白き鋼のアルペジオ (神奈翔太)
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全ての始まり

ssを書くのは初めてなので「これ違うだろ」という点でもご了承ください。


「あーあ。いいことないなぁ」

 

今年で高校一年になる宮本 紀伊は悩んでいた。確かに自分は第一志望の高校に死ぬほどの猛勉強をして、何とか合格を勝ち取る事ができたがしかし元の中学校ではあまり目立ったような事をせずにいたため、高校ではあまり友達といえるものが出来なかった。いや、それはまだよかったのかもしれない。姉は自分が高校に受かったのを妬んで

 

「あんたは恵まれてるね。今はあんたの顔なんか見たくない!」

 

と言って家を出て行ってしまった。今も姉は帰ってきてはいない。

 

そしてそんな状況の中で今は高校の帰りである。

 

「いつになったら、友達が出来るんだろうか?」

 

今までのことで紀伊は後悔の連続だったが今は大切なテストの時期だ。しっかりしないと。

 

そして紀伊は交差点にとおりかかった。この交差点を行けば、もうすぐ我が家だった。そして青になって取っている時に

 

キィィィイィィ!!

 

激しいブレーキ音が聞こえて、右を向くとワゴン車が自分に向けて走って来ていた。そして自分に向かって突っ込んだ。

 

ドン!

 

肉がぶつかる音と激しい音と共に紀伊の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

 

気がつくと紀伊は暗い中で目覚めていた。

 

 

「どこだ?ここは?」

 

 

 

確か自分は車に撥ねられたはずだ。しかし一体ここはどこだ。とりあえず起き上がってみた。

 

 

「うお!」

 

 

紀伊は驚いた。いきなり明かりがついたからだ。

 

 

 

「ここはまるで船の艦橋みたいだな」

 

 

紀伊は一回、自衛隊の護衛艦に乗ったことがあったので見覚えがあった。

 

 

「おーい。誰かいますかーー!」

 

 

しかし紀伊の声に誰も返事をすることなく、彼の声は虚しく響くだけだった。

 

 

「とにかく誰か探してみるか ____うん?」

 

 

 

誰か人を探そうとしたときに左手が凝った感じがしたので左手を動かすと白いサークルが出てきた。

 

 

 

「うわぁ!何なんだこれ!」

 

 

おもわず尻餅をしてしまった。そのときに頭痛がきた。

 

 

「う・・・・」

 

 

何かの映像がフラッシュバックした。

 

 

(誰だ。あの人?)

 

 

そして何かを言った。

 

 

 

「紀伊」

 

 

彼女が言った。

 

 

(なぜ自分を?)

 

 

そして彼女が振り返る前にそれは途切れた。

 

 

「何だったんだ。今の?」

 

 

それに自分の名前を言っていた。

 

 

「紀伊。なぜ自分の名前を」

 

 

自分の名前を言った途端にいきなり室内の機器がついた。

 

 

「うわ!何だ」

 

もう何回目の驚きか分からない。そして周囲に渦巻いている白いサークルから表示が出た。

 

 

(機器の準備が完了。出航は可能)

 

 

(これは何だ?出航?これはどうすればいいんだ)

 

 

しかしうじうじ考えても仕方ないのでとりあえず言ってみることにした。

 

「じゃぁ・・・出航・・・」

 

 

するとまた表示が出た。

 

 

(ケーブルを切断、格納庫に注水確認。)

 

 

 

すると目の前のモニターに映像が走った。映像には何かの格納庫とそこに居座っている船が見えたがそれは何なのかはすぐに分かった。

 

 

「大和型なのか・・・・?」

 

 

 

そして一気に格納庫の扉が開いて、大量の水が入ってきて、直後に物凄い衝撃が襲ってきた。

 

 

 

 

 

日本海近海 重巡洋艦 チクマ

 

 

 

「ようやく見つけたぞ」

 

 

東洋方面第一巡航艦隊に所属している重巡洋艦であるチクマは人類側がまた不穏な動きをしていたのでこの海域まで赴いてきたのだ。そしてその通り、彼女の目の前には日本の所属だろう戦闘艦(日本では護衛艦というらしい)

が数隻いた。

 

 

「これよりアドミラリティコードに従い、あの戦闘艦を撃沈する」

 

 

 

 

 

 

日本国 護衛艦「はたかぜ」

 

 

「艦長!霧に発見されました!」

 

 

「どれくらいだ?」

 

 

 

「重巡洋艦一隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦四隻です」

 

 

 

「我々はここから何としても重要な情報を届けなければならないのだ。各艦にも通達、戦闘準備何としても振り切るぞ!」

 

「り、了解!」

 

 

 

 

 

「ふ、無駄な悪あがきを!」

 

 

 

灰色の戦闘艦はこちらに向けて攻撃を仕掛けてくるが全てがクラインフィールドによって防がれてしまっている。

 

 

「全艦を開始せよ」

 

 

そして攻撃の為に砲門が護衛艦隊に向く。

 

 

「霧が攻撃をしてきます!」

 

 

「もはやここまでか!」

 

 

 

艦長は歯噛みして、死を覚悟した。そのときだった。

 

 

「な、何だ!」 

 

 

そう言ったのはチクマの方だった。

 

 

「この反応は霧の船で間違いないですが」

 

 

その時、海面が盛り上がった。

 

 

 

「な!」

 

 

「うそだろ!」

 

 

驚きが双方から上がった。その浮かび上がってきたのは霧の艦種で言えば、超戦艦級にあたるヤマト型とそっくりだったからだ。

 

 

 

「どこの所属だ!」

 

 

 

目の前の艦船について出た。

 

「キイ・・・こんな名前の霧の船は聞いたことがないぞ」

 

 

 

 

 

「かなりの衝撃だったけどここは海なのか?」

 

 

 

周りを見てみると海だったが反対側を見てみると驚いた。

 

 

「あれは何だ!」

 

 

見ると自分が昔見た護衛艦と旧日本海軍の艦船によく似た艦船がいた。(しかも船体が所々光っている)

 

 

「どうなっているんだ?もう訳がわからない」

 

 

するとあの光っている船から通信がきた。

 

 

『そこの所属不明艦聞こえているか。私は重巡洋艦チクマだ。貴艦の所属とを言え!』

 

 

声からするにかなり若そうだ。しかしいきなり上から目線だなぁ。

 

 

(ど、どうしよう。ここは答えないといけないよな)

 

 

「自分の所属はどこかは分からない。一体これはどういうことですか」

 

 

とりあえず答えたがすぐに困惑した返答が返ってきた。

 

「その声は男か?馬鹿な!声で返答しているからにはメンタルモデルだろうが男というのは聞いた事がないぞ!」

 

まったく理解のできない言葉を言ってきた。

 

 

「と、とにかくだ。その様子だとまさか何も知らないんじゃなかろうな?」

 

 

「いや、何のことかさっぱり分からないので教えて頂けるとありがたい・・・・」

 

 

「やはりお前は記憶の一部がなくなっているな。とりあえず主砲を動かしてみろ」

 

「いや、分からなんですが?」

 

何のことかわからない。俺一人であんな大きい主砲をどうやって動かすんだよ。

 

 

「ああもう!めんどくさい!タマ、教えている間に人間が逃げないように見といてくれ」

 

 

なんかぶつぶつ呟いている。

 

 

 

「まずは自分が動かしたい方に思ってみろ。あ、自分達には向けるなよ」

 

とりあえずななめ右と頭の中で思った。すると本当にななめ右に動いた。

 

 

「!?」

 

 

「それはお前の指令に反応する」

 

どうやら俺がこの船を動かしているらしい。

 

 

「その調子で他の事もできるはずだ。まずは霧ならあの船を撃沈してみろ」

 

 

そう言われて反対方向を向くと砲塔もそちらに向いた。しかし危うく撃つところだった。

 

 

(あの船は撃てない)

 

 

 

 

「どうした撃たないのか?」

 

不信に思ったチクマが聞いてくる。

 

「ああ。撃てないよ」

 

 

「!!」

 

 

驚くチクマ。

 

 

「そうですが残念です。やはりこうするしかないですか」

 

何を言っているか分からない。

 

「簡潔に言います。アドミラリティコードに反する者として排除します!!」

 

 

それはいきなりの死刑宣言だった。

 

 

「なんでいきなり!」

 

 

さっきまで優しく教えてくれたのに打って変ったチクマ。一体どうしたのだろうか?

 

 

「人類の海上進出を止める事がアドミラリティコードからの指令だ。それを出来ないとは反する者。そんな霧は我々霧にはいりません!」

 

 

「分かったよ」

 

 

チクマは主砲を旋回させてこちらに向けてきた。どうやら本当らしい。紀伊もさっき習った事で対抗しようとした。

 

 

「「撃て」」

 

 

同時に発射した。そして両方の砲弾が自身の船体に届く前にクラインフィールドに当たり、すさまじい光を生み出す。

 

 

「何だこれ!?バリアか?」

 

 

「たった一発でこれほどとはやはり見た目だけではないですか」

 

 

自身が動かしている主砲から出たビームや攻撃を防いだバリアなどまるでSFの世界にいるようだった。

 

 

「仕方ありません。あまり使いたくはないですが・・・」

 

そしてチクマはVLSを解放する。

 

 

「おいおい。ウソだろ。早くケリをつけないと!」

 

そうしてチクマのVLSからの全弾発射と紀伊の主砲発射はほぼいっしょだった。

 



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要塞港 横須賀

「く!」

 

 

さすがにこれはまずいとチクマは思った。ミサイルは全て向こうのクラインフィールドに防がれているが向こうの砲塔は全て沈黙している。あの戦艦は主砲だけでもやっかいだ。やはり見た目だけではないとチクマは思った。しかも後ろには人類の戦闘艦もいるクラインフィールドが飽和したあとに攻撃を受けるとやっかいだ。

 

「仕方ない。一旦引くぞ!覚えていなさいキイ!」

 

そうしてチクマは退いていったが紀伊は何一つ動かない。

 

「これはどうしようか?」

 

全くもっていままでのことが全てが理解不能だった。しばらく様子を見ようと紀伊は思った。

 

 

 

 

「助かった」

 

 

艦内で誰かが言った。自分も死んだと思ったがあのいきなり海面から出てきた霧の戦艦の出現で全てが変わった。

 

「艦長、どうしますか?」

 

 

副長が聞いてきた。

 

 

「しばらくあの白い戦艦の様子を見よう。危険性があれば、攻撃を続行だ」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

「これからどうしよう」

 

またも困っていた紀伊である。さっきの女性からは攻撃されたからには他のあてを探さなければならない。

 

 

 

「何か地図みたいなのはないのかな?_____お!これだこれだ!」

 

 

サークルをいじっていると地図らしきものが出た。どうやら現在地は太平洋で日本にも近い。

 

 

「とりあえず港はあるな!ええっと、横須賀か!」

 

自分が住んでいた地域も横須賀の近くだ。とりあえず現状を聞きたいのでまずはこの船を止められる場所を見つける必要があったのだ。

 

「まずはそこに行くか!前進!」

 

 

 

 

 

「艦長!白い戦艦が動き出した」

 

「一体どこに・・・・まさか横須賀か!」

 

「大変じゃないですか!」

 

「すぐに横須賀に連絡しろ!」

 

 

 

要塞港横須賀

 

 

「何だって!」

 

 

連絡を聞いときに驚愕した。

 

「どうしたんだ!」

 

 

上官が何事かと言ってきた。

 

 

 

「それが・・・・」

 

ありのままに聞いたことを彼は話した。

 

 

 

 

「お!見えた!あれが横須賀・・・・」

 

 

 

俺の見間違いか?俺の知っている横須賀はあんなでかい壁なんかあったっけ?

 

 

「それになんか鳴ってるし、どうしたのかな?」

 

 

それにあの壁の内側に入る入口は閉まっているし、どうすればいいんだろう。さっきから後ろでさっきの護衛艦が追ってきてるからな。

そんな感じで紀伊が悩んでいるといきなりいかにも重そうな音を立てて、扉が開いた。

 

「お!こんな船でも入れてくれるのかな?」

 

 

そういって気楽に入っていった紀伊だったがこの後に起こりうることをまだ紀伊は知らない。

 

 

 

 

「敵艦、横須賀に入ってきます!」

 

「まるで攻撃の意志がないな・・・」

 

「まさにあの時と同じだな」

 

 

彼らの脳裏にはあの蒼い潜水艦が映っていた。

 

「護衛艦隊に伝えるんだ。そのままゆっくりと地下ドックに誘導しろ」

 

 

(しかしなぜこうも霧の艦艇がここまでの頻度で来るんだ?霧の思惑か?それともはたまた偶然か?)

 

 

なぜ霧の艦艇がこんなことをしてくるのかが未だに彼らは答えが出なかった。

 

 

 

 

「壁をくぐるとそこは戦闘艦でいっぱいだった。なんて冗談を言ってる場合じゃないなこれは」

 

 

いきなりくぐると紀伊が見慣れた艦艇がずらーーと並んでいたのだ。これを初対面で見るとなかなか心臓に悪い。

 

 

「どうしようか?いきなり撃ってくるわけでもないし、誘導されているのかな?まぁ、いきなり現れたらそれは警戒するよな。とりあえず誘導に従おう」

 

 

 

そして多数の護衛艦隊に囲まれながら、ドックの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

太平洋沖 第一東洋巡航艦隊にて

 

 

チクマは艦隊に戻ると今までのいらだちが一気に爆発した。

 

「ああ!もう!何なのよアイツは!」

 

アイツとはあの白い戦艦だった。しかもメンタルモデルは男であり、なぜか船体は総旗艦ヤマトに似ていた。

 

 

(まったくもって理解不能だわ。まずどこから現れたからだし、それにあんな戦艦は見たことも聞いたこともない。一度誰かに・・・)

 

 

そう考えにふけっていたときに艦隊の総旗艦を務めているコンゴウが話しかけてきた。

 

「どうしたチクマ?何かあったのか?」

 

「それがね。あなたに命令された通りに人類の艦隊を破壊しに行ったの。そしたら・・・・」

 

「そしたら?」

 

「いきなり白い戦艦が現れたの」

 

「白い戦艦?霧か?」

 

「ええ。霧だわ。名前はキイ。でもその艦艇とメンタルモデルが少し変なのよ」

 

「変とは?」

 

相変わらず鋭い目つきでこちらに質問を浴びせてくる。

 

「まず船体の形ではバイナルパターンの色以外はほぼ総旗艦ヤマトそっくりなの。そしてメンタルモデルが男なのよ」

 

「!!」

 

さすがにコンゴウでもこの二つには驚いていた。

 

「確かにそれは変だな。分かった私はこれから総旗艦にこの事を話す。それで今、新しい任務だ」

 

「ほぉ!一体何かしら?」

 

「そのキイとかいう白い戦艦の足取りを追い、見つけ監視しろ。そして隙があればここに連れてこい」

 

「分かった。しかし大変なものを押しつけたわね」

 

そう言ってチクマは自分の船体に乗って、行ってしまった。その光景を静かに見つめ、コンゴウ自身も戻っていった。

 

 

 

 

 

「で、こうなった訳だが」

 

紀伊のモニターには完全装備の軍人が自分の船を包囲していた。

 

「何とか逃げ出すことはできるかな?」

 

一応、船に彼らは入ってはこられないが紀伊としては外の現状を知りたいのだがこのまま外に出て言っても問答無用で射殺されそうなのでこっそり行きたかった。なので隙を見ることにした。

そしてしばらくすると敵意がないことが感じられたのか、少し兵士達が気を緩めた隙に紀伊は船底の扉から出た。

 

「誰にも会いませんように」

 

こっそりと神様にお願いをした紀伊であった。兵士達も船に夢中になっているのか、振り向きもしなかった。紀伊も自分の船がどうなっているのかを知りたかったが今はそれほどの余裕はないのでさっさと格納庫の非常口から出た。

 

「ようやく外に出られたーーーー!!」

 

誰にも見つからずに出た安堵感からそんな言葉が出た。しかしそんなときに声をかけられた。

 

 

「何をしているの?」

 

ギクッと体が反応して冷や汗が出てくる。女性の声だったが油断はできなかった。そして紀伊はゆっくりと振り向いた。

 

 

 

「え~~~と~~~」

 

黒髪のロングヘアーの綺麗な女性だった。目が泳いでしまう。

 

「ちょっと・・・」

 

「ちょっと?」

 

「ちょっと道に迷っちゃて、ここに来るのは初めてなんです」

 

「ふ~~ん。まぁいいわ。あなたは確かに初めて見る顔だもんね」

 

去っていこうとする女性だが紀伊は呼び止めた。

 

 

「あの何かネットに繋がるような物をもっていないですか?」

 

「それを何をするかは知らないけど、名前の知らない人に貸すわけにはいかないわね」

 

「えっと自分は宮本 紀伊です。ちなみにあなたは・・・・」

 

「私は日下部 幸子よ。それでこれを貸してほしいのよね」

 

そうしてタブレット型の端末を貸してくれた。そして自分の手にそれが渡った時にまた頭痛が起きた。

そして再び、あの時の女性が現れたが相変わらず後ろ姿だが今度は声が聞こえた。

 

「これが知りたいのね。まだあなたはこの世界の事を知らない。あなた自身のこともそして私のことにしても」

 

 

情報が入ってきた。しかし頭が痛く、正確にその情報を思い出すことが出来ない。少し休んだら良くなるかもしれない。

気がつくと日下部が覗きこんでいた。

 

「大丈夫?もしかして気分が悪いの?そうだ!この近くに私の家があるの!そこで休んでよ!」

 

勝手に進めていく、日下部だが紀伊は黙って頷く。

 

「それじゃこっちだよついて来て!」

 

この横須賀で出来た最初の友達に連いていくことになった。

 

 

 

 

「ここよ!」

 

 

彼女が指差したのは少し年季の入った造船所だった。

 

「もしかしてここ?」

 

「ええそうよ。私のお父さんはここの社長なのよ」

 

そうなんだと納得しながら、中に入った。するといきなり白い潜水艦がお出迎えしてくれた。

 

「これは何?」

 

「ああ。これはね。まずは「白鯨」って知っている?」

 

紀伊は首を横に振った。

 

「まぁ、本当は言ったらいけないんだけど。あなたは特別よ?それでこの潜水艦は霧に対抗する為に作られた「白鯨」の試作潜水艦をうちのお父さんが軍の上層部からこの試作型を改良してくれって頼まれたらしくって、機密を漏らさない事と週ごとに何回か来る監視を認める事で手に入ったのを少人数で運用できるようにされたのがこの「黒鯨」なのよ」

 

 

それを見つめているとこっちよと彼女が言って、案内された部屋のソファで少し休んだ。しかし段々と頭痛が治まり、手に入った情報が流れてきた。

 

「!!」

 

その情報を自分は否定したかった。単なるデタラメだと。だがしかし、今まで起きた出来事がそれが嘘ではないと物語っていた。

 

 

(大体の人類が辿ってきたことは分かった。17年前に人類が大海戦に負けたという事実。そして俺が居る世界は俺が居た世界とは違う事に・・・・うん?待てよ。そういえば情報にメンタルモデルって言う霧の人間?っぽい奴もいるみたいだな。そうすると俺ももしかしてそのメンタルモデル?)

 

どうやらあのチクマという女性もメンタルモデルだったのか。だとすると俺も・・・・。

 

 

考えていた紀伊だったがその時、何かが転がってきた。

 

バン!

 

大きな音を立てて、それは強い光と音を放った。

 

「きゃ!」

 

 

俺のために飲み物を作ってくれていた日下部が悲鳴を上げた。そしてその直後にガスマスクをつけて、銃を持った男達が入ってきた。

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「隊長!一階、二階、三階ともに制圧しました]

 

「そうか。ごくろう」

 

そして未ださっきの攻撃でふらついている日下部とけろっとしている紀伊のほうを見た。

 

「逃げられると思ったか?お前の足取りは地下ドックの監視カメラに映っていたよ。そしてお前からは体温が感知されない。つまりお前は霧のメンタルモデルだ」

 

やはりそうだとは思った。

 

「メンタルモデル・・・」

 

日下部は驚きのあまり呆然としていた。

 

「どうやらそちらのお嬢さんは知らなかったみたいだな。とにかくお前は連行させてもらうよ。霧のメンタルモデルくん」

 

口調こそは完全になめきっているが姿勢は気配はさっき会ったばかりと同じだ。

 

「残念ながらそれは出来ないです。ここで捕まるわけにはいかないのでね」

 

そう言って、意識を集中させた。大体のコツは掴んだ。その時、隊長と思しき人物の無線機からかなり焦った声が聞こえてきた。

 

「隊長!地下ドックが!」

 

「まさか!お前!」

 

隊長が銃を向けると同時に大きな水しぶきが上がった。それと同時に紀伊もすばやく階段を下りて、戦艦に乗った。隊長は何かを無線機に向かって叫んでいた。

 

 

 

 

日下部は1人取り残されていた。彼がメンタルモデルだったなんてという気持ちが彼女の大半を占めていた。だが

 

 

「彼は霧・・・ここから出すわけにはいかない!」

 

彼女には霧をどうしても憎む理由があった。必ずヤツを沈ませると。彼女はもう以前の彼に対する感情は持ち合わせていなかった。

 

 

そして彼女は造船所に留めてある「黒鯨」を静かに怒りを込めて見た。

 

 




次回は本格的な戦闘シーンを入れます。


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超戦艦キイVS試作型原子力潜水艦「黒鯨」

「何?あの戦艦が動き出した!?」

 

「はい。どうやら陸軍の連中がどうやら一騒ぎを起こして、刺激したようです」

 

「あの海の事を何も知らんあいつらか!せっかく情報を教えてやったのに恩を仇で返すとは!」

 

陸軍に紀伊の事を教えたのは実は海軍だったのだ。しかし海軍ではしばらく様子を見ようという意見で決まっていたのに陸軍で捕えるという意見で決まっていたらしかった。

 

「仕方ない。すぐに護衛艦を出すんだ!一隻たりともこの横須賀から出すな!」

 

「了解しました」

 

司令官が指示をしていた時にレーダーを見ていた隊員が声を上げた。

 

「司令官!これを見てください!」

 

「今度はどうしたのだ」

 

「霧の戦艦に向けて進んでいく艦艇が見えます。この反応は白鯨型です!」

 

「白鯨は海軍の地下ドックにいるはずだ・・・いや、試作型の方か!」

 

司令官は試作型の白鯨がとある造船会社に引き渡されたことを噂で聞いていた。

 

「もう一つの方は無視してかまわん。それよりもあの戦艦に火力を集中させろ!

 

 

 

 

 

「またこれは大層な見送りをしてくださることで」

 

 

紀伊は徐々に集まってくる護衛艦を見ていた。それゆえにもう一つの反応がこちらに来ていることに気がつけなかった。

 

 

「警告音?しまった!魚雷か!」

 

 

そして魚雷がクラインフィールドにぶつかった。だがクラインフィールドの稼働率は全然変わらなかった。

それと同時に目の前に四角の画面が現れた。それは日下部だった。

 

 

「紀伊!あなたは霧なのね!」

 

 

「そうみたいだな」

 

「ならばあなたを沈めます!この「黒鯨」で!」

 

そうして通信を切られた。その代わりに魚雷が飛んできた。

 

 

「仕方ない」

 

そうして船についていたVLSを開いた。ここに来るまでに少しだけこの船の武装について分かっていた。

そして通常魚雷を2発発射した。

 

 

 

 

「黒鯨」艦内

 

 

「発射管、一番から二番に音響魚雷を装填!」

 

 

日下部の指令に「黒鯨」のコンピュータがそれに答える。

 

 

「発射!」

 

 

 

音響魚雷が二発発射されて、レーダー上に二つの点が表示された。

 

 

「続けて、三番から六番にスーパー・キャビテーション魚雷を装填!」

 

 

実はこの「黒鯨」にはテスト用の各種武装が装備されていた。

 

 

「発射!」

 

 

そして発射したときに警告音が響き、戦艦から二つの反応が出ていた。おそらく通常魚雷だろう。

 

「スーパー・キャビテーション航行を行う」

 

 

 

 

 

「しまった。音響魚雷というやつか」

 

音響魚雷二発の炸裂で完全に「黒鯨」を見失った。しかし何とか「黒鯨」から発射された魚雷は全弾撃ち落とされていた。

 

 

「どこに行ったんだ?」

 

必死にレーダーを見るが「黒鯨」の姿は見えない。

 

 

「あまり長い時間はここにはいられない。早くしないと囲まれてしまう」

 

紀伊の言葉通り、すでに向こうは態勢を立て直して、こちらに向かってきている。もう少しで彼らの主砲が火を噴いてしまう。紀伊が焦っている時にレーダーに微かに小さい赤点が映った。

 

 

 

 

「やはり初めて動かしただけではこれが限界か」

 

 

スーパー・キャビテーション航行は「白鯨」に搭載されている機能の一つだ。だが試作段階の域から脱していない「黒鯨」は今のこれが限界だ。

 

「まだこれじゃ、新機能を使うわけにはいかないわね」

 

 

だが一時的には撒けたはずだ。それに護衛艦も集まってきている。あと少しだ。あと少しでおじいちゃんに喜んでもらえる。

 

十七年前のあの日、おじいちゃんはイージス艦「こんごう」の艦長だった。あの大海戦では「こんごう」は何とか逃げ出せたがその代わりに艦橋に流れ弾が当たっておじいちゃん以下全員が死んだ。大好きだった。あの日も私が一歳の時におじいちゃんはこう言った。

 

 

「安心しなさい。おじいちゃんは必ず帰ってくる。そしたらまたいっぱい遊ぼうな」

 

そして玄関を出て行ったおじいちゃんの姿は私の中では最後のおじいちゃんの最後だった。

 

 

「だから私は霧を許さない」

 

近頃ではこの横須賀でイー401に乗って驚くべき功績を建てている千早 群像。彼もまた彼女には理解が出来なかった。なぜ彼は霧と共存ができると思ったのか?なぜ彼はそんな大胆な行動ができたなど日下部には理解などできない。

そして日下部は正面の敵を見た。

 

「どの武装でも効果は望めない。ならいっそのこと」

 

 

どうやら向こうは本格的な戦闘はあまりしたくないようだ。ならば接近して、船体を接触させてゼロ距離に近い距離からの発射をすれば、相手の意表を突くことはできるはずだ。

 

「深度はそのままであの戦艦の真下まで行くんだ」

 

そう命令した時に警告音が再びなった。

 

「嘘!もうばれたの!?」

 

 

この船は大戦艦級と戦うことは想定されて作られている。それがあの短い時間で!?呆然としていたが日下部は

意識を取り戻し、コンピュータに向かって叫んだ。

 

「「黒鯨」回避行動!迎撃魚雷発射!」

 

 

魚雷の数は三つ。何とか迎撃できるだろう。レーダー上の三つに向かって、「黒鯨」から発射された魚雷が進んでいく。そして三つの点と迎撃魚雷が重なったときに爆発音が聞こえた。しかしレーダーには一つだけ残っていた。

 

 

「しまった!」

 

 

「黒鯨」は回避行動をしているがそれでは間に合わない。次の瞬間、衝撃が艦内を襲った。

 

「きゃ!」

 

 

さすがの衝撃に日下部は尻餅をついてしまう。

 

「被害報告を!」

 

するとモニターに損害情報が出される。

 

「一部が浸水しているみたいだけど、戦闘機能には影響は無し、よかった」

 

 

だが安心したのは完全に彼女の慢心だった。艦内に再び、衝撃が襲う。

 

 

 

(潜水機能に異常が発生。これ以上の潜水は危険です)

 

 

馬鹿な。魚雷の反応はなかった。一体どこから?

だがその答えはすぐに見つけられた。

 

「主砲か!」

 

 

 

 

「何とか当たったな」

 

 

反応を見つけた時に短時間で方をつけるにはこの戦艦の特性を活かそうと思った。そして魚雷三発を囮にして、主砲の射撃可能域まで来てくれたのだが当たる確率は五分五分だった。

 

 

「潜水機能がありそうなところを狙ったからたぶん潜水機能を失って、浮上してくるはずだ」

 

紀伊の読みは正しく、白い潜水艦が徐々に浮き上がってきた。そして完全に浮上してきた時にハッチが開き、もの凄いほどの形相で睨んできた。

 

「どうして私を殺さなかったの?」

 

 

彼なら自分を簡単に殺せたはずだ。

 

「その理由は簡単だ。君を殺したくなった、それだけだ」

 

 

しかし分からなかった。

 

 

「分からないわ!霧はおじいちゃんを殺した!その憎しみが私から消えると!」

 

 

そうか。だから彼女はこんなに必死に・・・

 

「だけど・・・」

 

彼女の口調が変わった。

 

「だけどあなたが私を殺さなかった事については感謝しているわ」

 

気が付くと彼女の顔は最初にあったときと同じ顔だった。しばらく紀伊と日下部は見つめ合った。しかしその均衡を破るように護衛艦の砲撃があった。

 

 

「それじゃ、ここでお別れだ。いろいろ教えてくれてありがとう」

 

そして船を動かそうとした時に日下部が呼び止めた。

 

 

「待ってよ!」

 

 

日下部は困惑していた。確かにおじいちゃんを殺した霧は憎い。だが彼を見ているとそんな気持ちが別の気持ちに変わる。本当に霧は冷酷なのだろか。もしそうならこんな手加減はしないはずだ。だから知りたい。霧がどういう存在なのか。

 

「私は霧を、いや、あなたについて興味が湧いた。だから私はあなたに連いていくわ」

 

紀伊は驚いてしまった。

 

「いいの?」

 

「ええ。少しは修理や改装がいるけど、この「黒鯨」があるわ!」

 

「でもそれはお父さんの・・・」

 

「大丈夫、データやさっきの戦闘の記録は送っておいたからお父さんならきっと完成させてくれるわ」

 

「でも危険が・・・」

 

「さっきから心配ばかりね。自分の身は自分で守れるわ」

 

ここまで言われたら言い返せれない。

 

「分かった。でも安全は保障できないからね」

 

「大丈夫よ」

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「ええ。行きましょう」

 

 

そうして二人は横須賀を離れた。二隻の白い船と共に・・・




次回は本格的に原作のキャラが登場します。


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SSTO防衛

横須賀を脱出した紀伊と日下部は「黒鯨」が紀伊にやられた場所をコンピュータが自動で修復箇所を修復している間に紀伊の戦艦に集まって、今後の話し合いをしていた。

 

「で、横須賀から逃げ出したのはいいんだけど・・・・」

 

「あんたが言いたいのはこれからどうするかってことなんでしょ」

 

さすが日下部言いたい事を的確に言ってくる。

 

「「黒鯨」の修復は少なくともあと5時間はかかるからそれまで考えよう。このまま情勢が自分達に有利になるまで待つか、それとも打って出るか」

 

「う~~~ん」

 

紀伊は唸っていた。

 

「そういえば・・・・」

 

日下部が何かを思い出したみたいだ。

 

「噂で聞いたんだけど佐賀県付近で蒼き鋼のイー401の反応があったんだって」

 

「蒼き鋼?」

 

紀伊は首を捻った。

 

「あんたって本当に霧なの?蒼き鋼はあなたみたいに霧から離脱したイー401と千早群像とその他のクルーで構成されていて、霧と戦い続けている集団のことよ」

 

「それは分かったけどどうしてその蒼き鋼のことを?」

 

「決まっているじゃない。私達と彼らの境遇はほぼ同じ、それに彼らの方がある意味では先輩よ?会って情報交換というのも悪くないんじゃない?」

 

日下部は提案してくるが紀伊は唸り続けるだけだ。

 

「ま、まぁまだ五時間はあることだし、私にこの船を案内してよ!」

 

この場の悪い空気に耐えられなかったのか、日下部は提案してくる。確かにちらっとしかまだ見れていない。自分の武器だってまだ通常弾頭と主砲しか把握していないのだ。せっかくの機会だし、回ってみるか。

 

「うん、いいよ」

 

そうして艦内を見て回ることになった。

 

 

 

そうしてこうなった・・・

 

 

「これが浸食弾頭。こっちが浸食魚雷・・・・」

 

 

日下部はミサイルや魚雷をなぜか見つめていた。

 

「何でミサイルや魚雷を見ているの?」

 

「え!あなたはまさかこれを使っていないの?」

 

紀伊は首を縦に振った。

 

「何か悔しいわ」

 

「・・・・」

 

やばい。本当にこいつ大丈夫かよって顔している。

 

「はぁ、まぁ使ってみたらわかるわ」

 

そして艦内を見た。

 

「しっかし本当にすごいわね。初めて浸食兵器を見たから興奮してしまったわ。他にもあるかな」

 

艦内の設備に興味深々な彼女はまるで新しい玩具をもらった子供みたいだった。そして立ち止まっている日下部に追いつくと日下部はまっすぐに一点を見つめていた。

 

「これは霧の航空機・・・・」

 

それを見るとそれは紀伊でも分かる航空機だった。

 

「零式水上観測機じゃないか」

 

日本海軍の開発した水上観測機だった。しかし霧の船といっしょでバイナルパターンが入っている。

 

「ねぇ、これを動かせるの?」

 

日下部が聞いてきた。その顔を見てみるとある思いが見え隠れしていた。

 

(動かして)

 

しかも何か脅しているような感覚がする。安全な内にまだやった事の無い航空機を動かしてみよう。

 

「とりあえずこうすればいいのかな?」

 

とりあえず船を動かしたみたいに航空機を制御してみる。

 

 

ブオオオ!

