初月に甘えたり甘えられたりする話 (一旦しーた)
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初月に甘えたり甘えられたりする話

提督はCV.藤原啓治のイメージで


「うええぇぇぇ……初月ぃ……」

 

 執務室で一人残って作業をしているとキィとと扉が開いてうちの提督が入ってきた。無精髭をそのままにしてある20台後半前頃のおっさんだ。今は珍しく吸っていなかったがいつものようにタバコを吸ってて臭いし、みんなに聞いても笑いながら「ダメな大人の見本だね」と言われていて僕もあまり良いイメージは沸かなかった。

 

「ど、どうしたんだ提督……ってコラぁ!? い、いきなり抱きつくな!」

 

 すすり泣きながら飛びついてきた提督を引き剥がす。……が、意外と力が強くて剥がれない。

 

「……それで一体どうしたっていうんだ?」

「うんと……まぁ色々あってだな……」

「……今回の大規模作戦のことか?」

「さ、さぁなんのことやら……」

 

 そう言いながらお腹に埋めたままの顔をそらす。その状態で顔動かすのくすぐったいからやめてくれないかな……

 

「響から聞いた」

「どこで聞いたんだアイツ……」

「……それでなにがあったんだ?」

「そうだな……まぁ少し無理をし過ぎて上に怒られたってだけの話だ。……あいつらにも無理をさせた」

「そうか……」

 

 上から怒られるほどの無理。ということは恐らく練度か装備が足りてなかったのだろう。それなのにそこまでしたのはあの海域になにかあったからなのか……それとも。なんにせよいくら考えても僕にはその答えは出せない。

 そう物思いに耽っているとさっきから腰に回っていた手がギュッと強くなった。

 

「だから甘えさせて」

「んなっ……ッ!?」

 

 そう言うが早いが更に頭をすりすりと擦りつけてきた。チクチクとした髪の毛が服を上から触りくすぐったいやら恥ずかしいやらで自然と顔が赤くなる。

 

「やめろ離れろぉぉッ! というかお前には響がいるんだろう!?」

「初月! お前がいい!」

「最っ低だな!?」

「……なんで僕なんだ?」

 

 落ち着いて顔色を元に戻してからそう聞くと、提督は顔をこっちに向けて真顔でお前だからお前がいいんだと言った。

 

「……意味がわからんぞ」

「一ついいことを教えてやる。好きに意味なんて無いんだぞ」

「す、好きって……」

 

 不意に好きなんて囁かれてまた一瞬顔が赤くなるかけるが、ただの浮気野郎だと思い直して元に戻す。

 

「……響のことは好きじゃないのか?」

「んなわけないだろ」

「お前なぁ……」

 

 はぁ……とため息を吐くとまた頭を少し動かしてきた。いい加減頭をはたき落としたほうがいいのだろうか。

 

「けど実を言うとな。アイツに指輪を渡したのは好きだからじゃなくてアイツが一番最初に許可が降りる練度になったからなんだ」

 

 マジで最低なんじゃないかコイツ?

 

「だけど今アイツが好きかって問われたらYesだ。銀髪ロリっ子最高だ」

「お前が提督じゃなかったら然るべき所に連行するところだよ」

「ま、まぁ言いたいことは好きに理由なんて無いってことだ」

「だから甘えさせろ……って?」

「おう。なんならお前が甘えたっていいんだぞ」

「なんで僕が……ていうかなんで提督に」

 

 呆れて頭を抱えるとパッと予想だにしない答えが返ってきた。

 

「お前、無理してないか?」

 

 ドキリと心臓の音が聞こえたような気がした。頭の中のどうしてが聞こえたかのように提督は続きを喋り出した。

 

「分かるんだ。大体お前みたいな海《あっち》から拾ってきた子は来たばっかりの頃は不安がってる事が大体だからな」

 

 思わず手を握りしめていた。手の中は汗で滑って気持ちが悪い。それぐらいに動揺していた。

 

 ――――気づかれていた。

 

「お前本来の性格ってところもあるんだろうけど流石に順応するのが早過ぎる。こういう奴は不安一人で隠してるって相場は決まってるんだ」

「……ッ」

「別に俺じゃなくても秋月の奴もいるだろ。ちっとぐらい頼ってやっても――」

 

 話を耳に入れず、提督の身体を本気で振り払って逃げようと走った。扉に手をかけた所で腕を掴まれる。

 

「離せッ! お前なんか――」

 

 手を振り払おうとした所でぎゅぅっと抱きしめられた。抜けだそうと本気でもがいたが、かなり強く、けれど痛くはないように抱かれていて抜け出せない。完全に抱きしめ慣れた加減のし方だった。

 

「お前はそういう奴だろうよ」

「うるさいっ! お前に何がわかる……ッ!」

 

 叫びながら腕の中でもがく。けれど力強い大きな腕は外れなかった。僕の抵抗を食らいながら提督はいつにない真剣なトーンで囁く。

 

「わからないさ。でもお前の最期は知ってる」

「……」

 

 動くのをやめて考える。思い出す。あの日の夜を僕は沈んだ。けれど後悔はなかった。……本当に無かったか? 

 怖かった。暗かった。寒かった。――冷たかった。身体も――心も。

 

「いいから。しばらくこうしてな」

 

 タバコ臭いその人の腕の中は暖かかった。最低な人間だけど、けれど暖かかった。

 そして胸の前に重なっていた手を掴み、スッと下におろしてほどいた。

 

「…………なぁ、やっぱり俺じゃ嫌だったか……――むぐぅっ!?」

 

 解いた手を引っ張り提督の頭を両腕で抱えた。いきなりでびっくりしているのか腕の中でジタバタと暴れているがさっきのお返しも含めてさらにギュゥと抱きしめた。

 

「……そうじゃない。僕はもう大丈夫だ」

「むぐ……そ、そうか……」

 

 顔を出した提督はふぅっと息を吐いてから安心そうに最初のニヤけ顔に戻った。

 

「けど……今度僕が君に肩を預けられるほどの関係になったら――その時は存分に甘えさせてもらおう」

「おう。その時が来るのを楽しみに待ってるぜ」

 




「……司令官?」
「……よ、ようう゛ぇーるぬいちゃん。何用で……?」
「初月」
「マジすみませんっした」
「……いい。Lvソートで私の上にさえ置かなければ。それでいい」
「置くとどうなるんでせうか」
「私の部屋に首が一つ飾られるから。覚えといて」
「……忘れないようにします」
「……Идиот(イディオット)


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