IF~転生先で、私は鬼子を拾いました。 (ゆう☆彡)
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転生篇
転生って…本当にあるんですね


初!転生者!!

どんな感じになるのかなぁ…。ワクワクドキドキですっ!!



「…………。」

 

目を開けるとそこは、何も無い真っ白な世界。

 

見えない、聞こえない、感じない。

 

わかるのは、そこに自分がいるということだけ。

 

 

「…………。」

 

もう一つ無いものがあった。

 

喋れない。

 

ありゃ、どーしましょう。

 

てか、自分はどーしちゃったのでしょう。

 

「こんにちはぁ。僕が君の担当でぇす。」

 

?「…………。」

 

キモイ。

 

…ありゃ?さっきまで何も感じなかったのに。

 

そこまでのキモさだってことか。

 

「えっ、ちょっ!扱いひどくなぁい?」

 

「キモイ。」

 

おっ!喋れた。

 

声に出したいほどキモかったんだな。

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃないかぁ。」

 

「その小さい文字がムリ。」

 

「えぇぇぇ。」

 

……増えた。

 

やばい、殺意が芽生えてきたよ?

 

「わぁ!!ごめんなさいっ!殺さないで!!」

 

「あなた誰?」

 

「ボク?ボクはぁ、神様だよぉ!!」

 

 

……こいつは一回地獄に落ちるべきだな。

 

「いやいや!神様は地獄行かないからっ!」

 

「勝手に心読むな。」

 

「キャピ♪」

 

「……キモイを通り越して、吐き気がする。」

 

目の前で、ドヨーンという効果音がよく似合いそうな神様。

 

 

とりあえずわかった事は、

 

キモイ。

神様。

キモイ。

自分の何かの担当。

とりあえずキモイ。

 

……まだ、キモイことしかわかってない。

 

「もう一つ情報だよぉ、君はこれから転生するんだぁ。」

 

ほー、転生。

 

「君は一回死んだんだけど、死に方がかっこよこったから再チャレンジのビックチャァーンスだよぉ!」

 

へー、死んだんだ。

 

死に方にカッコよさとかあるんだ。

 

「あれ?驚かないのぉ?」

 

「別に。」

 

「自分のかっこいい死に方、覚えてるぅ?」

 

「……。覚えてたくなかった。」

 

 

残念なことに、目を閉じるとすぐに思い出せた。

 

 

自分に凶器やら、ずいぶん危険なものを向ける“親”。

 

向けられてるのは、自分と弟。

 

家が金持ちで、なんとなく後継者の問題に巻き込まれて。

 

「親に殺された。」

 

「君が弟君を守ったんだよぉ?」

 

「守れてない。何も……結局。」

 

「じゃあ、もう一回やり直そぉ!!」

 

もうこいつについて行くのメンドクサイ。

 

何なの??

 

「神様だよぉ♪」

 

「死んでください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どこかご希望はぁ?」

 

「どこでもいいの?」

 

「もちろんだよぉ。」

 

「じゃあ、銀魂。」

 

「へぇ、あんなに死亡フラグたっくさんのところに行きたいのかぁ。」

 

「どこでもいいって言った。」

 

「どうぞぉ。じゃあ次は特典だねぇ。三つまで何でも叶えてあげるよぉ。」

 

「原作知識満点での転生。」

 

「おぉけぇ♪」

 

「後は……弟が欲しい。ってのは無理?」

 

「ぜぇんぜん!いいよぉ、それで!あと一つはぁ?」

 

「……ない。保留っての無理?」

 

「んーー、特別だよぉ。欲しい特典が見つかったら、頭の中でボクを呼んでよぉ。」

 

「わかった。」

 

「じゃあそろそろ行こぉかぁ!頑張ってねぇ、(みどり)ちゃん。」

 

「その名前で呼ばないで。」

 

最後に聞きたくない名を聞いてしまった。

 

本当にいらない神様だと思う。

 

 

 

 

転生?驚くわけない。

 

したかった、ずっと別の世界へ逃げてしまいたかったから。

 

そう思った瞬間、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、…おい……!!」

 

誰か呼んでる?でも、名前わかんないしなー。

とりあえず目、開けてみた方がいいのかな?

 

そう思って目を開けた。

目が痛くなるような眩しい光、……はすぐに遮られた。

 

(あおい)っ!!」

「あおい……??」

「っっ!!晴香!!葵が目を覚ましましたよ!!」

 

葵って、私?目、覚ましたって、ずっと寝てたの?

 

晴香……?誰それ。銀魂にそんな人いたっけ?

 

ってか、なんか聞いたことある声だったな。

 

 

「松陽さん、本当っ!?」

 

松陽……??えっ、松陽って、あのしょーよーですか?

 

「葵、わかりますか?」

 

わかるって……何をわかればいいんだろうか…。

 

「松陽さん、葵も混乱してるのよ。五年も眠ってたら私たちも年をとっちゃうもの。」

 

五年!?五年も寝てたの!?

 

「そうですね。葵、五年も経ってしまいましたが、あなたの母さんと父さんですよ。」

 

……はぁ!?

 

「母上と父上……?」

 

えぇぇぇ!?松陽先生が、私の父さんなのっ!?

ってか、松陽先生って結婚してんの!?

 

「葵っ!良かった!!五年も病に伏せてしまって……。」

 

なるほど、この身体の子は病気だったのか。

で、そこに私が転生してきたと。

 

「すみませんが、私は今何歳ですか?」

「そんなに、かしこまらなくていいんですよ?葵は今、7歳です。」

「7歳……。……あの、、、母上…のお腹は……。」

 

明らかに気を使いながら、動いてた。

 

「そうなのよ。あなたに兄弟が出来るのよ。」

 

……まじでか。

いや確かに弟が欲しいって言いましたけど。

まさか、松陽先生の子どもとは……、、、。

 

早速、原作ぶち壊してるんですけど!?

 

 

「とにかく、葵が目を覚ましてよかったですよ。」

「うわぁ!」

 

抱きしめられた。

 

前世が前世で、抱きしめられるのはすごく久しぶりだった。

 

久しぶりに感じた、人の温度は

 

「暖かいです。」

 

「お帰りなさい、葵。」

 

 

すごくすごく、暖かくて安心しました。

 

 

 

 

吉田松陽が父、吉田晴香が母。

 

その間に生まれし、吉田葵。

 

 

銀魂世界の転生者。



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愛を受けた一年、これから愛を受ける生命

『鬼子』まだ出てこないです……。


「母上、あまり無理なさらないでください。お身体に障りますから。」

 

 

転生して一週間。大パニックだった私の頭も、ようやく落ち着いてきました。

 

「ありがとう、葵。」

 

そう微笑む私の母上、晴香さん。

 

 

私は五年も病に伏せていた(ことになっている)ので、とりあえず言葉を喋れることに驚かれた。まぁ、そりゃそーだ。二歳の時に寝たきりになったのに、次起きたら普通の子になってるんだから。

それから、家事が出来ることも驚かれた。

勉強や剣術の稽古……生前やったことなかったことも、なんとなく、なんとなくだけど、アニメの銀魂を意識したつもりでやった。

 

私は十六歳で死んでいる。生前、家が家であり弟もいたので、家事は全般こなした経験があった。

勉強は、最初はちんぷんかんぷんだったが、母上である晴香さんがいつも教えてくれた。

松陽先生……じゃなくて、父上も勉強や剣術を教えてくれた。

 

というわけで、私は目覚めてからわずか一週間で完全回復。

 

それから、そこで過ごしていくうちに、いろいろわかったこともあった。

 

 

まず、私の母上、晴香さんは身体が弱い。私を産んだ時も生死の間をさ迷ったんだと……。そんな身体で二人目を産んだらどうなるのか?そんなこと聞かなくてもわかる。

 

私も止めましたよ?いや、そりゃあ確かに、弟が欲しいって言ったのは私だけど、母上が死ぬくらいなら……ね?でも、

 

「いいのよ、葵。母さんはそのことをわかった上で、この子を産もうと思ったんだから。松陽さんに迷惑かけちゃうと思ってたけど、葵も目を覚ましてくれたし、安心して産めるわ。」

 

素敵な母上でした。

 

私の生前じゃ考えれない、ってか、絶対聞くことのない言葉ですよ。

だって産んだ子ども、殺そうとする親ですからね?

あー、最悪。変なことを思い出してしまった。

 

 

私が生まれた時代、銀さんはまだいなかった。もちろん、桂や高杉もいない。でも、父上は私塾を開いていたので、もうそろそろかな?とは思ってるんだけど…。

なんせ、松陽先生が何歳で銀さん拾ったのか忘れてしまった、っていうかそんなこと書いてあったっけ!?って感じなんで。

 

まぁ、なるようになるでしょ。父上が拾ってくるのを待ってればいいわけで。

 

 

次に私の容姿……、いや、わかってたけど。

確かに原作読んだ時から、『沖田くんと松陽先生ってそっくりだなぁ』って思ってましたけどもっ!!

 

……ここまで似ますかね、、、?

私の容姿は、沖田くんの髪を長くして、瞳の色を赤とか青じゃなくて茶色(?)みたいな、緑(?)みたいな中性的な色にした感じ。

 

えっ?全然違うって??そんなことないんですよ。

鏡を見た時、すっごい驚いて、そんな私を見て父上もすっごい驚いてました…。

並んだら双子に見えちゃうんじゃないかな…?

 

 

最後に立場…?っていうか、私のポジション…?

とりあえず私塾では『姐さん』と呼ばれている。みんな、私より幼いから、たくさん弟がいるみたいで楽しい。

後は『先生』と呼ばれることもしばしば。やっぱり家に先生がいるのもあるし、私自身、たくさん勉強したかったくて、たくさん教えてもらっていたら、私塾の子たちよりは頭が良かったからかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、私は生前の、何十、何百、何千倍もの愛を受けまして、育ちました。

生前の十六年より幸せな一年を過ごしましたよ。はい、気づけば転生してからもう一年ですよ。

何事も無かったわけじゃないんだけどね、それなりに天人が近くまで来たり、それなりに戦場の状況が伝わってきたり。でも銀さんはいなかった。村を探してみたけど、桂も高杉もいなかった。

 

とりあえず、私がとーっても愛を受けた一年でした。ということですかね。

 

 

そして、ちょうど一年がたった今日は……、

 

弟が産まれそうです。

 

 

うん、びっくりだね。私の生前の弟も、私が八歳のときに産まれたんでね。これは、あのキモイ神様の仕業なのか…?

 

―――キモイってひどくなぁい?

 

そういえば、頭の中にいるって言ってたっけ?

…………放っとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オギャァァァァ!オギャァァ!!!」

 

元気に生まれました。私の願い通り弟が、

 

 

 

 

 

母上の命と引換に。

 

 

母上は、弟を抱いて笑って泣いてました。

その顔は、死に際の人の顔だとは思えないくらい綺麗でした。

 

「葵。」

 

「何ですか、母上。」

 

「松陽さんと弟をよろしくね。あなたとちゃんと過ごせた一年、すごく幸せだった。本当にありがとう。丈夫に産んであげれなくてごめんね。娘と過ごす時間がこんなに楽しいものだと知らなかったから、これからもう過ごせないと思うと、それだけが悲しいかな。

 

目を覚ましてくれてありがとう。

声を聞かせてくれてありがとう。

母上…って呼んでくれて、ありがとう。

 

葵、愛してるわ。」

 

 

私は初めて泣きました。生前でも泣きませんでした。

泣いたら、うるさいと殴られる。そんな家だったから。

 

しかも怖くて泣いてるんじゃない。嬉しくて泣いてる。

父上は、私と母上と弟を抱きしめてくれました。

 

 

「ふぅ……。出産は何度経験しても、素敵なものだわ。

 

でも疲れちゃったから、少し寝るわ。おやすみ、松陽さん、葵、蒼汰(そうた)。」

 

そう言って私を初めて愛してくれた女性は、この世を去った。

その顔はすごく穏やかで、やっぱり綺麗でした。

 

私の腕の中には、母上の綺麗な黒髪を受け継いだ弟の蒼汰。

父上に聞いたところ、生まれる前からちゃんと考えていたらしい。

 

「蒼汰、というのは『健康で元気に』という願いが込められるんです。」

 

妻である母上も娘である私も、病に侵されていたから、元気に育って欲しい、っていう意味だったんだろうな。

 

 

 

 

 

こうして吉田家に新しく命が生まれました。

 

吉田蒼汰。私の大切な弟。



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葵と蒼汰と運命と

 

《松陽side》

 

「ねーね!ねーね?」

「蒼汰、ねーねは寝てますよ?少し休ませてあげてくださいね。」

「うー、ボクも一緒に寝るー!」

 

サラサラの短髪の黒髪をなびかせて、器用に葵の腕の中に入っていく蒼汰。あらら、あっという間に寝てしまいました。

 

蒼汰が生まれて、もう一年半が経とうとしています。蒼汰は病気もなく、元気に育ってくれました。

葵が教えているのでしょうか?一歳半にしては早く、すでに走り回っています。たまに盛大に転んで泣きますけどね。

 

 

その葵は、私も驚くほど大人に成長していきました。そこに晴香がいるようでした。

 

蒼汰が生まれて一年半、晴香が亡くなって一年半。

葵は、晴香の穴を埋めようと、今まで以上に勉学や剣術に励みながら、家の事もするようになりました。

生前、晴香に教えてもらったという料理の腕も、みるみる上達していきました。

 

そして何より、蒼汰にたくさんの愛情を注いでいました。まるで母親のように。

 

 

 

 

私はあなたに会った時から、二度とあなた以上に愛おしいと思う人は現れないと思っていました。

しかし、後二人、あなたと同じくらい愛おしい人を増やしてもいいですか?

 

二人はとてもあなたに似て、優しい子に育ってますよ。

きっとあなたなら、許してくれますよね。

なんせ、あなたが命に変えても産みたかった、大事な生命ですから。

 

葵も蒼汰も、あなたの代わりにたくさんの愛を込めて、育てますから、見守っててくださいね。

 

晴香。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ふぁ~~~~、、、。」

 

やばい、寝てしまった。母上が亡くなってから、一年半。転生してから、早二年半。何も起きてないこの世界で、私は私なりに、役に立てるように頑張ってきた。

 

とりあえず、父上が松陽先生という立場でなくなるのはまずいので、家事をしました。

うん、大変だね。目が回るような忙しさ。

それに加えて蒼汰は幼く、世に言う夜泣きというものをするわけで。

その度に外に連れ出し、散歩をしていました。うーん、やっぱり母乳がないのは、子供にとってストレスになるんですかね~?

 

まぁ、そんな事言っても、私が出せるわけもないので、毎晩頑張りましたよ。まぁ、小さい子は好きですから、意外と苦痛じゃなかったけど。

そして、最近は夜泣きもしなくなりました。さて、これが早いのか遅いのか……。十六歳で死んだ私には、わかりません。とりあえず、寝てくれるようになってよかった~、って感じです。

 

蒼汰は、ミルクから離乳食にして、最近は普通にご飯を食べるようになりました。この時代には離乳食が無かったのか、初めてそれを作った時には、父上に驚かれて……、ちょっと面白かった。

 

未だに銀さんは見つけていません。……どこにいるのやら。

 

 

 

…で、今。昼寝のつもりで少し寝ようと思って…。

……今何時だ??時計……時計……。ん?なんか動きにくい…。

 

「蒼汰……?」

 

私の腕を枕に、丸くなって寝ている蒼汰がいました。

小さすぎて気づかなかった……、ゴメンよ蒼汰。

寒くて丸くなるくらいなら、布団に入ればいいのに…。

 

起こさないように、そーっと離れ、布団をかぶせて。

 

「おはようございます、葵。」

「あっ、父上。おはようございます……って、今お昼ですよね?」

「そうですね。」

 

はい、意外とお茶目です、私の父上。笑いながら、そうですね、って……。

 

「寝てしまって……、すぐにお昼作りますので。」

「まだ休んでいてよかったんですよ?今日は、私が作りますから。」

「今日は、塾の方に持っていく約束しちゃったので…。」

「そうでしたか。では、一緒に作りましょうか。」

 

そう言って並んで立つ私の父上。

 

二人の会話が敬語なのは、決して仲が悪いわけではなく、まぁ、成り行き。

原作でも松陽先生として、ずっと敬語だったもんな…。

 

そして、一緒にお昼を作り出す。私はこの時間がすごく好き。

生前に、親と一緒にご飯を作るなんて、絶対なかった。っていうか、親の作ったご飯なんて食べれなかった、毒が入ってるかもしれなかったから。

 

 

「じゃあ、持っていきましょうか。みんな、自習していますから。」

「そうですね。」

 

重箱?みたいな弁当箱四つにぎっしりつめて、持っていく。

これが、持って帰ってきた時には空になってるんだから、食べ盛りとは恐ろしい。

 

 

 

 

 

弁当を運び、少しだけ勉強を教えて、家に帰ってきた。

 

「ねーねーー!!ねーねーーー!!」

 

家で可愛い声が呼んでました。

 

「蒼汰ー?どうしたのー?」

「ねーね!!」

 

あっ、ねーね、とはもちろん私のことです。ちなみに父上のことは、とーと、と呼びます。

 

「お外いく!!遊ぶー!」

「お外ー?」

 

また急に言い出しますね…。まぁいいんだけど。

 

「じゃあ、ご飯食べてからね。」

「うんっ!!」

 

 

 

 

 

ご飯を食べ終えて…、普通の子なら寝るんでしょうけど、蒼汰は元気百倍になります。

 

「蒼汰は元気ですねー。」

「とーと!!」

 

一時帰宅した…、と言っても塾はすぐ横なんですけどね、敷地内ですよ。父上に飛びつく蒼汰、抱き上げる父上。……微笑ましい。

 

「父上、蒼汰と少し出てきます。」

「わかりました。気をつけてくださいね。」

 

そう言って、父上は私塾に戻っていった。

 

「蒼汰、行こっか。」

「うんっ!」

 

 

この時代なので、もちろん私服は着流し。私は、母上が遺してくれたものを着る。どれも、すごく可愛くて、お気に入り。

まぁ、そのせいでというか、着崩れるのが嫌な私と、そんなことお構い無しの蒼汰が一緒にいると、いろいろと問題が起きる。例えば…、

 

「蒼汰っ!待ってよ!」

 

蒼汰が突然走り出した時とか。

 

一歳児に負けんなよ、って言われそうですけど、これまた蒼汰の足、速いんですわ…。全く追いつけません。

 

 

そして、今日は最悪なことに……

 

「蒼汰っっ!!そっちは行っちゃダメ!!」

 

蒼汰が階段を降りて行ってしまった。

私が住んでいる村は、ある場所からかなり高い所にある。その場所から、一千段以上の階段を上らなきゃならない。

 

そんな高い場所から、一望出来るある場所。

そこは、素敵な光景が広がっているわけではなく…、

 

「うっ…………。」

 

そこは凄まじい戦地の跡。転がるたくさんの遺体。

そんな痛々しい光景が一望出来てしまう。

 

生前にそんな光景はもちろんなく、初めて見た時は吐きそうになってしまった。最近はだいぶ慣れてきたけど。

 

「蒼汰ー、待って!」

 

まだ幼い蒼汰は、そんなこと理解できるわけもなく、どんどん階段を降りて行く。追いかけるために、仕方なく階段を一歩降り出す。

 

 

 

 

「…………っっ!?」

 

途端に変わる視界と空気感。

明らかにそこに存在する境界線。本能が、行ってはいけないと警告を発する。

 

いや、私も行きたくないよ、こんな怖い所にっ!でも……

 

「蒼汰っ……。」

 

大事な弟が、行ってしまう方が怖かった。

追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼汰が生まれたこと。

 

蒼汰が外に遊びに行きたいと言ったこと。

 

 

 

これは、私が特典に『弟が欲しい』と言った時から決まっていた。

 

運命が変わる瞬間。



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私が拾ったのは可愛い天使でした。

お気に入り登録、ありがとうございます!

銀さん、登場ですっ!


 

「蒼汰ー?どこ行ったのー?」

 

うー、早く帰りたい。

 

私は……っていうか、誰でもそうだと思うけど、戦地が嫌い。戦うこととか、根本的に向いてないと思う。蒼汰が攫われたら?それは、その時になってみないとわからない。

 

そんな私に、ここはただの地獄。今は、ただの地獄の時間。

 

早急に蒼汰を見つけて、帰りたかった。

 

「銀さんもきっと、こういう所に一人でいたんだろうな…。」

 

 

それが合図だったのか……。

決定的に時が動き出した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあ!わぁー!」

「蒼汰!?」

 

遠くから聞こえた蒼汰の声。……でも、なんか楽しそうな声なんですけど!?なんで……?

とにかく、蒼汰の声がした方へ走った。

 

 

 

?「うー、あー。うーーっ。」

「きゃあ!!」

 

相変わらず楽しそうな声。一体何がそんなに楽しいのか…。

 

そう思って駆けつけたら……、

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼汰に首をつかまれている、小さな男の子がそこにいた。

 

明らかに迷惑そうなその目は、赤くて。

蒼汰が気に入ったのか、ずっと触っている髪は銀色で。

服も血まみれ、差してる刀も血まみれ。

 

「へぇ、本当にいるんだ。実際も可愛いんだね。」

 

ずっと探していた、この物語の主人公。

 

……って、蒼汰。そんなに髪引っ張らないであげなよ…。

小さな男の子、俗に言う坂田銀時は、嫌がりつつも無理やり引き剥がそうとはしなかった。小さい頃から、優しいんだな…。

 

「蒼汰、お兄ちゃん困ってるから、こっちおいで。」

「ねーね、僕まだ遊ぶー。」

 

うん、遊んでると思ってんの蒼汰だけだから。

銀さん、すっごく困ってるから!

 

「後でいっぱい遊べるから、こっち戻っておいで。」

 

蒼汰はふくれっ面になりながらも、戻って来た。

蒼汰が離れた途端……銀さん、刀を抜いちゃいました。

って!まじかよっ!!それは、やばいな…。

 

 

「落ち着いて。私はあなたのこと傷つけに来たわけじゃないから。」

 

原作の松陽先生は、何も話さない銀さんに、自分の刀を投げてついて来ると信じて去るんだっけ……?

 

とりあえず、私には刀がないので出来ないことが判明。

それに、私にはついてこさせるような、素晴らしい言葉はかけてあげれません。

 

「一緒に来ない?」

 

私は私のやり方で。私がもし、銀さんのような状況に置かれたら、して欲しいことをしてみる。

 

「来れば、あなたに刀を向ける人はいなくなる。あなたが刀を振るう必要もなくなる。」

「…………。」

 

ゆっくり、ゆっくり……。一歩ずつ近づく。

 

松陽先生……いや、父上。娘が若干、言葉を借りるのことをお許しください。

 

「殺すために刀を振るうのではなくて、大事なものを守るために刀を振るうといいよ。あなたなら、きっとそれが出来る。」

 

だって、原作で出来てたし!嘘は言ってないよね!?

 

「守る……?」

 

喋った!!声、可愛い!!

 

「そう。一緒に来れば、それを教えてくれる人がいる。あなたがそんな悲しまなくていいよう、周りにいてくれる人がいる。もうあなたは一人じゃなくなる。」

 

うーん、松陽先生は本当に凄いんだな。言葉だけで、銀さんを拾ってきちゃったわけでしょ?私には真似できませんね。

という訳で、

 

―――ギューーーっっ

 

「!?!?」

 

抱きしめてみました。

明らかに固くなる、銀さんの身体。

 

こうなったら、姉キャラ全開でいきますかっ!!

 

「私もあなたを守ってあげるから、あなたを一人にしないから。だから……一緒に帰ろう?」

 

そう言って、銀さんの頭をなでました。あー、モフモフで気持ちいい…。

 

「守ってくれる?」

「うん。」

「一緒にいる?」

「ずーっとだよ。」

 

頭をなでられているのが、よほど気持ちいいのか、それとも私という人物に安心してくれたのか、

 

―――ギューーーっっ!!!

 

「!?」

 

銀さんも抱きついてきてくれました。あー感動!!

 

「ボクも!!」

 

そう言って、蒼汰も抱きついてきました。私の下に、可愛い天使が二人も!すっごい守りたくなる…。

 

 

頭を撫でていると、急に銀さんが動かなくなって……、

 

「……大丈夫!?」

「Zzz……Zzz……、、、」

 

……寝てました。

 

「よし、蒼汰!帰ろっか。」

「うー、まだ遊ぶー。」

 

……そんな眠そうな顔で言われてもね…。

ってか蒼汰。お姉ちゃんは早くここから逃げたいです。

 

「お家返ったら、遊んであげるから……ね!」

「うん……、ねーね、抱っこ。」

「アハハ、帰ろっか。」

 

蒼汰を抱っこして……、瞬殺で寝ました。どこに遊ぶ元気が残っていたんだ?

 

 

…私、蒼汰のこと抱っこして、更に銀さんのことおぶっていくの!?……出来るのか??

そんな銀さんは、未だに私に寄りかかったまんまで…その寝顔は起こすのは酷だと思った。

 

「やっぱり、神経使うよね…。」

 

見たところ、銀さんには目立った傷もなく、ついていた血は他人のものだということがわかった。

そんなになるまで、刀を振るい続けた。その緊張から解放されたのだから、疲れてるのは当たり前。

 

「よしっ、頑張るか。」

 

蒼汰を抱っこしたまま、銀さんを背中に乗せる……、ん?

 

銀さん、軽っ!?えっ!?ほんとに乗ってるよね!?

 

……ってぐらい軽くて、簡単に運べちゃいました。

 

 

 

「さてと……、父上にはなんて説明しましょうかね。」

 

そんなことを考えながら帰る。一千段以上の階段を上りましたよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いが吉と出るか凶と出るのか。

 

果たしてこの世界に、どんな影響を与えるのか。



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ようこそ~出会うべき人との出会い

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《松陽side》

 

近頃、村で不思議な噂を聞くようになりました。

 

『銀色の髪に、赤い眼。まるで鬼のような子どもがいる。』

『戦場に座るその姿は、まるで鬼だ。』

『戦死した人の懐にある、握り飯をとって食ってるらしいぞ。』

『“屍を喰らう鬼”だ。』

 

まぁ、こんな感じでしょうか。とにかく、戦地に鬼と呼ばれる子どもがいるらしいのです。

 

少し興味があったのもありましたが、このままでは、その子どもが危険な目にあってしまう。そう思ったので、葵と蒼汰が帰ってきたら、戦地に赴こうとおもっているのですが……、

 

「2人とも遅いですね…。」

 

既に日が沈みかけているので、すぐに暗くなるでしょう。葵がついているので、大丈夫だとは思いますが…。

 

 

 

――――ガラガラガラガラ

 

帰って来ましたね、よかった。

 

「お帰りなさい、葵、蒼汰……?」

 

驚きました……。

蒼汰を抱っこしている葵の後ろ、もう一人おんぶされている子どもがいたのです。

 

「葵?その子は……?」

 

息切れをして、額にうっすら汗を浮かべていた葵の様子から、走って帰ってきたのがわかりました。

 

「父上っ!事情は後で話しますので、蒼汰をお願いしますっ!」

 

常に落ち着いている葵が、珍しく焦って早口で答えるので、何も言わず蒼汰を預かりました。

 

「あの子は……まさか、、、。」

 

 

わずかに見えた銀色の髪。

 

その子の服についていた…、そして葵の着流しにもかなりついていた、血。

 

 

「下りたのですか、蒼汰……?」

 

問いかけた蒼汰は、ぐっすり寝ていました。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

何をこんなに慌てているのかって?それは、千段以上ある階段を上っていた時のこと…、

 

 

 

 

 

「ふー、、、。流石にきつくなってきたなぁ…。」

 

転生したとはいえ、生身の人間であることに変わりはないので…、当たり前のように疲れます。

それでも、約半分を上りきった私はすごいと思う。

 

まぁ、蒼汰も銀さんも軽いからなんだけどね。

 

 

果たして、安心したのがまずかったのか……。突然、背中にいる銀さんの呼吸が荒くなった。

 

「どうしたの!?大丈夫、ぎん……」

いやいや、待て待て……。

 

確か銀さんって、まだ自分が“銀時”だってわかってないんだっけ?……って!そんなこと気にしてる場合じゃないっ!

 

「ごめんね、もう少し我慢してね……。」

「はぁ………うっ……げほっげほっ……はぁはぁ…。」

 

だんだんと呼吸が浅くなっていく。

更に、私の背中はどんどん熱くなっていった、銀さんの熱で。

 

「うそ……、熱あったの?」

それとも、長い間の緊張から開放された反動か…。

 

今は、蒼汰も抱いてるし、下ろして見てあげれない。とにかく力の限り急いだ。

 

 

 

「頑張って……。大丈夫だよ。」

 

そう言ったら、私の方を掴んでいた手を、さらに強く掴まれた。まるで、助けて……、って泣いてせがる子どものように。

 

 

 

 

 

 

「葵、氷水を持ってきましたよ。」

「ありがとうございます、父上。」

 

氷水に手ぬぐいをつけてしぼり、頭に乗せる。それで簡単に良くなるはずもなく、相変わらず荒い呼吸で辛そうにしている。…大丈夫かな……。

 

 

「それで……、一体何があったのですか?葵。」

 

おっとそうだった…。説明しなくては……。

 

 

私は正直にすべて話しました。

蒼汰が下りて行ってしまったこと、そこで見つけた戦争孤児であること、見つけた時のこと……。

 

とりあえず、父上には嘘は全く通用しない、いや別に、隠そうとしてるわけじゃないから、嘘つく必要も無いんだけどね。

先生だからかな……?嘘には過敏に反応するんですよ…。

 

 

「なるほど……、つまり、噂は本当だったというわけですか。」

「噂……?」

 

私が話終えると、次は父上が話してくれました。

 

………って。

私が行かなくても良かったんじゃんっ!もうすぐ、会えるんだったんじゃんっ!!―――まあ、いいけど…。

 

「そんな噂が……、」

「えぇ。

葵が見つけてくれてよかったですよ。他の人が見つけていたら、また人を殺しかねませんからね。」

 

いやいや、あなたでも大丈夫ですからっ!ってか、私が無事だったことの方が、もしかしてすごいんじゃね!?

 

「そうでしたか……。

それで、父上。この子をしばらく、こちらにおいておいてもよろしいですか?私が責任もって、面倒見ますので……、お願いします。」

 

お願いした、頭を下げて。

答えはわかっていた、明確だった。

 

 

父上は笑顔で、

 

「もちろんですよ。しばらくなんて言わず、ここに住まわせましょう、本人が望めば…ですが。」

 

うん、聞かなくても良かったな。父上は…、吉田松陽とは、こういう人だ。原作でも、目の前にいるこの人も。

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

銀さん、みんながあなたが目を覚ますことを待っているよ。

だから、早く目を覚まして。

 

早く、あなたの笑顔が見たいから。

早く、元気な姿が見たいから。

 

ずっとあなたのそばにいるから。

 

そして……教えて。

 

 

 

運命が…、あなたが、松陽先生ではなく私を選んだ理由を。

私であることに、どんな意味があるのかを。



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おはよう、が当たり前に言える場所

 

《松陽side》

 

葵が幼い子どもを連れてきてから1週間、何も変わらず、普段通りの日常が過ぎていきました。と言っても、変わらなかったのは、葵が連れてきた小さな子どもだけですかね。

 

普段から、家のことはほとんどやっていた葵は、更に子どもの看病もやっていました。それはもう、葵の方が先にやられてしまうんじゃないか、というぐらい働いていましたよ。

 

何か手伝いますよ?、と聞いても、

 

「いえ、せめて起きるまでは、私が責任もって看病します。」と。

 

責任感の強い子です。父親としても胸が張れる、自慢の娘です。

 

 

そういう時は、無理強いしても手伝うべきなのかもしれませんが、私は葵の言葉を優先することにしました。彼女の責任感の強さは知っていたので、それなりの信頼はありましたから。

 

それに、初めてだったのです。葵が、頼みごとをしてきたのは。

それが例え、看病という名目でも……。

 

そんな葵の頼みの言葉を、優先しないわけにはいきませんからね。

 

 

 

 

 

もう一つ変わったこと。

 

それは、“村での不思議な噂”。

 

 

『“屍を喰らう鬼”を拾った者がいるらしいぞ。』

『亜麻色の短い髪を持ったものらしい。』

『しかも、女子(おなご)らしいぞ。』

 

 

……完全に葵の事がバレました。

 

そりゃあ、村内でも『下りてはいけない』と言われている階段を上ってきた女子が、銀色の子どもを背負っていれば、嫌でも目に付きますからね。

 

 

そして、葵が看病の合間に外に出た時に、あの子じゃないか?、と噂の事が葵自身の耳に入った時、

 

「葵……?大丈夫ですか?」

「……?何がでしょうか?」

「いえ、その……。噂なんて気にしなくていいのですからね。」

「あぁ、その事ですか。

 

大丈夫です。私は何も悪いことはしていませんから。」

 

 

驚きました。まさか、ここまで大人に成長してるとは…。

 

さすがにその噂が葵自身の耳に入れば、折れてしまうと思ったのですが……。

 

 

子どもの成長には、いつも驚かされてしまいますね。

 

「父上?」

「余計な心配だったようですね。」

「??」

「いえ。何かあればいつでも、力になりますからね。」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 

晴香、見ていますか?

 

 

私の娘は……あなたの娘は……、

 

どこに出しても恥ずかしくない、素敵な子に育っていますよ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「Zzz……Zzz……、、、」

 

銀さんと出会って、はや1週間。呼吸は落ち着いたものの、未だに目は覚まさない。よって、ご飯も全く食べないわけで……。

 

銀さんは、このまま死んじゃうんじゃないか、ってぐらい痩せてしまっていました。……どうしよぉぉぉぉ!?

はい、軽くパニクってます……。

 

父上には、心配かけないように平静を保ってるけど……、残念ながら、そろそろ心配も末期です。

 

 

そんな私を支えているのは……

 

「ねーねー!」

 

この可愛い天使です。

 

そして、ずっと思ってたこと…蒼汰の見た目、誰かにそっくりだなーって。

 

最近、気づきました。蒼汰は小さい頃の土方十四郎にそっくりだと。

 

弟大好き、土方くん大好きの私には天使以外の何者でもありませんよ。

土方くんに似てなくても天使なのに…。

 

 

「どうしたの?蒼汰。」

「ねーね、遊ぼー。」

 

そうだなー、最近は銀さんの看病で、蒼汰にかまってあげれなかったからなー、、、。

 

「ごめんね、蒼汰。でも、このお兄ちゃんが起きてからにしようね。お兄ちゃんもきっと、一緒に遊びたいだろうからね。」

「うーー、、、」

 

あっ、やばい、泣きそう……。

ごめんね、蒼汰。さすがに、この中で銀さんを死なせてしまうわけにはいかないんですよ、、、。

 

それに、銀さんは本当に遊びたいと思うからさ。

 

「わーった。後で遊ぶー。」

 

あー、いい子でよかった。蒼汰も成長していってるんだな。

 

ありがとう、と頭をなでたら、めっちゃ喜んで走って行った、多分、父上の所だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん、、、?……ぅ。」

「!?」

 

喋った!?って、起きた!?

 

「大丈夫?わかる?」

 

刺激しないように、優しく…優しく…………って……ん??

袖つかまれてる。えっ……誰に?この部屋にいるのは、私と銀さん……。えっ!?

 

 

 

 

えぇぇぇぇ!?!?私、銀さんに袖つかまれてるの!?いやっ、嬉しいけど!

 

「どうしたの?どこか痛い?」

「…………。」

 

黙ったまま、首を横にふる。……痛いところは無いのか、よかった。

ってよくないよね、問題解決してないし。

 

「大丈夫だよ。起きれる?」

 

そう言って頭をなでてあげたら、なんか安心したようで……よかったぁ。

そのまま布団に座らせて、落ち着くまで待ってみた。

 

 

 

「……ここ…………どこ?」

「…ここは私の家だよ。」

「家?」

「そう。そして、これからは君の帰るところ。」

「僕が……帰ってくる?」

 

僕、って!癒されるな〜。

 

 

……帰ってくること、そんな疑問に思うかな、、、?

 

「僕、帰ったら……ダメ。…怒られる。殴られる。帰ったら………、みんな…不幸に……なる。」

 

 

 

 

 

……。

そっか、銀さんって家族から捨てられちゃってるんだよね。

 

 

 

―――ギューーっっ

 

ごめんね、銀さん。私には、松陽先生みたいに銀さんを安心させたり、成長させたりする素敵な言葉はかけれないから。

ただ抱きしめることしか出来ない私を許して。

 

「大丈夫。ここには、君のことを傷つける人なんていないよ。みんな、君の帰りを待っててくれるよ。

 

だから帰っておいで。

 

ここには、君の居場所がちゃんとあるから。」

 

 

つかまれていた袖をさらに強くつかまれて、

こわばっていた身体は緩まって、

 

聞こえてきたのは小さな声。

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

増えた家族は、小さな小さな身体で……でも大きな大きな存在。

 

 

そんな君と巡り会えた私の未来が、

 

君のために輝いているものでありますように。



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あなたの名前はもっと輝くものだから

 

―――グーーーっ

 

ん?……あっ、そっか。1週間ぶりに起きたんだもんね。しかも、ここに来る前に食べてた物なんて、たかが知れてる……、そりゃあ、お腹もすくよなー。

 

「……ごめんなさい。」

 

私が抱きしめたままで顔を埋めていたから、顔は見えなかったけど、、、耳、真っ赤ですね。

 

 

「ふふっ……謝ることじゃないよ。ご飯、作ってくるからちょっと待ってて?」

「……。」

 

ありゃ?無反応……。

 

 

もしかして、独りになるのが怖い?

 

「……んー、やっぱり一緒に行こっか。」

「……!!」

 

おっ、反応あり!

