◆それは生きている (まほれべぜろ)
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俺、転生オリ主になります

 「……なんだってこのクソ暑い中、外回りの仕事をせにゃあならんのだ」

 

 ついつい愚痴が言葉に出てしまったが、大目に見てほしい。

 何といっても今日は夏真っ盛り、最高気温は35℃に登り、テレビは異常気象だと騒ぎ立てている。

 そんな頭がおかしいような猛暑日だというのに、俺は取引先のお偉いさんに会うために、電車で1時間、バスで1時間、徒歩1時間(少々誇張は入っているが)の別荘を訪ねなくてはならなくなったのだ。

 しかもまだ往路だというのに、持参したミネラルウォーターを半分は飲んでしまった。

 取引先は気難しい人だということで有名で、『水を分けてください』何て言えば、不機嫌になってしまうかもしれない。

 帰りに飲む分の水を確保するためには、残りの道を水分補給なしで踏破しなければならないのだ。

 

 「くーっ、せっかくの別荘なんだから、交通の便がいいところに立てておけよ。そしたら行きやすいだろうが……って、んん?」

 

 ふと道の脇を見てみると、そこには井戸らしきものがあった。

 喉が渇いている俺は、飲めるものだろうかと確認をしに行く。

 

「田舎とかだと、まだまだ井戸は現役だって言うしな。ちょっと味見を……、こりゃ美味い!」

 

 井戸の水は、明らかに清涼だとわかる味で、俺はすっかり安心してガブガブと井戸水を飲み始めた。その時だ。

 

「何を望む?」

 

 目の前に、何の前触れもなく女神が現れて、こう言った。

 

 いや、本当に女神かは分からない。だが、整った顔立ち、水面のように靡く美しい金髪、シミ一つ見えない純白のローブ、そして心なしか見える、彼女の周りの薄く白い光。そんな現代社会から浮いたような存在の彼女を、俺は女神か何かだとしか思えなかったのだ。

 

 本当に願いをかなえてくれるのか?

 貴方は神様なのか?

 そんなことを尋ねそうになった自分の口を、慌てて捻じ止める。

 もし叶えてくれるのならば聞く必要はないし、叶えてくれないなら聞いても意味がない。

 なのにそんなことを聞いて、その質問への答えがあなたの望みね、だの気分を害したから帰る、だのと言った返答が返ってきたら、一生悔いが残るだろう。

 今考えるべきは、自分が何を願うかだ。

 

 と、言ってももう、自分の中ではほぼ決まってしまっているのだ。

 現代人が神様に願うことと言ったら、転生しかないだろう。

 嘘ですごめんなさい、言いすぎました。でもやっぱりロマンだと思わないか?

 自分がこの世界で死んだ後、強い力と現在の記憶をもって、別の世界に転生することを願うのだ。

 そしてその世界で無双する。現代日本のトレンドともいえるだろう。

 

 そうと決まったら、さっさと女神様に言うべきだろう。時間をかけてる間に、愛想でも尽かされたら元も子もないのだから。

 とは言っても、適当なことを言って、ネタ系転生小説のように、歪な存在に転生してしまったり、劣悪な条件で転生させられたりしたくはない。ここは慎重に条件を付けるとしよう。

 

 「私が寿命で死んだ後、一般的日本人が想像するような、剣と魔法のファンタジー世界に高貴な身分を持つ人間として転生させてください!その時、その世界で生かせるようなチート能力を使えるようお願いします!」

 

 こんなものだろうか。本当はチートの内容までしっかりと口をはさんだりしたかったのだが、咄嗟に思いつかなかったので、目の前の神にお任せすることにした。

 

 と、目の前の女神が反応を見せた。

 その美しい唇からこぼれた言葉は……。

 

 「…もう後戻りはできないわよ」

 「え?何か問題でもあり」

 

 ましたか?と俺は繋げようとしたが、それ以上言葉を重ねることはできなかった。

 道の横から突如現れたトラックが、そう本当に突如現れたとしか表現できない程、唐突に表れたトラックが、俺を引き潰し、ミンチにしたからだ。

 

 

 

 

 

 さて、あれから1ヶ月が経ちました。現状の再確認をしましょう。

 

 まず1ヶ月前、俺は今居る世界へと転生した。

 

 なぜ、急にトラックが出現して、俺をミンチにしてくれくさったのか。それはあの女神様が、俺をその場で転生させようとしたからだろう。

 

 だがまあ、これは仕方のない事なのだ。

 何故なら、あの人は恐らく、elonaというゲームに出てくる、願いの神その人だったからだ。

 この願いの神というものは、叶える望みが長文だった場合、適当なワードを抜き取って、その何かを与えるという形で願いをかなえる。今回の場合はとりあえず転生という願いを叶えたのだろう。しっかり重要なワードを取り上げてくれただけ、ラッキーだと言える。

 

 ではなぜ、あの人が願いの神だと思ったのか。それは転生先の世界が、elonaの世界だったからだ(あと井戸水飲んでたら出てきたし、まず確定でいいと思う)。

 

 だがまあ、別段忌むほどの事ではない。

 大分前世の世界より、殺伐とした世界だ。

 しかし、願いの神に頼んだ通り、剣と魔法のファンタジーではある。

 それに、elonaは俺が転生する前、大分やりこんでいたゲームだ、愛着もある。むしろちょっと楽しみにしているくらいだ。

 

 ではなぜ、この世界がelonaの世界だとわかったのか。それは転生した後、まず自分の状況を確認しようとしたとき、こんな文字列が頭に浮かんできたからだ。

 

 ◆細い刀身の剣だ

 ◆それはオブシディアンで作られている

 ◆それは炎では燃えない

 ◆それは酸では傷つかない

 ◆それは武器として扱うことができる(2d11 貫通5%)

 ◆それは攻撃修正に8を加え、ダメージを4増加させる

 ◆それは生きている [Lv:1 Exp:0%]

 ◆それは体力回復を強化する [******]

 ◆それは混沌への耐性を授ける [**]

 ◆それは耐久を7上げる

 ◆それは魅力を26上げる

 ◆それは異物の体内への侵入を防ぐ

 ◆それは使用者の生き血を吸う [*]

 ◆それは意志を持っている

 ◆それは五感を持っている

 ◆それは所持者と念話ができる

 

 そう、もうお察しのとおり、俺は皆さんご存知、elonaの生きている武器として、転生してしまったのだ。

 

 だがまあ、これも別に今となっては大した問題だとは思わない。

 すでに武器として生まれてしまった今、武器として人生を送ることに、まったく違和感を覚えないのだ。むしろ人間として生きろ、と言われた方が困惑するまである。

 それに意志を持っている、というエンチャントのおかげか、しっかりと自我を保てているし、生きている武器ってだけで強いのに、超良質エンチャントが盛りだくさん。

 俺TUEEEEのチートボディを手に入れた、と喜んでもよさそうなくらいだ。

 

 ではなぜ、五感を持っているなんてフィートを持っているのに、この情報を知るまで自分が武器だと気付かなかったのか。それは今俺が、何処とも知れない、暗い密閉空間に閉じ込められていて、自分の身体を視認することすらできないからだ。

 

 だがまあ、恐らくこの問題はその内解消されるだろう。elonaの世界において、生きている武器のような貴重な武器は、大抵宝箱の中に生成される。そしてここが宝箱だとするなら、いずれ誰かが開封すると思う。その後、自分がどう扱われるかは分からないが、それはその時に考えよう。

 

 さて、此処まで人によっては発狂しだしそうな様々な案件を、前向きにとらえることができている俺だが、そんな俺でもただ一つ、許容できないことがある。武器の情報欄だが、武器の名前が書かれていないことにお気づきだろうか。

 

 

 

 なんで!!

 

 俺の!!

 

 銘が!!

 

 ☆呪われた神殺しの長剣!!

 

<<エターナル・ぼっち>>(2d11+4)(8)なんだよおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 呪われているのはいいんだ!

 これだけ良質なエンチャントが付いてるならお釣りがくるし、何より別に俺自身に直接デメリットがあるわけじゃない!

 でも、<<エターナル・ぼっち>>はあんまりだ!

 

 は?いやいや、ぼっちじゃねーし?

 飲み会にもちゃんと参加して、「二次会どうする?やめとく?」って聞かれたし!

 同窓会では「お、猿山じゃん久しぶりー、元気してた(笑)」「誰、お前?」って盛り上がったし!

 

 …………。

 

 ああぼっちさ!

 空気が読めず、休日は家でひたすらelona遊んでいるような、日本社会の弱者さ!

 ぬああああああああ!幸運の女神というものがいるのなら、俺はその存在を恨もう!

 

                                   うみゃ~?>>

 

 あ、エヘカトル様!素晴らしい美声ですね!僕貴方の事大好きです!恨むとかとんでもないです!

 

 

 

 

 

 危なかった、これで幸運の女神であるエヘ様に嫌われたら、この先生きのこれないかもしれなかった。

 

 あの後めちゃくちゃエヘカトル様の事褒め殺して、これからエヘカトル様に改宗します!って言ったら、

『うれしい!君のこと好きだよ。だよ!じゃあ君は今から私の信者!すぐに持ち主に会えるようにしてあげるね。あげるね!』(要約)

 ってめっちゃ喜んで、改宗作業代行してくれた上に、なんか持ち主に会える加護までくれた。

 

 エヘカトル様ちょろかわすぎ。天使か。あ、神だったわ。

 

 しかしこの世界の神、めっちゃ身近だな。1月前には、井戸水飲んだら願いの神出てきたし。あれホント、なんで地球に出てきたんだろうな。なんかが原因で、この世界の井戸があっちと繋がったりでもしていたのだろうか。

 

 まあ考えただけで、わかるはずもないか。今はひとまず、エヘカトル様が会えるようにしてくれたという、俺の持ち主を待つとし「あった!宝の地図に書いてあった宝箱……!」

 噂をすればってやつか、さて声の主はどういった奴か。声の感じではちょっと嗄れ声の女性っぽいが。

 

 

 

 

 

 はい、あの声がしてからおよそ1時間が経過しました。

 彼女?は、やっとこさ土を掘り返し終えて、俺が入っている宝箱を開けるみたいです。遅えよ!

 

 いや現実に、土に入った宝箱掘り起こそうとしたら、それくらい時間かかるかもだけども。

 ファンタジー世界なんだし、もうちょっとそこらへんファジーな感じに終わらせてほしかった。わりと待たされた。

 だがようやく、カチッと鍵を開ける音がし、宝箱を開ける音がした。1か月ぶりに見る日の光、それに照らされているはずの、宝箱を開けた人間に目を向けると……。

 

 脂ぎってテラテラ光った黒い髪に土埃をつけて、宇宙人みたいに異様に細く捻じれた体に支えられる顔は、ベッチャリと潰れた目鼻立ち、幸薄そうな暗く淀んだ眼はゲッソリと落ち窪み、異様に色が薄い唇の横に、エラ張っている――いや、あれホントのエラだわ――たぶん、女。

 あご周りにでかい、よくわからないボコボコが付いていたのを覚えている。

 えら(鰓)いブスがそこにいた。

 っていうかなんか、腕三本あるんですけど、カオスシェイプか。

 

「わあ、お金がたくさん!見たことないくらいある!あと耐炎ブランケットと、小さなメダルと……」

 

 わあ、じゃねーよ。それかわいい子に許されるセリフだから。カワイ子ぶっても、その見た目じゃあ……。

 いや、ちょっと言い過ぎた、流石にかわいそうだった。

 でも実際この子見たら、皆そう感じると思うよ?だって不細工通り過ぎてグロいもん、もう。

 思わず、サンタクロースをいつごろまで信じてたか、とか思い出して、現実逃避しそうになったもん。

 

「それと……あれ?剣もあるのかぁ、私の装備してるのと、どっちが切れ味いいかなあ」

 

 彼……女?が、俺のことを手に取っ、ひぃっ!なんかヌメヌメしてるぅ!

 俺、念話できるとかだったよね?こいつとするの?念話。めっちゃ気が進まないんだが……。

 とはいえ、せっかく1ヶ月ぶりの話し相手がいるというのに、会話をしないというのももったいない。ここは話しかけてみるとしよう。こんな感じか?

 

(おい、俺の声聞こえてる?)

「!?だっ、だれかいるのっ!?」

 

 女……?は、突然聞こえた声にひどく狼狽した様子で、飛び跳ねて周囲を伺う。ひどく慌てたようだったが、幸い剣は落とさなかったので、続けて呼びかけてみる。

 

(俺は、今お前が手に持っている剣だ。俺の特殊能力で、お前に話しかけている)

「こ、これはご丁寧に……。剣が喋ったあ!」

 女と思われる奴は、ぺこりとお辞儀をした後、もう一度ぴょん、と飛び跳ねる。だから可愛くねっての。

 

(おう、俺は生きている武器で、意志を持つ、所持者と念話ができるっていう特殊なエンチャント持ちでね。俺の持ち主様にご挨拶ってわけさ)

「い、生きている武器ぃ!?し、しかも意志があって、念話ができる……!」

(やっぱりこういうのって珍しいのか?)

「えっと、珍しいんじゃないでしょうか?私、駆け出し冒険者だからあまり詳しくないですけど……」

 

 ふむ、この世界だと生きている武器が全員念話ができる、という訳でもないか。元のゲームと同じく、俺のような意志を持っているエンチャント付きの生きている武器は、そうそうなさそうだな。つまり、俺はオンリーワン、超希少な存在だという訳だ。

 ならば、呪われていることを含めても、俺には十分な価値がありそうだ。

 後は、正直にコイツに呪われていることを話すかどうか、だろう。

 

 別にこの女に使ってもらいたいという訳ではないが、持ち主とは良好な関係でいたい。

 もともと『俺TUEEEEE』がしたくて、転生を願ったのだ。持ち主との不和が原因で使ってもらえない、とか話にならん。そういう意味では先に自分が呪われた武器だと伝えることはプラスになるだろう。

 

 だが、予め呪われている、と教えられた場合。いくら駆け出し冒険者だ、と言っているコイツには過ぎた性能の武器である俺とは言え、倉庫送りにされる可能性もある。

 ならば、先に装備させてから呪われていることを教え、そのあと俺の強さをアピールするのもありだろう。それで通せるだけのポテンシャルを俺は持っているはずだ。

 

 と、こういったメリット、デメリットについては一か月の間に考えてきた。

 だが、どちらの方が俺にとって得になるか、今はまだ判断するには早いだろう。此処は俺の持ち主になるこの女についてもう少し探りを入れて……、と、いつまでも名前が分からんままでは不便だな。

 まずは名前から聞いてみるとするか。

 

 (まだ、お前の名前を聞いていなかったよな、お前の名前はなんていうんだ?)

 「私ですか?私はオーディっていいます!剣さんにはお名前はあるんですか?」

 

 しまった!藪をつついたら大蛇が出てきやがった!

 くそっ!そりゃそうだろ、相手に名前聞いたら、俺の名前だって聞かれるに決まってる!

 だが、嘘をついたり、前世の名前を教えても、町で鑑定されてバレたら、ボッチって隠したかったんですね、ってなる!それは恥ずかしい!

 

 「剣さん?お名前分からないんですか?もしそうなら、私お金出しますから、町で鑑定しましょうか?」

 (……いや、その必要はないよ。俺の故郷は別の場所だから、此処だと何て訳せばいいのか思いつかなかっただけさ。武器の名前ってのは、相手に意味が伝わるように伝える、って決まりがあるからな)

 「へー!そうなんですか!だから奇跡的な品質を持った武器の名前に、艶やかなる、とかこの世ならざる、とか付いているんですね。私、知りませんでした!」

 (へ?あー、うん、そうそう多分そう、で、俺の名前なんだけどさ)

 「はい!」

 

 くっそ!キラキラした振りした淀んだ目で見やがって!かわいかねえんだよ。

 だがこの設定なら、後からばれてもなんとか誤魔化せる!後は<<エターナル・ぼっち>>と同じ意味の、まあカッコいい名前を……、無茶があんだろ!くそっ!これ以上は引き延ばせん、とりあえず語感がいい感じでっ。

 

 (えーと……永遠の孤独っていうんだ!)

 「わあ!カッコいいです!」

 

 俺の異世界転生が、超無理のある恥ずかしい嘘から始まった瞬間だった。




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 シェゾの闇の剣とか、才人のデルフリンガーみたいな意志を持ってる武器が好き、
 そして、elonaの小説書いてみたい、
 んじゃ生きてる武器主人公で小説書こう。

 そんな浅はかな思いから、こんなものを書き始めてみました。

 作者はほとんど小説とか書いたことないため、割と苦戦しています。
 次の投稿までどれだけ時間かかるか分かりませんが、次も見ていただければ幸いです。

 また、どうしたらもっと読みやすくなる、分かりやすくなるなどあれば、どんどん教えていただければと思います。

 それでは。


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取りあえず出発、出来ない

 「えーと、私が何で冒険者をしているかですか?きっと面白くありませんよ?」

 (いやいや、相互理解ってやつのために必要だろうと思ってね、それに全くあんたの事を知らないんじゃあ、会話のとっかかりもないからな)

 

 永遠の孤独とかいう、それはそれで恥ずかしい名前を、駆け出し冒険者の少女、オーディに名乗った後。俺は改めて、オーディの人柄を探るため、オーディになぜ冒険者になったのかを尋ねた。

 これが、オーディが呪われていると知っている武器を装備するかを見極める、一助になるだろうと思ったからだ。

 

 「いや、ほんとうに前向きな理由とかじゃないんです。そうだ、剣さんのことについて話してくださいよ!」

 (私はこの世界に生まれた瞬間から、ずっと宝箱の中だったからな。生まれながらある程度知識は持っているが、逆にそれ以外何もこの世界について知らないんだ。だから、あんたの話を聞いてみたいんだよ)

 

 よし、嘘はついてない。俺が転生してきたとか教えても、プラスになるとは思えんからな、上手く誤魔化せた方だ。それに、こう言われたら断りづらいだろう。

 

 「そうなんですか……。分かりました!ちょっと暗い話ですけど、良かったら聞いてください」

 

 

 

 

 

 結論から言うと、現代日本人だった俺の感覚からすると、ちょっと暗いどころじゃなかった。

 小一時間ほどドロドロした話が続いたが、彼女の話を掻い摘むと、こんな感じである。

 

 「私、カオスシェイプっていう異形のお父さんと、人間のお母さんのハーフなんです。だから、人間から見るととってもグロテスクな見た目をしているし、腕が3本もあるんです。武器である永遠の孤独さんには、見た目がどうとかわからないかもですけど」

 

 ごめん、分かってた。めっちゃキモイって思ってた。

 

 「お父さんは物心ついた時にはいなくて、お母さんも私が3歳の時に、私を気味悪がって捨てました。どうやら、望まれない生まされ方をしたせいで、元々いやいや育てていたみたいです」

 

 もうこの時点でハード。

 

 「それからというもの、野原の食べ物を漁って食べて生き延びていました」

 「量が足りたのかですか?いいえ、足りなかったので何度も餓死しました。その度這い上がりましたけど」

 

 そうなんだよ、elonaだから、死んだら『はい、おしまい』じゃないんだよ。

 

 「街に食べ物を探せなかったのか?……私、不細工だからそれだけで嫌われちゃって、皆石を投げてくるんです。だから、町だとすぐ死んでしまって、食べ物どころじゃありませんでした」

 「もちろん野原にもモンスターは居るんですけど、数が少ないから、なんとかやり過ごしてきました。死ぬときは死んじゃいますけど」

 「それでも何とか、たまに見かける冒険者さんの遺体から武器や防具なんかを拾って、体も成長して、コボルトくらいまでなら何とか倒せるようになりました」

 

 もうね、めっちゃこの子タフ。何故この環境で埋まらず(永久ロストせず)に、コボルトが倒せるようにまでなれるのか。それとも、ノースティリス大陸では、これがスタンダードなのか。

 

 「モンスターを倒せるようになったから、それでお金を稼げる冒険者になったんです。そうすれば、パルミアの国民として扱われて、むやみに殺されたりしなくなりますから」

 「でもやっぱり町の皆さんには嫌われたままで、碌に物を買うこともできないんです。二つ名だってひどいんですよ、醜すぎる童貞ですって、私女なのに」

 「それでもやっぱり冒険者になってから、大分暮らしが楽になりました。それでもっと上を目指そうと、昨日の朝、15歳の誕生日記念に、顔を隠して、宝の地図をなんとか買ったんです。」

 「そしたら、此処の宝箱から剣さんが出てきて、もうびっくりしました!でも嬉しかったです。他の人とちゃんとお話ができるのは、初めてでしたから。」

 

 以上が、オーディが話してくれた内容だ。

 

 ブスだ、ブスだと心の中で言ってたけど、ここまでくると、ちょっと悪い事思ったかなと感じる。

 何だこの世の中、ブスに対して厳しすぎだろう。

 

 しかし、これでコイツに対するアプローチの方法は決まったな。

 俺のエンチャントには、◆魅力を26上げる、とかいう超チート能力が備わっていたはず。

 会話ができることを喜んでいるオーディなら、他の人から好かれやすくなるこのエンチャントを知れば、たとえ呪われていようと装備するだろう。

 

 加えて俺個人としても、こいつに少しはいい目を見せてやろうか、という気持ちがある。

 ならば、この女とは、まあいい関係を築けるのではないだろうか。

 そういう意味では、俺の持ち主として悪くはないだろう。

 

 

 (なるほどな、まあお前も苦労してきたわけだ。だが、その苦労からも一発でおさらば出来るかもしれないぜ)

 「へ?何かいい考えでもあるんですか?」

 (考えなんて立派なもんじゃないさ、ただ俺を装備すればいい。説明となると、そうだな……、魅力ってステータスがあるって言われたら分かるか?)

 「えーと、はい!冒険者シートに書かれている数字で表される、人にどれだけ好かれるかを表す能力値ですよね。私はたった1しかないですけど……」

 (まあそうだろうな。しかし、そこまで分かっているなら話が早い。俺にはその魅力を26上げるエンチャントが付いていてな、俺を装備するだけで、愛され少女オーディちゃんに早変わりってわけだ)

 「ほ、本当ですかぁ!?すごい!26っていったら、ちょっとした商人さんより魅力が高いですよ!わ、私夢でも見てるんじゃないでしょうか」

 

 彼女はひどく驚いた様子で、降って湧いた幸運が信じられない、といった様子だ。

 なお、とある事情で顔からは推し量れない模様。

 

 (これは現実さ、だがそれだけにデメリットもある。それは、俺が呪われた装備だってことだ。そこらの剣より強いって自信はあるし、エンチャントにも自信があるが、それでも外せないって弱点があるし、何より生き血を吸うって言う大きなマイナスがある。その上で、お前がどうするかだ)

 「そんなの、決まってます!剣さんが自信がある、っていうなら、とっても強い武器何でしょう。それなら他の武器に変えられないなんて、気にする必要ありません!それに、生き血を吸われるくらい、どうってことは無いです。ちょっと死にやすくなるくらい、私は今更気にしませんから」

 

 そういって彼女は、にこりと笑ったらしく、口周りが歪に捻じ曲がる。

 まいったな、なんかちょっと話しただけなのに、大分信頼されている。

 だが、持ち主との信頼関係を築くことはできた。いい転生のスタートを切れたってもんだ。

 

 (ありがとうよ、そういってくれるとこっちも嬉しいぜ。それじゃあこれからよろしくな)

 「はい、よろしくお願いします」

 

 そういって、彼女は今まで持っていた武器を袋にしまうと、改めてしっかりと俺のことを握りしめる。

 恐らくこれが装備をする、ということなのだろう。

 今までとは違い、明らかなオーディとの繋がりを感じる。

 

 それと同時に、彼女の身体に大きな異変が起こり始めた。

 グネグネと顔が蠢き、別の形へと移り変わっていく。

 体もだ。

 今までに比べ、何だか太くなっていっている気がする。

 

 5秒ほどでその変化は収まった。

 しかし、彼女には劇的な変化が起きていた。

 

 おそらく、耐久が上がったからだろう。細く捻じれていた頼りなさげな体が、年頃の少女らしく丸みを帯びて、しっかりとした土台となっている。

 

 だがそんなことがまるで問題にならない程、彼女の顔面には奇跡が起きていた。

 

 まず肌が違う、ボコボコしていた部分は完全に無くなり、病的なまでに白く、そして滑らかになっていた。

 唇は少し赤みがさしており、スッと引き締まっている。

 目は切れ長だが、少したれめになっていて、あまりキツさを感じさせない。そして白目が存在せず、全体が青くなっている。

 そして鰓はあまりハッキリと浮き出ておらず、しかし首周りで、ときおりパクパクと自己主張している。

 

 

 

 ……うん、紛うことなきモン娘ってやつだね。耳とかエルフ耳だし、間違いない。エルフ耳はモン娘。カオスシェイプ成分が、はっきり出てるわ。

 いや、でもきっとかわいいんだと思うよ?俺は、女性の美的価値観とかについては前世のままだから、モン娘ってだけでちょっと引いちゃうけど、この世界なら普通にありだろうし。

 しかし驚いた、武器によるステータス変化って、実際に肉体改造をすることで表現するのか。てっきり、魔法パワー的サムシングだと思ってた。

 

 とりあえず、何が起こったか分からなくて、目をパチクリさせてる彼女に、現状を教えてやるか。

 

 (よう、いっちょ前の別嬪さんになってるぜ。ほら、俺の刀身を鏡代わりにして、自分の顔を見てみな)

 「ふぇっ?あっ、はい!見てみます」

 

 そういうと、彼女はじっくりと俺のほうを見つめる。

 そして、目を大きく見開く。

 

 「こ、これ私なんですか?凄い!こんなに綺麗になれるなんて……。これなら町にも入れるし、買い物だってできます!ありがとう、剣さん!」

 (なにお礼されるほどの事でもないさ。俺からしたら、ただちょっと装備されるだけの話だからな。これから宜しくやっていくんだ、仲良くいこうぜ?)

 「はい!よろしくお願いしますね」

 

 そういって、彼女はニッコリとほほ笑む。

 その笑顔は普通にかわいくて、俺は魅力上昇エンチャントをつけてくれた神へと、感謝するのだった。

 正直あのホラー顔と一緒に旅をするとなると、流石にキツイからね。

 

 

 

 

 

 「それじゃあ早速、町に出発しましょう!私一度、ちゃんと買い物をしてみたかったんです」

 (おう、それじゃあ行くとするか。ここから一番近い町ってどこなんだ?)

 「ここからならパルミアでしょうね。よーし、張り切っちゃいますよぉ」

 

 そういうと、彼女は一目散に走りだした。

 

 (おいおい、まだ変化した体に慣れてないだろうに、そんな走って大丈夫なのか?)

 「平気ですよ!なんだかとっても体の調子がいいんです、剣さんのおかげですかね」

 (ああ、一応耐久を上げる効果もあるからな、それだけ強い代償として、装備者の血を吸うっていうマイナス効果も付いているが……、あっ)

 

 瞬間、自分の体に違和感を感じた。

 体のどこかに穴が開いているかのような感覚、気持ち悪い、ただひたすら気持ち悪い。

 だが幸い、どうすればこの空虚感を埋めることができるのかは、本能で分かっている。

 自分の身体と繋がっているところから、持ってくればいいのだ、吸い取って…吸い取って……埋まった?いや、まだ必要だ、もう一度吸い取る…吸い取る……、ああ、ようやっと楽になっ「ちょ、剣さん待っ、ふぎゃあ!」……あり?

 

 気が付くと、俺を持って走っていたはずのオーディが、弾けてミンチになっていた。

 いやもう、爆発四散って感じ、死ぬと同時にそこら中に肉片が飛び散っていた。

 俺の身体も返り血でベトベトである。剣になったせいか、不思議と嫌悪感は湧かなかったが。

 

 もしかして俺、やっちゃった?今なんか吸い取ったけど、あれオーディの生き血だったりする?

 恐らく、もしかしなくても、そうだろう、あの以上な空虚感は、恐らく飢えだったのだ。

 生きている武器の食料は、装備者と、切りつけた相手の生き血である。そして吸った血の量だけ成長するのが、生きている武器という存在なのだ。

 きっと、ゲームに出てくる生きている武器たちは、今のような急な飢えから逃げるため、装備者の生き血を吸うのだろう。

 

 待てよ?なら、敵の生き血を吸うのは何故なのだろう。

 意志があるというフィートが俺にあるということは、他の生きている武器は意志を持っていないのだろう。なのに、何故わざわざ敵の生き血を吸うのだろうか。

 ふむ、丁度いい。そこら中と俺の身体には、オーディの血がぶち撒けられている。今度は装備者との繋がりからではなく、身体で血を吸い取ってみよう。

 幸い、さっきのオーディからの血吸いで、どうやって血を吸えばいいのかは、大体感覚で分かったしな。

 どれ、まずは体にかかった血から……。

 

 

 

 ンまああーーーーーーーーい!

 なにこれ!?超美味いんですけど!体に力が沁み渡っていく感触、これだけで全ての栄養が取れるってことが心で理解できる!

 なるほど、これが生きている武器の生態なんだな。強力な力によって、装備者の手助けをする代わりに、自分は敵の生き血を吸わせて貰ってるってわけだ。

 

 さて、飛び散っている血液をさっさと吸わないと、乾いて摂れなくなってしまう。

 今のうちに吸えるだけ吸うとしよう、この生き血全て俺のものだ。

 

 

 

 

 

 2、3分かけて其処らの血液を吸い取った後、俺は重要なことに気付いた。

 そう、すなわち『やっべ、持ち主殺しちゃったじゃん、このあと俺どうしよう』ということである。

 

 いや、うん。俺も多分普段だったらこんなヤバい問題、もっと早く気づいてたと思うよ?

 でも、あの異常な飢えだとか、血が美味しすぎる件とかでさ、ちょーっと頭から飛んじゃってたっていうか。

 

 まあ取りあえず気を取り直して、今俺にできることは……。

 無いな、うん。俺自分からは動けないから。

 仕方がない、もしゲームと同じようにアイツが生き返るとしたら、その時どうするかでも考えておくとしよう。

 

 

 

 5分ほどたった後、俺は急に何処かへと引っ張られるような感覚を感じた。

 そして唐突に視点が切り替わる。

 気が付くと俺は、何やら洞窟らしい薄暗い場所に移動していた。

 もしもゲームのシステムと同じようにこの世界が動いているとしたら、ここは恐らくオーディの住処なのだろう。

 彼女が復活するのに合わせて、俺もテレポートしたと考えるのが妥当な気がする。確証はないけど。

 しかし、意外と早く復活するんだな。多分まだあれから10分くらいしかたってないっていうのに。

 

 と、何だか目の前の床によくわからない赤黒いものが集まりだしたと思ったら、俺のことを巻き込んで人型を形作っていく。

 何かよく分からなくて俺は少し慌てたが、剣の俺にはどうすることもできない。

 そして、気が付いたら、本当に気が付いたらというほどにあっけなくその現象は納まり、其処にはオーディが無傷で立っていた。

 

「剣さん、ひどいですよう!何で急に吸血しだすんですか。私痛かったんですからね」

 

 そう言ってオーディは、自分が死んだというのに、大したことが起こった訳でないかのように、ぷりぷりといった感じで俺に怒って見せた。

 いや、きっと彼女にとって、一度死ぬくらいは本当に大したことではないのだろう。

 この分なら何とか釈明できそうだ、出会ってすぐ関係破綻なんてことにならなくてよかった。

 

(いやすまなかった、さっき少し触れたけども、俺には装備者の生き血を吸うっていうエンチャントが付いているんだ。そのせいで急に、なんていうか飢えみたいなのが来てな、衝動的に吸い取ってしまった)

「う、お腹すいてたんですか……。まあ、そういうことなら仕方ないですね、お腹すいて死ぬのは一番つらいですから、私にも分かります。でも、それなら今まで宝箱の中で辛くなかったですか?」

(今までこんなことは無かったんだ。きっと、装備されて初めてこんなことが起こるんだろうな。俺も、ああいった現象があるとは知らなかった)

 

 そういうと、オーディは少しうつむいたようだった。

 

「そうですか……、なら元はと言えば、私が装備したからお腹がすくようになったわけでもあるんですね。」

(ん、ああ、そういう捉え方もあるか。だが気にすることは無いぞ、あのままずっと宝箱の中で暮らすよりは、腹が減っても外に出れた方がよっぽど良いからな)

「ふふ、ありがとうございます。でも、どれくらいの頻度で生き血を吸わないといけないんでしょうか?あんまり何回も死ぬのは流石に困るんですけど……」

(悪いけど、そこまでは俺にも分からないな。多分呪いの一種だから、定期的にどうこうではなく、突発的に起こるものだと思うんだが)

「そうですか、まあ分からないなら仕方がないですね、とりあえず改めて町に行きましょうか」

 

 そういうと、彼女は今居る洞窟の外へと向けて歩き出した。

 やれやれ、どうにか穏便に納得してもらうことができたか。

 しかし確かに、こんなにすぐに死んでしまうようだと、お互いに困るだろうな。

 どうにかする方法が思いつけばいいんだが。

 

 とかなんとか考えていると、

 

 

 

 お腹すいちゃったぜ☆。

 

(あ、やばい)

「ふぎゃー!」

 

 そこにはミンチになって爆発四散したオーディが残されていた。

 これはまずい、予想以上に血吸いの頻度は高いかもしれん。このままでは満足に移動もできないぞ。

 でも取りあえずそれは置いといて、もったいないから飛び散った血を吸おう、美味しいし。

 

 

 

 

 

 結局町に出発することができたのは、1日経ってからだ。

 急に腹が減る可能性があるのは、オーディが歩いている間だけだということが判明して。

 さらに、俺が手加減してゆっくりと血を吸うことを覚えるまでそれだけ時間がかかったのだ。

 これにより、立ち止まってオーディの自然治癒が間に合うように血を吸うことで、ようやく移動ができるようになった。

 その間、オーディは100を超える回数、爆発四散することになったが。

 ちなみに、俺はその度飛び散った血を吸わせてもらった。

 



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やっぱり俺、TUEかった

 「や、やっとたどり着きました。ここがこの国の首都、パルミアですよ……」

 (ああ、うん。お疲れ、悪いなだいぶん苦労をさせたようで)

 「いえ、これでも普段よりは楽な方です。剣さんのおかげで、道中のモンスターは簡単に倒せましたからね」

 (あっ……、へー、そうなのか)

 

 オーディの住処である洞窟から、このパルミアに来るまで最終的に5日ほどかかった。

 移動時間としては、2日あれば十分なはずだったのだが。

 俺の血吸い対策で1日、戦闘中血吸いが発動して、洞窟に戻されたので1日、それを更にもう一回で1日。

 計3日余計な時間を食ってしまったのだ。

 

 で、割と苦労を掛けてしまったかなと思ったが、オーディ曰く、俺無しで移動すると大抵あと3回くらい死ぬので、これでもいつもより早い方らしい。

 

 「でも驚きました、剣さん本当にお強いんですね。コボルト3体に囲まれたのに勝てちゃうなんて!今までだったら、絶対死んでましたよお」

 (おう、道中で俺のステータスと、エンチャントについては詳しく話しただろ?耐久力と自然治癒の技能が上がるから、殴り合いには強くなるのさ)

 「私、とても強くなっていて、びっくりしました。これに後、今まで貯めてきたお金で外套とか靴とかを揃えれば、ミノタウロスに棍棒ですね!」

 

 ミノタ……?ああ、鬼に金棒的な奴か。言葉はなんだか知らないが通じるのに、急に知らない慣用句が出てくると変な気分だな。

 

 (そうだな、じゃあ早速防具屋に行くのか?)

 「はい!あ、剣さんは何か欲しいものとかありますか?まだ何もお礼できてないですし、買えるものだったら先に買いに行きますよー」

 (いや、気持ちは嬉しいが遠慮しておくよ。今はお前の実力底上げのために、全力で投資するべきだろうさ。それに、俺はお前が倒した敵の血液を飲ませて貰ってるからな。すでにお礼とやらは貰ってるぜ)

 「そっか、剣さんはモンスターの血がご飯になるんですよね。それじゃあバンバン敵を倒さないとですね!」

 (ああ、だが無理する必要はないぜ。別に敵を倒さなくても、腹が減るわけじゃあないからな)

 「わかりました。それじゃあお店屋さんに行きましょうか、たしかあっちですよ!」

 

 そう言ってオーディは町の奥を指さし、元気に走り出す。

 

 (おいおい、急に走り出すと危ないんじゃないか)

 「あはは、心配しすぎですよ。これでも冒険者なんです、人にぶつかったりしませんって」

 (いや、急に血吸いが発動した時に、危ないんじゃないかなって)

 「……、行きましょうか!」

 

 そういって今度は、キビキビと歩き出した。

 うん、やはり大分血吸いを警戒しているようだ。まあ今まで何回も死んでるからな。

 

 

 

 

 

 

 3、4分ほど歩いただろうか。

 俺たちは、パルミア防具店という看板が掛けられた、商店の前へとたどり着いた。

 

 「とうとうたどり着きましたね!」

 (そうだな、五日かかったな)

 「……」

 (……)

 「……」

 (……入らないのか?)

 「は、入りたいのは山々なんですが、怖くては入れないんです」

 (あー、買い物するだけなんだし、大丈夫なんじゃないのか?)

 「今までその買い物しようとするだけで、気持ち悪いからって石投げられたり、無視されたりしてたんですよぉ!ちょ、ちょっと待ってください、10分ほど精神を統一すれば入れますから!」

 (待たぬ)

 「や、やめて下さい、血を吸わないで下さい!分かりました、入りますから!」

 

 いつまでも店の前に突っ立ってたら、それこそ邪魔で、心証が悪いだろう。

 普段血を吸ってる感覚を思い出して、ちょっと血を吸ってみて促す。

 そうして、やっとオーディは、それでもおっかなびっくりといった様子で中に入っていった。

 

 「し、失礼しま~す。買い物、を、したいんです、けどー」

 「はいはい、パルミア防具店にようこそ。見ない顔だね?パルミアは初めてかい?」

 「え、あ、いえ。何度か来たことがあります、このお店も……」

 「そうだったかい?まあいいや、それで何をお探しだい?」

 「外套と、靴を揃えたいんです。予算は2500gp何ですけど」

 

 オーディがそう言うと、店主は少し渋い顔をする。

 一瞬、予算が少ないから邪険にしているのかと思ったが、そうではなかった。

 

 「2500gpか、うーむ、それだと鉛製の靴と鉄製の外套しか買えないな。かといって、駆け出し冒険者さんにこんな重い装備はきついだろう。……よし、大サービスだ!このガラス製の靴とシルクの軽外套、合わせて3200gpのところ、おおまけにまけて、2500gpで売ろう!」

 「ええっ、いいんですか!?」

 「ああ、もちろんだ。その代わり、これからもパルミア防具店をよろしく頼むよ」

 「はい、ありがとうございました」

 

 そう言ってオーディは財布から2500gpを取り出し、靴と外套を受けとる。

 そして、金が貯まったらまた来てくれよな、という店主の声を背に、店を離れていく。

 

 

 

 (なかなか良さそうな装備が変えたな、よかったじゃないか、オーディ)

 「そう、ですね」

 

 防具を買って、すぐは浮足立った様子のオーディだったが、しばらくすると、何だか落ち込み始めたようだ。

 不審に思った俺は、声をかけてみる。

 

 (どうした?ねんがんの防具をてにいれた!ってのに、しょぼくれた顔して)

 「わたし、初めてあの店に行ったとき、気持ち悪いって石投げられて、死んじゃったんです」

 (……そうか)

 「冒険者になってからも一度行ったんですけど、今度は化け物には特別価格だって言われました。鉛の外套6000gpですって。払えるわけなかったです。なのに、剣さんのおかげで見た目が変わっただけで、あんな優しくなって、お値段の割引までされちゃいました」

 (ご丁寧に次の宣伝もしてたな)

 

 オーディは顔を俯かせながら、続ける。

 

 「ずっと皆私の事避けてました。それが、見た目が変わっただけで優しくされちゃって。見た目が悪いって、そんなにいけないことなんでしょうか」

 

 「今までの私の人生、何だったんでしょう。あんなに辛い目にあってたのに、たったこれだけのことで、今まで悩んできたことが解決しちゃうなんて。私、何にも悪い事してないのに。気持ち悪いからって、捨てられて、石投げられて。綺麗になっただけで優しくされて……。あ、ごめんなさい!剣さんは何も悪くないんです!綺麗になれたことは嬉しいんです!でも、これまでの事、意味なんてなかったのかなと思うと、辛くなっちゃって……」

 

 ……この子、いちいち重い!あの顔見たら、誰だって怖くて石投げるわ!町のやつらが迫害するのもしゃーねーよ!

 だがまあ、慰めないわけにもいくまい、かといって嘘つくのも性に合わないし、ここは無難なこと言っとくか。

 

 (俺には、お前が今までどんな思いをしてきたのかは分からない。だが、お前がどうすればいいかは分かる気がするぜ)

 「剣さん?それって……」

 (気にしないことさ。今までどんなに辛かったのか、苦しかったのか、そんなことは思い出さなきゃいい。そうすりゃ今のお前には関係ない。だって今のお前には、俺が着いてるんだからな。)

 

 オーディがぽかんとした様子で口を開いているが、構わず続ける。

 

 (これからは全部ハッピーだぜ?今までお前を苦しめてた見た目ってやつが、今度はお前の味方になるんだからな。お前のことを嫌う奴なんざ、いなくなった。後は何を買おうか、どんなものを食べようか、楽しい事だけ考えて、辛かった事はほっぽりだしゃあいい。そうすりゃ、これからのお前の人生は、楽しい事だけだ)

 

 「楽しい事だけ考える、ですか。そっか、それだけでいいんだ」

 

 オーディは腑に落ちた様子で、俺の言ったことを繰り返した。

 

 「ありがとうございます、剣さん。私、剣さんに会えて本当によかったです」

 

 そう言ってオーディは、満面の笑みを浮かべて俺のことを握りしめた。

 ちょろいもんだぜ。元・外回りサラリーマンの言いくるめ力にかかりゃあ、対人経験のない小娘なんざこんなもんよ。

 

 「よーし、私、これから新生オーディとして頑張ります!目指せ!えーと、なんにしよう」

 (冒険者の星とかでいいんじゃね)

 「あ、そうですね。目指せ!冒険者の星!そうと決まったら、早速依頼受けに行きましょう、依頼!防具もそろってるし、討伐依頼もバッチリコイ!ですよぉ~」

 (お、いいな。俺の力、バーンと発揮してやるぜ)

 

 オーディはすっかり元気が出た様子で、更に町の奥へと進んでいった。

 俺としても、持ち主が暗いままだとこっちまで陰気になりそうだったので、うまく乗せることができて一安心だ。

 

 

 

 

 

 また何分か歩いていくと、何やら大量に張り紙がひっついている掲示板の前にたどり着いた。

 どうやら、これがゲームで言う所の依頼掲示板のようだ。

 ふっつーに日本語で書かれているので、俺にも読むことができる。転生者にやさしい世界だ。

 

 (なかなか種類豊富だねえ、こりゃ100枚以上はあるんじゃないか?)

 「きっとありますよ。パルミアはこの大陸で一番人口が多いですから、その分いっぱい依頼が入ってくるんです」

 (なるほど、それでどの依頼を受けようってんだ?)

 「そうですね。この町はずれの畑に出てきた、モンスターの駆除の依頼にしようかと思います」

 (ほう、そりゃまた何で)

 「こういうのって大抵、大ネズミだとか、大ムカデだとかの弱いモンスターしか出てこないらしいんです。畑の餌が目当てで寄ってくるモンスターは、弱い動物が多いですから。それに、街の近くに強力なモンスターが来ても、すぐガードさんに駆除されちゃうはずです。それなのに今回は、報酬が3000gpも貰えて、大分お得でねらい目だと思ったので」

 (なるほどな、それじゃあこの依頼主のところに行くか)

 「はい」

 

 オーディは依頼の紙を掲示板から剥がし、その紙に書かれた地図の場所へと向かう。

 道中、一回血吸いが発動して、オーディがふぎゃーと鳴いたが、道端でうずくまりながら耐えることで、事なきを得た。

 地図の場所にたどり着くと、そこには扉のない、小さな木の小屋があった。

 そしてその中には、見ただけで、あっ農家の人だ、と分かりそうな麦わら帽子をかぶった、小麦色の肌をした筋肉質の男がいた。

 恐らく、この男が依頼人であろう。顔もゴツく、威圧感がある男に少し怯んだ様子のオーディだったが、意を決したようで、話しかけに行く。

 

 「失礼します。畑のモンスター駆除依頼を受けました、オーディと申します。依頼主のマゴさんで間違えないでしょうか」

 「おう、俺がマゴだ。よろしく頼むぜ、冒険者さん。にしても、あまり強そうには見えないな、俺より少しレベルが下ってとこか、大丈夫なのか?」

 

 この世界では、パッと見ただけで相手の強さが大体把握できる。

 それでオーディの実力を自分より低いと見積もったらしい依頼人の男は、訝しむようにこちらをジロジロと見てくる。

 それを受けて、オーディも不安になったようだ。

 

 「えっと、畑でのモンスター駆除とのことだったので、ネズミとかかなと思ったんですが、マズいモンスターとかいるんでしょうか?」

 「俺が自分で駆除しないのが答えよ。まあ弱くてもいいや、とりあえず畑行ってみてくれ、無理なら引き返しても、違約金せびったりはしないからよ。ほら、あっちにまっすぐ行きゃあ畑があるからな」

 「わかりました、では行ってきます」

 

 

 

 

 

 (なんか雲行き怪しいっぽいな、報酬も相場より高かったわけだし、なんかやばい奴がいるんじゃないか?)

 「そ、そうかもしれませんね。でも、大丈夫ですよ。遠くから見て、危なそうなら引き返せばいいんです。最悪死んでも、ちょっとお金と評判が落ちちゃうだけですから」

 

 楽観的な言葉を続けるオーディ。

 だがその心中は、畑に居る得体の知れない何かに、怯えているように見える。

 いかに彼女が死ぬのに慣れているとは言っても、やはり死ぬことへの恐怖がない、という訳ではないのだろう。

 

 及び腰で前へ進むオーディだったが、とうとう畑が見えてくる辺りまで辿り着いてしまった。

 一瞬足が止まり、怯んでいるような表情を見せたが、すぐに口元を引き締め、忍び足で畑に近づいていく。

 

 視界いっぱい、一面に広がる畑には、食い散らかされた様子のキャベツがあった。

 無事な様子のキャベツはほとんど無く、その食われかけのキャベツが1畳の広さに1個程度落ちている。

 喰われたキャベツはモンスターの食事の後なのだろうが、辺りにはその肝心のモンスターの姿が見えない。

 

 「すごい食い散らかしよう……、大食いのモンスターなんでしょうか」

 (かもしれないな、だがそれなら相応に体も大きいはずだ。ここまで近づいて姿も見えない。ってのはどういうことなんだろうな)

 「わかりません、もうちょっと近づいてみましょうか」

 

 そういって、オーディは畑に近づいていく、そうすると、食い散らかされたキャベツの様子がしっかり見えるようになって来た。

 よく見てみると、1方向から食べられているわけではない、いくつかの方向から、何度も咬まれた跡がある。

 

 (おい、このキャベツだけどよ、なんか食べられ方が一匹に食われているように見えんぞ)

 「へ?つまり、どういうことでしょうか」

 (敵は一匹じゃあないってことだ。それに、咬み跡が小さい、あまり大きなモンスターじゃないんじゃないか?)

