剣の世界で何を得る (泥人形)
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一話 デスゲームスタート

書き直しました。
いやはや遅くなって申し訳ない。
といっても前作の原型霞も残ってないくらいなんですけどね。


 2022年 11月6日

 ソードアートオンライン正式サービス開始。

 多くの者が喜び勇み新たな世界へと足を踏み入れたその日、事件は起こった。

 

 

 

『この城を極めるまでは誰一人として自発的にログアウトすることは叶わない』

『また、外部の者による解除もありえない』

『もしそれが試みられた場合ナーブギアは君たちの脳を破壊しつくし生命活動を停止させる』

『そして、この世界で死んだ場合はアバターが破壊された後に諸君らの脳は破壊される』

『諸君らが解放される条件はただ一つ』

『アインクラッドの頂にまで登りつめ最終ボスを倒すことだ』

 

――果たしてそれは神の宣告か、悪魔の宣言か。

 どちらにせよそれは多くのものを絶望に陥れ、またある種の人物を歓喜に打ち震わせた。

 例えば、頭がイカレちまってる狂人とか幻想的な世界に憧れてやまない弱者とか、現実が嫌になって逃げ込んできた敗者とか。

 

 

 多くの人間が悲壮に、怒りに、絶望に顔を歪ませ心の内を限界まで吐露している中で俺の口はゆっくりと弧を描いた。

 その事実を認識した瞬間にああ、やはり自分はどこまでも弱者でどこまでも敗者なのだと実感する。

 そして同時に堪えようのない笑いが込み上げてきた。

 それは絶望によって狂ってしまった訳でもなければ目の前の現実を受け止めきれずにおかしくなってしまったわけではない。

 間違いなく俺は、この世界が本物になったことに喜びを感じているのだ。

 この世界で生きていくことが決定したことを認識した瞬間俺は、俺の全てが歓喜の声を上げてしまったのだ。

 堪えきれずに笑みが表にこぼれてくる。

 流石にここで盛大に笑うほど馬鹿ではない俺は群衆に背を向けゆったりと歩き始めた。

 

 

 

 これは幻想に憧れた一人の青年(敗者)の物語。弱者(戦士)が紡ぐ戦いの記録である。

 

 

 

 

 

 

2022年 12月

 

 この世界が現実になってから、約1か月が経った。

 ここ1か月で出た死者数は約2千人。

 この短い間に1万のプレイヤーのうち2千もの人間がこの世界、引いては現実世界からもログアウトしてしまったというわけだ。

 そして100層あるアイクラッドの内踏破した階層は0。それどころかボス部屋を見つけることすらできていない。

 しかしこれだけの犠牲を生んだお陰で得たものもある。

 まずはプレイヤー間の団結力。そして何よりこの世界が現実であるという実感。

 これはこの先で何よりも重要になってくる要因であることは容易に予測できる。

 そしてそう考えるならば2000人の死者数というのは決して無駄ではなく、むしろ必要だった一定量の 犠牲だったとも考えられる。

 自分で考えておいても非道だとは思うが、事実なのだから仕方がない。

 しかしまぁ、お前の死は何も役には立たなかった、というよりはマシなのではないだろうか。

 そうして現実を受け止めきれず、戦士にもなり切れなかった哀れな愚者たちに静かに黙祷を捧げる。

 

 すると、突如パンパン、と乾いた音が響き続いて男にしては高めの声がその場に響いた。

 

「皆、今日は俺の呼びかけに応えてくれてありがとう! 俺の名はディアベル、気持ち的にはナイトやってます!」

 

 呼びかけに応えた―つまりこの場にいるものたちは何らかの方法でこの場で攻略会議があることを聞きつけてやってきた高レベルプレイヤー、即ち前線組である。

 この小さな広間に集まったのは軽く40人は超えるだろうか。それだけの人数が集まったことに驚きを隠せない。あれだけの死者が出たのだから怖気づく者が出て、多くの者が外に出てないと思っていたのだが案外検討違いだったようだ。

 周りを見渡しそう考えていると先ほどの青年―名をディアベルと言ったか、その人がまたも口を開く。

 

「今回、皆に集まって貰ったのは他でもない、先日俺たちがボス部屋を見つけたからだ!」

 

 その言葉に多くの者が動揺を示し、その反応を見て満足したようにディアベルは頷く。

 

「どのゲームでも、ボスは強力だ。それがオンラインゲームなら尚更」

「だから俺は今回最前線で活躍してる人たちに伝わるように呼びかけ、街の掲示板に今回の会議の情報を乗せた」

「そして今こうして集まってきてくれた人たちに俺は感謝を隠し切れないよ」

「だから、まずは一言。この場に集まってきてくれて、本当にありがとう!」

「絶対に俺たちでボスを倒して、いつか絶対にこのゲームをクリアできるんだ、って証明しようぜ!」

 

 先行販売1万限定のSAOを買った廃人ネトゲプレイヤーとは思えないほどの演説に俺は苦笑をしながらも拍手を送り、周りの者たちは大いに湧き、いずれも盛大に賞賛の念を送った。

 そんな皆ににこやかに笑みを浮かべながら対応しているところに、突如人影がディアベルの前に降り立った。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん。わいに一言二言言わせてもらいたいことがあるんやが」

 

「意見かい? それなら大歓迎さ」

 

 急に現れたトゲトゲ頭の乱入者の登場に全員が息をのみ吐き出される言葉を待つ。表情からして、あまり好意的な意見ではないのが見えているからだ。

 ていうかあの頭凄い既視感があるんだが…何だっけか…

 

「わいはキバオウってもんや」

「こんなかに頭下げなあかんやつが2、3人いるはずや」

「まさか誰のことかわからないなんて言わんやろなぁ?」

「そうや、元ベータテスターのやつらのことや」

「あいつらは正式サービスが始まった瞬間、情報すら残さずビギナーの連中を置いて行って先に進んでいきおった!」

「そんでその結果がこれだけの人数の死者を出したんや! 違うか!?」

「だから、元ベータだってやつはここで土下座した上でため込んだアイテム、お金諸々吐き出してもらわな背中は預けられんし預けられたくない!」

 

 そこまで言い切ったキバオウと名乗った人物は少しだけ息を切らしながら周りの睨むように見まわした。

 その視線を受け止めないように誰もがかわすように、逸らすように顔を落とした。

 まあ正真正銘のビギナーである俺はしっかりとそのいかつい目線を受けて見せたが当然ながらあまり向けられて嬉しいものでもない。

 というか何をもってこの人はあんなことを言い出したのだろうか、普通に理解に苦しむのだが。

 言ってしまえば死んでしまったのは自己責任なこの世界で何責任を他人に押し付けようとしてるのか。

 

「発言良いか」

 

 ぼけっと意識を思考に沈めていたら深みのある、バリトンボイスがその場に響き渡った。

 誰だ? そう思い声のした方を見ると深い彫りのいかつい顔、チョコレート色の肌の身長は190を超えるであろう巨漢がいた。

 あれどう見ても日本人ではないよなぁ、アフリカ系とかアメリカの方の血が入ってるのかもしれない。

 いや日焼けサロンとかでガンガン焼きまくった可能性もなきにしもあらずだが。

 

「俺の名前はエギル。キバオウさん、あんたが言いたいのはつまりベータ上がりの人間がビギナーの面倒を見なかったから死者がたくさん出たのだから謝罪・賠償をしろ、ということでいいのか?」

 

「そ、そうや! ベータどもが見捨てなかったら死ぬことのなかった2千人やろが! 違うか!?」

 

 エギルの風貌に一瞬押されかけるもすぐに勢いを取り戻し暴論を打ち立てるキバオウ。

 金もアイテムも吐き出させてしまったらそれこそ攻略スピードが落ちるということが分からないのだろうか。

 いやあんなことを言っている時点で分かってないのだろうけれども。

 それでも感情的にならずに少しはゆっくりと冷静に考えてみてほしいものだと思わずにはいられない。

 そんなキバオウを論破!と言わんばかりに説明を始めるエギル。

 

「あんたはそう言うがな、少なくとも情報はあったぞ?」

 

 そうして徐に大型のポーチから羊皮紙で作られた簡素な本―表紙にはネズミのマーク―を取り出し言葉をつづける。

 

「このガイドブック、あんたも貰っただろう? あちこちの村で無料配布されていたからな」

 

 …ゑ? 無料配布? 俺もあれもってるけどその時はネズミの髭のペイントをしたうさんくさそうな女の子に買わされたんだけど…

 普通に金欠なのに500コルも取られてちょっと困ったくらいなんですけど?

