アーネンエルベのロリブルマ (ゲンダカ)
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アーネンエルベのロリブルマ

らっきょコラボCMの鮮花とイリヤが可愛すぎて気付いたら書いてました。
後悔はしている。反省はしていない。
肩の力を抜いて、FGOをやりながら、ぽけーっと読んで下さいまし。


 アーネンエルベ。

 普段はしがない喫茶店。

 しかしその本質は、第二魔法をふんだんに用いた、平行世界を繋ぐ亜空間。

 あらゆる可能性に満ち、あらゆる幻想に溢れ、あらゆる人間が安心感を覚える場所。

 そんなアーネンエルベは、今日は貸し切り。

 とある世界の御一行が、前夜祭と称して集まっているようだ。

 

 

「で、なんなんですか、今日は」

 黒いスーツを着た青年が頓狂な声を上げた。

「説明しろ、橙子」

 和服に革のジャンパー、という変わって出で立ちの少女は苛立った声を上げた。

「というかなんでアンタが居るのよ、式。聞いてないんだけど」

 長い黒髪の少女は、それに負けないほど怒りのこもった声を上げた。

「オレはコクトーに言われてきただけだ」

「……私は橙子さんに誘われたんだけど。どうして私は誘ってくれなかったんですか、兄さん?」

 少女が怒りの視線を、青年へと向ける。

「ご、ごめん、鮮花」青年はうろたえた。「式と一緒だと、また喧嘩をするかなあって」

「そうですかそうですか。いいです、じゃあ帰ります、私」

「まあ待て鮮花」

 席を立とうとする長髪の少女を、橙色の髪の女性が声で止めた。

「なんですか橙子さん。そもそも一体全体、なんで私たち、集められてるんですか」

「うん、それなんだがね。私もワケがわからないんだ」

 女性は腕を組み、自信たっぷりにそう言った。

 

 

「僕は橙子さんに誘われました」

 黒桐幹也はそう言った。

「オレはコクトーに誘われた」

 両儀式はそう言った。

「私は橙子さんに誘われました」

 黒桐鮮花はそう言った。

「私はこれが届いたんだ」

 蒼崎橙子はそう言って、一通の封筒を取り出した。

「なんですか、それ」

 怪訝な顔を浮かべた幹也が尋ねた。

「招待状、というやつだね。差出人はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

「うわ、長い名前ですね。誰ですか、それ」

「さあ。アインツベルン、というのは、どこかで聞いたような気もするんだが。とにかく、この招待状に従ってみたら、こんな場所に来てしまったというわけだ」

 蒼崎橙子はそう言って、くるりと辺りを見渡した。

「入り口はいつもの喫茶店(アーネンエルベ)だと思ったんだがな、中身は違うらしい。うん、うん、実に良い。こんな場所、滅多に来れるもんじゃないぞ、黒桐」

「はあ。そうですか」

 幹也は興味なさ気に返事を返した。ああ、またそっちの話(・・・・・)か、と。

「それで橙子さん。その、イリ……なんとかさんは、どこに居るんですか」

 痺れを切らした鮮花が橙子に問いをぶつけた。

「さあ」

「さあって」

「だって、会ったこともないし。ここ、店員も居ないし」

「それは見ればわかります」

「だからまあ、待ってれば来るんじゃないか?」

「それもそうですね。招待状を出したんですから、ご本人が来ない訳ありませんね」

 幹也が頷きながらそう言うと、蒼崎橙子も納得したように頷いた。

「ああ、もうっ。何かの罠だとか、そういうふうには考えないんですかっ」

 一方、鮮花は何一つ納得できず、声を荒げた。

「え? ああ、罠か。そうだなあ、それもあるのか」

 想像もしていなかったのか、橙子が間の抜けた表情を浮かべた。

「そうですよっ。妖精の一件が片付いたとは言え、式も橙子さんも敵が多いんですから」

「妖精?」

 鮮花の言葉に、橙子が怪訝な顔をする。

「妖精ですよ。礼園女学院の」

「ああ、そんなこともあったっけ。憶えてるか、黒桐?」

「いえ。僕はまだ、浅上藤乃の一件で参ってますよ」

 幹也がやれやれとため息をついた。

「浅上? また随分と昔の話をするんだな、コクトーは」

 そんな幹也に、黙りこんでいた式が反応した。

「昔って、まだひと月も経っていないじゃないか」

「はあ?」

 幹也の言葉に、女性三人が同時に声を上げた。

「へ?」

 当の幹也も、何故彼女らがいぶかしがるのか、理解できなかった。

 

