東方晶蠍記 (天翔青雷)
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第一話 生まれ変わって・・・
タグに書いてある通り、不定期更新でクオリティの低い作品です。さらに、作者は基本的に、東方を二次創作でしか知りません。その為、設定におかしな点などがあるかもしれません。それらや、誤字脱字、文法の誤りなどを見つけましたら、遠慮なくご報告ください。
・・・文才はありませんが、できれば、温かい目で見てもらえると嬉しいです。
・・・なお、この作品は、作者が二次ファンで投稿していた作品とは一切の関係がありません。あしからず。
・・・知らない天井だ。いや、そもそもこれを、天井と呼べるのだろうか。
僕の周りにいるのは、虫達。ここは、どう見たって虫籠ようにしか見えない。
・・・・・って、そんな簡単に流して良い状況じゃないと思う。僕は確かに、人間だった筈だ。普通におきて、普通に学校へ通う、普通の人間だった筈だ。少なくとも、虫と一緒に籠に入れられるような人生は送っていなかった。
けど、普通じゃないことに、一つだけ心当たりがある。僕は今日、下校中にトラックに轢かれたはずなのだ。・・・・今更だけど、どうして生きているんだろう?もしかして、僕の体は虫の餌にされていて、そこに精神が繋がってるとか?
モゾモゾ
・・・そういうわけでは、ないらしい。『八本の足』で、普通に動けた。・・・え?
腕を見る。鎌状の鋏が付いている。
足元を見る。体の側面に、四本ずつ足が生えている。
「ギギギーーーー!?(何じゃこりゃーーーー!?)」
やっぱり僕、虫になってる!?
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第二話 その種族は・・・
僕は、トラックに轢かれた。死んで、虫に生まれ変わった。そんなところだろうか?
・・・それにしては、おかしな点がある。それが、周りにいる虫の種類。僕には足が八本あったから、恐らくクモ綱の虫のはずだ。けれど周りには、僕のほかにクモ綱の虫は見当たらない。というか、足の多い虫はムカデくらいしかいない。ということは、僕がここで産まれたとは考え辛い。
ここで思いつく可能性は、二つ。
一つは、ここで飼われていた虫に憑依した可能性。
もう一つは、ある程度成長した時点で僕という自我が目覚めた可能性。
まぁ、別にどちらでもいいだろう。それをはっきりさせても、生活は変わらないし。
さて、僕がいるのは虫籠の中。ということは、僕達は誰かに飼われているのだ。ならば、食料に困る心配も無い。それは他の虫も同じはずだから、態々僕を襲うものもいないだろう。
虫として生まれたのは残念と言うほか無いけど、ここでは生活に困ることは無い。寿命の短いニートになったと思えば、まぁそれなりに楽しめるだろう。
・・・でも、退屈なのは面白くない。虫なら虫らしく、人間にできないことをしてみたい。例えば、口から糸を吐くとか。
「ギギッ!!」
・・・何も出てこない。というかそもそも、クモはどこから糸を吐くんだろうか。口から糸を吐くクモなんて、アニメにしかいなかったような気もする。
無い知識を探してもどうにもならないから、とりあえずは試行錯誤してみる。頭が駄目なら、腹部で試してみよう。
ピュッ!
・・・今度は、何か出てきた。着弾地点にあったのは・・・液体?まだ、上手く構成できていないのか?
もういちど、さっきと同じように腹部に力を入れて・・・あれ?
今更気付いたけど、クモの腹部って、こんなに長かっただろうか?これじゃあまるで、サソリの尾みたい。・・・いや、「みたい」じゃなくて、本当にサソリなのか?
試しに尾(仮)を、自分の視界に入る位置に動かしてみる。・・・うん、間違いなくサソリの尾だ。針まで付いてるし。ということは、さっき出てきた液体は、僕の毒か。・・・そういえば、今更だけど、クモの前足に鋏なんてないよね。どうして、もっと早く気付かなかったんだろう?