 

零式水上観測機が動き出した。

 

「すごいわね!」

 

さすがに初めてみる霧の航空機に驚きを隠せないようだ。

 

 

「何とか動かせたみたいだな。これがあともう一機はあるみたいだな。今度運用してみようかな」

 

 

しかし自分の演算力を少しばかり使ってしまうがまぁ、このくらいなら問題はないだろう。

そして未だ興奮して呆然としている日下部を引きずりながら、艦橋へ戻った。

 

 

 

そして6時間後

 

 

それぞれ釣りやら睡眠しながら6時間を過ごした時に船のレーダーに反応があった。

 

「これは何だ?」

 

「どうしたの?」

 

騒ぎに気ずいた日下部がこちらに来た。

 

「どうやらこの近くで戦闘が起っているみたいだ」

 

「それは大変だわ!もし海軍と霧との戦闘なら助けにいかないと!」

 

 

日本の・・いや世界の海軍は霧に対する有効な兵器は無い。

 

 

「場所は・・・佐賀の宇宙センターの近くだ」

 

「霧がそこまでするなんて・・・もしかしたら宇宙センターのSSTOに何かあるのかもしれない。すぐに行こう紀伊!」

 

「分かったよ。行こう。「黒鯨」の準備は?」

 

「ばっちりよ!」

 

元気な声で返事が返ってきた。なら行くか。

 

「良し!救援に行くぞ!」

 

こうして佐賀の宇宙センターに向かうことになった。

 

 

 

 

 

佐賀県宇宙センター

 

現在この宇宙センターは攻撃を受けていた。そしてそれの防衛についている護衛艦やミサイル砲台の先には赤いバイナルパターンの軽巡がいた。

 

 

「軽巡ナガラが近づいてきます!」

 

「何としても打ち上げを成功させなければならない。SSTOの発射を急がせろ!」

 

 

皆が霧の襲来に慌てる中でナガラは迷うことなく、VLSを開き、弾頭を発射してそれを砲台や護衛艦が防いでいく。そしてナガラが主砲を撃ち、護衛艦が被弾する。

 

「「たちかぜ」轟沈!「あまつかぜ」大破!。ナガラ機雷源を抜けます!」

 

「このままでは防衛線が破られるのは時間の問題です!」

 

誰もが絶望したときにまた一人叫んだ。

 

「またレーダーに反応!」

 

「霧の増援か!」

 

ナガラだけでも危険なのに更に増援が来られれば、今度こそ終わりだ。

 

「いえ、この反応は・・・イ号401です!」

 

「来てくれたか!」

 

 

 

 

 

イ401艦内

 

「艦長!「たちかぜ」轟沈!「あまつかぜ」は大破しています!」

 

「分かった。イオナ相手のデータを出してくれ」

 

「分かった。モニターに出す」

 

イオナと呼ばれた青いセーラー服を着た少女の肌に青い発光する模様が浮かび上がってモニターにナガラのデータが表示された。

 

「長良級ナガラ。軽巡洋艦。強制波動装甲装備。12,3cmアクティブターレット3基6門で各種弾頭や光学兵器を発射可能。艦艇部に魚雷発射管12門。船体の側面に連装魚雷発射装置複数。その他レーダー高角砲が3門。高角砲は浮遊攻撃が可能。ミサイル発射管及び近接攻撃・迎撃システムが多数。潜水機能は無し。速力は60ノット。標準的な霧の軽巡洋艦」

 

 

イオナが淡々とナガラのデータを読み上げる中、艦長である千早 群像はナガラに対する戦術を考えていた。

 

「艦長。敵はまだこちらに気づいている様子はありません。先にこちらが先制攻撃をするべきかと」

 

副長の織部 僧が先制攻撃をしてはどうかと提案してくる。彼は群像の同級生であり、群像に次いで成績が優秀である。この船の彼の役目は艦長をサポートすることであり、最終的な判断を群像が出すために的確な作戦を提案してくれる良き参謀であった。

その提案に群像は頷き、次の指示を出す。

 

「よし、杏平。一番、二番に音響魚雷、3番に浸食弾頭、4、5番に魚雷装填」

 

「了解!各種魚雷装填完了!」

 

 

火器管制席で武装を管理するモニターをタッチペンで操作するのは樫原杏平。

 

彼も群像と同級生である。いつもゴーグルをつけており褐色肌が目立つ男である。船ではいつもみんなのムードメーカーだが横須賀の海洋技術総合学院では砲術・水雷の成績で必ず10位以内であり、それらのエキスパートだった。

 

 

「いおり、機関最大行けるか?」

 

「全力は数分保障しま~~す」

 

群像は手元の端末を操作して、今はいないもう一人のメンバーに声をかけた。四月一日 いおりがいる機関室に繋がる。

彼女も同級生であり、船の命である機関室をほとんど一人で管理している彼女は元気な声で答えた。

 

 

「頼むぞ」

 

「なるべく早くね」

 

 

機関室は大丈夫だと分かると最後のメンバーに声をかけた。

 

「静、そのままナガラの監視を続けてくれ、相手の動きに注意しろよ」

 

「分かりました」

 

船の耳と目であるソナーとレーダーを担当している八月一日 静

彼女は台湾出身の女性であり、様々な経緯でこの船に乗った。彼女の耳と判断力は随一だ。

 

「イオナ、最大戦船!宇宙センターに被害が無いうちにナガラを仕留めるぞ!」

 

「了解。最大戦速」

 

群像の号令と共にイ401は加速した。

船尾に装備されているジェットエンジンが唸りを上げながら、水をかき分けながら進む。

その前方にはミサイルを物ともしないナガラがいる。今だナガラは気ずいていない。その横腹に浸食魚雷を当てられれば、勝負は決する。

 

 

「三番音響魚雷、発射!」

 

「了解、浸食弾頭発射!」

 

杏平がキーボードを叩く。

 

そしてイ401の3番発射管から浸食魚雷を射出、浸食魚雷は寸分狂いなくナガラに進んでいく。

 

「ナガラから着水音及び高速推進音、数2、魚雷です!」

 

「4、5番スナップショット。発射後に装填!機関停止潜れ!杏平当てろよ!」

 

「了解!」

 

「きゅ~そくせんこ~」

 

機関を停止して潜り、迎撃に出した魚雷とナガラの魚雷がぶつかり合う。しかし魚雷が一本抜けてくる。それに気づいたイオナがクラインフィールドを展開する。

 

「クラインフィールド展開」

 

そしてクラインフィールドを張った船体に魚雷が命中して、船体を揺らす。

 

「く・・・」

 

「魚雷命中まで5秒!」

 

杏平がカウントをする。

 

「5!、4!、3!、2!,1!」

 

「ナガラ、クラインフィールドを展開!」

 

「遅い!」

 

ナガラは浸食魚雷に気ずいたみたいだがもう遅かった。ナガラに浸食弾頭が当たり、爆沈した。しかしナガラは浸食魚雷が命中する前に通常弾頭を大破している「あまつかぜ」に向けて、発射していた。

 

「艦長!ナガラのミサイルが「あまつかぜ」に!」

 

「しまった!」

 

そしてナガラのミサイルが「あまつかぜ」に届く直前でミサイルは撃破された。

 

「な!?」

 

「砲撃です。センサーにも反応!これはっ!」

 

「どうした!?」

 

「モニターに出します!」

 

「なっ!」

 

「そんなバカな!」

 

「何であんなものがここに!」

 

誰もが声を上げた。彼らの目前には超戦艦級のヤマト型がいた。

 

 

 

超戦艦キイ艦橋

 

「間一髪だったね」

 

あともう少し遅れていれば「あまつかぜ」は撃沈されていただろう。その時、「黒鯨」にいる日下部から通信が入った。

 

「向こうから通信が入っているよ」

 

「どこから?」

 

「イ401からだわ!」

 

 

日下部が叫んだ。

 

 

 

 

 

そして数分後、海上で待っていると青い塗装の潜水艦が現れて、そこのハッチから青年と少女が出てきた。

 

「こちらは蒼き鋼 イ401艦長の千早 群像、こっちはメンタルモデルのイオナ。そちらは?」

 

「自分は超戦艦のメンタルモデルの紀伊です。こっちが「黒鯨」艦長の・・・」

 

日下部の端末から得た情報を基に答えた。ちなみに艦艇の名前は分からなかった。

 

「日下部です。よろしくお願いします」

 

「男性型のメンタルモデルは聞いた事が無いですが詳しい話はあとにしましょう」

 

それは蒼き鋼とのファーストコンタクトであった。

 

 




改稿しました。


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取引

少し原作と違う所があります。ご了承ください。


SSTOの防衛を成功させた群像と紀伊達はイ401の艦内でゆっくりと話をしていた。

 

「これが蒼き鋼のメンバーだ」

 

紀伊は見渡して挨拶をする。

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしく!」

 

「よろしくね」

 

蒼き鋼のメンバー達が各々挨拶をする。

 

「で紀伊は一体どうするつもりなんだ?」

 

挨拶が済んだ後に群像が聞いてきた。

 

「自分達はまだ決めてはいないけど群像達はどうするんだ?」

 

「自分たちはこれからクライアントに依頼達成の報告をな」

 

「そうなのか。ちなみに俺達が連いていくことはいいかな?」

 

「別にかまわないぞ」

 

「ありがとう。日下部もそれでいいかな?」

 

「ええ。良いわよ」

 

日下部の了承は取れたから群像達に連いていくことにする。

 

「じゃあ、それでいいのかな?」

 

「ああ、人数は多いほうがいいからな。よろしく頼む」

 

「ありがとう。よろしくお願いします」

 

 

二人は握手をした。

 

 

「まずどこに向かうんだ?」

 

「まずは長崎でクライアントに会わないと」

 

「分かった。それじゃあ進路を長崎に変更」

 

 

進路を変更して、出発したときに1つ忘れていたことがあったのを思い出した。

 

 

「そうだ。イ401は味方艦だから登録しておかないと」

 

紀伊はイ401を味方艦と設定した。

 

「よし、完了!それじゃあ行こうか!」

 

「やけに張り切っているわねあなた・・・」

 

そうしてやけに張り切っている紀伊に対して日下部がツッコんだ。

 

 

 

長崎近辺海域

 

「そういえばどんなクライアントなんだ?」

 

 

「上影 龍二郎という人で統制軍軍務省次官補の人です」

 

 

という事はお偉い人だよな。と俺は身を固くしてしまう。

 

 

「まぁ、会ってみたらわかるよ」

 

 

群像は身を固くしている紀伊に不思議な目線を送りながら言った。

 

 

 

 

長崎 港にて

 

長崎の港にイ401、キイ、「黒鯨」の3隻は停泊した。

 

 

「みんな準備はできたか?」

 

群像は紀伊、日下部、イオナの3人を見渡して言った。

 

「いいぞ」

 

「いいわよ」

 

「準備いいぞ」

 

3人とも準備は出来たようだった。

 

「それじゃあ行こうか。僧、頼むぞ」

 

「任せてください艦長」

 

僧達に船を任せて、上影の待つ建物に入る。

 

 

「お待ちしていました」

 

建物に入ると1人の男性が待っていた。

 

「こちらです。連いてきてください」

 

言われるがままに4人は連いていった。そして1つの部屋の前で男性は止まった。

 

「こちらで上影次官がお持ちになっています。どうぞお入りください」

 

男性に促されるまま、その部屋に入った。そこには1人の男性が椅子に座って待っていた。

 

 

「やぁ、待っていたよ」

 

「どうして早く言ってくれなかったのですか上影さん。そうすれば被害は拡大しなかったのに・・・」

 

いきなり言葉を浴びせる群像。

 

「長距離通信が使えなかったこともあったし、それに大人には都合がある」

 

 

「事情は分かりました。こちらは超戦艦のメンタルモデルである紀伊です。そして彼女は「黒鯨」の艦長である日下部 幸子」

 

「君達が報告にあった者達か。まぁ、詳しい話は座ってからでもいいだろう。とりあえず座りたまえ」

 

とりあえず悪い人ではなさそうではないので内心で安心しながら座った。

 

「ところで紀伊君と日下部君だったかな。1つ聞いてもいいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「日下部君と紀伊君はどこで知り合ったのかな?」

 

「横須賀のドックの近くでたまたま会ったんです」

 

「そうか。やはり、あの時の戦闘は君達のものだったのか」

 

”横須賀”という単語で”戦闘”という単語が出てくるということは横須賀での騒動はどうやら彼は知っているらしかった。

 

「どうしてその事を?」

 

「自分ぐらいの立場になると自然に情報が入ってくるものでね」

 

「で、そのことについては後回しとして、上影さん、あなたはただ依頼の達成報告だけで私たちを呼んだわけではないのでしょう?」

 

見かねた群像が上影に向かって、どうなのかと問いかける。

 

「やはり君はするどいね。そうだな、本当の事を話そう。君達がせっかく守ってくれたSSTOだが先程、大気圏上で撃墜されたという報告が入った」

 

「っ!」

 

これには皆、少しばかり驚いた。しかし顔には出さずに淡々と話す上影の言葉を黙って聞いていた。

 

 

「あれにはとても重要なものが搭載されていた」

 

「重要な物とは?」

 

意味が深そうな上影の言葉に群像は質問する。

 

「あれには日本で研究、開発された振動弾頭のサンプルが入っていた」

 

「振動弾頭ですか・・・・」

 

「君達があっちやこっちで霧と戦っている間に私達もただ手をこまねいていたわけではないんだ。そして試行錯誤を繰り返してできたのがその振動弾頭だ。そして君達に最後に残った振動弾頭をアメリカに届けてほしい。さっき依頼を達成した後で申し訳ないが新たに頼みたいのがこの仕事だ」

 

「なぜアメリカに?」

 

「もう日本にこれを生産するだけの国力はもう無い。だから届けてほしいのだよ。アメリカに人類の希望を・・最後の希望を・・・・・」

 

「・・・・」

 

「君達はどうするかな?もちろん君達に関してはこの依頼を断ってもらってもかまわない。私に君達に依頼をすることはできないからな」

 

「分かりました。その依頼は私達も受けましょう。ただしこちらの条件を飲んでくれたらです」

 

「どういうものなのかな?事によっては私でも無理なものがあるが・・・」

 

「まず、我々の存在について認めてもらい、私達に攻撃を加えないようにしてほしいです」

 

「それは可能だが他にはないのかな?」

 

「最後に自分と彼女の艦艇に武器の補給をお願いします。守るべき武器がないと戦えないし、彼女のために食糧、水も頼みます」

 

「分かった。その条件を飲もう」

 

「ありがとうございます」

 

「ではこちらは失礼させてもらうよ」

 

 

こうして取引は終わった。

 

 

 

 

 

イ401艦内にて

 

 

「これは一体なんなんだ?見たところ魚雷みたいだが」

 

イ401艦内では上影から渡された振動弾頭の見取り図で一議論起っていた。

 

「どうやら霧の侵食魚雷を解析したようですね。それを更に強化したのがこの振動弾頭らしいです。この振動弾頭はブラックボックスも多いですが確かにこれが人類の手で量産されれば人類に反撃の芽があるやもしれません」

 

「渡す相手のアメリカが残っているならな」

 

群像がふと呟く。

 

「嫌なことを言うなよ」

 

「しかし実際、この件に関してのアメリカとの密約は今から3ヶ月前のことだ。その後はアメリカとの連絡は途絶えて現在、どうなっているのかは分からない」

 

「イオナ、何か分からないの~?」

 

今回はいおりも機関室から上がってきていた。

 

「私は他の船から情報を遮断されている。詳しい事は分からない」

 

「だよね~~」

 

イオナの頭に頬をこすらせながらいおりが言う。

 

「向こうの日下部さん達はどうなのですか?」

 

「向こうもどうやら上手くいかないらしい」

 

群像は上影との密約が終わった後に少しだけ聞いてみたのだが彼からの返答は首を横に振っただけだった。

 

「ということは私達が直接アメリカまで届けるしかないのですね」

 

「内陸はひどい内乱続きだって言うし、その中を運ぶのは危ないしな」

 

 

彼の言う通り、今や欧州などを中心とした大陸では食糧や資源を巡って、内戦が各地で起こっているらしかった。

 

「同じ人間同士で争うなんて・・・・」

 

静が悲しそうに呟く。

 

「だから艦長は依頼を受けたのですね」

 

「そうだ。この仕事を成功させることができるのは俺達と彼らしかいないからな」

 

その時に空間モニターから通信が入った。

 

「群像。そういえばその振動弾頭はどこで受け取るんだ?」

 

紀伊だった。

 

「どうやら横須賀に振動弾頭があるらしいからそこまでいかないといけない」

 

「げぇ!またあそこに行かないといけないのか・・・・」

 

げんなりする紀伊を失笑しながら群像は見る。男性型のメンタルモデルも珍しいがここまで人間らしさを見せるのもまた珍しいかった。

 

 

「辛抱してくれ、それともこの依頼を断るか?」

 

「痛いところをついてくるなぁ。まぁ、仕方ないや」

 

「分かってくれたらそれでいい。イオナ、進路を横須賀に設定」

 

「了解」

 

「じぁ、行こうか」

 

 

 

今、人類の希望を託された航海が始まる。

 



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動き出す様々な者達

太平洋 霧の総旗艦直属艦隊にて

 

世界三大海洋である太平洋。昔は多くのタンカー、旅客機、輸送機、軍艦などが行き来していたがすでにかつての姿は今は無く、ただ静かな海が広がっているだけだった。しかしそんな彼らの代わりに今の海を牛耳っているのが禍々しい模様を浮かび上がらせている第二次世界大戦時の艦艇。即ち、霧の艦隊だった。

 

 

人類のどのスーパーコンピュータをも超える膨大な演算能力、その船体でありえないくらいの速度を実現させてしまう重力子機関、人類の兵器では突破不可能なクラインフィールド、ありとあらゆる物質を消滅させる浸食兵器、そして重巡洋艦以上の上位艦艇がのみが保有可能であり、霧の切り札である超重力砲。

 

 

そのおかげで人類は負けた。しかし彼らが海への憧れを捨てたわけではなかった。霧の隙を突いて何度も海上進出を企てきた。しかし霧の艦隊もただ黙っているわけではなかった。霧の艦隊をいくつもの艦隊に分ける事で幾度となく、その企みを非情にも打ち破ってきていた。そしてその艦隊達が

 

 

日本海とその他の近海を海上封鎖する東洋方面巡航艦隊。

 

インド洋およびアジア一帯を海上封鎖する東洋艦隊。

 

太平洋の海上封鎖して霧の艦隊の中でも随一の大きさを誇る太平洋艦隊。

 

ヨーロッパ一帯を海上封鎖している欧州艦隊。

 

 

それぞれの旗艦は大戦艦級が役割を担っている。そしてそれらの霧を束ねるのが

 

霧の総旗艦直属艦隊

 

の超戦艦ヤマトである。彼女ら超戦艦級は霧の中で言うとたった二隻だけだった。

 

その内の一隻であるヤマトは東洋方面巡航艦隊の旗艦であるコンゴウからとある報告を受けていた。

 

「そうですか。ご報告をありがとう」

 

そう言ってヤマトはコンゴウとの通信を切った。

 

「どうかしたの~~?」

 

ヤマトは声のした方向を向く。まぁ、誰かは分かるのだが。そう思いながら振り返るとセーラー服を着た少女だった。それはアマハコトノだった。

 

 

 

「いえ、少し気になる報告がコンゴウから来まして」

 

「ふ~ん。どんなの?」

 

ヤマトはコトノにコンゴウから報告を教えた。

 

「実は東洋第一巡航艦隊のチクマが私と同じ艦形の霧の艦艇を発見したと」

 

「もしかしてあの子かな~~?」

 

「そうかもしれません」

 

ヤマトとコトノには思い当たる節があったのだ。

 

「あの子が帰ってきたってことね!早く会ってみたいわ!」

 

「今はあの子の捜索、確保はチクマが捜索中みたいですがもうその必要もないみたいです」

 

「あの子と接触したからかな?」

 

どうやらイ401と合流したことに気づいたらしい。

 

「さすがですね。ですがまだしばらくは他の皆さんには黙っておきましょう」

 

チクマには悪い。確かにナガラをイ401に沈められてしまったがまだ許容できる範囲。

 

「あと最後に例の新しい艦隊はどうなの?できた?」

 

コトノが聞いてきた。

 

「ええ、駆逐艦、軽巡洋艦の子たちはすでに調整を済ませて命令があるまで待機しています。大戦艦級2隻と重巡洋艦の子たちはまだ終わっていなくてしばらくかかるようです」

 

彼女達が言っているのは今度東洋方面巡航艦隊に配備される新しい艦隊の話だった。

 

「楽しみだわ!一体どんな子たちなのかな!」

 

コトノは飛び上がりながら嬉しがった。

 

「まぁ、どちらにしてもまだ待たないといけませんからもう少し待ちましょう」

 

彼女らがそう言っている間に霧の艦隊は霧の中に消えていった。

 

 

 

霧の艦隊 東洋方面第一巡航艦隊

 

ヤマトとの通信を終えたコンゴウは船の艦橋に座っていた。

 

 

「しかしこの体を実装したが慣れてきたな。しかし忌々しいな、我らは兵器だというのにな」

 

コンゴウはメンタルモデル実装にはあまり好意的な意見は持っていなかった。

 

「コンゴ~!」

 

考えていると少女の声が聞こえてきた。

 

「マヤか。どうした?」

 

それは重巡洋艦マヤだった。

 

「退屈だよ~~401が動き出したんでしょ。何かやることないの~~?」

 

ピアノを弾きながら、退屈そうに呟く。

 

「北の方向に向かうのならタカオの管轄だ。あの子に任せておけばいい」

 

「えー!も~う管轄とかやめない?」

 

「私達は霧だ。アドミラリティコードの命令に従うだけだ」

 

「あーもう!コンゴウの石頭!ベーだ!!」

 

マヤは怒りながら通信を切った。

 

「めんどくさい。しかし401の事もあるが・・・」

 

コンゴウにはもう一つ懸念していることがあった。

 

(チクマの報告にあったヤマト型の戦艦。ヤツの姿を一度見る必要がある。チクマは確か全てがイレギュラーと言っていたな)

 

先程、ヤマトと通信した時にいっしょに調査を命じられたのだ。そしてコンゴウはもう一つ艦艇に通信を繋げた。

 

 

「タカオ、聞こえているか?」

 

 

 

 

太平洋 重巡洋艦タカオ

 

「ええ、知っているわよ。401が動き出したんでしょ。人類に与する裏切り者はこのタカオが沈めてあげるわ」

 

タカオは静かに401との戦いに備えていた。しかし反応が一つレーダーに現れた。

 

 

「401か・・・いや、あれはチクマみたいね。もう紛らわしいわね」

 

そこに居たのは形状こそ違うが同じ重巡洋艦であるチクマだった。それに後ろには軽巡洋艦タマもいた。

 

「タカオ、ここら辺で白い戦艦を見なかった?」

 

会うと早々にチクマのメンタルモデルが話かけてきた。

 

「白い戦艦?そんな白一色の戦艦いたっけ?」

 

「ああ、紛らわしい!何ていうのかな?本当は機密なんだけど・・・」

 

「言っていいの?それ?」

 

ある意味、あのチクマに私が知らないような重要な任務が回ってくることがかなり意外だったがその重要な任務をこんなところで言うというチクマにもっと驚いた。

 

「いやーー。それがね。ヤマト型をした戦艦何だけど・・・」

 

チクマはタカオに事の経緯を話した。

 

「ふーん。興味深いわね。その戦艦」

 

「でしょ。実は私もこのタマといっしょにその戦艦を探しているんだけど中々見つからなくて困っているのよ。だからあなたにお願いがあるの?」

 

タカオは人間でいう”ため息”をした。

 

「はーー。どうせ、あんたの事なんだから「私の任務を手伝って!」とか言うつもりでしょ」

 

「はははは!!さすがタカオ!何で分かったの?」

 

「伊達にあなたと昔、組んでいた訳ではないのよ」

 

タカオとチクマは17年前の人類との大海戦の時からいっしょに組んでいたが様々な事業があり、今は組んではいないが。

 

「私は今、401の撃沈を命令されているの。だからあなたの任務よりもこっちを優先して行わないといけないわ。悪いわね」

 

「そうか。時期が悪かったね。それじゃ、あと頑張ってね。そこの秘策も」

 

そう言ってチクマは行ってしまった。私の秘策を見破るとはチクマも伊達に組んでいたわけではないみたいだ。

 

「さ!私は自分の仕事に取り掛からないとね!」

 

タカオは再び、401を迎撃する態勢を取った。

 

 

 

太平洋沖 霧の艦隊 駆逐艦アキヅキ、スズツキ、テルヅキ、ハツユキにて

 

霧の駆逐艦であるアキヅキ、スズツキ、テルヅキ、ハツユキは最近、新しく霧に編入された駆逐艦の4隻であり、ヤマトが計画する新しい艦隊への配属が決まっていた為、ここで練習も兼ねて艦隊を分けて編成されていた。

 

”どうしたスズツキ?少し速度が速いぞ”

 

秋月型のネームシップであり、今回の旗艦を務めているアキヅキは隣で一隻だけなぜか速度を速めているスズツキに注意を促した。

 

”ご、ごめんなさい!すぐ直します”

 

妹のスズツキから応答があった。3番艦であるスズツキは少し臆病な性格であったため、声は弱弱しかった。

 

”もっと気楽に行こうよ!お姉ちゃん!”

 

4番艦のハツヅキが呑気にスズツキを励ましている。

 

”そういう貴女は少し気楽過ぎると思うのですが”

 

2番艦のテルズキが元気いっぱいのハツヅキを落ち着かせている。

 

”今は作戦中ではないが我々の行動で成功か失敗かの場面があるかもしれないから皆、引き締めろよ”

 

即座に応答があった。今までもこんなくだりは何回もしてきたので慣れていたが今回は少しばかり違った。

 

(やけに霧が多いし、レーダーに微弱ながらノイズが走っている。だからいままで以上に気をつけないとな)

 

辺りは霧が立ち込めており、レーダーもノイズが走っていて使い物にならなかった。

 

”どうしたのですか?アキヅキ”

 

さっきから黙ったままのアキヅキに対して、不審に思ったのか、テルヅキが声をかけてくる。

 

”いや、何でもない、少し気候が変と思っただけだ”

 

”そうですか。気をつけないといけませんね”

 

テルヅキはそう言った。確かにこのくらいの気候で不審に思ってどうするんだとアキヅキは自分を叱った。そうしていつもの練習内容をいつもの艦隊で行うために進路を向けた。

しかし彼女の表現し難い”不安”という概念は少なからず当たっていた。本来ならこの海域に今日は霧は出ないはずなのだ。そして霧のレーダーに僅かではないノイズも・・・・

 

 

 

 

彼女達が去っていった海域で島のような物体が動いた。

 

 




少し主人公の物語から離れて、様々な者達の視点で書いてみました。そして作者からお願いがあります。次回はついに重巡タカオとの戦闘です。

追記 改稿しました。意見をくださった方ありがとうございました。

   活動報告を見てください。


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霧の重巡タカオ

紀伊半島 熊野沖 台風11号勢力圏内

 

台風で荒れていたこの海をゆっくりと航行する蒼い潜水艦がいた。しかしそれは台風の外から来た対潜弾で原型を留めないくらいにまで破壊されてしまった。

 

 

霧の艦隊 重巡洋艦タカオ

 

「また囮か・・・」

 

すでに何回も401のデコイがしきりにタカオに近づいてきていた。しかしタカオはそれを許さずに完膚なきまでに破壊していっていた。しかしそれをタカオは苛立たずに静かに待っていた。

 

「早くお出で・・・401」

 

タカオはじっと海を見つめて蒼い潜水艦を待っていた。

 

 

 

超戦艦キイにて

 

紀伊は船の潜水機能を使って、401、黒鯨と共に航行していたが横須賀の手前でやはり予想していた通りのことが起こってしまった。

 

「どうやらイ401のデコイがまた攻撃されたみたいだな」

 

紀伊は艦のレーダーで4つのデコイがタカオに破壊されたことはこちらも確認できていた。紀伊は401と黒鯨の両方の通信を開く。

 

「群像、日下部、船体の状態と残りデコイは?」

 

 

 

「船体に関しては両艦共に異常は見当たらない。デコイは残りは3つだけだ」

 

群像が報告してくれた。

 

「で、これからどうやってあの重巡の封鎖線から抜け出すわけ?」

 

日下部が質問した。

 

「タカオは依然、台風の目の中から動いていませんし・・・」

 

隣で静がタカオの情報を口にする。

 

「どうするかね~~」

 

杏平も口調は軽いが悩んではいた。

 

「とりあえずおさらいをしてみよう。イオナ、横須賀への航路を表示してくれ」

 

「頼まれる」

 

すぐにモニターに現在のイ401の現在地、横須賀の位置、そしてタカオの現在地が表示されていた。

 

「まず最初の航路は台風を利用してタカオの封鎖線から離脱することがプランAだった」

 

「だけどそれはタカオのデコイ破壊で無理になったと」

 

紀伊がプランAの失敗を告げた。

 

「そしてこれは静の案であるがタカオの封鎖線から迂回して横須賀に行くことがプランBだった」

 

「だけどそれはタカオが向きを変えるだけなんじゃないのかな?」

 

日下部が疑問を投げかける。その言葉に群像は頷く。

 

「たしかにそのリスクがあり、そのリスクが当たってしまったら自分達はタカオの追撃を振り切れないまま横須賀に入港してしまうリスクも同時に出て来てしまう」

 

つまり要約してしまえばプランA、プランBもだめということは逃げることに関しては八方塞がりだった。そう”逃げる”事に関して言えばだ。

 

「そして最後にプランCだ」

 

「プランC?」

 

イ401クルーも首を傾げる。

 

「台風が消えてなくなる前にここでタカオを”倒す”」

 

「「「え!」」」

 

群像、イオナ、紀伊以外の全員が驚いた。

 

「いきなり重巡洋艦クラスかよ!」

 

重巡洋艦クラスはメンタルモデルを形成できる上位艦クラスの分類に入ってしまう。それを倒すことはかなりの苦戦を強いてしまうかもしれない。

 

「紀伊。君にお願いがある」

 

「何かな?」

 

「実はタカオの後ろ側に入って、注意を逸らしてもらいたい」

 

「いいけどそれには少しばかり時間がかかってしまうけどいいかな?」

 

「あぁ、君が後ろ側に行っている間にこっちは浮上して敵に攻撃を仕掛けてみるよ」

 

「了解した。気をつけてな」

 

「そちらこそ」

 

そうして一旦、イ401と紀伊は別れた。(黒鯨はイ401の援護のために残った)

 

「とりあえず武装とソナーをオンライン」

 

今回は浸食兵器も搭載してある。そしてこの艦はどうやらまだタカオに発見されてはいないようだった。

 

「どうやら浮上を開始したみたいだな」

 

ゆっくりとイ401は浮上を開始し始めていた。

 

 

 

タカオにて

 

「401の反応が4つか。一つが本物か、それとも全て偽物か」

 

そしてタカオの船体から二つの制御装置が出て来て、周囲に赤い重力子が漏れていた。

 

「超重力砲、エンゲージ!まずはクラインフィールドを臨界にしてあげる」

 

 

 

 

イ401艦内にて

 

「タカオ、回頭中!」

 

「発見されたのでしょうか!」

 

「慌てるな。浮上そのまま」

 

「ヨーソロ。了解」

 

「一番、二番、三番に低周波魚雷装填!並びに7番に浸食魚雷装填。装填後全発射管開け!」

 

「了解!」

 

イ401は浮上を続けた。

 

「これは・・・艦長!変なノイズが聞こえます」

 

「台風の影響でしょうか?」

 

「それもありますがこんなのは初めてです」

 

静の報告に群像は考え込む。

 

「魚雷装填並びに発射管解放完了!」

 

杏平が報告をする。しかし群像は今だ考え込んでいた。

 

 

 

 

「私はヒュウガのようにはならないわ」

 

大戦艦ヒュウガはイ401に撃破されてしまったがたかが巡航潜水艦ごときに私が敗北するはずがない。その間にも確実にイ401は浮上してきていた。

 

「早くお出で401」

 

 

「深度15・・・・深度10、まもなく海面」

 

イオナは深度を確実に読み上げていった。それが指すとおりにまもなく海面だ。

 

「海面まで3、2、1、浮上」

 

まもなく海面だというところで群像が叫んだ。

 

「サイドキック!取り舵いっぱい!」

 

「サイドキック、取り舵いっぱい」

 

船体がサイドキックをした。そのときに赤い閃光が船体の横を掠めた。

 

 

 

黒鯨艦内

 

「イ401が攻撃を受けた!?援護をしないと!」

 

まさか超重力砲の攻撃を受けるとは予想していなかった。しかしすぐに魚雷での援護を開始する。

 

 

 

「フロート反転!急速潜航!奴は正確にこちらの位置を把握している!ばら撒けるものは全部ばらまけ!」

 

 

そうして全問を開いて、攻撃する。

 

 

 

 

タカオは”驚愕”という概念に包まれていた。

 

「超重力砲の発射タイミングは完璧だったはずなのに・・・」

 

その言葉とは裏腹に魚雷を打ち込んでいく。

 

 

 

「一番から三番、低周波魚雷発射!起爆タイミングは任せる。海中をかき回せ!」

 

群像の指示を受けた杏平が一つのミスなく端末を操作する。

 

「了解!起爆まで7秒!発射!」

 

発射管から3つの魚雷が発射された。

 

「高速推進音多数接近!魚雷です!」

 

「イオナ!アクティブデコイを盾にしろ!」

 

「了解」

 

タカオから発射された無数の魚雷は401を食い尽くさんと向かったが3つのアクティブデコイと黒鯨の援護によって難を逃れた。

 

「デコイ3隻消失」

 

「低周波魚雷起爆まで残り3秒!」

 

「静!ヘッドフォンミュート!」

 

低周波魚雷で耳をやられないように群像が静にミュートするように呼びかた。そして低周波魚雷が起爆して海中をかき回した。

 

「機関停止。無音潜航」

 

401は深い海底に息を潜めた。

 

 

 

「401をロストした・・・」

 

 

タカオのレーダーにはイ401の艦影はいなかった。タカオは”驚愕”という概念を抱きながらじっと401がいた海域を見つめていた。

 

 

 

 

「しかし、ヒヤヒヤしたよ」

 

 

紀伊は一時的ではあるが胸をなで下ろした。どうやらあれが霧の切り札の兵器である超重力砲らしいがかなりの威力に紀伊は驚いた。しかし自分は今だタカオには発見されてはいない。紀伊は潜航してタカオの攻撃を受けた401に連絡を取った。

 

 

「群像、大丈夫か?」

 

「あぁ、さすがに超重力砲を掠ったお蔭でクラインフィールドが飽和しかけているがあとは黒鯨が援護してくれたお蔭でほぼ大丈夫だ」

 

「しかしよくタカオが超重力砲を撃つことが分かったな?」

 

「馬鹿正直にタカオが艦首を向けていたお蔭だ」

 

その時、いおりから通信が入ってきた。

 

「だけどどうやってタカオはこちらに気が付いたの?アクティブデコイは3隻とも無視だったじゃん」

 

いおりの指摘に皆が考える。

 

「イオナはどう思う?」

 

群像がイオナに意見を求める。

 

「私は・・・タカオは私をずっと見ていた気がする。偶然ではない」

 

「もしかしたらもう一隻いるのかもしれない・・・」

 

ぽつりと紀伊が言った。

 

「「「え!?」」」

 

「イオナ、スペックから分かっているタカオの索敵範囲に今の砲撃から推測される索敵範囲を重ねてくれ」

 

群像の指示に従ったイオナがすぐにモニターに結果を映し出した。そしてその結果の索敵範囲にはすっぽりとイ401と黒鯨が入っていた。

 

「おいおい、この索敵範囲は大戦艦級よりも広大じゃないか。これはありえねぇ」

 

「ありえなくない。これは事実」

 

杏平の言葉を即座に否定したイオナ。

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

「つまりこれほど広い索敵範囲を加え、この気象状況下でデコイと本物を見分ける能力。それほどの性能を持つ艦となると・・・・」

 

「ステルス性の高い潜航観測艦の類ですね」

 

群像と僧はもう一隻いると睨むが静は反論した。

 

「ですがタカオ以外の艦影は認められませんでした」

 

「ということはだよ。もしもう一隻潜んでいるとしたらそいつがタカオのエコーに隠れているということじゃないかな?」

 

紀伊も群像の意見を支持する。

 

「台風のお蔭で荒れた海での戦闘を嫌っていると思いましたが本当の理由はまともに動けないからなのですね」

 

「だけどそいつは仮説じゃね?」

 

杏平もまだ半信半疑だった。

 

「仮説は立証するためにある。紀伊」

 

「どうしたの?」

 

「君はこちらに構わずにさっきの通りで攻撃してくれ、こちらは準備をする」

 

「準備?」

 

「向こうを今度は驚かすための秘策の準備さ」

 

 

 

「さて、やるかな」

 

紀伊は一気に艦を浮上させた。

 

「結構驚くかな?」

 

戦闘の直前というのにふとそんなことを考えてしまう紀伊だった。

 

 

 

「401は動いていないか・・・・」

 

今だタカオは401のいる海域を片時も見放してはいなかった。しかしそれがたった少しだけ仇になってしまった。

 

「私の後方の海域から重力子機関の作動音?デコイか?しかしデコイを探知できないとは・・・」

 

タカオは後ろの物体をデコイと勘違いした。それが401のデコイとは遥かに大きさが違うのにだ。

 

「今度こそ401が動き出したか。まぁ、後ろのデコイに気を紛らわせて前から私を攻撃するはずだったのだろう?」

 

 

イ401からは多数の魚雷が発射されたが全てタカオの迎撃弾で防がれていた。

 

「タナトニウム反応・・・そっちが本命か。しかしその手は食わない」

 

 

たった二発の侵食魚雷を多数の迎撃弾で撃破した。海面に赤い球体が浮かびあがる。

 

「この魚雷をプログラミングした人間は良い腕をしている」

 

タカオは顔も知らないイ401のクルーを褒めた。

 

「だけどそれもお終い」

 

次の魚雷を発射しようとした時にそれは起こった。

 

「後方からタナトニウム反応が3つ!?後方にはデコイしかないのに!」

 

タカオの疑問は海上に出てきた物で悪い意味で解消された。

 

「あれは総旗艦・・・いえ、ヤマトとは何か違うわね」

 

その時にチクマとの会話が思い出される。

 

「まさか・・・あれがチクマの探していた白い戦艦・・」

 

 

もしあれが大戦艦級、いや、ヤマトと同じ超戦艦級ならばこちらは圧倒的不利だが・・

 

「だけどまだ私はやれるわ。いかに超戦艦級だったとしてもこれだけの侵食兵器はただじゃすまないはず!」

 

タカオはほんの少しだけ弾頭を残して、残りの全ての弾頭を全てあの戦艦に向けた。

 

 

 

 

 

「おいおい!確かに攻撃は予想はしていたけどこれは激しい!」

 

二回戦闘をしたが一回目はチクマの攻撃を、二回目は日下部の黒鯨と戦ったが今だ、こんなに激しい攻撃を喰らったのは初めてだった。

 

「ええい!とりあえず迎撃だ!」

 

しかし紀伊の方も只でやられない。艦のVLSを解放して迎撃する。しかしタカオは後部砲塔を使って砲撃をして、確実にこちらのクラインフィールドを削ってくる。

 

「群像の秘策はまだなのか!」

 

 

紀伊は群像の秘策の準備が完了するまでの時間稼ぎだった。紀伊は凄まじい弾幕の中で401の準備を待った。すると通信が入った。

 

 

