何もできない僕の物語 (必殺うぐいす餅)
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第1話

静謐な朝の空気が消え人の動きが最高潮に達する昼時、町には様々な音が響いていた。

人や馬車が通り過ぎる音、売り買いする声、どうでもいいような雑談。

 

 

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サザラント王国。

穏やかな気候から多くの作物に恵まれ、世界屈指の軍事国家であり、人類の敵である魔物たちの国と国境を接する国。

 

そして最前線から遠く、交易によって栄えた町フラング。

王都から馬で1日と程近く、また街道の交差点にあり人も物も溢れたとても豊かな町。

 

そんな賑やかな町の雑貨屋に一人の少年の姿があった。

短く刈った栗色の髪と綺麗な黒い瞳、友達によくからかわれるとても小柄な体躯。

周りと同じような地味な服を纏い、今日も父の店の手伝いに汗を流していた。

 

「父さん、荷物届いたよ!」

今届いたばかりの木箱を台車に乗せ、小太りの人の良さそうな中年、父親であるヴァレルに声をかけた。

「おう、届いたか。店の奥に置いといてくれヨアン」

そう声をかけられた少年、ヨアンは元気にうなずき台車を店の奥に向けた。

台車から隅へと木箱置く、ちょうど置いたタイミングで父さんに声をかけられた。

「そうだ、ついでといっちゃなんだが手紙を届けにいってくれんか?」

「手紙?いいよ、何処に持っていくの?」

僕は台車を片付けながら父さんの方に歩いていく。

「ちょっと待ってろ・・・あぁ、あった、これだ」

父さんには珍しく蝋で封までしてある。

「ちょっと父さん、これ重要な手紙なんじゃないの?」

僕は少し驚きながらも手紙を受け取った。

「あぁ、まぁ隣町の商会までだからな。場所わかるか?」

「わかるけどさぁ・・・行商さんには頼めなかったの?」

父さんは頭を掻きながらばつが悪そうに言う。

「いや、頼めなかったわけじゃないんだけどなぁ・・・」

「どうせ父さんのことだし、期日間際に書いて渡し忘れたとかでしょ?」

それを聞いて父さんは急に腕を組み僕ににらみを聞かせながら怒ったように言った。

「そういうのいいから!行ってくれんだろ?今から馬車に乗れば夕方には向こうに付くだろ、はよいけ!」

手を払いまるで追い出すように言って来る、こいつ・・・本当に父親かよ。

「父さん、行くのはいいけど日帰りは無理だ。宿代と馬車代くらいくれよ、あとお駄賃ね」

にっこりと笑いきちんと請求すべき物を請求する。断じて僕の小遣いから出してなるものか。

「はぁ・・・ちゃっかりしやがって、誰に似たんだか」

机から財布を取り出し硬貨を何枚か渡してくる。

「これで十分だろ。釣りが駄賃だ、行ってこい」

僕はさらに笑顔を深めてことさら感謝した風を装う。

「ありがとうございます!ヨアン、行ってまいります!...ちなみに笑顔は親父の真似だよ」

父さんはまたもや頭をかきながら困り顔で言って来る。

「あぁそうかい、まったく将来が楽しみだよちくしょう。気をつけてな!」

 

 

僕の父さんはこの町で商人をしている。商会の直属の店であり、様々な商品を扱っている関係で町での顔も広い。この町で父さんの、ヴァレルの子だといえば大体通じる。

そのせいか普通に歩いているだけでも周りからたくさん声をかけられる、いつもできる限りにこやかに返すがこういう急いでいる時は少し困りものだ。

 

僕は城門近くの馬車乗り場へと急ぎ足で向かう、この時間ならまだ間に合うだろう。

 

その後も何人かに挨拶をされながら馬車乗り場へとやってきた。

行き先は城塞都市オラドゥール。強固な城壁に囲また最前線への中間地点となる町だ。

 

何台か止まっている馬車の中で2頭立てで幌付きの、長距離用と思われる馬車に声をかけた。

「すみません、これってオラドゥール行きですか?」

僕の声を聞き御者のおじさんがちょっと怖い顔を向けてきた。

「そうだが・・・坊主が行くのか、今日中には戻ってこないぞ?」

僕は笑顔でうなづいた。

「はい!ちゃんと宿の宛てもありますし、明日の朝一で馬車に乗って帰ってきますから!」

「そうか・・・なら乗りな、料金は先払いだ」

僕は規定の料金を払い馬車に乗り込んだ。

中には恰幅の良い男性と寄り添っている奥さんと思われる女性に若くガッチリした体格のお兄さん、眼帯をつけ鎧を着込んだ凄く強そうな人が乗っていた。

その中の恰幅の良い男性が話しかけてきた。

「おや、坊ちゃん。お使いの帰りかな?」

どうやらこれから帰るところだと思ってるらしい、僕みたいな子供が泊まりで出かけるとは考えづらいんだろうなぁ・・・

だから僕はこう言ってやる。

「いえ、これから行くところです、オラドゥールで父の用事を済ませて朝一番の馬車で帰ってきます。こう見えてもう14ですから、子供じゃありません」

ツンと済まして言い放つ

恰幅の良い男性はその様子を見て笑い出した、失礼な。

「いやいや!すまなかったね。ほら砂糖菓子をあげよう、これで許してくれるかい?」

そういって腰の袋から綺麗な色をしたお菓子を取り出した。

お菓子で僕の機嫌をとろうとは、何度も言うが僕はそんなに子供じゃない。

恰幅の良い男性の手からお菓子を取り口に含む、甘くてとても美味しい。

まぁ・・・お菓子に罪はない、この甘さに免じて許してあげよう。

「ふん、もういいです許してあげます。ぁ、お菓子ありがとうございます」

ちゃんと物をもらったお礼はしないとね、大人だから。

「ははは、ありがとう。オラドゥールまで時間がかかる、また欲しくなったら言いなさい」

そう優しい言葉をかけてくれる。

むぅ・・・この人、良い人かもしれない・・・

 

 

そして御者台から声がかかった。

「そろそろ出発します、あまり快適ではないかもしれませんが・・・皆様どうぞごゆるりと!」

僕の方をちらりと見ながら言ってくる、御者の人まで子ども扱いか・・・

すこし釈然としない、そんな思いを乗せて馬車は進み始めた。

 

こうして、僕の短い『はず』だった冒険が始まったのだ。




初投稿処女作、かなり緊張しています。
誤字脱字がないか、ストーリー上の矛盾がないか自己チェックはしたつもりですが何かありましたら是非ご意見ください。


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第2話

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ガタゴト、ガタゴトと森の中の街道を馬車が走る

 

今日は天気がいい、とても良い陽気の中馬車は調子よく進んでいく。

「この調子なら予想より早くつきそうだなぁ」

僕は乗合馬車のなかでひとりごちる。

「おう坊主、お使いか?」

僕の隣、乗合馬車の最後尾に座っていた戦士さんが話しかけてきた。

鎧を着込み使い込まれた感じの剣を持っている。たぶん乗合馬車の傭兵さんだろう。

「はい、隣町まで届け物を」

僕が当たり前のように応えると傭兵さんは笑顔を浮かべた。

「子供一人で隣町までねぇ、この辺は本当に平和だよなぁ。俺は傭兵始めてから魔物なんて数えるほどしか見たことねぇし」

 

そう、町の外には魔物が出る。

魔物が出るといっても街道は定期的に兵士が巡回をしているし、馬車には必ず傭兵が乗っているから乗れさえすれば子供でも安全に移動できる。

 

「本当に平和ですよね。僕は一度も見たことがないし魔物なんか本当にいるんですかね・・・あぁ疑っているわけじゃないんですよ、噂では遠くの町が滅ぼされたとか聞きますし」

傭兵さんは少し苦い顔をしながら笑った。

「はは、坊主がそう思うのも仕方ない。俺だって自分が最前線で戦ってなければ疑ってたかもなぁ」

最前線・・・最前線!?

「傭兵さんって・・・もしかして騎士団の方なんですか!?」

僕は驚きを隠せない、騎士団は言わずと知れた超エリートだ。

「あぁ、元・・・だけどな。片目がやられちまってな、戦うのに大きな支障は無いんだが・・・なに遠くが見え辛いだけだ、元騎士団として剣の腕は確かだから安心してくれよ」

そんな話をしてると唐突に馬車が止まり前から声がかかった。

「おい傭兵、ちょっと前見てくれ。ありゃなんだ?」

傭兵さんはちょっと面倒くさそうにしながらもすぐにまじめな顔を作った。

「おう・・・だめだ、遠すぎてよく見えん。俺の目が悪いのは知ってんだろ?」

御者のおじさんも手でひさしを作り目を細めて遠くも見ている。

僕も後ろから見てみたがだめだ、よく見えない。

「まぁいいや、俺がちぃっと見てくるからここで待ってな。」

傭兵さんが馬車から降り前へ歩いていく。

ある程度歩いて、そして剣を抜き切り払った。

そのまま何事も無かったかのように歩いて戻ってきた。

「おう、どうだった?」

御者のおじさんが傭兵さんに尋ねるとニカッっと笑った。

「あぁ、魔物だったが下級のゴブリンだ。何も問題なかったよ。」

言いながら馬車に乗った。

「そうかい」

御者のおじさんは短くそれだけ言うとすばやく馬車を走らせた。

そのまま馬車が進み魔物の死体の側を通った時だった。

 

ヒュッと風を切る音が聞こえた気がした。

 

馬の悲鳴が聞こえすさまじい衝撃と共に唐突に視線が横にずれた。

 

いったい・・・何が・・・

 

 

 

ズリズリと、僕は馬車の中から這いずり出た

一体何が起きたのかはわからなかったが、馬車が横倒しになったのだけはわかった。

「いつつ・・・一体なんなんだよ」

「くっそいてぇ・・・何が起きた」

「なんなの?いきなり・・・」

とにかく周りを見ると何人か座り込んでいたり馬車から抜け出てくる人がいた。

ぱっと見た感じだと意識を失ったり大怪我をしている人はいないみたいだ。

ん?傭兵さんがいない?

「あの・・・だれか傭兵さんを見ませんでしたか?」

恰幅の良い・・・旦那さんの手当てをしていた奥さんが応えてくれた。

「さぁ、私は見てないけど」

ちょうど馬車から出てきたガタイのいいお兄さんが変わりに応えてくれた。

「あぁ、傭兵なら魔物がなんとか言いながら横の森に入って行ったよ」

まだ魔物がいたのか・・・

「まだまm・・・」

言いかけたところで横の森から叫ぶような声が聞こえてきた。

「全員走って逃げろ!中級の魔物だ!俺じゃ手に負えん!!」

その声と共に森から傭兵さんが飛び出してきた。

皆がきょとんとしてる中傭兵さんはすぐに続ける。

「いいから立て!走れ!この位置からならオラドゥールのほうが近い!」

ガタイのいいお兄さんが傭兵さんを見ながら顔を引きつらせていた。

「おいおい、中級の魔物って・・・嘘だろ、なんかの冗談か?」

その言葉に傭兵さんは顔を真っ赤にして怒った。

「冗談で言うわけがないだろ!いいかr・・・」

その怒鳴り声の途中で森からズシンと大きな音が聞こえた。

まるで地の底から響いてくるような・・・低い、地鳴りのような声だった。

「ニンゲン ウマイ クウ」

片言だが確かに人間の言葉を話した。

後ろで誰かが呟いた。

「知能がある・・・中級の魔物・・・」

なんで・・・こんなところにそんなのが・・・

「逃げろ!!」

傭兵さんが剣を構え怒鳴った。

その声を皮切りに皆叫び声をあげながら走り出した。

僕もすぐに皆に続いて走り出す。

走りながら手当てを受けていた恰幅のいいおじさんが叫んでいた。

「なんで・・・!何でこんなところに中級の魔物がいるんだ!!街道は・・・街道は騎士団が見回ってるはずだろ!!」

そんなのここにいる誰にもわかるはずが無い。中級の魔物なんて、それこそ遠くの・・・指定の危険地域にしかいないはずだ。こんな町の近くにいるはずが無い。

「なん・・・で・・・!なんで・・・!こんなことに!!」

僕もそんな愚痴を言いながら必死に走る、その横でまたあの風を切るような音が聞こえた。

「ヒグッ」

そんな音を残して、隣を走っていた恰幅の良い男性が倒れた。

「イヤァァァァ!!!あなたぁぁぁ!!!」

その男性の手当てをしていた女性が叫び足を止めた。

皆その声を聞いて驚き足を止めていた。

「バカ!足を止めるな、追いつかれるぞ!!」

ガタイのいい男性が女性の腕をつかんで走らせようとする。

「イヤ!はn・・・」

言いかけて女性の頭に矢が生えた。

「ヒッ!なん・・・なんだよ!」

僕は腰を抜かしへたり込んでしまった。

後ろからズシン、ズシンと音が聞こえてくる。傭兵さんはやられてしまったのだろうか・・・

「おい、さっさと逃げるぞ」

お兄さんが手を差し伸べてくる。

「あ・・・ごめんなさい、腰が・・・抜けて・・・」

僕は・・・立てない。ここで死んでしまうんだろうか・・・

ただのお使いだったはずなのに、危険なんて無い安全な旅だったはずなのに。

「チッ・・・仕方ねえか・・・」

お兄さんはそういうと僕に背を向けた。僕は見捨てられるんだろう、誰だって自分の命が一番大事なはずなんだから。

だが予想とは裏腹にお兄さんはその場でしゃがみこんだ。

「ほら、乗れ」

短くそう言うと顔だけこっちに向けてきた。

「でも・・・僕・・・」

「いいから乗れ!ガキの一人くらい担いでたって何もかわらねえよ」

お兄さんの背から見える横顔は笑顔だった。

「ありがとう・・・ございます」

僕はお兄さんの背にしがみついた。

後ろから聞こえる音はどんどんでかくなっている。

「急がないとやべぇな・・・しっかり捕まってろよ」

お兄さんの背に強くしがみついた。

「はい!ありがとうございます!」

お兄さんは僕を背負って、力強い足取りで走り出した。

 



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第3話

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お兄さんはしばらく走っていた。

後ろから迫ってくる音がだんだん大きくなってきている。

「くっそ・・・足はえぇな・・・」

荒い息を吐きながらひとりごちる。

「ど・・・どうしよう・・・どうすれば・・・」

僕はお兄さんの背で考える。僕を捨てればお兄さんは助かるんじゃないか、そんな考えが脳裏をよぎる。だけど言葉にはしない、僕だって自分の命が大事なんだ。

「おい、いったん隠れてやり過ごすぞ」

隠れてやり過ごす?