 「うーん、それじゃあ、あのおじさんが自分で退治しなかった理由がわからないですけど。とりあえず私も見てみますね」

 

 そう言ってオーディは、畑に足を踏み入れていく。

 しかし、こっちの世界のキャベツ畑ってこんなに寂しいもんなのかね。修学旅行で見たことのある、地球のキャベツ畑は、一面所狭しとキャベツが敷き詰まってたけどな。

 品種が違うから、あまり一遍には育てられないんだろうかね。

 

 ……いや、待て。本当にそうなのか。

 

 もしキャベツ畑が本来、地球と同じように一面キャベツだらけだったとしたら。

 大量の、そう本当に大量の食糧が、食い尽くされている可能性がある。この小さな齧り痕の主によって。

 だが、あの依頼主のおっさんが、その状況を長時間放置はしないだろう、ということは急に大量に湧いたのではないか?

 それだけの繁殖能力がありそうな小動物、ネズミか?畑のモンスター退治でオーディが例に挙げていたし、ありそうな線ではある。

 確かネズミって、穴を掘って身を隠したりしたよな……アカン。

 

 (オーディ、一旦畑の外に出てくれないか?ちょっと気になることがある)

 「えっ、気になること、ですか?」

 

 オーディは不思議そうな顔をして、調べるために持っていこうとしたのか、キャベツを手に取る。

 その時、キャベツ近くの土が、ボコッと盛り上がった。

 

 「ひゃっ、何ですかこれ!モグラ!?」

 (やばいかもしれん、とりあえずそのキャベツ置いて外に走れ)

 「は、はい」

 

 咄嗟に持っていたキャベツを放り出したオーディだったが、少々運が悪かった。

 縄張りに入ってきた外敵に気付き、土の中から外に出てきたのは、体長25㎝ほどの巨大ネズミだった。

 その顔を出してきたネズミに、運悪くそのキャベツがぶつかったのだ。

 出会い頭に、外敵から投擲攻撃を受けたネズミは、キーキーと金切り声を上げる。

 

 「あ、なんだ。やっぱりネズミだったんですね。大丈夫ですよ剣さん、今の私なら、流石にネズミには負けません」

 (いいから逃げとけ!間に合わなくなっても知らんぞ)

 「?、分かりましたけど」

 

 一瞬立ち止まったが、改めて畑の外へと走り出すオーディ。

 その後ろでは、キャベツをぶつけられてお怒りのネズミの呼び声に呼応し、百匹を超えよう大量のネズミ達が、土を掘り返して這い上がってくる光景が広がっていた。

 

 「ひぅ!あの数に齧られたら、一瞬で体が無くなっちゃいます!」

 (ひとまず逃げるぞ、追ってはこないかもしれん)

 「はい!」

 

 そういって、完全に前を向いて走り出すオーディ。

 走ることに集中するオーディの代わりに、俺が周りの状況やネズミの動向を観察する。

 

 (いかんな、あいつら全員まとめて追いかけて来てやがる。しかもあっちの方が早い)

 「このままだと追いつかれるってことですか!?でもあんなの相手にできませんよ!」

 (分かってる、対策やら考えてみるから、とりあえず逃げとけ)

 

 とはいえ、俺も別に戦闘のプロってわけじゃない。

 この状況をどうにかする方法なんざ、そうそう思いつくとは思えないが……。

 お、あそこに良さげな場所あるじゃん、いい感じの方法思いついたわ、天才か俺。

 

 (オーディ、今より右斜め前に向かって走ってくれ)

 「はい、こっちですか!」

 (もうちょい右、うんそれくらい)

 

 オーディをナビゲートし、目的の場所まで誘導する。

 そこにあるのは、逃げる途中で見つけた流れは遅く、深さは浅そうに見える小さな川だ。

 

 「剣さん!前の方に川があるんですけど、どうすればいいんですか?」

 (あの川の中で戦う、思いっきりジャンプして、少し距離を稼いでくれ)

 「ええっ!?川を越えて逃げるんじゃだめなんですか?」

 (ネズミってたぶん泳げるぞ、逃げても多分無駄だからやめとけ)

 「う~、分かりました。行きます!」

 

 そういって、オーディは川へと飛び込み、改めてネズミ達へと向き直る。

 

 川の流れは遅く、ここの深さは30㎝といったところ、そして岸から2m程距離を稼げた。

 つまり、水に足を取られることなく、ネズミは泳がなくてはならず、地面がないから飛び掛かることができないってことだ。

 敵の機動力さえ削げば、あとは数の暴力で押し潰されないかという点だけだが。

 

 「来ましたよ、剣さん!」

 (おう、じゃあ剣が届く奴からとりあえず斬れ、後ろに少しずつ下がりながらだ)

 

 オーディを追ってきたネズミ共を、俺が易々と切り裂く。

 ネズミなんざの皮では、俺の切れ味の前には、碌に身を守ることもできない。

 オーディが剣を一振りするたびに、二、三匹のネズミの息の根を止める。

 

 体の小さいネズミでは、切り傷は致命傷だ。加えて俺が、斬りながら血を吸い取っているのも、追加ダメージになっているかもしれない。

 水の中で持ち味の敏捷性と回避力を落としたネズミ達は、数の力を上手く生かすことができない。

 下がりながら剣を振るうオーディと、距離を詰めることができずに、その数を減らしていく。

 

 「行けます、剣さん!これなら勝てます!」

 (うむ、あと半分ってとこか、気張っていけよー)

 「はい、でや!でやーっ!」

 

 順調にネズミ達は数を減らしていく。

 本能に従って外敵に向かっていくネズミ達は、自分たちが何故敵に勝てないのかを考えることもなく、目の前の敵に襲い掛かり、そして命を散らしていく。

 そして、水を活かしてネズミを狩る作業は終わり、辺りには大量のネズミ達の死骸だけが残った。

 

 「ふう、なんとか倒し切ることができました。聞いてください剣さん!私、途中で一つレベルアップしましたよ!いっぱい倒したおかげですね」

 (そいつはよかったな、それじゃあネズミの肉やら皮やら回収しようぜ。大体は死んだ途端ミンチになったから使えないが、それでも残りを集めれば、幾らかの食料と売り物になるだろ)

 「そうですね、死体が流される前に、集めちゃいましょう」

 (あ、ついでに死体から血を吸わせてくれ、斬りながらも吸ったけど、やっぱりできるだけ吸わせてほしい)

 「はい。上手くいったのも剣さんのおかげですからね。それくらいお安い御用です」

 

 そうして、俺達は残ったネズミの死体から、肉や皮、そして血を回収していく。

 大体終わったかな、といったところで、俺の身体に異変が起きた。

 

 (うん?何か来た、ブルって来た)

 「どうしたんですか、剣さん。風邪ですかね」

 (剣って風邪ひくのかね、って違う違う。なんか武者震いみたいな感じ)

 「うーん、あっあれじゃないですか。生きている武器の成長っていうの。私聞いたことありますよ。吸った血の量に応じて、生きた武器が強化されることがあるって」

 (おお、確かに言われてみれば、そんな感じだ。力がみなぎってくる感じ。オーディ、なんか、こう、気合入れてみてくれ!行ける気がするんだ)

 「気合、ですか?……よし。う、うおーーーーーーー!」

 (来てる!来てるぞ!よし来たあ!)

 

 俺に力が漲ってくる。様々な力の流れが、俺の中を通り抜けていく。

 分かる、分かるぞ。この中で俺が得るべき力は……これだ!

 

 ◆それは神経属性の追加ダメージを与える****

 

 とったどおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 

 (来た、来たぞオーディ。神経属性追加ダメージエンチャントだ!)

 「本当ですか!?すごい、やりましたね剣さん!」

 (おう、あんだけネズミ倒した甲斐があったってもんだな)

 「はい、これでまた戦いが楽になりますね」

 

 実際、属性攻撃の追加は、戦闘に大いに役立つ。

 特に神経属性なんかは、たまに敵を麻痺させるので、運が良ければ大物食いも起こり得る。

 俺とオーディは、一通り新たな戦力増強に喜んだあと、改めてネズミの残骸を片付け終えた。

 

 (よし、これで依頼は終了だな。後は畑に残りがいないか確かめて、依頼主に報告と行くか)

 「はい、そうですね」

 

 そう言って、オーディは畑に向かっていく。

 結論から言うと、畑で残りのネズミを探す手間は省けた。

 依頼主のマゴが、残っていたネズミの1、2匹に止めを刺しているところだったからだ。

 

 「あ、マゴさん。丁度良かった、依頼確かに終わりましたよ」

 「お、本当か!そりゃあ良かった。てっきりそのまま死んだんじゃないかと思ったぜ。残りのネズミはやっといたから。もう依頼は終わりでいいぞ、ありがとうな」

 「わ、すみません。お手伝いしてもらってしまって」

 「いいってことよ。ほれ、これが報酬の3000gpだ。後、使わないから、よかったら落ちてたこの巻物も持ってきな」

 「ありがとうございます!でもいいんですか?巻物なんて売ったら高くなるでしょうに」

 「構わんさ、将来有望な可愛らしい冒険者さんに先行投資だ。また機会があったらよろしく頼むぜ」

 

 そう聞くとオーディは、一瞬顔を歪めかけたが、すぐに華のような笑顔を浮かべた。

 

 「はい、ありがとうございました。こちらこそまた機会があったらよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 (なあ、オーディ)

 「剣さん、私ですね」

 (……なんだ?)

 「私、今幸せです。優しくされて、強くなって、報酬をもらって、立派な冒険者に近づいて。とっても幸せです。もっといっぱいいっぱい、世の中にはうれしい事があるはずですよね。私、剣さんと一緒に、うれしい事探しに行きたいです」

 

 なるほど、さっき俺が言ったように、楽しい事だけを考えるってのを実践してるわけだ。

 さっき少し顔が苦々しくなったのは、今迄の事を思い出したからか。

 だが、すぐに言われたとおりに恨みつらみを忘れ、思考を切り替えるのは、なかなかできることじゃないだろう。

 彼女の持っている、前向きさ故だろうか。

 

 (おう、早速嬉しい事とやらがあってよかったじゃないか。ま、神器級武器が呪われてんだから、そう簡単には別れたくても、別れられんだろうよ)

 「ふふ、そうですね。さあ!いきましょう、次の依頼が待ってます!」

 (おい、続けていくのか!ちょっと休んだ方がいいんじゃねえの?)

 「大丈夫、今いくらでも頑張れる気分なんです!」

 

 そういって、オーディはまた依頼の掲示板に向けて歩き出していく。

 まあ、暗い顔した奴が常に隣にいるよりは、この方が楽しいってもんだ。

 そしてなんか言い出しにくい、良い感じの雰囲気になってしまった。

 しょうがないから、『あの依頼主、俺達が死ぬの前提で囮にして、畑の安全確保してたんじゃね?』説は、心の奥にしまっておくとしよう。



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はじめてのネフィア

 皆様は、elonaの醍醐味といったら何を思い浮かべるだろうか?

 

 プレイヤーの強化、依頼のクリア、メインクエスト等々、様々な答えが返ってくるだろう。

 だが、どういうプレイスタイルであれ、まず間違いなく関わってくる一つの要素があるだろう。

 

 すなわちネフィア探索である。

 

 塔、森、洞窟、遺跡、様々な形をした複雑なダンジョン。そこに出てくる様々なモンスター、強力なダンジョンの主、そして玉石混交の戦利品たち、間違いなくelonaの華たる存在であると、俺は自信を持って言える。

 

 

 

 さて、という訳でその醍醐味を味わうべく、本日は炭鉱街ヴェルニースの東にある、子犬の洞窟にやってまいりました。

 

 「さあ、ネフィア探索ですよ~。ワクワクしますね!剣さん」

 (ああ、だが街の酒場で情報収集した通り、階段を通るたび姿を変えるとのことだ、低レベルのダンジョンだが気を抜くなよ)

 「大丈夫です、食料はいっぱい買いこんできましたし、脱出の巻物も用意してあります。迷子になっても安心ですよ」

 (そうだとしても、ネフィアに来るのは初めてなんだろう?気を付けるに越したことは無いさ)

 「ふふっ、剣さんは心配性ですね。大丈夫ですよ、酒場の皆さんも、駆け出し冒険者でも安心のネフィアだ、って言ってたじゃないですか」

 

 何故子犬の洞窟に挑むことになったのか、話は簡単だ。

 いつものように依頼を終えた後、オーディが

 「自信がついてきたから、ネフィア探索にも挑戦してみたいです!」

 と、言い出したのだ。

 

 なんでも、冒険者と言えばネフィア探索。ネフィアを潜ってお宝を探して、一攫千金を夢見ないならば冒険者とは呼べない、というのがこの業界の常識らしい。

 命が軽いelonaの世界らしい、なんとも冒険心にあふれた人々である。

 で、ご多分に漏れずネフィアの探索に憧れを持っていたオーディだが、今迄はその貧弱な能力からネフィアには潜れずにいた。

 それが俺と戦うようになってから、急速に成長を実感できるようになってきたので、念願のネフィア潜りに挑戦したい、という訳だ。

 

 俺としても、ダンジョン探索という、夢あふれる行為に心惹かれないわけではない。

 だが、やはり元現代日本人として、いきなりあんまり危ないことするのもどうなの?という感覚もあった。

 

 そこで出てくるのが、子犬の洞窟だ。elonaでも初心者の為に作られたようなあの洞窟なら、オーディにも問題なく探索できるだろうと思った俺は、最初に行くネフィアをそこにすることにした。

 とは言え、転生剣としての記憶があることを明かしていない俺が、いきなり子犬の洞窟について情報を出すことはできない。それに、ゲームと現実の間で、差異がある可能性もある以上、子犬の洞窟についての情報も必要だろう。

 

 そう考えた俺が取った方法はこうだ。

 まず、首都であるパルミア付近のネフィアは、既に他の冒険者が探索済みの可能性もあるからといって、ヴェルニースに行くことを勧める。

 そして、ヴェルニースの酒場に居る冒険者や店員に、駆け出し冒険者でも行けそうなネフィアがこの辺りにないか尋ねさせる(ここが大変だった、まだ人を警戒してるオーディに、他人に話しかけさせるのが)。

 オーディの魅力、つまり俺の魅力エンチャントによって好意的な冒険者たちから、子犬の洞窟という存在とその場所、そして入るときの注意点などを聞き出す。

 こうして、弱いモンスターしか出てこないが、神託の巻物という高価な品がよく見つかり、ダンジョンの地形がすぐ変わることに注意すべきネフィア、子犬の洞窟がこの町の東にある。

 この認識を、俺とオーディが共通して持つに至ることができたのだ。

 

 こうなれば、話は早い。俺とオーディで相談して、脱出の巻物などの緊急時の手段を確保したうえで、このネフィアに挑むことが決まった。

 そして今、俺達は子犬の洞窟の入り口に立つに至ったのだ。

 

 「えーと、ネフィアの地層判定は、中央ネフィア・レシマスの2階相当、ここが子犬の洞窟で間違いなさそうですね」

 (ああ、場所もぴったし、レシマスの地層の特徴と照らし合わせた、難易度判定もバッチシだ。さあ、ネフィアデビューと洒落込もうぜ)

 「はい。いざ、出陣です」

 

 いつにも増して気合の入ったオーディが、洞窟の中へと続く階段を降り進む。

 洞窟の中は、どこからか漏れ出ている謎の光のおかげで十分明るく、松明が無くてもある程度見通しが利く。

 このことについては、予め酒場で情報を得ていたので驚きはなかった。

 詳しい事は分かっていないが、前時代の技術の結晶であるネフィアに、周囲を照らす機構が備わっていてもおかしくない、とのこと。

 そもそも、ネフィアについて自体よく分かっていないので、『何か知らないけど役に立つなら気にしない』というのが冒険者達のスタンスらしい。

 

 まあなんにせよ、光源があって助かるのは確かだ。存分に利用させてもらうとしよう。

 松明なんて持って暗いところを歩いていたら、モンスターに場所を教えているようなものだからな。

 

 「そろそろ階段も終わりですね。剣さん、周りに敵がいないか見てもらえますか?」

 (任された、じゃあ下に向けてくれ)

 

 俺の了承を受けて、オーディがしゃがみながら、剣である俺を精一杯下の方に突き出す。

 これは、町で討伐依頼を受けながら編み出した、俺たちなりの索敵方法だ。

 小屋に住み着いた、モンスターの退治依頼の時の話だ。小屋に入ったとたん、物影から飛び出したモンスターに襲われ、そのまま死んだことがあった。

 こうなった原因は、経験不足からくる索敵能力の低さのせいだろう、と話しあった俺達だが、それは一朝一夕に解決できる問題ではない。

 そこで、壁や天井など、物影で視界が届かない場所に踏み込む前に、五感を持っている俺が覗いて、危険の有無を確認することにしたのだ。

 生き武器クリアリングを行うようになってから、不意打ちを喰らうことは格段に減った。

 流石俺、スーパー転生チートオリ主である。

 

 (よし、確認完了だ。中に誰もいませんよ)

 「?えーと、誰もいないんですね。それじゃあ進みましょうか」

 

 そう言ってオーディは階段を降りきる。

 ダンジョンはいかにも洞窟といった様子で、全体的に土を固めて壁としており、所々ゴツゴツとした岩肌が露出していた。

 余りにもダンジョンらしいダンジョンに、俺もワクワクを禁じ得ない。

 これで、一回目の挑戦で気持ちよくお宝ゲットまで行ければ、言うことなしだ。

 で、肝心なのはどのように進むのか、なのだが。

 

 「三本に道が枝分かれしてますね、右と左と真ん中、どちらに進みましょうか」

 (そうさな、適当に進んでもいいだろうが、こういう時どういう風に進むか決めとくのもいいかもな。迷い辛くなるだろうし)

 「うーん、じゃあ左から行ってみましょう、私左利きですし」

 

 そうだったのか、変な所で新事実を発掘してしまった。

 

 

 

 1、2分ほど歩いただろうか。

 左の道に進んた俺達だが、特に何事もなく奥へと進んでいっている。

 洞窟の中は、代わり映えのない土色の風景だけが続き、正直ちょっと飽きてきた。

 

 (なんも起こらんな、モンスターはともかく、宝箱の一つや二つ落ちててもいいと思うんだが)

 「私も詳しくはないですけれど、きっとこんなものだと思いますよ。そもそも宝箱があっても、ロックピックもないし開けられないですよ」

 (つったって、一本道だから警戒とかするまでもないし、やることないんだよな。早くなんか斬りたいわ)

 「私は流石に、モンスターは勘弁願いたいですけどね……。あれ、剣さんあれ巻物じゃないですか?」

 (お、どれどれ?)

 

 オーディが指さしたところを見てみると、確かにそれはいわゆるスクロールという奴だった。

 読み上げることで中に込められた魔法が発動し、呪いを解いたり、武器を強化したりできるという、便利アイテムだ。

 さっき話した神託の巻物も、この一種である。

 これを読むと、今迄に身の回りで生成された、特別な武器や防具を確認することができる。

 中々に高値で取引されるので、当たりアイテムとして認識されている。

 

 後はそうだな、鑑定の巻物とかもあるな。

 これは、識別されてない武器や防具を鑑定し、その性能や名前を判断する巻物で……巻物で……?

 

 やっべぇ!鑑定の巻物だったら、俺の名前ばれるかもしれねーじゃねえか!

 いや、鑑定くらいだったら、まだ運が良くなければ神器は鑑定できない。

 だが、もしこれがレアアイテムである、*鑑定*の巻物だったりしたら、マジで俺の名前バレの危機である。

 

 俺が激ヤバ案件に焦っている内に、オーディは既に巻物を手に取ってしまった。

 巻物を見つめるその目は好奇心に満ちており、いつ巻物を読み始めるか知れたものではない。

 何としてでも、この窮地を脱しなければ。

 

 「えっと、見たことのない巻物ですね。少なくとも脱出の巻物ではないかな?とりあえず一回読んで、次から識別できるようにしてみましょうか?」

 (いやいやいや!巻物ってのは呪われている物もあったりするんだぞ?初めてのネフィア探索なんだから、じっくり腰を据えて挑むべきだろうさ!その巻物は町に戻ってから、魔術師にでも鑑定してもらえばいい)

 「うーん、剣さんがそんなに言うなら、やめておいたほうがいいのかもですけど。呪われてたにしても、そんなに危ないんでしょうか?」

 (そりゃ危ないっての!アイテムが呪われたり、牢獄にテレポートさせられたりするんだぜ?下手したらそのまま死にかねんさ)

 「そうなんですか!?剣さん良く知ってますね、私聞いたことありませんでした」

 (あー、酒場で誰かが話してるのを聞いたんだよ。巻物で起きた不幸自慢をしてるやつらがいてな)

 「なるほど、剣さんったら情報収集がお上手ですね」

 

 ふう、上手いこと誤魔化せたか。

 オーディは俺の言葉を信用したようだ、ひとまず問題は先送りにできた。

 なんとかして、俺の名前が<<エターナル・ぼっち>>であることを隠し通しきらねば。

 一番は名前の巻物を使うことだろうが、それには何でそれを使う必要があるか、説明する必要がある。

 上手い方法を思いつくまでの間は、何としても鑑定の魔の手を避け続けなければならない。

 

 

 「それじゃあこれは仕舞っておきましょう、神託の巻物だといいなあ。よし!それじゃあ先に進みましょうか」

 (ああ、そうだな。そろそろモンスターが出てきてもいいが)

 

 軽口をたたきながら、さらに奥へと進んでいく俺達。

 すると、通路の先に小部屋のような小さな空間が見えた。

 ここからでは中の様子は詳しくわからないが、期待するだけの価値はあるように思える。

 

 (ふむ、なにかありそうだな。オーディ、俺だけ小部屋に突っ込んでみてくれ)

 「了解です」

 

 オーディが小声で答え、俺のことをそろりと差し込んでいく。

 小部屋の中では、小柄なゴブリン達が数人、部屋の隅で集まって何やら夢中になっている。

 食事か何かをとっているのだろうか?それぞれの身体が陰になって、何をしているのかは分からない。

 だが幸いなことに、そのおかげでこちらには気づいていないようだ。

 

 だが、一つだけ厄介なことがあった。

 他のゴブリン達に比べ、明らかに一際強そうな個体が、1人混じっているのだ。

 変異種という奴だろう、酒場の冒険者に聞いたことがある。前世で言う所の、『』つきの奴だ。

 その種族にしては妙に強そうなモンスターがいたら、それは変異種の可能性が高いそうだ。

 この世界は、見ただけでなんとなく、敵の強さが分かる謎仕様なので、こういった方法で変異種を見分けているらしい。

 

 「どうですか?剣さん」

 (ん、左側に何人か集まってるな、恐らくゴブリンだけだろう。ただ「ゴブリンですね、それなら倒せます!」ちょ、待っ)

 

 変異種らしいのがいるから気を付けろ、と言おうとしたが、その前にオーディは飛び出して行ってしまった。

 

 「テキ!?」

 「テキダ!」

 「オオキイメスダ!」

 

 突然の敵襲に、敵のゴブリン達は驚いて浮足立った様子だ。慌ててこちらに向き直ってくる。

 しかし、浮足立っているのは敵だけでは無い。

 思いがけない変異種の登場に、オーディも戸惑ってしまった。

 

 「あ、あれ。何だか敵に一人だけ、大分強そうなのが交じっているんですけど」

 (言おうとしたら突っ込んでいったんだ!多分あれが変異種ってやつだろ。まあ突っ込んじまったら仕方ない、まとめて相手してやろうじゃないか)

 「うーん、そうですね。という訳で、でやー!」

 

 気を取り直したオーディが、ゴブリン達へ斬りかかっていく。

 そのころには、敵があまり強そうに見えない、ということに気付いたらしいゴブリン達も、平静を取り戻し始めていた。

 お互い万全の態勢で、戦闘が始まる。

 

 敵は3人の一般ゴブリンに、1人の変異種ゴブリン。

 未だレベル5に至って居ないオーディには、本来ならば少々辛い相手だろう。

 だが、生きている武器である俺には、易々と勝敗を覆せるだけのポテンシャルがある。

 

 (オーディ、まずは周りの雑魚から片付けるべきだろう。変異種は耐久力が高い、まずは1対1に持ち込むんだ)

 「はい!」

 

 戦闘の最中に、俺はオーディへと指示を出す。

 基本的に野生児であるオーディには、戦いながら筋道を立てて戦術を考える、というのは少々難しい。

 なので、どういった斬り方をするか等、自分の動作についてオーディには集中してもらっている。

 その代りに、敵から血を吸ったりする以外、割と暇である俺がどう戦うべきかを考えて、オーディに伝えるのだ。

 これも依頼中にできた俺たちの戦い方の一つである。

 

 オーディはまず、一番近くに居たゴブリンに向けて、剣を振り下ろす。

 ゴブリンは武装しているようだが、小柄とはいえ人間のオーディとのリーチの差は歴然。攻撃を先に届けたのは、オーディだった。

 攻撃の的になったゴブリンは、反射で腕を振りかざして体を庇おうとする。

 しかし、間に合わせの防御では、俺を阻むことはできない。

 ゴブリンが身に着けていた粗末な鎧ごと、オーディの斬撃がゴブリンの腕を切り落とした。

 

 「ギギ!?」

 (オーディ、二人突っ込んで来ている。弱い方だ)

 「了解です!」

 

 剣を振り下ろして無防備なオーディに、変異種で無い残り二人のゴブリンが同時に斬りかかる。

 急いで後ろに跳ぶことで回避するオーディだったが、両肩に敵の刀の一撃を喰らってしまった。

 

 「いっ、たぁ・・・。くうっ、反撃です!」

 

 そういうと、オーディは剣を横に薙いでゴブリン達を牽制する。

 幸い、敵の攻撃は大したダメージになっていないようで、その横薙ぎにはしっかりと力が込められている。

 命が軽いこの世界では、怯むことはあれども、痛み程度で動きが鈍ることはまず無い。

 死なない限り、そう簡単には戦闘不能には至らないのだ。

 

 だが、その恩恵を受けるのは味方だけではない。

 片腕を切り落とされただけのゴブリンも、当然戦線に復帰してくる。

 

 ・・・しかし、おかしいな。

 

 (敵の変異種、前に出てこないな。後ろでこそこそしてやがる)

 「たしかに不自然ですね。何かしてるみたいですけど」

 (だが、他の奴等を無視して突撃もできん。さっさと奴等を片付けるとしよう)

 「はい!」

 

 変異種でない普通のゴブリンならば、少し数が多くともゴリ押せる。

 オーディの放った一打は、片腕が無いゴブリンを改めて両断し、ミンチへと変えた。

 残りの二人も斬りかかってくるが、今度は上手く衝撃を受け流せたようで、オーディに大したダメージはない。

 

 返しの一撃は、ゴブリンを一撃で葬った。

 死ぬ前にビクンビクンと跳ねていた様子を見ると、どうやら俺の神経属性の追加攻撃を、モロに受けたようだ。

 ネズミ刈りで得た追加効果は、こうして時たま役に立ってくれている。

 

 「よし、後一人です!」

 (いや、後二人だ。変異種の野郎、ようやっと前に出てきやがった)

 

 変異種のゴブリンは、自信満々といった様子でノッソリと後ろから歩いてくる。

 その装備も他のゴブリンとは違ってしっかりしており、オーディの物ほどではないだろうが、見るからに性能が高そうだ。

 なかなか出てこなかったのは、装備を整えていたからだろうか?

 つったって、仲間二人が倒されるまで待つ価値があるかと言われれば、どうかと思うが。

 

 (普通のゴブリンの方は後一人だ、できれば潰して1対1に持ち込むぞ)

 「はい!」

 

 二人のゴブリンへと相対する。

 お互い相手の動きを待ち、一瞬の睨み合いが続く。

 先に動いたのは、変異種のゴブリンだった。

 剣をオーディに向け、そのまま突撃してくる。

 

 「ガァ!」

 「やっ!」

 

 キィン、と甲高い音が鳴り響いた。

 両者の剣が、思い切りぶつかり合う。

 これくらいで俺に傷がつくわけもないが、相手の剣もそう簡単に折れる様子もない。

 装備の優劣だけで決着をつけられる相手じゃなさそうだ。

 

 そして問題は、敵は二人いるということだ。

 

 「ウシロ、イケ!」

 「アア!」

 (オーディ、もう一人のやつ右側に回り込んできたぞ)

 「はい、気を付けます!」

 

 こうなると、二対一はキツイ。

 目の前の敵に集中している間に、後ろから斬られるのも気にするのは、やはり難しいものだ。

 

 「ヌゥン!」

 「くっ、こっちを先に倒したいのにっ!」

 「ヨクヤッタ、フンッ!」

 

 だからと言って、格下とは呼べないこの変異種を放置して、普通のゴブリンにかかりっきりにも出来ない。

 そんなことをすれば、戦い続けられないような大きな傷を負うのは明白だからだ。

 碌に攻撃することもできないというのに、相手の後ろからの攻撃は少しずつこちらを削ってくる。

 唯一幸いだったのは、早めに二人倒しておいたことで、二対一で済んでいることか。

 

 とは言え、こんな状況を続ければ流石に勝てるわけもない。

 明らかに、防戦一方で不利なのは、こちらなのだから。

 ならばやはり、博打を打つべきか。

 一つ思いついたな、俺達と相手の情報の差を生かした作戦を。

 

 (オーディ、このままじゃ勝てん。ちょっとばかし失敗したらやばげながら、リターン抜群な作戦を思いついたんだがどうだ?)

 「やります!それくらい覚悟の上です!」

 (だろうと思ったぜ、じゃあ説明すんぞ。こっちとあっちには一つ大きな差がある、俺っていう武器の存在だ。そして、奴らは俺のことを詳しく知らん)

 「はい、それでどうすれば?」

 (後ろのやつは完全に無視をして、全力で変異種の方に斬りかかるんだ。やけになって、後ろは気にせず変異種を先に倒そうって風にな)

 「そんなことしたら、後ろから思いっきりやられちゃいませんか?」

 (そこで俺の出番だ。後ろからズブリと行くつもりで無警戒に近づいてきたところで、俺が合図を出す。そしたら、お前がいきなり振り返って思いっきり切り捨てるってわけさ。どうだ、できそうか?)

 「はい、それなら」

 (よし、ならやってみるとするか)

 

 オーディが焦れて、やたらめったらに変異種に対して斬りかかる、ように振る舞う。

 変異種は驚いたようだが、すぐに立て直して、時間を稼ぐように立ち回るようになった。もう一人のゴブリンに後ろから刺させるためだろう。

 当のゴブリンだが、どうやら絶好の機会を狙っているらしく、すぐに襲いかかってくる気配はない。

 

 (まだだ、まだだぞオーディ)

 「ええ、任せます」

 

 変異種に動きは見られない。

 オーディも少し疲れてきたようだ、動きが少しだけ鈍ったように見える。

 それを見て今だと思ったのか、背後のゴブリンが動き出した。

 

 (来たぞオーディ、切り捨てろ)

 「っだーーーーー!」

 「ギャヒッ!?」

 

 オーディは一気に振り返り、その勢いのままゴブリンを切り裂いた。

 無防備にその一撃を受けたゴブリンは、そのままミンチとなって息絶える。

 

 いきなり起きたこの起死回生に、変異種もすぐには反応ができなかったようだ。

 結果としては、全ての普通のゴブリンを片付け、ようやく変異種のゴブリンと1対1に持ち込めたことになる。

 後は、この変異種を叩き潰せばいいという訳、実に簡潔な状況が出来上がった。

 

 「やりましたね剣さん!これで後はアイツだけです」

 (ああ、だがあいつも今までのゴブリンとはわけが違うからな、気ぃ抜くなよ)

 「大丈夫です、行きます!」

 

 

 

 

 

 「どういうことですか・・・?全然歯が立ちません」

 (分からん、だが奴のタフさは異常だ。撤退も視野に入れるべきだろうな)

 「うー、ここまで頑張ったのに」

 

 雑魚を散らしてから、五分は経っただろうか。

 未だにこの勝負の決着は着いていない。

 

 理由は簡単、こっちの攻撃がゴブリンにまともに通らないからだ。

 さっきまでは二対一で、意識を割きながら戦っていたから気にしてなかった。

 だが、こうして一対一で斬り合うようになっても、相手にダメージが入っているように見えない。

 奴の皮膚だか装備だかが異常に硬く、俺の刃でも切り裂くことができてないようなのだ。

 

 「ヌガァ!」

 「くっ、変異種ってこんなに強いんですか?見た感じ、それほど強そうに見えないのに」

 (分からん、他と比べ生命力が高いとは聞いたが、防御力までこんなに高いとは思えないのだが)

 

 実際、相手の攻撃の方はそれほど強くない。

 オーディの自然回復で、まあまあ対処できるくらいだ。

 しかし、それに対して、異常なまでの防御が戦闘を長引かせている。

 このままだと、何かの拍子にまともに攻撃を受けて、死ぬリスクが高まるばかりだろう。

 

 オーディはまだあまり成長してないので、死んでも能力が下がったりはしない。

 だが、死亡時には、その拍子に落としてしまったりで身に着けてないものを、そのまま失ってしまう。

 そんなデメリットがあるのだ。

 装備している俺はそうそう無くさないだろうが、折角ダンジョン用に整えたアイテムを失いたくは無い。

 

 やはり、引くべきだろう。

 帰ろう、帰ればまた来られるから。

 子犬の洞窟だから、階層変えたらアイツとはもう会わないし。

 

 (やはり退こう、多分アイツの装備に何か優秀な物があるんだ。装備してるものは落としにくいし、倒しても旨みはないかもしれん)

 「はい。では思いっきり逃げますから、後ろの確認お願いしますね」

 

 そう言うと、オーディは背を向けて、一目散に逃げだした。

 虚を付かれたのか一瞬の間ができ、その後変異種のゴブリンも追いかけてきた。

 

 「ニガスカ!」

 (ふむ、落ち着いてみてみると、やはりあまりいい装備をしているようには見えないな。何が奴をあそこまで強くしているのか)

 

 奴の装備は、鉛やら青銅やら、大した素材でできているようには見えない。

 所々ベコッとへこんでいるし、品質もたいしたことは無さそうだ。

 強いて言うなら、あのペンダントくらいか。

 あれだけは何だかとても美しく、キラキラと輝いている。

 

 宝石でできているのだろうか?

 だがそれにしては形が歪な気がする。

 ペンダントの宝石と言ったら、きれいに加工されたものがほとんどだ。

 あんなグルグルと捻った形をしたものは、そう、あんな巻貝みたいな形をしたものは……?

 

 

 

 ……アレ、固定アーティファクトの謎の貝じゃね?

 

 (オーディ、オーディ。ちょっと俺の推論なんだが、聞いてもらっていいか?)

 「はっ、はっ、・・・はい?別に構いませんけど」

 (すまんな。だが、あいつの強さの秘密がわかった気がするんだ。)

 「ええっ!?じゃあ、あいつのこと倒せるってことですか?」

 (いや、そこにすぐ繋がるわけじゃないんだが、もし俺の予感が当たってたら、死ぬリスクを背負っても奴を倒す価値はあるかもしれん)

 「えーと、じゃあ取りあえず止まって、戦いながら聞きます!」

 

 そう言って、オーディは通路で奴を迎え撃つために向き合う。

 ゴブリンもそれを受けて改めて剣を構え、また斬り合いが始まった。

 

 (奴の強さの秘密だがな、恐らくあの首のペンダントだ。町で聞いたことがある、貝の形をした防御力を上げるアーティファクトがあると)

 「アーティファクトですか!?それって、剣さんみたいなものすごい防具ですよね!」

 (ああ、だから戦いの最中に、無理をしてでもあのペンダントを切り飛ばせばいい。そしたら、あいつの防御力も下がるし、倒した後に謎の貝も手に入る)

 「なるほど、ちょっと難しいし、死んじゃうかもですけど、狙ってみる価値はありそうですね!」

 (納得してくれたようで何よりだ。せっかく頑張ったて取り巻き倒した訳だし、ここらで一攫千金と行こうぜ)

 「はい、治療薬もあることですし、ちょっと無理してでも懐に潜りこんでみましょう」 

 

 そう言って、オーディは一気にゴブリンとの距離を詰めて密着する。

 ゴブリンは驚いたようだが、すぐに思いっきりオーディに剣を突き立てた。

 

 「ふぐぅ!痛いですぅ・・・でも、ここからなら!」

 (よっしゃ!ペンダントの鎖に、俺を突っ込め!)

 

 オーディは、俺を下から上に突き上げ、ペンダントの鎖に剣を差し込んだ。

 ゴブリンの皮膚は固く、剣が貫くことは無かったが、ペンダントはそう行かなかったようで、ドサリと地に落ちた。

 

 「ナンダト!?」

 「よし、成功です!」

 (今なら体も柔いはず、突きさせ!)

 

 オーディが思い切り剣を突き出す。

 しかし、ゴブリンは動揺からか、一気にオーディとの距離を開けるため後ろに跳躍していたので、刺さることは無かった。

 だが、それはオーディの不利に繋がるわけではない。

 距離が空いた隙に、1つだけ買っておいた重症治癒薬を腰の袋から取り出して飲み、オーディは突き刺された傷を回復する。

 

 さっきまでと同じ状況で、今度はこちらの攻撃が通るようになったのだ。

 軽傷治癒薬ならあと2つ残っているし、盤石と言って良いだろう

 

 (これで恐らく、状況は五分以上。奴を殺して、アーティファクトゲットだ!)

 「はい!」

 「チクショウ!コロシテヤル!」

 

 心なしかゴブリンが焦っているように見える。

 やはり、あのペンダント、謎の貝が生命線だったのだろう。

 戦闘中に拾うような暇はないだろうし、鎖が切れて装備できる状態じゃないから、相手にとっては絶望的だろう。

 

 「行きますよ~、でぇやああーー」

 「ヌグォ!?」

 (いいぞ、明らかに効いている!このままいけば余裕だろうよ)

 

 先ほどまでと、形勢は逆転した。

 依頼の報酬で手に入れた良質な防具と、この俺の攻撃性能に、ゴブリンは完全に押されている。

 相手の攻撃はこちらに然程通らず、こちらの攻撃は相手の血肉を確実に削っている。

 変異種だけあって、他のモンスターより長持ちしているが、それでも死ぬのは時間の問題だろう。

 

 「よーし、この感じなら何事もなく勝てそうですね」

 (はっはっは、そういう事を勝つ前に言うのは負けフラグって奴だぞ。そういう軽口は、勝って敵の血液で一杯やりながら言うもんだ)

 

 いやー、奴の血を飲むのが楽しみだ。

 血にもウマい奴マズい奴があるからな。

 強い奴の血は大抵うまいし、後種族によって味の種類も変わる。

 ゴブリンはあまり好みの味じゃないが、それでも変異種なら味に期待も持てるだろう。

 想像したら腹減ってきたなあ。

 

 

 

 なんか、この空腹そういうんじゃないっぽい。

 

 (すまんオーディ、血吸いタイムのお時間だ)

 「へ?ふぎゃあああああ!」

 

 オーディが悲鳴を上げる。

 手加減をして、すぐ死なないように分けながら吸ってるとはいえ、それでも十分大ダメージなようだ。

 思いっきり血をまき散らして、ぜぇぜぇと息を吐いている。

 

 「イマダ!」

 「ちょ、ちょっとタイムお願いします!」

 

 好機と見たゴブリンが、オーディの静止を無視して(当然である)襲い掛かってくる。

 それに対し、オーディは片手で剣をもって攻撃をいなしながら、もう片手で袋から軽傷治癒薬を取り出した。

 

 「こ、これを飲めばひとまず即死は免れ「アマイワ!」ああっ!」

 

 ゴブリンの剣が、治癒薬に当たり瓶を砕く。

 中身は粉々になって地面へと吸われていった。

 

 (く、まだ止まらんぞオーディ、なんとかもう一つを飲め!)

 「分かってます!でも・・・っ!」

 (ビアが一つあったろ!それ敵に投げつけろ!)

 「は、はい!」

 

 オーディは、今度は酒を取り出して敵のゴブリンに投げつける。

 またポーションだと思っていたゴブリンは、急に投げられたビアに反応できず、まともに浴びる。

 

 「アン?……ヒック」

 (よし、酔いが来たか。オーディ、後ろに下がりながらポーション飲め)

 「分かりました!」

 

 そう言って、オーディは後ろに下がっていく。

 ゴブリンも追いかけようとするが、急に入ったアルコールにまだ慣れないようで、足を縺れさせてしまう。

 その隙に、オーディは治癒薬を飲むことに成功した。

 未だ血吸いは止まらないが、今迄の経験から言って、死ぬまで行くことは無いだろう。

 

 「はぁ、一息つきましたぁ~」

 (俺が言うのもなんだが、まだ早いだろうよ。ゴブリンが来てるぞ)

 

 変異種のゴブリンが追ってきている。

 左手には謎の貝を持っているようだ、逃げた隙に拾ったのだろう。

 有利とみて、左手に余計な物を持っていても大丈夫だと思ったのだろうか。

 なんにしても、今の状況でそれは命取りだろうさ。

 

 「あっ、貝殻拾われちゃいました!」

 (なに、装備されなきゃいいんだ。左腕ごと斬り飛ばしたれ)

 「それもそうですね。えいやー!」

 

 オーディの思い切りの一撃がゴブリンに決まる。

 ゴブリンの一撃も貰ってしまったが、そのリターンは大きい。

 謎の貝ごと、ゴブリンの左腕を斬り飛ばすことに成功した。

 

 「グギャアア!」

 「止めですよっ」

 

 ゴブリンが悲鳴を上げて注意が逸れた時すかさず、オーディが止めの一撃を加える。

 たまらずゴブリンはミンチとなり、辺りに肉片が散らばった。

 

 「やったあ、勝てましたね剣さん」

 (ああ、つきましては血液飲ませていただきたく)

 「飲んだばかりじゃないですか・・・、いや、いいんですけどね」

 

 そういいながらも、オーディは残ったゴブリンの肉片に俺を突き刺し、血を吸わせる。

 あー、これは普通のゴブリンとは違う味だわ。

 なんていうか、力強い濃さを感じる。変異種はやっぱ違うね。

 

 (なかなかうまかったな、それじゃあアーティファクト回収と行こうか)

 「はい!」

 

 そういって、オーディは先ほど斬った左腕へと向かう。

 そこには、美しい青い光を放つ、小さな貝が握られていた。

 

 「わあ、綺麗ですねー。これ、とってもいい防具なんですよね!」

 (ああ、多分な。一度帰って、装備できるよう鎖やらを整えるといいだろうな)

 「そうですね、じゃあゴブリン達がいた場所に何かないか探して、そのあと一度街に戻りましょう!」

 (そうだな、オーディが自然治癒しきったら行くとしよう)

 「はい、張り切って治しますよ!」

 (張り切って治るものじゃないだろう)

 

 どうやらオーディは、初めてのネフィア探索での思わぬ戦果に、興奮を隠せないようだ。

 まあ、無理もないだろう。俺もゲームの序盤で謎の貝手に入ったら狂喜乱舞するし。

 

 さて、俺も暇だな、何して待ってよう。

 ひとまず、道中拾った巻物が鑑定だった時、なんて言って俺に使わせないかでも考えておくか。



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今時神も信じてないとか(苦笑)

 あの謎の貝を持ったゴブリンを倒した後、俺達はそのゴブリン達が屯していた小部屋へと向かった。

 敵の集団を倒した後、そいつらのアジトを漁って、食料や武器等を奪うのはネフィア荒らしの基本なのである。

 

 「うーん、結構狭いですし、余り物は置いてなさそうですね」

 (だが、何もないってことも無いと思うんだよな。俺が覗いた時には、隅に集まって何かしてたようだし)

 「それってこっちの方ですか?といっても、めぼしいものは……っと、何だか台みたいなものがありますね」

 

 オーディに言われて、ゴブリンが集まっていた辺りの、地面付近を見てみる。

 すると、そこには確かに、四角い台座のようなものがあった。

 それはあまり大きなものではなく、手作り感あふれる凹凸面をしている。

 この洞窟では少し浮くような真っ白な代物で、隅の方には何かをひっかけるような鈎状の出っ張りが付いていた。

 

 (確かに何かあるな。あまり大きくないし、目につく場所にないから気付かなかった)

 「これ、何なんでしょう?何だかあったかい感じがしますけど」

 (んー、思い当たるのは……あっ、祭壇とかか?謎の貝があったし、ここ置いて祈りの場として使ってたのかも)

 「?謎の貝って、あのペンダントのことですよね、それと祈りの場と何の関係があるんですか?」

 (ああ、お前は謎の貝について詳しく知ら、いや、聞いてなかったんだったな。あの貝には、神の声を聴く手助けをする力があるんだ。だから、この祭壇に置いて、ゴブリンが集まって礼拝でもしてたんじゃないかと思ったんだ)

 「そういう事ですか。でも、神様の声なんて本当に聞こえるんですか?すぐには信じられないんですけど」

 

 オーディは、何やら訝しげな様子だ。

 この世界だと、神様って身近な存在だし、スッと受け入れられるものかと思ってたから少し予想外である。

 

 (んー、俺も詳しくは知らんけどな。そんなに気になるなら装備してみたらいいんじゃないのか?鎖が切れてるから戦闘には使えないだろうけど、手で押さえておけば身に着けることはできるだろう)

 「まあ、そうですね。こんな感じでしょうか」

 

 そういって、オーディは謎の貝の鎖部分を持ち、首からぶら下げる。

 

 (どうだ、何かこう、どこからか声が聞こえたりとかはしないか?)

 「ええっと……いえ、特になさそうですね。いつも通り剣さんの声だけです」

 (そうかー、まあいつだって聞こえるようなものじゃないのかもな。そうだ!オーディって、どの神の信者なんだ?)

 「私ですか?いえ、どの神様も信じてはいませんけど。強いていうなら、無のエイスと言うところになるでしょうか」

 (……マジで?)

 「マジです」

 

 なるほど、これは盲点だった。

 ゲームだと大体の人間は神を信じているような様子だったし、ゲームをしていても神を信仰しない理由がなかったから、オーディが無神論者に近い無のエイス信者みたいな存在だと思わなかった。

 しかし、多分ゲームと同様に、この世界でも何かしらの神を信じたほうが、何かと得だろうな。

 ここはちょっと誘導しておくとするか。

 

 (ああ、そいつは気付かなかった。だが、なんで神を信じていないんだ?この世界って実際に神様がいるだろうに、信じない理由ってのは思いつかないんだが)

 「いえ、神様の存在を信じていないってわけじゃないんです。ただ、その神様が助けてくれるっていうのが信じられないんです。私が苦しいとき、手を差し伸べてくれる人なんていませんでした。なのに、皆神様はいつだって自分を見てくれていて、困ったときには力を貸してくれるんだって言ってます。私は、そんな都合がいい存在がいるなんて、思えないんです」

 

 ああ、なるほど。

 つまり、不細工時代に神様が助けてくれなかったから、何で私を助けてくれなかったのかって、不信感を持ってるわけだ。

 

 (オーディ、神様ってのはお前の言う通り、都合のいい存在なんかじゃないだろうな。だが、お前に対して手を差し伸べてくれることもあるとは思うぞ)

 「でも、だったらどうして、今まで一度も助けてくれなかったんですか!町の皆が言ってるように慈悲深くて傍にいる存在だなんて思えません」

 (そりゃあ、お前が今まで神を信じていなかったからだろう。神様の力だって、無限大ってわけじゃあない。自分の信者を先に助けるのは当然さ。もし、自分の信者たちが全く助けを必要としてなかったら、お前のことも助ける余裕もあったかもな)

 「うー、そんなこと言ったってぇ~」

 

 ん~、これは道理とかではなく、単純に悔しいやら悲しいやらで、信じる気になれないのかね。

 やっぱり、何かしらの神を信じておいた方がいいと思うんだが。

 ちょっと、無理くりにでも説得してみるか。

 

 (オーディ、お前今まで神様が自分のを助けてくれなかったからって、拗ねてるんじゃないのか?だとしたら、これまでの事は忘れて、神様に縋ってみたらいいと思うぞ。前に言っただろ、過去の嫌な事は忘れて、この先のいい事だけを考えるって奴さ。神様に、私の事を見守って下さい、って頼みに行けばいい)

 「剣さん……、分かりました!私、神様信じちゃいます!」

 (おう、それがいいと思うぞ)

 

 オーディは決心がついたようで、握りこぶしを作って、高らかに宣言をした。

 上手くいったようで良かった。やっぱり、信仰のボーナスが有ると無いとでは違うだろうからな。

 

 (それじゃあ早速、改宗しに行くか?この小部屋には、もう何もないみたいだしな)

 「今からですか?改宗っていうと、神々の休戦地ですよね?うーん、今2月の後半で、雪も大分降るだろうし、大丈夫かなあ」

 

 オーディは、少し渋っているようだ。

 まあ確かに、2月ってことはまだまだ雪が降るし、寒い時期だろうからな。行きたくない気持ちはわかる。

 だが、時間をおいて、オーディの気が変わったりしたら、それはちょっと面倒だな。

 出来れば、早めに出発してしまいたいが。

 

 (まあ、大丈夫じゃないか?ヴェルニースでしっかり食料やら買い込んでいけば、雪が降っても早々死んだりはしないだろう。道中で、休戦地に居る神々について話してやるよ、どの神を信じるかも決めなきゃだしな)

 「うーん、雪もそうなんですけど……。でも、あんまり気にしてもしょうがないのも確かですね。それじゃあ洞窟を出て、ヴェルニースで準備をしましょうか」

 

 雪もそうだけど……何だ?

