やはり俺が炎術士なのはまちがっている。 (世間で言うジョージさん)
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第1話 交通事故と邂逅

初投稿となります。
烈火の炎勢は出ません。まだ設定もそんなに決まっていません。ヒロインのみ決まってます。
御指摘や御意見なんかがあれば嬉しいです!



加筆、修正しました。


 

 

 

俺は高校の入学式の日に、交通事故にあった。

詳細は省くが、車道に飛び出た犬を助けに入り、車に轢かれた。気がつけば勝手に体が動いていたのだから仕方がない。

幼少の頃から憧れていた忍のように颯爽と助け出せると思っていたし、それなりには鍛えていたからな。

しかし、そんな想いは叶わずに俺の意識は深い泥の中へと沈んでいった……。

 

 

 

次に意識が目覚めた時に、俺は不思議な光景を目にしていた。

 

 

目の前に美少女がいた。

 

 

てゆーか、美少女に抱き締められてる。

妙に体が温かく、不思議と安心感に包まれる。

まるで母親に抱かれる子供のように…

 

 

気がつけば俺の手は彼女の背中に回り、抱き締め合う形となっていた。

彼女は驚いたのか、ビクッ!と体を震わせる。

 

 

あれ?俺ナニシテルノ?これ詰んだんじゃね?

あばばば、ヤバい!痴漢?冤罪?そんな言葉が頭の中を駆け巡る!

有罪判決!決め手は俺の腐った眼です!真実はいつも1つ!はぁ、やっぱりこの眼が原因かぁ。

高校生活1年目にして逮捕かぁ…。小町、差し入れは甘い玉子焼きでお願いします。 面会時間を皆に伝えといてくれよな。あ、よく考えたら伝える友達いなかった。

とか考えていたら、ふと車に轢かれた痛みが無いことに気づく。

美少女は微笑みながら一言だけ発した。

 

 

「よかった………」

 

 

そこで俺はもう一度意識を手放した。

 

 

 

目が覚めるとそこは知らない天井だった。

 

「知らない天井だ……。」

 

1度は言ってみたい台詞、BEST10を言ってみた!

ちなみに第1位は、

『それでも、守りたい世界があるんだ!』

だが、日常でそのような言葉は使う機会がないので、自作の花火と苦無(くない)で遊んでいたら、妹の小町に白い目でドン引きされていたのは昔の話だ。

 

 

とりあえず今の状況を整理しよう。

俺は深い深呼吸をすると、冷静に頭を動かし始める。

 

 

俺の名前は、比企谷 八幡。

総武高校1年生。好きなものは忍者!将来の夢は忍者!忍者サイッコー!主君の為に、忠義を尽くす!

あ、もうこれただ単に俺の自己紹介だわ。

 

「よし、冷静になった。」

 

点滴を打たれている状況からして、病院か?そういえば、犬を助けに車道へ飛び出て、車に轢かれて、それから美少女が俺を抱き締めて………フヘッ

 

 

ゲフンゲフン、おっといかん。

主観より、客観的に考えてみるべきだろう。そう考えていると、ノックの音と共に白衣の男性と看護士らしき二人が入ってきた。

 

 

そのあと来た医者により、大体の状況を聞いた。外傷は特になし。奇跡的だと医者は言う。ただ、車に轢かれたのだから今日のところは安静にし、精密検査を受け、異常がなければ明日には退院できるだろうとのこと。

ならば明日からは出遅れ感が満載の高校生活のスタートだ。

またエリートぼっちの真価が発揮される時が来たのだ!

何食わぬ顔で学校へ行き、

何食わぬ顔で下駄箱へ行き、

何食わぬ顔で教室へと向かい、

何食わぬ顔で席へと座る。

その姿は誰にも認識されない。

俺は明日のシュミレーションを脳内で行いながら、誰も見舞いに来ない事を思い、少し泣いた……。小町ェ………。

 

 

 

そして、ようやく俺の高校生活は始まる。

 

 

 




次回はついに高校生活へと!
ちなみに現段階ではまだ八竜全ては使えません。
また追々書いていこうかと思います。


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第2話 1日遅れの初登校

更新不定期ですが、出来るだけ早く書いていきたいと思います。



加筆、修正しました。


 

 

 

 

次の日の朝、俺は検査を受けて異常なしと判断されると、そそくさと病院をあとにした。

 

 

ちなみに検査の時に隠し持っていた花火や苦無を出したら怒られたのは内緒だ。

 

 

さて、今から学校へ向かうとしよう。

おそらく着くのは昼前か。 3限の授業なんだったかな?数学であれば遅れていこう。そうしよう。

そう思い俺は時間割を確認する。

日本史か、遅刻する訳にはいかない。よし、急ごう!

 

 

俺は日本の歴史が好きである。

それは、歴史の裏側にある様々な忍の歴史があるからだ。もちろん表舞台にて名前が出る程の超有名人も好きだ。アニメや漫画、ゲームでもモデルにされる服部半蔵は是非とも覚えておいてほしい。

あ、ここテストで出るからな。俺も忍者になって有名になったら歴史の教科書にも出る日が来るだろう。え?誰にも認識されないって?名前出ないじゃん。なにそれ、悲しい…。

 

 

そんな自虐ネタを考えていると学校に着いていた。

 

 

 

職員室へと向かい、事情を説明する為に近くにいる女の先生に声をかける。

その先生は白衣に身を包んだ美人で、ついキョドってしまったが、相手は俺を不審者扱いすることなく(感涙)対応してくれた。

 

「君が今日から初登校となる比企谷八幡か。私の名は平塚静だ。よろしくな。」

 

 

はぁ、とか。ども、と言い、多少の会話をしながら教室へと案内してくれた。どうやら次の授業の先生らしい。

教室へ入るとまずは自己紹介をしなさいと言われた。なにそれ、忍(ボッチ)にはそんな過酷な試練があるのか!?

意を決して噛まないようにゆっくりと話し始める。

 

 

「はじめまして。比企谷八幡です。」

 

 

ふぅ~頑張った。これで終わりかな?もう帰ってもいい?そんな事を考えていると平塚先生は呆れ顔でこう言った。

 

「もう少し何かないのかね?趣味とか特技とか、何かアピールしてみたまえ。」

 

アピールとかマジ無理!

特技は、手から炎が出る事です!メラゾーマ!

とかやる訳にもいかん。

 

 

俺には秘密がある。

手から炎を出すことが出来る。

しかし、こんな特技はハッキリ言って異端だ。そんな事が世に知れ渡れば、科学者とかがこぞって俺の体を調べ尽くすだろう。そんなモルモットみたいな人生はゴメンだ。

話を戻そう。

つまり、特技は言えない。忍(ボッチ)である俺には自身の内面のアピールとか無理ゲーすぎる。じゃあ、困る事もないし趣味の話でもするか。

いいか?仕方なくだぞ。

 

 

誰に言うでもなかったが、俺は意を決し、噛まないように気をつけて言う。

 

 

「趣味は忍者です。」

 

 

どうやらテンパっていたようだ。

教室の時間が一瞬にして止まる。

え?何これ。ついに俺にもスタンド能力が発現したの?しかも時を止めれちゃうのかよ!

 

 

どうやらまだ3秒しか止めれなかったせいか、クラスメイトを爆笑の渦へと誘う。あ、ホントに止めれるわけじゃないからね。むしろ今止まって!

 

 

俺の横で平塚先生は何やらプルプルと震えていた。

 

 

もしや怒っていらっしゃる?

恐る恐る顔を見ると……あら不思議!

満面の笑みでいらっしゃる。

 

 

「そぉか~!比企谷は忍者が好きなのかぁ~!」

 

 

背中をバシバシ叩かれ、席へと案内される俺ガイル。平塚先生は終止顔をニコニコさせながら授業を始める。どうやらこの人の琴線に何か触れたらしい。

 

 

授業が始まると俺は大好きな日本史の勉強を始める。教室の後方より、ふと視線を感じる。ボッチ(忍)あ、間違えた!忍(ボッチ)は視線に敏感なのだ。

 

 

後ろを見ると、お団子頭の女の子と目が合った。が、途端に視線を逸らされた。

ハイ。わかってました。この腐った目が原因ですね。むしろ通報されなくて感謝まである。え?感謝するの?何それ、悲しい……

 

 

にしても…見たことあるよーな、ないよーな?うーん。わからん。

 

 

そこまで考えると俺は隠れ身の術(ステルスヒッキー)を使い、授業へと意識を戻した。

 

 

 

授業が終わると、平塚先生から「放課後に生徒指導室へ来たまえ」と言われ、残りの授業を消化し昼休みになった。

 

 

 

休み時間に誰も話しかけに来なかったのは忍者趣味発言のせいではなく、俺の隠れ身の術(ステルスヒッキー)の性能の高さのせいである。

そうであると思いたい。

 

 

 

俺は昼飯を食べるべく、教室ではなくどこか静かな場所を探すべく校内探索へと出る事にした。

外は生憎の曇天模様で、まだ肌寒さもあり、外には出たくなかったからである。

そして、幾らか歩くと、特別棟校舎なら空き部屋があるんじゃないか?と、思いつき探す事にした。

上から探すべく階段を昇って行くと、プレートが空白の部屋を見つけた。鍵は、と。開いている。ドアをガラリと開けると、そこには先客がいた。

 

 

………いや、美少女がいた。

 

 

 

 




なかなかまとまらずに話も進みませんが、次回は早めの更新しますのでお許しを(泣)

感想下さった方々、ありがとうございます!
少し材木座の気持ちがわかった気がします。


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第3話 長い昼休み

日曜なので少し書けたので投稿。
にしても、話が進まないw



加筆、修正しました。


 

 

 

 

どこかデジャヴを感じながら見惚れてしまう。

その長い黒髪は見覚えがある。

その憂いを帯びた眼は見覚えがある。

雪のように透き通る白い肌も見覚えがある。

まるで絵画をそこに1枚貼り付けたように佇む彼女と、ふと目が合った。

 

 

 

「こんにちは。依頼者の方かしら?」

 

 

彼女は凜とした空間に透き通るような声でそう言った。

 

 

「いや、静かな場所を探していただけだ。落ち着いて飯を食べたいからさ。」

 

 

「そう。ならちょうどいいわ。」

 

 

彼女は長机へと、どうぞ。と、手振りする。

 

 

「いや。先客がいたのならいい。他を探すだけだ、じゃあな。」

 

 

颯爽と立ち去ろうとしたら、声をかけられる。

 

 

「待ちなさい。私は今から昼食なのだけれど、良かったら御一緒にいかがかしら?」

 

 

俺の持っているコンビニの袋を見ながら優しく微笑む。どこか不思議な誘引力があり、俺は普段なら発揮しないコミュ力を発揮していた。

 

 

「そうか。それじゃお言葉に甘えさせてもらいます。」

 

 

ペコリと頭を下げると、満足そうに彼女は自分の弁当を広げる。

俺も教室の後ろに積まれてあるイスをガタガタと取り出すと、長机の端っこに置いて座りパンと愛飲のマッカンを取り出す。

 

 

「「いただきます。」」

 

 

軽くハモってしまった。こ、これは少し恥ずかしい!女子とご飯なんて小学生の時以来だ。あの時のトラウマを少し思い出し、眼を腐らせてしまう。慌てて、俺はつい疑問に思った事を質問してしまった。

 

 

「ところで、質問なんだが。」

 

「何かしら?」

 

「ここで何をやってたんだ?依頼とか言ってたが。」

 

 

少し小首を傾け、可愛い……いや、悪戯な顔を見せると彼女は言った。

 

 

「そうね。答えるのは簡単なのだけれど、少しゲームでもしない?私が何をやっていたのか?それを当てるゲームよ。」

 

 

俺は頭をフル回転させて考える。忍(ボッチ)の状況把握能力(空気を読む)を舐めるなよ?

彼女は依頼と言った。依頼と言えば、探偵であったり、スケット団的なものか?学生の出来そうな部活動だろうか?ならば…

 

 

「ここはお悩み相談室だろ?」

 

「その心は?」

 

「お前は俺が入ってきた時に『依頼』というワードを出した。加えて今は昼休み。そうすると、運動部でもない。生徒会や委員会でもない。何かしらの機材もない。」

 

 

これで、チェックメイトだ!

 

 

「よって、依頼という言葉から導き出せるのは学生専門のお悩み相談室的なものだろう。」

 

 

少しドヤッとしながら答える。

 

 

「半分は正解で、半分ハズレよ。」

 

 

な、何ぃっ!?

俺のドヤ顔返してっ!!

 

 

「わっかんねぇ。正解は?」

 

 

「正解は奉仕部よ。魚を欲しい人に与えるのではなくて、魚の捕り方を教える。本人の自立を促す、そういう理念よ。」

 

 

少女は淡々とそう述べた。

 

 

「それと、『お前』ではないわ。私の名前は雪ノ下雪乃。貴方のお名前は?」

 

 

得意気にそう語ると、彼女は俺の名前を聞いてくる。名前を聞かれるのは職質か、ゲームのキャラネーム設定ぐらいの俺は浮かれそうになるのを必死で堪える。やべぇ、焦った。訓練されたエリート忍(ボッチ)の性能を甘くみるな!危うく惚れちゃうところだったぜ!

 

 

「これは失礼。俺の名前は比企谷八幡です。」

 

「比企谷君ね。私はこの奉仕部で部長をしているわ。といってもまだ2日目だけれど。」

 

 

そりゃそうだ。昨日は入学式だ。彼女は1年生のリボンをしているしな。

 

 

「こんな事を貴方に言うのも変なのだけれども。」

 

 

雪ノ下は凛とした姿勢で話し出した。

 

 

「私はこの世界を変えようと思っているわ。」

 

 

そう答えると彼女は俯きながら悲しみと慈しみが混ざりあった顔をしていた。

中二病かな?とも思ったが、真剣な雰囲気に飲まれた俺は話を黙って聞くことにする。

 

「あら?貴方は引かないのね。大抵の人はこの台詞を聞くと軽く流すか、適当な世辞を言うものなのだけれど。」

 

 

「女の子の話はマジメに聞けって躾られてるからな。それと、まだ続きもあるんだろ?」

 

 

彼女は少し驚いた表情を見せるが、すぐに凜とした顔つきに戻ると話し始めた…。

 

 

昼休みを終える鐘が鳴り響く頃には、彼女の話は終わった。要約するとこうだ。

世の中は理不尽な事が多くあり、それらに対して解決、改善したいと。常に正しくありたいと。

 

 

俺は上っ面だけの正論をかざす奴は嫌いだ。そんなものは偽物で欺瞞で、中身も何もない。ただの偽善。しかし彼女を推し量る情報も無いのも事実であり、容易には判断しかねる。

ん?なんだ?この思考は。俺はもしかして、また希望を持とうと考えているのか?何故これほどこの女の事を考えている?

 

 

中学の頃の歴史(黒歴史)がフラッシュバックする。

 

 

俺は頭を少し振ってから、その部屋を出た。出る時に後ろから何か言われたが、別れの挨拶か何かだと思い、「じゃ」とだけ返事をして教室に戻った。

 

 

 

…にしても女子とあれだけ喋ったのは初めてだったな。

(小町除く)

 

 

 

 




次回は、これまた不定期更新(笑)

なるたけ早く書いてみたい。
同時に睡眠もとりたい。


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第4話 初めての同志

全然、バトル描写ないです。
まだ先になると思います。

八幡らしくないところは、勉強不足です…orz



加筆、修正しました。




4修正

 

 

 

あっという間に放課後。

俺は平塚先生に呼び出されていたのを思い出し、生徒指導室へと向かうことにした。

 

 

怒られる内容かな?もし、そーならバックレよう。いつでも逃げれるように、退路は確保しとくか。なんて事を考えながら俺はノックをして部屋へと入る。

 

 

「失礼します。」

 

「よく来たな、比企谷。まぁかけたまえ。」

 

 

ソファーに座り、テーブルを挟んで平塚先生と向かい合う。先生は真剣な表情で語りかける。

 

 

「比企谷。お前は忍者が好きなのか?」

 

 

これは自己紹介の時のアレだな。うん、アレだ。まさか高校でも黒歴史を作ってしまうとは。もう開き直るしかないな、うん。訓練されたエリート忍(ボッチ)は、この程度では動じないのだ。

 

 

「そうですよ。なんなら、将来の夢までありますよ。」

 

「そうか、わかった。少し待っていたまえ。」

 

 

平塚先生はそう言うと、部屋の隅に置いてあった箱の中身をテーブルの上に並べた。

 

 

「す、すげぇ………!」

 

 

それは見渡すばかりのお宝の山!

