涼宮ハルヒの日常 (My11)
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第1章 新しい生活の始まりと出会い

キョン「前書きねえ……特にないな」
キョン子「ないのかよ!」


いつものようにセットしておいた目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。

あたしはそれをいつものように止めて閉じそうな瞼をなんとかこじ開けて一つ大きな欠伸をした。

 

ふう…今日から高校生か…。

 

ベッドからもそりと抜け出して部屋を出た。

 

 

あ、一応自己紹介しておこう。

あたしの名前は……まあ、みんなからはキョン子というあだ名で呼ばれてるからそれで覚えておいてくれ。規定事項ってやつだ。

 

一階に下り、洗面所で顔を洗った後リビングに行くと我が妹がすでに起きていてテレビを見ていた。

相変わらず早起きな妹だ。

 

「あ、おはよう!キョンちゃん」

「うん、おはよう。いつも早いな」

「えへへ。あ、キョンくんまだ寝てるみたいだし、起こしてくるね!」

 

そう言って妹は二階の部屋へと駆けて行った。

キョンというのは、あたしの双子の兄である。兄妹揃って変なあだ名だが、実はあたしがキョン子と呼ばれ始めたのは半分はキョンが原因であって…まあこの話はいいか。

家族の中でキョンは一番の寝坊助であり、よく妹が起こしに行っているという状況だ。

 

 

母親が作ってくれた朝食を食べていると、寝癖のついた頭を掻きながらキョンが部屋から下りてきた。

 

「……っふぁー」

「やっと起きたか。今日から高校生だってのに自分で起きようという自覚は生まれないのか?」

「ん~?ああ、頑張ってはいるさ。てか妹のやつが早すぎるんだよ、起きるのが」

「ああそうかい。それよりも早くしないと遅刻するぞ」

「そうだな」

 

そう言ってキョンは朝食の席に着いた。

 

 

 

今日からあたしたちは高校生になる。

新たな生活のスタートとなる日だ。

 

通う学校は北高と言って、かなりの坂を上ったところに位置する学校だ。

体力のないあたしにはかなりきつい坂だが、一番近くて無難な高校だったのでここを選んだ。

そのうち通っていれば慣れるだろう……うん慣れると思う。

 

朝食を食べ終えたあたしは部屋に戻り制服へと着替え支度をした。

髪は結構長めなのだが、しっかりとポニーテールにして準備完了。(ポニーテールが一番のお気に入りだ。ちょっと大変だけど)

 

玄関に行くとすでに支度を終えていたキョンと妹が靴を履いて待っていた。

まったく、支度だけは妙に早いんだから

 

「よし、行くか」

「ああ」

「キョンくん、キョンちゃん、いってらっしゃい!」

 

妹がいつものように元気いっぱいの声で言った。

 

「「いってきます」」

 

 

 

学校へ向かう途中、キョンとこれからの高校でのことを話しながら歩いた。

 

「北高はどんな感じだろうな」

「さあな。ま、とにかく楽しく過ごしたいもんだ」

「……あのさ」

「ん?なんだ?」

「俺はいつも聞いてるから慣れてるし、一人称があたしだからまだいいと思うがもうちょっとそのしゃべり方が男っぽいのを直してみたらどうだ?」

「は?」

「今日から高校生なわけだしこれを機に少しは女らしくしてみたらどうだ。男子にモテるかもしれんぞ」

「いやいやいや、何言ってるんだ。あたしは別にそんな高校生活は望んじゃいないからな!あたしはこれが一番しっくりくるんだ、別にいいだろ?人の勝手だ」

「そうかい。まあいいけど」

 

まったく、朝から何をわけのわからん事を言うんだか。

まあ小学生の頃からずっとこの言葉遣いで男っぽいって言われてきたし、女らしくしてみたらなんてよく言われてきたけど、一番この話し方が性に合ってるから変える気はない。

それに、あたしが女らしくしたところでモテるなんて思えんな。こんなどこにでもいる怠そうな女など誰が好むのだろう。

 

 

そうこうしているうちに学校に到着した。やはり、この体にあの坂は結構きつかった。

息を整えて玄関に貼ってあるクラス表を見た。

 

「えっと……あ、あった。1年6組か。あんまり知ってるやつがいないな、キョンは?」

「俺は5組だな。隣の組だ。国木田と一緒だな」

「国木田と一緒か、よかったな。じゃあまた後で」

「ああ、また帰る時な」

 

 

その後、体育館で入学式が行われた後各々の教室へと戻りまあ最初の恒例行事を行った。

席の順番で自己紹介を行っていき、各自得意なことや好きなことを言って挨拶をしていった。

自分の紹介も終わり、他の人の自己紹介をなんとなく聞いていると(誰でも最初はこんな感じだろ?)、左隣の女子の番になった。

隣の女子は音もなく立ち上がり、ある程度聞こえる声で一息で言った。

 

「…長門有希、よろしく」

 

たったそれだけを言い、すぐに座った。

一瞬、クラス内はシーンと静まり返った。

 

え?それだけ…なのか?

ずいぶんと簡単な自己紹介だな。もうちょっと何か言ったらよかったのに…。まあ人それぞれだけども。

 

そう思っていると、すでに次の人の自己紹介が始まっていた。

 

長門有希といった女子は、机の中から何やら難しそうな本を取り出して読み始めていた。

そういえば、さっき先生が来るまでにもずっと読んでいたな。本が好きみたいだな。

男口調のあたしが言うのもなんだが、かなり変わった子だ。無口で無表情、瞬きもほとんどせずにただひたすらに本を読んでいる。

もしかしてかなり人見知りする子なのだろうか。うん、あたしから気軽に声をかけていこう。

 

それぞれの自己紹介も終わり、今日は解散となった。

 

隣の長門さんはすぐに行ってしまい、あたしは中学の頃の同級生と軽く話した後荷物をまとめて玄関へと向かった。

 

玄関に行くと、靴を履き替えたキョンが国木田と一緒に待っていた。いや正確にはもう一人、かなり可愛いと言っていい女子もいた。

何やら話をしているらしい。

 

「…それでなんだ?えっと涼宮?」

 

涼宮と呼ばれたその女子はジーッとキョンを見つめ、というか睨みつけていた。

 

「……別に」

 

そう言ってその女子生徒は何事もなかったように去って行った。

 

「今の同じクラスの人か?」

 

靴を履き替えながら訊いてみた。

 

「あ、おおキョン子か。ああそうだ、あいつは涼宮ハルヒって言うんだがまあすごいやつでな」

「へえ」

 

靴を履き替え立ち上がりながら今度は国木田と向き合った。

 

「よう国木田。またこれからもよろしくな」

「うん、よろしくキョン子ちゃん」

 

この国木田は中学1年の頃からずっと一緒のクラスで(まあ今回は違うクラスになったが)よくキョンと三人で遊んだりしたまあ古い友人の一人だ。

 

「でもキョン子ちゃんとは別のクラスになっちゃってちょっと残念だな」

「そうか?まあキョンのこと頼むよ」

「それはもちろん」

「おい、俺なしで話を進めるな」

 

玄関から出て校門に向かいながら話を続けた。

 

「それで?あの涼宮って子のなにがすごいんだ?」

「ああ、それなんだが……」

 

学校前の坂を下りながらキョンや国木田の話を聞くと、……なるほど、確かにすごいなとしか表現ができなかった。

なんでもキョンの後ろの席が涼宮の席だったらしく、キョンの自己紹介の後こう言ったそうだ。

 

 

――――――――――

 

『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人・未来人・異世界人・超能力者がいたら、あたしのとこに来なさい!以上!』

 

――――――――――

 

 

「……なんつーまあ」

 

まだこの世に高校生にもなってそんなことを言うやつが存在していたなんて…な。

 

「で、玄関で出くわしたからさっきの自己紹介のあれはどこまでが本気なんだ?と訊いたところ、さっきの反応だったわけだ」

「へえ、世の中は広いもんだ。楽しくできそうじゃないか」

「ふふ、そうだね」

「……どうだろうな」

 

国木田はくすくすと笑いながら答え、キョンはめんどくさいことにはならないだろうなという感じに言った。

 

「6組はどうだった?さすがに涼宮みたいのがいたなんてことはないと思うが」

 

いやいや、そんな涼宮みたいなのが同じ学校に二人もいたらさすがに世の中どうなっていると問い掛けてしまう。

 

「そうだな、たしかに涼宮ほどではないがこっちにも変わったやつならいたよ(あたしが言うのもなんだが)」

 

あたしは隣の席の長門有希について二人に話した。

 

「へえ、確かに少し変わった子みたいだね」

「人見知りだったらなかなかクラスに馴染めないかもしれんな。ちゃんと仲良くしてやれよ」

「わかってるよ、あたしは小学生かっての」

 

そんなふうに二人と話をしながら家路へと足を進めて行った。

 

 

 

なかなかの高校生活のスタートとなったな。

長門有希に涼宮ハルヒか……。

 

 

この時はまだ、その涼宮ハルヒを中心にこれからの生活が激変していくのをあたしたち双子は知らなかった。

もし知っていたとしても上手く対応できたかと言えばできなかったかもしれないが。

 

 

それにしてもまさか、あんな事になるなんて……。




登場人物紹介

・キョン子
 この物語の一応主人公。双子の妹。1年6組のクラスで髪型はいつもポニーテール。話し方が男口調な変な女子。いつも大体気怠そうにしている。この物語は基本キョン子視点でいきます。

・キョン
 キョン子の双子の兄。キョン子と同じく大体気怠い感じ。まあ一般的な男子高校生。1年5組のクラス。涼宮ハルヒとは席が前後関係にある。

・妹
 双子の妹。元気いっぱいの小学5年生だがかなり幼く見える。かなり早起き。朝よくキョンを起こすのが仕事みたいになっている。

・長門有希
 とても無口で無表情なおとなしい女子。常に本を所持し、本を読んでいる。1年6組のクラスでキョン子とは席が隣同士。無口なのはとある理由が……。
(この長門は最初から眼鏡はかけていません)

・涼宮ハルヒ
 不思議というものが大好き。入学当初は常にブスッとしていたがとあることをきっかけに超活発な女子に。頭も良く運動神経も良し。かなりわがままだったりする。1年5組。

・国木田
 双子とは中学からの友人。1年5組のクラス。


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第2章 結成!SOS団!?

キョン子「SOS団??」
キョン「……やれやれ」


入学式から大体一ヶ月ほど経ち、今日はGWの連休明け初日。

 

いつものようにあの心臓破りの坂を上っていた。

隣にはあたしの双子の兄であるキョンがいつもと変わらず一緒に登校している。

休みボケのせいかいつもよりきつく感じながら上っていると、後ろからあたしたちを呼ぶ声が聞こえた。

 

「うぃーっすお二人さん。連休中はどうだった?」

 

このいかにもアホっぽい感じなのは谷口という男子である。キョンのクラスメイトで、なんでも異性に対してランク付けを行っているらしい。本人からは聞いたことはないが、キョンから聞いた話によるとあたしのランクはギリAらしい。それがどれくらい良いのかは不明だが。

ただ、そんなことをしていると女子に嫌われること間違いなしだとは言っておこう。

 

「よう谷口。連休は、まあまあかな」

「へえ、キョン子ちゃんはどうだったんだ?」

「……同じく」

「くぅ、朝からつれないなあ。キョン子ちゃんは」

 

ふん、うるさい。まったく、なぜこの男はこんなにも朝からテンションが高いんだ。いつもこの坂にくるとテンションが半分以下になるあたしとしては、その元気を分けてもらいたいものだ。

 

「いや~キョン、やっぱりキョン子ちゃんは可愛いな。お前と双子とは到底思えん」

 

谷口はキョンに近寄って小声で話しかけたためあたしにはよく聞こえなかった。

 

「うるさい、余計なお世話だ!」

「ん?何がだ?」

「い、いや、なんでもない」

 

 

しばらくしてやっと坂を上り終え玄関に入ると、国木田が下駄箱のところで靴を履き替えていた。

 

「やあ、キョンとキョン子ちゃん。おはよう」

「おはよう」

「よーっす」

「おいおい、俺には挨拶してくれないのかよ」

「あ、谷口もいたんだ。気づかなかったよ」

「え!?ヒドッ!」

 

国木田はああ見えて結構毒舌だったりするんだよな。まあ見てて面白いけど。

それにしても朝から元気があるなぁ、男子は。

靴を履き替えていると、谷口がまた話し出した。

 

「そういえばキョン、おまえ連休前からだがよく涼宮と話してるがどんな魔法を使ったんだ?」

「……何をわけのわからんことを言う。別に、普通に話しているだけだが」

 

お、なんだ?なかなか面白そうな話をしているぞ。

 

「その話、あたしにも聞かせてくれ」

 

今や涼宮はこの学校で有名人だからな。なんせ最初の自己紹介があれだったからな。

 

「ああ、キョン子ちゃん、聞いてくれ。涼宮と同じ中学だった俺なんだが、あいつがあんなに人と長く会話しているのを俺は見たことがない。キョンと話してる涼宮を見て、愕然としたからな」

「へぇ、そんなに違うのか」

「ああ。だからキョン、いったいどんな魔法を使ったんだ?」

「いや、本当にこれと言って特別な会話はしてないんだがな」

「ほんとか~?というかおまえ、まさか涼宮に気があるとか言うんじゃないんだろうな!?」

「は?なぜそうなる!?」

 

キョンが否定すると国木田が割り込んだ。

 

「キョンは昔から変な子が好きだからねぇ」

 

そうだったかもしれん。

 

「だから違うって」

 

 

まあそんなこんなでキョンは谷口にあれこれ受けながら、教室へと向かって行った。

最初は関わらないとか言って、結局話しかけているんだな。まあ席替えをしても前後関係のままだと言っていたからな。成り行きってやつか。

 

6組の教室に入るといつも通りにあたしの席の隣で本を読んでいる長門が目に入った。

こっちもこの間席替えをしたんだが偶然にも長門とは隣同士のままだった。場所は窓側の一番後ろに長門で、その隣があたしだ。

 

「よっす長門」

 

席に着きながら、いつものように声をかける。

長門は本から目線をはずし、あたしのほうを向いて、

 

「……おはよう」

 

とつぶやくと、また本へと視線を戻した。

他人から見たらなんだかそっけないんじゃないかと思うかもしれないが、これでもかなりマシになったほうなのだ。

 

最初の頃は話しかけてもずっと無言で、まったくしゃべらなかった。授業で当てられた以外で長門が話すところなんぞ、まったくの皆無であった。

 

それが、入学式から二週間ほどしてからだろうか。

今の席に席替えをしてから授業を受けていた時だった。

長門がなんかのひょうしに消しゴムを落としたので、拾ってあげたときのことだった。

 

 

「ほら、長門。落ちたぞ」

「………」

 

その時のあたしは特にいつものように特に何も言わないだろうと思い、前を向こうとしたその時だった。

 

長門「……ありがとう」

 

とても小さく、けれどしっかり聞こえる声で礼を言ったのだ。

この時はビックリして自分の空耳かとも思ったが、それからの会話で一言でも応えるようになったのだ。

 

なかなかの進展であるとあたしは感じていた。

 

 

「今日は何の本を読んでいるんだ?」

 

また長門に話しかけると長門は本の表紙を見せた。

 

「へぇ、こんどはミステリーものか。おもしろいか?」

「……ユニーク」

「どこら辺が?」

「……全部」

 

そうかと言うと、少しだけ首を縦に振った。

 

そんな会話をしていると、一人の男子が近づいてきた。

同じクラスの男子、真田友輝だ。

 

「やあ、おはようキョン子ちゃん」

「………ああ。長門には挨拶しないのか?」

「あ、そうだね。おはよう、長門さん」

「………」

 

まあ、案の定長門は無言だった。

 

真田友輝。最近妙に話しかけてくる同じ6組の男子だ。背はあたしより高いが、キョンよりはない。黒髪の短髪。

 

「連休はどうだった?」

「まあまあだ」

 

さっき谷口に答えたことと同じ答えを言った。

 

「そうなんだ。僕は結構有意義に過ごせたかな。伊豆へ二泊三日してきたんだ」

「ふーん」

 

言い忘れていたが真田の家はかなりの金持ちで、あっちこっちに別荘を持っているらしい。休日は何もなければそういうところへ毎回行くとのことだそうだ。

つまり、お坊ちゃまと言うわけだ。

最近の話題も、あたしにとってはただの自慢話にしか聞こえないので、うんざりとしていたところだった。

 

「…それでさ、海でクルージングをしていたら……」

 

真田が自慢話みたいな話をしていたが、はっきり言ってまったく聞いていなかった。

真田がこうしてあたしに話しかけるようになったのはいつからだっただろうか…。入学してから一週間は経っていたと思うが…、なにかきっかけがあったかな?

 

そろそろ先生が来ないかと思っていたら、ちょうどチャイムが鳴り先生が扉を開けて入って来た。

よし!ナイスタイミング!!

 

「あ、先生来たね。それじゃまた」

「………」

 

長門のように特に何も言わずにそっぽを向く。

真田はすぐに自分の席へ戻っていった。

ふぅ、まったくあいつは何なんだ?

毎回毎回あたしに自慢話を聞かせて、そんなに楽しいのか?

 

 

今日の授業は、まあ体育がなかっただけいつもよりマシだろう。

だがやはり4限の世界史の先生が放つ催眠呪文には勝てず、いつの間にか寝てしまった。

起きたのは終了5分前だった。

しまった、たまにこういうことをやらかしてしまう。直さないとな。

 

それからすぐにチャイムがなり、やっと午前中の授業が終了。お昼休みとなった。

今日の昼食はどうしようかと考えていると、いつものように長門が席を立ち本を持って教室を出て行った。

 

毎度のことだがいつも長門はどこに行っているのだろう。

前に一度いろいろな場所を探してみたが、学食にもいなければ屋上にもおらず本ときたら図書館かと行ってみたが空振り、昼休みが終わると同時に気づけば教室に帰っきているのだ。

後で帰って来たらいつもどこへ行っているのか訊いてみよう。

 

そう思いながら昼食を食べ、残りの昼休みは他の同級生と駄弁って過ごした。

 

 

授業はとても長く感じるのに、どうして昼休みなんかは短く感じるのだろう。

あっという間に昼休みが終わり、と同時に長門が帰ってきた。

さっそく訊いてみよう。

 

「なあ長門、いつも昼休みはどこに行っているんだ?」

 

長門が隣に座り、本を広げながら答えた。

 

「……部室」

「え?長門って、何か部活に入っているのか?」

 

へぇ、長門って部活やってたのか。初耳だ。

 

「…文芸部」

「文芸部?うちの学校に文芸部なんてあったっけ?」

 

長門は小さくコクんと首を縦に振った。

 

「そうだったのか。……なあ、今日の放課後部室見に行っていいか?」

 

長門は本から目を離し、あたしの目を見つめた。少し目を見開いてビックリしたような感じだ。

 

「ダ、ダメか?」

 

そう訊くと長門は本に目線を戻しながら答えた。

 

「…別に、かまわない」

「ほ、ほんとか!?じゃあ放課後長門について行くから」

 

長門はまた、小さくコクんと首を縦に振った。

これは放課後が楽しみだ。

そう考えながら、午後の授業へと移っていった。

 

 

 

まさか、これであんなことに巻き込まれるなんて思いもよらずに……。

 

 

 

午後の授業も終わり放課後となった。

 

あたしは今、長門の後について旧校舎にある部室棟へと来ていた。

階段を上がり、廊下に出てすぐのところに文芸部と書かれた部室があった。

長門は扉を開け中に入っていき、それにならってあたしも続いて入った。

 

文芸部の部室内はものすごくさっぱりとしていて、部屋の真ん中に長テーブルが二つとパイプ椅子が数個、スチール製の本棚のみだった。

長門は奥の窓際まで行きパイプ椅子に座ってまた本を読み始めた。

 

それにしても物がなさすぎる。本当に部活動をしているのか?と思えるくらいだ。

ここであたしはあることに気がつく。

 

「なあ長門、もしかして部員は長門だけなのか?」

「……そう」

 

やっぱりか。こんなんでよく廃部しないな。

あたしはパイプ椅子を長門の前に持ってきて座った。

 

長門はたった一人で、寂しいと思ったことはないのだろうか。本を読んでいるだけなのだが、いくらなんでも……なぁ。

余計なお世話だって言われるかもしれないが……うん。

 

あたしは決断した。

あたしも文芸部に入ろうと。もっと長門と仲良くしたいと思っていたから。

 

「あ、あのさ長門、あたしも文…」

 

バターン!!

 

文芸部に入ってもいいか?と続けようとしたら、いきなり部室の扉が勢いよく開いた。

ビクッ!として扉のほうを見ると、なんとあの涼宮がいるではないか!しかもそれだけではなくその後ろに涼宮にネクタイを掴まれたキョンまで……。

 

「な???」

 

驚いていると、涼宮がズカズカと部室に入ってきた。キョンも後について。

 

「今日からここがあたしたちの部室よ!」

 

「???な、何を言ってるんだ?」

 

あたしはわけがわからなかった。

 

「!なんでおまえがここにいるんだ!?」

「そりゃこっちの台詞だ」

「あらキョン、この子知り合い?」

 

涼宮がキョンに対して訊いたが、あたしが応えた。

 

「あたしは1年6組のクラスで、そこにいるキョンの双子の妹だ」

「あらそうなの?へえ、可愛い妹さんじゃないキョン。双子とは思えないわ」

「お、おまえまで言うか…」

 

キョンは少し不機嫌気味に言った。

しかし、なんだって涼宮はキョンを連れてここに来たんだ?

 

「そ、それでさっきはなんだって?」

 

涼宮は、あ~そうそうというしぐさを見せて話し始めた。

 

「だーかーらー、今日からここがあたしたちの部室になるのよ」

「いや、だから…は??」

「おい、いくらなんでもそれはダメだろ。ここは文芸部の部室だぜ?廊下のとこにそう書いてあっただろ」

「あら、ちゃ~んと昼休みに許可はもらったわよ?あの子に」

 

そう言って、長門を指した。

 

「なんでも彼女、本が読めればいいらしいわ」

 

すると長門はキョンと涼宮のほうを向いて

 

「……長門有希」

 

とだけ言い、また本に目線を戻した。

キョンが口を開いた。

 

「え、えっと…長門さんとやら、こいつはここを何だかわからん部の部室として使うと言っているが、いいのか?」

「……いい」

「すんごい迷惑かけると思うぞ」

「……別に」

「もしかしたら、そのうち追い出されるかもしれんぞ?」

「……かまわない」

「いやいや、何言ってるんだ!?」

 

おいおい長門。おまえ無表情で言っているがさりげなくすごいこと言ったぞ。追い出されてもいいって…。まあ、あたしがさせないが。

キョンもやれやれという感じの顔をしていた。

 

「よぉし!部室は確保できたし、あとは残りの部員ね!すでに四人揃ったから、あと一人欲しいところね!」

 

涼宮はとても楽しそうに話して……、てか、

 

「ち、ちょっと待て!その四人ってのは?」

「何よ、ここにいる四人だけど」

「おい!なぜあたしや長門が人数に入っているんだ!」

「あら別にいいじゃない。キョンと一緒でどうせ暇なんでしょ?」

「いや、あたしはそんな…」

「はいけってーい!」

「「ええぇ」」

 

思わずキョンと肩を落とす。

……はあ、なんか成り行きで部員にさせられてしまった。おそるべし、涼宮。

どうせキョンも同じように強引に連れてこられたに違いない。

長門は長門で、本に没頭してるし。

 

いったいこれからどうなってしまうんだろうか。

 

「それで?どういう部活にするんだ?部活名は?」

 

キョンが涼宮に訊いた。

そうだよ。涼宮はどういう部活を作るつもりなんだ?

 

「あ、それはたった今決めたわ!名付けて、『SOS団』!!」

「「SOS団!?」」

 

「そう!

S 世界を

O 大いに盛り上げるための

S 涼宮ハルヒの団!

どう?いいと思わない!?」

 

「………で、やることは?」

「それは、宇宙人や未来人、超能力者を見つけて一緒に遊ぶ事よ!」

「「!?!?」」

 

あたしとキョンは呆然として口を開けて、こいつは何を言っているんだという顔をした。

長門を見るとまったく気にしていないらしく、相変わらず本を読んでいる。

おいおい長門少しは反応しろよな。

 

また涼宮が話しだした。

 

「いい?これから毎日ここに来ること!来ないと、死刑だから!」

 

そうキョンとあたしに言いながら「今日は解散!」と豪語し、さっさと部室を出て行ってしまった。

 

 

部室内『……………パラッ………。』

 

嵐が過ぎ去ったとはこのことだ。しばらくは長門が本を開く音しか聞こえなかった。

 

「……な、なあキョン」

「な、なんだ?」

「なんで涼宮は、いきなり部活を作るなんて言い始めたんだ?」

「あ、ああー、それはだな……」

 

それからキョンは、今日の朝の出来事を話し始めた。

 

 

 

なんでも前に涼宮が学校にある全ての部活に仮入部して、すぐに辞めたという話を聞いたので(噂では聞いていたがマジだったとは)、面白い部活はなかったのか?と訊くと

『これだけの部活があれば一つぐらいは摩訶不思議な部活があってもよかったのに、期待ハズレにもほどがあるわ!』

と言ったらしい。

 

そこでキョンが『自分で作ってみてはどうだ?』と言ってしまったらしく、涼宮は目をキラキラさせて『その手があったわ!』と言い―――

 

 

 

「……今に至る」

「ああ」

 

キョンはやれやれとした顔をしていたが、

 

「事の発端はキョン!おまえじゃないか!」

「すっすまん!」

 

と言い、頭を下げて謝った。

キョンも悪気はないとわかっていたので、すぐに許した。

 

 

 

その後下校時間になり、あたしの右に長門左にキョンという並びで学校前の坂を歩いている。

 

はあ、いったいこれからあたしたちはどうなってしまうんだろうか。

 

まあ、キョンもいるし長門ともっと仲良くするのにいいか。

と思いながら、家へと帰っていった。

 

 

そんなあたしの楽観視とは逆に、涼宮の暴れっぷりはこんなもんでは終わらなかったのだ……。




登場人物紹介

・谷口
 中学は涼宮ハルヒと同じ東中。キョンと同じ1年5組。異性にランクをつける事が趣味?とりあえずいろいろとアホっぽい(キョン子から見て)。

・真田友輝(さなだ ともき)
 オリジナルキャラクター。1年6組で、どうもキョン子に気があるらしい。よくキョン子に話しかける。キョン子は軽く無視しているがそこに気づいていない。富豪である真田家のお坊ちゃま。友人関係は普通。


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第3章 朝比奈さん入団

キョン子「えっと、入部じゃなくて入団なんだな」
キョン「まあSOS団だしな……ってツッコミどころ違くね?」


ハルヒがSOS団なるものを立ち上げてから三日ほどが過ぎた。

ここ文芸部室、もといSOS団の部室は日に日に物が増えてきた。

 

最初はテーブルとパイプ椅子に本棚のみだったが、現在移動式ハンガーラックやロッカー、ホワイトボードなどなど……。さらに団長席というのもできた。

あ、団長ってのはハルヒのことだ。

 

ハルヒはどこからこんなものを持ってくるんだ?まあ、運んでくるのはキョンだがな。

 

 

え?なんでハルヒって名前で呼んでるかって?ハルヒに名前でいいと言われたからだ。

まあ、あたしだけでキョンには言ってないが。

 

 

今あたしはキョンとトランプでゲームをしていた。長門はいつものように窓際で本を読んでいる。

ハルヒは?というと、今日も団員探しだ。これといった団員が見つからないらしい。

平穏な時間を過ごしていると、部室の扉がバーン!と開いた。さすがにもう慣れてしまったその音を聞き、扉のところにいる我らが団長様を見る。

 

「見つけたわよ!新しい団員!」

 

そう言って一人の少女を引き連れて入ってきた。

 

「こ、ここ、どこですかぁ?なななんで私、ここへ連れて来られたんですかぁ?」

 

その少女はとてもおどおどしていた。たぶん、ハルヒに無理矢理連れて来られたんだろう。

 

それにしても女のあたしが言うのもなんだが、かっ可愛い。その顔は童顔で、見た目はまさしく天使のごとく。さらには……。

 

「新しい団員の朝比奈みくるちゃんよ!」

「えっ、えぇ!!な、なんでそう……」

「黙りなさい」

「ふえっ!」

 

ハルヒがそう言うとまたなんとも可愛らしい声をあげ、黙った。

 

「そっそれで、なんでこの人なんだ?」

「まったくダメねキョンは!見てみなさいよ!顔は童顔なのにスタイル抜群だし、このおどおどしたときの可愛らしい表情!所謂一つの萌え要素!我がSOS団のマスコットキャラクターにふさわしいわ!」

 

確かに、マスコットキャラクターとしては最高の人員だ。

 

「それに見てよ!」

 

ハルヒは彼女の後ろに回り、後ろから彼女の胸をわし掴んだ!

 

「えっ?ふ、ふえぇぇ!!」

「見なさいよこの胸!確実にあたしよりあるわ。背は小さいなのにどうしてこんなにあるのかしら……」

 

ハルヒはそう言いながら彼女の胸をモミだしていた。

おいおいまるっきり変態だぞ?ハルヒ。

 

まあ確かにその胸は大きい。ハルヒもなかなかあるがそれより大きい。

あたしは………ち、小さいからな……。

彼女は彼女で、

 

「や、やめてくださぁい!ははは、離してぇ!」

 

と、またまた可愛らしい声をあげ両腕を振っている。

 

「おい、もうやめろ。朝比奈さんも迷惑だろ」

 

キョンがそう言って、朝比奈さんとハルヒを離した。

 

「だいたい、勝手に連れ出して無理矢理団員に入れるな!しっかり彼女の話も聞いてやれ」

「わ、わかったわよ!みくるちゃん?何か部活とかに入ってる?」

「い、いえ。特に何も……」

「じゃあ、ちょうどいいじゃない!決定!」

「えぇ!」

 

 

と言うことで、成り行きで入ることになってしまった朝比奈さんだった。

なんでも朝比奈さんは、2年生だと言って驚いた。(胸を除けば)どう見ても中学生にしか見え……ゴホンッ!

すみません。朝比奈さん。

それにしてもハルヒは2年生の教室から連れてきたのか。相変わらずすごい。

 

 

 

朝比奈さんは今、なぜかある給湯ポットと急須でお茶を煎れている。

ハルヒは団長席に座って何やら考え事をしていた。

 

「お茶煎れましたぁ」

「「あ、どうも」」

 

2年生にお茶を煎れてもらっているなんて、普通は逆なんだがな。

飲んでみるとそれはもうとても市販のお茶をただ煎れただけとは思えないような感じで、おいしかった。

 

「どうですか?」

 

朝比奈さんが心配そうな顔で訊いてきた。

 

「あ、とてもおいしいです!」

「そうですか。よかったです」

 

そう言って、朝比奈さんは微笑んだ。

まさに、十人の男子がいたら十人とも振り向くであろう、なんとも可愛らしい笑顔だ。

キョンも目が糸目になってるし。

 

するとハルヒがいきなり机を叩いて立ち上がった。

 

「わかったわ!」

「な、なにがだ?」

 

キョンが恐る恐る訊くと

 

「何がたりないかわかったのよ!この情報化社会にパソコンの一台もないなんてありえないわ!我がSOS団にも一台必要不可欠よ!」

 

はあ、またなんかありそうだ。

 

「で、そのパソコンはどこから持ってくるんだ?あてでもあるのか?」

「何言ってるの?隣のコンピ研から一台もらうのよ」

 

やっぱりか。

 

「おい!いくらなんでももらうなんて……」

「うっさい!みくるちゃん、一緒に来て!ほらキョンも!」

「えっ、えっ?私も行くんですかぁ?」

「はあ、やれやれ」

 

ハルヒは朝比奈さんの腕を取ってズンズンと部室を出て行った。キョンもその後に続いた。

いやーな予感がするのはあたしだけだろうか。

 

 

ここは旧校舎なので建物が古いうえ隣との壁が薄く、耳を澄ましていると会話が聞こえてくるものである。

もうすでに部室に乗り込んでいるらしい。

 

「なんだ君たちは!?」

「パソコンを一台、我がSOS団に進呈しなさい!」

 

さすがにハルヒの声は丸聞こえである。

 

「そ、そんなの無理に決まってるだろ!」

「あ~らそう。だったら、みくるちゃ~ん?ちょっとこっち来てくれる?」

 

ん?ハルヒは何をするんだ?

 

「ひえぇ~~~~~~~!!」

「う、うわあぁぁ!」

 

すぐに朝比奈さんとコンピ研部長の悲鳴があがった。

 

…あー、なんとなくわかってしまった。ハルヒのやつ……。

何が起きたかは、みなさんのご想像におまかせします。(まあ、わかると思いますが。)

 

 

程なくしてパソコン一式を抱えたキョンとご機嫌なハルヒ、顔を真っ青にした朝比奈さんが戻ってきた。

朝比奈さん、……ご愁傷様です。

 

その後もパソコンのネットが繋がるようにコンピ研の部員の人たちが配線をセットしたりと、コンピ研の人たちはハルヒにこき使われた。

……ドンマイ、コンピ研部員。

 

ハルヒとキョンはさっそくパソコンにSOS団のサイトを作るため、いろいろと話していた。

朝比奈さんは、床に座りこみ顔をうつむいていた。

あたしは朝比奈さんのところまで行き、屈んでハルヒに聞こえないように話しかけた。

 

「朝比奈さん、だ、大丈夫ですか?」

「うう……だ、大丈夫ですぅ」

 

朝比奈さんの声は変にうわずっていた。

 

「あの……、ハルヒには後で無茶苦茶な事をしないようにとキョンが言うと思うんで。それに、嫌でしたら無理してここに入らなくてもいいんですよ?」

「い、いえ!せっかく部活に入ったので。がんばりたいと思います!ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「あ、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

なんて健気なお方だ。若干言うセリフ等を間違っている気がしないでもないが。これはあんまりハルヒに無茶をしないように言っておかないとな。

 

 

 

最近恒例になりつつある、長門が本を閉じる音で本日の活動は解散となった。

キョンはサイト作りを命じられさっそく明日の昼休みから作ることに。

 

ハルヒが帰る前にあたしに言った。

 

「あ、そうそうキョン子。明日部室に行く前にちょっと玄関に来てくれる?」

「な、なんでだ?」

「仕事よ仕事。じゃ、また明日ね」

 

そう言って、ハルヒは帰って行った。

 

ついにあたしにも仕事か……。いったい、何をするんだろうか。

疑問を浮かべながら、あたしは帰り支度をした。

 

 

 

「キョン子ちゃ~ん!」

 

キョン、長門、朝比奈さんの三人と玄関を出ると、ハルヒ並の元気な声で後ろから呼び止められた。

振り向くとそこには同じクラスの青木夏姫が明るい笑顔でこちらに手を振っていた。

 

夏姫は入学式の時からとても仲良くしていて、性格はハルヒ並の元気と明るさを持っている。

髪型がいつもツインテールで運動神経が良い。

最近はやたらとキョンについて話してくる。一目惚れしたらしい。よく相談してくる。

もちろん、この事はキョンには内緒だ。

 

「お~い、先行ってるぞ」

「ああ。後で追い付く」

 

そう言ってキョン、長門、朝比奈さんは歩き出した。あたしは夏姫を待ち来たところで一緒に歩き出した。

 

「ところでキョン子ちゃん。ユッキーはわかるけど、キョンくんの左隣の人は誰?」

 

夏姫は朝比奈さんをガン見しながら言ってきた。あ、ちなみにユッキーとは長門のことである。夏姫はそう呼んでいる。

 

「ああ、朝比奈さんって言って今日めでたくハルヒの部活に入った2年生だ」

「にっ2年生!?キョンくんは年上好きだったのか……、いやそれとも無口好き……。どっちにしろ、あの二人……キョンくんとずるい……」

 

ははは。さすがに嫉妬したりするのか。まあ、周りからしたらキョンはすごい状況だしな。美少女二人(朝比奈さんは言わずとも。長門も顔はきれいに整っているし、基準にしていいかわからんが谷口に言わせると長門はランクはAマイナーだそうだし)と肩を並べて帰っているだなんてな。

世の男子が泣いてうらやましがるだろう。

 

高校に来てからモテるな、キョン。いや、前からか。

 

「ところで、今日のSOS団?はどうだったの?」

 

まだ周りにはSOS団なんていう部活が出来たことすら知られてないが、あたしは夏姫にいろいろと話していた。

 

「ああ、またまた大変だったよ。あいつ(ハルヒ)の考えている事はまったくわからん」

 

あたしはやれやれと肩をすくめた。

 

「ご愁傷様だね。ちょっとでも涼宮さんに変なことされたら言ってね?私とんで来るから。一発かましてやりたいわ!」

 

なぜこんなにも夏姫はハルヒに敵対心を燃やしているかと言うと、キョンをあちこちに連れ回してこき使っているからだ。

改めてキョン、モテ期だな。

 

「じゃあ私はこっちだから。また明日!」

「ああ。また明日」

 

夏姫と別た後キョンたちのところに追い付き、そのまま帰った。

 

 

 

次の日の放課後。

昨日ハルヒに言われた通りに玄関に行くと、すでにハルヒは靴を履きかえて待っていた。

 

「遅い!」

「悪いな。というか、これからどこへ行くってんだ?」

 

靴に履き替えながら訊いた。

 

「ちょっとついて来なさい!」

 

そう言ってハルヒはあたしの手をつかんで、ズカズカと歩き出した。

ハルヒ、おまえ女子だよな?あたしと同じ女子だよな?なぜそんなにも歩幅が大きい。あたしは小走りしないと追いつかないぞ……。

 

連れて行かれたのはなんてことない、北高の校門前だった。

いったいここで何を?

 

「まだ来てないわね」

 

そう言ったハルヒは携帯を取り出して時間を確認しているようだ。

何が?と訊こうとした瞬間いきなり近くから車のクラクションが鳴り響いた。

 

「あ、来た来た!」

 

そう言ってハルヒはその車の方へと走って行った。

少し不思議に思いながらあたしも車のほうに近づく。

ハルヒの隣に立つとクラクションを鳴らした車はすぐに走って行ってしまった。

ただ、ハルヒの足もとには結構大きめのの段ボールが一つと大きな紙袋があった。

 

「えっと、さっきの車って……」

「ああ、知り合いの人。これ持ってきてもらったの。じゃあはい!これ持って!」

 

そう言ってハルヒは段ボールの箱のほうをあたしに持たせた。

そっちかい。

 

「お、おい!なんだこれ……。」

「いいから、早く戻るわよ!」

「ちょ、ちょっと待て!この荷物は…って!?」

 

あたしが段ボールを受け取ってハルヒを見ると、すでにそこにハルヒの姿はなかった。

早!

 

まったく、こういうのは男であるキョンを使えよな。まああんまり重たくはないけどさ。

あ、そうか。キョンはパソコンでサイトを作るって仕事があったっけ……。

 

重くはないといってもそれなりに大きい段ボール箱で運び辛いったらありゃしない。

少し時間はかかったが、なんとか部室前まで持って来ることが出来た。

部室の前に来ると扉の前にキョンが突っ立っていた。

 

「キョン、そこで何してるんだ?」

「ん?おお、キョン子か。いや、それがだな……」

「キョン!入ってきていいわよ!」

 

キョンが何か言おうとした瞬間部室内からハルヒの快活な声が響いた。

キョンが扉を開けたその先にいたのは……

 

「な、なんつー格好を…!?」

「どう?似合ってる~?」

 

なんとそこにはバニーガールの衣装を着たハルヒと朝比奈さんがいたのだ。

 

「あらキョン子。やっと来たのね」

「あ、ああ。そんな事より、なんなんだその格好は!?朝比奈さんまで…」

「これ?バニーよバニー!これでSOS団も注目の的よ!」

 

ああ、確かにな。変な意味で注目の的になりそうだ。

朝比奈さんのほうは少し涙目だった。大方ハルヒのやつに無理やり着替えられさせられたのだろう。

 

「さあ!行くわよみくるちゃん!」

「ふえぇ、ほんとに行くんですかぁ?」

「え?どこに行くんだ?」

「これからSOS団についてのビラ配りに行ってくるの。さ、みくるちゃん立って!」

 

そう言ってハルヒは朝比奈さんの腕を掴み先ほどの紙袋を持って部室を出て行った。

その時の朝比奈さんは助けを求めるような目でキョンを見ていたのだが、キョンは全くその場から動くことが出来なかった。

 

「おっおい、止めなくて大丈夫なのか!?」

「いや、止めたいのはやまやまなんだがあの涼宮をどうやって止めろと?」

 

まあ確かに、あたしも出来ないな。

 

「さっきから気になってたんだが、その段ボール箱はなんだ?」

「知らん。ハルヒに運んでくれって頼まれたものだからな。あんまり中身は見たくはない」

 

そう言いながらあたしは部室の隅に段ボール箱を置いた。

 

「うわっ!?」

「どうした?」

 

キョンの見ている方を見ると、なんとそこにはハルヒと朝比奈さんのものと思われる(というかそれしかない)制服と下着が床に散乱しているではないか。

 

「まったく、ハルヒのやつは……ってキョン!まじまじと見てるな!」

「あ、ああ。すまん!」

 

あたしはすぐさま床に散乱している衣類を拾い上げ、机の上に綺麗にたたんでおいた。

 

「それにしても、ハルヒはともかく朝比奈さんが心配だ。キョン、ハルヒはどこに行くって?」

「確か校門で配るって言ってたような…」

「あたしちょっと行って様子を見てくるぞ」

 

そう言ってあたしは校門へと急いだ。

 

校門へ行くとちょっとした人だかりがすでに出来ていた。

ハルヒは来る人来る人にビラを押し付けまわり、朝比奈さんはそのそばでSOS団!とか書かれたプラカードを持って立っていた。その顔はかなり恥ずかしそうだ。

 

と、そんなハルヒたちのところに血相を変えた教師たちがやって来た。

まあ、こうなるよな。

 

やって来た教師たちにやめるように言われたハルヒはそれはもう激怒。朝比奈さんは泣きだす。もう大変だった。

 

その後ハルヒはそのままの格好で指導室に連れていかれ、あたしは朝比奈さんを連れて部室へと帰って来た。

 

朝比奈さんは歩いているときもずっと顔をうずくめて泣いていた。朝比奈さん……先ほどはハルヒを止められず本当に申し訳ありません。

 

部室に戻った朝比奈さんは机に突っ伏してしまった。そんな朝比奈さんにキョンがそっと自分の制服の上着をかけていた。

 

 

 

それから一時間ほど経った。朝比奈さんは相変わらずうつむいていて、キョンは朝比奈さんを慰めていた。あたしはぼーっとして窓から空を見上げていた。長門は本をひたすら読んでいた。

長門、相変わらずだなおまえは。一度でいいから、長門が慌てふためく顔を見てみたいものだ。

 

しばらくして、いつものようにハルヒが扉を勢いよく開けて入ってきた。

ものすごい不機嫌らしい。

そりゃそうだろうな。

 

「あ~!腹立つ!!何なのよ!あんのバカ教師ども!」

 

ハルヒはズカズカと団長席へ行き、ドカッと座った。

 

「どうしたんだ?」

 

キョン、訊かなくてもだいたい想像はつくだろ?

 

「あんのバカ教師ども、まだ半分しかビラ配ってないのにやめろとか言ってきたのよ!腹立つ~!!」

 

そりゃそうだろうな。女子生徒が二人も校門でバニーの姿してビラ配りしてたんだからな。

 

「あ~もう!今日はもうこれでおしまい!」

 

そう言ってハルヒはまだキョンがいるのに、堂々と服を脱ぎ始めた。キョンは慌てて部室から出て行った。

 

「ほらみくるちゃん!いつまでもメソメソしてないでさっさと着替える!」

 

おいおいハルヒ人に当たるなって。また朝比奈さん泣き出すぞ。

朝比奈さんは言われるがままにとぼとぼと着替え始めた。

 

着替え終わったハルヒは入って来た時と同じように早足に部室から出て行った。

朝比奈さんはキョンにかけてもらったブレザーと鞄を持って、まるで大学入試で落ちた浪人生みたいに部室を出て行った。

朝比奈さん、本当にお気の毒様です。

 

 

 

次の日、SOS団の涼宮ハルヒと言う名は全校に広まった。まああれだけの事をやってのけたんだから広まって当たり前なんだがな。

また、ハルヒと一緒にキョンや朝比奈さんまでの名前も広まっていた。朝比奈さんは一緒にバニーガールをしていたからで、キョンはいつもハルヒと一緒にいるからである。

ちなみに、長門とあたしの名前はかろうじて広まっていなかった。6組内では注目の的だがな。

夏姫が朝話しかけてきた。

 

「ついにやっちゃったわね、涼宮さん。まあ、あんなことすれば当然だけどね」

「まあな。これからが大変だよ」

「せいぜい気をつけてね。そのうち、キョン子ちゃんのところにも厄介事持ってこられるわよ」

「ああ、気をつけるさ」

「ユッキーもね」

 

夏姫はあたしの隣にいる長門にも言った。

長門は小さく頷いた。

 

 

その日の放課後、ハルヒはパソコンの前で不機嫌な顔で唸っていた。

 

「もう!なんで一通もメール来ないのよ!みんな出し惜しみしてるんじゃない!?」

 

実は、ハルヒがビラ配りを始める前にSOS団のサイトはある程度出来上がっていたらしい。だったらあの段ボール箱もあたしじゃなくてキョンに……、まあ終わったことはいいか。

で、ビラにはSOS団に摩訶不思議な事を知っていたらサイトにメールをしてくれと言うような内容だ。

 

「あ~!なんでメール来ないの!!」

 

ハルヒ、そう簡単に『あ、私不思議なこと知ってます!』なんていうやつがいるほど、不思議なんてないんだよ。

 

「あれ?そういえば、みくるちゃんは?」

 

ハルヒがキョロキョロしながら言った。

 

「今日は休みだそうだ」

 

そう。今日朝比奈さんは学校を休んだらしい。確かに、昨日校門であんな事をしたんだ。学校に来たくなくなるだろう。もしかしたら一生ここ(SOS団)には来ないかもしれんな。

 

「あら、そう。せっかく違う衣装があるから着せようと思ったのに」

 

おいおい。またコスプレさせる気だったのか。まさか、あの段ボール箱の中身は全部コスプレ衣装か!?

 

「おいハルヒ、おまえが着ればいいだろうが」

「もちろん私も着るわよ。でもみくるちゃんに着て欲しかったの!」

 

長門に着てもらえばいいのに。長門だったら何の文句も言わず着るだろうし。長門のコスプレ姿か。なんか見てみたいな。

えっ?あたしはって?あ、あたしなんか絶対ダメ!!断固として断る!