 いや、それよりオーディもいい感じに乗り気になってくれた。

 俺も、この勢いを殺さないようにしよう。

 

 (よし、じゃあ出るとしよう。ヴェルニースで謎の貝を直すのを、忘れないようにしないとな)

 「はい、それと巻物の鑑定もですね。神託って奴だといいなあ」

 (そうだな、特に鑑定の巻物とか、ハズレのやつじゃないと良いな!)

 「鑑定ってハズレなんですか?」

 

 

 

 

 

 さて、オーディとヴェルニースに寄った後、俺達は予定通り神々の休戦地に出発した。

 ちなみに鑑定した巻物の中身はテレポートの巻物とかいう、微妙な奴だった。

 だが、別に落ち込んだりしたわけでもない、いざという時の時間稼ぎに仕えるし、今はそれ以上に、神を信仰しに行くという、重要な目的もあるからな。

 道中大雪が降ったり、血吸いのダメージを回復したりでなかなか時間を取られたが、帰りを考えても余裕がある量の食料を持って、休戦地にたどり着くことができた。

 

 (うん、問題なくここまで来ることができたな)

 「わあ、とっても綺麗な所ですねぇ。何か神秘的ってやつです!あ、剣さんが言った通り、狼さん達がいる。こんにちはー!」

 

 確かに、オーディの言う通り休戦地には、神聖な美しさというものがあった。

 辺り一面、美しい白色の石材を使っており、神々の恩恵のおかげか、全体的にキラキラとした光に満ち溢れている。周囲が雪で囲まれていることもあって、視界全てが白と言う、神聖な色で埋め尽くされる勢いだ。

 神殿を構成する柱も、繊細そうに見える細工が施されており、この場所の格式と言うものを高く感じさせる。

 俺には芸術的な方面の教養は無いので、詳しい事については、よく分からないのだが。

 

 (何だか、神がいるって場所だって納得できる感じだわ。それでオーディ、どの神様にするのかはもう決めているのか?)

 「それが、まだなんですよね。剣さんのオススメは、オパートス様か、ルルウィ様でしたっけ?」

 (オーディへのオススメと言うか、冒険者に向いている神様がだな。オパートスはお前の防御力を高めて、斬り合いに強くしてくれるだろうし、ルルウィは速さを高めて、戦いやすくしてくれる。戦闘の事だけを考えるなら、この神々が有力だろうな)

 「でも、そのお二方とはあまり気が合わなそうなんですよね……。特に、ルルウィ様はとっても怖そうです」

 (ま、そうかもしれんな。そういう事なら、イツパロトルとマニもキツイだろう。どちらも敬虔さを求めるタイプの神だからな。そうなると、癒しの神ジュア、収穫の神クミロミ、幸運の神エヘカトルの、どれかになるだろうかね)

 「うーん、どうすればいいんでしょう。今まで神様とはご縁がなかったわけだし、イメージが湧いてこないです」

 (一度信仰したら、気軽に信じる神を変えられるもんじゃないからな。納得いくまで悩めばいいだろう)

 「そうですね、狼さん達にも話を聞いてみようかなあ」

 (いいんじゃないか?こんなところに住んでるんだし、きっと色々詳しいだろう)

 

 

 

 

 

 「ど、どうしよう、全然決まりません!」

 (いや、まあうん。どの宗教に入るかって話なんだから、悩むのは仕方ないと思うぞ?)

 

 神々の旧戦地についてからほぼ1日が経ったが、オーディはまだどの神を信じるか、決められていないようだ。

 この先、どんな神を信じるかと聞かれて、すぐ答えられるような奴は少ないだろうし、こうなるのも当然だとは思う。

 だが、流石にこのままって訳にもいかんだろうな。なんとか決まればいいんだが。

 

 (焦っても決まるようなもんじゃあないだろう、落ち着けって)

 「でも、日が変わって、月も跨いじゃいましたし……もうそろそろ決めておきたいです」

 (と言っても、急いで決めても悔いが残るだろうからなあ、こういうのは自分で決めるべきだろうから、俺からも余り口出ししにくいし)

 「だからって、私一人じゃあこういうの全く分からないですよぉ。剣さんだって、自分が信者という訳じゃないから分からないかもですけど……」

 (んん?いや、俺は信じている神様いるぞ?)

 「へ?え、えええええええええええええええ!?」

 

 オーディは、身体を大きく仰け反らせて自らの驚きを表現している。

 よくよく自らの感情を表に出していく奴だ。

 

 「剣さん信じている神様いらっしゃったんですか!」

 (おう、だからって、別段祈ったり何かしているわけじゃあないけどな)

 「ち、ちなみにどの神様を信じていらっしゃるんですか?」

 (幸運の神エヘカトルだな。もう解説をしたと思うが、運、魅力を上げてくれる神だ)

 「そうなんですか。私、剣さんのイメージ的に、もっとこう、厳格で神様~って感じの方を信じているのかと思いました」

 (イツパロトルとかか?いや、俺としても、エヘカトルってイメージはないだろう、とは思うけどな。だが、ちょっとした縁ってやつがあったのさ)

 「縁、ですか?それってどういう……」

 

 あー、改めてあの時のことを説明するとなると、ちょっと言いにくいことが多い事件だったな。

 まあ適当に言っときゃ大丈夫だろ。

 

 (俺がまだ宝箱に入ってた時のことなんだが、一人で暇だからってウダウダしてた時、急にエヘ様の声がしたのさ。あ、エヘ様ってのはエヘカトルの事な。で、まあ適当に話とかしたんだが、大分盛り上がってな。その場で信者にしてもらったのさ)

 「そうだったんですかー。凄いですね剣さん、神様と話したことがあるなんて」

 (いやいや、多分こっちの世界ではよくあることだと思うぞ。で、その後ちょっと幸運を頂いて別れたんだ。だから、俺も神様の恩恵とか受けてることになるのかね)

 「へー、幸運って、どういう事があったんですか?」

 (ああ、宝箱で暇してたから、すぐにでも持ち主に会えるようにってして貰ったのさ。実際一時間もしないうちに拾われたしな)

 「え、それって……」

 (おう、お前のことだな。そっからはこれと言って何もないけど……どうした?オーディ)

 

 オーディは、何やら俯いて無言で立っている。

 俺が何度か呼びかけると、ようやく顔を上げてまた話しかけてきたが、その顔は何だか、泣きそうなように見える。また何か地雷があったのかね。

 

 (どうかしたのか?何か様子が変だが)

 「いえ、さっきのお話しですけど、だとしたら私が剣さんを手に入れられたのは、エヘカトル様のおかげなんですね。そのおかげで今こうして冒険者生活ができてるのに、さっきまで勝手なことばかり言ってしまったのが悲しくて……」

 (あー、確かにそうだな。だけど、気にすることないだろ。その幸運は俺に向けられたものだし、オーディが気付くはずもないんだから、お前が気に病む必要はないさ)

 「だとしても、です。剣さん、私決めました!エヘカトル様の信者になることにします!」

 (それはいいけど、本当にこのことで決めていいのか?)

 「いいんです。神様が私に何かを届けてくれていた、ってだけで十分です」

 

 オーディはそう言うと、エヘカトルの祭壇へと近づいていく

 そして、祭壇の前で俺の事を両手に持って掲げ、大きな声で叫ぶ。

 

 「エヘカトル様ー!<<永遠の孤独>>さんと、私の事を会わせてくれて、ありがとうございましたー!私、とっても嬉しかったですー!どうか私も、エヘカトル様の信者にしてくださーい!」

 

 おおう、久しぶりに出たなその中二ワード<<永遠の孤独>>。

 と、そんなことよりオーディの方か。

 見た所、何か変化が起こったようには見えないが、んん?

 

 俺がオーディに注目している間に、天から一筋の光が降りて来ていた。

 その光はオーディの事を包み込み、辺り一面を眩く照らす。

 そして、その光の元から、聞き覚えがある声が聞こえてきた。

 

 『わ~い、信じてくれてありがと。ありがと!うみみやぁ!これからよろしくね!』

 

 間違いない、あの時と同じ、エヘカトル様の声だ。

 こうして、しっかり新しい信者の所に出向くなんて、サービス精神旺盛だな。

 

 「は、初めましてエヘカトルさま、お会いできてこーえーです!」

 (落ち着けオーディ、緊張でなんか呂律が回ってないぞ)

 「は、はい!いきなり変なこと言ってすみませんでした!」

 『大丈夫!君の事は知ってるよ!頑張り屋さんだね。だね!』

 「え、えっと、私の事ご存知なん、ですか?」

 『もちろんだよ!これからは私と一緒だからね。だからね!』

 「はい……はいっ!ありがとうございます!」

 『私への供物は、たらばがにでいいからね。からね!それじゃあ、私は他の皆の事見てくるから、バイバイだよ!』

 

 その一言を最後に、天からの光は途切れて、エヘカトルの声も聞こえなくなった。

 中心に立っていたオーディは、放心したように上を向いて立っている。

 

 (いやー、相変わらずハイテンションな人だった、なあ、オーディ。……オーディ?)

 「剣さん、エヘカトル様、私のこと知ってるって仰ってました」

 (ああ、確かに言ってたな)

 「私の事、見ててくださった人がいたんですね……。気持ち悪くて、皆に嫌われていた私の事を、ずっと見守って下さってたんだ……っ!」

 

 そう言うと、オーディは泣き出してしまった。

 ずっと一人で生きてきたからな、最近は俺と一緒に居るとはいえ、母性とかそういうのに飢えていたんだろう。

 で、そういうのを担う役割もある、神様と言う存在が見守ってくれていた事実に、感極まったと言うところか。

 俺とオーディを会わせたのは、俺の為だけじゃなく、オーディを助けるためでもあるかも、とかも思ってるかもな。

 

 まあ、落ち着くまで泣かせておくとしよう。

 オーディのことを知ってたのは、信者の俺の事を見てた時一緒に見えたんじゃないか、とかそういう可能性については流石に言わない。

 普通にそうじゃない可能性もあるし、何よりそうやって空気読まずに発言しちゃって、完全にハブられた小学生時代のトラウマがあるからな!

 

 

 

 十分ほどして、ようやくオーディは落ち着いたようだ。

 まだ少し興奮しているようだが、涙は既に止まっている。

 

 「すみません、剣さん。急に泣き出したりしちゃって」

 (いや、いいさ。それより、例のペンダント、しっかり着けておけよ。どっかで、エヘ様がひょっこり声をかけてくれるかもしれないぞ)

 「はい!ちゃあんと着けてますよ。ふふっ、これで剣さんとおそろいの神様ですね」

 (そうだな。で、この後だがどうするんだ?)

 「そうですねー、特にこのあとやることも思いつかないですし、一回死んじゃいましょうか」

 

 ……What?

 

 (え、オーディ死ぬって、何故?)

 「やだなー、決まってるじゃないですか、この時間帯になるともうそろそろ……って、噂をすれば来ましたね!」

 

 オーディは、そう言って空を見上げる。

 俺も合わせて辺りを見回すと、そこには、ドギツイ色の光を乗せた、気色の悪い風が吹いていた。

 

 これは、そうか!エーテルの風か!そういえば、今は3月の頭、ゲームの中でもエーテルの風が吹いていた時期だ。

 すっかり忘れていた、この身体に影響を及ぼす恐ろしい風の事を。

 エーテルの風は長時間浴びていると、エーテル病という、体に大きな異変が起きる病を引き起こすのだ。

 この異変は大抵の場合、ステータスに悪影響を及ぼす。

 その上、病気が進み、あまりにも異変が多くなると死に至る、というヤバい代物である。

 回避するには、シェルターに入るなりなんなりして、この風をやり過ごさなければならない。

 だが、それとオーディが死ぬのとどう繋がるのだろうか。

 

 (オーディ、死ぬって言ったが、それっていつもの住処に這い上がるためか?そこのシェルターを使うとか)

 「そんなものあるわけないですよー、ただ単に一度死んで、エーテルの風が止まってから這い上がるだけです。ってあれ?剣さんはどうすると思ってたんですか?」

 (正直、忘れてた)

 「ええ!?気をつけなきゃだめですよ!って、剣さんは剣だから、エーテルの風の影響がないのか。それなら忘れてもしょうがない、のかな?」

 

 注意されてしまった。

 だがまあ、エーテルの風とかいう超重要なことを忘れてしまっていたんだから、この忠告は甘んじて受けよう。

 しかし、エーテルの風の回避法、偉く原始的だな!

 まだレベル5じゃないからペナルティはないだろうけど、今迄エーテルの風の度に自害してきたのか、それはキツかっただろう。

 

 「じゃあ、私は死体を漁られたりしないよう、雪を掘って、そこに埋まって死にますね。では剣さん、風が止んだら、またお会いしましょう」

 

 そういうと、オーディは自分が潜れるだけの量の雪を掘り、そこに入って軽く雪をかぶった後、自分の身体に剣を突き立てた。

 流石に断末魔の雄たけびは上げたが、彼女は自殺にも慣れているらしく、その一回で見事自分の命を散らし、ミンチになって飛び散った。

 

 このまま、エーテルの風が止むまで待つという訳か。

 ゲームの世界ではできない、この世界ならではの方法だな。

 だが、死亡ペナルティが起きるレベル5からは、この方法も通じないだろう。

 オーディが生き返ったら、次からは町で無料シェルターを借りるよう言っておくか。一人で生きてたアイツの事だから、知らない可能性もあるしな。

 

 しかし、俺この後2、3日は一人でこの雪の中エーテルの風が止むのを待つのか。

 クッソ暇なんだが。



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秘密は埋めてやってもミミズのようにはい出てくる

 「あ、また神託の巻物発見!これで今回の探索で4つ目です」

 (いい調子だな、今日は特によく見つかる。だが、もうそろそろ回復薬の備蓄が少なくなってきた、一度引き上げてはどうだ?)

 「えー、まだ行けると思いますよ?ほら、こんなに元気!」

 (まだ行けるはもう危ない、っていう至言があってだな。それに、もうお前もレベル5に到達した以上、死んだら能力にペナルティがあるんだぞ?これまでよりも慎重に立ち回るべきだ)

 

 この世界に来て最初のエーテルの風から1ヶ月。

 子犬の洞窟でモンスター狩りとアイテム集めをしていた甲斐あって、オーディのレベルは既に5に達していた。

 これはオーディが、そこらに居るようなちょっとしたモンスターには負けなくなったことを示している。

 しかし同時に、納税の義務や死亡時の能力低下が発生したということでもあるのだ。

 今までのように、とりあえず突っ込んでみて死んだら仕方ない、という訳にはいかない。

 そこら辺の意識が、オーディにはまだ薄いようだった。

 

 「うーん、今回いい感じだから、このまま探索したかったんだけどなぁ……」

 (そんなに無理せずとも、神託の巻物を売ったおかげで、税金を納めても余裕でお釣りがくるほどにたくさん蓄えはできただろう。何か買いたいものでもあるのか?)

 「エヘカトル様に、タラバガニを奉納したいんです!ほら、こんなに一杯神託の巻物が見つかるなんて、絶対エヘカトル様のおかげだと思うんです。だから、感謝の気持ちを込めてタラバガニを送りたいんですけど、とっても高いんですよね……」

 (いや、別にそんなにタラバガニに拘らなくてもいいんじゃないか?普通に何か魚を奉納するだけでも、十分喜ぶと思うんだが)

 「え?神様への捧げものって、タラバガニじゃなくてもいいんですか?」

 

 えっ、なにそれこわい。

 

 

 

 (なるほどな、確かにエヘ様帰る時にタラバガニ欲しいって言ってたわ。俺も何を供物にすればいいのかまではお前に言ってなかったし、勘違いしても仕方ないかもな)

 「そっかー、生き物の死体か魚っぽい物を祭壇で捧げればいいんですね。勉強になりました」

 

 お互いの認識の齟齬が発覚した後、俺は改めてオーディに、神への供物についての説明をした。

 

 「でも、本当に腐った後の物でも良いんですか?そんなのを渡したら逆に怒らせちゃんじゃ……」

 『ぜんぜんいいよ!いっぱいいっぱい待ってるよ!うみゅみゅ!』

 「あ、エヘカトル様!分かりました、それじゃあお魚用意しますから、待っててくださいね」

 『うみみゃあ!』

 (これだけを言いに来るとは、相変わらずフットワークの軽い神様だなー。よし、そんじゃあ早速神託を換金して、魚買いに行こうぜ)

 「はい、それじゃあ引き返しましょうか」

 

 

 

 それから半日ほどかけて、俺達はヴェルニースへと戻ってきた。

 今は町の道具屋で、手に入れた戦利品を買い取ってもらっている最中である。

 

 「……が2つに、テレポートの杖が1つ、それと神託の巻物が4つか。合わせて8000gpってとこでどうでおじゃる?」

 「はい、ではそれでお願いします」

 「まいどあり。どうであろう?何かついでに買っていかないでおじゃるか?」

 「いえ、ちょっと今他に欲しいものがあるので、今日はやめておきます」

 「そうでおじゃるか?ま、入り用になったらいつでも来るがいいであろう」

 「はい、では失礼します」

 

 

 

 「結構な金額になりましたね。それじゃあお魚屋さんに行きましょうか」

 (待て待てオーディ、もしかしてこの町の魚屋で供物を用意するつもりか?)

 「はいそうですけど、どうかしたんですか?タラバガニは1杯20000gpだったから無理でしたけど、普通のお魚なら十分買えますよ?」

 

 タラバガニそんなに高かったのか。核兵器の2倍近い値段の蟹とか引くわ。

 

 (念のために聞くけど、いくら使って買い集める気だ?)

 「今回で結構お金が貯まったので、18000gpくらいですかね?これなら何十匹も買えますね!」

 (そんな爆買いするなら、ヴェルニースで買うべきじゃないだろう。港町のポート・カブールで魚を買うべきだ)

 

 俺がそう提案をすると、オーディは不思議そうに首を傾げる。

 

 「ポート・カブールですか、どうしてそこで買うといいんですか?」

 (オーディは買い物をする機会が少なかったから知らなかったのかもだが、店の売り物には流通コストってものが入ってるんだよ。運ぶ手間がかかればかかるほど、希少価値が上がって値段も上がっていくんだ)

 「えっと、するとポート・カブールで魚を買うと安いんですか?」

 (ああ、1匹2匹なら手間がかかるしここで買えばいいが、18000gpも使うなら話は別だ。移動にかかる時間で稼げる金を考えても、その方がよっぽど多くの魚を買えるだろうぜ)

 「なるほどー、剣さんは何でも知ってますね」

 (何でもは知らないさ、知っていることだけだ)

 「そうですか?それじゃあそっちで買いましょう。そうと決まったら旅糧を用意しないとですね」

 

 オーディはそう言って、旅糧を買うために宿屋へと向かう。

 旅糧と言うのは、腹を満たして動くためのエネルギーを補充するためだけの食料である。

 俺は慌ててオーディを止めようとしたが、彼女のあまりにも意気揚々とした顔を見て踏みとどまった。

 本当は食事については、能力の成長やらを考えて栄養のあるものを買うべきなんだろう。

 だが、それを言っても今のオーディは聞かないだろうと思う。

 

 もう何十日もオーディと過ごしてきたので分かってきたが、あれで結構頑固な面もあるのだ。

 どう戦うべきかとか、何が必要かとかのアドバイスは大抵聞いてくれる。

 しかし、一度何かを決心すると、驚くほど自分の意志を貫こうとするのだ。

 その意志の強さのおかげで、あの不細工時代の劣悪な環境でも、埋まらずにやってこれたのかもしれない。

 

 で、そのオーディが今、エヘ様に少しでも多くの魚を捧げるために、節約モードに入っているのだ。

 こうなったら栄養と成長の関係を説明しても、お金がもったいないの一心で、上手い事受け入れて貰えないだろう。

 なら、一度目的を達成した後、改めて旅糧があまり好ましい食べ物でないことを伝え、快く栄養ある食品に切り替えて貰うとしよう。

 

 オーディが強くなれば、俺も強くてイキのいい奴の血を吸う機会が増える。

 オーディも冒険者として成長出来るし、win-winと言う奴だな。

 

 「よし、旅糧も買ったし、準備万端ですね!」

 (配達依頼もポート・カブールまでの物は無かったな。それじゃあ行くとするか)

 

 準備ができた俺達は、ポート・カブールへと出発する。

 何気にこっちに来てから初めてだな、ヴェルニースより西に行くのは。

 

 「私、ポート・カブールには行ったことがないんですよね。生まれてこの方、パルミア付近育ちでしたから」

 

 どうやら、オーディもこれが初めてだったようだ。

 いや、ヴェルニースより西がどうかは知らんが、少なくともポート・カブールは初めてらしい。

 

 (ほう、それじゃあ海を見るのも初めてなんじゃないか?)

 「はい、ずっと水が続いてるんですよね。何で無くならないんでしょうか?」

 (そりゃまあ、川から流れてくるからだろうよ)

 「はー、なるほどお」

 

 益体も無さそうな話をしていたら、一つ思い出したことがあった。

 

 (そうだ、オーディ。それじゃあ戦士ギルドにも入ってないんじゃないか?)

 「戦士ギルド?冒険者の認定や鑑定とかをしてくれる、冒険者ギルドじゃなくてですか?」

 (おう、そこに入ってノルマを達成すると、鑑定や癒し手の料金が割引されるって、酒場の奴等が言ってたぜ。ついでだから行ってみて、話を聞いたらどうだ?)

 「えっと、でももし危なそうだったりしたら、どうしましょう」

 (そんときゃ断ればいいさ。聞くだけなら損することは無いだろ)

 「じゃあ、着いたら行ってみることにします」

 

 よしよし、多分入っておいて損はないだろうからな、思い出せてよかった。

 後はまあ、実際に行ってみてから、本当に入って問題なさそうか考えればいいだろう。

 

 

 

 

 

 「うわあ!お店が沢山ありますよ、剣さん!」

 (そうだな、パルミアよりも多いんじゃないか?)

 

 さすがは交通の要衝、港町と言ったところか。

 其処ら中に露店が存在しており、どっちを見ても人と人とが商取引をしている。

 この中から目当ての魚屋を探すのは、少し骨が折れそうだ。

 

 「あ、魚屋さんありましたね。早速買っていきましょうか」

 

 ごめん、別にそんなことは無かった。港町だもんね、すぐ見つかるよね。

 

 (幸先がいいな、でも、とりあえず後回しでいいんじゃないか?嵩張るし、もっと安そうな店が見つかるかもしれん。とりあえず商品だけ軽く見ておいて、先にギルドに行ってみないか?)

 「確かに、他にもお店はありそうですものね。それじゃあ、ギルドが何処にあるのか調べてみましょうか」

 

 そういって、オーディは町の地図が書かれているタウンボードへと近づく。

 お目当てのギルドの場所はすぐにわかった。

 

 「こっちの方角ですね、それじゃあ行きましょう」

 (おう)

 

 

 

 「こ、ここが戦士ギルドですか。中々威圧感がありますね……!」

 (いっつも言うけど、入り口で止まるなって、ほらはよ入れ、血ぃ吸うぞー)

 「分かりましたって!失礼します、戦士ギルドはこちらでしょうか?」

 

 オーディが声をかけると、中から鉄だか何だかわからないが、上質そうな素材でできた鎧を着た男が出てきた。

 明らかに格上の実力を持った奴相手に、オーディは益々委縮した様子だ。

 

 「いかにも、ここが戦士ギルドだが、用件は何か?」

 「わ、私冒険者をやっています、オーディと言います。戦士ギルドと言うものがあると聞きまして、どういったものなのか伺いたく参りました!」

 

 おお、テンパってるのがなかなかに伝わってくる。

 だが、戦士ギルドの男はそれを軽く流し、破顔して答える。

 

 「ああ、駆け出し冒険者君か。見た所ある程度の経験は積んでいるようだ。よろしい、私から戦士ギルドについて説明させてもらおう。申し遅れたな、私は戦士ギルドの門番ディノと言う」

 「ディノさんですか、よろしくお願いします」

 「さて、それでは戦士ギルドが何のための組織か、から説明させてもらおうか」

 

 

 

 ここからの説明は軽く省略しよう。

 どの程度の給料が出るか、ギルドマスターの名前は何かとかまで長々続けてもつまらんからな。

 

 軽くまとめると、戦士ギルドというのは、国がモンスターの間引きの為、冒険者を支援する目的で作った機関である。

 トレーナーの手配や鑑定費用への支援、課せられたノルマをどれだけ達成できたかに応じた、給料の支払いなどをして貰える。

 その上、ノルマを達成できないことへのペナルティも特に存在しない、ということだった。

 

 「何だか、とっても良いことづくめですね。何でそんなに国は良くしてくれるんですか?」

 「それはもちろん、モンスターを狩るなどと言う、危険な仕事に就きたい人間は少ないからだ。その分、既存の冒険者達に積極的にモンスターを討伐してもらい、国内の安全を確保しようという訳さ」

 「そっか、それでも野原に一杯モンスターがいるってことは、これだけしてもまだ危険がある、ってことですものね」

 「そういう事だ。それでも最近は、なかなか治安が良くなっているのだ。現国王のジャビ王は、国内の安定に対して非常に積極的だからな。お陰で戦士ギルドへの援助も厚く、中々に潤っているよ」

 「へええ、国民を死なせない為だけにお金を使うなんて、ジャビ王って優しいんですね」

 

 補足すると、この『死なせない為だけにお金を使うなんて』発言は、死んだってしばらくしたら地面から這い上がってくる世界観が故の発言である。

 誠、elona世界は修羅である。

 

 「それもそうだが、もちろん利益あってのことだ。治安が上がり、移動中の安全を確保しやすくなれば、物価も安くなり、引いては国益へと繋がっていくからな」

 「安全になると、物価が安くなる……?あ!私知ってます、りゅーつーこすとという奴ですね!」

 

 オーディが元気よく答える。

 この前の話覚えてたのか、それにこういった場面で知識を応用できるとは、こいつそこまで頭悪くはないのかもしれんな。

 

 「ほう、その年で冒険者をしているにしては、中々見識が広いではないか。ご両親が勉強に熱心だったのかな?」

 「いえ、私は小さいころに捨てられてしまいましたので……」

 「そうか、悪い事を聞いたな。では、どこでそのような知識を得たのか聞いても?」

 「はい!私の持っている剣さんが教えてくれたんです!」

 「何……?」

 

 それを聞いて門番、ディノはピクリと眉毛を動かす。

 あー、これ言わんほうが良かったのかな?思えばオーディ以外の誰にも俺が話せると教えてないし、教える流れになったこともなかったから、そういう事については考えたことが無かった。

 

 「剣が教えてくれた、とはどういうことかね?君は剣とお話ができる、とでも言いたいのかい?」

 

 とは言え、ここで誤魔化してもあまりよくないかもしれん。

 隠すということは自分に疚しい事がある、と相手に教えるということだ。

 実際には疚しいことなどないが、相手にそう思われてしまっては同じこと。

 戦士ギルドの門番を務めるような、地位と責任がある人間に睨まれれば、後々に支障が出る可能性がある。

 

 (オーディ、俺のことを伝えちまえ。ここで変に誤魔化したりしたら、不審に思われる可能性があるからな)

 「元からそのつもりでしたけど……、とりあえず分かりました」

 「ふむ、良く分からないが、剣と話ができると認めるという事か?」

 「違います。いえ、今のはこの剣さんと話していたんですけど。剣さんは生きている武器で、意志を持っているというフィートや、装備している人とお話ができるフィートを持っているんです」

 「にわかには信じられんな……。事実かどうか確認させてほしいのだが、未鑑定品のようだ。ひとまず鑑定させてもらっても?」

 「はい、いいですよ」

 

 

 しまった!思いっきり藪蛇踏んだ!

 糞っ、糞っ!このままでは俺の名前が完璧にばれてしまう!

 オーディに頼んでやめるよう言って貰うか?

 いや、その上で鑑定を強行されれば、<<エターナル・ぼっち>>の名を隠したかったことが、完全にばれてしまう恐れがある!ていうか多分バレる!

 ならばどうする、いきなり血吸いが発動したことにしてオーディをミンチに「それでは*鑑定*の巻物を読ませてもらおう」「はーい」ああああああああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 「なるほど、確かに君の言う通りだったな。こんなフィートを持った剣を見たのは、これが初めてだ」

 「えへへ、エヘカトル様のおかげなんです。この剣さんと巡り合えるようにしてくださって」

 「なんと、そうだったか。ふむ、だがそうだな……この剣を持っていることは、あまり言いふらさない方がいいだろう」

 「え、どうしてですか?」

 「危険だからだ。見たところこの剣の能力は呪われていることを加味しても、異常に高い。本来君のような駆け出し冒険者には過ぎたものだ。しかも会話ができるなどという、恐らく世界に1つの特徴を持つ。そんなものをレベル5の冒険者が持っていたらどうなると思う?」

 「えっと、殺してでも奪い取ろうとする人たちがいる、ということですか?」

 「理解してくれたようで何よりだ。なに、きっと直に実力が追い付いてくるさ。それと、生きている武器の育ち具合から見て、戦士ギルドに入る実力は十分だろうと判断させてもらった。良かったらこの場で入ってみないか?」

 「はい、断る理由もないですし、お受けさせていただきます」

 「そうか、将来有望な物がギルドに入ってくれると嬉しいよ。これからよろしく頼むぞ。では最初のノルマだが……」

 

 

 

 

 

 「では、オーディ君のこれからの活躍に期待するとしよう」

 「色々とありがとうございました、では失礼します」

 

 そう言って、俺達は戦士ギルドを後にした。

 通りを歩きながらオーディが話しかけてくる。

 

 「戦士ギルド、中々良い所そうでしたね。剣さんの言う通り、行ってみて正解でした!」

 (……ああ、そうだな)

 「どうしたんですか?途中から妙に静かでしたよね、いつもなら色々とこれ聞いたらどうだー、とか言ってくるのに」

 (ほっといてくれ……)

 「そういうのならそうしますけど……。あ、そうそう、話は変わりますけど、剣さんの名前ちょっと面白かったですね!」

 (話が変わってねえよチクショウ!)

 「話が変わってないって……?ああ、そのことで悩んでたんですか。たしかにあの名前は恥ずかしいかもしれないですね」

 (ああもう、誰だよ俺の名前<<エターナル・ぼっち>>にした奴は!これよりひどい名前の奴いんのかよオラ!)

 「私の二つ名、醜すぎる童貞なんですけどね」

 

 ……

 

 (正直、すまんかった)

 

 すごく落ち着いた。下には下がいると思うと。

 

 「まあ名前なんてそれほど気にすることないですよ。特に実害があるわけではありませんし」

 (そう言ったって嫌なもんは嫌だぜ。オーディ、名前の巻物見つけたら俺に使ってくれよ)

 「名前の巻物ですか、アーティファクトの名称を変えるアイテムでしたっけ?それじゃあ、ダンジョンでそれを見つけたら使ってあげますから、元気出してくださいね」

 (おし、約束だかんな。それじゃあ元の目的の方を果たしに行くか)

 「はい、魚屋さん巡りです!」

 

 

 

 

 

 「たくさん買えましたねぇ、剣さん。これだけあったらきっと、エヘカトル様も喜んでくれます」

 

 そう言って振り返ったオーディの目線の先には、荷車一杯の魚が積み重なっていた。

 全てこのポート・カブールで買い集めたものだ。この量を炭鉱街の魚屋なんぞで買い集めたりしたら、恐ろしい額になっていたことだろう。

 

 (ああ、わざわざ港町にまで来て良かったってなもんだ。それじゃあ今度はこいつを捧げるために、祭壇のある街に行くとするか)

 「はい、確かアクリ・テオラのはマニ様の祭壇なんですよね。それじゃあパルミアまで行くことにしましょう」

 

 そう言って、オーディは荷車を引きながら歩き出す。

 そのまま歩き続けてポート・カブールを出て、2,3分ほど歩いた頃だろうか。

 不意に後ろから声をかけてきたものがいた。

 

 「お~い、ちょっと待ってんか!アンタ今日、戦士ギルドに入った奴やんな?」

 

 正直驚いた、俺も一応盗賊やらを警戒して周囲の見張りをしていたのだが、声をかけられるまで気づかなかったのだから。

 何故か関西弁のイントネーションで話すその女(声からして恐らくだが)は、茶色のフードで目元と服装を隠しており、見るからに怪しい恰好をしているのにだ。

 恐らく隠密の技能が非常に高いのだろう。見た所オーディより少し実力が高そうだし、隠れながら声をかけてきたところを見ると、少し警戒した方がいいか。

 

 (オーディ、中々強そうなうえにちょっと怪しそうだ。用心して対応しとけよ)

 「は、はい。そうですけど、何か御用でしょうか」

 「いや~、実はあの時戦士ギルドの近くにおってな、ついつい聞いてもうたんやけど、あんためっちゃ珍しい武器持っとるらしいやんか」

 

 狙いは、俺か。

 誤魔化してどうにかなる状況じゃなさそうだ。

 

 「剣さんのことですね、それがどうかなさいましたか?」

 「いやな、ウチはブラックマーケットの方で武器の取り扱いをしとる、ロックってもんなんやけどぉ。その剣とやら、ウチに譲ってくれへん?」

 「……お断りします」

 「ああ、いやいや!もちろんタダでって訳や無いで、500000gpで買い取らせてもらうわ。それに、これはアンタのためを思ってのことでもあるんやで?」

 「どういう、事でしょうか」

 「そら勿論、あんたみたいな未熟モンが、そないなエエ武器持っとったって碌な事にならんからよ。どっかでまたこの事がバレて、身ぐるみ剥がされんのがオチや。悪い事は言わんから、ウチに任せとき。その剣にふさわしい持ち主を捜したるさかい」

 「すみません、それはムリです。私は剣さん無しではやっていけませんから」

 「……ふぅん、ならしゃーなしやな。気が向いたらいつでも声かけてな、ウチは大概このポート・カブールに居るさかい」

 「はい、ご忠告ありがとうございました」

 

 俺とオーディは商人のロックに背を向け、パルミアへの道を再び歩き出す。

 ロックはそれに対し、特に引き留めることもなく見送った。

 ふむ、随分とあっさり解放してくれたな。

 てっきり、暴力に訴えてでも奪いにかかってくるんじゃないかと思ったから、拍子抜けだ。

 

 「びっくりしましたね、剣さん。まさか剣さんを買おうって人がいるなんて思いませんでした」

 (まあ、俺は超絶ハイスペックだからな、こんなこともあるだろう。だが次も穏便に終わるとは限らないからな、これからは俺の事はあまりばれないよう、気ぃつけにゃあならんな)

 「はい、頑張りましょうね!」

 (頑張るの基本お前だけどな)

 

 

 

 

 

 甘かったかもしれんな。

 街を出て1時間と経っていないのに、怪しい奴らが近づいてきている。

 

 (オーディ、後方に武装集団がいる。明らかにこちらに追いつこうとしているし、盗賊団の可能性が高い)

 「盗賊団!?もしかしてこの魚を狙って……」

 (かもしれないし、そうじゃないかもしれない。とりあえず迎撃の準備をするべきだ、このまま逃げてもどうにもならん)

 

 オーディが立ち止まり、俺を手に取って構える。

 盗賊団もそれに気づいたようで、ゆるゆると横に広がりながら近づいてきた。

 人数は6~7人と言ったところか、全員フードや鎧で顔を隠している、

 その中から一際体格の良い、リーダーらしき男が一歩前に出て、呼びかけてくる。

 

 「そこの女、我らは盗賊団、鷹のシャイム様だ。大人しく積み荷を渡せば、手荒な真似はしないと約束しよう」

 「お断りです!この魚はエヘカトル様に捧げる大事な供物なんです。盗賊団なんかに渡せません!」

 「なら仕方ないな。やれ!野郎ども!」

 

 リーダーの号令に合わせ、取り巻き達が一斉にこちらに飛び掛かってくる。

 奴ら一人一人のレベルはオーディの少し上くらいのようだが、これだけの人数となると中々きつそうだ。

 

 (オーディ、戦うなら一人一人確実に止めを刺していくぞ、複数人相手ではどうにもならん)

 「、はいっ!」

 (どうした?いつもに比べ動きが鈍いぞ)

 「なんでもありません、大丈夫です!」

 

 いや、どうみても普段よりも敵を斬る動作が弱い。

 見た所怪我をしているという訳でもなさそうだが、一体何故……ああ。

 

 (そういや、人間を斬るのは初めてだったか、少々戸惑うのも仕方ないのかもな)

 「でも、大事なエヘカトル様の魚を狙う奴らです。斬って見せます!」

 (おうそうだ、だがそれだけじゃない気がするぜ。恐らくだがこいつらの後ろに、俺の事を盗もうと企んでいるやつがいる)

 「!それって……」

 (あの商人の女だろうよ、こんな町近くの街道に盗賊が待ち伏せてたなんて、そうそうあることじゃない。あの女が唆して俺らを襲わせた、って考えた方がしっくりくる。気ぃ抜いてやってたら、俺の事を取られるかもしれんぞ)

 「そんなこと、させません!」

 

 俺の言葉で、オーディの剣技はようやく、いつもの冴えを取り戻したようだ。

 いや、いつも以上に気合入ってるんじゃないか?

 鬼気迫った彼女の一振りは、一刀両断に敵の盗賊達を切り裂いていき、瞬く間に3人をミンチにしてしまった。

 どうやら、俺の事を失い、元の生活に戻るかもしれないという恐怖が、彼女に火事場の馬鹿力を出させているようだ。

 オーディの余りの勢いと仲間のあっけない死に、敵も少したじろいだようだ。

 見かねた敵のリーダーが前に出てくる。

 

 「お前ら情けねえぞ!大したレベルも持ってないガキのまぐれ当りにビビりやがって!」

 「まぐれなんかじゃありません。私には神器の剣が付いているんですから!」

 (おい、オーディ。それできるだけ言わないようにしようってした奴だろ)

 「あ、そうでした」

 「神器の剣だと?くそっ、そんなことあの野郎言ってなかったじゃねえか、今度金返してもらうぜ!まあいい、この俺が腕ごと斬り落として、その剣もいただいてやる!」

 

 やっぱり、誰かに唆されてきたか。

 オーディのうっかりで情報が漏れたが、肝心の事は言ってないしこの事も知れたから、結果オーライかもな。

 

 (オーディ、やってやるぞ。あんなケチな盗賊団何ぞに、この俺が居て負けるはずがない)

 「もちろんです、やっちゃいますよ」

 「何をボソボソ言ってやがる、神様へのお祈りかぁ?すぐにその神様の近くに送ってやるよ!」

 「あなたを倒すと言っているんです!やあーーーーーー!」

 

 気合自体はちょっと気の抜けた声だったが、オーディは敵のリーダーと残り二人の取り巻き相手に、互角以上に戦っている。

 元々野原育ちで戦い方(体の動かし方)をよく知っている上、カオスシェイプの血を引いた身体が持っている、鉄の如き意志と鋼の如き筋力を持っているオーディだ。元々只のレベル5では収まらない程に強い。

 そのオーディが敵意を剥き出しにし、このチート武器たる俺を振るっている以上、ちょっとレベルが高いだけの盗賊団に劣ることは無いのだ。

 たちまち取り巻き達は息絶え、残るはリーダーだけとなった。

 

 「さあ、残るはあなた一人です。絶対に倒します!」

 「チクショウ、駆け出し冒険者だから楽勝だとかぬかしやがって、あの野郎とんだ厄ネタだぜ!」

 「その情報って、誰から聞いたんです?」

 「誰がてめえに教えるかよ!こうなりゃ自棄だ、まとめて吹っ飛ばしてやる!」

 

 そういうと、敵は手榴弾を取り出してそのピンを取り外した。

 

 「剣さん、何ですかアレ!」

 (爆弾だな。グレネードって言ってかなり強い武器だ。場合によるが、喰らえば野原に居るような雑魚モンスターはまず死ぬだろうな)

 「ええ!ど、どうしよう」

 (どうにもならん、気張って耐えろ)

 「そ、そんなあああ」

 「死ねえ!」

 

 奴が叫ぶと同時に、辺りに轟音が鳴り響く。

 瞬間、目も眩む凄まじい光が辺りを包みこみ、その間何も見えなくなる。

 そしてその光が収まったとき、盗賊団のリーダーはミンチに成り果ててその持ち物だけが残り、オーディは普通に立っていた。

 

 「あれ?あんまり痛くありませんでしたね」

 (そうだろうな、グレネードって音属性の攻撃で、謎の貝のおかげでめちゃくちゃ耐性ができてるからな)

 「ええ!それじゃあそこまで危なくないじゃないですか、言ってくださいよ剣さん!」

 (悪い悪い、気を抜くよりは身構えてた方がいいだろうと思ってな。それよりあいつらの血を吸わせてくれよ、戦ってる最中も飲んだけど、なかなか美味かったんだ。特にあの鎌持ってた奴!女の子っぽいんだが、中々まろやかでいて後味も悪く無くてな!)

 「血の味の話されても分かりませんよお。それならとりあえずその子から血を吸いましょうか」

 (よろしく!)

 

 

 

 そうして奴らの血を吸い取った後、落ちてた分の奴らのアイテムを物色する。しかし……

 

 「なんだか、荷車で運ぶようなものばかりですね。とてもバッグには入らなそうです」

 (そうだな、名残惜しいが使えそうなポーションの類だけ集めて、後はここに置いておくか。俺たちの目的は荷車の魚を運ぶことだからな)

 「はい、元々私たちの物じゃありませんし、気にせず放っておきましょう」

 

 クリスマスツリーやらピアノやらを持って歩くのは、流石に厳しいからな。仕方のない処置だ。

 しかし、あいつらの血は美味かったな。

 やっぱり人間種の血がうまかったりするのだろうか?それとも魅力が関係しているとか?

