異世界転生の特典はメガンテでした (連鎖爆撃)
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死んだら終わり。考えてみれば当たり前のことである。

「メガンテェェェ!」
「ピギャー!」

今日も今日とてスライム狩り。
レベルはなかなか上がらない。

スライムを3匹倒して得られるEXPはたったの5。

……おい、3で割り切れねぇぞ、どうなってやがる。

苦い薬草を噛み、苦い水薬をあおる。
今の俺では、これだけでほぼ全快するだけのHPとMPしか無い。

レベル7。異世界転生してからおよそ一ヶ月。

対岸には魔王城が見えているというのに、俺はどうすることもできやしない。

……ゲームの時はにくい演出程度にしか考えてなかったけど、リアルとなるとこれは相当胃に来るものがあるな。

 ◆ ◆  ◆   ◆

神の手違いとやらで死んだ俺は、某RPG大作の初代の世界に転生することを薦められた。

勇者として、1個だけ特典ありで。

欲張って考えた挙句、「主人公補正のバリバリ強いやつ」と言ったら渋い顔をする神。

曰く、「もっと具体的に。RPGなめてんのか」だと。
あろうことか、「動画サイトにアップするのに、チート(特典)で下手に俺TUEEEしても全っ然!面白く無いだろが!」とキレだす始末。

俺があっけに取られているうちに、勝手に「特典はメガンテ打っても確定瀕死止まり!」「ついでに生き返れない縛りね!」と「ついでに主人公補正?コミュ症でも勇者できてればモテるようにしてやんよ!」と特典を決められ、笑いながら送り出されることになる。



大事なのは、この一点。
死んだら終わり。
ファンタジー世界ですがリアルに死ねる。



勇者 Lv.1 ♂
HP/MP:24/2
初期装備 
頭:なし
胴:布の服(ぶっちゃけ死んだ時に来ていた私服)
武器:棒きれ
盾:なし
特技:メガンテ
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。
……はじめからMPが2だけあるのはメガンテを打てるようにするためだな、間違いねぇ。とか冷静なフリをして現実逃避をする。

「今度(・・)の勇者は大丈夫かのー……」

転生した直後にラダトーム城の王様に心配そうな顔でこう言われた。



俺は泣いていい。

 ◆ ◆  ◆   ◆

ピロピロピロ―

この音は……

「レベルが上ったか……」

今日だけでスライムを焼殺すること、7回目。

スライムが貨幣に化けるのと同時にその音はした。



祈りながらウインドウを開く。

どうか、新しい特技を覚えていますように。

「どうか……」



果たしてそれはそこにあった。簡潔に2文字。

「……いよっしゃああ!《ギラ》だぁぁぁぁ!」

ギラ。
炎の壁を生み出す初級呪文。

俺はレベル8にしてようやく、使い勝手のいい全体攻撃呪文を覚えたのだった。

《薬草》と《魔法の聖水》のために、初期費用はそこをつく直前だった。

これでようやく、まともなロールプレイングができる!

薬草を頬張り、水薬をあおる。
残りは3セット。
だが、今の俺に怖いことなど何もない!……ドラキーの出現する範囲まで足を伸ばしてみるか。



そして俺は踏み出した。
ラダトーム城壁から1.5m離れた、ドラキーの出現するゾーンへと。




本編で触れられない設定

00.メガンテ
初出はDQⅡ。そのため本来初代の世界には存在しない。
自身のHP全てとMPを1消費し、ボス以外の敵は即殺という恐ろしい呪文だったが、本当に恐ろしい点はこれを敵も使ってくるという点。DQⅡのトラウマメーカー的な呪文。
もちろんこの世界には使ってくる敵は存在しないため、メガンテは本当の意味で主人公の転生時の特典であるが、原作知識が既におぼろげな主人公は「いつシルバーデビルが出てくるんだろう」とビクビクしている。
DQM系列では使用しても、使用者自身のHPが1残る場合があり、この作品の世界観ではそちらの仕様になっている。
元々この世界には存在しないので耐性持ちの敵などいるはずもなく、「こちらの体力は1残るのに、相手は即殺」というコワレな呪文になっている。
問題は消費魔力が残りの魔力の す べ て に変えられている点。
魔力が2あるから、「薬草だけ噛んでれば2回使える、それから魔法の聖水飲めばいいや」と思っていた主人公を絶望させた。


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勇者ってかなりブラックじゃね?

俺がこの世界に送り込まれた理由について、一応、神様おつきの天使がちゃんと説明してくれている。



この世界に今現在、「ロトの勇者」はいない。



この世界の時間にして10年前に、ロトの子孫は竜王に敗れて、死んだ。

だが、死んだだけならデスルーラしてラダトーム城からやり直せるはずなのである。

だというのにそこで問題が生じた。いつまで経っても勇者の棺が、城に帰還しないのだ。



バグ、である。



どうやら「ロトの勇者」様も転生者だったらしく、竜王の城に行くまでに大分好き勝手していたらしい。具体的には特典を使って俺TUEEE!しまくった挙句、海を渡って空から魔王城を急襲したらしい。

………羨ましい気がしないでもない。

だが、そこはラスボスの貫禄、竜王様はチート野郎と真正面から対決し、ギリギリのところで勇者を倒した……らしい。

まぁ、チートだよりでレベルは全然上げていなかった=戦闘経験皆無なため、勝負の内容は「ターンバトルでお互いの奥義をぶつけ合う」という駆け引きも何もないようなものだったらしいが。



しかし、その時の勇者は負けることすら計算のうちで、単純に「くっ……次はお前を殺すゥゥ、殺してやるゥゥゥ!(憤怒)」というロールプレイングをやってみたかっただけらしい。イヤラシイ性格していやがる。

ただそこで計算外の事態が生じる。
元々ゲームのこの世界で原作ブレイクしすぎたせいでシステムに歪が生じたらしく。

勇者の棺はラダトーム城に転移(テレポート)するのではなく。

勇者が魔王城に飛び込んだ軌道を逆になぞるように飛行(フライ)していき。


………勇者が魔王城に飛び込んできた“窓”に引っ掛かって、動かなくなり、10年間そこで放置されているらしい。



神様も天使もこの世界を覗き込む“窓”の前で大爆笑だったらしい。



そんな訳で、俺がデスルーラできないという縛りはバグを防ぐための保健であり、万が一死んでも一応俺はデスルーラできるらしいという説明を改めて天使から受けてはいるのだ。

なんだヌルゲーじゃん!

……とか思った時期が俺にもありました。



天使くん《ザオラルガード》外し忘れてんじゃねーよ!

 ◆ ◆  ◆   ◆

Sideラダトーム城

「いやぁ、今度の勇者はなかなか長生きですな。鎧も買わず、棒きれ一本で登城してきたときは今度も外れかと思いましたが」

「ええ、《ロトの勇者》がいなくなってからというもの、何人もの青年を勇者として送り出しましたが帰ってきたものは結局いませんでしたからね」

「口を酸っぱくして、“勇者とは名ばかり、大精霊の加護を受けることができるのはロトの勇者のみ。そなたらは加護を受けることができぬ以上、蘇生が叶わぬ”と言ってきましたのに無謀な輩ばかりで……」

「最近は“ファンタジーだから問題ない”とか言う輩が立て続けに来ましたな。アレは何だったんでしょうな?怪しげな宗教でなければよろしいのですが。命を落としては元も子もないというのに」

「……そういえば彼の者も“ファンタジー”なる単語を呟いておったような……」

「「「「え」」」」

「……次の勇者候補を探しておいたほうがよろしいだろうか」

「賛成だ」「……私も」「同意する」「……そのほうが懸命だろうな」

「「「「「はぁ……」」」」」

大臣たちの苦悩は続く。

 ◆ ◆  ◆   ◆

「ぶぇっくし!…風邪かなぁ」

海からの風は冷たい。それで体が冷えたのだろう。

俺は今、対岸の竜王の城を眺めていた。
理由は単純。

「見えねぇかなぁ、棺」

馬鹿な勇者の馬鹿な姿を拝むためである。

……まぁ、もちろん見えないのだが。
気を取り直して、俺は次の目的地に向かうことにした。

ラダトームから一番近い街へ。名前なんだっけ?
ガライの街?まだ行かねーよそんなとこ。

勇者 Lv.12 ♂
HP/MP:62/17
初期装備 
頭:羽のついた帽子
胴:布の服の上に皮の鎧
武器:木製の剣
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

この世界に転移させられてから2ヶ月。俺はやっと隣町に踏みだそうという気分になっていた。
相も変わらず、ザオラルガード持ちだが、考えてみれば元々復活できるという事のほうが異常なのだ。別にこの程度、何のハンデでもない!

……考えてみたら勇者ってブラックな職業だな。何だよ初期費用渡しただけで魔王倒して来い!っておかしくないか。そして倒すまでは次の職業にはつけないって。俺には死ぬか魔王を倒すかの選択肢しかないってことだろ?

相変わらず調子の悪い胃を抑えながら、街へ向かう。



……隣町には、いい胃薬とかあったりしないかなぁ……。



本編で触れられない設定

01.大精霊
この世界を作ったとされる存在。この世界の伝説の存在であるロトをかつて異次元から連れてきた。(ドラクエⅢ参照)。
しかしあくまで、システムの一部的な存在であり、転生させる神様とは何の関係もなく、神様の存在も知らない。ゲームの中だけの存在にすぎない。
故に、原作以上の行動を取ることができず、ロトの子孫以外に祝福を与えればいいという発想に行き着かず、結果多くの若者が勇者を名乗り、命を散らしていった。

02.デスルーラ
勇者が死ぬと、城に棺のみ帰還する。これは本来ならば大精霊の加護ありきの現象だが、転生者たちは神の力で城まで飛ばされている。
どうやら、ロトの勇者の棺が飛んで行く姿がツボだったようで、これ以降、棺は皆、転移するのではなく棺が飛行するので、厳密にはデスルーラではない。
ゲームのモブたちは棺が転移でなく飛行してくる姿を見て、大精霊の加護を受けれなかったか、という解釈をするに至った。

03.勇者
この世界ではロトの勇者が10年前に失踪して以来、多くの若者を名ばかりの勇者として送り出している。
ただし、教会で蘇生するためにはこの世界のルールを司る大精霊の加護を受けていないといけないため、名ばかりの勇者は皆、教会での蘇生を受け付けない。
……というのは建前。ほとんどの勇者は転生者でザオラルガード持ち。そして、天使の説明で勘違いをしていた。
同じように全ての転生者が神に縛り(ザオラルガード)をつけられ、天使に説明を受けていたようである。
どうやら天使は、「説明の矛盾に気が付きもしない(観察力・洞察力の足りない)勇者では攻略に時間がかかる」という考えで転生者たちをふるいにかけていたらしい。つまり神様が神動画を作るための協力者。グル。

04.勇者を送り出すための費用
《薬草》+《魔法の聖水》を1回の戦闘ごとに使ってると、1ヶ月戦いぬく前に費用がそこをつくのではないか?。
実は、この勇者(主人公)が貰った初期費用は30000Gを超えている。
以前の勇者たちが死んではデスルーラする度にその装備と貯蓄をラドトーム城では回収していて、次の勇者へと引き継いでいる。
なので、実質ラダトーム城で負担しているのは、回収にかかる人件費と、一人目に渡した1500Gのみ。
主人公が死ぬと、費用はほとんど底をついているため次の勇者がおそろしく苦労することになる。

05.調子の悪い胃
実は、死ぬかもしれないというストレスにさらされて胃を痛めているわけではなく、《魔法の聖水》の飲み過ぎ。死の恐怖にさらされているというなら、とっくの昔にノイローゼ気味になって引きこもってしまっている。この主人公は結構図太い神経をしているが自覚はない。


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それを売るなんてとんでもない。

Side 神様

「見てくれよ、これwww」
「もう、今度は何を作ったんです、神様?」
「転生者の棺が飛行する様子だけを編集してつなげた動画www」
「プッwww ヤ  メ  ロwww」
「フイてんじゃんwww」
「そんなん草生えるわwww」
「opはロトの勇者が窓に刺さるとこからwww」
「ちょっくら他の天使も呼んでくるwww」
「おk www」


俺は息を潜めて機会を伺っていた。

(……今だ!)

ザッ

「……ぴぎゃ?」
「メガンテェェェェェェェェ!」
「ピギャァァァァ!」

スライムベスの群れがプスプスと煙をあげる。
そして、ゴールドを吐き出して消滅していった。

素早くあたりを見回す。
今の音で新たに近づいてきた敵がいないか確認する。

……いないか。いや、油断は禁物だ。

素早く、丸薬状に丸めた薬草を飲み込み、煮詰めて凝縮させた《魔法の聖水》で喉の奥まで流しこむ。
……張り付いた感じがするが問題ない。ウインドウを確認するとしっかり回復していた。

片手に《キメラのつばさ》を握りしめたまま移動を開始する。

100m前方に二頭の《ゴールドマン》を確認。

……あいつらにメガンテをぶつけ次第、一旦ラダトームに帰還だ。

素早く駆ける。気づかれても問題ない。素早さではこちらが上だ。

あと80m
あと70m


あと40m


あと10m

「……?ウガァァァァ!」

1体に気づかれた。だがもう射程範囲内だ。

約4m。急ブレーキをかけ、草の上を滑りながら呪文を叫ぶ。

「メガンテェェェェェ!」
「「ウガァァァァ!」」

ゴールドマンの焼死を確認。
ゴールドの回収はしない。欲張って死んでは元も子もないからだ。

素早く後ろにキメラの翼を投げる。

瞬間、グルっと視点が回転する。



「……ご苦労さまです勇者様。お早いお帰りですね」
「ハハハ、ただいま」



強烈な皮肉をぶつけて来る女僧侶を前に、コミュ症すれすれの俺が気の利いたことなど言えるはずもなく。
しどろもどろとしながら、祝福を与えてもらう。



今の俺はヒットwithメガンテ&アウェイwithキメラの翼を繰り返しつつ経験値稼ぎを繰り返していた。

勇者 Lv.17 ♂
HP/MP:77/42
初期装備 
頭:なし
胴:布の服の上に皮の鎧
武器:ダガー
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

転移してから3ヶ月。
俺は相も変わらず経験値稼ぎをしていた。

 ◆ ◆  ◆   ◆

「……《ひみつの鍵》ねぇ」

二週間前、俺はLv.15にしてガライの街に到着していた。

そして、この問題にぶつかったのだった。

「ええ、それが無ければガライの墓には入ることができなんでさぁ」

モブの一人が告げる。
俺は今までの自分の行動を振り返っていた。

たしか、城の宝箱からパクった奴は城の扉をいくつか開けるのに全部使った覚えがある。
あれ、もう使い切ってるじゃん。
でも秘密の鍵ってどこかで売ってなかったっけ?

頭を巡らせ考える。
そういえば、どっか遠い街で売ってたよな……でもそこってリカントロープかなんかが出てきてめっちゃ危険じゃなかったっけ?安全マージン取ってLv.25くらい欲しいな。あれ、詰んでる?

ラダトーム城に帰還した後、俺の自室としてあてがわれた部屋で俺はもんもんと悩んでいた。
メガンテさえあれば戦闘は一瞬だ。でも一回の戦闘ごとに《薬草》と《魔法の聖水》を使っているのではとてもじゃないが収入と支出の釣り合いが取れない。
既に初めにもらった費用はそこをついている。
物理戦闘で稼ぐか?答えは否だ。戦闘がリアル路線化している世界でビビらずに剣が振るえるとはとても思えない。

……スライムから徐々に慣れていって戦士職にジョブチェンジか?無理無理絶対無理。

そこでふと、視界の隅に写り込んだものがあった。

《太陽の石》である。

小説版ではロトの子孫はコイツに触れて光を消すことで勇者に祭り上げられたアレのことだ。
ゲーム準拠のこの世界では、ロトの子孫が原作ブレイクしたため、触れられずに残っていたのだ。
1ヶ月近く城の周囲から離れずにスライムを狩っていた俺は、もののついでにと城の地下室からこれを回収していたのだ。

ちなみに俺はロトの子孫でないため光は消えていない。

……正直、今の時点では無用の長物だよな、これ。



………売れねぇかなぁ。



結局俺は、「これを売るなんてとんでもない!」とゴネる道具屋のおやじを説き伏せ、300000Gという高値でこれを引き取らせたのだった。

なぁに、あとの事はあとで考えるさ。



本編で触れられない設定

06.戦闘システム
ターン制バトルではなく、まさかのリアル路線。
モンハンみたいにアクションかつ奇襲可。さらに怯みあり。
呪文攻撃でも怯むため先制攻撃の重要さが恐ろしく大きい。

07.アイテム
効き目は速攻。いろいろリアル路線になっていく世界でそこはゲーム通り。あと、戦闘中にキメラの翼が使えるなど、細かい差異がある。キメラの翼の強力さに気づいた主人公はこれが手放せなくなりつつある。


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あるだけください。

Side 神様

【それを売るなんて】ヒキヲタをドラクエの世界に転生させたら太陽の石を売り払いやがったwww【とんでもない】

1 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
金が無いからって最重要アイテムの一つを売りやがったwww
どうすんだよゲームクリアできないじゃんwww

2 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
ワロタ

3 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
ドユコト?

4 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
スレタイで草



「スレ伸びねぇな……」


「勇者さん、勇者さん。《聖水》入荷しました!」
「……マジで?」
「フフ、マジです!」

ラダトームの城下町、いつも《魔法の聖水》を売ってくれている店で、そこの看板娘さんが声をかけてくれた。

《聖水》とはこのアイテムの効果が生きている間、モンスターが近寄ってこないアイテムである。

これがあるのと無いのとで、俺の生存率は大きく変わる。俺はコイツを喉から手が出るほど欲しがっていたのだ。

ゲームからリアルになったこの世界にはちゃんと物流というものが存在するらしく、俺がこの世界に来た時点では《聖水》は品切れしていた。

「……箱でください」
「……プッ、オカシイの。敬語になっちゃってますよ。それにそんなに持てませんから」
「とりあえず、持てるだけください」
「ハイわかりました!えっと、これも小型瓶でたくさん持てるようにしましたから!」
「いつもありがとうございます」

思わず深々と頭を下げる。
《魔法の聖水》を大量に持ち運べるようにしたいと話したところ、濃縮して小型瓶化することを考えだしたのは何を隠そう彼女である。
彼女抜きに俺のレベリングライフは語ることができないのだ。
《聖水》も可能なら小型化してほしいと頼もうと考えていた矢先のこの発言。え、もしかして神様ですか?いや、こんな言い方したら失礼だな。彼女に対して失礼だ。

「そんな、こちらこそ、です。それに勇者さんがいてくれるから私たちは希望が持てるんです。頭をあげてください」

涙が出そうだ。こんなに優しい言葉をかけてくれる娘は他にいない。

……女僧侶さんも見習ってくんないだろうか。

勇者 Lv.18 ♂
HP/MP:81/45
現在装備 
頭:なし
胴:布の服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:ポイズンダガー
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

この世界に転生してから実に4ヶ月。

……考えてみたら《聖水》ナシでよく4ヶ月も生き延びたな、俺。

 ◆ ◆  ◆   ◆

1週間前の朝のことである、ラダトーム城がひっくり返らんばかりの大騒ぎになっていた。

「……何があったの?」

フィールドでは気を張ってる分、城の中での俺は気が抜けまくっている。寝間着のまま部屋から出て、廊下をただならぬ様子で駆けていた女僧侶に声をかけてみた。

「大変なんですよ勇者様、《太陽の石》が見つかったんです!」
「……え?」

……え?