世でいう“上目遣い”で、見上げてくる銀さん。

 

うぉっ!――葵は100のダメージを受けた

 

 

「よしっ、じゃあ行こっか。」

 

そう言って銀さんを抱っこする。……ほんとに軽いんだよな。

抱っこされた銀さんはビックリしてた。

 

確かに原作で、松陽先生は銀さんをそんなに甘やかしていなかった……気がする。

でもいつも言ってるとおり、私は松陽先生とは天地の差なので…、銀さんを思いっきり甘やかすことにした。

きっとこの先、父上の塾に通って、そこで厳しくされる。私が甘やかしても大丈夫だろう…。

 

私だって、厳しくする時は厳しくするけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……何作ろっかな。」

 

銀さんを台所の近くに座らせておいて……銀さんにガン見されながら、料理いたします。

 

 

「まぁ、やっぱりお粥とかでいいかな。」

 

初めてお粥を作ったのは、蒼汰が熱で寝込んだ時だったっけ。

もちろん、この時代にお粥なんてもの無いけど、お米はあるわけだし、作れんじゃね?みたいな感じで作ったら、大好評だったからね。

 

それから、お粥は私の得意料理に認定。生前の世界じゃ、全然胸張るないんですけど……ね、、、。

 

 

 

というわけで、さささーーーっ、と作る。我ながら美味しそうだな。

ついでに一緒に頂いちゃおー、ということで机の上には2人分のお粥。

 

「どうぞ。熱いから気をつけてね。」

「……。」

 

ん?そんなにまずそうかな……?結構、自負してたから恥ずかしい、、、。

 

「どうしたの?」

「…………どうやって…食べるの……?」

 

………………。

あっ、なるほど!!おにぎりみたいに、手で食べれないから戸惑ってたのか。

 

 

「それは、こうやって食べるんだよ。」

 

銀さんにスプーンの使い方を教えて、フーフーして食べさせてみる……世でいうアーン、というやつだな

―この時代に、スプーンってあるんだ…

 

 

「……!!!」

 

銀さんの目がキラキラしてるよっ!嬉しいし、可愛いよっっ!!

 

「美味しい?」

「……うんっ。」

 

 

スプーンを渡すとすごい勢いで食べ始めた。うん、作った方も嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……、」

 

ご飯を食べ終わり、台所で片付けていると銀さんがやってきた。

……今、お姉ちゃんって!!

 

「どうしたの?」

 

片付けの手を止めて、銀さんの目線までしゃがむ。

 

 

「僕、本当にここにいていいの?」

「どうしてダメだと思うの?」

「……僕のせいで、お姉ちゃんが不幸になっちゃうのは嫌だ…。お姉ちゃんのこと、大好きだから………、、、。」

 

主人公に告白されちまったぜ!……まぁ、好きってのは姉として、ってことだろうけど、、、。

 

でも、こんなに小さいのにそんな事考えてるんだな……

 

一体この小さな身体の中で、どれほどのものを抱えているんだろうか。

原作知識を持っている私でもわかんないのに、松陽先生はきっとわかってたんだろうな。

 

「ありがとう。

 

でもね、私は君がいなくなちゃった方が、不幸だよ。

君が辛いことを、独りで抱え込んでしまうのを見る方が悲しいよ。」

「…………。」

 

 

銀さん、私はあなたや松陽先生みたいに、強くない。

今ここに立っていられるのは、あなたや松陽先生、蒼汰に会えたから。

 

だから、3人は私のすべて。

どれか1つでも欠けてほしくないもの。

 

「自分がいなくなった方がいいなんて、言わないで。

 

君がいることを、ここにいる人たちは誰も拒まないよ。

君が君である限り。」

「…………。」

 

銀さんが黙って聞いてくれた。まだ小さいし、理解出来ないところもあるだろうけど…、大きくなったら分かってくれたらいいなぁ。

 

 

「君は、ここにいていいんだよ。もう、家族だから。」

「かぞく……?」

「そう。だから、もう1人で悩まないで、泣くことを我慢しないで。いつでも、家族を頼って。みんな君の味方だから。」

 

ねっ?、と言い終わると、銀さんが泣きながら抱きついてきた。

 

原作で、泣くところなんてあったかなー?

少しは役に立てたかなぁ?

 

 

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

銀さんが落ち着いたところで、

 

「君、名前は何?」

 

ずっと気になってたことを聞いてみました。

 

「なまえ……、、、鬼。」

 

名前と間違えるほど、呼ばれたのか…。

一体、誰が名付けたのか知らないけど、ここまで来たら私が名付けてもいいよね?

 

「じゃあ、『銀時』にしよっか。」

「ぎん……とき……?」

「そう!ごめんね、私が勝手に名付けちゃって。」

「銀時っ!僕、銀時!」

 

おぉ、そんなに嬉しかったのか……、よかった、よかった。

僕、ドラ〇もん!みたいな感じで言わないで欲しい……、面白いし、かわいい、、、。

 

 

「お姉ちゃんは?」

「ん?」

「なまえ……お姉ちゃんの名前は……?」

「あぁ!私は葵、吉田葵。」

「あおい……、葵姉ちゃん……。」

「よろしくね、吉田銀時。」

「……!!うんっ!!」

 

 

 

 

 

銀魂主人公、銀時と原作知識ありありの私、吉田葵。

 

私たちの未来が……素敵なものでありますように。

いや、あなたの未来が、原作と同じくらい、素敵なものでありますように、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……例えそこに私がいなくても。



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初めまして。私の家族

感想・評価、お待ちしておりますm(_ _)m


 

皿洗いを再開した、私の脳内思考を占めるもの……

 

「ねーねー!」

 

銀さんに名前つけちゃったよぉぉぉ!?どうしよぉぉ!?

 

「ねーね?」

 

いやでも、原作では誰がつけたとか書いてなかった…と思う。

えっ、まさか親がつけたのを本当は覚えてたとか!?

 

「ねーね!!!」

「葵姉ちゃん……?」

 

 

葵「……うわぁ!?蒼汰…?銀時……?」

 

うわぁ……私どんだけパニクってんだろ…。2人の天使が見上げてるのに、全然気づかなかったよ…。

 

「ごめんね、2人とも…、どうしたの?」

 

……うん、でも私の焦る気持ちもわかってほしい。だって、主人公の名前だよっ!?しかもイレギュラーな存在であるはずの私がだよ!?

せめて、松陽先生がつければよかったのかな…。

 

 

「ねーね、お外!遊ぶ!!」

「お外?寒くない??銀時も休んでなくて大丈夫?」

 

銀さん、さっき起きたばっかりだよ…?

 

「僕も…外………行きたい……。」

……うん、若いってすごいな。

 

いや、私もまだ9歳なんだけど…ね、生前の年齢はもう少しで19歳になるからね?

 

「銀時が大丈夫ならいいけど…、辛かったら我慢しないで言うんだよ?」

「うん。」

「よし、じゃああったかくして行こうね。」

 

蒼汰おいで、と言って着込ませて…、

あっ、銀さんどうしよう……。

 

 

「……!銀時、蒼汰。父上のところ行こっか。」

 

一応、私塾という名の、いわば学校のようなものをしている…、松陽先生と呼ばれるくらいなんだから。

なら…、着替えとかきっとある……と思う。

 

「とーとのところ行くの!!?」

 

蒼汰…そんな喜ばなくても……。毎日会ってるでしょ?

 

「父上…、葵姉ちゃんの父さん…?」

「そうだよ。銀時は初めて会うっけ?」

 

首を縦に振る銀さん。

そっか…、会うべき2人がやっと会えるのか……。前の時は銀さん寝てたし……。

 

自分の着流しの裾をつかむ銀さん。……なるほど、“裾をつかむ”っていうのは、銀さんが不安に思ってる時の合図なのね。

…まぁ、一種の人間不信みたいなんだろうな。

 

 

――ん?じゃあ、蒼汰は、、、?

 

「大丈夫。とっても優しいし、銀時にここに住んでもらおう、って提案したのも父上なんだよ。」

 

だから大丈夫、ともう一度言うと、裾をはなしたので……安心したのね。――よかった、よかった

 

「よし、じゃあ行こっか。」

「うん。」

「やったぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、父上の私塾へ。ちょうど、休憩時間なのか廊下でたくさんの生徒に会い、その度に銀さんの身体が硬くなっていく。……大丈夫かな??

 

「とーと!!」

「蒼汰?それに、葵も。……!!」

 

あっ、銀さんに気づいた。……銀さんも気づかれたことに気づいた。

 

「目を覚ましたんですね。」

「はい。」

 

父上はそう言うと、銀さんの目線の高さまでしゃがみ、笑って言った。

 

「初めまして。起きて急に違う場所で驚いてるかもしれませんが、ここは君の家ですからね。安心して下さい。」

 

銀さんの手が緩む。さすが、父上ならぬ松陽先生だ。お口が達者でいらっしゃる。

 

「銀時です……。お願い…します。」

 

あっ、私が名付けたこと、後で教えなきゃ、、、。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、葵?どうしてここへ?」

――そうでした。忘れるところだった。

 

「実は、銀時の服がないので、こちらで借りれないかと思いまして…。」

「そうでしたか。

構いませんよ。自由に持っていってください。」

「ありがとございます。」

 

 

銀さんと蒼汰を連れて服のある場所へ向かう。

蒼汰…、そんなに必死に手、振らなくても、、、

 

「葵姉ちゃんの父さん…優しそう……。」

「安心してもらえてよかった。父上ね…、多分優しいよ。」

 

こういうふうに言うのは、私が原作での松陽先生を知ってるから。

だってそうじゃんっ!父上の拳骨とか、絶対にくらいたくない!

でも、蒼汰も銀さんも大きくなったら、くらうんだろうな…。

 

 

「ねーね!早くー!!」

 

2人ともドンマイ!、とか考えたら、蒼汰に急かされちゃいました。

 

「ごめんね、蒼汰。

よしっ、銀時もいいよ。多分、寒くないと思うけど。」

「ありがとうございます。」

「ふふっ、敬語なんて使わなくていいよ。私は銀時のお姉ちゃんだからね。」

「うん……、ありがとう…?。」

「よしっ!行こっか。」

 

蒼汰を連れて部屋を出る。次の授業が始まるのか、父上が向こうから来た。

 

「父上、蒼汰と銀時と少し出てきます。」

「わかりました。最近は物騒ですから、帯刀して行ってくださいね。」

「はい。」

「行ってきまーす!」銀「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。葵、蒼汰、銀時。」

 

 

 

 

 

 

 

 

銀さんの1件があってから、常に帯刀するように言われました。嬉しいことに、まだ一度も鞘から抜いたことはない。

 

 

 

だから今日も大丈夫だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんていうことを思った日に限って、

 

何かあるものなんだ。



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「…………寒っ。」

 

着込んできたけど、やっぱり寒いものは寒い。もう10月だし…、風が冷たいよ……。

 

「きゃーー!!」

「あっ、待ってー!」

 

わぁ、若いってすごいなぁ。あの2人、私より薄着のはずなんだけどな…。――うん、歳には勝てないんだ!

 

 

あれ?ってか、今月って10月……?10月って…、

 

 

銀さんの誕生日!?

やばい、すっかり忘れてた……、……ん?

銀さんって誕生日わかってるのかな?……原作ってどうだっけ??

 

今日は10月17日……銀さんがうちに来たのは、1週間前……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああぁぁぁぁぁぁ!?!?!?

 

 

 

えっ!?銀さん拾った日、ちゃんと銀さんの誕生日じゃん!って、気づけよっ私!!

あー、もう!それ知ってたら、外出なかったのに…。

 

「はぁ……。」

「葵姉ちゃん…?」

 

……ありゃ。

 

「どうしたの?嫌なことあったの?」

 

ありゃりゃ……、5歳児に気を遣わせてしまいました…。

蒼汰は……、滑り台でキャーキャー言ってます。……純粋だなぁ、、、。

 

「ごめんね、銀時。なんでもないよ。

 

 

銀時はどうしたの?辛くなってきちゃった??」

「ううん……、」

 

 

 

……ん??首は横に振ってるし、裾もつかんでないし…、意思表示はしてるけど…。

 

「…言ってごらん、銀時。ちゃんと聞いてあげるから。なんも、気にしなくていいんだよ?」

 

そう言って頭をなでてあげると、安心したのか銀時が口を開いた。

 

「うん……、あのね、、、。」

―――あれ、、、と言って銀時が指さしたのは、先ほどまで銀時も遊んでいた公園。今はちょうど時間帯的に、近所の子どもとかもいて、公園は少し賑わっている。

 

何か変わったところなんてあるかなぁ…??

 

「あの奥……、木の奥…………、、、。」

 

 

 

それは、『戦場』という異質な環境で過ごしたせいで身についた感覚。――“気配”を感じ取る力

 

銀さんは確か、原作でも悪いやつの感覚には敏感だったっけ??

 

そんなふうにのんきに考えてる場合じゃなかった。

 

 

「あっ……、、いやっだ……、、、あぁぁ、ぁ、ぁ、……

 

 

 

うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「銀さん!?」

 

わき目も振らず、蒼汰のもとへ走る銀さん。

さっきの銀さんの言葉が本当なら、蒼汰のいる方は“気配を感じた木”の方だった。

 

「あっ……、蒼汰ぁ!逃げろぉぉ!!」

 

 

必死の銀さんの叫びも、幼い蒼汰には理解出来ない、……ただ、何か“怖いこと”が近づいてることだけはわかったみたいだった。

……かと言って逃げれるわけでもない。

 

ただ、そこで大泣きする蒼汰。

それに驚いて、蒼汰に近づいていく周りの子どもたち。

 

―――まずい。

素直にそう思う。だって、蒼汰のいる方……銀さんの向かう方は……

 

 

――――ザッ!!!

 

「「「きゃーーー!?!?」」」

「「「いやだぁーー!!」」」

「母さまーー!!!」

 

 

木の奥から出てきたのは、紛れもなく天人。それも、1人や2人じゃない。

 

葵「一体何人いるの……!?」

 

見えるだけで10人以上確認できる、、、……木の影にももっといるって考えたら…、、、かなりやばい。

 

天人はあっという間に子どもたちを捕まえてしまった。

それを見て怯える親たち……から出てきた言葉は、、、

 

「やめてっ!子どもには何もしないでっ!」

「お願いしますっ!代わりに私が何でもしますからっ!!」

 

 

 

 

 

 

―――ズキッ

 

うわぁ……久しぶりに聞くと辛いなぁ。……こんな悲痛な言葉に慣れてた生前の私も、どうかしてると思うけど。

 

 

 

世でいう“汚い金持ち”。そんな生前のうちの両親は、人の弱みにつけこんで人を追い詰めていった……そのうちの1つの方法として使われたのが『子ども』。

 

自分の子が連れ去られた親は、本当に何でもした、……そのせいで亡くなる人を何人も見た。

危険な裏の仕事をした親をの子どもは……どうなったかなんて知りたくもない。

 

 

 

 

 

「何でもするか……、では我らについて来い。」

「それで、息子を離して頂けますか?」

―ダメだ

 

「お願いしますっ、私なんかでいいなら、娘を離してくださいっ!!」

――騙されちゃ…

 

「命でも何でも……あげますから!!」

―――だめっっ!!

 

「離せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「「「「「「!?!?」」」」」」」

「銀…さん……??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔をあげた私の目に飛び込んできた光景は、

 

天人を赤い目で見据えて走るの銀色。

 

その目は、真っ直ぐで…

でも辛そうで、苦しそうだった。

 

 

 

あぁ、そうだよね。

 

彼は……銀時は…………

 

 

目の前のこの人は、銀魂の主人公、【坂田銀時】なんだ。

 

 

 

自分が死ぬとか、そういうことは関係ない。

大事な仲間なら、守りに行く。

 

私はそんなあなたがいるこの世界に、憧れたんだ。

あなたなら守ってくれるんじゃないか、って…。

 

 

 

 

 

 

「なんだこのクソガキ!!」

「離せっ!!お前らなんか消えろぉぉ!!」

 

 

必死に蒼汰ら子ども助けようとする銀さん。でも、そこはやっぱりまだ子ども。力にも限界があった。

 

 

「こいつ……『屍を喰らう鬼』か??」

「っっ!?」

「ちょうどいい、お前は使えそうだ。一緒に連れてってやる。」

「やだっ……やめろっ!!離せっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――カチャ

 

 

 

 

銀さん、私は既にあなたに守られてた。

生前、逃げたくなった時、

漫画が…銀さんだけが、私の支えだった。

 

だから今、その代金を払います。

万年金欠の銀さんには必要だよね。

 

 

 

「葵……姉…ちゃん……??」

「大丈夫。銀時も蒼汰も、みんな助けるから。」

「うわぁぁぁぁーー、ねーねー!ねーねーー!!」

 

 

「すいません、みなさん下がっていてください。」

「「「「「「「!?」」」」」」」

「それから……、簡単に自分の命を差し上げないでください。例え今、娘さんや息子さんが助かっても、彼らはこの先1人です。

 

子どもにとって、両親がいないのは死ぬよりも辛いことですから。」

 

呆気に取られる大人たち。

 

そりゃあそーだ。自分が今話されてるのは、まだ幼い子どもなんだから。

 

「あの……あなたは……、、、。」

「私は……ただの弟好きの姉です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使おう。

 

初めて鞘から抜くのが今であることが、正しいと信じて。

 

 

使おう。

 

願うのが今であることが、正しいと信じて。

 

 

大好きな弟たちのために。

 

あなたを守るために。

 

 

 

「久しぶり……、2年半越しにやっと使うよ。

 

最後の特典を…叶えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……神様。」



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二年半の“色”

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「やぁ〜〜〜、久しぶりだねぇ。元気にしてたぁ?」

 

……。

目を開けて最初に思ったこと。

 

 

 

きもい。

 

「えぇぇぇ、、、。」

 

二年半たっても思うことは同じ自分と、同じ気分にさせる目の前の奴に、ある意味尊敬する。

あっ、でも前はカタカナだったから、少しは柔らかくなってるんだな。

 

「ボクが心読めること、忘れてないよねぇ?」

 

「忘れてないから、あえて考えてるんですけど。」

 

「おぉ。二年半たっても、相変わらずだねぇ、今は……葵ちゃん?」

 

「………。」

 

 

人の、人に対する評価とか思いというのは、そう簡単に変わるものじゃないと思うけど、久しぶりに会った相手にここまで殺意が湧くとは…。

あぁ、そもそも人じゃないのか…。

 

「えぇぇ?酷いよぉ、葵ちゃぁん。」

 

 

………。

キモイ神様は放っておいて…

「ひどくなぁい?」

 

「……ここどこ?」

 

前に神様と会った空間とは明らかに違うそこ。

真っ白ではなく、すごく色とりどりな部屋。

 

「何色が多いと思うぅ?」

 

「……黒。薄い…茶色?、、、銀色…………!!

 

これって…」

 

「ボクが君と会っている場所は、今も前もまぁったく変わってないよぉ。

ここは君の頭の中、君の思考に合わせてこの部屋は変化するんだぁ。」

 

 

…つまり、最初に会った時は、私は何も感じてなかったってこと……?

 

「そうだよぉ。」

 

で、この部屋のこの色……。目立つ三色……。

 

「蒼汰。父上、、、銀さん…………。」

 

「そのとぉり!今の君の思考を占めている人たちだよぉ。」

 

 

あんなに真っ白だった私の感情を、こんなにも色鮮やかに…、

 

「それでぇ、君の最後の特典は、その人たちのために使うのぉ?」

 

「もちろん。」

 

神「ウンウン♪即答、素晴らしいねぇ。

 

……どんな特典にするぅ?今、蒼汰くんと銀時くんを助けるぅ?」

 

「違う。」

 

「??」

 

「剣術。」

 

「!!……へぇ。」

 

「…自分で身につけようと思ったけど、それじゃあ遅い。今やらなきゃ…殺らなきゃだめだから。」

 

もう二度と、あんな思いはしたくない。

向けられる凶器に、怯える私の大事な者。

 

もう二度と傷つけたくない。

 

 

「どのくらいの強さにするぅ?」

 

「……最大で。」

 

「!!」

 

「私は…必ず守るために使う。

あいつらとは、あんな奴らとは違う。」

 

「……うん!わかってるよぉ。

 

君は、鍛錬もしてきたみたいだし、すぐに使えると思うよぉ。」

 

「すぐに出来る?」

 

「もっちろぉん。」

 

 

言うのと同時に、転生した時と同じように身体が光に包まれた。

 

「特典は使い切っちゃったけどぉ、ボクは君の頭の中にいるからねぇ。何かあったら、呼んでみてよぉ。案外役に立つかもよぉ。」

 

 

こんな神様でも、やっぱり救ってくれたことに代わりはないんだよね…。

そんな思いがうまれて、出てきた言葉。

 

「……ありがと。」

 

 

「!?

うん、頑張って。」

 

初めて言ったお礼に、初めて標準語で返された。

なんか、驚いてたのが気に触るけど…、まぁいいや。

 

 

「葵さん。」

 

「……何?」

 

元の世界に戻るであろう瞬間に、神様に呼ばれた。

これまた初めて、“さん”呼びで。

 

 

「君の思考の中の“この色”がこれ以上広がりませんように、僕は願ってるよ。」

 

「…?どういう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵は最後まで言い終わることなく、……いや、双方が言い終わることなく、葵は元の世界に戻った。

 

 

「この色はもう………見たくないから。」

 

そう言って、そこにあった姿は跡形もなく消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠されていた場所から見えた色は、小さな…とても小さな“赤”だった。




葵さんが、やっと転生者らしくなってきます。


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今日という日が与えるもの

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《銀時side》

 

 

―――カチャ

 

葵姉ちゃんが刀に手をかけて…、捕まっちゃった子たちの親たちに何か話して……、

 

「うっ…うっぅぅぅ…、ねーね……。」

「蒼汰……。」

 

その間にも蒼汰は壊れそうだった。

 

 

 

 

 

怖かった

 

 

 

 

 

なんでそう思ったのかは、自分でもわかんない。

 

―自分が捕まっているからか

―蒼汰が捕まっているからか

―その両方か

 

 

 

でもそんな怖さも……、無くなった。

 

―――スーーーッ

 

「「「「「「「!?!?」」」」」」」

「葵……姉ちゃん、、、?」

 

 

そう言った瞬間に顔を上げた葵姉ちゃんの目が…、蒼汰と僕を見た瞳が

『絶対に助ける』『心配しないで』って、言ってるみたいだった。

 

さっきと……全然違う目をした葵姉ちゃんが、そこにいた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

初めて抜いたはずの刀。

 

初めて向けるはずの刃。

 

初めてのはずの闘い。

 

 

それなのに、私の心は気持ち悪いぐらいに落ち着いていた。

本当なら、どうやって戦えばいいのかすら分からないはずなのに…、それなのに、どうすればいいのか、身体がわかってるようだった。

 

最後の特典はサービスいいらしい。

 

「貴様、子ども(こいつ)らがどうなってもよいのか。」

 

そう言って、天人は捕まえてる1人の子どもに刀を突きつける。

それは……銀さんだった。

 

「うっ…………ハァハァハァハァ、、、。」

「銀時。」

「!!」

 

銀さんの目は確かに怖がってるようだったけど、裾をつかんでなかった。不安に思ってない…?

 

「大丈夫。すぐ助けるから。」

 

 

一体、何を根拠にそんな事言ったのか、自分でもわからない。でも、自信はあった。

 

 

 

 

一歩前に出る。向こうから出てきたのは、子どもを連れてない天人が2人。

 

「いきなり、一対二だなんて、ずるいですね…。」

 

そんな挑発に簡単に乗ってくる敵さん。一対一……にするのではなく、増えました。―――ありゃ?

 

結果的に一対五。さっきまで、ただの一般市民だった女の子一人に、これは大人気ないなあ……。

 

 

 

―――ザッ!!!

 

「葵姉ちゃんっっ!!」

 

天人が一人、突っ込んできた。あっやばい、かわさなきゃ。それとも、斬る?

戦わなきゃ、……………………………守らなきゃ。

 

 

 

 

 

―――シュンっ!!

 

 

 

 

 

私と天人が、交差する形で交わる。…次の瞬間、吹き出すのは赤い液体。

 

「なっ……!?!?……くそっ!!」

 

斬られたのは天人、斬ったのは私。

 

「殺れぇっっっ!!!」

 

リーダー格と思われる天人の声で、影に隠れていたのであろう天人が、一斉に全員出てきた。数は15ほど。

 

 

 

「……。」

 

刀についた血。さっきまで、生きていた奴のモノ。

その事実に怯えることなく、受け止めることが出来てしまった私は、変だと思う。でも……

 

「コツは……つかめた。」

 

 

天人の集団に突っ込む。

先頭の天人の心臓をつらぬく。うばった槍を投げて、違う天人の心臓へ。後方から襲ってきた天人のみぞおちに蹴りを入れて、斜めに斬り捨てる。そのまま、そいつを足場にして跳び、上から天人を斬る。

 

 

「いいもの見っけ。」

 

天人が持っていたのは“銃”。普通なら使い方はわからないけど、転生者の私には関係なし。

 

―――パーンっっ!!

 

撃ちぬいた先に、人がいないことを確認して撃つ。うん、結構いい腕前だ。驚く天人と間合いを一気に詰め、そのまま周りにいた5人ほどを斬る。

そのまま銃を構えて、残りの5人を撃つ。私のいた世界と同じく、銃の弾は6発らしい。

 

 

刀を振って、返り血を飛ばす。うわぁ、汚い……。

 

「なっ……!?!?どういう………、貴様……っっ、一体、何者だ!!」

 

何者……ね、、、。

 

「ただの弟好きの姉ですってば。」

 

 

そう言うと、残り5人の天人の真ん中まで間合いを詰める。

多分傍から見たら、瞬間移動したように見えると思う。……ちゃんと自分の足で動きましたよ?

 

「さようなら、人の大切な者に手を出したこと、悔いてください。」

 

突然の出来事に、全く動けなくなる天人たち。

 

「「「「ウワァァァ!!!」」」」

 

目の前で振り回される刀に、悲鳴をあげる子どもたち。まぁ、無理もないか。

……うん、銀さんはすごいな。

 

 

器用に腕だけを斬り落として刀を鞘にしまう。

捕らわれた子どもたちの中で、一番幼いであろう蒼汰と、蒼汰と同い年くらいの女の子を抱き止める。

他の子たちは、なんとか自分で歩けるみたい……よかった、、、。

 

「銀時、大丈夫?」

「うっ……うん。」

 

絶命させた天人に背を向けて歩く。

 

 

……が、

「人間風情がァァ……!!」

 

絶命させたと思っていた天人の1人が立ち上がった。

それを見て震え出す子どもたちと、その親たち。

 

 

―――やばい

 

 

すぐに子どもたちと天人の間に立った。しかし、

 

「貴様も…必ず……っっ!!」

「「「「「「「……??」」」」」」」

「……、、、。」

 

…………も?

 

謎の言葉を言い残して、その天人は消えた。

 

 

 

 

 

結局、誰も死ぬことなくおさまった。

 

逃がした天人も、たった(・・・)1人。見ていた村の人たちは、すごく喜んでくれた。私も子どもたちが助かったことに、喜んでいた。

 

 

 

 

……本当なら喜んでる場合なんかじゃなかったんだ。

すぐにても逃がした天人を追うべきだった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの村には、とんでもない娘()います。……弱み付きで。』

そんな情報が、逃がした1人の天人の口から伝えられる前に。

 

 

たった1人でも、逃しちゃだめだったけど……、

もしかしたらこれが……

 

“転生した私がなるもの”だったのかも。



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“斬る”ということ、“殺す”ということ、

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「…………。」

 

―銀さんや蒼汰たちを助けた帰り

――力をもらった帰り

 

―――初めて斬った帰り

 

 

「Zzz…Zzz……」

 

腕の中では、規則正しい寝息で寝ている蒼汰。

 

 

私の心は、気持ち悪いぐらい落ち着いていた、…天人とはいえ、“斬った”ことには変わりないのに…。

 

「葵…姉ちゃん……」

「んー?どうしたの?」

「……んーとね、えーっと…、」

 

……?

急に困りだす銀さん。

…と思ったら、裾を引っ張られたので、銀さんと同じ目線までしゃがんだ。

 

 

―――ぎゅーっっ

 

「!?」

 

銀さんは突然、蒼汰を抱っこしてる私に抱きついてきた。

 

銀「あっ葵姉ちゃん、悲しそうだったから。

僕が悲しんでる時、葵姉ちゃん、抱きしめてくれて…嬉しかったから…。」

 

 

ありゃりゃ。銀さんとはいえ5歳の子どもに心配されちゃいました……申し訳ない。

 

「ふふっ……、」

「……?」

 

銀さんが驚いて、首をかしげていた。

 

「ありがとう、銀時。おかげで元気でた。」

 

そう言って、銀さんのモフモフの頭を撫でた。相変わらず、気持ちいいなぁ…。

 

 

「早く帰ろっか、父上も心配してるだろうしね。」

「うんっ!」

 

既に沈みかけてる夕日が、三人の影を伸ばした。

 

 

 

《松陽side》

 

「あんたんとこの娘さん、すごいよ!見直したっ!!」

「あの娘は、村の英雄だよっ!」

 

なかなか帰って来ない、葵たちを探しに行こうとしたら、玄関先で村の方に捕まりました、……一体、どういうことなのでしょうか?

 

「あの、いまいち話がつかめないのですが…。葵がどうかしたのでしょうか?」

 

 

 

―――そりゃあ、帰ってきたら本人に聞いてみなよ

 

結局、葵が何をしたのかはわからず、探しに行くこともやめました。葵たちが無事であることは確認できましたので。

 

 

「……ただ今帰りました。」

「お帰りなさい、葵………、、、?」

 

葵の腕の中には、蒼汰と銀時が眠っていました。

 

 

いえ、そこに疑問を抱いたわけではありません。葵の…、葵の顔が、服が……至るところが真っ赤に染まっていたのです。

 

「葵っ!?一体、何があったのですかっ!?怪我はありませんか?」

 

そう言うと、葵は急にハッとした様子で、顔を上げ目を見開いた。

 

「……っ、、、。

とりあえず、蒼汰と銀時、寝かしてきます。」

「わかりました。居間で待っていますよ。」

 

はい、と言って葵は二人の弟を寝かしつけに行きました。

 

「…………。」

 

初めてでした。

あんなに悲しそうな顔をした葵を見るのは…。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

銀さんも、話した後から眠くなってきたらしく、目をこすり始めた。…まぁ、無理もない。いくら銀さんといえども五歳の子どもなのだ、刀なんていう物騒な物を向けられてたら、疲れるよな……。

 

「よっ。」

「へっ!?」

「寝てていいよ、疲れたでしょ?」

「だっ、大丈夫!」

「ふふっ、いいのいいの。お疲れ様、銀時。よく頑張ったね。」

 

そう言ってあげると、安心したのかなんなのか…、寝てしまった。相変わらず二人とも軽くて、簡単に抱っこできる。

 

 

 

 

二人が寝て、話す人がいなくなって……、考えてしまった。

―――どうして、こんなにも落ち着いてられるんだろう、と。

 

斬ったのだ。人じゃないけど、生きてるものを。

 

刀に赤い血がついた時…、一番初めに天人の心臓を貫いた時……。

あの時、私は何を考えていたのだろう。

思い出そうとしても、全く思い出せない。……何も考えていなかったのだろうか。――どうして…?

 

『“前世”と“今”は違う』

そんなことは誰も言ってない、でも同じだとも言ってない。

 

それでも、誰かに言って欲しかった。

私は、あの(・・)両親と血のつながりのない子なんだ、と。

 

 

「やっぱり、親子なんだ…。」

 

人を道具としか思ってない、あんな奴らと…。

人の命を奪うことをなんとも思わない、あいつらと……、

 

―――私は今日、同じことをしてる

 

命を奪っておいて、何を感じていたのかすら覚えていない。

そのことを自覚すると、とにかく辛かった。

 

 

「………………。」

 

寝ている銀さんを見て思う。この人は、本当に強いひとなんだ、と。

“殺す”という行為に、『ためらい』というものを感じて、それでも守りたいものがあったから『信念』を持って木刀で戦っているんだと思う。

 

まだ出会ってないけど、きっと桂とか高杉とか真選組とかも…。

みんなそういう『信念』を持っ(感じ)て斬っているんだと思う。

 

 

―――それに対して私は?

 

『信念』なんて綺麗なものを持ってるわけじゃない。

そしてあの時、私は間違いなく『殺す』という行為にためらいがなかった。何とも思ってなかったんだ。

 

 

「……っっ。」

 

悔しい、悲しい。でも涙が出ないのは、なんでだろう。

 

 

 

 

 

そんなことを考えていたら、家に着いた。

もう日は沈んでて、周りは結構暗い。

 

「……ただいま帰りました。」

「お帰りなさい、葵………、、、?」

 

そうだ、話さなきゃいけないんだ、今日のこと…。

何を…、どの部分を話せばいいんだろうか。

 

 

「葵っ!?一体、何があったのですかっ!?怪我はありませんか?」

 

…うぉっ、忘れてた。

暗くてよく見えなかったけど、私の服は血だらけ。そりゃあ、驚くよな…。

 

「……っ、、、。

とりあえず、蒼汰と銀時、寝かしてきます。」

「わかりました。居間で待っていますよ。」

 

そう言って逃げた。

あの松陽先生に隠し事なんて出来るはずかない。

 

 

 

 

『何かあればいつでも、力になりますからね。』

 

こんな時に、父上の言葉を思い出して、それにすがろうとする私は、ずるいのかもしれない。

 

 

許してください。

 

あなたを頼りたい。

少しでもそう思ってしまった私を。

 

もしかして、あなたなら…。

そう願ってしまった私を。



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そして…“受け止める”ということ。

投稿、遅くてすみません。


そして今回の話は、とてもとても凄いことになっています(いい意味でも、悪い意味でも……笑)

感想・評価、お待ちしております。


 

―――サーーー

 

「二人は寝ましたか?」

 

襖を開けた先では、松陽先生が静かにお茶を飲んでいた。

 

 

「っ、、、。」

 

もう“父上”とは呼べない。

 

 

確か松陽先生は、元々天照院奈落の先代首領・虚だった人。

突然、奈落を抜けて身分を隠し、ここで子供たちを相手に手習いを教えることを選んだ。

理由は…「奪うことしかしてこなかった自分でも何か与えられるのではと考え、自身に抗ったため」。

 

私は今日『奪った』。

奪うことをやめた松陽先生の下で、奪うという行為を働いた。

 

なぜだか分からないけど、それは父上に対する“裏切り”みたいで、すごく嫌だった。

 

 

 

「葵?立ってないで、座っていいですよ。」

 

いつも通りの優しい声。今はそれが、逆に苦しい。

 

 

「それでどうしたのですか?」

 

――あぁ、だめだ。

 

無理だとは思ってたけど、やっぱり無理だった。この目に隠し事なんてできない、絶対に。

私なんかの頭で考えた嘘なんて、すぐに見破られる。

 

 

「………。」

 

言うしかないのだ、残された道は…、それがどんな結末であっても。

 

 

うん、最悪、神様に“私”という存在ごと消してもらおう。この世界に生じた歪みを消してもらえるように頼んでみよう。

 

「……今日、ですね、、、。」

 

 

松陽先生に、……父上に話した。

 

 

 

《松陽side》

 

 

『やはり、葵にも…。』

 

 

 

葵の話を聞いて、私が最初に思ったことです。

 

葵は、間違いなく晴香と私の子ども。葵も蒼汰も生まれた時から、いつかこんな日がくるんではないかとは思っていましたが…

 

“できればきて欲しくなかった”

 

これが正直な気持ちですね。

 

 

 

「ごめんなさい、父上。」

 

葵が謝ってきました。

この子はいい子だから…。きっと、天人とはいえ、斬ったことに対して何も思っていない自分が、悪いと思っているのでしょう。

 

 

違いますよ、葵。

あなたは何も悪くない。

 

悪いのは、私の方です。

あなたにまで、この業を背負わせてしまった、私の責任です。

 

 

 

 

 

あなたには話しましょう、葵。

その事実は、あなたを傷つけてしまうかも知れませんが。

 

そしてありがとう。

私を信じて話してくれて。

 

娘に頼られてもなお、その娘を傷つけてしまうダメな父親を、許してください。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「葵、私からも話があります。」

 

 

私が、今日の出来事をすべて話し終えた後、今度は松陽先生が口を開きました。

 

 

「……あなたは“何も感じてない”ことに謝罪しましたが、そんなことはありませんよ。」

「……?」

「銀時が、あなたに言ったんですよね?『悲しそう』と…。それは、感じたことには含まれませんか?」

 

―――確かにそうだ、そうだけど……

 

 

「でも……、あの時“悲しい”と感じる場面はありませんでした。」

 

天人から銀時や蒼汰たちを助け、普通は喜ぶべきだ。

天人に向けるべきは、“悲しみ”ではなく、銀時や蒼汰を襲ったことに対する“恨み”だ。

 

 

悲しみ…、それを向けた相手は、、、

 

「きっと、天人に対してですね。」

 

 

 

 

 

天人……?

斬ってしまった(・・・・)ことに対して、私が悲しんでいるということ…?

 

 

 

 

 

「葵。」

 

私が一人で混乱していると、松陽先生が落ち着いた声で話しかけてきた。

 

そして……抱きしめられた。

 

「あなたは私の子です。

私のせいで、あなたの人生を狂わせてしまうことを許してください。」

 

 

何も言っているのか、理解出来ない。とにかく、松陽先生の抱きしめる力が強くて、ただ事ではないことだけはわかった。

 

 

 

私のことを離して、しっかりと目を見て言われた。

 

「私の本当の名前は、天照院奈落の先代首領・虚。今、この国を襲っている天人のトップのような存在の者です。」

「えっ……、、、。」

 

その事実にではない。暴露されたことに驚いた。

 

「突然のことで申し訳ありません。

ですが、葵の悲しいという気持ちを解決するには、伝えるのが一番だと思ったのです。

 

 

私から見れば、例え今は憎むべき相手でも天人は、仲間のような者。今の私が拒否しても、内側の自分の心まで偽ることは出来ません。

そして、娘であるあなたにもそれが遺伝として、受け継がれたとしたら……」

「………。」

「葵が、“悲しい”と思うことに何ら不思議はないんですよ。ありがたい話ではないと思いますが…ね。」

 

 

 

 

 

 

……私は、、、松陽先生の…父上の血を受け継いでる、吉田家の子ども??

 

普通はそこに焦点を当てるべきではないのかもしれない。それでもその事実は、私が喜ぶのには充分すぎる話だった。




台本形式をやめさせていただきました。

読者様からするとどちらの方が読みやすいのでしょうか?
活動報告でも質問しているので、答えていただけると、嬉しいです
(^人^)


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風はいつも新しく吹き続けている

さぁ、新キャラ登場っ!!


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感想、評価、お待ちしております。


 

 

松陽先生に、正体を暴露された。

 

私にも、その遺伝子が受け継がれているかもしれないと言われた。

 

 

悲しい?恐ろしい??