『紀伊、準備が整った。すぐに退避してくれ!』

 

群像が叫んだ。そしてすぐに紀伊の目の前に驚くべき光景が目に入った。そして紀伊はその光景をそのまま口に出した。

 

「海が割れる・・・」

 

そして海が割れた先には船体から超重力砲を撃とうとしているイ401だった。

 

「やばっ!見とれている場合じゃない、すぐに逃げないと!」

 

急いで射線から離れる。そして何とかギリギリ離れられた。しかしタカオはどうやら動けないらしい。そしてようやくタカオの”秘策”が分かった。

 

「ようやく姿を現したか」

 

それはタカオの船体の下にぴったりとくっついている501だった。

 

 

 

「どうして巡航潜水艦ごときが超重力砲を!?」

 

タカオは後ろの超戦艦に火力を集中していたことで前方の401に注意が届いていなかった。

 

 

「501!接触を切断しろ!」

 

そしてタカオも逃れようとする。しかし中々逃れられない。

 

 

 

「タカオが離脱しようとしています」

 

あまりこちらも向こうも時間はなかった。群像は指示を飛ばす。

 

「仰角マイナス30!」

 

「だけどタカオには!」

 

杏平が驚く。

 

「これでいい!超重力砲撃てぇ!」

 

そして視界は蒼い閃光で満たされた。

 

 

タカオとの激戦の結果だった。



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横須賀再び

勝手ながらタグに新しいのを追加しておきました。すいません。


タカオとの戦闘後

 

紀伊はイオナにキーコードを奪われてしまったタカオを見つめていた。彼女の顔は苦汁を飲まされたような顔をしていた。

 

「とりあえず何とか終わったな」

 

肩の力を抜く紀伊。船体にもクラインフィールドにも無傷に近い損傷だけで済んでいた。しかしこれでどれくらい自分に実力があるのかを理解できた。今回のタカオ戦は様子を見るために401の作戦を飲んでいたが実際に戦ってみて、そこまで危険視するほどでもなかった。

 

「次は正面突破もできるかもな・・・」

 

とまたいらぬ考えを考えてしまう紀伊だった。しかしそんな事も不可能ではなかった。今だ紀伊の実力は見せてはいなかった。

 

 

 

イ401艦内

 

「何とか突破できたな・・・」

 

杏平もほっと息をつく。

 

「そうだな。しかし紀伊と日下部がいなかったら少し危なかったかもな」

 

群像も横須賀に着くまでは何とか武器弾薬の消費を抑えたかった。

 

「しかしなぜ超戦艦である彼は素直にこちらの提案を受け入れたのでしょうか?あの超戦艦の力なら正面突破も出来たはずです」

 

僧は彼の行動に疑問視を浮かべる。

 

「まぁ、それはいいだろう。とりあえず早く横須賀に向かわないとな」

 

「それもそうか」

 

そして3隻は横須賀に向かった。

 

 

そして黒鯨の艦内では・・・

 

「なぜか私と黒鯨の存在が薄くなっている気がする・・」

 

日下部が乗る黒鯨は確かにイ401の撤退を援護したがそれからはタカオから来る魚雷を迎撃するだけという仕事だった。それゆえになぜかキャラが忘れられてしまっていると日下部は考え初めてしまっていた。

 

「はぁ!私はまた悪い妄想!いけない、いけない!みんなが私の事を忘れている訳がないわよね!ね?」

 

と誰に向かってしゃべっているのかが分からないがそんな悩みを抱える日下部だった。

 

 

 

横須賀港近辺 超戦艦のデッキにて

 

3隻の船が横須賀の防壁を越えて入ってくる。しかしそれは極めて異例な事だった。霧に海上を封鎖されているため迂闊に防壁の外に出る艦船はいなかった。

 

「横須賀か・・・2年ぶりだな」

 

艦との距離が近いために群像の呟きを聞いた紀伊は反応して群像の顔を見た。その眼には久しぶりに帰ってきたという感情があった。

 

「艦長は2年前に来たことがあるの?横須賀に?」

 

「というか俺の故郷だよ」

 

「ええっと、ごめん」

 

「いいんだよ。もう気にしてはいないから」

 

「そういや、お前たちもここで派手にやったんだって?」

 

杏平やいおりが聞いてくる。

 

「ああ、丁度ここでな」

 

紀伊にとっての横須賀入港時での不安は今だ警戒されているのではという懸念だった。

 

「まぁ、以前のように動かないとは思うけれどな」

 

群像は紀伊の不安を察したのか群像が大丈夫だと口を出す。そしてそんな会話をしている間に横須賀のドッグの入り口に着いていた。

 

「じゃあ、また後で」

 

「ええ、またね」

 

「ああ、後で」

 

イ401は7番ドックへ、紀伊は8番ドックへ、黒鯨は9番ドックにそれぞれ入った。紀伊は数日前に入ったドックとは違う事に気がついた。そしてドックの排水が完了して、突然ドックが下に向かって降りていった。

 

「これは・・・」

 

『静と日下部と紀伊は初めてだったな。これは生き残った日本の艦艇を守る為に作られた横須賀の地下ドックだ』

 

そこには日本の艦隊が所狭しと並んでいた。そして彼らの艦もその列に並ぶ。

 

「入港完了っと。とりあえず艦を下りてみよう」

 

艦を下りてみたがいち早く入港を完了させていた群像達はもうイ401の整備とミサイルなどの補充を行っていた。

 

「日下部の黒鯨はどうなっているのかな?」

 

自分の艦の整備はほったらかしにして今度は日下部の方を見に行った。

 

「やはりこことこことここはやはり一度、本格的な交換が必要です」

 

「分かりました。それでお願いします」

 

現場の監督と日下部は話していた。そして彼が去った後を見計らって話掛けた。

 

「よっ!日下部」

 

「あっ、紀伊!」

 

「どうなの?黒鯨は?」

 

実は紀伊も少し後ろめたい気持ちがある。だって今までの黒鯨の損傷は全て自分のせいであるからだ。

 

「やっぱりいろいろな設備が壊れていたわ。今まで何で潜水できていたのか不思議だと言われたわ」

 

「何か・・・すいません」

 

「何を言っているのよ。もう気にしていないわ。それにすぐ交換が済むそうよ」

 

そう言われると気持ちが和らぐと共にあることを思いついた。それは個人的に思っていたことである。そして彼女と分かれてさっきの現場監督を捕まえてこっそりと話した。

 

「な、何ですか?」

 

「実はかくかくしかじか・・・」

 

約3分後・・・

 

「分かりました」

 

「出来るの?」

 

「設備をフルで活用すれば、最低限の時間と人数で出来ます」

 

「分かったけどいいの?」

 

「ええ。私も言われてみればそうだと思いました。確かにあれはまずいですよね。それに同型艦と被りますし・・・」

 

どうやら納得してもらえたらしいがあれだけの理由でよく納得してもらえたなと思ってしまう。一体どういう人何だこの人は・・・・

 

「さてと・・・じゃあ自分も艦に異常は無いかを調べに行きますか!」

 

損傷などは特に無いのだが自分だけサボっているように見られたらいけないのでとりあえず振りだけでもしようと自分の艦に向かった。

 

 

 

 

その頃・・・

 

「イ401は無事に霧の封鎖網をあの艦達と共に突破出来て、横須賀に到着したみたいだな」

 

上影は部下に確認を取る。

 

「はい。先程確認が取れました。彼らは無事なようです」

 

「まぁ、無事でなくては話にならんがな」

 

上影は無事に到着出来ないとは思ってはいなかった。伊達にこの2年間の間彼らを高く評価していた訳ではなかった。その時にもう一人の部下が入ってきた。

 

「失礼します。上影次官補これを」

 

渡してきたのはとある書類だった。上影はそれを見て、目を細める。

 

「何の書類なのですか?」

 

「いや、君たちが心配することではない。もういいぞありがとう」

 

「分かりました。失礼します」

 

部下は少し心配そうな顔をしながら退室した。

 

「しかし面倒なことになったな」

 

彼はそう言って席を立って、窓の外を見た。彼の机に置かれれている書類は静かに置かれていた。

 

 

 

横須賀港地下ドック内

 

「どうやら重力子エンジンは異常なし、弾薬もしばらく持つと」

 

タカオ戦でもあくまで陽動であり、積極的な戦闘はしていない為問題は特になかった。

 

「おーい紀伊!」

 

日下部が呼んでいた。艦から見下ろす感じでどうしたのかと呼びかける。

 

「何か現場監督の人に追い出されちゃって、紀伊がよかったら外にでもいかない?」

 

日下部がいっしょにどうかと誘ってきた。

 

(どうせやることはないし、いいかな?)

 

「分かったよ。いこ__!?」

 

行こうと答えようとしたが言葉に詰まった。

 

「どうしたの?そんな深刻な顔をして?」

 

「いや、何でもない。今は行けないよ。それと用事が出来たから少し外すよ」

 

「え!?どういう事」

 

紀伊はその質問に答えずに作業員に合図を送る。するとさっき降りた地面がゆっくりと上がり始めた。

 

「どこ行くの!?」

 

「悪い。群像達には少し用事があると言ってくれ」

 

「そんなので納得しないわよ!」

 

しかしもう何もかも遅かった。地上のドックに戻り、注水が終わると急いで出た。そして防壁から出て少し行った海域でソナーを作動させた。効果はすぐに現れた。

 

『待っていたわよ』

 

通信に女性の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

地下ドック 日下部にて

 

「一体どうしたのよ」

 

「どうしたんだ?」

 

群像とイオナが駆けつけてくる。

 

「どうやら紀伊がいないようだ」

 

イオナが答える。

 

「一体どうしたんだ?」

 

「分からないわ。外に誘おうとしたらいきなり血相を抱えて飛び出して行っちゃたみたいだわ」

 

「イオナ分かるか?」

 

イオナに紀伊がどこにいるかを訪ねる。

 

「どうやら防壁の外にいるらしい。防壁の扉の制御装置がハッキングされて開けられた形跡がある」

 

「紀伊がやったの?」

 

「いや、違うみたいだ」

 

どうやら紀伊がやったわけではないらしい。しかしどうしてそんな所に・・・。

 

「あの~~」

 

その時にいおりがひょっこりと顔を出した。

 

「どうした?」

 

「捕まっちゃたよ」

 

「え?」

 

よく見ているといおりの背後には明らかに海軍ではない兵士が銃を構えていた。

 

「おい、何だ!」

 

「何のつもりだ!」

 

整備員達も周りの兵士達に銃を向けていた。そしてその兵士の中から黒いスーツを着た男が出てきた。

 

「実は君達と話がしたいお方がおられる。ご同行よろしいか?」

 

「誰だよ。その無礼な奴は?」

 

杏平が食って出る。

 

「口を慎みたまえ。特に・・・・北 良寛先生の前でな」

 

「北 良寛?」

 

「仕方ない。行きましょう」

 

彼らは仕方なく彼らの元に連いていった。

 

 

 

 

横須賀付近海域にて

 

『待っていたわ』

 

海域に着いた途端に通信に声が入った。

 

『さすがは超戦艦級ね。ここまで探知できるなんて』

 

「褒めはいらない。しかしお前は誰で何の目的でこの横須賀に近づいたんだ?」

 

姿は見えない為おそらくだが潜水艦だろう。

 

『そんな事は今はいいわ。それよりも私はあなたと戦わなければいけない。お手並みを拝見させてもらうわ』

 

「チッ!やはりそれが目的か!」

 

舌打ちをしながら通信を切った途端に後方から決して少なくない魚雷が襲ってきた。

 

 

 

 

 

着いた先の豪邸で一人の老人が海を見ていた。

 

「あなたが北 良寛与党幹事長」

 

群像が呼びかける。

 

「あなたが・・・」

 

日下部は目の前の人物の気に圧倒されかけていた。伊達に今までの過酷な人生を送ってきたわけではなさそうだ。

 

「ほぉ、さすがは日下部家の長女だな」

 

ゆっくりと北は前を向いた。

 

「今回は何の用件で私達を集めたのですか?」

 

「いきなり本題に入るか・・・ところでそこの401のメンタルモデルの他にあの大和型のメンタルモデルは?」

 

紀伊もどうやら目当てだったらしい。北はイオナを見ながら言った。それに陸軍の兵士が答える。

 

「申し訳ございません。我々が突入する少し前に海軍の地下ドックから出ていまして現在は防壁の外にいると思われます」

 

「そうか。出来れば彼にも話を聞いてほしかったが仕方ない。単刀直入に言おう。君達はイ401、黒鯨そしてあの戦艦を我々政府に返還もしくは渡し、新兵器輸送プロジェクトから手を引いてくれないかね?」

 

「・・・・・」

 

沈黙が辺りに漂った。

 

「あの戦艦はともかくイ401、黒鯨は元々は我々政府が所有していたものだ。まだ子供が扱っていい代物ではない。そして大戦艦級クラスかそれ以上の戦艦が今、手元にある。それを研究して人類の未来の為に役立てるというのを君達は理解できないかな?」

 

「政府の手で管理が出来るのですか?」

 

「そうだ。子供に扱わせるのではなく、きちんとした訓練を受けた正規の軍人を乗せて正しく運用されるべきだとは思わんかね?」

 

「お言葉ですが自分の意見は違います。あなたが言っていることはつまり霧のメンタルモデルに任せていればいつ暴走するかもしれない。つまり”信頼”に値しないということだ。しかしその信頼に値しないのは大海戦の後の17年間何もしてこなかったあなた達の方ではないのですか?」

 

「・・・・」

 

群像の反論を黙って聞く北だがさっきの物言いは日下部にとってもカチンと来るものがあった。

 

「それに良寛さんあなたは正規の軍人を乗せて正しく運用されるべきだと言いましたがいくら戦術に彼らが長けているとしてもそんな訓練や経験は霧に対してはまったくの意味をなさない。その事がまだあなたには分からないのですか?」

 

「イオナや紀伊だってまるで化け物みたいに呼ばないでほしいわ」

 

日下部は怒りの籠った声で言った。

 

「そうかならば仕方がない。ここで拘束させてもらう」

 

彼が合図を出すと兵士達が出てきた。だが拘束されることはなかった。

 

「何だ!?」

 

防壁の方から爆発音が聞こえて警報がなる。

 

(今だ!)

 

日下部は兵士達が気を取られている間に逃げだした。

 

「!?逃げたぞ。追え!」

 

「日下部!もう少し行くのは遅れそうだと紀伊に会ったら伝えてくれ!」

 

兵士達に追われている日下部にそう言った瞬間再び爆発音が響いた。部下が北に耳打ちをする。

 

「!?・・そうか分かった」

 

「どうしたのですか?」

 

「どうやら霧の大戦艦級が二隻こちらに向かって攻撃しているそうだ」

 

彼は静かにそう告げた。

 

 

 

 

それからほんの少し前

 

「いきなりかよ」

 

そう言いながら向かってくる魚雷を一瞬で撃破した。

 

『ようやく力を出してきたわね』

 

自分の魚雷が迎撃されたのを気にも留めなかった。

 

「いや全然」

 

そう言って予測地点に魚雷を撃ち込む。

 

『あらそうだったの?意外だわ』

 

「馬鹿にしてくれちゃって」

 

次はミサイルの雨だった。

 

「まだいたのかよ」

 

どうやら撃ち込んだ地点のは全て撃破されたようだ。相手も中々の強敵だった。

 

『ふふ、残念ね。私もまだ全然本気は出していないのよ?』

 

続けて魚雷を撃ち込まれるが迎撃しながら気ずいた。

 

「見つけた!ペラペラとしゃべっているからだよ」

 

『あらもう見つかったかしら?ショックだわ』

 

見つかったというのに焦りも何もなかった。

 

「まったく・・・じゃあこれで終わり・・・!?これは」

 

『あら気づいたかしら。だったらあなたの質問に答えてあげるわ。確か『何の目的で?』だったかしらあなたなら気づいていると思うけど私はあなたをおびき寄せる為の陽動よ』

 

「まさか”お前ら”の目的は!」

 

『そうよ。キリシマ、ハルナの突入を援護するためよ。私との戦闘に熱が入ったからかな。迂闊だったわね』

 

彼女の読みは寸分違わずそうだった。彼女以外は敵はいないとタカを括ってしまった結果がこの様だった。

 

『私の用事は終わったし、かーえろっと!あなたはどうするの?』

 

「分かっているくせによく言うよ。俺は助けに行くぞ。少なくとも俺が知っている人達は助けるぞ」

 

『そうよね。なら精々頑張って』

 

「だがその前に一つ教えてくれ。お前は一体何者なんだ』

 

「そうねぇ。本当は私もこんな事はしたくはないのだけどね。命令だからね。ああ、それはさっきも言ったわね。そういえば私がいた所の人間はこう言っていたわね』

 

そう言った後にまるでもったいつけるかのように間を空けてから言った。

 

『それは機密につき申し上げる事はできませんだったかしら。それじゃあね超戦艦さん』

 

「俺は紀伊だぞ」

 

『覚えておくわ』

 

そうして彼らは離れた。双方の姿を見ずに・・・・




いよいよキリシマ、ハルナ戦です。次回は紀伊がドンパチ撃つ回になると思うのでお楽しみに

群像とイオナのお墓参りはもう少し後でします。そして途中出てきた潜水艦については勘の良い人や知っている人ならわかるはずです。(言ってはだめですよ)それでは。




(黒鯨と日下部の活躍どうしようかな)


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横須賀決戦 前篇

横須賀襲撃からほんの少し前

 

横須賀の外の海域に二つの巨大な物体がゆっくりと横須賀に向けて舵を切っていた。

 

霧の大戦艦級

 

大戦艦ハルナ

 

大戦艦キリシマ

 

「どうやら上手くあの潜水艦があのヤマト型をおびき出したみたいだが残念だ」

 

「なぜ?」

 

ハルナが静かに聞いてきて、キリシマは当然といった顔で言う。

 

「一度その超戦艦級と戦ってみたかったんだよ。だけどあの潜水艦が陽動でおびき出してしまったから一戦交えることが出来なかったから残念なんだよ」

 

「それは作戦行動には入っていない。私達の目的はイ401の撃破だ」

 

「分かっているよ。それにしてもこの壁は邪魔だな通してはくれないし壊すか」

 

キリシマはそう言い放ち主砲を旋回させて撃った。

 

ズドォン!

 

物凄い轟音で爆発が起こったがまだ破壊には至らない。続けてハルナが撃つ。それを何回か繰り返すと壁が壊れ町が見えた。

 

 

「久しぶりだね人類の皆さん。このキリシマとハルナが401に会わせてもらいに来たよ」

 

「・・・・来たよ」

 

 

二人の霧が破壊をもたらす為に横須賀に現れた。

 

 

 

 

横須賀地下ドッグ

 

今、横須賀基地全体が霧の大戦艦級二隻現れたことに混乱している中、一つの潜水艦が着実に出港準備を整えつつあった。

 

「「白鯨級」全クルーの搭乗を確認。作業員は至急退避してください」

 

それは日本が対霧用決戦兵器として建造していた白鯨であった。黒鯨から得られた開発データを元に更なる改良が施され、新型の兵器を搭載するという、まさに今の日本の切り札的な艦であった。

 

「そうだ!今は生活物資を後回しにしても良い。時間が無いんだ!」

 

「システムチェック!」

 

「機関室どうか!」

 

「間違いなく侵食魚雷は積み込んだんだな!」

 

白鯨も急な出港の為、大急ぎで準備を始めていた。その中で一人の人間が新しく発令所に入ってきた。

 

「響オブサーバー発令所に入室!」

 

「どうも響さん。私はこの艦の艦長である駒城です」

 

「初めまして艦長」

 

入ってきたのは白鯨のオブサーバーとして呼ばれた響 真瑠璃である。そして艦長である駒城 大作であった。真瑠璃は元イ401のソナー主であった。

 

「出港準備は出来たか?」

 

「もうすぐ完了であります」

 

そう答えたのは副官である浦上 博である。その腕を見込まれて白鯨に乗り込んでいた。

 

「あとは待つだけだな」

 

着々とその艦の決戦の火ぶたは落とされようとしていた。

 

 

 

 

同時刻 日下部

 

「何とか振り切れたわ」

 

日下部は命からがら海軍の地下ドックへ到達できていた。

 

「急いで艦の準備をしないと!」

 

そう言って疲れている体に鞭を打って黒鯨のある場所まで着いた彼女の第一声は今が戦闘時だと忘れてしまいそうな声だった。

 

「何よこれぇぇぇえ----!!」

 

彼女の視線の先は今まで見慣れてきた白い黒鯨の船体では無く、まさしく名前に相応しい黒一色のカラーリングになっていた。

 

「あ、日下部艦長。あの戦艦のメンタルモデルに頼まれて新しい塗装と装備をつけました。塗装は見ても分かる通りで装備の方はあの白鯨と同じですからね」

 

しかしそんないい仕事をした風に話す声はほとんど聞こえていなかったが一つだけ心に決めたことがあった。

 

「後で紀伊覚えておきなさいよ・・・」

 

まるでうわ言の様に呟いて彼女は発令所まで行った。

 

「確か白鯨が居たはずね。とりあえず黒鯨も参戦すると伝えておいて」

 

命令をして船体や装備品のチェックをする。確かに新しい装備が入っていた。海軍の人達が装備の積み込みや船体の修理(塗装は置いておいて)それら全てをこの短時間で済ませている事に日下部は驚いてしまった。

 

「システムチェックはOKと後は白鯨だけね」

 

こちらの準備も完了していた。

 

 

 

 

「黒鯨から通信が入りました!どうやら向こうも参戦するそうです」

 

「心強い。ハッチを開け。機関室スーパーキャビテーション航行はできるか!?」

 

『願ってもないことです』

 

「本気ですか?本来スーパーキャビテーション航行は魚雷群を振り切るためのシステムで___・・・って艦長は分かっておっしゃっているんですね」

 

「そういうことだ。黒鯨を含めた全艦に通達!これよりスーパーキャビテーション航行に入る!。全艦衝撃に備えろ」

 

全員の準備が完了する。

 

『ハイドロジェット取水及び噴水口閉鎖』

 

『各区画対ショック装置作動確認』

 

『キャビテーション発生装置作動開始』

 

「黒鯨もスーパーキャビテーション航行を行おうとしています!」

 

どうやら向こうもこちらの意図に気づいてくれたらしい。駒城は向こうの艦長も優秀だと感心した。

そして二隻の白鯨級が出港した。一隻は純白、二隻目は漆黒の対照的な潜水艦だった。

 

「操舵!浅深度で思う存分ぶん回せ!」

 

『お任せを!』

 

『ロケットモーター燃焼終了まであと30秒!』

 

「全兵装目標霧の艦隊左舷艦!魚雷は直進射でいい!」

 

 

 

「くっ!やっぱりぐっとくるね」

 

黒鯨も改装で航行装置が改良されていた。

 

「白鯨は左舷を狙うか。こちらは右舷を狙おう。全兵装目標は霧の艦隊右舷艦!直進射でいい!」

 

もはや白鯨と黒鯨のコンビは完璧に等しかった。

 

 

 

 

 

「海中から推進音?401のものではないな・・・人類の兵器か」

 

そう言う間に魚雷が片方はキリシマにもう片方はハルナに命中するが全てクラインフィールドが無効化してしまった。

 

「演算処理を実行中・・・・問題はない」

 

「まぁ、いいさ。401が出てこないから退屈だったんだ。遊ばせてもらうよ」

 

キリシマは顔に子供が新しい玩具をもらった時のような笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「いいぞ!そのままふかし続けろ!”サウンドクラスター”どうか!」

 

『ロケットモーター燃焼終了まで後5秒!』

 

『サウンドクラスター魚雷諸元入力完了!』

 

「黒鯨の方はどうなっている!」

 

『あちらもサウンドクラスターの発射準備は出来ているようです!』

 

「分かった。黒鯨には合図で指定した範囲に撃てと通信で打電しろ!」

 

『ロケットモーターの燃焼終了!』

 

スーパーキャビテーション航行が終了する。しかし未だにイ401とあの白い戦艦のどちらかが来てくれるまでは耐えなければならなかった。

 

『霧の二艦が機雷源に侵入を確認』

 

事前に撒かれてあったキャニスターから次々とミサイルが発射されていく。しかしやはり効いてはおらずに逆に撃破されるという醜態であった。だがそれだけの時間稼ぎがあれば十分だった。駒城は未だに使った事がない新兵器を試すことにした。

 

「サウンドクラスター魚雷発射!速力落とせ!静音航行!」

 

『黒鯨の発射も確認!』

 

二隻から発射された二つの魚雷は外殻をパージにして無数の装置を辺りに射出した。

 

「これがサウンドクラスター魚雷ですか」

 

響が新兵器にくぎ付けになり、浦上がそれについて説明する。

 

「このサウンドクラスター魚雷は大型魚雷が回転しながら進んで行き、256個の小型スピーカーを散布します。この小型スピーカーは展開後、それぞれが個別の周波数を発振して音の幕を作ります」

 

「そしてこちらはその幕の中に隠れる形で行動をしていくのですね」

 

響が補足をする。

 

「ええ・・・ただこのままではこちらも相手を探知することが出来ませんので工夫がしてあります。故意に使用しない音域がありましてそこは白鯨と黒鯨のソナーが利用します」

 

つまり幕の中に小さなのぞき穴があるということだ。

 

「幕にのぞき穴が開いているわけですか」

 

「そうです。そののぞき穴も一定時間で場所を変えます。スピーカー群が変調し、それに合わせて白鯨のソナーも使用する帯域を変化させていきます」

 

「と・・・そこまでは技研が言っている事ですが何分使ったことの無い装備なので正直ドキドキしています」

 

そうこの白鯨のクルーだけではなく、日本いや世界のどこだって霧に対しては使用したという実績は無い為、これがどこまで霧に通用するかは怪しいものがあった。

 

「変調パターンが解析されてしまうかもしれません」

 

響は現実的な言葉を言う。

 

「・・・・たしかにそう長くはもたないでしょう」

 

しかし我々はあくまで主力が来るまでの時間稼ぎだ。それまで逃げる事ができればこちらの勝ちだった。

 

 

 

 

 

海上でも使ったことは既に分かっていた。

 

「小型スピーカーを256機確認。変調パターン有り」

 

ハルナが淡々と分析した結果を言う。

 

「・・・次から次へと妙な装備を」

 

「どうする?変調パターンを解析する?」

 

「いや、いい。もうこいつらと遊ぶのは飽きた」

 

ハルナの提案をキリシマは飽きたという理由で却下する。

 

そして金剛型ではカタパルトと呼ばれる部分を海面に突き刺して

 

「驚け」

 

次の瞬間、海面に衝撃が走った。

 

 

 

 

ドォン!

 

海面だけではなく、海中でも同じく衝撃波が起きた。そして次々と白鯨と黒鯨が放ったスピーカーを破壊しながらその衝撃は二隻にも届いた。

 

「きゃあ!」

 

日下部は悲鳴を上げる。黒鯨のシステムにエラーが次々と出る。

 

「しまった。推進装置を含めた装置がエラーが出てしまった。何とか自律防御システムが生きていたけどこれじゃあいい的だわ」

 

すでに二隻は丸裸だった。それにキリシマとハルナの魚雷が追い打ちをかけるように発射されてそれを迎撃するという繰り返しだった。

 

 

 

「まだあの二隻は動けるのか。大したものだよ」

 

小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらまだ見ぬ人類の潜水艦を褒めた。霧の大戦艦級を相手にここまで生き延びたのだ。だがそれももう終わりだとキリシマは思う。

 

「沈め」

 

そしてそれを撃沈するために主砲を向けて発射しようとしたときに船体に衝撃を感じた。

 

「キリシマ!」

 

ハルナも驚くが自身もレーザーと侵食魚雷を受けた為にそれどころではなくなった。

 

「侵食魚雷だと・・・一体誰だ!」

 

 

 

「来たか!」

 

駒城もその存在が来た時に少しだけ笑みを見せる。

 

 

 

「遅いわよ!」

 

日下部が怒る。それに二つの反応が返ってきた。

 

「「すまない。遅くなった」」

 

 

 

 

海中からは蒼い潜水艦が

 

 

防壁の外からは白い戦艦が

 

 

 

二隻の大戦艦を止める為に横須賀の湾内を駆ける。

 

 




すいません。次回にイ401と紀伊、ハルナとキリシマとの戦いになります。


感想をお待ちしています。


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横須賀決戦 後篇

今回はやけに長くなってしまった。そんなものでも見たいという方はどうぞ。


侵食弾頭の攻撃を受けたキリシマは即座にクラインフィールドで防いですぐに持ち直した。

 

「来たか!」

 

しかしイ401が来たのはいいが本来ならあの潜水艦が陽動をしているはずのあの超戦艦までもが来ていた。キリシマは潜水艦に通信を開いた。

 

「おいどうなっている!あの超戦艦の陽動はお前の仕事だろう!」

 

キリシマは通信が繋がった瞬間に怒鳴った。しかし返ってきたのはのんびりした声だった。

 

『いや~~あの超戦艦凄いね。あっという間に陽動だってバレたのよ』

 

「だからと言ってなぜ攻撃をして足止めをしなかった!」

 

『もう煩いな~~そちらの艦隊旗艦やあんた達から”陽動”だと言われたからやっただけよ。誰も”足止め”をしろとは言われていないわ』

 

キリシマは舌打ちをした。過ぎたことは仕方がない。今、責任をあの巡航潜水艦に説いていても状況は一向に良くはならない。しかしこの作戦が終わった後にはあの巡航潜水艦に責任を説こうとキリシマは決心した。

 

「チっ!仕方がない。お前はマヤの所に戻っておけ」

 

『はいは~い。じゃあお仕事頑張って~~』

 

今が戦闘中だとはまったく思わせない口調で相手は通信を切った。

 

「まぁ、いい。ハルナ、そっちは大丈夫か?」

 

「クラインフィールドに異常は認められない。戦闘続行可能・・・」

 

どうやら目立った損傷はないようだ。

 

「ハルナ、二手に分かれよう。ハルナは401を、私はあの超戦艦を倒す!」

 

 

 

 

 

「キリシマ、ハルナ回頭中、キリシマは紀伊の方へ、ハルナは本艦に向かってきています!」

 

「上手く分散してくれたようだ。これより本艦は大戦艦ハルナを叩く!」

 

初撃の攻撃は失敗した。イ401の侵食兵器は両手で数えられる程しか残っていない。つまりこの残された侵食兵器で大戦艦級を撃沈しなくてはならないのだ。

 

「イオナ、深度は任せる。海面を這え」

 

「這う」

 

出来る限り被弾を少なくする為に海底建築群の中に潜り込んだ。

 

「これからはこちらの番だ。白鯨を逃がすぞ!」

 

 

 

 

 

「キリシマの方がこちらに来たか・・・」

 

紀伊は冷静に言う。確かに相手は大戦艦級だが一隻だけなら撃破できる可能性が低くはなかった。

 

「さっそく撃ってきたか!」

 

キリシマはいきなり全弾発射してきた。どうやらキリシマの性格はかなり好戦的な性格をしているらしい。そのお蔭かは知らないがイ401がハルナを、俺がキリシマと一隻ずつに分かれて戦う事が出来た。紀伊も黙って撃たれている訳では無く、こちらも主砲やミサイルを発射する。

 

「確かに今まで本格的な戦闘はしていなかったけど今回は力を出させてもらうよ!」

 

紀伊は自分が高揚感に包まれている事に気がついた。

 

 

 

 

「いいよ。いいよ!あの超戦艦!もっと私を楽しませてくれ!」

 

キリシマは”高揚感”に包まれていた。確かに17年前の戦闘では派手に出来ていたがあまり人類の兵器では自分を超える者はいなかった。それからはメンタルモデルを持ち、霧の海洋封鎖に”退屈”しており、そうして訪れた今回の作戦では当初はイ401だけでつまらないと感じていたがあの超戦艦が来てくれたお蔭でこの戦闘に有意義を感じていたからだ。

 

『キリシマ』

 

あの超戦艦と激しく侵食兵器や粒子砲から避け合っていると自分に対して通信が入った。それは自分の姉であり、東洋方面第一巡航艦隊旗艦のコンゴウからだった。

 

『お前に二つ質問がある』

 

「手短にお願いできるかな?艦隊旗艦殿』

 

キリシマの挑発的な言葉をまったく意に反さずにコンゴウは続けた。

 

「まず一つ目だがなぜ私がつけた艦隊を使わない?』

 

「マヤは駆逐艦隊と共に港湾出入り口を固めさせた。港湾内は狭いんでね」

 

『401を外海に追い出すという選択肢は?』

 

「水深が浅い方がヤツラにはキツイだろ?」

 

『お前たちも湾内の狭さで思うように身動きが取れなていないように見えるが?』

 

「それくらいは任せてくれ」

 

コンゴウの質問にキリシマはすらすらと答えていく。するとコンゴウは問題ないと判断したのか次の話題に映った。

 

『二つ目の質問だ。私はあの超戦艦を捕えようと言ったはずだ』

 

「向こうが撃ってきたら撃ち返すのは当たりまえだろ」

 

『だが可能な限り接触を控えろ。何のためにあの巡航潜水艦を与えたと・・「悪い。切らしてもらうぜ」待て、キリシマ!』

 

コンゴウの無線を半場強引に切った後にキリシマは意識を目の前の超戦艦に集中させた。キリシマは自身に絶対の自信があった。それがたとえ超戦艦級が相手だとしてもそれは変わらなかった。

 

 

 

イ401艦内

 

「キリシマ、依然紀伊と交戦中。ハルナはこちらに向けて魚雷を発射!数は12本!」

 

「迎撃弾発射!静白鯨と黒鯨は?」

 

「白鯨と黒鯨からの退避完了信号は送られていません。現在ソナープロットを詳細確認中」

 

その報告に全員が妙に思う。

 

「妙ですね。計画では我々が動いている間に白鯨は移動を完了させているはずですが」

 

「・・・・・白鯨と黒鯨を最後に探知したのは?」

 

「8分前です。白鯨の補助エンジン音を探知しています。場所は方位018距離約4300」

 

「おいおいほとんど動いていないじゃないか」

 

本来の計画ならばイ401と紀伊が攻撃している間に囮だった白鯨と黒鯨は所定の位置まで退避するはずだった。

 

「向こうには真瑠璃がいるのだろ?」

 

「・・・・・」

 

杏平はかつてのクルーの名を言った。静は突然出てきた名に興味を持った。

 

「・・・・移動を止めたな。白鯨は動いていない」

 

「と言うことは・・・」

 

群像はリモコンで画面に横須賀の現在の地図を出した。そこには白鯨と黒鯨の位置と海上にいる紀伊、ハルナ、キリシマの位置、そしてイ401の位置が表示されている。

 

「白鯨と黒鯨を最後に探知した場所だ。ここを基点に作戦を展開する」

 

ピピッと電子音が響き、白鯨と黒鯨の位置が大きく表示される。

 

「我々の現在地とハルナ、キリシマ、紀伊の位置。そして白鯨と黒鯨の位置だ」

 

群像は真瑠璃が何をしようとしているかは薄々気がつき始めていた。

 

「我々はここの・・・水没した海底建築群へ移動する」

 

今ならキリシマの注意が紀伊に向いているので多少は楽にいけるはずだった。

 

「そこからはフェイズ2ですか」

 

「そういうことだ。いおり!エンジン始動牽制攻撃をかけるぞ」

 

『りょーかい!』

 

イ401も大戦艦級二隻を沈める為に行動を再び開始した。

 

 

 

一方その頃ハルナは・・・

 

ハルナはキリシマは紀伊と激しい砲撃戦を繰り広げている間に迫りくるイ401の魚雷攻撃を撃ち落としながらイ401の現在位置を特定しようとしていた。しかしハルナに到達した魚雷の一つが赤い球体を作り出した。

 

「クラインフィールド稼働率40%。キリシマ、あなたのクラインフィールド稼働率は55%。イ401が発射した魚雷の中に侵食魚雷が混じっていた模様」

 

冷静にまさに機械と風に淡々と被害報告を報告するハルナ。キリシマとは真逆の性格であった。

 

「401は海底建築群の中に侵入」

 

イ401は海底建築群に侵入してしまった。ここでは音波は乱反射してしまい特定はいくら大戦艦級でも難しかった。

 

『く・・く・・くく』

 

キリシマが突然笑い始めた。

 

『すごいな・・・401とあの超戦艦は・・・』

 

「・・・・・」

 

その言葉をハルナは黙って聞く。

 

『こんなに楽しい事は初めてだ!ヤツラをこの手で沈めたい!絶対にだ!』

 

「海底建築群は音波が乱反射して401の位置を特定し辛いよ?」

 

だがキリシマにはそんな事は気にしなかった。

 

『なら街ごと蹴散らすまでだ!撃ちつくしてやる!』

 

「・・・付き合う」

 

船体にあるVLSが全門開く。その目標は超戦艦とイ401だ。そして凄まじい爆音と閃光を上げながらものすごい数の魚雷と弾頭が発射された。

 

 

 

「魚雷発射音多数!3連射を確認!数60以上!続いて海面に着水音!120以上!まだ続いています!」

 

「大戦艦級は半端ねぇ事するな!」

 

「全員対ショックに備えろ!艦固定!」

 

イ401は錨を海底に撃ち込む。その瞬間、凄まじい魚雷がイ401と周囲の建物を包み込んだ。

 

 

 

 

 

「倒壊音が続いています」

 

ソナー士が悲鳴じみた声を上げる。

 

「そこにイ401が居たのは確かなんだな!?」

 

「は、はい!」

 

「最低でも200発の着弾を確認しています」

 

「・・・・」

 

皆がイ401の身を案じるが一人だけ違った。

 

「侵食魚雷の発射準備をしてください」

 

「!!」

 

それは真瑠璃だった。浦上が驚く。しかし駒城は命令を下さした。

 

「侵食魚雷発射準備だ。そして黒鯨にこう伝えてくれ」

 

駒城は浦上にあることを告げた。

 

「は・・・・はいっ!」

 

浦上が離れていくと駒城は真瑠璃に笑いかけた。

 

「ソナー室に行きませんか?」

 

「はい」

 

真瑠璃は静かに返事をした。

 

 

 

 

 

「これはまた撃ちまくったなぁ」

 

 

彼の眼前にはキリシマから撃たれた200発余りの弾頭があった。さすがにこんなに撃たれた事は未だなかった。しかし彼は撃ち落とそうと必死に艦の対空機銃や迎撃弾で対処した。しかしそれでもさすがに200発の弾頭を

全て撃ち落とすことは出来ずに数発がクラインフィールドに直撃する。

 

「稼働率は15%か。まだ大丈夫だな」

 

相手が粒子砲での攻撃に切り替えてくる。しかし弾幕を見事切り抜けた紀伊はすぐにお返しとばかりに主砲とミサイルで攻撃する。おそらくはもう少しで仕留められるはずだと紀伊は予想していた。

 

 

「向こうも焦ってきたみたいだな。もう少しだ!畳み掛けよう!」

 

そう言って紀伊は未だに迫りくる弾幕を機銃等の迎撃で応戦しながらキリシマに向けて突撃していった。

 

 

 

 

 

コンゴウはキリシマとの無線を切られた後にため息を吐いていた。

 

「面倒くさい・・・・マヤ」

 

コンゴウは沖で待っているだろうマヤに繋いだ。

 

『はいはーい。マヤでーーす!』

 

元気のよい返事が返ってきた。

 

「お前の所にいる駆逐艦を二隻、キリシマとハルナの援護に行かせろ」

 

『ええっー!それじゃ、またいっしょに居てくれる子が少なくなっちゃう!』

 

「大丈夫だ。少し借りるだけで済む」

 

『まぁ、仕方ないか。早く帰らせてよ』

 

「善処する」

 

そうして通信を切った。しかしコンゴウにはなぜか言語化できないモノが自分の中にあるのを感じられざるおえなかった。

 

 

 

 

「全員無事か?」

 

 

ハルナの弾幕の嵐を切り抜けた群像は点呼を取った。

 

「OK、OK!」

 

「かなり怖かったです」

 

「艦内異常なし」

 

『問題な~し』

 

どうやらシステムもクルーも大丈夫そうだった。

 

「さぁ、ここからが本番だ。彼女達の焦りを煽ってやろう。エンジン始動だ」

 

彼女たちは紀伊が来たことで徐々に焦っているはずだ。そして群像が考えた作戦に引っかかりつつあった。

 

 

 

 

「くっ!このままじゃまずいか!」

 

キリシマはかなり焦っていた。最初こそは互角だったが徐々にこちらの方がおされつつあった。実際にこちらのクラインフィールドは65%以上になっている。その時にハルナが報告した。

 

『イ401の重力子機関の最大出力波を探知』

 

「仕方ない。勝負はお預けだ。あれをやる。分かっているな!」

 

あの超戦艦を沈めることは大戦艦級一隻では不可能だった。キリシマは悔しいが当初の目的であるイ401を撃沈

するために最後の切り札を使った。

 

 

 

 

その切り札は白鯨と黒鯨でも捉えていた。

 

「巨大な重力子反応を感知ですって!」

 

日下部は予想はしていたが一つだけ想定外の事が起きた。

 

「戦艦が合体しているの・・・?」

 

 

それは大戦艦級が二隻が合体して超重力砲を撃とうとしていた。

 

「海が・・・割れる?」

 

 

 

 

ズォォ!!