 

 

それから下校時間まで、ハルヒはイライラしたままだった。

 

「帰る!」

 

そう言ってハルヒは不機嫌な態度で足早に部室を去っていった。

 

なあハルヒ、おまえは落ち着くって言葉を知っているんだろうか。そんなにいつもイライラしていると精神まいっちゃうぞ。

 

 

 

次の日の放課後、長門と部室に行くとなんと朝比奈さんが一日で復活していた。

 

「あ、こんにちは」

「こんにちは、朝比奈さん。もう大丈夫なんですか?」

「はい。ご心配おかけしました」

 

そう言って朝比奈さんは頭を下げてきた。

 

「い、いえ!そんな、頭を上げてください!」

「あ、はい。涼宮さんはまだ来ないんですか?」

「さあ。違うクラスなんで、もう来ると思うんですが」

 

そう言った瞬間、部室の扉がバン!と開いた。

そこにはやはりというかハルヒがいた。噂をすればなんとやらだ。

 

「み・く・る・ちゃ~ん!今日は来たのね!」

 

ハルヒがニターッとした顔をして言った。

 

「あ、はい!どうもご心配おかけし……」

「いいのよ別に!それより今日は、これを着てもらうわ!」

 

ハルヒはあたしが運んできた段ボール箱を開けて、中からメイド服を取り出した。

やはりその中身はコスプレ衣装だったか。

 

「ふえっ!えぇっ!」

「ほら早く!服を脱ぐ!」

 

ハルヒは無理矢理朝比奈さんの服を脱がし始めた。

 

「あ、いや!じ自分でしますぅ!」

「お、おいハルヒ!いくらなんでもそんな……」

 

そう言いかけた時だった。またしても部室の扉が開いた。そこにはキョンが!

キョンはビックリ、朝比奈さんは顔を真っ赤にして一瞬固まった。

 

「い、いゃやあぁぁ!!」

「ししししし、失礼しましたあ!!」

 

朝比奈さんが叫び、キョンはすぐさま出て行った。

その後も朝比奈さんは、ハルヒに無理矢理着せられながら、メイド服に着替えた。

 

「キョン~!入って来てもいいわよ~」

 

そう言われ、キョンが入ってきた。

 

「どうこれ?もう完璧でしょ!記念撮影しましょ!」

 

そう言ってハルヒは、どこからともなくカメラを出してきて、朝比奈さんを撮り始めた。

 

「ふえっ!?しゃ写真撮るんですかぁ!?」

「そうよ。ほらキョン!今度は私も入れて撮りなさい!」

 

そんな感じで朝比奈さんは写真をこれでもかと撮られまくった。

 

朝比奈さん、これからも何かとハルヒにいろいろやられるかと思われますが、一緒に頑張っていきましょう。




登場人物紹介

・朝比奈みくる
 北高の2年生。ハルヒにたまたま見つけられSOS団に連れてこられた。かなりのドジっ娘さんであるが容姿はかなり可愛い。スタイルも良い。SOS団のマスコットキャラクターでそのうち専属メイドさんになる。

・コンピ研部長
 文芸部(もといSOS団)の隣にあるコンピ研の部長。ハルヒに最新式のPCを持って行かれるというまあ被害者の方。たぶんもう出番はないかも。

・コンピ研部員
 コンピ研の部員たち。部長氏と同じく出番は(ry

・青木 夏姫 (あおき なつき)
 オリジナルキャラクター。1年6組。明るさとその活発さはハルヒに引けを取らない。キョンに好意を持っていてどうしようかよくキョン子に相談する。髪型がいつもツインテールなのが特徴。実は真田友輝とは幼馴染(という名のただの腐れ縁)だったりする。


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第4章 二人の転校生

キョン子「転校生ってのは学園ものにはありがちだな」
キョン「これでイケメンだったらもうやらせだな」
キョン子「一人は超イケメンみたいだぞ?」
キョン「……やらせだな」


あのバニーガール事件から数日が過ぎた。

すでに学校内では、SOS団という奇妙奇天烈な同好会があることを知らぬ者などいなくなっていた。

 

あれからあたし、長門、キョン、朝比奈さんは毎日律儀にSOS団に顔を出している。

朝比奈さんはあのメイド服を着せられた時にハルヒにこう言われていた。

 

『みくるちゃん!今日から部室にいるときは、ちゃんとこのメイド服を着るように!わかった!?』

 

それから毎日朝比奈さんはしっかりメイド服に着替えて団活動を行っていた。

朝比奈さん、そこまでハルヒの言い付けを守らなくても。まあ、もう慣れてしまいましたが。

 

 

そんな感じで、今日はもう5月の終わりの日。

キョンがいつもより遅く起きてきたので今日は先に登校。

あの強制ハイキングコースをいつものように上っていると、後ろから夏姫がやって来た。

 

「おはようキョン子ちゃん!」

「ああ、おはよう。朝から元気だな夏姫は」

「なぁに言ってんの!キョン子ちゃんは相変わらず朝テンション低いよ!もっと上げて上げて!」

 

そう言って夏姫は、背中をぽんぽんと叩いた。

その元気、半分あたしにくれないかな。

 

「あぁそうそう。なんでも今日うちの学年に二人も転校生が来るんだって。珍しいよね、こんな時期に」

 

へぇ、転校生か。確かにまだ新学期始まって二ヶ月経たないのに。まあ、親の急な転勤とかだろう。

 

「どこのクラスにくるんだ?」

「一人はわからないけど、もう一人はうちのクラスだよ。なんでもどっちかはかなりの美少年らしいわ。まあ、キョンくんに勝てる人なんていないけどね!」

「あ、あはは。そうか、一人はあたしたちのクラスか。おもしろそうなやつだといいな」

 

そんなたわいのない話をしているといつの間にか学校に着いていた。

 

教室に入るとまたいつものように長門は本を読んでいた。

 

「よっす、長門」

「…おはよう」

 

いつものようにあいさつを返しまた本に視線を戻した。

 

あたしは席に着くと何かがいつもと違う感じがした。

あたしの席は一番後ろの窓側から二列目に位置していて、当然ながら左隣は長門だ。

右隣には今まで席がなかったのに、席があった。

なるほど。転校生はこの席か。いろいろとこの学校について教えてあげないとな。

 

 

しばらくしてチャイムが鳴り先生が入ってきた。

 

「あー、知っているものもいるかもしれんが転校生を紹介する。早川!入っていいぞ」

 

先生の合図で、教室の扉がガラッと開いた。

入って来たのはちょっと赤みがかった髪で、身長はたぶんあたしより少し小さいくらいの男子生徒だった。

たぶん美少年ってのとは違う人らしい。あ、別に残念とかじゃないからな!

 

「早川諒(はやかわりょう)と言います。ちょっとした事情で、この学校に転校してきました。変わり者ですが、どうぞよろしく」

 

しゃべり方はなんか関西弁って感じが出ていた。

クラスから小さい拍手を受けながら早川はあたしの隣の席に座った。

 

「よろしく。あたしは〇〇。キョン子ってみんなから呼ばれてるから、そう呼んでくれていいよ」

「おお、よろしくな。俺の事は名前でも苗字でもいいさかい」

 

おお!いきなりめっちゃ関西弁。なかなかおもしろそうなやつだ。

 

 

今日の一日は転校生の早川の周りによく人が集まって早川に質問攻めをしていた。

早川は一つ一つの質問にしっかりと(関西弁で)答え、たびたび一人漫才的な事をしてクラスのみんなを楽しませていた。

一気に人気者だな。

 

早川はただおもしろいだけでなく頭も良かった。数学の授業時まったくわからないところを当てられた時、わかりやすく答えを教えてくれたのだ。

これはかなりの好印象だな。

 

 

放課後になり長門といつものように部室へと行った。

朝比奈さんもあたしたちのすぐ後に来ていつものようにメイド服に着替えた。

 

朝比奈さんが着替え終わりお茶を煎れているとコンコンと扉を叩く音がした。

まあ誰かはわかっているが。

 

「はぁい」

 

朝比奈さんが返事をするとキョンが扉を開けて入ってきた。

なぜわざわざドアをノックしたのかと言うと、前に朝比奈さんが着替えているところに入って来てしまったからだ。

それからキョンはノックをしてから入るようになった。

 

キョンは朝比奈さんに挨拶をしていつもの席(あたしの前)に座った。

 

「ハルヒはどうしたんだ?」

「ああ、なんでも転校してきた二人をSOS団に引き入れるとかなんとか言ってすぐに教室を飛び出て行ったが」

「へぇ、転校生をね……て、しまっったあぁぁ!!」

 

おもわず声を上げて叫んでしまった。

 

「どど、どうしたんですか?」

「い、いえ。転校生の一人があたしのクラスだったんですが、そいつにハルヒには気をつけろと言いそびれたんですよ……」

「お、おい。それってまずくな……」

 

キョンが言い終わる前に部室の扉がいつものようにバターンと開いた。

やはりというかそこには我らが団長、涼宮ハルヒが満面の笑みで立っていた。

 

「ィヤッホー!即戦力になる謎の転校生二人を連れて来たわよ!」

 

ハルヒはそう言って二人を部室に招き入れた。

 

「じゃあさっそく自己紹介をどうぞ!」

「あ、はじめまして。古泉一樹と申します。そして彼が」

「あ、ああ。ども。早川諒と言います」

 

なるほど。早川と一緒に転校生して来たのは、この古泉ってのか。

夏姫が言ったのは間違いないらしい。たしかにえらいイケメンがそこにいた。無駄に爽やかでスマイルな顔で。

 

「それで?なんで俺らはここに連れてこられたんや?」

「そうでしたね。涼宮さん、ここはいったいどういう部活をしているんですか?」

 

古泉が訊くと、ハルヒはまたまたニッコリとして答えた。

 

「ここはSOS団!S世界を…(以下略)で、団長が私涼宮ハルヒ!SOS団は、宇宙人や未来人、超能力者を探しだして一緒に遊ぶための部活よ!」

 

ここで早川は、この女子は何を言っているんだ?というような顔をしていた。

逆に古泉は、爽やかスマイルのまま。

 

「な、なかなか面白そうな部活やないか」

「でしょ!?で、今ここにいる四人は(あたしたちを指さして)団員その一・二・三・四!あなたたちで五・六人目よ!」

「はあ!?俺らはもう入ることになるんかい!」

「えぇ。そうよ?ダメ?」

「え、いや俺はやな……」

「いいじゃないですか諒くん。なかなかおもしろそうな部活ですし、一緒に入りましょう」

「い、一樹が言うんやったら、しゃあないな。俺も入ったるで!」

「よし!決定ね!」

 

 

そんな感じで新たに二人の団員を迎えて、七人となったSOS団だった。

 

今日の学校での活動は一旦終了となり、この後古泉と早川の家で二人の歓迎会(という名のただのお遊び会)をすることになった(でもなぜ二人の家なんだ?)。

明日は休みなのでまあ遅くなっても大丈夫だろう。

一度家に帰り、再び駅前に集合という事になった。

 

 

 

家に着いたあたしとキョンは、妹に見つからないように素早く支度をして静かに家を出ようとした。妹に見つかればどうせ『あたしも連れてって~』となってしまうからな。

支度を終え、母親に行ってきますと伝え家を出ようとした時だった。

どうやって嗅ぎ付けたのか、玄関に妹が仁王立ちで待ち構えていた。

 

「あ~、あたしをおいて遊びに行くつもりだったでしょう?」

「あーいや、別にそういうわけではないんだが…」

 

キョンが誤魔化そうとするがこうなっては妹が折れることはないだろう。

ダメだこりゃ。こうなってしまっては連れて行くしかない。

まあ妹一人ぐらいいても大丈夫だろう。

 

 

 

妹を連れて駅前に着くと、もうすでにみんなが待っていた。

 

「遅いわよ二人とも!……あら?その子は?」

「ああ、俺たちの妹なんだが……」

 

キョンが妹について説明した。

 

「まあ、別にいいわ。鶴屋さんもいるし」

「「鶴屋さん?」」

 

確かに、知らない顔の人が朝比奈さんの隣にいた。

 

「こちら、同じクラスの鶴屋さんです。ここに来る時にお会いして、それで一緒に行きたいとおっしゃったんで」

「やあやあ、みくるからみんなの事はよく聞いているよ。よろしくにょろ!」

 

鶴屋さんは膝ぐらいまである長くて綺麗な髪の持ち主で、なんだかとてもハイテンションなお方だった。でも……にょろ?

 

 

そして今あたしたちは古泉の案内で家に向かっていた。

なんでも家で早川と二人暮らしらしい。

 

というか、

 

「長門、みんな私服なのになんでおまえは制服のままなんだ?」

「……私服をあまり所持していない」

「そ、そうなのか」

「そう」

 

長門は坦々と答えた。

休日に出かける時でも制服のままなのだろうか……。

 

 

程なくして古泉と早川の家に到着。

二人暮らしにしてはなかなかの家だ。

 

「本当は父もいるんですがその父が会社の社長でして、仕事の都合上年に二、三回しか帰って来ないんですよね。まあ、仕事が父の生きがいみたいなものなんでしかたないんですが」

 

おいおい、仕事が生きがいかよおまえの父親は。

 

 

家の中に入りリビングに案内された。けっこう広い。さすがは父親が社長というだけある。うらやましい限りだ。

あれ?でも社長なのに都合で転校?……なんとなく誰かさんにツッコミたいがまあやめておこう。

 

その後は、女性陣は夕食作り、男性陣と妹はリビングで簡単な飾り付けと役割をした。正直言ってあたしも飾り付けが良かったんだがな。

自慢じゃないが、あたしは料理があまりできない。ほぼハルヒたちにおまかせした。

 

 

その後夕食が出来上がり、みんなで乾杯した後は古泉たちの話を聞いたり飲んだり食べたりとドンチャンと騒いだ。

古泉がどこからともなくカラオケセットを持って来て、ハルヒは何曲も熱唱したし朝比奈さんも巻き込んで踊ったりしていた。妹は鶴屋さんがずっと相手をしていた。妹はなぜかすぐに鶴屋さんに懐き、鶴屋さんも楽しそうに一緒に遊んでいた。鶴屋さん、ありがとうございます。

 

 

しばらくして、ハルヒと朝比奈さん、そして我が妹とその相手をしてくださった鶴屋さんは、疲れたのかいつの間にか寝てしまっていた。

 

「寝てしまいましたね」

「ああ、特にハルヒと朝比奈さんは歌いっぱなしだったからな。眠くなるさ」

「さて、残った人たちはどないする?」

「トランプとかはないのか?」

「ありますよ。じゃあ、ババ抜きでもしますか」

「いいね。長門もやるか?」

「…する」

 

こうして、五人でババ抜きを始めた。順番は、あたしから時計回りであたし→長門→キョン→古泉→早川の順番だ。

 

長門は運が良いんだか、最初の時点でたった一枚だった。あたしの手札から引いたカードが組になって、さっそく一位上がり。

あたしは最後までズルズルと残ってしまい古泉と一騎打ちとなった。あたしが3のカードを引けば勝ちだ。

こういう時は相手の顔と目をよく見ればどっちにババがあるかわかると言うが、古泉はあの爽やかスマイルのままで表情からは察知できない。

ええい、ままよ!

勢いよく引いたカードは「3」のカード。

 

「いよっしゃあぁ!」

「あぁ、負けてしまいましたね」

「おいおい、キョン子もうちょい静かにしとけ。ハルヒたちが起きちゃうだろ」

「あ、そうだったな。すまん」

 

高校生にもなってただのババ抜きに何を熱くなってるんだあたしは。

 

「しっかし一樹は相変わらずこういうゲーム弱いな。小さい頃から変わらんのう」

 

早川はトランプの束を整えながら言った。

 

「なあ早川。おまえはなんで古泉と一緒に住んでんだ?兄弟とかじゃないんだろう?」

 

最初から疑問に思ってて訊いてなかったことをあたしは訊いてみた。

あたしがそう訊くと、早川はトランプをきっていた手を止めた。

妙に顔が引き攣っている。見ると古泉もあの爽やかスマイルが歪んでいた。

 

「あ、いや、それはやな……」

「それは?」

「キ、キョン子さん、この話は……」

「いや一樹、話すわ」

「いいのですか?」

「ああ、どうせいつかは話さんといけんのやし。いつでも同じことやろ?」

 

ちょっと、訊いちゃいけなかったかな?

 

「えっとやな、実は俺小さい頃に親に捨てられてんねん」

「「「えっ!?」」」

 

お、思わず声をあげてしまった。あの無口で無表情の長門までビックリして声をあげるくらいだからな。

 

「す、すまない。つい声をあげてしまった」

「大丈夫や。それにそういう反応は当たり前や。声をあげるなってのが無理な話やしな。そんでぶっちゃけ言うと一樹の父親に引き取られて今はこうしてる。」

 

「捨てられたんは1歳ん時らしいな。とある孤児のための施設の前に捨てられてたらしいで。

手紙が一緒にあったみたいで俺の名前と生まれた日が書かれていただけで、親がどんなんかもわからんのや。あ、ちなみに早川って苗字は施設で付けられたもんや。

 

その施設で過ごしてから3年くらいして俺が4歳になった時や。その施設に来ていた一樹の父親に会ってな。そん時に引き取る言うてくれたんや。

 

詳しい理由は訊いたことないが、こうして今は暮せてるんや。ほんま感謝してるんや。

んで、まあ今に至るわけや」

 

「「「……………」」」

 

あたしもキョンも長門も、ただただ黙っているしかできなかった。

 

「おいおい黙り込まんでくれや。たしかに過去は辛いもんやけどそれほど昔のこと覚えてるわけでもないし、今は幸せなんやから。たくさん友達だって出来たしな」

「そうか。いや、なんか訊いて悪かったな」

「別に。気にするなて」

 

そう言った早川はなんでもなさそうに笑った。

 

 

「そろそろ9時になりますね。みなさんを起こすとしますか」

 

古泉が時計を見ながら言った。

 

「そうだな。片付けもしないといけないしな」

 

キョンはハルヒたちを起こし始めた。

さすがに妹は起きなかったので、キョンがおぶって帰ることに。

 

 

みんなで後片付けをして、玄関に出た。

 

「じゃあね、古泉くんに早川くん。また月曜に」

「お邪魔しましたぁ」

「またみんなで遊ぶっさね!」

「ええ。またみなさんで遊びましょう」

「ほな、帰り道気をつけてなー」

「ああ、じゃあな」

「また学校でな」

「………」

 

古泉と早川に各々別れを告げ、駅前までみんなで向かった。

 

 

 

「な、長門?顔が青いが、大丈夫か?」

 

長門がとても真っ青な顔つきで歩いているので、訊いてみた。

 

「有希?ホントに顔色悪いわよ!大丈夫?」

「……大丈夫、…平気」

 

全然平気そうに見えんぞ。

 

「あたしが家まで送って行く。いいだろ長門?」

 

長門は小さく頷いた。

 

「あたしも一緒に行きたいところだけどうちの親帰るのが遅すぎると何かとうるさいから悪いけどキョン子にお願いするわね。じゃあたしここだから、また月曜に」

「あ、えっと長門さんお大事に。私と鶴屋さんもここで、さようなら」

「みんな、バイバイ」

 

そう言って三人はそれぞれの道へと帰って行った。

 

「俺も付いて行こうか?」

「いやいいよ。キョンは妹をしっかり家まで連れてってやってくれ」

「ああ、帰りは気をつけろよ」

 

そう言ってキョンは妹を背負って帰って行った。

 

「さあ、あたしたちも行こう」

 

長門に話しかけると頷いて歩き出した。

 

 

こんな風に長門と二人きりになるのは初めてだった。

一回部室で二人きりだったことがあるが、それもたった数分だしな。

 

無言のまま歩き続けることしばらくしてどうやら長門の家に着いたらしい。

というか、長門の家はマンションだった。それもかなり高級感を感じるマンションだった。

長門は手慣れた手つきで、マンションの入口にあるボタンを押して扉を開けた。

 

「あたし、ちょっとお邪魔していってもいいかな?」

 

訊くと長門は頷いた。

 

長門の部屋の前に着き中に入る。一風変わった物でもあるのかと思っていたが、特に何もなかった。いや、むしろ何もなさすぎた。

リビングに入ってみても机と座布団が二枚、テレビがあるのみでほんとに生活できるギリギリの環境のみだった。

 

「……お茶、飲む?」

「あ、じゃあお言葉に甘えてもらおうかな」

 

長門はキッチンでお茶を煎れてあたしのところに持ってきた。

 

「ありがとう」

 

長門は頷いて答えた。

この時すでに長門の顔色はほとんど回復していた。

お茶を少し飲み長門に話しかけた。

 

「け、けっこうすっきりとした部屋なんだな」

 

また長門は頷いた。

 

「家族の人とかは?まだ仕事から帰って来てないのか?」

 

この質問をすると、また長門は顔色を悪くして言った。

 

「……いない」

「いや、いないのはわかるんだが」

「………最初からここには誰もいない。私一人」

 

……なんだって?長門は一人でここに住んでいるのか?

もしかして、長門の顔色が悪くなったのって……家族についての質問はタブーだと気づき、これ以上は話さなかった。

さっき早川の話を聞いた後なんだからすぐに気が付けよな、あたしの馬鹿。

 

……でも、長門は寂しいと感じていないのだろうか。この広い部屋で毎日一人で過ごして…。

また余計なお世話なのかもしれないけど、でも……。

 

「なあ長門、明日からの土日ここに泊まりに来てもいいか?」

 

気が付いたらあたしの口はそう言っていた。

長門は目を見開いてあたしの顔をまじまじと見てきた。かなり驚いている感じだ。

 

「あー、その…嫌ならいいんだ。突然で迷惑だったよな」

「……来てもいい。迷惑じゃない」

 

長門は首を横に振り答えた。

 

「ほんとか!?じゃあ、明日昼ごろに来るから」

 

長門は大きく頷いた。

自然と長門の顔が嬉しそうに見えたのは、あたしの気のせいじゃないといいな。

その日はそのまま長門の家を後にした。

 

「明日が楽しみだな」

 

そんな独り言を言いながら、家へと帰って行った。




登場人物紹介

・古泉一樹
 5月の終わりという中途半端な時期に転校してきた一人。容姿はかなりのイケメンと言って差し支えない。いつも笑顔が絶えない。かなりモテる。クラスは1年9組。

・早川 諒 (はやかわ りょう)
 オリジナルキャラクター。転校生のもう一人。少し赤みがかった髪。かなり関西弁が強い。小さいころに親に捨てられて今は古泉の親に引き取られて暮らしている。見た目からはあまりそう見えないが頭も良い。1年6組。

・鶴屋さん
 朝比奈みくるのクラスメイトで親友。いつもハイテンションな人。膝まで届く長くて綺麗な髪が特徴。少し言葉遣いが変と行ってしまえば変。良く言えばまあ独特。よく語尾に『にょろ』が付く。


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第5章 長門有希の過去

キョン子「朝倉涼子って5組の委員長だっけ?それでいて頭も良くて美人で人望あって…完璧さんか」
キョン「朝倉?……ああ、朝倉ね…」
キョン子「?なんだその顔は?」
キョン「いや、朝倉に何かされたとかそういうんじゃないんだけど…なんか苦手でな」
キョン子「…なんで?」
キョン「さあ?あ、朝倉にはこんなこと言うなよ」


土曜日、現在時刻午前11時。

リビングでしばらくテレビを見ていたあたしは時間を確認して立ち上がった。

そろそろ長門の家に向かうとするか。準備はもうバッチリだ。

 

玄関に行くと2階からキョンが眠たそうに下りてきた。

実はキョンは今さっきまで寝ていたのだ。

 

「ん~ん、ん?キョン子、朝からどこに行くんだ?」

 

はは、まだ寝ぼけているらしい。

 

「しっかりと時間を把握しろアホ。もう昼間だ」

 

あたしが言うと、キョンは時計を見た。

 

「うげ!?マジかよ。んで、どちらに行くんですか?」

「長門ん家」

 

靴を履き終えながら言った。

 

「長門ん家?」

「そ。いってきます」

 

そう言うと妹が出て来た。

 

「あ、キョンちゃんいってらっしゃ~い!ほらキョンくん、午後からあたしと遊ぶんだよ」

「はあ?なんで俺がおまえなんかの遊び相手にならにゃい…ぐは!?」

 

キョンは妹のタックルをもろにくらった。あれは痛いぞー。

 

「キョン、がんばれ」

 

そう言ってあたしは、家を後にした。

 

 

 

長門の部屋に着きインターホンを押すと長門がパジャマのような格好で出てきた。

おお制服姿以外の長門を初めて見た。さずかに寝る時は着替えるよな。

 

「よっ、長門」

「……入って」

 

言われるがままに部屋の中へと入る。昨日来た時となんら変わりない。まあ、当たり前のことだが。

リビングに座っていると長門は制服に着替えてきた。休日といえど家にいても制服なのか。

 

「お昼ご飯は?」

「あ、食べて来てないな。何か作るか?」

「大丈夫。もうすでに作ってある」

 

おおさすが長門。食べて来ないと予想済みか。まあ確かにあたしが作るとかになったらヤバかったからな。

長門が出してきたのはカレーだった。それも、なかなかのおいしさだった。

 

「おいしい?」

「ああ。とてもおいしいよ」

「そう」

 

そう言った長門はとても嬉しそうに見えた。顔はほぼ無表情なんだがな。なんとなく雰囲気が嬉しそうだった。

 

昼食を終え、後片付けをしリビングに戻ってきた。

さて、何をしようか。てかまあ考えてはあるんだけどな。

 

「長門、早速で悪いんだが、数学の宿題を教えてくれないか?」

 

そう言うと長門は頷き自分の部屋から数学のノートを持ってきた。あたしは持ってきた鞄から数学一式を取り出し机に広げた。

わざわざ遊びに来て勉強?と言われるとあれなんだが、長門と共通の趣味とかがまだわからないからな。勉強や話をしながら少しずつ訊いてみようと考えたわけだ。

 

それと実はあたしは数学が大の苦手だ。あの意味不明な数式は見るたびに頭が痛くなる。

ちなみに長門は、学年でトップ3に入るほどの天才だ。北高の一学年は一クラス大体36~37人で9クラスあり、全部で約330人いる。その中のトップ3なんだからすごいよな。

ちなみにそのトップ3の中にはハルヒも入っている。SOS団に二人も成績優秀なやつがいるなんてな。

と言うかなぜハルヒはあんなんなのに頭がいいんだ?なんか納得いかん。

 

 

それから約一時間、長門にわかりやすく教えてもらいながらやっと数学の宿題を終わらせた。

 

その後は長門がテレビゲームをやろうと言ったのでやることに。

長門がゲームを持っていたことに少しビックリしたが、その持ってきたゲームはだれでも一度はやった事があるであろうぷよ〇よだった。

あたしこういうパズル系のゲームは得意なんだよな(それでいて数学はできない)。あ、別に自慢じゃないからな。今までも家でキョンや妹とやってきたが、あまり負けた記憶がない。

長門がどれほどの腕前かわからないが、最初は手加減でもしようかなと余裕にしていたらそんな余裕なんかはすぐにすっ飛んだ。

なんと長門はものすごいテクニックで十連鎖なんか普通な感じにやってきたからだ。

 

これこそ見た目で判断してはいけないということのいい例だ。

 

くっ、長門の意外なゲーマーっぷりを知れて良かったが、このままあっさり負けるなんてのはあたしのポリシーに反する。ここは負けるわけには…って!もう負けてる…だと!?

 

それからあたしは奮闘するも、ことごとく負けていった………。

 

 

 

気が付いた時にはあたしは眠ってしまっていた。

ゲームの途中で力尽きて寝てしまったらしい。

 

画面を見ると、『20対3』と圧倒的に負けていた。

 

窓の外は空が紅く染まっていた。

長門のほうを見ると長門も同じく眠っていた。壁を背にして。

長門の寝顔も初めて見たな。なかなか可愛い。

 

そんな事を思っていると玄関のインターホンが鳴り、聞き覚えがある声がした。

 

「長門さ~ん、入るわね~」

 

そう言ってリビングに入って来たのは、1年5組の委員長である朝倉涼子だった。鍋を持って。

 

「あら、珍しくお客さんがいると思ったらあなただったのね」

「ど、ども」

 

鍋をテーブルの上に置き壁を背にして寝ている長門を見た。

 

「あらあら、長門さんは寝ちゃっているのね。どうりでいつもインターホンを鳴らすとすぐにドアが開くのに開かないと思った」

 

そう言って朝倉はクスッと笑った。

 

朝倉涼子。さっきも言ったが1年5組の委員長で容姿端麗、頭も良いらしく運動神経も抜群。

なぜ隣のクラスの朝倉をこんなによく知っているのかというと、実は体育は4・5・6組が合同になって行っているからだ。(もちろん男女別)

それに加えて長門とは同じ中学だたらしく、よく長門に話しかけているのだ。近くにいたあたしも自然と知り合いになったのだ。

 

「朝倉はどうしてここに?(てか鍋?)」

 

あたしは体を起こしながら訊いた。

 

「あ、私よく夕食は長門さん家で食べるのよ。私もこのマンションにすんでいるから」

「へぇ、そうだったのか」

「ええ。長門さんとは小学校の頃からの付き合いだから、よくここに遊びに来たりするのよ」

「え?長門とは小学校からずっと一緒なのか?」

 

そっか、朝倉は中学からでなく小学校から一緒なのか。

それならあたしがほんとに余計なお世話な考えだったな今回は。

 

「ええ。ちょっとした事情もあってね」

「ちょっとした事情?」

 

そう訊くと朝倉はもう一度長門を見た。まるで寝ているのを再確認したように。

 

「あなたには……」

「え?」

「ちょっと長門さんと私についてのお話、しようかな」

 

そう言って朝倉はあたしと向き直った。その顔はとても真剣だった。

なんだか同じような空気を昨日味わった気が。

 

「一つだけ約束してね。この事は誰にも話さないこと。もちろん長門さんに私が話したってこともね?長門さんには悪いけどでもあなたには知って欲しいことだから」

「…わかった、約束するよ」

「ありがとう」

 

そう言って朝倉は少しずつ話し始めた。

 

 

 

「さて、どこから話せばいいか。そうね、まず今の長門さんからは想像できないかもしれないけど、小さい頃小学校1年生くらいの長門さんはこんなに無口でもなかったし、無表情でもなかったわ。そうね、例えるなら今の涼宮さんを小さくした感じだったわね。あくまで雰囲気だけだけど」

「はいい!?」

「シー!あんまり大きな声出しちゃうと長門さん起きちゃうから」

「おっと」

 

そう言いながらあたしは長門の方を確認してみる。先ほどと変わらないみたいだ。

それにしても小さい頃の長門は、今のハルヒみたいだったって?想像がつかん。

 

「ね?想像つかないでしょ?」

「ああ、って心を読んだ!?」

「あなたの顔とリアクションを見てれば誰でもわかるわよ」

 

ああそうかい。

 

「話を続けるわね。そう―――――」

 

 

 

昔の長門有希は本当に元気で明るくて表情豊かな子だった。

今でもしっかりと鮮明に覚えていられるくらい、印象深いくらい。

朝倉涼子と長門有希はお互いの両親が仲が良かったこともあり、小さい頃からよく一緒になって遊ぶ友達だった。

長門有希の両親は二人とも同じ職場に勤めていていつも多忙であったが、一人娘だった長門有希のことはそれは大事にしていた。

 

そんな長門有希に突然『それ』は訪れた。

 

それはちょうど長門有希と朝倉涼子が小学校2年生になってしばらくの事だった。

とある場所にて交通事故が発生した。

その交通事故で長門有希の両親が亡くなってしまったのだ。

 

その事故の原因は飲酒運転。

決して長門の両親が飲酒運転したということではなくやってしまったのは相手側。

信号無視したあげく、長門夫妻が乗った車に正面衝突。その日は記録的な豪雨で視界も悪く避けることも出来なかった。

その日、長門夫妻は小学校にいる長門有希を迎えに行く途中だったらしい。

 

知らせを受けて病院に駆けつけた時はすでに長門夫妻は息を引き取った後だった。

 

その日から三日三晩長門有希は泣き続けた。

葬儀の時、赤く腫れ上がった目をした長門有希のことを朝倉涼子は今でもよく覚えている。

 

その後、長門有希は朝倉家に引き取られることになった。

長門家には親戚などがまったくいなかったのだ。

そこで長門夫妻と親しく同じ職場で働いていた朝倉夫妻が長門有希を引き取ったのだ。

 

それからしばらく長門有希は学校に行かなくなってしまった。

朝倉涼子やその両親は必死に励ました。

しかし、長門有希にはまったく聴こえていなかった。長門有希は本当に両親のことが好きだった。

 

それから一週間、二週間と時が経った。

最初の頃は学校の他の同級生も何度も励ましに長門有希のもとへやって来たが、結果は同じだった。

それからしばらくしてほとんど誰も来なくなってしまった。

しかし、たった一人だけいつも学校帰りに必ず来る同級生の女の子がいた。

実はその子も小さい頃に両親を亡くしていた。いろいろな話をして、少しずつだが長門有希の心の鎖を無くしていった。

それからしばらくして長門有希は、少しずつ学校に行くようになり元気も出るようになった。

 

その子とはそれからもいつも一緒にいて遊んだり、勉強したりしていた。その中に朝倉涼子も入って。長門有希はあの時の明るさを取り戻しつつあった。

 

そんな長門有希に、また『それ』は訪れてしまった。

 

本当に唐突に。

その時朝倉涼子は神様というものは本当に残酷だと思った。

 

 

4年生になった頃、長門有希はほとんど昔と変わらないほど元気になった。

本当にあの子には感謝していた。あの子と朝倉涼子とよく三人で遊んだり勉強したり、いろいろなことをしてきた。

 

そんなある日、学校に登校するとあの子の姿はまだなく風邪でも引いたのかと長門有希と話していた朝倉涼子だったが、担任の先生が青ざめた顔をして教室に入ってきた時、何か嫌な予感がした。

先生は、あの子が先ほど車にはねられて病院に運ばれたと言いだした。長門有希と朝倉涼子は勢いよく立ち上がり先生から病院の場所を聞き出して、直ぐさま走り出した。

 

病院に着いた時にはすでに遅かった。

 

 

あの子の保護者から後で聞いた事だったが、息を引き取る直前に長門有希と朝倉涼子に対して言った言葉があった。

あの子は

『ずっと一緒にいれなくてごめんね。今までとても楽しかったよ。ずっと友達だからね』

と最後に残していったそうだ。

 

 

 

「―――――それでね、案の定長門さんはしばらく学校を休んだわ。私もだけど。

それからよ。長門さんが無口で無表情になってしまったのは。引きこもりがちになって、いつも本ばかり読むようになったのは。

たぶん、もう親しい友達を作りたくないと思ったんでしょうね。自分から人を避けるようになってしまったの。私の勝手な想像でしかないけど、親しくなればなるだけ別れが辛くなるだけだって思ってるのかもね。

今の長門さんが無口で無表情なのはそういうことがあったから…」

 

時々自分でも拳をギュッとしながらも、朝倉は話し終えた。

 

 

………正直言って、あたしは何も言葉が出て来なかった。

長門や朝倉にそんな過去があったなんて………。

 

しかもだ。つい昨日、早川からも親に捨てられたと言う話を聞いていたのでなおさら言葉が出て来なかった。

 

やっと出た言葉は

 

「……でも、どうしてあたしに?」

 

そんな言葉だけだった。

 

「今の朝倉を見ててもすごい話してて辛そうだったし、あんまり話したくない感じにも見えたのに…それをなんでただの同級生である、あたしに?」

 

朝倉は少し笑顔を見せて答えた。

 

「別に、同情してもらおうと思って言ったわけじゃないわ。確かにこの話をするのもあなたが初めてだけどね」

「えっ?初めて人に話したのか?」

「ええ」

「なんであたしになんだ?」

 

再度訊いてみると、朝倉は懐かしい写真でも見るかのような顔で話し始めた。

 

「あなたが、そうそのあの子に……似ていたからかな」

「あたしが……か?」

「ええ。あなたとこうやって話すのは今日が初めてだけど、初めて話した体育の時のやり取りを覚えてる?」

「ああ、確かあたしがへばりそうで授業を受けていた時に『大丈夫?』って声をかけてくれたよな」

 

あたしは、約一ヶ月ちょっと前の事を思い出していた。

 

 

さっきも言ったが体育は4・5・6組合同で行われる。

その時は体力測定をしていた時だった。100メートルを二回も走らされ、へばりそうになっていたあたしに朝倉が声をかけてくれたのだ。

 

 

「そう。その時の仕草や雰囲気があの子に似ているなあと思って。しばらくあなたの事を見ていたわ。そしたら、長門さんに話しかける姿があの子にそっくりで。涙が出てきそうだった」

 

そう言って朝倉はニッコリとした。

そういえば初めて長門に声をかけた時、今思えば長門の顔はビックリとしていたかもしれない。

 

「最近の長門さん少し明るくなったなあって感じていたのよ。やっぱりあなたのおかげかな」

「そ、そうなのかな…。あたしはただ話しかけていただけだし」

「ううん、そんなことないわよ。ただそれだけのことだったかもしれないけど、長門さんにしてみたら嬉しかったことなのよ。だからあなたに一つお願いがあるの」

「なんだ?」

「これからも長門さんと仲良くしてあげてね?」

「っ!そんなの、当たり前じゃないか。ずっと仲良くするよ。もちろん、朝倉ともな」

 

く、なかなかクサイ言葉を言ってしまった。たぶん今顔が赤くなっているにちがいない。

朝倉も顔を赤くして涙目で「あ、ありがとう」と言った。

 

「あ、それともう一つ。長門さんの前から突然いなくなったりしないでね?もう、長門さんの悲しんでいる顔は見たくないから」

「ああ、約束する」

 

あたしがそう言うと、朝倉はニッコリした。

 

「ちょっと質問していいか?」

「何?」

 

なんで同じところで別々に一人暮らしをしているのか訊くと、長門が強く希望したらしい。

たぶん、誰とも接したくなかったのだろう。

 

また朝倉家に引き取られたのに、なぜ朝倉有希ではないのかと訊く。

これも長門の強い希望で、長門という姓を残したかったらしい。

 

朝倉の両親はどうしているのか訊くと、今は外国に働きに行っているらしい。

 

 

ああ、これでわかった。昨日の早川の話の後、長門が顔色悪くした原因が。

親に捨てられた早川を、突然親を失った自分と同じだと感じたんだろう。

 

気づくと窓の外はすっかり暗くなり、星が転々と輝き始めていた。

 

 

「さて、話す事も済んだし、夕食作りでもしましょうか。あなたも食べていく?」

「ん、ああ。あ、言ってなかったがあたし今日は泊りに来てたんだ」

「あら、そうだったの?ふふ、じゃあ長門さんを起こしてここの後片付けをしててくれる?私は夕食の準備してるから」

「ああ、わかった」

 

朝倉は持ってきた鍋を持ってキッチンへ行った。

あたしは長門を起こそうと長門の肩を揺すった。

 

「長門、そろそろ起きな」

 

すると長門は、目を薄く開いて起きた。

その時、長門の右目から涙が一滴流れ落ちた。

 

「な、長門!?どうしたんだ!?」

 

あたしは涙が流れたことにビックリした。まさか、さっきの話聞こえていたのか?

すると長門は涙を拭きながら答えた。

 

「……なんでもない。ちょっと怖い夢を見てただけ。……心配ない」

「そ、そうか。大丈夫か?」

「大丈夫、……平気」

「それはよかった。今朝倉が来ていて夕食作っているからさ、出来る前にここ片付けよう」

 

そう言うと長門は頷き、片付け始めた。

片付けながらふと思った。さっきの涙は、ほんとに夢によるものなんだろうか?もしかしたら、本当に話を聞いていたのかも。

でも確認のしようがない。

 

 

片付け終わる頃には朝倉も夕食の準備が終わり、食べることにした。

夕食は朝倉特製のおでんだった。ちょっと季節ハズレだなと思ったが、前言撤回!無茶苦茶おいしかった。

そこら辺にあるコンビニで売っているおでんよりも数倍おいしかった。もしかしたら、うちの母親が作るおでんよりおいしいかもしれん。

朝倉がどう?と聞くので無茶苦茶おいしいと答えると、嬉しそうにニッコリと笑い『ありがとう』と答えた。

 

 

夕食も終わり、後片付けをした。その後朝倉は明日朝から用事があるからと言って、自分の部屋へと帰って行った。

帰る時、あたしの耳元で小声で「今日は話を聞いてくれてありがとう」と言い、帰って行った。

 

朝倉が帰った後、あたしは長門がお風呂に先に入っていいと言うのでお言葉に甘えて入らせていただくことに。

 

湯舟につかりながらさっき朝倉から聞いた話を頭の中で整理していた。

 

……長門は辛い過去を抱えて生きて来たんだな。両親を亡くし、そのショックから立ち直らせてくれた大切な友達もまた事故で亡くして……。

はっ!朝倉は同情して欲しくて話したわけじゃないんだ。長門だってきっと同じ考えなはずだ。これ以上は、あまり考えないようにしよう…。

 

 

長門とお風呂を交代してリビングでバラエティ番組を見ていた。程なくして長門もあがってきた。

時間を見ると、もう10時を廻っていたので早いかもしれないが寝ることにした。

長門が入った部屋に入ると、布団が二枚敷いてあった。どうやらあたしが風呂に入っているときに敷いたみたいだ。

あたしが布団の中に入ると長門は電気を消し、自分の布団に入った。

 

 

 

しばし沈黙のあと、あたしは天井をみながら長門に話しかけた。

 

「今日は楽しかったな」

「……うん」

「朝倉のおでん、おいしかったなぁ。もちろん長門のカレーもおいしかったぞ」

「……ありがとう」

「数学の宿題も教えてもらったし、ありがとな長門」

「……別に」

 

また少し沈黙が訪れた。

なにか話題はないか考えていると、長門が布団から出て枕を持ち、あたしのところに来た。

 

「ど、どうしたんだ?」

「……一緒に…寝ても……いい?」

 

長門は恐る恐ると言う感じに聞いてきた。

 

「ああ、いいよ。ほら」

 

あたしはすぐにいいと返事をし、端に寄った。左隣に長門は入り込んだ。

 

やっぱり長門は寂しいと感じていたのかもしれない。人間誰しも、一人では生きてはいけないんだ。例え大の大人でも、周りに支えてくれる人がいるから生きていられるんだ。

まだまだ子供なあたしたちは特にそうだ。家族がいて、兄弟姉妹がいたり、親戚の従兄弟(従姉妹)などがいたり、なにより掛け替えのない友達がいるからこそ支えあって生きていけるんだ。

長門には、本当の両親や親戚がいないんだ。あたしがしっかり支えてあげるんだ。朝倉だっている。それに今は変な部活だが、SOS団だってあるんだ。みんながいれば長門はいつか心から笑える日が来る……とあたしは信じている。

 

「……狭くない?」

「いや、大丈夫だよ。長門こそ布団に入れているか?もっと寄っていいよ」

 

そう言うと長門は少し寄ってきた。

 

あたしはこの日のこの長門の顔は忘れないだろう。

長門の顔を見ると、すでに目をつむっていたが微かに微笑んでいたのだ。そんな長門を見ると、あたしもうれしくなる。

いつの間にか長門の手を握っていた。

長門もしっかりと握り返していた。

 

「おやすみ、長門」

「……おやすみ」

 

そう言ってあたしと長門は眠りの中へと落ちて行った。

 

 

 

翌朝。

目が覚めると、すでに長門は起きて朝食を作っていた。

食べ終わった後、片付けを終えて戻ってきた長門に話しかけた。

 

「なあ、今日はちょっと買い物でも行かないか?長門あんまり私服持ってないんだろ?一緒に行っていくつか買ってみないか?」

 

そう訊くと長門は少し考える仕草をしたが、すぐに頷いた。

 

「よし、じゃあ少ししたら行こう」

 

こうして今日は長門とお買い物となった。

長門に似合いそうな服をたくさん見つけよう。

あたしのセンスは……まあいいか。

 

 

支度をし、長門のマンションを後にした。

例によって長門は制服だ。あたしはあんまし女の子らしいとは言えない格好だったが、一応は私服だ。どうもあたしは女の子らしい服が苦手らしい。

言うと私服の半分ほどはジーパンなどで、スカート類は二、三着程度だ。

まあ、小さい頃からキョンとやんちゃなことばかりしていたからな。だから口調も男っぽいのかもしれん。

 

 

そうこうしているうちに、ショッピングモールへと辿り着いた。中へ入ろうとした時だった。後ろから聞き覚えのある声で呼ばれたのだ。

 

「あれ?有希とキョン子じゃない」

 

そ、その声は!

振り返るとそこには、我らがSOS団団長の涼宮ハルヒがいた。

 

「どうしたのこんなとこで?」

「いや普通に買い物だけど、ハルヒも買い物か?」

「あたし?あたしは今、宇宙人や未来人を見つけるために市内の探索中よ!」

 

おいおい、そんなことをせっかくの日曜日にしているのか。やれやれ呆れてものも言えんわ。

 

「休日はこうして探索しているんだけど、なかなか見つからないのよね~」

 

そりゃ当たり前だ。この世にそんなごろごろと宇宙人やら未来人がいたら、ものすごいことだ。

 

「あ!そうよ、せっかくSOS団があるんだから今度の土曜日はみんなで探索しましょ!」

キョン子「えっ!?いや、それは…」

ハルヒ「何よ~。良い考えだと思わない?一人で探すより、みんなで探したほうが見つける確率は上がるでしょ?よし!決定!」

 

おいおい、人の意見もまともに聞かないで勝手に決めてしまったぞ。

まあこうなったハルヒは止められないからな。

やれやれ貴重な休日が減ってしまうな…。

 

「あ、このことはまだ他の団員には内緒ね!特にキョンには!」

「わかったよ」

「それで?あなたたちは何を買いに来たの?」

「ああ、長門の私服とかを買いにな」

「へぇ、たぶん今日も暇になりそうだしあたしも付き合うわ!」

 

えぇ、マジすか。

ハルヒに振り回されそうだ…。

 

「さあ!そうと決まればさっそく入るわよ!」

 

ハルヒが先陣をきってモールに入って行った。

 

「はあ、長門。ハルヒがああ言っているが、一緒でもいいか?」

「…かまわない」

「そうか」

 

ハルヒを追いかけてあたしと長門もモール内へと入って行った。

 

 

 

最初は当初の目的である長門の私服選びのため洋服店に行った。

ハルヒは手当たり次第衣服を持ち出して長門に着るようにすすめた。そんな適当なと思ったが、試着室で着替えた長門を見るとそれはもう似合っていた。他の服も文句の付け所がないくらい似合っていた。

こういうとこはすごいセンスだなと、改めてハルヒに感心を持った。

 

「……似合う?」

 

ほぼ無表情な顔で聞いてきたが、どこか恥ずかしそうに長門は訊いてきた。

 

「ああ、とても似合っているよ」

「…そう」

 

長門は少し自分を見てそう答えた。

 

「当たり前じゃない!私が選んだ服よ!」

「ああ、そうだな。センスいいなハルヒは」

 

そう言うとハルヒはまるで太陽がそこにあるかのような輝きでニッコリと笑い、エッヘンと胸をはった。

 

「さて、有希のは決まったし今度はキョン子のね!」

「えっ?いや、あたしは別に…」

「いいじゃない!なんか私服が女の子らしくないわ!あたしがちゃんと選んであげるから!」

 

そう言ってハルヒは服を選びに行ってしまった。

数分もしないうちに三着ほど抱えて帰ってきた。

 

「さあ!早く着てみなさい!」

 

そう言って手渡されたのは、全部スカート系。

ええ…いやまあ……しょうがない、ハルヒのセンスにまかせる!

