桜セイバー in Fate/EXTRA (日向辰巳)
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EXTRA編
一話


初めまして!ハーメルン様にて投稿させていただきました!日向辰巳です!楽しんでいただければ幸いです!


…彼の名前は岸波白野。 成績を見ると中の上、特技・趣味は無し。叶えたい夢など持っていない、 など良くも悪くも彼は平凡だった。 偶に友人の手伝いで生徒会の仕事を手伝わされる事はあったがそれでもこれという特徴はない。

強いていうなら少し人より諦めが悪いという所か、 まあそんなもの只の高校生である彼には何の意味もないのだが。

…これは、そんな何もない空っぽの人生を送る筈だった彼が一つの運命(出会い)をきっかけに紡がれていくたった一つの物語。

 

〜〜〜〜

 

「おはよう!今日もいい天気で何より何より!」

 

「おはようございます、一成生徒会長、いつも元気ですね」

 

「ウム、生徒会長たるもの生徒に情けない姿は見せられんからな」

 

それはいつもの朝のことだった。

いつものように学校へ行き、挨拶をし、校門をくぐる、そんな作業めいたいつもの日常に今日はどこか違和感を感じた。

 

「痛っ!」

 

ふいに左手に痛みが走る、だが手には何の傷もない。

少し気になったがそんな違和感はすぐに消え、自分の教室へと向かう

 

〜〜〜〜

 

「おはよう、白野!」

 

「おはよう慎二、今日はやけにご機嫌だね」

 

こいつの名前は間桐シンジ、 何故かわからないけど気に入られていてよく二人で話をしている。 と言っても彼が一方的に話をしてくるので俺はいつも聞き役だが。

 

「何でか教えてやろうか?それはな…PJでこの僕が第2位という高スコアを残したからさ!」

 

「そうなのか、すごいなー」

 

PJというものがよくわからないので適当に相槌を打っておく、わからないが2位ということはかなりの好成績なのだろう。

シンジは学校でも成績はトップクラス。 自分もシンジにテストのヤマを教えてもらった時にはその科目だけ学年一位になった事もあった。…それ以降教えてもらえる事は無くなってしまったが。 …まあ取り敢えずシンジは頭がいい、 ついでに言うとプライドも並の人より高い。

 

「でもシンジが2位なんてな…1位の奴はそんなに強いのか?」

 

「あいつ…ジナコはただの廃人プレイヤーさ!プレイ時間が膨大なだけ!純粋なテクニックなら僕の圧勝だね!」

 

「う、うん、ソウダナー」

 

シンジの剣幕に押されつつ相槌をうつ。

これもいつものことだ、何てことはない、普段と何ら変わらない日常だ。

 

「おはようございます!今日も気持ちのいい朝ですね!」

 

彼の名前はレオ・ビスタリオ・ハーウェイ 先日転校してきた大企業の御曹司だ。 彼は珍しくシンジが俺以外に気を許している友人の一人だ。 成績はやはりトップクラス、いつもシンジと点数の競い合いをしている。 俺? 俺は平均コエテルカナーとそんな感じだ。

俺もシンジも最初は少し身分の違いにたじたじだったが、今では気さくに話をする友人になっている。

 

「ところで先ほどから何の話をされていたのですか?」

 

「ああ、シンジがPJで2位になったって話を…」

 

「それは素晴らしい!では今度1位になったら僕の家でパーティを開きましょう!」

 

「聞いたか白野!今度はレオの家で戦勝パーティだ!楽しみにしとけよな!」

 

微笑ましい光景だ。 いつも通りの日常だが、 それがまた気持ちがいい。 とジジ臭い事を思いながら俺は窓の外を見ながら一人物思いに耽っていた。

 

キーンコーンカーンコーン

 

鐘がなる。今日も1日が終わる。 いろいろな事があり今日は疲れた。 早く家に帰ってゆっくりしよう、そう思った時だった。

 

(あれ…?俺の家ってどこだっけ?)

 

ノイズが走る。 頭に靄がかかったように何も考えられなくなる。

 

 

不意に窓ガラスが割れる。

教室が地震が起きたように揺れ始める。

 

 

ピンポンパンポーン

 

”マスター候補者ノ皆様ニオシラセデス。間モ無ク参加者ニヨル聖杯戦争ガハジマリマス。参加者の皆様ハ急イデ本選ニオ進ミ下サイ”

 

「へぇ…もう始まりですか…僕としてはもう少し楽しみたかったのですが…仕方ありませんね」

 

「お前いきなり何言ってんだよ!この状況で頭おかしくなっちまったのか!?」

 

シンジの言う通りだ。 …いきなり何を言い出すのだろうか。

その言い方はまるで何かを知っているかのような…

 

「それではシンジ、白野さん、機会があればいずれまたお会いしましょう」

 

そういってレオは消えてしまった、 突然の出来事に混乱し理解が追いつかない。 一体何が起こったのだろうか。

 

「何だよこれ…何がどうなってんだ…」

 

「とにかく逃げようシンジ、ここは危ない」

 

レオがいきなり消えてしまったのが気にかかる所だがここに留まっていても何も始まらない、 それ所かここに居ては危険な予感がする。

自分と同じく混乱しているシンジに声を掛けようとしたその時。

 

「…ふふふ、あっははははははは!…なるほどね…思い出した…思い出したよ白野!僕は取り戻したぞ!」

 

「……シンジ?」

 

「じゃあな白野!僕は次のステージに行くとするよ!君との高校生活は割と楽しかったよ」

 

そう言うとシンジは何かを思い出したようにして突然姿を消した。

何だ?シンジは今何と言っていた?…思い出した?何かを…シンジは何かを思い出した…?

何だ…このとてつもない違和感は…聖杯…戦争?

自分は今、大切な物をなくしているんじゃないか? この校舎は…偽り、ならば俺がやるべき事はただ一つ。

真実に…目を凝らす…

 

〜〜〜〜

 

さっきまで俺は校舎にいたはずだ、だが目を開けるとそこはどこか神秘的な雰囲気を思わせる場所へと切り替わっていた。

 

「ここは…どこだ?」

 

周りを見渡してみるが特に変わったものはない。

すると突然置いてあった人形が立ち上がって近づき、俺の前まで来たところで…ガラスのように砕け散った。

 

(…え?何だったんだろう…?)

 

「とりあえず先に進もう」

 

今の人形が何者だったかは分からないがここで立ち止まってもいられない、どこかに出口があることを信じて前に進むしかない。

 

〜〜〜〜

 

「うわあああ!危ない!」

 

先に進んだ所で待ち構えていたのはボールのような敵だった。

俺を殺すために真ん中の目?からビームや爆発などで攻撃を仕掛けてきていた。何か防御の手段があればいいのだが俺にそんなものはない。今俺にできるのは逃げることだけだ。

 

「はあ…はあ…やっと逃げ切れた…」

 

ヤバかった、あんなのが10体もいるなんて…

死ぬところだった…運が良かった。普通なら死んでいた。

広いところに出た。

そこにさっきの人形と同じものが転がっている。

そしてどんどん近づき、俺は先程のように砕け散るのかと思っていた

俺の前で砕け散ったはずのその人形は…襲いかかってきた。

 

「うわあああああ!」

 

俺に防御する手段は何もない、逃げ場もなく情けないが腰が抜けてしまい足もガクガクに震え立つことすら叶わない。

そして手が振り下ろされ…

俺は肩から腰にかけて真っ直ぐに切り裂かれた…

 

(あはは…俺、死んだのか?血って結構あったかいんだな…

…怖い。 …死ぬのも怖いがそれ以上に無意味に死ぬのが一番怖い。

…怖いままでいい…痛いままでもいい…

でも、このまま終わるのは許されない。

だって、自分はまだ一度も…自分の意思で戦ってすらいないのだから…!)

 

立ち上がる。

ここで立ち上がっていても結果は変わらず俺は負けるだろう…その事実は揺るがない…だとしても!!

まだ終わっていない…ここじゃ死ねない…

ここでは終われない!

 

「…一度倒れても立ち上がる、希望を捨てずに立ち向かう。 その在り方に興味が湧きました。私の名は…いえ、サーヴァントセイバー、誓いを受けて参上しました」

 

目の前に淡い光と共に一人の少女が姿を見せる。 手に持っているのは日本刀。 俺と敵の人形の間に割って入るようにして現れたその少女は曇りなき瞳で問いを投げた。

 

「…あなたが私のマスターですか?」

 

 




どうでしょうか?処女作なのでいたらぬ点もあると思いますがそこは温かい目で見てくれると嬉しいです


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二話

UAが多くて驚きました!これからも頑張るのでよろしくです!


「あなたが私のマスターですか?」

 

俺はいきなり現れた少女に驚きを隠せなかった。その美しさに、だがそことなく感じる少女の儚さに、少しばかり見惚れてしまっていた。

 

「あの…ちゃんと返答してくれないと困るといいますか…恥ずかしいといいますか…」

 

「あ…ごめんね、多分俺が君のマスターだよ」

 

「はい、ここに契約は成立しました。まずは手始めにあの木偶人形を斬り伏せてご覧に入れましょう」

 

そう言うとセイバーは襲ってきた人形の攻撃を避け、カウンターとなる形で突きを放った。 すると先程俺が苦戦していたのが嘘のように簡単に敵は崩れ去ってしまった。

 

「ふう…片付きましたね、マスター。 これからもよろしくお願いしますね」

 

その瞬間、力が一気に抜けたのかわからないが倒れこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……セイバーが。

あるぇ?セイバーが?

 

 

「すみませんマスター…私、体力には自信がなくて…先程の戦闘で魔力をかなり使ってしまいました…ゴフッ!」

 

先程までの凛々しい姿が嘘のようにグッタリとしている。 ツンツンしても起き上がる様子がない。 これは本格的にまずいようだ。

仕方がないのでセイバーを背負ってそのまま保健室に向かうとするか。 保健室なら寝かせることもできるだろうし落ち着いて話をすることもできるだろう。

 

「こんにちは、新しいマスターさんですか?」

 

すると保健室には薄い紫色の髪をした少女がいた。

新しいマスター…ということは彼女はNPCか何かだろうか、とりあえず挨拶をされたので挨拶を返すことにする。

 

「こんにちは、俺は岸波白野だよ」

 

「岸波白野…ですか…。 えーと、よろしくお願いしますね。先輩!」

 

うん、可愛い。

なんか名前を覚えるのをいい感じにスルーされたような気がするけどまあいいや。

 

「サーヴァントが倒れた…ですか…そして先輩が運んできたんですね…」

 

「うん。そうだよ」

 

「ふふふ、面白いですね先輩は。サーヴァントを保健室に連れてくるマスターなんて初めて見ました」

 

や、やっぱり?俺もおかしいと思ったんだ。普通は逆なんじゃないの?って思ってたんだよ。

 

「そういえば名前は何ていうんだ?」

 

「あ、すみません 自分が名乗っていませんでしたね、私の名前は桜です。間桐桜といいます」

 

「よろしくね、桜」

 

「う〜ん…ハッ!?マスター!」

 

あ、セイバーもやっと目覚めたみたいだ。気がつくと大分話し込んでいたしセイバーに聖杯戦争のことを聞かなくては。

 

「あ、個人的な話ならマイルームでした方がいいですよ?」

 

「マイルーム?」

 

「はい、マスターとサーヴァント専用のルームがあるので重要な話ならそこかと…」

 

そんな部屋があるのか。

たしかにいろんな話をしたいと思っていたし落ち着いて話すならマイルームがいいかもしれない。

一言桜にお礼を言って保健室を後にする。

 

〜〜〜〜

 

「ここか…たしかにここなら話を聞かれなさそうだ」

 

マイルームと言っても特に何もなく本当に話し合いをする時などにしか使えなさそうだ、いろいろ置けばまた違うと思うが、まあ今はそんなことはどうでもいい。

セイバーに今の状況について聞かなければ。

 

「すみませんマスター…先程は見苦しいところをお見せしました」

 

「大丈夫だよ、それでセイバー 今の状況を教えてくれるかな?」

 

「今の状況?もしかして…もしかしてですがマスター。 聖杯戦争を知らないんですか!?」

 

その通りだ。

俺には聖杯戦争どころか昔の自分のことすら覚えていない。ここに来るまでの自分はどんな人物だったのか、何故ここに来たのか、全く覚えていない。

 

「そうですか…仕方ありません。この私が聖杯戦争について教えましょう!といっても私も深くは知りませんが」

 

〜〜〜

 

「ありがとう、セイバー」

 

聖杯戦争の仕組みは分かった。 ところで...

 

「君は何者なんだ?」

 

「あ、いってませんでしたね私のクラス名はセイバー、真名は...」

 

セイバーが沈黙する。一体どうしたんだろう?

 

「あ、いえ…ですよね。 真名を教えることはマスターを信頼している証。 それを基盤として作戦を考えるので普通教えるのでしょう。 ですが今回は特別なケースです。 なのでまだ秘密ではダメでしょうか?」

 

うーん。

確かに自分はまだ聖杯戦争というものがはっきりわかってない、もし真名を知ってうっかり自分がバラしてしまったら相手に対策をしてくださいと言っているようなものだろう。

 

「うん、わかったよ」

 

「ありがとうございますマスター。それではあと一つだけ。…非常にいい難いのですが…」

 

「なに?」

 

「あ、あの…何と申しますか…えっと…」

 

何か言いたそうな顔をしているが何やら気まずそうだ。こんな時は気分を変えに何処かへいくのがいいだろう。

 

「取り敢えずご飯でも食べに行こうか?」

 

「は、はい! ですよね、まずは腹ごしらえです! 食堂行きましょうか、マスター」

 

すごい慌てようだ。 何か焦っているようだし食事をしながら緩やかに教えてもらうとしようかな。

 

〜〜〜〜

 

なんだこれは…とてつもなく赤い…というか紅い。いや朱い!でも何故か体が!本能が!これを食べろと叫んでいる……!

 

「この激辛麻婆豆腐というのをください」

 

「マスター、本当に食べるんですかコレ?やめておいた方が…」

 

たしかに赤すぎる、そして体から汗が噴き出してくる。

何だこれは…この病み付きになる感じ…いいネ!

 

「いや、意外と美味しいよコレ」

 

興味本位で買ってみたのだが案外美味しかった。量も少ないしこれなら3杯はいける……!!!

 

「ほ、本当ですか?」

 

セイバーは興味津々という顔でこちらを見ている、少し辛いがまあこれくらいなら大丈夫だろう。セイバーにも食べさせてあげよう。

「セイバーも食べてみる?」

 

「い、いいんですか?では一口ほど…」

 

「いいよ、はい、あーん」

 

「白野!まさか君が予選を生き残ってるなんてね!」

 

「うひゃっ!?」

 

「シンジ!」

 

あ、シンジだ。 久しぶりにシンジにあった気がする。そして恥ずかしかったのかわからないがセイバーは可愛い声を上げたあと霊体化してしまった。

 

「まさかお前が生き残るなんてな!でも聖杯は僕のものだぜ?何せ僕のライダーの無敵艦隊は最高に強いからね!」

 

「あら、そんなに大きな声でサーヴァントの情報を晒すなんて余程の自信があるのね?マトウシンジくん」

現れたのは黒髪のツインテールで赤を基準とした服を着ている少女だった。その堂々とした佇まいには幾つかの修羅場をくぐってきたかのような風格が滲み出ていた。

 

「と…遠坂…お前も来てたのか…くそ、そのくらいばれたってそんなに変わらないだろ!」

 

「そうね、私にできることといえば砲撃などに耐え切れるシールドを複数枚用意しておくくらいかしら?無敵艦隊を持ってるらしいマトウシンジくん?」

 

「くそ…なめやがって…来い!ライダー!」

 

「ちょっと挑発しすぎたかしら…まあいいわ来なさい!アーチャー!」

 

「シンジ…アタシは海賊だからねぇ…予定外の仕事は高くつくよ?」

 

「やれやれ…リン、私は体力は温存しておきたかったのだがね」

 

「うっさいわね!戦いになっちゃったんだからしょーがないでしょ!

あなたの強さも見たかったしここであんなサーヴァントボコボコにしてやりなさい!」

 

止めずに見ていたがこのままでは二人のサーヴァント戦が始まるのだろう、だがこれはいい機会だ。

俺はまだ戦いというものを知らない、サーヴァント同士の本当の戦いをというものを見せてもらうとしよう。

…これは聖杯戦争だ。あの二人のどちらかが敵とも限らない。

よく観察していた方がいいだろう。

 

(はあ…言うしかないのでしょうか…)

 

 




リンのサーヴァントをアーチャーにしてみました、あと白野くんの一人称が定まっていませんが俺と自分どちらも使うということで解釈おねがいします


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三話

どんどんテストが返ってくる...この現実こそ地獄だ...
明日なんて来なければいいのにと本当にそう思います


一進一退の攻防。

いや僅かに遠坂のサーヴァントが押し負けている気がする。 いや押し負けている…と言うのには少し違うか。 遠坂のサーヴァントは先程から攻撃という攻撃をまるでしていない。 遠坂の指示かは分からないが防戦に徹しているだけだ。

 

「いけ!ライダー」

 

遠坂がサーヴァントのサポートをしないのは何故だろう?遠坂は何もせずにひたすらアーチャーの戦いを眺めている、何か策でもあるのだろうか?

「あんたさっきから攻撃してこないねぇ?何でか知らないけど勝つ気が無いのかい?」

「いやなに、私はさほど攻撃が得意ではないというだけだ、だが君が隙を見せれば攻撃を叩き込む気はあるが、どうする」

 

「隙なんて見せるわけないだろう?アンタにはこのまま何もさせずに沈んでもらうよ」

 

ライダーが銃を放つ、アーチャーが双剣でそれを弾く、そんな攻防が続いた。 凄まじい攻防の前に俺は目に魔力を集中させ何とか二人の戦いを見続けられている。一体いつまで同じ事を繰り返すつもりだろうか…そう思っていた矢先、最初に痺れを切らしたのはシンジだった。

 

「ライダー!もうあれを使っちまえ!」

 

「了解だ!マスター!アーチャー、アンタはたしかに防戦が上手い。 だがいくらあんたでもこれを防ぎきれるかねぇ…」

 

ライダーの背後に砲弾が出現する。

まさかあれがライダーの奥の手なのか?

 

「砲撃用意!」

 

「ちっ、まずい!」

 

その瞬間、奥の砲弾が赤い外套のアーチャーに向けて発射される。

…何という衝撃だ、大分離れたところにいる自分にもその衝撃は伝わってきた。

ここにいるだけで自分達が塵になってしまいそうな勢いだ。

 

「やるねぇ…」

 

「こちらこそ驚きだ。まさかこんな序盤も序盤で使ってくるとはな…」

 

二人共どちらも傷が付いていた。

でもそれはおかしい…そんなことは普通はありえない。

何故なら攻撃したのはライダーの方でアーチャーは防御したはずなのだから。

…見えなかった、今アーチャーがどうやってライダーの攻撃を防いだのか、何故ライダーに傷が付いているのか。

…これが英霊同士の戦い、こんな戦いに自分は参加してしまったのか。

 

「二人とも、そこまでだ。私は言峰、この聖杯戦争の監督役として機能しているNPCだ」

 

そういうと2人の間に割って入り戦いを強引に終わらせた、するとシンジが怒りその神父のような人物に向かって魔術…コードキャストを放っていた、だが…

 

「ふっ…何をしている?」

 

シンジがコードキャストで神父を乗っ取ろうとするが、流石に直属のNPCは乗っ取れないようだ。

 

「これは聖杯戦争だ、相手のマスターとは決戦の日に存分に殺し合いたまえ」

 

「命拾いしたな遠坂…覚えてろよ」

 

「それはこっちのセリフよ、今の戦いで確信したわ。あなたは絶対生き残れない、帰るわよアーチャー」

 

「ちっ…かわいくないやつ」

 

「大丈夫かシンジ?」

 

「ふっ…それにしても一回戦で戦う者同士で友達ごっことは些か滑稽だな…間桐シンジに岸波白野」

 

「「え?」」

 

まさか…俺の相手はシンジなのか?でも、俺は…

 

「ははははは!これはラッキーだね!一回戦は勝ったも同然さ!こんなに弱そうな奴が相手なんて楽勝すぎだよ」

 

「帰るぞライダー、じゃあな岸波!まあ精々無駄な努力でもするんだね」

 

確かにシンジのサーヴァントは強力だ…でもそれ以上に理由も目的も思い出せないまま友人だった人と戦うなんて…

 

「ああ…それと岸波白野、君に何者からかメッセージが届いている…本来ならメッセージなど届くはずもないのだが…”光あれ”と」

 

〜〜〜〜

 

「あの人…シンジさんは自分のサーヴァントのクラス名を言っていましたね」

 

「ああ、それと”無敵艦隊”とも、そして武器は2丁拳銃だったね…」

 

「はい、あれだけ自分のサーヴァントの特徴を言ってしまえばどのように対策を練られてしまうかなんてわかりそうなものですが…」

 

「セイバー」

 

「はい?」

 

「真名は…本当に言えないのか?」

 

「はい、ですが安心して下さい。マスターが成長したその暁には私も安心して真名を告げようと思います」

 

「そうか、わかったよ」

 

その言葉だけでも十分だった。

この言葉だけで俺はセイバーを信頼できる、あとは明日に備えて休息をとるとしよう…

 

「セイバー、俺は自分が死にたくないから戦うよ、これって変かな?」

 

「変じゃないです、逆に死にたいから戦う人なんていません、だいたいみんなそんな理由ですよ、戦う理由なんて」

 

そう言ってくれるとありがたい、というか俺はセイバーにそういって欲しかったんだろう。

戦う理由を誰にでもいいから肯定して欲しかった。 友人と戦うなんてしたくない、だが戦わなければこちらが殺されてしまう。 だから自分勝手に理由をつけた。相手を殺しても仕方がない、相手がその気なんだから仕方がない。

…そうやって、殺しの正当化を図った。…最低だ、俺は。

 

「マスター、私はマスターに真名以外に言わなければいけないことがあります」

 

先程までの暗い気持ちを切り替え、セイバーの告白に耳を傾ける。いろんなことは言い合ったと思うけど、他に何かあるのだろうか?

 

「私のステータスをご存知でしょうか?」

 

セイバーのステータス?そもそもどうやってみるんだろう…

あ、電子手帳か!

 

「わ、笑わないでくださいよ?」

 

そうしてみてみたセイバーのステータスは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敏捷以外が全てEだった。

 

 

 

 

 

 

 

エエエエエエエエエエエエエエ!?

笑うどころではない、絶望するところだった。

いったい何が起きたの?これってかなりやばいんじゃないだろうか。

そして敏捷もDというイマイチな感じである。

 

「すみませんマスター…黙っていて…」

でもこれは絶望しそうになったというだけでまだ大丈夫なんじゃないだろうか?

アリーナという所で敵を倒し続ければ魂の改竄…ステータスのアップができると聞いたし…

 

「それだけじゃないんです…」

え、まさかこれ以上のものがあるのか!でもほぼ全てのステータスが最低ランクという驚きのおかげで簡単には驚かないはず…

 

「私の宝具…使えないんです…」

 

 

 

 

 

 

エエエエエエエエエエエエエエ!?

たしか宝具というものは英霊ならみんながもっている自分が生前築き上げた伝説の象徴…つまりは切り札とも呼べるものだったはずだ。

それが…使えない?

 

「な、なんで!?」

 

これには流石に驚いた。不覚にも一瞬、魂が抜けたかと思ってしまった。

 

「すみません…召喚された時に何処かに落としてしまったみたいで…」

 

思った以上にことは深刻のようだ。

自分の未熟さで宝具が使えないならばまだ方法はあった。

無くしてしまったとなるとこの戦いでは取り戻すのは不可能だろう。

 

「じゃあ…宝具はなしってことか…」

 

「本当すみません…」

 

「そんなに謝らないで、宝具が使えないなら他のことで補うしかない、俺も努力するからさ、二人で頑張ろうよ」

 

武者震いで足が震えてきたがここまできたらやるしかない。

シンジのサーヴァントにはこちらはほとんど負けているだろう、ならば気持ちで負けるわけにはいかない。

諦めずに最後まであがき続けるのが岸波白野の唯一の取り柄だ!

 

「はい!頑張りましょう!マスター!そうと決まればアリーナです!

どんどん強くなって私の活躍をみせてあげますよ!」

「ああ!絶対に勝とう!」

 

明日からなんて生温い!思い立ったが吉日だ!

今からでもアリーナへ向かおう!

 

「アリーナが開くのは明日からだが、どうかしたのかね?ww」

 

恥ずかしさで顔がパンクしそうになった。

 

 




戦闘描写って難しいですね...アーチャーとライダーの戦いは皆さんの脳内でかっこよく再現して下さい...

セイバーのステータス
筋力:E 魔力:E
耐力:E 幸運:E
敏捷:D

保有スキル

対魔力:E 病弱:A
騎乗:E 縮地:B
心眼(偽):A

あ、あと令呪はちゃんとありますよー


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四話

お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!ちょくちょく文がおかしい作者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!



よし!準備万端! あとはセイバーを起こすだけだ、セイバーは…まだ寝てるのかな?

しっかりしてそうだったけどやっぱりまだ抜けてる所もあるんだな…

…なんてその時の俺はそんな呑気なことを思っていました…そう、燃え尽きているセイバーを見るまでは。

 

「うわっ!大丈夫!?セイバー!」

 

「そ、その声はますたー…ですか?…こふっ…」

 

セイバーは壁にもたれかかって燃え尽きていた。

 

〜〜〜

 

 

「すみませんマスター、保健室に薬を取りに行く途中に様々なものに妨害されてしまいまして…」

 

「セイバーが無事で何よりだよ、それよりもセイバー。今度からは保健室へは俺と一緒に行くようにね」

 

「あ、はい…なんだか私の威厳が無くなってません?…私、一応英霊何ですけど…」

 

わかってくれて何よりだ、セイバーは1人にすると危ないからね。

 

「さて、アリーナへ行こうか!」

 

「おや?岸波さんですか?」

 

あの容姿、纏っている風格…そう簡単に忘れることはできない。 聞き覚えのあるその声の正体はレオだった。

やはりレオも聖杯戦争に参加していたのだ。

 

「ごきげんよう、岸波さん。やはりあなたも聖杯戦争に参加していたのですね。おっと、ガウェイン…紹介を」

 

「サーヴァントのガウェインと申します、以後 お見知りおきを」

 

が、ガウェイン!?まさか自分のサーヴァントを真名で呼んでいるのか!?

 

「レオ、今ガウェインって…」

 

ガウェインといえば円卓の騎士の中でも随一の強さを誇り、その聖剣ガラティーンはアーサー王のエクスカリバーにも匹敵する強さを持つ宝具だと聞く。

 

「ええ、僕はガウェインの真名を隠す気はありません、対策なら好きなだけ練ればいい。 その上で僕たちは挑戦者を叩き潰します、それが王としての務めですからね。

…岸波さんはなぜここに…ああ、アリーナへ行くつもりですね?」

 

そうだが…なぜ分かったのだろう?レオも行くつもりなのだろうか?

 

「シンジもいましたよ、彼とも話をしましたがどうも僕は彼とは相性が合わないようで、ケンカになってしまいました」

 

(マスター…楽しいのは分かります。 ですが、あんまりゆっくりしていたら時間がなくなってしまいますよ?)

たしかにそうだ 。

レオと話すのは楽しいが今は1分1秒が惜しい…レオには悪いがまた今度ゆっくりと話すことにしよう。

 

「アリーナへ行くんでしたよね?すみません、時間をとってしまって、ではまた今度お会いしましょう」

 

〜〜〜

 

 

これがアリーナか…確かにエネミーがたくさんいて経験を積めそうだ。

 

「マスター、ご指示を!」

 

「…え?、え?」

 

くっ…しまった…マスターはサポートをしなければいけないんだった。 さっきは何とかなったがこれではマスター失格だ…

 

「大丈夫ですよマスター。 最初は誰だって失敗するものです。 次で挽回と行きましょう」

 

「そ、そうだよな。うん!ありがとうセイバー!」

まずは敵の動きを観察する、そして的確なタイミングで指示を出す、まだぎこちないが敵の動きにも段々慣れてきた。

 

そして数十体のエネミーを倒した頃…

 

 

 

 

俺とセイバーは満身創痍になっていた。

 

「いや…意外とボロボロになるもんですね…ゴフッ!とにかく私は疲れました…早くマイルームに戻ってシャワーを浴びて寝たいです…」

 

セイバーが弱音をはいている、だが確かにその気持ちはわかる、1体目のエネミーを倒した時は全然余裕だったのだが…

あれは70体目のエネミーを倒している時だった…

 

「やったー、どーですかこの私の鮮やかな剣技! 先程は病弱という糞の役にも立たないスキルのせいで不甲斐ない姿を見せてしまいましたがこれが本来のぉ、私のぉ、実力といいますか? かぁー辛いわー、まじ強すぎて辛いわー」

 

調子に乗っているセイバーをデコピンして落ち着かせる。 確かにセイバーの剣技は目をみはる物があった。 だが何故か素直に喜べなかった。 何故ならそれは…

 

「見てくださいよマスター! 人がゴミのようです!」

 

このように、とても調子に乗っているからである。 …それにあれは人じゃないし。 今頃セイバーの脳からはアドレナリンがドパドパ出ているに違いない。 きっとこのテンションは興奮しているからだ。 …だよね?その筈だ。 素でこのテンションだったら一考の余地がある。

 

「マスター、このエネミーを倒したら一旦休憩にしませんか?」

 

「そうだね、結構慣れてきたし新しいコードキャストも手に入れたし、今日はここら辺にしようか」

 

そしてセイバーの突きがエネミーに炸裂しようとしたまさにその時。

 

「ヒョウテキ確認。コレ以上ノ戦闘ハ不可能ト判定。……………自爆シマス。」

 

なるほど自爆かー。

ん?自爆?自爆ってあれだよな、周囲を巻き込んでばく…

 

「「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」

 

そして帰る時にその出来事があと2回起きて現在に至ります。

 

「初めてのアリーナでこんなことになるなんてね…」

「まじ不愉快です。まあでも経験値は結構たまりましたね、これで魂の改竄が出来ます」

 

「それが唯一の救いだよ……セイバーは敏捷を上げればいいのかな?」

 

「え?まだ何も言ってないのによく分かりましたね…はい、敏捷でお願いします!」

 

 

やっぱりか…戦い方などを見てたらやっぱりどんなことが得意でどんなことが不得意かなどがはっきり見えてくる…やっぱり経験は大事ということだな。

 

「それじゃあ改竄…はちょっと寄ってからでいいかな?」

 

「はい、いいですけど…一体どこへ?」

 

「うん、ちょっと調べ物をね」

 

〜〜〜〜

 

 

「なるほど…図書館ならその英霊の弱点などがわかりますもんね」

その通りだ、シンジ達に地力で負けている自分達は実力で倒すのは難しい、だから対策を練って倒すしかない。

 

「たしか…シンジのサーヴァントはライダーで2丁拳銃を使ってる騎乗兵だったか…」

 

「あ、これじゃないですか?マスター」

 

”フランシス・ドレイク”

 

 

これだ!流石だよセイバー、ありがとね、そういいお礼にセイバーの頭を撫でてあげる。

 

「エヘヘ///ありがとうございます、マスター」

 

うん、可愛い。

あまえてくる様子が犬みたいで不覚にもにやけてしまった、これでライダーの真名も分かった、あとは対策をしっかりして決戦に臨むだけだ、あとできることといったら…あ、そうだ。

 

「何よ、ライダーの戦い方を教えてくれ、ですって?」

 

やっぱり屋上にいた、まあこちらもただで教えてもらえるとは思ってない、金が欲しいというならあげようじゃないか。

 

「いいわよ、ていうか別にお金なんて一々とらないわよ」

 

「「え!?」」

 

俺とセイバーの声が綺麗にハモる、いつも遠坂は宝石をジャラジャラ身につけてるからお金が好きなのかと思ってたよ。

 

「あいつが消えてくれるならこちらにとっても好都合だしね…ってなによ。 そんなに教えて欲しくないなら別にいいわよ?」

 

「いやいや、お願いしますよ遠坂様」

 

「ふふん♪よろしい!」

 

〜〜〜

 

流石は遠坂だ。

自分なんかとは違って数十通りの対策を練っている。それを頭の中で組み合わせて戦っているのか…

 

「例えばあいつがこれを使ってきたら…って聞いてる?岸波くん」

 

「まだ出会って数日なのにありがとうな、遠坂。俺、遠坂が味方で本当によかったよ」

 

「は、はあ!?べ、別にあんたのためじゃないんだからね!?シンジのサーヴァントは強力だからあわよくば相打ちになってくれないかとか思ってるだけだから!」

 

「テンプレ乙〜、ぷぷっ、今時貧乳ツンデレなんてベタもいいところですね。まあ、そんなことしてもこの私の可憐さにはかなわないでしょうけどね!」

 

「ひっ…貧乳…岸波くん。 …あなたのサーヴァント、殺さない程度に殺すから♪」

 

流石遠坂、俺、笑ってない笑顔って初めて見たよ。

でも本当に助かった、やはり一度戦った人が教えてくれるのは説得力がある…さて、もうそろそろ遠坂とセイバーのほっぺのつねりあいを止めに行くか。

 

「ふぉんとのほほをいったらけじゃないれふかあ!」

 

「ひょんなことひうわるひくちはこうしてひゃるわ!」

 

いや、やっぱり面白いからもう少し続けてもらおうかな?

 

 

 

 




桜セイバー可愛いですよね...自分はfgoで桜セイバーが出た時ジャンヌのデータを手放してリセマラに走りました...まあ、だからなんだって話ですけどね!


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五話

「私の名前は蒼崎橙子だ、よろしく…。で…こっちが改竄係の蒼崎青子だ」

 

「蒼崎青子よ、よろしく」

 

俺たちは今、魂の改竄をしに来ている。

魂の改竄をするにはどうすればいいですか?と聞いたらいきなり自己紹介されてしまった、つまり頼めばいいのだろうか?

 

「で、どうするの?改竄するの?しないの?」

 

頼めばよかったらしい。

 

「で、敏捷を上げればいいのよね?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「敏捷ね〜、はいはいっと、これが改竄の結果よ」

どれどれ…おお!敏捷がCになっている!ステータスが上がるとやはり気持ちがいいな。それに戦術の幅も広がるしいい事づくめだ。…ふと、気になったことがある。俺達がここまでステータスを上げれるなら他のマスター達もステータスを上げて強くなれるのだろうか?

 

「ん? 他のマスターも改竄してるのかって?」

 

「はい。俺達がステータスが上げられるのなら他のマスター達もサーヴァントを強化できるんじゃないかと…」

 

「なるほど。 …それはできないだろうな」

 

な、何でだろうか。 俺は何処から見ても未熟なマスターだと言い切れる自信がある、俺程度のマスターができるなら他のマスターにも出来て当たり前なんじゃないだろうか。

 

「いいかね、他のマスターは皆自分なりに魔術師としてのスキルを極めてからこの戦いに参加している。 だからサーヴァント達もそれなりのステータスを獲得しているはずだ。

…だが君は何故か魔術師としてのスキルが全くない。魔力もそこそこ、君が改竄を使えるのは今成長しているからだ」

 

…そうだったのか。 簡単に言うと俺はレベル1で他のマスター達はレベル100くらい、ということだろう。改めて自分の立場というものを知ってしまった。かなりピンチな状態だったんだな、俺。

 

「どうでしょうか?私のステータス何か上がってましたか?」

 

「うん、敏捷が一つ上がってCになってたよ」

 

「本当ですか!?頑張った甲斐がありましたね。マスター」

 

よかったよかった、セイバーもこんなに喜んでくれたし、これなら明日の勝負も…ってあれ?セイバーは?

 

「君のサーヴァントならいきなり吐血して地面に倒れているが…」

 

「すみませんマスター…少し興奮しすぎました…がふぁ!?」

 

「せ、セイバーぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

病弱スキルも未だに健在なのであった。

 

〜〜〜〜

 

一回戦の期日は明日…明日自分は…

記憶が戻らないまま死んでしまうのだろうか…

 

「そんなに不安そうな顔をしないでください、マスター。あなたを守るために私がいるんですから、何があっても私があなたを守ってみせます」

 

「セイバー…」

 

彼女にはいつも気を遣わせてばかりだな……そうだ、彼女が諦めていないのにマスターである俺が勝手に諦めてどうする。

 

「ありがとね、セイバー」

 

「はい、これからもどんどん私を頼って下さいね?マスター」

 

〜〜〜〜

 

「きたか、岸波白野。…この扉に入ったらこの校舎に戻るのは一組だけだ、覚悟を決めたのなら闘技場への扉を開こう…覚悟は決まったかね?」

 

ここで逃げるわけにはいかない…

今の自分には過去がない…前に進むしかない!

 

「…はい!」

 

〜〜〜

 

エレベーターに乗り込み前を見る。すると相手はもう乗り込んでおり透明な壁を隔てた向こう側には敵マスターであり俺の友人だったシンジがいた。

 

「お前も馬鹿だなぁ…わざわざ負けにくるなんてさ」

 

「…………。」

 

「その自信ありげな顔…気に入らないな、白野のくせに…

そうだ、白野…君さあ、この戦い、わざと負けてくれない?」

 

「…………。」

 

「どーせ勝つのは僕なんだから余計な怪我をさせることもないしね、しかも本気で戦うとなると僕のサーヴァントは手加減できないし…

……悪いけど、君じゃあ僕に勝つことはできないよ、どーせ負けるんだからさっさと棄権すればよかったのに」

 

「…………。」

 

「それに戦いってのはいかに戦力を温存するかにかかってる…たとえ勝ちが見えていても勝者はカードを切らなきゃいけない。

だけどほら…君がわざと負けてくれれば僕は力を温存できるし、君も痛い目にあわずにすむ!」

 

「…………。」

 

「おい...さっきから何無視してるんだよ!まさか?勝てるとか思っちゃってる?おい…何とか言えよ!」

 

「………?悪いけどシンジ、俺は君が何を言っているのか全くわからないよ」

 

なぜなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきからシンジが口を開くたびにセイバーが耳を塞いでくるから。

 

「いえ、このような聞くに耐えない罵倒をマスターに聞かせたくなかっただけです」

 

あ、俺罵倒されてたんだ、だから耳を塞いでくれてたんだね。

……ちょっと身長足りないから背伸びしてたけど。

 

「お、お前!ちょっとかわいいからって調子にのりやがって…もう謝っても許してやらないからな!」

 

あ、シンジが涙目になってる。

まあでもあんなに得意げに話してたもんなあ、それを無視されたら精神的ダメージはかなりのものだろう。

シンジ…何て言ってたんだろうな。

 

「アッハッハ!なめられてるねぇマスター」

 

「お、お前!いったいどっちの味方なんだよ!」

 

「うん?そりゃあんたに決まってんだろマスター。……でもなぁ、 八百長なんてつまらないだろマスター、 あんたも悪党なら手加減抜きで派手にやらかせばいいんだよ」

 

「誰が悪党だ! お前なんかと一緒にするなこの脳筋女!」

 

「ハッハッハ!いいねシンジ! その悪態はなかなかのもんだよ!」

 

「うわっ!酒くさっ!お前…僕の見てないところでまた酒飲んでたな!や、やめろ、やめっ、ちょっ…まじで…ちょっまって、頭撫でるならせめてもうちょっと優しく…」

 

微笑ましい光景だ、だかこのやり取りももう終わりだ、どちらかが死に、どちらかが生き残る、聖杯戦争とはそういうものだから。

激しい振動と共にエレベーターが止まる。

これから始まるのは泥くさい戦い…断じて誇り高い決闘などではない 。

 

「ふん…素直に降参していればとどめの一発くらいは勘弁してやろうと思ったのになあ…お前に圧倒的な実力差ってやつを思い知らせてやるよ! 僕のエル・ドラゴのカルバリン砲でボロボロになって後悔するんだね!」

 

エレベーターを降りる。もうすぐ始まる…殺し合いが。

 

「セイバー…勝とうね」

 

「もちろんです…このパワーアップした私の姿…きちんと目に焼き付けておいてくださいね」

 

「間違っても手は抜くなよエル・ドラゴ、この僕に歯向かったんだ…かける情けなんて一つもない」

 

「アタシは海賊、情けなんて最初からもっちゃいないが…了解だ!マスター!さあ破産する覚悟はいいかい?一切合財派手に散らそうじゃないか!」

 

 

 

 




この話は元々は前の話と繋がっていたんですが、文字数が大幅に増えてしまったので分割することにしました
戦闘描写は苦手なので上手く書けないと思いますがそこは温かい目でお願いします...


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六話

頑張りました...どうか楽しんでいただければ幸いです...


「さあセイバー…準備はいいかい?嵐の夜(ワイルドハント)の始まりだ!」

 

先手を取ったのはライダーだった、アーチャーと戦っていた時のようにライダーはあの2丁拳銃でこちらを狙ってくる。

 

「ふっ!」

 

セイバーが敵の銃弾を刀で弾く。

 

「マスター!ご指示を!」

 

戦力差で負けている以上こちらは事前に練った策で倒すしかない!

どんなにかっこ悪くてもいい…どんな汚い勝ち方でもいい…絶対に勝ってみせる!

「仕掛けろ!セイバー!」

 

セイバーは縮地で間合いを瞬時に詰めてライダーを攻撃する、縮地…これは特殊な歩法で瞬時に相手との間合いを詰めるセイバー自身の保有スキルだ。それを使えば例えステータスが低かろうと多少は補うことができる。

 

「ッ!…速い!!」

 

「はあああっ!」

 

作戦通りライダーに奇襲を仕掛け傷をつける。

よし、まずはこれで相手の意表をつけた…だけどまだだ!

 

「セイバー!相手を逃がすな!gain_agi(16)!」

 

そしてさらにスピードを上げる、これがセイバーを最大限生かす戦いだ。

 

「く…やるじゃないかセイバー しかしあのボウヤがここまで容赦ない戦いをするなんてねぇ…」

 

「精々油断しておいてくださいね…油断している内にその首…私が貰い受けます!」

 

そうだ、たしかにセイバーはほとんどのステータスが最低ランクで相手のサーヴァントに負けている。

だけどこっちには事前に練った策がある、そして何よりもあっちにはない勝つための意地、覚悟がある!

この戦い絶対に負けるものか!

 

「くっ…これはマズイねぇ…こっちの攻撃は当たらないのにあっちからの攻撃はバンバン当たるときた」

 

優勢。誰がどう見ても岸波白野とセイバーは優勢だった。 だがセイバーは内心焦っていた。 相手に格下と侮らせその隙を見ての完璧な奇襲。 だった筈なのに致命傷は避けた。決めるつもりだった。完全に今の一撃で仕留められなかったことをセイバーは焦っていた。

だとしても警戒されてしまった今、最早マスターの指示に全てを委ねるしかない。 気持ちを切り替え敵の方へと向きなおる。

 

「チッ!岸波のセイバーなんかに傷をつけられやがって!ああもう、仕方ないな!」

 

この時を待っていた。相手が劣勢になればサポートするためにマスターがでてくるということはわかっていた。シンジが魔術を使うタイミングを見計らってから…

 

「今だ!shock(64)!」

 

シンジに向かってコードキャストを使用する、これは弾丸のような魔力の塊を飛ばすコードキャストだ。

威力はさほど無いが相手を一瞬だけでも怯ませることができる、そして一瞬怯ませれるだけで充分だ。

 

「うわっ!」

 

こうして魔術の行使を妨害することができる。

そしてセイバーの筋力はたしかに最低のEだがああやって何度も何度も斬りつけていけば…

 

「はぁ…はぁ…」

 

結果は見えている、例え威力が少なかろうと何回も積み重ねていけば大ダメージだ、その証拠にライダーは傷を抑え苦しそうにしている。

 

「くそっ!何やってるライダー!あんな奴のサーヴァントに負けるなんてふざけるなよ!」

 

「さすが私のマスターだねぇ…ボロボロの私にさらに鞭を打つとは…」

 

「う、うるさい!カルバリン砲だ!吹き飛ばせ!ライダー!」

 

「ふうぅ…砲撃用意!」

 

きた、カルバリン砲だ、4つほど背後から出てきた砲弾がセイバーを狙うが敏捷が上がったセイバーには一つとして当たらない。

 

「遅いです!」

 

これが俺たちの戦い方だ、一つの事に特化して相手の弱点を突いていく、防御を捨て、攻めに転じる、いわば超攻撃型スタイルだ。

そしてライダーの腹にセイバーの突きがヒットした。

 

「これで終わりだ、シンジ。ライダーはもうボロボロ、シンジのサポートも間に合わない、この戦いは俺たちの勝ちだ」

 

「…はあ!??お前何言ってんの!?僕が負ける?僕が負けるなんて有り得ない!アっハははハはははははは!」

 

「シ…シンジ?」

 

いきなりシンジは狂ったように叫びだした、それは子供の強がりのようで一瞬俺は怯んでしまっていた。

 

「ライダー!宝具の使用を許可する!あいつらを塵一つも残すなよ!」

 

「ッ痛!ん?ああ…了解だ!マスター!…残念だよセイバー…アタシはあんた達のこと気に入ってたんだが最早ここまでだ。…さっきのように逃げ切れると思うなよ?」

 

今、一瞬ライダーの様子がおかしかったような…

いや、今はそれどころではない、このままでは相手の宝具が直撃してしまう、それだけは避けなければ!