 

……ううん、どっちも違う。

 

 

“嬉しい”んだ。

 

 

生まれて初めて持てた、本当の両親。

でもそれは、私のではないかもしれなくて……。

 

そんな私を、本当の娘と言ってくれた事に。

 

 

 

「……葵?」

 

松陽先生は、私が怖がっていると思っているのか、心配そうにのぞき込まれた。

 

「葵っ!?」

 

 

そして実際、私は大粒の涙をこぼしていた。

 

もちろんそれは、悲しくてじゃなく、嬉しくてだけど……

母上である晴香さんがこの世を去ってから、私は泣かないようにしてきた。蒼汰も銀時も、父上である松陽先生にも心配かけたくなかったから……。だから、松陽先生は驚いていた。

 

 

 

「……ごめっ、、、ごめんなさいっ……。」

 

 

そして……、ありがとうございます。

 

あなたの元に生まれてこれて、私は幸せです。

 

あなたが家族で、私は幸せです。

 

あなたと共にある私の人生が、幸せです。

 

 

 

 

 

―――ポンポン

 

「!!」

 

松陽先生が、私の頭をなでてくれた。

 

 

「こんな時に不謹慎かも知れませんが……

我慢しないでくれて……、ありがとうございます、葵。」

 

 

―――バレてた

 

やっぱり、隠し事はできないなぁ。

笑顔で言った松陽先生には、降参だ。

 

 

「葵、少し待っててください。」

 

そう言って、部屋をたった松陽先生……いや、父上。

 

松陽先生と呼ぶのは、悲しいし辛い。

やっぱり、父上と呼ぶのは嬉しい。

 

もうしばらく……、あなたのそばにいられる間はこう呼んでもいいですか?

 

 

 

「父上……。」

 

あなたのそばを離れなければいけなくなる時までは……。

 

 

 

誰もいない部屋で、小さくつぶやいた声は、大きく響いた。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「葵……これを、あなたにあげます。」

 

部屋に戻ってきた父上からもらったものは、

 

「……刀、ですか?」

 

立派なものだと思う……、、、これ、どっかで見たことあるような……。

 

 

「葵。」

「……?はい。」

 

 

「私の剣です。あなたあげますよ。

 

(そいつ)の本当の使い方……いつか自分で見つけてみてください。

私が生きている間の……、葵への宿題にしましょう。見つかったら、ぜひ教えてくださいね。」

「!!」

 

 

 

――敵を斬るためではない弱き己を斬るために。

 

――己を護るのではない己の魂を護るために。

 

 

 

―――知ってる。

 

そっか、銀さんは言われなかったから、いつ言われるんだろう、とは思っていたけど……、

まさか私が言われるとは思わなかった。

 

あとに続く言葉は言われなかったけど、きっとそう言いたかったんだと思う。だって、銀さんには言ってたし。

 

 

 

「……ありがとうございます、父上。」

「いえいえ。答え、待ってますからね。」

 

父上はいつも通りの優しい笑顔を向けてくれた。

 

 

 

 

この刀が……、父上からの宿題が………

 

 

結果的に、私の転生した意味につながっていく。

 

思えば、何一つ無駄なことなんてなかった。

 

 

そう、……彼らとの出会いも。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

《?side》

 

 

こいつだ。

 

こいつこそ、俺が倒したい相手だ。

 

俺が……探していた相手なんだ。

 

そいつを初めて見かけた時から、ずっとこんな所抜け出してやろうと思っていた。

 

 

半年後、やっと外に出ることが自由になった。

 

始めは、道場破りという名でその門を叩いた。

 

外での自由時間……、道場破りに全てを費やした。……それでも、、、

 

 

「はい、またお前の負けな。」

「くそっ……!!」

 

どけよ。

そう言えるのは勝者のみ。

 

この先にいるのはわかっているのに……!なんなんだ、この銀髪……っっ

 

 

この訳の分からねぇ銀髪に勝たねぇと、俺はあの人には会えない。

 

『倒したい』

 

初めて楽しめそうな相手だったのに……っ!

 

 

「俺にも勝てねぇのに、葵姉ちゃんに近づくなんて百万年早ぇよ、低杉。」

「低杉じゃねぇ!高杉だっ!!」

 

 

 

気づけば、道場破りで門を叩いてから一年が経とうとしていた。

 

 

「……一回も勝てねぇのかよ…っ。」

 

毎日叩いて、毎日負けてるわけだから、もう三百連敗ぐらいしてんじゃねぇかな…。

 

結局、銀髪頭の銀時が言う『葵』には、一度も会えてない。

 

 

 

……それでも、俺は門を叩く。

 

やっぱり、その人に会いたい。剣を交えてみたい。

 

 

会ったのも、俺が一方的に見てただけ。

話したことも、声を聞いたことすらない。

 

それでも、何か胸に引っかかるものがあった。

 

天人に一人で立ち向かい、舞うようになぎ倒していく、美しさと強さを兼ね備えたあの人の姿を……

 

 

 

 

 

忘れることができなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おらぁ!!今日も勝負だ、銀時ぃぃ!!」

 

 

「!!……、」

 

 

「はぁ?今日も懲りずに来たのかよ。お前、諦め悪ぃなぁ。」

 

うん、銀さん。その子の諦めの悪さは、一生治らないよ。

幕府転覆……いつまでもずーっと目論んでるからね。

 

 

「葵、行ってきますね。」

「お姉ちゃん、行ってきまーす!」

 

 

「行ってらっしゃい、父上、蒼汰。」

 

 

父上から刀を受け取って一年半、銀さんを拾ってから一年半。

銀さんは八歳、蒼汰は三歳になった。

 

えっ?蒼汰がどこに行くのかって?もちろん、道場にですよ。

 

さすが、松陽先生の子ども……、三歳で既に剣を振り回してるとは……。

まぁ、私の前世ではそんなことあるわけが無いので、早いのか遅いのかもよくわからないけど……。

 

 

 

 

 

 

「あー!晋助だぁ!また、銀兄にやられに来たのぉ?」

「なっ!?蒼汰……てめぇ……、、、。」

「何回来ても、お姉ちゃんには会わせないよぉーだっ。」

「そうだよなー、蒼汰ー。」

 

 

 

てめぇ!!、という今はまだ少し高い声が聞こえる。

走り回って……そろそろ父上の拳骨が降ってくるかな?

 

 

 

私が彼の存在を知ったのは、半年前。

 

実際には、一年ほど前から訪ねてたらしいけど、運がいいのか悪いのか、私のいない時に来てたらしく……。

 

 

初めて見つけた時は驚いた。

 

だって……、だって、、、ねぇ……?

 

 

 

 

 

『俺はここに住む、女に用があるんだよっ!!!』

 

 

 

 

 

 

ナイスタイミングなのか、バッドタイミングなのか……。

初めて聞いた彼の声から発せられた言葉が、これだよっ!?

 

 

 

まぁ、いつも新しい風が吹くこの場所……そんなことも当たり前か。

 

 

「今回は……どんな風が吹くのかなぁ。」

 

 

 

 

今日は風が気持ちいい。

空も青いし、ちょうどよく涼しい。……五月は素敵な季節だ。

 

……そういえば、五月はどこかで生まれてる“マヨネーズ”さんの誕生日か……。はっぴーばーすでー、マヨ。

 

 

伸びをして、私は私の仕事を始める。

いつか……君に会えたらいいな。……あっ、マヨじゃないよ?つり目で口も悪い……けど、優しい君に。

 

 

 

そして、知りたい。

 

君たちの運命が、私と交わることでどうなるのか。

 

 

 

 

私が願うことはいつも同じです。

 

―――あなた達の世界が、いつも輝くものでありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういえば、、、ロングヘアーの彼はどこにいるのかな、、、?」




四日前……?

トッシーはっぴーばーすでー!!
↑雑www


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思考の風~巻き込まれて考えて~

さて、役者は揃いましたよ!


 

 

「くそっ……!!もう一回だっっ!!」

「はぁ……?お前、それ今日何回言ってんだよ。俺もう疲れた~。」

 

―――銀さんの原作通りの性格が、作り上がってきてるなぁ……。

 

 

そんなふうに思う今日このごろ。

私はお昼を作っています。

 

「うん……美味しそうだなぁ。」

 

自画自賛できるほど、今日の出来栄えは素晴らしいです。

 

 

「ふぅ……疲れた。」

 

弁当一つ作るぐらいで疲れるなって?

いやいや、もっと視野を開くして見てみてくださいな。

 

はいっ。

以前は4個だった重箱のような弁当箱が7個になりました。

 

 

 

 

……いや、純粋に人数が増えたってのもあるんですよ?

でも……あの時期を食べ盛りだと思っていた私自身を恨みたい。

 

7個目を作り終えて、時間は12時30分,。うん、いい時間だな。

 

 

 

本当は道場に持ってきたい。

 

蒼汰や銀さんの稽古姿を見てみたい。

 

 

でも……出来ないんです。……はぁ。

なぜかって?それはもうすぐわかりまs……

 

「お姉ちゃーん!!」

 

……ナイスタイミングっ!

 

「お疲れ様、蒼汰、銀時。」

「疲れた~。葵姉、水ちょうだい。」

「はい、

今日はずいぶん激戦してるみたいだね。」

「銀兄が全部返り討ちにしてやったよ!」

「そうなの?銀時、すごいじゃん。」

「別に、、、多分葵姉に比べたら全然……、」

「そんなことないと思うよ。見てないからわかんないけど……。」

 

そんな雑談をして、2人は道場に戻って行った。

……弁当箱を持って。

 

そう、目的はこれ。

2人は、私と高杉を会わせないように道場に来ることをすごく嫌がる。

うぅぅ……私だって見たいのに、、、。

 

 

自分で言うのもあれだけど、弟2人はとってもシスコンだと思う。

そんな2人に守られてます。

 

 

「……まぁ、前世で守っていた存在に守られるのも、悪くないか…。」

 

 

前世では、私が弟を守ってた。

 

私を守ってくれる存在なんていなくて……

 

不安で押しつぶされそうになって、投げだしたくなった時もあった。

 

 

 

それを思うと、今の状況は幸せなんだな、って思う。

 

 

 

 

 

 

――――――ザァァァァ……

 

縁側に出て少し休憩。

気持ちのいい風か吹いている。

田舎ならではの……落ち着く静かさ。安心できる静かさ。

 

静かで安心できる場所もなかった。

家に一人でいても、いつも誰かに見られている感覚。

本当はそんなことなかったのかもしれないけど、警戒を解かないのが自然な状態になってしまっていた。

 

 

 

外に出て大きく伸びをする。

 

「~~~~~~っっ!気持ちいいなぁ……。」

 

今日は洗濯日和だ。ちゃっちゃとやっちゃおうっと……!

 

 

 

なんて言っても、生前と違って電気なんてないですよ、もちろん。

ここはいわば江戸時代。洗濯は手洗いです。

 

うん……ちゃっちゃと出来るわけが無い……。

 

「文句言ってても仕方ないや……。」

 

銀さんも蒼汰も高杉も頑張ってることだし、私も頑張ろっと。

 

 

……あれ?そういえば、もう一人はまだ登場してない「こんにちは。」……。

 

 

前言撤回。今まさに登場してきました。

ロングヘアーが特徴の彼。今は一つにしばってて、顔立ちが整ってるからすごく女の子みたいだ……。

 

「あの……、顔に何かついてますか?」

 

わぁ、声可愛いなぁ。

 

「ううん、ごめんなさい。えっと、君は?」

「初めまして。桂小太郎といいます。

今、道場破りに来ている奴……高杉晋助というんですが、そいつの連れみたいなものです。」

 

丁寧にお辞儀をされた。

 

「そうでしたか。」

「すみません、面倒くさいかもしれませんが、本当は純粋にあなたに会いたいだけなんです。」

「ふふっ……知ってますよ。大声で叫んでるの見てましたから。」

 

桂に、高杉を始めてみた時のことを話すと、爆笑していた。

 

っていうか、綺麗な日本語。これがあの厨ニ病発言しかしない奴になると思うと、人間どう転がるかわからないもんだな、と思う。

 

 

 

「名前を伺ってもよろしいですか?」

「あっ、吉田葵といいます。よろしくお願いします。」

 

そう言って微笑むと、顔を真っ赤にされた。

 

 

―――まじか。

 

 

 

……まぁいいんだけど…さ。

 

 

 

「葵さんは、高杉のせいで道場に行けないんですか?」

 

……ん?えーっと、、、そういうわけじゃないよね…?

 

「そんなことないですよ。弟たちがうるさいので、行かないだけですよ。(こちら)でやらなくてはならないことも多いですからね。」

 

実際そうだし……。

 

「では、やるべき事が終わったら道場に行けますかっ!?」

「えっ!?」

 

急に声が大きくなり驚いた。

 

「えっ、えーっと……。そういうわけにもいかないかな、、、。」

「では……葵さんは、いつ稽古をなさってるんですか?」

 

「け、稽古……ですか?」

「はい。

俺も高杉も、葵さんが天人を倒していたところを見ていたんです。

あの動きは、素人のわけがない。」

「……。」

「俺たちはあなたに学びたくて来たんです。」

 

 

 

あぁ、あれを見てたのか……。

 

稽古……、まぁ蒼汰が産まれる前に、父上に少しだけ教えてもらった。

それぐらいなんだよな…。

 

 

 

 

どうやって答えれば、彼を納得させることが出来るか……。

 

 

考えていた時に、道場から大声があがり、

 

「「!?」」

 

ドタバタと走ってくる足音。

 

「葵姉!!」

「銀時??どうしたの?」

 

よほど焦ってたのか、額にうっすら汗をかいている。

 

「た、た、高、高杉がっ!!」

「えっ……?」

「!?……高杉がどうかしたのかっ!?」

 

 

 

 

 

「高杉が、道場で倒れたっ!しょーよーが、葵姉呼んでこいって!!」

 

 

 

 

 

何かあったのか。

とりあえず、急いで向かおうとする。……あっ。

 

いい解答あった。

 

「小太郎くん。」

「!?……はい。」

 

「君が見たあれは、私の精一杯です。無我夢中でやってたのであんまり覚えてませんが……君も鍛錬すればあれくらいになんてすぐなれますよ。

 

 

私はあれ以上強くなることはありません。

私に戦いは、もう必要ないんです。私には手当て(こういうこと)の方が必要なんです。」

 

 

父上と約束したから。

 

刀をふるという意味を理解してからふると決めたから。

 

 

「……。」

「限界の見えてる私に学ぶより、無限の可能性を持ってる先生と仲間たちと学んでください。」

「……、、、。」

 

 

「それで、君が私より強くなったら手合わせしてみましょう。」

「……!!」

 

 

その時に、私の中で決まっているものがあれば……。

いや、決まってるものを作らなきゃダメなんだ。

 

 

「さて、行きましょうか。」

「ではっ!!」

「!?」

 

行こうとした私の背中に、桂は叫び、

 

「お願いです……。高杉に会ってやってください。

あいつを、助けてやってください。」

 

頭を下げた。

 

 

 

何から助けて欲しいのか。

 

今倒れている、ということからか……。

 

それとも彼の家のことか……。

 

 

「わかりました。心配しないでください。」

 

それは、すべてに対しての答え。

 

 

私に出来るなら、やりたいと思う。

 

君らの未来につながるなら、なんでもやりたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。

『なんでも』やりたい。



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私のすべきこと、出来ること

お気に入り登録、90件!
ありがとうございます!!


 

「あっつ……!?」

 

生徒全員が、高杉が倒れているのであろう中心に固まっている道場に入って来て、最初に発した言葉。

 

道場は決して狭いわけじゃないけど、30人近くいる生徒が一つの部屋に、“窓も開けない”でやってたようで……、道場はサウナ状態になっていました。

 

 

「お姉ちゃんっ!どうしよう……高杉が、、、……。」

 

今にも泣き出しそうな顔で蒼汰に訴えられた。

 

「呼んでしまってすいません、葵。」

「いえ……。私は暇だったので大丈夫なのですが……。」

 

 

高杉は仰向けで倒れていた。

 

過呼吸でゼーゼー言っており、顔もほんのり赤くて……

汗をかいてて、この暑さのなかずっと動いてた……ってことは、

 

 

―――熱中症か……。

 

 

 

うん、重い病気とかじゃなくてよかった。

……と言っても、油断ができる状態ではないけど…。

 

「父上、家から氷を持ってきてもらってもいいですか?それからタオルも。」

「わかりました。」

「みんなは、道場の窓とか扉を全開にして。」

「「「「「は、はーい!」」」」」

「銀時と蒼汰は、家に布団ひいてきて。小太郎くんもお願いできる?」

「「「わかった(わかりました)!」」」

 

 

全員に一通り指示をを終え、持ってたタオルで仰いでやる。

辛いのか、結構唸っている。

 

 

「こんなに可愛いのに、どこで間違ったのかな……。」

 

どうしたら、あんな厨ニ病発言しかしないようになってしまうのだろうか……、あっ、既にそれは発言してるのか……。

 

 

 

捻くれてしまうのは、間違いなく松陽先生が殺害された時だ。

 

銀さんや桂と仲たがいしてしまうのもその事件のせいだ。

 

 

坂田銀時、桂小太郎、高杉晋助。

 

攘夷戦争の英雄たちの輝いてたはずの未来は、そこで途絶えた。

 

 

 

 

「じゃあ……、そこがブレイクポイント……?」

「葵、持ってきましたよ。」

 

 

勝手に始まっていた思考は、すぐに忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

着ていた道着を緩めて、氷を当て、足を高くして……みんなに仰いでもらった。

 

「父上、ここじゃ危険ですので家に運んでもらってもいいですか?」

「そうですね……。

みなさん、少し待っていてください。」

 

 

父上と一緒に高杉を運ぼうとした時、蒼汰と銀時がこっちをすっごく見ていることに気づいた。……??

 

「大丈夫。すぐ良くなるよ。」

「……うん。」

 

 

なんやかんや言いながらも、心配してるんだなぁ……

 

「くそっ、葵姉が看病してる時に、目覚ましたらどうするよ……。」

「銀兄、邪魔しに行く?」

 

 

……うん、断じてそんなことはないみたいだ。

 

 

 

「邪魔しに来ちゃダメだよ?二人はちゃんと稽古しててね。」

 

道場を出る時に釘を指しておいた。

二人は口を尖らせてブーブー言ってたけど、まぁ可愛いからいっか!…………何も良くないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上、戻られても大丈夫ですよ?」

 

部屋に高杉を運び、だいぶ調子が良くなった頃。

やはり、あの悪ガキ達だけで置いてきたのが心配なのか、父上はそわそわしていた。

 

「……大丈夫ですか?」

「はい。もう落ち着いてきましたし、今はこの子よりも道場にいる子たちの方が心配じゃないですか?」

「バレてましたか?」

「はい、バレバレですよ。」

 

そう笑って言うと、葵にはかないませんねぇ。と言いながら戻って行った。

 

 

「いやいや、それはこっちのセリフですから。」

 

私が松陽先生にかなうことなんて、……ない。

 

 

 

―――ムクっ

 

……うおっ!びっくりした、、、。

 

「……。」

「おはようございます。身体の方は大丈夫ですか?道場破りさん??」

 

 

すっごい見られてる……。

 

ってか、よく見たら傷だらけだな~。

高杉は家の人にも暴力振るわれたりされてるんだっけ?

 

 

 

 

 

……私と同じ、、、か。

 

 

 

 

「とりあえず、手当しますね。」

 

「あんたが……葵、、、か?」

 

黙っていた高杉が口を開いた。

とりあえず、にこっ、と笑っておいた。

 

 

なんか、顔が赤くなった気がするのは気にしないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っていうか、この流れ、、、原作にもあった気がするなぁ……。




次回、少しだけ原作と合流します。


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純粋な風~今は…真っすぐ乱れぬように~

二ヶ月ぶりの更新!お待たせした皆様、申し訳ありませんっ!

今回は原作合流!!
少しでも楽しんでいただけたら光栄です。


 

 

「……よし、これで大丈夫かな。」

 

目を覚ました高杉の手当を一通り終わらせた。

 

「大丈夫ですか?前代未聞の道場破りさん。」

「……なっ///」

 

笑いながら言うと、恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にした。

……可愛いなぁ。

 

「多分、熱中症です。こんなに無理してはダメですよ?」

「俺は、強い奴と……、あんたと試合がやりたかった。まさかあんな奴に……。」

 

あー、やっぱり、原作で見たことあるなぁ。

松陽先生、再びお言葉をお借りします。

 

「君は充分に強いですよ。銀時とあれだけやり合えたんですから。」

「でも、まだ勝ってねぇ。」

「君はまだまだ強くなれる。

勝者が得れるものなんて、自己満足と慢心くらいなものですよ。敗者は、そんなものより意義のあるものを得れるんですよ。」

「!!」

 

この言葉は、生前の私の心に残る言葉だった。

 

―――“負け”という結果よりも大切なもの。

 

今の状況が“負け”でも何か他に得ているものがあると信じることが出来た。

実際、あの時があったから、こっちの世界に来て家事やらをする事が出来てる。

全てつながっている。

 

「そうそう、銀時は少し特殊なんです。負けて恥じる事はありませんよ。

 

あの子は、生きるために……生き残るために強くならざるを得なかった子です。人が生死に関わる時に得たものは、通常よりも強く、濃く得てしまうものですよ。」

 

それが良いのか、悪いのかは置いといて……ね。

 

「……。

あれはあんたが拾ったのか?」

「そうですねぇ、多分私が拾いましたよ。

まぁ、今では拾われたのがどちらかよくわかりません。」

「……。

あの先生、とやらはなんであんなガキども教えている。あんな連中が侍になれるとでも思っているのか。」

「さぁ、どうでしょうねぇ。父上…松陽先生も楽しみにしてることでしょうね。

というより、そもそも侍って何なんでしょうか。わかりますか?」

「こっちが聞いてんだよ。ってか、あんたらは侍じゃねぇのかよ。」

「……きっと違いますよ、父上も私も。君が思うような侍ではない。

 

侍になるに必要なもの、それは守るお家や尽くす主の存在ではありません。」

「……?」

 

さぁ、ここからは私の勝手な考え。

松陽先生……いや、父上。あなたの想い、私は正確にくみ取れているでしょうか?

 

「侍になるに必要なもの、それは“武士道”ですよ。

誰になんと言われようと、なんと思われようと、絶対に曲げることのない……ね。

勉学に励み、少しでも真っ当な人間に近づくために努力し続けている彼等も、銀時に勝とうと挑み続けた君も、

 

私からすれば、立派な侍ですよ。

 

これから先、まだまだ悩んで迷って、君が思う、君の侍になればいいんじゃないですか?」

 

 

……さぁ、どうでしょうか。

 

松陽先生のように達者な口ではない私でも、君に届きましたでしょうかね?

 

「その……、ありがとう…。」

「いえいえ。」

 

偉そうな口を聞いてる私も、まだ悩んで迷っている途中。

転生した意味……、銀時たちの未来を守る。それがきっと、私の武士道。

 

 

「あー、それから。

 

君のお友達、君のことを心配してましたよ。『救って欲しい』って。

詳しくは聞きませんが、何かあったらいつでも来てください。」

「……はい。」

 

 

 

それからも高杉は、毎日道場破りに現れた。

ついでに、桂も来ていた。桂は、基本的に家に来て、私の手伝いをしてくれていたり、高杉に持っていくのであろう、おにぎりを作ったりしていた。

私は理由を聞かず、ただおにぎりと一緒に治療用の道具も渡しておいた。

 

 

 

―――そして、“その日”は突然やってきた。

 

 

 

「……今日は来ないのかなぁ。」

 

時間になっても、銀時と蒼汰が弁当を取りに来なかったのだ。

 

「……よしっ!」

 

これは私悪くないよね?うん、大丈夫だ。

 

 

弁当を置きに行くという口実で、初めて銀時と高杉の試合を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一本っ!!

 

「……。」

あぁ、私は本当に幸せ者なんだ。

運命が動く時に、いつも出会うことが出来る。

ほら、目の前で……今、大きく動く音を聞くことが出来た。

 

「スゲェェェェ!!」

「銀兄に勝っちゃった!!」

 

中心では勝った高杉(道場破りさん)が称えられていました。

 

「なっ、何馴れ馴れしくしてんだよっ!俺とお前らは同門か!?」

「アラ、そうだったんですか。

てっきりもうウチに入ったのかと。誰よりも熱心に稽古に……いえ、道場破りに来ていましたから。」

 

周りから笑いが起こる。

 

「お前らァァァァ、誰の応援してんだ!そいつ道場破り!!道場、破られてんの!!俺の無敗神話(しょ〇ょまく)ブチ破られて、笑ってる場合かァァ!!!」

「まぁまぁ、もう敵も味方もないさ。

さっ、みんなでおにぎりを握ろう。」

「敵味方以前に、お前誰よ!!

なんで得体の知らねぇ奴が握ったおにぎり食わなきゃならねェんだ!」

「誰が食っていいと言った、握るだけだ!!」

「何の儀式だ!!!」

「あら、そうなんですか、もう食べちゃいました。」

「「早っ!!!」」

 

 

あぁ、これだ。

見たかったのは、この顔だ。

 

みんなが笑う。銀時と桂と高杉と松陽先生と、イレギュラーだけど蒼汰と……みんなが笑顔で喋っている。この光景が見たかった。

これを守りたかったんだ、私は。

 

 

「さて、葵も一緒に食べましょっか。」

「へっ!?」

 

ガラッ、と勢いよく父上に戸を開けられた。

 

「お姉ちゃんっ!!」

「葵姉……、いつから……。」

「えっ!?……あっ、えーっと、、、。」

「ずっと試合見てたのか!って事は、俺が取ったのも……」

「あ、えーっと、、、、」

「最悪だっ!!高杉ぃ!!もー一回だ!!葵姉に見られた初めての試合が負けとか、最悪じゃねぇかっ!!」

「そんなことよりも、まずはおにぎりを食え!!せっかく持ってきてくださっているのだ!!」

 

再び騒がしくなる道場。

あーらら、そんなに騒がしくしたら松陽先生のげんこつが飛びますよー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来を……。

 

こんなふうに笑えてる彼らの未来を……。

 

大好きな人たちの、大切な人たちの……

 

 

未来が輝くように、私は今日も願う。

 

 

 

 

「きっと、もうそろそろだなぁ。」

 

 

本気モードの松陽先生。

 

 

そう、わかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのシーンを、松陽先生にやらせちゃいけない、と。




次回も合流編になるかな?


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1歩目

お久しぶりです、優菜です。
久しぶりの投稿で申し訳ありません。
これからは、多少早くなるよう努力いたしますので、よろしくお願いします。

さて、新作ですが……物語が大きく動きます。
やっと転生者・葵さんが、転生者らしくなっていきます。

では、よろしくお願いします。


 

 

私が気づいたこと、出来ること。

 

 

―――本気モードの松陽先生を、役人に見せてはいけない。

 

 

既に気づいてる可能性もある。

それでもきっと、あのシーンで確信したんだろう。

 

これ以上、虚をここに置いてはいけない、と。

このままでは本当に、松陽先生の中にいる本物までもが侵食されてしまう、と。

 

 

だったら私のすることは簡単だった。

 

 

例えそれが、みんなを悲しませることになっても。

 

例え、銀時を裏切ることになっても……。

 

未来を考えれば、きっとそれが正しい選択なのだ、と。

そう信じて……、刀を抜く。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

「「ふぁ~……。」」

 

銀さんと蒼汰が同時にあくびをする。

 

「おはよう、蒼汰、銀時。」

「「おはよー!」」

 

……本当に兄弟みたいになってきたなぁ、なんて思う今日このごろ。

高杉が銀さんに勝って、桂とともに松下村塾に通うようになってきた。

あらから、既に3年の月日が立ち、私は13歳になり、銀時が10歳、蒼汰が5歳になった。

 

 

転生してから既に7年……改めて思う、素晴らしい世界だと。

 

漫画で見た憧れた世界。

それが私の周りで実際に起きて……、その中で一緒に笑えていて……。

本当に幸せだった。

 

 

そして、この3年間で…やっと見つけていた。

 

―――私の転生した意味を。

―――その為にしなくてはならないことを。

 

 

それからしたことは単純で、原作通りの時が流れるのを注意深く見ていた。

もちろん詳しい時は知らないから…、その瞬間を、運命の歯車が動く瞬間を、決して見逃さないように。

 

 

 

 

 

そして聞いてしまったんだ。

 

『今晩にでもこの寺子屋はつぶれる。』

『役人が動く。』

 

 

聞いた時、この時点でこの子どもたちの父親を叩けばいいのではないか、とも考えた。

 

でもそれは違う。

 

私が守りたいのは、これからを含めた彼らであって…、今だけ守れても意味が無いのだ。

 

 

ここからの道は、きっとただ一つ。

 

進めば戻れぬ茨の道でも、

 

私は決して後悔しないで歩いて行ける。

 

だって……

 

 

こんなにも愛した、大切な人たちだから。

 

 

 

 

 

 

―――さぁ、運命の歯車を回しに行こう……逆回転に。

 

 

《松陽side》

 

『父上、少しよろしいですか?』

 

葵がそう言って、私の部屋に来たのは、夕ご飯を食べ終えた夕方の頃でした。

そうして、葵が話し始めたのは……宿題のことでした。

 

 

「父上、今日は宿題の答えをお教えしに来ました。」

「!!そうですか。さすが、答えが早いですね。

 

で、何でしたか?(そいつ)の使い方は。」

「…………はい。

 

 

 

 

私はこの刀は(・・・・)、この世で最も大切なものを守りたい時に使います。例え……自分の命を犠牲にしても。

 

“その人のために斬った時に、後悔しない”

 

そう思える瞬間にだけ、この刀を抜くことにします。」

 

そう言いきった葵は、どこか決意のようなものを固めた目をしていました。

 

「そうですか。

 

まぁ、残念なことに本当の正解は私にもわかりませんが……。

きっと葵なら、その答えが正しいのかどうかさえも自分で見つけていくんでしょうね。」

 

そう、この答えは私にもわからない。

 

もしかしたら、どこかで(この子)ならと思っていたのかもしれません。そして、やっぱり素敵な答えを提示してくれました。

 

真面目な彼女のこと、きっとその答えを守らぬようなことはしない。

 

それはつまり、これから先あの刀を抜く瞬間があって欲しくない、という思いも同時に沸き上がりました。

 

だってそうでしょう。

葵が命よりも守りたい()だなんて、あの4人以外に考えられませんから。

 

「父上。」

「はい。」

「……いつかきっと、堂々と褒めてもらえるような刀の使い方をします。」

「ふふ……、そうですね。楽しみに待っていますよ。」

 

 

その時に私がいなくても、必ずあなたを褒めてあげますよ。

私と私の唯一愛した人との、大切な娘なのですから。

運命のせいで褒めれないなんてことがないように……。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「あっ、父上。今日は外に出ないでくださいね。後、蒼汰のことも見ていてもらってもいいですか?」

 

私の予想が正しければ、きっと今日の夜にでもあちらさんは動くだろう。

銀さんたちは防げないとしても、松陽先生と蒼汰を巻き込むわけにはいかない。

 

「……?えぇ、構いませんよ。」

 

多少怪しまれたかもしれないけど、それは仕方ない

この先の運命の大きさに比べたら、そんな怪しさなんてちっぽけなものだから。

 

 

 

腰に二本、刀をさす。

護身用にともらった普通の刀と、“大切なものを守るため”と誓った、父上からもらった刀。

 

 

その場でなくていい……、いつかで構わないから。

 

いつか、いつの日かこの刀に込めたこの言葉の意味に気づいてくれたら、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、行こう。

 

転生したからには、その意味を成したい。

蒼汰と銀さんと松陽先生と……桂と高杉を。……大切な人たちを守りたい。

 

やっと見つけた目的。

 

 

 

―――まずは…1歩目。



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犠牲の入れ替わり

みなさんこんにちは。
そしてとてもとても長い間、申し訳ありませんでした。
正直、帰ってくるのは迷っていたというのが本音です。というのも、最近、現実世界がとても忙しくいろいろ追われていました。

ですが、既に4ヶ月も更新が止まっている作品に、コメントをくれる方がいたり、読んでくれている方がいることに感激と申し訳なさが溢れました。
楽しみにしてくれていた方、コメントをくれた方、本当にごめんなさい。そしてありがとうございます。

これからは、今までの分も取り戻せるよう更新できたらと思っています。
どうぞこれからも、この作品をよろしくお願いします。


 

《松陽side》

 

『今日は外に出ないでくださいね。』

 

葵に言われた時、私はその意味をあまり深くは考えませんでした。ですが、今日に限ってどういうことなのか、と思ったのもまた事実でした。

 

 

 

「!!」

 

夜中の12時を回った頃、玄関の方から何か物音がして、私は目を覚ましました。

 

「……銀時?」

 

玄関にいたのは、誕生日にあげた木刀を腰にさした銀時。私は迷わず、銀時を止めに行きました。最近はとても物騒だったのと、今日は役人がここを潰しに来る日だったのです。内密に進めているようでしたが、私にはあまり関係ありません。

ここにいるのは葵と蒼汰と銀時だけ。教え子たちはみな、帰しましたし、普段から稽古をしている蒼汰と銀時を含む3人なら、逃がすことが出来ると思っていました。

 

ですが、外に出てしまえば話は別。さすがにそこまでは見れません。

 

 

「父上。」

「!……葵ですか?」

 

まさに、外に出て行こうとしている銀時を止めようとした時、横から声をかけたのは葵でした。

その姿は寝ていたとは到底言い難い格好でした。なんせ、外に出る着流しを着て、帯刀していましたからね。

 

「私に任せてください。」

「ですが……」

「父上は明日も早いんですから。銀時を連れ戻すくらい、私にも出来ますよ。それよりも、……蒼汰をお願いします。」

「!」

 

 

葵が使った“明日も”という言葉と、蒼汰の心配。私は、葵は私の考えに、今日起こることに、気づいているのではないかと思いました。そう考えれば、確かに幼い蒼汰の方が危険でした。

 

「わかりました。落ち着いた頃に、私も行きます。」

「ふふ、父上は心配症ですね。」

 

 

笑顔で行ってしまった葵に、どこかで、葵がついているなら大丈夫と思っていました。()の血を継いでしまっているのですから。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「……寒いなぁ、、、。」

 

これから起こることがわかっていると、こんなにも落ち着けるのか……。

 

「それとも……(父上)の血を継いでいるから。」

 

虚ならこんなこと、微塵も恐怖に思わないだろうし。

でもそれが、私にはとても嬉しいことだった。父上と、家族と血が繋がっているという証明になっていたから。

 

 

「そんな家族を、悲しませるわけにはいかないですね。」

 

そう、そんな大切な人を、守りたい人たちを守ることが私の転生した意味。エゴだと思われるかもしれないし、私が運命をねじ曲げてしまうことで、どこかに歪みが起こってしまうかもしれない。

でも、そんな覚悟はとっくの昔にしていた。そんな悩みは、大事な人たちと出会った瞬間に消えた。

 

 

 

 

 

今を守ることが、

 

今を守ることしか、

 

私には出来ないから。

 

 

そのためには、松陽先生を助けるのが一番いいと思った。

 

 

「悪ガキ3人の元に急ぎますか。」

 

さてと、どこにいるのか……「国家転覆を狙う反乱分子を育成する悪の巣、松下村塾の悪ガキ3人の間違いだろ。」

「「!!」」

 

 

……いた。…………早っ!

なんだ、もっと時間かかるかと思ったけど、意外と近くにいたのね。

 

まだ役人とは出会ってない。ここで出て行って悪ガキ3人を家に帰してもいいんだけど……。私には、この時にどうしてもやらなくてはならないことがあった。

 

 

―――ザッザッザッザッ

 

大量の役人さんのお出まし。

漫画見て知ってたけど、実際に見るとリアリティあるな……刀とか。

 

 

 

……あ、本物か。

 

 

「なぜ、逃げなかった。」

「なんで俺まで逃げなきゃならねぇ。そりゃあ、松陽と蒼汰、葵姉だけだろ。

 

後は俺がやっから早く家帰れ。どうせ、俺は流れものだ。何かしてもどうにでもなる。

それに、松陽と蒼汰を巻き込まなければ、葵姉を守れれば、それでいい。」

 

 

元の世界で、こんなセリフはなかった。

確か、松陽先生とどっかに行けばいい、みたいな内容だった気がする。

それを今、私の目の前で、銀さんは私たちだけを守ることが出来ればと言った。

 

「んな役割、てめぇだけに任せておけるか。」

「葵殿を守りたいのは、お前だけではない。それに先生や蒼汰から学んだことは数え切れない。葵殿たちがいるあの空間が好きなのだ。」

「てめぇだけ、いい格好つけれると思うな。」

 

 

……。

 

嬉しかった、純粋に。

この世界に受け入れられた気がして。

 

 

だからこそ、一層守りたいと思ってしまう。

 

君たちを、君たちの未来を。

 

 

「いたいと思う居場所は、自分で見つけ、」

「自分で掴み、守る。」

「……そうかよ。」

 

 

 

「こんな夜更けに何をしている、童ども。」

「松下村塾、吉田松陽が弟子、坂田銀時。」

「同じく、桂小太郎」

「同じく、高杉晋助」

 

全員が木刀を構えた。

 

 

 

 

「「「参る!!!」」」

 

 

よかった、このへんは一緒で。

私のやりたいことが、しなければいけないことが……

 

 

 

おかげで出来る。

 

 

私は自分がいた場所、道の塀の上から飛び降り、役人と銀さんたちとの間に降りた。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

《銀時side》

 

 

「抜かないで……、それをそのまま収めてください、両者ともです。」

 

 

木刀を構え、走り出した俺らの道を止めたのは、ここにはいないはずの、俺が最も守りたいやつだった。

 

「どうか私に、この刀を抜かせないでください。」

 

飛び降りたままの姿勢でなおかつ、長い髪のせいで表情は全く見えなかった。

そのまま立ち上がって、役人の方に歩いて行った。

 

「貴様が!!吉田松陽の……!!」

「“国家転覆を狙う悪の巣”、“反乱軍兵士の育成”、“鬼子拾い”。

 

私たちのことはなんと言おうと構いません。目障りならばすぐにでもここから出て行きます。」

 

役人の集団の真ん中で、止まったと思ったら、刀を抜いて空を切った。

 

「ですが、その刀を私の大切なものたちに向けるのであれば、

 

私は、国家転覆ぐらい本当に致しますよ。」

 

 

いや、切ったのは空ではなかった。

的確に、役人の刀だけを切り刻んでいた。

 

「くそっ!噂に聞いた通りかっ!!」

「貴様が塾を偽り、側で見守る傍ら、国家転覆の反乱軍の育成に……っ!!」

 

 

最後は聞き取れなかった。

わかったのは、葵姉に全く事実無言の疑いがかけられていることぐらいだった。

葵姉の威圧にやられて、役人たちは逃げていった。

 

 

「葵姉……」

「やれやれ。全く、どれだけ心配したと思ってるんですか?みんな家に返したと思ったのに、悪ガキ3人がまだいましたか。」

 

俺たちと喋る時には、いつもの葵姉に戻っていた。そして、今日起こることを分かっていたような口ぶりで話した。

 

 

「とりあえず無事でよかったですが……、

父上になんて言いましょうね。」

 

困った困った、と言いながらも、葵姉の顔は笑っていた。

 

「葵が心配することはありませんよ。悪いのはそちらの悪ガキ3人ですから。」

「あら。」

「げっ……。」

 

 

やって来たのは松陽だった。

 

「悪ガキ3人が夜遊びまで覚えてしまうとは……、ですが道場を守ろうとしてくれて、ありがとうございます。

君たちが破る道場も無くなってしまいましたけど、私はそれで充分です。」

 

怒られると思ったら、松陽は笑った。

 

 

「心配いらねぇ。」

「「?」」

「俺が破りてぇのは道場じゃねぇ、松陽先生と葵。あんたらは2人だけだ。」

「我らにとっては、先生がいるところがどこであろうと学び舎で、葵殿がいる所が帰りたいところです。」

「俺らの武士道もあんたらの武士道も、こんなんで折れるほどやわじゃねぇだろ。」

 

葵姉と松陽は驚いたように目を合わせ、そして苦笑いしてた。

 

「銀時、こりゃまた、君以上に生意気そうな生徒を連れてきてくれましたね。葵にも一層迷惑をかけそうです。」

「大丈夫ですよ。賑やかになって楽しそうです。」

「だろ?」

 

ドヤ顔で言ってやった。

 

 

「では、さっそくですが路傍で授業を一つ。」

「「「??」」」

 

 

 

 

「半端者が夜遊びなんて……100年早い!」

「ゔあ゛っ!!」「がっっ゛っ!」「うがっっ゛!!」

 

やっぱり怒られた……。

初めて松陽のげんこつを見たであろう葵姉は驚いていた。自分の父親がこんなことしてんだぞ!なんとか言ってくれよ!!