「でも、前に行かれたら町までかなり遠くなっちゃうんじゃ・・・」

「いや、あいつ人間を食うって言ってたよな?俺らが見つからなかったら後ろの奴らを・・・その、食いに戻るんじゃないか?」

僕は僕なりに考える。

そうか・・・追っては来ているけどあいつ僕たちを食べるって言ってたんだよな・・・

それなら獲物が見つからなければ仕留めた獲物を取りに戻るだろう。

「それなら、そこに大きめの藪がありますしそこに隠れましょう。」

「あぁ、そうだな。そこなら二人くらい隠れられる」

 

 

大きい藪の中にお兄さんと身を潜める。

足音は近くから聞こえてくる。そろそろ僕らの視界に入ってくるだろうか?

 唐突に、僕は後ろから肩を叩かれた。

後ろから・・・後ろからだって!?

「ヒッ・・・」

すぐにその手が僕の口を押さえる。

「バカ、坊主・・・俺だ」

後ろで誰かがつぶやいた。

この声・・・傭兵さん!?

「傭兵さん・・・生きてたんだ・・・」

ぼろぼろの姿で、苦い顔をした。

「なんとかな、生き残りは・・・三人だけか。よく無事だったな坊主」

お兄さんのほうを見ながら少し笑顔を浮かべる。

「はい、僕はお兄さんにおぶってもらってなんとか・・・」

「流石に子供を見捨てんのは寝覚めが悪ぃからな・・・それより、そろそろ来るぞ」

傭兵さんが合流して安心してしまった。まだ危機は去っていないんだった・・・

三人ともすぐにまじめな顔を作り藪の中からこっそり街道をのぞく。

少し手前、僕らを見失ったからなのかきょろきょろと周りを見回しながら巨体が歩いてくる。

僕は手を合わせ、きつく目を閉じ祈る。

どうか・・・どうか見つかりませんように・・・!

そのまま魔物は僕たちの前を通り過ぎ・・・足を止めた。

ばれた!?

僕は・・・死ぬの?

母の作ったご飯を食べて、父親の店を手伝って、たまにお使いに行って、ゆくゆくは店をついで商人になって・・・そんな日々が続くと思ってた・・・

イヤだ!死にたくない!!

そんな思考が僕の頭を満たしていた。

魔物はその場で辺りを見回し・・・戻ってきた。

もうだめなんだ。そんな諦めが沸いてきた。

そんな僕の絶望を知ってか知らずか・・・魔物は僕たちの前を通り過ぎそのまま歩いていってしまった。

ズシン、ズシンと足音を残しながら歩いて戻っていく。

たす・・・かった・・・?

そのまま足音が聞こえなくなるまで僕たちはずっと藪の中に潜んでいた。

 

 

しばらくして、僕たちは藪から抜け出した。

傭兵さんとお兄さんがかすかに笑顔を浮かべて話し始めた。

「助かったのか・・・」

「一度止まった時・・・ばれたかと思ったぜ」

僕は未だ緊張しているのか、体が強張ったまま動けないでいた。

そんな様子を見て傭兵さんが優しく話しかけてくる。

「坊主、運が良かったなぁ!俺たちは助かった!」

その言葉にようやく僕は体の緊張が解けた。

「それに、走ったおかげか隣町・・・オラドゥールまですぐ近くだ」

そうか、そんなに走ってたのか。

魔物はもと来た道を戻り、町までもすぐ近く。僕にも希望が戻ってきた気がする。

「魔物がいる森で野宿なんてごめんだ、さっさと町まで行こう!」

お兄さんがそんな事を言い、僕たちは生き残ったことに感謝しながら次の町に向かった。



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第4話

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夕方を通り越しだんだんと日が暮れていく中、僕たちはようやく森の出口に差し掛かった。

この先の丘を越えれば町が見えてくる。ようやく森を越えられるという安堵からか皆一様に笑顔を浮かべる。

「やっとか・・・はやく宿でのんびりしたいなぁ」

お兄さんが疲れたようにつぶやく、それには僕も賛成だ。

傭兵さんが頷こうとした僕をちらりと見た。

「俺だってそうしたいとは思うけどな・・・まずは兵の詰め所だ、討伐隊編成の為にも事情を話しに行かないといけない」

それを聞いてちょっとげんなりする。僕なんかずっと逃げていただけだ、何も話せることなんてないんだけどなぁ・・・

微妙な顔の僕を見てかお兄さんが明るく話しかけてきた。

「まぁ、そんな顔すんなって!早いところ討伐隊が出てくれれば森も通れるようになる。すぐに帰れるさ!」

そうだった・・・森が通れなければ街に帰れない・・・

父さん達・・・心配するだろうなぁ・・・

「討伐隊がすぐ出てくれればいいんですけど・・・はぁ・・・それまでの宿を確保しないと、お金あんまり無いのに・・・」

街道の安全が確保されないと馬車は出ない。それまでどこかで寝泊りしないと・・・

「それならうちに来るか?工房に住み込みだが・・・なに、軽い雑用でもやってくれりゃ文句もないだろ。おやっさんに頼んでやるよ!」

お兄さんがそんな提案をしてくれる。

「いいんですか?助かります!」

とてもありがたい。なんとか野宿は避けれそうだ。

「良い案だ、どうしても駄目だったら俺のとこにきな。街道が使えるようになるまでくらいはなんとかしてやるさ」

傭兵さんもそんな事を言ってくる。この二人と出会えて本当に良かったと思う。

「よし!そうと決まりゃとっとと街まで行くか!」

お兄さんがそう言い、三人で軽快に歩いていく。

ようやく丘を越えられそうだ。

 

 

 

「ん、町のほう妙に明るくないか?」

お兄さんがそんな事を言い出す。

「外壁には松明がつけられてる、その明かりだろ?」

傭兵さんはそう応えるが・・・なんだろう、やな予感がする。

「煙が上がってる・・・!おい急ぐぞ!」

お兄さんが先頭を走り僕達もそれに続く。

丘の頂点、高い位置に立ち町を呆然と見下ろす。

 

そこにあったのは外壁が、家が崩れ去り、ところどころ火が上がっている町の姿だった。

「なんで・・・こんな・・・」

「町が・・・」

僕と傭兵さんは未だ見下ろすことしか出来ない。

お兄さんが一歩前に出る。

「おやっさん・・・おやっさん!」

駆け出そうとしたお兄さんの腕を傭兵さんが掴む。

「待て、よく見ろ!まだ町に魔物がいる、死ぬぞ!!」

お兄さんは掴まれた腕を振りほどこうとしている。

行ったら死ぬ・・・!お兄さんに死んで欲しくない。僕もお兄さんの腰にしがみつく。

「離せよ!工房が・・・仲間があそこにいるんだよ!!」

僕らを引き摺ってでも行こうというのか、足に力をこめて進もうとしている。

「冷静になれ!町には兵士が駐屯してる・・・避難はしているはずだ」

その言葉にお兄さんはやっと力を緩めてくれた。

「そう・・・か。避難しているなら・・・大丈夫か・・・」

お兄さんはその場に立ち尽くす。

よかった・・・何とか留まってくれた。

 

 

 

ウォォォォォォォン!!!

 

 

 

そのとき、町のほうから大きな獣の鳴き声が聞こえた。

町から離れている僕達も竦み上がるほど恐ろしく、大きな声だった。

 

 

 

 

身を竦ませるような大きな獣の声が響く。

その声とともに散っていた魔物たちが大通りに集まっていく。

「鳴き声で魔物を指揮しているのか・・・中級じゃないな、上級かそれ以上の魔物だ・・・」

僕はその言葉に現実感が湧かない。上級より上の魔物・・・御伽噺の中に出てくる魔王の軍勢くらいしか聞いたことが無い。

「はは、上級とかそれ以上とか・・・御伽噺じゃないんですから」

僕は勤めて軽い口調で話す。そんなものいるはずが無いんだから。

傭兵さんは笑ってくれない。冗談だって言ってほしい。

「俺は・・・100を超える魔物の軍を指揮できる存在を・・・他に知らない・・・」

そんなことってあるのだろうか・・・

「おい、魔物・・・こっちに来てないか?」

その言葉を聞き現実に引き戻された。

「え・・・」

町のほうを見ると崩れた門から魔物たちがこちらに歩いてくるのが見える。

「街道を離れるぞ、奴らをやり過ごす・・・魔物が出れば町に入れる」

傭兵さんはこんな状況でも冷静に状況を見ている。

「ちょ、待ってください!このまま街道を進まれたら・・・僕の町も!」

僕の町が、父さんが、母さんが、町の人が!

「いいから離れるぞ!町に入ったらすぐに役所に向かう、そこなら伝書鳩か交信機があるはずだ・・・それで連絡を取る。俺たちが戦ってもすぐにつぶされる、ならそっちのが可能性高いだろ?」

この人はいつも冷静で、僕たちに希望をくれる。

「そう・・・ですよね!わかりました、魔物が町から出たら急ぎましょう」

僕たちは傭兵さんの提案に乗り街道から横にそれる。

 

 

街道から少し離れた草むらに、腹ばいになって潜む。魔物の軍団は街道を進んでいく。

ちょうど軍団が真ん中に差し掛かったとき、傭兵さんに声をかけられた。

「アイツだ、あの真ん中辺りにいる赤いたてがみの魔物。」

それは軍団のど真ん中にいた。

「あの魔物がどうかしたんですか?」

「たぶんあいつがリーダーだ。俺じゃ細かいところまで見えない、見た目の特徴を詳しく教えてくれ」

あれがこの軍団のリーダーなのか・・・たしかにとても強そうに見える。

「ぇっと・・・赤いたてがみは傭兵さんの言った通りです、鉄の装飾・・・鎧かな。腰に大きな剣を挿しています。どこかで見たような・・・そうだ、本で見たライオンに似てるんだ」

僕は見える様子から、父さんが買ってくれた本に出てきた動物の特徴を思い出した。

「ありがとう、助かったよ」

笑いかけ、頭をなでてくれる。

「いえ、傭兵さんの役に立てたのなら良かったです」

そのまましばらく魔物たちを眺め通り過ぎるのを待つ。

魔物たちが十分離れ、辺りがうっすらと明るくなってきた頃僕達は町に入った。多くの建物が崩れまだ火が燻っている。

ところどころに魔物や兵士、逃げ遅れたのだろう人の死体が転がっている。

 

「う・・・おえぇぇぇ・・・」

僕はその光景に耐えられなかった。

「おい坊主、大丈夫か?」

傭兵さんが背中をさすってくれる。

「ゲホッ・・・だい・・・じょうぶです・・・」

「無理すんな、少し休んでろ・・・俺は工房を見に行ってくる、役所のほうは任せるぞ」

「あ、おい!まだ魔物がいるかもしれないから気をつけろよ!」

片手を上げ、お兄さんは足早に離れていった。

「よし、俺らはさっさと役所まで行くぞ、ついてこい」

「はい、わかりました」

たくさんの瓦礫や遺体を横目に、僕たちは町を進んでいく。



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第5話

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僕たちは崩れ、未だ燃えている町の中心を目指して歩いていく。

まだ魔物が残っているかもしれないと、慎重に。

「思ったより遺体が多いな・・・単に逃げ遅れただけか・・・?」

傭兵さんは慎重に進みながら何かを考えてるみたいだ。

「傭兵さん、何かわかったんですか?」

「すまん、考え事は後だな・・・今は一刻も早くフラングと連絡をとらないとな」

そう言い、先頭に立って進んでいく。

僕も静かに後に続いた。

 

 

すぐ先、僕たちの前に大きな交差点があった。

「身を隠す場所が無い、魔物がいたらアウトだな・・・」

「走り抜けるぞ、いけるか坊主?」

僕は小さくうなずく。

「いくぞ。3・2・1・・・走れ!」

傭兵さんの後ろに続いて走る。

道の半ば、馬車の残骸の横を通り過ぎた時、傭兵さんが大きく横に吹き飛んだ。

 

 

「ケケケ、おもちゃはっけ~ん」

鳥のような羽の生えた人型の、傭兵さんより少しだけ大きな魔物がいた。

にんまりと、嘴のような口元を歪め吹き飛ばした傭兵さんのほうを見ている。

「グ・・・くそが!!」

傭兵さんが吹き飛ばされ、転がりながらすぐに体制を整え魔物と剣を交える。

「行け坊主!役所まで一気に走れ!!」

「あ・・・あぁ・・・」

僕は目の前の光景が信じられず、走れない。

「クソ・・・すぐに倒して追いつく!いいから走れよ!」

「俺を倒すぅ?無理だろ!どの道どっちも逃~がさ~ない」

口元に笑みを浮かべたまま、楽しそうな口調で僕たちを追い詰めていく。

その顔に、そして恐怖から腰を抜かしその場に座り込んでしまう。

「なんで・・・なんで動けないんだ!僕・・・は・・・」

「ギャハハ!腰抜かしてちびってやんの!このおもちゃ!」

そんな僕の様子を魔物があざ笑う。

「余裕こいてんじゃねぇぞ!クソ魔物がよぉ!!」

傭兵さんが襲い掛かるが片手で軽く捌かれている。

「弱ぇなぁ、ニンゲンってみんなこんな弱いのかぁ?」

袈裟切り、切り上げ薙ぎ払う、目で追うのがやっとなレベルの攻撃を魔物は余裕で捌いて行く。

「そだなぁ、暇だし自ッ己紹介!お前らおもちゃが言う中級とかいう魔物のまとめ役!シャタール様だぁ!」

そういいながら傭兵さんを蹴り飛ばす。

「ぐあっ!くそが・・・くそがくそが!!俺だって・・・元騎士だ!お前ごとき・・・すぐに・・・」

言いかけて、傭兵さんが、魔物に斬られた。

「お前さぁ・・・飽きたわ。次のおもちゃもあるしもういらね」

それだけ言うと魔物は腰に手を当て冷たく傭兵さんを見下ろした。

「傭兵さん・・・?傭兵さん!」

傭兵さんにすがりつき、怪我を見る。

肩口から脇にかけて傷が走っている。

「傭兵さん!しっかりして・・・傭兵さん!」

縋りつき泣いている僕を見て小さく何とか聞こえる声で言った。

「にげ・・・ろ・・・」

こんなひどい怪我で、こんな状況でも、傭兵さんは僕を気遣ってくれる。

だけど、無理だった。何も出来なかった。

僕は後ろから頭をつかまれ、持ち上げられる。

「なんだ!ちったぁ面白いこと言えるじゃねぇかよ!この状況で逃げるとか・・・おもしれぇ」

痛い・・・痛い痛い痛い痛い・・・痛い!