 

「逃げろせい…」

 

「させるかよ白野!」

 

シンジのコードキャストが今度は俺に命中する。

ぐ…しまった、あんなに偉そうに言っておいて自分が妨害を喰らってしまった。油断した。

 

「マスター!危ない!」

 

「安心しなよセイバー…死ぬのはマスターだけじゃない…あんたも一緒に殺してやるよ!」

 

「アタシの名前を覚えて逝きな!テメロッソ・エルドラゴ!太陽を落とした女…ってなあ!」

 

”フランシスドレイク”

彼女の宝具は自分の人生の相棒とも言える船だった。そして彼女は海賊らしく船には大量の砲弾があり、その全てがこちらを向いている。

まさか…あの砲撃が全てこちらに飛んでくるのか!?まずい…このままでは二人共死んでしまう!

 

「”黄金鹿と嵐の夜(ゴールデンワイルドハント)”!」

 

「くっ!マスター!」

 

「…ははははは!宣言通り塵一つも残さず殺してやったよ!あいつも僕を怒らせなかったらこんな無残な死に方はしなかっただろうになあ!」

 

「気を抜くなよシンジ…まだ終わっちゃいないさ…おい!無賃乗船はよくないねぇ…セイバー」

 

「は?何言ってんだお前?セイバーはさっき…」

 

「生憎ですがまだ私とマスターは生きています…無傷とまではいきませんでしたが…」

 

…こうなった時の対策はしていた、相手はフランシスドレイク、船を使って攻撃するとは思っていた。だがその作戦は成功したはずなのにこの様である。

完全に回避したと思ったんだけど…凄い威力だ。

これじゃ相手が万全の状態だったら回避も出来ずに殺されていたかもしれない、何て恐ろしい宝具だ。

 

「ライダー!まさか手を抜いたんじゃないだろうな!」

 

「アタシはちゃんと全力で撃ったさ…それを奴らが何らかの形で回避しただけだろ…うっ!」

 

そしてライダーは自分の腹部を押さえる、あれは…傷?

やはりライダーは傷を負いながら戦っていたのか。

だがシンジはそれに気づかない、それに敵が弱っている。…そんな隙を見逃すほど俺たちには余裕はない。

…悪いとは思わない、ここで決めさせてもらう。

 

「な、何だと…ならもう一度だライダー!」

 

「もう一度はありません」

 

そういうとセイバーはライダーに問答無用で刀を振り下ろした…そしてこの瞬間、一回戦の勝者が決まった。

 

フランシスドレイク。 彼女が召喚された時のシンジの印象は意外にも面白そうな奴、だった。

プライドは高いが魔術の腕は高い。 魔術の腕は確かだが魔術師にはなれない。 そんな印象を抱いた。

自分の欲しい物を聞いては献身的に用意し渡してくる。 見た目と違い心はもっと子供で負けず嫌い、 勝ち抜いて優勝しよう。 そんな言葉を言われた。遠回しに自分の力を信頼して貰えて此方も嬉しかった。そんな不器用な愛情表現が嬉しかった。 勝たせてやりたい、そう思った。

だが負けてしまった。

心に残ったのはシンジへの謝罪。もっとそばに置いて鍛えてみたかった。

……すまないね、シンジ。

 

「な、何でだよ!何で僕が負けるんだ!くそ、こいつのせいだ!こんなハズレを引かされたせいで僕は…クソ!こんなゲーム、つまらない!つまらない!」

 

「…帰りましょうマスター、もう聞いていられません」

 

「…………。」

 

「お前もこんなゲームで勝ったからって調子に乗るなよな!いいか…地上に戻ってお前がどこの誰だかはっきりしたら…」

 

その瞬間、シンジの腕がまるで粘土の腕のようにボロリと地面に落ちた。

 

「シ…シンジ!」

 

「うわあああああ!ぼくの腕が!体があ!何だよこれ...僕の体が消えていく!?」

 

「…そりゃ死ぬだろ、普通。アタシ達は戦いに負けたんだ。…つまり負けるっていうことはそういうことだ」

 

「し、死ぬなんてよくある脅しだろ?電脳死なんてそんなの本当にあるわけ…」

 

「…シンジ」

 

シンジの顔が見えなくなっていく、最早シンジの体は半分以上見えなくなり今もどんどん黒くなっている。

 

「そんな…やだよ…今更そんなこと言ってんなよ…僕を助けろよ! 僕を助けろライダー! サーヴァントはマスターを助けてくれるもんなんだろ!?」

 

「そんな簡単に破れるルールなら最初から作られちゃいないさ…ふぅ、アタシも長くは持たないか…」

 

「逃げるのか!勝手に死ぬのか!お前のせいで僕は負けたんだぞ!」

 

「…負けた理由なら腐るほど考えつく、アタシの実力不足…アンタの慢心…そして運…だがねぇ…一番初めに契約した時に言ったろ?坊や。

…覚悟しとけよ?勝とうが負けようが悪党の最期ってのは笑っちまうほどみじめなもんだ…ってねえ…

…この死に方だって贅沢なもんさ…愉しめ、愉しめよシンジ」

 

「いやだぁっ!まだ僕は死にたくない!本当の僕はまだ八歳なんだぞ!?こんなとこ…

 

 

ーーー消えた。

間桐シンジという人間、その魂が、完全に。一欠片の痕跡もなく、残っているのは勝者のみ。

 

…俺の聖杯戦争の一回戦はこうして終結した。

 

 




シンジ君敗退、悲しいですね...あ、そういえばセイバーの服装は戦闘時は羽織を着ていない方の忍者みたいな服、マイルームなどでは普通の和服ということで脳内補完お願いします


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七話

今回少し多いかな...?まあいつもとそんなに変わらないと思うので気にせず読んでください!ではどうぞ!


どのくらいそうしていたのかは分からない...ただ、呆然と立ち尽くしていた

 

「一回戦、終わったみたいね」

 

そういって自分を出迎えてくれたのは遠坂だった

 

「あなただけが出てきたってことは…勝ったのはあなただったのね。おめでとう…って言いたいところだけど今はそんな余裕なさそうね」

 

「…覚悟は…していたつもりだったんだ…」

 

たとえ仮だったとしても友人をこの手にかけたのだ、何も思わない方がおかしいというものだろう。

 

「あなたがそんなに落ち込まなくてもゲーム感覚でここに来たあいつにも責任はあるのよ? …ま、あなた今日はマイルームで休みなさい」

 

「…ありがとうな遠坂、そうするよ。また今度改めて礼を言わせてくれ」

 

遠坂なりに気を遣ってくれたんだろう、今はその心遣いがたまらなく嬉しい。 言われた通りその場を後にしてマイルームへと向かう。

 

「お疲れ様…よく頑張ったわね岸波くん」

 

 

〜〜〜〜

 

 

俺は、自分が生き残るためにシンジを殺してしまった。

他の人はこのことをどう思うのだろうか?仕方がなかった、必要な犠牲だった、と割り切れるものなのだろうか。

 

「優しいんですね、マスターは」

 

そういえばセイバーは自分とは違ってライダーを斬る時なども何も思っていないように見えた…いったい何を思って戦っているのだろう。

 

「私ですか?…私が人を斬る時に思うことなどありません。 私はそんな感情など忘れてしまいました。 …私には人を斬ることしか存在価値がありませんでしたから。

…主に斬れと言われれば斬る…ただそれだけです。斬り合いの場での主義主張など何の意味もありませんからね」

 

「…セイバー」

 

セイバーは何も考えていないということだった。いや、最早そんな感情など無意味だったと言わんばかりにセイバーは冷たい過去を告白する。主に言われれば例え知り合いだったとしても斬り捨てる…その時に感情はいらない。

…その時のセイバーの顔、そしてその在り方には、寂しさが垣間見えた。

 

「何はともあれお疲れ様でした、マスター。私はマスターがご無事で何よりです。 う〜ん、 そうだ!ご褒美…というほどでもないのですがお疲れのハグでもしましょうか?」

 

これは…からかわれているのだろうか?それでも少しでも自分を励ましてくれようとするセイバーがとても愛らしく感じる、ここはわざとこの誘いに乗るのもアリかもしれない。

 

「お気になさらずに、マスター。あなたが進むのは辛く、険しい道のりですが私があなたの剣となり、命に代えてもお守りします」

 

「ありがとうね、セイバー」

 

油断していたセイバーを抱きしめる。 まさか本当にするとは思っていなかったのかセイバーは驚いた表情を浮かべている。

…うん、 少し恥ずかしいけど安心する。 少し気持ちが明るくなったよ。

 

「セイバーは…なんだかいい匂いがするね」

 

「…は? ……ハ? な、ななななな何ですかいきなり!変態ですか!?何なんです…コフっ!」

 

やってしまった。

ていうか何であんなことを言ってしまったんだ!これじゃあただの変態じゃないか!

 

「ご、ごめん思ったことが口からでちゃって...」

 

ドンガラガッシャン

ものスゴイ音が響いた。

ちなみに今の後はセイバーが足を滑らせてマイルームにあった机や椅子に突っ込んでしまった音だ。

 

「な、何なんですかあなたは!Sですか!戦いで疲れたサーヴァントにこれ以上のダメージを与えようとするなんてドSですかぁっ!コフっ!」

 

まずい、このままではセイバーが吐血しすぎて死んでしまう。…でも赤面しているセイバーは可愛くてもっと見ていたいと思ってしまっている自分がいた。

 

「もうマスターなんて知りません!マスターなんて激辛麻婆豆腐の食べ過ぎでお腹を壊してしまえばいいんです!うわーん!」

 

セイバーは怒っていてこちらを罵倒?しているのだが全然痛くもかゆくもないのはセイバーの顔が真っ赤になっていたからだろう。

さて、たしかにいつまでもうじうじ悩んではいられないし食堂にいって気分でも紛らわそう。

 

「あ、あのー、できればこの机と椅子をどかしてくれるとありがたいなー…なんて」

 

「さて、楽しい夜の始まりだ」

 

こうして俺はその後も霊体化を忘れていて動けないセイバーとの信頼を深めつつ仲良く一緒に食堂へ向かったのであった。

 

 

〜〜〜〜

 

「で、そのせいでセイバーはそんなに怒っているのね?S波くん?」

 

「わ、わざとじゃないんだけど何ていうか…無意識だったというか…いや意識はあったんだけどあれはセイバーが誘ってたから…」

 

「いや、誘ってませんから。 勝手な理由の捏造はやめましょうね、S波さん」

 

「で、もちろんセイバーには謝ったのよね?S波くん?」

 

「は、はい。それはもちろん…そして反省しているのでいい加減普通の名前で呼んでください…」

 

二人の言葉が胸に刺さる。 だってしょうがないじゃないか、セイバーが可愛いのが悪い。 ボク、ワルクナイヨー。

…はい、ごめんなさい。

 

「もう怒ってはいませんが簡単に許してしまったら私のプライドがですね…」

 

「セイバーは優しいわねー。私だったら地の果てまで追い詰めてボロボロにしてやるのに」

 

「じ、じゃあ今度セイバーに何かおごるよ、それでいい?」

 

どうだろう、セイバーも許してくれそうな雰囲気だし条件をつけたらそれなりに許してくれるかもしれない。

 

「わかりま…」

 

「あらよかったわねーセイバー、岸波くん、セイバーに何でもするって言ってるわよ」

 

ち、ちょっと遠坂さん!?いったい何を言ってるんですか?せっかくセイバーが許してくれそうだったのにこれじゃあ…

 

「では貸し一、ということでよろしくお願いしますね!マスター!」

 

「よ、よろしくね…セイバー…」

 

因果応報、ということである。

 

〜〜〜〜

 

 

「で、シンジとの戦いはどうだったのか、教えてもらえる?」

 

俺は遠坂にシンジとの戦いの内容を話した。

 

「なるほどね…運がよかったわね岸波くん、ライダーの宝具の威力が弱かった理由は二つ考えられるわ」

 

「一つは、シンジの魔力供給が充分ではなかったため」

 

シンジの魔力供給か。確かに普通のサーヴァントなら十分だったのかもしれないがライダーの宝具の出力ならその可能性も考えられるかもしれない。

 

「そして二つ目は、私のアーチャーとレオのガウェインと戦ってライダーが消耗していたため。 もちろんシンジの魔力供給もあるだろうけど…主な理由は後者でしょうね」

 

「シンジはレオとも戦っていたのか?」

 

「ええ、私も見たのはたまたまだけどアリーナで二人が戦っているのを見たわ」

 

なるほど…確かにライダーは宝具を打つ前に腹に血がにじんでいた。あれはセイバーの突きではなく、二人との戦闘のダメージが残っていたからだったのか。

 

「レオがケンカになったって言ってたのはこのことだったんだな」

 

「へぇ、岸波くんレオと知り合いなのね」

 

?何故だろう、レオの名前を出したら遠坂は突然不機嫌になった、遠坂はレオのことが嫌いなのだろうか?

 

「おや?あなたが遠坂 凛さんですか?」

 

噂をすれば、というやつだろうか。 そこには友人だったレオがいた。

 

「久しぶり、レオ」

 

「お久しぶりです、岸波さん、そういえば直接お会いするのは初めてですね、遠坂さん。 あなたの行動力にはハーウェイのアジア支部も手を焼いていましたよ」

 

「あなた自らご出陣するとはね、いいじゃない、地上での借りを天上で返してあげるわ」

 

二人の間で火花がなっている。

あれ?

 

 

 

 

 

………俺、空気じゃね?

 

 

 




S波くんが出現しました、いや、こんなつもりはなかったんですがセイバーが可愛いすぎてこんなになってしまいました...いや、わけわからないですね、ハイ



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八話

一回戦が終わり、自分は生き残った。

 

そしてここには好奇心で参加した事を後悔している者、すでに覚悟を決めている者など様々な人たちに分けられた。

そしてそんな思いをよそに、運営側は事務的に告知を始めた。

 

魔術師達の生存競争…二回戦が始まろうとしていた。

 

「見てください、マスター」

 

セイバーが指をさした所には次の自分の対戦相手が表示されていた。

 

「…ふむ。君か、次の対戦相手は」

 

マスター#ダン・ブラックモアVSマスター#岸波白野

 

この老騎士が…次の自分の対戦相手…

 

「若いな…実戦の経験はないに等しい、相手の風貌に臆するその様が何よりの証拠だ」

 

駄目だ、この老騎士は確実に幾多の修羅場をくぐりぬけている、今の自分を完璧に見破られてしまっている…

 

「それに君の眼、迷っているな。 そのような状態で戦場に赴くことになるとは…不幸なことだな…」

 

…何も言い返せなかった。

自分の全てを一瞬にして見抜かれることがこんなに恐ろしいことだとは思いもしなかった。

 

「では、失礼する、決戦日に君と正面から向き合うためにも君の迷いが晴れていることを祈っているよ」

 

「と、言うわけだせっかくの一騎打ちだしお互いフェアにな、回りくどい手はナシでいこうぜ」

 

フードを被った一人の男が現れた、この老人の背後に控えているということは彼がサーヴァントということだろう。

 

「一騎打ちなら望むところですが、その言葉は信用できませんね、あなたは真っ当な一騎打ちをするタイプには見えません」

 

「あらら、随分と警戒されたもんだ。ま、信用して欲しいとも思わないがねぇ…」

 

 

 

〜〜〜〜

 

「白野くん」

 

声がした方を向いてみるとそこには遠坂がいた。

 

「あ、遠坂。おはよう」

 

「おはよう…ところであなたの二回戦の相手、聞いたわ。もう現役じゃないけど、ダンは名のある軍人よ」

 

やはりか、対峙しただけで分かるほどの重圧を感じた。

…あれはいくつもの修羅場をくぐり抜けてきた本物の強者の眼だ。まさか軍人だったとは…

 

「ほふく前進で1キロ以上進んで敵の司令官を狙撃するとか日常茶飯事、とにかく並みの精神力じゃないのは確かね。

たとえあんたの宝具がどんなに強くてもこのままじゃあっさり殺されるわよ? 対策はできているのかしら?」

 

「いや、遠坂、俺は宝具なんて使ったことないよ?」

 

「は…はあ!?宝具を使わないでライダーを倒したっていうの!?」

 

どうしたのだろう、そんなに驚いてというか遠坂はアドバイスをしてくれたのだから宝具を使えないことくらいてっきり気づいているのかと思っていた。

 

「そんなこと分かるわけないでしょ!?…私はてっきりあなたのサーヴァントの宝具が桁違いに強いからかと…

そういえばライダーも宝具を使わないで倒したって言ってたわね…使わなかったんじゃなくて使えなかったんだ…

…いくら私がアドバイスしたからって…ふぅん、実力で勝ったんだ、少し見直したかも」

 

「ふっ」

 

「な、なによアーチャー何か言いたいことでもあるわけ?」

 

「いやなに、我がマスターのお人好しに、呆れて思わず笑みがこぼれたというだけだよ」

 

「アンタも失礼ねアーチャー…それに私は別にお人好しじゃないし」

 

どうやら遠坂と遠坂のサーヴァントは仲がいいようだ。 二人とも軽口を叩き合うほどお互いのことを言い合っていた。

さて、ここはアーチャーに任せて自分達は二回戦の相手の対策を練りに行くとしよう。

 

〜〜〜〜

 

ザッ…ザッ…

 

「ごきげんよう」

 

遠坂と別れた後、現れたのは褐色肌の女の子だった、いきなり話しかけられたが自分はこの子に会ったことがあるのだろうか?

 

「私はラニ…警戒しないでください、私はあなたの対戦者ではないのですから」

 

「初めまして、だよね…俺は岸波白野、よろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします…」

 

…気まずい。

この子は何か自分に何か用があったのだろうか?

 

「…あなたを照らす星を見ていました。 …他のマスターも同様に詠んだのですが、貴方の過去だけが…雲に隠れた存在…どうか答えて下さい…貴方は何なのですか?」

 

どうしよう、質問の意味がわからない…星を…見た? まさか俺の過去を知りたいという事だろうか? 自分のことは俺が一番知りたいところなのだが…

 

「正体を隠すのですか?ブラックモアの前ではあんなに無防備だったのに」

 

「見て…いた?」

 

おかしい...あの場所には自分とあの相手しかいなかったはず、どうして自分のいた場所がわかるのだろうか。

 

「見ていた…というのは正確ではありません、星が語るのです…あなたのことを」

 

星?いったい何のことだろう?要は占いのようなものなのだろうか?

 

「師は言いました、人形である私に命を入れるものがいるのか見よ、と。 …師が行ったことの意味を知るためにはもっと人間を知る必要があるのです...あなたも、ブラックモアのことも。

…協力を要請します。アトラスの最後の末裔として私はその価値を示したい、ブラックモアの星を私にも教えてください」

 

「教えるって言ってもいったいどうすればいいのか…」

 

「何か彼の遺物を見つけたら私に見せてください、星の巡りがいい晩に詠むことができるでしょう」

 

(マスター、これはチャンスではないでしょうか? 必要以上にこちらの情報を教える必要はないと思いますが、 ブラックモアの情報はかなり有益なものとなるでしょう。 私は協力には賛成ですが、どうしますか?マスター)

 

うん、確かにそれはそうなんだけど…流石に二つ返事でOKは出せない。 まだラニには出会ったばかりだし。

 

「えっと…ラニ、少し考えさせてくれ」

 

「わかりました、良い返事を待ちしています…それでは」

 

その時、ふと風が吹いた。

そしてラニのスカートがめくれ上がり…

 

 

 

……はいてなかった。

 

 

 

「ごきげんよう」

 

 

って、ちょっとまったあ!

 

 

「「は…はいて…ない?」」

 

「合理的では…ありませんので…」

 

ゴウリテキデハナイ?…頭が混乱してきた。 くっ…セイバーの前だと言うのに鼻血が止まらない。

 

「マ、マスター! あ、あれが現代の衣装なのですか!?

マ、マスターもあの人のような感じが好みなのですか!?マスターも私があのような格好したら嬉しいのですか!?あれってファッションなんですよね!?現代の!」

 

まずい、セイバーは突然の事で混乱してしまっている、というか自分もさっきから混乱して脳内処理が追いついていない…流石はアトラスの末裔というだけはある、先を行き過ぎていて自分には全く理解できない。

流石にノーパンがファッション何て有り得ない。 そんなファッションが流行るとしたらそれは人類は相当な末期だろう。

 

「とりあえず落ち着いてセイバー!君は今混乱しているんだ!マイルームに帰って頭を冷やそう!」

 

「ではマスター!協力関係はどうするんですか!ここでうやむやにするんですか!」

 

「そうじゃない!一度頭を冷やしてから考えるんだ!」

 

焦ってるセイバー、ノーパンの少女。 セイバー、ノーパン。 え? セイバーがあの服装(ノーパン)だって?

………また鼻血が…って何を考えてるんだ俺は。

まずい、自分には収拾がつけられなくなってきた、予想外の展開すぎてこのままでは頭がパンクしてしまう、早くマイルームに帰らなければ…

 

そしてその様子を一人の男が隠れて見ていた。

 

「なーにやってんだか…色男。そんなに隙だらけだと誰かに狙われちまうぜ?…回りくどい手はナシ、このとおりまっすぐ勝負を決めに行く…オレゃあ、嘘はいってないぜ?」

 

そのまま放った弓は真っ直ぐ相手の頭を狙う。

 

「よし!一丁あがりだ!」

 

そしてこの弓矢で勝負が決まる…はずだった

 

「やっばーい!早く購買部に行かなきゃ、肉まんの半額セールが終わっちゃう!」

 

「ぐばあ!」グキボキッ

 

「ふ、藤村先生!?あの…マスターが死にかけているのですが…」

 

「ごめんね岸波くん!今急いでるから!」

 

「マスター!大丈夫ですか!すごい鈍い音がしましたが大丈夫ですか!あれ…今何か飛んできたような気がしましたが…」

 

「う…うう…」

 

「マスター?だ、大丈夫ですか…軽く10mは吹き飛びましたが…」

 

…セイバーの顔がこんなに近くに…ああ、可愛いなぁ。…え?天使?

…なるほど、俺にもついにきたか…じいちゃん、今いくよ…あとさ、じいちゃん、俺わかったよ。本当の人類の在り方…ってやつがさ。

 

「やっとわかったよ…人類は始めからみんな…ノーパンだったということだね…?」

 

「マスターぁぁぁぁ!!今保健室に運びますからね!もう少しの辛抱ですよ!」

 

「な、なんじゃそりゃ…まさかあんな形で逃げられるとは…」

 

 

〜〜〜〜

 

「桜さん、マスターは助かりますか?」

 

「後少し来るのが遅かったら危なかったかもしれませんがもう大丈夫ですよ、できる限りの治療を施したので」

 

「よかったですね、マスター」

 

(それにしても…あんなに恥ずかしい死に方をしなくてよかったですね、体が逆方向に曲がってあんなに綺麗なくの字を描くとは流石は私のマスターですね…ぷぷぷ)

 

「セイバーさんも結構ひどいですね…」

 

「桜さん今私の心読みました!?」

 

 

 




どんどん増えていく文字数...全然まとまらない...他のみなさん凄いですね、自分も、頑張らなければ


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九話

お久しぶりです、やっぱり平日に投稿するのは難しいですね...相変わらず不定期更新ですが、これからもどうぞよろしくお願いします


「しぶといねぇ…あんた。今、楽にしてやるよ」

 

今回も旦那の意向とは裏腹にオレは敵の隙を突き暗殺を試みていた。一回戦の時と同様、 密かに忍び寄り密かに殺す。 旦那には怒られるだろうがそれがオレのやり方だ。

…ってかオレはこのやり方しかできない。 他のめちゃ強い英霊さんと違ってオレは白兵戦なんてできないからだ。 あとはこの毒つきのナイフで刺すだけだった、その瞬間、カーテンに人影が映った。

 

「させません!」

 

「おっと、危ねぇ!」

 

ガシャァァン!

 

「ほ、保健室が!」

 

おかしいな。 オレは完璧に気配を消していたはずだが… このセイバーが索敵のスキルを持っているなんて考えにくい。 ならどうやって俺の存在に感づいた?

 

「まさか気付かれるとはな…見たところオタクには索敵スキルなんてのは無さそうだが… 何故気付いた?」

 

「生憎私は生前の縁で奇襲などには詳しいんですよ。 それにしてもマスターが寝ている隙を狙うとは…やはり正々堂々と戦う気はなかったようですね」

 

「はあ?何言ってんのオタク、俺はアンタみたいに真っ向からの斬り合いは得意じゃないんだ、使えるものを使って何が悪い」

 

「いえ、別に非難しているわけではありません、むしろ安心しています。あなたのような人ならば私もただ斬ることに徹することができるでしょう。…速攻で片をつけます!」

 

ドガン、バキン、メリッ

 

「や、やめてください!このままじゃ保健室が壊れちゃいます!」

 

「うん…ここは何処だ…?俺は確か…藤村先生に吹き飛ばされて…」

 

「うわあああああ!大惨事じゃないか!」

 

そうだ、自分は気絶してしまって保健室に運ばれたのか…でもここは本当に保健室なのだろうか?自分の知っている保健室はこんなにボロボロじゃなかったような…

 

「あ、起きたんですねマスター」

 

「戦ってんのにえらく余裕じゃねえか、セイバー!」

 

相手のサーヴァントが隙を見せたセイバーに弓を向ける、奴が使う弓はボウガンのような弓だった。

あとはセイバーに矢を放つだけだったのだがどういうわけかその動きは止まっていた。

 

「そこまでだ、アーチャー。…これはいったいどういうことかな?アーチャー」

 

「ダン・ブラックモア!」

 

「どうもこうも旦那に勝たせるためにやってんですよ、マスター?だって決戦日まで待つとか正気じゃねーし?オレらも楽できて万々歳でしょ?」

 

これは一体どういう状況なんだろう、この口ぶりから察すると自分は寝込みを襲われたということだろうか。

 

「どうにもお前には誇りというものが欠落しているようだな、アーチャー」

 

「誇り、ねぇ…俺にそんなもん求められても困るんですよね、ほーんと誇りで敵が死んでくれるなら最強だ。 ってかそれで勝てるんならいいですけど。だが悪いね、オレゃその域の達人じゃねぇわけで、きちんと毒を盛って殺すリアリストなんすよ」

 

「あの二人、仲が悪いようですね…まあどちらも間違ってはいないんでしょうが…ズズ」

 

そういってセイバーがお茶を飲んでいる、美味しそうなので自分も桜にお茶を頼んでみる。

 

「失望したぞアーチャー! 許可なく校内で仕掛けたどころか毒ナイフまで用いるとは。

…アーチャー、もう敵マスターに校内で攻撃を仕掛けないと誓え」

 

「聞けないっすね」

 

「そうか、残念だ。…アーチャーよ、令呪をもって命ずる。学園サイドでの敵マスターへの攻撃を永久に禁ずる!」

 

「な!?はああああ!?」

 

「「え!?」」

 

「これは国と国との戦いではない、人と人との戦いだ この戦場には公正なルールが敷かれている、それを破ることは人としての誇りを貶めることだ」

 

「旦那、正気かよ…負けられない戦いじゃなかったのか」

 

「無論だ、わしは自身にかけて負けられぬし当然のように勝つ、その覚悟だ」

 

…令呪、本戦参加者に与えられたサーヴァントを律する3つの絶対命令行使権利、信じがたいことにこの老騎士はそれを使ったのだ、自らのサーヴァントに正々堂々と戦えと。

 

「やれやれ、わかりましたよ、了解ですよ、従えばいいんでしょ従えば、もうしねーよ」

 

アーチャーが弓をしまい霊体化する、どうやら本当に令呪の効果が働いているらしく戦意がまるで無くなっていた。

 

「知らぬことだったとはいえ、こちらのサーヴァントが無礼な真似をした、君とは決戦場で正面から雌雄を決するつもりだ、どうか先ほどのことは許してほしい。では、失礼する」

 

〜〜〜〜

 

「まさか、敵のマスターが助けてくれるとは思わなかったよ」

 

「そうですね...私もあのまま戦っていたら危なかったですし、あの時敵のマスターが来たのは不幸中の幸いでした」

 

敵はアーチャーだ、遠距離の攻撃を得意とする敵と戦うのは初めてだし、今日はアリーナで戦闘経験を積んだ方がいいだろう。

 

「セイバー、今日はアリーナに行こうか?」

 

「わかりました、ではさっそく行きましょう、マスター」

 

 

〜〜〜〜

 

「gain_str!」

 

俺はセイバーにコードキャストをかける、敵が一回戦とは違い、耐久力が高くなっている。長期戦が苦手なセイバーの為にも短期決戦で決着をつけなければ。

 

「サポート感謝します、マスター。ふう...この調子なら今日中にアリーナを突破することも不可能ではないでしょう」

「そうだね、この調子で敵をどんどん倒していこう」

 

確かに今回は順調に進んでいる、そう...順調過ぎるほどに、さっきから拭いきれないこの不安は一体何なのだろう

 

「危ないマスター!」

 

そう言ってセイバーに突き飛ばされる、先程まで自分がいた場所には弓矢が刺さっていた。

 

「マスター、早くここから脱出しましょう、何か嫌な予感がします」

「うん、幸いにも出口はもう少しだし一気に駆け抜けよう」

 

そう言った瞬間…自分とセイバーの目、鼻、口など至る所から血が出てくる、これはまさか…

 

「毒です!マスター!敵サーヴァントからの攻撃を受けています、このままでは…」

 

「急いでアリーナを抜けるんだ!」

 

この感じは…あのアーチャーだ。令呪を使われて自分達を攻撃できないようになっているはず、何故攻撃を仕掛けられる…

 

「そりゃオレはアンタに攻撃したわけじゃねーからな」

 

そう言って現れたアーチャーは体に傷がついていた。

 

「おおっと、今はあんた達と戦う気はないぜ? 矢がそっちまで飛んで来ちまっただろ? ガウェインに矢を弾かれちまった。 いやーやっぱり円卓の騎士様はオレなんかと違って強さがダンチだな」

 

「レオがここに来ていたのか…」

 

なるほど、あの二人に会ったからアーチャーもそこまで傷ついているという事か、恐らく戦闘になったのだろう、でなければ彼の体はあそこまでボロボロになっているわけがない。

それにしても本当にレオの凄まじさがわかってしまう、同じサーヴァント同士でもここまで違うものなのだろうか。

 

「その表情を見るにアンタ達の知り合いか? だがまあこれ以上言う義理はねぇな。それにこの結界を解除する気はない」

 

「そうですか、誠に残念です」

 

そしてセイバーは剣を構える、恐らくアーチャーをここで仕留める気だろう、俺も脳を戦闘体勢に切り替え目の前の敵に集中する。だが正直彼をここで仕留めることは難しいだろう、結界を貼られている以上ここはもう敵の領域だ、奴も何の策もなく俺たちの前に出てくるほど馬鹿ではないだろう。そしてセイバーが構えた時俺は気になるものを発見した、不自然に魔力が集中している場所があったのだ。

 

「おおっと!今日はこれ以上誰の相手をする気もないしな、これで退散させてもらうぜ」

 

「させません!」

「待てセイバー! この結界の基点を発見した。 近くにあるしあのアーチャーを倒すよりあれを破壊した方が早い」

 

おそらく魔力が集中しているあそこだろう、その証拠に近づくにつれて毒が強くなっている。

 

「…わかりました、確かに彼を倒すよりは早いでしょう。では急いで破壊しに行きましょうか」

 

「そーそー、俺ももうボロボロだしここらで帰らせてもらうぜ、じゃあな、お二人さん」

 

その瞬間アーチャーの姿が消える、なるほど、レオとガウェインを前にして逃げ切れたのも透明化があったからか。

さて、じゃあ俺たちは結界を壊しに行くか。

 

〜〜〜〜

 

「おそらくあの木がこの結界の基点ですね…はっ!」

 

セイバーは剣でその木を一刀両断する、破壊された木が初めからそんなものなかったかのように一気に霧散する。

 

「ぐ…毒を吸いすぎたか...セイバー、大丈夫?」

 

「いえ…あまり余裕はありませんね…さっさと戻ってマイルームへ行きましょう」

 

セイバーが危険なのは魔力を通じてこちらにも伝わってくる、セイバーの言う通り早く脱出して休んだ方がいいだろう。

そしてアリーナを脱出した瞬間…

 

「マスター…もう限界です、病弱に毒が追加されてもう一歩もウゴケマセン…こふぁ!…すみませんがおぶっていただけないでしょうか?」

 

こうして俺は疲れきったセイバーと共に自分も癒してもらうため、保健室へと向かうのであった。

 

 




みなさんはfgoの屋上行きましたか...?僕はアーチャーがいなかったのでいつものパーティーで行ったんですがめちゃくちゃボコボコにされてしまいました...なので令呪を使ってやりましたよ!ヒャッハー!

あ、今回緑茶さんは
学園サイドでは殺せないのでアリーナで岸波くん達を殺そうと考え罠を張る→ガウェイン&レオに会う→戦闘になる→返り討ちにされそうになり逃げる→最後に宝具を使い少しでもダメージを与えてやる→宝具発動→岸波くん達アリーナ到着。
みたいな感じです、岸波くん達は巻き込まれたということですね
わかりにくかったと思うので補足説明付け加えておきます。


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十話

何だか今日は体が怠い… うーん、昨日の毒なら桜に治療してもらったはずなのだが…

 

「マスター、今日はどこに…」

 

バタリ

セイバーはそう言って倒れてしまった、だがどこかいつもとは違った

いつもならセイバーが倒れる時は病弱スキルで吐血する時だ、これはまずい。

そう思ってセイバーを抱えて急いで保健室へと向かう。

 

「これは…昨日と同じ毒?そんな...何故セイバーさんにだけ…」

 

あの時だ。 セイバーが自分を突き飛ばした時。 あの時は避けたと思っていたが、セイバーは矢に当たっていたのだ。

つまりセイバーは毒の霧に加えて毒の矢も受けていたということになる。

 

「ごめんねセイバー、気づけなくて」

 

そう言ってセイバーの頬を撫でる。

そうか、自分とセイバーは魔力で繋がっている、だから自分にも毒が少し流れ込んできたのだろう、どうりで体が怠かったわけだ。

 

「セイバーさんなら大丈夫ですよ、あとは安静にしておけば治ります」

 

「あと先輩、保健室にこんなものが落ちていたんですが…」

 

桜が持っていたのは弓矢だった、もしかしてこれは昨日のドタバタの?

 

「はい、昨日保健室を修復術式で直していたんですがその時に床に落ちているのを発見したので、どうしようかと思っていました」

 

「もらってもいいかな?」

 

「もちろんいいですよ」

 

これはラニが言っていた手がかりになるだろうか?どうせダメ元だし、一応持って行ってみるとしよう。

 

「マスター…」

 

「セイバー、少しだけ待っててね」

 

そうしてまた頬を撫でるとセイバーはいい寝息をたてて眠ってしまった。

 

〜〜〜〜

 

「さて、ラニはどこにいるかな…」

 

そういって自分はラニと初めて会った教会に行ってみたが、やはりラニはいなかった

さて…じゃあ遠坂あたりにでも聞いてみようか?

 

「昨日はすまなかったな、岸波白野」

 

そういって声をかけてきたのは二回戦の相手、ダン・ブラックモアだった。

 

「もう気にしてませんよ、でも令呪を使ってくれるとは思いませんでした」

 

「そうだな...自分でもどうかしていたと思っていたところだ、3つしかない令呪をあろうことか敵を利するために使ってしまうとはな…

…だがこの戦いはわしの初めての個人的な戦いだ、 軍務であればアーチャーを良しとしただろうが …生憎今のわしは騎士でな、そして思ったのだ。……妻はそんなわしを喜ぶか…とな」

 

「…………」

 

「君はまだ迷っているようだな、自分の在り方を...少年よ、迷っているのならこの戦いを見て知るといい。結末は全て過程の産物に過ぎん、後悔の轍に咲く花のように歩いた軌道にさまざまな実を結ばせる。

………つまりだ少年。

己に恥じぬ行為だけが後顧の憂いから自身を解放する鍵なのだよ」

 

……誤りだったと感じた過程からは何も生み出されない。

誇れる道程のさきにこそ聖杯を掴む道があるということだろうか。

 

「…つまらない話に付き合わせた、老人の独り言と笑うがいい」

 

そういって老騎士は去っていった、だが彼には大切なものを教えてもらった気がする。

 

「ごきげんよう…岸波白野、協力に応えてくれるのですね。礼を言います」

 

「…ラニ、不躾で悪いけどさ、ちょっと聞いてもいい?」

 

「……?はい、私に答えられる事ならば」

 

これはラニに答えられるというよりはラニにしか相談できない事だ。今俺が相談しようとしていることを遠坂に言えば恐らく俺は殺されるだろう。

 

「その服は…ラニの趣味なのか?」

 

「服…ですか、いえ、これは師が私に用意してくれた衣服ですが、それが何か?」

 

「いや、何でもないよ。 …でも、そうだな、 あえて言うならラニのよう師とは良い友達になれそうな気がする」

 

「……はあ」

 

まったく良い趣味してるじゃないかアトラス。 もしもセイバーがこれを着たらと思うと…おっと、鼻血が。

俺、この戦いが終わったらラニに師を紹介してもらうんだ。 おっと、死亡フラグみたいになってしまった。 ゴホンゴホン。

 

「じゃあ改めてよろしく、ラニ」

 

ダン卿は間違いなく強敵だ、一回戦の時と違い相手には強い覚悟がある、やれることは十分にやってそれでやっと戦いになる。

 

「勝手に相手のことを調べるのは気がひけるけど、今は少しでもこの戦いの事が知りたいんだ。 ラニ、これが星を詠む手がかりになる?」

 

「……これならば」

 

俺は桜からもらった弓をラニに渡す、そしてラニは静かに星詠みを始めた。

 

………そして自分はアーチャーの過去を知った。

 

時には汚名も背負い、暗い闇に潜んだ人生。 緑の衣装で森に溶け込み、陰から敵を射続けた姿…。

隠れ続け、卑怯者として闇から敵を撃つ人生……。

マスターであるダン卿の騎士たる戦いとはあまりに対照的だ、なぜこの二人が組んでいるのか自分には理解できなかった。

 

〜〜〜〜

 

「セイバー、いる?」

 

「お疲れ様です、マスター」

 

保健室に行ったらマイルームに帰ったということだったので急いで帰った、よかった…顔色はいいみたいだしもう支障はないだろう。

 

「マスター、明日は教会に行きませんか? エネミーも倒したので結構経験値がたまっていると思うのですが」

 

そうだ、すっかり忘れていたがかなり経験値がたまっていたはずだ。

新しいコードキャストも手に入れたし、明日は図書室に行くついでに教会にも行かなくては。

 

「あ、そうだセイバー 遠坂にも相談したいことがあるんだけど...いいかな?」

 

「別にいいですが…」

 

何だろう、セイバーはいつもより歯切れが悪い気がする

 

「いいですか、マスター。 余計なお世話かもしれませんがあまり人に頼るのは良くないと思います。 たしかに凛さんは頼りになりますが…これは聖杯戦争です、いつかはあの人も敵になります。 そこら辺は注意してくださいね?」

 

セイバーに言われてハッとする、たしかにこれは聖杯戦争だ、仮に相手が遠坂だった場合、逆に弱点を教えるようなものだ。

 

「わかったよ、セイバー。 じゃあ今回は遠坂に頼らないで自分たちで頑張ってみようか」

 

「はい。 頑張りましょう、マスター!」

 

こうして今日、自分の手に入れた情報をセイバーにも話し、どうやって攻めるかなどの作戦をたてて眠りについた

 

 



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十一話

なんかペースが早いですかね?でも自分はccc編の方なら覚えているのですが...extraは失くしてしまったので本当にうろ覚えです...


よし、昨日はたっぷりと寝たし毒も完璧に抜けたようだ、セイバーからも特に異常は伝わってこない。

 

「おはようセイバー」

 

「おはようございます、マスター 今日はいい天気ですね」

 

「そうだね。あ、そうだ。 今日は食堂に行かない?」

 

結構お金も貯まってきたし、気分転換にセイバーにも何か料理をおごってあげたい。

セイバーは何か食べたいものとかあるだろうか?

 

「食べたいもの…あ! ありますあります! 前マスターが食べていた赤いやつ! あれ私も食べてみたいです!」

 

そうか、確かにあれは美味しかった。

そういえばあの時はシンジに邪魔をされたせいでセイバーは食べることができなかったのか。

 

「じゃあ、行こうか」

 

〜〜〜〜

 

「おや、岸波白野。 生きていたのかね」

 

この独特な声に雰囲気はあの時遠坂とシンジを止めに入った神父だ、何故か強烈な存在を放っていて早々忘れることはできないだろう。

というか、いきなり失礼なやつである。

 

(マスター、気にせず食事にしましょう)

 

そうだね、と言ってあの激辛麻婆豆腐を二つ注文する

 

「君も食べるのか、だがこれは生半可な覚悟じゃ食べきれないぞ?」

 

「大丈夫です、前に食べた時は結構美味しかったので」

 

「ほう…なかなか分かっているな」

 

そして相変わらず赤い。赤すぎるくらいだ。

 

「久しぶりに見ましたが…これやっぱりすごいですね…少し不安になってきました」

 

そしてその麻婆豆腐を食べる、うん、やっぱり美味しいな。

 

「では私も…」

 

そしてセイバーも麻婆豆腐を食べる、俺は早くも完食してしまった。

うん、いい気分転換になったかな。

 

「ひいいいぃぃぃ!からいぃぃぃぃ!」

 

ど、どうしたのだろうか。

セイバーはすごい勢いで椅子から転げ落ちてぐるぐると回転する、そんなに辛いかな…

 

「からひですよ! わらし今舌がピリピリしてものすごく痛いです…はあ……マスターは味覚がおかしいです…」

 

そういって残すことだけはしないのがセイバーのいい所だ。 食べ物を粗末にしないように苦手でも頑張って頬張っている。

 

「はっはっは、いい食べっぷりだなセイバー」

 

どこがそう見えるのか、自分には母親に苦手なものを頑張って食べさせられている子供にしか見えないのだが。

するといきなり神父は立ち上がり、激辛麻婆豆腐をもう一つ注文してセイバーに寄越した。

 

「私なりの1回戦勝利のプレゼントだ、なあに、礼はいらない。 ありがたく受け取ってくれよ、セイバー」

 

「はぁーはっはっは!」

 

神父は高らかに笑いながら去っていった、そしてセイバーは絶望した顔をしながら二杯目の麻婆豆腐に手をつけるのであった。

 

〜〜〜〜

 

「私があんなに憎んだ相手は二人目です…うっぷ」

 

「だ…大丈夫?セイバー、そこまできつかったなら俺が食べても良かったんだけど」

 

正直な所セイバーの泣き顔が可愛くて神父を止めなかったというのは事実だ。

 

「でもマスター、ニコニコしながら食べられないなら俺が食べさせてあげようか?っていって食べさせたじゃないですか…うぷ」

 

セイバーはお腹をさすって口元を覆い今にも吐きそうになっている、ここは図書室なのでそれはいけないだろう、というか女の子が戻すというのもそれはそれでダメだろう。

少しでもセイバーが楽になるように背中をさすってあげる、すると近くで本がこぼれ落ちる音が聞こえる。

 

「き、岸波くん…なんでセイバーはお腹をさすっているの? そして吐きそうになっているの? そして何故岸波くんはセイバーの背中をさすっているの?」

 

……?

何故遠坂はこんなに驚いているのだろうか、そして周りのひそひそ声に耳をすませていると…

 

(やだ、あの男、あんな可憐な女の子に何をしたのかしら)

(そういえばさっき何かいってたわよ…二人目とか俺が食べるとか)

(まさかあの男…嫌がる女の子を無理矢理?)

(最低のクズね!)

 

なんてことだ!このままじゃあらぬ誤解を生んでしまう、せめて遠坂だけでも誤解を解いておかなければ…

 

「あらクズ波くん?久しぶりね、最近会わないと思ったらそういうことだったのね」

 

全く信用されていなかった。遠坂の目から光が消える。

まずい、このままじゃ俺は二回戦を迎える前に確実にバッドエンドだ。

 

「弁明があれば聞くわよ?」

 

「ち、違うんです遠坂さん私がいけないんです」

 

俺にはわかる。 ここで弁明をしてはいけない、したとしても悪い方向にしかいかない。 何故ならものすごく嫌な予感がするからだ。

 

「私がマスターの凶行(あーん)を止められなかったのが悪いんです!」

 

「ちょっとセイバーさん?その言い方は誤解を招くんじゃ…」

 

「私は無理だっていったのにマスターが無理矢理…」

 

合ってるけど!確かに食べさせたけども!そんなに涙目で言わないで!もうなんか取り返しのつかない事になってるよ!

