what if⁉︎ 〜アイドルマスターシンデレラガールズ〜 (ぬらぬら)
しおりを挟む

序章

 

 1人の大柄な黒いスーツの仏頂面の男が黙々とキーボードを叩いている。部屋は広めの個室でそこにあるのは男が作業をしている机とパソコンに応接用と思われるソファとテーブルと、一見どこか殺風景を思わせるが、その机には一つの写真立てが飾ってあった。

 男はキーボードのエンターキーを人差し指で押し、一息つくと少しの間が空いてドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

「お疲れ様ですプロデューサーさん。進み具合はどうですか?」

 

 扉を開けて入って来たのは黄緑色の事務服に黒いスカートを身に付けた女性だった。茶色の髪を三つ編みにして赤いリボンを付けて右肩の前に垂らし、人を安心させるような優しい笑みが印象的だ。

 

「そうですね……私の方は予定通りです。あとは彼女達次第かと」

 

 男は首筋に手を当てて微かに頭を捻った。

 

「前回のサマーフェスに続いての大きなライブですからね。レッスン場を覗いたんですが、みんな気合い入って頑張っていましたよ」

 

 事務服の女性は星を模した形の蓋がされた小瓶を男の机の上に置く。容器の大きさからして栄養ドリンクのようだ。

 

「差し入れです。プロデューサーさんも頑張るのは良いですけどあまり根を詰め過ぎないでくださいね。彼女達の代わりがいないように、貴方の代わりだって誰もいないんですよ?」

 

「はあ……気をつけます。気を使って頂いて申し訳ありません」

 

 プロデューサーと呼ばれた男は女性に礼を述べて頭を下げる。女性はその様を見てクスりと笑い一礼して部屋を出て行った。

 男は差し入れのドリンクを飲んで一呼吸入れ、再びパソコンの画面と向かい合った。それから壁に掛けられた時計の短針が三回程回る。その間キーボード叩いては止めて文書を確認し、時々首を捻るといった行動が何度も繰り返された。

 そんな時、約3時間ぶりの来訪者が現れる。

 

「お疲れプロデューサー!レッスン終わったよ!」

 

 ノックも無しに扉が勢い良く開かれ、男は反射的にビクついてしまった。

 入って来たのは外側にはねた首まで伸びた茶髪にオレンジを基調としたジャージを着た少女だった。

 

「未央ちゃん、そんなに勢い良く入ったらプロデューサーさんがびっくりしちゃいますよ~」

 

「お疲れ、プロデューサー。仕事の方はどう?」

 

 続いて長くて毛先が少しウエーブががった茶髪にピンク色のジャージを着た少女、ストレートの黒いロングヘアに黒を基調とした全面と腕から肩にかけて蒼いラインのジャージを着た少女が入室する。

 

「皆さん、お疲れ様です。私の方は問題なく進んでいます。今日のレッスンはいかがでしたか?」

 

 プロデューサーは少女達に目を向けて聞いた。

 

「もちろんバッチリ!私たち3人息ぴったりでこれ以上無いってくらい絶好調だよ」

 

「未央、少し言い過ぎ。でも調子が良いのは本当かな卯月もそう思わない?」

 

「私は……2人にに着いて行くのが精いっぱいでしたけど、なんだかステップが上手く踏めたと思います!」

 

 三者三様の答えが返ってくるが、全員が好感触を掴めたようでプロデューサーの男も少しだけ顔が綻んだ。

 そして4人は10分ほど他愛も無い会話を続けた。

 

「それじゃあ私達は帰るね」

 

「お疲れ様でした、気をつけてください。今の世の中、何が起きてもおかしくありませんので」

 

 黒いロングヘアの少女が切り出したのにプロデューサーの男は応えた。一見普通の挨拶のように見えるが、短めの茶髪の少女は男の含みのある言い方に気づく。

 

「あっもしかしてプロデューサー先週のニューヨークに宇宙人が攻めてきたーって奴の事?」

 

「あー、ニュースでそればっかりやってますよね、アベンジャーズ?って人たちがアメリカを救ったって。私もあれ位テレビで取り上げられるように頑張ります!」

 

 長い茶髪の少女は男に向かって指でピースを作り印象的な笑顔を向けた。

 