 

「も、もろたで、それが何やっていうんや」

 

「このガイドブックは俺が村や町に行けば必ず置いてあった。一度も考えたことはなかったか? 情報が早すぎる、と」

 

「せやから、早かったらなんやっちゅうねん!?」

 

「つまり、だ。このガイドブックは元ベータテスターの人間が作ったものってことだ」

 

「んなっ…」

 

「いいか、情報はあったんだ。だからこれだけの死者が出たのは皆どこかでこれが今までと同じゲームだと考えているからなんだと思う。今までのタイトル同じと考えて引くべきポイントを見誤った。だが今はその責任を追及する時ではないだろう。俺はこの会議でこれからが左右されると考えていたんだがな」

 

 堂々とした佇まいで放たれる論理にキバオウは噛みつく隙を見いだせずについには黙り込み、恨みがまし気に睨むだけとなった。

 そこで、今まで静観していたディアベルが青に染まった長髪を揺らしながら前に出てくる。

 

「キバオウさんの言いたいことも分かる。だけど今はエギルさんの言う通りだと俺も思う。ここで元テスターの人たちを失ったらそれこそ攻略ができなくなってしまう、それじゃ意味がないだろう?」

「だけど、どうしても元テスターの人と一緒に戦いたくないって人は抜けてくれて構わない。ボス戦ではチームワークが何より大切だからさ」

 

 お前ら本当に廃人ネトゲプレイヤーなの? その割にはコミュ力高すぎない? そう思わせられるほどの爽やかな弁舌である。

 ディアベルはぐるりと見まわすと最後にキバオウをじっと見つめる。

 キバオウはしばしの間その視線を受け止めていたがついにはふんっ、と鼻を鳴らして静かに言った。

 

「ええわ、ここはあんさんに従ったる。でもな、ボス戦終わったら白黒つけさせてもらうからな」

 

 ジャラジャラ装備を鳴らしながら席に戻ろうキバオウを見送り、ゴホンと咳ばらいをしたディアベルは会議の続きを始めた。

 というよりこれからがボス攻略会議の本題。つまりボスをどう倒すかって話だ。

 ディアベルたちはボス部屋を見つけただけでなく、その中まで覗いてきたらしい。

 そうして誇らしげに語られたボスの特徴は以下の通り。

 

 1.身の丈は2mを超えるコボルド系モンスター

 2.その名前はイルファング・ザ・コボルドロード。つまりコボルドの王様ってことだな。

 3.武器は曲刀(タルワール)

 4.取り巻きは頑丈な鎧を着こみ斧槍を持ったルインコボルド・センチネルが三体。

 

 これだけでもかなり有益の情報である。そしてこれから偵察隊を組んでボスにちょいちょいちょっかいを出していく手筈だったのだがここでそれを全て無駄にするものが現れた。

 それは先ほども話題に出てきたガイドブック。それの1層ボス編である。

 といっても、正式サービスのものではなく飽くまでベータ時のです、と注意書きはささってあったのだが、それでもかなり助かったのは言うまでもない。

 しかし、このアルゴ―恐らくあの時のネズミガール―とやら、かなり踏み込んできたな。ただでさえ今はベータテスターとビギナーで確執があるっていうのにわざわざ自分はベータテスターです。と堂々宣言してきたようなものなのだから。

 恐らく彼女もまたリスクを背負ってでも元の世界へ戻りたいと考える人間なのだろう。

 

 そこでようやくガイドブックを読みふけっていたナイト様は顔を上げた。

 さて、この情報を信じるのか、それとも信じないのか。

 どうする? ディアベル。

 

「―皆、今はこの情報に感謝しよう!」

「出所はともかく、二、三日必要だった偵察を省けるのはかなり嬉しいことだと思う! だって、一番死人が出やすいのが偵察だからさ」

「それに、これが正しければボスのステータスはそんなにやばい感じじゃあない。もしこれが違う、普通のゲームだったなら平均レベルがあと5は下でも倒せたと思う!」

「だから、きっちり戦術を練って確実にPOTローテを繰り返せば死人無しで倒すことも夢じゃない…いや、死人だけは絶対に! 俺の誇りにかけて出さないと誓うよ!」

 

 どうやらディアベルは信じることにしたようだ。

 俺としては一回くらいは偵察行った方が良いのでは…とも思うが如何せん、ネトゲ自体が初めてな俺ではかってが良く分からないからこれで恐らく良いのだろう。

 それに、これだけの人数の心をつかんで見せたディアベルのリーダーシップは中々のものだと思う。

 更に先に進むことが出来ればその内大ギルドのマスターにでもなってそうだ。

 

 そう感心していた俺だがここにきてディアベルの発言に頭を悩ませることになる。

 

「それじゃ、皆近くの人とパーティーを組んでみてくれ!」

 

 ふぅ…あの日テンション上がったまま外に飛び出てきて以来、道に迷ったりなんだりしながら一人で進んできたゆえに友人はおろか知人すらいない俺にどうパーティーを組めと。

 俺はここ一か月で完全にぼっちの心得を習得してしまったぞ。なんならパーティーの組み方すら知らないまである。

 っく…神は俺を見捨てたか…!ある種の絶望に頭を抱え込む俺。

 するとそんな俺に近づいてくる人影があった。

 

「な、なあ、あんたも一人なら俺たちとパーティー組まないか?」

 

―どうやら神はまだ俺を見捨てなかったらしい。

 

 

 

 




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二話 準備時間

始めたばっかりのゲームだと何を売って良いのか何を売っちゃダメなのか分からないよね。


 

 

「俺の名前はキリト、よろしくな」

 

 朗らかな笑みを浮かべながら全身を黒に染めた少年は手を差し出してくる。

 

「あ、ああ、俺はユクトだ。よろしく」

 

 差し出された手を数瞬眺めた後に握手を求められていることに気づきすぐにその手を取る。もちろんこちらも笑み―ぎこちないものではあったが―作ってだ。

 VRの世界だってのにこういった温もりまで再現出来ているんだな、と握った手から伝わってくる感触に感心する。

 

「それじゃ、パーティー組もうか」

 

ついに俺もパーティー組むときが来たか…!と内心興奮しながらも表に出さないように努める

そうして少し落ち着いたのちに俺は恥ずかしさを堪えながらある事を伝えた。

 

「…すまんがパーティーの組み方知らんのだ」

 

 そんな俺の告白を聞き呆然とするキリト。そりゃーびっくりしますよねー…前線で戦えるだけのレベルでありながらもパーティー組んだこともないなんてな。

 これは馬鹿にされてしまうのか…!とガクブルしていたら予想外に優しい言葉が返ってきた。

 

「マジか、それじゃあ俺が申請するから目の前に出てくる表示のyesをタップしてくれ」

 

 おお、やはりあなたが神か…!見た目年下っぽいキリトを神に見たてていたら不意に目の前に【パーティーに参加しますか?】という文字とその下にyesとnoの文字が現われる。

 なるほどこれのyesを押せば良いのな。そう思い震える指で恐る恐る押してみるとポンッと軽いポップ音が聞こえ俺の視界左上、つまり自分のHPバーの隣に≪kirito≫という名前とHPバーが小さく表示される。

 おお、これがパーティー…!上手く組めたことに感動していたのも束の間、嬉しさに浸るのを遮るようにキリトに声をかけられる。

 

「そ、それでだな、流石に二人なのもアレだからあそこにいる子を誘おうと思うんだけど…」

 

 そう言い指を指すのは真っ赤なローブを纏い、性別を判別出来ないくらいにまでフードを深く被り座っている一人の人物。

 

「おう、行って来い」

 

「やっぱ俺が行かなくちゃダメか?」

 

「申請の仕方を知らん俺が行っても仕方ないだろう?」

 

 漫画かアニメならばドヤァ、といったような音声が付きそうな顔でそういってのけるとキリトはそうだよなぁ…、それじゃ付いてくるだけでもしてくれよ!というので仕方がねぇなぁ…と言いながらついていく。

 ま、別に言われなくても付いて行ってたけどなーとは言わないでおこう。

 

「あ、あんたもあぶれたのか?」

 

 キリトが緊張した面持ちで話しかける。

 

「あぶれたわけじゃないわ。他の人がお仲間同士みたいだったから遠慮しただけ」

 

 いやそれをあぶれたって言うんやで、反射的にそう思うと同時に声の高さからして女性なのだと理解する。

 身長で考えたらこの子は中学生後半から高校生と言ったところだろうか。

 

「なら、俺たちと組まないか。レイドはパーティー組んでないと参加できないし…」

 

 キリトも俺と同じことを考えたのか口の端を引きつらせながらも勧誘をつづける。

 すると少女はふんっ、と鼻を鳴らしてこういった。

 

「そっちから申請するなら組んであげないこともないわ」

 

 少しばかり高慢な態度ではあるがまあそういうお年頃なんだろう、きっと周りの人の好意を素直に受け止めるのが恥ずかしいみたいな。

 それかもしくは俺と同じように組み方を知らなかったとかあ…あれほどまでのぼっちオーラを醸し出していたのだ、むしろこっちが正解かもしれんな。

 そんなことを考えていたら何よ、と睨まれた。最近の少女は怖いですね…

 

 と、そんなこんなでポンッと先ほども聞いた軽い音と共に≪asuna≫という名のプレイヤーだということが判明したところで周りを見渡す。

 しかし期待通りとはいかずに他の人は皆既にパーティーを組み終わっているようだ。

 …アブレ組三人衆に未来はあるのか…!!