あとで聞いた話によると、《太陽の石》を持て余した道具屋のおやじが結局これをラダトーム城の王様に献上したらしい。とうの昔に失われたと考えられていた国の秘宝を前に王様はひっくり返り、家来たちは慌てるばかり。
とりあえず道具屋のおやじは500000Gの報奨金、およびラダトームにおける税の免除を生涯保障されたらしい。

……えー。
マジで?ゲーム内では特に反応を示してくれないから皆どうでもいいんだと思ってたわ。



話を聞いた後おやじの顔を見に行ったら、滅茶苦茶いい笑顔で、「ガッハハハ、おう!あんちゃん、アレ(・・)を売ってくれてありがとよ!お陰で大儲けだ!全く勇者様様だぜ!ガッハッハッハ!」って言われた。喜んでくれてくれて何よりです。とりあえず一発殴らせろ。

何も知らない女僧侶からは「よかったですね。これでりゅうまおう討伐に一歩近づきましたよ。道具屋さんに感謝しなきゃですね」と言われる始末。胃がいてぇ。

そんなこんなで目の前に転がっていた安定した収入源を見逃していた俺といえば……

「メガンテェェェェェ!」
「「「ウガァァァァ!」」」

ここ一週間、よりよい収入のためにゴールドマンを探し、《キメラの翼》を握ってフィールドを駆けていた。



《聖水》を買って、早速実戦投入する。

スゲェ、全然モンスター達に気づかれてねぇ。これならゴールドマン狩りも安定するな。

一旦城に戻り、色々と準備してゴールドマン狩りに出掛ける。
よっしゃ、これでやっと収入源を確保できる!
出かける際に思わずニヤけているところを女僧侶に目撃され、「どうしたんですか?いつもにまして気色が悪いです」と言われたが今の俺には気にならねぇ。

気にならないと言ったら気にならねぇ!



本編で触れられない設定

08.主人公の持つ特技について
レベリングしたら自動的に特技が増えていくのがドラクエの特徴であるが、リアル化しているこの世界ではその限りではない。
あくまで元々の才能というものがなければレベリングしても特技を修得することはできない。
主人公には《ギラ》の才能しか無かったようである。主人公はいくらレベリングしても特技が増えないため女僧侶に相談したところ「そんなことも知らなかったんですか?」と呆れ顔で言われた。
才能は無くとも修行によって特技を修得することは可能で、「私も忙しいから、見てあげるのは少しだけですからね。あんまり時間を取らせないでください」と女僧侶さんに修行をつけてもらっているところである。

09.ゲームと主人公を取り巻く状況が違うことについて
10年間で色々あった。

10.ゴールドマン
ゴーレム型のモンスター。高い体力と物理攻撃力を持つ。体力のわりに得られるEXPは少ないが代わりに大量のゴールドを吐き出すATMみたいなやつ。主人公の金策として選ばれた。


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へんじがない。どうやらただの

「3日もどこほっつき歩いてたんですか?」
「……ゴールドマン狩って、ロトの洞窟ねぐらにしてました……」

はぁ、と女僧侶がため息をつく。

「心配したんですよ?馬鹿だから身の程もわきまえずにダンジョン内で野垂れ死にしたのかな?とか、勇者をやるのが嫌になって支度金持ち逃げして国外逃亡したのかな?とか」

俺ってそんなに信用無いですかね?

「修行をつける約束をすっぽかしたくせに何か文句でもあるんですか?」
「すみません、マジ許してください」

今現在、俺は女僧侶に正座させられていた。



《聖水》を入手してからというもの、見晴らしが悪くどこから敵が襲ってくるかわからない《林》のフィールドも避けなくていいようになった。むしろ戦闘に入った後も木々を盾に取ることができる分、林での戦闘の方が安全なくらいである。
そんな訳で、ラダトームとガライの街の中間に存在する密林で経験値稼ぎをしつつ、ゴールドマンを見つけては《メガンテ》をぶつけていたのだが、森の中心に開けた場所があり、そこで《ロトの洞窟》を見つけたのだった。
原作知識で敵が出てこないことを思い出し、ここにキャンプを張ってみたところ、聖なる気配みたいなものが漂っていて安心感が半端ない。

ちなみに、ラダトームからガライまで俺の足では急いでも半日ほどかかる。リアルになった世界では移動時間という枷があるのだ。
……ここに泊まりこみで経験値稼ぎしたら無茶苦茶効率よくね?
そんな冒険心を起こしてしまっても仕方のない事だろう。

そんな訳で《ギラ》でMP消費を抑え、移動時間は《ロトの洞窟》で寝泊まりすることで抑えるという方法でぶっ続けで3日間、経験値稼ぎ・ゴールド稼ぎをしていたのだ。これも小型化され大量に持ち運べるようになった回復アイテムあってこその話である。看板娘さんにマジで感謝。



……そして、テンションを上げていた結果、女僧侶との約束をすっぽかし、こうして正座させられていると、まぁこういうわけである。

勇者 Lv.20 ♂
HP/MP:88/68
現在装備 
頭:なし
胴:布の服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:ポイズンダガー
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

転生してから5ヶ月。
Lvは上がれど男としての成長はしていない。
生前もこんな感じだったから彼女の一人もできなかったんだろうかと正座させられながら自省していた。

 ◆ ◆  ◆   ◆

結局、女僧侶に城下町で食事を一回おごることで、約束をすっぽかしたことについては手打ちということになった。

……いや、これは少し罰としては重い気もする。

費用の話ではない。財布の中身はゴールドマンのおかげで潤沢だ。
苦手な人物と二人きりで一緒に食事をしなければいけない、ということが問題なのだ。

……いや、どう対応しろと?


だが、この心配は杞憂に終わる。



「ヒック、もう一杯……」
「いや、もうやめておきましょうよ」
「何でもおごるって約束したじゃないでふかー!」

こういうのなんて言うんだっけ?えっと、前後不覚?

よほど腹に据えかねていたのか、後先考えずに酒を頼んでいく女僧侶。
で、気がついたらこのザマである。

「勇者様も飲むんでふよー!」
「いや、俺アルコールだめで……」
「私の酒が飲めないって言うんでふかー!……ヒック」

女僧侶さん、まさかのからみ酒である。
……聖職者って日頃から抑圧されてるイメージあるもんな。その反動か?



「うーん……」 スピー …… スピー ……
「うっぷ……」

俺が限界手前のところで、やっと女僧侶がダウンする。
こんなことなら絶対に約束をすっぽかさない。二度とすっぽかさないと今決めた。

「ぐー……むにゃむにゃ……」 スピー …… スピー ……

酒屋の女将さんに会計をしてもらったあと、席に戻って女僧侶の様子を確認する。

……これじゃ城に戻るのは無理そうだな。俺も限界だし……

既に日は暮れている。今日はここで宿を取るほうが良さそうだ。そう考え、すぐに女将さんに頼んで部屋を2つ取ってもらう。
食事代に比べて、宿の費用はかなり軽い。このくらいはサービスするべきだろう。
そう考えながら、彼女を抱え上げる。部屋まで運ぶためだ。

部屋まで運んだあとは、女将さんに世話を頼もう。
そんなことを考えた直後。

「……むにゃ……勇者様……」

起こしてしまったか?と思ったが違った。女僧侶の目は閉じられたままだった。



そして、眼尻には涙が溜まっていた。



「心配、したんですから……」

ツー、と涙が、女僧侶の顔を伝って床に落ちた。

「…………」
「むにゃ……」 スピー …… スピー ……

……どうやら、ただの寝言のようだ。

全く、今日は散々だった。

こんなことなら絶対に約束をすっぽかさない。
二度とすっぽかさないと、今決めた。



本編で触れられない設定

11.フィールド
ゲーム内では床に林が書かれていようが、草が書かれていようが、山が書かれていようが変わらずに通ることができるが、この世界ではそれらが実際のものとなっている。
林の中では木々が邪魔して、敵にエンカウントするまでその存在に気が付かなかったり、山は越えるのに時間と体力を使う。そのため、基本的には林も山も避けるのが冒険の基本となる。

12.女僧侶
職業としての初出はドラクエⅢ。
ドラクエ(初代)は大陸から《光の珠》が失われているため、暗黒の時代となっている。
この世界・この時代においては、女性は「子を多く産み、家を守ること」が役目であるとされ、戦いに関係する職業・聖職に女性がつくことにたいしての風当たりは大きい。そのような状況で女僧侶を彼女がやっていけるのは、才能と努力によるものだが、風当たりが完全に消えたわけではなく、彼女の性格がキツイのは自衛のための手段である。


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おい、殺意をおさえろ。

Side 神様

「ふざけるなぁぁぁぁ!勝手にフラグ立ててんじゃねぇぇぇ!甘々しやがってぇぇぇぇ!R-18シーンに突入しないならアクションシーンにサッサと進めやァァァ!」
「(何でこんなワガママな人が神様やってんだろ?)」


息を潜める。
……焦るな。殺意を抑えろ。
自分にそう、言い聞かせる。

ゴールドマンが近づいてくる。草むらに潜んでいる俺には気づいていない。



城の剣術指南のおっさんの言葉が思い浮かんでくる。

――――――よいか、重要なのは剣速などではない。剣が相手に届くその瞬間まで、相手に殺意を気取られないことだ。これを極めるだけでも十分な意味がある。

――――――まぁ、信じろ。俺にもできたんだから、お前にもできるさ。
ニカッと、想像の中でおっさんが笑った。

いい笑顔しやがって。絶対ミスるわけにはイカンな。最期に思い出す笑顔があのおっさんとか絶対嫌だわ。



彼我の距離、後8m。
7m

5m
4m

2m

……今だ。

スゥ……

息を一つ吐き、草むらから飛び出す。
まだ、気が付かれていない。奴の正面に飛び出したにもかかわらずだ。



右手の剣をゴールドマンの体の中心に突き出す。
まだ、気づかれていない。

剣が突き刺さる。
まだ、気づかれていない。

硬い感触が手に伝わってくる。金属音。
ダメージが通ったのがわかる。
まだ、気づかれていない。

―――よし!

そこで気を抜いてしまった。
ほぅ、と呼吸してしまう。
そして、ゴールドマンに気が付かれてしまった。
だが、余裕だね!急所に会心の一撃を決めた後だ。このまま剣をひねれば、お前はバラバラだね!

……あれ?
……剣がかなり軽くなっている気がする。

右手の剣を視線をやる。……あ、剣折れてるや。

「ウガァァァァ!」

ゴールドマンが腕を振り上げる。

「メガンテ」
「ウガァァァァ!」



煙をあげるゴールドマンを背にして、薬草の丸薬と水薬を飲み込む。

うん、やっぱ俺は剣に向いてないわ

 ◆ ◆  ◆   ◆

ラダトーム城下町の武器屋に剣を持っていく。剣を引き取ってもらい、新しい剣を買うためだ。

折れた剣を見せるとおやじに睨まれた。剣を折った状況について包み隠さず話す。

「で、剣をダメにしたと?」
「うん、だからもっと良いやつを売ってくれ」
「馬鹿野郎!《どうのつるぎ》を折るようなやつが《はがねのつるぎ》を使いこなせるわけが無いだろうが!強い分、あちらの方が折れやすいんだぞ!」
「……やっぱ?」
「もう、この店の敷居を跨ぐんじゃねぇ!」

武器屋のおやじに叩き出される。
まぁ、明日になったらケロッとしてるだろ。明日また来よ。
なんだかんだ、いつもいいのを売ってくれるしな。



今現在、俺は剣で戦う道を模索していた。
今更ながら、《メガンテ》を主軸とした戦い方に危うさを感じたのだ。

ある程度Lvは上げた。フィールドを駆けずり回っているうち筋力も大分ついた。
そろそろ、剣を使ってもある程度戦えるんじゃね?とか思ってしまったのもある。

けど、現実はそう甘くない。

人間に比べて、魔物たちというのは強大な存在だ。
それに比べ、人間の手で作られる道具の脆さよ。
ぶっちゃけ、戦闘の中で剣を取り落とすことをしなくても、剣の方から勝手にポキポキ折れていくのだ。

そこで、重要になってくるのが剣術……平たく言えば、《特技》である。
極めれば、剣を痛めずに相手だけにダメージを通すことができる。

うん、俺、物理技一個も持ってないですよ?
Lvを上げても、俺が物理技を覚えることができるとはとてもじゃないが思えない。
っていうか、ここ初代の世界だろ?物理技の特技とかあんのかよ?

で、調べたらあった。っていうか、ラダトーム城の兵隊長のおっさんが剣術指南とかいう肩書を持っていた。

《火炎斬り》《真空斬り》さらに《疾風突き》。今の所、おっさんが使える技のうち見せてもらったのはここまでだ。俺が真似ようとしていたのは《疾風突き》である。
失敗して剣は折れちまったけどな!

……うーん、俺やっぱ勇者っぽくねぇわ。っていうか、おっさん無茶苦茶強そうだったんですけど、なんでおっさんが勇者じゃないんですかね?

剣も無いし、今日は城に帰って城の予備の剣でおっさんに稽古つけてもらってよ。
あ、ついでに剣を借りパクするのもありだな。


……っていうか、剣で戦おうとしてたら序盤で詰んでたんかい。
転生してから6ヶ月。
今更、メガンテを特典にしてくれた神様に感謝しているところである。

……いや、やっぱオカシイわ。剣から炎とか風とか出るわけないじゃん。
おっさんなら「その観念がイカンのだ」とか言い出すところだけどな。



本編で触れられない設定

13.物理技
魔力を必要としない特技。基本的に~斬りという名の特技は発動に剣を必要とする。
この世界では魔法効果を乗せる剣技でもMPを消費しないが、つまりMPを消費しないで魔法と同じ効果を再現するということなので、下手な魔法技より敷居が高い。


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俺達の冒険はまだ始まったばっかりだ!

今現在、俺は剣術指南のおっさんと相対して剣を構えていた。
剣の修業をつけてもらっている最中である。

さっきから何回も切りつけちゃいるのだが、全部紙一重でかわしていくおっさん。
かわす度に、「おらおらどうした!そんなんだから女心も捕まえられないんじゃないのか!」とか煽ってきやがる。
……落ち着け、俺。この煽りは、修行に必要なものなんだ。

重要なのは剣速でも、構えでもない。
感情を鎮めること。
と言っても、穏やかな心持ちを意識するのではない。
殺意を“尖らせる”のだ。

細く細く。
剣尖が、突きつけられていては目で捉えにくくなるのと同じように。

――――――《疾風突き》!

技を繰りだそうと意識した瞬間。
頭の片隅でチリッと何かが焼き切れるような音がした、気がする。
今まで何回も失敗してきた時とは違う感覚。

灰色に染まる世界。何もかもがスローモーに見える。
つきだした俺の剣が、おっさんの胸に吸い込まれる。



カーン
カラカラカラカラ………
金属のプレートが弾け飛び、石の床を滑って行く音。

俺の片手長剣が、おっさんのアーマーの胸装甲部分を吹き飛ばしたのだ。

おっさんは、動かなかった。
俺の攻撃をすべて紙一重で見切っていたのに、今の攻撃はかわさなかった。

っていうことは……。

「…見事だ」

おっさんがつぶやきを漏らす。



おっさんとの本格的な訓練を始めてから2週間目にして、俺は初めて物理技を習得したのだった。



だが、おっさんの賞賛の言葉は耳に入ってこなかった。

ピロピロピロ―
頭のなかで、あの気の抜けた音が聞こえていたからだ。

……やっぱオカシイって。

勇者 Lv.25 ♂
HP/MP:97/88
現在装備 
頭:頭用防具
胴:胴用防具
武器:訓練用片手長剣
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》
 《疾風突き》←New
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

転生してから7ヶ月。
おっさんとの訓練が一番経験値稼ぎになるという事実に俺は戦慄を覚えていた。

おっさん、俺と勇者を交代しねぇ?

 ◆ ◆  ◆   ◆

「……ほぉ、1ヶ月ちょっとでやつの奥義の一つを覚えたのか」
「すごいことなん?」
「バカ言え!たった一つだぞ!それだけで実際にモンスターと戦って勝てんのか!」

……あー、たしかにな。

武器屋の奥の道場で、俺はおやじに《疾風突き》を披露していた。
それに対してのおやじの言は、バッサリと「役立たず」である。
ひどすぎやしませんかね
まぁ、正論だから言い返せねぇんだけど。

「ふん、だがまぁいい。これでやっと剣を売ってやれるからな」

おっしゃ、それを待ってたぜ!

「待ってろ……」

おやじが一旦カウンターに戻って行く。
今度は《はがねのつるぎ》を売ってくれるんだよな?

だが、おやじが持ってきたのは俺が予想だにしないものだった。
……なぁにこれぇ?

「《どくばり》だ」

おやじが持ってきたのは、漆黒のダガー。

「《どくばり》?」

おやじがフン、と鼻をならす。

「おまえさん、《魔法使い》だろうが。《はがねのつるぎ》じゃ腕がもたんぞ」

 ◆ ◆  ◆   ◆

早朝。まだ、日が登らないうち。

俺は門番の兵士に頭を下げて、外に出ていた。
目標LV.に達したので、さっそくリムルダールまで足を伸ばすことに決めたのである。

リムルダール。《まほうの鍵》を売っている街。
ぶっちゃけ、ここにさえ着けば初代における謎解きの大半は終わったと考えてもいい。難解なダンジョンをクリアする根気があれば、フラグの見落としはもうほぼありえないレベルである。

で、この世界にはちゃんと世界地図が存在するのだ。

え、ヌルゲーじゃん。
マイラの街も、リムルダールの街もハッキリとその位置が載っている。
夜中は魔物が凶暴化するとはいえ、《聖水》でエンカウントは大分抑えられるうえ、Lv.も大分上げた。アイテムのストックも申し分ない。

準備は万端。よし行くか!
急げば今日の夕暮れにはマイラにつくはずだ。

「本当に行くんですね……」

……女僧侶さん、なんで居るんすか?

「いえ、最後になるかもしれないからと、顔を拝みに来たんですよ」
「「ヒドい!」」

悲鳴を上げたところ、誰かとハモる。
門番の兵士が今の会話を聞いていたようだ。

餞の言葉がそれって、どうなんすかね?

「……そう言うなら、ちゃんと帰ってきてください」

それだけ言うと、奥に引っ込んでしまう女僧侶。
眠かったのか、目を手の甲で擦りながら帰っていく。

へいへい。ちゃんと帰ってきますよ。

考えてみりゃ、まだ《妖精の笛》も《銀の竪琴》も手に入れちゃいない。
《ロトのよろい》も《ロトのつるぎ》もどこにあるかは忘れちまった。

まだ、俺は何も成し遂げちゃいないのだ。
こんなところで早々に死ねるか。

俺は意を決して、真夜中のフィールドへと駆け出す。

俺の探求(クエスト)は、まだ始まったばかりだ。

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砕け散れぇぇぇぇ!

