オネェ料理長物語 (椿リンカ)
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真夜中に始まる物語
ラバックとタツミがオネェ料理長に助けられる話


オリジナル帝具が出るので注意してくださいまし


 

「逃げるぞラバ!」

「あぁ!」

 

ワイルドハントのシュラの罠に嵌まり、タツミとラバックは帝都宮殿内に誘い込まれてしまった。

ワイルドハントのイゾウやドロテア、羅刹四鬼のスズカ、そしてエスデス将軍とブドー大将軍……勝ち目はまずないだろう。逃げなければ、おそらくは拷問部屋行きは確定・・・

 

そう考えてタツミはラバックと共に宮殿内を走った。背後から追いかけてくる追っ手をかわすために彼ら二人はとある部屋に飛び込んだ。

 

 

【宮殿の厨房】である

 

 

追ってきたドロテアとイゾウは中に押し入ろうとするが、スズカとシュラが無言で彼らを引き留める。

 

「な、なにをするんじゃスズカ!」

「シュラ殿、ナイトレイドはこの中に…」

「やめなさい、死にたくないなら開けないことよ」

「イゾウ、ドロテア、死に急ぐな」

「シュラ!何を言っておるんじゃ!」

「本当にやめて!あいつが出てきたら全員死ぬわよ!」

「スズカ殿まで一体何を・・・」

 

厨房ごときでなにを…

 

ドロテアとイゾウは疑問符を浮かべるが、あのブドー大将軍とエスデス将軍ですら、厨房の前で立ち止まっていることに気がついた。

 

「な、なんじゃ…ただの厨房じゃろう?」

 

ドロテアがまわりを見回しながら確かめるが、誰も答えず、少し青い顔になっている。

意を決したという表情のスズカがドロテアにこう答えた。

 

「宮殿の厨房はね、独立国家なの」

「………なにを言うておるんじゃ」

 

「オネスト大臣と料理長の取り決めがあるのよ。帝国の政治や軍事に口を出さない代わりに厨房では料理人が一番なの。すごいでしょ?」

「いやすごいとかすごくないとかじゃなくて、厨房がなんでそんなことに・・・」

 

「そのあたりは大臣しか知らないから直接聞いてちょうだい」

 

スズカの説明があったものの、やはり意味が分かりにくい。

なぜオネスト大臣が料理人とそんな取り決めをしたのかも…

 

ただ、宮殿の厨房が特別なのは理解した。

 

あのエスデスさえ入ることができないのだから。

いや、というか…

 

 

「……ブドー、お前が行け」

「断る。シュラ、お前は料理長と幼馴染みだろう。お前が行け。まだ話が通じる」

「俺を殺す気かよ。あいつと顔をあわせたくねぇよ。エスデス将軍、あんた強いんだから行けよ」

「殺すぞ。私が死んだらどうするつもりだ。ブドー、やはりお前が行け」

「私には皇帝陛下を守るという責務がある。もしここで逆鱗に触れれば私も近衛兵も一網打尽にされかねん」

 

 

THE擦り付けあい

 

 

「……料理長は強者なのか?」

 

イゾウがスズカに尋ねる。

スズカは頷いた。

 

「帝具使いでね、戦闘向きではないけどその気になればちょっと怖いことができるのよ。あと本人に色々問題が……」

 

スズカが何かしらいいかけたその時、厨房の扉が開いた。

 

 

そこにはエプロンを着用したタツミとラバック、そしてコックコートを身に纏った……薄化粧の男性がいた。

 

 

「あら、雁首揃えてなにかしら?夕食のメニューでも直談判に来たの?」

 

その男性は女性のような言葉使いで話しかけてきた。

 

「………料理長、その二人は賊だ」

 

ブドーがそう話しかける。が、料理長と呼ばれた男性は驚く様子もない。

 

「厨房に土足で入った子達は、厨房で片を付けるわ。賊だろうがなんだろうが関係ないわよ。」

「だが賊……」

「厨房の一切に口を出さないで。だしたいなら厨房の中でゆっくりお話は聞くわよ。あたしの私室に行けるしね。大将軍ならあたし抱かれてもいいのよ?」

「やめろ」

「えぇ~、やっだー、もぉ~つれなーい!」

 

確かに性格に難があるらしい。

ブドー将軍はあまり表情は変えてないが迷惑オーラが出ているようだ。

 

「あら、シュラもいるじゃない。ひさしぶりね」

「……アニエル、お前そいつらはナイトレイドで…」

 

「アンって呼べっつったでしょゴルァ!!本名で呼ぶんじゃないわよ!!腹かっさばいてあんたの腸でソーセージ作ってやるわよ!!」

「おいやめろ!お前の帝具ならできることを言うの本当にやめろ!」

 

「もしくは抱きなさい!情熱的に!」

「お前は俺を精神的に殺す気か!気持ち悪いんだよ!」

 

「何よ!スタイリッシュとはいちゃいちゃしてたくせに!どうせあいつのこと毎日抱いてたんでしょ!このスケコマシ!エロ同人みたいにスタイリッシュ掘ってたんでしょ!」

「本当にお前やめろ、今想像して吐きそうになったじゃねぇか、うええええ・・・」

 

「そりゃもう情熱的に愛ある言葉を囁いてあんあん言わせてたんでしょ、あたしは分かっているんだからね」

「やめっ、ほんとまじやめろ・・・」

 

……本当に性格に難があるらしい

 

「…ラバ、俺たち助かったんだよな?」

「いや、ま、一応…」

「ほらあんたたち。いまから食材取りにいくから手伝いなさい。早くしないと股間揉みしだくわよ」

「「はいいいいっ!!」」

 

こうしてタツミとラバックは命は助かったが、宮殿の厨房でオネェの下っ端になることになった。

しかも厨房はオネェとオカマしかいなかった!!

果たして彼らはナイトレイドに戻ることができるのか!?

 

 

 

とぅーびーこんてぃにゅーど!

 

 




アニエル

自称はアン・シャーリー(赤毛のアンを意識してる)
宮殿の料理長をしているオネェ
実は皇帝陛下のめっさ近い親戚。つまり継承権があるが、宮殿の厨房だけを守ることに…
オネスト大臣が毒殺されないのは厨房の守護者たる彼がいるから。
気のよいオネェだが厨房関連では鬼神みたいになる。
シュラとは幼馴染みのため、弱味をたくさん握っている。


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一日目の物語
ラバックとタツミがオネェとオカマしかいない厨房で頑張る話


続きのネタが舞い降りた。
だから続いた。
どゅーゆーあんだすたん?


 

「次の料理の仕込み終わったわよぉ!」

「まったくッ!トロいったらありゃしないわね!それが終わったら次は明日の料理の食材チェック!ほら急ぎなさいッ!」

「ちょっとォ!はやく侍女呼んで来なさい!料理が冷めるでしょこのスカポンタン!」

「こっち賄いできたから手が空いた子から食べていいわよー!」

 

野太い声が飛び交う帝都の宮殿内厨房。

やたらと筋肉質なオカマ料理人や細身ながらもしっかり女性らしく振舞うオネェ料理人が厨房内を行き交う中、二人の少年が厨房の隅でひたすらにじゃがいもの皮むきをしていた。

 

「・・・俺たち、何してんだろうな。確か大臣の息子にハメられてよ・・・起きたらオカマやらオネェに囲まれててめっちゃ怖かったし・・・」

「なんか気が付いたらこき使われてるしな。でも・・・ラバに怪我がなくてよかった」

 

「そりゃあまぁ、峰打ちっぽかったしな・・・てか、なんでこうなったんだ?」

「うっ・・・エスデス将軍やブドー大将軍から逃げようとして、駆け込んだらオネェとオカマに囲まれたし、土埃だらけだってすごい怒鳴られた」

 

「なにそれ怖い」

「でも、結果的にエスデスやワイルドハントの連中も手出しできないみたいだからよかったけどさ」

 

彼らは帝都に蔓延る悪を斬る暗殺者・・・ナイトレイドのタツミ、ラバックである。

その二人が何の因果か帝都宮殿の厨房の料理人見習いへとジョブチェンジしていた。いや、させられた・・・が、正しい。

 

「あんたたち、口を動かす前にもっとシャキシャキ手を動かしなさい」

 

この料理長、自称アン・シャーリーによって

 

「あ、あの・・・俺たちいつになったら外に・・・」

「俺たちはナイトレイドなんだ!そりゃあ一晩匿ってくれたのはうれしいけど・・・」

「この厨房に土埃だらけで入ってきたお馬鹿ちゃんたちが何を言ってるのかしらねぇ?」

 

彼らの言葉にアンは背後に阿修羅が見えるような鬼気迫るオーラをまとった。顔には青筋を立てているようである。

 

「普通に出れると思ってるの?エスデスちゃんなんて昨日の夜から”タツミに会いたい会いたい”って厨房の出入り口見張ってるんだからね。たまに外から見れたら乙女の表情した後に捕食者の表情してるんだから。一歩でも厨房と関連棟から出れば即座にタツミちゃんを捕まえておいしく食べちゃうって魂胆よ?」

 

「やめて怖い」

 

帝国最強と名高いエスデスが見張っているとなると、やはり出入り口から逃げることは不可能だろう。それでなくともブドー大将軍やワイルドハントのメンバーには自分たちの居場所はバレている。

 

この厨房は料理人たちの私室のある建物と繋がっているため、そちらで寝泊まりすることはできた。

だが、おそらくはすでに宮殿内に自分たちのことは伝わっている。

きっとエスデスだけでなく、宮殿にいる兵士たちもここを警戒しているだろう。

 

・・・なお、帝具についてはアンによって没収された。

逃げる手段は限られている。

 

「・・・俺たちはナイトレイドだ」

「そうね、そう聞いてるわ。でもね、ラバックちゃん。ここは厨房・・・料理人の聖域よ?革命軍の暗殺集団だろうが、帝国軍特殊警察だろうが関係ないわ」

 

「なぁ、あんたは話が通じる人間だろ?あのオネスト大臣にそこまで”約束”させたんだ。少なくとも大臣に好意的ってわけじゃあない・・・そうだろ?」

「・・・えぇそうね。でもあたしはただここを守りたいだけよ。革命なんて好きにやりなさい。あんたたちを逃がすかどうか、そのあたりはもう少ししてから決めてあげる」

 

そうラバックに答えて、アンはさっさと厨房の戦場へと戻っていった。

 

「・・・脈ありって感じだけど、なんかあるみたいだな」

「・・・」

「どうしたんだよタツミ、そんな顔して」

「・・・ごめん、ラバ。羅刹四鬼が生きていただろ?帝国の奴らに俺の正体がバレてたってことだ・・・俺のせいで・・・」

「あー、気にするなって。ナイトレイドは一蓮托生、だろ?」

 

落ち込むタツミを小突きながらもラバックは一足先にじゃがいもの皮むきを終えたらしい。

次に頼まれている玉ねぎの皮むきにとりかかるようだ。

 

「生きてる限り、チャンスはある。はやく戻って、マインちゃんを安心させてやれよ」

「・・・あぁ、そうだな」

 

 

 

シュラの罠にハマり、宮殿内に移動させられて半日が経過した。

もうすでに午後になるだろう時間帯。厨房も一段落したのか少しばかり静かになった。

とはいえ、熱心な料理人は試作の料理を作っては試食会を開いているようだ。

 

「ちょっとォ、ラバックちゃんもタツミちゃんもこっちに来なさい」

「ほらほらぁ」

「やーん!もうかわいい顔よね。食べちゃいたいぐらい」

「あらぁ、いい体してるわね。さすがは暗殺者ってところね」

 

やたらと筋骨隆々なオカマと小綺麗なオネェにがっちりと両腕をつかまれて、二人は強制的に試食会に混ざることとなった。

渋々ではあったが、試食に出る料理はどれも美味しい。さすがは帝国中の食材が集まる宮殿の厨房だ。素材も選り抜きのものばかりだ。

 

「アン料理長はね、先代の料理長に可愛がられて、継承権を捨てて厨房の見習い料理人になったのよ~?」

「へ、へぇ・・・」

「その・・・オネスト大臣と約束してるって聞いたけど、なんでここまで厨房が優遇されてるんだ?」

 

オカマたちやオネェたちの熱い視線に怯むラバックをよそに、タツミはまっすぐに彼らに問うた。

 

「・・・あの大臣が料理長の地雷を踏み抜いちゃったのよ」

「地雷?」

 

聞き返すタツミに料理人たちは言葉を濁す。一番体格の良いオカマの料理人が重い口を開いた。

 

「先代の皇帝陛下の料理にね、毒を混ぜてたのよぉ。ほんっと最悪よぉ!アン料理長は当時副料理長だったんだけど、その頃から帝具が使えていたから・・・それで調べて分かってね。もうほんと怒り心頭ってカンジ?」

「毒・・・」

 

「アン料理長ったら何したと思う?オネスト大臣の近しい親戚100人分でフルコース作って脅迫したのよ。”今度料理に混ぜ物したら、全員捌く”ってね。あの大臣にはあまり効果は無かったけれど、ほかの奴らからしたら顔面蒼白もんよね。いろいろあって、今の取り決めになったってワケ」

「・・・100人分でフルコース?」

 

100人にフルコースを振る舞ったのかと聞き間違えたのかと、タツミは困惑した。まるでその言い方は・・・

 

 

「・・・人間で料理したのよ。ニ・ン・ゲ・ン」

 

「・・・ッッ!!?」

 

 

その言葉にラバックとタツミは真っ青になった。

 

「まぁ、大臣も人肉は嗜んでるらしいわね。取り決めの中に”厨房の自治権を与える代わりに人肉料理を提供する”ってあるし。さすがに帝具使いの料理長だけが料理してるけどね」

 

「に、人間って・・・どういうことだ!?」

「それがおかしいって思わないのかよ!」

 

「あのねぇ、そんなこと厨房全員が思ってるわよ!このアンポンタン!そういう取り決めがあるから、今の宮殿で料理に毒は仕込めないし仕込ませない。厨房の自治権がある。・・・何よりも、巡り巡ってアンタたちが助かってんのよ。つべこべ言うんじゃないわよ!おかしいと思うならさっさと革命でもなんでもしちゃいなさい!」

 

体格の良い料理人にそういわれて二人は黙ってしまう。

間違ったことがまかり通ってしまう帝国の現実を改めて知らされたのだ。

 

「・・・もう一つ質問」

「なに、タツミちゃん」

 

「・・・アン料理長の帝具ってなんだ?」

 

「美食礼賛イーターオブラウンド、それが料理長の帝具よ」

 

 

 

 

 




帝具「美食礼賛イーターオブラウンド」

ナイフやフォーク型などの帝具
食事用食器や調理器具のセットとなっている。
レシピ本も付属されている。
食材を仕留めつつも安全に提供するための麻酔薬の調合方法なども記載している。

なんでも美味しい料理にできる帝具。また、これで作ったものを食べれるようにできる。
「なんでも」なので人間を食べることも美味しく料理することも可能。

超級危険種や毒性の強いものなども調理ができるため、後方支援として使われていた帝具である。
おいしい食事を食べることで軍の士気を上げたり、栄養を効率よく摂取することができる。

基本的に後方支援だが、一流の料理人が扱うことで武器として使うことも可能。



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ラバックとタツミがエスデス将軍の黒歴史を知る話

天下無敵帝国最強が、料理長を苦手としている理由


 

エスデス将軍はアン・シャーリー料理長をこの上なく苦手としている。

 

ブドー大将軍はやたらとスキンシップや言葉によるセクハラを受けているから料理長を苦手としているのと違い、エスデス将軍には別の理由があった。

エスデス将軍がアン料理長を苦手としている理由を知っている者は実は少なく、「なんであのエスデス将軍も苦手なんだ?」と首を傾げる者ばかりだ。

 

・・・ただ、厨房で勤務する者は皆知っていることである。

 

彼女がなぜアン料理長を苦手としているかを・・・

 

 

 

 

そのエスデス将軍は今、その苦手意識を抑え込んで厨房の正面入り口にずっといた。

 

正確に言えば、ナイトレイドであるタツミとラバックが逃げ込んでからになるから、約半日程度だろうか?

 

・・・さすがに部下であるクロメやウェイブに言われて、風呂や睡眠をとらざる得なかったが、それが済むとすぐさま厨房の前にやってきた。

睡眠時間を大幅に削ることになったが、それでも彼女はその場に待機していた。

 

ナイトレイドを狩るためのイェーガーズなのだから当たり前だが、それ以上に・・・タツミに会いたかったのだ。

この際、ナイトレイドのラバックなんぞ見逃してもいいからタツミに会って抱き着いていちゃいちゃしたかった。

 

インクルシオの装着者?そんなのどうでもいい。

 

・・・と、言わんばかりだ。

 

ラバックとタツミが昼下がりにオネェとオカマたちに囲まれている間も、彼女は厨房の前にいた。

 

「アンタねぇ、いつまでそこにいるのよ」

 

アンがめんどくさそうに厨房の入り口に寄りかかりながらエスデスに尋ねた。

 

「・・・貴様がタツミを引き渡すまでだ。タツミは私のモノだぞ。手を出せばどうなるかわかっているのか」

「恋する乙女ねぇ、仕事のことは?」

 

「・・・・・・・・・ついでに取り調べもするつもりだ」

「あんた、さてはすっかり忘れてたわね」

 

「忘れてもいいだろう。とにかくタツミを引き渡せ。緑はいらん」

「本当にあんた私情まみれね・・・」

 

エスデスのまっすぐな視線に射抜かれながらも、アンは一歩も引くことなく入り口に寄りかかり続ける。

 

「・・・シュラの作戦でナイトレイドを誘き寄せた。大臣にも話は行っているはずだぞ?いくら宮殿の厨房が力を持っていても、さすがに断れないはずだ。お前の料理は気に入っている・・・無駄なことで処刑されるのは避けたほうがいいと思うが?」

「あらぁ、心配してくれるの?お優しい帝国最強さんね」

 

エスデスの言葉に少しふざけながらアンはそう返した。

エスデスはナイトレイド・・・というか、タツミをどうしても引き渡すように交渉しようとするが、その前にアンがエスデスにこう尋ねた。

 

 

「それよりもあんた、しばらく宮殿で食事してないけど食事マナーは忘れてないでしょうね?」

 

 

摩訶鉢特摩も使っていないのにその場の空気が凍った。

 

「・・・」

 

アンの言葉にエスデスは何も答えない。

帽子を深く被りなおす仕草をしながら、彼女はアンと視線を合わせないようにそっぽを向いた。

 

「・・・やっぱり忘れたっての?あらじゃあ厨房に招いてあげるわ」

「やめろ」

「いいじゃない。タツミちゃんに会いたかったんでしょ?じゃあタツミちゃんの前でじ~っくり宮殿の食事マナー講座をやり直してあげるわ」

「やめてくれ」

「帝国最強だろうがなんだろうが、皇帝陛下との食事の機会があるなら必ず習得して覚えろって言ったはずよねぇ?」

 

 

 

同時刻、厨房では扉前の会話が聞こえてきたため一同が静かに聞いていた。

いわゆる盗み聞きというものだ。

 

「食事マナーって、あれだよな。コース料理とかそういうやつか?」

「・・・あの、エスデス将軍が押されてる様子なんだけど・・・」

 

不思議がるラバックとタツミに、料理人であるオネェ&オカマたちはこっそりと彼らに話し始めた。

 

 

 

エスデス将軍が帝国軍に招かれて少し経過した頃、将軍たちや内政官を招いて料理会をすることになった。

好き勝手できるオネスト大臣とは違い、将軍たちや内政官はそれなりに食事マナーをしっかりとしなければならない。ましてや皇帝陛下が招かれるのだ。

ブドー大将軍はそういったマナーには厳しい。特に将軍職を持つ者には特段厳しくしていた。

 

エスデス将軍は帝国でも辺境の出身、宮殿においての食事マナーなんて知りもしなかった。

 

「大臣が許されているのだろう?私も好きにさせてもらうぞ。それに多少緩くしたところで皇帝陛下が怒るはずもない。皇帝とはいえ子供だしな」

 

・・・と、若さゆえの余裕を出していたが、この発言がアン料理長に届いてしまったのが彼女の運の尽きだった。

 

「ふざけんじゃないわよこの小娘!あの悪食暴食中年男の真似なんてさせるわけないでしょうが!」

 

と、実際にエスデス将軍の尻を引っ叩いて叱りつけた。しかもオネスト大臣とブドー大将軍のいる前で、だ。

 

そして強制マナー講座を実施された。

 

エスデスも抵抗したが、残念なことにそのマナー講座はブドー大将軍全面協力の下で行われ、オネスト大臣はにやにや笑いながらその様子を楽しんでいたらしい。

 

泣く子も黙るエスデスの強さも威圧も、料理長の前では効かなかったのである。

 

彼女の持つカリスマ性も一切効果が無い。

 

付け焼刃のようなものではあったが、一応料理会でマナー違反はしなかったとかなんとか。

 