 

「…そう、お楽しみだったのねクズ波くん。なら私は邪魔だろうし帰るとするわ。 これからは私に近寄らないでね、私ってそういえばクズアレルギーだった気がするし」

 

そう言った遠坂の目は養豚場の豚を見る目をしていた。ってダメだ!何とかして遠坂の誤解を解かなければ。

 

「そんなにあからさまな嘘つかないで! 話だけでも聞いてくれ遠坂!」

 

「…いいわ、最後の弁明くらいは聞いてあげようじゃない」

 

〜〜〜〜

 

「なんだ、そういうことだったのね」

 

よかった、遠坂はわかってくれたようだ。

 

「当たり前だろ、一体なんだと思ってたんだよ」

 

「まあ最初からそんなことだろうと思ったけど。 岸波くんがサーヴァントを組み伏せられるとは思ってないし」

 

あれを分かっててやったというのか、遠坂さんマジドS。

 

「ごめんごめん、で、此処へは何しに来たの?」

 

そうだった、当初の計画を見失う所だった。アーチャーの情報を探りに来たのだった。

ラニのお陰でアーチャーの過去がわかった。

シャーウッドの森の英霊は一人だけ、彼の真名は...”ロビンフッド”

これで間違いないだろう。

そしてロビンフッドについての本を読む、これで相手の情報はわかった。

相手が何を思い、何を残し、何を成したのかあとは彼についての対策を練るだけだ。

 

「ふうん…ちょっとはマシになってきたわね。ま、私には大したことはできないけど…」

 

「頑張りなさい、岸波くん」

 

「ありがとう、頑張るよ、遠坂」

 

〜〜〜〜

 

よし、改竄も済ませたし、あとは明日に備えて寝るとするか。

明日は決戦だ、少しでも体力を温存して勝率を上げることにしよう。

 

 




ちなみに今のセイバーの敏捷はBです


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十二話

「ようこそ、決戦の地へ 。 …身支度は全て整えたかね?」

 

「扉は一つ、再びこの校舎に戻ってくるのも一組、覚悟を決めたのなら闘技場への扉を開こう」

 

「開けてくれ」

 

「いいだろう、若き闘志よ ささやかながら幸運を祈ろう。それでは…存分に殺し合い給え」

 

自分はこの戦いで何かを掴んでみせる、そして覚悟を決めてエレベーターに乗りこむ。

するとやはり目の前には相手のマスターがいた。

 

〜〜〜〜

 

「…………。」

 

やはりこちらと話をする気はないのか、老騎士の方は目も合わせてくれない。

 

「アンタ今何で何も話してくれないのか、って思ったでしょ?」

 

すると隣のアーチャーが話しかけてきた。

 

「だって話する意味ねぇじゃんよ、アンタたちはもうすぐ消えるんだしさ。 …まあ、つってもこれじゃ俺がつまらねぇしな、ウチのダンナは無駄がなさすぎてねぇ…茶飲み話とはいかんのよ。

ところでどうよ? そっちのマスターさん、ウチのマスターに話しかけてみないかい?」

 

じゃあ、と言って気になっていたことを質問した。

 

「なぜ戦うんですか?」

 

「…戦いに何故はない。 戦地に赴く以上、 あるのは目的だけだ。 加えてわしは国に仕える軍人だった、個人に戦う理由は必要とされなかった。

…今は多少違うがな。であっても何故、と自問することは無い」

 

「ありゃ、やっぱりダメだったか。 ご足労さん、つまみ程度には楽しめたぜ」

 

やはり言葉を交わすことに意味はなかった、この人と交わすべきなのは言葉ではなく剣だ。

 

「マスターとは対照的に随分とおしゃべりが好きなサーヴァントですね、あなたからは英霊らしさなどを感じませんが」

 

「あまりにも英霊の姿とかけ離れすぎてマスターとサーヴァントが逆転したのかと思いましたよ」

 

日頃こんなことを言わないセイバーにしては珍しい姿だった、何か思う所があるのだろうか?

 

「はんっ!そうであるならどんなに楽か!ウチのダンナはちょいと堅物すぎてね、英霊らしからぬ俺としては何度も衝突して困りものさ。 …しかしアレかい?アンタは英霊全部が高潔な人格者だと思ってるクチ? だったら疲れるぜぇ? また後ろから撃たれないように気をつけな」

 

あんた隙だらけだしな、とアーチャーは笑いとばす。

 

「目的のためなら手段は問わないですか…私は別に間違ってるとは思いませんが、あまり好みはしませんね。 今回はマスターが特殊ですし、戦いらしい戦いをしないとマスターの迷いが晴れないと思いますので」

 

「アンタらが勝手にそう言うのは構わないが、オレを巻き込まないでくれよ。

…なあそっちのマスターさん、闇討ち、不意打ち、だまし討ちは嫌いかい?ってかそもそも汚い戦いが嫌い?卑怯な手口そのものが気に入らない?」

 

「…いや、否定はできない」

 

それをいうなら一回戦でシンジに自分が使った手も否定することになる。 不意打ち、だまし討ちは立派な戦法だ。 毒などは自分ではする気にはならないがそれも一つの戦い方だろう。

 

「そいつは上々、毒と女は使いようってな。いい勝負になりそうだ」

 

なるほど、やはりこのアーチャーは使える物は使う、それがどれ程汚いことであっても大切な物を守るためには自らの手を汚さなければならない。

…その覚悟を持っている、立ち振る舞いは全く違うとしてもやはりこの二人はどこか似ている、そう思った。

 

「随分と楽しそうだな、アーチャー?」

 

「おや?そう見えましたかい?ダンナ」

 

「戦いを前にしながら倒すべき敵の人となりを楽しんでいる……少なくともわしにはそう見えるな」

 

「ご明察、 ま、 おしゃべりなのは大目に見ていただければと。 何しろ敵と話すこと自体珍しいもんでね、あとダンナはもちっと若者の声に耳を傾けるべきですよ?」

 

「気遣いには感謝する、だが無用だよ。 戦いに相互理解は不要な感情だ、敵を知るのは戦いが終わったあとでいい」

 

「うわ、ほんっと遊びがねぇよこの人タダでさえハードな殺し合いなのに余計にストレス溜まっちまいそうだ、たまには息抜きに楽しむことも必要ですよ?ね?アンタもそう思うでしょ?」

 

そんなこと聞かれても分からない、自分は生き残るのに必死でまだ余裕などないのだから。

 

「げっ、なんて潤いの無い返答だ。 なんだよ、 この場で若者は俺だけか?」

 

「楽しむのもいいが、アーチャー 戦いではこちらの意見に従ってもらうぞ」

 

「げっ、やっぱり今回もっすか?わかりましたよ従います、オーダーには従いますよ。

…けどなぁ…誰もが自分の人生に誇りを持てるわけじゃないってことを分かって欲しいんだよなあ…」

 

「あなたは…後悔しているんですか?自分の生前の在り方に」

 

唐突にセイバーが口を開いた、やっぱり何か思う所があったのだろう。

 

「いんや…後悔はしてない、無念はあったけどな」

 

「何故後悔はしないのですか?」

 

「なんだい嬢ちゃん、アンタは後悔してるんだな?」

 

「…………。」

 

「だんまりか、まあいい。 俺は後悔はしてない、後悔してしまったら俺が生前残してきたものが全て否定されてしまうからな。

例え誰に感謝されぬものだとしても、例え報われぬものだとしても、俺だけは後悔しちゃいけない。

汚名を被ったとしてもそれら一切合財含めて今のオレの在り方だからな」

 

「ま、これはオレの自論だしな…そんなにあてにするなよ?」

 

「……ありがとうございました」

 

…もうすぐ戦いが始まる。

ここから先は生きるか死ぬかの殺し合い、俺はセイバーのことが気になる

もっとセイバーのことを知りたい、今俯いた理由を知りたい

そのために絶対に自分は生き残らなければいけない、アーチャーが言っていた通り、例え卑怯な手を使ってでも。

 

「たつぞ、アーチャー。 戦場に還る時が来たようだ」

 

「行くよ、セイバー」

 

「はい!戦場に事の善悪なし…ただひたすらに斬るのみです」

 

俺はこの戦いで迷いを振り切ってみせる…相手は遥かに格上の存在。全身全霊の力で相手を倒すしかない!

 

 




本当にこの調子だったらすぐ終わってしまいますね...短編にするべきだったでしょうか?でもccc編をその分頑張ろうと思うので大丈夫ですよね!これからもどうか温かい目で見守ってください!


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十三話

長い横線のやり方がわからない...携帯だと出来ないのでしょうか...誰か知ってる人がいたら教えてください...


「ここで決めるぞ、アーチャー」

 

「おうよ、つーわけでてめーの面もここで見納めだ。 いざ別れるとなると涙が出てくるなあ… これは餞別だ、 涙の数だけ弓矢をおみまいしてやるよ!」

 

「結構です。 その代わりと言ってはなんですが私からも敗北という名のプレゼントを用意しましょう。 誇りのために誇りを棄てた皐月の王よ、最後の救いを受け取るがいい!」

 

「上等じゃねぇか。行くぜ旦那、あの野郎を全力で射殺してやる! 卑怯なんて言うなよ?」

 

そしてアーチャーは地面に何かを投げつけるこれは…煙玉か!

 

「危ないマスター!」

 

突如として現れた矢をセイバーが弾く、しまった、また相手に先手を許してしまった。

 

「一旦離れよう、セイバー!」

 

「はい、ではゆっくりと後退してください。 マスターの背後は私が守ります」

 

そしてアーチャーの矢の嵐から脱出する、早くなんとかしなければ…このままではジリ貧だ。

 

「よし今だ!release_mgi(a)!」

 

新しく手に入れたコードキャストを発動する、これは長距離を飛んでいく弾丸だ、そして逃げる途中の柱を少しずつ折っておいたので…

 

ズゴゴゴゴゴ…

 

隣の建物が崩壊して砂埃が舞う、この隙に乗じて隠れるとしよう。

 

「ちっ、見失ったか。 意外と大胆な手を使うじゃねぇのあの野郎」

 

「真面目にやれ、アーチャー」

 

「俺はいつでも真面目ですよ、サーの旦那...まあ俺相手に距離をとったのは相手のミスだ。 …宝具を解放する!魔力を廻してくれ」

 

「…いいだろう、仕留めるがいい、魔弾の射手よ」

 

〜〜〜〜

 

「よし、上手くいった 取り敢えず今は隠れよう、セイバー」

 

「はい、ですが次無茶する時は言ってくださいね?もう少しで瓦礫が頭に落ちるところでした」

 

取り敢えずアーチャーもこちらを見失ったようだが、これからどうする?

こちらから動くと確実に見つかるしあれだけ用心深いやつだ、向こうから姿をあらわすとは思えない。

その時、緑色の瘴気を纏った霧が突如として出現する。

 

「これは…イチイの毒!ごふっ...」

 

「くっ、また毒ですか…うっ!はあ…はあ…ガハッ!」

 

セイバーに毒はかなりの弱点だ。

病弱というマイナススキルに体力に自信がないセイバーに長期戦をやらせるわけにはいかない、早く何か考えなくては。

 

「……これしかない」

 

〜〜〜〜

 

「さあて、あの小僧 あと何分持ちますかねぇ」

 

……自分を偽り、勝つためならば手段を選ばない。

皮肉な話だ、軍属だった頃の私と何一つ変わらない。

私はなんのためにこの戦いに…

 

「動いた!だが……一人か、セイバーは何処に…まあいい、マスターさえ仕留めれば俺たちの勝ちだ。…仕留めるぜ」

 

すると何を思ったか彼はいきなり走り出した。

 

「はっ、死に物狂いで走ってくるとは本当に毒が頭に回ったようだな!少しばかり速いスピードで走っただけでオレの狙撃から逃げれるとでも?」

 

少しばかり私はあの少年に期待を寄せていた。いや、昔あった男に目が似ていた、という理由だけで期待した私が馬鹿だったのだ…

 

〜〜〜〜

 

俺は今、一か八かの賭けに出ている。

この賭けに勝ったとしても勝負に勝つかはわからない、だがここで諦めるわけにはいかない。

俺はセイバーと勝利をつかむ!

 

「チェックメイトだ!」

 

「ぐうっ!」

 

「ふう…勝ちましたよ旦那、意外と最後はあっけなかったが…まあこんなもんか」

 

アーチャーの矢が腹部に刺さり、自分は倒れる…そして自分は一か八かの賭けに…勝った。

 

「今だ!セイバー!」

 

「なっ!?」

 

「任せてください!はああっ!」

 

セイバーの一撃によりイチイの木は切り倒される、だが自分達はまだ勝ってはいない、まだ同じ土俵の上にあがっただけだ。

 

「くそっ、結界が! …何故だ!あの矢はかすっただけでも致命傷だ!耐性を持っている人間ならともかくただの人間であるあの小僧を殺すのには充分だったはずだ!」

 

「これだよ」

 

そう言って取り出したのは前に桜からもらったアーチャーの弓だ。折れてしまっていたのでぐるぐるに束ねて防御しやすくしている。

 

「もちろんこれを防御に使っただけじゃ毒は無くならない。だからもう二つ使わせてもらった。一つは状態異常を無くすコードキャスト、そして硬化のコードキャストだ」

 

「君の狙撃を怖がっても始まらない、かと言って動かなかったらこちらが敗北する。

なら俺は、君の弓がどこを狙うか予測してそこだけに全力を出して防御したんだ」

 

「…何故オレの狙撃する部位がわかった」

 

「そんなの…ただの勘だよ」

 

そうだ。 何もかも絶望的なあの状況で信じれるのは俺には己の運しかなかった。 一か八かどころではない賭けだったが俺はその賭けに勝ったんだ。

 

「なんだと…」

 

「ダン・ブラックモア。 話がある!あなたは確か正面から相手をすると言った。 …俺もだ、正面から勝負をしよう、来い!」

 

我ながら無茶苦茶な挑発だと思った、だけどあの老騎士なら来てくれると信じていた。

 

「迷いを捨てたか…いいだろう、相手をしよう」

 

「はあ!?正気かよマスター!こいつらの言葉に惑わされてんじゃねぇ!アンタ、どんなことしても勝たないといけないんじゃなかったのかよ!?」

 

「冷静になれ、アーチャー お前の技量はわしがよく知っている、わしのサーヴァントである以上ひとりの騎士として振舞ってもらいたい。

…信頼しているよ、アーチャー」

 

その時、弓兵の脳裏に思い浮かんだのは幼い頃に見た美しく気高い騎士の姿だった。 そうだ、 思い出した。 …オレは、強くてカッコよくて誰かを守れる騎士になりたかったんだ。

 

「……騎士、か。へっ、令呪を使う必要は無いぜ、マスター」

 

「ほう…今度こそ正々堂々と戦うのですね」

 

「ああ、酔狂なマスターに当てられてな!」

 

アーチャーは両手にナイフを持ち、セイバーと相対する、その目には今までと違って本物の覚悟が感じられた 。

セイバーは疲労しているといっても剣士だ、アーチャーもナイフの使い方は上手かったがセイバーはナイフをすんでのところで後ろに躱し…渾身の突きでアーチャーに止めをさした。

 

「あーあ、負けちまったか」

 

「すまなかったな…アーチャー」

 

「いや、いいんだ、旦那。 生前は縁がなかったが、一度くらいはお姫様を助けるナイト様みたいに俺も格好つけたかったんだよ。

……最後にどうしても手に入らなかったものを掴ませてもらったさ」

 

そう言ってアーチャーは消えていった、この老騎士ももう消えてしまうだろう。

 

「岸波白野…これから先、 誰を敵に迎えようとも誰を敵として討つことになろうとも必ずその結果を受け入れてほしい。

…迷いも悔いも消えないなら消さずとも良い、ただ結果を拒むことだけはしてはならない、それを見失って進めば君は必ず未練を残す。すべてを糧に進め、覚悟をするとはそういうことだ。

さて…ようやく君に会えそうだ…長かったな…アン…ヌ…」

 

そう、この先には三回戦があり、まだその先もある。

しかし戦うしかないのならばせめて戦った過去に、命を奪った相手に恥じない戦いを。

 

「ダン卿、あなたに教えてもらいました。…俺の在り方を」

 

 




二回戦終了...休みだったので連続投稿頑張りました...


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十四話

俺たちは今、戦いの傷が癒えていなかったため、保健室へと向かっていた。

 

「また一人、マスターが消えました。ですが、一回戦の時ほど動揺はしていないようですね。むしろいい顔をするようになりました。

…覚悟が決まったのかそれとも迷いが消えたのか…どちらにせよいいことですね」

 

覚悟が決まった…そうかもしれない。ダン興に教えてもらったことは倒した相手に恥じない戦いをするということだ、ならばくよくよしている場合ではないだろう。

 

「そして私に言わせて貰えばですね、マスター、迷いなんてものは心の余裕の表れなんですよ。なのでそんな贅沢な悩みを持つのはもっと強くなってからにしてください」

 

そんなセイバーの言葉に自分はハッとした。

そうだ、自分はまだ未熟だ。 迷いを持つ、なんで立派なことができるのは自分を強く持てるものの特権だ。 ならば、 まだ自分は迷っている場合ではない。 今はただ強くなる。 …それだけだ。

 

「ありがとね」

 

「いえいえ、お役に立ったのなら幸いです。この次も頑張りましょうね、マスター」

 

いつもながら危なっかしい戦いだが、こんな自分にセイバーは付いてきてくれる。

セイバーが来てくれなかったら俺はここまで来れなかっただろう。

今回もセイバーには頑張ってもらったし、あとは霊体化してもらって休んでもらおう。

 

「霊体化して休んでいてくれセイバー、必要になったらまた呼ぶよ」

 

「わかりました。ではお言葉に甘えさせてもらいますね」

 

〜〜〜〜

 

「まさかダン・ブラックモアを倒すとはな…岸波白野」

 

!?…さっきまで人の気配は全くなかった。 いつの間にか自分の背後に立ち殺気を放っている者がそこにはいた。

 

「やはりただの雑魚ではないということか。 危険分子はここで始末するに越したことはない」

 

周囲の立ちこめる殺気に気圧され、セイバーを呼ぶことも構えることもできない。

ああ…自分は本当に運がいいのか悪いのかわからなくなってくる。

せっかく命がけで二回戦を突破したというのにこんなところで…

周囲の殺気が鋭敏なものに変わり自分の首へと向けられる。

動かなければ、セイバーを呼ばなくては。…だが、動かない。恐怖で唇が上手く言葉を発さない。 …死ぬ。 このままでは確実に。

 

「ふうん…二回戦のマスターが行方不明だったのはこういうことだったのね…放課後の殺人鬼さん?」

 

誰もいなかったはずの教室から出てきたのはいつも自分を助けてくれた遠坂だった。

 

「…ちっ、遠坂凛か。敵を助けるとは随分と気が多いな、この男を仲間に引き入れるつもりか?」

 

「まさか、そいつは私の仕事とは無関係よ。殺したいのなら勝手にしたら?」

 

「ふん…危険分子は始末するに越したことはない。この場で貴様から始末してやろうか?」

 

「あら、サーヴァント二人を相手にして始末されるのはどちらか…試してみる?」

 

「ふん…テロ屋め。 岸波を始末する際に後ろから刺されたのではたまらんな…いずれ二人とも排除してやる」

 

そして暗殺者は去っていった。

 

「遠坂…ありがとう、助かったよ」

 

あのままだったらサーヴァントも呼び出せずに殺されていただろう、遠坂が来てくれなかったらどうなっていたか…

 

「別に?あいつらのやり方が気に入らないだけよ、ほら見て 僅かだけど壁にハッキングしたような痕がある。 おそらく不正な行為でマスターをアリーナに引きずり込み、そこで間引きしているのね」

 

「じゃあこの倒れてる人達は…」

 

「十中八九、さっきの暗殺者…ユリウス・ベルキスクに殺されたんでしょうね」

 

さっき遠坂が助けてくれなかったら…想像するだけでも恐ろしくなる

 

「そうね…あなたはまだまだ戦闘経験が足りないわ、まだ戦いは続くんだしもっとアリーナで鍛錬してみたら?」

 

そうだ、自分には余所見している暇なんかない...さっき決めたばかりじゃないか、命を奪った相手に恥じない戦いをすると。

 

「さっきはありがとな、遠坂。このお礼は必ずいつか返すよ」

 

「別にさっきのは助けたくて助けたわけじゃないしお礼なんていいけど…そうね、じゃあいつか返してもらうとするわ」

 

「じゃあね、岸波くん」

 

そう言い残して遠坂は去っていった。

 

〜〜〜〜

 

「先程は危なかったですね、マスター」

 

「うん、これからは気をつけるよ」

 

校内でも襲ってくる敵は必ず存在する、いつもというわけにはいかないができるだけ気を張っていて間違いということはないだろう。

 

「そんなことがあったんですね…」

 

自分達は今、保健室にいる。

アーチャーから受けた矢の毒は解除出来たとしても、宝具の毒は抜けきっていなかったからだ。

 

「今回の聖杯戦争は、いつもと雰囲気が違いますね…よしこれで大丈夫ですよ、先輩」

 

「いつもありがとうね、桜」

 

そういえば桜にはいつもお世話になっているのにこちらからは何もしていない気がする…よし!

 

「桜」

 

「はい、何でしょう先輩?」

 

「これあげるよ」

 

そう言って渡したのは購買部で買ったこんぺいとうだ、セイバーにあげるつもりだったのだが、買いすぎてしまったので桜に日頃のお礼ということでプレゼントする。

 

「わあ…ありがとうございます!先輩、私甘いもの好きなのですごく嬉しいです!」

 

うんかわいい。

桜も喜んでいるみたいだし、プレゼントしてよかったな。

 

〜〜〜〜

 

「それでセイバー…何で不機嫌なの?」

 

「別に!私は不機嫌なんかじゃありませんよ?…ただ桜さんが羨ましいなーって思っただけです!」

 

ははーん、まったく可愛いなあ、セイバーは。

恐らく桜だけにあげたから羨ましく思っているのだろう。 そんなこと気にしなくてもセイバーの分を俺が持っていないわけがないじゃないか。

 

「勿論セイバーの分もあるよ」

 

「本当ですか!?…あ、いえ! 別に私そんなお菓子で釣られる程甘くありませんしぃ? ま、まあマスターがどうしてもと言うのなら? まあ貰ってあげてもいいですよ?」

 

「じゃあ、どうしてもあげたい。 受け取ってくれないか?」

 

「…う、そんなストレートに言われると照れます…では…有り難く頂戴しますね」

 

「ほら、じゃあ口を開けて」

 

「え、いやいいですよマスター、それくらいは自分で食べれますし…何より恥ずかしいですし…」

 

「いや!セイバー、これは別に恥ずかしいことじゃない…これは信頼関係の証なんだ、マスターのことをどれ程信頼しているか、それを証明するための儀式でもあるんだよ…」

 

うん、自分でも何を言っているのかわからない、ちょっと悪ノリしすぎたかな、というかこんなんじゃ流石に…

 

「へ、へぇ?すみません、勉強不足でした、そういうことなら」

 

騙されたぁ!?ちょっと大丈夫ですかセイバーさん!?ち、ちょろすぎない? だがこれはチャンスだ、教育次第では…おっと、セイバーが余りにも可愛いから変なことを考えちゃったよ。

 

「ごめん、セイバー。さっきのは嘘だよ。こんなことしなくても俺はセイバーを信頼してるさ」

 

「やっぱり嘘だったんですか?おかしいとは思っていたのですが」

 

そしてセイバーにもこんぺいとうを渡し、ふと気になったことを話す。

 

「そういえばセイバー、宝具を失くしたって言ってたけど」

 

「いえ、失くしてはいませんよ?どこかに落としてしまいました、といっても心当たりはないのですが…」

 

そうか、自分はてっきり失くしたのかと思っていた。

それならばまだ希望はある、こつこつと地道に探すしかないだろう

 

「というか最近マスターは私を馬鹿にしすぎじゃないでしょうか…」

 

「ごめんごめん、じゃあ明日はアリーナでセイバーの頼りになる所を見せてくれる?」

 

「はい!このまま順調に私のステータスを上げて次の敵をボッコボコに…こふっ!?」

 

今日はいつも以上に精神的にきつかった、だが今はとにかく目の前の敵を倒すことに集中しよう、明日になればまた三回戦の通知が来るだろうし、今夜は体をゆっくり休めるとしよう。

 

「おやすみなさい、マスター 今日も疲れましたね…よい夢を」

 

 

 

 

 



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十五話

もうすぐアストルフォ実装ですね、欲しいんですけど石がなくて回せないのが辛いです...


俺たちは今、電子手帳に連絡が届いたので三回戦の相手を見に行っていた。

 

「すれ違う魔術師の数もだいぶ減りましたね…仕方のないこととはいえ少し寂しいです」

 

たしかに一、二回戦を終えてからはすれ違う人数は減ってきている。自分もそうならないように気を引き締めてかからないと。

…ふと、今自分の隣を何かが横切ったような感じがした。

 

「あれ?セイバー、今何か横切らなかった?」

 

「本当ですか?私は何も見ませんでしたが…」

 

すると背中を叩く音が聞こえた。

何だろう、と思って後ろを見てみると…

「お兄ちゃん、遊ぼ!」

 

???

初めて見る顔だが…俺はこの子に会ったことがあるだろうか?

 

「あ、ごめんね自己紹介してなかったね。わたし、ありす!ねえ遊ぼうよお兄ちゃん、お姉ちゃん、いいでしょ?」

 

ということはやはり初めましてだったか、それにしても…

 

「なんでこんな所に女の子が…?」

 

そしてその女の子はセイバーが気に入ったらしく、セイバーの背中に張り付いたまま自己紹介をしてくれた。

 

「ご、ごめんねありすちゃん…私達三回戦の相手を見に行かないと…」

 

「えー、そんなのつまんない…えい!こちょこちょ!」

 

「え?あっははははははははは!!や、やめてええええええ!!」

 

あ、セイバーがくすぐられている、というかセイバーんあんなに小さい子にもいじられるなんて…ぷぷぷ

 

「ぎ、ぎぶです!ぎぶあっぷ!遊びますからあ!」

 

「やった!じゃあオニごっこしましょ?最初はお兄ちゃん達が怖ーいオニね?」

 

はあ、仕方がない。三回戦の相手を見るのは後にして今はあの子を捕まえに行くとしよう。

 

「はあ…はあ…ゼェ…ゼェ…この私がこんなにコケにされるとは…もう許しません!絶対捕まえますよ!マスター!」

 

そして自分達はありすが逃げた方向へ追っていく、するといつの間にか辺りの雰囲気が変わっていることに気がついた。

 

「セイバー、これ…」

 

(はい、この辺りの雰囲気が変わっていますね...これは、アリーナのような...)

でもここはアリーナではないはずだ、アリーナならエネミーが徘徊しているはずなのにここには一体もいない。

まあどちらにしてもあの子を捕まえてここから脱出する方が先決か

 

「あはは!お兄ちゃん、こっちだよー!」

 

「隙を見せましたね!」

 

セイバーがありすの前に回りこみ、挟み撃ちの形になる、というかセイバー、鬼ごっこに本気になるってどうなの?

 

「よーし、捕まえた!ほら、一緒に学園へ帰ろう?」

 

「あーあ、捕まっちゃった」

「捕まっちゃったねー」

 

……え?

ありすが…二人?

 

「ねえねえ今度はありすのお話聞いてくれる?あたらしい遊び場に招待するね」

 

「「ようこそありすのお茶会へ!」」

 

な、なんだ?さっきまで自分はアリーナへいたはずなのに...ここは...どこかの庭園だろうか?

 

「わたしはありす」

 

「あたしもアリス」

 

「「ありすたちずっとお兄ちゃんたちをみていたの」」

 

「だってお兄ちゃんありすたちといっしょ」

 

「きっと遊んでくれると思ったの」

 

もう何が何やらわからない、いきなりアリーナのような所を抜け出して…わからない…?ワカラナイ…ワカラナイ…?

 

「ねえ アリス?お兄ちゃんはちゃんと覚えているかしら?」

 

「お兄ちゃんに聞いてみましょう?ありす」

 

「マスター!体が…透けて…」

 

「「お兄ちゃんあなたのお名前なあに?」」

 

…………………アレ? えっと…なんだっけ?

おかしいな…思い出せない。

……いや、そもそも初めから自分に名前なんてなかったんじゃないか?

 

「マスター!これは固有結界です!敵の攻撃を受けています!」

 

「ふふ、おもしろいでしょ?わたしが考えた遊び、最後にはお兄ちゃんもサーヴァントも無くなっちゃうんだから」

 

「ここはみんな平等なの、いちいち名前なんてみーんなすぐに思い出せなくなっちゃうの。 お兄ちゃんもすぐにそうなるわ」

 

「マスター!お気を確かに!ここは一時撤退しましょう」

 

オレを担いでいるコイツは…誰?

 

「キミハ...ダレ?」

 

「………ッ!」

 

そしてなんとかあの空間から脱出する

 

「マスター!無事ですか!名前を思い出せますか!?」

 

「…………………。」

 

「…あなたの剣を覚えてますか?」

 

「…ああ、ちゃんと覚えてるよ、セイバー」

 

「よかった…本当によかった…です」

 

そして三回戦の掲示板を確認する。次の対戦相手は…

 

岸波白野vsありす

 

〜〜〜〜

 

今回の相手はありす…まさかあんな子が聖杯戦争に参加しているなんて…

 

「あの攻撃… 固有結界ですね。 固有結界は魔術の最高奥義、それを使えるのはある領域に到達した魔術師だけ。 しかもあの子達が使ったのは自我を薄めて存在を消そうとする凶悪なもののようですね」

 

その通りだ、自分は一時はセイバーの事さえ忘れてしまっていた…決戦場であれを使われたら厄介だ、なんとか打開策を見つけないと…

 

「うん?ポケットに何か…」

 

What is your name?

(あなたの名前はなに?)

 

「セイバー、ちょっとこれを見てくれ」

 

「いつの間にかポケットに入ってたんだ。ありすの固有結界の中で最後に問いかけられた言葉だ…これってありすからの伝言かな?」

 

「伝言ですか、私にはよく分かりませんがあの結界の中以外で名前を聞く理由も分かりませんしそんな必要あるんでしょうか?」

 

仮にこれがヒントになるとしてもあの結界に入った途端名前をかき消されてしまう、自分の名前を忘れない方法…

 

「リンさんに聞いてはどうでしょう、あの人はこういう魔術に詳しそうですよ?」

 

たしかに遠坂なら分かるかもしれない、分からなかったとしても何らかのヒントを掴めるかもしれない。

 

〜〜〜〜

 

「自分の名前を忘れない方法をはないかって?岸波くん、そこまで記憶喪失が進行してるの?」

 

「そ、それとこれとは話が別なんだ話を聞いてくれないか?奢るよ…焼きそばパン」

 

「し、仕方ないわね…少しだけよ」

 

(ふっ、相変わらずのチョロインぶりですね、リンさんは)

 

(しっ、セイバー、静かに)

 

「聞こえたわよ!アンタいつも失礼ね!このアホ毛抜いてあげましょうか!」

 

「や、やめてください!痛いです!謝ります!謝りますからぁ!」

 

はっはっは、相変わらず二人は仲がいいなあ

 

〜〜〜〜

 

「はあ!?記憶を消される固有結界ですって…しかもアリーナ全体をそんな長い時間書き換えるなんて…何か反則じみた特例とみたわ」

 

「そんな得体のしれないマスターなんて私も相手したくないわ、マスターが二人いることもありえない話よ…三回戦でつぶれてくれないかしら」

 

「そんなわけで結界の中で名前を思い出す方法を探してるんだけど…遠坂、何か思いつかない?」

 

「へ、そっちの方の悩み?そんなの簡単じゃない、そんなの手にでも書いとけばいいのよ」

 

……あ。そうか、そんな簡単なことに気づかなかったなんて…

 

「そういうこと、子供騙しには子供騙しよ。 メモを残すのも結界を作るのに必要な条件なんでしょ、 遊びには遊びのルールが必要ってことね。 ま、健闘を祈るわ。焼きそばパンありがとね」

 

遠坂に礼をいって別れようとする、その時背中を叩く音がした

 

「「お兄ちゃん見つけたー!」」

 

「岸波くん、この子たちが?」

 

「ああ、この子たちが…」

 

「ねっお兄ちゃん、秘密の抜け穴みつけたの」

 

「ここから遊び場に出入りできるの」

 

そこはユリウスがハッキングしてた場所じゃないか、まさか…

 

「まずいわ白野くん!逃げ…」

 

そして俺たちはアリーナに引き込まれた、自分でやったことではないとはいえ、遠坂を巻き込んでしまったことには罪悪感がある。

 

「遠坂…無事か?すまない、巻き込んでしまって…」

 

「本当よ、焼きそばパンじゃ割に合わなかったわね」

 

「ねっねっ、アリス!あの子も呼ばない?」

 

「そうねありす、いい考えだわ」

 

「「一緒に遊びましょう!ジャバウォック!」」

 

「…サーヴァント!?」

 

その二人が呼び出したのは身の丈数メートルはあるバーサーカーの様な巨人だった。

 

「お兄ちゃんとは遊びたいけどそっちの赤い人はいらなーい、潰しちゃえ!ジャバウォック!」

 

「遠坂を守るんだ!セイバー!」

 

「ふん、じゃあこっちも容赦しないわよ!アーチャー!」

 

「共闘することになるとはな…ふっ、焼きそばパンは美味かったか?リン」

 

巻き込んだのは俺の責任だ、何が何でも遠坂は守らないと!

 

 

 

 

 



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十六話

fgo、爆死しました...
アストルフォ、欲しかったなあ...


「ugoaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」

 

桁違いな力。

これが彼女達のサーヴァントか、近づくもの全てを破壊しようとするあの姿はまさにバーサーカーだった。

 

「こいつ…素早い!」

 

なんという速さだ、コードキャストが当たらない、バーサーカーとはまだ戦ったことは無かったがここまで凶悪で理不尽な破壊をするサーヴァントだったのか。

 

「岸波くん、妨害系のコードキャストは当たらないと思ったほうがいいわね…使うならサポート系のコードキャストよ」

 

「そうだな…gain_agi(16)!」

 

たしかに速い…が今のセイバーはその速さを上回っている、それにアーチャーもライダーと戦っていた時とは動きが全然違う。

やはりあの時は力を隠していたのか。

 

「はああっ!」

 

セイバーは縮地を使って背後に回り込み確実にバーサーカーの身体に傷を付けていく、このまま順調にいけば勝てるだろう。

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

「ふん、まるで獣だな…攻撃に誇りなどが微塵も感じられん、私が言えたことではないが貴様本当に英霊か?」

 

そう言うとアーチャーは持っていた双剣を投げ捨ていきなり弓を取り出した。

バーサーカーは大きく両手を振りかぶった、アーチャーは静かに弓を構えて動かない...あのままじゃアーチャーが危ない!

 

「大丈夫よ岸波くん、あいつは強いから」

 

「ugoaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

だがその大きな両手は振り下ろされることは無かった、アーチャーが投げた剣が戻ってきてバーサーカーの腕を切り落としていた。

 

「ふん!」

 

そしてバーサーカーの腹に風穴をあける、これほどまでに強力なサーヴァントだったとは…そして遠坂も的確にアーチャーの支援をして火力を底上げしている、サーヴァントとはここまで化けるものなのか…

 

「すごい…」

 

「アーチャーさん、これは…」

 

「ちっ、これはまずいな…」

 

しばらく大人しくなっていたバーサーカーがまた立ち上がる、あんな傷を負ってもまだ戦えるなんて…

 

「違うわ岸波くん。見なさいあいつを」

 

傷が…再生している!

その身体にはセイバーがつけた傷はもちろんアーチャーにやられた穴も綺麗に回復していた。

 

「ジャバウォックは強いでしょ?もっともっと遊んでよ!お兄ちゃん!」

 

くそ…このままじゃジリ貧だ。どうすればいい、どうすれば…

 

「うっ!かはっ!」

 

しまった!こんな時にセイバーのスキルが…

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

「う、うああああああああああ!!!!」

 

動けなくなっていたセイバーは思いきり掴まれ、ミシリミシリ、と音をたててバーサーカーに握り潰されそうになっている。

その瞬間、俺は走り出していた。

 

「ちょっと、岸波くん!」

 

「セイバーを離せぇ!!この野郎!!!」

 

そして奴の目玉に全力のコードキャストをお見舞いする、例え効果が薄いとしてもゼロ距離ならば怯むくらいはするはずだ!

 

「ugoaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

よし!上手くいった!あとはセイバーを助けて…

その時、バーサーカーが自分に殴りかかってくるのが見えた。

まずい、体が動かない、死ぬ…

 

「バカか貴様は!サーヴァントに生身で立ち向かうなど一丁前にヒーロー気取りか!?一歩間違えば死んでいるぞ!」

 

アーチャーが自分の前に出てきてバーサーカーを止めてくれていた。た、助かった…

 

「俺はただ…セイバーを助けようと」

 

「ふん、助けようとして自分が死にかけるとは元も子もないな。…とりあえずリンに作戦があるらしい、貴様はセイバーを連れて下がれ」

 

そう言われセイバーを抱えて遠坂のところまで下がる。

 

「すまん遠坂…足手まといになってるな、俺」

 

「過ぎたことはもういいわ、いい?今から私が脱出経路を探すから、それまであいつの足止めをお願いね」

 

遠坂を信じてセイバーに回復のコードキャストを掛ける。

こうなったら遠坂が脱出経路を探し当てるまで全力で守る!なら俺はセイバーのサポートをするしかない。

 

「サポート感謝します、マスター ですが…いえ、この話は後にしましょう」

 

「わかったよ、行くぞセイバー!」

 

そして数十分が経過した頃…セイバーも、そしてアーチャーも呼吸が乱れ始めている、いくら斬っても瞬時に回復して襲ってくる怪物に流石の二人にも限界が来始めていた

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

「うわあ!」

 

衝撃で俺も吹きとばされる、くそ…このままじゃ全員死んでしまう…

 

「お兄ちゃん、もう壊れちゃったの?もっと遊びたいなあ…」

 

「前いた所はつまらなかったけどここはとっても楽しいわ、だってお兄ちゃんがいるから。

お兄ちゃんはようやく出会えたありすの仲間だもの。

今度はちゃんと触れ合えるの、真っ赤な血もあたたかいの」

 

そう言ってありすは俺の血を触っている…

話せるチャンスは…今しかない。

 

「ありす…あのサーヴァントを止めてくれ…セイバーが、死んでしまう…」

 

「サーヴァント?ジャバウォックのこと?違うよお兄ちゃん、あの子はサーヴァントじゃないよ?」

 

サーヴァントじゃ…ない?そんな馬鹿な、あの狂気を纏ったサーヴァントはバーサーカーしかいないはず…

 

「そうだ!じゃあヒントをあげるね!

”ヴォーパルの剣”ならきっとあの子も止めることができるわ!

でもそれは存在しない架空の剣…さあどうやって見つけたらいいでしょう?」

 

ヴォーパルの剣?そんなものがあるのか…いや、そもそも存在しない剣なんてどうやって見つければいいんだ…

 

「見つけた!岸波くん、セイバーに足止めお願いできる!?」

 

「うぐ…わかった!頼むぞ、遠坂!」

 

今はとにかくここから逃げよう、だが今の俺では脱出する手段がない、あとは遠坂に任せてあいつの足止めに全力を尽くす!

 

「アーチャー!あそこよ!あのほころびを広げるためにあなたの弓をぶちかましなさい!」

 

「生憎だが、リン。 今のオレの魔力ではあの小さなほころびに傷をつけることはできないだろう」

 

「な!ちっ…わかったわよ…だったら奥の手を使うわ、まさかこんなところでこれを使うことになるとはね…」

 

「その思い切りのよさが君のいいところだな、リン」

 

「アーチャー!汝がマスター 遠坂凛が令呪をもって命ずる!限界を超えて出力!あのほころびに大穴をあけなさい!」

 

「了解だ!マスター!」

 

I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

その瞬間、アーチャーからとてつもない魔力を感じる…これがアーチャーの本気の一撃、ということか。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

そしてそのほころびはガラスのように砕け散り、俺たちは脱出することに成功した。

 

「あ〜あ、お兄ちゃん逃げちゃったあ...あの子も寂しそう」

 

「また一緒に遊べるわ、ありす 楽しみにしましょう」

 

〜〜〜〜

 

「マスター、あの時は本当に危なかったんですからね!反省してますか!?」

 

「うん、ごめんねセイバー、あの時は頭に血がのぼって…反省してるよ」

 

「ですがマスター…あなたが助けに来てくれた時、すごく嬉しかったですよ」

 

「セイバー…」

 

確かにあの時は危なかった、命の危機だったはずなのに今のセイバーの笑顔で疲れなどは吹き飛んでしまっていた。

助けられてよかった、本当に心からそう思った。

 

「コホン、ちょっといいかしら?」

 

あ、遠坂を忘れていた。

そういえば自分が遠坂を巻き込んでしまったのだ、謝らないと。

 

「遠坂、ごめん、今回君を巻き込んだのは俺の責任だ。

それに令呪まで使わせてしまって...」

 

「ああ、もう終わったことを蒸し返さないの。

それより白野くん…あなたの対戦相手のことで話があるのよ」

 

やっぱり遠坂は頼りになる、冷酷に振舞っているが遠坂も面倒見がいいのだろう、いつも自分を助けてくれる。

今回も存分に頼らせてもらうとしよう。

 

 

 



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十七話

「…手合わせしてわかったわ、あなたの対戦者のこと。私は最初は固有結界を使うって聞いてたから私はてっきり魔術に特化したキャスターだと思っていたの」

 

自分も初めはそう思っていた、そう、あのバーサーカーを見るまでは。

 

「その通り、彼女達が呼び出したあのジャバウォックという怪物の凶悪な性能はまさにバーサーカー並だったわ」

 

「つまり、彼女たちのサーヴァントはキャスターとバーサーカー...ってことか?」

 

「違うわ白野くん、サーヴァントは一人に一つ。これは聖杯戦争のルールよ、簡単に覆すことはできないわ」

 

そういえば…ありすはあの巨人のことをサーヴァントじゃないと言っていた、じゃああの巨人はどういうことだろうか?

 

「おそらく怪物はあの黒い方の少女が使役しているんでしょうね、そして固有結界も展開できるなんてかなり破格のサーヴァントよ」

 

つまりはありすのサーヴァントはキャスターであの怪物はキャスターが使役している、ということだろうか。

 

「そしてそのサーヴァントに魔力を供給しているマスターも規格外よ、あんなことは私にはもちろんレオにもできない。

サーヴァントが使う魔力の負荷はマスターにかかる、あれほどの魔力は人間の脳や魔術回路程度じゃ身体が持たない、生きた人間じゃ脳が焼き切れてしまうわ」

 

生きた人間じゃあれほどの出力を持つサーヴァントを使役できない、まさか...

 

「そう、あの少女の肉体はすでに死んでいて霊子化した精神だけの状態ならあれほどの魔力を生みだせるのも頷けるわ。

脳が焼き切れることがないからリミッターが存在しなくなるってことね」

 

じゃあつまり…俺はもうこの世にいないはずの少女と戦わなければいけないのか…

 

「あまり気持ちのいい話ではありませんが…それが事実ならあの少女は魂だけの存在ということですか。

マスターには悪いですがこれは戦い…それに相手はもう死人、情けなどするだけ無駄です」

 

「岸波くん、少しは覚悟ができたと思ってたけど全然できてなかったのね。

倒す相手がとっくに死んでいたくらいでへこむなんて…自分の手を汚さなかっただけでもラッキーだと思いなさい」

 

普段は温厚な物腰のセイバーが厳しい言葉を突きつける、普段の振る舞いを見ると忘れかけてしまうがセイバーも英霊だ。

その言葉からセイバーが過去の戦いでどれだけ血生臭い戦いをしてきたのかが分かる。

遠坂もセイバーも彼女達なりに励ましてくれているのだろう、だがなぜ既に死んでいるはずの少女を聖杯は利用して対戦相手に選ぶのだろうか…

 

「マスター、お気持ちは分かりますが今はあなたが勝つことに集中してください。…情けをかけてその果てに貴方が死ぬ、なんて笑い話にもなりませんから」

 

「わかってる、わかってるんだよセイバー…でも俺は何だか割り切れないよ…」

 

「…ま、後は私にできることは無いわね、図書室で調べるなり何なりして対策を練るかしなさいよ。

…それじゃあね。白野くん、セイバー」

 

図書室…そういえばありすはあの怪物を倒すにはヴォーパルの剣が必要だと言っていた、図書室に行けば何か手がかりが見つかるかもしれない。

 

「相変わらずリンさんはお人好しですね。ではマスター、明日は図書室に行きましょうか」

 

現状ではそうするしかない、自分は戦うしかないと頭では分かっているのに俺には素直に割り切ることができなかった。

 

〜〜〜〜

 

「何かお探しですか?」

 

俺は今、図書室に来ていた。

すると図書室を管理しているNPCが声をかけてきた。

 

「えっと、ヴォーパルの剣って知ってますか?」

 

「ヴォーパルの剣ですね、それなら普通の小説ではなく”鏡の国のアリス”にでてくるジャバウォックの詩というものに出てきます」

 

なるほど、いくら探してもヴォーパルの剣なんて本は出てこないわけだ。

なら、その本を探せばいいのだろうか?