「ウガァァァァ!」
「うぉぉぉ!」

ゴールドマンの一撃。
俺は、《どくばり》と《ポイズンダガー》を交差させる。
振り下ろされたゴールドマンの太い腕を《やいばでぼうぎょ》し、受け流す。

ゴールドマンは、思い切り地面を叩き、泥が辺りに飛び散る。

俺の両腕がきしみをあげるが、Lv.25ともなれば一撃くらいは耐えきれるものらしい。だが、ダメージを通されたのを感じる。
そのうえ、特技として成立していない《刃の防御》なんかに使ったせいで、右手のダガーが砕け散ってしまった。

くっそ、愛用してたんだぞ!弁償しろ、弁償!

「ウガァァァァ!」

腕を削られた痛みにだろうか、苦悶するゴールドマン。あいつら痛覚あったのかよ。まぁ、断末魔の悲鳴をあげるくらいだし。

だがまぁ、いい。もう終わりだ。

「ウガァァ……ァ…?」

ゴールドマンの動きが目に見えて鈍くなった。
状態異常《麻痺》。

俺の使っていた《ポイズンダガー》は、その刃に神経毒が焼き付けられているマジックアイテムだ。俺の前任の勇者達の遺産の中にこっそり紛れ込んでいた一品。
この時代に麻痺の概念は存在しないはずのため、おそらく前任の転生勇者の特典なのだろう。
こいつで繰り出す一撃は、すべて《マヒ攻撃》と化す。
正真正銘の一品物。この世界で、もう手に入ることはありえない。
奥の手として最後まで取っておきたかったのだが、仕方あるまい。

何故俺はメガンテでゴールドマンをかたさないのか?

ジリッ ジリッ HP49→48→47→46→………

今俺が立っている場所が、《毒の沼地》だからである。
メガンテなぞ使おうものなら、1秒後にはお陀仏だ。

そして、こんなところで、逃げ出さずにリスキーな戦いを繰り広げている理由。

「ゲホッ……うっ……」
「意識をしっかり持て!今助ける!」



今、俺は背後に行き倒れている冒険者を庇っていた。

「《疾風突き》かーらーの!」

ゴールドマンの胸元に飛び込んで、おっさん直伝の必殺技を繰り出す。
《どくばり》が半分ほど、ゴールドマンの胸に突き刺さった。
ゴールドマンの胸からくもの巣状にヒビが入る。

剣を引き抜くのと同時に、俺はそこに右拳を叩き込んだ。

「《ギラ》だぁぁぁぁ!」

右手から、圧縮された炎が生み出される。
ゴールドマンの体内に叩きこまれ、行き場を失ったそれは……

「うぉぉぉ!」
「ウガァァァァ!」

激しい閃光と、爆音。
ゴールドマンは、くだけちった。

HP20→19→……

俺のHPも大分、ヤバイ感じになりつつあったが……

「大丈夫か!」

俺は、倒れている冒険者に駆け寄る。
顔面が蒼白で、今にも呼吸をやめてしまいそうだ。

くそ!やばい、やばい、やばい、やばい!
こういう時、どうすればいいんだっけ!
えっと、昔学校で習ったろ、倒れている人間にはまず、人工呼吸とか!

ポーチから《アモールの水》を取り出す。
俺は、それを一口分、口に含むと。

こ、こうか!

「うっ……むっ……」

 ◆ ◆  ◆   ◆

その後、一命を取り留めたその冒険者と一時的にパーティを組んで、キメラの翼で一緒にマイラまで飛んだ。

俺と違って、その冒険者は毒の沼地の《毒》が抜けきらず、1ヶ月ほどの療養が必要だった。

しかし、その冒険者には、手持ちも、マイラに知りあいもいなかったため……



「言い訳はそれだけですか?」
「い、いや、俺は人として当然のことをしていたわけで!」
「言い訳はそれだけですか?」
「……それだけです」

ラダトーム城の一室。
神を祀る祭壇の前で、俺はまた、女僧侶に正座させられていた。

ラダトーム城では、俺は1ヶ月の間、行方不明として扱われていたのだ。
まぁ、三日ぐらいなら前例もあるわけなのだが、今回はリムルダールまでの道程に、《毒の沼地》《沼地の洞窟》などの危険地帯が存在することも相まって、「これ、勇者死んだんじゃね?」とまことしやかに噂されていた、というわけである。

俺はといえばその間、その冒険者さんを見捨てるのも嫌だったので、薬草を煎じては飲ませるという看病を冒険者さんの毒が抜けきるまで続けていただけなのだが。

……信じてください。神に誓って、何もやましいことはしてないんすよ。



「勇者様は、わたしの命のおんじんなのだ!あまりおこらないでほしいのだ!」

……本当にやましいことはなにもないんすよ。

「1ヶ月間、消息不明で。挙句、幼い女の子を連れて帰ってきた勇者様を見て、信用しろ、という方が無理がありませんか?」

……。

………。

…おっしゃるとおりです。

ここファンタジー世界なんだよな?
なんで兵士共に「事案発生!事案発生!勇者様ご乱心!」とか騒がれなきゃなんないのさ。

「わたしと、勇者様は“きよいかんけい”というやつなのだ!ちかってやましいことはなにもないのだ!」

そこ、ちょっと黙ってなさい。話が余計こじれるから。



今現在、俺の隣には、幼女がちょこんと正座をしていた。

異世界転生してから8ヶ月。俺の肩書が勇者から“ロリコン”へと変わるかもしれない。

(社会的に)俺は死にかけていた。

……胃がヤバイ。



(後)
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14.どくばり
初出はⅢ。毒蜂の針を剣へと加工した武器。
固い敵にも確実にダメージを与えられるが、刃が小さいためダメージ量は小さい。その代わり、ランダムで攻撃が即死攻撃になる。
この時代のアレフガルド(初代の冒険の舞台となる世界)には存在しないモンスターの素材を使っているため、かなり希少価値の高い武器である。それをポンと渡してしまえるあたり、実は武器屋のおやじもこの主人公に期待しているらしい。
また、モンスター素材を使って加工している武器であるため、金属素材の武器よりかなり耐久が高い。

15.毒の沼地
ダメージ床の代表格。
この世界では足を踏み入れた時間に応じて、その体力を削っていく(およそ15秒にHP1)。
リアル化したこの場所には毒草などが生い茂り、それらが出す毒に体力を削られる。また、抵抗力が無いと毒が体内に残留し、後遺症を患うことになる。

16.刃の防御
ダメージを軽減しつつ、相手の物理攻撃にカウンターするという特技。
この世界では剣技の一種。剣で敵の攻撃をいなしながら、隙を見て攻撃する。
主人公は刃に毒を塗りこむことで、相手の状態異常を誘うことが可能だと考えたが、武器屋のおやじに怒られたのでやめた。曰く、「手入れをするこちらのことを考えろ!」と。
ポイズンダガーがお亡くなりになったので、もう無理な戦法になってしまった。


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ロトの鎧?いらない子ですね。

Side 神様 ※At前話

『あらあら、お兄さんたら、帰ってきたの?やっぱり私の“ぱふぱふ”を……って、その子どうしたの?』
『頼む!医者を!医者を呼んでくれ!』
『わ、わかったから落ち着きなさい!』



『……にがいのは、いやなのだ……』
『でも、これを飲まないと元気になれないぞ?』
『いやなものはいやなのだ!』 プイ
『……ちょっと待ってろ』
『……あ』

『ひとりにしないでほしいのだ……』

バタン
『蜂蜜と山羊の乳をもらってきたぞ!』
『……そんなものどうするのだ?』
『こいつをこうして……ほれ、飲んでみ?』
『……あまくて、おいしいのだ』
『これなら、無理なく薬草もいけるな。はじめからこうしときゃ良かった』
『……ワガママをいってごめんなさい、なのだ』
『ちっ、ちっ、ちっ。違うね。こういう時はまず、お礼を言うもんなんだよ』
『お兄ちゃん……ありがとうなのだ』
『どういたしまして。早く元気になれよ?』



「砕け散れぇぇぇぇ!いや、やっぱいい!俺とポジションを変われぇぇぇぇ!じゃないなら今すぐアクションシーンへ突入しろ!ライトナウ!そして氏ね!お願いだから砕け散れぇぇぇぇ!」
「神様、落ち着いてください!無理ですから、作品世界に介入しようとしないでください!」
「バグとか元々あるから、一つや二つ今更増えたってかまやしねぇよ!俺にあいつをぶっ○ろさせろぉぉぉお!」
「崩壊しますから!神様が暴れちゃうと作品世界が滅びちゃいますからぁぁぁ!」






『でも、あのときのあれ(・・)は、もっとあまかったきがするのだ……』


「進捗は?」
「んー?いい感じだよ―?あと3回も取りに行って貰えれば完成するかな―?」
「また失敗したのか……」
「失敗じゃないよ―?これは駄目ってことがわかっただけだよー?」

その気の抜ける話し方を止めてください、とは言わない。彼女に機嫌を損ねられると、後々、凄く面倒くさいからだ。



ラダトーム城、秘密の地下室。《太陽の石》が保管されていた場所。
原作から10年経ったこの場所には、「賢者の弟子」を自称する変人女科学者が住み着いていた。

……まぁ、彼女のお陰で太陽の石を手に入れられたんだから悪くは言えないんだよな……。

ちなみに、奥では賢者の爺さんが寝ている。ゲームでは役目を果たして休みについたという感じだったが、今爺さんがしているのは不貞寝である。
半分騙すかたちで《太陽の石》を持って行かれたので拗ねているのだ。

これ、「太陽の石を売っちゃいました」とか言ったら、マジギレするよな?絶対ばれないようにしなきゃ……。

そんなよしなしごとを考えていると……。

ポン、と軽い爆発音。

女科学者の手元でフラスコから煙が上がっていた。

「よし、ここでこれをもっかい爆発させて……?」

ウェイウェイ!ゴーグルにヒビ入ってる!そのまま使うのは危険だから!

「えー、でも、もう替えが無いよ―?自分で買いに行くのダルいなー?」

……俺が買ってくるから。

「わかったー、すぐ帰って来てねー?」

 ◆ ◆  ◆   ◆

沼地で拾った女の子をどうするかについて、俺は悩んでいた。

ぶっちゃけた話、女僧侶さんの虫のいどころが悪いのである。
原因は、間違いなくこの女の子だろう。
早く誤解を解く必要がある。

そのためには、この子を少しでも早く家に返してやる必要がある。

あるんだが……。

女の子 Lv.2 ♀
HP/MP:17/58
現在装備 
頭:ボロボロの髪飾り
胴:布の服(買い与えた)の上に旅人のマント
武器:なし
盾:なし
特技:《ホイミ》《トヘロス》

俺が彼女とパーティを組んだ時に見た、女の子のステータス。

おそらく、俺みたいな《魔法使い》ぐらいにしか分類しようがない半端者ではなく生粋の才能の持ち主。

だが、Lv.が低すぎる。どうしてあんな所に居たんだ?

「……覚えていないのだ」

彼女に聞いても帰ってくるのはこの答えだけ。彼女自身のことに関してもそう。

俺はそれ以上の追求を諦め、彼女をリムルダールまで連れて行けばいいんじゃないかと考えた。おそらく彼女は洞窟を抜けてやって来た。なら、リムルダールまで行けば彼女のことについて何かわかるはずである。

しかし、彼女の体力では毒の沼地を抜けられない。無理に《ホイミ》で解決しようとして彼女は倒れていたわけだし……

……《トラマナ》さえあれば……いや、もしかして……



「簡単じゃないね?この時代、この地域では失われているわけで?文書はほとんど失われているし?調べても無駄じゃないかな?」

……そっすか。

期待していただけに、落胆も大きい。

俺は、原作知識をもとに「古い人間なら、古い呪文を知っているんじゃね?」とか考えて地下室に降りていた。
だが、爺いは相変わらず不貞寝していて、代わりに女科学者がこう答えてくれたというわけである。

「待ち給えよ?簡単じゃない、とは言ったけどできないとは言ってないかな?無いなら、新しく作ればいいんじゃないかな?」

…え?そんなコトできんの?

「どんな魔法も誰かが生み出したんだ。やってできないことは無い。そして私は《魔法使い》であり、《化学者》だ。なら、呪文を創りだすのがその本分だよ」

「……まかせてくれないかな?」

 ◆ ◆  ◆   ◆

結局俺は、女科学者に焚き付けられる形で、繰り返し、毒の沼地に足を運んでいた。

目的は、必ず存在するであろう、《毒消し草》の探索および入手。

俺は、彼女に毒の沼地の様子を話した。
確かに、毒で死んだと思しきモンスターも見たが、ほとんどのモンスターはそうでなく、普通に生活していた。
そして、彼女が導き出した一つの仮定。

「毒の沼地にも敵は湧いてくる?でもオカシくない?人間が毒にやられて、他の生物はやられないなんて?思うに、そこに住んでいるモンスターは特殊な抗体を持っているか……もしくは、定期的に抗体となるものを摂取しているか、じゃないのかな?」

「そうだな、モンスターが食事をしている場面を追えば、そこにきっと、私たちの探しものがあるかもしれないね?」

そして、《聖水》と《薬草》、《魔法の聖水》なんかをがぶ飲みしながら、モンスターウォッチングを続けて。
俺は《毒消し草》と思しきモノを探し当てたのだ。
最初にこれを見つけたのが、ラダトームに女の子を連れ帰ってから7日目のこと。

「うん、これは違うね?」

バッサリと切り捨てられた。

そして、再び、毒の沼地へ。

「これも違うかな?」

そして、再び。

「これも違うね?」

そして……



「あ、これっぽいよ?」

7回目の挑戦、腕いっぱいに抱えた野草の中から、ようやくそれは発見される。
《毒消し草》。
アレフガルドにも存在したのだ。

「じゃあ、早速……?」

女科学者は、それをフラスコに入れ、火にかける。
そして、怪しげな液体を追加して……。



見事に爆発させた。

……えっと?

「……悪いんだけど、もう一回取ってきてくれるかな?この組み合わせじゃダメみたいかな?」

あああああああ!

 ◆ ◆  ◆   ◆

「《トラマナ》完成したよ―!」

完成した―!

何がどうなってフラスコとにらめっこしてたら呪文が完成するんだ?なんて突っ込む無粋な奴はここにはいない。いいじゃんできたんだから!

「じゃあ、教えるから?覚えてね?」

そして、数時間かけてのレクチャー。

「あざ!行ってくる!」
「もっと、顔を出してくれてもいいよー?」

背中に女科学者の声を聞きながら階段を駆け登る。
今度、なんか菓子でも包んで持ってくるべきだな。

勇者 Lv.25 ♂
HP/MP:97/88
現在装備 
頭:なし
胴:布の服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり&鋼のダガー
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》
 《トラマナ》←New
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

転生してから9ヶ月と、少し。

これあれば、ロトの鎧いらなくね?と気がつくのに秒読みに入ったところである。



本編で触れられない設定

17.薬草
おなじみの回復アイテム。ホイミを使えるようになる前後ではコイツの世話になることが多い。
アレフガルドでは一般的な治療薬として出回っているが、効果は覿面。切り傷ぐらいなら、噛んでるだけで即治る。物理法則を無視するため、実はマジックアイテム。味はかなり苦いらしい。子供はたいてい嫌がる。
一般人からすればこれが一つあれば大体のことは解決するので、薬草を毎回大量に買い込んでいく勇者は白い目で見られることが多い。

18.ロトの鎧
万能中の万能アイテム。
これ一つで、移動時の体力回復、マホトーンへの耐性、ダメージ床の無効化といった能力を得ることができる。りゅうおうの城ではダメージ床に悩まされることも多いため、りゅうおうの城攻略のための必須アイテムではあるが、根性さえあれば、これが無くともクリアできないわけではない。
今回主人公は、根性ではなくトラマナを手にれたので、根性が無くともりゅうおうの城が攻略できるようになった。

19.アモールの水
初出はⅥ。
水薬状の回復アイテム。甘いらしい。薬草より効果が高く、味もいいため値段が張る。具体的には薬草の15倍程度。
アレフガルドでは貴重なものであり、これを花嫁道具に持たせるほど特別なもの。お値段は……。
「アモール」はラテン語などで「愛」を意味する。


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物理無効とかなにそれズルい。

「ヒャヒャヒャヒャ!」

ゴーストが飛びかかってくる。こちらが剣を構えているのにもかかわらずだ。

ゴースト。
ゲーム中においてのこいつらは、アンデット系統のモンスターの中でも雑魚がいいところだが、この世界でのゴーストは一味違う。
普段は実体を持たず、物理攻撃を無効にしてくるのだ。
呪文は効くのだがそれを警戒して、距離を詰めて攻撃してくる習性を持っている。

まぁ、向こうからの攻撃も大した威力を持たない上に、日中は出てこないため普段はこいつらを警戒する必要はない。
普段なら、である。

俺が今立っている場所は、《聖水》が意味を成さない《沼地の洞窟》の内部だ。
暗闇こそ奴らが本領を発揮できる場所。その上、障害物なし、聖水なしでは奇襲も難しいと来たもんだ。

「ちっ!」

ゴーストが攻撃を実体化させる瞬間を見切って、鉤爪攻撃をダガーで受け止める。
やつらは大した腕力を持たないため、切り払いで弾こうと大きく腕を振ったが、既にゴーストは実体化を解いていた。

舌打ちと共に、後ろに飛び退る。

厄介すぎる。
まぁ、《聖水》頼りの生活で、危機意識が鈍っていたというのもあるのだが。

……女僧侶さんの言うとおり、あの女の子を連れてきていなくてよかった。

ゴーストが再び、飛びかかってきた。
それを、もう一度ダガーで受け止める。もう何度目になるかわからないくらいに繰り返してきたため、タイミングはバッチリだ。

一回目の大振りは、ゴーストを油断させるための布石。

二回目も、大振りをしてそのままゴーストの背中に右手を回し、地面にダガーを落とした。
今度は後ろには、飛ばない。
俺が後ろに飛び退ると予測していたゴーストが、俺に肉薄し、ギョッとした顔をする。

「《ギラ》!」
「ヒャヒャヒャヒャ!ヒャヒャヒャヒャ!」

自分も巻き込みかねない超近距離で、魔法を当てる。
悲鳴とも、笑い声ともつかない鳴き声を上げながらゴーストは焼きつくされた。

無駄に知能が高いコイツラは、こんな駆け引きでもしないと、魔法を当てることも難しいのだ。
ちょっと焼いてしまう上、何体かのゴーストは最後の抵抗とばかりに引っ掻いてくるので、鎧もボロボロである。

《メガンテ》は使わない。何故なら……



「難儀なことをしとるな?お前もこれを覚えりゃ良かろうに」
―――――《ゾンビ斬り》!
俺の背後でおっさんが剣を振ると、物理攻撃が効かないはずのゴーストが両断される。

兵隊長 Lv.99★ ♂
HP/MP:410/0
現在装備 
頭:なし
上半身:黒いシャツ
下半身:アーマー
武器:兵隊長の剣
盾:なし
特技:《真空斬り》《火炎斬り》《疾風突き》《大切断》《ゾンビ斬り》
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)
スキル:
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)

《メガンテ》を使わない理由は、ただの見栄だ。

普段はこれ以上にボロボロな戦い方するのだとおっさんに知られるのが、なんか嫌だったのである。

 ◆ ◆  ◆   ◆

「《トラマナ》を開発した?何を馬鹿なことを言っているんですか!」

数日前、俺は例の女の子を城から連れだそうとして、女僧侶に雷を落とされた。

うん、本当に開発したんだよ?嘘じゃないからね?

