの茂みが揺れ始め中から姿を現したのは━━━

 

「……何だ、アオアシラか」

 

 森の熊さん事、アオアシラであった。緊張して損した……。

 ふと、疑問に思う。

 

「……なぁ、セツナ。アオアシラって食べられるのかな?」

「……は?」

 

 セツナが何言ってんだこいつみたいな視線を送ってくる。

 

「いや、だってさ……熊って鍋とかにして食べるって言うしさ、アオアシラも同じ熊だし食べられないかなって……」

「いや……私はやめた方がいいと思うけど⁉︎」

「いやいや、もしかしたら美味しいかもしれんよ? 百聞は一テイスティングに如かずって言うしさ。とりあえず食べてみようぜ」

「何それ聞いた事ない‼︎百聞は一見に如かずじゃないの⁉︎」

「味への好奇心が恐怖を凌駕するんだ‼︎」

「何が⁉︎」

「ほれ、来るぞ!」

「えっ、あ、あぁ、もう‼︎」

 

 俺とセツナは双剣を抜き放ち、アオアシラへと斬りかかった。

 

 

 

 

 

 その後。アオアシラを血抜きし、切り取って肉焼きセットで焼いて食ってみたが、大味で余り美味しくはなかった。




今までずっと色んな小説を読んでたんですが、その影響で書き方とか変わってるやもしれません……読み辛くなっていたらごめんなさい。
あ、あと何気にトリコネタ入れましたが、勇(気無い)者はトリコを全く読んでないどころか知りません。


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ようやく帰れたと思ったらまた変な人が絡んできた件。

懲りずに新キャラ登場。


 そんなこんなで色々あったが、ようやくユクモ村が見えてきた。行きで2時間使ったが、帰りは3時間ぐらい彷徨っていただろう、日は既に沈み始めている。無事に帰れて良かった……。

 

「やっと着いたのね」

「ああ、何とか帰ってこれたな……」

「それにしても時間かかり過ぎよ。しっかりしてよね、エクシア」

 

 そんな事を言ってくるセツナ。お前が言うなと言いたい。

 

「HAHAHA! エクシアは仕方ないネ!」

 

 お前も言うな。そして早く着替えて俺のお気に入りのインナー返せ!

 

「まぁ、とりあえずここで一旦お別れだな」

「そうね、()()フェルトを村に連れていく訳にはいかないからね。エクシア、今度私の家に招待するわ」

 

 セツナの家か……ちょっとだけ興味あるな。よく考えると誰かの家にお呼ばれした事って無いし、女の子の家だし。

 

「うん、また今度。楽しみにしてる」

「た、楽しみにするほど何かがある訳でも無いけどね⁉︎」

「や、でも前セツナは私の住んでる家は良いところだって褒めてくれたし、きっとセツナの家も落ち着いた良いところだと思うな」

 

 案外、俺の住んでる家と同じで質素な感じかもしれん。俺もそういう家は好きだし。

 

「そそ、そんなに褒めたって何も出ないわよ⁉︎いやでも嬉しいけどね⁉︎ありがとね⁉︎」

 

 と、何故か顔を赤くし、動揺するセツナさん。最近の彼女の奇行にも慣れてきた。ちょっと落ち着いた方が良いと思うが。

 そして、そんな俺とセツナを交互に見ながら、フェルトがとんでもない事を口走った。

 

「……二人はもしかして、付き合ってるのカナ?」

「……は?」

 

 思わず『何を言ってるんだこいつは』みたいな声と視線を向ける。本当に何を言ってるんだこいつは? 俺もセツナも女なんだが。いや、俺は心……というか、中身は男だけど。

 ……それとも、この世界では女同士の恋愛は普通なのか? 俺の価値観がおかしいのか?

 そんな事を考えながらセツナの方に視線を向けると、

 

「バッ⁉︎なななな何言ってんのよ⁉︎私とエクシアは別にそんな関係じゃないから‼︎そもそも私もエクシアも知り合ってまだ間もないし⁉︎そういうのはもっとお互いの事をよく知ってからっていうかまだ早いっていうか⁉︎そりゃあ私とエクシアは相性抜群だからそう思われても仕方ないけど‼︎でも()()そういう関係にはなってないから‼︎()()違うから‼︎」

 

 顔を真っ赤に染めながら、久々のマシンガントーク炸裂。よくそんな早口で喋れるなと感心しちゃうね。何言ってんのかさっぱり解んねぇけど。ハァ〜さっぱりさっぱり。

 しかし、フェルトは今のを聞き取れたらしい。嬉しそうな笑みを浮かべながら口を開く。

 

「フムフム、二人はまだ付き合ってはいないと……」

「そ、そうよ⁉︎勝手な勘違いしないでよね‼︎」

「ウム、じゃあまだ私にもチャンスはあるという訳だネ?」

「ぬぁ⁉︎あんたまさか……あんたもなの……⁉︎」

 

 ライバルが増えたと小さく呟き、ぐぬぬと唸るセツナ。よく解らんけど大変だね。ドンマイ。

 ふと、フェルトがこちらへ寄ってきて、

 

キミが手を拱いてるようなら、その隙にワタシが盗ってしまうヨ?

 

 と、耳打ちしてきた。

 はて。取ってしまう……盗ってしまう? 何のこっちゃ。俺、何か持ってたっけ? 盗られて困るような物は別に……まぁ、力と守りの爪は困るけど。

 いや、その二つにしても金と素材━━確か素材は恐暴竜の鉤爪だったか━━があれば幾つでも作り直せる。イビルジョーの素材ならまだ結構あった筈だ。だからと言って盗られたくはないけども。

 

「何くっついてんのよ‼︎くっついてんじゃないわよ‼︎ほらもう行くわよ‼︎誰かに見られるかも解らないんだから‼︎」

「そうだネ、行こうかネ」

「それじゃあまたね、エクシア‼︎」

「ああ、うん……また」

 

 そうして、セツナとフェルトの二人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 村の入り口━━村長クエストを受けて帰還した時と、ゲームを始めた(ロードした)時に主人公が立ってるところ━━にある鳥居みたいなのを潜って村に入り、雑踏……というほど人が居る訳ではないが。まぁ、その人混みが割れる。

 何故か。皆、俺を避けるように道を開けてくれたのだ。まぁ、実際は避けてるんじゃなくて、道を譲ってくれてるだけなんだけど。

 でも、人を見ながらひそひそ話したりするのはやめて欲しい……。やれ「話し掛けてみようか」だの、やれ「狩りに誘ってみようか」だのと。この世界に来てからずっとこうだよ。みんなよく飽きないね。俺も未だに慣れないし、声掛けて欲しいとは思わないけど。

 まぁ、でも実際に声を掛けられた事はない。何故かというと、恐らくは前方からやって来ている小さな生き物のおかげだろう。

 

「ご主人!」

 

 黄金の毛並みを持ち、ニャン天装備に身を包んだ猫━━━即ち、オトモアイルーの魔理沙である。

 

「おかえりだぜ!」

「ん、ただいま」

 

 ピョンと飛びついて来る魔理沙を抱き留める。相変わらず可愛い奴だ。よしよし。

 こうやって、クエストが終わった後などは魔理沙がやって来る━━俺の帰還をどうやって察知してるのか知らんが━━事が多い。恐らく、というか十中八九間違いなく魔理沙が居るから話しかけづらいんだろう。

 とはいえ、魔理沙が来ない時もある。だが、そういう時に限ってリリーやサニー、レベッカなどが現れたりする。みんな図ったかのようにタイミング良く来るけど、どういう事なんだろうか?

 運命の悪戯? それとも神様━━存在するとは全く思っていないが━━の仕業? ちょっと怖い。

 兎も角、そんな訳で俺の交友の輪が広がりそうにはない。

 まぁ、ハンターには男が結構多いし、ぶっちゃけ話し掛けられたくはないのでありがたいんだけどね。女の子は大歓迎だが。

 

「……ん?」

 

 ふと、俺の来た方とは別の方の人混みが割れる。そこから姿を現したのは、2人組の女性。と、その足元に1匹。

 一人は赤い衣装を纏っており、三銃士とかが被っていそうな赤い帽子が特徴的な女性。顔立ちは割と中性的に近く、髪は金色のセミロング。身長はリリーやサニーと同じくらいか。腰には鞘に収まったレイピアを帯刀しており、背中にはセツナと同じ……いや、色が違う……? 兎に角、ホーリーセーバーのような双剣を背負っている。

 ……どう見てもギルドナイト装備にしか見えないのだが……3rdにギルドナイト装備なんてあったか?

 もう一人はネブラS一式装備に身を包んだ女性。明るい茶髪で、ポニーテールに纏めている。確かケルビテールという髪型だったか。

 愛らしい顔立ちをしており、女性というよりは少女という印象を受ける。背丈はセツナと同じぐらいか。ライトボウガンを背負っているので、ガンナーだ。俺はボウガン系にそこまで詳しくないので、何という名前の武器かまでは解らない。

 最後に、ギルドナイト装備の女性の横を二本足でチョコチョコ歩く猫。ギルドSネコ装備を身に纏っており、毛並みは赤虎とまではいかないが赤色。装備している武器もギルドネコカリバー。

 2人と1匹はまっすぐこちらへと歩いてくる。……俺も避けた方が良いのかな。

 そんな事を考えながら横へ逸れようとした時、ギルドナイト装備の女性が話し掛けてきた。

 

「貴女がユクモ村のハンター、エクシアさんですの?」

「えっ……あ、うん……そうだけど……」

 

 何か、お嬢様みたいな喋り方だな。俺に何か用があるのだろうか……。

 彼女は「ふぅん……」と呟き、品定めでもするように俺の全身を見てくる。ちょっと無遠慮すぎやしませんかね……。

 暫くして、彼女は再び口を開く。

 

「一つ質問してもよろしいかしら?」

「あ、はい」

「どうしてそのように継ぎ接ぎのような装備で固めていらっしゃるのかしら? 貴女ほど有名なハンターなら、セットで装備を揃えるぐらい出来るでしょう?」

 

 ……まぁ、伝説のハンター(笑)とか言われるぐらいだから有名なんだとは思うけど……どれぐらい有名なんだろうか? ユクモ村周辺に住んでる人には殆ど知られているようだが、もっと遠くの方まで名声が届いていたりするのか。

 まぁ、今はそんな事よりも、彼女の質問にどう答えたものか……。

 今現在の装備は上から『バンギスヘルム』『ナルガUメイル』『ナルガUアーム』『ネブラUフォールド』『荒天【袴】』。武器は無双刃ユクモ【祀舞】である。

 双剣を使う上で「あったら楽だな」というスキルを集めた結果、このようなグチャ味噌装備になった訳だが……。セツナがスキルとかを知らなかった事を鑑みるに、十中八九彼女も防具のスキルについて知らないだろう。説明するの面倒だしなぁ……適当に答えとこ。

 

「見た目よりも機能性を重視してるからだよ」

「機能性……? オッホホホ!」

 

 いきなり笑われた。後ろのネブラ装備の少女もくすくすと笑っている。失礼な人達である。というか、オホホとか笑う人をリアルで始めて見たわ……。

 ……そして魔理沙の毛が逆立っている。もしかして怒ってる? 俺は平気だから落ち着いてくれ。ちょっと怖い。

 

「貴女の装備しているその防具……バンギスヘルムと荒天【袴】は兎も角としても、他のナルガUやネブラU装備はそれらに比べて防御力が幾らか落ちますのよ? ご存知ないのかしら?」

「や、それは知ってるけど……」

「あら、そうなの。でしたら、軽装にして少しでも回避力でも上げようという事なのかしら?」

「え? う、うーん……まぁ、そんなとこかな……」

 

 ナルガなんかは特に軽装だからそう思われているのか……説明も理由も考えるのが面倒だし、そういう事にしておこう。

 すると、また「オホホ」と笑われた。

 

「防御力を削ってまで装備を軽くしなければならないなんて、エクシアさんは見た目通り華奢なお方なんですのね」

「お嬢様、それは仕方ないっスよ。エクシアさんはお嬢様と()()()小さくて可愛いっスからね」

 

 と、少し後ろに控えているネブラ少女。可愛いって言われた。ありがとう。

 でも……お嬢様って、多分ギルドナイト装備の人の事だよね? お嬢様と()()()っていう言い方は何というか、お嬢様よりも俺の方が可愛いと言っているようにも聞こえるような……あっ、お嬢様の拳骨がネブラ少女の頭に落ちた。「ぁうっ」と小さく呻き、涙目になって頭を押さえている。痛そう。

 しかしネブラちゃん、魔界戦記ディスガイアに出てくるプリニーみたいな喋り方だな……。

 

「んん! まぁ、そんな事よりも。まだ名乗っていませんでしたわね。わたくしはリーサ・クジョウと申します。お見知り置きを」

「あ、はい。ご丁寧にどうも……」

「そして、この子はわたくしの共をしているミレイナ。こっちのアイルーはわたくしのオトモアイルーのシャルロットですわ」

「よろしくっス」

「よろしくお願いいたしますニャン」

 

 ネブラちゃん改めミレイナが軽く手を上げ、アイルーのシャルロットが華麗に一礼する。

 

「それでは、わたくし達はギルドへ報告へ赴かなければなりませんの。これで失礼いたしますわ」

「はあ……」

 

 生返事をしながら、2人を見送る。

 ふと、シャルロットがこちらを振り返った。俺に……いや、魔理沙に視線を向けているようだ。

 目と目が合う魔理沙とシャルロット。すると━━━シャルロットは肩を竦めてやれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「テメーこの野郎! 喧嘩売ってんのか⁉︎」

 

 シャルロットに飛びかからんとする魔理沙。その声に反応したリーサが振り返り、

 

「貴女のアイルーは随分と野蛮ですわね」

 

 と、それだけ言うとまた歩き出した。ミレイナもくすくすと笑いながらその後を着いてゆく。

 更にシャルロットはというと━━━デスノートの記憶を完全に捨て、Lと共に火口卿介を追い詰め、再びデスノートが戻ってきた時の夜神月(ヤガミライト)のような顔をしていた。

 「計 画 通 り」みたいな。

 ……周囲からくすくすと笑い声のようなものが聞こえる。まさか、あの挑発するような行為は魔理沙に恥をかかせる為か? なかなか小賢しい猫じゃないか。魔理沙が顔を赤くして━━体毛の所為で分かりづらいけど━━ひしっと抱きついてきている。

 うんうん、恥ずかしかったんだね、よしよし。おのれシャルロットめ……魔理沙の反応が可愛かったから許せる。

 

「エクシアさん!」

 

 ふと、リリーがこちらへ駆け寄ってきた。

 

「今の人って、もしかしてリーサ・クジョウじゃありませんか?」

「あ、うん、そう名乗ってたけど……知ってるの?」

「やっぱり……! エクシアさん、あの人には余り関わらない方がいいですよ……」

「え? ど、どうして?」

 

 何か黒い噂でもある人なんだろうか? 犯罪者とか?