 

「プッ……ふふふっ、あはははは!!」

「なっ!?葵姉!!笑うんじゃねぇよ!!」

「あはは!ム、無理!ちょっと!!」

 

 

 

一通り笑い終わった後、葵姉が近づいてきて、埋まってる俺たちへしゃがんで言った。

 

 

「……まっ、とりあえず。」

 

 

「「松下村塾へ、ようこそ。」」

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

『松陽と蒼汰を巻き込まなければ、葵姉を守れれば、それでいい。』

『俺が破りてぇのは道場じゃねぇ、松陽先生と葵。あんたらは2人だけだ。』

『先生がいるところがどこであろうと学び舎で、葵殿がいる所が帰りたいところです。』

 

 

今日は嬉しいことばかりだった。

まさかこの世界の、最も中心である人たちにこんなに思われてるとは思わなかった。

 

 

 

 

そして……

 

「……上手くいってよかった、、、。」

 

銀魂の世界で最も変えることが難しいこと、そして変えることで最も影響のあるもの、それが【松陽先生の生存】。

気づいたのは早かった。でも、どうすれば良いのかなんてわからなかった。

 

転生してから7年もあってよかった。ようやく気づいたのが、これだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『松陽先生の犠牲を全て私に入れ替える』

 

虚の件に関してはどうしょうもないしわからないけど、松陽先生を死なせなければなんとかなると思う。とりあえず銀さんと高杉が争うことはなくなると思う。

 

 

天導衆に使えると思われている吉田松陽の上から、吉田葵という存在を上書きしていく。それが今回、どうしてもやらなくてはならないことだった。

天導衆に直接見せたわけではないけど、役人に見せることは出来たし、多少は耳に入るだろう。おまけに、根も葉もない噂まであったようだったし……、やっぱり昔、戦場と公園、そこで銀さんを助けたことが、関わってるのかな……。

 

 

「とりあえず1歩目」

 

まだ始まったばかり。やることはたくさんある。

 

 

 

 

 

ようやく私の転生した意味を見つけた。

 

ようやく私の願いを叶えにいける。

 

 

いつの時代でも、どこの世界でも、

 

願うのは大切な者たちの未来の幸せ。

 

 

 

 

 

 

 

「銀さんとの約束……それだけは破っちゃうかもな。」

 

私を恨んでくれて構わない。

 

君たちが苦しまなければ。

 

君たちが幸せならば。

 

 

私は喜んで犠牲になりたいと思う。



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引越し~大きくなる音

こんにちは。
まだペースは保てています、優菜です。

今回は少し短いですね……すみません。
こんなんですが、よろしくお願いします。


 

 

「ふぁ~……。。。」

 

銀さん……、怒られちゃうよ…?

 

「ごらぁ!!銀時ぃぃ!!てめぇ、何サボってんだぁ!!」

「うっせぇな、低杉。人には休憩というものが必要なんだよ。てめぇみたいに、体力バカばっかじゃねぇんだよ。」

「てめぇはさっきから、休憩しかしてねぇじゃねぇかぁあ!!」

 

あーあーあーあー、高杉に銀さん。暴れないでよー、せっかく掃除したのに……。

 

「やめんか、二人とも!葵殿が困っているだろ!!というより、どちらもさっさと働け!!」

「「うっせぇ!ヅラっ!!」」

「ヅラじゃないっ!桂だぁ!!」

 

って、あんたも入るんかい!!止めに来たんじゃないのっ!?

 

 

 

 

「3人とも?何をしているんですか??

掃除をしてくださいと言ったのに、汚くなっているなんてことはありませんよね??」

「「「げっ!!」」」

 

 

この後どうなったのかは、ご想像にお任せ致します。……が、想像通りですよ、多分。

 

 

 

 

 

こんにちは、葵です。

私が原作から大いに外れたことをしてから、僅か1日。既に引越し準備中。

 

が、あの悪ガキ3人が大人しく掃除をするわけもなく、銀さんがサボり、何気に真面目にやっていた高杉もそれにきれて、そして止めに入ったはずなのにとばっちりを食らっている桂。いつも通りといえばいつも通りなんだけどね……。

 

 

「葵姉ちゃん、こっち終わったよー!」

「ありがとう、蒼汰。もう終わるし、休んでていいよ?」

「はーい!」

 

最後まで真面目にやっていたのは弟の蒼汰ぐらい。……5歳児に負けるってどういうことですか。

 

 

「葵姉、俺も休んでいい?」

「んー?何を言ってるのかな?」

「……ゴメンナサイ。」

「わかればよろしい。自分の持ち場終わったら休んでいいよ。」

 

銀さんの教育も兼ねてるだけですよ。笑顔の圧力、いつも使うわけじゃないですよ?

 

 

 

昨日の夜、私が啖呵をきって『すぐにでもここから出ていきます。』なんて言ってしまったばっかりに、次の日にはお引越し……。こうなる事実はあったんだけど……それでも申し訳なさすぎる。

 

 

『父上、本当に申し訳ありません。私が余計なことを言ってしまったばっかりに……。』

『いえいえ。私が葵でも、同じことを言いましたよ。』

 

確かに、松陽先生が言ったことなんですけど……。

 

『引越しと言っても、荷物は少ないですし、門下は増えましたし、楽ちんですから気にしないでください。』

 

そう言って笑顔で言ってくれた父上の顔は、記憶に新しい。

蒼汰にはただの引越しだと伝えた。純粋に喜んでいた蒼汰に少しだけ罪悪感があった。

 

 

 

塾と家が繋がっている広めの家だけど、高杉と桂も手伝ってくれたということで、夕方にはすべて終わった。

 

「疲れたー。」

「銀兄はサボってたしょー。」

「馬鹿、銀さんもやる時はやったよ?」

「僕の方がやったもん。」

「それは蒼汰の言うとおりですね。」

「うぐぐ……。」

 

一足先に休憩している男5人の背中。全員が縁側に集結していた。

 

「みんなお疲れ様。はい、お茶と、頑張ったご褒美にお団子を作ってみました。よかったらどうぞ。」

 

―――バッ!!

 

はやっ!?

そんな4人いっぺんにこられても困るし!団子はどこにも逃げないし!!

 

……っていうスピードで奪われました。動物園の動物に餌あげてる気分です。

 

 

「ありがとうございます、葵。とても美味しいですねぇ。」

「……父上、いつの間に取ったんですか。」

「私ぐらいになればこれぐらい余裕ですよ。」

 

父上は、私に虚だということをばらしてから、こんなふうに自虐的に言うようになりました。……はい、素敵な笑顔です。

 

 

「だぁ!!高杉!てめぇ!食いすぎだぁ!」

「てめぇがとろいからだろ!」

「うるさい!団子くらい黙って食べろ!」

 

そしてこちらは、いっつも喧嘩しています。喧嘩するほど仲がいいとは言いますけどね?し過ぎですよね??

 

「晋助も銀時もうるさい。罰として、残りの団子は小太(こた)と蒼汰と父上で分けます。」

「「はぁ!?」」

「やったぁ!!」

 

 

でも、弟が増えたみたいでとても楽しい。

手のかかる弟たちだけど、毎日が全く飽きなくて……。いつも賑やかなのは本当に嬉しかった。

あっ、なんで呼び捨てなのかって?

昨日、突然、『名字で呼ばれるのは嫌だ。同じ屋根の下にいるのに変な感じがする。』と2人に言われましてね。うむむ……、正直、私が変な感じがします。

 

 

 

 

「さてと、そろそろ出発しますよ。」

「おー!!」

「はい。」

 

この家ともお別れ。

この身体には13年だけど、記憶にないので、事実上、5年くらい。

 

本当に素敵な5年間をありがとうございました。

 

私を愛してくれた晴香さんと松陽先生に出会えて、

かけがえのない蒼汰という弟に出会えて、

銀さんと高杉と桂にも出会えて。

 

 

―目まぐるしく回っていった5年間。

 

――忘れられない記憶になった5年間。

 

―――守ることを誓った5年間。

 

 

ここに出会えてよかった。

ここで出会えてよかった。

 

 

「行きましょうか。」

「はい!」

 

さぁ、次の舞台へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえるカウントダウンの音が、

 

大きくなるのを恐れずに。

 

――――――――――――――――――――――

 

「そういえば……気になってたんだけど。」

「ん?俺??」

「うん。銀時さ、昨日の夜、どうして名前偽ったの?」

 

次の家に向かって歩いている途中、私は隣を歩いていた銀さんに話しかけた。

なんだか流した感じになってしまったけど、ずっと気になっていた。正直、あの名前が本人から出てきた時に動揺しなかった私は偉いと思う。

 

 

『松下村塾、吉田松陽が弟子、坂田銀時。』

 

そう、“坂田”銀時と言ったのだ。

 

今までは“吉田”銀時を名乗っていたから、突然出てきたことに、本当に驚いた。……いやまぁ、確かに?このまま吉田で行くのかなぁ、とは思っていたけども!あんなにナチュラルに来るとは思わなかったよ!!

 

「特に意味は無いなー、なんとなく。」

「なんとなく?」

「ん。あのまま俺が吉田を名乗ってたら、俺だけの問題にならないだろ?吉田松陽も吉田葵も吉田蒼汰も目をつけられる。だから、とっさに出た名字を言ったんだ。」

「それが、坂田だったの?」

「結局、一文字同じだけどな。」

 

なんと……。坂田の由来ってそういうことなのか?それとも、私が転生したことによる歪みなのか??

 

どんな理由であれ、あの一瞬でそこまで考えていたとは……。

 

「ありがと、銀時。」

 

 

蒼汰に聞かれるのはまずいから、小さな声で近づいて話していた。

まだ、私よりも小さな背の、可愛い弟の顔に。

 

「べ、別に、大したことじゃねぇよ。」

「ふふっ、そうかなぁ?すっごく嬉しいよ。」

「そう?」

「うん!」

 

こんなに小さいのに、そこまで考えてくれていることに。

私たちを守ってくれようとしていることに。

 

その愛に、応えたいと思ってしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

男の子の成長期はこれから。きっとすぐにでも抜かされてしまう。

 

それでも、前の世界では私の弟が私を抜かす前に、私は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次こそは、

 

あなたの隣で、

 

大切な人たちの隣で、

 

成長を見守ってていたいと、

 

 

本当に心から思っていたんだよ。




引越し先は……もちろんあそこです。


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立った次の舞台

こんにちは、優菜です。
これから少しだけ投稿スピードを早くします。理由は後々お話いたしますが、これからもよろしくお願いします。



最初の話の方で言いましたが、主人公の葵ちゃんの持っている原作知識は『さらば真選組編』までです。


 

 

「到着しましたよ。」

「「「「おぉぉ……!」」」」

 

うん、そういう反応は男の子ですね、やっぱり。

そして、兄弟ですか、あんたら。そんなに息ぴったりにしなくても……。

 

 

「「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」」

 

……えぇっ!?なんで!?どうして!?

どうして突然、そんなに息を合わせて新居に向かって走り出すの!?本当に男の子って、突拍子のないことを……。

 

「走り出す前にすることがありますよね?」

 

……はやっ!?いやいや!あなたも突然すぎますから!!

新八の気持ちがわかる……、この人たちといるとツッコミが追いつきません。

 

「「「「はぃぃいいい!」」」」

 

 

こんにちは、葵です。引越し先に到着しました。興奮したのか、テンションが上がってしまったのか、家がわかると走り出す4人と、それを笑顔で止める父上と共にやって来ました。

 

4人が荷物を取りに戻ってきてくれました、……父上の恐怖の笑顔で。

 

「葵姉、どれ運べばいい?」

「じゃあ、これとこれと……」

「いやいや!そんな持てないからね!?」

「銀時、男は気合だよ。」

「俺以外にもいるじゃんっ!!」

 

 

なんやかんやで全部運び入れて、とりあえず再び掃除が始まりました。

 

 

「……あ。」

 

ここって……

 

「わぁ!銀兄!前のお家よりも広い道場がある!!」

「うおっ!まじかっ!」

「うぉぉぉおおおお!!!」

「うぉぉぉおおおお!!!」

「銀時!高杉!!うるさい!!!」

 

やっぱり……気のせいじゃないか。

 

私たちが引っ越してきた先、外見を見た時から似ているなぁとは思っていた。

直観だから、違うかもしれないと思ったけど、頭の中では正解だと叫んでいる気がした。

 

 

『ここが、松陽先生がいなくなる場所(燃えてしまう私塾)である。』と。

 

 

 

「準備は早めの方がいいか。」

 

呑気なことを言っている場合ではない。

間に合わなかったでは済まない。

ここで松陽先生が連れて行かれてしまっては、昨晩の出来事が何の意味もなさない。

そして、父上を松陽先生として取り返せる確率は、ほぼ0。つまり父上が連れていかれた時点で、松陽先生の死は確定する。

 

「ここから先の天導衆との接触はないよね……?」

 

私の原作の知識の限りはない。つまり自分から、戦場付近まで出ていかなくてはならない。

 

「……嫌だなぁ。」

「葵姉?何が嫌なんだ??」

 

ありゃ、聞かれてしまいました。

下から疑問をぶつける、あどけない顔。

彼らを巻き込むわけにはいかない。

 

「んー?何でもないよ。片付け終わったの?」

「おう!!これから稽古だってさ。」

「おぉ……大変だね。頑張って。」

「葵姉のこと、次こそは俺が守るからな!」

「??……ありがとう。」

 

 

 

……次こそ(・・)

銀時は、私の心に疑問を残して、道場に走っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

《松陽side》

 

引っ越してきてからはや数ヶ月。

 

始めは門下も4人だけでしたが、今では以前と同じくらいの生徒に囲まれて授業をすることが出来ています。

 

そして何より、葵が一緒に勉強をするようになったのです。

……いえ、する(・・)では語弊がありますね。どちらかというと見る(・・)ですかね。教えることがとても上手な葵は、今では松下村塾の立派な先生を務めています。

そしてそれは、座学だけに留まらず剣の面でも。……私の血を受け継いでいるので、負けるようなことはないと思いますが、加減もとても上手で、私もいつも感心してしまいました。

 

 

ここでもやはり、この塾を悪く言う子どもたちがいましたが、それでも以前のように政府や天人が襲撃してくる気配はありませんでた。代わりに……葵の力が急激に上がっていたりすることが増えた気がします。

 

刀の使い方を真剣に話していた時のような目も、銀時たちを守った時のようなオーラもさらに成長しているような気がしたのです。

 

似て欲しくないですが、葵の身の安全が保証されるから、とあえて触れないようにしていました。

 

 

――私たちにバレないように、近づいてきた政府や天人を追い払っていることも。

 

――()の血の影響が強くなっていることも。

 

 

触れれば、葵が壊れてしまうような気がしたからです。

葵はいつも焦って戦っているようでした。

 

こういう時だけは、死ぬことのない私の身体に感謝しました。

 

 

 

“守らなければならない存在に守られる”

 

晴香、あなたが見たら早く止めてと、私を怒るでしょうかね?

でも本当に、嬉しいことなんです。

 

 

奪うしか出来ないこの手で、あなたと宝物を2つも作れたこと。

この手で、教えることができること。

 

あなたに出会えたから、叶えられたことです。ありがとうございます、晴香。

 

 

そしてどうか見守ってて下さい。

あなたが命をかけて守りたかった2人を。

 

どうか守ってあげてください。

可愛い弟のために、危険を冒してしまう素敵なお姉さんを。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

―――ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……

 

 

この感覚だけはいつまでたっても慣れない……いや、慣れてはいけないものか。

 

 

以前住んでいたところと違い、戦場と村が極端に近いこの場所は、以前よりもたくさんの天人が近づいたり、戦況が早く伝わってきたりしていました。

 

ですが私的には絶好の機会。

おかげで政府に私の力を示すことが出来ました。

 

 

私は戦う時、必ず気を付けていたことがあります。

 

それは最低1人は必ず逃がすこと。

全滅させてしまっては、私の力を証明する人がいなくなってしまうからです。

 

そして、使う刀を間違えないこと。

―政府に示す――村を襲ってくる敵

とはいえ、無意味に命を奪っていることに変わりはないと思ったから。

絶対に父上から譲り受けたあの刀を使わないと誓っていました。

 

 

 

「さて……いつでしょうか。」

 

――――時が動くのは、、、

 

 

 

父上が襲われるのは嫌だ。だから、あの事件は本当にいつまでも来ないで欲しいと思っている。

 

でも、どこかで早く来て欲しいとも思うようになっていた。

 

 

この恐怖に、

 

“殺す”という恐怖に、だんだん押しつぶされそうになっていたから。

 

 

 

私が今保てているのは、

 

 

「銀さんたちも同じ思いをしてたんだよね。」

 

今となっては大切な弟となっている彼らも、こんな思いと戦っていたと気づいたから。

 

 

―――姉である私が逃げるわけには行かない

 

正直、その思いだけが私を動かしていた。

 

 

 

松下村塾が燃やされる日の合図は、原作にはなかった……気がする。……まぁ、私が死ぬ前の話だから、私の死後に知ることが出来たのかもしれないけど。

 

今のところ、何もわからない。最初は、私が倒している天人たちの中に、その犯人がいるのかと思ったけど、松陽先生が私でもわかるような近づき方をする天人を、そう易々と近づけるわけないと思って、その考えはすぐに消えた。

 

 

前回もそうだったし、きっと注意していれば何か見つかるだろうと、

 

最悪見つからなければ、松陽先生を守り続ければいいだけの話。

 

そう思ってた。

 

 

 

だからきっと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?……あの人って、、、」

 

いつ頃だろうかと思いながら帰宅していた途中で、

 

彼に出会ったのは、

 

決められた運命を歩かせる、

 

神様の仕業なんだと思う。





さぁ、葵姉が帰る途中に見た人は、一体誰でしょう。


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それが合図だと気づくには、私はあまりに無知だった。

こんにちは。今回は少し短いです。
そして、銀魂をアニメで見ている方には、若干ネタバレ(?)かもしれません。
直接、ネタバレをしている訳では無いですが、察しの良い人なら気づいてしまうかも。
なるべく間を開けず、なおかつこの話は読まなくても理解できる内容の次の話を投稿するので、アニメ派の人は少々お待ちください。

もし、この話がネタバレで規定に反するなどありましたら、教えていただけると幸いです。

そして流血表現、注意です。


 

手に持っていたのは、見飽きたと言ってもいいほど見てきた、奈落が持っている杖。

 

頭にかぶっているのも、それと同じもの。

 

 

一目でわかった、『敵だ』と。

 

でも何かが違った。

 

何が違うのかはわからなかったけど、今まで戦った奈落たちとは、明らかに違ったのだ。

 

そして、

 

 

「一瞬とはいえ、私の背後をとるとは。」

「!?」

 

――キーンッッ!!

 

―――ザァァッッ!!!

 

 

 

刀を交えてすぐに分かった、何が違うのか。

それは、“オーラ”だ、と。

 

 

「ほお、私の一撃を刀で防ぎもしたか。」

「いえいえ、おかげで腕は痺れてしまいましたよ。」

 

震える声を抑えて、平常心で話す。

正直、うまく出来ているか不安だった。

 

 

「……貴様、何者だ。」

「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものですよ。」

「そうか、ならば自ら名乗らせてやろう。」

 

―ザッ!!

 

―バッ!!

 

 

―――キーンッッ!!!!

 

 

 

傍から見れば、切りあっている瞬間も見えないのだろう。

正直、相手の動きについていけてることに一番驚いているのは、私自身だ。

 

―――松陽先生のお陰かな、、、

 

 

斬りあっていても私に勝ち目はない。

私の目的はただ一つだった。

 

「!!」

「ちぇっ。」

 

それは顔を確認すること。

 

顔がわかれば、次から気をつけることが出来る。……変装でもしてたらどうにもならないけど。

 

 

「くっ……」

「どうした、動きが既に鈍くなってるぞ。」

 

こっちは、あんたとやる前に、散々戦ってきたんだよ!既に体力、底つきかけてんだよ!!

 

なんて悪態ついてても、どうしょうもない。

こんなところで死ぬわけにはいかない、でも、相手さんを殺すわけにもいかない。

 

そんな神経を使いながらの防戦一方の中で、一瞬だけ見つけた隙。

 

 

 

 

 

―――ザンッッッッ!!!!

 

「ほお。」

 

……隙をついたのにかわされた。

でも、目的は果たせた。

 

「私の身体ではないとはいえ、傷をつけるとはな。」

「っ!」

 

 

―――どうして、あなたが…

 

「さすが吉田松陽の娘と言ったところか。

“鬼子拾い”など、大層な名前がつけられたものだ」

 

―――でも確かに、あなたなら……

 

 

「顔を見て、ただで帰れると思うな。」

「っ!!!」

 

―――キーンッッ!!!!!!

 

 

 

何度目かもわからない刀の音。

その数に反比例するように減る体力。

長期戦にする訳にはいかなかった。

 

 

―――ザンッッッッ!!!!

 

「!?」

 

私が最も得意とする剣技。それは、“受け流す”こと。

父上に頼んで覚えた技。それのレベルだけは、並大抵のものではない。

 

「ほお、受け流すとはな。」

「すいません。まだあなたを殺すわけにはいかないんです。」

 

受け流し、距離をとってから息を整える。

そして再び刀を構えた。

 

「まるでいつでも私を殺せるような言い方をするな。」

「そう言ってるんです。」

 

 

―バッ!!

 

――ザッッ!!

 

同じタイミングで地面をける。

向かってきた敵に私は……

 

 

 

 

刀をおろした。

 

 

―――グサッッ!!

 

「っっ!!!!」

 

刀をおろしたため、防ぐことも出来ない。

敵さんの刀は、私の腹部を貫いた。

 

痛い

苦しい

 

この感情だけが頭を占める。

 

「どういうつもりだ。」

 

でも……

 

「もう一度……隙を作るつもりです…よ。」

「!!!」

 

私は、下ろしていた刀をそのまま振り上げた。私にたてていた刀を持つ右手を斬るように。

 

 

―――シュンッッ!!

 

……まぁ、そりゃあかわされるよね。

 

私の振り上げた一撃は、私が受けた傷の代償に全く見合わなかった。

 

「ゲホッ!!……ゲホッゲホッ、、、!!」

 

これが血を吐くという感覚なのか……、って、感心してる場合じゃないよね!?

 

仕留めに来るであろう敵に構えた。……が、

 

 

「なるほど。お前は使えそうだ。それに吉田松陽の娘とくれば、使い道は多岐に渡る。」

「……??」

 

何を言っているの、この人は??

 

「質問に答えろ。」

「……。」

「近頃、この付近の奈落どもを大量に殺しているのはお前か。」

「……そうだと言ったら、どうしますか?」

「最後まで減らず口だな。だが、その答えを聞ければ十分だ。」

 

そう言って、敵さんは刀をおろした。

 

「貴様は、殺すには惜しい。

近いうち、貴様自身に、選択させてやろう。それまで力を蓄えることだ。」

 

そしてどこかに去って行った。

 

 

 

「……っはぁ!!……はぁ、はぁ……」

 

やばい。血、失いすぎ?視界、クラクラするかも……って、あれ?

 

「……止まりかけてる??」

 

ん?どういうこと??……まぁ、血を失ったことに変わりはないから、視界は相変わらずクラクラしてるけど。

 

 

「随分、遅くなってしまいましたね……。」

 

色々突っ込まれるかもしれないけど、とりあえず帰ろう。

そして……、父上に聞きたいことも、伝えたいこともたくさん出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時よく考えればよかったのだ、と

 

後になって私は後悔する。

 

 

それと同時に、

 

自分が無知であったためになった未来を

 

よかった、と

 

感じることになった。

 

 

 

それが合図だと気づくには、私はあまりに無知だった。




マンガ派の人には、もう分かったかも知れませんね。


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標的変更の狙いは、誰にも気づかれてはならない

こんにちは。
たくさんの閲覧・お気に入り登録、ありがとうございます。

アニメ派の方でお待ちされていた方、申し訳ありません!お待たせいたしました!!

今回は《~side》が多いですね……。
最後に関しては、ほぼ会話だし!サブタイトルふざけてるし!!ほんとすいません。
これからもなるべく早い投稿を心かげます。


 

「……………………、、、よしっ。」

「何もよし、じゃありませんよ、葵。」

「あらら……ただ今帰りました、父上。」

 

なるべく誰にもバレずに着替えたかったんですけど……やはり、父上の目は欺けず、、、すぐにバレました。

 

「お帰りなさ……っ!?葵!どうしたんですか!?その傷はっ!」

 

そう、絶対に聞かれる。

私は全身血だらけ。そして、かなり大きめの傷を負っているのですからね。

 

既に小さな傷に見えてるでしょうけど。

 

「いえ、そこで村の方と天人に会いましてですね、庇いながら戦っていたらちょっと殺られてしまいました。」

 

 

本当のことを言うわけにはいかない。

まぁ、これもあながち嘘ではない。毎日、やっている事ですから。

 

「すぐに手当しますよ。」

「いえいえ!自分で出来ますよ!大丈夫です。」

「だめです。」

「……はい。」

 

 

まさか私が、笑顔の威圧を受ける日が来るとは思いませんでした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「よし……いいですよ。」

「ありがとうございます。」

 

さすが先生、ということでしょうか。父上の手当はとても優しく、上手でした。

 

「あまり無理してはいけませんよ。」

「はーい、気をつけます。」

「ふふっ、よろしい。」

 

なぜかすぐに塞がっていた傷は、既に小さいものとなっていた。

私の持つ原作知識では足りないけど、なんとなく理由はついていました。

 

 

―――大体こういうのは、(父上)の血ってことで納得いく。

 

それもそれでどうなのでしょうか……。まっ、いいですよね。いつかわかるでしょう。

 

 

 

 

けっして甘く見ていた訳では無いのです。

 

父上が、松陽先生が、

 

 

……虚が気づかないはずないと、

 

気づけない私がただ浅はかだっただけなのです。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

《松陽side》

 

『そこで村の方と天人に会いましてですね、庇いながら戦っていたらちょっと殺られてしまいました。』

 

葵のその言葉を聞いた瞬間、私の中にいる本能の部分が叫んだような気がしました。

 

 

―それは嘘だ、と。

 

まるで現実を見ろ、と言わんばかりの叫びでした。

 

 

葵の傷は、手当をしている時にはっきりと確信に変わりました。

 

――これは天人たちがもつ刀ではない、と。

 

 

では何なのか。

 

「奈落……ですね。」

 

刀というよりは杖のような形の武器。

刀で殺られたのであれば、もう少し鋭利な傷跡になるでしょうし、ただの天人があの杖を持ったとしても、殺傷能力が使用者の力によって変動するあの武器で、葵がここまでの傷を負うとは考えにくいことでした。

 

「気づかなかったのですがねぇ……。」

 

常に意識は外に注意を向けてるつもりだったのですが、先に葵が出会ってしまいました。

 

 

偶然でしょうか……それとも確信があって……?

 

 

 

そしてそれよりも気になること、それは葵が出会ってしまった敵の実力。

 

葵は私の血を濃く受け継いでいるのか、松下村塾でも戦闘能力というものが高い部類に入りました。それは蒼汰や銀時たちを含めても一番になれる程に。

その葵と互角、いえ、あんなにも大きな(・・・)傷を負わせているのですから、相手の方が一枚も二枚も上手であると推測がつきました。

 

 

一体誰でしょうか。残念ながら、選択肢が多すぎて検討もつきません。……が、わかっていることが一つ。

 

“政府が、奈落が、本格的に私を探している”

 

 

それ自体はずっと覚悟していたので、構わないのですが、子どもたちに危害が及ぶのは見過ごせませんね。

 

そして

 

 

……そろそろ別れの覚悟をしなければならないようですね。

 

 

 

私を恨んでくれて構わない。

 

君たちが苦しまなければ。

 

君たちが幸せならば。

 

 

私は喜んで犠牲になりたいと思いますよ。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

《蒼汰side》

 

「だぁ!!っくそ!」

「葵ぃ!もう一回だ!!」

「……まだやるの??ちょっと休憩しない?」

「「しないっ!!」」

 

元気だなぁ、銀兄も晋助も。

……葵姉ちゃん、二人の体力は底なしだから頑張って。

 

「参るぞ、蒼汰。」

「いいよ、小太郎。」

 

―ガンっ

 

――ダンっ

 

―――ザァっっっ!!

 

 

「一本!」

「「「「「おおぉぉぉおお!!」」」」」

「さすがだな、蒼汰。」

「ありがとうっ。まぁ、まだまだだけどね。」

「確に。俺が言えたことではないが、松陽先生や葵殿には届かないな。」

 

僕の、いや、松下村塾(ここ)にいる人の全員の目標は、最初は父さんだった。もちろん、今も誰もが倒したいと思っている相手だと思う。

 

で、最近になって増えた倒したい目標、それが葵姉ちゃん。前の場所でも、数回だけ稽古をつけてもらったことがあったけど、ここに来てからは、ほぼ毎日道場に顔を出していた。

 

 

僕でもわかる、葵姉ちゃんの異常な成長。

 

一度、いつそんなに稽古したのか、と聞いたら、

『蒼汰が産まれる前に、ちょっとね。』

と言われた。

ちょっと……ね。しかも、僕の記憶がある中では、前に葵姉ちゃんが刀を抜いていた記憶はない。

本当にここ最近、葵姉ちゃんは突然強くなりだした。……まるで、それが義務みたいに。

 

 

そして、もう一つ。父さんの落ち着きの無さ。

 

多分、みんなは気づいてない。でも、僕はわかった。父さんは、いつも周囲に注意を張り巡らせていた。主に家の外を。

なんで気づいたのか、って言われると分からないけど、最初に気づいた時、父さんに対して感じた事はは『恐怖』だった気がする。

ピリピリしていて、すごく怖かった。

 

 

最近は慣れてきたし、葵姉ちゃんの剣の腕もみんなに指導するために必死に頑張ったと言ったら、みんな感謝していた。

 

でも僕は、どうしてもこのモヤモヤが拭いきれなかった。

 

 

何か怖いことが起きてしまいそうで、

 

大切な人がいなくなってしまいそうで、

 

でも誰にも言えなかった。心配かけたくなかったから。

 

 

 

 

 

この選択を

後から後悔することになるとも知らずに。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

《WHERE?WHO??》

 

 

 

「例の者を発見いたしました。」

「そうか、どのようなやつだ?

天人だけでなく、奈落のお前までもを傷つけたのは。」

「……虚」

「なに?」

「元は虚である吉田松陽の娘、吉田葵という者です。」

「ほぉ、あやつに子どもか。」

「使えそうではないか。」

「お前から生きて帰ったのだ、実力も相当のものであろう。」

「狙いをそちらに変更するか。」

「……本人ではいけない理由は何でしょうか。」

「娘を先に捕えれば、向こうも大人しく出てくるだろう。」

「虚の力を真っ向に受けることなど無謀以外、何でもない。」

「それに、虚自信も、いつまでも吉田松陽の仮面をかぶり続けることなど不可能。」

「娘も強きならば、使えるものを使わぬ手はない。」

「兵などいくらでも連れて行け。早急にその者を捕らえよ。」

「かしこまりました。」

 

 

 

 

 

あいつらの前では私の発言もチリのようなもの。

だが、今回ばかりは反抗するつもりも無く、むしろ同意だ。

 

 

 

 

 

 

 

「“娘”……か。」

 

 

―――なんの情も入れない。

 

―――守るべきは任務

 

 

 

静かな空間に、足音だけがリズムよく響いていた。




その音は、運命へのカウントダウン……


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今日は運命の日

いつも閲覧して下さる方、お気に入りして下さる方、本当にありがとうございます。
さて、ものすごいスピードで物語は進みます。
早すぎない?って方もいるかもしれませんが、ご了承ください。


 

《銀時side》

 

 

「はい、おしまい。」

「ハァ、ハァ、ハァ……っくそ。」

「葵姉、ハァ……強すぎんだろ。」

 

俺らがここに引っ越して来て、葵姉が道場に来て、既に1年ぐらい経った。

365日、葵姉は休まずに道場に来たし、俺と高杉は休まず勝負を挑み続けた。

 

結果は惨敗。俺も高杉も、二人でかかっても全部剣で防がれた。しかも、葵姉は全く汗かいてない。

……で、もちろん松陽にも叶わねぇ。

 

 

「では、父上。お先に失礼しますね。」

「はい。今日もありがとうございます。」

「いえいえ。みんな頑張ってね。」

「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」

 

くっそ、なに真っ赤にして元気に返事してんだよ。……なんで俺、悔しがってんだ??

 

 

……んな事どうでもいいっ!!

葵姉は晩ご飯を作るために、いつも少し早く帰る。まぁ、松陽と蒼汰、俺と高杉、桂の分作るんだから、大変だよな……。

 

 

「(あ……やっぱり、)」

 

そして、俺が最近気づいたこと。

それは、葵姉がどんな時でも二本帯刀してること。

普通は1本でも間に合うし、逆に二本もあったら邪魔だと思う。

最初は、葵姉の戦うスタイルが二本使うものなのかと思ってたけど、残念なことに一本は抜いてるところを見たことがない。

 

 

「(……気になるっ!!)」

 

特に今日であることに理由はないし、気になったのも何も今日が特別ではない。ただ、聞くタイミングが分からなかっただけで。

そしてなんとなく、今だ!と思った。だから、葵姉を追いかけた。

 

 

「葵姉ーー!!!」

「!?銀時……?どうしたの??」

 

 

 

でも今日、

 

“今日”という日が忘れられない、

 

忘れてはならない日になるとは

 

思わなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「……どうしたの?何か用事あった??」

「う……ん?多分、用事……かな。」

「??どうしたの?」

 

銀さんは何か言いずらそうにしていた、けど残念ながら、私に察することは全く出来ず、本人の言葉を待つことしか出来ません。

 

「答えたくなかったら……答えなくてもいいんだけど……」

「うん。」

「葵姉は、なんで二本も帯刀してんだ?」

 

 

 

……なるほど。それで、言いづらそうにしていた訳ですか。

特に隠していた訳では無いけど、別段、自分から言うつもりもなかった、二本帯刀の意味。

それは、言ってしまえば、勘のいい未来の銀さんなら、なにかに気づいてしまうかもしれないと思ったから。遠ざけていたはずなのに、逆に危険な目に合わせてしまうんではないかと、心配したから。

でも、あなたは主人公で、私は異端者【転生者】。あなたが知りたいと望むのならば、教えてあげなくてはならない。

 

……そんな言い訳をして、あなたなら気づいてくれるのではないか、と期待を抱いてしまったんです。

もしかしたら、あなたと離れなくても済むのではないか、もっと平和な解決方法があるのではないか、と。

 

罪悪感と、わずかな助けを求めて話してしまう私を許して下さい。

 

 

 

 

 

 

そして、どうか気づかないで。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「この刀はね、父上からもらったんだ。」

「松陽から?」

「そう。」

 

そう……本来は君が貰うはずだった素敵な刀。

 

「その時にね、父上に誓ったの。

この刀は、この世で最も大切なものを守りたい時に使う、例え自分の命を犠牲にしたとしても、その人のために斬った時に、後悔しない、って思える瞬間にだけ、この刀を使う、ってね。

 

だからむやみやたらには抜かないかな。」

 

今斬ってるのは、どれも私の為だから。

いつか本当に、君たちのために使う日が、

 

来て欲しいような、来て欲しくないような。

 

 

「へぇ……。」

「納得できたかな??」

「……うん。ありがと。」

 

……?

なんだ今の間は??

 

道場に戻る銀さんの背中を見て、感じた疑問は、

 

 

 

 

 

「葵姉っ!!」

 

彼自身によって、解決された。

 

「!?」

「葵姉がその刀を抜かなくてもいいように、俺が強くなる!」

「……、」

「だから心配すんな!」

 

そう言いきると、走って戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。」

 

全くため息が出る。

 

どうして自分はこんなにも無力なのか。

 

どうしてこんなにも弱いのか。

 

 

覚悟は決めたのに。

 

命をかける覚悟も、

 

君たちを裏切る覚悟も、

 

 

恨まれる覚悟も。

 

 

 

たとえ悲しい事があっても、

 

周りに仲間がいる事が、

 

本当に君たちの幸せですよね?

 

私のやってることは、間違いではないと、

 

思っても大丈夫ですよね?