「百歩譲って、それが本当だとしてこの子を庇いながら洞窟を抜けられるわけが無いじゃないですか!」

え?でも《聖水》あるし……

「何を言ってるんですか!ダンジョン内で《聖水》が効くわけがないでしょ!」

……え?

………あ。

で、説教と説明。
そうだね、ダンジョン内って暗いからね。常時夜みたいなもんだし。《聖水》の効きも悪くなるよね。

すみません、マジで軽率でした。
で、悩んだ。しまった、どうしようと。



そこで、思いついたことを何も考えずに口走ってしまったわけである。



―――――俺がリムルダールについた後、どこにも寄らずにラダトームまでこの子を迎えに来る。その後、《キメラの翼》を投げる、とか?

「ふざけないでください!どれだけ魔物の事をなめているんですか!そんなことができるわけが―――――」

怒り出す女僧侶さん。いや、ガチギレしなくても。そんなこと、言われなくてもわかっているって。

「いいえ、勇者様はわかってません!いつもいつも無茶ばかりで!皆がどれだけ心配してるか―――――」



「おいおい、どうした?痴話喧嘩か?」

おっさんが通りかかって茶茶を入れてくる。

「兵隊長は黙っていてください!真面目な話をしてるんです!」
「おいおい、心外だな。俺はいつだって真面目だぜ?」

気がついたら、話に混ざるおっさん。

「やっぱ、痴話喧嘩じゃねぇか。要はこの子の将来をちゃんと考えてよ!責任取ってよ!ってことだろ?」
「その耳は飾り物なんですか!どう聞いたらそんな話になるんですか!」
「え?その子はおまえさん達の愛の結晶じゃなかったのか?俺はてっきりあの夜に……」
「ち、違いますから!!」
「じゃあ、結局どういう話なわけよ?」
「だから―――――」

気がついたら、軽口を叩きつつ完全に話の主導権を握っているおっさん。

俺は完全な空気である。

「おう、それならいいアイデアがあるぜ!―――――俺がコイツに同行するってのはどうだ?」
「「……え?」」

で、俺を(別の意味で)空気にする提案をするおっさん。



……

………え?

おっさん、城の外に出れたのかよ!?

 ◆ ◆  ◆   ◆

おっさん、鬼神の如き強さである。

大概の敵は「《疾風突き》!」で抵抗することすら許さない。
ゴールドマンは「《大切断》!」で、唐竹割。
死霊の騎士は「《真空斬り》!」
はたまた別の死霊の騎士は「《火炎斬り》!」
制空権をにぎるキメラ相手に「《――返し》!」(聞き取れなかった上に、ぶっちゃけ何をしたかわからなかった)

城の周りのスライムたちが遠目に逃げ出すのも、納得である。

うん、おっさんとか言ってるけどまだ30代前半だもんな。こりゃモテるわ。
城下町にファンクラブがあるって軽口も、マジな話かもしれない。

俺、こんな化け物相手に剣を振ってたのかよ……そりゃレベルも上がるわ……。

「いや、俺とお前じゃ歳もだいぶ違うだろうが。お前も俺くらいの年には此れ位になるさ」

絶対嘘だ。
絶対嘘だ。
大人は信用出来ないからな。

「カカカ!俺が《疾風突き》を覚えたのは25だ!おまえさん、まだ20になったばかりだろうが!」

……まぁな。まさか酒が駄目だとは思いもよらなかったしな。
でも、あれだろ?《疾風突き》が必要ないくらいに元々速かったんだろ?

………黙って目を逸らすな!ほらねほらね!やっぱ大人は信用できねぇ!

おっさんと軽口をかわしながら(俺はいっぱいいっぱいだったのだが)、リムルダールに到着する。だが、アイテム消費は驚くほど少ない。移動距離はかなり伸びたはずなのに、最初にマライに行った時の4分の1程度しか使っていない。

おっさんツエー!これならマジでラダトームまで直帰可能だわ。
むしろ俺がいらないまである。
え?おっさん、マジで何で勇者じゃないんだ?



異世界転生してから10ヶ月。俺は自分の存在意義を疑い始めていた。










………いや、まさかな。

レベルカンストしているおっさんが霞むほどこの世界の竜王が強いとか、そんなオチじゃないよな?



本編で触れられない設定

20.聖水
モンスターを遠ざけるアイテム。
この世界では振りまくのではなく、飲んで使用する。
聖水の成分が体表面から揮発する間が効果時間。激しい運動などで効果時間は短くなる。
暗い場所では効果が弱まる。

21.キメラの翼
帰還アイテム。これを投げることで、パーティ全員を“一番最後の泊まった宿”のある街まで帰還させる。仕様としては、初代のものではなくⅡ以降のものに近いか。
どうやら飛ぶ先は使用者の意識を読み取っているわけではなく、《キメラの翼》そのものが覚えているらしく、そのことを示す実験結果がいくつか存在するが、どのように記憶しているのか、そのメカニズムは全てが明らかになったわけではない。

22.兵隊長
物理面では一応人類最強。兄貴肌であり、おっさんでもある。
主人公はこの人が勇者じゃない理由を、兵隊長は城の精霊か何かであるために、城を離れられないのじゃないかと疑い始めていた。


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おっさんが勇者やったほうがいいって、絶対。

Side ???

沼地の洞窟の奥。そこに10年もの間、()()は囚われていた。

彼女は祈る。
娘は逃げ切れただろうか?

もうすぐ自分は殺されるだろう。



コツコツ、と足音が聞こえる。

来た。
ああ、神様。どうか、あの娘だけは無事で。
どうか。

体が震える。
怖い、怖い、怖い。
覚悟したはずなのに、どうして。



足音が止んだ。
心臓がバクバクする。
ああ、止めて。
もういっそのこと。
そんな考えが頭をよぎる。

恐怖でどうにかなりそうだったが、叫ぶ出すことだけは堪える。
それが彼女に許された最後の抵抗だった。



………いつになっても、扉が開く音はしなかった。



気がついたら、足音の主は、既に()()()()に立っていた。



「ワレノ ネムリヲ サマタゲルモノハ ダレダ ?」

番のドラゴンが、目を覚ます。
扉を()()()侵入してきた足音の主は、明るい調子で答えた。

「なぁに、しがない一兵卒よ、ただ道に迷っちまってな」



「……あの日、奪っていったもの、返してもらえるか?」



 ◆ ◆  ◆   ◆

リムルダールに着いた次の日。

朝起きたら、おっさんが消えていた。
以上。

……状況を整理しよう。何か気がつくことがあるかもしれない。

朝起きたら消えていたもの。
おっさん、キメラの翼が2つ、目覚めの粉、聖水一瓶。あと、薬草の丸薬が一袋。そして、昨晩のうちに購入していた、《魔法の鍵》が一本。

朝起きたら増えていたもの。
書き置き、おっさんの財布。

よし、書き置きになんて書いてある?

「(意訳)お前が足手まといだから一人で行く。ラダトームに帰る時はちゃんと連れて帰ってやるから安心しろ。保険でアイテムをいくつかもらっていく。金はその代金だ。待つ間、ハネでも伸ばしておけ。そっちに行くまで3日もかからんけどな」

で、最後に「(意訳)マジでたまには休め。俺ほどじゃないが働き過ぎだ」か……。

いや、これ喜んでいいの?怒るところなの?え、どんな反応を返せばいいんだよマジで。足手まといとか酷くないか?本当の話だけどさ。

おっさの財布には、消えたアイテムでは到底吊り合わない金額が入っていた。
おっさん、大人だな。大人は汚いとか言って済まなかった。
金の力で黙らせるとか、やっぱ大人は汚いわ。

思考を整理して、伸びを一つする。



よし、今日は寝よう。

布団に潜り込み、結局その日一日はゴロゴロしていた。

 ◆ ◆  ◆   ◆

翌日。

いや、休んでろと言われたって、そうそう寝てばかりいられるわけねぇだろ。

鍵屋や道具屋に寄り、アイテムを揃え直す。
あと、街の人達に話を聞く。

RPGにおいて、ストーリーを進めるためのフラグはMobに話しかけることでそのヒントを得られることが多い。確か、リムルダールにもいくつか情報が落ちてたはず。

多くない街の住民たちに話しかけていく。
そして、わかったこと。

……やべぇ、全然フラグのヒントが集まらねぇ。

10年という時間の壁。ゲームからリアルになった世界では、人も、それらが持つ情報も移ろっていく。

くそ、わかってたはずだ。この世界はゲームなんかじゃ無いってことを。

…落ち着け、俺。今回《魔法の鍵》は手に入った。
マップもあるんだ。
最悪、メルキドの番のゴーレムは《メガンテ》で吹き飛ばせばいい。

トラマナさえあれば、《ロトの鎧》はいらない。
マップがあるから、《王女の愛》が無くても《ロトのしるし》も何とかなるだろ。

……そう言えば、王様に「ローラ姫を救ってくれ」って言われなかったな。
10年か。
ゲーム内ではどこに囚われてるんだっけ……?
でも、もうそこにいるとも限らんよな。

おそらく、《雨雲の杖》は北にある祠にある。
《魔法の鍵》があるから、ガライの墓のダンジョンにはもう、潜れる。ダンジョンのマップは無いが、慎重に攻略しながら作っていけばいい。
《太陽の石》は……売ったことを爺さんにばれないようにしなきゃな……

宿屋に戻った後、地図と睨めっこしながら、頭のなかでつらつらとゲーム内の情報を上げていく。

紙に書いて整理するような真似はしない。万が一のことを考えてだ。

……よし、次はガライの墓のダンジョンを攻略。
その後は、おっさんに頼んでメルキドまで一緒に千里行だな。

 ◆ ◆  ◆   ◆

で、さらに次の日。

おっさんの書き置き通りなら、今晩か明日にはリムルダールに飛んでくるはず。
短い休みだったな。

まぁ、やることないから、おっさんが来るまでモンスターでも狩ってるか。



「《ギラ》!」
「シャアアアアア!」

魔法による牽制。キラーリカントが、後ろに跳躍する。

だが、その選択は間違いだぜ!
―――――《燕返し》!

リムルダールに着いた夜。俺はこの技をおっさんに教わっていた。

―――――《疾風突き》が使えたんなら、コツさえつかめりゃコイツもすぐに使えるはずだ。
―――――剣のリーチ外に殺気を飛ばせ。本気の殺気は、敵の心臓を、切り裂く。
―――――今さらだけど、言っておく。お前には剣の才能があるよ。

キラーリカントが一瞬その動きを止める。
………違う。ビビらせただけだ。やっぱ、そう上手くは行かないよな。
おっさん、俺に剣の才能がある?それは買い被りってもんだぜ。

一足飛びで、距離を詰める。

《疾風突き》!

そして、どくばりの一撃で、キラーリカントの心臓を貫いた。



ゴールドを回収しながら、おっさんの戦う姿を思い出していた。
おっさんは、強い。だけど、それはステータスのせいだけじゃない気がする。

おっさん曰く、剣技に必要なのは“意志の力”とか“心の力”なんだとか。

……おっさんは、普段はおちゃらけているけど、魔物との戦いに一切の容赦をしない。
俺との稽古の時とは大違いに、殺気とか“憎悪”とかそういうものが溢れているのを感じた。

Q.何がどうすれば30前半でカンストするまでに強くなるんだ?
A.………俺はあいつらが許せん。人の幸せを奪い、人の命を脅かす魔物って存在が。

転生してきた俺がいうのも何だけど、おっさんの方が主人公しているんだよな。

 ◆ ◆  ◆   ◆



その晩、おっさんはリムルダールに来なかった。




その次の朝も来なかった。
その次の日も。
その次の日も。

俺は装備を整え、単独でのラダトーム帰還を決行する。
リムルダールを発ったのが、着いてから7日目のこと。

何故か魔物の数が増えていた《沼地の洞窟》の単独踏破に失敗。
《リレミト》による脱出。
三日後に再び、洞窟に挑む。街に逗留していた旅の剣士の力を借り、力ずくで進む。
洞窟を抜けた直後で、キメラの集団に襲われる。剣士の離脱。
キメラの群を《メガンテ》で撃退。

マライを目前にして、アイテム切れにより、《キメラの翼》によるリムルダールへの帰還を余儀なくされる。

小型化アイテムのストックが尽きる。

現在レベルによるラダトームへの帰還を断念。

リムルダールから南下しながら、経験値稼ぎのため、強力な敵を求める。

おっさんの小遣いは、そのほとんどをアイテムのために使い切る。

勇者 Lv.29 ♂
HP/MP:120/105
現在装備 
頭:なし
胴:チェーンメールに皮の鎧
武器:どくばり&鋼の剣・改
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》

《ギラ》の上位呪文、《ベギラマ》をもって、洞窟の単独踏破に成功。

マライの街に着いたのは、ラダトームを最後に発って1ヶ月過ぎてのことだった。

マライの街で、《魔法の聖水》だけを大量に購入。

強引にラダトームへの帰路を突き進む。



異常事態の連続。胸騒ぎが、おさまらない。



俺がボロボロになりながら辿り着いた時、ラダトーム城は、竜王軍の襲撃を受けていた。



おっさんが一人で戦線を保たせていた。

おっさんが俺に気が付き、城門を開ける指示を大声で出した。

群の中に切り込み、《ベギラマ》を唱える。
魔物たちの虚をつき、城門の中に飛び込む。
城門の閉じ際に、もう一度《ベギラマ》を放つ。



ラダトームへの帰還を、俺は単独で果たした。

 ◆ ◆  ◆   ◆

「すまん……」

おっさんが謝ってくる。

いいって。竜王の軍が攻めてきたんなら、仕方ねぇよ。
むしろ、俺が遅くなって悪かった。

「違う。俺が悪いんだ……この事態は、俺が招いたことなんだよ」

項垂れるおっさん。

「勇者様!」

あの女の子が駆け寄ってくる。顔をぐしゃぐしゃにして泣きはらしている。

「ゆるしてほしいのだ。おじさんは、おいかりになったお父様からおかあさんをたすけてくれたのだ。それでお父様がおいかけてきたのだ……」

………どういうことなんだよ。



そこで、あることに気がつく。

城の兵士たちの様子がおかしい。
疲れきって、覇気が無い。
何故だ、この城には凄腕のヒーラーが居るはずだろ?



女僧侶はどこだ?



城に駆け込み、彼女の姿を探す。

広間にはいない。
祭壇の部屋にはいない。
食堂にもいない。
俺の部屋にも居るはずがないとわかっていても、探す。

いない。



玉座の部屋にまで、辿り着く。

そこでは、王様『ラルス16世』が、頭を抱えていた。

「……つかぬことをお伺いします。僧侶殿を見かけませんでしたか?」

喉がカラカラに乾いているのがわかった。
まぁ、ありえねぇよな。



彼女が死んだわけがないよな?










結論から言おう。俺の想像は外れた。










もっと、悪い方向でだ。



「……勇者よ。僧侶は、ここにはおらぬ。竜王に、さらわれた」

ラルス16世は、苦悶の表情と共にその言葉を口にする。



「頼む、勇者よ。竜王を打ち滅ぼし、囚われの身となった()()()を、救いだして欲しい」










「ローラ姫を救ってくれ……」










異世界転生してから11ヶ月。
おい、どうなっていやがる。



何がどうなっていやがるっていうんだ!



本編で触れられない設定

23.フラグ
早い話が、ストーリーを進めるために回収していく、イベントやアイテムなどの要素、RPGにおける謎解き要素のこと。ドラクエではMobに話しかけることでフラグのヒントを集めていくことがほとんど。
この世界では原作から10年経っているため、原作のフラグのヒント回収が困難になっている。

24.設定のズレ
この世界は原作をもとに『神』が作り出したもの。神はそこに勝手な設定改変を加えている。戦闘システムだったり、世界観だったり。さらに説明なしでそこに転生者を送り込むため、何かしらのすれ違いが生じることになる。


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たすけてください勇者様!(前)

Side 神様

「……あれ?何がどうなってこうなっているんだっけ?」
「神様覚えていないんですか?『ロリヒロイン最高!』とか言ってローラ姫の年齢をいじってたじゃないですか………」
「あ、そうじゃんそうじゃん。あ、それで。いやぁ、そう考えると竜王にはわるいことしたな。10年間騙されてたわけでしょ?」
「(何故まず悪役に謝る)」


俺が戦線参加した後、数時間がけの攻防は、ラダトーム側の辛勝で幕を閉じた。

最後は、俺の部屋にストックされていた《魔法の聖水》を使い切りながらベギラマを連射し、おっさんを援護。
敵の陣中に一人切り込んだおっさんが、魔物の軍団を率いていた()()スターキメラを切り捨てたことで、魔物の軍団が統率を無くす。
魔物達はそのまま散り散りになっていった。

おっさんは、追走部隊を率いて町の方へ逃げていった魔物を追う。



そして、俺は玉座の間でラルス16世の懺悔を聞くことになる。

 ◆ ◆  ◆   ◆

勇者の役目。それは竜王を倒すこと。
そう、俺は説明されていた。

この世界はゲームが元となる世界だ。
それ故に。
最初だけ費用を渡され、後は自ら生計を立てつつ竜王討伐のために命懸けの冒険を繰り広げなければならないという理不尽に、俺は疑問を抱くこと無く勇者としての使命を全うしていた。

もっとよく考えるべきだった。
そんなことがあるわけが無い。ここは、曲がりなりにも『現実』なのだから。

若者達を勇者に仕立て上げる真の目的。



竜王から、本物の“ローラ姫”の存在を秘匿すること。



10年前、確かに竜王はローラ姫をさらうためにラダトーム城を襲撃した。
だが、何故か当時16歳だった侍女の一人を連れ去り、引き上げる。

まだ幼い、本物のローラ姫には、目もくれずにだ。

なぜ、侍女がローラ姫と間違われる事態になったのか?
いくつか、理由が考えられた。
その侍女が翌日の婚礼のために着飾っていたこと。
侍女が、才ある魔法使いだったこと。
はたまた、竜王がローラ姫の歳を勘違いしていたのではないか?

竜王が再び攻めてくる様子は無い。
どうやら、侍女のことを完全にローラ姫だと思っているようだ。

そこで、である。

何も知らない若者たちが竜王に抵抗し、命を散らしていくことで、竜王は城からさらった娘のことを“ローラ姫”と勘違いし続ける、当時、王と家臣たちはそう考えついたのだ。

勇者たちの扱いがぞんざいな理由。
俺達“勇者”は、はじめから捨て駒だったのだ。

竜王を倒すなどとは、期待などされていない。

ただ、早く死ぬと次を探すのが面倒だから、精々長生きしてくれ………。



おっさんが城を離れない理由。
ローラ姫が、城にずっといるから、その護衛のため。

とっくの昔に、ラダトームでは情報を掴んでいた。どこに侍女が幽閉されているか。

おっさんが俺についてきた理由。
毒の沼地を突破可能になった俺が、万が一にも侍女を救い出し、ローラ姫の正体に気がつくことを防ぐため。
俺を監視し、必要とあらば、俺を抹殺するという密命を王から受けていたから。



だが、王と家臣たちは1つの考え違いをしていた。

おっさんが、耐え切れなかったのだ。
自らの婚約者を見殺しにするということに。

竜王の襲撃の翌日に行われるはずだった婚礼は、その侍女と、おっさんのものだった。

おっさんは女の子の髪飾りを見て、ひと目で女の子の正体に気が付いていた。
この娘は、あの侍女の子だ。
間違うはずが無い。だってこの髪飾りは、自分が彼女に送ったものだ。

そして、考えた。
おそらく、この娘は侍女が逃がしたのだろう。
だが、だとしたら、彼女の命が危ないかもしれない。
女の子を逃したのは、もしかしたら、正体が明らかになり、母娘ともども殺されることを危惧してのことではないか。



おっさんは命令違反を犯し、侍女を連れだした。



それが、今回の襲撃の引き金となってしまった。



そして、久方ぶりにラダトームを攻めた竜王は気づいてしまったのだ。
城の奥。
魔力を秘めた一人の若い女の存在に。

―――――クハハハ、騙されていたぞ!可怪しいとは思っていたのだ!芽の出ない娘だと!よもや、あの幼子の方がローラ姫だったとは!

