大統領 彼の地にて 斯く戦えり (騎士猫)
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本編
第一話 異世界の門
誤字脱字などのご指摘や感想お待ちしております。
「へぇー、やっぱり東京を新首都に選んだのは正解だったな。日本国時代の政府関係の建物も残ってるし、こりゃあ計画より簡単に終わりそうだ。」
今や世界を統一し、一惑星国家となったロンディバルト民主共和国、その大統領であるペルシャール・ミーストは、秘書官のティレーナ・クリスチアンと十数人ばかりの護衛とともに、新たな首都となる旧日本国東京を視察に来ていた。
「そろそろ銀座ですね。」
ティレーナは自分の持っているタブレット端末に映されている地図を見つつ言った。
「しかし、本当に世界統一したんだよなぁ・・・。まぁ、まだ旧君主制連合領地の治安とか、通貨の統一だとか、色々とやることは多いんだよな。はぁ・・・、また書類が増えるのか。」
ペルシャールはため息を吐きつつ言った。ちなみにペルシャールがいつも処理している書類は1~2メートルの束2つほどである。国がもう一つ増えるほどの領土が新たに追加されたのだから、書類の数は2~3倍に増えるだろう。ペルシャールはそれを考えてまたため息を吐いた。
「そんなことで一々ため息を吐いているようでは、1国の大統領は務まらんでしょう。」
何度もため息を吐くペルシャールを見て、護衛隊長であるシェーンコップがやれやれという表情で言った。
「1号車より連隊長、前方から市民が十数人走ってきます。何やらあわてているようです。」
そんな感じで会話をしていると、1号車の隊員から通信が入った。
「市民が?・・・囮の可能性がある。1,2号車は車両を横にして即応態勢を取れ。他の各車も周辺警戒を怠るな。」
それを聞いたシェーンコップが冷静に指示を出した。
「こちら1号車、前方から来る市民の後方から騎馬隊が接近中。装甲騎兵です。」
「装甲騎兵だと?」
「ティレーナ、今日このあたりで騎馬隊を使ったイベントが行われるという予定は?」
1号車から新たな通信を聞いたペルシャールは、ティレーナに質問した。
「いえ、この辺りでは騎馬隊のイベントどころか、すべてのイベントは禁止させています。」
「ふむ、准将。どうやらお客さんの可能性が高いようだ。どうする?」
それを聞いたペルシャールは、今度はシェーンコップに聞いた。
「そりゃあ、お出迎えしなければいけませんなぁ。」
「よろしい、全車迎撃態勢を取れ。危険があれば自由射撃を許可する、市民には当てるなよ?」
シェーンコップの答えに頷くと、無線を持って命令を出した。
・・・・・・・・・・
「く、くるなぁ!くるなぁぁあっ!」
「たすけれくてぇええ!!」
「あ、足があ!あしがぁぁ!!」
ペルシャール一行が迎撃態勢を整えている頃、銀座は地獄と化していた。
突如として大通りに門が出現し、そこから騎馬隊やモンスター、ドラゴンが現れ、唖然としている市民を襲い始めたのである。一つ幸いだったのは、大統領警備のため、各駅や主要施設に多数の武装親衛隊が配備されていたことだろう。
とはいうものの、門から現れた軍と武装親衛隊では数が違いすぎた。門の軍隊6万に対して、武装親衛隊は600名程度である。
「防衛司令部に増援要請をっ!大統領を最優先で保護しろ!」
警備部隊の隊長が怒鳴りながら部下に指示をだし、自らも銃を取り出して応戦していた。
「くそっ、なんなんだ奴らはっ!モンスターとドラゴンなんて聞いたことないぞっ!!」
「愚痴言う暇があったら敵を撃て!」
SS隊員達は、民間人を保護しつつ、防衛司令部のある旧皇居近辺に後退していった。
「横浜基地からヘリ部隊を送れ!旧皇居に民間人を避難させろっ!戦車部隊を出して、大統領を保護するんだ!急げっ!」
東京都防衛司令部では、スタッフがあわただしく動き回り、門から現れた軍隊の対応に追われていた。
・・・・・・・・・・
「連隊長っ!さすがにこの人数じゃ防ぎきれませんよ!」
「相手は銃も持たない騎兵だ。近づかれなければ対処は容易だっ。人ではなく馬をねらえ!」
3回もの騎馬隊による突撃を何とか凌いだ大統領護衛部隊は、人数的にも弾薬的にも余裕のない状態であった。
「!?連隊長っ、味方の戦車部隊です!」
4度目の突撃が行われる直前、隊列を整えていた騎馬隊に17式戦車の45口径100mm砲が火を噴いた。騎馬隊は木端微塵に吹き飛び、跡形もなくなった。
「閣下!我々が援護しますっ。防衛司令部まで避難をっ!」
ペルシャール達は、戦車部隊に護衛されつつ防衛司令部へと避難した。その頃には横浜基地のヘリ部隊と戦車部隊が市街地出縦横無尽に暴れまわっている門の軍隊を殲滅していた。
ペルシャールが到着した時、すでに主力は壊滅し、掃討戦へと移っていた。
後に”銀座の悲劇”と呼ばれる市街地戦は、民間人1360人 SS及び防衛隊員37人の犠牲者をだし、門の軍隊を全滅させ、6000人に及ぶ捕虜を得て収束を向かえた。
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第二話 大統領、特地へ
「我々は先の侵略行為に対して断固として対抗するものである!私はここに宣言する!!門の向こうへ侵攻し、市民を虐殺した異世界の者どもに、正義の鉄槌を下すことをっ!」
大統領ペルシャール・ミーストによるこの演説の1か月後、特地派遣軍の第一陣、1個機甲師団・1個機械化歩兵師団が、門の前に集結していた。
この頃、門の半径100メートルは緊急時に備えて民間人の立ち入りを禁止し、軍の直轄地となっていた。ビルなどは改装され、特地派遣軍のロンディバルト側中継地が設置された。
「諸君らは、二度の世界大戦の初期から戦場で戦ったロンディバルト軍屈指の精鋭である。諸君らを派遣部隊として送り込むことになるが、この任務は誠に重大なことである。諸君らの奮闘に期待する」
ペルシャールは一度言葉を切った。
「派遣部隊の指揮は・・・」
「私が直接執ることとなった。副司令官は武装親衛隊長官ラインハルト・ハイドリヒ大将が務める。」
その言葉に兵士たちは特に騒ぎもしなかった。ペルシャールは幾度も戦場に立って指揮を執っていたからである。ある意味慣れてしまったのであろう。
「2週間前から斥候部隊が何度も門の向こうに行っているが、特地では何が起こるかわからない。従って、門を超えた瞬間戦闘が始まる可能性もある。諸君、細心の注意を払って任務に当たれっ!では、間もなく出発だ。全員乗車せよっ!」
ペルシャールの演説が終わると、兵士たちはそれぞれ割り当てられた車両に乗り込み、エンジンをかけた。
門を囲っているドームのゲートが徐々に開いていき、機甲師団を先頭に突入していった。
「現地に到着した途端戦闘になる可能性もあるんだよな・・・。」
「そうなれば、現有戦力で対処するしかありません。」
指揮車ではペルシャールとハイドリヒが先頭車両から転送された映像を見ながら話していた。
「前方に多数の火を確認!敵陣と思われます!つかみで5万!」
先頭車両がゲートから出ると、10キロほどのところに敵陣を発見した。
「全車迎撃態勢を取れ!」
ゲートを中心に各部隊が展開し、射撃準備を整えていく。
「各部隊整いました!」
「射撃開始!」
戦車部隊と自走砲部隊による砲弾の雨が、ゲート周辺に展開中の軍隊を襲った。
いきなりの攻撃に驚いた彼らは、逃げまどい、必死にゲートを目指して突撃していった。
逃げまどっていた者は砲弾の雨で消し炭になり、突撃していった者は機械化歩兵部隊の機銃や小銃によってハチの巣にされた。
「奴らにも魔道士がいるのかっ!?」
「に、にげろっ、ぎゃあああ!!」
異世界の軍隊はロンディバルト軍の攻撃に恐れをなし、統制がなくなって逃げ出し始めた。
こうなれば戦闘ではなく一方的な虐殺である。戦車部隊が一気に敵陣へと突入し、進路上に敵がいればひき殺し、弓を撃ってくれば機銃で撃ち殺し、十人ほどの兵士が盾で防御人を作れば主砲で吹き飛ばした。
戦いは日の出ごろまで続き、異世界の軍隊は2000人ばかりが逃げ出して6万人近くが肉片となっていた。対するロンディバルト軍の損害はほぼゼロに近く、圧倒的な勝利であった。
この戦闘の1週間後、捕虜の情報で”アルヌスの丘”と呼ばれるこの地には、派遣部隊の第二陣、三陣が到着し、強固な砦が築かれていた。
・・・・・・・・・・
時は三日ほど戻る。
異世界を統治する帝国、その中核となっている元老院では、緊急の議会が開かれていた。
「大失態でしたな、皇帝陛下。帝国の保有する総兵力のなんと4割を損失。いかなる対策をご講じになるおつもりですかな?皇帝陛下はこの国をどのようにお導きになるおつもりかっ。」
ガーゼル侯爵の報告に、議員たちがざわめき始めた。帝国軍はこの世界で最強と呼ばれる精強な軍隊である。そんな軍隊が4割も失われたのだから無理もないことだろう。
しかし、そんな中でも一人だけ口を開かず沈黙を保っている男がいた。
王座に深々と座る、帝国の皇帝モルト・ソル・アウグスタスである。カーゼルの報告を聞いたモルトは、その沈黙を破った。
「カーゼル侯爵、卿の心中は察するものである。此度の損害で、帝国の有していた軍事的な優位が失せたことも確かだ。外国や帝国に服している諸王国が一斉に反旗を翻し、帝都まで進軍してくるのではないかと、不安なのであろう。・・・ふ、痛ましいことである。」
「なっ。」
「我が帝国は危機に陥るたびに元老院、そして国民が心を一つにして立ち向かい。そして更なる発展を成し遂げてきた。戦争に百戦百勝はない。ゆえに此度の戦いの責任の追及はせぬ。・・・まさか、他国の軍勢が帝都を包囲するまで、裁判ごっこに明け暮れようとする者はおらぬな?」
その言葉に今までざわめいていた議員たちが急に静かになった。それを聞いたカーゼルは、”自分の責任を不問に”とつぶやいた。
「しかし、いかがなされる?」
議員たちが静まると、中央に一人の老人が出てきた。
「送り込んだ軍はわずか二日で壊滅してしまった。しかも門は奪われ、敵はこちらに陣を築こうとしているのですぞっ。無論我らも、丘を奪還せんと迫りました。だがアルヌスの丘が点滅し、爆音が響いたかと思った次の瞬間、周りに爆発が起こり、兵士たちは吹き飛ばされたのです。あんな魔術私は見たこともございませんっ。」
「戦えばよいではないかっ!」
門奪還部隊の指揮を執っていたゴダセン議員の発言を遮るように、甲冑を着た軍人らしき議員が大声で言った。
「兵が足りぬのであれば属国から集めればよいっ!再び門の向こうへ攻め込むのだ!!」
「力づくで戦ってどうなるっ!」
「ゴダセン議員の二の前になるぞ!」
「そうだそうだ!!」
「黙れっ、この敗北主義者がっ!」
「脳筋馬鹿は失せろっ!」
「なんだとぉ!?」
議員たちが怒鳴りあっていると、それを見ていたモルトが手で制した。
「事態を座視することは余は望まん。ならば戦うしかあるまい。」
「おおっ」
「くっ・・・」
「属国や周辺諸国に使節を派遣せよっ。大陸侵略を狙う異世界の賊徒を撃退するために援軍を求めるとな!我らは連合諸王国軍ゴドゥ・リノ・グワバンを糾合し、アルヌスの丘へと攻め入る!!」
「おおおっ!!」
「モルト陛下に忠誠をぉ!」
一斉に歓声が上がり、モルトに忠誠を誓う声で議会は埋め尽くされた。そんな中、カーゼルは王座にゆっくりと近づいて行った。
「皇帝陛下、アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ。」
カーゼルはこの後起きることが予想できたように言った。モルトは、不気味な笑みを浮かべて答えた。
・・・・・・・・・・
ロンディバルト軍による特地派遣から2週間余りがたった頃、諸王国軍13万が、アルヌスの丘周辺に帝国の要請を受けて集結していた。
「帝国軍の司令官がこんだと!?」
諸王国の1国であるエルベ藩王国軍の司令官、デュランが声を荒げた。
「我が帝国軍は、今まさにアルヌスの丘にて敵と正面から対峙しており、司令官がその場を離れるわけにはまいりませぬ。」
帝国軍の使いが弁明をすると、諸王国の将軍たちは渋々納得した。
「・・・解せんな。丘にはそれほど敵がいるようには見えなかったが・・・。」
「デュラン殿、帝国軍は我らの代わりに、敵を押さえてくれておるのだ。」
「リィグゥ殿・・・。」
その将軍の一人であるリィグゥが既に勝った気で言った。
「諸王国軍の皆様には、明日夜明けに敵を攻撃いただきたい。」
「ふっ、了解した。わが軍が先鋒を賜りましょうぞ。」
「いや、わが軍こそ前衛にっ。」
「お待ちくだされっ。此度の先鋒は我々に!」
将軍たちはリグゥと同様既に勝った気で我先にと一番槍を欲したが、その中でデュランだけは何も言わず、何かを考えるように腕を組んでいた。
「それでは、アルヌスの丘にて。」
そういうと、帝国の使いはテントを出て行った。
「朝が楽しみだな。」
「わが軍だけで敵を蹴散らしてくれるっ。」
「無念、惜しくも先鋒はならなんだか・・・。」
見事先鋒を勝ち取った将軍達を見て、リグゥは肩を落として言った。
「異界の敵は1万程度、こちらは合して25万・・・。武功が欲しければ先鋒意外に機会は無いとお考えか。」
「そうとお分かりなら、何故先鋒を望まなかった?」
デュランが呟くように言うと、リグゥは覗き込むように言った。
「此度の戦いは気に入らん・・・。」
「はっはっはっ!エルベ藩王国の獅子とうたわれたデュラン殿も、寄る年波には勝てぬということかぅあっはははっ。」
リィグゥはのんきに笑っていたが、次の日、デュランの言葉が脳裏によみがえることとなる。死ぬ瞬間の走馬灯の一つとして・・・。
・・・・・・・・・・
「全軍進めぇ!!」
「おおおおおっ!!!」
日が大地を照らし始めた頃、諸王国軍の先鋒アルグナ王国軍、モゥドワン王国軍がアルヌスの丘を目指して出陣した。その後方からは惜しくも戦法を逃したリィグゥ率いるリィグゥ王国軍が予備として追った。
「そろそろ戦いが始まるはずだが。」
デュランが出陣準備を整えていると、伝令が報告してきた。
「報告っ、アルグナ、モゥドワン王国軍合わせて2万5千が丘に向かいました。続いてリィグゥ王国軍も。」
「して、帝国軍と合流できたのか?」
「そ、それが・・・、丘の周辺には帝国軍は一兵もおりませぬっ。」
「なんだと!?」
伝令の報告にデュランは驚きの声を上げた。
「どうして帝国軍の姿がない!」
リィグゥはあたりを見渡して言った。
「わかりません。」
「まさか・・・。」
彼の予想は間違っていたが、新たな考えをする前に、彼の人生は幕を閉じることとなる。
”ここからは危険区域となっておりますので、立ち入りを禁止します”
捕虜の情報から英語と異国語で書かれた看板がいくつも立てられていたが、諸王国軍からすればわけのわからぬことだったので、看板を踏み潰してそのまま進んだ。だが、この看板の意味を、彼らはすぐに知ることとなる。
丘に向かって進撃していると、今まで聞いたことのない爆音がはるか彼方で聞こえた。
何だ?と疑問に思った次の瞬間、地上が爆発を起こし、兵士たちは吹き飛ばされ肉片と化していった。
「うわぁあああ!!」
「な、なんだ!?」
考えている暇もなく次々と爆発は続いて行き、ついにリィグゥ自身のいる場所に、爆発が起こった。
「射撃止め!」
この爆発は丘周辺に布陣していた17式170mm自走砲と、戦車部隊による砲撃によるものであった。
「敵侵攻部隊は全滅!」
「全車戦闘配置のまま待機せよっ。」
「な・・・なんだ。まさか、アルヌスの丘が噴火したのか・・・。」
伝令の報告を聞き、急ぎ駆けつけてきたデュランが見たのは、爆発の後の煙に包まれた焦げた更地であった。
「アルグナ国王は・・モゥドワン国王は・・・、リィグゥ公はどこにいる・・・。」
諸王国軍による第一次攻撃 死者約2万5千
本作品では、帝国は23万、連合諸王国軍は16万という兵力となっています。(まぁどうせ半分以上死ぬけど)
本作品に出てくる車両や銃は現実世界の100年後の世界のものですので架空の兵器として理解していただければ幸いです。
兵器や装備は登場するたびにあとがきに記載します。
17式戦車
全長 7.80m
全幅 3.10m
全高 2.35m
重量 39t
速度 85km/h
主砲 45口径100mm滑走砲
副武装 14.5mm重機関銃(砲塔上部)
7.62mm機関銃(主砲同軸)
装甲 15型複合装甲(全面)
エンジン ハウルラント社15型電気エンジン
乗員 4名
17式170mm自走砲
全長 10.3m
全幅 3.6m
全高 4.5m
重量 38t
速度 56km/h
行動距離 470km
主砲 57口径170mm榴弾砲
副武装 14.5mm重機関銃
エンジン ハウルラント社15型電気エンジン
乗員 4名
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第三話 諸王国軍敗退ス
あとがきにて質問していた”きじょうへい”の事ですが、メールにて助言をいただきました。どうやら騎乗兵で合っていたようです。
作者自身騎乗兵自体は知っていたのですが、出兵式などで旗を持っていたため、てっきりそれ専門で騎乗兵とは別の”きじょうへい”なるものが存在しているのかと思っていました。
この場を借りて今一度御礼申し上げます<m(__)m>
上記のように申し上げましたが、どうやらこれも間違っていたようです。詳しく調べて下さったことはとても感謝しております。
作者自身”きじょうへい”にとらわれすぎて”ぎじょうへい”の事をすっかり忘れておりました。観兵でもなく騎乗兵でもなく儀仗兵だったようです。感想にて教えて下さった方、、誠にありがとうございます。
諸王国軍の先鋒であったアルグナ、モゥドワン、リィグゥの3か国軍が壊滅した後、諸王国軍の約7割を動員した第二次攻撃が行われた。が、ロンディバルト軍のアウトレンジ攻撃によって、ただいたずらに兵力を消耗するだけに終わった。
第二次攻撃後、諸王国軍の会議テントには、当初21人いた将軍はすでに8人となっていた。
「始めは16万もいた諸王国軍は、すでにその半数が存在せぬっ。何故このような事態にっ・・・。」
「帝国軍はどこで何をしているんだっ!」
「いや、帝国軍とて敵う相手ではない。ここはもう退くしかないのではっ!?」
結集当初は皆争うように先鋒を取り合っていたが、すでに全員圧倒的な武力の前に戦意を喪失し、撤退案すら出つつあった。
「このまま逃げて帰るわけにはいかん。・・・せめて、一矢報いてやらねば。」
終始腕を組み沈黙を保っていたデュランが、亡き戦友リィグゥの兜を見つめながら初めて口を開いた。
「しかし、デュラン殿っ。我々の力ではっ・・・。」
数秒思案を巡らせると、デュランは思いついたように言った。
「夜襲ならば、あるいは・・・。」
「今夜は新月、この闇夜に乗じて丘の裏手より仕掛ければ気づかれることなく、敵陣に迫れるはず・・・。」
第二次攻撃が行われたその夜、諸王国軍はもてるすべての兵力を動員して最後の攻撃を仕掛けようとしていた。
通常の戦いであれば、デュランの策は成功していただろう。しかし、相手が悪すぎた。
「な、なんだ!?」
「火矢かっ!?」
物音立てずに進軍していた諸王国軍の上空に、照明弾が打ち出された。
「な、この明るさはっ!」
突然の出来事に、諸王国軍は足を止め、隊列を乱した。
「い、いかん!全軍突撃っ!馬は駆けよ!人は走れぇ!走れ!走れ走れ!!」
デュランはすぐに自ら突撃しつつ、全軍に突撃命令を下したが、突然のことに混乱していた諸王国軍は足並みそろわずバラバラに突撃していった。
デュランが大声で命令しながら敵陣めがけて突進していると、丘から砲弾が放たれ、後ろにいた味方の悲鳴が聞こえた。もはや諸王国軍は指揮統制を失いばらばらであった。
「なっ!」
敵陣に迫ったデュランであったが、ロンディバルト軍が設置していた有刺鉄線に馬が引っ掛かり、デュラン自身が放り投げられてしまった。
「デュラン殿っ、今お助けします!」
「盾を前へっ。」
追いかけてきた兵士たちがデュランを救出するために有刺鉄線を越えた。
「逃げろ!みんな逃げるんだっ!」
助け起こされたデュランは、すぐに兵士たちに逃げるように言うが、時すでに遅し、丘から機関銃と砲弾の雨が降り注いだ。
PAPAPAPAPA!!
BAMBAMBAM!!
「うわぁあああ!!」
盾を構え横陣を敷いていたが、機関銃の前には無力であった。盾はたやすく貫通され、その持ち主を穴だらけにした。
そんな中、デュランはただ一人愕然と丘を見つめていた。
「くっ・・・おのれぇぇえっ。」
デュランは足元にあった弓を放った。まさに一矢報いたのであった。
「何故だ・・・、何故、こんなことに・・・。」
そこでデュランは初めてモルトの真意がわかった。
「ふ・・ふは・・ふあっはっはっはっは!あぁあっはっはっはっはっはッッ!!」
デュランは狂ったように笑い始めた。そこにロンディバルト軍の砲弾が直撃し、デュランはそこで生き途絶えた。
・・・・・・・・・・・・
「敵の死者、概算で10万だそうです。」
「・・・銀座で6万、到着時の遭遇戦で6万、合わせて22万か・・・。」
夜が明けた後、ペルシャールとハイドリヒは、戦場を見て回っていた。
「ほう、敵の心配ですかな?」
シェーンコップが倒れた兵士を見ながら言った。
「うちの世界じゃ、22万なんて死にまくってるが・・・中世ということを考えたら・・・。っ!我々の敵、どんな敵なんだよっ!」
ペルシャールは拾った弓を思わず放り投げた。
・・・・・・・・・・・・
「皇帝陛下、連合諸王国軍の被害は、死者負傷者を合わせますと20万を超える見込みです。敗残兵は統率を失い、散り散りに故郷への帰途に就いた模様です。」
帝都ではマルクス議員が皇帝モルトに諸王国軍大敗の報を知らせていた。
「うむ、予定通りといえよう。これで近隣諸国がわが帝国を脅かす不安は消滅した。アルヌスより帝都に至るまでの全ての街、村を焼き払い、井戸には毒を投げ入れ食糧家畜は運び出せ。さすればいかなる軍隊とて立ち往生し、付け入る隙が現れるであろう。」
「焦土作戦ですか。」
臣下はモルトの作戦に賛成するようにうなずいた。最も、賛成しなければ忠誠に疑いありと言われかねないからであったが。
「しかし、税収の低下と内部の離反が心配です。」
「離反とは。」
「カーゼル候が中心となり、元老院で陛下の罷免を企てる動きがみられまする。」
「うはははっ、一網打尽に元老院を整理する良い機会だ。枢密院に調べさせておくがよかろう。」
臣下が下がろうとすると、若い声が大広間に響いた。
入ってきたのは帝国の第三皇女ピニャ・コ・ラーダであった。皇女とは言いながら甲冑を身にまとい白いマントを羽織っていた。
「わが娘よ、何用だ。」
「無論、アルヌスの丘についてです。」
「連合諸王国軍が無残にも敗走し、帝国の聖地たるアルヌスの丘に、敵軍が居座っていると聞きましたっ。この事態に、陛下は何をなされているのですかっ!」
「我々はこの期間に兵を集め、必ずや丘を・・・。」
マルクスが代わりに弁解するが、”悠長な!”の一言に遮られた。
「それでは敵の侵入を防ぐことはできぬっ!」
マルクスが困り果てていると、モルトが落ち着いた口調で言った。
「ピニャよ、そなたの言葉の通りだ。だが、我らはアルヌスの丘に屯する敵兵についてあまりにもよく知らぬ。・・・ちょうどよい、そなたの騎士団で偵察に言ってもらえんか。」
モルトはいわゆるゲス顔で実の娘に頼んだ。ピニャには帝国の指揮外れた独自の薔薇騎士団という部隊がおり、構成員のほとんどが若い貴族の娘である。実戦経験はなく、訓練してるとはいえその実力がいかほど出せるかもまだわからない状態である。そんな彼女たちに16万もの帝国兵の屍を築いたアルヌスの丘に偵察に行けというのである。死んで来いというのとほぼ同義語であった。
「わらわが?我が騎士団とともに?」
しかし、今まで所詮儀仗兵としか扱われなかったピニャにとっては、いや、騎士団にとってはありがたい命令であった。
「そうだ、もしそなたのしていることが兵隊ごっこでなければ、の話だがな。」
モルトの言葉にピニャは半ば意地でそれを承諾した。
しかし、この選択が後に大きな転換点となることなど、今のピニャは思いもしなかった。
※下記疑問は解決いたしました。
アニメでは”きじょうへい”と聞こえましたが、きじょうへいがなんなのか、アニメを見れば大体わかるのですが、現実での役割や、きじょうへいの漢字がわからなかったため、それに近い観兵と書かせていただいております。もし、”きじょうへい”の役割と漢字がわかる方がいらっしゃいましたら、感想かメールにて言っていただければ幸いです。
アニメをよく見た結果、設定に矛盾があるような気がしたので、独自解釈しました。
異世界到着時に10数万の軍隊というのが、恐らく連合諸王国軍の事だと思われるのですが、あれはゲート警備のゴダセンが破れた後の事なので時系列的に一致しない。というかゴダセン議員の警備部隊がこの10数万の事だと思うのですが、6万の損失で6割と言っているので帝国の残存兵力は4万しかいないはず。加えて諸王国軍はまだ動員されていないので、この10数万という数はおかしい。なので、前回のあとがきで書きました通り、帝国は23万、諸王国軍は16万に増やさせていただいたわけです。
この作品では
銀座事件で6万人全滅
異世界到着時に警備部隊及び第二次侵攻軍6万数千人を残して壊滅
諸王国軍16万、帝国軍9万(結局諸王国軍を消耗させるためなので実際には出陣せず)結果諸王国軍数千人を残して壊滅。
帝国損失 12万 残存兵力11万
諸王国軍損失 16万 残存兵力領地治安部隊の少数(合わせても3万程度)
もし、これ違くね?という意見がありましたら、ご指摘ください。あくまでこれは作者の疑問から独自に解釈し設定をしたものなので、そこのところはご理解ください<m(__)m>
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第四話 壁外調査
え?紳士?私も紳士ですよ(変態と書いてry)
早く帝国の全面戦争に突入したいですが、一応原作基準で進めていきたいのでここは我慢・・・我慢・・・、おれよ耐えろ・・・。
誤字脱字のご指摘や意見感想お待ちしております。(できれば評価とかお気に入りしてほしいな(/ω・\)チラッ
諸王国軍の襲撃から五日後、諸王国軍を壊滅させたロンディバルト軍は丘周辺に3重の有刺鉄線と8メートルの2重の防壁を作り、第二第三陣が送り込まれ守りは盤石なものとなっていた。
「閣下、帝国へ侵攻するにも、まずは現地の調査が必要です。捕虜の情報にはヨーロッパで猛威を振るった黒死病に似た病気も確認されております。加えて、帝国制圧後の統治に向けて現地住民との接触及び友好関係の構築が不可欠です。」
特地派遣部隊副司令官であるハイドリヒが、派遣部隊司令官であるペルシャールに意見した。
「うむ、戦いにおいて事前の偵察は必須だろうな。」
「では各部隊より抽出した兵員で6個の偵察部隊を編成し、この地の人間、産業、宗教や政治経済の調査を行います。その調査と並行して現地住民と接触、状況を把握しできうる限り友好的な関係を結んで来させます。」
ペルシャールが頷くと、ハイドリヒは早くも部下に指示を出した。
「なぁ、ハイドリヒ。俺も調査に行っちゃダメかな。正直司令室で書類読むだけとか執務室となんら変わらないのだが・・・。」
ペルシャールはデスクに置かれた書類をパタパタさせながら言った。
「それが司令官というものです。」
ハイドリヒは報告書を確認しながら言った。
「・・・でもさぁ・・・その、ね?せっかくファンタジー世界に来たわけだし、さ。エルフとかモンスターとか喋る動物とかと会ってみたいじゃん?」
ペルシャールはなおも引き下がろうとせずに駄々をこねた。
「・・・確かに閣下はいわばこの世界で言う皇帝ですから、現地住民と親しめば統治時も楽ですね。」
ハイドリヒは別の意味でペルシャールが行くことに賛成した。
「そうそう、だから、ね?偵察部隊に私も加えてくれない?」
「いいでしょう。偵察部隊の中に旧自衛隊員で構成された部隊があります。同じ日本出身者ですし、話も合うでしょう。念のためにシェーンコップ中将と精鋭2名を同行させますが、よろしいですか?」
「ああ、全然いい。じゃあ私は早速準備をしてくるよ。」
ペルシャールはうれしそうに司令室を早歩きで出て行った。
ペルシャールが調査に言っている間、ハイドリヒは愚痴の一つも言わず、ただ黙々と司令官であるペルシャールが行う決済も代わりにやっているのであった。
・・・・・・・・・・・・・
「集まれぇ!第三偵察隊、集合しました!」
次の日、第三偵察隊のメンバーは倒れそうになるほど緊張していた。
「おおっおやっさんじゃないか。シヴァ勤務以来か。」
その理由は、第三偵察隊の隊長が大統領であるペルシャールだからであった。
旧自衛隊階級で言えば陸曹長に値する兵士の中で最高級の曹長である桑原とペルシャールは、大統領座乗艦シヴァで何度か顔を合わせた仲であった。もっともすぐに保安隊から地上部隊に桑原は転属してしまったので、それきりであった。
「(えーと、ハイドリヒから名簿もらってたよな。)」
ペルシャールは事前にハイドリヒから渡された写真付きの名簿と実物を見合わせていた。
富田 章
階級:軍曹
倉田 武雄
階級:伍長
勝本 航
階級:伍長
戸津 大輔
階級:上等兵
東 大樹
階級:上等兵
栗林 志乃
階級:軍曹
仁科 哲也
階級:曹長
笹川 隼人
階級:上等兵
古田 均
階級:上等兵
黒川 茉莉
階級:軍曹
桑原 惣一郎
階級:兵曹長
霜原雄二(ローゼンカヴァリエ連隊より)
階級:上等兵
田端栄一(ローゼンカヴァリエ連隊より)
階級:伍長
名簿を一通り確認すると、ペルシャールは口を開いた。
「あー第三偵察隊の隊長ということになった、ペルシャール・ミーストだ。まぁ実質的な隊長はシェーンコップ中将がやるから。部隊指揮なんて俺は知らんからな。おれとしては、エルフとか猫耳娘に会えればそれでいい、って感じかな。じゃ、出発しようか。」
挨拶と言っていいのかわからない紹介の後、第三偵察隊は出発した。メンバーはペルシャールの言葉に”大丈夫なのあの人””うおーっ、大統領が俺と同じ考えの持ち主だったなんてっ!”など思い思いの感情を抱いていた。
「閣下。」
「あーその”閣下”はよしてくれ。今は”隊長”でいいよ。それと、無理に堅苦しい敬語を使う必要はない。」
倉田がいつもはあまり使わない敬語を使うと、ペルシャールは手をひらひらさせてやめさせた。
「はぁ・・・。」
「そろそろ、捕虜の情報であったコダ村です。」
後ろで地図を見ていた桑原が言った。
「じゃあ、そこで情報収集しようか。」
いきなり男が行くと、警戒されるかもしれないということで、黒川が初めの接触を行うこととなった。この時栗林が選ばれなかったのは隊員の総意からであった。
「空が青いねぇ~、流石異世界。」
数か所の村で情報収集を終えた第三偵察隊は、コダ村の村長から教えてもらったエルフの村に向かっていた。
「こんな風景、北海道にもありますよ。」
倉田が運転しつつ突っ込んだ。時間がたったのである程度緊張がほぐれてきたようであった。
「まぁ確かにそうだが・・・。」
「ドラゴンがいたり、妖精が飛び交ってるところを想像してたんですがねぇ。これまで通ってきた村には、人間ばっかりでしたし。がっくりっす・・・。」
「そんなに猫耳娘が好きなのか。」
「別にぃ、猫娘でも、妖艶な魔女でもいいっすけど。かっ、隊長の好みはどうなんですか?」
ある程度緊張がほぐれたとはいえ、大統領を隊長と呼ぶのにはまだ時間が必要なようであった。
「おれは・・・まぁ魔法少女とか?」
「まじっすか!?」
大統領の意外な好みに敬語を忘れて驚きの声を上げた。ちなみにペルシャールがこんな好みなのはヲタクである亡き父親の遺伝子のせいが大きい。いろんなアニメのDVDを買ってきては、地下にある地下倉庫にため込んでいたのであった。それをペルシャールが暇なときに見ているのである。
「それにしても、なんで持ち込んだ装備はそろって旧式なんですかね。車両は、一応現用ですけど。」
「あーそれね、予算の都合だよ。財政委員長のホルスが戦争終わった途端軍事予算を減らしまくったせいで今回の派遣も結構ギリギリだったんだ。挙句の果てに、ゲートを閉じろとか市民団体が言ってきて・・・。」
「た、大変だったんですね。」
「まぁ最悪こっちに投棄して撤退ということもあるから、最新式を持ち込むのはは危険だしね。」
「捨てていっていい武器、ということですか。」
「そゆこと。」
「倉田、この先の小さな川を右折して川沿いに進め。しばらく行ったら、コダ村の村長が言ってた森が見えるはずだ。」
「了解。」
話しがひと段落したところで、桑原が地図を見ながら言った。
「おっ、言った通りの川だ。頼りにしてるよぉ、おやっさん。」
コダ村の村長が言っていたことは正しかったようで、川をまがって川沿いに進んでいった。
「たよられついでに意見具申します。ミースト隊長、森の手前でいったん野営しましょう。」
「ああ、賛成だ。」
ペルシャールがそう言うと、桑原は通信機をONにして後ろの2両に指示を出した。
「一気に乗り込まないんすか?」
倉田が問いかけた。
「今入ったら、何がいるかわからないまま森の中で夜になるだろ?それに、村があるとすればそこの住民を驚かせることにもなるし。」
ペルシャールは一度言葉を切った。
「ロンディバルト軍は民主主義国家の国民に愛される軍隊だ。それに、この任務は友好的な関係を築くのが目的だしね。」
そういうと、ペルシャールはポケットから手帳を取り出した。これは捕虜から得たこちらの世界の言語が書かれた本であり、派遣部隊員全員に配られている。
「えーと、ザバールハウゥグルゥ。」
「棒読みっすね。駅前留学に通ったほうg・・・。」
ペルシャールの感情が入っていない言葉に、倉田が突っ込んだ。ペルシャールは”うっせ”と言って手帳を倉田に投げつけた。
「いてっ、って、あれ・・・。」
「たく話を逸らすn、ん?」
倉田とペルシャールが見たのは森から上がる黒煙であった。
もう一話二話あたりで気付いているでしょうが、この物語に伊丹は出てきません。伊丹枠はペルシャールが入っております。本編の設定で書いてありますが、ペルシャールはロシア人と日本人のハーフです。
この世界では1惑星国家と帝国の戦いとなっており、他国の思惑とかは考慮しなくていいのでほとんど好き放題暴れられます。つまり講和しないで帝国と全面戦争するストーリーとなる可能性?もあります。もしならなかったらIFとして番外編で出します。もし出すことになるとほぼ無双ゲート化します。(たぶん
本編ではペルシャールが銀英伝や艦これなどの日本のアニメをほとんど知っていますが、GATEは知らないというご都合設定となっております。なので未来を予言してということはありません。