 

その光景はまさに圧巻だった。そしてそれが必殺の兵器を使うためのほんの一部分に過ぎなかった。

 

「捕まえた!!」

 

 

キリシマが喜ぶ。その光景の先には瓦礫のに埋もれた401の姿があった。

 

 

 

 

「ハルナ、キリシマ機関音上昇!ソナー感度低下!」

 

「彼女達が餌に食いつくぞ!」

 

群像はイオナに指示を出す。

 

「クラインフィールド上面展帳!瓦礫の重さでもがいているように見せろ」

 

「了解」

 

「いおり!機関出力いっぱい!」

 

『80秒は保障!』

 

「401出すぞ!」

 

一気に出力を上げるがその前に瓦礫が取り除かれ、一気に401の船体は割れた海の中心へと引きずり出された。

 

「兵装システム以外の使っていない部位へのエネルギー供給を全面カット!正念場だぞ!」

 

彼らのモニターに映し出されたのは合体したハルナ、キリシマだった。

 

「!!何てこった合体してやがる」

 

「慌てるな!」

 

群像が動揺を抑えた。

 

「これでロックしながらもう一隻をけん制する手間が省けたということだ。二隻とも沈めるチャンスが来たと思え」

 

本当ならば紀伊無しでするための作戦であった。401がロックされながらどちらか一隻をけん制しながらもう一隻に攻撃をするというまさに博打打ちの作戦なのだ。

 

「両方やる気だよこの人」

 

群像の言葉に杏平は失笑する。

 

 

「超重力砲を発射するときには必ず発射方向のクラインフィールドを解放しなければならないそこが無防備になる。更に膨大なエネルギーと空間転移をコントロールするために彼女達の演算能力は極限に達する。そこが狙い目」

 

イオナが説明するのを聞きながら、群像は白鯨にいる真瑠璃に対して信じた。

 

(真瑠璃お前ならこの状況でも・・・分かっているだろ?)

 

 

 

白鯨艦内でも驚きに包まれていた。

 

「黒鯨とのドッキングが完了しました」

 

「何とか浸水を食い止めました」

 

隊員達は驚きながらも報告を口にする。

 

「響さん二隻が合体している・・・これは想定外だ・・・・!」

 

さすがの駒城も動揺していた。計画と大きな誤差が生じてしまったからだ。

 

「構いません」

 

真瑠璃は動揺していなかった。

 

「予定通り401から諸元データが来たら発射です。二隻になっても状況は変わりません。二隻共に発射態勢にはいっているのなら双方共に演算処理に集中しているはずです」

 

真瑠璃も心の中では動揺していた。しかし諦めない心だけが違っていたのだ。

 

「・・・・・」

 

「お願いします」

 

 

 

 

紀伊も焦っていた。急にキリシマがハルナに合流したかと思うとあの形になったからだ。

 

「だけど超戦艦を置いてそれをするとは・・・・」

 

まさにキリシマ達も焦っているのだろう。一気に401を撃破しようというのだろう。だが詰めが甘かった。あくまで超戦艦の火力を持ってすればゴリ押しで撃破することが出来るはずだった。しかし・・・

 

「!?チっ!邪魔をして」

 

現れたのは二隻の駆逐艦だった。おそらくキリシマ、ハルナの援護に来たのだろう。

 

「そこを退け!」

 

一気に駆逐艦に弾幕を浴びせた。

 

 

 

 

 

「ロックビーム出力上昇!」

 

「こりゃ、二隻分だからなきっついぞ!」

 

『え、うぅ・・・了解!』

 

既に401も限界を迎えていた。紀伊も先程から増援の駆逐艦を叩いていて間に合いそうにはなかった。

 

 

 

 

 

「敵艦のクラインフィールドの展開状況詳細確認!401より発射角諸元データ来ました!魚雷へ諸元入力完了!」

 

 

黒鯨にドッキングしている白鯨は上手く態勢を維持できていた。そしてキリシマ、ハルナは気が付いていない。

 

「今です!」

 

真瑠璃が叫んだ時に駒城は無線のボタンを強く押して叫んだ。

 

「侵食魚雷!撃て!」

 

白鯨から侵食魚雷が黒鯨から音響魚雷が撒かれる。切り札は全て出し尽くした。後は祈るだけだった。

 

 

 

 

「白鯨からの侵食魚雷の発射音!」

 

「牽制弾幕発射!」

 

囮のために401から魚雷と侵食魚雷が撃たれる。

 

 

 

 

「タナトニウム反応。また侵食魚雷が混じっている」

 

「ふん・・・その手は喰わないよ!」

 

侵食魚雷は直前で防がれる。

 

「縮退臨界」

 

発射準備は整った。紀伊の方もコンゴウが寄越してくれたのであろう駆逐艦が足止めしてくれているので気にする必要はなかった。

 

「終わりだ401!」

 

勝利を確信したキリシマ達だったがしかしそれは空想で終わってしまった。凄まじい早さで外から侵食魚雷が飛び出してきて艦の中央でさく裂した。本当に終わったのはキリシマ達の方であった。

 

「クラインフィールド緊急展開。超重力砲発射シークエンス緊急停止」

 

「くそっ!フィールド展開演算が・・・間にあ・・・わ・・・ない」

 

「縮退エネルギーコント・・・ロール・・・不能」

 

(収束したエネルギー制御と・・・空間変異制御で・・・!)

 

すでに重力子機関が暴走を始めていた。

 

「侵食反作用計算が・・・間に・・合わ・・ない・・・壊れちゃうよ私・・・達」

 

 

 

 

「ロックビーム出力低下!」

 

「全力左舷回頭!ダメ押しだ!フルファイヤ!」

 

瀕死のキリシマ達に更に魚雷を叩き込んだ。

 

 

 

「良し片付いた!」

 

紀伊の方も二隻の駆逐艦を仕留めたが駆逐艦は数分稼ぐには十分だったために遅れたのである。

 

「何とか向こうも無事なようだし一気に仕留めよう」

 

紀伊も主砲とミサイルを撃ちまくった。

 

 

 

「もう少しだわ!」

 

日下部も他の二艦に負けないくらいの魚雷を撃ちまくった。

 

 

 

 

 

 

三艦の集中攻撃を受けた二艦はもう助かる見込みは少なかった。

 

『ハルナ!』

 

キリシマの呼ぶ声がした。彼女のメンタルモデルは既に崩壊を始めていた。

 

『私の・・・コアを!』

 

ハルナは崩壊していく自身の船体から飛び降りてキリシマのコアを掴もうとした。

 

(何だ?何なんだこの感じは?)

 

ハルナは自分達が負けた敗北感よりも言語化できない”感情”に気が付いた。

 

(・・・・・そうか・・・これが・・・後悔か)

 

それに気が付いた時には彼女の体は閃光に飲まれていた。

 

 

 

 

紀伊はそれを眺めていた。こんな戦闘の後だが彼はそれに見とれてしまった。そしてふと考える。

 

(自分は何のためにいるんだろう?)

 

それは自分の頭の中でずっと考えていたことだった。しかしその思考は次の通信で遮られる。

 

『紀伊!助けて白鯨が!』

 

日下部だった。すぐに白鯨を見るとあまりにも爆心地に近かった。このままでは巻き込まれてしまう。

 

(間に合うか!)

 

機関最大で一気に潜る。そして一気に白鯨と黒鯨の前に躍り出る。

 

『紀伊!』

 

日下部の声が聞こえたが彼の視界と聴覚には白と爆音しか聞こえなかった。

 

 




今回は頑張って紀伊の戦闘シーンを入れてみましたがどうだったでしょうか?基本的には原作通りで行くので紀伊のもっと派手な戦闘シーンを見たい方はもう少しお待ちください。


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番外編  疾風の影

今回はかなりやらかしてしまった。しばらくはイ401や霧の艦隊とはお別れです。


「いてて・・・・一体どこだ?ここ?」

 

確か自分は横須賀でイ401、白鯨、黒鯨と共にハルナ、キリシマを撃破したはずだ。確かその後に重力子が暴走したキリシマ、ハルナの近くにいた大破した白鯨とそれを守ろうとしている黒鯨を庇ってそれから閃光で目の前が真っ白になった後に気が付くとここにいたわけだ。

 

「群像や日下部はどうなったんだ!?」

 

こんなことは2回目だったが未だに慣れてはいなかった。そして彼は群像達がどうなったかが気になるがとりあえず自分の位置を確かめる必要があった。

 

「現在の位置を特定中・・・・えっ!ミッドウェー島付近の海域だって!」

 

そこは自分がいた横須賀の湾内ではなく、はるか遠くのミッドウェー島の付近に来てしまったのだ。

 

「どうなっているんだ?」

 

とりあえず群像達と合流することになりそうだった。進路を日本の横須賀に合わせようとした時にレーダーに反応があった。

 

「うん?かなりの数の艦船がいるな。とりあえず先に水観に偵察してもらおう」

 

船のカタパルトから水観が射出される。

 

「これは・・・戦闘中か」

 

水観からのカメラからどうなっているかを見た。そこには激しい砲火が映っていた。

 

 

 

 

それから数十時間前・・・

 

「全体気をつけぇ!」

 

眩しい太陽が照りつける中のグラウンドで高らかな号令が掛かった。その号令に合わせて全員が見事な隊形を作る。

 

「今回はとても重要な作戦だ。既に知っているとは思うが今回は民間人を乗せた赤城、加賀、蒼龍、飛龍の護衛である!心して任務に励むように」

 

 

この学校の校長先生がしゃべっている間に一人はあまり反対的な意見を頭で思っていた。

 

(良く言うよ。どうせ敵なんかいないんだろ。自分達はお荷物だってことは分かっているんだよ)

 

そう思ったのは日柳 海人(くさなぎ かいと)である。彼が言う”敵”はある日突然現れた。その日は確か第二次世界大戦が起こり、ミッドウェーでの作戦が開始されようとしていた時だった。最初の被害は日米同時に被った。

最初は両方とも敵の艦隊かと疑ったが徐々に反撃していると自国の軍艦までもが現れた為にそれは打ち消された。同時に第二次世界大戦は日本とアメリカと講和ということで終わった。しかし敵の攻撃は日に日に増していくばかりでりであり、とうとう日本やアメリカを含んだ各国は島々を次々と失ってしまった。さすがに各国も黙っては見ずに反攻作戦に多くの艦を出したが戻ってきたのはほんの数隻だけだった。次第には本土に空襲を受けるくらいである。その為、国民をなぜかは分からないがまだ襲われていないミッドウェー島を含む島々に移住させ、帝国陸海軍は来たるべき攻撃に備える為だった。

 

「では君たちが訓練生が乗る艦は私の隣にある。書いてある時刻に必ず遅れないこと!以上!」

 

こうして訓練生への長い説明が終わった。日柳は大きく腕を伸ばす。その時に両肩を掴まれた。

 

「!?」

 

「やっぱり日柳くんは面白い反応をするね~~」

 

振りむくと同期である岸田 真野(きしだ まや)が居た。

 

「何だお前かよ」

 

「居たら悪い?」

 

悪びれた様子はまったくなかった。日柳は頭を掻きながら聞く。

 

「で?用件は?」

 

「決まっているでしょ?どこの船に配属されたの?」

 

そういえば見ていなかった。日柳の顔で分かったのか岸田は飽きれる。

 

「早く行きなさいよ。ちなみに私は教育戦艦「霧島」の艦長になったわ!」

 

かなり嬉しそうな岸田だった。戦艦は誰しもが憧れており、この訓練学校には「比叡」、「霧島」の二隻しか大型教育艦はいないのだ。それの艦長になったのだ。嬉しくないわけがないのだろう

 

「ほら♪早く♪早く!」

 

嬉しいのか勢いで日柳を押していく。

 

「押すなって・・どれどれ・・・・ファ!?」

 

思わず声が裏返ってしまった。

 

「どうしたの・・・・ファ!?」

 

二人が同じ声を出してしまったために全員の視線をまともに受けてしまった。それに書かれていたのは

 

『日柳 海人訓練兵 本日から教育艦隊旗艦 大型教育艦 金剛型二番艦 「比叡」の艦長に任命する。なお集合時刻は追って知らせる』

 

これを見た全員は絶句した。この旗艦「比叡」は第二次世界大戦で航空機の優位性に気づかされた日本海軍が対空兵装や電子兵装をこれでもかというくらい詰め込んだまさに旗艦に相応しい船である。しかしこの「比叡」に乗れるのは優秀な成績を取った者のみだった。そういえば自分は担当科目で行く当てがなかったために艦長のための試験に出て、それとなくペーパーテストや訓練をこなしていたことしか日柳には覚えがなかった。

 

「よ、よかったね」

 

そう言う岸田の声も震えていた。

 

「はぁ~~」

 

日柳はどうすればいいかが分からずにその場でため息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

それから2時間後

 

「日柳訓練生入ります!」

 

日柳は大きく自分の名を言った後に中から「どうぞ」という声が聞こえたので中に入る。

 

「失礼します!」

 

「そう固くならんでいいぞ」

 

前を見ると黒髪がショートの女性が座っている。

 

「どういう意味で自分が選ばれたんでしょうか。御坂教官」

 

内心ビクビクしていた。最初にあんなことを言ったが正直この教官だけは苦手だった。何というか雰囲気が他の教官とは違ったのだ。

 

「確かに私もなぜ君が選ばれたかは分からない。だが実技、筆記試験共にかなりの成績を収めているからたぶんそれだろう」

 

え、自分それ適当にしたんですけど・・・まぁ、受かっていたらいいかと考える。とりあえず事情は分かったが自分にそこまでできるのかは不安だった。

 

「お前のその顔を見ると「自信がありません」と言った顔をしているな」

 

さすが御坂教官だった。この人の怖い所は顔を見るとすぐに自分が思っている事を見抜いてしまうのだ。

 

「確かにそうです。自分に務まるのかどうかが不安で・・・」

 

「それなら問題ない。私が君のサポートをすることになった」

 

「え!?御坂教官がですか!?」

 

御坂教官はすらりと爆弾発言をした。確かに心強い正直に言えば胃が縮む思いだった。

 

「何だ不安か・・・?」

 

御坂教官が表情を暗くした。いかん、俺としたことが軽率だった。

 

「い、いえいえ!問題ありません!」

 

「それならいい。出発は三時間後だ。準備を急げ」

 

そうして日柳は退室した。

 

「はぁ~~」

 

今日二回目のため息だった。

 

 

 

 

 

それから数時間後

 

「各艦、異常ないか?」

 

「各艦、異常ありません」

 

答えてくれたのは副長の堀江 真紀(ほりえ まき)だった。彼女も成績優秀でこの比叡に乗っている。しかしあまり人と接したことがないからのかそれともただ単に意図して人と関わらないのかは知らないが彼女は艦長や教官以外は人とはあまりじゃべらずに周りからはクールやら冷たいと言われている。

 

 

そしてかのミッドウェイ島派遣艦隊の編成を紹介しよう。

 

 

艦隊旗艦 金剛型二番艦 「比叡」

 

 

直衛護衛艦隊 金剛型三番艦 「霧島」 

 

       赤城型航空母艦 「赤城」

 

       加賀型航空母艦 「加賀」

 

       他 航空母艦 「蒼龍」、「飛龍」 利根型対空巡洋艦 「利根」 「羽黒」 「足柄」 「妙高」  「熊野」 「那智」

                                  

 

右翼護衛艦隊 阿賀野型一番艦 「阿賀野」

      

       その他 「秋月」を含む秋月型6隻

 

左翼護衛艦隊

      

      米巡洋艦 「ニューローズ」

 

      その他 フレッチャー級6隻 雪嵐型一番艦「雪嵐」

 

 

輸送艦隊

 

黒潮型軍用貨物船15隻 給油艦二隻

 

 

 

まさに大艦隊であった。アメリカの艦隊が混じっているのはアメリカとの合同作戦であり、アメリカの余ってしまった民間人をミッドウェイに届ける為であった。

 

「とりあえずは何とかなっているみたいですね」

 

「まだ気を抜くのは早いぞ」

 

「そうですよ。まだ敵がいないとは限りません」

 

ほっとした気持ちを声に出すとすぐに御坂教官、堀江副長から叱咤を受ける。日柳は体を縮こませる。

 

「と、とにかく進路そのまま、対空、対潜警戒共に厳と各艦にもう一度打電してくれ」

 

「了解しました」

 

確かに先行した長門を含む戦艦艦隊が先にミッドウェイの安全を確認しているが未だに油断を許さなかった。しかしこの艦隊には対空、対潜を追及した艦が護衛に着いており、更には赤城、加賀、蒼龍、飛龍が居る為、いくら敵でも安易に攻撃を仕掛けてくることはないという安ど感も日柳の中に同時に浮かんでいた。

 

「大丈夫か?顔色が悪いぞ」

 

御坂教官が汗だくになっている俺の顔を見ながら呟いた。確かに自分は初めての指揮のため緊張しすぎており汗をかきまくっていた。

 

「確かにそうですね。先程はあんなことを申し上げましたが確かに艦長にも休息が必要と判断します。よろしいですね御坂教官?」

 

「そうだな。少し外で休んでくるといい」

 

当の本人を差し置いて勝手に教官と副長で話し合った結果どうやら自分は休息が貰えたらしい。確かに海風に当たりたいと思っていた為、丁度よかった。

 

「分かりました。しばらく席を外します」

 

「了解しました」

 

艦橋から出て一番主砲塔に来た自分は船の波、カモメの鳴き声そして自分の船の周りを航行する幾多の艦船を見ながら一息ついた。

 

 

しかし彼らは気づかなかった・・いや、気づけなかったというべきか。ゆっくりと彼らを殲滅しようとする巨大な影が近ずいてきていることをまだ彼らは知らなかった・・・・

 

 

 

 

それから更に二時間後・・・・

 

ミッドウェイ近海にて

 

日柳は長い休みをもらった後は心に余裕が出来て少しずつ上達してきていた。

 

(これなら自分たちも荷物呼ばわりはされなさそうだ)

 

ようやく自分が役に立ってきたと思って来た時に通信士が声を上げた。

 

「艦長!右舷護衛艦隊が30隻以上の艦船を確認したそうです。ですがノイズが酷くてすぐに切れました」

 

通信士も実際にやったことが無かったために少し慌てていた。

 

「落ち着くんだ。長門か金剛の艦隊じゃないか?」

 

御坂教官が冷静に通信士を窘める。日柳はこんな時にも冷静でいられる御坂教官に素直に感嘆した。

 

「それが・・・長門と金剛の艦隊に問い合わせたら違うと言われました」

 

「何だと・・・」

 

さすがに御坂教官も驚きを口に出す。

 

「どういうことでしょうか?」

 

しかし誰もが予想は薄々していたがそれが今、現実になろうとしていた。

 

「それに・・・30隻もの艦艇がなぜこちらの進路と被ってしまうんだ?航路は全員が知っていたはずです。それにそれだけの大艦隊がどこにあるんですか?」

 

日柳が最後の止めを指した。つまり考えらる結論はただ一つ

 

「つまり・・・あれは間違いなく敵の大艦隊だ」

 

”敵の大艦隊”その言葉に誰もが聞き、背筋が凍った。

 

「我々だけでやれるのでしょうか?」

 

そう言う堀江の声も微かだが震えていた。

 

「おそらく敵に発見されているでしょう。さっき報告にあった敵艦隊の船速を考えると逃げ切れる確率はないに等しいだろう。つまり・・・」

 

「つまりなんですか?」

 

「ここで敵艦隊を撃退し、ミッドウェイ島に行く」

 

「!!!」

 

誰もが驚いた。何せ艦隊同士での決戦など机上でしかやったことがないのだ。

 

「ひとまず護衛を数隻つけて輸送艦は退避させましょう。あと赤城、加賀、蒼龍、飛龍には艦載機での攻撃を支持してください」

 

御坂教官や堀江も日柳の冷静さに驚いた。しかし当の本人もだいぶ動揺していた。

 

「赤城から入電です!艦載機を全て発艦させたそうです」

 

「分かった。全艦に通達!攻撃準備を整えろと打電しろ」

 

「了解です」

 

「索敵ソナーやレーダーに何か映っているか!?」

 

「ダメです。さっきからノイズが酷く識別できません。現在修理班が原因を究明しています」

 

かなり状況は悪かった。比叡に搭載されている電子機器のほぼ全てが謎のノイズのせいで使えなくなっているのだ。

 

「航空隊は見えるのか?」

 

「航空隊はわずかですが見えます。もう少しで敵艦隊と接触するかと・・・」

 

4空母の航空隊が敵をかく乱している間に輸送部隊を出来る限り戦線から遠ざけなければならなかった。

 

「まもなく接触します」

 

航空隊が激しい対空砲火を潜り抜けていることが日柳の頭に浮かんだ。しかしその想像は最悪な方向で裏切られる。

 

「な!?」

 

「何があった!?」

 

レーダー士の慌てぶりに全員が驚いて彼の方を見る。

 

「先行していた赤城、加賀の航空隊が全滅しました!」

 

「・・・・冗談だろ・・・」

 

今、聞こえた報告が夢だと思ってほしかった。しかし現実は非常だった。

 

「敵艦隊は進路を変えずにこちらに向かって来ています。内一隻はとてつもなく早いです。飛龍、蒼龍の航空隊が援軍を求めています」

 

「日柳ここは撤退させたほうがいい」

 

確かに御坂教官の言う通りだった。どういう原因かは分からないが航空隊は400機の内の200機という航空隊を半壊させたのだ。飛龍、蒼龍の航空隊も二の舞になることは明らかだった。

 

「右舷護衛艦隊の準備は出来ているか!?」

 

「はい、全艦準備完了です」

 

「敵が見えた瞬間に一斉攻撃をしろと伝えろ。何としても輸送艦隊を守らないといけない」

 

日柳は震えていた。”死”という瞬間が近づいているのだ。訓練学校では感じられなかった物だった。

 

「これが戦争・・・」

 

「まもなく敵が右舷護衛艦隊と交戦します!」

 

 

レーダーの大量の赤い点と味方の青い点が近ずいた。

 

『発射炎を確認!交戦に入ったようです』

 

全員がレーダー士の次の言葉を待った。しかしその静寂を打ち破ったのは一人の見張り員の報告だった。

 

『て、敵機直上!』

 

「何!?」

 

見張り員が間違ったとは思えなかった。なぜなら彼らの上を飛んでいたのはアメリカ軍が使っていたF4FワイルドキャットやSBDドーントレスだったからだ。当然アメリカ軍の航空隊などはこの付近には存在しない。

 

「対空迎撃を急げ!」

 

副長が叫んだその号令と共に激しい弾幕が各艦から上がる。ドーントレスの何機かがその対空射撃によっておとされるが抵抗はそれまでだった。

各艦にドーントレスが放った爆弾が命中する。比叡もその例外ではなかった。

 

「うわぁ!」

 

「くっ!」

 

「きゃあ!」

 

全員が衝撃に耐えられずにその場で転んでしまう。

 

「艦の状況を知らせ!」

 

いち早く立ち直った御坂教官が状況の確認を取った。

 

『左舷に4発爆弾が命中!負傷や死傷者共に多数!』

 

艦橋から出てみると左舷に大きな爆発痕があり、炎上もしていた。

 

「消火急げ!」

 

「各艦から通達です!左舷護衛艦隊、直衛護衛艦隊も被害多数!赤城、加賀、蒼龍は甲板使用不能です!」

 

既に我が艦隊は戦力の大半を失っていた。そして更なる絶望が襲いかかった。

 

「右舷護衛艦隊が全滅!防衛ラインを突破されました!」

 

もう何度目かも分からない絶望的な報告だった。

 

「艦長・・・」

 

もう絶望的だった。しかし諦めていた日柳の肩に手を賭けたのは御坂教官だった。

 

「しっかりしろ。まだ終わってはいない」

 

「しかし・・・」

 

「航空隊が失われても右舷の艦隊が失われてもまだ左舷や直衛艦隊がいる。そしてその背後には大勢の命を乗せた輸送艦隊を守れる手段はまだ失われてはいない」

 

「御坂教官・・・」

 

確かにそうだ。まだ戦える。時間稼ぎにしかならなくてもやろう。

 

「全砲門を開いておけ、まずは機関が停止した霧島の元に向かおう」

 

「了解しました」

 

艦長が諦めていないことを知った乗務員は皆が自分にできることをしようとする。

 

「まもなく霧島の横につきます!」

 

その時に無線が鳴る。霧島からだった。

 

『日柳!何で来たの!?』

 

「強がりを言うんじゃない。お前の艦は機関をやられたんだろ。それまで俺たちが防いでおく、お前は機関の復旧に努めるんだ」

 

『ごめん』

 

「いいんだ。ただし何か奢れよ」

 

『相変わらずね』

 

短い会話をした後に深く帽子をかぶり直す。

 

『敵艦見えました!で、でかい!』

 

 

見張り員がついに敵艦を見つける。

 

「全門開け!」

 

「砲撃準備は完了です」

 

「分かった。・・・・撃ち方はじめっ!」

 

砲撃準備が整った後に日柳は号令を言った。直後に腹に来るような衝撃と爆音が来た。

 

『弾着・・・今っ!なっ!』

 

見張り員が弾着を確認したあとにすぐに驚きが上がる。

 

『先頭の艦が避けました。あの巨体で何て速さだ!』

 

「命中したのか!?」

 

『先頭の艦には当たりませんでしたが後方の巡洋艦に至近弾、駆逐艦に2発命中です!』

 

その報告に一気に全体の指揮が上がる。

 

「最新式の電探が役に立ったみたいだな」

 

「そうみたいですね」

 

御坂教官と堀江が電探だが既にノイズで大部分の能力を失ってはいたが何とか射撃の補佐までは出来たようだ。

 

「このまま射撃を続けろ!」

 

勢いに乗った艦隊は砲撃で次々と艦艇に至近弾か命中させていく。既に何隻かは仕留めていた。

 

(これならいける!しかし敵はなぜ突撃を仕掛けてくるんだ?損害を増やすだけなのに・・・)

 

日柳の小さな悪い予感は次の見張り員の声で確信に変わった。

 

『ぎ、魚雷です!数は20以上!命中します!』

 

直後に艦に水柱が立ち、艦が傾く。

 

「被害報告!」

 

『右舷に魚雷4発命中です。現在、ダメコンが修復を行っています』

 

「各艦にも魚雷が命中!」

 

『こちら熊野。魚雷命中!航行不能です』

 

かなりの被害が出ていた。おそらくさっきの突撃は避けた先行艦から注意を逸らす為のものだったのだ。

 

「敵艦発砲!」

 

比叡と霧島の周りに大きく波が立つ。かなり近かった。次かその次かに当ててくるだろう。

 

「次弾急げ!」

 

『もう少し時間がかかります!』

 

再び波が立った。わずか数メートルだった。

 

「だめかっ!」

 

霧島も比叡も次弾は間に合わない。かといって他の艦も苛烈な航空攻撃にさらされて動けない。あの巨大な先行艦の砲塔が向いた。

 

 

「ここまでかっ!」

 

御坂教官が俯きながら言った。誰もが歯噛みしながら俯いた。

 

 

その時だった。

 

 

 

先行艦の背後にいた10隻の戦艦と巡洋艦が爆散した。

 

 

「なっ!?」

 

考えられなかった巡洋艦ならまだしも戦艦を一瞬で・・・。先行艦の砲塔が違う方を向いた。その先には謎の模様が入った白い戦艦が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない、危ない」

 

水観からの報告であの艦隊は霧の艦隊ではないことが分かっていた。おそらく人類側の艦隊だ。

 

(どうして霧の艦隊がいないのだろう?とりあえずはあの艦隊を助けて事情を聞いてみよう)

 

良くは分からなかったが劣勢のほうの艦隊は旭日旗を上げているためおそらく日本艦隊だろう。

 

 

「俺は見て見ぬふりは出来ない性格だから参加させてもらうよ!」

 

再び、ミサイルと主砲を撃ち、更に5隻の船が爆沈した。

 

 

「良し、後5隻とっ・・・おっと!」

 

 

その時にクラインフィールドに砲弾が命中した。撃たれた方向を見たがないもいない。

 

「?」

 

更に撃たれた。しかしいない。

 

「ああ、めんどくさい!」

 

レーダーを見るとすぐにいた。その時に頭痛がした。

 

「うっ!何だ・・・?」

 

どこかであの戦艦を見たことがあるような気がしてくる。そんなことを思っていると自然に言葉が出た。

 

『「また私と戦うつもりか。いいだろう。相手をしてやる高速戦艦!」』

 

自分ではないような言葉が出てくる。別の誰かが話しているようだった。

それと同時に誰かは分からないの男の声が聞こえてきた。

 

 

『超高速巡洋戦艦 「ヴィルベルヴィント」接近!』と。

 

 

 

 




どうでしたか?実は超兵器を出したいが為にこれをしました。
え?これじゃなくても出来ただろって?すいませんでした。

どうしてこうなったのかは後の話で出そうと思います。

次回は超兵器戦です。


(日柳の艦隊の編成は紺碧の艦隊の高杉艦隊や出てきた艦艇を使って作ったものです)


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番外編 疾風止むべし

今回はヴィンベルヴィント戦です。しかし戦闘シーンがイマイチになっているかもしれません。

「こんな駄作でもいい!」という方のみ見てください。


ミッドウェイ近海 金剛型二番艦「比叡」艦橋にて

 

「一体何がどうなっているんだ?」

 

日柳の言葉が今ここにいる全員の気持ちを代弁していた。

 

「よく分からんがあの戦艦はこちらに友好的なことは分かったな」

 

自分達は”死”を覚悟していた。だがあの白い戦艦が現れたことで状況は一変した。あの戦艦は20隻もの艦艇を一体どういう方法で撃沈したかは不明だが少なくとも自分たちを援護してくれていることは分かった。

 

「前方の敵戦艦進路をあの白い戦艦に向けています!」

 

どうやら手負いの自分達よりもあの戦艦の方が危険と判断したようだ。駆逐艦以上の速さで向かっていった。

 

「どうやら今のうちの様ですね」

 

堀江が驚きのショックから立ち直り日柳に言う。

 

「確かにそうだ。各艦に通達!残存艦を集結させて生存者を救助後、この海域から離脱する!」

 

「了解しました」

 

どうやら向こうが気を逸らしている間に何とか生存者と残存艦を集めて、ミッドウェイ島か本国に帰るしか選択肢はなかったがこちらもかなりの被害を受けており、無事に本国に帰れる保証はない。つまり一番近く当初の目的地であるミッドウェイ島に行くことになった。

 

「どうにか耐えてくれよ・・・」

 

日柳は向こうで激しい攻防戦を繰り広げながらも戦い続ける白い戦艦に向けて願った。

 

 

 

 

 

 

「取り巻きはだいぶ減ってきたな。あとは大ボスか」

 

すでにこちらに対して撃ってきているのは既に1、2隻程度しかいなかったが問題はあの巨大な戦艦である。あのデカイ図体の割に駆逐艦よりも早く航行しており狙いが付きにくかった。

 

「まったくちょこまかと・・・」

 

段々といらいらしてきた。既に数十分もこれのループを続けていたのだ。しかも向こうは速さを生かして死角から次々と主砲、魚雷、ミサイルなどを食らわしてくる。

しかし向こうも全弾躱し切れているわけでは無い。あの艦の周辺にクラインフィールドと同じような網状のバリアが確認できた。おそらくそれが主砲の威力を殺してしまっているのだろう。

 

(光学兵器ではだめ。かといって実弾はさっきの艦隊のを見て防がれているのは見えた。しかしこちらと同じ原理なら攻撃を浴びせていけば必ずシールドが無効かされるはずだ)

 

紀伊はそれに賭けた。ひたすら主砲や侵食弾頭を発射する。ヴィルベルヴィントも負けじと魚雷や主砲を放つ。

両方ともに凄まじい爆発が起こったが両方共に船体に傷は入っていない。

 

 

 

しかし優勢なのは紀伊だった。確実に相手のシールドを削っていた。だが紀伊にとっても焦らなけばいけない懸念事項があった。

 

「まずいな・・・」

 

ミサイルなどの轟音の中で紀伊がポツリと言う。確かにこちらが押しているがあの謎の艦隊(日柳達の艦隊の事)は退避しているが新たに敵艦隊らしき艦隊群がこちらに向かって来ているのだ。

 

(俺だけなら何とかなるがあの艦隊まで守りながらはさすがにきついな)

 

 

確かに超戦艦の実力を以てすればあれだけの艦隊は片ずくだろう。しかしあの艦隊を守る事もすることになれば今戦っている戦艦と接近中の敵艦隊も相手にしなくてはならない。増してや全艦全てを守ることはできない。艦らずどこかで落伍艦が出てしまうであろう。とねればやることは一つだけだった。

 

「ここで短時間でケリをつけるしかない」

 

 

しかしこのままあのスピードに翻弄されかけていればとてもじゃないが時間がかかる。チマチマとあのシールドを削っていては埒が明かない。

 

「自分がシールドを消してその隙にあの速度でも機関を狙える艦がいれば一気にケリをつけることができるのに・・・・!」

 

そこまで考えてあることに気がついた。この状況を打破できる方法を。紀伊が考えていた作戦では自分がシールドを破壊してその隙に機関部かエンジンを破壊するという作戦だった。しかしそれには一つの大きな問題がある。それはあの艦のスピードであった。いくら自分がシールドを破壊できたとしても自分が破壊しようと主砲や侵食弾頭を用意している間にあのスピードで駆けまわられてまた振り出しに戻るというリスクが高かった。

その為別の艦が紀伊が止めている内にエンジンか機関を破壊する必要があったのだ。

 

(一か八かやるしかない!頼む!)