だがそれ以降、エスデスは表立ってのコース料理等の場を避けている。

・・・それだけマナー講座、ひいてはアンのことが苦手になったからだ。

 

 

 

「・・・へぇ、あの帝国最強でも苦手なモノがあったんだな」

「あ、でも俺もエスデスの気持ちはわかるかもな。コース料理とか覚えるの難しそうだし。田舎にいたら必要ないもんだし」

 

「そうか?あんなもんすぐに覚えるぜ?」

「そりゃあラバはそうだけどさ」

 

そんな雑談を交わしながらも、エスデスが退散するまでこっそりとアンとエスデスの会話を聞く二人であった・・・



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ラバックとタツミが幼馴染同士のやりとりを目撃する話

幼馴染設定は生かすべきそうすべき


タツミにマナー講座を受ける様子を見せたくないエスデスが一時撤退し、厨房前は静けさを取り戻した。

アン料理長も厨房に戻り、他の料理人たちに指示を出す。

 

おやつ時になれば皇帝陛下への甘味を、オネスト大臣はリクエストのあったバウムクーヘンを、夕食のメニューの下拵えなどもある。

そして宮殿で勤務する兵士たちや侍女たちが利用する食堂の食事である。

 

厨房は料理人たちの寮や兵士たちの食堂などを含めた、いくつかの関連棟となっている。

料理長は普段は皇帝陛下への料理を作っており、他の料理人は食堂などの出入りもしている。

・・・だが、昨日の夜からは料理長であるアンはタツミとラバックの帝具を管理し、なるべく二人から目を離さないようにしている。

 

「今日の皇帝陛下へのデザートはバウムクーヘンなんだけど、大臣とは別で作りなさい。あの男・・・バウムクーヘンは一本丸ごと、一人で食べるから」

「分かりました。あの、料理長は?」

 

料理人の一人から聞かれ、アンはかわいらしくウィンクをしながら、タツミとラバックを引き寄せる。

 

「ラバックちゃんとタツミちゃんとお話があるの。ちょっと席を外すから、あとはよろしくね」

 

 

 

アン料理長の私室にて、タツミとラバックは椅子に座っていた。目の前にはアン料理長が即席で作ったハムサンドイッチとアールグレイティーが置かれていた。

部屋の隅には大きめの鳥かごがあり、その中にはマーグファルコンが毛繕いをしているようだ。

 

「アンタたち、ナイトレイドなんでしょ?で、仲間のところに戻りたいと」

「もちろん、その通りだ。あんたならわかってくれるだろう?」

 

ラバックがそう尋ねるとアンは「そうね」と返事をして紅茶に手を付ける。

 

「いくら厨房に自治権があるといっても、アンタたちを無事に逃がせるほどではないわよ。エスデスちゃんやブドー大将軍も控えているし、あのオネスト大臣ならあいつらよりも罠を二重三重、それ以上に今頃策を練ってるわ。やめときなさい」

 

その言葉に二人は言葉が詰まる。

なんとしても彼らは宮殿から脱出しなければならない。しかしそれを突破するにはあまりにも戦力が強力すぎる。

 

「やっぱり、なんとかできないのか・・・」

「タツミちゃん、そうがっかりしないで。厨房の自治権に従うなら保護はできるし、昔からそういう暗殺者の類を厨房の料理人にしたことはいくらでもあるから」

「えっ」

 

アンの言葉にタツミとラバックは視線を交わしつつ、アンへと視線を戻した。

 

「アンタたち以外にもね、大臣の暗殺や皇帝の暗殺しようって輩はいくらでもいるのよ。で、厨房に逃げ込んだ子は保護してるわね。・・・ただ、暗殺はさせないようにしっかりと教育はしたけど」

「・・・あのよ、俺たちもそうなるのか?」

「ラバックちゃんの予想通りよ。でもまぁ、連絡ぐらいはさせてあげるわ」

 

そう答えて、アンは席を立ってマーグファルコンを連れてくる。

マーグファルコンの足首には手紙が取り付けられるように足輪がされているようだ。

 

「普段から忙しい時にこの子に買い出しのメモつけて頼んでるんだけど、外にいる料理人に頼んでみるわ」

「外にいる人間に、か。信用できる相手か?」

 

ラバックに問われ、アンは頷いた。

 

「元々宮殿に入った暗殺者だったけど、うちで更生してね。今では外で料理人をしてるのよ。その子、スラム街でボランティアしてるぐらいだしね・・・ナイトレイドと連絡もしやすいはずよ」

 

そうアンがタツミとラバックに返したところで、扉がノックされる。

どうやら料理人の一人らしい

 

「あの、料理長!料理長!」

「もうっ、なによ~」

「大変よ大変っ!料理長に会いに、大臣の息子ちゃんが来てるわよ」

「行くわ!!!!!!」

 

ラバックとタツミのことも一瞬忘れたのか即座にアンは扉を勢いよく開けて出て行った。

扉にいた料理人はラバックとタツミに声をかけて、彼らも連れていくようだ。

 

 

 

 

「よぉ、アニ・・・あ”-、アン。ナイトレイドの二人を引き渡せ」

「・・・」

「おいおい、さっさということ聞いておいたほうがいいぜ?いくら自治権があるっつってもナイトレイド、は・・・」

「・・・あんた、その状態で殴るの我慢しながら待ってたのね。ちょっとは成長したじゃない」

 

厨房から通じている応接室

 

そこに入っているシュラはオカマやオネェの料理人たちにべたべた触られ、いえ、がっつりとセクハラされながらも殴らずにアンに会いに来ていたのだ。

すでに服を破れかねない勢いでもある。

 

「料理長!ちょっと見た目以上にいい触り心地よ!」

「なにこれいい尻してるじゃない」

「あっと手が滑ったーーー!!!いい太ももじゃなぁ~~い!最高ね!!」

 

「・・・あ”ぁーー!!いい加減離れろ!!触るな!!」

 

・・・すでになんとか引きはがして殴りかかるが、オカマやオネェたちは蝶のように舞って回避した。

その間にラバックやタツミもアン料理長のいる場所へとやってきた。

 

「まぁいいわ。わざわざアンタが中に入ってまで来たんだからお話ぐらいは聞いてあげる」

「上から目線だなぁ、オイ。・・・そこのナイトレイドどもを引き渡せ。せっかく俺の手柄だっていうのに」

 

シュラがアンの後ろにいるタツミやラバックを睨みつける。

 

「アンタね・・・皇帝陛下がいる宮殿に賊を引き込むって何考えてんのよ」

「あぁん?お前もあの雷親父と同じこと言うのかよ」

 

そのまま彼はずかずかとアンに近付いていく。タツミやラバックも手元に武器がないため、身構えてしまうが、アンは何も構える様子がない。

 

「あのねぇ・・・常識的に考えて、そんなむちゃくちゃな作戦して・・・あぁでもあんたあれよね・・・」

「あん?なんだよ」

 

 

「5歳の時に肝試しするって言いだしたくせに、怖くてびーびー泣いてたのを私が連れ帰ったことあるし・・・あんた、何歳になっても先のこと考えてないのね」

 

 

張りつめかけていた空気が、一瞬で違うものになった

 

 

「な、な、な、何言ってんだてめぇ!!!」

 

「7歳の時なんて帝都探検とか言いながら城下町で迷ったあげくに泣いてるところに帝都警備隊に保護されてたし」

 

「おいやめろてめぇ!!!」

 

「8歳の時なんて、皇后様の母上にプロポーズし・・・」

 

「ああああーーーー!!!おいてめぇやめろこのやろう!!」

 

「皇后様にもだって・・・先帝と婚約なさるまではベタベタに甘かったじゃない」

 

顔を上気させてそう叫ぶと、シュラはアンの口を塞ごうとする。しかしアンは楽しそうに笑いながらひらりと躱す。

 

「っていうかあんた、小さいころから年上好きよね?年上っていうか人妻?皇后さまも美人だったけれど、お母様も美人だったものねぇ」

「おいその話題やめろ!!人前で何言ってんだてめぇ!!」

 

「大臣も人妻好きよねー、親子で趣味が似通うってことかしら?そういえば、あんたが10歳の時なんて・・・」

「やめろ!!!その時のはさすがにやめろ!!!てめぇ!!!」

 

シュラもすっかりと目的を忘れてしまったらしい。アンの口を塞ぐことに集中し始めた。

 

「・・・・・・タツミ、とりあえず俺、ナジェンダさん宛に手紙書くわ」

「・・・俺もマイン宛に手紙書こうかな・・・」

 

 

ラバックとタツミはその様子を見ながらも遠い目になるのだった・・・




シュラとアンが同い年

先帝と皇后様が彼らよりも少し年齢が上

皇后様が人妻子持ちなので、その母親も美人だろうと思って・・・


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ラバックとタツミが手紙を出す話

ナイトレイドsideがようやく出せる


 

厨房ではすでに夕食の準備が始まっており、料理人たちが忙しく厨房を行き来していた。今日の夕食のメニューを確認し、宮殿で働く者たちへの食事の準備も始める。

繊細なコースメニューと同時並行で、大鍋を使って大量に作られる料理もあるのだ。

 

・・・厨房の料理人たちも毎日のこととはいえ、かなり忙しそうに働いている。

 

あの後、シュラはこれ以上恥を晒されたくなかったのか、厨房を通ってすぐに出て行った。

・・・アン料理長の勧めもあり、ラバックとタツミはすぐさま手紙を作成することとなったというわけだ。

 

 

 

「まさかこんなことになるなんてな・・・ナジェンダさんに心配かけないようにしないと」

「帝具を使っても脱出できない可能性が高いのはさすがにリスクも高いしな。でも、生きてるだけマシさ」

「まぁ、俺も本気の大将軍と帝国最強を相手に脱出するのはなぁ。よっぽど作戦立てないと難しそうだ。つっても、向こうだって油断してねぇだろうし・・・」

「・・・エスデスもきっと、他のイェーガーズに声を掛けてそうだ。そうなるとクロメやウェイブまで相手ってなると・・・」

 

こんな会話をしながら手紙を書いている二人をアンはほほえましく見ている。

いや、実際は

 

「(本当に可愛らしい男の子二人じゃない。見れば見るほど逸材だし、可愛さの中に精悍さもあって本当にたまらないわ。年下好みじゃなかったけれど、めちゃくちゃにかわいがりたいって気持ちになるわね・・・。それに厨房の賄いだって毒物混入を疑わずに食べてくれる素直さもいいし、何よりご飯をおいしそうに食べてくれるのが一番乙女心にきちゃったわ!あぁもう!本当にかわいいわね!食べちゃいたいぐらい!)」

 

・・・微笑ましい表情の裏でオネェ心全開で萌えていた。

地位と立場に任せてセクハラしないだけは幾分かはマシなのだろう、きっと。多分。

 

「よし、とりあえずこれでできたぜ」

「俺も出来た」

「はいはい、それじゃあ回収するわよ」

 

ラバックとタツミから手紙を預かると、それをマーグファルコンの足に括り付ける。

その様子を見ていたタツミはアンにこう尋ねた。

 

「手紙の検閲とかしないのかよ」

「・・・?あら、なんで?」

 

「だってこういうのって、暗殺者を手引きしたりするのに使われたりもするのにさ。あんたは手紙の内容とかは全く見ないだろ?よっぽど宮殿の警護に安心してるのかなって」

「タツミちゃんは素直ねぇ・・・そういうこと思っても、普通は本人には聞かないわよ?」

 

アンの言葉にラバックも同意するように頷いてタツミに視線を送った。

どうやら彼もタツミと同じようなことを思ったらしい。

 

「タツミちゃんもラバックちゃんも、根は素直で良い子でしょ。だから信用してるのよ。ぶっちゃけ暗殺者なら、本当になんでもしてくるものよ?私も今まで何度も殺されかけたもの~、寝てるときとか料理してるとき、そうそう大人しくしてるふりしてステゴロ仕掛けられるとかね~」

 

アンは笑いながら彼らに語るが、タツミとラバックは笑える余裕がないようだ。

・・・その経験の上で生きているなら、目の前の料理長も手練れであるという証拠なのだ。

 

「それに二人とも、うちの料理を美味しいって言って食べてくれてるもの。食事に感謝できる子に悪い子はいないわよ。・・・あぁ、うちのところのオネスト大臣は除くけど。あれは例外よ例外」

 

「そう、ですか・・・あの。そういう命の危険とかにもあなたの帝具って使えるんですね」

「使ってないわよ、あんまり」

 

タツミの言葉にアンは否定する。

 

「帝具はあくまで料理を作るためのものだから、戦闘や奇襲にはあんまり使わないのよ。使えなくもないけど」

「じゃあ、どうやって暗殺者の奇襲とか・・・」

「素手」

「えっ」

「素手よ」

 

その言葉にタツミとラバックは顔を見合わせた。

アンはそのまま言葉を続ける。

 

「筋力はあって困るものでもないもの。麺類の麺やパンだってなるべくは厨房で作るようにしてるしね」

「あぁ、料理のためなのか・・・」

「いやでも、それでも素手で戦えるのか・・・」

 

「それよりも、お手紙届けなきゃ。さっさと仕事に入ってもらうわよ」

 

 

 

 

それから数時間経過し、すっかり夜も更けた

帝都郊外からさらに離れた場所にあるナイトレイドの本部ではラバックとタツミが書いた手紙が持ち帰られていた。

 

「なるほど、ワイルドハントの罠に掛かったのか・・・」

「それでも生きてるって知ったのは良かったよ」

 

ナジェンダは事の詳細を知ったことで多少安堵したようだ。レオーネも手紙を出せる環境にいることに安心したらしい。

 

「タツミ・・・」

「・・・」

 

その反対でマインとアカメの二人は彼らのことを心配していた。

それもそうだろう。無事とはいえ、彼らがいるのは敵の本陣ともいえる帝都の宮殿内。しかもエスデスやブドー大将軍にも居場所は知られている。

 

「マインもアカメもそんな顔をするな。戦闘にはしばらく参加できないが命の保証はできている。厨房の自治権については少し知っているからな・・・」

 

 

 

ただそこに「貞操の保証ができないかもしれないし、厨房色に染まるかもしれない」とは付け足さなかったナジェンダであった・・・

 

 

 




ステゴロ料理長の得意技は寝技かもしれない(適当)


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五日目の物語
ラバックとシュラが厨房で騒いじゃう話


ラバック は いと を つかうのが とくいな フレンズ なんだよー!



「ワイルドハントは今日で解散です」

 

厨房で頼んでいた蟹を食べながら、オネスト大臣は自分の息子へとそう宣言した。シュラは慌てふためいてしまう。

オネストの斜め左に座っているドロテアは蟹を食べたまま事態を見守っているようだ。どうやらドロテアからの支援は期待できないらしい・・・そう判断したシュラはとにかく父親へ言葉の真意を問うた。

 

「なっ、なんだよ!!ナイトレイドは見つけたし、あいつらの帝具だってアニエルの奴が没収してるだろう!?」

「別にそれはいいんですよ。厨房に逃げたなら無力化されるでしょうし」

 

「そ、それならなんで・・・」

「・・・エスデス将軍からの贈り物です」

 

そういって彼が見せたのはとある資料

 

シュラが数か月前に起こした事件についての証拠資料である。

どうやらイェーガーズの一員であり、すでに殉職した者が纏めたものらしい。

 

「これがブドー大将軍に提出されていたら危うかったですね」

「うっ・・・」

 

「不祥事は不問にします、だからあなたは大人しくしていてください」

「でもっ」

 

「いいですか。別に私は帝都の市民をいくら殺そうが拷問しようが、どうだっていいんです」

 

一呼吸おいて、オネストはこう続ける。

 

 

「証拠を無様に掴まされるような無能は、必要ありません」

 

 

 

 

一方その頃、厨房では料理仕込みをしている数人の料理人と手伝いをしているラバックがいた。

タツミはアン料理長と共に食材庫へ、ラバックは明日の料理の仕込みをしているようだ。

 

「あら~、ラバックちゃんすごい器用ね!すぐに覚えちゃってるじゃない!」

「そりゃまぁ・・・つか、もう俺たちに手伝い任せてもいいのかよ」

 

今日は明日の料理以外にも、仕込みに時間のかかる料理の下準備をしている。

どれもこれも、皇帝陛下を筆頭とした役職のある人間への料理・・・失敗も、ましてや毒殺も許されない大事な仕込みである。

 

「そうねぇ、料理長が信頼してるしね。まずは食堂での調理になるかもしれないけど・・・ラバックちゃんもタツミちゃんも器用だから、もしかしたらすぐにこっちの厨房勤めになるかもしれないわね」

「へー・・・そんだけ認められてるのか」

 

「当たり前よぉ!ここに来る暗殺者や刺客の大半はろくに料理なんてできない子ばっかりだったんだからッ!」

 

そういわれると、ラバックも悪い気はしなくなってくる。

 

ナイトレイドで料理を多少こなしたこともこうやって役立ってくるのだ。もしもこちらの宮殿での厨房勤めになれば・・・好都合でもある。

 

「(タツミには黙ってるが、まだ帝具は隠し持ってるからな)」

 

そう、ラバックは口の中にクローステールの一部を仕込んでいたのだ。

口の中まではさすがに調べられなかったのが幸いしたらしい。

 

最も、あくまでもこれは最後の手段だ。

 

「(・・・もしも、あのエスデス将軍やオネスト大臣を討てる機会があるなら)」

 

 

そう思った直後、厨房のドアが勢いよく開けられた。

 

 

・・・ワイルドハントのシュラが、そこにいた。

 

 

「ちょっとォ!いきなり何入って・・・」

 

「あ”ぁ”?いいからどけ!」

 

勢いよく殴りかかってくるシュラに対して、料理人はなんとか避ける。

・・・先日と違い、どうやら激昂状態にあるらしい。料理人たちの凄みにも怯むことなく真っすぐラバックのところへと向かい、彼に掴みかかった。

 

「おいナイトレイド。さっさとアジトとてめぇらの持ってる帝具を全部吐け」

「なんだよいきなり、ここは厨房なんだぜ?こんなことして・・・」

 

「っるせぇな!さっさと吐けっつってんだろ!!」

 

ラバックはそのままシュラに厨房のテーブルに叩きつけられる。だがラバックもそのままやられっぱなしになるわけにはいかない。

すぐにシュラに対して応戦し始めた。

 

「言うわけねぇだろ!ナイトレイドは一連托生なんだからよ!」

「さっさと吐けっつってんだろ!」

 

一気にヒートして、殴り合いから戦闘に持ち込まれる。

 

 

掴みあったままのシュラとラバックに勢いよく水が掛けられた。

 

 

 

「頭、冷えたかしら?」

 

 

 

・・・そう、アン料理長である。

 

どうやらバケツに冷水を入れて二人にかけたらしい。

 

タツミはそんな料理長の後ろで心配そうに見ているようだ。他の料理人たちも事態の推移を見守っている。

 

アンはそのままシュラに対して両手で頬を包むように掴んで自分のほうへと向けさせる。

 

「父親に叱られたのね」

 

「!」

 

「何よその顔。それぐらい分かるわよ。後で話は聞いてあげるけど・・・」

 

 

ス・・・っと、彼の頬から手を放すアン。にっこりと、ラバックとシュラに笑いかける。

 

 

「厨房でよくも暴れたわね?」

 

 

厨房の空気が一気に冷えた。アンの顔は笑っているが、目が完全に笑っていない。

よくよく見れば・・・いや、当たり前だが仕込み中の料理が床に散乱していたり、ほこりやごみが入ってしまったらしい。

 

「厨房でオイタしたなら、ちゃんと躾しなきゃね・・・あんたたち!例のアレを用意しなさい!!」

 

その言葉で料理人たちが即座に何かを用意してきた。トランクケース二つほどなのだが、料理人たちがなぜか異様に興奮している。

この状況でラバックもシュラも、なぜか暴れていないタツミも寒気を感じる。

 

「さて、と・・・」

 

アンは懐から目にもとまらぬ速さで”何か”を取り出してシュラとラバックの首元に刺した。どうやら針のようなものらしい。

 

何かを刺されたと分かったが、分かった時点でラバックとシュラは体が痺れてその場に倒れこむ。

・・・なにかしらの麻痺毒が塗られているようだ。

 

「厨房で暴れるなって言ってたのに、暴れたんだからそれ相応のことをしてもらうわよ」

 

トランクケースから取り出されたのは・・・そう、メイド服である。

 

「そうそう、これだけじゃあ無いわよ。きっちり上から下まで着てもらわなくちゃ」

 

なお、メイド服と共に女性ものの下着も取り出された。

 

 

 

その瞬間、自分たちが「何」を「される」のかを理解した。

 

 

 

「タツミ!!!助けてくれ!!!」

「え、えーと、俺は暴れてないし・・・武器もないし・・・」

「いいから!!なんとかほらあの、弁明してくれよ!!」

「ごめんラバ・・・俺、マインのために綺麗な体で帰りたいんだ・・・」

「裏切り者ォォォォ!!!」

 

ラバックの必死の訴えにも関わらず、タツミは必死に視線を逸らすしかなかった。ここで庇えば確実にタツミ自身も「それ」を着ることになる。

 

女装だけならまだいいだろう、そう、女装だけなら。

 

だがさすがに下着はだめだ

何か大事なものが無くなりそうな気がする

 

「オイ!!ナイトレイドは一連托生なんだろ!?お前もやれ!!!!!