とにかく、ようやく自分の種族が分かった。けど、逆に不安になる要素が一つ。餌に余裕があるから襲われることは無いだろうけど、この籠の中にいるムカデって、サソリの天敵なんだよね・・・。
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第三話 その役目は・・・
人間が、やってきた。どうやら、餌をくれるらしい。
サソリは危険な動物っていうイメージが強いけど、それは所詮イメージだけの話。実際、ほとんどの種の毒は弱く、食べ物も自分より小さな昆虫がメインだ。哺乳類だけでなく、ムカデやクモさえも天敵となる、どちらかといえば弱者にあたる。そのサソリである僕が真っ先に餌に飛びつくのは、もはや自殺行為だ。
「ヂヂヂヂヂッ!?」
あれ?なんだか、餌を食べた虫たちの様子がおかしいような・・・?
「ヂヂヂヂヂ・・・」
・・・明らかに、異常。まるで殺虫剤でもかけられたかのように、虫たちが苦しみ、のた打ち回っている。・・・あ、一匹動かなくなった。死んだか?
仲間、とは違うだろうけど、目の前で自分と同じような存在が死ぬのを見て何も感じないって言うのはどうなんだろう?
「ギ、ギギギ?(さて、どうしようか?)」
それはさておき、餌を食べなければ、死ぬ。けれどこの餌は、明らかに危険だ。しかも、恐らく僕らの飼い主は、故意に虫に毒を食わせている。その理由は分からないけど、とにかく毒を食わせて何かをしようとしているのは確かだ。だったら、目的どおりに毒を食わないものは捨てられる可能性もある。まだ自我が覚醒したばかりの僕が、この場所以外で生きていくのは難しいだろう。
「ギギギ、ギギギギ。(となると、食うしかないか。)」
もはや、一か八か。既にこの籠にいた虫の三分の一ほどを殺している毒餌を、僕は食べる。
「ギギ、ギギギギ!?」
く、苦しい・・・。まさか、ここまで強い毒だったなんて。いや、毒の強さなんてよく分かんないけど。
・・・どうしよう。僕、死ぬかも・・・。
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第四話 その身に宿るは怪物の力
・・・ふぅ、死ぬかと思った。一体、何の毒を混ぜられてたんだろう?しかし、それにしても、よく生きてるなぁ、僕。
―――『血晶を操る程度の能力』―――
何コレ?突然、頭に思い浮かんだんだけど。もしかして、この力(仮)のおかげで生き延びられたのかな?そもそも血晶っていうのがよく分からないけど、とりあえず血清か抗体か、そんな感じなものを創ったんだろう。たぶん。
「ギギ、ギギギギ?(さて、これらはどうするのかね?)」
僕の周りで横たわる、たくさんの虫の死骸。これ、飼い主が処分するのだろうか?それとも、僕達が食ったほうがいいのだろうか?まだ、毒の成分が残ってそうで怖いんだけど。
「ありゃりゃ、三分の一は死んじゃいましたね。これ、どう報告しましょうか。こんなに殺したなんていったら、あの人に怒られちゃいます。」
あ、まだいたんだ。飼い主。
虫の死骸の処理方法について聞きたいけど、生憎と今の僕は人の言葉を喋れない。聞いて理解することはできるんだけど。
「まぁ、きっと大丈夫ですよね。ここの虫が死体を食べて、増殖すればバレないはずです。」
・・・よく分からないけど、とりあえず死体は食ったほうがいいらしい。残念ながら、僕は増殖しないけど。サソリは僕一匹しかいないし。さすがに、他種族との交配とか勘弁して欲しいし。
ところで、もう、死体に毒の成分は残っていないよね?たぶん死ぬことは無いだろうけど、苦しいのは嫌だよ?