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第五話 人命救助 村規模の引っ越し
「燃えてますね・・・。」
「ああ、盛大にな。」
第三偵察隊は、森を一望できる崖上に来ていた。
「大自然の驚異って奴か。」
「というより、怪獣映画です。」
桑原が指差す方向に皆が目を向けた。
「あれはっ。」
「ドラ、ゴン・・・?」
「そうっぽいな。」
「ミースト隊長、これからどうします?」
双眼鏡で炎龍を見るペルシャールに栗林が問いかけた。
「栗林ちゃ~ん、俺だけじゃ怖いからさぁ、一緒についてきてくれる?」
「いやです。」
「あ~そう・・・。」
栗林はペルシャールの言葉を一刀両断するように即答した。
その直後、炎龍は雄叫びを上げて大きく羽ばたき、その場を去って行った。炎龍が去った後も森は燃え続けていた。
「・・・ぁ、なぁ、あのドラゴンさ。何もないただの森を焼き討ちする習性があるのかな。」
「ドラゴンの習性に関心がおありでしたら、隊長ご自身が、今すぐ追いかけてはいかがです?」
先ほどのペルシャールの言葉で悪印象を持たれたのか、栗林が冷たい一言を放った。
「いやそうじゃなくて、さっきのコダ村で聞いただろう?あの森の中には集落があるって・・・。」
その言葉にようやく気が付いた栗林は、すぐに森を見た。
「やべぇっ!」
「おやっさん、野営は後回しだ。」
「了解です。全員移動準備っ!」
第三偵察隊が集落に到着する頃には日もある程度治まり、灰色の雲が空を覆っていた。
「まだ地面が燻ってますね。」
「これで生存者がいたら奇跡っすよ・・・。」
集落の惨状を見て桑原と倉田が呟くように言った。それでも生存者の捜索活動は行われた。
「・・・あの、閣下、あれ・・・。」
「言うなよぉ・・・?」
あまりの惨状に隊長と呼ぶことも忘れていた。
「隊長、この集落には建物のような構造物が32軒、確認できた遺体は27体で少なすぎます。」
「建物が焼け落ちたときに、瓦礫の下敷きになったと思われます。」
未だ形をとどめていた井戸に座っているペルシャールの元に、栗林が報告をした。
「1軒に3人と考えても100人近い人数が全滅か・・・。」
「酷いものです。」
ペルシャールはすでに空になった水筒を口まで動かした。が、当然水がのどに流れ込むはずもなく、水筒を元の位置に戻してため息を吐いた。
「この世界のドラゴンは集落を襲うこともあると報告しておかなければな。」
「丘での防衛戦で遭遇した小さな龍も、12.7ミリ徹甲弾どうにか貫通ということでした。」
「そうだったな。はぁ・・・ちょっとした装甲車だな。ドラゴンの出没範囲も調べる必要が出てくるな・・・よっっと。」
ペルシャールは水筒に水を補給するため、井戸に桶を投げ込んだ。だが、ペルシャールの期待する水に落ちる音はせず、かわりにコーンという音が響いた。
「へ?」
「いま、コーンって・・・。なんでしょう?」
ペルシャールがベルトに入れているライトで井戸を照らした。
「人だ・・・人がいるぞっ!!」
「人命救助!いそげっ!」
「「「了解!!」」」
「いや、人、というより・・・エルフ、か・・?」
ペルシャールは後ろに抱えた少女を見てつぶやいた。
「とにかく、濡れた服を脱がせてっ。」
「ごめん、切るよ。」
兵員輸送車の中では、黒川と栗林が救助したエルフの少女の治療を行っていた。
その間、外では倉田が一人興奮して叫んでいたが、ペルシャールは半長靴に入った水を出してため息を吐いていた。
「隊長。」
10数分後、治療を終えた黒川がペルシャールに近づいた。
「ん?どう、エルフの方は。」
「体温が回復してきています。命の危険は脱しました。」
「そりゃあよかった。」
ペルシャールはふたたびほっと溜息を吐いた。
「それで、これからどうしましょう?」
「集落は全滅しちゃってるし、ほっとくわけにもいかんしなぁ・・・。まぁ保護ということで連れ帰ろう。」
「隊長ならばそうおっしゃると思っていました。」
「俺、人道的でしょ?」
「さぁどうでしょうか?」
ペルシャールが得意げに言うと、黒川は笑顔のまま否定した。
「へ?」
「隊長が特殊な趣味をお持ちだとか、あの子がエルフだからとか、色々と理由を申し上げては失礼になるかと。」
黒川が終始笑顔のままであったことも相まってペルシャールは苦笑いするしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
第三偵察隊は帰還途中もう一度コダ村を訪れていた。
「なんとっ、集落が全滅したと・・・。」
「大きな 鳥 いた。森 村 焼けた。」
ペルシャールは片言でしゃべりながら、カメラで撮ったドラゴンの写真を見せた。
「え、炎龍・・・。」
「そ、そんな。」
「まさか・・・。」
村長の言葉に周囲の村人が動揺した。
「炎龍 火 出す。人 たくさん 焼けた。そして 女の子 一人 助けた。」
「この娘一人か、いたわしいことだ。」
村長は帽子を外して胸に当てた。
「この娘村で保護を。」
ペルシャールが聞くと村長は頭を横に振った。
「エルフの保護はできん。それに我らもこの村から逃げ出さねばならん。」
「村 捨てる?」
「そうだ。エルフや人の味を覚えた炎龍はまた村や町を襲ってくる。」
ペルシャールと村長が会話している間にもコダ村の村人たちは逃げ出す準備を整えていた。
コダ村のはずれでは、ガトー老師とその弟子レレイ・ラ・レレーナが馬車に荷物を運んでいた。その途中ガトーがこけて子供の用に喚いたりレレイにこれ以上詰むのは無理と言われて駄々を捏ねていたが、結局載せれる分だけ載せまくって最後は魔法で馬車を浮かせて何とか出発した。
「・・・この先はどうなっとるんじゃ・・?」
村の出口あたりまで行くと、そこには馬車の列があった。
「ガトー先生っ、レレイっ、実は荷物の積みすぎで車軸の折れた馬車が、道を塞いでいるんです。」
ガトーとレレイを見つけた村人が説明した。
「手の空いている者は集合しろっ!」
「隊長は司令部に応援要請をっ!」
「分かった!」
ガトーとレレイが見たのは第三偵察隊の隊員であった。
「聞いたことのない言葉じゃのぉ。」
「見たことのない服。」
ガトーとレレイは隊員達を見て言った。
その直後黒川が怪我人の確認のために出てきたのを見て再び二人は驚いた。
「お師匠、様子を見てくる。」
そういうとレレイはガトーの静止を聞かず一人馬車を降りて走った。
レレイが現場につくと、そこには馬車が倒れて馬がその下敷きになっていた。
その横には女の子が倒れていた。
「危険な状態。」
レレイは近づくとすぐにそう判断した。
その直後に黒川が女の子の診察を始めた。
「君、危ないから下がってっ。」
古田がレレイに注意するが、レレイは黒川を見続けていた。
「・・・医術者・・・?」
いきなり馬が起き上がり、興奮しているのか暴れ始めた。
BAMBAMBAM!!
馬にライフル弾が3発命中した。撃ったのは桑原だった。
「あなたっ大丈夫!?」
馬が起き上がった際に出来た土煙の中、黒川がレレイに呼びかけるが、レレイは反応せずにただ第三偵察隊の隊員達を見つめていた。
「あの人たち・・・私を、助けた・・・?」
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第六話 炎龍再び
「コダ村が村中で逃げ出してるらしい。」
渓谷の下に十数人の着崩れた男たちがたき火を囲んで話していた。
「こりゃぁいい獲物だ。」
「こっちの頭数たりねぇんじゃ?」
「集めりゃぁいい、この前の戦の敗残兵がこの辺りにごろごろいる。そいつらを束ねりゃ、村どころか町を襲うにも申し分ない。」
男たちの話しているたき火の横には馬車とそれに乗っていた商人が首をかっ切られて死んでいた。
「領主を追い出すのも夢じゃねぇぜっ。」
「へへっ、盗賊の頭から領主様か、悪くない。」
自分が領主様になり、豪華な食事と幾人もの女性に囲まれた姿を想像したが、そんな夢はすぐに闇へと消え去った。
「ひいぃい!?」
いきなり自分たちの頭が死んだことに他の男たちは動揺した。そんな中、渓谷に幼い女の子の笑い声が響いた。声だけ聴くとホラーである。
「おじ様方ぁ~、今宵はどうもありがとう。」
盗賊たちは岩の上の人影に目を向けた。そこにはフリルで飾った漆黒の服装に鉄の塊のように大きく思いハルバート、そして目は血のように真っ赤で細い腕でハルバートを振り回す一人の少女の姿があった。
「生命をもってのご喜捨を賜り、本当にありがとう。」
その間にも彼女をみた盗賊たちは徐々に退いていた。
「主神は、あなた達の振る舞いが大層気に入られてぇ~、おじ様方をお召しになるって仰ってるのぅ~」
彼女が1歩進むたびに1人の盗賊がハルバートで上半身と下半身をお別れさせられた。
そんな中、白い月光で少女の姿がはっきりと見えた。少女はクスリと笑いながらその小さな口を開いた。
「私はロウリィ・マーキュリー、暗黒の神エムロイの使徒。」
渓谷を覆い尽くしていた霧を払うようにハルバートを回転させ、地面に突き刺した。
彼女の正体を知った盗賊たちは恐怖のあまりその場に立ち尽くした。
「十二使徒の1人、死神ロゥリィ!?」
「ありゃ・・・エムロイ神殿の神官服だぁっ!!」
「に・・・逃げろぉおおっ!!」
「駄目よぉ。」
ロウリィは自分の体重の何倍もあるハルバートを軽々手に持って飛んだ。すれ違いざまに盗賊の体を次々の真っ二つにしていき、斧部を地面に叩きつけて舞い上がった石を盗賊の後頭部に向けて弾き飛ばした。
「ひぃぃ!?」
「うふふふふっ・・・。」
既に最後の一人となった盗賊も、力を込めて振り下ろされたハルバートによって全身が砂煙と轟音と共に消え去った。
・・・・・・・・・・・・・・・
コダ村の避難を支援し続けて既に三日余りが経っていた。
「はぁ・・・。」
ペルシャールは後方に永遠と続く馬車の列を見てため息をついた。
「これって宛でもあるんですか?」
運転している倉田が聞いた。
「ないってさ」
「ないんすか⁉︎」
「敢えて言うなら炎龍が襲って来ないことが分かるまでってらしい」
「ふぅ・・・、逃避行ってのは、想像以上に消耗するな・・・。」
ペルシャールは何度目かわからないため息を吐いた。
第三偵察隊が支援している間、いくつもの馬車が荷物の積みすぎで車軸が折れたり沼にはまったりして落伍していた。その馬車に乗っていた村人は、他の馬車に乗せてももらっていたが、子供数人が兵員輸送車に乗っていた。定員的にはいまだ余裕があったが、これ以上の落伍は防ぎたいと思うペルシャールであった。
車両の増援を頼みたいところであったが、ハイドリヒがフロントライン超えてるから無理ですと拒否したため、現有戦力でどうにかするしかない状況であった。
「前方に・・・カラス?」
「カラスの群れか?」
ペルシャールは双眼鏡を手に持ってカラスの群れを見ていると、その中央にいきなりハルバートが映し出された。
驚いて双眼鏡から目を離すが、改めて双眼鏡に目を当てると、そこにはカラスの群れに囲まれ、路頭に座り込んでいる少女の姿があった。
「ゴスロリ少女!?」
「まじすか!?」
ペルシャールの言葉に即反応した倉田はすぐさま双眼鏡を手にした。その直後少女が立ち上がり、ペルシャールたちの乗る車両に近づいてきた。
「あなた達、何処からいらして~、何方に行かれるのかしらぁ~?」
「・・・なんて言った?」
「さぁ・・・。」
「見た目は子供のようですね。」
3人がそれぞれ言うと、兵員輸送車に乗っていた子供たちが後部扉を開けて少女に向かって走って行った。
「神官様だ!!」
「神官様ぁ!」
「神官、様・・?」
子供たちの口から聞こえる”神官”という言葉にペルシャールは考え込んだ。
日本で言う坊さん的な存在かななどと思案していると、子供たちに続いて大人たちが近づき、跪いて祈りをささげ始めた。
「祈りを捧げているみたいですね?」
「あの変な服装は信仰的な意味合いがあるってことか・・・?」
そんな推測をしていると少女が車両に歩み寄ってきた。
「この変な人達は?」
「助けてくれたんだ、いい人達だよ。」
「嫌々連れて行かれてる訳じゃないのね?」
「うん!!」
「これ、どうやって動いてるのかしらぁ?」
「分かんない。けど乗り心地は荷車よりずっといいよ!!」
「へぇ……乗り心地がいいのぉ?」
子供たちが笑顔でそう言うと、少女はペルシャールを見て唇を小さくひと舐めし、口元に指を当てて思いついたような表情をした。
「私も感じてみたいわぁ。これの乗・り・心・地♪」
「えっと・・・さ、ザワールハゥウグルゥ?」
ペルシャールが現地語であいさつすると、少女は後部扉から車両に乗り込み、なぜかエルフの少女の上にハルバートを置くといういじめに近い事を至極当然のように行い、ペルシャールの膝に乗った。
「んふふふ~♪」
「ち、ちょっとまてっ。」
「ふふふ♪」
「窮屈なんだよ。」
「んふふ♪」
「どいてくれっ。」
「羨ましいです隊長っ!」
「いいから下りろっ。」
「あらぁ?」
「って小銃に触るな!」
「ふふふ♪」
「だから触んなって!」
「羨ましいっすっ!!」
「いや嬉しかねぇ!ってだから触んな!!」
「羨ましいっすっっ!!」
「いいから降りろぉぉおおお!!」
ここでひとつ言っておくが、決して小銃とは男性のあれではなく本当の小銃である。
こんなわけのわからない攻防戦がしばらく続いたが、片膝に乗ってもらうということで何とか妥協してもらい、大統領が少女に手を出すという見出しを出されることは回避された。
それから2時間ほどたつと、あたりの景色は一気に草原から荒地に変わっていた。
「だいぶ雰囲気が変わりましたね。」
「村からだいぶ離れたからな。このまま逃避行も終わりにしたいよ。」
「全くです。」
そう言いながらペルシャールは後方を見た。その視線の先には永遠と続く馬車の列がある。
「こっちの太陽って、地球より暑くないか?」
ギラギラと輝く太陽を見ながら言った。
するとペルシャールは太陽を背にしながら向かってくる物体を見つけた。
それをよく見ると、丘での戦いで遭遇したワイバーンであった。一体程度であれば装甲車の機関砲で何とかなるだろうとペルシャールは思い、まぶしい太陽から視線をずらそうとした。
しかし、そのワイバーンに横から何かが噛みついた。
ワイバーンを遥かに上回る真っ赤で巨大な翼、獰猛な黄色の眼球。
・・・第三偵察隊はふたたび炎龍と遭遇した。
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第七話 炎龍襲撃
「キャァアアー!!」
「たすけてくれぇええ!」
突如ア炎龍の襲撃を受けた村人たちは混乱状態に陥った。馬車は焼かれ、何とか馬車を捨てて逃げ出した村人は踏み潰されるか炎龍につかまって捕食された。
「怪獣を倒すのは自衛隊じゃなかったのかっ!?」
「んなこと言ってる暇あったら手を動かせ!全車射撃開始っ!」
IFVの30mm機関砲が炎龍に毎分250発の弾丸を発射するが、強固な鱗に弾かれ、有効打とはなっていなかった。
「構うなっ、撃ち続けろ!」
シェーンコップは見時からも車両から身を乗り出して応戦していた。
そんな中ペルシャールはじっくり炎龍を観察していたが、炎龍に異変があることに気づいた。
「なぁ、シェーンコップ中将、炎龍の口に何やら火の粉が見えるのだが・・・?」
「火の粉?なっ、ブレス来るぞ!回避!!」
ペルシャールの言葉に瞬時に反応したシェーンコップはすぐに回避指示を出した。
その直後炎龍が仕返しとばかりにブレスを吐きだした。
「あの炎食らったら終わりっすよっ!!」
ブレスを受けた地面がすぐに融解し始めたのを見て倉田が叫んだ。
『IFVの30mmも効きません!50mmグレネードも有効打にはならずっ!』
「まるで戦車みたいなやつですな。」
撃ち続けながらシェーンコップが言った。
「あぁ、まったくだね。」
それにペルシャールが答える。
そんな中横になっていたエルフの少女が目を覚ました。
横に座って会話していたペルシャールは突然のことに驚いたが、それを声に出す前にエルフの少女が何やら伝え始めた。
「・・・目・・?あっ!」
目を指差して訴えたことが功を奏したのか、ペルシャールは少女が言いたいことを理解して炎龍を見た。
「シェーンコップ中将、目だ。目をねらえっ。」
「・・なるほどっ」
シェーンコップはすぐに通信機で各車両に伝達した。
「全車奴の目をねらえ!奴が怯んだ隙にロケット弾をお見舞いしろっ!」
『了解!!』
シェーンコップの指示に、隊員達が一斉に炎龍の目に攻撃を集中させた。
その甲斐があってか炎龍は両手で顔を隠して動きが止まった。
「今だ!ロケット弾っ!」
シェーンコップがそれを見て叫ぶ。
「おっと、後方の安全確認っと。」
ロケット弾を構えた勝本は基礎訓練時の癖でのんきに後方確認を行っていた。実際は車両に乗りながらなので確認してもあまり意味はないのだが、癖である以上仕方がないものであった。
隊員達が”早く撃て”と突っ込む中、勝本がようやくロケット弾を発射した。
しかし、悪路のせいで起動がずれていた。
外れると思ったその時、ロウリィがいきなり輸送車の上に飛び上がってハルバートを炎龍に向かって投げた。
ハルバートが炎龍の足元に刺さったかと思うとレールガンでも当たったように電気が地面を走り、直後爆発を起こした。それによって炎龍は体勢を崩し、外れるかと思ったロケット弾は炎龍の左腕に命中し腕ごと吹き飛ばした。
炎龍は痛みのあまり叫ぶように声を上げるとふらつきながら飛び去って行った。
「・・・終わったんすかね・・?」
「ああ、多分な。」
ペルシャールは後部扉から降りて逃げ出していく炎龍の後ろ姿と大惨事となったキャラバンを見ていた。
炎龍撃退後の夜、第三偵察隊とコダ村の人々は、近場にあった丘に炎龍の犠牲者となった150名余りを埋葬して黙祷を捧げていた。
そんな中、涙を何とかこらえている1人の少女がペルシャールの視界に入った。
ペルシャールは黙って少女に近づくと手を頭に乗せて撫でた。少女は我慢していた涙を一気に流した。
炎龍の撃退には成功したものの、コダ村の4分の1に当たる150人余りの犠牲者を出してしまったことをペルシャール達を含む第三偵察隊の隊員達は悔やんでいた。もう少し対応が早ければ、自分たちがもっと強かったら、と。
黙祷が終わると、生き残った村人たちは近隣の身内や周辺の町に避難するため、早々に出発した。そんな中いつもは男っぽい性格の栗林が涙を流したが、ペルシャールは黙って手を振り続けた。これ以上何かすると嫌われちゃうかもという考えがペルシャールの頭をよぎったからでもあったが・・・。
「身内と言ったって、大丈夫なのかねぇ・・?」
「まぁそれよりもあれが一番の問題ですな。」
シェーンコップは十数人の子供や怪我人、老人の方に目を向けた。
「まぁいいさ。保護ということで全員連れて行こう。」
「隊長ならそうおっしゃると思っていました。」
いつの間にか後ろにいた黒川が嬉しそうに言った。
「やっぱり俺、人道的だろ?」
ペルシャールはニっとした表情で黒川に言うと、全員に乗車命令を出した。
・・・・・・・・・・・・
「閣下、これはどういうことでしょうか?」
「えっと、まずはその後ろにいる怖い人たちを下げてくれるかな?お話ししようじゃないか。そうすればきっと分かり合えるはずだ。」
アルヌスへと帰還したペルシャールに待っていたのはハイドリヒによるお話という名の尋問であった。1国の大統領がその部下に拘束され、尋問されるなど前代未聞であるが、彼の護衛隊長であるシェーンコップを同行させている辺りハイドリヒ唯一の良心が働いているようであった。
30分後、何とかハイドリヒの説得に成功したペルシャールは工兵部隊の司令部を訪れていた。
「はぁ、避難民の住居ですか。」
「あぁそうだ。出来そうか?」
「アルヌスの工事はあらかた終了しておりますので問題はありません。今日からでも取り掛かれますが?」
「ではよろしく頼む。」
ハイドリヒの説得には成功したが、避難民の管理についてはそのすべてをペルシャールは押しつけられることとなった。自分で連れてきたのだから自業自得というものである。
「次は、避難民の食事の確保か・・・。とりあえず兵站課に行って缶詰確保してくればいいかな。」
疲れ果てて今にも倒れそうなペルシャールを兵士たちは何度も目撃していたが、誰一人手伝おうとはしなかった。これは先のハイドリヒのお話の後、すぐに副司令官の名で全部隊に”避難民の管理はその一切を大統領一人が負うことになったので手助けはしないように”という通達がされていたからであった。
「しかし、本当に大統領一人に任せるおつもりなのですか?」
ペルシャールが出て行った後、副司令官室では柳田が書類を整理しながら上官のハイドリヒに問いかけた。柳田は武装親衛隊の情報課であり、特地派遣部隊での情報管理の任に当たっている。
「・・・」
しかしハイドリヒは終始無言であった。柳田はこりゃだめだなと思い書類をまとめるとそそくさと部屋を出て行った。
「・・・、大量の資源と土地、そして人か。」
ハイドリヒは手にある報告書を見て呟いた。
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第八話 避難民の生活
「・・・なんじゃこれは?」
カトーが唖然として言った。
カトーとレレイが見ていたのは地面を掘削しているショベルカーであった。
「私たちの家を作っているらしい。」
「やれやれ、これでようやく荷車から荷物を降ろせるわい。わしゃぁ寝るっ。」
カトーはため息をは吐きながら仮住居に歩いて行った。レレイはショベルカーを見ているテュカのに近づいた。
「どうかしたのか?」
「いえ。こんな光景見過ごしたなんて言ったら、お父さんきっとがっかりするわね。後で教えてあげなきゃ・・・。」
ショベルカーが掘削する様子を見ながらテュカが呟いた。
「・・・・」
そんなテュカをレレイは無言で見つめていた。
「危ないぞー、離れていなさい。」
そんな二人の元に工作兵が近づいて注意した。
レレイが向かったのは野戦厨房であった。そこでは兵站課所属の兵士たちが食事を作っていた。
「・・・ん?あぁ、大根だよ、大根。」
「ダイコン。」
レレイは少しなまった言い方で言った。
「そう、だいこん。」
「・・・ダイコン。」
レレイはピーラーで剥かれた大根を興味深々で見た。
「では、お食べください。えーと、イル ラクーア。」
「うまいぞぉお!!このパンなんちゅう旨さじゃっ!フワッフワ、フワッフワじゃっ!!」
ペルシャールが食事の始まりを宣言するのとほぼ同時にカトーがパンを手でモミモミしながら大声を上げた。
「大根、パン、箸。」
そんな中横にいたレレイは自分の前に置かれた食事を見てつぶやいていた。そして見終わると手を合わせて目を閉じた。
「おぉい、食べんのか?レレイ。」
それを見たカトーは覗き込むように問いかけた。
「ロンディバルト軍の人は食べる前にこう言う。・・・頂き、ます。」
・・・・・・・・・・・・
「・・・新首都に異世界へ通じるゲートが出来たそうだな。」
「はい、現在大統領のミーストが司令官となって派遣軍が現地に送られております。」
「いい機会だ。この機に一気に新首都に乗り込んでゲートを破壊するべきだ。さすれば英雄たるミーストとその側近であるハイドリヒの両名は排除され、ロンディバルトは混乱に陥るだろう。」
「そのあとは我らが帝国領で蜂起し、再び帝国を築きロンディバルトの奴らを打ち倒すのだ。」
「閣下の策にはわたくし感服の至りっ。」
「亡き公爵の敵を討つときがようやく来た。各自準備を進めよ。失敗は許されぬぞ。」
「はっ!」
・・・・・・・・・・・・
「特地での戦闘の被害者の数を、明確にしていただきたいっ!」
「民間人も含まれているそうですがっ!?」
「副大統領!特地で民間人に被害者が出たという報道についてっ。」
「政府は特地での大統領及びその指揮下の軍について行動を把握していないのではっ!?」
「民間人被害者は特地での災害、通称”怪獣”によって発生したものであり、軍との交戦によってではありません。」
「政務次官が答弁で隠していたのはなぜですかっ?」
「あの時質問されていたのは、”戦闘による被害者”ということでしたので・・・。」
・・・・・・・・・・・・
「ぷはぁ・・・あ^~気持ちいんじゃあ^~」
ペルシャールは本日オープンした特地の湯に一番に入っていた。
これはペルシャール自身が避難民からの要望を得て作らせたものであった。
「はぁぁあん、気持ちいいわぁあ~。」
その隣にある女風呂にはレレイ、テュカ、ロウリィの3人と子供たちが湯に浸かっていた。
「まさか、こんなところに本格的な浴場を設えるなんて~。」
「私も、お湯のお風呂は初めて。」
現代では仮設程度の浴場であったが、宮殿や高級住居でない限りお湯の風呂なんてない異世界では、こんな仮設でも本格的な浴場であった。
「あなたもぉ?」
「私は元々流浪の民ヌルドの一族。だから、水浴びぐらいしか・・・。神官様は、お風呂はあった?」
レレイは逆にロウリィに尋ねた。
「ロウリィ、でいいわよ。」
「私はレレイで。」
「そうねぇ~、神殿には帝国式の豪華なお風呂があったわぁ~。けど使徒として私は各地を巡ることを運命づけられた身。だからこんな辺境でお風呂に入れるなんて、驚いたわぁ~。」
ロウリィは気持ちよさそうに言った。
「風呂は毎日用意すると、ミーストが言っていた。」
「ミースト?あぁ、ロンディバルト軍の。」
ロウリィは思い出したように言った。
「それっ、私を助けてくれた人!?」
それを聞いたテュカが身を乗り出して尋ねた。
「・・ぁ、あの、村の井戸で気を失っていた私を、救い出してくれた人かな、と・・・。」
テュカは大声を出したことで少し遠慮しながら言った。
「そう、あなたを助けたのはミーストの部隊のはず。」
レレイが答えた。
「ミースト・・・ミースト・・・。」
テュカは少しうれしそうに繰り返し呟いた。
「だいぶ普通に戻ったのかしらね。」
ロウリィはテュカの方を見て呟くように言った。
「えっ?」
「集落親族全てを失ってまだ間もない。ショックを受けていると理解していた。」
「・・あの、私あの日からずっと面倒を見てもらってばかりで。本当は、こんなところに居ちゃいけないのかなって・・・。」
「いいのよぉ~。」
下を向きながら言うテュカに対してロウリィが言った。
「ここにいること多くは、親族を失った子ばかりだから。」
それを聞いたテュカは少し顔を上げた。
「しかし、貴方随分向こうの言葉を覚えたのねぇ。」
3人は子供たちの頭を洗いながら話していた。
「まだ勉強の最中。」
まだとは言うが、アルヌスに来てまだ一週間も経っていないのに基礎を覚えたのは大したものであった。
「でも、相手の事も少し分かってきた。」
「ロンディバルト軍の事?」
間髪入れずにテュカが聞いた。
「ロンディバルト軍は”ロンディバルト民主共和国”という国の戦士達らしい。」
「随分覚えずらい名前ねぇ。」
「そして門の向こうにはロンディバルト以外の国があるらしい。」
「他の、国・・・。」
「ふふ、面白そう。」
「私たちの知らない世界が、門の向こうにある。」
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第九話 イタリカへ
早くゾルザルぶっ殺したい(真顔
一応最終的には講和(笑)するか帝国を占領or傀儡化する予定です。
感想や評価お願いします(m´・ω・`)m
「デュラン陛下・・・。」
「・・ピニャ殿下か・・・何故ここに?」
森の中に佇む修道院偵察に出ていたピニャが訪れていた。デュランは少し睨みつけながら問うた。
「アルヌスに関する情報を探索中、ここに高貴なお方が傷ついていらっしゃると聞きまして。」
「情報・・・姫はアルヌスで何が起きたのかご存知ではないのか・・。」
「えっ・・・。」
「何も聞いておらんのか。我ら諸王国軍に何が起きたのか・・・。」
「帝国軍は本当は兵を出していなかったのであろう?それを承知で皇帝は連合諸王国軍を招集した。帝国に牙をむくかもしれぬを、敵に押し付けた。」
「た、確かにっ、出陣が遅れていたことは存じておりましたっ。しかしっ!・・・」
ピニャは必死に弁解するが、デュランは聞く耳を持たずに続けた。
「姫、諸王国軍は最後まで戦った。だが、我らの敵は背後にいた。」
「背後・・?」
ピニャはいまだ分からぬという表情で聞いた。
「帝国だ!帝国こそが我らの敵だったのだっ!」
「なっ、陛下!せめてお教えくださいっ!敵がどのようなものであったかを!」
デュランの言葉にピニャは衝撃を受けて怯んだが、すぐにデュランに情報を聞き出すために肩に手をかけた。だが、すぐにデュランにその手を払われた。
「知りたくば姫自らアルヌスの丘で行くがよかろうっ!」
デュランは睨みつけながらピニャに言い放った。
結局何の情報も得られずにピニャは修道院を出た。
そこには腹心であるハミルトン、グレイ、ノーマの3人が待機していた。
「姫様・・・騎士団でアルヌスに突撃なんて言い出さないで下さいよ?」
「妾もそこまで馬鹿ではない。いずれにしろ、一度アルヌスにいかなければならん。ノーマ、本体に移動の指示を送れ。」
先ほどのデュランの言葉をピニャは一度忘れて指示を出した。
「はい。」
「グレイこの先は?」
「この先、アルヌスに向かう途中にはイタリカがあります。」
「イタリカ・・・」
・・・・・・・・・・・・・
「テュカ、どうしたの?」
テーブルに座り、1式そろった衣類を見つめていたテュカにロウリィが話しかけた。
「いえ・・・」
テュカはあたり触りのない返答をした。
「それにしても大層ね。ミーストは”一時的な居留地だからそれまで我慢してくれ”って言ってたけど。」
ロンディバルト民主共和国では、災害などで家がなくなった人のために簡単に設営できる仮設住居の開発が進められてきた。その結果専用の工具などを使わずに設営可能な仮設住居が完成した。
噴火や地震、津波が頻繁に発生するため、国家予算で作りまくっていた予備をここ特地にも運び込んでいたのである。
仮設と言っても下手な住居より設備はしっかりとしており、専用のパイプをつなげることで水やガス、電気を使用することも可能である。大きさは横5メートル縦7メートルで、中にはベッド、テーブル、椅子、収納棚、クッキングヒーターのある簡易キッチンがあり、これもすべてセットで簡易住居1セットである。
異世界の人々からすれば高級住宅よりも贅沢と言うかもしれない。
「食事も出てくるし、お風呂もあるしで、森の生活よりも贅沢なくらい。でも・・・。」
そういうとテュカは言葉を詰まらせた。
「何かあるの?」
それを見たロウリィが問いかけた。
「いつかは自活しないといけないけど、方法が見つからないわ・・・。最悪は、私たちが他の兵隊に身売りでもっ。」
ちなみにこの時点でペルシャールは”最悪俺が責任とって全員を引き取らなきゃいけないのかな”と自分の貯金を見ながら考えていたそうである。
「ひっ!?」
「なぁにぃ~?」
そんな話をする二人に全身防護服を着たレレイが現れた。
「外は安全のよう、なので・・・ちょっと付き合ってほしい。」
レレイが二人を連れて来たのは丘を少し下った場所であった。
「これ、全部翼竜の死体?」
「帝国や諸王国軍がロンディバルト軍と戦った跡。」
そう説明するとレレイは続けた。
「この翼竜の鱗、全部私たちが取ってもいいと、ミーストが。」
「ええ!?翼竜の鱗は高く売れるわよ!?」
レレイの言葉を聞いたテュカは驚いた。この世界では翼竜の鱗は装飾など多くの用途に使われ、高級品であるからであった。
「ロンディバルト軍はこれに興味がないらしい。」
実際は完全にないわけではなく、死体を数体本国に持ち帰り研究材料としていた。
ちなみに銀座事件の際に捕獲されたゴブリンやオークは生体研究のために生かされている。だが人ではない以上生体実験なども行われ、既に10体以上がお亡くなりになっていた。
「身売りの必要は、ない。」
レレイはテュカの方を向いて言った。
「で、俺たちは運送業者って訳ですか。」
「まぁ、そう言うな。避難民の自活はいいことだし、それに特地での商取引の情報収集ができるいい機会だ。」
「いっそ商取引で町ごと要求してみてはいかがです。イタリカは帝国の重要な穀倉地帯だそうですよ。」
シェーンコップは嗾けるようにペルシャールに言った。
「まぁ帝国の制圧が我々の目標ではあるが、まずは情報収集をしないとどうにもならん。それに人心掌握をして内側から崩壊させていく作戦を進行中だ。ここで穀倉地帯占拠して民間人に恨まれるようなことは避けないといけない。」
「ま、確かにそうですな。」
シェーンコップはすぐに引き下がった。
「・・・どうした?」
一向に乗らないテュカにレレイが聞いた。
「また、知らない土地に行くの?・・・お父さん、私、どうしたら・・・。」
そんなテュカの肩に黒川が手を掛けた。テュカが振り向くとそこには黒川、栗林、桑原がニッコリと笑顔でテュカを見ていた。
「一緒に行こう。炎龍が出てきたとしても緑の人が助けてくれる。だから大丈夫。」
「早くしなさいよ。」
レレイとロウリィがやさしく声をかけた。
テュカはその声を聞いて決心がつき、手を伸ばした。レレイがその手をつかむ。
「・・・ふ、よし、それじゃぁ出発!」
第三偵察隊は再び出発した。帝国の重要穀倉地帯 イタリカへ。
「閣下、ミースト司令官が商取引の情報収集のためにイタリカへ向かいました。」
副司令官室では柳田が上官のハイドリヒに報告をしていた。
「あそこは帝国の重要な穀倉地帯だったな。」
「はい、帝国の実に6割ほどがあそこで賄われているようです。」
「・・・第一SS航空騎兵団に出撃用意を。」
「し、しかし、ミースト閣下の許可を取る必要が・・・」
「武装親衛隊長官命令だ。第一航空騎兵団に出撃用意を。」
柳田は必死に反論するが、ハイドリヒの威圧に耐えられず渋々了解した。
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第十話 我イタリカニ到着ス
1つの出来事を変えたりなかったことにするとそれ関連の出来事がすべてなくなるんですよね。
イタリカを占領しちゃうとピニャ皇女が捕虜という待遇になるので和平交渉とか日本に行くエピソードとか全部消えちゃったり、炎龍をすぐに倒しちゃうとテュカの復讐エピソードが全部消えてシリアス要素が皆無になったり、とすべての出来事が複雑怪奇に組み合ってるのでどこか一つをいじるとほか全部もいじらなきゃいけないんですよね(汗
最終的には帝国を占領して圧制に耐えている人たちを開放!民主主義万歳!てきな感じに終わりたいんですが、結構厳しそう・・・。
完結させた後にロンディバルト側の「俺TUEEEE」な話作るかもしれないです。
ロンディバルト軍が容赦なく帝国で電撃戦してモルト殺してゾルザル殺して他の主戦派全員殺して一部の良心的な人たちと一緒に民主主義広めて国民万歳な話を。
(・・・需要あるんかな・・?)