 

あたしは長門と交代して試着室に入り、着替えた。

着替え終わり自分自身を鏡に映すと、見慣れない自分がそこにいた。

そりゃそうさ。いつもダボダボなズボンやジーパンをはいていて、スカートなんか制服以外まったく着ないんだからな。

あたしはカーテンを開き、ハルヒと長門に見せた。

 

「ど、どうだ!にに、似合ってるか?」

「あら、なかなか似合うじゃない。ねえ有希」

「…似合うと思う」

「ほ、ほんとか?」

「ええ。私と有希が似合ってるって言うんだから。もっと自分に自信を持ちなさい!」

 

おお、ハルヒ。たまにはいいこと言ってくれる。

結局そのままその服を買うことになった。だがあまり高い買い物にはならなかった。ハルヒはしっかりと値段も見て持ってきていたのだ。その辺はさすがハルヒと言うべきか。

 

 

その後の買い物も、わがままなハルヒに振り回されると思っていたがハルヒがいたほうが賑やかに買い物が出来た。

もちろん、長門と二人だけでもよかったのだがハルヒがいる分会話が多くなってよかったと思う。

 

 

昼食を軽く食べた後、ハルヒは用事があるからと帰っていった。

 

「それじゃ、あたしたちも帰りますか」

 

長門は頷いてあたしの横につき歩き出した。

 

 

長門の家に着いた後はまた長門とゲームをしていた。今度はテ〇リスだ。

これまた得意ゲームの一つなんだが、また長門が強い!

ほんとにあの本ばかり読んでいる長門なのか?と思うくらいのテクニックでゲームをしていた。

なんにせよ、長門が楽しそうにしていればいいことさ。

 

 

 

楽しい時間とは無情にも早く過ぎるもので、空が紅く染まり始めた。

 

「さて、そろそろ帰らないと」

 

そう言ってあたしはすでにまとめておいた荷物を持ち、玄関へと向かった。長門が後ろからついてきた。

靴を履き長門のほうを向いた。

 

「じゃあな長門また明日。今度また遊びに来るからな」

 

長門は頷いただけだった。

あたしがドアノブに手をかけようとした時、長門があたしの袖を掴んだ。

 

「どうした長門?」

 

長門は少し黙っていた。その顔は無表情ながら目の奥で悲しげな雰囲気を放っていた。

そして言った。

 

「……ずっと、一緒に……いてくれると、……あなたは言ってくれた」

 

そう言った長門の右目から、一粒の涙が流れ落ちた。

 

「……本当に、ずっと……仲良くしてくれる?」

 

長門はそう力強く訊いてきた。

 

「……やっぱり昨日の朝倉の話、聞こえてたんだな」

 

そう訊くと長門は頷いた。

あたしは持っていた荷物を下に落とし、長門を抱きしめた。

 

「ああ、ずっと一緒にいる。いつまでも仲良く、友達だからな。長門…有希」

「……ありがとう」

 

そう言って長門はあたしの背中に手をまわして長門もあたしを抱きしめた。

 

 

 

こんな長門は初めて見た。

たぶん、こっちのほうが本当の長門なんだろう。

 

少しずつ、少しずつ長門を知っていってそしていつか、長門の本当の笑顔が見たい。

いや、あたしが長門を……有希を笑顔にしてあげるんだ。

 

 

あたしはしっかりと抱きしめ、ここにそう誓った。




登場人物紹介

・朝倉涼子
 1年5組のクラスで委員長。長門とは小学生の頃からの付き合いで所謂幼馴染。過去にいろいろとあり、長門とは戸籍上家族。容姿端麗でなんでもそつなくこなすすごい子。なぜかはわからないがキョンは苦手としてるらしい…。



~あとがきのようなもの~

どうも、作者のMy11です。
今回のお話、いかがでしたでしょうか?

実は、以前掲載していた部分と少し違う感じになっております。
前にも読んだことのある方ならすぐにお分かりいただけると思いますが、なぜ今回のようにしたか。

この話を以前書き上げてしばらく、後々読み直すとなんとなく(というより大幅に)直したいところが見つかり、今回の上げ直しの際に思い切って修正させていただきました。

ダメ文に変わりはないんですが、読みやすくなっていたら幸いです。


また、原作より朝倉や長門(他のキャラクターもですが)の雰囲気がなんか違う?と自分でも思いながら書いています。

そこはこれからも多々あると思いますが、ご了承のほどよろしくお願いします。

それでは。


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第6章 市内探索

キョン子「はあ、そういえば明日はあれか……せっかくの休日が…」
キョン「どうしたんだキョン子?」
キョン子「いや、なんでもない…」
キョン「?」

※金曜日の夜の出来事


長門の家に泊まってから早一週間が経った。

この一週間は楽しく過ごせたと思っている。

 

長門との会話が多少なりとも長くなってきたし、昼休みには朝倉とも一緒に弁当を食べ始めたりなどした。

長門はまだあまり表情を顔には出していないが、時折嬉しそうな雰囲気を感じたりした。

そんな長門を見てあたしや朝倉も微笑んでいた。

 

また早川や古泉ともすぐに打ち解けていた。二人ともかなりハルヒに対して柔軟な対応が出来るみたいでSOS団での日々を楽し気に過ごしているみたいだ。

 

 

 

さて、話は一週間経った土曜日の朝になる。

 

いつものように平日と同じ7時前に起きたあたしは、リビングに降りて朝食までテレビでも見ようかと思い部屋を出ようとするとあたしの携帯が着信を知らせた。

こんな朝早くから誰だ?と思いながらも、なんとなくわかっているような感じで携帯を取る。

案の定その予想は当たり通話ボタンを押した。

 

『あ、キョン子?今日はこの前話した通り、市内探索をするわよ!駅前に9時集合!遅れたら死刑だからね!あ、キョンにも私から電話するから』

 

それだけを言い、一方的に電話をきった。

……朝から元気だな~、ハルヒは。

 

 

そう、本日は祝?SOS団初の市内探索だ。

ハルヒの思いつきで市内を探索し摩訶不思議な出来事を探しだそう!と言うことになったのだ。

はっきり言って貴重な休日をこんな事には使いたくないのだが、ハルヒを止める術がないのでしかたがない。

 

 

下に降り、いつものように朝食をとった。早めに食べた後、一度キョンの部屋に行ってみる。

 

「おいキョン、まだ寝ているのか?」

 

ドアをノックしても返事がなかったので部屋に入ってみると携帯を手にしたまままだキョンは寝ていた。

いや、携帯を手にしているということは先ほどハルヒからの電話に出たということだろう。

 

「…んぁ?……なんだ、キョン子か」

「なんだじゃない。早く起きて飯食え。そうしないと遅れるぞ?」

「んー、ああハルヒのあれか。たく朝早くからなんなんだ…まだ間に合うだろ?」

「そうかい、じゃああたしは先に行くからな」

 

なんとなく嫌な予感がするからな。

時間は早いが遅れたら死刑と言われているので、キョンを待たずに家を出た。私服を着たんだがこの前ハルヒに選んでもらった服装にした。ちょっと恥ずかしい気もしたがせっかくハルヒに選んでもらったんだから、今日みたいな日に着て行くのがいいだろう。

 

我が家にはママチャリが一台だけあり、家族で使用していた。それに乗ろうかと考えたが、どうせキョンは出るのがギリギリになるだろうから残しておいてやろう。

 

 

歩いて駅前に行く。

集合時間の30分前に着くと、男性陣(キョン、古泉、早川の三人)以外はもう集まっていた。

 

「あら、ちゃんと私が選んだ服を着てきたのね。いい心がけよ」

 

そりゃどうも。

 

「キョン子ちゃん、おはようございまぁす」

「あ、朝比奈さん。おはようございます」

「…おはよう」

「おはよう、長門」

 

そう言いながら長門を見るとその姿は制服ではなく、ハルヒが選んだ服を着ていた。

やっぱり、似合ってるな長門。

 

「キョンは?」

「なかなか起きて来ないから置いてきた。まあすぐ来るだろう」

「あらそう」

 

 

程なくして古泉と早川の二人も到着した。

 

「いやーみなさん、おはようございます」

「ん~んっふぅあぁ~、おはよ~さん」

 

早川はいかにも寝起きですと言っているような顔で欠伸をしながら言った。

 

「もう少し早くここに着く予定だったんですが、なかなか諒くんが起きてくれなくて」

 

そう言いながら、いつもの爽やかスマイルの顔になった。

 

「しゃ~ないやろ、俺は朝めっちゃ弱いんやから」

 

早川もキョンタイプか。

 

「さて、後はキョンだけね。まったく、団員にあるまじき事だわ。こんなに遅いなんて」

 

そう言いながらハルヒは少し苛立ち始めた。

おいおいハルヒ。まだ集合時間まで20分あるんだからそんなにイラつくなって。

 

 

集合10分前になってやっとキョンが到着した。予想通りママチャリに乗って。

 

「遅い!キョン!」

「わ、悪い。でも、集合10分前なんだからまだ大丈夫だろ?」

「何言ってるの!SOS団は何があっても最後に来た人は遅いの!罰金よ罰金!」

「ば、罰金!?」

「そ。これからあそこの喫茶店に行くんだけど、みんなの飲み物代をおごりなさい!」

「な、なんでそんな……」

「それじゃ行くわよ!」

 

キョンの反論も聞かず、ハルヒは喫茶店へと向かった。

キョンはがっくりと肩を落とした。

 

「だから早くしろって言ったろ?」

「…なんてこった」

 

まあ、ドンマイとだけ言っておく。

 

 

 

喫茶店で各々が注文し飲み物を飲んでいると、ハルヒは脇に置いてあった爪楊枝を数本とり何やらいじり始めた。そして持った爪楊枝をテーブルの真ん中に突き出した。

 

「組分けをするわよ!三組のペアになって、それぞれで探索しましょう」

 

そして、一人ずつ爪楊枝を引いていった。

ペアは次の通り。

 

ハルヒ・長門・早川

キョン・朝比奈さん

あたし・古泉

 

できれば長門か朝比奈さんとが良かったのだが、ハルヒとペアにならなかっただけでもよかったと言えるだろう。

 

「いい、キョン!デートじゃないんだからね!遊んでたら死刑だから!」

 

支払いを終えて喫茶店から出て来たキョンに、ハルヒはそう言った。

 

「じゃあ、私たちは駅の北側、キョン子と古泉くんはショッピングモール内、キョンとみくるちゃんは駅の西側ね!」

 

そう言ってハルヒは長門と早川を連れてさっさと行ってしまった。

 

「なんでキョン子と古泉はモール内限定なんだ?」

「さあな。ま、ハルヒにこれ以上どつかれないようにしろよ」

「そうですね。涼宮さんがこれ以上不機嫌になると何か本当に起こりそうですし。ここはお互い、しっかりと探索とやらを行いましょう」

「そうだな。行きましょう朝比奈さん」

「はい」

 

そう言ってキョンと朝比奈さんは西側へと行った。

 

「それでは、僕らも行きましょうか」

「ああ」

 

 

さて、モールに着いたはいいがどうやって不思議を探すか。

とりあえず古泉とフラフラとした。

案の定、特に不思議な物などあるはずなく気づけばモール内を一周していた。

しかたないので、屋上にある休憩スペースへと足を運んだ。

 

ベンチに座りなんとなく空を見ていると、古泉が飲み物を買ってきてくれた。

 

「どうぞ」

「お、サンキュー」

 

古泉はあたしの隣に座りながら話しかけてきた。

 

「さて、どうしましょうか。何も見つからなければ涼宮さんのご機嫌を削ぐばかり」

「しょうがないんじゃないか?そんな簡単に摩訶不思議な事を見つけられるわけないんだし、ぶっちゃけハルヒだってあっさり不思議な事が見つかるとは思ってないさ」

「そうですね」

 

古泉はまた爽やかスマイルになった。

 

「なあ古泉」

「何でしょう?」

「おまえは昔からそんな丁寧口調なのか?」

 

あたしがそう訊くと、古泉は少し苦笑いになって答えた。

 

「ええ、そうですね。ここに来る前まではずっと関西に住んでいたんです。それで諒くんはあの口調なんですが、僕は父から丁寧口調にしろと言われていましてね。ずっとそうしていたら、こういう口調になってしまったんですよ」

「へぇ。そうだったのか」

「そういうあなたも変わった口調ですよね」

「え?まあ確かにな」

 

よく昔から言われていることだが、改めて言われるとなんかこそばゆい。

 

「少し失礼な事を言うかもしれませんが、少々男の子っぽい口調でいらっしゃいますよね」

「別にいいじゃないか。あたしはこのしゃべり方が一番しっくりくるんだ」

「そうですか。いえ、あなたがそうおっしゃるのなら特に何も言いませんが、やっぱり女の子らしさというのも必要かと」

 

古泉はさらにニッコリと笑顔を作った。

 

「う、うるさい!余計なお世話だ!」

 

あたしはそう言ってまた空を見上げた。たぶん今のあたしの顔は赤いに違いない。

古泉はまだニヤニヤとしていた。

 

その後は会話も落ち着き、他愛もない世間話をしていた。

すると、携帯が着信を知らせた。見るとハルヒからだ。

 

「はい」

『キョン子!?』

 

うお!?ハルヒ、声がでかい。耳から携帯を30センチ離しても聞こえるわ。

 

『さっき集まった駅前に、ただちに集合!今すぐよ!』

 

そう言ってまた、一方的にきってしまった。

 

「……はあ、だそうだ」

 

あたしはため息をつきながら言った。

 

「ええ、では行きましょうか」

 

すぐにモールを出て、駅前に向かった。ハルヒたちのところに着き、すぐしてキョンと朝比奈さんも到着した。

 

 

お昼になったし、昼食を食べながらまた組分けをするとハルヒは言った。

 

近くのファミレスに入り、それぞれが注文して昼食を食べた。

みんなが食べ終わると、またハルヒは爪楊枝を取り出して組分けをした。

ペアは次の通り。

 

ハルヒ・古泉・早川

キョン・長門

あたし・朝比奈さん

 

ここでハルヒが自分の爪楊枝を見てキョンと長門の爪楊枝を見、ものすごく不機嫌な顔になったというのは黙っていようかな。

 

 

「マジでデートじゃないんだからね!!ふん!」

 

そうまたキョンに言い残し、ハルヒは商店街の方へと行った。その後ろを古泉と早川は追いかけて行った。早川の方はまたハルヒと一緒かみたいな感じのうんざりとした顔だった。さぞかし午前中はあっちこっち連れていかれたのだろう。頑張れ早川。

今度の探索はハルヒ・古泉・早川は商店街、キョン・長門は駅の南側、あたしと朝比奈さんは駅の東側となった。

 

今度は事前に4時に駅前集合となっていたので、しっかり時間を見ていなくてはいけない。

朝比奈さんと話しながら歩いているとちょうどいいベンチがある公園を見つけたので、そこで時間を潰すことに。

 

さて、朝比奈さんと何を話そうか。

 

「さっきのハルヒの態度、朝比奈さんは気づきましたか?」

「涼宮さんですか?あ、あの組分けの時の?」

 

やっぱり朝比奈さんもわかりましたか。

 

「ええ。あれは明らかにあれですよね」

「そうですね。涼宮さんもキョンくんの事が好きなんですねぇ」

 

やっぱりそうですよね~。あの仕草は同じ組になれなくて悔しがっている顔だったから……て

 

「“も”ってなんですか!?もしかして、朝比奈さんもキョンの事が?」

「ふえっ!?ち、違いますよ!そそそ、そんな……」

 

そう言いながら朝比奈さんは顔を真っ赤にしていた。

そうなんだ、朝比奈さんもキョンの事が好きなんだ。

 

キョン、ほんとにモテモテだな。

 

「それで、朝比奈さんはあいつのどこを気に入ったんですか?」

 

あたしがそう訊くと、朝比奈さんはさらに顔を赤くして

 

「そ、そんなんじゃないんだってぇ」

 

と言った。

なんか見てて微笑ましいな。

 

「朝比奈さん、別に朝比奈さんが誰を好きであろうとそれは朝比奈さんの自由なんですから。まあ、たしかにキョンを好きと言うんならハルヒも好きみたいですしすごい相手ですけど、そんなことより人を好きになれるってこと自体がとてもいいことじゃないですか。あたしはそんな朝比奈さんが羨ましいです」

「そ、そうですかぁ?……そうですよね。ありがとうございます、キョン子ちゃん」

 

少し照れながら朝比奈さんはそう言った。

 

「いえいえ。でも本当に羨ましいです。あたし今までで誰かを好きになったりしたことなんてありませんでしたし」

「え!?キョン子ちゃんは誰かのことを好きになった事ないんですかぁ?」

「ええ。まったくもってありません。いつもキョンとやんちゃな事して、男子の中にいましたから。だから口調もこういう感じなんです」

「そうなんですかぁ。ふふ、でもキョン子ちゃんならいつかきっと素敵な人が見つりますよ。可愛いし」

 

そう朝比奈さんは微笑みながら言った。

 

「そ、そんな、可愛いだなんて……」

 

あたしは慌てて手を横に振った。

 

「ふふ。キョン子ちゃんは可愛いですよ。もっと自分に自信を持ってみてください」

「そ、そうですか?」

 

そう言って、顔が熱くなるのを感じた。

今日はほんとに顔を赤くしてばかりだな。

 

 

それからは朝比奈さんと楽しく話しながら残りの時間を過ごした。

キョンやあたしの幼い時の話や朝比奈さんの話などをして平穏な時間が過ぎていった。

ぶっちゃけ、不思議探しなどはまったくしなかった。

 

しばらくして時計を見るともうすぐ4時になるところだった。

なんだかんだで3時間ほども朝比奈さんとおしゃべりしてたみたいだ。

 

「そろそろ時間ですね」

「あ、ほんとだ」

「じゃあ駅前に戻りましょうか」

「そうですね、行きましょう」

 

そう言ってあたしたちは駅前の集合場所に向かった。

 

 

到着すると、ちょうどハルヒたちとも一緒になった。

 

「どう!?何か不思議な事は見つかった?」

「いーや、さっぱりだ」

 

そうあたしが肩をすくめながら言うと、ハルヒは少し不機嫌な顔をしたが

 

「キョンと有希を待ちましょう」

 

と言って近くのベンチに座った。

 

「そっちはどうだったんだ?」

 

特に意味はないが近くにいた古泉に訊いてみた。

 

「こちらも特に何も。商店街にある一つ一つのお店を見て回り、小さな裏路地を覗いたりなどいろいろしましたが何の発見にも至りませんでした」

「たく、ほんまくったくたや。一日涼宮に振り回されたんやからな」

 

そう言って早川は大きなため息をついた。

ほんとお疲れ様。

 

 

あたしと朝比奈さんが駅前に着いた時間は4時10分前。キョンと長門もすぐに来るだろうと予想していたのだが、なかなか戻って来なかった。

ハルヒがだいぶイライラし始めた。

キョンはたしかに時間を忘れて寝てしまうようなやつだが、長門はそんなことないだろう。何かあったのか?

 

4時になりいっこうに来ない二人に痺れを切らしたらしく、ハルヒが携帯をとってキョンに電話をかけた。

 

意外にも早く電話に出たみたいだ。

 

「今何時だと思ってるのよ!!」

 

ハルヒ、そんなに大声を出さなくても十分向こうには聞こえているよ。

『……………』

「はあ!?何考えてるの!早く来なさい!30秒以内!!」

 

そう言ってハルヒは勢いよく電話を切り、腕組みをしてまた不機嫌な顔になった。

 

「ハルヒ、キョンは何だって?」

「ふん!寝ていたって言ってたわ!あたしの電話にでるまでね!!まったく、団員としてあるまじき行為だわ!」

 

やっぱりか。どうせそうだろうと思ったよ。

でもなんで長門もいたのに、キョンは寝過ごしたんだ?

 

 

それからしばらくなかなかキョンと長門は現れず、ハルヒは何回も電話をかけたがキョンは出なかった。

 

10分ほどしてやっと二人がやって来た。

 

「遅い!!」

「わ、悪いハルヒ。実はだな……」

「言い訳は聞きたくないわ!だいたいあんたはねぇ、……」

 

ハルヒはキョンに説教をし始めた。キョンは謝りっぱなしだった。

ふと長門を見ると、一冊の分厚い本を抱えていた。

 

なるほど。だいたいの予想はついた。

 

 

その後、ハルヒの長々しい説教が終わり今日は解散となった。

 

「明後日の部活は今日の大反省会だからね!」

 

そう言ってハルヒは帰って行った。

あたしたちもその場で別れ、それぞれの家へと帰って行った。

 

 

あたしはキョンが乗って来たママチャリの後ろに乗せてもらっていた。

その時なんで遅れたのかを訊いてみると、やはり予想通りだった。

 

長門と暇つぶしするなら図書館だろうと考えて、図書館に行ったらしい。長門はすぐに図書館の奥へ、キョンは適当に本を取りソファでゆったりしているといつの間にか寝てしまったそうだ。

ハルヒから電話で目が覚めたらしい。

 

その後が大変で、長門を見つけたはいいがなかなか本を離そうとせずにその場からてこでも動かず、わざわざ図書カードを作ってその本を借りてやっと出れたそうだ。

 

確かに、その長門のタイムロスは手痛いが、結論から言うと寝てしまったキョンの自業自得というやつだな。

 

「ま、次回以降の市内探索ではこんなことがないように気をつけろよ」

 

あたしはキョンの背中を見ながら言った。

 

「ああ、わかって……ってまた今日みたいなことをするのか!?」

「やるんじゃないか?今日はなんにも収穫なかったし、ハルヒはほぼ毎週やってるらしいしな。だから次回また罰金!なんて言われないように早く起きる事だな」

「……はあ~、わかったよ。やれやれ」

 

キョンは大きなため息をついた。

 

「そんなため息ばっかりついていると、ストレス溜まるぞ」

「……うっせ」

 

そう言うとキョンは、おもいっきりチャリを漕ぎ出した。




~あとがきのようなもの~

どうも、作者のMy11です。

今回のお話はどうでしたでしょうか。

今回の話は特に重要となるようなことはありませんですハイ。
なんとなくこの話は入れとこうかなあと思って入れた話でした。

たまにこういうほんとにほのぼのとした話が入ると思います。

それではまた、読んでくださるととてもうれしいです。


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第7章 白熱!球技大会

キョン子「キョン、今回のテストはどうだった?」
キョン「……訊くな…」
キョン子「…そうかい」

※もうお分かりかもしれませんが原作とはかなりかけ離れてきます。


7月下旬、期末テストも終わりあたしは今部室でいつものようにキョン、古泉、早川とカードゲームをしていた。

朝比奈さんもいつものようにメイド姿でお茶を煎れ、長門もいつものようにいつもの場所で本を読んでいる。

 

いたって平穏だ。

 

え?ハルヒはって?

ハルヒなら、たぶんそろそろ部室の扉を勢いよく開けて厄介事でも……

 

バターーン!!

 

ほら、噂をすればなんとやら。ハルヒのご到着。

 

「ヤッホ~~!みんないるわね!」

 

そう言いながらハルヒは扉を閉め団長席に座った。

 

「さてキョン、あたしが何を言おうとしているかわかるかしら?」

「さあな。おまえが考えていることなんかわかりたくもないが」

「まったく、キョンはダメね。だからいつまでたっても平団員なのよ。古泉くんをもっと見習いなさい!」

 

なぜ古泉を見習えとなるかと言うと、どういう理由でそうなったのかは忘れたが古泉が副団長に任命されたのだ。

そんな事はどうでもいいんだがな。

 

立場的には今

 

ハルヒ>古泉>朝比奈さん=長門=早川=キョン=あたし

 

なのだが、実質は

 

ハルヒ>古泉=朝比奈さん=長門=早川=あたし≧キョン

 

という感じだ。

 

古泉は実質、あたしたちとなんら変わりはない。

ハルヒはキョンばかりを雑用係としてこき使うので、キョンは実質一番下っ端的な存在になっているのだ。

 

ま、それも今は置いといて。

 

「それで、何を考えているんだ?」

 

そう訊くとハルヒは、満面の笑顔で答えた。

 

「決まってるじゃない!明日行われる球技大会についてよ!」

 

ああ、そうかもう明日に迫っているのか。

 

「ついにやって来たわ!もう、待ち遠しくって!」

 

そう、明日は一日北高内で球技大会が行われるのである。

 

行う競技はそれぞれの一般的なルールを使う。

競技は、バスケットボール・バドミントン・バレーボール・フットサル・ソフトボール・卓球と、六種目の中から一人一種目のみ出場が可能。

出場方法はそれぞれのクラス内でチームを作ったり(クラスが違う場合も可能)部活内で作ったりしてエントリーすることができる。

ちなみに、バスケは交代なども可能で五人以上一組、同じような理由でバレーは六人以上一組、フットサルは五人以上一組、ソフトボールは九人以上一組、バドミントンはペアの作れる二人以上で一組、同じく卓球も二人以上一組である。

これだけあると一部に競技人数が集中してしまったりする場合もあるみたいだが、参加数が少ない競技は全チーム総当たりなどして順位を決定するらしい。

 

もちろん、自分が所属している部活の競技には参加できない。野球部は野球の親戚のようなソフトボールには参加できないみたいなことだ。

 

だってそうたろう?

もしバレーとかバスケなんかにバリバリの部活をしている人たちがいたら勝てる気がしない。

ハルヒは別だが。

 

 

そんなこんなであたしたちハルヒ率いるSOS団は、バレーボールに参加することになっていた。

 

ハルヒは『全種目に出場してタイトルを総なめよ!』なんて最初は言っていたが、キョンやあたしの必死な説得にしぶしぶ了承し、最終的にバレーボールということになった。てかルール上一種目しか出られないからな。

 

「いい!?昨日までしてきた練習をしっかり覚えていなさい!今日は明日のために体を休めるため練習はしないけど、イメトレくらいしなさいよ!」

 

そう、実は昨日までの一週間ほどあたしたちは学校が終わると近くの体育館でハルヒによってバレーボールの特訓をさせられていたのだ。

おかげで毎日あたしは筋肉痛に悩まされた。テストが終わってすぐに特訓に入ったおかげでテスト疲れと筋肉痛で体が悲鳴をあげていたが、なんとか堪えたのだ。

 

その練習も昨日、意味のないものへと変わってしまったが。

 

 

実は、昨日バレーボールの特訓をしていた時に鶴屋さんが突然訪れたのだ。

話を聞くと、バレーボールに参加したかったのだがクラスで参加する人がいなかったらしい。

 

「そこで物は相談なんだけどっさ、ハルにゃんたちのチームにまぜてくれないっかなあと思ってね」

「あたしはいいわよ。みんなは?」

「「いいんじゃないか」」

「大歓迎です」

「俺もええと思うで」

「涼宮さんがいいんなら僕もいいと思います」

 

長門は頷いて答えた。

 

「それじゃあ、鶴屋さんをチームに入れましょう!」

「みんなありがとうにょろ」

 

こうして鶴屋さんがチームに入った。

鶴屋さんは何でも出来る方だと薄々感じてはいたが、それはもうとても上手かった。

 

出場が可能なのは六人以上(交代可能)ということにはなっていたが、朝比奈さんは最初からマスコットキャラとして応援する事が決まっていた。

 

ハルヒは言うまでもなく全試合出るだろう。

鶴屋さんもとても上手なので決まり。

キョンと古泉は身長があるのでバレーボールにはむいてるので外せない。

早川は身長は小さいながらも動きが俊敏で運動神経抜群なので代わることはないだろう。

 

残るはあたしと長門なのだが、あたしが……これが全くできないというか…完全な足手まといなのだ。

まだ朝比奈さんの方が上手いんじゃないかというくらいだ。ハルヒもあたしのプレイを見て朝比奈さんと代えようか最後まで考えていたようだが、鶴屋さんがチームに入ったのであたしはお役御免となった。一応登録はされているが出場はないだろう。

というわけで最後の一人は長門である。

それに長門はなんでもそつなくこなせて器用だったからな。

 

「しかたないわねキョン子。あなたもみくるちゃんと一緒に応援しなさい!」

 

 

と言うわけで練習した意味がなくなってしまったわけだが、はっきり言って内心ほっとした。

ハルヒに怒鳴られながらプレイするのは嫌だからな。

 

 

その後、鶴屋さんが部室を訪れハルヒと作戦会議みたいなことをしていた。

あたしたちは何の変わりもなくいつも通りに過ごし、放課の時間になったので帰った。

 

明日、朝からあんな事になるなんて思いも知らず。

 

 

 

次の日の朝、球技大会の開会式が終わりそれぞれの競技が行われる場所へと移動していた時だった。

ハルヒに呼び止められて向かった先は女子更衣室。朝比奈さんも呼ばれていた。

 

「ハルヒ、なんなんだ?こんな所に呼んで」

 

あたしがそう訊くと、ハルヒはニヤッとした。そ、その笑みは……嫌な予感が…

 

「当然、二人に着替えてもらうために来たのよ」

 

まあたしかにここに来る理由はそんなだろう……て、きっ着替える!?

 

「ちょっ、ちょっとまて!なっ何に着替えるんだ?」

「何って、これに決まってるでしょ!」

 

そう言ってハルヒは、さらにニッコリしながら持ってた紙袋から服を取り出した。

 

「チアガール~」

「「えぇ~~~~~~!!!」」

 

あたしと朝比奈さんは叫んだ。

 

「当たり前でしょ?応援と言ったらチアガールでしょう」

 

ちょっと待てハルヒ。朝比奈さんはともかく、あたしがそんなモン着てみろ!絶対何人か笑う!特にキョン。

 

「すっ涼宮さん、そういうのって着ていいんですか?球技大会なのに」

 

朝比奈さん!ナイス発言!そうだよハルヒ。こういう時にこういうのは着ちゃ……

 

「あ、その辺は大丈夫よ。生徒会に訊いたら競技に出場する人は原則体操着だけど、出場しなければコスプレなんかは可能だって許可をもらってるわ!それに毎年そういうのがいるみたいよ」

 

なっなんてこった!生徒会からオッケーが出てるって!?そんな……

横にいる朝比奈さんは、観念したかのようにハルヒから衣装をもらい着替え始めた。

 

「ほら!キョン子も着替える!」

 

そう言ってハルヒはあたしに衣装を押し付けた。

くうーーー、もうどうにでもなれ!!

あたしも朝比奈さんに見習って着替え始めた。

 

 

「みんな~、おまたせ~!」

 

そう言ってハルヒは、あたしと朝比奈さんの腕を引いてみんなが集まっているところに連れてきた。

 

「おお~!みくるにキョン子ちゃん!めがっさ似合ってるじゃないか~」

「本当ですね。お似合いですよ」

 

鶴屋さんと古泉は絶賛してくれた。長門を見ると、ジーッとあたしを見ていた。

 

「な、長門、あんまりそんな見ないでくれ。恥ずかしい」

「…とても、似合っている」

 

長門は、無表情なまま言った。

 

「そ、そうか?ありがとう」

 

そう言うと長門は頷いた。

長門にそう言われると少し恥ずかしかったが、うれしかった。

それに対してキョンと早川は

 

「…くっ…キ、キョン子…ぷっ…とても、似合っているぞ…なあ、早川」

「そ、そやな。…ぷっ…に、似合ってるで」

 

と笑いを押し殺しながら言った。

あたしはニッコリとしながら二人に近づき

 

「それはどうも!」

 

と言って、二人の足を思いっきり踏んづけておいた。

 

「「痛あ!!」」

「ふん!」

 

 

さて今回のバレーボールだが最初に各チームの代表者一名がステージ上でくじを引き、トーナメントの対戦相手を決める。

運が良いのか悪いのか我らが団長のハルヒが引いた対戦相手は、なんと今回優勝候補の3年生チームに決まったのだ。

その3年生たちはそれぞれの部活で輝かしい活躍をしていて、みな運動神経がハンパなく良いと有名だった。

6月に行われた体育祭では彼らがいる組はそれはもう強かった。

 

そんな相手と一回戦に当たるのに、ハルヒはこう言ったのだ。

 

「最初からなかなかの試合が出来そうね。」

 

と余裕の表情で言ったのだ。

確かに、ハルヒにはそれほどでもない相手なのかもしれないが他の人は違うのだ。早川なんか相手が決まった瞬間、顔を真っ青にして倒れそうになったくらいだ。

 

いや、たった一人だけは違った。

鶴屋さんだ。

 

「おお。あの3年生たちになったかあ。これはやりがいがあるにょろねえ」

 

と、鶴屋さんはやる気満々で目が燃えていたのだ。

 

 

試合は一番最後になっていたのだが、朝比奈さんといろいろと話しているうちにあっという間に試合の時間へとなった。

 

 

試合は準々決勝までは15点制で2セット先取の勝ち。

準決勝は25点制で2セット先取の勝ち。

決勝は25点制で3セット先取の勝ちとなっていた。

 

 

さあ試合が始まったわけだが、他生徒たちが予想した通り3年生チームが第1セットを15対3で圧勝した。3年生チームはそれはもう余裕の表情。

対して我らSOS団の(ハルヒ・鶴屋さんを除く)六人は、真っ青な表情。でもなかった。

 

なぜなら、我らが団長様であるハルヒと鶴屋さんがまったく本気を出していなかったのだ。

なぜ本気じゃないか分かるかって?そりゃあの特訓をしていればわかる。

 

「ハルヒに鶴屋さん。な、なぜ手を抜いているんでしょうか?」

 

みんながその質問にうんうんと頭を振った。古泉だけはいつもの爽やかスマイルだが。

 

「なぜって、おもしろくないからじゃない」

『はあぁ~!?』

「最初から本気でやらないで、相手を有頂天にさせておくんさ」

「そうよ!それで、天狗になっているあのチームを2セット目からぎたんぎたんにするの!これであの人たちのプライドもずたずたよ!」

 

そう言ってハルヒは、燃えに燃えていた。

それはなぜか。その理由を訊くと、体育祭の時に相手の3年生チームにいる一人と障害物レースで争ったのだが、ごくわずかの差で負けてしまったのが悔しかったらしい。その時の3年生のドヤ顔が今でも思い出せると。

 

つまりリベンジと言うわけなのだが、ただ打ち負かすだけではおさまらないらしく最初は有頂天にさせておいて最高まで上がった自信とプライドを地獄の底へと叩き落とすと言うことだそうだ。

昨日の作戦会議は(相手がその3年生チームだった場合)これのことを話していたと鶴屋さん。

どうやら、鶴屋さんもあの3年生たちに負けた事があって相当悔しかったらしい。

 

そんなにうまくいくのかとあたしは思ったのだが、そんな疑念はすぐに吹っ飛んだ。

 

なんと第2セット

0対15

とSOS団が相手に1点も取られずに勝ったのだ。

 

ハルヒと鶴屋さんは練習時に比べて段違いの力を見せ、ほとんど二人だけでポイントを取ったのだった。

 

この結果に観戦していた他生徒たちは唖然呆然。

相手チームの3年生は真っ青。気絶しかけた人もいた。

まさに伸びきった鼻をへし折ったのだ。

 

そのままSOS団の(ハルヒと鶴屋さんの)勢いは止まらなかった。

なんとか息を吹き返した3年生チームだったが、結局第3セットは

4対15

となってSOS団の超大逆転勝利となったのだった。

 

 

この大勝利に気を良くしたのか、キョン・早川・長門・古泉の四人はその後の試合でも練習以上の力を見せた。あたしと朝比奈さんも、無我夢中で応援していた。

 

そしてその勢いのまま決勝まで勝ち進めたのだ。

 

 

さてその対戦相手なのだが、数々の強豪チームたちに競り勝ってきたのはなんと1年の5-6組で構成された青木夏姫率いるメンバーだった。

 

 

生徒会実況『さあて!今年の校内球技大会・バレーボール部門!

決勝進出を果たしたのはこの2チーム!

まずはこちら!

一回戦であの優勝候補の3年生チームを大逆転で勝利し、その勢いで決勝へとやって来ました!SOS団チーム~!!』

 

そのアナウンスと共に、会場全体が沸き上がった。

 

生徒会実況『対するは!数々の手強い強豪チームを幾度もの接戦で制して勝ち上がって来ました!ナツッキーチーム~!』

 

またまた会場全体が沸き上がった。

 

生徒会実況『なんとなんと!!今回の決勝はSOS団チームの鶴屋選手を除くと全員が1年生!今年の1年生は強いぞぉ!!』

 

このアナウンスでさらに会場全体が震え上がった。

 

確かにそうだよなぁ。こっちはハルヒと鶴屋さんがいるからとして、夏姫たちは強いと思う。1年生だけでここまで上がってきたのだから、強さは相当なはずだ。

 

さて、相手チームのメンバーだが

リーダーの青木夏姫。

なぜそこにいるのか、真田友輝。

アホだが体力は人一倍の、谷口。

谷口の付き添いであろう、国木田。

女子ではハルヒ・夏姫に続くほど運動神経がいい、朝倉涼子。

同じ1年6組で元中学でバレーボールをしていた女子だった。

 

このチームなら納得がいくな。何しろ、夏姫に朝倉がいるんだからな。すごい試合になる予感がする。

 

……でもどうやってこのメンツが集まったんだろう…?

それとナツッキーチームって、ネーミングセンスも……まあいいか。

 

 

そして、ついに。

北高校内球技大会バレーボール部門の決勝戦が開始した。

 

 

さすがに決勝に残ったチーム。なかなかミスがない。

ハルヒのサーブはまさに弾丸のようなサーブなのだが、夏姫や朝倉はしっかりと取る。

真田は動けるのか?と思ったが、なかなかのテクニシャンだった。

後で聞いた話だが、真田は小さい頃からいろいろなスポーツをしていたらしい。

さすがは富豪のお坊ちゃま。

 

 

大接戦とはまさにこのことだ。

 

第1セット 25対23 SOS団チーム勝利

第2セット 22対25 ナツッキーチーム勝利

第3セット 26対28 ナツッキーチーム勝利

第4セット 30対28 SOS団チーム勝利

 

まさにしのぎを削る戦いだった。

両チームとも一歩も譲らず第5セット目。

 

5セット目は15点制になっていたのだが、またまた両チームとも引き下がらず

14対14

のマッチポイントの同点。2点差をつけるまでのデュースとなった。

 

 

1セット1セット長い時間使っていたので他のほとんどの球技は終了していた。いつの間にか会場にはかなりの数の生徒が観戦していて、体育館の屋根が揺れるほどの歓声が鳴り響いていた。

 

 

そんな中、なかなか終わらない第5セットが続いた。

 

鶴屋さんの鋭いスパイクが決まったと思いきや、次は朝倉のスパイクがラインギリギリに決まったり、キョンと古泉のブロックで点を取れば真田の変則スパイクでまたまた同点。

 

1点とれ1ば点取られが続き続き続き……、気づけば

29対29

 

生徒会実況『だ、誰がこんな大接戦を予想したでしょうか!両チームとも一歩も引かず、まさに死闘が繰り広げられています!!北高校内球技大会始まって以来、こんなにも白熱した試合は見たことがありません!!』

 

実況が熱く鳴り響いた。

 

双方がまた1点ずつを加え

30対30

となったところで5分の休憩が入れられた。

 

キョン、早川はもちろん、古泉もさすがに体力の限界が近かった。長門は相変わらずの無表情だがかなりの汗をかいていて、目をみると限界が近いと語っていた。

だがやはりハルヒと鶴屋さんは、疲れは見えるもののまだまだいけるという表情だった。

この人たちは本当に同じ人間なんだろうかと、この時あたしはそう思っていた。

 

相手のほうを見ると、こちらと同じように限界だという顔をしていた。

夏姫と朝倉を除いてだ。

あの二人もまだいけるという表情をしていた。

 

……ほんと、すごいな。

 

「さあみんな!後もう一踏ん張りよ!」

 

ハルヒがそう言うと、SOS団の面々は立ち上がった。

 

「長門!体は大丈夫なのか?なんならあたしが今から代わって…」

 

長門が心配でふとそう声をかけたが

 

「大丈夫…それに最後まで頑張りたい」

 

そう強い眼差しで言われた。

見た目はとても疲れているようだったが、少し楽しんでいるようにも見えた。

 

「そうか、がんばれよ!」

 

そう言うと長門は今までよりもしっかりと力強く頷いた。

 

「さあみんな、頑張っていくさ~!」

 

鶴屋さんも一声あげる。

 

「みなさん、ファイトです~!」

「がんばれ~!」

 

朝比奈さんに続いてあたしもみんなに言葉をかける。

 

 

早川のサーブからのスタート。きれいな放物線を描きながら相手コートに入るボールは国木田がとり朝倉にパス。あげられたボールに夏姫が猛然とスパイク!

ボールは古泉のところへ、しっかりと受け止めキョンがあげる。それをハルヒがおもいっきり腕を振り抜きスパイク!

そのボールは真田と谷口の間を破るが惜しくもラインアウト。

 

30対31 ナツッキーチームマッチポイント

 

「おしいおしい!!ドンマイ、ハルヒ!」

 

あたしは、かれかけた声で必死に応援した。

 

相手の6組女子からのサーブ。元バレーボール部のサーブは長門目掛けて迫る!

 

「「長門(さん)!!」」

 

長門はなんとかボールを受け、ボールはハルヒへ。そのボールを鶴屋さんにあげ、鶴屋さんの鋭いスパイク!

今度はしっかり決まり、得点は同点。

 

31対31

 

今度はキョンのサーブ。少し失敗したのかへなへな~と相手チームに入ったサーブ。谷口が落下地点に余裕と立つ。だがよろよろなサーブが好を成したのか、フォークのように手前でスッと落ちた!想外のことに谷口は飛びついたが遅く、届かず。

これにより

 

32対31 SOS団チームマッチポイント

 

ハルヒが『ナイスキョン!』とキョンとハイタッチ。

 

またキョンからのサーブ。今度は国木田がしっかりとり真田へ。朝倉にあげられたボールをすかさずスパイクにうつるが、キョン・古泉がブロックに入る。

だが朝倉はそれを読みフェイントを入れる。

そのボールは誰もいないところへと落ちそうだったが、鶴屋さんがなんとかすくいあげた。

そのボールをキョンがハルヒにあげる。

 

「「いけ!ハルヒ!!」」

 

あたしとキョンは一緒に叫んだ。

ハルヒはボールのところへジャンプ!

相手は谷口と真田がブロックに入る!

 

ヤバイ、防がれる!と思った次の瞬間だった。

 

ハルヒはそのままスパイクを打った。ボールは谷口と真田の手の間をすり抜けボールは夏姫へ。

しっかりと構えた夏姫の腕にボールが当たった。ボールは受けた夏姫の腕を弾き後方へ……。

 

 

その瞬間、体育館全体がまるで爆発したかのように歓声でいっぱいになった。

 

生徒会実況『きっ決まった~!!涼宮選手が放ったスパイクが決まりました!!33対31!!よって北高校内球技大会バレーボール部門、優勝はSOS団チーム~!!』

 

あたしは、持っていたボンボンを放り投げ、朝比奈さんと抱きしめあった。

ハルヒはキョンに抱き着き、キョンは恥ずかしそうにしたがとても嬉しそうにしていた。

古泉と早川はハイタッチをして喜び合っていたし、長門はニッコリした鶴屋さんと握手していた。長門も嬉しそうな顔をしていた。

 

あたしと朝比奈さんはみんなのところへと行きハルヒをみんなで胴上げした。満面の笑みで降りたハルヒは、何かに気づいたように反対側のコートのほうへ向かった。

あたしが振り向くとそこには悔しそうに床に膝をつけている夏姫と、夏姫を囲むようにして慰めている朝倉たちの姿が見えた。

 

ハルヒは夏姫の前に立った。

 

「えっと青木さん?今回はとても楽しかったわ!私、こんなに強い人と勝負したのは生まれて初めてよ!」

 

そう言ってハルヒは夏姫の前に手を出した。

それを聞いた夏姫は、少し笑顔を見せてハルヒの手をとり立ち上がった。

 

「私もよ涼宮さん。こんなにすごい試合をしたの初めて!しかもとっても楽しかった。ありがとう」

「こちらこそありがとう!」

 

そう言って二人はしっかりと握手をした。

その光景を見た会場は拍手でいっぱいになった。

 

「次は負けないからね!いろいろな意味で!」

「望むところよ!返り討ちにしてあげるわ!」

 

 

こうして、北高校内球技大会始まって以来の大決勝戦は幕を閉じた。




~あとがきのようなもの~

ども、My11です。

今回は球技大会のお話でした。
原作とは全く違う時期ですし、競技ルールなどもかなりあやふやですがそこはご了承ください。

ただスポーツというのは、どんな競技でも一生懸命やっている人たちを見ていると自然と応援してしまう気持ちになります。
これを以前書いた頃はとあるスポーツに熱中(見るだけですけど)していまして、その頃の気持ちを思い出しながら今回の話を投稿していました。
今もまたとある競技を見ることに熱中していますが、やっぱりスポーツっていいですね。

それではまた、次回に。


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第8章 朝倉涼子の決断 そして…

球技大会の次の日―――

キョン子「どうしたキョン?」
キョン「いや……体が、動かん…」
キョン子「……ほんと、お疲れさん…」

ただの筋肉痛でした。


あの白熱した球技大会が終わり、今日は一学期が終わる終業式の前日。

明日が終わればほとんどの生徒が待ちわびた夏休みだ。坂を歩く生徒たちは皆夏休みに何をしようかと話していた。

 

あたしはと言うと、いつものようにだる~く坂を歩いていた。隣にはキョン。

いつもと変わらない朝だった。

 

 

玄関前に着くと人だかりが出来ていた。その中に古泉と早川を見つけたので話を訊いてみた。

 

「あ、キョンくんにキョン子さん。おはようございます」

「ああ、おはよう。古泉、なんなんだこの人だかりは?」

「これですか?これはですね、あれが原因かと」

 

そう言って古泉は玄関に貼ってある紙を指した。

 

「一学期末テスト校内学年別順位表……そういう事か」

 

キョンが読みあげるのを聞き、あたしも理解した。

 

「こんなん普通貼るようなもんやないで」

 

早川の言う通りだ。何も終業式の前日に貼らなくても。

一応、一位から名前を見てみた。

 

 

――――――――――

 

一学期末テスト校内学年別順位表

 

一学年

 

一位 長門有希

二位 涼宮ハルヒ

三位 古泉一樹

四位……………

 

――――――――――

 

 

「「!?!?!?」」

 

あたしとキョンはただ呆然とした。なんと学年トップ3がSOS団にいる三人だったからだ。

さらに下を見ていくとまだまだ知っている名前が……

 

七位 朝倉涼子

三十二位 青木夏姫

四十五位 真田友輝

七十一位 早川諒

 

そして、最後は……

 

「キ、キョン子が八十三位だって!?」

 

そうなのだ。あたしの名前がそこにははっきりと書き記してあった。

中期テストでは二百番台だったのに大幅にランクアップしたのだ。たぶん、テスト前に長門・朝倉と一緒に勉強したからだろう。

とにかくうれしかった。

 

「みなさん、おはようございます」

 

そこへちょうど朝比奈さんがやって来た。

 

「あ、朝比奈さん。おはようございます。朝比奈さんは、名前載ってましたか?」

 

キョンが訊くと、朝比奈さんは少し恥ずかしそうに答えた。

 

「あったんですけど、六十九位でしたぁ。少し下がってしまって」

 

それを聞いてキョンは、肩をがっくりと落とした。

そりゃそうさ。これでSOS団で名前がないのはキョンだけなんだからな。

 

この表には百位までしか載っていない。キョンは必然的に百位以下となる。

ちなみに鶴屋さんは何位だったかと言うと、一点差で惜しくも二位だったそうだ。

 

あたしの周りには(キョンを除いて)頭が良い人ばかりだな。

あたしはそう思いながら教室へと向かった。

 

 

教室へ入ると、長門がいつものように本を読んでいた。あたしが近づくと、本から目を離してあたしを見た。

 

「おはよう」

「おはよう長門。玄関の表見たか?」

 

長門は頷いて応えた。

 

「長門一位だったな。おめでとう」

「…ありがとう」

 

長門は頬を微妙にだが、赤くして言った。

 

「あなたの名前もあった」

「ああ。あたしもビックリしたよ。これも長門と朝倉が勉強教えてくれたおかげだよ」

「…そこまで大したことはしていない。あなたの実力」

「そう言ってくれると嬉しいな。ありがとな長門」

 

長門はまた頷いて応えた。

あたしが席に座ると、長門が一枚の折り畳まれた紙を出してあたしに渡してきた。

 

「今日、来てみたら下駄箱の中に入っていた」

「見ていいのか?」

 

そう訊くと長門は頷いた。

紙を開いて読んでみる。

 

――――――――――

 

長門さんへ

 

今日の放課後、部活が終わり次第1年5組の教室に来てください。

キョン子ちゃんと一緒にお願いします。

 

――――――――――

 

その手書きで書かれた手紙の文字にどこか見覚えがあった。

 

「誰が書いたんだろう?」

「たぶん…、朝倉涼子」

「朝倉?」

 

あたしがそう言うと長門はまた頷いた。

なぜわざわざ手紙なのだろうか。口では言いにくい事ということか?それだけ重要な事を話すということだろうか。

 

「取り合えず、後で確認してみるか」

 

あたしがそう言うと長門は頷いた。

朝倉がわざわざ呼び出すほどの事って何なんだろうか。

あたしは一日中、ただそれだけを考えていた。

 

 

さて。

時は過ぎ、今は放課後。

 

昼休みに一度5組を訪ねて朝倉を探しては見みが、教室内に朝倉の姿はなかった。

仕方がないので放課後まで待ってみることに。

一応キョンに今日朝倉は来ているか聞いたが、休んではいないようだった。

 

 

今は部室にいる。キョンと古泉がしているチェスをぼーっと眺めている。長門を見ると、本を見ているがなかなか次のページに進まない。長門も朝倉の事を考えているのだろうか。

早川は持ってきた雑誌を読んでいた。朝比奈さんはハルヒに遊ばれていた。主にいろいろな髪型にされていた。

 

いたって平穏な、いつもと変わりない時間。だけど、なぜだろうか。この後何かとんでもないことが起きそうな予感がしてならなかった。

 

 

下校時刻となり、いつものように長門の本を閉じる音で解散となった。

いつもならみんなとこのまま帰るのだが、用事があるとキョンに先に帰るように言って長門と一緒に5組の教室へと向かった。

 

 

教室の扉の前に立ちあたしは一呼吸置いて扉を開けた。

 

 

そこにいたのはやはり朝倉だった。

朝倉は教卓に寄り掛かっていた。朝倉の後ろの窓からは紅い夕焼けが差し込んでいた。

 

「…来てくれてありがとう」

 

そう言って朝倉は教卓から離れ、教室の後ろの方へと歩き出した。

 

「なんでわざわざ手紙で?」

 

あたしは教室に入りながら、一番気になる事を質問した。

 

「……口では言い辛くて」

 

そう言って朝倉は自分の机らしいところに寄り掛かった。あたしと長門は近くまで行き、近くの机に同じように寄り掛かった。

 

 

しばらく沈黙が続いた。

朝倉はしゃべろうとするがすぐに口をつむってしまうを何度か繰り返した。

少ししてようやく口を開いた。

 

「…実はね、私……転校することになったの」

「えっ!?」

 

それは、あまりにも突然すぎた。

朝倉が転校?