「あぁぐ・・・あぁぁぁぁあぁあ!!!」

「ほらほら、もっと鳴けよぉ。そしたらどっかの誰かが助けてくれるかもなぁ」

僕の頭を万力のような力で掴んだまま、左右に揺らされる。

「あぁ、ぐ・・・たす・・け・・・タスケテ・・・」

誰か・・・誰か!



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第6話

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「ほ~らほら、もっと良い声で鳴かないと頭潰しちゃうよ~?」

ミシミシと頭が音を立てている気がする、それほどの力で頭を締め付けられる。

「あ・・・が・・・だれか・・・たすけてぇ・・・」

魔物は僕が死なないように絶妙に力を加減し、苦しめて楽しんでいる。

「だんだん元気が無くなって来たな・・・そろそろ新しいのさがすかなぁ」

「やめ・・・ろ・・・やめてくれぇ・・・!」

倒れ伏し血だらけの傭兵さんが力の無い声で叫ぶ。

「お願いだ・・・誰か、助けてくれぇぇぇぇ!」

「ギャハハハ!壊れたかと思ったらまだ良い声出るじゃ~ん!」

そんな傭兵さんの必死な叫びも魔物のおもちゃにしかならないのか・・・

そんな絶望の中。

 

 

 

 

 

「呼ん・・・だ?」

 

 

 

 

 

静かで、可愛らしく、でもよく通る女の子の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ぁ?なんだ?」

僕を片手で持ちながら、魔物がふりかえる。

力が緩み僕もそちらを見る。

まるで精巧な銀細工のように光り輝く銀の髪に透き通るような白い肌。その肌を映えさせる黒いフリルのついた服。

僕より少し小さいくらいのとても可愛らしい少女が、立っていた。

「クヒ・・・クヒヒャヒャヒャ!おじょうちゃ~ん、わざわざ俺様のおもちゃになりに来たのかな~?」

魔物はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている

「助けてって・・・聞こえたから・・・助けに来た」

その少女は鈴を鳴らすような綺麗な声で、たどたどしくそう言った。

僕たちを、助けに?こんな女の子が?

「ぁ・・・だめだ・・・逃げ・・・て!」

僕達の・・・僕のせいでこの女の子が死ぬ。そんなのは・・・絶対駄目だ!

「おもちゃはちょっと黙ってろよぉ!」

魔物が僕を投げ飛ばし少女に詰め寄る。

「お前もさぁ・・・あぁなるんだよぉ」

魔物は声もなく見上げている少女に楽しそうに声をかけている。。

「あぐぁ!あ・・・あが・・・」

女の子に逃げて欲しい、だけどそんな気持ちと裏腹に僕の喉はうめき声しか出してくれない。

 

そんな情けない僕のほうを見て、微かにだが可愛らしい笑顔を見せてくれた。

「だいじょうぶだよ、すぐ助けてあげるから」

それだけ言うと綺麗な笑顔を消し、眼前の魔物をにらみつけた。

「くっふふ・・・ヒャヒャヒャ!どんだけ俺様を楽しませてくれんだぁ?」

魔物がそのまま少女に手を伸ばし・・・吹き飛んだ。

「ちょっと・・・まってて。すぐ、くるはず」

何処から取り出したのか、少女のからだより大きな杖を魔物に向けた。

「轟け、雷鳴。眼前の敵を撃ち滅ぼせ」

その言葉と共にすさまじい轟音が響いた。

 

ドゴォォォォォォ!!

 

そして僕達の眼前を眩い光が覆いつくした。

 

「グギャァァァァァァ!!!」

光が晴れようやく視力が戻った僕達の目にところどころが焦げた魔物が映った。

「キサマラ・・・おもちゃ如きが・・・いてぇじゃねぇかよォォォォ!!!」

魔物が激昂し襲い掛かってくるが少女の眼前に突如光の壁が発生し魔物の攻撃を止める。

「なんだ・・・コレハヨォォォォォォ!!!」

その時僕らの後ろから声が聞こえてきた。

「まったく・・・リリアはいつも無茶をして・・・」

優しい女性の声だ。

「動かないで。大丈夫ですよ、すぐに治します」

視線を向けた先には茶色い髪の綺麗な女性がいた。

「慈悲の光よ、彼の傷を癒したまえ」

暖かい、優しい光が僕と傭兵さんを包みすさまじい速さで傷を治していく。

「何でお前らが・・・何でこんなところにいる!」

顔をもたげ傭兵さんがその人に問いかけた。

「救援要請から急いだんですけど・・・間に合わなくてすみません」

「それもあるが!前衛もなしに・・・」

その言葉にかぶせるように若い男の声が聞こえた。

「前衛もちゃんといるぜマルコ!まぁ、あの程度の相手じゃリリア一人で十分だろうけど」

青に統一した鎧にマントを纏った好青年がいた。

「救援がてめぇかよ・・・レオン」

傭兵さんがその青年に軽い調子で答える。

「え、あのマルコって傭兵さんのこと?というかお知り合いですか?」

混乱してきた、傭兵さんはこの魔法士様達と知り合い?というか傭兵さんの名前マルコっていうのかぁ・・・

「あぁ、そういや名乗ってなったな。俺はマルコってんだ、よろしくな」

「あ、はい。僕はヨアンって言います、今更ですけどよろし・・・って向こうの女の子は!?」

わけのわからないことばかりで混乱していたが女のこのことを思い出し目を向ける・・・が。

信じられない光景が飛び込んできた。



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第7話

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あの小さな女の子の足元に、ぼろぼろになった魔物が倒れていた。

「心配しなくて良いぜ、こいつら強さは折り紙つきだ性格は察してやってくれ」

「いや、察してってそんな・・・」

そこまで言った僕の目の前にごつい手が差し出された。

「俺はフーガ、このパーティーの前衛の一人だ。立てるか少年?」

赤い髪を逆立たせ、額にバンダナを巻いたワイルドな男性がいた。

「ぁ、はい。ありがとうございます」

そして手を借り立ち上がるとリリアと呼ばれていた少女が歩いてきた。

「私はリリア・・・おそくなって・・・ごめんなさい・・・」

リリアさんが手を差し出してくる。

「あ・・・えっとよ、よろしくお願いします!」

握手をしようとして、自分の手が汚れているのに気がつき一度服で手をふいてから握手をした。

小さくて、柔らかい、華奢な手だった。その感触に、僕は顔が少し熱くなった気がした。

フーガさんが僕の肩を抱き耳元でささやいてきた。

「おい、坊主・・・お前リリアに惚れたか?安心しな、あいつまだ誰とも付き合ったこと無いはずだぜ」

唐突な言葉にさらに顔が熱くなる。

「ちょ、いきなり何を!」

あぁ・・・絶対顔が赤くなってる・・・

僕がそんな事を思っている時、魔物の声が聞こえた。

「ガァ・・・おもちゃ如きガ・・・絶対許さネェゾ・・・おもちゃ共如きがよぉ・・・」

怨嗟が満ち、殺さんとする気が声だけで伝わってくる。

「ヒッ・・・!まだ・・・生きて・・・」

おびえる僕の前にリリアさんが立ってくれた。

「まだ・・・やる?」

僕らに向けていた柔らかい笑みを消し、無表情で敵を見下ろしていた。

 

「クソが・・・ぜってぇ・・・ゆるさねぇ・・・今は逃げの屈辱を受けてやる・・・だが!絶対に殺してやるからなァァ!!」

そういうと魔物は黒い光の柱に包まれ姿を消した。

「逃げたか・・・とりあえず和むのもここまでだ、事情を聞かせてくれるかな、ヨアン君」

レオンさんが僕に優しい笑顔を向けてくる。

「そうだ!魔物が・・・魔物の軍勢が僕の町に!」

「そっちのほうはもう大丈夫だよ、避難は始まっているはずだし王都から駐留騎士団が街道を下っている。聞きたいのは魔物の規模や指揮官、どの程度のレベルかってとこかな」

よかった・・・町は無事なんだ・・・

「少しは安心してくれたかな?とりあえず移動しながら話をしようか。僕らも騎士団に合流しなくちゃいけないからね」

騎士団が王都から、そしてこのお兄さん達がここから向かう。

あれだけの数の魔物が相手といえどもそれだけの戦力があればきっと勝てる、そう思える。

「はい!僕のわかることであればいくらでも!」

お兄さん達と一緒に僕も街道のほうへ歩いていく。

あぁ・・・はやく町に戻りたい。きっと町に戻れば前と変わらない日常が戻ってくる、そう信じて。

 

「悪いが、俺はこの町に残る」

歩き出した僕らの後ろから聞こえた。

「まだ怪我人や生き残りがいる、戦いが終わった後での救助じゃ助けられないかもしれないからな・・・動ける奴を集めて先にはじめておくよ」

「そうか、こっちは任せるぜ、マルコ?」

「おう!お前らはとっとと魔物殲滅して騎士団連れてきてくれよな、レオン!」

マルコさんとレオンさんが拳を作りぶつけあう。

すぐに傭兵さんがこっちを見た。

「坊主はどうする?この町に残るか、レオンについていくか」

それを聞いて少し悩む、レオンさんたちについていけば早くフラングに帰れるし避難所にも送ってもらえるだろうけど、魔物と会ってしまう可能性がある。オラドゥールにいれば魔物と会う可能性はかなり低いがいつ町に帰れるかわからない。

ぼくは・・・

「俺としてはヨアン君にはついてきて欲しいと思ってる。どうだろうか」

レオンさんが僕を誘ってくる。

「でも・・・僕がついていってもきっと何も出来ないし邪魔に・・・」

「良いと思う」

リリアさんが僕が言い終わる前にかぶせて来た。

フーガさんが珍しい物を見たと言わんばかりに目を丸くした

「ヒュ~、珍しいなリリア。いつもどうでも良いとか言うくせによ」

リプトさんも、言いだしたレオンさんも目を丸くしている。

「別に・・・どうでもいいけど・・・どうでもいいならついてくれば良い。ここにいても、いつ帰れるかわからないし」

フーガさんは僕の肩を抱き寄せた。

「お前・・・リリアに何した?お気に入りってレベルじゃねぇぞ・・・?」

一気に顔が熱くなる

「えぇ!?ぼ・・ぼくは別になにも!」

ちらりとリリアさんのほうを見る。

ものすごく無表情だ・・・心なしか嫌そうな顔にも見える。

「どうでもいいって言った。私達の近くにいれば確実に守れる、早く家に帰れる。それだけ」

そんな様子を微笑ましそうにリプトさんが見てる。

「ほら、あんまりからかわないであげて。問題が無いなら早く出発しますよ」

「よっしゃ!ちゃちゃっと魔物を片付けに行こうぜ!」

「行こう、フラングへ!」



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第8話

今回は少し短めです、文が切れなかったんです・・・もしわけないことです・・・


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昼下がりの森の中、僕達は馬車で街道を進んでいく。

あの後、徒歩より良いと使えそうな馬車を調達した。馬は宿屋に留めてあったのが生きていたので拝借した。

ごめんなさい・・・いつか返せたら返します・・・

そんな事を心で思っていた。

真っ赤な髪を天に向かって撫で付けながらフーガさんが言った。

「おかしいな・・・魔物たちは徒歩で向かってんだろ、ならもうじき追いついちまうんじゃないか?」

この髪、ずいぶん長いけどどうやって立たせてるんだろう・・・

そんなくだらないことよりも魔物のことだ。確かに徒歩で向かっていたはずなのに・・・

その言葉に御者をしていたレオンさんが顔をしかめる。

「夜通し歩いていたとしてももう追いついていてもおかしくない・・・」

その言葉に僕は最悪を考えた、既に魔物が自分の町に着きオラドゥールと同じことになっているんじゃないかと。

「は・・・はは。そんな、じゃあ、もう町について・・・町が・・・」

青ざめ、動揺する僕の頭が優しく撫でられた。

「最悪、町は襲われているかもしれません。でもヨアン君、大丈夫ですよ。私達が王都を出た時点で避難の指示、そして騎士団の編成が始まっていますから。人が無事なら、すぐに復興できます」

そう優しく、安心する声音でリプトさんが話しかけてくる。

「そう・・・ですよね、町が無くなっちゃうのは辛いですけど・・・皆が生きていればすぐに元通りですよね!」

僕は勤めて元気に言う、自分に言い聞かせるように。

「とにかく、ここからは気を張っていこう。最悪市街戦になる・・・皆、準備だけはしっかりと」

レオンさんのその言葉を皮切りに皆の顔が真剣な物に変わる。この人達に任せていれば安心できる。そう思わせるだけの風格と力強さがあった。

 

 

無言の僕たちを乗せ馬車は森を抜けた。森を抜ければすぐに門が見えてくるはずだ。

だけどそこに門はなかった。

 

見えたのは門だった物、崩れ瓦礫と化した物。

 

 

 

 

 

 

僕が毎日のように見ていた、頼もしかった城壁はもうそこにはなかった。

 

 

 

 

 

 

そして、中では目を覆いたくなるような・・・凄惨な光景が広がっていた。

崩れた城門のすぐ下で倒れ伏す兵士、そのすぐ先に倒れるたくさんの人、人、人

 

普通の町人の格好をした人達。

僕はわけがわからなかった、町に避難指示が出ている?ならどうしてこんな光景が広がっているのだろう。

少し先に倒れているおばあさん、いつも門前広場の花に水をあげていたのを覚えてる。

 

わからない

 

わからない

 

わからない

 

皆避難をしたはずだ、だってそうだろ?避難指示が出てた、騎士団も向かっていた、『最悪』の場合でも町の人は無事なはずだ。

 

 

そうだ、僕はきっと馬車の中で眠ってしまったんだ。それでこんな悪夢を見てしまったんだ。

あはは、そうだ、これは夢だ。そうに違いない、それ以外であってたまるものか。

 

 

だけど現実はいろんな情報を僕に伝えてくる。

未だ燃える町の熱、オラドゥールでも嗅いだ・・・血の匂い。

 

 

ああ

 

 

あああ

 

 

 

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

僕は、この現実に耐えられない。耐えられなかった。

 

 



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第9話

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僕が再び目を覚ました時、周りには異常な光景が広がっていた。