 そんな事を思っていたが、実際はその真逆だった。

 

「リーサ・クジョウはギルドナイトなんです」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ━━━な、なんだってー⁉︎



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リーサ・クジョウとエクシアさん。

 ギルドナイト。それは、ギルドを守るべく、ハンター達を統括するギルドの直属組織『ギルドナイツ』に任命された、特殊なハンターである。

 各ギルドごとに設置されているとされ、最大12名からなるのだとか。しかし、ユクモ村はギルド出張所という事で設置されてはいない……筈。

 ギルドナイトは時に、ギルドから直々に特殊なクエストを言い渡される事もあるらしい。例として挙げるならば、一切の部位破壊を行わずにモンスターを捕獲する、未確認モンスターの調査を行う、未開拓地帯の調査、などである。

 ギルドナイトとは、そういった一種の縛りプレイのような特殊クエストや、モンスターや場所の調査を遂行する事の出来る実力を持つ、エリートハンターなのだ!

 

 ━━━というのは表向きの話で、実際のギルドナイトとは()()()()()()()()()()()である。

 密猟者や殺人を犯した者などが標的だ。つまりは対人戦のプロフェッショナルで、人によっては単身で国の近衛兵部隊と互角に渡り合えるくらいの実力を持っているという噂もある。

 ……近衛兵部隊というのがどのぐらいの規模かは解らないが、多対一で互角に渡り合えるという事から、とんでもない実力者である事は間違いない。

 そういった犯罪者などをぶっ殺……抹さt……うぅん……兎に角、消すのが仕事である。

 ……っていう噂らしいよ。実際のところ、ギルドナイトに関しては謎が多過ぎて一種の都市伝説みたいな扱いになっている。俺は警察みたいなもんじゃないかねと思っているが。

 

 で、俺は今、リリーと一緒に飲食店で食事をしている━━魔理沙は家に帰した━━のだが。

 

「……あのリーサって人は有名な人なの?」

「はい、王国ではかなりの実力者として知られています」

 

 ……マジか。ギルドナイトって、もっとこう……裏方の人間というか、日常に溶け込んでて標的(ターゲット)を後ろからグサッと殺る人みたいなイメージだったんだが。意外とオープンな人も居るんだな。

 しかし、有名って事は実力者というのは間違いないだろうな。人々に認知されている分、お粗末なところは見せられないからだ。

 

「……そんな有名人が、こんな辺境の小さな村に何をしに来たんだろうね?」

「それは解りませんが……ギルドから何か密命なんかを帯びてきているかもしれませんね」

 

 ふーむ、密命か……有り得るような、そうでもないような……。 

 密命なのに名前を知られている人間を起用するか? という疑問もあるが、逆に有名人だというならば、ギルドに関する事に於いて色々顔が利くというメリットもあるだろう。

 

「ところで、さっきリーサ・クジョウには余り関わらない方がいいって言ってたけど、それは何故?」

「えっ、あの、それはその……」

 

 もじもじと照れたように言い淀むリリー。心なしか顔が赤い気がする。

 

「あいよ、お待ちどうさん!」

 

 と、丁度そのタイミングでウェイトレスのお姉さんが料理を持ってきた。俺は天玉うどん、リリーはざる蕎麦。

 

「と、とりあえず食べましょう、エクシアさん!」

 

 ……露骨に誤魔化すリリー。ギルドナイトに関する事だからちゃんと知っておきたいんだが……以前、踏み込んで聞いたときは彼女達の金欠事情を暴いてしまい、何ともいたたまれない空気になったんだよな……。

 でも、ギルドナイトはちょっと怖いしなぁ……近付かない方が良いという理由を踏み込んででも聞いておきたい……。

 うーん……まぁ…………とりあえず食べるか。

 俺は問題を後回しにして、うどんを啜るのだった。

 ……うまっ!

 

 

 

 

 

 

 結局、俺はリリーからリーサに近付かない方が良いという理由を聞き出したのだが、曰く「だって、エクシアさん程の実力を持つハンターだったら、ギルドナイトにスカウトされちゃうかもしれないじゃないですか……」だそうだ。

 うん。それはない。

 ギルドナイトに求められるのは『強さ』ではなく『巧さ』だからだ。

 前述の通り、モンスターの部位破壊を行わずに捕獲するとか、そういった特殊な技術が求められるのだ。ただ強ければ良いという話ではない。

 …………と、思う。俺は捕獲とか、見極めが面倒くさ過ぎて好きじゃないし。絶対向いてない。

 そもそも、そういうのはギルドの意向で選ばれるんだろうし、ギルドナイトが勧誘してくるなんて事はないだろう。きっと。多分。恐らく。

 でも、そう言った時のリリーの表情は凄く可愛かった。何というか、捨てられる子犬みたいな可愛さがあったよ。思わず抱きしめそうになった。……俺の方が身長が低いから、仮に抱きしめたとしても周囲からは俺がリリーに甘えてるようにしか見えないだろうけど。

 で、それからリリーと別れてクエストでも受けようかなと思って集会所へ来てみた訳だが。

 

「あら、エクシアさんではありませんの。丁度良かったですわ、今から貴女のところへ伺おうと思っていたところですのよ」

 

 ……件のリーサさんが話し掛けてきた。ミレイナとシャルロットは見当たらない。何の用だろうか。

 

「ここでは何ですから、一緒に温泉でもどうですか?」

「えっ、や、私は……」

 

 着替えの事を考えると、余り他の人と一緒に入ろうとは思わない。リリーとサニー、セツナはもう知ってるから別に良いけど。

 そう思って断ろうとしたが、それより早くリーサが「さぁ、行きましょう」と言って俺の腕を引く……力強っ! 何この人⁉︎ 俺も引いてるんだけど、全然ビクともしねぇ!

 抵抗も虚しく、温泉の方へとドナドナ連れられてゆく。

 そして、脱衣所の入り口に差し掛かったところで━━━リーサの腕が離れ、俺は湯浴み姿へと着替えが完了し、脱衣所の外に放り出された。

 

「……え?」

 

 リーサの唖然としたような声が聞こえる。

 う、うん……まぁ、そういう反応するよね……。超スピードだとか催眠術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、瞬間的に着替え終わっているという謎の現象だからね……。どう言い訳したものか。

 俺とリーサは互いを見つめ合い━━━何を思ったか、リーサは再び俺の腕を引き、脱衣所へと連れ込む。

 が、当然ながら俺は元の防具に着替え終わり、脱衣所の外に放り出される。それをもう一度繰り返し、また湯浴み姿に戻った。

 場に沈黙が落ちる。

 

「…………どうなっているんですの……?」

 

 …………。

 え、えーっと……その……。

 

「早着替えマジック『ザ・ワールド』ッ!」

 

 サッと、前回とは違いDIO様のジョジョ立ちを行う。

 

「…………」

 

 リーサはぽかんと口を開け、呆気にとられたような表情を浮かべていた。

 ……や、やべえ……何だこれ……! 滅茶苦茶恥ずかしい……! 穴があったら入りたいレベルで恥ずかしい! いや寧ろ死にたいぐらい恥ずかしい! 何でこんな事をしてしまったんだ俺は⁉︎

 

「…………それは、一体どうい」

「先行ってるから‼︎」

 

 追求される前に小走りで温泉に向かう。転ばないように注意し、温泉へと入った。相変わらず誰も入っていない。そして変な声が出るが、気にしない。

 あ、危なかった……早着替えに関してはどう説明すれば良いのか未だに分からんからな……聞かれても困る。

 ……というか、よく考えたらこの後リーサがこっちに来るじゃねぇか! また追求されんじゃん! 危なかったじゃねぇよ、問題を先送りにしただけだった!

 くそぅ……誤魔化そうと思って咄嗟に出たのがジョジョ立ちだったが、逆に(こじ)らせてしまったような気がする……。早着替えの事より、ジョジョ立ちの事を追求されそうだ……。

 ど、どうしよう……何か言い訳を考えなければ……。もういっそどっかに隠れるか?

 ……あかん、隠れるところとか無いわ。この温泉狭過ぎるでしょう……。

 

「お待たせしました」

 

 もう来たの⁉︎ 着替え早っ! まだ1、2分ぐらいしか経ってないと思うんだけど⁉︎ もっと考える時間をくれよ!

 

「失礼しますわ」

 

 リーサが温泉へと入ってきて、俺の横に座る。

 ……な、何か近くない? 肩がぴったり触れ合っているんだが……。

 

「ここの温泉はとても気持ちが良いですね」

「え? う、うん……そうだね……」

「遠いところからわざわざ湯治にやって来る方々の気持ちが分かりますわ」

「は、はあ……」

 

 この当たり障りのない会話……。さっきの事を追求するタイミングを窺っているに違いない。

 

「ところで、エクシアさん」

 

 ほら来た! 絶対来ると思った!

 くそぅ、まだ考えも纏まっていないというのに……何て言い訳すりゃいいんだ……!

 

「貴女はとても肌が綺麗ですわね」

「……え?」

 

 よくわからんが、いきなり褒められた。想像の斜め上を行ったな……てっきり、さっきの事を追求されると思ったんだが……。主にジョジョ立ちの方を。

 

「本当に……本当に綺麗ですわ……」

 

 俺の耳元で囁き、艶かしく笑いかける。み、右の耳に囁くのはやめて欲しい……くすぐったい……。

 そして、俺の身体を撫で回すのもやめて欲しい……。何だろう、美人に密着されて嬉しい筈なんだが……なんかゾワッとする……。なんでだろう……。

 

「あの……近いんだけど……」

「それが何か?」

 

 いや、何か? じゃなくてさ……。何でそんな抱き付いてくるんだ……。初対面の時はもっと悪印象を持たれているように感じたのに、やたら気安くなってないか……?

 そして、背中に当たる乳圧が凄い……エクシアちゃん大敗北。これが胸囲格差という奴か……別に全然悔しくないけど。

 

「そんな事よりエクシアさん、貴女はギルドナイトの事は知っていますの?」

「え? ギルドナイト? えっと……名前だけは知ってるけど……」

 

 対ハンター用ハンターっていうのは所詮、ネットでちょっと調べて知った知識であって、この世界のギルドナイトも本当にそういった者達なのかどうかは分からない。というかリリーに聞いた感じでは、一般的にもその実態はあまり知られていないっぽい。

 ここは素直に知らないフリをしておくべきだ。

 

「そうですの。単刀直入にお聞きしますけど、エクシアさん。貴女、ギルドナイト入りませんこと?」

「…………え?」

 

 …………は?

 ……えっと、聞き間違いかな? 今、ギルドナイトに入らないかと勧誘されたように聞こえたんだが……。

 

「えっ、と……今、なんて?」

「ですから、ギルドナイトに入りませんかとお聞きしていますのよ」

 

 ……聞き間違いじゃなかったね。勧誘されてるねこれ。

 え、マジ? ギルドナイトの人が勧誘してくるなんて事があるのか。でも俺、ギルドナイトの事なにも知らないんだけど。それなのに勧誘されてもな……守秘義務とか、そんな関係かな? 一般には詳しく知られていないみたいだし、多分そうだな。

 うーん……でもまぁ、俺はユクモ村の常駐ハンターだし、何より色々と面倒くさそうだ。お断りしよう。

 

「や、私はユクモ村のハンターだから、ギルドナイトには入れない、かな」

「あら、そうですの。それは残念ですわ」

 

 あ、あれ? 意外とあっさり諦めるのね……。もっと粘られるかと思ったんだが。

 ……そんな事より、

 

「あの……そろそろ離れてくれない?」

「あら、何故ですの? 女同士なのですから、良いではありませんか」

 

 ちょっ、右の耳はこそばゆいからやめれ! 弱いんだよ、そこ!

 っていうか何この人⁉︎ そっちの人⁉︎ そっち系の人なの⁉︎

 こんな美人に好かれているっぽいのに━━━やっぱり何かゾワッとする!

 く、くそ! 離せ! HA☆NA☆SE! この虫野郎!

 あかん、力強い! 振り解けぬぇ!

 だ、誰か! ヘルプ! ヘルプミー!

 

「わっ!」

 

 その時、どうやっても振り解けなかった彼女の手が離れた。その拍子に身体がガクッとなり、湯に顔を突っ込んでしまう。

 慌てて顔を上げリーサの方を振り向くと、

 

「ご無事ですか、お嬢様」

 

 ━━━そこには、2匹のアイルーが居た。片方は白、もう片方は蒼の毛並み。

 俺の事をお嬢様って呼ぶのは……咲夜と妖夢か! いつ、どっから現れたんだ⁉︎ まぁいいか、助かった!

 

「エクシア様、お下がりください。我々が足止めします」

 

 と、白い毛並みの妖夢が言う。ありがとう、君は俺の事を名前で呼ぶんだね。今頃になって初めて知った。

 

「……この子達も、エクシアさんのオトモアイルーなのですか?」

「え? あ、そうだけど……」

「へぇ……」

 

 リーサが呟き、咲夜と妖夢を見る。次の瞬間、2匹の毛並みがゾワッと逆立った。そのまま数歩後ずさる。

 咲夜と妖夢がそんな反応を示すとは……この(ひと)、やっぱりやべえ!