長門を見た。いつもより目を見開いている。見ただけで驚いているというのがわかる。

 

「い、いったい、どうして!?」

 

あたしは朝倉と向き直って訊いた。

 

「うん。実は今父と母はカナダで働いているんだけど、母がつい先日倒れたらしいの」

 

朝倉の表情は少しずつ曇っていった。

 

「母は昔からあまり体が良くなかったみたいで、たびたび体を壊していたみたい。でも、私に心配をかけまいとずっと隠していたって。今まではまだ命とかに関わるような事にはならなかったんだけど、今回検査の結果肺にガンがあることがわかって……」

 

朝倉は今にも泣きそうだった。そりゃそうだろう。

ガンにあまり詳しくはないが、下手すると死んでしまうような病気だ。

今まで周りにいた人たちの『死』を目の当たりにしてきた朝倉にはかなり不安にもなるだろう。長門とのことがあったからなおさらである。

今度は自分の母親が命の危険にさらされているんだから、平常心でいられるわけがない。

 

「そ、それで、母の側にいてあげて欲しいって父に言われて。もちろん私はそうしたいんだけど、……キョン子ちゃんと長門さんと……離れたくなくて」

 

そして朝倉は、……泣いていた。

長門の話の時に流した涙とはまた違う涙。

 

「グスッ…ほんとに……三人でいる時…うっ…とても楽しかった。あの頃みたいに、また……だから…だから……」

「大丈夫だ。言いたい事はわかる」

 

そう言ってあたしは朝倉を抱きしめた。

 

「……ひっぐ…ほ、ほんとはもっと……一緒にいたかった……ずっと……ずっと…」

「あたしたちはずっと一緒だよ」

 

そう言って、さらにあたしは朝倉を強く抱きしめた。

 

「もう一生会えないわけじゃないだろう?

今は母親の側にいてあげないと。それにあたしは約束したよな?

ずっとずっと、朝倉と長門と仲良しでいる。ずっと一緒にいるって」

 

朝倉はうんうんと頷いた。

 

「確かに日本とカナダじゃあ遠いかもしれない。でも、心はずっと一緒だから」

「……うん、そう…だよね…。でも私、すごく不安も大きくて…」

 

そう言いながら朝倉はあたしに強く抱きついた。

…そうか、あたしたちと別れるのも辛いのかもしれないがやっぱり母親のことがかなり気がかりなんだろう。

あたしは経験したことがないから正直言って今の朝倉の気持ちが全部わかるなんてことはできないと思う。今までに朝倉は身近での『死』を経験している分、かなり不安なのだろう。

 

「…大丈夫」

 

そんな時、長門も近くに来て朝倉を優しく抱きしめた。

 

「きっと、私のお母さん…それにお父さんが守ってくれる。……それに、きっとあの子も…」

「…!長門さん!」

 

そう言って朝倉は長門を強く抱きしめ泣き始めた。

そんな朝倉の背中を長門は優しく撫でていた。

 

あたしの頬に熱いものが流れるのを感じた。

いつの間にか自分も泣いていた。

 

心はずっと一緒だって言ったが、やはり別れは辛い。

あたしにとって人との別れとはそんなに辛いものだと感じたことはなかった。

でも今、こうして朝倉と別れるのが辛い。

そう感じている自分がまさにここにいる。

短い間だったが、しっかりと朝倉と過ごした日々を覚えている。

 

これまでの日々をあたしは決して忘れない。

 

 

しばらくして朝倉は長門と向きあった。

 

「…長門さん」

 

長門は何も言えないようで、ただ頷いた。

 

「初めて会った時のこと、まだ覚えているかな?」

 

そう朝倉が訊くと、長門はまた頷いた。

朝倉はあたしの方も見ながら言った。

 

「キョン子ちゃんに言うのは初めてだったわね。

私と長門さんが初めて会ったのは小学校の入学式だったの。まあ大体の人には当たり前かもしれないけど。

その日は両親が仕事でなかなか来なくて。私その頃すごい人見知りする子だったから、すごいおどおどしていたの。そしたらね。隣にたまたまいた長門さんが勇気づけてくれたの。あの時はほんとに嬉しかった」

 

朝倉は懐かしそうに目を細めて言った。

 

「あの時の長門さんのあの一言がなかったら、今の私はいなかったかもしれない。ほんとに…ほんとにありがとう。長門さん……ううん、有希ちゃん」

 

そう言って朝倉はまた長門を抱きしめた。長門も抱きしめ返す。

 

「ふふっ、有希ちゃんって言ったのは何年ぶりかしら」

「……うん」

 

長門はやっと口を開いた。

 

「有希ちゃん……ほんとに今までありがとう」

「…お礼を言うのは私の方。あの日から……涼子には支えられてばかりだった。……何度お礼を言っても…足りないぐらい……」

 

長門の目からも涙が流れていた。

 

「…本当に……本当に…ありがとう」

 

それからしばらく、長門は何度もありがとうありがとうと言った。

まるで、今まで言えなかった分を言うように……。

 

 

 

その後、あたしたちは学校を出た。

太陽はまだ完全に西に傾いてはいなかったが、十分薄暗い時間だった。

 

朝倉と長門は寄り添うようにして前を歩いていた。

その後ろ姿を見守るように、あたしはついていった。

 

朝倉は8月に入ってすぐにカナダに発つと言った。

それならば、その前までにしっかりと送別会でも開いてやりたい。

キョンや谷口、国木田、もちろんハルヒなんかも呼んで。いや、いっその事SOS団全員を引き込むか。夏姫たちや鶴屋さんも呼ぼう。

そんな事を考えながら歩いた。

 

 

坂を下り終えた。しばらく歩き横断歩道に差しかかる。信号が赤なので待っていた。

 

 

なんだろう、このスッキリしない感じ。今日の放課後から感じる嫌な感じ。

朝倉の転校の話で良くないことは終わりではないってことか?

 

まさか、家に帰ると妹のスーパータックルをくらうとかか?

それはそれで嫌だな。

 

実は今日の事は全部夢でしたってオチか?

それはそれでなんつー夢だって話だが。

 

「キョン子ちゃん?どうしたの?」

 

あたしはハッと我に返った。見ると信号はすでに青で、長門と朝倉は半分ほど渡っていた。

 

「あ、ゴメンゴメン。ちょっと考え事してた」

 

そう言ってあたしは渡り始め……

 

『プゥアアァァァァァァァ!!!!』

 

それは一瞬だった。

 

長門と朝倉目掛けて暴走した乗用車が突っ込んできたのだ。

 

「危ない!!」

 

あたしの体はとっさに動いた。

 

長門と朝倉を突き飛ばした。

 

 

 

次の瞬間―――

 

 

 

あたしは宙に浮いていた。

 

周りは変にスローモーションのように動いた。

 

そして、体と頭を硬いアスファルトに打ち付けた感触。

 

 

―――あれ?

今あたしはどうなったんだ?

 

体を動かそうにも動かない。

 

長門と朝倉が近くにいるのを微かに感じる。

 

「キョ――!しっ―り――!!」

「――、キョ――ちゃ―!」

 

長門と朝倉が何か言っているが何かわからない。

 

長門が手を握っているのが見える。

 

でも、手の感覚がない。

 

 

もう……ダ…メ……だ。

いっ意識が………。

 

 

あたしは少しずつ真っ暗な世界へと落ちていった。

 

 

 

……長門、朝倉。ゴメン。

約束、守…れな……かった。

 

 

 

そのままあたしの意識はぷっつりと途切れた……。

 

 

 

――――――――――




~あとがきのようなもの~

どうも、My11です。

今回のお話、いかがでしたでしょうか。

今回はちょっとしたシリアス(?)な展開でしたが、まああまり表現しきれてはいないと思います。
たまにすごい無理やり感がある部分もあると思いますが申し訳ありません。

さて、キョン子はいったいこの後どうなってしまうのか。

それではまた。


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第9章 異世界人!?

キョン「今度は異世界人か……やれやれ」
キョン子「?何を言ってるんだおまえは?」
キョン「いや、こっちの話だ」
キョン子「??」


(――、起き――――ンちゃ――)

 

んー、誰だ?あたしを起こそうとするのは。

 

「起き―キョン――ん」

 

嫌だ。今あたしはすごい眠いんだ。眠……て、えっ!?

 

「起きて~キョンちゃん!起きないとぉ…」

「うぶほお!!」

 

あたしはお腹に強烈な衝撃を受けて飛び起きた。

まず目に入ったのは我が妹。あたしにスーパータックルならぬのしかかりをしていた。

 

「やっと起きた~。キョンちゃんが寝坊なんて珍しいね」

 

そう言って妹はあたしから降りて部屋から出て行きながら

 

「朝ご飯出来てるからね~」

 

と言って行った。

 

?????

あれ?

あたしは確か、長門と朝倉と学校から帰る途中で車とぶつかって……?

 

……ゆ…め?

夢だったのか?

なんだ……。

 

あの変な感じは夢だったからか。

……とにかくよかった。

 

でも夢で思った妹のスーパータックル(厳密には違うが)で目覚めるとはな。

しかもほんとに夢だったなんてな。

なんつーオチだよまったく。

 

でもやけにリアルな夢だったな。

 

 

「やっと起きたか」

 

えっ?この声は……

あたしは横を見ると、そこにはキョンがいた。

 

「な、なんでキョンがいるんだ!……てか、……えっ?」

 

あたしはやっと現在のおかしい状況がわかった。

 

まず今いる部屋はキョンの部屋。キョンの机の隣にはあたしがいつも使う机が置かれてあるし、一番おかしいのはベッドが二段ベッドであたしは上で寝ていることだ。

 

どういう事だ?

あたしは二段ベッドから降り、キョンの部屋を出て向かいの部屋へ……部屋……がない!?

 

あたしの部屋はキョンの部屋の向かい側にあるのだが、そこには何の変哲もない白い壁があるだけだった。

いったい何が起きているんだ?

 

一旦キョンの部屋へと戻る。

 

「いったいどういう事なんだ!?キョン!」

 

あたしがそう訊くとキョンはポカーンとした顔をした。

 

「えっとだな、まず落ち着け。なぜ俺のあだ名を知っている?」

「はあ!?」

 

いったいキョンは何を言っている?

 

「おまえ、朝から冗談はよせ」

「いや冗談も何も、俺は君が誰なのかわからないんだが」

 

!?!?!?

はい?

なあにを言っているんですかあなたは?

 

 

 

[キョン視点]

 

少し時間は遡る。

 

「キョンくん!朝だよ~!」

 

そう言いながらいつものような衝撃を腹に受ける。

毎度のこととはいえ、地味にきついんだよな我が妹よ。もう少しスマートに起こしてはもらえないだろうか。

 

「あれ?キョンちゃんまだ寝てるの?」

 

ん?何言ってやがる、今俺は起きただろ?たった今おまえが……て、キョン『ちゃん』??

……ちょっと待て、いったいいつからおまえは俺のことをちゃん付けで…いや、さっきあいつはちゃんと『キョンくん』と言って(ほんとはお兄ちゃんとちゃんと呼んで欲しいのだが)俺を起こしに来たはずだ。

じゃあ、なんでちゃん付けで……いやいやいや、それよりもだ。

……なんで二段ベッドになっている?

 

俺は瞼を擦りながらすぐさま下のベッドから這い出た。

 

ここは…俺の部屋に間違いない。ちゃんと机もあるし……いや、知らん机が一つ追加されているが。

 

「ねえ、起きて~キョンちゃん~」

 

そんな妹の声に振り返り、二段ベッドの上段を見る。

そこには何と見たことのない女の子が眠っているではないか。

 

?????

な、なんで?

 

「起きて~キョンちゃん!起きないとぉ…」

「うぶほお!!」

妹に盛大なのしかかりをくらったその女の子は目を覚ました。

 

しばらくトロンとした目で妹を見ていた女の子は、妹の言葉に少し頷きながら対応していた。

とりあえず、声をかけてみないことには何も始まらない。

 

「やっと起きたか」

 

そう言うとその女の子はバッと俺の方を向いてきた。

 

「な、なんでキョンがいるんだ!……てか、……えっ?」

 

そう訊きたいのはこっちの方なんだが、少し女の子の様子がおかしかった。

部屋を一通り見渡したその女の子はすぐさまベッドから降りると俺の部屋から飛び出した。

と思いきや入り口付近ですぐに止まってしまった。

どうやら向かいの壁を見ているみたいだが、なぜ?

 

すぐに戻ってきた女の子は俺に向かって少々焦りながら

 

「いったいどういう事なんだ!?キョン!」

 

と俺に問い詰めてきた。

いや、だからさ

 

「えっとだな、まず落ち着け。なぜ俺のあだ名を知っている?」

「はあ!?」

 

そう、この子はどうして俺のあだ名を知っているんだ?

少なくとも俺はこの子のことは知らない。

 

「おまえ、朝から冗談はよせ」

「いや冗談も何も、俺は君が誰なのかわからないんだが」

 

そう言うとその女の子はますます混乱しているようだった。

 

 

 

[通常視点]

 

取り合えず今ありえん事が起こりすぎている。

あたしの部屋が消えたり、キョンがあたしの事を知らなかったり。

 

もしかしてこれも夢か?

あたしは自分の頬をつねってみた。

 

痛い。

……夢じゃないのか?

 

一体全体どうなっているんだ!?

 

 

 

[キョン視点]

 

よく考えろ、今までにもこんな事があったじゃないか!

 

そうだ、原因はきっと『涼宮ハルヒ』だ。

 

はあ。また大変そうだな。

 

取り合えず、この件は学校で話そう。

俺だけじゃどうしようもないだろうからな。

みんなに電話しておくか。

 

 

 

[通常視点]

 

「えっと、取り合えず朝ご飯食べないか?」

 

キョンがそう言ってきた。

 

「はあ!?まずはこの状況をしっかりと説明して……」

「その説明なら学校でする。俺だけじゃどうも解決できそうにないからな。先に下行っててくれ。やることがあるから、それをしてから行く」

 

急に冷静になったキョンにあたしは従うしかなかった。

 

「と言うか待て!一応訊くが、今日は何月何日だ?」

「今日か?9月4日だが?」

「!?……わかった」

 

どうなっている、日にちや時間まで違うぞ。

 

 

頭の中が混乱する中朝食を食べ終え、先にキョンの部屋で着替えを済まし(あたしの衣類はすべてキョンの部屋にあった、制服までな)玄関でキョンを待った。

もちろん、いつものようにポニーテールにして。

やって来たキョンはあたしを見ると一瞬固まった。

 

「な、なんだ!顔に何か付いているか?」

「い、いや、なんでもない!」

 

そう言いながらキョンは慌てて靴を履き、先に玄関を出た。

キョンはチャリに乗っていたが、あたしはどうしろと?

 

「あ、君がいたんだったな。後ろに乗ってくれ」

 

それに甘えてキョンの後ろに乗せてもらった。

 

 

あの夢(?)で起きた事故現場を通り過ぎたところでキョンが話しかけてきた。

 

「一応訊くが、SOS団を知っているか?」

「そんなの当たり前だろう」

「なら話は早い。部室に行くからな」

 

どうやら部室で話すらしい。

 

 

学校に着き、キョンの後に付いて部室の前までやって来た。

 

ここに来るまでにすれ違ったりした顔見知りの人たちがいたが、誰もがみんないつもと変わりなかった。と思ったが、やけに5組の生徒に話しかけられた。知らない連中じゃなかったが、そんなに親しくしていたかな。

 

キョンが扉を開けると、そこにはSOS団の三人のメンバーがいた。

窓際でいつものように本を読んでいる長門。

さすがに朝なので制服だが、いつもメイド服を着ている朝比奈さん。

いつも爽やかスマイルの古泉。

 

あたしが入ると、三人は一斉にあたしを見た。

 

「その方が先程話した『女の子』ですね」

 

古泉は見たことないような真剣な顔で言った。

 

「可愛いぃですね」

 

朝比奈さんに可愛いと言われるとなんだか恥ずかしくなる。

 

「………」

 

長門は無言のまま。

 

と言うか今の発言でわかった事、長門はどうか知らないが確実に他の二人はあたしを知らないというような発言だ。

キョンに続いて、どういう事だ?

 

「じゃあまず質問だ。ここにいる人たちの名前を言ってみてくれ」

「はあ?古泉一樹に朝比奈みくるさん、長門有希じゃないか。ついでに言うと、このSOS団団長様である涼宮ハルヒ。あたしとキョンを除けばあと一人、早川諒がこのSOS団のメンバーだろ?」

 

あたしがそう答えると朝比奈さんはとても不思議そうな顔をした。

逆に古泉はなるほどと言う顔をしていた。

 

「そういう事でしたか。彼女は僕らを知っているようで知らない。と言う事ですね」

「ああ、どうもそうらしい」

 

キョンと古泉は二人だけで納得していた。

 

「あたしにもわかるように説明しろ!」

 

もう何がなんだか。早く説明して欲しいところだ。

 

「長門。説明してやってくれ」

「了解した」

 

それまで話に入っているのか疑問だった長門だが、一番いろいろと知っているらしい。

今気づいたが、なんだかいつもの長門と…雰囲気が違う?

 

「まず、あなたはこの世界の人間ではない。こことは違う世界からやって来た。あなたは異次元時空間体に該当する」

「は?」

「簡単に言うと、異世界人」

 

な、何を言っているんだ長門?SF小説の読みすぎなんじゃないか?

 

「お、おいおい。キョンも長門も冗談キツイって。なんだ?新しいドッキリか?どうせハルヒと早川が『ドッキリ大成功!』とか言って出てくるんじゃ……ないんだな」

 

長門の目がマジで真剣なので、冗談じゃないのだと悟るしかなかった。

でもやはり、あたしには理解ができなかった。

 

「仮にでもだ。そのあたしが異世界人てのを信じるとして、なぜそう言える?それになんで長門はそう断言できるんだ?」

 

あたしがそう言うと長門以外は頭の上にハテナマークが出ていた。

 

「な、なぜって、長門だから知っているわけで……」

「ちょっと待ってください」

 

キョンの話を遮り古泉が話し出した。

 

「少しあなたの世界、つまりあなたやあなたが知るSOS団について話していただけますか?」

 

古泉はいつもの爽やかスマイルをあたしに向けながら訊いてきた。

なんだか知っている人たちに改めて自己紹介みたいなことをするのは少し恥ずかしかったが、ここは素直に従うしかなさそうだ。

 

「あ、ああ。まずあたしはそこにいるキョンと双子で妹。あだ名はキョン子だ」

「はあぁ!?」

 

キョンは目を丸くしてビックリした。

 

「続けください」

 

古泉はそれを軽く無視した。

 

 

それからあたしは、SOS団のメンバーやSOS団結成の時の事、古泉と早川が転校して来た事や今までやってきた事などを話した。

 

もちろん長門や朝倉、早川の過去については話していない。

 

そして最後に、あたし的に昨日起きた事故の事について話した。

 

「……それで車にはねられた後、気がついたらキョンの部屋にいたわけだ」

 

話し終えると部室内はシーンとなった。

 

そりゃあな。車にはねられて目が覚めたら違う世界でしたなんて、おかしいにもほどがあるだろう。

それにあたしはまだ夢の線を捨てきれてない。まだこれは壮大なあたしの夢なのでは?なんて思ってたりするが、心の奥ではそうではないとなんとなくわかっていた。

 

「なるほど。わかりました」

 

やっと口を開いたのは古泉だった。

何がわかったんだ?

 

「あなたの世界と僕らの世界は根本的に違うんです」

「根本的に違う?何が違うんだ?」

「そうですね。まず、閉鎖空間をご存知ですか?」

「閉鎖空間?知らないな」

「では、機関という組織をご存知ですか?」

 

???

さっきから何を言っているんだ?

 

「ご存知ないんですね?」

 

あたしは頷いた。

 

「というわけです」

 

そう古泉はキョンに向かって困ったものですと言う顔で言った。

キョンもやれやれという表情をしている。

 

「何がどうなっているんだ!?」

 

そう言うと古泉はまたあたしの方に向き直った。

 

「あなたに改めて、自己紹介する必要がありますね」

 

えっ?なんで今更?

 

「たぶんあなたはこの事をすぐには信じられないと思いますが、取り合えず聞いてください」

 

そう言って古泉はあの爽やかスマイルを見せた。

 

「まずは僕から。古泉一樹です。こんななりですが、一応超能力者と言わせていただいてます」

「えっ?」

「では次、朝比奈さんどうぞ」

 

そう言って古泉は朝比奈さんにふった。

 

「あ、はい。えっと朝比奈みくるです。実は、私はこの時間平面上の人間ではありません。もっと未来からやって来ました。なのであなたから見たら私は未来人になります」

 

!?

 

「長門有希。情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。この星の言葉で簡略化すると、宇宙人に該当する」

「えっ、えっ、えっ!?」

 

な、なんだ!?

宇宙人に未来人に超能力者だって!?

どっかで聞いた事あるような……

 

「俺は紹介しなくとも、何も特別な力はない。ただ、ハルヒは別だ。

涼宮ハルヒ。見た目は普通かどうか知らんがまあ一般的な女子高生。性格は奇人。

あいつには不思議な力があって、世界を自分の思ったように創り変えるというなんとも迷惑な能力がある。まあ、本人に自覚はないがな」

 

……いやいやいやいや、これどこで笑えばいいの?

あたしは心の中でそう思っていた。

 

長門たちが宇宙人やらなんやらで、ハルヒには変な力があって……あはは、頭が痛くなってきたぞ。

 

 

あたしがあれこれ考えていると朝のチャイムが鳴り響いた。

 

「おや、もうこんな時間ですか。ではこの話の続きはまた放課後にでも。あ、この話は涼宮さんの前ではタブーですので、彼女の前では絶対しないでください」

 

そう言って古泉は失礼しますと言い、部室を出て行った。

それに続いて朝比奈さんも退出。

あたしとキョン、長門も部室を出る。

 

「長門、彼女のクラスはどこなんだ?」

 

いやキョン、何を言ってるんだ?あたしは長門と同じ6組……あ、そうか。

ここがあたしの知る世界とは異なる世界だということは、クラスも違うということになるのかもしれない。

 

「彼女のクラスはあなたと一緒。席は涼宮ハルヒの隣になる」

 

相変わらず淡々と話す長門。

って、キョンと同じクラスでハルヒの隣かい!!

 

「そ、そうか。じゃあ行くか」

「……ああ」

 

今日は一日、大変そうだ……。

 

 

 

時間はまた少々遡り……。

朝、キョンの部屋。

 

[キョン視点]

 

そこにいる女の子が言うのを聞いていると、どうやら彼女は俺の事を知っているらしい。

……ということは、…どういうことなんだ?

く、やっぱり俺だけじゃどうにもならんな。ここはひとつ、長門にでも……いやちょっと待てよ?

今まで色々なことに遭遇してきたが、ハルヒが言ったあの言葉でまだ関わっていないのって……

 

まさか、『異世界人』?

 

……もしかしたらかもしれん。

まあ、この事は学校で確証を得ればいいか。

 

俺は彼女に先に下に行って朝食をとるように言った。

 

まずは誰に電話しようか。

まあ、最初はあいつだろう。今回の事も知っていそうだしな。

携帯を取り出し、電話帳から見慣れた電話番号にかける。

キッチリ3コール目でその相手は出た。

 

『………』

 

いつものように無言。

こういう時に一番頼りになる長門有希だ。

 

「朝早くから悪いな長門。実はだな……」

『現状については把握している。現在、情報統合思念体が彼女について情報収集を行っているところ』

 

俺が事細かく説明しようとした時、長門はその言葉を遮り言った。

さすがは長門。やはり頼りになる。

 

「そうか、さすがは長門だな。じゃあ、今日朝に部室に連れて行ってそこでいろいろと相談したいんだが、構わないか?」

『構わない。むしろそれが最良』

 

ああ、やはり一番に長門に電話したのは正解だったな。

 

「わかった。じゃあ後で、部室に」

 

そう言って長門との電話は終了。

残りの二人とも連絡をとった。

朝比奈さんは戸惑っていたがすぐに了承。古泉も同じく。

 

三人に連絡し終え俺は下に行き、朝食にかぶりついた。

 

 

先に支度をさせた女の子の後に少し支度をもたつきながら玄関に行くと、なんと!?髪型をポニーテールにして玄関で待っていたのだ。

ヤバイ。言っちゃなんだが、……可愛い。

待っていた女の子を見て一瞬固まってしまった。

 

「な、なんだ!顔に何か付いているか?」

「い、いや、なんでもない!」

 

そう言いながら俺は慌てて靴を履き、女の子の横を抜け先に玄関を出た。

 

後ろに女の子を乗せてチャリで学校に向かう途中、SOS団のことを訊いてみた。

 

「一応訊くが、SOS団を知っているか?」

「そんなの当たり前だろう」

「(なるほど、知っているみたいだな)なら話は早い。部室に行くからな」

 

 

さて、今その女の子を連れて部室前に来たんだが、どうもこの世界の人たちはみなこの子が最初からいるというのが普通らしい。

すれ違った人たちはみな普通に女の子に接していた。

なぜだ?

さっきの電話から少なくとも、俺とあの三人はこの子を知らない。

これもハルヒの力が原因なのか?

 

そんな事を思いながら部室の扉を開けた。

 

すでに三人は集まっていてそれぞれの定位置にいた。

古泉は久しぶりの真剣な顔つきで女の子を見た。

それだけ重要な事と古泉は思ったんだろう。

 

 

さっそくその女の子に質問してみたんだが、やはり俺たちの事をいろいろと知っているみたいだった。

みんなの名前を言って自分もSOS団の一員だと言うし、ハルヒが団長なのも知っているしな。

 

だが一つ、この子が異世界人かもしれないという確証を得ることができうる発言を聞けた。

 

『ハヤカワリョウ』

 

俺たちが知らないやつの名前が出てきた。しかもSOS団の一員だと言っているし。

さすがの俺もこの非日常的な毎日を過ごしてきただけあって、これぐらいの事を聞けばこの子がどういう存在なのかもわかってしまう。

……というかハルヒ、どうしておまえはこうも厄介な事を起こすのかね。

まったくやれやれだ。

 

女の子の話を聞いて朝比奈さんは不思議そうな顔をしていたが、古泉は納得したようだ。

 

「そういう事でしたか。彼女は僕らを知っているようで知らない。と言う事ですね」

「ああ、どうもそうらしい」

 

俺と古泉が納得していると女の子が少し声を荒げ言った。

 

「あたしにもわかるように説明しろ!」

 

そうだったな。ここはやはり俺からの説明より、長門からの説明の方が信じやすいだろう。

 

「長門。説明してやってくれ」

「了解した」

 

長門は女の子の方を見て話しだした。

 

「まず、あなたはこの世界の人間ではない。こことは違う世界からやって来た。あなたは異次元時空間体に該当する」

「は?」

「簡単に言うと、異世界人」

 

長門がそう説明すると、彼女は余計に意味がわからないと言うような反応を見せた。

 

「お、おいおい。キョンも長門も冗談キツイって。なんだ?新しいドッキリか?どうせハルヒと早川が『ドッキリ大成功!』とか言って出てくるんじゃ……ないんだな」

 

?何をこの子は冗談だろ?というようなことを言っているんだ?

長門の真剣な目を見て冗談じゃないと感じたみたいだが、長門が言うんだから冗談じゃない事ぐらいわかるだろう?

そう思っているとまた女の子が話し出した。

 

「仮にでもだ。そのあたしが異世界人てのを信じるとして、なぜそう言える?それに、なんで長門はそう断言できるんだ?」

 

???

女の子がそう言うと長門以外の俺たちはハテナマークが頭から出ているに違いないような顔をしていた。

何を言っているんだこの子は?

 

「な、なぜって、長門だから知っているわけで……」

「ちょっと待ってください」

 

俺の話しを遮り古泉が話し出した。

 

「少しあなたの世界、つまりあなたやあなたが知るSOS団について話していただけますか?」

 

古泉はいつもの爽やかスマイルを彼女に向けながら訊いた。

 

「あ、ああ。まずあたしはそこにいるキョンと双子で妹。あだ名はキョン子だ」

「はあぁ!?」

 

俺は目を丸くしてビックリした。

 

「続けください」

 

古泉は軽く無視した。

 

 

それからその女の子もとい俺の双子の妹と名乗るキョン子は、キョン子の世界のSOS団のメンバーやSOS団結成の時の事、古泉がハヤカワと言うやつと転校して来た事や今までやってきた事などを話した。

 

……どうも話を聞いていると、似てるようで似ていない日々。

何より、出てきてもおかしくないのにその単語が出てこないのだ。

 

そして最後にキョン子は、彼女的に昨日起きたという事故の事について話した。

 

「……それで車にはねられた後、気がついたらキョンの部屋にいたわけだ」

 

話し終えると部室内はシーンとなった。

 

そりゃあな。まさかこの世界に来る前に、車にはねられて目が覚めたら違う世界でしたっていうのはすごい話だが、それよりもその女の子もといキョン子の話には俺たちにとって重要なものが出て来なかった。

 

「なるほど。わかりました」

 

最初に口を開いたのは古泉だった。

俺にもわかる。

 

「あなたの世界と僕らの世界は根本的に違うんです」

「根本的に違う?何が違うんだ?」

「そうですね。まず、閉鎖空間をご存知ですか?」

「閉鎖空間?知らないな」

「では、機関という組織をご存知ですか?」

「???」

 

キョン子は難しそうな顔をしていた。

 

「ご存知ないんですね?」

 

そう訊かれキョン子は頷いた。

 

「というわけです」

 

そう古泉は俺に向かって困ったものですと言う顔で言った。

俺もやれやれという表情をとる。

 

今の質問でもわかるように、少なくとも彼女は古泉が超能力者ということ知らないということだ。加えて長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人ということと、それに何よりハルヒに不思議な能力があることも知らないとみて間違いはなさそうだ。

たぶん、彼女の世界ではハルヒたちはみな普通の人間なのであろう。

 

「何がどうなっているんだ!?」

 

そうキョン子が言うと古泉はまたキョン子の方に向き直った。

 

「あなたに改めて、自己紹介する必要がありますね」

 

えっ?なんで今更?

と言うような顔をキョン子はした。

 

「たぶんあなたはこの事をすぐには信じられないと思いますが、取り合えず聞いてください」

 

そう言って古泉はあの爽やかスマイルを見せた。

 

 

古泉、朝比奈さん、長門の順番にそれぞれが超能力者、未来人、宇宙人と自己紹介。

つい何ヶ月前に俺に説明したこととほとんど変わらない自己紹介だった。

そして俺はハルヒの不思議パワーについて話した。

これを聞いたキョン子は、頭を混乱させたようにクラクラしていた。

 

そりゃあそうなる。いきなりあなたは異世界人で、私たちは宇宙人なんたらですなんて事すぐに信じられないだろう。

もし俺が同じような状況に陥ったとしても同じような対応になると思うしな。

 

キョン子があれこれ考えているような顔をしていると、朝のチャイムが鳴り響いた。

 

「おや、もうこんな時間ですか。ではこの話の続きはまた放課後にでも。あ、この話は涼宮さんの前ではタブーですので、彼女の前ではしないでください」

 

そう言って古泉は失礼しますと言い、部室を出て行った。

それに続いて朝比奈さんも退出。

俺とキョン子、長門も部室を出る。

 

そう言えば、キョン子のクラスはどこなんだ?

 

「長門、彼女のクラスはどこなんだ?」

 

そう長門に訊くと

 

「彼女のクラスはあなたと一緒。席は涼宮ハルヒの隣になる」

 

と相変わらず淡々と話した。

って、俺と同じクラスでハルヒの隣かい!!

キョン子はビックリとしていた。

 

「そ、そうか。じゃあ行くか」

「……ああ」

 

キョン子を連れて教室へ向かった。

 

今日は一日、大変になりそうだ……。

 

 

 

[通常視点]

 

キョンに連れられ1年5組の教室へとやって来た。

本来なら、隣の6組へ長門と行くんだがな。

 

教室に入ると窓側の一番後ろの席からあたしたちを睨みつけて腕組みをしている女子生徒がいた。

紛れも無い。ハルヒだ。

肩まで流れた髪。頭には黄色いリボン付きのカチューシャ。不機嫌になると口をアヒル口のように尖らせるところなど、あたしの知っているハルヒそのものだった。

 

「遅い!二人とも!」

 

あたしとキョンがハルヒに近づく(正しくは自分の席へと近づく)とハルヒは不機嫌なまま言ってきた。

 

「悪いな。キョンがなかなか起きなくてな」

 

あたしはハルヒの隣、自分の席に座りながらそう応えた。

 

「な、何を……」

「やっぱりね!どうせ、キョンがまた寝坊したんだと思ったわ」

 

キョンがあたしに反論しかけたが、ハルヒはそれを遮りながら言った。

ハルヒはあたしの事をちゃんと知っているようだ。

しかし、いつもの癖でキョンが起きなかったなどと言ってしまったがこちらの世界でもキョンはよく寝坊するらしいな。

 

「キョン子、キョンが起きなかったら置いて来ちゃっていいのよ!自業自得なんだから」

 

ハルヒは少し機嫌を良くしながらそう言った。

 

「ああ、今度起きなかったらそうするよ」

「キョン!あんたも少しは早く起きようとしなさい!」

「!……あ、ああ」

 

キョンは何か言い返そうとしたんだろうが、ここはおとなしくしようと思ったらしく、一言返事をして終わった。

 

 

さて、クラスを見渡してみる。

ほとんど会話もしたことがない人ばかりだが、なんとなく顔はわかる。キョンを介して知り合ったのもいるし何より女子は体育が一緒だからな。

谷口と国木田はいつものように話せるとして、朝倉は……朝倉は?

クラスの端から端まで見ても朝倉らしき人影は見えない。それどころか朝倉の机すら見当たらない。

もうすぐ朝のHRが始まるのでみんな席に着いている。なのに朝倉はいない。

見渡してみても空いている席が一つもなかった。

 

どういう事だ?

ここはあたしの知る世界じゃないから別のクラスとかか?あたしがそうだし。

それともこの世界はすでに9月だから、あたしの世界と同じ事があって転校してしまったとか?

 

とにかく、キョンに訊いてみるのが早いな。

いや今訊くのはよそう。今隣にはハルヒがいる。

もしこの質問をしてハルヒがおかしいと感じたらちょっとややこしくなるからな。

さっき古泉が言ってた、『この話は涼宮さんにはタブーですので』と。

ハルヒの前では、極力普通にしていよう。幸い、あたしの世界のハルヒと対応のしかたはなんら変わりがないようだしな。

ハルヒがいない時にキョンにでも訊けばいいさ。

 

 

 

さて、授業が始まったわけだがまあしょっちゅうハルヒはあたしに話しかけてくるわくるわ。

一番後ろであまり先生に聞こえない程度だが。

その話がまあ世界史の呪文を聞いているよりマシなんだが、どうでもいいような事ばかり話してくる。

最近夏休みが終わってからおもしろいことがなかなかないとか、SOS団で今度何をしようとか。

あたしは適当にだが一つ一つにちゃんと返事をして聞いていた。そうしないとハルヒは不機嫌になるからな。不機嫌になったハルヒは何をするかわからんから。

キョンはたまにあたしとハルヒとの会話が気になるのか、後ろをチラチラと見ては前を向くという行為を何度か繰り返した。

 

 

それからしてなんとか午前中の授業は終了。ほとんどハルヒとの会話で終わってしまったが。

 

さて、弁当は誰と食べるかな……部室にでも行って食べようか。もしかしたら長門がいるかもしれない。少し話してみたい気持ちもあるしな。

そう思いあたしは弁当を片手に席を立つとハルヒが呼び止めた。

 

「キョン子どこ行くの?あんたいつもここで食べているじゃない」

 

ハルヒは自分の弁当を広げながらそう言った。

 

しまった。あたしはいつもハルヒと食べているのか。

 

「あ、いや、きっ今日は気分転換に、……そう!屋上で食べようかと思ってさ」

 

あたしはつっかえながら答えた。

 

「あら、それもいいわね。じゃあ屋上へ行きましょう!」

 

そう言ってハルヒは一度広げた弁当を再び包んであたしより先に教室を出た。ハルヒの後を追いあたしも教室を出た。

 

 

屋上に着きあたしとハルヒはグラウンドが見えるところに座った。グラウンドをチラッと見ると、もう昼食を食べたのか何人かの生徒がサッカーをしていた。

 

弁当を食べているとハルヒが話しかけてきた。

 

「ねえ、今日のキョンなんか変じゃない?」

「え!?そ、そうか?」

 

あたしは弁当に入っていたミニトマトを取り落としてしまった。

確かにな。あんな風にちらちらとこっちを見ていたらハルヒから見たって今日のキョンはおかしいと見えるよな。後でキョンに一言言わないと。

 

「なんかおかしいわ。そわそわしてせわしないし、何度もあたしたちの方をチラチラ見てくるじゃない。何かあったのかしら」

 

あたしは少しビックリしていた。ハルヒがキョンの事を好きなのはわかってはいたが(まあこの世界ではどうかは知らないが)、こんな風にして心配そうな顔をするハルヒを初めて見たからだ。まるで、普通の女の子のような感じだ。

 

「た、たしかに変かもな。ハルヒ、キョンが心配なのか?」

 

あたしがそう訊くとハルヒは急に慌てた。

 

「ちち違うわよ!別に心配なんてしっしてないんだから!」

「へえぇ」

 

あたしはニヤついた顔をしていた。

ハルヒの頬はほんの少しだけ朱くなっていた。

なんだかこうして見るとハルヒは普通の女の子にしか見えないな。朝の話だと何か不思議な力を持っているとか言っていたが、ほんとに持っているのか?

そう疑問に思っているとハルヒがまた話しだした。

 

「ね、ねえキョン子」

「ん?なんだ?」

 

ハルヒは弁当のおかずをつっつきながら言った。

 

「あの…えっと、その……ああもう!やっぱりいいわ!」

「え、なんで……」

「また今度訊く!」

 

そう言ってハルヒは、弁当を食べ始めた。

あたしは疑問に思ったがしつこく訊けばハルヒを不機嫌にさせかねないと思い、それ以上はツッコまなかった。

 

 

そのままハルヒと屋上でひなたぼっこをして残りの昼休みを過ごした。

ハルヒはずっと考えているような顔で黙っていた。

うるさ過ぎるのもあれだが、なんだか静かなハルヒもどこか調子が狂う。

まあ静かに昼休みを過ごせた。

 

そうしているうちに昼休みは終わり、午後の授業へと移っていった。

 

 

午後の授業に入る前にキョンに一言忠告をすると、その後の授業では変な仕草は起こさなかった。

ハルヒがまた話しかけてくるんじゃないかと思い身構えていたのだが、午前中とは打って変わって静かになりずっと窓の外を眺めていた。

 

 

そうして午後の授業も終わりハルヒを先頭に部室へと向かった。

ハルヒは授業が終わるといつもの元気が戻っていた。

 

部室に着き入ると、すでに長門・朝比奈さん(メイド服)・古泉がいた。

あれ?早川は?

この世界では早川はSOS団ではないのかな。

まあそれも後でする話で聞けるだろう。

 

ハルヒはパソコンをつけ、何か遊び始めた。

あたしは朝比奈さんからお茶をもらい、キョンと古泉がしているチェスを見ていた。

 

いたって平穏だ。

あたしの世界となんら変わりない時間が過ぎた。

朝比奈さんからもらったお茶を飲みながら部屋の中にいる団員を一人一人見てみる。

 

ハルヒは先ほどから何やら忙しそうにパソコンをいじっているし、長門はいつもの窓際で本を読んでいる。

朝比奈さんは何やら雑誌を読んでいて、時々気になるところがあるのかマーカーで線を引いたりしていた。

キョンと古泉は先ほど言ったが、チェスをしている。こちらの古泉もやはりというかゲームは弱かった。

 

こうして見ても、みんなあたしが知っているSOS団のメンツと何ら変わりがないように見える。これで早川もいれば完全にいつもの風景だ。

 

でもそれぞれのその正体は、宇宙人に未来人に超能力者、そしてなんか不思議な力を持つハルヒときたもんだ。加えてあたしは異世界人だしな。

 

 

はてさて、この後どうなていくのやら…。




~あとがきのようなもの~

どうも、My11です。

今回のお話、いかがでしたでしょうか。

今回はキョン子が異世界に飛ばされてしまうということでしたが、はたして今後どのような展開になるか…。
最初のあらすじで宇宙人なんたらは基本出ませんなんて書いてましたが、ここでまさかの登場となりました。
『基本』は出ませんが、こういった絡みも欲しいなあと思い今回のお話を書きました。

また、今回は少し長めの文になりましたがどうでしょうか。
もし読みにくかったなどありましたらお知らせください。

それではまた。


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第10章 閉鎖空間と状況把握

キョン子「前話前書きのキョンはこっちのキョンだったのか」
キョン「そういうことだ。で、こっちの世界はどうだ?」
キョン子「ああ、もう驚かされてばかりだよ…やれやれ」



空が夕焼けの紅に綺麗に染まる頃、こちらの世界もあたしの世界と同じように長門の本を閉じる音で部活は終了となった。

 

「用事を思い出したから先に行くわね!最後の人鍵閉めよろしく!」

 

そう言ってハルヒはすぐに部室を出て帰っていった。

 

「これは好都合ですね。さてそれでは朝のお話の続きをいたしましょうか」

 

古泉がいつもの爽やかスマイルを見せながら言ってきた。

 

「どうでしたかキョン子さん。今日一日過ごしてみて」

「ああ、さすがにあたしが異世界人って事を受け入れるしかないと思ったよ。あたしの世界とは違いがあったしな」

 

古泉はそうですかと返した。

 

「ちょっと質問いいか?この世界には早川諒と言う人物はいないのか?」

 

あたしは少し気になっていたことを訊いた。

 

「ああ、朝話してたやつか。この学校にはいないんじゃないか?」

 

キョンがそう答えた。

すると古泉がまたスマイルを見せながら言った。

 

「その方ならこの学校にはいませんが、我々の機関にいますよ」

「何!?いるのか、その人物は」

「機関?機関ってなんだ?」

「あなたは知らないのでしたね。お教えしましょう」

 

そう言って古泉は機関について話し始めた。

 

簡潔にまとめると

機関とは古泉のような超能力者たちが集まってできているという組織。

閉鎖空間というやつの中で『神人』と呼ばれるものを倒すのがその機関の役目らしい。

 

「はあ、まあその機関ってのはなんとなくわかった。でもまだ閉鎖空間ってのはよく理解ができないんだが」

「そうでしたね。閉鎖空間と言うのは一種の別世界という感じの物でして……」

 

古泉がそう話していると、古泉の携帯が鳴り出した。

 

「ちょっと失礼。…はい。…はい、…はい。わかりました」

 

話し終えると古泉は携帯をしまいながら立ち上がった。

 

「タイミングがいいのか悪いのか。今閉鎖空間が発生したそうです」

「何!?ほんとか!?」

 

古泉が言うとキョンがビックリして席を立った。

 

「はい。しかも、ここにですね」

 

古泉が下を指差しながら言った。えっとつまり学校にってことか?