 

 

「これは、風魔手裏剣!これは鎖鎌!どれもレア物ばかりじゃねぇか!これも、これも!」

 

「驚いたかね?実は何を隠そう、私もかなりの忍者フリークなのだよ!」

 

 

満面の笑みを浮かべた平塚先生と俺は、お互い無言で拳を合わせた!人生で初めて同志が出来た瞬間である。

 

 

「いやぁ~まさか平塚先生がこんなに話せる人だとは思わなかったな。」

 

「家に来ればもっとたくさんのお宝もあるぞ?例えば、伝説の忍集団の話とかな。」

 

「マジかよ!行く、行く、行っちゃいます!今からでも、いいんですか?」

 

 

嬉しさのあまりリア充みたいになってしまう。他人の家に行くのがこんなに楽しみなのは初めてだ。

 

 

「あぁ、構わないぞ。ただし、世間的にあまりよろしくないからな。他の生徒には内緒だぞ?」

 

「承知した!して、拙者はどうすればよいでござるか?」

 

「うむ。裏に私の車をまわしておこう。学校の裏門で待っていたまえ。」

 

 

 

などと、ノリノリの会話を繰り広げたところで、指導室にノックの音が聞こえた。

 

 

「入りたまえ。」

 

「失礼します。雪ノ下です。平塚先生、部の活動方針でお話が……」

 

「ん?昼間の……?」

 

 

そこには昼休みにランチを共にした少女が現れた。

 

 

「こんにちは、比企谷くん。また会ったわね。」

 

「ん?なんだ、君達は知り合いか。」

 

「えぇ、昼休みにちょっと……。」

 

 

 

部活動と言っていたな。ということは平塚先生は顧問なのだろうか?忍者部じゃないのか…。

 

 

 

「なら丁度いい。雪ノ下は私に用があるのだろう?」

 

「はい。今後の部活動における人材の補充と、活動方針でお話があります。」

 

「なら、私の家に来たまえ。話はそこで聞こう。それに帰りは車で送ろう。あと、人材には心当たりもあるからな。」

 

「…わかりました。送っていただくのは心苦しいですが、先生のお招きにあずかります。」

 

 

俺の用事が私用なのが申し訳なく感じた。大変遺憾だが、今日のところは雪ノ下に譲ろう。

 

 

「部の用事ですか、先生?なんなら別の日にしますが。」

 

「なーに、構わない。それにお前達は知り合いなんだろう?これを機に親交を深めたまえ。」

 

 

 

待つこと数分後に迎えに来た平塚先生の車で向かう事となった。道中も忍トークが続いたのは、言うまでもない。もちろん、雪ノ下は完全に空気と化していたが。

 

 

「平塚先生は好きな忍とかいますか?」

 

「私は個人的に霧隠才蔵が好きだな。しかし、比企谷。歴史の中に埋もれていった忍の里が多いのは知っているか?」

 

「えぇ。国から恐れられ潰された忍の里も、忍同士の抗争で潰れたりした里もあるのは常識ですね。」

 

「我が家についたらとっておきの話をしてやろう。まるでお伽噺やファンタジーのようで、本当に実在したが故に、潰された忍の里の話をな。」

 

 

その時の俺は、久しぶりに長く人と会話をした疲れがあったが、なによりも同志を見つけた嬉しさでいっぱいだった。今日は女の子とよく喋る日だな。帰ったら小町に自慢しよう。

 

 

 

そして、平塚先生の家に着いたのであった。

 

 

 




ようやく話は少しずつ展開をみせていきます。
ちなみに八幡はまだ奉仕部に入っていません(笑)


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第5話 火影

少し夜なべをして作製、コインランドリーで回してる間に作製、投下(笑)

いつもスマホでの投稿なので、早ければこのペース!



 

 

 

そんなこんなで平塚先生の家に到着した。見た目は美人教師なだけに少しドキドキニヤニヤしたが、横から刺すような雪ノ下の視線を感じる……のは、気のせいだろう。

 

 

「さあ、何もない家だがあがりたまえ。」

 

 

安アパートらしき二階建ての階段を上ると、平塚という表札があった。先生の家に俺達は入っていく。

 

 

「お邪魔します。」

 

「お邪魔します。」

 

「そこに座ってくれたまえ。今、お茶を入れる。」

 

 

 

周りには、掛け軸、何かの忍術書や、巻物、各種手裏剣に、忍具等、色々と飾ってあった。こんなにテンションが上がる事もない!デスティニーランドなんかよりも、よっぽど魅力的な部屋だったのだ。

周りのビールの空き缶や、ゴミにさえ目を瞑ればだが。

 

 

「さて、どちらの話から始めようか。」

 

「私は後から来たので、先に比企谷くんの話から始めていただいて構いません。」

 

「フム、わかった。それでは、比企谷。お前に先程の続きを話してやろう。」

 

「例の歴史に埋もれた忍の里の話っすね。」

 

 

雪ノ下は全く興味が無さそうな顔をしていたが、我々の域に来るには10年早いわ!

 

 

「比企谷、『火影』と言う名を知っているか?」

 

「聞いた事ないですね。」

 

 

忍者大好きな俺は、図書館に置いてある類いの大抵の本は調べ尽くしていたのだ。

そんな俺でも聞いたことがない。

 

 

 

「火影は特殊な忍の一族でな。彼らは『魔導具』と呼ばれる不思議な能力を有する武器を使っていたらしい。」

 

「不思議な能力?」

 

「そうだ。文献によると、彼らはその魔導具で風を操ったり、石を堅固な鎧に変えたりしたそうだ。」

 

 

なんだそりゃ。なんかの怪談物の文献でも間違えて読んでたんじゃねえか?忍術なら全てに種も仕掛けもある。オーバーに言ってるのか?しかし魔導具か、気になる言葉だ。

 

 

 

「普通の忍術と呼べるものではない、と?」

 

「うむ。しかも歴代の当主と呼ばれる者は皆、炎を自在に操る者がなっていたそうだ。」

 

 

一瞬、俺の秘密を知ってるのかと思った。あまりにもその一点だけは無視できない言葉だ。だが、偶然や想像の類いのものかもしれない。

 

 

「けど、そんなラノベの能力バトルみたいなもんが存在していたら、歴史に残るものなんじゃ!…ないんですか?」

 

「滅ぼされたんだよ。織田信長によってな。火影の能力を恐れた織田信長によって、火影の歴史は幕を閉じたとされているのだよ。この文献を見たまえ。」

 

 

そこに出されたのは古く、歴史を感じさせるボロボロの巻物だった。

 

 

「これは歴史的にも価値のある文献だ。真偽はわからん。だが、私はこれは実在したと思っているのだよ。」

 

 

平塚先生は目をキラキラ輝かせながら、少年のような顔で語りかける。

 

 

「そうですね。俺も真実かはわかりませんが、これは実在した忍の話だと思います……。」

 

 

俺はある確信をした。

これは真実なのだろうと。

俺しか確信を得る事はないだろう。

俺が隠し続けている秘密。それこそが、火影の当主との共通点であるのだから。驚きを隠しながら俺は冷静に話を聞いていた。

 

「実は、この文献を譲って欲しいと、さる筋から大金を積まれているんだ。それほどの価値ある物なら、信憑性の裏付けになるとは思わないかね?」

 

 

トクン!胸を打つ何かがある。

もしかしたら、俺は胸が高鳴っていたのかもしれない。だってさ、そこに自分のルーツを辿る手懸かりがあるんだぜ。炎を操る忍がいる。俺はその末裔かもしれない。

 

 

その日は、逸る気持ちを抑えられずに、平塚先生と火影についてずっと話していた。

雪ノ下が空気になってるのは、また別の話だ。

 

 

 




展開は少しずつですが、進んでいきます。
少しだけ自身のルーツを見つけた八幡。
そして空気になってる雪乃さん(笑)

次回もお楽しみに!


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第6話 奉仕部入部

だいたい話の区切りが難しい。


ある程度の話は進みましたが、
一日の長いこと(笑)

また更新ペース上げていきます。



加筆、修正しました。



6修正

 

 

 

「あの……平塚先生?さすがにもう日も暮れ始めたのでおいとまさせてもらいます。」

 

 

俺と平塚先生がヒートアップしてる間に雪ノ下は申し訳なさそうに入ってきた。あ、ヤベ。すっかり忘れてたわ。

 

 

「あ、あぁすまない!決して忘れていた訳ではなくてな!少し熱く議論していただけだ!」

 

 

 

ぜってー忘れてたな、この人。

 

 

 

「話を邪魔するつもりもありませんので。私の用件は明日でもかまいませんので。」

 

 

 

さすがに悪い事をしたかと思ったが、元々はこちらが先客なのだ。むしろ後から来た雪ノ下が悪い。いや、この場合は要領の悪い平塚先生が悪いのか。

 

 

「そういえば、部の活動方針と、人材の補充と言っていたな?うん、その話ならばすでに解決してあるぞ。」

 

 

 

それじゃ雪ノ下待たせてやるなよ。メールか電話でも良かったんじゃね?ほら、少し怒ってんじゃん。……てか、なんで俺も睨まれてるの?同罪なの?もう、早く言ってやれよ。

 

 

「それでは、先生。納得のいく答えを聞かせていただけるのでしょうか?」

 

「構わんよ。新しい人材にはこの比企谷八幡が入部となる。」

 

 

うんうん、なんだ決まってんじゃん。ん?聞いた事ある名前だな。

 

 

 

「部の活動方針としては、より互いが切磋琢磨出来るよう、どちらがより依頼を解決したかの勝負形式をとることにする!」

 

 

え?知らない間にバトルものに変わったの?ラブコメでもないけど。なんなの俺の人生…。

 

 

 

「負けた者は、勝った者の言うことを何でも1つ聞くということでどうだ?」

 

 

 

何言っちゃってんの!?この人?

すでに強制ルートなの!?俺の意思は?人権は?それって、シャーペンプレゼント☆とかじゃ駄目?

 

 

 

「お言葉ですが先生、部員が増えるのは賛成ですが、何も勝負形式をとる必要はないかと思います。それに負けたら何でも言うことを聞くとか……さすがに身の危険を感じます!」

 

 

強制は嫌だけど、何でもって言ったら何でもだよね?教師公認で何でもだよね?あ、女性陣からの視線が痛い。ナンデモナイデス…スミマセン。

 

 

「ほぅ。雪ノ下、負けるのが怖いのか?」

 

「……その安い挑発、乗りましょう。私が勝てばいいだけなのだから。」

 

 

 

えぇ~。これもう強制参加ってなってるじゃん。部活するぐらいなら、ハットリくん(忍)でも見てたほうがマシだよな。てか、雪ノ下ノリノリじゃん!目が輝いてるじゃん!星の王子様ニューヨークへ☆じゃん!

あ、わりと俺テンパってるわ(笑)

 

 

 

「よし!ならば、今日は遅くなったし送っていこう。二人とも、遅くなってすまない。」

 

 

 

平塚先生は俺達を車に乗せると、雪ノ下のナビゲートで雪ノ下の家から送っていった。なんだ、俺ん家の近くじゃん。送らせるのも悪く思い、ここで二人とも降りて歩いて帰る旨を伝えた。

 

 

「それでは、また明日な。比企谷、部活には顔を出すように。」

 

「拒否権はないんですよね、わかりました。では、また明日。」

 

「それでは、平塚先生さようなら。」

 

 

 

先生も帰ったので、俺も雪ノ下に別れを告げて帰ろうとしたら止められた。

 

 

「あの、奉仕部のことなのだけれど。」

 

「おう。急な展開だが、明日からヨロシクな。」

 

 

 

すると雪ノ下は少し嬉しそうに、それでいて少し微笑みながら伝えてきた。

 

 

「えぇ、こちらこそ。よろしくね。」

 

 

その笑顔やめてぇぇぇぇ!

本当ドキッとするから!

 

 

「あと、入部してくれてありがとう…。」

 

 

ん?俺の意思じゃないんだけどな。強制だったよ?けど、ここでさすがに空気を読まない訳にはいかない。忍(ボッチ)には己を殺す事など簡単な事だ。

 

 

「まぁ顧問は話も合うしな。雪ノ下も何かの縁で、昼休みからの付き合いだしな。」

 

 

一瞬、雪ノ下はなにやら反応する。

疲れていた俺は気のせいだろうと思い、特に気にする事もなかった。

 

 

そしてお互いの家路についたが、雪ノ下が高級マンションに向かって行き、入るのを確認してから俺も帰った。後に壁を傷つけた時に億ションと知って青ざめたのは別の話。

 

 

 

 




ようやく二日目終了!

卒業までに何話までいくやら。


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第7話 廃工場への潜入?

八幡と雪乃が少しずつ進展していきます。
ほんとに物語も少しずつしか進みません(笑)



加筆、修正しました。


 

 

 

入部が決まり、同志も見つけ、自身のルーツとなる手掛かりも見つけた。まさに激動の一日だった。

そのあと、帰りが遅くなった俺に小町が質問責めしてきたのは想像に難くないだろう。

適当にあしらうと、俺はそのままベッドへとダイヴした。

 

 

 

翌朝、学校へと向かう前に朝食の支度をする。食事は当番制である。今日は俺の番だ。愛する妹の小町の為に日夜、料理を作り続ける。当番制だけどね。

 

 

「おはよう。おにーちゃん。」

 

「おう、おはよう。飯出来てるぞ。」

 

 

 

二人でハムエッグとトーストを食べる。眠気が覚めてきたのか、小町が詰め寄る。

 

 

「おにーちゃん。なんで昨日は遅かったの?なんかあったでしょ?」

 

「あったと言えばあったな。昨日のお兄ちゃんは、ハードモードだったわ。」

 

「それって、昨日帰ってきたおにーちゃんから煙草と、女の人の匂いがしたのと関係あるのー?」

 

 

コイツ!なんて鼻をしてやがる!お前は某美食家なの?

 

「あー、一応言っておくが、それは先生と部活仲間だ。」

 

「キャー!おにーちゃんから女の影が~☆それでそれで?何か進展でもあったの??」

 

 

ゴシップ好きな妹に育てた覚えはないんだけど。

 

 

「なんもねーよ。さっきも言ったけど、部活に入ったから毎日遅くなるからな。」

 

「小町的にはおにーちゃんが社会に適合するのは嬉しいんだけど、遅くなるのはちょっと寂しいかな?あ!今の小町的にポイント高い!」

 

「そうか……寂しかったのか。お兄ちゃん、光速で帰って来るからな!」

 

 

などとバカなやりとりをしてから、小町を送って学校に着いた。

 

 

 

教室へ入るとまたもや視線を受ける。忍(ボッチ)は他人の視線に敏感だと言ったろう?愚か者めっ!

視線の元を辿ると、昨日も見たよーなお団子頭の女の子だった。視線が合うと、バッ!と逸らされる。フッ、我が瞳術に屈したか。勝ち誇りたいが、それよりも逸らされたダメージの方がデカイ。何ソレ。無理ゲーですやん。

 

 

 

無事に授業を消化し、昼休みになった。せっかくだし部室で食べるか。部活仲間も仲間だもんね。別にいいよね?

なんて考えてる間に到着。

ノックして入ろう。

 

 

「うっす。」

 

「こんにちは。比企谷くん。」

 

 

 

挨拶もそこそこに早速だが本題に入ろう。勇気がいるな。だが、俺にも権利はある。何故なら部員だからだ。

 

 

「今日もここで食べてもいいか?」

 

「かまわないわよ。あなたもここの部員なのですもの。」

 

 

 

俺達は昼食を早々に食べ終わり、少しばかりの会話が始まる。まさか、ボッチ(忍)あ、間違った。忍(ボッチ)にこんな試練があるとは!

 

 

「あの、今日の部活の後は空いてるかしら…?」

 

「ん?あぁ。帰るだけだからな。特には何もないぞ。」

 

「少し付き合って欲しいのだけれど…。」

 

 

 

ドキッ!と、きた!

勘違いしそうになるからやめてくれませんかね?訓練されたエリート忍(ボッチ)だから良かったものの、ただの下忍(ボッチ)だったら勘違いしてたぜ。

 

 

約束を交わすと、昼休みも終わるので教室へ戻る事にした。

 

 

「 じゃあ、また部活でな。」

 

「えぇ、またあとでね。」

 

 

 

教室に入るとまたもや視線。

なんなの?コイツ俺に恨みでもあるの?誰かに雇われて俺を調べてんの?あ、よく考えたら俺の情報知りたい友達とかいなかった。何ソレ、死にたい。

 

 

とりあえず瞳術て軽く打ち負かしてやり、授業が始まった。

 

 

 

放課後、部室へと歩く。

 

 

 

「うっす。」

 

「こんにちは。比企谷くん。」

 

 

俺は長机の端に椅子があるので座った。

そういえば何をすればいいのだろうか?

 

 

「基本的に何をしてればいいんだ?」

 

「依頼が来るまでは待機してるだけよ。私はいつも本を読んでいるのだけれど。自由にしてもらっていてかまわないわ。」

 

「了解です。部長殿。」

 

 

なるほどな。積極的に宣伝はしてないのか。それなら待機中は自由時間と変わらないもんな。

 

 

 

「あらためて、ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。」

 

「………よろしくお願いします。」

 

 

なんか面と向かって言われると照れてしまう。俺もそこまでコミュ障ではない。ただ、隠密性(ステルスヒッキー)が高いだけだ。自由にと言われたので、カムイ伝を読んだり、鍛練等して過ごした。

雪ノ下が少しチラチラ見ていたが、忍者に興味を持ち始めたのだろうか?しょうがない。忍の素晴らしさを布教してやるか。

とか思ってたら完全下校時間になっていた。

 

 

「今日はここまでにしておきましょう。お疲れ様。」

 

「お疲れ様さん。」

 

 

雪ノ下は少しモジモジしながら何か言いたそうにしている。モジモジくんって古いか。古いな。

 

 

「その、昼休みの時の約束なのだけれど…」

 

「どこか行きたいところでもあるのか?」

 

「えぇ。少し待っててくれるかしら?鍵を返しに行くわ。」

 

 

そして、校門前で待つこと数分。

雪ノ下と合流した。

 

 

「どこに行くんだ?」

 

「先にコンビニに寄りたいのだけれど、いいかしら?」

 

「了解。行こうか。」

 

 

コンビニで何やら買っている雪ノ下。俺もマッカンを買い、二人で特に会話も無く歩き続ける事30分弱。町外れの廃工場に辿り着いた。

え?中に入るの?そんな事を考えてたら雪ノ下は悠々と敷地内に不法侵入していく。慌てて追いかけると廃工場の中へ入っていった。

もしかして、俺の命を狙った忍の者か!?