 

「ごきげんよう、岸波さん」

 

そう言って現れたのはラニだった。そういえばラニは図書室によく来ているらしいし鏡の国のアリスの場所などもわかるだろうか?

 

「鏡の国のアリス…ですか。読んだことはあります、何か調べものですか?」

 

「うん、ヴォーパルの剣っていうのがその本に出てくるらしいから…」

 

「ヴォーパルの剣ですか…師から聞いたことがあります、特定対象にのみ有効な魔術礼装ですね」

 

「その剣が必要なんだ、どうやって作るかとか分かる?」

 

「錬金の素材さえあれば錬成することも可能ですが…よろしければ私がお作りしましょうか?」

 

「作れるのか?」

 

「はい。素材さえあればすぐにでも」

 

ヴォーパルの剣は作ることができるのか、ならば素材を集めてラニに渡せばいいということだろうか。

 

「何が必要なの?ラニ」

 

「マラカイトという宝石です、購買部でも売っていましたしお金に余裕があるのならそこで買ってみてはどうでしょう?」

 

ありがとう、とラニにお礼を言って購買部に走る お金ならこれまでの戦いでかなり貯まっている、これなら例え宝石でも買えるはずだ。

 

〜〜〜〜

 

…そう思ってた時期が俺にもありました。

何だこの値段!こんなの誰が買えるんだ?

すると後ろから聞き覚えのある声がした。

 

「おや?そこにいるのは岸波白野かね?」

 

…しまった。見つかった。この人を人とも思わないどす黒いオーラを放っているような人物なんて俺は一人しか知らない。

 

「どうしたのかね…ククク、そういえば最近マラカイトを仕入れたのだが少々高くてね、誰も買ってくれなくて困っている、今なら大サービスで君にあげてもいいが?」

 

「やったー!これで宝石をゲットすることができますね、マスター」

 

「おやセイバー、私はタダでやるなんて一言も言っていないぞ?www」

 

いつになく言峰神父は嫌らしい笑みを浮かべそのマカライトをあげる条件を言う、その内容は…

 

「激辛麻婆豆腐を十杯食べてもらおうか」

「無理です、諦めましょうマスター」

 

即答である、ここまで麻婆が苦手だったのか、まあ麻婆豆腐自体は量も少ないし二人ならばいけるだろうと自分は思うのだが…

それに何より美味しい。今の俺ならペロリと食べることができるだろう。

 

「無理です!マスターは良くても私が無理です!私あれ嫌いです!」

 

「何せ作りすぎてしまってね、このままでは品質が悪くなり麻婆豆腐が腐ってしまう。まあ、量がどうしても多いというのであれば八杯でもかまわないが、どうする少年?」

 

ぜひやります、と答えて嫌々セイバーも隣に座る、そしてとてつもない大きさの皿に麻婆豆腐が八杯分注がれた…セイバーの方に。

 

「なんで私の方だけ!?」

 

「おっとすまないww手が滑ってしまったようだwww」

 

「絶対嘘だ!顔が笑ってますし!」

 

流石にセイバーが可哀想なので半分くらい自分が貰う、そして四杯目を食べ終わった時ふとセイバーの方を見ると…

 

…目が死んでいた。

 

「あはははは〜みなさん、私のお見舞いに来てくれたんですか、何か懐かしいですね…」

 

まずい、今にも昇天しそうになっている。

このままじゃまずいと思い、慌ててセイバーを起こし残りの麻婆を食べる、うえっ…流石に食べ過ぎて吐きそうだ…そして約束の品を言峰神父から受け取る。

 

「ちっ…貴様が食べるとはな。まあいい、これが約束のマカライトだ」

 

今舌打ちしなかったかこの神父!?…やはりこいつは捻くれているな。とても神父がする行動じゃない、まあこいつの性根が悪いと言うことくらいわかってはいたが。

 

〜〜〜〜

 

俺たちは貰ったマカライトをラニに渡し、休憩してからアリーナへと向かっていた。

 

「また酷い目に遭いました…あの神父め…絶対許さん…」

 

「セイバーは辛いものが苦手なんだね」

 

「あれは辛すぎです!あれは言うなら災害です…代わりに食べてくれてありがとうございました、マスター」

 

「大丈夫だよ、それにセイバーはいつも俺を助けてくれるからな、たまには俺もいい所を見せないと」

 

「そうね、お姉ちゃんは隙がありすぎるものね」

 

確かにセイバーは戦い以外では結構抜けているところが…って!

 

「ありす!?っていうか何?その格好…」

 

ありすの服装はいつもと違っていた、いや、いつもとは同じだったのだが上に何か羽織っていた。サイズが合っていないのだろうか、ズルズルと引きずりながら歩いている。

 

「久しぶり、お兄ちゃん。これはね、わたしがここに来る時に上から落ちてきたの」

 

「へー、でもそれありす用じゃないよな?袖のサイズとかあってないし」

 

「そうよ、それに使うことないから捨てようかと思って…「返して下さい!!!!!」

 

ん?セイバー?珍しくセイバーが取り乱している、セイバーの言動から察するに余程大切なものらしい。

 

「それ私のです!返して下さい!」

 

「へぇー、これお姉ちゃんのなんだ…じゃあ私を捕まえてみて!じゃあおにごっこスタートね!」

 

「な、待って下さい!あ、アリーナに…追いますよ!マスター!」

 

「待ってセイバー!そんなに引っ張らないで!そんなに走ったら麻婆が…ウッ!」

 

セイバーに引っ張られ無理矢理走らされる。その時俺はまずいと感じていた。何故なら俺は先程麻婆を9杯食べたのだ、間髪入れずにこんなに走ったら…戻してしまう。

 

「待ってください!くっ、すみませんマスター!お許しください!」

 

うおおおお、とセイバーは俺を放り出しありすをものすごい速度で追いかけていく。

くそ…俺は…こんなところで…吐くわけには…

「ごきげんよう、岸波さん。頼まれたものが出来上がったのでお届けに来たのですが…」

 

あ…ラニ…ありが…と…

そういって俺は我慢の限界が来て窓から綺麗な虹を口から放出することになった。

 

 

 

 

……帰ったら仕置きだぞセイバー。

 

 

 



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十八話

みんな大好きあの方が友情出演します


「よ、ようやく追い詰めましたよ…ゼェ…」

 

「むー、お姉ちゃんしつこいなー」

 

今私はこの女の子を捕まえに来ていた、何故追いかけていたかというと、この子が私の大切なものを持って逃げたからだ。

マスターには後でちゃんと謝ろう…怒るだろうなあ…

 

「さあ、返して下さい」

 

「わたしはいらないけどそう言われると逆に返したくなくなっちゃうなあ…」

 

「なっ!そ、そうだ!じゃあ私のこんぺいとう半分あげます!それでどうですか?」

 

「半分?全部の間違いでしょ?」

 

「そんなぁ!」

 

そんな…私が楽しみにとっておいたこんぺいとうが…

 

「ほらさーん、にーい、いー…」

 

「わかりました!わかりましたよ!…はい、これです…」

 

「お姉ちゃん、ありがとう!じゃあ返すね」

 

返ってきて喜んだのも束の間、何ということでしょう!所々に穴が開き、もはや原型をとどめていないではありませんか!

 

「ちょっと!ボロボロになってるじゃないですかあ!やっと見つけたのにぃ…」

 

「泣いてるの?お姉ちゃん、泣いてる姿もとってもかわいいわ!ね、アリス?」

 

「ええ、とってもかわいいわねありす。

でもお姉ちゃん、それは最初からボロボロになってたわよ?」

 

そんなはずは…ん?あれはたしか…私がマスターに召喚されるちょっと前のこと…

 

〜〜〜

 

「ちょっと○○○!今回は協力プレイだから投げるのはナシって言ったのはそっちですよ!?」

 

「ナシといったなあれは嘘じゃ!ふん、人斬り風情が正々堂々を語るとは...腑抜けたものじゃのぅ?」

 

「この...いいですよ!もうあなたが泡になっても割ってあげませんからね!」

 

「へへーん、ワシの引き立て役の癖に調子に乗った罰じゃ!一生泡になっておれ!…あ」

 

「あ!あとすこしだったのに!もうすぐでクリアだったのに!あなたという人はいつもいつも…今日という今日はもう許しません…このプリン私が食べてやります!」

 

「な!それは限定品でワシは徹夜で並んで買ったのじゃぞ!…よくも…覚悟せい!」

 

「というか私がいないと何もクリアできないとかゲーム下手くそすぎワロタ」

 

「利用されてることにも気づかないでノコノコゲームしにくるとかアホすぎワロタ」

 

「「…………。」」

 

「「この野郎!」」

 

〜〜ケンカ中(殴り合い)〜〜

 

「あ!何処かで私を呼んでる声がします!」

 

「逃がさぬ!食べ物の恨みは怖いんじゃ!○○○○!」

 

「なっ…こんな所で宝具を…早く行かなくては!とうっ!」

 

〜〜〜〜

 

はっ!そういえばマスターに会う前に宝具を喰らってしまったような…まさかその時に?

おのれ…どこまでも私の邪魔をして…次会ったらボコボコにしてやります…

 

「「バイバイお姉ちゃん、こんぺいとうありがとね!」」

 

はあ…これどうしましょう…このままでは本来の性能が発揮されません…

取り敢えずマスターの所に戻るとしましょう…

 

〜〜〜〜

 

「おかえりセイバー、大切なものをありす達に返してもらえた?」

 

「え、ええ…こんぺいとうと引き換えに返してくれました、すみません…折角マスターがプレゼントしてくれたのに…」

 

「気にしないで、あれくらい何時でもプレゼントするよ。ところで、返してもらったものは?」

 

「あ、あれは少々汚れてしまっていたので桜さんに洗濯してもらうよう頼みました」

(汚れるどころか穴だらけのボロボロですが...直せるらしいのでよかったですが)

 

「そうか、ならよかった、それでセイバー。

ヴォーパルの剣ができたらしくてさ、これを使えるのはマスターだけらしい。

そこら辺を踏まえて作戦を立てよう」

 

「はい!頑張りましょうね、マスター!」

 

「……ところでセイバー」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「…今俺はね、とても怒ってるんだ。

どこかの誰かさんに麻婆をたらふく食べたお腹を揺らされ挙げ句の果てには置いていかれる、何てことがあったおかげで俺はどうなったと思う?」

 

「さ、さあ?ど、どうなったんですか?」

 

「……ゲロを吐いてしまったんだよ、事もあろうに女の子の前でね。

これがラニだから何も言わなかったものの遠坂の前だったらどうなっていたと思う?…俺は確実にゲロ波くんと呼ばれていただろう…」

 

「だ、誰でしょうねぇ〜、ゲロを吐くまで走らせる人なんて私には分かりませんねぇ……テヘッ♡」

 

「セイバーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!!!」

 

〜〜〜〜

 

…いつも俺はこれまでの戦いでは相手が強大だったからこそ必死にマスターとして戦えた。

だけど…今回は立場が逆だ。

ダンも、シンジも、自分などより遥かに聖杯に近い願望を持つ者だった。

 

…ありすは自ら聖杯戦争に飛び込んだわけではない、彼女にとっては絵本の中の物語のようなものなのだ

 

「マスターは優しいですから、あんな小さな子は倒せない…など思っているのでしょうね」

 

「…俺にはあの子たちが敵意を持って襲って来たとは思えないんだ、ユリウスのような殺気をまるで感じなかった。

まさか、本当に遊びのつもりで襲ってきたんじゃ…」

 

「無垢な子供の遊びほど残酷なことはありませんよ、マスター」

 

「でも…」

 

「マスター、お気持ちは痛いほど分かります。…ですがあなたはこれまでの戦いで一体何を学んだのですか?

命を奪った相手に恥じない戦いをするのでしょう?なら覚悟を決めてください」

 

…そうだ、自分は教わったばかりじゃないか。

なのに相手は小さい子供という理由で俺は戦うことから目をそらしていただけじゃないか。

 

「よかったです…あ、そういえばマスター、いろんな戦いがあったので私経験値が結構たまっているのですが」

 

「いつもセイバーには支えてもらってばかりだな…本当にありがとう、じゃあ明日は教会にいってから決戦場へ行こうか」

 

「そうですね、早く元のステータスに戻りたいですし」

 

そうだった、セイバーのステータスが低下しているのは俺のマスターとしての才能が乏しいからだ。

こんな自分に文句一つ言わずについて来てくれるセイバーに改めて感謝する。

 

「明日勝とうね…セイバー」

 

「はい、一緒に生き残りましょうね!マスター!」

 

何度も交わした決戦前のやり取り。

もう彼女たちを倒すことに迷いはない、といったら嘘になるがセイバーの言う通り俺は命を奪った相手に恥じない戦いをすると誓った

例えこの手が汚れるしてももう後戻りはできない、明日自分が生き残るために俺はあの少女達を…殺す。

 

 

 

 




今回でてきたセイバーと一緒にゲームしていたのは誰なのか...
モロバレでしょうけど心の中に秘めておいてください


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十九話

右手に名前も書いたし、あとは教会にいってセイバーのステータスをあげるだけだ。

 

「はい、改竄終わったわよ」

 

「どれどれ…おお!敏捷がAに、それに筋力がDになってる!」

 

すごい、これ程までにステータスがあがるなんて、セイバーはどれ程敵を倒したのだろうか?

 

「あはは…それがあの子を追いかけている時にエネミーが沢山出てきたので…片っ端から切り刻みました!」

 

そんな怖いこと笑顔で言わないで!

ま、まあとにかく…強くなったのはいいことだし、決勝場へと急ぐとしよう。

 

〜〜〜〜

 

エレベーターに乗り込む、そして相手はもう乗り込んでいたのだろう、すぐにエレベーターは発進する。

そして…エレベーターの明かりが点いて対戦相手が目の前にいた。

 

「今日もまた遊べるね」

 

「そうねありす、何をする?おにごっこ?かくれんぼ?それともおままごと?」

 

「わたしはおにごっこがいいな、お兄ちゃんがしんじゃうまで追いかけるの」

 

「うん、逃げたら追いかけたくなっちゃうよね、ウサギとか」

 

「逃げられちゃったら悲しいわ」

 

「逃げられないようにいっぱい走らなきゃ」

 

「走るのは好きだけど…お兄ちゃん捕まってくれるかしら?」

 

「つかまるよ!そしてつかまえたら首をチョン切っちゃうの!」

 

「オニだもんね!それくらいのことはしなきゃね」

 

これは最近学習したことだが…笑顔で怖いことを言われる方が普通に言われるより何倍も怖い…というか。

 

「ね、ねえ…」

 

「じゃましないでよ!お兄ちゃんとは話してないよ!」

 

「ええ、わたしはありすと話しているのだもの」

 

一言声をかけただけでこれである。 自分はさっきからありす達と全く会話をしていないのに話が進んでしまっている。 まあ敵同士なのだから話をして仲を深めるという事にも意味があるのかと言われたら無いのだが。

 

「そうよ、わたしはアリスだけと話すの」

 

「わたしのことを嫌うならお兄ちゃんなんていらないの」

 

「お兄ちゃんなんていらないの、邪魔なの」

 

…何だろう、自分は嫌われるようなことをしただろうか?と、その時決戦場に到着し、ありすと向かい合わせの形になる。

 

「気にすることはありません、好かれようが嫌われようが殺し合うことに変わりはありませんから」

 

「…でもお兄ちゃん達がどうしてもって言うなら今日だけは遊んであげる」

 

「いっぱい遊ぼうね、お兄ちゃん」

 

遊ぶ…か。 それはこの前のように?

 

「そうだよ、この前は逃げられちゃったけどもう逃がしてあげないよ」

 

「たとえお兄ちゃんがいなくなってもわたしはアリスと遊ぶもの。とっても楽しい、とっても幸せ」

 

「今日はお姉ちゃんもまぜてあげる、みんなで遊んだ方が楽しいものね!」

 

 

 

「子供の遊びをする気はありません、私も子供は好きですがこれからは大人の戦いの時間です、本気の戦いと言うものを教えてあげましょう」

 

現実には終わりがある、哀しいと思うが永遠に続く夢などないということを教えてあげよう。

 

「ありがとね、お兄ちゃん、あたしお兄ちゃんと遊ぶのとても楽しかったよ」

 

「ええ、今までの誰よりも楽しかったわ。 でももういいの、あなたはいらないわ、お兄ちゃん」

 

「”あわれで哀しいトミーサム、いろいろここまでご苦労様、でもぼうけんはお終いよ

だってもうじき夢のなか、夜のとばりは落ちきった、あなたの首もポトンと落ちる”」

 

「さあ、嘘みたいに殺してあげる!ページを閉じて、さよならね!」

 

姿が消える、敵のクラスはキャスターだ。

どこか遠いところへ移動したはず、まずは何処にいったかを探さなければ。

 

「”ここでは誰もがただのモノ、鳥は鳥で人は人でもいいじゃない、あなたのお名前いただくわ"」

 

「くっ…」

 

これは…固有結界か!このままじゃ前みたいに何もかも忘れてしまう…

 

「マスター!右手です!右手に名前を残したはずです、確かめてください」

 

ああそうか、思い出したぞ、俺のやるべき事を。

 

「俺の名は…岸波白野」

 

ピシッ

何かが砕ける音がする、やはり遠坂の推測は間違っていなかった。 物事にはルールが必ずありこの固有結界は自分の名前を思い出せれば何も怖く無いという事だ。

 

「あ、お兄ちゃん”名無しの森”を解いちゃったあ…」

 

「手に名前を書いておくなんてずるいわ。あの子にお仕置きしてもらいましょう」

 

「マスター!来ます!」

 

「行きなさい!ジャバウォック!」

 

こいつを倒す為の剣…ヴォーパルの剣は俺しか使えない。こいつは俺が倒すしかない! だけど…セイバーとアーチャー二人を同時に相手に出来るこいつに単身で突っ込むことはできない。 ここは…

 

「隙を作るんだ!頼むぞセイバー!gain_agi(32)!」

 

「任せて下さい!はああっ!」

 

縮地を使い、目にも留まらぬ速度でセイバーは敵を切り刻んでいく、だがあの怪物は斬られたところからどんどん再生していく。

 

「忌々しい再生能力は健在ですか…どうにかして隙を作らなくては」

 

「ugoaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

相手は首を落としても、腹に風穴があいても怯まず向かってくる、相手もどんどんセイバーの速さに慣れてきている。

このままじゃセイバーが捕まるのは時間の問題だ…どうする?いや、ならば逆に…

 

「く…私のスピードについて来ようとしてますね、このままでは…かはっ!?」

 

「ugoaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

セイバーが押されてきている、病弱スキルがあるということもありやはりセイバーには長期戦は向いていない、短期決戦でありすを倒すのが一番だったのだが…

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」

 

な、なんだ!いきなり咆哮を上げたと思ったら周囲の物が衝撃で吹き飛んでいく、そしてそれは俺やセイバーも例外ではなかった。

 

「うわっ!」

 

「くっ!…ヤツは!ヤツはどこですか!?」

 

上、右、左、後ろ、どこを見てもジャバウォックがいない、あの巨体で隠れるところなんて…はっ!

 

「下だ!セイバー!」

 

「下…?まさか!」

 

そして突如足元が崩れセイバーの足が掴まれ、壁に叩きつけられる。

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」

 

「うあ…かはっ…」

 

そして大きな腕がセイバーに振り下ろされる、だがやらせない!今が最大のチャンスだ!

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

「ugoaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!」

 

背中を切り裂く、そしてジャバウォックは悲鳴を上げ一瞬動きを止める。

 

「ジャバウォック…?あれは、ヴォーパルの剣?お兄ちゃん、見つけたんだ…」

 

「傷口が…再生しない!今だセイバー!」

 

「はい!その首貰い受けます!」

 

そして怪物ジャバウォックは動きを止めた、固有結界を打ち破り、ジャバウォックも倒した、もうこれでアリス達に戦う手段はないはずだ。

 

「ジャバウォック負けちゃった…お兄ちゃんの勝ちだね」

 

「マスター、悲しいとは思いますが心を決めて下さい。…ご指示を」

 

「まだ…まだだよ!ありすの物語は私が終わらせない!」

 

アリスはまだ諦めていないのか本を取り出し魔術を行使しようとする。 だがもうこの範囲は既に剣の間合い。 魔術師が剣士に近接戦闘で勝てる道理はない。 せめて楽にと思った時、ありすはいきなり頭から血を流し苦痛に呻いていた。

 

「うっ!かふっ!…うう.…アリス…いたいよお…」

 

ありす!?ついに自分のサーヴァントの出力に耐えきれなくなってきている、あんなに血みどろになって…

 

「もうやめろアリス!そんなことしてもありすが苦しむだけだ!」

 

「いやよ!折角お友達を手に入れたんだもの! ありすは私のものなの!こんな所で終わりたくない! イヤ!」

 

「…終わらせよう、セイバー」

 

「…はい、マスター」

 

セイバーの突きが炸裂し、剣がアリスの腹部を貫く。この瞬間、三回戦の勝者が決まった。

そして今回も勝者と敗者を分かつ壁が姿を現した。

 

「うう…まだ…まだ終わってないんだから…」

 

「…もういいよ、アリス。わたしね、本当はわかってたよ、きっと…何もかもなくなっちゃうって…」

 

「な、何を言っているの?ありす…?」

 

「だって…よく覚えてないけれど…わたしはもう死んでるもの…」

 

ありす…本当は気づいていたのか…

 

「あの病院にいた頃からわたしには何もなかった。

誰もわたしをみてくれなかった。

ひとりだった。

いたかった。

…だれもわたしを人間として扱ってくれなかった。

でもありすが友達になってくれて嬉しかった、誰かがわたしのことを見てくれたのが嬉しかった。

…ねぇ…お兄ちゃんはわたしのこと…見てくれた?」

 

「ああ…ありす、また一緒に遊ぼうな」

 

「…お兄ちゃんは…優しいね…ほんとはもうちょっと遊びたかったけど…バイバイ」

 

「ありす…わたしもありすと一緒にいられて、幸せだったよ…」

〜〜〜〜

 

…これが聖杯戦争のルール。

何度も経験しているとはいえ、こんなものが当然なのだとは思いたくなかった。

 



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二十話

少女は消えた。

少女の死を望んでいたわけではなく、何を望んでいたわけでもない。これが聖杯戦争の、戦いの道理であることは理解している。

ただあの少女は二度と還らないだけ、その事実が胸に重い。

そんな時に話しかけてきたのはレオだった。

 

「死を…哀れんでいるのですね。命が失われるのは悲しいことです、それがこのような無慈悲な戦いであればなおのこと」

 

「…え?」

 

意外だった。

最良のサーヴァントを従え、自身の勝利のため殺し屋まで雇っている有力者がこんな言葉をかけてくるとは思わなかった。

 

「無慈悲…?無意味じゃなくて?」

 

「はい、憎しみではなく互いに同じ目的を持ったまま戦うしかなかった。 人としての心を持ったまま人を殺めるのはとても哀しい。

あなたの哀しみも彼女の痛みも認めます。

世界に徹底した管理と秩序を、欠乏がなければ争いは生まれません、人々に完全な平等を…それがこの世界のあるべき姿だ。

…そうでしょう?白野さん」

 

少年の言葉は抗いがたい毒のようだった。ありすの死で傷んだ心にその言葉は穏やかに染み込んでいく。

俺は…

 

「ひっどい勧誘だこと。 右も左もわからないそいつによくもまあ堂々とつけ込めるもんだわ」

 

「…遠坂?」

 

「おや?何か言いたいことでも?」

 

「今のはハーウェイの西欧財閥にとっての理想よね、あなたたちハーウェイの管理都市なら知ってるわ。

階級に応じた生活が保障されている不安要素のない平穏な世界…

どこにも行けない、どこにも行く必要がない楽園…

けれどあそこには自由がない、未来がない、あそこにいる人々はただ生きているだけ」

 

「ミス遠坂、あなたの言い分はわかります、生きるための戦いを肯定するのもいいでしょう、ですが…」

 

「あなたはすべての人間があなたのように強くあれるとでも思っているのですか?」

 

遠坂が押し黙る、それは遠坂も気づいてはいたのだろう。

人間はみんな遠坂のように強いわけじゃない。

 

「あなたは脱落する人間がいるのなら自分が助ければいいと思っている、だから貴方では僕に勝てない。

人間を救いたいなら人間を捨てなければならない…支配者は必要なんです、あなたでは無理だ、そして今の僕にも…

 

だけど聖杯の力があれば…地上すべてこの星を照らす光になれる」

 

「…ふん、まあ平行線だとは思っていたけどね…OK、よーくわかったわ。 やっぱり私と貴方は相容れない、アンタの理想とやらはここで私が握りつぶす」

 

「つまり僕を倒すと?」

 

「そうでもしなきゃアンタを止められないならね」

 

「そうですか…楽しみにしていますよ」

 

レオは去っていった。

お互いの意見は対立していたがどちらも信念というものを感じた

 

「白野くん…私、次の勝負も生き残ってみせるわ、絶対に西欧財閥に聖杯は渡さない」

 

…レオの言い分は共感はできた。

争いのない世界?なるほどそれは素晴らしい。世界には支配者が必要?確かに支配者は必要だろう。

…だが何故か自分は認めることができなかった、それはどこか違う...俺はそう思ってしまった。

 

〜〜〜〜

 

「セイバー、俺は自分に何もないまま人の命を奪うのが辛かった」

 

自分の方が価値がある。自分の方が生き残るべきだ。

そう言い張れるだけの根拠がない。

今の自分には本当に何もないのだから。

 

「…あの二人には信念がある、命をかけられるほどの強い信念が」

 

だから見つけなくとも立派でなくてもいい、いつか彼らと決戦場出会う時に戦う理由として恥じない何かを…

 

「…この短期間で成長しましたね、マスター、ですがあなたは優しすぎます。

その甘さが自身の身を滅ぼすことになりそうで私は怖いです…

もう嫌なんです、自分の大切な人が死んでしまうのは…マスターは私の前からいなくなったりしませんよね?」

 

「当たり前だよ、俺はセイバーと一緒にこの聖杯戦争を勝ち抜く…どんな姿になっても君からは離れない」

 

それは…呪いとも呼べる二人の契約。俺は今、自分の体にそう思い込むことで呪いを残した。 絶対に生きて帰れるように、セイバーと共に。こんなものは所詮口約束に過ぎない。だが悲しそうなセイバーの顔を見ていると自然と言葉が出た。 絶対にセイバーの前からいなくなったりしない。 自然と心に誓っていた。

視聴覚室を通り過ぎようとした時、かすかだが声が聞こえた。

この声は…ユリウス?どうやら何か呪文を唱えているようだが…

 

「ちっ…これ以上探るのは危険か、あと僅かだったのだがな。決戦場ともなるとセキュリティは最高レベルか…くそっ」

 

動く気配がする、見つかるわけにはいかないので急いで物陰に隠れる

そしてそのままユリウスは視聴覚室の扉を開けたまま立ち去ってしまった。

 

「よし…行こう」

 

「注意しながら進んでくださいね、マスター」

 

そして視聴覚室に踏み込む、そこには黒板に映し出すようにスクリーンが下りている。

 

「あの映写機…なんか怪しいですね」

 

言われてみるとその映写機の周りには何か違和感を感じた。

 

「確かに何かコードキャストを使った形跡がある…この機械でユリウスは一体何を…うっ!」

 

「マスター!」

 

なんだこれは。複雑なプログラムが頭の中に入ってくる。

頭が…焼ける!?

 

熱い

 

熱い

 

熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

 

途端に体から力が抜ける、ああ、俺は死ぬのか…

 

「マスター!起きてくださいマスター!」

 

「…ああ、大丈夫だよ、セイバー」

 

なんだ今のは…幻覚?

 

「見てください、マスター」

 

そしてセイバーの指差す方を見てみると、先程の映写機に遠坂が戦っている様子が映し出されていた。

 

「まさかこの映像は…今遠坂が戦っているところなのか!?」

 

おそらくユリウスの仕業だろう、この端末を使いいずれ相手となる敵の情報収集をしていたということだ。

…だが何故そんなことができるのに途中で退室したんだ、何か意図があるのか、それともなにか問題が…

 

「!次の遠坂の対戦相手は…ラニ!?」

 

そして遠坂近くにはアーチャーが、ラニの近くにはあれは...槍?ならばラニのサーヴァントはランサー?だろうか?

 

その武器で双方共に弾き、払い、受け。

軌道を追うことすらできずわかるのは火花がその存在を示しているということだけ。

威力においてはラニが勝っていると言えるが遠坂の方も押されてはおらずむしろ…

 

「このまま行けばリンさんが勝ちますね」

 

搦め手、というやつだろう確かに威力においてならラニのサーヴァントが優位に立つだろうが…

だが、それだけだ。

あのように何度も同じ攻撃の繰り返しでは遠坂に勝つことはできないだろう…

そして今の攻防で分かったがラニのサーヴァントはバーサーカーだ、殲滅力では最高峰の強さを誇るがその反面、理性が失われていてああやって単調な攻撃しかできないという欠点がある。

 

「はい、ラニさんもそれは分かっているでしょう、ですが分かっていても覆す手段が無い、これは相当に歯がゆいでしょうね…」

 

突然、剣戟が止んだ。そして両者の距離が開く。

動いたのはラニだ、サーヴァントが構え、ラニの胸に光が集まり力が、エネルギーがどんどん溜まっていく。

それはこの画面越しでもわかるエネルギーの量だった

 

「……申し訳ありません、師よ。

あなたにいただいた身体と心をお返しします。

 

全高速思考、乗速、無制限!

 

北天に舵(モード・オシリス)

任務継続を不可能と判断…

入手が叶わぬ場合、月と共に自爆せよ

これより最後の命令を実行します…!」

 

「ちょっと、何それ!?アトラスのホムンクルスってのはそこまでデタラメなの!?」

 

馬鹿げている!自殺行為なんてものじゃ無い。

あの魔力の質量では凛どころか決戦場そのものが崩壊しかねないんじゃないか!?

 

「令呪を使いましたね」

 

いや、それだけじゃない。きっとラニの体には元からこういった機能があったのだ。

 

「魔術回路の臨海収束…!捨て身にしたって程がある、そんなのただの自爆じゃない…」

 

「さてどうするリン、このままでは私達は塵も残らず消滅してしまうだろう、魔術破りの類いなら私も知識はあるが…あれは無理だな。 使おうとすれば従者に消しとばされるのは目に見えている」

 

「そう、いいわよ、相手がその気ならこっちも全力でやってやろうじゃない!

ラニの心臓、アレは本物の第五真説要素(エーテルライト)よ!

爆縮させたらアリーナくらい余裕で吹き飛ぶわ!その前に...あなたの全力で中心を破壊して!」

 

「了解だ!マスター!」

 

これだけの魔力の衝突だ、たとえこの勝負に勝ったとしても無事では済まないはず、さらに言えばどちらも死ぬかもしれない…俺はここで決着がつくまで見ていることしかできないのか…

ふと、左手が見える、そこにはセイバーとの契約の証、そしてあらゆる奇跡を可能とする令呪がある。

 

「マスター、まさか救いたいなどと考えてますか?」

 

「凛とラニは何も知らない俺を今まで助けてくれた、その二人を助けられる可能性があるのにこのまま見ているなんて俺にはできない」

 

「確かにその令呪があれば移動してどちらかを連れ帰ることも可能でしょう。なら帰りはどうしますか?まさかまた令呪を使いますか?

敵を救うために貴重な令呪を?そんなことを本気でするつもりですか?」

 

「…ああ、馬鹿げているとは思うが俺は二人を救いたい。頼む、セイバー」

 

命令を下すとセイバーは不満の声も表情も見せることなく即座に動いた、一刻の猶予もない。

 

「セイバーのマスター岸波白野が命ずる! この端末からアリーナまでの道を最短距離で斬り開け!」

 

「はい!飛びますよ!マスター!」

 

 

 

 



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二十一話

今回ちょっと多いです



目を開けると、そこは決戦場だった。大気中に放電する魔力の火花、ラニを中心にアリーナは融溶しだしている。

 

「は、白野くん!?嘘でしょう、どうやってここに!?」

 

「今は説明してる時間はない!ラニ!自爆を止める方法はないのか!」

 

「…はい、一度自爆を決行させたら解除することはできません…さらに私のサーヴァントには令呪を使って任務遂行を強化させてあります

…もう誰にも止められません」

 

”アリーナに第三者の介入者あり、規定に従い20秒後に強制退出します”

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーー!」

 

バーサーカーが咆哮をあげ、その衝撃で遠坂は壁に激突し気絶する。バーサーカーは俺たちを侵入者だと認識し、こちらを排除しに来ようとしていた。

 

「セイバー!軌道をそらすだけでいい!俺も魔力を回すから全力で凌いでくれ!」

 

そしてセイバーはバーサーカーの弓矢を軌道を逸らそうとする…だがバーサーカーの弓は少し威力が弱まっただけで真っ直ぐこちらへ向かってくる。

…くそ、ダメか…

 

「”熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”!」

 

助けてくれたのは赤い弓兵…アーチャーだった。

目の前に七つの花弁の盾を出現させ、バーサーカーの投擲を完全に防ぎ俺を守ってくれていた。

 

「助かったよ、アーチャー」

 

とは言ったもののラニはあと20秒もしないうちに自爆するだろう、セラフの強制退出じゃ間に合わない。 …一体どうすれば。

 

「ふん、貴様らは此処へ何をしに来た、足を引っ張りに来たのか?違うだろう。…ならば、後の事…リンは任せた。 残り20秒、ここからはオレが請け負ってやる」

 

そう言うとアーチャーは両手の双剣を消し代わりに巨大な斧剣を出現させる、だがその反動が大きいのか身体中の魔術回路が悲鳴を上げ血管から血を流していた。

 

「チッ、流石にこの投影は反動が大きいか…完璧に再現する事は今の魔力では厳しいな…」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーー!!!」

 

そして激しいつばぜり合いになりアーチャーは一瞬たじろぐがなんとかバーサーカーを吹き飛ばす。

その隙を見失わず弓を取り出し、バーサーカーが向かってきているのに見向きもせずラニに向かって弓を引き絞った。

 

I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーー!!!」

 

激しい砂埃が舞う、アーチャーの本気の一撃は確実にラニの心臓を狙っていた。

結果はどうなったのだろうか…

 

「う…ああ…」

 

アーチャーが放った弓はラニに向かっていき…その心臓を的確に射抜いていた。

 

セラフの強制退出が作動し、自分は遠坂を抱えて脱出する、そしてアーチャーにも脱出するよう呼びかけるが...

 

「アーチャー!お前…」

 

「なんとか間に合ったか…ああ、この怪我のことなら気にするな、戦場ではよくある話だ。 …だが少々無理をしすぎた、オレはここいらでお暇をもらうとしよう」

 

アーチャーは右半身をバーサーカーに吹き飛ばされ、今にも消滅しそうになりながらもいつもの皮肉な笑みを浮かべていた。

 

「正直な所、マスターを無傷で守りきれる自信がなくてね、君が来てくれて助かった。…リンは怒るだろうが、まあ勘弁してほしい。 …後のことは任せたぞ、岸波白野」

 

「アーチャー……!」

 

アーチャーを残してセラフの強制退出が始まる、アーチャーの声は何処か寂しそうでもあったが何処か満足したようでもあった様に聞こえた。

 

〜〜〜〜

 

目がさめるとそこは保健室だった。

その左手には冷めた熱とともに数を減らした令呪。そして寝ている凛とラニ。

傍には消耗して俺のベットに潜り込んで寝てしまっているセイバー。うん、可愛い。

 

「起きましたか、先輩。 遠坂さんなら一度起きたんですが…立ち上がった瞬間に溜まっていた疲労がピークに達したみたいでまた眠っちゃいましたよ?」

 

そうか、なら良かった。 一度起きたということはもう体に異常はないということだ、 桜の話では健康状態に問題はないらしいしここで目覚めるまで待つとしよう。

 

「うん…?おはようございます…マスター…」

 

と思ったら遠坂より先にセイバーが起きてしまった

 

「おはよう、よく眠れた?」

 

「はい、おかげさまで…って…はあ…」

 

セイバーが溜息を吐く、やっぱり令呪を使ってしまったことを怒っているのだろうか?

 

「はい、ものすごく怒ってます、そりゃもう怒るを通り越して呆れたというくらいです」

 

「あの時は不満なんてなさそうだったのに…」

 

「あったに決まってます!自分のマスターが危険なところに向かうなんて本当は死ぬほど嫌だったんですよ!?

…ですがあの様に真摯に頼まれたら断れないじゃないですか…」

 

もうそろそろ遠坂が目覚めそうになっている、その気配を察してセイバーは霊体化する。

 

「マスター?これで終わったわけではありませんよ?おしおk...お説教はまた後ほど…」

 

何か恐ろしい事聞こえた様な気がするが気のせいだろう。

だってあんなに笑顔が眩しいセイバーが怖い言葉を言うわけないじゃないか!

…うわーい、楽しみだなぁ…セイバーとのお話…

 

「アンタなんて事してくれてんのよ!」

 

開口一番、怒られた。

 

「なんで助けにとか来ちゃってんのよ!…私が死にそうだったからとか?ふん、勝算なら十分にあったんだから。

ラニの自爆は確かに脅威だったけど私のアーチャーならサーヴァントごとラニを止められたわ。…それに、ちょっと見せなさいよ。…はあ、やっぱり令呪使っちゃってる」

 

…聖杯戦争で使える令呪は2つ、最後の令呪は使用した途端に聖杯戦争の参加資格が奪われてしまう、つまりはあと一回しか使えないという事だ。

 

「あんな無茶そうじゃないかと思ったけど…この後の戦いあんたどうする気よ?」

 

「後のことは何も考えてなかった…でも後悔はないよ」

 

「反省しなさい!バカ!」

 

酷い言われようだ。まさか人助けでここまで怒られるとは思わなかった。

 

「…まあいいわ、なんか納得いかないけど一応お礼は言っとく、ありがと。私は勝敗が決まる前にアリーナから出たから令呪は剥奪されてない。 …けど勝者出ないものにはもう対戦は組まれない、この矛盾わかる?

…今の私は生き残るのはただ一人である聖杯戦争のシステムから外れたイレギュラーな存在なんだと思うわ」

 

凛は令呪を確認するがそこには灰色になった令呪が存在するだけだった。

 

「まあ正直言うとあの戦い、勝っても深刻なダメージは避けられなかった。次かその次できっと負けてたわ、それなら今の立ち位置の方が可能性はある。

聖杯は無理だけどレオを倒せれば私の目的は達成と言えるんだし。

…それでも最後までアーチャーと一緒に戦いたかったとは思うけど…ダメね、そんなのは心の贅肉だわ。

…ごめん、本当は少し感謝してる、ありがと」

 

照れているのか拗ねているのかなんだか複雑な表情をしている。

 

「ここからが大事な話よ!あなたどうやって私たちの戦いに介入できたのよ!」

 

遠坂にとっては今までのは前座だったらしい。

これからマイルームに戻ってもこっちは恐ろしいことが待ち受けてるっていうのに…まったくやれやれだぜ。

 

「決戦場のセキュリティレベルは最高レベル-あの障壁を破ろうとすれば攻性プログラムで逆に脳が焼かれるはず… いったいどんな手を使ったのよ?」

 

遠坂に頬をつままれながら事の経緯を説明する、視聴覚室での事、そこでの映写機での事。

 

「…その話は本当ですか?」

 

そしてラニがおきる、がその胸にはアーチャーに開けられたはずの穴が無くなっていた。

 

「私のの身体はそういう風に作られましたから…私も爆発でサーヴァントを失ってしまいました、私を爆風から守って…

…おそらく私も遠坂凛と同じ状況に置かれているのでしょう」

 

「アーチャーをやられた恨みはあれど、聖杯戦争から外れたならあんたと戦う理由はこちらにはないわ」

 

「岸波白野さん、あなたは本体の脳が焼かれても平気だった…それが何を意味するのかわかりますか?」

 

ここに来る前に失った記憶。 さっき見た夢の事といい妙な胸騒ぎがする。 本音を言うとその先の答えを聞きたくなかった。

 

「私の仮説が正しければ…岸波白野…あなたは人間ではありません」

 

「な、何言ってんだよ…いきなりひどいなラニ。俺は人間だよ」

 

「ラニの話を聞いて確信した部分もある、私もそこからたどり着いた答えをはっきり言うわ。白野くん、あなたひょっとして本体がないんじゃないの?」

 

「本体が…ない?」

 

「言葉通りの意味よ、他のマスターはみんな魂をデータ化してここに来ている、でもあなたは違うあなたは今データしかない状態なのよ。

攻性プログラムに攻撃されても大丈夫なのはあなたが本体と繋がってないから、どこにも繋がっていないから本体の脳が焼かれることもない、なぜならあなたはただのデータにすぎないから」

 

…待ってくれ。それじゃあ俺はこの戦いで勝ったとしても戻る肉体がない、なぜなら俺はあの言峰神父のようなNPCでしかないから…

…ならば俺が戦う意味なんて…

 

「待ちなさい、何か勘違いしてるわね。 本体がないっていっても単に繋がってないだけだから、予選を通過した時にトラブルがあったってこと、つまりそれが原因よ。

その時に肉体とのリンクが途切れて修復できないままここまで来たってこと。

当たり前よね、自分の肉体と接続が途切れているんだから記憶が曖昧なのも頷けるわ」

 

「なるほど、記憶は思い出せないのではなく肉体から引き出せなかっただけなのか…」

 

「そう、つまり途切れたリンクを回復させればあなたの記憶が取り戻せるってこと。 セラフ解析のついでにあなたの肉体くらい探してあげるわ、ちょっと時間かかるけど我慢してよね」

 

でもよかった…これで記憶が戻る。

そうすれば自分はどんな人生を歩んできたのか、なぜこの戦いに参加したのか知ることができる。

これで俺も胸を張って戦えるはずだ。

 

「ラニ!」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺は君が生まれたところがどんなところかは知らないけれど自爆してまで任務を遂げさせる考えは間違っていると思う。

お師さんにもらった命を大切にして生き残ることを考えよう」

 

「…はい!」

 

そして電子手帳が鳴る、いつもの対戦相手の発表かと思ったが...どうやら違うようだ。

 

”至急マスターの皆さんは体育館に集まってください”

 

なんだろうと思いながら体育館に向かう、マスターということはもう遠坂たちは関係ない。

俺はまだ怒っているセイバーと一緒に体育館に向かうのであった。

 



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二十二話

「ラン、ラン、ルー♪」

 

彼女は他のマスターを殺していた、だが決戦場ではなく無差別に、である。

 

「ウーン、ナカナカオナカニハイラナイ」

 

そして殺して首だけになったマスターを弄び、食べようとして、また止めて投げ捨てる。

 

「これはこれは…かなり派手に壊してくれたものだな。 3人のマスターの血では足りないかね? …マスター・ランルーとそのサーヴァント…ランサー」

 

「ふん、貴様はコトミネか…直属のNPCもどきがここへ何をしに来た」

 

「一つ提案だ、私とゲームをしないか?」

 

神父はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら問いを投げる。

ランサーは槍を突き出すが神父は鮮やかに躱し懐に潜り込み正拳を繰り出した。 もっとも、ダメージを与えることはできなかったし、与える気もなかっただろうが。

 

「ははは、そういきり立つなランサー。単純な趣向だ、見たまえ。

君たちは人が好きなようだからな、私が用意しておいた。…諸君!君たちもそろそろ単純な決闘だけでは飽きてきたと思ってね。 本戦から外れて私から少し違う趣向を用意させてもらった。

…この2人は度重なる警告を無視し破壊活動を続けてきた」

 

「警告?食事を寄越してきたの間違いではないか、コトミネよ」

 

「…ふん、聖杯戦争の監督役として彼らにペナルティを与えねばならない、ただここで私が彼らを処分してもつまらないのでね。

集まったマスター諸君とゲーム…”狩猟”をしてもらおう。獲物は違反者マスター・ランルーとそのサーヴァント、ランサーだ。

この2人を見事仕留めたマスターには報酬を与えよう」

 

報酬?それは何だろうか、相手はマスターを3人も殺している…そんな奴を倒すというのだ。

それ相応のリスクに見合ったものじゃないと割に合わない。

 

「報酬は4回戦対戦相手の戦闘データの情報開示…というのはどうだね?もちろん今から校舎内での戦闘もアリとしよう」

 

何だって!何てものを報酬にするんだ、これでは自分の情報が対戦相手に漏れたら容易に対策を取られてしまうという事。 もしそれが自分の情報だった場合負けるのは自分達だ。

 

「コトミネよ、我らが他のマスターをすべて返り討ちにした場合報酬はどうなるのだ?」

 

「その場合は今までのペナルティの白紙、処分の取り消しだ。 それに対戦相手がいなくなれば君たちも自動的に聖杯に近づくことになる」

 

「イイヨランサー、モウランルー君オナカペコペコダヨ。 ヒトツクライハスキナモノアルカモシレナイシ」

 

「…ふむ…善し!善し!善し!乗った! 我が槍に貫かれたいものは前に出たまえ! 串刺しの時間である!血の晩餐である!」

 

そして数名のマスターが動きランサー討伐に立ち上がる、だがランサーは数の差をものともせず敵を串刺しにしていく。 多対一であそこまで戦える技量、そして何より固い。 あの槍を突破して更に倒すのはかなりの苦労が必要だろう。

 

「神父も悪趣味なことをしますね、というかあのランサーかなりのやり手ですが…どうしますかマスター?」

 

「このまま放っておくわけにはいかない、俺たちも…」

 

「岸波白野、あなたも来ていましたか。あの二人はあなたの次の対戦相手だそうですね。 彼女がなぜ異常な行動に出るのか分かりませんが、彼女が持つ魔術回路は天性のものです」

 

現れたのはレオだった、自分達の次の対戦相手は見ていなかったのでわからなかった。

というか…彼女…?