物言わぬ屍となったよく知った人達、同じようにピクリとも動かない魔物たち。

その先でレオンさん達がライオンの鬣を持つ魔物と剣を合わせていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

体の大きなフーガさんが自信の身長ほどもある大剣で切りかかり、その横からリリアさんが氷の矢を放つ。

魔物がその矢を切り払った隙を突きレオンさんがすばやく切り込む。

 

こんな状況なのに、思わず見入ってしまうような光景だ。

「気がつきましたか?」

僕の横からリプトさんの柔らかい声がかかる。

「は・・・はい・・・」

リプトさんの方を向きその優しげで、真剣な顔を見た。

「今は何も考えずこの場から動かないで、下手を打てば・・・彼らでも負ける」

僕の横にいながら的確に回復や強化魔法を放っている。きっと僕に意識を傾けるのも大変なんだろう。

 

金属同士が強く打ち合う音がした、その音に僕もそちらに目を向ける。

「ちぃ・・・人間にしてはやる!」

ライオンの魔物がレオンさんたちを弾き距離をとる。

「教えろ、どうやってこの町にたどり着いた。騎士団はどうした!」

レオンさんが魔物に剣を突きつけそう問いを投げた。

魔物はレオンさんを睨みつける。

「なぜ、この俺が貴様ら人間の問いに答えてやらねばならぬ?」

そう言い放ち丸太のように太い腕を組んだ。

「だが、今日は我らにとって目出度き日。その問いに答えてやろう!」

一度組んだ腕を大きく開きその魔物は天を仰いだ。

「我らは新生魔王軍!人間共の恐怖を吸い我等が魔王様が完全なる復活を遂げる!!たとえ大部分の力を封印されていようが魔王様の御力を持ってすれば空間をつなげることなどたやすい。見よ、そして恐怖せよ!それこそが我らの力となる!!」

その声と共に、町の中心から光が拡散する。強く禍々しい光が一気に駆け抜けていく。

「いけない!守護の神よ、その力の一端を持って我らに鉄壁の守りを!」

その光に焼かれる前に、リプトさんの魔法が発動する。

僕らの前に光の壁が現れ中心から広がる何かを防いでくれる。

杖を前に向けたままリプトさんは横にいる僕を抱き寄せる。

「大丈夫、大丈夫だからそのままで」

切羽詰ったような声で、それでも僕を守ろうとしてくれる。

きっと大丈夫だ、そう思った瞬間に魂の底から震え上がるような狂気的な轟音が響く。その音と共に光の壁が壊れ、僕たちは投げ出された。

 

幾度も転がり、石のような何かにぶつかりようやく止まった。

 

「おい、無事かい、少年?」

その声に目を向ける。僕らより前にいたはずのフーガさんが投げ出された僕とリプトさんを捕まえ守ってくれていた。

「は・・・い、なんとか無事です」

なんとかそれだけ搾り出す

「そうかい、なら良かった。」

短く言いい、立ち上がり前を向く。

僕を抱えていてくれたリプトさんも僕を優しく降ろしそれに習う。

僕は全身が痺れうまく立てず顔だけを向ける。レオンさんとリリアさんも無事なようだ。

 

皆の視線の先には町の面影も人間も・・・魔物すらも無い荒野が広がっていた。

その荒野に立つ魔物、あれだけの爆発だところどころ焼けている。

「さすが魔王様よ、だが・・・加減を間違えられたか・・・」

渋い顔をしながら僕らに背を向け傅いた。

「お久しぶりにございます、魔王様。あなた様の忠実なる僕オーストにございます」

 

「久しいな、生きておったか」

その声の先に、黒いマントを羽織った何かを見た。

「だが、あの程度に耐えられぬとは・・・わが軍の質も落ちたものだ」

長い黒髪を横に流し、僕らと変わらない体躯の美丈夫だ。唯一異様に長い耳が人間ではないことを物語っている。

「申し訳ありません、魔王様がお篭りの間、放置しすぎていたようにございます」

「まぁ良い、軍の再編もまた良い暇つぶしになろう」

魔王と呼ばれた男が、僕らを眺め、止まる。視線の先にいるのはレオンさんだ。

「貴様が勇者の血筋とやらか・・・ふむ、面影があるな。1000年ぶりくらいか」

レオンさんがぼろぼろの体で、それでもとても強い目で睨み剣を向ける。

「貴様が・・・魔王!」

「いかにも、我こそが魔王。それで、我が魔王であればなんとする?」

レオンさんは剣を構えなおし、堂々とした態度で言い放った。

「俺の名はレオン、我家に受け継がれた力で今一度貴様を封印する!」

そのまま魔王に斬りかる。

とても満身創痍と思えない速度で魔王に迫り剣を振り下ろす。

魔王は・・・動いていない、反応できていない?

そんな僕の思考そのものが間違いだったと数瞬後には悟った。

 

振り下ろされた剣は魔王に当たることなく不自然に横にそれた。

 

反応する必要すらなかっただけの話なのだ。

 

「ふむ、奴の子孫だというから期待したが・・・我に触れる資格すらない」

 

その言葉と共になぜかレオンさんが後ろに弾き飛ばされる。

高速で殴られた?魔法で弾かれた?僕の目には何も映っていない、詠唱すらしていない何をされたのかわからなかった。

 

 

魔王、御伽噺に描かれる絶対の悪。

かつてただの暇つぶしという理由で人間に戦いを挑み、世界の半分以上を手中に収めた悪魔。

その圧倒的な実力を前に僕はただ、呆然と魔王を見ることしか出来なかった。

 



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第10話

またまた文字数が少ないです、申し訳ない・・・


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「大地よ、固き枷となり敵を捕らえよ」

突如リリアさんの声が響き、魔王の足を土が覆う。

それに呼応するかのように全員が一斉に動き出す。

「神よ!その御名において邪悪を払い打ち据えよ!」

「おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

リプトさんの詠唱と共に発生した光の柱にフーガさんが斬りかかる。

 

だがフーガさんの剣のみがレオンさんのときと同じようにそれ、そのまま大地を粉砕する。

その影から突如レオンさんが魔王に横から剣を振るう。

 

キュインと聞いたこともない音でレオンさんの剣が停止する。

光の柱が晴れ、そこには間違いなく魔王がいる。剣はそのわずか手前で停止してる。今度は弾かれていない!

「ふむ、弾かれんか」

魔王が腕を持ち上げた。その動きを阻害するように次々と魔法を編んでゆく。

「させない。風よ暴風となり弾き飛ばせ」

竜巻のような暴風が魔王を取り囲みみんなが一気に距離を取る。

その暴風の中、動けないだろう魔王に向けてさらに魔法の追撃が入る。

レオンさんが剣を縦に構え詠唱を始める。

「神に仇なす者に鉄槌を!契約の力を発せ!ゴッドブレス!!」

暴風を光の玉が囲み中心へと収縮していく。

そのまま魔王一人分程の大きさに収縮し、爆ぜた。

「やったか!?」

「この程度じゃ無理だろ、だがダメージは・・・」

フーガさんが言葉を切る。

光が一気に拡散しやっと僕にも視界が戻ってくる。

その先には普通に、まるで何事もなかったかのように佇む魔王の姿。

体に傷どころか服に汚れ一つ付いていない。

圧倒的な力の差を、格の違いを見せ付けられていた。

「魔王様、必要とあらばこの私めが」

横で傍観していたオーストが前に出ようとする。

魔王がその動きを手で制した。

「よい、どうやらこの程度で消耗しているらしい。死に物狂いで力を奮いこの程度か」

皆それぞれの武器を構え油断なく魔王を睨みつけている。

「・・・つまらん、これが今の勇者か」

それだけ言うと魔王はマントを翻し後ろを向いた。

「引くぞオースト、このまま滅ぼしたとて暇つぶしにもならん」

魔王の前に黒い渦のような物が現れそこに歩き出す。

「せっかく我が蘇ったのだ、今しばらくの猶予をやろう。今代の勇者よ次はもっと楽しませよ」

それだけ言い放ちオーストを引き連れ渦の中に入っていってしまった。

 

 

僕は渦に消える魔王を見て危機は去ったと安堵した。安堵してしまった。

そしてすぐに安堵してしまった自分が情けなくて、悔しくて怒りと後悔が沸いた。

 

あいつは町を滅ぼした、いつも優しかった町の人も、友達も・・・両親も。

あいつはすべてを奪っていったんだ。

その場でうずくまり、泣いた。

現実感なんてない、オラドゥールは壊滅したとはいえ多くの人が避難した。崩れていてもまだ町だったものが残ってた。

でもここには何もない。頼もしかった城壁も、広く立派だった通りも、その両側にあった綺麗な家々も、そこに住んでいた人たちも。

全てが分け隔てなく荒野になってしまっている。

そのことが悔しくて、僕は何もできなくて、そしてそれが全部夢なんじゃないかと逃避しようとするの僕自身がひどく惨めで。

ただ泣くことしかできない。僕は何かに包まれた。

泣き腫らした目の隅に写る黒い服が、服の端にかかった銀の髪が震えている。

「ごめん・・・なさい。私は、一番いい選択をしたと思ってた。でも一番つらい選択だった・・・本当に・・・ごめんなさい」

ひどく震え、嗚咽に近い声で。きっと彼女の精一杯が籠められてるのがわかる声。

「今は、泣かなきゃだめ。今はわからなくても、その涙が大切な人を送る力になるから」

僕は彼女に縋り付いて、声を上げて泣いた。

僕の上で彼女も泣いてくれている。横からも泣き声が聞こえる。

 

皆、泣いてくれている。

涙の理由は皆違うかもしれない。

守れなかった不甲斐なさか、魔王に歯が立たなかった自分への怒りか。

ただそこに少しでも町の人を送る涙が含まれているなら、彼らの涙ならきっと・・・神の御許へいく強い力になると。

 



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第11話(挿絵有り)

やばい・・・ストックがなくなりそう・・・
全部恋姫Xがわるいんや・・・


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どれくらいの時間、泣いていたのだろう。

夕日が照らす荒野の中で、僕はようやく顔をあげた。

皆ももう泣いてはいなかった。悔しそうな、悔いるような顔をして立ち尽くしていた。

顔を上げた僕を見て言葉をかけられた。

「少年、もういいのかい?」

「はい、もう大丈夫です」

本当は大丈夫なんかじゃない、今も冷静な振りをしているけど、何も考えないようにしてるだけだ。

「そうかい、なら今すぐ選んでもらわなきゃいけないことがある」

フーガさんが少し怖いような、まじめな顔で僕の正面に立つ。

「俺たちと一緒に王都まで行くか、一人で・・・ここに残るか、オラドゥールまで戻るかだ」

その言葉に皆が顔を上げる。

「フーガ、それは酷というものです。この子は今しがた全てを失ったのです、それを」

「だからだろうが。いいか、逃避をするな、そして考えろ。もうこの世界に無条件でお前を守ってくれる奴はいない、これからは自分で、自分の足を動かして進んで行かなきゃいけない」

フーガさんの硬い手が僕の顎をつかんだ。

「これはあまりにも酷な選択だ。あぁ、俺もそう思うさ。だが俺たちには時間が無い、こいつをオラドゥールまで届けるのも、こいつが立ち直るまでここで一緒にいてやるような時間も」

その形相に顔を背けようとして、すぐ真正面に向きなおされる。

「お前はどうしたい、ここで町の人たちを弔って生きるのか、オラドゥールまで行けばお人好しのマルコが面倒を見てくれるだろうよ」

その力強い目を真正面から受ける。

「フーガ、それ以上は」

リリアさんが止めようとしてくれる。フーガさんは一瞥もせず僕を真正面から見続けている。

「ちょっと黙ってろ!選択肢を提示されるのを待つな、考えろ。お前はどうしたい、これから先どうやって生きる。それともここで死ぬか!」

あぁ、僕に力があったなら。

僕には英雄のような凄い力はない。

魔物を倒せる力も、魔法士様のみが使える魔法も、英雄譚の策士のような頭脳も。

でも、それでも。

「僕は・・・悔しいです・・・」

「あ?聞こえねえな」

僕は、今の気持ちをそのまま、目の前の人にぶつける。

「悔しいです!何もできなくて・・・魔物と戦うどころか、自分一人で生きていく力も無いのが悔しくて・・・つらいです!!」

僕はどうしたらいい、レオンさんやフーガさんのような強い力は無い、リリアさんやリプトさんのような魔法の力もない。

それでも、僕は生きたい。

「だから・・・一緒に、着いていかせてください!貴方達から・・・学ばせてください!!」

もう枯れたと思った涙を流しながら、でも、もう二度と情けない涙をみせない用に。真っ直ぐに、絶対に目を逸らさないように。

僕の顎をつかんでいた手が解かれ、力強く僕の頭を掴み撫でられた。

「よく言った!それでこそ男だ!!」

二カっと笑いぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。

「いいのかい?僕らについてくるってことは魔王と戦うってことだ、辛く厳しい道だ。その覚悟はあるか?」

皆が僕のことを見ている。

「はい。正直、今は何も役に立てないと思います。今後役に立てるかも分からないです・・・でも、僕は皆と一緒に行きたいです・・・それに」

僕は今、冷静になると同時に暗い考えを抱いている。父に、母に戒められた暗い考え。

「それに、なんだい?」

その意思を感じ取ったのかレオンさんが僕の瞳を覗き込んでくる。

「僕は魔王が憎い、出来ればこの手で殺してやりたい。でも僕にはそれが出来ない・・・から。それが出来る人についていきたいんです。そして魔王が死ぬところをこの眼で見たい」