 

 そう思いながらもディアベルに報告しに行くキリトについていったら苦笑いとともに他のグループが狩りこぼしたコボルドを狩ってくれとのお達し。

 なるほど雑用係ですね、分かります。まあそれも仕方ないのだろう、多分。

 だって他のパーティー六人なのに俺たち三人しかいないのよ? そりゃ雑用に回されちゃうでしょうよ。

 だからアスナさん。そんな睨み殺さんばかりの勢いで睨む止めよ、な? 不満なのは分かるから、俺もめっちゃ不満だから。でも世の中には仕方がないという言葉があってだな…

 

「了解した、重要な役目だな」

 

 しかしそんなアスナなど華麗にスルーしてそう言い放つキリト。さっすがぁ! と思い顔を覗き込むとすげぇ引きつった笑顔だった。

 あ、やっぱお前もアスナの怒気は察してたのね、そりゃそうよな、あれだけ苛立ちは伝わってきちゃうよな。

 

 そんなアスナの気持ちも露知らず。ディアベルはああ、任せたよ。と白い歯をキラッと光らせてその場を立ち去って行った。

 すげぇ、本物のイケメンは本当にあんな風に笑えるんだな…と戦慄していたらアスナが声を漏らす。

 

「何が重要な役目よ…ボスに一回も攻撃できないで終わっちゃうじゃない…」

 

「し、仕方ないだろ、三人しかいないんだからスイッチでPOTローテするにも時間が足りない」

 

 スイッチ? ローテ? なにそれ美味しいの? そう思っていたらアスナが同じ疑問を吐き出す。

 

「スイッチ? ポット?」

 

 瞬間キリトが少しだけ困った顔をしたまま俺の方を見るのでドヤ顔で応じるとがっくりと肩を下げる。何でやねん、失礼か。

 

「…後で全部説明する。この場で立ち話じゃとても終わりそうにないからな」

 

 キリトがそういうとアスナが少し悩んだように沈黙した後にこくりと頷く。

 そしてその瞬間俺はアスナが俺と同類だと確信した。

 

 何の同類かって? そんなんど素人プレイヤーってことだろうが、言わせんな恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてボス攻略会議はA~Gまでナンバリングされ、各部隊のリーダーの短い挨拶とコルとアイテムの分配を決め、ボスを攻略する日にちを決め終了した。

 ドロップアイテムは落ちた人の物となるとかなんとか。その方が蟠りが起きなくて良いらしい。

 因みにエギルは壁と呼ばれる役目を背負う部隊のリーダーで、キバオウは取り巻きのコボルド殲滅部隊のリーダーである。

 壁、というのはヒットポイントの高いプレイヤーや、防御力の高いプレイヤーがモンスターのターゲットになり体を張ることで、他には盾やタンクと言った名称がある…らしい。

 らしい、というのはキリトの受け売りだからである。

 そして先ほどA~Gまでの部隊が作られたと言ったがその中に俺たちは含まれていない。

 ナンバリングされるほど人数がいなかったためE隊―キバオウの部隊―のお手伝いみたいなものである。

 これに関してはアスナどころか俺たち三人ともうへぇ、と顔をしかめたが仕方ないということで割り切った。

 

 そうして現在俺たちは圏外の森の中にてキリト先生による講義を受けている。

 

「まずはPOTってのはポーション、つまりは回復薬ってことだな。これの特徴は分かるか?」

 

「あー…一気に回復しないでじわじわ回復する、とか?」

 

「イグザクトリィ! その通り。SAOのポーションは少しずつ回復する。更に言えば一度使った後にすぐまた使えないってところだな。まあ、上に行けば結晶ってのがあってそれなら一気に回復できるんだけどな」

 

 まあ高価だから中々大量に手には入れれないが、と言い言葉をつづける。

 

「つまりポーションで回復するには時間がかかるんだ。相手が雑魚ならこれで問題ないがボスが相手となると話は変わってくる。何故ならボスってのは攻撃の一つ一つが強力だからな。ゆっくりちまちま回復してたんじゃ次に喰らった時にHP全損、なんてこともありえてくる」

「そこで必要となってくるのがPOTローテだ。攻撃を貰ったプレイヤーがポーションで回復してる間に他のプレイヤーがモンスターの相手を務める。そのプレイヤーが傷ついたらまた他のプレイヤーが…て言った具合にな。これが俺たちがボスの相手を出来ない一番の理由だな」

 

「へぇ…そんじゃスイッチってのは?」

 

「スイッチってのはモンスターに攻撃するプレイヤーを細かく交代するってことだ」

 

「…何でそんな面倒なことをするの?」

 

 アスナがそう聞くとキリトはその言葉を待っていましたと言わんばかりに笑みを作る。

 

「まず、モンスターってのはボスやモブに限らず一番ダメージを与えてくるプレイヤーを優先的に狙ってくるものなのは分かるよな?」

 

「え、そうなのか。知らんかったわ」

 

 衝撃の事実である。そう思っていたらキリトに呆れ気味にそうなんだよ、と言われた。

 初のネトゲで今までソロでやっていたのだ。そんなこと知るわけないだろーが…!

 

「ま、まあそれでだ。モンスターに狙われた状態で一人でずっと攻撃し続けていれば当然同じように攻撃され続けてしまって回復も防御もままならなくなってしまう。そこで、他のメンバーが攻撃してやって意識をそらさせ、交代する。これをスイッチっていうんだ。あまり慣れてないパーティーならば声かけは必須だな」

 

「ほーん、実際やるとなれば結構難しそうだなぁ」

 

「そうね、確か…ソードスキル、といったかしら。あれ使った後数秒硬直するし」

 

「その通り。そこら辺は慣れていくしかないから、ディアベルはボス攻略の日を三日後にしたんだと思う」

 

「なるほどねぇ…色々考えてんのなぁ」

 

「ま、そういうことだな」

 

「それじゃ、これからその特訓ってことか?」

 

「そうしたいところだけど…二人とも大丈夫か?」

 

「問題ないわ」

 

「俺も大丈夫だ」

 

「よし、それじゃ早速迷宮区のコボルド相手に練習しにいくか!」

 

 

 こうしてキリト先生による~SAO講座~は実践編へと移った。

 

 

 

 青い軌跡を描き剣が華麗に舞う。

 それは凄まじい速さでコボルドの首に迫りそのまま直撃。

 コボルドのHPが一気に七割ほど削ったのを認識した瞬間声が響く。

 

「スイッチ!」

 

「了解!」

 

 それに素早く応え、交代するように前に出てコボルドの顔面に青白い光を纏った刃を突き立てた。

 ズガァッ! としっかりとしたインパクトが手に伝わってき、そのまま貫きコボルドの体を爆散させた。

 

 

「ナイス」

 

「ん」

 

 声をかけつつハイタッチしようと手を出すが華麗にスルーされる。

 無視とかお兄さん悲しいよアスナちゃーん…

 

「中々息があってきたな。ここらで今日はやめておこうか」

 

「分かったわ」

 

「それじゃ、今日は解散ってことで、んじゃねー」

 

 ぶっちゃけ凄く腹が減っていた俺はその場を速やかに後にし街に向かった。後ろでキリトが何か言ってるけどまあ無視で良いだろう、さっきフレンド登録したから緊急であればメッセージ寄こしてくるだろうしな。

 …初めてのフレンドでやはり気分が高揚したのは言うまでもない。

 

 ほぼ完ぺきな別世界とも言えるこの世界にも欠点はある。

 それはご飯だ。この世界のご飯は全てにおいて美味しくない。全て「あー○○っぽい味するわー」程度の物である。

 しかしそれでもここまで腹の虫が泣いているのならばそれなりに美味しく感じられるのではないだろうか。空腹は最高のスパイスともいうしな。

 若干ワクワクしながらも軽い足取りで街に到着。手近なレストランに入り席に着き見た目パスタな何かを頼む。

 

 頼まれたものが来るまでそれなりに時間がかかるのでその間にアイテムの整理をしようとウィンドウを開く。

 うーむ、コボルド狩りまくったせいかコボルド系のアイテムがアホみたいにあるな…宿屋に戻る前に換金してしまうか…おっ、武器ドロップしてんじゃん! さてさて性能は…今の武器より圧倒的に下だな、これも売却っと。他にもいらなそうなアイテムは…妙にドロップ数少ないのあるな、売っていいものなのか後で役に立つものなのか…悩む。後でキリトにメッセージ送って聞いてみようか。

 

 用途が分からないアイテムを前にうんうんと唸りながらも整理していたらテーブルにNPCと思われる女性がコンコンッと水とパスタを置いていく。

 それに反射的にありがとうございます、とつぶやく。

 相手はNPC、故に本来ならば必要ないのだがこういうのは気分の問題なのだ。

 

 と、まあ考え事もこんくらいにして、と。

 

「いただきます」

 

 手を合わせてそう言った後にフォークで黄色の面をクルクルと巻き一口。

 うん、不味くもなければ美味しくもないね! 