 

「整理しよう」

 混沌としてきた場を、年長者である蒼崎橙子が仕切り始めた。

「黒桐、浅上藤乃の一件から、どれくらい経った?」

「だから、ひと月です」

「そうか。式、お前は?」

「さあ。忘れた。半年か一年くらい前じゃないのか」

「半年って、何言ってるんだ、式」

 うろたえる幹也。

「落ち着け黒桐。で、鮮花、お前は?」

 それを橙子が制して、鮮花へと問いかける。

「ええと、あの橋の大事故ですよね。あれが七月で、今は一月だから、半年くらい前ですよ」

「…………そうか、なるほど」

「どういうことですか、橙子さん」

 納得したように頷く橙子と、何もわからず慌てる幹也。

「ここは第二魔法、即ち平行世界の境界線なんだ。第二魔法には時間移動も含まれているから、それぞれ、別々の時間軸の私たちが集められたということだよ。一番過去から来ているのは黒桐で、次に式、鮮花。一番未来なのは私だな」

「知らない間にタイムマシンにでも乗ってたっていうんですか」

「ああ、そうだそうだ。面白い例えをするな、黒桐は」

 何がおかしいのか、幹也の言葉に橙子は大きな笑い声を上げた。

「なるほど、道理で妙な雰囲気なわけだ」

 両儀式は得心がいったようで、先ほどの橙子のように店内を見渡した。

「だいにまほー……」

 一方鮮花は、信じられない、といった顔で机に視線を落としている。

 と、そこに。

「いらっしゃい。ちゃんと来てくれて安心したわ」

 落ち着いた、少女の声が響いた。

 

 

「ああ、君がイリヤスフィールかい」

 突然どこからともなく現れた少女に驚くこともなく、橙子が話しかけた。

「その質問に対する答えはイエスでありノーね」

「……また、ヘンな奴が来たな」

 式はその少女を一瞥しただけで、深い溜息を吐いた。

「イリヤスフィールさん」

「イリヤでいいわ、アザカ」

「っ」

 なんでもない顔でいきなり名前を呼ばれ、鮮花は一瞬息を呑んだ。

「…………イリヤさん。質問をしてもよろしいでしょうか」

 だが次の瞬間には息を整え、凛とした姿勢で少女へと顔を向けた。

「ええ、何かしら」

「どうしてそんな、破廉恥な格好をしているんですか」

 その場に居合わせた全員が抱いていた疑問を、鮮花が代表して問いかけた。

 少女は、一昔前の体操服を着ていた。白いシャツと、青いブルマー。喫茶店には似つかわしくないその格好に、幹也はたじろぎっぱなしだった。

「グート。良い質問ね、アザカ。そう、今の私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンでありそうではない。あんな辛気臭い過去を持った小娘ではなく、厄介かつアーパーな師匠を持つ乙女。そう、今の私にあえて名をつけるとするならば、それは―――ロリブルマよ」

 腰に手を当て、少女は高らかに宣言した。

 

 

 

「もう少しすると、貴方達の世界と私たちの世界が互いに干渉し始めるわ。ただしそれは観測者たちにとって、良いことであり悪いことでもある。二つの世界を知っているのならそれはとても面白い見世物になるけれど、片方しか知らないのならただ歯がゆいだけ。そんな哀れな観測者に救いの手を差し伸べるのがこのロリブルマ。ググレカスなんて非道なことは言わないわ。世界を愛そうとするのならそれを手伝わなくてどうするというの。今の私はロリブルマ。ししょーは……来るかどうか知らないけど、そこはそれ、不肖の師匠の不手際をカバーするのも弟子の努めだから。ロリブルマたる私は、道に迷った哀れな子羊を今回も導くというわけ」