 まあ、おいおい考えるとしよう。色々と血を飲みながらな、唯一の娯楽なのだから。

 

 「では、気を取り直して出発ですね」

 (また1時間後に、新しい盗賊団とか来たりしてな)

 「うう、気が滅入ること言わないでくださいよう」

 

 荷車をガラガラと引きながら、オーディが弱気な声で言う。

 ま、俺は来てもいいんだけどな、盗賊団の血また飲みたいし。

 

 

 

 

 

 「うーん、あの子一人なら鷹のシャイムで十分行ける思うたんやけど、アカンかったか」

 

 オーディ達の戦闘跡地に、フードをかぶった女、ロックが足を踏み入れる。

 彼女は懐から狙撃銃を取り出し、悩ましげに見つめながらため息をついた。

 

 「戦ってる隙をついて、こいつで剣を吹き飛ばして後で回収しようと思ったんやけどなぁ。予想以上にあの子が強かったもんで、どうにもならんかったわ。手榴弾喰らってもビクともしないって、どないなっとんねんあの女」

 

 そう言いつつ、手元の狙撃銃片手に辺りの警戒をしながら、盗賊団の遺留品を探る。

 

 「ま、あの盗賊からもらった金と、この盗品共で十分な黒字やし、今回はこれでええとしとこ。それに戦士ギルドに入った以上、あの子はまたこの町に来る。チャンスはまだあるやろ。本業のブラックマーケットで稼ぎつつ、アンテナ伸ばして機会を待つとしよか」

 

 そう言いながら、ウヒヒと笑う。

 一世一代の大物狙いに、ロックの心は熱く昂っている。

 それに応えるように、手元の狙撃銃がブルリと震えた。



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釣りとか正直、俺関係ないわ

 盗賊の襲撃を退けた俺達は、それ以降何の滞りもなく、パルミアにある教会へとたどり着くことができた。

 少々困ったことと言ったら、荷車に積まれた魚達が、異臭を放っていることくらいか。

 まあ、買ってから一週間弱の間、常温で放置されていたのならば、こうもなるだろう。

 後はエヘ様に捧げるだけだし、それほど気にすることでは無い。

 

 (そしたら、この教会で魚共を捧げるとするか)

 「本当にいいんでしょうか?何だか、食べたらヤバそうな臭いがしているんですけど……」

 (他ならぬエヘ様が良いって言ってたんだから、気にすることないだろ。パッパとやっちまおうぜ)

 「そう、ですよね?失礼しまーす、祭壇をお借りしたく参りましたー」

 

 そう言いながら、オーディは教会の中へと入っていく。

 すると中から、一人の癒し手の女性が出迎えに来た。

 

 「いらっしゃい、オーディさん。祭壇のご利用ですね、ではこちらに……ってクサッ!」

 「あ、フィーヌさん。すみません、いっぱい供物の魚を持って来たんですけど、腐ってしまいまして」

 

 彼女の名前はフィーヌ、この教会、というかパルミアにただ一人の癒し手である。

 癒し手とは、市民がアンデッド等に襲われ、彼ら特有の能力値を蝕む攻撃を受けてしまった時、その下がった能力値を元に戻す事を生業とする者だ。

 オーディも冒険者をしている以上アンデッドと戦う機会はあり、癒し手にお世話になる機会はあった。

 その関係で、このパルミアの癒し手フィーヌとオーディは顔なじみになっている。

 

 そのフィーヌだが、パルミアにある教会の管理の仕事もしているのだ。

 なので、初めて祭壇に行くオーディは、顔見知りのフィーヌに案内をしてもらおう、と声をかけた訳である。

 

 「オーディさん、こういったのは日々の積み重ねが大事なんですよ。

 こうやって、まとめてドン!ではまるで気まぐれのようではないですか」

 

 ちょっと怒られたけど。

 

 「うう、すみません。でも、エヘカトル様に一杯お礼の気持ちを伝えたくて……」

 「だとしても、です。オーディさん、自分の身の丈に合った信仰でよろしいのですよ。

 見ればパルミアを発った一月程前から、あまり装備なども変えていらっしゃらないようです。

 大方、稼いだお金のほとんどをエヘカトル様の為に捧げたのでしょう。」

 「よ、よく分かりましたね」

 「あなたのような方はたまにいるのです。

 ですが、そんなことをし続けることはできません。出来たとしても、それはあなたを幸せにはしないでしょう。

 エヘカトル様はお優しい方と聞きます、きっと、無理をするあなたを見て心を痛めてしまいますよ」

 「……そうですね、今度からは、出来るだけ頻繁に此処に寄って、エヘカトル様に捧げ物ができるようにします」

 「ええ、それが良いでしょう。……私も腐った大量の魚に囲まれるようなことは、出来るだけ少ない方が良いですからね」

 

 結局腐った魚が嫌で、屁理屈捏ねてるだけじゃないのか、というのは邪推だろうか。

 だが確かに、今回のような大移動を捧げ物の度に行うのは、少し無駄が過ぎるだろう。

 フィーヌのいう事もごもっとも、言う通りにしておいた方がいいだろうな。

 

 「でも、今回は買ってしまったので、とりあえず捧げさせていただいていいですか?」

 「ええもちろんです。というか、この大量の腐った魚を他にどうにかする方法は無いですからね。ではこちらにどうぞ」

 

 そう言って、フィーヌは俺達を教会の奥へと案内する。

 そこにあったのは、神々の休戦地にあったような、不思議な神々しさを持つ祭壇だった。

 

 「祭壇というのは、人それぞれにとって、別の神と繋がっています。この祭壇は特定の神の為に作られたものではないですから、もしあなたが此処でエヘカトル様のために祈りを捧げれば、この祭壇はあなたにとって、エヘカトル様の為の祭壇となるでしょう。」

 「えっと、人によって、その祭壇で祭られている神が違うように見えるってことですか?」

 「そうです。そうでもないと、捧げ物の度に祭壇の乗っ取りあいが、異なる神の信者達の間で起こってしまいますから」

 「それじゃあ、一度ここで捧げ物をしたら、私にとってここは、ずっとエヘカトル様の祭壇なんでしょうか」

 「はい、ですから安心してこの場所をご利用してくださいね」

 

 なんかややこしいが取りあえず、別の日にこの祭壇に来たら、他の神に乗っ取られてたって事態にはならないという事か。

 まあ、こんなところにあるのは公共の祭壇みたいなものだろうから、皆が使っても問題ない造りじゃないと困るわな。

 この国どう考えても多神教だし、一つの神しか信じられない教会だったら、国民の信心深さからして、暴動がおこるだろう。

 神々の旧戦地みたいに、すべての神の祭壇があったら別だが。

 

 「それじゃあ始めますね。エヘカトル様ー、受け取って下さーい」

 

 そう言って、オーディは荷車から腐った魚を取り出し、祭壇の前で掲げる。

 すると、教会の天井を貫いて、白い光が祭壇へと降り注いだ。

 それが祭壇に届いて辺りを照らし始めると同時に、天から聞き覚えのある声がしてくる。

 

 『わおっ♪新しい居場所っ!嬉しい!好き!大好き!』

 

 「わわっ、エヘカトル様!い、居場所ですか?」

 「新しく祭壇を支配するということは、神々の支配域が広がるという事だと聞きます。恐らくその事を喜んでおられるのでしょう」

 「そうなんですか、じゃあ多くの祭壇でエヘカトル様に捧げ物をした方が……」

 「エヘカトル様はお喜びになるでしょう。

 でも既に支配者がいる祭壇を支配させようとすれば、元の支配者を怒らせてしまいます。気を付けてくださいね」

 

 そこら辺は特にゲームと変わってないな。

 まあ、自分視点で見たら、祭壇関係はゲームと同じと覚えておけばいいだろう。

 冒険とかしてたら、余り関係なさそうだし。

 

 『うみゅみゅ、その後ろのお魚、私の?私の?』

 「あっ、そうです!せっかくいらっしゃったのに、お待たせしてすみません。今お渡ししますね」

 

 オーディは荷車から次々と魚を取り出し、エヘ様へと捧げていく。

 受け取ったエヘ様の方は、声だけで上機嫌と分かるほどに嬉しそうな声色で、うみみゃぁ♪うみみゃぁ♪と鳴いている。

 それを聞いているオーディも嬉しそうだ。どんどん捧げ物をするペースが上がり、その動作も勢いに乗っていく。

 数分もすると、あれだけ大量に荷車に乗っていた魚達は、全てその姿を消していた。

 

 『うみみやぁ!お魚たくさん!うみみやぁ!』

 「お喜びいただけたようでよかったです。また近いうちに、捧げ物に参りますね。今度はこんなに沢山とはいかないかもですけど」

 『うん!たくさんたくさん待ってるよ。よ!』

 

 その声を最後にエヘ様はお帰りになったようで、辺りに満ちていた白い光は少しずつ薄れていった。

 

 「良かったですね、オーディさん。エヘカトル様、とても嬉しそうにしていらっしゃいました」

 「はい。また教会に来る時が楽しみです」

 「それはよかったです。癒し手の方もよろしくお願いしますね」

 「そちらの方は、機会が無いに越したことは無いんですけどね……」

 「ふふ、冗談ですよ。それではまたのお越しをお待ちしております」

 「ありがとうございました。ではフィーネさん、お元気で」

 

 

 

 

 

 (んん、あんだけ沢山魚とか貢いだし、何かご褒美とかくれるかなーと思ったけど、そう簡単にはいかなかったな)

 「もう、剣さん!見返りを求めてやったんじゃないんですよ!」

 (へいへい、でもあれじゃない?エヘ様に頑張りを認めて貰って、何か貰えたりしたら嬉しくない?)

 「う、それはそうですけど……」

 (まあそういう楽しみがあってもいいだろうってことで。エヘ様もそれくらいで目くじら立てないだろうさ)

 「そ、それはそれとしてですけど!」

 

 旗色が悪くなったとみて話題転換にかかったか。

 だがこの俺にはお見通しである、っていうかモロバレである。

 

 あんまつっついても面白くないから、普通に話流すけど。

 

 「フィーヌさんに言われましたし、これからはやっぱり、パルミアのお魚屋さんで供物を買うべきですかね?」

 (それもいいだろうな、頻繁に買って捧げるなら、近場で買った方が効率がいいし。だが、もう一つお安く済む手段もあるぞ)

 「それって、どんな方法ですか?」

 (自分で釣り上げるのさ、釣り竿とエサを買ってな。)

 「ええっ!で、でも、私釣りなんかやったことありませんし、どうすればいいのか分かりませんよ?」

 (ん?ギルドで釣りのやり方を教えて貰えばいいんじゃないのか?)

 「へー、ギルドで釣りについて教えてくれるんですか。剣さん良く知ってますね」

 (それは、えー、あれよ、いつもの酒場で情報収集よ。何かギルドで釣りやらの仕方を教えてもらったぜーっていう冒険者がいたんだよ)

 

 便利なり、酒場で情報収集。 

 ゲーム知識の言い訳するときは、大体これで何とかなる気がする。

 

 「ギルドで教えてくれるってことは、依頼達成の報酬である、プラチナコインでの技能講習ですよね。丁度1つ学べるくらいはコインが貯まってますし、行ってみましょうか」

 (言い出しておいてなんだが、本当にそれでいいのか?他にも必要な技能はあるんだし、釣り技能は後回しにして、魚の供給の方はしばらく店からにしてもいいんだぞ)

 「はい、釣りってやったことないですから、どういうものなのか興味があるんです」

 (そうかい、じゃあ行ってみるとするか)

 「ええ、待っててくださいねエヘカトル様!いっぱい魚釣って持って行きますから!」

 

 オーディは気合十分と言った様子で街道をグングンと進み、パルミアの中心部にある冒険者ギルドへと突撃していった。

 

 

 

 そしてがっくりと肩を落として、冒険者ギルドから出てきた。

 

 「釣りスキル、ここでは講習やってませんでした……。ヨウィンかヴェルニースに行かないと、やってないって……」

 (いや、そう落ち込むなってオーディ!ヴェルニースとか近い方じゃないか、2、3日あれば着くんだし!)

 「でも、何だか出鼻くじかれました……」

 (どっちにしろ釣り竿とかないと釣りはできなかったから!ギルドの奴が言ってただろ?ヴェルニースかルミエストにしか釣具店は無いって、どのみち無理だったんだって!)

 「それ、余計残念です……」

 (ああもう面倒くさい性格をしおって!)

 

 

 

 結局、オーディはヴェルニースで釣りの技能を手に入れ、その足で釣具店に行って、釣り竿と釣り餌を買うまでの間、落ち込んだままだった。

 そして釣り具を手に入れたオーディがこちらになります。

 

 「よーし、これで釣りの準備は整いました!後は釣って釣って、釣りまくるだけですよ!」

 (お前急に元気になったな、1時間くらい前までほぼ無言だったじゃねぇか)

 「それはまあ、なんというか拗ねていたと言いますか」

 (自分で拗ねてたとか言える神経すげえな、神経属性攻撃無効とかじゃないのか?)

 「えへへ、そんなに凄いですか?」

 (月並みだが言わせてもらおう、全くもって褒めてはいない)

 

 ねんがんのつりざおをてにいれたオーディは、意気揚々と釣具店前にあった池で釣りを始める。

 さっきまであんなに暗い様子だったのに、現金な物だ。

 

 しかしまあ、元気になったならば俺にとっても助かった。

 というのも、オーディがショックを受けていた間、俺はめっちゃくちゃに暇だったのである。

 普段ならば、移動時間の間は雑談などをして暇をつぶすのだが、今回はオーディが落ち込んでいたため、まともに会話が成立しなかった。

 

 剣である俺には、基本的に暇な時間にやることが無い。

 一応索敵などは行っていたが、安全な街道を通っていたため、道中に賊やモンスターなどの襲撃はなかった。

 そのため当然、俺にとって一番の娯楽である、敵からの血液採取もできなかったのである。

 もちろん、途中で血吸いが発動して、オーディから生き血を吸い上げはした。だが、あれは飢えに突き動かされてやっているので、楽しんでる暇はない。

 

 この退屈であるという問題は、本気で俺にとって最大の問題となるだろう。

 俺には基本的に行動の選択権が無いからな、受け身で持ち主の行動に付き合うしかない。

 またオーディの口数が減るようなことが起こって、その上で彼女が、何の変わり映えもしないことをやり続けていたら。

 その時俺は今一度、持て余した時間をどうすることもできず、ただ待つことしかできなくなるのだ。

 

 

 

 そう、丁度今のように、2時間たっても何も釣れず、だんだんオーディが鬱ってきた状態だとだ。

 

 「全然、釣れません……」

 (いや、まあ初めての釣りなわけだし、こんなもんだろうよ)

 「そうは言っても、やっぱりこれは少し堪えますよ……」

 

 まあ、そうはいっても、自分から話しかけてきたりする分、さっきまでよりはマシだ。 

 早いとこ釣れて、オーディがいつも通りに回復してくれるといいんだが。

 

 「釣りのやり方って、本当にこれで合ってるんでしょうか?私ちょっと不安になってきました」

 (それに関しては問題ないと思うんだがな、ギルドのやつが言ってたやり方はしっかり踏襲しているようだし、釣具店の店長もここで魚が釣れると言っていた。やはり問題は、経験のなさだろう。こればっかりは慣れていくしかないと思うぞ。)

 「やっぱりそうなんでしょうか。それにしたって、釣れないにしてもそろそろ何か針に引っかかる位はしてもいいんじゃ(って、おいオーディ!引いてる!引いてる!)ふぇっ!?」

 

 オーディが話に夢中になっている間に、いつの間にか釣り竿に何かがかかったようだ。

 オーディは慌てて竿に意識を集中させ、浮きが沈むのに合わせて思い切り引っ張る。

 それにより、水中から水しぶきをあげて、獲物が飛び出してきた。

 

 「こーい!って、あれ」

 (あー、これは、なあ)

 

 そして、この反応が出てきた。

 針があった場所に付いて来ていたのは、銀色に光る背中に丸みを帯びたボディ、そして平たく反り返った頭をしていて、

 

 まあ、平たく言えば空き缶だったのだ。

 

 「2、2時間かけて、成果がこれ……。私もう釣りに向いてないんじゃあ……」

 (……まあそう言わず、餌使い切るまではやってみたらどうだ?せっかく買ったのにもったいないし)

 「確かにそうですね、取りあえず、餌が無くなるまでは」

 

 そういって、オーディはとれてしまった餌の代わりに新しい餌を針につけ、再び浮きと睨み合いを始める。

 だが、やはりそう簡単に魚は釣れない。

 引っかかるのは、あれから何度か引っかかるようになり始めた、ゴミばかりの物だ。

 更に3時間ほどが経過し、買った餌が尽き始めてきた。

 

 (これはもう本当に駄目かも分からんな、ゴミは一応よく釣れるようになったが)

 「ゴミが釣れても仕方ないですよう!エヘカトル様の為のお魚が手に入らないと」

 (しかしこんだけ釣れないとなると、流石に諦めた方がいいかもだなあ。もしかしたら、能力値とかが足りないのかもしれんし)

 「えっと、ギルドの方が言うには、感覚が関係してくると言われているんでしたっけ?でも、それだったら、確かに急に上げる方法なんてないし……って、引いてる!」

 (何ぃ!)

 

 見ると、確かに浮きが沈んでいた。

 しかも、これまでとは違い、左に右にと引っ張る方向が変わっているように見える。

 

 (これはもしかすると、もしかするぞ。オーディ、気を付けて行けよ)

 「は、はいぃぃ」

 

 オーディは針が抜けないよう、魚の動きに合わせてゆっくりと竿を引き上げていく。

 実際これが効率がいいのかは分からないが、それが分かる者はこの場にはいない。

 緊張しながらも、オーディは明らかにうれしそうだ。今日一番楽しそうにしている気がする。

 

 「い、今!てええええええい!」

 

 そういって、オーディが力を入れて引っ張り、水面から魚影が飛び出してきた!

 ……金魚の。

 

 「や、やったあああああああ!釣れましたよ、剣さん。私、初めて魚を釣りました!」

 (お、おう。お前がそれでいいんだったらば俺も別にいいんだけどよ)

 「よーし、早速パルミアに出発です。エヘカトル様にお魚捧げに行きましょう!」

 (……そうだな)

 

 

 

 

 

 「オーディさん、私は確かに身の丈に合った信仰をと言いましたが、流石にここまで規模を小さくするのはどうかと思います」

 「そ、そうですよね」

 

 教会に行って、フィーヌに自信満々で金魚を見せたオーディは、そのフィーヌに窘められて、ようやく客観的に自分の魚を見ることができたようだ。

 

 「すみません、初めて釣りが成功したもので、舞い上がってしまいまして……」

 「まあ、そういうことだったら、エヘカトル様も喜んでお受け取り下さるでしょう。ですが、次からは流石に、店売りの魚も混ぜた方がよろしいかと思いますよ」

 「はい、そうします」

 

 

 

 

 

 どうにか神への献上を終え、俺達は教会を後にした。

 金魚を釣ってからずっとテンションが高かったオーディも、流石に落ち着いてきたようだ。

 

 「流石にあれはまずかったかもですね。剣さん、気付いてたなら教えてくれればよかったのに」

 (せっかく喜んでたのに、水を差すのもどうかと思ってな。それに、エヘ様はきちんと喜んでくれたじゃないか)

 「それは、そうですね。結構苦労したけど、喜んでもらえたみたいで良かったです」

 

 そういうオーディは嬉しそうだ。

 こいつ相当エヘ様のこと好きだよな。

 

 (しかし、これからはどうする?この調子だと、釣りで魚を用意するのは難しそうだが)

 「それですけど、やっぱり感覚の能力値が足りないんじゃないかと思うんです。

 とは言っても、釣りもやらなきゃ上達しませんし、レベルを上げて冒険者としての地力も上げながら、たまに釣りに挑戦してみる感じで行こうかと思います。その間は、お魚屋さんで供物を用意する、ということで」

 

 感覚の能力値が足りない可能性というのは、オーディから話を聞いたフィーヌも言っていた。

 やはり、感覚が鋭い奴の方が釣りが得意なことが多い、というのがこの世界の定説のようだ。

 

 (そうか、それもいいだろうな。で、冒険者の地力を上げるって言ったが、どうするつもりなんだ?また子犬の洞窟にでも潜るのか?)

 「いえ、今度は別の簡単なネフィアに挑戦してみたいです。私も結構戦えるようになりましたし、しっかり準備していけば、知らない場所でも大丈夫だと思うので」

 (確かに、今のオーディだと子犬の洞窟では少し役不足かもな。それに、俺としてもその方が面白そうだ、今から楽しみだぜ)

 

 実際、子犬の洞窟の敵では、全くオーディに敵わなくなっていたからな。

 地力を高めるというのならば、それは正解だろう。

 俺にとってもなかなかうれしい事だ、正直子犬の洞窟の奴らの味は少し飽きてきていたからな。

 ここらで心機一転というのも悪くない。

 

 (しかし、途中あんなにダレていたのに、今は釣りをやる気満々だな)

 「はい、やっぱり、釣れると分かったら途端に楽しくなってきますね」

 

 そういうオーディの目は、ハイライトさんがいつも以上に仕事しているように見える。

 しかし、この様子だと大分釣りにハマりそうだな。

 釣りしてる間、俺のほうはかなり暇になるし、こりゃ余計な提案せずに、店で魚買わせたがよかったかね?

 実際ヴェルニースで釣りしてた時は本当暇で、後の方とかは、俺睡眠必要なのに寝るんじゃないかと思ったわ。

 

 ま、いまさら言っても仕方ないか。

 今は取りあえず、次挑戦するネフィアへの準備のことだけ、考えておくとしよう。



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序盤の分裂変異種は脅威

 (フゥハハハハハハハハ!混沌属性の追加攻撃ゲットォ!これでまた俺が最強になってしまったなぁ!)

 「剣さん、それはいいですけどまだ戦闘中ですよぉ。この状況、何とかならないんですかあ…」

 (そんなこと言ったって、これ多分無理だぞ。だからやめておけと言ったのに)

 

 今俺達は、パルミア近郊にある難度7相当のネフィアの、最深部でネフィアのボスと戦闘中である。

 まず、ここに至るまでの経緯について話すとしよう。

 

 つい最近、ネフィア巡りの甲斐あってオーディのレベルが6に上がり、半分通っているカオスシェイプの血の影響か、新しい腕が右腕の後ろ辺りから生えてきた。

 この腕だが、別にゲームの時のように、腕だけだから籠手しか装備できない、手だけだから、剣や盾しか装備できないとかではなく、普通に腕である。なので当然装備も、普通の腕と同じようにつけることができる。

 

 オーディは、細部はともかく体格的には、通常の人間とほぼ同じだった。

 それがこの変化によって、単純に手が他の人間より二つ多い、より戦いに向いた身体になった、と言えるだろう。

 新しく生えた腕に、店で買った硝子製の盾を装備し、オーディは単純にレベルが上がったよりも、大きな戦力強化をした(当然籠手も買っているが、ゲームとは違いこっちはそこまで戦力強化にはならない、盾に比べると、腕の部位が戦闘で役に立つことは、それほどないためだ)。

 それで、これでどれくらい強くなれているのか見るため、少し難易度高めのネフィアに挑んでみよう、という話になったのだ。

 

 挑んだネフィアだが、それ自体は3階層と浅く、道中の敵も強力な装備で身を固めたオーディの敵ではなかった。

 ただ、今俺達が相対しているボスが厄介に過ぎたのだ。今、俺達の視界を”埋め尽くしている”ボスが。

 

 「レ、レベル9の変異種バブル固すぎますよぉ!斬っても斬っても増えて、キリがありません……」

 (もう撤退したらどうだ?階段に陣取ってるからいつでも退けるとはいえ、これ以上粘っても回復薬の無駄遣いだと思うんだが)

 「でもでも、これだけ頑張ったのに途中で辞めちゃうなんてもったいないですよ!敵の攻撃事態は弱いからダメージは大したことないし、なんとかなるかもしれません」

 (まあ、俺は敵の血吸い放題だからいいんだけどよ。久しぶりに俺もレベルアップできたくらいだからな)

 「そうですよ。剣さんも強くなったし、これならいけるかもしれません!」

 (だといいがねぇ)

 

 オーディはまだまだやる気のようだが、正直俺はもう無理な気がしている。

 すでに重症治癒のポーションを5服も飲んでいるのに、バブル達は減る気配を見せないのだ。

 奴等は攻撃されることで、自分の体力やステータス等をコピーした分体を生み出す力を持っている。

 普段だったら、ごり押しで処理するか放置すればいいのだが、ダンジョンのボスとして出現し、驚異的体力を持って生まれてきたので、そうもいかなくなった。

 今のオーディでは攻撃力が足りず、敵を倒す速度が、敵が増える速度に追いついていないのだ。

 だが、奴を倒さなければ、奴が守るこのネフィアに眠る財宝は手に入らない。

 

 で、オーディは躍起になって奴らを倒そうとしているわけだ。

 俺の方は、まず倒し切れないだろうと一目見た段階から判断していた。

 だから戦わずにさっさと帰ることを提案したのだが、スムーズに此処まで到達し高揚していたオーディは、取りあえず戦ってみたいと言う。

 そこで俺は、階段近くで深入りせずに、すぐ逃げれる状況を保ちながら戦う作戦を提案し、オーディもそれを受け入れた。

 結果としては、想定通りにバブルは倒し切れず分裂し続け、

 此処まで進んだ未練を断てないオーディは、ズルズルとポーションを浪費し、

 何故か俺がレベルアップを果たす、という状況に至ったのだ。

 

 幸いなのは、バブル達の攻撃力はさほど高く無い事か。

 一つ2000gp程の、店売りの中ではまあまあ高めの装備達で身を包み、俺を持つ手を除いた両手で計三つの盾を持ち、さらに俺のエンチャントで耐久の上がったオーディは、変異種とは言えバブル程度の攻撃ではビクともしない。

 少しくらい事故って大ダメージを喰らったとしても平気だろうし、回復薬の供給さえあればいつまでも戦い続けられるだろう。

 

 

 

 まあ、その分引き時を見失って、どんどん無駄になりそうな回復薬の出費が増えて行っているわけだが。

 

 「あ、今剣さんの混沌属性の追加攻撃出ましたね!当たったバブルが眠りだしました」

 (一匹眠らせても焼け石に水だけどな。追加ダメージの方はおいしいけど)

 「うーん、なんかこう、混沌ー!って感じで、意図して追加攻撃を出す事とかできないんですか?」

 

 ふむ、生きている武器のランダム発動の追加攻撃を、俺の意志で毎回発動するという事か。考えたこともなかったな。

 

 (やってみたことないな。ほっといてもたまに効果が発動するから、そういうもんだと思ってたし。ふむ、でも面白そうだし、ちょっとやってみるか)

 「できたら大幅戦力アップですよ!頑張ってくださいね」

 (おうよ)

 

 つーてもこんなことやったことないし、如何すればいいのかとか分からんな。

 とりあえずオーディが斬る時に気合入れてみるか。

 

 「やー!」

 (ぬぉぉぉぉおう!)

 「てー!」

 (どぅおおおおぃ!)

 「……たー!」

 (しぇえやぁああ!)

 

 「剣さんその掛け声何とかなりませんか」

 (んー?気合入れてみたら、追加攻撃出るかと思ったんだが)

 「それはいいんですけど、何だか気が抜けるというか、追加攻撃も出てませんし」

 (そうだよなー、俺も全然これで出る気してこないし)

 「じゃあやめましょう。私その掛け声を聞きながら、戦いに集中できる気がしません」

 

 そういうオーディの顔は、どこまでも真顔だった。

 そこまで言うのならばやめておくとしよう。だが、そうなるとどうすればいい物だろうか。

 

 戦局の方は相も変わらず膠着状態、斬れば一匹敵が死に、斬れば一匹敵が増えるの繰り返しだ。

 試し切りには事欠かない状況だが、何のアイデアも浮かんでは来ない。

 

 いや!ここで諦めてはならない、考えるんだ俺!

 これは、憧れていた異世界オレTUEEEへの偉大なる1歩じゃないか。

 世界にたった一つの意志を持つ武器、その能力は剣身に秘められた力を自在に引き出す事!

 これは俺の時代来ますね、間違いない。完全に最強モノ二次創作ですわ。

 

 まずは、普段追加攻撃が出るときの事を思い出してみるか。

 あー、なんかあれだな。どっかから力の源みたいなのが出て来て、何か属性要素に体内で変わって剣身に行きわたり、その後斬る相手の所に流れ込んでいく感じ。

 まだ回数こなしてないから微妙だけど、多分混沌属性の方も同じような感じな気がする。

 だとすると、あのどこから来てるか分からない属性攻撃の源を、なんとか持って来てみれれば何とかなる公算が高いか。

 

 

 

 詰んでね?

 

 いやいや、まだ諦めるには早いだろう。

 こう、なんだかんだであの力をどうにかこうにか応用すれば、いい感じにうんぬんかんぬんなるかもだし。

 まずはMEISOUだな、この世界にはMPを回復する手段だし、何か分かるかもしれん。

 

 (オーディ、俺色々と試してみるから、しばらく戦闘の方まで集中してられん。もし必要になったら改めて呼んでくれ)

 「わかりました、頑張ってくださいね」

 

 ふむ、まずは目を閉じて考えよう。

 剣だから目なんかないけど、気持ちの問題だ。視覚を意識するのをやめて、自分の内に籠る。

 同じように、聴覚も触覚も嗅覚もいらない、五感に関係のない無の世界で力を感じるのだ。

 

 む?今あの力が流れ込んできたな、恐らく追加攻撃がオーディの方で発動したのだろう。

 丁度いいタイミングだった、普段はあまり意識していなかったが、これで力の源ってやつの感覚を、はっきり感じることができた。

 それは、自分の身体に急にポッと出てきたものではなかった。

 明らかに自分の周囲から流れ込んできて、身体の中で属性攻撃の力に代わって出て行っていた。

 この世界に詳しくない俺には、空気中に潜むマナの力か、はたまた天上にいる神々の恩恵の力なのかは分からない、しかしどこからか持って来ていたことは確かだ。

 ならば、意図的にその力を取り込むことができれば、これから使いたいときにあの力が使えるかもしれない。

 

 しかし、肝心の取り込み方が分からないんだよなあ。さっきからMEISOUは続けてるが、特に力の在処とかが分かってくる感じはしないし。

 やはり一朝一夕で身に付くものではないのだろうか、だとしてもとりあえず、今は続けてみるけれども。

 

 「剣さんどうですか~?」

 (お前、人が集中してるときに…。とりあえずやってみてるけど、上手くいかんな。とりあえずそっちはそっちでやっておいてくれ)

 

 

 

 そこでこう、大地を感じて、大空と一体に……ダメか。

 じゃあ、とにかくあの由来不明の力の感覚を思い出して、吸いこみ続ける感じで……!?

 

 来る、何かが来る感覚を感じる。

 これを引き込めれば、自在に追加攻撃を操ることができるという確信がある!

 焦るんじゃあないッ、転生オリ主は焦らない。

 確実に、この力を引き出すのだ。いい、いいぞ、この感触だ。

 あの力が俺の中に入ってきている。

 これで俺は自由自在に追加攻撃を行える、ただ一つの生きている武器!

 つまりすべての生き武器を超えたの「剣さん剣さん!ものすごい勢いで生き血を吸われて死にそうです!」

 ……あれ?

 

 

 

 

 

 どうやら、俺が取りこもうとしていたのは、オーディの生き血のようだった。

 とは言っても、流石にただ生き血をいつものように飲んでいただけ、という訳ではない。

 そのあと試したのだが、取り込んだ生き血を、神経追加攻撃の時を思い出しながら、同じ要領で身体に行きわたらせた結果。次の斬撃には神経属性が乗った形跡があった。

 混沌属性も同様である、試す度にオーディの生き血を、一回の血吸いと同じ分くらい吸い取る必要があったが。

 

 しかし、それでも十分使い道はあった。

 今俺達は、全ての攻撃を属性追加攻撃で行うことによって、攻撃で増えるバブル達を必要以上に増やすことなく、確実に始末しているところだ。

 防御に専念する時間を取って、身体の回復を待ちながら戦わなければならない為、半日以上の時間がかかった。

 そしてその甲斐あって、バブル達の数はどうにかあと4匹と言う所まで減ってきている。

 

 オーディから吸った生き血に、あの追加攻撃が発動する力の源と、同じ成分が入っているのか、

 それとも純粋に、生き血そのものが力の代用品となるのかは分からない。

 だが代償付とは言え、俺が使いたいときに追加攻撃を使えるようになったのは確かだ。

 わざわざ血吸い一回分の体力を使ってまで、今後も使っていく機会があるのかは知らんが。

 

 「よ、ようやく終わりそうですね。長い戦いでした。」

 (おう、一時は地面が見えない位バブルが繁殖してたからな。良くここまで倒せたもんだ)

 「私から言い出したとはいえ、流石に半分くらいでキツくなってきましたよ」

 (ああ、回復が無かったら20回は干からびるくらいには、血液吸わせて貰ったからな、回復薬もほとんど使い切ったし。だが、後はこいつらを潰せばこのネフィアの攻略は完了だ)

 「はい!お願いします、剣さん」

 

 オーディに言われ、俺は装備者との結びつきを利用して生き血を取り込む。

 中々に美味いが、今はそれを気にしている場合ではない、集中しなければ失敗するかもしれん。

 取り込んだ血液を、神経属性へと変えていく。混沌属性ではだめだ、仕留め損ねた時、毒のダメージで分裂してしまう可能性がある。

 ……途中で1回やっちゃったから、もう同じことはしない。

 

 最期に、剣身の隅々までその力を行きわたらせる。

 

 (今だ、オーディ)

 「てやぁーー!」

 

 オーディの攻撃を受けたバブルは、神経を蝕まれ激しく体を振動させながら息絶えた。

 これで残りは3匹、我ながらこの火力を出せるのは魅力的だ。

 しかしこの技だが、使いどころも一寸難しい。

 というのも、剣身に力を行きわたらせてからしばらくすると、どんどん属性攻撃の力が薄まっていくのだ。

 相手が動きが遅く、碌に回避もしないバブルだからいいものの、人型だったりの敵を相手にしたときは、効果が切れる前に、無理攻めをしなくてはならなくなる。

 これもこの力が使いにくくなる要素の一つと言えよう。

 

 

 

 ここまで使いにくいと、なんか素直に喜びにくいな。

 

 「あと少し……またちょっと回復しないと」

 (焦るなよオーディ、正直ここまでうまくいくとは思わんかった。ここはしっかり決めて大金星と行こうじゃないか)

 「はい、数が減って相手の攻撃もゆるくなってきたし、ゆっくり回復しますね」

 (普段なら、油断するなっていうところだが、相手バブルだからなあ)

 

 正直俺も、もうここまで来たら負けはないだろうと思う。

 あいつら大体の攻撃が体当りみたいなもんだもん。

 数が増える特性さえ封殺すれば、全く負ける要素が無いわ。

 

 (逆に、増える特性を封殺しないと確実に詰むけどな、ということでこっからも全部属性追加攻撃で行くから)

 「うう、あれいくらやっても慣れないんですよね。体中から血が抜けていくのがぞーってなって」

 

 知らん、そんなことは俺の管轄外だ。

 

 

 

 「これで、終わりぃ!」

 

 オーディの叫び声とともに、振り下ろした剣がバブルを切り裂く。

 どうやら当たり所が良かったようで、追加攻撃がその効果を発揮するまでもなく、バブルはミンチになって息絶えた。

 

 「やりました!私たちの勝ちです」

 (ああ、長く苦しい戦いだった、主にオーディが)

 

 ようやっと戦いが終わったことに、オーディが体全体で跳ねまわって喜びを露わにする。

 無理もないだろうな、半日近く血を吸われ続けていたわけだから。

 

 「あ、ネフィアのボスを倒したから、お宝が出てきましたね」

 (これどういう仕組みなのかマジで気になるわ)

 

 バブルを倒したことで、オーディの目の前に急に宝箱が現れる。

 一説には、あのボスモンスター達はネフィアという宝物庫のカギのような存在で、それを倒すことで仕舞われていた宝が出てくると言われているそうだが、真実は未だ明らかになっていない。

 

 「気にしても、わからない物はわからないですよ。さあ、宝箱を開けましょう!」

 

 オーディはそう言って、宝石細工の美しい宝箱を開く。

 ちなみにこの宝箱だが、宝石は単品では売れない程に小さく、宝箱自体はネフィアでいくらでも見つかる有り触れたものなので、美しくとも高くは売れない。

 

 やはり、重要なのは中身だ。

 さてさて今回の戦利品はっと。

 

 「えーっと、鉄素材の靴が一つに、ザイロンの手袋が一つ、後は2000gpと、鑑定したことが無いポーションが一つ、ですか」

 (ちょっとハズレっぽいな、装備の方が奇跡品だといいんだが)

 「あれだけ頑張ったからもうちょっといいものが出ると嬉しかったんですけどね……」

 (とはいえ、難度7のダンジョンだからな、こんな物だろう。それに、あんな厄介なバブルを倒せるまで行ったんだ。次からは余裕で難度7のダンジョンをクリアできるさ)

 「そうですね。それじゃあ帰還の巻物を読んで、パルミアに行きましょうか。今回の戦利品を鑑定してもらって、ついでにエヘカトル様にお魚も捧げましょう」

 

 

 

 「これが鑑定結果だ、品物はお返しするよ」

 「えと、鉄の重靴は良質、ザイロンの手袋は普通程度の物ですか。後は、ポーションが……せ、潜在能力ですかぁ!?」

 「ああ、買うと40000gpはするらしいな、運が良かったじゃないか」

 

 

 

 あの後オーディはお礼を言って、足早に冒険者ギルドを去り、路地で信じられない物を見る目でポーションを見ていた。

 

 「わわわ、こんな物が手に入るなんて、夢でも見てるんじゃないでしょうか」

 (おっ、確かめてみるか)

 「遠慮しておきます、この前それでどうするんですかって聞いたら、血を吸って来たじゃないですか」

 (痛みがあったら夢じゃないっていうしな)

 「それだったら自分で頬っぺたつねりたいです……」

 

 (しかし、潜在ポーションか、半端ないもんが手に入ったな。エヘ様の運上昇ボーナス半端ないわ)

 「あ、そうですよね!エヘカトル様は幸運を司る女神様だもん、きっとそのおかげです。後で一杯お魚買っていかなくちゃ」

 (そうしとけ、未だオーディの釣りの腕は、エヘ様の献上物を用意できるレベルには至ってないしな)

 「それ今言わなくてもいいじゃないですか!それに、最近は安定してオタマジャクシが釣れるようになったんですよ!」

 (前から言おうと思ってたんだが、オタマジャクシって魚に入るのか?)

 「……エ、エヘカトル様は魚だって喜んでたし」

 (タラバガニを魚と呼ぶ方の意見を参考にされても……)

 

 目を逸らしながら強がってみているオーディはスルーして、俺達はひとまず魚屋を経由して教会に向かうことにした。

 

 「ふう、これで捧げ物は終わりましたね」

 (そうだ、オーディ。確かお前この前のネフィア潜りで、水拾ってたよな。訳は後で話すから、フィーヌに祭壇の前に、その水を供えさせて貰えないか聞いてみろ)

 「え?えっと、フィーヌさん、祭壇の前に水を置かせてもらってもよろしいですか?」

 「祝福ですね、もちろんよろしいですよ」

 

 オーディは何が何だかわからない様子だったが、俺とフィーヌに促され、バックパックから水を取り出して祭壇の前に置く。

 すると、にわかに祭壇に置いた水が白く輝きだした。

 輝きは数秒すると収まったが、恐らくこれで目的は果たせただろう。

 

 「ご利用ありがとうございました、またのお越しをお待ちしていますね」

 「は、はい、こちらこそありがとうございました」

 

 フィーヌの柔和な笑顔に見送られ、俺達は教会を後にする。

 

 

 

 しばらく歩き、人通りの少ない路地に入ると、オーディが話しかけてきた。

 

 「剣さん、さっきのは一体何だったんですか?人がいる所だったから、大っぴらに聞けませんでしたけど」

 (自分の信じている神の祭壇の前に水を置くと、その水を祝福することができるんだ。祝福された水を何かに混ぜると、その何かを祝福することができるからな。折角だから、潜在ポーションを祝福すればいいと思ったのさ)

 

 そういうと、オーディは合点が言った様子と驚いた様子を、器用にも同時に表情に浮かばせた。

 

 「へええ、初めて知りました。あ、それじゃあ剣さんに混ぜたら、剣さんの呪いが解けて祝福されるんじゃないですか?」

 

 ……その発想は無かった!というか、正直自分が呪われてること忘れかけてた!

 

 (なるほど、それもそうだな、自分では思いつかなかった。もし上手くいけば、血吸いがある程度軽くなるかもしれん)

 「じゃあ、早速やってみましょうよ!血吸いが軽くなれば、潜在のポーションよりもずっと冒険に役立ちそうです。」

 (ああ、そうするとしよう)

 

 オーディはバックパックから先ほど祝福した水を取り出すと、少しずつ俺にかけ始めた。

 ふむ、確かに何か来ているな。なんだか、あったかい感じが……って熱ッ!熱ィッ!焼ける、俺が焼ける!

 

 (うおぉぉらっしゃあああああああああ!)

 「ふぎゃあああああ!?」

 

 お、思わず思いっきり血吸いをしてしまった。

 いや、あれはあれで正しかったと思う。

 思いっきり血を吸われたオーディが倒れたおかげで、残った祝福された水は地面へ飛び散り、俺にかからずに済んだ。

 

 あのままかけられ続けていたら、最悪の場合俺の自我が消えたりしていたかもしれん。

 もしかして、俺の意志持ちエンチャント関連って、呪いという扱い何だろうか?

 もしそうだったりしたら、安易に呪いを解いたりということはできんな。

 

 「け、剣さん!いきなりビックリするじゃないですか!どうして血吸いしたんですか?」

 (すまんすまん、だがかなりやばい状況だったんでな)

 

 俺は、今どういう事が起こったのかと、それに対する俺の考えについてオーディに話した。

 

 「なるほど、すると剣さんの意志が消えてしまう可能性がありますから、解呪だとかは気を付けないとですね」

 (ああ、別に大丈夫かもしれんが、出来れば危ない橋は渡りたくない)

 

 どうなるか全く見当がつかないからな、血吸いを消すためだけに俺が消えたとしたら割に合わん。

 

 「それにしても、折角の祝福された水が、飛び散って無駄になっちゃいましたね。あ!もちろん、剣さんがやったことにどうこう言っているわけじゃないですよ!」

 (ああ、分かってる分かってる。それなら、今から水を買いに行ってもう一度祝福するか。多分それだけの価値はあるだろう)

 

 その後、俺達はパルミアにある魔法屋関連の店をハシゴし、3件目でようやっと水を手に入れることができた。

 教会では本日2度目の来訪に少しフィーヌが不思議そうな顔をしたが、無事潜在ポーションの祝福に成功したのである。

 

 ちなみに、祝福潜在ポーションは18000gpで売れました、美味しかったです。

 自分で飲んで、今後の伸び白を確保しなかったのかって?オーディの強さで、そんなことにまで気を回している暇ないから(真顔)。



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戦士ギルド、再来

 「久しぶりのポート・カブールですね、剣さん」

 (ああ、前に来たのが4月だったから、2か月ぶりってとこか)

 

 今回俺達がポート・カブールに来たのは、別に前の事に懲りず魚を買いに来たから、って訳じゃあない。

 前に訪れた時戦士ギルドに加入したのだが、その時課せられていたノルマを達成できたので、その報告に来たのだ。

 

 このノルマだが、ゲームの時とは違って特定のモンスターを何匹倒す、といった類のものではなかった。

 ギルドの目的がモンスターの駆除である以上、冒険者が狙うモンスターの種類に拘ってしまい、市民の安全確保に支障が出ては本末転倒。

 そのため、依頼での退治や野原、ネフィアでの間引き等で、どれだけモンスターを倒したかが見られることとなる。このあたりの変化はやはり、ゲームから現実に落とし込む際に生まれた差異なのだろう。

 

 で、『オーディと俺の力ならば、与えられたノルマを達成するのに、正直言って1か月もかからないだろう』ノルマを貰った当初、俺はそう思っていた。

 しかし、実際はその2倍の時間を費やすこととなっている。

 それはなぜかと言うと……

 

 (オーディ、今お前、海の方に釣りに行こうとしてただろう)

 「ギクッ!だ、だめですかぁ?」

 (いや、いくら何でもハマりすぎだろ。ここ一週間、まともに戦闘したのは、討伐依頼での2、3回くらいだし、後の時間大体釣りしてたじゃねーか。もう冒険者じゃなく、漁師かなんかだろ)

 「うう、剣さんが戦闘したいのは分かってるんです。でも釣りって、できるようになってくると楽しいし、いっぱい魚を釣るとエヘカトル様喜んでくれるし、ついやりたくなっちゃって」

 

 そう、オーディが釣りにのめりこんでしまったのだ。

 この女、最近釣りスキルが上がってきたのが嬉しいのか、隙あらば釣りに向かおうとしている。

 その為、最近の俺はめちゃくちゃ暇だ。もっぱらオーディの横で、釣りを見続ける日々である。

 俺も成り行きだったとはいえ、一応エヘカトル信者だから、魚を捧げるのは大切なことだろうと思うし、別に釣りを辞めろという訳ではない。

 それでも流石に、毎日何時間もされるとキツイもんがある。前に思った懸念が嫌な形で当たったな、これがいつまでも続いたらマジで暇死するわ。

 しかし、一介の剣にすぎない俺では、オーディの行動を制限することはできない。

 血吸いで脅して控えてもらう、というのも頭をよぎったが、さすがにそんな事をして良好な関係を壊すつもりもない。せいぜいオーディに愚痴るくらいのものだ。

 

 でもせめて、採掘で宝石探しとかなら、耐久の能力とかが伸びるし、まだ我慢できるんだがなー。

 スキル育成はelonaの華だが、今行っている釣りで伸びるのは、オーディの戦闘スタイルでは役に立たない感覚の能力。

 そういう面から見ても、釣りが育ったとして、エヘ様の食料確保にしか役に立たないのだ。

 

 (そもそも、ここに来たのは戦士ギルドにノルマ達成を報告するためだろう?まずはそっちからやるべきじゃあないのか?)

 「初めての海釣りが私を待ってるのにぃ……。あっ!もし釣りに行かせてくれたら、ディノさんに名前の巻物の手に入れ方について心当たりがないか聞く、というのはどうですか?

 『他の人にそんな事聞いたりしたら、生きている武器を持っていることを宣伝するようなもんだから、誰かに聞くのは危ない』って剣さん言ってたじゃないですか。ディノさんならもう知ってるから、聞いても大丈夫ですよ?」

 

 ああ、そう言えばそんなことも言ったことあったな。

 しかし、オーディのやつ、この俺に対して駆け引きを仕掛けてくるとは。

 

 (バッカお前、そんな餌に俺が釣られるわけないだろ。さっさと海に釣りしに行くぞ)

 「やっぱり……ええ!?やったぁ、それじゃあ行きましょう!海はあっちの方ですよね」

 

 趣味は大事だからね、お互いやりたいことを尊重し合う関係って必要だと思う。

 

 

 

 

 

 「よく来たな、オーディ君。ノルマの達成の報告ということでいいのかね?」

 「はい、よろしくお願いします」

 

 あれから3時間ほど釣りをして、俺達は戦士ギルドへと出向いた。

 釣りの結果だが、なんとマグロの一本釣りをオーディが決めやがった。

 何でマグロがこんな浅瀬泳いでるの?とか、エサに使ったのテントウムシだったけど、マグロってこんなの食うの?とかどうでもよくなるような、見事な一本釣りだった。

 

 「ふむ、確かにノルマ分のモンスターの駆除を確認した。おめでとう、これで君も見習いギルド員から、正式なギルド員へと昇格だ。給料の方も期待していいぞ」

 「わあ!ありがとうございます」

 「さて、君も見習いを卒業したからには、しっかりとした心構えをもって……」

 

 こっからディノさんの有難げな話と次のノルマの話があったが、正直興味ないので聞き流した。

 

 

 

 「私からは以上だ。何か質問などあるかね?」

 「えっと、ギルドについては特にありません。それとは別に、ディノさんに相談したいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」

 「私でよければ出来る限りの事はしよう、どういったものだね」

 「名前の巻物が欲しいんですけど、店とかを覗いてもなかなか見つからないんです。何か手に入れやすい方法とかない物でしょうか?」

 「名前の巻物?武器の銘を付け直すことができるという、あのアイテムか。確かにあれは、稀にネフィアから見つかる以外に、まともな入手先が無いと言われているから、手に入れるのは困難だろうな。しかし、何故そんなものが必要なんだ?あれには特に使い道が無く、好事家が収集目的で買い取るくらいだと聞いているが」

 

 あー、この世界だとそんな扱いなのか。元の世界だと名前の巻物と言えば生き武器だったから、ちょっと警戒しすぎていたか。これなら普通に、オーディに手近な奴に聞いてもらっておいても良かったかもな。多分結果は今と同じく、大した収入は無し、と言ったところだろうが。

 というかそもそも、この世界でも名前によって生き武器のエンチャントが決まるか、分かんないかもしれんな。俺がエンチャント決めるときの感覚からして、完全ランダムで決まる気もする。

 

 (悪いなオーディ、簡単に名前の巻物を探してると言わない方が良いと言ったが、特に俺が心配するようなことは無かったみたいだ)

 「はい、全然構いません」

 

 オーディが小声で言うと、ディノが一瞬不思議そうな顔をして、すぐに合点がいったように表情を変えた。

 

 「そういえば君には*それ*があったな。もしかして名前の巻物というのも……」

 「はい。彼、今の名前が恥ずかしいみたいで、他の名前に変えたいから名前の巻物が欲しいって……ふぎゃっ!?ちょっ、痛い痛い!血を吸わないで!名前を恥ずかしがってるのバラしちゃったのは謝りますから!」

 

 当然の報いである。我が名前を弄る者には断固とした措置を取らざるを得ない。

 

 「もう、恥ずかしいからってやりすぎですよう……」

 「君の*アレ*は、自分の意志で血吸いを発動することができるのかね?だとしたら、呪われていることも合わせると、かなり危険なのでは?」

 「あはは、彼は本当に死ぬまでわざと血を吸ったりはしませんよ。私信じてますから」

 「まあ、君たちの問題だからな。君がそういうのであれば構わないのだが」

 

 ……最近、釣り好きがこれ以上ひどくなったら、血吸いを脅しの道具に使った方が良いのか、悩んだことがあったのは内緒だ!