 

もうすでにシュラは着る着ないではなく、いかにして道連れを増やすかにシフトしたらしい。

 

「あら残念・・・シュラ、あんたはきっと嫌がりそうだからものすっごいの用意してたのに・・・」

 

なお、それは正しい判断だった模様

 

アン料理長がトランクから出した【更にスカート丈が短いメイド服with更に危ない女性ものの下着】にさらにタツミたちは戦慄した。

 

 

 

「いやだ!!俺はっ、俺は・・・マインのために男のプライドを守るんだアアアアーーーーッッ!!!」

 

 




アン料理長の出した麻痺毒の針

あれも帝具イーター・オブ・ラウンドの一つ。獲物をしとめる際に使う代物です。獲物は獲物でも野郎に女装させるために今回出した。

後悔はしていない


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★【番外編】料理長は週一の女子会を楽しむ

某呟きSNSの皇帝陛下アカウントに出没する「皇帝陛下付き侍女」「庭師」が登場します。キャラ設定等を後書きに載せました。

料理長はもちろんアン・シャーリーです。

ハーメルンSSにおいてはn番煎じなキャラ設定の侍女と庭師の二人ですが、よろしくお願いします。

今回はラバックとタツミがやってくる前の時間軸のお話です。


皇帝陛下付き侍女のゼノヴィア・マスグレイヴ

幼い頃から陛下にだけお仕えしている褐色肌の眼鏡をかけた女性だ。

 

皇帝にとっては信頼できる侍女であり、また侍女も淑やかに振舞っていた。

 

 

・・・侍女が皇帝陛下以外の人間には、お淑やかではないということを、皇帝陛下はまだ知らない。

 

 

「湯浴みの時間ですよ陛下(陛下の生お着替えが堪能できるぞヤッターーーー!!!)」

「うむ、ありがとう・・・・・・その、マスグレイヴ」

 

「なんですか陛下?お困りごとでも?(あぁんっ!陛下が照れてるかわいいつらい、かわいすぎて生きるのが辛い)」

「そ、その・・・服を脱ぎたいのだが」

 

「そうですか。ではお手伝いを・・・(着替えのお手伝いついでにじっくりと生肌堪能できる)」

「いっ、いや!そうではない!そのっ、は・・・恥ずかしい、から・・・」

 

「私は皇帝陛下付きの侍女です。陛下にとっては道具や家具のような扱いでかまいません。恥ずかしがる必要は一切ありません(んんんんん、陛下が可愛くて私の心の【自主規制】が【自主規制】するじゃないか)」

「それは・・・だ、だが、その、マスグレイヴは女性だから、その」

 

「陛下のために働くこの私が、陛下の体に恥ずかしがるわけがありません。」

 

 

<むしろ陛下の全裸に興奮しますし、今夜の俺のオカズになります>

 

 

彼女が脳内で言葉を付け加えた直後、どこからともなく飛んできたブドー大将軍が侍女に対してソリッドシューターを喰らわせた。

 

 

***

 

 

「・・・と、いうことだ。酷いと思わないか?」

「酷いのはアンタの頭よ」

 

誰もいなくなった静かな食堂、そこで皇帝陛下付き侍女のゼノヴィア・マスグレイヴが焼け焦げてアフロ頭になった姿で料理長であるアンに愚痴を言っていた。

 

愚痴というよりも、むしろ自らの悪事を暴露しているスタンスな気もするがそこはツッコミを入れてはいけないだろう。

 

「俺は別に陛下の前で男言葉も使ってないし、”俺”じゃなくて”私”とも言っている」

「そうね、当たり前のことだからね」

 

「どこぞのワイルドハントのピエロのように無差別に子供を性的な目では見てない。俺はただ、生まれた時から陛下に仕えていたし、陛下が幼い頃からずっと好きで好きで、陛下にしか欲情してないだけだ」

「後半部分にがっつり問題があるんだけど!?」

 

「確かに皇帝陛下の洗濯物を洗濯する前に洗濯物の香りを堪能して【※自主規制】とか【※自主規制】はあるが、ちゃんと洗濯をして陛下に返還している。窃盗は決してやってない。」

「問題は!!そこじゃないでしょ!!」

 

「安心しろ、陛下への不埒で淫らな妄想は脳内だけに留めている。陛下にそんなことはしてないぞ。ご褒美に膝枕はしてもらって陛下の生足を堪能したことはあるが」

「ちょっと誰かー!ブドー大将軍を呼んで!もう一発ソリッドシューターぶち当てないとダメよこの子!!!」

 

誰もいない食堂で大人げもなくはしゃぐ二人に、誰かが近づいてきた。

 

「今日も楽しそうな会話してるね」

 

「あぁ、エインズワースか」

「ダリルちゃん、今日も一番遅かったわね~」

 

 

 

ダリル・エインズワース

 

この帝都宮殿内の庭師を統括している庭師の女性だ。

・・・女性だが、見た目は男性にも見える。仕草も服装も、気品のある男性のようだが、れっきとした女性である。

 

中性的な顔立ちと誰にでも優しいことから、同性である侍女たちから人気があった。

 

・・・そう、人気がある。しかしこの宮殿で勤めている人間がまともなはずもなく、彼女もその例に外れていない。

 

 

 

「いやー、ブドーさんに叱られちゃったから遅れたんだよ」

「なんだ、お前も叱られたのか」

「アンタも何したのよ・・・」

 

「エスデスさんが拷問用に植物を育てているでしょ?だからさ、その手助けに食人植物を宮殿の植物園に植え替えたら雷帝招来された」

 

「「そりゃあされるだろ(でしょ)!!!」」

 

まさか植物園に食人植物を植えるという発想に至るとは思わないだろうし、というか普通はやらない。

だが、このダリル・エインズワースはそれをやってのけてしまう。

 

・・・彼女の発想は、常人の常識とはズレているのだ。

 

「えー?そうかな?でも植物園に案内されてバサーッ!って食べられるっていうの、結構ホラーでえぐそうだなぁって。拷問って辛い目に合わせたりするんでしょ?」

 

「拷問もろくに知らないのにお前・・・・・・植物園に物騒なものを植えるな。皇帝陛下や宮殿内にいるクソ役人・・・こほん、クソ野郎どもが出入りするんだからな?クソはともかく、かわいい陛下が植物に食べられるぐらいなら俺が陛下を性的に食べてやるんだからな!」

 

「ゼノヴィアちゃんは陛下のいない前だと、本当に欲望だだ漏れ状態ね・・・」

 

 

 

彼女(※一部オネェはいるが)たちは全員、こう見えても帝具使いである。

だが彼らはその力を決して戦闘に使うことは無い

 

ゼノヴィアは皇帝陛下を護衛するためだけ

ダリルは帝具を使わぬようにしているだけ

アンことアニエルは・・・料理を愛しているからこそ、だ

 

「しかしシュラさんが帰ってからなんだか宮殿の中もバタバタしてるね」

 

「あのバッテン野郎のことか・・・皇帝陛下には近づけたくないな。豚(オネスト)大臣はともかく、息子にまで影響されたら俺が精神的に死ぬ」

 

「本当にゼノヴィアちゃんはシュラのこと苦手よねぇ。あぁ見えてかわいいところもあるわよ?」

 

彼らは帝具使いではあるが、その力に溺れず驕らないために・・・こうして仲間同士で女子会を週に一度開いている。

 

彼らの息抜きの時間でもあるだろう。

何しろ宮殿内は謀略が張り巡らされた場でもある。

 

彼らとて帝具使いとしても、宮殿で働く人間としてもそれからは逃げられない

 

「寒い時期だけど、あと少し暖かくなれば梅の花も咲くよ。そうしたらゼノヴィアさんに渡すよ。陛下も喜ぶでしょ?」

 

「あぁ、感謝する。このところ、戦況も芳しくないせいか皇帝陛下も革命軍を危惧しているようでな・・・」

 

「仕方ないわよ。ま、滅ぶときは滅ぶし、続くときは続くもんよ」

 

 

「「それだね(それだな)」」

 

 

・・・帝国という国への気持ちはあまりない3人であった_________

 

 




※死に設定みたいなものなのでここで晒す
※帝具考えるのが楽しいフレンズです


【皇帝陛下直属の侍女:ゼノヴィア・マスグレイヴ】

皇帝陛下の両親、つまりは先帝と奥方に拾ってもらった経緯のある女性
皇帝陛下の前ではおしとやかな女性として振舞っているが、実際は男言葉を使い、一人称も「俺」と言っている。
皇帝陛下好きすぎて拗らせてる成人。

南方の血が混じっているため、褐色肌。そして銀髪
「シュラと兄弟か何かか?」と言われたら怒るよりもめっちゃ落ち込む

帝具「帝釈布倶 シャインフューラー」
マフラー型帝具。使用者の意思通りに動き、硬化・伸縮自在など使いやすい。
超級危険種「アラクネメアル」「女王毒蚕」の2匹の糸を紡いだモノ(実際にはインクルシオと同じく2匹の生命を織り込んでいる。)
使用者によって色が変化する。奥の手は「同化」アラクネメアルと女王毒蚕が混ざった蟲形態になる



【宮殿内庭師統括:ダリル・エインズワース】

中性的な顔立ちのイケメン(※女です)
誰にでも優しくて、同性にモテる

常識人に見えるが、常識からやや逸脱した発想をするため、大体ブドー大将軍に叱られている。
植物を育てているからか、エスデスとも割と仲良くできる珍しい人材

帝具「魂留灯機ロートフランメ」
ランタン型の帝具。対象者の魂をランタンの中に閉じ込めて保管することができる。
その間対象者は仮死状態となる。
基本はそれしかできないものの、対象者に返す前にランタンの灯りが消えてしまうと死亡する。
奥の手は「移し火」対象者の魂を物体に移し替えることで生きながらえることが可能となる。ただし繰り返すたびに魂が劣化して人格に異常が出たりする。




皇帝陛下コンプレックス(陛下コン)キャラと天然ボケキャラって本当にn番煎じで済まない・・・めっちゃよくあるやつ・・・
侍女はつぶやき系サイトでちらほら1,2年前から小出ししてましたが、連載になったのがアン料理長だったので、ゲストとして書こうと思いました。


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タツミは料理長と寝る前に会話する話

Q.どうして人間を殺してはいけないのですか?
A.相手も貴方も人間だからです


厨房でついどたばた騒いだ後、料理人達で厨房の後片付けや掃除をすることになった。

ただし、ラバックとシュラは料理長が最終的に腹パンで眠らせたため(※気絶させたが正しい)、料理長の自室に運ぶ事になった。なお、下着は免れたが女装はさせられた模様。

 

タツミもラバックを背負って運ぶ事になった。簡素な寝具を用意も手伝い、アンに言われて二人を寝かせた。

「さてと・・・アタシはちょっとここでやることがあるの。タツミちゃんは厨房で片付けを手伝ってあげて」

「はい。それじゃあ、終わったらまた戻りますね」

 

 

厨房の片づけと掃除は1,2時間程度で終わった。

タツミが思っているよりも、厨房の料理人たちはこの場所をとても大事にしているらしい。厨房自体は少し歴史を感じさせる古さがあるが、しっかりと手入れをされている。

食材の在庫管理、残った下ごしらえの確認などを終えると、タツミは先に部屋に戻るように言われた。

 

「でも、皆さんがまだ・・・」

「いいのよ。タツミちゃんは新人さんだしね」

「アタシたちはちょーっと今から新作コンペの試作とか、いろいろあるのよ」

 

「・・・」

 

この厨房にいる料理人の3分の一は、宮殿へ忍び込んで厨房に逃げてきた暗殺者やスパイらしい。元々は宮殿に居る悪人を殺すためにやってきたはずなのに・・・もともといる料理人たちと違いが分からぬほど、この厨房を_________料理を愛している。

 

それは素晴らしいことだとは、タツミは理解している。

少なくとも帝国で悪事を働いている人間に比べれば、自分の仕事に真摯に向き合っている姿はとても好感は持てる。

だが、それでも彼は解せない。

 

・・・この国がおかしいと思っているなら、協力してほしい、と。

 

「どうしたのタツミちゃん?」

「・・・いえ、じゃあ料理長に報告します。その、おやすみなさい」

『おやすみなさ~い』

 

 

 

「(アン料理長、もう寝てるかな・・・帝具を使った後は疲れるらしいし・・・)」

タツミはそんなことを考えながら、そっと部屋の扉を開ける。

・・・彼の予想は外れたようだ。アンは未だに起きているらしい。

 

机の傍にあるランプの灯りをもとに、何かを考えては羽ペンで何かをまとめている。机の上にはいくつか丸められた紙が置いてある。どうやら何度も書き直しているらしい。

 

「・・・あ、あの」

「・・・あら、タツミちゃん」

 

「片付けと掃除が終わって、その、先に戻らされました」

「あらそう。じゃあ寝てもいいわよ。ほら、ラバックちゃんとシュラの間空けてるし」

 

「は、はい」

 

ぶっちゃけ命を狙っている相手同士を雑魚寝させるのもどうだろうか・・・と、タツミは思うが、すぐに考えるのをやめた。

何よりアン料理長は大臣の息子の扱いが多少上手いようだし、ちゃっかり大臣の息子からも帝具を没収している。

 

「アン料理長はその・・・寝ないんですか?」

「アタシは献立の練り直しがあるもの。多少被害は少なかったけれど、コース変更しないといけないし・・・コース変更してもいい相手とそうじゃない相手もいるからね」

 

「・・・・・・そうなんですか?料理、どれも美味しいと思いますよ」

「ふふっ、褒めてくれてありがとう。でも、食べ物にアレルギーがあるとか、どうしても食べられない食材があるとか・・・そういうのも含めて考えてあるもの。食堂のメニューとは別に、兵士個人に用意してるのもあるからね」

 

微笑みを浮かべて返答するアンは、少し楽しそうでもある。

だが、アン料理長が自慢の料理を提供するのは好ましい人物ばかりではない。オネスト大臣やエスデス将軍のような・・・革命軍やナイトレイドにとっては敵対する外道畜生も含まれている。

 

「料理長、なんでそんなに・・・嫌な相手に提供する料理でも、真面目に料理をしようって思えるんですか」

「・・・そりゃあ、自分が大好きな仕事で、責任のある仕事場を任されてるの。私情を挟むような半端な真似はしたくないのよ。・・・まだまだ、究めてはないけどね!私もまだまだねぇ・・・」

 

困ったように答えるが、それでも彼の表情は多少明るい。

 

「・・・でも、半端だっていいじゃないですか。少なくともアンタはこの国がおかしいと思ってるし、許せないことだって・・・」

「・・・タツミなんでもイイトコどりってのはできないの。全部中途半端になるなら、自分の中で一つだけ譲れないものを守るべきよ。貴方だって、それが“革命”ってことでしょう?」

 

「それはっ、そう・・・ですけど」

「貴方は革命、私は料理、それだけよ」

 

一般論で正論だろう。たまたまタツミとアンは選んだものが違っただけだ。

タツミは偶々、帝国の闇を知って、レオーネと知り合っていて、そしてナイトレイドを選んだ。

アンは偶々、皇族に生まれて、厨房の料理長に弟子入りして、そして帝国の宮殿厨房を選んだ。

 

「・・・」

「・・・まっ、それにアタシだって大臣とそう変わりないわよ。大臣との約束で死体で料理作ってるし、大臣相手の脅しであいつの親族を殺したわけだし」

 

「変わりないって・・・いや、でも、アンさんは良い人じゃないですか」

「良い人はそもそも人を殺さないわよ」

 

その言葉にタツミは言葉を詰まらせた。

その言葉を否定したかったが、今の自分は・・・暗殺者である。自分の同僚たちは同じ殺し屋だが、善良な部分もある。

だが、そう・・・どんな理由があっても、人を殺すのは、罪なのだ。

 

「そもそも大臣が先帝と奥方を殺したのだって、確たる証拠はないのよ。料理に毒物はあったけど、大臣が入れたって証明ではないもの。・・・ま、そのあたりは皇帝継承の政争でほかの人間に押し付けられちゃったけど」

 

アンはそう答えつつ、「もう寝なさい、明日も早いわよ」とタツミに優しく声をかけた。

 

「・・・アンさん、貴方は良い人だと・・・俺は思います」

「・・・ありがとう。でもね、相手が悪人であっても殺すことはいけないことなの。人間にはやってはいけないことがあるのよ、タツミちゃん」

 

「・・・・・・」

「はいはい。さっさと寝なさい」

 

「・・・おやすみなさい」

「おやすみ、タツミちゃん」

 




アレルギーのある兵士や役人、貴族には専用メニューまで作っている帝国宮殿厨房兼食堂のクオリティ

なお、「ただたんに嫌いなもの」の場合はさりげなくメニューに組み込み食べれるようにしたりしている。


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六日目の物語
ラバックとタツミはシュラと一緒に給仕をする話


Welcome to ようこそ オカマパーク


昨晩の騒動から夜も明けて、翌日になった。

メニュー構成を変えたことを連絡し、朝から食事の支度が始まった。戦争にも近い厨房の忙しさではあったが、帝国宮殿の厨房はこれでもシフト制を導入している。

それほどまでに料理人(※オネェとオカマのみ)が宮殿に多数在籍しているということでもあるのだが・・・

 

手の空いている料理人や、今日は休日予定の料理人がタツミやラバック、シュラを確保している。

確保しているというよりは完全に着せ替え人形のごとく衣装を準備しているのだ。

 

それもそのはず、ラバックとシュラが厨房でどったんばったん大騒ぎしたのだから、メイド服ぐらいで済ませるはずもないし、彼らはそれだけで許すようなオネェやオカマではない。

オネェやオカマといった類の精神性を持つ者達が、ドラマや漫画に出てくるような寛容性のある人間ばかりではないのだ。

 

ただ、シュラに関しては大臣の息子であるということも考慮されて、人前の女装は止められた。

(あくまでも人前で、というだけあって自分たちが楽しむためなら殴られようが蹴られようが全力で女装させるのだが)

 

 

 

結果、ラバックは見事な女装技術によって可愛らしいメイド服を纏ったメイドに変身していた。

 

「今日だけになるけど、料理を運んでくれるラバ子ちゃんにタツミちゃん、あとはシュラよ」

 

アン料理長及び休みの料理人、シフトの無かった料理人がドヤ顔をしていた。一仕事した料理人たちの前に、スカートの端を掴んだラバックが現れる。

なお、タツミとシュラも何故か給仕姿に着替えさせられていた。

 

ラバックも女装程度なら任務のためにできるが、よもや化粧から何やらすべてにおいて無駄な技術力を発揮された女装をするとは思っていなかったようだ。

今の彼は精神的に死にかけている。辛うじて下着は死守したのが唯一の救いだろう。

 

「やだ~~ラバ子か~わ~い~い~!」

「タツミちゃん初々しいわ~~今すぐぺろっと食べちゃいた~~~い!」

「ちょっとちょっと、シュラちゃんすごい似合ってる~抱かれたーーーい!」

 

野太い声での黄色い声援が飛び交っている中、タツミは着慣れない服装に落ち着かず、シュラは料理人たちを睨みつけ、ラバックは一人で「なんでこうなったんだよ?!」とツッコミを入れている。

 

「さて、アンタ達にはお仕事してもらうわよ」

 

 

 

午後三時も回り、皇帝陛下とオネスト大臣にアフタヌーンティーが振舞われる時間帯となった。

「オネスト、今日は料理長が“楽しみにしてくれ”と言っていた。どんな美味しいお菓子が出るのだろうな」

「いやぁ、分かりませんな・・・ただ、腕は確かですから」

そんな会話を交わす二人に紅茶が運ばれてくる。

「あぁ、これはありが・・・」

 

オネストの席に紅茶を持ってきたのは、自分の息子だった。

 

「・・・シュラ?」

「・・・親父、何も聞かないでくれ」

「察しました。証拠を掴まされた上にまさか厨房に喧嘩を売るなんてよほどの馬鹿ですね」

 

オネストの言葉に反論することなく耐えるシュラ。

なお、アンはすぐ近くに待機しているために何かやろうとすればすぐさま麻酔針が飛んでくるだろう。

 

オネストもそれが理解している上で・・・タツミへと視線を移した。

羅刹四鬼の一人であるスズカから得たナイトレイドの一人がもう一人の給仕として紅茶を皇帝陛下に運んでいるらしい。

 

アンが暗殺者や侵入者の類をこうして教育しているのは理解しているし、仮に暴れたりしたところでセキュリティは万全

・・・いざとなれば、自分も身を守ることは可能だ。

 

むしろオネストはアンのそういった試みを楽しんでいる。

自分の命を狙っているだろうに、絶対に手を出せない、出したところで返り討ちされる。そんな虫けらを眺める感覚なのだ。

 

「陛下も大臣も、お待たせしましたわ」

 

アンが女装したラバックと共に苺のタルトを持ってきた。

皇帝陛下はすぐに喜ぶが、ラバックの姿を見ると少しだけ頬を赤らめる。

 

「新しい侍女か?」

「えぇ、ラバ子ちゃんです。新しく入ったんですよ」

「そ、そうか・・・」

 

皇帝陛下の様子を見て、オネストは「陛下?」と声を掛けた。

 

 

「・・・こんな可愛らしい侍女もいるのだな」

 

 

「そいつは男だ」とタツミとシュラは叫びそうになるのを我慢するのがやっとだった。

 

 

「あらぁ~、陛下はラバ子ちゃんみたいな子が好みなんですね!」

「いっ、いや、好みでは・・・ただ、その、可愛らしいと思って」

 

頬を赤らめる皇帝陛下を少しだけからかって、アンはタツミたちと共に席を外すことになった。

なお、部屋から出た瞬間にシュラがあからさまに頭を抱えて呻き始める。自分の父親に更に失望されたと思っているのだろう。

 

「今日はお疲れ様。で、どうよ、タツミちゃん」

「え?あぁ・・・その、皇帝陛下、思ったよりも子供だったし・・・オネスト大臣、余裕そうだった」

「そうそう、貴方の敵はあれよ。下手に肝が据わってるからね」

 

そんな会話をしていて、タツミはふと気が付いた。

 

「そういえばラバ、お前は緊張とかしなかったか?」

「・・・」

 

「・・・ラバ?」

「・・・タツミ」

 

「なっ、なんだよ」

 

 

「俺、可愛いのかな」

 

 

「戻ってこいラバアアアアア!!!!!その道はだめだ!!!!お前にはナジェンダさんがいるだろしっかりしろ!!!!!!」

 




そろそろお気づきの方もいると思いますが、「処刑場編」が無いので原作からちょっと離れるよ!!!