 

「あの人…女性なのか?」

 

「ええ、マスター・ランルーは女性ですよ。 このゲーム、傍観するマスターもいるようですがあなたはどうしますか?」

 

あの二人、複数のマスター相手に戦い慣れしている…相手にするにはかなりのリスクがある。

と、自分たちが迷っている時に他のマスターが動いていた。

 

「うおい!待てセイバー!何でお前はいつも考えもなく突っ込むんだ!」

 

「心配すんな!そう簡単にしなねぇからよ!」

 

そのサーヴァントは見た目は一見普通の少女だった。が、戦い方は獰猛な獣のようで乱暴というか荒々しかった。

その少女はまったく隙の無い嵐のような連撃であのランサー相手にかなり優勢な戦いをしていた。

 

「オラオラどうしたぁ!動きが遅くなってるぞ!てめえそれでもランサーか!」

 

「ふはは!活きがいいな実に結構!」

 

ランサーもまだ打ち合ってはいるが徐々に体に傷がついてきている。

このままいけば負けるのは明白だ、それにランサーが遅くなっているのではない、少女がどんどん加速しているのだ。

 

「おや?あそこにいるのは…ふふ、やはり彼もこの戦いに参加していたようですね」

 

「レオもですか、私もあの少女には見覚えがあります、生前の縁というやつですね」

 

この二人はどちらも知り合いらしい、まあこの聖杯戦争は大規模だしこういうこともあるのだろう。

 

「…僕が出ましょう。このまま聖杯戦争の進行が止まってしまうのも困りますので…ガウェイン!」

 

「…あ?ガウェインだと?」

 

少女が一瞬ガウェインに反応したがガウェインは全く気にもせずランサーに斬りかかる。

 

「…アララ、公爵ガウェインガ出テキチャッタ、モウアレツカッチャッテモイーヨ」

 

「御意、我が妻よ」

 

敵の魔力が大幅に高まる、おそらくランサーが宝具を解放する。

そしてあの少女は即座に反応しマスターを回収しその場から離脱し二階に飛び乗っていた。

 

串刺城塞(カズィクル・ベイ)!」

 

その瞬間、ガウェインの足元や至る所から串刺しにするための槍がどんどん溢れ出る。

それに刺さって死んでしまう者、その場にいたことで巻き添えを食らって力が抜けて動けなくなる者などがいた。

 

「これがランサーの宝具…」

 

「流石ヴラド三世、吸血鬼らしい宝具ですね」

 

「き、吸血鬼!?」

 

「ええ、”串刺し公ドラキュラ”の方が名前の通りが良いでしょうか」

 

なるほど、相手の力を奪ったりその槍で串刺にしたりという宝具か、かなり厄介だ…

 

「プロメテーーーウス!この世に神は在れど吸血鬼など存在するはずがないッ!」

 

「この程度の不浄は私には通りません」

 

何か力を吸われて立ち上がれなくなり叫んでいる人がいたような気がするが気のせいだろう。

 

「マスター、見ましたか?いくらガウェインのステータスが高いと言っても宝具まで通さない程の防御力はありえません、あれはスキルの類でしょうね」

 

セイバーの言う通り、いかに化け物じみている強さと言っても宝具を受けて無傷というのは流石にありえない。 ガウェインが保有しているスキルに何か秘密があるとみて間違いないだろう。

 

「(ぬぅ...ガウェインとセイバーが健在…このままでは及び腰だった他のマスターも参戦してくるであろう…不利である…)」

 

「ここは一旦引きますぞ!妻よ」

 

そういってランサーは体育館から逃げていった、レオは全く追おうとしない、追わないのだろうか?

 

「岸波さん…化け物退治はあなたに譲ります。何せ僕は用事があるので…貴方の戦いを見れないのは誠に残念ですが健闘を祈ります。

…それに彼らが逃げた方角は保健室です、急いだ方がよろしいかと」

 

まずい!あそこには凛とラニがいる、あの二人は今サーヴァントがいない、もし巻き込まれたら…

 

「急ぎますよ!マスター!」

 

最初は俺はただ敵から逃げるだけだった、だが今は手にすることができる剣がある。遠坂達を絶対に守ってみせる!

 

〜〜〜〜

 

「…岸波白野…あなたは本当に面白い人だ。見せてもらいますよ、あなたの実力を…さて」

 

「随分と余裕じゃねえか、西欧財閥の当主さんよ?」

 

「逆にそちらには随分と余裕がないようですね、まだ大人になっていない少女まで引き入れるとは、レジスタンスのリーダー…

…獅子劫界離さん」

 

「はあ…やっぱり凛の奴は参加しやがったか。まあいい、言っても聞かない奴だったしな。 まあ今はそんな事より目の前の敵。 ここであったのも何かの縁だ、その首ここに置いて行け…行くぞセイバー!」

 

「蛮族の怒りを鎮めるのも王の務め、お相手いたしましょう、行きますよガウェイン」

 

…二人の優勝候補が互いに相手を見据え、今まさに激突しようとしていた。

 

 




作者はアポを知らないので獅子劫さんのキャラなどはよくわかっていません
なのでこの獅子劫さんはアポの獅子劫さんと見た目が似てるだけで性格などは違うと思います
一応タグは付け足しますので大丈夫…なはず


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二十三話

ランルー君の話し方が読みにくいかと思います


くっ…もう手持ちの宝石がきれる、まさかこんなに堂々とマスター狩りをする奴らがいるなんて….

 

「このッ...ガンド!」

 

ガンドは私が一番最初に覚えた得意魔術で比較的燃費もよく使いやすい魔術だ

だがその魔術はいともたやすく切り裂かれる、たしかに一時的な時間稼ぎを目的とした一撃でそこまで魔力は込めていなかったがこんなにあっさり潰されるとは思ってもみなかったし、ショックでもあった

 

「フハハハ!粘るな小娘!…だがサーヴァントを呼び出さないとはどのような了見だ?」

 

「くっ…」

 

「置いていかれたか…では憐れみをくれてやろう」

 

「ごめん白野くん、私、先にいくわね...」

 

目前に槍が迫る、できればラニにだけでもこの事を伝えて逃げて欲しかったけどそれすらも出来なかった。時間稼ぎも出来ないなんて私はまだまだ未熟だ…諦めかけたその時私の前に立ちふさがる人がいた

 

〜〜〜〜

 

体育館を出て保健室へと急ぐ、ここからなら裏口に回った方が速いはずだ

それに保健室には遠坂達がいる、ランサーが来てしまったら流石の二人でもサーヴァントがいない状態では太刀打ちできないだろう

そして廊下を走っていく、その先に揉み合っているランサーと遠坂がいた

今にも殺されそうになっていた遠坂を見た瞬間、俺は走り出していた

 

「マスター!?待って下さい!」

 

セイバーの言葉も耳に入らず遠坂の元へ走っていく、殺させるものか絶対守ってやる!

 

「ではな小娘、せめてひと思いに殺してやろう」

 

前に出る、英霊相手に防御なんて無いも同然だがやらないよりはマシと判断し最大まで両腕を魔力で強化し相手の槍を防御する...

 

「ぐ、ぐうあああああああ!」

 

防御した筈の両腕が豆腐のように容易く貫通され心臓に達する寸前で止まる、奴があと少しでも力を入れていたら俺は死んでいた...

 

「なに?新手か…フハハハ!やるではないか小僧!両腕を犠牲にしてまで娘を守るか!」

 

「はあああっ!」

 

その瞬間、セイバーの突きが炸裂しランサーを吹き飛ばす、だが運悪く鎧に当たり突きの威力が軽減されてしまった

そしてこの状況は最悪だ、遠坂を助けるためとはいえ両腕が使い物にならなくなった、骨まで完璧に砕かれてしまいもう腕が上がらない、サポートなど全くできない

…でもここで退くわけにはいかない、ここで退いたら凛が死ぬ、例え死んでも退くものか!

 

「はあ...はあ...相手を間違えるなランサー

お前の相手は俺たちだ!」

 

「フフ、フハハハハハハハ!善い!善いぞ!妻よ!見よあの極上の供物達を!

その曇りなき気高き瞳には空に浮かぶ月すら霞む!ああ、俺は其方達を貫かずにはいられない!何故なら一一一そう、お前達は美しい。

愛ゆえに!俺はお前達が愛おしい!愛するが故にお前達を殺したくて仕方がない!

今ここで血祭りを繰り広げてもよろしいか!?我が妻よ!」

 

「…白野さん」

 

「駄目よ、ラニ

私たちは令呪を剥奪されている、正当防衛ならともかく表立ってこの戦闘に介入すれば運営がどう動くかわからない」

 

「しかし…」

 

「白野くんなら大丈夫よ、あいつはこういう時は強いんだから…」

 

 

「セイバー…魔力は回す、何とかあいつに勝ってくれ」

 

「もちろんです、後でマスターにこんぺいとうを買ってもらうためにもここで負けるわけにはいきませんからね!」

 

…そういえば後で何か罰を受けるんだった、色々ありすぎてすっかり忘れてたけどこんぺいとうって…

まだありすの事根にもってたんだな、セイバー

 

そして英霊同士の戦いが始まる、ランサーはあの少女の言っていた通り動きが鈍く敏捷においてはセイバーが圧倒的に有利だった、がランサーは凛のアーチャー以上に防御に関しては上手かった。なるほど、これなら多対一で戦えたことにも納得がいく

 

(懐に入り込めない…こんなに狭い所であんな長い槍は振るいにくいはずなのに…)

 

「フハハハ!なめるなよ小娘!貴様等を我が妻に捧げるまでは我は倒れん!そして貴様の頼みは敏捷だな?…ならばそのスピード、封じさせてもらう!」

 

いきなりランサーがセイバーから狙いを外しこちらへ突進してくる、俺は動けない、動けたとしてもこの狭い廊下では逃げ場がない

 

「させません!うっ…」

 

「フハハハハ!さあさあさあ!気を抜くなよ!抜くと愛するマスターが串刺しだぞ!」

 

今のところセイバーは何とか捌いているが自分達が足手まといになっている所為で得意のスピードが生かせていない、このままでは…

 

「キミノサーヴァントモガンバルネ

…キミ、彼女ノコト好キ?」

 

いつの間にか背後に敵マスターがいた、自分に話しかけてきているが突然なにを…

 

「彼女、キミノコトヲマッスグ見テル

キミノタメニアンナニ傷ツイテ、キミヲ守タメニアンナニボロボロニナッテ…マルデ命クチハテルマデ戦イツヅケルカノヨウニ」

 

「耳を貸さないで下さい!こいつらは敵です!敵の言うことなんか…がはっ!」

 

「懐ががら空きだぞ?セイバー!」

 

セイバーが殴り飛ばされる、耐久が低いこともあってかなりのダメージを受けている

ランサーもダメージは受けているがまだまだ戦闘を続けるだけの体力は残っているだろう

 

「ランルー君モネ、愛シテルモノアッタンダ

イチバン愛シタノハランルー君ノベイビー

小サクテ柔ラカイトッテモカワイイベイビー

ダケドモウイナイ、ランルー君ガ愛シタモノハミンナ無クナル…

…ゴチソウ無クナルノトテモ悲シイ」

 

いなくなった…?そういえば彼女はお腹がすいたとも言っていた、まさか…自分の子を…

 

「ケヒャヒャ!オ腹ガスイタラ悲シクナルヨ、ゴチソウノナイ世界ナンテツマラナイ

ダカラランルー君ハ聖杯ニオ願イスルンダ

世界中ノミンナノコト好キニナレマスヨウニッテ、ソシタラゴチソウイッパイ食ベラレル」

 

「何と美しい!その姿にこそオレはかつて失った愛を見た!愛がなければ生存できぬ!

愛を求めてもがき続ける!

これほど純粋な殉教を貴様らは狂っているなどとほざくのか!」

 

倒れているセイバーに向かって槍を突き付ける、そしてセイバーに駆け寄る暇もなく…セイバーは胸を貫かれた

 

「すみません……マスター……」

 

「…セイバー…?セイバーぁぁぁ!!!!」

 

セイバーとの魔力の繋がりがどんどん薄くなっていく、自分が死んでしまうことより大切な人を失う方が何倍も辛い、セイバーを失った痛みで目から涙が溢れて止まらない

 

「ふはは!待っているがいい妻よ!其方の満たされぬ腹にようやく肉が戻るのだ!」

 

そして俺にもランサーが近寄ってくる、 串刺しにしようと追い込んでくる…望むところだ、セイバーを失ったからと言って絶望して背を向けて死ぬなんてあり得ない

死ぬというのならせめて真っ向から貫かれて死んでやる!

 

「岸波くん!セイバーはまだ生きてる!今すぐ治療を施せばまだ間に合うわ!」

 

この声は…凛?セイバーが、生きてる?

よかった…生きていてくれた、そしてセイバーが生きているのなら俺が死ぬわけにはいかない、全力で頭を回転させ、最善の策を考える

 

「ふん、運良く致命傷は避けたようだな…だが治療などさせるわけがなかろう、ここで貴様を殺して終わりだ!」

 

このままでは俺は死ぬ、でもセイバーは死んでいない、生きている、治療をすれば治るらしいが腕は負傷していて回復のコードキャストは使えない

だが俺にはもう一つだけ使える魔術がある!

 

「セイバーのマスター 岸波白野が令呪をもって命ずる!全快しろ!セイバー!」

 

「ぬぅ!?しまっ…ぐ!?」

 

その瞬間、ランサーの腕が宙を舞う、そして丸腰になったランサーにセイバーは斬りかかる

 

「…その首貰い受けます!」

 

セイバーは鎧に覆われていない首を狙い容赦なくランサーの首を斬り落とした、ギリギリだったが何とか勝てた…

 

「公爵死ンジャウノ?ジャア食べナイト…

トッテモ悲シイケド食べナイト…」

 

「(……食べる食べると望みながらその実倒した相手をひと口もしなかった哀しい女よ…正気を失いながらもまだ其方は人間だった、この身は貴女に愛される資格がない、それではしばしのお暇をいただこう…)」

 

この戦いで俺は流石に無茶をし過ぎてしまった、もう立っているのも辛く目眩がしてくる、セイバーが駆け寄ってきている

そして相手のマスターが消滅した事を確かに確認して…俺は地面に倒れこんだ

 

「本当にお疲れ様です、マスター、ゆっくりおやすみください」

 

そう言って優しく抱きしめてくれたセイバーの目にはとめどなく涙が溢れていた

 




令呪はこんな風に使っても大丈夫ですよね?
まあ独自設定ということにすれば何とかなるか…


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二十四話

若干キャラ崩壊注意です


目が覚めるとそこはマイルームのベッドだった、ボロボロだった体も治っており隣には疲れて寝てしまったのかセイバーが添い寝してくれている

 

「…あ、おはようございます…マスター」

 

おはよう、と返してセイバーの頭を撫でる

そして俺たちは4回戦の相手が不在になってしまったため不戦勝で突破したことになった

 

「それにしても…」

 

ランサーはかなり手強かった、いつにも増して消耗が激しかったし、気がかりなのがもう一つ…それはセイバーの真名だ

セイバーは俺をマスターとして見極めてから真名を明かすと話していた、その時はまだ来ていないのか、思い切ってこちらから尋ねてみようか

 

「マスター?」

 

「あ…」

 

いやよそう、彼女が頑なに真名を秘密にしているのには理由がある、きっと俺にも知られたくない過去が…

…詮索するのはやめよう、セイバーがどんな人であってももう受け入れる覚悟はできてるんだ

今は知らなくてもいい、いつかセイバーが教えてくれるならそれでいい

 

「あ…いやそういえば遠坂やラニはどうなったんだ?」

 

「あの二人なら私が寝る前にはここにいたのですが…何処に行ったんでしょうね?」

 

あの二人のことだから何かあるんだろうが俺はすることがないし食堂にでも行こうかな?

…こんぺいとうとか必要だし

 

「岸波くん、居る?」

 

と、その時遠坂の声が聞こえた

部屋の前に来ているらしくノックの音が聴こえる、ドアを開けるとそこには大きな人を抱えた遠坂とラニがいた

 

「…誘拐?」

 

「失礼ね、ぶっ飛ばすわよ!この人は私の恩師なの、ほっとくわけにもいかないし保健室が使えなくなったからここに置きにきたのよ」

 

へぇー、遠坂の知り合いもいたのか、と思いながら少し気になったことを話す

 

「保健室が使えなくなった?どういうことだ?」

 

「ああ…それはね」

 

「それは体育館で暴動が起きてそれに巻き込まれた人たちが保健室に運ばれたからです」

 

「ちょっとラニ!今私が言おうとしたのに!」

 

「別にいいではありませんか、あなたは些か喋りすぎです」

 

気のせいかラニがムスッとしている、今まで喋らせてもらえなかったのが余程頭にきていたようだ

ん?暴動?…というかこの人何処かで見たような…

あ!たしかランサーに突っ込んでいった人だ

 

「マスター、あの二人は放っておいて購買部行きましょう!約束ですしね!」

 

そうだった、でも流石に二人を放っておくわけにもいかないのでケンカを鎮めにいくとしよう

 

「おーい、二人共…」

 

「喋り過ぎって何よ!まだ少ししか話してないでしょ!」

 

「今日だけの話ではありません!あなたはいつも白野さんと話しているではないですか!」

 

二人共踏んでる!凛に至っては恩師とまで言ってたのにめっちゃゲシゲシ踏んでるよ!

ほらなんか「うぐ...」とか言ってるし!絶対もうそろそろ起きるよあの人!?

 

「はっ!上等!じゃあ勝負よ!勝ったら白野君を1日自由にしていいってことで!」

 

「いいでしょう、本気になったアトラスの力を見せてあげましょう」

 

「待ってください!凛さん、ラニさん」

 

ああもうなんか始まってるし…セイバーさん、ここでビシッと言ってやって!

 

「その勝負、私も参加させてもらいます!」

 

そっち!?ちょっと!止めてよセイバーさん!?

 

「ならば俺も参加させてもらうぜ…」

 

なんか乗っかってきた!起きてるし!でもこの人とてもカッコよく言っているのに踏まれてるせいで台無しになってる…痛くないのかな

 

「おい凛!いい加減どけ!重いわ!」

 

「あ、ごめんなさい界離さん、よし、ならトランプで勝負よ」

 

「いいでしょう…トランプで何をするのですか?」

 

「1.2…5、そうね…この人数ならダウトかしらね、他にもいろいろあるけど、心理戦アリの方が楽しいでしょ」

 

あの〜何か俺も入ってるんですけど…俺が勝ったらどうするつもりなんだろう

 

「あ、セイバーはダウト知ってるの?」

 

「大丈夫ですよ、遊んだことはあります」

 

ならよかった、かくして俺の1日自由権をかけたダウトが始まった

 

三回行った結果、全てセイバーの圧勝だった

というかセイバー強すぎ…何で嘘ついたのが分かるんだ…

 

「ふっふっふ…とある人のおかげでゲームの類はほとんど網羅しましたからね、ゲームなら得意なんですよ!さあ!私の勝ちですね、凛さん、ラニさん、ついでに…えっと…グラさん?」

 

「名前わからないなら無理して言うな…こっちが悲しくなるから…獅子劫だ」

 

さて、セイバーが勝ったということは…いつも通りだな、じゃあ予定した通り購買部にでも行こうか

 

「はい!行きましょうマスター!」

 

「くっ…何で仕込んだのに負けるのよ…何かイカサマしてるんじゃないの?」

 

「計算外です…くっ…チェスなら例え4対1でも勝てるというのに…」

 

なんかブツブツ言っている二人は放っておいて行こうかセイバー、そういってマイルームを出ようとする、すると獅子劫さんが話しかけてきた

 

「おい小僧ちょっと待ちな、ちょっと話がある、なに、時間は取らないから安心してくれ

凛を助けてくれたんだってな?あ〜、なんだ

ありがとよ、皆を代表して礼を言う

…まあそれだけだ、悪かったな時間を取らせちまって」

 

「気にしないでください、体が勝手に動いただけですよ」

 

「謙遜するな、今あいつが生きてんのはお前のおかげだ…あいつは優秀だが少しお転婆な所がある、レジスタンスには同じ年頃の奴がいなくてな、お前さんが嫌じゃなかったらあいつと友達になってやってくれ」

 

そういって獅子劫さんは自分の部屋に帰って行った、その様子を見て遠坂と同じでお人好しな人なんだなと俺は思った

 

〜〜〜

 

そしてその次の日の朝、聖杯戦争の後半、言峰からランサー討伐報酬の相手の情報と共に5回戦の開幕を告げるアラームが鳴った

 

マスター#ユリウス・ベルキスクvsマスター#岸波白野

 




ちなみに今のセイバーのステータスは
筋力:C、敏捷:A+で他は全部Eとなっております、教会には1日自由行動の時に行きました


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二十五話

俺たちはアリーナに来ていた。目的はもちろんセイバーのレベルアップである。

ふと、電子手帳にメールが届いた

 

「どうかしましたか?マスター」

 

「言峰からメールが届いたんだ」

 

そしてエネミーがいなくなったことを確認してメール画面を開く、送られてきたのはハンティングゲームの報酬

次の対戦相手の戦闘データ、モニターに映っていたのは...ユリウスだった

ユリウスの戦闘データを見てみると、決闘が決まった次の瞬間、対戦相手が崩れ落ちている、勝負を決めているのはすべて…一撃

 

「一体何が起こっているんだ?ここに見えない一手があるはず…セイバー、サーヴァントが実体化せずに攻撃することは可能なのか?」

 

「私の知っている限りでは不可能です、少なくとも攻撃する前に一瞬殺気などが漏れてしまうはずですが…何かカラクリがあると見ました」

 

なるほど、やはり並のサーヴァントではないということか、それにあの男の性格ならば対戦日までに必ず奇襲を仕掛けてくるだろう

…その時に何か掴むしかない

 

「マスター、話があります

…あのユリウスさんが相手なら宝具を使わなければ勝利できない場面もあるでしょう

…宝具を開帳するという事は私の真名を知るということ…マスターは私の真名を知りたいですか?」

 

…そうか

セイバーは怖いんだ、俺に拒絶されることが、距離を作られるのが…

真名を明かすということは過去の自分がしたことを全て知られるということだ、もちろん良い事も…悪事も

 

「セイバー...俺は」

 

「…すみません、お話は後にしましょう」

 

そしてセイバーが構えた先には...ユリウスがいた

 

「…いっぱしの目をするようになったな、随分と腕を上げたようだ

…これだからわからんな、魔術師というものは

だがそれもここで終わる、決戦日まで待つ事はない、お前はここで消えろ」

 

ここでやる気か、だが何かおかしい、サーヴァントも連れずにアリーナに来るなんて自殺行為だ...一体何を考えているんだ?

 

「サーヴァントも連れずに散歩ですか?こんな所を一人で散歩でもないでしょう、いや、まさか!」

 

「推察お見事、だが些か遅いな」

 

「うっ!あがっ…」

 

セイバーがいきなり崩れ落ちる、一瞬だがセイバーの背後に凄まじい重圧を感じた

 

「(そんな…認識する事すら出来ないなんて…すみませんマスター...逃げて...下さい...)」

 

「セイバー!なんだよ…なんだよこれ!治療のコードキャストが効かない!」

 

これは普通の傷じゃないということだ、あのサーヴァントに何かされたんだ

「…ふん?」

 

「どうしたアサシン、やはり首でも削ぎとっておくか?」

 

「いや、それには及ばん、たしかに心穴を衝いた、衝いたのだが…

…まあ良しとするか、抜かりはない、いずれ死に至ろう」

 

「…セイバー、俺はまだ君と話したいことがたくさんあるんだ」

 

いつか俺の体が見つかったら、俺の記憶を取り戻したら、君に伝えたいことがたくさんあるはずなんだ…

 

「待てユリウス...まだセイバーを救う方法を教えてもらってないぞ...」

 

倒さなくては、こいつを

セイバーを救う方法を聞き出さなくては

そして俺はユリウスに突っ込んでいく、だが片っ端から傷をつけられていく

 

「うう...があっ...」

 

「いくら魔術の腕が立つマスターといえどサーヴァントの庇護なしで勝てるはずがない」

 

「そこまでだユリウス・ベルキスク、それ以上やるってんなら俺たちが相手になってやる」

 

そう言って現れたのは獅子劫さんだった、だがあの人が俺達を助ける理由はないはず、なんで俺達を助けてくれるんだ...

 

「お前には借りがあるからな、それにお前さんのサーヴァントはまだ死んでない、今は命を無駄にして特攻するよりそいつを救う方が先決だと思うが?」

 

確かにまだセイバーは消えていない、消えてないということはセイバーは生きているということだ、ならばここから離脱するしかない

 

「ありがとうございます、獅子劫さん」

 

「おう、あと礼なら凛の奴にも言っとけよ、お前が危ないって助けを求めてきたのはあいつだからな」

 

そうだったのか、そういえば凛とは電子手帳などの機能を共有したのだった、攻撃された際に電子手帳が壊れてしまったのでその異常に気付いてくれたのだろう

 

「…貴様はレジスタンスのリーダーの獅子劫界離か、邪魔をするというのなら貴様もここで排除する」

 

「急げよ岸波白野、俺もこんなとこで殺られたくねえからな…」

 

セイバーを抱えて走りだす、元来た道へと急いで引き返しその場を後にする、そして凛とラニがいるであろう保健室へと直行する

 

〜〜〜〜

 

「まずいわ…新手のウイルス?ううん、意志を持ったエネルギーというか…まるで毒血ね」

 

「…そんなにひどいのか」

 

「これは...魔術回路が乱されていますね、これではマスターからの魔力供給が受けられません、今セイバーは自分の魔力で体を保っている状態です、このまま魔力供給しなければ明日には体を維持できなくなるでしょう」

 

明日までの命...そんな...

 

「白野くん、少し時間をちょうだい

対策を考えるから…」

 

〜〜〜〜

 

俺は...無力だ...セイバーが苦しんでいるというのに何も出来ないなんて

どうすればセイバーを救える?

あのサーヴァントをどうすれば倒せる?

考えろ...考えろ...

 

「おう、ここにいたか、元気そうで何より

お主一人か?サーヴァントはどうした?」

 

こいつ...セイバーをあんな目に遭わせておいてよくもぬけぬけと...

 

「呵々、そう身構えるな!今は仕事の外、私用で気ままにブラついているだけよ」

 

「なっ…俺を殺しに来たわけじゃないのか?」

 

「そう驚くことか?まあ儂も確かにユリウスと同類だがなあ、出会った人間全てを殺してはメシを食うにも困ろうさ」

 

問答無用で相手を殺す、という訳ではないらしい

 

「儂は一戦一殺を心がけておる、一度の戦いではひとりしか殺さぬし、ひとりは必ず死んでもらう

…しかしお主のサーヴァントもなかなかやりおるわい、一瞬だが儂の拳をずらしおった

ふむ、あれだな、殺すには惜しい相手という奴か」

 

「殺すには惜しい…?ならセイバーを救えないのか?」

 

「それは聞けぬ相談だ、この拳は壊すことしかできんのだ、いや余人を生かしたことなど数えるほどもなし儂など武人を謳うには程遠い殺人鬼よ!

…故にお主のサーヴァントは自分で治せ、儂とて敵は万全でなければ愉しくない

お主とサーヴァントがもう一度立ち上がる時を待っておるぞ」

 

〜〜〜〜

 

「マスター…私はどのくらい眠っていましたか?」

 

「半日...もうすぐ夜明けだよ」

 

「あはは...あまり状況は良くなさそうですね...」

 

マスターから魔力が届かない、あの人にマスターとの繋がりを断ち切られましたか...

これじゃあ夜明けまで体を保てるかわかりませんね...ん?なんか手が温かい...?

 

「マスター、もしかしてずっと手を握っていたのですか?」

 

「…セイバーを救う方法がまだ見つからないんだ、ごめん、俺にはこんなことしかできない、本当にごめん…」

 

「大丈夫ですよ、マスター…ですがこの手を離さないで下さいね…」

 

〜〜〜〜

 

「もうすぐ夜明けね、時間がない」

 

「白野さんと連絡はとれましたか?」

 

「さっきから連絡しているのに返信がないわ、まさかもう…岸波くん!セイバー!」

 

「と…遠坂?どうしたんだそんなに慌てて…」

 

「...お、お邪魔だったかしら...オホホホ...」

 

ピシャ

そして凛は扉を一瞬で閉めた

おそらく俺とセイバーが手を握っていたから何か勘違いしていたのだろう、今度はラニも一緒に保健室に入ってくる

 

「セイバーを治す方法が見つかった?」

 

「はい、まず私の占星術を使い星詠みの波長にあわせて遠坂凛が乱された回路を見つけ修復する、上手くいけばセイバーと白野さんのリンクを取り戻せるかもしれません、サーヴァントを詠むのは初めてなので保証はできませんが...」

 

充分だ、それでもセイバーを治せる可能性があるのなら俺はそれにすがりたい

 

「頼む、ラニ、凛」

 

「任せときなさい、絶対セイバーを救ってみせるわ」

 

そうだ、俺も一応魔術師の端くれだ、何か手伝えることがあるんじゃないだろうか?

 

「え?...ない!こないで変態!白野くんは外で待機!」

 

えぇ!なんでだろう、俺はただ...

 

「絶対…中を覗いたら駄目よ...ノゾイタラコロス」

 

「はーい!絶対覗きませーん!」

 

あはは、何を言っているんだ遠坂は、この俺がそんな奴にみえるだろうか?元から何を言われても覗く気なんてこれっぽっちもないし?

まったく、俺も甘く見られたもんだな...

でもこれはあれなんじゃないか?押すなよ押すなよ的なノリなんじゃないか?それなら俺は覗かないと逆に失礼というものだ、だけど小声で殺すまで言うなんて遠坂のボケはわかりにくいなあ...でも本当に殺される可能性も無いにしもあらずなわけで...

 

「ふう、あいつが馬鹿で助かったわ」

 

「白野さんは何をしているのですか?」

 

「さあ?念仏みたいにずっと独り言を唱えてるわ」

 

「...よろしくお願いします…凛さん、ラニさん」

 

「あのね、セイバー、少しでも成功率を高めるために肌を重ねる必要があるのよ、か、重ねるだけよ

...だからお願い、大人しくしといてね?」

 

「…では、術を始めます」

 

〜〜〜〜

 

いや待てよ、よくよく考えたら俺はセイバーのマスターじゃないか、なら様子を見に行くくらい構わないんじゃないか?

 

「何してるんですか?マスター?」

 

「セイバー…?よかった戻ったのか!」

 

「はい!ただいま戻りました!マスター!」

 

セイバーが帰ってきた、ただそれだけのことなのに涙がでてきた

 

「長い1日になりましたね、マスター、今はマスターの魔力、ちゃんと感じられますよ」

 

さあ、セイバーも回復したことだしユリウス・ベルキスク、長きにわたる奴との因縁に決着をつけよう!

 



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二十六話

決戦日は明日…少しでも情報を得るために俺たちは図書室へ来ていた、そして何か掴めたら、と思って本棚を見ていたら向こうから何者かの気配がした

 

「こんにちは」

 

不意に現れたのはレオだった、何か用でもあるのだろうか?

 

「いえ、特に用はありません、ただ今のうちにお別れの挨拶をしておきます、白野さん」

 

「...お別れ?」

 

「はい、貴方の次の相手が兄さんだと聞いたものですから…貴方では兄さんには勝てない、ですからお別れの言葉を」

 

兄さん?ユリウスのことだろうか?

 

「おや?ご存じない?僕と彼は腹違いの兄弟なんです、貴方とは偽りとはいえ友人でしたので一応ご挨拶をと思いまして」

 

「随分と言ってくれるな、こちらにしても簡単に負ける気はない

…それに勝負に絶対なんてものは無い」

 

「それはそうですね、彼とて絶対ではありません...もし兄さんが敗北するならその時は不運だと思いましょう、ただ純粋に、彼には運がなかったと」

 

肉親に対して随分と冷たい態度だ、レオはユリウスの勝利を願っているんじゃないのか?

「僕の中では彼の勝敗で揺れ動くものは何もありません、最終的にこの戦いで勝ち残るのは僕なのですから、今ひととき彼の生を祈ってどうするのです」

 

「レオ…それは」

 

その瞬間首元に剣が突きつけられる…速い

まったく目で追えなかった、このままでは殺されてしまうかもしれない、ここで退いた方がいいのかもしれない、だが俺はここで退くことなどできない

 

「...目的達成のためなら実の兄すら手にかけることもためらわない、それはあまりにも感情がないんじゃないか」

 

「ですがそれは無意味な死ではありません、兄さんは僕が世界を統治するための礎になります...それは人々にとって揺るぎない成果でしょう…ガウェイン、剣を納めなさい」

 

「…はい」

 

…これがレオの考え方…世界に君臨することを約束された王者の思想

ユリウスは何を思ってこの戦いに参加しているんだろうか...

 

〜〜〜〜

 

「白野くん、私とラニで話し合ってみたけどユリウスのサーヴァントの透明化を破る方法なら一つだけあるわ」

 

あるにはあるのか、ならばその方法を教えてもらうしかないだろう、どうせ自分が考えても何も出ないのだから凛たちの考えを使わせてもらうしかない

 

「まずは透明化のスキルについて、可能性は三つよ、一つは宝具を使って周囲に同化している

二つ目は魔術を使って透明化している

三つ目は集中力に依存して気配を遮断している、この三つだと思う

それぞれの能力に反応する三種類のトラップを作ったからあなたに預けるわ」

 

「何から何までありがとうな、遠坂」

 

いつも凛には助けてもらっていて感謝してもしきれないな、そんなことを思っているとラニが話しかけてきた

 

「白野さん、私からもこれを

…目くらましのようなものです、一時的なものなので数秒しか持ちませんが」

 

「充分だよ、ありがとな、ラニ」

 

二人にここまでしてもらったんだ、明日は負けるわけにはいかない、相手の情報がない戦いは初めてだ、相手がどんな攻撃をしてくるのかもわからない、セイバーと明日に向けての作戦を考えなければ

 

〜〜〜〜

 

決戦への準備は整った

相手のサーヴァントの透明化を封じる算段もついた、後は純粋にマスターとしての能力とサーヴァントの力比べとなる

 

「………ふふ」

 

「どうしたんだセイバー?今の作戦、何かおかしいところでもあった?」

 

ふとセイバーを見てみるとセイバーは穏やかな表情で微笑んでいた、あれは喜び…というより満足げな表情だろうか、何か眩しいものを見るような目でこちらを見ていた

 

「いえ、どこもおかしいところはありませんでしたよ」

 

ならどうして...はっ!まさか制服のズボンのチャックが全開になっているとか?

…いや、なっていない...よかった、ならなんで微笑んでいたのだろうか

 

「マスター、いい顔をするようになりましたね今の貴方の目には覚悟が感じられました...もう貴方は一人前です。

...頃合いですね、マスター

私は次の戦いで全てを出しきります、切り札を温存するのはここまでです」

 

全てを出し切る、それはつまりサーヴァントの切り札の宝具を使用する、ということだろうか、だがセイバーは宝具を何処かに落としたと言っていなかったっけ?

 

「はい、ですがそれも見つかりました、使用のタイミングは任せます...お手を、マスター」

 

手を握った瞬間、セイバーの魔力が流れ込む、この宝具は...

 

「ですが勘違いしないで下さいね、宝具があろうと勝率は五分かそれ未満…というところでしょう、勝敗は一瞬で決まります」

 

「セイバー...君は...」

 

「…私のことはこの戦いに勝てたらお話します、今は目の前の戦いに集中してください」

 

そうだ、セイバーの宝具に驚きはしたがまずはユリウスとの決戦にだけ集中しよう

...次は負けない、こちらの全身全霊をもってあの暗殺者を打倒する!

 

〜〜〜〜

 

「ようこそ、決戦の地へ。

身支度は全て整えたかね?」

 

「ああ、開けてくれ」

 

「いいだろう、若き闘士よ、決戦への道は今開かれた」

 

そしてエレベーターに乗り込み、決戦場へ向けての準備をする、するとエレベーターの明かりがつき、目の前にユリウス達が見えた

 

「ほう、あれだけ痛めつけられていてまだ闘志は萎えておらんか

それに覚悟を決めた顔をしておる、呵々、あの情けない顔をしていた小僧がよくぞそこまで腕をあげた!」

 

「アサシン、無駄口は...」

 

「許せユリウス、儂の対戦相手はみな一撃で沈んでしまったゆえな、立ち上がってくる者を見ると気分がいいというものよ!

…ところでそちらのマスターは何か我が主に言いたいことでもあるのではないか?」

 

…そうだ、俺はユリウスに言いたいことがある

 

「ユリウス、お前は誰のために戦っているんだ?」

 

「……なんだと?ふざけたことを問うな、レオのために決まって……」

 

「それは違う」

 

そう、最初は俺もレオへの忠義心で戦っていると思った、だがそれは違った

 

「お前の虚ろな目にはレオは映っていない、どこか遠い違う場所を見ている

…ユリウス、お前はいったい誰のために戦っているんだ?」

 

「馬鹿なことを言うな!俺はレオの為にここにいる、レオを優勝させるために…」

 

「それは嘘だ。だったらなぜ、お前はそんなに辛そうな顔をしているんだ!ユリウス!」

 

「呵々!お主でも動揺することがあるとはなユリウス!まだまだ死人になりきるには若い、ということか?」

 

…エレベーターが動きを止める、どうやら決戦場についたようだ

 

「無駄口を叩くのはそこまでだ、行くぞ、アサシン」

 

「承知、残る試合も数少ない、思い切り楽しむとしようか!」

 

…最初は睨まれただけで体が動かなくなっていた、だが今なら怯みはしない

まっすぐに視線を受け止めて闘技場へと足を踏み入れた

 

「くははははは!滾る!滾る!やはり武とは生き死にあってのものよ!所詮は俺も血に飢えていたということか!お主らは強い、今までのどの敵よりも!さあ力比べだ!

極致のその先を見せてみろ!」

 

「本性を現しましたね、あなたの一撃必殺とも呼べるその拳...恐ろしいですが乗り越えてみせましょう!」

 

「行くぞアサシン」

 

「応、我が拳は二の打ち要らず、初撃こそ肝要...武を交える前に是を討つ、この拳、破れるかな!」

 

 



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二十七話

お久しぶりです!UAやお気に入りが増えていてとても嬉しいです!
評価してくれた人たちありがとうございます!
いつもおかしな文が目立つ作者ですがこれからも頑張るのでどうぞよろしくお願いします!


 

「gain_agi(64)!油断するなよセイバー、奴の攻撃はまともにくらっちゃダメだ」

 

「わかりました、最善を尽くします」

 

セイバーにスピード向上のコードキャストをかける、これでスピードではこちらが上を行くだろう、だがあちらにはまだ透明化がある、いつ姿を消してこちらを殺しに来てもおかしくはない

...よし、あの作戦で行こう

 

「セイバー!相手に攻撃や透明化をさせるな!今の内に倒すぞ!」

 

セイバーは瞬時に間合いを縮地で詰め、アサシンに斬りかかる、だがアサシンは剣戟の嵐ともいうべき攻撃をすべて拳で弾き飛ばしていた

 

「なっ!剣を素手で弾くなんて...やはりあなたは並の武闘家ではありませんね...」

 

そして俺はセイバーが攻撃されそうな場面で防御のコードキャストを使い、アサシンの攻撃を防御する、だがこのままではジリ貧だ、いずれは押し切られてしまうだろう

...もうそろそろか

 

「よし!頃合いだセイバー!」

 

「ん?仕切り直しか?ふむ、ならば儂も遊びは止めて本業に移ると...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………ポツーン

 

 

「「………………ハッ!?」」

 

〜〜〜〜

 

よしうまくいった、戦っている時にすごくいい雰囲気を作り、一瞬で台無しにして相手が驚いている隙に逃げる、という作戦だ、正直な所ここまでうまくいくとは思っていなかった

ふっふっふ、自分でも物凄くセコイと思うぜ...

 

「ふう…やりましたねマスター!この作戦を聞いた時はうわ...絶対うまくいかないだろ、この作戦とか思っていましたが案外うまくいくものですね!」

 

「そんなこと思ってたの!?ていうかセイバーは納得してくれてたよね!」

 

「あの時は何かいい雰囲気だったのでいえ!絶対無理です!諦めましょう!馬鹿なのとかいえる状況ではなかったというか…」

 

くっ...何気に罵倒しているのがかなり心にくる...そっか、上手くいかないと思ってたのか...いい作戦だと思ったんだけどなぁ…

 

「と、とりあえず二つ目の罠を設置しよう」

 

「あれ?一つ目の罠はもう設置したんですか?」

 

「うん、セイバーとアサシンが戦っている時にね」

 

そう、俺はセイバーとアサシンの戦いを見て次にどこへ移動するかを予測して罠を仕掛けた、だがアサシンがそこを通っても罠は何も反応を示さなかった、ということは装具...宝具などを用いて周囲に同化している、ということではないらしい

もうそろそろユリウス達も探しに来るだろう

 

「じゃあセイバー、あとは作戦通り頼む」

 

「任せてください、お気をつけて、マスター」

 

〜〜〜〜

 

「どうしたアサシン?」

 

「いや...大気がちときな臭い、だがあまりにも脆弱よ、これでは蚊も殺せまいて」

 

「…………。」

 

 

よし、もうそろそろだと思ったよ

そしてやはりアサシンは透明化を使い姿を隠している、ここはセイバーに罠の位置まで誘い込んでもらおう

 

「頼むセイバー、罠の位置は俺が指示するから何とか奴をおびき寄せてくれ」

 

「了解です」

 

〜〜〜〜

 

「チッ...岸波は何処に消えた...」

 

「どけぃ!!!ユリウス!!!」

 

突然アサシンに突き飛ばされ、何を...と言いかけた瞬間、先ほどまでいた位置に剣を振り下ろした岸波のサーヴァント...セイバーがいた

 

「ほう...真っ先に奇襲で我がマスターを狙いに来るとはな...随分と余裕がないと見える

それに今の躊躇いのなさは貴様はセイバーよりアサシンの方が適正があるのではないか?」

 

「...奇襲はただのお返しです、それに正々堂々戦え、なんて貴方達が言える立場ではないでしょう?」

 

「……ふん、死にかけていたのに威勢の良いことだ...マスターはどうした」

 

「いきなりマスターを狙われては叶いませんからね、ここからは私が相手をしましょう」

 

〜〜〜〜

 

順調だ、このままいけば奴はトラップにかかる、この対魔術トラップは魔術によって姿を隠蔽している場合に反応する、凛の予測ではこの対魔術トラップに反応するはず...

 

 

カチリ

トラップを踏んだ音がした、魔術によって透明化しているのならこれで姿が...見えない!?

アサシンのスキルは装具にも魔術にも依存していないということか

 

「……!!!何か仕掛けているな!!岸波白野!!!」

 

「気付かれた!戻れセイバー!」

 

「そこか!奴を殺せアサシン!」

 

「マスター!そこから逃げてください!」

 

「もう遅いわ!英霊でもない小僧一人、殺すことなど赤子の手をひねるようなものよ!」

 

見えないがアサシンが猛スピードで迫ってくるのがわかる、俺は避けれない、いや、避ける必要がない

 

「……残念だったな」

 

バチバチバチッ

アサシンが俺に触れようとした寸前にトラップが発動する、これが最後のトラップ、対精神トラップだ

そしてアサシンの透明化が破られ、その姿が明らかになる

 

「小僧……貴様自分を餌にしおったな」

 

「……ユリウス程の実力者ならトラップは気づかれるんじゃないかと思ってたよ

なら罠を見破られることを見越してわざと標的になり、最後のトラップを俺の周りに仕掛けた...それだけだ」

 

「くハハハハハッ!小僧、貴様天地を返しおったな!面白くなってきたぞユリウス!