まさか雪ノ下が………!?

とか、中二病全開の脳内会議をしていると奥から声が聞こえてきた。ん?ニャーとかどこの手の者だ!

 

 

 

そこには、小さなダンボール箱に入れられた子猫がいた。正確には、子猫と戯れる雪ノ下がいた。

 

 

「ニャー」

 

「ニャァ」

 

 

 

何だ、コレ???

 

 

 

 




少しずつ烈火の炎と俺ガイルの世界観が交じっていきます。

次回も乞う御期待!!


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第8話 廃工場での真実

ついに明らかになる真実。
ようやく物語は進みます。




加筆、修正しました。


 

 

とりあえず雪ノ下は、俺と果たし合いをしたいようではなかった。廃工場シチュとか、決闘か罠と相場は決まっている。改変された世界では廃工場は萌えシチュなの?ってくらいに異様な展開に俺は驚いていた。目の前で子猫をあやす少女を俺はまたもや見惚れてしまっていた。

雪ノ下がニャーと言うと、子猫もニャアと返す。何?君ら会話できてるの??

 

 

「ニャー」

 

「ニャァ」

 

 

 

とりあえず空気になっていると、俺に気づいたのか雪ノ下は咳払いをすると、コンビニの袋を取り出した。どうやら猫缶を買ってたらしい。勝手に餌付けしちゃっていいの?とか考えていると雪ノ下からカミングアウトされた。

 

 

 

「私は、猫が好きなのよ。比企谷くんは嫌い?」

 

「動物は全般的に好きだぜ。忍の世界にも動物をパートナーとした忍もいるしな。」

 

 

 

ガルフォードさんとかな。GO!パピー!あれは動物愛護団体に訴えられるレベルだけど。

 

 

 

「この前の事なのだけれど、ここから声が聞こえたのよ。それがこの子と私の馴れ初めよ。」

 

「そんで、その猫はどーするんだ?ここに居るって事は飼わないのか?」

 

 

当然の疑問を口にする。責任が持てなきゃいけないけどな。何か事情でもあるんだろうか?

 

 

「飼いたいのだけれども……きっと許してもらえないと思うから。」

 

「あのマンションはペット禁止なのか?」

 

「そうではないの。私、一人暮らしだし、問題はないわ。」

 

 

さらりと重大発言しやがった!なんなの?お金持ちなの?もしかして、その歳でFXとか株とかで成り上がった実業家とか??

 

 

 

「一人暮らしなのか!?あの高級マンションで??もしかして、親が許してくれないのか?」

 

「そうね、厳しい人達だから。一人暮らしもまだ反対されているのよ。」

 

 

 

彼女は苦しそうな、悲しそうな顔を見せると、俯いてしまった。手はしっかり子猫を撫でているが。これが雪ノ下クオリティか。彼女の悲しむ顔をなんとかしたくて、俺は思い付いた事をしてみる。

 

 

 

「ちょっといいか?」

 

「…どうしたの?」

 

 

 

暗い雰囲気を払拭したくて、いや、彼女の顔が暗くなるのを見たくなかったのかもしれない。だから、とっておきを披露することにした。

 

 

 

「何も無い空間に花が咲きます。御覧あれ!」

 

 

 

俺は屋根が高い廃工場の広い空間に、自作の花火を咲かせる。

 

 

パパパパーーーンッ!

 

 

五色米ならぬ、五色花火。

「ワァ……」と感嘆の声を出し見つめる雪ノ下。少ない花火だったがご満足いただけたようだ。

 

 

 

「比企谷くん…ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

 

 

彼女の顔に笑顔が戻った。あの笑顔は反則だろ!思わず惚れてまうやろー!と叫びたかったが、グッと堪えた。照れ隠しに俺は猫を抱き上げる。

 

 

「あれ?コイツ怪我してるぞ。」

 

 

 

他の野良猫にでもやられたのだろうか。後ろ脚や尻尾に怪我が見えた。

 

 

「なんてことをっ!」

 

 

雪ノ下は駆け寄り、俺から子猫を受け取ると涙目で子猫を抱き締めた。

 

 

とたんに子猫の体が眩い光に包まれる。なんだコレは!?雪ノ下は聖母のような顔を浮かべて子猫を抱き締め続ける。子猫も気持ち良さそうにゴロゴロ言ってる。ん?怪我が治ってないか??

光が収まると雪ノ下は優しい表情を浮かべていた。

 

 

 

「良かった…。」

 

 

 

いや、よくねぇだろ!いや、いいんだけども!ツッコミどころが多すぎて頭が混乱する。

 

 

「見られてしまったのね。気持ち悪いでしょ?私。」

 

 

 

薄暗い室内は雪ノ下の表情を見えなくさせる。色んな感情を混ぜたような声で雪ノ下は申し訳なさそうに告げる。

 

 

 

「昔からなの。どんな怪我でも治す事が出来るの。自分自身は治せないのだけれど。」

 

 

顔に笑顔は無くなり、自嘲するような顔に変わっていく。雪ノ下は自分を理解しているのだ。自身がマイノリティであることを。

 

 

「普通ではないもの。異端はいつの時代も異端でしかないわ。けれど、私はそれ以外は普通のただの人間なのよ。」

 

 

雪ノ下は、そう告げる。

自らのその能力を隠そうと思えばいくらでも出来たにも関わらずにだ。それよりも目の前で苦しんでいる者に対して、慈悲の心でもって行動していた。後先を省みずに、だ。

ならば、俺も自身の秘密を話さねばならない。明かさねばならない。それが彼女に対する信頼への証左となると信じて。

 

 

「確かに驚いたけど、俺も雪ノ下に話さないといけない事が出来た。聞いてくれるか?」

 

 

 

雪ノ下は少し驚いていた。

嫌われると思っていたのだろう。蔑まれると思っていたのだろう。排他されると思っていたのだろう。

だが、そんな幻想は俺がぶち殺す!いかん。シリアスになりきれていない。まぁ脳内だから許してね?

 

 

「俺には生まれつき不思議な能力がある。もちろん人前では出した事がないがな。」

 

 

手を強く擦り合わせる。

すると手から炎が出る。

 

 

「これが俺の秘密。ある程度自在に炎を出す事が出来る。」

 

 

更に、宙に文字を書く。

その字は『砕』。

 

 

「砕羽(さいは)っ!」

 

 

俺の腕に炎の刃が形成される。

 

 

「竜の炎、弐式砕羽。」

 

 

俺は近くにあった廃材の鉄パイプを断ち斬る。鉄パイプはストンっと切れた。

雪ノ下は驚いたのか、開いた口が塞がらない状態だ。さっきまで俺もあの顔をしてたと思うと恥ずかしい…。

 

 

「比企谷くん……」

 

「俺の中には八人の竜がいるんだ。壱式から八式まで型がある。これで俺の秘密は終わり!どうだ?まだ異端児は自分だけだと言うか?」

 

 

 

雪ノ下は軽く深呼吸をすると、落ち着きを取り戻す。

 

 

 

「私だけではないのね…?信じてもいいのよね?」

 

 

雪ノ下は俺の腐った目を見つめながら言った。その顔は嬉々としていた。高校生の雪ノ下の世界がどれだけの広さかは知らない。だけど、世界で初めて出会った異端の仲間かもしれないのだ。もちろん、俺だってそうだ。

 

 

 

「勿論だ。誰が否定しようが、異端視しようが、俺だけは肯定してやるよ。」

 

 

 

普段は疑り深く、捻くれた性格の俺だが、この時だけはこの人に信頼されたい、信じたいと思ってしまったんだ。気づけば俺は自分でもとんでもない事を口走っていた。

 

 

 

「雪ノ下雪乃様。これより貴女を我が主とし、貴女だけの忍として、忠誠を尽くす事を誓いまする。」

 

 

 

方膝を曲げ、膝まづく。

先程の能力を見て確信したのもある。あの交通事故で俺を治してくれたのは彼女だ。確かに俺は忍者の生き方に憧れを抱いている。だけど誰でもいい訳じゃない。暴君や無能に仕えたい訳じゃない。身命を賭し、己の信念を貫くその姿勢に心を打たれたのだ。

もう俺の主君として尽くすと決めた!

 

 

「な、何を言ってるのかしら?そんな主従の関係を望んでいる訳では……!」

 

「俺が望んでいるんです。姫と呼ばせて貰ってもかまいませんか?」

 

「私なんかが、そんな!何故なの!?」

 

 

 

もう一押しか?にしても、女の子に否定的にされると、やはり凹んでしまう。目が腐ってるとこ以外は高スペックなのに。中学の頃、女子の罰ゲーム対象にされてたのを思い出してしまう。

 

 

 

「姫は…某が配下になるのは嫌だと仰るのですか?」

 

「なんでそうなるのよ!……友達なら、かまわないのだけれど……」

 

 

 

友達!?この俺に??

人生で初めての友達は、なんと人生で初めての主君となりました。まるで桃源郷での義兄弟の契りにも勝る想いだ!うん。なんだか、よくわからなくなってきた。

 

 

「光栄です。姫様。」

 

「その話し方も止めてもらいたいのだけれど…」

 

 

 

あくまでフレンドリーね。

俺は友達のほうが扱いわかんないんだけど。距離感とか。

 

 

「わかった。これからは友達として、あらためてヨロシクな、姫。」

 

「も、もう!…こちらこそヨロシクね、……八幡くん。」

 

 

 

 

こうして、お互いの秘密が明らかになり、新しい絆が出来た。俺は、この誰よりも優しい我が主を、命を賭けて守ると心に誓った。

 

 

 

 




テンポよく更新?出来てるかな?
次はスプリガンの更新終わったら更新します(笑)

2話ずつの更新にしてますので、
お楽しみに!




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第9話 ココロオドル

話をサクサク進めたいのに、難しいですね。
とゆーワケで、投稿スピードアップします。




加筆、修正しました。


 

 

あれから姫と廃工場で語り合った!

姫の好きなもの、治癒の能力のこと、周りの環境のこと、時々俺の黒歴史や、俺の好きなもの、共有する秘密が出来た事もあり、もうお互いに『姫』『八幡くん』と呼ぶようになっていた。親と友達以外から名前を呼ばれた事がないから、戸惑いながらも嬉しかった。まぁ、友達はいたことがないんだけどね。

 

 

 

色々と話してたらすっかり暗くなっていた。時間もすでに遅い。俺は姫を送って帰る事にした。

 

 

帰る前に子猫に餌をやり、姫と相談して、ウチで飼えるか聞いてみる事にした。姫は喜んでくれたので、あとは小町を使って親父を籠落させる事を心に決めた。

 

 

姫の暮らす城(億ション)まで送ると、別れの挨拶を済まして帰宅した。帰る前に小町にメールを送っておこう。

子猫の件を伝えると、『アイス3つ』と返信あり。仕方ない。帰りに買っていくか。

 

 

 

我が家に到着。早速、小町からの質問責めである。まだ親父達は帰ってきていないようだ。ちなみに両親共に働いている。社畜お疲れ様です。

 

 

「おにーちゃん、おかえり!なんで子猫飼いたいの?そりゃ小町も猫さん欲しいけどさ。」

 

「ちゃんと説明してやるから、落ち着けって。俺の部屋で話すから。」

 

 

 

小町に隠し事はしない。ある程度は伏せるが仕方ないだろう。

俺の秘密を明かした事、信頼に足る人物である事、その人物が捨て猫を飼えない事、姫と呼ぶ存在になった事を話した。

 

 

 

「ふ~ん。事情はだいたいわかったけど。て、姫って言ったの?悲鳴じゃなくて!?おにーちゃんが犯罪者になっても小町だけはおにーちゃんの味方だからね!あ、今の小町的にポイント高い♪」

 

 

 

俺が秘密を明かしたところはスルーかよ!しかも犯罪確定させてんの?あ、この目のせいですね、わかります。

 

 

 

「悲鳴じゃねーからな、一応。あと、猫の件だけど頼んだぞ。」

 

 

 

小町は可愛らしく「了解~♪」と敬礼すると、リビングへ戻っていった。

 

 

両親が帰宅したようだ。

俺も様子を伺いにリビングへと降りると、小町が早速親父におねだりをしていた。

「いくら欲しいんだ?パパ何でも買ってやるぞ!」まるで援交している親父のようである。カーチャンの汚物を見るような目が痛々しく刺さってるからね?小町も「うわぁ…」て退いているからね?

 

 

 

なんだかんだで、捨て猫である事と、子猫である事、可哀想だと言う事でアッサリと可決した。

 

 

「ちゃんと責任持って飼うんだよ。」と、我が家のトップカーストに君臨するカーチャンの一言で幕を閉じた。

 

 

部屋に戻って子猫を飼えるようになったと、メールを姫に送ると、「ありがとう。八幡くん。」と返信がきた。やべ。かなり嬉しい。

 

 

明日が楽しみなんて初めてだ。

俺は初めての感情に心が踊るとはこういう事かと思い、眠りについた。

 

 

 

 




気付いた方もいるかも知れませんが、
そーなんです。これが、アレになります。

次回明らかに!




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第10話 新しい家族

ついにあのサブキャラが登場します。
特に物語と関係ありませんが、この件を境に
姫の出現率がUPしていきます。





 

 

 

翌朝、目が覚めるとウキウキしてる俺ガイル。

小町にニヤけた顔を注意されながら、朝食を食べた。そんなに顔に出ているのか?外では注意しようと思い、学校へと向かう。

 

 

教室へ入ると、恒例の視線がくる。またアイツか。

俺も恒例の瞳術(腐った目)で打ち負かす。今日も俺の勝ちだな、フフン。

 

 

そして授業中もチラチラ見てくる。なんなの、この子?俺に怨みでもあるの?とりあえずガン無視するものの、やはり気になるので話しかけてみよう。

 

 

……アレ?最近、女の子とたくさん話してたから勘違いしてた!

よく考えたらそんなコミュ力ねぇわ。そもそも忍(ボッチ)でも、隠密行動しか特技なかったわ。

 

 

とりあえず、楽しみにしてた日本史の授業まで我慢する。忍耐とは忍(ボッチ)にとって当たり前に出来る事なのだ。

 

 

そして平塚先生の日本史の授業がやってきた。忍者関連の歴史は俺も造詣が深い。俺と平塚先生による、その手の談義ばかりしているせいで、授業が遅れている事に気づいた先生は、顔を赤らめながらコホンッと、咳払いを一つして授業を再開した。

 

 

そして昼休み。姫と食べる約束をしていたので、ベストプレイスへ。コンビニで買ったパンとマッカンがメインだ。

 

 

そこで昼食をとりながら楽しく話をしていると、通り過ぎる人々がこちらを見てくる。よくよく考えてみれば、姫は国際教養科で我が校でもトップクラスに位置し、品行方正、成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群らしい。(八幡調べ)

 

 

しかし、トップカーストではないらしい。どうやら過去に何かありそうなのだが、本人が話すまで聞かないスタンスでいこう。

 

 

 

姫は「他人の視線など、気にしないでいいわ」と言っていたが、もし姫に何かあれば全員殺してやろうと思う。「八幡くん、顔が怖いわよ?」いかんいかん、つい顔に出ていた。

 

 

昼休みも終わり、例の視線を打ち負かすと、午後の授業は理数系なので就寝する。起きれば放課後だ。奉仕部へと向かい、部室のドアをノックして入る。

 

 

 

「うっす。」

 

「こんにちは、八幡くん。」

 

 

 

そして、姫は読書、俺はカムイ伝を読み耽る。時折、他愛もない会話をしたりで、時間は過ぎていった。

 

 

そして部活も終わり、姫と子猫を迎えに行った。

 

 

よく考えたら、女の子を家にあげるのは初めてじゃないのか?そんな事を考えたら緊張してきた。そんな俺の背中を押すように姫は「お邪魔します」とマイホームへ。

 

 

「おにーちゃん、おかえり!って、誰?その美人さん!誘拐は犯罪だよ?」

 

「うるせー。誘拐じゃねーから。姫だよ。ちゃんと挨拶しろよ。」

 

 

 

小町は目をパァッと輝かせると、光の速さで姫と猫をリビングへと案内していった。俺を置いて。

リビングで小町と姫が自己紹介をしていた。小町は俺にサムズアップすると、「お義姉ちゃん候補だね♪」と囁いていく。残念だったな?主君だ!と、心の中で思いながら、話は猫の名前になっていった。

 

 

 

「それじゃ、何か良い名前ありませんか?雪乃さん。」

 

「小町さんが飼い主なのだから、名前を決めたほうが愛着も湧くというものよ。」

 

 

お互いに主張しながら主導を譲り合っていた。何コレ、終わらん。そもそも、名を賜るなら姫からと相場が決まっとるだろうに。

 

 

「小町もこう言ってるんだ。姫が決めたらいいと思うぞ?」

 

「八幡くんがそう言うのなら…」

 

 

 

姫はそこから軽く30分悩んだ。

悩んだ末に、俺に振ってきた。

 

 

 

「八幡くんが決めたのなら、その子も喜ぶと思うのだけれど…。」

 

 

 

姫!そんなハードル上げないで!俺のセンスはもうゼロよ!けど、名前かぁ。そういえば、姫は世界を変えたいと願った。世界を変えるという事は、国を変えるという事だ。国を良くする。いや、善くする。良い国を創る。そーいや、1192作ろう鎌倉幕府ってあったな。もうそれでいいや。

 

 

「鎌倉って、名前はどうだ?」

 

「おにーちゃん…センス無さすぎ。小町的にマイナスだよ…。」

 

 

 

小町にダメ出しを喰らった。

ほぉら、センスなかっただろ?やば、目から汁がでちゃう!