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ラバックはオネェ料理長と一緒にデザートを作る話

デザート 調べる度に お腹が 減るよ


皇帝陛下とオネスト大臣へのアフタヌーンティーの給仕も終え、少しばかり休憩時間が出来た。

数時間すれば、また夕食の準備を始めないといけないだろう。

 

「さて、私はデザートをまた作らないと。ラバックちゃん、手伝ってちょうだいね」

「お、俺ですか」

 

「あらぁ、昨日喧嘩したのはどこの誰だったかしらねぇ」

「手伝わせてもらいます!!」

 

ラバックが即座に返答したことに満足したのだろう。アンは「それじゃあシュラとタツミちゃんはこっちの料理の下ごしらえを他の子たちとしてね」と言づけた。

 

 

 

「あの、何を作るんです?」

「バノフィー・パイよ。今日から数日はちょっとありあわせのものでデザートを作らないといけないの。お上品というよりは、ちょっと庶民的になっちゃうけど・・・」

 

「バノフィー・パイ・・・?って、なんのパイですか。あんま、聞いたことがないパイですね」

「そうねぇ、あまりメジャーなデザートではないもの。でも結構美味しいのよ?兵士や侍女たちが使う食堂で時々出してるデザートなの」

 

バノフィー・パイとは、バナナとトフィー(砂糖または糖蜜とバターを加熱して作る菓子)のパイのことである。(実際はイギリス発祥の菓子であり、一般的なお菓子らしい。ちなみに日本だとトフィーをタフィーと称することが多いそうだ)

・・・トフィーが想像できない場合は、キャラメルの親戚程度の扱いで良いだろう。

 

ショートクラストタイプのパイ生地に、トフィー、バナナ、生クリームを重ねたデザートであり、大変シンプルながらもやみつきになる菓子である。

 

「ただ、トフィーを準備するのに時間が掛かるから、今から準備しないといけないのよね」

「へぇ、どのぐらい掛かるんですか」

 

「数時間、2~3時間ね。パイ生地を作ったり、生クリームを泡立てたりもあるからそれも済ませておきたいところかしら・・・」

「そんなに掛かるんですか!?」

 

「そりゃあトフィーから作るんですもの。キャラメリゼには時間が掛かるのよね」

「そうなんですか・・・」

 

「本当は生クリームで作る方法のトフィーにしたかったけど・・・生クリームも量が足りないからね。大丈夫よ、ラバックちゃん。コンデンスミルクの缶ごと煮るから、あんまり様子を見なくてもいいの」

 

そう、バノフィー・パイに使うトフィーを作る際、綺麗なキャラメル色のトフィーにするのにコンデンスミルクの缶を丸ごと、2時間から3時間煮なくてはならない。

なお、生クリームから作る方法、短時間でトフィーを作るレシピもある。あくまでも基本的なレシピの話なのであしからず。

 

 

 

そんなこんなで、ラバックとアンの二人でバノフィー・パイ作りが始まった。

ラバックは元々手先も器用なため、苦になることもなくパイ作りが進んでいく。パイ生地を作り、生クリームの準備やバナナの下準備も滞りなく済んでいく。

 

余裕があるからか、ラバックはアン料理長と雑談をしながら作業を進めていくことにした。

・・・パイ生地を焼く間や、トフィーを待つ時間があるからだ。

 

「アンさんって、本当に料理が好きなんですね」

「・・・昔から何かを作るのは好きだったの。先帝と奥方様がお若い頃は、作ったものを食べてもらっていたり、試作品をもっていったりね」

 

静かにアンは、昔のことを思い出しながらラバックへと語った。

 

「料理ってね、見て楽しんだり、誰かと一緒に作ったり、一緒に食べたり・・・食欲を満たすだけじゃない何かが、料理にはあると思うの。」

「・・・」

 

「ラバックちゃんも、誰かと一緒に食べて嬉しいとか、もっと美味しく感じるってこと・・・ある?」

「・・・ありますね。そういう人は俺にもいますから」

 

アンに問われ、ラバックは自分の想い人であるナジェンダを思い出しながら答えた。

ラバックは周囲を確認しながら、静かにアンへと向き直った。

 

「・・・アンタ、人間を料理してるって聞いたんだけど」

「・・・そうね。大臣を脅した時の人間料理、大臣が“気に入って”ね。他の人間には牽制になったけど、大臣には逆効果だったのよねぇ。それで今は、厨房の自治権の代わりに・・・ね?」

 

「・・・平気なのか」

「・・・慣れちゃった、わね。でも安心しなさい。この国が終わるときには、私も処刑台に行くつもりだもの」

 

アンの言葉にラバックは黙って彼を見つめた。しばらくの間、缶を煮詰めるコトコトとした音だけが二人の沈黙の間に流れた。

 

「・・・・・・アンタは、それで良いのか。革命軍に掛け合えば、きっと」

「・・・継承権は捨てたけど、私も皇族よ?生きていたら、新しい国にとって邪魔になるしかないわ」

 

その言葉にラバックは何も言えなくなってしまった。

そういえば、この料理長は皇族の一人だった。継承権を棄てても皇族である限り・・・利用される可能性も、脅威となる可能性もある。

 

「・・・それに、“皇帝陛下”(あの子)だけを処刑台に行かせられないもの」

 

とても静かに、アンはそう答えて「そろそろトフィーができるわよ!ほらほら、準備しなさい!」とラバックに声を掛けて準備に取り掛かった。

 

「・・・はい、そう、ですね」

 

ラバックはそう返事をして、すぐに準備に取り掛かることにした。

 

「(・・・あー、ほんと。やるせねぇなぁ)」

 




そろそろラバックは女装姿から普通の姿に着替えなおしてるはずです


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タツミはシュラと会話する話

ヒノワが征く! みんな 読んでね!


 

ラバックとアンの二人がパイの準備をしている間へと時間は巻き戻る。

タツミとシュラの二人は今晩の食事の下ごしらえや準備を手伝っていた。下拵えに準備が掛かることもざらにあるからだ。

 

「・・・」

「・・・」

 

タツミとシュラの間に会話はない。黙ったまま作業を延々と進めている。

 

「(こいつ、大臣の息子なんだよな。・・・なんつーか、ワイルドハントが解散っつー話は厨房にも連絡あったけど。なんでこいつと食事の準備してんだ俺・・・)」

 

「おい」

 

自問自答していたタツミに、不意にシュラが声を掛けた。

 

「っわ、なんだよ・・・いきなり」

「お前さ、エスデスのねーちゃんと一緒にいたことあんだろ」

 

「・・・あるけど」

 

そう、タツミとシュラは互いの正体を知らないまま出会った経緯がある。その時はエスデス将軍もいたが、そこは割愛しよう。

ともかく、シュラのせいでタツミにとってはエスデス将軍と無人島に飛ばされたのだ。

 

「なんか仲が良さそうにしてたけどよ、お前ナイトレイドだろ?帝国のスパイか何かかよ」

「違う!あれはその・・・エスデスに勝手に好かれただけだ。」

 

「その割にはエスデスのねーちゃんが厨房の近くにうろついたりしてるだろ。あいつ、お前のことに関しても親父に打診してたぞ」

「えっ」

 

厨房の近くにうろついているはともかく、後者は聞き逃せない。

 

「打診って何をだよ」

「エスデスのねーちゃん、西の異民族を抑えた褒美にお前が欲しいんだと」

 

とんでもないことをエスデス将軍はオネスト大臣に頼んでいたらしい。タツミも顔を青ざめている。

 

「つっても、お前の身柄が厨房にあるってんで親父も【約束はできませんよ】って言ってたみたいだけどよ」

「良かった・・・ここに逃げて本当に良かった・・・」

 

タツミは心底、自分が厨房に逃げ込んで良かったと安堵した。

敵対していても自分のものにしようとしてくるエスデス将軍に対して恐怖と嫌悪感しかない。

確かに相手は美人だし、身内には良い部分があることも少しは知っている。

 

・・・ただ、エスデス将軍は根っこの部分から人間としての倫理観がズレてしまっている。

 

どんなに部下に優しくあろうとも、カリスマ性があっても、そこが相いれないなら仕方ないのだ。

 

「お前、なんでエスデスのねーちゃんに好かれてるんだよ。今まで一切そんな素振り無かったってのによ」

「し、知るわけないだろ!俺だっていきなり首輪付けられたりして拉致されたりしただけで・・・」

 

「お前、ほんとどういう出会い方したらそうなるんだよ」

 

A.本人主催の武術大会に出たらそうなった。

 

これしか説明しようがないのだから仕方ない。

 

タツミ自身もなぜエスデスが自分を好いたのかが実はよくわかっていない。気が付いたら好かれていて、めちゃくちゃアピールされているだけである。

 

「それはエスデスが主催した武術大会に参加してたらいきなりあっちから勝手に好かれただけだ」

「勝手に好かれたって、お前結構なこと言ってるのわかってんのか」

 

「それしか言えないんだから仕方ないだろ!・・・それより、俺も聞きたいことがある」

「なんだよ」

 

「・・・Drスタイリッシュが作ったあの新種の危険種、お前が放したのか」

 

タツミのその質問に、シュラは数秒沈黙してから「俺がやった」と素直に答えた。

 

「分かっててやったのか」

「当たり前だろ。俺は退屈ってやつが大嫌いでな。あいつらには結構楽しませてもらったぜ」

 

その言葉を聞いて、タツミは思わず殴りかかりたくなった。

しかし、昨日の女装の刑を即座に思い出してなんとか拳を握るだけで終わらせた。

 

「(そうだ、俺は綺麗な体でマインたちのところに戻らなくちゃいけない・・・女装はまだしも下着まで付けられたらマインに合わせる顔が無い)」

 

男のプライドと恋人への想いで彼は耐えた。

 

・・・もちろん、厨房で騒ぎを起こした場合、他の料理人に迷惑をかけてしまうということも理解している。

 

「・・・・・・本当にクズだな」

「どーも。んなの言われなれてるからな」

 

タツミが罵倒するものの、シュラは本当に慣れているのか飄々としている。

 

「というか、お前も厨房では大人しくしてるんだな」

「アニエ・・・あ”-、アンの奴がうるせぇから仕方ねぇだろ」

 

名前を言いなおしつつ、シュラが忌々しそうに舌打ちをした。

 

「そういや料理長とお前、幼馴染なんだっけか。弱みも握られてるみたいだけど」

「うるせぇ、この間のそのことは忘れろ」

 

「年上好きだっけか?」

「てめぇ思い出すな、そんなわけないだろ!いい加減にしろ!」

 

「でも、あの時アン料理長が言ってたの聞いてたから。・・・少なくとも年上好きなんだろ?」

「違うわ!別に年上とか年下とか好みなんざねぇよ。女なんて玩具なんだからよ」

 

「・・・間違えてた。人妻好きだったな、ごめんごめん」

「・・・お前絶対に忘れろよ、絶対に違うからな!!」

 

シュラに釘を刺されるタツミだったが「絶対に忘れないしナイトレイドに無事戻ったら言いふらす」と心に決めた。



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タツミはウェイブと再会する話

異性でも同性でも 二人並べば 恋人に見えてしまう 人間の業


夕食の忙しい時間帯もあっという間に過ぎ去った。

タツミやラバックも約1週間を厨房で過ごしたからか、手際良く手伝いができたようである。

慣れてくるのも考え物ではあるが・・・拷問室送りにされたり捕虜にされるよりは多少はマシなはずだ。

 

 

ちなみにシュラは手際良くできたものの、厨房のオカマやオネェたちからの投げキッスやウィンクに辟易した模様。

 

 

さて、それはともかく

 

 

厨房の料理人たちが一息ついた頃に、厨房に来客がやってきた。

 

タツミに近付きたいエスデス将軍でもなければ、ナイトレイドを捕まえたいスズカやドロテアでもない。

 

特殊警察イェーガーズ所属、ウェイブである。

 

「すみません」

「あら、ウェイブちゃんじゃない」

 

「どうも。こんばんは。お仕事、お疲れ様です。」

「ありがとぉ~~、相変わらずウェイブちゃんの優しさに胸がトキメいちゃうわ~!」

 

「あはは・・・」

「ほんともう一夜だけのアバンチュールでいいから抱いて」

 

「すんません、さすがに無理です」

 

厨房の料理人の一人、マリエル明美(※本名不明のため源氏名でお送りします。あしからず)が厨房に入ろうとしたところ、ウェイブに声を掛けられた。

 

ウェイブは頻繁に通っているわけではないが、宮殿内の巡回で厨房の料理人たちとは少しばかり顔見知りである。

 

きっかけは厨房のオカマやオネェたちが、《田舎から出てきた純朴で真面目な青年》であるウェイブにラブコールをしたことなのは割愛する。

 

「何々、何か用事かしら?クロメちゃんへのお菓子の注文とか?」

「あー、あのですね、ここにナイトレイドが逃げ込んだって聞いて来ました。」

 

「エスデス将軍に頼まれてきたの?」

「・・・じゃなくて、その。ナイトレイドのタツミってやつとは知り合いなんです。会わせてください」

 

 

 

そんなこんなでウェイブは厨房棟の一室を借りて、タツミと会話することとなった。

 

アン料理長やシュラ、ラバックは揃って耳を澄ませて扉の前にやってきている。もちろん、彼らの会話が気になるからだ。

 

「・・・ウェイブの野郎とタツミが知り合いだぁ?あいつ、革命軍に通じてるのか?」

「ウェイブちゃんはそういう子じゃない・・・っていうか、ウェイブちゃんと知り合いなの?仲良しさんなわけ?」

 

「仲良し扱いすんじゃねぇよ!」

 

アンの言葉にシュラは忌々しそうに返答をする。見た目で分かるぐらいにイラついているようだ。

それに気が付いたラバックとアンの二人は顔を見合わせつつ、アンがシュラに尋ねた。

 

「・・・一体何があったのよ」

「あの野郎、俺を殴りやがったんだぞ。おまけに田舎者の癖に俺に勝ちやがって・・・まぐれだけどな!まぐれ!」

 

「は?あんたを殴った?素面で?っていうか、まぐれだか本気だか知らないけど・・・アンタに勝ったウェイブちゃんすごいわね」

 

アンがウェイブを褒める言葉を聞き、盛大に舌打ちをしながらもシュラは部屋の中の会話が聞こえるように聞き耳を立てようとしていた。

 

 

 

部屋の中ではタツミとウェイブが机を挟んでソファに座っていた。

 

「・・・お前が、ナイトレイドの一人で・・・おまけにインクルシオの保有者だったとはな」

「・・・エスデス将軍に拉致されたのは狙ってやってなかったけど、騙す形になってごめん」

 

 

タツミは以前、エスデスに拉致された時からすでにナイトレイドにいたことをウェイブに話して、そのことは謝罪した。

 

「気にするなって。スパイも何もなかったし、フェイクマウンテンでは俺のことを助けてくれたしな」

「・・・あぁ」

 

「・・・なぁ、タツミ。やっぱイェーガーズに入らないか?エスデス隊長も大臣に打診してるし、俺だってお前と敵対するのは・・・なんつーか、気分が良くないっていうか」

 

ウェイブの言葉にタツミは少しばかり沈黙するが、「ごめん」と小さく呟いた。

 

「俺はこの国を変えたいから、ナイトレイドに入ったんだ。裏切ることは絶対にできない」

「・・・そうか。やっぱ無理かぁ」

 

「今は宮殿の厨房にいるけど、またナイトレイドに戻れるなら・・・また敵同士になる。その時は俺だって全力で戦うからな」

「・・・こっちだって、帝国を中から変えるって遺志を受け継いだんだ。負けられないさ」

 

 

 

 

・・・と、まぁそんな会話をしていたわけだが。

 

部屋の外はこんな感じになっていた。

 

「んだよウェイブの野郎、ナイトレイドとなれ合いやがって・・・」

「・・・」

 

シュラの言葉に、アンはじっ・・・とシュラを見つめた。それに気が付いたようでシュラが怪訝そうな表情を浮かべた。

代わりにラバックが「どうしたんですか、料理長」と尋ねる。

 

「・・・うかつだったわ。今、私は気が付いたの」

 

何に気が付いたのかわからないラバックとシュラが、アンの次の言葉を待った。

 

 

 

「シュラ、あんたウェイブが好きなのね」

 

 

 

「違ぇぇぇよ!!なんでそうなるんだよ、お前の頭大丈夫か?!」

 

 

シュラは部屋の扉の前にいることも忘れて大声でツッコミを入れた。そらそうだ。

 

なお、ラバックは見事に噴き出して笑ってしまっている。

 

「ううん、いいのよ。隠さなくても。恋愛は素晴らしいんだから」

「違うっつってんだろバーーーカ!!」

 

「前々からあたしやスタイリッシュの変態野郎と仲良くしていたものね…はやく気が付いてあげるべきだったわ」

「だからなんでそうなるんだよ!!」

 

「だってさっきからウェイブちゃんのことばっかり気にしてるし」

「殺したいぐらい嫌いだからだよ馬鹿野郎!!!」

 

この場合はシュラの主張がひたすらに正しいのだが、残念ながらオネェ料理長は信じていない模様。

 

ラバックは笑いすぎて腹筋崩壊している状況だ。

 

「お前、男が二人いたら恋愛するとかおもってんのか?」

「あらぁ、人間が二人以上が集まれば恋愛なんて自然発生するでしょ」

 

「ねーよ、野郎同士で惚れたなんてなぁ、あるないだろ。男と女ならともかくよ」

「ほら~~~!!ノンケだって男女一組いたらすぐに恋だの愛だのって騒ぐじゃなーい!異性がありなら同性だって同じよ~~!!!」

 

 

 

まったくシリアスもくそもない会話を、タツミとウェイブも聞こえていたわけである。

 

 

 

「・・・あー、うん。ウェイブ、どんまい」

「・・・タツミ、お前もこの厨房で働くの大変だよな、どんまい」

 

 



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タツミとラバックは料理長を説得する話

おはラッキー! オネェチャンネルの時間だよ~


 

ウェイブもイェーガーズの本部宿舎に帰り、厨房もすっかり片付けが終わった。

明日の下拵えや下準備も終わった後、すぐにシュラは料理長の部屋に戻ろうとしているようだ。

 

「あら珍しい。大人しく戻るのね」

「当たり前だクソが。こんだけ働かされてもう寝たいんだよ」

 

「ふぅん・・・ご自慢のパパに言いつけたりしないのね。えらいえらい」

「うるせぇな!頭を撫でるな、って尻も撫でるんじゃねぇよ!」

 

アンとシュラのやり取りを見ながら、ラバックはタツミに耳打ちする。

 

「なぁ、タツミ。ちょっといいか」

「なんだよラバック」

 

「・・・今夜さ、料理長を説得しないか?」

「・・・説得って」

 

タツミの言葉にラバックは真面目な表情で返した。

 

「あの人はこのまま革命されたら、自分も処刑されるつもりだ」

「?!」

 

驚くタツミに対して、ラバックは更に耳打ちを続ける。

 