 

 

 

ため息と共に出た不安は、誰にも拾われることなく、空に消えた。

 

 

 

 

 

もう後戻りは出来ない。

 

もう後悔することは出来ない。

 

物語はそこまできている。

 

 

私の知識と銀さんたちの成長が合致していた。

 

だから、きっともうすぐだと思う。

 

たった1年で成長した、

 

男の子の怖いぐらいの成長期のように、

 

私のやるべきこともすごい勢いで

 

 

……近づいてきた。

 

 

 

 

 

「さて、ご飯作ろっかな。」

 

私は頬をつたう汗を拭って、家に戻った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「あの家だよな。」

「あぁ、起きてる人の気配はしないな。」

 

どんな小さな音でも響いてしまいそうなほどの、静寂に包まれた周囲。しかし、それも当たり前。一般人は既に床につく時間。

こんな時間帯に見合わぬ数と、人ではない集団。

 

「生け捕りか、寝ているのならば簡単だな。」

「虚にばれるのだけ気をつければ大したことではない。狙いの女子も随分やるようだが、初戦子どもだ。」

「貴様らでも出来るだろ。」

「てめぇら、舐めた口聞いてくれんじゃねぇか。」

「俺らに助け求めたくせに、何威張ってんだ!あぁ!?」

 

くだらない会話と、ひっそりと来ているならば出してはいけない大声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、一体今、何時だと思っているのですか。」

 

そんな集団の後方。背後から聞こえた声に、全員が一斉に構えた。

 

「ばれないように見ているのであれば、もう少し声を小さく、そして気配を消す努力をすることをおすすめしますよ。」

「貴様っ、いつからっ!!」

「最初からですよ。気配も消さず、殺気だけ見せながら近づいてくる連中を、家の中から見守っているわけないでしょう。」

 

 

そう言うと、その者は腰の刀に手をかける。

 

「ここを虚の存在する屋敷と認識しているのであれば、もう少し手練の者を連れてくるべきですよ。天人ごときにここは落ちません。」

「まさか、貴様っ!」

「……殺れぇぇぇ!!!」

 

その言葉が癪に触ったのか。

気づいた者の言葉など耳に入らず、人外の集団、大量の天人が1人に突っ込んだ。

 

 

「だから、あなた達ごときでは、ここを落とすことは出来ないと言っているんです。」

 

 

 

一瞬。

 

瞬きする間もない。

 

次に目を開けた時に見えるものは、天人たちが流す血を一身に浴びて、その刀を振り回す姿。自身が傷つくことは全くなく、的確に敵の急所をついて絶命させていく。

 

 

その者が天人を全滅させるのに、それほど時間はかからなかった。

 

「貴様、やはり……虚、、、いや吉田松陽か。」

 

特徴的な長い茶色の髪。

大量の天人を1人で片付ける、剣の実力。

 

「そうだと言ったら?」

「っ!……まさか貴様に会うとは思わなかったな。だが絶好の機会!、娘をとらえるよりは本人をとらえた方が良いに決まっている。」

「なるほど、娘を連れ去るつもりだったのですか。貴重な情報をありがとうございます。」

 

言い終えると、髪の毛で隠れていた眼光が、天人の監視と指導でやってきたのであろう、奈落たちを貫いた。

 

「では、聞きたいことも聞けたので、全員消えてもらいます。」

「なっ!?」

 

その眼光に怯み、目では追えないような速さで、こちらに向かってくる相手に、奈落たちはでも足も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ、偽ってまでずいぶんと暴れてくれたようだな。」

「……。」

 

後わずかの奈落を残したところで、吉田松陽と思われていた人物の動きは止まった。止められた。

さんざん剣を振り回していたその者を、背後から取り押さえた。

喉元には刀を突きつけ、動きを封じたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は吉田松陽では無いな。」

「なぜでしょうか。」

「吉田松陽のことはなんでも知っている。貴様は吉田松陽ではない。」

「あら、それは残念ですね。

 

 

ちなみに私は、あなたのことを知っていますよ。」

「!?」

 

捕えられたと思われていた吉田松陽と名乗る者は、一瞬のすきをついて拘束から逃れた。

 

「そうか、貴様だったか。」

 

 

 

距離をとり、剣を振り上げその者は構えた。

 

そして、吉田松陽と似た顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

「我らの狙い、吉田松陽の娘、吉田葵。」

「どうも、こんばんは。」

 

 

―――運命が動く時……





……転生編、まさかの次回でラストかもしれません。


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✩“転生編”最終話✩さようなら。また会える日まで、

こんにちは、転生編最終話でございます。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。

転生編は終わりますが、物語は続きます。
そして次回の話で、突然の急投稿が始まったのか、ご説明します。

では、転生編最終話、最後までお楽しみください。


《松陽side》

 

―――ここはどこでしょうか。

 

目を開けた先に広がる光景は、“現実世界ではない”ということを除いて、全く知らない場所でした。

 

 

「松陽さん。」

「!」

 

私の耳に届いた声は、私が世界で初めて愛した人、

 

「晴香……?」

「ぼーっとして、どうかしましたか?」

 

既にこの世にはいない人。

 

ここは天国ですね、きっと。

だって、晴香に会える場所ですよ、天国以外なんでもありません。

 

 

「松陽さん、葵と蒼汰は元気ですか?」

「えぇ、2人とも元気ですよ。

葵はあなたに似て、素敵な女性に育ちました。蒼汰も、お姉さんを守るために、強く優しい子に育っていますよ。」

「そうですか。よかった……。」

 

そう言った晴香の笑顔は、本当に素敵で、私はいつまでもここにいたいと思いました。

 

「でも……、」

「?」

「葵には、松陽さんの悪いくせも移ったみたいですね。」

「私の悪いくせ……ですか?」

「自己犠牲をしてしまうところですよ。本当にそっくりです。」

 

―――全く、困った親子ですね。

 

そう、困った顔で言う晴香。

 

 

―――あぁ、本当にあなたには叶わない。

奈落の頭として存在し続けてきた私を、あなたは一瞬で丸め込んでしまう。

 

あなたが笑顔になるならば、なんでもしたいと思うし、

 

あなただけは、困らせたり泣かせたくないと思ってしまう。

 

 

「きっとあなたと同じで、葵にも『自己犠牲はやめて。』と言っても聞かないんでしょうから、諦めてあげてくださいね。」

「晴香……」

「自己犠牲に何も言わないのは、信じている証拠です。何かあっても何も言わないのは、守りたいからです。

 

松陽さんと私がそうだったように、葵もきっとそうですよ。」

 

 

ここ最近の葵の自己犠牲。

言われれば、頭に浮かぶことは山ほどありました。

 

「葵は賢い子です。なんの考えもなしに、自分を犠牲にしたり、みんなのもとを離れたりなんてしませんよ、きっと。」

 

 

 

そう言って微笑むと、突然、晴香の周りが光に包まれた。

 

「!?」

「松陽さんにお迎えが来たみたいですよ。」

 

ほら、と言って意識をそちらに向けると、

 

 

『父さんっ!』

『松陽先生っ!!』

 

大切な息子と弟子たちの声が聞こえてきました。

 

「蒼汰も大きくなりましたね。

 

松陽さん、みんなを、蒼汰もたくさんの教え子さんたちも、守ってあげてください。ここに来るのは、その後ですよ。」

「晴香っ!」

「それが、私と……葵の願いです。」

「!?」

 

最後の言葉の意味がわからないまま、晴香に伸ばした手は触れることなく、空をきった。

 

『松陽さんとお話できないのは、寂しくなりますけど、私は待ってますから、早く来たら怒りますからね。

触れるのはそれまでお預けです。』

 

 

―――そうですね。

 

あなたに触れてしまえば、私は弱くなってしまう気がします。

 

あなたとの約束、私に守れるならば、全力を尽くして……。

大切な人たちを守れるように。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「――!!――っ!!」

「――先生っ!!」

「父上っ!」

 

次に目を開けると、そこは晴香のいた場所ではなく、小屋のような場所。

そして、少し泣きそうな、焦った顔をした3人。

 

「晋助、小太郎、蒼汰……。どうかしましたか?」

「松陽先生っ、さっきから死んだように寝てて、全然起きなくて……。」

「目覚ましたら、知らない場所だし、葵も銀時もいねぇんだ!!」

「銀兄の布団はあるけど、葵姉の布団はないから、葵姉はそもそもここに来てないみたいだし……。」

 

 

全く起きなかった……。

 

「睡眠薬か何かでしょうか。」

 

それが何かに入っていたとしか考えられません。

そして、蒼汰が言ったこの状況が表すこと。

 

 

「葵が仕込んだ……?」

 

でも一体、何のために?

 

「父上……、」

「どうしました、蒼汰?」

「銀兄の刀がない……。」

「!?」

「あの野郎、どこ行きやがった!?」

 

意外にも頭がきれる銀時なら、葵の行き先に多少の覚えがあったのかもしれません。

そして、私にもありました。

 

「3人ともここで待っていてください。」

「ちょっ、松陽先生っ!!」

 

3人から反対される前に飛び出し、限界のスピードで走りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――松下村塾に向けて

 

いるならそこしかない。

 

どうか2人とも、無事でいて下さい。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「さて、この後どうしましょうか?」

 

 

静寂の空間に存在しているのは、葵と目の前の奈落のみ。他はどうなったのか……

 

「短期間で何があった。」

「さぁ。強いて言うなら、突如起こったことではなく、覚悟を持って起こしにいったことだからでしょうか。」

 

家の周囲を囲むようにあちらこちらにいた奈落たちは、全て絶命されていた。……葵の手によって。

 

 

「これでようやく、あなたと話ができます。……話というよりは、取り引きでしょうか。」

「取り引き、だと、、、」

「えぇ、あなたも狙っていたのであろう“吉田松陽”についてです。」

「………。」

 

奈落の雰囲気が一瞬硬直したのを、葵は見逃さなかった。

 

「私が大人しくそちらに捕まる代わりに、松下村塾と吉田松陽には決して手を出さないと、約束してほしいのです。」

「我らへのメリットはなんだ。」

「……“あなたがた”というよりは、“あなた”へのメリットならあります。」

「なんだ。」

「一つだけ忠告するならば、吉田松陽を殺したところで、吉田松陽はあなたの下へ帰ってきたりなどしません。」

「!!」

「吉田松陽が吉田松陽であり続けること、そして、あなたがあなたでいること。

それが、吉田松陽とその周りの者たちを守る最善の手段だと、私は思っています。」

 

 

葵が一通り話したあと、その者は再び口を開いた。

 

「……貴様、一体何者だ。」

「私が何者なのか、それは私が最も知りたいです。私はなぜここに生まれて、どうしてあなたと出会ったのか。

長い年月をかけて出した私なりの答えを、今あなたに示しているつもりですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“吉田松陽”を守りたい』

 

 

あなたと私の利害、一致していませんか?

 

 

 

 

 

朧……さん??」

 

 

 

 

 

――未来を知っている私が出来る、

 

 

―――精一杯の未来への抗い

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

《~side》

 

 

「……ハァハァハァ、……ハァハァ、、、」

 

全力で走った。

体力の限界を感じても、何度こけそうになっても。

 

―――辛い、苦しい

 

そんなことよりも、大切な人がいなくなってしまう―恐怖―の方が強かった。

 

「葵姉……っ!」

 

 

目を覚ました時、最初に探したのは松陽だった。松陽の気配を感じないほど、松陽は熟睡していた。

 

すぐに生きてるとわかって、次に探した人は葵姉。

俺の頭は気持ち悪いくらいに働いて、すぐに危険信号を出してきた。

 

――葵姉の寝た形跡がない

 

――葵姉の刀もない

 

――俺たちが松下村塾ではない所にいる

 

 

―――葵姉が俺たちを眠らせてここに運んだ

 

どうしてこんな時ばっかり、頭が回るのか。

自分の頭を恨んだ。

 

松陽や蒼汰たちを起こさないように、

 

俺は刀を持って松下村塾に急いだ。

 

 

 

―――どうか何も無いで

 

―――全て俺の思い込みだった

 

―――葵姉が念のためにしたことだ

 

 

そう……信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵姉ぇぇぇっっっ!!!!」

 

そしてそれは、

 

俺のちっぽけな夢で終わった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「てめぇ!葵姉を離せっ!!」

 

刀を抜き、私をとらえている奈落に向かって来たのは、物語の主人公。

 

 

―――あぁ、この光景も知ってる。

 

違うところは二つ。

捕まっているのが松陽先生ではない。

塾が燃えていない。

 

 

―――私は頑張った。

 

自己満足でも、

 

その成果の代償に大切な人の今を傷つけたとしても。

 

 

きっと未来は素敵になっている。

 

松陽先生がいるのだから、きっとそう。

 

 

……そうだと、信じてる。

 

 

 

 

「動くな小僧。貴様の大切な者の首が、貴様のせいでとぶことになるぞ。」

「っ!」

 

松陽先生なら動けたかもしれない、

 

でも銀さんも強いとはいえ、普通の人間。

 

裏切った私なんかのために、そんな辛そうな顔をしないでほしい。

 

 

「銀時。」

「!」

「蒼汰と晋助と小太を、

 

松陽先生を守ってあげてください。

約束……ね。」

 

振り向いた時、私は普通の顔でいられたでしょうか。

平常心を保てていたでしょうか。

 

 

 

 

 

 

これから先出会う時、

 

私はあなたの敵であるかもしれない。

 

 

でもどうか忘れないで欲しい。

 

あなたと過ごした時間が、

 

私の人生でもっと素敵なものであったことを。

 

誰かを守るために、自分の命を差し出す、

 

そのことが、

 

恐怖と一緒に喜びもあることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀時っ!」

「「!」」

 

あと少し、

 

あと少しだったのに。

 

あなたとは会わずに、

 

この場を去りたかったのに。

 

 

「葵姉……、葵姉……がっ」

「葵が!?」

 

僅かに振り向いた瞬間、

 

確かに父上と目が合った。

 

父上は想像していなかった顔をしていました。

 

失望というよりは希望

 

悲しみというよりは期待

 

 

そして何かを悟った顔。

 

 

―――あなたならわかってしまうのかも知れませんね。

 

でも、絶対にバレてはいけない。

 

 

 

全て“吉田松陽”を守るためであることも。

 

未来を変えるためであることも。

 

 

 

 

 

『吉田葵』の未来改変は、

 

まだまだ始まったばかり。

 

 

この先君たちのそばにいられなくても、

 

私は私の信じた武士道を行くために。

 

 

 

 

「さようなら、吉田松陽、坂田銀時。

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう。」




次回……【現代編】

それぞれが松下村塾、万事屋、真選組、鬼兵隊に。

の前に、攘夷戦争の話。


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現代篇
吉田葵と周囲のその後【坂田銀時】


たくさんのお気に入り、そして感想をくれた方、ありがとうございます!
さて、新シリーズ!『現代編』!!
私が存在するまで、楽しんでいただければ、幸いです。

後書きの方に、急投稿の理由を書きました。
よければお読みください。



 

吉田葵が転生した、この時空の『銀魂』という世界。

 

彼女の動きによって様々なもの達が、運命を歪めて生きた。

 

 

父は失われるはずだった命を生き、

弟は本来存在しない世界を生き、

 

門下たちは……対立することをせず、共に生き続けた。

 

 

そんな世界での、

 

一見平和に見える世界での、

 

―――そんな話。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「あっちぃなぁ……今日は。」

 

かつては自由な空だった江戸の空も、今ではその空に似合わぬ大きいばかりの機械が浮く空。

 

その空を見上げているのは、銀色の天パが特徴。万年金欠、甘党&無鉄砲『万事屋』社長、坂田銀時。

15年程前、突如宇宙から舞い降りた天人と戦った攘夷戦争で、“白夜叉”の名を掲げた、侍。

廃刀令のこのご時世に、侍魂を忘れぬ男。

 

その信念は、折れない武士道は、昔から変わらないものだった。

 

 

 

「おはようございまーす!起きてくださいっ!!……って、銀さん起きてたんですか。珍しいですね。」

 

今来たのは、メガ……じゃなくて志村新八。

そんな万年金欠の万事屋の従業員で、社長から侍魂を学ぶために働き出したら眼鏡かけ機……じゃなくて、侍。

 

「色々と突っ込みたいところがあるんですけども……。」

「ほっとけ新八。突っ込んだ方が負けだぞ。」

「……そうですか。」

「おはよう!銀ちゃん!新八!」

 

最後の1人、夜兎の神楽。現在、万事屋従業員兼居候。大食い&馬鹿力娘。

 

 

「おはよう。神楽ちゃんも、今日は早いんだね。」

「銀ちゃんに明日は早いからな、って言われたアル!」

「銀さん、依頼ですか?」

 

 

尋ねられた銀時は振り向かないまま、

空を見上げたまま、言った。

 

「今日さ、万事屋休みにして俺と一緒に行ってほしい所があるんだけど。」

「「……。」」

 

普段ならぶん殴る所である。金欠が当たり前の万事屋は、1日たりとも休んでいる暇などない。

……が、今日の銀時は少し違うと、2人も感じ取った。

 

「いいですよ。たまにはいいんじゃないですか?」

「そうネ。それに、銀ちゃんにそんな顔されたら断れないアル。」

「……俺どんな顔してた?」

「子どもみたいな顔でしたよ。」

「泣きべそかいてるお子ちゃまみたいネ。」

 

自分よりもいくらも年下である2人にいわれるほど。それくらいの顔をしているのだろうと、銀時は思った。

 

「そっか、わりぃな。」

「それで、どこに行くんですか?」

「俺の故郷。」

 

 

新八も神楽も本当に驚いた。

いつもヘラヘラしていたり、たまに真剣な顔をしたり、一緒にいる期間はまだ少ないとはいえ、たくさんの表情を見てきているつもりだった。

 

 

でも、今、二人の目の前の坂田銀時の顔は、悲しみと苦しみと絶望と……

 

それは、故郷に行きたいと言ったくらいでは、見られないような、本当にたくさんのマイナスな感情が渦巻いている表情だった。

 

 

「銀ちゃん……。」

「……すまねぇ、お前らにそんな顔させたら俺が怒られるな。やっぱりまだ早ぇよな……。」

「「そんなことない(ネ)!!」」

「!?」

「行きますよ、僕たちも!その代わり、ちょっとでいいので、教えてくださいね。」

「銀ちゃんの大事な所に挨拶しなきゃだめアル。」

「あぁ。

ありがとな、2人とも。」

 

 

 

 

 

―――万事屋、本日臨時休業

 

社長の故郷に行きます。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

「その故郷で、俺はたくさんの大事な奴らと出会ったんだ。例えば、……家族、、とかな。」

「家族ですか?」

「まぁ、実際に血が繋がってるわけじゃねぇけど。

そこで俺は、出会ったんだ。」

 

 

銀時は話した。

 

出会った時のこと。

初めて守られた時のこと。

松下村塾でのこと。

毎日、返り討ちにされたこと。

それでも毎日楽しかった日々のことを。

 

そして、自分たちを守るために連れていかれてしまったこと。

 

 

 

 

―――“吉田葵”のことを。

 

「銀さんのお姉さんですか。」

「葵姉ちゃん強かったアルカ?」

「そうだな。松下村塾の中では一番強かったと思う。」

「その人、今どうしてるアルカ?」

「……分かんねぇ。」

「「えっ?」」

 

 

銀時は再び話した。

 

葵と再会した、最悪の日のことを。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

―攘夷戦争―

 

侍が国のために、いや、自分の武士道と守りたい者を守るために剣を奮った戦い。

最も激しかったと後に言われるその時代で、銀時は戦っていた。

ただ1人の人を助けるために。

 

 

 

「銀時、きたぞ、新しい情報が。」

「なんだ!」

「偵察に行った俺の部下が、その存在を確認したらしい。」

「場所は!」

「ここからまっすぐ行ったところに、高い崖があるだろう。その最上部だそうだ。」

 

 

―――そんなにも近くに、

 

誰もが思った。これは敵の罠だと。

 

誰もが気づいた。これに行ってはならぬと。

 

 

「行くだろ、銀時。」

「ったりめーだ。」

 

それでも誰も止めることは出来ない。

先陣を切っていく3人の意思と、戦う意味を聞いてきた。

この3人の戦意を止めることなど、出来るのは彼らの師かこれから助けにゆく姉しかいない。

全員が分かっていた。

だから誰も止めない。

 

 

 

 

誰の制止も聞かず、3人の英雄たちは走り出した。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「来たか、吉田松陽の弟子たち。」

「!てめぇは……!!」

 

到着した場所にいたのは、あの日大切な人を連れていったやつだった。

 

「銀時、こいつが葵殿を……?」

「あぁ。あの日から一度たりとも忘れたことのねぇ顔だ。」

 

 

その言葉を聞ければ充分。

そう言わんとばかりに、3人はその言葉を合図にその敵に向かって走り出した。

 

 

 

―――キーンッッッ!!!

 

3人の体重がかかった刀を1人で、1つの刀で受け止めた。

 

「っ!てめぇ、葵姉はどこだっ!」

「……。」

「何とか言いやがれぇっ!!」

 

 

 

しばらく斬りあいが続いたところで、ようやく開いた口から聞かされた事実は、受け止めがたいものだった。

 

「貴様らの言う吉田葵は、既に死んだ。」

「「「!」」」

「お前らの知る吉田葵はもういない。」

「なっ……!?」

 

全員の動きが止まった。

そしてそれを狙っていたかのように、先ほどまで戦っていた奈落の後ろから、もう1人、

 

 

「がっ……!」「なっ……!?」

 

飛び出してきた人物は、一瞬にして桂と高杉の動きを封じた。そして、

 

 

 

 

 

 

「……。」

「……あお……い……姉、、、?」

 

銀時の前に立ったのは、ずっと探していた、助けたいと思っていた人だった。

 

 

「なんで……、何やってんだよ葵姉っ!」

「話しかけても無駄だ。そいつには何も届かない。」

「ふざけんなよ。葵姉はそんな弱いやつじゃねぇ、吉田葵はそんな簡単に死なねぇ!」

「ではお前らの前にいるのはなんだ。」

「……っ!」

 

 

「っ!……ハァハァハァ、ハァハァハァ……」

「ヅラ!高杉!」

「なに惑わされてやがる。てめぇの目はいかれてんのか。

目の前の人が誰かわからねぇなんて、言わせねぇぞ。」

 

 

一瞬。

 

高杉の言葉で、全員の目に一瞬だけ生気が戻った。

 

しかし、それは一瞬に過ぎなかった。

 

 

 

―――ガンッ!!!!

 

「なっ!?」

 

その信じたかった相手によって、3人は倒された。そして、銀時に刀を向けて、言い放った。

 

「こんな無駄なことはやめなさい。

君たちの力は弱すぎる。国を相手取るなど無謀以外の何ものでもない。

これ以上戦っても、君たちのせいでたくさんの人が無駄死にするだけです。」

 

 

決定的に、3人から戦う意味がなくなった瞬間だった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「想像以上に暗ぇ話で悪かったな。」

「大丈夫ネ!それに、銀ちゃんのことを知れたのは嬉しいアルヨ?」

「そうですよ。銀さんが謝ることじゃありません。」

「でも、不思議な話アル。葵姉ちゃんはどこで変わってしまったアル?

どっちかと言うと、まだ銀ちゃんたちのこと守ってるようにしか見えないネ。」

「そうだですね。僕も、裏切っているように見えますけど、最後も捉え方によっては、みんなを傷つけないようにするため、って考えることも出来るよね。」

「……!」

 

 

銀時は嬉しかった。

 

 

 

自分たち以外にも、

 

自分たちの大切なひとを信じてくれる人がいることが。

 

 

 

「わわっ!」

「銀さん?どうかしましたか?」

 

銀時は2人を抱きしめた。

 

「ありがとな、2人とも。

 

 

実はな、この話には続きがあるんだ。」

 

 

話すのをためらった続きの話。

でも、この2人なら受け止めてくれるかもしれない。

自分よりも若いけれども、命の危険のそばで働く父を持つ者と、侍の心を持つ2人であるならば。

 

「ドンと来いネ!銀ちゃん!!」

 

 

 

話すことにした。

 

攘夷戦争のその後の話を……。




《急投稿のわけ》

『IF~転生先で私は、鬼子を拾いました。』をお読みいただき、ありがとうございます。ここ最近の急投稿の理由をここに書きたいと思います。

私、優菜は四月から受験生となります。
そこで1年間、受験が終了する来年の三月まで、全ての小説の投稿を停止しようと考えております。
読んでくださる皆様には、大変ご迷惑な話かとは思いますが、来年の三月末には必ず戻ってこようと思っております……受かれば(笑)

この小説は、一旦途切れてももやもやしない状態までは投稿します。というか、それを3月31日に間に合うように頑張っていました。
1年間、更新を停止することをお詫びすると同時に、再び帰ってきた時には、またこの小説を読んでいただければ、と思います。
突然のご報告で申し訳ありませんでした。後、1週間ほど、よろしくお願いします。


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吉田葵と周囲のその後【吉田松陽・蒼汰】

こんにちは、優菜です!

今回、本作品が日間ランキング22位にランクイン致しました!
初めてのことで、本当に嬉しく思うと同時に、一旦中断してしまうことへの申し訳なさでいっぱいです。
読んでくださる皆さま、本当にありがとうございます。

今はこの1週間に全力をかけていきたいと思います。
では、最新作をどうぞ!


IF

 

 

「……。」

「………。」

「…………。」

「そうですか、……葵が。」

 

葵と再会した後、すぐに話に行った人物がいた。

それは、言おうか言うまいか迷ったあげく、結局は隠せないということになった人。

 

「悪かった、松陽。」

 

吉田松陽。

吉田葵の父親で、葵が連れて行かれたことに最も悲しみ、責任を感じていた人であった。

 

 

「いえ、3人ともありがとうございました。」

 

松陽には、守るべき息子と銀時たちよりも若い門下生がいた。それを理由に、松陽には戦場に行かせなかった。

 

「確かに葵の言う通りです。

国を相手取って、仲間を犠牲にすることは無謀ですよ。」

「「「……っ、、、」」」

「でも、それは今の君たちの方法なら、という意味です。

 

私たちが相手取るのは国ではありません。葵自身です。

考えてみてください。もし本当に葵がなんの心も持っていないのであれば、君たちはここにはいないと思いませんか?」

 

 

そう。松下村塾でも一番の強さを持っていた葵ならば、俺たち3人を殺すことなど容易なことであったはずだった。

 

「それをしなかったのです。それは、葵が大切な弟たちに生きてほしかったからですよ、きっと。」

 

自分たちの師で彼女の親である人の言葉のどこを疑うというのだろうか。

 

「だから、君たちは生きなさい。もう葵のために戦わなくていいのです。

それは、私と葵からの願いですよ。」

 

 

 

 

 

 

―その夜

 

3人は考えた。

今のまま再び突撃しても、結果は同じ。

無謀と言われた戦争で、多くの仲間を失うことは3人にとって耐えられなかった。

 

 

「銀時。」

「?」

「俺たちは、葵殿を信じていこうと思う。」

「……また戦争する気か。」

「いいや、松陽先生の教えを破るほどの悪ガキになった覚えはない。」

「俺たちはこのまま、国をつつきながら葵のことを探る。少々荒い真似はするかもしれねぇが、“国家転覆”するわけでもねぇし、大丈夫だろ。

それに、“鬼兵隊”と“狂乱の貴公子”がいて、捕まるなんてこたァねぇからな。たっぷり国と遊びながら葵の情報を探ってやらァ」

「ということだ。

銀時、貴様はどうする。」

 

 

銀時は迷った。

2人とともに葵のことを助ける方法を探すことをしたくない訳では無い。でもどうしても、銀時には出来なかった、

 

「わりぃ、俺は別行動にさせてもらうわ。」

 

明確な、葵を守っているという証拠もない中で、刀を振るい誰かを斬ることが。

 

 

 

「そうか。

まぁ、貴様は葵殿といた時間も俺らより長い。思うこともあるだろう。

こちらが何か掴んだ時は、お前にも教えてやろう。」

「あぁ。ありがとな。」

 

 

 

その後すぐに、松陽にも俺たちがどうするのか伝えた。

鬼兵隊として活動することを最初は心配していたが、

「何かあった時、ここに戻って来てもいいですか?」

という高杉の言葉に納得したようだった。

 

 

「蒼汰には、俺たちに着いてくるなとだけ言ってほしいのですが……。」

「あいつには、普通の生活を送ってほしいからな。」

 

最後に大切な弟のことを任せ、攘夷戦争の英雄たちはそれぞれの道を歩み出した。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「ってことだ。

ヅラと高杉が国から追われてんのは、やり方が“少々”じゃなくて“かなり”荒いからだ。それに、『攘夷戦争に参加した“鬼兵隊”』っつーレッテルは消えるわけじゃねぇ。

いつか反乱を起こすんじゃねぇか、って政府は見張ってんだ。」

「じゃあ、紅桜の時に高杉さんと桂さんと一緒に天導衆と戦ったり、高杉さんと桂さんが真選組に追われたりしてるのも、その名前のせいなんですか。」

「まぁ、そーゆーことだな。“鬼兵隊”って名前出しときゃあ、あちらさんは勝手に構ってくるからな。丁度いいんじゃねぇの?」

 

 

何かある度に、代わる代わる出てきていた桂と高杉。

2人は“鬼兵隊”と“攘夷戦争の英雄”という名前だけが一人歩きしているために、追われているだけだった。

 

「じゃあ、私らは勝手に巻き込まれてただけかよカヨ。」

「俺に情報、言いに来てる時もあるけどな。悪ぃな。」

 

 

……。

 

この人は一体、どのくらいの苦労をしてきたのだろうか。

 

気づいた時には戦場に1人いて、

姉のように慕っていた人を、ある日突然奪われ、

取り戻せなかった無力さを覚え、

何もしていない仲間が追われている日々。

 

 

きっと、取り戻せなかった後も、何かを守るために刀をふろうとして、ここに出会った。

そして、そこで守られてきた。

 

「銀さん、ありがとうございます。」

「??」

「次は私が銀ちゃんたちを守るアル!」

「……??」

 

この人にとって、それは無自覚でやっていることなのだろう。

自分が、自分の大切な人に守られた時から、

大切な人を守ることは、普通のことになったのだろう。

 

いつか、本人に恩を返すために。

その時に弱くて届かないなんてことがないように。

 

「何でもないアル!早く行こうヨ!!」

「そうですよ、銀さん!」

「……!?お、おう、そうだな。」

 

 

 

誰にでも踏み込まれたくない場所がある。

 

誰にでも知られたくない記憶がある。

 

それを教えてくれたあんたこそ、

僕らにとっては本当に大切な人。

届かないかもしれない力の、

ほんの少しの足しになれるように。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「ついた。」

「ここが……」

「銀ちゃんのお家アルカ……」

 

そこにあったのはかなり大きな木の家。

銀時たちが学んだ“松下村塾”だった。

 

「入るか。」

 

中に入っていく銀時について行く2人。中は想像していたよりも綺麗だった。

 

「誰かいるんですかね……。」

「えっ、、、銀さんそんなこと知らないんだけど。」

 

 

 

その言葉で、怯え出す3人。

何年も来てないのであろう家が、ホコリもかぶっていなければ、誰でも怪しむだろう。

 

 

恐る恐る奥に進むと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、今日、帰って来ましたか。」

「「!?!?」」

 

突然聞こえた声に、派手に驚く新八と神楽。

 

 

「……松陽?」

 

そして、別の意味で驚く銀時。

 

 

「松陽…って、あの銀さんの師匠の?」

「師匠なんて立派なもんじゃないですよ。親代わりとでもしといて下さい、新八くん。」

「!?……僕の名前、、、」

「もちろん知っていますよ、新八くんと神楽さん。

銀時のことは、晋助や小太郎から聞きますからね。その大部分を占める名前が『新八』と『神楽』。

いつも、銀時がお世話になっています。」

 

そう言うと、松陽は深々と頭を下げた。

 

 

「いや、あのさ……俺のこと置いて話進めないで。」

「あぁ、銀時いたんですね。忘れてました。」

「松陽ぉぉぉぉ!?」

 

 

 

―――あぁ、ここは自分の家だ

 

こんなにも楽しくて、幸せな気持ちになれる。

そんな場所があることが、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。

 

「ただいま、松陽。」

「おかえりなさい。」

 

 

この場所がなかったらどうなっていたんだろうか。

 

もしあの時、葵姉が守ってくれていなかったら、

 

この場所に帰ってくることが辛いものになっていたら。

 

 

葵姉が連れ去られた場所として、ここに来るのにも時間がかかった。

 

でもこの場所が残っていて本当に良かったと思う。

 

 

――いつかここに、みんなで帰ってくる。

 

―――帰ってこさせる、絶対に。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「松陽って、ここに住んでたのか?」

「いいえ、今は江戸の近くに住んでいますよ。……晋助たちから聞きませんでしたか?」

「……聞いてねぇ。」

 

あんの野郎……、と呟いてる銀時を見ると、次に会った時に怒られるのは決定事項のようだ。

 

「さっき掃除を終えたんですよ、と言っても、私が来た時にはもうほとんど終わっていましたがね。」

「……は?」

「もう1人。来てるんですよ。」

 

 

そう言った松陽の後ろ。襖が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、銀兄。」

「……そう、、、た??」

 

そこに立っていたのは、全身真っ黒な制服、

 

 

 

 

“真選組”の隊服を着た……

 

「「土方さん(トッシー)??」」

 

鬼の副長にそっくりな人。

 

 

「やっぱり似てますか?」

「土方さんが笑ったらそんな感じなんだなぁ、という……」

「変な感じアル!」

「神楽ちゃんっ!」

「はは、よく言われるので大丈夫ですよ。」

 

鬼の副長、土方十四郎が爽やかになればこんな感じになるのだろう。

そんな印象の青年がそこに立っていた。

 

「あんなニコチンマヨと一緒にすんな。」

「副長の悪口言うなら、銀兄でも逮捕するよ?」

「あーあー、スイマセンデシター。」

 

銀時とコントのような、リズムのいい会話を繰り広げるのは……

 

「自己紹介が遅くなってすいません、僕は吉田蒼汰といいます。そこにいる吉田松陽の息子です。」

「銀ちゃんの弟アルカ!」

「まぁ、そんな感じですね。」

 

 

歳が近いのもあるのか、すぐに仲良しになったようで、穏やかに話している新八と神楽と蒼汰。

 

 

そんな中、神楽がふと聞いた。

 

「蒼汰は真選組の何番隊アルカ?」

「確かに……、蒼汰さんのこと見たことないですね。」

「そういや、最近屯所にいなかったな。」

 

それなりに真選組とは関わってきた万事屋一行。蒼汰が真選組に所属していることを知っていた銀時は、真選組と関わる事に蒼汰を探していた。……が、その姿を見かけたことは無かった。

 

「僕、最近まで屯所を離れて仕事していたんです。副長の命で。」

「土方さんの?」

「あぁ、お前ら知らないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼汰は、土方の直属の部下。

何番隊とかに所属してねぇ、特殊部隊みたいなもんだ。」

「……よく知ってるね、銀兄。」

「土方本人に聞いたのと、高杉とヅラからも教えてもらったからな。」

 

 

 

 

「……」

「すごいんだナ、お前。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そんな、吉田蒼汰のお話。





謎だった桂の所属場所、そして葵ちゃんがねじ曲げた運命がお分かりいただけたでしょうか?