―――――許そうではないか!この攻めを凌ぎ切れたらのならば!

そう言って、竜王は女僧侶を連れ去った。
魔物の軍団を残して、だ。

それが、今回の事件の顛末。

そして、若者を勇者に仕立て上げるシステムの残酷な真相だった。

 ◆ ◆  ◆   ◆

王様が呻く。

「あつかましいことを言っておるのは、わかっている。だが、兵隊長ではどう足掻こうが、竜王には勝てぬ」

「奴は、魔族の一人であり、魔術師として究極の域におる。兵隊長が“戦士”であるかぎり、奴にはかなわぬのだ……」

「どうか、頼む。勇者よ、今一度命じたい。魔王を打ち滅ぼし、この世界に光を………」

王様の言ったことを何とかかんとか理解する。



………えっと、ギャグですよね?

命懸けではあったけど、俺はもっとゆったりと竜王を倒すつもりだったつもりだったんだけど、え?

え?



もう、何が何だかわかんねぇよ。
俺の中の勇者像は、もっと、こう、……

ああクソ!

この世界、全然ファンタジーじゃねぇ!

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 竜王

「私は、ローラ姫なんかじゃありません……」

力無く項垂れる女僧侶を見て、つい笑みが漏れる。

この女は本当に自分がローラ姫だとは思っていない。
おそらく、《メダパニ》による記憶操作。
勿論、本来ならばこの時代、この地域にメダパニは伝わっていない。
何者かが、それを開発したということだ。
素晴らしい。あの城には、まだ奪うべき才能が残されているということか。
もし攻め滅ぼされていなければ、ローラ姫との婚礼の後に再び攻めることとしよう。

お前が間違いなくローラ姫だ。
記憶が無くとも関係ない。
子を産ませればハッキリすること。

「……何を……言って」

私が、お前を欲しがる理由は『血』だ。

君と私の子ならば、申し分ない。
間違いなく、《バギ》の特技を覚える子が生まれるはずだ。

「特技ってなんですか……?何のことを……?」

くくく、わかる必要はない。
私に逆らうことさえなければ、危害は加えない。
従順にしていたまえ。



Side 女僧侶

竜王が部屋から去った後、私は、願った。

助けに来ないでください、勇者様。
きっと、あなたじゃ敵わない。

もう、誰かが死ぬ姿を見たくないから僧侶になったのに、私のせいで勇者様が死んだなんて、聞きたくない。

あれだけ辛くあたったのだ、私のことなんて嫌いでしょう?

変な気をおこして。
何も考えないで。
ちょっとフザケてなんて。

絶対に助けに来ないでください。
そんないい加減な勇者様は、嫌いです。

私は聖職者です。元々、誰とも結ばれてはいけないんです。
ただそれが、未来永劫、絶対に望む人と結ばれることが無くなったってだけで。
私は、傷つきなんてしないから。

絶対に助けに来ないでください勇者様。

助けに来て死んだりしたら。
私は絶対にあなたを許しません。










「………助けに来てください……勇者様」

 ◆ ◆  ◆   ◆

状況を整理しよう。何か気がつくことがあるかもしれない。

俺は勇者で。
竜王に女僧侶が浚われてしまって。

俺は、彼女の事を絶対に見捨てることが出来なくて。

………なんだ、簡単な話じゃないか。



グチャグチャ考えるのを止めたら、胃はもう痛くなかった。

 ◆ ◆  ◆   ◆

ガライの墓のダンジョンを俺は攻略していた。

勇者 Lv.31 ♂
HP/MP:129/120
現在装備 
頭:なし
胴:洋服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり&鋼の剣・改
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》《連続攻撃》

メトロゴーストを切り捨てる。
ラリホーを使わせる暇なんて与えない。

しばらくは、チェーンメイルなんてクソ重たいものを着込んで動いていたのだ。
元の装備が、羽根のように軽く感じる。

そして、俺はあの地獄のような沼地の洞窟を抜けてきたのだ。

ガライの墓なんざ、今更この程度のもので!



「ヒャヒャヒャヒャ!」

  トン……

背中に、軽い衝撃。

背後からヘルゴーストのラリホーを受けたのだ。




まぶたが………





口の中の、カプセルを噛み砕いた。



振り返る。
ヘルゴーストが3体、群れになっていた。

手応えがあったのに、眠らない俺を見て驚愕の表情を皆浮かべている。

おいおい、良いのか、呆けたままで?

《ベギラマ》で1体目を倒しながら目眩まし、2体目を《燕返し》で斬り伏せる。飛び出して、最後の1体を《ゾンビ斬り》で片付けた。



剣を鞘に戻しつつ考える。

今のは、かなりヤバかった。
だが、《目覚めの粉》をカプセルに詰めて口の中に入れており、戦闘中に噛み砕いたのだとは夢にも思わないだろう。
人類の知慧の勝利というやつだ。

独り言を呟く。

ははひひんへんほはへるは(あまり人間を舐めるな)……。

……。

…………口の中がヒリヒリする。

《目覚めの粉》って、マジックアイテムじゃなかったのかよ。
マジで何でこんなに真っ赤なんだ?

……こんなの《目覚めの粉》(物理)じゃねぇか。

 ◆ ◆  ◆   ◆

ガライの墓の攻略に七日。
おそらく、かなり難解なダンジョンだった気がするが、好タイムだろう。
こちとら、とうにLv.が30超えである。
《銀の竪琴》の宝箱の目前で、()()大魔導に襲われた気がしたが、どくばりの攻撃に確率で引っ掛かって、即死していた。
経験値多かったし、中ボス的な奴だったのか?



だが、気にしている暇はない。時間は全然足りないのだ。
おっさんの助けた侍女が言うには、竜王は女をさらった後、その女と婚礼を行うらしい。

へっ、無理やりさらっておいて、何が婚礼だ。

いいか、結婚てのはな!好きあったもの同士が皆に祝福されながら行われるものであってだなぁ!

………。

……俺もできるといいなぁ、結婚。

なんか、逆に竜王が格好良く思えてきた。
颯爽とヒロインをサラッていけるって、相当ポイント高そうだよな……。

それはさておき、である。

おっさんが救出した侍女の話によると、竜王は18になるまで、丁重に彼女の事を扱ったらしい。その後婚礼を行い、彼女に……。

おっさんの前で取り乱す彼女にそれ以上の追求は無理だったが、それだけで十分だった。

今までの話を照らしあわせて推測されるに、おそらく竜王がローラ姫を求める理由は、自らの才能を受け継ぐ強い“子”を産ませる“母体”が必要なため。

そこまで悟った時、体中の毛が逆立ったのがわかった。
……おぞましいとか、そんなふうに思ったわけじゃない。むしろ、ラスボスに相応しい身勝手さだと、感心したくらいだ。

そして、無性にそのことが許せなかった。
女僧侶にそんなことをされると思うと、胸が張り裂けそうだった。
この感情の正体は………何だ?

だが、その感情については頭の片隅に追いやる。

冷静になるんだ。

竜王の目的がそれだとすると、おそらく18まで待った理由は母体の成熟を待つためだろう。竜王は、強い子を作るために万全を期したかったのだ。

なら、これはあくまで希望的観測に過ぎないが。
今、女僧侶は17歳と、十ヶ月だ。
あと二ヶ月の猶予がある。

どのみち、今の俺では竜王の足元にも及ばないだろう。

俺は、その二ヶ月でできるところまで強くなり、婚礼とやらに乗り込んで、それをぶっ壊せばいいのだ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

北の祠にて、そこにいた魔女さんに、《銀の竪琴》と《雨雲の杖》とを交換してもらう。

《雨雲の杖》をラダトーム城に届けると、俺は魔の島に渡るために必要なアイテムの最後の1つ、《ロトのしるし》、その在処のヒントを求め、メルキドに一人向かったのだった。










………無理ゲーすぎる。

距離が長すぎるのだ。

まさか山岳地帯がまとめて吹き飛ばされ、平地になっているとは思わなかったがそれでも長い。

ずっと歩き通したとして、ガライの街から5日かかる距離。

途中に落ち着いて休むことができる場所は、無い。

そして、メルキドに近づいて行けば行くほど強くなっていく敵。

それでも、引き返す時間は無い。



動かなくなる足、上がらなくなる腕に、《ホイミ》をかける。

まぶたが重くなると、《目覚めの粉》を噛んだ。
それでも徐々に効かなくなってくると、頬の内側を噛む。
《ホイミ》をかけて、また噛む。

敵との戦闘は、もうガムシャラだった。

《雄叫び》をあげながら、敵に《躍りかかる》。



おっさんの話が本当ならば、俺は一秒でも早くメルキドに着く必要があったのだ。



ガライを発って八日目。俺はメルキドの街の門の前に立っていた。

「ウガァァァァ!」

侵入者に襲いかかろうとする門番のゴーレムに対し。

「メガンテ」

必殺の呪文を、一言。

爆音。

ゴーレムが崩れる。

とうにアイテムを使い切り、回復が出来なかった俺は、ゴーレムが灰になるのと同時に意識を手放してしまった。

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たすけてください勇者様!(後)

Side 兵隊長

―――――野郎共、王女の愛が欲しいか!

「「「「「ウオォォォォ!」」」」」

今、ローラ姫、いや、女僧侶は囚われの身だ!
竜王のクソ野郎の手の内にある。



俺達は、紳士として彼女に接してきた、そうだな!

「「「「「そうだぁぁぁぁ!」」」」」

それを、いけ好かないぽっと出のクソ野郎に茶茶を入れられた気分はどうだ!

「「「「「最悪に決まってんだろぉぉぉぉ!」」」」」

我々は、奴を100回殺しても殺し足りない!

だが、奴に好き勝手させてしまっている自分の事はどうなんだ!

「「「「「1億回殺しても!」」」」」

「「「「「殺したりねぇぇぇぇ!」」」」」

今より、特別()強化期間に入る!

死ぬ覚悟のあるやつだけ残って、あとはテメェの田舎に帰れ!

「「「「「誰が!」」」」」

「「「「「帰るっつうんだ!」」」」」

必ずや、我々は女僧侶を奪還する!

これは、前哨戦に過ぎんぞ!
ここで死んだら、貴様らは一生童貞だ!

「「「「「婚約者のいる奴は今すぐ死ねぇぇぇ!!!」」」」」

………フッ、行くぞ!

「「「「「ウオォォォォ!」」」」」



兵隊長率いる特別部隊が、ドムドーラの廃墟に雪崩れ込んだ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

………ここは?

意識を取り戻したら、ベッドに寝かされていた。

「おお、目が覚めたか勇者さんよ!」

俺に声をかけてきたのは、恰幅のいい男だった。



「あんた、勇者なんだろ?」



「いやぁ、ゴーレムを倒しちまったのはあんたで3人目だよ」

 ◆ ◆  ◆   ◆

城塞都市メルキド。
強力なモンスターが闊歩する地帯に存在しながら、番兵のゴーレムの存在により侵略を免れている。
勿論のこと、ここに存在する武器防具の類もモンスターのレベルに合わせてかなり強力なものが多い。
城塞都市の名に恥じない堅牢さを誇る。

「ってのに、こんなボロボロの優男に入り口を破られるんじゃあ城塞都市の名も返却だなぁ」

……いや、その必要は無いと思う。



俺を介抱してくれたメルキドの顔役。

その後ろに控える、何十体という()()のゴーレムを見て、俺は青くならざるを得なかった。



簡単な話である。

これが、初代勇者、つまりロトの子孫、つまりは竜王に唯一傷をつけた転生チート野郎。
その好き勝手の結果、というわけである。



「いやぁ、ロトの勇者にゴーレムを破壊された時はどうなるかと思ったけど、こんなもの作ってもらったら、文句が言えんわな!」

 ◆ ◆  ◆   ◆

ロトの勇者がこの世界に持ち込んだ特典は2つ。

一つ目は、自身のチートスペック。

もう一つが。

「いやぁ、『たくさんの光が集められる場所が必要だ』って言ってね?ここの南東の山岳地帯があるだろ?工房をそこに作ったらしいんだが、街の外をうろつける奴が居なくてね。彼も帰ってこないし。今はどうなっているか見当もつかんよ」

「スゴいだろ!彼はコイツラを魔物の“配合?”かね、よくわからん方法で作り上げちまったんだよ!」

「ああ、あんたも腕が立つみたいだがやめた方がいい。工房の近くは見たことも無い魔物が溢れ帰っていてね。ラダトームの兵隊長さんがしばらく調査したが結局何もわからず終いでね。行くだけ命の無駄ってもんさね」

「結局、木組みの祠しかなかったって話さ」

ロトの勇者が持ち込んだ2つの特典。
もう一つが“星降の祠”である。



……いや、アレフガルドで何好き勝手やってんのさ、初代勇者さんよ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

フラグヒント回収終了。

《ロトのしるし》の在処を知っている賢者がとっくの昔に逝っていたと聞いた時は一瞬立ち眩みがしたが、そこは賢者、ちゃんと遺言を残していた。

「勇者が来たら渡してくれってね。ホイ、この手紙。は、文字が読めない?外国から来た?何で勇者に選ばれてんの?」

俺に聞くな。

「まぁ、いいか。読むぞ。……ラダトームまで北に70西に40……何のことやら?ああ、地図か。このグリッドを数えるわけさね……あれ、毒の沼地しか無いけど、この遺言あってるのかねぇ」

ああ……

これで合っているんだよ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

合っているけど合ってなかった!
1グリッドって広すぎんよ!

俺は毒の沼地のど真ん中で、スコップ片手に項垂れていた。
時間が無いのに………クソッ!

原作でも、何の目印もない場所に《ロトのしるし》は埋まっていた。
で、この世界。
ゲームの一マスが、大きく拡大されている。ざっと、数km四方。いや、そう感じるだけでもっと小さいかもしれないが、要は全部一人で掘り返すには無理な広さなわけだ。

うん、《ロトのしるし》って、メダル状のアイテムだろ?この広さから探し出すのはまず無理かな。



あのゴーレム軍団でも借りるか?なんて無茶ことを考えながら、目印でもないかとウロチョロしていると………



「来たか!ここで待っていれば必ず来ると思っていたぞ!」

変な魔物が目の前に現れる。

「父の敵!この魔界童子がロクな装備を持たぬ勇者を襲うことを!よもや貴様は卑怯とは言うまいな!」










黙って《スコップ》の《魔人斬り》で切り捨てた。

俺もそろそろイライラが限界だったのである。

勇者 Lv.34 ♂
HP/MP:141/139
現在装備 
頭:なし
胴:洋服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり&スコップ
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》《連続攻撃》《雄叫び》《魔人斬り》


おら、メルキド製の《スコップ》だ。
ロクな装備じゃないだと?

人間様をナメんじゃねぇ。



灰になり、経験値とゴールドを残して消える魔界童子。

けっ、偉そうな口を利いておいてこの程度(経験値とゴールド)かよ。しけてやがる。

でも、まぁ許してやるよ。

ワザワザ『なんかありますよ!』的な登場してくれたからな。



変な魔物が現れたあたりを掘り返すとはたして………



異世界転生してから12ヶ月。
女僧侶の婚礼まで、あと1ヶ月。

俺は《ロトのしるし》を片手に雄叫びをあげていた。



俺はやったぞ、おっさん!



おっさんの方の首尾はどうなっているんだ?



 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 兵隊長

部下たちの戦う姿を見て、兵隊長は思わず笑んでしまった。

勇者のボウズ、俺はお前に剣の才能があるといったな。
スマン、あれは勘違いだったかもしれん。



少なくとも、コイツラのほうがよっぽど才能があるからな。



「《ドラゴン斬り》!」
「《ドラゴン斬り》!」
「「「「「《ドラゴン斬り!》」」」」」

兵隊A Lv.26 ♂
HP/MP:125/0
現在装備 
頭:鉄の兜
胴:鉄の鎧
武器:鋼の剣
盾:なし
特技:《ドラゴン斬り》《疾風突き》《魔人斬り》《刃の防御》

兵隊B Lv.25 ♂
HP/MP:127/0
現在装備 
頭:鉄の兜
胴:鉄の鎧
武器:鋼の剣
盾:なし
特技:《ドラゴン斬り》《疾風突き》《魔人斬り》

兵隊C Lv.29 ♂
HP/MP:140/0
現在装備 
頭:鉄の兜
胴:鉄の鎧
武器:鋼の剣
盾:なし
特技:《ドラゴン斬り》《皆殺し》

兵隊長の視線の先には、次々にドラゴンを狩る部下の姿があった。



さて、俺も自分の仕事をしますかね。

兵隊長は、()()()の前に立って、剣を構えた。

確信する。



コイツは、俺が本気を出して戦わなければいけない相手だ。



「……」

無言で相対する悪魔の騎士。



兵隊長が剣気を放った瞬間。



悪魔の騎士が斧を抜き放って攻撃を仕掛けてきた。




本編で触れられない設定

25.メダパニ
初出はⅢ。相手を混乱させる呪文。
この世界では、精神支配・記憶操作など多彩かつ応用の効く呪文である。

26.竜王六魔将
完全なゲスト出演。小説版より。
喋るスターキメラ、喋るだいまどう(部下の魔界童子)、あと悪魔の騎士。

27.兵士たち
兵隊長の部下。平均Lv.20→28。
一般人、かつ魔法を使えない者が大半だが、《銅の剣》一本あれば、ゴールドマンをタイマンで狩る程度の実力は元々あった。
性格はキツイながらも、思いやり深く治療を施してくれる女僧侶に惹かれるものが多かったが、周りの目が怖くてちょっかいを出すことができずにいたらしい。
勇者に殺意を抱くものも多かったが、竜王の襲撃によりその殺意がようやく正しい方向へと向き始めた。

28.ゴーレムの倒し方
一人目:ロトの勇者
「ああ、あんたと一緒でね。よくわからん爆発の魔法でね。たった一撃でゴーレムを吹き飛ばしちまったのさ。彼はそれを山を削るのにもよく使っておったなぁ」
二人目:おっさん
「カカカ!兵隊長さんはまだ若くてな!まぁ、25かね?鬼気迫る様子でやって来てね。薬草を何回も噛みながら三日三晩、強化版ゴーレムと泥仕合さ!見ているこっちが熱くなっちまってね。剣が折れた時にはもう駄目だと思ったんだがね。ゴーレムが倒された時には、年甲斐もなく叫んじまったよ!でな、介抱してやったら、開口一番に『水……』ってな。カカ、どこまでも期待を裏切らない男だったな」
三人目:主人公
「おお、あんたも爆発の魔法が使えんのかい。あれはスゴいな。ゴーレムの耐久は3体の中では最高だったてのに。彼の話によると、HPかね?3000あったんだがなぁ。良ければ、その魔法を教えてくれんかね?山を削るのに使いたいんだがね。え?魔物相手にしか使えない?はぁ、あんたも未熟だねぇ。使う度に薬を飲むところは変わらんかったが、彼は何にでも使っておったぞ?」


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ボーナスタイム

Side 神様

【それを売るなんて】ヒキヲタをドラクエの世界に転生させたら太陽の石を売り払いやがったwww【とんでもない】 
(続き)

127 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
久しぶりに初代の世界を覗いていたら、大変なことになっていてワロタwww

128 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
マジだヤベェwww

129 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
今北産業

130 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
>129
女僧侶がローラ姫
竜王六魔将がまさかの噛ませ
初代世界ではぐれ狩り

131 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
メタルの間違いだと思ったらマジではぐれでコーヒー吹いた

132 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
はぐれじゃないかどうしてここに自力で脱出を

133 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
>132
バイオハザードだから脱出と言えなくもない


今ならわかる。

おっさんが俺にまず、《疾風突き》を教えた理由。
武器屋のおやじが《鋼の剣》ではなく、《どくばり》を渡してきた理由。
おっさんの、早熟と言って差し支えないカンストの理由。



迫り来る炎の壁を脇に飛んで避ける。
当たれば一発でお陀仏だ。
でも、おっさんに比べれば速いことなんて無い。
強いて言えば()じゃなくて()の攻撃のため、いちいちオーバーに避ける必要があるのが体力的にちょっと辛い。

敵が使ってきているのは、《ベギラゴン》だ。

着地と共に、前方に駆ける。

「ウオォォォ!」

気合一閃。右手の《鋼の剣》を《叩きつける》。
中ボスっぽいのすら一撃で切り捨てたのだ。今の俺は相当な筋力があるはず!