 

 「はい、でもそれじゃあ、お店とかを覗いても巻物は手に入らないんですね。神託の巻物みたいに、どこかに手に入りやすいダンジョンとかは無いんですか?」

 「残念ながら、それも聞いたことが無い。すまないな、役に立てんようだ」

 「そんな!とんでもないです。ありがとうございました、またノルマが達成した時にはよろしくお願いしますね」

 「ああ、君の益々の成長を祈っているよ」

 

 そう言って、オーディが戦士ギルドを後にしようとしたその時、

 

 「誰だ!!」

 

 突如、ディノが戦士ギルドの入り口近くに向け、剣を構えた。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 「私の勘が正しければ、そこに何者かが潜んでいる。……すでに逃げたようだな」

 

 ディノは構えていた剣を下ろし、オーディに向き直る。

 そんな奴いたのか、全然気づかなかったわ。

 恐らく、探知の技能か何かで見つけたんだろうな。

 

 「そんなことまで分かるんですか!ディノさんって、やっぱりすごいんですね」

 「君も探知スキルを手に入れて研鑽を積めば、すぐにできるようになるさ。戦士ギルドでは、探知の技能も教えている。もし必要になったら、手ほどきをして貰えるだけの実績を積んで、またここを訪れるといい」

 「ありがとうございます。でも、いったい隠れていたのって、誰だったんでしょうね」

 「そこまでは分からないな。だが、隠れていたということは、疚しいことがあるということだ。もしかしたら君を狙ってかもしれないし、気を付けたまえ」

 「私を狙って……」

 

 オーディは少し顔を俯かせて考え込んだ。恐らく心当たりがあるのだろう。

 俺もきっと、同じ奴を思い浮かべている。前回この町に来たとき出会った、あのロックとかいう商人だ。

 今回も奴とは限らないが、警戒するに越したことは無いだろう。

 

 

 

 

 

 オーディは不安を感じた様子ながらも、ディノに改めて礼を言い、戦士ギルドを立ち去る。

 人目に付かなそうな路地に来てから、改めて俺に話しかけてきた。

 

 「剣さん、ここでなら話しても大丈夫……ですかね?」

 (聞かれているかは分からん、もし奴が隠密に特化しているなら、きっと俺達には見つからんからな。しかしだからと言って、もうこれ以降話さない、なんてこともできんし、聞かれてもかまわない範囲で話せばいいだろう)

 「わかりました。剣さんは、さっきの隠れている人ってのについてどう思います?」

 (十中八九、ロックとかいう奴、もしくはその差し金だろうな。それ以外に俺達について調べよう、ってやつが思い当たらん。)

 「ですよね、それでこれからどうしたらいいんでしょうか」

 (まあ、それが問題になるわな)

 

 実際、あいつがどれくらい強いのかは分からない。

 しかし、もし襲い掛かって来るとしたら、それはこちらに勝てると判断した時だろう。

 その時になって後悔したのでは、遅いのだ。

 

 (奴の狙いが俺だとしたら、問題になるのはどうやって奪われるのを防ぐかだろう。一番いいのはすぐに逃げれる体制を作ることだと思う。テレポートの巻物に杖、そして脱出の巻物なんかを常に携帯して、いつでもどんな状況でも逃げれるようにすればいい)

 「それだけ、ですか?」

 (逆に言うと、他にできることが思い当たらん。殺したところで生き返ってくるだろうし、ペットにするには相手の実力が俺達より高すぎる。逃げ続けて、相手にこれ以上狙っても無駄だと思わせるのが一番だろう)

 「そうですね。例え不意打ちで殺されたりしても、剣さんさえ失わなければいいんですから、それでいいかもしれません」

 (ああ、逃げに徹していれば、そう簡単に俺を奪われることは無いだろうさ)

 

 オーディも納得してくれたようで、さっきまでの不安そうな表情も少し和らいだようだ。

 実際、俺の呪いの繋がりのおかげで、そう簡単に俺とオーディは離れなくなっているし、逃げに徹すれば俺を盗られることについて、問題はないと俺は思っている。

 

 (そしたら、テレポートの杖やらを補充に行くか。確かこの前の依頼で結構使ってたよな、もうちょい買った方が良いだろ)

 「そうしましょうか。それにしても、名前の巻物の方は残念でしたね。ディノさんが知らないってことは、ダンジョンで運良く手に入れる以外、どうしようもなさそうです。ああ、そういえば一つ、気になったことがあったんですけど、良いですか?」

 (ん?どうした)

 「剣さん、どうして名前の巻物を探しているとばれたら、生きている武器を持っていると思われると言っていたんですか?それを聞いた時には、酒場とかで誰か言ってたのかなと思いましたけど、ディノさんが言うには、あまり使い道がないアイテムとして有名みたいでしたから」

 

 ああ、そういえばその件もあったな。いい加減、何でもかんでも酒場で聞いたからでは苦しくなってきたか。

 言ってしまえば俺が現実からの転生者なのだが、出来ればオーディにそれは言いたくないと思っている。

 

 

 

 だってそれ言ったら、思わぬところで助言をくれて、色んな事に精通している生きてる武器さんSUGEEEEE!プレイがしにくくなるし!

 オーディにはある程度親しみも感じているし、ちょっとくらい便宜を図ってやりたいと思っている。しかし俺はそれ以上に転生TUEEEEEをしたいのだ、そのためには転生というアドバンテージを俺一人で抱えておきたい。

 だから、この場もなんとか誤魔化すことにしよう。

 

 (あー、それなんだけどな……。生きてる武器だから知識としてあるんだけど、名前によってその生きてる武器が、どんなエンチャントを付けるかに偏りがあるっぽいんだよ。だから名前の巻物なんて、生きてる武器の為にあるようなもんだと思ったわけだ)

 

 まあ、まるっきり嘘ってわけじゃないが、これは俺の前世での知識であって、その上に、この世界でもそうなのかは分からんけどな。

 

 「わわ、それって大発見じゃないですか!?」

 (かもしれんけど、実際どの程度効果があるかは分からんし、何より公表しようとしたら俺のことが明るみに出るだろ。今のところは俺達の秘密にしておけ)

 「そ、そうですね。じゃあ、私たちだけの秘密です!」

 (聞きたいのはそれで全部か?それならテレポートの杖を買いに行こう)

 

 上手く誤魔化せたようで、オーディは俺の言葉に頷いて、杖を探すため大通りの方へと向かった。

 我ながら、咄嗟によくあれだけの嘘が吐けるものだ。

 しかし、酒場で聞いただけじゃあこの先生き残れないな、なんかいい感じの言い訳考えとこう。

 

 

 

 

 

 「よし、結構お安くテレポートの杖が買えました、これで安心してパルミアに戻ることができます」

 (エヘ様にはマグロがあるから、今回は魚まで買わなくていいな。早速パルミアに出発するか?)

 「うーん、出る前に一応依頼だけ見ておきましょうか」

 

 言うが早いか、オーディは掲示板の前に移動し、めぼしい物が無いかを確認する。

 

 「うーん、今受けれそうなのは見当たりませんねぇ。あ、私たち以外にも名前の巻物探している人がいます!コレクションにするんですって」

 (ああ、欲しければ依頼に出すっていう手もあるのか。……げ、でもコイツ報酬に30000gpもかけてんじゃん、これが相場だとしたら、流石に手が出ないな)

 「そうですねー、あ!ヴェルニースへの配達クエストがある、これなら帰る途中にできますね。えーと、配達物は……名前の巻物?」

 

 

 

 瞬間、俺達の間で時間が止まった、思わずオーディが走ってその場を逃げ去り、路地裏へと逃げ込む。

 

 (ちょっ、まだ何も疚しい事してないだろ!これじゃまるでヤバいこと考えてるみたいじゃんか!)

 「でもでも、一瞬頭の中をよぎりましたよね!私だけじゃないですよね!」

 

 そう、名前の巻物を配達するというクエストが出ているのだ。

 ということは、その依頼を受ければ名前の巻物が一時的にとは言え手に入る。後は……

 

 (ちょっと信用が落ちて犯罪者に近くなることさえ我慢すれば、濡れ手で30000gp手に入るな)

 「だめですよそんなこと言ったら!誰かに聞かれたらどうするんですか!」

 (落ち着けオーディ、俺の声は他の奴らには聞こえない)

 「そ、そうでしたね」

 

 しかしオーディが焦るのも無理はない。

 30000gpと言ったら、今のオーディが1月働いてようやく貯めるような額だ。

 それがちょっと物品を横に流すだけで手に入ると思ったら、少し欲が出てくるのは当然だろう。

 

 しかもこの世界では、犯罪を犯したらすぐ犯罪者になるという訳ではないのだ。

 ゲームではカルマがある程度下がったら犯罪者になっていたが、この世界ではなんでも、魂の美しさに応じて犯罪者かどうかが決まるとか。

 そのため、これまで犯罪とは無縁のオーディが此処で横流しをしても、即犯罪者にはならない。汚れた分の魂もしばらく真面目に暮らしていれば、勝手に元通りになっていくだろう。

 この状況で誘惑に勝てる者は中々いないのではないだろうか。

 

 というかぶっちゃけ、俺なら迷わずやる。

 

 「ぬ、盗みはいけないことですよね。私だって剣さん盗まれたら悲しいですもん。ああ、でも30000gp~」

 (オーディ、世の中にはやらずに後悔するより、やって後悔する方が良いよねという言葉があってだな)

 「やめて!剣さん、誘惑しないで!」

 (まあそういう事言う奴は、最終的に死んじまうのがお約束なんだが)

 「ああ、でも戒められると未練が残るぅ!」

 

 

 

 

 

 「おお、これが噂に聞く名前の巻物という奴ッスか!ありがとう、これでコレクションの幅が広がるッス。これがお礼になるッス」

 「……はい、ありがとうございました」

 

 あれから結局、オーディは依頼を受けることにした。

 自分で決めたとはいえ、やはり後悔はあるようで、少し元気がない様子だ。

 依頼者と別れ、人気の少ない所まで来たのを見計らって声をかける。

 

 (そう暗い顔すんなって、別にこれでどうこうなるわけじゃないんだから、さっさとこんな事忘れればいいさ)

 「でも剣さん、私、私……」

 

 

 

 

 

 「30000gp欲しかったですうぅぅぅぅぅ!」

 (泣くな泣くな、俺だって名前の巻物欲しかったわ)

 

 そう、結局オーディはあの後正式に配達のクエストを受け、そのまましっかりとヴェルニースへ届けに行った。

 道中では、心配していたような俺目当てでの襲撃もなく、たった今、何事もなく依頼を達成したのだ。

 まああまり、卑怯なこととかは受け入れられないタチの奴だから、こうなるんじゃないかとは思っていた。

 それでも、逃した魚のかなりの大きさには、ある程度ダメージを受けているようだが。

 

 (いっつも言ってんだろうが、前の事ばっかり引きずってないで、先の楽しい事考えてやって行けってよ)

 「グスッ、はいぃ……。じゃあ、釣具店に行って、いっぱい釣りの餌買ってきます」

 (切り替え早いなおい!というか、行きがけにも餌買ってただろう!もういいって、少し控えようって!)

 

 そして、相変わらずメンタルの復帰速度もなかなかのものだ。

 これで最近の釣りへの入れ込み具合が、もう少し軽ければ大分付き合いやすい持ち主様なんだがね。

 

 

 

 結局、俺はオーディを止めきれず、オーディは大量の餌を持ってパルミアへの帰途に着いた。

 彼女は割とルンルン気分で、マグロを捧げたらエヘカトル様どれくらい喜ぶかなー、なんて言っていた。

 対して俺は、釣りを避けモンスターの血を吸いに行くために、どうやってオーディをその気にさせ、ネフィアやら討伐依頼やらに連れ出すか、を、考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 その考えが役に立つ日は、永遠に来なくなるのだが。



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……なんだかんだ俺、剣だからなあ

 最悪の事態が起こっている。

 オーディに、ではない俺に対してだ。

 

 事の起こりはこうだ。パルミアに戻った後、俺達はいつものようにエヘ様に供物をささげるため、教会へと向かった。

 祭壇の前に立ち、エヘ様に今回の釣果であるマグロを献上する。

 1mを超す大物を献上されたエヘ様は、いつもよりも大きく『うみみゃあ!』と鳴き、とても喜んでいた。

 そこまではよかった。

 

 しかし、献上し終えて、さあ帰るかという段にフィーヌが言った一言によって、オーディと俺は凍り付く。

 その一言とは、こうだ。

 

 「オーディさん、随分と大盤振る舞いでしたね。あれ、たぶん本マグロでしょう?あの大きさだと、買ったら最低10000gpはしますよ。店に売ったとしても、きっと2500gpくらいにはなりそうでしたね」

 「……え?」

 

 マグロ、高ぇ。

 

 

 

 

 

 寝耳に水な一言を貰い、放心状態で教会を離れたオーディが、人気の少ない通りまで歩いて来て、ようやく話しかけてくる。

 

 「…剣さん、私思ったことあるんですけど、良いですか?」

 (…予想着くけど、言ってみ)

 「これ、釣りをメインにやっていった方が儲かるのではないでしょうか」

 

 

 ぐうの音も出なかった。

 もう、ヴェルニース発ってからこっち、ずっと考え続けてきたオーディを戦闘に引っ張り出す方法が、全部引っ込むくらい、ぐう正論だった。

 

 だって、今のオーディが依頼とかで1日掛けて頑張ったとしても、まあ調子いい日で4~5000gpくらいのもんですよ?

 それに対し、ネフィアに潜ったときは、一応1日当たりの報酬は10000gpを超える。

 だけど、その分ネフィアに潜りに行くまでの時間がかかるし、回復ポーションなどの投資代金も馬鹿にならないから、やはり実際の日給はガクッと落ちる。

 

 そこに、マグロ1匹10000gpだ。

 いや、流石にオーディが売りに出したとしたらもっと値段は落ちるだろうけど、もし商売としてやっていくなら、それでも十分な金額が手に入るようになるだろう。

 

 (まあ、正直釣りメインの方が捗りそうな勢いだな。お前釣りを始めてからそんな時間が経ってるわけじゃないし、まだまだ腕の方に伸びしろはあるだろう。

 ということは、今以上に収入が伸びる線が大きいということだ。そうなれば、冒険者をやるならこうして釣りで装備を整えた方が効率が良いだろう。

 そして、そもそも釣り一本で生きていくなら、もう今の時点で十分食っていけるレベルだろうな)

 「……どうしましょう」

 (……どうしましょうって言われたってなあ)

 

 ここで、俺がオーディに対して最適の助言をすることはできん。

 俺にとっての最良と、オーディにとっての最良が食い違ってしまったからだ。

 俺からしてみれば、もっと戦闘をし血を吸いたい。そのためには戦場に出る必要がある。

 オーディからしてみれば、釣りである程度金が稼げるようになった以上、それに打ち込むのがベスト。わざわざ死亡のリスクを背負ってまで、戦場に出る必要はなくなった。

 今までは、オーディが成長することで、俺ももっと上質な血が吸える、というメリットがあったから色々と助言をしても問題なかったが、こうなってしまっては今まで通りという訳にはいかない。

 

 故に、ここはこう言うしかあるまい。

 

 (まあ、お前が決めることだろう。釣りで食っていきたいのか、冒険者で食っていきたいのか。

 そして冒険者で食っていくとしても、釣りで稼いでからやるのか、あくまで冒険者として稼いでやるのかをな)

 「剣さんは、それでいいんですか?」

 

 それでいい、とは、オーディが決めていいのか、という事だろう。

 こう聞くということは、オーディの中では釣りをメインにしてやりたい、と決まっている可能性が高い。

 その上で、それでは俺が血を吸うことができないからと、気を遣ってくれているわけだ。

 もし、ここで釣りばかりはつまらないから、ネフィア潜りもしたいと言えば、オーディはそれに応えてくれるかもしれない。

 まあ此処で一番いいのは、週一回戦闘の機会が欲しいとか、オーディに頼むことだろうな。

 そうすれば、オーディは俺のために、ある程度行動に融通を効かせて"くれる"だろう。1年にも満たない短い付き合いだが、それくらいの関係は築けていると思う。

 

 

 

 だが、そんなことはしない。

 俺が本当にしたいのは、モンスター相手のちょっとしたお食事なんかではない、異世界転生オレTUEEEEEなのだ。

 お互いにメリットを提供し合う関係ならばともかく、オーディから一方的に施され、それを享受するようならば。それはもう、オレTUEEEEE等ではない、只のペットか何かだ。

 いや、この世界だとペットは戦闘員か?まあそれはどうでもよろしいが。

 故、ここでオーディに頼み事をするわけにはいかないのだ。

 

 (オーディ、俺は剣だぞ。あくまでお前に使われているだけに過ぎん。それでいいとかじゃない、そうなるのが自然なんだ)

 「そんな、使われているだけなんて!私は剣さんのことを、その、お友達だと思って……」

 (そうか、まあその気持ちは受け取るにしても、俺はお前との関係を剣と使い手だと思っている。だからお前の意志を捻じ曲げてまで、戦闘に駆り出す気はないさ)

 「でも、それじゃあ剣さんが……」

 

 (なに、別に俺が一生血を吸えなくなるってわけじゃない。

 俺は神器の生きた武器だからな、オーディよりもよっぽど寿命は長いだろうさ。オーディが死んだ後に、また別の使い手にモンスター狩りに連れ出されるだろうよ。

 それまで俺の事を、しっかりメンテナンスでもしてくれりゃあいい。オーディだって魅力を一気に上げられる俺の事を、手放す気はないだろ?)

 「それは、そうじゃなくたって、もちろん剣さんを手放す気なんて無いですけど……」

 

 ま、手放す気があるんだったら、他の戦闘意欲旺盛な奴に売り払って貰えばよかったから、むしろ楽だったんだけどな。いやはや、有能って辛い。

 だが、オーディが俺を手放す気が無い以上、俺はオーディと付き合っていくしかないわけだ。

 そして、こうして今も俺の事を気にしているオーディを、血吸いで脅してでも無理やり戦わせる、なんてことは流石にしたくはない。

 気に入らん持ち主だったらやってたかもしれんが、オーディは前世と合わせても一番かってくらいには仲がいい、だから脅すのも無しだ。そこ、お前は前世でぼっちだっただろ、一番になるの当たり前じゃんとかいうな、傷つくから。

 

 (とにかく、決めるのはお前の都合でやれ。可哀想だから、なんて気を使われたりしたら、逆に迷惑ってもんだ)

 

 可哀想がられるオリ主とか惨めなだけだからな。悲しい過去を背負ってるのね、なんてタイプのは、俺の趣味じゃないのだ。

 オーディはまだ俺の言ったことに戸惑っている様子だが、多分なんだかんだ俺の言う通りにするだろう。

 

 俺が本気で言っているってことは、きっとアイツにも分かってるからな。実際、変に気を使われた方が不愉快だし。

 30秒ほどウンウンと唸っていたオーディだったが、不意に顔を上げ、俺を両手に握って話し始める。

 

 「分かりました、剣さん。じゃあこうします、私は今のところ釣りがしたいですし、冒険者をやめるかまでは分かりませんが、しばらくの間は釣りで稼ぐことを目指すことにします」

 (なるほど、それ「でも」……ん?)

 

 「一週間に一回くらいは依頼でも何でもして、モンスター退治に行きましょう。それくらいはしないと、腕もなまっちゃいますしね」

 (はあ、オーディ、言っているだろう。俺の為じゃなく自分の為に決めるべきだってのに)

 「だから、自分の為にですよ、剣さん。たまには戦わないと、冒険者に戻りたくなっても戻れなくなりそうですし、なにより私、剣さんが喜んでるところも見たいです。

 毎日っていうのは大変ですけど、週に一日くらいなら、モンスター退治しに行ってでも」

 

 

 そう言ってオーディは、にこりと笑う。

 そうきたか。

 いやもう、どう反応していいものやら。

 

 (ああ、うん、そう。なら、うん、いい、のか?)

 「あ!剣さんが照れてます!珍しい」

 (照れてねーよ。ちょっと面食らって、如何返していいのかって、分かんなくなっただけだよ)

 「言っておきますけど、なんて言われても変えたりしませんからね。だって、本当にそうしたいんですから」

 (あーはいはい、分かった分かった。そんじゃあ、そういう事にさせて貰おう)

 

 こうなったからには、オーディは自分のやりたいことを曲げはしないからな。

 ここは、オーディがそうしたがっているから仕方ない、ということにして、有難くその通りにさせて貰うとしよう。

 

 なんつーか、いい奴なんだよなー。異世界転生してオレTUEEEEEしたいとか言っているような、捻くれボッチには少々眩しすぎる。

 まあ、これでこっからの方針については決まった訳か。

 取りあえず、しばらくは釣りに専念して金を稼いでいく。

 で、冒険者を続けるかどうかについては、ゆっくり考えると。

 

 「それじゃあ、今日は宿屋に行って休んでしまいましょうか。ヴェルニースからこっち、警戒続きで一睡もできなかったから、ちょっと眠たいです」

 (了解だ、時間的にはもう夜に近いしな。冒険者に時刻は大して関係ないとはいえ、まあ丁度いい頃合いだ)

 

 

 

 オーディは、いつも泊まっている宿へと向かう。

 冒険者である俺達には、町に決まった住所というものはない。

 オーディは俺と出会う前、大抵野宿をしていたそうだが、俺と出会ってからは出来るだけ、宿を借りるようにしている。

 

 理由は二つ、一つは成長ボーナスが付く可能性が高いからだ。

 ゲーム世界においては、良質な寝床があればあるほど、そこで寝た時に潜在能力が上昇する仕様になっていた。

 この世界でも、それが再現されている可能性は高い。

 流石に王様ベッドを使うことは、一冒険者であるオーディにはできないので(というか、当然と言えば当然だ。だって、そこで王様が寝るんだから)、宿屋に行って部屋を借り、そこで寝るようにしている。

 宿屋である以上、多少金はかかるが、大した値段にはならない。

 

 ベッドなどを買って、這い上がり拠点などで寝た方が、最終的な金銭効率が良いのでは、という意見もあるかもしれないが、そこで二つ目の理由が出てくる。

 宿屋で寝るということは、周りに人が居る状況で寝れるという事。

 すなわち、盗難などの被害にあう可能性が低いのだ。

 この世界では、盗みが成功してしまえば、その物品の所有権がその人間に移ってしまう。

 そうなってしまえば、もう盗まれた品を正当な手段で取り返す術はない。既にそれは盗んだ奴の物になっているからだ。

 

 宿屋で寝るということは、そういった自衛も兼ねている。

 いくら俺がオーディが寝ている間も警戒をしているとはいえ、視界や注意力の面などから限界がある。

 俺を始めとする、様々な貴重品を守るためには、ある程度の投資が必要だ。

 その点、宿屋で寝ていればそれだけで、怪しい人間がこの部屋に入ろうとした時、店主がそれに気づいてくれるという訳だ。

 この世界では、窃盗は殺人以上の大罪である。その分周りの人間も盗みに対して敏感で、そういった犯罪を積極的に止めようとしてくれるから、中々に安心できるのだ。

 

 俺達が宿屋で寝る理由についてはそんなところなのだが、宿屋の利用者には、俺達が知るだけでもう一つ目的をもっている奴等がいる。

 

 「あら、あなた中々に見どころがありそうな顔してるじゃない。どう?私と夢のような一夜を過ごしてみない?」

 「え?え?」

 

 声をかけてきたのは、ピンク色の髪をした化粧の厚い女だ。

 服装は非常に露出が多く、見ただけで商売女かと思わせるもので、剣になった俺から見ても、まあ扇情的だなと思わせる所がある。

 

 そう、娼婦との『気持ちいい事』に及ぶための場所としても、宿の部屋は使われているのだ。

 ダルフィならいざ知らず、このパルミアでは道の真ん中で情事を行われたりすることはまず無い。

 人の邪魔になるし邪魔をされるし、そもそも如何に無法地帯のノースティリスとはいえ、余り道徳的によろしい行為だとされているわけでもない。それは、ゲームでカルマが下がることからも明らかだ。

 なので、そういった相手に乏しい冒険者が利用する宿屋の中で、そういった行為が行われているのだ。

 まあ、ラブホだわな。

 

 「私、娼婦のジェンって言うの。税金を納めるためにわざわざダルフィから来たんだけど、折角の夜なのにお相手が居なくて寂しかったのよ。

 腕が3本あるってことはカオスシェイプでしょ?その割には中々見れる顔してるし、カオスシェイプの人としたことが無かったから、誘ってみようと思って。私からお誘いした分、お値段の方はお安くしておくわ、1200gpでどう?」

 

 なるほど、何でオーディに声をかけたのかと思ったら、そういう事か。

 これまでオーディは、こういった類の勧誘を受けたことが無い。見た目がどうとかの話ではなく、この町の娼婦が少ないため、一人当たりの需要が多く、娼婦が自分で声掛けをするということ自体少ないのだ。

 だが、この町で商売をやっているわけでないジェンとやらには、固定客というものはない。

 そのため自分から声をかけてきた、という訳だ。

 1200gpというのは、相場と比べても安そうだし、声をかけた理由としてはカオスシェイプのオーディに興味を持ったというのが大きいのだろう。

 

 ちなみに、オーディは自分からそういった所に行くタイプではないので、これまでは気持ちいい事をしたところを見たことが無い。

 俺を持つ前はめっちゃ不細工だったし、多分未だにそういったことをしたことは無いだろう。

 その為か、オーディの奴、めちゃくちゃキョドっている。

 

 「えと、えと、つまりそういうことですよね?でも、ジェンさんって女の人じゃあ……」

 「結婚をするならともかく、『気持ちいい事』をするだけよ?別にそんなに気にすることないじゃない。それとも、私の事お気に召さない?」

 「いえ、そういう訳ではないんですけど、こう踏ん切りがつかないというか。ど、どうしましょう」

 

 オーディが、ツンツンと俺の事をつついてくる。

 多分これは、どうしましょうは俺に向かって聞いていて、アドバイスが欲しいんだというアピールだな。

 

 (流石に風俗の事まで知らんぞ。それこそお前が決めればいいだろ、金を出してまでヤリたいかどうかだ)

 「う、うう……」

 

 オーディは、カオスシェイプの血から来る青白い肌を赤く染め、もじもじとしている。

 ああ、これ絶対したいけど恥ずかしくて言えない奴だわ。2ポンド賭けてもいい。

 

 「じゃ、じゃあお願いします。えっと、1200gpですよね、こちらどうぞ」

 「はいはい、前払いとは気前がいいじゃない。それじゃあ部屋行きましょうか、どの部屋なの?」

 「あ、まだ部屋を取っていないんです。今からとってきますね」

 

 そう言って、オーディは宿屋の店主の下へと向かう。

 二人部屋を注文すると、店主は訳知り顔で無言で部屋の鍵を渡してきた。

 オーディは気恥ずかしげに鍵を受け取ると、ジェンの奴を連れてその鍵の部屋へとイソイソ入っていく。

 

 部屋に入ると、オーディは俺の事を鞘にしまった。

 この鞘は、町の武具店で作ってもらった俺の置き場所だ。

 呪われている俺は装備から外すことができないので、寝るときなどは腰についている、ここに仕舞われることになる。

 オーディは、『気持ちいい事』を覗かれたくないので、鞘に納めたのだろう。

 まあ、普通はそうするだろうな、見られながらがいいような変な性癖があるようには見えないし。

 俺としても、別に残念って訳でもない。

 剣の俺は、美的価値観こそ生前と同じく人間に沿っている者の、別にそういった行為に対する欲求は大して無いのだ(少しはあるとは言う、本当に少しだけどな)。

 どちらかと言うと、そんな可愛い女の子たちの血液を、じわりじわりと吸い尽くしたい。自分の中で、自分とまぜまぜしたい。

 まあ、俺の性癖に興味あるやついないだろうけどな。

 

 「それじゃあ、始めましょうか」

 

 と、どうやらおっぱじめたようだな。

 口づけの音の後、ドサッという音と共に、ベッドに倒れ込んだらしき衝撃がする。

 そのままスルスルと衣服と体が擦れる音が聞こえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 キングクリムゾン!結果だけだ!この世にはオーディとジェンが『ねうねう♪』したという結果だけが残る!

 

 

 

 

 

 

 

 20分ほどして、どうやら行為は終わったようだ。

 鞘の外からは、荒い息遣いと、「もうムリですう」等と朦朧としながら言っている、オーディの声だけが聞こえる。

 

 これって短いんだろうか、長いんだろうか。比較対象が無いからわからん。

 

 しかし、こうなると外の様子見えないし暇だな、オーディは初めてのそれで、グッタリと倒れているようで動く気配がない。

 さっさと起きてくれるといいのだ、が……?

 

 なんか、違和感がある。

 体の何かが解れていく感じだ、別に体に異常があるという訳ではないのだが、何かが起こっている気がする。

 ……待てよ、この解れていくもの、どこかで覚えがあるような気がする。

 そう、ずっと前だ、それこそ俺がこの世界に来て間もない頃……。

 

 !

 これは装備者との繋がり、すなわちオーディとの繋がりだ。

 何かよくわからんが、呪われていて外れないはずの俺とオーディの繋がりが、切れそうになっている。

 

 (オーディ、起きろ!なんか知らんが取りあえず起きろ!)

 「うきゅう、許してぇ……」

 

 駄目だな、完全におかしくなっている。

 ゲームの中でも、気持ちいい事をした後は不安定になり、狂気に陥ることがあった。恐らくそれだろう。

 やむを得ん、血吸いをしてでも無理やり覚醒を促して……。

 これも駄目か!オーディとの繋がりがあやふやになっているせいで、まともに血を吸うことができん。

 ……いや、血を吸うことができる?

 オーディではない何かから、俺は今、血を吸い取っている。

 

 「っちちち!こらこら、ええ子にせんかい。ちょっと吸われたくらいで死にゃせーへんけど、やっぱりキツイもんがあるわ」

 (その声、聞き覚えがあるな。ポート・カブールで)

 「お、正解や。よう覚えとってくれたなあ、ウチ嬉しいで?」

 

 ……薄々可能性に思い当たってはいたが、やはりこいつあの時の商人、ロックとかいう女か。

 恐らく、あのジェンとかいう女はロックの変装だったのだろう。

 宿屋の部屋に潜り込み、安全に盗みを働く為に娼婦に成りすましていたのだ。

 そして、俺が話しかけたことに驚かないということは、俺と言う存在についてバッチリ把握しているとみてよさそうだ。あの襲撃の時以外でも、こっそり隠れて情報収集をしていた可能性が高い。

 まったくもって、用意周到なことである。

 

 「お嬢さんに話しかけても無駄や。やってる間に少しずつ、口移しで媚薬と睡眠薬飲ませて、その上散々ヘロヘロにしたったからな。しばらくは起きんで」

 (で、その間に俺を盗もうって訳か。それだけ手間をかけてまで俺が欲しいって?)

 「おうよ、これでもウチはこの界隈で、生きてる武器の専門家で通っとるからな。そのウチがこんな掘り出しもん放っとくなんてありえんへん。評判ガタ落ちや」

 (ふむ、なるほどな。いくらなんでも、商人が武器一つに執着しすぎじゃないか、と思ったらそういう訳か)

 

 つまり、物珍しい生きている武器を専門としている以上、俺みたいなやつを取り扱えれば店の評判が上がり、逆に取り扱うことができなければ評判が下がる、ということだろう。

 そして評判が下がることを気にする、ということは俺たちの存在を知っている人間が、ロックの他に居るということだ。そうじゃなければ評判の落ちようがないからな。

 ならば遅かれ早かれ、こうなるのは必然だったかもしれんな。

 生きてる武器を駆け出し冒険者が持っている、と有名になれば、力づくで奪いに来たがる奴はいくらでもいるだろう。

 

 「さて、盗みを働きながらで悪いけど、物は相談や。そうやって警戒すんのはやめて、素直にウチの物にならん?アンタとお嬢さんが仲ようしとるのは知っとるけど、最近殺し合いは少な目なんやろ。溜まっとるんとちゃう?」

 (そこまで調べてきているわけか。それにしても、生きてる武器が血を吸う事が喜びだと知ってるとは、随分とその方面にお詳しいようだな)

 「言ったやろ、生きてる武器の専門家やって。まあ、色々と実験とかがあって、生きた武器は強い生物の血を好むと分かったんや。ウチがやった訳や無いけど、お得意さんが教えてくれてな。

 で、お嬢さんとお別れする気はないんか?装備した瞬間、あんたが血吸いし続けてくるようじゃあ、商品にならんからな。ウチとしては、出来れば合意の上で手に入れたいんや」

 

 おおっと、只じゃあらへんで。といいつつ、ロックはゴソゴソと音を立てる。

 

 「ほれ、アンタが欲しがっとった、名前の巻物や。もしウチの物になったら、これで改名したるで。今の名前、気にいっとらんのやろ」

 

 なるほど、当然そのことも知っているだろうな。

 そして、商人のネットワークか何かで、どうにかそいつを手に入れた上で接触したわけか。

 

 (……鞘に入ってるから、出されても見えないのだが)

 「おっとこいつは失礼、てっきりその状況でも周りが見えとんのかと思っとったわ。これでどうや?」

 

 そういうと、ロックは俺の事を掴み、鞘から引っ張り出す。

 視界の中には、ベッドに倒れているオーディと、別に鑑定結果が分かるわけではないから、結局『名前の』か分からない巻物、そして見慣れない茶髪の女がいた。

 年の頃20代半ばと言った所か。背丈は女性にしては高く、小狡そうな顔をしている。

 こいつがロックだろう、ジェンの時とは似ても似つかない顔だ。

 俺の事を抜き取りながらも、窃盗の手は休めていないらしく、どうやってかは分からないが、どんどんオーディとの繋がりが外れていく。

 

 (そいつが名前の巻物か……。まあ盗まれるのはもう止められんだろうし、この際主人の鞍替えはいいだろう。オーディの事は気に行ってはいたが、別にあいつに拘るほどでは無いからな)

 「お、そうなんか?あの嬢ちゃん『お友達~』とか言ってたから、てっきりアンタの方もそんな感じなんかと思とったわ」

 

 まあオーディの方は確かにそんな感じだな。俺の事を手放す気はないとか言ってたし。

 しかし、だからと言って俺の方はそんなでもないんだよな。

 

 オーディと会ったのは、元々エヘ様が持ち主を連れて来てくれただけだし、その後オーディの物だったのも、只の成り行きだ。

 別にオーディと約束をしたわけでもないし、俺がオーディを主人にしなければならない、という理由はどこにもない。

 

 さっき、オーディを無理に起こそうとしたのも、あくまで今は俺の持ち主だからだ。

 そうでなくなれば、特に奴を守る理由はない。

 

 (結局のところ、俺は只の剣だからな。俺が人間だったらアイツは友人として良い奴だったかもしれないが、行動を共にする主人としては微妙だ。……ただ、お前の売り先が、また平和主義者なんかだと困るんでな。新しい持ち主については少々口出しさせてもらうぞ、それが条件だ)

 「よっしゃ、交渉成立やな!盗みの方も終わった、そろそろ退散させてもらうとしよか」

 

 確かに、オーディとの繋がりは完全に切れたようだ。今まで感じていた繋がりは消えているし、俺の効果によって変わっていたオーディの顔が、最初の頃のような悍ましいとさえ形容できそうなソレに、みるみると戻っていく。

 

 「うっわ!嬢ちゃんが急にブッサくなりおった!なんやこれ、呪いか何かか?」

 (ああ、そいつは元々そんな感じだ。俺の魅力ボーナスで、今まであの顔になってただけでな)

 「ほう、どれどれ……。うわっ、エンチャント山盛りやんけ!こりゃええもん手に入れたわ、呪われててもお釣りがくるやん。商人にとってこんなええ装備ないわ、私も装備しとこ」

 

 そう言うと、ロックは俺の事を装備する。

 変化はすぐに表れた。ロックの場合元から中々に見れる顔だったため、劇的な変化こそなかったが、それでもどこかのアイドルか、と思わせる程度には整った容姿へと変わっていく。

 小狡そうな感じは変わらないが、それでも街中ですれ違えば、つい振り返ってしまいそうなレベルだ。

 ロックは自分の顔を見るため、持っていた変装セットの鏡で、顔を確認する。

 

 「っはー、こいつは半端ないわ。これなら、バンバンお客さんに吹っ掛けられそうやわ」

 

 まず出る感想がこれか、こいつ根っから守銭奴っぽいな。

 あんまり人間的には俺の好みじゃなさそうだが、俺の機嫌を取るために、名前の巻物を用意するという姿勢は悪くなかったし、何より新しい持ち主様ってやつだ。

 まあ、関係が悪くならない程度には融通してやろう。

 

 (そうそう、そいつ謎の貝っていうアーティファクトも持ってるから、そいつも盗んでおいたらどうだ?音耐性やら、神の声が聞こえたりやら、結構使えると思うぞ)

 「アンタ、元持ち主様に対して、中々にえげつないな……」

 (別に、あいつが持ち主だったから味方をしていたってだけだ。アンタが持ち主だってんなら、当然そっちの手助けをするべきだろう)

 「まあ、ウチは得しかせんからええけども。ほんなら、そいつも頂いてくとしよか」

 

 そう言って、ロックはオーディの首飾りへと手を伸ばす。その時

 

 「うぅん……、ぇえッ!?あ、あなた誰ですか!?」

 「っち、もう起きよったか。割と早かったな」

 

 オーディのやつが目を覚ましたようだ。残念ながら、謎の貝の奪取は無理そうだな。

 ロックもそう判断したようで、瞬時にオーディから距離を取る。

 

 「その声、確かロックさんですか!剣さんは渡しませんよ!」

 「ざーんねん、そいつはもう頂いたあとなんや、ほれこの通り」

 

 ロックが、手元の俺を見せびらかす。

 オーディの只でさえ青白い肌から、更に血の気が引き、慌てて腰の鞘を見るがそこには俺はいない。

 

 「それは私のです、返してください!」

 「返せって言われて返すわけあらへんがな。嬢ちゃんの剣君も、ウチの物になるって言うてくれたで」

 「う、嘘ですよね、剣さん!」

 (本当だ、と言ったところで聞こえはしないけどな)

 「まあ、こうして血吸いで死ぬ様子が無いってのが何よりの証拠やろ。それより嬢ちゃん、今度はその首飾り売らへん?中々ええもんやって聞いたんやけど」

 

 俺がロックの物になっていると聞いたオーディは、打ちひしがれた様子で項垂れており、ロックの声が耳に届いていないように見える。

 

 「んー、聞こえとらん見たいやな。もし万が一乗ってきたら儲けもの、って思っとったんやけど。ああ、でもこの様子やったら、もしかしたら無理やり取れるんとちゃうか?」

 

 ロックはそう言って、改めてオーディへと近づく。

 すると、オーディは急にグイっと顔を上げ、バックパックから一つの杖を取り出した。

 

 「うわあああああああああ!」

 「おお?なんや、杖なんか取り出して、テレポートで尻尾撒いて逃げるんかいな」

 (……いや、あの様子から見ておそらくあれは、)

 

 俺がいいきるより前に、オーディはそのしわがれた声で叫びながら、やたらめったらに杖を振り始める。

 あれだけ取り乱したオーディを見るのは、初めてかもしれんな。

 と、そんなこと言ってる場合じゃなさそうだ。

 部屋の中は見渡す限り、モンスターで埋め尽くされ始めた。

 

 「ちょっ、あれモンスター召喚の杖かい!」

 (ああ、しばらく前にダンジョンで拾った奴だ)

 「やけになって振ってるって訳やな。でも幸い、出したモンスターはあの嬢ちゃんの味方って訳や無いし、大した脅威にもならんやろ、そんなら隙をついて首飾りを取って逃走を!」

 (それはやめたほうが良さそうだな、右斜め前をちょっと見てみろ)

 「あん?……げっ!」

 

 そこには、オレンジ色の刺々しい岩の塊が居た。

 敵味方構わず、場合によっては高位の冒険者すら一撃で吹き飛ばす、と言われる冒険者たちの恐怖の象徴、

 

 

 ……爆弾岩だ。

 

 「あ、あれはあかん!しゃーない、さっさと撤退や!」

 

 そういって、ロックは腰のバックパックからスクロールを取り出し、聞き取れないような超早口で、一瞬で読み上げる。

 すると、空間が歪み、気付くと俺達は宿屋の前へと転移していた。

 恐らくショートテレポートの巻物だろう。

 ふと、宿屋の方向へ目線を向けた瞬間、『ズドン!』という爆発音が、宿屋から聞こえた。

 

 「あーあー、派手にやったもんや、ありゃ絶対死んだやろうな。ま、目的は達成したからええわ。よろしくやで、えーと、なんて呼べばええやろかな」

 (オーディの奴は剣さんって呼んでたな、まあ呼び方についてはお前に任せるさ)

 「うーん、じゃあ名前からとってぼっちゃんで(そうしたらお前を吸い殺す)……任せとらへんやんか。せや、後で早速名前の巻物つこーたるわ、あだ名についてはその時決めるとしよか」

 (あだ名なのは決定なのな……)

 

 そういいながら、爆発で大騒ぎになっている宿屋を後にする。

 

 半年以上の付き合いであるオーディと完全に別れたというのに、不思議と大した感慨は湧いてこない、むしろロックと一緒にいる方が自然に感じる程である。

 これは、俺の性格の問題なのだろうか、それともこの世界ではこれが普通なのか、はたまた俺が剣だからなのか。

 ……呪われてるから、そっちに引っ張られてるとかだったりしてな。

 

 まあ、そんな事には大して興味はない。

 せっかく、もっと強い敵を斬らせてくれる持ち主に、会うことができる可能性が出てきたんだ。

 それを楽しみに待つとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、オーディはいつもの拠点で目を覚ましていた。

 まだ定まらない頭で、腰の辺りを探る。

 そこには、最近いつも居た剣はいなかった。

 

 「剣さん、なんで、どうして……」

 

 どうして行ってしまったのか、何が悪かったのか、私の事を友達だと思ってくれていなかったのか、釣りばっかりしてたから、嫌われてしまったのか。

 そんな疑問ばかりが頭の中を渦巻いている。これからどうすればいいのか、なんて考えたくはなかった。

 

 それでも、10分も経つと大分頭が冷えてくる。

 だが、だからと言って何か状況が好転するわけでもなかった。

 あの、自分の最大の短所である、醜い顔を覆い隠してくれていた剣は、もうこの手にはないのだ。

 

 「どうすればいいんでしょう、これじゃあ、街に行っても追い出されちゃうかもです」

 

 少し前まで自分に向けられていた、あの嘲るような、恐れるような表情を思い出す。

 その頃は、それが普通だったから耐えられていた。

 これまでは、もうその記憶から解き放たれていたから、気にならなかった。

 だが、人から温かい言葉を向けられることを知り、友達、だと思っていた存在ができた今、またその表情を向けられることに、耐えられそうになかった。

 

 あの温かい世界を知ったからこそ、今自分がいるこの冷たい世界が怖い。

 剣さんはこれからは楽しい事しかないといったけど、また自分はこの世界に逆戻りしてしまった。

 

 そう言った彼が離れて行ったからだ。

 だからといって、彼を責める気にもならなかった。

 そうしても、どうにもならないからだ。

 

 ふと、視界の端に丈夫そうな縄が見える。

 あれなら、自分がぶら下がってもちぎれないだろう。

 ……逃げてしまえばいいのではないか?

 あれで自分の命を絶って、そのまま埋まってしまえば、もうこれ以上辛い思いをすることは無い。

 

 それは、一度頭の中に浮かぶと、酷く魅力的な輝きを持って、オーディを誘って来た。

 

 そうだ、自分はもう十分頑張ったじゃないか、それでもどうにもならなかった。

 もう諦めてしまえばいい、これからいくら頑張ったって、きっとあの剣が居た時のような喜びを、また味わうことはできないだろう。

 

 手が勝手に動いた、近くにあった枝に吊るし、その前に立っている。

 心臓がドクドクと鳴っている。

 涙は出ない、もう何も感じる気がしなかった。

 

 そして、縄に向けて手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”奇跡”が、起きた。

 

 そこには、純白のローブを着た、翼を生やした美しい女性がいた。

 

 彼女は、オーディに勢いよく抱き着き、強く抱きしめたまま地面へと押し倒す。

 

 

 

 「そんなこと、絶対しにゃいで!ずっと一緒に居てくれるって、約束して!して!」

 

 「エヘカトル、様……」

 

 

 幸運の神は、いつもの様子からは想像もつかないような毅然とした顔で、オーディに強く語り掛けてくる。

 

 ああ、何で自分は忘れることができたんだろうか。

 いつでも見てくれてるって、知ってたはずだったのに、守ってくれてるって、分かってたのに。

 

 今まで我慢してきた涙が、自然と流れてきた。

 悲しいからではない、心の底から、安心することができたからだ。

 

 

 「……ごめんなさい、ごめんなさいっ!エヘカトル様ぁ!ありが、とうっ、ありがとうっ!」

 「うみみゃあ!」

 

 エヘカトルは誇らしげに一声鳴き、ただただ、自らの子をあやすように、両腕の中のオーディを抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 あれから、1時間は経っただろうか。

 エヘカトルはもういない、オーディが立ち直ったと知ったとき、いつの間にかいなくなっていた。

 だが、もはやオーディの心の中に不安はない、自分の輝きを信じて、見守ってくれている存在を知っているからだ。

 その横では、いつの間にやらそこに居た黒猫が、「にゃあ」と鳴いている。

 

 「あら、かわいい猫さんですね。一緒に行きますか?」

 「にゃ!」

 「ふふ、じゃあ行きましょうか」

 

 もう、自分が折れることは無いと、オーディには自然と理解することができた。

 たとえ自分が何もかも失ったとしても、信じられるものがあれば、また立ち上がることができる。

 

 「目指せ、最強冒険者です!」

 

 心安らかに、しかし確かな闘志を秘めて、オーディは新しい冒険への一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ※後書きです、そういうの要らない人は、読み飛ばしてください。

 まず最初に、オーディちゃんと主人公の更なる冒険を待っていた人、ごめんなさい。
 オーディちゃんとの冒険はここまでとなります。

 途中で持ち主を変えるのは、最初から決めてました。
 折角剣を主人公にしたので、色々なプレイスタイルの人間と付き合わせようと思ってたので。

 それどころか、最初のプロットだと、オーディちゃんここでそのまま埋まってもらう予定でした。

 純粋だったオーディが、人にちやほやされ始めて調子に乗ってきて、だんだん自分の都合を優先させ始める。
 徐々に主人公との間に溝ができていくオーディ、しかし彼女は対人経験が少ないので気付かない。
 そこで主人公を奪われ、全てを失ったオーディは、失意のままに埋まることとなる。

 こんな流れだと、主人公に感情移入しやすいだろうし、何より呪われた武器の物語らしいんじゃないか、という判断でした。

 でも、4話目だ5話目だか辺りを書いてるうちに、こんな疑問が頭をもたげ始めました。


 クミロミ様が心配しながらも傍観し、
 ルルウィ様が呆れて立ち去り、
 オパートス様が只いつも通りにある中で、
 唯一抱きしめて、『死なにゃいって約束して!』と言ってくれるあのエヘカトル様が、黙ってオーディを埋まらせるのか、と。

 結果、このような終わり方になりました。

 その分オーディちゃんが大分天使になり、読者の方々が主人公に感情移入しにくくなったんじゃないかと心配です。
 でも、その代りにこれ以上盛り上がるところ、これ以降に作れるか?って個人的には思うくらい、自分では納得できる終わりをオーディちゃんにプレゼントできたので、後悔はしていない。


 さて、これからしばらくは、ブラックマーケットの生きてる武器担当商人、ロックとの旅になります。

 自分の作品なわけですから、自分にとっては気に入るキャラに作ったのですが、サブ主人公だったオーディちゃんから無理やり剣を奪ったわけです。
 読者の方々が、あまり彼女にいい印象は持てないんじゃないかなー、とか心配してます。

 でもご安心(?)下さい!
 関西弁書くの思ったよりきついので、多分早々に退場します!

 まあ、何が安心できるのかわからない上に、彼女の次も大分クズい相棒の予定なんですけどね


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全然平気だし、マジだし

 今、俺とロックは、ダルフィにある裏通りで露店を構えている。

 治安の悪い事で有名なダルフィだが、商品を並べても盗んでいこうなんて奴はそうそういない。

 街の中でも影響力のある、ブラックマーケットの店主相手にそんなことすれば、犯罪者や屑の溜まり場であるここですら居場所を無くす。

 それを皆、理解しているからだ、

 

 たった今、一人の男との取引を終え、金と商品の引き渡しあいが行われた。

 

 「毎度おおきに!またエエもん仕入れるさかい、見に来てやー」

 「ああ、生きてる武器が売ってる店なんざそうそうないからな、また来させてもらうさ」

 

 男もロックも、満足そうな顔で別れの挨拶をする。お互い納得のいく取引となったのだろう。

 どちらも喜べる形で商談をまとめ、リピーターも確保するロックの交渉術は、流石と言った所か。

 

 

 

 「いやー、あの斧ええ値段で売れよったわ、見たとこ大した切れ味もなくて、10万ちょっとってとこだったのが、11万gpや!」

 

 少し訂正しよう、取引の内容はあまりお互いが喜べるはずのものでは無かったようだ。

 

 (ぼったくりか、いい商売してんな)

 「そんなんとちゃうって、カワイイ女の子の前ではええカッコしたいもんや。ウチはその本懐を遂げさせたってるだけー」

 (所詮、武器のエンチャントによるまがい物だろうに、悪びれもなくそれを言える所は褒めてもいいんじゃないか?)