3/19
・最後の「まぁたしかにそうでs「よく来てくれたっ!!」ごふっ!?」を「まぁたしかにそうでs「よく来てくれたっ!!」!?」に修正しました。ペルシャールがぶつかったのにシェーンコップが”ごふっ!?”というのはおかしかったですね・・・。
「おやっさん、イタリカまで後どのぐらいだ?」
水筒に入った紅茶を口にしたペルシャールはふたを閉めながら聞いた。
「あと30分ぐらいかと」
桑原は地図をにらみながら答えた。
「隊長、あれ」
運転していた倉田が指をさしながら言った。
「煙、か?倉田、この道煙の発生源の近くを通るか?」
「というより、発生源に向かっているような感じです」
それを聞いたペルシャールは”煙を見るのは2回目だな”と思いつつため息を吐いた。
「あれは、煙。」
双眼鏡で煙を見たレレイが言った。
「理由はわかるか?」
「人のした何か。かぎ、でも大きすぎる」
「鍵・・?」
「鍵じゃなくてかじだ。」
ペルシャールがレレイの間違いを修正した。
「かじ」
「まあ引き換えるわけにも行かないからなぁ。全車警戒を厳にしつつ前進するぞ。」
ペルシャールは後ろに乗っているレレイ達を見つつ通信機で指示を出した。
「ん?なんだロウリィ」
「んふふふふっ♪血の匂い」
ロウリィは一舐めすると嬉しそうに言った。ペルシャールは厄介なことに巻き込まれそうだな、と頭を掻いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「突撃ぃ!!」
「城壁に取り付けぇえ!!」
「城壁に取り付かせるなっ!なんとしてでも食い止めるんだ!!」
帝国有数の穀倉地帯であるイタリカ、いまここには二千にも達する盗賊の襲撃に遭っていた。
城壁に取り付かせまいと弓矢を放ち、それを討とうと盗賊の弓兵が城壁を狙う。
当初簡単に落ちると思われていた城壁が思った以上に強固なものだと知った盗賊側は、無駄な犠牲を出す前に撤退した。
城壁の上で指揮を執っていたのはアルヌス偵察の任を受けた帝国第三皇女ピニャであった。
ピニャはイタリカが武装集団による襲撃を受けているとの報を聞き、それがロンディバルト軍だと思い込んでイタリカの救援に来ていたのである。しかし実際は先の丘での戦いの敗残兵であったことを知ったピニャは、ここまで来て止めるわけにもいかず、仕方なくイタリカ防衛の指揮を執っているのであった。
盗賊が逃げ出していくのを確認したピニャは振り返って自分の部下の安否を確認した。
「な、何とか生きてま~す!」
ハミルトンとノーマは柵に寄りかかりながら返事した。
「薄情ですなぁ。小官の心配はしてくださらんのですな、姫様」
階段を下りているピニャに大剣を担いだグレイがピニャに近づいた。
「貴様は無事に決まってるだろう、グレイ」
それを聞いたグレイはがははと大声を出した。
ピニャはハミルトンとともに伯爵邸に向かった。
道中にはイタリカの住民から募った民兵隊が疲れ果てて座り込んでいた。
厳しい訓練を受けた正規兵と大した訓練も受けていない民兵では戦力に差がありすぎた。
何とか1度目は防いだものの、すでに士気は瓦解寸前まで落ち込んでいた。それでも保っていられるのは自分たちがここで逃げ出したら後ろにいる自分たちの家族に危害が加わるということがわかっているからであろう。
とはいえ帝国から救援が来たと思ったらわけのわからぬ偉そうな皇女とその部下であったことがさらに民兵たちの士気を下げていた。
ピニャは伯爵邸に着くと簡単な食事を摂って客間で横になった。
「きゃっ!?」
突然の出来事にピニャは思わずかわいらしい声を出した。ピニャが目を開けるとそこにはバケツを手にしたメイド長とグレイがいた。
「どうしたっ敵か!?」
「分かりませぬ。はたして敵か味方か・・・とにかく身繕いをされてお越し下さい」
そういわれたピニャは急いで濡れた体を拭き、装備を身に着けると南門に向かった。
そこにはハミルトンがのぞき窓で外を確認していた。
そこから見えたのはロンディバルト軍の18式兵員輸送車、IFV、16式高機動車であった。
当然そんな物知らないピニャは困惑した。
「な、なんだあれは・・?」
「も、木工車ですかねっ?」
「いや・・・あれは鉄だ」
ピニャはその外見から鉄であると判断した。
「何者か!?敵でないなら姿を見せよ!!」
城壁の上にいるノーマが問い詰めた。
■ペルシャール・ミースト
警戒を厳にして何とかイタリカまでたどり着いたが、どうやら戦闘が行われていたようだった。城壁の周囲には矢が刺さったり体が真っ二つになった死体がごろごろ転がっている。
「完全に警戒されてますなぁ。どういたしますか?」
銃の手入れをしていたシェーンコップが城壁にいる兵士を見ながら言った。
「見た感じ帝国兵のようだな」
「しかし民兵も混ざっているようですなぁ。住民から募ったのでしょう。」
俺は双眼鏡で確認した。確かに城壁には明らかに正規兵でない格好をした者が剣や弓を構えている。最初のプランではイタリカの近くまで行ってそこからはレレイ達3人に変装させたシェーンコップを護衛につけて町に行かせるつもりだったのだが、こうも警戒されてはこのプランは破綻したといっていい。さてどうしたものか・・・。正直めんどくさいので軍隊連れてきて武力制圧しちゃいたいな。人心掌握作戦が破綻するけど。
「シェーンコップ中将、ちょっとついてきてくれ」
「わかりました」
結局レレイ達を連れて平和的行くことにした。おやっさん達には待機命令を出して俺は城門へ近づいた。
城門に着くと、俺はデザートイーグルを右手にかまえて恐る恐る木の扉を叩いた。シェーンコップもライフルを構えている。
しかし数分しても一向に出てくる気配がない。
「何か悪巧みでもしているのかもしれませんなぁ。もう少し待ちますか?」
「戦闘の直後だ。警戒してるんだろう。」
「まぁたしかにそうでs「よく来てくれたっ!!」!?」
念のためにもう一度扉を叩こうとすると、いきなり扉が開かれ俺の頭に直撃したようだ。
意識が・・遠くなって、いく・・・。
ご指摘や感想お待ちしております。
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第十一話 共闘
■ペルシャール・ミースト
あれから5分ほどたったようだ。
ようやく意識が戻ってきた。なんかテュカが”扉の前に誰かいると思わなかったの!?””ドワーフだってコモノートだって気を付けるわっ!”と誰かに説教している。
「ん・・・」
「あらぁ?気づいたようねぇ」
俺が目を開けると視界いっぱいにロウリィの顔が映った。
「わぁああ!?」
俺は驚いて一気に飛び起きた。
「ここは・・・城門の中か・・?」
辺りを見回すと数人の甲冑を着た騎士と100人は軽くいるであろう民兵が俺たちを囲んでいた。
『隊長、送れっ。隊長っ、応答してください!』
無線機からおやっさんの声が聞こえた。直ぐに無線機をONにする。
「ミーストだ」
俺が答えるとおやっさんは安処したようにほっと溜息をついた。どうやらもう少しで突入するところだったらしい。危ない危ない。
「あー、状況を確認するから、そのまま待機していてくれ」
『了解』
通信が切れると、俺はもう一度辺りを見回した。
「んで、誰が説明してくれるのかな?」
俺が大声で尋ねると、民兵と騎士たちが一人の女性騎士に視線を集中させた。どうやら彼女がここの責任者らしい。
「お前たち!帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダ殿下に対し、非礼であろう!!」
「・・・え・・?」
・・・・・帝国の・・・第三皇女・・・?
「ここイタリカはテッサリア街道とアッピア街道の交点に位置する貿易上の重要な城塞都市だ。代々帝国貴族であるフォルマル伯爵家が治めてきたのだが先代が急死したために残された三姉妹の間で後継者争いが起きてしまった」
俺たちは今ピニャ皇女に案内されて伯爵邸の廊下を歩いている。その間暇だったのでピニャ皇女にイタリカについて説明してもらっているのだ。
「長女と次女は既に他家に嫁いでいたので、正統な後継者である末娘ミュイの後見人の座を巡って対立したのだ」
「どこの世界でもあるんだな。そういうの」
「ミースト、彼女の言っていることが分かるのか?」
「ああ、わからないところもあるが、大体は」
「頭打ったからかな・・・」
うちの国には所詮社長の後継ぎとかしかなかったが、数年前まで戦っていた君主制連合では貴族制度があるためたまにそういう情報がこちらにも流れてくるのだ。
○○男爵と◆◆男爵が△△伯爵に娘を嫁がせるために脅迫したり使用人を殺して威嚇したりして最終的には”嫁がせる娘がいなくなればいいんだ”と両方が考え両方の娘が事故で亡くなるという訳が分からない終焉を迎えたり、○○伯爵が亡くなったことをいいことに□□侯爵がその領地を丸々引き継いだりした。この世界にも貴族制度があるそうなので頭の痛い問題だ。加えて数百年にわたりこれで統治してきているのだからそう簡単に変えられはしないだろう。
「そこへ、帝国による異世界出兵が行われた。各家も当主が兵を率いて参戦することが求められた。しかし、誰も戻ってこなかった」
中世だから当主とか指揮官は最前線で戦う時代なんだよな。今だったら考えられないことだ。
「結果イタリカの治安は急激に悪化、今や町を守ることも困難な状況となっている」
ピニャ皇女が言い終わると、その場に立ち止まった。どうやら到着したようだ。
「この向こうにいらっしゃるのが、イタリカの現当主フォルマル伯爵皇女ミュイ殿だ」
ピニャ皇女は大きな木の扉を開けた。
「・・へ、あれが・・?」
部屋に入るとそこには脚もつかないような椅子に座り、こちらを見つめてくる少女の姿があった。
「確か、皇女は今年で11才だったはず」
レレイが説明を加えてくれた。11才、小学生が町を治めてるってことか。流石は中世といったところだな・・・。
「いかに当主と言えど、ミュイに軍を率いろというのは酷な話だ。それ故、妾が代わりに指揮を執っていると言う訳だ」
「なるほど」
とは言っても伯爵皇女が率いようが帝国皇女が率いようが、どっちもあんまり大差ないように思えるのは言わないほうがいいだろう。多分また後ろに控えているピニャ皇女の腹心が”非礼であろう!”とか言うに違いない。最悪後ろからグサリ何てこともあり得る。
その後我々は客間に移動して会談を始めた。
要約すると「民兵ばっかりで頼りないからお前たちも加勢しろ」「一度落とされた南門の守備任せるからよろ」ということだった。随分偉そうに言ってきたが、こんな状況では龍の鱗なんか売れないので仕方なく加勢することにした。先ほど国の指導者をドアで攻撃し、先制攻撃を行ったことを口実に戦争をしてもよかったのだが、そうなるとレレイ達が龍の鱗を売れなくなってしまうので、やむを得ない。
というか全部龍の鱗が売れなくなることが理由な気がするのだが気のせいか・・。
『今日中に戻れないとはどういうことですか?』
「あー、その戦闘に巻き込まれちゃうようで・・」
俺はハイドリヒに「友達の家に泊まるから」的なノリで今日中に帰還できない事を伝えた。
『では、特地説明会は如何しますか?』
「そこは適当に現地住民との接触が大変で戻れないとでも言っといてくれ」
『・・・わかりました』
「あー、あともう一つ頼みたいことがあるんだけど・・・」
■
「見えるか?」
「ええ、斥候のようですな。後方に本体も見えます。数は、五~六百ってところでしょうな」
「南門狙いだと思うか?」
「包囲するには兵力が少なすぎますからなぁ、崖のあるきたは除くとして残る三方のどこかに、戦力を集中させ一気に突破するつもりでしょう。しかし、それ以上に気になりますなぁ」
シェーンコップが双眼鏡から目を離した。ペルシャールも双眼鏡を石の上に置いた。
「恐らく、俺たちは囮だ。一度は突破された南門を守るのは我々15人のみ、ここを手薄に見せて敵を誘い込み奥の二次防衛線を決戦場にするつもりだろうよ。あの”素人姫さん”は」
「まぁそんなところでしょうな。しかし・・・」
「ああ、恐らく姫さんの思惑は外れる。彼らの装備からして先の戦いで逃げ延びた敗残兵の集まりだ。我々の強さはよく知っているはず。あえて守りの強い東西どちらかを攻撃するだろう」
ペルシャールは一旦言葉を止めた。
「ふふ、その時、姫さんはどう対応するかな?二次防衛線の部隊を回すか、南門の俺たちに助けを斯うか、久しぶりに楽しい戦いになりそうだぞ?シェーンコップ中将」
ペルシャールは不気味に笑った。
「閣下もそういう演技が好きですなぁ。まぁ私も久しぶりに戦えてうれしいですが」
シェーンコップもつられて笑った。それを第三偵察隊の隊員達は少し引きながら聞いていた。
「一応ここの指揮官はあの姫さんだ。大人しく命令に従っていよう。もし伯爵邸に敵が流れたとしても、指揮官から命令なしに勝手に動くことはできないからな」
ペルシャールはピニャに一つ貸しを作ろうと考えていた。
伯爵邸に盗賊が来るその直前に駆け付け、あたかも今助けに来たという風に見せてピニャに恩を着せようというのである。
「ああそうだ、篝火はいらないといっておいてくれ」
「了解」
ペルシャールは思い出したように桑原に言った。命令された桑原はいつもと違って少し顔が強張っていた。
「隊長、これ、暗視装置、です」
栗林がいつもと違って少し恐れるように声を震わせながらペルシャールに暗視装置を渡した。
「おお、ありがとう」
ペルシャールは笑顔で答えたが、栗林がそれを見てさらに下がってしまったため、ペルシャールは頭の上に?を浮かべるのだった。
「古田っ、突撃破砕線は城壁に沿うような形にしろ」
シェーンコップは次々と指示を出していく。
「ねぇミースト、どうして敵のはずの帝国の姫様を助けるの?」
城壁に寄りかかりながらロウリィが問うた。
「町の人を守るためさ」
ペルシャールは暗視装置をつけるのに悪戦苦闘していた。
「本当に言ってるの?」
「そういうことになっているはずだが・・?」
ロウリィはすぐにそれが嘘だと気付いた。
「兜貸して、持ってあげる」
中々暗視装置を付けられないペルシャールに見かねたのか、ロウリィが手を貸した。
「理由が気になるか?」
ペルシャールは暗視装置をつけながら聞いた。
「エムロイは戦いの神、人を殺めることを否定しないわ。でもそれだけに動機は重要なの」
「偽りや欺きは魂を汚すことになるのよ」
その言葉はペルシャールの心にグサリと刺さった。ついさっき嘘をついたばかりであったからである。
「ここの住民を守るため、これは嘘じゃない。けどもう一つある」
「へぇ~?」
「俺達と喧嘩するより仲良くした方が得だとあの姫さんに理解してもらう為さ」
「気に入ったわそれ!!」
ペルシャールの言葉に満足したのか、ロウリィの表情がいつにもまして明るくなった。
「恐怖!全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み込むのね?ウフフッ」
「あ、いや・・・」
ロウリィはペルシャールの言葉を盛大に勘違いした。あくまでペルシャールはピニャをこちら側につけて帝国の統治を少しでも楽にしようという考えで言ったのである。
「そういういうことなら是非協力させていただくわ。私も久々に狂えそうで楽しみ♪」
ロウリィはスカートをちょこんと手でつまむと、ペルシャールに向かってお辞儀した。
「違うんだけどな・・・」
ペルシャールの言葉はロウリィには届くことはなさそうだった。
ペルシャールはあんまりピニャと仲良くなろうとかは思っていません。
ただ帝国統治するときに役立つかも?程度の存在です(今は←ここ重要
23話では結局ピニャ殿下おいてかれましたね・・・
帝国第三皇女とか自衛隊的には最優先で保護すべき重要人物だと思うんですが・・・
陸相とか政府も一応ピニャ殿下とお話ししてるんですがね、忘れられてる?まさか、ねぇ・・?