あやつらの知己には天仙までいるらしい!

いやぁ 儂の気功を儂に返すとはまさに神業、見よおかげでこの通り我が”圏境”が破れおった

…ここまで傷つけられては三日四日では治るまい!」

 

圏境、それは体術の究極、気配を完全に遮断する圏境と呼ばれる境地

中華の拳法家でも一握りの人物しか到達できないという完璧な達人の証だ

これでわかった、奴はやはり拳法家だ、セイバーに攻撃した時の技は打撃の瞬間に拳に乗せた魔力を相手の体内に巡らせ全身の勁脈を乱す技

 

「驚くのは早いぞアサシン、ついでにもう一つお前の正体を暴いてやる

お前の武術、中華の拳法だな?そして”圏境”

”二の打ち要らず”、この二つを持っている拳法家なんて歴史上一人しかいない...

……李書文、これがお前の真名だ」

 

「……応よ!儂の真名まで暴いてくれるとは愉快愉快、これまでの相手は戦いにすらならなかったからな!

くびり殺すならやはり子鼠より虎の首よ!儂もまだまだ悪行からはぬけだせん!さあ、殺し合いを再開しようか!」

 

「ここが正念場ですね、マスター

透明化が破れたところで相手が弱くなるということはありません、より一層気を引き締めて戦いましょう!」

 

「アサシンの真名を解いたところで互角になるとでも思っているのか!」

 

そしてアサシンが脚で地面を割り辺りに重圧がかけられる、そしてセイバーも突っ込みアサシンとの一進一退の攻防が始まる

 

「アサシン、サポートをする」

 

「させるかユリウス!shock(64)!」

 

この戦い、セイバーはほとんどのステータスで相手に負けているはずだ、ならこれ以上相手を強くするわけにはいかない、いつも以上にユリウスとセイバーの様子に気を配り妨害、支援を的確に行う

 

「もっと速く...速く、あの拳よりも速く!」

 

「くハハハハ!滾る滾る!我が技に距離も!

速さも関係ない!……ハァッ!」

 

「…かはっ…」

 

「…儂の拳はただ壊すもの、例外はない

……む?」

 

そこに攻撃を仕掛けてくると思っていた、セイバーのガードを崩したならまた勁脈をついて動けなくするはず、その後で殺した方が確実だろう、だが何とか間に合った…防御のコードキャストだ

 

「…お主らは強い!ここまでのどの敵よりもな!…だがまだ全力ではないな?

なぜ正体を隠す?宝具を開け、全力で挑んでこい、今のままでは儂には勝てんぞ」

 

 

「…マスター、私は貴方ともっと話したい、もっと戦っていたい...今こそ宝具を使う時!この私の真の力を見せてあげましょう!」

 

もちろんだ、俺もセイバーともっと一緒にいたい、もっと話したい、もっと戦いたい!

…ならこの戦いに絶対勝たなくてはならない!いくぞセイバー!

 

「俺の魔力全てを…セイバーに捧げる

宝具を開けセイバー!全力で勝ちに行くぞ!」

 

セイバーが羽織を装着し、いつも使っている刀が変化する、そして普段とは全く違う膨大な魔力に俺は目を疑った

 

「...我が宝具こそこの身に纏いし、誓いの羽織!

……我が真名は沖田総司!新撰組一番隊隊長沖田総司だ!」

 




もうそろそろ忙しくなってくるので少し更新ペースが落ちるかもしれません...ですが未完で終わらせる気は全く無いので更新していたらお、こいつ頑張ってるな、とでも思っていてください!w


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二十八話

もうすぐイスカンダルですね、みなさんは石を貯めていたでしょうか?私はジャンヌに全力を出したせいで10連は出来ませんね...
単発でイスカンダル来るかなあ...来てくれないかなあ...


「沖田…総司…?」

 

「…はい、今まで黙っていて申し訳ありません、この戦いを無事終えたら詳しくお話ししましょう」

 

そうだ、たしかに真名のことは気になるが今は他のことを考えている場合じゃない、今はユリウスを倒す…それだけに集中しなくては。

 

「警戒しろアサシン、敵の宝具にどのような効果があるかわからん」

 

「行け!セイバー!」

 

セイバーが縮地で敵の懐へと突っ込む、その姿は普段より遥かに速くあのアサシンすらも反応が遅れていた。

 

「ほぅ…スピードは儂をはるかに上回るか…だがスピードが上がっただけでは…ぬ!?」

 

アサシンは先程のように拳で剣を弾こうとするが拳と剣がぶつかった時、傷を負ったのはアサシンの方だった。

 

「ふっ!今の私の刀をそう易々と止められると思わないことですね!…行きます!」

 

「動きが先程とは見違える程になった… なるほど貴様の宝具は自身のステータスの向上か…その様子では全てのステータスがワンランク上がっておるな?」

 

「はい、そして貴方がどのようなつもりかは知りませんがまだ本気を出さないようならこのまま何も見せずに死んで貰います」

 

「…くく、クハハハハッ!まったく世界は広いものだ、死してなお強者と渡り合うことができるとは…これほど喜ばしいことはない。

…のうユリウスよ」

 

「……集中しろアサシン、俺の死地はここではない」

 

「余裕はなし、か…よかろう!楽しむのはここまでとしようか、儂も本気を出してみるとしよう!」

 

アサシンの動きが急変する、まだセイバーの動きにはついてこれていないが先程よりセイバーの攻撃に対応してきている、それに少しずつだがセイバーに疲れが見える、やはり長期戦は俺たちには不利だ。

 

「ハァッ!」

 

そしてアサシンが拳を振り上げた場所に窪みのような穴が出現する、まさかアサシンは空気を弾として打ち出すことができるのか…!!!

 

「gain_agi(64)!gain_str(64)!」

 

正直このレベルの戦いでは相手の妨害など出来る気がしない、あのレベルのアサシンに弾丸のコードキャストが届くとも思えないし俺はセイバーの支援をして火力を少しでも底上げすることくらいしかできない。

…だがいくら敏捷や腕力を上げたところで一撃受ければ危ないという状況に変わりはない。

…それにもう俺の魔力も残り少ない。

 

「…はは、正真正銘の化け物ですね…圏境を剥ぎ取り私の宝具を解放してやっと互角の勝負とは…」

 

「セイバー…いや沖田、俺たちに残された魔力は少ない。 おそらく次の一撃が最後の勝負だ。 俺は…沖田を信じる」

 

「はい、私もマスターを信じています」

 

「来るか…いいぞ、その勝負受けて立つ! 我が拳はただ壊すのみ…貴様の技も!攻撃も!全て叩き壊してみせよう!」

 

両者どちらとも大技の構えをとる、次で決まる…この戦いの勝者が。

 

 

「…一歩音超え……二歩無間……三歩絶刀!」

「我が八極に二の打ち要らず!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”無明……三段突き”!」

「七孔噴血……撒き死ねぃ!」

 

 

 

二人の技が激突する、そして激突した際の技の衝撃で二人とも吹き飛びセイバーの方は地面に仰向けに倒れ込んでいた。

 

「そんな…セイバー!」

 

そして決着がつき何度も見た死の壁が出現する、敗者はこの中でゆっくりと死を待つのみだ。

ゆっくりとユリウスがこちらに近づいてくる。

俺が死ぬのを見届けるつもりか…ユリウス。

 

「キ…シナミ…ぐっ!」

 

なっ!?何故ユリウスが消えかけているんだ!?負けたのは俺たちのはずじゃ…

いや、微かにだがセイバーは生きていた。 という事はあの刹那の攻防で紙一重で致命傷を避けたという事だろう。

 

「李書文。貴方の心の臓は私の秘剣にて文字通り消滅しました。 どんなに強いサーヴァントでも霊核を砕かれれば死ぬ。 今宵の戦いは私たちの勝利です」

 

「……その絶技、いや見事。これ程の使い手はそうはいない。 まったく世界は広いものだ…」

 

そう言っているアサシンの腹に傷が付いていた、十中八九セイバーの技の直撃を受けたのだろう、腹には消滅したかのように穴が空いている、セイバーの方はもう返事をするのもキツイのか俺の腕に体を預けている。

 

「敗北か…懐かしいとでも言うべきか。これを味わったのは記憶の端にわずかに残るほどの昔のことだ。

…詫びは言わんぞユリウス、しかし礼は言おう、久々の娑婆お主のお陰で存分に闘えた。 さあ 最期だ、顔を上げろ。

……どうしたユリウス」

 

「………オレは!オレはまだ死ねない!グ…が…あああああああ!?

これでは……まだ死ねない……オレは……オレは……ぐあぁぁぁぁぁ!」

 

...恐ろしい執念だ、あの状態からコードを紡ぐだけでも相当の激痛を伴うはずなのに…

そして何を思ったかユリウスは両手を握りしめ何らかのコードを紡ぎ始めた、そして敗北者は消えるはずの令呪が点滅し消えかかっていた令呪が元に戻る。

だが痛みは残るのかその表情はいつものユリウスではなく余裕が全く感じられなかった。

 

「ハァッ…ハァッ…キシナミィ…俺に…俺にオマエを殺させてくレェ!」

 

そしてユリウスは令呪を使いアサシンに死の壁を壊させようとする

だが流石のアサシンももう限界なのかそれとも死の壁がそれほどに硬いのか、攻撃をしてもビクともしない。

 

「クソォォォォ!キシナミィ!俺は…俺は貴様にだけは殺されるわけにはいかない!」

 

そしてユリウスの残り2画残っている令呪が輝きだす…何という深い怨念、だが勝敗は決しているはず、あの状況で一体何ができるというのか。

 

「…令呪をもって命じる!アサシン!敵の息の根を止めるまで生き続けろ!そして我が存在をその魂に刻み付けろ!」

 

「ユリウス、貴様何を…ヌゥ!?がっ!?ぬああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

な、ユリウスは一体何をしているんだ!?存在を魂に刻みつける……?

まさかアサシンの魂に寄生して生き永らえようとしているのか!?

いや、まさかそんなことができるわけが…

 

「ウ…ゥ…ウオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

どんどんアサシンの顔がユリウスの顔に変わっていく、サーヴァントは霊体だ、その魂に寄生するということはサーヴァント自身を乗っ取るということに直結する。

普通はこんなことはできないはず。

最早ユリウスは次の戦いや自身の脳が焼き切れることなど考えてはいない、ただ俺を殺す、それだけの目的で動いている。

そしてユリウスの痙攣が収まり、完全にアサシンと同化した、そしてあろうことか俺とユリウスを分け隔てていた死の壁はユリウスによって破られてしまっていた。

 

 

「ふ、ふふふ…岸波…やったぞ。俺は死の壁を乗り越えることに成功した!…貴様が勝つなどありえない、あってはならない!」

 

「もうやめろユリウス!何でそこまでして俺を殺したがる!一体何がお前をそこまで突き動かすんだ!」

 

このままじゃ俺は確実にユリウスに殺されるだろう、沖田はもう疲労困憊でとても動ける状態じゃない、回復しようにもユリウスが目の前にいては回復することもできない

…どうすればいい?考えろ…考えろ…

 

「黙れ! 貴様はここで死ぬ…俺がこの手で殺す! キシナミハクノォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 



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二十九話

最初ユリウス視点です



……あの人は俺にとっての救いだった。

癒しだった、俺が一族の中で失敗作と蔑まれていた時も優しく微笑み話を聞いてくれた。

俺の名を呼んでくれた。

あれは俺がまだ幼かった頃…

 

〜〜〜〜

 

「どうしたのユリウス?そんなにボロボロになって…さてはまた獅子劫さんに挑んで返り討ちにされたんでしょう」

 

「……だってお前は組織の失敗作だって言われて…僕…悔しくて。 少しでも大人達を見返したくて」

 

俺は母体にいた頃から様々な強化剤や薬物を投与されていて生まれた時の能力が期待されていた。

だが期待とは裏腹に全ての能力値が低く、薬物などにより老化する速度も常人の二倍という欠陥を抱えていた。

それによって俺は生かす価値の無い存在として組織に消されるはずだった。

だがあの人…アリシアが俺を守ってくれた。

 

「アリシアは…なんであの時僕を助けてくれたの? 僕に生きる価値なんて無いのに…

知ってるよ、 失敗作の僕なんかを助けたせいでアリシアの肩身が狭くなってるって」

 

「何言ってるのユリウス、貴方はここにいる時点で私の家族よ?家族を守るのは当たり前でしょう?」

 

「でも…」

 

「いいから、それに生きる価値ならあるわよ?」

 

「ほ、本当に!?それって何!」

 

「ふふふ…それはね、貴方の淹れる紅茶はとても美味しいの! だから密かに私の楽しみになってるのよ?それに私の話相手になってくれてる、これじゃ生きる価値にならない?」

 

「はあもう…そうじゃなくて…」

 

彼女はいつも俺を励ましてくれた。 俺は生きるかわりに定期的に薬を投与され続けた。

激痛で何度も死を覚悟したが何とか耐え切れた。 こんなことに耐え切れたのも彼女の励ましがあったからだろう。

そして何年か過ぎ、薬の効果で成人の体に成長した俺は生存価値を認められ対テロ部隊に身を置くことになった。

そして最初に俺に課された任務はレオの地位を完璧にするための暗殺…

彼女…アリシアを殺す事だった。

 

「あらユリウス、今日は遅かったのね……おいで、ユリウス」

 

俺は訓練や薬でどんどん大きくなったが、逆に彼女はどんどん痩せていった。

彼女は少量ずつだが毒を投与されていたのだ。

……殺す時に抵抗されないように。 楽に殺せるように。

…俺はゆっくりと彼女の背後に回り、彼女の頭に拳銃を突きつけた。

 

「…そう、それが貴方の任務なのね」

 

「…すみません」

 

そして引き金を引こうとする、だが何故か手が震えてしまい涙で視界が滲み思うように撃つことができない。

 

「ユリウス、貴方は優しい子、貴方を助けた時からずっと貴方は私の家族よ。 …そしてこれからも。

…最期に私のわがままを聞いてくれる?」

 

 

「……はい」

 

「レオを…レオのことを守ってあげて。 あの子には親として何してあげられなかったから……お願いね?ユリウス」

 

〜〜〜〜

 

何だ…今のは? 今のは…ユリウスの若い頃の記憶?

何故だ?ユリウス、お前はこの記憶を俺に見せて一体何を伝えたいんだ。

…先程から流れ込んでくる彼の怨念。そのそこで感じた殺意ではない何か。 ……確かめなければ。

もし、ユリウスが俺に救いを求めているのだとしたら…

 

「岸波…お前は俺と同じ路傍の石だったはずだ。 這い上がらなければ生存できない、脆弱な存在だったはずだ!

そんなお前に、俺は、負けるわけにはいかんのだ!」

 

ユリウスはアサシンと融合するという暴挙までして俺を殺そうとしている、さっきまでならそう思っていた。

だが今わかった、ユリウスは俺に救いを求めている。

俺に救いを求めているのなら俺にできる事はこれしかない。

 

 

「俺と友達になってくれ、ユリウス」

 

「…………は?…友だと? 何故だ、何故そうなる、何故涙を流す!

俺はお前などに憐れまれる覚えはない!」

 

「ユリウス、俺は君の心に触れた」

 

「…………!!!!」

 

俺はユリウスの心に触れた。そしてわかったことはユリウスは人に飢えているということだ。

ユリウスには組織の仲間はいても友達はいなかったのだろう。

なら、俺はユリウスと友達になりたい。…だから俺はユリウスに向かって手を伸ばす。

 

「…友達になろう…か…そんな事を言われたのは生まれて初めてだ。

これまで俺に近づいてくる者は俺を利用しようと考えている者か、恐れ、へりくだるかのどちらかだった。

だが、お前は真っ直ぐに俺を見つめていたな… どんな闇の中でもその瞳には強い光が宿っている… 俺はそんなお前が羨ましかったんだろう… お前ならきっとアリシアを救う道を諦めなかったのだろう」

 

「ユリウス…じゃあ」

 

「ああ…これが俺の…答えだ」

 

しっかりとユリウスと手を握る。

そしてユリウスの体が割れていく、今までアサシンとの融合という反則で逃れ続けていたがもう限界が近かったのだろう。

最早ユリウスの体温を感じ取ることもできなくなっていた。

 

「…可笑しいか?決して褒められた人生ではないが一人も友人がいないまま逝くのは情けない話だと思ってな。

……面倒な男に付き合わせた」

 

「まったくだよ、少し怖かったけど……でも俺も友達が出来た、俺は満足だ」

 

「ふっ、いいものだな…自分のために涙を流してくれる者がいるというのも」

 

「また会おうな…ユリウス」

 

そしてユリウスは消滅し…俺の五回戦は終わりを告げた。

 

〜〜〜〜

 

…そのはずだった。

五回戦は終わった、この勝負は俺たちの勝ちで決着が着いたはずだ。

…なのにどうしてだ。

 

帰還することができない。

…いつもなら帰還する扉が開いているはずなのに今は開く気配すらない。

 

「…どうしたんですかマスター」

 

「大丈夫か沖田。いや、何故かわからないけど校舎に戻れないんだ」

 

おかしい…それにこの空間が徐々に崩壊してきている。

このままじゃ呑み込まれてしまうんじゃ…

 

「ふうっ!ユリウスさんが壁を破壊してくれたおかげで簡単に侵入できちゃいました!

まあ万能可愛い系後輩キャラのBBちゃんなら壁なんて破壊されなくても一部の空間くらいなら乗っ取れましたけど!」

 

………………?

……………………?

…………………………?

な、何だこれ!?

急に空から声が聞こえてくる、BB…? 一体何のことだ?聞いたこともない名前だ。 いや、そんなことはどうでもいい。

あいつが俺たちをこの空間に閉じ込めている犯人なのか!?

 

「…君が俺たちを閉じ込めている犯人なのか!?」

 

「はーい!そうですよ、セ、ン、パ、イ」

 

相手の目的は分からないが一つだけ分かることがある。 これは聖杯戦争のイレギュラーだと言うことだ。

相手はこの空間を乗っ取ったと言っていた。

つまりはこの空間はもう相手の支配下にあるということだ。

…空間を支配する理由…つまりあいつは俺たちの敵だ。だが沖田はもう限界だ、早く休ませないと。

 

「頼む、沖田だけでも休ませてあげてくれ!もう限界なんだ!」

 

「…ふーん、沖田さんだけでも、ですか。じゃああなたはどうなってもいいと?」

 

…少し希望が見えてきたかもしれない。こいつは話を聞くタイプと見た。

なら話し合いで沖田だけでも脱出できるかもしれない。

 

「何を馬鹿な事を言ってるんですかマスター…私なら全然平気ですから…」

 

「何言ってるんだ、こんな時くらい俺を頼れ、いつも沖田に助けてもらってるんだから恩返しくらいさせてくれ」

 

「だめ…です…ウッ!」

 

くそ、沖田は苦しんでるのに俺には何もできない。できる事といったら奴に助けを懇願することだけだ。

…なんて情けない。

 

「えーっとー………考えてあげなくもないんですけどー……やっぱり嫌です。お断りです。

…そんなにサーヴァントのことが大好きなセンパイは二人仲良く死んじゃって下さーい」

 

その瞬間、辺りが暗くなり無数の黒い触手の化け物や小さな粒が蠢きだす。

こちらにどんどん近づき、取り込もうとしている。アレに触れてはならない、近づいてはならない。

アレに捕まればどうなるかは想像するまでもない、必ず死ぬ以上の苦しみを味わうことになるだろう。

 

「…もう私は大丈夫です、今は逃げましょう。マスター」

 

「………そうだな」

 

〜〜〜〜

 

もう何分走っただろうか。

どこまでいっても景色が変わらない。

それどころか化け物達の数は増えていく一方だ。

………ここまでか。

 

「沖田、聞いてくれ」

 

「はぁ…はぁ…な、何でしょうか…」

 

「このままじゃ俺たちは二人まとめて呑み込まれる、そして死ぬ」

 

「…そうかもしれませんね、ですが貴方が諦めることをしない人だというのは知っています、希望を捨てずに頑張りましょう」

 

……そうだ、俺は諦めることをしない。いやしてはならない。それが俺が奪ってきた命に対する俺が出来るせめてものことだった。

でも今回ばかりは、いや今回だけは諦めなければならない。例えそれが自身を裏切る結果になったとしても。

 

「沖田!俺の目を見てくれ!」

 

「は、はい!?いきなりなんです?こんな非常時に」

 

「沖田…好きだ!俺は沖田の健気なところとかこんぺいとうを美味しそうに食べるところとか激辛麻婆を食べて悶絶しているところとかそれでも精一杯食べるところとかしっかりしてるように見えてドジなところとか凛々しく戦ってかっこいいところとかその後マイルームで見せてくれる笑顔とか

……もうとにかく大好きだ!」

 

「………………………………え?ええええええええええええ!?

何言ってるんですか何言ってるんですか! こんな時に冗談はよして下さい! どこか頭でも打ったんですか!?」

 

「…俺は本気だ、こんな時に冗談は言わない」

 

「ほ、本気…ですか///ほ、本当に…?」

 

「ああ…だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよならだ、沖田」

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

こんなものはただの自己満足、そんなことはわかっている。

だが俺は自分の好きな人が目の前で傷つくなんて我慢できない。奴が狙っているのは俺だ。これは俺の問題。

好きな人を巻き込むわけにはいかない。

……ここに残るのは……俺だけだ。

 

「岸波白野が最後の令呪をもって命じる! 座に戻れ沖田総司!」

 

「う、うあああああ!いやあ!いやです!私も最後までマスターと一緒に居たい!いやだ!」

 

沖田は必死に令呪の縛りに抗おうとしている、だが俺はずっと沖田と戦ってきた、沖田の弱点など分かっている。さらには弱っているという事もあり今の沖田では令呪の縛りに抗うことは不可能だ。

 

「対魔力Eじゃ令呪の縛りには抗えない……ごめん、沖田。

…本当に、君を愛している」

 

「マスター…私も…」

 

…消えた。 長い間俺の隣を歩き、一緒に成長してくれた相棒が…消えた。 俺が、消してしまった。

後悔はしてない、好きな人を守れたのだから。…でも何故だろう、涙が溢れて止まらない。

好きな人を守れたのに…何でだろう。

 

ははっ、わかったよ、怖いんだ。 あんなに強がっていたのに情けない。 俺は一人じゃ何もできないんだ。

今まで上手くいったのは隣に沖田がいたからだ。

…もう周りには化け物達が捕食しようと俺を囲んでいる。

 

「(最後…泣いてたな.…沖田…いつかまた会えたなら…今回のことを謝らせてくれ、そして…)」

 

「…そして、もしももう一度会える時が来たら…その時は君の事を名前で呼んでもいいかな…」

 

…そして一斉に呑み込まれる。

埋め尽くされる、腕や足が千切られている。 だがもう痛みを感じない。 侵食される。 体が怠い、何をされているのか分からないが意識がある事が辛く感じる。

もう光は見えない。 何も見えない。

一瞬、何かの姿が見えた気がした。とても温かくて眩しいかけがえのない人。 自分にもそんな人がいた気がする。

…思い出せない。 あの人は…

…そこで俺の意識はプツンと途切れた。

 

 




ちょっと強引でしたかね?
はい、ここでextra編はいったん一区切りです
ですがまだ終わりません!そしてここまで読んでくださった皆さんありがとうございます!そして次も宜しくお願いします!


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CCC編
序幕


お久しぶりです、いろいろあって更新が遅くなりました
CCC編です、頑張りますのでよろしくお願いします!


気持ちよく晴れた朝の通学路。

正門には直ぐに到着した。

 

 

「おはよう!今日もいい天気で何より何より!」

 

この人は柳洞一成、 この学園の生徒会長にして俺の友達。 とにかく真面目で頼まれてもいないのにこうして毎朝校門の前に立ち挨拶運動をしている。

 

「おはようございます一成生徒会長、今日も朝早くからご苦労様です」

 

「ウム、 いい返事だ。 そして昨日は手伝わせてしまってすまなかったな、 何しろ俺以外に生徒会役員がいないのでな」

 

「大丈夫だよあれくらい、 また困った時は言ってくれ」

 

「いつもすまんな、ではもう一つ頼まれてくれんか。 一階の用具倉庫の鍵を閉めてきてくれないか? 鍵を閉め忘れてしまったようでな」

 

「了解。まかせといて」

 

一成にはいつもお世話になっている。 その彼からの頼みだ、断るわけにはいかない。 朝のHRにはまだ時間があるがすますなら早めにしたほうがいいだろう。

さて、たしか用具倉庫の鍵を閉めに行くんだったな。

 

”………を覚ま…くださ……マス…”

 

不意に、左手が痛んだ。 何事かと思い左手を見てみると…

…左手には文字のような痣が浮き上がっていた。

 

(何だろう…何処かで見たような…気のせいか)

 

単なる目眩だろう、深呼吸し用具倉庫へと向かう。 ただ、ひどく懐かしい声を聞いた気がした

 

〜〜〜〜

 

用具倉庫に着いた、だがここには特に用はないので一成からもらった鍵で鍵を閉める。 さっさと施錠して教室へ急ごう。

 

「それはそうとして暇ッスね〜。 そんな時は貪るように口に菓子を投入! 燃料補給もバッチリッスよ」

 

………ん? 今何か声が聞こえたような……

 

「ん〜、このぐ〜たらしてるだけの人生ってどうなんすかね? だがそれでいい、いやそれがいい!ボクはほんと人生の勝ち組ッス〜」

 

…明らかに中に誰かいる。 ドアをノックして誰かいるのか、と声をかける。

 

「ッ!」

 

ガタガタと音がする、その音は1分ほどで収まった、入りますよといい倉庫の中に入った。

 

 

部屋の中には大量の菓子の残骸と散らかった布団の山があった。 何故倉庫に布団と菓子が…そう思った時もっと目につくものに気がついた。ロッカーが、動いている。

ため息をつきロッカーの前まで移動する。 あまり関わりたくないが恐らくここだ。

 

「中の人、出てきなさい。君は完全に包囲されています」

 

「な、なかのひとなどいないっ! ボクの名前はヘビーメタル! この愛くるしい容姿を人はそう呼ぶ! ボクはロッカー! すなわち君が話しているのはロッカーで中の人などいないッスーー!」

 

そうはいっているがドアの部分が閉まりきっていない、体積的に入らないのだ、この人は。

 

「わかった、君がそういうのならそうなんだろう」

 

「ホッ...」

 

「あ、ドアが少し開いてますよ?私が閉めてあげましょーか?」

 

「!い、いえいえ大丈夫ッス!どうぞおきになさらず……」

 

ニヤリ

 

「そうかっ!それなら!」

 

開いていてはロッカー(笑)さんも何かと不便だろう、俺は人助けとしてロッカーさんのドアを閉めてあげようとする。

 

「ちょぉぉぉぉぉ!な、何で押すんですか! あわわわわわわわわ、それ駄目! 出ちゃう、中身が出ちゃうッスーーー!」

 

そしてロッカーのドアが勢いよく開き、中から突然人が出てきた

 

「うっ、ぐっ…… ロッカーの中ですらバウンドするとは…たるみきった肉が憎いッス…」

 

…やっぱり人だった。

わかってはいたがいったいこんなところで何をしていたのだろうか?

 

「え?ボクはただお菓子を食べてゴロゴロしていただけッスよ?……ところで、誰ッスかキミ。 純情可憐な女子の部屋に侵入するとか、ソッコー通報されてもおかしくないッスよ」

 

「俺は岸波白野、ここの生徒だよ。 それにしても…女子部屋…ねぇ…」

 

ここは用具倉庫だし、それに色んなものが散らばっている。 果たして女子部屋と呼べるのだろうか?

 

「どこからどう見ても女子部屋ッス。 1ヶ月程掃除してないからちょっと散らかってるように見えるけど…」

 

1ヶ月も何故ここに住んでいるのだろうか? …一体彼女は何者なんだろうか。

 

「ボクっスか?ボクはジナコ=カリギリ。 この学園の補欠教員で今は用具倉庫警備員?的なものをしているっす」

 

彼女が?服や髪もボサボサな彼女が?…とても補欠教員には見えないのだが…

 

(ちっ…折角いい隠れ家を見つけたと思ったのに…ボクの安息を邪魔されるわけにはいかない、何とかして出て行ってもらわなければ)

 

そしてどうやってここからジナコを追い出すか考えていると突然ジナコから声をかけられた。

 

「あーーー!何かグラウンドの方に薄い桜色の髪をした美少女がーーー!」

 

「なっなんだって!どこだ!どこにいるんだ!薄い桜色の髪をした美少女ーーー!今行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「ふぅ…馬鹿で助かったっす…」

 

〜〜〜〜

 

くそ、学校を10周くらい走り回ったのに見つからない…

はっ!しまった!ホラを吹いたなジナコめ…何て巧妙な罠を仕掛けてくるんだ!…まあいい、機会はまだある。

放課後にでもまた…ハッ!鍵がない!

まさか...スられた?くっ…あの一瞬でここまでするとは…

…まあいいか、彼女はあそこに住んでるみたいだしこちらも管理してくれるなら願ったり叶ったりだし。

朝のHRまで時間もない、急がなければ。

 

〜〜〜〜

 

「お前さ、聖杯戦争って知ってる?」

 

いつも通りシンジやレオと話しているとふとそんな話が出てきた。

 

「ボクも聞いたことがあります。何でも優勝すれば何でも願いが叶うとか」

 

「胡散臭いったらないよねぇ、そういえばお前らは叶えたい願いとかってあるの?」

 

「俺はないかな。欲しいものは努力すればよいものばかりだから」

 

「白野さんらしいですね」

 

「つまんねー奴、僕の願いは誰もが…」

 

キーンコーンカーンコーン

シンジが何か話しているがチャイムの音でかき消され何を言っているのかわからない。

そして担任の先生が入ってきたので俺も自分の席に戻った。

 

〜〜〜〜

 

そして夕方になり、俺も家に帰るとする。 すると靴箱に倒れている女子生徒を見かけた。

 

「大丈夫か!」

(どうして周りの奴らは無視してるんだ…)

 

「は、はい…あ、私は一年の間桐桜です。 配置は保健室、管轄はみなさんの健康管理です…あの、先輩はどこの…?」

 

「俺は2−Aの岸波白野だよ」

 

「え…一般生徒の方なんですか…?」

 

「ああ、もう大丈夫、保健室に連れて行くから」

 

そして桜を保健室のベッドに寝かせ、桜が寝るまで話をした。 そして桜が寝たのを確認してから俺は保健室を後にした。

 

すると突然また左手が痛み出した。

 

”マスタ…もうす…助けに…”

 

なんだ…この痛み…異常を訴えて…? 何か…大事な何かを…

その時、世界が真っ赤に染まった。

 

[制限ジカンデす、校内に残っタ全ての知性体にお知ラせしマス

貴方たちが持っていた世界観は全て崩壊しました

貴方達ハ聖杯戦争ごと売却サレました

貴方達は 無価値 です]

 

な、何だこの放送は? いや、それより...この異様な景色は...?

 

「あ、アぁぁぁぁ!だ…タスげて…」

 

その男子生徒は何か黒いものに捕まっていた。 あれに捕まれば自分もあの生徒のようになってしまうだろう。 そしてその瞬間外から黒いものが校舎にはいってきた。

心の中で男子生徒に謝りながら俺は逃げるために上へ登った。

 

「う、うわあああああ!どうなってるんだよこれ!おいライダー!ライダー!」

 

シンジが、あの化け物に捕まっている。 シンジはこちらに気づいて俺の方に手を伸ばす。だが、俺がシンジを助けようとしたら俺も捕まってしまうかもしれない。

…あれはもう助からない。 すまない...シンジ...

俺は君を見捨てる…

 

…はずだった

 

「おま、え…何で僕を…」

 

「知るか!体が勝手に動いたんだ!もうここまできたら絶対助けるからな!シンジ!」

 

くっ…シンジの体が重い…いや、これはもう廊下と一体化してるのか?どうすればいい、どうすれば助けられる…

 

「…クッ!ああもう何やってんのおまえ! もう無駄だってわかんないの! 目障りなんだよ! どっかいけよ!」

 

シンジが俺の腕を振り払う。シンジは目に涙をためて俺に訴えている。 こっちにくるな、逃げろ、と。

ならば俺にできることは…

 

「ごめん、シンジ」

 

友の気持ちに応えることだけだ。

そして俺はさらに階段を登り、屋上へとたどり着いた。

 

「諦めなさい。諦めて。諦めちゃえ。諦めろ。諦めれば。諦めたら」

 

ただ世界が終わっていく。 俺は残った足場に逃げ込みながら、飲み込まれないように手足を震わせることしかできない。

 

「ふふ、それでいいの。 大人しく眠りなさい。どうせ…

 

どうせ貴方達はみんな、価値のない生き物何だから」

 

 

…………無価値?

人間に、価値がない…?

 

「それはきっと、違うと思う」

 

怖い。

 

「違いません」

 

怖い怖い怖い、けど…こいつからは逃げたくない!

自分を簡単に諦めてたまるものか!

 

「貴方達は無価値です」

 

「それは違う。人間にどれほどの価値があるかはわからない。

でも、それでも”自分の価値”を最後に決めるのは自分自身の気持ちのはずだ!」

 

…ここで諦めてはいけない。 いや、諦めることはできない。

たとえ無駄な抵抗だろうと血の通った手足がある以上は、決して…

 

「な、何ですって!だめ!そこは!」

 

屋上から、飛び降りた。 諦めたくない、その一心で。

俺の体は、底のない闇へと落ちていった 。

 

〜〜〜〜

 

…終わりが見えない。

ただひたすらに落ちていく、ここで俺はどんどん忘れ最後には何も無い存在になる。

…つまりは、ゲームオーバー。

こうなってはもう誰も自分を救えない。もう、このまま眠ってしまおうか。…だが脳裏に一瞬何かがよぎった。

突然、左手が発光した。 …声が、聞こえた

 

”ソラを見ろ、手を伸ばせ”

 

”ただ一言 を呼べ”と

 

…そうだ。俺はこの声を知ってたんだ!

共に戦うと誓った、彼女の名は…

 

 

「来い!セイバー!」

 

 

 

「はい!待ちくたびれましたよマスター!」

 

伸ばした腕に触れる、確かな感触。ああ、確かに俺の相棒だ。

 

「桜花爛漫 この花咲くや 散りぬるや。桜セイバー! 推! 参!です!」

 

例え忘却の彼方にあったとしても忘れることはできなかった、俺のサーヴァントだ。

 

「嬉しいよ、セイバー」

 

「…えへへ、私も嬉しいです。ですが今回ばかりはもうダメかと思いましたよ、何度呼びかけても気付かなかったので…マスターが無事かと気が気でなかったです」

 

セイバーが手を握る。体温が抜けた体に再び熱がこもる。

ところで…

 

「ところで…どうやって脱出するの?この空間」

 

「あ、そうですね…確か刺激を与えればいいって桜さんが…」

 

刺激か…と言ってもこの空間でどうやって…

 

「マスター、歯をくいしばってください」

 

「…へ?なん…」

 

「オラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

その瞬間、セイバーの右ストレートが俺に炸裂した。 いや、右ストレートどころか再起不能になるレベルのパンチが炸裂しているような…

そして俺の意識は遠のき…

 

(あれ?これ大丈夫だよね?自分のサーヴァントに殺されちゃったよテヘペロとか笑い話にもならないよ?)

 

と一瞬焦りながらもう一度俺は目を閉じた。

 

 

 




なんか終わったみたいな感じになってますね笑
で、でも終わってませんよ!まだまだこれからです!
CCC編もよろしくお願いします!


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第1幕『月海原生徒会』

お久しぶりです、というかいつもお久しぶりって言って気がしますね
最近忙しくて...あ、あと桜セイバーの新衣装...ですがずっと考えていたのですが自分には思いつきませんでした!すみません!m(_ _)m
拘束衣以外なら考えてはあるんですが...どうしても拘束衣は考えられませんでした...期待していた方、すみません!
長くなりました。それでは本編をどうぞ


「脳波の正常を確認しました。この調子ならもうすぐ目覚めますね」

 

声が聞こえる。

もう体には先程のような疲労感はない、目に眩しい光が入りゆっくりと瞼を開ける。

 

「…おはよう」

 

知らない天井、設備を見る限りここは保健室…なのだろうか、以前の保健室とは違い何処か古めかしい木造建築になっている

 

「はい。おはようございます、先輩」

 

そう言ってにっこり微笑んでくれたこの娘はこの聖杯戦争を管理する上級NPCの1人…だったはずだ

 

「それにしても…ここは何処なんだ?聖杯戦争はどうなったんだ?」

 

「ここのことは私にもよくわかりません。 …わかることといえば、マスターの方や私たちNPCはみな気づいた時にはこの木造校舎にこぼれ落ちてしまっていた、 ということだけです」

 

…原因はわからない、か…

何故かは知らないが自分は聖杯戦争中に何らかのトラブルに巻き込まれてしまったらしい。

トラブルといえば、あの夢は何だったのだろうか。 他のマスター達もここに来ているのならみんなあの夢から逃げ出してきたのだろうか?

 

「あ、そういえばあの夢は何だったんだ?他のみんなもあの夢から逃げ出してきたのか?」

 

「いいえ、 何故かは分かりませんがあの夢を見ていたのは先輩だけです。 あのままだと危険な状態だったので取り敢えず体だけでも保健室に運ばせてもらいました」

 

そうだったのか、あのままだと…

確かにあの時はどんどん自我も消えていって自分というものが無くなるような感覚だった。 夢…というより幻覚に囚われていたようなものだったのかもしれない、あの時セイバーが助けに来てくれなければ…セイ、バーが…

 

「そうだ!セイバー!セイバーは?」

 

「セイバーさん、ですか…」

 

何故か桜は顔を俯いて言いづらそうにしている、まさかセイバーは俺を助けるために…

 

「セイバーさんなら先輩との魔力のリンクを完璧にするためにできるだけ近づいてもらって…隣で手を繋ぎながら寝ていますよ?」

 

確認してみるとセイバーが隣で寝ていた。そういえばほんのり手が温かい。 セイバーの小さな手はしっかりと俺の手を握っている。

寝顔かわいい。

 

「うっ!鼻血が…すまないが桜。 バケツとタオルを持ってきてくれないか?」

 

「バケツとタオル…ですか? 分かりました。 持ってきますね」

 

ああ、優しい後輩を持って俺は幸せだな。この保健室も彼女の性格が出てるのか整理整頓されているのが目に見えてわかる。 そんな保健室を赤き血潮で染め上げるわけにはいかないからね。

 

「ますたぁ…あったかいです…」

 

寝ながらセイバーは俺の手をほっぺたでスリスリとしてくる。

きゅうしょにあたった。効果はばつぐんだ。

 

「可愛すぎる...!!!」

 

ごめん桜……耐えられなかったよ…

 

「ぐふぅ!」

 

「……ん、ますたぁ?...ま、マスター!だ、大丈夫ですか!」

 

こうして俺は綺麗だった保健室に赤い花を無事咲かせ自分のサーヴァントとの再会を果たした。

 

〜〜〜〜

 

「ではゆっくりと思い出してください、あなたは誰なのか、聖杯とは何だったのか、聖杯戦争とは如何なるものか」

 

聖杯戦争とは魔術師達による聖杯の争奪トーナメントだったはずだ。

まずは本戦の前に予選があり、偽りの学園生活を送らせられる。 そしてその四日間の間に自我を呼び起こし真実に気付けたものだけが記憶を取り戻し本戦…即ち聖杯戦争へも進むことができる。

本戦では7日間ありその内6日間の間に戦いの準備を進め7日目に対戦相手と闘技場で…

…あれ?

 

「やはり岸波さんも他の皆さんと同じのようですね」

 

…関わった参加者の事なら漠然と思い出せる、セイバーとも共に戦ったはずだ。だがどんな戦いを繰り広げたか、どんな相手を倒したかひどく曖昧だ。…それに、なぜ自分はこの戦いに参加したのだろうか…それも思い出せない。

 

「落ち着いて聞いてくださいね、岸波さんは自分がマスターであることしか思い出せない記憶障害状態なんです」

 

記憶…障害…

 

「はい、岸波さんは特に睡眠時間が長かったので自分自身の記憶すらもリセットされたようですね」

 

という事は俺はセイバーとの今までの戦いを忘れてしまったのか、嬉しい事も苦しい事も二人で乗り越えたはずなのに俺だけがその事を忘れてしまっている。 その事実に胸が痛む。 早く記憶を取り戻さなければという思いがまた深まった。

 

「…気にしないでくださいマスター、 確かに悲しいですが起きてしまった事は仕方ありません、 私も強引にこちら側に来てしまったためか記憶が曖昧な所がありますし」

 

…明らかに無理をさせてしまっている、このままこっちが落ち込んでいたらセイバーも暗くなってしまうだろうし…

 

「…このまま落ち込んでいても何も始まらないしな、よし、これからは二人で協力し合いながら頑張ろう、セイ…あれ?セイバー?」

 

「あの夢の中で無理をしすぎました…ま、魔力がぁ…こふっ!」

 

セイバーが倒れてしまったので運んで行く事にする、そしてそのまま保健室を後にしようとした時、唐突に少女から声をかけられた

 

「先輩、 私の名前分かりますか…?」

 

そういえば今日は名前を呼んでいなかった、名前を覚えていないんじゃないかと不安な調子で聞いてくるのも当然だろう。

もちろん彼女の名前なら覚えているともさ。

 

「フランシスコ…」

 

「先輩♡私の名前…ワカリマスヨネェ?」

 

「HAHAHA!! わかるに決まってるだろ桜!もちろんだよ桜、俺が君の名前を分からないわけがないだろ桜! 君の名前は間桐桜、料理上手で清廉潔白でかわいいかわいい俺の後輩だ。」

 

「分かっているなら何よりです♡」

 

…笑顔って何だっけ?完璧に目が死んでいた。

危なかった。

一瞬だが凄まじいほどの殺気を放っていた。 そしてまさかこんな所で死を覚悟する事になるなんて…。 そして桜に礼を言い、保健室を後にした。

 

〜〜〜〜

 

そうして部屋の前でシンジ、あとなんか修道女みたいな人と出会った。

 

「やあ岸波、君は僕のもちろん覚えてるよね? …レオの奴、この僕が協力してやろうか? って言ってやったのにあいつ、僕のことなんか知らないなんて言いやがった、 本当失礼だよねあいつ」

 

シンジは相変わらずプライド高いなー。 それで、この修道服を着ている人は誰なんだろう?

 

「こんにちは、私の名は殺生院キアラと申します。 諸事情により深くは関われませんが仲良くしてくれると嬉しいです」

 

「俺は岸波白野、こちらこそよろしく」

 

そしてキアラさんは去っていった。 さっきからずっと何かを話しているシンジは放っておいて教室の中をノックする、するとどうぞ、という声が聞こえた。

 

「グッドモーニング!岸波さん」

 

そして声のした方に向き直る、するとそこには簡単に忘れる事はできない風格を持つ男、レオがいた。

その隣にはサーヴァントのガウェイン、そしてユリウスがいた。

 

「ああ、おはようレオ。それにガウェインにユリウスも」

 

二人に挨拶をして並べられていた椅子に腰をかける、レオは何か神妙な面持ちでこちらを見ている。

…それほど状況は絶望的なのだろうか。

 

「折角気合を入れた挨拶をしたのですが無視ですかそうですか…ところで岸波さん、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「…ああ」

 

例え状況がどんなに絶望的でも自分の置かれている状況くらいは把握しておかなければいけない、覚悟は出来ている、例えどんな事でも臆したりはしない…!!

 

「何故、そちらの少女を離さないのでしょうか?先程からずっと気になっていたんですが…」

 

「…どんなに恐ろしいことかと思ったら…何だ、そんなことか。レオがあまりにも真面目な顔をしてるから勘違いしちゃったよ」

 

どうやら俺がセイバーを片時も離さずに今でさえもお姫様抱っこで話をしていることに疑問を抱いていたようだ。

 

「へえ…そこまでして離したくないとは…はっ! もしかしてそれは愛というやつですか!

愛してるからこそ離したくない、 というやつですね!

なるほどその感情は僕にはまったく理解しかねますが実にエクセレントです! …時に岸波さんは女性のバストサイズはどれ程が好みですか?」

 

レオのテンションが跳ね上がりあらぬ事を聞いてくる。

…さっきからチョイチョイおかしいせいで別人なんじゃ無いかと疑うくらいだ。…いやそう思いたいほど俺の知っているレオでは無くなっているというだけなのだが。 バストサイズか…取り敢えず無難に答えておこう。

 

「バストサイズか…特にないけどやっぱり胸は大きい方がいいよね!」

 

し、しまった!つい本音がでてしまった!特にないけど…って特にあるじゃないか!大きい方がいいって言っちゃったよ!