 

 

 

「カマクラ、ね。フフッ、いい名前ね。今後とも宜しくね。」

 

「「えっ!?」」

 

 

 

姫にもセンスなかった…姫ェ。

 

 

そのあと、夕飯を我が家で食べてカマクラと遊び尽くして、まだ遊び足りないといった顔をする姫を送っていった。

 

 

 

小町は思ったよりもカマクラを気に入ったようで、帰ってきた両親にも可愛がられていた。

 

 

その日、我が家に新しい家族が出来た瞬間であった。名はカマクラ。ちなみに忍猫ではない。尻尾が二又になったら苦無でも持たせようと思う。もしくは、オーバーソウルが出来る猫になってほしい。恐山ル・ヴォアール。

 

 

 

後日、カマクラ用のやたらデカイケージ(三階建て)と、オモチャ数点と、餌一ヶ月分が姫より送られてきたのは、また別の話。

 

 

 

 




そろそろようやく本当にやっとこさ、
次のキャラが出てきます。
あくまで予定です。狂ったらすみません。




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第11話 非日常への扉

少しだけシリアス展開へと進んでいきます。
八幡を取り巻く環境に変化が?




加筆、修正しました。


 

 

 

我が家にカマクラ(片仮名読みらしい)が住み着いてから、姫の我が家への来賓頻度が上がった。毎日のようにカマクラと遊ぶ。ちなみに土日は夜まで居たりする。女の子がこんなに来るだけで、俺はリア充なんじゃないか?と、勘違いしそうになる。

よく考えたらカマクラに会いに来たんですね、わかります。

 

 

で、毎日のように家まで送る事になっていた。そんな日々の日課?で、送った時に姫が城(億ション)に招待してくれた。

 

 

ついに我が主の居城(億ション)への招待が!

時間も遅かったのと、明日は休みということで、晩飯でもどうか?という内容だった。

嬉々として着いていくと、さすがのセキュリティで、綺麗でシンプルなエントランスに、臭い匂いのしないエレベーターだった。(ただの偏見)

ドアを開け中に入る。

 

 

 

「お邪魔します。」

 

「何もないところですが、どうぞ。」

 

 

一人で、それも高校生が暮らすには不釣り合いな広さ。5LDKはあるか?不審者全開でキョロキョロしていると、姫が声をかけてくれた。

 

 

「広くて落ち着かないでしょ?ご飯の支度をするから、リビングで寛いでいてほしいのだけれど。」

 

 

俺はガチガチになりながらリビングにあるソファーで座って待っていた。

少し緊張が解れてきた。気づくと女の子特有のいい匂いがする。イカン!主君の部屋だぞ!…そうだ!何か敵からの忍に仕掛けられてないか姫の直属の忍(ボッチ)がチェックしてやろう。決して、やましい気持ちはない!邪念もない!…多分。

 

 

 

少し冒険か探検の気分だったんだ。

部屋を見渡すと、家のテーブルぐらいのサイズのテレビに、パンさんDVD全シリーズ(詳しくは知らない)、よくわからない絵画、観葉植物らしき物と色々とあった。

 

 

パンさんが好きなのだろうか?

この絵の作者なんだっけ?

テレビでけぇなぁ。

とか、考えながらチェックしてみる。

 

 

 

俺ならこの絵画の裏とかに仕掛けるのになーなんて考えていたら…………え、何?この機械?

 

 

「マジかよ……!」

 

 

俺はその時、見なければ良かったと後悔していた。しかし、一度でも疑念を抱くともう抑えられない!

 

 

観葉植物にも小型のカメラが、天井の隅に小さな穴がある、携帯のライトを照らすとレンズのようなものが反射する。きっと他の部屋にも様々な物があるのだろう。この数は異常だ。盗撮というより、まるで監視じゃないか!ただの高校生には荷が重すぎる。

 

 

 

ただの高校生ならな…!

 

 

 

とんだシリアス展開だ。何者かは知らないが、姫は綺麗だからストーカーかもしれない。いや、ただの一介のストーカーに出来る事じゃない。まずマンションのセキュリティを突破し、鍵を開けて、設置する。専門のプロか?内部犯か?身内の心配からの配慮か?わからない。

 

 

もしも…姫の秘密を狙っての行為なら、事は重大なのかもしれない。

 

 

 

だが、これだけは言える。何があって、どんな敵が相手だろうと俺は姫を守ろう。

 

 

何も情報が無いうちは、

姫にはまだ言えないな。

 

 

 

 

 

キッチンの方から調理するいい匂いが、少しだけ俺を日常に戻した。

 

 

 

 




少し短めですが、日常から非日常へ。
展開が遅いのはご愛嬌とゆーことで。




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第12話 訪れる影

前書きいるのかなーとか、考える今日この頃。

シリアス展開、描写難しいですね。



加筆、修正しました。


 

 

 

あれから何事もなかったかのように振る舞った。

姫の手料理は美味かった。どれもプロレベルだと思った。ついつい、がっついてしまった。姫はふと、感想を聞いてくる。

 

 

「その…お味はどうかしら?」

 

「美味し過ぎて、毎日食べたいレベル!」

 

 

 

姫は「そ、そう…」と呟くと、小さくガッツポーズを作っていた。何それ、可愛い。

 

 

姫の手料理を堪能したあと、少しの雑談を交わした。といっても、他愛のない話ではない。俺には聞かなければならない事がある。姫の周りで起きているこの異常事態を解決する為には情報が必要不可欠だ。かといって、姫に打ち明け不安にさせる訳にもいかない。

 

 

「姫。聞きたい事があるんだが、いいか?」

 

「どうしたのかしら?急に改まって。」

 

 

 

やはり俺には自然に聞き出すような対人スキルは無いらしい。

 

 

「いや、あまり家族の事を話したがらないからな。聞いてもいいもんかなってな。」

 

「そう。別に内緒にしてた訳ではないのだけれど。」

 

「嫌ならいいんだぞ?誰にも話したくない事の一つや二つはあるからな。」

 

 

 

そう。誰にだってあるもんだ。俺だって家族にも話せない事もある。それはもちろん、姫だって例外じゃない。彼女自身も言っていたではないか。能力以外は普通の人間だと。だから姫が自分から話すまで待とう。

 

 

 

「…八幡くんなら、かまわないわ。少し長くなるわよ?」

 

 

 

姫はぽつりぽつりと話してくれた。

要約すると、両親と姉がいる。

家はお金持ち。雪ノ下財閥という。

政財界にも太いパイプがある。

姉は万能超人。

母はそれに輪をかけた万能超人。

自分以外は冷酷な人達らしい。

(言葉を濁すから自己解釈)

 

 

 

そんな家族が嫌で、反発するように一人暮らしを押し切ったらしい。

 

 

正直、敵の姿を見るどころか余計にわからなくなった。解った事といえば、この少女は幸福とは言えない環境で生きており、それは俺にとって、とても守りたいと思える存在だと思ったんだ。

 

 

「姫、話してくれてありがとうな。おかげで決心がついたよ。」

 

「決心?なんの?」

 

 

これ以上は詮索されるから言えないな。これ以上の情報もなさそうだし、今日はこれで帰るとしよう。

 

 

このマンションの一室は監視部屋そのものだ。今まで姫に何の実害も無かったのは、あくまで監視が目的だったからだろう。もし俺が全ての機器を外せば、恐らくなんらかのアクションが起こるだろう。そんな危険な目にあわせる訳にはいかない。

 

 

「姫。そろそろ遅いし、帰るわ。今日は御馳走様な。」

 

「御粗末様です。…別にもっとゆっくりしていってもいいのだけれど…。」

 

 

この時の俺は認識がまだ甘かった。

 

 

 

「じゃあ、また明日な!」

 

「ええ、また明日ね。今日は楽しかったわ。」

 

 

 

帰り道。俺は歩いて来ていたので、少し近道を通ろうと思い、人気の少ない河川敷を歩いていた。ふと、前方に人影が見えた。どうやら女性のようで、俺は通報されないように(習性)、道の端を歩いてすれ違うようにする。

 

 

「これ以上関わるのはやめなさい」

 

 

冷たい、底冷えするような声だった。

俺が即座に振り返ると、もうそこには誰も居なかった。

 

 

帰りながら思考を巡らせる。

アレはなんだ?誰だ?敵なのか?監視してる奴か?敵の規模は?それよりも、あの一瞬で…どうやって消えた?

 

 

考えても何も答えは出ない。推測や仮定ばかりだ。イカン。まずは落ち着いて状況の整理と、姫の安否の確認だ。恐らく姫は無事だろう。監視をすると言うことは、ある程度の対象の安全も考えられているはず。

 

 

姫に電話してみる。あっさりとつながり、他愛もない会話をして切る。良かった!無事だ。次に家族の安否も心配になってきた。小町に電話する。

数コールで小町は出ると、今日は帰って来なくてよかったのに!と言われ、切られてしまう。まぁ無事ならいいか。

 

 

 

家に帰る前にやることが出来たな。

敵は俺の事をどれだけ知っているのだろうか?家族構成、友人関係、あ、友人は一人だけだった。まぁそんなに多くは知らないだろう。たとえ知ってても、絶対に知らない事もある。

 

 

 

そう、たとえば………『絶対に許さないノート』を作るぐらいの俺の陰鬱なところとかな!

 

 

 

俺は一人であの廃工場にいっ入った。た。

少し広い場所に来ると、振り返り静かに話しかける。

 

 

 

「さっきの奴…。いるんだろ?出てこいよ。」

 

 

 

入口の方の影の中から、さっきの女が出てきた。

 

 

何コレ!ホラーなの?バリバリ怖ぇよ!

けど、怖い気持ちを圧し殺して女と対峙する。

 

 

 

 

「なぁに?坊や。死にたいの?」

 

 

ここからは、非日常だ。感覚を切り替えろ!

さぁ、知ってることを全て話してもらおうか!

 

 

 

 




次回はあの人が出てきます!


お楽しみに。




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第13話 影法師

ついにバトルに発展しました。
描写は拙いです。


更新遅れてますが、御容赦を(笑)





 

 

薄暗い廃工場の中は、夜でも少しだけ明るい。高い天井には月明かりが射し込む天窓があり、俺達を少しだけ照らし出した。

 

 

相対する女からは幽鬼のような雰囲気が出ているようで、まるでそこに居ないように錯覚させる。俺は恐怖する。得体が知れないモノに恐怖するのは仕方がない事だ。

それでも後戻りは出来ない。

俺は恐怖を飲み込んで話しかける。

 

 

 

「すみません。さっきの言葉はどういう意味ですか?」

 

 

ビビってたら低姿勢になってしまった。見た目が歳上で知らない女性ならしょーがなくね?俺のコミュ力舐めんなよ!

 

 

「あらら?もっと聡明な子かと思ったんだけどな~。どうしよっかな~?」

 

 

少し暗闇に眼が慣れてきた。

女の顔は嬉しそうに困った顔をする。どこか嘘臭い顔だ。俺の忍(ボッチ)センサーがビンビンに警鐘を鳴らしてる。

『今すぐこの場から逃げろ』と。

 

 

 

「とりあえずそうね…まずは警告かな♪」

 

 

 

女が言い終わるより先に、左腕と右足に違和感を感じる。気になった俺は視線を落とすと、左腕と右足に針?のような物が刺さっていた。瞬時に激痛が走る。

 

 

「グッ!?」

 

 

相手に弱味を見せたくないのと、少しの強がりで俺はなんとか声を堪える。本当は叫んで転がり回りたいぐらい痛い!

 

 

「うふふふ。あの子に、雪乃ちゃんには近づかないでね?わかったかな~?」

 

 

普段の俺ならもう簡単に屈してる!てか、逃げてる!こんな痛みと恐怖を与えられて立ち向かえる高校生がいんのかよ。いいや、いないね。本当だよ?八幡嘘つかない。

 

 

……少しテンパってたけど意外と余裕あんな俺。ならば……!

 

 

 

「ヒィッ!わかりました!わかりましたよ!もう許して下さい~!!」

 

 

「あら残念ね~抵抗して欲しかったんだけどな~。」

 

 

 

女が小さな声で「命拾いしたな」と呟いたのが聞こえた。俺はこの時ほど難聴系主人公になりたいと思った事はなかった。

何コレ?もう帰りたいんだけど。

 

 

「近付かない上手い言い訳でも考えといてね?それじゃ…」

 

「ま、待ってくれ!」

 

「…まだ何か用かな?」

 

 

 

明らかに不機嫌な顔をする女は、返答を間違えれば俺を殺さんばかりの殺意を向けてくる。だが、俺の小悪党ぶりを舐めるなよ!プランAだ!

 

 

「ひ、一つだけ聞きたい事があるんだ。い、いいですか?」

 

 

 

ビクビクした小物の演技で女に情報を吐かせる作戦だ。マンガとかでよくあるだろ?こういう時、本当は喋りたいんだよ、コイツらは。冥土の土産に教えてやる、とかな。

 

 

 

「冥土の土産とか無いわよ?」

 

 

 

ニッコリ笑いながら言われた。あと絶対に俺の心読まれてる気がする!うーん、仕方ないなぁ。腹を括ろう。

じゃあ、プランBでいきましょうか!なんか楽しくなってきたし!

 

 

「じゃあ、質問ではなく独り言です。どうして貴女は『雪乃ちゃん』と呼んだんですか?まるで親しい人みたいな呼び方ですね。」

 

 

「…勘の良いガキは嫌いなんだけどな~っと!」

 

 

 

女はまたもや、言い終わる前に針みたいな物を飛ばしてくる。俺もすでに火薬玉を飛ばしてるけどな!

 

両者の間で衝突、爆発する。

素早く煙玉を使って、周囲を見えなくさせる。まさかの反撃に相手の反応は少し遅れている。ここからは俺のターンだ。

 

 

「竜の炎、陸式、塁!」

 

 

 

煙幕が視界の妨げとなっているうちに、苦無と火薬玉をあの女か居た場所に向けて投擲する。破裂音と苦無を弾いたと思われる金属音が聞こえてきた。女は余裕があるらしく話しかけてくる。

 

 

「君って面白いね~。興味が湧いてきちゃったよ。名前はなんて言うのかな?」

 

 

「比企谷八幡だ!覚えとけ!」

 

 

さらに火薬玉を3発声のした方向に放ち、自身の位置を相手に悟られぬよう移動する。もう煙幕が薄れており、お互いの姿を視認出来るぐらいになっていた。相手の姿を確認する為に室内を見渡す。

 

 

(どこにもいない?まさか逃げたのか?)