もう一度自衛隊が来るとしたらピニャを何かしらの交渉道具に使いそうですね。日本外交官ガンバレ(トオイメ
ご指摘や感想お待ちしております。
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第十二話 盗賊終了のお知らせ
3/24
読者の方から誤字を指摘されたので修正しました。
”女性度と思って”→”女性だと思って”
7/17
誤字脱字を修正しました。
「始まったようですな」
シェーンコップは双眼鏡で東門の方を見ながら言った。
「0311、夜襲には絶妙な時間ですね)
倉田が感心しながら腕時計を見た。
「盗賊とはいえ元は正規兵です。そのあたりは弁えているんでしょう」
霜原が補足した。
「東門から増援要請は?」
「まだありません」
「そうか」
東門では既に城壁に敵が取りつきつつあった。
「矢を放てっ!壁に取り付かせるな!!」
城壁守備隊の指揮官であるノーマが兵士達に指示を与える。
しかし盗賊団にいる精霊使いによって矢はすべて無力化されていた。
民兵たちの奮戦虚しく、城壁は盗賊たちによって完全に制圧された。盗賊団はいくら殺しても向かってくるため、兵士達は恐怖に駆られて次々と逃げ出し、背後を取られて一人また一人と倒れて行った。
そんな中ピニャは伯爵邸のテラスからそれを呆然と眺めているだけであった。
そして城壁が制圧されるとすぐに城門は開場され、城外にいたヒャッハ―な人たちが城壁内になだれ込んできた。
盗賊たちは殺した民兵の死体を見せつけるように投げ捨てた。そして不気味に笑いながらその死体をこれでもかというほど無残な状態へと変貌させた。
「この畜生共がぁぁあああっっ!!」
一人の民兵が柵を越えたことをきっかけに民兵達は彼に続けと柵を越えて盗賊たちに襲い掛かった。
ピニャは必死に抑えようとするが、すでに指揮統制は無きに等しく、バラバラに攻撃していたずらに兵力を消耗させていった。
「救援はまだなのっ!?」
「緑の人たちは!?」
市民はロンディバルト軍の増援に望みをかけたが、ピニャ自身が捨て駒として南門に配してしまっていた。加えて南門の二次防衛線に大量の防御兵器とただでさえ少ない正規兵の殆どをおいてしまっていたのである。
「隊長・・・?」
桑原がいつまでも命令を下さないペルシャールに焦るように言った。
「はぁ、やはり向こうからは命令できないか」
ペルシャールは期待とはずれた結果にため息を吐いた。
「最低人数を残して東門の救援に向かう」
「了解!!」
ようやく来た命令に隊員達はすぐに応答した。
・・・・・・・・・・・・
アルヌスの特地派遣軍総司令部ではハイドリヒの前に数名の将官が直立の状態で立っていた。
「現在、第三偵察隊がイタリカの代表ピニャ・コ・ラーダ氏から要請で追加支援を求めて来ている」
「是非、我が第六機甲師団に行かせてください!!」
「第三機械化歩兵師団編成完結!すぐにでも出撃できます!!」
「いや、ここは我ら第七混成師団に!!」
「駄目だ!!」
久しぶりの戦闘とあって各師団長は口々にわが部隊にと志願の声を上げたが、第一航空騎兵団の健軍少将に静止させられた。
「地面をちんたら移動してたら到着に時間が掛かりすぎる!副司令!ぜひ我等の第一航空騎兵団に出撃を命じて下さい!!」
「大音量スピーカーとコンポとワーグナーのCDを用意しています!」
「パーフェクトだ!用賀大佐!」
「感謝の極みっ!」
「第一航空騎兵団の出撃を命じる。今は速度が必要だ。それが現実的な選択だろう」
せっかくの出撃の機会を取られたことに歯軋りして羨ましがった。
「(おのれ・・・今度はうちも何か流して電撃戦をしてやる・・・。ソビエトマーチかカチューシャあたりがいいのだろうなっ)」
「(わが師団自慢のロケット自走砲部隊の出番をっ・・・)」
「閣下!次回こそは我が第七混成師団に出番をお願いいたしますっ!!」
師団長らはハイドリヒに次回こそはわが部隊にと頼み込んだが、ハイドリヒはそんな声一切聞こえてはいなかった。
「(こいつら・・・キルゴア中佐の霊にでも憑りつかれたのか・・?この後の展開が予想できるな・・・)」
・・・・・・・・・・・・・
■ペルシャール・ミースト
先ほどからロウリィがR-18タグが付きそうな声を出し続けて隊員達を困惑させている。シェーンコップなんかそれを見てニヤニヤ笑っている。趣味の悪い奴だ。
レレイによると死んだ人間の魂が死神であるロウリィに対して媚薬的な作用を与えているらしい。ファンタジー過ぎてついていけん。
「閣下、準備完了しました」
そんなロウリィを見ているとシェーンコップが報告してきた。未だ少し顔がにやけている。
「よし、では総員・・・って、え?」
俺が指示を出そうとするといきなりロウリィが城壁を飛び降りた。
「お、おい!?」
俺はロウリィを止めようと追いかけるが、さすが死神、一瞬で屋根の上に上がったと思ったらすぐに姿が消えてしまった。流石のシェーンコップも少し驚いている。
「・・・ぁ、総員乗車!」
呆然とそれを見ていたが、すぐに我に返って指示を下した。隊員達も驚いていたようで、倉田なんか口を開けていた。
俺も急いで兵員輸送車の助手席に座った。
出発すると俺はすぐに無線機を取った。
「102、こちら3C。敵は東門。既に城壁内で戦闘中目標は白色信号で知らせる。送れ」
『こちら102指揮官機、了解っ』
東門に近づくとシェーンコップが身を乗り出して信号弾を撃った。
東門に近づくにつれて何やら音楽が聞こえ始めた。
「・・・ふ、この音楽、奴らナパームでも撃ちまくるつもりか?」
微かに聞こえる音楽、それはニーベルング指環第2幕”ワルキューレの騎行”だった。
「栗林、そこのケースを取ってくれないか?」
「分かりました」
栗林からケースを受け取ると、ロックを解除してケースを開けた。
そこに入っているのは二丁のデザートイーグル、それもブレードが付いているいわゆるガンブレードである。デザートイーグル自体も特注で、この世に一つだけの一級品だ。
前に使っていたやつはベレッタM92Fにただナイフを付けただけのものだったが、ただつけただけで脆いので開発部に依頼して作ってもらったのだ。もちろん実費で、だ。(結構高かった)
ふと見ると栗林とおやっさんが驚いたようにこちらを見ていた。
「隊長、それ使えるんですか・・?」
桑原が表情変えずに聞いてきた。
「ん?使えるも何も君主制連合との戦いでも何度も使っているからな」
大統領がガンブレード両手に持って突撃しているのを想像したのだろう。二人は必死に夢よ覚めろとでも言わんばかりに首を振った。
そんなことをしているとどうやらついたようだ。車両から降りると桑原の指示で全員が付け剣した。
「でええええええいい!!」
栗林が単身身軽に階段を飛び降りて突撃した。女性だと思って侮っていたが、考え直した方がいいかな。
「あの馬鹿っ!」
おやっさんが止めようと手を伸ばすが、すぐにその手を下した。
何故なら隊長と副隊長も”突撃”しているからだ。
最初はシェーンコップと二人でやるつもりだったが3人に増えてしまった、まぁ別に構わんが。
俺が階段を下りてみた光景は実に壮絶だった。
別に盗賊なんかいくら死んでても構わないのだが、それに混ざって市民の死体がごろごろ転がっている。異国民とは言え市民が殺されているのは気持ちの良いことではない。
既に栗林とロウリィは敵のど真ん中にいた。
俺はおやっさんたちに援護を任せると二人に続いて馬防柵を飛び越えて着地地点にいた兵士に弾丸をプレゼントした。シェーンコップはトマホークを持って既に敵兵と踊っている。
「何人きやがるんだ!」
なんか叫んでいる敵兵の頭にとりあえず風穴を開けると、右から来る槍を下にかわして兵士の腹に3発お見舞いした。ちらりと見るとその穴は3角形になっている。
「くっ、落ち着け!囲んで袋叩きにしろ!」
その言葉を聞いた兵士たちが俺の周りに集まった。
「ふはははっ!遅い、遅すぎるっ!」
ちんたら盾を整える時間があったら槍でも突き出せばいいものを・・・。
この時代盾と言っても薄い鉄の板なので銃弾はたやすく貫通する。カキンッという音がした。
しまった、久しぶりに戦闘で舞い上がって弾数を数えてなかった。
俺はすぐにリロードを開始するが、その隙を突いて数人の兵士が一斉に槍を突きだしてきた。
俺はとっさにブレード部分で槍を逸らし、一度後ろに後退する。同時にリロードも行い、先ほどの兵士たちに3発撃ちこんだ。ろくに狙わずに撃ったせいで1発外れてしまったが、それでも腹と足に当たった兵士二人はその場に倒れこみ、他の奴は徐々に後ろに下がった。足に当たったほうは足を抑えて悲痛な叫び声をあげている。
「黙れ、てか早く逝け」
俺はそいつの傍まで来るとそいつの口にブレードを突き刺した。
ふと見るとシェーンコップの周りには死体の山が積まれている。それも体が真っ二つになったものや首がどっかに消えたものばかりである。
栗林とロウリィは互いに連携し合ってよく戦っている。しかし、まだ少し隙があるようで、おやっさん達からの援護射撃で助かっている。
そのまま数分戦っていると、城壁で爆発が起きた。
黒煙の中から城壁の上で何か演説してたやつがこっちに向かって飛んできた。
「み、認めん、こんな、こんな戦い認めてたまるか・・・っ」
「すまんが、これが戦争ってやつだ。お前らのやってることは所詮戦争”ごっこ”だよ」
俺はそう言うとそいつの両手両足に1発ずつ撃ち込んだ。先ほどの兵士のように悲痛な叫びが聞こえてくる。
「もっとバリエーションを増やしてほしいねぇ・・。同じ声じゃ聞き飽きるんだが?」
ため息を吐きつつそいつの腹にブレードをどちらも差し込んで思いっきり引き裂いた。これでも刃こぼれをしないのは開発部の努力の結晶だろう。
開発部マジ感謝ですと心の中で言っていると、指揮官を倒されたことで動揺した兵士たちが必死に隊列を組みなおしている。
シェーンコップに張り付いていた敵も一時下がったようで、一度合流することが出来た。
そのまま敵の隊列に突撃しようとした矢先、無線機から連絡が入った。
『3C、こちらハンター1。これよりカウント10で門内を掃討する。至急退避されたし。繰り返す、これより門内を掃討する。至急退避されたし』
俺は無線機を持っておらず状況が把握できていないロウリィを半ば強引にお姫様抱っこすると、栗林がおやっさんに担がれたのを確認して馬防柵内に退避した。
振り返ると当時にカウントが0になり、戦闘ヘリの30mmチェーンガンが盗賊をハチの巣にした。
ペルシャール視点で書いたらロウリィ、栗林、シェーンコップの活躍がほとんどかけなかったよっ!(白目
一度3人称視点で書き直そうかとも考えましたが、それはそれでめんどくさいのでこのままにしました。
ご指摘や感想等お待ちしております。
読んだよという一言でも作者にとっては励みになります。
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第十三話 事後処理
イタリカ防衛戦は第一航空騎兵団が到着したことで一気に終結した。
盗賊団はそのほとんどが冥界の門をくぐっていた。
「化け、物・・・」
50人余りの盗賊が戦闘ヘリのチェーンガンによって一瞬で葬り去られたのを見てピニャとハミルトンは唖然とするしかなかった。むろん50人程度であれば損害覚悟で行けば勝てる数ではあったが、一瞬で片づけることなどできない。
「・・鋼鉄の天馬・・・なんなのだあれは・・?人が抗うことの出来ない絶対的な暴力・・・全てを叩き潰す力・・誇りも・・・名誉も・・・全てを否定する・・・」
ピニャは震えながらつぶやいた。
「これは女神の蔑みなのか?・・・人は何て傲慢で、無価値で・・無意味なのか・・・」
やがて第一航空騎兵団の輸送ヘリ部隊が到着し、降下するとすぐに展開し始めた。各所にいる斬敵の掃討及び拘束、負傷者の救助である。
「あれだけの盗賊が、全滅・・・ロンディバルト軍とは・・・」
ピニャはテラスから城門周りを見渡した。そこには全身に返り血を浴びたペルシャールとシェーンコップが立っていた。ピニャは最初にあった時とはまるで別人のようになったペルシャールを見て再び震えた。
「終わりましたな・・・」
未だ少し身を震わせているピニャにグレイとハミルトンが歩み寄ってきた。
「・・確かに盗賊は撃退した・・・」
「はい、我々の勝利です」
「違う・・・勝利したのはエムロイの使徒ロウリィとロンディバルト軍で妾では、ない」
戦勝の祝いの言葉を言うハミルトンに対してピニャは拳を震わせながら言った。
「そして奴等は・・聖なるアルヌスを占拠し続けている・・我等が敵・・・」
「!!?」
「やはり・・薄々は勘付いてはいましたが・・・」
「・・・妾はイタリカを掬うつもりで・・もっと恐ろしいものを引きづり込んだのではなかろうか・・・。一瞬にして盗賊を撃退したあの鋼鉄の天馬と強大な魔導がもし・・イタリカに向けられたとしたら・・・妾も・・」
ピニャは想像した。ロンディバルト軍がイタリカに攻め込み、自身が捕虜になっている姿を。
「フォルマル伯爵公女ミュリ殿も、簡単に虜囚となり、この帝都を支える穀倉地帯は敵の物となる・・・それを民は歓喜の声で迎えるだろう」
「そ、そんなことはっ」
「ないと言い切れるかっ?実際、町を救ったのは彼らだぞ」
ピニャの言葉にハミルトンは言葉を失った。民は自らにもっとも真摯な方につくのが普通である。
「もし彼らが開城を要求すれば、妾も取りすがって慈悲を乞い・・足の甲にキスしてしまうかもしれない・・・。特に妾はあの二人が恐ろしく見える・・・」
「ミースト殿とワルター殿・・ですな?」
「あの殺気と狂気に満ちた戦い・・・まるで・・死神・・・ロンディバルト軍でも特にあの二人を怒らせれば・・待っているのは冥界への門・・・」
ピニャは初の戦いは最悪な形で、それも未だ終わることはなかった。
ピニャは何があっても怒らせることがないようにと心の中で繰り返し呟きながら伯爵邸へと戻った。
■ペルシャール・ミースト
俺たちは軍服を着替えて身だしなみを整えて伯爵邸の大広間に来ている。随行員はシェーンコップ、おやっさん、レレイ、テュカ、ロウリィの6人だ。中央奥の玉座にはミュイ皇女とピニャ皇女、そしてその眼には腹心の、確かハミルトンだったか。おれ達の横にはメイド丁らしき婆さんと4人のメイドが待機している。
「イタリカ救援に感謝し、その対価の交渉を行いたい」
感謝してるならソファにでも座らせてくれと言いたい。なんで助けた側が立たされて助けられた側が堂々と座っているんだ。それも玉座的な奴に。やっぱり中世だから向こうが上になるのは仕方ないことなんだろうな・・・。
「感謝されるのは結構なことですが、ピニャ殿下?一つお忘れになっていることがあるのでは?」
俺がそういうとピニャ殿下とハミルトンが顔を見合わせた。
「我らはロンディバルト軍、貴方たちの呼び方で”異世界の軍隊”です。帝国と我々は現在戦争状態になっていると記憶しているのですが、そのような者たちをこんなところに呼び寄せてよろしいので?」
俺がそう言うと二人は顔を強張らせた。同時にメイドたちの目も変わった。なるほど、ただのメイドではなくピニャ皇女たちの護衛か。目が鋭いな。かなりの手慣れのようだ。
「そ、それは・・・」
「ピニャ殿下もご覧になったかと思いますが、わが軍は帝国を遥かに凌駕する軍事力を保有しております。率直に言えば今すぐにでも帝国の重要な穀倉地帯であるここイタリカを武力占領することなど容易いのですよ」
「ま、まってくれっ!話し合おうではないか!?」
ピニャ皇女が慌てて言った。
「では、横の客間で座りながら話し合いましょう」
「す、座りながら・・?」
本当にやるとでも思ったのだろうか?
「そうです。あなた方と対等の立場で話し合いをしたいのです」
「わ、分かったっ!すぐに準備しよう!!」
ピニャは急いでメイドたちに指示を出した。メイド長は随分落ち着いているな。戦場経験済みか?ピニャ皇女と変わったほうがいいんじゃないだろうか。
「で、では改めて交渉を行わせていただきたい」
急に敬語になったな。これでようやく対等か・・?まだ少し自分が上だと思ってるだろうな。
皇族だし仕方ないけど。
「分かりました。こちらから提示させていただくのは7つです。
・戦闘でかかった諸経費を金貨又は銀貨で支払うこと
・使節の往来の安全保障と諸経費はそちらが全額負担すること
・アルヌス協同組合の貿易の租税を免除すること
・捕虜の権利をすべてこちらに渡すこと
・イタリカを含むフォルマル伯爵領内を範囲とする停戦協定を結ぶこと
・現地治安維持及び防衛のために一個大隊(約千人)が駐屯することを認めること
・上記の駐屯地の土地の割譲及び食糧(穀物)を提供すること
以上が、こちらからの提案です」
俺が言い終えるとハミルトンはピニャの方を向いた。
「第一第二第三については了解した。だが、捕虜の権利はこちら側にしていただきたい」
やはり捕虜の権利は譲ってもらえないか。まぁ街の復興とかに人手がいるからな。仕方ないか。
「イタリカの復興のために人手が必要だということは理解しました。しかし人道的に扱う確約を頂けますか」
「ジンドウ、テキ・・?」
しまった、この世界には人道的という言葉はないんだったな。
「友人、知人、親戚のように無下に扱わないということです」
「友人や親戚が、平和に暮らす街を襲い人々を殺め、略奪などするものかっ!」
ハミルトンが席を立って声を荒げた。
「それが我々のルールです」
「・・・分かった」
ハミルトンを座らせながらピニャが答えた。
「その代わりと言ってはなんですが、捕虜数人をこちらにいただけないでしょうか。現地の情報を詳しく知りたいと思いますので」
「かまわない・・・」
「ありがとうございます」
俺は笑顔で頭を下げた。だがピニャ皇女の顔はいまだ強張ったままだ。もう少しリラックスしろよ・・・しわが出来るぞ?
「では残りは停戦協定と軍隊の駐留についてだが、停戦協定はともかく軍隊の駐留は・・・」
「この世界では相手の街に駐留して占領することがあるようですが、これはあくまでイタリカを守るためのものです。こちらとしても異世界との重要なつながりを失くしたくはありません」
「なるほど、分かった。認めよう・・・」
こちらには圧倒的な軍事力があるからな。下手に怒らせるより逆に取り入れる方が向こうにとっても利益があるだろう。一個大隊とは言っても各地の治安維持には十分すぎる数だ。防衛についてもイタリカだけであれば十分に援軍到着まで持ちこたえられる。
「では捕虜の権利を除く6条は認めていただくということでよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない・・・」
「では我々は失礼させていただきます。・・・あ、捕虜を選びたいのでハミルトン殿に同行をお願いしたいのですが」
「ああ、かまわない・・・」
俺たちが部屋を出るまで終始ピニャ皇女の顔は強張ったままだった。
この時点でペルシャールは一通り現地語は覚えています。ところどころ言えないところはレレイが裏で補足していると解釈してください。
アニメと同じ条文にしようかと思いましたが、少し付け加えたりしました。
ネタで「先ほど皇帝である私に対して攻撃したようだが宣戦布告ととらえてよろしいかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」「聞く耳持たん!」「(捕虜)」
というのも考えましたが、当然続くはずないので即却下しました。
やっぱり独自でストーリー作っちゃうとアニメの展開がことごとく潰えそうなのである程度はアニメ基準でとこどころ変えるといった感じにします。
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第十四話 大統領救出作戦前
春休みの宿題があまりにも多くて各時間がありませんでした。
春休みに宿題大量とかマジF○CK
俺は今南門付近にいる。
情報収集のための捕虜を選んでいるのだ。しかし、さっきからハミルトンが条約書をずーと見ている。何か不備でもあったのか?
「ハミルトン殿、何か不備でもありましたか?」
「い、いえそうではなくっ・・・」
まぁこの世界じゃ破格と言っていいほど譲歩してるからな、こっちは。駐留軍だって厳しく制約を決めて停戦範囲内での防衛と治安維持だけを任務としている。本来なら武力制圧だからな、こっちの世界では。
その後5人連れて行く捕虜を選んで輸送ヘリに乗せた。捕虜は女性が4人男性が一人だ。復興には男の方が必要だろうし、正規兵でも略奪や殺戮をする時代だ、女性を置いておいたら何をされるかわからん。
「さて、我々も帰りますか」
第一航空騎兵団を見送りながらおやっさんが言った。
倉田が”御嬢さんたちは?”と尋ねてきたので本来の目的を遂行中と答えた。
「あ、それが目的でしたね」
ああ、おやっさんの言うとおりだ。鱗売るだけのはずが、いつの間にか戦闘に巻き込まれて条約まで結ぶことになってしまった。帰ったらハイドリヒに説教されるんだろうなぁ・・・。
・・・・・・・・・・・・・
「はぁ早く帰って寝たい・・・」
「俺もさすがに疲れましたよ」
商談を終えたレレイ達を乗せて我々はイタリカを出た。恐らく半日ぐらいでアルヌスに着くだろう。
「ふぁ~あ・・・ってグハッ」
あくびをしていると突然車が急停車した。
「倉田止まる時ぐらいは言ってくれ!」
俺は体を起こすと倉田に軽く怒鳴った。こちとら疲れてるんだ、少し丁重に扱ってくれないか。
「隊長、前方に煙が見えます」
俺はその瞬間逃げ出したくなった。
今回で煙を見るのは3回目、それも1回目2回目とこと如く厄介ごとに巻き込まれている。二度あることは三度あるといわれているように今回もどうせ厄介ごとに巻き込まれる可能性が高い。
つまり、今は早急にあの煙から離れることが先決だろう。
俺はそう考えると倉田に前進命令を出そうとした。が、一応確認だけはしてみるかと双眼鏡を構えた。倉田も双眼鏡を構えている。
「煙が邪魔でよく見えんな・・・」
「ん?・・・ティアラですっ」
「ああ、ティアラね、ってティアラ!?」
「金髪ですっ」
「金髪?」
「縦ロールですっ」
「縦ロール!?」
「目標、金髪縦ロール1、男装の麗人1、後方に美人多数っ!」
倉田が超真面目に報告してきた。あの煙は騎馬に乗っているからか。もしかしてピニャ皇女の言っていた薔薇騎士団か?
そんなことを考えている間に騎馬隊が近づいてきた。
『総員警戒しろ』
シェーンコップが銃を取り出しつつ言う。
「総員敵対行動は避けろよ?条約違反になりかねん」
俺自身も念のためにデザートイーグルを取り出した。
男装の麗人がおやっさんを問い詰め始めた。”どこから来たのか””どこへ帰るのか”そんな感じだ。おやっさんも正直に答えている。
「貴様っ!異世界の敵か!」
「閣下、第一航空騎兵団に連絡したところ、我々を護衛していた戦闘ヘリ2機を向かわせるとのことです」
「いや、下手に刺激するとまずい。ヘリには十分に離れたところで待機するよう伝えろ」
「はっ」
俺はシェーンコップに指示を出すと車外へ出た。シェーンコップが驚きながら付いてきた。
「申し訳ない、部下が何かいたしましたかな?」
俺はおやっさんの胸元を掴んでいる金髪縦ロールに話しかけた。
「降伏なさいっ!」
騎馬に乗っている男装の麗人が首元に剣先を突き付けてきた。
「くっ、まぁ話せばわかr「お黙りなさいっ!」ぐっ」
俺が冷静に話し合いを提案しようとすると金髪縦ロールが平手打ちをかましてきた。その瞬間シェーンコップが銃を抜いた。
「ま、待てっ!とりあえず今は逃げろっ!」
俺は隊員達を制止させて離脱を指示した。隊員達も一応上官からの命令なので渋々従ってあっという間に走り去っていった。残されたのは俺とシェーンコップだけだ。まぁ正直この人数であれば二人でも容易に制圧できる。が、こんな中世の時代だ。下手に敵対行動を取ればあの姫さんが条約違反だ何だと言ってくるかもしれん。下手をすれば戦争だ、それだけは回避しなければ。
俺とシェーンコップは素直に両手を上げて降伏した。
■
第三偵察隊はペルシャールとシェーンコップが捕まった後、桑原の指揮の元再びイタリカ近辺まで戻っていた。大統領拘束されるの報は直ちに特地派遣軍司令に伝えられ、直ちにハイドリヒの直接指揮の元帰還途中の第一航空騎兵団の一部及び一個機甲師団が既にイタリカ周辺を包囲していた。無論下手に荒立てると大統領が殺される危険もあるため、相手に気づかれないよう隠密行動である。そんな中第三偵察隊はその名の通り崖の上でイタリカの偵察を行っていた。
「隊長、もう死んでたりして」
「縁起でもないこと言わないで下さいよ・・」
「だって連れてかれる途中随分ひどい目に遭ってるし・・」
ペルシャールとシェーンコップがイタリカに連れて行かれる道中は待機していた戦闘ヘリによってモニターされていた。それを見ていた将兵たちはあまりの惨さに”直ちにイタリカに攻め入り大統領にした行いをそのまま100倍にして返してやれ”と高らかに謳い合ったほどである。
・・・・・・・・・・・・
その頃イタリカの伯爵邸では薔薇騎士団の隊長であるボーゼスと第二部隊隊長のパナシュがピニャに報告を行っていた。
「なんてことをしてくれたのだ!!?」
ピニャはそう怒鳴りつけるとボーゼスに持っていた杯を投げつけた。杯はボーゼスの額に当たり、血が流れて顔には注がれていたワインが飛び散った。
「・・え・・・?」
ボーゼスはいきなりことで理解できなかったようで、呆然とその場に座り込んだ。
「ひ、姫様!?我々が何をしたというのです!?異世界の軍の指揮官を捕虜にしたのですよっ!?」
パナシュはボーゼスの顔に着いたワインや血を拭きながら尋ねた。
「分からんかっ・・・?」
ピニャはそういうと顔を俯けながら横の壁を見た。そこにはペルシャールとシェーンコップが座り込んでおり、後者は何とか意識を保っているものの、前者は完全に意識が飛んでいてわけわからんことを呟き続けている。
「ミースト殿!!ワルター殿!!」
ハミルトンが必死に呼びかけるが、片方は意識が飛んでいてもう片方は意識は保っているものの疲労困憊で声が出ることはなかった。
それもそうであろう。この世界では捕虜に人道的な扱いなどない。捕虜に関する法律もなければ条約や協定もない。つまりただの物である。自陣まで徒歩で連行させ、止まるものがいれば鞭で叩いたりやり先で背中を軽く刺して無理やり歩かせる。他にも殴るけるなんかは普通である。そんな扱いを受けたのだから意識が飛んでいるのも疲労困憊なのも当然であろう。
ピニャはそれを考えただけで身震いした。彼女は今回の件で条約を破棄されるのではないかと恐れたのだ。いまこうして座り込んでいる二人もイタリカ防衛線では一人で軽く100人並の働きをしている。そしてその後ろには一瞬で自分たちを滅ぼすことが出来る兵器を大量に保有しているロンディバルト軍がいる。彼らと戦えば結果は火を見るより明らかだ。
自分たちは全滅してそこから雪崩のように帝国をも巻き込み滅ぼしてしまうかもしれない。
ピニャは少し考えるとまた身震いした。今度は全身が震えている。
「姫様!何故我々をお叱りになるのですか!?納得のいく説明をしてくださいっ!」
ピニャはパナシュに言われると呟くように話し始めた。
盗賊によって劣勢に立たされていたピニャ達にペルシャール率いる第三偵察隊と第一航空騎兵団が加勢し、盗賊を一瞬で薙ぎ払った。
説明が終わるとボーゼスとパナシュはようやく自分たちが何をしてしまったのかを理解した。そして直後に身震いした。ピニャと同様全身がである。
ピニャはそんな二人を部屋から退出させ、ペルシャールとシェーンコップの両名を客室へ運ばせると今後の事について考え始めた。
「結んだその日に条約破りとは・・・」
ピニャは玉座に座ると頭を抱え込んで必死に考えた。
「これを口実に戦争を吹っかけるというのが帝国の常套手段ではありますが、彼等が同じことをしないとも限りませんな」
二人を見送ったグレイがピニャに話しかけた。
「そうなったら滅ぶのは我らだ・・」
「ですが幸いなことに此度は死人が出ておりませぬ。ここは素直に謝罪されてみては如何でしょう?」
「妾に頭を下げろというのかっ?」
「では戦いますか?あの者たちと」
「うっ・・・」
ピニャはその後も頭を抱え込んだままだった。
・・・・・・・・・・・
「今っなんて言ったの!?」
イタリカの偵察を続けていた中の一人である栗林が驚くように言った。
「隊長ならたぶん大丈夫だっt「その後よ!!」」
「ああ見えてあの人、白兵戦特一級持ちだから」
「なっ!!?」
栗林が驚くのも無理はないだろう。白兵戦特一級はロンディバルト軍でも持っている者が非常に少ない、いわば白兵戦のプロの証なのである。
ちなみにこの証を持っているのはペルシャールのほかにシェーンコップや陸軍元帥ゲルダント・グリッセル、第八SS特殊任務連隊(通称スペツナズ)連隊長アリスタロフなどがいる。
ちなみにこのさらに一つ上があり、白兵戦特S級と呼ばれる。
「そ、そんなのありえない・・・勘弁してよぉ~・・・」
「ミーストがそれを持っていたらいけない?」
「だって、柄じゃないのよねぇ!地獄のような訓練過程を潜り抜け、鋼のように強靭な肉体と精神でどんな過酷な任務でも遂行可能な人、それが白兵戦特一級!あんな人には似合わないものなのよぉっ!」
栗林が喚いてる中、野戦司令部ではハイドリヒと健軍少将といった数人の部隊指揮官が会議をしていた。
「閣下!こうしている間にも、大統領の生命が危機に瀕しておるのですぞっ!」
第六機甲師団長のアヴジュシナ・ヴェネジクト少将が仮設テーブルに拳を叩きつけながらハイドリヒに迫った。
「落ち着けヴェネジクト少将、指揮官が焦っては兵士たちに悪い影響が出るぞ」
健軍は腕を組みながらヴェネジクト横目で睨んだ。せっかくの出撃の機会を無駄にしたくないヴェネジクトは必死にハイドリヒに訴えるが、ハイドリヒ自身がそれを制止させて口を開いたためすぐに引き下がった。
「ローゼンカヴァリエ連隊の方は?」
「準備完了しております」
そう答えたのはローゼンカヴァリエ連隊副連隊長であるアルベルト・ディートヘルム中佐である。
「うむ、作戦を説明する」
その言葉に各指揮官が自然と姿勢を正した。
「本作戦の第一目標は言わずともわかるだろうが大統領及びシェーンコップ中将の救出である。よって、少数精鋭の部隊で潜入し両名を救出、他部隊の掩護の元離脱する」
ヴェネジクトは今回も出番なしかと顔をしかめた。
「ヴェネジクト少将、卿は第六機甲師団をもって敵の注意を逸らしてもらいたい」
「敵の注意を逸らす、ですか?」
「そうだ、戦車や自走砲で突撃の真似事をするもよし空砲を断続的に発射するもよし、運営は卿に任せる。ただし、実際に攻撃はするな」
「・・・承知」
ヴェネジクトは渋々承諾した。
「我々は待機ですか?」
話しが終わったのを見ると健軍が問いかけた。
「第一航空騎兵団は上空で踊ってもらいたい」
「踊るですか、了解しました」
健軍は一瞬ハイドリヒの言っていることが分からなかったが、すぐに理解して返答した。
「では、作戦発動は20分後だ。各自準備をしておけ」
「「「はっ」」」
指揮官たちはすぐに司令部を出て自分の部隊へ向かった。
ハイドリヒはたき火の灯るイタリカをじっと見つめた。
大体アニメと同じような感じですね。
あとヴェネジクトはただのオリキャラです。これからも結構出るかも・・?
あとスペツナズはロンディバルト民主共和国の領土が元々ロシアとかのユーラシア大陸だったのでロシア・中国・日本辺りが主だからです。軍隊とかはそのまま引き継いだという設定で・・・(手抜き解釈
まぁてことは某段差登れない戦車とか某暴発する銃とか某浸水艦とかも引き継がれちゃってるんですよね(白目
それはそれでヤヴァそう(小並感
逆に今は亡き君主制連合は某チート国家とか某紅茶国家とか某元チョビ髭さんの国家とか某パスタ国家とかが主です。普通だったら反対じゃね?と思われるかもしれませんが、これは作者がロシア人とか日本人名とか使いたかっただけです。(なお7割ゲルマン系の名前の模様
圧政に苦しんだ国民が亡命してきたとでも考えてくださいな・・・。
長々と関係ない話を書いてしまいましたが、これでもよければご意見や感想、評価等よろしくお願いいたします<m(__)m>
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第十五話 大統領救出作戦
・誤字修正及び第六機甲師団の編成を二個の機械化歩兵大隊からにこの機械化歩兵”連隊”に修正しました。
「戦車部隊は砲撃演習の真似事をやったりイタリカに突撃する構えを見せるなどして兵士たちの意識を完全ににこちらに向けさせた」
を
「戦車部隊は砲撃演習の真似事をやったりイタリカに突撃する構えを見せるなどして兵士たちの意識を完全に”城外へと向けさせた”」
に変更。
「なんでも先代の当主が開明的な人物だったようで」
を
「なんでも先代の当主が開明的な人物”だったそうで”」
に変更
6/11
最初の各戦車部隊長のセリフが連隊のままになっていたので、修正しました。
「第一大隊、panzer vor!!」
「第二大隊、go a head!!」
「第三大隊、Танки вперед!ypaaaaa!!」
「第四大隊前進!!」
「第五大隊、Carri armati avanzano!!」
「第六大隊全車、吶喊っ!!」
既に日は落ち、イタリカが漆黒に包まれた頃、ロンディバルト軍は作戦を開始した。
第六機甲師団は五個の戦車大隊と二個の機械化歩兵連隊で構成される特別編成部隊である。各戦車連隊はそれぞれドイツ・アメリカ・ロシア(ソ連)・イギリス・イタリア(パスタ)・日本(大日本帝国)の出身者で構成され、車両は
ドイツ
Ⅵ号重戦車ティーガーⅠ・Ⅴ号中戦車パンターG型・Ⅵ号重戦車ティーガーⅡ・Ⅴ号駆逐戦車ヤークトパンター・Ⅳ号駆逐戦車ラング・重駆逐戦車ヤークトティーガー
アメリカ
M4A1シャーマン中戦車・シャーマンVCファイアフライ
ロシア(ソ連)
T-34/85中戦車・T34/76中戦車・JS-2重戦車・KV-1ギガント重砲兵戦車
イギリス
チャーチル歩兵戦車Mk.VII・マチルダII歩兵戦車Mk.III/IV・クルセイダーMk.III
イタリア(パスタ)
P40・セモベンテM41・カルロ・ヴェローチェCV33
日本(大日本帝国)
九七式中戦車・九五式軽戦車
上記の車両を開発部が一から設計しなおして完全再現した「WWⅡシリーズ(戦車ver)」である。第一から第三大隊が主力部隊となり、第四大隊が機械化歩兵の随伴、第五第六大隊が快足を生かした偵察及び攪乱を行う。実にバランスの良い編成である。
そんな第六機甲師団の各戦車大隊はそれぞれ「パンツァーリート」「アメリカ野砲隊マーチ」「カチューシャ」「ブリティッシュ・グレナディアーズ」「フニクリ・フニクラ」「雪の進軍」を大型のコンポで音量を最大にして流しつつイタリカ周辺を土煙を上げながら走り回っていた。
「な、何事だ!?」
「夜襲か!?」
突然のことに城壁の兵士たちは動揺し、敵の襲撃かと非番の兵士たちも城壁に集まった。
戦車部隊は砲撃演習の真似事をやったりイタリカに突撃する構えを見せるなどして兵士たちの意識を完全に城外へと向けさせた。
兵士たちは弓を構えて応戦しようとするが、その瞬間トラウマを甦らせるあの音が上空から聞こえてくる。
「全機散開!」
第一航空騎兵団のメインローターの音である。
上空ではつい数時間前に盗賊相手に猛威を振るった”鉄の天馬”、そして後にピニャによって名づけられる”鉄の象”。兵士たちは恐怖に陥った。あれが火を噴けば自分達など一瞬にして葬り去られる。民兵ばかりか正規兵もその手に持った槍や剣をその場に落とし、完全に戦意を喪失した。
第六機甲師団がイタリカ周辺で陽動を行っている頃、ローゼンカヴァリエ連隊第一中隊と第三偵察隊の一部メンバーはイタリカ南門から城内へと侵入を果たしていた。
「城門クリア」
「よし、本当によく眠っているな・・」
副連隊長のディートヘルムは城壁付近に座り込んでいる帝国兵たちを見ながらつぶやいた。
これはテュカが使った眠りの魔法によるものである。
「第三小隊は城門で待機しろ。残りは続け」
■ペルシャール・ミースト
俺は今ベッドにいる。そしてその周りには5人のメイドがいた。
俺が起きるとピニャ皇女と話してた時に控えていたメイド長が謝罪してきた。なにやら”報復する野であれば力を貸す所存、しかしミュイ様には矛先を向けないで頂きたい”とか言ってる。普通に聞いたらただ謝ってるように見えるが、要するにピニャ皇女を含めて町を攻撃するのなら力を貸すから伯爵皇女だけは手を出さないで、ということだ。結構このメイド長怖いこと言うな。政治家にでもなったほうがいいんじゃないか?
俺がそんなこと考えているとすぐ横から聞きなれた声がした。
「閣下、こう言っていますからこのままイタリカを占領してみてはどうです?」
シェーンコップがついて来たことを今思い出した。それにしても町を武力占領?