 「もー、またそないなこと言うて。折角の旅の連れなんやから、仲ようしようや?アレについてはウチだって想定外やったし、謝ったやんか。久しぶりに連れができたのに、いつまでも拗ねっぱなしとか、ウチ悲しいわー」

 (はあ?何回も言ってるけど、俺全然気にしてないし?これが俺の素だから)

 

 

 

 

 

 話はオーディと別れてからすぐの頃、そう、3日ほど前にまで遡る。

 宿屋の爆発騒ぎから逃げ出してきた俺達は、町から少し離れた見晴らしのいい草原に来ていた。

 

 「うっし、ここなら安全やろ。よーし剣君、お待ちかねのお名前変更の時間やでー」

 (流石に気分が高揚します)

 

 生前のネタを言ってみた所、急に何言ってんだコイツ、的な目で見られたので、何でもないと返しておく。

 オーディの時もよくこんな感じの反応あったな、大胆なパロネタは転生者の特権だからやめないけど。

 

 「じゃあ読むさかい、気合入れやー」

 

 そう言って、ロックは先ほど俺に見せたスクロールを拡げ、俺に向かって読み上げる。

 なるほど、俺に対して何らかの力が働いてきているのが分かる、恐らくこれが名前を変える力なのだろう。

 

 さあて、どんな名前になるのか。確かゲームでは幾つもの並べられた名前から、1つ好きな名前を付ける方式だったよな。

 この世界ではどうなのかは分からないが、もしゲームと同じく選べるのなら、変な名前になる可能性は万に一つ、億に一つもない。そうでなくともまあ、今の名前より酷くなることはそうないだろう。

 さあて、どんなもんかロックに聞いてみるか……って?

 なんでアイツ、困ったような半笑いを浮かべてるんだ?

 

 「えーと、初めに言うとくけど、この巻物、呪われてるって訳や無いからな?ウチはお客さん以外ならともかく、自分の取引相手には誠実にがモットーやし、今回の場合しっかり使う前に鑑定してきてあるんや」

 (……?おう、それで?)

 「ま、見た方が早いか。えーっと、多分この中から名前を選ぶんと思うんやけど」

 

 ふむ。

 俺は、ロックから突き出された名前の巻物、厳密にはそれに浮き出ている文字へと目を向ける。

 

 

 

 こんなんばっかだった。

 

 『エターナル・ぼっち』

 『友達のいない翼』

 『孤高という虚構』

 『ずっとひとりぼっち』

 『知り合い亡き寂しさ』

 ……

 ……

 

 

 

 こ ん な ん ば っ か だ っ た。

 孤高と言う虚構とか、ちょっと韻踏んじゃったりしてんのが逆に腹立つ。

 

 いや、しかしさすがにおかしいだろう!

 名前の巻物はどういった名前が出てくるかは、予め決まっていたはずだ。

 現実世界に代わって法則が変わったにしても、いくら何でもこんなのばかりが出てくるとは思えない。

 

 十中八九、何かしらの問題が発生していると見ていいだろう。

 問題とやらが何なのかが分からないのが、そもそもの問題ではあるが。

 一つ心当たりがあるとしたら、やはり、俺が願いの神の力によって転生したことか。

 その場合、願いの神に頼まないと改名できないかもしれないし、最悪願いの神でも変えられないかもしれない。

 

 その後、ロックがゲームで言うリロールをする方法を見つけて、巻物に浮かんだ名前を変更した。

 そして当然というかなんというか、それで浮かんできた名前も、『わたし・ロンリネス』だの『究極的な孤立』だの、俺を煽るような名前ばかりだった。

 ご丁寧に、毎回リロールの一番上に、『エターナル・ぼっち』を置いてくるのも苛立ちポイントである。

 

 

 

 結局ロックは、「取りあえず、今回はこれくらいにしとこか」と言って、名前を変えずにこの件を終わらせた。

 御蔭で未だに俺の名前は<<エターナル・ぼっち>>のままだ。

 

 別にロックが悪いわけではない上、あの後あっちの方から「こうなるとは思わなかった、約束を不完全なものにしてしまって済まない」といった内容の謝罪もしてきた。

 だが、ようやっとこの名前からおさらば出来ると思った矢先にこれでは、少々不機嫌にもなるというものである。

 結果、あれからずっと、ついついトゲの入った対応を取ってしまっているのだ。

 

 ……別にそのことについては忘れてきているのだが、何だか世渡りが上手そうなロックの客対応を見て、

 友達の輪に上手く入れなくて一人で過ごした学校生活や、取引先を怒らせてよく怒鳴られた、外回り時代等を思い出し、

 ちょっとした僻み根性が湧いてきた訳では……ほんの少ししか無い、と言い訳を付け加えておく。

 

 しかし、結局会話ができる相手なんかはこのロックしかいないわけだ。

 ある程度の歩み寄りは必要、色々と聞いてみるとするか。

 

 (なあ、この3日お前と行動してきたが、商品を眺めて帰った奴はいても、商品を買うまでいった奴は、さっきの斧買った奴が初めてじゃないか。そんなんで商売やって行けるのか?)

 「お、なんやウチの事心配してくれてるん?優しいやんか、エタやん」

 (そのエタやんっていうのもあまり気に入ってないんだがな……)

 

 エタやんと言うのは、ロックの奴が考えた俺のあだ名だ。

 エターナル・ぼっちの、頭からきたあだ名らしい。

 俺としては、こんな名前から来たあだ名は面白くないと言えばない。

 だが、ロックにあだ名は何でもいいと言ってしまったし、何よりぼっちからとった、ぼっちゃんよりはマシなので、甘んじて受け入れている。

 

 (別にお前だからという訳ではないが、新たな持ち主が見つかるまでは、一応俺の持ち主なわけだからな。商売繁盛しているのか位は気になるさ)

 「はいはい、全く素直じゃないやっちゃなー。話し相手が欲しくて仲ようしたいんなら、そう言えばええのに」

 

 そう言って、ロックは片目をつぶって、ふうと息を付きながら肩をすくめる。

 いや、話し相手が欲しいのは事実だが、そんな感じで言われると腹立つな、まあ今まで邪険にしてきた俺にも原因があるのだが。

 

 「まあ商売の方は心配するようなことあらへん。ブラックマーケットってのは、通常の仕入れルートでは手に入らないような掘り出しもんを売る店や。その分価格設定なんかは高めやから、そうポンポン売れるもんでもないんよ。

 しかも、ウチの店は生きてる武器専門やから値段も相当お高め、1週間に1つ売れれば上々ってとこやんな。

 ま、そう簡単に幾つも売れた所で、生きてる武器がその分入荷できるわけやなし、これくらいで丁度ええんや」

 (なるほど、まあ確かに今の斧だって10万gp以上なわけだからな、仕入れがいくらかは知らんが、利益は十分手に入るのか)

 「そういうこっちゃ、ちなみにあの斧は3万gpでとある冒険者から買い取ったもんやで」

 (利益率たけぇな!?)

 

 およそ仕入れ値の3倍の価格ってとこか。

 確かゲームの中でもそんなもんだったし、ここら辺の相場みたいなのも、そっちに影響されているのだろうか?

 ふむ、ということはだが……。

 

 (ロック、確か俺の事50万gpかけて、オーディから買い取ろうとしてたよな、と言うことは俺を売る時は150万gp程の値段にするつもりなのか?)

 「いややなー、エタやん。そんな全部おんなじように捌くわけないやん。こちとら商人やで?商品に合わせて値段設定くらいするわ」

 (それもそうか。すまんな、ちょっと気になったんだ)

 

 流石に、150万gpではないらしい。

 そんな商品そうそう売れないだろうからな、当然と言えば当然か。

 

 

 

 「エタやんは400万位は貰う予定やで、そんな安く売るわけないやんか」

 (400…っ!?)

 

 思わず、念話なのに驚いて言葉に詰まってしまった。

 それだけ400万と言う、見たこともないような桁の額の話に驚いたのだ。

 

 (400万って、そんなにしてまで買う奴いるのか!?一応だけど、俺は呪われた武器だし、この前話したように解呪をすれば、俺の優位性は失われかねないんだぞ?)

 「そら、おるに決まっとるやろ。生きてる武器ってだけで、大した事ない性能の武器が10万gpはするようになるんやで。それに喋るっちゅうプレミア価値が付くだけで、収集家なら100万は出すやろ。

 しかもあんた、付けるエンチャントをある程度選べるらしいし、その上追加攻撃エンチャント、ある程度制御できるんやろ?400万なんて安い安い、あんたが呪われてようが、いくらでもお客さん集まるっちゅうもんや」

 

 自信満々にロックは言い切る。

 よっぽど自分の目利きに信用を置いているのだろう。ならば、その方面に素人である俺には、その言葉を信じることしかできない。

 

 (ぬう、そういうものか。追加攻撃の方は、ある程度時間が経つと弱まるし、大分に血液がいるから役に立たないかと思ってるんだけどな)

 「まあそうかもしれんな。でも必要かどうか決めんのはお客さんの方や。収集家のお客さんなら、強い武器を集めんのが目的やから、そういうデメリットは気にする必要ないしな」

 (確かにそうだが、前にも言った通り、収集家みたいな戦う気がない奴の下へ行くのは御免だぞ?その場合、血吸いでお前を殺してでも抵抗するからな)

 「わかっとるがな、物の例えや例え。それに、そういった収集家を引き合いに出せば、冒険者相手でも値段を釣り上げられるわけやからな。ええ冒険者にエタやんを売って、ウチはぎょうさんお金をもらう。お互いにお得な付き合いで行こうや」

 

 言いながら、ロックがニヤリと笑って、ピンと俺の事を指で弾く。

 まあ俺としては、しっかりとした売り先を用意してくれるなら問題はない。

 そこら辺はロックに任せておくとしよう。

 

 (その辺りを心得てくれるなら、俺としては問題はない。……ところで、オーディの所では索敵とかもしてたんだが、そういうのも利点に入るのか?)

 「ん~?駆け出し冒険者ならそれもアリかもやけど、上になってくると探知の技能が必須になってくるからなあ。そういった方面だとあまり役に立たんのとちゃうか?

 あ、でも戦闘中に後ろ見て貰ったりとかは、ペット連れ歩いてないソロの人とかは有難いかもしれへんな。ティリス大陸広しと言えども、頭の後ろに目が付いてようなんは、ウチも一人くらいしか見たことあらへんし」

 

 ……逆に、一人は見たことがあるのか。魔境だな、ノースティリス。

 

 しかし、そうなると索敵面でのオレTUEEEは少々難しいという事か。

 オーディは駆け出し冒険者だったから、そういう面でも活躍できたという訳だな。

 そういえば、アイツ今頃どうしてんだろうな。既に元持ち主だから、気にしてもしょうがないと言えばしょうがないんだが。

 

 それより、どういう方面から転生TUEEEをやるかが問題か。

 やはり、知識面からのアプローチかね?どういう方面からなら、俺の知識を活かせるかが問題になるが。

 まあ、おいおい考えていくとするか。

 

 そんなことを考えている内に、今日の商売を終えたらしいロックが、並べていた武器を片し、露店からの引き上げ準備を始めている。

 しかし、一つ気になるのは、この3日間引き上げの際に片づけてなかった、武器を並べるための絨毯等までも片づけていることだ。

 

 (ロック、今迄は絨毯まで仕舞ってなかったのに、どうして今回に限ってコイツまで仕舞ってんだ?)

 「ああ、エタやんにはまだ話してとらんかったな。ウチの店は、毎月決まった日から3日間だけ、ダルフィとポート・カブールでそれぞれ店を出すんよ。だから、ダルフィは今月はこれでお終い、また来月や」

 (随分と短いな、それで本当に商品売れるのか?)

 「ウチはこれでも、ブラックマーケット業界ではそこそこ名前が通っとるからな。店を出す日付さえちゃーんと決め取ったら、ええ武器が欲しいっちゅう人は、その日に合わせて顔出してくれんねや。だから、その他の日は別の用事を済ましとくんよ」

 (別の用事ね。誰が生きてる武器持ってるかとかの、情報収集か?)

 「それをする事もあるわな。でも今回はちゃうで、さっき情報屋が来て、とある中堅冒険者が生きてる武器を持っとるって教えてくれよったさかい」

 (そんなん来てたか?俺そんな奴見かけた覚えなかったんだが)

 「人の情報売りに来とるわけやからな、当然隠密スキルで人目に付かんよう来とったんや。エタやんも索敵とかするんなら、あれくらいは気付けるようにならんとアカンで」

 

 なんか耳が痛い事を言われた。

 しかし、生きてる武器の在処が分かっているということは……。

 

 「ほな、明日からは生きてる武器の仕入れ作業や、その冒険者が今いるっちゅー、ヨウィンに向かうで」

 

 まあ、そうなるわな。

 だが一つ気になっていることがある。

 

 (生きてる武器を持ってるっていう冒険者、中堅だって言ってたが、どうやって仕入れをするんだ?生きてる武器なんて、金で譲ってくれって言っても、早々手放してはくれんだろう)

 「んー、たまに生きてる武器とか使いにくいから言うて、普通に売ってくれよる取引先さんもおるけど、大概はエタやんの言う通りやな。その時は、エタやんの元持ち主の時みたいに、誰かに襲わせてどさくさ紛れに盗むのを狙ったり、私が自分で戦って奪ったりや。この前みたいな色仕掛けは、余りやらへんな。よっぽど『気持ちいい事』に慣れてない奴やないと、気絶とかさせられへんし」

 

 やはり戦闘で奪うのが基本なのか、そこに疑問があるのだ。

 

 (ロック、お前確かレベル15だったよな。相手は中堅冒険者だって言ってたが、そいつ相手にその生きてる武器とやらを奪えるのか?)

 

 そう、ロックは別に高レベルだという訳ではないのだ。

 レベル15と言えば、ゲームで言えばようやく3つの魔石クエストに挑むかと言う頃合、俺からすればまだまだ弱いという感覚すらある。

 もちろんオーディよりは強いが、ある程度場数を踏み、実力も兼ね備えているであろう冒険者に、彼女の力が通じるのだろうか。

 

 「奪える時もあるし、奪えん時もある。当然っちゃ当然やけど、相手の出方次第やな。まあダメやったらダメで諦めるか、それとも別の方法探せばええねん」

 

 命の価値が低くて喧嘩っ早い、ノースティリス民らしい答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 「おったおった。あれが今回のターゲット、『煌めきの重戦車』デトロンや」

 

 俺達が草陰で待ち伏せしながら見張っていた、ヨウィンから繋がる街道。

 そこにやってきたのは、シルバーと思われる分厚そうな重鎧に包まれた、要塞のような大男だった。

 レベルは恐らく25以上と言った所、ロックでは残念ながら、奇跡が起きなければとまで言わずとも、勝つのは難しいだろう。

 

 (これまたユニークな二つ名だな、名前に恥じず鎧が太陽で光ってやがる)

 「エタやん程ユニークでもないんちゃう?って、痛っ!無言で血ぃ吸うのやめーや!別に血吸いで死んだりするほど軟やないけど、めっちゃ気持ち悪いねん!」

 

 ロックが俺の静かな抵抗に対して、ベシベシと剣身を叩きながら抗議の声を上げる。

 しかし、激しい語調ながら、待ち伏せ相手に気付かせないような声量に抑え、事実気付かれていないのは、流石の隠密術と言った所か。

 

 (で、ここからどうするんだ?)

 「どうやら相手は重装備の防御型。片腕に剣を持って、もう片腕に盾を持つ戦闘スタイルか、ウチの一番やりやすいタイプや。エタやんは取りあえず見とき、ウチのやり方を見せたるわ」

 

 そう言うと、ロックは相手に見つからないよう、こっそりとデトロンの進む先、視界に入らないほどにまで先回りをして、何食わぬ営業スマイルで、デトロンへと接触する。

 

 「およ!冒険者さんやんけ、ウチは行商やってるロックってもんなんやけど、商品見て行ってんかー?」

 「ほう、商人さんか。では一度見せてもらうとしようか」

 

 折角隠れていたのに、自分から出ていくのか。

 まあ、金で解決できる可能性もあるだろうから、敵情視察をできたと思えば、十分な成果だったのかもしれないが。

 しかし、デトロンとかいう奴、さっきからチラチラと、ロックの顔の方へと目が行っているな。

 今のロックの魅力値は俺のブーストもあってかなり高く、前世と合わせてもかなり可愛いと形容できる容姿になっているし、気持ちは分かると言えばわかるのだが。

 やはり、これで交渉が有利に運べたりするのだろうか?

 そういった方面からTUEEEしたとしても、俺としてはあまり実感がないし、そこまで興味はない。が、一応何もしてないわけではないと思わないと、それはそれで何か癪である。

 

 「驚いたな、全部生きている武器じゃないか。これ集めるの大変だっただろう」

 「分かりますう?いやー、ウチ生きてる武器集めんのが、好きで好きでしゃーなくてな!貴重ってのもあるけど、やっぱり一つ一つ個性のある生き物だと思うと、何だか愛着が湧いてくるんですわ。それで色んな生きてる武器が見たくて、この商売やってるところもあるんよー」

 

 そういうロックの顔は本当に満面の笑みである。

 恐らく営業トークとは別に、多分に本音も交じっているのであろう。

 そんな楽し気なロックの様子に、話の種にでも使おうと思ったのか、デトロンがこう申し出てくる。

 

 「実は、俺も最近一つ生きてる武器を見つけてな。良かったら見てみるか?」

 「ホンマですか!?見たい!是非お願いしますわ」

 

 そう言って、ロックはデトロンのすぐ傍へと寄りそう。

 気を良くした様子のデトロンは、腰から一振りの大剣を抜き取り、ロックに見せた。

 恐らく鑑定をしているのだろう、ロックが真剣な眼差しでその武器を見つめる。

 

 「うわ、ホントに生きてる武器やんか!わー、大剣に嬉しい筋力増加エンチャントも付いとる。お客さんええのん見つけたなー」

 「ふふふ、この前ネフィアを潜ったときに、主が守っていた宝箱から見つけてな。いやあの時は大変だったぜ」

 

 そう言って、デトロンはその時の武勇伝を話し始める。

 多分6割方位美化されてそうなそれを、ロックは楽し”そう”に聞いていた。

 そして、デトロンの話が一段落着いた頃に合わせて、ロックが仕掛ける。

 

 「なあなあ、お兄さんこの剣ウチに譲ってくれへん?もちろんお金は出すで!多分この剣だと18万は行くやろうから……8、いや9万!9万で買わせてくれへん?」

 「ええ?参ったなあ、前に使ってた武器はもう売り払っちゃったし、しばらくはこの剣を使っていくつもりなんだ。確かに値段の方は悪くないけど、それでもちょっとなあ……」

 「うう、如何してもダメぇ?」

 「すまないな、コレばっかりは無理だ。それじゃあ先を急ぐから失礼するよ」

 

 涙目(ウソ泣き)で拝み倒すロックにバツが悪くなったのか、デトロンは踵を返し、先ほど行こうとしていた道を進もうとする。

 其処にロックが走って追いつき、

 

 「ちょいと待ってデトロンさん!」

 「いやロックちゃん、如何したって無理な物は無理」

 

 ガシャン!と音を立て、断ろうとしたデトロンのその顔面で、投げつけられたポーションの瓶が割れた。

 ポカンとしたデトロンに、ロックが笑顔で告げる。 

 

 「あれ、おかしいな。甲斐性無しの玉無しカタツムリ野郎が調子乗っ取ったから、塩水ぶっかけたのに全然効果ないわ。しゃーない、これとこれで我慢したるわ」

 

 言うが早いかロックは口から唾を吐き、デトロンの目元へと飛ばす。

 流石に冒険者、咄嗟に目を片手で防いだデトロンに、今度はいつの間にやら懐から取り出していた散弾銃で発砲する。

 

 それでも格上の冒険者だ、大したダメージを追った様子もなく、デトロンは逆に怒りで奮い立っていた。

 

 「てめえ、優しくしときゃあ付け上がりやがって!今すぐミンチにしてやる!」

 「んん?カタツムリに何ができんのん?じゃあ、ウチはもう用は無いさかい、これ以上は塩水勿体ないしな」

 

 言いながら、デトロンが斬りかかって来るより早く、ロックはテレポートの杖を使い、相手との距離を取る。

 流石に敵が見失うほど遠くには飛ばず、まだまだ追いかけてこれそうな範囲内へと、杖はテレポートさせた。

 

 「逃がすか、俺のスタミナをなめるなよ!どこまで逃げようが、嬲り殺してミンチだ!」

 

 デトロンは、その重そうな装備からは想像もできない程、機敏に追いかけてくる。

 

 「めんどっちい奴やなあ、追加でアメちゃんあげるから、お子ちゃまはこれで我慢しとき」

 

 ロックは装備していた銃を狙撃用のソレらしき物に持ち替え、デトロンの利き腕の肩へと発砲する。

 狙撃銃から放たれたライフル弾は、あからさまに頑丈そうなデトロンの走行を射抜き、その肉体に刺さったところで止まった。

 が、その弾を引っこ抜いたデトロンの様子が何やらおかしい。

 

 「この野郎!どこまでも俺をおちょくりやがって、態々飴を紙に包んで打ち込んで、余裕のつもりか?絶対にぶち殺すから覚悟しろよ!」

 

 なるほど、どうやら宣言通り本当に飴玉をプレゼントしていたようだ。

 ここまで来れば流石に、目的は相手を煽って怒らせ、自分に執着させることで、確実に武器を手に入れることだと分かる。

 しかし、後はどうやって、相手がしっかりと握っている、その右手の大剣を奪うのかだ。

 

 「もう来なくてええっちゅうのに、面倒いやっちゃなあ」

 

 そう言いながら、ロックはテレポートの杖で飛び回り、手に持った狙撃銃で執拗にデトロンの利き腕を狙う。

 ダメージを与えて、剣を持てなくするのが目的かとも思ったが、紙の弾丸では敵の回復に追いつかないだろうし、実際敵はロックを追いかけながら軽傷治癒のポーションで傷を回復してしまっている。

 

 ただいたずらに時間が過ぎ去る。

 しかし、テレポートの杖がランダム移動である以上、極端にデトロンとの距離は離せず、いつかはテレポートの回数切れを起こし、追いつかれるだろう。

 

 いったい何を狙っているのか、俺が訝しんでいたその時。

 

 突如、辺りに耳が避けるかと思うような轟音が鳴り響いた。

 音源は、デトロンの腕にめり込んだ紙の弾丸だ。

 デトロンの腕の半ばまで入り込んだその弾丸は、轟音と共に多大な振動を引き起こし、その衝撃でもってデトロンの利き腕、生きた大剣を持ったその腕を、吹き飛ばして見せた。

 

 一瞬、ポカンとした表情を見せるデトロンだったが、慌てて吹き飛んだ大剣を残った腕で掴もうとする。

 しかし、当然その瞬間を待ち構えていたであろうロックが、見逃すはずはない。

 またまたいつの間にか取り出していた、ボウガンらしきもので、吹き飛ばされたその腕を射抜いていた。

 

 どうやら、そのボウガンはいわゆるフックショットと言う奴らしく、飛ばす際の余りの衝撃に、今度はロックの腕が吹き飛んでいたが、その弾丸はしっかりと飛ばされた腕に突き刺さった。

 

 すかさずロックはテレポートの杖を振り、もはやただの物質となった腕と一緒に、自分とフックショットをテレポートさせる。

 当然デトロンは剣には追いつけない。

 回復をしながら、走ってロックを追いかけてきてはいる。

 しかし、現在進行形でフックショットを巻き上げながら、適度にテレポートの杖を振るロックに、辿り着くことは無いだろう。

 

 「はいはーい、生きてる武器いっちょあがりぃ。毎度ありがとー、またよろしく頼んますわ」

 

 フックショットを巻き上げ、剣を回収したロックが、先ほどまでの営業スマイルとは違う、厭らしいニヤニヤ笑いと共にデトロンに拳銃(またいつの間にか、新しく持ち替えていた)を向ける。

 

 激昂しているデトロンは構わず突っ込んでくるが、ロックがその拳銃から弾丸を打ち込んだ途端、急にその動きを止めた。

 いや、デトロンが動きを止めたというのは少々間違っているか。

 この世界が全てが、止まっていた。

 恐らく、あの拳銃には時止弾が入っていたのだろう。

 その効果で、ごく短時間だがこの世界の時間が止まったのだ。

 

 この世界でただ一人動けるであろうロックは、――俺も装備されてるからか動けるけど――その一瞬の時が止まった間で、いつも通り滅茶苦茶早口で帰還の巻物を読み上げる。

 先ほどまでだったら、いくら何でも追われながらで、スクロールを読み切る隙は作れなかっただろう。

 なるほど、このための時止弾か。

 

 そして時は動き出す。

 デトロンはロックが機関の巻物を読んだことに気付かず、先ほどまでと同じく追いかけまわっているが、テレポートの杖で逃げ回るロックを、どうすることもできない。

 

 とうとう次元の壁が開き、ロックはその中を通って、自らのアジトへと舞い戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 「まあざっとこんなもんや。どや、完璧やったやろ」

 

 アジトに着いて、すぐに窃盗の技能で、取ってきた武器を自分の物にし、

 吹き飛んだ腕を体力回復のポーションで生やしながら、ロックは自慢げに笑って言った。

 

 

 (確かに言うだけの事はあったな、レベル差も覆せる上手いやり口だった。でもあれなら、オーディにも同じようにやったら良かったんじゃないか?)

 「あれは、相手が逃げないから上手くいくんねや。あの子にやっとったら、すぐさま跳んで逃げ帰ってまうやろ?」

 (なるほど、違いない。ところで、さっき使ってた銃だが、あれらも生きてる武器なのか?)

 「お!よう聞いてくれたな!よっしゃ、じゃあウチの仕入れのやり方を通しで説明しながら、その子たちについても紹介したるわ」

 

 そういって、意気揚々とロックは今回の手口について語りだす。

 

 「まず、ターゲットに接触、生きてる武器を売ってくれんか交渉や。売ってくれるか、買い物して行ってくれんなら、襲う必要は無し。ウチはお客様に手ぇ出す気はあらへんからな」

 (オーディには商品見せずに終わらせてたが?)

 「だって、あの子ウチの商品買える程、お金持ってへんかったやろ、聞くまでもないわ。で、交渉不成立なら、目一杯怒らせて、テレポートで逃げ回りながら撃ちまくる。その時役に立ってくれんのがこの子や」

 

 そう言って、ロックはバックパックから狙撃銃を持ち出す。

 

 「こいつは闇を照らす狙撃銃『ライト・ハッカー』言うて、貫通弾を装填できるんやけど、実は生きてる武器でな。ちょっと育ててみたら、轟音の追加攻撃が付きよったんや!こいつで貫通弾を撃ち込んで、運が良ければ爆発がボン!相手の武器は腕と一緒に吹っ飛ぶっちゅう訳や。いやー、こいつを手に入れんのは苦労したで。なんせノースティリスには狙撃銃が無いから、狙撃用の生きてる武器を探すため、わざわざサウスティリスに出向いたのがこいつとの出会いで……」

 

 こっから苦労話が長いから、聞き流す。

 なるほど、貫通した状態で爆発させることで、より効率よく敵を破壊できるという事か。

 物理法則やらが絡んでくるから、ゲームだと無かった戦法だな。

 紙の弾丸で敵を油断させるのもポイントかもしれん。違うかもだが。

 

 「で、吹っ飛んだ腕を、このフックショットで絡めとる。こいつは東の海越えて、イェルスから輸入したもんやな。ちょっと衝撃強くて、撃つと腕吹っ飛ぶのが玉に瑕やけど。別に生きてる武器って訳や無いで」

 

 さっきまでと打って変わって、フックショットはサラッと流される。

 俺としては割とそれに興味あったんだけどな、ゲームでは無かった武器だし、色々と気になる存在だ。

 だがまあ、今はロックの話に耳を傾けておくとしよう。

 

 「そいつとテレポートの杖で逃げだしたら、いよいよコイツの番や!奇跡を呼ぶ拳銃『グローリアス喜び』!当然生きとる武器や!まあ付いてるエンチャントの方は只の耐性上昇なんやけど、こいつの装填できる時止弾がすごい!こいつと出会ったのはウチが13歳の頃……」

 

 過去語りが長いから、聞き流す。

 しかし、時止弾とはなかなかチートな物を持っている。

 ゲームでもチートだったが、この世界でも先刻みたいにヤバい性能そうだな。

 只、ダメージを与えたり自分が何かをしたりは出来ても、止まってる相手の位置を動かしたり、物を盗んだりはできないそうだ。

 よくわからない制約である。

 

 また一通り語った後、今度は最初にぶっ放していた、散弾銃を取り出す。

 

 「いつもは、こいつの出番もあるんやけどな。翼を折られし散弾銃『洞窟プリンセス』!こいつも育ててみたらエンチャントが良かった口でな、なんと暗黒属性の追加攻撃や!こいつで敵を盲目にして、『ライト・ハッカー』で、安全に狙撃するっちゅう訳やな。今回は相手がシルバー装備で、暗黒耐性あったから使わんかったけど。こいつは火力がとにかく半端ないねん!こいつを持っとったのは、ダルフィで店構えとる知り合いのおっちゃんなんやけど……」

 

 ぶっちゃけ、興味ないから聞き流す。

 なんでも、この武器が戦闘ではロックの主力になるらしい。

 ロックに聞いたところ、火力もあって追加攻撃もあって、俺がゲームをしているときでも、序盤の頼りにできそうな武器だった。

 

 

 

 「こいつらを使いまわすのが、ウチの戦い方って訳やな。どや、参考になったやろ、次の持ち主さんの所で参考にしてもエエで、その人もウチのお客さんになるわけやからな」

 

 一通り語り終えて、満足そうにロックが言った。

 もう、途中から大体生きてる武器とその戦い方の話で、どうやって盗みやってるかの話ほとんど無かったな。

 しかし、語っている途中のロックの目の輝き用は半端じゃなかった。

 恐らく、本当に生きている武器の活用と言うものに、喜びを感じているのだろう。

 妙に俺に馴れ馴れしい気がしてたのも、俺が生きている武器だからだろうか?

 

 (しかし、聞いているとテレポートの杖に特殊弾、フックショットによるダメージの回復と、金がかかりそうな話だな。実際それだけ使って大丈夫なのか?)

 「まあ、バンバン稼げる、ブラックマーケットの店主だからこそ使える戦法、って感じやな。それでも確かに、経費で大分儲けは飛ぶし、危険の割には実入りが少ないってのはあるわなあ。この稼業好きでやっとるから、やめる気はあらへんけど」

 

 (ふむ、それはやはり、生きてる武器が好きだからか?)

 「まあそうやろなー。自分が使うのも好きやけど、何もかんも手元に置くのは無理やろ。それだけの財力は無いし、そもそもウチ一人では使い切れんから、ずっと一人きりで可哀想な子が出てくるやんか。

 で、ウチの扱えない子には、ウチの大切なお客さんの元に行ってもらうわけ。そうやって、できるだけ多くの生きてる武器と、関わって居られるこの仕事は天職、って訳やな」

 

 なるほど、ちょっと変則的なコレクターという訳か。

 お客さんに云々ってのは俺にはわからないが、貴重な物を集めたいって気持ちはよくわかる。

 俺も、前世でelonaやってたときは、博物館マスターだったからな、とにかく集めて並べるあの快感は、病みつきと言うものだ。

 

 

 

 ところで、もう一つ少々気になっていることがある。

 

 (そう言えば、さっきの話を聞いていて思ったんだが、近接戦闘とかする機会は無いのか?)

 「ウチ斬った貼ったは苦手やからなー。基本そういうのは無いと思ってええよ。あ、血が吸えないことを心配しとるなら大丈夫やで?耐久にはある程度自信あるから、声かけてくれればウチからちょっとくらい血ぃ吸うてええし。今度武器成長用の屠殺場連れてって、ぎょうさん吸わせてやるさかいな」

 

 そうじゃないんだよなあ。

 血を吸うのも好きなんだけど、俺は敵を相手に、超活躍したいんだ。

 頼んでも難しいだろうし、例えやってくれたとしても、下手に出るみたいで嫌だから、言わないけど。

 

 

 

 【悲報】俺氏、ニートになる

 

 早急なトレードが望まれるな。はよ次の持ち主の所行けるといいんだが。



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こうじょうけんがく

 ゆっくりと回る歯車、その一点に取り付けられた鋭い針が、地上10mの高さのサンドバッグに吊るされたバブルに、小さな傷をつける。

 外敵からの攻撃に晒されたバブルは、その針が回ってくる度に、本能からくる反射で自らの分身を生み出していく。

 

 そうして生まれた分身が、重力に従ってドサリと下に落ちた。

 そこには数多の自分と同じ分身達が、ひしめき合っている。

 どうやら、自分と同じように上から落ちてきた様子、足の踏み場全てがバブルで埋め尽くされており、全く床が見えない状態だ。

 

 すわ何事か、と産み落とされた分身は周りを見るも、そこには自分を中心とした、直径1m程度の円の形をした、高い壁がそり立つばかり。

 上を見れば、青い空とサンドバッグに吊るされたバブルが見えるが、液体に近い自分の身体で、そこまで登れるとは思えなかった。

 取りあえずここから出たいが、どうした物かと悩んでいると、上からまた新しくバブルが落ちてくる。

 サンドバッグに吊るされたバブルが、歯車の針に刺激され、また新しく分身を作り出したのだ。

 

 バブルの数が増えた分、当然この壁の中のバブル達の嵩が少し増す。

 これが繰り返されれば、他のバブル達を足場にして外に出れるのでは?と分身バブルは考えた。

 

 少し先の展望が見えたことで、軽やかな気分になるバブル。

 そして、更に新たに落ちてきたバブルを期待と共に見ていたところで、異変に気付いた。

 

 足場が、正確には自分の足元のバブル達が、グラグラと揺れ始めたのだ。

 またも引き起った異変に、バブルが戸惑いながら上を見る。

 すると、サンドバッグバブルの、更に先にある空が遠のき始めた。

 自分の下にある、バブルの足場の高さが、下がって行っているのだ。

 

 いったい何事が起きているのだろうか、そう思っていると、またも上からバブルが降ってきて、今度は自分に覆いかぶさった

 このままでは、上から脱出することは不可能になるだろう。

 床が下がる上に、次から次へと、上から別のバブル達が降ってくるのだから。

 

 しかし、足元のバブルが減っているということは、きっと下のバブルがどこかへ消えたという事。

 ならば、そこにここから出る術があるかもしれない。

 そう思って、分身バブルはひとまず流れに身を任せることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 見通しが甘かった。

 

 そうバブルは気付いた。

 

 下に行けば下に行くにつれて、上に積み重なったバブルの重みで、自分の身体に相当な負荷がかかっていく。

 このままでは自分は潰れてしまうだろう。

 今ならば、何故足場の高さが下がって行ったのかわかる、皆こうやって潰れて行ったのだ。

 

 上からかかる重圧で、もはやまともに身動きも取ることができない。

 残された道は、ここで潰れて死ぬことだけだろう。

 

 別に死ぬことは構わない、バブルである自分にとって、群体の一部に過ぎない自我に、別段こだわる必要等ないのだから。

 ただ、何をなすでもなく、そのまま死んでいく事だけは少し心残りだろうか。

 

 とうとう下がりに下がって、最下層にまで着いた。

 其処にはようやく床が見えたが、自分と同じバブルであっただろう存在の血液に塗れている。

 自分もここで皆と同じく死んでいくのだ。

 

 ふと、あまりにも同胞たちの、死後の残骸が少なすぎることに気付いた。

 潰れて死ぬ以上、軟体の自分は一気にミンチになるだろうから、皮や肉と言った物質が残らないことは分かる。

 だが、そこからあふれた血液は、そうすぐに消えはしない。にも拘らず、床に少ししか血液が溜まっていないのは何故だろうか。

 

 気になったバブルが、目だけで辺りを見ようとする。

 すると自分の近くに、体は通らないだろうが、血液は通るようなサイズの穴があることに気が付いた。

 なるほど、あそこから血液が流れるようになるのだろう……だが何処へ?

 

 不思議に思ったバブルだが、残念ながらその穴を覗くことは叶わなかった。

 新しく降ってきたバブルの重みと衝撃が、とうとう分身バブルの肉体を*ぷちゅ*と潰したのだ。

 

 瞬間、ミンチになったバブルの身体からあふれた血液が、床に点在する穴からタラタラと流れ出していく。

 流れ出した先では、新たな食事に歓喜する無数の生ける武器たちが、キシキシと音を立てながら轟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「いやあ、エタやんの考えた『バブル工場』。めちゃんこ楽ちんやし効率エエし、大助かりやわ!流石に生きてる武器ちゃんやな、視点がウチ等人間とはちゃうわあ」

 (たまたまですよ)

 

 さすがなんてキーワード入れてくるから、ついついお兄様意識して返してしまったが、内心割と鼻高々である。

 ロックに着いて来て、初めて知識チートやり切れたからなあ。

 ロックが、サンドバッグや必要な設備を用意できる、商人という立場だったからできたチートだったが。

 

 事の発端は、生きている武器成長のための血液補充用の施設へと、ロックに連れていかれたことだった。

 とはいっても、それは只の駄馬牧場だったのだが。

 繁殖力と摂れる血量が多い駄馬を、また繁殖させ直せる分だけ残して刈りつくす。

 それがロックの、生きてる武器の育成方法だったのだ。

 

 当然ながら、弱い駄馬を繁殖した分だけでは、大して効率は良くない。

 生きている武器にとって、強力な生物の生き血程、より良い栄養分となり得るのだから。

 しかし、生きてる武器の育成に対して、それほど力を入れてはいなかったロックは、少し非効率でもこれで十分だろう、と考えていたそうだ。

 

 そこで俺の方から、全自動バブル式血液工場を提案してみた。

 

 まずは、ある程度高い場所にサンドバッグに吊るされたバブルを用意し、その下に丈夫な金属で作った、大きな細長い筒を用意する。

 そして、工場近くの川を使った小さな水車を使って、ゆっくりと針付きの歯車を回し、適宜バブルを刺激して増殖させる。

 筒に対してバブルが安定供給されると、その中にたまったバブルの重さで、勝手にバブル達が死につづけてくれる。

 後は筒の下部にいくつか小さく穴をあけて置けば、勝手に血液が補充されるという訳だ。

 ちなみに、使わないときは水車をストップさせれば、工場は停止する。

 

 この提案を聞いたロックは、なかなか面白そうだと案を承諾してくれ、知り合いの商人などから必要な物をかき集めた。

 結果、サンドバッグや金属の筒、そして場所の工面などで大分金はかかったが、1週間ほどでこの工場が完成した。

 

 投資は必要だったが、結果は上々である。

 バブル工場は膨大な量の血液を無尽蔵に生成し続け、駄馬牧場とは比べ物にならない程の血液を採取できるようになった。

 このおかげで、ロックの生きている武器達はすでに、大体がレベル5を超えている。

 生きている武器にとってレベル5と言ったら、中々の血液が必要だ。

 それを短期間で、楽に賄えるこの装置は、俺としても結構な出来だと思っている。

 

 まあ、俺自身はあまりレベル上げ過ぎると血吸いの量がヤバくなるかも、と言う理由で、

 元々あった治癒強化エンチャントの上昇と、地獄属性追加攻撃の2つのエンチャントを狙って取った後、レベルアップは止めているのだが。

 レベルが上がれば、上がるだけ血吸いも酷くなるからな。

 次の持ち主がどんな奴か分からない以上、無暗にレベルを上げるべきではないだろう。

 

 

 

 で、この工場なのだが、食料の安定供給と皮などの採取にも使えるんじゃないかと思い、ロックに聞いてみた。

 ゲームではこのバブル工場を利用して、食料確保、金銭工面、神への供物と色々と用意したものだ、この世界でもそれは変わらないだろうと。

 しかし、ロックが言うには、そう言った面での商用利用は厳しいだろうとのことだった。

 

 まず食料だが、この世界では、いくらでも湧いてくるモンスターの肉と、やたら成長の早い植物達という、非常に優秀な食糧源がある。

 そのお陰で、少し食料品店を覗けば、栄養豊富な安い野菜が売っているし、宿屋に行けば、屑肉で作った安い食事が腹いっぱい食べられる。

 わざわざ、液体でできているため大して栄養が取れず、工場から輸送することで新鮮度が落ちていて、その輸送コストでまあまあ値が張る、ということになるバブル肉を、商品にするメリットは薄いのだ。

 

 皮や骨などによる、金銭工面も同様である。

 モンスターはいくらでも湧いてくるのに、バブルの軟弱な素材を用いて作るメリットはほとんど無い。

 たまにその柔軟性を活かし、緩衝材として使われたりもするそうだが、それでも大量に用意して売りさばけるような売り先はない。

 

 最後に神への供物だが、そもそもこの世界の住人たちは、ほとんどが神の敬虔な信徒である。

 供物に捧げるための品を、安い大量のバブル肉で済ませよう、等と考える人間は少ない。

 なので、そもそもそう言った方面での需要が存在しない。

 

 そんな感じで、バブル工場から流れ出る血に喜ぶ生きてる武器を眺め、悦に浸っているロックは、彼女から見れば世間知らずな俺の考案を一刀両断した。

 俺から見ればどうなのかって?何でこんなとこだけ、ゲーム準拠じゃないんだよって感じ。 

 

 「それでも、生きてる武器の食料確保としては100点満点や。生きてる武器の専門家なんてほとんどおらんから、わざわざこんなもん考える奴居らんし、ホンマに助かっとるんやで?」

 

 と、そのあとフォローが入ったけどな。

 

 

 そんな隙間産業的な俺の知識チート、全自動バブル工場だったが、俺自体はこの工場での血液摂取は、あまり好きじゃあなかったりする。

 

 だって、何か作業的なんだもん。

 言うならば、味はうまいウィダーINゼリー食ってるような感じだ、カロリーメイトですらない。

 

 やはり俺は剣、斬って、その身体で命を奪い、そのまま生き血を啜ってこそだ。俺TUEEE出来ればなお良し。

 

 そんな感想をロックに言うと、

 

 「我儘なやっちゃなー、おまんま食えるだけ感謝しとかんとやで?」

 

 と窘められた。

 言ってることはごもっともかもだが、何かムカついたから血吸いが発動した振りして、軽く血を吸っといた。多分故意だとバレてるけど。

 

 「さあて、バブル工場とやらも成功して、武器ちゃん達のご飯も食べさしたし。そろそろ仕入れの準備でもしに行こかー」

 (仕入れのそのまた準備か、何をするんだ?)

 「んー、今んとこ新しい生きとる武器の情報ないし、ダルフィ戻って情報収集やな」

 

 

 

 

 

 無法地帯ダルフィの中で、最も人口密度が高い場所は、当然というか予想通りというか、酒場となっている。

 

 ロックは基本的に、ここで情報収集を行っているそうだ。 

 やはりこういった場所だと、表からも裏からも情報が集まりやすいらしい。

 

 「おっちゃーん、クリムエール1杯!ヒエヒエの奴で頼むでー」

 「あいよー」

 

 ロックが執事服を着た男のバーテンダーに注文をすると、少し間をおいて大ジョッキに入ったビアが、ロックの前に*ドン!*と置かれる。

 あー、今となっては飲めなくなってしまったが、なんだか無性にビール飲みたくなった。

 血液もなー、悪くはないし生き物によって味も万別なんだけど、如何せん喉越しとかが無いんだよなー。

 

 そんな懐古を俺がしているなどと知らんだろうロックは、グビグビとビアを飲み干し、ぷはぁと一息ついた。

 

 「やー、町に入ってまず一番に飲むビアは最高やな!で、何か面白い話とかないんか?」

 

 ロックがそう聞くと、少し呆れた調子でバーテンダーが返事をする。

 

 「いきなりだな……。まあ面白いってだけなら無い事もないが、また『鮮血プリンセス』が襲撃騒ぎを起こしただの、ルルウィ様の像を集めてるコレクターがいるだのの話には興味がないんだろう?」

 「もちろんや!ウチの商売に役立ちそうな話でヨロシク!」

 「それなら、この前来た時の話で俺の話せることは全部だ。だが、あそこにいる冒険者の一団が何やらそれらしい話しをしていたぞ?」

 

 そう言って、バーテンダーは1つのテーブルに居る冒険者たちの事を指さす。

 彼らは3人組らしく、全員が大体レベル22から25位の実力と見えた。

 情報を手に入れたロックは、意気込んだ様子でバーテンダーに詰め寄る。

 

 「ホンマ!?やっぱ、おっちゃんは頼りになるわー。あの3人組やんな?よっしゃ、追加でビア3杯頼むわ」

 

 ロックがそう言うと、すでに分かっていたのか、

 バーテンダーは今度はすぐさま、新しく3杯のジョッキに入ったビアを取り出した。

 ロックはこれまでの4杯分のビアの代金をバーテンダーに渡し、その3つのジョッキを持って、紹介された冒険者の元へと向かう。

 そして笑顔でテーブルの上にジョッキを置いた、不意な出来事に3人の冒険者の視線がこちらを向く。

 

 「毎度おおきに!超絶美少女ロックちゃんやでー、こちらお近づきにー」

 (美少女という年齢には少々きついだろう、確か24だったか?)

 

 営業スマイルと共に繰り出された、ロックの自己紹介に対して、俺が感じた大いなる違和感に、ついつい口が滑る。

 ボソッと言っただけだったが、笑顔を浮かべたままのロックに、冒険者たちに気付かれないようなスムースな動作で、ゲシリと殴られてしまった。

 解せぬ。

 

 そんな茶番に気づいていない、冒険者グループのリーダー格らしき最もレベルが高い男が、ロックに対して話しかけてきた。

 

 「あー、今晩のお誘いかい?悪いがアンタほどの美人さんを買える程、今懐が温かくなくてね。よかったらまた今度声をかけてくれや」

 「アハハ、娼婦とちゃいますよー。ウチ、武器の商売やってるロック言います。お兄さん達が、珍しい武器の話をしてるっちゅー話を聞きまして。その商品家で取り扱わせてくれへんかなー、ってことでお声掛けさせていただいたんですわ」

 「ああ、あの生きている武器の話か。それならいいぜ、ビアのお礼だ。とはいっても、僕たちが持っているわけではないんだがな」

 

 そう前置きをして、男は話を始めた。

 

 「2、3日ほど前だったか。ダルフィとポート・カブールの間にあるネフィアに潜ったんだが、そこでレベル5位の駆けだし冒険者の男を見かけてな。そのネフィアは8階層相当だったから、さっさと帰ることを勧めたんだが、どうしても行けるだけ行ってみるんだって聞かなかったんだ。

 仕方ないから物陰からこっそり見守って見てたんだが、そいつの持ってる武器がすげーのなんのって、出てきたウッドゴーレムをスッパリ切り裂いちまったんだ。

 で、その後その武器が、ゴーレムの生き血は吸い上げ始めたのさ。初めて見たが、アレが生きてる武器ってやつで間違いないだろうな。

 手に入れたら一攫千金だし、その小僧をやって取り上げちまおうかとも考えたんだが、すぐに小僧がゴーレムの仲間に囲まれて袋叩きにあってな。そのままミンチになったんで、諦めて普通にネフィアを攻略したんだ」

 

 見守るから、取り上げちまおう、までの変わり身早すぎてワロタ。

 それだけ、人から奪うことに抵抗のない奴等だ、ってことだろうが。

 ここがダルフィだから、そういう奴が多いのかね?