 

 

完全に煙が晴れると室内には俺しか居なかった。周囲を警戒してみたが、気配は無い。

終わったのか?と、考えていた矢先に、十数本もの針が俺の身体中を貫いた。

 

 

「あっははは!比企谷く~ん?油断は大敵だよ~♪」

 

 

 

驚いた事に、女は『俺の影』から出てきた。女は不適な笑みを浮かべながら得意気に語り始める。

 

 

「うふふふ♪比企谷くん、頑張ったご褒美に種明かしと、私の名前を教えてあげちゃうね!」

 

「私のことは影法師と呼んでね?そしてこの玉は影界玉という魔導具だよ♪」

 

 

 

女の持つその玉が光ると、影を自由に出入り出来るアピールをする。影から影へと。なるほど。あれなら急に消えたりすること等、造作もないわけだ。

 

 

「比企谷くん、ちょっとイイ線いってたんだけどね。残念だったね~。……え?」

 

 

 

驚く影法師を余所に、針まみれになっていた俺の体が突如として、炎に包まれて消えていった。

竜の炎、陸式の塁は炎で幻を生み出す。つまり、針まみれになっていたのは幻で、本物の俺は物陰から気配を消して機会を伺っていたのだ。

 

 

「な、何よこれ…!?」

 

 

「竜の炎、壱式、崩!」

 

 

 

影法師に向けて複数の火球が襲いかかる。竜の炎、壱式の崩は自身の炎を火球へと変え攻撃する。質量を持たないはずの炎が、弾丸のように飛んでいく。被弾する音が響き渡る。着弾を確認すると俺は床に倒れ伏す影法師に勝利宣言をする。

 

 

「影法師さん。俺の勝ちだ。いくつか質問させてもらうぞ。」

 

 

影法師が死なないように威力は抑えてある。だが、それでも女性に対し火竜を使うのは妙な罪悪感があった。

 

 

「あんたは何者だ?背後に組織はあるのか?あるなら組織の規模は?」

 

 

 

いくら手練れでも一人で行動しているとは限らない。背後関係があるなら聞いておきたい。聞きたい事は山ほどある。

 

 

「…ホントは駄目なんだけどなぁ。比企谷くんに負けちゃったから特別に教えてあげよう♪」

 

 

手加減したとはいえ元気だな、オイ。

 

 

「組織には属しているけど、単独犯だよ。それ以上はちょ~っと言えないかな?」

 

 

口が堅いのか軽いのかわからない返答だ。この手のタイプはやはり苦手だ。なら質問を変えるか。

 

 

「あんたは火影を知っているのか?」

 

 

影法師は一瞬表情を変えた。すぐに元の強化外骨格のような笑顔に戻るが、その顔はどこか懐かしむような、慈しむような穏やかな顔だった。

 

 

「ふ~ん。本当に君は面白いね♪ますます興味が湧いてきたよ。」

 

 

影法師はニコッと微笑む。

その笑顔にドキッとした!よく見ると、端正な顔立ちの中に幼さを秘めた日溜まりのような笑顔だった。何よりも、俺の一番大切な姫と重なって見えた。

 

 

その時、俺の大きな隙を逃さずに影法師は姿を消した。室内に影法師の言葉が反響する。嫌な捨て台詞を残していった…。

 

 

 

「今はまだ、雪乃ちゃんを預けといてあげるね。いずれまた会いましょ♪」

 

 

 

少しの謎が解け、多くの謎を残した一日だった。

帰ったら小町にこれまた質問責めにあったのは、また別の話だ。

 

 

 

 




影法師とは何物なのか?
気になる展開ですね~。

次回はあのキャラが登場予定です。




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第14話 由比ヶ浜結衣の依頼

少しずつ物語は加速していきます。
今回は長めになります。

二つの作品のストーリー展開とは異なるかもしれませんので、あしからず。


 

 

 

朝の鍛練は気持ちがいい。

早起きして体を鍛える事にした。いつから健康指向になったのだろう?ただ鍛えているだけでは不安は拭えなかった。

 

 

廃工場の出来事から数日が経った。姫に隠し事はしたくないが、危険な目に遭わせたくないので許して欲しいと願う。

余談だが、怪我をした翌日に姫に治してもらったのは内緒の話だ。

 

 

 

あれから影法師からの接触は無い。時が経てばあれは夢だったんじゃないか?とさえ思ってしまう。あの時の事を考えていると、幾つか反省や改善すべき点があった。

相手の力が未知数である以上は、こちらも相手によっては火力を上げて戦わないといけなくなる。魔導具によっては、周囲にどのような影響を与えるかわからないのだ。もちろん自身の火竜も然り。威力を抑えはしたものの、下手をすれば人を殺傷する事も容易いのだから。次に戦いがあれば、戦い方も考えなければならない。だが、独学では限界もあるだろう。

そんな事ばかりを思い悩んでいると、もう学校へ行く時間となっていた。

 

 

 

「いってきまーす。」

 

 

 

心ここに在らず。

教室に入るまでの記憶が無い。信号とか無視してねぇよな?まぁ無事だし、いいか。考え事ばかりしていたら時間がたってるなんて、スゲェ能力だよな。主に数学の授業でお願いします。

 

 

 

とか考えてたら、いつもの視線を感じたのでとりあえず瞳術で撃破する。

 

 

昼休みは姫と部室でランチして、午後の授業が終わり、放課後になり部室へ向かう。

あぁ、平和だな。こんな日がずっと続けばいいのにと思ってしまう。

 

 

「うっす。姫。」

 

「待ってたわよ。八幡くん。」

 

 

 

いつもどうりの日常。その平穏を破る音が部室に響いた。どうやら誰か来たらしい。ノックの音が聞こえたので、平塚先生ではなく依頼者かもしれない。まだ誰も来たことないけど。

 

 

「どうぞ。」

 

 

「失礼しま~す。ここに来れば願いを叶えてくれるって聞いて来たんだけど…て、ヒッキー?なんでここにいるの!?」

 

 

 

騒がしい女だと思えば、どこかで見たことがある。厳密には見られた事がある、だな。毎日感じてる視線の送り主だ。つーか、ヒッキーてもしかして俺の事か?もう陰であだ名ついてんの?

 

 

「ヒッキーて誰だよ。」

 

「いや、あわわっ。比企谷くん、ゴメンね!比企谷だからヒッキーて呼んだんだけど、嫌だった…?」

 

 

いきなりあだ名呼びなんて、どこのリア充だよ!と叫びたいが、最近は姫といるからリア充かもしれんな。うん。帰ったら小町に自慢しよう。

 

 

「はぁ…呼び方はもういい。で、お前は誰だ?」

 

 

 

知らない奴ではないが、名前を知らない奴だからな。一方的に知られているだけなのは気持ちが悪い。自己紹介の初日に俺は居なかったんだからな。まぁ居ても覚えてない自信はあるけど。

 

 

「ちょっ!クラスメイトの名前を知らないとか、マジありえないんだけどっ!」

 

 

 

キーキーと喚くコイツは、由比ヶ浜結衣というらしい。続いて姫が自己紹介をして、俺もしようとしたが、「ヒッキーは知ってるからいい。忍者でしょ(笑)」と言われ、ムカついたので『絶対に許さないリスト』に書きこむ事を誓った。

 

 

「ところで、由比ヶ浜さん。正確にはここは願いを叶えるのではなくて、願いを叶えるサポートをする部活なのよ。」

 

「えー!そーなんだ!うーん…それでもいいからお願いしてもいいかな?」

 

 

コイツはちゃんと理解しているのか?見た目は九ノ一(ビッチ)だし。クノイチと読むから、意味はググって欲しい。

とか心の中で思っていたら、バツが悪そうに、こちらをチラチラ見てくる。

 

 

「え~と、あの~、ちょっと?みたいな~?」

 

 

 

姫は何かを察したのか、俺にジュースの買い出しを命じてくれた。忍(リア充)なら御安い御用ですよ!とばかりに光速で駆けていく。マッカンと野菜ジュースと午後ティーを買って来た道を光速で戻る。由比ヶ浜の分は請求しよう。そうしよう。

 

 

部活前に着くと何やら女子トークみたいなものが聞けるかと思い、静かに扉の前に近づいた。

 

 

「……げたいのは、その男の子へお礼を言いたいからなのかしら?そういう事なら、この依頼を受けます。」

 

 

「ありがとう~!雪ノ下さん!」

 

 

 

肝心なところを聞けてないようだが、ある程度の内容は把握した。なるほど。真っ当な依頼だな。高校生のやれるレベルの依頼だもんな。機密情報を探れ!とかじゃなくて少し残念に思いながらも、部室に戻る。ちゃんとノックをする紳士である。

 

 

「買ってきたぞ。ほれ、お前の分だ。姫のはこっちだぞ。」

 

 

「ひ、姫???え、え?」

 

 

 

由比ヶ浜が何かうるさいが、無視して話を進めた。今回の依頼内容は、クッキー作りのお手伝いだ。姫がいる以上は、俺の出る幕は無しだな。姫は異常に料理スキルが高く、是非とも嫁に来て欲しいレベルだ。アカン!惚れてまうやろー!

一人で脳内会議してる間に、家庭科室へ行くことになったので俺達は移動する。

 

 

 

 

 

家庭科室でテキパキと準備する姫と、何も出来ない由比ヶ浜。いや、訂正する。何故か胸を強調するようにエプロンを着ている。エプロンは首や肩から掛けるように着る物ですよ。胸を押し上げるように着る物ではないですよ。だが、それもいい!

 

 

姫と由比ヶ浜からの視線が痛い気がするのでスマホを触ってよう。決して胸を見てた訳ではない。断じて違うぞ?

 

 

 

 

どうやら完成したようで、姫は疲れきっているようだ。由比ヶ浜は満足したように、やり遂げた感を出した顔だ。問題のクッキーらしき物体は、その存在感を遺憾なくアピールするかのように黒々と光沢を放っていた。

クッキーに光沢ってできるのか?

 

 

「とても上手く出来たとは思わないのだけれど。八幡くん、試食をお願いしてもいいかしら?」

 

 

「ヒッキー!ちゃんと出来たし!食べてみてよ。」

 

 

 

こんなところで毒味役が回ってきた。

意を決して食べてみる。

 

 

「不味い。酷く不味い。」

 

 

「えぇ~!ヒッキー味覚がおかしいんじゃない?ほら、もっと食べてみるし!」

 

 

コイツは俺を殺す気か?と、思わんばかりに口に放り込んでくる。女子に食べさせてもらうとか恥ずかし過ぎるだろ!

 

「ほら!美味しいよね?ね?うふふ、ほら!うふ、あははっ♪」

 

「ちょっと、由比ヶ浜さん。さすがにそれ以上は……」

 

 

少し悪ノリが過ぎると思って姫が注意に入ると、由比ヶ浜は姫を突き飛ばした。

 

 

「今いいところなんだから邪魔するなし!」

 

「っ痛!」

 

 

 

驚いてすぐに対応出来なかった。突き飛ばした後に、床に倒れた姫の腹を踏みやがった!慌てて俺は由比ヶ浜を後ろから羽交い締めにし、姫から引き離す。

 

 

「何やってんだよ!お前は!」

 

「何って?ヒッキーとあたしの邪魔する女をやっつけただけだし。」

 

 

 

おかしい事を俺が言ったみたいに由比ヶ浜は顔をキョトンとさせる。

 

「いや、おかしいだろ!?いきなりそんな事しねぇだろ!」

 

 

「どうしてそんなに怒ってるの?ヒッキーはあたしの事が嫌いなの?」

 

 

駄目だ。話が全く通じない。姫には少し離れてもらい、俺は押さえている由比ヶ浜をどうしようかと考える。こちらを振り向いた彼女の目は虚ろで、顔は上気している。コイツは変態なのか?精神異常者なのか?思考を巡らすが解答がでない。

 

 

「ヒッキーはこの女の事が好きなの?この女がいなければいいのかな?」

 

 

姫は現状に戸惑っている。このままでは埒があかない!

 

 

「姫!先生を呼んできてくれ!」

 

 

俺がそう叫ぶと、脚に激痛が走る。

痛っ!俺の脚に二本の錐(キリ)が刺さっている。まさか、由比ヶ浜が??

 

 

「待っててね、ヒッキー!今からこの邪魔な女をすぐに殺すし!」

 

 

痛みで弛んだ俺の拘束を離れ、由比ヶ浜は部屋を出ようとする姫の前に驚くほどの跳躍力で立ち塞がった。

 

「じゃーね!雪ノ下さん!」

 

俺は急ぎ姫に向かって駆け寄る。由比ヶ浜は歪んだ笑みを浮かべて姫に錐を飛ばす。しかし、錐は俺の放った火薬玉によって相殺される。

 

 

「なんでヒッキー邪魔するし!ちゃんとこの女を殺せないじゃん!」

 

 

正直どうしたらいいのかわからない。由比ヶ浜には悪いが気絶させるしかないか?と思ったところで違和感に気付く。アイツの手に嵌めている物はなんだ?禍々しい感じがする。俺の視線に気づいたのか、由比ヶ浜が話し出す。

 

 

「これ、気づいちゃった?親切な占い師のお姉さんにもらったの。自分に正直になれるブレスレットなんだって。」

 

 

それはブレスレットなんて生易しいもんじゃないだろ?怪しい光を放ち始めたソレは手の甲の部分に大きな水晶のような玉が填められていた。何より異質なのは、その玉には『風』と書かれていた。あれは見たことがあるぞ。もしかして…魔導具なのか?

 

 

 

その時に俺は、影法師の言った台詞を思い出していた。

 

 

 

「いずれまた会いましょ♪」と。

 

 

 

 

 



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第15話 影法師、再び

現在は読んでばかりで更新が遅れました。
はりきって投稿したいと思います。





 

 

 

「なんだかすごく気分がいいんだぁ~。ねぇ、ヒッキー?聞いてる?」

 

 

 

彼女は顔を赤く染め、その豊満な部位を強調し、その肢体を捩らせ、まるで発情してる様に見える。そんな由比ヶ浜は…なんというか、エロい。じゃなくて!明らかにおかしい!眼のやり場に困るだろ?いや、合ってるけど!

 

 

「おい、お前少し体調が悪いんじゃないのか?保健室へ行こうぜ。」

 

「んっ…。なんだか…変な気分だしっ……」

 

 

 

うん、これアカンやつや。

 

 

「むぅ…八幡くん?」

 

 

 

姫の視線が痛い。決してこれは不忠ではないですよ?えぇ、決して。ホント、誰かなんとかしてほしい。

 

 

 

由比ヶ浜の表情が変わる。姫が言葉を発すると、その表情は途端に冷たいものになった。

 

 

「雪ノ下さん?今はあたしがヒッキーと喋ってるんだけど。邪魔者は早く消えてくれないかなー、とっ!」

 

 

 

直後にまたもや姫に向かって錐を放つが、俺の火薬玉で相殺する。

てか、これだけ大きな音をバンバン出してんだ!誰か来ないのか??先生方は何をやってんだ!職員室からも然程も離れていないはずなのに、グラウンドからもサッカー部の活動が見えるくらいなのに、誰も気付かないのか?

疑問が頭を過る。何か違和感がある。その違和感の正体に今更ながら気付いてしまう。

 

 

 

 

 

外からの音も聞こえてこない?

 

 

 

放課後の運動部の掛け声や活動中の音といったものが、一切聞こえてこない。これは異常事態だ。俺は停学覚悟で火薬玉を一つ窓に向かって放つ。

破裂音は響くが、窓には一切の傷がない。そこで、ある一つの名前が脳裏を過る。

 

 

 

『影法師』

 

 

 

アイツの仕業か?なら、由比ヶ浜は向こう側の放った敵か?確かめる術はないが、由比ヶ浜は言っていた。

 

 

『親切な占い師のお姉さん』

 

 

これは影法師の事を指す言葉とみていいだろう。考えたくはなかったが、由比ヶ浜は巻き込まれたのだ。影法師の操り人形として。なら、どうやってその操りの糸を解いてやるか?そこがポイントとなる。怪しい目星なら既についている。

 

 

 

おそらく、あの魔導具だろう。

あれを外すか、破壊すれば止まるとか?いやいや、ベタすぎだろ!今はそのベッタベタな展開に期待するしかないけどな。

 

 

 

「なぁ、由比ヶ浜。」

 

「え?なーに?ヒッキー。」

 

 

 

俺が話しかけるとまた表情が変わった。なんというか…エロい顔だ。もう開き直りたい。いや、冗談だよ?