 麺はふにゃふにゃしていてアホみたいに柔らかいし、一応ミートパスタのような見た目なのだがミートパスタ風味のお菓子のような味がしてどちらかというと不味いまである。

 しかし食べられないほどでもないのでゆっくりと食べ進めていった。

 

 

「ふぅ、空腹と言っても限界まで空かせないとダメみたいだな、こりゃ」

 

 レストランから出ての第一声である。

 だって見た目に反してすっげぇ期待外れだったんだもの…料理スキル取ろうか本気で悩むレベルである。

 まあ結局取ることはないんだけどな。そんな娯楽的なスキル取るのはきっと今よりずっとレベルが高くなって余裕ができた頃だろう。

 

 

 そんなことを考えながら宿屋に到着。

 まあ宿屋と言っても民家なのだが。当時はクエスト探しにあちこち家に入っていたらそこに泊まれるということに気づき感動したものだ。

 と、まあ少しばかり値は張るが結構上質な部屋を借りれた俺はふっかふかのベッドに潜りこみそのまま意識とさよならをした。

 

 

 

 

 

 

 




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三話 ボス戦

何か最近はモチベ下がりまくり、次はすこーし遅れるかも。



 2022年 12月 アインクラッド第一層 

 

 百層ある鉄の城内部ということにも関わらず不思議と存在する青く広大な空には白く大きなふわふわとした雲が流れていき、その存在を強く誇示する太陽の光が降り注ぐ平和そうなある一日。

 しかしこの日は、この世界に、人々に大いな希望を与え、新しく前進を再開する日でもある。

 そう、つまりこの日、12月4日は我々45名の精鋭達が第一層を守る強大な化け物、ボスに戦いを挑み、打倒する日なのだ。

 各チーム同士の連携自体はいささか不安は残るもののやる気も平均レベルも十分以上。そして何よりボスを倒したいという気持ちが一致しているのだから後はどれだけ冷静に、しかし大胆に戦うことが出来るかが鍵となってくるだろう。

 

 木々の隙間から細かく漏れてくる日に目を向けながらボンヤリとそんなことを考えながらレイドパーティーの最後尾をテクテクとついていく。

 40以上の人数で歩いているせいか喧騒はなりやまず、頻繁に聞こえてくる楽し気な笑い声に思わずこちらも笑みを作ってしまいそうだ。

 そんな俺の両隣には黒髪黒目、飄々とした佇まいの中に一抹の不安を感じさせる表情をした片手剣士キリトと真っ赤なフーデットケープに身を包み、フードから明るい茶髪を覗かせる細剣使いアスナ。

 どちらも今回のボス戦での俺のパーティーメンバーであり、通称アブレ組3人衆である。因みにこの名称を二人に言ったらキリトには苦笑いをされ、アスナにはすげぇガンつけられたでござる、解せぬ…

 ていうかアスナさん俺のこと嫌い過ぎやしません? ってくらい睨んでくるもんだから俺の心が折れそうな今日この頃。笑ったら絶対かわええのに残念やで…

 

 すると、そのアスナが何気ない疑問を漏らした。

 

「本物は…どうなのかしら」

 

 本物? 一体何を言っているんですかねぇ…主語述語はしっかりと付けましょう。

 同じ疑問を覚えたのかキリトが口を開く。

 

「ほ、本物って?」

 

 そんなキリトにアスナはだから、と言葉をつづけた。

 

「もし本当にファンタジー世界があって、そこに住んでいる人たちがこうして怪物を倒しに行く時もこんな風に賑やかなのか、それとも押し黙っているのか、って話」

 

 ああ、なるほど。と得心する。確かにそれはちょっと気になるかもである。俺個人としては現在もの凄くワクワクしていたりするがもし実際世界の危機だって言う話とかだったらこんな気楽でもないかもしれない。そう考えたらドラゴンなクエストの主人公ってすっげぇな…なんてったって木の棒とただの服で魔王退治始めるんだからな…

 

 いやでももしかしたら…しかし…、なんて何時も大人びているアスナにしては珍しい、子供じみた考えに真剣に頭を唸らせていたらキリトがポツリとつぶやいた、

 

「死か栄光への道行き、か…」

 

 何かすげぇ中二っぽいことを言い放ったぞこいつ、絶対大きくなった時枕に顔を埋める羽目になるからそういうことを言うのはやめなさい? もっと言うなら俺の古傷…もとい黒歴史が思い返されてオートで俺のメンタルを破壊しにくるからやめよ? ちょっとかっこよさげなこと言いたいのはとても強い理解を示せるけど1、2年後には「何で俺はあんなことをしていたんだぁああああ死にてぇえぇええええ!!」となるから心で思うだけにしておきな?(経験談)

 生暖かい、しかし憐憫の籠った眼差しで見ていたら引き気味に何だよ…と言われた。地味に傷つくんだが…お前ら二人して俺のメンタル攻撃し過ぎじゃない? いや確かにキモかったかもしれないけれども! 

 その後キリトは自分の考えを語りあのアスナを笑わせていたが俺としては傷心を慰めるので一杯一杯だったと言っておこう。

 

 

 

 そんなこんなであっという間にボス部屋の巨大な扉の前である。

 迷宮内では少し戦いづらかったがディアベルの指揮センスがキラリと輝いていた。

 そんなディアベルが皆の前に立ち、力強い意思の籠った目つきで皆を見まわした。

 

「ここまで来たからには俺から言うことはもう一つだけだ―――勝とうぜ!!」

 

 その一言だけで巨大な歓声が沸き上がり、それと同時に皆は開け放たれた扉に向かい全力で駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色とりどりの剣が、斧が、槍が閃き、その度に巨大な体躯のボスは顔を顰め痛みに声を上げる。

 その声に呼応し取り巻きのモンスターたちが天井から降ってくるように現れるがそれもすぐさま切り飛ばされ、またもボスに攻撃が集中する。

 

 ここまで言えば分かるだろうが、初めて行われたボス攻略戦は怖くなるほどに順調に進んでいた。

 その原因には2つの理由がある。

 一つは攻略戦が始まるまでの期間があまりにもあったことにより平均レベルが一層のそれではなかったこと、そしてもう一つは攻略本の内容が今のところ完璧だったからだ。

 しかしそれにより一つの弊害が発生していた、それは――

 

 

「やべぇ、びっくりするくらい暇だ」

 

「同感だな…」

 

「全くね…」

 

 そう、滅茶苦茶暇なのである。

 いやボスさんを攻撃している隊はすごい忙しそうなんだけどね? 俺らの隊とか取り巻きの排除…を専門とする隊が狩りこぼした最早虫の息状態のモンスターに止めをさすだけというレベル1でもできそうな簡単なお仕事しかないのだ。最早俺ら必要あるのか真剣に抗議したいまである。いっそのこと俺らもボスに回してくれや…

 

 そろそろあくびまで出てきてしまいそうになった頃、一際強い雄たけびが広間に響き渡った。

 何だ何だ、バッと声のした方向に目を向けたらボスは後方に跳び下がり、片手に握っていた無骨な斧を投げ捨て腰から新たな武器を引き抜いた。

 情報では曲刀だったが本当にそうなのか、と暇人な俺は目を細めて武器を見る。

 …何かおかしくね? 曲刀ってあんな真っ直ぐなもん? 曲刀ってもっと刀身が逸れてるもんだろ? 聖剣魔剣に憧れ刀剣系にドはまりした痛い過去を持つ俺がそう思うのだ、あれは間違いなく曲刀ではないだろう。

 …え? それって何気やばくね? 武器によってスキルとか変わるんだろ? え、本気でやばくね?

 そう思ったが俺でも気づいたのだ、ディアベルが気づかないはずもないだろう、信頼を込めた眼差しで彼を見るとそこには―

 何故か皆を下がらせ前に出ようとするディアベルがいた。

 ええぇええええぇぇぇぇぇあんた何してんのぉおおおおお!? 武器の変化に気づいた素振りもないどころか単独で前に出るて何がしたいねん!? まだHPバーMaxの一本あるんやぞ…?