 

「わ、私はこれで失礼する! 咲夜、妖夢、おいで!」

 

 そう言い残し、俺たちは逃げるように温泉を後にした。

 

 

 

 

 

 

「あらあら、逃げられてしまいましたわ」

 

 リーサは一人、湯に浸かりながら呟く。口調こそ残念そうだが、表情の方はそうでもない。寧ろ、どこか嬉しそうでもあった。

 

「……勧誘は予想通り断られましたわね。まぁ、彼女はギルドから派遣されたユクモ村専属のハンター……断られるのは当たり前ですわね。でも、これで次の行動を起こせますわ」

 

 まるで自分の思い通りに物事が進んでいるとでも言わんばかりの物言いである。彼女の目的とは、一体何なのか。

 

「でも……困りましたわ。実際に会ってみて、本当に欲しくなってしまうなんて……ああ、あの子も()()()()ですわ……!」

 

 リーサは両腕を抱き、身悶えする。

 

「……でも、今は任務が優先。それが終わったら……ウフフ……!」

 

 楽しそうに笑う。その時が来るのを楽しみにしながら。

 

「……しかし、早着替えマジック? ザ・ワールドとは何なのかしら……?」

 

 少し悩んだが、自分の知識の中に該当・関連するものがなさそうなので、リーサはそのうち考えるのをやめた。



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また緊急クエストが入ったそうですよ。

 リーサがユクモ村に来てから、はや数日が経過した。

 

「ごきげんよう、エクシアさん」

 

 リーサが声を掛けてきて、思わず身構える。

 ……俺が集会所へ来ると、毎回こうやって声を掛けてくる。ギルドナイトに入らないかと勧誘してくるのだ。当然ながら毎回断わっている……のだが、いつもあっさり引き下がる。この人の考えている事はよう解らん。

 しかし……美人なんだけど、やっぱり苦手だ。慣れない。

 それに、ネブラ装備のミレイナやオトモアイルーのシャルロットはどうしたのだろうか? いつ来ても見当たらない。どこへ行ったんだ。

 

「……どうも」

 

 それだけ言い、すすすと彼女から距離をとる。

 

「そんなに警戒しないで下さいな。何もしませんわ」

 

 信用出来るか! 隙あらば抱き付こうとしてくる癖に! しかも一度抱き付いたら暫く離れないし!

 という訳で、俺は集会所へ来る際は必ず魔理沙を連れて来るようにしている。今も俺は魔理沙を抱っこしており、魔理沙は腕の中で爪を構えてリーサを牽制してくれている。このお陰でリーサは俺に近づく事が出来ない。

 しかも、リーサに見つめられると何だか背筋にゾワッとするものが走るのだが、魔理沙にはそれが効かない様子。あの咲夜と妖夢ですら怯ませた視線だというのに。

 きっと、俺への愛ゆえに魔理沙には通用しないんだな! ……愛とか自分で言っててクッソ恥ずいが。何にしても頼りになるぜ!

 まぁ、そんな感じでリーサを牽制しつつ、クエストボードの前でクエストを確認する。

 うーん、今日も目を惹かれるようなクエストは見当たらないなぁ。そんな事を思っていたところ━━━

 

「ハンター様、少しよろしいでしょうか?」

 

 青色の撫子に身を包んだ受付嬢が声を掛けてきた。彼女はユーカ……ではなく、ユーカの同僚のササユさんである。

 

「どうしました?」

「ハンター様に緊急のご依頼が入っております」

 

 oh……。イヤナ ヨカン シカ シナイ。

 

「その依頼というのは?」

「数日前、ハンター様が孤島へ赴いた時にイビルジョーが二頭出現したという報告をいただきましたが、その二頭のイビルジョーが孤島の村に被害を出しているとの事ですので、至急討伐をしてほしいという依頼です」

 

 ああ……あったねそんな事……。黄金魚を30匹釣ってこいとかいう意味不明なクエストが。つい最近の出来事だったけど、フェルトの事で頭がいっぱいだったから忘れていたよ。

 うぉー、マジかー……。セツナが居ない今、そんな依頼がくるのかー……。

 イビルジョー二頭同時……ってか、あの時ほかにもリオレウスとかジンオウガとか居たと記憶しているが? それらはどうするんだ? 俺一人でどうにか出来るとは思えないんだが。

 

「えーと、依頼内容はイビルジョーの討伐のみですか? 確かあの時、リオレウスなども居た筈ですが……」

「調査班の報告では、イビルジョー以外の姿は見受けられないとの事です。恐らくはイビルジョーに捕食されたか、追い払われ身を隠しているのか……」

「……そうですか」

 

 言葉を濁すササユさん。リオレウスなどがどうなったかは分からないらしい。

 ……やだなー、やりたくねぇなぁー……。イビルジョー二頭に加えて、もしかしたら……いや、もしかしなくてもリオレウスとかが居る、と考えた方がいいか。

 ……何その無理ゲー? イベントクエストに五頭の大連続狩猟━━━それも、金竜や銀竜の入ったクエストがあったけど、それより頭悪いだろ。

 何だよ、イビルジョー二頭にリオレウスとジンオウガ……後は、リオレイアとクルペッコとロアルドロスとかもいたか?

 ……うん、頭悪いだろ。ゲームとして成り立ってねぇよ。1匹辺り7分で討伐する計算じゃねぇか。しかも全部同時とか1人じゃ無理だよ。

 まぁ、この世界じゃ時間制限は無いが……だからと言って、やりたいとは思わない。あもりにも面倒くさ過ぎるでしょう?

 と言っても、クエストを拒否る訳にはいかない。ギルドの信用が掛かっているのだ。それを失ったら、この村で生きていけないような気がする。左遷とかされて別の村に飛ばされるやもしれん。

 

「わかりました。準備が出来次第、すぐに出発します」

「お願いいたします」

 

 一礼すると、ササユさんはカウンターへと戻っていった。

 うーむ、イビルジョー二頭……他のが居るとしても、弓でやるのは当たり前として、属性は雷……だとマズイか? それにオトモアイルーはどうすっかなぁ……。

 考え込みながら、俺は集会所を後にした。

 

 

 

 

 

 

「さて、どうすっかなー」

 

 自分の部屋の中でポツリと呟く。抱っこしていた魔理沙を降ろし、アイテムボックスの前に立ってメニューを開く。

 

「ご主人、私の出番はあるか?」

「んー、そーだなー……」

 

 魔理沙を連れて行くべきか……妖夢や咲夜もいい働きをしてくれそうだし、ハンター顔負けの『猫』の勇儀さんを連れて行ってもいい。狩り祭りの時はいい働きをしてくれたし。

 ……というか、いっその事全員連れて行きたい。そしたらイビルジョーだってリンチ出来ると思う。

 しかし、それは無理なのである。前に実験したのだが、オトモ1とオトモ2に設定した2匹と設定されていない魔理沙を引き連れてクエストに出たが、いざクエストが始まってみれば魔理沙の姿は影も形もなかった。

 それからクエストを終わらせて戻り魔理沙の話を聞いてみれば、俺たちの姿が一瞬にして掻き消えたとの事である。軽いホラーだよ。

 そういう訳で、正式にクエストを受けて外に出る限り、俺はオトモアイルーを2匹までしか連れて行く事が出来ないのである。

 ……本当に変なところだけゲームだな。面倒だ。

 うん、話が逸れた。そんな事より、アイルーをどうするかである。

 が、まずは俺の装備を変更しよう。マイセット装備からセット22をタッチする。

 

武器:王牙弓【稚雷】

頭:ネブラUキャップ

胴:ネブラUレジスト

腕:ネブラUガード

腰:ネブラUコート

脚:ネブラUレギンス

護石:王の護石

 

 発動スキルは『雷属性攻撃強化+2』『スタミナ奪取』『集中』『ランナー』『見切り+1』『氷属性攻撃弱化』。

 リオレウスなどの他のモンスターの事を考えると、以前使ったシルバーソル主軸の装備━━武器は無属性のファーレンフリード━━の方が良いと思うかもしれないが、今回のクエストはイビルジョー討伐である。イビルジョーさえ始末してしまえば、他にどんなモンスターが来ようとも俺は自動的に帰還するのだ。だからこそ、今回は雷属性重視のこの装備を選んだ。

 で、オトモアイルーをどうするかだが……。

 

「……魔理沙。聞いてたから分かっていると思うが、今回のクエストの標的はイビルジョーだ。かなり危険な戦いにな━━━」

「みなまで言うなよ、ご主人。私たちオトモアイルーは全力でご主人をサポートするのが仕事だぜ。ご主人の為ならたとえ火の中、水の中さ!」

 

 …………俺は今、猛烈に感動している……。やばい……嬉しい……。泣きそう……。魔理沙可愛い……。

 しかし、魔理沙の意気込みは買いたいところだが、感情は排して采配を下さなければならない。悲しいけどこれ、命が掛かってるのよね。

 実際、イビルジョーに爆弾猫を連れて行くのはどうなんだと思う。これがゲームだったなら間違いなく近接のみのオトモを連れて行くだろう。チョロチョロ動き回るイビルジョーに爆弾は当たりづらい。

 だが、今はゲームのような現実である。魔理沙は爆弾猫の癖にフットワークが軽く、小タル爆弾を連続で投げまくり、何なら大タル爆弾を投げつける事が出来る程の力を持つ。

 ……あれ? そう考えると、別に連れて行っても良いんじゃね?

 …………。

 ま、いいか。連れて行っても問題無いだろう。やる気あるみたいだし。あと可愛いし。

 

「じゃあ、今回は魔理沙を連れて行こうかな」

「やったぜ!」

 

 嬉しそうに飛び跳ねる魔理沙。これから死地━━という程でもないが━━へ赴くというのに、無邪気な奴め。余程俺の事が大好きらしいな! 可愛いから許す!

 さて、それじゃあオトモ設定をかえようか。

 オトモボードの前に立ち、とりあえずオトモ1に魔理沙を設定する。その瞬間、横に立っていた魔理沙が俺の背後へと移動した。

 農場の方でも同じだが、オトモボードからオトモ設定をいじると、選択されたオトモが俺の後ろに転移してくる。その時、そのオトモが何をしていようと、である。

 そう考えると、オトモが人間じゃなくてアイルーでよかったと思う。

 例えば人間だった場合、お風呂に入っているタイミングで転移してしまったら『キャーのび太さんのエッチ!』となってしまう訳だ。

 ……何をくだらない事を考えているのだろうか、俺は。そんな事よりオトモアイルーの選抜である。

 

「もう1人は誰にするかな……」

 

 実際、かなり悩む。みんなハイスペックなので、誰を連れて行っても余り変わらない気がする。

 まぁ、ナズーリンだけは『狩猟は苦手』と言っていたので、必然的に候補から外れる事になるが。

 うーむ……。そうだ、偶にはアイルー達に決めてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 という訳で農場へとやって来たのだが。

 

「あたい! あたいが行く!」

「待ちなさいチルノ、あんたには荷が重いわ。ここは私が」

「待ちなさいよ霊夢。私はまだ狩りについて行った事がないわ。ここはこのレミリア・スカーレットが」

「ブルーレットには無理よ」

「誰がブルーレットだコノヤロー!」

「私も偶にはお外に出たいわ〜」

「幽々子に狩猟って出来るの?」

「紫ったら、私だってやる時はやるのよ〜?」

「うーん、俄かには信じがたいわね」

「ひどいわ〜」

「いやいや、イビルジョーってのは凶暴らしいじゃないか。だったらこの『猫』の勇儀の出番さね」

「あたい! あたい!」

「力量を考えれば勇儀じゃないかい? 

まぁ、ご主人次第だがね。おっと、私は探索専門だから勘弁しておくれよ」

「皆さん、仲が良いですね〜」

 

 ……聞かなきゃ良かったと思う程に決まらない。自分で決めりゃ良かったな。霊夢とレミリアは言い争ってるし、紫と幽々子の間には何気に火花散ってるし、チルノはあたいあたい言ってるし、勇儀は自信満々だし、ナズーリンは行きたくなさそうだし、星ちゃんはのんびりしてるし。

 うーむ……どないしよ。本当に誰でも良いんだよなぁ……。

 っつぅか、妖夢と咲夜が見当たらないんだが? あの2人はいつも何処にいるんだ。オトモボードから設定すれば呼び出す事も出来るが、それだけの為に呼び出すのもな……。『キャーのび太さんのエッチ!』状態になってしまうかも分からん。猫だけど。

 いや、この間の温泉での事を考えると、案外どこからか俺を見守ってくれているのかもしれない。……そう思うと、監視されてるようで落ち着かないが……。

 しかし、この状況をどうするか。誰を選んでも角が立つ気がする……という程でもないだろうが、嫉妬の念は受けるんじゃなかろうか。選ばれたアイルーが。

 うーん、何かないか? イビルジョーをやる上で、立ち回りが楽になるような何かが……あっ、そうだ。

 

「みんな、ちょっと聞いてくれ」

 

 全員が口を閉じ、俺に注目する。

 

「イビルジョーをやる上でなんだが、私としては尻尾を斬り落としてもらえるとありがたい」

 

 イビルジョーの尻尾。弓で立ち回ると、そこそこ邪魔な時がある。右へ左へと頭を揺らし、デンプシーロールみたいに3回、若しくは5回、移動しながら噛み付く攻撃があるのだが、偶に尻尾に当たって吹っ飛ばされる事があるのだ。この時、尻尾が無いと楽に回避する事が出来る。

 

「という訳で、尻尾を斬り落とす自信のある者について来て欲しいんだが━━━」

「はいはい! あたいやる!」

「いやチルノ、あんたに尻尾を斬り落とすのは難しいでしょうから、ここは私が」

「いや、霊夢。あんたの封魔針だって尻尾を斬り落とすのは難しいでしょ。ここは私のレミリアクローで」

「ブルーレットには無理よ」

「私の名前はスカーレットだ! 二度と間違えるな!」

「はいは〜い。私が尻尾を斬り落とすわ〜」

「幽々子に尻尾を斬り落とす手段があるのかしら?」

「紫ったら、私だって斬る時は斬るのよ〜?」

「甚だ疑問だけど」

「ひどいわ〜」

「そういう事ならやっぱり、この『猫』の勇儀の出番さね! 見事、尻尾を斬り落としてみせようじゃあないか!」

「あたい! あたい!」

「斬るという事を考えるなら、妖夢が一番じゃないかい? まぁ、ご主人次第だがね」

「皆さん、やっぱり仲が良いですね〜」

 

 おーい! 無限ループって怖くね状態に突入してんじゃねーか。さっきと台詞があんまり変わってねーってどういう事よ。このままじゃ収集つかんぞ。

 どうしたものかと考え、結局のところ自分で選ばなくてはならない事を悟る。ナンテコッタイ。

 

「あー、ならみんなに一つ聞く。みんな尻尾を斬り落とす手段があるとして、それぞれどうやって斬り落とすのか教えてくれる?」

 

 これで、一番効率の良さそうな方法を提示したアイルーを選ぼう。もうこれ以上考えるのも面倒だし、いいよね。

 

「あたいの氷剣なら、どんな尻尾もイチコロよ!」

「あたしはお札を硬質化させて剣を作り、それで斬りつけるわ」

「私には、この自慢のレミリアクローがある」

「ひらり〜、はらり〜。私の扇子は尻尾を斬り落とす事も出来るわ」

「右に同じく」

 

 ……みんなそれぞれ気になる攻撃方法を持っているな。氷剣とか札剣とか爪とか扇子でモンスターの尻尾を斬り落とすところとか逆に見てみたいわ。

 そんな中、勇儀がずいっと前に一歩出て、

 

「大将、確か『王牙大剣【黒雷】』を持ってたよな?」

「うん? まぁ、一応作ってあるけど……」

 

 ジンオウガの素材から作る、雷属性を持った大剣の最終形態である。作るだけ作ってアイテムボックスに眠っているが……おい、まさか。

 

「それを貸し出して欲しいんだ。そうすりゃ、どんなモンスターの尻尾だって斬り落としてみせるさ!」

 

 ……マジか? マジで言ってるのかこの猫?