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第五話 血晶
「ギギギ!?(うわぁ!?)」
びっくりした。飼い主がいなくなったところで虫の死体に食いついたら、体液が結晶化して飛び出してきた。・・・後ろに飛び退くのがもう少し送れてたら、貫かれてたぞ。
「ギギギギ?ギ、ギギギ。(死骸に残ってた防衛反応?いや、僕の能力の暴走か。)」
血晶、というのはよく分からないけど、字のままの意味ならば「血の結晶」だ。ということは恐らく、僕の能力は体液を操って結晶化させる能力。 毒に抗体ができたのは血を操ったからだろうし、今のは無意識に相手の体液を結晶化させたんだろう。
自分の血を武器とするだけじゃなく、相手の血液ですら結晶化させる。ある意味、とんでもなく恐ろしい力だと思う。ただ、それ以前に・・・。
「『体液を結晶化させる』『蠍』って・・・。」
生前・・・というか、前世というべきか?その頃やっていたゲームに、そんなモンスターがいた。あれは自分の体液しか操れなかったけど、今の僕の存在は、あれに限りなく近い。
‘尾晶蠍’アクラ・ヴァシム
蠍なのに足が二本しかないとか、どうして蟹が行えない咆哮をできるのかとか、色々と分からない点の多い蠍のモンスター。
・・・もしかしてこの世界には、そんな化け物が溢れてる?
「ギギギ・・・。(勘弁してよ・・・。)」
今の僕は、普通のサソリのサイズしかない。今化け物に襲われたら、一瞬でThe・Endだよ。
・・・毒入りの餌はいやだけど、やっぱりここで暮らすしかないみたい。まぁそもそも、出たくてもこの籠からの脱出なんて不可能なんだけど。
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第六話 その目的は・・・
「ヂヂイイイィィィィィィ!?」
今日も籠の中に響く、断末魔の声。・・・半分は嘘だけど。今日はまだ、実際に死んだ虫は少ししかいない。ほとんどは苦しむだけで、生きている。苦しみの中で絶叫してるけど。
この前は虫の死骸にも毒が残ってたせいで何度か酷い目にあったけど、それでも僕は生きている。能力のおかげで。
ちなみに、あれから数日は普通の餌を与えられた。どうやら、毎日毒を食わされるわけではないらしい。・・・で、暫くは平穏な生活を送れると思ってたんだけど・・・。
「ヂヂ!ヂヂヂイ!」
今度は飼い主が、虫たちの体に注射器を刺している。見たところ、毒の類を注射してるわけではない、というか、逆。虫たちの体液を抽出している。もしかして、飼い主が求めているものは、虫が作り出した抗体?
「ギギッ!?(痛っ!?)」
何かと思ったら、僕の体にも注射器が刺されている。ここで体液を結晶化させることもできるけど、そんな特異なことをすれば追放されかねない。だから、ちょっと・・・いや、かなり痛いけど、我慢する。今、ここを追い出されたら、本当に死んでしまう。死ぬよりは、痛い思いをしたほうがマシだ。
「・・・あの人が視察に来るまで、後五日。もう少し数が増えないと、虚偽の報告がバレそうねぇ。」
・・・いや、虚偽の報告なんてするなよ。
ただ、どうやら話を聞く限り、飼い主の言う「あの人」とやらは虫殺しを推奨しているわけではないらしい。この実験も、解毒剤か何かを作るために渋々やっているのだろう。・・・それを、今の飼い主に任せた時点でアウトな気がするが。この飼い主、虫の扱いがぞんざいだし。毒だけでなく、注射でも何匹かが殺されている。恐らく、臓器を傷つけたのだろう。
「ギギ、ギギギギギ?(さて、『あの人』とやらは気付くのかね?)」
虐げられた、虫たちの現状に。このままだといつか、虫の怨霊とか出てくると思うぞ。そもそも、怨霊が実在するのかどうかが疑問だが。
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第七話 出逢い
「ねぇ、報告よりも虫の数が少なくないかしら?」
「さ、さぁ?共食いでもしたのではないでしょうか?」
「それは、餌のやり方が不十分だったということではないかしら?」
「いえいえ、そんなことは。恐らく、かなり無秩序に虫を入れていますから、狩猟本能のようなものが出たのでは・・・。」