 

 「それで、その駆け出しクンの名前分からへんの?出来れば、その子とお話ししたいんやけど」

 「あー、流石に名前までは聞いてねえな。でも、大体の特徴なら覚えてるぜ」

 

 そういってリーダーの男は、その生きてる武器を持っていた人間の容姿を、ロックに伝える。

 

 「なるほどなるほど。そんだけ分かっとったら、情報屋行けば何とかなりますわ!おおきにや、兄ちゃんたち」

 「ああ、ビアありがとうよ。また用があったら話しかけてくれや」

 

 そう言って冒険者たちはロックを送り出す。

 

 (ビア3杯でアッサリと情報が手に入ったな。結構楽なもんだ)

 「んー、アッサリとっていうかなんというか。ウチの勘があってたら、利害の一致ってとこやろな」

 (利害?あの情報を手放しても、あの冒険者たちにはデメリットが無いってことか?)

 「そうやなくてな……、また後で状況次第で話すわ。取りあえず情報屋までいこか」

 

 

 

 「その冒険者なら、『黄色い彗星』ジャックで間違いないだろうな。最近冒険者を始めたってところも、容姿もピタリとあてはまる。会いたいならヴェルニースに行きな、運が良ければまだ出立していないだろうよ」

 「あんがとさん、これがお礼や」

 「分かってるだろうがサービスだ。何か知らんが3人、居るぞ」

 「大丈夫や、誰かは分かっとるから」

 

 そう言って、ロックが3000gpを情報屋に渡し、その場を後にする。

 

 (3人居るって言ってたが、そいつら……)

 「ああ、さっきの酒場の連中やろうな。生きてる武器が欲しくて未練タラタラやったけど、情報屋に金払う気にならんから、ウチらに調べさせようって腹や。多分、ウチと情報屋との話し合いまでは聞こえとらへんかったろうけど、ヴェルニースまで着いてこられたら同じことやな」

 

 さっきロックが言ってたのは、この事か。

 ここでの情報屋の代金まで含めて、初めて奴らを懐柔できたってことだな。ビア3杯とは比べ物にならんわ。

 

 (で、どうするんだ。このまま付いてきたら、商売の邪魔になる可能性もあるんじゃないか?)

 「だからって、一々相手してられへんわ。放置や放置、道中モンスター相手にしっかり実力見せとけば、向こうさんも無理にウチ等を襲おうとは考えへんわ。どのみちヴェルニースまでウチらが案内せーへんかったら、アイツら目的地まで辿り着けんしな」

 

 そういうロックは、ヴェルニースまでの道中、襲撃してきたモンスター相手に、生きている武器の銃達を、惜しげもなく使い撃退していった。

 鍛え上げられたロックの武器達は、会う敵会う敵を一撃で葬り去り、少し格上の集団相手でも、警戒心を芽生えさせるには十分であろう力を発揮した。

 

 正直、ロックの装備込みでの戦闘力は、レベル詐欺と言ってもいいレベルである。

 数々の生きている武器達に、金に物を言わせて用意した、奇跡級の防具達。

 例え、今後ろで尾行してきている、冒険者3人組を相手にしても、十分な勝ち目を感じさせる。

 

 この上逃げるだけなら、テレポートの杖や時止弾で更に楽になるのだから、ロックが3人の事を放置すると判断したのは、いざ襲われても十分対処できるからなのだろう。

 俺が居る限り、不意打ちで後ろから斬りかからせたりとかもさせないしな。ロックはそうでなくても、探知か何かで敵の襲撃が分かるのかもしれないが。

 

 そして実際、ロックは特に3人組から危害を加えられることもなく、ヴェルニースにたどり着くことができた。

 町に着いたロックは、一目散にガードの元へと向かう。

 

 「すんませーん、この町に『黄色い彗星』ジャックって人、居てます?」

 「ジャック?彼ならついさっき北の方で見かけたであろう。まだ遠くへは行ってないのではないかな」

 「おおきに!失礼しますわ」

 

 ロックはガードが言い切る前に素早く礼を言って、言われた方角へと向かう。

 そこには果たして、3人組から言われたとおりの容姿の男、ジャックであろう人物がいた。

 

 「失礼!キミ、『黄色い彗星』のジャック君でおうてる?」

 「え?えっと、確かに僕がジャックですけど、何か御用ですか?」

 

 間違いなかったようだ。

 実際見てみると、中々に駆け出し冒険者と言った感じの、若い青年、少年とも言って良さそうな奴だった。

 装備も革や鉛で作られたものが多く、あまり品質が良さそうには見えない。

 しかし、その腰に佩いた長剣だけは、神器と言って良さそうな、覇気のような雰囲気を持っていた。

 

 「自己紹介が遅れたな。ウチ、ブラックマーケットで武器商人やっとる、ロックっちゅうもんや」

 「ブラックマーケット……?」

 

 そう言うジャックは、随分と警戒した様子で、腰にある長剣へと手を伸ばした。

 当然だろう、そんな貴重な剣を持っているところに闇商人が来れば、誰だってそれを狙っていると考える。

 

 「あー、そんな警戒せんといて?ウチは今日、ビジネスのお話をしに来たんよ」

 「ビジネス、ですか」

 

 ジャックは少しは警戒を解いたようだが、それでも長剣から手を放しはしなかった。

 

 「そそ、単刀直入に言わせて貰うわ。その武器、えーと……ウチが売ったら、武器の育成込みで23万はいくやろうから、10万gpで売ってくれへん?」

 

 ロックは彼の腰に着けた武器をしげしげと観察した後、中々の値段を提示した。

 というか、あの短い間で目利きをしたのか、半端ないな。

 

 「は、半額以下じゃないか!それで売るって言うと思うのか!?」

 

 ジャックの語気が荒くなる、それに対しロックは、軽い感じで対処する

 

 「いやいや、商人ってのは大概売値の30パーセントくらいで仕入れるもんやで?こんなん十分払っとる方や。特に装備類は売り先が狭まる分、安く買いたたくのが基本やからな。超々サービス価格やで?嘘やと思うんなら、そこらの店で聞いてみても構わへんわ」

 「……わかりました、そこは信じます」

 

 ジャックは、ロックの説明を受けて、その点には納得がいったようだ。

 

 「でも、この武器は大切な友人から、出発の餞別に貰った大切な物なんです。そう簡単に売るわけには……」

 「いやいや、その友人とやらは、アンタの身を心配してそれを送った訳やろ?大切なのはその剣やなくて、アンタがしっかり冒険者として成功することや。

 見たとこ剣ばっかり立派で、防具が貧弱すぎ。それやと、まともにネフィアを潜り抜けんのは無理ってもんやで。

 ……早いとこ冒険者として、成功せなアカン理由があるんやろ?」

 「どうしてそれを!?」

 「身の丈に合わんネフィアを、無理して潜っとったって聞いたからな。ちょっと考えたら分かるわ」

 

 ちょっと考えずに分からなかった剣が此処にいた。

 ちくしょう、何か最近悔しがること多いな。

 

 ジャックは顔を俯かせ、身の上話を始めた。

 が、大して面白みがない上、本筋と関係ないので軽く聞き流す。たぶん、冒険者として成功しないと、故郷で待ってる幼馴染の女の子が結婚させられちゃう、とかそんなんだった。

 

 「で、さっさといっちょ前の冒険者にならんとアカンってことか。でも、やっぱその剣だけでやってくのは厳しいと思うで。その防具でネフィア潜るんは。リスク大きすぎやわ」

 

 あと、危険な闇商人に狙われるリスクとかもあるな、今みたいに。

 

 「……分かりました、ロックさんの言う通りにしてみます。僕も、このままじゃあ上手くいかないと思っていたところですから」

 「よっしゃ、商談成立やな。したら、こいつがその代金や」

 

 ロックはバックパックから約束の10万gpを出し、ジャックへと渡す。

 奴はそれを受け取り金額を確認した後、腰についている生きた武器を名残惜しげに外し、ロックへと引き渡した。

 

 「うしうし、これであんさんは今からウチのお客さんや。で、そんな駆け出し冒険者のお客さんに、商売の話があるんやけど」

 「?何でしょうか」

 「あ、その前に君が今住んでる場所教えてくれへん?後で、ちょっとそこに届けたいものあるから」

 「それ位ならいいですけど」

 

 そう言って、特に疑うこともなくジャックは住処の場所を話す。まあ、これ位は調べたらすぐわかることだし、警戒する必要もないかもだが。

 

 「なるほどなるほど。それじゃ商売の方や、君今レベル5以下やんな?おすすめのコース商品があるんやけど買わへんか?今ならお得な2000gp!きっと損はさせへんで?」

 「あの、内容を聞かないと買うか判断できないんですが……」

 「残念ながら、情報を渡してまうと商品にならんくなるタイプのもんでな、教えられへんのや。ウチを信じて買ってみてくれへん?」

 

 そう言って、いつもの3割増し営業スマイルをジャックへ向けるロック。

 魅力マシマシの武器商人の、恐怖を和らげるような笑顔を受けたジャックは、ちょっとはにかんだ様子である。

 

 「えっと、分かりました。それじゃあお願いしてみます」

 

 もともと人を信じやすいタチなのか、それとも魅力ブーストされたロックの交渉術がすごいのか。

 ジャックは得体の知れないロックの提案を呑み、さっき渡された金の中から、2000gpを取り出してロックへと差しだした。

 

 ロックが、そのジャックが差し出した手へ自分の手を伸ばしながら、もう片手で俺の持ち手を、中指でトントントンと3回叩く。

 ロックとの間で取り決めた、血吸いを使った属性攻撃をするときの合図だ。この場合、属性は混沌。

 

 (はいよー)

 

 俺は返事をし、間髪入れずにロックから血を吸い、属性攻撃へと変換する作業を始めた。

 何でか、なんてことを聞くつもりはない。この状況で聞いたって答えられると限らないしな。

 

 血を吸われながらも、顔色を変えることは無いロック。

 彼女の手は、ジャックの差し出している2000gpの場所で止まらず、彼の手首の辺りにまで進む。

 

 え?とジャックが戸惑った瞬間、蛇のようにロックの腕がスルリとうねり、そのままジャックの腕を掴み、彼の事を思い切り引き寄せた。

 

 「じゃ、後でお家に行くからヨロシク」

 

 そう言って、ロックは笑顔のままで、彼の肩に俺の事を突き刺す。

 ロックの血から生まれた混沌の力は、弾けるようにジャックの身体に広がり、そのまま彼の身体を蝕み始めた。

 驚きで状況を理解できない様子のジャックは、そのまま混沌に呑み込まれミンチへと変わる。

 

 「エタやん中々の火力やなあ、ウチは斬り合いとかは苦手やけど、こうして確実に止め刺すにはもってこいやわ」

 (そりゃどうも、俺としてはやっぱ、しっかり戦闘で使ってほしいとこだがな)

 

 ジャックが殺された現場に残ったのは、死ぬ直前にロックが斬り落としたジャックの右腕と、そこに包まれた2000gp、だけではない。

 当然のように、ゲームと同じく死亡ペナルティとして、所持金の三分の一は落としているし、巻物やポーションと言った、ミンチになった衝撃でバックパックから飛び出した、いくつかのアイテムも落ちている。

 

 巻物などの小物はともかく、所持金のロストは彼にとって痛いだろう。さっきロックに10万gpを貰ったから、30000gp程は落ちている。

 ロックがそのアイテムや金を拾い集めていると、道の前後から近づいて来る者たちが居る。

 

 殺しを見つけたガード、という訳ではない。大量虐殺や要人の暗殺ならともかく、冒険者の一人を殺したくらいで、彼らは殺人犯に襲い掛かったりはしない。

 近づいてきたのは、ロックに生きている武器を教え、この町まで尾行してきた3人の冒険者たちだった。

 あのリーダー格の男が一歩前へ出て、ロックへと話しかけてくる。

 

 「へへっ、上手くやったじゃねえか。どうだ?俺達に、その儲けの半分でも寄付する、っていうのはよ?」

 

 どうやら、分け前を預かりに来た様子だ。

 ロックとジャックの取引が終わり、別れた後に危なげなくジャックを襲おうと思っていたが、その前にロックにやられてしまったので、少し危険に踏み込んででもロックを襲ってしまおう、といった所だろうか。

 

 「アホなこと言いなさんな。ウチの金はウチのもんや、ビタ一もんだってやらへんわ」

 「馬鹿な奴だぜ、3人に勝てるわけないだろ?増してや、俺達はお前よりレベルが上なんだからな!」

 

 そういって、3人組が斬りかかって来る。

 だが、それよりもロックが拳銃を抜く方が早かった。

 その銃口の先には、襲い掛かって来る冒険者。ではなく、薄汚い恰好の乞食の男が居る。

 

 急に目の前で殺し合いが始まり、慌てて逃げだそうとしていた彼だが、背を向けて逃げようとする姿は格好の的、当然のように銃弾が当たる。

 そしてその瞬間、時止弾の効果が発動した。

 

 (まあ逃げるだけなら、時止弾が発動すればほぼ確実だわな。わざわざ避ける可能性の高い、冒険者共を狙う必要はないか)

 「そういうこっちゃ。ほな行こか、生きてる武器もっとらん冒険者倒しても、大した儲けもないしな」

 

 そういって、ロックは脱出の巻物を読み、更にテレポートの杖を自分に向けて降る。

 時間が動き出した頃には、銃を撃ったと同時に消えたロックを、困惑しながら探し続ける冒険者達だけが残った。

 

 

 

 

 ヴェルニースから少し離れた街道で、町から全力で逃げて来ていたロックは、ようやく一息ついた。

 

 「追っ手は無さそうやな、これで一安心や」

 (それで、この後はどうするんだ?)

 

 何気なしに聞いたのだが、ロックは割と驚くことを言う。

 

 「そらジャック君の家に直行や。はよ行って、落としたお金とか返したらんと」

 (んん?せっかく手に入れたのに返すのか、てっきりそのまま懐に入れる物かと)

 「ダアホ、ウチはお客さんは大切にする言うたやろが。一回でも物の売り買いしたら、もうそん人はウチのお客さん、裏切ったりなんかせんわ。あれは、放っといたらあの冒険者共に殺されそうやったから、ひとまずミンチになって貰っただけや」

 

 

 そう言って、ロックは足早に、先ほどジャックに教えて貰った住処へと向かう。

 

 そこには果たして、さっきミンチになったジャックが復活しており、敵意と困惑に満ちた目を此方に向けていた。

 そんなジャックに対して、ロックは気さくに話しかける

 

 「どうも、さっきぶりやな。ロックちゃんやでー」

 「……何の用ですか?また殺して、お金を奪おうとでも?」

 「嫌やなー、お金ならちゃんと返すがな、ほいこの通り。信用してくれたら、さっき落としとったアイテムも渡しに行かせてもらうで」

 

 そう言って、ロックは小さな布袋の中に、先ほどミンチから拾った金を入れ、ジャックへと投げ渡す。

 慌てて受け取ったジャックは、中身を確認した後、今度は怪訝そうな目でこちらを見る。

 

 「確かに受け取りました。でも、それなら何が目的で僕を殺したんですか?」

 「ああ、実はウチに君の情報くれよった人が、どうも小金持ちでウハウハになった君の事、狙ってるっぽかったんよ。

 何日か前、ネフィアに潜ったときに、君にサッサと引き返せってアドバイスした奴ら覚えとるか?そいつらが生きてる武器欲しさに、君の事狙ってたって訳やな。

 それで、取りあえず殺される前にウチの方で殺して、盗まれる予定だったモンをウチの手でお届けしようと思ったんや」

 「なるほど、そういう事でしたか。疑ってしまいすみません、助かりました」

 「いやいや、気にせんといて。ウチかてもし事情も知らんで同じことされたら、警戒せんのは無理やわ」

 

 殺されてありがとうと言う世界。

 そして気にしなくていいと返す世界。

 今日もティリスは修羅の大陸である。

 まあ、実際背景とかを考えると、割と納得がいくんだけどもね、すぐ生き返るし。

 

 「それじゃ、落としとったモンも渡しとくで。ほんで、さっき言ったコース商品の続きや。取りあえずお家までのお届けサービスは終わったから、後は、またアイツらに狙われたとき用に、ひとまず逃げるようの魔道具渡してとくわ。使い方は分かるやんな?」

 

 そう言って、ロックは幾つかの杖と巻物を取り出し、ジャックへと渡す。

 

 「えっと、テレポートに軽傷治癒とサモンモンスターの杖、それに帰還と脱出とショートテレポートの巻物……?いいんですか?こんなに売ってくれたら、赤字になっちゃうんじゃ……」

 「そんな気にせんといてー、確かに儲けは少ないけど、ウチら商人は安く仕入れる手段があるから、赤字になったりはせんよ。それに、これは有望な駆け出し冒険者のお客さんへの、サービスみたいなもんやからな。もし腕利き冒険者様になって強い武器欲しくなったら、ウチのとこ来て買って行ってや?」

 「はい、是非寄らせて貰います。色々とありがとうございました」

 

 用事が済んだロックは、店の宣伝をしてジャックの住処を後にする。

 十分距離を取り、誰にも会話を聞かれないであろう場所まで来て、俺はロックに話しかけた。

 

 (しかし、割と意外だったな。お前割と狡っからいイメージだから、ちょっと武器売って貰ったくらいならノーカン、つってそのまま落とした金盗って、住処まで乗り込んで略奪して行っても、おかしくなさそうに思ってたわ)

 「それはいくら何でも、エタやんの中での私のイメージ悪すぎやわ!

 究極的には、売るのも買うのも一緒。お金を渡して武器を貰うか、武器を渡してお金を貰うかだけの違いや。どんな形であれ、売り買いしてくれた相手に騙しうちなんかせんよ。そうやって大切にしてるお客さんが、ウチの剣を持ってくれてると思うからこそ、この仕事が楽しく思えるんや。

 まあ流石に、あの杖やらお届けやらのコース商品については、純粋な善意だけやない。こうやって恩売っとけば、いつか役に立つんちゃうかっていう打算も込み込みやけどな」

 (まあ、流石にそうだろうな。善意だけであれだけやってたら、流石にお節介ってレベルじゃねえわ)

 

 まあそれにしたって、割と親身にやってるもんだ。

 その分客以外の人間に対しては、割と残虐ファイト上等のようだが。

 あの戦いで犠牲になった乞食に黙祷、どうせ何日かしたら甦るが。

 

 「じゃあ、今日のお仕事はこれでおしまいや、家戻って寝よか」

 (おう、確か明日はポート・カブールで店を開く予定の日だったよな?)

 「せやでー、エタやん欲しがってくれる、エエ感じのお客さんが来るとええな?」

 (ま、それに越したことは無いわな。俺ももうちょい、斬り合いができるとこに行きたいし)

 

 知識チートや血液摂取、軽い戦闘はできても、武器の本分と言えるガチ戦闘は久しくできてないからな。

 明日の客に、俺の新たな持ち主たりえる奴が来てくれることを期待しよう、中々に待ち遠しいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ネタバレ:来ません




やばい、商人プレイだと、思った以上に主人公ができることが少ない。
どう活躍させたものかなー。


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ロックったら嫌われ者

 「さあてっと、もうそろそろ税金振り込みに行かな、ガードが煩くなってきてまうな」

 

 俺がロックの元に来てから、2か月ほど経とうかと言う頃。ダルフィ近くにあるロックの這い上がり拠点(我が家だとかアジト等とも呼ぶ)で、急にそんな発言が飛び出した。

 

 (意外だな。お前窃盗上等、殺しも上等みたいな奴だし、カルマとか全然気にしないタイプの奴かと思ってたわ)

 

 正直、結構驚いている。

 ロックの生き方は、ゲームでのelonaにおける悪人プレイと言う奴に近いものがあり、それと同じく税金も踏み倒し、何食わぬ顔で生きているんだろうと勝手に思っていた。

 

 「いやー、何だかんだ買い物が気軽にできへんのと、町入る度ガードに追い回されんのはキッツいモンやで?ちょびーっと金払ったり、おサイフ届けたりするだけで回避できんのやから、そんならそれに越したことは無いわ」

 (まあ、例え盗みをやったところで、窃盗してるところさえ見つからなきゃ大してカルマは下がらんようだしな。大してカルマが低くないのなら、そうやって金払って安全に街を歩けるようにした方が利口、ってなもんかもしれん)

 

 実際、ここ2ヶ月ほどで、何度かロックの生き武器狩りに立ち会ったが、大抵の場合、武器を吹き飛ばしてから相手を殺して手に入れるか、誰にも見られない場所に武器ごと帰還して、安全に窃盗で所有権を奪うかしている。

 

 そのおかげかロックのカルマはそれほど低くもないらしく、街中でガードに追い回されている所を見たことは無かった。

 

 「何より、あんまり悪名高いと、お客さんが寄ってこれへんからな。やっぱり商人は信用第一や、お客さんに安心して買い物させられるようにせな」

 (闇討ちで冒険者から武器を奪ってるような奴に、信用も何もない気がするがな……)

 「そいつ等はお客さんと違うからエエの!」

 

 この世界では多少闇討ちしたぐらいなら、周りで見ている人間たちも顔を顰める程度、というのは確かだが。

 それにしたって、流石にマイルール剥出しに見えるロックは、『そもそもそうやって勝手に信用を求める奴は、相手に利益を与えずにサービスを欲しがって云々』等と持論を展開しながら、給料箱から税金の請求書を取り出した。

 

 正直言ってロックの商売哲学とやらは、普段から大分聞き飽きている。

 俺は彼女の熱弁を遮り、

 

 (分かった分かった、お前なりに考えがあるのは知ってるから。さっさと税金払いに行こうぜ、時は金なりってやつだ)

 

 と、提案する。

 ロックも自分がいくら話しても大して意味がない事は分かっているらしく、まだブツブツと何か言いながらも拠点を出て、王都パルミアの方向へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 道中、特に何があるわけでもなく。

 俺達は無事にパルミアの北にある納税所、パルミア大使館へとたどり着くことができる。

 

 当然と言えば当然である、ロックは盗賊などから身を隠すための技術、隠密をかなり高いレベルで納めており、

 その上、旅の途中の安全を確保するため、積み荷を一切荷車に乗せて運んだりせずに旅をしているのだ。

 

 これだけ徹底していれば、そうそう盗賊団に目をつけられたりするものでは無い。

 事実、これまで俺は、ロックが盗賊まがいの行為を行っているところは見ても、彼女が盗賊から襲われている所は見たことが無いのだ。

 

 話が逸れたが、兎に角大使館に着いたロックは、その足で大使館のロビー正面に鎮座している納税箱へ、拠点から出る際に持ってきた請求書と、その用紙に書き込まれた金額を入れる。

 

 これで納税は完了だ。

 そのまま彼女が大使館を出ようとする所で、少し気になったことがあったので聞いてみた。

 

 (そう言えば、納税箱を自分で買って、自宅から納税することもできるだろう。どうしてわざわざ大使館まで来て金を振り込んでいるんだ?移動の時間も考えたら、余りに非効率的な気がするんだが)

 

 別にロックは極端な銭ゲバという訳でもないが、それでも商人なだけあって、割と倹約家な人間である。

 だからこそ、商機を逃しかねない、アジトとパルミア間の往復を、わずかな金額と手間で省略できる納税箱の購入。

 これを行っていないことに違和感を覚えたのだ。

 

 辺りには此方へ注意を向けている者もいないようで、足を止めずに大使館から出たロックは、普通に俺の疑問に答えてくれる。

 

 「いや、本当ならそっちのが効率エエんやろけどな。ウチはこの稼業始めたころから、税金納めるときに、一緒に神様へのお祈りもするって決めてるんや。あの頃は納税箱にまで回すような金なんか無かったし、お供えもんもあんまり用意できんかったしな。今となってはどっちかって言うと、お祈りをしに行くついでに税金納める、っていうのに近いかもしれへんけど」

 

 成程、確かにこの大使館は教会のあるパルミアに非常に近い。

 このまま歩き続ければ、1時間程で教会へと辿り着くことができるだろう。

 流石に祭壇の方は家に置くことができないし、ついでに納税もしてしまうというのは中々に合理的だ。アクリ・テオラにも祭壇はあるが、ロックの活動範囲圏にはあまり近くないしな。

 

 しかし、ロックが神を信じているというのは初めて知ったな。

 この世界では神が実在すると分かっているし、人々の心に強く信仰が根付いているのは知っていた。

 だから、当然ロックも何かしらの神は信じているとは分かるが、やはり未だに俺の意識としては余り宗教と言うのは身近なものでは無く、彼女の信仰について考えたことは無かった。

 

 (この機会だから聞いてみるが、ロックって何処の神を信じているんだ?俺はエヘカトル様だが)

 

 「んん?エタやんエヘカトル様の信者かいな!?なんや、エタやんも信じてる神様とかおったんやな。てっきり剣だから信仰とか関係あらへんのかと思うとったわ。となると、他の武器ちゃんたちも誰か信じてる神様居るんやろか……?」

 

 (いや、俺もちょっとした縁があって、成り行きで信者になっただけでな。実際恩恵に与ったし敬ってはいるが、この身体じゃあ捧げ物なんかできないし、形だけに近いもんだ)

 

 まあたまに、夜、信者たちが寝静まってて、エヘ様が暇なときとか、睡眠しなくても平気な俺に、話しかけてきたりとかはするが。その時は不肖の身ながら、話し相手を務めたりすることもある。

 ……いや、別に本気で不肖の身だと思っているわけではないが、相手は神でファーストコンタクトからしてこっちの思考が読めるわけだし、形式上の礼儀はね?

 

 「はぁ~、何ヶ月か付き合いがあっても、新しい発見ってのはあるもんやなあ。で、ウチの信じとる神様やったか。とは言え、商人が信じる神様っていうたら、この辺りでは一柱しか居らんわ」

 

 ……ああ、あの神様か。

 確かに狙撃銃とかplus要素は出て来てたし、派生ヴァリアントの神様が居てもおかしくないだろうな。

 銃とか使ってるからマニ()を信仰している可能性もあるかと思ったが、商売に関わる神がいるなら、それはそっちを信仰するだろう。

 elonaで商売に関係する神様で、コテコテの関西弁を使うロックが信仰している。これらの情報から浮かび上がる神様と言ったら……。

 

 (『富のヤカ「当然『財のイナリ』様や!」そっちかい!)

 

 そっちって何が?と、キョトンとした様子でロックがこちらを見てくる。

 いや、確かに勝手に勘違いして変なテンションでツッコミをしてしまった。補足をしておかなければ。

 

 (いや、俺の知識では富のヤカテクト、って神様が居たはずだなと思ってな。確かその神も商売の神で、しかも関西弁だったから、ついそっちを信じているのかと)

 

 「ああ、サウスティリスで結構主流な神様やな。確かにそっちも商売の神様やけど、流石に関西弁ってだけで信仰の対象決めたりはせんよ」

 

 (いや、そうだろうけども。でもまず一番に浮かんでくるだろ?)

 

 「まー、分からんでもないけどもな」

 

 そんな益体もない事を話しながら、しかし周りをしっかりと警戒してロックはパルミアへと歩き続ける。

 

 しかし、信仰対象は財のイナリだったか。

 確かoverhaulに登場していた神様だったな。

 もちや、うどん等を捧げ物として受け取る神様だった気がする。ゲームの時は、信仰マラソンの間だけしか信者じゃなかったから、うろ覚えだけども。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、街中のパン屋で大量の麺類を買い占めた(パン屋で麺を買うことに突っ込んではならない)ロックは、パルミアの教会の前へとやってきた。

 ここに来るのは久しぶりだな、最後に来たのは2,3か月ほど前にオーディと別れる直前だったか。

 別に感傷に浸るという訳では無いが、持ち主が変わっても同じ場所を訪れるというのは、何だか得体の知れない感覚である。

 

 中に入ると、そこには特に変わった様子もない見知った顔の、癒し手のフィーヌが客人を迎え入れる態勢に入っている。

 ロックは大して特別な反応も見せず、

 

 「失礼しますー、ちょっと神様に捧げものしに来ました」

 

 と言って軽く挨拶をし、祭壇の前へと陣取りに行く。

 それに対し、フィーヌは軽く眉を顰めて、軽い小言を始めた。

 

 「ロックさん、何度も言いますが捧げ物を1度にまとめて行うというのは、余り褒められた行為ではありませんよ?日々の積み重ねこそが、とても尊いのです」

 「あんまり口うるさく言わんといてやー、ウチかて悪いなとは思ってるんやで?でもやっぱり、そう頻繁にパルミアに来るってのは厳しいんや」

 「そう言いながら、何度も『仕入れ活動』の為に、パルミアに来ていることは知っているんですよ?あまり不精をせず、しっかりお祈りに来るべきです」

 「あ、ばれてた?ま、ま、堪忍してや」

 

 そう言って、ロックは祭壇の前で捧げ物を始めた。

 祭壇に乗せられたうどんや蕎麦が、白い光と共に消え去っていく。

 

 しかし、フィーヌのあの小言も久しぶりに聞いたな。

 オーディも同じようなことで怒られてたわ。

 

 そして仕入れ活動については説教が無い、ティリス大陸クォリティ。

 ここはいつだって世紀末である。

 

 

 

 5分ほどかけて、ロックは購入した麺類を全て奉納し終え、最後に懐から何かを取り出した。

 

 「よーし、粗方納め終わったな。最後にコレ差し上げますぅ、お納めください」

 

 そう言ってロックが祭壇に乗せたのは鏡餅だった。

 ロックは、何だか心なしか丁寧にそれを祭壇に乗せた後、*パン!パン!*と二度手を叩いて祭壇を拝んだ。

 すると、さっきより少し強い光が祭壇を包み込み、鏡餅を持って行った。

 それと同時に、空から何やら大きな存在を感じられるようになり、穏やかそうな女性の声がしてくる。

 

 『いつもありがとうございます。これからも末永く宜しくお願いしますね』

 

 恐らく、今のが財のイナリの声だろう。

 その予想は間違いなかったらしく、ロックは恭しく(当社比)それに返答する。

 

 「とんでもございません、こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 

 そうしてロックが一礼をすると、白い光が消え、財のイナリと思われる気配も消え去った。

 

 その姿からは、本当に神を敬っているのだろうと感じさせるものがあった。

 普段はあんなに軽く、何だか商売以外に興味が無さそうなロックも、信心深い普通のティリス人なんだと思わせる一面である。

 

 「ほんじゃ、また来ますわ。そん時はまたよろしく」

 「出来るだけ早く来るようにしてくださいね」

 「はっはっは、善処しますわ」

 

 そう言って教会を後にするロックは、いつも通り食えない様子に戻っていたが。

 

 

 

 

 

 パルミアでの情報収集を終え、特に今有用そうな情報はないという結論に至ったロックは、もう一度拠点に戻って休息を取るべくパルミアを出立した。

 

 そこで、先ほどふと疑問に思ったことをロックに聞いてみることにする。

 

 (そう言えば、さっきは大分神に供物を捧げていたようだったが、いつもあれだけ捧げていたら、神様から下僕を下賜されたりはしてないのか?)

 

 ゲームにおいては、あれだけの供物を何回も捧げたら、神の下僕が仲間、つまりはペットとして貰うことができた。

 ロックの信仰スキルがどの程度の物かは分からないが、話を聞いた限りでは随分と前からイナリを信仰しているようだったし、貰っていてもおかしく無いのではないかと気になったのだ。

 それに対するロックの返答はこのような物だった。

 

 「神様の下僕かぁ、あれはよっぽど神様から目を掛けられてるような信者でないと、貰えるモンとちゃうで。なんでも、最低でも10年単位での深い修業が必須だとか聞いたことあるわ」

 (10年!?マジでか?)

 「そら、神様の下僕やからなあ。それ位は必要になるやろ、他には時代を導くような運命に関わるような人間には、割とポンポン下僕をくれたりすることもあるらしいけど、そっちのが稀らしいわな」

 

 なるほど、ゲームでの主人公は後者という訳か。

 となると、今となっては作られることのない第三章では、プレイヤーが何か大きなことを仕出かしたりする予定だったのだろうか?

 

 気にはなるが、どうせ元の世界に戻って作者に確認したりすることはできない。

 もしかしたら、この世界でその偉業とやらがどんな物かを知る機会も、あるかも分からんがな。

 

 「そんなわけやから、ウチみたいなもんには神の下僕が来たりすることはないやろ。もし神の下僕を連れてるやつがおったら、ものっそい敬虔な信徒か、これからどエラい何かを仕出かすかもしれん奴やと思っとけばええわ」

 

 そしてロックは、”とは言え神々は気まぐれな方も多いから、もしかしたら偶々気に入った人間に与えただけかもしれへんけどな”と、締めくくる。

 

 (だが、そうなると信仰に即物的な面はあまりないんだな。それでも十分な見返りってもんはあるんだろうが)

 「もちろんそうや。例えば財のイナリ様なら、その信仰の深さによってその美貌や口先とかに加護をくれはるし、ちょっと特別どころとしては……」

 (信仰が深まれば深まるほど、天候が雨で固定しやすくなる、と)

 「なんや、知っとったんかいな。ま、元々名前まで聞いたことあったみたいやし、大して不思議でもないけども。というか何でそんなことまで知っとるんやろうな」

 (俺がこの世界に生まれ落ちた時からこんなもんだからな、気にしたって仕方ないんじゃないか)

 「そりゃそうやな。話戻るけど、天候が雨ってのは結構便利なもんやで。雷雨になりにくくなるから、安定して旅ができるようになるし。足跡を消すための翼さえ持っとけば、隠密も大分やりやすくなるからな。

 ……お、噂をすれば降ってきおったか」

 

 そう言ってロックは空を見上げる。

 其処には確かに、チラホラと落ちて来始めている、細かい粒が見えた。

 冷たく、ふわふわとしていて、白く見えるその粒は……。

 

 (これ、雪じゃね?)

 「……雪やな」

 

 まごうこと無き雪だった。

 全然雨じゃなかった。

 

 「いやいやいや、これはちゃうやんか!パルミアの近くやから雪が降りやすいのを、ちょーっと雨と勘違いしただけで、本当に雨が降りやすくなるんやって!」

 (別にロックの信仰が薄いから、雨が降らなかったとか言わんけどな)

 「ウチ知っとるんやで!エタやんがそう言う物言いをするときは、嘘ついてからかっとる時やって!あ、ほら見てみい!すぐ雨に変わりおったで、雪と雨なんか同じようなもんやな!」

 

 確かに、ロックの言う通り。降ってきた雪は、すぐさま雨へと移り変わった。

 

 「ほーらな、やっぱお稲荷さんはウチの事ちゃあんと見てくれてるんやで?」

 (ここらは気候的には雪と言うより、雨が降りやすい範疇だからな。すぐに雨に移り変わっても、不思議ではないか)

 「さっきの雪はノーカンやノーカン!見とき、これから暫く雨続きになるやろうからな」

 

 自分の神の加護を証明できたロックは、さっきとは打って変わって上機嫌である。

 

 そう言って喜ぶロックの背後を見上げると、そこには雲の切れ目から見え始めた太陽がサンサンと地面を照らしていたが。

 

 

 

 

 

 結局、パルミアを出てここまでの道中、雨はあれから一度として降らず、空にはずっと太陽か月が輝き続けていた。

 そのおかげで、ロックはすっかりしょげ返って、

 

 「ちゃうねん、エタやんが来てから確かに雨の日はあんま無いけど、ホンマはもっと雨が続くねん……」

 

 等と繰り返している。

 

 (わかったわかった、それに関してはそういう事で良いっつの。ほれ、もうそろそろ家に着くぞ)

 

 既にこの場所は、ダルフィ近郊だ。

 ロックの住処隠蔽を兼ねた、遠回りの移動のせいで今この場所の正確な位置は分からないが、それでも少し見覚えがある場所であることは分かる。

 

 と、ロックが急に立ち止まって、その場に蹲った。

 

 (……?どうした急に、いくらなんでもそんなに気にする事でもないよな?)

 「もちろんや。いや、なんか変な気配がすんねん。このあたりの生き物とちゃう、モンスターか何かやろうか」

 

 そう言いながら、ロックは地面に耳を当てて辺りの音を聞く。俺も一応、目線が低いロックの代わりに辺りの警戒をしてみるが、すぐ傍にはおかしなものは見当たらない。

 

 しばらくすると、ロックは地面に押し当てていた顔を上げた。

 その顔は少々苦々しい物となっている。

 

 「こいつはちょーっと嫌な展開になるかもしれへんな。取りあえずアジトまで戻って見よか」

 (なんかあったのか?)

 「この物音、完全にウチの拠点の方から聞こえ寄るんや。しかもウチの予想通りの奴やったら、エライめんどい事になると思うわ」

 

 ロックは、少々急いだ様子で、しかし足音は完全に消しながら、遠回りを辞め拠点へと一直線に戻っていく。

 当然俺も一緒だ。剣なのだから、どうやったら一緒じゃなく移動するのか、っていう話だが。

 

 

 

 

 

 ある程度開けた荒れ地に、ベッドや給料箱と言った家具が点在している空間。すなわちロックの住処に辿りつくと、そこには俺の見たことが無いモンスターが、何匹も蔓延っていた。

 いや、正確に言うなら俺が『この世界に来てから』見たことが無いモンスターになるだろうか。

 

 白色の石でできた、細長い円錐状の体。

 人で言う顔の部分にある、十字の形状。

 その姿は、俺にとっては中々に見覚えのあるものだ。

 

 (なるほど、<キング>か。確かに厄介なモンスターだな、特に拠点に陣取られたって部分が)

 

 ロックは、特に驚いたようでもない。

 これまでにも俺は色々と知識があるところを、彼女には見せているし、これもその一部だと判断されたのだろう。

 

 「知っとったか、アイツは無限に配下のモンスターを召喚し続けるタイプのモンスターや。本来はこの辺に出てくるモンスターでは無いんやけど、どういう訳かウチの拠点で繁殖しくさっとるな。あの数にいっぺんに召喚されたりしたら、とてもや無いけどこの家は住むどころじゃあなくなりそうや」

 (どうせお前の被害者のうちの誰かが、ペットの<キング>をここで離して繁殖するよう仕向けたんだろう。心当たりでもあるんじゃないのか)

 「両の手で数え切れん位にはな」

 

 だろうよ。

 

 ロックは卑怯上等のブラックマーケット商人だ、恨まれる覚えは十分にあるだろう。

 そして、ノースティリス中を走り回るロックに復讐をするとしたら、拠点を利用するのが利口と言うものだ。ロックもそれを分かって、出来るだけ住処がばれないように立ち回っているが、本職の情報屋等を復讐したいと思った奴が頼れば、流石に対処しようがない。

 恐らくこの状況を作り上げたやつは、そうしてこの場所にたどり着いたわけだ。

 

 だがこの世界では、窃盗は重罪なので、復讐相手の家が分かったとしても、物を盗んだりすることで意趣返しをすることが難しい。

 だから基本的には、本人を待ち伏せて闇討ちするという方法で復讐するのがセオリーの一つなのだが、いつ来るか分からない上に、会えたとしても返り討ちにされるか、逃げ切られる可能性がある。

 そこで、対象の家に汚物をまき散らしたり、このようにモンスターをばら撒いて繁殖させたりする訳だ。

 

 強力なモンスターが居る状況では拠点が安全地帯となり得ないし、引っ越すにしても中々の金額が必要になる。

 十分強いモンスターを相手の拠点にばらまくことができれば、まず間違いなく相手に嫌がらせができるということになる。

 

 今回ここにいるモンスターは<キング>というチェスをモチーフにしたモンスター。

 ステータスで見るならば大したことは無く、むしろレベルにしては貧弱と言えるモンスターなのだが、

 

 (あいつ、手駒をどんどん召喚してきやがるからな。しかも何体もいるから、一体を相手にしている間に、他の奴らによって拠点を駒モンスターで埋め尽くされかねん)

 

 そう、駒召喚が厄介なのだ。

 奴はモンスターを召喚して戦うタイプのモンスター。耐久型の<ルーク>や投擲を得意とする<ナイト>、魔法攻撃を撃ってくる<ビショップ>などを大量に展開されると、満足に<キング>に近寄ることすら難しくなり、いずれ物量に圧殺されてしまう。

 

 「せやねん、一体位ならウチにも何とかする自信はあるけど、見た限り四体は居りそうや。これはちょっと厳しいかも分からんな」

 

 ロックのレベルは、持っている武器の上質さに比べると大分見劣りする。

 ある程度格上の相手なら戦うことができるだろうが、確かゲームでレベル20以上だったキングに、自分と同程度のレベルのモンスター達を召喚され続けては、当然苦しいだろう。

 ここは拠点を諦めるのも手かもしれない。

 

 (どうする?別の場所に引っ越してあいつらほっとくか?)

 

 俺がロックに聞いてみるが、彼女は横に首を振った。

 

 「それでまた同じことされたらかなわんのよなあ、出来ればウチの力でしっかり対処して、何度来ても無駄やって見せつけたいところや。んー、取りあえず死ぬまで戦ってみて、無理やったら這い上がり次第逃げ、核の炎で拠点ごと焼き払う方向でいこか」

 (物騒な話だ)

 「召喚するタイプのモンスターにはこれが一番効くんや」

 

 まあ、確かに数を頼みにする奴相手なら、核爆弾は良く効くだろう。

 この場所はダルフィに近いから、爆弾魔のノエルから仕入れるのも容易、確かにいざとなったらその方面で対処するのもアリか、自宅でなら大してカルマも下がらんだろうし。

 

 それに、駒モンスター相手なら俺の出番もあるかもしれんな。

 大量の雑魚をさっさと片付けられる俺の瞬間火力は、捨てたものでは無いと思う。

 バブル工場で手に入れた地獄属性攻撃で継戦能力もあるし、久しぶりにモンスターを血祭りにあげたいところだ。

 

 「さあて、ほいじゃあボチボチやろか」

 

 そう言って、ロックは加速のポーションをグビグビと飲み干す。

 この戦いはどれだけ相手に召喚を許さず、さっさと敵を倒し切るかが肝になるだろう、短期決戦を目指すならこれくらいの投資は必要か。

 

 ポーションを飲みきったロックは、一番手近な<キング>に向けて、時止弾の装填された拳銃を向ける。

 距離は少々離れていたが、こちらに気付いていないモンスターを狙い撃つ分には問題なかったようだ。引き金が引かれるとほぼ同時に、<キング>が弾のぶつかった衝撃でグラリと揺れ、さらに時止弾の力で世界の時間が止まる。

 

 すかさずロックはスナイパーライフルに持ち替える、弾は武器を弾き飛ばすための紙の貫通弾では無く、実用性重視の鉄製の物に入れ替えられている。

 

 時が止まっている以上、標的に弾を当てるのはロックにとっては朝飯前だ。

 1発2発と<キング>に向けて弾丸を打ち込んでいく。

 

 6発ほど当てた所で、時は再び動き出した。

 瞬間、弾を撃ち込まれ続けた<キング>は、衝撃で俺達とは反対方向へと吹っ飛ぶ。

 だが、致命には至らなかったようだ。フラフラとよろけた様子はあるが、外敵からの吸収に反応して、モンスターを召喚し始めた。

 出てきたのは、2体の<ポーン>と1体の<ルーク>。遠距離攻撃は持たないが中々耐久力のあるやつらだ。

 

 しかも、仲間が攻撃されたことに反応して、残り3体の<キング>達もこちらに感づいたようだ。

 まだ何処にいるかまでは気付いていないようだが、すぐにでも見つかって奴らも召喚を始めるだろう。

 

 「くっそ、一発の時止弾で仕留めきれへんかったのはキツイな。2発目撃ってもええけど、時止弾は大分スタミナ使うから、あいつを倒しても疲労でまともに戦えへんようになってまう。そしたら召喚でまともに<キング>狙うどころや無くなるし、ここは温存しとこか」

 (なるほど、そんならさっさと手負いの奴から始末していくべきだろうな)

 「言われんでも、な!」

 

 そう言って、ロックは再びスナイパーライフルから弾丸を発射しだす。

 2発3発と撃っていくと、元々瀕死に近かったらしい<キング>は、最後の力で<ポーン>を1体、<ナイト>を2体出して力尽きた。死の間際でも駒を召喚するその執念は、復讐心からくるものか、はたまたモンスターのくせに味方を守ろうなんて言う義侠心からくるものか。

 

 だが、厄介なことは確かだ、特に<ナイト>。

 今の発砲音で、残りの<キング>達がこちらに気付いてしまった。

 ここからは3体のキングを相手にしなければならないのに、近場に遠距離攻撃を加えてくる<ナイト>が生まれてしまっている。

 奴の攻撃を避け、<キング>との間に居るモンスター達に阻まれないように、親玉の<キング>達を狙い撃っていかなければならないわけだ。結構に難易度が高そうな話である。

 

 とは言え、やるからには成功させるつもりである。問題は俺にできることは大して無いという点だろうが。

 

 「こっからはテレポートしながら狙撃し続けるしかないわな。っかー!手持ちの道具だけで殺し切れるやろか?」

 (なんだ、別に勝算とかあった訳じゃあないのか)

 「ウチは、モンスターとの戦闘は専門外やで?あくまで商売人やさかい」

 (そりゃそうかもしれんが。まあ俺の見立てだと何とかなると思うぞ、お前の射撃の腕が問題なければだけど)

 「なら失敗したら、エタやんの見立てが間違っていたってことやな」

 

 俺のゲーム時代の経験に基づく判断に、ロックは群がり始めた<ルーク>や<ポーン>を、散弾銃で撃ちながら答える。

 確かあの銃には、暗黒属性の追加攻撃が付いていたはずだ。

 近接要員を一時的に無力化できると思えば、キング達の召喚を少し放置してでも多少盲目を付与するため、奴らを撃っておくのは悪い手とは言えないだろう。

 

 ゲームで言う、NPCであるロックにスタミナという概念がある以上。ゲーム中のelonaと違い、恐らく<キング>にもスタミナに限りはあり、連続で駒召喚を行い続けることはできないはずだ。

 実際、今の所3体の<キング>は1度位しか駒召喚を行っていないようで、俺達と<キング>達の間には10体くらいの駒たちしか存在していない。

 

 奴ら<キング>達とはそれぞれ3~40m程度距離があり、ある程度開けた空間がある。今<キング>達に召喚された駒たちは、召喚者の敵であるロックに向かってきているが、<キング>への射線を阻むほどに密集してはいない。

 盲目状態に陥り、まともにロックに向けて剣を振り下ろせない<ポーン>や<ルーク>を尻目に、ロックは遠くに居る<キング>達に、3発ほど狙撃銃の弾を叩き込むことに成功する。

 そしてもう一発撃とうかと言う所で、先ほど死んだ<キング>が召喚した、<ナイト>の投げる手裏剣に阻まれた。

 遠距離攻撃主体の<ナイト>とは少し距離があった為、奴にはまともに暗黒属性の弾が当たっていなかったようで、中々正確にこちらへ投擲攻撃を仕掛けてくる。

 銃を撃ちあぐねている間に、新手の駒達が30mの距離を踏破し、こちらに合流しようとしていた。

 

 (取りあえず立ち上がりはこんな物だろうな。そろそろ向こうの新しい召喚駒達で、射線が通らなくなってくる。テレポートの使い時だろうな)

 「見かけよりあいつら素早いもんやな。もう少し撃つ時間作れると思っとったんやけど」

 (気持ちは分かるが、こういう時未練は禁物ってもんだぞ。あと少し行けそうって思った時は、得てしてあと少し行けないもんだ)

 「真理やな。ちょっと早いかもやけど、使っとくとするか」

 

 ロックは携帯していたテレポートの杖を振り、今居るモンスター達から離れた場所へと転移する。

 即座に辺りを見回すと、どうやら背後5mと言った地点に、先ほどまで狙撃していた、2体目の<キング>が居る場所に出たようだ。

 

 「んげっ!よりにもよってここに出るんかいな!」

 (いや、チャンスだ。とっとと俺をあいつに突き立てろ、最悪突き刺さらんでもいい)

 「い、イケるんかいな?」

 

 ロックは少々怯んだ様子を見せたが、そこは対人百戦錬磨だ。

 すぐに開き直り、俺を手近の<キング>に突き刺すため走り寄る。

 <キング>の方も少々面食らったようではあったが、元々奴の配下には<ビショップ>というテレポート使いもいるし、動揺は少なそうだ。

 すぐさま、改めて駒召喚を行って来、そのまま召喚された駒は<キング>の取り巻きとなる。

 

 「これ刺しに行ったら袋叩きに合うんとちゃうか?」

 (だろうな、時止弾撃ちこんどけ)

 「いやいや、だからそないなことしたら、暫くまともに狙えんくなるっちゅーねん!」

 (だとしても、まずは敵の数を減らさないとどうにもならん。とにかくやっとけ)

 「ああもう、ホンマに大丈夫かいな!?」

 

 そう言いつつも、ロックは俺の言葉に従って時止弾を撃つ。なんだかんだモンスター討伐の経験は少ないようなので、俺の自信満々の物言いが効いたのだろう。

 本日二発目の時止弾が敵に炸裂し、またも辺りが静止する。

 

 ロックは少々疲労で足取りが重くなったが、それでも<キング>の元へとたどり着き、俺を突き刺すことに成功した。

 大して深く突き刺さった訳でもないが、追加属性攻撃を加えるには十分だ。

 

 (ロック、血ぃ吸うぞ。もし途中で時間動き始めたら、防衛者と回復ポーションガン飲みで耐えといてくれ)

 「おま、本当頼むで!ウチ戦術や回避系統は大して育っとらへんのやからな!」

 

 ロックは少々焦っているようだ。まあ周りを駒モンスターに囲まれている現状だから、圧迫感半端ないだろうし分からんでもないが。

 そんなロックを置いておいて、俺はバブル工場での血液採取によって手に入れた、地獄属性の追加攻撃によって<キング>にダメージを与え始める。ついでに生き血も吸って、ダメージはさらに加速だ。

 地獄属性は、敵から体力を奪い取る吸血系の属性攻撃だ。

 本来なら、俺の属性追加攻撃の任意発動は大分生き血を奪う必要があるので、乱発することはできない。

 

 だが、地獄属性によって敵からHPを奪い続ける事ができれば、そのデメリットを概ね補いながら攻撃することができる。

 そして時が止まっている中でなら、安全に突き刺し続けて攻撃することができるし、この攻撃方法なら剣の扱いに長けている必要はない。

 中々にロックとの相性がいい攻撃方法だ、といえるのではないだろうか。

 

 俺が地獄属性攻撃を行い続けていると、ロックが声をかけてくる。

 

 「もうそろそろ時間も動き出すで、行けそうなんか!」

 (停止時間内に殺し切るまでは無理そうだ。回復とテレポートの準備しといてくれ)

 「ああもう平気で言いおって……」

 

 ロックは俺と言いあうのを諦めた様子で、懐から防衛者のポーションを取り出して飲み干す。

 これで時間が動き出し、駒達がロックに殴りかかっても、聖なる盾の防御力上昇効果が、ある程度緩和してくれるだろう。

 

 俺の方は、あと少しで相手の生き血と体力を吸いきれると言ったところだ。

 だが、ここで時間停止の効果が切れたようで、俺に突き刺されていた<キング>が急に動き出した。

 

 気が付いたら、敵対していた者が懐で攻撃しているという突然の事態に、<キング>も戸惑っているようだ。

 防衛反応だろうか、駒召喚によってまた新たな僕たちを傍に展開させる。

 本人も逃げようと後ろに後ずさるが、それだけはロックが許さない、改めて距離を詰め、しっかりと俺の事を捻じ込んでいく。

 

 だが、その分ロックも攻撃に晒され始めた。

 召喚された駒達は、我先にとロックに手持ちの武器で攻撃を始める。

 四方を敵に囲まれたロックは、まともに攻撃を防ぐこともできない、身に着けた装備の防御力と、適宜飲んでいく回復薬で体力をおっつけるのがやっとだ。

 

 しかし、それでずっと凌ぐのは無理だろう。

 剣、棍棒、斧、拳、様々な方法で、暴行を加え続けられるロック。

 傷は、明らかに治るそばから増えて行っているし、少し離れた場所を見れば、別の<キング>が召喚した<ビショップ>や<ナイト>達が、遠距離攻撃を加えようとこちらに近づいてきている。

 焦りと不安が心中にあることは、俺でも察することができる。

 

 「エタやん、どうや!」

 (待ってろ、今……。……行った!テレポートだ!)