 大剣だぞ? 柄と頭身あわせて人の身の丈ほどもある、ハンター用の大剣だぞ? アイルーの何倍あると思ってるんだ?

 ……と思うけど、勇儀ならやりかねないな……。そして、それぞれの案の中で一番見てみたい。アイルーが大剣を振り回すというところを。

 

「……OK。じゃあ、今回は勇儀に頼もうかな」

「よっしゃあ! 任せな!」

 

 ガッツリやる気の勇儀姐さん。頼もしい。

 他の子達は渋々と言った様子で諦めたようだ。まぁ、ハンターの使う大剣を振るって戦う、なんて言われれば諦めも付くわな。

 と思ったが、霊夢がギロリと魔理沙を睨み、

 

「っていうかさぁ。魔理沙が行く意味なくない? あんた爆弾しか使わないでしょ? 尻尾斬れないわよね?」

「うぐっ、それは、その……」

 

 ……おっとぉ? この流れは良くないんじゃないか?

 

「ソーダソーダ! あたいと変われ!」

「何言ってるのよ、ここは私の札剣が━━━」

「いや、このレミリアクローが━━━」

「ひらり〜、はらり〜。私の扇子が━━━」

「いや、幽々子より私の扇子が━━━」

「うるせーうるせー! 私がご主人と一緒に行くんだ! 約束したんだ!」

「皆さん、本当に仲がいいですね〜」

 

 ……無限ループって怖くね?

 結局この後、俺が諭して魔理沙と勇儀の両名をオトモとして連れて行く事に決まったのだった。



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地獄の軍団(仮)とイビルジョー。

 魔理沙と勇儀を連れて集会所へとやって来た。俺はリーサ対策として魔理沙を抱きながら辺りを窺う。

 

「……居ない?」

 

 珍しい事に、リーサの姿が見当たらなかった。いつも集会所に居て、俺ににじり寄って来るのに。というかさっきまで居たのに。

 まぁ、いいか。いや、寧ろいいか。

 魔理沙は抱っこしたままで受付へと向かう。ササユさんが笑顔で迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました、ハンター様」

「ええ、手続きお願いします」

 

 ササユさんが依頼書を出してくれる。

 

 狩猟クエスト

恐怖と暴動の孤島

 

 クエスト内容

イビルジョー2頭の狩猟

 

報奨金 21600z

契約金  1800z

指定地 孤島

 

 契約金を払い、手続きを済ませる。

 ……しかし、報奨金高いな。確か、大連続狩猟の『四面楚歌』━━黒ディア、アグナ亜種、ティガ亜種、ジンオウガ━━と同じ金額じゃないか? まぁ、それだけイビルジョーが危険視されているという事だろう。

 

「それではハンター様、クエストの達成をお祈りしています」

 

 ササユさんの言葉を背に受け、クエスト出発口へ━━━向かう前に、ハンターズストアで強撃ビンと麻痺ビンをそれぞれ最大まで購入する。使えるのに使わないのは愚か者の所業である。特に強撃ビンは。

 次に、クエスト出発口の横に設置されているアイテムボックスからアイテムを引き出す。

 鬼人薬グレート、硬化薬グレート、落とし罠、シビレ罠をそれぞれ一つずつ。他はいつも通りのアイテムを持っている。

 

回復薬 10

回復薬グレート 10

強走薬 5

クーラードリンク 5

ホットドリンク 5

秘薬 2

いにしえの秘薬 1

力の護符 1

力の爪 1

守りの護符 1

守りの爪 1

ペイントボール 99

閃光玉 5

こやし玉 10

モドリ玉 1

ピッケルグレート 5

 

 上記のものが、ゲーム時代から常備している物だ。

 そして、忘れちゃいけない肉焼きセット。これが無いと力が減ってお腹が出ない状態になってしまうからな。……いや、逆だけどね。とりあえずアイテムはこれでオッケーだな。

 魔理沙や勇儀の装備も整えてある。魔理沙はニャン天装備で、武器は無し。元々攻撃に爆弾しか使わないので武器は必要無いと言っていたが、最近はネコボーンピックすら持っていかなくなった。

 いや、俺がオトモボードから装備変更しない限りそのままなので俺が変更させたのだが、まさか武器が外せるとは思わなかった。

 勇儀の方はというと、防具は以前と変わらずアカムセットだが、武器はハンター用の大剣━━王牙大剣【黒雷】━━を担ぐように持っている。

 当然ながら、勇儀の装備もオトモボードから変更しなくてはならない。その際、武器の一覧が表示されるのだが、勇儀だけハンター用の武器まで表示されるのだ。

 無論、表示されるのは彼女が装備出来る物のみに限られる。ランスや弓、ボウガンや太刀など、装備に明らかな無理が生じるものは一覧に表示されない。

 その中には、アイルーの身の丈に合わない大剣も含まれる。しかし、王牙大剣【黒雷】だけは何故装備出来るのか。

 それは恐らく、王牙大剣【黒雷】が弓と同じで折り畳み式の大剣であるからだろう。構えていない時は、刀身が半分程になるのだ。それだけで持ち運びが楽になる。

 ……それでも重量は変わらないのだが。一体、この小さな身体のどこにそんな力があるというのか。もう星熊勇儀だから、と納得するしかない。

 

「とりあえず、これで準備オッケーだな。行くぞ」

「了解だぜ!」

「任せな、大将!」

 

 俺たちはクエスト出発口の外へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 孤島のエリア2番━━━右方には土壁から葉のない巨大な樹が生えており、左方には水が上から流れていて小さな滝とも言えるものが存在する場所。

 ズシン、と。目の前の黒く巨大な体躯の恐暴竜が倒れる。尻尾は既に斬り落とされており、少し離れたところで転がっている。

 

「━━━よし。これで残りはあと1匹だな」

 

 そう言いながら、俺は額の汗を拭った。

 クエストを出発し、孤島へとやってきた俺たちだが、まず支給品を取りベースキャンプを出て、イビルジョーを探すべく行動を開始した。

 エリア1番を経由し、2番━━━つまり、今俺たちが居るところに出たら、早速イビルジョーに遭遇した、という流れである。そのまま戦闘を開始し、凡そ10分ほどで恐暴竜は物言わぬ死体と化した。

 いやー……分かってはいたが、勇儀さん強すぎ。たった2分ほどで尻尾を斬り落とし、身の丈の数倍に匹敵する大きさの大剣を振り回しながら上手く立ち回り、執拗に足を狙ってゆくスタイル。あのイビルジョーが転びまくっていた。

 そして、魔理沙の小タル・大タル爆弾による攻撃。執拗に顔を狙い、爆発で視界を遮ってゆくスタイル。あのイビルジョーが何も出来ず、閃光玉を使った時のようにただ暴れるだけしか出来ない状況に追い込まれていた。

 ほんと、こいつらチートだわ。

 因みに、俺は麻痺ビンを使ってイビルジョーを麻痺させた後、強撃ビンは使わず適当に溜め3の貫通Lv4と放散型の曲射を臨機応変に撃っていただけだった。

 ただ単に安全な距離から適当に矢を撃っていただけである。いや、勿論全く狙われなかったとかそういう事は無いのだが……何か、2人に申し訳ない気分だ……。

 

「やったな、ご主人!」

「流石は大将だねぇ」

 

 うん、ありがとう。流石なのはお前ら2人であって、俺は殆ど何もしてないよ……。

 こんな事なら、俺も剣士で来ればよかったかな。……いや、それだと間抜けを晒すだけか。立ち回りとか分からないし、今以上に恥をかくだけだな。うん。

 

「じゃあ、剥ぎ取りして次のイビルジョーを探しに行こうか。周囲の警戒お願いね。どこからかリオレウスやリオレイアとかが襲ってくるかもしれないし」

 

 魔理沙と勇儀に指示を出し、胴体と尻尾から剥ぎ取りを終えた頃━━━遠くの方から咆哮が聞こえてきた。イビルジョーのものである。

 

「どうする、ご主人?」

「勿論、狩りに行く。イビルジョーを2頭討伐するのが今回の仕事だからね。それで、今のはどっちの方角からだったか分かる?」

「こっちだぜ」

「こっちだな」

 

 魔理沙と勇儀が同時に西の方角━━━エリア3番へと繋がる道を指差す。

 

「よし、じゃあ行こう」

 

 エリア3番を目指して走り出す。緩やかな傾斜が続いており、7メートルはあろうかという岩壁に挟まれている。

 2、3分ほど進むと、左手側の壁がなくなり、切り立った崖が広がった。下は川が流れており、恐らく落ちたら助からないであろう高さはある。

 しかし、それも少し進むと景色が更に変わり、今度は見渡す限りの大海原が広がった。青い海に青い空。どこまでも続く水平線。

 

「……いい景色だな」

 

 思わず呟いてしまう程、目の前に広がる景色は絶景であった。日本では内陸部に住んでいた為、こういった景色はテレビなどでしか見た事がなかったのだ。エリア1番での景色も充分絶景だが、こちらはまた違った趣がある。

 しかし、今は景色に見惚れている場合ではない。止まっていた足を動かし、再び走り出す。

 少し進むと、またイビルジョーの咆哮が聞こえてきた。

 だが、それだけではない。何やら、大人数の人の雄叫びのようなものも聞こえてくる。かなりの数で、少なくとも数十人は居ると思われる。

 孤島には村があると聞いていたが、その住人か? いや、だとしてもイビルジョーが徘徊しているような場所に人が来るだろうか?

 ……分からん。兎に角、急いだ方が良さそうだ。

 

「急ぐぞ!」

 

 魔理沙と勇儀に指示を出し、俺は強走薬を飲んで走り出した。効果が続く限り、俺はスタミナを消耗する行動を行い続けても息切れせず、走り続ける事が出来る。とっても便利。

 そうこうしている内に開けた場所へと出た、丁度その時。

 右手奥の方から、黒い巨体が体当たりでもするようにヌッと姿を現した。イビルジョーである。

 だが、それだけではない。全身黒タイツの人間━━本当にタイツなのか分からんが━━も数名、イビルジョーの体当たりをくらったように吹っ飛んできた。

 ……どちら様? 何でイビルジョーと戦ってるの? これはどういう状況?

 あ、また奥の方から黒タイツの人が数人出てきて、イビルジョーに飛び掛かったりしている。それぞれ片手剣を持っているようだ。盾は何故か無いが。

 ……もしかして、孤島の村に住む人なのかな? それにしては、全員ショッカーっぽいというか、その、悪の組織めいた格好をしているが……。

 ふと、ショッカー軍団(仮)の1人が俺に気付いたらしく、此方に駆け寄ってきた。

 

「貴女はまさか、ユクモ村のハンターさんですか⁉︎」

「えっと、そうですが……」

「良かった! ハンターさん、力をお貸し下さい!」

「あっ、はい」

 

 ショッカー(仮)が再びイビルジョーへと向かっていく。が、ものの見事に「グワーッ!」とか叫びながら吹っ飛ばされる。

 しかし、すぐに起き上がり回復薬と思しき物を飲んで、再びイビルジョーに向かっていく。

 タフだな。というか、よく死なないな。あんな防御力皆無に見えるぴっちりタイツで……いや、それ言ったら2ndのキリン装備やセツナのドーベル装備とかもそうか……あんなに肌を露出しているのに、防御力は高いという謎。

 いや、そんな事よりも。

 

「勇儀、魔理沙。頼りにしてるよ!」

「任せろ、ご主人!」

「任せな、大将!」

 

 魔理沙と勇儀の返答は同時だった。何とも息ピッタリである。

 2人の存在を頼もしく感じながら、俺はまだ使っていなかった強撃ビンを装填した。

 

「よし、行くぞ!」

 

 矢を番えて弓を引き絞り、走り出す。

 

「私はユクモ村常駐ハンター、エクシア! みんな、イビルジョーから離れて!」

 

 叫びながら、曲射を放った。上空へと放たれた一本の矢は、イビルジョーの頭上で分散し、幾つもの矢の雨が降りそそぐ。それらはイビルジョーの身体に突き刺さる度に青い雷を発する。

 更に勇儀がイビルジョーの近くで大剣を展開し、遠心力を利用するように振るって足に一撃。それだけに留まらず、その勢いのまま飛び上がって尻尾に一撃。見事な連撃である。

 そして、魔理沙の小タル爆弾乱舞が執拗にイビルジョーの顔面へと投げ込まれる。

 そんな戦いぶりに、ショッカー軍団(仮)達から「おおっ!」と声があがる。

 ふっふっふ……。どうやら、魔理沙と勇儀の見事な立ち回りに驚きを隠せないようだな。どうか「あのハンター、ショボくね?」とか思われませんように……!