・・・人の言葉を喋れないことが、こんなにもどかしいなんて。というか、言い訳が苦しくないか?まぁ、これならあの人も真実を追究してくれそうだから、僕としてはありがたいけど・・・。
「特にこのサソリなんて、クモやらムカデやらを片っ端から・・・。」
「ギギイ!?(はいぃ!?)」
ちょっとちょっと、何言ってんの!?クモもムカデも、サソリの天敵だよ!?確かに死体は食ったけど、僕がそいつらを襲えるわけ無いじゃん。ついでに、ムカデは滅茶苦茶たくさんいるけど、クモは一匹しかいなかったよ。
「私の記憶が正しければ、その二種はサソリの天敵のはずなのだけど?」
「うぐっ。そ、それは・・・、えぇっと、ですね・・・。」
はっきり言うけど、嘘下手すぎでしょ。まだ、横向いて口笛吹いたりしないだけマシだけど。
「正直に言いなさい。」
「・・・すみません。毒の分量を間違えたようで、四分の一ほどを殺してしまいました。」
今度は、そこそこに信憑性があるね。・・・実際に毒で死んだのは三分の一だし、注射のときにも何匹かは死んでたんだけど。
「そう。・・・これから暫くの間は、ここでの研究は私が担当するわ。」
「そ、そんな!?永琳様には、他にやるべき研究が・・・。」
「黙りなさい。自分達のために他の命を蔑ろにするなんて、許されることじゃないわ。」
・・・ふぅん、永琳っていうんだ、あの人。それにしても、優しい人だ。・・・けど、たぶんそれだけじゃないと思う。僕は見たことないけど、厳しさも持っているはずだ。だって、普通、優しい人間ほど騙され、利用されるこの世の中で、結構上位の地位にいる人なんだ。よほどの才能か、頭脳を持っていて、なおかつ現実も見れる人に決まっている。
「ここの研究は、私が担当します。あなたは、空席のある別の施設へ移動しなさい。」
「・・・はい。」
優しさを持ち、けれど、人を疑うことを知っている。あの人が飼い主になったなら、僕達の生活は安泰だろう。・・・毒と抗体の研究がなくなるわけではないだろうけど。
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第八話 別れ
永琳が僕達の飼育・・・じゃなくて、研究の担当になってから数年が経った。
いくら扱いが丁寧になっても実験が実験だし、寿命の短い虫も多いから、僕以外のほとんどの虫が世代交代をしている。
・・・そういえば、親の抗体を引き継いだのか、生まれたときから抗体を持っている虫も多いらしい。永琳が他の研究者に話しているのを聞いた。そういった虫の一部は別の籠に移されて、毒無しで育てるらしい。その代わりに、数日に一度体液を採集されるらしいけど。・・・どっちでも、結局苦しむことに変わりは無い。というか、さっさと死んだ方が楽な気もする。命を大切に、って考え方は良いと思うんだけど。
ガコッ
「ギギ?(何だ?)」
突然、虫籠の蓋が完全に外された。一体、どうしたんだろう?普段なら虫が飛んで逃げていくのを警戒して、餌も注射も一部だけを開けていたんだけど。
「貴方達・・・、今まで苦しい思いをさせて、ごめんなさいね。」
今まで、というか、これからも苦しい思いをするんじゃないの・・・?
「こんなの、こっちの勝手な都合だってことは分かっているし、貴方達が私の言葉を理解してくれないのも分かっているけど・・・。私達はこの惑星を捨てて、月へ移住することになったの。」
へぇ、月に移住を、ねぇ。・・・・・・・はい?
「けど、貴方達を連れてはいけないから・・・。こんなことを言うのも身勝手だってことも分かってる。あなたたちの生活を奪って、苦しめてしまった私が言えることじゃないけど、せめてこの星で生き抜いて、幸せに暮らして頂戴。」
まぁ、苦しめられたのは事実だけどさ。今いる虫のほとんどは、この籠の中で生まれたやつらだよ?生活を奪うも何も、こいつらはこの籠で餌をもらわないと生きていけないんじゃないか?
「私のことは、恨んでくれて構わないわ。・・・ごめんなさい。」
いや、別に恨みはしないけど。ここで飼われてなかったら、野垂れ死んでただろうし。ついでに言えば、僕以外の虫は永琳の言葉を理解できない以前に、恨むとかそういう感情すらもってないと思う。感情を持つだけの知能がなさそうだし。・・・今更だけど、サソリのどこに、自我を生み、言語を理解するほどの脳があるんだろう?