 

紀伊は心の内で祈りながら発光信号が送った。

 

 

 

 

「比叡」艦橋

 

「もう少しで戦闘海域を離れられるな」

 

御坂教官がらしくないことを言う。その言葉の後に艦橋にいる全員の顔を見ると全員がまだ緊張の籠った顔をしているがほんの少しだけ安堵の表情が見え隠れしていた。

 

「ですが被害が大きかったです・・・」

 

「・・・・」

 

誰もが自分の言葉に暗い表情を見せた。先程の戦いで我が艦隊の被害は甚大だった。右舷護衛艦隊は一隻も残さずに全滅。左舷護衛艦隊は数隻を残して全滅。直営護衛艦隊は全艦沈んでいないが全艦が中破かそれ以上。輸送艦隊は3分の一にまで数を減らしていた。

 

「それに自分達は何もしてやれなかった・・・!」

 

そうこの海域を離れられるチャンスを作ったのはこの艦隊の誰でもどの艦でもない。あの白い戦艦だ。

日柳は後悔や悔しさで胸がいっぱいだった。そんな思いを抱いている日柳が言う言葉に誰もが黙って耳を傾ける。

日柳が抱く思いは誰の胸の中にもあった。

誰もが絶望に明け暮れていた。

 

 

 

その時にだった。

 

 

『謎の戦艦より発光信号!』

 

見張り員がその言葉を叫んだ時にその雰囲気が変わった。

 

「何と言っているのだ!」

 

『はい!貴艦ラノ心中ハサッシテイルガアノ戦艦ヲ倒スノ二協力シテハモラエナイカ?と送ってきています!』

 

「あの戦艦を倒すだと・・・?」

 

「そんな事が出来るのか・・・?」

 

艦橋の全員がその言葉を疑った。

 

「艦長どうしますか?」

 

「確かにあいつらに一泡吹かしてやりたいが一体どうやって・・・?」

 

その疑問は次に飛び込んできた報告で解消された。

 

『更に発光信号!我、敵ノシールドを一時ハカイスル。ソノ隙二敵ノキカンカエンジンヲ破壊せよと言って来ています』

 

「どうしますか・・・」

 

堀江が聞く。しかし日柳にその言葉は聞こえていなかった。

 

(確かに向こうの言い分は理解できる。しかしそれが本当に正しい方法なのか?もし間違っていたら?自分の決断でここにいる全員の命が消えてしまうかもしれない)

 

日柳は決断を迫られていた。このまま護衛艦隊と輸送艦隊と共にこの海域を脱出するか。それともあの戦艦を手助けして危険を取り除くか。

 

しかし後者は確実に乗務員を危険に晒す。俺には皆の命を預かる事なんてできない。

 

「艦長」

 

堀江の声が聞こえて振り向いた。乗務員全員がこちらを向いていた。その眼は決して命を捨てる覚悟もあるという眼だった。

 

「我々も覚悟が出来ています。このまま逃げて敵の追撃に怯えるか。あの戦艦の手助けをして生き残った全員が生き残るか。あなたはどちらがいいですか?」

 

堀江の声は相変われず淡々としていたが言葉の一つ一つに重みというものがあった。

 

「・・・・分かった」

 

静かに日柳は言った。

 

「これより比叡は艦隊を離脱してあの戦艦の援護に回る!その間の指揮は霧島に任せる。そして・・・もしかしたらこの艦は戻っては来ないかもしれない。だからこの船を下りたいと言っても止めもしない。各員の判断に任せる」

 

 

数分後全部署からの報告が来た。

 

「艦長、全部署からの報告です。誰一人として艦から下りてはいません」

 

「・・・」

 

覚悟はしていたがまさか誰も下りないとは予想してはいなかった。いや、自分が乗組員を見くびっていたみたいだった。

 

「分かった。180度反転これよりあの戦艦を援護する」

 

「了解」

 

各員慌ただしく動く。日柳の判断が正しかったかどうかはこの戦いの後に決まる事だ。

 

 

 

 

「発光信号!?」

 

そこには一隻の戦艦が向かってきていた。その間から発光信号が送られてくる。

 

「我比叡 コレヨリキカンヲ援護スルか」

 

どうやら賭けには勝ったみたいだ。

 

「さてヴィルベルヴィント。お前の速さに負けないくらいのスピードでこの戦いを終わらす」

 

一気に全弾発射した。十数本はヴィルベルヴィントの機銃で落とされたみたいだがそれ以外は全て命中する。

 

「まだまだ!」

 

更に畳み掛けるように主砲を撃ち、命中したミサイルの爆炎といっしょにヴィルベルヴィントのシールドを確実に破壊しようと襲いかかる。

その光景はまさに暴風に等しかった。もちろんその中心にいたヴィルベルヴィントも只では済まない。その暴風が過ぎ去った後のヴィルベルヴィントは左舷部分の甲板や武装が文字通り綺麗に無くなっていた。しかしヴィルベルビントの速力が落ちていない事は未だ機関は無事ということだった。

 

「だがお前の速力もこれでお仕舞だ」

 

彼の横から爆音がした。

 

 

 

 

「・・・・凄い」

 

言葉を失っていた。あの艦が出す無数の墳進弾と謎の光はあの戦艦を包み込むように覆っていた。そしてその暴風から出てきたあの戦艦は完全に元の姿を失っていた。

その光景を見た後に自分達の使命を再び思い出す。

 

「全門開けっ!目標敵戦艦!主砲撃てッ!」

 

再びの爆音と共に主砲が火を噴いた。何発かは海に落ちて至近弾になってしまったがほとんどの弾は命中した。

そしてその一部がはっきりと何かの破壊音を聞いたこと。それを聞いた時に日柳はニヤリと笑った。

しかし後はあの戦艦の役目だ。自分達ではない。あとはゆっくりと見よう。

 

 

 

 

 

「良し!」

 

思わず紀伊は叫んでしまった。実際にヴィンベルヴィントは速度が目に見えて低下している。しかしそれでも人間が這うようにゆっくりとだが海域から離脱しようとしていた。

 

「そういう訳にはいかないんだよね」

 

そう言い放ち先程回復したヴィンベルヴィントのシールドをいとも簡単に破壊した。

 

「まずは武装から!」

 

主砲でヴィンベルヴィントの主砲と機銃を破壊し侵食兵器で魚雷発射管とVLSを破壊した。しかし武装を剥がされようともまだ逃げようとするヴィンベルヴィント。

 

「最後に動きを止めてッと!」

 

 

最後にヴィンベルヴィントの船首を破壊した。

 

「いっちょ上がりっと」

 

紀伊はあえて撃沈しなかった。もし人が乗っているのならどういう事なのかを説明してもらわないと行けない。

 

「そしてなぜ俺はこの艦の名前を知っているんだ?」

 

疑問は尽きなかった。一体自分は何をさせられようとしているのか。自分の存在理由についた知りたかった。

 

 

「ひとまずは中に入ってみないと」

 

早くしないと本当に沈没してしまう。紀伊は自分の船体をゆっくりとヴィンベルヴィントの船体に寄せた。

 

「思ったより浸水が酷いな。自分でやっといてなんだけど」

 

 

紀伊はヴィンベルヴィントの船体に飛び移り、中に入った。

 

「暗いな・・・」

 

しかし霧のメンタルモデルであるからなのか分からないが視界は明るく、楽に通路を歩けた。

 

「ここが艦橋か」

 

何とか艦橋らしき場所にたどり着いた。しかし今まで通ってきた通路や部屋には人の姿どころかその気配すら感じなかった。不審に思いスキャンをかけてみると熱源反応がまるでないことに気が付いた。

 

「何かあるかな・・・・うん?」

 

最後に残った艦橋に入って少しすると妙なものに気がついた。

 

「人影?」

 

艦長席に人影があった。

 

「う・・・ん?」

 

どうやら気を失っているらしかった。良く見ると女の子だ。

 

「はっ!あなたは!」

 

「うぁ!」

 

顔を目の前に近ずけた時にいきなりその女の子が起きた。しかも警戒心MAXでだ。

 

「もしかして君がヴィンベルヴィント?」

 

「・・・・」

 

彼女は何も答えない。代わりに返ったのは身震いするような鋭い眼だった。

 

「えーーと・・・・」

 

さすがに困ってしまった。その沈黙が数分続いた後に今度は彼女が切り出した。

 

「なぜ私を生かしておくんだ?」

 

「え?」

 

突然の質問に戸惑った。

 

「それは君のような人を助けて・・情報を・・・」

 

「ふん、お前はそんな奴じゃなかったはずだ」

 

その言葉にさすがに動揺した。

 

「君は俺を知っているのか?」

 

「何を言っているお前は私と戦い、君に敗れたはずだが?」

 

「はぁ?」

 

訳が分からなかった。第一俺はこんな船すら知らない。その紀伊の気持ちとは裏腹に彼女は言葉を続ける。

 

「それにいつの間に姿を変えたんだ。姿も顔もまるで男じゃないか?君はそんな趣味だったのか?」

 

「俺はあんたなんか知らない」

 

ついに紀伊は真実を言った。

 

「今更そんな嘘を言っても私は信じないぞ。覚えているはずだ」

 

「本当だ。あんたなんか知らないしこの船体だって見たことがない」

 

そう言い切った時に彼女は少し考えたようだった。その顔には若干困惑の表情が見える。

 

「・・・・分かった。とりあえず信じよう。それで紀伊。何か知りたいことがあって来たんだろ。私は先遣艦隊だが二回目だとはいえ私を打ち破ったんだ。答えられる範囲なら答えるぞ?」

 

 

未だに紀伊は動揺を隠せないでいたが彼女の瞳を見た。戦闘以外の何物にも興味はないという眼だった。

 

「なら聞こう」

 

少しだけ頭を冷やすことが出来た。

 

「お前たちは何者だ?そして俺は一体何なんだ!」

 

その紀伊の叫びは艦橋の電子機器のスパーク音で掻き消されてしまった。二人の顔だけがそこに照らし出された。




今回はいかがだったでしょうか?と言っても戦闘シーンは少なかったかもしれません。

そして紀伊の存在についても少しだけ触れました。一体紀伊とは!?

次回も期待せずに待っていてください。


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番外編 二人の出会い

ヴィンベルヴィントとの戦闘が終わった後

 

「あの戦艦は停止したようです」

 

「そうか・・・」

 

ヴィンベルヴィントへの砲撃を行った後はもはやワンサイドゲームだった。すぐさまあの戦艦は少ししか回復していなかったシールドらしきものを破壊されて武装を全て破壊されたあとに艦首を破壊されて完全に動きを止めてしまった。

あの白い戦艦がいたぶっているようにも見えてしまう。

 

「圧倒的だな・・・」

 

「あれが俺たちに向いていたら・・・」

 

思うだけでも背筋に寒気が来た。しかしまずは助かったことを祝うべきだ。

 

「艦長見とれているわけには行きません。すぐに敵増援艦隊が来るでしょう」

 

堀江の指摘は正論だった。ここに長くいることはそれだけ命が失われるリスクを高めているのだ。

 

『艦長、白い戦艦があの艦に横付けしました!』

 

「一体どういうつもりだ?」

 

敵の艦艇であり、ほっといても沈みそうな船になぜ横付けするのかが分からなかった。

 

「うん・・・・?」

 

「どうした?」

 

御坂教官が訪ねてくる。

 

「いえ、何でもありません」

 

日柳は嘘を吐いたが言ったとしても冗談にしか思われないのでやめた。ちらっとだが飛び移る影がいたように見えたのだ。

 

「ふん、馬鹿馬鹿しいか」

 

第一ありえない。船から船までかなりの距離がある。そんな距離を人間が一っ跳びすることなんて事は不可能だ。

日柳は見間違えだと頭の中で片付けた。

 

「あと8分してあの艦が動かなければ我々はあの艦を置いてこの海域を離脱する。それでいいですか?」

 

「異存はない」

 

「私もです」

 

御坂教官と堀江、その他の乗務員も異存はないということだった。

 

「頼むから置いて行かせるなよ」

 

正直に気持ちを言えば、出来ればあの艦と共に離脱がしたかったのだ。この場で置いていけば大きな戦力を失うだろう。それだけはどうしても避けたかった。

日柳はあの艦がなぜか何かを変えるような気がしてならなかったのだ。

 

 

 

 

ヴィンベルヴィント艦橋にて

 

「まずはそうだな・・・君たちの目的は?」

 

「いきなり核心をついてくるか。まぁ、正直に言うが我々の目的は”破壊”ただそれだけだ」

 

「たったそれだけなの?」

 

紀伊は段々と怒りが湧いてきた。”破壊”ただそれだけとは言えないがそれを理由だけで多くの人命が失われたはずだ。

 

「どれだけの人命が失われたと思っている!?」

 

「そんなものは知らん。我らは兵器だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「何ていう理屈だ・・・」

 

吐き捨てたいほどの理屈だが頭に上った血をどうにか抑えて、次の質問に移ろうとしたときに下の方から爆発音が聞こえてきた。

 

「何だ!?」

 

「どうやらあまり私は長くはないらしい。どうした?早く行かないのか?」

 

急き立てるヴィンベルヴィント。しかしまだ情報はぜんぜん引き出せてはいない。

 

「はぁー」

 

紀伊はため息を出し、頭を掻いて。自分の船体を動かした。

 

「?」

 

その光景をヴィンベルヴィントは不思議そうに見ていた。

 

「何をしている」

 

「決まってんだろ。お前を救うんだよ」

 

その言葉と同時に何かが接続する音がした。

 

「お前、まさか!」

 

ヴィンベルヴィントが懸念していることは当たっていた。

 

「お前を俺が引っ張っていって近くの島か何かまで運んで行くよ。そうしたら沈没の危険もないだろう?]

 

「何を言っている!?そんなことできるわけ・・・」

 

「出来る、出来ないの問題じゃない。やらないとね」

 

その言葉を聞いてもまだ彼女は「離せ!」や「敵に捕まるくらいなら沈没した方がましだ!」など煩いので自分の耳から彼女の言葉をシャットアウトする。

 

「さて、最後にもう一つだけやらないとね」

 

彼の眼には戦艦比叡が映っていた。

 

 

 

 

『戦艦より発光信号!』

 

「何て言っている!?」

 

『はい!一先ズハコノ海域ヨリテッタイスルガ貴艦ハドウスル?と送ってきています!』

 

「向こうの言い分もこちらと同じだ。離脱をしよう」

 

日柳が承諾しようとするが乗務員の一人が声を上げる。

 

「し、しかし向こうは敵を連れています。もし裏切った場合のことは考えなくていいんですか?」

 

「た、確かに・・・」

 

あの戦艦のことが信じられているのはまだ全員ではなかった。その意見に同調する声も決して少なくなかった。

 

「だがこのままの状況もかなり危険だ。裏切る危険があるのは承知の上だがそれは向こうも同じだろう。下手に刺激しあっては元も子もない。まずはこの海域を離脱してあの戦艦の乗務員と話をしてみるのが今できる最良の選択とは思わないか?」

 

御坂教官がその意見について異議を出した。その言葉に皆が黙る。

 

「・・・他に反対の意見は無いみたいだな。さぁ、早いとここの海域から離脱しよう」

 

「分かりました。あの戦艦に発光信号を送れ!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

「ええっとコノ海域ヲ離脱シタ後二本艦トノ面会ヲ希望スルか。まぁ、いいけどさ。それよりもあの戦艦とかどっかで見たことがあるんだよなぁ」

 

紀伊はあまり日本軍の艦艇については知らなかった。そのため目の前にいる戦艦が金剛型二番艦「比叡」とは気づけなかったのだ。

 

「おい!話を聞いて・・・」

 

「煩いよ」

 

紀伊は彼女の口を縄で塞ぐ。

 

「良し!行くか!」

 

紀伊と日柳の艦隊は現海域から離れていった。その後に来た敵艦隊が右往左往していたことについては彼らは知らなかった。

 

 

 

 

 

1時間後・・・・

 

 

「ここまで来ればもう大丈夫なはずです」

 

堀江の言葉に皆がため息を吐いた。それは今までの緊張が一気に抜けたからだった。

 

「お疲れ様です。艦長」

 

「あ、ありがとう」

 

必要最低限の人数以外は皆が休息を取り始めた頃に堀江が話掛けてきた。

 

「確かに貴官の指揮は見事だったぞ」

 

御坂教官も褒めてくれた。女性二人に褒められると自然に頬が赤くなった。

 

「ですが最後の問題があります」

 

「分かっているよあの戦艦だろ」

 

既に危険な海域を抜けた今、あの戦艦の乗務員の面会があった。

 

「既に向こうから乗船許可は下りている。内火艇を下してくれ」

 

「分かりました」

 

既にメンバーは決まっている。自分、堀江、御坂教官。そして4空母の艦長とアメリカ派遣艦隊司令と最後に・・・

 

「どけ邪魔だ」

 

内火艇に乗ろうとする自分達を無理やり退かして自分が先に乗った男がいた。山口提督だった。彼は右舷護衛艦隊の「阿賀野」に乗っていたが自分の乗艦した艦が沈められて漂っていたところを「比叡」に救助されたのだ。

 

「申し訳ございません」

 

「たかだが訓練生ごときの分際で私より先に乗ろうとするとは何事だ!」

 

最後の方は怒鳴られてしまった。彼は鬼の提督と各所から恐れらおり、味方も平気で囮にしてしまう恐ろしい人物だった。更にとても差別意識が強く、アメリカとの合同艦隊になったときには

 

『我が誇り高き大日本帝国軍人があんな鬼畜米兵といっしょに戦うだと!?』

 

と言う風に危うく米兵を殺しかけてしまいそうになるほどの勢いだったが何とか説得して今に至るわけだ。

 

「申し訳ありません」

 

「ふん、まぁいい。精々私の背中でも見ておくがいい」

 

そう言い放ち内火艇に乗り込んでいく。自分たちはその後内火艇に乗り込んだ。

ゆっくりと内火艇が動き出した。白い巨体に近づいていく。

 

「しかし奇妙ですね」

 

「そうだな」

 

確かにとても巨大だが船体には謎の模様があり、光っていた。しかも甲板には人の姿は無く、かわりにそこに何か変なものがあった。その巨体から再び発光信号が来た。

 

「何と言っているんだ?」

 

「待ってください。ソノママソコデ待機せよです」

 

「この私を待たせるとは一体どんな奴だ」

 

山口提督が待たされることに愚痴を吐く。しかしそれもすぐだった。ゆっくりとだが階段が降りてきた。しかし周りに人はいない。

 

「意外と速かったな」

 

山口提督はそんな事に見向きもせずにズカズカと階段を上っていく。三人は顔を見合わせて頷くと階段を上った。他の司令と付いてくる。

 

「しかしどうして人がいないのでしょうか?」

 

堀江が言っている事は正しい。戦艦の運用には多くの人間がいるがそんな気配は微塵もない。むしろ誰もいないということの方がしっくりときた。

 

「本当に人がいるんでしょうか?」

 

段々と不安が積もってきた。その時に艦橋に繋がるドアが開いた。

 

「この中にいるのかも」

 

中に入ってみるとかなり明るかったが驚いたのはその内装だ。どういう風に作ればこうなるのかが分からないくらいだった。それほど自分達が知っている内装とは違って見えた。

 

「まるで空想小説に出てきそうな場所だな」

 

日柳がぽつりとつぶやいた言葉に誰かが答えた。

 

「そうかもしれませんね」

 

その言葉を聞いた瞬間に誰もが固まった。今の声は誰のものでもなかったからだ。

 

「そう怖がらないでください。今行くので」

 

彼らが銃を構えた瞬間に再び声が聞こえた。やはり幻聴ではなかった。

そして暗闇から人影が出てきた。容姿はまさに自分と同じかそれ以下に思えた。

 

「誰だお前は?他の船員はどうしたんだ?」

 

山口提督が聞く。すると少し彼は自分たちを見て少し驚きながら

 

「あなた方はもしかして日本海軍の方ですか?」

 

と聞いてきた。さすがにこれは皆が面を喰らった。

 

「何を言っているんだ。この服装を他にどの海軍が着るというのかね」

 

当然と皆が答えると少年はかなり驚いていたが話を戻した。

 

「で、では最初の質問ですが自分は宮本 紀伊です。第二の質問ですが自分の他に誰もいませんよ」

 

「はぁ?」

 

言葉が分からなかった訳ではない。何を言っているのかと彼の正気を疑ってしまった。

 

「何を言っているんだ?ならどうして艦が動いているんだ」

 

その言葉に彼は即答した。

 

「それは私がこの艦自身だからですよ」

 

その言葉といっしょに彼の周りに白い輪のようなものが現れた。気が緩んでいた彼らは再び銃を構えた。

 

「では君は何者だ?」

 

「そうですね。今は”離れて”いますが霧の艦隊 超戦艦紀伊とだけ答えておきましょう」

 

「霧の艦隊だと?」

 

実は紀伊の方もよく分かってはおらず超戦艦の名前も自分の名前をつけただけである。

 

「そうです。おそろくですがあなた達よりも未来から来ました」

 

「未来から来ただとぉ?何を抜かしておる!」

 

再び山口提督が叫んだがそんな事は聞いていないかの様に振舞っていた。(この時紀伊は少し竦みそうな気持ちを必死に抑えて何事もなかったかのように振舞っていた)

 

「それはあなた方も見たはずです」

 

「・・・・・」

 

 

彼の言葉には信憑性はあった。確かにあんな兵器などは見たことがない。ましてやこの艦もだ。

 

「確かにそれは言えるな。それでその霧の艦隊の超戦艦がなぜ我々を?」

 

「それはですね・・・」

 

 

それからお互いに情報交換や自分達の現状を知り合った。特に日柳達の方はかなりの驚きに包まれていた。

 

「分かった。そちらの状況については理解したがこれから貴官はどうするつもりだ?」

 

「そうですね。あなた方に連いていってもいいかなと思っています。それでもよろしいですか?」

 

「もちろんです。あなたが来てくれるとこちらも助かる」

 

どうやらお互い利害が一致したみたいだった。

 

「では行きますか。ミッドウェイ島へ」

 

「はい」

 

こうしてお互いいい方向で方針が決まった。皆がそれを歓迎した。ただ一人を除いては・・・・

 

 

 

 

 

 

「見えましたミッドウェイ島です!」

 

艦橋からはうっすらとミッドウェイ島の島影が見え始めていた。

 

「「おおっ!」」

 

誰もが喜びの声を上げた。無理もない。命からがら着いたのだから。

 

「ようやく来れましたね」

 

「そうだな。見張り員何か見えるか?」

 

『そうですね。特段何も。味方艦も見えません』

 

「おかしいですね味方はもう気づいているはずなのに迎えもないなんて」

 

「そうだな。何かあ『艦長!』どうした!」

 

安ど感が渦巻いていた艦橋内で見張り員がその空気を破いた。

 

『ミッドウェイ島が・・・』

 

「ミ、ミッドウェイ島がどうかしたのか!」

 

『燃えています!』

 

その報告に一瞬時間が止まった様に全員が思った。しかしすぐに我に返り外を見る。

 

「冗談だろ?」

 

「嘘ですよね?」

 

そこには薄らとだが炎上して黒煙を上げるミッドウェイ島の姿があった。

 

 




どうしてもヴィンベルヴィントを連れていきたかった。皆さんは超兵器ではどれが好きですか?自分は中々上手く書けないですが大目に見てくれれば光栄です。

次回は黒炎を上げるミッドウェイ島。一体何があったのか!?


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番外編 ミッドウェーの悲劇

その日はいつになく快晴だった。

 

「こんな時は昼寝が一番だな」

 

草原に横たわっているのは戦艦「日向」の艦長である山田 勝也(やまだ かつや)だった。

今日はいつにも見ない程の快晴であり、今の現状を忘れて昼寝をしそうになっていた。その光景は今が戦争中だということを忘れてしまいそうだった。

 

ミッドウェイ島に駐留しているのは以下の艦艇である。

 

日本艦隊

 

戦艦 「扶桑」、「日向」

 

巡洋艦 5隻  

 

駆逐艦 10隻

 

アメリカ艦隊

 

戦艦 「オクラホマ」、「ニューヨーク」

 

巡洋艦 6隻

 

駆逐艦 14隻

 

支援艦隊

 

タンカー 3隻  輸送艦5隻 

 

 

彼らは日柳達の艦隊が出る前にミッドウェイ島への道を確保するのが目的だった。彼らは思っていた戦闘もなくミッドウェイ島の港に着いてしまった。彼らは安全確保を果たし、本土に連絡すると「後続艦隊が到着するまで待機せよ」と命じられて羽を伸ばしているのだ。

 

「艦長何をしているんですか?}

 

日の光が遮られたと思い、目を開けてみると「日向」の副長が居た。

 

「ああ。昼寝でもしようと思って」

 

「何を呑気な事を言っているんですかこれから新型航空機を見に行くんじゃなかったんですか?」

 

副長に指摘されてようやく思い出した。このミッドウェイ島には今回現れた謎の敵に対して既存の航空機では歯が立たないことがあったのだ。その為、ここミッドウェイ島で航空機の開発に着手していたのだ。それが昨日試作機が出来たという報告があったので皆で見に行こうということになったのだ。

 

「悪い悪い。行こうか」

 

「はい。ところで艦長帽子は?」

 

「え?あっ!」

 

どうやら帽子を日向の艦橋に置き忘れていたみたいだ。取りに返えなけらば恰好がつかない。

 

「すまない。後で行くから先に見といてくれ」

 

「分かりました」

 

副長は遠のいていく彼を見ながら背を背けた。

彼が走っていく港にはありとあらゆる艦船があった。さすがに先発隊ともあって空母は無いがそれも後から来る増援に空母が居る為また増えそうだった。

 

「はぁ、はぁ」

 

しかし一気に港の端から端まで行くのはこの年になると体力的にはきつくなるのだ。時々もつれそうになる足を何とか言う事を聞かして戦艦「日向」にたどり着いた。

 

「ぜぇ、ぜぇ、何とか着いた・・・・」

 

少し近くで腰を下ろして息が整うのを待ってから日向の艦内に入った。

 

「えーと目的のものは・・・」

 

艦橋を少し探すとすぐに目的の帽子は見つかった。

 

「よしよしこれでいいと」

 

「日向」艦長になった日からずっと着用している帽子は今までの様に頭によくフィットした。艦橋には今は誰もいなかった。おそらく皆が新型航空機を見学しに行っているのだろう。警備の連中は可哀想だと勝也は思った。

 

「さぁ、行くか」

 

「日向」の艦橋に置いてきた忘れ物は取れたので艦橋を出ようとした。おそらくは副長や他の乗務員が待っているだろう。自分も早く新型航空機を見たいと思っていたところだった。

 

ピーピーピー!

 

甲高い音がした。何の音だと振り向いた瞬間に思い出した。これは無線の呼び出し音だと。すぐに勝也は出た。

 

「こちら日向艦長の山口 勝也だ。どうした?」

 

聞いた時に雑音と共に慌てた声が聞こえたが雑音が酷く断片的にしか聞こえない。

 

「こち・・・駆逐・・・時雨・・・ほう・・て・・こう・・ただ・いひ・・よ」

 

「どうした雑音が酷くて声が聞こえないもう一度はっきり言ってくれ」

 

すると先程より声を大きくしたのか先程よりもはっきりと聞こえるようになった。

 

「こちら駆逐艦時雨!報告する!敵航空部隊多数接近!直ちに警戒せよ!繰り返す敵航空部隊接近中!」

 

「何だと!?」

 

安全だと思われていたミッドウェイ島に敵の航空部隊が向かっているという報告を受けた勝也は馬鹿なと思った。

このミッドウェイ島は度重なる偵察の上で安全だと思われた。実際に自分たちがそれを証明してしまっている。

だが現実は変わらない。やはり戦争はどこも安全ではなかったのだ。

 

「!!」

 

ついに航空機の音がした。かなりの音だろう。基地の連中も気がついたようで大慌てで機銃につくが時すでに遅しだった。

 

 

ヒュー―――

 

 

何かが落下してくる音がした。艦橋から出てみると黒い何かが落ちて来ていた。紛れもない爆弾だった。

 

「くっ!」

 

咄嗟に艦橋の中の隅に飛び込んだ。次の瞬間、空や地上が赤くなった。

 

ドンッ!ドンッ!

 

次々と敵が落とした爆弾がさく裂していく。近くの湾岸施設、高射陣地、宿舎、格納庫、そして艦船に降り注いだ。

しかし味方部隊も黙ってはやられずに生き残った高射砲が艦爆を文字通り蜂の巣にした。その高射砲の搭乗員はほくそ笑んだに違いない。しかしそれもすぐに終わった。更に多くの爆撃機が爆撃の雨を降らして大きなクレーターが出来るほどまで落とし続けた。

 

「あれは・・・」

 

その光景に目を奪われていると何かが日向の横を渡った。アメリカの「ニューヨーク」だった。どうやらいち早く状況に気がついて脱出しようよしているようだった。しかしそんな生存の為に航行している「ニューヨーク」に対して非情にも敵航空部隊の攻撃が加わった。

 

「そんな・・・「ニューヨーク」が・・・」

 

最初の艦爆の攻撃はニューヨークの対空砲で防いだがその次に来た雷撃機が魚雷を放った。ニューヨークに2本の水柱が立った。その為、船速が遅くなり、次々と爆弾や魚雷を放って行き、ついにニューヨークはその身を海底に沈めることになってしまった。

もちろん近くにいた日向も只では済まなかった。しかし今度ばかりは運が味方についてくれたのか。沈没しようとしたニューヨークの船体により、爆弾や魚雷が防がれてしまったが内いくつかは日向の後部主砲全てを吹き飛ばしてしまった。

 

「みんなは・・・・どうしたんだ?」

 

勝也も皆の心配をしたかったがそれどころでは無かった。それから数分か数時間たったのかは分からなかった。いや、分からない程まで長く感じたのだ。敵航空隊は勝利を誇るかのように飛び去ってしまった。

 

「う・・・う・・」

 

勝也は敵航空機が去って行ったのを見計らって、艦橋から外を見渡した。

 

「あ・・・あ・・」

 

声が出なかった。さっきまでとはがらりと島は姿を変えていた。地上施設で目立った建物は全て破壊されていた。

しかし艦艇は戦艦で言えば、「オクラホマ」はドックにいたため、無傷に近いが「扶桑」はあの長い艦橋が根元から折れていた。巡洋艦はといえば、残っているのは全て中破かそれ以上、駆逐艦に関してはほぼ大破に近かった。

 

「この攻撃はまるで・・・」

 

そう日本軍自身が行った真珠湾攻撃とまったく同じような状況だった。偶然だろうか。いや、今はそんなことを考えている暇はない。とりあえず被害報告と生存者の救出だ。

 

 

 

それから2時間後 紀伊達が島に着く数分前

 

 

「とりあえずこれで全部か・・・」

 

ようやく被害が分かった。

 

 

被害状況

 

日本

 

戦艦 扶桑 大破  

 

   日向 中破(後部砲塔全滅)

 

 

巡洋艦 「青葉」、「衣笠」大破 「天龍」大破 「龍田」沈没 「川内」沈没

 

 

駆逐艦 「秋霜」 大破 「清霜」 「岸波」沈没「夕立」 「時雨」「白露」 「山風」中破 「五月雨」 「海風」「涼風」  沈没  

 

 

アメリカ

 

戦艦 「ニューヨーク」沈没 「オクラホマ」健在(ドッグにいたため難を逃れた)

 

巡洋艦 「ペンサコーラ」大破 「ノーザンプストン」大破 「アトランタ」大破 「ジュノー」「サンディエゴ」沈没  「ヘレナ」大破

 

駆逐艦 「ワッツ」 「ロス」「ロウ」 「スモーレイ」 「ロビンソン」「ミラー」  沈没  「カップス」 「エヴァンズ」 「ブラウン」 「ボイド」大破(内二隻が修復不能) 「ブッシュ」 「ホーエル」 

「ヘイウッド・L・エドワーズ」 「リチャード・P・リアリー」が中破だった。

 

 

損害艦では数が多かったアメリカ側の方が大きかったがこちらも日本にしてみれば無視できないほど損害は大きかった。何しろ日本の艦艇はアメリカと違い、短期に艦艇を作ることはできないのだ。その為、この数でも十分痛手だったのだ。

 

「くそっ!」

 

思わず悪態を空に向かって叫んでいた。これほどの悲劇は見たことがなかった。日向やその他の艦艇達の乗組員はほぼ航空機を鑑賞しに集まっていた為、航空機の餌食となってしまっていた。島の防衛に当たっていた陸軍も攻撃を受けて壊滅寸前だった。アメリカ軍も同じであった。

 

その時に安全の為に飛ばしていた偵察機から通信が入った。

 

「どうしたっ!?」

 

一気に現場が騒然となる。おそらく次の攻撃を受ければ全滅するだろう。

 

『増援です!どうやら後続の艦隊が来たようです』

 

どうやら間に合ったようだ。一気に現場で安堵の空気が広がった。

 

「分かった。艦隊を誘導してくれ」

 

『了解しました』

 

「赤城」旗艦の機動艦隊と「比叡」旗艦の練習艦隊だろう。彼らがいれば少しは安心できるようになる。

 

「良し。彼らを迎えに行くぞ」

 

 

 

 

 

船体の上で静かに紀伊は考え事をしていた。確かにミッドウェー島が攻撃されていることにも驚いたが偵察機からの応答があったのでどうやら全滅はしていなかったらしい。しかしそれと同じように重要な考え事をしていた。

 

(彼女と俺は一度会ったことがあるみたいだ。しかし俺にはそんな面識は一度だってない。それに俺の顔を見て俺が体をまるで作り直したみたいな言動をやっていた。なぜそんな事を?そもそもなぜ俺はこんな世界に?)

 

今まで考えてきて一度だって結論にたどり着けなかった論題だった。しかし今回彼女との遭遇であともう少しで答えをだせそうな気がなぜかした。

そもそもなぜ自分はこんな事態になっているのか?小説でしか見たことが無いような事態の連続だ。お蔭に自分はいまや人ですらない。家族や今、どう思っているのだろうか。そんな考えをずっとしてきていた。

 

「必ず帰らないと・・・」

 

だがそれはどの世界にだ?日下部や群像達がいる世界か、それとも自分が元いた世界か。もし元の世界に帰っあっとしてもこの体は元に戻るのか。疑問は次々と湧き出してくる。

 

「あーーーもうっ!」

 

そんな無限ループのような考えを捨て、大声で叫んだ。今、悩んでも仕方のないことだ。まずは目の前の事態を解決しないと思い。強引に意識を現実に引き戻した。良く見ると発光信号を送っている。

 

「我に続け、誘導するか。ここまですぐに分かってしまうんだから・・・・」

 

顔が熱くなってきた。少し休んだ方がいいかもな。そう思いながら紀伊は比叡達と共に湾内に入っていった。

 

 

 

 

 

「何なんだ・・・・」

 

「やはり被害は被っていたか・・・!」

 

皆がミッドウェー島の惨劇を目の前にして言葉を失っていた。それもそうだろう一番安全だと思われていた島が句集を受けて壊滅寸前だったからだ。

 

「すまない。自分たちの不甲斐ないばかりに」

 

勝也の言葉に皆が慌てる。

 

「い、いえっ!勝也艦長達の所為ではありません!悪いのは空襲を行った敵です!」

 

御坂教官が必死に擁護するが効果は逆効果だったようだ。

 

「そ、それで被害状況の方はどうなっているんですか?」

 

日柳が話題を唐突に変えた。

 

「地上施設は一部を除いて全滅だ。艦艇も一部を除いて大破か撃沈だ」

 

「そうですか・・・」

 

「しかもとても今の設備だけでは修復できない艦艇も多い。とてもじゃないが反攻作戦には使えないな」

 

「・・・・」

 

誰もが悔しさと無力感でいっぱいになっていた時に一人だけ違う者がいた。紀伊である。

 

(この反応は・・・・ナノマテリアル?)