 

 すげぇすげぇ思ってたディアベルが実は馬鹿だったという事実に震えていたら突如隣にいたキリトが鬼気迫る勢いで叫び声をあげた。

 

「だ、だめだ…下がれ、下がれぇええええええええええええええええ!!!!」

 

 悲痛な、それでいて力強い叫び声は広間に響き渡り、反響した。

 しかしそれが彼に届いたときには既に彼の身体は真紅に刀身を光らせた刀により宙へ切り上げられてじた。

 

 瞬間、キリトが全力で駆けだした。それに遅れて俺も続く。

 

 敏捷値に極振りをしているわけでもないがそれでもレベルにより底上げされた身体機能は現実のそれを大きく上回る。

 

 俺たちがボスにまで後10メートルのところで宙に打ち上げられたディアベルの身体に更に斜めの切り傷が刻まれる。

 

 彼のHPがオレンジに染まった。

 

 後5メートル。彼の身体は更に切り裂かれ今度は逆方向から斜めに切り裂かれる。

 

 彼のHPが残り2割にまで減少した。恐怖に顔が歪んでいる。

 

 すぐ手前で大きく飛び跳ねディアベルを回収するキリト。

 

 その奥で思いっきり飛び上がり大剣を大きく振り上げる。

 

 とどめと言わんばかりに放たれた真っ赤に染まった強力な突きに対し刀身を青に染めぶつけ合う。

 

 一瞬の拮抗、しかし抵抗虚しくその一撃は剣を弾き飛ばし俺の身体を勢いよく貫いた。

 

「がっ…はっ…」

 

 ズルリ、と体から巨大な刀が引き抜かれ受け身も取れずに落下する。 

 

 そんな俺を見て醜く顔を歪めたボスはそのまま俺に振り下ろした。

 

 急にスローになった世界、徐々に迫ってくる切っ先を恨めし気に睨む。

 

 これで終わりなのだろうか、悔し気に歯を食いしばった。

 

 瞬間、横から栗色の衝撃が走った。

 

 素早く景色が移り変わって行き落下、ゴロゴロとみっともなく地を転がる。

 

 少し離れた所でボスが地に突き刺した刀を引き抜こうとしている姿が見えた。

 

「う、うぉおお…焦った、超ビビった、マジで助かったありがとう…」

 

「あんまり冷や冷やさせないでちょうだい…」

 

 俺に突進してきた…助けてくれたのはアスナであった。

 まさかあの状況で助けてくれるとは、一瞬でも遅かったら二人とも串刺しになっていただろうに。

 アスナは優しいっすなぁ…

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

 思わず笑みを浮かべてたら怪訝そうな顔でそう言われたので了解と返し意識を戦闘に向ける。

 大剣はボスの後方二メートル程度の場所…キリトが引き付けてるのでその間に回収させてもらおう。

 

「んじゃ、アスナはキリトの援護に、俺は剣拾って後ろからぶん殴るわ」

 

「ん、了解」

 

 ポーションを飲み、了承の言葉と共に走り出す。

 

 視線の先では呆然としてしまっているプレイヤーの注目を一身に浴びながら攻撃を一人で捌いているキリト。ディアベルは群衆の中で体力を回復させていた。

 そこにアスナの奇襲。流星の如き一撃はクリティカルを発動させボスを少しだけ仰け反らせた。

 それと同時に俺は剣を回収、壁側に大きく跳ね、それを蹴りつけ更に高度を上げる。

 頭上にまでたどり着いたとき俺は真っ赤に染め上げた剣を大きく振り上げ、数瞬の後に勢いよく振り下ろした。

 

 ズガァアアアアアンッ

 

 幅広く、肉厚な刃はボスの強靭な肉体を切り裂き血の代わりに真っ赤なライトエフェクトをこれでもかという程に派手に散らした。

 ボスの醜い、苦悶のうめき声が漏れ、素早くこちらに振り返った。

 その眼は怒りに満ち満ちているようで、腕の筋肉を盛り上がらせて刀を構えた。

 

 しかし、敵は何も俺だけではない。

 ボスがこちらに向いた瞬間、その背中に二振りの刃が閃き仮想の血を勢いよく噴き出させた。

 その威力に目をむきノックバックを起こし、しかし未だに俺を睨んでいるそいつとすれ違いざまに一閃。

 青に染まった刃はしっかりとその腹を切り裂き、その勢いのまま二人の元に着地。

 フッ、とにやけて顔を合わせ口を開く。

 

「う、うぉおおおおお…あいつの目マジやばいって、完全に俺を殺す気だってばよぉおおお…」

 

 ぶっちゃけガクブルである。だってあいつの攻撃一撃貰うだけで俺の紙装甲じゃワンパンよ? 一瞬でデッド手前っすよ? そら震えあがりますわ。ほら、俺の膝小僧も爆笑してるし。

 

「えええぇえぇ…少しかっこよさげだったのに今ので一気にそのイメージ払拭されちゃったぞ…」

 

「いやキリトそう言うがな、マジで怖いから。今までの人生で一番怖かったなり」

 

「無駄話してないで! 次来るよ!」

 

「す、すまん」

 

 少しでも落ち着くために心の内を吐露しまくってたらアスナに怒られたでござる…でもある程度は落ち着いた、これで多分まだ戦える。

 剣先を地につけ前を見れば黄色に染めた刀を片手で振り上げている。

 それをしっかりと見据え、振り下ろされるであろう位置と衝撃の伝わる範囲を大まかに想定する、そしてソードスキルであることを考えても次に撃てるのは振り上げだろうと考え大きく開いた股に飛び込み背後に回った。

 瞬間、轟音。単発だったのか振り下ろした態勢のまま動かない。その隙にキリトが走り込み勢いよく跳躍、青に染まった剣が縦の軌跡を残した。

 そして未だ宙にいるキリトの肩を蹴り、アスナがボスの眼前へ、キリトが潰れたカエルのような声を出して落下していった。

 ボスの目の前に来たアスナは目にも止まらぬ一撃を目玉に放つ。細かいライトエフェクトともにボスが大きく嘶いた。

 片眼を抑え後ずさりしようとしたその時、ずっと溜めていた渾身の突きを丁度後ろに来た足の、膝の裏側に放つ。

 こちらは激しく光を発生させ、同時にボスを転倒させた。…多分膝かっくん的な感じだったんだと思う。

 

 何はともあれ転倒したボスはみっともなく手足を振り回している。そんな状態のボスに俺たちのソードスキルが降りかかる。

 赤、青、黄、緑、色とりどりの剣技は美しく、しかし確実にボスの命を削り取っていった。

 HPバーがやっと赤に染まった時にようやくボスは立ち上がり、雄々しく叫び声をあげた。

 その咆哮は広間中に響き、体を押し返す程のものであったが一歩後退するだけに収め一気に前に出る。

 強く地を踏みしめ跳躍、大きく振りかぶっていた刀に思い切り叩き付けスキルの発動を阻止する。

 

 そして次の瞬間、ボスの身体に真っ赤な×の字が刻まれ数瞬の後に大きく爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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四話 二層へと

凄い時間かかってしまいました。
そして凄まじいこれじゃない感。
多分次話もかなり遅れるんじゃないかなぁ…
まあ気長に待ってくれたら嬉しいです。
それでは四話目楽しんでくれたらありがたいです。


 爆散し、散らばっていく光の欠片が頬を撫でる。

 赤とも青とも言える粒子は大きく広がった後に天に還るように消えていった。

 そんな光景をどこか信じられないような気分で見守り、完全に消えた時に全身から力が抜けたように崩れ落ちる。

 軽くはない衝撃が体に走るが気にすることもなく呆然と天井を見つめた。

 

 徐々に体中からやる気というか、熱意が抜けていくような感覚。その代わりに大きな達成感が空っぽを満たしていく。

 そしてそれと同時に手先が震えてきた。

 それは多分、恐怖ではなく、嬉しさで。

 そのことを認識すると同時に笑いが込み上げてきた。

 

 埒外の存在。圧倒的強者。そんな存在を倒すことによってまた自分の中の現実が移り変わっていくようだった。

 ずっと生きてきた現代を少しずつ忘れさせていき、この幻想を現実だと思い込まされていくような気分だった。

 自分は何もできない平凡な学生ではなく一人の戦士であると認識されていくようで、とても気持ちが良かった。

 

 そんな心地の良い気分を味わっていると不意に茶色の頭が視界に入った。

 

 「congratulation、見事だったぜ、少年」

 

 そう言い笑顔で拳を突き出してくるのは妙にガタイの良いおっさん。

 確か攻略会議の時話してた…エギル、と言ったか。

 そのエギルに笑みを向けこちらも右拳を突き出す。

 

 ゴツン、という音と衝撃が何故だかとても嬉しくて、作るまでもなく新たに笑みが浮かんだ。

 ゆっくりと上体を起こし口を開く。

 