 

「ぅおっと⁉︎」

 

 そんなどうでもいい事を考えていると、イビルジョーが俺を狙って飛び込んできた。それを慌てて横に飛んで避ける。

 が、俺の方を向き直り、更に噛み付かんと突っ込んできた。それも難なく回避。

 しかし、それでも諦めず、執拗に俺へと向かってくる。

 ……俺狙いか? 魔理沙も勇儀もアイルーなので、イビルジョーからすれば小さ過ぎて狙いづらいだろう。

 

「ふっ、そういう事ならつきあうさ……。鬼さん此方〜、手の鳴る方へ〜!」

 

 イビルジョーの突進を闘牛士の如くヒラリと躱し、貫通Lv4の矢を叩き込む。

 それでも諦めずに突っ込んでくるイビルジョー。だが、俺はその攻撃を(ことごと)く躱す。

 当たらない。当たらない。当たらない。イビルジョーの攻撃を掠らせもしない。

 ふふふ、いいぞ。今日は絶好調だ。

 

 ━━━なんて調子に乗っていたらイビルジョーが怒った。身体を赤くし、咆哮をあげる。

 距離が余り離れていなかった為、思わず耳を両手で塞いで蹲ってしまう。ゲームの時は何してんだよ、とか思っていたけど、実際に聞いてみると耳を塞いで蹲るのは仕方がない事なのだと理解した。

 本当に煩いのだ。耳を塞がなかったら、鼓膜が破れるんじゃないかと思うぐらいには。

 咆哮が終わり、次の攻撃に備えて立ち上がり━━━

 

「うぉわっ⁉︎」

 

 ━━━いきなり、何の前触れもなくイビルジョーが突っ込んできた。慌てて横に飛び、ギリギリで回避に成功。

 

「……ああ、成る程」

 

 起き上がり、先程までイビルジョーが居たところに視線を移して納得した。

 そこにあったのは、イビルジョーの尻尾。勇儀が斬り落としたらしく、それで吹っ飛んで来たのだ。心臓に悪い。

 そして、ショッカー軍団(仮)から大きな歓声があがる。尻尾斬ったぐらいで嬉しそうにしてんな。

 ……いや、待てよ? あのタイミングで尻尾を斬り落としたって事は、勇儀はイビルジョーの咆哮にも平然としていた……?

 …………考えるのはやめよう。何が起こっても不思議じゃないさ。勇儀だもの。

 起き上がったイビルジョーが今度は勇儀に狙いを定めたらしく、あちらへと向かってゆく。

 そこへ隙ありとばかりに俺と魔理沙が畳み掛ける。そして、イビルジョーの攻撃は勇儀に全く当たらない。

 焦れたのか、今度は魔理沙に狙いを変えた。が、やっぱり全然当たらない。そうしている内に俺と勇儀が攻撃を叩き込む。

 あ、転んだ。隙を逃さず、3人で攻撃を叩き込む。

 そんなリンチめいた攻防が数分ほど続き、遂にイビルジョーは物言わぬ死体となった。

 

「ふぃ〜」

 

 弓を畳んで背負い、額の汗を拭う。

 いやぁ、イビルジョーは強敵でしたね(笑)

 何つーか、クエストに行く前はマジで嫌だなとか思ってたけど、終わってみれば呆気ないもんだったな。イビルジョー大した事なくね? って思ってしまうぐらいだが、実際のところ魔理沙と勇儀の働きが大きい。多分、3人の中でダメージソースは俺が一番低いんじゃないかな……。

 

「いやいや、流石はユクモ村の伝説と言われるハンターさんですな」

 

 ショッカーAが話し掛けてきた。顔まで覆面で隠してるのはどうかと思うよ、ホント。

 

「いえ、魔理沙と勇儀……私の自慢のオトモアイルー達のお陰ですよ。私は余り大した事はしていません」

「そんな事はないぜ、ご主人」

 

 背後から魔理沙の声。視線を移せば、魔理沙と勇儀が足元までやって来ていた。

 

「そうさね、大将。あたし達の与えたダメージより、大将の与えたダメージが一番大きいんだ」

「……そうなの?」

「そうだぜ。悔しいけど、私たちアイルーじゃあご主人みたいに大きなダメージは与えられないんだ」

 

 ……そういうものなのか? いや、だって魔理沙の小タル爆弾とか、ダメージ固定の上に火属性のダメージが乗るんじゃ……あれ? 武器の一撃より、小タル爆弾の一撃の方が強いんじゃないのか?

 ……ん? よく分からん。まぁ、いいか。

 

「まぁ、そうだとしても2人の援護が無ければ、これほど早くイビルジョーを討伐する事なんて出来ないよ。ありがとう、2人とも」

「ご主人……!」

「よせよ大将、照れちまうよ」

 

 ふふふ、照れてる魔理沙と勇儀……可愛い。

 

「さて、剥ぎ取りして帰ろうか」

「あ、ハンターさん」

「はい? ━━━うっ⁉︎ ゲホッゲホゲホッ!」

 

 ショッカーAが、いきなり粉のような物を振りまいてきた。それを吸い込んでしまい、咽せる。

 

「いやいや、ありがとうございますハンターさん。貴女のお陰でイビルジョーの死体が手に入りました」

 

 な、何を……い、いかん……意識が……薄れて……。

 

「安心してお眠り下さい、ハンターさん」

 

 ━━━そこで俺の意識は途絶えた。



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英雄の力。

リーサのターン。


 エクシアさんが集会所の外へ出た後、わたくしも遅れて集会所から出た。そして、階段を降りて左手にある吊り橋を渡って村の外に出る。

 獣道のような場所を暫く行き、途中で横の藪を掻き分けて左に逸れる。傾斜を登り、暫くするとわたくしのミレイナ(ペット)が双眼鏡で村の方を見ていた。

 

「首尾はどう?」

「わわっ⁉︎ あ……なんだ、お嬢様っスか」

 

 ……わたくしの存在に全く気付いていなかったようですわね。幾ら新しいペット候補兼エサ(エクシアさん)の監視を命じていたとはいえ、わたくしの存在に気付かないのはどうなの……? エクシアさんは先に集会所を出て自宅へと向かったのに、そのエクシアさん宅の前を通ったわたくしに気付かないなんて……。

 思わず溜め息を吐く。もう少し慎重に行動出来ないのかしら……。

 

「あ、お嬢様! エクシアさんが自宅から出てきたっスよ!」

「ん? もうクエストに出発するのかしら?」

「いや、違うみたいっスね。集会所とは逆の方に向かってるっス」

 

 ……他のハンターを勧誘しに行くのかしら?

 そう言えば、この地にはかつてポッケ村に常駐していた、双刃剣姫の二つ名を持つセツナさんが滞在しているという情報がありましたわね。何でも、生ける伝説とまで言われたエクシアさんと同じぐらいの実力を持つとか……。

 成る程、エクシアさんに入った依頼はイビルジョー二頭の討伐。それほど危険なモンスターが二頭であれば、仲間の手を借りない訳にはいかないですものね。

 

「あっ、エクシアさんが農場に入って行ったっス」

「ん? 農場?」

 

 ……確か、村の私有地だけれど、エクシアさんがこの村の村長さんから借りているという……。そんなところへ何をしに?

 

「わっ! 凄いっス! アイルーがいっぱいっス!」

「何ですって? いっぱいって何人ぐらいですの?」

「えっと……1、2、3…………8匹っスね」

 

 アイルーがそんなに?

 ……農場で働いているアイルーかしら? それなら納得もいきますけど……でも、クエスト前に会いに行く意味が分かりませんわね。

 

「何か、揉めてるみたいっスね」

「どういう事? どんな状況なの?」

「うーん、何言ってるかまでは分かんないっスからね〜」

「それでも雰囲気から何かを察する事は出来るでしょう?」

「無茶言わないで下さいよ、お嬢様じゃないんスから」

「ええい、貸しなさい」

「あぁっ、私の双眼鏡!」

 

 ミレイナの双眼鏡をぶんどって農場の様子を窺う。

 ……うーん、読唇術の心得はありますけど、アイルーの口は読みづらいですわね……エクシアさん、此方を向いて下さらないかしら? そうすれば読唇術で何を話しているのか想像もつきそうですけれど……。

 というか、あのアイルー達……8匹中5匹が防具を装備している?

 えっ、もしかして少なくともあのアイルー達の中の5匹はオトモアイルーという事……?

 ……そんなに雇う意味が分かりませんわね。もしかして、エクシアさんはアイルーが好きなのかしら? そして、あの中の数匹は愛玩用とか? だからあれだけのアイルーを……?

 なら、あの防具は単純にオシャレ用という事かしらね。それなら……いえ、でもあれらの防具はかなり性能の良い物のように思えるわ。それに、あの中の1匹が、わたくしのオトモアイルーであるシャルロットと同じギルドSネコ装備を纏っているし……。

 

「……訳が分かりませんわね。流石は生ける伝説とまで言われたハンターですわ」

 

 考えるだけ無駄だと、思考を打ち切る。大体、わたくしはギルドハンターであって、一般的なハンターの生態もそれほど詳しくないですし。並ぶ者のいないハンターとまで言われるエクシアさんの思考など、読める筈もありませんわね。

 

「引き続きエクシアさんの動向を見ておきなさい」

 

 そう言って、ミレイナに双眼鏡を返す。

 ……そう言えば、シャルロットはまだ戻らないのかしら? エクシアさんのオトモアイルーについての情報を集めるよう言っておいたのだけれど……そろそろ戻ってきても良さそうですけど、何をやっているのかしら。

 

「お嬢様、エクシアさんが農場から出てきたっスよ。……集会所の方へ向かってるっス」

「そう、ようやく出発するのね。エクシアさんがクエスト出発口から出た後、尾行しますわよ」

「了解っス! ……そういや、シャルロットちゃんはどうしたんスか?」

「ん、シャルロットは……別の任務に就かせていたのだけれど、何故か戻らないわ」

「えっ、じゃあどうするんスか? 私が残りましょうか?」

「いえ、その必要はありませんわ。合流出来ない場合は所定の位置で待機するよう言ってありますの」

「じゃあ、見捨てていくんスね!」

「人聞きの悪い言い方はやめて下さる? ……あなた、少し言葉遣いのお勉強をした方が良くてよ」

 

 思わず溜め息が出てしまう。まぁ、そういうお馬鹿なところも可愛いのですけれど……。

 

「それより、あなたはクエスト出発口をしっかり見張っていなさいな。見失っては意味がないのよ」

「はいっス!」

 

 

 

 ━━━それから数分ほど経過しましたけれど、一向にエクシアさんは現れない。

 

「……変ね。もうとっくに出発していてもおかしくない筈ですけれど」

「そうっスね……温泉にでも浸かってるんスかね?」

「緊急の指名クエストですのよ? そんな事がある訳ないでしょう」

「じゃあ、何で現れないんスかね?」

「…………ちょっと見てきますわ」

 

 

 

 ミレイナにそう告げて、急いで集会所まで戻った。

 ……エクシアさんの姿はどこにもありませんわね。仕方ありませんわ、そこに居る青撫子に身を包んだ受付嬢に聞いてみましょう。

 

「失礼。少しよろしいかしら?」

「はい、何でしょうか?」

「エクシアさんはどちらに?」

「ハンター様……エクシア様なら、クエストに出られました」

 

 妙に素っ気ない口調なのが気になりますが……まぁ、それは良いですわ。

 

「……クエスト出発口から出発されたのですか?」

「ええ、そうですが?」

 

 何を当たり前の事を、とでも言わんばかりの態度。

 ……ベッドの上で調教して差し上げたくなりますわね。まぁ、受付嬢に手を出すのは御法度なので無理ですけど。

 そんな事より、エクシアさんが既に出発しているというのは解せませんわね……どういう事なのかしら?

 

「エクシアさんがどうかしたんですか?」

 

 1人で考え込んでいると、赤撫子の受付嬢がこちらにやって来た。

 

「えっと、エクシアさんがクエストに出掛けられたと聞いたのですが、クエスト出発口の方は誰も通っていないと聞きまして……」

「ああ! エクシアさんですか! あの人はいつもそうですよ。クエストに出発されたと思ったら、次の瞬間にはその姿が搔き消えてしまうのです!」

 

 えっへんと、胸を張る赤撫子の受付嬢。何故あなたが誇らしげに……。

 いえ、そんな事よりも。

 

「姿が掻き消えてしまう……とは、一体どういう事ですの?」

「エクシアさんがクエスト出発口へ行くと、何故かその姿がフッと消えてしまうんですよ! まるで、瞬間移動でもしたかのように!」

 

 ……この娘は何を言ってるんですの? 瞬間移動? 何を馬鹿馬鹿し━━━

 そこまで考えて、ふとエクシアさんと一緒に温泉に浸かった時の事を思い出す。

 あの時も、脱衣所に連れ込もうとしたらエクシアさんの姿が掻き消え、いつの間にか着替え終えていた……。

 1秒にも満たない、一瞬でそんな事が出来るだろうか?