 

 

 

「そのブレスレットさ、俺も興味あるんだ。少し見せてくれないか?」

 

「うん。いいよー。」

 

 

 

アッサリ交渉に応じる由比ヶ浜に、力技を行使せずに良かったと安堵する。あとは受け取ったら即座にあんな危険な物は破壊しよう。そうしよう。とか考えていたら、由比ヶ浜は魔導具を外す素振りを見せるのだが、一向に外せないみたいだ。やがて真剣に外そうとするも外れない。顔から焦りが見え始めた。次第に泣きそうな顔になっていた。

 

 

「あれ?あれれ?外れないよ、これ?どーなってるし!」

 

 

顔が恐怖に染まっていく。由比ヶ浜は、泣きながら俺に訴えてきた。

 

 

 

「…嫌、嫌ぁ!とれない!とれないよぉ!嫌だ…助けて、ヒッキー……」

 

 

 

俺達はただ呆然とその光景を眺めるしかできなかった。意識を失い、倒れた由比ヶ浜を見てようやく我にかえる。

 

 

「由比ヶ浜ぁ!」

 

 

駆け寄ろうとした時、由比ヶ浜の周りに強風が巻き起こった。まるで壁でもあるかのような暴風が由比ヶ浜の周りに吹き荒れる。魔導具の光りがそれに呼応するように強く光り始めた。

 

 

 

「あらら、失敗だね♪暴走しちゃった。残念~。」

 

 

 

後ろから声が聞こえた。慌てて背後に振り返ると、そこには影法師が居た。

 

 

「また会ったね~。比企谷くん♪」

 

 

「影法師…お前の仕業か?」

 

 

「そうだよ~♪と、言いたいところだけど、半分は違うかなー?あの子が真剣に悩んでるからさー。アドバイスと後押しをしてあげただけよ?あ、ちなみにあの魔導具は風神って言ってね、サービスで付けてあげたんだよ♪」

 

 

 

仮面のような貼り付けた笑顔で淡々と話す。コイツは姫の監視だけじゃなかったのか?姫に視線を移すと、姫は倒れていた。

 

 

「姫っ!」

 

 

 

即座に姫の元に駆けつけた。息はしている。外傷も特に見当たらない。影法師を睨む。

 

 

「ちょーっと、眠ってもらってるだけだよ。今はその子に見られるとマズイからね~。あ、私の事は話さないほうがいいよ。平和に学園生活をエンジョイ(笑)したいでしょう?」

 

 

正直、怒りで頭が沸騰しそうになるのを抑えて、情報を引き出す為に話しかける。

 

 

 

「お前の目的はなんだ?それと、由比ヶ浜は関係ないだろ。由比ヶ浜を元に戻せ。」

 

 

「だから、目的はその子の乙女心のサポートだよ。親切なお姉さんだから見過ごせなくって♪」

 

 

 

影法師とのやりとりの間に、由比ヶ浜は目が覚めたらしく、呻き声が聞こえてきた。未だに由比ヶ浜の体の周りを暴風が吹き荒れており、その体は宙に軽く浮いていた。

 

 

「占い師の、お姉さん…?」

 

 

身動きがとれず、浮かんだままの由比ヶ浜は影法師に助けを求めていた。

 

 

「お姉さんの言ったとおり正直になれたけど、なんだか心がおかしいよ…頭の中でずっと声が響くの!なんとかしてよ!」

 

 

「無理よ。けどおかげで自分に正直になれたでしょ?愛しい愛しい彼に会いに来れたでしょ?あ、そうだ!比企谷くんにも教えてあげるね♪」

 

 

「えっ……?いやだっ!やめてよっ!!聞かないでぇ!!」

 

 

 

何かを悟った由比ヶ浜は、影法師の言葉を止めようと叫ぶが、逆にその姿にそそられたのか、更に嗜虐的な顔で由比ヶ浜に悪意をぶつけていく。

 

 

「由比ヶ浜ちゃんはさ、犬を助けてもらって比企谷くんを好きになっちゃったんだよね~。一年以上も言い出せなかったんだもんね!あ、けど正直になりすぎるのもどうかなー?他に女の子がいたからって、嫉妬や妬みで殺そうとしちゃうなんて、そんな汚く醜い心まで正直に出すことなかったのにね。そんな醜い女の子は嫌われちゃって当然かな♪」

 

 

「い……いやぁぁぁぁ!!!」

 

 

由比ヶ浜が絶叫すると、魔導具は術者の感情に呼応するかのように強くなる。

彼女を取り巻く風は猛威を奮う。何者をも切り裂く風の刃となり、周囲にあった調理器具や椅子等を全て切り裂きだした。俺は即座に姫を抱えて教室の隅へと移動させる。由比ヶ浜の精神状態や俺達の置かれている状況を考えると、もう一刻の猶予もないだろう。

 

「この部屋はね、今は結界を張ってあるから誰かが助けに来ることもないよ。じゃあ、比企谷くん頑張ってね~♪」

 

 

影法師は言いたい事だけを言ったあと、あの時のように影の中へと消えていった。

 

 

 

 




次回、クッキー&風神編完結予定です。




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第16話 決着と真実

なかなか進まない~。
とゆーわけで、更新スピード上げていきます。





 

 

 

状況を整理しよう。影法師の策略により、由比ヶ浜は感情を利用されて、魔導具によって間接的に操られて暴走してしまった。これを止める手立ては、魔導具を外すか、破壊するしかないと思われる。本当に外部に連絡がとれないかスマホを見てみると、圏外表示になっていた。姫は気絶しているし、風も徐々にその範囲を拡げ、強くなってきている。時間的猶予は全く無かった。

 

 

「クソ!何か…何か手はないのか?」

 

 

由比ヶ浜を観察してみて解ったことがある。俺は一つの仮説をたてる。魔導具の構造だが、あの水晶のような物が光ると風が強くなっていた気がする。金属の部分は関係ないだろう。そうなると、やはりあの水晶球が怪しい。おそらく核になっている部分ではないだろうか?仮に金属部分も破壊するとなると、俺の火力では由比ヶ浜の腕ごと吹き飛ばしかねない。

 

 

「やるしかないか…」

 

 

もう迷ってる時間もない。

俺は八竜の中で、この状況に一番適した火竜を選択する。

 

 

「竜の炎、参式。焔群!」

 

 

 

俺の腕に炎の鞭が巻き付く。

その炎の鞭を右腕に纏い、暴風を纏う由比ヶ浜へと迫る。由比ヶ浜は苦悶の表情を浮かべ、ポツリと一言だけ俺に訴えかけてきた。

 

 

「助けて…ヒッキー……」

 

 

暴風が吹き荒れ、全てを切り刻む鎌鼬のギリギリ圏外まで駆け寄り、炎の鞭で魔導具の核に狙いをつける。

 

 

 

「今、楽にしてやるぞ。由比ヶ浜ぁ!」

 

 

 

炎の鞭は暴風をものともせず、その魔導具の核を打ち砕いた。突如として風は治まり始める。由比ヶ浜は床に倒れ伏せ、俺は駆け寄って意識の確認をした。息はしているようで、軽い呼吸音が聞こえてきた。意識はないようで、よく見ると体のあちこちに切り傷があった。多分、暴走した自身の能力に傷ついたのだろう。

 

 

「おい!しっかりしろ!」

 

 

数度、頬を叩く。が、意識は全く戻らない。とりあえずこのままにはしておけないので、保健室へ連れて行くしかないか?と、考えていたところで姫の声が聞こえてきた。

 

 

「ぅう、八幡くん…あれからどうなったのかしら?」

 

 

姫は目覚めると、こちらの様子に気付いたようで、由比ヶ浜の元へとやってきた。

俺は今までの状況を説明しようとした。もちろん、影法師の件は伏せてだ。いや、謎の女扱いで通してしまおうか?そのほうが由比ヶ浜との話も上手く脚色できるだろう。とにかく今は由比ヶ浜の治療が優先だ。

 

 

「事情は後で話す。由比ヶ浜が怪我をしてるんだ。保健室へ行こう。」

 

 

「由比ヶ浜さん…可哀想に…今、治してあげるわ。」

 

 

姫は例の如く由比ヶ浜を抱き締めると、ペカーっと光を放ち、みるみる傷を治していった。テンパってたから忘れてたけど、姫は傷ならどんな傷でも治せるんだった。俺も抱き締めて治してほしい。あくまで治療の一環としてだよ?邪な気持ちは持ち合わせていない。たぶん。

 

 

 

「八幡くん。傷は治ったのだけれど、念のため保健室へ連れて行きましょう。」

 

「姫っ!じ、実は俺も怪我をしたんだ。治してもらってもいいかな?」

 

 

ドキドキしながら抱き締めてHold Me!とか思ってたら、患部に優しく手を当てて治してくれた。ちっくしょう!!!!

そんな俺の内心を悟られたのか、姫から蔑むような視線を受けた。え?俺、顔に出てた??

 

 

「ん。どうやらもう出られるみたいだな。」

 

 

 

確認してみたが、ドアも普通に開くし、外では運動系の部活特有の声が聞こえてきた。結界も解けてるみたいで良かった。

 

 

「八幡くん。由比ヶ浜さんを保健室まで連れていきましょう。…その、変なトコロは触らないようにしてね?」

 

 

さっきのやりとりもあって、穴があったら入りたくなる気分になりました。死にたい。いや、死なないけどね。

 

 

 

極力、女性らしい部分を触れないように、おんぶして運んだ。背中に意識がいきそうになるのを必死で堪えた。忍びとは、耐え忍ぶ者なり!本当は姫の視線が痛かったからなのは内緒だ。

 

 

保健室の先生は留守らしく、俺は由比ヶ浜をベッドに寝かせてカーテンを閉めた。女子の寝顔を見てたら怒られると判断したからだ。フッ!俺の学習機能を舐めるなよ?それからベッドの横の椅子に座り、姫に事の顛末を説明した。

 

 

「その女性は何者なのかしら?まさか、私達の秘密を知って狙いを?いえ、それではやり口が…」

 

 

姫が何やら一人で思案し始めた。実際問題、原因は姫で、狙われたのは俺だろう。影法師は俺の戦闘力を測ったのだろう。由比ヶ浜を使った威力偵察みたいなもんだ。それだけに許せない。無関係な人間を巻き込むやり方に怒りを覚えた。

 

 

「ねぇ、八幡くん。この事件は、警察に言ってもまともに取り扱ってもらえないわ。頭がおかしいと思われてしまうもの。」

 

 

「あぁ、同感だ。それに、由比ヶ浜は巻き込まれただけだ。もう俺達に関与しなければ被害に遭うこともないと思う。それに、俺達の秘密もあるしな。」

 

 

「そうね。私の治癒の力と、八幡くんの八竜の力は…異端だもの…」

 

 

 

姫は少し悲しそうな顔をしたが、直ぐに笑顔をつくって気丈に振る舞う。

 

 

「でも、もう今は一人じゃない。でしょ?」

 

「応っ!姫は俺の炎で守ってみせまするっ!」

 

 

 

二人の間にまだ不確かだけど、絆のようなモノを感じた。その時まで俺は少し油断をしていた。姫と二人きりじゃなかった。そう、由比ヶ浜が横にいたんだ。

 

 

「今の話は何…?」

 

 

 

ヤバイっ!話を聞かれていた?

 

「ゆ、由比ヶ浜。目が覚めてたのか?」

 

 

「うん…あたし全部覚えているんだ。さっきのこと。二人に迷惑かけちゃったね、ゴメン。けど聞かせてほしいの…」

 

 

由比ヶ浜に真実を聞かせていいものか?こいつは運悪く巻き込まれただけだ。今なら日常にだって戻れるかもしれない。それに、由比ヶ浜は己の内面を曝し、影法師によって想い人への恋慕までも踏みにじられてしまったんだ。真実を知るには酷ってもんだろ!

 

 

「ヒッキー…あの時に言った言葉に嘘はないよ?ヒッキーへの想いも、雪ノ下さんへの醜い心も、全部あたしの本心だよ。だから、本当の事を聞かせてほしいの。」

 

「由比ヶ浜…」

 

「由比ヶ浜さん…」

 

 

俺は姫に目配せを送る。姫は意図を理解すると、軽く首を縦に振り、肯定の意思を示した。意を決して、真実を話す。それが由比ヶ浜の本音を、本心を知った俺の出来る精一杯だ。

 

 

「由比ヶ浜。落ち着いて聞いてほしい。これから話すことは嘘偽りの無い、真実だ。」

 

 

「うん。聞いたからって、もう暴れたりしないから、約束するね。」

 

 

 

魔導具の影響とはいえ、由比ヶ浜は本心を、本音を話してくれた。一部は影法師が語ったのたが、それは置いといて。改めて思い出すと恥ずかしくなるし、気まずいから一旦忘れよう。とにかく、姫にも由比ヶ浜にも、もう嘘をつくのはやめよう。

 

 

それから俺は全ての、俺達の秘密を含む経緯を、全てを二人に話した。二人は驚愕の表情を浮かべていた。姫は何か思い当たる節がある素振りを見せる。

 

 

「影法師…心当たりならあるわ。」

 

「姫、嫌な事なら無理して言わなくてもいいんだぞ?」

 

「いいえ、もし私の推測どうりなら無関係では無いもの。おそらく、その正体は………」

 

 

 

姫は暫し黙りこんだあと、意を決したように告げる。

 

 

 

「雪ノ下陽乃、私の姉よ。」

 

 

 

 




次回はテニスの依頼予定です。

あくまで予定です!


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第17話 新たな仲間と風神

全然、話が進まなかったです。

日曜には更新進むよーな気がします。





 

 

 

なんとビックリ展開。あの影法師が姫のお義姉さんだとは。あ、間違えた。姉だとは!

監視の一件で親族に疑いはあっが、そうなると色々と辻褄は合う。まだ推測の域を出ないので、姫に確認を取ってみた。

 

 

 

「姫の能力を家族は知ってるのか?」

 

 

「…そうね。小さい頃、飼い犬が怪我をしたのよ。私は悲しくて、抱き締めていたわ。そして、無意識に治していたのよ。その光景を家族は全員見ていたわ。現在知っているのは、家族と八幡くんと由比ヶ浜さんだけよ。他に秘密が漏れていなければの話だけれど。」

 

 

「そっか。姫、サンキュな。」

 

 

 

ちなみにその頃の飼い犬が感謝のじゃれ噛みしてきたのが原因で、犬が怖いらしい。また姫の秘密を知ってしまった。何ソレ、可愛い。

 

 

話を戻すが、由比ヶ浜にはここら辺が退き際になるだろう。これ以上は俺達の問題だ。あの異常者を相手にする事はない。何もかもを忘れて、普通の高校生活を謳歌するほうがいいだろう。

 

 

「恐らく、ここから先の話は完全に由比ヶ浜は無関係だ。むしろ、関わるべきじゃない危険すぎる。だから、もうこの件は忘れてお前はもう帰れ。」

 

 

 

多少、冷たく言い放つ。姫も同意しているらしく、その顔は真剣な表情だ。

 

 

 

「由比ヶ浜さん。この件は私事だから、貴女を巻き込む訳にはいかないの。すでに巻き込んだ身で何を言うのかと思うのだけれど。身内の不始末なのに、勝手な言い分でごめんなさい。けれど、もう関わらないでちょうだい。」

 

 

 

きっと姫はすごく複雑な心境だろう。由比ヶ浜も俺も巻き込んでしまったと、自責の念に駆られているはずだ。きっと、両親も、姉も、それこそ雪ノ下財閥が絡んでいると見て間違いない。治癒の力を秘めた少女が身内にいるんだ。監視役にしても、あれほどの不思議な力を行使する私兵を擁護する組織なんだぜ?一介の高校生には荷が勝ち過ぎるだろ。

 

 

 

「……カッコいい!あたし、もう決めたよ!雪ノ下さん、ううん、ゆきのんって呼んでもいい?」

 

 

「……え?いえ、貴女は話を聞いていたのかしら?結構ハッキリと断ったつもりなのだけれど。」

 

 

おぉ!姫が戸惑っている!いや、狼狽えている?俺も意味がよくわからない。うん、何の話だっけ?

 

 

「確かにスッゴいハブられてる感はあって、すっごくへこんだけど、なんか本音を言ってるーって感じがしたんだ。」

 

 

確かに本音だろうけど。そういえば、由比ヶ浜も魔導具の影響で本音を喋ってたから、何かしらシンパシーでも感じる事があったのかね?いや、ホントどうでもいいけど。

 

 

「あたし、周りの顔色ばかり伺ってさ。今まで全然言いたいことも言えなかったんだけど、さっき全部話しちゃったじゃん?だからもう開き直っちゃおう!って、思ったんだ。」

 

 

「そ、そう。それはわかったのだけれど、この先は警察のような機関に委託出来ないのよ?大変危険なの。だから…」

 

「そんなの関係ないよ!もう関わっちゃったじゃん!それに、あたしにも戦う力はあるもん!」

 

 

 

由比ヶ浜が姫の言葉を遮り、驚き発言を連発する。戦う力?もしかして…あ、まだ魔導具を付けっぱなしじゃね!?

危惧していたとおり、由比ヶ浜は魔導具を使ってエアコンのような微風を俺達に送ってきた。一瞬ビビったのは内緒だ。

 

 

「この子、風神ちゃんって名前らしいんだ。さっきまでは悪い装置?みたいなものを付けられてたんだって。」

 

 

まさか、意思を持つのか?確かに平塚先生宅にあった魔導具に関する記述に、そういう物もあった。本当に実在するとはな…。由比ヶ浜が言うには、あのとき破壊した核のような物は、本来の風神の物ではないらしい。現在は他の予備パーツで補っているとか。オーパーツかよ、パーツだけに。うん、寒いな。

 

 

「わかった。お前を仲間と認めよう。だが、由比ヶ浜。一つ約束をしてくれないか?」

 

 

「やったぁー!で、何を約束すればいいの?」

 

 

 

俺の本心からの、本音の言葉をちゃんと言おう。コイツには傷ついてほしくない。ましてや、死ぬような事などあってほしくない。

 

 

 

「絶対に死ぬなよ。無理も禁物だ。それが守れたらいいぞ。」

 

 

「うん!ありがとう。ヒッキー。ゆきのんも。」

 

 

「八幡くんがそう言うのなら、私も歓迎するわ。よろしくね、由比ヶ浜さん。」

 

 

 

 

ようやく話はまとまり、俺達の絆みたいなモノ?も、まとまった。まだこの感情はよく解らないけど、悪い気分じゃない。二人きりだった仲間が三人に増えた。ただそれだけだけど、この先の困難も悪意も無双出来そうな気がした。

 

 

 

 

 




今回は短めで。

次回こそ、テニス予定です。




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第18話 内面の変化と成長

日常パートを入れたかった…。
あまり描写がないですが、
そこは脳内補完でお願いします!





 

 

 

あれから1週間が経った。

その間、色々な事が判明した。魔導具の事を調べに、平塚先生宅に行ったり、由比ヶ浜の風神の訓練をしたり、その時に異常な数の錐の所持に通報しようかと思ったり、お互いの連絡先を交換したり(アドレス帳のギネスが更新)、まぁ色々とあった。

 

判明した事は、魔導具は色々と種類があり、いずれも使用には術者の精神を消耗するので、多用は出来ない事だ。これは俺の八竜にも言える事だが、無尽蔵に使える訳ではなく、精神をガリガリと消耗する。使用する八竜との相性にもよるのだが、俺は暑苦しい熱血タイプの八竜とは、すこぶる相性が悪いらしい。爽やかイケメンタイプもだ。決して、やっかみや僻みではない。うん、そうだよ?