 

実は一度だけこの船体を作っているナノマテリアルの元の姿をイオナに見させてもらっていた。その時の反応がこのミッドウェー島の付近や湾内の至る所で出ているのだ。

 

「うっ・・・!」

 

再び頭痛がした。今までとは比較にならない程だ。その痛みに耐えきれずに急速に彼の意識は消えて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

日柳達はどうしようかと迷っていた。既に主力艦は全てドック行きか沈んでしまっている。これからどうすればいいのかと迷っていると

 

「おいおいどうした?何か問題があったか?」

 

場違いな声が響く。皆が驚きながら振り返った。そこには紀伊と呼ばれる人間?がいた。しかし何か様子と言うか雰囲気が違っていた。

 

「実は・・・」

 

事情を話した。すると紀伊は納得した。

 

「何だそんなことか」

 

「そんなことって・・・」

 

皆が何かを言ようとすると紀伊は言葉で遮った。

 

「おいそこの!」

 

「はいっ!私ですか?」

 

「そうだ。すぐに修理が必要な艦を集めろ!私が短時間で直してやるよ」

 

「嘘だろ」

 

皆が失笑した。だが紀伊は言葉を続けた。

 

「いや本当だ。まずは被害が少ない艦からだ。あと作業を見るなよ」

 

皆が呆然としていると彼は一歩前に出て

 

「何をぼさっとしている。作業にかかるぞ!!」

 

高らかにそう宣言したのだ。

 

 

「一体何が」

 

「彼に」

 

「起こったんだ?」

 

日柳達は同一意見だった。そんな彼らの前で高らかに笑う紀伊だった。

 

 

 




いやーー中々いい文が出来ない。おそらく次はビフォーアフ・・ゲフンゲフン
次回は艦船たちの改装です。そして紀伊には何がおこったのか?


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番外編 新たな敵

遅くなってすいませんでした!(土下座)
言い訳をさせてもらいますと実は学校の修学旅行がありましてその準備やら何やらで忙しく更には修学旅行につい最近まで行っていたもので投稿が遅れました。(ちなみに修学旅行先は沖縄です)
これから再び投稿を再開するのでまだ見てもらえるならどうぞよろしくお願いします。


未だ煙が燻ぶっているミッドウェー島のドッグの中で何かが起こっていた。

 

「何をしているんでしょう?」

 

「分からんよ。しかも時折中が光っているし」

 

誰もが紀伊のしているのを予想をしては裏切られていた。修復すると言っていたが一体どうするのかが気になったのだ。

 

「だが見てはいけないと言われているし・・・」

 

この口約束のお蔭で誰も中を見たくても見られないのだ。確かに昔の昔話みたいに約束を破って見ることはできるが相手を怒らすと何をするかわからない。気が付けば砲弾と墳進弾の雨が降っていたなんてことは笑い話にもならない。

 

「とにかく作業に集中だ!手を休めて見ている余裕はないぞ!」

 

御坂教官が注意を逸らそうと大声で作業を促す。皆は渋々作業に着いているが時折目線をドッグに移していてそのたびに御坂教官に怒られていた。

 

「とりあえず艦艇は何とかなりそうだな」

 

しかし艦船の問題は解決できてもまだまだやることはたくさんあった。島に駐屯している陸軍への対応、無線機を修理して本国との通信を確立すること。そして敵の襲撃に万全を以て挑めるようにしなけらばならないこと。特に現状では陸軍への対応が一番苦労しそうだった。何せお互いは未だに仲が悪いのだ。その中の悪さにアメリカなど兵士達に失笑されていた。

笑い話で済めばだいぶマシなのだがなにより恐ろしいのは陸軍の強行側だった。あの紀伊を敵のスパイか何かと勘違いをしているようで一時間おきに紀伊を捕えよという言葉を海軍の仮拠点に送ってきているのだ。

 

(まったく今はそれどころじゃないのに・・・・)

 

今は時間、人材、資源と何から何まで足りないのだ。そんな陸軍の頼まれごとをしているほどの余力は海軍には無かった。ましてや捕えるなんてことをすればあの巨大なお船体についている巨大な砲や艦のそこらじゅうにある墳進弾でこちらが全滅しかねない。

 

「今は守りに徹するしかないということか・・・・」

 

「艦長手を動かしましょう」

 

考えに耽っていると横から堀江が注意してしぶしぶ考えを中断して作業に移る。その間にも着実に紀伊の手によって艦艇は修復されていった。

 

 

 

 

 

ミッドウェイ島 一番ドッグにて

 

「ふふふ~ん♪」

 

紀伊はその姿に見合わない鼻歌を歌っていた。しかし現場はそんな鼻歌が似合わないような場所だった。周りには修理するためのドッグな為クレーンやハンドアームなどの機具がずらりと並んでいた。しかもその機械に囲まれTれている中心には紀伊と米戦艦「オクラホマ」がいた。

 

「ええっと後はオクラホマ、扶桑、日向かな?」

 

ナノマテリアルで作ったリスト表を見ながら紀伊は言う。既に駆逐艦、軽巡、重巡洋艦、空母と戦艦の一部はナノマテリアルで欠損箇所を修復している。しかし紀伊はそれだけでは終わらなかった。全ての艦にナノマテリアルを使ってある細工を施した。強くする為に。今までの紀伊では出来なかったり、知らなかったりしたことを今の紀伊は巧みに技術を使ったり、知識を知っている。まるで中身が入れ替わったかのように。

 

「まずはオクラホマだがどうしようかな?」

 

オクラホマは第二次世界大戦初期に日本海軍が仕掛けた奇襲作戦「真珠湾攻撃」によって多数の損害を受けて沈んだがどうやらこちらでは史実とは違いオクラホマはあまり傷は深くなく早い段階で復旧させることが出来たらしい。しかし乗員は全て他の艦に移籍してしまい艦の乗員がいない。その為新規に搭乗員を乗せて訓練をさせるのと動作テストをするための訓練航海の名目で来ていたのだ。

 

「さすがに戦艦で終わらせるのもつまらないな」

 

いらぬ事を考え始めた紀伊だった。確かにオクラホマは史実でも真珠湾攻撃で沈んだまま戦艦としての生涯を終えてしまった。しかもそれ以前にもオクラホマは蒸気エンジンの代わりにレシプロエンジンを搭載した最後の米戦艦であった為、真珠湾攻撃で生涯を終えるまでずっと振動問題に悩まされ続けたのだ。

そこまで考えた事であることを思いついた。そして頭の中に一気に発想が構築されていく。

 

「良しこれだっ!」

 

指を鳴らして巧みにナノマテリアルの使いながら一気に作り上げていった。

 

 

数時間後・・・・

 

 

 

「これで良しっ!」

 

満足した様子で出てきた紀伊だった。既に第一ドッグの照明の光も落とされている。

 

「もう夜か・・・」

 

ドッグの中でずっと作業に没頭していたため気が付かなかったが既に時刻は夜を迎えていた。

 

「あと二艦もあるのか・・・・」

 

いかにもしんどそうな顔をしながら再び、明かりがまだともっている仮宿舎に背を向けて「扶桑」、「日向」がいる第二、第三ドッグの中に入っていった。

 

「あまり時間も無いしなぁ。それに外はどうやらおもしろくなっているみたいだし」

 

そんな言葉を呟くきながら再びドッグの中に消えていった。そして第二ドッグ、第三ドッグでも再び光と作業音が響き渡った。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「ふぁ~~昨日は疲れたなぁ」

 

大きな欠伸をしながら仮宿舎から出てきた日柳であった。紀伊が作業に没頭している間に何とかこの仮宿舎とその他の施設は復旧させることに成功していた。しかし未だに通信施設などの重要施設のいくつかはどうする事も出来なかった。

 

「おはよう。昨日は眠れたかね?」

 

その声に振り向くと勝也艦長がいた。慌てて眠い目を擦り敬礼をした。それを勝也艦長は笑いながら止めさせる。

 

「いかんよ。そんな若いもんが朝早くから肩苦しい事をしていたら身が持たんぞ?」

 

「は、はい!」

 

さすがにそう言われると思い日柳は敬礼の手を下した。それを見ながら勝也は言葉を続ける。

 

「君はどう思う?」

 

「どういう意味でしょう?」

 

いきなり切り出された話題に日柳は動揺を隠せなかった。

 

「いや、悪いね。主旨を述べていなかったね。君は彼の事をどう思う?」

 

「彼の事ですか・・・」

 

その話題に言葉を詰まらせる。勝也艦長の言う”彼”とはおそらく紀伊だろう。確かに彼の事は信用してはあげたい。しかし彼いや人間ですらない彼はどのように扱っていけばいいのかが分からないのだ。日柳だって紀伊の説明を全てはい、そうですかと鵜呑みに出来たわけでは無い。心のどこかでは彼が昨日襲ってきた敵と同じで我々の情報を調べようと敵が送り込んできたスパイなのかもしれない。しかしそれも昨日の行動で間違いかもしれないと思い始めていたのだ。だから日柳は正直に言った。

 

「自分には分かりかねません」

 

「そうだろうな。私も御坂君から聞いたが彼が未来から来たとはまだ信じられないのだよ」

 

「自分もです」

 

「その答えを待っておったよ。そういえば彼から伝言を預かっておる」

 

「自分にですか?」

 

「みたいだな」

 

日柳はめずらしく思った。わざわざ自分に対して伝言とはどうしたのだろうか。

 

「今から読むぞ。”旗艦「比叡」、「赤城」を含む全艦艇の修復が終わった。今から皆を集めて第一ドッグに来てくれ”以上だ」

 

「今からですか?」

 

「どうもそうらしい」

 

「分かりました」

 

 

こうして皆が第一ドッグに集まることになった。

 

「どうしたんだ?」

 

皆が不思議そうにしている中で紀伊は話始めた。

 

「さっき聞いた通り艦艇の修復が出来たよ。いやー大変だった」

 

「前置きはいい。さっさと見せろ」

 

紀伊の言葉を冷たく返す山口提督。

 

「もうせっかちだな。仕方ない。それではお披露目です!」

 

心底嬉しそうにお披露目をしよいとする紀伊。次々と現れた艦艇達。

 

「おおっ!」

 

皆が感嘆した。それもそうだろう。出港前と何も変わらない姿になっていたからだ。しかし違う姿になっている艦が三隻いた。その三隻である「オクラホマ」、「扶桑」、「日向」はもはや・・・・

 

「一体どうやって・・・」

 

「それは企業秘密です」

 

紀伊はニコニコしながら言う。どうやら教えてはくれなさそうだ。

 

「あっ!それと言わないといけないことが」

 

「どうしたんだ」

 

「実はあなた達の船を・・・・」

 

そこまで言った途端に倒れこんできた。

 

「おい!どうしたんだ!」

 

いきなり倒れ込んで来たため慌てる。

 

「どうやら時間みたいだ。後は彼に任せるよ・・・」

 

「何を言っているんだ?」

 

意味不明な言葉を残して彼は眠るように目を瞑ってしまった。いや、実際に寝ているのかもしれない。

 

「おそらく寝不足だろう。誰か医務室・・・」

 

その時だった。再び、警報音が辺りに響いた。

 

「どうした!?」

 

「大変です!」

 

兵士が一人走ってくる。

 

「だからどうした!?」

 

山田提督が怒鳴る。

 

「この海域に一隻の艦艇を確認。わが軍のものではないとのことです」

 

「では何だ!?アメリカかソ連か?」

 

「いえ、敵は日本の戦艦に近いとのことです。そして途轍もなくデカイらしいです」

 

「敵の形は!?」

 

その言葉に兵士が息を飲む。そして言った。

 

「双胴型だそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

場所不明

 

そこはどこだか分からなかった。ただ分かるのはそこがとても暗く太陽の光が来ていないことは確実だった。

そんな場所に不釣り合いに置かれたカフェなどに置いてありそうな机と椅子そして紅茶があった。

その紅茶の入ったカップを持ち上げておいしそうに飲んでいる人物がいるが部屋が暗く、顔が見えない。

 

「これはいいお茶ね」

 

何もない空間で一人しゃべっていた。しかしどこからか声が聞こえてきた。

 

「司令官報告を持ってきた」

 

その声にその人物は驚くどころか振り向きもせずに話を続けた。

 

「あら随分早かったですね?」

 

クスクスと笑いながら声の報告を聞く。

 

「先程敵空母四隻を含んだ敵艦隊にヴィンベルヴィント含む第一先遣艦隊が接触した」

 

「ほぉ、それで結果はどうなったの?まぁ、聞かなくても分かるけれど」

 

「報告をまとめたのがこれだ」

 

リストが目の前にいつの間にか置いてあった。カップを置いてそのリストを見る。それに合わせて声の主は報告のリストと同じ内容をしゃべり始めた。

 

「報告によれば戦艦二隻、空母四隻、巡洋艦八隻、駆逐艦十三隻、輸送船十七隻の艦隊だった。まずはこちらの空母と前衛艦隊の攻撃で右舷の艦隊を殲滅。航空攻撃で多数の艦を中破か航行不能にさせた」

 

「予想どおりね。あの子も出る必要性も無さそうね」

 

「しかし結果としては負けていた」

 

「・・・・どういう事?」

 

その人物の声、いや雰囲気が変わった。静かに怒っていると言っても良かった。

 

「それについては集計中だがその敵艦隊ともう一隻戦艦が増援として来たそうだ。それから艦隊旗艦である彼女が出たらしいのだがそれからどうなって負けたのかは依然として不明だ」

 

「どうしてなの?」

 

「その前に報告用の艦が消し飛んだみたいだ」

 

その言葉におもしろくないようなため息をつきながらすぐに雰囲気がさっきのに戻った。

 

「まぁ、いいわ。生き残りの艦艇は」

 

「いない。全滅だ」

 

「ふ~ん。まぁ、彼女も艦艇もいくらでも代えが利くしね。私の手にかかれば」

 

「以上で報告は終わりだ。司令官」

 

その人物の雰囲気の変化にも一切に興味が無いかの様に声の動揺などは見せなかった。

 

「あ!そうそう」

 

「どうした?」

 

「その艦隊は今どこへ?」

 

「進路からすればミッドウェー島だ」

 

ミッドウェー島あそこはなぜかは分からないが司令官直々に攻撃中止命令を出していた。

 

「あそこに爆撃を行っておいて」

 

「いいのか司令官?」

 

「ええ。”彼女”がもしかしたら動き出したかも」

 

「?」

 

その言葉の意味は声には分からなかった。しかし命令とあらば従うのが下の務め。

 

 

「了解した」

 

「まだ終わってないわよ」

 

「?何だ司令官?」

 

「爆撃を行った後に逃がした艦隊はそのままでいいわ。爆撃隊には一回の爆撃だけで済ませればいい。そして後片付けはあの東洋方面の旗艦殿にしてもらいましょう。”東亜の魔人”にね」

 

「分かりました。しかしたかだか3艦隊程度にそれほどの戦力を・・・」

 

「油断は禁物よ。ヴィンベルヴィントは他の超兵器に比べて初期型だけど通常の艦艇が倒せる相手では無いわ。私的にはもう一隻の戦艦が気になるわ。それに新たな世界への進出もある。早急に片付けないといけないわ」

 

「分かりました。最後にもう一つだけ質問が」

 

「最後よ。これから忙しいし」

 

「その戦艦とはもしかして・・・・」

 

「本来は言う事はないけれど・・・・あなただけは特別よ?”摩天楼”」

 

どこかなつかしむようにポツリと言った。

 

「あなたは戻ってきたのね。超戦艦キイ」

 

 

 

 

 

ミッドウェー島近海 

 

 

夕日に海が赤く染まる頃に一隻の巨艦が海をかき分けて進んでいた。双胴であり外見はどこか戦艦大和を思い浮かべる。しかしその戦艦よりはるかに大きくそして武装も強力なこの艦で一人の女性がいた。

髪は短く纏められておりいかにも運動が出来そうな女子という感じである。

 

「来た来たぁ!」

 

 

彼女は一人広い甲板で喜んでいた。

 

「最近までずっと艦隊旗艦なんてつまんない仕事していたけれどいよいよ砲火を交えれる!」

 

日々のストレスを発散する目的もどうやら彼女にはあったらしい。

 

「さぁ、どんな相手が待っているのかな?どんな敵が来ようとも・・・・」

 

拳を両方ぶつけながら楽しそうに言った。

 

「この超巨大双胴戦艦ハリマが相手をしてあげる!」

 

夕日が照りつける中でハリマは楽しそうにまだ見ぬ相手を待った。




今回はいろいろと詰め込み過ぎた感が多数あります。次回は紀伊が用意したある仕掛けも発表します。
おそらくあと次回か次の次で蒼き鋼の世界に帰れると思います。


次回 紀伊が不在の中、日柳艦隊だけで敵を迎え撃つことになった。
果たして勝つのは双胴戦艦ハリマかそれとも日柳艦隊か!


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番外編 夕日を背に殴りあえ!! 前篇

ミッドウェー島 湾外にて

 

「全艦戦闘準備はいつでも出来ているようです」

 

「分かった。ありがとう」

 

勝也は「日向」にて指揮を執っていた。

 

「しかしなぁ」

 

彼は艦橋から出て「日向」後部を見た。そこにはかつての主砲がついた戦艦では無く、今では(ええっとメモによれば)”アングルトデッキ”という斜めの飛行甲板らしい。「日向」の改造とは後部をアングルドデッキ化させた事だったのだ。

 

「艦長、幸いにも天候は良いので日暮れになる前に航空機を発進させてよいですか?」

 

「確かにそうだな。許可しよう」

 

航空戦艦となった日向は存分にその力を振るおうとしていた。艦載機は・・・犠牲になった兵士達が残してくれた物だった。

 

 

 

 

 

 

事が始まる前日にて

 

実は紀伊がずっと改造をしている間に実は彼らもあるものを見つけていたのだ。

 

「うん?何だこれ?」

 

ある陸軍兵士が空襲でやられた建物の瓦礫を撤去しているときに瓦礫の固い触感とは違う何かが彼の手に触れた。

彼は何かと思い瓦礫を退けてみるとその全容が分かった。

 

「これはっ!」

 

 

 

 

 

「うん?航空機が見つかったって?零戦じゃないの?」

 

「いえ、どうやら零戦とは違い機種のようでとにかく来てくれとの陸軍からの要請です」

 

「分かった。勝也艦長といっしょに行く」

 

「分かりました」

 

どうやら新型らしい。もしかしたら勝也艦長が何かを知っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

「で?どこだ」

 

「こちらです!」

 

 

陸軍の兵士が案内してくれたが問題の場所は瓦礫が綺麗に退かされているがもしこれが瓦礫に埋もれているのならよくぞ見つけたのもだと感心した。

 

「これか?」

 

「はいそうなります」

 

「これは・・・・」

 

それを見た瞬間に勝也艦長の顔色が変わった。見たところ零戦よりも少し大きな感じであるがこれが噂の新型機なのだろうか?

 

「ああ、ここで開発していた新型機だ。うちの部下たちはこれを見に行って・・・・」

 

彼の瞳に涙が溜まる。そして静かに敬礼した。

日柳達もそれに合わせて敬礼をした。

 

 

ありがとう。この新型機使わせてもらう。必ず敵を取ると。

 

 

日柳達は必ずここに勝利を届けると死んでいった彼らに誓った。

 

 

その後に紀伊に届けた。その時に紀伊の悲鳴が響き渡ったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

(しかし彼はやり遂げたのだ。量産化が出来るようにして。しかもこれを積めるように艦艇を航空戦艦化したのは・・・いささかやり過ぎな感じがするが感謝はしている)

 

「敵艦の様子はどうか?」

 

「はい。先程「青葉」から発信した無人水偵が敵艦を捕えたようです。あと30分で会敵すると思われます」

 

「そうか。ありがとう。引き続き周囲の警戒も続けてくれ」

 

「了解しました」

 

日柳達は艦隊を三つに分けていた。

日柳艦隊、勝也艦隊、アメリカ艦隊の三つであっ

 

 

 

日柳艦隊は以前の編成の通りである。

 

 

勝也艦隊

 

航空戦艦「日向」

 

 

装甲空母「扶桑」

 

 

巡洋艦 「青葉」、「衣笠」、「天龍」

 

駆逐艦 「秋霜」、「夕立」、「白露」、「時雨」(雪嵐の方の艦型で白露型では無い)、「山風」

 

 

 

 

 

 

アメリカ太平洋第二艦隊

 

 

大型空母「オクラホマ」

 

 

巡洋艦 「ペサンコーラ」、「ノーザンプトン」、「アトランタ」、「ヘレナ」、「二ューローズ」(日柳艦隊から編入された)

 

 

駆逐艦 「カップス」、「エヴァンス」、「ブラウン」、「ボイド」、「ブッシュ」、「ホーエル」、「ヘイウッド・L・エドワーズ」、「リチャード・P・リアリー」

 

 

 

装甲空母「扶桑」と大型空母「オクラホマ」は航空戦艦「日向」と同じ思想で作られた。「扶桑」の方は戦艦としての装甲を残しながら甲板を装甲を付属させた。

「オクラホマ」の方は赤城のような艦形になった。こちらも「扶桑」と同じように装甲板を残しながら速力なども向上させた改装空母だった。

 

 

 

「それに・・・・」

 

艦の形が変わり、戦艦が航空戦艦や空母になったりしたのはまだ許容できたがしかし二点だけどうしても許容できない事があった。しかもそれは今自分の隣にいた。

 

「・・・・」

 

「?どうかしましたか?」

 

緊迫感漂う艦内で可愛らしい声が聞こえた。その声に艦橋にいる全員がチラッと彼を・・いや、彼の横を見た。それにつられてか勝也も目線を隣に移した。そこにいたのは巫女服で髪が短く纏められている女性だった。

紀伊はこれについてもメモを残していた為、手元のメモを見た。

 

(一応の為にメモを残しておきます。「日向」、「扶桑」、「オクラホマ」には空母と航空戦艦になっていることはもうご存知だと思いますがそれ以外に二点改装を加えております。まずは武装や機関についてですがこちらはさすがに今のままだとあっさり沈められると思ったので機関を全艦、我艦と同じ機関である重力子エンジンという機関を取り付けています。武装に関してはこの重力子エンジンが供給させる余力のエネルギーで主砲から皆さんから言う粒子砲が撃てるようになります。もちろん実弾も。クラインフィールドというバリアもつけてあります。そして最後の一つですがさすがにこれだけのことは皆さんだけではさすがに無理だと思うので各艦に一人ずつ実体化した人工知能を置いておきました。皆さんと同じなのですぐになじめると思います。ですから頑張って・・・・)

 

そこまで読んでメモを握りつぶした。

 

「あいつめ後で覚えていろよ・・・」

 

今はいない紀伊に怨嗟の声を上げる勝也だった。これからさらに忙しくなると彼は確信した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「日向」である彼女が心配そうにしてくる。やはりどこから見ても人間だと思えた。しかしどうしても会話が上手くすることが出来ない。

 

「向こうは上手くやれているのかな」

 

どうしても向こうの二艦隊の安否を別の意味で心配する勝也だった。

 

 

 

 

 

日柳艦隊にて

 

 

「君の名前は?」

 

「金剛型戦艦二番艦の比叡です!」

 

「・・・・」

 

元気な巫女服の女性がいきなり出てきたので全員がさすがに引いていた。

しかし紀伊の所業に驚いているがこれはやりすぎだと誰もが思った。しかしもう遅い。既に敵と好戦まであと少ししかない。

 

「航空隊の現状は?」

 

「はい。艦長「赤城」、「加賀」、「蒼龍」、「飛龍」から「電征と「97式艦攻」が発艦しました。もうすぐで会敵するはずです」

 

「電征」とは新型の航空機の名前である。(ちなみに紀伊が勝手につけた)「赤城」と「加賀」の航空隊は全滅してしまったため全て無人機である。

 

「やってくれることを待とう」

 

「はい」

 

発艦して艦隊から離れていく飛行隊を日柳と堀江は見守った。

 

 

 

 

 

 

ハリマ甲板にて

 

「敵艦おそーい!」

 

中々遅い敵艦に文句を垂れ続けているハリマであった。しかし彼女の”退屈”はすぐになくなる事になる。

 

「ん?この反応は航空機か!」

 

ハリマはこちらに来ている無数の影を捕えていた。

 

「まずは小手調べって事ね!いいわ!”東亜の魔人”の二つ名の由来の一つを見せてやるわ!」

 

敵機が来る方向に巨大な主砲や副砲、対空砲が向いていく。

 

「まずは第一射!てぇーー!」

 

その巨大な方が敵機にも見えるくらいの爆音と爆炎を撒き散らしながら発射された。

敵機が一気に散開するが決して少なくない数の機体が一気に爆発四散した。しかし敵機は進行方向を変えることなく一気に突入していく。次弾の装填は今やっている為副砲と対空砲が代わりにその穴を埋めていく。

 

「ふ~んそう来るか。敵も中々やるね」

 

対空砲と副砲の弾幕の嵐を何機から抜けてくる。しかしそれ以外はほぼ全滅と言っていいほど壊滅していた。艦攻だけならだが。

艦攻は一気に高度を下げてハリマに向けて魚雷を放った。しかしハリマだが魚雷が発射されたが気にも留めない。それもそうだろう。この巨体では躱すどころか回避運動も出来ない。彼女は元から当たるつもりだったのだ。その魚雷を放った艦攻も数機を残して全滅した。

 

「被害はナシと。防護重力壁に少し掠った程度か」

 

航空機に数からしてあれが全力ではないはずだ。少なくともあともう一波はあるはずだ。

 

「まぁどんな航空機や艦が来てもこのハリマは沈まないよ!」

 

絶対の自信があった。あとは一気に敵艦隊との距離を縮めて叩く。単純でシンプルである作戦で彼女らしい作戦だった。

 

 

 

 

 

 

「航空機第一波はほぼ壊滅です。なお敵艦に大した損傷は見られず依然そのままの速力で航行しておりあと数分で見えるはずです」

 

「やはり無理か・・・」

 

単艦のところで前襲った奴と同じだとはおもっていたがここまで対空能力に長けているとは思わなかった。どうやら戦闘機部隊は遠くから見ていたため被害が無かったようだが艦攻部隊はほぼ全滅であったみたいだ。まもなく空母に着艦するところだった。

 

「第二波の攻撃準備は第一波の収容作業と敵の速力で間に合いそうにはありません。こうなったら我が艦隊で仕留めるしかありません」

 

「確かにな。いかがですか山口提督?」

 

現在「比叡」の艦長席に日柳は座っていない。今は山口提督が乗っている。しかし誰もが口には出さないが目をみていて分かる。比叡に関しては口に出そうとしてしまうので大変だ。

 

「そうだな。我が大艦巨砲主義を見せる時がついに来たな!全艦戦闘準備!」

 

具体的な動きに関しては彼は言及していないためおそらく突撃せよとのことだろう。よくぞこれで提督になれたものだと日柳は不思議に思った。

 

「!!」

 

「どうした?」

 

比叡が何かを発見したようだ。

 

「電探に反応!敵艦見えます!」

 

艦橋に緊張が走る。そしてそれを裏図けるように見張り員が報告に来た。

 

「敵艦見ゆっ!」

 

「何だあれは・・・」

 

誰もがその巨艦に驚嘆し絶望した。一言で現せれば”島”だった。どの国にもあんな巨艦は作れないだろう。

 

「自分たちは一体何と戦っているんだ?」

 

やはり前といい今回といい。敵はかなり自分達とかけ離れた技術を持っているようだ。

 

「敵艦発砲!」

 

「こんな遠距離から!」

 

艦の周りに巨大な水しぶきが上がる。

 

「何て巨大な砲だ」

 

「あんなのを喰らってたら・・・・」

 

皆から暗い表情になるが・・・・

 

「諦めるな!戦う時から諦めてどうする!」

 

御坂教官からの叱咤だった。確かにその通りだ。相手は確かに砲を山ほど積んでいる要塞艦だが弱点が無いわけでは無い。それに自分たちは紀伊が居たとは言えあの高速戦艦を落としている。勝機が無いわけではなかった。

 

「全砲門開けっ!まずは敵の攻撃方法を奪う!」

 

戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

ミッドウェー島 病室にて

 

 

「う・・・ここは?」

 

あれから記憶が無い。一体どうなったんだ?

 

「あ!気がつきましたか」

 

どうやら看護婦みたいだ。自分はどうやら何かで気を失ったみたいだ。

 

「あの・・・何だか騒がしいみたいなんですが?」

 

その質問に看護婦は暗い顔をする。

 

「それがどうやら敵がこっちに来ているみたいで・・・・」

 

「敵がですか!?」

 

日柳達はどうしたのだろう。まさかあんな満身創痍な艦で出撃したのでは?

 

「どうやら海軍さんはあなたに直してもらった艦で出撃したみたいですよ」

 

俺が?直した?

 

「どういう・・・」

 

いや、今はそれはいい。加勢に行かねば

 

「あっ!どこに行くんですか!ダメですってば!」

 

 

看護婦が止めるが紀伊は走るのをやめない。どうしても自分の中の何かが警告しているのだ。いわば”悪い予感”というものだ。それに起きたときにこんな声が再び聞こえた。

 

『超巨大双胴戦艦ハリマ接近!』と。




次回はようやく日柳艦隊と紀伊がハリマと戦います。
今回は航空戦だけですがハリマは原作だと対空砲が凄まじかったみたいですからね。

次回 ハリマと紀伊そして日柳艦隊。夕日を背にした戦いの果てに紀伊はついに”帰還”する。


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番外編 夕日を背に殴りあえ!!後篇

再び、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
今度は二週連続でテストがあった影響で投稿っすることが出来ませんでした。これからは少しだけ落ち着きそうなので再び更新をスタートさせたいと思います。


ミッドウェー島 近海 戦艦「霧島」にて

 

「敵艦更に発砲!」

 

「回避行動!」

 

「比叡」と「霧島」が左右に分かれる。そしてすぐにその中央に巨大な水しぶきが上がる。

 

「至近弾です!」

 

戦艦「霧島」の巨体が大きく揺れる。敵艦が発砲するごとに至近弾は近くなっていく。そのままではなぶり殺しに会うだけだったが。

 

「本艦の射程に入りました」

 

必死の回避行動を続けた結果、ついに射程に入れたのだ。

 

「紀伊がくれた兵器を使う時がきたわね」

 

「主砲照準良し」

 

「発射角良し」

 

「撃てぇ!」

 

すると実弾の時とは軽い発射音がしてまっすぐに光が敵艦へと進んで行く。

 

「命中!」

 

「凄い。精度も良くなっている」

 

粒子砲という武器も凄いが精度が良くなったという事の方が現実味があり、しっくりと来た。

 

「敵艦のバリアらしきもを展開。こちらの攻撃は全て無力化されました」

 

「やはり無理か・・・」

 

少なからずは予想はしていた。あの高速戦艦にバリアのようなものが付いていてあの巨大戦艦に付いていないはおかしかったからだ。

 

「敵艦進路変えずにそのまま突っ込んできます!」

 

「まさかあの戦艦突っ込む気じゃないでしょうね」

 

普通なら昔の船同士の戦いじゃあるまいし、自艦にも損傷が来るためよほどのことが無い限りすることは無いだろう。しかしそれはあくまで”普通”の範疇に収まっていたらだ。あの戦艦はどれをとっても規格外であり、常識をはるかに越えていた。

 

「機関全速面舵いっぱい!全力であの戦艦の航路から外れるわよ」

 

「「比叡」も取り舵を取りました」

 

さすが日柳だ。こちらの意図を明確に分かっている。

 

「こちらの被害はどう?」

 

「はい。我々が引き付けている間にどうやら敵に発見されることなく目的地に向かっているようです。しかし航空部隊の到着は遅れるそうです」

 

「分かったわ。それまで持ちこたえましょう」

 

真野は皆を励ます。おそらく向こうの日柳も同じようにしているはずだ。

 

「しかしあの戦艦の防御を突破しないことには有効な攻撃が本体に届かないわ」

 

真野はすばやくあのシールドの本質を見抜いていた。

 

「何か効果のあった攻撃はある?」

 

何かの武器で船体に攻撃できたという情報があればあれに十分に対抗できると思ったのだ。

 

「いえ。こちらの攻撃は戦艦以外の全ての艦の砲撃も無効化してしまい。魚雷攻撃も行いましたが被害は砲撃と同じようにまるで無いそうです」

 

さすがにそんな虫の良い話はないようだ。こちらの手持ちの武器ではあのシールドを瞬時に貫通するものは無い。それなら持久戦で地道にシールドを破壊するしかなかった。

 

 

 

 

ハリマ甲板にて

 

「ああもう!ちょこまかと!」

 

自分の砲弾をちょこまかと避けていく敵の艦艇にハリマは悪態を吐いていた。

 

「この砲は威力があるけど精度と弾速がなぁ・・・」

 

ハリマの主砲である80cm主砲は確かに威力が超兵器の中でも群を抜いて高いがその代り精度と弾速が犠牲になっており敵からしたら『確かに威力は強いが当たらなければどうということは無い』という感じなのである。

 

「でもこの弾幕から抜け切れるかな?」

 

ハリマは既にいくつかの方が砲身加熱してしまうほど撃ち尽くしていた。その効果もあってか既に敵艦のほとんどが何らかの攻撃を受けていた。

 

「しかしあの戦艦二隻には中々当たらないな」

 

さっき”ほとんど”と言ったがそれがあの二隻であった。自分の弾幕を紙一重で躱しながら着実にこちらの防壁を削ってきていた。

 

「ああ!もう!面倒くさい!あれを使うよっ!」

 

彼女は中々当たらないことにいら立ちついにVLSの発射管を開いた。こんな雑魚にハリマは構っている暇は無かった。それにここの付近ではヴィンベルヴィントが消息を絶ったのだ。もしやられたのなら気をつけねばならなかった。

 

「でも自分はあんな高速戦艦みたいにやられないからね!」

 

もしやれるとしたらあの戦艦しかいないだろう。自分を沈めたあの白い戦艦がヴィンベルヴィントを沈めたやつとは限らない。

 

「そうだよ。何を今更・・・・」

 

そして自分が一番楽しい時間がなぜか暗い雰囲気になってしまっていた。

 

「あーもうっ!やだやだ!こうなったら奴に怒りをぶつけてやる!」

 

他人から見たらそれはただの八つ当たりに見える。そして今までの雰囲気を吹き飛ばすために攻撃目標をあの戦闘の戦艦に向けた。

 

 

 

 

 

戦艦「比叡」

 

「敵艦発砲!・・・!?」

 

「どうした!?」

 

「敵墳進弾を発射しました!」

 

どうやら向こうもこちらを消し炭にする覚悟のようだ。

 

「全艦に通達!対空防御を急がせろ!」

 

「貴様!指揮官は私だろう!」

 

「今、そんな事を言っている場合ですか!」

 

この指揮官は適切な指示も即座に出さない癖に自分のような部下が自分の指揮に口を出すと途端に怒り出すのだ。しかし今の現状でそれに構っている時間は一秒もないのだ。

 

「あとでいくらでも聞きます。しかし墳進弾が来ている以上は対空防御が必要です」

 

「そ、そうだな。私も今、指示を出そうと思っていたところだ。対空防御を急がせろ!」

 

彼が命じてから少しすると何か黒い物体が見え始めていた。それに合わせて全ての対空兵装が火を噴く。

 

「主砲はそのまま砲撃を続けんだ!敵に本格的に反撃する前に壁を突き破れ!」

 