「一説ではトニー・スタークの作った映画だなんて言われてるけどね。

ちゃんと人通りの多い所を通って帰るから大丈夫。それじゃあプロデューサー、また明日」

 

「バイバイ、プロデューサー!」

 

「お先に失礼します。お仕事、頑張ってください!」

 

 3人の少女のそれぞれの別れの挨拶に対して、男はお疲れ様でしたとだけ述べて頭を下げる。

 それから時計の短針が二周ほど回ると男はパソコンの電源と灯りを消して部屋を出る。

 

 大きな正門をくぐり、事務所の敷地内を出て自宅へのいつもの道を歩く男、しかしなんだか妙だ。人通りも少なく街灯も少ないせいで自分の革靴の足音が良く聞こえるのだが、その音が一つ多く自分の後方から聞こえる。

 歩きながら首の後ろに手を当てて男は考える。自分の担当するアイドルならまだしも、大柄な男性の自分が誰かに狙われる事はあまり無いはずだと。

 

「うっ……!」

 

念には念をと歩く速度を速めようとしたその時、頭に強い衝撃が走り意識を手放して男は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の夕方、長い眠りから目覚めた偉大な英雄、スティーブ・ロジャースはかつての想い人のいる老人ホームを出て、空を見上げた。

 

「ペギー……」

 

 想い人の名を呼んでも返ってくる返事はない。スティーブの脳裏に長い眠りにつく前の記憶が反芻される。

 超人血清を打たれるまでのひ弱だった頃から、実験によって強靭な肉体を得たキャプテン・アメリカになり戦場を駆けた日々。そして敵の爆撃機を氷河に覆われた海へと墜落させた時の記憶を思い出していたその時、自分の後方から気配を感じた。

 

「誰だ!」

 

 威圧するような声で警戒するも、一見そこに人の姿は無かった。

 

「流石だなキャプテン、休暇中でも心から休んでいる訳では無いようだな」

 

 木の陰から現れたのはスキンヘッドに眼帯を付けた黒いロングコートの黒人男性。その男は秘密裏に世界の平和を守る組織S.H.I.E.L.Dの長官、ニック・フューリーだった。そのままスティーブに近寄り2人の大柄な男が対峙した。

 

「だが、休暇も終わりだ。君に任務がある、日本へと飛んでもらう」

 

「なんだってフューリー、もう一度言ってくれないか?」

 

 後をつけられていた事に謝罪も無く苛立ちを覚えたスティーブだが、フューリーの言った言葉を自身の聞き間違いかと思った。

 

「任務だ。日本のとある芸能事務所で護衛をしてもらう。喜べ、女性の方が比率は高いらしい」

 

 フューリーは淡々と冗談を交えて言うが、スティーブはため息を吐き、首を横に振った。

 

「断る。それならスタークに頼んだらどうだ、彼なら喜んで行くんじゃないか?」

 

「アイアンマンが白昼堂々と日本の芸能事務所にいたら大騒ぎだな、特に彼は素顔も知られている。バナーは言わなくても論外だ」

 

「それならば、ナターシャやバートンの様な君の優秀な部下たちがS.H.I.E.L.Dにはいるだろう。わざわざ僕が日本に行く事ではないはずだ」

 

 スティーブが踵を返してこの場を去ろうとした所でフューリーが続けて言い、その言葉に彼は引き止められた。

 

「確かに君の海外での知名度は低くない。君の言った通り私の部下にも優秀な者は大勢いる。それでも、今回の事は君が適任だ」

 

 そう言うとフューリーは一枚の写真を手渡した。

 それを見た瞬間、スティーブは目を見開いてフューリーを見る。

 

「これは……本物なのか⁉︎」

 

「わからない……昨日衛星が捉えた映像だ。その後はソイツがどうなったかも含めて不明だ。だが、それを含めて君に真相を突き止めて貰う。適任の意味が分かっただろう」

 

 写真には街灯の側で1人のスーツの男が横たわっていて、その傍らに軍服を着た男が立っていた。しかしその男の皮膚は赤くおおよそ人間とは思えない色をしていた。

 

「そうだな……確かにこれは、僕が行くべきだ。どこに行けば良い?」

 

「日本の芸能プロダクション、ミシロプロだ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。