 答えは断じて否。防具を脱ぎ捨て、一瞬の内に湯浴み姿に変わるなどありえない。

 それに、エクシアさんの脱いだ防具などがどこにも見当たらなかったのもおかしい。彼女の防具はどこに隠されたというのか。

 

「……まさか」

 

 本当に”まさか”という思いでしたが、わたくしはすぐに集会所を出て、ミレイナの居るところへ戻った。

 

「お嬢様、どうでした? エクシアさんまだ居たっスか?」

「いいえ、エクシアさんはどこにも居ませんでした。それよりミレイナ、すぐに孤島へ向かいます。準備なさい」

「え? でもエクシアさんは……」

「いいから、急ぎなさい。早くしなければ間に合わないかもしれませんよ!」

「わ、わかったっス!」

 

 

 

 

 

 

 港から船を出し、わたくしとミレイナは孤島へと辿り着いた。

 

「他に停泊してる船はないっスね。エクシアさんはまだ来てないんじゃないっスか?」

「それは分かりませんわよ、ミレイナ。エクシアさんはとても不可思議な方です。わたくしは寧ろ、エクシアさんが既にクエストを終えてしまったのではと危惧していますわ」

「いや、それは心配し過ぎじゃないっスか? 幾らなんでもあり得ないっスよ」

「あなたは何も知らないからそんな台詞が出てくるのです。さぁ、行きますよ。イビルジョーが存在しているなら、エクシアさんが未だ孤島に来ていない証明です」

「あっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」

 

 目の前の短く細い傾斜を登り、洞穴の中へと足を踏み入れる。暗く狭い道を進んでゆき、やがて外に出た。

 そこは、緩やかな傾斜が続く場所。すぐ左手には、大きく頑丈そうな木製の門が構えていますが、木の板で打ち付けられていて開きそうにない。使われていないのでしょう。

 10メートルもない傾斜を登ると、そこには美しい自然の景色が広がっていた。

 

「わぁーっ、凄いっスね! 私、こんな景色見たの初めてっスよ!」

「何を言っているの、飛行艇からでも景色は見渡せるでしょう」

「いやいや、お嬢様。飛行艇に乗って空から見るのと、地に足をつけて見るのとでは全然違うっスよ!」

 

 ……そういうものなのかしら? わたくしにはよく分かりませんわね。

 というか、ミレイナはわたくしが拾う前からハンターだった筈なのですけれど、こういう景色を見るのが初めてというのは、海の景色を眺めるのが初めてという事かしら? 確かに、この子を拾ったのは内陸の田舎の方の村でしたが……。

 ……こんな事を考えてる場合じゃありませんわね。

 

「そんな事より、さっさと行きますわよ」

「あぁっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」

 

 まず、目の前に5メートルを超える壁があり、左右のどちらかに進めるようになっている。右側の道を選んで、傾斜を小走りで下って行く。

 そのまま10分ほど降り続けると、開けた場所に出た。

 まず目につくのは、土壁から生えている葉のない巨大な樹。そして、左手の岩壁の上から水が流れてきており、それが北の方へと流れて行っている。

 中央部には、草食種のアプトノスが3頭、地面に生えている草を食べていた。

 

「お嬢様、アプトノスっスよ!」

「そんな事は言われなくても分かりますわ。それがどうしたの」

「いや、アプトノスの肉は美味しいっスよ?」

「……わたくしは別にお腹が空いている訳ではありません」

「私はちょっと小腹が空いちゃって……」

 

 思わず、溜め息を吐く。エクシアさんの監視任務の時も、キチンと食事はしていた筈ですけれど……。

 

「わたくしは肉焼きセットなんて物は持っていませんわよ」

「私が持ってるから大丈夫っス」

「……好きになさい」

 

 そう言うと、ミレイナは嬉しそうにライトボウガンを構え━━━その時、(おぞ)ましい咆哮が聞こえてきた。アプトノス達が西の細道へと逃げて行く。

 

「なっ、何スか、今の……⁉︎」

「……分かりませんが、恐らくイビルジョーの可能性が高いですわね」

「いっ⁉︎ や、やばいっスよ! 逃げないと!」

 

 ミレイナの言葉に頷き、アイテムポーチから鉤縄を取り出す。それを伸ばして先端部分を振り回し、水が流れてきている岩壁の上に向かって投げた。きちんと引っかかっている事を確認し、岩壁を登ってゆく。

 10メートル足らずしかないので、30秒と掛からず登り終えた。

 

「さぁ、ミレイナ! 早く登りなさい!」

「は、はいっス!」

 

 ミレイナが縄を掴み、岩壁に足を掛けたところで━━━北の細道から、それは姿を現した。

 人の身の丈の3倍はあろうかという怪物。全長はそれよりもっと長い、ワニのような顎をもつ恐暴竜━━━イビルジョー。

 その怪物の視線がミレイナを捉える。それと同時、ミレイナが小さく「ひっ……」と悲鳴を漏らし、後ろを振り返った。振り返ってしまった。

 悲鳴は更に大きくなり、表情も恐怖へと変わる。

 

「早く登りなさいッ‼︎」

「はっ、……はい……!」

 

 恐怖で完全に動けなくなる前に怒鳴ったのが功を制した。ミレイナが縄を登り始める。

 しかし、その間もイビルジョーはこちらへと近寄ってくる。あの巨体であれば、当然ながら一歩あたりの移動距離は人間などよりもずっと大きい。

 このままでは━━━いえ、ギリギリ間に合う。間に合う筈ですわ。

 だが、それがただの願望でしかない事に気付く。

 イビルジョーがこちらに辿り着くまで、目算で2秒もない。このままだと、ミレイナはギリギリで食い付かれ、引きずり落とされて殺される。

 そう思い至った次の瞬間、わたくしはロープを掴み、思いっきり引き上げた。その衝動や、ミレイナが驚いて落ちる可能性もありましたが、どの道そのまま放置していれば結果は同じ。

 だからこそ、ミレイナを信じてロープを引っ張り上げた。

 そして━━━ギリギリでミレイナは助かり、自分の行動が正しかった事が証明された。

 

「ミレイナ……!」

「お、お嬢様……!」

 

 ミレイナの身体をぎゅっと抱き寄せる。

 無事で良かった……! わたくしのミレイナ……!

 その時、ズシンと、地面に衝撃が走った。下を見れば、イビルジョーが壁に体当たりをしている。

 

「ミレイナ、ここを離れましょう。ここに居ては危険ですわ」

「は、はいっス!」

 

 そして、わたくしはミレイナの手を引きながら数歩進み、

 

「あっ……お嬢様、あれ……!」

 

 ミレイナの言葉に後ろを振り返ると、わたくし達の立っている崖の下━━━イビルジョーの近くに、見覚えのある人影を見つけた。

 

「……エクシアさん!」

 

 そう、あのエクシアさんがイビルジョーと対峙していたのだ。

 ……今日は継ぎ接ぎ装備じゃありませんのね。ミレイナとは色違いの赤いネブラU装備。……可愛いですわ。

 

「それにしても……」

 

 目につくのは、手に持っている弓。

 イビルジョーを相手に最新鋭のボウガンではなく、時代遅れの弓とはどういう事ですの……? 普通、弓などではなくボウガンを使う筈では……?

 そのような事を考えている間に、戦闘が開始された。

 まず動いたのは、黒い鎧に身を包み、ハンター用の大剣を持っているアイルー。遠心力を利用しながら大剣を振り回し、イビルジョーの足に一撃。

 次に、白の狩衣を纏ったアイルーが小タル爆弾を投げつける。乱舞とも言える程の数だ。一体、どこにそれだけの小タル爆弾を隠し持っているのか。

 更に、エクシアさんが矢を放つ。イビルジョーの真正面から放たれたそれは、青い雷を発しながら身体を貫通してゆく。

 対するイビルジョーもやられるばかりではなく反撃に出るが、虚しく空を切る。相手を噛み砕こうと頭を振るい、纏わりつく相手を振り払おうと尻尾を振り回し、全てを薙ぎ払わんと黒いブレスを吐きだす。

 しかし、それら全ては当たらなかった。エクシアさんもオトモのアイルーも、イビルジョーの攻撃を軽々と躱す。

 

「……凄い」

 

 その鮮やかな立ち回りに、わたくしもミレイナも目を奪われた。

 そして、子供の頃に聞いたハンターの英雄譚を思い出した。わたくし達の前で激闘を繰り広げるエクシアさんこそ、英雄譚で語られるような本物の英雄なのだと理解したのだ。

 何故だか胸が熱くなった。同時に、あの英雄をペットとして飼いたいなどと不敬な念を抱いていた自分を恥じた。

 

「エクシアさん……いえ━━━エクシア様……」

 

 わたくしもミレイナも、ただただエクシア様たちの戦いに見惚れて、眺め続けていた。

 すると、戦闘開始から10分ほどでイビルジョーが倒れ、動かなくなった。

 

「……ミレイナ」

「は、はい?」

「普通のハンターがイビルジョーを討伐するのに、どれぐらい時間が掛かりますの?」

「……どうっスかね……。そもそも、イビルジョーを討伐出来るハンターが限られてますっスから……でも、3人組のハンターから大体半日は掛かるって聞いたっス」

 

 ……半日? 普通のハンター3人が半日掛かるところを、たったの10分……?

 

「……おかしくありません? エクシア様は10分前後で討伐してしまいましたわよ……?」

「さ、様……? いや、まぁ私が聞いたのはイビルジョーを初めて討伐したっていうハンター達でしたっスけどね」

「……そうですの」

 

 それなら、まぁ…………いえ、やっぱりおかしくありません? 幾ら初見とはいえ、半日掛かるモンスターが何故たったの10分で討伐されますの? 何というか、砂漠の中をガノトトスが泳いでいるぐらいおかしくありませんか?

 

 ━━━そんな風に思考を巡らせていると、遠くから別のイビルジョーの咆哮が轟いてきた。

 そういえば、イビルジョーは2頭いるんでしたわね。剥ぎ取りを終えたエクシア様も、咆哮の方へと向かうようですわ。

 

「……お嬢様、どうするっスか?」

「当然、エクシア様の跡を追います。わたくし達の追っている標的(ターゲット)も表れるでしょうしね。ただ、そのまま尾行するとバレたりモンスターに襲われたりするやもしれませんから、高台の上から追いますわよ。着いていらっしゃい!」

「あぁっ、待って下さいっスよ、お嬢様!」



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エクシア、色んな意味でピンチの巻。

 毒蛾の粉を振りまくと、ハンター━━━エクシアはその場に倒れ伏した。

 

「テメェー! ご主人に何を━━━」

 

 白い狩衣を纏ったアイルーが吠える。が、そのアイルーの後方から手のひらサイズの玉が飛んできて、足元に着弾。ブワッと赤い色の煙が広がり、2匹のアイルーを包み込む。

 煙が風に流され、再びアイルーの姿が視認出来るようになると、既に2匹とも倒れて動かなくなっていた。

 

「……生ける伝説などと言われていようと、所詮は人間。毒物には弱い、という事ですか」

 

 全身黒タイツの覆面男、ショッカーAがエクシアを見下ろしながら呟く。

 

「まぁ、とりあえず感謝しますよ。尻尾だけ取れれば良いと思っていましたが、まさか本体までも手に入るとは思っていませんでしたからね」

「隊長!」

 

 そこへ、ショッカーBがやって来た。隊長と呼ばれたショッカーAが振り返る。

 

「剥ぎ取りを行ったところ、こちらの物が出てきました」

「おおっ! これはっ!」

 

 ショッカーBの差し出した物を手に取り、ショッカーAが興奮気味の声をあげる。

 手のひらに収まりきらない程のそれは、イビルジョーの宝玉であった。手に入る事は極めて稀な、ハンターの誰もが喉から手が出る程に欲しがる玉石系の希少素材である。リオレウスなら紅玉、ジンオウガなら碧玉といった具合だ。

 

「素晴らしい! 邪教の一派は怪しい儀式に用いるそうですが、彼らに売り付ければ相当な高額で引き取ってくれる事でしょう!」

 

 ショッカーAは笑う。自らの手にある希少素材を見ながら、亡者のように不気味な笑みを湛えて。

 

「ふふふ……さて。回収作業の方はどれぐらいで終わりそうですか?」

「はっ! 今回は死骸の方もありますので、30分ほどは掛かると思われます!」

「そうですか。……ああ、そうそう。確か、イビルジョーはもう一頭居るという情報がありました。もしかしたら、このハンター殿が既に狩っている可能性もあります。捜索隊を出しておいて下さい」

「はっ、畏まりました! ……ところで隊長、この女ハンターはいかがいたしますか? 宜しければ、一緒に回収いたしますが」

「……いえ、強化人間計画は頓挫したと聞いています。回収しても意味はないでしょう」

「あ、その……部下たちの相手をさせるのはどうか、と思いまして……」

「ああ、成る程。そういう事ですか。ふふ、物好きですね。……まぁ、証拠を残さないようにすれば、ギルドへの対応はどうとでもなるでしょう。ただし、彼女はイビルジョーを容易く葬るほどの恐ろしい実力を備えたハンターです。拘束は厳重に行ってください」

「はっ! ありがとうございます!」

 

 ショッカーAは鷹揚に頷くと、イビルジョーの死骸の方へと歩き出し━━━

 

「ぐぎゃあああぁぁぁっ!」

 

 ━━━ショッカーBの悲鳴。振り返って見れば、ショッカーBの手の甲に一本のナイフが突き刺さっていた。

 

「何っ⁉︎ 一体どこから……⁉︎」

 

 何者かの攻撃に警戒し、周囲を見回してみるものの、怪しい人影は見当たらない。既に隠れたのだろう。

 だが、ナイフの刺さっている箇所を見れば角度や方向など、凡その位置は見当が付く。

 

「各員、警戒を━━━」

「あらあら、痛そうですわね」

 

 ショッカーAが隊員たちに警戒を促そうとして、場違いなほど朗らかな女性の声が背後から聞こえた。振り返ってみれば、そこにはギルドナイト装備に身を包んだ女性が立っていた。

 

「なっ⁉︎ リーサ・クジョウ……!」

「あら、ご存知でしたか。でしたら、わたくしが何故ここに居るのかも理解していますわよね?」

「くっ……我々を捕らえに来たか……! 先程のナイフによる攻撃も、あなたの仕業という訳ですか!」

「いいえ、それは違いますわ。先の一撃はわたくしとは無関係です」

「見え透いた嘘を!」

 

 ショッカーAが叫ぶ。それと同時、いつの間にか手に持っていた赤い玉を先手必勝とばかりにリーサの足元へ投げつける。ブワッと赤い煙が噴き出し、リーサを包み込む。

 これは先程、魔理沙と勇儀を気絶させた毒霧と同じものである。数種類の素材を絶妙な量で調合されたそれは、一呼吸でもすればたちまち意識を刈り取られてしまう凶悪な煙玉だ。

 だが、この赤い煙玉の何よりも恐ろしいところは、浴びただけでも効果を発するところにある。直接吸った時より効果は落ちるものの、それでも人間であれば10秒と持たずに意識を持っていかれてしまうだろう。

 しかし━━━風に乗って煙が流され視界が開けてみれば、そこには先程と何ら変わりない状態で立ったままのリーサがいた。

 

「ばっ……バカな……⁉︎」

「……この匂いは……ゲネポスの麻痺牙に麻酔薬、それから……ドキドキノコ? 変わった調合ですわね」

「あっ、ありえん! あれを浴びて無事だなどと……!」

「職業柄、毒や麻痺などに耐性がありますのよ」

 

 リーサはニコリと微笑みながら告げ━━━次の瞬間、風の如き速さで駆け出した。あっという間に距離を詰め、アイテムポーチから取り出した特殊警棒で一閃。ショッカーAを殴り倒して気絶させた。

 

「隊長!」

 