「二人で料理してる時にちょっと雑談して聞いたんだよ」

「聞いたって・・・自分も処刑されるつもりってなんでだよ。確かに大臣と手を組んでるけど、それはあくまで厨房を守るためで、それで・・・」

 

「・・・あの人、元皇族だろ。だからだよ」

「・・・皇族だったから?」

 

タツミは田舎の出身である。革命をされた後の皇族の処遇などに考えが及ばないのは仕方がないだろう。

彼はあくまでも民のために戦っているのだから。

 

「皇帝が処刑されても、皇族がいれば復権どうこうって揉める原因になるんだよ」

「・・・・・・帝位を棄てたのにか?」

 

「継承権を棄てたとしても、皇族には違いないだろ。持ち上げる貴族連中だって出てくる。だからあの人は・・・」

 

ラバックの言葉にタツミは拳を握りしめる。

 

「・・・まー、俺も深追いはしないぜ。ただ、一応助けてもらった恩があるんだ。一回ぐらいしっかり説得したいだけだ」

「・・・それなら俺も一緒に説得する。エスデスと違って、アン料理長は説得できそうな気がするから」

 

 

 

 

さて、シュラが寝たのを確認して、タツミとラバックはレシピをまとめているアンに声を掛けた。

 

「あら、まだ起きてたの?早く寝たほうがいいわよ」

 

「あのよ・・・アンタに話があるんだ」

「アンさん、俺たちの仲間になってくれないか!」

 

タツミの言葉に、アンは数秒呆気にとられたが、すぐに笑い始めた。

 

「あはははっ・・・はぁ、タツミちゃんったらねぇ、ただの料理人を革命軍にスカウトしてどうするのよー」

 

「ただの料理人じゃない、立派に帝具使いだろう?それにアンさんはこの宮殿にいる中でも随分とまともな人間じゃないか」

 

タツミに言われるも、アンは「そんなことないわよぉ」と返答する。

 

「元皇族だとしても、革命軍に話を通せばいけるはずだ。革命軍の中には帝国から離反した奴もいるんだ。ナイトレイドにだって・・・だから・・・」

 

ラバックもアンへと声を掛ける。しかしアンは未だに首を縦に振らない。

 

「駄目よ~?それは戦が得意な将軍たちや高潔な志のある兵士たち・・・それに、優秀な帝具の使い手とかの話。アタシみたいなただの料理人は必要じゃないわ」

 

「ただの料理人じゃない!数日間だけでも分かる・・・あんたは凄腕の料理人だし、人をまとめるのも上手い。朝早くから働いて、夜だってこうして遅くまで仕事して・・・」

 

タツミの言葉にアンは何も返さない。ラバックがタツミを援護するようにさらに喋り始めた。

 

「アン料理長、アンタの帝具は兵士の士気をあげることもできる。とても応用が利く帝具なんだ。あんたの人柄もそうだが、後方支援としての戦力にだってなるんだ」

 

タツミのように人柄や人望で褒めるのとは別に、戦力になるということをラバックは彼に伝えた。

アンはようやく、彼らに返答した。

 

 

「・・・褒めてくれるのはありがたいけど、それでもやっぱりそっちにはいけないわ」

 

 

アンは彼らにそう答えて、更に続けた。

 

「先帝と皇后様が亡くなられた時点で、もう皇帝陛下と一緒に処刑台に行くことは決めてるの。ごめんなさいね」

 

その言葉にラバックは一息吐いて「だめか~」と苦笑いをする。

だが、タツミは未だに諦めきれないらしい。

 

「なんでっ、なんでそこまで・・・」

 

「そりゃあ・・・そうね。大事な幼馴染たちの忘れ形見だもの、あの子」

 

その言葉に、タツミは黙ってしまった。ラバックもタツミの気持ちが分かるせいか、何も言わないままだ。

アンは苦笑いしつつ、タツミに話しかける。

 

「ねぇ、タツミちゃん。死ぬのは、悲しいことだけしかないのかしら?」

 

「そりゃあっ・・・悲しい、だろ。」

 

「・・・確かに死は痛くて悲しいけど、それだけじゃないわ。死んだあとでも、誰かの中に何かしら繋いでいくのが人生じゃないかしら?」

 

その言葉に、タツミもラバックも何も返さない。

 

「アタシはもうここの厨房の子たちにも料理のコツは教えてるもの。それだけで十分よ」

 

アンはそう言って、ラバックとタツミに「早く寝なさいよ。ほら、厨房でホットミルクでも作って飲んできなさい!」と彼らを退出させた。

 

 

 

「・・・盗み聞きは良くないわよー」

「チッ、バレたか」

 

どうやらシュラは起きていたらしい。

 

「あんたが起きてる時の仕草は分かるもの」

「・・・革命軍に寝返ってたら、すぐにでも親父にバラしたのによ」

 

「残念でした、アタシは最初から厨房で生きて死ぬって決めてるんだから」

「・・・・・・はっ、最初から死ぬつもりで生きてるのかよ」

 

シュラの言葉にアンは少し沈黙する。しかし、すぐに「あらぁ~、心配してくれてるの?」とニヤニヤしながら彼に話しかけた。

 

「馬鹿かお前。心配するわけないだろ」

「もー、恥ずかしがっちゃって~」

 

「本当にお前うざいな・・・あ”-、もう寝るから話しかけんな!」

「はいはい」

 



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シュラは昔のことを夢で見る

素人「おすすめのアカメが斬る!のキャラクターを教えて」

刺激の少ない物からじっくり育てたい私「タツミ君はいい熱血」

珍しく同志が増えそうでテンパる私「ええっと、アカメちゃんにエスデス様に、チェルシーちゃんは人気だし」

崖から突き落として生き残った奴を選別する私「オネスト大臣」


 

自分がまだ幼い子供で、宮殿や帝都の眺めしか知らなかった頃の夢を見た。

 

別にその時代が幸福だとか心残りがあるとか、そういうこともなく、ただただ、終わってしまった過去のことでしかない。

昔は昔だし、今は今だ。後悔も何もしていない。

 

・・・親父のやったことぐらいは知っているし、別にそれが悪いとは思っていない。

 

暗殺されると思っていなかった先帝と王妃も・・・人間を信用し過ぎたのだ。

あの時代にしては、あの二人は他人を信じ過ぎるところがあった。そこに付け込んだ親父は中々のやり手だろう。

 

その点に関しては、さすがだと思っている。

・・・やはり親父を追い越すのは難しいのだろう。

 

 

 

 

思い出した記憶は、随分前のものだ。

 

まだ、先帝と王妃が10代で、俺とアニエルがそれより少し下で・・・あんまり宮殿内で遊んでるガキなんて、俺たちぐらいしかいなかっただろう。

 

他の役人のガキなんざ、宮殿で遊ぶようなことは無かったし、親が来させなかった。

そりゃそうだろう・・・あの頃から、宮殿は役人たちが水面下で争っていたのだ。そんなところで好き好んでガキを連れてくる奴はほとんどいない。

 

だから必然的に、よく同じ面子で集まることが多かった。

 

一緒に遊んでいたわけではなく、俺とアニエルが幼馴染で、アニエルが先帝と王妃と親族だったからだ。

・・・だから、別に、仲が良かったわけではない。

 

 

 

 

アニエルはそんなガキの頃から、宮殿の厨房で手伝っていた。

 

「ちょっとシュラ、これ味見してよ」

「また作ったのかよ・・・お前飽きないなー。何がいいんだよ」

 

「だって料理が好きなんですもの!何がいいっていうか・・・全部かしら?」

「そーかよ・・・っつーか・・・女みたいな言葉で喋るなよな」

 

「もう!いいじゃないの別に!」

「いってぇな!どつくんじゃねぇよ!」

 

・・・アニエルの両親は、ガキの頃にはとっくにくたばっていた。

権力争いによって暗殺されたのか、純粋に事故や病死なのかは知らない。そもそもそんなことに興味が無かったし、「死んだ」という事実だけで説明は事足りる。

 

その両親と交友があったのが、宮殿の厨房で勤務していた先代の料理長である。

そいつはアニエルを引き取り、料理を教えた。

 

・・・・・・ただの暇つぶしか、気分転換として教えただけだったんだろう。

 

アニエルは皇族だったしな。

 

だが、アニエルが料理を好きになり、すぐに皇族であることを棄てたのには驚いた。

 

「お前さぁ、なんで皇族やめたんだよ。帝国の皇帝になったらなんでもできるんだぞ?」

「なんでもできなくていいの!・・・それに、皇帝になっちゃったら、料理できないもの・・・」

 

「そんなに面白いもんか?食ってるほうが楽しいだろ」

「あら、作るのも楽しいのよ。料理が好きなのよ」

 

「・・・ふーん。そうか」

 

あいつは昔から、「料理が好きだ」と言っていた。

 

 

 

 

「皇子、×××、新しい料理にチャレンジしたの!試食してくれるかしら?」

 

先帝と王妃と仲良くするアニエルを少し遠くから眺めることが多かった・・・が、大体は・・・

 

「あら、シュラもこちらにいらっしゃい」

「そうだよ、一緒に食べよう」

 

・・・王妃と先帝が、アニエルと共に俺を誘って、なんだかんだで4人でアニエルの作った料理を食べることが多かった。

 

「アニエルは料理上手だなぁ。私も作ってみたいよ」

「私も作ってみたいけれど・・・お母さまが許してくれるかしら?」

 

「できれば皇子や×××と一緒に作りたいわね!みんなで作れたら楽しいもの」

「無理なんじゃねぇの?皇族の皇子や貴族の女が厨房に立てるわけないだろ」

 

俺が正論を言うと、大体アニエルの奴が「夢が無いわねー!」と怒っていた。

・・・先帝と王妃は、苦笑いしていた気もする。

 

「でも、いつかは身分とか気にせずに・・・みんなで料理して、美味しいものを食べれたらいいわね」

 

・・・王妃の言葉は、明らかにできないことを想定していた。

 

それを分かっていた先帝も苦笑いしていたし、俺は俺で何も答えなかった。

・・・アニエルも内心分かってはいたんだろう。

 

だが、あいつは「そうねぇ、そういう風になればいいわね」とあえて前向きに答えていた。

 

 

 

 

・・・結果的には、先帝も王妃も死んで、残ったのはあの二人が残した子供・・・今の皇帝、料理長になったアニエルに、あとは俺だけになった。

 

アニエルの奴は、あの二人が死んでから腹を括ったらしい。

 

帝国が存続しても滅んでも、今の皇帝と共に生きて死ぬつもりのようだ。

 

 

・・・本当にバカらしい。あいつは自分の好きなように生きているつもりで、結局死んだ奴らのために生きている。

死んだ奴らのために、死ぬつもりでもいる。

 

 

そのくせ、今の皇帝はそんなことも知らずに親父の傀儡になっているんだ。

 

本当に笑える話だよな。

 

 

寝る前にナイトレイドの奴らに誘われたくせによ。親父を殺したいぐらい憎んでるくせに、いまだに宮殿で親父の飯を作ってやがるし。

 

・・・ったく、気分が悪ィな

 

・・・・・・しばらくはナイトレイドを見張っておくか。

 

 



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ニ週間目の物語
ラバックとタツミは夜中の訪問者を迎える話


Smile!Sweet!Sister!Sadistic!Surprise!Service!

We are Palace chefs!

※最後の部分は固有名詞じゃないです。ついでに言えばグーグル翻訳に任せました。


ラバックとタツミが帝国宮殿の厨房に逃げ込んでから、はや14日・・・2週間が過ぎ去っていた。最初の1週間は何かとトラブル続きであったが、いつのまにか彼らもこの環境に慣れたらしい。

 

途中から巻き込まれたシュラに関しても文句を言いながらもソツなくこなしている。

もちろん彼もナイトレイドの二人のように、ここから逃げたい気持ちはあるのだが・・・なんだかんだで大臣から「しばらくワイルドハントの活動もできませんし、いい薬です」と言われてしまい、ここで料理するぐらいしか行き場がないのだ。

 

 

 

「ラバックちゃん、前菜の皿は?」

「出来上がってます!」

 

「タツミちゃん、ワインの準備お願い!」

「はい!」

 

「シュラちゃん、ちょっと脱いで胸筋見せて!」

「このくそ忙しい時にふざけてんじゃねぇぞ!?」

 

・・・とまぁ、こんな感じで忙しい毎日が過ぎ去っている。

仕事というものは不思議で、既定の時間で仕事を終わらせると、いつの間にか一日が終わっているのだ。ただしブラック企業は含まれない。

 

ラバックやタツミも、なんとかナイトレイドに戻りたいと思いつつ、毎日の激務をこなしていると一日が終わり、夜中に抜け出そうかと思いながらぐっすりと安眠して朝を迎えているという有様だ。

 

 

 

さて、本日の業務も終わったあと、厨房の片づけを新人3人組で片づけることになった。

時間はすでに夜の11時である。

 

今日は料理の下準備のほかに、宮殿内のメニューに加える新作のコンペを行っていたため、いつもよりも片付けが遅い時間帯になってしまったのだ。

 

「はー、もうここに来て2週間か。女装することになったり、皇帝陛下にあったり・・・」

「早いものだよな。あっという間っていうか。ウェイブと普通に会話できたから、俺はいいけどさ」

 

「チッ、てめぇらを捕まえようと思ってたのに・・・なんでこうなったんだ・・・」

 

「お前のは自業自得だろ。つーか人を宮殿に転移させたくせに」

「そもそも宮殿に俺たちを転移させるって、大臣とか暗殺される危険性があったんじゃないのかよ」

 

「うるせぇな。俺の作戦は完ぺきだったんだよ、お前らがこのイカれた厨房に逃げなかったらな!!」

 

・・・・・・まぁ、仲良く掃除に勤しんでいる。

もちろん、仲良くできているのかと言われたら疑問符を浮かべるだろう。しかし、普通に会話をしながら掃除をしている程度には仲が良いのだ。

 

問答無用で殺し合いをしていないだけマシである。

 

 

そんな中、厨房の入り口のドアがそっと開けられる。

 

「あ”ぁ、誰だよ」

 

シュラが声を掛けて扉に視線を向けて、硬直した。

ラバックとタツミもどうしたものかと扉へと視線を向けるとそこには・・・

 

 

「す、すまない・・・その、眠れなくて」

 

 

そこにいたのは、帝国のトップである皇帝陛下であった。

 

 

 

 

皇帝は厨房にある簡素な椅子に座っていた。

彼から話を聞くのは3人の中で一番顔見知りであるシュラである。

 

「あ”-・・・陛下はどうしてここに?」

「少し眠れなくてな・・・厨房の誰かにホットミルクでも頼もうかと思ったのだ」

 

「・・・侍女とかには頼まなかったのか・・・頼まなかったんですか」

「普段はこの時間帯にあまり起きてないから、侍女たちもいなくてな。兵士たちはみんな見回りをしているだろう?」

 

そこまで話を聞いているうちに、”くぅー”とお腹が鳴る音がした。

皇帝の顔が林檎のような色合いになって視線を泳がせる。

 

「・・・す、すまない・・・」

「・・・腹も減ってんのかよ」

 

敬語を忘れてシュラが小さく呟いた。

 

ラバックは「まぁ、この時間帯はお腹が減りますよね」と返す。

 

そして静かに黙っていたタツミが何かを思いついたように皇帝へと話しかけた。

 

 

 

「あの、一緒にホットケーキでも作ります?」

 

 

 

「「・・・は?」」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

宮殿の厨房は食材管理をしっかりとしている。国中の税金で賄っているのだから大量にあると言えばあるのだが、帝国軍が使う兵糧分も確保しなければならないし、帝国の腐った政治家が「これが食べたい」と急に注文する場合に備えなければならない。

 

そうしたもんで、自由に使える食材分は確保されているのだ。

 

「ううむ・・・これで混ぜれたのか?」

「あぁ、これでいいですね。んで、これを焼くんですよ」

 

「おお・・・こういう風に焼くのだな」

「ひっくり返してみます?」

 

「・・・余にもできるのか?」

「それはやってみないと。俺も手伝いますよ」

 

タツミは現在、皇帝と共にホットケーキ作りをしていた。

その様子を眺めつつ、ラバックとシュラは付け合わせの生クリームやジャムの用意をしていた。ホットミルクのための蜂蜜を取り出しつつ、ラバックはため息を吐いた。

 

「・・・タツミ、なんで急にあんなこと言い始めたんだよ」

「知るか」

 

「・・・・・・皇帝を説得する気か?」

「あぁん?無理だろ、親父に相談されて始末されるのがオチだな」

 

「・・・・・・お前、あっちに混ざらなくていいのかよ」

「・・・うっせぇな。やりづらいから行きたくねぇんだよ馬鹿」

 

ラバックにそう返答してシュラも適当に生クリームを作り始めるのだった・・・

 

 




1話で終わるかと思ったら、次回に続くぞい


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タツミは皇帝陛下に覚悟を問う話

説得してくれたらどんなに楽だったか


 

出来上がったホットケーキに生クリームをのせて、厨房の一角でタツミとラバック、おまけでシュラが皇帝陛下と共に食べることになった。

・・・というよりも、タツミが誘ったのだ。

 

「こうして一緒に誰かと食べることはあるんですか?」

「オネスト大臣だけだ。他のものと食事は無いな・・・こうして机を囲むように食べることは無い」

 

「・・・そうですか」

「それにしても余にもホットケーキが作れるのだな!こういうのは初めてだったぞ!」

 

皇帝陛下の無邪気さに対して、タツミは少し憂いているようだ。

ラバックとシュラの二人はその様子をとりあえず黙って眺めているだけだ。いや、本当は何かしら直談判やらなにやらあるのだが、お互いに牽制しあっている状況である。

 

皇帝陛下の前、しかも厨房でまた喧嘩をすれば、今度こそ厨房のオネェとオカマたちにあらん限りの屈辱的な女装をさせられることとなるだろう。

それだけは絶対に避けたかったのだ。

 

「・・・その、陛下」

「ん?どうした?」

 

「・・・この国のことを、どう考えてますか?」

「どういう意味だ?もちろん、この国を治めるために余も努力するつもりだ」

 

タツミの言葉に素直に返答する皇帝。しかし、タツミは言い淀みながら、彼へとこう切り返した。

 

「陛下は、この国のことをどれぐらい知ってますか?」

「・・・?それは国の歴史のことか?」

 

「その、宮殿の外に出て、民衆がどういう暮らしをしているのか、なんて・・・」

「大臣から聞いてるが、皆幸せに暮らしているそうだが・・・違うのか?」

 

その言葉にタツミは少し黙ってしまう。だが、皇帝は少し焦るように「た、確かに余は外に出たことは無い」と弁明の言葉を伝える。

どうやら彼は「外の様子も知らない」という言葉として受け取ったらしい。

 

「宮殿の外は危ないと聞いているし、そもそも国を治める余が外に出る必要は無いだろう。その代わりに、エスデス将軍たちや大臣たちが余の手伝いをしてくれているのだ」

 

その言葉にタツミは静かに皇帝を見ていた。

 

「・・・ど、どうしたのだ?」

「・・・知りたいと、思いませんか?」

 

その言葉にシュラが立ち上がりかけたのをラバックが勢いよく足を踏みつける。

 

「~~~~~~ッッ!!!ってめぇ・・・!」

「いいから。あ、こっちは気にするな。」

 

「・・・おう。それで、その、陛下は外のことを自分自身の目で見たいと思ったことは無いんですか?」

「・・・余は皇帝だ。国の要人が安全な場所から外に出るべきじゃないと、大臣が・・・」

 

「陛下は、それでいいんですか?」

 

少し畳みかけるように、タツミは皇帝へと尋ねる。

タツミの質問に皇帝は小さく返答をした。

 

 

「・・・大臣の言うことはいつも正しい。余はまだ未熟だ・・・外に出たいなんて、そんな我儘は許されない。余は、皇帝なんだから」

 

 

その言葉を聞いたタツミは、彼へと語り掛ける。

 

「陛下、ホットケーキを作るの、楽しかったんですよね?」

「・・・!あぁ、いつも大臣と遊んでいるのと同じぐらい面白かったぞ。またやってみたいな」

 

「じゃあ、大臣が”皇帝はホットケーキを作るものじゃありません。皇帝にふさわしい行動じゃないです”って言われたら、やらないんですか?」

「・・・それは・・・・・・大臣は、いつも余が分からないことを教えてくれて、だから、そういわれたら・・・それが正しいんだろう・・・・・・」

 

皇帝の言葉にタツミは「それは違うと、俺は思うんです」と答えた。

 

 

「・・・危ないからとか、ふさわしくないとか。そういう理由で何もやらないよりも、いろんなことを経験したほうがいいんじゃないかなって、俺は思いますよ」

「!」

 

「今の陛下・・・皇帝の権限とは別に、陛下自身は、何ができますか?」

「・・・」

 

皇帝は少し面食らったようだ。いや、これに関してはシュラも拍子抜けしたようだ。

もっとストレートに「この国はおかしい!」と直談判すると踏んでいたようだが、それに対してタツミが皇帝に語った言葉は種類が違うものであった。

 