 椅子に座った少女は、自分が招いた招待客を置いてけぼりにしたままそう語った。

「三回言ったな、ロリブルマ……」

 橙子がぽつりと呟いた。

「で、イリヤちゃん。簡潔にまとめると?」

 彼女のその姿が幼い少女だったからか、唯一真摯に話を聞いていた幹也がそう尋ねた。

「貴方達の身に起こったこと、あるいは貴方達自身のこと、それを話してほしいの」

「ふうん。自己紹介か」

 話半分に聞いていた橙子が、気だるげに呟いた。

「自己紹介であり事故紹介ね。それではまずアザカからどうぞ」

「え、私?」

 突然指名された長髪の少女は、話を何も聞いていなかった。

 

 

「ええと、自己紹介、か。……黒桐、鮮花です。橙子さんに弟子入りして、魔術を習ってます。今は発火しか出来ませんけど。礼園女学院に入って、そこで起きた妖精の事件を解決しました」

 立ち上がった鮮花は所在なさ気にそう語った。

「アザカ。それじゃ全然足りないわ。もっと詳しく。……あ、コラ、座るな。その事件についてモア・プリーズ」

「むう」

 頬を膨らませた鮮花が、おろしかけた腰を戻す。

「礼園で記憶を奪う妖精が居るっていう情報があって、その問題を解決するよう頼まれました。で、私には妖精が見えないから、ヘンな眼を持っている式に手伝ってもらって、無事妖精と、それを操っていた魔術師を……あー、懲らしめることが出来ました」

「うん、まあ、それでいいや」

「なによそれっ。人が善意で説明してやったっていうのに―――」

「はい、次はシキね。説明どーぞ」

「話を聞きなさいようっ」

 

 

「両儀式。オンナ。死の線が見える。このあいだマンションで魔術師を殺った」

 言うべきことは言ったといわんばかりに、両儀式はどっかりと椅子に座った。

「…………うん、それでこそシキね。でもね、今日はそれじゃダメなの。哀れなシャーフ達は納得しないわ。ほらそんな顔しないでスタンダップ。とりあえず、死の線が見えるってところからやりなおし」

「面倒くさいやつだなお前」

「なんとでもいいなさい。ま、あなたが喋らないっていうのなら、私があることないこと言っちゃうけど。そこの黒いお兄ちゃんに」

「なんだ、あることないことって」

 少女の言葉を鼻で笑う式。それを物ともせず、少女は歌うように語りだした。

「『君がいて、笑っているだけで、しあわ―――』」

「橙子のやつが言うには、オレに見える線はモノの死だそうだ。それをなぞれば、それがなんであれ、生きているのなら殺すことが出来る。そうだな、コクトーの言ってた浅上藤乃のときは、アイツの物を曲げる魔眼の力を殺した」

「直死の魔眼ね。うんうん、そうこなくっちゃ。それ、何が殺せるの?」

「言っただろ、生きてるモノだ。生きているのなら、神様だって殺してみせる」

「ハイ名言いただきましたー。撮れ高オッケイ。バッチリじゃないの、シキ。ミキヤのこととなると必死ね」

「だれがコクトーのことで―――」

「はい次ミキヤ」

「……殺すぞ、お前」

 

 

「黒桐幹也です。伽藍の堂のスタッフで、橙子さんに頼まれていろいろ雑用をやってます。式や鮮花と違って、その……まじゅつ、とか、そういうオカルトっぽいことはできないから、ほんとに雑用だけ。特に何も変わったことはないかな」