 「俺はユクトって言うんだ、よろしくエギルさん」

 

 「ああ、今後のボス戦でもよろしくな」

 

 さんは付けなくても良いし、敬語じゃなくても良いぜ、と握手をしながらそう言ったエギルは自分の仲間のところへ立ち去って行った。

 その背中を追うように視線を動かし周りを見渡した。

 そこにはハイタッチをするもの、互いに抱きしめ合うもの、肩を組み大騒ぎをするものなどそれぞれが大興奮しながら勝利を称えあっていた。

 

 両腕を後ろに回し体を支えるように床に手をついてそんな光景を眺めていると不意に両肩に軽い衝撃が。

 誰だろうか、そう思い顔を後ろに向けるとそこにはキリトとアスナの姿が。

 疲労感を滲ませつつも隠し切れない笑みを浮かべる二人に労いの言葉をかける。

 すると二人もほとんど同じタイミングで同じ言葉を返してきた。

 

 仲が良いこって、そう言うとそんなこと…! とアスナが必死に否定してくるがそんな必死にならなくても、とキリトが苦い顔してるのが中々面白い。

 そのまま二人をからかうように談笑しているとまたもや誰かが俺達の前にやってきた。

 

 「やあ、さっきは助かったよ。本当にありがとう」

 

 申し訳なさと感謝の念を声音に潜ませるのは青髪の片手剣剣士、ディアベルであった。

 その顔には疲れと、少しの焦りのような、恐怖のようなものが刻まれている。

 

 「気にするな、当然のことをしたまでだよ」

 

 「はは、そう言ってくれると助かるよ…」

 

 ディアベルにそう返したのはキリト。ちなみにアスナは訝し気な目でディアベルを見ている。

 そんなアスナの表情を読み取ったのか困ったように苦笑いをし、そしてその直後に真剣な表情でこちらを見てくる。

 それは、戦闘が終わり気が抜けるこの状況でするものではなく、どこか泣きそうにも見えた。

 

 「その、三人に…頼みたいことがあるんだ」

 

 「…なんだ?」

 

 「俺は…気づいているだろうけど、βテスターだ、だけどそのことは皆には―」

 

 「黙っていて欲しいんだろ? そのくらい言われなくても誰にも言わないさ」

 

 キリトの言葉に同調するように首肯する俺とアスナ。

 するとディアベルはほっとしたように表情を緩ませ微笑みありがとう、と申し訳なさそうに、しかし嬉しさを内包した声音でそう言う。

 しかしそれもまた仕方がない、と言えるだろう。

 今ここに集まっている俺たち以外のプレイヤーの間では、ディアベルはビギナーでありながら皆を率いるリーダーである、というのが共通の認識なのだから。

 その認識をここで崩してしまったら、間違いなくディアベルは信用を失い漸く一つになってきた前線組がまたバラバラになってしまうであろうことは想像に難くない。

 この状況でそんなことになるのはこちらとしても望んではいないのだ。

 …まあ俺たち以外にも何となく察しているやつはいるだろうがまさかこの場で糾弾なんてアホなことはするまい。

 

 そう言えばディアベルが切られてからキリトの指示に従い戦った訳なのだが、そのせいで恐らくキリトがβテスターだということを皆悟ったであろう。

 皆、どう思ったのだろうか。βの野郎情報を隠していたな、とでも思ったのだろうか。

 それともβテスターのお陰で助かった、と思ったのだろうか。

 ネトゲは嫉妬が酷いと聞くしもしかしたらラストアタックボーナスとやらを持っていかれた、と憤慨しているかもしれない。

 …流石にこの状況でそんなことを思う人間はいないか。キリトを糾弾とかお門違いにも程があるしな。

 

 しかしここにいるおっさんたちはどうもそこら辺信用しがたい。βかそうでないかで揉め事起こしてしまうくらいなのだ。悪い意味で、子供より子供らしい。

 そして現状一部を除いて恐ろしい程に頼りなさすぎる。いやディアベルが頼りないというわけではない。

 俺が言いたいのは未成年にすら見えるディアベルに引っ張ってもらい、纏めてもらっているおっさんたちはどんな考えを抱いているのだろうか、ということだ。

 疲れを滲ませつつも礼を残して立ち去るディアベルの背を見てそう思う。

 

 キリトとアスナはディアベルに付いていくように今回のボス戦の主力メンバーたちと話に行ったようだ。

 二人は俺にも来いと言ったのだがぶっちゃけ怠いのでパスさせてもらった。

 

 その後は天井を見上げながら、ぼんやり長々と呆けていると不意に肩をつつかれた。

 ぼんやりと巡らせていた思考を放り投げ後ろを見れば案の定アスナとキリト。

 

 「なしたよ」 

 

 「さっき話してきたんだけどさ、俺たちが二層をアクティベートすることになった」

 

 「アクティ…なに?」

 

 「アクティベートよ」

 

 「何それ?」

 

 「一層の転移門から二層の転移門に行けるようにすることだ」

 

 「なるほど。どうしてまた俺たちが?」

 

 「βテスターだってこと言ってきて、二層のことは知ってるから先にしてこようか、って提案してきたら」

 

 「あっさり了承、どころかお願いまでされたのよ」

 

 「ほう、そりゃ意外だな」

 

 βだってことをわざわざ公言したらキバオウ辺りが噛みついてきそうなものなのだが、ディアベルを助けてくれたし不問にしてくれたらしい。

 それでも友好を築けたわけではない辺りが面倒臭いが。

 

 横目でHPが問題ないくらいには回復しているのを確認した後に立ち上がり、行こうかと促す。

 言われなくても、と先んじて歩いていくアスナとキリトに追いつくように足を速めた。

 

 

 巨大なボスが守護していた大きな扉。

 それを三人で同時に押し開け長い螺旋階段を少しばかり早歩きで登っていく。

 ふと横を見れば次の階層を表しているのか広大な野原と走り回る牡牛の絵。

 中々想像が膨らむな、闘牛ごっことかしてみたい。布は…アスナのフードとかで良いか、赤いし。

 更に先に進めば色々な武器を持った人型の牛なんかも描かれていた。

 どうやら牛男にも種類はあるらしい。

 

 「この絵ってやっぱり次の層を表してるのか?」 

 

 「ああ、第二層は牛牛牛のモーモーランドだぜ」

 

 その言葉にアスナがうへぇ、と顔を少しだけゆがめた。というか俺もゆがめた。

 だって見る限りこのミノタウロスみたいなのなんて超筋肉質じゃん? こんなのが勢いよく迫ってくるとか生理的に受け付けなさそうだ。

 キリトはそんな俺たちを見てカラカラと笑っていた。

 

 そんなこんなで頂上である。

 階段の天辺にあったのは壁に描かれていたような美しい絵が描かれた巨大な扉。

 これまた二層を表しているようだった。

 

 少しだけ見惚れた後に勢いよく扉を押し開ける。

 開かれていく扉の隙間から吹き込んでくる風が体を煽る。

 現界まで開かれた時、映り込んできたのは途轍もない絶景。

 扉は急角度の絶壁の途中に設けられていたようだ。テラス状の下り階段も設置されている。

 思わず感嘆の声が漏れた。

 

 「絶景、だな…」

 

 「そうね…」

 

 二人が短く言葉を交わすのを尻目にふらりと先に進み岩肌から延びるテラスの端に寄り、ぐるりと二層の景色を見渡す。

 見慣れた一層と似ているようで、少し違う。

 連なる山の多さも、どこまでも広がる平原も、果てのない空の青さも全てが違うものに見えた。

 アクティベートとやらをしたらあそこに行ってみよう、あそこにも行ってみたいな、そう考えながら遠目にある街や山を見下ろしていく。

 

 「何時までも見ていたいけど、そういう訳にもいかないし、もう行こうか」

 

 「ん、了解」

 

 後ろからかけられた言葉に振り返らずにそう返す。

 階段に目を向ければかなりの長さ。

 かったるいなぁ…そう思いながら一段ずつ下りていく。

 やはり疲れているのか、会話をすることない。

 暇になってしまった俺はつづら折りのようになっている階段の段数を数えていくが30を超えた辺りでやめてしまった。面倒だったのだ。

 仕方がないので適当に妄想でもしながら進んでいく。

 頭の中では俺はとても強くてかっこいい勇者様なのだ! はっはっはっー! …虚しいな。

 

 思考を完全に停止させ無心で降りていく。

 考えることすら怠くなってしまったのだ。

 肉体的疲れは生じなくとも精神的な疲れは溜まるのだから、仕方ない。

 ふと後ろを見れば仲良く並んで歩くキリトとアスナ。

 容姿の良い二人は並べばそれこそお似合いのカップルにさえ見えた。

 思わずぐぬぬ、と歯を食いしばる。

 こちとら彼女なんて夢のまた夢だというのに…!