まぁ今こちらに向かっている機械化歩兵大隊でも十分制圧可能だが。その後の統治が心配なんだよなぁ。下手すると民間人まで帝国につきかねん、今はやめておいた方がいいだろう。とりあえず人心掌握を行った後だな。それもあまり時間はかからんだろう。とりあえず物資を恵んでこちに来れば生活が豊かになるし安全安心だよと言えば大半はこちら側に流れるだろう。
それにしてもシェーンコップ、さっきからヘラヘラと笑みを溢しやがって、ご主人様って言われる度にどんどん笑みが凄くなってきている。
ていうかこれからどうしようかな。たぶん今頃ハイドリヒが救出作戦を考えてるだろうし、今はこのまま寝てるか。さっきの騎士団もピニャ皇女にお叱りを受けてるみたいだし、危険はないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・
暫くするとメイドの中の二人が何かを感じ取ったのか部屋を出て行った。
「あのー今の二人は?」
俺が質問するとメイド長が教えてくれた。
どうやら今の二人はマミーナとペルシアというようで、ヴォーリアバニーキャットピープルなんだそうだ。ちなみに髪の毛が蛇になっている子はアウネラで、黒髪の子は人種でモームという名前だった。
なんでも先代の当主が開明的な人物だったそうで、人間至上主義だった帝国では珍しく亜人を積極的に雇用していたらしい。この世界にも人権差別があるのか・・・こりゃまた面倒だな。
数百年の間これなのだからそう簡単には解決できなさそうだ。
10分ほどすると扉が勢いよく開かれた。
「閣下!連隊長!よかった、ご無事でしたか・・」
入ってきたのはローゼンカヴァリエ連隊の副連隊長であるディートヘルムだった。後ろには見慣れた隊員が幾人も居た。周囲を警戒しつつも、俺たちが無事なことに安堵しているようだ。
「あ、別に彼女たちを拘束する必要はないぞ。彼女たちは帝国側じゃない」
メイドたちを拘束しようとする隊員達を手で制し、銃を下すように言った。隊員達は困惑しつつも武器を納めた。
その後第三偵察隊のメンバーも到着し、なぜか文化交流会が開催されてしまった。
倉田は念願の猫耳娘のペルシアさんに会えて興奮してるし、栗林は先の戦いの事をマミーナさんに賞賛してもらってるし、レレイはアウネラさんの蛇に興味津々。テュカはモームさんに服の事を尋ねられている。メイド長のラムさんはエムロイを崇拝しているようで、ロウリィに笑顔で迫っている。
「なんだか和んじゃってるな」
「急いで脱出する必要はなさそうですな」
「後で第三小隊の奴らもつれてきましょう」
「なぁディートヘルム中佐、偵察用のカメラ持ってないか?」
「持っていますが・・記念撮影でもするんですか?」
「ああ、いい機会だ記録に残しておこう」
俺はみんなに記念撮影することを伝え、なぜか俺のベッドを中心に集まった。
カメラに三脚をつけ、自動撮影モードにして写真を撮った。
取った後は文化交流会が再開された。今度はみんながカメラに興味津々だ。栗林は小型携帯を見せて説明をしている。
いやー実に楽しそうで何よりだ。後でハイドリヒには連絡しておこう。
俺は楽しそうに喋っている皆を頬杖をしながら見回した。
たまにはこういう時間もいいな・・・。
最初のシーンで「あ」と思った人は映画を見た人でしょう。(何のとは言わない
あの多国籍部隊、数さえ合えば結構バランスの良い編成なんですよね。
まぁあれが分からない方はペルシャールとか開発部が趣味で作ったとでも考えてくださいな・・・。
ご指摘や意見、感想お待ちしております。
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第十六話 帰還
・「あー申し出は嬉しいが、本国から特地の件で」を「あー申し出は嬉しい”のです”が、本国”で”特地の件で」に変
・最後の「テントが張られていた」のシーンで書き忘れがあったので加筆修正
「”緊急用避難テント”」
4/18
・「ディートヘルムがとっさに大統領の前に」
を
「ディートヘルムがとっさに”ペルシャール”の前に」に修正
7/17
誤字脱字を修正しました
ペルシャールの一行は、その後5人ほどのメイドが新たに加わり和気藹々と交流を楽しんでいた。
しかしそれはその数分後幕を閉じることとなった。
「・・・な、閣下!!」
メイドから受け取った水を飲んでいたディートヘルムがとっさにペルシャールの前に立ちふさがった。
ディートヘルムの前には金髪の女性が顔を真っ赤にして平手打ちの構えをしていた。
彼女はすぐにそれに気が付いたローゼンカヴァリエの隊員が捕えて動きを封じた。その間に他の隊員も銃を構えて入口や窓を警戒していた。
「・・・騎士団の隊長・・だったか?」
ペルシャールは突然のことに驚きつつも金髪の女性の顔をうかがいつつ小さく口にした。
「・・・・」
その女性はペルシャールの言った通りバラ騎士団の隊長であるボーゼスであった。しかしいつもの服装ではなく売春婦の様な服か下着かわからぬほど露出度の高い服を纏っただけである。
ペルシャールはため息を吐くとベッドから出てピニャのいる大広間に向かった。
「・・・何か、あったのか?」
大広間にはピニャとグレイが会話していたが、ペルシャール一行が来たときに驚きつつ、拘束されているボーゼスを横目に尋ねた。
ペルシャールはそれに答えるように説明を始めた。説明が進むにつれてピニャの顔は徐々に真っ青になっていった。
説明が終わると同時にピニャはその場に泣き崩れた。
「この始末・・どうしてくれよう・・・」
ピニャは頭を抱えて頭をフル回転させた。
「我々は朝にはここを出発しアルヌスへ帰還します。今回の事は・・・そちらですべて決めてください」
ペルシャールはこれ以上厄介ごとに巻き込まれたくない一心だったため、できるだけ関わらないようにした。
「勝手に決めて良い、と」
ペルシャールのそばにいるレレイが有ってるようであってない翻訳をした。
「そ、それは困る!そうだっ朝食を一緒に摂ろう!!そしたら考えもっ!」
「あー申し出は嬉しいのですが、本国で特地の件で説明を行うことになっておりまして」
「ミーストは元老院に報告をしなければならない、と」
「げ、元老院!?」
ピニャは元老院という単語に敏感に反応した。ピニャは今回の不手際を元老院に報告し、帝国を攻め滅ぼそうとするのではと考えた。
「だから急ぎ戻らねばならない」
「ま、待ってくれ!!」
ピニャはレレイの翻訳が終わる前にペルシャールに歩み寄って行った。隊員達も警戒して銃に手をかけている。
「では、妾も!妾もアルヌスに道々させてもらおう!!」
「は!?」
「このたびの条約違反、ぜひ上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。よろしいな?ミースト殿」
ペルシャールはこの時一つ失念していたことを思い出した。ピニャに自分が異世界の国の長だと伝えていなかったのである。ペルシャールはやってしまったと思いつつも、ピニャの顔を見て断わるわけにもいかず、条件付きで同行を許可した。随行員はピニャ自身を含めた二人のみ、武器の携帯は禁止、この二つである。
ピニャは二つ返事で承諾し、すぐさま準備のために自室へと走り去っていった。
ペルシャールは面倒だな、と思いつつ大広間を出た。
ペルシャールの一行は日の出と同時にピニャと随行員ボーゼスという荷物を乗せてイタリカを出発した。南門から城外へ出ると、上空には5機の戦闘ヘリ、前後左右には計40台の機甲部隊が周囲の警戒を厳にしつつ追従した。
「鉄の天馬に、鉄の象・・まさしく異世界の怪物・・・」
周囲を囲んでいる戦車部隊を窓越しに見たピニャは声を震わせながら呟いた。
「!?殿下!アルヌスです!」
「もう着いたのか!?なんという速さだ・・・」
ピニャはあまりの速さに唖然とした。半日どころかたった二時間程度走っただけでアルヌスの丘に到着である。
「あの杖・・ロンディバルト軍の兵は皆魔道士なのか?」
平原で行われている射撃訓練を見たピニャは疑問を口にした。
「あれは魔導ではない。銃、あるいはライフルと呼ばれている武器」
その疑問にレレイが答えた。
「武器だと!?」
ピニャが驚くのも無理はない。帝国では銃はおろか火薬を使った兵器は何一つ開発されていないのだ。無論大砲なんてものも存在しない。
「原理は簡単。鉛の弾を炸裂の魔法で封じた筒で弾き飛ばしている」
「それをすべての兵に持たせているというのか・・」
「そう、ロンディバルト軍はそれを成し銃による戦い方を工夫して、今に至っている」
「戦い方が・・・根本的に違う」
「だから帝国軍は負けた」
レレイは表情が買えずに言い放った。その一言がピニャに鋭く突き刺さる。
「なぜ・・こんな連中が攻めて来たのだ・・・?」
「帝国は鷲獅子の尾を踏んだ」
「帝国が危機に瀕しているというのに、その物言いはなんですか!!」
ボーゼスがレレイに対して怒鳴った。
「私は流浪の民。帝国とは関係ない」
レレイは平然と返した。
「さっきから聞いてましたが、帝国とは攻め込む覚悟はあっても攻め込まれる覚悟はないのですか?それもそちらから攻めてきて”なぜ攻めてきたのだ”など、冗談も大概にしていただきたいですね」
ペルシャールの言葉にピニャは沈黙した。それをミラー越しに見たペルシャールはふっとため息をつくとアルヌスの方に目を向けた。そこには数えきれないほどのテントが張られていた。
”緊急用避難テント”
テントにはそう書かれていた。
アニメでのピニャ皇女ってとってもお気楽なんですよね、帝国の方から攻めたの知ってるはずなのになんで攻めてきたのって・・そりゃ報復するために決まってるでしょうに・・・(呆れ
てか書いてたらニュースが騒いでました。なんだろうと見たら「九州で震度七」とか表示されてファ!?ってなりました。九州の方に住んでる読者の方がいらっしゃいましたらご無事なことを祈るばかりです。
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第十七話 会談前
「で、外に並んでいるテントは?」
「難民用の仮設住居です・・」
予測していたことが的中してハイドリヒは深い溜息を吐いた。俺も今同じことをしているだろう。
アルヌスに帰投して、見てみれば城壁の近くにはテントが所狭しと犇めき合っていた。それで代理でアルヌスの基地管理の任せていた柳田を問いただしてみたらこの通りと言う訳だ。
「ちなみに難民の数は?」
「現在約、六千人です」
その数を聞いた途端俺は会議室を出たくなった。現在六千人だとしても、難民とは増えることはあっても減ることは滅多にないのだ。たった一日で六千人ということは1週間もあれば軽く4万人は超えるだろう。そんな数をここで養うなど困難極まりない。
独裁国家であれば適当に”処理”できるだろうが、あいにく我が国は民主主義国家なので民間人を虐殺すること等できない。
「現時点では住居や生活物資、食料など必要最低限の量は供給できていますが、1万人を超せば追加物資を要請しなければ到底賄いきれません」
「・・・仕方ない、本国に仮設住居と生活物資、それと食糧を追加要請しよう」
俺がそういうと柳田はほっと溜息をついた。
「ああ、そうだ。ちょうど良い、今回の事も良い経験になるだろう。頑張ってくれたまえ」
俺はそう言いながら柳田の肩をポンと叩くと、会議室をを出た。あえて柳田の顔は見なかったが、多分何を言ってるんだという表情だろう。あと数十秒で気づくだろうが、その間に俺は会議室からできるだけ離れる。途中ハイドリヒが”自業自得”と呟いたが、一応柳田はお前の部下だぞ?部下の失敗は上司が背負うという言葉を知らんのか?
まぁそんなこと言っても無言で無視されるだけなので俺も聞き流した。
その後ピニャ皇女を待たせていたことを思い出し、俺はハイドリヒとともに急い来賓室に向かった。
■ピニャ・コ・ラーダ
アルヌスの丘に着くとミースト殿はすぐにどこかへ行ってしまった。せっかくの説得の機会を逃したことは痛いが、まだ挽回できる。いや、挽回しなくてはならない。
いま彼らと関係を作らなければ我らは滅びるのだから・・
あの後シェーンコップ殿が客間に案内してくれた。どうやらミースト殿は外にあるテントというものの件で少し話しているそうだ。テントとは簡単にできる住居的なものらしい。
「待たせて申し訳ありません」
10分ほど出された紅茶を飲んで待っていると、部屋の扉があいてミースト殿ともう一人男が入ってきた。その男はこちらを冷酷な目で見つめてきた。あまりの冷たさにこっちまで凍りそうだ。
私とボーゼスは立ち上がって二人に礼をした。
「どうぞ、お掛け下さい」
ミースト殿の言葉を聞いて私たちは座った。
ミースト殿の横にいるのがロンディバルト軍の指揮官なのだろう。随分と厄介そうな相手だ。二人だけで交渉が出来るだろうか・・・。
「こちらは特地派遣軍のラインハルト・ハイドリヒ副将」
この男が副将?ではミースト殿は・・・。いやな予感がした。
「そしてこちらがペルシャール・ミースト皇帝」
やはり・・ん?今なんといった・・?ペルシャール・ミースト”皇帝”?
皇帝、だと・・・?
そんな、私は今までロンディバルト国の皇帝に無礼にも平然と話しかけていたのか・・?
私は今までこの男にどう話してきた?敬語を使った?いや、使っていても形だけのもの、高圧的な態度だっただろう。
では皇帝として相応のもてなしをしてきた?いや、もてなすどころか何度無礼を働いた?挙句の果てに全身に傷を負うほどの重傷を負わせている・・。
だめだ、今更頭を下げたところでどうにかなる問題ではない。ではこれからどうなる?帝国は?民は?イタリカは?妾は?
・・一体どうなるのだ・・・?
今回はだいぶ短いです。申し訳ありません(´;ω;`)
ちなみにペルシャールが”皇帝”となっていたのはレレイ翻訳的にそれが現状で一番ピニャに対してわかりやすい表現だったからです。まぁこの時代皇帝とか国王とかしかいないので、たとえ大統領が1国の長であると理解できても「神様的存在のミースト殿に」という思いは変わらないでしょう、前国家君主制かせいぜい立憲君主制ですから民主共和制なんて知りませんからね。
あとおまけで前々に言われていた武器の紹介をします。もし新たに登場することがあったらその度にあとがきに記載します。
「H3A1」
種別: アサルトカービン
口径: 5.56mm
銃身長: 370mm
使用弾薬: 5.56mmNATO弾
装弾数: 30発
全長: 840mm
重量: 2120g(弾倉除く)
発射速度: 750-900発/分
有効射程: 約700m
コルト・ファイヤーアームズ社が製造しているM1カービンをベースに、ヘルク・ファン・ルメーン社が開発、製造したロンディバルト軍の標準ライフル。M1をベースにしているため、いたるところにM1の名残が残っている。多数の派生型もあり、アクセサリーも数十種類存在する。
5.56mmNATO弾を使用しているのは建国当時から新たに統一しようとして失敗しているため、現状維持が暗黙の了解とされているためである。
ちなみにH3A1とは”ヘルク・ファン・ルメーン社製の第三世代のA型第一モデル”という意味である。
「H160」
口径: 5.56mm
銃身長: 450mm
使用弾薬: 5.56mmNATO弾
装弾数: 150発又は200発
全長: 1080mm
重量: 6.7kg(弾倉除く)
発射速度: 760-820発/分
有効射程: 約800m
支援火器として、また歩兵との弾薬共有を可能にするために開発、製造された、ヘルク・ファン・ルメーン社製の軽機関銃。それまで使用されていたH140は弾薬が7.62mmと5.56mmに比べ貫通性破壊性の強いものだったが、歩兵と弾薬共有が出来ない点や、反動過多により扱いが難しかったため、ロンディバルト軍では順次こちらへの更新が行われている。
「FA190」
口径: 9mm
銃身長: 120mm
使用弾薬: 9mmSHK弾
装弾数: 13発
全長: 210mm
重量: 890g(弾倉除く)
有効射程: 約120m
フォーケン・アイラント社製のロンディバルト軍の標準自動拳銃。第二のベレッタと言われるほど使い勝手が良く、警察を始め憲兵隊といった多くの法執行機関で使われている。
ちなみに使用弾薬である9mmSHKの「SHK」とはこの弾薬の製造元であるシャーミング・ハインツ・カエステオ社の略である。
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第十八話 会談
「そしてこちらがペルシャール・ミースト皇帝」
ハイドリヒの紹介が終わると今度はレレイが俺を改めて紹介した。しかし俺が皇帝?シェーンコップは今笑っているだろうな。後ろにいるから確認できないが。
ピニャ皇女の顔を見ると真っ青になった絶望したような表情が目に入った。
散々こっちに高圧的な態度を取ってきたんだ。少しは肝が冷える思いでもすればいいんだ。本題に入るとするか…、小芝居の始まりだな。
■
話しが終わったのは30分後の事であった。その中でロンディバルト民主共和国とピニャの間で以下のような取り決めがなされた。
一、イタリカを含むフォルマル伯爵領をロンディバルト民主共和国の占領地とし、同地
の防衛及び治安維持は同国の軍隊がそれを担う
二、伯爵領の政治はロンディバルト民主共和国の合意の上で行うこと
三、フォルマル伯爵領はロンディバルト民主共和国の軍政両面での介入及び協力を拒否
してはならない
四、フォルマル伯爵領ではロンディバルト民主共和国の法律が適用される。よって伯爵
領内の人権や私財は同国の法律によって保障される
五、ロンディバルト民主共和国を後見とするアルヌス協同組合がイタリカを含む伯爵領
と行う貿易等によって発生する必要経費の全てを免除し、必要であれば最大限の協
力をすること
六、現当主であるミュイは11才であり、ロンディバルト民主共和国の法律では義務教育
の対象であるため、同国より派遣する教育員によって教育を受ける義務がある
以上が主な内容である。
当初ピニャはこれに反対したが、ペルシャールはその度にその強大な軍事力をチラつかせ、強引に話を押し通したのであった。このことについて後にマスコミや反大統領派から非難が来たが、国民のほとんどは帝国に対して大小あれども怒りを持っており、大多数がこれを支持したため、彼らはその口を閉ざすしかなかった。最もペルシャールはただ説得するのが面倒くさかっただけであった。
「さて、では次にピニャ皇女、貴方の処遇について決めていきましょうか」
ペルシャールのその言葉にピニャは身構えた。
「私と致しましてはこのままフォルマル伯爵領に留まり、我が国との仲介役を務めていただきたいと思っているのですが…」
「…つまり帝国を裏切れというのか?」
ピニャは低い声で言ったが、ペルシャールは怯みもせずに続けた。
「率直に言えばそういうことになりますね。まぁ帝国に帰るといっても、ただで返す気はありませんが」
その言葉に随伴員のボーゼスは隠し持っていた剣を抜こうとした。しかしそれをピニャが手で止めた。
「抜いて頂いても構いませんよ。そこに控えているシェーンコップを倒すだけの自信があればの話ですが」
シェーンコップの強さをよく知っていたボーゼスは渋々手を剣から離した。それを見たペルシャールは”抜いてくれればそれを理由に捕えられたんだけどな”と内心残念がった。
「ピニャ皇女、私はただでは返さないと言ったのです。条件を飲んでくだされば帝国に返して差し上げましょう」
「その条件とは?」
ペルシャールは内心かかった!と思いつつ続けた。
「現在勢力を拡大している講和派と共に主戦派を説得して頂きたいのです」
「説得…?」
「ええ、主戦派を説得して講和への道を進めていただきたい」
「講和…」
ピニャは呟くように言った。
「もし飲んでいただけるならすぐにでも帝国に帰還できます。もし拒否するというのであれば…そうですね、軟禁させていただくことになるでしょう」
これは受けるしかない。そう思ったピニャはすぐに同意した。ピニャは会談終了後すぐに帝国へと帰還した。途中まで第一航空騎兵団のヘリが送迎したのである。
ピニャはこれで帝国を救う道が開けたと考えていたが、これには裏があった。
ペルシャールはピニャにあまり期待はしていなかった。もしピニャが主戦派を説得して講和できればそれでよし。その後ゆっくり人心掌握を行い最終的には帝国そのものを崩壊させ、それを理由に制圧しようと考えていた。
説得に失敗したらピニャに交渉能力なしとして切り捨て、当初の計画通り帝国に電撃的に侵攻し制圧するつもりだったのである。
つまりピニャが説得に成功しようがしまいが結局のところ帝国が滅ぶことに変わりはなかったのである。変わりがあるとすればピニャ自身が生きているかいないか、その程度であった。
そして帝国制圧後に重要になるのがフォルマル伯爵領である。ペルシャールは帝国を滅ぼした後、フォルマル伯爵領を特地特別政府として機能させるつもりであった。異世界をゲート越しに統治していくのは難しく、問題が発生した際迅速な行動を行うことは困難である。そこで同地に同地の人間を主とした政府を成立させ、裏でそれを制御しようと考えたのである。
「ハイドリヒ長官」
「はっ」
ピニャを乗せたヘリを見送りながらペルシャールはハイドリヒに話しかけた。
「帝国電撃制圧作戦は何時間で開始できる?」
「2日もあれば完全な作戦案が出来上がります。立案後に準備を始めることになるので後1週間もあれば」
「ふむ、準備を進めてくれたまえ」
「御意」
そう短く答えるとハイドリヒはペルシャールに無言で1メートルは優に超える書類の束を渡して去った。
その後ペルシャールは泣きながら司令室に戻り、4時間かけて決裁をした。しかしそのほとんどは涙でぐしゃぐしゃになってしまい、結局後にハイドリヒが書き直すことになったのであった……
結局ピニャ皇女なんて捨て駒の一つだったんや!!
某赤い国に影響されて赤い津波が帝国を押しつぶすストーリーを書きたかったんですが、さすがにそれは民主主義国家としてまずいので少し穏便に()しました。
ご意見やご指摘などありましたら感想お願いいたします。
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第十九話 ハイドリヒとの会議
「疲れた……」
俺は今数か月ぶりに大統領館の大統領執務室にいる。
ピニャ皇女との会談の次の日に本国に戻ってきてその後出迎えの政治家への挨拶やめんどくさいマスコミへの対応などをしていたらいつの間にか日にちを跨いでしまったのだ。
現在午前3時、特地の説明会は幸い午後からなので多少は寝る時間がある。
まぁ寝ないんだけどな、というか寝れない。
何せ目の前に武装親衛隊長官のハイドリヒ大将が立っているのだ。何でも特地の件で話したいことがあるらしい。
「閣下、今の特地の戦力では今後の行動に支障をきたす恐れがあります。小官としては最低5個師団を新たに送るべきと考えております」
今特地にいるロンディバルト軍は1個機甲師団と3個機械化歩兵師団、2個混成師団、1個空挺師団、そして1個の航空機兵団だ。計8個師団約13万人がアルヌスとその周辺に展開している。さすがに数百年の技術格差があるとはいえ一大陸を制圧維持するのには少なすぎる。占領地でのパルチザン活動はハイドリヒ自身も体験しているからな。その根深さはトラウマものだろう。まぁ彼がトラウマを感じてるかは微妙なところだが…。
「5個師団か、帝国占領後はまた増やすべきだろうな」
「ええ、最低10師団は送る必要があるかと。しかし編成は旧大戦時の歩兵師団程度で十分でしょう」
「分かった。派遣部隊については武装親衛隊から、でいいな?」
普通は陸軍から出すべきだが、現在陸軍含めた4軍は地球統一を成し遂げたことで大規模な軍隊は必要されなくなったため絶賛軍縮中なのだ。何せ陸軍だけでも占領国の軍隊を合わせると700万人に達する。さすがに平時には多すぎるので300万人程度まで削減する予定だ。それでも多いけどな。
そんなわけで下手に陸軍から出すと軍縮推進派から文句を言われかねないのだ。軍縮中に大規模派遣を行うは、とかな。実際特地派遣の時も軍縮推進派から批判が相次いでなんとか派遣できたような状態だったからな。しかし武装親衛隊はあくまで大統領指揮下の直属部隊なので特に軍縮も行われていないし、現地の治安維持で必要なので逆に増員しているほどなのだ。ここだけの話、軍縮で退役した陸軍将兵を武装親衛隊に入隊させていたりする。普通に一般から雇用するより元軍人を再雇用する方が楽だしな、将兵的にはただ配属場所が変わったようなものだろう。もちろん陸軍より待遇はよくしている。陸軍より待遇がひどかったなんて広まったら誰も入隊しなくなるからな、その辺はハイドリヒも気を使っているらしい。
そんなわけで今や武装親衛隊は60万人を超す大きな組織となっている。創立時は5万人だったので約12倍だ、大躍進だな。なんか二次大戦時のドイツと同じ流れを辿っているような気がするが、決して虐殺組織ではないので安心してほしい。パルチザン制圧と言って村を一つ焼き払ったり、無抵抗な市民を国家反逆罪で銃殺刑にとかは決してしていない。ハイドリヒからの報告によるとそうなっている。(実際は知らん)
たまにうるさい政治家やマスコミに俺からの”プレゼント”を渡す宅配業者もやってもらっているので、万が一解体されても職に困ることはないだろう。逆に運送業界から感謝されるに違いない。宅配もできて自社を守るガードマンにもなってくれる社員が大量に増えるんだからな。
ハイドリヒも少し考えていたようで、1分ほどすると口を開いた。
「了解しました。早速選定に入ります。では失礼します」
話しはこれで終わりなようで、ハイドリヒは敬礼すると執務室を出て行った。
時計を見ると既に4時になっていた。早く寝ないとな…。説明会中に大統領が寝落ちとかシャレにならん。全国放送でそんなことやらかしたら大統領辞任レベルだ。
俺は執務室の隣にある自室に入ると、スーツを上だけ脱いでそのまま横になった。
そういえば今着てるスーツ、シワがつくと取れずらいんだったっけ……。
そんなことを考えつつ俺は深い眠りに落ちた。
赤い津波は無理ですが、ドイツ式虐殺ならたぶん可能()
特地にはめんどくさいマスコミもいませんし、ゲートを封鎖すれば情報統制なんて簡単にできますからね。何やってもばれることはありません。
あとあのアルヌスの丘に13万人も収容できるかとかはあんまり考えないでください。
適当にその周辺も開拓してると脳内解釈して…(言い訳
着々と帝国を蹂躙する準備が整いつつあります。炎龍?黒いエルフ?魔法都市?知らない子ですね。(メソラシ
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第二十話 特地説明会
言い訳いたしますと私用で1週間ほど執筆できない状況でしたので思うように勧められませんでした。
分割する予定でしたが、他の作品でもあげられている会話はできる限りカットした結果一話に収まりました。
z視界はできる限り1週間以内にあげれるようにしたいと思います。
朝起きると、スーツはシワだらけになっていた。ティレーナさんにこっ酷く怒られながらも、代わりのスーツに着替えて迎えの車に乗った。
「おはようございます、閣下」
乗るとハイドリヒが挨拶してきた。だが顔はいつもみたいに真顔だ、こいつ感情あるのか?挨拶ぐらい笑顔でやってほしいもんだ。少し呆れ顔で挨拶を返すと、ハイドリヒの横にシェーンコップが座っているのが見えた。こっちは笑みを浮かべてはいるが何やら不敵な笑みだ。違うそれじゃない、という言葉が最も適する状態だろう。
俺に続いてティレーナさんが乗り込むと、護衛の車両を先頭に10台を超える車両が一斉に動き出した。車両に乗っているのは全員ローゼンカヴァリエの隊員だ、何やらたばこを吸っている者がいたが、いつもの事なので特に何も言わない。シェーンコップ自身たまに飲酒しながら任務をしているのだ。しかし今日はいつもと違って少し真面目な感じだ、ハイドリヒがいるからちゃんとしないといけないと思たんだろう。いつもまじめに取り組んでもらいたいもんだ。
ちなみにテュカ達は後ろの車両に乗っている。この車は運転手を除くと4人乗りなので、テュカ達を乗せるスペースがなかったからだ。
今は亡きアメリカ合衆国では大統領はリムジンに乗ることが多かったそうだが、俺は4人乗りの一般的な車に乗っている。一応これには理由があって、もし襲撃されて逃げることになった場合あんな無駄に長い車に乗っていると移動に支障をきたしてしまう。そもそも細い路地なんかリムジンが入れるわけがなく、他にも色々と制限がかかってしまうのだ。なので移動に制限もかからない4人乗り車両にしたのだ。
20分ほどすると共和国議事堂に着いた。おれを先頭に後ろにハイドリヒ、ティレーナ、シェーンコップの順に続き、周りはローゼンカヴァリエの隊員が囲む。議事堂を入ってもシェーンコップと数人の隊員はついてくる。過去に一度議事堂内でガルメチアス帝国の工作員に襲撃されたことがあるので、それからはどんな場所でも必ずシェーンコップと複数の隊員を護衛としてつかせることになったのだ。
廊下を通って入室すると一斉にフラッシュが襲った。これだけは何回経験しても慣れない。俺が座ると説明会が開始された。説明会とは言っているが、半分は参考人招致みたいなもんだ。
「これより特地説明会を開会いたします。ミースト大統領」
進行役の副大統領であるジャーノ・クロスムがそう言うと、俺は演説台に進んだ。
「では、特地での活動に関する報告を行います」
報告は約20分ほどかかった。内容はアルヌスにて二度の戦闘が行われ、現在は戦闘はなく安定していること。
アルヌス周辺を中心に人心掌握作戦を進めていること。
帝国有数の貿易拠点であり、穀倉地帯でもあるイタリカにて行われた戦闘の後、大統領(自分)に対する非人道的扱いが行われ、その報復としてイタリカを含む周辺地域を領地とするフォルマル伯爵領を外交交渉によって占領下に置いたこと。
上記の件に加えて帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダに帝国の講和派の説得を行わせていること。
帝国の焦土作戦によって発生した難民が多数アルヌスに保護を求めにやって来ていて、増加の一途をたどるであろうということ。
まとめるとこんな感じだ。
説明が終わると次はそれに対する質疑の時間になった。
クロスムが質疑に入らせると、若い男性議員が演説台に進んだ。
「フォルマル伯爵領を占領したとのことですが、これには何か理由はあるのでしょうか?」
言い終わるとクロスムが俺の名前を呼んだ。
「傀儡国と考えていただきたい」
俺は短くそう答えると席に戻った。すると男性議員は半ば納得したような表情で席にどもった。次は女性議員が演説台に歩み寄った。神経質そうで厚化粧をしている近寄りたくない雰囲気を出している。
「単刀直入にお尋ねしますが、避難民に150人以上の犠牲者が出たのは何故でしょうか?」
そう言いながら女性議員は手に持ったフリップを演説台に見せつけるように置いた。
クロスムが俺の方をじっと見ている、やはり俺が答えないと駄目か…。俺は内心嫌だなと思いつつ演説台に進んだ。正面を見ると女性議員のきつい目線が視界に入るので少し視線をずらしながら話した。
「150人以上の犠牲者を出した最大の理由はドラゴンが我が方より強かったからです」
「なっ、何を他人事のように!尊い命が失われたのですよ!?そのことに対して責任は感じないのですか!?」
女性議員はフリップを今にも折りそうな勢いで叩いた。
「戦闘によって犠牲者が発生するのは必然であって、それを失くす事は不可能に近いことです。無理難題を押し付けないでいただきたい」
俺がそう答えると女性議員は押し黙った。
「加えて我が方の火力不足が致命的です。戦車に小銃で立ち向かうようなものですね。これで犠牲者を無しにして勝てと言われるので?私なら御免被りたいですね」
言い終わると解析部の男が手を挙げた。
「ドラゴンの鱗を解析した結果、タングステン並みかそれ以上の強度を誇っていることが判明しております。加えて超高温の火炎を吐く、まさに空を飛ぶ戦車であります。大統領のおっしゃる通り、これを相手に犠牲者をゼロにしろという方が問題ありと思われます」
発言が終わると”全くだな””その通りだ”という声が彼方此方から上がった。女性議員は渋々発言を取り下げた。
やっと終わったかと思うと次はシェーンコップを指名した。シェーンコップは俺と入れ替わるように演説台に進んだ。相変わらず不敵な笑みは健在だ。
「ではお尋ねしますが、避難民を護衛していた部隊は実質的にあなたが指揮を執っていたそうですが、そのことについてどうお考えですか?」
「小官は白兵戦の指揮であれば得意ですが、ドラゴンは流石に専門外ですな。まぁドラゴンがメスであればまた話は別ですがね」
シェーンコップが肩を竦めながら言うと女性議員は顔を真っ赤にした。彼方此方から小さな笑い声が聞こえる。
「逆にこちらからお尋ねしますが、どうやれば犠牲者をゼロに出来るのですか?出来れば小官に御教授頂きたいものですな」
「……分かりました。戻っていただいて結構です」
シェーンコップは戻ってくるときも変わらず不敵な笑みを浮かべていた。こいつ、いつの間に人間を超えてドラゴンにまで守備範囲を広げたんだ?まさか特地でも既に1小隊ぐらい愛人を作っているんだろうか…。
それにしてもあの女性議員は何がしたいんだ?裁判でもやってるつもりなのだろうか。
俺が軽く睨みつけていると先ほど話していた解析部の男がそっと話してくれた。
「あの女性議員は最近噂になってる自由党の幸原とかいう議員ですよ。ことある事に軍を責めてきてるんですよ」
なるほど、今回の事は軍を叩く格好の材料と言う訳か。なにやらハイドリヒが幸原をじっと見つめているが、まさか粛清リストに載せるつもりか?……聞かないでおくか。
その後もレレイ、テュカと続けて幸原による質問を受け、どうやら自分の求める答えが一向に出ないことに苛立っているようだ。テュカのときなんか扱いが酷かった。”結構です”だ。普通はありがとうございましたと言うべきだろうに、それでも議員か?やっぱり日本人の議員って良くないやつが多いな。一度日本人を一掃してみるのもいいかもしれない。どのぐらい改善されるか見てみたいもんだ。
そう考えているうちにもロウリィの番になった。
「では、あなたのお名前をお願い致します」
「ロゥリィ・マーキュリー」
「では、あなたのキャンプでの生活を教えて下さい」
「簡単よぉ。朝、目を覚ましたら生きる、祈る、命を頂く、祈る、夜になったら眠る」
「命を……頂く?」
「そう、食べること、殺すこと、エムロイへの供儀。いろいろよぉ」
「分かりました。……ではあなたは見たところ大事な人を失ったようですが、その原因がロンディバルト軍にあるとは思いませんか?」
こいつまだ諦めてないのか?もうほとんどの議員はあきれ顔になってるぞ、中には端末をいじったり眠ってたりしている。まともに聞いてるのはマスコミと一部の議員、恐らくは自由党の連中だな。
ロゥリィが何やら言うとレレイがすぐさま翻訳した。
「質問の意味がよく分からないと言っている。ロウリィの家族は…」
レレイの言葉を遮るように幸原が話し始めた。
「資料によれば、ドラゴンの襲撃を受けた際、避難民の四分の一を犠牲にしておきながら、軍には死者どころか重傷を負った者すらいません。身を挺して戦うべきだった人間が自身の安全を第一に考え、結果、民間人を危険にさらしたのではありませんか!!?