 

「な!?マジかよ!?」

「ええ。ここは話すより実際見ていただきましょう。キョン子さん、ちょっとお願いします」

 

そう言って古泉は部室のドアを開いた。

 

「え?何をするんだ?」

「これから実際に閉鎖空間を見ていただきます。僕について来てもらえますか?」

 

古泉は爽やかスマイルをあたしに向けながら言った。

 

「わ、わかった」

 

「それでは…あ、あなたも一応一緒に来てください」

 

古泉はキョンにそう言った。

 

「え、俺も行くのか!?俺あそこ苦手なんだがな」

「まあそうおっしゃらずに」

 

キョンは嫌そうな顔をしたが古泉に言われ、やれやれと肩をすくめた。

 

「わかった、俺も行こう。だが、この話し合いはどうするんだ?」

「そうですね、この後長門さんの家でということにしませんか?どうですか、長門さん」

 

古泉は長門の方へ向き言った。

長門は無表情のまま答えた。

 

「構わない」

「わかった。じゃあ長門と朝比奈さんは先に校門に行っていてください」

「わかりましたぁ。気をつけて行ってきてください」

 

そうして長門と朝比奈さんと部室で別れ、あたしとキョンは古泉の後について行った。

 

いったい、これから何が起きるんだ?

 

 

 

古泉に連れられてやってきたのは屋上だった。昼休みにハルヒと来たばかりだな。

 

「それで、ここで何をするんだ?」

 

古泉はあたしとキョンの方を向いた。

 

「これから閉鎖空間に入ります。僕の手をとってください」

 

そう言って古泉は両手を前に出した。

キョンは少し嫌そうにその片方の手を握った。あたしもそれに習い、古泉の手を握った。

 

「それでは軽く目を閉じて、体を楽にしてください」

 

あたしは言われた通りに目を閉じ、体の力を抜いた。

すると古泉が少し引っ張った。それに従って数歩歩くとすぐに古泉は止まった。

 

「はい、目を開けて結構です」

 

ん?もういいのか?

言われるまま目を開けた。

 

「な!?なんだここは!?」

 

あたしはその場で絶句した。

そこは全てが『灰色』だった。空も山も校舎も……。本当に『別世界』だった。

 

「ここが『閉鎖空間』です」

 

あたしはあまりの事で言葉を失った。

 

「おっと、出てきましたね。見てください」

 

古泉がそう言いながらグラウンドの方を指した。

そこには突如として得体のしれない半透明の巨人が現れたのだ。

 

「な、な、なんだあれは!?」

 

あたしがそう叫ぶと古泉が言った。

 

「あれが『神人』です。では行ってくるので、後の説明をキョン子さんにお願いします」

「それで俺を呼んだってか、わかった」

 

そして古泉はなんと赤い球体に身を包んで巨人のところに飛んで行ったではないか。

 

「な!?キョ、キョン!古泉はな、何を!?」

「ああ、これからあの神人を倒すんだ」

「な!?倒す!?一人でか!?」

「いや、今からたぶん…ほら来た。機関の人たちだ」

 

そう言ってキョンが指差した方を見ると、古泉と同じような赤い球体が何個かどこからともなく飛んできて巨人の周りを回り始めた。

 

巨人は自分の周りを飛ぶ球体が嫌ならしく暴れ始めた。

 

「さて、古泉の代わりに話すぞ」

 

そう言ってキョンが話し始めた。

 

「閉鎖空間はなハルヒによって創られた空間だ」

「はあ?」

 

ハルヒが創った?

 

「ハルヒの不思議パワーについては朝話したと思うが、その力によってこの空間は創られる。発生原因はハルヒが不機嫌になったり、精神が不安定になったり、悪夢を見たりした時に発生するらしい」

「な、そんな事で発生するのか!?」

「そうだ。この空間は言うなればハルヒのストレス発散のための物として見てもいい」

「ストレス発散?」

「ああ、この空間を発生させてあの神人を暴れさせストレスを発散させているんだ」

 

なんつーはた迷惑な。ストレスを発散するのにこんな空間を創るのかハルヒは。

 

「あれ?でもなぜわざわざあれを倒すんだ?この空間は別世界のような物なんだろう?」

「それは放っておくとこの空間は拡大していくんだ。そうすると世界が変わっちまうらしい」

 

な、世界が変わる!?またなんか規模というかすごい事になるな。

 

「前に一度、ハルヒは世界を創り変えようとした事があってな」

「はいぃ!?」

「ハルヒは無意識にやった事だが。その時この閉鎖空間になぜか俺とハルヒは閉じ込められたんだ。なんとか俺がハルヒを説得させて世界は変えられずに済んだがな」

 

ま、まさかそんな事が。

今日のハルヒを見ていてほんとにただの女子高生にしか見えなかったんだけどな。

なんと言うか、……神か?ハルヒは。

 

ドゴーーン!!

 

「!?」

 

考えているとグラウンドからすごい音が響いた。

見ると神人という巨人の左腕が切られていた。

そのままあっという間にその神人は赤い球体の集団によってバラバラにされていったのだ。そしてその巨人『神人』は消えた。

 

飛んでいた球体の集団はそれぞれ飛び散った。一つはあたしたちのところへ。

もちろん古泉だ。

 

「お待たせしました。今回の閉鎖空間はかなり小規模な物でしたので、早く片付けられましたね。説明の方は大丈夫でしたか?」

「ああ、まあ大体は」

「そうですか、ありがとうございます。あ、閉鎖空間がなくなります。空を見てください」

 

そう言われ空を見上げると、なんと空に亀裂が出来ていた。それはみるみるうちに広がり一瞬にして灰色の世界が消えさった。

あたしたちは元の世界に戻っていた。

 

「どうでしたか?閉鎖空間についておわかりいただけたでしょうか」

 

古泉はいつもの爽やかスマイルを見せながら訊いてきた。

あたしはまだ困惑しながら『あ、ああ。』と答えた。

まだ信じられないんだがな。

 

「そうですか。でもいったい涼宮さんに何があったんでしょうか」

「さあな。何か不機嫌になることがあったんだろう?俺は知らなくていいんだがな」

 

そうか、閉鎖空間ができるのってハルヒが不機嫌な時や精神が不安定になるとできるんだっけ。

あ、だったらもしかして……。あの昼休みの?

……いや、違うかな。

まあいいや。

 

「古泉、もしかして超能力ってのはさっきの力の事か?」

「ええ、そうです。僕のこの力は閉鎖空間内でしか使えないんです。なので、普段はただの一般人にすぎません」

「そうなのか」

「さて、それでは長門さんと朝比奈さんがお待ちです。行きましょうか」

「そうだな」

「わかった」

 

そうしてあたしたちは屋上を後にした。

 

 

 

校門にいた長門、朝比奈さんと合流して長門宅へと向かった。やはりこの世界でも長門の家はあのマンションだった。

長門家に入ると、そこはあたしが知っている長門の家よりさらに家具が少なかった。本当に人一人がなんとか住める程度だ。

あたしはそう思いながらリビングにある机の前に座った。

長門は人数分のお茶を煎れて持ってきた。みんなに配り、長門も座った。

 

座った配置はあたしの左に古泉、右に朝比奈さん、真ん前に長門、キョンは古泉の後ろの壁に腕を組んで寄り掛かっていた。

 

「じゃあまず質問なんだが、なんで宇宙人や未来人やら超能力者がいるんだ?こんなそろって。まるでハルヒが願ったかのように」

 

あたしがそう訊くと古泉はスマイルを見せ答えた。

 

「はい、その通りです。涼宮さんが願ったからこうして長門さんや朝比奈さん、僕という存在がいます」

「な、本当なのか?」

「はい。朝にも話したと思いますが、彼女には願望を実現にする力があります。本人は無自覚ですが。ですから宇宙人や未来人、超能力者に会いたいと思い自然と僕たちが集まってしまったわけです」

「えっと、そうするとあたしがこの世界に来た原因って……」

「ええ、お察しの通り涼宮さんが原因です。と僕は思います」

 

な、なんてこった。あたしはハルヒが原因でこの世界に来たのか!?

 

「……でもなんであたしなんだ?仮に、異世界人に会いたいとか思ったんだろうが、なぜあたしが?」

 

あたしがそう訊くと長門が答えた。

 

「その理由は彼が知っている」

 

そう言って長門はキョンを見た。あたしたちもキョンを見た。

 

「お、俺がか!?」

 

キョンはビックリとして長門に訊き返した。

 

「そう。ここ最近の涼宮ハルヒとの会話にこうなった原因がある」

 

長門にそう言われキョンが考えていると、ハッとしてわかったと言うような顔をした。

 

「わ、忘れてた。一昨日あたりにハルヒと話していて……」

 

 

――――――――――

 

『ねえキョン』

『なんだ?』

『あんたに双子の妹とかいたらおもしろいと思わない!?』

『はあ?いや、それはどう面白いんだ?というか別にいらん』

『何言ってるの!おもしろいに決まってるじゃない!見てみたいわ~、キョンの双子とか』

『あーそうかい』

 

――――――――――

 

 

「……てな事があった…」

「…つまりは、涼宮さんのその発言が主な原因だと言う事ですかね」

「そう」

 

……なんでハルヒはそんな事考えるかな。まったくもっていい迷惑だ。

でも実際、あたしはキョンと双子なわけだが。

 

「というより、それはキョンがもう少しハルヒにちゃんと否定しておけばもしかしたらなかった事にならなかったか?」

「それもそうですね。一理あるかと思います」

「えっと……すまん」

 

キョンは頭を下げて謝った。

 

「……まあいいさ」

 

その後も驚かされる話ばかり聞いた。

 

長門、古泉、朝比奈さんはそれぞれの立場からハルヒを観察しているとか。

朝比奈さんとキョンが3年前の七夕に行って中学のハルヒに会ったとか。

つい最近では夏休みの最後の二週間を永遠とループして、記憶はないにしろ約600年分も経験したとか。

 

どれもこれも驚かされる事ばかりだったが、一番驚愕したのはこれだ。

 

「あ、朝倉に襲われた~!?」

「ああ、俺は朝倉に殺されかけたよ。長門が助けてくれたがな」

 

キョンが言うには朝倉も長門と同じ情報なんたらに造られたヒューマノイドなんたらで、キョンを殺してハルヒの情報爆発とかいうのを見ようとしたらしい。

なんとか長門がそれを防ぎ朝倉は長門によって消滅したとの事。

 

そんな事が………あたしの世界じゃあ想像もできん。

 

いろいろな情報を頭に注ぎ込んだので少々顔色が悪かったようだ。朝比奈さんが心配してくださった。

 

「キョン子ちゃん、顔色悪いですよ。だ、大丈夫ですか?」

「あ、平気ですよ朝比奈さん。ありがとうございます」

 

古泉は時計を見た。

 

「もう7時になりますね。どうでしょう?一旦休憩して夕食でも。長門さん、何かありますか?」

「……なんとかなる」

 

そう言って長門は立ち上がり、キッチンへと向かった。

 

「あ、私も手伝います」

「それでは僕も」

 

そう言って朝比奈さんと古泉も行った。

 

 

すぐに三人は戻ってきた。

夕食は『カレー』だった。時間的に考えてレトルトだろう。

 

それにしても、長門の部屋で食べたものの半分がカレーなのは気のせいだろうか?

 

 

夕食を済ませ、食器を片付けた後話し合い再開。

今度は紛れも無い、あたしについての話し合い。

 

「さて、どうやってキョン子さんを元の世界に戻しましょうか」

 

そうだよ。あたしは第一にそれを知らなきゃいけなかったのに。関係ない質問ばかりだったな。

 

「そうだな。長門、何かいい方法はないのか?」

 

キョンがそう長門に訊くと、長門はまた淡々と答えた。

 

「今情報統合思念体が戻す方法を検索中。一番は涼宮ハルヒに望ませる事」

「やはりそうか」

「どういう事だ?」

「つまりですね、涼宮さんがあなたを元の世界に戻したいと願うのです。まあ、確率は低いですが」

 

そ、そうか。まあたしかにハルヒがそう願えば、なんでも実現するっいう不思議パワーで帰れるかもな。

 

「ただどうしてキョン子さんをこの世界に呼んだのか、それがわからないとどうすることもできませんね。そこらへんはどうなのでしょう、長門さん?」

「理由はわからないが、涼宮ハルヒがここに呼んだのは確か。目的を達成すれば自然に元の世界に戻れる可能性もある」

「ほんとか!?」

 

長門は頷いた。

 

「その方法が一番妥当のようですね」

「もしも戻れない場合の事を考えて別の方法も探しておく」

「そうか。ありがとう長門」

 

なんだかとても頼りになる長門だ。頼もしいよ。

 

「さて、だいたい話は終わったかな」

「そうですね。時間も遅いですし、そろそろおいとましましょうか」

 

そう言ってキョンと古泉は立ち上がった。

 

「あ、キョン。あたしもう少し長門と話していてもいいか?」

 

あたしは恐る恐る訊いてみた。

 

「ん?あ、ああ。長門がいいんなら俺は構わんがな」

「長門、ダメか?」

 

そう訊くと長門はすぐに答えた。

 

「構わない。私個人としてもあなたと話したいと思っている。必要とならば泊まっていっても構わない」

「ほんとか!?いや~実は、キョンの部屋の二段ベッドで寝るってのはなんか嫌でな。長門がそう言ってくれると助かる」

「……そう」

 

 

こうしてあたしは、長門の部屋に泊まる事になった。

 

一度家に戻り、着替えを持って再び長門のマンションへ。

キョンがチャリで送ってくれたのであまり時間はかからなかった。ここはキョンに感謝だな。

 

 

長門の部屋に着くと長門はお風呂に入るように言った。長門はあたしが着替えを取りに行っている時に入ったらしい。ほんのりとシャンプーの香りがしたから入ったんだろう。

だがなぜまた制服なんだ?長門。……まあそこはツッコまないでおこう。

 

あたしがお風呂からあがると、長門は話があると言いまた机を挟んで向かい合わせになった。

長門にもらったお茶を飲んでいると、話し始めた。

 

「あなたはこの話を聞いて多少なりとも動揺するかもしれない。でも、あなたにとってとても大事な事。聞いて」

「あ、ああ」

 

長門は真剣な目つきで話した。

というか、さっきの話し合いもそうだが、こんなに話す長門を初めて見た。いつもなら話して原稿用紙の一行分程度だからな。

まあ、今はそんな事より長門の話を聞こう。

 

「情報統合思念体があなたを元の世界に戻す方法を探しながらあなたの事についても調べた。その結果、あなたはとても不安定な状態でこの世界に存在している事が判明した」

 

え?あたしが、不安定な状態?

 

「詳しく話すと、あなたの体はあなたの体であってあなたの体ではない」

 

え?えぇ?

言ってる事がよく理解できませんよ、長門さん?

 

「あなたの体は涼宮ハルヒの情報操作によって造られたもの。正確に言うとあなたは精神のみがこちらの世界に来ている状態。

ある学者の一説で人間の体は、精神・神経・身体の三つで出来ていると言われている。その説で言うと、あなたは精神が身体から離れてしまった状態になっている。いわゆる幽体離脱の状態。

だからその体は本当のあなたのものではない。あなたの本当の体は、あなたの世界にあるものと思われる」

 

ここまで話すと長門は自分のお茶をとり飲んだ。

 

………それ、マジ?

 

「じゃ、じゃあつまりあたしは今正確には魂だけがこっちの世界に来たって感じか?」

「そう解釈しても構わない」

「そ、そんなもん、信じられるわけが……」

「信じて」

 

そう言って長門はあたしの目をしっかりと見据えた。

その力強い目に圧倒された。

 

「わ、わかった。でもなんで精神だけが?」

「それはまだわかっていない。情報統合思念体はあなたが向こうの世界であった事故に一つ原因があると見ている。涼宮ハルヒがあなたを呼ぼうとした瞬間とあなたが事故にあった瞬間がほぼ同時だったと推測する」

「そうか。それで、あたしは何か気をつけないといけないのか?」

「必ずしもそうではない。今のところあなたが危険になるような事は起こらないと推測される。ただし断言はできない。何が起きるかはこちらもわかりきっていない状態。もしあなたが危なくなったら、私が守る。約束する」

 

そう長門は力強い目で言った。

ああ、本当にこの長門は頼もしい。とても力強い。なんか安心感を得ることができるな。

 

「ありがとう長門。よろしくな」

 

そう言うと長門は頷いて応えた。

 

 

その後、長門に対していろいろと話をしているとすでに11時を廻っていた。まだ長門と話したい事がいろいろとあったが、そろそろ寝ないと。

今日はいろいろと疲れたし、明日も学校があるしな。

 

「長門、そろそろ寝よう」

 

そう言うと長門は立ち、隣の部屋へ。

そこには前に(あたしの世界で)泊まった時のように、二つの布団がきれいに敷いてあった。

あたしが布団に入ると長門は電気を消して隣の布団に入った。いつの間にか長門は制服からパジャマ姿になっていたが気にしなかった。

 

こうしていると、あの泊まった日を思い出すな~。あの時長門は、枕を持ってこっちに入ってきたっけ。

そんな事を思っていると、なんと長門が枕を持ってあたしのところにやってきたのだ。

 

「一緒に……寝ていい?」

「あ、ああ。いいよ。ほら」

 

そう言ってあたしは長門が入れるように隅に寄った。

長門が入った。

 

「狭くない?」

「ああ。長門こそ狭くないか?」

「大丈夫」

 

 

ああ、やっぱり長門は長門なんだな。例え宇宙人でもあたしの世界の長門と考えは変わらないのか。

 

今日は泊まってよかった。

 

あたしは自然に長門の手を握りながら眠りへと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

~余談~

 

 

キョン「なあ長門」

 

長門「何?」

 

キョン「今回の説明、長門にしては簡単な言葉を使ってたな。いつもならもっと難しい言葉使うのに」

 

長門「……それは、作者の頭の問題」

 

キョン「……そ、そうなのか?」

 

作者「はい、すみません。自分頭悪いんであんまり難しい言葉知りません。馬鹿なんで、すみません」

 

キョン「ま、まあいいんじゃないか?それより、最後の長門なんか雰囲気が違くな……」

 

作者「あー、そこはあれだよあれ。みなさん、これからも『涼宮ハルヒの日常』よろしくお願いします!」

 

キョン「お、おい!ちゃんと説明し……」

 

作者「じゃ!」ダッシュ!

 

キョン「あ!逃げた……」

 

長門「………」




~あとがきのようなもの~

どうも、My11です。
今回のお話、いかがでしたでしょうか。

今回はキョン子の今の状況確認をする話でした。
ついでに閉鎖空間にもお邪魔しておこうかと思いその話を入れました。
キョン子についての話し合いの部分を書いているときに、あれ?朝比奈さん空気じゃね?と思いながら書いてました。すみません朝比奈さん……でも次回は活躍してるからいいですよね?

え?最後のあれはって?まあ、あれですよあれ!My11の作品はこんな感じかと思ってください。

それではまた。


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第11章 わたしはここにいる

キョン「なんであの映画?」
キョン子「さあ…、作者の好みじゃないのか?」
キョン「…そういうことにしとくか」


あたしがこっちの世界にやって来て三日目の朝、ちなみに土曜日。

 

あたしはキョンの部屋の二段ベッドの上で静かに目を覚ました。時計を見るとまだ6時を廻ったばかりだった。

さすがに早く起き過ぎた。二度寝でもしようとしようかと思ったのだが、眠れなかった。なんとなくだが胸騒ぎがしたのだ。

 

昨日は何事もなく、あたしの世界同様の日常を過ごせた。

 

しかし、あたしはいつ戻れるんだろうな。……無事に帰れるんだろうか。

まあ朝から考えることじゃないか。

 

なんとなく携帯を持って下のリビングへと降りた。

テレビをつけてなんとなくチャンネルを変えていると妹が起きてきた。

相変わらず早起きな妹だ。

 

「あ、キョンちゃんおはよう!テレビ見てるの?」

「おはよう。いや、特に見たいのはないけど」

「じゃああたし見たいのあるから見ていい?」

「ああ、いいぞ」

 

あたしはそう言いながら妹にチャンネル権を譲った。

妹はすぐにチャンネルを変え、アニメを見始めた。

 

妹と一緒になんとなくテレビを見ていると突然携帯が鳴リ響いた。時間はまだ7時10分前ってとこだ。

こんな早くかけてくるとすればあたしが知る人の中ではただ一人。

携帯のディスプレイを見ると予想通り、ハルヒだ。

 

「はい…」

『あ、キョン子!今日いつものとこに8時30分に集合!いつもより早いけど遅れたら罰金だからね!』

 

そう言ってハルヒは一方的に電話をきった。

はあ、またか。やっぱりこっちのハルヒも変わらずだな。

しょうがない、支度をするとしますか。

あたしはそう思い、部屋に向かった。

 

部屋に入ると、電話をきって盛大に欠伸をするキョンがベッドで体を起こしていた。

 

「ハルヒからの電話きたか?」

「ん?ああ、今しがた。キョン子にもきたのか?」

「ああ。ついさっき」

 

あたしはクローゼットを開き、着ていく服を選びながら言った。

 

「わざわざ二人にかけなくても。同じ家に住んでいるんだから片方にするだけでいいのにな」

「まあいいじゃないか。あたしの世界では二人に必ずするよ」

「そうなのか?」

「あぁ、それとだな、悪いが着替えたいからさちょっと外してくれるか?」

「ん、ああ。先下行って飯食べてるぞ」

 

そう言ってキョンは部屋から出て行った。

あたしはいつものお決まりの私服に着替えて、髪をポニーテールに結い下に降りた。

そしてキョンと朝食をとった。

 

それからまあいろいろと支度をして8時前に家を出た。

またキョンのチャリの後ろに乗り、駅前に向かった。

 

 

駅前に8時15分くらいに着くと、――なぜみんなこんなに早いのか――すでにSOS団の団員が全員揃っていた。

おかしいだろ。みんなどんだけ早起きなんだ?予知能力でもあるのか?

 

「遅いわよキョン!罰金!」

「はあ?なぜ俺だけ!?キョン子もいるだろう!」

 

確かにキョンの言う通りだ。なぜキョンだけ?

 

「当たり前でしょ!双子でもあんたの方が兄なんだから、妹の分も補うのが当然!さ、行くわよ!」

「ち、ちょっと待て!……なんつー理不尽な」

 

ハルヒはキョンの言葉を無視していつもの喫茶店に入って行った。

 

「キョン、ドンマイ。ほら、あたしのお金少し渡すから」

 

そう言ってあたしはキョンにお金を渡した。

 

「……すまん」

 

 

さて、喫茶店に入りいつもの組分けをした。

組は次の通り。

 

あたし・ハルヒ

キョン・長門

朝比奈さん・古泉

 

あたしの世界でもたびたびこうして探索をしていたが、ハルヒと組になるのは初めてだな。……振り回されそうだ。

それぞれに行くところを指示し、キョンに伝票を渡したハルヒはあたしの腕を掴んで喫茶店を飛び出した。

 

「ハ、ハルヒ、どこに行くんだ?」

「ん?行けばわかるわ」

 

そう言ったハルヒの顔はなんだか輝いて見えた。

 

 

ハルヒに引っ張られること十数分、着いたそこは……

 

「映画…館?」

 

連れて来られたのは映画館だった。

 

「そうよ!町中探してなかなか見つからないんなら、今度はこういう所を探すの!さ、行くわよ!」

 

そう言ってハルヒはあたしの腕を掴んで映画館へずかずかと入って行った。

ハルヒが選んだ映画は、〇リー・〇ッターのシリーズ第6作品だ。

魔法学校に通う主人公とその仲間たちが、ある悪の魔法使いと対決するという映画だ。

この映画はあたしの世界でもかなり話題にされた映画で、実はもう長門と朝倉とで見た映画だった。

まあもう一度見るのも悪くない。

 

チケットと特大ポップコーンを買って席に着いたハルヒはとても楽しそうだ。

 

「前からこれ見たかったのよね~」

 

おいおいハルヒ。不思議探索はどうするんだ?

ただ映画を見るために来たみたいだぞ。

まあいいか。

 

それにしても、さっきから視線を感じるんだがただの気のせいだよな?

 

 

 

「ああ~!おもしろかった!」

 

映画が終わり、あたしたちは映画館を後にした。

 

「おもしろかったな」

「ええ!あ~、私も魔法が使えたりしないかしら!」

 

そう言いながらハルヒは映画に出てきた魔法使いの真似をするかのように右手の人差し指をくるくる回していた。

そんなことが出来たらあたしもいろいろとしてみたいがな。

 

 

 

少し時間は戻り

 

[キョン視点]

 

ハルヒが俺に伝票を渡してキョン子を連れて喫茶店を勢いよく飛び出して行った。

俺は支払いを済ました後、朝比奈さん・古泉ペアと分かれ長門と少し歩きながら話していた。

 

「さて、どこに行く長門?また図書館でも行くか?」

 

俺がそう訊くと長門はすぐ応えた。

 

「……行く所がある。ついて来て」

 

そう言って長門は歩き出した。

特に断る理由もないので、長門について行くことに。

 

着いたそこは……。

 

「映画…館?」

「そう」

 

なぜ映画館?長門は何か見たいものでもあるのか?

長門は無言のまま映画館内に入った。なんとそこには――

 

「な!ハルヒにキョっんぐ!」

 

俺は叫びそうになったが、長門が俺の口を手で抑えた。

 

「……なんでこんなとこに二人がいるんだ?」

 

俺は囁きながら長門に訊いた。

 

「特別意味はない。ただ映画を見ようとしているだけ」

「そ、そうか」

 

なんだよハルヒ。人には真面目に探せなんて言っておいて自分は遊んでいるではないか。理不尽にも程がある。

 

「それで長門、なぜ俺たちまで?」

「二人を監視するため」

「え?」

「情報統合思念体から報告があった。今日中にあの二人のどちらかに変化が起きると。万が一のため監視せよと言われている」

「そ、そうなのか」

 

長門は頷いて答えた。

ハルヒたちはもう上映フロアに入って行った。

俺と長門もハルヒたちと同じ映画のチケットを買い入った。

なるべく二人に気づかれないように後ろ、尚且つ二人がよく見える席を選び座った。

二人を見ると、ハルヒは特大ポップコーンを手にしワクワクしていて、キョン子もどこか楽しそうに見えた。

 

そのうち映画が始まった。

長門は映画には目もくれず、二人をずっと監視していたようだった。

俺はというと、最初こそはしっかりと見ていたがいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

目を覚ましたのは映画が終わった後だった。

長門が俺を起こしてくれた。

 

「あ、すまん長門。寝ちまった」

「問題はない」

「そうか。それで、二人は?」

「今ここを出ようとしている」

 

相変わらず無表情に答える長門。

 

「そうか、じゃあ俺たちも行こう」

 

長門は頷いて応える。

 

映画館の外に出ると、二人は少し先を歩いていた。

俺と長門は映画館の入口で二人を見ていた。

 

どうやら先程の映画について話しているようだ。

ハルヒが右手の人差し指をくるくると回していた。

 

何をしているんだ?と思っていると、なんと俺と長門の近くに停めてあった車が宙に浮き出したではないか。

 

「な、ななな何が!?」

 

俺は口を大きく広げて唖然としていた。すると、隣にいた長門がすっと右腕を上げたかと思うとあの超高速呪文を唱えた。すぐしてその車は静かに地面に戻った。

 

「な、なんだ!今のは!?」

「今涼宮ハルヒが指を回した事が原因。おそらく、先程の映画が影響している」

「へ?」

 

ああ、さっきの映画主人公たちが魔法使いだったな。まさか!?

 

「ハルヒは魔法を使った?」

「必ずしもそうではない。映画の真似をして涼宮ハルヒは無意識のうちに力を使った。だから今その車が宙に浮くという現象が起きた」

 

そうなのか。それを聞いた後ハッとして周りを見回した。どうやら今起きた現象に周りの人は気づいていないようだった。ホッと胸をなでおろす。

まったく、変な空間創ったり何度も夏休みをループさせたり、今度は魔法みたいなもん使ったり。

もう厄介事は勘弁してくれ、ハルヒ。

 

「もう心配はない。車を戻す際、涼宮ハルヒの周りに今の力を抑えるための制御ブロックもかけた。もう何かを浮かすという現象は起きないはず」

 

さすが長門。

 

「そうか。ありがとう長門」

 

長門は頷いて応えた。

 

 

俺と長門は一度ハルヒたちから離れ、駅前の集合場所に来ていた。

 

「それで、二人に変化は見られたのか?」

「今のところどちらにも変化は見られない。このまま何も起きないかもしれないが、断定はできない」

「……そうか」

 

長門と話していると、朝比奈さんと古泉が戻ってきた。

 

「おや、あなたにしてはお早い集合で」

 

相変わらずニヤニヤとした笑顔で古泉は言った。

 

「ああ、ちょっといろいろとあってな」

「ほお、お話をお聞きしましょうか」

 

古泉は少し真剣な顔になった。

 

俺は先程起きた現象と、長門が言った二人に変化が起きるかもしれない事を朝比奈さんと古泉に話した。

 

「それで午後からの探索なんだが、もしハルヒかキョン子のどちらかとペアになった人は、なんらかの変化が見えたらすぐに長門に連絡する。というふうにしないか?」

 

俺がそう言うと古泉は感心したように言った。

 

「珍しいですね。あなたがそんなに積極的なのは」

「そうか?とにかく長門、今の案でいいか?」

「私は構わない」

「朝比奈さんは?」

「大丈夫です」

「それじゃあよろしくお願いします」

 

さて、後はハルヒたちを待つだけか。

 

 

俺はこの時、この後あんな大変な事態が起きるなんて想像もしなかった。

 

 

 

[通常視点]

 

映画館を出たハルヒとあたしは、少し休憩しようとハルヒが言ったため近くのベンチに座っていた。

ハルヒはついさっきまで楽しそうに映画の話をしていたのに、急に黙ってしまった。

 

この沈黙はいつまで続くのかと思っていると、ハルヒが話し出した。

 

「キョン子」

「何だ?」

「前に訊こうとした事なんだけど……」

 

ハルヒは言いづらそうにしたが、すぐに言った。

 

「…キ、キョンって、好きな人…とか……いるのかな?」

「はい?」

 

え?今なんて……えぇ!?

ハルヒがそんな事訊いてくるなんて、あっあたしが知っているハルヒじゃない!

 

「で!どうなのよ!?」

 

訊いてくるハルヒは、顔を少し朱くしていた。

 

「なんでそんなこと知りたいんだ?」

「え!?そっそれは……だ、団長だからよ!団長はつねに団員のことを考えているのよ!」

 

ハルヒは更にまた顔を朱くして言った。

なんだか見てて、可愛いな。

ほんとに恋する女子高生って感じだ。見てて楽しい。

まあここは真面目に答えてやらないとな。

 

「そうだな、あたしはキョンじゃないからよくわからないけど今んとこはいないんじゃないか?」

「そ、そう」

 

ハルヒはいかにもどうでもいいという感じに言ったが、どこか安心したような顔をした。

 

「あっあと一つ!キョンって、あ、あたしのことどう思ってるのかしら?」

 

はい?今度はハルヒ?

そう言われてもなあ、あたしはこの世界の人間じゃないしたしかにあたしの世界のキョンもハルヒに振り回されているけどこっちのキョンはその倍は振り回されている気がする。

そんなキョンがハルヒをどう思っているんだろ。

…嫌い……なわけないな。

 

「また同じこと言うけどあたしはキョンじゃないからさ、ほんとの気持ちはわからない。けど、たぶんキョンはハルヒのことを嫌ってはいないと思う」

「……どうしてそう言えるの?」

「だって、もし嫌いならハルヒとこうして一緒にSOS団にいないだろ?キョンは何かしらハルヒに対して感じるものがあるんじゃないかな。」

 

あたしがそう言うとハルヒはまた少し朱くなっていた。その顔は、どこか嬉しそうに笑っていた。

 

「そ、相談聞いてくれて……あ…ありがとう…」

 

最後のほうは小さい声だったが、あたしには聞こえた。

ハルヒがありがとうか。初めて聞いたよ。

 

「どういたしまして」

 

 

その後、集合時間となるので駅前に向かった。着くと他の四人はすでに到着していた。

なかなか早いな。

 

いつもの店で昼食をとり、また組分けを行った。

ペアは次の通り。

 

ハルヒ・朝比奈さん

あたし・キョン

長門・古泉

 

今度こそハルヒは振り回しそうだ。なんせ相手が朝比奈さんだからな。

長門とペアになっていろいろと話したかったが、まあキョンとでもいいか。また話したいことが出来たし。

 

またそれぞれの探索場所を決められ、それぞれ分かれた。

 

あたしとキョンは、近くの公園にあるベンチに座って時間をつぶすことに。

いつだったか、あたしの世界でした市内探索で朝比奈さんと話したところだ。

最初は二人してぼーっと空を見上げたりしていた。

しばらくしてあたしはキョンに話しかけた。

 

「なあキョン」

「ん?なんだ?」

 

キョンは空を見上げながら答えた。

 

「キョンは、ハルヒのことをどう思ってるんだ?」

 

そう訊くとキョンは空からあたしに目線を変えた。

 

「な、なんでだ?」

「いや、毎日振り回されていてしかもこの世界じゃ不思議なんちゃらパワーがついてるんだろ?大変じゃないか?」

「う、まあたしかに、大変だな」

 

そう言いながらキョンは苦笑いした。

 

「だから正直なところハルヒをどう思ってるのかなあと」

「うーん、そうだな…あまり深く考えた事は……まああるにはあるが…」

 

そう言いながらキョンは話し始めた。

 

「たしかに俺はいつもハルヒが持ってくる厄介事に付き合わされて、うんざりとしていたところはあるな。いつも損するのは俺ばっかりだし。

まあでも、なんか憎めないと言うか……。

そりゃあの閉鎖空間に閉じ込められたりや、永遠とループする夏休みを過ごすハメになったりしたが。

そういう非日常的な生活をしてきたからか楽しいと感じるようになってな」

「楽しい?」

「ああ。今のほうが俺には日常になったんだ。キョン子や他の人から見れば非日常な事かもしれんが、毎日ハルヒの相手してれば考えも変わってくるさ。

それに、今の俺はハルヒがいたからこそここにいるのかもしれん」

「え?なんでそう言えるんだ?」

 

あたしは少し首を傾げて訊いた。

 

「なんでだろうな。ハルヒと出会っていろいろな体験して、俺もおかしくなっちまったのかな。でも、俺の中でハルヒはでっかい存在なんだ」

 

そう言ってキョンは、また苦笑いをした。でもさっきの苦笑いとはどこか違って見えた。

 

「そうか。じゃああたしの世界のキョンもそう思っているのかな?」

「さあな。そっちの世界はこの世界と違うけど、ハルヒの性格はほとんど同じなんだろ?」

「ああ」

「だったら、同じ考えでもおかしくはないと思うぞ」

 

そうだな。なんかいい話を聞けた気がする。

 

「そうか。ありがとな」

 

そうだな、あたしもハルヒと出会って何かが変わった気がするもんな。あたしの世界のハルヒは不思議なんちゃらパワーは持ってないけど、何か人を魅了するような不思議な力はあるよな。

そんなことを考えていると、今度はキョンが話してきた。

 

「じゃあ今度は俺からの質問。SOS団をどう思ってる?もちろん、自分の世界で考えてくれていい」

「SOS団か?」

「ああ。SOS団をどう思ってるか。俺はそうだな……簡単に言うと、ちょっと照れ臭いがかけがえのない仲間だと思う」

「かけがえのない仲間……か」

 

SOS団…か。あたしはどう思っているんだろう?

 

いつも何気なく部室に集まって、キョンや古泉、早川とゲームして、朝比奈さんからお茶をもらって、長門の本を読む姿見て、ハルヒが持ってくる厄介事にキョンとため息ついたりして……。

 

なんだろう?

あたしはどう思っているんだろうか。

…どこか、安心できるところ?

……わからないな。

 

でも、言葉にできないこの温かい感じは……?

胸の奥で感じる、この温かい感じ……。

 

「あたしにとってSOS団は……、まだ言葉にして表現できないな。でも、なんとなく居心地のいいところって感じはする」

「そうか」

 

キョンはあたしの答えを聞くと、少し微笑んでいた。

照れ臭く感じたが、否定はできない。

 

あたしの中にはあいつらがいるから。

 

 

「いつ、キョン子は帰れるんだろうな」

 

キョンが唐突に言ってきた。

 

「さあな。できるなら早く帰りたい……が……っう」

「キョン子?」

 

あたしは頭を抑えていた。

 

「どうした!?頭が痛いのか?」

 

あたしは無意識のうちにその場に立ち上がった。

 

「だ、大……丈…夫。少…し……痛い……だ…うっ、ぅああぁぁああああぁぁぁぁ!!!」

 

あたしは地面に膝をついた。

頭の中をまるでえぐられるような激痛が走ったからだ。立ってられなかった。

 

「いっ!あぁぁっ、…うっ……くっ!!」

 

あたしの頭の中で、いろいろな時の記憶が飛び交った。

生まれたばかりのあたし。

小学生のあたし。

中学のあたし。

 

そして、今のあたし。

 

また周りにいた友達や家族……。

 

今その記憶が一気に頭に流れ込んできた。

 

あ、頭が……爆発しそうだ……!

 

「キョ―子―しっ――しろ!い―長門―――から―!」

 

キョンが何か言ってきたが、あたしには何を言っているのかまったくわからなかった。

 

ダメだ……、また…意識が……。

 

あたしはそのまま意識を失い、地面に倒れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

またあの真っ暗な空間だ……。

あの時と同じ。

 

……あたしはこのままどうなるんだ?

まさか、死んでしまうんじゃ……嫌だ!あたしはまだ死にたくない!

 

そんな考えとは反対に、体は少しずつ深い深い暗闇の中へ落ちていく……。

 

 

……キョン、ハルヒ、古泉、朝比奈さん、早川、朝倉、……長門!

 

 

その時。

遥か上のほうから光が見えた。

 

その光は少しずつ大きくなり、あたしがよく知る人物へ―――長門有希へと形を変えた。

 

長門はあたしに手を伸ばした。

あたしはその手をしっかり握った。

 

『もう、大丈夫』

 

そしてあたしの体は、温かい光に包まれた……。

 

 

 

[キョン視点]

 

キョン子と何気ない会話をしていた時だった。

突然キョン子が頭を抑えて叫び出した。まさかこれが長門が言った変化?

やばい、何かやばい!何かわからないが俺の脳が警告している。すぐに長門を呼ばないと!

キョン子は今や地面にはいつくばるようにして苦しんでいる。

 

「キョン子、しっかりしろ!今長門を呼ぶからな!」

 

そう言って俺は携帯を開き、長門に電話をした。

長門はすぐに出た。

 

「な、長門!キョン子が、キョン子が!」

 

俺はそれしか言えなかった。

 

『落ち着いて。あなたたちは今どこ?』

 

長門の声は落ち着いていたが、どこか焦っているような感じがした。

俺がちゃんと落ち着かないと。

 

「い、今駅前近くの〇〇公園にあるベンチだ!キョン子が突然苦しみ出した!」

『わかった。すぐ行く』

 

そう言って長門は電話をきった。

携帯をしまいキョン子を見る。

 

俺は目を疑った。

 

なんとキョン子の体が光の粒子となって消え始めていたのだ。

そう、あの時の朝倉涼子のように。

 

やばいヤバイやばい!!

まさかこのまま消えてしまうのか?

いや、そんな事ダメだ!

 

俺は自分の無力さに嫌気がさした。

俺は何もできないのか!?

 

その時、長門がマッハの速度で俺とキョン子の前に着いた。

 

「な、長門!キョン子が……」

「離れて」

 

長門の指示に従い、俺はすぐさま二人から離れた。

長門はキョン子の前に膝をつき、腕を伸ばしてあの高速呪文を言った。

すると、キョン子と長門を白い光のドームが包み込んだ。

 

俺はただひたすら願った。

キョン子が消えない事を。

 

数分後、光のドームがなくなった。

そこには立っている長門と、地面に仰向けになっているキョン子がいた。

なんとか消えずに済んだようだ。

 

「な、長門。キョン子はもう、大丈夫なのか?」

「もう大丈夫。心配はいらない」

「そうか。長門、なんでこんな事が?」

「おそらく、涼宮ハルヒによる情報改変が行われた可能性がある」

「……ハルヒが?」

「そう」

「もしかして、元の世界に?」

「おそらく。涼宮ハルヒが彼女を呼んだ目的を達成したと思われる。それにより彼女を元の世界に戻そうとした。もちろん無意識的に。しかしなんらかの影響でエラーが発生したため、彼女は情報連結が解除しかけた」

「ハルヒが、目的を達成した?」

「と思われる」

「そ、それで、キョン子を元の世界に戻そうとしたけど何かが起きて消えかけた?」

「そう」

 

長門はいつものように淡々と答えた。

 

と言うことはなんだ。

キョン子は元の世界に帰りかけたのに、逆に消えかけた?

そんな理不尽な事があるか!

 

……まあ消えずに済んでよかった。

 

「それで、キョン子はまだ起きないのか?」

「彼女は身体的にも精神的にもかなりのダメージを受けた。意識が回復するにはまだ時間がかかる」

「そうか」

 

さて、集合時間までに間に合うかどうか。さすがにハルヒには見せられない。

 

「心配はいらない。私の家に連れて行く」

「え?そうすると、ハルヒが怪しむんじゃ……」

 

そう言うと、長門はとんでもない事を言った。

 

「今あなたと私、古泉一樹と朝比奈みくる以外の人間は彼女を認識していない」

「え?そ、それはどういう…」

「涼宮ハルヒが行った情報改変によって彼女はこの世界から元の世界に戻されたことになっている。したがって記憶もない」

 

そ、そんな。もうこの世界の人は誰もキョン子のことを覚えてないって?

……待てよ、って事は

 

「ハルヒも忘れたって事は、キョン子はもうハルヒの力では帰れない?」

「そう」

 

なんてこった。

そうなると、キョン子は帰れなくなってしまったのか?

 

「長門、まだキョン子が帰れる方法は?あるのか?」

「まだ帰れる方法はある。その話はあとの二人が集まった時に話す。今は早く彼女を運ぶことが先決」

「あ、ああ。わかった」

 

よかった。

まだキョン子を元の世界に帰す方法はあったのか。

 

俺はキョン子をおぶって長門のあとについて長門のマンションに向かった。

向かいながら俺は古泉と連絡をとり、先に駅前にいてくれと言った。

 

 

長門の家に着いた俺は、長門が敷いた布団にキョン子を寝かせた。

時間を見ると集合時間まであまり余裕がなかった。

 

「長門、急いで戻ろう。時間がない」

「私はここにいる。彼女を見ている」

「え?そうすると、ハルヒには?」

「心配はない。情報操作を行い、今日私は最初から探索に参加しなかった事にする」

 

そう言うことか。こういう時情報操作って便利だよな。

 

「わかった、じゃあまた後で。二人も連れて来る」

 

長門は頷いて応えた。

俺は急いで駅前に向かった。

 

 

着いた時間は集合時間ギリギリだった。

そこにはやはり不機嫌なハルヒが待ちくたびれたと言うような顔をしていた。

 

「遅いキョン!しかも単独行動して、何様のつもり!」

「悪いな。時間ギリギリまで不思議を探そうかと思ったんだよ」

 

これを聞いたハルヒは少し機嫌が直った。

 

「あら、キョンにしてはいい心がけね。で、何か見つけた?」

「いや、さっぱりだ」

 

ハルヒはまた不機嫌な顔をしたが、すぐに戻った。

 

「まあいいわ。明日もしたいところだけど、用事があるから無しよ。また明後日会いましょう!」

 

そう言ってハルヒは帰って行った。

ハルヒが見えなくなると、朝比奈さんが不思議そうな顔をして話しかけてきた。

 

「あのぉ涼宮さんは何も言わなかったですけど、長門さんとキョン子ちゃんは?」

 

古泉も訊いてきた。

 

「僕も知りたいところです。今何が起きているんですか?」

 

俺は二人にキョン子に何が起きたのかを話した。

消えかけた事、ハルヒの情報改変、それにより帰る方法の変更。

朝比奈さんはキョン子が消えそうになったと聞くと、小さな悲鳴をあげた。

 

話し終えると、二人はとても真剣な顔になっていた。

 

「それでこの後、長門の部屋で話があると長門が」

「別の帰る方法についてですね」

「ああ。朝比奈さん、この後大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「古泉はもちろん大丈夫だよな」

「当たり前です」

「よし、じゃあ行こう」

 

そうして俺たち三人は長門のマンションへと向かった。

 

 

 

[通常視点]

 

……うっ…あ、あたしは、どう…なったんだ?

 

あたしは少しずつ目を開いた。

そこは、何度か泊まったりしていて見覚えのある部屋―――長門の部屋だった。

 

「起きた?」

 

長門があたしの左に座っていた。

相変わらずの無表情だが、目の奥で心配したというような感じを出していた。

 

あれ?

なんであたしは長門の家に?

たしかキョンと話していたら急に頭が痛く……!?

そうだ!!

頭が痛くなって地面に倒れて……

 

「長門!あたしはなんでここに……」

「落ち着いて」

 

あたしは起き上がろうとしたが、長門がそれを止めた。

 

「まだ寝ていたほうがいい。あなたは身体的にも精神的にもかなりのダメージを受けた。まだ回復できていない。安静にするべき」

 

そう言って長門はあたしを寝かせた。

 

「わ、わかった。……それで、あたしに何が起きたんだ?」

 

あたしは再度質問をぶつけた。

 

「あなたは今から1時間37分28秒前、突然起きた頭痛により意識を失ってしまった。その時情報連結が解除しかけたがなんとか阻止した」

 

え?

倒れたのはわかるが、なんだ?情報連結が解除?

それからあたしは長門から事情を聞いた。

 

長門を造った情報統合思念体とかいうところから報告があって、今日あたしかハルヒに変化が起きるかもしれないということ。

それで午前はキョンと一緒にあたしとハルヒを監視していたこと。(あの時感じた視線は長門たちのものだったのか)

 

それで情報連結の解除とは、あたしが消えてしまいそうになったと聞いた。

き、消えそうになっただって!?

 

「い、いったいどうして!?」

「おそらく、涼宮ハルヒがあなたを呼んだ目的を達成したと思われる。それによりあなたを元の世界に戻そうとした。もちろん無意識的に。しかしなんらかの影響でエラーが発生したため、あなたは情報連結が解除しかけた」

「ハルヒが、目的を達成した?」

「と思われる」

「そ、それで、あたしを元の世界に戻そうとしたけど、何かが起きて消えかけた?」

「そう」

 

長門はそう淡々と答えた。

 

あたしは元の世界に帰りかけたのに、逆に消えかけた?

そんな理不尽な事があるか!