「・・・ホットケーキが冷めちゃいますから、食べましょうか」

 

 

 

 

「いやー、何を話すかと思ったらタツミらしくねぇことだったな」

 

皇帝陛下をシュラに送らせて、厨房に残って後片付けをしているラバックはタツミへと話しかける。

 

「ん?あー・・・本当は俺もさ、直談判したかったんだけど」

「したかった・・・けど?」

 

「直談判しても、オネスト大臣がすぐ傍にいれば否定されそうじゃんか。だったらさ、変化球で行けばいいかなって」

「・・・お前、変わったなぁ。最初の頃よか、よっぽど頭が回るぜ」

 

ラバックの褒め言葉にタツミは少し照れ臭そうに「それに、料理長と一緒に過ごして、俺もなんとなく感じてたからさ」と答えた。

 

「料理長?」

「・・・あの人は、自分自身ができることをやってるし、それに対しての責任もとろうって覚悟してるじゃんか」

 

「・・・ま、そうだな。それは俺たちもだろ?」

「・・・そうだな」

 

「・・・皇帝にあの言葉が響いてればいいよなぁ」

「響いてなければ、そりゃ敵対するまでだろ。その時は、戦えるさ」

 

 

 




皇帝陛下の心に種を撒いたタツミ君の思いは報われるのか


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★現状把握

キャラの方針などの疑問点解消のための現状把握回


 

【帝国帝都宮殿の厨房】

 

 

★料理長:アニエル・シャーリー★

 

自称はアン・シャーリー(作者的には赤毛のアンを意識してる感じの名前です)

宮殿の料理長をしているオネェなお兄さん。

 

実は皇帝陛下のめっさ近い親戚。つまり本来なら継承権があるが、幼少期の時点で厨房で働くために継承権を自ら捨てた。

 

紆余曲折あって、宮殿の厨房だけを守ることにはなったのが、そのおかげで厨房に自治権が生まれた。

オネスト大臣が毒殺されないのは厨房の守護者たる彼がいるから。オネスト大臣が冒涜的な食事をするときは彼だけが調理をしている。

 

基本的には気のよいオネェだが、厨房関連では鬼神みたいになる。

 

シュラとは幼馴染みのため、弱味をたくさん握っている。

 

前皇帝陛下とお妃さまとも幼馴染であった。そのため、彼らの残した子供(現皇帝陛下)と運命を共にしようと決意している。

 

 

 

帝具「美食礼賛イーターオブラウンド」

 

食事用食器や調理器具のセットとなっている帝具。また、レシピ本も付属されている。

食材を仕留めつつも安全に提供するための麻酔薬の調合方法なども記載しているのでめちゃくちゃ便利。

 

なんでも美味しい料理にできる帝具。

また、これで作ったものを食べれるようにできる。

「なんでも」なので人間を食べることも美味しく料理することも可能。これを使ってオネスト大臣用の注文をこなしている。

 

超級危険種や毒性の強いものなども調理ができるため、後方支援として使われていた帝具である。

おいしい食事を食べることで軍の士気を上げたり、栄養を効率よく摂取することができる。

 

基本的に後方支援だが、一流の料理人が扱うことで武器として使うことも可能。

 

 

 

★タツミ★

 

厨房に来てからいろんなことに巻き込まれている

 

アン料理長が皇帝陛下と運命を共にしようとしているのを出来るだけどうにかしたいと思っている。

 

できるだけ、なのでどうにもならないなら受け止めるつもりではある。

あくまでも説得が通じるならばそれはやるし、出来うることはやるけど、どうしても無理ならけじめはつける

 

 

 

★ラバック★

 

女装させられて悔しいけど、皇帝陛下が頬染める程度には似合ってると分かって「女装の才能もあるのかな」と思い始めてる。危うい。

 

口の中にまだ「クローステール」を隠しており、いざという時のために使うつもり満々。

料理長は一度説得したが、本人が寝返るつもりがないのを確認したのですぐに割り切った。

 

 

 

★シュラ★

 

ワイルドハントが活動停止に追い込まれたあげくに、アン料理長にこき使われる羽目になっている。

不服ではあるが、ナイトレイドが怪しい動きを見せたり、アン料理長が裏切ろうとしたらすぐさま掴まえて拷問するつもり満々。

 

なんだかんだで料理長と付き合いが長いせいで、綺麗に割り切れる関係性かどうかは不明。

 

 

 

★オネスト大臣★

 

「面白いことになったなぁ」とめちゃくちゃ内心楽しんでる。ラバックとタツミに関しては本当にそんな認識。

シュラには「いいお灸になるでしょう」程度。

 

アン料理長とは仲が良いわけではないが、彼の料理の腕は認めているし、厨房の自治権程度で収まってくれているので満足している。

アンが皇帝陛下を気にかけていることも分かっているので完全に利用しているのだが、料理長もそれは分かってる。

 

 

 

★皇帝陛下★

 

女装ラバック(ラバ子ちゃん)が可愛いなぁ、また会いたいなぁと思っている。もしも実は男だとバレたときにどうなるかは・・・本編で明らかになるかは不明。

 

タツミと色々会話して、思うところは多分あったが・・・どうなるかは、こちらも本編にて。

料理長とは仲良しだが、彼は料理長が親戚であったことは知らないままである。

 

 

★ブドー大将軍★

 

アン料理長に度々セクハラ発言されるからめちゃくちゃ苦手。

でも昔のことは知っているので、気にかけてくれている。

 

本当は皇帝陛下にアン料理長も皇帝の血筋が流れていることを伝えたい。

 

 

 

★エスデス将軍★

 

「タツミを渡せ、緑はどうでもいい」

 

アン料理長は少し苦手。戦闘では自分が勝つと思っているが、変な絡み方をしてくるし、昔のマナー講座がかなりしんどかったことが起因している。

 

 

 

★ウェイブ★

 

料理長は変わってるし、厨房も変わってるけど、良い人だなぁ・・・という認識。

タツミと対話できたが、敵対しているのはやっぱり嫌だな・・・と感じている。

 

 

 

 

_______そのほかのキャラに関しては今後の登場にて

 

 

 

おまけの番外編の登場キャラクターたち

 

【皇帝陛下直属の侍女:ゼノヴィア・マスグレイヴ】

 

皇帝陛下の両親、つまりは先帝と奥方に拾ってもらった経緯のある女性

皇帝陛下の前ではおしとやかな女性として振舞っているが、実際は男言葉を使い、一人称も「俺」と言っている。

皇帝陛下好きすぎて拗らせてる成人。

 

南方の血が混じっているため、褐色肌。そして銀髪

「シュラと兄弟か何かか?」と言われたら怒るよりもめっちゃ落ち込む

 

帝具「帝釈布倶 シャインフューラー」

マフラー型帝具。使用者の意思通りに動き、硬化・伸縮自在など使いやすい。

超級危険種「アラクネメアル」「女王毒蚕」の2匹の糸を紡いだモノ(実際にはインクルシオと同じく2匹の生命を織り込んでいる。)

使用者によって色が変化する。奥の手は「同化」アラクネメアルと女王毒蚕が混ざった蟲形態になる

 

 

 

【宮殿内庭師統括:ダリル・エインズワース】

 

中性的な顔立ちのイケメン(※女です)

誰にでも優しくて、同性にモテる

 

常識人に見えるが、常識からやや逸脱した発想をするため、大体ブドー大将軍に叱られている。

植物を育てているからか、エスデスとも割と仲良くできる珍しい人材

 

帝具「魂留灯機ロートフランメ」

ランタン型の帝具。対象者の魂をランタンの中に閉じ込めて保管することができる。

その間対象者は仮死状態となる。

基本はそれしかできないものの、対象者に返す前にランタンの灯りが消えてしまうと死亡する。

奥の手は「移し火」対象者の魂を物体に移し替えることで生きながらえることが可能となる。ただし繰り返すたびに魂が劣化して人格に異常が出たりする。

 

 



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ナイトレイドたちは決意し、ブドー大将軍は覚悟を決める

皇帝陛下「えいえい!怒ったか?」
アン「怒ってないですよ♡」

オネスト大臣「えいえい!怒りましたか?」
アン「」(無言でオネスト大臣へラリアットをかました後にスープレックスを決行)


 

 

タツミとラバック(ついでに言えばシュラ)が厨房の手伝いをさせられてからすでに1か月が経過していた。この間に革命軍は帝都近くの関所まで進軍することができた。

 

しかし、そこにはブドー大将軍直轄の部隊が防衛戦線を張っていたのだ。そしてブドー本人も時折訪れて革命軍を牽制していたのだが・・・

革命軍はそこで、ナイトレイドに指示を出した。

 

 

【ブドー大将軍の暗殺、直轄の部下の暗殺】

 

 

ブドー大将軍は最強だと名高い将軍である。武人であり、彼が鍛えた直属の部隊も一人一人が強い。

痺れを切らした革命軍は、そんな大将軍、ひいては直轄の部下の暗殺を依頼したのだ。

 

「ラバックとタツミが不在なのが痛いが・・・仕方ない」

「大将軍相手に暗殺って、無茶ぶりしすぎよね」

 

ナジェンダの言葉にマインがあからさまに呆れながらコメントをするが、少しばかり不安そうにはなっている。それもそうだろう、相手はブドー大将軍、帝具使いでもあり、素の武人としての腕も高い

 

こちらはラバックとタツミを欠いた状態であり、マインとアカメ、レオーネとナジェンダだけでやらねばならない。

 

「仕方ないさ、どうにかしないと革命軍が進軍できないんだろ?なら、やるしかないさ」

「・・・あぁ、タツミたちがいない今、私たちがやるしかない」

 

レオーネとアカメの言葉に、ナジェンダも「そうだ」と応える。

 

「・・・それに、革命軍も帝具使いや諜報員を派遣すると聞いた。私も近辺の盗賊たちを利用した策を使ってやるさ」

「それで勝てたらいいわね。私もパンプキンのメンテナンスをしたから、いけるわよ」

 

「アタシだって負けないさ。しっかりとお仕事はさせてもらう!」

「・・・任務なら斬るだけだ」

 

ナイトレイドのメンバーは全員、強敵への暗殺に覚悟を決めたのだった・・・

 

 

 

 

______________一方、帝都宮殿にて

 

 

「あら、ブドーちゃん、お・は・な・し、聞いたわよ?」

「・・・料理長か」

 

宮殿内の廊下にて、アン料理長はブドー大将軍に声を掛けた。時間は深夜帯に近しいが、どうやらアンは先ほどまでオネスト大臣に何かの料理を出していたらしい。カートの上には白い布がかけられていた。

 

ブドーは少し訝しりながらも、アンへと向き直る。

 

「いっつも皇帝陛下を守るって宮殿の中にいたのに、今度は革命軍を倒すために防衛してるところから進軍するって」

「・・・オネストの奴が漏らしたのか」

 

「ただの雑談よ、雑談」

 

運んでいた料理らしき何かの残骸をしっかりと布で隠しつつ、アンはブドーにそう弁明する。ブドーも何か・・・そう、その残骸が何かを察しながらも、話を続ける。

 

「・・・国を滅ぼそうとする輩を倒した後、国を腐らせているオネストたちを粛清する」

「あらそう」

 

「・・・そうなればお前は、皇族に復帰できる。皇帝陛下のために、ずっと傍にいるならば・・・そのほうがいい」

 

静かに、珍しく情を乗せた声色で語ったブドーに、少し呆気にとられたアンだったが、すぐに小さく笑って見せた。

 

「だめよ、仮にそれができたとしても私は料理人として生きるために皇族を棄てたのだし・・・それに、私だってもう皇族でいれるほどお綺麗じゃないの。分かってるでしょ?」

「・・・・・・・・・それは」

 

「確かにそうね、陛下に真実を伝えれば・・・きっと私が皇族として傍にいることを良しとするわ。でも駄目よ、一度自分の我儘を通したんだから」

「・・・・・・」

 

ブドーの言葉にそう答えて、彼は「それじゃあ、遠征がんばってね。無事に帰ってきたら是非ともお話を聞きたいわ、出来れば貴方の部屋でね?」と軽口を言いながら、そのままブドーの隣を通り過ぎて行った。

 

「・・・」

 

ブドーは静かに、彼の背中を眺める。

 

「(・・・・・・陛下のために尽くすなら、死ぬ覚悟じゃなくて生きる覚悟をしろ)」

 

 

 

 

______________一方その頃

 

 

「おいドロテア、他の奴等はどうだ?」

「うむ、イゾウは妾の護衛をしておるし、コスミナの改造も順調じゃ」

 

厨房前にて、シュラとドロテアがこっそりと会話していた。アン料理長が不在であり、タツミとラバックが寝たのを見計らって、シュラは仲間であるドロテアと会話をすることができたのだ。

 

「お主、そろそろ戻ってこんか?」

「・・・」

 

「どうした?」

 

首を傾げるドロテアに対して、シュラが苦虫を噛み潰した表情になる。

 

 

「勝手に戻ったら、今度こそ下着まで女装する羽目になる」

 

 

「本当に何があった!?!?」

 

 

シュラの言葉に慌てるドロテアだったが、シュラが手短に説明するとすぐに納得した。納得はしたが、正直引いてはいる。

 

「厨房が危ない危ない言われていたが・・・思った以上に自由度が高いのぅ」

「仕方ないだろ、自治権は厨房にあるんだからよ」

 

「・・・で、ナイトレイドの小僧どもは?」

「同僚、下手に手を出したら・・・」

 

「あー・・・そりゃ大変じゃな。まー、こっちはこっちでオネスト大臣の指示で動く。あとは任しておけ」

「・・・任せた。俺はナイトレイドでも見張るわ」

 




次回予告

たいへん!ついにナイトレイドがブドー大将軍の暗殺に乗り出しちゃったの!

でもブドー大将軍はとても強くて大ピンチ・・・!

助けてタツミ!ラバック!

血濡れ色ガールズドロップ第333話

「決戦!ブドー大将軍とアイカツ対決!」

来週も恋にドロップドロップ♡



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一ヶ月目の物語
ブドーは最後の戦いに挑み、ドロテアは恋に落ちる


『そなたのために、たとえ世界を失うことがあっても、世界のためにそなたを失いたくない。』
バイロン



 

______シスイカンにて

 

 

「これでっ、・・・終わりだっ!」

「舐めるなぁ!」

 

アカメとレオーネの二人がブドー大将軍に向かって戦っている。後方支援には革命軍の帝具持ち、名のある歴戦の兵士たちがシスイカンを落とすべく帝国兵と戦っていた。

本来ならば革命軍本体は帝都での決戦に向けて力を温存しておきたかったのだが・・・ともあれ、いつかはブドーは落とすべき相手だ。

 

前線で暗殺するために奇襲を仕掛けたナイトレイドに合わせ、帝国の一部の帝具持ちもブドーの力を削ぐために動いていた。

ブドーも連日におよぶ砦の襲撃や奇襲によって多少の疲労が溜まっていた。

 

この日のために近隣の盗賊たちを捕まえて捨て駒として使ってまで、だ。

 

・・・人権が無いだの酷いだの思うかもしれないが、これは戦争である。互いの戦力差があるなら埋めるための搦め手も必要だろうし、そもそも戦争自体に綺麗事を持ち込んで『正々堂々と戦うべきだ』だなんて、それこそただの理想論だ。

 

「この国を、皇帝陛下を守るために、貴様らのような賊に負けるわけにはいかん!!」

「それなら、国民が苦しんでもいいってのか!!」

 

レオーネの猛攻を裁きつつ、後方からの攻撃を躱し、アカメの奇襲を纏っている鎧で防いで弾き飛ばした。

ここまでなら帝国に名高い大将軍らしい実力だろうが・・・残念ながら彼はしばらく前線から身を引いていたツケが回ってきていた。

 

「(・・・連日に続く奇襲に実戦から遠のいていたせいか、早く決着をつけないと体がもたないな)」

 

ブドーは帝具であるアドラメレクに目をやる。残存電量はすでに2割しかない。

残った2割で一気に片をつけるしかないと彼は判断した。

 

奥の手『ソリッドシューター』である。

 

雷雲を呼び寄せて雷を落としてもキリがない。それだけ、前線で戦ってきた猛者たち揃いである。

素早い動きで避けられ続け、結果として無駄撃ちしてしまったことをブドーは内心舌打ちをした。

 

「これで終わらせてやろう・・・私は、貴様らを退けて帝都に帰らねばならない」

 

彼の脳裏に過るのは、皇帝陛下と、料理長のことだ。

こんな反乱なんて鎮圧して、大臣も失脚させて、はやく国を立て直さねばならない。それには、料理長を皇帝陛下の補佐としてなんとしてでも復帰させる必要がある。

 

・・・軍人である自分が政治に口を出すべきではない。

 

家訓にもあることだが、軍人が政治に介入すれば余計な力をつけて皇帝陛下が蔑ろにされる。平和な治世ならまだどうにでもなるが、腐った官僚がのさばっている現状でそうなれば・・・そう、皇帝陛下を打倒して軍事政権を確立させようとする強硬派も出る。

それだけは避けなければならない。

 

「大技ってわけね・・・それじゃあ、大ピンチってことかしら」

 

凛とした少女が現れた。

 

帝具「パンプキン」を携えた桃色の髪色の少女である。

 

「マイン!遅かったな!」

「他の兵士も倒してたんだもの。それに、こういったピンチじゃないと全力を発揮できないからね」

 

「・・・随分と余裕なようだが、貴様らはここで倒させてもらおう・・・!」

「ハッ、こっちだって・・・惚れた男を宮殿に待たせてんのよ。絶対に負けられないわよ」

 

ブドーはアドラメレクをかまえてソリッドシューターを発動させる準備を整える。残り2割を全て使って奥の手を発動させようとする。

 

「(2割でどこまで出来るか・・・この命を削ってでも、絶対に勝たねばならない。私の命は、陛下のためにあるのだから!!)」

 

マインもパンプキンを構えて力を貯めてソリッドシューターを打ち返す準備に入った。周りに帝具使いがいるとはいえ、アドラメレクと最強の大将軍の力は絶大だ。

危機的な状況から、パンプキンは更に力を高めている。

 

「(絶対にこいつを倒して、生きて帰らなくちゃいけない。タツミもラバックも宮殿でまだ生きてる・・・タツミに、タツミに絶対会うんだから・・・!!)」

 

互いに、大事な相手のために生きて戻らねばならない決意に満ちていた。

 

 

 

 

___________一方、帝都宮殿内部にて

 

 

今日の仕事を終えたドロテアは背伸びをして片付けを始めた。

オネスト大臣に頼まれた帝具の改修作業は順調に進んでいる。脆くなっていた部分を補強して、隠し玉として錬金術の術式を施しつつある。

 

「(しかし、このような巨大な帝具を作れた千年前なら、妾の研究している内容に沿った技術もあったかもしれんのぅ)」

 

帝国の帝具への資料にあった『ヘカトンケイル』『スサノオ』のような帝具人間の技術を応用すれば、それこそ永遠の時を生きれるのではないか。

そう思って彼女も資料を探したが・・・残念ながら千年前の技術に関する資料は残されていなかった。

 

「(やはり、技術の元になっていそうな東方の国じゃろうか・・・ん?)」

 

夜闇に包まれた宮殿の中庭に誰かがいるのを見つけた。

・・・どうやら、お酒を飲んでいる誰かがいるらしい。

 

「(こんな時間に中庭に?誰じゃろうな・・・・・・あぁ、そうえいばあの姿は料理長じゃな。最初にナイトレイドを連れ込まれた時以来じゃ)」

 

あの時は勢いに圧倒されたのだが、よく顔も見てないし噂しか聞いてない。

興味が湧いたドロテアは中庭で一人酒をしている料理長のアンに声を掛けた。

 

「ほぉ、こんなところで一人酒か?」

「・・・・・・?あぁ、アンタ、シュラのところの」

 

よくよく見ると、あの時と違って化粧はしていないらしく、服装も少しラフなものだ。

 

「お主、今日は化粧はしておらんのじゃなぁ」

「化粧し過ぎるとお肌に悪いもの。それに寝る前に月でも見ながらお酒でも飲みたかったしね」

 

「・・・化粧をしておらんほうが、イイ男じゃな」

 

ドロテアは隣に座って、アンの顔を覗き込むように眺めた。

 

「あら、貴方はお化粧が濃いみたいだけど」

「う”・・・なんのことか妾には分からんな」

 

「実年齢、そこそこ高いんでしょ?でも厚化粧はお肌に悪いわよ」

 

覗き込んでいたアンが逆にまじまじとドロテアを観察し始めるが、ドロテアも自分の素顔を晒したくない・・・というか、実年齢のことは正直癇に障っている。

 

「・・・ふん、妾にはとっておきの美容法があるからのぅ」

「?何を・・・」

 

ドロテアはそのままアンに覆いかぶさるように近づいて、彼の首元に牙を立てた。

 

「ッ・・・!」

「ん・・・・・・」

 

ごくり、と血を飲み干したところで、ドロテアの抱き着く力が弱まった。アンはゆっくりと引き剥がした。

 