さぁ!!話してください!!貴方が見た、軍の本当の姿を!!」
……本当にこいつは頭でも逝ってるのか?
流石に俺も堪忍袋の緒が切れたので、立ち上がろうとした。するとロゥリィが大きく口を開くのが見えた。
「あなたお馬鹿ぁあ!!?」
ロゥリィがあまりにも大きな声で言ったせいでマイクから雑音が発せられ、突然のことに驚き全員が耳を塞いだ。寝てたやつは何事かと立ち上がっている。
ようやく雑音が収まると幸原が唖然とした表情で恐る恐る口を開いた。
「今…何と?」
「あなたはお馬鹿さんですかぁ?と尋ねたのよ……お嬢ちゃん」
そう言うとロゥリィはベールをたくし上げた。笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。シェーンコップもそれを見たようで不敵な笑みが真剣な眼差しへと変わった。
「貴方、日本語が……」
幸原はロゥリィが日本語を話せたことに驚いたようでその表情がさらに唖然としたものへと変わった。
「そんなことはどうでも良いわぁ。ミーストたちが炎龍とどう戦ったか、それが知りたいのでしょう?ミーストたちは頑張ってたわぁ、難民を盾にして安全な場所にいたなんてことは……絶対にないわよ」
ロゥリィはそう断言するように答えた。まさかそこまで断言されるとは思わなかった幸原は絶句していた。
「第一、兵士が自分の命を大切にして何が悪いのぉ?彼等が無駄死にしたら貴方たちの様に雨露凌げる駄弁ってるだけの人を、いったい誰が守ってくれるのかしらぁ、お嬢ちゃん」
最後のお嬢ちゃんと言う言葉がまた効いたのか、幸原はこめかみがピクつかせている。
「炎龍を相手にして生きて帰って来た、先ずはその事を褒めるべきでしょうにぃ。それと、避難民の四分の一が亡くなったと言ったけど、それは違う。ミーストたちは四分の三を救ったのよ。そんなことも理解できないなんて、この国の兵士も随分と苦労してるのねぇ」
幸原は議長であるクロスムに目を向けた、発言を注意してほしかったのだろう。だが当のクロスムはそんな視線を一切感じずにロゥリィをじっと見つめていた。
「……大人に対する礼儀がなっていないようね……お嬢ちゃん?」
幸原も負けじと反論するが、特地での戦闘については詳しい情報を得ているようだが現地民についての情報はあまり持っていないようだ。こちらの世界基準で言えばロウリィは精々中学生ぐらいだろう。だが特地では見た目と中身は全く違うことが多いのだ。そのことを幸原は知らないらしい。
「それって私に言ってるのぉ?」
「他に誰がいますか!?特地ではどうか知りませんが、この国では年長者は敬うものですよ!?」
「面白いことを言うわねぇ……たかが………」
その瞬間ロウリィの唇が紫色に変わった。戦闘モードに突入してしまったらしい。まぁ俺は知らん。奴が勝手に怒らせたんだ、精々死んで償うんだな。
ロゥリィはハルバートを覆っている布を取り払うと一瞬で幸原のいた演説台を真っ二つに破壊した。
「……ひっ!?」
幸原は一瞬の出来事で分からなかったようだが、すぐに状況を理解して頭を埋めた。
ロゥリィは未だその怒りを鎮めてはおらず、床に蹲っている幸原に近づいて行った。そろそろ止めさせておくか。あまり暴れられても困る。
俺はロゥリィに近づくと頭をポンポン叩いた。
「何よぉ?」
不服そうな顔をするロウリィを無理やり席に戻させると、俺は演説台に進んだ。
「日系人は昔からその年齢を武器にしているようですが、ここにいるロゥリィ・マーキュリーさんはここにいる誰よりも年長なのです」
流石に先ほどの出来事から完全復帰していない幸原は答えられるはずもなく、代わりにクロスムが尋ねてきた。
「一体幾つなのですか?」
「961歳になるわぁ」
先ほどとは違い平然とした表情でロゥリィが言った言葉に部屋は騒然となった。
「……ちなみに隣のテュカさんは?」
「165歳よ」
テュカも平然と通常ではありえない数字を言う。その言葉にさらに部屋は騒然となった。
「……と言うことは…?」
「……15歳」
見た目は小学生ぐらいに見えるレレイも、と不安になったクロスムだったが、見た目道理の年齢でほっと胸をなでおろした。議員やマスコミもほっとした表情になっている。
年齢紹介が終わるとレレイが演説台に歩み寄ってきた。俺はレレイと入れ替わるように座った。
「私はヒト種、その寿命は60から70年。私たちの世界の住民はほとんどがこれ。
テュカは不老長寿のエルフ、中でも希少な妖精種で、寿命は永遠に近い。
ロゥリィは元々はヒトだけど、亜神になったことにより肉体年齢は固定された。通常は1,000年程で肉体を捨てて霊体の使徒に、やがては神になる。従って寿命という概念はない」
あまりにも突拍子な話だったので部屋にいる全員が唖然とした表情と困惑した表情が混ざったような顔になっている。
「……では質問もないようですので、これにて特地説明会を閉会いたします」
クロスムは何気ない表情で言った。議員やマスコミもぞろぞろと部屋を出ていき、最終的幸原は1時間も座り込んでいたそうだ。
こうして波乱万丈な特地説明会は閉幕した。
誤字脱字の報告や、意見感想等お待ちしております。面白いと思ったら評価もしていただけると嬉しいです。もちろん高評価だけでなく低評価でも構いません。
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第二十一話 特地追加派遣
特地説明会が終えて議事堂を出るとそこは沢山のマスコミや、特地住民を一目見ようと集まった野次馬で埋め尽くされていた。幸い入口から車までは兵士が封鎖しているのでマスコミの質問に答えることは無かったのだが、その代り慣れている俺でも目を閉じたくなるほどのフラッシュがたかれている。シェーンコップとテュカ達は事前に用意しておいたサングラスをかけている。何とか車に乗り込むと来た時と同様に前後に十数台の護衛車両が付き出発した。
出発して少しするとハイドリヒが俺に話しかけてきた。
「閣下、新たに特地に派遣する部隊の選定が終わりましたのでご覧ください」
そう言うとハイドリヒは手に持っていた端末を俺に渡してきた。昨日の夜に追加派遣を決定したのにもう選定し終えたのか?俺が承認する前に既に決めておいたのか…徹夜して決めたのか……どっちもあり得るな。そう考えつつ渡された端末を見る。
【特地追加派遣部隊】
『第六SS機甲師団』
『第九SS機甲師団』
『第七SS機械化歩兵師団』
『第十一SS機械化歩兵師団』
『第五SS混成師団』
『第六SS独立砲兵連隊』
『第二SS特殊任務連隊』
『第八SS特殊任務連隊』
『第一試験大隊』
ふむ、とうとうスペツナズも投入か、ゲリラ対策だろうな。
しかしこの最後の『第一試験大隊』って何だ?”SS"がついていない辺り武装親衛隊所属ではないようだが……。
「なぁ、この最後の第一試験大隊と言うのは何だ?SS所属ではなさそうだが?」
「何でも開発部が最近開発した新鋭戦車を試験的に運用するために結成された部隊だそうです。ちょうど良いので戦闘データも取らせようかと思い加えました」
新鋭戦車?開発部でそんな計画あったか?
おれの疑問に気が付いたのかハイドリヒが言葉を加えた。
「閣下が開発部に依頼した”アレ”と”アレ”で編成された部隊です」
”アレ”と”アレ”?………4か月前に依頼していたアレか
「それと……ウェーデント伯爵が私も特地に行きたい、と……」
ウェーデント伯爵……。
ウェーデント伯爵家とはロンディバルト民主共和国領内にある自治区のひとつを任されている旧ガルメチアス帝国の貴族だ。
占領地があまりにも広大なので、良識的な貴族は処罰せずにに一定の地域の治安維持を任せている。その一人がウェーデント伯爵家と言う訳だ。伯爵家と言ってもせいぜい治安維持用の兵力とそれを維持するためのささやかな土地を有しているだけなので大した問題はない。元々ハイドリヒが厳しい選定の元任命した貴族だからな。
で、中でもウェーデント伯爵家の現当主であるウォルフ・フォン・ウェーデント伯爵は元々平民だったこともあって、平民を差別することなく領地を発展させたことで多くの平民から支持されていた。ハイドリヒはそこに目を付けたんだろうな。おかげでウェーデント自治区とその周辺は治安が本土並みに良い。
まぁ別に連れて行ってもいいんだが……あの爺さん戦にあると妙にテンションが上がり始めるんだよな。特地で無茶しなければいいんだけど……。
「……いいいだろう。で、どのぐらい連れて行くつもりか言っていたか?」
俺の質問にハイドリヒは”失礼”と言って俺が持っていた端末を取ると端末を操作し始めた。ハイドリヒは数秒で調べ終わると端末を見せながら言った。
「1個歩兵連隊と1個砲兵大隊、そして1個戦車中隊です」
ウォルフ爺さんには伝統的な歩兵による敵陣攻撃が大好きだ。簡単に言うと17世紀から19世紀で使われた戦列歩兵で、砲兵隊はその援護、戦車部隊は歩兵部隊が接近する前に露払いするのが役目。ウェーデント伯爵家だけではなく、ほかの貴族でも中には昔からの伝統的な戦い方を固守していた者がいた。ロンディバルトが君主制連合に勝利することが出来たの要因の一つだろう。
「で、如何いたしますか?」
「うーん……まぁ相手は重火器も所有していないようだし、いいんじゃないかな」
ウォルフ爺さんもたまには体を動かさないといけない年ごろだろう。いい運動になるかもしれん。
「ではウェーデント伯爵にはそう伝えておきます」
「この後は?」
「一度仮大統領館に戻り、一泊して明日の朝特地へ戻る予定です」
「そうか……大統領館まであとどのぐらいかかる?」
「あと20分はかかります。なにせ中心部は土地があまり無く、やむを得ず郊外に建てていますので」
「じゃあちょっと寝かせてもらうぞ。昨日碌に寝ていないんだ」
俺はそう言いながらシートを倒すとそのまま目を閉じた。
第八話でレレイが言っていた”ロンディバルト以外の国”と言うのはウェーデント伯爵などの貴族が治安維持を任されている自治区の事を指しています。兵士や国民や自治区と呼ぶ者もいれば国と呼ぶ者もいるので、それをレレイが聞いたと言う形です。
ペルシャールが開発部に依頼していたものはアレとアレの二つあり、某映画に影響されて出すことを予定していた兵器です。
ロンディバルト軍の主力兵器は戦車ですが、帝国がそれに対する対抗手段を考えていないはずもなく……あんまり言うとネタバレしちゃいそうなのでこの辺で切っときます。
感の良い人は気づいてしまうかもしれませんけどね……。
感想やご意見ご指摘、評価お待ちしております<m(__)m>
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第二十二話 それぞれの一日
特地説明会終了後、大統領直属武装親衛隊長官 ラインハルト・ハイドリヒ大将の命令で本土各地に駐留している武装親衛隊が行動を開始した。
【武装親衛隊長官特別命令書】
一、自由党に所属する全ての人間、及びその自由党に関係する人間を可及的速やかに拘
束せよ。又それと並行して各物証類の押収も行うこと。
二、抵抗する場合、又は逃走する素振りを見せた場合は対象者に限り発砲を許可する。
ただし自らの命に危険が生じると判断されない場合は射殺は不可とする。
三、一定以上の功績を上げた場合、イタリカへの慰安旅行二泊三日の旅をお届けする。
一、二についてはハイドリヒが記したものであるが、この命令書を見たペルシャールが隊員達に”一層奮闘努力”してもらえるように三のご褒美を付け加えたのである。
イタリカでは、フォルマル伯爵家のメイド達が同地に駐留する兵士に法律に違反しない程度の”ご奉仕”を行っており、ペルシャールはそれを小耳に挟んでいたのである。
ちなみにこのご奉仕はメイド長であるカイネが何かの交渉の際に少しでもこちら側の立場をよくするために駐留部隊が到着した当日から始めていたものであったが、中世のように女一人で政治を変えれるほど現代の政治は甘くなく、加えて武装親衛隊の中でも特に国家への忠誠が熱い人物が部隊長を務めていたため、その試みはたった一日も経たないうちに挫折してしまったのである。しかしここでやめるわけにもいかないので仕方なく続けていたのだが、娯楽の少ない中で唯一の娯楽である”ご奉仕”を兵士たちはとても気に入り、たった数日でファンクラブまで出来上がっている始末なのであった。
そんな訳でその情報が兵士間で広まり、本土中のSS隊員がいつも以上に奮闘した結果一人の漏れもなく、関係者全員が武装親衛隊によって拘束されたのであった。
一部の民間人は”武装親衛隊がヒャッハ―な人たちと化して自由党のオフィスを襲っていた””武装親衛隊の戦車に自由党関係者が追いかけられていた”等とその時の惨状を詳しく述べている。
自由党は関係者を全員拘束されたことで事実上解散となり、軍を批判する主な組織は消滅した。
ちなみにこの功績でイタリカ行きが決まったのは実に800人に上った。武装親衛隊全体でみればごくわずかな数字だが、特地からすれば下手な町一つ分の人間が来る訳なので受け入れに大変苦労することになる。当然全ての責任は言いだしっぺの法則に則ってペルシャールが負うことになり、すでに1メートルを超えていた書類はさらに増えたそうな。
そんな感じでペルシャールが書類の山に埋もれている頃、テュカ、レレイ、ロゥリィの3人はそれぞれ数名の護衛とともに出かけていた。
テュカは彼女自身の希望で弓を買うために武器ショップに行った。
武器ショップの店員はテュカの細い腕を見てあまり力を使わずに射てる弓を薦めたが、テュカは自信で数種類の弓を試した結果、コンパウンドボウを選んだ。
ちなみに店員はテュカがコンパウンドボウを試射した際、あの細腕でよく弦を引けるなととても驚いたという。後にテュカ自身知ったことだが、彼女が選んだコンパウンドボウは並の男性でも弦を引くことが難しいと言われている物だったのだ。
レレイは国立図書館に来ていた。この地球の歴史、科学、文化等の本を自分で選び、机の上に山のように積み重ねて真剣な表情で読み漁った。ただ読むだけでなく、他の分野と関連付けてそのすべてを自身の知識にしていった。
その際護衛に就いていた兵士はレレイの学習能力の高さに心底感心したそうである。
ロゥリィは特地説明会でハルバートを振った際、あまりの威力に周りの議員まで吹き飛ばしてしまったことを反省して、取り回しの良い小型の格闘武器を手に入れるためにテュカ同様武器ショップに来ていた。護衛でついて来た兵士の助言を受けつつ、彼女自身も色々試した結果、リーチが長く、比較的軽くて切れ味もいい日本刀に決めた。それも2本である。何でもイタリカ攻防戦の時ペルシャールが二丁拳銃で戦ったのを見て自分も真似したくなったかららしい。
その後、演習所で教導隊の隊員達と模擬戦を行い、ハルバートを模した演習用の武器を使って教導隊36名全員を壁にめり込ませるという一方的な戦いを演じた。
これを見ていた観客の兵士たちは”ギャグ漫画みたいな光景を見れるとは思ってなかった”と苦笑いしながら話したという。
3人はそれぞれ思い思いに1日を過ごし、仮大統領館に帰ってくると、
「えっと……?」
「治療したほうが良い…?」
「止めを刺したほうが良いのかしらぁ~?」
そこには背凭れにもたれ掛って死んだ目をしたペルシャールがいた。
その後ハイドリヒ率いる武装親衛隊によってペルシャールは(強制的に)蘇生され、テュカ達に助けを乞いながら奥の部屋に連行された。
既に全員が眠りについた深夜、執務室奥の部屋からペルシャールの泣き叫ぶ声が仮大統領館に響いたと言うが、真実を知っている物は誰もいない。
一説にはハイドリヒがペルシャールに強制的に決済をさせたという話が出たが、いつの間にかそれを最初に語っていた兵士が行方不明になったため、その後は誰も触れないようにしたそうである。
投稿が1か月以上も空いてしまい申し訳ありません。・゚・(ノД`)・゚・。
いまいち話の内容が思いつかず、これまでに没が二つほど出ました。
それでもなんかなぁ・・・と言う感じになってしまいましたが、これ以上ここで泊るわけにもいかないので無理やりすすめました。
本当はこの話で特地に帰る予定だったのですが、次話に伸びてしまいました。
感想やご指摘、評価できればお願いいたします。
あと本話の”ご奉仕”と言うのはメイド喫茶的なサービスの事であって決してアレなご奉仕では有りませんのでご心配なさらぬよう……
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第二十三話 アルヌスの日常と交渉の始まり
8月ごろからまたリアルが忙しくなってしまい、脳内で物語を考えられても文章化が全くできない日々でした。特にここ3か月が特にまともにPCが使えない状況でした。
要約落ち着いてきたので執筆を再開していきたいと思います。
この物語を読んでくださっている読者の方々(いるか分かりませんが)、長らく更新が停止してしまい申し訳ありませんでした。
特地説明会から1週間が経ち、俺は今アルヌスに戻ってきていた。
留守中にも案の定難民は増え続け、現在は9千人を超え1万人に達しようとしている。
取敢えずアルヌス郊外で大規模な整地を行い、そこに住宅を建設して今ではちょっとした町になっている。軍の管理下の元で特別に許可された十数社の企業が進出してきており、人員派遣は未だ行っていないものの、大量の商品がここアルヌスに送られてきている。
ハイドリヒの話では一部の商品が商人達によって各地で転売されており、帝都の貴族たちの間でも珍重されているらしい。
しかし良い事もあれば悪い事もある。
町が急速に発展しすぎたせいで常に人手不足になっている。そこでフォルマル伯爵家のメイドたちも駆り出されているのだが、それを知った一部の若い兵士たちが一目見ようと通っているらしい。これだけならまだ許せる範囲なのだが、メイドたちが働く場所の中には酒を出すところもあるようなのだ。
ハイドリヒはここは引き締めを行うべきと言ってきたのだが、たまには息抜きも必要だろうとある程度許容するように言った。イタリカに駐屯している部隊の奴らがメイド達との交流を深め、アルヌスの部隊にいる兵士は羨ましがっているようだ。ここで引き締めなんてしたら兵士からの苦情が殺到するだろう。そしてその処理をするのは司令官であるこの俺なのだ。ただでさえ多い書類がこれ以上増えることだけは御免被りたい。しかし流石に無制限にと言う訳にもいかないので、あまりに出すぎたら注意をする程度に留めることにした。
「何すんだいっ!!!」
ハイドリヒと町を散策しているといきなり酒場から背の低い男が吹き飛ばされてきた。
どうやら揉め事らしい。念のため腰にある銃に手を掛けた。
男が起き上がると酒場の出入り口からヴォーリアバニーだろうか、男っぽい女性が出てきた。
「一昨日きやがれ!!このデリラ様の尻はアンタみたいな三下が触れるほど、安くはないんだよ!!」
どうやら放り出された男が酒の勢いでこのヴォーリアバニーに対してセクハラ行為をしたようだ。暴力沙汰に発展しそうな勢いだったので止めようと前に出ようとした。
だがその前に男の首元にハルバートが突きつけられた。
「貴方ぁ、見かけない顔だけどぉ。私が誰だかお分かりかしらぁ~?」
男はハルバートの持ち主を見た途端震え始めた。
「エ、エムロイの……」
「大人しくしてくれるなら、このまま見逃してあげるけどぉ?暴れたりないって言うなら、お相手するわよぉ~?」
「け、結構ですぅううう!!!!」
男は叫びながら路地裏に向かって走り逃げた。
「…意気地なし……」
少し残念そうなロゥリィに近づいた。
「見回りか、ロゥリィ?」
「最近出入りする人間が増えたから、ああいうお馬鹿さんも混じってて大変なのよぉ~」
やはり街の入り口には関所を作ったほうが良いか……。単なるお調子者が入ってくるだけなら良いのだが、これで帝国の工作員が入って来て町で騒ぎを起こされたら大変なことになる。ハイドリヒを見ると彼も同じようなことを考えていたらしい。基地に戻って早速手配するようだ。
■□■□■□■
ロゥリィと別れ、俺は基地に戻り報告を受けていた。
「ふむ、一先ず接触は成功と言った所か」
俺の言葉に特地派遣外交官の菅原が答えた。
「はい。ピニャ殿下の協力の元、既ににキケロ・ラー・マルトゥスの中立化工作には成功致しました。明日、部下と共に帝都に戻り本格的な講和派多数化工作を進めていきます」
「よろしい。くれぐれも焦らず、慎重に進めてくれ。万が一帝国に悟られたら講和交渉がご破算になりかねんからな」
「心得ております。それでは、失礼します」
菅原は一礼すると振り返って部屋を出て行った。
今回、帝国に派遣する外交官の中で要職に就いているのは現在副外務省長の白百合玲子だけだ。これは万が一帝国にこの講和交渉を察知された場合、最初に標的になる可能性が高いからだ。本当は副外務省長も入れたくなかったが、あまりに下っ端だけだと講和派が本当に講和の意思があるのかと疑念を持たれてしまうので致し方ない。
「さて……外交による勝利か。または武力による勝利か。それとも……」
「まぁ……流石にないよな魔法があるが、これだけ技術差が離れているのだから………」
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第二十四話 シュワルツの森からの使者
俺がいつも通り書類決済をしているとハイドリヒがファイルを片手に司令室に入ってきた。
「ん、どうした?」
「はっ、実は些か面倒な問題が発生しまして」
面倒な問題?難民との間にトラブルでも起きたか?それとも帝国がまた侵攻してきたか?
ハイドリヒの言葉に俺が思考を巡らせていると、それに気づいたのかハイドリヒが”そういう類ではありません”と安心させるような言葉を掛けた。だがその表情は全く変わっていない、初対面だったらまず信用されないだろう。
「増援部隊の駐屯地の件なのですが、計画にないアルヌス町が出来たために駐屯地建設に使う土地が不足しているのです」
「土地が足りないか……。具体的に後の程度足りないんだ?」
「計算によれば1個師団分に相当すると」
1個師団分か、思ったより多い。増援部隊を減らすか?
いやダメだな。ただでさえ最低限の兵力数に抑えたんだ、これ以上減らせば今後の作戦に支障をきたすだろう。さて、どうするか……。
「そこで提案なのですが、対帝国と言う名目で2個師団ほどをフォルマート領に駐留させてはどうでしょうか?議会への報告も何とかできますし、実際帝国の進行があった場合先ず始めに攻められるのはイタリカになります。防衛を強化しても悪くないかと」
「そうだな、そうしよう。現在派遣されている師団の中から選定を行ってくれ」
「分かりました」
話しは終わった、そう思い俺は再び書類に視線を戻した。
しかしハイドリヒが動く様子がない。まだ何かあるのか?
「……まだ何か問題が?」
「はい、先ほどアルヌス警備隊が恐喝行為の疑いで女性のダークエルフを連行したのですが、何でも軍の指揮官に話があるそうで」
女性のダークエルフが俺に話?まさか自分たちは帝国に迫害されていてその恨みを晴らしたいとか言ってくるんじゃないだろうな?いや、それとも聖地であるアルヌスから出て行けと恐喝でもしてくるのか?