……まあ消えずに済んでよかった。

 

「それで…、あたしはもう……元の世界には帰れないのか?」

 

聞きたくはなかったが、とても重要なことだ。あたしは帰りたい。

 

「涼宮ハルヒ本人の力による方法はもう出来ないが、まだ帰る方法はある」

「ほんとか!」

 

よかった。まだあたしは帰れるんだ。

 

「その話はあとの三人がここに到着してから話す。それまであなたは安静に」

 

三人とは、キョン・朝比奈さん・古泉のことか。

 

「わかった」

 

それにしても、ハルヒがあたしを呼んだ目的ってのはなんなんだったんだ?

……まさか!?

あの映画の後で訊いてきたあれか?

だとしたら、たったあれだけで……まあ、ハルヒならやりそうなことだな。

ハルヒにとっては重要なことだったんだろう。

 

しばらくして長門が話し出した。

 

「少し、訊いておきたいことがある」

「ん?なんだ?」

「あなたの世界の私とあなたはどんな関係?」

「あたしと長門?」

 

そう訊き返すと長門は頷いた。

 

「長門がどうあたしのことを思ってくれているのかわからないけど、あたしにとって長門は……とても大切で、守ってあげたい友達……かな」

「守り…たい?」

「ああ。あたしの世界の長門は長門と違って……普通の人間だし、いろいろあってだな……」

 

 

そこからあたしは、あたしの世界の長門の過去について話した。相手が長門だけあって話し辛かったが、聞いて欲しくて一生懸命話した。長門は真剣な眼差しで聞いていた。

 

「……だからあたしは、おこがましいかもしれないけど長門をずっと守りたいって思うし、ずっと仲良くしていたいと思ってる」

 

そう言ってあたしは話し終えた。

しばらくして長門が口を開いた。

 

「あなたの世界の私と私は同じ考えを持っていると断言はできない。だが、私はあなたに会えて何かを感じた。

あなたがここに泊まった夜、私は無意識のうちにあなたのところへ行った。一緒にいたいという感情を抱いたのはあなたで二人目。だがこの感じるものは彼とあなたでは違いがある。

うまく言語化できない。

でもあなたといるととても温かくなるような感じになる。

もしあなたの世界の私も同じ考えならば、あなたの世界の私もそう感じているかもしれない」

「そう……なのかな?」

 

あたしに会えて温かいものを感じたか……。

なんか照れ臭いが、嬉しいな。

 

「もうすぐ三人がやって来る。話はここでするからあなたはここにいて」

「わかった」

 

長門の気遣いに感謝だな。

 

 

長門が部屋を出る時、振り返ってあたしにまた話しかけた。

 

「先程のあなたの話を聞いて、あなたの世界の私はかなり精神が不安定だと推測する。あなたが元の世界に戻ったらしっかりと支えて欲しい」

「当たり前だ。あたしはあたしの世界の長門と約束したんだ。ずっと仲良く、一緒にいるって。長門とも約束するよ」

 

そう言うと長門はすごく微妙にだが、微笑んだように見えた。

こっちの世界で初めて長門が笑ったのを見た。

 

 

 

すぐして、インターホンが鳴り長門の後に続いて三人が入って来た。

長門はさっきと同じあたしの左に座り、朝比奈さんは心配しましたぁと少し涙目になりながらあたしの右に座った。

古泉は朝比奈さんの右隣り、キョンは長門の左隣りに座った。

まるであたしのお見舞いに来たような感じだ。

 

「キョン子ちゃん、もう大丈夫ですか?」

「はい、もうすっかり。長門のおかげで」

「そうですか。よかったです」

 

朝比奈さんは微笑んで言った。

 

「あ、キョン。ここまで運んでもらったみたいで悪かったな」

「ん、気にするな。無事でなによりだ。さて長門、キョン子を元の世界に戻す方法を説明してくれるか?」

 

キョンがそう言うと長門は頷いて話し始めた。

 

「情報統合思念体が調べた結果、複数の方法を見つける事が出来た。実は昨日の時点で見つかっていたが、帰れる確率がとても低く危険なものが多いため我々は涼宮ハルヒの力によるもので帰る事に賭けた。だが、それは失敗に終わってしまった。

そこで一番確実で危険の少ないこの方法を今の段階では推奨する。だがそれでも帰れる確率が50%しかない。あなたがもし嫌ならばまた違う帰れる方法を探す。だがかなり時間はかかると推測される」

 

ご…50%!?

これは半分の確率で帰れないということだ。

でも、更に安全な方法を見つけるまでどれくらい時間がかかるか……。

長門、あたしは……そうだよな、約束したもんな。

 

うん、決めた。

 

「それで…あたしが帰れるんなら、その方法であたしはいい」

 

この答えたにキョンが反論した。

 

「お、おい!いいのか!確率が半分しかないんだぞ。長門はもっと安全な方法を探すって言ってるんだからもっと確実な方法が見つかってからでもいいんじゃないか?」

「たしかにそのほうがいいかもしれないが、あたしは早く元の世界に帰りたい。あたしの世界で待ってくれているかもしれない長門やみんなに……早く…会いたいんだ。だから例え確率が半分だろうと、あたしはその半分に賭ける」

 

あたしは真剣な目でキョンを見ながら言った。

 

「……わかった。キョン子の世界の長門たちがとても大切なんだな。キョン子が決めることに俺はもう意見はしないよ」

 

キョンはやれやれとしたが納得してくれたようだ。

 

「ありがとうキョン。長門、あたしはその方法で行く。詳しく教えて欲しい」

 

そう言うと長門は頷いて話し始めた。

 

「方法は今から3年前の7月7日へ時間遡行を行い、東中学のグラウンドにある絵文字を使って行う」

「え?3年前?」

「な、あれを使うのか!?」

 

キョンはビックリとして長門を見ていた。

 

「そう。あの文字にはかなりの情報量と改変能力の源が詰まっている。涼宮ハルヒによって描かれたものだから」

「あれは俺が描いたんだがな」

「そう。あなたが描いたもの。だがしっかりと涼宮ハルヒの力があの文字にはある。その力を使って私が情報操作を行い異次元空間の壁に穴を開けワープホールを造る。その中に入れば50%の確率で帰れるはず。」

 

……あまりわからんな、仕組みが。

まあ長門が言うんだ。大丈夫だろう。

 

「そ、それでもしも失敗して帰れなかったら、どうなるんだ?」

 

あたしは恐る恐る訊いてみた。

 

「失敗した場合、30%の確率でまたこの世界に戻ると推測される。この場合あなたはもう二度と元の世界には戻れなくなる可能性がある」

「に、二度と?」

「そう。二度と」

 

な、長門。無表情のまま言うから、なんだか怖いぞ。

でも、失敗したら……もう二度とか……。

 

「それで、残りの20%はどうなるのですか?」

 

古泉はいつものスマイルではなく、真剣な顔で長門に訊いた。

 

「残りの20%中15%はどちらの世界にも行けず異次元空間に取り残されると推測。あとの5%は元の世界でもこの世界でもない、まったく違う世界に行ってしまうと推測される」

 

…それが本当だとしたら、あたしは相当危険な賭けをするんだな。

失敗してしまったら……もしかしたら普通の生活さえもできなくなってしまうのか……。

 

あれこれ考えているとまた長門が話し出した。

 

「決定権はあなたにある。私たちは出来る限りの事はする」

 

長門がそう言うと朝比奈さんも言った。

 

「そうですよキョン子ちゃん。私たちが精一杯支えます」

 

朝比奈さん……。古泉を見るといつものスマイルではなく違う微笑みを見せていた。言わずとも朝比奈さんと同じ気持ちですと言っているようだ。キョンもそうだった。

 

あたしの中の迷いはなくなった。

 

「みんな…ありがとう。……決めたよ、あたしはその方法で行く」

 

そうあたしが言うとみんなは頷いた。

 

 

 

「それではキョン子ちゃん、長門さん、いいですか?」

 

朝比奈さんがあたしと長門の肩に手を触れながら言った。

長門は頷いて応える。

 

「いいですよ朝比奈さん」

 

これからあたしと朝比奈さんと長門で3年前へとタイムスリップするのだ。あたしが元の世界に戻るために。

キョンと古泉は行っても役に立てる事はないということで残るそうだ。

 

「じゃあなキョン子。元気で」

「お気を付けて。お役に立てなくてすみません」

「いや、二人にはいろいろと世話になった。ほんとにありがとう。元気で」

 

キョンはああと言い、古泉はいつものスマイルで返した。

 

「それじゃ朝比奈さん、よろしくお願いします」

「はい。では目を閉じて、時間酔いするといけないので」

 

そう言われあたしはしっかりと目を閉じた。

 

「それでは行きます」

 

そう朝比奈さんが言ったその瞬間だった。

あたしはいきなり無重力空間に投げ出されたような、なんとも言えないような感覚に襲われた。吐き気がする……。

 

 

少しして、あたしの両足が固い地面についた。

恐る恐る目を開ける。

そこはどこかの学校の玄関だった。それに夜だった。

 

「……ここが、3年前……ですか?」

 

あたしは朝比奈さんに訊いた。

 

「はい。3年前の7月7日です。長門さんに指定された時間よりちょっと早い時間軸に着いてしまいました」

「早い?な……」

『違う!もうちょっとこっち!――』

 

あたしがなぜ早いのか訊こうとすると、グラウンドの方からどこか聞いた覚えのある声が聞こえた。

そおっとグラウンドを見る。

暗くてわかり辛かったが、グラウンドに降りるための階段の一番上からグラウンドにいる制服姿の男に向かって指示をだしている中学生らしい女の子がいた。

なんとそれは……

 

「ハ、ハルヒ!?それにキョン?」

 

あたしは少し声を抑えながら言った。

 

あれは間違いなくハルヒだ。今より一回り小さいが、あのしゃべり方はまさしくハルヒだ。しかもグラウンドには今と変わりないキョン!?

 

「はい。3年前の涼宮さんです。それとグラウンドにいるキョンくんは前に私と時間遡行をしたキョンくんですよ」

 

前に?

ああ、そう言えばキョンと朝比奈さんは前に過去に来て、昔のハルヒに会ったって言ってたっけ。それがこれか。

ということは

 

「長門、例の絵文字ってのは今キョンが描いているやつか?」

「そう」

 

はーあれが。なんて書いてあるんだ?

それに、一緒だという朝比奈さんがいないな。

 

「朝比奈さんはどこにいるんですか?」

「え?私ですか?私は、……あ、あそこで寝ちゃってるんです。見えないと思うけど」

 

そう言って朝比奈さんが指す方を見ると、グラウンドの脇に物置のような小屋があった。

暗いうえ遠かったので朝比奈さんが言うとおり誰かがいたとしてもわからなかった。

 

「なんで寝ているんですか?」

「えっと、なぜか私ここに時間遡行してすぐ眠ってしまって。よくわからないんですけど寝むくなっちゃったんです」

 

朝比奈さんは少し頬を朱く染め、恥ずかしそうに言った。

えっと、それはただの天然さんと片付けていいのでしょうか…。

 

「もうすぐ描き終えると思われる。それまでここに」

「ああ、わかった」

 

あたしたちはキョンたちが描いていなくなるのを待った。

 

 

しばらくしてキョンが描き終わりキョンはハルヒと話をしていた。それからすぐしてハルヒは学校をあとにした。

キョンは朝比奈さんを起こすと二人もすぐにどこかに行ってしまった

どこかしらあっちの朝比奈さんはとても慌てていたような感じだったけど、どうしたんだろう?

 

「朝比奈さん、なんかあっちの朝比奈さん慌てていたように見えたんですけど何があったんです?」

「え?ああ、あれはですね、ちょっといろいろあって未来に帰れなくなってしまって」

 

朝比奈さんは舌を出しながら言った。

 

「か、帰れなくなった!?それで、どうしたんですか!?」

「はい。この時間軸にいる長門さんに助けていただきました。それでなんとか帰れたんです」

「そ、そうだったんですか」

 

はー、長門はやっぱり(この世界では)頼りになるんだな。

あ、別にあたしの世界の長門が頼りないなんて思ってはいないぞ。

そう思っていると、しゃがんでいた長門がいきなり立ち上がった。

 

「どうした?長門?」

「二人が完全に学校の敷地内から移動したのを確認した。これから情報操作を行う」

 

そう言って長門は片腕を前に伸ばして超高速に呪文のような言葉を発した。

すると、学校の周りが一瞬歪んだように見えた。

 

「な、何をしたんだ?」

「学校外からの視覚情報をシャットアウトするためのシールドを展開した。これで外からはここで起きている事は見えない」

 

そう言って長門はグラウンドへと歩き始めた。

あたしと朝比奈さんも続いた。絵文字の前に着いた。

 

「そう言えば長門。この絵文字なんて書いてあるのかわかるか?」

「わたしはここにいる」

 

長門は即答した。

 

『わたしはここにいる』?

ハルヒはそんな事を書いて何を……。まさか、遠い宇宙人に向けてメッセージとかか?

ハルヒらしいな。

 

「これから情報操作を行う。少し下がって」

 

あたしと朝比奈さんは言われた通りに下がった。

長門は腕を絵文字に向け、また超高速呪文を唱えた。

すると、なんと絵文字全体が光り輝き出しちょうど真ん中あたりに光の渦のようなものが出来たのだ。

 

「あれが……ワープホール?」

「そう。あの中に入れば約50%の確率で元の世界に帰れる」

 

そうか、いよいよだな。

あたしが元の世界に帰る時は。

 

あたしは長門と朝比奈さんの方を向いた。

 

「朝比奈さん、ここまで連れて来ていただいてありがとうございました」

「いえ、少しでもお役に立てうれしいです。どうかお元気で」

 

そう言って朝比奈さんは微笑んだ。

 

「長門。いろいろと助けてくれてありがとうな。ほんと迷惑ばっかりかけちまったが」

「そんな事はない。私個人はあなたに会えてよかったと感じている」

「そうか、ありがとう長門。約束守るからな」

 

そう言うと長門は頷いた。

 

そしてあたしは、光の渦の手前まで行き深呼吸をした。

……大丈夫だ。きっと帰れる。

もう一度二人に振り返り、あたしは心から言った。

 

「ほんとにありがとう!!」

 

そしてあたしは、光の渦へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

ここは…どこだろう?

 

何もない真っ白な空間。

あの真っ暗な空間とは違う。

 

もしかして、これが異次元空間の中ってやつか?

……上も下も……右も左もわからない……。

 

あたしはここでずっと漂い続けるのか?

……嫌だ!そんなのは嫌だ!!

あたしはあいつらに会いたいんだ!

 

いつものように部室でキョンや古泉、早川とゲームして遊んだり、朝比奈さんが煎れるお茶飲んでハルヒの突然の思いつきを聞いて呆れたり笑ったりしたい。

 

クラスで夏姫から元気をもらったりして真田の自慢話でも聞いてやるよ。

そこに谷口や国木田も入れて馬鹿騒ぎしてもいい。

 

またあの鶴屋さんのなんの曇りもない笑顔を見て一緒に妹と遊んだりしてさ。

 

それに何より、約束したじゃないか。

 

朝倉と長門と

『ずっと一緒にいる、仲良しな友達でいる』

ってさ。

 

 

そうだ。

まだあたしにはやりたい事がたくさんある!

 

帰るんだ!

あたしの…世界に!!

 

 

すると、どこからか声が聞こえてきた。

 

『キョン子!』

ハルヒ?

 

『キョン子ちゃん』

朝比奈さん?

 

『キョン子』

キョン?

 

『キョン子さん』

古泉?

 

『キョン子』

早川?

 

『キョン子ちゃん』

朝倉?

 

『キョン子』

長門?

 

 

そのたくさんの声は、あたしの体の中……奥深くから聞こえてきた。

 

……温かい。

 

体全体が軽くなる。

 

 

今、そっちへ行くよ。

 

みんな―――。

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右手が温かい。誰かが握っている。

 

「……ん、う……~ん」

 

あたしは少しずつ目を開けた。

そこは知らない部屋だった。

 

「キョン子?」

 

右の方から聞き慣れた声。

 

「……長…門?」

「キョン子!!」

 

そう言って長門はあたしに抱き着いてきた。

 

「キョン子ちゃんが目を覚ました!」

 

そう言って朝倉も長門と一緒に抱き着いてきた。

扉がガラガラと開いて何人かが入ってきた。

 

「キョン子!」

「キョン子ちゃあん」

「キョン子!起きたのね!」

「キョン子さん、よかったです」

「おお、やっと起きたかいな。みんなして心配したでキョン子」

 

そう、キョンに朝比奈さん、ハルヒに古泉に早川だった。SOS団の全員がそこにいた。

 

 

 

あたしは、戻って来たのだ。……あたしの世界に。

 

「よかった……本当によかった」

 

長門は涙を流してあたしに抱き着いていた。朝倉もだ。

 

二人をそっと抱きしめた。

 

 

「ただいま……!」

 

 

あたしの頬にも熱い涙が流れていた。

 

 

 

 

 

あたしが目を覚ましたのはあの事故が起きてから4日目の朝だった。

 

あの日すぐにこの病院に運ばれて治療を受けたらしい。

なんでも体はかすり傷程度だけで済んだというのでビックリした。運が良かったということでいいのだろうか。

 

あたしをひいてしまった車の運転手は、すぐに自首したとのこと。なんでもブレーキオイルが抜けていたとか。

 

あたしの意識が戻らない中、長門と朝倉が付きっきりで看病していたらしい。

 

なんで朝からSOS団のみんながいたかと言うと、みんなして用事があると言ってあたしのところに来たそうだ。

 

キョンが家族と妹を呼ぶとすぐに駆け付けた。両親は安心したとホッとしていたし、妹はいつもより弱めだがあの元気いっぱいのタックルをしてあたしに抱き着いた。

 

その後もあたしが目を覚ましたという知らせを受けてたくさんの見舞いが来た。

 

鶴屋さんは大きな花束を持って来たし、谷口や国木田もやって来てくれた。

 

一番すごかったのは6組のみんな。なんと千羽鶴を持ってご登場。夏姫がみんなで作ろうと言って作ったらしい。やって来た夏姫は泣いて喜んだ。真田もやって来て、なんとも豪華な果物の詰め合わせを置いてった。

 

 

 

向こうの世界のキョン。

 

今なら確実に自信を持って言えるよ。

 

あたしにとってSOS団は……いや、このたくさんの友達は

 

 

『かけがえのない仲間』

 

 

だよ。

 

あたしはこんな仲間に出会えてよかった。

 

あっちの世界に行ったのも、今となってはよかったと思えるのかな。

なんかまあ楽しめたよ。

 

 

でもやっぱり、ここがあたしの居場所だから。

 

 

本当に今、いろんな人に言いたい。

 

 

 

『ありがとう』




~あとがきのようなもの~

どうも、My11です。
今回のお話、いかがでしたでしょうか。

今までの話より少々長めになってしまいましたが大丈夫でしたでしょうか?
どこかで区切って二つにしようかとも思ったのですが、どこで区切っていいか迷ったのもありますし、この話は一気に書きたかったので少し長いですがよろしくお願いします。
かなりグダグダな部分もあるかと思いますが、それがMy11のダメ文であります。ご了承ください。

あともう一つ。
前々回と今回はキョン子の通常視点とキョン視点の二つの視点から物語を進めてきました。
こういった別の視点を入れた方が面白いかなと思い入れたのですがいかがでしたでしょうか。

何はともあれ、楽しんでいただけたら幸いです。


キョン子「これからも『涼宮ハルヒの日常』をよろしくな」

作者「え!?いきなり主人公登場!?」

キョン子「ちょっと訊きたいことがあってな。今これからもよろしくなんて言ったが、今回のこれ最終回じゃないよな?」

作者「いやいや、雰囲気的にそう感じたのかもしれませんがまだまだ続きますよ。面白くないかもですが」

キョン子「作者自ら面白くないって……まあいいか。まだ続くのはわかったが、それにしても今回は疲れた。車にひかれたと思いきや、違う世界に行ったりタイムスリップしたり……」

作者「お疲れ様でした」

キョン子「一応訊くが、もうこんなトンでも設定はないだろうな?」

作者「ああー、どうでしょう?あるかもしれないし、ないかもしれません」シレッ

キョン子「(…これは身構えておいた方がよさそうだな)そ、そうかい」

作者「まあ、何はともあれこれからも

二人『涼宮ハルヒの日常をよろしくお願いします。それではまた』


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第12章 祝いと別れ

キョン「ん?なんだかここ(前書き欄)に来るのが久々な気が…?」
キョン子「ああ、おまえは第8章以来だなここは」
キョン「何!?もうそんなに進んでいたのか!?」
キョン子「まあ、いろいろあったんだよ」


例の事故から五日後。

 

意識が戻ってからあたしは一日で病院から退院していた。

(まあ別世界に行ってたりしたから時間間隔は特に変わりないんだが)

特に目立った外傷はなかったが、一応もろもろの精密検査を行い異常がなかったことが確認されたのですぐに退院となったのだ。

 

家に帰るとさっそく妹のスーパータックルをくらったが、それが妹の挨拶みたいなものだからな。こういう時くらい許してあげよう。

 

「ねねキョンちゃん、何かして遊ぼう!」

「ごめんな。姉ちゃんはこれから用事があるから支度しないと」

「え~、つまんな~い」

「一緒に連れてってあげるから我慢しなさい」

「え!いいの!?」

 

妹はビックリしながらはしゃいだ。

 

「ああいいよ。ほら、支度してきな」

「は~い!」

 

そう言って妹はスキップしながら自分の部屋へと行った。

 

実はこれから、真田家でパーティーが開かれるのだ。

もともと真田が主催して夏休み中に何かしようとしてたみたいだが、今回あたしが退院したお祝いだそうだ。大袈裟すぎると言ったのだが、真田と夏姫が聞かなくてな。

 

ちょうど昨日、あたしの見舞いに来た真田がこう言ったんだ……。

 

 

――――――――――

 

「いや~キョン子ちゃんも目を覚ました事だし、どうだい?明日の退院後、僕ん家でキョン子ちゃんの退院祝いをしないか?」

「な、そっそんなことしなくていいから……」

「あ、それいい!いいよトモッチ!やろうやろう!!」

 

夏姫まで……、まったく。

あ、トモッチってのは真田のことだ。名前の友輝の友をとってトモッチだそうだ。

 

――――――――――

 

 

という事があったんだ。

なんだかんだでパーティーを開く事になってしまったのだ。

 

それを聞いたハルヒが

 

「あたしたちも参加するわよ!!」

 

となり、SOS団も参加する事になった。

 

もちろん朝倉も参加すると言っていたし、谷口や国木田も来るらしいな。もともと招待する予定だった6組のみんなもOKしたみたいだし、あと鶴屋さんも参加するって朝比奈さんが言ってたな。妹が喜ぶだろう。

 

さて、キョンはどうした?と言うと、先に会場へと行ってくれと言っていた。ちょっと用事があるからと。

どうしたんだろうな。

なんだかんだで支度を終え、妹と一緒に家を出た。

 

真田家がどこにあるのか知らないので、夏姫に案内してもらう事になっていた。

あ、言ってなかったかもしれないが(あれ?言ったっけ?)夏姫と真田は小学生の頃からの幼馴染というか腐れ縁だそうだ。この前初めて知った。

 

夏姫とは駅前で待ち合わせていた。着くとそこには6組の人も何人かいて、みんなあたしが来ると退院おめでとうと声をかけてくれた。

そしてそこには

 

「やあやあキョン子ちゃん!退院おめでとう!」

「鶴屋さん!」

 

そこにはなんと鶴屋さんもいたのだ。なんでも朝比奈さんも用事があるから先に会場に行っていて欲しいと言われたらしい。駅前にいればあたしも来るからと言われていたそうだ。

 

「わ~い!鶴屋お姉ちゃんだ!」

「お~、妹ちゃ~ん。久しぶりだね。相変わらず可愛いにょろね~」

 

妹は鶴屋さんを見つけると即座に抱き着いた。やっぱり喜んでくれたか。

 

「みんな集まったね。それじゃ行こっかキョン子ちゃん」

「ああ。そうしよう」

 

夏姫の案内で真田家へと向かった。

 

 

十数分後、着いたそこは……

 

「……な、なんつー……」

 

デカイ。

その一言だった。

6組のみんなも(夏姫以外は)絶句したり、口をパクパクしていた。

造りは洋風に近い造りで、なんとも豪華な庭付きだ。どんだけ金持ちなんだよ。

 

「いや~、会場ってのはここ(真田家)だったんだね~」

「え?鶴屋さん知ってるんですか?ここ」

「知ってるにょろよ。うちの親と真田家はけっこう親しい仲でっさ、何回かパーティーとかに参加したことがあるっさ~」

 

そうだったんですか。てことは、鶴屋さん家もかなり金持ちなのかな。

いやはや、スケールが違いすぎる。

 

いつの間にかいた執事さんに案内されてあたしたちは真田家の中に入った。

案内された部屋に入ったあたしたちはまたもや(夏姫、鶴屋さん以外)絶句。

どこかのお城の部屋ですか!?って感じだ。もう言葉に表せられない。

 

「うわ~、すごっいおっきいお部屋~」

 

妹はもうはしゃぎまくりだ。

部屋の中には残りのクラスの人や谷口に国木田もいた。

 

だけど、キョンや朝比奈さん加えてSOS団のみんなはまだ誰も来ていなかった。朝倉もだ。

いったいどうしたんだろうな。

 

そんなことを思っていると、真田がステージのようなところに立ってマイクを握っていた。

 

『え~皆さん、今日はここ真田家にようこそ~。今日は、キョン子ちゃんの退院祝いと言う事でこのようなパーティーを開く事に…なんたらで…こうとかで……』

 

と、そんな感じに真田がしゃべりだした。

よく真田を見ると、なんだかお高そうなタキシードみたいな服を着ている。なんなんだよあれは。

しかし、なんだか話が長くなりそうだな。

そう思っていると、隣の夏姫がため息をつきながら言った。

 

「まったくトモッチ、しゃべりだすと止まんないんだから。谷口くん、ちょっと手伝って!」

「え?はい!夏姫さん!」

 

夏姫がステージのほうに向かいながら谷口にそう言うと、谷口はまるで敬礼したように背筋を伸ばして夏姫について行った。

夏姫は何をするんだ?と言うか

 

「くっ国木田。谷口のやつ、なんかおかしくないか?」

 

すぐ前にいた国木田に声をかけた。国木田は苦笑いしながら言った。

 

「ああ、キョン子ちゃん。谷口さ、あの球技大会の青木さん見てから青木さんにベタボレでさー」

 

なあるほど。そういう事か。

真田はもうお構いなしに演説紛いな事をしていた。

そこへ登場の夏姫と谷口。

 

『…えーですから、あれがどうのこうので…』

「あ~はいはい真田。そこらへんにしときな。マイク貸せ」

「あっおい!谷口くん!何をする…」

 

谷口は真田からマイクを取り夏姫へと渡した。

 

「どうぞ、夏姫さん!」

「ありがとう谷口くん。あ~えっへん。『トモッチの演説が終わりそうにないんで、司会進行は私青木夏姫に代わりま~す!』

 

会場にいるクラスの男子たちは、いいぞいいぞ~と盛り上げた。

 

『それじゃ~まず、今日の主役であるキョン子ちゃんから一言もらいま~す!キョン子ちゃ~ん、ステージ上へ~』

 

え~!?あたしも上に上がるの!?

周りのみんなからは拍手されてるし……やれやれ、しょうがないか。

あたしは渋々ステージ上に上がった。

 

「何話せばいいんだ!?」

 

あたしは小さい声で夏姫に訊いた。

 

「なんでもいいよ。なんか適当に一言言っちゃって!」

 

そう言って夏姫はマイクを渡してきた。

 

まったく、適当と言ってもな。いきなりこういうのはやめて欲しいな。

あたしは一回深呼吸をして言った。

 

『え~っと、今日はあたしなんかのためにわざわざありがとう。目を覚ました後でみんながお見舞いに来てくれた時、ほんとにうれしかった。改めてみんなにお礼を言いたい。ありがとう』

 

ちょっと恥ずかしかったが、正直な気持ちをありのまま言った。

またみんなは拍手をくれた。

あたしはマイクを夏姫に渡した。

 

『いや~、いい一言でしたね~。ではでは皆さん、準備はよろしいですかな!?』

 

夏姫がそう言うと、みんなはイエーイと応えた。

 

「何の準備だ?」

 

夏姫にそう訊くと、夏姫はフフフと笑った。

 

『それでは皆さん、入り口をご注目下さい!』

 

みんなは一斉に入り口のほうを見た。

何が始まるんだ?と思った次の瞬間だった。

 

入り口のドアがパッと開いて、何かとても大きな物が入ってきたのだ。入ってきた瞬間、みんなはオーっと声をあげた。

 

よーく見るとそれは――大きなケーキだった。

 

運んでいるのは、キョンと古泉に早川だ。その後ろから、ハルヒと朝比奈さん、長門に朝倉が続いた。

あたしはステージから飛び降りて長門たちの前に行った。

 

「な、こっこれ……」

 

あたしは言葉が出なかった。

ケーキには『キョン子 退院おめでとう!!』と書いてあった。

 

「ハルヒのアイディアでな、真田家のキッチンを使わせてもらってSOS団のみんなで作ったんだ」

 

キョンがあたしに言った。

 

「あら、私も一緒に作ったわ」

「あ、そうだったな」

 

朝倉がキョンの横につきながら訂正した。

 

いつのまにか長門があたしの前に立っていた。手には大きな花束を持って。

 

「キョン子、……退院おめでとう。そしてあの時は涼子と私を助けてくれて、ありがとう」

 

そう言ってあたしに花束を渡しながら長門は微笑んだ。

 

会場内『退院、おめでとう!!』

 

花束をもらった瞬間、会場内のみんながクラッカーを一斉に引いた。みんながあたしにおめでとうと言った。

長門は微笑んでいる。

今まで見た中で一番の笑顔だった。

 

「長門……!」

 

あたしは長門に抱き着いた。

頬には熱い涙が流れていた。

 

みんな……本当にありがとう!

 

 

その後はみんなでドンチャン騒いだ。

 

演説を途中で邪魔された真田は谷口となぜかアホみたいに早食い競争をしていて、それを国木田に夏姫と一緒に笑って見ていた。

決着は谷口の余裕勝ち。真田は途中でノビてしまった。

 

古泉は6組の女子に囲まれていた。かなりイケメンの部類だからな。いつものスマイルを見せていたが、困りましたねーと言うような感じが見えた。キョンはやや不満げに、早川はどこかおもしろそうに見ていた。

 

ハルヒは朝比奈さんを巻き込んでまたステージ上で歌ったり踊ったりしていた。たまに鶴屋さんと妹が入ったりしていた。

にしてもハルヒ、恥ずかしくないのかね。鶴屋さんと妹は別として、朝比奈さんは顔を真っ赤にしてるぞ。まあ今日はいろいろとサプライズをいただいたし何も言わないが、ほどほどにな。

 

長門は出された料理が気に入ったのか、もくもくと食べていた。そりゃまあすごいくらいにな。あの小さな体のどこにあれだけ入るんだと朝倉と笑っていた。

よく考えたら、長門ん家に泊まった時に食べたカレーも長門は三杯くらい食べてたっけ。

 

 

午後8時を廻る頃、パーティーはお開きとなった。あまり遅くまで学生はパーティーをするもんではないと真田の父親が言ったらしい。まあ、ちょうどいいあたりだし文句はないがな。

 

あたしはほぼ最後にSOS団の面々、朝倉、夏姫、鶴屋さん、妹と一緒に真田家の玄関へと来た。真田が玄関で見送った。

 

「それじゃ皆さん、帰りは気をつけて」

「ああ、今日はありがとうな真田。楽しかったよ」

「いやいや、キョン子ちゃんのためならなんでもするさ」

 

真田は少し照れながら言った。

 

「じゃあね~トモッチ~」

「ああ、じゃあな夏姫」

 

 

あたしたちは駅前に向かっていた。先頭にハルヒと朝比奈さん、後ろに古泉と早川が話しながら歩いていた。その後ろに妹と手をつないでいる鶴屋さん、さらにその後ろに夏姫がうれしそうにキョンと話しながら歩いていた。

 

あたしと長門と朝倉はみんなより少し離れて歩いていた。朝倉は左、長門は右だった。

 

「みんな仲がいいのね」

 

朝倉は前にいるみんなを見て少し微笑みながら言った。

 

「そうだな」

「もう少しみんなとこうやっていたかったなあ」

 

朝倉は少し悲しそうな笑顔で言った。

そうか、朝倉はもう両親のいるカナダへと行くんだったな。

 

「三日後に……行くんだったな」

「ええ。飛行機で午後の最初の便に……」

「そうか。……お母さんの具合はどうだ?」

「今のところ落ち着いているって。私が来るって聞いて少しずつ元気が出てきてるみたいよ」

「それはよかった」

 

朝倉は少し微笑んで言った。

前ではハルヒたちが楽しそうに会話を弾ませていた。

 

「向こうに行って落ち着いたら、手紙書くわ」

「ああ。待ってる」

 

 

そのうち駅前に着き、解散となった。

 

 

 

家に着き、すぐに風呂に入った。

 

風呂からあがって部屋に入ると、ちょうど携帯が着信を知らせていた。

誰から?と携帯を開くと――長門からだった。

 

「どうした?長門」

『…明日、私の家に来て欲しい』

「いいけど、どうして?」

『…手伝って欲しいことがある』

「手伝って欲しいこと?」

 

あたしがそう訊くと、電話の向こうで長門が頷いたように感じた。

長門からの頼みごとか、たぶん初めてだな。

 

「わかった。じゃあ明日行くよ。おやすみ」

『おやすみ』

 

そう言って長門との電話をきった。

 

あたしはベットに横になりながら考えた。

なんだろう、長門が手伝って欲しいことって……。

 

まあいろいろ考えなくても明日になればわかることか。

そのままあたしはまぶたを閉じ、夢の中へと落ちていった。

 

 

 

真田の家でパーティーをしてから三日後。

あたしと長門は朝倉に付き添って空港にいた。

 

空港に着いて最初に朝倉をビックリさせたのは、5組のクラスの人たちの出迎えだった。色紙や『涼子ちゃん!元気でね!』と書かれた幕を持って待っていたのだ。そのクラスの人の中にはしっかりキョンとハルヒの姿もあった。

 

また5組の人だけでなく、夏姫と真田にあのバレーボール女子(白熱!球技大会参照)の姿もあった。球技大会の記念に撮った写真にメッセージなどを書いて渡していた。

 

朝倉は何度もありがとうとみんなに言って色紙などをもらっていた。

 

 

そうして、午後1時。

朝倉の乗るカナダ行きの飛行機の搭乗時間になった。

朝倉は最後にあたしと長門の前に来ていた。

 

「それじゃ、二人とも。そろそろ行くわね」

「ああ」

「キョン子ちゃんとは短い間だったけど、楽しかったわ。ありがとう」

「こちらこそ。楽しかったよ」

 

あたしは笑顔で応えた。

 

「有希ちゃん」

「涼子」

 

朝倉は長門のほうに向いて言った。

 

「もう何度も言ったかもしれないけど、自分が辛い時や苦しい時は自分の中で溜め込まないで、周りの人たちに相談したりしてね。私は向こうに行くからこれからは側にいてあげられないけど、今はキョン子ちゃんがいるから。約束ね」

「わかった」

 

長門は頷きながら言った。

 

「キョン子ちゃん、有希ちゃんをよろしくね」

「まかせとけ」

 

あたしは胸を叩いて言った。

 

「……そろそろ時間…ね」

 

そう言って朝倉は腕時計を見て確認した。

 

「それじゃ……」

「あ、ちょっと待って」

 

行きかけた朝倉をあたしは呼び止めた。

 

「ほら長門、あれは?」

 

そう言うと長門はハッとしてポケットを探り始めた。

朝倉はキョトンとしていた。

 

「これ……」

 

そう言ってポケットから出したものを朝倉に手渡した。

 

「……これは…」

 

それは――赤と白のお守りだった。

 

「キョン子と一緒に…作った」

 

そう、あの時長門に呼ばれたのはこのお守りを作るためだったのだ。

 

白のほうには『涼子のお母さんの手術がうまくいきますように』と刺繍した。

赤のほうには表には『ずっと一緒』と黄色で、裏にはあたしと長門と朝倉の名前を刺繍した。

 

「…あ、ありがとう。一生大事にするわ!」

 

そう言って朝倉は飛び切りの笑顔をつくった。

そうしてあたしと長門を同時に抱きしめた。

 

「あ、そうだ。もう一つだけキョン子ちゃんにお願い」

「ん?なんだ?」

「これからは有希ちゃんのこと名前で呼んであげて」

「え?」

「だって有希ちゃんはそうして欲しいって思ってるんじゃない?」

 

そう朝倉が長門に訊くと長門は頷いた。

 

「キョン子にも、名前で呼んで欲しい」

 

長門はあたしの目を見ながら言った。

 

「そっか、そうだな。じゃあこれからもよろしくな、有希」

 

有希はうれしそうに頷いた。

 

「そうしたら私も名前で呼んで欲しいなあ…」

「え、ああじゃあ…涼子」

 

少し気恥ずかしかったがしっかりと二人の名前を呼んだ。

 

「ふふ、ありがとうキョン子ちゃん。それじゃ、もうほんとに行かなきゃ」

 

そう言って涼子は搭乗入り口まで行った。あたしと有希、他の人たちも近くまで見送りに行った。

 

「また、休みになったら会いに来るわ」

「おう。有希と二人でしっかり待ってるから」

 

そうあたしが言うと涼子はニッコリとした。

 

 

たくさんのクラスメイトたちに見送られて涼子はカナダへと旅立って行った。




~あとがきのようなもの~

どうもMy11です。
今回のお話いかがでしたでしょうか。

今回はキョン子の退院と朝倉涼子との別れのお話でした。
特にこれといったオチがあるわけでもなく、まあつなぎの話みたいな感じです。
朝倉涼子は今後の出番はあるかな……物語がどれくらいで進められるかで決まります。
個人的に出したいなあとは考えているので頑張りたいと思います。

とても短い後書きですが、それではまた次回。


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第13章 夏~だっ! 1

キョン「……夏だなあ」
キョン子「ああ、夏だな」
キョン「暑いなあ」
キョン子「何を当たり前なことを……まあそうだな」
妹「もう、せっかくの夏休みなんだから遊ぼうよ二人とも!」
双子「「おおぅー」」


だるぅく暑ぅい夏休みの中旬。

 

リビングでキョン、妹とともにあたしたちとはまったく縁のない県同士の甲子園の戦いをテレビで見ていた。

こういう野球やサッカーなんかを見ていてどちらのチームも興味がない時、ついつい負けているほうを応援したくなる。なんでだろうな?

 

さて皆さん、今日8月17日が何の日かご存知だろうか。

え?知らない?

まあそりゃそうだろうな。なんせ普通の日だからな。

 

どっかの誰かさんは終戦記念日から二日後とか言ってたが、まあそれは置いといて。

 

教えよう!

今日8月17日はハルヒが暴れだす日なのだ!

 

たぶんな。

 

なぜそんなこと言うかって?

いや実はあたし一度異世界に行って来ているんだよなあ、知っていると思うけど。

そこはこの世界とあまり変わらないところだったんだよ。(変わらないと言っても、宇宙人なんたらがいたのはビックリしたが)

そういうわけなのかこの世界の出来事とほとんど同じ事が起きていたんだよ。

微妙なズレなんかはあるが。

 

例えば、SOS団を結成した過程はかなり酷似していたが古泉が転校して来た日はかなりズレていた。

他にも、こっちでは球技大会があったが向こうではその大会すらなかったなどだ。

 

そういうズレが多少あるが、あたしが向こうの世界に行ったのが9月の初めごろ。

なので8月いっぱいまでの大まかな出来事は何かしら起きるんじゃないかと思っているんだ。

 

向こうの世界のキョンはこう言っていた。

8月の17日、こうしてテレビを見ていると携帯が着信を知らせる。もちろん、ハルヒからだ。

『水着一式と十分なお金を持って駅前に集合!あ、自転車に乗ってくるのを忘れずに!』

てなことをハルヒが言い出すらしい。

それから二週間はずっとハルヒによって振り回されるとか。

 

正直言ってこれをキョンから聞いた時はあたしの世界ではズレが生じてなしになってくれと願ったさ。

だって聞いたその課題とやらの内容は確かにおもしろそうだが、あたしの体力が持たん。勘弁して欲しいところだ。

 

まさかとは思うが、向こうの世界みたいに一万何千回とループしたりなど……するわけないか。

 

 

そんな感じなことを考えていると、なんとまあキョンの携帯が鳴りはじめたではないか。

…やっぱりあるのか……エンドレスな夏休みは…。

 

「キョンくん電話~」

「わかっている」

 

キョンは電話に出たが、一言も言わずに通話は終了した。

どうせハルヒが一方的に用件を言ったんだろう。

キョンは一回ため息をした。

 

「キョン子」

 

呼ばれたのでキョンを見ると、目がこっち来いと言っていた。

キョンの後について廊下に出た。

廊下に出て話をしようとしたのは妹に聞かれないようにするためだろう。そうしないとどうせついてくることになるからな。

 

キョンが何か言う前にあたしが先に言った。

 

「ハルヒからだろ?」

「ああ、なぜわかった?」

 

キョンは不思議な顔をした。

 

「なんとなくだよ」

「ん、そうかい。で、これからすぐに駅前集合だと」

「水着一式と十分なお金持ってか?」

「!?……おまえ、エスパーにでも目覚めたか?」

 

キョンはビックリしていた。

 

「なんとなくそう思っただけだ」

 

そう言ってあたしは自分の部屋に水着を取りに行った。

 

 

 

「遅い、キョン!」

 

キョンがこぐ自転車の後ろに乗してもらい駅前に行くと、すでにメンバー全員が集まっていた。古泉と早川はそれぞれ自転車を持っていた。

 

「毎度のことだが、なぜあいつらはこんなに早いんだ」

 

キョンの自転車からあたしが降りると、あたしにしか聞こえない声で訊いてきた。

 

「さあな」

 

小さい声であたしは応えた。

 

「さあ、みんな集まったことだし、行くわよ!」

「一応訊くが、どこにだ?」

「何言ってるの、市民プールに決まってるじゃない。夏は夏らしく夏じみたことをしないといけないの!高一の夏休みはたった一度きりしかないのよ!悔いを残さないようにしなきゃ」

 

そう言ってハルヒは満面の笑顔を見せた。

 

「夏休み序盤はキョン子のこととかいろいろあったから遠慮しといたけど(キョン子 へえハルヒが遠慮か)もう夏休みも残り二週間しかないんだから!さっさと行くわよ!」

「でもどうやって…」

「じゃあ古泉くんは後ろにみくるちゃん乗せてあげて。諒は有希を乗せて。キョンはあたしとキョン子よ!」

「…そういうことかよ」

 

ハルヒはキョンの後ろに立ち乗りした。いや、三人乗りってヤバイんじゃ…

 

「それじゃキョン、市民プールまで全速力!!古泉くんと諒に負けんじゃないわよ!」

 

ははは、そんなことハルヒが気にするわけないか。仕方ないな。

そう思いながらあたしはハルヒの後ろにおとなしく座ることにした。

 

 

 

「う~んこの消毒液の臭い、いかにもって感じね。さあ!行くわよみくるちゃん!」

「ふえ?ひゃあぁ~!」

 

ザッパーン!!

 

市民プールに着いて早々ハルヒはマッハの速さで着替えを済まし、今しがた朝比奈さんを道連れにしてプールへとダイブを行った。

ハルヒ、この飛び込み禁止の文字が見えなかったのか?

 

「早く来なさ~い!水がぬるくて気持ちいいわよ!」

「はいはい」

 

まあ何にせよここまで来たんだから楽しまないと意味がない。

 

「有希、行くか」

 

有希は頷いて応えた。

 

 

こんなにプールではしゃいだのは久しぶりだった。

 

キョンは古泉と水中息止め競争したり(古泉がなんともさわやかに勝利をしていた)、ハルヒは早川と泳ぎで競争したり(ハルヒも速いが早川もいい勝負をしていた)、近くでボール遊びをしていた子供たちと一緒にボール遊びをしたりなどなどだ。

ハルヒはいつも以上にハイテンションで遊んでいた。

お昼には朝比奈さん特製のサンドイッチをいただいた。

 

あたしと有希が日陰で休んでいるとキョンがやって来た。

 

「はあ疲れた。ハルヒのあれにはもうついていけん」

 

そう言いながらキョンはあたしの横に腰をおろした。

 

「はは、まあ不機嫌なハルヒより全然マシだろ」

「それもそうだがな」

 

キョンは苦笑いしながら答えた。

 

「つかこのプール、市民プールと言うより庶民プールと名乗ったほうがいいぜ」

「あはは、それ言えるな」

 

そんな感じにプールでのひと時をあたしたちは楽しんだ。

まあこんな夏休みの過ごし方も悪くはないな。

 

だがまあ、これがただの始まりにしか過ぎないということはハルヒを除けば、あたししか知らないことだった。

 

 

プールで存分に遊んだあたしたちはいつもの喫茶店に来ていた。

各々が飲み物を飲んでいると、ハルヒが一枚の紙をテーブルの上に広げた。

キョンが眉間にシワを寄せながらハルヒに訊いた。

 

「なんだこれは」

「これからの活動予定よ」

「一応訊くが、誰の予定だ?」

「SOS団の予定表よ!プールに行く前にも言ったかもしれないけど夏休みも残すところ後二週間しかないのよね。まだまだやってないことがたくさんありすぎるわ。こっからは巻きで行くわよ!」

 

そう言ってハルヒは拳を突き上げた。

朝比奈さんが紙を見ながら内容を読みあげた。

 

「えっと、盆踊りに花火大会、バイト、天体観測……、ふわぁいっぱいあるんですねぇ」

「これ全部残りの二週間で全てやるんかいな!」

 

早川はマジかいなと言わんばかりに叫んだ。

 

「そ!何か他にはやりたいことある?」

「あ、私は金魚すくいがしたいですぅ」

「オッケー!金魚すくいね…」

 

そう言いながらハルヒは紙に金魚すくいと付け足した。

あ、朝比奈さん!?わざわざ追加しなくても……。

 

「それじゃさっそく明日から決行よ!この近くで盆踊りやってるところあるかしら?花火大会でもいいけど」

 

おいおいハルヒ、ちゃんと計画してから言ってくれよ。

 

「僕が調べておきましょう。追って涼宮さんに連絡します」

 

古泉がいつものようにスマイルで答えた。

 

「さすが副団長!お願いね古泉くん!じゃあ今日は解散!」

 

 

いつものようにキョンがみんなの飲み物代を払って解散となった。たまにはあたしも半分払ったりしてあげているが、集合に遅れる理由は大半がキョンの寝坊のため、たまにだけである。

というより遅刻自体もそれほど多くはないんだが、他のみんなが早すぎるのも原因の一つだがな。

 

家へと帰りながらキョンが言った。

 

「はあ、やれやれ。これから毎日遊ぶってのか」

「だろうな。ああなったハルヒはなかなか止まらないだろう?」

 

あたしがそう言うとキョンはまたため息をついた。

 

 

翌日――。

 

朝っぱらから電話をかけてきたのはハルヒだった。

盆踊りの会場が見つかったらしい。なんでこう都合良く見つかるんだ?