 それを合図に、今まで状況を上手く呑み込めていなかったショッカーC以下数十名が動き出す。

 だが、横合から放たれた弾丸が先頭のショッカーCを直撃し、そのまま倒れ伏した。続く2射、3射が更にショッカーD、ショッカーEを撃ち抜く。

 

「お嬢様、援護するっス!」

 

 本来プレイヤーの登る事が出来ない高台からの声。言うまでもなくミレイナである。

 すぐに玉をリロードしたミレイナが、再びショッカー達に弾を撃ち込む。

 これはリーサ達が犯罪者などと相対した時によく使う陣形である。まずリーサが正面から現れて相手の気を引き、伏兵であるミレイナが援護。更にシャルロットがミレイナの補助、及び周囲の警戒を行うのだが、今回シャルロットは居ないので出番はない。

 そして、対人戦闘に特化したリーサが敵を蹴散らしてゆく。今回もこのパターンでショッカー軍団を捕らえる手筈であった。

 しかし、ここでイレギュラーな事態が発生する。

 

 ━━━ドォンッ‼︎ と、派手な爆発が巻き起こった。発生源は、このエリア3番の中心辺りにある、大型モンスターが一体通るのが精々といった1本道の真上。

 しかも1発だけではなく、北側から南側━━━つまり、今リーサが居る方へ連鎖的に爆発してきており、おまけにその爆発の所為で岩壁は崩れ、岩や石飛礫(いしつぶて)が散乱している。

 

「これは……っ、マズイですわ!」

 

 リーサの後方にはエクシアが居る。このまま爆発が迫ってくれば、壁際から離れてはいるものの石飛礫がエクシア達に降りかかるかもしれない。

 庇わなければと動き出すリーサだが、その足はすぐに止まった。いや、止められた。右方より飛んできた、足元の地面に突き刺さっている1本のナイフによって。

 

「それ以上、お嬢様に近寄らないでいただけますか?」

 

 ナイフが飛んできた方向、つまり右方からの声。そちらを振り向いてみれば、蒼の毛並みを持つ、白の狩衣を纏ったアイルーが立っていた。両手にはそれぞれナイフを1本ずつ持っている。

 

「あなたは、温泉の時の……」

「それ以上お嬢様に近付けば攻撃します」

「っ、わたくしはエクシア様をお助けしようと……!」

 

 これはリーサの本心からの言葉である。孤島に来る前の彼女であれば、ちょっとぐらいエクシアの身体を弄ってもいいだろうなどと考えたかもしれないが、今はエクシアに対して敬意を持っているのでそんな事は全く考えていない。

 とはいえ、信用されないのも無理はない。彼女は温泉の時に、目の前のアイルーから不興を買うような真似をしているのだ。今更リーサが何を言おうが、信じられる筈もない。

 事実、アイルーは聞く耳持たぬと言わんばかりに腰のポーチから丸い玉を取り出し、それを地面へと叩きつけた。そこから白い煙が発生する。

 言わずもがな、けむり玉だ。ただし、効果範囲が拡大されており、イビルジョーですらも覆い隠せるほどの煙が辺りに広がっている。

 そして、煙が風に流され、視界が開けた時には既にアイルーの姿はなかった。近くに倒れていた、エクシアの姿も━━━初めからエクシアが連れていた、2匹のアイルーの姿も。

 

「…………」

 

 リーサは小さく溜め息を吐いた。恐らくは、あのアイルーがエクシアを連れていったのだろう。

 ……小柄なアイルーが如何にして運んだのか、という疑問は残るが。

 しかし、何とも優秀なアイルーだと、リーサは思った。

 先程の爆発もあのアイルーの仕業なのだろう。既に爆発は治まっており、エクシアの倒れていた辺りには石飛礫(いしつぶて)ひとつ落ちていない。エクシアに被害がいかないよう、規模を抑えたのだろう。

 また、あれだけの爆発の仕掛けをどうやって、とも思うが、あのアイルーが1匹だけで行動していたとも限らない。温泉の時には、あの毛並みの蒼いアイルーと、もう1匹毛並みの白いアイルーが一緒だった。それを踏まえれば、今回も一緒に行動していると考えられる。何より、リーサとミレイナが牧場を覗き見ていた時、あの2匹のアイルーは居なかったのだから。

 

「……こんな事を考えてる場合ではありませんわ」

 

 リーサは思考を切り替え、ショッカー軍団の方へと向き直る。彼らは爆発とけむり玉の影響か、混乱に陥っていた。

 

「所詮は犯罪集団……烏合の衆ですわね」

 

 そう呟くと、リーサは特殊警棒を構え、ショッカー達を取り押さえるべく本来の任務へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「……! ……様……! ……ター様……!」

「……んっ……ぅ……」

 

 誰かの声が聞こえる。何となくだが、身体を揺すられているような感覚もある。俺を呼んでいるのは誰だろう。

 けど、何だか身体が怠い……まだ眠っていたいとさえ思う……のだが、揺れの感覚が段々強くなってきた。とてもじゃないが、眠ってなどいられない。

 誰だよ一体……このまま暫く眠っていたいのに……。

 

「あぁ、ハンター様! 気が付かれましたか!」

 

 目を開けると、目の前に青いキャップを被った女性の顔が。

 

「…………、……ユーカさん?」

「いえ、私はササユです」

 

 ササユさんだった。間違えた。や、目がぼやけてた上に二人の衣装は一緒だもんよ……衣装が一緒って駄洒落じゃないぞ? 駄洒落を言うのは誰じゃ。

 くだらない事を考えながらも身体を起こし、辺りを見回してみればギルドの集会所であった。クエスト出発口のすぐ近くである。いつの間に戻ってきたのか。というか、俺は何で気絶していたのか……。

 すぐ近くには、魔理沙と勇儀も倒れている。

 

「とりあえず、別室にご案内いたします。立てますか?」

「ええ、大丈夫です……」

 

 俺は気絶したままの魔理沙と勇儀を小脇に抱きかかえながら、ササユさんの案内でカウンター横にある通路━━ゲームでは自宅に続く入り口━━を通って別室に案内された。

 そこでササユさんに何があったのか聞かれたので、先程までの事を思い出しながら、また一部誤魔化しながら━━瞬間移動の事とか━━語って聞かせた。

 

「黒いスーツ姿の覆面を被った集団、ですか……」

 

 一通り話し終えると、ササユさんが難しい顔をしながら頬に手を当てて考え込み始めた。何か心当たりでもあるのだろうか。

 暫くして、彼女は意を決したように口を開いた。

 

「……ハンター様、リーサ・クジョウ様の事はご存知でしょうか?」

「えっと、ギルドナイトの人ですよね?」

「はい。あまり公にはなっていませんが、ギルドナイトの仕事は多岐に渡ります」

 

 例えば、モンスターの生態調査、或いは生け捕り、狩猟。

 例えば、未開の地の調査、及び探索。

 例えば、犯罪者や違法な密猟を行うハンターの取り締まり。

 彼女が言うように、ギルドナイトの仕事は本当に多岐に渡るようだ。

 

「その中でもリーサ・クジョウ様は主に犯罪者や密猟者を捕らえる仕事を行っている、という噂があります」

「……それじゃあ、まさか」

「はい。噂が正しければ、リーサ・クジョウ様は今回、ハンター様を襲ったという犯罪集団を捕らえる為にユクモ村へやって来た、と考えられます」

 

 ……マジか。あの時リリーが言っていた『リーサ・クジョウは密命を帯びているかもしれない』というのは当たっていたのか……。

 

「……でも、リーサは2人と1匹で大丈夫なんですかね?」

「それは心配いらないと思います。何しろ、リーサ・クジョウ様は『狙った犯罪者を絶対に逃がさない』という噂もありますから」

 

 ……マジか。流石はギルドナイトと言うべきか。リーサはとても優秀なエリートのようだ。いや、そもそもギルドナイト自体がエリート集団な訳だが……。

 

「あと、同性が好きという噂も……」

 

 それは何となく気付いてた。なんか狙われてるっぽいし、俺。

 ……あんな美人に狙われてるというのに、何故か全然嬉しくない不思議。

 と、そこで別の声。

 

「ぅ……うぅん……ここは?」

 

 魔理沙の目が覚めたようだ。遅れて勇儀も身体を起こした。

 だが、完全に覚醒した訳ではないのだろう、2匹ともどこかボーっとしている。俺もさっきはこんな感じだったのだろう。

 

「大丈夫か、魔理沙?」

「ぅん……? ご主人……? ここは誰だ……?」

 

 ベタなボケをかます魔理沙。ここはどこだと言いたかったんだろう。

 今までの事情を一通り話すと、魔理沙は地団駄を踏んで怒り出した。

 

「あの覆面野郎共……! ご主人がイビルジョーを倒して助けてやったってのに、恩を仇で返すような真似をやがって……!」

「許せないねぇ……許せる訳ないよなぁ……!」

 

 勇儀さんも激おこな様子。俺の為に怒ってくれるのは嬉しいんだが、落ちケツ。ちょっと怖いからマジで落ち着いてくんろ。

 

「まぁまぁ、あの覆面集団はリーサが捕らえてくれているらしいから……」

「リーサ……? もしかして、あの赤い服着てる女か?」

「そうそう」

「……マズイぞご主人!」

 

 突然魔理沙が声を上げ、思わずビクッとなる。一体、何がマズイのだろうか。

 

「何がって、アイツご主人の事を狙ってるんだぜ⁉︎」

「えっ……いや、まぁ、そうみたいだけど……」

「アイツに借りを作っちまった事になる!」

「ん……まぁ、そうだな。それが何か問題が……?」

「問題だらけだよ! 今回の件を口実に、ご主人にえっちな要求してくるに決まってる!」

「……⁉︎」

 

 えっ……いや、まさかそんな……た、確かに覆面集団が犯罪組織であった事を考えれば危ないところを助けられた事になるが……い、いくら何でもそんな……。

 …………あぁ、でも完全に否定出来ない……。

 もしかして、俺って今(貞操の)ピンチ……?

 

「どっ、どどど、どうしよう⁉︎ どうすればいいですか⁉︎」

 

 ササユさんに問いかけてみるも、

 

「……頑張って下さい」

「そんなぁーっ⁉︎」

 

 自分には関係ないとばかりに俺を見捨てるササユさん。ひどい!

 

「安心してくれ、ご主人! あんな奴、私がぶっ飛ばしてやるぜ!」

「あたしも力を貸すよ、大将!」

 

 やめろぉ! 相手は国家権力の中でも上位のハンターなんだぞ! ぶっ飛ばしたら流石にアカン! 俺が指名手配されちまう!

 魔理沙と勇儀の気持ちは本当に嬉しいが、やんわりと止めておく。いつもみたいに牽制してくれるだけでいいのだ。

 ……リーサから何を要求されるか分かったものではないが。

 

「では、私はそろそろ仕事に戻らせていただきます」

「えっ、ちょ……」

「ハンター様━━━頑張って下さい」

 

 とてもいい笑顔でそう言うと、ササユさんは俺を見捨てて集会所の方へと戻っていった。

 ……うぅ、ササユさんだって女性なんだから関係ない訳じゃないのに……。

 ……いや、待てよ? そういえば昔、受付嬢に手を出す行為は御法度だとか、どっかのサイトで見たような……。

 くそ、だからあんな他人事なのか!

 というか、それ言ったらユーカとデート━━だと俺が勝手に思ってるだけかも知らんが━━してた俺ってヤバくね……?

 ……い、いや! あれはユーカの方から誘って来たんだから大丈夫だ! ……大丈夫、だよな……?

 …………。す、凄ぇ不安になってきた……。

 い、いや! 今はそんな事よりリーサをどうするか考えよう。

 

「……とりあえず疲れたし、温泉行こうか」

 

 そう声を掛け、魔理沙と勇儀を引き連れて俺は再び集会所へと向かうのだった。



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目が覚めたら幼馴染みの女の子が一緒のベッドで眠ってたっていうシチュエーションとかあり得んだろ妄想乙って思ってた。

2本同時投稿でも何とかなる━━━そう思ってた時期が私にもありました。


 翌朝。自分の家のベッドの上で目を覚ますと、なぜかセツナが一緒に眠っていた。

 …………おかしいな。なんでセツナがここに居るんだ?

 昨日は確か、魔理沙と勇儀の2人と一緒に温泉に浸かったあと、適当な飲食店で飯を食って、それから色々疲れたから今日はもう寝てしまおう━━魔理沙と勇儀はまだ眠くなかったらしく、牧場へと向かっていった━━と思い、防具を全て外してベッドで横になったのだ。

 ……うん、セツナには会ってないね。なんでここに居るんだ?

 とりあえず起こさないように上半身を起こし━━━ベッドの横、オトモアイルーが丸くなって寝る為のベッド(ふかふかの座布団みたいなやつ)にフェルトが眠っていた。

 …………なんでここに居るんだよ!

 

 

 

 

 

 

 とりあえず2人を起こして一通り話を聞いてみたところ、要約すると次のようになる。

 まず、フェルトの腕や足━━肘や膝の辺りから下━━がジンオウガのような皮膚になっているのだが、それを隠す為の装備が出来上がったので、それを俺に見せる為にユクモ村までやって来たらしい。現にフェルトは今、剣士用のジンオウガ装備一式を身に纏っている。彼女の手足の皮膚がジンオウガっぽいので、それに合わせてジンオウガにしたんだとか。まぁ、違和感なく包み隠せていると思う。

 で、まず集会所に行ったらしいのだが、受付嬢(ササユさん)に俺の事を尋ねたところ、既にクエストを終えて温泉に浸かった後、集会所を出た事を聞き、今度は俺の自宅へとやって来た。

 すると俺は既に眠りこけており、いくら揺すっても叩いても━━叩くなよ━━起きなかったので、適当に村をブラついて時間を潰すことに。

 それから夕方頃になり、再び俺の自宅へとやって来てみたが相変わらず眠りこけたままだったので、また揺すったり叩いたり━━だから叩くなよ!━━したがやはり起きない。

 

「だからもう一緒に寝ちゃおうと思って」

 

 と、いう訳らしい。俺は一度眠ったら朝まで目を覚まさない事が判明した。モンスターが村を襲撃してきたら間違いなく死ぬな、俺。

 じゃねーよ。なんで一緒に寝るって事になるんだよ。どんな結論に至ったらそうなるんだよ。

 

「宿を取ればよかったじゃないか。セツナならそれぐらいのお金はあるだろう? そうすれば2人ともベッドで寝られたのに」

 

 俺の正論にセツナは顔をプイッと逸らし、

 

「……エクシアと一緒に寝たかったのよ……悪い?」

 

 と、頬を若干赤く染めながらそう言った。

 ……何かアレだな。セツナはツンデレだな。一般的に伝わっている『普段はツンツンしているが、2人きりになったりすると急にデレる』方ではなく『初めて会った頃はツンツンしていたが、段々とデレ始める』方の意味で。

 いや、前者の感じもするような気がするが……セツナって俺の事が好きなのかな……? そう考えると、今までのセツナの奇行も色々と辻褄が合うような……? ……いや、まさかな。

 まぁ、それはどうでもいい。

 

「……ま、まぁ、2人がそれでいいなら私は構わないけど」

「本当?じゃあたまに泊まりに来てもいい?」

「え? ……まぁ、別にいいけど……」

「じゃ、じゃあたまに泊まりに来るわね!」

 

 とても嬉しそうな表情を浮かべながらセツナはそう言った。

 そんなセツナを見ながら内心で「可愛いなぁ」と思っていると、急にフェルトがこちらに寄って来て、唐突に俺の背中をバチンと叩いてきた。痛い。

 

「いきなり何をするんだ……」

「見てたら何か腹が立ってきてネ。八つ当たりだヨ」

 

 理不尽すぎるだろ! 何だコイツこんな奴だったか!? 人のインナー借りといて……そうだ!