人には優しくしろ、人を憎むな。両親に言われた言葉だ。でも、あいつはその優しかった両親を奪った。僕は・・・絶対に許せない。

「ヨアン君、その考えはいけない。それは・・・」

「まぁまてレオン、それでもいいじゃねぇか。旅は長くなる、そこでゆっくり解決していけばいい。今は口論してる時間はない」

真剣な眼差しのまま二人が言い合いをしている。

正直に言い過ぎただろうか、でもこの人たちには嘘をつきたくない。きっと偽ってはいけない、僕の旅の動機。

「私は、ヨアンの気持ち・・・少し分かる。私も親を魔物に殺された孤児だから」

リリアさんからそんな言葉が漏れた。

「しかし・・・!」

「旅の目的は魔王を倒すこと、それさえ間違えなければ動機は人それぞれ・・・私はそれでいいと思う」

その言葉にレオンさんは顔を背ける。

「そう・・・だな。分かった、とにかく今は急いで王都に向かおう」

レオンさんのその言葉と共に、皆行動を開始する。

「馬車も無くなっちまったし、こっから徒歩かぁ・・・ったく、面倒くせぇなぁ・・・」

「まったくフーガは、仕方ないでしょう?ヨアン君、徒歩でしかも急ぎの旅になりますけど疲れたらちゃんと言うんですよ?」

「はい。皆さんには及ばないと思いますけど、僕だって商人の息子として日々走り回ってましたから、体力はそれなりです!」

「おいおい、リプトはヨアンに甘すぎんだろ!ほらみろ、俺はこんなでっけぇ剣担いでんだぞ?もちっと心配してくれてもいいんじゃねぇの?」

「僕たちは旅に慣れている、それとヨアン君を一緒にしちゃ可愛そうだ」

「ま、しかたねぇなぁ・・・ヨアン、ちゃんとついてこいよ?」

「はい!よろしくお願いします!」

僕たちは一路、王都を目指して歩き始めた。




私の友人がうちの子描いてくれました!
この場を借りて感謝の言葉を、ありがとうございます!
(
【挿絵表示】
)


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第12話

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僕たちは今、軍用馬車に乗り王都アンヴェラッハに向かっている。

さすが軍用馬車というべきか、乗り心地はあまりよくないがその進みは速い。

この馬車のおかげでかなり時間を短縮でき、助かったのは確かだが僕は素直に喜べなかった。

 

 

徒歩で王都に向かっていたはずの僕たちがどうして軍用馬車に乗れたのか。

それはフラングを出発してすぐのことだった。

 

 

 

 

 

僕たちは決意を新たに王都に向け街道を進んでいた。

すでに暗くなり始めていたが、起伏も少なくよく整備された平原の道であり見通しもいい。

ぎりぎりまで進もうというレオンさんの指示で日が暮れても進んでいた。

日が沈み、あたりが暗がりに包まれたころレオンさんとフーガさんが野営の準備を始めた。

僕は野営の経験などなくあたりを見渡していた。そして街道の先にたくさんの明かりを見つけた。

「レオンさん、あの明かりって何でしょう?」

レオンさんは野営の準備をしていたが手を止め僕と同じ方向を見る。

「あれは・・・野営だな、規模も大きいしきちんと統率も取れてる。もしかして騎士団か?」

騎士団?もしかしてフラングの救援に来ていた部隊だろうか。

「騎士団だと?何でこんなところに・・・」

いつの間にかフーガさんも準備を止め同じ方向を見ていた。

「もしかしたら敗走して後続を待っていたのかもしれません、一度合流してみるのはどうでしょう」

「そうだな・・・よし、野営は中止だ。とりあえずあそこに合流しよう。魔物の可能性もある、警戒は怠らないように」

レオンさんの指示の元、荷物を片付け歩き出した。

 

 

 

 

 

陣地に近づいてみれば正体はすぐに判明した。

魔物だったなんてことはなく、入り口に鎧を着た二人組みの兵士が立っていたのだから間違いはない。

入り口の兵士は無造作に近づいてきた僕たちに槍を構えた。

「ここは騎士団の野営地である!貴君らは何者か!」

「サザラント王国第一騎士団所属特殊兵装小隊隊長レオンです、この部隊はどこの者ですか?」

兵士は見事な動作で構えを解き敬礼で返してきた。

「失礼いたしました!シュバイン伯爵揮下、第三騎士団です!」

それを聞き皆一様に顔をしかめた。

「あの人か・・・」

「めんどくさい奴が出てきたな・・・」

「あらあら・・・」

「ブタ野郎・・・」

シュヴァインという人がどういう人かは知らないがみんなの反応はこの通りである。きっとあまり褒められた人ではないのだろう。

「皆様がご到着なされたと伝令を走らせます、申し訳ありませんがしばらくこちらでお待ちください!」

そう言って一人が中に走っていく。

貴族様か・・・皆があってる間僕はどうしようなどと考えているとフーガさんに肩を掴まれた。

「おいヨアン、これからブ・・・貴族に会いに行くわけだが何も喋るな、質問されても俺達でフォローするからごまかせ。下手に言質をとられるとものすごくめんどくさい」

そんなことを言ってくる。

「わかりました。商人の息子として、人付き合いで隙は見せられません!」

僕はいっそう気合を入れる。

しかし、いったいどれだけ嫌われてる人なんだろう、逆に興味がわいてくる。

「お待たせいたしました!伯爵自らお会いになるとのことです!ご案内いたします!」

走って戻ってきた兵士に連れられ陣地内を歩く。

「おかしいな・・・戦ったにしては装備が綺麗過ぎる」

「あれが指揮官だしな・・・嫌な予感がする。ヨアンまじで喋るなよ、何があってもこらえろ」

そんなに覚悟が必要なことなのかな・・・いったい何を言われるのか、まさか戦ってませんとかじゃないだろうし・・・

とにかく何を言われても大丈夫なように気を落ち着かせてよう。

すぐに一等豪華なテントが見えてくる。たぶん、ここにいるんだろう

「こちらが伯爵のテントです、少々お待ちください」

案内をしてくれた兵士が中に入っていった。

「リリア、大丈夫か?」

そんなことをレオンさんが言い出した。

何か問題でもあるのだろうか。

「大丈夫、それに私がいないとあの豚が何を言い出すか分からない」

そしてすぐに入れと偉そうな声が聞こえた。

「さぁ、行きましょう。ヨアン君は私の後ろに」

「黙っていればいい、私もフォローする」

「はい」

短く返事だけをして、レオンさんの後ろについて豪華なテントに入っていく。

 

 

 

 

 

レオンさんたちは入ってすぐにひざまずいた。それに習い僕もすぐに同じ体制をとる。

「第一騎士団所属特殊兵装小隊隊長レオンです、夜間にもかかわらず拝謁の栄を賜り恐悦至極にございます」

「ぐふ、面を上げぃ」

その声にレオンさんたちが顔を上げる、僕もあわててそれにあわせ正面にいる人を見た。

そこにいたのはあらゆるところが金や銀、宝石で装飾され成金趣味ここに極まれりと言わんばかりに存在を主張している服をまとった豚だった。

いや、豚呼ばわりは豚には失礼か・・・腕や足も拭くがはちきれそうなほど詰まりあごも見えない。それは偉そうに一目見て高価だと分かる椅子に座り欲にまみれた汚い目でリリアさんを見ていた。

「うむうむ。リリアは今日も可愛いのぉ」

リリアさんは顔を俯かせたまま小さくうなづいただけだった。

「それで、わしの側室になる決意は固まったかのぅ」

「ッ!」

リリアさんは鋭く肉塊をにらみつけるがすぐに顔を俯かせた。

「申し訳ありませんが、その話はまたの機会に。今現在の状況をご報告させていただきたいのですが」

レオンさんが立ち上がり一歩踏み出した。

「チッ!空気の読めん奴だ。まぁいい、報告せよ」

何だこいつ・・・目の前にいるだけで不快感が沸き立つ。

それからレオンさんがオラドゥールからフラングまでのことを報告していく。

その報告の間も、ねっとりとした不快な視線はずっとリリアさんを捕らえたままだった。

「以上が現状となっております」

いつの間にか報告は終わっていた。

「うむ」

レオンさんにわずかに視線を向け短くそれだけを吐く。

「それで、なぜ第三騎士団はここに駐屯しておられたのですか?」

レオンさんの問いかけに、信じられない言葉が返ってきた。

「ふん、一目見て多勢に無勢であったからな。すぐに引き後続を待っておったところよ」



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第13話

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・・・は?

こいつはいったい何を言ったんだ?

すぐに引いた?

街であんなにたくさんの人が亡くなったのに?

騎士団は街を、人を守るためにあるって。

なんで?

思わず立ち上がりそうになったがリプトさんに抑えられてしまった。

「伯爵様、それはどういうことですか?」

レオンさんが伯爵に質問をぶつける。

「街の防衛、住人の避難はどうされたのですか!」

それに一瞥だけ汚い視線を投げてきた。

「わしら騎士団は国の防衛という重責を担っておる、被害が大きくなりそうなら引くのが常識だろうて」

「街にどれだけの被害が出たと思っておいでか!己が身に変えても民を守るのが騎士の・・・」

怒鳴るレオンさんの顔に水の入ったコップが飛んできた。

「だまれぇぇ!!貴様のような木っ端と一緒にするでないわ!!」

伯爵は立ち上がりこちらを睨み付けてくる。

「古くは王家に連なる高貴なわしの身を平民如きと引き換えにせよと、ふざけるのも大概にしろ!」

えほっえほと咽ながら顔を真っ赤にしている。

これが騎士?誇り高く、犠牲を省みず民を国を守護するもの。それが騎士だって・・・

ならこいつは騎士なんかじゃない、こいつが騎士だなんて絶対に認めない!

「お前は!」

そう叫んだ瞬間、僕の目の前には地面があった。同時に鼻を強打したのか血のにおいがする。

「すいません、こいつは平民出身でして。お目こぼしを」

僕の頭を抑えながら、フーガさんが謝罪を口にする。

「平民如きが・・・いや、そうか」

伯爵がにやりと口元をゆがめた。

「本来であれば貴族たるわしに口答えなぞその場で処罰される行為だ・・・だがわしは寛大でな、許してやろう。」

そこで言葉を切りリリアのほうをねめつけた。

「代わりにリリアよ、一晩わしの共をせよ」

ゆっくりと醜い巨体をこちらに寄せてくる。

こいつは・・・どこまで腐ってるんだ・・・!

こんな言葉の発端を作ってしまった怒りと感情に任せて口を出してしまった自己嫌悪とが混ざり涙が出てくる。

「申し訳ありませんが、それは出来ません」

レオンさんが伯爵の前に立ち毅然と言った。

「この小隊のことは私に一任されています。たとえ伯爵様であろうと手出しは許されません」

即座に顔を真っ赤にし醜く太った指でレオンさんの胸倉を掴みあげた。

「小僧が偉そうに!きさ・・・」

「私たちは王命を受けて動いており、急ぎ王都へ戻る必要があります。馬車の供出をお願いいたします」

伯爵は掴んでいた胸倉を乱暴に離し横にあった机を蹴り飛ばした。

「糞ガキが!」

「王命でありますので・・・急ぎご対応をお願いいたします」

「馬車をこいつらにくれてやれ!」

荒々しく椅子に座り大声で告げた。

「糞共が!とっとと消えろ!!」

皆がすばやく立ち上がり一礼して退出していく、僕もリプトさんに引っ張られるように退出していく。

 

 

 

 

 

レオンさんが御者台へ、僕たちは馬車に乗り一路王都へと向かう。

その中で、僕はフーガさんに頭を掴まれた。

「おいこら。俺は絶対に喋るなと言ったよな、あ?」

ミシミシと僕の頭蓋が音を立てる。やばい、つぶれる・・・

「フ・・・フーガさn・・・」

「フーガ、やりすぎ。暴力はだめ」

リリアさんがフーガさんの腕を掴みやさしくはがしてくれる。

「わかった、暴力はやめる。だが説教だ!」

腕を組みにらみつけてくる、すさまじいプレッシャーを感じた。

「あの・・・本当にごめんなさい。あいつの話を聞いて、頭に血が上っちゃって」

「気持ちはわかるし、俺たちも憤りを感じる。だがあいつはあんなんでも貴族だ、下手を打てば打ち首だってありえた」

フーガさんはそこで一拍おいてリプトさんに目を向けた。

「そうですね・・・私たちはまだ立場がありますから簡単にどうにかされるってことはないですけど、ヨアン君は違います」

そうだ、僕は平民。ただの商人の息子だ、本来貴族と話すことさえ出来ない身分だ。

「その・・・本当にごめんなさい」

「ブタのことなんて忘れればいい、相手にするだけ無駄」

「はぁ・・・商人の息子として隙は見せられないんだろ?まだガキだが、自分で言ったことくらいはやってのけろ。いいな?」

そういって大きな手で頭を撫でてくれる。

この人はいつも厳しいようで優しい。

「はい、すみませんでした・・・」

「ヨアン君、フーガを嫌わないでやってくださいね?彼、こう見えても子供好きなんです」

フーガさんがすぐに視線を逸らし寝転んだ。

「うっせ、俺はガキでも区別しねぇ。認める奴は認めるってだけだ」

この人はやっぱり優しい、僕みたいな子供でもきちんと男として向き合ってくれる。

「そんなこといって、街でもよく子供と遊んであげてるじゃないですか」

「ロリコンブタ野郎がここにも」

そんな僕の感動をよそにリプトさんだけでなくリリアさんも意地悪くにやけながらフーガさんに追撃をしていく。

フーガさんが勢い良く体を起こしリプトさんたちに指をさした。

「だぁもう!うっせぇな!お前らちょっと黙ってろよ!」

その顔はわずかに赤くなっていた、照れてるんだろうか。

「それにリリア!俺はロリコンじゃねぇ!つかあのブタ野郎と同じ扱いとか冗談でもひでぇぞ!」

「それについては悪いと思ってる」

リリアさんが見事な棒読みで返す。

「もう、リプトさんもリリアさんも人が悪いですよ。フーガさんは僕なんかにも真剣に向き合ってくれるいい人です」

「それだ!」

僕が言った途端フーガさんが僕を指差してきた。

「それ?フーガさんがいい人ってとこですか?」

「違っげぇよ!俺は・・・まぁいい、それは後だ。お前、いちいちさん付けなんかすんな」

「え?さん付けするなって言われても・・・皆さん年上ですし尊敬できる人だし」

僕は首をかしげてフーガさんのほうを見る。尊敬できる人、目上の人を呼ぶ時はさんが常識でしょ。

「俺たちは仲間だ、さん付けなんてちっと他人行儀すぎるぞ。俺のことは呼び捨てでいい」

「えぇ?いやでも」

渋ろうとする僕に皆も同調してきた。

「フーガ、たまにはいい事言う。私もリリアで」

「いいですね、なら私のこともリプトで」

「そういう話なら僕も混ぜてくれよ、レオンって呼び捨てでいいからね」

御者台からも声が上がる、ずっと話に入ってこなかったけど聞いてたのか・・・

でも全員呼び捨てなんて・・・なんというか恐れ多いな・・・

そんな困った顔の僕の頭をリプトさんが優しく撫でてくれる。

「ヨアン君、私たちは仲間です。遠慮なんていりませんよ?」

その優しい笑顔と手つきに照れながらもなんとか言葉を返す。

「ぇっと、すぐには難しいかもしれないですけど・・・がんばります」

「えぇ、ゆっくりといきましょう」

「おう!」

「ヨアンのペースでゆっくりいけばいいさ」

口々にそう言ってくれる。ちゃんと、みんなの仲間になれればいいな。

「私は呼び捨て以外返事しない」

「ええ!?」

ちょっとむくれたような調子でリリアさんに言われて困惑する。

「ほら、皆。盛り上がるのはいいけどちゃんと寝ておかないと王都についてからつらいぞ、御者は僕がやっておくから、今のうちに寝ておきな」

レオンにそう言われ、皆すばやく寝る準備に入った。

お休みと声を掛け合いながら僕も寝る体制に入る。

この人達となら、どんなつらい明日でも乗り越えていける、そんな力強さを感じながら僕の意識は落ちていった。




次週、もし間に合わなければ設定集になるかもしれません・・・
何とか間に合わせるつもりですが何分筆が遅いもので・・・
待っていただいてる方、大変申し訳ないことです・・・