 

 間一髪……かどうかは分からないが、なんとか間に合わせることができた。

 俺の前で、生き血吸いによる出血と地獄属性攻撃で、HPを奪われ続けた<キング>が、ミンチとなって冥界へと落ちていく。

 

 「よっしゃあ!ようやってくれた、いったん撤退するでぇ!」

 

 ロックも、この状況から開放されたおかげで高揚した様子だ。すぐさまテレポートの杖を2度、3度と振り、安全圏へと移動しようとする。

 

 2回ほど敵のすぐ前に転移してしまったが、その後なんとか敵から離れた位置にテレポートすることができた。

 これで2体の<キング>を葬り去り、敵の司令塔の内半分を潰すことができたわけだ。

 

 (問題はここからだな。ロックの疲労からして時止弾はもう使えない、今迄とは違う方法で敵の<キング>を潰す必要がある)

 「本当は狙撃銃でバンバン行くつもりやったんけど、ちょい疲労で、しばらくキッチリ狙えそうにあらへん。エタやん、何か考えとかあるんか?」

 (いや、特にこれといった物は無いが)

 「えー……、何かあったからあんだけ自信満々に言ってたんとちゃうの?」

 (あれはあの時無理して倒しておかないと、ジリ貧になるだろうから、無理にでも倒しに行っただけだ)

 

 ゲームの時を思い出せば、いやと言うほど覚えがある展開だからな。

 <キング>のような大量にモンスターを呼び出すタイプの奴は、さっさと数を減らさないと回復薬などのリソース不足で、結局倒し切れなくなることになりやすい。

 

 それに比べれば、疲労が回復するまでの間は、多少一時的に劣勢に陥るとしても、

 相手が出し続けてくるモンスターの量が少ない方が、まだ展望が持てるだろう。

 

 まあゲームの中の頃での、イメージを基にした話だから、絶対役に立つとは言えないが、アレは戦闘シミュレーションか何かだったと思えば、ある程度信憑性はあるだろう。俺にとってだが。

 

 (取りあえずテレポートしながら、安全圏で配下の駒達を始末していくのが良いだろう。散弾銃なら疲れて狙いが定まっていなかろうが、充分ダメージを与えられるだろうしな)

 「意外やな、『俺なら疲れていても、突き刺すだけで確実にダメージ与えられるぞ』とか言い出すんやろなーと思っててんけど」

 (今の状況で、敵に接近を許すのは悪手だろう。一応俺にも、戦闘用の生き物だという意識がある、持ち主に不利になるのを覚悟して、俺を使えという気は無い)

 

 俺は、俺が活躍するのが好きなのだ。強い敵の血を飲むのは楽しいが、使えない剣の烙印を押されてでも、自分が敵を斬りたいとは思わない。

 敵に棍棒のような鈍器を武器としているものが居るので、敵が近接戦闘を行える位置に来るのを許すのは、朦朧のリスクが大きいのだ。

 さっきは<キング>を倒すという目的があったから、そのリスクも許容できただろうが、今は只の雑魚散らし、そこまでしてやるほどの事ではない。

 

 「そんじゃ、ちょっと言われた通りやってみようかいな。ほい、テレポートの杖っと」

 

 ロックはテレポートの杖を振り、敵の駒達から距離を取る。

 敵を一瞬見失った駒達だが、すぐにロックのテレポート先を見つけ、押し寄せてくる。

 そこにロックによる散弾銃の乱れ撃ちだ。

 

 近づいてくるまでに3体ほどの<ポーン>が砕け散り、何体かの<ルーク>と<ポーン>が、散弾銃の暗黒属性攻撃により盲目に陥ったようで、フラフラとした足取りに変わる。

 

 とは言え、それだけのモンスターを倒したくらいでは、焼け石に水だ。

 次々に<キング>に呼び出されるモンスター達が、散弾銃の弾幕を物ともせずに押し寄せてくる。

 

 この位置でこれ以上粘るのは無理と判断したロックは、すぐさまテレポートの杖を振る。

 走って逃げて時間稼ぎをしないのは、疲労回避や<キング>の召喚時間を作らせないという意味もあるが、それ以上に血吸い対策と言う点が多い。

 血吸いは基本的に、身体を大きく動かす時、移動の時などに発動する。

 ロックは、大量の血吸い付きの生きている武器達を装備している。

 なので、比較的移動の少ない立ち回りをする必要が出てくるわけだ。

 

 

 テレポートと散弾銃での攻撃を続け、2~3分ほど経っただろうか。

 この戦術を始めた、最初の頃は疲労で息の上がっていたロックだが、大分それも落ち着いてきた様子である。

 戦場は、散弾銃で近くの敵を掃討していた関係で、<ポーン>や<ルーク>の数が少なめになり、遠距離攻撃持ちの<ナイト>と<ビショップ>の比率が多めになってきている。

 奴等は遠距離からチビチビとロックを狙い撃ちしてきているので、結構厄介である。

 

 (ロック、これ以上待つと遠距離タイプの敵が増えて削り殺される気がする。そろそろ<キング>の狙撃はできないか?)

 「おう、ウチもそう思うとったところや。まだ時止弾はキツいけども、狙撃だけなら十分やれるで」

 

 其処からは、テレポートから<キング>を狙い撃ちする作業だ。ロックは加速のポーションを飲み干し、再び狙撃銃を両手に持ち戦闘を始める、

 

 ここで、最初に<キング>を間引いていたことが効いてくる。

 やはり、敵が新たに召喚してくる駒達が厄介なのだ。

 狙撃をしている間、他の駒達を相手にしている暇はない。ぼやぼやしていれば、<キング>は自然治癒で回復していってしまう。

 だが、やはり射線上に入って来る駒達は厄介だ。時間がたてばたつほど、散弾銃で間引いていた当初とは、比べ物にならない程数が増えていく。

 

 2体目の<キング>を倒していなければ、今の1.5倍の駒達が俺達の障害となっていたわけだ。

 <ナイト>と<ビショップ>が間引けなかった分、遠距離攻撃によってロックは、中々にダメージを受けてしまっているが、

 空いた時間で回復を出来ることを考えれば、攻撃のチャンスがなくなる可能性のあった分、<キング>を倒しておいた方が良い戦場を作ることができたと言えるだろう。

 未だ油断はできないが、戦場には十分勝機が見える、後はロックがどれだけ狙撃決められるかだな。

 

 

 

 (もう7、8発ほど狙撃を叩きこんだかね。そろそろあの<キング>もやれるんじゃないか)

 「せやなー、大分駒の数も増えてきおったけど、この分なら何も無ければいけそうやわ」

 (お前またそんなフラグ臭い事を……)

 「縁起でもない事言いなさんな……っと、もうそろそろテレポートせなやわ」

 

 見れば、あと数歩の距離まで駒の尖兵達が近づいてきている。

 

 当然逃れるために、テレポートの杖を振ったロックだったが、転移先が少々悪かった。

 

 <ルーク>や<ナイト>と言った強力な駒達の、ど真ん中に出てしまったのだ。

 当然ながら、まともに戦えたものでは無い。すかさずテレポートを行おうとするロックだったが……。

 

 不意に<ナイト>から放られた手榴弾に、テレポートの杖を取り落としてしまう。

 

 「やっば、取り直して…いや、あれはもうええわ!ここは巻物で確実に行くとしよか」

 

 杖は失敗する可能性もあるが、巻物ならば確実にテレポートをすることができるからだろう。

 そう言ってテレポートの巻物を取り出し、読み上げようとするロックだが、ここで<ビショップ>による鈍足魔法を掛けられてしまった。

 突然の事にテンポを崩され、スムーズに巻物を読めなかったロックは、<ルーク>から鈍器による手痛い一撃を喰らってしまう。

 さらには、当たり所が悪かったらしく、軽い朦朧状態に陥ってしまったようだ。

 

 (やはりフラグ回収は必須事項か)

 「ああ、くそっ!とにかくテレポートや!」

 (あ、待て。お前頭うったみたいだし杖でやった方が「へ?」)

 

 俺が言ったその頃には、ロックは既に巻物を読み上げ始めていた。

 其処に声をかけてしまったせいか、ロックは集中を乱したようだ。朦朧状態だったこともあり、テレポートは失敗する。

 それどころか巻物の文章が頭を離れず、混乱状態に陥ったようで、もはや前後不覚の様子だ。

 

 「くぅっ、まだや!巻物はまだあるんやから、多少殴られても読みけれれば!」

 (落ち着けロック。その状況で巻物は無理だ、杖を使え杖を)

 「何で巻物読み損ねたと思ってんねん!大丈夫や、ちゃんと集中すれば……!」

 (今となっては巻物の方が不安定だ!混乱でまともに頭が働かなくなっているだろう、ここは俺に従っておけ)

 

 ロックは、立て続けのトラブルと敵に囲まれた現状、そして混乱の状態異常から極度に焦っているようだった。

 この世界はターン制のローグライクゲームでは無い、一瞬で様々な判断をし、そして行動しなければならないリアルタイムの世界だ。

 俺には関係ないが、思考に関わってくる状態異常もあるだろうし、どうしたって、まともに判断ができず、激情に駆られることはあるだろう。

 

 

 

 「……せやな、回復ポーションがぶ飲み!いくら失敗しようが杖振りまくったるわ!」

 

 それでも、即座に反省し、実行に移せる辺り、やはりロックは中々に頭の周りが良いらしい。

 

 回復ポーションでモンスター達からの攻撃を耐えながら、ロックはバッグパックから取り出したテレポートの杖を振る。

 

 瞬間、視界が切り替わり、すぐ傍からモンスター達が見えなくなった。

 どうやら、テレポートは一度目で上手くいったようだ。

 

 「サンキューやでエタやん。これでひとまず立て直せるわ、八つ当たりして悪かったな」

 (まあ、今回については途中で余裕を持たずに行動を止めた、俺の失敗でもあるだろう。そんな気にすることでもあるまい)

 

 朦朧状態のロックは、このままでは狙撃はできないと判断。こういう時の為に持っていた、マジックミサイルの杖による、確実な攻撃に切り替える。

 ロックの魔道具スキルはそれほど高くないし、狙撃銃に比べると明らかに火力が控えめだが、それでも何度かテレポートを繰り返しながら撃っている内に、<キング>を虫の息に追い込む。

 

 (どうやら混乱も抜けきったみたいだな、そろそろ狙撃、狙えるんじゃないか?)

 「せやな、よーしバキッと決めたるでー」

 

 そして時間経過によって健康な状態に戻ったロックは、また狙撃銃を手に取り、射線から敵配下の駒がいない時を見計らい、<キング>に銃弾を叩き込む。

 

 どうやら、それが致命の一撃となったようだ。

 散々ロックの銃弾を喰らいまくった<キング>は、ダメ押しの一撃にその身体を保てなくなり、ガラガラと崩れ落ちてミンチとなる。

 

 後はまあ、消化試合だ。

 倒せる敵の量が、敵<キング>の召喚の量を上回ったので、残った敵を掃討していく。

 

 <ポーン>や<ルーク>と言った近接系の近寄ってくる敵は、散弾銃よりも時間に対するダメージ量が多いという理由で、俺が地獄属性攻撃でミンチ。

 <ナイト>や<ビショップ>と言った、遠隔攻撃でちびちび来る敵は、ロックが適宜散弾銃と狙撃銃で切り替えてミンチ。

 そうこうやってる内に、ロックの疲労が大分回復したので、<キング>は時止弾で時間を止めた後、至近距離に近づきながら大量に散弾銃をぶち込み、最後に俺を突き刺してミンチにした。

 

 「これで、チェックメイトって訳やな」

 (あー、チェスだけに)

 

 大分危ういところもあったが、これで拠点内の駒モンスター達を殲滅できたわけである。 

 また一つの場所を核の炎(身内の犯行)から救ってしまった。

 

 

 

 

 「辺りに敵の気配は無し。ふー、これでようやっと休めるってもんや」

 

 そう言って、ロックはベッドへとなだれ込んだ。

 

 「いやー、エタやん思ったよりモンスターとの戦闘慣れとったなあ。これならその方面での売り込みも、行けるかも分からんわ」

 

 それはゲームとかいろいろやってたから、こういった場合のセオリーみたいなのを、ある程度知っていたからだろうな。前世の話とかになるから、詳しく話したりするつもりはないが。

 

 (あー、まあ俺剣だし、こういった戦闘に強いようにできてるのかもしれんな。ずっと安全圏に居るから、安心して考え込むことができる、ってのもあるかもしれんが)

 「なるほどなー、戦闘でも今回は結構役に立っとったし、結構ご満悦とちゃうの?」

 (ああ、<キング>の血は特に美味かった。また機会があったら飲みたいものだ)

 「いやー、もう来ないんとちゃう?誰が此処に<キング>ばら撒いたんかは分からんけど、エタやんのおかげで核も使わんと、少ない出費で対処できたわけやからな。連れてくるのも手間やろうし、大して相手が困らんとなれば、もう同じことをされたりはせんと思うわ」

 (む、まあそうか。それはそれで構わんがな)

 

 ロックは、これ以上拠店にちょっかい出すにしても、今回とは同じ方法では来ないと思っているわけだな。

 実際<キング>を人の拠点に放つとなると、大分手間と金がかかりそうだし、その通りかもしれん。

 

 久しぶりにモンスターを大量に斬れたし、活躍した感あるから、割と楽しかったんだが、こないものは仕方がないか。また別の機会を待つとしよう。

 

 「しかし、やっぱエタやんの用途は、弱めのモンスターに止め刺す時と、動かない相手に突き刺し続けんのが一番それっぽいなあ。雑魚専として売り出すのもありかもしれん」

 (……)

 

 そして、この発言によって喜びに水を差されたわけだ。

 商人として、売り先へのスタンスを俺に相談する意味もあったのかもしれんが、それはそれとしてイラッ☆と来た。

 

 

 

 ので、この後ロックが寝ようとしている間、5分ほど嫌がらせで、寝そうになった時に血吸いを繰り返してみました。

 

 割とキレられた。




大分投稿間隔が開いてしまっています。

やはり、上手くいかないからと言って逃げていてはだめですね。
ロックの話が書けないのなら、なおさらさっさと別れの所まで書いてしまわねば。
此処はしっかりと、ハイスピードで投稿を進めることを宣言し、自分を追い込まないとですね。

では……



『今日から毎日、小説を書くことにしよう。』



……よし!


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コレクターになら欲しがられるんだけどね

 ダルフィの自分の露店で、ロックは笑顔ながらも困ったような顔、という小器用な真似をして、先ほどと同じ話を繰り返す。

 

 「せやから、コイツだけはどぉーしても売れないんですよお客さん。エライすいませんけど、コレばっかりは分かって下さい」

 「そう言わんでくれよ、ワシと君との中じゃあないか。金ならホラ、今回は600万gpは用意してきているんだぞ?コレだけあれば、商売の方もグッ、と楽になるんじゃあないのかね?」

 

 ロックの前で、20分ほど前から粘っているのは、でっぷりとした体形に、口元に蓄えた白い髭、見るからに高そうに見えるスーツらしき(貴族社会のっぽい服だが、よくわからん)衣服を身に着けた、貴族然とした男だ。名をミラーと言うらしい。

 

 なんでもロックとは、彼女が商売を始めたころから、数年来の付き合いだそうだ。コレクション目的で、よく生きた武器を購入していたらしい。

 ここまでの会話を軽く聞いた感じでは、今迄に数百万gpの金額をこの店で使って来たようで、この店にとっては上得意のお客さんという訳だ。

 

 そしてそのミラーだが、今回も生きた武器を買いに来て、見つけてしまったのだ。

 そう、ロック曰くメチャクチャ価値があって、部屋に一つ置くだけで、家の評価がぐんと高まるであろう、俺の存在を。

 

 ミラーはその貴族っぽい見た目の通り、戦闘などを生業としている男では無く、コレクション目的で俺の事を欲しがった。

 当然俺としては、決してそれを受け入れることはできない。下手したら、一子相伝の家宝みたいなノリで、飾り物として額縁かなんかに入れられかねん。永遠に活躍できない空間で、生物と鉱物の中間の生命体として生き続けるのはご免こうむる。

 

 それに対してロックはというと、

 

 「ウチの方としても、ミラーさんにはお世話になっとりますし、お譲りしたいのは山々なんですが、この剣との約束があるんでどうしてもできないんですわ。いやもう、コイツが戦うんが好きで好きでしゃーない奴でして、自分が納得できるような使い手じゃないと許さん、って聞かんのですわ」

 

 丁寧な態度を崩さないながらも、しっかりと断ってくれている。

 以前交わした、戦闘を行わず、コレクション目的の相手には売らないという約束を守ってくれての事だろう。

 

 「戦闘がしたいなら、専用の冒険者を雇って、毎週ネフィアで戦えるようする!それなら問題ないだろう?」

 「ええ、あー、うん。ウチとしてはそれなら問題ないカモとは思っとります。でも、今話しかけてきたんですが、こっちの剣の方が、ちょっと信じられないんだそうです。自分には呪いがかかっているから、その契約に乗ってくれるような冒険者を雇うのも一苦労やろし、そんな約束を手に入れてから守る保証がないってんで。

 いや、ウチは他ならぬミラーさんのことだから、信じとるんですよ。でもこの剣が気に入らん奴には、売らへんって約束してしまったもんで。せやからすいません、この剣については勘弁してください」

 

 別に俺は、ロックに対してコイツが信用ならないとか言ってはいない。思ってはいたが。

 だから、これについてはロックが、俺がそれに思い至らない可能性を考慮して、先回りして断ってくれたのだろう。

 

 そうやって、さらに1、20分ほど押し問答が繰り広げられたが、最後にはその貴族の男は不機嫌そうに去って行った。

 ロックが話しても問題なさそうになるのを待って、俺は話しかける。

 

 (お得意さん蔑ろにさせて、悪かったな。礼を言っておく、ロック)

 「平気や平気、ああいうお客さんはその場ではプリプリしてるけど、しばらく経ったら平気そうな顔して買い物してくれるもんやからな」

 

 ああ、それは俺が転生前、外回りだったころに割と覚えがある。なんでもない事で大分怒ったように振る舞って、次会った時はケロッと忘れて最近どう?とか言ってくる奴。マジ嫌い。

 

 (それにしたって、600万gpとか言われても俺の立場に立っていてくれたわけだからな、礼を言っておくのが筋ってもんだろう)

 「それで『じゃあ売ります』なんて言ったら、ウチの事血吸い殺して、心変わりするまで永久這い上がりルートに持って行くんやろ?そいつは勘弁やからな」

 (で、お前はその対策として、血を吸われ始めたら腕を切り落として、這い上がる前に相手に取らせて、所有権を客に引き渡すわけだ。それ位は思いついてるんだろ?)

 「ああ、その手があったわな。気が付かんかったわ、今度からアカンことになったらそうしよ」

 (言わなきゃよかった)

 

 ま、とか何とか言っているが、きっとロックの事だから気が付いてはいただろう。

 もしロックがなりふり構わず、本気でコレクション目的の奴に売り渡そうとしたら、俺にどうこうする手段はない。

 それをしないのはロックが俺を商売相手と考えて、自分なりのルールを通そうとしているからかもしれないし、

 単純に俺に劣らず友達いなそうなロックが、俺に友情かなんかを感じていて、守ってくれたのかもしれない。

 

 理由は俺にはわからないが、目の前の利益を捨てて、俺との約束を優先してくれたのは確かだ。礼を言っておいて間違い、ってことは無いだろう。

 

 それじゃあ鬱陶しげな貴族も帰って、ある程度落ち着いたところで、だ。

 

 (ところでロック、気付いてるだろうが、さっきからあそこの物陰でコソコソしている奴が居るだろう。あいつは一体何なんだ?)

 「お、エタやん気付いたんか、やるやんけ」

 

 さっき貴族が粘りに粘っていた頃から、途中からあの路地裏に続く道の物陰で、チラチラとこちらの様子を伺っている奴が居るのだ。

 相当に高レベルな隠密スキルを持っているらしく、最初は俺も気づかなかった。あまりに貴族との話が長引いたので、ふと周りを見渡した時に発見した次第だ。

 

 そいつはフードを深く被り、顔を隠した怪しげな風体(まあ、ここダルフィではそれも大して珍しくないが)だったが、別に盗みを働いたり、こちらに危害を加えようとするでもなく、此方の動きに注意を払っていた。

 盗人ではないとすると、いったい何者なのか。見当が付かず、俺は商談が終わった時にロックに尋ねることにしたのだ。

 

 「あん人は情報屋さんよ。ほら、覚えとるか分からんけど、ウチがエタやん手に入れて直ぐの頃、生きた武器持った冒険者の情報を、持ってきてくれた人がおったやろ?あの人と同じ人やな」

 

 ああ、あのヨウィンに居た、生きている武器持った、オッサン冒険者の情報を持ってきた奴か。

 あの時はこの隠密を見破れなかったが、今回は不思議と見つけることができたな。コイツほどでは無くとも、隠密、探知術に優れたロックと暫く行動を共にしている内に、そう言った方面へのスキルが向上したのかもしれん。

 

 「さて、ミラーさんも帰って、別のお客さんも来なそうやし、呼んでまおーか」

 

 そう小声で言って、ロックは急に銭勘定を始める。

 それが合図なのだろう、先ほどまで陰で様子を伺っていた情報屋が、スルリと動き出し、ロックの傍まで近寄ってきた。

 そのまま此方に目を向けずに、口を何やら動かし出したが、何を言っているかは全く聞き取れない。

 

 そこで、ロックの方に注意を向けると、彼女も金勘定をしながら口を動かしていた。

 しかし、直近くのロックの声も俺には聞くことができない。いくら何でも、俺にすら聞こえない小声では向こうに伝わらないだろう。

 

 其処に至って、俺はようやっとロック達がどうやって意思疎通をしているか気付く。

 

 (ああ、読唇術か)

 

 俺がボソリというと、ロックは教師が出来のいい生徒を褒めるかのように、*トン*と俺の事を小突く、どうやら正解だったようだ。

 

 しかし、お互い面を向き合わせているわけでもないのに、良く口の動きだけで分かるもんだ。ダルフィだか商人の世界だと、基本スキルだったりするのだろうか。

 1分ちょい、顔を向き合わさずに会話が続いたが、どうやら話は終わったようで、ロックが会話中弄り続けていた、金が入っている袋の内、少し大きめの物をフードの情報屋に向けて、勘定の動作の中でさり気なく投げ飛ばす。

 

 それを受け取ると情報屋は、またいつの間にかいなくなっていた。

 ロックは既に店仕舞いの準備に入っており、その作業をしながら今受け取った情報について話し始める。

 

 「どうやら、ちょっと高難易度のネフィアで死んで、生きている武器の斧を落とした冒険者がいるらしいわ。誰かに聞かれて先回りされたらアカンから、何処かまでは言えへんけど。

 そういう訳だから、今回はもう店仕舞いやな。元の持ち主が取りに行く前に、さっさと回収しに行くとしよか」

 

 成程、いつもの生きている武器情報という訳か。

 

 (しかし、高難易度ってどれくらいなんだ?ロックのレベルで何とかなるレベルなのか?)

 「まー、40位と思っといてや」

 (40!?お前確かレベルは……)

 「この前一つ上がったから、16やな」

 

 (……行けんのか?この前<キング>を倒すのにも手間取っていただろう。)

 「まあ、ちょいと危ない橋やけど、それ位織り込まずにはこの稼業やってけへんわ。なあに、倒すんならともかく、逃げるだけならウチの専門分野の内や。したら行くとしよか」

 

 店仕舞いを終えたロックは、これから難度40程のネフィアに潜るとは思えない気軽さで、ダルフィを出発した。

 40って本当に大丈夫なんだろうな?いや、俺が心配することでもないかもだが。

 

 

 

 

 

 2日ほどかけ、ロックはヨウィン近郊のネフィア、不帰の洞窟へとやってきた。

 

 ロックが言っていた通り、難度38相当のダンジョンのようだ。

 クリアすることを考えるなら、レベル16のロックには余りにも厳しすぎるネフィアだろう。アイテムを回収するだけでも、大分苦しい展開になりそうだ。

 

 「生きてる武器を落とした奴は、このネフィアの主にやられて、武器を落としたって話や。つまり、このネフィアの一番奥まで行く必要があるっちゅーことやな」

 

 しかも、ネフィアの最奥にたどり着かなければならないらしい。正直無理な気がしてきた。

 そんな俺をよそに、ロックは意気揚々と、ネフィア内部への階段を降りていく。

 

 

 

 階段を降りると、いきなり青い蝙蝠の群れが、ロックへと飛び掛かってきた。

 高い速度と、回避能力を持った蝙蝠、ドラゴンバットだ。もしもあの数に取りつかれれば、跡形もなくロックはその強靭な顎で食いつくされるだろう。

 

 勿論、取りつかれればの話だ。

 ロックは素早くテレポートの杖を振り、移動することで難を逃れる。

 そうして出た場所は、何もない一本道の通路だ。

 見通しも良く、モンスターの不意打ちも無いであろう地形である。

 

 「いやー、いきなりビックリしたわ。取りあえず一安心やな」

 

 そう言いながらもロックは、随分と落ち着いた様子だ。これくらいの危機回避は余裕なのだろう。

 

 (あんな所で死んでたら、笑い事じゃ済まんからな。で、ここからはどう動くつもりなんだ?)

 「おう、ここからはこいつの出番やな」

 

 そう言うと、ロックは腰のバックパックから2つの巻物を取り出し、ノータイムで読み始める。

 しかし2つとも読み終わったというのに、何事も起こる気配は無いようだ。

 

 失敗したのかと思ったが、ロックは特に何かするでもなく、道を進み始める。

 そう、まるで”このあたりの道や、階段の位置を把握しているように”。

 ということは、2つの巻物はゲームの中にもあった、あの巻物なのだろう。

 

 (準備が良いことだな。町で特に用意しているようにも見えなかったが、魔法の地図と物質感知の巻物、常備しているのか)

 

 ロックは、道を進み警戒をしながらも、答えてくれる。

 

 「察しがええやんか。

 エタやんのお考え通り、今呼んだのはその巻物たちや。読むだけで、今居るネフィアの階層の形から、階段の位置まで頭ん中に入って来おるからな。

 今回みたいなネフィアでの落とし物回収は、同じくここに来る、元持ち主とのスピード勝負になる。せやから、コイツらが必須の代物になる訳やな。

 でも、町の魔法店も在庫に限りがある以上、何時でも出発したいときに用意できるとは限らへん。だから出発前の用意時間の短縮も兼ねて、いつそういった情報が入ってきても、すぐ出れるよう、使うたびに補充してるんや」

 

 どうやら正解のようだ、この世界での魔法の地図などは、直接脳内にデータをインプットするタイプの物らしい。

 

 まあ、今回みたいに高難易度ダンジョンで、出来る限り早く目的の場所にたどり着き、お目当てのアイテムを回収するって目的で即降りしていくなら、役に立つアイテムだな。

 ゲームにおいての俺は、適正難易度のネフィアを隅々まで探索するタイプだったので、余り縁が無かったのだが。

 

 (それで、もう一度テレポートもせずに真っ直ぐ歩きだしたってことは、この先に階段があるのか?)

 「ああ、それであってるで。どうやらこの先を右に曲がった部屋に……うわ」

 

 歩いていた一本道の突き当りにあるT字路を曲がり、階段があるらしい部屋の方向を見たロックが、嫌そうな声を出した。

 部屋の真ん中に、心なしか黄色い色をしたドラゴンが、のっそりと徘徊していたのだ。

 

 恐らくあれは、エレキドラゴンだろう。この危険度のネフィアでは、MAXレベルに強いモンスターだ。

 

 (どうする、あの部屋に階段があるんだろう?時止弾でも使って強行突破するか?)

 「いや、これくらいでスタミナ使っとったら、この先もっと危険な所で対処できなくなってまう。幸い大した速度のモンスターでは無いけど、ブレスで麻痺らされたらかなわへん。ここはこの手で行くとしよか」

 

 そう言うと、ロックはT字路の曲がり角付近に移動し、エレキドラゴンに向けてスナイパーライフルを向ける。

 放たれた弾は、綺麗にエレキドラゴンの羽へと当たったが、大した痛手という訳でもなさそうだ。

 だが、それでも相手をブチ切れさせるには十分だったようだ。

 

 *グオオオォォォォ!*と唸り声をあげ、ドラゴンが銃弾の飛んできた方角へと走って来る。

 続けて、エレキドラゴンは顔を上げて、大きく喉を膨らませた。そしてその顎を開くと共に、雷属性のブレスが路へと迸る。

 だが、その場所には既にロックはいなかった。既にT字路を曲がった先へと、身体を引っ込めている。

 

 「よーしよしよし。来い来い、出来れば出会い頭にブレスとかやめてくれたら嬉しいんやけどー」

 

 そんな願望を吐き出しつつ、ロックはスナイパーライフルを仕舞い、バックパックから先ほども使った杖、テレポートの杖を取り出す。

 

 (成程、やりたいことは大体わかった。後はタイミング勝負ってことか)

 「任しとき、あんなにドスドス鳴らされたら、失敗する方が難しいってな物や」

 

 ロックの言う通り、エレキドラゴンの鳴らす足音は相当な物だ。よっぽど腹に据えかねたのだろう。

 足音がT字路の曲がり角へ近づき、とうとうエレキドラゴンが、その顔を壁の向こうから覗かせた瞬間。

 

 「そお、れい!」

 

 ロックが、テレポートの杖をエレキドラゴンに向けて振る。

 エレキドラゴンもこちらを見つけ次第、その鋭利な爪で引き裂こうとしたようだったが、狭い通路ではその巨体が仇となる。

 相手はまともにその力を振るうことができず、甘んじて杖が降り終わるのを見るしかなかった。

 

 どうやら、成功のようだ。エレキドラゴンの姿は一瞬で消え去り、後には奴が残したらしい足跡だけがあった。

 

 「ふぃー、一安心やな。さっさと階段降りてまうか」

 (失敗したら、即お陀仏も有り得たからな。開幕ブレス喰らって体が麻痺して、そのまま殴り殺されたら目も当てられん)

 「まあ、上手くいったからすべて良しや」

 

 そう言ってロックが、後は階段の部屋まで一直線、と小走りに寄っていく。

 半分くらい進んだところだろうか。

 

 

 

 ドスドスと、今度はT字路の真っ直ぐ後ろから、聞き覚えのある足音が聞こえてくる。

 

 瞬間、ロックはすぐさま加速のポーションをバックパックから取り出して飲み干し、一目散に階段へと走り始めた。

 走るのに集中するために、後ろを振り返れないロックの代わりに、俺が背後を確認する。

 

 すると案の定、先ほどと同じ個体と思われるエレキドラゴンが、こちらに向かって力の限り走り込んで来ていた。

 

 「エタやん!アレって!?」

 (ああ、お察しの通りだ。あの野郎、大して遠くには飛ばされなかったようだな。そのままの勢いで、元の場所に突っ込んできたって訳だ。壁生成の杖とかないのか、このままだとブレスでお陀仏かもしれんぞ)

 「持っとらへん!流石にそんな細々した杖まで持っとったら、動きが鈍るからな。今後悔したけど!

 くそっ、このままだと流石に逃げ切れへんな。でも、あのドラゴンもブレス吐きながら、全速力で走るのは無理やろ!取りあえず元素耐性のポーションも飲んで、一か八か階段まで走りぬけたるか」

 

 確かにいくら加速のポーションを飲んでいても、体格の差は如何ともしがたい。

 階段までに追いつかれる程の速度差は無いが、このままではブレスの攻撃範囲内に入ってしまうだろう。

 元素耐性のポーションを飲んで、走る体勢を崩してしまえばなおさらだ。ヘタをしたら2、3発は喰らってしまうかもしれない。

 かといって、ブレスを恐れて壁に身を隠せば、ターゲットを見失ったドラゴンは、一目散にこの部屋に入ってロックを八つ裂きにするだろう。

 壁に隠れながらでは、その攻撃を避ける術は無い。

 

 さっきみたいにテレポートの杖を使うにしても、あの狭い曲がり角だったから敵にやられる前に振れたが、あの広い部屋では、振る前に奴の攻撃で死にかねん。

 時止弾も、この状況で確実に敵に当てるのは難しそうだな、これも絶対安全とは言い難い。

 

 ん、一つ手を思いついた、断られるの覚悟で言ってみるか。

 

 (ロック、俺から提案だ。もし必要なかったら聞き流してくれ。

 さっきエレキドラゴンがブレスを吐いた時、大体のブレスの予備動作を把握してな。多分だが、相手のブレスの直前に声を掛けられると思う。それに合わせて横っ飛びで躱して、ブレスを壁で遮ると言うのはどうだ?見た感じそれで走りぬければ、特にダメージを喰らわずに行けると「うし乗った!」……早いな)

 

 そうと決まったら、俺の仕事はエレキドラゴンを注視することだ。

 

 ロックが、階段のある部屋へと入った。これで何時でも、横っ飛びに壁の陰へと入ることができる。

 しかし、今飛んでしまえば、ドラゴンに爪で裂かれるか、牙で貫かれるかだ。

 相手にブレスを吐かせることで、その走る速度を落とさせなくては。

 

 慎重にタイミングを計る必要がある、待って、待って…………!

 エレキドラゴンの喉が膨らみ始め、その顎をグイと引き締めた!

 

 (今だロック、横跳べ!)

 

 俺が今だと言った辺りで、ロックは壁の陰に隠れるべく、左側へと跳躍する。

 そのコンマ5秒程後に、ロックの居た場所を黄色い閃光が駆け抜けた。

 

 予定通りだ。

 後はロックが、壁の死角に入ったまま、ブレスの届かない場所を走り、階段へと駆け込むだけ。

 最初から壁に入って遠回りをすれば、エレキドラゴンもロックに追いついたかもしれないが、ブレスの反動で速度を落とした奴ならば、充分振り切れるだろう。

 

 階段まで後3メートル程の時点、そこまで来てエレキドラゴンが再びこちらの視界に入った。

 ということは、向こう側からも見えているということだ。エレキドラゴンの喉が再び膨らみ、ブレスを放つ動作に移る。

 

 しかし、既にこちらは脱出圏内だ。ロックはまたも跳躍し、今度は階段へと転がり込む。

 

 ブレスが一瞬ロックの身体を貫くも、身体の勢いまでは止まらない。

 思い切り跳んだ勢いのまま、ロックは階段の中へと入ることに成功した。

 尻目にエレキドラゴンが、階段付近まで寄ってくるのが見える。が、ネフィアのモンスターは何故だか、その階層を越えてまで侵入者を追ってくることは無い。

 これにて無事、エレキドラゴンから逃げきれたという訳だ。

 

 肝心のロックは、電撃ブレスの影響で体が軽く麻痺し、思うように体が動かないようだが、ダメージはそれほど大きくないらしい。

 階段の先にモンスターもいなかったため、軽傷治癒のポーションなど飲みながら、麻痺が引くのを待っている。

 

 (その分だと、特に問題なさそうだな。すぐ出発か?)

 「せやな、助かったでエタやん。流石に全力疾走しながら、状況把握まではできひんからな。せいぜい壁に隠れてテレポートとでも考えとったけど、いくらウチが魔道具の扱いに慣れとる言うても、失敗はあるからできるだけ避けたいし」

 

 魔道具は、いくら習熟しても上手く使えないときは使えんからな。確かに戦略に組み込まんで済むなら、それに越したことは無い。

 

 (まあ、俺は戦闘中だろうが何だろうが、暇なときは暇だからな、これ位なら何ということは無い。だが恩に感じるなら、良い売り先を用意してくれればいいぞ)

 「はいはい、ほな出発と行こか」

 

 ロックは軽く流しながら、魔法の地図と物質感知の巻物を読み始める。どうやら麻痺の方は完全に引いたようだ。

 

 しかし、良い売り先の方は本当にお願いしたいもんだ。

 いや別に、ロックの元が嫌ってことは無いんだけどな、別にこいつの事嫌いじゃないし、こっちの意志を組んでくれるし。

 

 ただ、やはり俺を積極的に戦闘に使ってくれる持ち主が欲しいわな。

 どっかにいないかなー、戦闘狂で呪いとか気にしないで400万gpくらいPON☆と出してくれて俺のエンチャントが噛み合って、俺が気に入るメンタルしてる奴。

 ロックに言ったら、『居らんわそんな奴』で一蹴されるだろうけど。

 

 

 

 

 そんなこんなで、テレポートの杖や各種巻物、所により変装セットなどを使いながら進んだ結果。

 あれ以降障害らしい障害もなく、地下5階まで辿り着くことができた。

 

 こうも簡単に行った理由は、簡単に説明できる。

 ロックの隠密術は相当なもので、まずモンスターに見つからないのだ。

 流石に、同じ部屋で近くを通れば気付かれるが、此方も相手に気付いているので、そうそうそんなことは起きない。

 たまたまテレポートで敵の近くに出ても、其処に階段が無ければまたテレポートで良いし、階段付近にモンスター達が固まっているのなら、そんな時こそ時止弾だ。

 敵が動けないうちに、悠々と次の階に進むことができる。スタミナ大分消費するから、その後暫く休憩を要したが。

 

 で、とうとう最終階層らしい、ここ地下5階に来たわけだ。

 この階層のどこかに生きている武器があるから、ネフィアの主に見つからないよう、慎重に探すのが最善なはずだった。

 

 だったのだが……。

 

 

 

 

 「ハッ!ここに来たのが運の尽きだぜ、かたつむり野郎!この俺の弓でズタズタにしてやるよ!」

 

 一目見て、驚いた。最終階層について、すぐさまコイツと会うことになる等、思いもよらなかったのだ。

 

 (ロック、コイツ多分このネフィアの主で合ってるよな)

 「ああ。すぐ傍に、情報にあった生きてる武器もあるから、間違いないわな。こいつが例の、冒険者を返り討ちにしたネフィアのボスやろ」

 「何を小声でゴチャゴチャと!さあ、かかってきやがれ、来ないならこっちから行くぜぇ!」

 

 そう、階段を降りて直に、目的と思われる生きている武器と、その持ち主を倒したネフィアのボスを見つけてしまったのだ。

 とは言え、それだけなら考え込むような事ではない。目的の品は見つけたのだから、さっさと時止弾でも撃って、脱出の巻物を読んで武器を拾えばいいのだ。

 

 俺達が驚いたのは、今俺達の事を超早口で罵倒してきている、ネフィアのボス、そのものについてだ。

 そいつは、恐らくレベル49程の、俺達では到底太刀打ちできなく見えるようなレベル差のある……

 

 

 

 

 

 『クイックリングの弓使い』だったのだ。

 

 (ロック、近くにちょうど良い生贄はいないのか?)

 「ちょい待ち……お、あそこにタイタンがおるな。あいつにしよか」

 「この期に及んで、まだ独り言か……まあいい!この俺を無視しやがったことを悔いながら、死ねぇ!」

 (もう勝負付いてるから)

 「そういうこっちゃ、な!」

 

 ロックが言い切ると共に、近場に居たタイタンに向けて時止弾を放つ。

 

 ロックが何かをしようとしていることに気付いた『クイックリングの弓使い』は、すぐさまロックに向けて何発か弓を放つ。

 しかし、流石に3、4本矢が刺さっただけでロックが死ぬこともなく、無事止まった時の世界へと入り込んだ。

 

 後は簡単、俺がロックから血を吸って、混沌属性の追加攻撃の用意をし。

 時が止まって碌に動けない『クイックリングの弓使い』に、ロックが俺を突き刺すだけだ。

 

 

 

 (よーし、上手い事、属性攻撃通ったみたいだ。この血の味からして、キッチリ混沌属性の追加効果で、毒状態にもなっていると思うわ)

 「お、そんなことも分かるん?」

 (んー、何か身体に悪そうな味が混じってるし、多分そうじゃねーかな)

 「曖昧やなあ、んじゃ、討伐成功ってことで」

 

 

 

 「ひぎゃばっ!?」

 

 ロックが『クイックリングの弓使い』から剣を引き抜くと共に、再び時が動き出す。

 すると、俺による固定の混沌属性ダメージと、速度が高すぎるため毒の回りも早すぎるという、クイックリング族最大の弱点である毒のダメージ。両方を受けた『クイックリングの弓使い』は、即座に爆発四散した。

 ネフィアの主が消えたことで、このネフィアに眠っていた宝箱が出現、足元へと現れる。

 

 「いやー、何か倒してしもうたな」

 (そうだなー、相性良すぎたわ)

 「エタやん、ホンマ弱い者苛めに向いとる性能やなー。あっ痛ッ!血い吸うのやめい!今仕事中やから、シャレにならへんから!」

 (じゃあ、吸われかねないようなこと言うなや)

 

 しかし、めっちゃ運が良かったな。よりにもよって、クイックリング族のモンスターがネフィアのボスだったとは。

 

 奴らは本来、生きた武器を持った熟練冒険者が返り討ちに会ったと聞いても、『そりゃそうもなる、運が悪かった』と言う反応が自然に出てくるレベルの、強敵モンスターだ。

 恐ろしい速度で敵を翻弄し、凄まじい手数で一瞬のうちに体力を奪ってくる彼らに、泣きを見たelonaプレイヤーは数知れないだろう。ネフィアのボスともなれば、弱点の少ない体力もある程度補完され、手に負えない。

 

 今回勝てたのは、偏にロックが時止弾を持っていたという点と、俺が固定で混沌攻撃絶対通すマンだった点、この二つが揃っていたからに過ぎない。

 逆に言うと、これらが揃っていたから、こんなにも簡単に討伐できてしまったわけだが。

 

 「んじゃ、生きてる武器と、このネフィアの主が守ってた宝を回収して、さっさと引き上げや」

 

 ロックも、余りにも上手く言った仕事に、拍子抜けムードである。

 先ほど銃弾を撃ち込まれ、怒り狂って突進してきたタイタンに、もう一度時止弾を撃ち込む。もはや、スタミナ切れを気にする必要は無い、後は帰るだけでいいのだから。

 

 時が止まると、ロックはすぐさま足元に出てきた宝箱を開け、物色する。

 どうやら大したものは入っていなかったようで、あまり嬉しそうな顔はしなかったが、それでも大量の金貨とプラチナ金貨を回収していた。

 

 続けて、脱出の巻物を高速で読み上げ、落ちている生きている武器の回収に向かう。

 丁度拾った辺りで、時止の効果が切れたようだ。タイタンが唸り声をあげながら、こちらに向かってくる。

 

 まだ脱出の効果は発揮していない、ロックは致し方なしと、テレポートの杖を自分に振る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆 爆 爆

 爆 ロ 爆

 爆 爆 爆

 

                爆:爆弾岩   ロ:ロック

 

 

 (さようなら…遺言は?)

 「縁起でもない事言うなやぁ!」

 






_人人人人人_
> 突然の死 <
 ̄YYYYY ̄


もう少し、投稿ペース上げたいんですけどね


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