「ちょっとぉ!アンタの帝具のことはシュラから聞いてたけどいきなり・・・」

「・・・」

 

「・・・ちょっと、どうしたのよ」

「・・・」

 

アンが声を掛けるが、ドロテアは「あ、う・・・」と顔を真っ赤にしてすぐに立ち上がって逃げ去っていった。

 

「・・・・・・なんなのかしら?」

 

 

 

ドロテアが飲んだアンの血の味は、今まで飲んだどんなものよりも甘く感じてた。例えるなら熟しきった糖度の高い果実と言えばいいだろうか。

青くもなく、腐っても無い、絶妙なまでの甘さである。

 

血が滾るような熱さではなく、体の芯から湧き上がってくるような

まるで麻薬のような中毒性がある。また飲みたいと思わせてくるものだ。

 

それでいて、あの場にとどまり続けると心臓が爆発したんじゃないかと思うほど、鼓動が早くなっていた。

 

「(なんじゃあれは、薬物か何か、違う、なんでこんな・・・)」

 

つけている帝具から痺れるような感覚を覚える。

 

もっと飲みたい、もっと欲しい、自分の餌(もの)にしたい

 

欲しい、欲しい、欲しい、欲しい

 

「(・・・帝具の暴走?違う、アブゾデックにそんなものは・・・いや、どうでもいい、またあれを飲みたい。妾の手元に置きたい)」

 

アンがいる厨房は、大臣との協定で独立している。オネスト大臣に頼んでも通るかどうかは分からない。

それこそ、オネスト大臣からすれば他人を道具以下だと思っている節がある、アンが始末される可能性もある。

 

だがどうしても、また飲みたい。ずっと傍に置いて、好きな時に飲みたい

 

「・・・・・・帝国が今のままで続けば、手に入らぬか」

 

その考えに至った彼女は、研究所で休むのを止めて踵を返した。

 

 

・・・・・・護国機神シコウテイザーの元に

 

 



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タツミとラバックは歓喜し、皇帝は残された手紙を読む

オネスト大臣「料理でめんつゆを使う料理長なんて雇えませんね」

アン料理長「・・・」
(殴りかかろうとするのをタツミが止める)
タツミ「落ち着いてください料理長!というかめんつゆは普通に使っていいだろ!あれめちゃくちゃ便利なんだからな!出汁を作る手間を省けるし美味いんだからな!あれでおでんもスープ系もごはんもいけるんだぞ!」
ラバック「めんつゆ馬鹿にすんじゃねーよ!めんつゆは万能なんだよ!めんつゆほど便利なもんはねーぞ!ぶっちゃけあれでカレーの隠し味にも使えるんだぞ!」

シュラ「お前らはめんつゆのなんなんだよ」



シスイカンでの戦闘から数日経って帝都には号外の新聞が発行された。

内容は『ブドー大将軍倒れる!シスイカンが突破される』といったものだ。

 

シスイカンでのブドー大将軍の帝国軍と革命軍の戦いは革命軍側の勝利で終わった。ブドー大将軍は直属の部下たちにより一命はとりとめたものの、意識不明の状態が続いている。

これにより軍全体の士気は下がり、シスイカンを突破された。

 

進軍速度のあがった革命軍と応援にきている援軍も合わせ、帝都は徐々に包囲網を敷かれていくことだろう。

 

・・・・・・その陰で革命軍の帝具使い、そしてナイトレイドがどうなったのかは不明である。

 

 

 

______________帝都宮殿厨房にて

 

 

この一報にタツミとラバックの二人は互いに喜び合った。

厨房での仕事を終えた後に厨房のある棟、料理長の自室で二人はハイタッチをする。

 

「やったぜタツミ!これで革命軍が帝都に集まれる」

「あぁ、あとは決戦だけ・・・それまでに俺たちもどうにかできれば」

 

二人の視線は背後へと移る。

そこにいたのは・・・

 

 

「ほんともう、あの吸血レディはあんたのところの隊員なんでしょ?ほらこれ見てよ!私の白い柔肌ボディに牙立てて・・・もう私、お嫁にいけないっ!」

「お前嫁に行く必要はねぇだろ、何言ってんだよ。頭でも打ったのか?」

 

「お嫁にもらってくれるのね。把握したわ」

「違うわ!!馬鹿じゃねぇのかお前!誰がお前を嫁にもらうんだよ!」

 

「え、じゃあ私があんたを嫁にもらうの?それはちょっと嫌ね。私にだって好みがあるの」

「なんでそうなるんだよ!?というかなんで俺がフラれたような言い方してんだ腹立つなオイ!!」

 

「ふっ、まぁ半分冗談として・・・」

「半分本気混ぜるのやめろ」

 

 

・・・そう、オネスト大臣の息子であるシュラと料理長アンの存在である。

 

シュラはもちろん敵、そして料理長のアンは現時点では自分たちの存在はあるていど肯定してくれているのだが・・・

残念だが完全な味方とは言い難いだろう。

 

ナイトレイドのメンバーとの連絡は時折とれる程度ではあるが、宮殿内部の情報を手に入れるわけでもなし。

あくまでも厨房の自治権を最後まで保つつもりでアンは動いているのだ。

 

「やっぱあれだよな、脱走は無理そうだし」

「そもそもエスデスからの監視もある程度・・・というか、毎日顔をのぞきに来るし」

 

「ほんとお前、そこは羨ましいわ」

「俺にはマインがいるんだから無理だ、無理」

 

 

 

________________同時刻、皇帝の私室にて

 

 

帝国の皇帝陛下にもブドー大将軍が意識不明の重体だと一報は入っていた。だが、彼にはブドー大将軍を見舞うことが許されなかった。

皇帝自身は見舞うことだけでもしたかったのだが、オネスト大臣に諭されてとりやめたのである。

 

革命軍・・・皇帝陛下にとっては反乱軍でもある存在が帝都に近づいている。

 

その不安感に苛まれる皇帝の元にブドー大将軍の家に仕えている執事がやってきた。もちろんこれはオネスト大臣も了承済みであり、持ち運んだアップルパイや花束などにも不審なところは無かったために通されたのだ。

 

「陛下、この度はわが主人への見舞いのお気持ちだけでも感謝を述べようと・・・」

「そうかしこまらなくても良い。余にとってはブドーも国を守るための大事な臣下だと思っている。早く回復すると良い」

 

「そうですね。それとこれを・・・我が家のシェフが作ったものです。もちろん、大臣殿の部下も毒見をいたしましたし、大臣殿にも差し入れたものですので・・・」

 

執事が取り出したのは小さなパイや小さな花束である。

 

「そうか、なんだか気を使わせてしまって悪いな」

「いえ、陛下のお気持ちを頂くだけでは・・・・・・それでは」

 

それだけ伝えて、執事は部屋から出て行ってしまった。

 

「・・・まるで余を見舞ったようなものだな。ブドーの家の者にも心配をかけてしまったのか」

 

独り言を呟きながら花束を机に置き、小さなパイを食べようとすると・・・

パイの下敷きになっている紙の裏に何かあることに気が付いた。どうやら手紙が張り付けているらしい。

 

「・・・?なんだこれは」

 

手紙にはブドー大将軍が使っている封蝋が使われ、ブドー大将軍の直筆で名前が書かれていた。

皇帝はその手紙の封をあけて中身を読み始める。

 

 

【この手紙を読んでいるということは、私は死んだか、それとも事実を伝えることができない状態なのでしょう】

 

【陛下にお伝えしたいことがあります】

 

【陛下以外の皇族はもういないとされていましたが、一人だけ継承権を廃したゆえに残っている元皇族がいます】

 

【厨房の総料理長アニエル、彼が貴方と同じ皇族です】

 

【もしも私がいなくなった場合は相談すると良いでしょう】

 

【あの者もまた、陛下が信頼するに足る人物です】

 

【前皇帝陛下と皇后と親しくしていた、幼馴染なのですから】

 

 

・・・それだけが短く書かれていた。

 

「・・・料理長が、余の・・・」

 

しかしなぜこれを隠すように渡されたのか、皇帝は疑問に思いながらも手紙を枕の中に隠すことにしたのだった・・・

 



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ドロテアは執着し、クロメは恋し、そしてウェイブは虎穴に入る

『恋をするとだれでも自分を欺くことから始まり、他人を欺くことで終わるのがつねである。これが世の、いわゆるロマンスである。』
モーリス・トンプソン


【sideドロテア】

 

 

他人に対して「欲しい」と思ったのはこれが初めてかもしれない。

甘くて濃厚でもっと飲みたくなって、すべてを味わいたいと思えるほどの熱量が自分に湧き出てくるなんて。

 

長く生きたい、美しく生きたい

 

それと同じほど、この身はあの男を渇望している。

理性で望む欲ではない、理性で制することのできる欲ではない。

 

「(あれでシコウテイザーは良しとしよう。帝都から脱出できるルートも確保した)」

 

大臣が望む改良ならぬ改悪・・・それとは違ったメンテナンスを施してきた。あれならば邪魔な人間が追ってくることもない。

革命軍でも帝国軍でも、邪魔はさせない。

 

「(あとはシュラには交渉しておこう。あの料理長と一番親しい人間じゃからな)」

 

利益より何より、またあの血を飲みたくて仕方がない。

 

厨房の近くまで行くと、シュラと料理長の二人が何かを話している。料理長は布の被ったカートを押しているようだが……少しばかり、嗅ぎ慣れた匂いがした。

 

人間の血液の匂いである。

 

「ブドーの親父が負けちまったからな。革命軍も援軍を含めて集まってきてんだ。お前も帝国の後方支援をやれよ」

「あらぁ、厨房は自治権があるのよ?戦だろうとも宮殿で食事をとる護衛も侍女もいるでしょう。」

 

「馬鹿か、いつまで屁理屈こねてんだよ!ナイトレイドの奴らもいつまでも庇ってんじゃねぇ」

「庇う?いやねぇ、あの子達は厨房の新入りなのよ。帝国が無くなるまではうちの新人なの。もちろんあんたもだけど」

 

そんな雑談をしているうちに、シュラが妾に気がついた。

 

「よぉ、ドロテア。どうしたんだよ」

「あらやだ、この間の痴女じゃない」

 

「失礼じゃなぁ・・・っぅ」

 

ああ、甘い香りがしてたまらなくなる。ニヤけないようにしながら、シュラたちに気が付いた。

 

「シュラに話があってな、借りても良いか?」

「おい、借りるって言い方すんなよ。俺はモノじゃねぇんだぞ」

 

「いいわよ、ちゃんと返してね」

「お前もモノ扱いか?!」

 

早くしないとまた飲みたくて襲ってしまいそうになる。我慢じゃ、我慢・・・好きなだけ飲むためには辛抱せねばならん。

 

「それよりこんな夜更けに料理とは・・・。大臣への夜食とみたが、人間の血の匂いがするのぅ」

「嗅ぎ慣れてるみたいね。・・・あの男はそういう趣味があるから。私だけが作るようにしてるけどね」

 

人間で料理、か。

帝国の闇は深いのぅ・・・まともそうな、この料理長でさえ人間を料理させられているのだから。

 

「親父も酔狂だよなぁ。美味いらしいけど」

「アンタはやめときなさい。それじゃ、そろそろいくわ」

「おう」

 

そのまま料理長は去っていく。すぐにシュラを人気のない場所まで連れてきた。

 

「シュラ、お主に話がある。大事な話じゃ」

「なんだよ、改まって」

 

「妾はな、あの料理長が欲しい」

「・・・はぁ?」

 

シュラが怪訝そうに妾を見てきた。まるで異国の言葉を聞いて理解できてないような表情である。

 

「お主も手伝え」

「・・・ドロテア、どうしたんだよ」

 

大臣の依頼はこなした振りはできたし、あとは戦争の混乱に乗じて逃げるだけだ。

だが、念には念を入れておく。最後の切り札だ。

 

「妾はあのアニエルという男がどうしても欲しい。じゃから、革命軍との決戦になったら・・・妾とアニエルだけでもシャンバラで移動させてほしい」

「なんでだよ。つーか、欲しいなら今からでもモノにしたらいいだろ。」

 

「それは駄目じゃ!あれは毎日飲みたい血の味で、昂ってくるような・・・とにかく妾だけのものにしたいんじゃ!」

「どうしたんだお前。まさか・・・あいつに惚れたのか?」

 

その言葉を聞いて、頭の中が停止する。

 

「・・・惚れた?」

「いや、なんでそんな不思議そうなんだよ」

 

「妾はまたあやつの血が飲みたくて・・・それで・・・」

「親父に言えばいいだろ。その気になりゃあなんでもできるだろ。なんで逃がすって発想なんだよ。確かに親父は邪魔者は殺すけど・・・」

 

そう言われたらそうだ。

大臣は邪魔者は殺すだろうが、無力化すれば手は出さない可能性もあった。

 

・・・それなのに、どうして即座に自分の手元におくために、生かして逃がそうとしたのだろうか。

 

 

 

【sideアン料理長】

 

シュラのところの吸血レディの様子のおかしさに、ようやく合点がいった。

多分、私が摂取している危険種の成分のせいだろう。

 

その危険種は他の大型危険種などに寄生して自分の身を守らせる性質がある。

 

毒殺されないように毒の耐性をつけるため

もうひとつは、とある目的のためにお酒に混ぜて飲んでいたけれど・・・

 

「摂取直後の血液を直飲みしたからかしら・・・あらやだ、怖いわね」

 

私に対して理由も分からずに保護したくなるとか、そんなところかしら。

 

・・・でもまぁ、いまのところはいいわ。

 

後は、革命軍との戦いの日までの辛抱だから

 

 

 

大臣にいつも通りに食事を出して、明日の仕込みをしていた子たちに支持を出そうと厨房に戻ろうとしたら大きな物音がした。何かが滑り込んで厨房の中に飛び込んだような・・・

 

「・・・いったい何かしら」

 

 

 

 

【sideクロメ】

 

ウェイブからお姉ちゃんの伝言を聞いた。

これが最後になるだろう・・・私が生き残ってお姉ちゃんを八房に加えるか、私が死ぬか。

 

「どうするつもりだ、クロメ」

「行くよ。行くに決まってる」

 

きっとお姉ちゃんは待っていてくれる。ちゃんと二人きりで、戦うために。

 

「駄目だ。罠かもしれない・・・せめて隊長に報告でも」

「嫌。お姉ちゃんはそんなことしないもん。私には分かる」

 

真面目なお姉ちゃんのことだから、約束は守ってくれるはずだ。

・・・私の体も、もう長くはない。

 

「私はお姉ちゃんを殺して一緒にいたいし、お姉ちゃんになら殺されたい」

「っ・・・!俺は嫌だ!大事な仲間を守りたいんだ!」

 

「大事な仲間、か・・・」

 

本当にウェイブは優しい。でも、仲間としての優しさというなら・・・このまま見送って欲しい。

そんな優しさは、いらない。

 

「私は行くから、行かなくちゃいけない。止めないでほしい、邪魔しないで欲しい。誰にも言わないで」

「クロメ・・・」

 

「暗殺部隊にいた私は、帝国のために・・・死んだ仲間のために生きて死にたい。それしかないし、許されないの」

「・・・」

 

「だって私は、帝国の暗殺機関の人間だから」

「・・・!・・・そうか、なら仕方ない。それなら俺にだって考えがある。」

 

ウェイブはそう言って私を引き寄せたかと思うとお姫様抱っこをしてきた。

突然の抱擁に驚くうちに、ウェイブはどこかへと走り始める。

 

「う、ウェイブ!?どこ行くの?!」

「後で隊長に謝らないとな・・・」

 

一体どこに行くつもりなのか、その前にウェイブと至近距離でドキドキしてしまう。

 

私はウェイブがどこに向かっているか理解したと同時に厨房に飛び込む形になった。ウェイブが私を庇ったのはいいのだが勢いよく飛び込んだせいか食材まみれになってしまった。

 

「いたたた、クロメ!?怪我は!?」

「ない、けど・・・ウェイブ、いったいどういうつもり・・・」

 

 

 

「あらぁ、厨房に飛び込んできたおバカさんたちはあなた達かしら?」

 

 

 

その場が凍るような声色が聞こえてきた。

 

おそるおそる振り返れば、そこには自称アン・シャーリーこと、アニエル総料理長が立っていた。

 




当初の初期案とルートが変更されました。・・・とだけ言っておきます


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ウェイブは叱られ、ラバックとタツミは遠足の準備をする

執筆を始めて六時間、六行の文章が完成した


惨憺たる有り様に厨房の主である料理長アンは頭を抱えた。このところ、予定していたレシピを変更することが増えている気がする。

気がする、というよりはトラブルによって変更せざるえなくなっているが正しい。

 

彼はウェイブに冷ややかな視線を浴びせながらも、厨房に飛び込んできた言い分を聞いていた。

ラバックやタツミ、シュラは片付けを手伝いながらも話をかいつまんで聞いている。

 

「それで、クロメがアカメの指定した場所に行くって・・・だから俺・・・」

「ウェイブのバカ!何も厨房になんか・・・」

 

クロメの言葉に料理人たちが視線を向けるものの、料理長が制止した。

 

「おやめなさいな。この子にとっては厨房より、姉のところに行くほうが良かったんでしょ」

「・・・」

「ここは自治権がある。だからクロメを止める時間稼ぎだって」

 

できる、と言いかけたであろうウェイブに、アンは軽く頭をチョップした。

軽く、というよりはほとんど痛くもないものだ。

 

「このお馬鹿。アンタ、それはこの子にとっては大きなお世話よ。邪魔する覚悟もその責任をとる覚悟もあるの?」

「なっ・・・お、大きなお世話って」

 

「女の信念をかけた戦いを止めるつもりなのってことよ。それなりに責任持ちなさい。」

「っ、俺はクロメに無理なんかしてほしくないだけだ!大事な仲間を見殺しになんかできるかよ!」

 

「・・・呆れた。惚れた女のために止めたいならまだしも、仲間だから助けるの?」

「ほっ、惚れ・・・」

 

「あたしはてっきり、ウェイブちゃんとクロメちゃんは恋人かと思ってたけど」

 

恋人という言葉にウェイブは呆気にとられ、クロメは状況を少し忘れて頬をほんのり染めて視線を逸らした。

 

「恋人、って・・・」

「ウェイブと恋人・・・」

 

「あらやだ薮蛇?クロメちゃんを庇ってウェイブちゃんがシュラを殴り飛ばした噂聞いてからてっきり」

 

「こここ、恋人って、俺はその、クロメを守りたくて、それで・・・!」

「・・・」

 

クロメの様子に気が付いた料理長筆頭に料理人たちは目をつけた。

 

「あらやだ~!青春?青春なの?あまずっぺぇ香りがしてきたわね~!」

「ちょっとちょっとぉ!はっきりしなさいよ、守りたいとかかっこいいこと言っちゃって~」

「ウェイブちゃんにそんなの言われたら普通に大興奮よね。羨ましいわ~」

 

その様子にタツミは苦笑し、ラバックは血の涙を流しながらウェイブの肩に手をおいた。

 

「お前も・・・」

「えっ」

 

「お前もタツミみたいにモテてんのか!無自覚とか腹立つから殴らせろ!頼む!一発だけでいいから!」

「なんだいきなり!?」

 

完全に私怨である。

 

シュラはというと・・・

 

「なんだよ、惚れてるのか?薬漬けされてる女だぞ」

 

・・・という有り様である。

なお、料理長が即座にビンタをかまして黙らせた。

 

「まぁいいわ。厨房に入ったならあたしの管轄よ。クロメちゃんとアカメちゃんの決闘は許可するわ」

「!」

「料理長・・・」

 

「ただし、ウェイブちゃんの意向も汲んであげなきゃね」

 

その言葉に場が静まった。

 

「あたしとウェイブちゃんがクロメちゃんについていくわ。その上であたしがアカメちゃんと交渉してあげるから」

「交渉って・・・」

「それは後よ。あと、ウェイブちゃんはこの間にしっかり考えときなさい。本当にクロメちゃんを助けたいなら、責任の取り方ぐらい・・・わかるでしょ?」

 

そこまで言って、料理長は料理人たちに今後の指示を出していた。

駄目になった食材のチェックや明日以降のレシピ変更などの通達である。

 

そして・・・

 

「タツミちゃんとラバックちゃん、あとついでにシュラもついてきなさい」

 

「俺達も、ですか」

「はぁ!?なんでシュラの旦那まで連れてくんだよ?!?」

「俺を巻き込むな!あのアカメに殺されたらどうするつもりだ!?」

 

落ち着くタツミとは反対にラバックとシュラは料理長に抗議する。

 

「まずタツミちゃんとラバックちゃん、アンタたちのお仲間のこともあるでしょ。顔見せぐらいはさせたいし、ウェイブちゃんが暴走したときに止めれるでしょ?」

 

「それはまぁ、帝具があればそれなりには。俺もアカメがクロメと決着をつけるなら見届けたいし」

「そりゃあそうだけど・・・シュラの旦那は?」

 