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第14話

何とか間に合いました。
気を付けて書いたつもりではありますが何分急いで書いた物でもありますので誤字脱字等もしありましたら一報いただけたら嬉しいです。



馬車の中、僕たちは思い思いに過ごしていた。

フーガさんは寝転がり、リリアとリプトさんは大人しく座っている。僕は後ろから景色を見たり。

「皆、王都が見えてきたぞ」

レオンさんの声に皆が前を向いた。

「王都ですか、僕初めてなんですよ」

「はは、王都は人が多いからなぁ、迷子になるんじゃねぇぞ?」

フーガさんが意地悪な笑顔でそんなことを言ってきた。

「フラングだって人は結構多いんですから、大丈夫です!」

「ヨアン、来てごらん。御者台からなら王都が良く見えるよ」

僕はレオンさんの横に腰掛け、前を向く。

「うわぁ!」

重厚な壁にそれに釣り合う様な門、その先に大きなお城の尖塔が見える。

そして街自体がでかい、とにかくでかい。フラングも大きい街だと思っていたけどそれよりもでかかった。

「ふあぁ・・・大きいですね~」

「は、おのぼりさん」

リリアのそんな反応に僕の顔は少し赤くなった。

「ぇっと、その僕」

そんな様子を見てリプトさんが頬に手を当てる。

「あらあら。もう、いじわるしちゃだめよ」

そんなやり取りをしながら、僕たちは王都の門をくぐった。

 

 

 

 

外から見たときも大きな町だと思っていたが中は想像以上だった。

馬車が何台もすれ違えるような大きな通り、その脇にこれまた大きな歩道がありたくさんの人が行き交っている。

数々の商店が並び喫茶店や酒場も多い。つい、同じお店がこんなにあってどうして潰れないのかと考えてしまう。まぁ人の数がそれだけ多いのだろうと結論付ける。

「そういえば、このあとどうするんですか?直接お城に行くんでしょうか」

隣に座るレオンさんにそう問いかける。

「いや、まずは宿舎だね。その後僕は馬車を返しに騎士団まで行ってくるよ、そのまま謁見の手続きをしてくるから皆はゆっくりしていてくれ」

「謁見の手続きですか、やっぱりすぐに合えるわけではないんですね」

「ははは、たしかに僕らは王様の命令で動いているけどね、帰ってきたから会いましょうで会えるほど王様も暇じゃないよ。ただ今回は危急の用件でもあるからね、優先的に通されるはずだよ」

「魔王の復活なんて一大事でも順番待ちなんですね・・・」

少しだけど不満が募る、魔王の復活なんて国の一大事だろうにそんな悠長でいいのだろうか。

「ヨアンの不満は分かるよ、だけど仕方ないんだ」

話をしているうちに宿舎へついたようでレオンさんが馬車を止める。

そこそこ大きな、けどちょっと古めかしい屋敷だった。

「さぁ、僕たちの宿舎に到着だ。疲れただろ、ゆっくり休むといい」

そう言って頭を撫でてくる。なんで皆僕を子ども扱いするのか・・・納得がいかない。

皆が馬車から降りてきてそれぞれ体を伸ばしたりしている。

「僕はこのまま行くからフーガ・・・は不安だな、リプトこの場は頼んだ」

「はい、お任せください」

リプトさんがいつも通りの優しい笑みで肯定した。

「どういう意味だこら!」

「フーガを自由にしたら絶対酔っ払って帰ってくる」

「あはは、リリアの言う通りかもしれないね」

僕もリリアに同意する。フーガさんってお酒、好きそうだし。

「こらヨアン!お前俺が酒飲んでるところみたことねぇだろ!」

皆から笑みがこぼれる。

「ははは、ヨアンもだいぶ馴染んだね。じゃあ僕は行くよ」

「はい!行ってらっしゃい、レオンさん」

そのままレオンさんは馬車に乗り先に進んでいった。

 

 

 

 

「さて、まずは部屋に案内しましょうか」

リプトさんの提案でまず部屋にいくことになった。

フーガさんは任せたといい自分の部屋に行ってしまった。

案内された部屋はあまり大きくはないが机があり、二段のベッドが置かれていた。

ベッドの下の段に小さなウサギのぬいぐるみが置いてある。

「リプト、ここは私の部屋」

リリアが小さく抗議した。そうか、ここはリリアの部屋なのかと考えていた。

「えぇ、リリアの部屋よね、そしてこれからヨアンの部屋にもなるの」

そうなのか~、ここが僕の部屋に・・・ん、でもリリアの部屋だって、あれ?

「納得できない。みんな一人部屋、それにまだ部屋は空いてるはず」

「そうですよ!空いてる部屋があるならそっちで・・・」

リリアと同じ部屋で過ごすなんて、その・・・女の子と同じ部屋なのはちょっと。

リプトさんは僕たち二人の抗議にもまったく動じずにっこりと聖母のような笑顔だ。

「あらあら、でもあの部屋は床が危ないから。修理もすぐにできるほどお金もないし。それまでは一緒の部屋で、ね?」

「納得できない、男女で同じ部屋はありえない」

リリアはまだ食い下がっている。

「その、リリアも言ってるけど男女で同じ部屋は・・・着替えとかもあるし」

「そこは大丈夫よ、ちゃんと着替えのスペースでカーテンつけるつもりだから」

そこまでして同じ部屋にするのか・・・

「レオンさんやフーガさんと同じ部屋じゃダメなんですか?」

みんな一人部屋って言ってたし、それなら同性の人との方が・・・

「二人はやめておいたほうがいいいいと思うわよ?」

「なんでですか?そりゃ迷惑はかけちゃうと思いますけど」

ふたりには迷惑をかけてしまうと思うけど女の子と・・・こんなかわいい子と一緒だと気が休まらない気がする。

「そうねぇ、フーガはお酒飲むとすごいイビキよ、宿舎だとしょっちゅう飲むし。レオンは・・・朝早くから修行とか精神統一につき合わされたりするわよ?意外と細かいから大変なのよねぇ・・・レオンは」

みんなそれぞれあるのかぁ・・・どうしよう・・・

「さて、部屋はこれで決定ね。それじゃ買い物に行きましょうね~」

考えているうちに決定されてしまった・・・

「リプト、だから」

「はいはい、カーテンとか買いに行かなくちゃね~。ヨアン、荷物置いてすぐに行くわよ」

そう言って荷物を床に置いただけの僕とリリアは手を握られ街に引っ張られていった。

 



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第15話

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僕とリリアはリプトさんに引っ張られ街へと出ていた。

右に僕左にリリア、真ん中にはリプトさんという並びだ。

「さ~て、お洋服に家具にいろいろ買わなくちゃ!」

リプトさんはものすごくテンションが上がっている!

「めんどくさいパターン、これは日暮れまで帰れない・・・」

「そうなんだ・・・長くなりそうだね・・・」

「ほらほら!そんなにゆっくり歩いてると今日中に買い物が終わりませんよ?急ぎましょう!」

テンションが高すぎて人格が変わっていそうなリプトさんに連れられて僕たちは店に行く・・・

 

 

 

 

 

まず最初に来たのは家具を売っている店だった。

「さ~て、さすがにクローゼットは一緒にできないから買わないと。ベッドはあるから・・・机と~、あ、これ可愛い!」

リプトさんすごくはしゃいでいるなぁ・・・というか今見てる机、ものすごく可愛らしい彫刻が彫られてる。リリアならともかく僕があんな可愛い机を使うのは勘弁してほしい。

「あの、リプトさん。せっかく連れてきてもらったんですけど、僕あんまりお金なくて・・・」

あの時はこんなことになるなんて思ってなかったから、宿と馬車にお土産程度のお金しか持ってきていなかった。

「それは大丈夫よ、ヨアン君は私たちの協力者として登録するから、あんまり多くはないけど給金も出るし。家具とお洋服くらいは私たちにもたくわえがあるからね」

「ならそれを修理代に回せばいい」

「もう、リリアちゃんてばまだそんなこと。部屋はもう決まりです!」

リプトさんはどうしても僕たちを一緒の部屋にしたいらしい。

「とりあえず、家具選ばないと・・・すごい可愛いのにされちゃいそうだな」

リプトさんは僕に可愛らしい家具を使わせたいみたいだけど相違のは僕の趣味じゃない、せめて普通のを選ぼう。

 

 

 

そうしてまず何の彫刻もない普通の机とごく一般的なクローゼットを選び、リプトさんにこれがいい旨を伝える。

値段も手ごろだし見たところ質もいい、僕としてはなかなかいいものを選んだと思う。

「あらあら、こんな普通の机でいいの?ヨアン君可愛いんだしもっとこっちの机とか・・・」

その言葉に苦笑いをしながら僕はこれがいいと繰り返し伝えた。

「長く使うにはこういうのが一番いいんですよ、あんまり派手な奴だと大きくなってから使いにくくなってしまいますから」

そうして一番シンプルなものを選びお店の人に声をかけ、値段を確認する。

「クリーゼットが金貨2枚、机は金貨3枚だな」

合計で金貨5枚、明らかに高すぎる。

「このシンプルな机とクローゼットが合計で金貨5枚、吹っ掛けすぎですよ?」

「いや、この値段だよ。買うのか、買わないのか?」

僕の中で商人(見習い)としてスイッチが入る、多分この人は僕のことを何も知らない田舎者だと思ったのだろう。

「それはないですね、確かになかなか質のいい木材を使っているようですがその値段となると最上級のものでないと納得はできないです。このクローゼットだと・・・そうですね、金貨一枚でも高いくらいでしょう。銀貨5枚でどうです?」

即座に材料の判断からくみ上げを見て反論する。

「坊主、そりゃ吹っ掛けすぎだ。金貨1枚と銀貨8枚。そんなところだな」

「いやいや、冗談言っちゃいけませんよ。確かに僕は田舎者ですけど多少は物を知ってますから。銀貨8枚で」

「おいおい、そんなに下げたら赤字になっちまう。なら金貨1枚と銀貨5枚だ」

どんどん白熱していく、田舎者でも商人の息子。こんなところでは負けられない。

「まったく、商売上手ですね~。机も一緒に買うんですよ?ならクローゼットを金貨1枚、机を金貨1枚と銀貨5枚で買いましょう、抱き合わせなら持ってくる手間も省けるでしょ?」

「まてまて、元々がふたつで金貨5枚だぞ?それを金貨2枚半で買おうなんざ虫が良すぎる。二つで金貨4枚だ、それで家まで持ってってやる」

「もう一声欲しいですね、最終手段です。自分たちで取りに来ますよ、それで金貨3枚。どうですか?」

店の人ははげかけた頭を撫でため息をついた。

「たく、なんだこの小僧、憎ったらしい。それでいいよ、あとで店の外に出しといてやる。ただし、金貨3枚この場でもらうぞ」

ようやく負けてくれたか、だけどフラングでの金額を考えるとこれでも負けた気分がする・・・まぁ王都は物価が高いし、このくらいは仕方ないか。

僕はお店にいた時の、父さんをまねた自慢の笑顔を浮かべてお礼を言う。

「ありがとうございます。リプトさん、この金額で大丈夫ですか?」

リプトさんは素早く巾着を出して金貨3枚を支払う。

「はい、大丈夫ですよ。金貨3枚、間違いなく」

「はい、まいど。ずいぶん達者な弟さんだな、やられたよ」

その言葉にリプトさんがいつもの笑顔を浮かべた。

「ふふ、自慢の家族ですから」

お金を支払い、あいさつを交わして店を出る。

荷物はあとで出しておいてくれるらしい、フーガさんに言ってあとで一緒に取に来よう。

「ずいぶん頑張ったわね、ヨアン君。おかげでとってもいい物が安く買えたわ」

やっぱりあれでも安いのか・・・王都恐るべし・・・そう思いつつも・・・

「さあ、次はカーテンとか服ですよね。どんどん値切りますよ!」

そのままカーテン、服とかなり安い値段で買い僕たちは帰路に就いた。

 

 

 




つらい・・・熱寒気頭痛が1週間くらい止まない・・・
やすみがほしいぇ・・・

~この世界の通貨~
銅貨、大銅貨、銀貨、金貨
の四種類からなりそれぞれ10枚で繰り上がる形をとっております。
大体の値段は・・・私も結構適当なので皆様の御想像にお任せします。


御意見、御感想、評価などいつでも募集しております。
良きにしろ悪きにしろ御意見、御感想、御評価をいただくことは大変励みになります。
お時間ありましたら是非お願いいたします。


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第16話

宿舎に戻った僕たちは寝ていたフーガさんを叩き起こし(リプトさんが)買った家具を運んでもらった。

家具の配置を終えひと段落といったお昼過ぎ、レオンさんが帰ってきた。

「ただいま、皆そろってるかい?」

「はい、さっき僕の家具を運んでもらったところですから皆いると思いますよ」

「そうか、なら皆を居間に呼んでくれるかい?僕も荷物をおろしたらすぐに居間に行くよ」

 

 

 

皆が居間に集まり真剣な顔をしている、前にはレオンさんが立っている。

「皆、謁見の予定が決まったから連絡しておくよ。少し急で悪いんだけど今日の夜、日没後すぐだ。同時に旅の支度も整えておいてほしい」

場が少しざわめき、皆顔を見合わせていた。

「うん、皆が驚くのも仕方ないと思う。今までこんなに早い謁見はなかったからね。とりあえず協力者・・・というか随行者としてヨアン君を陛下に紹介するからリプトはすぐにヨアンを連れて礼服を仕立ててきてくれ」