 別に二人は付き合っている訳でもないのだがそう思ってしまった。まあ仕方がない。

 

 仕方ない、何と素晴らしい言葉だろうか。

 どんな理不尽な状況に陥ってしまってもこの言葉一つでどうとでもなる魔法の言葉である。

 

 連想ゲームのように思考をつなげていく。無心でいるより何か考えていた方が楽だと気づいたのだ。

 そういえば、魔法と言えばこの世界には魔法というのはあるのだろうか。

 いやソードアートオンラインというくらいだからやはり物理攻撃しかないのだろうか。

 いやでもせめて魔法剣士みたいな…こう、付加系魔法みたいなのくらいは使ってみたいものだ。

 

 と言ってもこの世界に来てから使っているソードスキルはある意味魔法なのかもしれない。

 持っている武器が光出して自動的に体が動くとか何それファンタジー。あいやここファンタジーだったね。

 眼前に広がる景色を見てそう思う。

 

 下らない思考をぐだぐだ考えていたら階段はもう終わりのようだった。

 やっとか、そう呟き一段抜かしで降りていく。

 後ろからあ、待てよ! 何て聞こえてくるが華麗にスルー。

 一段飛ばし、二段飛ばし、三段飛ばしと抜かす段数を一つずつ増やしながら降りていく。

 そして最後に十段くらいあるのを少々ビビりながら一気に飛び上がる。

 ぶわぁ、と押し返すようにかかる風が気持ちいい。

 予想以上に跳んでしまったことに焦りながらも上手く着地。野原の草が軽く舞った。

 HPが多少減ったがそこはご愛嬌ということでここは一つ。

 減ったなら上手くねーじゃん! とかいう意見は無視の方向で。

 

 「ふー、微妙に焦ったな」

 

 額の汗を拭うような仕草でそう言った瞬間―

 

 ゴガァ!

 

 「ぐっはぁぁあああ!?」

 

 「うわぁあああすまん!?」

 

 背中にとんでもない衝撃と若い男の謝罪の声が。

 こいつ…碌に下を見ずにジャンプしよったな…

 この世界痛みはないが代わりに凄まじい不快感が走るのだ。

 パーティー故にダメージが入らないのが唯一の救いであったな。

 背中に圧し掛かっているキリトをどかし注意する。

 

 「全く、周りを見て動けよな――!?」

 

 ドカカァ!

 

 「ぐぉおおお…」

 

 「あ、ご、ごめんなさい…」

 

 背中にとんでもない衝撃と若い女の謝罪の声が。(あれ、デジャブ…

 こいつ…碌に下を見ずにジャンプしよったな…(二度目

 この世界に痛みはないが代わりに凄まじい不快感が走るのだ(さっきも言った気がする

 パーティー故にダメージが入らなかいのが唯一の救いだったな(既視感

 背中に跨るアスナをどかし青筋を立てる。

 前を見ればどうもニヤニヤしている二人の顔が。

 

 「お前ら狙ってやってない?」

 

 「ま、まっさか~…」

 

 「そ、そんなことしないわよー…」

 

 「そんなあからさまな棒読みで誤魔化されるかぁ!?」

 

 貴様らそこに直れぃ、とズンズン近づいていく。

 

 「はははっ、逃げろぉ!」

 

 「逃がすかっ!?」

 

 「あなたに追いつけるかしら?」

 

 笑いながらスタコラサッサと逃げ出す二人。

 どこか余所余所しかったアスナまで乗り気でいるのに少々驚きながらも俺は笑顔で勢いよく追いかけだした。

 

 

 

 



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五話 二層にて

ふう、最高に投稿が遅れてしまった。
いや書いてはいたんだよ書いては。気に入らなくて書いたそばから消してたけど。
もしかしたら今後は投稿スピード早くなるかもです、多分きっともしかしたら(真顔


 

 カーンカーンカーン

 一定のリズムで刻まれる金属音が茜色に染まった空に吸い込まれるように消えていく。

 金槌が鉄の剣を叩くたびに火花が踊るように飛び跳ねた。

 

 カーンカーンカーン

 槌を振るう眉尻の下がった茶髪の青年は緊張しているようで額に汗をかいていた。

 そんな様子を成功するか失敗するかなんて乱数で決まるのだから無駄だろうに、と表情を変えることなく考える。

 因みに乱数云々については昨夜キリトが言っていたことなので本当なのかは知らん。ニュービー(?)なめんな(真顔)

 

 そうこうしている内に剣が水色に光りはじめた。今までも何度か見たことのある光。すなわり強化時の光である。

 こんな非現実的な光景も知らないうちに日常となるのだろうか、そう思うと少しだけ心が昂った、そんな気がした。

 しかしそんな自分を冷静にさせたものがあった。パキリ、という聞き慣れないひび割れたような不快な音だ。

 ん?と疑問視を浮かべて注視すればバキバキパリィィィン!と金床の上で我が愛剣がさながらガラスの様に、光の欠片に姿を変えて消えていった。

 要するに砕けのである。

 

 ……って。

 

 「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 「も、申し訳ありません!!」

 

 二人の男の悲しい叫びもまた、吸い込まれるように消えていった。

 

 

 「ほ、本当に申し訳ありません!」

 

 ペコペコと言葉通り本当に申し訳なさそうに頭を必死に下げる青年ー名をネズハと言うらしい-は冷や汗ダラダラで今にも泣きそうな面をしていた。

 分かるぜその気持ち。俺も昔友人に借りたボールペン分解して遊んでたら戻せなくなって若干涙目になったからな。他人のもん壊すと超心苦しいの、分かるぜ。

 まあだからといって許すつもりはありませんけどね?ヒトノモノコワスダメ、ゼッタイ。

 おちゃらけているようでその実若干キレているのだ。何なら今すぐ叩き斬ってやろうか、てくらいには。まあ今剣ないけどな!

 

 しかしこの場合知らん人を信じて預けた俺が悪いのだろうか。

 うむむ…でもこらは言うなればお店側の過失でありお客である俺は悪くないのでは…?彼は俺の信頼に応えるべきだったのでは…!

 とか考えてきた辺りで面倒になってきた。そこそこ強化したものではあったが別にレアドロップだった訳でもない。

 NPCショップで普通に売ってた武器だ。(それでも2000円…コルもしたのだが)。今回ばかりは仕方がない。運が悪かった、ということで済ましてしまおう。そう決め口を開いた。

 

 「それじゃ、今の剣と同じやつタダでくれ。未強化でいいから」

 

 全然決まってなかった。むしろ引きずりまくりだった。

 べ、弁解をさせてくれ!何も嫌がらせをしたいわけではないんだ!ただ…その…2000円は重たいっていうか…それだけ稼ぐのに何日必要だと思ってんねん、的なね?

 この層のモンスターを20~30体殺さなきゃ稼げない額なのよ?そらこんな態度にもなるわ…命かかってるんだぞ…。

 ただでさえ飲み食いしまくって金がない今上がってきたばかりの層で買ったばかりのやっすい剣で外出るとか無謀の極み。むしろアホの極致。

 てなわけでさっさと寄こせはよ寄こせ、と言わんばかりに手を差し出した。

 

 「す、すいません、今在庫を切らしていまして…」

 「えぇ…まさかの…。それじゃああれ、強化代だけ返してくれれば良いや」

 「は、はい、!」

 

 青年が指先を虚空をなぞるように滑らすとチャリチャリチャリーンとお金の音が響き渡った。

 視線をずらし所持金に強化代が加算されたのを確認する。しっかり600円…コル返金されているようだ。

 最後に一つ文句でも言おうかと思ったがあまりにも悲し気な顔をしているのでそんな気もすっかり失せてしまい、まあそう落ち込むなよ的なことを告げ、俺はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 「はてさて、どうしたもんか」

 

 アインクラッド第二層:ウルバスの街の小さな空き地にて寝転がりながら考える。

 その内容は新しい大剣をどこで調達するか――ではなく、いっそ大剣使いやめてしまおうか、といった悩みだ。

 熟練度上げておいてやめちゃうの…とか思うけどぶっちゃけ大剣あんまり性に合ってないっていうか…こう、一刀両断!とかは好きだけど実際戦ってみると自分はちまちまうざい感じに攻撃する方が合ってるっぽいのだ。

 まあどうしてもヒットアンドアウェイになっちゃうよねー、だってモンスター怖いし。

 特に人型のが多いって辺りが最高にビビる。殺した時微妙な罪悪感得てしまいそうで手が震えるわ。

 

 てなわけで、どうしようか。候補としては短剣、片手剣、片手槍、細剣、と言ったところか。

 更に絞り込むなら片手剣と細剣は却下。何故ならあの二人と被るから。

 では短剣か片手槍か…んー、悩むけどやはり片手槍かなぁ、短剣じゃあまりにも攻撃力が心もとな過ぎる気がするし、ぶっちゃけ槍の方が好みだ。

 そうと決まれば武器屋に直行あるのみ…とは思うがひとまず二人のところに戻ろう。

 もしかしたらキリトならグレードの高い槍が手に入るクエ知っているかも知れんしな。

 よし、と頷き立ち上がりんんっ、と背伸びをする。

 パキパキッと体が鳴る音がする。

 

 「本当にどこまでもリアルだな…」

 

 感嘆の言葉を吐き、改めて茅場の凄さを思い知る。

 

 ―――ポロロン!