カキン、と小気味よい音とともに《鋼の剣》が根本から逝った。

……ハッハッハッ。ご冗談を。



敵の繰り出す至近距離からの《ベギラゴン》をギリギリでかわし、全力で逃走を試みる。



ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
今のは半分死んでた!絶対死んでた!
待て待て待て!《メガンテ》効かない敵がなんで居るんだよ!



どうして“はぐれメタル”が居るんだよ!



全力で洞窟の中を走り抜けながら、心のなかで悪態を吐く。



今俺が居るのは“初代勇者の工房”。



岩山を繰り抜いて作られたそれは、擬似“ロンダルキアへの洞窟”の様相を成していた。

……マジでシルバーデビル出てこないよな?

 ◆ ◆  ◆   ◆

本来ならば、《ロトのしるし》さえ手に入ればメルキドに長居する理由はない。
だが、俺はおっさんと竜王の城攻略の計画を練る途中で1つの問題に突き当たっていた。



俺のレベルの問題だ。



おっさん曰く、「相性を抜きにしても、俺が10人いて、初めてタメだ」が竜王の評価らしい。

ん?

ん?

俺はおっさんがこの世界最強の存在と信じて疑わないところがあったので、その説明を受け入れるのに少々時間を要した。

でも考えてみれば、おっさんは竜王と正面戦闘を避けてきた節がある。
さらに、ラダトームの軍備についても。
問題なく“ゲームの強さ程度の竜王”なら、一方的に蹂躙できるだけの軍隊が揃っているのだ。

さらに言えば、チート勇者と奥義の応酬を繰り広げたらしい竜王。

……まさかHP4100超え、パーティ討伐前提・裏ボスクラスの強さ、とかそんなんじゃ……

そしてその予想はあながち間違いじゃないはずなのだ。
この世界には初代には無かったものが多すぎる。

ボスだって、4とか5とかの強さが基準になっていたってなんらおかしくはない。
おそらく、神はこの世界をデザインをする際、初代以降の設定を盛り込んだのだろう。
かなり今さらの話になるわけだが。

……でも、俺の強さって初代基準ですよね?
レベルカンストしても足元に及ぶかどうか……

はい、詰んだ―!今詰んだ―!

やっぱ、あれしか無いか……なんて、考えを巡らせ始めた時。

「……実はあるぞ、短期間で爆発的に強くなる方法」

おっさんがその言葉を口にしたのだ。

「俺にもできたんだ」

「お前にもできるさ……多分」

………いやに歯切れが悪いな。

 ◆ ◆  ◆   ◆

できるかぁぁぁぁぁ!

今俺は、はぐれメタルの群れに囲まれていた。
総数6匹。

その全員が魔力を練って、今にも《ベギラゴン》を繰りだそうとしている。



破れかぶれになった俺は、正面の一体に《どくばり》による、《疾風突き》を繰り出していた。

くそ、もうどうにでもなれだ!



―――――スルリと、剣尖がはぐれの中に潜り込んだ。

「ピギ?」

……え?



コツンと、はぐれの中の硬い部分にどくばりが当たる。



はぐれメタルが、銀色の液体となって、周囲に飛び散った。
降り注ぐ液体に恐れをなし、逃げ出すはぐれの群れ。

残った一体の《ベギラゴン》を横っ飛びに躱しつつ、俺は確信していた。

ピロピロピロ―

勇者 Lv.35 ♂
HP/MP:145/144
現在装備 
頭:なし
胴:洋服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》《連続攻撃》《雄叫び》《魔人斬り》

ピロピロピロ―

勇者 Lv.36 ♂
HP/MP:150/148
現在装備 
頭:なし
胴:洋服の上に鋲のついた皮の鎧
武器:どくばり
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》《連続攻撃》《雄叫び》《魔人斬り》

これは、おっさんからの無茶ぶりなんかじゃない。





“ボーナスタイム”だ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

種がわかってしまえば簡単な話だ。

相手の意識の隙を突く《疾風突き》
相手の防御、体力に関係なく確率で即死攻撃をかます《どくばり》

恐ろしく速く、恐ろしく硬いはぐれメタルを狩るのに、こんなに適した組み合わせは無いだろう。

あいつらの速さは人間の比じゃない。
おそらくおっさんでも、素の速さでは追い切れないだろう。

だから、《疾風突き》。

なるほど、“重要なのは速さじゃない”わけだ。速さで勝負したら奴らにかなうわけが無いのだから。

ここまで来たら、馬鹿でもわかるぜ……



おっさん、メタル狩りでカンストしてたのかよ!

汚い!やっぱ大人は汚い!

 ◆ ◆  ◆   ◆

異世界転生してからおよそ、13ヶ月。

女僧侶と竜王の婚礼まで、あと一週間。

勇者 Lv.92 ♂
HP/MP:473/450
現在装備 
頭:なし
胴:洋服の上に鋲のついた皮の鎧
腰:ドラゴンベルト
武器:どくばり&オリハルコンソード
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》《連続攻撃》《雄叫び》《魔人斬り》《ベギラゴン》《刃の防御》《スライム叩き》《悪魔斬り》《五月雨斬り》《身を守る》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

俺は、未だメルキドの宿屋に逗留していた。

勿論のこと、今から竜王の城に向かおうとしても、とてもじゃないが婚礼の日に間に合うことはない。



だから、俺は信じて待っていた。



そして、メルキドの街に()()()は轟く。

「《ギガスラーッシュッッッ》!」

轟音。

街全体が沸いた。
俺は門までその人物を迎えに行く。

その人物は“青い鎧”を纏い、メルキド製の剣を突き立て、ゴーレムの屍の上に立っていた。

兵隊長 Lv.99★ ♂
HP/MP:410/0
現在装備 
頭:なし
胴:ロトの鎧
武器:兵隊長の剣
盾:なし
特技:《真空斬り》《火炎斬り》《疾風突き》《大切断》《ゾンビ斬り》《連続攻撃》《燕返し》《ギガスラッシュ》
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)
スキル:
(※レベル差のため、これ以上は閲覧不可)

……おせぇぞ、おっさん。

「カカカ、許せ!」

()()()ちゃんと連れて行ってやるからよ!」

俺がギリギリまでレベル上げに専念出来た理由。

おっさんがリムルダールからメルキドまで、時期を合わせて直に向かってきていたのである。
こんな離れ業、おっさん以外の人類には到底ムリな話だ。

「右手を出せ!すぐに飛ぶぞ!」

おっさんが《キメラの翼》を振っているのが目に入った。
おいバカやめろ!

暴発して帰還しちまうかもしんねーだろ!



本編で触れられない設定

29.初代勇者の工房
岩山を削って作られた洞窟。一番奥に星降の祠が存在する。
どうやら初代勇者はここでDQMシリーズばりの研究を繰り広げていたようである。
主が消えて久しいこの場所ではモンスターが野生化し、新たに自然交配を繰り返しながら、生態系がさらにカオスなことになっていっている。
はぐれメタルもかなりの頻度で出るが、もっと危ない奴もたまに出る。
実は竜王の城よりも危険度の高いダンジョンである。

30.はぐれメタル
初出はⅡ。おなじみ経験値の塊。
すぐ逃げ出すため、長生きしている個体が多く人生(?)経験豊富なため経験値が高いとされる。堂々のメタルボディ持ち。


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トリックだよ

―――――《ドラゴン斬り》!

ダースドラゴンを一撃で切り捨てる。
おっさん、今のはどうだ?

「うーん、ちょっと違うな。もっと、こう、引き寄せる感じだ。わかるか?」

わかるか。もっと丁寧に説明しろ。

「と、言われてもなぁ……。いいんじゃないか?斬ってるうちにコツが掴めるだろ」

……ああ、そうだな。

剣を握り直し、表情を引き締める。



ダースドラゴンの群れが、“虹の架け橋”を渡ってこちらにやって来ていた。



竜王の婚礼まで、あと六日。
おっさん率いる部隊と俺は、既に虹の架け橋を掛けることに成功していた。

え?リムルダールから、南の祠まで往復が1日で済むわけがないって?



トリックだよ。

 ◆ ◆  ◆    ◆

おそらく、この時代、この世界に俺より“キメラの翼”を投げた人物は居まい。
だからこそ思いついた移動時間短縮法。



今一度、この世界における“キメラの翼”の効力について説明しておこうと思う。



キメラの翼。帰還アイテム。
コレを投げることにより、1パーティ全員を最後に泊まった宿のある街に帰還させる。
コイツの特筆すべき点は、帰還場所を記憶しているのは、“キメラの翼”自身であるということだ。

つまり、Aという街に帰還するキメラの翼を誰かから買い取ることで、Aという街に足労なしで行くことができる、という使い方もある。
ビジネスとして確立すれば結構儲かりそうなものだ。
だが、街と街の間の移動が命がけの冒険である以上、そんなことを思いついても、この世界ではまずそんなことをやらない、というわけである。

そして、もう一つ特筆すべき点。キメラの翼は、必ず人のいる街にしか帰還しない。
ダンジョンなどで一夜を明かすことになったとしても、キメラの翼を投げれば帰還するのは必ず、最後に泊まった街である。
どうやら、キメラの翼の帰還先を書き換えるのに必要な情報は、街に居た時間だけではないらしい。

俺はこっそり地脈が関係しているのだと踏んでいる。パワースポットと言い換えた方が良いだろうか?
人が集まり、街ができるにはその場所に特別な何かが必要だ。
この世界の“街”は、おそらく地脈のエネルギーの溜まる場所にできているのだろう。
その情報を元にキメラの翼は帰還先を選別しているのではないか?

俺がそんな仮説を建てた理由。
覚えているだろうか?
女僧侶に無茶苦茶しぼられたあの一件である。



実は、キメラの翼で帰還できる先には“ロトの洞窟”も含まれているのだ。



実はあの時、俺は女僧侶との約束を破る気など、(初めは)さらさら無かった。

一晩ロトの洞窟で寝泊まりし、昼ごろラダトームに帰還しようとキメラの翼を投げたところ、何故かロトの洞窟の入口に立っていたのだ。

初めは焦った。
だが、冷静になって考えてみればわかることだ。

あ、ここ街判定なん?  てな。

で、俺は約束の時間に帰ることをすっぱり諦め、もう一晩寝泊まりしてからラダトームに歩いて帰還したというわけである。

女僧侶に正直に話せばよかったじゃん、だと?

言えるか。
もっと怒られそうだわ。

「そんなことなら、なんでもう一晩泊まるんですか!馬鹿なんですか!」てな。



で、女の子の件で、リムルダールからラダトームへと帰還するためのレベル上げの際、俺は1つのことを確かめていた。

リムルダール南の祠。
ここには、ロトの洞窟と同種の、“聖なる気配”が漂っていたのだ。
そして、そのことを確信する。

“あ、ここも街判定じゃね?”と。



もうお分かりいただけただろうか?
今回、俺が使ったトリックの内容。



おっさんがリムルダールからメルキドへと向かうのに合わせて、南の祠へとおっさんの部下の数人が向かっていたのだ。

俺とおっさんがリムルダールに帰還するのに合わせて、その部下たちも祠からリムルダールに“徒歩で”帰還する。

俺は“太陽の石”と“雨雲の杖”、“ロトのしるし”を持ち、おっさんの部下から、祠へと帰還するキメラの翼を受け取る。あと、ついでにリムルダールでキメラの翼を買う。

こうすることで、俺は祠に帰還するキメラの翼と、リムルダールに帰還するキメラの翼を同時に手にすることに成功したわけである。

あとは、一瞬。

キメラの翼を投げる→祠で虹のしずくを作成→時間を置かずにキメラの翼を投げてリムルダールに帰還。 へへ、頭いいだろ?



………いや、わかってるんだ。ちゃんと時間が噛み合うか、賭けだったってことは。

 ◆ ◆  ◆   ◆

女僧侶の誕生日は明後日に迫っている。
日が暮れる頃には、俺達は、竜王の城の目前に陣地を構えていた。

おっさんの部下、ちょっと優秀すぎである。

ダースドラゴンの群れを《ドラゴン斬り》で片付けているさまは、悪鬼修羅のそれ。
砂漠も、山岳地帯も、毒の沼地すらものともせずに突き進む姿は、まさしく“最強の軍隊”だった。
まぁ、《トラマナ》なら、俺がラダトームを立つ前に全員にかけてるんだけども。

竜王の城の前で大規模な戦闘を繰り広げるも、これを()()()な兵力で押し返し、陣を構えることに成功。

いやいやいや!
ドラゴンとか死霊の騎士とか、500体ぐらいいたと思うんだけど、こっちは200人しかいないんですよ?

おっさんの部下たちが戦う様子を眺めながら少しだけ思ってしまった。

…………俺いるかな?



本編で触れられない設定

31.主人公がレベル上げしていた時、兵隊長本人のしていた仕事
1.ラダトーム城下町の防衛強化
2.部下たちをドムドーラで育成
3.悪魔の騎士の討伐、ロトの鎧の入手。
4.物資を補充後、隊をリムルダールまで移動
5.時期を見計らって、リムルダールからメルキドへ。キメラの翼を使って主人公とリムルダールに帰還。
6.主人公に頼まれていたものの手配

32.竜王の城
原作とは違い、地下に潜るのではなく、玉座に行くためには上に登る必要がある。さらに言うと、迷路にもなっていない。
これは、現実的に軍事利用されているため。ちゃんと城として運用されている。


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完全な予定調和。

竜王の城から大量に解き放れる魔物の群れ。
竜王軍との交戦の開始は、真夜中だった。

おそらく、魔物が本領を発揮する時間帯で、有利に戦いを進めようという魂胆が竜王軍にはあったはずである。

だが、いまさらその程度では、おっさんの部隊の勢いを止めることはできない。

陣地から飛び出してくる、兵士たち。
その顔に、疲れによる翳りは既に見えない。

戦闘時における、一時的なドーピング。
今の今まで、兵士たちは全員、床に伏すのではなく、《瞑想》を行っていたのだ。

俺はといえば、《瞑想》なんてできるはずもなく、かと言って熟睡することもできないので、おっさんと他愛もない話をしながら夜を明かそうとしていた。



陣地から飛び出していく兵士たちに、おっさんが出した指示は恐ろしく簡潔なものだった。

―――――“同士討ち”は、避けろ。

―――――応!

散開していく兵士たち。

そして、戦場中であがる声。

「この剣の!」

「届く範囲に!」

「入ってくるんじゃねぇ!」

「「「「「《皆殺し》!」」」」」



………俺、いる?

目の前の(敵の)惨状を眺めながら本気でそんなことを考える。
おっさん、たった二ヶ月で部下のことを魔改造し過ぎである。

………いや、始めから本気出しとけよラダトーム軍。

「何を呆けているんだ!行くぞ!」

おっさんに手を引っ張られる。

「女僧侶を救いに行くんだろ!」

……ああ、そうだな。俺はそのために来たんだ。



……でも当然のように戦場の真ん中を突っ切って行こうとしないでもらえます?

 ◆ ◆  ◆   ◆

俺は、玉座の間へと続く階段を駆け上がっていた。

下の階では魔王軍の“幹部”の、影の騎士をおっさんの部下たちが、死神の騎士をおっさんが抑えてくれている。

「必ず、応援に行く!先に行け!」

早く来てくれよ。
じゃねぇと、おっさん達の分が、残って無いかもしれないからな。

玉座の間に辿り着く。



竜王は、玉座に座して待っていた。

「よく来たな、勇者よ」

「お前は、殺すには惜しい若者だ」

「そして、特別な才を持つようだ」

「その《メガンテ》の秘法を差し出し、私の部下になるというのならば、行く行くはこの世界の半分をくれてやろう!」



開幕《メガンテ》でゲームオーバーだと意気込んでいた俺は、竜王を前にして動くことができなかった。

何かの罠にかけられた、だとかじゃない。
好き勝手言いやがる竜王に呆れたから、だとかじゃない。



竜王 Lv.99★ ♂
HP/MP:5500/システム上無限
現在装備 
頭:なし
上:黒のスーツ(上)
下:黒のスーツ(下)
武器:ボールペン(魔導師の杖)
盾:スケジュールノート(龍革の盾)
腕:ほしふる腕輪
特技:
(※システムによる閲覧規制)
スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メタルボディ(呪文系によるダメージを無効にする)
(※システムによる閲覧規制)

おっさんから教わった、敵の力量を確認する《立ち会い》のスキル。

《メガンテ》をぶつける前に、ボスキャラだから効くかどうかの確認だけしておこうと思ったら、とんでも無いものが見えてしまった。

こいつ、転生者の上に、《メタルボディ》持ちだと!

竜王も俺の出で立ちを見て気が付いたらしい。

「おまえ、まさか……転生者か?」



夜が明けて、日差しが差し込んでくる。

俺が異世界転生してから、今日でちょうど13ヶ月。

転生者同士の、この世界の覇権を争う頂上決戦が繰り広げられようとしていた。



……いや、《会心の一撃》しか通らない敵って、どうやって倒せばいいんですかね?

……おっさん早く来てくれ。

 ◆ ◆  ◆   ◆

考えてみれば、いくらでもヒントは転がっていた。

Q.なぜ、竜王はローラ姫と16歳の侍女を間違えていた?
Q.なぜ、竜王は侍女が18になるまで手を出さなかったのか?
Q.なぜ、闇を好む“魔物”のはずの竜王が地下に潜っていない?
Q.そもそもどうしてチート勇者に竜王は勝てたの?

>A.竜王も現実世界から来たチート持ち転生者だった。


「《ベギラゴン》!」

竜王の攻撃を避けながら、現実逃避的にそんなことを考える。

「どうした勇者!避けてばかりでは勝負に勝てぬぞ!」

うるせぇ。

今どうするか考えてるわ!