「ご安心を、恐喝行為は通報側の恣意的なものでダークエルフは無罪です。通報した男たちからの証言も取れています」
いや、別に犯罪者と会いたくないからとかそういうことじゃないんだが……
仕方ない、とりあえず会ってみるか。
俺はペンを置くと表情を全く変えないハイドリヒを横目に司令室を出た。
■□■□■□■
会議室に着くとそこには女性のダークエルフと翻訳のレレイが座っていた。
話を聞くと、俺が考えていたようなものではないがまた別の意味で面倒な内容だった。
彼女の名はヤオ・ハー・デュッシ、出身地はシュワルツの森と言う所で、其処には同種族の者たちが暮らしているらしい。
しかし数か月前突如手負いの炎龍が現れ、村は壊滅。生き残った者たちは森の中にある洞窟に身を潜めている。何とか炎龍を倒そうと挑んだ者は無残にも倒され、隠れ潜んだ者たちはその住処ごと炎龍に焼き払われた。もう部族の全滅は必至、そんな絶望的な状況の中彼らに希望の光が差し込める。
”炎龍をたった10人程度で迎え撃ち、片腕を落とし見事撃退した緑の人”
彼らはその噂に部族の運命を委ね、彼女に部族の宝である金剛石を持たせて旅立たせた。そして彼女は噂を手掛かりに此処アルヌスまで来たと言う訳だ。
出来れば俺もヤオ達を助けたい。部隊もいつでも出撃できる直ぐにでも出動させるべきだろう。しかし一つ大きな問題があった。シュワルツの森の位置である。
シュワルツの森は帝国との国境を大きく超え、エルベ藩王国領土の中にある。
講和交渉を水面下で推し進めている中、大軍で戦争中とはいえ越境すれば講和交渉など直ぐに吹き飛んでしまう。そんなことになれば講和を進めているピニャ皇女は反逆の疑いで死刑、この機に乗じて主戦派は講和派の一掃に掛かるだろう。今帝国と戦争中ながら戦闘が起きていないのは元老院が主戦派と講和派に分かれ争っているからだ。身内で争いながら進んで戦争をするような者はいない。だからこそ、このまま講和に持ち込んで少ない犠牲でこの戦争を終わらせたいのだ。
そんな事情もあってこの要請を受けることはできない。
「……力になれず申し訳ない」
レレイの翻訳した言葉を聞いたのだろう。ヤオの顔から生気がみるみる無くなった。
「ま、待ってくれっ!!」
ヤオの言葉を遮って俺は協力できない理由を伝えた。
だがそれでも納得できないらしい。当然だ、部族の命運を託されておいてはいそうですかと引き下がることはできないだろう。
「た、大軍でなくても良いのです!緑の人は、10人程度で炎龍を撃退したと聞いています。それならっ」
確かに少数なら越境しても気づかれる可能性は低い。だが……
「滅相もない。それでは部下に死ねと言うようなもの、そのような命令を下すことなどできませんね」
「……遠路はるばるお越しいただいたのに、申し訳ない」
「そんな……」
俺はそう告げるとヤオと顔を合わせないように部屋を出た。だが部屋を出る直前、彼女が死んだような目でこちらを見つめているのを俺ははっきり見た。
ここで要請を受けてヒャッハァァアアすることも考えたのですが、そういうのはまだ取っておくことにしました。流石に大統領とはいえおいそれと大規模に軍を動かすことはできないのです(真顔
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第二十五話 悪所進出&園遊会
誤字脱字等啞しましたらコメントにてご指摘いただけると嬉しいです。
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誤字脱字を修正しました。
”悪所”………。
帝都の南東に位置するこの地区は帝都内で唯一亜人の生活が保障されている地区である。
しかし同時に貧民街でもあり、暴力と犯罪の巣となっていた。
そんな現実では警察沙汰名事件が日常茶飯事なこの地区には帝都の一般市民は誰も近づかず、他の地区とは高い城壁で隔離されている。
そんな治安が悪いこの場所に、ロンディバルト軍の帝都における活動拠点が設置されていた。
そこに配置されている部隊は200名、市街地での武装組織やゲリラとの戦闘を主任務とする都市型戦闘特殊任務大隊所属である。ロンディバルト軍内でも4つしかない数少ない部隊で、今回特別に特地に派遣されていた。
拠点設営から1週間が経ったある夜。
悪所の顔役の一人であったベッサーラの一家が、”余所者が入り込んできた”という情報を聞きつけて部下とともに乗り込んできた。
『こちらT1。武装した集団を確認。数は50から40、屋根伝いにも分隊規模が移動中』
「こちらHQ。確認した。対応はこちらで行う。T1は監視を続行せよ」
『こちらT1了解。監視を続行する、アウト』
通信が終わると本部ではすぐに迎撃態勢に入った。
「彼らは我々流儀で最大限持て成してやろう」
大隊長であるアイザック・アヴロフは銃に暗視スコープを取りつけながら呟いた。
アヴロフの指示で迎撃態勢を整えている頃、既に気づかれているとも知らずベッサーラの一団は徐々に拠点へと近づいて行った。
後50メートルと言う所まで近づくと、一団の中からハンマーを手にした大男が現れ、扉を破壊するために入口へ近づいた。
が、ハンマーを大きく振りかぶった瞬間室内から一斉に銃撃が加えられた。
大男の体にH3A1やH160の5.56mm弾が貫き、ハチの巣の如く穴だらけにしていった。
一斉射が終わるとすぐに二階と三階からその後方にいた一隊にも銃撃が加えられ、一人、又一人と道には死体が重なっていった。
屋根から弓矢を放とうとした一隊には、拠点屋上にいる狙撃班が的確な狙撃を加え、脳髄に弾丸を食らわせていく。
室内へと逃げた者たちはグレネードによってその建物ごと爆殺させられた。
後に死体確認で判明したことだが、この爆発でベッサーラ自身も一緒に吹き飛んでいた。何ともあっけない最期であった。
この数分間の銃撃によって、外に動くものは何一つ残っていなかった。文字通りの全滅である。
この戦闘の後、ベッサーラ一家は統領を失ったことで壊滅し、他の顔役はその財産と縄張りを分け合って以来、ロンディバルト軍に手を出すことはなくなった。
それどころか進んで協力を申し出るようになり、悪所での活動はとても順調なものとなっていった。
■□■□■□■
所変わって帝都の皇室庭園では現在、ピニャとロンディバルト外交官の菅原浩治による講和派議員達の家族を招いて園遊会を取り行なっていた。
本土から持ち込んできたサッカーボールやボーリング、輪投げなどの催しは子供だけでなく大人にも好評であった。
第三偵察隊所属の隊員達も参加しており、栗林は女性向けに護身術の講座を開き、黒川は緊急時に簡単にできる応急処置の仕方をレクチャーしていた。
古田は入隊前に一流料理店で働いていた経験を活かして来賓達に料理を振舞っていた。
中でも本土から持ってきたマスタードやケチャップで味付けされた串焼きは大好評で、出来た途端に無くなってしまうという状態であった。
古田が料理を出すと知ったペルシャールは、だったら俺もと競うようにお菓子職人を目指していたと豪語して大量のデザートを作った。ショートケーキやクッキーからホールケーキまで多彩なデザートがテーブルを飾った。ピニャはそれを見て”貴国では皇帝が自ら食事を作るのか!?”と菅原に迫ったという。
そんな大盛況な園遊会の端では、ペルシャールが自身が作ったクッキーを講和派議員に手渡しつつ彼らに自分たちの武器について説明を行っていた。
シェーンコップ率いるローゼンカヴァリエの隊員達が一列に並び、H3A1とH160を構えて25m先にある帝国兵の鎧一式に5.56mm弾を撃ちこんでいた。
自国の装備をいとも簡単に貫通する様子に議員たちは驚愕し、説明を続けるペルシャールにクッキー片手に走り寄った。
「如何でしょう?これが我々が使う”銃”の威力になr「売ってくれ!!」え!?」
「いや、こんなものをどうやって作るのだ!?」
「い、いやぁ……作り方は説明しかねまして……」
突然迫ってくる議員たちに驚くペルシャールに議員たちはさらに質問を浴びせた。
「この銃と言うものを貴方方はどの程度保有しているのだ!?」
「く、詳しくは申せませんが……、一人一丁はもっていると考えていただければ」
一人一丁という言葉に驚く議員達を横目にペルシャールは説明を再開した。
「次は”迫撃砲”をお見せしましょう」
その言葉に議員達はペルシャールから離れ、元の位置からRM117 120mm迫撃砲に目を向けた。
「半装填!!」
「半装填よし!!」
「発射!!」
特別に帝都まで派遣されてきた砲兵隊の迫撃砲部隊がRM117 120mm迫撃砲から120mm榴弾を発射させ、1.5km先に配置された鎧一式に着弾させた。その射程距離と威力の強さを目の前で見せつけられた議員達は暫く話し合った。
「……デュシー候」
「うむ……これ以上彼の国と戦えば我らは敗れる」
デュシー候は様子を見に来ていた菅原とピニャに近づいた。
「これはデュシー公爵、御家での晩餐以来ですね」
「菅原殿、堅苦しい挨拶は抜きだ。講和交渉におけるそちらの条件を教えてほしい」
菅原はデュシー候の後ろにいるペルシャールを一度見た後デュシー候に視線を合わせた。
「承知いたしました」
議員たちは菅原が条件を言うだろうと耳を傾けた。が、それは彼らの後ろから聞こえてきた。
「我々の条件は5つ」
菅原ではない者の声が聞こえた議員達は一瞬混乱した。が、それが聞きなれた声だと気付くのにそう時間はかからなかった。それもそうだろう、ついさっきまで彼らに銃についての説明をしていたのだから。
議員達は急いで後ろを振り返った。
「……おっと、驚かせてしまったようで申し訳ない」
そこには先ほど説明を行っていたペルシャールの姿があった。
「ミースト殿、何故貴殿が条件を?外交官は菅原殿だったはずだが…?」
デュシー候は自身の疑問をペルシャールに投げかけた。
「これは、紹介が遅れました」
ペルシャールは一度言葉を切って礼をした。
「私がロンディバルト国の大統領、ペルシャール・ミーストです。以後お見知りおきを」
「……大統領……?」
「つまり、貴方が皇帝陛下……」
一人の声に他の議員ははっとなった。
「こ、これは!先ほどはご無礼をっ!」
「どうか寛大なご処置を賜れれば……」
議員達は先ほどペルシャールに攻め寄ったことを謝した。
「あぁ、いえいえ何とも思っておりませんのでどうぞご安心を。あの程度で私の心は変わりませんから」
ペルシャールはあくまでも笑顔で頭を下げる議員達を止めた。
一通り落ち着くと改めて条件を口にし始めた。
「先ず一つ、帝国は戦争の責任を認め謝罪し、責任者を処罰すること」
「二つ目は帝国は賠償金として5億スワニもしくは相当の地下資源の採掘権を譲渡すること。三つ目はアルヌスを中心に半径100リークロンディバルト国に割譲し、その外側10リークを非武装地帯とし双方不干渉とすること」
「四つ目は亜人への差別を禁止すること。もし確認された場合はわが軍が現地へ赴き対処することになります」
「そして最後に通商条約の締結、これら5つがこちらの提示する条件となります」
「5億スワニ!?」
「無茶だ!!国中の金貨を集めても到底足りん!!」
「それに亜人への差別を禁止しろだと!?」
ペルシャールの言う条件に驚愕の言葉を口々に漏らす議員達、ピニャも5億スワニと言う言葉を聞いて改めてロンディバルトとの差に絶望してショックで倒れてしまった。
ペルシャールはまた先ほどのように揉みくちゃにされては敵わんと菅原を置いてさっさと後ろへ下がってしまった。
そんな戦術的撤退をする大統領を後目に菅原は5億スワニはは貨幣でなくとも地下資源の採掘権でも良いということを説明して何とか議員達を落ち着かせようと奮闘した。
菅原の活躍もあってようやく議員達が落ち着いてくると、警護としてペルシャールの横にいたシェーンコップの無線に通信が入ってきた。
『アヴェンジャー。こちらアーチャー、送れ』
「こちらアヴェンジャー。どうした?」
『騎馬の小集団五騎が警戒線を超える。招待客ではないが、身なりはよく盗賊の類には見えない。此方で対処するか?』
「アーチャー。監視を続行せよ」
『了解』
「閣下?」
「ああ聞いていた。直ぐに議員達を退避させようか。我々はまだ表向きには接触していないことになっているからな」
「では悪所に近い南東門に。あそこなら気づかれにくいでしょう?」
「ふむ、確かにそうだ。そうしてくれ」
シェーンコップは急いで部下たちに撤退準備を始めさせると倒れたピニャを担いでいるペルシャールに手を貸した。
「手のかかるお姫様ですなぁ」
「あぁ、全くだ」
二人の意見が一致した瞬間、部下が車を回してきた。中にはすでに議員達も載っているようで、皆少し不安そうな表情であった。ペルシャールは議員達に安心するよう声を掛け、車列を見送った。
二人は議員と部下の撤退を確認するとピニャを少々手荒に揺さぶって意識を戻させた。
ピニャの意識が戻ったのを見るとペルシャールは彼女に手っ取り早く状況を説明し、園遊会はこのまま続けるように指示すると、ピニャは直ぐに園遊会へと引き換えした。
起きたばかりでふらついていたので菅原が横でピニャを支えながらと言う形ではあったが……。
ピニャと菅原が園遊会に戻ると、そこにはゾルザルの姿があった。
「おぉぉおおおおお!!!!これは上手い!!素晴らしい味だ!!」
古田の焼いたマ・ヌガ肉を両手に持ち、マスタードをこれでもかと言うほどかけまくると、それを口に放り込んだ。そして最後にワインで流し込むという荒業である。
そんな豪快な食べ方を古田は苦笑いしながら見続けるのであった。
ピニャと菅原の二人は”何しに来たんだこいつ”と言わんばかりの表情で遠目からゾルザルを見るのだった。
「ではなっ!!フルタよ、例の件しかと考えておいてくれ!!」
30分ほど鯨飲馬食するとゾルザルは馬に肉とマスタードの入ったツボを幾つも括り付けて帰って行った。
ピニャと菅原はゾルザルを寄越したのは皇帝の右腕と言われるマルクスだということを重く受け止め、早急に講和交渉を進めなければと改めて思うのだった。
園遊会も終わり、拠点に戻ろうとする菅原は古田に先ほどの事を聞いていた。
「そう言えば、古田。さっきゾルザル皇太子に何か言われていたが、あれは?」
「えぇ、私の焼いた肉を大層気に入られまして、”俺の料理長になってくれ!”と」
「そうか……」
後にこの話を聞いたハイドリヒが古田にゾルザルのスパイを命じるのだが、それはまだ少し先の話である。
もし良かったと思って下さったら評価や感想等お願いいたします。作者の励みとなります故……(´・ω・`)
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第二十六話 帝都激震
3話ぐらい既に投稿していると思ってましたが全部投稿が来年という……、やってしまいました。とりあえず本話は繋ぎの様なものなので短いです。
次の話はもう一度見直してみるとちょっと薄かったので書き直し中です。もう少しお待ちください(´・ω・`)
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誤字脱字を修正しました。
園遊会が無事に終わり講和交渉が本格的に始まった頃、悪所のロンディバルト軍活動拠点に思わぬ訪問者が現れた。
悪所の各地にいくつか点在しているロンディバルト軍のセーフハウス、その一つには悪所に住む住民たちからの信頼獲得と現地の衛生状態の悪さを改善するため、診療所が設置されている。
そこでは第三偵察隊で看護兵を務めている黒川が看護師として度々訪れる住民たちの診療と、完治が容易な怪我や病気には直接治療も行っていた。
一日が終わり、黒川自身も交代時間になりかけた頃、突如扉が叩かれた。
これまでこんな夜中に住民が来たことはない。黒川はすぐ横で警備をしていた兵士に目配せし、自身も9mm拳銃を取り出して扉の横に張り付いた。
「どちら様ですか?」
普段と同じような落ち着いた優しい声で黒川は尋ねた。
「黒川かい?ミザリィだ。ちょっと話があるんだ」
扉を叩いたのは今朝診療所にやってきた翼人種の娼婦、ミザリィだった。
念のため、外に設置してある監視カメラで確認すると確かにそこにはミザリィの姿があった。しかし一人ではなくその後ろにはハーピィやヴォーリアバニーといった他の亜種の娼婦が大を大勢連れていた。黒川は静かに扉を開けて彼女たちを中に入れると一度外を確認して扉を閉めた。
「……で、テュワルさんと言ったか?どういうことかね」
やけに落ち着きがない様子の彼女たちを何とか落ち着かせると、騒ぎを聞きつけて来た大隊指揮官のアヴロフがミザリィから”話がある”というハーピィ族の少女に話を聞いた。
「あ、あたしの故郷には火山があって、噴火の前に地揺れがあるんだ。今日は朝からその時と同じ予感がして、震えが止まらないんだ……」
「地揺れ……?こっちの世界にも”地震”って奴があるのか」
テュワルの言葉にアヴロフは顎を掻きながら”なるほどなるほど”と呟いた。
「ん?新田原少佐、何かあるのか?」
一人彼女たちを見つめている副隊長の新田原にアヴロフが問いかけた。
「はっ、実は……以前の勤務地の時に鳥や動物が激しく騒ぎ出すことがありました」
「以前の勤務地とは?」
「……関西です」
「関西……南海トラフか!!?」
新田原の言葉でアヴロフは察知した。関西と言えばつい8年前、南海トラフ地震により大きな被害を受けた地域である。そしてそれ以前に起きた震災のその多くに発生直前に動物たちが騒ぎ出していたという事を震災復興に参加していたアヴロフ自身も思い出したのだ。
「帝都各班及びアルヌスに緊急連絡!!間もなく大規模な地震が発生する危険性あり!!我々も帝都外に避難する。各自5分で装備を纏めろ!!」
「「「了解!!」」」
突然大きな声を出したアヴロフにミザリィ達は驚くが、黒川の説明に更に驚いた。そしてすぐに皆に知らせなければとミザリィ達は大急ぎで診療所を出て行った。
一方、アルヌスにも帝都からの報告が伝わり、緊急避難命令が発令されていた。
その中でアルヌス協働組合の代表者としてテュカ、レレイ、ロゥリィの3人も住民の避難誘導を行っていた。
「ふぁ~……なんなのぉ、こんな夜中にぃ」
「地揺れだって。昔お父さんが話してくれたような」
「古い文献にも記載がある」
「住民の皆さん!!地震・地揺れが発生する恐れがあります!!直ちに火を消し、速やかに野原に避難してください!!繰り返します――」
町の大通りでは警務用の軽装甲機動車による放送が行われ、それを聞いた住民達は松明などの火を消して野原へ急ぐ。
「何だというのだこんな時間に!?大地が揺れる訳なかろう!?」
「いえ、その可能性が高いだけで……。それに事実我々の世界では度々起きてるんですよ」
突然夜中に起こされ、広場まで連れてこられたピニャはどういうことかとペルシャールに詰め寄った。
「(クソ、交渉の大事なタイミングでっ)……っ、シェーンコップ」
「えぇ、揺れてますなぁ。本当に」
ペルシャールの心を読んでいたかの様にご愁傷様ですとでも言わん顔で答えるシェーンコップ。その間にも揺れは強くなっていき、ピニャもそれに気が付いた。初めての体験に理解できていない様であった。
そして――――――
「来るぞ!!!」
その夜、帝都は地震に見舞われた。
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第二十七話 玉座での真実
「地球、特に地震大国と言われる日本ではこの程度日常茶飯事だそうだ」
『地震大国と言われる日本ではこの程度日常茶飯事だそうだ』
「クソ、不良中年め。試すような言い方しやがって」
『クソ、不良中年め、他人事の様に言いやがって」
突如帝都を襲った地震は帝都に住むすべての住民に恐怖を与えるには十分すぎる物であった。
特地では活火山のある一部地域を除いて地盤は安定しており、これまで帝都でこのような大規模な地震が発生したのは初の事である。
「きゃああああ!!?」
「こ、この世の終わりだ……!!」
「皆さん落ち着いて!!」
「落下物に注意してください!!」
事前に地震発生を知らされていた悪所では特殊任務大隊と娼婦達による避難誘導が開始されていたが、完全な避難が間に合うはずもなく現地は混乱を極めていた。そして住民たちはただ恐怖からに逃げまどい、混乱に拍車をかけていた。
■□■□■□■
「結構揺れてるなぁ……」
帝都を襲ったこの地震は日本出身の菅原曰く震度3か4ぐらいらしい。地震大国と言われる日本ではこの程度日常茶飯事だそうだ。しかし此処特地では未曾有の事態のようで、ピニャ皇女を含め護衛の兵士たちもいきなりの地揺れに恐怖を感じているようだ。部下のハミルトンと二人座り込んでしまっている。
「ミースト殿!!よく平気な顔をしておれるな!!?」
ピニャ皇女がこちらに向かって叫んできた。
「このぐらいの地震はわが国では頻繁に起きているのですよ、皇女殿下」
こんな地揺れが頻繁に起きているのかと驚愕した顔を見せるピニャ皇女。そんなことを話しているうちに地震は徐々に弱くなっていき、30秒ほどで揺れは収まった。
俺は矢次に指示を飛ばし、状況の確認に努めることにした。
「シェーンコップ、点呼を取れ!!」
「はっ!」
「栗林は女性を集めて掌握!!」
「了解」
「富田は各拠点と連絡を取り合い被害状況を確認!!」
「分かりました」
5分ほど経つと富田は通信機を手に戻ってきた。
「隊長、アルヌスのハイドリヒ副司令官からです」
「代わろう」
富田から通信端末を受け取り富田には引き続き現状の把握に努めるように指示した。
「私だ」
『閣下、ご無事のようですね』
相変わらず感情の見えない冷たい声が聞こえた。だが俺には分かる。一応彼なりに心配はしていてくれたらしい。
「こちらは特に被害はないな。アルヌスの状況は?」
『事前に地震を察知していたおかげで被害は最小限にとどまっています。門を含め基地施設に被害は今の所なし、アルヌス町も耐震構造を取り入れていたおかげで全損はありません。軽傷を負った者はいますが死者・重症者はおりません』
ふむ、アルヌスに目立った被害はないようだ。この地震で門に亀裂でも起きていたら大変なことになっていただろう。ひとまず安心してよさそうだ。
「分かった、引き続き状況を確認し早急に混乱を収束させてくれ」
『御意』
通信は俺の方から切った。こういう時にこちらがいつまでも切らないでいると相手は切ることが出来ない。こういうところが階級社会の面倒臭いところだ。
端末を戻ってきた富田に渡すと地震も収まり安心しているピニャ皇女に近づいた。これで油断してもらっては困る。後2~3回は来るだろう。
「……何!?まだ揺れるだと!?」
「ええ、大きな地震の後には大抵揺り戻しが来るんですよ」
「こうしては居れん。急ぎ父上に知らせねば……着替えを持て!皇宮に参るぞ!!」
どうやらピニャ皇女は父上、モルト皇帝にこの事を知らせに行くようだ。我々も一度悪所に戻るとしよう。そう思いピニャ皇女に別れを告げて振り返ろうとした途端……
「えっ!?」
「……えっ?」
「えっ……っではない!一緒に来てはくれぬのか!?」
事も有ろうに敵国である俺達の随行を求めてきたのだ。
皇帝の住む皇宮に敵国兵士を招き入れるって……それもう反逆行為になるんじゃないだろうか。等と考えたことをピニャ皇女に答える。
「……緊急時とはいえ、皇帝を住む皇宮に交戦国の兵士を招き入れるのは皇女殿下と言えどもただでは済まないのでは?」
と正論を盾に随行を拒否し、引き下がろうとするとピニャ皇女が俺の腕に手を置いた。
「…それは、何とかする……。だからお願いだっ!ミースト殿!!妾の傍に居て欲しい!!」
どうやら初めて体験した地震がよほど怖かったようで、ピニャ皇女の後ろではハミルトン他護衛の兵士までも声にはしてないが、目で訴えかけてきていた。
「閣下、お姫様からこんなに頼まれてるんです。ついて行って差上げたら如何です?」
どうしたものかと困り果てていると横からシェーンコップが不敵な笑みを浮かべながらこちらを見てきた。クソ、不良中年め。他人事のように言いやがって。
「はぁ……」
致し方ないか……。
今のため息を同行してくれる返事だと思ったピニャ皇女は表情を明るくしながらハミルトンとともに騎士団服に着替えるため邸内に戻って行った。
暫くしてピニャ皇女たちが戻ってくると直ぐに皇宮へと向かった。
道中には近衛兵が多くいたが、その全てが地震のせいで完全に使い物にならなくなっている。皆へたり込んで震えていて誰何の一つもなかった。ピニャ皇女自身も近衛兵の質の悪さを小声で嘆いていたことは聞かなかったことにしておくとしよう。
皇宮に入ってもそれは変わらなかった。近衛兵がいたと思われる場所には盾や剣などが落ちていて、その持ち主は地震の時に何処かへ逃げ出してしまっているようだ。
「ミースト殿、此処で暫く待たれよ」
そう言うピニャ皇女の後ろには他より二回りは大きい両開きの扉があり、どうやらここが皇帝の寝室らしい。俺達はしばらく待機すると、護衛の兵士の案内で王座の間に通された。
そこには玉座に座る一人の男が居た。ピニャ皇女の父親であり、フォルマート大陸を制した帝国の皇帝、モルト・ソル・アウグスタス。
「良いか!!先ずは大臣と軍営の将軍たちに伝令を出し、参集を命じるのだ!!武官は近衛兵を掌握し急ぎ皇宮の護りを固めよ!!」
「「はっ!!」」
「そなた達は広場の片づけだ!」
「「はい!!」」
「一皮剥けたな……」
「か…皮が剥けるような怪我はしておりませぬが?」
次々と的確に指示を出す娘のピニャに対して皇帝は褒めたが、それをピニャ皇女は怪我の事だと勘違いした。まさかそんな真面目な回答が返ってくるとは思わず皇帝は面食らったが、すぐに姿勢を直して話しを続けた。
「ところで……先ほどからそこに控えている者たちは何者か?」
「あ…陛下、紹介致します。ロンディバルト国使節の菅原殿です」
良かったどうやらピニャ皇女はしっかりと覚えてくれていたようだ。
実は皇宮に来るまでの間に俺は少しピニャ皇女に頼みごとをしていた。簡単に言えば俺の正体をばらすな、ただそれだけだ。万が一俺が大統領という事を知られた場合交渉を有利にしようと俺を人質にしようとするかも知れない。そんなことになれば講和交渉など吹き飛んでしまうだろう。主にハイドリヒのせいで。
「そなた等が門の向こうから来た者たちか……。何故この様な時にお連れした?」
「はい、実はこの者達は地揺れに精通しておりまして、助言が得られるかと」
「成る程、そうであったか……使節殿、歓迎申し上げる。……と言いたい所だが、生憎ご覧の有様でな。歓待の宴はお預けだ……」
「心得ました陛下。改めて交渉の場を頂ければ十分でございます」
「父上!!」
皇帝と話を進めていると正面の扉が乱暴に開け放たれ、やけに偉そうな態度を取った男が数人の部下らしき男たちを連れて入ってきた。
「閣下、あれがピニャ皇女の兄のゾルザル・エル・カエサルです」
一体誰だったかと思い出していると菅原が小声で言ってきた。
なるほど、奴がゾルザルか。確かに情報に会った通り乱暴者みたいだ。という事は後ろにいるのは彼の私兵か。
「おお!!ご無事でしたか父上!!さぁ!!共に安全な所へ!!」
「お、お待ちください兄上!?今主だった者に招集を……」
「そんな悠長なことを言っている場合ではない!!直ぐにでもまた地揺れが起こると、ノリコとエリーカが言っているのだ!!」
「…ノリコ……?エリーカ……?」
ゾルザルの口にした二人の名前に疑問を持つが、その間にもピニャ皇女との会話は進んでいく。ピニャのその二人は誰なのかと言う質問にゾルザルは私兵に命令を出した。
そして横の扉から私兵たちが鎖に繋がれた二人の女性を連れてくると俺は言葉を失った。
「日系人……それにロシア人…か?」
俺は自分が何を呟いたかも分からず様子を伺った。万が一にも似たような種族が特地にもいる可能性もあるからだ。まだ手を出してはいけない。
だがそれはゾルザル自身が自分の口で言った。
「こいつらだ。これがノリコとエリーカだ。門の向こうから攫ってきた奴らの……」
「生き残りだ」
そう言いながらゾルザルは二人踏みつけた。その瞬間俺の何かがプツリと切れた。
そして俺は手をベルトの脇まで移動させ、そこのショルダーからそれを取り出し……
その引き金を引いた。
ようやく玉座のシーンまで来ました……
話数的には早いですがリアル時間的にほぼ1年かかってしまってますね……投稿スペースおっそい。
頭ではああしようこうしようと考えているのですが、いざそれを文字に起こすと言い回しに悩んだり表現に迷ったりと些か大変なところがあります(´・ω:;.:...
これからも本作を読んでいただけると嬉しいです。もし面白いと感じたら感想や評価などしていただけると励みになります。
誤字脱字などあれば感想かメッセージで送っていただければ確認して修正をさせていただきます。
【補足】
ロンディバルト民主共和国と言う国名であるのになぜ日系人(日本人)、ロシア人と呼ぶのか?