場所は市民運動場。

 

それで、なんで朝っぱらから電話をかけてきたかと言うと

 

『浴衣を買いに行くわよ!』

 

ということだ。

朝比奈さんに有希、あたしも浴衣を持っていないと聞いたハルヒが買いに行こうと言い出したのだ。

 

『夏の祭りにはそれに相応しい格好じゃないといけないの!』

 

だそうだ。

 

てことで今モールで浴衣を選んでいるんだが、なかなか決まらない。

というのもみんなの分を全てハルヒが決めているからだ。まあ、ハルヒのセンスはなかなかのもんだから任せて大丈夫だろう。

 

 

浴衣を選び始めて一時間ほど。

 

「お待たせ~」

 

店前で待たせていた男子三人にハルヒが機嫌良く言った。

 

「「「おお~」」」

 

三人は振り返ると三者なりのリアクションをとった。

古泉はいつもの爽やかスマイルに。

早川は少し目を見開いて意外というような顔。

キョンは朝比奈さんを見てあからさまにに目を糸目にしていた。

 

「みなさんお似合いですよ」

「せやな。なかなかやで」

「でしょう!あたしが選んだんだから当然よ!みくるちゃん、めっちゃ可愛い~!さすがあたしのセンスは間違いないわ」

 

確かに。ハルヒのセンスはかなりいい。

朝比奈さんは全体がピンク色で桜の花びらの模様がある浴衣。

ハルヒは全体が赤く胸辺りに大きな白い花がある浴衣。

有希は全体が薄めの水色で風鈴の絵柄が入った浴衣。

あたしは全体が藍色に近い色で花火柄の浴衣だ。

みんなかなり似合っている。

 

またみんな手頃な値段で高い買い物にはならなかった。

前に有希と私服を買った時もハルヒが選んだやつは手頃な値段だったな。

ハルヒは買い物上手だ。

 

「よし!それじゃ行くわよ!」

 

そう言ってハルヒは朝比奈さんの手を引いて盆踊りの会場になっている市民運動場へと向かって行った。

 

 

「久しぶりに来たな」

 

盆踊り会場に着いたSOS団一行。まだ日没前なのにけっこう賑わいを見せている。

 

「おまえは久しぶりだろうな。中学になってからこういうのいかなくなったから」

 

あたしはつい先日、近所であった小さな祭りに妹と行って来たばかりだった。というか毎年のように妹に引っ張られて連れていかれるんだがな。

 

「わあ、楽しそうですねぇ」

「みくるちゃん!あなたがやりたがってた金魚すくいもあるわよ!さ、行きましょ!」

 

そう行ってハルヒは朝比奈さんの手を引いて金魚すくいの屋台へとダッシュして行った。

 

「僕らもどうです?誰が一番金魚をすくい捕れるか競争でも」

 

にこやかに言った古泉。

 

「ええやろ、やったろーやないか!キョンもどや?」

 

やる気満々の早川。

 

「いや、俺はパスだ。それより食い物に興味があるね」

 

近くの屋台から漂ういい香りをかぎながら言うキョン。

おい、おまえそんなキャラだったか?

 

「なら俺たちだけでやるかいな。一樹、行くで!」

「ええ、負けませんよ」

 

そう言って古泉と早川も金魚すくいへと行った。

 

「さて、二人は何か食べたい物あるか?なんなら奢ってもいいぞ」

「ほおー、キョンにしては気前がいいな。じゃああたしは……りんご飴をもらおうかな。有希は?」

「私も…りんご飴」

「はいよ。ちょっと待ってな」

 

そう言ってキョンも屋台の方へと向かった。

有希を見るとどこか一点を凝視していた。

その視線の先にはお面がずらりとならんでいた。

 

「あれが欲しいのか?」

 

そう訊くと有希はすいすいーっと何かに吸い込まれるようにお面売り場に行き一つのお面を指指した。

 

「これ」

「はいよ~、まいど!」

 

気前の良さそうな屋台のおっちゃんからお面を貰い頭につけた有希。

まあ有希が欲しいって言うんだから何も言わないさ。

やがてキョンがりんご飴を持ってやって来た。なんと四つも買って来ていた。SOS団の女性陣分だそうだ。なにか良いことでもあったのか?キョン。

キョンからりんご飴を貰いハルヒたちがいる金魚すくいの屋台へと向かった。

 

屋台に着くとちょうど勝負がついたようだ。

 

「13匹!!大漁よ大漁!」

 

満面の笑みのハルヒ。

 

「6匹だったで」

「僕は4匹がやっとでしたよ」

 

苦笑いの二人。

 

「意外と難しかったですぅ」

「そんなにたくさんいらないからみくるちゃんと1匹ずつ貰って来たわ」

 

そう言ってハルヒは金魚を見せた。水の入った袋の中を行ったり来たりしている。

 

「そうかい。ほら、これやるよ」

 

そう言いながらキョンはハルヒにりんご飴を一本あげた。

 

「あらキョンにしては気が利くじゃない。あたしたちに無償で買ってくるなんて珍しいこともあるものね」

「別に。あ、野郎にはないからな」

「いえいえ大丈夫ですよ。それにしても何か良い事があったんですか?」

「まあ、そんなとこだ」

 

キョンはまんざらでもないというような顔で言った。

 

 

その後も盆踊り会場内を回りながらいろいろと遊んだり食べたりした。

射的やヨーヨー釣りで勝負したり、綿飴やかき氷なんかを食べたりした。あ、的当てなんかもしたな。

十分過ぎるほどあたしたちは遊んだ。

 

 

一通り回り終えたあたしたちは近くにあったベンチに腰掛けていた。

 

「はい、キョン。一個だけならいいわよ。さっきのお返し」

 

そう言ってハルヒはキョンにタコ焼きを差し出した。

 

「お、サンキュー」

 

キョンは一つ貰って食べた。

 

「あ、そうだ!こういう格好してるんだし今日花火もやっちゃいましょ!」

 

ハルヒがひらめいたというような顔で言った。

 

「そうだな。あそこで売ってたし、やっちゃうか」

 

こうしてあたしたちは花火をすることになった。

 

 

近くの河原にやって来てみんなで花火を楽しんだ。

ハルヒは花火を持って走り回っていたし(ちょっと危なかったんだがな)、早川とキョンは打ち上げ花火を何発も打ち上げた。ネズミ花火もしたな。

体は疲れていたが、楽しかった。

 

だいたいの花火が終わり、最後に残った線香花火をあたしと有希と朝比奈さんでしていた。

キョンは後片付けをしていた。

ハルヒは手提げ鞄からあの紙切れを取り出してバツ印を書いていた。

 

「よし。これでまた二つ課題は終了ね。明日は昆虫採集をするわよ!」

 

ハルヒは盛大に言った。

 

「ハルヒ、遊ぶのもいいんだが、夏休みの宿題は終わっているのか?」

 

キョン、まだほとんど手もつけていないおまえが言える立場じゃないだろ?

 

「何よキョン、あれくらい三日もあれば十分じゃない。あたしはとっくに終わらせたわよ」

「「三日!?」」

 

キョンと早川が同時に叫んだ。

ハルヒが頭がいいのは知っていたが、まさかあの量を三日でするとは……すごいな。

あ、ちなみにあたしは有希と一緒にやって一昨日終わらせた。なんせズレがあるとはいえ起きるかもしれない出来事の前に厄介事は片づけておいた方がいいからな。

ま、ハルヒの思いつきが始まる前に終わってよかった。

 

「網と虫カゴを持って、そうね…北高にみんな集合よ。いいわね!う~んそうね、一番多く捕まえた人には一日団長の権利を譲ってあげるわ!」

 

うわ、いらなーその権利。

 

「虫なら、なんでもいいんですか?」

 

古泉が早川をチラチラ見ながらハルヒに訊いた。

早川を見るとちょっと顔が青い……か?

 

「う~んと…、セミね。セミ限定。そう、これはSOS団内のセミ捕り合戦よ!」

 

ハルヒがセミと言った瞬間、早川の顔は真っ青になった。

 

 

 

翌日の午後――。

これでもかと太陽がギランギランに輝いていた。

 

あたしたちは北高の裏にある森の中でセミ捕り合戦を開始した。ハルヒは颯爽と森の奥へと走り出した。

あたしも渋々行こうかと思ったが、あまりにも顔が青い早川が目に入ったので話しかけた。

 

「おーい早川。大丈夫か?」

 

早川はゆっくりと顔をあげてゆっくりと応えた。

 

「あ、ああ。大丈夫…やないな……」

 

そう言いながらなんとか笑みを見せようとしたみたいだが、すごい変な顔になっているぞ。

 

「どうしたんだ?顔が真っ青だが」

「あーいや、実はやな……俺…虫が……苦手なんや……」

 

マジですか!?

なんかけっこう虫捕りを楽しみそうなやつだけどな。

 

「特にセミは大の苦手なんですよ。諒くんは」

 

突如あたしの横から出て来た古泉が言った。その言葉に早川は頷いた。

 

「だったらハルヒに虫は苦手だから勘弁してくれって言えばいいじゃないか」

 

さりげなく話を聞いていたキョンが言った。

 

「言ったんやけど、情けないって言われてやな……今回のセミ捕り合戦で虫嫌いを克服しなさいって言われたんや……んな無茶な…」

 

早川ははぁーっとため息をついた。

さすがハルヒ。容赦ないな。

 

「まあ、一応やってみる…」

 

そう言って早川は歩き出した。ビクビクしながら。

 

「おい、早川は大丈夫なのか?」

 

古泉に訊いた。

 

「いや、こればっかりはなんとも……僕がついて行きますよ」

 

そう言って古泉は早川の後を追いかけた。

かなりのトラウマがあるとみた。どんなことがあったのかと訊くのはよしておこう。

 

 

 

数時間後――。

 

「は~い!!結果発表しま~す!」

 

ハルヒの集合の合図で最初の場所に集合したあたしたちはカゴの中でうようよと動くセミを持っていた。

早川は、顔が青を通り越して白くなっていた。

 

「最下位は諒、0匹。もう、だらしないわねー。もっと頑張りなさい!」

「そんな無茶言うんもんやないで……」

 

早川はそう呟いて肩をガックリと落とした。

 

「その次はみくるちゃん!2匹。もうちょっといけたわね、みくるちゃん」

「ふぇ、これでもがんばりましたよ~」

 

あたふたしながら朝比奈さん。

朝比奈さんは虫大丈夫みたいだな。

 

「5位は有希!6匹ね。なかなか頑張ったわね有希」

 

有希は捕まえたセミを見ながらコクンと頷いた。

その顔はなんとなく充実しているような顔だった。

 

「4位キョン子!8匹。まあキョン子なら当然よね」

 

当然てなんだよそれは。あたしはこれでもかなり頑張った方だと思ったんだがな。

 

「3位は古泉くんの11匹!かなり頑張ったわね!」

「ありがとうございます」

 

いつものスマイルをしながら古泉。

後で聞いた話によると早川を近くで見守りながらしていたらいつの間にかあれほどの数を捕まえていたらしい。

 

「2位はキョンの14匹ね!キョンにしては頑張ったじゃないの」

「まあな」

 

キョンは昔っからこういうのは得意だったからな。なんだかんだ言いながら本気だったってか。

そんなキョンは嬉しいというより、疲れたというような顔をしていた。

 

「そして、1位はあたし!!17匹!!やっぱり団長の権利は一日たりとも譲れないわ!」

 

そう言いながらハルヒはカゴをみんなに見せつけた。

かなり気持ち悪いほどセミがうようよしていた。

早川には近づけないであげろよ。もう失神しかけてるからな。

 

捕まえたセミはちゃんと自然に還した。

最後のセミが飛び立つと早川が

 

「もう絶対虫捕り……特にセミ捕りなんかせーへんからな……」

 

と呟いたのが聞こえた。

かなりの虫嫌いなんだな。

 

 

 

さて、更に翌日――。

 

ハルヒは今度はどこからみつけたのか、バイトをあたしたちにありがたーくも押し付けてきた。

近くのスーパーで着ぐるみ被って風船配り。

このくそ暑い中、着ぐるみなんか被ってバイトなんて最悪だ。

ちなみに、着ぐるみは4つしかなく、入ることになったのはジャンケンに負けたあたし、キョン、朝比奈さん、古泉だった。

なぜこういう時に負けるかな。

早川と有希はスーパー内で品出しなどだ。

 

え?ハルヒはって?

 

片手にアイス持ちながら店長のおっちゃんと楽しそうにおしゃべりしてるよ。

 

「これでバイト代の配当が同じなら、暴動を起こしてやる……」

 

隣にいたキョンがハルヒの方を見ながら低い声で言った。

いやキョン、たぶんバイト代はだな――。

 

 

数時間後、なんとかバイトが終了。

倉庫らしき控室で着ぐるみを脱いで休んでいた。

 

「ふぅ~、脱皮した蛇の気分が解るぜ」

「あはは、上手い事言いますね」

 

古泉のいつものスマイルも汗まみれで歪んで見えた。

グダーっとしているとハルヒがおつかれ~っと言って入って来た。

キョンがバイト代は?とハルヒに訊くと

 

「ふふん、これよ」

 

ハルヒが指差したのは、朝比奈さんが着ていたアマガエルの着ぐるみだった。

……やっぱりか。

 

「これ前から欲しかったのよね~。みくるちゃん!これいつでも好きな時に着ていいから!あたしが許すわ!」

 

これを聞いてキョンと早川は怒りを通り越して、呆れてしまったようだ。

あたしがなぜこのことをわかっていたかというと、向こうの世界に行ったとき部室にアマガエルの着ぐるみがありどこからそんなもんもってきたとキョンに訊いていたからだった。

まさかこっちでも同じことになるとはな。

そんな朝比奈さんは暑さでかなりへばっていたし、ハルヒの言葉を聞いて更に机に突っ伏した。

 

 

 

更に翌日――。

 

今度は天体観測をした。

場所は有希のマンションの屋上。

望遠鏡は古泉が用意した。

なんでも、小学生の頃よく早川と星を見ていたらしい。

 

「星なんか全然わからないな。オリオン座くらいしかわからん」

 

望遠鏡をセッティングしている古泉を見ながら早川に話しかけた。

 

「ああ、俺もそんぐらいしか知らへんな」

「え?よく星見てたんだろ?」

「何の星かなんてわかって見てなんかないで。一樹はわかってたかもしれへんがな」

 

そう言いながら早川は夜空を見上げた。

結構綺麗に光輝いていた。

 

最初はハルヒも火星なんかを見たりしていたが、そのうちUFO探しみたいなことをし始めたりしていた。

まあ、楽しめたかな。

 

 

 

さ・ら・に、翌日――。

 

今度はバッティングセンターに行くなんて言い出した。

どうせ甲子園の決勝でも見て野球がしたいなんて思ったんだろう。いい迷惑だ。

 

ハルヒは何発も快音を出してかっ飛ばしていた。(しかもかなり速い球だ)ホームラン賞までとってたな。

早川はこの前のセミのこともあってか、かなり豪快にバットを振り回してストレスを発散させていたようだ。

 

あたしもやってみたが、90キロの球を当てるのが精一杯だった。なかなか難しいんだな。

朝比奈さんも同様で「えい!」なんて言いながらバットを振っていたが、全部球の上や下だった。ここは可愛らしいのでオッケーとハルヒ。おい、あたしには散々ダメ出ししておいて……差別だ差別!

 

有希はずっと自販機の隣にあるベンチで読書にふけていた。

有希もこういうのやってみればいいのに。

 

 

とまあ、かなりハードな一週間目。

 

あたしの体は悲鳴をあげそうであった。

だが、神はあたしを見捨てなかったのだ!



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第13章 夏~だっ! 2

バッティングセンターに行った日の翌日の朝――。

いつもより遅く、7時半頃に起きた。

 

遅くていいのか?と思うだろうな。だが、今日はここ最近の朝とは違うのだ!

なぜならば、今日はSOS団の活動は休みなのだからな!

昨日の帰りに、ハルヒが急な用事が入ったから明日は一日休みにすると言ったのだ。

な・の・で、今日は一日ゆっくりとしていられるのであ~る!

(あ、ゴメン。なんかハイテンションすぎてキャラ変わったな。自重する)

 

なーんて事を考えながらあたしは朝食を食べに一階へと降りた。

なんとそこには超珍しく、あたしより早く起きて朝食を食べているキョンの姿があったのだ。

キョンの隣には妹もいて、一緒に食パンをかじっていた。

 

「あ、キョンちゃんおはよう」

 

いつもと変わらず元気な声で言った妹。

 

「よう」

 

食パンにジャムをつけながら言ったキョン。

 

「お、おはよう。どうしたんだ?こんなに早く朝起きてきて。熱でもあるのか?」

「はあ?何を言っているんだ朝から。特に何もない、普通だが」

 

どこが普通だ!いつも寝坊してるくせして。

というか、よく見たらキョンはもう着替えているではないか。まるでどこかに出かけるみたいに。

 

「キョン、どこかに出掛けるのか?」

「ん?ああ、ちょっとな」

 

食パンを食べながら言うキョンはどこと無く機嫌が良いみたいに見えた。

どこに行くかは知らないが、せっかくSOS団の活動が休みになったってのに出かけるなんてあたしには考えられないね。

キョンは無駄に体力があるからな。ま、いってらっしゃ~いだな。

 

あたしが朝食を食べ始めるのと同時にキョンは食べ終わり、席を立った。

 

「じゃあ俺はちょっと出かけてくるからな」

 

そう言って財布を持って玄関へと行った。

 

「いってらっしゃ~い」

 

妹が手を振りながら言った。

おい、やけに素直だな今日は。いつもならあたしも連れて行け~なんて言うのに。

向き直った妹がニコニコしながらあたしを見て言った。

 

「今日は何して遊んでくれるの?キョンちゃん」

「へ?何して遊ぶか?」

 

何を言っているんだ妹よ。いつあたしが遊んでやると言ったんだ?

 

「今日はキョンちゃんがいっぱい遊んでくれるってキョンくんが言ってたよ~」

 

とても無邪気な笑顔を見せる妹。

 

や、やられた!

キョンめ……妹にそんな戯言を言っていたとは!

くっ、今日は一日ゆっくりとしたかったがこんなにも無邪気な笑顔を見せる妹をほってはおけまい。神よ、やはりあたしには微笑んではくれないのか……。

 

「ねえねえ、それで何して遊ぶの?」

 

せかしてくる妹。かなり嬉しそうだ。

まあ、ここ最近ハルヒの振り回しに付き合ったり宿題してたりであまりかまってやっていなかったからな。

楽しみでしかたないのだろう。

 

さて、何をして遊んであげるか……。

 

あたしがそう考えていると、ポケットにいれておいた携帯が着信を知らせた。

最近ハルヒからの電話が多いから大体いつも持つようにしていたのだが、まさかハルヒからではないよな?

用事が無くなったから今から遊ぶわよ!なんて言いそうだ。

あたしは急いで携帯を取り出し、ディスプレイに表示されている名前を確認した。

そこに表示された人物は、少し意外な人物だった。

 

鶴屋さんからだった。

 

「はい、もしもし?」

『ヤッホ~いキョン子ちゃん!おっはよう!』

 

朝からすごいテンションの高いお人だよ、この方は。

 

「おはようございます。どうしたんです?こんな朝から」

『キョン子ちゃん今日お暇かい?』

「え、ええ。あ、いや今日はですね……」

『そうかいそうかい!いや~実はさ~、遊園地の一日無料フリーパスってのを何枚か貰ってさ~、今日一緒に行かないっかな~と思ってね。あ、もちろんキョンくんや妹ちゃんも大歓迎っさ!』

 

実にうれしそうに言う鶴屋さん。

 

「え?そ、そんな、いいんですか?」

『いいっていいって!みんなで遊んだ方がめがっさ楽しいにょろよ!で、どうかな?』

「それじゃあ、お言葉に甘えて。妹と一緒に行かせていただきますね」

『おお!めがっさうれしいにょろ!あれ?キョンくんはいいっのかな?』

「ああ、キョンはもう出かけていまして。何か用事があるみたいです」

『そうなんだ~。いやね、実はさっきハルにゃんとみくるにも電話したんだけど、二人とも用事があるからって言ってさ~。みんなけっこう忙しいんだね』

 

へ~、ハルヒと朝比奈さんにも。

ハルヒは知ってたけど、朝比奈さんも用事があったんだ。忙しいんだな。

 

あたしはゆっくり休みたいところだけど、ここはせっかくの鶴屋さんからのお誘い。それに妹と何をして遊ぼうか考えていたとこだったし。ちょうどいい。

 

『よし、じゃあこのあと9時に駅前に集合でいいっかな?』

「あ、はい。オッケーです」

『うん!じゃあまた後で会うっさ~!』

 

そう言って鶴屋さんは電話をきった。

いや~、ほんとに元気な方だ。すごい親しみやすい先輩だよ。

 

「キョンちゃん!今の電話何?」

 

妹が興味津々な目で訊いてきた。

 

「ああ、鶴屋さんからだ。ほら会ったことあるだろ?」

「あ、鶴屋お姉ちゃんから!?なんて話してたの?」

「うん、今日一緒に遊園地で遊ばないかって。もちろん、おまえも一緒に」

「遊園地!?あたしも一緒に行っていいの!?」

「ああ」

「やった~!!今日はキョンちゃんと、鶴屋お姉ちゃんと一緒に遊園地~!」

 

妹は小躍りしながら喜んだ。よっぽど嬉しいみたいだな。

ま、妹の喜ぶ顔が見れてよかったよ。

 

 

 

集合時間の9時10分前くらいに駅前に着くと、鶴屋さんがラフな格好で綺麗な髪をなびかせながらこっちに手を振って迎えてくれた。

 

「やあやあキョン子ちゃんと妹ちゃん!こっちこっち!」

「わ~い!鶴屋お姉ちゃん!」

 

妹はすかさず鶴屋さんに抱き着いた。

 

「おお~、相変わらず元気だね~妹ちゃん」

 

鶴屋さんもニコニコしながら妹を抱きしめた。

 

「鶴屋さん、今日はありがとうございます」

「いいっていいって!ささ、こっちだよ~」

 

そう言って鶴屋さんが向かったのは、路上に停めてあった車……ってこれはリムジン!!?

マ、マジですか!

 

 

鶴屋家のリムジンに乗ること数十分。

隣町にあるけっこう大きめな遊園地へとやって来た。この辺りではかなり有名な遊園地だ。

 

「は~い、遊園地に到着っさ!」

「わ~い!」

 

鶴屋さんは元気よく車から降りた。妹もそれに続いた。

 

遊園地には夏休みだというのに、あまり来客者がいなかった。それでも家族連れが多く、妹くらいの子供たちがはしゃいでいるのが見えた。我が妹もうずうずしているみたいだ。

 

「さ~て、まず何に乗ろっか?」

「まずはあれ~!」

「あ、あれか……」

 

遊園地に入って妹が指した乗り物は、この遊園地の名物であるジェットコースターだった。かなり大きい。

鶴屋さんは「そんじゃさっそく行くっかい!」と妹の手を引いて一直線にジェットコースターへと向かった。

…べ、別に苦手というわけではないんだ。ないんだけど……。

 

 

列に並んで数十分後、あたしたちの番になりジェットコースターに乗り込んだ。鶴屋さんと妹は一番前であたしはその後ろ。

 

「わ~~い!」

「いやっほ~い!」

「おおぉぉお!」

 

さすが名物とあってかなりのスリルだ。人気があるのもわかる。

しばらく上に横にと振り回されまくり、すぐしてコースターは乗り場に戻ってきた。

 

「いや~、めがっさ楽しかったにょろね~」

「もう一回~!」

 

そら始まった。妹はこういうのは飽きるまでひたすらに何回も乗るのだ。だからあたしはいつも二、三回は同じのを乗るはめになる。

キョンと替わりばんこに乗ることもあるが、今日はキョンはいない。地獄のエンドレスが始まる……。

 

 

 

遊園地に来てから2時間が経過――。

 

「うー………」

 

あの後あのジェットコースターを3回も乗り、次はぐるぐる回るコーヒーカップに2回も乗ったためあたしは気持ちが悪くなっていた。

なのに、鶴屋さんと妹はとても楽しそうにはしゃいでいた。どうなっているんだ、二人の体は……。

 

ちょうど昼時になり、バイキング形式の店で昼食をとることにした。

あたしはあまり食欲がなくパンとサラダくらいで十分だったが、まあ鶴屋さんと妹はよく食べる。

鶴屋さんはともかく、妹はその小さな体のどこに入っていくのか不思議でしかたなかった。まるで有希のミニバージョンだな。

 

昼食をとった後も、まるでハルヒのように全アトラクションを制覇でもしようかというような尋常じゃないスピードで妹と鶴屋さんは楽しんだ。

メリーゴーランドに乗ったり、ゴーカートに乗ったり、また別のジェットコースターに乗ったり等などだ。

 

もうあたしはついていくのに必死だったよ。

でもまあ、妹があんなにはしゃいでるのは久々だからな。

楽しんでいるから良しとしよう。

 

 

次は何に乗ろうかと考えながらあたしと鶴屋さんが妹と歩いていると、ちょうど近くに喫茶店のような感じの店を見つけたので入って休憩することに。

 

テーブルに座ってそれぞれ飲み物を注文した後、ちょっとだらーっとしていると向かいに座っていた鶴屋さんがキョトンとしたような顔である一点を見ていた。

 

「どうしたんです?鶴屋さん」

「キョン子ちゃん、あれ……」

 

鶴屋さんはゆっくりと指であたしの斜め後ろの方の席を指しながら

 

「キョンくんじゃないっかな?」

「へ?」

 

鶴屋さんが指した方向を振り返り見てみると……えぇ!?

なんとキョンがいるではないか。し・か・も、夏姫と一緒にいる!?

 

「あれは夏姫ちゃんかなっ?ん~、どう見てもデート中だっね~」

 

鶴屋さんがおもしろそうに言った。

そうだな。見た感じデートだ。キョンも夏姫も実に楽しそうである。特に夏姫はめちゃくちゃ嬉しそうだ。

ああ、だからキョンはここ最近なんだかそわそわしていたのか。

 

「あ~!キョンくんだ~!!」

 

妹もやっとキョンに気づいたのだが、それはまあ大きな声で叫んだので店中に響いた。

店の中にいた人たちは何事かと妹の方を見た。もちろんキョンと夏姫の二人も。

 

「あちゃ~、見つかっちゃったにょろ~」

 

そう言った鶴屋さんは実に楽しそうだ。

キョンと夏姫を見ると、夏姫はビックリとしていた。

キョンはビックリとした後、なぜか辺りをキョロキョロし始めた。

夏姫が席を立ち上がってこっちにやって来た。

 

「キョン子ちゃんに鶴屋さん!それに妹ちゃんまで。奇遇だね!」

 

元気いっぱいな夏姫はかなり楽しんでますというようなオーラを放っていた。

 

「ああ、奇遇だな」

「夏姫ちゃ~ん、もしかしてデートか~い?やるね~」

「えへへ」

 

鶴屋さんがおもしろそうに言うと夏姫は恥ずかしそうで嬉しそうな顔をした。

キョンも夏姫に続いてやって来た。

 

「なんで、おまえら……鶴屋さんまで。ま、まさかとは思うが、ハルヒもいるのか?」

 

そう言いながらキョンはまたキョロキョロし始めた。

ああ、そういうことか。だからキョンは落ち着かないのか。ハルヒに見つかったら何されるかわかったもんじゃないからな。

 

「ハルにゃんはいないよっ。誘ったんだけどね~、用事があるってさっ。キョン子ちゃんに妹ちゃんとあたしだけにょろよ~」

 

それを聞いてキョンはホッとしたようだ。夏姫はなんだかおもしろくないと言いたそうな顔をした。

 

「でもまたなんでここに……」

「鶴屋さんに誘われたんだ。ここの遊園地の無料券あるからってさ。キョンをつけてきたわけじゃないからな。偶然だよ偶然」

「そ、そうか」

「キョンくんもここにいたんだ~」

 

妹が無邪気な笑顔でキョンに飛びついた。

キョンは少し周りの目を気にしながら恥ずかしいと妹を引き離し、夏姫に話しかけた。

 

「そ、そろそろ俺たちは行かないか?」

「そうだね、行こっか!じゃあねキョン子ちゃん!」

 

そう言って二人は店を出て行った。

キョンは軽く鶴屋さんに頭を下げて夏姫に連れられて行った。

 

たぶん夏姫に誘われたんだろうが、キョンなかなかやるじゃないか。

ハルヒや朝比奈さんに夏姫に。モテるようになったな。あ、あいつも数に入れないとな。

 

 

 

キョンたちと別れた後も、妹のパワーは衰えることなく遊園地中を駆け巡った。

もう一度あのジェットコースターに乗ったり、遊覧船に乗ったり、お土産屋さんを一軒一軒渡り歩いたり等などだ。

 

はっきり言おう。

ハルヒの相手をするより疲れた。

 

でもまあ、妹が楽しそうにしているんだから不満ばかり言っては罰が当たるってもんだ。

しかし、もう少し落ち着こうぜ妹よ。そんなにはしゃぎまくっていると明日は疲れて動けなくなるぞ。

ま、そんな妹は見たことないがな。

 

 

時はすでに午後7時を廻っていた。

妹はパレードも見て行こうといったので、今見ているところだ。

いろいろなキャラクターが鮮やかに光る乗り物に乗ったり編隊を組んで行進したりしていた。

妹ははしゃぎながら、鶴屋さんはそんな妹を楽しそうに見ながらパレードを見ていた。

あたしもずいぶん久しぶりにこういうのを見たな。

 

 

パレードを見終わった後、最後にあたしたちは観覧車に乗ることにした。定番と言えば定番だな。

観覧車に乗り鶴屋さんと綺麗な夜景を眺めた。

妙に静かだな~と妹を見てみると疲れてしまったんだろう、いつのまにか寝てしまっていた。

あれだけはしゃげば当然と言えば当然だがな。

 

 

観覧車を降りた後、妹を背負いながら鶴屋さんと歩いて遊園地の出口へと向かっていた。

鶴屋さんに話しかけた。

 

「今日は誘ってくださってありがとうございました。妹まで呼んでいただいて」

「いいっていいって。あたしも楽しかったさっ。妹ちゃんも楽しそうでよかったにょろよ」

 

そう言って鶴屋さんは微笑んだ。

本当にこの方は笑顔が似合うお方だ。

 

「それにしてもここでデート中のキョンくんに会うとはね~。なかなかおもしろかったにょろよ」

「あはは。そうでしたね」

 

ほんとにキョンと夏姫に会うとは考えもしなかったな。

あの雰囲気だともしかしたら夏姫、言っちゃうかもな。

うーん、キョンはいったいどんな反応をするんだろうな?

 

そんなことを考えながら遊園地を後にした。

 

 

 

再び鶴屋家のリムジンに乗り込みわざわざ自宅まで送ってもらった。

再度鶴屋さんにお礼をし、鶴屋さんを見送った。

 

その後、妹を部屋のベッドに寝かせあたしは疲れをとろうとお風呂に入った。

お風呂からあがり牛乳を一杯飲んでいると

 

「……ただいまー」

 

やっとキョンが帰ってきた。

つい今しがた夏姫を家に送って来たそうだ。

ずいぶんと遊園地では楽しんでいたように見えたんだが、今のキョンは

 

「はあ…」

 

と浮かない顔でため息をついた。

 

「どうしたんだ?そんなため息ついて」

「え?い、いや、なんでもない」

 

そう言いながらキョンは自分の部屋に向かい始めたが、何かを思い出したのか階段を昇る一歩手前であたしの方へと向き直り

 

「今日青木さんと遊園地に行ってたなんてのは他のやつらに言うなよ!特にハルヒにはな!」

 

と慌てながら言った。

 

「あーはいはい。誰にも言わないよ」

 

そう答えるとキョンは頼んだぞと言って部屋へと向かって行った。

あたしも自分の部屋へと戻ると、ちょうど携帯が着信を知らせた。

相手は――夏姫からだった。

 

「よう。どうし……」

「う~、キョっキョン子ちゃ~ん…」

 

聞こえてきたのは夏姫の泣き声だった。しかも、かなり泣いた後のようだ。

 

「ど、どうしたんだ!?夏姫!?」

 

夏姫はうっ、うっとつっかえながら言った。

 

「うっ、キっキョンくんに……フラれた~」

「……へ?」

 

夏姫はそう言うと泣き出してしまった。

 

「なっ夏姫!?落ち着けって!一先ず落ち着こう!」

 

なんとか夏姫を落ち着かせまた話しを訊き始めた。

 

「うっうっ、きょ今日パレード見て、かっ帰ったんだけどっ、キョンくん家のまっ前まで、送ってくれて、そっその時にこっ告白したっ。ヒック、うっう~」

「そ、それで、キョンはなんて答えたんだ?」

 

思い出させるのはかわいそうだったが、それを知らないと慰め方がわからない。

 

「うっうっ、ゴっゴメンってっ。あたしのことはきっ嫌いじゃないけど、付き合うことはでっできないってっ。ほっとけないやつがいるからって。だからっだからっ……う~」

「そっそうだったのか」

 

だからキョン、帰ってきた時ちょっと鬱だったんだな。

ほっとけないやつか、たぶんきっとあいつなんだろう。

それにキョンはまだ…いやこれは本人の気持ち次第だしな。

 

「なっなんとなくまっ負けた感じがする~。うわ~あ~ん!」

「だっだから泣くなって!」

 

その後あたしは夏姫を慰めるのに小1時間を費やした。

 

 

 

翌朝――。

 

あたしは重い頭を起こして大きな欠伸をした。

昨日あれだけ夏姫の愚痴やらなんやらを聞いていたんだから、疲れていないなんて逆に変だ。

う~、まだ眠いが飯を食いに行くか……。

そう思い部屋のドアに手をかけた時、タイミングを見計らったかのように携帯が鳴り響いた。

ま・さ・か!?

 

『あ、キョン子!?また今日から活動再開よ!9時にいつもの場所に集合だからね!』

 

はい。

ハルヒからの強制収集を受けましたー。

 

……あはは…、行くしかない…か…。

 

 

 

 

 

それからの夏休みの残りの日々はもう遊び尽くしだった。

 

ハゼ釣り大会に参加したり、映画を片っ端から見て回ったり、全員ストライクを出すまでやめられないボーリング大会や、何時間もぶっ続けのカラオケ大会等などだ。

 

とにかく、超ハードな夏休みだったのは間違いなかった。

 

 

 

そして迎えた8月30日――。

 

「よし、これで一通りの課題は終了したわね」

 

ハルヒが紙切れの最後の項目にバツ印をつけながら言った。

 

「いや~、まあよく遊んだな~俺ら。さすがに疲れたで」

「そうですね。でもとても楽しかったです」

 

いつものスマイルで言った古泉だったが、どこと無く疲れたというような感じだった。

 

「う~ん、こんなんでよかったのかしら。ねえ、まだ遊びたいことある?」

 

おいおいハルヒ、まだ遊び足りないのか!?勘弁してくれ。

 

「私はもうへとへとですぅ。ゆっくりと休みたいですね」

「もうこれくらいでいいんじゃないか?」

「う~ん、まいいわね。じゃあ明日は予備日に空けておいたけどそのまま休みにしちゃっていいわ。また明後日部室で会いましょ」

 

そう言ってハルヒはアイスコーヒーを一気に飲み干して喫茶店を後にした。その他のメンバーもそれぞれ解散となった。あ、代金はもちろんキョンだ。

 

「はあ~、やっとハルヒの気も落ち着いたか」

 

いつものようにキョンがこぐ自転車の後ろに乗り家へと帰っていた。

キョンも夏姫の事とかがあったからな。相当疲れた夏休みだったろう。

 

あたしもかなり疲れた。

明日は一日寝ていようかな。宿題も終わっているし。

あ、宿題と言えば…

 

「ぬああ~~~!!」

 

ちょうど家の前に着いた時にキョンが叫んだ。

 

「ど、どうしたんだ!」

「しっ宿題……終わってねー!」

 

はあ……やっぱり。

 

「ヤバイ!!てかキョン子は終わっているのか?」

「とっくに終わった」

「な、何~!?マジか!たっ頼む!明日手伝ってくれ!」

 

はあ、まったくやれやれだな。毎年こうだ。今年はかなりヤバイけどな。

 

 

 

そして翌日――。

 

いつのまにかキョンはSOS団のメンバーに連絡してみんなを巻き込んでいた。

古泉と早川もまだ終わってなかったらしい。まあ二人は残り少なかったが。ちゃんと終わってたのは女性陣だけかよ。

 

ハルヒや朝比奈さんに有希も来たが、ハルヒは妹とゲームばかりをし、有希はずっと読書をしていたので実質手伝ったのは朝比奈さんとあたしだけだった。

 

キョンはかなり真面目にがんばっていたが、それを普段だそうぜ。

 

 

そんな感じでキョンは夜中までかかったが、無事SOS団のメンツは皆宿題を終わらせたのであった。

 

 

 

こうして人生で一番すごい夏休みだったと言っても過言ではないであろう、そんなSOS団の夏休みは終わった。




~あとがきのようなもの~

どうもMy11です。
今回のお話いかがでしたでしょうか。

今回のお話を以前書いた時は、ちょうどハルヒの二期が放送していた時期でした。(もう今[2013年]から4年も前ですねえ)
その時の『エンドレスエイト』が……まあすごかったですよね。

まあ今回一番書きたかったところは遊園地のところだったんですけどね。
妹ちゃんがもっと出ていいんじゃないかと思い鶴屋さんと絡めて楽しく遊んでいるというシーンを入れました。
また、まさかのキョンに夏姫が告白という展開でしたが結果はご覧の通り。
この辺からかなり独自解釈が入ってくるのでキョンの気持ち云々諸々は今後のお楽しみということで。



キョン「なあ作者よ」

作者「あれ?どうしたんですか?」

キョン「もうちょっと俺の出番を増やして欲しいなあと思うんだが……」

早川「何言ってんねん!それやったら俺の方が出番少ないで!俺を増やしてくれーな!」

朝比奈「わ、私も……」

真田「僕ももっと活躍したい!」

夏姫「あたしももっと出たいよ~!」

作者「あ~!わかってます!わかってますから!そう焦らずに!ちゃんと皆さんが中心となる話を作ってますから、ご心配なく。あ、まず一番手は古泉ですが」

さっきの五人『え~~~~~!!』

古泉「本当ですか。それはそれはありがたいです」

作者「まあ皆さんもそのうち中心となる話ができるんですから、もうちょっと我慢して下さいよ」



ということで、それぞれのキャラクター中心の話もそのうち投稿できればと思います。
今のところキョン子以外での中心的な話は長門有希くらいしかしていませんのでそれ以外のキャラクターをやっていこうかなあと思っています。
先ほど言った古泉編ですが、次の次くらいかその次くらいの章になると思います。

それではまた次回。


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第14章 監督はハルヒ

キョン子「今度は何をするって?」
キョン「映画を作るんだそうだ…」
双子「「……やれやれ…」」


二学期が始まって二週間ほどが経った。

 

(原作であればそろそろ体育祭がありますが、この作品では6月に終わっています)

 

これほど遊んだと思える夏休みはないだろうと言えるほどの例の二週間がまだ昨日のように思えた。

 

二学期入ってすぐの日々はあたしがあの異世界に飛ばされた時の向こうの日で、もしかしたら夏休み同様同じ事があるのか?と思ったが特に同じような事はなかった。ハルヒの相談があるのかとちょっと思っていたんだがな。まあズレが生じたんだろう。

 

 

 

そんなある日の六限後のHR。クラス内では話し合いが行われていた。

何の話し合いかと言うとあと一ヶ月後に迫った学校行事の一つ、文化祭についてだ。そこで何をするかの話し合いだ。だいたいのクラスが今日の今話し合いを行っているらしい。

 

文化祭と言えば前にキョンから聞いたんだが、ハルヒが一年間の中で一番のスーパーイベントだと言っていたのを聞いたと言う。またなんかやらかしそうだな。

 

あたしがそんな事を考えている内に話し合いが終わったみたいだ。我が6組は多数決で『占い』をすることに決まった。夏姫を中心にやる気満々なのが何人かいるから、たぶん計画は大丈夫だろう。

 

夏姫はキョンの件でかなり学期の始めはへこたれていたが、なんとか吹っ切れたようだ。まあ元気が戻ってよかったよ。

 

 

HRが終わったのであたしと有希、早川は鞄を持っていつものように部室へと足を運んだ。

歩きながら早川が話しかけてきた。

 

 

「占いなんて、ちゃんとできるんかいな」

「さあな。他にあった意見よりマシだからいいんじゃないか?」

「それもそやな」

 

早川は苦笑いしながら言った。

だってだな、他の意見に猫耳付けて喫茶店やろうとかいうのがあったんだぞ?占いのほうがはるかにマシというもんさ。

 

部室に着きドアを開けると、ちょうど朝比奈さんが着替えを終えたところだった。脱いだ制服をハンガーラックにかけながら朝比奈さんはこっちを向いて微笑んだ。

 

「こんにちは。まだまだ暑いですねぇ」

「そうですね。もう暦では秋だと言うのに、きっと地球温暖化が原因ですよ」

「そうかもしれませんねぇ。あ、今お茶煎れますね」

 

そう言って朝比奈さんはいつものようにお茶を煎れ始めた。

あたしはいつもの定位置に座る。机を挟んで早川はあたしの前に、有希は本棚から一冊本を取り出してあたしの左隣りに座った。

 

「有希、その本なんだ?」

 

そう訊くと有希は「これ」と言いながら表紙を見せた。

早川があたしより先に読んだ。

 

「『占いについて』て、長門さっそく文化祭に向けて勉強かいな。感心やな」

「別に……ちょっと知っておこうと思って……」

 

有希は少し照れながら言った。

最近の有希は、本当に表情が豊かになった。まだぎこちなさはあるが、それでも前より笑顔が見れるようになった。

 

「はい、お茶です。キョン子ちゃんたちは文化祭で占いをするんですか?」

 

朝比奈さんがお茶を置きながら言った。

 

「あ、ありがとうございます。そうですよ、まだ具体的な事は決まってませんが。朝比奈さんのクラスは何をするんですか?」

「私のクラスですか?私のクラスは……」

 

朝比奈さんが言おうとした時、部室のドアが開いてハルヒとキョンが入ってきた。朝比奈さんはさっきと同じようにあいさつした。

 

「あ~、喉が渇いたわ!みくるちゃんお茶!」

「は、はい!ただいま!」

 

そう言って朝比奈さんはまたお茶を煎れに行った。ハルヒは団長席にドカッと座った。キョンはあたしの右隣りに来て座った。

朝比奈さんからお茶をもらったハルヒは一気に飲み干した。いつも思うんだが熱くないのかね。

そんなハルヒはどこかうずうずしていて上機嫌のようだ。

 

「なあキョン、ハルヒかなり機嫌がいいみたいだが何かいいことでもあったのか?」

「さあな。ただ今日は大事な話があるから早く部室に行きたいとは言っていたがな」

 

ああ、そう言えば今日の昼休みにハルヒがあたしたちのところに来て『今日部室で重要な会議をするからちゃんと遅れないように来なさいよ!』とか言ってたな。

まあ会議ってもハルヒが一方的に話して勝手に決めるだけなんだけどな。

 

そうしていると、古泉がやっと部室にやって来た。

 

「すいません、遅くなりました。ちょっとHRが長引きまして」

 

そう言いながら古泉はキョンの前の席についた。

 

「よし、これで全員集まったわね。これよりSOS団定例会議を始めま~す!」

 

いつ定例になったんだかわからん会議が始まった。

 

「それで?なんだ、大事な話ってのは?」

 

キョンは厄介な事は何もするなよ?と言いたそうな顔で言った。

 

「決まってるじゃない。これからのSOS団の予定についてよ」

「何の予定だ」

「まったく、だからキョンはバカなのよ。文化祭に向けての予定に決まってるじゃない!」

 

そう言いながらハルヒはニッと笑った。

もう何か考えているみたいだな。

 

「ちゃんと学校中の期待に応えてあげないとね!SOS団の名に恥じないように!」

 

誰の期待にだって?

確かにSOS団という名は学校内で知らない人はいないが、とても奇っ怪な部活として知れ渡っているからで正直言ってこれ以上悪い意味で目立つ事はしたくはない。

 

「みくるちゃんのとこは何するの?」

 

なぜか他のクラスの出し物を訊き始めた。

 

「え?私のクラスは、焼きそば喫茶を……」

「ふ~ん。みくるちゃんはウェイトレスでしょ?」

「な、なんでわかったんですか!?」

 

そりゃあ朝比奈さん。たぶん誰でもわかると思いますよ。とても似合いそうですし。

 

「古泉くんとこは?」

「舞台劇をすることに決まったのですが、どういう劇をしようか揉めているとこです」

 

へえ、舞台劇ねぇ。古泉ならけっこううまくやるんじゃないか?

 

「有希たちは?」

「占いや、占い」

「占い?お前たちが占うのか?」

「そう」

「まだ詳しくは決まってないけどな」

 

そう答えるとそうかいとキョン。

 

「キョンたちは何をするんだ?」

「アンケート発表だとさ」

「ぶっ!な、なんやそれ!?そんなんでええんかい」

 

早川は笑いそうになりながら言った。

 

「そこ!うるさいわよ!」

 

そう言いながらハルヒは団長席から立ち上がった。

 

「みんなのとこはだいたいわかったわ。でもこれからSOS団がやることには敵わないわね」

 

そう言いながらハルヒはニコッと笑い言い放った。

 

「あたしたちSOS団は、映画を作成します!!」

 

………マジか!?