だが、だと言って、選択肢は始めから1つしか無い。
《疾風突き》と《どくばり》による必殺コンボ。

《魔人斬り》系統の物理技は使えない。
俺の筋力では、レベルカンスト竜王の体力を一撃で削りきれはしない。
そして、この系統の技には、致命的な弱点がある。
攻撃後、大きく隙を晒すのだ。

そうすれば。

「ええい、面倒だ!《ザキ》!」

この死の呪いを躱すことはできないだろう。



くそ、埒が明かねぇ!

―――――《疾風突き》!

「―――――ふん、くだらん」

《オリハルコンソード》による《疾風突き》を、竜王はスケジュールノートで受け止める。

竜王の右腕に、キラリと光る腕輪が嵌められていた。

《ほしふる腕輪》。素早さを大幅に上げるアイテム。
この世界におけるそれは、使用者の動体視力も大幅に上げる。

思わず、舌打ちが出る。
物理ステータスで特技を無理やり無効化するとか、インチキすぎるだろ!

あの《ほしふる腕輪》をどうにかしないと、俺に勝機は無い。
そして、まず、どうにかする前に俺がやられるだろう。



………どうする?



本編で触れられない設定

33.他愛もない会話
「坊主、実はな、この戦いに勝ったら、また彼女にプロポーズしようと思うんだ」
「……おっさん、滅多なことを言うもんじゃないぜ」
「……?お前さんは祝福してくれるものだと思ったんだが」
「祝福してるさ。ただ、こんなときにそんなことを言うと、死神に目をつけられちまうぞ……」
「おまえさんは何のことを言っているんだ?」


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俺TUEEE!

Side 神様

「神様、動画の方はどうなったんですか?」
「ん?ああー、あれはお蔵入りだな」
「え?いい出来とか言ってませんでした?何があったんですか?」
「ああ、いい出来だったんだけどな。なんというか、“オチ”が気に入らなくてさ……途中で撮るの止めちった」
「……“オチ”、ですか?」
「ああそうなんだよ。なんていうかさー……チートで下手に俺TUEEEしても全っ然、面白く無いだろ?」


ただひたすらに、攻め立てる。

―――――《疾風突き》

「ふん、馬鹿の一つ覚えか!」

―――――《疾風突き》

「くだらん、無意味だ!」

―――――《疾風突き》

「ええい、ふざけているのか貴様!」

失礼な。
馬鹿の一つ覚えではあるが、無意味でもふざけているわけでもない。

今の、俺の狙いはあのスケジュールノートの破壊である。
竜王が気が付いてはいるかは知らんが、攻撃を弾く度、少しずつ表紙が剥げていっているのだ。

これ、壊せんじゃね?とか思ってしまったわけで。

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 竜王

くそ、やり辛い。

脳裏にあのチート勇者の顔がちらつき、目の前の男と重なる。

手帳で何度も弾き、何度も即死の呪いで狙っているというのに、臆せず攻めてくるこの男。



この勇者の“特典”の正体は何だ?



くそ、情報が足りなすぎる。



クソ真面目にレベル上げるだけでは俺に勝てるはずがない。
だが、コイツの目には確信の光がある。

“絶対に竜王を殺せる”という、確信の光が!

何だ?

一体何なのだ!?

特典の正体がわからん以上、一撃も、もらうわけにはいかない。
今勇者の手に握られているあの剣が繰り出す攻撃が、全て即死判定持ちかもしれないのだ。
あの神のことだ、その可能性は極めて高い。
だが、《ザキ》を避けながら正面から切り込むような真似、正気の沙汰ではない。
こいつ、まさか《ザオラルガード》をつけられなかったのか?

守りに慎重になるうち、攻撃の手が鈍る。

そうすると、さらに攻めの手を強くしてくる勇者。

くそ、埒が明かん!
何故だ!
何故一撃も攻撃が当たらん!

 ◆ ◆  ◆   ◆

竜王が焦っているのがわかった。

盾そのものを狙っていることに気づかれたか?
あれだな、早々に決着をつける必要があるな。

とか、思ってたら案の定攻め手を変えてくる竜王。

「ええい、《イオナズン》!」

……え?

周囲で“圧”が大きくなったのを感じた。

空裂呪文《イオナズン》。イオ系最強の魔法。

ヤバイ、コイツはヤバイ!
イオ系呪文の真に恐ろしいところは破壊力ではない。
聴覚に対するダメージである。
イオですら受けたあとは耳がしばらくは聞こえないってのに、最上位のイオナズンなんて受けた日には………!



反射的に飛び出していた。



おっさんの声が頭のなかでリフレインする。

―――――“いいか、大事なのは構えじゃない”

弾けるような音が周囲で鳴り出す。

―――――“考えてもみろ。ドラゴンの鱗を切り裂くんだぞ?正気の沙汰じゃねぇ”

チリッ、と頭の隅で何かが焼き切れる音がした。

―――――“あ?もうドラゴンなんざ倒せる?ちげぇねぇ。だがな、本当にこの技を極めたのなら”

灰色に染まる世界。何もかもがスローモーに見える。

―――――“あの竜王の野郎に、一泡吹かせることが可能なはずよ。だから、《ドラゴン斬り》って、名付けたんだしな”



呪文は、強力であればあるほど、チャージ時間が長くなる。
そのため、術者自身の集中を途切らせることが出来れば、呪文をキャンセルすることが可能だ。
だが、別に俺はそこまで深く考えちゃいなかった。
ただ、勝手に体が動いていた。

命懸けではぐれを狩っていた3週間。そして、ひたすらダースドラゴンを斬っていた4日間の経験が土壇場で、俺に《ドラゴン斬り》を放たせたのだ。



一気に駆け抜ける。

竜王の反応が遅れた。
違うな、俺の反応が速いのか?

背後で、魔力がどんどん高まっていくのを感じた。
でも、それですらもう遅い。

―――――“もっと、こう、引き寄せる感じだ”

そうか。わかった。

疾風突きでは、二歩手前で踏み切っていたのを、一歩手前で踏み切る。

剣を振り上げる。

剣尖で切り裂くんじゃない。もっと、柄に近い部分で。
思いっきり、ぶん殴るように!

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 竜王

しまった、この技は《疾風突き》ではない!

土壇場での、踏切のタイミングの変更。
コイツ、これを狙っていたのか!

しまった、間に合わな―――――!

 ◆ ◆  ◆   ◆

勇者の渾身の《ドラゴン斬り》。
竜王は、なんとかノートを差し出したが、勇者の一撃を受け損なった。

スケジュールノートが粉々に砕け散る。

勇者の剣はそのままの勢いで、竜王の手首を打ち据え。

《ほしふる腕輪》を破壊した。

 ◆ ◆  ◆   ◆

全力で後ろに飛び退る。

俺は、今の一撃で、イオナズンのキャンセルと同時に、ノート、腕輪の破壊までこなしていた。

ヤベー、今のはヤベー!死んでた!半分死んでた!
上手く行ったのはたまたまに過ぎない。もう一度やれば確実に死ぬ!

……落ち着け、俺。

呼吸を整える。
だが、今の一合で、この勝負の流れは大きく俺に傾いたはず。



―――――ククク、と竜王が笑い始めた。

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 竜王

今のは肝を冷やしたぞ。

だが、この勝負はもう終わりだ。
お前のその手の剣は、特典ではないな?

なら、何を恐れる必要がある?

―――――《ドラゴラム》

 ◆ ◆  ◆   ◆

竜王の唱えた呪文に思わず、げ、と声を出してしまった。

ここで第二形態かよ!早いわ!
いや、早いほうがいいのか?



竜王の上半身の筋肉が異様に盛り上がり、スーツがはじけ飛ぶ。
その皮膚は赤黒く染まり、両手の爪が鉤爪状に変形する。

それで変身が終わった。



………そんだけ?およ?

でっかいドラゴンになるわけじゃないの?



だが、次に竜王が唱えた呪文を聞いて、俺は血の気が引いた。

―――――《ピオラ》

―――――そして、《バイキルト》だ。



もしかして、あれか?

《ドラゴラム》って、物理で戦うためのモードチェンジなのか!?

 ◆ ◆  ◆   ◆

三撃。たった三撃だった。

反応できない速度で、突っ込んできた竜王に、何とか《刃の防御》だけ発動するも。


一撃目で《オリハルコンソード》を折られた。


二撃目で顎を砕かれた。


三撃目で壁際までぶっ飛ばされる。


内蔵がやられたかもしれない。口から血が溢れてくる。
顎が砕けては、満足に呪文を唱えることもできない。
手元もおぼつかない。きっと、アイテムを使う前にトドメを刺されることだろう。



本当の本当に、“詰み”だった。

 ◆ ◆  ◆   ◆

竜王が変身を解いた。

「今ので、死ななかったのか……見上げた男だ」

「最後は、慎重に行かせてもらおうか」

―――――《マヌーサ》

もう、ただでさえ焦点が定まっていないのに、ここでのこの追い打ち。



俺は、最後の力を振り絞り、腰の《どくばり》に手を伸ばしていた。



竜王が不用心に、こちらに近づいてくるのを感じた。



マヌケなことに、俺には竜王が、《マヌーサ》の効果で、周囲から何人も近づいてくるように見えていた。

このうちの一体が本物の訳で。



俺は、竜王に《メガンテ》が効かないなら、と考えていた最後の手段を実行する。



強い気を感じるその方向に、《どくばり》を抜いて、投げつけた。



どうだ?
俺は、賭けに勝ったのか?










「ククク、どこに剣を投げている。そんなに上に投げては、当たるものも当たらんぞ?」

竜王が嘲笑してきた。
そして。

「トドメだ。《ザキ》!」



体中に冷たい感覚が走る。さらに、心臓を掴まれたような苦しみ。
ああ、これで俺は終わりなわけか。



俺は、意識がブラックアウトする直前に1つの事を考えていた。










それで?



俺は賭けに勝ったのか?

 ◆ ◆  ◆   ◆










「おお、勇者よ!死んでしまうとは情けない!」
「なぁに、150までしかくらわん!」
「毎回、何を言っておるんじゃお主……」










「リオレウス狩ってくるわ」



本編で触れられない設定

34.リオレウス
初出は「モンスターハンター」。
もはやドラクエですら無い。


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その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし

Side 神様

【それを売るなんて】ヒキヲタをドラクエの世界に転生させたら太陽の石を売り払いやがったwww【とんでもない】 
(続き)

541 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
これ何て無理ゲ?

542 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
>541
嘘みたいだろ。初代の世界なんだぜ。これで。

543 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
竜王じゃなくてRYUUOUだったってわけか

544 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
それでもそれでもおっさんなら何とかしてくれる

545 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
竜王「ドラゴラム(物理)」

見事に腹筋を持ってかれたわwww
さすがラスボス

546 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
勇者も腹筋を()()()()()()()()

合掌。

* * *

569 名前:以下、名無しにかわりまして神様がお送りします
それで?
最後、勇者は何を目掛けて剣を投げてたん?


Side 竜王

目の前に転がる勇者を見て、少し疑問に思う。
コイツは結局、何の特典を持っていたのだ?

だが、まぁいい。

死体が棺へとなって帰還しないことは僥倖だ。
コイツのパーティメンバーがまだ階下で戦っていることを意味している。

何度も来られるのは面倒極まりない。
コイツの体は、氷漬けにして城の地下にでも封印しておくべきだな。

初代勇者と同じ末路を辿らせてやる。



ふと、気がつく。

ほんのりと、勇者の体が光っている。

………いや、違う。
窓からの日差しが、勇者の体を照らしているのか。

あまりヒヤヒヤさせるな。
特典で、“死んだら、即時復活する”能力でも持っているのかと思ったぞ。

流石に、あのようなプレイヤーと連戦など、考えるだけで気が重いからな。

………。










あの位置に、日差しなど差したか?



バッ、と後ろを振り返る。



天井に近い窓のうちの1つ。
その窓の周囲の壁が崩れ、そこにあるはずの“棺”が消えていた。

十年間放置していた、“ロトの勇者”の棺が。

壊れた壁に、走る一本のヒビ。
そのヒビは、窓枠の下、短剣のささったところから伸びていた。



背筋を冷たいものが走った。



いや、落ち着け。
前回の戦いは、俺が()に勝った。
奴は何らかの準備をしてから乗り込んでくるはず。
まだ、身を隠す時間は十分にあるはずだ―――!



「《らん らんらら、らんらんらん らん らんらららーん》」

竜王の耳に、何者かの歌う声が飛び込んできた。

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 兵隊長

ボウズ、スマン。
そっちに行けんかもしれん。

死神の騎士 Lv.99★ ♂
HP/MP:2000/0
現在装備 
頭:死神の兜
胴:死神の鎧
武器:ロトの剣
盾:死神の盾

目の前の“竜王軍最強”の魔物に、俺はまだ傷ひとつつけられちゃいねぇ。

後ろで部下たちも足止めを食らっている。
さっさと勇者の加勢に行きたいところではあるが……。

兵隊長 Lv.99★ ♂
HP/MP:82(410)/0
現在装備 
頭:なし
上:黒いシャツ
下:アーマー
武器:なし
盾:なし

ククッ、と笑いが漏れてしまう。

ボウズじゃないが、“こんなの無茶苦茶だ”と言いたくなるな。

まさか、《兜割り》で《ロトの鎧》が砕かれるかよ。

さぁて、どうしますかね?

特注の剣は、最初の一合で折られちまって。
鎧はなし。
体力はわずか。
さらに、相手は伝説級の武器を持っていやがる。



野郎共、心配すんじゃねぇ。

俺は、ゴーレムを素手で殴り殺したんだぞ?
Lv.4()5()の時にな。

今なら、ギリギリ、コイツでもいけるんじゃねぇか?
鎧も壊れて身軽になったことだ。
ここは1つ、景気良く行ってやろうじゃねぇか。



兵隊長が構えをとって、ステップを刻み始めた。
《身躱し脚》。かつての勇者の一人に教わった技だ。

部下たちがざわめくのが聞こえた。

「まさか、はじめる気か……ボクシングを…!」



兵隊長は拳を上げたまま、前傾姿勢で死神の騎士の懐に飛び込んだ。

捨て身とも取れる突進に、死神の騎士は一瞬反応が遅れる。



その一瞬が命取りだった。

盾を手で押しのけ、ガラ空きになった、死神の騎士のボディに。

兵隊長は、《爆裂拳》を叩き込んだ。

全身の、全霊で。

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side ???

「不吉を…届けに来たぜ!」

ちょっとテンション高めなのは仕方ないって!

10年ぶりのシャバだぜ?空気ウマー!!!



今俺が立っているのは、竜王の城の最上階、玉座の間を見下ろす窓、その窓枠にである。



いよぉ、竜王ちゃん、元気にしてた―!

してたよね―!
してたんだろオラァ!

おっといけない、BE COOL…BE COOL……。

いやぁ、それにしてもまいったわー、目覚めたらフラグ全部回収されてんじゃん。

もう、俺に仕事なくね?竜王ちゃんをいじめるぐらいしか仕事残ってなくね?

うわー、そこに転がってる勇者くんもっと空気読んでほしいわー。

あれだぜ?ゴルスラ、ゴルスラ、ゴルスラに《魔神斬り》覚えさせて竜王とメタメタメタメタァ!とかメタル祭りぃ!とかやるつもりだったのに、今さらそんなことしてもさぁ!
俺の方が空気読んでないみたいじゃん!下手にシリアスな空気持ち込みやがってよぉ!

……ま、いい許す!
助けてもらったからな。
命だけは許してやるよ!
既 に 死 ん で い る け ど な !

まさに外道!

………いや、やっぱ許せんわ。
これで俺を狙ってきたんだっけ?お、《どくばり》じゃん!

はい、パース!……ち、頭を外したか。

お?竜王ちゃんなんか文句あるわけ?
死体蹴りはやめろ?

ハハハ

お前いつから俺に口答えできるほど偉くなったわけ?

もういいわ。

――――――《マダンテ》


「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!マ、《マジックバリアーーーーー》!」

竜王が大掛かりな魔法障壁を発動させる。
暴走した魔力の大爆発が、竜王城の揺るがした。

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 兵隊長

ギリギリのところで死神の騎士を沈めるのと同時。

城が揺れた。

衝撃は……上からか!?

ボウズ、そっちは大丈夫なのか!

 ◆ ◆  ◆   ◆

Side 竜王

ふざけるなよ!?
なんだ開幕《マダンテ》って!?
初っ端MP全消費って正気か!?
お前、物理職じゃないだろうが!!

《モンスターマスター》だろうが!!

ロトの勇者 Lv.9 ♂
HP/MP:150/0(999)
現在装備 
頭:なし
胴:つなぎ
武器:なし
盾:なし
特技:
《ギガデイン》《ビッグバン》《グランドクロス》《ジゴスパーク》《マダンテ》《くちぶえ》
(※システムによる閲覧規制)
スキル:
モンスターマスター:魔物と心を通わせることができる。また、配合を行えるようになる。
メタルボディ(呪文系によるダメージを無効にする)
(※システムによる閲覧規制)

「てれるぜ!」

褒めとらんわ!

「ハハハ、そうカッカすんなって!これでもう俺は窓に引っかからないわけじゃん?」

ああ、そうだな!今お前が天井をすべて吹き飛ばしたからな!

お前マジ調子乗んなよ?
今からお前をもう一回倒して、今度は城の地下に封印するからな!?

「ああー、それたぶん無理だわ」

はぁ、何抜かしてんだゴラァ!
お前もうMP0だろがぁ!

ロクに準備しないで飛んできたろ!
《エルフの飲み薬》持ってんのかよぉ!

「竜王ちゃん、BE COOL!素が出ちゃってるよ?」



「あと、後ろから()()()()?」



 トスッ

………え?

胸に目をやる。

黒い刃先が、そこから生えていた。

首だけ回して背後を見ると、確かにトドメを刺したはずの勇者が立っていた。



「いやぁ、《精霊の歌》は効き目が遅いのが難点ですなぁ!」



 ◆ ◆  ◆   ◆

勇者 Lv.94 ♂
HP/MP:479/458
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。

―――――目が覚めると、見知らぬ男と竜王が言い争いをしている光景が目に飛び込んできた。

何故俺は生きてる?
あの男は何者だ?
っていうか、つなぎ姿?

言動からするに、あのつなぎは“ロトの勇者”か。

俺は賭けに勝ったらしい。
約4割の確率で発動する《どくばり》の即死攻撃、これで壁を破壊することに成功し、ロトの勇者を解放した。

まだ、竜王には俺が目覚めたことがバレていない。
今のうちに、おっさんたち連れて逃げ出したい気分だが……。



視界の隅に《どくばり》が映る。

あれ、壁に刺さってるはずじゃ……。抜けて落ちたのか?
《どくばり》を手に取る。



俺が目覚めたことはまだ、竜王にバレていない。



ゆっくりと、立ち上がる。

興奮冷めやらぬ様子で何事か叫ぶ竜王の背後で、俺は呼吸を整えた。

そして、俺は一番慣れた剣技を竜王に繰り出す。

―――――《疾風突き》


 トスッ

……マジか。

もしかして、ボスには効かないんじゃないかとかいう懸念もあったのだが、別段そんなことはなく《どくばり》は竜王の胸を貫いた。

振り返る竜王。

……なんかスマン。お願いだからそんな恨みがましい目でこっちを見るな。



竜王は膝から崩れ落ち、息絶えた。
そして、その姿を棺へと変える。










………こんだけ?