変わった世界と運命は葵ちゃんの願い通り、みんなが仲違いすることなく、松陽先生とともに暮らすこと。


―――例えその時、自分がそこにいなくても。


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吉田葵と周囲のその後【吉田蒼汰】

こんにちは、優菜です。
最近、お気に入りが急増し、感謝の想いと1年も休んでしまう申し訳なさでいっぱいです。
感想をくださる方も、読んでくださる方も本当にありがとうございます。
後、5日ほど頑張らせていただきます。

さて、今回のお話はオリキャラ蒼汰くんのお話。攘夷戦争の時、彼に一体何があったのか。
登場する土方さんのキャラはこんなんじゃない!と思われる方がいらっしゃったら申し訳ありません。
では、ぜひご覧ください。


 

―攘夷戦争―

 

 

それは、彼にとっては、突然自分の生活を壊していったものとしての認識しかなかった。

 

ある日、何事もなく平和に暮らしていた日常から一変。

突然、強くて優しかった、大切な姉を奪われた。

その1年にも満たない後に、血は繋がっていないけども、大切な兄たちがどこかに行ってしまった。

 

父が教えてくれたことは、『兄たちは自分の武士道に従って戦っているのだ』ということのみ。

 

姉が連れ去られた時には理解出来なかったことも、他よりも頭のよかった蒼汰は、1年もすれば物事を正しく認識していた。

 

 

―もう、姉も兄たちも帰ってこないのだということ

 

――父と兄たちは、自分だけは守ろうとしてくれているのだということ

 

―――姉はその事に命をかけたのだということ

 

 

全てが終わった頃、父は蒼汰に少しだけ話した。

 

 

「葵と銀時たちは、蒼汰と私を守るために戦ってくれたのです。」

 

……なのでその分まで生きなければならないと。

 

 

「私は蒼汰のその剣は、たくさんの人を守るために使ってほしいですね。」

 

……“攘夷戦争”という荷物を背負わせなかった兄たちのために、と。

 

 

 

 

それから6年後、蒼汰が12歳になった時に、蒼汰と松陽は江戸付近に出てきた。蒼汰自身が自分の剣の使い道を探すために。

 

そしてそこで出会ったのが、真選組であった。

幕府の犬と言われていても、自分の武士道を持っている。蒼汰には、大切な姉と兄たちの姿が浮かんだ。

 

 

彼らとは違う道かもしれない。

それでも根底にあるものは、きっと同じだと信じて。

 

蒼汰は蒼汰なりの剣を握る場所を手に入れた。

 

 

 

自分が自分にしかできない方法で、兄たちを助けることができるように。

そして、結果的にそれが、彼らなりの兄弟の絆を築いていく。

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「僕はそこで、副長に剣の実力を見出されて、副長の直属の部下になったんです。

役職名は、“副長補佐”ということになっています。」

 

きっと全てではないのだろうけど、話してくれた蒼汰の過去。銀時たちの過去に比べれば、衝撃は少ないにしても、幼いながらに戦争が起こり、大切な者たちを奪われ、それでも自らの道を探した。

 

そこには、彼にしかわからない苦労があったのだと思う。

 

 

「頑張ったな、蒼汰。そばにいてやれなくて、悪かった。」

 

銀時は大切な弟を抱きしめた。

 