「・・・・・さよなら。」
「ギギギ。(さよなら。)」
・・・さて、これからどうしよう?
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第九話 結晶纏う蠍
ザクッ!
「ギギ、ギギギ。(よし、13匹目。)」
永琳がいなくなった瞬間、僕は格下の虫を襲い始めた。けど、 別に空腹を感じているわけではない。
「ギギギ!(固まれ!)」
僕は虫の体を引き裂いてその体液を浴び、結晶化させている。僕の尾針から出る毒液も体液の一種だから使えるけど、この方法は貧血になりかねない。だから、他の虫の体液を使っている。
何故こんなことをしているかというと、天敵から身を守るためだ。飼い主がいなくなるということは、餌がもらえなくなるということ。そうなれば、僕達は自給自足をしなければいけなくなる。そしてこの場所には、サソリの天敵であるクモやムカデがいるのだ。今の内に結晶の鎧を纏っておかないと、僕が食われる。
「・・・ギギギ。(・・・なんだかなぁ。)」
生き残るためには仕方がないとはいえ、自らアクラ・ヴァシムと同じ事をすることになるなんて。・・・だんだんと、普通のサソリから離れている気がする。・・・今更か。
「ギギ!(とりゃ!)」
・・・僕の尾針から飛び出した毒液が結晶化し、毒の槍になって虫を貫く。こんな芸当ができるサソリなんていないだろう。というか、アクラ・ヴァシムでさえもこんな暗殺者みたいなことはしない。というか、できない。
「ギ?ギギギギ・・・。(あれ?もしかして・・・。)」
僕って、モンスター以上の怪物だったりする?
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第十話 外に待ち受ける現実
・・・発見。身に血晶の鎧を纏った蠍は、天敵であるクモやムカデよりも強い。
なんで分かったかといえば、襲ってきた天敵たちの迎撃に成功したからである。襲われたときは肝が冷えたけど、実際に戦って拍子抜けした。僕の天敵は、こんなにも弱い存在だったのかと。とりあえず、殺した虫の体液は鎧に変えて、残った肉は食ったけど。
「ギ、ギギギ。(さて、これからどうしようか。)」
餌になる虫の数に限りがある以上、いつまでもこの建物の中にいるわけにもいかない。そろそろ、外の世界に出てみようか。蠍の僕じゃあ相手にもならないような外敵も多いだろうけど、ここで飢え死にするよりはマシだ。
「ギギギギギギギギ!!」
とりあえず、土を掘る感覚で壁を引っ掻いてみる。もちろん爪、というか鋏にも鋭利な結晶を纏っているから、硬い壁だって削れる。・・・・・はず。
ガリガリガリガリ・・・・
「ギギ。(疲れた。)」
壁を削ることはできたけど、硬い上に分厚すぎる。この壁に穴をあけるには、あと二日ほどかかりそうだ。まぁ、まだ虫は残っているし、蠍は絶食に耐えられる動物だから問題ないけど。最長で、一年の絶食に耐える種もいるらしいし。
さて、今日の作業はこれくらいにして・・・
ドゴッ、ピシピシピシ・・・
・・・何だ?今、凄い振動がきたんだけど。というか、僕が削って脆くなった壁に、亀裂が入ってるんだけど・・・。折角だし、もう少し掘り進めて見るか?
パキッ
・・・止めた方がよさそうだ。崩れかねない。・・・ん?崩れる?もしかして、何もせずにここにいても、いずれ建物が崩れる?
ドゴッ!!
何だ!?僕はもう何もしていないのに、壁に穴が空いたぞ!?・・・よく見たら、穴の向こうに熊みたいな生き物が・・・。
「グギャアアアァァァ!!」
いや、違う。あれは熊なんてレベルの生き物じゃない。化け物だ。だって、赤色の熊なんて聞いたことが無いもん。・・・レッドベアーとか言うモンスターなら知ってるけど。
・・・もしかして、外にはあんな化け物が溢れてるの!?