砲撃も副砲の一斉射に負けないくらいの轟音を放ちながら砲弾を発射する。しかしその弾幕を潜り抜けてきた墳進弾が迫ってきた。

 

「墳進弾二発抜けました!」

 

「衝撃に備え!」

 

その言葉の直後に衝撃が走る。しかし船体は無傷だった。クラインフィールドが攻撃を防いでくれたのだ。

 

「これが無ければ危なかった」

 

敵の攻撃の高さに肝を冷やすがこの防壁の性能の高さに同時に感嘆した。

 

「ぼさっとするな!!次来るぞ!」

 

感嘆している日柳に御坂教官が叱咤を入れる。その言葉を裏付ける様に砲弾が至近に降り注ぎ、ついに被弾した。

 

「くっ!!」

 

「「比叡」大丈夫か!?」

 

日柳が歯を食いしばりながら耐えている「比叡」を心配する。

 

「「比叡」は大丈夫です!お気になさらず戦闘に集中してください!ですがクラインフィールドは約2割が削られました」

 

「比叡」が被弾したのは二発だが一発で約一割削られたとすればとんでもない威力だ。

 

「だが脅威である主砲は精度と弾速が桁外れに悪い。とすると残る武装は副砲と対空砲、墳進弾の三つだが副砲は射程距離が短いはず。とすれば残るは墳進弾だけだ。対空強化をしておけば大丈夫なはずだ」

 

主砲弾に常に意識を向けておき、墳進弾を対空砲で片付けていき、そして主砲で地道に削っていけばいつかはあの巨体が倒れると思った矢先である。更に思い衝撃が艦内を襲った。

 

「何事だ!?」

 

山口提督が衝撃に動揺しながら説明を求めた。

 

「敵主砲弾が更に三発命中!「霧島」も同様です!」

 

「何だと!?」

 

そこで全員が思った。おかしいと。

 

「なぜ急に敵の精度がいきなり上がったんだ?」

 

しかしその疑問が一人の見張り員が解消させてくれた。しかしそれは同時に絶望も運んできた。

 

『太陽の中に何か黒い物体が!あれは・・・・』

 

見張り員が何かを見つけた。

 

「どうした何を見つけた!」

 

『気球です。あれは弾道観測用の気球です!』

 

「しまった!!」

 

誰もが気ずいたのだ。

 

「すぐに全ての対空砲で撃ち落とせ!」

 

すぐに命じる。一斉に射撃を開始するがこれまで気球が見つからなかったのは太陽光が反射していたからだ。それは太陽を背にしながら悠々と浮かんでいる気球を撃ち落とす射撃員達にも同じことが言えたのだ。

 

「俺達は奴の攻撃ばかりに気を取られ過ぎていた。そして奴の”キルゾーン”に入ってしまった!!」

 

今更気ずいても時すでに遅かった。

 

 

 

 

 

 

「かかった!!」

 

ハリマはその甲板で指を鳴らした。どうやら予定していたポイントに見事引っかかったみたいだった。

 

「さぁ~~て仕上げといきましょう!!」

 

敵艦は必死に対空砲などを撃っているが太陽光に隠れているのだ。中々上手くは当たらないだろう。敵が射撃に夢中になっている間にハリマは展開している弾道観測用の気球に自身の射撃システムを同調させる。

 

「射撃システムオールグリーン。弾道観測用気球システム正常。主砲同調OK。射撃準備完了。撃て!!」

 

ハリマの全ての主砲が二隻の戦艦と他の艦艇達に襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

襲い来る衝撃に艦の誰もが耐えていた。しかし我慢しても来る報告はどれも絶望的で希望など見えなかった。

 

「「青葉」被弾!損傷はありません!」

 

「「夕立」、「雪嵐」被弾!防壁が貫通されそうです!」

 

「「ペサンコーラ」、「ノーザンプトン」、「カップス」被弾!前の二隻は大丈夫ですが「カップス」は防壁が貫通されそうです!」

 

「くそっ!!」

 

「う、撃ち返せ!」

 

主砲が各艦から上がる。しかしあの巨大な船体に当たる前に防壁に防がれてしまう。

 

「本艦の被害はもう少しで防壁が貫通されます!」

 

あの巨大戦艦はこちらが旗艦だと知ってか知らずか優先的にこちらを狙って来ていた。周りの僚艦の被害が少ないのもこの為であった。

 

「次弾来ます!!」

 

次喰らったら今度こそ終わりだった。敵艦が他の艦に向けていた砲をこちらに向けていた。

 

「砲がこっちを!!」

 

「衝撃に備えろ!!」

 

全員が来たるべき衝撃に備えた。しかし一向にその衝撃は来なかった。

 

「どうしたんだ?」

 

その疑問は今までと同じですぐに解消された。

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ?なぜなんだ・・・・」

 

ハリマは敵艦をもう少しで仕留められる所だった。しかし発射を行うように手を振り上げたがその手が時が止まったかの様に止まっており、ハリマ自身はまるで幽霊を見るかのような目をしていた。

 

「なぜお前がまだ存在している・・・!?」

 

忘れるはずが無い。あの白い戦艦。間違いなくヤツだ。

 

「なぜお前がまだいる!?超戦艦キイ!」

 

 

 

 

 

 

「ぐ!やはりまだ頭痛が・・・」

 

紀伊は先ほどの頭痛が続きながらここまで来たのだ。

 

「あの戦艦は・・・ヴィンベルヴィントと同じ奴か?」

 

しかし艦の形状は全く違っていた。ヴィンベルヴィントが速度を重視していたのなら、あの戦艦は火力重視なのだろう。

 

「だが日柳達は・・・・やらせん」

 

弱弱しい手で攻撃命令を出した。船体の主砲とⅤLSの弾頭がハリマに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!!」

 

 

ハリマは舌打ちながら迫りくる弾頭を迎撃した。しかし主砲のレーザーは回避し様がない。あれだけの無敵を誇っていた防壁がいとも簡単に削られていく。

主砲は慌てながらも紀伊に向けて向ける。

 

「撃てぇ!!」

 

紀伊の船体の周囲に無数の水柱が立つ。しかしそれだけだ。さすがの巨体である為、ハリマの80cmの至近弾を喰らってもびくともしなかった。ダメージを与える為には主砲弾を直撃させなければならないが”直撃”しなければ意味が無い。精度を上げるための弾道観測用の気球も全てあの艦隊に差し向けていたのだ。

 

「だがミサイルなら・・・」

 

そこで再びの衝撃が走った。紀伊からではない別の方向からだった。

 

「鬱陶しい!!」

 

後方の日柳艦隊だった。前から紀伊の砲撃とミサイル攻撃、後方からは日柳達の艦隊の砲撃。紀伊の登場によって全ての立場が一遍してしまった。

砲撃とミサイルの攻撃をハリマは紀伊に絞った。凄まじい弾幕が両者の間に広がった。

 

 

 

 

 

 

「夕日を背にしての殴り合いだな。こりゃあ」

 

紀伊は一気に距離を詰める。そして火力を一遍に集めた。ハリマのミサイルを自分の弾頭で叩き落として一気に主砲の砲塔を防壁で最も脆くなっている部分に集中砲火した。

 

 

 

 

 

夕日の中にガラスが砕けた様な音が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

「防壁が・・・・!」

 

 

だがまだまだやれる。このハリマにはまだ強靭な装甲がある。反撃しようとした時に頭の中に声が聞こえた。

 

『そこまでよ』

 

その言葉に驚愕しているハリマ。

 

「なぜだ。まだ私はやれる。奴を今度こそ倒す!」

 

そのハリマの熱意は彼女には届かなかった。

 

『今、あなたを失う訳にはならないわ。それともここで無様に沈みたいかしら?復讐もろくに果たせずに』

 

「くっ!!」

 

彼女の言葉は正しい。悔しいがここは撤退するしかないだろう。だが最後にやることがある。

ハリマはあの白い戦艦に向けて通信を繋いだ。

 

 

 

 

 

「攻撃が止んだ?」

 

突然攻撃が止まったのだ。おそらくシールドを破壊した影響だろう。

 

「うん?無線だと?」

 

あの戦艦から通信が入っていた。

 

『久しぶりだなキイ』

 

「お前は誰だ?」

 

『忘れたか?ハリマだ。超巨大双胴戦艦ハリマだ』

 

どうやらあの戦艦はハリマというらしい。

 

『超戦艦キイ。お前は今回も勝った。だが三度目は負けないぞ。精々首を洗って待っていることだな』

 

「待て!お前も何か知っているのか!?」

 

だがその言葉は続かなかった。その前にハリマから強烈な光が出た。

それは紀伊も日柳達の艦隊もミッドウェイ島まで飲み込んだ。




今回ハリマと紀伊の戦いに決着がつくと思った人は手を上げてください!!(は~い)
残念でしたハズレです。(決着がしてほしかった人すいません)
ようやく番外編が終わり、蒼き鋼編に戻れます。


次回 ハリマとの戦いを中途半端な状態で終わってしまった紀伊と日柳達であったがハリマが突如出した光が彼らを襲う。光が消えて紀伊達が見たものは紀伊にとっては懐かしい物だった。


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動き出す世界

今回は短めです。


横須賀にて

 

まだ霧の大戦艦級と戦った名残が色濃く残っている横須賀の地下ドッグで二隻の潜水艦が出港準備を整えていた。

一隻は蒼の伊400型潜水艦と同じ形をしている。もう一隻は無駄な部分が一切ない黒の潜水艦であった。

 

「そちらの物資は?」

 

「おおむね積み込みを完了したわ。あと少し待ってもらえれば完了よ。千早艦長」

 

その二隻に挟まれている中央の通路で二人の男女が話合っていた。一人は千早群像。イ401の艦長である。

もう一人は「黒鯨」の艦長。日下部幸子である。

 

「そうか。ところで日下部」

 

「どうしたの?」

 

補給や他の設備のチェックが完了して日下部が自艦に戻ろうとした時だ。群像が日下部を呼び止めた。

 

「たまには休んだらどうなんだ?前よりも元気が無いように見えるぞ?」

 

「・・・・」

 

日下部は無言でその言葉を聞いた。しかし最後に一言だけ言い残して自艦に歩いて行ってしまった。

 

「考えておくわ。千早艦長」

 

「・・・・」

 

日下部がいなくなった後に群像は誰にも聞こえないように「はぁ」と息を吐いた。その時に肩を叩かれた。振り向くとそこにはイオナがいた。

 

「どうしたんだ?」

 

イオナが聞いて来たため、群像は訳を話した。

 

「先日の横須賀での戦いがあったな?」

 

「ああ、覚えている」

 

「そこで俺達は「白鯨」、「黒鯨」、「キイ」と共にこれを撃沈した」

 

「ああ、まさかあのことを引きずっているんじゃないだろうな?」

 

「それを日下部は引きずっているんだ。既にキイが消えてからかなりの日にちが立っているんだ。発見のめどは薄いだろう」

 

そう、あの時にハルナ、キリシマの重力子エンジンの暴走によって大規模な爆発が起きた。皆が勝利の余韻に浸っていた。初めて人類が(キイとイ401のお蔭があったとはいえ)勝利したのだ。しかしそれはすぐに覚めることになった。キイの反応が突如として消えたからだ。現在捜索中だが欠片も見つからないという。

 

 

(確かにつらいだろうが俺達にはまだやるべきことが残っている。人類の未来に繋がるならそれを何としても成し遂げないと)

 

日下部に同乗してやりたいがまだ旅は始まってすらいないのだ。

 

「イオナ。皆に伝えてくれ。一時間後に出発だと」

 

「了解した」

 

 

 

 

 

一時間後 

 

二隻の船は出港した。目的地は

 

「進路を硫黄島へ!」

 

二隻は一旦硫黄島で修理と補給を行い、それから「白鯨」とのランデブーポイントを目指す。

 

『あの質問なんだけど。前に行っていた硫黄島にいる協力者って誰なの?』

 

日下部が質問を通信で聞いてきた。やはり来たかと思いながら群像は答えた。

 

「行ってみたら分かるよ。とにかくまずはここを切り抜けないとな」

 

霧がいないルートを極力通ろうとしているが発見されずに硫黄島に行ける確率は五分五分だった。

 

『分かった。通信おわ__』

 

日下部が通信を切ろうとした時に同時に警報がなった。

 

「どうした!?」

 

その質問にソナー士である静が答えてくれた。

 

「魚雷航走音確認!方位164、距離165500!雷速120ノット!感2、それぞれが本艦と「黒鯨」に直進してきています!」

 

「回避!」

 

間一髪魚雷を回避したイ401と「黒鯨」であった。

 

「無誘導弾・・・!どこからだ!?」

 

「魚雷発射位置を特定。依然発射源は探知できていません」

 

「・・・・・・終末誘導を行わなかった・・・・見つかっていた?」

 

『こっちも同じよ。発射源は特定できていない』

 

「黒鯨」の方も相手は見つけられていないようだ。

 

「地形的にもこちらの位置は掴みにくい。それに今はエンジンを切っていて海流に乗っている。それをマイナスとしても見つけるのはかなり難しいだろう」

 

群像は結論を出した。それを僧が答える。

 

「・・・我々を攻撃してきた何者かは明らかにこちらの動きを予測してそこに魚雷を撃ち込んだ」

 

「つまりこちらの行動パターンを分析し、海底地形図などをデータを踏まえ、こちらがいる場所を的確に予測したんだ」

 

「・・・・・」

 

「全艦の状況報告」

 

「通常魚雷が全弾OK!通常弾頭もOK!アクティブデコイが4!音響魚雷はフル!その他の火器だが本来の70%だ」

 

杏平が火器の残弾を確認している。幸いにも「黒鯨」のお蔭でこちらも妨害を受けずに補給が出来たため通常魚雷などの火器はほとんどが揃っていた。しかし揃わない火器も当然だがあった。

 

「侵食魚雷は・・・・残弾0!」

 

タカオとの戦いと横須賀でのハルナ、キリシマ戦で侵食魚雷は全て撃ち尽くしてしまった為だ。

 

「気密は問題ありませんがコンゴウ級二隻爆沈の煽りで強制波動装甲にかなりの負担がかかっています。稼働率は40%です」

 

『機関部は問題ないけどあまり負担が掛かりすぎるとそこからは未知の領域。どうなるかは分からない』

 

「ソナーは未だに敵艦の位置を捉えてはいません。現在過去の音響ログを高精度で解析中」

 

ピィイ!!

 

静はその音を聞き逃しはしなかった。

 

「アクティブソナー音源を捉えました!方位0、速力5ノット、距離16000・・・」

 

「単艦で真正面かよ!」

 

「・・・・手強いぞ!」

 

イ401と「黒鯨」は今までで一番苦しい状況に立ち向かっていかなければならなくなった。

 

 

 

 

 

 

U-2501艦内にて

 

「敵艦の数は?」

 

「二隻。一隻はイー401でもう一隻は・・・こりゃあ、噂の「ハクゲイ」クラスだぜ」

 

「そうか」

 

その報告にも眉をピクリともその男はしなかった。確かに「ハクゲイ」クラスがいたのは想定外だがおそらく今の敵の布陣を見る限り、魚雷などの迎撃する任務にあたっているはずだ。

 

「ゼーフントの動きは?」

 

「現在、80%が完了したよ」

 

どうやらもう少しで準備が終わるようだ。

 

「それでは諸君。あの人の息子に会いに行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

太平洋沖 総旗艦艦隊 総旗艦「ヤマト」

 

「どうやら動き出したようですね」

 

ヤマトはその巨大な船体の甲板で静かに海を見つめながら言った。

 

「そう見たいね。どんどん事態が動き出して行くわね」

 

「コトノ。質問ですが」

 

「どうしたの?」

 

あのヤマトが質問とは珍しいとコトノは思った。

 

「あの子。キイはまだ見つからないんですか?」

 

「ああ。それね」

 

何か言わなければならないと思っていたが確かそのことを言うためにここに顔を出したのだ。ヤマトが話しかけてせいで忘れる所だった。

 

「分からないわ。一応ハルナ、キリシマの反応はあったけど、キイは二隻の重力子エンジンの暴走で起こった爆発のせいで突如反応が無くなったわ。確認もしてみたけど向こうも向こうで慌てているみたいよ」

 

その言葉に静かに「そうですか・・・」と表情をあまり変えずに言う。

 

「その代わりに最近妙な連中が最近の海域に現れているのよ」

 

「”妙な連中”とは?」

 

今まで淡々と態度を変えずに行ってきたヤマトだが初めて困惑した声を出した。

 

「あなたも知っているでしょ。最近の戦術ネットワークに上がってくる謎の艦船」

 

「ああ。あれですか。確かに妙ですね」

 

確かに何度か人類は我々が管理をしている海域に少数で来ることがあったが最近ではかなりの大規模な艦隊が時折現れているのだ。しかし霧でもないただの船であることに変わりはなく、現れるごとにそこにいた霧によって殲滅されていた。

 

「確かに詳しく知りたいですね。そちらの方もよろしくお願いします」

 

「淡々だねぇ。まぁ、いいけど。それじゃこの辺で」

 

再び、ヤマトの視界から消えようとしたコトノだがその前に異変が起こった。

 

「!?この反応は?」

 

最初に気ずいたのはヤマトだった。艦隊の中心に謎の高エネルギーを発見したのだ。

 

「全艦、その範囲から離れなさい!!」

 

異常を察したヤマトは周囲の艦艇に退避するように促す、すぐさま周囲の駆逐艦や巡洋艦が慌てて回避する。

それを見たヤマトは自身の武器を反応の方に向ける。

 

 

 

次の瞬間、ヤマト達が目を瞑るほど眩しい光が辺りを包んだ。

 

 

 

「何が起こったの?」

 

 

彼女が目を上げた時には謎の艦艇が霧の艦隊の中心に鎮座していた。それは”なぜか我々に似ていた”

 

 

 

 

 

 

それは日柳達の艦隊だった。

 

 

 

彼らは知る由も無いが大きく世界が変わろうとしていた。




私はゾルダンと群像の対決は一番好きなシーンですね。まだ原作の方は決着はしていなかったと思うので私的には個人的に気になります。

次回 様々な者が入り乱れ始めた。群像達は謎の艦艇との対決。ヤマトと日柳達の出会い。
そして紀伊の行方は!?

次回も温かい眼で見守ってください。


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蒔絵とハルナ 前篇

最近はシリアスばっかなので今度は蒔絵とハルナ編です。
原作とアニメどちらの方向にしようかは正直言って迷っています(汗)


ハルナ、キリシマ撃沈から数時間前   とある軍港にて

 

一人の少女がまだ危険区域に指定された軍港に入ってきていた。彼女はまだ若くこんなところに入ってくる人間には見えなかった。

彼女は海を見渡す。しかしすぐに視線を逸らして倉庫群に走っていった。彼女が見ていたのは大戦艦ハルナの”残骸”であった。

 

「・・・・・」

 

彼女は港に爆心地に近ずく程に周りに積もっていく白い粉状のものに目を向けた。ふと何を思ったのか、自分の足元の白い粉を指で撫でた。指についた粉をじっと観察する。

 

「銀砂・・・・ナノマテリアルだ」

 

そう呟いた後に少女は何かに気がついた。それは”黒い大きなコート”だった。それを拾い上げてぽつりと呟いた。

 

「これだけ銀砂になっていない・・・・」

 

コートといっしょに彼女は自分の隣にある倉庫の壁に人型の穴が開いていることに気が付いた。少女は何の躊躇いもなしにその中に入っていった。

 

「・・・・・?」

 

中に入ってみるとかなりの量の銀砂があちらこちらに積もっていた。その中に黒い物体があった。

試しに拾ってみるが中は空洞かと思う程に軽かった。しかもこんな物質は見たことがなかった。彼女は倉庫を見渡した。真っ白になってしまった倉庫内であるがこの物体と同じくもう一つ違う点があった。下着になっている少女が倒れていたからだ。

 

 

 

 

 

 

太平洋沖 超戦艦ヤマト

 

「あの艦艇群は・・・・?」

 

「ふ~ん」

 

ヤマトを含む霧の艦艇達はいきなり自分達の艦隊の中心に謎の艦艇群が出現したことに戸惑いを隠せないでいた。

 

『総旗艦。いかがいたしますか?』

 

聞いてきたのは第二水雷戦隊に所属している「ユキカゼ」だった。

 

「もう少し様子を見てみましょう。向こうが接触もしくは敵対行動を取った場合は適切な処置を。最悪撃沈しても構いません」

 

「分かりました」

 

それを横目に見ていたコトノ。ヤマトは何かとユキカゼを信頼している様で何かとユキカゼを介して指示などを出しているように見える。本人は否定しているが。

ふと思い出して顔に出してしまいそうになる。しかしその時にヤマトの索敵に何かが引っかかった。

 

「?・・・・これはおもしろい事になりそうねぇ」

 

事態は急変した。残り十分で肩を付けることが出来るのか見ものだった。

 

 

 

 

 

 

戦艦「比叡」艦橋にて

 

「いたた・・・・全員大丈夫か?」

 

あの閃光の後に自分達はどうやら倒れていたようだ。しかし被害は皆無らしく次々と無事との声が聞こえてくる。

 

「私は大丈夫だ」

 

「私も同じです」

 

「大丈夫だ」

 

上から御坂教官、堀江、山口提督と声が聞こえてくる。

 

「こんなことは短期間で何回も起きたが・・・・」

 

こんな異変は何回もというレベルで言える言葉では無かった。その異変に何回も救われたり、命を奪われかけたこともあった。今回もその類の者でしょう。

 

「見張り員!何か見えるか!?」

 

状況を確認しようと何度もお世話になっている見張り員に山口提督が叫ぶ。

 

『前方に戦艦群!極めて至近です!!』

 

「またこの状況か・・・・」

 

どうやら目の前の戦艦はキイと同じ類の戦艦だろう。姿形がいっしょだ。しかし模様や色彩が微妙に異なっていた。

 

「全艦に通達。発砲は禁ず。繰り返す決して発砲をするな」

 

こうすれば無暗な戦いは起こらないであろう。

 

「それとあの艦隊に通信を。何らかの接触が図れるかもしれない」

 

あくまでキイを前提にした物だがなとは言わなかった。これは再びの賭けだ。向こうがキイといっしょとは限らない。

 

 

「今度は蛇が出るか鬼が出るか・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は紀伊。”今”の世界では霧の超戦艦クラスの艦艇キイとして過ごしている。最初は訳が分からなかったが段々と自分が置かれた状況が分かってきだした。そういえばここまでくるまでも激動の時だったよなぁ。

最初は浮上してなぜか霧の重巡チクマと戦う事になってそれから横須賀に着いて日下部と出会って少し休んだらなぜか陸軍が突入してきて逃げたら日下部が乗る「黒鯨」と戦う事になって、それからSSTO防衛でイ401と群像達クルーにあって、再び横須賀に戻る途中で今度は重巡タカオと戦うことになって、更には謎の潜水艦、ハルナ、キリシマと戦って異世界に飛ばされて何か俺の正体を知っているヤツラが現れて・・・・

 

「ヴィンベルヴィントにハリマか・・・・」

 

現在ヴィンベルヴィントは俺の船体に繋がれている。途中でかなり予定が狂ってしまったため、船体の修復は30%くらいしか完了していない。対するハリマのほうだがあの閃光の後はどこに行ってしまったのかまったく足取りは見えなかった。そして現在俺がどこにいるのかというと・・・・・

 

「考えに浸るのをやめてとりあえず現状を把握するか・・・・」

 

なぜか大きな屋敷にいた。しかも高級そうなベッドに寝かされていてというおまけ付きだ。

 

「船体はここから離れた沖に停泊しているみたいだし、ヴィンベルヴィントも起動はしていない」

 

つまりこれは自分でもヴィンベルヴィントでも無いということだ。つまり第三者がいる。

 

「一体誰がこんな」

 

その時に何かが巻き上がるような大きな音が聞こえた。音源から隣の部屋の様だ。

 

「うぁあ!?」

 

誰かの声が聞こえる。少女の様だ。

 

「この隣だな!」

 

自分の部屋の扉は施錠はされていない。急いで開けて隣の部屋に入った。

 

「どうした・・・・の?」

 

紀伊は困惑した。その絵図は少女が何かに吹き飛ばされたのか地面に転がっている事。もう一つは下着の少女が自分と同じようなベッドで寝ていることだった。

 

(!?この反応は・・・そうか)

 

 

紀伊は下着姿の少女の方にある反応を見つけた。しかしこの反応はまずかった。もう一方の地面に転がっている少女はどうやら”人間”のようだった。

 

(この反応は・・・大戦艦ハルナ)

 

それはかつての横須賀との戦いで自分とイ401、黒鯨、白鯨と共に倒した大戦艦級の一隻であった。

 

「あ!君も起きたんだーー良かった!」

 

地面に転がった少女がこちらに駆け寄ってきた。どうやらさっきの言動からするにここに連れてきたのはどうやら彼女らしい。

 

「う・・・ん」

 

ベッドのハルナもどうやら起きたようだ。少女は黒いコートを持ちながら彼女に近ずいていく。

 

「これあんたの?」

 

どうやらあのコートがハルナのものかどうかを尋ねているようだ。

 

「それ・・・返して・・・」

 

ハルナがコートに手を伸ばしあと一歩の所でコートを掴むという手前で少女が華麗にコートから彼女の手から放した。ハルナも負けずに何回も手を伸ばすが少女も華麗に躱す。

 

「しく・・しく・・しく・・」

 

とうとうハルナは泣き出してしまった。しかしなぜかすすり泣く音が一定である。

 

「・・・・」

 

さすがにやり過ぎたと思ったのか少女は後ろからコートをハルナに着せてやった。

 

「・・・・ありがとう」

 

お礼をハルナが言う。そして目にも止まらぬ速さでそれを着た。

 

「シャキーン」

 

謎の効果音を付けながらそれまでとは打って変わって冷静な口調になる。

 

「それとこれ。いっしょに落ちてたの。あんた何か知らない?」

 

見たことも無い物質でできていたけどと付けたしながら少女は何かをポケットから取り出してハルナに渡した。

 

「それは・・・」

 

その光景を見たいた俺は初めて声を出した。ハルナは初めて俺の存在に気ずいたようだった。

 

「お前は・・・!」

 

しかし状況を理解したのか。黙って口を噤む。さっきの続きをべらべらと話してしまったら自分はメンタルモデルですと宣伝してしまうことになる。人間である少女の前で離すとのはさすがに不味かった。

 

「私は刑部 蒔絵よろしくね!」

 

明るい表情で彼女は言う。彼女のこの言葉で場が少しだけ和んだ。

 

「それにさ。あんた達の名前は?」

 

「俺はキイよろしくな」

 

「ハルナだ」

 

二人ともすぐに答えた。

 

「あんた達がどうして倒れていたのかは分からないけどその恰好はまずくない?」

 

確かに俺は全身炭や傷だらけの服で。ハルナに至ってはコートの下は下着という格好だった。

 

「どうしようか?」

 

「どうすればお前たちにはまずくないんだ?」

 

俺とハルナは蒔絵に意見を求めた。すると彼女は嬉しそうに

 

「あ、そうだ!私の余った服とお父様の服があるから貸してあげる!」

 

すると彼女は仕切りがある部屋の隅に行ってしまった。

 

(おい、貴様)

 

ハルナが通信で呼びかけてきた。

 

(何だ?)

 

(なぜお前がここにいる?)

 

(知るか。気が付いたらこうなっていた。ところでそこの物体はキリシマのコアだな?)

 

(物体言うな!)

 

おや?どうやらしゃべれるらしい。声と口調から察するにハルナとキリシマは正反対の性格らしい。

 

(ところでお前はどうしてこんな所に?わざわざこんな所まで来て私達を消しに来たか?)

 

キリシマが今度は質問の雨を降らしてきた。しかしそれをハルナが遮る。

 

(いやキリシマ、今はそんなことは重要ではない。キイと言ったな?その反応から察するに超戦艦クラスだと思われるがこれに問題はないか?)

 

さすがは冷静なハルナ。核心を付いてきた。

 

(おそらくそちらの認識ではそうなのだろうな)

 

(なぜ疑問形?)

 

むっ?キリシマが少し煩いな。別にいいではないかいいでは。

 

(仮にそちらが超戦艦クラスだとしよう。しかしなぜ貴官が我々と敵対する?)

 

うっ・・・そこは真実は言えない。不幸な行き違いでこういう状況になってしまったなんてこんな状況では微塵も言えない。そこで俺は嘘を吐くことにした。

 

(俺は目覚めた時に攻撃されていたのが人類側の艦艇だったから守ろうと思い、それを実行した。だから今の状況になってしまった)

 

いや、完全な嘘じゃないぞ。ちゃんとその時の自分の本心も入れている。しかしハルナ達は内心では慌てている紀伊を何を勘違いしたのか真剣な眼差しで見ていた。

 

(ならばお前はなぜ人間の男の姿を取っているんだ?)

 

これはさすがにどうしようも無いだろう。もう知らん。適当に誤魔化そう。

 

(正直に言うと分からない。目覚めた時には既にこの体が出来ていたからだ)

 

(・・・・そうか)

 

危ない。何とか誤魔化せた。

 

(最後の質問。お前はイー401と共に霧に帰ることは望まないのか?不幸な行き違いならまだ弁明の余地はアrと思うのだが?)

 

最後の質問に関しては必ず切り出してくると思っていた。今の俺は今や霧と人類、両方によってイレギュラーである。しかも超戦艦クラスというおまけ付きだ。霧としては更なる切り札が増える。人類としてはイー401、振動弾頭と同等かそれ以上の最強の切り札となるだろう。

俺は中立だ。自分の手が届く限りの人(日下部や群像など)の命が脅かされれば俺は霧や人類両方に牙を剥く。

 

(俺は中立の立場だ。人類にも霧にもつかない)

 

日下部達は例外だがな。それを言った瞬間に蒔絵が戻ってきた。

 

「ごめん!遅くなっちゃった!さっきから静かだけどどうかしたの?」

 

蒔絵が不思議そうに聞いてくるが両方共に「何でもないよ」と言った。

 

「それよりさ。紀伊の方は決まったんだけど。ハルハルのは決まらなかったの?」

 

「は、ハルハル?」

 

おそらくハルハルと言うのはおそらくハルナのことだろう。ハルナ自身も目を丸くして驚いている。しかし蒔絵の顔はニコニコしている。悪気はないのは確かだ。

 

「じゃあ俺は向こうの部屋で着替えてくるよ。頑張ってね~~ハルハル♪」

 

「あ!ちょまっーー」

 

その前に扉を閉めた。服を着替える時にとなりの部屋から

 

「堪忍してつかぁーさい!!」

 

という声が聞こえてきたが聞いていないことにしよう。

 

 

 

 

 

 

横須賀沖

 

「クラインフィールド60%を喪失!」

 

「第八ブロックを閉鎖!」

 

『「黒鯨」の損壊率は20パーセントだよ。既に一ブロックは浸水しているよ!』

 

「音響魚雷を発射しろ。本艦は右舷、黒鯨は左舷だ!」

 

「了解!」

 

『了解!』

 

二発ずつが二艦から発射された。既にこの二艦は多数の艦艇に包囲されていた。

 

「大型の反応は二つ。しかし小型の反応は多数。おそらく無人の攻撃艦でしょう」

 

しかし大型の反応は二つは既にどこかに消えてしまっていた。

 

「くっ!」

 

群像はここにきて苦しい顔をした。

 

「更に前方と後方から魚雷多数!」

 

紀伊が新たな出会いをしたが群像達は新たな苦難に直面していた。

 



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蒔絵とハルナ 中編

「そろそろお夕食の時間です」

 

部屋でがやがや騒いで来たらこの家のメイドだろうか夕食の時間だと知らせてきた。

 

「それとお嬢様は検査のお時間です」

 

「はーい。じゃあまた遊ぼうね!」

 

蒔絵は遊び疲れてへとへとになっている自分達を残して部屋を出て行った。

 

「・・・・・」

 

今、夕食と言ったな?紀伊は最近は艦内の飯しか食っていないので味に飽きかけていたのだ。そんな時に違う味の飯が食えるというのは紀伊にとってはまさに運のいいことだった。

 

(おい、キイ聞いているのか?)

 

キリシマが聞いてきた。自分は有頂天になっている自分の気持ちを抑えて・・・

 

「全然!飯が食えるというから嬉しくなっていないよっ!」

 

(もろで心の声が出ている!)

 

紀伊の言葉にキリシマが即座に反応してツッコミをした。

 

(そんな事よりもおかしいとは思わないか。キイ、キリシマ)

 

「・・・・?」

 

 

ハルナの言葉にキリシマとのおしゃべりを中断してどこかに異常がないかを確認した。ハルナが言っていることはすぐに分かった。

 

「人が屋敷の広さに比べて少ない・・・?」

 

そう人を示す熱源反応がかなり少ないのだ。異常だと思う程に。

 

「何かありそうだな」

 

「だがその前に飯だ」

 

(お前な・・・・)

 

 

紀伊の言葉にキリシマが飽きれた声を出す。

 

「いや、違うよ!?夕食と言われたのに来なかったら怪しまれるでしょ!」

 

自分を必死に弁護する紀伊の言葉にハルナは同意した。

 

「肯定。キイの言葉に同意する」

 

あのハルナが同意したのだからキリシマは言い返せなくなった。

 

(分かった。だけどその前にナノマテリアルを少し分けてくれないか?これだとさすがに動きずらい)

 

キリシマの言葉に俺とハルナはうんと頷き、それぞれのナノマテリアルを分けた。

 

「ふ~う。何とか元の体に・・・・」

 

彼女はあれ?と思った。前の体ではこんなにも視点は低くは無かったはずだ。それにこんな柔らかい感触はしなかった。彼女はおそるおそる自分の体を見た。それを見た後にすばやく。

 

「なっていない!!」

 

と唸った。彼女の体はクマの姿になっていた。

 

「どうして前の姿に戻してくれなかったんだ!?」

 

それは二人に向けて言われた。

 

「確かにハルナはナノマテリアルの量が事の後だから仕方がない。だがキイ!お前は違うだろう!」

 

正確には紀伊に向けていた。しかし彼の言い分はこうだった。

 

「な~んの事かな?俺はナノマテリアルは元々少なかったよ?それでも俺の”数少ない”ナノマテリアルを分けたんだよ?感謝こそすれ文句を言われる筋合いはないけどな?キリクマちゃん?(笑)」

 

「何が”数少ない”だ。わざとそこを強調するな!絶対持ってるだろ!?あとキリクマちゃん言うな!」

 

キリシマが絶対持っていると確信してそれを強奪しようと紀伊に飛びかかろうとした時。

 

「場所までご案内します」

 

何とタイミングのいいことにメイドさんが来てくれた。対するキリシマは

 

(危なかったー!とりあえず死んだふり・・・)

 

ばれないように死んだふりをしている。その光景を見てやっぱりキリクマにして正解だったと確信しながら食事場所まで行こうとしたら。

 

「待ってくれ・・・・」

 

キリクマ(キリシマ)がメイドに聞こえない声量でこっちに話しかけてきた。

 

「私も連れて行ってくれ。さすがにぬいぐるみが一人でに動いていたらおかしいだろう?」

 

確かにそうだ。自分がまずそんな光景を見たらまず目を疑う。というか薄気味悪い。そう思うとハルナに目配せして「頼む」とお願いするとハルナはぬいぐるみを持ってメイドさんの後を追っていった。

 

「さっ♪ごはんだーー!!」

 

俺も今までの鬱憤を晴らすべき彼女達の後を追った。

 

 

その光景を部屋にあった大きなぬいぐるみの眼に仕掛けられたカメラで見ていた人物がいた。

 

 

 

 

 

 

「あっ!紀伊、ハルハル来たんだ!」

 

メイドさんに案内された部屋に入ると先に先客がいた。蒔絵だった。

 

「おっ来てたんだ」

 

「・・・・」

 

俺はさわやかな笑顔でハルナは相変わらずの表情の変わらない顔でそれに答えた。

 

「あれ?ハルハルそれ気に行ったの?」

 

蒔絵がハルナが両手で大事そうに抱えているキリクマ、違ったキリシマを指さした。

 

「これは・・・・気に行った」

 

ハルナはいい言い訳を見つけたようだ。それに納得したのか元気な笑顔で「そうなんだ私と同じだね!」と元気な声で答えた。

 

「あっそうだ!」

 

蒔絵は何を思いついたのかメイドさんに何かを頼んだ。少し待つと頼んだ覚えのない料理と一つの椅子が運ばれてきた。それが全て揃うとハルナからキリシマを取って椅子に座らした。

 

「一人でも多い方がいいでしょ」

 

その言葉に疑問に思い、蒔絵に俺は聞いてみた。

 

「そういえばここは蒔絵とメイドさんしかいないの・・・?」

 

その質問に蒔絵は少し表情を曇らせながら

 

「昔はお父様が居たの。お父様は私にあるものを作らせたの。でも私はそれでもよかった。だってそうしたらお父様が喜んでくれたから一生懸命作って、でもそれが出来たら・・・・私は一人ぼっちになっちゃったの・・・」

 

蒔絵が泣きそうな顔になり、慌てて俺は誤った。

 

「その・・・ごめん・・・」

 

その言葉に蒔絵はさっきの表情が嘘のように笑顔になった。

 

「ううん。いいの。私はこうしてみんなと仲良くできるの楽しいもん!ほら!食べよう」

 

蒔絵が食べてというので暗い雰囲気を消すために俺は食事に手を伸ばした。一口食べるとその味は口に蕩けるように広がった。

 

「お、おいしい・・・!」

 

「よかった。は~いヨタロウ?」

 

俺が率直な感想を言うと蒔絵は喜び、となりに座っているキリシマをヨタロウと呼び、人参を食べさせる真似をした。

 

(そうかこいつの名前ヨタロウって言うんだ・・・)

 

しかし誰もが予想しない事だったがキリシマはさっきの話がずっと気になっており、つい無意識に蒔絵が出した人参を

 

パクッ

 

「え!?」

 

「へっ?」

 

((馬鹿!!))