血は繋がっていないけども、お互いがお互いをちゃんと思い続けていた。

 

~~~~~~~

 

 

「で、最近どうよ、桂と高杉は。」

「……どうもこうもないよ。天導衆の目を欺くの大変なのに、暴れすぎだよ2人とも。」

「今はなんとかなってんのか。」

「今回、僕が幕府に赴いたのも大きいみたいで、とりあえず大丈夫かな。

幕府と攘夷浪士に挟まれて、副長のタバコの量は増えた気がするけど。」

 

「「??」」

 

全く話についていけない、新八と神楽。

それに気づいた銀時が、2人に説明した。

 

「ヅラと高杉が幕府から逃げられてんのは、あいつらの実力だけじゃねぇ。

まぁ、ほとんどはあいつらの力だろうけど、それでも内通者の協力が必要な時もある。」

「そんな時に、僕が少しだけ働いているんです。……と言っても、葵姉ちゃんに関する時だけですけれど。」

 

 

―――いやいや、すごいな!

 

と2人が思ったのは言うまでもない。

 

「内緒ですよ、こんなことバレたら怒られるどころじゃすみませんからね。

もちろん、真選組に関する情報は絶対に教えませんけど。」

 

 

兄たちとともに姉を助ける手助けをしたい自分と、真選組の役に立ちたい自分の間で、蒼汰は器用に生きていた。

 

 

 

―そこにはそれなり覚悟を持って。

 

――バレたら、と言いつつもバレることも覚悟して。

 

―――裏切らないようにと意識しながらも、

 

 

――――その間で苦しみながらも、

 

 

 

 

 

―――――それでも彼にとって、どちらも大切だった。

 

 

 

――――――どちらにも裏切れない恩があった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

《蒼汰side》

 

 

僕の人生には転機が2回あった。

 

1回は、葵姉ちゃんが連れていかれて、銀兄たちがいなくなった時。

それまで守ってくれていた人が一気にいなくなって、その立場に自分がなることになった。

松下村塾には、僕よりも小さな門下たちがいて、銀兄たちがいなくなったら、その子たちは僕が守っていかなくちゃならなかった。

父上と2人で大変だったけど、今まで以上に稽古もして、葵姉ちゃんたちみたいになれるように励んだ。

 

 

 

そしてもう1回は、副長と出会った時だと思う。

僕はあの日のことを、一生忘れるつもりはない。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

真選組に入隊したての頃、沖田隊長の次に若かった僕は、かなり疎まれていた。

隊士との木刀での打ち合いをする入隊試験に、簡単に受かってしまったのも、入隊早々一番隊に所属したのも、要因の一つだったのかもしれない。

 

 

初めて討ち入りの仕事は、副長と沖田隊長率いる一番隊の小さな攘夷浪士の壊滅。

情報ではそんなに大きな集まりではなかった。真選組最強と言われる一番隊を率いているとはいえ、隊1つで済むと考えていたレベルだった。

 

 

 

 

 

『御用改であるぅぅぅっ!!!真選組だぁぁぁぁ!!!』

 

副長の一言で飛び込んだ敵のアジト。そこで見たのは……

 

 

「(……情報よりも多いっ!?)」

 

情報の倍はいるのではないかと思われる人数の攘夷浪士だった。

伊達に一番隊に所属しているだけあり、人数の差など関係なく敵をなぎ倒していった、が、隊士たちも人間であり、剣の腕ではどうしても埋めることの出来ない人数の差があった。

 

それが明確に出たのが体力の問題だった。

 

 

「ぐあっっ!?」

「!!」

 

突然敵が強くなる訳では無い。明らかに、こちらのキレが悪くなったのだ。

斜め前の先輩隊士が傷を負う。が、誰も助けない。……いや、助けることが出来ない。

 

その人を守りながら戦うほど、平隊士たちに体力は残っていなかったのだ。

 

隊から離れた人に狙いを定めて、浪士たちが襲いかかった。

 

 

 

どうしてかは分からない。

ただその時、その隊士の姿が自分に重なった。

 

―葵姉ちゃんや銀兄たちに守られる自分に

 

実際に守られたことなんてないけど、

自分が浪士に襲われそうになったこともないけど、

多分自分が理解していない時から、あの人たちは自分を守ってくれていたのだと思ったのかもしれない。

 

そして、姉や兄たちならあの人を見捨てることなんて絶対にしないと思ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

―――キーンッッッ!!!

 

気づいた時には、襲ってきた攘夷浪士の刀を受け止め、そのまま斬っていた。

守られた隊士は信じられないものを見たような目で僕を見ていた。

 

「早く立ってください。」

 

その隊士にかけることの出来た言葉はそれだけ。なんせ、自分が驚いていたから。

 

―――自分の体力が全く減っていないことに

 

 

それに気づいてからは、なるべく隊士たちを守りながら戦った。

若い僕に守られるのが納得いかないのか、結果的に他の隊士たちも元気になり、壊滅まで後少しとなった。

 

 

――決して、気を緩めた訳では無い

 

―――ただ、少し疲れていたのかもしれない

 

 

 

「調子に乗りやがって!!」

「!?」

 

一瞬の隙をつかれて、死角になっていた場所から1人、刀を振り上げて飛び出してきた。

 

さっきとは逆の状況。違うのは、助けることが出来そうな人がいないということ。

助けたくない訳では無いらしい。ただ既に体力がなかった。

それがわかっただけでも良かった。一瞬でも真選組に受け入れられた気がした。

 

 

スローモーションで自分に振り下ろされる刀。

避けようにも既に刀は目の前だった。

 

 

―――ダンッ!!!……ザシュッ!

「!?」

 

斬られる寸前、僕は誰かに強く押された。そして、自分ではない誰かが斬られる音もした。

 

 

 

 

 

 

「「「「副長っ!?!?」」」」

 

それが副長だった。

傷を負った副長は、心配して駆け寄る隊士に向かって、

 

「守られるだけ守られて、あとは見殺しってか。全員、士道不覚悟で切腹させんぞ。

心配してる暇あったら、1人でも多く片付けやがれ。」

 

と言い放った。

激を受けた隊士たちはすぐ様攘夷浪士たちを片付けに行った。

 

 

しばらく放心していた僕も、我にかえり攘夷浪士たちを片付けに行こうとした。……が、

 

「おい。」

「!?……なんでしょうか。」

「お前ここに残れ。」

「……分かりました。」

 

副長に止められた。

最初は、自分のせいで傷ついたのだからここにいて守れ、という意味なのかと思ったが、

 

「テメェのせいじゃねぇ。」

「……?」

「俺が勝手に受けた傷だ。テメェのせいだなんて間違っても思うんじゃねぇぞ。」

 

副長はそんな人じゃなかった。

 

「ですが……っ、」

「どうしてもテメェのせいだと思うんなら、この場で俺のこと守れ。」

 

 

考えてみれば、副長はあの時僕に守られることで、僕の責任を軽くしようとしたのかもしれない。

 

 

あの後、怒涛の反撃を見せ真選組は自分たちの4倍はいたであろう攘夷浪士を、死亡者なしで壊滅させた。

 

その事があってすぐ。僕は副長の直属の部下になった。副長に理由を聞いても教えてくれず、もやもやしていると、局長の近藤さんが話してくれた。

 

 

『トシはな、小せぇ頃の自分とお前を重ねてんだよ。

他を守ることに夢中で、自分のことなんかお構い無し。昔は俺が怒ったが、今度はトシが怒る側かもな。

 

お前のことを守りてぇんだよ、あいつも。』

 

 

副長に直接聞いたわけじゃないから、真実かどうかはわからない。

でも、僕にとってそれが真実で、それだけが副長への絶対の信頼につながっている。

 

 

 

 

 

それなのに今のお前の立場は何なんだ、と言われればそれまで。

僕の立場を知れば、切腹だと思う。そのときの介錯は、是非副長にお願いしたい。

 

 

 

 

―全てが均衡している今を大切にして。

――あの人の隣で働ける今に感謝して。

 

 

―――葵姉ちゃんや銀兄たち

 

 

この人たちと天秤にかけられるなんて、この先もあの人しかいない。





さて、後どのくらいでしょうか……。

1話か2話程でしょうかね?


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吉田葵と周囲のその後【攘夷戦争の英雄たち】

こんにちは。最近、突然お気に入り数が増えて喜んでいる優菜です。
感想をくれた方、お気に入りしてくれる方、そして読んでくださる方本当にありがとうございます!

さて、次回が【現代編】最終話となり、2017年最後の投稿となります。最後の投稿は3月さ31日です。
後少し、よろしくお願いします!

さぁ、今回のお話は次の動きに向けての決意のお話。
作者的には3人が仲良く喋っているという状態が既に書いてて幸せでした。


 

 

「銀ちゃんも免許取らないアルカ?」

「お前、万事屋(うち)にそんな金あると思ってんのか。」

「ないですね。」

 

銀時の故郷に一時帰省し、そこで会った蒼汰に、歌舞伎町に戻るなら送って行くよ、と言われたのがつい先程。万事屋一行は、蒼汰の運転する車で家に戻っている所だった。

 

 

「蒼汰、お前、俺なんか車に乗せていいのかよ。」

「銀兄は攘夷浪士じゃないでしょ、今は。だから、副長もそこまでなら、怒らないと思う。」

 

それに、銀兄と副長の腐れ縁から考えれば大丈夫だよ。

蒼汰が付け足したその言葉に、銀時が反論したのは言うまでもない。

 

 

「そういえば、松陽さんはよかったんですか?」

「父上には、まだ行きたいところがあるので、大丈夫ですよ。」

「行きたいところ?」

「うん、父上が愛する人と出会った、僕が生まれた場所。銀兄たちと出会った、前の家があった村。」

「あぁ、あそこか。」

 

銀時も幼かったが忘れるわけがなかった。

そこは銀時にとっても忘れられない場所、葵と出会った場所なのだ。

 

「その村も天人に襲われて、もう人がいないみたいなんだけどね。」

 

少しだけ空気が悲しくなったのを、神楽も新八も気がついた。それもそうだろう。

銀時たちの場合、そこから退けられたとはいえ、そこも故郷に変わりはないのだから。

 

 

「やっぱり父上には特別な場所みたい。

母上と葵姉ちゃんと僕と銀兄たちと、たくさんの人と出会えた場所だからね。」

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「じゃあ、ありがとな。」

「大丈夫。またなんかあったら、真選組に来てよ。」

「あぁ、無理すんなよ。」

「蒼汰!また遊びに行くネ!」

「ぜひ来てください。神楽ちゃんも新八君も待ってます。」

 

 

万事屋の前まで銀時たちを送った蒼汰は、屯所に戻って行った。

 

「すっかり遅くなっちまったな。」

「松陽センセーのご飯美味しかったネ!銀ちゃんも作れないアルカ?」

「あー、あれは葵姉の手作りの味だからな。葵姉が帰ってきたら作ってもらおうぜ。」

 

万事屋の、我らの社長が希望を捨ててないことを確認出来て、従業員が喜んでいたのもつかの間……、

 

 

―――ガラッ

 

「よぉ、銀時。」

「久しぶりだな、新八くん、リーダー。」

 

―――ピシャッ

 

 

ドアを開けてから閉めるまで、コンマゼロ1秒。

 

「銀さん今日疲れたのかなぁ。嫌な幻覚に加えて、幻聴まで……。」

「銀ちゃん、現実受け止めろヨ。」

「幻覚でも幻聴でもありませんから。」

 

 

大人よりも、子どもたちの方が冷静に現実を受け止めていた。

 

「2人とも、不法侵入で真選組呼びますよ。」

「お前らなんてブタ箱にでも入ってればいいネ。」

 

 

ドアを開けてから言い放つまで、またまたコンマゼロ1秒。

 

 

「お前らが松下村塾に行っていたのが悪い。」

「下のばあさんには許可とったぜ。」

「ばあさんじゃなくて、俺に許可とれや。」

 

―――まったくである。

 

 

「で、こんな夜遅くに訪ねて来るって事は、それなりの要件なんだろうな。」

「あぁ。とりあえず、中で話そう。」

「だからお前の家じゃないからね!?」

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「単刀直入に言う。

葵殿の情報が入った。」

「「!!」」

「やっぱり、生きてただろ!!」

「「???」」

 

混乱している子どもたちに気がついたのは、意外にも高杉だった。

 

「俺らの姉貴のことは聞いてんだろ。」

「はい。」

「葵の情報は、今日の今日まで全く出てこなかった。だから、死んでいることも視野に入れてた。

 

銀時以外はな。」

「ほら見ろ、俺の言うとおりじゃねぇか!」

「わかったら座れ。

 

葵殿の情報は入った。だがいい情報と悪い情報だ。」

「生きてることだけわかれば充分だ。」

「まぁ聞け。

悪い情報は、今の葵殿の立場の話しだ。」

 

そう言うと、桂が懐から出したのは一枚の写真。

 

「覚えているだろ、こいつを。

 

 

16年前、葵殿を連れ去った張本人だ。」

「……こいつが、、、」

「忘れるわきゃねぇだろ。1日たりとも忘れたことなんぞねぇよ。」

「そして、その写真と一緒に写っているのが葵殿だ。」

 

葵は、自分のことを連れ去った人物と一緒に行動していたのだ。

 

「そいつの名はわからなかった、が、幕府の暗殺部隊である天照院奈落の首領を務めている男だ。

始めて葵殿を確認出来た時も、そいつと一緒だった。調べてみると、葵殿は首領の側近のような立場にいるようだった。

 

問題なのは、今まで全く姿が見えなかった葵殿が、突然出てきたということだ。」

「それも敵のボスと一緒たァな。」

「……何かしら起こるっつー事か。」

「俺たちはそう考えている。」

 

 

自分たちの姉が、敵の中心的役職についているというのは、想像以上に苦しいものだった。

 

「ではもう1つ、良い情報だ。」

「??……生きてたことじゃねぇのか。」

「……では2つ目。

葵殿の今までの戦歴と、戦闘に関してだ。」

「そっちは俺が中心的に調べた。

 

葵は16年前、連れ去られてから早ぇ段階で今の立場についてる。にも関わらず、葵の戦歴だけは浮かんでこなかった。」

「……はぁ?」

「葵の戦った記録がねぇんだ。

戦歴っつーのは、傷つけただけじゃ意味がねぇ。敵を絶命させて、初めて戦歴に刻まれるっつーもんだ。」

「じゃあ、葵姉は殺しをしてねぇってことか……?」

「まぁ、記録が抹殺されているってことも考えられなくもねぇが、ついこの間ヅラが撮った写真で、色々裏付けられてな。」

 

そう言うと、全員が一斉に桂の方を向いた。

 

「これがその写真だ。そして、ヅラではない、桂だ。」

 

桂のツッコミは誰の耳に止まらず、空気に消えた。

 

写真に写っていたのは、桂かその部下が撮ったのであろう、葵の姿が写っていた。

 

「!!……これって、」

「新八君も気づいたか。葵殿の目線、それは、このカメラに気づいている。

 

が、この写真を撮ったやつは何事もなく帰ってきてな。そこから考えると、やはり、葵殿は無駄な殺傷はしていないのではないかと思うのだ。」

 

確実にカメラを捉えている目線だったが、葵はそれに対して攻撃などは仕掛けてこなかった。

 

普通、自分の周りを探っているのであろう人物を見つければ、拘束するか、殺すのが当たり前のこの時代。加えて、葵の所属する組織は秘密事が特に多い組織でもあった。

 

 

「やっぱり葵姉は死んでなんかいねぇ。絶対、連れ戻してやる。」

 

 

 

 

 

 

―――それは命の方ではなく、心の問題

 

 

助けようとした時には、操り人形のようになっていた大切な人。

死んだと言われて、絶望した。

 

が、諦めきれなかった。

自分たちの信じた、あの強かった人がそう簡単に死んでしまったことが。

 

そして知った。

あれもきっと自分たちを守るためだったのだと。

言葉では伝えられなくとも、行動にはあの頃となんら変わらない、優しさがにじみ出ていた。

 

 

 

『葵は無駄な事はしません。

連れ去られるにしても、みなさんを裏切るにしても。

特に君たち4人を悲しませることなど、絶対にありえませんよ。』

 

師の言葉と、姉の行動を信じて。

 

 

 

「いずれ、向こうからなにか仕掛けてくるだろう。その時が、絶好の機会だ。」

「てめぇはてめぇの動きたいように動け。鬼兵隊もやりたいようにやらせてもらう。」

 

それは共に戦った時と同じ。

作戦などなくても、一つの目的があれば、自然と行動は同じになってくる。

自然と味方を活かしあえる。

 

「わかった。」

 

「僕たちも行きますからね。」

「ダメなんて言わせないアルヨ。勝手について行くから、気にしないことアル。」

「お前ら……」

「鬼兵隊と万事屋が揃えば、何も恐れることなど無いだろう。」

「あぁ。」

「後は、蒼汰のやつも動くかもしれねぇしな。」

「おまけで幕府の犬までついてくるな。」

 

 

―決戦の日などわからない。

 

――だからこそいつ来てもいいように、準備をしていた

 

 

―――自分たちの力が及ぶように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが以外にも、決戦に向けての変化は、

 

 

予想もつかない場所で、

 

 

 

 

 

 

それでも意外と近くで進んでいた。

 

 





「なぁヅラ。」
「……ヅラではない、桂だ。」
「スルーしとけ。その写真、最近とったんだよな。」
「スルーなどできるわけないだろ。そうだな、持っている写真の中では最も新しいものだ。」
「ふーん。」
「……??どうかしたのか?」
「いや、葵姉ってさ刀二本持ってただろ。」
「!」
「写ってんの、1本しかねぇなと思ってよ。」
「確かに、そうだな……。」
「写真もはっきりしてる訳じゃねぇし、断言はできねぇけど、この刀って葵姉が全然抜いたことのない方だよな。」
「……確かに言われてみると、、、」




―――その行動に隠された意味とはなんなのか。

―――俺たちにはわからなかった。


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✩“現代編”最終話✩吉田葵と周囲のその後【吉田蒼汰・潮屋みどり】

みなさんこんにちは、優菜です。

さて、とうとう3月31日、最終投稿日となりました。
1週間、これでもかというくらい小説のことを考えて過ごしました。
とても幸せな時間でした。
たくさんの方が読んでくださるようになった今、受験期にぶち当たるのはとても辛いです。
2018年の3月に必ず戻ってこれるように、懸命に勉強します(汗)

2016年3月に書き始めてからの1年間、投稿が止まった時もありましたが、読んでくださる方・感想で更新を望んでくださった方。たくさんの人の愛を感じ、たくさんの人に感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。
また来年、ぜひこの小説を手に取っていただければと思います。

それでは、2017年最後の投稿とともに、“現代編”最終話を、
過去最長の小説でご覧ください。


1年間、本当にありがとうございました。


「ただいま戻りました。」

「あっ、蒼汰さん!おかえりなさい!!」

「「「お疲れさまですっ!!」」」

 

立場的には副長の次にえらい立場に立つ蒼汰。最初は慣れなかった隊士たちの態度にも、時間が解決してくれた。

そして、自分のことを認めてなかった者たちも、時間をともに過ごせば、嫌でも蒼汰の実力を知り認めていった。

 

おまけに土方にそっくりな容姿と反する生来の謙虚な性格は、隊士たちにも気に入られ、2番目に若いはずなのに、“優しい兄”としての立場を確立していっていた。

 

 

「あっ、蒼汰さん。お疲れさまです。」

「山崎さん、お疲れさまです。っていうか、敬語やめてくださいよ。山崎さんだけは慣れないんですから。」

 

松下村塾から帰ってきた次の日。

門まで迎えに来たのは、監察の山崎退。主に土方の下で働くことが多く、山崎のことを蒼汰は先輩のように接していた。

 

「そんなの無理ですよ。立場は蒼汰さんの方が上ですから、仕事の時は無理です。」

「じゃあ、今度ご飯にでも行きませんか?」

「……それならいいよ。」

 

そして山崎はというと、蒼汰に先輩として接せられることに喜んでいると同時に、普段は弟として可愛がっていた。

仲の良い2人は、最初は蒼汰の容姿から「副長と山崎が仲良く喋ってる!?」と勘違いされた。

 

「それよりも、副長が呼んでますよ。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

 

そして蒼汰は、自分の上司のもとへ向かった。

 

 

「副長、失礼します。報告に来ました。」

「おぅ、入れ。」

「失礼します。……って、換気してください、窒息死しますよ?」

 

煙草の煙で充満した部屋にいたのは、真選組副長、土方十四郎。蒼汰の直属の上司。

 

「こんの忙しい時に、総悟のやつどっか行きやがったんだ。」

「……後で手伝います。」

「頼む。」

 

真選組で最も若いながら、一番隊隊長を務めている沖田総悟により、彼の仕事が増え、ストレスによりタバコの量が倍増していた。

 

「今回はなんかあんのか。」

「あぁ、そうでした、大きな要件が一つだけ。」

「なんだ。」

「幕府から1人、監視として真選組に送られるらしいです。」

「はぁ?」

「特に何もしなくていいから、どこへでも必ず連れていけ、と言われました。」

「ちっ、何考えてんだ、あのバカ幕府は。」

「……まぁ、チンピラ警察だなんて呼ばれてるんですから、監視ついても文句言えませんよ。」

「足引っ張るようなやつじゃねぇだろうな。」

「そのような事は絶対ないと言われました。所属も真選組に属するわけではなく、あくまで幕府という立場でいるらしいです。」

「ってことは、真選組を壊滅させようとしてるわけじゃなさそうだな。」

「そうですね。問題起こして壊すことが目的なら、真選組に所属しますからね。」

 

その他、周辺の攘夷浪士の動きと討伐に関する命など、いろいろなお達しがあった。

 

「とりあえず、その来客だけか。……いつ来んだ。」

「それが……僕がつく頃にはもういる、って言われたんですけど、、、」

「来てねぇな。」

「局長に挨拶を済ませたあと、探しに行って来ます。」

「総悟の事も探してこい。」

「……努力はします。」

 

 

その後、局長である近藤勲に帰ってきたこと、そして近いうちに松平長官が来ることを伝え、蒼汰は再び屯所を出たが、

 

「……そういえば、来客の人の様子、僕知らないじゃん。

 

 

 

いいや、先に沖田隊長を探そう。」

 

ということで、来客探しが真選組の隊長探しに、すぐに変わった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃……、蒼汰が沖田隊長を探している頃、

 

「むっ!あれは……」

 

―――ニシシ、全く気づいてないアルナ。

 

 

「いざ、尋常に勝負アル!!」

「ちょっ、神楽ちゃん!?」

 

背後からこっそり襲っている時点で、尋常とは言えない。が、そんなツッコミ、神楽には通用しない。

新八が止める間もなく、神楽はその見慣れた後ろ姿に、

 

「勝負ネ!チンピラチワワぁ!!!」

 

沖田総悟の背中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

「はっ!?……だ、誰アルカ!?」

 

そして、ギリギリで気づいた。この人は、沖田総悟ではない、と。確かに隊服は来ていないし、よく見れば髪の色が少し薄い気がする……。

 

神楽には、呑気にそんなことを考える余裕さえ無かった。

 

「か、かわしてほしいアルゥゥゥ!!!」

「か、神楽ちゃんっ!?」

「神楽!止まれっ!!」

 

1番そうしたいのは神楽本人である、が出来ないものは仕方ない。

 

 

夜兎である神楽の攻撃を受けられるのは、あの沖田総悟だからである。一般市民がその攻撃が受ければ……。銀時も新八も大事故を予想した。

 

 

 

―――シュンッッッ…

 

しかし、現状はその予想に反した。

 

 

「……あれ?」

「大丈夫ですか?」

 

攻撃を受けたその人物は、周囲になんの被害も出さずに、鞘から刀を出さぬまま神楽の攻撃を受け流した。

 

 

「……。」

「すごいてすね、あの人……。って、止まってる場合じゃありませんよ、銀さんっ!」

 

その光景を、少し離れたところにいた銀時と新八は、信じられないと言わんばかりに見ていた。

 

「ごめんなさいアル。人違いだったネ。」

「いえ、あなたに怪我がなくてよかったです。」

「……似てるアルナ。ま、アイツはそんなふうに笑ったりはしないケドナ。」

「??」

 

―――そんなことしたら気持ち悪いアルナ。

 

 

目の前にいる、沖田総悟よりも少し薄い色の髪の毛、瞳も赤くなく深い緑のような色、なにより、表情豊かな青年が立っていた。

 

「神楽ちゃんっ!赤の他人、攻撃しちゃダメだよ!」

「だって、新八も見てみろヨ。あのドS野郎にそっくりネ!!」

「いや、沖田さんでも攻撃しちゃダメなんだよ!?

すいません、お怪我はありませんか?」

 

 

神楽の言葉に理解が追いつかない中、更に人がやって来て、どんどん混乱に陥った。

 

「えっ、あ、僕は大丈夫です。

あの、チンピラチワワ…とは何でしょうか?」

「あぁ、それは真選組一番隊隊長のことですね。勝手に神楽ちゃんが呼んでるだけですけど。」

「真選組ですか。そちらの場所はわかりますか?」

「えっ?」

「屯所のことだろ。わかるぜ、案内してやろうか?

万事屋に任せな、あっ、ちなみに依頼料は頂くからな。」

「では、ぜひお願いします。」

 

万事屋に突然の依頼です。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

「社長の坂田銀時。」

「志村新八です。よろしくお願いします。」

「神楽アル!」

 

潮屋(しおや)みどりと言います。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

案内の途中で自己紹介をし、あとは連れて行くだけ……

 

「にしても、あんな税金泥棒のもとに何の用アルカ?」

「神楽さん、それは僕が答えますよ。」

「「「??」」」

 

その道中で、目的の場所の人物に出会った。

 

「蒼汰!」

「昨日ぶりですね、みなさん。」

 

土方にその来客者を見つけるよう命を受けた蒼汰だった。先に沖田を探そうとして、神楽の声が聞こえたので来てみたら、なんと沖田ではなく探していた人物だった、という事だった。

 

「探しましたよ、来るのであれば迷わないでください。」

「なんと、君ほどの人が、迎えに来てくれるとは思いませんでした。大変申し訳ありません。」

 

潮屋が深々と頭を下げた。そして、万事屋の方に向き直った。

 

「自分の紹介が遅れました。僕は、幕府から真選組の監視の命を仰せつかった者です。」

「僕が幕府に行った時に、対面はしなかったんだけど、少し話したんだ。」

「神楽さん、すみません。さらにタチの悪い者で。」

 

 

――依頼料はあとで払いに行きますので。

 

そう言って、蒼汰と潮屋は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どんでん返しで、幕府のものだと明かされて、混乱していた3人。万事屋に着くと、突然我に帰った。

 

「銀さん、僕らまだ依頼料もらってませんよね?」

「あぁ。」

「みっくん、幕府の人だって言ってたアルナ。」

「みっくん……??」

「今の僕らは、お金よりも欲しいものがあるじゃないですか。」

「万事屋の依頼料は高いアル。みっくんなら、税金泥棒どもよりも絶対、いろいろ持ってるネ。」

「お前ら、銀さんより考えてること黒いよ……?」

「「あんたのが移ったんじゃっっ!!!」」

 

盛大なツッコミのあと、3人は再び出かけた。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「潮屋みどりといいます。よろしく、したくはないと思いますが、お願いします。」

「何が目的だ。今更俺らを監視して何になる。」

 

潮屋が到着した真選組で、早速始まった自己紹介。ピリピリしている空気の中、すぐに副長の土方が聞いた。

 

「監視されるのはおかしいと言いきれますか?」

「はぁ?」

「今までの行動を振り返って、本当に幕府に目をつけられていないだなんて思っていないですよね?」

 

その言葉に気を悪くした隊士たち全員が、刀に手をかけた。

 

 

「言うじゃねぇか。」

「……っていうのが、幕府の見解です。

 

わかっているであろうにも関わらず、監視に対してなんの異も唱えなかった、そのことを不審に思っているんです、向こうは。」

「……はぁ?」

 

それは土方だけではない。

最初と同じ言葉とは思えないほどの、間の抜けた言葉が、全員の口から飛び出した。

 

「僕は監視としてこちらに寄越されましたが、特に何かを報告するつもりもないので、安心していつも通りやっていただいて結構です。

 

ただどこに行くにしても、僕を連れて行ってくれれば、幕府に言い訳も聞くのでそれだけはお願いします。」

「……真選組に危害を加えるつもりは。」

「ありませんよ、信じてもらえないと思いますが。というより、僕がこの立場で何かしても真選組には、全く影響がありません。

 

僕をここに監視に来てることは幕府の決定で、周知の事実ですが、僕が幕府という立場でここにいることも全員が知っています。

僕が何かすれば、それは幕府の責任になると、全員が存じているということです。」

 

 

特に信じられるわけでもないが、疑う余地もない。そして、真選組でないのであれば、今すぐ斬り捨てることも出来ない。それはただの、一般市民殺害になる。

 

「あの馬鹿な幕府の頭でも、僕を幕府の人間として送った時点で、僕が真選組を壊滅させることは無理だと分かっているでしょう。」

 

 

全てを信じることは出来ない、なんせあの幕府だ。しかし、話す彼の目はどうしても嘘をついているように見えなかった。

 

「うむ。とりあえず埒が明かないわけだし、潮屋殿を迎え入れよう。いいな?」

 

悩んでいた隊士たちも、局長の一言で全てを受け入れる。

自分たちの頭が受け入れたにも関わらず、その下が拒絶することなどない。

 

 

「ありがとうございます。僕になにかお手伝いできることがあれば、言ってください。出来る範囲であれば、何でもします。」

「……それは幕府の情報でもか。」

 

ようやく解け始めた空気が、再び張り詰める。

土方は土方なりに、彼を見極めそして、真選組に受け入れよとしているのだ。

 

次の答えで、全てが決まる訳では無い。

しかし、答えによってはどちらかに大きく傾くのは明白であった。

 

 

 

 

 

「えぇ、別に構いませんよ。」

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

潮屋の返答は意外にも即答だった。

それは真選組が最も求めていた回答だった。

 

「いいのか。」

「なんの問題もありませんね。ここに、身勝手な理由で幕府転覆を狙う人などいないでしょうし。

幕府のしたで働く君たちが、幕府にたてつく態度をとるのと同じで、僕も従順に従っている訳では無いんです。」

 

 

 

決して全てを信じることが出来た訳では無い。

そこには、間違いなく“真選組に所属していない”“危害を加えない可能性が高い”という理由が先行するが。

 

少し笑った彼を、これ以上非難する者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでもここにいても意味ねぇだろ。とりあえず解s「ちょっと!旦那ぁ!!!」……。」

「今の声って……」

 

一通りの議論が終わり、解散するところだった部屋に、突如山崎の声が響いた。

そして、その山崎が呼んだ相手……

 

「今の話聞かせてもらったぜ。」

「てめぇ、警察に不法侵入たァいい度胸してんじゃねか。」

 

「旦那方じゃないですかィ。なんですか、自首にでもしに来たんですかィ。」

「自首するのはお前らの方ネ、税金泥棒が!!」

「あぁ?税金まともに払ってねぇやつにゃ、言われたくないでさァ。」

「こんのクソサド!!」

「へっ!」

 

銀時と土方がにらみ合い、神楽と総悟が喧嘩をおっ始めた。

 

「なんなの土方くん。俺ら、依頼料もらいに来ただけだからね?別に、お前らのことなんて、不法侵入してまで覗きたくもないからね?」

「誰の依頼だ。」

「副長、多分潮屋さんの事ですよ。彼を最初に真選組(ここ)に案内しようとしたのは、万事屋さんですから。」

「はぁ?」

「そーゆことー。ごめんね、大串くん。」

「土方だ!!」

 

 

神楽と総悟は相も変わらず、殺し合いという名の喧嘩をしているのを横目に、銀時が訪ねた。

 

「幕府の情報、教えてくれるんだろ?」

「んで、てめぇらにも適用されると思った。」

「えぇ、いいじゃん土方くん。万事屋さん忙しいから、幕府の情報が必要なこともあるんですー。」

「黙れ、万年金欠天パ。」

 

 

そのまま口喧嘩に発展しそうなところを、新八が止めた。

 

「なんの情報が知りたいのでしょうか?」

「幕府の重役どもの若ぇ頃の、遊びの記録。」

「遊びというのは……」

「吉原通いの記録だよ。そこである人物と繋がっているやつを探してほしい。」

 

 

銀時たちも高すぎる依頼料であることは重々承知している。だが、もう既に候補がここしかないのだ。

いつになく真剣な銀時に、周りも耳を傾けた。

 

「なるほど、町のものでは知らない情報であった、と。」

「あぁ。」

「……、

 

 

 

 

 

わかりました、名前を教えてください。」

 

それはどこかで想定していた答え。

きっと受けるのであろうと思っていた隊士の、期待を裏切らないものだった。

 

「いいのか。」

「えぇ。それで、どなたについて調べれば良いのですか?」

「……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“傾城・鈴蘭太夫”と深く関わった人物だ。」

「傾城……」

「知ってんだろ。」

「はい。城が1つ傾くほどのお金を叩いてしまうほどの美女。伝説の花魁の方ですね。

 

その方に関わった方を調べればいいんですね。」

「どのくらいで調べられる。」

「急ぎですか。……では、明日の朝までには集めておきます。」

「まじか。」

 

 

幕府の重役など、絞られていて絞られていないようなもの。

とんでもない量の情報を一人で集めると言ったのだ。

 

「では、僕は今から幕府に戻ります。明日の朝、またお会いしましょう。」

 

潮屋は頭を下げて、屯所から出て行った。

 

 

「あいつって、いいやつ?悪いやつ?」

「知るか。」

 

正直、全員が感じた疑問だった。

 

 

 

 

 

次の日の朝、潮屋は本当に情報を集めて終わっていた。

 

「鈴蘭太夫とか関わった方は大勢いました。ですが、多分探している情報は、

 

 

『ある時期の鈴蘭の限定された顧客に関して』でしょうか。」

「!!いたのか。」

「はい。

鈴蘭太夫に限らず、花魁は限定した人物を作りません。

ですが、鈴蘭にはある時期、ある1人の客にのみ接待をしていた時期がありました。あなた方が探しているのは、その人物でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その客こそ先代将軍、徳川定々。

今の幕府の征夷大将軍です。」

 

 

 

 

 

 

この情報から始まる、

 

花魁の想い人探し―――

 

 

 

 

そして敵からの仕掛けは、

 

 

数十年前、自分たちの意図しないところで、

 

 

勝手に行われていた。

 

 

 

―吉原の女への愛しき想い

 

――それを利用した外道の者を……

 

―――いざ“傾城”の名のもとに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、城とり合戦といきますか。」

 

 

 

誓った愛を―――

 

 

―――つなぐために。




【1年後の次回予告】

「しょーぐんさまーー!!あーそびましょー!」

いざ、“城とり合戦”へ。


―そこで出会うものとは

――鈴蘭の想い人とは

―――そして、


「葵姉ぇぇぇぇ!!!!」

彼の想い人の存在は……








全てが明らかになる『一国傾城編』へ

2018年3月20日、投稿再開予定!!


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最終章:一国傾城篇
これまでのお話


これを読めば、今までの話が全てわかります!!


《登場人物~原作との変更点重視》

 

・万事屋

坂田銀時…万事屋社長。今は甘党天然パーマだが、攘夷戦争の時には白夜叉と呼ばれた英雄であった。

攘夷戦争に参加した目的は、自分を拾ってくれ、自分たちを守るために連れていかれた姉・吉田葵を救うため。そして、家に残した弟・吉田蒼汰と師・吉田松陽を守るため。

が、攘夷戦争にて葵が敵として現れ、絶望するも、松陽の言葉で葵を信じ続ける。おかげで決別せずに済んだ桂と高杉から、葵が生きてることが判明。どうにかして救い出そうとしている時に、鈴蘭太夫の依頼を受けることになった。

 

 

・鬼兵隊

高杉晋助…鬼兵隊総督。幼い頃、村でグレていたところを松陽と葵に拾われ、門下として迎え入れられた。叶わない松陽と葵のことを敬愛しており、特に、母親のような役割を果たしていた葵のことは目標と同時に守りたい対象でもあった。

攘夷戦争後、鬼兵隊を解散させずに、国家をつつく形で葵の情報を収集。桂と協力し、葵が生きていることを突き止めた。

また、国家をつつく上で真選組とも対峙するが、高杉自身の実力と真選組に所属する蒼汰の力で逃げ続けている。蒼汰には、感謝している。

 

桂小太郎…必要な時のみ、鬼兵隊と組む。それ以外は大抵、エリザベスとともに行動している。幼い頃は、有名な家の息子だったが、高杉についていく形で松下村塾に迎え入れられる。松陽と葵を尊敬している。

攘夷戦争後は、基本的に高杉と同じ。桂の部下が撮ってきた葵の写真から、葵がカメラに気づいていることに気づき、葵自信が生きていることを銀時に伝える。

こちらもまた、真選組とは上手くやりあっている。

 

 

・真選組

吉田蒼汰(そうた)…真選組副長補佐。父は吉田松陽、姉は吉田葵。沖田総悟の次に若い。山崎と同じような仕事をしており、蒼汰の方が地位的には上だが、山崎のことを尊敬している。見た目が、土方が笑った時にそっくり。初めは、隊士たちに驚かれた。

姉や兄のように慕っていた者達が、自分を守るために攘夷戦争に出たことを受け、違う形で葵を助けるために新選組に入隊。父・松陽の虚としての力を受け継いでいるのか、とても強い。

入隊したての頃、ある事件で土方に忠誠する形で、土方の下で働くことになる(現代編【吉田蒼汰】をご覧下さい)。

真選組と兄たちの間でうまく生きてる。それについての幕府への報告も、蒼汰に一任されるなど、信頼は高い。

 

潮屋みどり…幕府から派遣された真選組の監視係。沖田総悟によく似ている。

信頼できる人物かは、未だによくわかっていないが、土方が幕府の情報を流せるかと問うた時に、出来ると即答したり、万事屋が江戸城に乗り込むきっかけにもなった鈴蘭太夫の情報をすぐに集めてきたりと、少しずつ信頼はされている。また、その能力から相当力がある人物だと思われている。

 

 

・松下村塾

吉田(あおい)…父・吉田松陽、弟・吉田蒼汰。

地球からの転生者。本作品の主人公。地球で両親に殺され、神様から転生を提案される。生前読んでいた漫画から、銀魂を選ぶ。特典として①原作知識の所持②弟が欲しい、後付けで③剣術の腕をもらう。よって、松陽の娘として生まれたのは、偶然。娘なので、松陽によく似ている。銀時のことを戦場で拾ったり、高杉や桂を松下村塾に迎え入れることに貢献した。

生前受けてこなかった愛情を、松陽の妻・春香に注がれ、蒼汰をうむと同時に亡くなった春香の代わりに、同じように蒼汰に愛情を注ぎ育てた。

大切な父と弟を守るために、松陽を生き残させることが重要だと考え、松陽の身代わりを務めることにする。

それによって、幕府に連れて行かれ、攘夷戦争にて銀時たちと対峙、実力差を見せつけ、彼らを絶望させるまで追い詰めた。

桂たちに見つけられるつい最近まで消息不明だった。

 

吉田松陽…娘・吉田葵、息子・吉田蒼汰。

松下村塾の講師。葵の中の虚の存在に気づき、原作では銀時に渡されていた刀を葵に託し、「大切なものを守る時だけに使う」という葵の言葉に満足した。葵が代わりに連れていかれているため、今も生存。松陽がいながら攘夷戦争の英雄たちが仲違いすることはないので、三人が協力し合うままでいれるのは、松陽の影響。また、葵の姿を戦場で見て絶望した三人を復活させたのも松陽の言葉による。

今は、江戸の端に住んでおり、たまに帰ってくる蒼汰から話を聞いている。

 

 

 

《あらすじ》

攘夷戦争から10年。その世界では、

父は失われるはずだった人生を生き、

弟は本来存在しない世界を生き、

離れるはずだった英雄たちは、共にはいなくとも、繋がって生きた。

 

……そんな“銀魂”の世界。

 

 

そんな世界を作った人物、吉田葵を探し続けて10年。ようやく見つけた、そんな矢先に起きたのは、鈴蘭太夫からの依頼。

 

 

 

 

そこで待ち受ける運命とは……。




ぜひ、最初から読んでくださいな。


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運命の歯車……回転。

前話に、今までの設定を再度記載いたしました。
どんな内容か忘れた方は、そちらからご覧になることをおすすめ致します。


―――ザッ、ザッ、ザッ

 

静寂を切り裂くのは、たった一つの足音。

江戸の国境とはいえ、国の都市に存在する家屋はたくさんある。ただ、その足音は迷うことなく一つの場所に向かっていった。

 

 

「誰でしょうか。」

「……、これから僕が言うこと、どうか信じてください。」

「……?」

 

名乗ることもなく、いきなり話し始めた家の前に立つ青年。フードの深いものを被っており、その身なりすらわからない。月も雲に隠れて、その口から「僕」という単語が出なければ、男だということも判断出来ない。

 

「ここからなるべく遠くに行ってください。少しの間で構わないんです。」

「……。」

 

何も言い返せなかった。それは、目の前の人物が言っていることがあまりにも突拍子もないことであることも、理由の一つではあるが……。

 

 

「君は知らないかもしれませんが、私、意外と強いんですよ?」

「知ってますよ。

 

 

……吉田松陽。いや、それは……“虚”だからですか?」

「!!」

「とにかく一時期でもいいので、身を隠してください。

 

 

 

 

 

 

……今、あなたに、死なれる訳にはいかないんです。」

「あなたは……、」

 

その家の家主、吉田松陽が何か言う前に、その青年はマントを翻して立ち去った。

その内容よりも、何よりも、松陽には気になったことがあった。

 

 

「私は……君とどこかで会ったことがあるでしょうか……。」

 

彼から全くと言っていいほど、初見の感覚を感じなかった。

 

 

───────────────────────

 

 

不気味なほど、燃えるように道を照らす橙色の道。

 

「おい。見廻組の佐々木が殺られたってのは、本当か。」

「なっ!?」

 

江戸城の敷地内、その一角に存在する牢。そこに向かって伸びる影が三つ。

 

「はい。だから、見廻組の仕事が真選組(こちら)に回ってきたんです。」

 

殿中守護の任を仰せつかっていた見廻組の長・佐々木異三郎が、何者かに重傷を負わされた。そして、その佐々木には佐々木を刺したという、捕えられた下手人の城内への侵入を許した罪で、その任を解任。その後釜が、真選組に回ってきていた。

 

 

「ちっ、どうにもクセェな。」

「えっ!?何が!?!?」

 

近藤だけが異常な反応を示すが、潮屋にはその意図がわかっていた。

 

「その下手人の取り調べ、特に行われることもなく、明朝、処刑が決まったようです。」

「まるで、何かをもみ消そうとしてるようにしか思えねぇ。」

 

土方と潮屋が牢に向かう中、少し離れたところでケツに手を当てていた近藤を見たものは誰もいない、……多分。

 

「ま、まぁ!とりあえず下手人に会ってみるか!」

 

 

重々しい扉が開かれ、視線の先には……

 

 

 

「あ、近藤くん!土方くーん!潮屋くーん!ちょっと、おはなしがあるんだけどぉ!」

「「「……。」」」

 

──バタン

 

「殺すぞ!!腐れポリ公!!!」

 

すぐに閉じられた。

 

「ダメだ。ありゃあ、洗っても落ちやしねぇ垢だ。」

「とても洗えねぇな。」

 

ドア越しに叫ぶ銀時の声に無視を決め込んでいると、土方が気づいた。

 

「……俺らには無理でも、出来る奴もいるわな。」

「そうだなぁ……。」

 

土方の横を見た先からは、さっきまでいた人影が消えていた。

 

 

 

 

 

「無駄ですよ、ダンナァ。

流石に今回ばかりは、相手が悪かったようで。」

 

真選組にシカトされた銀時のもとにやって来た沖田総悟が、懐から取り出したのは、箱に詰められた大量のドーナツ。

 

「ポテリングよこせぇぇ!!!」

「晩飯よこせや!ゴラァァァ!!!」

 

そのまま格子越しに、大事なものを奪われていった……

 

 

そんな光景を新八と銀時が、横目で見ていた。

 

「やっぱり、相手が悪すぎですよね。佐々木さんもこの城中は、定々の狩場だって言ってたし。」

「……そーいや、定々は、どうやって鈴蘭を利用したんだぁ?」

 

 

「国さえも色香に溺れさせて傾けるが傾城。関わればその身を滅ぼすことにもなりかねない。」

「「!!」」

「まさか、僕の提供した情報で、こんなことになるとは思いませんでしたよ。」

「潮屋さん……。」

 

銀時の疑問に答えたのは、どこから来たのか、真選組監視の幕府の人間。

 

「いいのか?喋っちまって。」

「じゃあ、勝手に喋ってるだけなので、気にしないでください。」

 

銀時たちに背を向ける形で、牢によしかかり喋り始めた。

 

「当時から、吉原は政府のお偉いさん方の会合の場所として使われていました。そこに集まる政府人は必ず鈴蘭の魅力に取り憑かれてしまいます。

この国のトップは思いつきました。鈴蘭の魅力に、政府の要人たちを取り憑かせてしまえば良いのではないか、と。

 

あの男は、傾城をその名の通りに利用したんです、……国くずしの道具として。」

 

そう語る潮屋の顔を、月が照らした。

 

「……。」

 

 

潮屋の話が一段落した所で、同じく牢に閉じ込められていた月詠が口を開いた。

 

「例えどんな話であろうと、変わらないのは、鈴蘭の待つ男などどこにもおらんかった、ということじゃ。鈴蘭は知っていたのじゃろう、自分がここから逃れられないことを。

 

結局、夢に惚けていたのはわっちの方でありんす。」

「……。」

 

牢屋に一瞬の静寂が訪れる。

 

「本当にそうでしょうか?」

「「「「「??」」」」」

 

潮屋が牢屋を離れて、重い扉を少し開けた。

 

「こんな所にいたら、怒られますよ。……姫様。」

「はうっ!?」

「そよちゃん!!!」

 

 

 

牢にいる銀時たちに向き直り、潮屋は言い切った。

 

「あなた方が見ているのは、氷山の一角に過ぎません。

 

 

まだ……、確かめるべきことがあります。」

 

 

 

……語られるのは、氷山の裏側。

 




お久しぶりです!1年間、頑張ってきました、作者でございます!!
帰って来れて、本当によかった(*^^*)
休止期間中も、たくさんの方が読んでくれたようで、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!


最終章“一国傾城編”でございます!!
かつてない長さの章になると思いますが、お付き合いよろしくお願い致します!

※一年ぶりに書いて、書き方が下手くそになった……。


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始まりの狼煙


たくさんの方に読んでもらえて、本当に嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!


 

 

むかーし、むかしある所に、殿様とその家来がいました。

この殿様の奥方は、この国一番の美しい方で、とっても殿様を大切にしていました。

でも殿様は、そんな姫の気持ちを利用し、牢獄に閉じ込め酷いことばかりさせていたのです。

 

だから姫様は、毎日、牢獄で泣いていました。

 

そんな姫様が哀れで、家来はいつも姫様の涙を拭いてあげていたのです。

いつからか彼は、姫様に恋心を抱いていたのです。

 

 

しかし、家来は殿様に姫様を始末するように命令されました。逆らえば命はない。でも、愛する人を殺めることなど出来ない。

 

代わりに二人は、約束したのです。

 

『一緒にここから逃げ出そう。』

『次の満月の晩、あなたをさらいに来る。』

 

そうして二人は、指切りげんまんを交わしました。

 

 

でも、彼が来ることはありませんでした。

殿様は全てを知っていたからです。

 

 

“会えば姫様を殺す”

二人の約束は、死よりも思い鎖に変わりました。

 

だから、彼は決めたのです。

例え何度月が通り過ぎようとも、

例えシワだらけの醜い老人になろうとも、

例え姫様が彼を忘れていようとも、

 

 

彼女と会える日まで生き続けようと。

 

 

 

そうして彼は今でも、三本の足で這いつくばりながら生きているのです。

 

 

───────────────────────

 

 

「そうして姫様と家来は……「いい。」」

「もう……、結構です、姫様。」

 

 

そよ姫がじいやに寝物語として聞かされていた、話。

その話がなんなのか、彼らにはすぐに理解出来た。

 

「やっぱり、眠れませんでしたか。」

「いや。」

「……?」

 

獄中の者たちが立ち上がった。

 

「そっから先は、もう知ってんのさ。」

 

背を向けていた銀髪が、半身を向けてうっすらと笑った。

 

 

「そろそろ開けてくれんだろ。まさか、聞かせるためだけにいる訳じゃねぇだろ。」

「……?なんの……」

「姫様、ありがとうございました。」

「みどりさん……?」

 

牢によしかかって話を聞いていた潮屋が、懐からジャラジャラと音を立てて、物を取り出した。

 

「ったく、ここまでテメェの計算だったのかよ。」

「僕は姫様を、ここに案内しただけですよ。一人で寝るのは寂しいと言われたので。」

 

 

潮屋によって、牢の扉が開かれた。それと同時に……

 

「何、もたもたやってんだ。……出てこいっ、処刑の時間だ。」

 

思い扉も開かれ、真選組が立っていた。

 

「さっさと白装束に着替えやがれ。」

 

投げつけられたのは、彼らの白装束(武器)

 

 

「旦那ァ、処刑台は予約しちまったんで、ちゃんと首繋げて戻って来てくだせェよ。俺達の首が飛ぶんで。」

「せいぜい、処刑に相応しい積み重ねてくるこった。ちなみに、罪状はなんだ。」

 

「将軍の下の髷もぎ取った罪。」

 

 

真選組の列の間を、歩いていく四人。

 

 

最後に出てきたのは、白。

 

「忘れないで。この城中に、あなた達の味方なんていない。

こっちについた以上、あなた達も、もう後戻りは出来ない。」

「心配いらねぇよ。お前らが好き勝手暴れてくれりゃあ、あの狸ジジイもちょっこり出てくるやもしれねぇ。

俺たちゃ、美味しいとこだけ、頂くさ。」

「……。」

 

 

──ザシュツ!!

────ドサッ

 

「!?」

 

突然、白と黒の間に血塗れの二人が落ちてきた。

 

「土方副長。

一応、僕が幕府の監視だということ、忘れないでくださいね。」

「その言葉は、血に濡れたその刀閉まってから言えよ。」

 

牢の上、巨大な満月に照らされるのは二つの影。

 

「見事な腕前ですね。」

「幕府の方も、城中で怠けている奴らだけじゃないんですね。」

 

そう言うと、一人はそこから飛び降りた。

 

「副長。」

「なんだ。」

「この城を落とそうとしてるの、万事屋(あの人方)だけじゃないみたいです。」

「はぁ?」

 

 

副長補佐の監察、吉田蒼汰から聞かされたのは、

 

「……、

 

高杉晋助率いる鬼兵隊、桂小太郎率いる桂一派がこの城めがけて攻め入ろうとしてます。」

 

 

……それは、一筋の反乱の狼煙。

 

 

 

「では、真選組の皆さんも各々行動してください。」

「俺たちに、あの狸じじいを守れってんですかィ。」

「……

 

僕は姫様について行かなければならないので、出来れば城中に入っていきて頂けると助かりますね。」

 

城を守るのに、守る側が城の中に入る必要は無かった。

 

「はっ。幕府もとんだ奴を送り付けてきたもんだな。」

 

 

 

潮屋が城に向かって歩き出す。

少しして立ち止まり、少しだけ振り返った。

 

 

「本気で国を取ろうとするならば、

 

 

 

 

……白も黒も忘れた方がいい。」

 

それはいつもの声ではない。

 

何か言い知れぬ圧を感じる声色だった。

 





もうちょっとだけ原作多用引用が続きますm(_ _)m


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国崩しに参る!!!


たくさんの方に読んでもらえて、本当に光栄です。
ありがとうございます!


 

 

──ピーッッッ!!!ピーッッッ!!!

 

 

城内に響き渡るのは、警報の笛。

 

「こりゃあ……、ズラがみたら喜びそうな光景だぜ。まさか、ばばあ一人のために、国を相手取ることになるとはなぁ。」

 

脱獄者を探す兵士たち。道を覆い尽くす勢いで、たくさん集まってきていた。

 

「本当に良いのか。」

「「……。」」

 

「吉原のために、主らがここまで……「もう遅ぇよ。」!!」

 

言葉を遮る銀時の指には、指切りの証。

月に照らされ銀色に輝く、美しい一本の髪。

 

「もう……約束しちまったからな。」

「……そうか。」

 

月詠はそう言うと、自らの髪の毛を切った。

 

「ならば約束じゃ。

 

きっと、一緒に生きて戻ると……。」

 

 

万事屋も呼応して、髪の毛を抜く。……一名は鼻毛だったが、血をもって阻止された。

 

 

 

 

「「約束」だ。」」

 

四人の手に、三色の髪が結ばれた。

 

「約束だ。きっと、じじいと一緒に鈴蘭の元へ帰る。」

 

 

 

 

 

「今生の別れは済んだ?」

 

屋根の端に現れたのは、見廻組の生き残り。

 

「まさか、信女さんも!?」

「私は、任務を遂行するだけ。それに……

 

 

 

 

 

 

切ってもいいんでしょ?人。」

「「「…………え。」」」

 

銀色に輝く刀を向ける先は、……そよ姫だった。

 

 

───────────────────────

 

 

「ゴルアァァァァァァ!!!」

「そこをどけ、モブ共。」

「姫様、ぶっ殺すぞ!!!!!」

 

……正攻法ではある。が、

 

「銀さん。生き残ったとしても、僕たち、もう江戸には住めそうにないんですけど……。」

 

 

犠牲はデカかった。

 

 

「次喋ったら、姫様の指、一本ずつ切り落としていくから。」

「た……だずげでー。どうじであだぢが、ごんなごどにーー。」

 

「姫様、こんなときに限って、迫真の演技だよ!!

 

やめて!姫様!これ以上やったら、僕ら打首だけじゃ済まされないっ!!」

 

「うるさい。次喋ったら、切るって言ったよね。」

「え゛……わだぢも……?」

「はい喋った。今ので何言目?」

「わ、わかりませんー……。」

「じゃあめんどくさいから……、これぐらい。」──ザシュツ!

 

「えぇぇぇぇ!?!?」

 

そよ姫の袖から溢れる大量の赤い液体。

 

「「「「「「「「姫様ぁぁぁぁ!!」」」」」」」」

 

当たり前のように動揺する兵士たち。

 

「はい、また喋った。」──ザシュツ!!

「や、やめろっ!」

「はい、また。」──ザシュツ!!

「あ、開けろ!!道を開けろぉぉ!!」

「はい、」──ザシュツ!!!

 

 

 

「無事にここまで来れて良かったねー!」

 

万事屋一行以外、誰もいない城の入口前まで来れていたが、

 

「姫様、全然無事じゃないですよ。僕ら、完全に社会復帰の道を絶たれましたよ。」

「みんなの驚いた顔、すごく面白かったねー!」

「「「ねー!」」」

 

「ねー!、じゃねぇよ!!ドS三人娘ぇぇ!!」

 

 

血糊とはいえ、姫を血まみれにした罪は、消えそうになかった。

 

 

 

 

「しかし姫様、これ以上は危険です。どこかにお隠れください。」

 

そう。ここから先は、血糊だ何だで済まされる世界じゃない。将軍の妹だろうと、命を落としかねない世界。

 

「お願いです。私も連れてってくださいっ。

 

何も知らなかったとはいえ、じいやを城に縛り付けていたのは私なんです。じいやは私なんかよりも、ずっと外に出たかったでしょうに……。

なのに私は何も気づいてあげられなくて……、守ってもらってばっかりで……。」

「そよちゃん……。」

「だから今度は、じいやの力になってあげたいんですっ。どんなにはしたないって叱られても……。」

 

全員が黙る。

幼いながらも将軍の妹として、責任を負おうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

「僕が連れていきましょうか、姫様。」

「「「「!?」」」」

 

気配の無いところから、突然声がし、月詠、信女、新八、神楽は一斉に戦闘態勢に入った。

 

「僕ですよ、潮屋です。」

「みっくん!!」

「どうも。

 

姫様、ご無事で何よりです。」

「みどりさん、……どうして。」

「姫様。こいつぁ、最初っからずっと見てましたよ。」

 

ここにいるのが不思議だと言わんばかりの五人に対して、銀時は一人、飄々としていた。

 

「あら。気づかれてましたか。」

「気づくようにしてたくせによ。」

 

そうですかねぇ、と言って少し笑った潮屋の顔に、銀時の大切な家族の顔が一瞬重なり、そよ姫と話す潮屋の顔に目を見開いた。

 

「!?!?」

「銀ちゃん?どうしたアル?」

「いや……何でもねぇ。」

 

 

 

「あなたが望むなら、僕は、安全にあなたをお連れします。」

「みどりさん……。」

 

「その目で見るといいですよ。

 

将軍とは、……国とは何なのかを。あなたの兄上が、お立ちになられている場所を。あなたにはその権利があり、義務があります。

 

その覚悟があるのであれば……。」

 

潮屋の目を見て、そよ姫は何かを決意した。

 

「お願いしますっ。私を連れて行ってくださいっ!」

 

その言葉に潮屋は、笑顔で応えた。

 

 

「本当に良いのか。姫様に何かあれば、ただでは済まない。」

「ご安心を。幕府に属する者として、守るべき対象は心得ています。」

 

 

「行きましょう。叔父上はこちらですっ。……あっ、」

 

決意した側から、階段に顔面からダイブしようとした、

 

「大丈夫ですか。」

「あ、ありがとうございますっ。って!そんなに笑わなくてもいいじゃないですかぁ!」

「いえいえ。可愛いなと思っただけですよ。申し訳ありません。」

「もぉ!」

 

潮屋が受け止めたことで、血だらけの現場にはならずに済んだ。

 

「新八。」

「どうしたの、神楽ちゃん。」

「……!!来るネっ!!!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

 