 

 「うおっ!?」

 

 聞き慣れない音が頭に響く。

 何だ何だと見渡せば視界の端っこにメールのマークが点滅していた。

 これはつまり…メールが来た、ということで良いのだろうか。

 シュッと腕を振るいウィンドウを操作しメール欄を開くと一番上にfrom:Kiritoと表示されている。

 タップすればブォンッと近未来的に目の前に文面が広がった。

 内容は簡潔で、東端にある宿をとったからさっさと戻ってこいという内容であった。

 因みに今日の飯はアスナの料理である、とも。

 え、何それ怖いんですけど…ゲル状の物質とか出てこないよね?この世界の料理全体的に信用できないから…

 唐突に不安になってきたがそれはそれ、取りあえずいざという時のために安物のパンを購入し宿へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 結果を言えば、パンは必要なかった。

 といってもそこらのレストランの方が万倍マシ、というレベルではあったのだがそこはそれ。これから熟練度を上げて何時かは最高レベルに美味いもんをご馳走して頂ければそれでいい。

 俺は先を見据えて動ける人間なのだ。何でも長い目で見るのが上手く生きるコツなのだよクククッ。

 

 「てなわけで、剣が壊れたので良い槍手に入るクエとか知らない?」

 「いやどういう訳だよ…」

 「一から説明しなさい…」

 

 「強化してもらおうと思ったら何かぶっ壊れた。良い機会だし変えよっかなって思った」

 「いや意味がわからねーよ!?」

 「なぜゆえ伝わらぬ!」

 「雑に省略しないの…」

 

 仕方がないなぁ…。これ以上は怠いだけなので懇切丁寧みっちり一から説明していく。

 二人ともすごい眉間にしわ寄せながら話聞いてるからしわ増えちゃうぜ?と言ったらアスナに無言でアッパーを喰らってしまった。痛い。

 

 「んー、困ったな。βでは強化で破壊、なんてことはなかったし…アルゴに聞いてみようか」

 「アルゴ?ボス戦の時話題になったやつ?」

 「そうそう、そいつそいつ」

 

 キリトはそう言い手慣れたようにウインドウ操作し始めた。

 その間暇なのでアスナと雑談してみる。

 

 「俺がいない間そっちは何か面白いことでもあった?」

 「そうね、この層は一刻も早く通り抜けたい気持ちが強まったくらいかしら」

 

 どうやら上半身裸の牛男モンスターが跋扈しているようでそれが大いに気に入らなかったらしい。生理的嫌悪を催すとかなんとか。

 俺は特にそんなことは思わなかったがそこはそれ、やはり女子ということのなのだろう。見た目中学か高校くらいだし。

 

 「でも多分迷宮内はそいつらで埋まってるレベルだぜ?耐えられんの?」

 「視界に入った瞬間殺すから問題ないわ…」

 

 目を細めてそういうアスナの目力は割と迫力があって軽く引いた。

 

 「ああ、そういえば、今キリトくんが連絡してるアルゴさんと今日会ったわよ」

 「お、マジで?何円取られた?」

 「どうして取られる前提なのよ…それにこの世界では円じゃなくてコルよ」

 「あ、コルだったな。うーん、これだけはまだ慣れねぇな…」

 

 金銭感覚だけはどうにも慣れないもんだな、と頭をかく。

 どうしても円って言っちゃうんだよなぁ…

 

 「おい、二人とも!今からアルゴこっち来るってさ」

 「え、メールで済ますんじゃないんかい」

 「気になるから直接聞きたいってさ」

 「なるほど…」

 「あからさまに面倒臭そうな顔しないの」

 「そんな顔に出てた?」

 「モロ出てたわね」

 「不覚…」

 

 いやお前どんなキャラだよというキリトの言葉を無視して顔をムニムニ触る。

 そんな表情豊かでもないはずなんだがなぁ…

 

 「顔に出やすいのが気になるのか?でも気を付けたところでどうにもならないぜ?」

 「え、何故分かったし。そして何故だし」

 「この世界の感情エンジンってのは少し極端でな、隠そうとしてもモロに出ちゃうんだよ」

 

 喜怒哀楽、全てにおいてな。と続けるキリト。

 つまりはこの世界では常に感情さらけ出した状態で過ごさなければならないということか…

 ここに来て二か月、最大の驚くべき真実である。

 だってテンションが下がってたり上がってたりするのが一発でばれてしまうってことだろ?めんどくさすぎるやんけ…。

 いやぁこれからは無駄だとしても思いっきり気を付けなけらばいけないっぽいですね…流石にこの世界に来ることになって超喜んでるなんてばれたくないし。

 だってバレたら不謹慎だ!とか言い出す奴絶対いるじゃん?個人の感想なんだから好きにさせろや、とも思うが世の中そんなに甘くないのも知っているのだ。

 何てったって俺は大人だからなっ(高校生)

 

 

 ――コンコンコンッ

 

 不意に扉が三回叩かれた。いやノックされた、というべきか。

 噂のアルゴが来たってことか、と扉側に体を向けると同時にアスナが扉を開けた。

 

 「ようアーちゃん、キー坊、そして…青年A]

 「いやせめて名前聞こうぜ守銭奴ネズミガール」

 「守銭奴とは随分な物言いじゃないかモブB]

 「おうこら何ちゃっかり格下げしてんだネズミ」

 「いやお前ら初対面なのに何でそんな言い合いしてんの!?」

 

 キリトが思わずと言わんばかりに口を挟む。

 

 「む、初対面ではないぞ?一層の攻略本こいつから買ったことあるし、それに色々噂も聞くし」

 「ム?ああ、あの時の大剣使いか」

 「おぉ、覚えてたんか」

 「さっきまで忘れてたけどナッ」

 

 ニャハハーと笑うアルゴ。無駄にあざといなぁ…なんて思ったり。

 

 「まあ、てことで俺の名前はユクト、よろしく」

 「オウ、よろしくな」

 

 右手を差し出し握手する。心なしか力が込められていたがきっちり力を籠め返しておいた。

 

 「そんなことしてないで本題に入りましょ」

 「ン、それもそうだナ」

 「ほら、早く話せユクト」

 「あ、俺なのね」

 

 てことで語りだす。二回目ともなると慣れたもんでさっきよりもスムーズに簡潔に話せた(と思う)。

 

 「なるほど、光った直後に粉々カ…」

 「何か心当たりあるか?アルゴ」

 「いや、申し訳ないが見当もつかないナ。正式サービスから始まった仕様だと考えるのが一番現実味がありそうダ」

 「やっぱそうなるよなぁ…」

 「その鍛冶屋さんが何かしらの方法で破壊した、ってことはあり得ないの?」

 「うーん…それは難しいだろうなぁ、誰にもバレずに耐久値をゼロにしたってことだろう?」

 「それも他人のだしナ…厳しいとオレッチも思う」

 「強化中は割と注視してたけど特に怪しい事はしてなかった、と思うぞ」

 「うーん、結局分からずじまいね」

 「ま、それならそれで良いさ、主武器槍に変えようと思ってたところだし」

 「まあユクトくんが良いなら良いんだけど…」

 「ン―、オレッチはオレッチなりにもう少し調べてみようと思う」

 「俺も気になるし調べてみるよ」

 

 そう言い残しアルゴは去っていった。

 因みにちゃっかり俺のフレンド第三号になっていった。やったね!

 

 

 「さて、てことで散々スルーされていたが槍の手に入るクエを教えてもらおうじゃないか」

 「それなんだけどさ、やっぱ槍にしちゃうのか?」

 「んーまあ熟練度はちょっともったいないと思うけどまだ取り返せる範囲内だし正直大剣は俺のスタイルにあってないっぽいから」

 「まあそれならそれで良いんだけど、悪いが俺は槍の手に入るクエ知らないぞ」

 「えぇうっそマジかよ…アスナは?」

 「私が知ってる訳ないでしょ」

 「ですよねー…」

 

 とんだ期待外れだぜ…。少々失望しつつメニューを操作。フレンド三号に連絡すれば返ってきた返事が『500コルナ』というものだった。

 くたばれ!と心内で叫びながら俺はしぶしぶ支払いのために外に出ていくのであった、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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