 

 

 

放課後になると俺達は部室に集まる。ちゃんと部活動もしている。それに、出来る限り単独で行動しないようにしている。用心に越した事はない。校内での戦闘があったばかりだ。どこも安全とは言えないだろうからな。そして、あとは由比ヶ浜を待つだけとなった。

 

 

 

「やっはろー!今日は依頼者を連れてきたよ!」

 

 

「あの、戸塚彩加です。奉仕部にお願いがあってきました。ここに来たら、願いを叶えてくれると聞いたんだけどお願いしてもいいですか?」

 

 

 

なんと!由比ヶ浜が可愛い(非ビッチ)依頼者を連れてきたよ!そういえば、コイツはトップカーストの一員だったな。そりゃコミュ力も高ぇわ。畏れ入ったぜ、リア充(ビッチ)め!

 

 

「こんにちは、戸塚くん。私は部長の、雪ノ下雪乃です。先程の、『願いを叶える』というのは少し違うわね。私たちは依頼者の『願いを叶えるサポート』をするのよ。それでもいいかしら?」

 

 

「そっかぁ…そうだよね。うん、それでもいい!お願いします!」

 

 

 

うんうん。我が部の理念どおりだな。サポートなら出来るぞ?戸塚くん。ん?戸塚くん?え、何?男なの??この見た目で???

 

 

「八幡くん、あの、あまりそういう眼で見るのは失礼だと思うのだけれど。」

 

 

「え~!ヒッキー最低っ!キモいしっ!」

 

 

 

姫には俺の考えてた事がお見通しのようだ。それと姫はともかく、なんでお前にまでディすられてんだ?まぁ濡れ衣じゃないけど。

 

 

 

「あの、依頼を言ってもいいかな?」

 

 

 

流れを変えるチャンス!

この子、天使や!

 

 

「由比ヶ浜が騒がしくてすまん。依頼内容を言ってくれ。」

 

 

「むー。ヒッキーのバカ!」

 

 

 

依頼内容はこうだ。

テニス部がやる気がないらしい。やる気にさせる為に自身の実力を向上させて、周りに刺激を与えて部を活性化させる。そんな感じらしい。テニス部の内情を知らんが、そんな事で周りが触発されるとは思えない。

 

 

「そのやり方では駄目だと思うぞ。強くなった戸塚に『こいつに任せとこう』とか、強者に依存する考えになるんじゃないのか?」

 

 

「そうね。その可能性も否定できないわね。それでも強くなりたいのかしら?」

 

 

「うん。それでもいいよ。僕はテニスが好きだから。もっと強くなりたいんだ。だから、お願いできるかな?」

 

 

 

 

戸塚はそれでもテニスの上達を望むのか。なら、俺の方針は決まったな。我らが部長兼姫の決定次第だが。

 

 

 

「わかりました。この依頼は奉仕部で正式に受けさせてもらいます。」

 

 

「ありがとう!雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、比企谷くん。」

 

 

 

こうして戸塚の依頼を受けて、トレーニングが始まった。余談だが、戸塚も俺と同じクラスらしく、あとで由比ヶ浜から最低と言われたのは、また別の話だ。

 

 

 

トレーニングの内容は過酷だった。意外に姫はスパルタ思考だった。朝、昼、夕と基礎の徹底だ。どうやら戸塚は筋力、体力共に壊滅的だったらしい。そんな戸塚も2週間が経った頃には見違えるような動きになっていた。だが、順調に思える時にこそ、気をつけなければならない。

その日の昼休みにそれは起こった。

 

 

 

「痛っ!」

 

 

「比企谷くん、大丈夫?」

 

 

「少し足を捻ったみたいだ。少し休んでれば問題ない。」

 

 

「八幡くん、保健室へ冷却スプレーを貰いに行ってくるわ。少し休憩にしましょう。」

 

 

そして、姫は保健室へ。由比ヶ浜と戸塚と俺は休憩をとることにした。

地べたに座り込んで談笑していたら、テニスコートに入ってくる一団を確認した。うちのクラスのトップカースト達だ。

 

 

「結衣~楽しそうな事してんじゃん。あーしらもまぜろし。」

 

 

クラスの炎の女王、三浦がお出ました。コイツは傲慢で奔放で覇王だ。横目で由比ヶ浜を見ると、顔色が少し青ざめていた。

 

 

「悪いが、この時間帯は戸塚の依頼に則り、奉仕部が正式に許可を得て使用している。他を当たってくれないか?」

 

 

俺の正論なぞ、どこ吹く風と言わんばかりに今度は葉山が詰め寄ってくる。

 

 

「まぁまぁ、皆で楽しく使えばいいじゃないか。」

 

 

「話を聞いていたのか?この時間帯は戸塚の訓練の為に使ってるんだ。使いたいなら他を当たってくれないか?」

 

 

 

空気が変わる。

一触即発というやつだ。

 

 

「なら、俺達と君達でテニス勝負をしよう。勝った方が戸塚くんにテニスも教える。彼も強い人から教われるし、どうかな?」

 

 

「あ!それいい!男女ミックスでやるし!あーし、超やる気出てきたし~。」

 

 

「隼人くん、マジ、パネェ~わ!優美子もマジ、天才じゃね?」

 

 

頭の悪そうな奴らから賛同の声が上がる。よく考えたらこの場にいるのは、俺と戸塚を除けば、全て葉山のグループなのだ。由比ヶ浜もバツが悪そうにしている。戸塚だけならシングルスでの勝ち目もあったかもしれない。しかし、現状は女性陣は由比ヶ浜のみ。由比ヶ浜は萎縮しているし、俺は足を捻った直後で十分なパフォーマンスを発揮できない。そんな八方手詰まりの状態で、意外な人物が口火をきった。

 

 

「隼人くん、あたしとサイちゃんでやるよ。ヒッキーは休んでてね?」

 

 

「結衣~アンタはこっち側だし。早くコッチ来るし!」

 

 

炎の女王が静かにお怒りだ。それでも由比ヶ浜は尚も畳み掛ける。

 

 

「あたしも今は奉仕部の一員として来てるからさ、そっちには行けないんだ。ゴメンね?」

 

 

「はぁ?結衣~?あーしは、アンタにコッチに来いって言ってんだけど?」

 

 

「もうあたし決めたんだ。だから謝らないよ、優美子。」

 

 

「ま、まぁまぁ。それじゃ、結衣も優美子も入れたら始めれるし、楽しくやろうか。」

 

 

 

葉山が由比ヶ浜と三浦による、ハブとマングースの決戦を穏便に運ぼうと試合を促していた。俺はこないだの一件で成長した由比ヶ浜の意思を尊重したくなった。戸塚の意思の確認をとるとオーケーが出た。さぁ、あとは戦うだけだ!俺は何もやってないけど。

 

 

 

「ヒッキー。あたしだって奉仕部の一員なんだからね!ちゃんと見ててね!」

 

 

 

もうそこには、人の顔色を伺い、周りに迎合するだけの由比ヶ浜は居なくなっていた。そこに居るのは、自分の本心や本音を偽らない事を始めたばかりの女の子だ。まだ自分の足で立ったばかりのヒヨコみたいな危なっかしさと、風神をその腕に宿す、俺の自慢の友達だ!

 

 

 

 




ついに由比ヶ浜さんは戦います。

次回はテニス勝負の決着予定です!


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第19話 テニスを通して

今回はあまりテニス詳しくなかったので、
多少のご都合主義はいってます。


不勉強ですみません!

密かに修正入れてます。


 

 

天気は快晴。南からの風少々。うん、いい昼寝日和だ。こんな日は昼休みいっぱいまで寝ていたいと思う。捻った足がズキズキと痛む。現実に戻される痛みを感じながら、空からテニスコートへと視線を移した。

 

 

「テニスの細かいルールはわからないからさ。素人って事で単純なルールでも構わないかな?」

 

 

「うん、僕もそれでいいと思う。由比ヶ浜さんもそれでいい?」

 

 

「うん。サイちゃんがいいならいいよ。」

 

 

「あーしも隼人がいいなら、それでいーし。」

 

 

ちなみに審判役は俺である。あの高い台にいつか座ってみたかったから、密かに願いが叶って嬉しかったりする。俺はニヤけるのを我慢出来ずに審判台へと上がっていった。

単純に3セットして、2セット先取した方の勝ちだ。何故か戸塚、由比ヶ浜チームにサーブ権をくれた。炎の女王からのお情けらしい。

 

 

「僕がサーブを打ったら、由比ヶ浜さんは前に出てもらってもいいかな?」

 

 

「うん。了解だよ。」

 

 

 

戸塚からサーブが放たれる。前衛に由比ヶ浜が出る。三浦、葉山ペアは横並びのままだ。葉山がサーブを返すが少し浮かしてしまい、

前衛の由比ヶ浜に敢えなくスマッシュを叩き込まれる。由比ヶ浜の動きにポカーンとする二人。

そりゃそうだろう。ここ最近は、ずっと俺と訓練を積んでいたんだ。基礎身体能力は格段に上がっている。戸塚もそれを見越しての采配なのだろう。

 

 

「赤っ!一本っ!!」

 

 

「ヒキタニくん、それは剣道の試合の時じゃないかな?」

 

 

 

まさかの葉山にツッコまれた。だ、だって、言いたかったんだもん!しかも華麗に腕をビシッ!と挙げた。もう大満足だ。

 

結果で言うと、1セット目は戸塚、由比ヶ浜ペアが取った。ダブルスが不慣れなのだろうか、葉山、三浦ペアは動きがぎこちなく、されるがままだったからだ。それとは反対に、由比ヶ浜は周囲に合わせる事が上手い。巧いと言ってもいい。

 

そして、2セット目が始まった。

 

 

「結衣、あーしもマジでやるから。」

 

 

今までは本気ではなかったのだろうか?苦し紛れの嘘とも考えられたが、始まってすぐにわかった。三浦のサーブがプレイヤーに向かって跳ねてきた。何を言ってるのかわからないかもしれないが、襲いかかるようにボールが跳ねたのだ。よし、この魔球にドルフィンサーブと名付けよう。

 

 

 

「白っ!一本っ!!」

 

 

「ははっ、ヒキタニくんはソレ好きだね。」

 

 

 

またもや葉山しか反応してくれなかったが、それでも俺はやる!由比ヶ浜からの視線が痛い。戸塚も「真面目にやってよ?」的な視線を俺に送る。残念だが、言葉にしなきゃ伝わらないんだぜ?贈る言葉って言うだろ?チョイスが古いな。うん、やめとこう。

 

 

「あーし、こう見えてもテニス少女だったんだから。もう手加減しないよ!」

 

 

「ハハハッ。楽しそうだね、優美子。」

 

 

 

本気になった炎の女王は、魔球をガンガン使って得点を重ねていった。横で葉山はずっと笑ってた。その佇まいは穏やかだった。コイツの前世はきっと名のある高僧だったのだろう。そんな事を考えていたら2セット目は葉山、三浦ペアの勝利となった。

 

 

 

「あの技をなんとかしないと…僕、初めてあんなサーブ見たよ。」

 

 

「サイちゃん…あたしに考えがあるよ。」

 

 

 

由比ヶ浜と戸塚が何やらゴニョゴニョやっていた。作戦会議というやつだろう。あ、そういえば俺空気じゃね?主人公だったはずなんだけど?と、メタ発言は置いといて。姫、遅いなぁとか暇なので考えてみる。俺、ホント空気。

 

 

 

 

「このセットもあーしらが貰うから。」

 

 

「優美子…まだあたし諦めてないからね!」

 

 

「ハハハっ。二人は仲が良いなぁ。ヒキタニくんもアレやらないのかい?…一本っ!!」

 

 

 

由比ヶ浜と三浦は熱血スポコンやってるのに、葉山は一人マイペースだ。あれこそが、リア充の中でも真のリア充が持つ奥義、『ザ・ゾーン』なのか??

その時、戸塚はどちらかに混ざりたそうにしてたのは別の話だ。

 

最後はラリーの応酬は無かった。三浦がサーブで決めるか、戸塚のサーブを返した球を由比ヶ浜が決めるからだ。何故か由比ヶ浜が頼りがいのある女に見える。あぁ、もう俺から教える事は何もない。何も教えてないけど。

 

 

 

よくある展開だが、勝負は拮抗していた。どちらもあと一本っ!!と、決めれば勝利とまでいくのだが、また返されてしまう。そして、昼休みも終わろうとしてた時にそれは起こった。

 

 

「あと、2ゲームで決着をつけるよ!」

 

 

「はぁ?あーしが決めて終わりにするし!」

 

 

「ヒキタニくん、俺もその台に乗ってみてもいいかな?」

 

 

 

葉山のザ・ゾーンは健在だ!違った。由比ヶ浜が思わぬ台詞を言ったのである。そして語らねばならない。この学校はこの時間、海側から吹く風が変わり、海へと帰るように風向きが変わる。由比ヶ浜がその事を知っていた?まさか…!

 

 

 

由比ヶ浜のサーブが上空へと飲まれていく。バウンドしたボールを三浦が追い掛けるもそれは勢いを増し、ボールの着地点を狂わせた。

 

 

 

「一本っ!!それまでっ!!」

 

 

「いや、ヒキタニくん。まだあと一本残ってるから。」

 

 

 

くぅ!!俺の渾身のジャッジも功を成さず、由比ヶ浜はしたり顔、三浦は苦渋の表情を浮かべた。そして、葉山は相変わらずだった。コイツはいい奴だな。

 

 

「もう、理解したし。同じ手は効かないからね。」

 

 

「じゃあ、試してみる?いくよ!」

 

 

 

すでに男性陣は空気である。

由比ヶ浜がポーンッとサーブを打つ。三浦はバウンド時を狙って決めるつもりだろう。俺でもそうする。しかし、俺達の予想は大きく外れる事になる。

 

 

 

「風神ちゃん!バッビューン☆」

 

 

「へ?」

「え?」

「は?」

「ハハハ。」

 

 

 

球は有り得ない軌跡を描き、三浦を避ける形でもう一度浮き上がり、三浦の後ろへと決まった。マクド○ルドのマークみたいな動きかたをしていたと言えば解るだろうか。

一人驚いてなかったのが驚きだったのは内緒だ。

 

 

「最後のはなんなのよ…あんなの無理だし…」

 

 

「や、風のイタズラってことかな?たはは。」

 

 

いや、絶対に誤魔化せないだろ。お前、絶対風神使ってただろ。もう名前言ってたじゃん!

いつの間にか三浦と由比ヶ浜は握手をしていた。何故か葉山と戸塚もしていた。…あれ?俺は?

 

 

 

「結衣、変わったね。あーしは今の結衣のほーがいいと思う。」

 

 

「うん。あたしもう決めたんだ。色々とあってさ。だから、もう遠慮しないの。」

 

 

 

そう言った由比ヶ浜の笑顔に不覚にもドキリとしたが、これはこれで忠義が試されているのだろうか?あ、そういえば姫は??

 

 

 

結果として、戸塚の依頼は解決したと思う。たぶん。そして、姫は保健室までいけずに迷子になっていたというオチでした。チャンチャン。

そして、由比ヶ浜は魔球マクド○ルドとクラスで暫く呼ばれたのは別の話。

 

 

 

 




風神が卑怯だとかそーゆーのは無しで
お願いします(笑)

最初から使わなかったのは、
バレるとマズイからです。



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第20話 その名は、材木座義輝

椅子に座ってる時が一番更新しやすい。
横になってたら進まない。
しかし、我が家にはイスがない。


それでわ、どうぞ!