 

映画を撮ると言い出したハルヒが言うことを簡潔にして要約する(できているかはわからんが)と、こういう理由らしい。

映画やテレビドラマなんかの最後に人がよく死んで終わるということがあるが、なぜそうタイミングよく死んでしまうのかおかしいだろう。自分はそういうのが大嫌いだと言う。不自然極まりないらしい。

自分だったらそんな映画は撮らないと考え、ならば自分で撮ってみようと答えが出たそうだ。

 

だがなぜいきなり映画が出てきた?と訊くと、昨日の夜中にたまたまテレビを点けたら変な映画がやっていて何気なく見ていたが、それがあまりにもクダラナイ映画だったらしくこんな映画だったら、自分のほうがもっとマシなモノを撮れるという結論だそうだ。

 

わかりやすく説明出来たかわからんが、まあだいたいこんな感じだ。

 

SOS団の面々はそれぞれの反応を見せる。

 

朝比奈さんはあわあわしながらハルヒの言葉に耳を傾けている。

隣の早川は呆れながらも何も言わずに頬杖をついているな。

古泉はまったく動じることなくいつものスマイルを見せているし、

有希を見ると、占いの本に集中しているみたいだ。

みんなハルヒには反論しないらしい。こうなったハルヒは止まらないとわかっているからな。

 

ただ一人は反論めいたことを言ったがな。

言わずともわかろう。―――キョンだ。

 

「いつからここは映画研究会になったんだよ」

 

早川とはちょっと違う呆れ顔を見せながら言った。

 

「何言ってんのよ。ここは永遠にSOS団よ!映研になんてなった覚えないわ!」

 

そう言われ、キョンはただただハァとため息をついた。

 

「はいはい。わかったけどよハルヒ、お前は映画を作りたいと言う。俺たちはまだ何も言ってない。もし俺たちがそんなの嫌だと言ったらどうすんだ?」

 

そうキョンが言うとハルヒはいつもの笑顔を振り撒いて言った。

 

「安心して。脚本ならほとんど考えてあるから!」

「いや、俺が言いたいのはそうではなくてだな……」

「何も心配しなくていいわ。あんたはいつも通り、黙ってあたしについてくればいいの!」

「「…心配だ」」

 

あたしもキョンに同調して呟いた。

 

「それにしてもまず制作費はどないすんねん。どっから出すんや?」

 

早川、いいとこ気づいた!そうだよ。予算も何もないのに映画なんて撮れないだろう。

 

「予算ならあるわよ。文芸部にくれたやつが」

「何!?だったらそれは文芸部のだろ?」

「有希は使っていいって」

「いいのか?有希?」

 

有希は読んでいた本からあたしに目線を変えて頷いた。

まあ、一応文芸部の部長である有希がいいって言うんなら何も言わないが。

 

「みんなわかったわね!クラスの出し物よりこっちが優先よ!必ず世界がアッと驚くような作品を作るんだから!」

 

おいおいハルヒ。世界ってのは規模がデカすぎるだろ。アカデミー賞でもとるつもりか。

しかしまあ、団長の次は監督か。

 

「じゃあ、今日はこれで終わり!あたしはいろいろと考えることがあるから先に帰るわね。詳しい話はまた明日!」

 

そう言ってハルヒは颯爽と部室を後にした。

 

「「「はぁー……」」」

 

はい。このため息はあたしとキョンと早川のため息である。

 

「映画ねぇ」

「なかなか楽しそうではありませんか」

「一樹、ちょい気楽過ぎとちゃうか」

 

男性陣は各々の気持ちを述べていた。

有希は持っていた本を鞄に入れ帰り支度をしていた。

 

「涼宮さんがどんな映画を作るのか。とても興味がありますね。なんとなく想像できますが」

 

そう言いながら古泉プラス他二名は朝比奈さんのほうに向いていた。あたしと有希もつられて見る。

 

「あ、なっなんですか~?」

 

みんなのコップを片付けていた朝比奈さんはその手をとめてあたふたとしながら頬を赤らめた。

いえ、なんでもないですよ。ただハルヒは次にどんな衣装を用意するんだろうと思っただけですから。

 

しかし、映画……ねぇ。

まあ少しくらいなら興味を持ってもいいかな~っといった感じかな。

はたして、どんなモノが出来るんだろうね。

 

 

次の日の朝。

 

まずあたしに、いや、あたしと有希にとても良い知らせが届いた。

カナダに行った涼子から便りが届いたのだ。

 

―――――――――――――――

 

有希ちゃん、キョン子ちゃんへ

 

元気にしてた?

手紙出すの遅くなってごめんね。

 

母の手術なんだけど、無事成功したわ!かなりの大手術になっちゃったけどね。

他の場所に転移もなかったし、術後の回復も順調よ。

これも二人がくれたお守りのおかげね。

まだちょっと体力のほうが戻らないから、これから父とふたりで母を支えていこうと思ってるわ。

 

こっちの学校でもがんばっているけど、やっぱり二人に会いたいな。

冬の休みになったら一度そっちに戻ろうと思ってるから、その時に会いましょ!

 

それじゃまた。

 

朝倉涼子より

 

―――――――――――――――

 

手紙と一緒に写真も付いていた。

そこには嬉しそうに笑っている涼子と両親が仲良く写っていた。

 

「そっか。お母さんの手術上手くいったんだな。よかったな、有希」

 

有希は少し微笑みながら頷いた。

 

「私たちも、返事を……」

「そうだな、後で返事書こう。写真も撮るか。どうせならSOS団のみんなで撮っちゃうか」

 

そう言うと有希は頷いた。

 

そんなふうに始まった今日は平穏に過ぎていった。

まあ放課後に意表はつかれたが。

 

放課後、あたしたちはクラスの出し物の占いについての話し合いを少ししていた。

 

「やばいな。クラスの出し物より優先しろってハルヒに言われたばかりなのに、遅れて行くと絶対何か言われる」

 

あたしはため息まじりに言った。

 

「しゃあないやろ。クラスの出し物より優先せいっちゅうのは無理な話や」

 

隣の早川が小声で言った。まあ、そうだよな。

教卓のところに立ってリーダーシップをとっている夏姫が話し続ける。

 

「それじゃあ、さっき決めてもらった組同士でそれぞれどういう占いをするか決めておいてくださ~い!で、決まったところから各自練習しておいてください!何か質問は?………ないようなので、今日の話し合いはこれで終わりま~す!」

 

その夏姫の合図にクラスメイトは各々立ち上がり、帰宅する者、部活に行く者とわかれていった。

あたしと占いのペアになったのはもちろん有希だ。後でどういう占いをやるのかをしっかり考えないとな。

 

「そういえば早川、おまえは誰とペア組んだんだ?」

 

部室に向かう途中、訊いてみた。

 

「俺は占いせーへんで。客集めや、客集め」

「な、おまえ卑怯な」

「ええやろ。これも立派な仕事なんやから。ささ、はよう部室行かんと涼宮が怒っとるで」

 

そう言いながら早川は先を急いだ。

 

さて、部室に入ってみるとだ。ハルヒはいないどころか誰もおらず、一枚の書き置きとホワイトボードにデカデカと書いてあるものが目に入ってきた。

まず書き置きの方を読ませていただく。

 

―――――――――――――――

 

今日の部活動は、団長のあたしとみくるちゃんにキョンで機材の調達に行ってくるから無しよ!

ただし、ホワイトボードに書いてあるのをしっかりと見ておくこと!

 

それから、明日からはクラスの出し物なんかで遅れて来るようなことは無しだからね!

 

団長より

 

―――――――――――――――

 

だとさ。

まあ、あたしたちの話し合いは一応区切りがついたし、後は各自の練習なんかをすればいいからなんとかハルヒを怒らせることはないだろう。

 

さてさて、問題はホワイトボードに書いてある方だな。

ハルヒの快活な文字でこう書かれていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

・製作著作‥‥SOS団

・総指揮/総監督/演出/脚本‥‥涼宮ハルヒ

・主演女優‥‥朝比奈みくる

・主演男優‥‥古泉一樹

・脇役‥‥キョン子、長門有希、早川諒

・助監督/撮影/編集/荷物運び/小間使い/パシリ/ご用聞き/その他雑用‥‥キョン

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

全員の大まかな配役が決まっていた。

 

「脇役……」

 

有希は呟くように自分の名前の上に書かれたものを読んだ。

 

「脇役って……もうちょっと違う言い方でもいいだろうに……」

 

ため息をつきながらあたしはそう呟いた。

 

「しっかしな、朝比奈さんが主役で大丈夫なんかいな」

「おい早川。それは朝比奈さんに失礼だろう」

「いや、そんなん言うてもな~」

 

早川は苦笑いしながら言った。

まあ、早川が言いたいことはわかる。あの天然ドジっ子さんの朝比奈さんに主役が務まるのかと考えると、正直言って……はい、すみません。朝比奈さん。

ハルヒに怒鳴られながらやってる朝比奈さんの姿を想像してしまった。

 

「まあまだ俺らはいいほうやで」

「ああ、そうだな」

 

キョン、ご愁傷様ってやつだ。いったいキョンは何役こなさせられるんだ?

雑用関係はすべてキョンだな。こりゃ、これ見た瞬間のキョンは盛大に悪態をつきながらため息をしたに違いない。

 

そんな事を考えていると古泉がやって来た。

 

「すみません、遅くなりました。またHRが……と、涼宮さんはいないんですか?」

「ああ。これと、これを見ればわかる」

 

あたしは書き置きを渡しながらホワイトボードを指差し言った。

 

「ほお、なるほど」

 

古泉は書き置きとホワイトボードを見ながらにこやかに微笑んでいた。

いつもいつも笑顔の絶えないやつだ。

 

「まさかここでも主演を演じることになるとは。いやはや」

「ん?どういう事だ?」

「実は先程のHRで演劇の主役を担当することになってしまいまして」

 

古泉はにこやかにそう言った。

うわ、古泉おまえは大変になりそうだな。

 

 

ハルヒたちがいないので、今日は解散することにした。

古泉と早川はすぐに帰ったが、あたしと有希は文化祭の時にする占いをどうするか話し合うことにした。

 

「何がいいだろうな?」

 

そう考えていると有希が一冊の本を取り出した。

 

「これ」

 

その本には『トランプ占い』と書かれていた。

 

「これなら私たちにも難しくない」

「そうか、じゃああたしたちはトランプ占いにするか」

 

とまあ、意図も簡単に決まった。

後は失敗しないように練習するだけだな。

 

 

有希と軽く話した後家に帰宅すると、キョンはすでに帰って来ていた。

 

「よお、ハルヒとどこ行って来たんだ?」

 

だるそうにテレビを見ていたキョンに訊いた。

 

「ん?ああ、これを見ればわかる」

 

そう言いながらキョンは横にあった紙袋をあたしに突き出した。

中にあったのは……

 

「な、ビデオカメラにモデルガン!?どうしたんだこれ!?」

「ハルヒが手に入れたんだ。しかも無料(タダ)で」

「タダ!?一体どうやって!?」

「さあな。教えてくれなかったが、無理矢理奪っているようには見えなかったから、捕まりはしないだろうさ」

 

そう言いながらキョンはため息をついた。

キョンも大変だな。ま、ご苦労様です。

 

 

 

さて、翌日の放課後まで話を飛ばすが、部室に行く前に夏姫に止められた。有希と一緒に。早川は先に部室へと向かった。

 

「ちょっとユッキーにこれ着てみて欲しくてね」

 

そう言って有希の頭に真っ黒で鍔広なトンガリ帽子をかぶせ、同じ色のマントを着せた。

うん、魔女みたいになった。

 

「やっぱり、ユッキーに似合うと思った!」

 

夏姫にそう言われ有希は自分を見ながら嬉しそうにしていた。

何となく、目が輝いているようにも見えた。

 

「なんだ?これは」

「何って、文化祭ん時にこれをみんなに着てもらうの。なかなかいいでしょ!」

 

まあけっこういい案だろうな。目立つ格好だし。

 

「これ、着てていい?」

 

有希が帽子を掴みながら夏姫に訊いた。

 

「あ、うん。いいよ。じゃあそれはユッキーので。キョン子ちゃんや他のみんなのも随時作っていくから」

 

そう言って夏姫は被服室へと向かった。これから他のリーダーたちと同じ衣装を作ってくるんだそうだ。

 

「有希、それ着て行くのか?」

 

有希はキラキラした目で頷きながら、

 

「着てく」

 

と言った。そうとうその衣装が気に入ったようだな。

ハルヒも気に入りそうだ。もしかしたら映画でも使うことになるかも。

 

そんなあたしの予想は見事的中した。

部室のドアを開けるとすでに全員が揃っていて、魔女の格好をした有希を見て一瞬みんなは凍り付いたように固まった。相当驚いたようだ。

 

「……変?」

 

有希は自分の格好を見ながら心配そうに言った。

 

「いいじゃない!最高よ!有希!」

 

いち早く凍り付けから立ち直ったハルヒが有希の近くに来ながら言った。

有希は嬉しそうに少し頬を染めた。

クラスの占いをやるときの衣装だと伝えると、ハルヒは映画の衣装としても使いましょうと予想通りのことを言った。

 

「ちょうどいい衣装じゃない。よかったわ。有希のコンセプトがなかなか決まらなかったのよ。まさにあたしの考えていた配役にピッタリだわ!」

 

そう言いながらハルヒは団長席へと戻った。

さて、あたしにはひとつツッコミたいところがあるんだが。

 

「朝比奈さんの格好はまだわかるとして、そこにいる早川みたいな物体は何だ?」

 

朝比奈さんは少々小さめだが、映画で使用されると思われるウエイトレスの格好をしていた。なぜウエイトレスなのかはそこはスルーして、なんかけっこう危ない格好だがまあそこもおいておこう。

それよりも、古泉の横にいるのは今この部室内で顔の確認が出来ていない早川で間違ってないよな?

そこには北高の制服を着ているのだが、顔が鹿というなんともありえない生物がいた。

いや、どうせ鹿のマスクを被っているだけなんだろうが、鹿がまたかなりリアルに出来ていて謎の生物に見えてしまう。

 

「ああそれ?諒よ。けっこう似合ってると思わない?」

 

真顔で言ったハルヒにツッコもうとすると、早川がマスクを脱ぎ捨ててハルヒにツッコんだ。

 

「どこがや!シャレにもならへんわ!なんやねん、このマスクは!?」

「何よ~、ただの冗談じゃない」

 

ハルヒは笑いながら言った。

古泉の話によると、あたしと有希が部室に来る直前にハルヒが早川に被せたそうだ。で、早川がツッコミを入れようとした時に、ちょうどあたしたちが入って来たので、ツッコミのタイミングを逃していたというわけだ。

あたしたちはまさにグッドタイミング(いや、バッドタイミングか?)ってやつか。

 

「だいたいやな、なんで俺はいつもいつもこんなんばっかやね……」

「これでみんな揃ったわね。それでは詳しい配役を発表しまーす!」

 

早川をスルーしたハルヒは自分の鞄から数枚のコピー用紙を取り出し、みんなに手早く配った。

受け取った紙を見ると、次のようなことがハルヒの快活な文字で書いてあった。

 

―――――――――――――――

 

『朝比奈ミクルの冒険(仮)』

☆登場人物

・朝比奈ミクル……未来からやって来た戦うウエイトレス

・古泉イツキ……不思議エスパー少年

・長門ユキ……悪の宇宙人魔法使い

・きょんこ……異世界から来た女剣士

・その他エキストラたち

―――――――――――――――

 

……………えーっと、なんだろうね。

まあ、おもしろい配役だがな、なんでこうもピッタリなのか。

 

あの向こうの別の世界の有希たちの立場そのまんまだ。あたしにも異世界人で当てはまる。さすがハルヒと言ったところか。

 

「なんで俺の名前がないねん!」

「だ~か~ら、いい配役が決まらなかったって言ったじゃない。それでさっきの鹿マスク用意してあげたんじゃないの」

「あんなんで出るんやったら登場人物Aとかの脇役のほうがまだマシや!」

 

またまたハルヒと早川の口論が始まった。なかなか早川もしぶといやつだな。

 

「もう、まったく。諒の配役はちゃんと後で考えてあげるから待ってなさい。今はまずこっちが先よ」

 

ハルヒは呆れたように言いながらクルリと振り返り、目をギラギラと光らせた。

その目線の先は………あ、あたし?

 

「さぁ~キョン子。あんたにも着替えてもらうわよ~」

 

両の手の平をワキワキさせながらあたしに近づくハルヒ。

 

「は?え?あ、あたしも??」

 

少しずつ近づくハルヒから逃げるようにあたしは後ずさりするが、運悪くパイプ椅子にぶつかってしまった。

 

「さあ、覚悟を決めなさ~い!」

 

そう言うと同時にハルヒはあたしに飛び掛かって来た。

 

「うわああああぁぁぁ!」

 

朝比奈さん。

あなたの気持ち痛いほどわかりました………。

男子三人はハルヒが飛び掛かった瞬間にはもう部室から退散していた。

 

「……で、なんなんだこれは?」

 

ハルヒに無理矢理着替えさせられたあたしは、自分の格好を見て呆然としていた。というか呆れていた?

 

「何って、あんたの衣装よ。変身後だけどね」

 

ハルヒはニッコリと笑いながら言った。

あたしが今着ている衣装と言うのは、学校指定の制服である。だが、ただのセーラー服ではない。全体が赤い感じになっている。いわゆる色違いってやつだ。

 

「こ、こんなもんどこから……」

「ああ、鶴屋さんにお願いしたらすぐに作ってくれたわ。特注だそうよ」

 

鶴屋さん、またあなたは……ハルヒには甘いですよね。というか人が良すぎですよ。

 

「本当はさ、きょんこは変身すると髪が赤くなるって設定がよかったんだけど、それはちょっと無理かなーって思って服が赤く変わるってことにしたの。けっこう斬新でしょ?」

 

髪が赤くなるって……待てよ?あたし確か剣士だよな?

まさか〇眼の〇ャナみたいにやれとか言わないだろうな。

まあ、さすがにハルヒも炎を操れとは言わない……

 

「そうそう、変身したら炎操りなさい!カッコイイから!」

「無理だ!!」

 

 

この日はハルヒが持って来た衣装を着るだけで終わった。

ちなみに古泉の衣装は?と聞くと、古泉は制服そのままらしい。どうやら学園ものらしいな。ま、あたしの衣装がセーラー服の色違いって時点で気付いたが。

というか、こんな改造制服なんか作っていいのか?先生にばれたらめんどくさそう……。

 

「なあハルヒ、脚本とかは?」

 

部室内に戻っていたキョンがハルヒにそう質問した。

 

「それなら大丈夫よ。ここにあるから」

 

そう言いながらハルヒは自分のこめかみの辺りを人差し指でトントンと叩いた。

 

「は?いや、ちゃんと書いたりしないと……」

「大丈夫よ。その時その時でちゃんとあたしから指示を出すから!あんたは安心してあたしについて来ればいいのよ!」

 

そう言ってハルヒは両手を腰にあてた。

キョンは心配だと言いそうな顔でいつものやれやれをした。

 

 

なんやかんやで翌日から本格的に撮影が開始の運びとなった。

 

まずハルヒ監督が指定した撮影場所は学校の屋上。

なんでも有希とあたしの登場&初対面するシーンらしい。

 

「うーん、どうしようかしら……ユキは宇宙船から降りて……いやいやそれよりも……」

 

何やらハルヒは一人でぶつくさ言っている。

ちなみに、今有希の格好はあの魔女姿。あたしはと言うと……

 

「なあキョン子、なんで着物みたいの着てんねん」

 

そう、あたしは何故かあの色違いの制服ではなく、よく時代劇なんかで登場する侍が着る着物を着ていた。

 

「さあな。ハルヒがこれ着ろって言うからさ。それに、こんな物まで……」

 

あたしの左腰には刀がある。いったいどこからこんな物を?まあ、だいたいは想像がつく…がな。

しっかしなんだ、ちょっと重くないかこの刀。まさか、真剣……?なわけないよな。

 

「よし、決まった!じゃあ有希、こっち来て!」

 

そう言ってハルヒは有希を屋上の端に立たせた。

 

「キョン子、あんたはこっちよ」

 

そう言ってハルヒが指した場所は有希とちょうど反対の場所だった。

向かい合ったあたしと有希。

 

「……で、これでどうするんだ?」

「いい!?これから撮るのはユキときょんこが初めて対面するシーン。ユキはある調査でこの地球にやって来た設定」

 

ハルヒはそう言いながら有希に指指す。有希は頷いた。

 

「それで、きょんこは異世界にいる自分の主からある使命を与えられ、それを遂行すべくこの世界にやって来た設定ね!」

 

そう言いながら今度はあたしに指を指すハルヒ。

 

「調査?使命?なんだそれは」

「ああ、そこんとこは後々。大丈夫よ安心して。あたしの辞書に不可能の文字はないわ!」

 

まあ、そこまで言うんなら心配せんが。

 

「登場の仕方は、そうね………ちょっとキョン」

「ん?なんだ?」

 

ぼーっとしていたキョンにハルヒは話しかけた。

 

「どっからでもいいから、机かなんか持って来なさい」

「はあ?いったい何に……」

「いいから、早く!」

 

そうハルヒが言うとキョンは渋々屋上の入口へと向かった。

 

「ハルヒ、机なんていったいどうするんだ?」

「ふふーん、ユキの登場シーンに使うのよ」

 

なんでもユキは空(宇宙)から舞い降りる感じで登場させたいらしい。そこで、台の上からジャンプして着地するという場面を作りたいそうだ。

 

「キョンが帰って来たらすぐにユキから撮るから、イメージしててね」

「わかった」

 

有希は頷いて、ジャンプして着地の練習をし始めた。

 

「そうそうそんな感じよ!」

 

意外と有希は撮影に熱心だ。まあ、良いことなんだけどさ。

 

「それで、きょんこは、この辺から……」

 

と言いながらハルヒは何もない空間を指し、

 

「……こうバッと飛び出して来て。なんかこう、異次元の歪みから飛び出す感じで!出来るでしょ!?」

 

と明るい笑顔で無茶振りした。

 

「……そんな芸当があたしに出来るとでも?」

「冗談よ冗談。この辺は後で編集の時にCGかなんかでテキトーにするから」

 

その編集ってのはどうせキョンにやらせるのだろうな。

ハルヒから細かい演技を有希と教わっていると、机を抱えたキョンが戻って来た。

 

「よし、じゃあ撮影に入るわよ!」

 

 

 

~ ~ ~

 

夕日で赤く染まったある学校の屋上―――

そこに一人の少女が空から舞い降りた。

その少女はマントを纏い、頭にはトンガリ帽子をかぶっている。

その姿はまるで魔女のようだ。

 

風がそよそよと吹き少女のマントを揺らす。

 

そこへ突然、何処から来たのかまた一人の少女が屋上に現れた。

まるでどこかの侍のような姿の少女は、腰に付けた刀を手に持ちながらそこに片膝をついた。

 

一瞬の沈黙――――

 

やがて、二人の目線が交差した。

 

「……そなた、名をなんと言う」

 

侍風の少女が刀に手をかけながら言った。

 

「……長門……ユキ」

 

魔女風の少女は静かに応えながら、懐から星マークつきの魔法の杖を取り出した。

 

「……あなた、は?」

「あたしは……きょんこ」

 

そう言ってきょんこは立ち上がりながら、刀を鞘からスッと引き抜いた。

 

その場で対峙する二人。

異様な気の流れが二人を包んでいた――――

 

~ ~ ~

 

 

 

「は~い、カーット!!」

 

ハルヒが持参したメガホンをバンバンと鳴らした。

 

「二人ともすごい良かったわよ!」

「あは、あはは。ちょっと恥ずかしかったな」

 

抜いた刀を鞘に入れながらあたしは言った。

 

「いや~、迫真の演技でしたね」

 

レフ板を持っていた古泉がそれを下ろしながら言った。

 

「二人ともかっこよかったですぅ」

 

朝比奈さんにそう言ってもらえると光栄です。

 

「さて、じゃあ次は……」

「おい、ちょっと待てハルヒ」

 

ハルヒの後ろでカメラをいじっていたキョンが待ったをかけた。

 

「何よキョン」

「もうそろそろ下校時間になる。今日はここまでにしないか?」

 

そう言いながらキョンはくたびれたと言いそうな顔をした。

まあ無理もない。なんせ、今オッケーが出るまで十回もやり直しさせられたんだからな。もう夕日もかなり西に傾いていた。

 

「ん~、まあそうね。区切りがいいし、今日はここまでにするわ。みんなお疲れ様!」

 

この一言で無事第一日目の撮影は終了。

 

文化祭まで後一ヶ月とちょっと。

……このペースではたして大丈夫なのだろうか。

 

 

それからの毎日は、マイペースながらも着々と映画撮影は行われていった。

 

まあ、ハルヒ監督の無茶ぶりに朝比奈さんが倒れかけたり、キョンが何かと撮影場所や内容について文句を言うので、幾度もハルヒと口論が勃発するなど大変な事は多々あったのだが。

 

他にも、途中から谷口や国木田、夏姫に真田、鶴屋さんまでもを撮影に引っ張り込んだりした。

しかも何故か鶴屋さんにけっこう重要な役まで与えちゃったもんだから、脇役っぽい役につかされた早川が機嫌を損ねたのは言うまでもない。

なんとか古泉がなだめたがな。

 

 

そんなこんなで、撮影開始から三週間。文化祭まであと四日と迫ったある日……。

 

「……は~い!!カーット!!」

 

この、ハルヒ監督の合図をもって全撮影が終了の運びとなった。

なんだか最後はなかなかの締めだったな。

 

「みんなー!お疲れ~!」

 

ハルヒはとても嬉しそうにそう言いながら、立ち上がった。

 

「ふぅえぇ、お疲れ様でした~」

 

その場に座り込んだ朝比奈さんは、もうへとへとですという感じで言った。

他のメンバーも、その場に座ったり大きく伸びをしたりなどした。

 

「さて、後の編集はキョン!任せたわよ」

 

撮影に使ったカメラをいじっていたキョンにハルヒはビシッと指を指しながら言った。

 

「……おい、マジで俺一人に編集させる気か?どうなるかわかったもんじゃないぞ?」

「何よ、そんなに編集に自信がないの?まあキョンだから仕方ないと思って、CGとかの完成度の高さはあまり期待しないどいてあげるから」

 

そうハルヒが言うとキョンは小さくため息をついた。

 

「ああそうかい。それよりも、後四日しかないのに……時間間に合うかな……」

 

そうキョンはぶつぶつと言いながらも、がんばって編集作業へと取りかかるのだった。

その他のメンバーは、自分たちのクラスの出し物の準備等の手伝いに行った。

あたしと有希の占いもちゃんと出来るようにしないとな……。

 

あ、ちなみにハルヒは映画の宣伝用にとチラシを作る作業をしたそうだ。

 

 

そして文化祭前日。

なんとか編集作業を終わらせたキョンが完成させた、『朝比奈ミクルの冒険』をSOS団のみんなで見ることに。

 

で、まあ結論から言って、なかなかの出来だったのは確かだった。

自分が映っているシーンとかは恥ずかしすぎてあまりよく見なかったが、作品としては良く出来ているんではないかと思う。

 

なんと言っても、キョンの編集が結構良かったってのがびっくりだ。

後で聞くと、なんとあの真田に手伝ってもらったのだそうだ。CGの部分は真田がほとんど請け負ってくれたみたいで、キョンはシーンの繋げる作業などを行っただけだったそうだ。

まさか真田がこんな特技を持っているとはな。驚きだ。

 

「うん!なかなか上出来じゃないの!」

 

映画を見終わったハルヒはかなりご満悦のようだ。

隣を向くと、朝比奈さんが今にも蒸発してしまうんじゃないかってくらい顔を真っ赤にしていた。

そういうあたしもかなり顔を赤くしているに違いない。

 

「なあハルヒ、これ本当に文化祭で上映するのか?」

「何言ってんのよキョン子?当たり前でしょ?そのために今日まで頑張ったんじゃない!」

 

ハルヒは満面の笑みでそう言った。

 

……………くぅ、あれがみんなに………恥ずかしいーーー!!

とにもかくにも、あれこれ大変だった映画も無事完成となった。

 

………もう勘弁したいが、…………来年もするなんて言わないだろうな、ハルヒ?




~あとがきのようなもの~

どうもMy11です。
前回の投稿から随分と間が空いてしまいました。申し訳ありません。

さて、今回の話は原作の『溜息』の部分でした。
正直あまりうまく書けなかったのですが、いかがでしたでしょうか?

少しでも楽しく読んでいただけたら幸いです。
それではまた。


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第15章 文化祭

キョン子「ついに来たなあ文化祭」
キョン「ああ…」
キョン子「ん?どうした?」
キョン「…何も起こりませんように…」
キョン子「ああ…なるほど」


秋晴れのいい天気に見舞われた今日、まさに文化祭日和。

朝の開会式を終えたあたしたちは、自身の教室に戻りさっそく占いの準備に取り掛かっていた。

まあ大半の準備は昨日のうちに終わっていて、後は例の衣装に着替えてそれぞれの場所にスタンバイするだけだが。

 

「よーし、それじゃあみんな今日は頑張っていこう!」

『おおう!!』

 

そんな夏姫の掛け声と同時に学校内に一般者の入場開始の放送も入る。

いよいよ北高文化祭のスタートである。

 

 

 

「……このカードを引いたあなた、今日の恋愛運はあまりよくありません。意中の彼との進展は厳しいかも」

「えぇ、嘘でしょ…」

「うーん、あんまりよくなかったね」

「まあでもあまり真に受けちゃうのもあれだしね、気にしないでおく」

「そうですか。そんなあなたにこちら、四葉のクローバーのしおりを差し上げます」

「わあ!ありがとう!占い頑張ってね!」

「はい、ありがとうございました~」

 

同学年の女子生徒二人への占いが終わり、あたしと有希は一息ついた。

あたしたちのクラスの占い屋はそれなりに好評だったみたいで結構な人で賑わっていた。

ほとんどの客層は女子生徒ばかりだったが時たま恋人同士だったり、父兄の人が来たりなどもしている。

 

「ふう、結構いろんな人が来るなあ」

「うん」

 

広げていたトランプをまとめながら有希は頷いた。

 

あたしと有希でやっているトランプ占いもそれなりにウケていた。

来てもらった人に自分でトランプを切ってもらい、それぞれの占いによって決まったカードの枚数を引いてもらうだけのいたってシンプルな占い方法。有希が出たトランプを見て結果を言い、運勢が悪かった人には先ほどのようにクローバーのしおりなどをあたしがあげたりしている。それがいい感じに好評みたいで、有希と一緒にいろいろ作ったかいがあった。

 

「あっと…キョっキョン子ちゃん、次のお客さんだよ!!」

「?おう、了解ー」

 

少し違和感を感じながら夏姫の呼び声に軽く返事をして次の客を迎え入れる。

 

「よーす」

 

やって来たのはキョンだった。

ああ、なるほどな。どうりで夏姫の声に違和感を感じたわけだ。いくらあれから吹っ切れたと言ってもまだそれほどの日時は経っていない中で本人と出くわしたらちょっとは動揺するもんだろう。

まあ、これは本人たちの問題であるからあまり口出しはしないが。

 

「なんだキョンか」

「なんだとはなんだ。ちゃんと客として来たんだからそれなりの対応しろよな」

 

そう言いながらあたしたちの前にある椅子に座る。

 

「はいはい。それにしても一人か?」

「ああ。さっきまで国木田と谷口と一緒だったんだがちょっと別行動でな。んで、今そこで早川に会ってせっかくだから占ってもらおうかなと」

「ふうん、そうなんだ」

「それでは、何を占う?」

 

そう言いながら有希は机の上に置いてある紙を出した。

メニュー表みたいなもので、『今日の運勢』『恋愛運』等といろいろ書いてある。

 

「そうだな…じゃあ『今日の運勢』と『これからの運勢』についてお願いしようかな」

「わかった。それではこのトランプを切って」

「おう」

 

有希からトランプを受け取りさっそく切り始める。

 

「そういえばハルヒは何してるんだ?」

 

ふと気になったことをキョンに訊いてみる。

 

「ああ、あいつなら校門前や玄関前で映画の宣伝チラシ配ってたぞ。…なぜかチャイナ服で…」

「…ああ、そうかい」

 

ハルヒもまあ…頑張ってるんだな。

 

それにしてもあの映画…そういえば一回目の上映もうすぐだったな、…くう、やっぱり恥ずかしいな。

 

「…うん、こんなもんだろう。ほい」

 

そう言ってキョンはトランプを切るのをやめてテーブルの上に置いた。

 

「そしたら上から二枚、下から二枚引いて表に返して」

「よし」

 

キョンは有希に言われた通りにトランプを引き計四枚のカードを机に並べる。

 

「それでは占います。まず今日の運勢……、今日のあなたの運勢は悪くはないけど良いとも言い難い、いつもと変わらないと出た」

「なんだ、可もなく不可もなしってか」

 

ある意味キョンらしい占い結果だな。

 

「そしてこれからの運勢の方は……、これから近いうちにあなたの運命を左右する出会いが待っていると出た」

「出会いか…何があるんだろうな」

 

そう言いながらキョンはこの占いの結果にまんざらでもないようだった。

 

「うん、まあ結構面白かったよ。ありがとうな二人とも」

 

そう言いながら立ち上がったキョン。

 

「どういたしまして。この後はどうするんだ?」

「そうだな、とりあえず別れた国木田たちと合流するかな…、そしたら朝比奈さんたちのクラスに顔出したり古泉んとこに行ってみたりするよ。二人はまだ占いしてるのか?」

「うん。私たちはまだ」

「交代まではもう少し時間あるかな。終わったらあたしたちも顔出し行くって言っておいてくれ」

「おう、了解した」

 

そう言ってキョンは占いスペースから出て行った。

 

「よし、交代まであと半分ってとこかな。もうひと踏ん張りと行こうか」

「うん、頑張ろう」

「キョン子ちゃーん!次行くよー!」

「はいよー」

 

 

 

 

 

キョンが来てから1時間ほど――。

 

「キョン子ちゃん、ユッキー、お疲れ様~」

 

占いの交代時間になったのでやって来たクラスメイトと交代し控室に入ると、紙コップに入ったお茶を持った夏姫が出迎えた。

 

「はい、お茶どうぞ~」

「お、ありがと」

「ありがとう」

 

受け取ったあたしたちはお礼を言い一息ついた。

 

「どうだった?楽しめたかな?」

「おお、そうだな。十数組くらいに占いをやっただけだけど結構楽しくできたよ」

「私も、楽しかった」

「そう!それは良かった!」

 

夏姫は満面の笑みで返した。

 

「それじゃあ、着替えた衣装はここに置いておいていいから」

「ああ、それなんだけど…」

「今日一日来てちゃ…だめ?」

 

有希が物欲しそうに言った。

 

「有希この衣装すっごい気に入ってるからさ、今日一日着てたいってさ。ついでにあたしも着て行こうって思うんだけど」

「そうなんだ。いやあユッキーにそこまで気に入ってもらえるなんて衣装を考えた身としてはすっごく嬉しいよ!衣装はそのまま着ていてもいいよ!むしろそのまま校内を歩いてもらった方が宣伝にもなるしね!」

「そうか。よかったな有希」

「!うん」

 

有希はとても嬉しそうに頷いた。

 

「よし、それじゃああたしたちは校内を回ってくるよ。夏姫は?」

「私はもう少しここでやることあるからまだいるよ。二人していってらっしゃい~」

「そうか。そんじゃ有希、行くか」

「うん、行こう」

 

夏姫とはその場で別れてあたしと有希は校内の探索に向かっていった。

 

 

 

最初に訪れたのは古泉のいる9組のクラスだった。

劇の途中だったが、行くとちょうどクライマックスのシーンで古泉の見せ場のようだったので立ち寄った。そういえばここでも古泉は主役だったか。あいつも大変だよな。

客の中にはキョンたちの姿もあった。谷口は顔をころころと変えながら見ていた。どうもかなり感情移入するタイプみたいだ。

時々女子生徒から黄色い歓声も上がっていた。てか客層の三分の二は女子生徒だったので驚いた。中にはさっき占いに来た子までいた。

劇が終わると拍手喝采だった。最後しか見てないがかなり出来のいいものだったみたいだ。

 

 

 

「いやあ、よかったぞ古泉」

 

劇後、古泉と話せたのでお疲れさまと簡単に感想を言う。

 

「ありがとうございます。お二人もその衣装お似合いですよ」

 

さらりと言う古泉。こういうところが女子に人気の出る部分なんだろうな。

 

「しかしお前よくあんなに劇のセリフ覚えられたな。SOS団の映画もあったのに」

 

キョンが古泉から借りた劇の台本を見ながら言った。

 

「いやあ、少し大変でしたけど何とか覚えられました。意外とこういうの僕に合っているのかもしれません」

「確かに、古泉にピッタリかもな」

 

そんな風に軽く雑談を交わしてあたしと有希は古泉たちと別れた。

 

 

 

次にあたしと有希は朝比奈さんのクラスの焼きそば喫茶に来ていた。

時間はお昼過ぎだったからかそこまで人はいなかった。

そんなクラスの前にウェイトレスの格好をした鶴屋さんが呼び込みを行っていた。

 

「およ!キョン子ちゃんに長門っちじゃないか!いらっしゃあい!」

「こんにちは鶴屋さん。ウェイトレス衣装とても似合ってますね」

「照れるっさね~。そういう二人もペアルックみたいでお似合いにょろよ!」

 

鶴屋さんが照れながら満面の笑みで言った。

そんな鶴屋さんに有希も照れながら頭を下げた。

 

「ありがとうございます。今二人いいですか?」

「おお、オッケーさね!お二人様ご案内~」

 

鶴屋さんに案内された席にあたしと有希が座ると、すぐに朝比奈さんがお水を持ってやって来てくれた。

 

「二人ともいらっしゃぁい」

「あ、朝比奈さん、どもです」

 

有希もぺこりと頭を下げてあいさつした。

 

「よし!じゃあ今焼きそば持ってくるからね!ちょーっとだけ待ってるにょろよー。あ、みくるももうすぐ終わりだし、一緒にくつろいでいるといいっさ」

「えっ、でもまだ…」

「いっていって!今あんまりお客さんもいないし、朝からずっと接客しっぱなしで疲れてるはずにょろからみくるは座ってていいのさ!そんじゃ待っててねー」

 

そう言って鶴屋さんは奥の方に行ってしまった。

 

「鶴屋さんも疲れてると思うんだけどなぁ…ずっと外で客寄せしてたし……」

「そうだったんですか?」

 

朝比奈さんは行ってしまった鶴屋さんを見ながら心配そうに言った。

鶴屋さんって疲れてても周りには全く見せなさそうではあるよな。それでいて他の人の気配りができるんだからほんと尊敬する先輩だよ。

 

「んー、まあここは鶴屋さんに感謝しつつ少しあたしたちとおしゃべりしていましょう」

「うーん、うん。後で鶴屋さんにお礼言わなきゃですね」

 

そう言いながら朝比奈さんは微笑んだ。

やっぱり朝比奈さんの笑顔はとても癒される。キョンみたいに糸目になってそうだ。

 

「キョン子ちゃんたちはもう学校内を結構回ってきたんですか?」

 

あたしたちの近くにあった椅子を引き寄せて座りながら朝比奈さんが訊いてきた。

 

「あたしたちはまだあんまりですかね。休憩に入ってからここに来る前に古泉のクラスに寄って来ただけなんで」

「へえ。古泉くんのクラスって確か劇でしたよね?どうでしたか?」

「ええ、かなり賑わってましたよ。最後の方しか見ませんけど、いい舞台だったですね。もう一度やるみたいなんで、時間があったら見に行ってみては?」

「そうなんですか?それじゃあ後で鶴屋さんと見に行ってみようかなぁ」

 

朝比奈さんはニコニコとしながら言った。

 

「あ、でももう少ししたらお母さんが来る時間だった」

 

朝比奈さんが時計を見ながらはっとして言った。

 

「親御さんが見に来られるんですか?」

「うん。お母さんだけね。実はここの卒業生なんだあ。去年も見に来たんだけどね」

「そうでしたか。それは良かったです…あ」

 

そう言いながらあたしは有希のほうを見る。

有希の前でこういう話はまだまずかったか?

そう思ったが、有希は特に気にしているようなそぶりはしていなかった。

 

「?……!、大丈夫」

 

あたしの視線に気づいた有希はしっかりと頷いた。

そうか、有希も少しづつ強くなっているもんな。

 

「どうかしましたか?」

 

事情をよく知らない朝比奈さんは不思議そうに尋ねてきた。

 

「あ、いえ。何でもないです。お母さんと楽しんでくださいね」

「うん。ありがとう」

 

 

すぐして鶴屋さんが四人分の焼きそばを持ってやって来た。鶴屋さんも一緒にお昼休憩でお食事だそうだ。

しばらく一緒に談笑しながら食事をしてあたしと有希は朝比奈さんたちのクラスを後にした。

 

 

 

校内を転々としていると、目立つ看板を掲げて歩いているチャイナ服姿の生徒を見つけた。

てかまあハルヒだ。

 

「あらキョン子と有希じゃない!」

 

ハルヒは元気いっぱいにこちらへとやって来た。

 

「ようハルヒ」

「クラスのやつはもう終わったの?」

「まあとりあえずな。ハルヒは?さっきキョンに映画の宣伝やってるって聞いてたけど、まだやってるのか?」

「まあね。計3回の上映もあと1回だから最後の宣伝中よ!かなりお客の入りいいんだから!」

 

ハルヒは満面の笑みで答えた。

…マジか。そんなに人が入ってるのか……。やっぱ恥ずかしい……。

 

「あ!もうすぐ次の上映が始まっちゃうから行かなきゃ!あんたたちも来る?」

「あ、いやあ…有希はどうする?」

「…屋台で何か食べたい」

 

さっき朝比奈さんたちのクラスで焼きそばを食べたばかりだが、有希はまだまだ物足りないらしい。まあ屋台回りもしたいってのはあたしも賛成だし、あれをもう一回見れってのはちょっとな…。

 

「そうだな。あたしたちは他のとこ回ってみるよ。せっかくだけど悪いな」

「あらそ。まあいいわ、それじゃあね!」

 

そう言うとハルヒは烈火の速度で視聴覚室へと向かっていった。

にしても、すごい生き生きとしてたな。

 

 

 

玄関先で真田と会った。

手にはそこらの屋台で手に入れたのか、何かの景品とクレープを手にしていた。

 

「やあお二人さん。今休憩かい?」

「ああ。真田は?」

「これから当番なんだ。夏姫はまだ教室に居たかい?」

「あたしたちが出るときはまだ教室に居たけど、まだ居るかはわからないな」

「そうなんだ、ありがとう」

 

真田は少し考えながら外履きから上履きへと履き替えていた。

 

「夏姫も頑張り屋さんだが、自分も楽しむってこともして欲しいからな。まだ仕事してるようだったらちゃんと休憩して遊びに出てくれって言っててくれ」

「ああ、了解した」

 

そう言いながら真田と別れてあたしたちは校舎の外へと向かった。

 

 

 

校舎外の屋台やらを物色しながら、たこ焼きや綿あめなんかを食べたりしていると早川と会った。いつの間にか教室にいなかったと思えば、両手に焼き鳥やらフランクフルトやらを持ってかなり満喫している様子だった。

 

「ようお二人さん、楽しんどるか~」

「早川、姿が見えないと思っていたらお前もかなり楽しんでいるじゃないか」

「なんやええやろー、ちゃんと客引きの仕事してたんやからな」

「まあ、ちゃんとしてたならなにも文句は言わないけども」

「まったく、厳しいやっちゃなあ」

 

ま、文化祭はみんなで楽しむ行事だ。ちゃんと楽しんでいるんだからケチをつけていたらせっかくの祭りも台無しってもんか。

 

そんな風にしてしばらく早川も加わって三人で散策していると、校門付近で再び朝比奈さんと鶴屋さんに会った。

 

「あ、キョン子ちゃん」

「あれ、朝比奈さんたちもここに?」

「はい、ちょうどお母さんを迎えに来てました」

 

そう言った朝比奈さんの後ろにはそれらしき人が立っていた。

 

「ちょうど良かった、紹介するね。これが私のお母さん」

 

そう言うと、後ろにいた女の人が朝比奈さんの横に出て来て軽くお辞儀した。

 

「初めまして。みくるの母です」

 

とても綺麗な方だなというのが第一印象だった。たたずまいがすごく優雅というか、ビシッとした感じではなくおっとりとしている感じなんだが、取り合えず綺麗だった。語彙力ないなあたし。

容姿のほうは、なるほど確かに朝比奈さんにとても良く似ている。朝比奈さんが大人になったらきっとこんな風になるんだなってくらいだ。

 

「お母さん、こちらの子たちは同じ部活動をしている1年生の子たちです」

「あらあらそうだったの。みくるがいつもお世話になってるわね」

「あ、いえいえこちらこそお世話になってます」

 

頭を下げながら言う朝比奈さんのお母さんにあたしたちも頭を下げる。

実際、ほぼ毎日お茶を淹れてもらったりしているわけだし、かなりお世話になっています。

 

「まあ、礼儀正しい子たちねぇ…あら?」

 

朝比奈さんのお母さんは軽く微笑みながら言った。するとあたしの横にいた早川に視線が行く。疑問に思った早川が質問する。

 

「?えっと、なんでしょう?」

「あっ、ごめんなさい。あなた前に、私とどこかで会ったことあるかしら?」

「へ?えーっと、いやお初にお目にかかると思うんですけど…」

「……お名前は?」

「えっと、早川言います。下は諒です」

「早川……」

 

少し戸惑ってる早川を見ていた朝比奈さんのお母さんは、すぐしてにこやかな笑顔になった。

 

「ごめんなさい、私の勘違いだったかも」

「どうしたのお母さん?」

「ううん、何でもないわ」

 

朝比奈さんの疑問にも笑顔で答える朝比奈さんのお母さん。

早川のほうはあたしの横で頭から?が見えるような顔をしていた。

 

「時間を取らしてしまってごめんなさい。うちのみくるとこれからもよろしくね」

 

そう言いながら再度会釈した朝比奈さんのお母さん。こちらも同じく頭を下げた。

すぐして朝比奈さんたちは朝比奈さんのお母さんを案内するからと校舎のほうへと行ってしまった。

残されたあたしたちにはそれなりの疑問が。

 

「おい早川、あんな素敵なお方といつ知り合ってたんだ」

「な、だから知らんちゅうねん!あんなお綺麗な人に会ってたら逆に忘れるわけないやろ!」

「うーん、まそれもそうか」

「本当に、綺麗な人だった」

 

疑うあたしに早川は反論し、有希は少しうっとりとしていた。

 

 

 

その後も周りの屋台やらを見て回ったり、部活動ごとの展示物だったりを見て回ったりしてあたしと有希は文化祭を楽しんだ。早川も一緒にだったな。

 

体育館では、個々人で漫才をしていたりライブ披露なんかをしていてそこでキョン達とも再会。

有志のバンドがライブ中に、ハルヒが乱入しかけたときはあたしも肝を冷やしたが。キョン達と一緒に懸命に止めに入ったが。

 

『来年はバンドもいいかもね!』なんて言い出したからもう溜息しか出ない。まあ、来年は来年に考えようとキョンと頷き合った。やれやれ。

 

 

 

いろいろと大変なこともあったが、北高文化祭は大きな混乱もなく無事に終幕となったのだった。




~あとがきのようなもの~

どうもMy11です。
ほんとーーーーーーにお久しぶりの投稿になりました!
遅くなり大変申し訳ありませんm(_ _)m
まあ、待ってくださってる方なんてもういないのかもしれませんが……。

前回の投稿からまさかの6年近い月日が経ってしまいました…。(前回投稿2013年~今回2019年)時代も変わってしまいましたね。

ほぼ失踪状態であったこの物語を今回また投稿しようと思いましたのは、自分の中で一つ区切りをつけようと思い投稿に至りました。
一度書き始めたものを丸投げにしたまま放置して長い年月が経ってしまいましたが、少しづつ投稿意欲が再燃してきました。
投稿していない期間にも、こういう話を書きたいなあくらいの構想をいくつか書き溜めていました。(完璧なものではないですが)

以前は台本形式で書いていたこの物語も2017年に一新させていただき、第13章に関しては長すぎたため二つに章を分けるなど行っていました。

長々と言い訳がましいことを書かせていただきましたが、またこれから投稿をしていきたいかなと思います。
今更投稿して読んでくださる方がいらっしゃるかどうかわかりませんが、頑張りたいと思います。

今回のお話に関しても、最後のほうはチャチャっと書いた感じになってしまったので少し内容が薄っぺらい感じかもしれませんがご容赦をm(_ _)m
誤字脱字等あればご指摘いただきたいです。

何はともあれ、こんな自己満小説ですがまたよろしくお願いします。
それではまた。


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