これは地球全体がロンディバルトと言う一つの国になったため他国から呼ばれる用の名前を必要としなくなったこと
ロンディバルトが人種ではなく元々はロシアを起源とした国家であること
白人黒人黄色人等人種が様々でそれら全てを一括りとするのが難しい事
等の要因があり、国内ではロンディバルト人と言う言葉は使いません。旧日本国出身者であれば日系人や日本人ドイツであれはドイツ人イギリスであればイギリス人など基本的に統一前の国の出身で呼ばれることが多いです。混血も増えているのでアジア系やヨーロッパ系等大雑把な括りとしている場合もあります。
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第二十八話 恐喝
これからも亀投稿になるかとは思いますが、どうぞ末永く見て頂ければ幸いです。
あとがきにていろいろ設定やらを一部記載していますので、ご覧ください。
誤字脱字などあればご指摘いただければ修正いたしますので見つけたら連絡くださるとありがたいです。
―――パァァァァァアアアン!!――――
床にチャリンと言う音とともに薬莢が落ちる。
「……ふっ………」
どうやら僅かながら理性って奴が働いたらしい。
「……がっ!?あぁぁァアアア!!?」
撃った弾はゾルザルの鼻先を掠め、奴の鼻先はピエロのように赤く染まった。
俺は一呼吸おいて気持ちを整えると一気にゾルザルに近づいた。
「ふんっ!!」
必死に鼻を押さえているゾルザルを右手の銃底で殴り倒すと左手の銃で二人に繋がれている鎖を撃ち切る。
武器を構え今にも掛かってきそうなゾルザルの手下達に銃を構え牽制していると後ろから栗林が駆けつけ、ノリコとエリーカ、二人の手錠をナイフで強引に取りながら話しかけた。
■□■□■□■
「大丈夫!?貴方達日本人とドイツ人ね!?私たちはロンディバルト軍よ、助けてあげる」
「帰れる……の?」
「ええ、絶対に連れて帰る…ロンディバルトに」
「こんな所に日本人とドイツ人がいるとは……どういうk「これは一体どういう事ですか!!?」か、閣下!?」
ノリコとエリーカに菅原は自分のスーツジャケットとペルシャールが渡してきたジャケットを羽織らせるとモルトに詰め寄ろうとした。しかし彼を追い越し、ペルシャールがモルトとピニャに詰め寄った。
「もう一度聞きます。……これは一体どういう事だ?モルト皇帝、ピニャ皇女」
普段の様なお気楽さを感じさせない冷たい声視線はモルトとピニャを鋭く貫いていた。
その姿を見て菅原はペルシャールが大統領に就任したころを思い出した。
ペルシャールが大統領に就任したての頃、当時彼は25歳でロンディバルト史上最年少の大統領という事も有って年長者の各有権者や議員達は彼を小僧などと呼んで大統領の座から引きずり落とすために様々な策略を巡らした。
しかしペルシャールは当時未だ一地方警察の所長を務めていたラインハルト・ハイドリヒを長官とし、今の武装親衛隊の前身たる国内安全保障局を設立させた。ペルシャールは彼に”全て卿の裁量に任せる”と言いその言葉通りハイドリヒは自身の力を如何なく発揮して半年後には反大統領派の大半を拘束することに成功した。
それと同時にハイドリヒはその有権者や議員の不正行為を調べ上げ、ペルシャールはそのすべてを国民に開示、彼らの非行を断罪すると民意調査の元彼らのほぼ全員を処刑したのである。
本来こんな行為は民主国家であれば許されることではない。しかしペルシャールはただの冷酷な独裁者と言う訳ではなかった。国民に圧制を強いることはなかったし、必要以上に権力や武力を行使することもなかった。更に大統領テレフォンなる物を設置し、学校のいじめや社内トラブル、将又恋愛相談までありとあらゆる物事に対処し、その多くで国内安全保障局が駆り出された。一部の野党からはこれは先の”大粛清”への批判を和らげるための偽善行為という批判も受けたが、このテレフォン設置後に各種軽犯罪やトラブルなどの発生率が低下したことを受け、その口を閉じるしかなかったという。
彼をよく知る者はペルシャールを”仮面をうまく使い分けている”と言う。
菅原は身震いした。ペルシャールはこうなるとだれにも止められなくなる。最悪ここにいるゾルザルやモルト、ピニャも含めて全員処刑なんてこともありうる。菅原の額に冷や汗が流れた。
「ま、待ってくれミースト殿!?これは何かの手違いだ!!ここは妾に免じて……」
「手違い……?するとなんですか。我が国民が奴隷としてこんな扱いを受けていたのはただの手違いだったと?」
「あ、あぁそうだ何かの手違いだ……だから…「ふざけるのもいい加減にしていただきたい!!」なっ!?」
「……これだから嫌なんですよ。帝国とか独裁者とか貴族とか。……貴方方はまだ自分たちが上だとでも?」
ペルシャールが淡々とピニャに言葉を投げかけていると後ろから声がした。
「ピニャよ、もう良い。……どうやってここに入り込んだかはあえて聞くまい。だが、命運は決したようだな。おれに手を出した罪も重さ、思い知るがいい」
菅原達が振り返るとそこにはゾルザルとその私兵たちが隊列を組んでいた。
「…こいつらには学習能力ってものがないのか……?」
ペルシャールはゾルザルの言葉に半ば呆れつつ、ピニャとモルトに向けていた銃を下げシェーンコップと目配せした。
「富田、栗林、自由発砲を許可する。富田は援護、栗林は俺とシェーンコップに続け」
ペルシャールは返事をする二人の声を後ろにシェーンコップと共にゾルザルの私兵が組む隊列に突撃した。
「シェーンコップは右、俺は中央」
「左は?」
「栗林がやってくれる」
「了解」
短い会話を交わしシェーンコップは右から向かってくる手下にトマホークを振りかざす。手下は剣で防ごうとするが大量生産品で劣悪な質の剣で防げるはずもなく、剣は真っ二つに折れ、その持ち主の胴体も真っ二つに切り裂かれた。
それを横目に見つつペルシャールは中央に堂々と切り込み、44マグナム弾を立ち塞がる兵士達に叩き込んでいく。その間に横からも兵士が槍を突きだしてくるが、それをブレードで防ぎつつ足を撃ちぬき、重心が崩れたところで槍を無理やり奪い取り逆にその兵士に突き刺した。
「ガハァ!!?」
「手強いぞ!?」
「隊列を構えて隙を作るな!!」
数人の兵が一瞬で倒されたのを見て後ろにいた兵士達は盾で互いを守りつつじりじりと半包囲の体制で迫っていく。が、薄い鉄と木で出来た盾で銃弾を防げるはずもなく、44マグナム弾によって簡単に貫通されその持ち主の体の一部も吹き飛ばした。
盾が意味をなさないことに驚き、恐怖した他の兵士達はペルシャールから徐々に離れていき、彼の傍には盾を貫通され左手を吹き飛ばされた兵が痛みにもがきながらも助けを乞うてきた。
「こ、降参する!!だから助け……」
「………」
ペルシャールは無言でその兵士の額に銃口を突き付け、引き金を引いた。
「「「………」」」
その光景を見た兵士達はもはや降伏などできないことを悟り、ペルシャールを一斉に切り込みにかかった。
「敵は一人ではないぞ?」
ペルシャールがそう言った瞬間彼の後方から銃弾が浴びせられ、兵士達は一瞬怯んだ。
その一瞬の隙を突いて左右の敵を片付けたシェーンコップと栗林が彼らに逆に切り込んだ。
「たぁァアア!!」
「でぃやぁアアア!!」
突然の横からの攻撃に既に突撃大勢だった兵士達はなすすべもなく切り倒されていく。
そんな中、ペルシャールは扉の近くで怯え、座り込んでいるゾルザルへと近づいた。
「さて……皇子。貴方は先ほどこの二人を生き残りと言った。それはつまり、他にも攫ってきた者がいる、という解釈でよろしいのかな?」
無表情でゾルザルに銃口を突き付けるペルシャール。ゾルザルは未だ残ったプライドを以て何とか立ち上がり言い捨てた。
「答える義務がどこにあるというのだ」
「そうか……」
ペルシャールはその言葉を聞くや否やすぐさま予備で持っていたFA190をホルスターから取り出すと、そのままゾルザルへ銃口を向けて何の躊躇いもなく撃った。
「なっ……?グッ、ガァアア!!?」
銃弾はゾルザルの右太腿を貫いた。これが44マグナム弾であれば右足は丸ごと吹っ飛んでいただろう。ゾルザルは太腿を抑えながら倒れこみ、あまりの痛みに絶叫した。
しかしペルシャールは撃つのをやめなかった。2発目は左肩、3発目は左足首、4発目は近づいて左耳を撃ち抜いた。
「ァ……ぐっがあぁああアアアアア!!!?」
今まで経験したことのない痛みがゾルザルを襲う。このまま死んでもらっても困ると思ったのだろう。それを察したシェーンコップがゾルザルに近づいて簡単な止血を施した。ゾルザルは何とか意識を保ってはいたが、もうひと殴りもすれば吹き飛んでしまうほどであった。
「もう一度だけ聞く、他の者は何処へやった?」
ペルシャールが改めてゾルザルに問う。ゾルザルがしばらく無言を貫いていると突如ペルシャールの前に誰かが立ち塞がった。
「テュ、テューレ………」
「殿下を殺さないで」
ゾルザルの前に現れたのは彼の奴隷の一人であるヴォーリアバニーのテューレであった。手を横に広げゾルザルの盾にならんとする彼女の行動にペルシャールは一瞬呆気に取られた。
「……皇子、もう一度だけ聞きます。他にも我が国の国民を攫ったのですね?」
「裕喜は!?裕喜はどうなったの!!?一緒に銀座を歩いてたの!!」
「兄さんは!?兄は無事なんですか!!?」
「……答えろ」
「男は……奴隷市場に流した………後は…知ら……」
そう言うとゾルザルは意識を失い倒れた。テューレは急いでゾルザルの様態を確認していた。
「さて……モルト皇帝。宴は拉致された我が国民が帰ってきてから考えましょう。そしてピニャ皇女、後ほど彼らの消息と返還について聞かせていただきたい。それまで講和はお預けです」
モルトとピニャにそう告げるとペルシャールは身を翻して玉座の間から出て行こうとする。しかしそれをモルトの一言が止めた。
「確かに貴国の兵は強い。だが……貴国には大いなる弱点がある」
「弱点……?」
「民を愛しすぎることよ……」
先程までの驚愕した表情ではなく、国の指導者として話すモルトの言葉にペルシャールは耳を傾けた。
「高度な文明をもちながらそれが原因で蛮族に滅ぼされた国を幾度も見てきた」
「我が国も同じ道を辿ると?」
「必ずしもそうとは限らん。だが十分に心するがいい」
「……モルト皇帝、我が国はその弱点を国是としています。我が国の軍隊は、侵略し民に圧制を強いるためではなく、その弱点を、国民を守るための盾として存在しているのです。何なら、もう一戦交えますか?」
ペルシャールの脅しとも取れる返答に身震いしつつ、モルトはやはり今の状況で対等な取引等通じないことを悟った。
「ふっ……そなた等に抗せる筈もなし、和平交渉を認めるとしよう」
「感謝致します。しかし我々も十分に弁えています。平和とは次の戦争の準備期間に過ぎないことを」
「我が国と我が世界は三度の世界規模の戦争とその中で生まれた40億を超える屍の上に成り立っていることをお忘れなきよう」
「40……億……」
フォルマート大陸の全人口の数百倍の屍の上に成り立っていると知ったモルトとピニャは愕然としつつ、改めてロンディバルトと帝国の差を思い知った。
「それでは、失礼させていただきます。総員撤収!!」
ペルシャールとその一行は拉致被害者二人を連れ、俯いたままの二人を背に玉座の間を後にした。
王宮から出るとペルシャールは直ぐにアルヌスのハイドリヒに一連の出来事を話すと共に帝国への報復攻撃を命令した。
そしてそれから4時間後、既に日が僅かに見え始めた頃にアルヌスの仮設空軍基地から
空飛ぶ剣が帝都をめざし飛び立った。
【第一回なぜなにロンディバルト】
「ロンディバルト民主共和国とは?」
第三次世界大戦後、分裂したロシアでサプフィール・ロンディバルトが指導者となり建国した国家。建国当初はその崩壊した世界情勢から民主国家ではなく一党独裁制の独裁国家として誕生した。
その後急速な併合や連邦化が進められ、ユーラシアの大半を支配する強大な国家となった。
初代総統のロンディバルトが亡くなると、彼の側近であったエーレント・マニラフスキー主導の元民主化が行われ、現在のロンディバルト民主共和国となった。
その後ファシスト化し、一党独裁制国家となった南北アメリカ帝国を主軸とするファシスト連合との2度の大戦の後に勝利。速やかな併合行われ人類史上初の惑星国家となった。ちなみにペルシャールは第8代目の大統領に当たる。
「本話について」
ペルシャールが言う3度の世界大戦は第一次二次大戦と核が大量使用された第三次大戦の事を指し、ロンディバルトとファシスト連合の戦いは含まれていない。
40億の屍は第三次の核投射による割合が大きい。
「ペルシャール・ミースト」
ロンディバルト民主共和国の第八代大統領であり、ロンディバルト史上最年少となる25歳にて就任を果たす。(ロンディバルトでは人口の低下を受け様々な年齢の制限が大きく下がり、その中で大統領の立候補も25歳にまで下がっていた)
本話にもあるように表と裏を上手く使い分け、更により国民に近づいた政策を取ることで民衆の心を掴んだ。(お悩み相談を受け付けてそれを政治に反映させたりしている)
書類仕事が大の苦手で何かと理由をつけてサボろうとしている。
しかし一度彼を怒らせればその報復は計り知れない。その実行を行うのがラインハルト・ハイドリヒであるためより凶悪である。
「ラインハルト・ハイドリヒ」
言わずと知れた旧ナチスドイツの武装親衛隊大将。金髪の野獣。
ロンディバルト民主共和国では大統領直属の武装親衛隊長官を務めている。
当時の記憶は残っているため、”そっち”関係のお仕事を主に行っているが、同時にペルシャールの参謀的な役割も果たしている。
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第二十九話 報復、そして
拉致被害者救出の報を受けたアルヌスでは最高司令官命令として帝国への報復攻撃の準備が進められていた。
既に陸軍空軍共に出動準備は完了しており、後は目標の選定と動員兵力の決定だけであった。
「ここは一挙に帝国の重要拠点を抑えるべきでしょう!!もはや講和などできる状況ではありません!!」
第六機甲師団のヴェネジクト少将は会議が始まるや否や強硬論を主張した。
「いや、ここは人的損害を出さずに敵の政治的重要使節や軍関係の施設などを攻撃したほうが良いだろう。第一まだ講和自体が破綻した訳ではない。下手に主戦派を勢いづかせる行動は慎むべきだ。」
逆に慎重論を唱えたのは第一航空騎兵団の健軍少将であった。
また貴様かとヴェネジクトは健軍を睨みつけたが、他の指揮官たちも現在進めている講和交渉を壊すわけにはいかないと健軍の案に賛同の声を上げたため、ヴェネジクトはまたも活躍の機会を逃すこととなった。
「軍関係の施設は物資の集積所にするとして、政治的な重要施設となると……」
「皇宮には皇帝が住んでますから除くとして、どこが最適でしょうか?」
「元老院はどうだ?あそこなら常に人が居るわけではないし、帝国に対する良いメッセージになるのではないか?」
「なるほど」
「確かにそこが最適だろうな」
議論が纏まり、攻撃目標が定まると次に決めるべきは参加する部隊である。しかしこれは直ぐに空軍から声が挙がった。
「となると、陸軍による攻撃は帝国を無駄に刺激しかねませんな。ここは我が第807航空隊にお任せ願いたい」
そう声を挙げたのは第807航空隊指揮官のファルム・ルーデット中佐であった。
「”死神ルーデット”か」
一人の指揮官の言葉に他の指揮官は驚きの表情で彼を見た。
……死神ルーデット
第二次露雅戦争で勇名を馳せた空軍のエースパイロットである。
戦時には出撃回数が1か月で最大70回を越えたこともあるとされており、合計での出撃回数は800回を超え、ロンディバルト空軍史上最高記録とされている。元はドイツ連邦国共和国のパイロットであったが、独露合併後はロンディバルト空軍に配属。急降下対地攻撃機による地上攻撃を得意とし、認められた記録で戦車238両、装甲車及びトラック428両、火砲116門、航空機3機、ミサイル駆逐艦1隻の戦果を挙げており、加えて自身の戦果を部下に分け与えていたため実際はこれより多かったと言われている。
「あの死神ルーデットが……」
「特地人が哀れに思えてくるな」
ヒソヒソと指揮官たちが言葉を交わす中、ハイドリヒは直ちに出撃準備を整えるように命じた。
「特地派遣軍副司令官として命じる。第807航空隊は04:30に出撃し帝都元老院及び物資集積所を爆撃、此れを破壊せよ」
「ハッ!!……久しぶりの出撃だっ!!」
悔しそうに歯噛みする陸軍指揮官たちを後目に意気揚々とルーデットは会議室を後にした。
■□■□■□■
日の出を背に8機の近接航空支援機A-17とそれを護衛する4機FOX-12汎用戦闘機がアルヌスから飛び立った。
目標は帝都の元老院及び帝都周辺に点在する物資集積所である。
「戦争も終わり、もう実践の機会はないと思っていたが……どうやらまだツキが残っていたらしいな」
ルーデットは操縦桿を撫でつつ呟いた。
<全くですね!それに、此処には邪魔な飛行制限もない!!下を気にせず自由に飛べる!!最高の気分ですよ!!>
<09、あんまりはしゃぐな!また操縦ミスで墜落なんてヘマしたらまた整備長にどやされるぞ>
隊内無線を笑い声が埋め尽くし、09は必死に言い訳をするが誰も相手にしなかった。
ひと段落して笑い声が収まるとそれまで口を出さなかったルーデットが再び口を開いた。
「09これは古い知人の国の言葉なんだが、”二度あることは三度ある”だがその反対に”三度目の正直”なんてのもあるらしい。おれとしては是非後者になってほしいもんだ」
<なっ!?隊長!!?>
<隊長、そろそろ目標に到達しますよ>
「ああ、分かってる。02は俺と共にターゲット1を、03から08は分隊ごとにターゲット2から4を攻撃。くれぐれも民間人に当てるなよ?」
<了解!!>
一度高度を落とし、それぞれの目標を目視で確認すると各機は再び上昇し、現地に潜入中の都市型戦闘特殊任務大隊によるレーザー誘導の元、再度急降下していく。
「01ターゲットロック!!爆弾投下!!」
ルーデットの機体から投下された爆弾は目標である元老院に引き込まれるように落ちていき、元老院の屋根部分を吹き飛ばした。
続いて02が止めの一撃として同じく爆弾を投下。元老院はその原形を完全に失い廃墟と化した。
「チェルノボグ01からシビオーン!!再突入の有無を求む!!」
<こちらシビオーン。目標は破壊された。繰り返す目標は破壊された。再突入の要無し>
<こちらチェルノボグ09、上空からも目標の破壊を確認した!!それと隊長!!敵の迎撃が出てきました!!現在応戦中!!>
「こちらチェルノボグ01。シビオーン了解、誘導感謝する」
「01から各機へ。任務完了し次第即撤収だ。ノロマなトカゲ共に構うな」
<へ!?で、でも隊長!!せっかく出撃したんでs「即撤収だ」…はい……>
「よし、チェルノボグ01よりHQへ任務完了。これより帰投する」
<こちらHQ了解>
ルーデット率いる第807航空隊は元老院及び帝都の3か所ある物資集積所を全て破壊し、迎撃に出てきた竜騎兵を適当に蹴散らしつつアルヌスへと帰投していった。
■□■□■□■
拉致被害者二人を保護したペルシャールは直ぐにアルヌスへの帰還の途についていた。そんな中彼の元へ通信が入る。それはアルヌスのハイドリヒからの物で、作戦の成功を伝える内容であった。
「そうか、作戦は成功したか。この上は帝国の奴らが此方のメッセージを正しく理解してくれるのを願うばかりだ」
『前線から遠く離れ帝都で悠々生活している主戦派の議員達も、これで少しは考えを改めるでしょう』
「そうだな。だが講和交渉が決裂する可能性も未だ十分にあり得る。各部隊にはいつでも出撃できるよう重ねて通達しておけ」
『分かりました。それと諜報部からの報告で些か気になることが』
「ほう?諸王国が離反でもしたか?」
ペルシャールの推測は事実一部の国で起こりつつあることであったが、ハイドリヒの言う内容はまた別の物で、更にロンディバルトへ直接的な影響の強いものであった。
「何!?本当か?」
『はい。どうやら帝国国内で皇帝モルト、皇太子ゾルザル、そして第三皇女ピニャの間で派閥争いが出てきているようです。現在は皇帝が7、皇太子が2、第三皇女が1と言う割合ですがこのまま講和交渉が進めば主戦派が一気に皇太子に着く可能性が高いかと』
「……ふむ、そして主戦派の後押しの元ゾルザルが帝国の支配権を握ろうと皇帝を排除するのでは、と?」
『ええ、その可能性は十分にあります。万が一ゾルザルが帝国の支配権を握れば、表面上はともかく実質的な講和交渉は出来なくなるでしょう』
「分かった、この件は卿に任せる。もっと調べさせろ」
『……御意』
ペルシャールは通信を終えると拉致被害者二人の様子を見に後部収容庫に向かった。
一方アルヌスでは。
ペルシャールとの通信を終えたハイドリヒに部下の柳田が話しかけていた。
「では私は課に戻り部下と共に詳しく調査し、対策を立てます」
直ぐに情報課に戻ろうとした柳田をハイドリヒが止めた。
「……いや、待て。諜報部による調査だけでいい。介入はするな」
「は?しかし、ミースト閣下は……」
「閣下は詳しく調べるようにと言ったのだ。それ以上する必要はない。そしてこの件に関しては私に一任されている。卿はそれを聞いていなかった訳ではないだろう?」
鋭い眼光を放ちつつそう返すハイドリヒに柳田は怯みつつも言い返す。
「た、確かにそうですが。このまま放置しておけば講和交渉に支障をきたすかもしれません。早めに手を打っておくべきではありませんか?」
「まだ必ず起きると決まったわけではない。無用の苦労をする必要はあるまい」
何事にも完全を期すハイドリヒである。であるのに希望的観測を以て反論している事に柳田は困惑し、思慮深く考えた。
「まさか……?」
そして柳田は答えであろう結論を導き出す。
「まさか、わざと放置して帝国に内部不安を激化させ、内戦状態に入った所でそれを口実に武力を以て帝国を討ち果たそうと……そういう御積りですか?」
声を震わせつつ柳田は自身の出した結論を、間違いであってほしいという願いと共にハイドリヒに向けて言った。
「柳田中尉」
「は、はい」
「……急ぎ情報課に戻り情報を集めたまえ」
「りょ、了解しました」
結局答えを聞くことが出来なかった柳田であったが、それと同時に聞かなくてよかったという安心感も入り混じっていた。
この物語でハイドリヒのポジションは銀英伝でいうオーベルシュタイン的な感じです。
まぁ…原作には遠く及ばない程度ですが……。
最初の報復攻撃のシーンが中々手間取ってしまい時間あったにもかかわらず出来がいいとは言えないですねぇ……妥協の産物な感じです。(早く炎龍戦いきたいby本音)
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第三十話 助かった者と助かっていない者
お待たせし致しました……。
ロンディバルト軍による報復攻撃がされた日の午後、帝都ウラ・ビアンカ元老院跡にて皇帝の緊急招集の元議員達が集められていた。
「陛下にお尋ねしたい!!キケロ卿によればロンディバルト国の使者は和平を望み、会合を重ねていたそうではありませんか。私自身もその会合に近々出席する予定でした。であるのに、これはどういう事か!?何故元老院が粉みじんにされなければならないのか!?」
玉座に座るモルトに対してカーゼルが問いかける。が、モルトは口を開こうとはしなかった。そのためカーゼルはさらに言葉を続ける。
「お答えいただけぬようですな。でしたら私が話しましょう。……事の発端は開戦前、門の向こうの民を数人攫ってきたことにある」
「なんと!!?」
「そんなことが!?」
「その事実を知るや、事もあろうにゾルザル皇子を打擲するに及んだ!!」
カーゼルのその言葉を聞いた議員たち全員がゾルザルに振り向いた。
ペルシャールによって5発の銃弾を受け、その後皇宮付の魔導士によって治療が施されたものの、包帯まみれとなっていたゾルザルを見た議員達は哀れみの声を挙げた。だが、モルトとピニャだけは事の事情を知っていたために哀れむどころか自業自得と思っていた。
「しかも皇子を打擲したのは彼の国の皇帝であるペルシャール・ミースト!!何故1国の皇帝が一人の民のためにそのようなことに及んだのか!?幾多もいる奴隷などのために!?」
カーゼルの問いかけに対してピニャが答えた。
「カーゼル侯爵、妾が説明させて頂く」
ピニャは自身が経験した事を議員たちに語った。イタリカでのロンディバルト軍の圧倒的な力、一人一人の民を愛し、例え敵だとしてもルールに基づいて厚遇し、殺したり金に換えようなどとはしない。
そして、その彼らが自国民のもてあそばれた光景を目にし、激怒した結果がこれなのだ、と。
「そんな馬鹿な話があるか!?」
「所詮きれいごとにすぎん!!」
聞いただけでは未だ半信半疑と言った感じの議員達を見つつ、ピニャはあるものを取り出して言葉を続ける。
「これは先日ロンディバルトより提供されたわが軍の捕虜の名簿です」
「何ですと!?」
「何故早くそれを見せて下さらぬ!?」
ピニャの持つ名簿に群がるように近づく議員達。ペルシャールが念のためと複数渡していたため、議員達はいくつかの輪になって覗き込むように名簿を見た。
「おお!!息子が…息子は生きていたのか……」
「カーロス!!そなたの孫が載っておるぞ!!」
「誰かわしの弟の名を見なかったか!?」
議員達の喜びが収まると、ピニャは先ほどより大きな声で言う。
「妾は見返りとして14人身請けを許されている。講和交渉関わる者の身内を優先させて頂く」
「そんな!!候補から漏れた者は一体どうなるので!?」
「私の息子が奴隷に落とされるなど!?」
「それは心配せずとも良い。彼の世界では奴隷は居らぬし身代金も要求せぬそうだ」
「奴隷がいない……?」
「そんな馬鹿な!?奴隷なしで!?」
「それでよく生活できるな……」
議員達は帝国とロンディバルトの圧倒的な差を一部なりとも実感した。
その後の協議でロンディバルト国との講和交渉を推進する者が全体の8割強を占める結果となり、ピニャを中心に講和への動きが進んでいくことになる。
■□■□■□■
アルヌスに帰還すると望月紀子とエリーカ・クラウベル、そして同じく奴隷になっていた亜人女性4人を衛生課に検査の為に預け、検査終了まで廊下に座っていた。するとSS情報課の柳田中尉がやって来て、二人についての報告を上げてきた。
それによれば望月紀子の両親はあの銀座事件の日、行方不明となっていた娘を見つけるためにビラを配っていたらしい。そしてあの事件に巻き込まれ母親は右腕を骨折、父親は腹部を剣で斬りつけられ重傷を負った。
だが幸い命に別状はないようだ。しかし二人揃って入院している間に自宅が漏電による火事で全焼してしまい、今は近くのアパートを借りて生活しているらしい。
エリーカ・クラウベルは銀座事件の1か月前に東京に兄と観光に来ていてその途中で行方不明になった。
両親は今東京でその行方を捜しているようだ。幸い銀座事件当日は浅草に居たので巻き込まれることは無かったようだ。
俺は柳田から詳しく纏められた報告書を受け取ると様子を見るために検査室の扉をそっと開けた。
「あ、かっ「静かに」あ、はい」
俺は敬礼しようとする倉田を小さい声で止めさせた。
倉田の奥で望月紀子が電話をしているのを見たからだ。恐らく栗林辺りが気を利かせたのだろう。約半年間、過酷な虜囚生活を強いられていたのだ。家族とようやく話せるこの時間を俺が邪魔するわけにはいかない。今頃隣のエリーカ・クラウベルの所も同じような状態だろう。
俺は泣きながらも笑顔で話している望月紀子を確認すると直ぐに検査室を後にした。
望月紀子、エリーカ・クラウベル、それだけではない。
あの銀座事件で多くの親友や恋人、家族が失われ、その数倍の人々が悲しみに暮れている。
帝国との講和交渉はピニャの様な人間もいる、続けていいだろう。
だが現皇帝モルトや主戦派、そしてゾルザル奴らだけは許すわけにはいかない。奴らは存在するありとあらゆる苦痛を味あわせて惨めに殺してやろう。
いつの間にか司令官室に着いていたようだ。俺は帝国主戦派への怒りの思いを一旦抑えて扉に手を掛けた。
「閣下、少しよろしいですかな?」
その声に俺は振り返った。
「シェーンコップか、どうした?」
「ゴスロリ少女と魔女っ娘の二人が閣下を探していましたよ。何やら慌てていましたが」
ロゥリィとレレィが俺を?どうやらお帰りを言うためではなさそうだな。
「今は何処に?」
「金髪エルフの部屋に行ったようですな」
「分かった」
俺は一体何が起きたのかと思案しつつ早足でテュカの部屋に向かった。
「ここか」
そういえばテュカの部屋には入ったことがなかったな。レレィの部屋には翻訳書作成の後疲れて寝てしまった彼女を送った時に入ったし、ロゥリィには宗教関係の話を聞くために何度か入ったことがある。まぁ何か理由がなければ入ることはないからな。
扉を2回ほどノックして部屋に入ると一瞬手が止まった。
部屋にはレレィとロゥリィとしてテュカが居たのだが、テュカがベッドに腰を掛けて何故か泣いていたのだ。そしてレレィとロゥリィの深刻そうな表情が否応にも何か悪いことが起きているのだと感じさせた。
「テュカ?」
取敢えず話を聞いてみないことには始まらない。俺はテュカに声をかけた。
「何かあったのか?」
「…………」
テュカは泣きながらゆっくりとその真っ赤にさせた目で俺を見た。
「お父……さん………」
「え?」
「お父さん!!」
”お父さん”
テュカは俺を見るとはっきりとそう言いながら抱きついて来た。
突然お父さんと呼ばれたことに俺は驚愕しつつ、とりあえず彼女を落ち着かせようとした。
しかしテュカは俺に抱き着きながら振り向いて言った。
「ちゃんと帰って来たじゃない!!二人とも冗談が過ぎるわ!!」
「テュカ……?」
俺の中に小さくあった嫌な予感が徐々に大きくなり始めた。
「お父さん聞いてよ!!」
「あいつったら……あいつったら、お父さんが死んだっていうの!!お父さんが炎龍に殺されたって!!」
テュカの表情を見て俺は確信した。
とうとうテュカの心は壊れたのだ。
亀投稿な本作を少しでも気に入っていただけたら感想や評価で残していただけると嬉しいです。
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第三十一話 苦心
大変遅くなりまして申し訳ございません。
俺は今難民キャンプのはずれにいる。横にはハイドリヒとシェーンコップそしてローゼンカヴァリエの隊員が10人ほど、俺の後ろにはレレィとロゥリィがいる。そして目の前には―――
「弁明があるなら聞こうか。ダークエルフ」
「…………」
”ヤオ・ハー・ディッシュ”
前に援軍を求めてやってきたシュワルツの森から来たダークエルフ。
そして、テュカの心を壊した張本人。
「何故テュカに余計な事を言った」
「……余計とは心外、事実を伝えたまでだ」
「ここにいる三方は特に大切にしていると聞いた。この三方のためなら多少の無理もやってのけると。……ならばそれを利用しない手はないだろう?」
「貴様、やって良い事と悪い事くらい「此の身も子供ではない!!」……」
「前に御身に頭を下げて頼んだはずだ。炎龍を倒してほしいと!!出来ることなら何でもするとも告げた!!……なのに……言ったではないか!!それは出来ないと!!御身以外の者にもにも頼み込んだ!!なのに誰も彼も口をそろえて拒絶した!!」
「……当然だ。帝国や他の王国のような軍隊とは違う。ロンディバルト軍は規律を重視する軍隊だ。例え指揮官であっても自身の判断で勝手に動くことは許されない」
淡々とその冷徹な目を向けながらハイドリヒが答える。
「それに、だ。目的のためなら手段を択ばない貴様のような蛮族など助けるに値しない。誰がそんな願いなど聞き入れるか」
俺も怒りを抑えながら続ける。
「だが、拒絶した者たちは口を揃えてこう言った!!”ミースト閣下なら”とな!!」
ハイドリヒやシェーンコップの視線が此方へ向いた。
「……だから、壊したのだ」
「あのエルフの心を救うには、父親が炎龍に殺されたことを言い含めその上で仇を討つしかないぞ!!?どうする!?緑の人よ!!?」
「…………」
あぁ、くそっ
「このままエルフを見捨てるか!?それとも武器を持って起つか!?」
「………」
クソ…クソクソっ……
「愛する者を奪ったのが人ならば、その下衆を追い求めれば復讐を果たせよう!!だが炎龍はどうか!?手も足も出ない!!誰も捕えることも出来ず罰することも出来ない!!ならばこの怒りと憎しみは誰に向ければよい!?愛する者を奪われた憎しみは誰に向ければよい!?」
「……」
最悪だ。
「自分勝手なのは分かっている……その代わり、此の身の心と体も全て捧げる……イマここで殺しても構わない……」
ヤオは悲痛な声で涙を流しながら祈願する。
「あの娘のついででいい……此の身の同胞を救って欲しい……」
最悪だ。確かにやろうと思えばそう難しい事ではないが、昔とは違うんだぞ………
「閣下……?」
「……もう、いい。帰らせろ」
「はっ」
ローゼンカヴァリエの隊員がヤオを引きずるように連れて行く。
俺はそれを背にして逃げるようにその場を離れた。
「……ハイドリヒ、私は大統領としてどうだ?」
「………就任当時からだいぶ変わられたかと」
「そうか」
ハイドリヒと別れ俺は自室へ戻った。
着替えてベッドに入るが、その日はいつまで経っても眠れなかった。
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アルヌス基地内にある食堂の一角には時折暇を持て余した部隊指揮官たちが集っていた。ペルシャールの帰還から数日後のこの日、何時もの様に数人の指揮官が時間をつぶすためにやって来ていた。
第六機甲師団のヴェネジクト少将、第一航空騎兵団の健軍少将、新たに派遣されてきた第六SS独立砲兵連隊のアドリアン・ブルラコフ大佐、第八SS特殊任務連隊のアリスタロフ大佐の4人が向かい合わせでテーブルに向かい、その様子を薄気味悪い笑みを浮かべて達観しているのは第一試験大隊のディック・ヒューイット技術少佐である。
「いつになったら戦えるんだ!!?」
皆が座るなり話し始めたのはヴェネジクトであった。しかし、何度も同じような光景を見ているらしく他の3人は気にせず紅茶を飲んでいる。アリスタロフを除いて3人は紅茶より珈琲の方が好きだったが、軍での支給品は大半が紅茶に統一されている為渋々紅茶を飲んでいるのであった。
「まぁ、勝手に出撃する訳にもいきませんからな。命令が下るのを待つしかないでしょう」
乱暴に紅茶を飲み干すヴェネジクトを横目に、アリスタロフは紅茶の香りを楽しみつつ呟く。
「久しぶりに実戦ができると思っていたのですが、どうやら望み薄のようですね」
続け様にブルラコフが残念そうに言う。
全体的にやや暗い空気が立ち込める中、ヴェネジクトが更に続ける。
「先の戦争ではミースト閣下は常に我らの先陣に立って指揮を執ってくださった。だからこそ今回の派遣にも手を挙げたというのに……」
「確かに、先の戦争が終結してからミースト閣下はやけに大人しくなられたというか。以前の様な活発さを感じませんね」
「これが普通なのだ。今までが例外過ぎただけだろう」
やや乱暴に言い放つ健軍だが、彼自身も不満がない訳ではなかった。しかしそれを表に出すことはない。ただでさえそういった不満が増えつつある中、数少ない常識人と言われる健軍までそんなことを漏らしてしまえば派遣軍が一気に強硬論で埋め尽くされかねないからであった。
「良い試験データが取れると聞いたので来てみたのですが、碌な戦いがないどころか、既に講和交渉まで始まっているとか……。これ来た意味あったんですかねぇ~」
一人陽気に話す彼に俯ている全員の視線が集まる。
「技官だったな。その通り、帝国との講和はもはや既定路線。今度こそ我らの出番は無くなったのだっ!」
ヴェネジクトはまたも乱暴に紅茶を飲むとカップが割れるのではと思うほど勢いよく置いた。
「ヒューイット少佐でしたね。良ければ今回の試験兵器についてお話していただけませんか?同じ暇を持て余す同士」
「機密にしている訳でもありませんし構いませんよ。ではまずこちらから説明を………」
ヒューイットによる説明は約4時間に渡り、ブルラコフら4人は良い暇つぶしになったと後に白目で語っている。
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王の間での事件から2日が経った帝都。既に元老院では講和派が多数を占め、ピニャを中心に準備が進められていた。しかし、その中には講和を望まぬ者も多く存在する。その筆頭となるのが皇太子であるゾルザルであったが彼は未だ先の傷が癒えていなかった。
皇太子府の一室でベッドに横たわるゾルザル、傍には白い服が目立ち眼鏡を掛けた男が立っている。
「ちっ、やはり医療魔法でもそう簡単には治らんか」
唯一まともに動かせる右手で左肩や右太腿をさするゾルザル、だがさすっただけで全身に痛みが走り舌打ちする。
「流石にこれだけの傷を数日で治すことは不可能です。寧ろあれだけの重傷を2日で改善できたと思うべきかと」
傍の男はゾルザルを宥めるように丁寧に言葉をかける。
「そうだな……お前のおかげでだいぶ楽になった。やはり魔法は役に立つな」
「お褒めの言葉光栄に思います。其処で一つお頼みしたいのですが、よろしければ私を殿下の専属医師に任じていただけませんか?」
「お前の様な医師が付いてくれるのは願ってもないことだ。分かった、後で正式な任命書を渡す」
「ありがとうございます」
ゾルザルは早速テューレを呼びつけた。そのせいで彼は、その後ろで見守る男がひっそりと笑みを浮かべていたことに気づかなかった。
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