 黒髪の青年は、頭を軽く掻きながら、優しげな声でそう語った。

「フツーね、フツーすぎるわミキヤ」

「うん、僕もそう思うよ。だけどそれは、僕以外の人たちが特殊すぎるせいだとも思うんだ」

「全くもってその通りね。あなたの特徴は特徴がないことだから。非日常に混じる日常、異常の中の正常、狂気の中の正気。それがあなただもの」

「あはは、褒められてるのかな」

 照れながら笑う幹也。それをたしなめるように少女が語り始めた。

「どうだかね。あなたが言った通り、あなたは特異な人に囲まれているからこそ、その無個性さが引き立っている。けれど、気付いているかしら。あなたこそ、この中で一番、普通じゃないのよ」

「え、それってどういう―――」

「さあ最後はトーコね。手短にどうぞ」

「わあ、イリヤちゃん、仕切るの上手だね」

 

 

「よし。…………待て。手短にってなんだ、手短にって」

 自信満々に立ち上がった橙子は、ふと引っかかったように少女を見た。

「だって、あなた、有名だし。みんな知ってるし。ウォーリーさながらにどこにでもいるし。アオザキトーコが一人いたらあと三十人は居ると思えって言うし」

「おい、人を黒光りする昆虫みたいに言うな」

「あなた露出が高過ぎるのよね、二つの意味で。えーと、うわ、カレイドスコープとどっこいどっこいじゃない、あなたの出番。バカじゃないの。そのくせまだこの先も出番あるし。何よこれ、私は専用ルート無かったっていうのに」

「なあ、お前が何を言ってるのかわからないんだが」

「あら御免遊ばせ、赤の魔術師を置いてけぼりにしちゃったわね。そういうわけだから、サクッと自己紹介だけしちゃって。貴女、一番最近から喚んじゃったからネタバレになっちゃう」

「…………蒼崎橙子。人形師。ルーンもできる。超天才。天才すぎて封印指定喰らっちゃったから逃亡中」

 さっきの自信はどこへやら、ぶっきらぼうにそう言い終えると、橙子は椅子に座り込んだ。

「自分で天才とか言って恥ずかしくないの?」

「私が天才でなければ世の魔術師達は皆無能になってしまうだろう?」

「貴女、そんなキャラだっけ。ちょっと世界軸がズレたかな……」

 少女は首を傾げながら、そう呟いた。

 

 

「よし、これで全員分紹介したわね」

 少女は満足気に頷き、席から立ち上がった。

「それで?」

 疲れきった面々を代表して、橙子が少女に声をかけた。

「それでって、なに?」

「それで、ここまで私達に説明させといて、どうするんだ、これから」

「どうって、どうもこうもないわよ。仕事は終わり。迷える子羊は多分意味分かんないから結局映画を見直すだろうし、お店は閉めるし、帰って寝れば?」

「な―――」

 呆気にとられる橙子。

「そうかあ。うん、こういう機会はなかなかないからね、面白かったよ。今日はありがとう、イリヤちゃん」

 それを他所に、幹也は少女へ笑顔を向けた。

「―――ああ。うん、これは落ちるわ。式と鮮花の気持ち、今ならすっごいわかる」

「でしょう? ……じゃないわよ。何いってんのアンタはっ」

 がっと立ち上がった鮮花が叫ぶ。

「おい、拠り所にしたのはこっちが先だ」

 式も静かに闘志を燃やしている。

「……わざわざこんな異空間にまで来て、このまますごすご帰れるものか……」

 橙子は何やら不審なことをつぶやいている。

「イリヤちゃん、帰りは大丈夫なのかな。そろそろ暗くなるけれど、送っていこうか?」

 そして幹也は、やっぱりいつもどおりなのだった。

 

 

 万華鏡が映しだすは、確定されない数多の世界。

 ありえたかもしれない過去。

 ありえるかもしれない未来。

 そして、ありえるはずのない現在。

 それらはあくまで可能性に過ぎず、未来は常にあやふやだ。

 この一幕も、そんな「あやふや」のうちのひとつ。

 

 されどそれすら、可能性としては、ありえたかもしれないものだ。



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