 

 

 

テニス対決から数日が過ぎた。由比ヶ浜はあれ以来、かなり活発になり(元々かも知れんが)、魔導具の扱いも上達していった。俺も炎を使った特訓をしたいが、その性質上なかなか使用可能な場所が無く、慎重に選ばなければならない。山の中だと山火事になったりしたら大変だ。ちなみにあの時の廃工場は、ボヤ騒ぎがあったとかで完全に閉鎖されている。酷い事する奴もいたもんだ。

 

いつも部活動が終わると、由比ヶ浜との特訓だ。そして終わると、姫を家まで送る。これは日課となっている。由比ヶ浜はたまにお泊まりしているようだ。羨ましい…!いや、決して邪な気持ちがあるワケじゃあないよ?うん。

 

 

俺は今日も部室へと向かう。依頼もトラブルもゴメンだなーと考えながら外を見る。特別棟から見る中庭にはリア充共が集まっていた。それを眺めながら廊下を歩いていくと、部室の前で姫と由比ヶ浜が中に入らずにソワソワしていた。

 

 

 

もしかして、影法師が現れたか?俺は急ぎ忍び足で二人に近より小声で声をかける。

 

 

 

「中で何かあったのか?」

 

 

「ひっ!ヒッキー!?」

「きゃ!八幡くん?」

 

 

 

そんなに驚かれるとなんか辛い。姫は部室の前で立ち往生している理由を話してくれた。

 

 

 

「中にね、何か不審者がいるのよ。それで怖くて入れなかったの。」

 

 

姫が言い終わるよりも早く、姫を怖がらせやがって!殺す!と、怒り心頭のまま部室へと入り、中の人物に火薬玉と苦無を投げつけた。

 

 

 

「む?八幡よ!よくぞ来たなって、うぉっ!」

 

 

 

炸裂音と苦無が刺さる音が聞こえた。が、煙が晴れると長机を盾にした男が現れた。長机は所々に焦げ痕を残し、苦無は刺さっていた。男はどうやら無傷らしい。仕方なく竜の炎、肆式の刹那を発動させようとして、「ま、待って!」と言われたのでやめてやった。

 

 

「八幡!我だ!彼の剣豪将軍、材木座義輝だ!」

 

 

「あん?遺言はそれだけか?そんなに短くていいのか?」

 

 

「お、お、落ち着け!ほら、我と主は前世からの因縁で、主従関係にあったではないか!」

 

 

「なら下克上だ。死ね。」

 

 

「ごめんなさい。調子に乗りました。すみません。」

 

 

 

素に戻ったので許してやったが、コイツの名前は材木座義輝。唯一の自慢が馬鹿力だけ。その取り柄も理由はしょーもない。小学生の時に自分は剣豪将軍と勘違いしたらしい。剣の練習とばかりに彼は素振りを始めるのたが、彼の剣のイメージは某FFのクラ○ドの使う大剣だったのだ。似たようなベニヤ板から始め、鉄骨を素振りする頃には馬鹿力が身に付いていたそうだ。ホントどーでもいい。

 

 

「で、うちの部室で何してんだお前。」

 

 

「ふむ。ここは我の願いを叶えてくれると聞いてな。やはり八幡大菩薩の導きか…。」

 

 

 

駄目だコイツ。よし、姫を呼ぼう。俺は安全を確認したので、姫と由比ヶ浜に入っても大丈夫と声をかけた。

 

 

「かなり凄い音がしたんたけど。部室は大丈夫なのかしら?」

 

 

「わっ、ヒッキーけっこー無茶やったね~。」

 

 

 

二人に材木座を紹介すると、姫は例の奉仕部の理念を説いていた。材木座のアホは女子には免疫が無かったので、終始俺の方ばかりを見て話す始末。それに業を煮やした由比ヶ浜が、横から口を出してきた。

 

 

「人と喋る時は、ちゃんと相手の顔を見ないとダメじゃん!」

 

 

「ムハハハ!さような事象は、我にとっては些事にすぎん。」

 

 

「ん~?よくわかんないけど、難しい言葉知ってるんだね。て、違うし!ちゃんと目を見て話してよ。」

 

 

「フハハハ!左様な所作は我にとっては造作も無き事!幾百の時を過ぎようと赤子の手を捻るようなものよ!」

 

 

「いくびゃく?とにかく、赤ちゃんの手は捻ったらダメだよ?」

 

 

 

アホな子代表の由比ヶ浜は、材木座の手を握ってそう言った。由比ヶ浜は小さい子を叱るみたいに「メッ!」とか言ってる。この二人は会話の合わないプロだったのだ。なるほど、俺達がついていけない理由が解った。材木座の発言をアホの子が返すと、無限の広がりを見せる。収拾がつかなくなるけど。しかし、次に材木座から発せられた台詞は、二人のやりとりにおける俺の予想の斜め上へと発展した。

 

 

 

「ほ」

 

 

「ほ?」

 

 

 

 

 

「…惚れた!」

 

 

 

「へ?」

「え?」

「は?」

 

 

 

「お主の真名はなんと言うのだ?」

 

「マナ?えーと、な、名前のことかなー?由比ヶ浜結衣です、けど?」

 

 

「結衣殿か……なんと素晴らしい響きよ!これも八幡大菩薩の導きなのか…!」

 

 

 

 

俺、姫、由比ヶ浜の時は止まっていた。たっぷり5秒後、そして時は動き出す!じゃなくて、展開についていけなかった。

 

 

 

「や、なんとゆーか、大変恐縮ですとゆーか、心中お察ししますとゆーか。」

 

 

 

困った事に、由比ヶ浜も展開についていけてなかった。心中お察ししてどーすんだよ。俺なんて年中誰にも察せられてないぞ。なんだよ、ソレ。言ってて悲しくなってきた。

 

 

 

「ほむん。本来の用件を失念していたようだな。ならば八幡よ、我が依頼聞いてくれるか?」

 

 

「お、おう。」

 

 

 

なんだかんだで押し切られてしまった感があったが、材木座の依頼内容はシンプルだった。自作のラノベを読んで感想を欲しいとのことだ。

 

 

「依頼を受けるか決めるのは俺じゃねーよ。我らが部長、姫様だ。」

 

 

「八幡くん、人前でその、その呼び方はちょっと恥ずかしいのだけれど…」

 

 

 

姫は恥ずかしがっていたが、俺の主君は姫なのだから仕方がない。由比ヶ浜は不機嫌な顔をするし、材木座はキモいしで、踏んだり蹴ったりだ。

 

 

 

「その、材…材……材津くん?その依頼、正式に奉仕部が承ります。」

 

 

「おぉ!ついに我が悲願が叶う時がきたのだな!フハハハ!宜しく頼むぞ!では、また会おう。結衣殿も達者でな!」

 

 

 

 

そうして、奉仕部は材木座の依頼を受けた。由比ヶ浜は先程の材木座からの衝撃の告白に、多少取り乱したまま帰るのであった。

 

 

 

 




材木座くんの登場となります。

彼の活躍に期待して下さい(笑)


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第21話 材木座は真実を知らない

更新遅れてしまいました。
遅筆ですが、お付き合い下さい。


 

 

 

早朝、現在は自宅でコーヒーを飲んでいる。もちろんマッカンだ。頭を使いすぎたら糖分の摂取が必要だろ?ついでに言うと徹夜である。ハァ…すっごく眠いが、頑張って学校へ行くか。

 

 

昨夜から今朝にかけて材木座の小説を読み、頭の痛くなるような苦痛を伴う内容に辟易しながらも、しっかりと添削までしてやった。その代償は睡眠だ。許せん。俺の睡眠時間を削りやがって。あとで一発殴っておこう、そうしよう。

 

 

学校に着いた俺は、放課後まで睡眠に時間を捧げた。時折、教室の片隅から由比ヶ浜とトップカースト達の談笑が聴こえてくる。なんでコイツこんなに元気なわけ?そして、放課後になり部室へと向かった。

 

 

 

「うっす。」

 

 

 

部室に入ると、姫が椅子に座って寝息をたてていた。…可愛い。俺は起こさないように俺のブレザーを姫に掛けておいた。そして数分すると、由比ヶ浜が空気を読まずに入ってきた。

 

 

 

「やっはろー!」

 

 

「ばっ!おまっ、シィ~!」

 

 

 

慌てて俺は、静かにするように人差し指を口元に添えてジェスチャーするも、姫は起きてしまった。

 

 

「あ、や、あはは。やっはろー、ゆきのん。」

 

 

「やっは、……こんにちは。由比ヶ浜さん。」

 

 

 

由比ヶ浜は起こしてしまいバツが悪そうにしていた。姫は寝起きで油断してたのか、やっはろーと言いかけていた。

その時、ドアを開けて入ってくる不審者を発見!早速、排除する!

 

 

「オラァ!」

 

 

「待たせ、へぶしっ!」

 

 

 

何か喋りかけてきたが、最近のモンスターって喋るんだな。人型は喋れる、と。うん、メモった。

 

 

「酷いではないか、八幡よ!我が何をしたというのだ!」

 

 

 

どうやらモンスターではなく、材木座だったようだ。八幡ウッカリ☆

 

 

 

そして一同は会した。これより材木座の小説についての感想を伝える事で依頼は完了する。俺達は大変遺憾であるが、感想を伝えてやる事にした。じゃないと浮かばれないからな。俺の睡眠時間が。

 

 

 

「材…材………材津くん?まず、一番読んでいて酷いと思った事からでいいかしら?」

 

 

「ホムン。凡人の意見も聞きたかったところだ。遠慮せずに言うがよい。」

 

 

 

「どうしてこんなに倒置法が多いのかしら?文脈の前後が繋がっていないのは何故かしら?ルビの振り方もおかしいと思うのだけれど。あとは…」

 

 

「姫、一旦ストップだ。もうすでに死んでいる。」

 

 

 

哀れ、材木座は大ダメージを受けて撃沈してしまった。少し回復を待って、次にバトンタッチをする。俺のターンだな。

 

 

 

「姫が色々と言ってたろ?ちゃんと聞いてたか?俺から言えるのは、ラノベは挿絵が全てだ。」

 

 

「ガハッ!…八幡よ、主が一番酷くない?」

 

 

「じゃあ、次はあたしだね。」

 

 

「由比ヶ浜、お前ぜってー読んでないだろ?俺と姫が寝不足なのに、何故お前はそんなに元気なんだ?」

 

 

 

アホの子はテレビ見て、寝るもんだと思ってるからな。絶対に勉強とかしないだろう。

 

「ば、バカにすんなしっ!あたしもちゃんと読んだし!」

 

 

「ほう。なら内容は?言ってみろよ。」

 

 

「………最初の設定のとこで長くて寝ちゃった♪」

 

 

 

 

「……我が生涯に一片の悔い無し!グフッ!」

 

 

 

 

材木座の小芝居も終わり、回復を待ってやった。ムクリと起き上がり、仲間になりたそうにコチラを見ている。いや、しねぇけど。

 

 

「あーまぁ、そのなんだ。次に活かせばいいんじゃねぇか?」

 

 

「八幡よ、慰めはいらぬ。酷評はされたが、我は嬉しかったのだ。誰かに読んでもらえるという事が、これほど嬉しいとはな。」

 

 

材木座は奉仕部の面々に礼を言うと、「サラバだ!八幡よ!」と叫んで帰っていった。俺達も睡眠不足で部活にならなかったから帰ることになった。

 

 

 

そして翌日の放課後。

部室に材木座が興奮状態でやってきた。とりあえず一発殴って落ち着かせる。

 

 

「八幡よ、聞いてくれ!昨夜、痴女に襲われたのだ!」

 

 

「それどのラノベのパクりだ?それとも現実と妄想が混じっちゃったのか?」

 

 

「本当の話なのだ!結衣殿も是非とも聞いてくれぬか?」

 

 

 

どうやら本当の話かもしれないが、いちいちキャラがウザい。

 

「公園で、我が日課の素振りをしておったら、急に襲いかかってきたのだ。防戦一方だったのだが、ベンチをぶん投げたら消えたのだ。忽然とな。闇夜に消えゆくかのように!」

 

 

「ヒッキー、それってもしかして…」

 

「だな。姫、由比ヶ浜、ちょっといいか?」

 

「えぇ、構わないわ。」

 

 

 

三人でコソコソ話していると、材木座は「我もまぜてよー」とか言ってるが無視しよう。結論から言うと、材木座を襲ったのは影法師の線が高い。何故だ?材木座を狙う動機が考えられない。とりあえず材木座には真実は伏せる事になり、テキトーに材木座をあしらうと帰っていった。

 

 

帰る時にカッコつけて指を二本立てて、ビッと決めてきた。うぜぇ。その時、指ぬきグローブにキラッと光る指輪のような物が見えたが気にしない事にした。

 

 

 

 




気づく人はわかりますが、材木座くんは
土門ポジです。
いずれあだ名もつきます。


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第22話 葉山の依頼

更新が更に不定期になりました。
出来るだけ早くしますね。





 

 

材木座の依頼も無事に終わり、平和な数日が過ぎていった。あれ以来、痴女に襲われることは無くなったそうだ。「次こそは返り討ちにしてくれる」と、材木座は息巻いていた。

 

 

平塚先生に呼び出された俺は、進路指導室に向かっていた。なんで俺が呼び出されたかわからないが、もしかしたら新しい忍者話でも聞けるのかもしれない。そう思うとオラ、ワクワクすっぞ!と気分もハイになってくる。姫に少し部活に遅れると連絡を入れて、進路指導室に入っていった。

 

 

 

「失礼します。平塚先生、呼び出しって何でしょうか?」

 

 

「あー、まずはそこのソファへ座りたまえ。」

 

 

 

俺はソファに座ると、少し感触を確かめると平塚先生へと視線を移した。

 

 

「君は共通の趣味を持つ同志ではあるが、私も教職の身だ。立場がある以上、君を指導せねばならんのだよ。」

 

 

「はぁ、つまりどういう事でしょうか?」

 

 

「これを見たまえ。君の職場見学調査票だ。」

 

 

 

何もおかしいところなど無かったはずだが?

第一希望、姫の自宅

第二希望、伊賀の里

第三希望、やっぱり姫の自宅

姫の警護をするのは、忍である俺の責務だ。となると、職場とは姫の自宅になる。もちろん、勉強する時も、風呂に入る時も、寝る時も側にいなければ!べ、別に邪な気持ちなんてないんだからねっ!やべ、俺って気持ち悪い。

 

 

 

「だいたいの意味合いは解るが、さすがに現代日本で高校生である以上、そんなボディーガード紛いの職種は認められん。もう一度やり直してこい。」

 

 

 

 

チッ!やはり通らなかったか。

 

 

「わかりました。再提出ですね。それじゃ、俺は部活に行ってきますね。」

 

 

 

 

そして俺は進路指導室を後にした。

今日も部活が始まる。

 

 

「うっす。」

 

 

「こんにちは、八幡くん。」

 

「やっはろー♪ヒッキー!」

 

 

 

姫の紅茶は美味しく、俺達は個々の時間を過ごしていた。そして、下校時間が近づいてきた。

 

 

「今日は誰も来ないでしょうし、そろそろ終わりにしましょう。」

 

 

 

姫のその言葉を皮切りに、帰り支度を始める。その時、部室のドアをノックする音が響いた。こんな時間に誰だ?まさか、影法師か!?

 

 

 

「どうぞ。」

 

 

「やぁ、お邪魔するよ。部活の時間でどうしてもこの時間になってしまってね。すまない。」

 

 

 

ニコニコ顔で入ってきたそいつは、我がクラスのトップカーストの葉山隼人だった。思えば、テニスの時はこいつだけ俺に優しかった気がする…。

 

 

「それで、何の用かしら?葉山隼人くん。」

 

 

「ハッハッハッ。帰るところだったのかい?時間の都合が悪かったのなら、日を改めるけど、いいかな?」

 

 

「だから、何の用かしら?と聞いているのだけれど。」

 

 

「ハッハッハッ。折り入って頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

 

「だ、か、ら!何の用なのよ!もう!早く言いなさいよ!」

 

 

「ハハハッ。ヒキタニくん、例のアレまたやってくれないかな?赤っ!一本っ!」

 

 

 

姫は葉山に対して嫌悪感があるようだ。昔、何かあったのだろうか?葉山もメンタルが強いというか、太いな。『ザ・ゾーン』にブレがない。さすがイケメンリア充だ!

 

 

 

「ハハッ、じつはこのメールなんどけど……。」

 

 

 

そう言うと葉山は俺達にメールの内容を見せてきた。内容はクラスメイト?を悪く言っている内容らしい。らしいと言うのは、俺がクラスメイトを知らないからだ。忍(ボッチ)は孤高だからな。

 

 

 

「あー!これ、あたしもきたよ!なんか嫌だよね、こーゆーの。」

 

 

 

葉山が調べたところ、クラスの全員に届いているらしい。俺は少し(かなり)嬉しそうにスマホを開いてみた。……Amazonと材木座しかメールは無かった。(姫は別フォルダ)

 

 

 

「ハハハッ。まぁ友達が悪く言われるのは、あんまり気分がいいもんじゃないからね。このチェーンメールを止めさせたいんだが、お願い出来るかな?」

 

 

「チェーンメールのような非道な行いは許せないわね。犯人を特定したあとはどうすればいいのかしら?」

 

 

「ハハハッ。それは止めさせてくれるだけでいい。大事にしたくないからね。」

 

 

 

葉山は俺達にチェーンメールの撲滅だけを依頼してきた。後で聞いたが、姫は犯人に裁きを与えたかったらしい。過去に何かあったのだろうか?

 

 

「ハハッ。それじゃ、ヨロシク頼んだよ。ヒキタニくん、またアレ、やろうな。白っ!一本っ!!」

 

 

そして、言いたい事だけ言って帰りやがった。なんてマイペースな奴なんだ。さすがトップカーストのリア充!恐るべし………!

 

 

 

「なんてゆーか、マイペースな奴だったな。テニスの時もそうだったけど。」

 

 

「隼人くんはクラスでも、ああだからねー。や、悪い意味じゃないよ?」

 

 

「…私は嫌いだわ!昔からの知り合いなのだけれど、何も変わっていないのね。いつもあの調子なのよ?私は聖人君主ではないわ。」

 

 

 

姫がめっちゃヒートアップしてた!あの温厚な姫を怒らせるとは、葉山隼人、恐るべし!個人的には嫌いになれないんだがなぁ。

 

 

そして、チェーンメール撲滅作戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はチェーンメール撲滅回になります。




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