「GAME CLEAR! コングラッチレイション!イヤッホォウ!」

ロトの勇者がなんかはしゃいでいるが、俺はとてもじゃないが盛り上がれる気分ではなかった。

竜王へのトドメが、まさかの不意打ちである。



よし、決めた。

俺、勇者辞める。

「止めるも何ももう終わりなんだけどな!」

いろいろと台無しにした張本人は黙っていなさい。



本編で触れられない設定

35.ザオラルガード
この作品における最大の詐欺要素。その効果はザオラル系の()()への完全耐性、蘇生アイテムも効かない、というもの。
呪文とアイテム以外の蘇生なら受け付けるが、それらの特技が初代の世界観にそぐわないため、縛り要素と化していた。実は抜け道ありというオチ。

36.精霊の歌
初出はⅥか。味方全体を復活させる特技。
ゲーム内では、使用者を2ターン行動不可にしたが、この世界においては単純に蘇生に時間がかかるというデメリットのみで、行動不可にはならない。
発動原理は、祈りを精霊に捧げて、その加護を受けること。
この世界においては、精霊と呼ばれる存在がルビスのみで、ルビスとの交信が可能なロトの勇者のみに許された、蘇生特技の究極奥義である。DQMⅠⅡにおいては踊り系に分類されるため、呪文()()()()。この世界観でもその設定を流用している。

37.身躱し脚、爆裂拳
それぞれ、《みかわしきゃく》(Ⅵ初出)《ばくれつけん》(Ⅵ初出)。
ボクシングでのステップ・フットワーク、連続スマッシュに相当。
兵隊長はボクシングスタイルで戦っても相当強いが拳を痛めるため普段はやらない。
どうやら竜王をぶん殴るために鍛えていたようである。

38.マダンテ
初出はⅥ。ドラクエにおける究極の特技。
作品によって色々扱いが変わる。
MPを全て消費して相手に特大のダメージを与える攻撃技。
純粋な魔力の塊をぶつける爆発技であり、生物にしか効かないメガンテとは一線を画する。


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最終話:そして転職へ

ぶっちゃけ、ここから語ることはほとんど蛇足である。
そりゃそうだ。ラスボスは倒れちまったんだから。



階段から足音。
おっさん、おせーぞ。既にいろいろ台無しだわ。

「じゃ、これ貰ってくな」

竜王の棺を肩に担ぎ上げるロトの勇者。良く持てるな。
ってあれ?

貰っていく?

よくわからん鼻歌を歌い、ご機嫌な様子でロトの勇者は《くちぶえ》を吹いた。

バサッ、という音。
頭上から影がさした。

見上げると、そこには巨大な鳥がいた。

それは背中と頭に翼を生やした、死の象徴とも言えるモンスター。

モンスターズシリーズの“キングアズライル”だと………!
もしかして“工房”の最奥で眠ってたやつか!

「いつも送り迎えアリガトねぇ、アズライルち~♪」

ロトの勇者は棺を担いだまま、キングアズライルの背中に跨がり、そのままキングアズライルはどこかに飛んでいってしまった。おそらく、工房へだとは思うんだが。

おっさんたちが遅れて玉座の間に雪崩れ込んできた。

「ボウズ、竜王はどうしちまったんだ……?」

その場の惨状。何故かいない竜王と、ピンピンなままの俺。

事態が飲み込めず、おっさんが訝しげに尋ねてきた。



ああ、なんつうか、くだらないくせに、話せば長いんだけどさ。



とりあえず、終わったんだよ。



さぁ、女僧侶さんをさっさと探してさ。
とっとと帰ろうぜ。



……そういえばおっさん、鎧は?

 ◆ ◆  ◆   ◆

女僧侶は地下の牢に繋がれていた。

竜王に対する恐怖からすっかり弱っていたが、命に別状はなく、ひどいことも特にされていなかった。

俺には強くあたるのに、少しはか弱い部分があるんだな、と彼女のことを可愛いと思ってしまった。



……不謹慎か?

さぁ、帰ろうぜ、女僧侶さん。
どうです、いつも怒ってばかりいる相手に助けだされる気分は?
なんてな。

彼女を牢から出してあげる時、少し面白がっていることを察したのか、彼女が怒る。

「何か面白いですか?私は大変だったんですよ?」

「ふん、勇者様みたいな軽い人、私大嫌いです!」



……いつもみたいな覇気が感じられない。
精一杯強がっているのがわかる。

「そういうところが、また、可愛い」



………あれ?言葉に出ちまったか?

女僧侶さんは何も言わなかった。
ただ、そっぽを向くだけで。

俺が彼女を抱き上げている道中、彼女の耳はずっと赤いままだった。

 ◆ ◆  ◆   ◆

まず、部隊を引き連れラダトーム城に帰還したら、既に王様は竜王に勝ったことを知っていた。

どうやら、ロトの勇者が勝利報告だけはしていったらしい。
イメージと違って、ワリとマメな性格なのかもしれない。
まぁ、キングアズライルを作り上げるくらいだしな。

凱旋したラダトーム軍を祝う準備は既にできていて、城下町で三日三晩のお祭り騒ぎ。

それで、武器屋のおやじに《どくばり》の礼を言いに行ったら、

「……よくやった」

おやじはぶっきらぼうに、それだけ言った。



……おい、不意打ちはやめろ。

思わず泣いちまうところだったわ。

 ◆ ◆  ◆   ◆



竜王に勝ったらニートになれる。そう思っていた時期が俺にもありました!



現実はそう上手くはいかないようだ。

こっからは“その後の話”、というやつになるのだろうか。



まず、おっさん。
今回めでたく退役である。
曰く、「あんな、胃の痛い職場はもう懲りごりだ」だそうで。

何がどう胃が痛いのかは、突っ込むだけ無粋というやつだろう。

今回の戦いで、目に見える形で一番武功をあげたのはおっさんだ。
竜王軍幹部のうち、半数を倒し、ぶっ壊れたとはいえ《ロトの鎧》と、さらに《ロトの剣》の回収までこなしている。
さらに、街の防衛強化、軍の強化、現場指揮etc……

頭を使う分、俺より働いていたのは間違いない。
命令違反の件はご愛嬌。竜王討伐の立役者であるおっさんに、大臣たちは強い態度に出ることができなかったようだ。

たっぷりと報奨金を得たらしく、その額を具体的には教えてくれなかったが、「慎ましく暮らせば、家族で一生安泰に暮らせるよ」とか言ってた。
正直羨ましい。

で、忘れるところだった。

おっさん、侍女さんにプロポーズを果たしたようである。
結果は言わずもがな。

今は、褒賞で得た竜王の城に、おっさん・侍女・例の女の子の家族三人でひっそり隠遁生活を送っているようだ。

末永く爆発してくれ。



次は……そうだな、ロトの勇者の話をしておくか。

ロトの勇者はあれから、見かけない。

あれから工房に足を運ぶ機会があったのだが、そこからも既に引き払っていた。
どうやら、もうアレフガルドにはいないようである。
結局、最後までとらえどころのない奴だった。

王様が言うには、竜王討伐は俺の手柄だと報告し、「自分には何もいらない」とだけ告げて飛び立って行ったらしい。

……少しだけ、不穏な想像をしてしまう。

ロトの勇者は、棺を持ち去る時、歌っていた。

“破壊神と掛けあわせて~♪過去に飛んで~♪”

奴は、モンスターマスターだ。
そして、モンスターマスターは配合によって、“魔王”と呼ばれる存在でも、それが()()()()()()()()作り上げてしまう馬鹿げた存在である。

記憶は朧気なのだが、たしかモンスターズ初代では、Ⅲのラスボス“ゾーマ”を作り上げるレシピが『りゅうおう×シドー』だった気がするのだが……

いや、考え過ぎか。

工房のモンスター達も連れて行ってしまったようで、今アレフガルドには世界観に反するようなモンスターはいない。
つまりは、はぐれ狩りも、もうできないわけで。

俺がカンストするには、もう少し時間が必要なようである。



ラダトームの街の皆は相変わらず元気だ。

武器屋のおやじは顔をあわせるたびに、「また、剣を折ったんじゃないだろうな」と睨みつけてくる。
心配すんなって。

そのまさかだよ。

いや、俺が悪いんじゃねぇよ!城の兵隊たちが妙に訓練でも殺気立っていやがるんだわ!

看板娘さんのいる薬屋には、よく城に品物を卸してもらっている。

「たくさん注文してくれて大助かりです!」

いえいえ。俺には此れ位しか恩返しができませんから。



地下室の女科学者は竜王との戦いのあと、菓子折りを持って行ったら、居なくなっていた。

彼女の存在無くしては竜王の城攻略も難しかったはずなので、彼女も褒賞が貰えるという話をしに来たんだけどな……。

残っていた賢者に話を聞こうとしたのだが、とりつく島もなく。

「本物と一緒に出て行きおったわ……」

賢者は何とかそれだけ教えてくれた。で、それ以上は何も言わない。
未だ、俺はその言葉の意味を測りかねている。



ああ、女僧侶さんの話をしておかなきゃだな。

王と大臣達が若者を勇者に仕立てあげていたことに関して、責任を取るということで、ラルス16世が退位した。

女僧侶―――ローラ姫は、そのあとを継ぐ形で、女王として即位した。
まぁ、急な話だったんでしばらくはラルス16世が後見人をやるようだが、概ねローラ女王の評判はいい。

「……私が女王とか、できるはずありません……」

そんなこと無いと思うぜ?少なくとも兵士からの支持は厚いしな。
もう竜王もいないから、気楽にやればいいんだって。

「……私だけとか、ズルいです」



「勇者様も巻き込みますからね?」



で、俺の話をしなくちゃいけないわけだ。



ローラ女王の即位と同時に。
おっさんの穴を埋めるという形で。
俺は、“ラダトーム城剣術指南役”の肩書と“兵隊長”の役職を得ていた。

……あれ?俺に褒賞は?

「《太陽の石》を売り払う不届き者に出すわけがないじゃないですか」

道具屋の野郎喋りやがったのかぁぁぁぁぁぁ!

「ふふふ、シャキシャキ働いてくださいね♪」




そんなこんなで。

異世界転生してから14ヶ月。

そして、その後も。

俺は今日も元気にやっている。

薄給だが、時々《メガンテ》でゴールドマンをしばいているので、小遣いには困っていない。

(fin)



本編で触れられない設定

39.ロトの勇者
今現在、ローレシアにて、竜王を拷問中。
また、優秀なブレインを得て、世界観の破壊者として暗躍している。

40.主人公
19歳でアレフガルドに転生させられる。
成績は良くなかったが、機転は利くタイプ。というかすこぶる運がいい
特典は《ザオラルガード》《メガンテマスター》および、「勇者として活躍すればモテること」。
残念ながらおっさんの方が勇者ぽかったせいで、全然モテなかった。
本人は最後の特典の存在をすっかり忘れている。


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番外編:ロトのための物語

Side 神様 ※At本編開始前

「あれ、神様?どうしたんですか。渋い顔して?」
「……俺、とんでもない奴を送りこんでしまったかもしれん」
「……!(神様にとんでもないって言われた!?どんなヤバい奴が来てたんだろう?)」
「……これ、下手すると爆笑動画じゃなくてポカーン動画になっちまうな」
「……!(あの神様が苦虫を噛み潰したような顔を!すごい!どんな人が来てたんだろう?)」


Side ???

「転生特典?じゃ奥義クラスの特技無双最強の勇者かつ最高のモンスターマスターで、廃スペででもチートじゃなくて努力チートってことにしたいから原作開始前からレベル1スタートで、ちょっとビルダー要素欲しいな、“祠”自作するからその準備と主人公補正のすんごいやつ、具体的にはラスボス戦で味方が苦戦してるところに駆けつけて“ふっ待たせたな”とか言ってラスボス格好良く瞬殺みたいな。そもそも初代はパーティシステムじゃないからモンスターマスターも仲間の危機駆けつけも無理?ふざけんなやれよ。神様なんだからどうにかしろよ。バグるかもだと?いいよ別に。バグりそうなら竜王瞬殺して来るし。瞬殺したあと退屈な余生を送らせる気かよ。自由度高くして長く遊べるようにするべきだって絶対そうだって。そもそも特典は一個だけしか許されないだと?カッコ一つで言い切っているから一つだろいい加減にしろゴネンナ」

 ◆ ◆  ◆   ◆

「考えてみたら俺竜王と何の因縁もないじゃんローラ姫とか知るか。ヒロイン押し付けられても何のありがたみもねーよ。あっちで暴れてるおっさんにいくらでもくれてやるわ。うわ王様、王冠投げつけんな。おっさんは剣を投げつけんな。まぁ、どうあがいたところでお前らでは俺の鋼のボデーにかすり傷一つ負わせらんねーよ。悔しいのか、悔しがんなよ小じわ増えんぞ。とりあえずパパッてクリアしてカワイコちゃん口説かなきゃ。この写真の子とか良くねぇ?……おい止めれ警備兵呼ぶの止めれ。ちげーよ、俺はロリコンじゃねえよ。絶対に負けないのはわかっているけど心臓に悪いわ。だから警備兵を呼びやがるんじゃねえ!勘違いすんなただの光源氏だ10年後を見据えてるんだ、手出しするわけじゃないだから警備兵を呼ばないで、止めろください竜王じゃなくて俺がラダトーム滅ぼすぞオラァ!いいから聞けよ、なんか特別な才能を持つ子らしくて邪教徒に狙われてさらわれかけたのをサッソーと救ったのさ俺かっけーなおい。そしたらって、話の腰を折るんじゃない、警備兵を呼ぶのを止めろって言っているだろうが!邪教徒とロリコン、どっちに捕まる方がましだったんじゃろじゃねえよ、ため息をつくな、ふざけんな断じて俺はロリコンじゃねえよ、警備兵ごとこの城潰すぞオラァ!」

「その女の子はどこに居るのかですと?信用できるところに()が匿っているに決まってふざけんな警備兵を呼びやがるんじゃねえ!」

 ◆ ◆  ◆   ◆

「行くぞアズライルちー!7つの海を越えて!

パイルダーオン!
乗 っ た だ け 融 合!

くはは!ちまちまフラグなんざ回収してられっか!狙うは大将の首一つよ!なんてねなんてね!さぁ、竜王に因縁つけてくるぜぇ!ハイヨー、アズライルちー!無限のカナダにさぁ幾三!」

 ◆ ◆  ◆   ◆

「何だよ竜王城の最上階に何で竜王がいるんだよ。鳩が豆鉄砲食らったみたいな不細工な顔しやがって、こっちが豆鉄砲食らった気分だわふざけんな、地下に引っこんどけよ、俺すげー期待してたんだからな、ダンジョン探索とかむっちゃ期待してたんだからなダンジョンで迷子になって“しゃらくせぇ!床をぶち抜いたらぁぁぁ!”とかやりたかったのによぉ!計画まるっ潰れじゃんかよぉ!お前なんか竜王さんじゃねえ!さてはチート持ち転生者で楽して世界の派遣を握ろうとかいう騙されないぞバリアン世界の悪者め!僕と契約して魔法少女になってよ?許さねぇぞキューベェェェェェ!あ、一つながりの財宝をくれるなら仲間になっても……世界の半分?んなもんいらねぇよ!……もういいわ、つまんないわおまえ。とっととどっか失せろよ。あ、何でプルプル震えてんの?会いたいの?……って、違うわ、そうじゃん俺竜王ちゃんに因縁つけに来たんだったわ。追い出しちゃダメじゃん、ごめんご!さぁ存分に殺し合おうぜぇぇぇ!」
「俺は魔王だけどお前は悪魔だな」

 ◆ ◆  ◆   ◆

「残像だ」

「撃つべし!撃つべし!」

螺旋丸(バギクロス)!」

「魔法効果を受けない!?いや神のカードじゃないんだからさぁ……《マダンテ》」



「……よくぞ我を倒した、竜王よ。だが、俺が飽きない限り第二第三のロトの勇者が理不尽に襲いかかることだろう、夜道には十分気をつけることだな……って、竜王ちゃんノリ悪くね?そこは“くっ、私は勇者なんかに屈しない!”とかさぁ……いや、これも違うわ、竜王ちゃんにそんな反応されてもキモイだけだわ。何でプルプル震えてんの?会いたいの?あ、手に持ってるこれ?《世界樹の雫》と《エルフの飲み薬》だけど?」

「元気100倍!第二ステェェェジ!」

「俺の変身(回復手段ストック)はあと108段階残ってるぜぇぇぇ!悔しかったら《ドラゴラム》使ってみろよヘイヘーイwww」
「《ドラゴラム》」



「ちょ、もう殴るの止めて、いてぇ、物理変身とか反則……」



「くっ……次はお前を殺すゥゥ、殺してやるゥゥゥ!」

 ◆ ◆  ◆  ◆

「おお、勇者よ!死んでしまうとは情けない!」
「なぁに、150までしかくらわん!」
「毎回、何を言っておるんじゃお主……ってもう居らぬ」



「……絶望を届けに来たぜェェェェ!」

 ◆ ◆  ◆   ◆

in ローレシア城 At現在

「ここにシドー(♀)がおるじゃろ?

 お ま え の 嫁 だ ! 」
「お、俺に近寄るなぁぁぁ!」
「多分、この方法でいけると思うんだ。一見無茶でも、《モンスターマスター》のスキルさえあれば大概のことはどうにかなるって、私の《アンサー・トーカー》が告げている。……信じてくれないかな?」
「《アンサー・トーカー》がそう言うなら仕方ない」
「くっ、殺せ!いっそのこと殺してくれェェェェ!」
「いや、死んだら《精霊の歌》で蘇生するし。ハッピーエンド」
「バッドエンドの間違いだろうがァァァァ!」
「俺が10年間受け続けた屈辱はこんなもんじゃねぇぇぇぇ!」
「(……《アンサー・トーカー》が“自業自得だ”って言ってるけど、ツッコまない方が良さげだね?私もひどい目に合いそうだし?)」



おっす、おらロトの勇者!今はローレシア城で世界観をR-15指定にするために奮闘する日々だ。
異世界に飛ばされたと思ったら10年間も棺に封印されていたり散々な目にあったけど、辛い境遇にも負けず、一生懸命生きている。
あの日救ったロリっ娘の成長を見守ることが出来ず、既に完成品だったとか色々と悔やまれることはあれど、別にいいや。俺はロリコンなんかじゃないからな。

竜王ちゃんとは色々とわだかまりがあったけど、全部誤解だってわかって、今は仲良く出来て「できてねぇぇぇ!」ちょっと外野がうるさいから黙らせてくる。



異世界転生してからおよそ10年。俺は今日も元気にやっている。
ときどき、竜王を取り返そうとする魔族に襲われたりしてるけど、《マダンテ》でしばいているので問題ない。



本編で触れられない設定

41.竜王(転生者)
DQ初代のラスボスにして、多分最も有名な魔王。
この作品で一番不憫なお方。この人の扱いの悪さに作者の所に苦情が来たほど。
作者の頭ではあれ以外の終わらせ方が出てこなかった。陳謝。
後半のシリアス展開を一気にギャグに引き戻した、ロトの勇者と並んだこの作品最大の功労者(メタ的な意味合いで)。

42.正義と悪
正義と悪というものは主観的なものでしか無く、それを語る立場が変われば、正義と悪の立場というものは容易に変わりうる。そのことを読者の皆様は忘れないでもらいたい。※オチのつもり。


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