 

「フェルト、服の都合ついたんだから私のインナー返せ!」

「えっ? あれ、ワタシにくれたんじゃないのかネ……?」

「誰もそんな事言ってないよ! しかもそれ私のお気に入りのインナーなんだからな! 返せ! 今すぐ返せ!」

「いや、そんな事急に言われてモ……代わりのインナーだって用意出来てないシ……」

「じゃあ、私の別のインナー貸すから! そっちのインナー返せ!」

「うん? まぁ、そういう事なら構わないガ……」

 

 そう言って徐に防具を脱ぎ始めた。流石に渓流で全裸生活送っていただけに躊躇がないな。いや、ここに女しか居ないからだろうけども。というか、男の目があるところで脱ぎ始めたら普通に引く。

 そして、よく見ると肘と膝の継ぎ目部分を隠すように布が巻かれている。防具で隠れていたので気が付かなかった。

 防具があるのに隠す必要はないんじゃないかと思うが、世の中なにが起こるか分からない。備えあれば憂いなし、であろう。

 

「ほら、脱いだヨ」

 

 全裸になったフェルトさん。もう少し恥じらいを持てよ……ここに人が訪ねて来る事だってあるんだぞ……。

 

「うん、そっちの引き出しにインナー入ってるから━━━」

「いやいや、どうせなら今、エクシアが着ている物を借りるヨ」

「……は?」

 

 ……フェルト(コイツ)は何を言っているのだろうか? 今、俺の着ているインナーを借りるとか抜かしたように聞こえたが、俺の聞き間違いだろうか? というかそうであってくれ。

 

「……すまないが、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」

「エクシアが今着ているインナーを借りるヨ」

 

 聞き間違いじゃなかった! 何でそうなるんだよ! 頭のネジ飛んでんのか!

 

「……うん、そっちの引き出しに別のインナーが入って」

「エクシアが今。着ているインナーを借りるヨ」

 

 やべぇコイツ目がマジだ……。取り付く島もない……。

 

「さぁ、早く脱いデ! ハリーハリーハリー!」

「いや、ちょっ待っ……! セ、セツナ!」

「手伝うわ」

「ちょおおぉぉぉぉいっ!?」

 

 裏切り者めが! 何だコイツら頭おかしいんじゃないのか⁉︎ そこの引き出しにインナー入ってるんだから、おとなしくそっちを着とけよ!

 必死に抵抗しようと試みるも、2人がかりの上にフェルトの力が尋常じゃなく強い所為で抵抗も虚しく、上のインナーがあっという間に剥ぎ取られた。

 

「そっちにインナーあるんだからそっちを着ろよ! 何でわざわざ私のインナーを脱がしてまで着ようとするんだよ!」

「君の着ているインナーを着ることデ、ワタシとセツナが幸せになれるのサ! 分かったら早く脱ぐんダ!」

「分かんねーよ! 何言ってんだお前は! このっ……離せ! やめろ脱げちゃう! やめっ……やめろォー!」

 

 そんな風に騒いでいると、

 

「何事ですか!?」

 

 闖入者が現れた。白のシャツの上に赤を基調としたベスト、同じく赤いチェック柄のミニスカートという出で立ちという女性。

 ギルドの受付嬢であり、ササユさんの同僚であるユーカだった。私服という事は、今日の仕事はお休みであろうか。

 そして、俺もセツナもフェルトも動くのを忘れて視線をユーカの方へ向け、場に沈黙が落ちる。何だかよく分からないが、気まずい雰囲気だ……。何か言わなければと思うのだが、こういう時に何を言ったらいいのか分からないの。ついでにどういう表情(かお)をしたらいいのかも分からない。笑えばいいのか? 教えておくれよシンジ君。

 しかし、その沈黙を破ったのはユーカであった。

 

「…………3Pですか……!?」

 

 ……何を言ってるんだお前はああああぁぁぁっ!?!?

 この状況をどう見たら……いや、冷静に考えてみたらどう見てもそういう状況だコレェ! 10人中10人が見たらそういう状況だと答えるぐらいにそういう状況だコレェー!

 

「違っ……、これは誤解で━━━」

「やっぱり……! やっぱりエクシアさんとセツナさんは、そういう関係だったんですね……!」

「……え?」

 

 いや、ちょっと待って下さいユーカさん何か誤解してらっしゃいます━━━と、誤解を解く暇もなく。

 

「私の入る余地なんて……うぅ……っ! お邪魔しました! ごゆっくりいぃぃぃっ!」

「ちょぉぉぉぉ!? ユーカさああぁぁぁん!?」

 

 涙目になりながら、ユーカは我が家から去っていった。

 再び場に沈黙が落ちる。が、空気の読めないセツナが口を開いた。

 

「……邪魔者が居なくなったところで━━━さぁ早く脱ぎなさいエクシア!」

「ちょっ」

「観念するがいいネ!」

「やめろォー!」

 

 咲夜と妖夢が助けに来る━━━なんて事は起こらず、俺は再び脱がされた。

 

 

 

 

 

 

「全く、ひどい目に遭った……」

 

 村の中を歩きながらボヤく。

 あの後、俺はインナーどころかパンツまで脱がされ、フェルトの物と交換された。何故、パンツまで交換するのか。これが分からない。

 というか、セツナが俺のパンツを両手に持ちながらジッと見つめていたのに少し引いた。セツナってこんなキャラだったっけか? やっぱり俺の事が好きなのか? ……だとしても人のパンツをガン見してる姿は普通に引く。

 それから頭、腕以外をユクモ装備に━━普段着チックでかなり楽━━変更し、頭と腕は装備なしである。例えるなら、スウェット並みに楽チン。

 いや、スウェットの方が実際には楽だろうけど、この世界においてはユクモ装備がスウェット並みに楽だという意味である。他は鎧とかになるので当たり前だが。

 

「で、どこでご飯食べるの?」

 

 と、俺の右隣を歩くセツナが問うてきた。セツナの更に右隣にはフェルトが歩いている。

 とりあえずお腹空いたのでご飯食べに行こう、という流れになってこいつらも付いてくる事になったのだ。まぁ、同じ時間に起きたのだから三人とも腹が減っているのは当たり前だが。

 さておき、何を食べるかという事だが……特に何も考えてなかったんだよな。今までは中華一択だったのだが、最近になって飽きてきた。

 ……うーむ。確か、セツナは和食が好きだった筈だよな。

 

「そうだな……たまには和しょk」

「因みに私は中華が食べたいわ」

「…………」

 

 こ、この女……。なんでセツナはこう、色々とタイミングが悪いというか何というか……。

 だが、まだフェルトがいる。フェルトの意見次第では中華とは決まらん。

 

「……フェルトは? 何か食べたいものとk」

「ワタシはセツナと同じものでいいヨ」

 

 ━━━お前は何でそんな主体性のない事を言うんだもっと自分の意思を持てよ意見を出せよ頑張れよ諦めるなお前はやれば出来る子やれるやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れ出来る出来るどうして諦めるんだそこで応援してくれてる人の気持ち考えろよ!(?)

 もっと熱くなれよォッ!!!

 

 ……なんて益体のない事を考えても仕方ない。二人とも中華が良いって言ってんだから、中華でいいか。というか、すぐそこに中華料理屋もあるし。

 そんな訳で俺たちはテーブルに着き、ウエートレスのお姉さんに注文した。俺はラーメンと天津飯のセット。……にしたら二人も同じ物を頼んだ。何でや。いいけど。

 

「で、エクシアは今日これからどうする予定なの?」

「う? うーん、そうだなぁ……」

 

 予定、予定か……どうすっかなぁ。

 今やらなアカン事っていったら、多分リーサを探してお礼を言わなきゃいけないよなぁ……。一応、助けてもらった事になってるっぽいし。

 ……ぶっちゃけると、助けてもらう必要はなかったんだけどね。だって、俺はクエストクリアしたら一分経過で自動的に集会所に戻されるんだもん。

 まぁ、そんな事を説明する訳にもいかんので、お礼を言わなきゃならんと。メンドクサイ。

 でも、それをセツナ達に話すのは更にメンドクサイ。詳しく説明するのがメンドクサイ。クサイクサイ。

 どうしたもんかなー、と考えていると。

 

「あら? エクシア様ではありませんか」

 

 背後からの声。振り返ってみれば、特徴的な赤い衣装━━━ギルドナイト装備を身に纏う女性。

 って、リーサやんけ!? 何でここにこのタイミングで来るねん!? 今、魔理沙おらんねんで!?

 リーサは「奇遇ですね、お隣失礼しますわ」と言って俺の隣に座り、さり気なく注文も済ませた。

 なぜ座る。向こうへ行きなさい。セツナとフェルトから「誰こいつ? 説明しなさいよ」的な視線が俺に突き刺さっているから向こうへ行きなさい。あなたが居たら適当に誤魔化す事が出来ないから向こうへ行きなさい。あとそんなピッタリくっつくんじゃない魔理沙連れてこればよかったクソッタレ! 一応助けられた事になってるから邪険に扱えない!

 そんな念を心の中で飛ばしているのだが、彼女は古明地さとり(テレパシスト)ではないので届く筈もなく。屈託のない笑顔で「どうかしましたか?」とか聞いてくる。ちくせう。

 

「ちょっと、エクシアから離れなさいよ!!」

 

 突如、セツナが机をバンッと叩きながら荒々しく立ち上がった。急な不意打ちに思わず身体がビクッとなる。いきなりどうしたんや……。

 すると、リーサは何を思ったか俺の腕に抱きつきながら。

 

「……何故、私がエクシア様から離れなければなりませんの?」

 

 と、挑発的な視線をセツナに送る。

 何でそんな煽るん……ん? エクシア……様? 様付けなんてされてたっけ……? 俺は謙虚だからさん付けでいいぞ。騎士(ナイト)じゃなくて弓使いだけど。

 

「エクシアが迷惑がってるでしょ!」

「あら、そんな事はありませんよね、エクシア様?」

 

 うわ、こっちに飛び火した。俺に振るなよ面倒臭い。しかも、これってどっちを選んでも角が立つ選択肢じゃねーか。そんなもん、俺に選べる訳……。

 

「うん、離れて欲しいかな」

 

 選べる訳ない、とでも言うと思ったかヴァカめ! お前には色々と悩まされてきたからな! 普通に離れて欲しいわ! フハハハハ! 

 セツナも「ほらみなさい!」と言って勝ち誇ったような顔を浮かべる。

 そして、リーサの方へ視線を移すと、

 

「え、ちょっ」

 

 この世の終わりのような、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。

 ……その反応は予想外なんだが……泣くのはズルイだろ……。というか、不覚にもちょっと可愛いとか思ってしまった……。

 俺からそっと離れ、まるでお通夜のような雰囲気を漂わせながら俯くリーサ。これからご飯だというのに、何つー哀愁を振りまくんだ……。

 この元凶であるセツナは気付いているのかいないのか、未だ勝ち誇ったようにドヤ顔をしている。お前はどんだけ神経が図太いんだよ。俺は罪悪感で押し潰されそうだよ。

 そして、フェルトは何故かニヤニヤしながら俺を見ている。何その表情、ムカつくんだが。張り倒したい。

 いや、そんな事よりリーサを何とかしないと、こんなお通夜みたいな雰囲気出されてたら罪悪感と相まって飯が不味くなる。

 

「……えっと、リーサさん? 少しくらいなら別にいいですよ?」

 

 そう声を掛けると、彼女の表情がジョジョにパアァっと明るくなり。

 

「エクシア様!」

「ファッ!?」

 

 ガバッと抱き付いてきた。

 すると、セツナが「あーっ!!」と叫びながら立ち上がり、

 

「私のエクシアに何すんのよ!!」

 

 ━━━私のエクシア!? いつから俺はお前のになったんだ!?

 何て疑問を問う暇もなく、リーサがピクリと反応し、俺から離れて立ち上がり。

 

「聞き捨てなりませんわね? 貴女、エクシア様とはどういう関係ですの……?」

「あんたなんかに言う義理はないわね!!」

 

 二人は机越しに睨み合う。

 ……えっ、何この状況? 何か修羅場みたいになってんだけど、何これ……?

 チラリとフェルトに視線を寄越すと、相変わらずニヤニヤしていやがる。何わろてんねん。俺はこんなにオロオロしているというのに……ムカつく。

 セツナとリーサは暫く睨み合い火花を散らし、やがてセツナが口を開いた。

 

「決闘よっ!!」

「望むところですわ!」

 

 俺を置いてけぼりにして、事態は面倒な方へと転がってゆくのだった。




このすばの方にかまけすぎて投稿遅くなってごめんなさい。
このすばにガンはまりしてしまった。思わず原作小説全部買っちゃったよ。


ところで、男女のトラブルという言葉があるが、女性同士の場合は女女(ジョジョ)のトラブルになるのだろうか、などというどうでもいい疑問を呈してみる。


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