「はい、わかりました。それと、旅支度というのは?」

リプトさんはいつもと違うとても真剣な顔をしている。

「それもこれから説明するよ、陛下は今回の魔王復活をとても重く受け止めている。すでに二つの都市が落とされたんだ、それはまぁ当然だろう。そしてまだ暫定ではあるが僕らを先遣隊として派遣するらしい、いつ出発になるかはまだ分からないからね、とりあえず簡単な準備だけはしておこうといったところだよ」

レオンさんはそこまで一気にしゃべりあぁ、そうだ。ついでにと言った。

「これもまた暫定ではあるけど僕に勇者の称号が授与されるらしい、皆は勇者のパーティーということになる。これは可能なら魔王を倒してきてほしいということだろうね」

レオンさんが勇者・・・そういえば勇者の血筋と言っていたなぁとぼんやり思っているとさらにレオンさんの声が続く。

「とりあえず皆は今言ったように動いてくれ。陛下に謁見するんだ、礼服を忘れるなよ?では、解散!」

最後にそう茶化しレオンさんは二階へと上がっていってしまった。

 

 

 

「さて、ヨアン君、さっき帰ってきたところで疲れてるでしょうけど急ぎで仕立て屋さんに行かないと。着いてきてくれますか?」

リプトさんが優しく僕の肩をつかむ。当たり前だ、国宝陛下に謁見するのにこの普段着のわけにはいかない。

「はい、もちろんですよ。むしろご迷惑おかけします」

僕がもっと準備して旅立てていればよかったのだけど残念なことに今は何も持っていないし王都のお店も詳しくない、現状ついていくしかないのだ。

そのまま僕とリプトさんは急ぎ足で仕立て屋へと向かいフーガさんとリリアは準備を整えるといって部屋へ戻って行ってしまった。

 

 

 

夕刻、もうすぐで沈む陽が赤々と燃えている。そんな赤い陽に照らされ新品の礼服に身を包む僕と着慣れた感じの、でもいつもと違うとても豪華で洗練された服を着ている面々が並んでいた。

「んじゃ、行きますか。そろそろ城には入っておかないと陛下がうるさいからな」

豪奢な礼服をわずかに着崩し、服にあまりあわない天に向かってまっすぐ伸びる髪を撫でつけながらフーガさんが言う。

すごく・・・見た目だけならすごくかっこいいのにそのぶっきらぼうなしゃべり方がいろいろ台無しなフーガさん。

「フーガは残念顔だから」

いつも通りの無表情の中、普段のゴスロリよりもフリルが多く、すごく可愛らしい恰好をしたリリアが僕の心を読んだかのようにフーガさんをいじる。

「あらあら、これでもフーガのことを見ている方は結構いるんですよ?なんて言ったかしら・・・ワイルド?とかなんとか・・・」

「だからリプトよぉ・・・これでもとか言うんじゃねえよ!あとその見てる人とかっての後で紹介してくれな!」

フーガさんがうなだれた後すぐに笑顔を浮かべるよくわからない行動をしながら親指を立てる。

さて、皆のフーガさんいじりもひと段落するしそろそろ。

「さぁ皆、あんまりのんびりしていると陛下を待たせてしまう。城へ向かおう」

予想通りのレオンさんの言葉に強く頷きお城へとむかって歩き出した。

 

 

 

お城へ着くとすぐにレオンさんが番兵に名乗りを上げ控室へと通された。

さすがは謁見者用の控室、調度品一つとってもものすごく価値のありそうなもので構成されていた。

そんな中で僕は一人、ものすごい緊張感を隠せずにいた。

きょろきょろと周りを見回しては下を向き、無意味に手を組んでみたり、自分でも緊張しているのがわかるほどだった。

そんな僕の横に座るリリアがそっと僕に手を重ねてきた。

「ヨアン、別にそんなに緊張しなくていい。陛下は優しいお方、あの豚の時と違う、聞かれたときは素直に答えればいい」

そんなリリアに同調するようにリラックスしきり、足を組んで座っていたフーガさんもこちらに目を向ける。

「俺が言うのもなんだが・・・陛下は寛大な方だ、俺みたいな中途半端な礼法でも許してくれる。ただ、ものすごく嘘を嫌う方だからな。中途半端な礼法でもいい、聞かれたことには素直に答えろ。いいな?」

「はい、素直に・・・ですね。頑張ります!」

「よし、その意気だ!豚の時に失敗してるからな、次はミスるんじゃねえぞ?」

そういってにっかりといい笑顔を浮かべてくる。ほんと、いい人だなと心の中で感謝を述べる。

 

 

 

部屋の和んだ空気の中、ノックの音とともに兵士が謁見の準備が整ったと短く告げ消えていった。

皆真剣な顔をして、部屋を出る。僕もそれに倣いついていく。

とうとう、国王陛下との謁見が始まる。

 




なんとか書けました・・・
前回同様、今回もちょっと急いで書いてしまったために整合性が取れなかったり誤字脱字等が予想されます、何かあればご報告お願いいたします。

また少々事情があり来週はお休みをさせていただく予定です。
お待ちいただいてる皆様には申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。
(まぁ仕事の合間などで書ききれればあげますが・・・少々難しそうですので・・・)


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第17話

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「第一騎士団所属、騎士レオン様御一行!御入来!」

そんな兵士の声とともに目の前の大きな扉が重厚な、だがよどみのない音で開く。

白く、とても綺麗な空間で床に敷かれた道のような赤いマットが良く映えている。

マットの両サイドには等間隔に兵士が並び立っている。

その奥に、一段高い場所に置かれた椅子に、おそらく王様だろう人が座っている。

そんな荘厳な雰囲気の中、レオンさんが先頭を歩いていく。胸を張り前を見据えて。

王様の前、階段の様になっている段の前でレオンさんたちが一斉にひざまずき、片腕を胸に当て礼の姿勢をとった。

僕もすぐにそれに倣い姿勢を整える。

「国王陛下に置かれましては、ご健勝とのことで何よりに存じます」

レオンさんの発言のすぐ後に低く、だけどよく響く声が聞こえた。

「うむ。レオンよ、よく戻った」

「は!これも国王陛下の御威光の賜物にございます」

この人が国王陛下、この国で一番偉い人か・・・そっと顔をあげようとしたところでそっとフーガさんに横腹を小突かれた。

「建前や口上は良い、どうやら己の好奇心に勝てぬ者もいるらしい。顔を上げよ」

そう言われ青ざめる、僕は、また迷惑をかけてしまった。自分のちっぽけな好奇心のせいで。

「申し訳ありません、市井に暮らすもの故に礼儀作法を」

すぐにフォローに入ってくれたレオンさんだが王様が手を振り遮ってしまう。

「よい。少年よ、名は何と言う」

すぐに地面に当たるほどに頭を下げる。

「も、申し訳ありませんでした!その・・・」

「よい、構わぬよ。少年よ、顔を上げ名を教えてはくれぬか?」

すぐに顔を上げ王様の顔を見る、少し疲れたようなその顔には僅かに、本当にわずかにだが笑みが浮かんでいるように見える。

「も、申し訳ありません。フラングに住んでいました、ヨアンと申します」

「そうか、フラングからか・・・ヨアンよ、余を見てどう思った」

いきなりの問いかけに僕は焦り、混乱してしまった。

「え、いや、その。威厳のある方だなと・・・少し、顔色が悪いなって・・・あ!いやその、御顔の色が優れないと!」

とんでもないことを言ってしまったと手をわたわたと動かしすぐに敬語?に言い直す。あぁ・・・なんでこんなことを!

「貴様!陛下に向かって!!」

王様の隣に立っている小太りの、偉そうな人に怒鳴られ兵士に槍を向けられてしまう。

「申し訳ありません陛下!この者は・・・」

「よい、臣を通さぬ民の意見は貴重なものだ。そうか、余が疲れて見えるか」

真っすぐに僕の目を見て問いかけられる。まるで心の奥底まで見通される様な目で。

「は、はい。その、僕・・・私みたいな下賤の生まれにはわからない苦労があるのだろうと・・・」

王様がふと目元を緩め、僅かだが優しそうな顔をした。

「よく見ておる。それにフラング陥落は余の決断の遅さが招いたこと。糾弾してもよいところを体調の心配か。お主は優しい子なのだろうな」

「陛下、フラングのことは致し方なく!」

王様が隣に立っている偉そうな人の発言に緩めた目元を引き締める。

「大臣よ、余はこのヨアンという少年と話している。口を挟むでない」

偉そうな人(大臣さん?)はすぐに頭を垂れ一歩後ろへと下がる。

「この心優しき少年なら問題はなかろう。レオンお前の旅の随行者として認めよう。良き人材を見つけたな」

「は!お褒めにあずかり光栄にございます!」

「ヨアンよ、旅は過酷、時に死線を潜ることもあろう。それでもレオンたちを支えてくれるか?」

「はい!お任せ・・・謹んで拝命いたします!」

それを聞くと王様は立ち上がり僕たちの頭の上に杖を振りかざした。

「第一騎士団特殊兵装小隊隊長、騎士レオンよ、そなたをサザランド王ゲルハルト・ヴァレヒトの名において勇者と認定する!これよりは魔王討伐特別部隊を名乗るといい。フーガ、リリア、リプト、ヨアンよ。これに従い勇者の旅を支えよ」

「は!身命を賭し任務を果たしてまいります!」

レオンさんの力強い声とともに全員で首を垂れる。

王様は僕のほうを見てニヤリと笑った。

「余はこれで下がろう、民にあまり心配をかけるわけにはいくまい、今宵は休息をとる。大臣よ支援等の話は任せる」

そういうとマントを翻し椅子より奥にある扉の奥に行ってしまった。

「オホン!ではまず支度金を・・・」

そこから大臣さんから支度金や関の通行証を受け取り、手続きなどを終え僕たちの宿舎へと戻った。

 

 

 

その帰り道、僕はまたフーガさんからお叱りを受けた。

「なぁヨアン。お前豚の時もやらかしたよな、ん?」

「あ!いや・・・その」

「お前は商人として頑張るといったからにはキチントやれ、そう言ったはずだ」

「ご・・・ごめんなさい!」

「しかたない、聞かれたことに素直に答えろといったのは私達。フーガもそう言ったはず」

間髪入れずにリリアがフォローを入れてくれる。

「ん・・・そうだな、確かに言った。そしてきちんと礼法ができてなくていいといったのも俺だな・・・」

レオンさんがフーガさんを見てにやりと笑う。

「フーガ、今回はお前の負けだな。それに陛下はあれで楽しまれていたよ、結果よければすべてよしさ」

「くっそ!仕方ねえ、今回は言ったことを翻しそうになった俺が悪い、すまん、ヨアン」

そう言って僕に向かって頭を下げてくる。

「いや、やめてくださいよ!僕が悪かったのは事実ですから!」

頭を下げるフーガさんに手を振りなだめようとする。

「頭の箒が刺さるから頭を下げるなって、ヨアンが」

そしてリリアからの茶々が入る。

「なんだと!つか箒っていうんじゃねぇ!天を衝くこの髪は俺の・・・」

そのまま、フーガさんの髪への熱い思いを聞きながら、宿舎へと帰ってきた。

 




ナイスミドルって書くの難しいなぁ・・・
かっこよくて威厳のあるナイスミドルな王様が書きたかったけど・・・なんかおじいちゃんなイメージが・・・

御意見御感想、評価お待ちしております!


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第18話

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宿舎へ帰り着くとすぐに会議が始まった。

「さて、旅に出ることが決まったといってもまだ帰り着いたばかりだ。揃えなきゃいけないものもたくさんある」

レオンさんがそう話し出した。

「とりあえず、明日は本格的に旅の支度を整えようと思う。出発は明後日くらいかな。皆はそれでいいかい?」

「あの、レオンさん。僕、長旅はしたことが無くて・・・なんとなくの想像はできるんですけど、必要なものとかよくわからないんですが」

僕の発言を聞きフーガさんが顎を撫でながら発言する。

「ぁ~、確かに。生半可な知識で準備してもなぁ・・・絶対にどっか足りなくなってくるだろ・・・どうするよ」

レオンさんとフーガさんが少し悩んだ感じになる。迷惑をかけている自覚はある。だけど、今の僕には知識も経験も足りない、ここで意地を張って取り返しのつかない状況にするわけにはいかない。すでに何度も失敗しているんだ、ここでしっかりと学びたい。僕はそう思った。

「なら、ヨアン君は私とリリアがついていきますよ。自分たちの準備も含めて一緒に回りましょう」

そしてすぐにリプトさんがフォローに回ってくれた。

「すみません、またご迷惑をおかけしますけどよろしくお願いします」

「いいのよ、誰にでも初めてはあるし知らないこともあるの。無理をせず頼れるところでは頼っていいの」

リプトさんが情けなく頼りない僕に優しい言葉をかけてくれる。

「ただし、ここできっちり旅に必要なものや知識を教えていくからね?ここでは頼られてあげるけど、旅の道中では私たちもヨアン君のこと頼りにしちゃうからね」

そういうとリプトさんは茶目っ気たっぷりにウインクしてくる。

「はい!勉強させてもらいます、よろしくお願いします!」

そう言い頭を下げる、たくさん学び、経験をしてきっとこの人たちに頼ってもらえるような男になろうと決意をする。

「よし、ではヨアンの旅支度はリプトに任せるよ、よろしく頼む」

僕とリプトさんはレオンさんの言葉にしっかり頷く

「はい、任されました」

「私もいる。スルーは良くない」

そう素早く突っ込みを入れるリリアにフーガさんが笑う。

「おいおい、リリアはいつもリプトに任せっきりじゃねぇか。大丈夫か?」

リリアって案外ずぼらなのかなとリリアのほうを見る。

「別に・・・いつも頼ってるわけじゃない、リプトのほうがうまいからやってもらってるだけ」

「それを任せっきりと言うんじゃ・・・」

ものすごい目つきで睨まれた、言わないほうが良かったかな・・・

「そんなこと言うなら、私は手伝わない」

ちょっと言い過ぎたか、拗ねさせてしまった。

「まぁまぁ、そういわないで?今回は今までで一番の長旅になりそうだから、リリアにもたくさん手伝ってもらわないと困っちゃうわ」

すぐにフォローしようとしたが先にリプトさんにフォローされてしまう。

「はぁ・・・もういい。準備は明日、私は寝る」

そう言って二回へと上がって行ってしまった。

行ってしまってから気付いたがリリアとは同室なんだった・・・後で気まずくなるかな・・・

表情に出てしまっていたのかリプトさんに優しく頭を撫でられる。

「大丈夫よ、このくらいで怒る子じゃないから。ほら、明日も早いからヨアン君ももう寝なさいね」

「はい、えと、僕も部屋に行きますね。おやすみなさい」

きちんと挨拶を済ませて、僕も部屋へと向かう。

「はい、おやすみなさい」

「おう、おやすみ」

「疲れを残さないようにね、おやすみ」

 