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第十一話 蠍の正しい戦い方
さて、目の前でこの建物の唯一の出入り口を塞いでいる化け物熊。あれをどうにかしないと、この壊れかけの建物からは出られないだろう。というか、段々と皹が広がっている。早く脱出しないと、不味いことになるだろう。
・・・上手くいくかは分からないけど、ここは蠍らしくいくか。
「ギギッ!!」
「グギャッ!?」
とりあえず、成功。
別に、大したことはしてない。ただ、小さな体を利用して見つからないように接近して、尾針で一撃を加えただけ。問題は、これだけ大きな相手にどの程度蠍の毒が効「ドサッ!」・・・へ?
熊が、倒れた。ついでに、若干痙攣してる。
「ギギギ?ギ、ギギ。(毒を盛られ続けた成果?まぁ、いいや。)」
とにかく、大物を倒せたんだから。・・・折角だし、こいつの血も浴びていくか。
思い立ったら吉日、とは少し違うけど、早速僕は熊の体に噛み付いて穴を空け、そこから体内に侵入していく。溢れ出た血を浴びてもいいけど、こうした方が効率がいい。血を浴びて鎧を強化するついでに、完全に熊の息の根も止められるし、同時にその肉も食える。・・・どうでもいいけど、食事のスピードが、もはや蠍のものじゃないと思う。
^^^^^^^^^^
さて、熊の血でより強固な鎧ができた。とりあえずは、もう少し高いところへ行こうか。上から見渡せば、状況が把握しやすそうだし。何処に何がいるのかとか。
カチッカチッカチッカチッ・・・
僕は、建物の壁を伝って上へ行くことにした。けど、一々壁に足を突き刺して移動してたら疲れる。だから一旦足に付いた血液を液体に戻し、壁に足が着いた瞬間に結晶化させ、足を離すときはまた液体にし・・・を繰り返して、一歩ずつ進んでいる。血晶を接着剤の代わりに使う日が来るなんて思わなかった。
「・・・ギギ?(・・・あれは?)」
建物の一番高いところへ来ると、色々なものが見えた。
下のほうで戦っている人間と化け物は見なかったことにして、僕はそれを眺める。
・・・永琳達が月に行くために使うであろう、ロケットらしきものを。
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第十二話 アトミック・ボム
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
どうやら、永琳達が乗っていると思しきロケットが飛び立つらしい。・・・あれ?下にまだ人間が残ってるんだけど?もしかして、見捨てる気?今の状況を見る限り、後で迎えに来たって手遅れだと思うよ?
「フハハハハハ。天に選ばれなかった哀れな人間達よ、足止めご苦労。キサマらの功績は、我等が責任を持って語り継ごうぞ。」
・・・悪役だ。典型的な悪役がいる。・・・永琳があれと同じ考えを持つとは思えないから、たぶん知らされてなかったか、苦渋の決断で見捨てたんだろう。僕には移住の目的なんか分からないけど、そんなにたくさんの人を連れて行ったら移住の意味が無いんだろう。
「だが、喜べ。この穢れきった世界は、私たちが焼いて行ってやろう。」
「ちょっと!あなた、何をするつもり!?」
後から聞こえてきた声は、永琳か。しかし、何か嫌な予感がするなぁ。世界を焼いていくとか。・・・ん?
なんか、ロケットから楕円形っぽいものが落ちてきた。あれはもしかして・・・爆弾!?
「ギギギ!(これはマズい!)」
どの程度の威力があるのかは分からないけど、この世界を焼くとか言ってたんだから、相当のものだろう。
とりあえず、熊の死骸のところまで急いで降りていく。死体にもぐりこんで中から結晶化させれば、即席の防空壕になるだろう。
ドゴオオオォォォォォォン!!
・・・凄まじい衝撃が襲ってきた。ちょ、マジで耐えれな・・・
・・・アトミック・ボム。直訳すると、原子爆弾です。ちなみに、アトミックレイは放射線光線とか、そんな意味になります。これは、意訳が必要ですね。
・・・え?アトミックレイを知らない?・・・FFの、神竜が使う大技です。
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