 

「ふっふっふ、やはりマスターは私にメロメロですね! まったく、そんなに遠回しに言わなくてもマスターが私にメロメロなんて分かりきった事実ですしおすし?」

 

セイバーが何か言ってくるが生憎今は男同士の真剣な話し合い…ここは無視させてもらおう。 …ごめん、セイバー。

 

「それで、レオさんはどのバストサイズをお好みなので?」

 

「無視ですかぁ!?ますたぁ!」

 

「そうですね、 僕は「私は!年下こそが至高だと考えます!例え巨乳であっても年上など認めません!ならば私はロリ巨乳への道を歩む!年下で巨乳、この素晴らしさがわからないとは言わせません!」

 

いきなりどうしたんだガウェイン!?主の言葉を遮ってまで叫ぶなんて…生前何かあったのかは分からないが先程まで纏っていた騎士高潔オーラが吹き飛び、腕を高く天に掲げ声高々に叫んでいる。

…騎士とは一体…

 

「調子に乗った私が悪かったです〜、構ってくださいぃ…ますたぁ〜」

 

そういいセイバーは構って欲しい子供のように俺の胸にしがみ付いてくる。 …かわいい、正直たまらんです。ハイ。

 

「そこまでにしておけ。 岸波、 レオ。 話し合いの中心であるお前達がふざけていたら収拾がつかなくなってしまう。 そんな事より今はこの事態を何とかするべきだろう」

 

「相変わらず兄さんはお堅いですね。残念です…これを機にキャラチェンジをしようと思ったのですが… ならば改めて自己紹介でもしましょうか。

僕の名前はレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイです。気軽にレオとお呼びください」

 

「ガウェインです。すみませんが今我が主は年相応の無邪気さを暴走…コホン。

前面に押し出しています。ですので、多少の我儘は大目にみてくださりますようよろしくお願いします」

 

「…ユリウスだ、今はレオの護衛役及びお目付役として側にいる。 短い間だろうがよろしくな」

 

そういい黒コートの男性…ユリウスはその場を落ち着かせる。

そういえば先程レオは兄さんと言っていた、二人は兄弟なのだろうか。

…全然似てないけど。

 

「失礼します、校内のスキャンは完了しました。他に未発見のマスターはいないようです」

 

「そうですか…僕達がいるのならもしかしてと思ったのですが、いないなら仕方ありませんね。 ……岸波さん、貴方に来てもらったのは他でもありません。

…この旧校舎から、この月の裏側からの脱出作戦に協力していただけないでしょうか?」

 

そう言うレオの顔はふざけた調子ではなく真剣な表情に変わっていた。

その顔を見て、やはりこの男はレオなんだという事を再確認した。

 

〜〜〜〜

 

レオの話を纏めるとこの校舎は黒い海に囲まれておりこのままではい つ沈むかもわからない、おまけに俺たちは記憶も封じられている

だから表では敵だがこの月の裏側から表側に帰るまでは同じ目的を持つ仲間同士、協力しようという事だった。

…そんなの聞かれるまでもない。

 

「もちろんだよ、だけど一つ聞いてもいいか?」

 

「何でしょう?」

 

「何で俺なんだ? 話を聞く限り他のマスターはいるんだろ?他の人達には声をかけなかったのか?」

 

確かに、この状況では脱出するという事しか思い浮かばないだろう。

だが、ここにいるマスターは俺だけではないはずなのに何故俺に声をかけたのだろうか。

 

「確かに他のマスターもいるにはいたのですが...サーヴァントを持たないマスターがほとんどでサーヴァントを持つ人達には声を掛けたのですが協力はしてもらえませんでした」

 

「そうか…みんながみんなここをでたいってわけじゃないって事か」

 

考えてみれば脱出したいという人もいればこのまま脱出なんてしないでここにいたい、それどころかレオと協力なんてしたくないという人もいるのだろう、人の価値観なんてそれぞれだ。

 

…俺はここから脱出したい。ならば同じ志を持つもの同士が協力し合ってここから脱出しなければ。

 

「では改めて、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイの名の下にここに月海原生徒会の発足を宣言します!」

 

強い意志のこもった声が、生徒会室に鳴り響いた。

 

 




本当に桜セイバーの衣装募集してます...
拘束衣はもちろん、他の可愛らしい衣装など桜セイバーに似合いそうな服を教えてください!案があればどんどん活動報告にお願いします。


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第2幕『真名』

みなさんfgoのイベントやりましたか?個人的にはシナリオは面白かったです。あと言いたいことと言えば金時強すぎませんかねぇ…もう溜め息しかでない。
まあ強いのはいいんですが沖田が食われかけてるような気が…
ま、まあでも?可愛さなら断然沖田ですし…(そもそも男と女という)
沖田の可愛さは世界一ィ!


レオの勇ましい声が生徒会室に鳴り響いた。その身は若き少年の姿であろうと不思議と力を感じさせる、頼もしい声だった。

 

「…ですが、一つだけ問題があります」

 

問題?何だろうか、ここで決まったことと言えばレオと協力関係を結んだということだけなのだが…

 

「…誠に遺憾なのですが、人が、足りないのです」

 

…………ん?

 

「まず会長のボク、秘書の兄さん、じいやのガウェイン、庶務の岸波さん、メイドのセイバーさん…たったこれだけしかいないではありませんか!

…こんなものは生徒会と呼べない、いや呼んではいけない!」

 

…はあ。

レオは先程までの貫禄が嘘のように無くなり自分の言いたい放題言っている。と言うか何故そんな微妙な役職から埋めていくのか。

…でもメイドはグッジョブだ、メイドと言えばメイド服、セイバーは可愛いからいろんな服が似合うだろうし何か他の服を買ってあげたい。

だが此処に服なんて売ってあるのだろうか?後で校内でも探してみるか、などと思っている内に話が進んでいたらしく俺が校内で生徒会にふさわしい見込みのある人を探すことになった。

…見込みのある人か、シンジ…は無いとして後はキアラさんくらいか。まあ雑務をするくらいなら問題ない、そのついでにセイバーの衣装なども探してみるとしよう。

 

〜〜〜〜〜

 

「うふふ、楽しそうな事をしてらっしゃるのね。ですが私は学生という歳でも無いのでご遠慮させていただきますね」

 

 

「お前さんの頼みなら聞いてやりたい所なんだが…相手が相手だ、諦めてくれ」

 

 

「神よぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

この通りである。

俺の知る限りの人たちに生徒会に入ってくれるよう頼んでは見たもののみんなに断られてしまった。ちなみに上からキアラさん、獅子劫さん……えっと、ゴトーさんである

そして最後に用務員室をノックする、だが返事はなく人は出てこない。おそらく誰もいないということだろう

 

「残念ですが気を取り直して帰りましょうマスター、まあやれることはやりましたよ」

 

「そうだね…」

 

何も収穫がなかったけど落ち込んでても始まらないし一度生徒会室に戻ろうとする、すると校内に放送が流れた。

 

「えー岸波さん、申し訳有りませんがそこから用務員室へと移動して下さい。

用務員室にサーヴァントを従えたマスター、ジナコ=カリギリがいます、捕まえてください」

 

移動するも何も目の前にいるんですが…さっきドアをノックしても出てこなかったのに人はいるのだろうか?

 

「ぶっーーー!さては桜さんボクのことチクりましたね!人の装備をチクるなんて最低最悪鬼ッスね!でも残念、後は鍵をロックすれば終わりッス!此処に来ても無駄無駄ァ!ボクの快適ライフは守られるのだ〜」

 

よし今すぐ突入だ、奴は絶対此処にいる。ロックをかける前に...

 

ガチャリ

あ、完璧にロックが掛けられてしまった。これでは入ることは出来ない…とでも思ったかジナコよ。

手段ならある、岸波白野は諦めが悪い、例えドアをロックされたとしてもその程度で止められるほど甘く無いということを教えてやる!

 

「どうしますマスター、閉められましたけど…」

 

「大丈夫だよセイバー、俺の秘技を使えば入ることなんて容易だ。危ないから離れておいてくれ」

 

おお、と羨望の眼差しを向けられる。ふっ、こんな所で秘技を使うことになるなんてね…

くらえ!俺が小さい頃よくやっていた技!

 

「秘技!ドリルライナー!!!!!!!!!!」

 

ドアについている小さい窓を秘技でぶち破り中へと侵入する、両腕が骨折し割れたガラスの破片が体中へと突き刺さり血が噴き出しかなり痛いが何の問題もない。

さらに目の前のジナコの視線がかなり痛い。

 

「ジナコ!生徒会に入らないか?」

 

キラキラという効果音が出そうな笑顔でジナコを勧誘する、ジナコは最初は唖然としていたがすぐに俺の方を見て笑顔を向けてくれた。よかった、これならジナコも入ってくれそうだ…

 

「入るわけないでしょうが!!!!」

 

ジナコから強烈なボディブローを喰らう、なかなか良い一撃を貰ってしまった。

……うん、なかなか良い腕を持ってるな。足にきてるし。

だが此処で引くわけには行かない、ジナコに自分はどうするのか、此処から脱出する気は無いのかなど聞かなければ…

 

「ジナコ、協力してくれないか?俺は一刻も早く此処から脱出して元の聖杯戦争に戻りたい。そのためにはマスター達の協力が不可欠なんだ」

 

「…お断りするッス、ジナコさん此処から出る気なんて全くないッスから。

ネット環境も揃ってておやつも食べ放題、さらに此処にいれば安全、逆に何で此処から戻って元の聖杯戦争なんかに戻りたがるのかがわからないッス」

 

…そうか、確かにいつまで安全かは分からないけど此処にいれば安全だろう。此処まで完全に否定されては協力なんて不可能だ、残念だが収穫ナシという事で生徒会室に戻るとしよう

 

「…まあキミ面白かったッス、キミとは同じ凡人として気が合いそうッス。協力はしないッスけど生徒会室のモニタリングくらいならさせてもらうッスよ」

 

「それだけでも嬉しいよ、よろしくジナコ」

 

「…よろしくッス」

 

そして生徒会室に戻ろうとしたその時、とても嫌な奴と目があった。

確かあいつは聖職者の格好をしているくせに人の不幸を楽しみ愉悦としているゲス野郎だ。

何故売店に立っているのかは分からないがなるべく関わるのは避けたい、気づかなかったふりをしてこの場は立ち去ろう…

 

「おや少年どこへ行く」

 

…しまった、見つかってしまった。だがまだ俺は気づいていないフリができるはずだ、このまま…

 

「気づいているのだろう、岸波白野。まあお前が気づかないフリを続けるならそれでも構わん、だが…」

 

無視無視、こういう奴には関わらないに限る。何せ人の不幸を楽しむなんて奴だ、下手に関わるとどうなるかなんて分かったもんじゃない…

 

「せっかくサーヴァント用の衣装を入荷してやろうと思ったのだがな」

 

「詳しく聞かせろ」

 

やっぱり人と人との繋がりって大事だと思う。

…決してセイバーの他の服が見たいからつられたって訳じゃないんだからね!

 

〜〜〜〜

 

言峰とサーヴァント用の衣装について語り合いとても有意義な時間を過ごせた。

 

「岸波白野」

 

用は済んだので生徒会室に戻ろうとすると後ろから声をかけられた。

すると言峰はニヤけながらふと気になることを言った。

 

「お前の魂、なかなかいい色に歪んだな」

 

「???」

 

「なに、特に深い意味はない。分からないのであれば戯言と聞き流したまえ」

 

ナニカ、ヨクワカラナイコトヲ…?

………………あれ?

今、神父は何か言っただろうか?

何か大事な事を言っていた気がするが…

まあ忘れているのなら取るに足らない事だろう、取り敢えずレオに報告に行こう。

 

 

「あ、先輩。今お時間よろしいですか?」

 

階段を上ろうとした時、桜に会った。

 

「うん、大丈夫だよ。何か用?」

 

「レオさんからの伝言です。探索に踏み出そうという事で外にあるアリーナ…もといサクラ迷宮の探索をしてください、だそうです」

 

サクラ迷宮…よく分からないがそこを探索すればいいのか、でも何処にあるのかわからないのだがどうすればいいのだろうか。あ、そのために桜が探しに来てくれたのかな?

 

「はい、案内しますね。こちらです」

 

〜〜〜〜

 

グラウンドにでてすぐ左のところを見ると年季の入った木がそびえ立っていた。

だが、他にはなにもないが何処にサクラ迷宮というものがあるのだろうか?

 

「先輩、近づいてみてください」

 

言われた通り大樹に近づいてみる、すると大樹が動き出し何か入り口のようなものが姿を現した。

なるほど、この中を探索するということか。

 

「桜、ここはどういう場所なんだ?」

 

「そうですね、ここはアリーナのような所で比較的正常な状態で表側に向かってると思われる構造体のようです」

 

「じゃあここを踏破できれば月の表側に戻れるって事か」

 

「その可能性が高いと思われます。ですがそのかわり危険な敵も多いでしょうからお気をつけてください」

 

なるほど、敵がいるならここを踏破するためにはサーヴァントが必須という事か。

サーヴァントがいるマスターを集めようとしていた理由はそういう事だったのか。

敵…まあこっちにはセイバーもいるしそうそう死にはしないだろうし、ってあれ?

 

「そういえばレオは?レオもガウェインがいるじゃないか」

 

「レオさんはアリーナに入る先輩をモニターしつつ危ない時はこちらに帰還させるなどのバックアップをお願いしています、バックアップがないと迷宮内で歩く事もできないので」

 

なるほど、確かに俺はそんな魔術師のスキルは持ち合わせていない。なら現地調査が今の俺にできる最大限の事、という事か。

 

「わかった、じゃあ行ってくるよ」

 

「はい、お気をつけて。先輩」

 

〜〜〜〜

 

「ところでさ、セイバー」

 

「何でしょうか?」

 

「ふと気になったんだけど、君の真名は何なんだ?」

 

少し気になった、記憶をなくしてしまっているせいでそんな事も忘れてしまった。何か奥に引っかかる感じはするのだがどうしても思い出す事ができない。

 

「あ、やっぱり気になっちゃいます?この私の真名。えー、どーしよっかなー、いっちゃおーかなー」

 

「あ、でもふと気になっただけだから言いたくないのなら無理強いはしないよ」

 

本人が言いたくないならしょうがない、無理強いさせることはなるべくしたくないし。

 

「え?ち、ちょっと冷たくありませんマスター?知りたくないんですか?知りたいんでしょ?本当は知りたいくせに〜」

 

「じゃあ教えて」

 

「むっ、そう言われると何か嫌ですね…では当ててください!」

 

うーん、どうしたんだろうか。興味本位で聞いただけなのだが機嫌を損ねてしまったらしい。当てるのか…うん、無理。

 

「諦めないで下さいよ!あ、じゃあ当てられたらご褒美に何でも一つだけ言う事を聞いてあげましょう!」

 

「乗った!」

 

ふふふ、今何でもって言ったよね?何でもって言ったよね?ふふふ、ニヤけが止まらないぜ…絶対当ててやる…じゅるり

 

「何でしょう、一瞬寒気がしました」

 

「気のせいだよ」

 

そしてたわいの無い雑談を済ませていると階段が終わり何も無い広場のような所に出た。

 

「気をつけてくださいマスター。敵の気配です、敵サーヴァントが近づいて来ています」

 

即座に普段の陽気な声色が変わり戦闘態勢へと切り替わる。

…どうやら体は慣れているらしい。

戦闘の空気を前にして自然と俺の体も戦闘態勢へと切り替わっていた。

そしてそのまま敵のサーヴァントが現れた。

 

 

「わしこと!第六天魔王!織田信長こと!魔人アーチャー降臨!じゃ!久しぶりじゃの、沖田!」

 

……………。

…………………。

………………………。

…………………………沖田?

 

「…………」

 

「ん?どうした人斬り、驚きすぎて声もでんか。フフフ、今さらになってこのわしの恐ろしさを感じたのじゃな?フフフ、怖いか?

略してフフ怖?」

 

人斬り、沖田。そのキーワードからでてくる人物といえば……

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

「のぶぅ!?」

 

沖田の突きが綺麗にヒットする。

………何ていうか沖田、ドンマイ。

 

 



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第3幕『ずっと一緒』

fgoの6章難しい…ストーリーなのにこんなに強いのか…
撤退しまくってます。流石円卓ここまでとは、あとオジマンかっこいいですね!…当たんなかった…


「おのれ人斬り貴様…感動の再会だと言うになんとひどい扱いじゃ…わしがこの時をどれ程待ちわびたものか…」

 

「知りませんよそんなこと。というか真名で呼びます?普通。ああ、馬鹿なんですね一度死んで蘇って出直してきてはいかがでしょう?」

 

………そうだ。

あいつの名前は沖田総司。俺は確かにあの少女と共に聖杯戦争を戦ったはずだ。

……何も、思い出せない。

 

「沖田…総司………総司」

 

「…マスター?」

 

………なのに、俺は自然と、挨拶をするような自然さで沖田を名前で呼んでいた。

何故だろう、もう一度会ったら名前を呼ばなければならない気がした。

 

「どうしました?何処かお怪我でも…」

 

……気が付けば、俺は沖田を抱きしめていた。

涙を見せたくない。離したくない。だから沖田を抱きしめた、こうすれば沖田に涙を見られることもなく沖田がいなくなる事もない。

 

「…どうかしましたかマスター?」

 

「ごめん…何でかわからないけど涙が出てきてさ、見られたくないんだ。しばらくこのままでいさせてくれ」

 

「…私程度でいいのなら、喜んで」

 

……体温を感じる。

沖田はここにいる、それを再確認し一度深呼吸。気持ちを落ち着かせてから沖田との抱擁を終える。

 

「…よし、もう大丈夫だ。ありがとな沖田」

 

「……総司で」

 

「え?」

 

「総司と、呼んで下さい。…そちらの呼び方の方が嬉しいです」

 

沖田…いや総司は俺が名前で呼ぶ事を許可してくれた。名前を知ったのは偶然だが真名は俺の記憶に関わる重要な事だったのかもしれない。だって……こんなにも俺の心は満たされているのだから。

 

「…ところでさ、総司」

 

「何でしょう?」

 

「何でもするって言ったよね?うん言った、絶対言ってた。何してもらおうかなぁ〜」

 

ああ、今日は何ていい日なんだ。

名前で呼ぶことを許可され、総司は何でも言うことを聞く…最高じゃないか!

 

「うっ、やっぱり覚えてましたか…

…じゃああんまり過激じゃないのでお願いします…」

 

「わかったよ、あんまり過激じゃないやつだね。あんまりね」

 

あーあ、そんなことを言っちゃっていいのかな?過激だって?そんなのは個人の価値観によって違うものだよ総司クン。

…あ、鼻血でてきた。

 

 

「甘っ…何この展開甘すぎるのじゃ…」

 

すっかり敵のことを忘れていた。

 

「ふっ!沖田さんのあまりの可愛さにマスターは魅了に掛かっているのですよ!マスターと私は相思相愛ですからね!」

 

「ぐ、ぐぬぬ…おい!そこの男、本当にこんなやつのことが好きなのか!?友達として、とかはナシじゃぞ!?」

 

「一人の異性として、大好きだよ」

 

「言い切った 言い切りおったよ この男 byノッブ」

 

「沖田さん大勝利〜!まあ、何といいますか?やっぱり大事なのは性能(中身)では無く見た目(外見)ということなんですよ!かわいいは正義!」

 

どうしたんだろう、何もしていないのに敵が崩れ落ちている。

……そういえばずっと気になっていたことがある。敵のサーヴァントがいる以上、敵マスターもいるはずだ。たしか織田信長、アーチャーのマスターは何処にいるのだろうか。

 

「アァァァァァチャャャャャャーーー!!!!!」

 

「貴様達はええのう、仲が良くて。わしらは全然仲良くないというに…」

 

「アンタ本当にバカじゃないの!?いきなり敵の正面からでてきて真名を教えるなんてありえないでしょう!」

 

そしてアーチャーが出現した時のように相手のマスターが突然出現する。

ツインテールの黒髪に赤を中心とした服、彼女の名は遠坂凛、聖杯戦争に参加していた優勝候補の一人の凄腕魔術師だったはずだ。

…あれ?たしかに遠坂のサーヴァントはアーチャーだった気がするがあんなに残念な人だっただろうか?もっとカッコよかったような…

 

「エッヘン!なのじゃ!」

 

…うん、絶対違う。

…相変わらず記憶は戻らず分からないことだらけだがこれだけはハッキリ言える…

…あのアーチャーはアーチャーではない!!!

 

「…コホン、ようこそ私の城へ、岸波くん。これっぽっちも嬉しくないけど歓迎だけはしてあげる」

 

「城?…まさかこの迷宮の主は遠坂なのか?」

 

「当然でしょ、侵入者を見つけてそこにサーヴァントを連れて殺しに来て、それで主じゃない何てことがあると思う?

…私はこの城の女王にしてムーンセルの新しい支配者……月の女王様とお呼びなさい!」

 

「……………!!!!」

 

「うわぁーイタイイタイ。これは恥ずかしいですねー。はい凛さんの黒歴史追加でお願いしまーす」

 

総司は遠坂に手厳しいなー、まあそれはともかく遠坂が月の女王?

……えっと、彼女は正気なのだろうか、その、確か表側での彼女はこんなだっただろうか?

 

「ふん、貴方達の考えなんてお見通しよ。この裏側から出たいんでしょ?

だから唯一の出口であるこの迷宮にやって来た、でもざーんねん、ぜっっっったいに出してなんてあげないんだから!」

 

…話し合いではどうにもならない。あちらの目的もしっかりとしている以上降参してくれる、なんて甘い考えは通用しないだろう。

…裏側に落ちた岸波白野には戦闘経験が全くない。できれば戦闘は避けたいのだが…

 

「ああ、そういえば貴方も記憶が抜け落ちてるんだっけ?戦闘経験も全くないまま此処に来るなんて死にたいっていうことよね?

なら、此処で殺しても構わないわよね?」

 

……ッ!!!!

遠坂は本気だ、本気で俺を殺そうとしている。すると遠坂は威嚇するように片手を上げた。そこにあるのはマスターとしての令呪…

 

「さあ出番よアーチャー!……あれ?アーチャーは?」

 

「あ、凛さん、ノッブなら大事な用があるとかで先程帰って行きましたよ。ほら、そこに紙が落ちてますよ」

 

総司が指差した方には一枚の紙きれが置かれていた。

 

「えーと何何…”最近だーくそうる2にハマってしまったので続きをしに帰ります。戦う時は呼んでください”……え?何やってんのアイツ」

 

……………………。

…沈黙が痛い。やれやれ、此処からどうしたものかな…

 

「ぷぷぷ…”此処で殺しても構わないわよね”ですって!あんなにかっこよく決めたのに残念ですね凛さん!あー面白い」

 

…あ、総司が言ってしまった。しかも大がつく程の爆笑ときている。遠坂はかなり頭にきたのか、体をプルプルと震わせている。

 

「き、今日のところは見逃してあげるわ」

 

「それって私達のセリフですよね?何で凛さんが上から目線で言ってるんです?…あ、女王のプライドってヤツですね?女王様(笑)」

 

それ以上傷口を広げないであげて総司!遠坂の顔がみるみる赤くなっていく、俺には分かる。この遠坂…煽り耐性ゼロだ!

 

「いい加減頭きた。もうあんた達容赦しないわ。死んだほうがいいってくらいの目に合わせてやるから!

…だから明日も来なさいよ、待ってるから。…でも勘違いしないでよね、私はこの迷宮の番人だからあなた達を待ち構えとくだけなんだからね!」

 

「はいはいツンデレツンデレ」

 

「特にアンタ!アンタだけは絶対許さないから……!!!!!」

 

そう言って遠坂は消えていった。

…色々あったがとりあえず今日の探索は終了だ。あと調べることといえばずっと気になっていたあの扉だ。

鍵穴のような形をした大きな扉が道を塞ぎ奥へと進めないようになっている、一応調べてみよう。

まあ調べると言っても俺にはそういう技術はないのでレオや桜に調べてもらうしかないのだが。

 

「いやー白野さん、先程はお見事でした。まさかあの遠坂さんが敵になるとは…笑わせていただきました」

 

そうだ、そういえばレオはこちらの様子を監視していたのだった。

…ということは遠坂の様子はレオにも見られていたということか。

 

「すみません、その壁の調査でしたね。…これは…セキュリティ段階は…☆?どういうことですか?桜」

 

「ありえません…セキュリティ段階は本来サーヴァントのパラメーターと同じものです。もっとも強いものがA,弱いものがE,例外としてEXがありますけど…☆、何てカテゴリはありません。…少し調べてみますね。

…うそ、計測、不能…?数値にすることができないなんて…」

 

桜が驚きの声をあげる。ムーンセルの上級AIである彼女から見てこの扉は常識外のもの…いや、あってはならないものらしい。

 

「とりあえずその扉のことはこちらで考えておきます、岸波さんは探索を終え戻ってきてください」

 

たしかにもうここで調べることはない。敵の確認も済んだことだし旧校舎に戻るとしよう。

 

〜〜〜〜

 

「あ、岸波さんにはマイルームを用意したので今日はお休みください」

 

レオにそう言われ総司とマイルームに入る、そこには家具などは置いておらずベッドと机が並んでいるだけだった。

 

「ここが私とマスターの拠点ですか、少し寂しいですけどマスターと一緒なら文句は言えませんね」

 

たしかに俺も総司がいるなら何も要らない、だがこのままでは本当に何もなく雰囲気も何もないのでぼちぼち何か家具でも買っておこう。…まあ今はそんな事より

 

「じゃあ総司…何でも言うことを聞くって言ったよね、じゃあ…」

 

「は、はい。私に出来ることなら…」

 

ああ、何をしてもらうかな。

こういうのっていざとなったらなかなかでないものだし…やっぱりいいことに使うしかないな。

 

「じゃあ総司…俺は膝枕を所望する!」

 

「…え?そんなことでいいんですか?」

な、なんだとう。童貞にしては結構頑張ったんだぞう。ふん、そこまで言うのなら欲望の全てを総司に聞いてもらおう。

 

「じ、じゃあ俺に料理を作ってあーんしてくれ、あと俺の背中を流してくれ、あと一緒に寝てくれ、あと、あと……」

 

「はい、何でしょう?」

 

…ああもうずるい。何でそんなに微笑みながら聞いてくるのか、そんな顔されたらこっちもいかがわしいことなんて言えないじゃないか。

 

「……じゃあ、ずっと一緒に居てくれ、総司」

 

「…はい、マスター」

 

…ああ、やっぱり総司は優しい。いつも俺のことを第一に考えてくれる。それは優しさではないのかもしれない、ずっと一緒に居ることなんてできないのかもしれない、だが俺にとって一緒に居てくれる、そう言ってくれたことがとても嬉しかった。

 

「ずっと一緒です、これからも私は貴方だけの剣、貴方だけの沖田総司です。

これから大変なことばかりと思いますが二人で頑張りましょうね、マスター」

 

…綺麗だった。

夕日に照らされた総司の笑顔が眩しく、俺はその美しさに見惚れてしまった。

…明日も探索がある、気合を入れ直さなくては。

頬を叩き自分に気合いを入れなおし俺はその日を総司と共に過ごした。

 

 



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第4幕『覚悟』

聖杯転臨、皆さん誰にしました?
自分はもちろん沖田です!
QPがえらいことになってしまいましたが…
フレンドのレベル100のジャンヌオルタの攻撃力を見て驚愕していました、友人はヘラクレスをレベル100にしてました。ヘラクレスも凄いことになってますね。
聖杯転臨というのは面白いんですが何故強化成功率3倍の時じゃなかったんでしょうか…


……そこは何処かの部屋だった。

何もない部屋、飛び散る紅蓮の血、鎖に繋がれた少年。

…それにもっとも恐ろしいのはそこには少年一人しかいないというところだ。

部屋には何もない。

だというのにそこら中に血が飛び散っているのは…

そして何故俺はこんなところに…

いいようのない浮遊感に襲われている。

たしか俺は…

 

〜〜〜〜

 

「おはようございます先輩。体の調子はどうですか?」

 

「……桜」

 

目が覚める、切らした息を整えながらさっき見ていたものが夢であったことに安堵する。

 

「大丈夫ですかマスター、様子が変だったので桜さんを呼んだのですが…」

 

どうやら総司にも心配をかけてしまったらしい。

 

「心配してくれてありがとな、総司。…それに桜にも心配かけた。俺は大丈夫だよ」

 

「ならよかったです、また体調が悪くなったら教えてくださいね。

体調管理もAIの仕事なので」

 

そしてマイルームを後にする。

さて、今日も探索にでかけよう。

…ふと、今朝の夢が気になった。

白髪の少年、ボロボロに傷ついた体

顔は俯いていてよく見えなかった。だが…

…何処か見覚えが…

 

「…ヒヒッ」

 

「…どうかしましたか、マスター?」

 

………………?

なんだろう、最近ぼーっとする事が増えた。総司も心配している、自分でもわからないしここは適当に誤魔化しておくか。

 

「いや、大丈夫だ。それより生徒会室へ急ごう、レオが待ってるはずだ」

 

「……?はい、マスター」

 

〜〜〜〜

 

「おはようございます岸波さん、昨日は大変でしたね」

 

レオに挨拶し椅子に腰をかける。

…それでこれからはどうするのだろうか。

あの扉が開かない以上探索に踏み込む意味はない気がするが…

 

「調べて分かったことを言います。

…残念ですがあの扉を開ける方法は見つかりませんでした」

 

……え?わからなかった…?

ならばここから出ることは…

 

「…ですが白野さん、あの場所にはもう一つ別の道がありました。

お気づきになりませんでしたか?」

 

全然気づかなかった。

言われてみれば横道に何か道があったような…無かったような。

 

「なので今日はそこを探索してもらいます。

…まあ最重要なのはあの扉なので収穫はないかもしれませんが」

 

「わかった。任せてくれ」

 

例え収穫がないとしても諦めてはいけない。

あの扉を開けるためにレオ達も色々考えているんだろうし、俺は俺にできることをするだけだ。

 

〜〜〜〜

 

またここに来たが今日は遠坂はいない。

何故かはわからないがこれはチャンスだ。

怖い女王様がいない今のうちに探索を終わらせるとしよう。

 

「えーっと、何処かに道があるはず…」

 

辺りを見渡してみるがやっぱり道は見当たらない。

落ちそうになるギリギリまで辺りを探索してみたが特に道などはないな。

 

「この下は普通に落ちますしね…道なんてないんじゃないんですか…こふっ!?」

 

総司がいつものように吐血する。

いつものように…って結構危ない事のはずなのに慣れてしまった自分が恐ろしい。

そして総司の背中をさすっているとおかしな事に気がついた。

 

「血が…空中で止まってる」

 

総司が吐血した血が空中で止まっていた。

恐る恐る近づいてみるとそこには道が出来上がっていた。

 

「なるほど…こうやって道を隠してたんですね」

 

「お手柄だね総司、君のおかげだ」

 

「つらいわー有能すぎてまじつらいわー。そこに痺れる憧れちゃいます?」

 

「うんうん、痺れる憧れるー」

 

「うっわ、超棒読みですねマスター…微妙に傷つくんですけど…こふっ!?」

 

ダウンした総司をおんぶしながら出来上がった道を進んでいくと小屋のような大きさの建物があった。

そこにはロックがかけておりそれを解かないと入れないようになってるらしい。

少し叩くと中々の厚さの壁になっていることがわかった。

流石にこの硬さでは俺の秘技でも破れないだろう。

 

「ロックですか…その奥に魔力反応があるので出来れば調査してほしいのですが…」

 

そうは言われてもわからないものはどうしようもない、何処かに書かれたりしていないだろうか。

 

「マスター、ここに小さく何か書かれてますよ」

 

そうして総司が指差した所を見てみると確かに小さく文字が書かれていた。

 

”ロックが解けないそこの貴方!そんな貴方に朗報です!

今なら五億!今ならたった五億支払うだけでロックが解けちゃいます!

お振込はお隣の遠坂マネーイズパワーシステムに!”

 

そしていきなり隣にATMのような機械が出現する。

…………五億?oh〜GO☆O☆KU?

………………………………………………………………………………………………………………………こふっ

 

「何言ってんだよ!五億何て払えるわけないだろ!五億なんて某麦わら帽子の人の懸賞金と同じじゃないか!」

 

少し考えれば誰にでもわかる。

こんなの払えるわけないってことぐらい…!!!

 

「おや、五億ですか?五億程度なら僕が支払ってもいいですよ」

 

後ろから聞こえてくるのは悪魔の囁き。 五億を程度と言い張るあたり一瞬頭でも打ったのかと思ったがそういえばレオは西欧財閥の坊ちゃんだったのを思い出した。 ならばここでレオにはどばーんと投資してもらおう。

さっそくレオから送られたお金を遠坂MPSに振り込む、するとロックが解けた音がした。

 

「よかった…これでロックが解けた。ありが…」

 

「なお僕達はどのような手段を使ってもお金は回収します。絶対にこの事は忘れません。絶対に返してもらいます…どのような手を使っても…」

 

そんな事だろうと思ったよチクショウ!

ふふふふふ、と言う声が三回程頭で繰り返される。

レオに声をかけても返事は返ってこない。

怖い。怖すぎる。

何てこった…俺は知らない内にヤバイ所からお金を借りてしまったのかもしれない…

…というか理不尽すぎる…!!!

 

「大丈夫ですよマスター」

 

総司が微笑みながら俺の肩をポンと叩く。

一体何が大丈夫なのだろうか、五億という大金は俺はどうやって返せばいいのだろう。

 

「こうなった理由を考えてみてください」

 

こうなった理由…だって…?

 

 

 

1.遠坂のせいだ。

 

2.遠坂のせいだ。

 

3.遠坂のせいだ。

 

 

 

「そうかわかったぞ!」

 

なるほど、遠坂を倒して借金を押し付ける…これが俺にできる最大限のことだな!

 

「その通りですマスター!敵は本能寺にあり! ついでに私も貧乳軍服を倒せますしこれで全て万事解決です!」

 

解決策が見つかりホッとする、そういえばまだ中を探索していない。

何か重要なものがあるらしいし、遠坂に見つかる前に探索を終わらせよう。

 

〜〜〜〜

 

薄暗い部屋、そこに拘束されていたのはある女の子だった。

肌は褐色、眼鏡が似合っている女の子。

…何故こんなところに閉じ込められていたんだろう。

 

「おーい、大丈夫か」

 

女の子の拘束を解くと彼女は急に倒れてしまった。

彼女の様子は尋常じゃない、魔力が足りなくなり衰弱している。

気づけば自分の魔力もどんどん吸い取られてしまっている。

…どうやらここにいると魔力を吸い取られてしまうらしい。

早くここから脱出しよう、だがこの少女を抱えるには総司を降ろすしかない。

それは困る。総司の太ももがこれ以上堪能できないのは嫌だ、どうにかして女の子を運ばなければ。

…よし、いい考えを思いついた。

 

〜〜〜〜

 

「こないのかな…いや、脱出するためにはここを調査するしかないわけだしこないわけないわよね」

 

今日はちゃんとアーチャーも連れてきたしあいつのムカつくセイバーごとボコボコにする算段もつけてきた、あいつがいつもの調子で現れたら速攻ボコボコにしてもうここに来ようなんて考えられなくしてやるんだから。

 

「…ところで凛」

 

「…なによ」

 

「新しいゲームが欲しいなぁ…なんて」

 

「また?ゲームならこの前買ったばかりでしょ?」

 

「あれはもう飽きたのじゃ」

 

「ハア…」

 

このアーチャー…織田信長は現代の技術がとても気に入っていてゲームなどがとても大好きだ。

…上手いかどうかはおいといて。

やりたい事は生前やり尽くしたらしくあとはゆっくりしようかな…と思った時に本能寺の変にあってしまったらしい。

これがあの有名な織田信長なんて肩透かしにも程がある。

 

「アンタね、いくら何でも早すぎるでしょ。 最近新しい魔術に失敗して金が無くなったしゲームなんかに使ってられないのよ」

 

「はぁ…寂しいのぅ…。 そんなんじゃから胸も懐も寂しいんじゃろうな」

 

調子に乗っているバカにアイアンクローをかましているとこちらへ向かってきている足音が聞こえた。

ここに来るのはあのバカしかいない。

足音が聞こえた方を見て開いた口がふさがらなかった。

…一体誰が予測できようか。

サーヴァントを肩車し、少女をお姫様だっこしながら恍惚とした表情をしている男がいるなんて…

 

〜〜〜〜

 

俺はなんて天才なんだ。

まさかこんな作戦を思いつくとはな。

総司の太ももを堪能する為に肩車し、少女はお姫様だっこ、こうすればみんな得をするという完璧な作戦だ。

ああ最高だ。太もも最高だ。柔らかい。いい匂い。柔らかい。いい匂い。

俺は総司の太ももに出会う為に生まれてきたのかもしれない…母さん、産んでくれてありがとうございます。

俺…見つけたよ。楽園(エデン)を。

 

「…何、やってんの、アンタ」

 

すると遠坂がこちらを見て固まっていた。

 

「みてわからないのか、肩車だ「そんなことはわかってるわよ!なんで!ここで!そんなことしてるのかって聞いてるのよ!」

 

「アンタ、絶対私の事ナメてるでしょ?

ああもうムカつく。もう知らないわ、もう絶対殺すから」

 

遠坂はこちらに殺意を向けている、そう来るのなら仕方ない。

俺は戦闘経験が無いがもうやるしかない。

総司を降ろし、少女を床に眠らせ戦闘態勢に入る。

相手は遠坂、気を抜けば一瞬で殺される。

集中しろ。 相手の隙を見つけろ。 相手の動きを見極めろ。 一瞬たりとも見逃すな。

見逃す時は己の負けだと思え。

 

「いきます、マスター…ご指示を」

 

そして総司は宝具を解放する。

 

『誓いの羽織』

それは幕末で名を轟かせた新選組がもつ浅羽色の羽織。

装備することによって総司のパラメーターが上昇する。

そしてこの時の総司の刀は沖田総司の愛刀とされた”菊一文字則宗”へと変化する。

いつもなら素性を隠す為に羽織は着ていない。

だが遠坂に正体はバレている。そんなことは気にしなくていい。

それに相手は遠坂。今の俺たちの全力を出さなければ勝負にすらならないだろう。

 

「いいわ、私も全力でアンタ達を殺してあげる。手加減なんて期待しないでね!」

 

月の裏側に来てからの初めての戦い。

一瞬のミスが命取り。

この戦い…負けられない!

 

 



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第5幕『反撃開始』

感想をくれる方々、本当にありがとうございます!
やはり感想があるとモチベが上がりますね!ずっと更新したいなと思っていたのですがリアルが忙しくて中々…
久しぶりに時間ができたので投稿しました。楽しめて頂けたら幸いです。ではどうぞ!


総司が縮地を使いアーチャーの懐に飛び込む。敵のアーチャーの武器は銃、こちらの武器は刀、つまり総司の間合い。

敵は今総司のスピードについて来れていないはず…ならば今、一気に勝負を決める!

 

「ATTACKだ!総司!」

 

総司が突きを繰り出す。まだ相手のサーヴァントは総司のスピードについて来れていない、この程度では相手のサーヴァントは倒せないだろう、だが倒せないまでも手傷を加えることくらいはできるはず…

 

「…グッ!?」

 

「GUARD…じゃ、読み違えたの、未熟なマスターよ」

 

何故だ。相手は完全に総司のスピードについて来れていなかったはず、一体何故…

 

「馬鹿ね、敵の姿が見えなくてもガードするくらいは基本でしょう。 馬鹿正直に突っ込んだところでそんな単調な攻撃が効くと思ってるの?…行くわよ」

 

…くそ、完全に読み違えた。完全にこちらの間合いだったのに攻撃を加えられなかったのはかなり痛い。次は何が来る、どうすれば…

くそ、迷ってる場合じゃない!

 

「もう一度だ!距離を詰めろ総司!」

 

「判断遅い!ガンド!」

 

「くっ…この程度…」

 

遠坂のガンドを辛うじて防いだが敵の攻撃は止まらない。アーチャーは総司と離れ不敵な笑みを浮かべていた。

まずい、ここは既に…敵の間合いだ!

 

「よく防いだのぅ、じゃが…次はどうかな?

三千丁の火縄銃…その身でとくと味わうがよい!」

 

敵の背後からは数え切れないくらいの火縄銃がその銃口を向けていた。

まさかあれを全部総司に…?

死ぬ。あれを食らえば確実に総司は死ぬ。自分の所為で…

 

「クソ…ソウジ…ウグ…アアアア!」

 

身に覚えのない異質な魔力が身体中を巡っていく、その1秒にも満たない時間がやけに長く感じたのは流れていく魔力が濃ゆく、流れるだけで激痛を感じていたからだろうか。

 

「…何が、起きた」

 

目を開けた時、映り込んだのは血を流し倒れている総司、トドメを刺したであろうアーチャーがこちらに銃口を向けている姿だった。

 

「これで終わりじゃ」

 

撃たれた。心臓を的確に撃ち抜かれた。これで俺は確実に死んだ。つまりは、ゲームオーバー。俺たちの聖杯戦争が、終わり…?こんなところで…?

こんな…ところで…終わるわけには…いか…な…

 

 

〜〜〜〜

 

 

ここは…何処だ、目の前には戦闘態勢の遠坂と敵のサーヴァント、アーチャー。

そして俺の前には、俺のサーヴァントでありパートナーでもある沖田総司。

おかしい、俺はさっき確かに…

 

「マスター!ご指示を!」

 

「…総司が、生きてる…?」

 

目の前で繰り広げられている戦闘は一分の狂いもない先程と同じ戦闘。ここで俺がATTACKを指示してしまった為に総司は…

 

「早く!マスター!」

 

総司の声で我に帰り戦闘態勢に入る。さっきは選択をミスしてしまった。どういうわけか知らないが俺は戻ってきた、次は間違えない!