 

そうキリシマが蒔絵の出した人参を無意識でしてしまった事とはいえ、食べてしまったのだ。これに大いに焦ったキリシマは何を思ったのか。

 

(こうも早く自分の存在がバレるとは・・・こうなったら仕方がない。許せ蒔絵!!)

 

自分の存在を隠すために蒔絵を手にかけようとしたキリシマより先に蒔絵が先に行動に出た。

 

「すきっ!」

 

(ぶへぇ!?)

 

蒔絵がキリシマの動きよりも早くキリシマに抱き着いていた。その表情は怯えや恐れは無く、むしろ好奇心に満ち溢れている顔だった。思わぬ行動の連続にキリシマを叩き落とそうとしていたハルナと俺の手は空中で止まったままそれを見ていた。

 

「すげぇすげぇすげぇよ!ねぇ!これどっちが作ったの・・!?」

 

「えーと・・・こっち」

 

あとでややこしくやりそうなので全てハルナのせいにした。許せハルナ・・・

 

「え・・・・あ・・・うん・・・」

 

たどたどしい返事でハルナが答えるが蒔絵はそれを気にはしなかった。

 

「凄いね。どうやったんだろう・・・ハルナは何かの研究者!?」

 

聞いてくる質問を何とか躱した。そしてハルナがキリシマをつついている蒔絵に対して

 

「それ・・・あげる」

 

ぽつりと漏らした言葉に蒔絵とキリシマ(特にキリシマの方が驚いていた)がびっくりとした表情で見ていた。

 

「いいの!?」

 

(あのもしもしハルナさん・・・・)

 

キリシマは蒔絵の喜びを表すつつきあいに顔を青くしていた。

 

「それにしてもハルナも私と同じか~」

 

(同じ?)

 

その言葉を疑問に思った。さっきの話と何か関係しているのだろうか。それからは何事もなく食事は終わった。そして風呂だがお手は先に入り、後から蒔絵とハルナが入った。

 

「かにんしてつかぁ~さい!」

 

キリシマと話していたらそんな声がしたが気にしないでおこう。うん。

 

 

 

 

 

太平洋沖

 

「あなたが指揮官ですか・・・?」

 

「い、いえ自分は臨時です」

 

ヤマトは今自分の目の前にいる若い青年に目を疑い、彼が話したことに耳を疑った。

 

(こんな若い青年を乗せるなんて・・・・まるで”彼”のようだわ)

 

今はそんな事は関係はなかった。それよりも彼が言った言葉の方がずっと重要であった。

 

「あなた方は違う世界から来たということなんですか・・・?」

 

あまりにも今の状況と食い違っている為に人類の文化であるSFという分野でありそうなことだった。

 

「でもそんな時間はないようだよ?」

 

となりからこっそりとこちらを見ているコトノが意味ありげな笑みを浮かべながら言う。

 

「時間が無いとはどういう意味ですか・・・?」

 

「これを見て」

 

ヤマトの疑問はすぐに解消された。すでにかなりの数がここにきている。

 

「どうやら感ずかれたみたいだね。もともとこっちは北米方面艦隊の領海に入っているしね。そろそろ退散しないとせっかく隠れたのに見つかっちゃうよ?」

 

それはさすがに不味い。あの新鋭艦隊が出来るまでは見つかるわけにはいかない。そしてあの”子”を見つけるまでは。

 

「あの何か・・・?」

 

人間達が怪訝の表情をしているが時間が無い。短く説明する。

 

「少し急用が出来ました。我々は移動します。あなたちも座標を送りますから死にたくなければついてきなさい」

 

時間が無い。相手は新型の大型空母を二隻備えた大艦隊だ。さすがにそれを撃破することは容易だがそんな新鋭であり、大艦隊が消えてしまえばすぐに感ずかれてしまう。そんな事は避けなければならない。

 

「今までのんびりしていましたが次から忙しくなりそうですね」

 

 

 

 

 

刑部邸

 

今は夜だ。蒔絵は寝ている。俺はそっと起きた。ハルナもキリシマも同時に起きた

 

「・・・・行くぞ」

 

静かに出る。廊下は静かだが一つだけ違うものがある。

 

「こちらです」

 

あのメイドさんがいた。こんな廊下で一人でいたのか?軽くホラーだ。

 

「・・・・」

 

「連いていこう」

 

黙って連いていこうとした。自分達の目的地にたどり着けるはずだ。

彼女は屋敷の壁に向かって何かをうちこみとそれをは開いた。どうやらこの奥に何かがあるようだ。俺達はそれを進むと広い部屋に入った。そこにたくさんの電極がささった男性がきた。

 

「来たようだな」

 

「あなたは誰ですか?」

 

 

その質問に失笑しながら彼は話した。

 

「刑部 藤十郎だ」

 

刑部 藤十郎。データで調べていると蒔絵のお父さん。だがすでに死亡しているはずだった。

 

「なぜ生きているんだ?人間のデータでは死亡しているはずだが?」

 

キリシマが疑問に思う。だが同時に振動弾頭のデータを渡してもらう手間が省けた。

 

「振動弾頭のデータなら私は知らない。あれは私が作ったのではないのだからな」

 

「?どういうことだ」

 

「そうか・・・蒔絵」

 

ハルナが呟くがその読みは当たっていた。

 

「そうだ蒔絵は私よりも優れている。あの子は人間ではないのだから」

 

「!?」

 

彼はゆっくりと過去を話始めた。




次回は大会があるので少し遅れそうです。


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蒔絵とハルナ 後編

自分たちは話を聞き終えた。刑部 藤十郎の話を。

 

「君たちに一つだけ頼みがある」

 

話を終えたばかりなのに彼が自分達に何かを頼みたいようだ。

 

「自分達に出来る事なら・・・」

 

紀伊は彼の命の時間があまりに短いことを分かっていた。だから聞くことにした。出来るかできないかは別として。

 

「彼女はこの短い時間で君たちに心を開いてくれた・・・・だからこそ__友たちになってくれないか?」

 

意外な頼みだった。ハルナやキリシマ達も顔を見合わせていた。

 

「いいのか?俺達はメンタルモデル。霧だぞ?」

 

「だからこそだ。彼女は”人ならざる者”それに近しい君たちなら分かり合えるだろう」

 

その時に室内に警報が鳴る。周囲が赤灯が付き始める。

 

「どうやら彼らは私達を見逃すことは無いようだ」

 

屋敷中に仕掛けられたカメラから無数の兵士がトラックから降りて屋敷に侵入してきている。更にはヘリや軍用無人兵器の姿もあった。

 

「彼らは彼女を処分するらしい」

 

 

藤十郎は分かっていたらしい。紀伊は彼のその姿を見て、踵を返してその部屋から去ろうとする。

 

「お、おいっ!どこへ行くんだ!?」

 

その言葉に紀伊は振り向く。しかしキリシマの質問には答えなかった。

 

「もし俺に連いてくるのなら俺に力を貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

刑部邸 蒔絵の部屋の前

 

複数の足音が蒔絵の部屋へと一直線に突き進んでいた。彼らは伏兵に注意しながら慎重にかつ素早く行動していた。彼らが受けている任務はただ一つ。

 

 

デザインチャイルドである刑部 蒔絵を”処分”せよ。

 

 

という命令だった。たった一人の少女の為に彼らは無人機や戦闘ヘリなども準備していた。彼らの包囲網からは一人の少女どころかネズミ一匹通させてはくれなさそうだった。そして彼らは目標の部屋に着いた。目標がここから動いていないことも確認ずみ。後は突入して、彼女を”処分”して周りに悟られないように静かに撤退することだった。

 

「・・・・・」

 

彼らは静かに目配せをして突入の為にドアに張り付こうとしたときだった。

 

キイィ

 

と静かにドアが開いた。予想外の展開に兵士達は驚き、そして銃を向ける。ここで彼女が部屋から出てきたなら彼女本人かを確認したあとに射殺すると彼らは計画していたがそれとは違う人物が出てきた。

 

「・・・・!」

 

出てきたのは少女__超戦艦のメンタルモデルである紀伊だった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

紀伊は無言で彼らを見渡した。兵士達は脂汗を掻きながらも銃を彼に向けていた。沈黙が続く。兵士達が永遠に続くのではないかと錯覚するような静けさであった。しかし沈黙を破ったのは紀伊の方からであった。

 

「・・・・何しに来たんだ?」

 

彼が睨むと兵士達は背筋が凍った。兵士達もここで負けていけないと思ったのか、指揮官が口を開く。

 

「我々は君たちメンタルモデルに危害を加えに来たわけでは無い。我々の任務はあくまで刑部 蒔絵の”処分”だ。君たち霧と矛を交える意思は無い」

 

”処分”という言葉に彼の眼が一層鋭くなる。

 

「意思か・・・・」

 

彼が呟いたと同時に兵士数人のアサルトライフルが爆発した。

 

「!?」

 

「ならば・・・これが俺達の意思だ」

 

兵士達は紀伊を見て決意をしたのか。

 

「やむおえないか・・・貴様も処分する!」

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

兵士達はアサルトライフルや付属しているグレネードランチャーを撃ってくる。しかし紀伊はクラインフィールドを展開して、銃弾や爆風を一切遮断する。この使い方も段々慣れていた。

 

「ぐぁ!?」

 

兵士達は次々と紀伊が生成したクラインフィールドで押し倒されて気絶した。五分もせずに兵士達は全滅した。

 

「ふぅ・・・これでしばらくは・・・・」

 

しかし蒔絵を起こさずに倒さなければならない。こんなものを彼女には見せられない。その時に彼の後ろのドアが開いた。

 

「・・・・!?」

 

彼は振り向いた瞬間に振り向いた。そこには蒔絵がいたのだ。

 

「どうして・・・・」

 

「・・・・・」

 

後ろにはハルナやキリシマがばつが悪そうに俯いていた。

 

「すまない。止められなかった」

 

ハルナが申し訳なさそうに言う。

 

「ま、蒔絵・・・・」

 

「・・・・!!」

 

彼女は紀伊が声をかけるよりも先に走り始めていた。呼び止めるまでもなく彼女は廊下の角で消えてしまう。

 

(やはり彼女も人間だったか・・・・霧を見ればそういう反応だ)

 

キリシマが当然と言った口調で呟いてくる。しかしハルナや紀伊もそれには耳を傾けなかった。知られた自分達が霧だということに。前なら紀伊はともかくハルナは何も感じなかっただろう。しかし今は違った。

 

「キリシマすまない。蒔絵に連いていってくれ」

 

「はぁ!?何を言って__」

 

キリシマが物を言う前に俺はぬいぐるみの体を鷲掴みにして窓に向けて投げた。

 

「うぁーーー!?」

 

キリシマは窓の外に落ちて行った。彼女ならやってくれるだろう。問題は・・・

 

「どうやって彼女を逃がすかだな・・・・」

 

霧と正体がばれてしまったのなら仕方がない。ならばいかにして自分達が彼女に近づかずに彼女を逃がすかを考えなければならなかった。

 

「それについては考えがある・・・」

 

ハルナが自分に作戦を話した。しかしそれは紀伊の今まで体験した中で一番過酷なことになるのは明白だった。

 

「成功する確率は・・・」

 

その言葉にハルナは結論をすらりと言った。

 

「五分五分と言ったところ。キリシマはどうやら蒔絵と合流を果たしたみたいだ。その位置から推定すると彼女は屋敷の裏門のから逃走を図ろうとしているみたいだ。あそこは熱源反応からするに警備がどこよりも薄い。我々が上手く敵の注意を逸らして、あの兵士達が蒔絵の存在に気ずかなければ作戦は成功。仮に見つかったら作戦は失敗だ」

 

「そんな時の予備は・・・プランBはあるのか?」

 

 

その言葉にキリシマは答えずに外へと飛び出して行ってしまった。

 

「たく・・・この体での戦闘なんてまったく経験ないっつぅの。はぁ、でもやるしかないか」

 

今までは”人としての体”ではなく、”艦としての体”での戦いだった。その為に目で見ても少しは大丈夫だったしかし今までの状況と今回の状況は一味違う。

 

「だけど・・・・やるしかないか・・・」

 

彼も覚悟を決めて、窓を突き破った。凄まじい破壊音と共に彼は兵士の群れへと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

刑部邸 裏門にて

 

「正門の方で例のメンタルモデルと交戦しているらしい。我々も応援に向かうぞ!」

 

「はいっ!」

 

兵士達が去っていくのを確認してそっと隠れているところの鉄格子を外す。周りを見て見ると誰もいないが一つあるものを見つけた。

 

「ヨタロウ・・・?」

 

紀伊が投げたところが丁度蒔絵がいるところだったのだ。何と運のいいことである。彼女はそれを大事そうに抱きながら、銃声が鳴り響く、正門の方を見つめた。

 

「・・・・・」

 

彼女はそれから何も振り返らずに裏門へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

刑部邸 正門付近にて

 

「撃てっ!」

 

激しい銃撃音が辺りに響く。しかしそれをものともせずにハルナは突っ込んでクラインフィールドで無力化する。彼女は戦いながらもある一つの思いとも戦っていた。兵器として最適かつ効率のいい提案を彼女はずっと無視しつづけていたのだ。なぜなら・・・

 

(確かにこの方法ならこの部隊相手に苦戦せずに殲滅できる。だが・・・・)

 

彼女の脳裏に蒔絵の笑っている顔がフラッシュバックする。

 

(彼女を悲しませるわけにはいかない)

 

彼女の後ろで爆発が起こる。紀伊だ。彼も彼なりに自分のやり方で相手を傷つけずに無力化していた。

 

(だがなぜだ?なぜ私はこんなことの為に戦う?)

 

彼女は兵器だ。人間に対して何も感じていなかった。だが今は。

 

(私は蒔絵に嫌われてしまった。だが蒔絵だけは・・・・)

 

だけど私が犠牲になろうとも蒔絵を絶対に守る。彼女はその心意気だった。

 

「ちっ!あれを出せ!」

 

兵士が何かを出すように指示を出す。すると二門の砲を持った無人兵器が出てきた。

 

(あれは「岩蟹」!?)

 

二門のほうだけでもかなりの威力を持った砲だ。しかも他にも装備を持っているため、かなりの難敵だ。それの砲がこちらを向いた。

 

「まずい、逃げろハルナ!」

 

紀伊が彼女に警告するがもう遅かった。彼女達に砲弾が襲いかかった。

 

 

 

 

 

刑部邸 裏門

 

(くそっ!キイのやつめ!こんなことを押しつけやがって!今に見ていろ。だが二人と連絡がつかない。戦闘も激化しているみたいだがあいつらは大丈夫だろうか?それにしてもなぜこの娘は動かない?)

 

キリシマは紀伊に対して悪態を吐きながらも彼らが無事かどうかを心配した。そしてなぜ蒔絵が動かないのかが気になっていた。すると蒔絵は足よりも口を動かした。

 

「ねぇ、ヨタロウ・・・私、ある爆弾を作ったの・・・・それはね、ハルハル達を殺すための爆弾だったの」

 

「!?」

 

彼女は語った。自分が作らされた者。そして自分の気持ちを。

 

「だからね・・・私はハルハル達に合わす顔が無いの・・・・!」

 

彼女は泣いていた。彼女は自分が抱えていた気持ちを全て出し尽くしたのだ。そして立ち上がる。自分がいるからハルナ達が迷惑していると。だから逃げるために。しかし不運なことに彼女は足をもつれてしまい転んでしまった。

 

「うわぁ!?」

 

その光景を近くにいた兵士に見られてしまう。

 

「なぁ!刑部蒔絵!?」

 

銃を咄嗟に向けて排除しようとする兵士達。

 

「ちっ!させるか!」

 

キリシマは飛び出す。そして兵士の一人に蹴りを食らわして、もう一人の殴りを難なく躱し、再び蹴りを出す。

しかし銃撃をしながら兵士が飛び出してくる。キリシマはクラインフィールドを出そうとするが

 

「なんだこれ!?小さすぎる・・・・」

 

クラインフィールドもキリシマの体格に合わせて、小さくなっていた。防ぐのをやめると一気に距離を詰めて、両足蹴りで二人をKOする。

 

「ヨタロウ・・・?」

 

「あっ!」

 

気づいたときには遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

刑部邸 正門付近

 

「刑部蒔絵を裏門で発見!」

 

「何!?」

 

ばれたか。だが行かせはしない。クラインフィールドで向かっていく兵士を吹き飛ばした。

 

「くっ!」

 

ハルナも「岩蟹」の猛攻で八方塞がりになっていた。しかし傷つかないようにするためにはしのぐしかなかった。

あともう少し時間が稼げれば・・・・。あと数分だけ。紀伊とハルナが何とか耐えていたときに。

 

「ハルハル!紀伊!」

 

戦場に一つの声が聞こえた。ここにはいてはならぬ存在だった。

 

「「蒔絵!?」」

 

 

彼女は危ない足取りで走っていた。腕にはキリシマが抱えられていた。キリシマめ、ドジったな。だが仕方がないと割り切った。

 

「刑部蒔絵!!」

 

銃のレーザーサイト全てが彼女に向く。

 

「蒔絵!!」

 

ハルナは走り始めていた。そして銃の銃弾が彼女を貫く前にクラインフィールドで防ぐ。

 

「くっ!?」

 

しかし集中砲火でハルナは苦しそうだ。次の第一射が来るまでに「岩蟹」が爆発した。

 

「え・・・!?」

 

「間に合ったか・・・・」

 

次々と爆発していく「岩蟹」。それらは全て紀伊のミサイルであった。紀伊はこうなることを予想してここまで船体を寄せていたのだ。

 

「といってもぎりぎりだったけどな・・・・」

 

虎の子の兵器が爆発して、兵士達は「退却!退却!」と叫んでいる。

 

「お前は・・・」

 

「あーあ、屋敷がめちゃくちゃになっちゃったな・・・・なぁ、もしよかったら・・・」

 

三人が茫然としている中でこういった。

 

「俺と一緒に行かないか?」

 

彼は三人に向けて満面の笑みを見せた。

 




ようやく終わった・・・・。次回は再び、番外編です前に募集して集まった艦艇を出していきたいと思います。

次回 海を航行する紀伊はそこで一隻の戦艦と出会う。


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新型海域強襲艦

予告詐欺になりました。すいません。


「おいっ!どこに行くんだ!?」

 

日柳はどこかへ去っていく、ヤマト達の艦影を見ながら叫んだ。しかし叫びは虚しく響くばかりである。

 

『日柳艦長!すぐに戻って下さい!』

 

堀江から慌ただしく無線がかかってきた。

 

「どうしたんだ!?」

 

『レーダーに十以上の艦艇を確認しました。その中には空母らしき艦艇もあります!』

 

「よりにもよってこんな時に!・・・って、あれ?」

 

悪態を吐いたがよく考えればおかしい。

 

「なぁ、堀江。襲ってきている艦艇達ってあいつらみたいな奴等じゃなきゃ、その・・あれだろ・・・」

 

彼の脳裏には悪魔のような船達が浮かんできていた。

 

『霧の艦隊ですか?』

 

「そう霧の艦隊。その霧の艦隊だったとしたらどうして同じ霧の艦隊であるヤマト達は逃げるんだろう?それも慌てて」

 

『これは予測になりますがもしかしたら霧の艦隊自身も仲間割れというか、何かの対立があるからかもしれません。もしかしたら私達にヤマト達が逃げろといったからには私たちもその艦隊にヤマト達の新たな戦力と見られている可能性も十分あります』

 

「だがあくまで予測の域を出ないものだ。それだけで攻撃するわけにはいかない。もしかしたら俺達が考えていることとは逆かもしれないんだ。それなのに俺達が攻撃したら本当の敵になるぞ」

 

確かに先制攻撃でこちらが大打撃を受ける可能性も決して少ないとは言えない。だがこのまま戦闘を繰り広げるわけにはいかないだから攻撃されるまではこちらは攻撃をしない。向こうがこちらが敵じゃないと分かるまでだ。攻撃をしてきたら気は乗らないが応戦をするしかない。

 

「とりあえず警戒態勢を敷くんだ。あ、それと提督は抑えておけよ?」

 

その言葉に堀江ははぁと息を吐く。呆れながら提督の現状を小声で言う。

 

『早く戻ってきてください。あの人はさっきから攻撃しろ、殺されたいのか、死にたいのか、という繰り返しですよ。抑えるのが精いっぱいなんで早く帰ってきてください』

 

やはりいつもの山田提督みたいだ。あの人にいつまでも指揮権を預けておいたらいつ味方か敵かも分からない相手に向かって、砲撃をして死刑宣告にサインをしてしまいそうだ。

 

「分かった。それまで耐えてくれ。すぐに行く」

 

『お待ちしています』

 

 

 

 

 

「比叡」艦橋

 

「遅れました!」

 

「遅いぞ!何をしておった!」

 

山口提督が口うるさく艦長席から言っているが聞いている時間の間に敵は迫ってきているので黙って指揮をついた。

 

「機関最大。さっきヤマトに貰った地図は持っているな?」

 

「はい。きちんと」

 

「その目的地まで最大船速で航行だ。後方の艦隊は無視する。攻撃したときのみ、攻撃を許可する」

 

「了解」

 

「貴様!それでも日本の海軍軍人か!」

 

「今は抑えてください。きちんとした対策を練ってからです。策も無ければ全滅しますよ!」

 

「う・・・うむ」

 

日柳の雰囲気に気圧されたのか、山口が押し黙った。だが日柳達にはそれを見る暇さえなかった。

 

 

 

 

 

 

日柳艦隊の後方 北米艦隊にて

 

「どうやら私達に気がついたようね」

 

彼女はその広い甲板でコーヒーを飲む。彼女の周りにはさらに配下の艦が彼女を囲むように配置されていた。

 

「まったく傷つくわ。総旗艦殿には」

 

ヤマトのスペックとメンタルモデルはこんな大規模な艦隊を見逃すわけがないのだ。つまり自分達はヤマト達がこの海域を離脱出来るギリギリのラインまで自分達は泳がされていたのだとすぐに分かった。それは栄ある北米艦隊のプライドに傷をつけているのと同等であった。

 

「とりあえずはこのままの陣形で直進よ。もう一つの艦隊の方を追いかける。え、ヤマト達はいいのかって?そんなもん追いかけるわけないでしょ。追いかけたって両方逃がすだけよ」

 

彼女は既にヤマト艦隊を補足することは困難だと思っていた。それならば今、逃がす可能性のない方を確保した方が良いと判断したのだ。

 

「そうよ。「ヒューロン」の艦隊はあの艦隊の前方で挟み込むように包囲して、そこを私達が畳み掛けて降伏させる」

 

彼女達の北米艦隊はヤマトの艦隊の動向を確認して可能ならば、連れ戻せと指示を受けていた。だが既にそのヤマト艦隊は既にいない。ならば、今、逃げ遅れた艦隊を確保して居場所を知るという方法を取るしかなかった。

 

「では行きますか」

 

彼女は新たなの建造された艦船だった。おそらく実戦経験を積ませたいためにここに送り込んできたのだと彼女は推測していた。こちらとしても経験が積めるならと承諾していた。

 

海域強襲制圧艦 「スペリオル」 それが彼女の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

「副長!海域突破までの時間は?」

 

「まだしばらく掛かりますが後方の艦隊と我が方の艦隊の速力は変わらないのでおそらく大丈夫かと」

 

「いや、油断は出来ない。墳進弾を使ってこられたら、この距離は一瞬で縮まる」

 

日柳以外にも誰もがその兵器の事を気にしていた。紀伊が見せた墳進弾だった。ちなみにこちらには墳進弾を発射できる機能は無い。

 

「とにかくこのままこの海域を突破するしかない。だが警戒は厳にしておくように」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューロン」艦隊 海域強襲制圧艦「ヒューロン」

 

 

「はぁ~だるい」

 

 

その広い甲板で日差しが照りつける中、特に気にすることもなく「ヒューロン」は寝そべっていた。戦闘になるかもしれない状況の中で彼女が寝そべってだらけている理由は一つ、だるいからであった。

 

 

「あ、そうだ」

 

彼女は何を考えたのか、立ち上がる。

 

「こんな作戦だるいからさっさと終わらせよう。そうすれば「スペリオル」も喜ぶし、作戦も達成できる。一石三鳥だ」

 

彼女は自身のVLS全てを開放する。その光景も見た他の護衛艦が驚いて「ヒューロン」に問いかける。

 

「えっ?いいじゃん。とにかくやるからね。君たちも撃っちゃいなよ!」

 

他の護衛艦が止めるまでもなく、日柳艦隊に向けて「ヒューロン」の侵食弾頭が飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

「侵食弾頭!?この数は「ヒューロン」か!。誰が撃てと言った!?」

 

完全に想定外の出来事だった。「スペリオル」は驚きつつ、妹の独自の行動に怒りを覚えた。

 

「仕方がない。攻撃開始だ。そうだ、はじめてしまったからにはどうしようもない。但し、一隻か二隻は残しておくんだ。情報が手に入らなかったら元も子もない」

 

そういいながら自身の船体のVLSを半分開放して空高く弾頭を発射した。

 

 

 

 

一方、日柳艦隊は騒然としていた。

 

「レーダーに多数の墳進弾らしき物体を感知!すごい数です」

 

「撃ってきたか・・・・」

 

もしかしたらこのまま逃げ切れるのではないかと淡い期待をかけていたがどうやら裏切られる形になったようだ。

 

「総員、対空戦闘用意!」

 

警報がなり、銃座がそれぞれ別の方向を向く。他の艦もそうだった。しかし墳進弾の数はかなりの数であり、防ぎ切れるかどうかは分からなかった。

 

「もう紀伊はいない。これからは俺達の力で生きていくしかない」

 

何が起こっているかも分からない状況でよく分からない勢力と会い、更に戦闘になる。こんな数奇な経験を誰がしただろうか。それに紀伊は現在、行方不明。他に頼れる味方もいない。助けられてばかりではいけないと。

 

「墳進弾が射程圏内に入りました」

 

「撃ち方始め!」

 

「比叡」が報告するとすばやく対空射撃が始まった。凄まじい弾幕が艦隊の周りに形成される。しかし墳進弾の数はそれ以上に多かった。しかし一基たりとも逃さぬように濃密な弾幕が形成される。

 

「更に右舷から接近!「蒼龍」への直撃コースです!」

 

その報告で「蒼龍」を双眼鏡で見た。「蒼龍」は現在、真上のミサイルを迎撃中であり、右舷のミサイルに対処している銃座は少なく、ほとんどが空を切っていた。

 

「面舵いっぱい!」

 

艦が一気に右に傾いた。その中で日柳は指示をする。

 

「対空銃座、「蒼龍」から見て右舷の墳進弾を迎撃せよ!」

 

墳進弾は「比叡」の対空銃座で撃ち落とされたために「蒼龍」に被害はなかった。安堵の息を吐こうとした時に。

 

「「赤城」、「飛龍」に墳進弾!数それぞれ十!」

 

「対空防御を急がせろ!!」

 

日柳は檄を飛ばすがそれに悲鳴のような返答が返ってきた。

 

「だめです。数が多くて、二艦どちらも墳進弾との距離が近すぎます!」

 

それに目の前が暗くなった。いくら無人機とはいえ、「赤城」、「加賀」、「蒼龍」、「飛龍」からは上空警戒で戦闘機が発艦しているのだ。いくら防壁があるとはいえ、被弾すればどうなるか分からなかった。

 

「被弾します!!」

 

船員が悲鳴を上げた。直後に凄まじい音と共に赤い球体が防壁にその身を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「何てヤツらなの?あれだけ撃っておいて、命中弾が二十発しか当たらないなんて・・・・」

 

「スペリオル」はあまりの結果に唖然として、そしてあの艦隊が只者ではないと分かった。その時に「ヒューロン」から通信が入った。

 

「「ヒューロン」か・・・お前は何で勝手に戦闘を始めているんだ!せっかくの計画が台無しだ!!」

 

通信の主が分かったところで怒鳴る。さすがにこの剣幕には驚いたのか。

 

『ご、ごめんなさい・・・・・』

 

静かに謝ってきた。普段はとろくさい奴だがこんな時は素直だった。

 

「それよりお前の方の残弾は?」

 

『もうほとんどない。途中で出会った奴と今の奴でほとんど撃ち()ったよ』

 

「ヒューロン」の方は残弾がほぼ無いようだ。こちらの人の事を言えたものじゃなかった。今回は弾薬を満載にしてきたが、予想外だったのが途中で出会った艦船であった。殲滅はしたがこちらの艦艇を模しているような感じの船だったことは覚えていた。

 

「もうすぐ敵の反撃が来るはずだ。手持ちで何とかやるしかない」

 

その時だった。レーダーに反応があった。来た、反撃だ。だが違和感を感じた。

 

「弾頭にしては遅すぎる」

 

注目するべきはその遅さだ。ミサイルならばこの時間に既に到着しているだろう。だが少しすれば姿が見えるはずだった。そしてゆっくりとそれが姿を見せた。

 

「!?航空機などとそんな古臭いものを・・・・」

 

既に霧では航空機の運用は全面的に無くなっていた。それなのに航空機を使うとは。

 

「舐めた真似をしてくれる。だが油断は敵だ」

 

対空射撃で航空機を攻撃する。しかし航空機は攻撃を何もしなかった。むしろ左右に翼を振っている。

 

「全艦攻撃中止」

 

攻撃をやめると航空機の一機が着艦しようとしていた。

 

「!?何を!」

 

無理やりだった。何とか近くにあった物が足止めになったのか航空機が止まる。それに「スペリオル」は安堵の息を吐いた。

 

「一体何・・・・!?」

 

その言葉を呟く前に航空機から何かが出てきた。それは人間だった。唖然とする「スペリオル」の前でにっこりと人間は笑った。

 

「どうも。初めましてかな?」

 

 

 

 

 

 

 

日柳はパイロットに礼を告げて、唖然とする少女を横目に艦内に入った。

 

 

「やっぱり同じか」

 

「おい」

 

紀伊の艦内と同じ感じだなと思っていると後ろから声をかけられた。明らかに怒りが籠っている。

 

「はぁ~~これは苦労するな」

 

「何を言っている人間」

 

この言動からして苦労することになりそうだと大きく日柳は息を吐いた。彼の目的は着艦不能になった「赤城」、「飛龍」の艦載機のためだった。

 




日柳達の登場と紺碧の艦隊と旭日の艦隊のタグをつけたのはこの話を書くためです。

それと番外編で以前の募集でもらったコメントのものを出せなくてすいません。ほとぼりが冷めたら再び、出したいと思います。



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敗北と新たな敵

悲報 紀伊が出てこない。


約二か月間待たせてすいませんでした。これからは少しずつ上げようと思います


群像達は焦っていた。今でこそ音響魚雷やアクティブデコイのお蔭で隠れられることが出来たが既にそれらも既に底をつき始めていた。「黒鯨」の方こそまだ残弾は余っているがあまり使い過ぎるのもこちらの位置を諭される危険があった。

それともう一つの問題が。

 

「もう一隻いる」

 

そう現在、ソナーで場所が分かっている不明艦だけではなく、「黒鯨」のソナーの端にたまたま映った不明艦だった。

 

「まるでこちらが見つけるのを待っていた登場っぷりだな」

 

杏平も言葉こそふざけているように見えるが中身は真剣だった。

 

「万事休すか・・・・」

 

 

 

 

 

U-2501艦内にて

 

「さすがだ、千早群像。聞かされていた以上の能力があるようだ」

 

ゾルダンは素直に群像を褒めていた。彼の艦隊は圧倒的戦力差にありながらもここまで持ちこたえられているのが理由だった。

 

「確かにねー、でもさすがに長く時間をかけるわけにもいかないよ。”あの人”も待っていることだしさ」

 

「そうだな」

 

彼は静かに時計を見る。確かに待ち合わせまでもう少ししか残っていない。

 

「いい加減に勝負を決めようか。彼らにメッセージを送れ」

 

「あいよー」

 

 

 

 

 

 

「黒鯨」艦内にて

 

「こちらの残数はすでにゼロに等しいわ。自動防御兵器もすでに弾薬を底を尽きかけている。これ以上の戦闘は・・・・無理よ」

 

『・・・・・・』

 

彼の気持ちは痛いほど分かった。しかしこちらは侵食兵器も無しに霧の船と戦っているのだむしろ善戦したといってもいいだろう。しかし群像は無言のままだ。今、対抗策を考えているのだろう。

 

ピイッ! ピイッ!

 

「え?」

 

鳴った電子音の音源を見た。それは無線機から聞こえてきた。そこに書かれていたメッセージは読んだ。それを見た日下部は信じられない顔で見た。そこに書かれていたメッセージは。

 

 

 

 

 

 

『武装を解除し、浮上せよ。指示に従う場合はこちらも同様のことをする』

 

シンプルに書かれたメッセージを群像は静かに見ていた。他のクルーも同様である。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・群像?」

 

皆が黙る中、イオナだけが確認を取るように聞いてきた。その横顔を見た群像は何かを決心したのか。

 

「はぁ~~」

 

大きくため息を出した。他のクルーもただ群像を見つめている。

 

「浮上しろ」

 

短くそう言った。他のクルーも分かりながらも驚きの声を上げた。

 

「で、ですが艦長!?」

 

「もし罠だったらどうするんだ!?」

 

その声に群像は

 

「だったらここで戦い続けて沈むか?」

 

彼らに逆に質問をした。彼らは黙るしかなかった。彼らはその事実を忘れていたわけではない。群像の声の震えに気づいたからだ。

 

「・・・・分かりました」

 

僧は短く肯定の言葉を言う。群像はイオナにもう一度言った。

 

「浮上しろ」

 

「了解。浮上する」

 

イオナは何も言わなかった。それが群像にとってはありがたかった。

 

 

 

 

浮上後

 

イ401が浮上したすぐ後に赤い潜水艦が浮上してきた。あれはUボートをモデルにしているらしい。番号は「2501」と書かれていた。その潜水艦のハッチが開き、一人の男が出てきた。

 

「初めましてというべきかな。千早 群像君」

 

「!?」

 

咄嗟に身構えてしまう。この男はなぜ俺の名前を?

 

「不思議に思っているだろう。君にいいことを一つ教えてあげよう」

 

「?」

 

次に発せられた言葉は群像の心臓を奥から凍りつかせた。

 

「君の父上 千早 翔像は生きている」

 

「!?」

 

「おや、知らなかったのかい?」

 

わざとらしい。群像の気持ちを知ってか知らずか男は話し続ける。

 

「私は君たちを撃沈せよとの命を受けているが今では無い。我々は君たちの存在を世界が見ている中で撃沈する。霧に反する者がどうなるのか知らしめるためにね。そしてこの大命を授けたのは千早 翔像だ」

 

「千早 翔像は人類の敵になった」

 

歯噛みしながらポツリと呟く。男は話し終えたと思ったのかハッチに戻っていく。

 

「さらばだ。千早 群像。また会える日を楽しみに待っているよ」

 

そして彼の船は深く潜っていく。群像はそれを見ながら再び、歯噛みした。自分達は”負けた”のだ。

 

「群像、次の目的地は?」

 

イオナが心配そうな声で語りかける。群像は己の気持ちを切り替えて

 

「次の目的地はここだ」

 

マップが表示され、赤点が一つの島を表示していた。その島の名前は

 

「硫黄島」



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