「放置したら逃げるでしょ?」

「「なるほど」」

 

「納得すんじゃねーよ!」

 

シュラはタツミとラバックに舌打ちし、アンへと掴みかかる。

 

「こいつらを逃がすつもりじゃねぇだろうなぁ?俺が折角追い込んだんだぞ」

「あらやだ。逃がすわけないでしょう?物覚えのいい新人二人なんだから」

 

「んなこと言って・・・」

「ちなみにあんたも帝具は持っておきなさい。後で返してあげるから」

 

「よし、乗った」

 

シャンバラを返すという言葉にシュラは直ぐ様乗り気になった。

もちろん、アンとしては一時的に返すという意味合いなのはシュラもわかっている。

ただし・・・返されたら是が非でも返却するつもりはないわけだが。

 

「じゃあ軽くお弁当とおやつでも作るわ。ウェイブちゃんとクロメちゃんも準備して。ほら、タツミちゃんたちも」

 

 

かくして、アカメとクロメの戦いに遠足気分でアン料理長が行くことになったのであった。

 




※前書きのはネタではありますが酷いときは六行も進まないのはザルにあるという現実


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オネェは外出し、アカメとクロメは殴り合う

ウェイブ「恋人といる時の雪って特別な気分に浸れていいよな!」
クロメ「うぇ、ウェイブ…」

タツミ「恋人といる時の雪って特別な気分に浸れていいよな…」
マイン「も~…!タツミったら…!」

アン「恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて私は好きね」(両腕にラバックとシュラを捕まえてる)
ラバック「俺は違う!!!!!!!!!!!」
シュラ「俺を巻き込むんじゃねぇ!!!!!!」


アカメは教会で一人待っていた。

ウェイブにクロメへの伝言を託し、クロメがこの場所に来てくれることを理解して待っていたのである。

 

静かな夜の廃教会でふと息を吐いて、目を閉じる。

 

ここで説得が出来なければ最愛の妹と殺しあうことになる。

 

その覚悟を彼女は固めていた。・・・いや、固めていたというのはおかしいかもしれない。元々、その気持ちは固めていたのだ。

だが、もしも・・・実際に殺しあうまで戦ってしまったとき、本当に殺せるかどうか・・・

 

「・・・実際は分からない、か」

 

誰に聞かせるまでもなく呟いた。

 

ふと、気配を感じる。

協会の外に複数・・・殺気の類かと探ろうとした矢先に「おーい!」と聞きなれた声が聞こえた。

 

もしもクロメがやってきたときに帝国の増援が来た場合、レオーネが足止めするために監視していたはずだ。

そのレオーネの声が聞こえたため、アカメも少し警戒して入口のほうへと振り返った。

 

「レオーネ・・・それに、タ・・・タツミにラバ!?」

「ちょっとばっかしギャラリーが増えたからさ」

 

「久しぶりね」

 

クロメ、ウェイブ、シュラを引き連れて現れたのはアン料理長である。

彼の姿を見てアカメは目を見開いて驚いた。ウェイブはまだしも、暗殺対象であるワイルドハントのリーダーに宮殿厨房の料理長が現れたのだから無理はない

 

「・・・・・・アニエル料理長」

「アンって呼べっつってんでしょ」

 

オネェの地声が教会に響いた。

 

 

~それからどしたの~

 

 

「とりあえずほら、二人分の特製弁当よ。クロメちゃんは薬物をなるだけ抜くような弁当にしたから食べなさい」

「料理長、そんな料理まで・・・クロメのために・・・」

「私はそんなの・・・」

 

クロメは弁当を突き返そうとするが、アンはちらりとウェイブへと視線を向ける。

 

「食べないとウェイブちゃんをこの場で引ん剝くわよ」

「食べる・・・!!」

 

クロメにとっては最高の脅迫になったらしい。

大人しくアン特製の弁当を食べ始めた。

 

・・・そんなこんなで、一同はなぜかピクニックのようにレジャーシートを敷いて弁当を食べることになった。

もちろん、シュラはアン料理長の隣に強制的に座っているため逃げようがないことを記しておこう。

 

「噂の料理長・・・確かに強そうだけど、なんでこんなことになったんだか」

「それはアンさんに聞かないと・・・」

「だよな。タツミも俺もそこんところ聞いてませんし」

 

そう言いながらも弁当をしっかりと食べるレオーネたちに対し、ウェイブは箸もあまり動いてなかった。

それはそうだろう。これからアカメとクロメの二人が戦うことになる。

・・・どちらかが死ぬまで、だ。

 

「あの、いったいどうするつもりなんですか?」

「そりゃあ、女同士で決着つけさせるわよ。アンタもタツミたちも邪魔しないようにね」

 

「でもっ、それだと・・・クロメが死んだら」

「は?殺しあいさせるわけないでしょ」

 

アンの言葉に一同はアンへと視線を向ける。

 

 

「言っておくけど、ウェイブちゃんもクロメちゃんもうちの厨房に入ったからにはうちの新人よ。イキのいい新人を逃がすわけないでしょう?」

 

 

その言葉を向けてから、アンはレオーネとアカメにも視線を向ける。

 

「・・・ってことだから。あたしから提案があるのよ~」

「提案だぁ?どうするつもりなんだよ」

 

レオーネの言葉に「あらやだこわ~い!」とわざとらしくシュラに抱き着こうとするアン(しかしシュラはすぐさま避けたのでずっこけたが)

 

アンの出した提案とは・・・

 

「素の実力でアカメちゃんとクロメちゃんに殴り合いで解決してもらうわ。気絶するか白旗をあげたほうが負け。殺しは無しで頼むわよ。むしろ殺しあいになりそうならアタシも止めに入るし・・・ウェイブちゃんも止めるでしょうから」

 

その提案にナイトレイドのメンバーは少し黙っていた。

殺しあいにならないなら、それはそれでよい。

 

彼らも好んで姉妹に殺しあってほしくはないのだ。どうあがいても無理なら、どちらかが死ぬまで決着をつける方法をも受け入れることができているという話なのだから・・・

 

ただ、ウェイブは「料理長!ありがとうございます!」と嬉しそうに喜んだ。

彼はどうあっても、殺しあうようなことになってほしくないからである。

 

「んで、勝敗はどうすんだよ」

 

シュラに問われ、アンがさらに続けた。

 

「アカメちゃんが勝った場合はクロメちゃんはアカメちゃんの提示する湯治場に行くこと。ウェイブちゃんは付き添いで治るまで世話しなさい」

「そんなっ、私はみんなみたいに・・・」

 

「恋人同士でしっぽり温泉旅行をプレゼントするんだから黙っていきなさい!ほんとに二人ともにぶちんなんだから!」

 

「「!」」

 

その言葉にウェイブとクロメが顔を見合わせた。

 

「それじゃあ、ナイトレイドのアカメが負けたときはどうするんだよ」

 

 

「うちの厨房にスカウトしたいわ」

 

 

その言葉に、一瞬で場が静まった。

 

「・・・・・・お前、それマジで言ってんのか」

「なによ。うちはいつだって人手不足なの!・・・で、どう?」

 

その言葉に、タツミとラバックは少し不安そうにアカメへと視線を向ける。

レオーネは・・・親友の決断に従うらしい。

 

「・・・・・・あぁ、わかった。もしも私が負けたら、料理長の指揮下に入ろう」

 



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タツミはウェイブを激励し、姉妹はキャットファイトをする

オネスト大臣「よくわかる寿司の作り方を紹介しましょう 」
アン料理長「海苔、サーモン、酢飯、しょうゆ。基本的な寿司の材料よ。お好みでサーモンを他の具材にしてもいいわ」
オネスト大臣「はじめに、海苔でスシ飯とサーモンをやさしく巻いて………………あっ」
アン料理長「ちくしょう!だいなしにしやがった!お前はいつもそうだ。このスシはお前の人生そのものだ。お前はいつも失敗ばかりだ。お前はいろんなことに手を付けるが、ひとつだってやり遂げられない。誰もお前を愛さない。」

シュラ「前書きのネタ長ぇよ!!!」


アニエルことアン料理長の帝具【美食礼賛 イーターオブラウンド】。

どんな生き物でも仕留め、どんな食材でも美味しく食べれることのできる後方支援型の帝具である。

 

アンはこれを攻撃としても使用しているが、やはり本領を発揮するのは「料理」である。

 

特殊警察イェーガーズのクロメの肉体は薬物汚染により命を削られていた。

このままでは万全状態のアカメに対して、彼女が更に強い薬物を摂取するのはアンには予測できた。

 

「あくまでも一時的よ。本当ならしばらく食べて療養すれば完全に毒も抜けるし寿命も延びかねないんだから!」

「料理長・・・!クロメのために、ありがとうございます!」

 

だからこそ料理長は、クロメの身体から薬物を抜くような薬膳料理を弁当にしたのだ。

だが、あくまでもこれは一時的なものである。

 

「・・・アニエル、私にもしものことがあったらクロメの治療も頼めるか?」

「あら、弱気なことを言うわね」

 

「いつ死んでもおかしくないのが暗殺者だ。それにこの帝具なら、クロメの助けになる」

「クロメちゃんはもううちの厨房の子よ。本人が嫌がっても食べさせるわよ」

 

アカメの言葉にキッパリと「助ける」と言い切ったアンに、ラバックやタツミも少し笑みを浮かべた。

 

シュラは面白くもないが、とにかくナイトレイドの情報を少しだけでも得ようとしていた。

本当はアカメの持っている帝具【一斬必殺 村雨】の奥の手の情報が欲しかったが・・・自身の帝具が戻ってきたことでとりあえず満足することにしたのだ。

 

「それじゃあ、一本勝負よ。先に気絶させるまでとことん殴りあいなさい!」

「へぇ、キャットファイトってことか」

 

「・・・」

「んだよ、こっち見て」

 

「シュラ、あんたがキャットファイトとか言うとポルノ作品のほうを指してるみたいね。私に対してセクハラよ、慰謝料はアンタの乳首開発で許してあげる」

「顔が変形するまでぶん殴るぞ!!!」

 

 

閑話休題

 

 

さて、アカメとクロメの戦いが始まった。

アカメの攻撃を的確にガードし、反撃を出すクロメ・・・

 

実力をいえばアカメに軍配が上がる。

しかしクロメはアカメの実の妹である。彼女の手癖や次の攻撃の一手を予測し、対応することならば多少できるのだ。

 

「アカメも強いけど、手の内がわかってるクロメも中々だな」

「・・・これが殺しあいだったら、そう思うと怖いけどな」

 

アカメを応援するレオーネの横で、ウェイブは真っ直ぐにクロメを見ていた。

 

「ってかさ、さっきのオネェが温泉旅行だのなんだの言ってたけど、アンタってクロメの恋人なの?両思い?」

「ッッ!?」

 

直球なレオーネの言葉にウェイブの顔がトマトのように染まってしまった。

 

「へぇ~、なるほどねぇ。アカメもさっき気にしてたみたいだし?アタシの親友に認められるイイ男なのか?」

「ナッ、ナイトレイドにそんなこと言われることは・・・」

 

「そうなんですよレオーネさん、こいつアカメちゃんの妹に惚れてるかもしんないんですよ」

 

ここぞとばかりにラバックが告げ口のようにレオーネへと話しかける。

 

「なっ、いや、クロメは大切で、大切だけどそういうのじゃ」

 

なんとか恥ずかしくなりつつも否定しようとするウェイブにタツミが肩に手を置いた。

 

「ウェイブ、それでいいのか」

「な、なんだよタツミ」

 

「・・・クロメを守るには、クロメを選んでやらなくちゃいけないんだ」

「!」

 

タツミの真面目な態度に、ふざけていたレオーネとラバックも顔つきを変える。

 

「暗殺部隊は薬物以外にも帝国から離れないように処置をしてるって、厨房の人達が話してたんだ」

「・・・でも、俺は帝国海軍に恩師がいる。帝国を裏切れないんだ」

 

「じゃあ、クロメをこのまま死ぬまで戦わせていいのか。本当に大事だから、わざわざ厨房にきて助けてもらったんだろ?」

「・・・っ、あぁ。あのままだったら、クロメは一人でここに来てた。だから・・・」

 

ウェイブの言葉にタツミは彼の頬を軽く引っ張った。

 

「にゃっ、にゃにひゅんひゃよ!」

「答えはもう出てるだろ。惚れた女を守ってやれよ」

 

 

一方、アカメとクロメの二人は戦いながらも言葉を交わしていた。

 

「お姉ちゃん、帝国に戻ってきて!エスデス将軍ならきっと・・・!」

「それは、できないっ!」

 

クロメの蹴りをガードし、体勢を崩してマウントをとろうとするアカメ。

しかしクロメもアカメの隙をついて、自身の体勢を立て直した。

 

「・・・ところでウェイブと付き合っているのか?」

 

攻撃を繰り出す前にアカメはクロメへと尋ねる。

 

数秒、クロメの動きが止まった。しかしすぐに攻撃を繰り出す。しかしその数秒でアカメも体勢を直してクロメと距離をとった。

 

「お姉ちゃんには関係ないよ!」

「ある。ウェイブがお前の恋人になるならば、幸せにできるかどうか見極めないとならない」

 

至極真面目にアカメは宣言した。

 

「ちっ、ちが、違うもん!まだ恋人じゃ・・・」

「まだ・・・?まさかクロメ、お前の片思いなのか?!ウェイブが断っているなんてことは・・・」

 

話の展開に、つい周囲の視線はウェイブへと集まった。

 

「クロメが嫌いか?」

「うぇぇ?!いや!そんなわけ・・・」

 

「クロメが可愛くないのか?」

「か、可愛いに決まってるだろ!!」

 

「じゃあクロメが好きなのか」

「すっ、好きだけど!好きだけどそういうことじゃ・・・あっ」

 

言質をとったアカメに対して、クロメは顔を赤らめてその場に蹲ってしまった。

 

「アカメ、勝っちゃったねぇ」

「あれを勝ったってことでいいのかよ、姐さん」

「アカメ・・・」

 

「おいこれ、どうすんだよ」

「不戦勝でアカメちゃんの勝ちでいいんじゃないかしら?」

 




ぐだぐだっぷり半端ない、次回はタイマン〆


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そして舞台の幕があがる

ようやく最終決戦ステージ


横やりが入ってなぁなぁになったものの、少しばかり落ち着いたのかクロメも先ほどより調子を戻した。

真面目な戦いが一転して、少し和やかになった・・・そのせいか、レオーネやタツミたちはウェイブと話している。

 

お互いに敵同士とはいえ、今回は姉妹同士の決闘・・・という体裁だ。

他の帝国軍も革命軍もいない。それに何故か彼らからは敵対心が削がれていた。そう、異様なほどに。

 

その中でもシュラだけはアンに近寄って耳打ちをした。

 

「お前、あいつのヤク抜きのほかに何したんだよ」

「・・・あら?分かるの?」

 

アンの言葉に、シュラは少し溜息を吐いて言葉を続ける。

 

「当たり前だろ。ヤク抜いたぐらいであんなに気が抜けるかっての。お前のことだから何かしたんだろ」

「そういう察しのいいところ、ほんと父親に似たわよね~」

 

彼の言葉を肯定したアンはシュラに分かるようにこっそり耳打ちする。

 

「今日のお弁当、デザートあったでしょ?警戒心を薄れさせる料理なの。他にも色々仕込んだわよ、食べ合わせで発揮するものとか」

「・・・・・・えっげつねぇよなぁ」

 

幼馴染でいつもはおちゃらけて生きているような人間に見えても、やはり彼も帝具所有者、帝都宮殿の厨房を一任されている料理長。

そして何より、あのオネスト大臣が処刑することなく生かしている現皇帝陛下以外の唯一の皇族。

 

この悪鬼外道が蔓延る帝都宮殿内部において生き残っているだけはある。

 

「あら?ナイトレイドを相手に敵陣に飛び込むようなものよ?これぐらいは定石中の定石よ」

「・・・ってことはなんだよ、まだ何かあるのかよ」

 

「ふふ、手の内は全部明かさないものよ?」

「あぁん?いいだろ別に」

 

「仕方ないわね。じゃあベッドの中でいくらでも教えるわ」

「二度と聞かねぇ、教えてもらわなくて結構だ」

 

そんな会話もつゆ知らず、姉妹同士・・・そしてナイトレイドとイェーガーズの垣根を越えて雑談を交わしていた。

そんな光景を眺めつつ、アンは懐かしそうに微笑んだ。

 

「昔はこういう景色、いくらでもあったんだけれどね」

「・・・んだよ、今度は昔語りか」

 

「いいじゃない別に。昔を懐かしむことぐらい」

「ガキの頃のことなんざ思い出してどうなるってんだよ」

 

「・・・そうねぇ、言われてしまったらそれまでだけどね」

 

 

 

さてさて。

今回、アカメ側が勝利した。つまりは・・・

 

「そういうわけで、ウェイブちゃんとクロメちゃんは温泉旅行よ」

「・・・料理長」

「でも、エスデス隊長が・・・」

 

「後は任せなさい。こっちで後始末しとくから」

 

クロメとウェイブの背を押して、胸元から小さなメモ帳を取り出した。

それをウェイブに手渡して、アンは「持っていきなさい」と一言付け加える。どうやら何かの料理のメモ帳らしいが・・・

 

「それ、薬膳料理とかのレシピ。薬抜きするなら役立つわよ」

 

「・・・アンタ、帝国の料理人にしてはまともな奴だな」

 

レオーネの言葉にタツミとラバックの二人も頷いたが・・・アンは少し苦笑いをしている。

自分がどうあるかは何も言わないまま、彼は二人を見送った。

 

「・・・さーてと、タツミとラバックは無事なのはボスに報告しないとな」

「あぁ」

 

「お前らマジで帰るのかよ」

 

シュラの言葉にレオーネとアカメは二人で顔を見合わせて頷いた。

 

「あったりまえじゃん。卑怯な真似は外道相手にやるもんだし」

「私はそういうつもりで約束した。ここで約束を反故にすればタツミとラバックの身が危ない」

 

「・・・」

 

シュラがズボンの後ろに入れてあるシャンバラに手を伸ばしかけたが、その前にアンが彼の臀部へとがっつり手を食い込ませてシャンバラをとらせなかった。

 

「!?!?」

「はーい、それじゃあおやすみなさいね~」

 

「うっわ・・・」

「こわ・・・俺も気をつけよ・・・」

 

タツミとラバックは明日は我が身と震えながら、その光景を間近で見ていた。

無論それはレオーネとアカメにも分かったが、レオーネは笑いながら帰っていき、アカメは小さく感謝の言葉だけ伝えて静かに去っていく。

 

「おっ、おまっ、お前エエエエエ!!!!触るんじゃねぇよ!」

「だってシャンバラで移動しようとしたでしょ?確かにアカメちゃんは帝国でもマークしてるから予想は・・・」

 

「それもだけど!!!揉むな!!!ここぞとばかりに触っただろ気持ち悪いからやめろ殺すぞ!!!!」

「どうせスタイリッシュにも揉ませてたんでしょ!!この浮気者!!」

 

「うるせぇよしてねぇしやめろ!!!何もさせてねぇからな!?勘違いするなよ!?」

 

シュラのその言葉に、アンは真顔になった。

そして・・・

 

 

「え、じゃあアンタ処女なの?」

 

「ほんとお前殺すぞ」

 

 

閑話休題

 

 

こうして彼らは宮殿へと戻り、タツミたちは明日の仕事もあるため就寝することとなった。

・・・ただ一人、アンだけはエスデスのところへとやってきた。

 

「・・・深夜にどうした?」

「ちょっとね。エスデスちゃんの部下のこと。厨房に飛び込んだことぐらい、噂で流れたでしょ?」

 

「・・・・・・」

「想定通りよ。帝国にとっては痛手だし、いくらなんでもエスデスちゃんの部下を二人も欠員させたんだからツケはちゃんととるわよ」

 

エスデスの私室の前でアンは答える。

その言葉にエスデスは彼を部屋の中に通して、少し笑みを浮かべた。

 

「なるほど、帝具使いとして戦うということか」

「ほんともうやんなっちゃうけど、ね?こういうところでツケを支払うのがトップの仕事ってものよ」

 

「・・・意地でもナイトレイドの引き渡しはしないのか」

「そりゃあね。代わりに帝具を抑えてるから大臣は許してるのよ」

 

そんな会話をしていると、小さく扉がノックされる。

アンとエスデスは少し身構えるものの、入ってきたのは・・・皇帝陛下であった。

 

「・・・その、すまない。料理長に話があって・・・」

「・・・陛下、このような時間帯にどうして」

「そうですよ~?アタシが魅力的だからって夜のお誘いにはまだ・・・」

 

 

「料理長は、皇族、なのか?」

 

 

その言葉に、アンの表情が凍った




臆病者は、勝つと分かっている戦いしかできない。だがどうか、負けると知りつつも戦える勇気を。時に、勝利よりも価値ある敗北というのもあるのだから。

________________ジョージ・エリオット


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