 

 

 

 

部屋へ入るともう火が落ちていた。

扉を閉め、真っ暗な部屋の中ベッドに向かって歩き出す。

「ヨアンは上の段、下に入ってきたら大声を出す」

下に入るって・・・!リリアと添い寝なんかしたら絶対に眠れなくなる。

「下って・・・入らないよ!ちゃんとはしご昇るから!」

「ならいい、もう寝たほうがいい」

「う、うん。おやすみ」

そういい梯子を昇る。

昇りかけて、足を滑らせた。

「うわ、あぶな!」

咄嗟に梯子をつかむがバランスを崩して布団に倒れこんでしまう。

 

 

 

そして目の前には・・・リリアの可愛らしく、綺麗な顔があった。

心なしか甘い、いい香りがする。

 

 

「ぁ・・・えっと・・・」

暗闇の中にあっても綺麗に輝いて見えるリリアの眼を見つめてしまう。

「入ってこないでって言った。大声出すとも言った」

目の前にリリアが真っすぐに僕を見ながらそう言った。

「ご・・・!ごめん!わざとじゃ・・・」

「すぐに出ないと怒る」

僕は慌ててベッドから出ようとするが転んだ時に布団が絡んでしまったのか妙に動きづらい。

バタンと大きな音を立て、部屋のドアが開いた。

「おい、大きな音がしたが大丈夫か!?」

外から明かりが漏れ扉の所にフーガさんレオンさん、リプトさんの三人がいるのが見えた。

「あ~・・・すまん、邪魔だったか」

「えっと・・・ヨアン君、いきなり夜這いは・・・その、ほら、明日も早いし」

「あぁ・・・何事もなかったのならいいんだ、僕らは退散しようか・・・」

三人がものすごい勘違いをしている。僕は何とか誤解を解こうと必死になる。

「違いますって!梯子から落ちちゃって、それで布団が絡まって!」

「いや、きちんと合意の上なら・・・」

フーガさんがそう言うのと同時に僕のすぐ横からも声が上がる。

「違う、変な勘違いはしないで」

そしてすぐに頬に衝撃を感じる。

「変態、とっとと上に行って」

僕はそっとベッドから離れ上の段へと上がっていく。

「ぁ~・・・ご愁傷さま?」

「あらあら・・・」

「ヨアン君、きちんと合意をとってから・・・」

ドアのほうから何か聞こえるがよく耳に入らなかった。

「おやすみなさい」

短くそれだけ言って僕は頭から布団をかぶった。

 

 

 

 



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第19話

「さぁ、今日も元気にお買い物ですよ!」

朝、テンション高めのリプトさんに起こされた。

「早すぎ、まだお店も開いてない」

リリアも不機嫌そうにベッドに腰かけている。

「東方のことわざで、一日の計は朝にありって言ってね?朝ご飯を作りながら今日の計画を練りましょう!」

 

 

 

 

気が付くと僕とリリアは宿舎の厨房に立っていた。

「はい、ヨアン君はこれの皮をむいて。リリアはこれを洗って盛り付けておいてね」

てきぱきと動き、僕たちも手があかないようにてきぱきと指示を出してくる。

瞬く間に厨房全体においしそうなにおいが漂ってくる。

「ふふ、二人が手伝ってくれたからいつもより美味しくできたわ」

丁度出来上がったタイミングで外からレオンさんが入ってきた。

「おはよう、いい匂いだね」

鍛錬を終えた後なのだろう、上半身裸のままだ。

「おはようございます、レオン。朝食ができていますよ、着替えてきてください」

「あぁ、すぐ来るよ」

レオンさんが上に上がってすぐにフーガさんも降りてきた。

「ふあぁ~、おはよう」

「おはようございま、フーガ。朝ご飯ですよ、はやく顔洗ってきてください」

リプトさんが優しい声をかける。聞いていて思うけど、リプトさんってなんか、母さんみたいだな。

「さぁ、出来上がった料理を運びましょう。二人も席についてね」

 

 

 

 

 

「今日、この糧を得られることを神に感謝します」

食前の祈りを終え皆で食べ始める。

「ぉ、今日も美味いな」

「今日は一段と、ですよ。ヨアン君とリリアが手伝ってくれたんですよ」

リプトさんが嬉しそうで僕も嬉しいんだけど・・・

「手伝ったって言っても、僕皮をむいただけですよ」

「私はサラダを洗っただけ、味は変わらない」

気恥ずかしさか、僕だけじゃなくてリリアも乗ってきた。

「あら、変わりますよ。料理は籠める気持ちで味も変わってくるものなんです」

「そうだね、二人が頑張ってくれたからかな、とても美味しいよ」

僕は照れながら、リリアも・・・照れているのかそっぽを向きながら食事をとった。

「さて、今日の予定だけどリプト、ヨアンとリリアを連れて食料とそれぞれに必要なものを買ってきてほしい、他のものは僕とフーガのほうで済ませておくよ」

「はい、こちらは任せてください。ヨアン君、今回もいっぱい手伝ってもらうからね?」

リプトさんはそう言って優しげな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

そして現在、僕たちの一行は大量の荷物を背負い街を歩いていた。

かなり大きなリュックサックを買ってもらいそれに荷物を詰めてきたのだが・・・

僕が張り切りすぎたのか、行く先々で値引き交渉を行い予定よりかなり多く保存食を手に入れられた。

そのおかげで買ってもらったリュックには服や薬草類、保存食に装備の修理用品と雑貨屋でも開けそうな状態になってしまっていた。

「ちょっと買いすぎちゃったかしら。ヨアン君持てる?大丈夫?」

とことあるごとに心配されてしまっている。僕はその度に「確かにレオンさんとかフーガさんと比べれば力はあんまりないですけど・・・これでも父さんの手伝いで重いものを持ったりはしてましたから、このくらいは大丈夫ですよ!」

と何度も説明をしている。

そんなやり取りを繰り返し、リリアに半ば呆れられながらもようやく宿舎へと着いた。

入り口ではフーガさんが馬車の点検をしていた。

「フーガさん、もう帰ってたんですね」

そう声をかけるとフーガさんが顔を向けて声をかけてくる。

「おう、帰ったのか・・・また随分買ったな、予算超えてんじゃねえか?」

「いいえ、これでも予算内。それも余裕を残してるんですよ。ヨアン君がたくさん頑張ってくれてね?」

「へぇ、ヨアン。お前値切りの才能あるんだな。ならこれからは買い物はヨアンに頼むとするかな」

そういってぐしゃぐしゃと頭を撫でてくる。

「それで・・・おいヨアン、昨日はどうだったんだ、ん?」

唐突にそんなことを聞いてくる。それもものすごく嫌な笑顔で肩を組んでだ。

「いきなりなんですか、昨日はどうだったって普通に家具を買って、運んでもらって・・・」

「ちっげぇよ!夜だ夜、どうだった、優しくしてやったか?ん?」

夜ってあの騒動のことを言っているんだろうか・・・この人は・・・

「なにもありませんよ、あれは事故ですからその、そういう風に言うのはリリアに失礼です」

ちなみに、昨日の事件があってからリリアは僕のほうを向いてくれないし話もしてくれていない。

「バカ!お前女に抱き着いてただの事故ですのほうが失礼だろ、ほら、なんかあんだろ?」

そう聞いてきた瞬間目の前でパチンと音がした。

「全部聞こえてる、変態はフーガだった。ヨアンは許す、次はない」

リリアがとても鋭いビンタをお見舞いして宿舎に入って行ってしまった。

「ぁ~・・・正直すまんかった。あれガチで怒ってるじゃねえか・・・」

そう言って頭をかく。そりゃ怒る、きっと同じ立場なら僕だって怒る。

そして・・・僕たちは後ろにいる修羅に気付かなかった。気付くことができなかった。

「フーガ。少し、やりすぎましたね・・・さぁ、こちらに来てもらいましょうか、ちょっとお話ししましょうか」

大地が震える錯覚を覚える、鬼気迫るリプトさんの顔が迫る。

そしてフーガさんの首根っこを掴むととても聖職者とは思えない力で引き摺っていく。

「ちょ!まて、俺が悪かった!だから離せ!な?」

「あらあら、何を言っているのかしら。ちゃんと話しますよ。えぇ、お部屋でね?」

「話すってそっちじゃねぇ!おい!待てこら!!」

そうして二人とも宿舎に入って行ってしまった。触らぬ神に祟りなし、僕はその光景を見守ることしかできなかった。僅かでも慈悲があるようにと神に祈っておいた。

 

 




日常・・・なのかなぁ・・・
なんとか書き上げて投稿です、最近休みすら取れない状況に陥り朝晩仕事中に何とか書き上げている状態です。文章の添削、再考ができずに質が落ちているんじゃないかとものすごく心配になっています(ぶっちゃけ添削してても質が低いとかは言ってはダメです、私がへこみます)
御意見など常時募集中ですので何かありましたら是非お願いいたします。

ぁ、今のところの予定ですが次話、またはその次の話から話が動き出すと思います。
このような駄文ではございますが少しでも皆様に楽しんでいただけているのなら幸いです。


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第20話

旅立ちの朝、僕は買ってもらったばかりの皮の鎧にピカピカのショートソードを腰に下げ宿舎の前に立つ。

皆ももう揃っておりよく手入れされた装備をまとっている。

「おはよう、ヨアン。昨日はよく眠れたかい?」

そうレオンさんが声をかけてくる。

「はい、睡眠はばっちりです。疲労もありません!」

そう元気よく答え皆の横に並ぶと、大きな手にぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。

「んじゃ行こうか」

と短く、しかし頼もしく微笑むフーガさんが馬車に入っていく。

フーガさんに続いて他の皆も一緒に乗り込む。

最後に御者台にレオンさんが乗り込み馬車は走り出した。

王都の景色が過ぎ去っていく。僕は、無事に魔王を倒せるようにと祈りを込めて目を閉じる。

 

簡単な祈りを終えて僕はまたまた街の景色を眺める。そしてふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「そういえば、勇者の旅立ちなんて言ったら、本来は国を挙げての一大事業になるんじゃないですか?」

そう、今世界は魔王の出現によって混乱している。サザラント王国内でも屈指の街を一度に二つも落とされたのだ、これから先貿易にだって支障が出るだろう。

そんな情勢を纏め上げるのに勇者という肩書を利用しない手はないと思う。国を挙げて盛大に行えば街の人たちの不安もだいぶ取り除けると思う。

そんな風に思っていると御者台から声がかかる。

「ヨアン君の考えはわかるよ。正直、今の混乱を収めるには僕らが前に出たほうがいいとも思う。だけど陛下はそれを望まないんだ」

王様が望まない?

「え?王様が望まないって・・・国民の不安が広がれば王国にもなにかしら不利益があるんじゃ・・・」

あくまで、僕はそう思う。国王様には何か別の考えがあるんだろうか。

「そうだね、確かに今の混乱を収めるのには使えるだろう。ただ、このたびは非常に困難な旅だ。僕たちが成功する確率も正直現時点では高くないだろう。そして、勇者として送り出した者たちが旅の途中で倒れたとなったらどうする?もし国を挙げての事業となっていれば僕たちは全国民の希望を背負っていることになる。陛下は今の混乱よりもその時の混乱を嫌ったんだ」

「そういうこった。正直に言えば、この中でここに帰ってこれないやつもいるかもしれない。もしかしたら全員だな、これはそういう旅だ」

二人にそう言えあれ、僕は旅の認識を新たにする。そうだ、フラングから今までだって何度か死にかけた。これは、そんなものよりももっと危険な旅なんだ。

僕は全員が無事に旅を終えられるようにと新しく祈った。

 

 

 

 

 

門を潜り街の外へと出る、その瞬間から皆の気配が変わった。

もちろんちょっとした雑談をしながらではあるがピリピリと、周りを警戒しているのがわかる。

「あの・・・まだ街を出たばかりですしそんなに警戒しなくても大丈夫なんじゃないですか?」

「ば~か、つい最近王都の手前まで魔物に落とされたんだ、この辺もどうなってるかわからない。人を襲う魔物がこの辺にいるかもしれない。その辺の魔物の動向調査も俺たちの任務だ」

人を襲う魔物・・・あの森にいた魔物のような存在が近くに・・・

「それって一大事じゃないですか!あんな魔物が近くにいたら人や荷物の移動もできないし・・・」

「ば~か、だから俺たちが調査してるんじゃねぇか。まぁ、後から騎士団の部隊が魔物の掃討に出るからな。ぶっちゃけ本当に危険な魔物がいた場合に魔法で位置や強さを送るくらいだな」

それを聞いて、僕も外を睨み周りに異常がないか警戒することにした。

 

 

しばらく走った後にまるで子供がふてくされて外を見ているようだったとフーガさんに笑われた。

フーガさんがこっそり荷物にお酒を忍ばせていることをリプトさんにばらし、本当にふてくされてやることにした。

 

フーガさんの悲鳴と恨み節を聞きながら景色は進んでいく。

 




大変遅くなり申し訳ありませんでした・・・
まさか1か月以上放置することになろうとは自分でも思っておらず、期待してこの作品を読んでいらっしゃる読者の方には大変申し訳ないことをしました。

一つ言い訳をさせてもらえるなら・・・
仕事の都合上、皆様が夏休みの間というのは非常に忙しく正直執筆の余裕が取れません、そして次の見せ場はできているのですがそこまでのつなぎが大変難しく・・・
この子もものすごく難産でした。(字数も少なくて申し訳ないです)

世間様での夏休みが終わり次第私のほうにも多少の余裕ができると思われます。その後しばらくの間更新頻を落としましてストックを貯めようかと考えております。
更新頻度を落とすと言いましても今より遅くなることはないと思いますが・・・隔週くらいでの投稿を考えております。

このような適当な私の作品ではございますが少しでも皆様に楽しみを提供できればと考えております、ぜひ今後ともお付き合い、御意見御感想をお願いいたします。


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