 

「間合いを詰めるんだ総司!」

 

「舐めないで!貴方の作戦なんてお見通しなんだから。 アーチャー!G…「GUARD…だろ?遠坂!」

 

「なっ!?」

「すまないな遠坂、それはお見通しだ」

 

すかさずGUARD BREAKの指示を出し敵の守りを崩す、よし、流れは来た。

 

「決めろ総司!」

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!」

 

沖田総司が用いる必殺の対人魔剣。

『無明三段突き』

放たれた壱の突きに、弐の突き、参の突きを内包したほぼ同時ではなく全く同時に放たれる突き。

全く同時に放たれることによって”同じ位置”に”同時に存在”しているという事象崩壊を引き起こし、壱の突きを防いでも弐の突き、参の突きが貫いているという矛盾によって局所的に事象崩壊現象を引き起こす。

つまりは防御不能の魔剣。

それに敵は隙だらけだ。首を落とすことなど造作もないはず…

 

「そこまでで〜す、セ・ン・パ・イ」

 

突然、アーチャーと総司の間に割って入った声はあの崩れ落ちる校舎で聞いた声だった。

…つまりは敵。ならばいきなりで悪いが倒させてもらおう。

 

「構うな総司! そのままいけぇ!」

 

総司の魔剣は防御不能。今更どんな技を使われた所で…

 

「無明…三段突き!」

 

「無かった事にしますね♡十の支配者の冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)

 

「…なっ!?」

 

「君は…桜?」

 

「違います先輩! 私の姿をしてはいますがその人は…」

 

「もう、私とセンパイが話しているのに外野がうるさいですね。 うるさい外野には出て行ってもらいましょうか」

 

通信が途絶える。だが俺は驚くことが多すぎて通信が途絶えたことなど気にならなくなっていた。まず一つは総司の魔剣を打ち破った技のこと。もう一つは何故あの少女が桜と同じ外見をしているのかということだ。

 

「…どうしたのよ、ここは私のエリアのはずでしょう。 助けてくれた事には感謝するけど貴方が介入するなんて聞いてないわよ」

 

「貴方が約束をキチンと守るならそのつもりでした。 …ですが貴方の攻撃は全てセンパイへの殺意がこもっていました。センパイは生かして捕らえる。先に約束を破ったのはそちらの方ですよ?」

 

「はあ?貴方戦いってものを分かってるの?確かに善処するとは言ったけど必ず生かして捕らえるなんて言ってない。

…だいたいね、生かして捕らえる程難しいものは無いわよ。 本気で殺し合って、相手がギリギリ生きてたらラッキーくらいに考えておくのが普通でしょう、BB」

 

…彼女の名前はBBというのか、BB…何だろう。名前は記憶にないが声などははっきりと覚えている。俺は彼女と何処かであっているのだろうか。

…俺の記憶に関係しているのだろうか。

 

「うっ…と、とにかくセンパイは私が貰います。 これは命令です、従わないと言うのなら私があなたを殺します」

 

「…わかった。好きにすればいいわ」

 

そして遠坂は戦意が無くなり背を向ける。すると桜?のような少女はこちらへ歩み寄ってきた。

 

「うふふ、迎えに来ましたよ?センパイ♡」

 

「待て…マスターには指一本触れさせません…ウッ!?」

 

総司が斬りかかろうとするがマイナススキルの”病弱”が発動してしまいうまく歩けていない。総司の魔剣は確かに強いがその後に高確率で病弱が発動してしまう。

だから最低でも一人は倒さなければならなかった。だが魔剣も防がれ相手は二人共健在、総司は瀕死の状態と来ている、状況は絶望的だ。どうする…

 

「まだ諦めてないんですか? お馬鹿なセンパイ。なら、貴方のサーヴァントを消せば諦めて捕まってくれますかね?」

 

「なっ…!」

 

あいつは総司を傷つけるつもりか。

今、総司は病弱が発動していてとても動ける状態じゃない。そんなことさせるわけには…

 

「ふふっ、少し動揺しましたね?やはり貴方の心の支えは沖田さんですか。じゃあ…消しますね」

 

「があっ!?うっ!う…あ…かはぁっ…」

 

「あはははははは!見てくださいセンパイ!面白い!どんどん血が出てきますよ!ほら!もっと血を出しなさい!あははははははは!」

 

「かふっ……うあっ…あぁ…」

 

動けない総司は容赦なく蹴られ避けることができない。弱っている総司はただ攻撃を受け続けていた。

 

「やめろBB…それ以上は…総司が死んでしまう…」

 

「うるさいですね。 センパイ何かが私に命令するなんておこがましいです。 少しセンパイにも罰を受けてもらう必要がありますね」

 

その瞬間、意識が飛んだ。体が宙に浮いている。…何が起きた?顔が痛い。意識がぐらつく。突然の衝撃に理解がついていかなかった。

 

「うっ…顔を…蹴られたのか…?」

 

「はい、ついでに数分は動けなくなるようにしたので貴方はそこで黙って見ていてください」

 

くそ…本当に動けない。もう総司の魔力は途絶えかけている。あれ以上の攻撃を受けたら本当に死ぬ、ダメだ、総司にはまだ側にいてもらわないと…俺は…

 

「ク…ソ…総司…」

 

「死になさい沖田総司。 貴方からはリソースを取ることはしません…私の手で殺します」

 

BBの攻撃が容赦なく迫る。総司は動かない。俺は動けない。動けたとしても何ができるわけでもないが何もできない自分が悔しい。情けない。総司を救うことは…もう…できない。

 

(すみませんマスター…私はここまでの様ですね…ずっと一緒にいる約束…したのに…)

 

「これで終わりです」

 

終わった、そう思った。だが、BBの攻撃が総司に当たることはなかった。

 

「…何のつもりですか、アーチャー」

「…………」

 

「何のつもりと聞いているのよ! そこを退きなさい織田信長!」

 

「断る」

 

「なっ…何ですって…!」

 

…総司を助けてくれたのは先程まで戦っていた遠坂のサーヴァント、アーチャーだった。

鋭い眼差しでBBを見据えるその姿は織田信長の名に恥じない力強さを感じさせた。

 

「凛さん、このサーヴァントを退けてください」

 

「あー、それ無理。だって今アーチャーが貴方の前にいるのは私の命令だし」

 

「…正気ですか? センパイを助けるということは私の敵になるということ。私と戦って勝てるとでも?」

 

…確かにそれは事実だ。 俺たちを助けても遠坂にメリットなんてない。むしろデメリットしかない筈、なのに何故…

 

「ずっと違和感あったのよね、何で私が貴方の方についてるのかって。

…でも貴方が岸波くんの顔を蹴り飛ばした時に確信したわ。もう貴方に力は貸さない。いや、貸せない。私、貴方のこと嫌いだし」

 

「……へぇ…」

 

「それにね、何より私は昔から弱いものいじめってのが大っ嫌いなの。

…だから敵対させてもらうわ。…あ、勘違いしないでね、どの道貴方とは一緒に戦えなかっただろうしいつかは殺し合いになってただろうし、それが少し早くなったってだけよ」

 

「遠坂…ありがとう…でも」

 

遠坂が味方になってくれた。それはありがたい、とても心強い。でも奴には勝てない。確かに遠坂は強い…が奴に勝てるとは思えない。

 

「でも何?まさか私に勝てないっていうつもりじゃないでしょうね。 私が何の勝算もなく敵の前に出るとでも思ってるの?…まあこっちは任せて貴方はサーヴァントの回復に努めなさい」

 

…確かに遠坂がただの無謀で敵の前に立つわけがない。ここは遠坂を信じて俺は総司を助けに行かせてもらおう。

 

「…驚きました。遠坂さんがここまでお馬鹿さんだなんて。 月の聖杯戦争に参加した百体以上のサーヴァントをすべて取り込んだこの私に勝てるとでも?」

 

「ふーん、すごいわね〜。百体以上か。で?それが何よ」

 

遠坂の指示でアーチャーが攻撃を開始する。だがBBはアーチャーの銃の攻撃を指一本で受け流してしまった。

 

「ほらほら、そんな攻撃効きませんよ。 そんなにちまちま撃ってないで全部撃ってきたらどうです?無駄な足掻きでしょうけどね」

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて。アーチャー!貴方のありったけの弾をあいつにお見舞いしてやって!」

 

アーチャーが魔力を解放する。あれは総司にも使った大技。 総司はかなりのダメージを負ったが相手は通常のサーヴァントとは文字通り格が違う。 数百体のサーヴァントを取り込み神にも近い存在になっている。

ダメージは与えられたとしてもその技では…

 

「三千世界に屍を晒すが良い……天魔轟臨! これが魔王の三段撃ちじゃあ!」

 

数え切れないほどの火縄銃がBBに向けて発射される。だがBBは余裕綽々な顔でその光景を見つめていた。

 

「ふん…そんなの数が増えただけじゃないですか、そんなもの…」

 

「そうよ、これは貴方の言う通りただ数が増えただけ。 …でもそれで充分なのよ」

 

「…えっ?そんな…嘘…きゃああ!」

 

…押し…切った?相手は数百体のサーヴァントを取り込んだ化け物。とても一介のサーヴァントが敵う相手ではない。なのにあそこまでダメージを与えるなんて…

 

「残念だったわね、BB。織田信長のスキルには天下布武・革新というスキルがあるの。

このスキルは神や神秘に近いものほどダメージが大きくなる。…数百体ものサーヴァントを取り込んだのが仇となったわね、BB」

 

「相性ゲーとか得意なんだよネ!ワシ!」

 

…これが、遠坂凛。

強いとはわかっていたがここまでとは、完全に相手を圧倒している。 抜群のコンビネーションで絶望的な状況を跳ね返してしまった。

 

「さて、反撃開始と行きましょうか。岸波くん」

 

 




最近凛をイジりすぎたかな、と思ったのでカッコよくしようと思ったら想像以上にカッコよくなりました。
凛って結構男前ですよね。いや、もちろんかわいさもありますよ?まあ可愛さでいったら沖田が一番なわけですが。
帝都聖杯忌憚の発売が楽しみですね(≧∇≦)


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第6幕『狂気』

最近サブタイトルを変えようか迷ってます。 何か第1話とかだったら味気ない気がするんですよね…。なので思いついたら変えようかと思ってます。 気に入らなかったら、ごめんなさいm(__)m



遠坂達の戦いを間近で見て出てきた感想は素直に見事の一言しか無かった。 そのくらい遠坂達が相手にしている奴らは強いのだ。 いや、強さで表せるようならまだ可愛いものだろう。

 

「ぐっ…こんなことが…確かに織田信長と私の相性は最悪ですね…」

 

「そうね、アンタとアーチャーの相性は最悪。 でもね、敗因は相性が悪かったからじゃない。敵を侮り慢心していたことが貴方の敗因よ」

 

どれだけ強かろうが誰にでも弱点はある。いや強すぎるが故に慢心というものが存在する。遠坂はそこを的確に突き相手を追い詰めていた。

 

「…確かにこれは私の落ち度ですね。貴方ほどの人を侮るなんて本来してはならないことでした」

 

BBは追い詰められているにも関わらず普段の口調で話し続けている。BBにとってこの状況は不都合な筈だ。なのに奴のあの余裕の態度はなんだ…?

 

「…なのでこちらも最大戦力で行かせてもらいます。…来なさい、パッションリップ、メルトリリス!」

 

突如BBの背後から飛び出してきたのは一人の少女だった。 その姿はある一部分を除いてほとんどBBや桜に酷似していた。

…というか、一人? BBが呼んでいたのは二人だった気がするのだが…

 

「リップ、あの子はどこ?何であなただけが来るのよ。私が呼んだのは二人のはずよ」

 

「あの…その…メルトは…その…」

 

「早く言いなさい。私を怒らせたいの?」

 

「ごめんなさいお母様…メルトは…私用があるから来れないって…」

 

「チッ、使えない子ですね…まあいいです。貴方は裏切り者を始末しなさい。 私がセンパイを捕まえますから」

 

「…………」

 

少し気弱な態度の少女…パッションリップは俯きながら返事をしていた。 その姿はまるで浦島太郎のいじめられているときのカメさんを彷彿とさせた。

 

「チッ…まずいわね…」

 

確かにこのままではかなりまずい。 敵の応援は一人だとしてもその一人が異常な程の魔力を放っている。…だが驚くべきところは他にもある。

 

「岸波くん、貴方も気づいたようね。あの子の凄まじいほどの魔力がどこから来ているか」

 

「…ああ、もちろんだ」

 

大きく実ったその二つのメロンは男性だけでなく同じ女性である遠坂も目を惹きつけてしまうという不思議な魔力があるのだろう。実際、俺はそのメロンに目を奪われていた。ガン見してしまっていた。

間違いない、魔力を放っているのはあの二つのメロンだ……!!!!

 

「マスター最低です。」

 

体力が戻ったらしい総司に冷ややかな視線を向けられる。 …ごめんなさい、少しハジけたい気分だったんです。

 

「お遊びはここまでにするとして、遠坂が言っているのはあの腕の事だな?」

 

「そうよ、腕と言うよりあれは爪ね。どんな能力があるか分からない今、ここは一旦退却した方がいいわ」

 

確かに敵の能力も分からない今、一旦態勢を立て直した方がいい。…それに今は俺たちという足手まといがいる。その状況で二人も相手にできないと言うのは正しい判断だろう。

 

「逃げるわよ岸波くん。貴方はその少女を抱えながら走って。後ろは私に任せなさい」

 

少女を抱え来た道を全力で戻る。総司も走れる程度には回復しているし、このまま何もなければ脱出できるはずだ。

 

「逃さないで! 貴方は遠坂さんを追いなさい。センパイは私が捕まえます!」

 

二人が全力で此方へ向かってくる。何とか遠坂はアーチャーと共にパッションリップを捌いているが、そちらに気を取られすぎて脇をすり抜けてきたBBは迎撃できなかった。

 

「挟み撃ちですね、センパイ。もう諦めて私に捕まったらどうです? 今、諦めて捕まるというのなら両手両足失くすだけで済みますよ?」

 

「…そうはいかない、俺たちは何としてもここを突破してみせる」

 

総司が平晴眼の構えでBBと対峙する。ここを突破して何としても校舎へ戻らなければ。 …出口まではあと少し。 このまま階段を駆け抜ければすぐに着く筈だ。

 

「先程は不覚を取りましたが次はそうはいきません。 …沖田総司、参る!」

 

回復した総司に指示を出しBBに突撃する。 外からの助けを期待できない今、 内側から強引に外に出るしかない。 ここは強行突破させてもらう!

 

「ちょろちょろと邪魔な虫ですね、絶対にここは通しませんよ」

 

総司はスピードで敵を翻弄し後ろ、前、横など多彩な方向から技を繰り出しどこにいるから分からないようにしている。 そしてついに総司の突きが当たり、BBの体勢が崩れた。逃げるなら今しかない…

 

「お母様だけ、ずるい…その人は…私が…!!!」

 

「行かせないわよ」

 

遠坂の方を見るとパッションリップが遠坂達を強引に突破しようとしていた。 だがアーチャーは敵の攻撃を軽々と躱し、 攻撃を叩き込んでいた。

 

「もう、邪魔、しないで…」

 

パッションリップが振り上げた腕の先に居たのは…遠坂。 まずい…このままでは遠坂が殺される…!!!!

 

「退けぃ!リン!」

 

「アーチャー!」

 

遠坂の代わりに貫かれたのはアーチャーだった。 あの一瞬で遠坂を守るために寸分の迷いもなく自分の体を盾にしたというのか。

 

「かはっ…何と重い一撃よ…是非もなし…か」

 

「アーチャー!」

 

「次は…貴方です…」

 

次にパッションリップが狙ったのは総司だった。

だが総司はいち早く存在に気づき既に防御の態勢を取っていた。 いや…ダメだ。あの攻撃は防御してはいけない。 あの両手についている巨大な爪に掴まれては駄目だと本能が叫んでいる…

 

「逃げろ総司! その手には触れちゃいけない!」

 

総司の所へと飛び込み二人で階段を転がり落ちる。 …結果的には助かったが出口へは遠ざかってしまった。 それにあの少女も置いてきてしまった。

 

「…リップ…貴方…」

 

「あ…ああ…ご、ごめんなさい!」

 

BBが苛立ちながらパッションリップを睨みつけている、 BBの体には先程のパッションリップが放った一撃に付けられたであろう傷が付いていた。

 

「…なるほど、あの両腕に掴まれてはいけないという事ですか」

 

出口まではあと一歩だった。 外に出さえすれば校舎に来れないBBの追跡からは逃れられた筈なのに…

 

「…このダメージはまずいですね。 リップ、私は下がります。 代わりに貴方が捕らえなさい。 失敗は絶対に許しません」

 

「…はい、わかりました」

 

BBは傷が深いのか撤退していった。 これであとはパッションリップただ一人。 …だが此方も一人は戦闘不能、動けるのは俺たちだけだ。 さっきから状況はほとんど変わっていない、どうしたものか…

 

「行きます…簡単に死なないでくださいね…?」

 

「遠坂! そいつを連れて逃げろ! 」

 

「馬鹿言わないで! 貴方達はどうするのよ! 貴方達を犠牲にするなんてそんなの私は認めないからね!」

 

俺たちはもう限界だ。 ここは遠坂達だけでも逃げてもらい希望を託す。もうそのくらいしか俺にやれることは残っていない。

 

「頼む…遠坂」

 

「…ああもう、わかったわよ! 絶対に助けを呼んでくるからそれまでに死ぬんじゃ無いわよ!」

 

 

そして遠坂は出口に向かって走り出す。 パッションリップは遠坂には目もくれず俺たちだけを眼中に捉えている。 やはりわかってはいたことだがどうあっても俺たちを逃す気は無いらしい。

 

”ならやることは簡単だ”

 

…そう、やることはただ一つ。

 

”殺せばいい。それも残酷に、凄惨に。 オレ達に刃向かったんだ。 それくらいの覚悟はあるんだろうよ”

 

何だ!?俺はこんなこと思って###

…そうだよ、俺は何も悪くない。 ソレにアイつらが向かってくるからワルい、カラ殺すンダ、せいとうぼーえーじゃナイカ。

 

あレ?ナニカがおか、しい。?

…可笑しくない、ヨ。ダッておきタを助けた時といいイまはとてつもなくカラダのチョしがいいんだカラ。

あたまモ妙にすっきひして###

 

「絶対に…逃がし、ません…」

 

「お下がりくださいマスター。 ここは私が」

 

…………………………………………………………。

 

「…マスター?」

 

………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「下がるのはオマエだ。 オキタソウジ(・・・・・・)

 

「…え? 今、 なんと……?」

 

ヤツの狙いは俺だ。 オレを狙われたラ、オキタは必然的にオレを庇わなイトいけない。 ナラ話は簡単だ。俺が戦えばいい。 コンな簡単なことに気づかなかったなんて。

 

「ま、まってください! 人の身でサーヴァントに立ち向かうなど正気ですか! それに「ウルセェなあ」

 

「…………え?」

 

「うるせぇんだよ、オマエは黙ってソコデ見てろ。 今ここでオマエに出来ることはナイんだよ」

 

「…………はい。」

 

「話は…終わりですか……なら、死んで…ください……」

 

パッションリップの方へと向きなおる。するとパッションリップはこちらに突進しオレを狙ってきていた。

 

…… おもしろい。 ならばオレは全ての痛みを受け入れよう。 受け入れた上で拒絶しよう。

この力は報復の力。 向ける相手はパッションリップ。

今ここにオレの生誕を祝うように、 オレの再誕を呪うように、 この力を解放しよう…………………。

 

 

「……偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)

 

 



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第7幕 『最高の相棒』

fgoの七章楽しかった!とにかく話が好きでした。 ギルガメッシュが強い優しい!cccを思い出しましたよ。
七章は六章より難易度優しめだったかな? 特に苦戦したイメージは無かった。 だからこそ次のソロモン怖い。
それに30個聖晶石が届くなんて太っ腹ですね! これでケツァルコアトルを当てろということか。
エルキドゥと術ギル? もちろんうちのカルデアには来てくれませんでしたよ?
まあウチには超絶美少女の沖田がいるので全然悔しくなんてないです。本当です。 何故沖田は出番が少ないんだ…もっと出てきてもいいんだよ? …失礼、取り乱しました、それでは本編をどうぞ!


「ギヒィッ!?」

「あぐっ…あああああ!痛い…なんで私が…痛い…」

 

パッションリップ。彼女は自分の腕がどうなっているのか分からない。

彼女の中ではこれが普通、これが通常。 全てを自分に都合のいい解釈をするため自分は普通の人間と変わらない、そう考えてしまっている。

つまりは極度の認識障害なのだ。 だから彼女は分からない。 何故みんなが自分を恐れるのか、何故自分が触ったものは全て壊れるのか。 その腕は全てを破壊する最強の矛だということに気付かない。

彼女は気付かない。最強の矛は時に自分を傷つける刃にもなるということに。

 

「ふぅ、 ふぅ、 がはっ!? アハははは!見ろよオキタァ!

あの野郎自分の攻撃で死にかけてやがるゼざまあねぇなぁ! こりゃ傑作だ、 ああ痛ぇ、 あいつも死にそうだが俺も死にそうだ、 いやこのままじゃ確実に死ぬ! 早くあいつを殺してくれ、ヨ。

そしてオレをハヤクたすけろオキタァ!」

 

沖田は瞬時に理解した。

この自分を呼んでいる男は岸波白野ではない。 その姿をしたナニカだと。

あの男は何かを叫んだ。 あれは紛れもなく宝具だった。 攻撃した筈のパッションリップがダメージを受けているということはカウンター系統の宝具。

だが自分に与えたダメージをはね返す、それだけではない、何故なら自分にもダメージがあり、死にかけている。

こんな異常な宝具は見たことがない。 今の岸波白野は普通ではない。

 

「ア?どうしたオキタ、早くそいつを…ガッ!?」

 

考えた末に沖田がとった行動は、逃走。

自分の主人の姿をした何かを気絶させ抱えて走る。

今、パッションリップは死にかけている。 どういう理屈か分からないが今はチャンスだ。深追いせずに無事逃げ帰ることを考える。

岸波白野の異変も伝えなければならない。

沖田は冷静だった。

 

「あと少し…あと少しで外に…」

 

「出られるといいわね」

 

死角から放たれた斬撃。 沖田は紙一重で回避し放たれた方に目を向ける。

そこにはまたもや桜と似たような姿をした少女がいた。

 

「初めまして、私の名前はメルトリリス。 貴女の抱えているそいつを殺しに来たの。 そいつを置いて逃げるなら貴女だけは見逃してあげるけど、どうする?」

 

沖田の行動は早かった、瞬時に敵に背を向け全力で逃げる。 本来なら絶対に敵に背を向ける何て事はしない、だが今はマスターがいる。

この状態で戦って勝てると思うほど沖田は馬鹿ではなかった。 今はただ、逃げきるという事だけを考えていた。

 

「例えこの身がどうなろうともマスター、貴方だけは無事に帰してみせます」

 

「うふふ、いい根性ね、でもそういうのって大嫌いよ。 …死になさい!」

 

斬撃が飛ぶ。 当たる瞬間に主人から手を離し自らが盾となる。 そして見事に沖田に命中し、沖田の背中からは鮮血があふれ出ていた。

その時沖田が考えていたのは傷のことではなく、岸波白野に斬撃が当たっていないかという心配だった。

「あら、そいつだけは守ったの? よく守ったわね、褒めてあげる。 でもこの距離ならどうかしら。

そこで貴女のマスターが殺されるところを見ていなさい」

 

「や…めろ……」

 

まさに絶対絶命のピンチだった。

敵に背を向けて逃げた時点で死ぬ覚悟はしていた。 だがここで自分は死ぬとしてもせめてマスターだけでも逃がしたかった。

「死になさい」

 

「ぐうううぅ…まだ、まだ…私は」

 

盾くらいにはなれる、その思いで飛び出した。 無論メルトリリスの攻撃は直撃し、沖田の脇腹は無惨にも切り裂かれた。

 

「いい、凄くいいわ、すぐ死んだらつまらないものね。 でももう終わり。

貴女は頑張った。 でも私からはどう足掻いても逃げられない、これまでお疲れ様。そしてさようなら」

 

悔しいが相手の言う通りだった。

例え自分が全快していても勝てるかどうか分からない相手にこんな傷を負っていて勝てるとは思えない。

手負いの状態でこの敵から逃げられるとはとても思えなかった。

自分にもっと力があれば…自分の力不足を嘆いた。

 

 

「いや、お前はよく頑張ったさ。 選手交代だ沖田総司。 …やれ!モードレッド!」

 

「これこそは我が父を滅ぼし邪剣!我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

激しい赤雷と共に現れたのは獅子劫界離。

リンが所属しているレジスタンスのリーダーでもありレオと渡りあえる程の実力の持ち主だった。

 

「今の内にマスター連れて逃げろ。 足手まといがいると邪魔なだけだからな」

 

沖田は思わぬ助っ人に感謝しながらも力を振り絞り立ち上がった。 出口まであと少し、 外に出れさえすれば主人の傷も治せる、自分の傷も治せる。 なけなしの力を振り絞り主人を抱え歩き出した。

 

「獅子劫解離…確かレオと渡りあえる唯一のマスターでレジスタンスのリーダー…だったかしら? 貴方が私を足止めする気なら無駄よ。 私はガウェインより強いもの」

 

「足止めなんてしねぇよ。 テメェはオレの手で死ぬんだからな」

 

まあそういうこった、そういい獅子劫は相手を睨みつける。 敵は僅かに苛立った様子を見せ余裕の態度を崩していた。

もちろんこれはハッタリ、ブラフのつもりだ。敵の魔力が桁違いなのは見て分かる、対策も無しに挑めば恐らく負ける。

だからこそ俺は撤退の意思を崩しはしない。 モードレッドにもハッタリだという事は伝わっている。

だからモードレッドも無闇に敵に仕掛ける事はしない。 このまま岸波が出口に到着するまでの時間稼ぎに徹する事。 それが今獅子劫が出来る最善の事だと判っていた。

張り詰めた空気の中、モードレッドは不穏な空気を感じ取っていた。 ここから離れろ、さもなければ自分達は死ぬ。 そう直感が告げていた。

次の瞬間、後ろで凄い轟音が響いた。 後ろで、出口の方で何かあったのだと気づいた。

 

「行っても構わないわよ? 大丈夫、邪魔なんてしないから。 急いでいかないと危ないかもしれないわよ」

 

クスリ、と笑いながらメルトリリスは挑発する。 だが確かに敵意はあっても殺意は感じられない。 今は岸波達の無事が最優先と判断し出口へと急ぐ。

するとそこには地面に這いつくばった沖田と撃退された筈のBBが出口を何かで塞いでいた。

 

「残念でしたねセンパイ。 私、センパイに早く会いたくて傷を超高速で治してきちゃいました。 ふふ、もう、絶対に逃がしませんから」

 

「くっ…あと一歩の所で…」

 

流石の獅子劫も絶対絶命だと悟った。

怪物級の魔力をした二人に挟まれ、二人は手負い。

これでは勝ち目どころか逃げる事さえ出来やしない。

だが後悔はしなかった。 ここで仲間を助けにいかなかったら絶対にリンは泣いていた。

仲間の死が、獅子劫は誰よりも嫌だった。

だから戦いでは先陣を切る事がよくあった。

 

「うふふ、獅子劫さん。 絶望ですか? 絶望ですよね?

助けに来た筈がただの犬死にをしに来ただけだった、 なんて絶望的ですよね! あははははは!

でも貴方には選択肢をあげます、このまま死ぬのは余りにも可哀想ですから。

この門はもう一人しか通れません。 そう作り替えました。 貴方が残ってセンパイを助けるか、センパイを見捨てて自分が助かるか、 貴方が選びなさい」

俺か岸波どちらかが助かるか…か。

俺がこの門に入るメリットは何だ。少なくとも俺が入れば自分だけの命は助かる。 それ以上のメリットは思いつかない。

それに運が良ければ岸波が捕まったとしても生徒会の連中が何か打開策を閃いて岸波を助けに行けるかもしれない。

何だ、簡単な話じゃないか。

俺が、この門に入ればいい。 リンには何か適当な言い訳でもすればいい。 力が及ばなかった。 すまなかった、など適当な言い訳をすればいい。どうせバレるわけはない。

俺も人間だ、命は惜しい。 力になれなくてすまなかったな、岸波白野。

 

「決めたぜ、そこを退けBB」

 

「…まあそうですよね、自分の命が一番大事です。 早くここから立ち去ってください。

今は気分が良いので特別に見逃してあげましょう」

 

「そうだな、俺も自分の命が惜しい。 すまんな岸波、力になれなくて」

 

「そうです、だから早く……って、待ちなさい! 一体何を…」

 

悪いなBB、 俺もさっきまで自分の命が惜しかった。 本当に逃げる気でいたさ。

だけどな、 ふとよぎったんだ。 仲間が泣く姿が。 リンが泣いている姿が、だから…

 

「おらよ岸波! 後はお前に任せたぜ! リンを泣かせたら承知しねぇからな!」

 

岸波を持ち上げ出口へと放り込む。

…ほらな、簡単な話だった。 最初から答えなど決まっていた。

自分の為だったら踏み出せなかった足も仲間の為だったら簡単に踏み出せる。

ここから出るのは岸波ただ一人だ。 決して俺のような奴じゃない。

 

「…なんだモードレッド、文句でもあるのか」

 

「あ? 何言ってんだ、文句なんかあるわけねぇだろ。お前がその門に入ったらオレがお前を殺したっつーの。 そんな腑抜けにオレのマスターは務まらねぇよ。

だから、今のは正しかった。 正しかったんだよ。

それにな、あのすました面を崩してやった。 それだけでオレは今最っ高に気分がいいね!」

 

本当にモードレッドは良い相棒だ。

時折振り回されて危ない目にあった事もあるがこれ以上ないくらいに気が合った。

見ろよ、あいつの顔を。 俺たちがあいつをイラつかせたんだぜ。 予想外の行動をしてやったんだ。

やってやったぞクソッタレ! 一泡吹かせてやったぜ! 俺達の気持ちは同じだった。

文句は言うが付いてきてくれる。

そんなお前が大好きだ。 愛してるぜ相棒。

 

「チッ…まあいいです。 センパイは逃がしましたが沖田総司は人質として捕らえました」

 

よく見れば沖田には何か首輪の様なものと手錠が付けられており拘束されていた。

あれのせいで霊体化出来なくなっているのだろう。

…さて、ならばやる事は決まった。

 

「沖田さんがいる限りセンパイは必ず来ます。ですがその前に貴方達を殺します、 というか不愉快です、せめて楽に殺してあげます」

 

「最後の大仕事だ。 あれを破壊するぞモードレッド」

 

「おうよ、いい覚悟だぜマスター。 オレたちの全身全霊、 受けて見やがれ!」

 

これが俺達の最後の戦い。 気合いを入れ直し敵へと向きなおる。

例え負けるだけの戦いでも傷を付けるくらいの事はしてやろう。

 

窮鼠猫を噛む。 俺達の最後の力…を…

その瞬間、恐ろしい光景を見た。 あのモードレッドが触れられてもいないのに…倒れた。

馬鹿な、メルトリリスはもちろんBBも全く動いていなかった。 一体どうやってあのモードレッドを…

 

「残念だったなアンタら。まあでも、いい線いってたと思うぜ?」

 

どこからともなく男の声が聞こえた。

何故か知らないが俺の体も痺れて来ている。 これは毒だ。 クソ…全く気づかなかった…

 

「残念でしたね獅子劫さん。 私が何も準備せずに来たとでも? 万全の構えで来たんですよ私は。…それでもあの選択は予想外でしたけど」

 

あんなに啖呵切っといて格好悪りぃな… だがお前には謝らねぇぞモードレッド。

俺の選択を信じてくれたお前を裏切るわけにはいかねぇからな。

俺が死ぬとしてもこの選択は間違っちゃいない。

間違ってないんだよな、モードレッド。お前には色々と大切な事を教わったよ。

さて、今日は人生で一番疲れた日だった。 こんな日は酒でも飲んで疲れを取るに限る。 モードレッドの奴も酒好きだからな…また久しぶりに飲み比べでもしよう。

…その時はお前の過去を教えてくれよ、 俺も教えるからよ。

そしてまた一緒に酔い潰れて…また一緒に朝日を見よう。

おやすみ…モードレッド。

 




そういえばサブタイトルを工夫することにしました。 まだccc編しかしていませんがそのうちextra編も変えようと思います。 うわ、何だこいつのサブタイトル気持ち悪っ、センス無いんじゃねぇのかと思ってもどうか、どうか皆様温かい目で見守ってくださいm(__)m


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第8幕『金色の王』

久しぶりに更新できました、年末のおき太とかノッブの話とか1.5部の話とか色々あったんですがやっぱり一番はぐだぐだイベントですよ! 本能寺も楽しかったですが次は明治維新ですよね! 魔神セイバー楽しみにしてたんだけどでない感じかな? まあ来たとしても引けないんだけど…それに明日もきっと何かあるでしょう(勝手な期待) まだまだ楽しめそうですよね! 頑張れfgo! 今回少し長いですが読んでもらえれば幸いです。ではどうぞ!


「やってくれましたね獅子劫界離…」

 

本来ならここでセンパイを捕らえ永遠に逃げられないように私の空間に閉じ込めるつもりだったのですが…まあいいです。

予定外なんてよくある事。

それより今は…沖田(こいつ)を。

 

「……私に人質の価値はありません。 特別な情報を持っている訳ではありませんし拷問の類はあらかた知っています。 何をしても無駄ですよ」

 

沖田は壁に磔にされていた。 捕らえられて磔にされ連想するのは十中八九拷問だ。

沖田は拷問の類は生前の縁で経験があった。だからと言って拷問に耐性がある訳ではなく出来れば痛いのは嫌だった。

もちろん口を割る気は無いしもしもの時の覚悟はしていたが。

 

「拷問? そんな事しませんよ。 帰りたいというならセンパイの下へ帰してあげます」

 

不可解だった。 自分を捕らえておきながら何もせずに帰すという行為に一体何の意味があったのだろうか。 と気を抜いてしまったその時の事だった。

 

「…ただし、帰るのは貴女ではありません」

 

一瞬、自分の腹部に何か違和感を感じた。 自分の腹部には何か細い棒のような…違う。 あれは腕だ。呆けていた頭が全てを理解し遅れて痛みがやってくる。

 

「くぁ、ぁがあぁぁぁぁあぁぁぁあ!」

 

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。 何かが、何だかわからないが確実に何かを入れられた。 それが自分の体に入り暴れている。

自分の内側からの痛みを味わったことのない沖田は想像を絶する痛みに驚愕した。 体中の血管からは血が吹き出し、止めたくとも体の痙攣が止まらない。 喉からは叫び声を上げすぎて血が出ている。

BBが沖田に使った何かは確実に沖田の肉体、そして精神を蝕んでいた。

…どうしてこんなに痛い思いをしないといけない?

生前、悪いことをしたから? 確かに人を斬った。 人を殺した。 だがそれは必要な事だった。 沖田総司という一人の人間の存在価値を皆に示すために。 そして自分の仲間を守る為に必要だった。 人を斬った。 だが結局は仲間を守れなかった。 だから今度は、今度こそは間違えないように、最後まで命を賭して主人を守る。

最後まで戦い抜きたい。私は、私の願いは最後まで仲間と共に在りたかっただけ…

 

いや、それは違うな。正しくは昔はそうだったが今は違う、だ。

 

戦い続けたい…確かに最初はそうだった。 命尽きるまで戦えれば、自分が何も出来ない役立たずな状態で終わらなければ、それで良いと思っていた。 だがマスターと、岸波白野と触れる内に私の願いは変わっていたのだ。

 

…ああ、私は…私の、願いは…

 

”岸波白野と共に在りたい”

 

いつの間にか願いは変わっていた。 一緒に笑い合ったり、触れ合ったり、一緒にご飯を食べたり…一緒に、隣に居られるならどんな形でもいい。

…近くにいたい。

 

…ただ、それだけだったのだ。

 

「痛いでしょう、苦しいでしょう、でも安心してください沖田さん。 もう少しの辛抱です…あと少しで…もう、何も思い出せなくなりますから」

 

血溜まりの中でBBは不敵に笑う。 沖田の両手両足を打ち付けていた杭は外れ拘束されていた沖田がべちゃりと血溜まりの中に落下する。

沖田は動かない。 消滅してはいないという事はまだ生きているという事だろう。 沖田の生命力…というか精神力に呆れながらもBBは内心喜んでいた。

これで準備は整った。 これを見たら岸波白野はどんな顔をするだろうか、 私の事を憎悪するだろうか。少なからず絶望するだろう。 そんな顔をしているセンパイを見てみたい。

以前は絶望した顔など見たところで特に何も思わなかった。 それどころか悲しく思うだけだった。 だがこの間の戦いで岸波が見せた恐怖している顔。

気分が良かった。

もっと大切なものを壊してやりたい、 そう思った。 狂気の笑みを浮かべBBは作業に戻る。

 

”あれ? 何でこんなことしてるんだっけ?”

 

ふと、奇妙なことを思ったが次の瞬間には忘れていた。

これが本当に自分の意思かどうかなど気づきもしていなかったし、次の瞬間にはどうでもよくなっていた。まともに考えることすら今のBBには出来なくなっていた。

それ程までに、何かに追い詰められていた。

 

〜〜〜〜

 

体が…浮いている。

いや、物理的に浮いているわけではないがフワフワしている感覚がある。 この感覚は前にも感じたことがある。 …ああ、これは夢だ。

夢など自分で覚めることも出来ないのだし、前のような悪夢でないことを願うばかりだが…さて、どうか。

 

〜〜〜〜

 

…少女がいた。だが、少女がいる部屋には他に何もなかった。 いや、何も無いわけではない。 生活に必要なものはあった。 布団、お茶、食べ物…etc。 だが、食べ物には一切手を付けていなかった。 時折その少女は苦しそうに呻きタオルを口元に当て吐血する。

…見ているこちらが痛々しい。 それにこんなに苦しんでいるのに他の人はどうして助けに来ないのか、そう思っていると一人、体格のいい男性が部屋に入ってきた。 手のつけられていない食器を片付け、何か話をしている。

少女は自分の体が徐々に弱っていくのがわかっていたのだろう。 だがそんな素振りは見せないよう明るく振舞っていた。

 

”もうすぐ大きな戦が来る、お前の力を借りたい”

 

何を言ってるんだ、この男は。 明らかにこの少女はボロボロで戦える状態じゃないことなんて見るだけでわかるはずだ。

 

”任せてください、最近は調子がいいんですよ”

 

やめてくれ。

それ以上無理をしないでくれ。 調子が良いわけがないんだ。 現にさっきまでは血を吐いて、呻いて、苦しんでいたんだ。

そんな思いを他所にその少女は戦いへと赴いてしまった。 案の定その戦いで症状が悪化してしまったらしく、またも寝たきりの生活が始まっていた。

 

あの体格の良い男もめっきり来なくなり、代わりの人が来るようになったが最早少女は隔離されているような状態で会話も最低限しかされず腫れ物のような扱いをされていた。

 

そして特に何があったわけでもない。 ただこれは当然だったのだ、と言うように普通の、何もない平穏な日に少女は眠るように息を引き取った。

 

ただ一つ、気になったのは、最後の最後まで涙を流さない日が無かったと言う事だろうか。

 

…これは、総司の過去だ。 最後の最後まで何もする事が出来ず仲間の状態も知らされずに命尽きてしまった。

そんな総司の望みは一体何なのだろうか。

 

考え込んでいる所で、落下するような感覚が俺を襲った。 夢が終わるのだなと感じた。

 

〜〜〜〜

 

目が覚める。 まだ完全に覚醒していない頭を回転させここが保健室である事を認識する。 確か俺は…獅子刧さんに投げ飛ばされて…。 そこまで考え、全てを思い出した。 朧げな記憶を思い出した。 自分一人だけ助かってしまったこと。みんなを見捨ててしまったこと。

 

「おはようございます、168時間も寝たきり何てニートもびっくりの睡眠量ですね」

 

落ち着いた声。 そこには褐色の眼鏡を掛けた少女がいた。 遠坂とも桜とも違う女の子。 …そしてさり気無くオレに毒を吐くこの子は誰だろうか。

 

「おはよう…ってか、疲労困憊で倒れてた相手に初対面でそれかよ。 普通こんな時はお互いに名乗りあうもんなんじゃないの?」

 

「いえ、これはミス遠坂が岸波さんは罵られて喜ぶ体質と言われていたので…」

 

なるほど、いきなりおかしいとは思っていたがやはりヤツの差し金だったか。 あのツンデレツインテ…ツンツイはいつもいらないことしかしないな。

 

「オレは岸波白野だ。君の名前は?」

 

「私はラニと言います。 私を助けてくれたのは貴方だそうですね。 …ありがとうございます」

 

なるほど、どうやらこの子はサクラ迷宮でオレが助けた子のようだ。 あの時は魔力も殆ど無くなっており顔色も悪かったがこうしてみると少し元気になっているように感じる。 何はともあれ、元気になったなら何よりだ。

 

「早速ですが生徒会室に同行を願います。 みなさん、貴方を待っているので…」

 

その時だった。 大きな破壊音が校舎内に響き渡った。 何か大きなものが校舎に激突したかのような凄まじい音。 一体何が…。

 

「敵襲です! 校舎の結界が破られました! 今レオさん達が迎撃に向かっています…が、あの数を一人で相手にするのは流石のレオさんでも厳しいと思われます。 至急戻って遠坂さんと結界の修復に取り掛かってください!」

 

血相を変えて保健室に現れたのは桜だった。 どうやら敵が来たらしい。 急いで敵の迎撃に向かわなければ…。

 

「貴方はこのまま回復に努めていて下さい。 今の貴方にはサーヴァントもいないのですから出来ることはないと思われます」

 

サーヴァントが、いない…? そこまで言われて自身の令呪に光が宿っていないことに気づいた。 …総司との契約が切れている。

…まさか、総司が死… いや、そんなまさか、そんなはずは…。 でも、そうじゃないなら何故令呪が…。

 

「…岸波さん?」

 

「…行かないと、ソウジのところに、行かないと」

 

「貴方はここを動かないで下さい。 今の貴方はとても危険な状態です。 今の貴方が助けに行っても足手まといになるだけ… 大人しく休んでいて下さい」

 

大人しく休んでいろ…? 出来るわけがない。 オレは敵に聞かなければいけないんだ。 オレの相棒のソウジの事を。

 

「断る。 オレには目的ができた。敵が来てるんだって? 丁度いい、そいつらに聞きたい事がある」

 

こっちは急いでるんだ。 どんな事になってでも確認しなければいけない事がある。 敵が都合よくこちらに来てるのなら尚更だ。 ラニには悪いがここは通してもらう。

 

「…駄目です。 どうしても行くと言うのなら力づくでも…ウッ!?」

 

「…ごめんな、後で謝るから許してくれ」

 

ラニを気絶させ、保健室を後にする。 正直ここまでうまく行くとは思っていなかったが今日は何故か体の調子がいい、まるで自分以外の力も加わっているような…まあそんなことはどうでもいい。…早く行かなくては。

 

〜〜〜〜

 

表の聖杯戦争。 それはムーンセルによって集められた選ばれた魔術師が参加することの出来る月での聖杯戦争。 そこにはどんな常識も通用しないような規格外の魔術師達が願いを叶えるためにやってくる。 その中でも正面からの戦いを強いられる表の聖杯戦争において最強と謳われるコンビ。 それがレオ、ガウェインという最高のスペックを持つ二人であった。

 

「満身創痍、ですね」

 

だがそれは表の一対一での戦いに限っての話でありここはムーンセルの監視も届かない裏の世界。 いかに表で最強だとしてもルールも何もない裏では基本何をしても良しであり英霊本来の多彩な攻撃にレオ達は苦戦を強いられていた。

 

「ごめんなさい、貴方達は特に危険人物だから殺さなきゃいけないんです…でないとお母様に怒られちゃうので…」

 

加えて防御をする事も出来ない規格外の存在、アルターエゴ。 その攻撃も脅威だが間を縫って攻撃して来る英霊達もまた厄介だった。しかもここでは太陽の加護が受けられずガウェイン本来の実力が発揮できない。 レオの力を持ってしてもこの数を相手にするのは無謀というものだった。

 

「…仕方ありません。 ガウェイン、宝具の開放を許します」

 

まだ早い、まだ撃つべきではない。 そう本能が言ってはいたものの手段は最早これしかなかった。 今撃ったところで決定打にはならないだろうがこのままでは自分達が殺される。 ダメージを与えられれば良し、そうでなくても撤退させるだけならば今の魔力でも可能なはず…

 

「…御意。 我が聖剣は太陽の具現。 王命のもと、地上一切を焼き払いましょう」

 

「こんなところで宝具の開放を…!?」

 

急速な魔力の高まり。 この宝具はまずい、いくら日中で無いとはいえ食らえばタダでは済まない。 ここは逃げるしか無い…

逃走を図ろうとしたその時、周りには炎の壁が逃走などさせないと言わんばかりに聳えている事に気がついた。

 

「”聖剣集う絢爛の城(ソード・キャメロット)”この炎壁は僕ですら三分しかもちません。 ですがこの結界は聖剣以外では傷つける事はできないし空間転移で逃げる事もできない。 …決着をつけましょう、ガウェイン!」

 

「この剣は太陽の映し身。 もう一振りの星の聖剣……”転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”!」

 

決まった、確かに手応えを感じ相手に逃げる暇も与えなかった。 ガウェインの宝具はランクAの対軍宝具。 例え相手が不撓不屈の英雄達だとしても直撃を受けて生き残ってはいられまい。

…煙が晴れる。 倒れていたのは二人。 どちらもサーヴァント。アルターエゴは全くの無傷だった。

 

「ヌウ……」

 

「テ、メェ…やりやがったな…」

 

つまり、敵はあの二人を盾代わりとして宝具を防いだのか。 …卑劣な。

 

「ガウェイン、敵はあと一人。 一気に畳み掛けますよ」

 

敵が一人になったならば先程よりは事態は好転したはず。 防御不能の腕は厄介ではあるが対処できない程ではない…

 

「死ね」

 

これは…剣。 剣が自分の胸から飛び出している。 敵が接近していたのか。 全く気配が読めなかった。 意識が朦朧とする。 心臓を貫かれたからか。

 

「レオ! よくも…貴様…何者だ!」

 

「…お前のマスターはじき死ぬ。 お前と話すことは何もない」

 

暗殺者の気配が消える。 このままではレオが死んでしまう…急いで保健室へ連れて行かなければ。

 

「…どうやら僕はもうダメなようです。 ガウェイン、凛さんかラニさんと再契約を…」

 

レオの声がどんどん弱まっていく。 当たり前だ、心臓を潰されたのだから。 どんなに優れた医療でも心臓を再生などはできない。 分かっていてもガウェインは己が主人の死を認めることが出来なかった。

 

「ならば、最後は共にいさせて下さい。 一緒にいてこれ程楽しいマスターは貴方だけでした。 最後まで我が身は貴方と共に」

 

かつて最強と呼ばれた二人は敵の猛攻の前に沈んでしまった。リップは厳しい戦いになるとは思っていたが案の定楽に倒せた事に正直ホッとした。 こちらも被害は出たがそれ以上に戦果の方が大きい。 後は校舎の結界を破り岸波白野を捕らえるだけ…っとその前にきちんとトドメを刺さなくては。 万が一にも復活してしまわないように。

その瞬間、リップの本能が叫んだ。 後ろに跳べ、逃げろ、と。

 

「ほう、躱したか。 だが分かるな? こちらを見るな喋るな踏み込むな。 それ以上踏み込めば次こそ殺す」

 

黄金の輝き。 無限の剣。 そして溢れるような王の威光。 向けられている殺気だけで殺されてしまいそうな威圧感。 奴は…

 

「ギルガメッシュ…!!!」

 

「女神風情が、我の名を呼ぶか!」

 

この世の全てを統べ、ありとあらゆる宝を所持する英雄の中の王。 英雄王。彼が空中に展開している無限とも呼ばれる武器は全ての宝具の原点に属するものでその一つ一つが一撃必殺の力を持つ。 それら全てが、自分に向いている。

躱す?出来るわけがない。

防御する?死にたいのか。

 

「”王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”」

 

「そんな…イヤ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

圧倒的な力の前には、少女の力など無意味だった。

 

 

 



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