血糊作戦でまいた、兵士たちの大軍が押し寄せてきた。

 

「貴様らァ、姫様を人質にとって……。ただで済まされると思うなぁぁぁ!!!」

「全員まとめて打ち取れぇぇ!!女、子どもも容赦するなぁァァァ!!!」

 

 

大軍が神楽に向かって突き進むが、

 

「女、子ども?言ってくれるアル!!」

 

ビクともせずに全て傘を広げて受け止めた。

 

 

「あの主にして、この臣あり。……つくづく女を舐め腐ってる国。」

 

信女は、突き刺さる剣の上に舞い降り、その全てを切り刻んだ。

 

 

「う、撃てぇぇぇ!!!」──ザクッ!!

「ならば止めてみろ。主らが嘲た女を。」

 

月詠は、全ての銃口を一糸狂わず、クナイで塞いだ。

 

「守ってみろ。女の涙で固めた虚飾の城を。

 

その名を、忘れたのならば……もう一度知らしめてやろう。」

 

 

ほぼ全員が、三人に襲いかかった。……が、全ての敵はたった三人の足下に転がった。

 

 

 

 

 

「傾城……国崩しに参る!!」






さぁ、ようやっとオリジナリティが出せそう……!!
潮屋くんも本格始動ですっ!


最後のツッキーのセリフは、本当にかっこいい(๑⃙⃘♥‿♥๑⃙⃘)


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参上仕ったのは.....


お読みいただきありがとうございます。
お気に入り登録者がとても増え、嬉しい限りでございます。



……話が大きく動き出しますよ。
いや、想像できた??笑笑


 

「やれやれ、傾城三匹がご同行とは。

加えてこっちにゃ、姫様誘拐の嫌疑までかけられちまってんだぜ。」

「将軍を相手取るより、よっぽど骨が折れそうですね。」

「その片棒担いでやがるのが、幕府のもんてのもどうなんかねぇ。」

「そのへんは考えないことです。」

 

女三人が暴れている少し上。見下ろすは、三人の侍。

その後に迫るは、まだまだ溢れる大軍。

 

「悪いことは言わねぇ、援軍呼んできな。

 

将軍直参だかなんだか知らねぇが、泰平の時代に生臭ったテメェらなんぞに、俺達の相手が務まるか。」

 

三人が刀に手をかけた。

 

「こっちはあのアバズレ共と……」

 

 

 

 

「「毎日、戦国時代送っとんのじゃーーいっっ!!!」」

 

 

銀時と新八が大軍に突っ込んだ。

 

ほとんどが二人に倒されるが、すり抜けて後ろにいる者にも攻撃を仕掛けようとする。

 

「おいっ!!行ったぞ!!」

 

全く構えない潮屋に、一瞬の焦り……そして、その時間が無駄だったという……確信。

 

 

「あっ……。」

「なっ!?……姫さっ」──ザシュツ!!

 

僅かに前に出てきたそよ姫を斬りかかりかけた兵士が、赤く染まった。

 

「この方を誰と心得る。

 

将軍、茂々様の妹君、そよ姫様であるぞ。

どの身をもって、この方に剣を向けている。」

 

そよ姫を、剣を持たぬほうの手で抱え込み言うその言葉は、幕府の者である言い知れぬ圧を含んでいた。

 

 

 

そんな圧に怯む中、ただ一人その姿を見つめる者が……。

 

その者の目には、まるで桜が舞うように……。

美しい型を振るう姿が映っていた。

 

 

 

───────────────────────

 

押し寄せる大軍。誰一人として引くことなく、眼前の敵をなぎ倒していく。

 

それでも後から後から溢れてくる直参の兵士。

そよ姫を囲うように、六人が背中合わせで集まった。

 

「姫様、大丈夫ですか。」

「はいっ。すいません、私なんて何も出来なくて。」

「僕が好きでやっていることです。気にしないでください。」

「全く、将軍の妹君に斬り掛かるとは、どのような教育をしておるのじゃ。」

「いやぁ……すいません。」

 

「てめぇら、のんびり話してる場合じゃねぇぞ。」

「銀ちゃん、一人あたり、あと何人アルカ。」

「百……二百……ダメだ、眠っちまいそうだぜ。」

 

七人を囲うは、数千の兵士。

そんな絶望の状況でも、六人は平然としていた。

 

「いいか、一歩たりとも仲間から離れんじゃねぇぞ。

背中は任せて何も考えず、テメェの眼前の敵だけ斬り伏せろ。

 

テメェが倒れねぇ限り、誰も倒れやしねぇ。

 

一本の刀になれ、……壁をぶち抜けっ。

将軍のあのふざけたおもちゃ箱、ぶっ潰すぞっ!!」

 

 

目指すは、罪深い満月を背負いし江戸の城。

 

 

 

「国盗り合戦んんんんっっっ!!

 

 

開始だぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 

 

数千に突撃するは、六人……いや、一本の刀。

 

「壁だぁ!!壁になれぇぇ!!!一歩たりとも、将軍様のもとに賊を近づけるなぁ……グボッ!」

 

数千を破る刀の前で、数百の壁など無きにしも非ず。

 

「うすーいっ!!!狸じじいの頭よりも薄ーーい!!!!」

「失礼なこと叫びますね。」

「しょうがないアルヨ、みっくん。銀ちゃんはそういう奴ネ。」

 

 

前も、右も、左も、後ろも、上も。

どこにも付け入るスキなど、ありはしなかった。

 

「どけぇぇぇ!!」

「「!?」」

 

構えたのは弾数任せの、巨大な銃火器。

大量の銃弾が七人に降り注いだ。

 

「ふんぬっ!!!」

 

神楽の傘に全員が見を潜め……

 

 

 

「銀時……。」

 

そう、僅かに呟いたのは誰か。

 

 

 

「!!……わーってら。」

「新八くんっ、姫様をお願いします。」

 

潮屋と銀時が目を合わせ、信女と月詠もその意図を読み取る。

 

 

「なっ!?」

 

傘の上から銃火器の方へ投げられたのは、二本(・・)の刀。

 

次の瞬間、

 

「横だぁぁぁ!!」

 

壁を伝って迫る、見廻組副長と死神太夫。

 

「撃てっ!?!?」

「構える余裕があるのであれば、前を見ろ、モブ共。」

 

その発射口には、クナイと剣が刺さっており、そこに迫るは……

 

 

 

二人。

 

 

「お呼びなのは、横だけじゃねぇよっっっ!!!」

 

空中で投げた自らの剣を掴み、そのまま斬り伏せた。

 

「なんだか、随分息が合うじゃねぇの。」

「目指す場所は同じですからねぇ。」

 

そんなことを言い合うのも束の間、

 

 

──ドガーーンッッ!!!

 

「「「!!!」」」

 

「次から次へと、出てきやがるぜ。」

 

「次弾装填!!消し炭にしろぉぉぉ!!!」

 

迫る一発目の弾は、神楽が城に向かって撃ち返した。

 

「もう一発来るぞ!!!」

「!?……全員、下がって下さいっ!」

「潮屋さんっ!!」

 

潮屋の後ろに張り付いていたそよ姫を、月詠の方へ僅かに押す。

 

「姫様。」

「潮屋さんっ……!」

「おいっ!!かわせ!!!」

 

神楽が打ち返せたのは、彼女が夜兎だから。

一般人がその身に受ければ……起こりうる未来は目に見えていた。

 

 

「……っ!!」

 

少し目を閉じ、開いた次の瞬間、

 

腰に収められていた刀を抜き、一瞬で城に打ち返した。

 

 

「なっ……!」

「はっ……。幕臣に、んなことやられてんようじゃ、国も崩壊間近だぜ。」

「緊急ですよ。」

 

 

驚く間もなく、神楽と潮屋によって開かれた撃ち壊された重々しい扉が開く。

 

 

 

 

「将軍様ぁ、お待たせしました。デリバリーNO.1太夫・傾城鈴蘭、参上仕りましたぁ。

今更チェンジは無しだぜ?汚ぇケツはよく洗ったかぁ?

 

 

 

 

今夜は……、眠らせねぇよ?」

 

 

 

 

 

 

そこに並ぶは五人(・・)の大罪人。

 

 






「ど、どこに行くんですか!?」
「ご安心を。あなたの願いを蔑ろにするつもりはありません。」
「……!?」

銀時たちが将軍のもとに殴り込んでいた、ちょうどその時、そよ姫は違うところを走っていた。

……いや、走っていたと言うと語弊がある。彼女自身走ってはいない。抱えられているだけだった。

「彼らだけ置いてきて、良かったのでしょうか……。」
「姫様が心配することではありませんよ。彼らは強い、絶対に折れたりしません。」


そこまで話すと、どこかの部屋に着いた。

「姫様。
僕が必ず迎えに来ます。絶対にここから出ないでください。」
「どうしてっ!」
「ここからでも、国の改変は見ることが出来ます。」

部屋にある二つの窓は、一つは外を、もう一つは銀時たちを見ることが出来た。

「ここは一体……っ。」



そよ姫が真っ直ぐ見る、その先には。

「正直に言います。

あなたがあそこに乗り込んだ場合、僕はあなたを守ることが出来ると言いきれない。それ以前に、彼らが生き残ることが出来ることさえも、保障しきれないのです。」
「私が……っ」
「いえ。決して、あなたのせいではありません。

僕がねじ曲げてしまった真実を、元に戻さなければならないのです。」

そこまで言うと、そよ姫は黙ってしまった。
そんなそよ姫の足下に跪き、その人物は言った。

「信じてもらえないと思います。全てが終われば、あなたの元に説明もいくと思います。どうかそれまで、耐えてもらえないでしょうか。」
「あ、頭をあげてくださいっ。
私がここにいることで皆さんが助かるなら、私はここにいますからっ。」
「ありがとうございます。」


そう言うと、立ち上がり、ただ一つの出口に向かう。

「あなたはどちらに行くんですか。」

その背中に問いかける。

「僕は……一つだけ。どうしても変えたい真実があるんです。」


そよ姫は不思議だった。まるで、起こることがわかってると言わんばかりの、この者の言い方が。

「……あなたは、何者ですか。」



そう言うと、浴衣の下に隠していたのだろう。……髪をかきあげた。



「僕は……







私は、ただの弟好きの姉ですよ。」

少し振り返ってなびくその髪は、長い亜麻色。
深いその緑の瞳は、

愛おしいものを想うような、苦しむような……。


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一夜の夢を求めた者は……

投稿、遅くなってすみません!!
思いのほか忙しく、投稿することができませんでした。
言い訳のようですが、これからもお付き合い頂けると光栄です。

また、評価をしていただいている方、感想を書いてくださっている方、本当にありがとうございます!
作者のやる気に繋がっております!!
感想には、なるべく全返答していっているつもりなので、これからもお待ちしております!


「長生きはするものだ。

歴史を紐解いても、これ程までお上を愚弄し、徳川に泥を塗ったのは、そなた等が初めてだろうな。

免罪を請うどころか、大罪を犯そうとは。」

 

 

爆破して開いた先。

徳川の城、江戸城で待ち構えていたのは、元征夷大将軍である徳川定々。

 

「大罪を犯したのはあなたの方。あなたが犯した所業は、この見廻組副長・今井信女の知るところ。

幕臣暗殺教唆の容疑で、あなたを逮捕します。」

「法でこの私を裁くと?

 

この地を統べる、法そのものである私を、法でどのように裁くというのかね?」

 

既に退いた身とはいえ、その持つ力はあまりにも強大だった。

 

 

「地上の法で足りぬというのなら、地下の法を用意してやろう。

 

貴様のために吉原に流れた女の涙……、男の血……。

例え天が許しても、吉原が法、死神太夫が許さんっ!

 

 

あの男を解放しろっ!やつをどこへやった!?」

 

射抜く死神太夫の目をも、余裕の面で覗き、黙る地上の歪んだ法。

 

 

「どこへやったと……

 

 

聞いておるんじゃっ!!!」

 

その面に向かって投げられるのは、死神太夫のクナイ。

それに対しておののくことも無く、微動だにすることもなかった。

 

 

 

 

──シャン……

 

それは、小さい音にも関わらず、まるで時を止めるような音。……鈴の音。

 

「天辺にありて、天を恨むものがあろうか。

 

いかなる矜持に見舞われようと、それは天が成し事……、天が定めし宿命。

ただ黙して受け入れよ……、天の声を、我らが刃をっ!」

 

音だけでクナイを止め、言葉と共に同じ格好をした者たちが、大量になだれ込んできた。

 

 

「あれはっ!?」

「冷酷無比なその振る舞いを恐れられ、泰平の夜からその存在を中央から除かれた禁忌の存在。

定々が、その謀略に利用し、一層強固な繋がりを持った……。

 

八咫烏……“天照院奈落”」

 

その全ての者の腕には、黒い烏のようなものの跡が付いていた。

 

「朧……天照院奈落の首領にして、最強。……あの男まで出張っていたなんて。」

 

 

「そなた等に出来ることは、ただ黙って天を仰ぎみること。即ち、将軍に裁かれることだ。

天は災いをもたらすだけではない。……恵みをもたらすも、また天だ

。」

 

銀時たちの後ろ、音がした方には、血だらけで押し出された爺やの姿があった。

 

「爺やさんっ!!!」

 

新八、神楽、そして月詠が急いで駆け寄り、すぐに腕の処置をした。

 

「この場を切り抜ければまた鈴蘭に会えるぞ。まぁ、そんなことは出来んだろうがな。

それに切り抜けたところで……

 

 

 

 

その男にはもう、鈴蘭を抱き寄せることすら出来んがな。」

 

定々が投げたものは、腕。

鈴蘭を抱き寄せるための、ただ一つの腕だった。

 

「二度までも天に仇なす者の末路だ。まさしく地を這いずる芋虫のようよ。」

 

 

 

 

 

 

ホッホッホッと下品な笑いが響くその場所で、

 

 

 

 

 

目覚めた夜叉が……一人。

 

 

──シュンッ!!!!

 

目で追うことなど到底不可能な速さで、定々の前に現れたのは、

 

赤い眼光を光らせた、まさしく夜叉。

 

 

──キーンッッッッ!!!!!!

 

それを受け止めるは、烏。

 

 

抜かれた烏の刃は、躊躇うことなく夜叉の身体を切り裂く。

 

 

が、今の彼に届く刃などありはしない。

 

研ぎ澄まされた感覚と、眠っていた本能が……戦いの本能が彼の力を極限まで引き出す。

 

「……。」

 

烏の刃は、夜叉の口で受け止められ粉々になっていた。

そのまま、力の限り、烏を定々諸共、壁まで押し付けた。

 

 

「おい。約束の指ならまだ残ってるぜ。」

 

定々の顔の真横に木刀が突き刺さる。突き刺さった壁は、衝撃に耐えきれず破壊されていた。

 

「テメェを天上から地獄に引きずり下ろす、俺たち六本の指がな。」

 

 

───────────────────────

 

 

「今まで……よく耐えなんした。今まで、よく辛抱しんした。」

 

新八が爺やを背負った。

 

「済まなかった、長い間待たせてしまって。

 

だがもう心配ありんす。主らが待ち望んだ、月は昇った。約束がいかなる闇の地にあろうと、必ず導いて見せよ。

 

 

今宵の月は……決して沈まぬぞっ!!」

 

 

クナイを構えた月詠は、新八と神楽に爺やを吉原へ連れて行くことを頼んだ。

 

 

「必ず連れて行くネ。安心するヨロシ。」

「……頼むぞ。」

 

新八と神楽 は、そのまま外に出た。

 

 

 

 

「いいのね?ここからは何人斬っても。」

「あぁ、好きにしなんし。明日には消える……一夜の夢よ。」

 

 

「老いぼれを救うために足止めか。逃げられると思うてるのか?」

 

外には大量の兵士たち。例え、それらを退けてたどり着いた二人とはいえ、それは圧倒的な数の差であった。

 

「あぁ。テメェらの相手なんざ、あいつらだけで充分だ。」

 

 

夜叉の瞳に映るは、一筋の光。

 

 

───────────────────────

 

 

「新八ぃ……、絶対、離すんじゃないアルヨ。」

「分かってるよ、神楽ちゃんっ。」

 

あっという間に包囲された二人からは、既に城の中にいる銀時たちの姿は見えなかった。

 

 

「「うぉぉぉぉぉおおりゃぁぁぁぁぁああ!!!!」」

 

数の圧倒的不利な状況でも、二人は構わず進んだ。

 

 

 

 

 

「ガハッ!!!」

「神楽ちゃんっっ!!」

 

どんなに強くとも、それは二対数千。叶うはずもなかった。

 

 

 

──キーンッッッッ

 

その甲高い音が、その場に響くまでは。

 

 

 

 

──ザシュッ!!

 

「「ぐぁああ!!」」「「ぎゃあぁぁ!!!」」

 

 

瞬く間に、なぎ倒されていく兵士たち。そして……

 

「走って。」

「「!!」」

 

出来上がった一本の道。その間をすかさず走るは、四つの影。

 

 

「このまま走れば、すぐに味方に会えます。しばらくは時間を稼ぎますから、なるべく早く辿り着いてください。」

 

走る神楽と新八に反して、立ち止まり振り向いて応戦するその者。

状況反射で立ち止まり振り向いた二人が見たその姿は……、

 

 

 

 

 

「……みっくん、……??」

 

僅かに見えた瞳の色も、舞うその太刀筋も、二人が少しの間とはいえ共に過ごした潮屋みどりのものだった。

 

その亜麻色の髪が、長髪でなければ……。

 

 

「大丈夫。必ず、みんなで帰れますから。」

 

そう、少し笑い、大量の兵士の群れへ突っ込んだ。

 

 

 

「行くネ、新八っ!!」

「う、うんっ!!!!」

 

 

直接会ったことなどない。それでも、二人には初対面に思えない人だった。

 

 

 

 

 

「あれって……銀さんの部屋にあった……、

 

 

写真の……???」

 

 

 

見たことがあったのだ。

 

万事屋の銀時の机の上、何も無い殺風景な机の上に。

 

 

 

飾ってある一枚の写真の中で。



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再会~目指す場所


さぁ、やっとオリジナル展開が中心になっていきますっ!!
嬉しい……!!!


 

 

「天上に座すのは、日輪か……それとも月かっ。

 

 

ケリつけようじゃねぇの、……天井のパシリ殿?」

 

 

 

銀時の木刀が貫く、その不気味なお面から、大量の刃が飛び出した。

 

「ちっ!!」

 

木刀を離し、そのまま交わすが、迫るのは木刀ではなく本物の刃。

 

 

──ダンッ!

 

迫り来る刃を交わして受け止め、面に突き刺さったままの木刀を引き抜くために、剣を握り烏を蹴る。

 

 

 

「こちらもゆくぞっ!!!」

 

階下では、月詠と信女が大量の奈落を相手にしていた。

 

 

──シュパッ!

 

「!」

 

足下に投げられたクナイをかわした拍子に、銀時はそのまま階段を転げ落ちた。そのすきを逃さず、奈落が三人、そのまま襲いかかってきたが、

 

 

──ドカッ!!

 

床に剣を突き立て、その反動で起き上がりながら一人を蹴り上げ、迫る二人を木刀で気絶させた。

 

 

「おらっ!!」

 

気絶させた奈落を、烏に向かい投げた。それを全く躊躇うことなく、切り捨てるが、その先に夜叉の姿は無い。

 

 

「!」

 

烏の切り捨てた奈落の背後に、赤い眼光を貫かせる夜叉が、烏に向かってそのまま振り下ろした。

 

 

「銀時っ!殺った……訳ではないな。」

「こんなんで倒れてくれりゃあ、苦労はしねぇよ。」

 

三人が中心に集まることが出来たのも、束の間だった。

 

 

銀時の横から飛んでくる小さな刃と、烏が落ちた煙よりも上から振り下ろされる刃に気づいたのは。

 

 

 

 

──ドガーーーンッッッ!

 

比にならないほどの煙が舞い上がり、その重さで引きずられるように退行する。そのお陰で、横からきていた小さな刃には当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

「あなたの手を汚すまでもありません。」

 

「「!!」」

 

その声に反応したのは二人。

 

 

一人は、普段からは考えられないほど青ざめ、僅かだが剣先が震える程だった。

 

「おい、大丈夫かっ!」

「まさか……っ、あの人まで……。」

 

 

もう一人は、見たくないものを……、

 

目の前の世界を信じたくない顔。

 

 

「嘘……だろ……っ?」

「十年……

 

 

あなたは何も変わってない。」

 

見下ろされる目は、面影などない。

 

 

 

「みどり……??」

 

何も知らぬ月詠は、煙の中から僅かに見える姿で判断した相手は、先程まで一緒だった潮屋みどりだった。

 

「違う。……あれは潮屋みどりじゃない。」

「なに?」

 

その高まる緊張に、信女は無意識に剣を構え直した。

 

 

「先程、私のことを奈落最強と呼んだな。それは誤りだ。」

「やっぱり……、……朧。」

 

不気味な面を外した男が、煙の中から近づいてきた。

 

「奈落最強は、私ではない。この者だ。

 

 

 

 

白夜叉、貴様なら誰かすぐに分かるだろ。

貴様が命をかけてまで守りたいと、救いたいと願った相手だ。」

 

それを言われ、……いや、言われる前から、銀時の頭には既に一人の名前しか浮かんでいなかった。

 

 

「葵……姉……??」

「「!?」」

 

銀時の発した言葉に、少なからず動揺する二人。

 

「あの人は有名人。天照院奈落に所属して、あの人の存在を知らない者なんていない。

 

まさか……、あなたの姉だったなんてね。」

 

 

 

冷酷な目で銀時を見下ろす。その姿は、十年前、味わったものと何ら変わってはいなかった。

 

「やっぱり……テメェかよ……っ。」

 

銀時の見る先は葵ではなく、その後ろ。……朧であった。

 

 

「朧、知り合いであったのか。それにその女子は……」

「殿……寛政の大獄を覚えておりますか。

 

 

攘夷戦争。天人の受け入れを否定する、野蛮な集団が、祭り騒ぎに幕府を攻め、開国を拒んだその戦い。

その中で、天に仇なす、もしくはその恐れのある者を処罰した改革。

 

この者は、改革の中で捕えられましたが、腕を見込まれ引き抜かれ、

 

そして現在、天照院奈落最強として、存在している者です。」

「!!!」

「ほぉ、それは心強い。……で、そちらの者は?」

「……。

 

 

この者を、何度も取り返そうとした無謀者です。」

 

 

少し後退したのは、目の前の葵の圧だけではない。

 

本能的に、これ以上聞いてはいけないと、身体が拒んだのだ。

 

 

「攘夷戦争における四天王のうち、最後まで残っていた三人。

 

桂小太郎、高杉晋助、そして……白夜叉・坂田銀時。

ただ一人を取り戻すために、最後まで幕府に仇なした者共です。」

 

 

銀時が力なく座り込んだ。そこに近寄る葵に対して、誰も動くことが出来なかった。

それは彼女の発する圧が、常人には耐えることの出来るものでは無かったからだ。

 

「忠告……しませんでしたか。」

「!!」

 

そして、その声は。

かつての面影など、微塵も感じさせない冷たい声。

 

「君たちでは、私に勝てないと……十年前に言ったはずだったのですが。」

 

 

その瞳は、先程まで赤く光っていたものと同じとは考えられない。暗く、闇を落とした瞳。

それほどまでに、銀時の中で葵の存在は大きかった。

 

「あの時と同じだな。自分の力をはかり間違える。

 

そこで見ていろ。

あの時と同じように、大切なものが、お前の守りたいものが、その目の前で消えていく様を。」

 

銀時が思い出したのは、幼少の記憶。

まだ幼い自分は何も出来ず、ただ連れ去られていく姉を見ていただけの自分。

 

「あとの処理は任せる。」

「分かりました。」

 

定々を連れ、朧は奥に歩いていった。

 

 

 

──シュンッ

 

「「!!」」

 

剣を振り、こちらを向いた葵に、月詠と信女は構えた。

そして、それを合図にするように、周りを囲んでいた奈落たちが一斉に襲いかかった。

 

 

──キーンッッ!

 

──ドカッ!!

 

 

「銀時っ!!立てっ!!」

 

月詠の声も届かず、銀時の目に映るのは、全く動かずこちらを見ている葵の姿だけ。

 

 

 

 

───葵は、大切な弟たちを理由もなく突き放したりしません。

 

大切な師の言葉を思い出す。

 

 

───てめぇの目は節穴か!目の前にいるのが誰かなんていわせねぇぞ!!

 

憎まれ口ばかり叩く、好敵手の声が響く。

 

 

───私があなたを守ってあげるから。……君を一人にしないから。

 

初めて会った大切な人に言われた言葉が、抱きしめられた温もりが、蘇る。

 

 

 

 

「(動け……。動いてくれ……。頼むっ……。)」

 

光の中にいるのは、ついてこいと言わんばかりの後ろ姿しか見せない師と……

 

「(守る……、今度は、俺が……っ、必ず……っ!!)」

 

 

振り向いて手を差し伸べる、笑顔の大切な姉。

 

 

 

 

 

 

 

──銀時……

 

「!!」

 

呼ばれたのは、その人がくれた大切な名前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵姉ぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

──ドカーーーーンッッッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

今日一の爆発。そして、後に続くは……

 

「信女さんから連絡を頂きました。

エリートの名にかけて、皆さん逮捕しますよ。」

 

白と、

 

 

「こんな時間に騒ぎすぎだー。一体何時だと思ってる。」

「全員、神妙にお縄につけ。」

「ついでに、いい獲物も引っかかったみたいですぜィ。」

 

黒と、

 

 

「こりゃあ、大層なお出迎えじゃねぇか。」

「まぁ、俺たち相手では、多少物足りない気もするがな。」

「一人、使えねぇ奴もいるからな。」

「まぁ、リーダーの頼みだ。聞かぬわけにもいかん。」

 

 

「高杉……、ヅラ……。」

 

亜麻色の元で育った、弟。

 

 

 

 

 

「久しぶりじゃねぇの、葵。」

「葵殿、今日は俺たちの相手もお願いする。」

 

 

 

 

 

 

十年の因果が動き出した。






最後までお読みいただき、ありがとうございます!
評価・感想お待ちしております。


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僅かな違和感

お気に入りが増えて嬉しいですm(_ _)m

ありがとうございます!!


 

「何やってんだ、テメェら。

お前らがそのザマじゃ、俺たちの首が飛んじまうんだよ。」

 

「これ以上、エリートの顔に泥を塗らないでいただきたいですね。」

 

銀時たちのいる城内には、白である見廻組。

神楽と新八の行く背中を守るのは、黒である真選組。

 

 

「貴様らっ!!幕府に仕える、しかも警察の身でありながら、賊に加担するつもりかぁ!!!この逆臣ども!!!」

 

激昴する幕府の兵士に答えるは、黒の長。

 

「賊に加担?人聞きの悪いことを言わんでいただきたい。

 

その賊たちの刑の執行は、明朝であるとおふれがあったはず。それをまだ日も昇らぬうちに、手打ちにしようとは。

幕命に背く逆賊は、そなた等の方ではなかろうか!!

 

我々は大殿からその者の見張りを仰せつかった。ならば、明朝までその者の首を守ることが、我々の使命である。」

 

「よもや、見廻組を城内に手引きしたのも、貴様らの仕業か!!見廻組と手を組み、クーデターを起こそうとっ」──ドカーーーーンッッ!!!!

 

 

兵士の話の途中で、辺り一帯は爆発の煙に包まれた。

 

「誰が!誰と!?何をして、何デターを起こしたってぇ??

 

 

もっ回言ってみろ。」

「トシィィィ!?落ち着いてぇぇ!?」

「よーし、近藤さんっ!あいつらまんまと城内に入りやがった!このまま城に火放って、狸ジジイもろとも焼き討ちだぁ!」

「副長……、それじゃあ攘夷志士ですよ……。」

「そうですぜィ、土方サン。

せっかく檻の中に自ら飛び込んできた餌があるのに、焼き討ちなんざもったいねぇでさァ。」

 

 

総悟が見る先は、城の正面。

 

「いいですか?既に城は、我々エリートが包囲しました。武器を捨て大人しく投降しなさい、なんて言いませんよ。本当に捨てたりしないでくださいね。

丸腰の人間を切り捨てたなんて、エリートの名に泥を塗るだけですから。最期まできっちり抵抗して頂かないと、困るんですよ。」

 

「遅い。」

「すみませんね、信女さん。我々エリートだけならもう少し早く来れたのですがね……」

 

佐々木が見据える先には、世界中、どこを探したって知らぬ者はいないであろう顔。

 

「チンタラしてたのはてめぇらの方だろ。」

「いいですよ、どうせ凡人には分かりえませんからね。」

 

 

 

 

銀時の前、……葵との間に立つ二人。

 

「君らまで来たんですか。」

「……あの時とは違いますよ、葵殿。」

 

そう言って二人は、葵に刀を構える。

 

「お前ら……っ!」

「なんだ、大して怪我もしてねぇのにへばってんのか。」

「あぁ!?うっせぇよ!!へばってねぇよ、別に!!」

「助けに来てやったのに、なんだその態度はぁ!!」

「誰が助けに来いなんざ、頼んだぁ!?」

「はぁ!?今まさに殺られそうになって奴が、偉そうな事言ってんじゃねぇぞ!?」

 

「うるさいっ!バカ二人!!!」

「「うっせぇ!ヅラァァ!!!」」

「ヅラじゃない!桂だァァァ!!!!」

 

まるでコントのような会話が繰り広げられた。

 

「……これだから凡人は困りますねぇ。」

 

 

改めて、銀時も合わせて三人が、葵に刀を向けた。

 

「言っておくが、テメェを助けに来たわけじゃねぇ。」

「俺たちは葵殿を助けに来たのだ。お前はそのついでだ、銀時。」

「ついでだぁ!?」

「帰ったらリーダーたちに感謝しとくことだ。

懇願されだぞ、『お前を助けて欲しい』とな。」

 

そう言われた銀時は、微かに笑った。

 

「ったく、あいつらも余計なことしやがるぜ。」

 

 

 

「今生の別れは済みましたか。」

「悪ぃが、今生にする気はねぇし、あんたを手放すつもりもねぇ。」

「……そうですか。」

 

そう言うと、葵は手に持っていた刀を離した。手放された刀は重力に従って床に落ちる。

それを合図に奈落たちが一斉に飛びかかった。

 

 

──バンッ!!!

 

──シュンッ!!!

 

「こっちは任せろ、銀時。主らが取り戻さなければならぬ相手なのだろう。」

「……あぁ。ありがとな。」

 

「全く……仕方ありませんね。

 

 

全てのエリートに告ぎます。これから、エリートはあの凡人たちを守りなさい。エリートの威信にかけて、失敗など許されませんよ。」

 

 

 

 

 

──ギーーーンッッッッ!!!!

 

奈落に目もくれず、何の合図もなく、三人が一斉に一人に飛びかかる。

 

 

「葵姉ぇぇぇ!!!」

「……。」──シュンッ!!!!

「「!!!」」

 

それは、葵が抜いたところを見たことのなかった刀。

 

「どうぞ。」

「!」

「教えてあげます、君たちと私の差を。」

 

 

──シュンッ!!

 

──キーンッッッ!!

 

──ドカーーーンッッ!!

 

 

「てめぇ!ヅラぁぁぁ!!!爆発に俺たちまで巻き込まれるだろぉ!!!」

「俺は、そのような能無しではないっ!!!」

 

 

時々そんな言い合いも飛び交う戦闘は、周りにいるものの興味を一心にひきつけた。

 

「さすが、攘夷四天王と呼ばれる三人なだけありますね。」

 

それは、その息の合った三人の戦いに……

 

「違う。」

「……分かってますよ、信女さん。」

 

 

ではない。

 

「あやつは何者なのじゃ……。」

 

その三人を相手しているにも関わらず、疲れる様子も見せない、

かすり傷すらつかない、葵の方に目を奪われていたのだ。

 

 

 

「ったく、相変わらず舞うみたいだぜっ!」

 

桜がよく似合いそうな、舞を舞うように全ての攻撃を防いでいった。

 

 

そしてそれは、回数を増す事に学習するように三人の速さを上回ろうとしていく。

 

 

 

 

 

それは僅かな違和感。

 

普段なら絶対気が付かない、戦うことに夢中な銀時と高杉には感じることすらない、そんな些細なこと。

 

 

 

 

「(……上回ってこない。)」

 

学習している。相手は、自分たちは幼かったとはいえ一度も勝てなかった人物。そのはずなのに……、いつ自分らの速さを上回ってもおかしくない状況なのに。

 

葵と三人の剣速はずっと拮抗していた。

 

ただ本当に、四人の力が拮抗しているだけなら、桂も疑問に思わない。

でも違うのだ。

桂も高杉も銀時も、その辺にいる雑兵ではない。積んできた経験が違う。その記憶と本能が、三人の速さを自然と上げていっていた。

 

 

つまり、普通ならば三人の速さが、葵を上回ってもおかしくない、葵も三人に負けじと調子を上げてきているのならば、上回ることはなくても拮抗し続けることなどありえない。

 

そんな状況で葵は、三人と剣速を

 

 

 

 

 

 

 

常に拮抗するように調整している(・・・・・・)としか考えられなかった。

 

 

「(葵殿……??)」






登録者数が700人を超えそうで、とても嬉しいです。
次話もなるべく早く投稿しますので、よろしくお願いします。


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八咫烏と忠臣……そして、友。

 

「一体、何事だ。」

「真選組と見廻組、江戸の二大武装警察が手を組んだようです。」

「まさか。彼らは犬猿の仲だと聞いていたがね。」

 

城の高いところから見下ろすのは、葵によって逃がされた定々と朧。見下ろす先は、黒と白が入り乱れる城下。

 

「おそらく何者かが仲立ちしたと思われますが……。気にすることは無いでしょう、もうすぐ船が来ます。用心のためご避難を……。」

 

 

朧が誘導しようとしたが、定々は見下ろした城下に対して高笑いをした。

 

「あの者ども、本気で国盗りをするつもりか。ならば……私も応えてやらなければならないな。」

 

定々は朧に命じた。

 

「江戸の全ての警察組織を城に集めてもらえるかね。

 

 

 

 

全ての力を持って、あの国賊どもを叩き潰すっ。」

 

───────────────────────

 

 

定々と朧が移動している頃、城内では戦闘が続いていた。

 

 

「まさか、バテてんじゃねぇだろうなぁ?」

「あ゛ぁ゛!????てめぇこそ、ヒョロっヒョロのくせにうるせぇよ、低杉っ!!」

「テメェに言ってねぇよ!!!銀時っ!!!」

 

 

口を動かしながらも、その動きが鈍くなることは決してない。むしろ、早くなる一方だった。

そして、その早くなる動きに対して、寸分の狂いもなく全てを受け返されているのも、また事実だった。

 

ただそれは、相も変わらず決して気づかれないように。

 

 

「そろそろケリつけようじゃねぇか、葵っ!!!」

 

高杉のその言葉を合図に、三人か一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 

──ドガーーーーンッッッ!!!

 

三人の剣が振り下ろされたところは、煙が立ち込めた。

 

 

見えた、いや……見せた(・・・)のだろうか。はっきりと桂の目には写ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真剣である桂と高杉の剣だけを避けつつも、銀時の剣をその身に受ける葵が。

そして、気づいていることにさえ気づいた葵が、確かに真っ直ぐこちらを見て、

 

 

 

桂の方に僅かに微笑んだのを。

 

「!?」

 

 

 

 

 

剣が当たった葵は、壁まで吹っ飛ばされ、ピクリとも動かない。

ただ、三人は葵が死んだとは考えなかった。考えられなかった。

 

 

「行くぞ。」

「?……どこに行くつもりだ、銀時。」

「お前らもわかっただろ。葵姉を連れ戻すには、縛り付けてる本丸を叩かなきゃならねぇ。

葵姉を取り戻すのは、全部ぶっ壊してからだ。」

 

 

 

 

 

──ドガーーーーンッッッ!!!

 

 

城の中にいても聞こえるような、大きな爆発音。

 

全員が一瞬、外を見たがすぐに戦闘は再開する。その様子を後ろに、階段を登り下を見る。そこでは三人を追おうとする奈落の集団を、足止めする死神太夫と見廻組。

 

銀時は少しだけその光景を見て、走り出した。

 

 

 

───────────────────────

 

 

「な、何事だー!!!」

 

突然の爆発に、城の外で真選組と戦っていた兵士達は戸惑う。

 

「た、大変ですっ!!北門、南門から、軍勢が!!」

「馬鹿な!?一体、何者だ!!」

 

 

「いいかぁ!三秒以内に道開けろぉ?じゃなきゃ、天守閣ぶち落とすぞ。」

 

現れたのは黒い服に身を包み、サングラスをかけ、タバコをくわえる大砲を引き連れた男。

 

 

 

 

「いーち!」──ドガーーーーンッッッ!!!

 

 

 

「2と3はぁぁぁあああ!?!?」

 

その男に、天守閣は撃ち落とされた。

 

「いいか、男は一だけ覚えときゃぁ、生きてけるんだよ。」

 

 

その男、松平片栗虎。警察庁長官。江戸の警察組織のトップに立つ者。

 

「馬鹿な!警察組織そのものが、反乱を起こしただと!?」

「そんな馬鹿げたことあるはずがない!反乱どころか、あの人員……大殿の許諾なしに動かせるはずは……っ!!」

 

「一人だけいるんだよ。」

 

兵士の前で近藤が言い切る。

 

「警察でもなんでも、勝手に動かせる人が。

 

 

まだ分かりませぬか!定々公っ!!」

 

 

集まっていた真選組が二つに分かれ、中央の道に向かって整列する。

そこを馬にまたがり、悠々と歩くは……この国のトップ。

 

「う、上様っ!?」

「茂々……、お前の仕業か。」

 

──徳川茂々公。

 

 

「武器を収めよ。くだらぬ争いは好まぬ。

主らも、いずれはこの国を守る大切な兵ぞ。その命、みだりに散らす事は許さん。」

「し、しかし……」

「聞こえなかったか。

 

 

武器を捨てよと申しておる。」

 

 

そこに君臨するは、──将軍。

圧倒的なオーラが、その場にいる者をひれ伏せさせた。

 

 

 

「どいてくれるか。」

 

真選組が避けた先にいたのは、万事屋。新八と神楽、そして爺や。

後ろで、近づいてはならぬと叫ぶ声も気にせず、茂々は近づき、そして、頭を下げた。

 

「余が不甲斐ないばかりに、迷惑をかけた。礼言わせてくれ。

汚名を着てまで、よくぞ余の忠臣を守り抜いてくれた。

そなた達がいなければ私は、私たち兄妹は、大切な育ての親を見殺しにするところであった。

 

爺や、済まなかった。こんなに近くにいたというのに、……お前の苦しみに気づいてやれなくて。その人生をかけ、将軍家のために尽くしてくれたというのに。余はお前を苦しめることしか出来なかった。

 

 

爺や、……まだ間に合う。満月の夜の約束……、余が、必ず間に合わせてみせる。」

 

 

爺やを真選組に任せ、立ち上がる。

 

「将軍様、どちらに……?」

「叔父上に……話がある。

 

 

それから、頼みがあるのだが、聞いてもらえぬか。」

「「??」」

 

茂々は神楽と新八に、そこにいる者たちに聞こえるように言った。

 

「一人、訪ねて呼んできてほしい者がいるのだ。」

「呼んできてほしい人……?」

 

「幼き頃から余を守り、そして余を信じ、全てを話してくれ、片栗虎の元に行くことになった……、余の友。……余がここにおるのは、その者のおかげだ。

 

その者と話すべく人がおる。主ら二人ならば、分かってくれるであろう。」

 

 

天守閣を見上げ、茂々は思い出していた。

 

 

 

 

『本日から、茂々様の護衛を担当します。よろしくお願いしますね。』

 

次期将軍という身分により、どの者も壁を作り接してくる中で、数少ない、自分を年相応の子ども……弟のように接してくれた者。

 

 

『この方に手をあげるであれば、私を殺してからに致していただきたい。』

 

狙われる命を、何度も防いでくれた。

 

 

『これから申し上げること、信じてもらえないと思います。

ですが、どうかお聞きください。そして、どうか、この国を、お守りください。

信じて頂けるのであれば、私は、あなたの味方であることをお誓いいたします。』

 

自ら危険を冒して、導いてくれた。

信じると言った時の、笑顔と…………涙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殿。天導衆の船がもうまもなく、この城につきます。上に参りましょう。」

「半生をかけて積み上げたものを、捨てろと言うのかっ!!」

 

 

 

「捨てろとは申しておりません。一時、手放すだけです。またすぐに、戻って来れますよ。」

「戻ったか……、」

 

 

定々と朧の元にやって来たのは、死にはせずとも動けるような状態ではなかった傷を負った人物。既にその傷は癒え、

 

 

 

 

「葵……。」

 

長い髪をなびかせ、そこに立っていた。

 

「貴様ら、死肉を食らう八咫烏を信じろと申すか。ならば、その忠誠、示してみよ。」

「……いかほどに。」

「吉原に参れ!そして、鈴蘭を…………殺せ。」

 

 

動くのは、私腹を肥やした狸と……天を衝く烏。

 




「二人とも!!ちょっと、待って!!」
「早くしないと……っ、銀ちゃんも、みんな可哀想アル……。」
「新八くん、頑張って下さいっ!!」

全力で走っていた。会うべき人が、会わせなければいけない人がいた。
茂々の話を聞いて思い浮かんだのは、ただ一人だった。


「車、持ってくればよかったですね……。」
「何で走ってきたアルカ。運転出来るの、蒼汰しかいないアルヨ?」

走っているのは江戸の郊外。すでに夜は更けており、人の姿は無かった。


「……どうなるんでしょうか。」
「蒼汰さん?」
「正直、なんて話せばいいのか分かりません。どうすれば……」


「大丈夫アル!」
「神楽ちゃん?」
「銀ちゃんが大切に思ってる二人ネ。絶対に大丈夫ヨ!!」

一瞬、暗くなった空気が少し明るくなった。





──きっと、父さんが何とかしてくれる。

──やっと会えた。





……葵姉ちゃん。


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本心を探せ


少し短くてすいません。
もう少しで原作からは脱しますよ。


 

「わしを裏切った全てのものに、目にものを見せてやる!!」

 

殺意を浮かべた定々が朧と葵に連れられ、江戸城の屋上につく天導衆の船に乗り込む。

 

「我らも後から参る。舵は吉原だ。」

 

深く帽子をかぶった奈落に、朧は指示を出した。

 

しかし、

 

 

「……朧。」

 

小さな声で葵が囁いた。見つめる先は一点、定々が乗り込んだ船の後方。それは城内で大量に見た、紐に取り付けられたクナイ。風になびいて、─カンカンと音が鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

「吉原?」

「!!」

 

その声は二人の背後。

次の瞬間、定々を連れていた奈落は切り捨てられ船から落ちて来た。

 

「なっ!?」

 

定々の見た船上は、すべての奈落が倒され、真っ赤に染まっていた。

 

 

「残念、当船の行き先は極楽ではなく……」

 

定々の後ろに立つのは奈落ではなく、桂小太郎。

 

船の中心であるエンジンに立つのは、刀を構える高杉晋助。

 

 

 

「地獄行きだ、コノヤロー。」

 

背後に立つ坂田銀時の木刀が、朧の顔にヒットし、壁まで吹き飛ばされた。

 

 

 

「貴様が守ってきたというのならば、最後まで守るものが頭というもの。敵に縋りついた時点で、貴様は頭ではない。」

 

船上では桂が二本の刀で両脇の着物ごと壁に縫い付け、天導衆の持つ杖の武器を足の間に投げ拘束した。

 

 

──ドガーーーンッッッ!!!

 

そして、高杉によって船のエンジンは爆破された。

 

 

 

 

 

「貴様、性懲りも無く再び我が前にまい戻ろうとは……っ。

 

まだ抗うか、まだ吼えるかっ。その瞳を閉じれば二度と失うことは無いというのに。

それでも貴様はまだ、戦場に立つか……白夜叉っ。」

 

炎と煙が立ち込める場で、白夜叉と八咫烏が見合った。

 

「既に何もかもが遅い。お前たちがどのように足掻こうと、もう何も戻らぬ。国も、仲間も……葵もだ。」

 

 

上空には、今までの船と比べることすら出来ないほどの大きさと数の船が浮かんでいた。

 

「まさか……、騒ぎを聞きつけて天導衆自らが降りてきたのかっ!?

 

 

終わりだ……貴様らは、もう終わりだ!!」

 

再び江戸に、定々の醜い高笑いが響いた。

 

 

「貴様が来るべきはここでは無かった。自らの愚かさを恨み、地獄へ帰れっ!!」

 

──シュンッ!!!!!!

 

 

 

───キーンッッッッッ!!!!!

 

「!?」

 

朧が投げたクナイを、一振で全て撃ち落とした。

そして、そのクナイによって船が爆発を起こし、黒い黒煙があたりを覆い尽くした。

 

 

──シュンッ

 

「!?」

 

───シュンッ!

 

────ザシュッ!!

 

 

黒煙の中から飛んできたのは、奈落が使用する経絡を麻痺させる毒針。全く視界のない中で、寸分の狂いもなく朧の身体に当てた。

 

「地獄へ帰れ?

 

ここが俺とお前のデート場所じゃねぇかよっっ!!」

 

背後から人影が浮かび上がったのを見逃す朧ではなかった。その姿を現す前にすかさず蹴りを入れ、弾き飛ばした。

 

「俺の技が、俺に通ずるとでも思ったか。

 

我が暗殺術は、敵の経絡を読み攻める技ではない。己が経絡を操り、その芸を最大限引き出すものだ。毒を廃することなど、造作もないことよ。」

 

 

 

「お、朧……っ。」

「!?」

 

黒煙が晴れた先にいたのは、朧の放った毒針にやられた銀時ではなく、その毒針によって壁に貼り付けられた定々の姿だった。

 

 

「その辺にしといてやれよ。確かに地獄に落ちるだけじゃ足りねぇような奴だが、てめぇで作った法で裁かれんのがそいつには似合いだ。」

「貴様っ!!」

 

振り向いた朧が何か言う前に、銀時の刀が振り下ろされた。

 

 

──ガンッッ!!!!!!

 

 

銀時が振り下ろした方向に黒煙が舞い上がった。

 

 

 

 

──カタカタ──カタカタ

 

銀時の刀が微かに震える。

 

 

 

「なんで……」

 

斬ったことに恐怖するはずもない。

 

 

「どうして……っ」

 

力が余り、強く握りしめているわけではない。

 

 

「そこまで、そいつのこと守んのかよ……、

 

 

 

葵姉ぇぇぇっっ!!」

「……。」

 

上から振り下ろされる銀時の刀を、腕一つで受け止めていたから。

そのまま振り回す葵の刀をかわすために、銀時は後退した。

 

 

 

──カチャ

 

葵が刀を構え直す。

 

「何があったのか知らねぇけど……、

 

俺は引きずってでもあんたを連れて帰る。」

「……そうですか。」

「!」

 

 

ありえない速度でその間合いを詰めてきた葵を、ギリギリのところで防いだ。

 

 

「へっ……、勝負だ、葵姉。」

 

 

 

気づいた。

 

刀を防ぐのがギリギリになったのは、その葵の速度だけが原因じゃなかった。

 

 

──ちゃんと、……あんたはいる。

 

 

 

連れて帰ると言った時の葵の顔は、

 

 

 

 

 

「ちゃんと、笑ってる。」

 

 



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願うことは、いつもきみ達の幸せでした。

こんにちは。


書いてる作者が、シリアスで、悲しくなってきた。←


 

《銀時side》

 

 

──キーンッ!!

 

──ダンッ!!!

 

──ドカーーンッッ!!!!

 

 

目に見えない速さとは、こういうことを言うのだろう。

 

二人の……、葵と銀時の戦いは、空気中にその衝撃の振動がかろうじて見える程度。常人には、その振動さえ目で追うことなど出来ない。

 

 

ましてや、そのどちらかと戦うなど、瞬殺もいいところだろう。

 

 

 

「くっそ、腕は相変わらずだなっ!!」

 

──ドカーーンッッ!!!!!!!!

 

 

今日一番の爆発と爆煙が広がる。それだけ銀時が思いっきり木刀を振ったのだが、その木刀が振り切れることは無い。

葵は相も変わらず表情一つ変えずに、その木刀を受け止める。

 

 

「んな無表情でやられっと、銀さん傷ついちゃうよ?」

 

銀時は気づいていた。

 

自分が、少しずつではあるが追い詰められていること。

外傷はなくとも、体力と精神力は確実に削られていた。

 

だから喋るのは、体力を使うだけで無駄なのかもしれない。でも、銀時は喋らずにはいられなかった。

 

 

 

『はい、脇が甘いね。』

『いでっ!!』

 

 

『踏み込みが甘い。』──スカッ

『くっそ……』

 

 

『……。』

『……ふふっ。』

『??』

 

 

今でも覚えてる。俺の、楽しかった記憶。

負けてばっかりで、結局、今の今まで勝つことなんて出来てないけど。

 

それでも楽しかった。葵姉に挑む毎日は。

 

 

 

そして覚えてる。

 

 

「……随分と喋りますね。」

「あれれー?忘れちまったのかよ、葵姉。葵姉が言ったんだぜ?」

「……。」

 

 

「『いつも余裕を持って。

 

黙っちゃったら、相手に、俺は追い詰められてますよー、って言ってるのと同じだよ?』

 

ってな!!」

「……っ。」

 

 

 

──ドカーーンッッ!!!!

 

あの時とは違う体格。いくらその実力の差があるとはいえ、男と女だ。一瞬でも隙があれば……。

 

そして、あんたに教えて貰ったことをやれば。俺は強くなれた。

 

 

巻き上がる砂煙に神経を尖らせる。……が、次に葵姉が現れたのは前ではなく、

 

 

「危ねっ!!……下っ!?」

 

いつの間にか移動していた、城のどこかの屋根の上。その屋根を破壊して、下から葵姉の刀が突き刺さりかけた。

 

そのまま屋根ごと破壊して、二人は真っ逆さまに落ちていく。意外と高いところにいたらしく、着地まではまだまだありそうだった。

 

 

「っ空中でもお構い無しかよ!?」

 

一体、どこにそんな筋肉があるのか。どこにも踏ん張る場所なんてないのに、勢いよく刀を振ってくる。……もちろん、俺も受け止められるが。

 

 

──パリーーンッッ!!

 

「……。」

「!?」

 

 

拮抗し続けた刀と木刀は、空中で分解された。

が、驚いてる暇なんてない。葵姉は、すぐさま割れた刀の破片を掴んだ。

 

 

 

──まずいっ!

 

咄嗟に思った。今、この状態で、この空中で、この攻撃を受けたら、その傷も、落下した時の衝撃も、もしかしたら死ぬかもしれなかった。

 

すぐにその刀を防ごうと、……木刀を握った。

 

 

 

 

握ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっと、」

「!?」

「……

 

 

 

 

やっと、終わる……。」

「!!」

 

 

──ズシャッッ!!!!

 

それは、耳を塞ぎたくなるような……、それでも、聞き慣れてしまった音。

 

──内蔵を貫いた音。

 

 

「……は?」

「……

 

銀時。」

「!!……あおい、ねえ……??」

「……ごめんね。」

 

 

木刀を握る俺の手は葵姉に掴まれて、その刀の先は葵姉の身体の中。

信じられなくて顔をあげたら、そこで見たのは……

 

 

 

「守れなくて……っ、ごめん……なさいっ。」

 

苦しい顔をした、笑顔の葵姉だった。

 

 

───────────────────────

 

 

 

……分からなくなっていた。

 

 

引き際が分からなかった。

 

 

 

 

「お前の目的は、なんだ。」

「……吉田松陽を、

 

 

 

 

守ること。」

 

あの日、確かに誓った。今も変わってない。

 

 

──松陽先生を、父上を守る。

 

──大切な弟達を守る。

 

 

 

松陽先生の身代わりとして朧に連れてこられた私は、すぐに天導衆に謁見した。そして、

 

「ほぅ、朧が連れてきた女子か。」

「まぁ、よい。その者を使って、吉田松陽を捕らえるのも、悪くなかろう。」

 

すぐに、朧の側近として通された。

 

 

そこで、初めて聞いたのだ。

 

 

 

「お前に、話しておくことがある。」

「??」

 

 

 

 

──朧と父上との関係を。

 

───朧が、銀時たちや蒼汰の兄弟子に当たるということ。

 

「……!?」

「お前にも、知らぬことがあったということか。」

「いえ……、想像はしてましたが……。」

 

 

出来てしまったのだ。もう一つ、守りたいものが。

 

 

朧と組んだ時点で、事を起こすならば一国傾城篇だとは思っていた。

そこで私は、晋助の代わりに定々を殺し、天導衆を出来るところまで一掃したいと考えていた。

 

 

だが、会わせたくなってしまった。朧が、どうしても悪い奴だと思い切れなくなってしまった。そして、一国傾城篇で銀時と朧が戦うことすらも、避けたくなったのだ。

 

全てに手を出すことはおこがましいのかもしれない。それでも、手が届く範囲であるならば、守りたかった。

 

 

 

考えた。何をしなければいけないのかを。

 

この時、最も危惧していたのは、原作からかけ離れてしまうこと。

なにかの歯車が最悪な形でハマってしまい、松陽先生の命が危険にさらされては意味が無い。だから、なるべく原作のまま、最後に定々を殺し、天導衆を片付け、私の仕事は終わりだと思っていた。

こんな僅かなことを、と思うかもしれないが、異端者である私が何かをしでかしたせいで、より悪い展開になってしまうことが怖かったのだ。

 

 

「だけど、それだけじゃ、朧は救われない。」

 

この先どうなるか詳しくは知らないけど、記憶の限り朧VS銀時と晋助という場面があったのは覚えてる。

 

例え、松陽先生が生きていて、もしかしたら止めてくれるかもしれないとはいえ、そのことを知っている私がどうにかしなければと思った。

 

 

「朧。」

「何だ。」

「……、

 

全てを捨てて、私を信じる覚悟はありますか?」

「俺の全ては吉田松陽だ。お前を信じた時点で、俺は何も捨ててはいない。」

「……ふふっ、

 

そうですか。」

「……なぜ笑う。」

「気にしないでくださいな。」

 

 

真っ直ぐ信じられるというのは、恥ずかしく、純粋に嬉しいものだ。

 

 

 

そこからの行動は早かった。

茂々に直談判をするために、その直近として側にいた。そして、一国傾城篇が近づいた時、全てを将軍・茂々に話した。

 

その上で、この先も全てをお守りするという約束で、朧を傘下に入れ、守って欲しいとお願いした。

 

 

松陽のもとへ寝返った場合、松陽よりも先に朧が消されるのは間違いなかった。奈落最強と言われる剣の腕は、伊達ではない。

 

 

「では、条件がある。」

「私にできることであれば、何でも致します。」

「その朧という者と一緒に、そなたも余の側にいることだ。」

「!」

「部下ではなく、……友としてな。

 

そなたにとっては、願いを叶えるべくしてした行動でも、余にとっては、そなたといる時間はとても楽しかったのだ。

将軍ではなく、茂々として扱ってくれるそなたが。」

 

まだ幼い将軍様は、幼い頃の蒼汰や銀さんを思い出させた。無意識にそうなっていたのかもしれない。

 

 

 

「この先、あなたの味方であり続けること、ここにお誓いいたします。

 

 

 

 

……あなたの友として。」

 

跪き誓いをたてた。

 

 

一国傾城篇でやるべき事が、少し増えた。

 

 

 

定々を殺す。

そして、茂々のあの時出される辞表を回収する。あれは、後々面倒なことになる。

 

それから、朧を奈落の前で将軍の側であることを示す。これはきっと、将軍が何とかしてくれる。

 

 

 

 

……最後に、

 

朧と銀時(大切な弟たち)の戦いを止める。

後から気づいて、傷つくのでは遅いのだ。

 

 

ならばそれは、

 

 

異端者であり、

 

 

 

 

 

 

君たちの幸せを願う、

 

 

 

 

 

 

 

 

姉の仕事だよね……??




「銀時……、ごめん。」
「!!」

驚いた顔をする銀さんの首に腕を回し、そのまま空中の位置を逆にする。






後……もう少し。

私の身体が、尽きる前に……。


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舞い降りた者たちは……


たくさんの人に読んでいただき、そして、たくさんのお気に入り登録をして頂き、ありがとうございます。

やっと!やっと、ここまで来たか!という感じですね...♪*゚
まだまだお付き合い、よろしくお願いします。


 

──ザッザッザッザッ

 

巨大な船から同じ格好をした者が大量に降りてきた。

 

 

「天導衆か。」

「大事な人形のピンチに、思い腰を上げたというところだろうな。」

 

相対するは、城の屋上に残っていた高杉と桂。

 

 

「残念であったな。

 

言ったであろう、誰もわしを裁くことなど出来んのだ。裁かれるのは、貴様らなのだとっ!!」

 

 

 

大量の群衆の中から、リーダーと思われる者が出てきた。

 

「定々公。随分と痛いしっぺ返しを喰らったようだな。あえて理由は聞くまいが、理由の如何に関わらず、天下の聖堂である殿中でこれ以上騒ぎを起こすは、双方、本意ではないはず。

そなたらにも言い分はあるであろうが、この争い一旦、我らに預けよ。

 

定々公の処遇は、充分な先議の上、慎重に取り計らうべきではないか。」

 

 

高杉も桂も気づいていた。預けよと言いながらも、定々を手中に収め、一層、江戸をその手で操ろうとしているのだ、と。

おそらくその処遇も、処罰もなく、江戸を売り渡すなどして何食わぬ顔をして戻ってくるのであろうことも。

 

 

だが、これ以上、突き進むことも出来ないのも、また事実であった。

 

焦らされる桂に対し、高杉はそれほど気に留めてはいなかった。

 

「俺らの目的はこの国じゃねぇ。葵がどうにかなるなら、この腐った国なんざ売り渡してやらァ。」

「高杉……、お前な……。」

 

 

 

「政道を正すためとはいえ、これほどの騒ぎを起こしたそなたらの処遇も……」

「その必要はござらんっ。」

「!」「……。」

 

爆破と騒然とするその場を収めるかのような、凛とする声。

 

「わざわざご足労頂いたところ申し訳ござらんが、これは我々の国で起きた問題。

 

……我々で処するというのが、筋というもの。」

 

それは一国の長としての覚悟を持った目。

 

「し、茂々っ!!」

「しかしよろしいのか?これは貴殿をおもってのものでもあるのだぞ。

 

叔父上に一切の汚れ仕事を任せてきた心優しき貴殿が、主君に剣を向けたとはいえ、愛する家臣を、そしてその仲間を処断出来ると?」

 

思い浮かぶのは、この城にまで攻め込んできた万事屋を始めとする、鈴蘭太夫の依頼を受けた者。そして、その援護に来た、真選組や見廻組、更に鬼兵隊も含む全ての者たち。

だが、そんな天導衆に全く怯むことなく、茂々公は真正面から向き合った。

 

 

 

 

「この者らは、主君に剣を向けてなどいない。

例え、国賊と蔑まされようと、国中を敵にまわそうと、守り通そうとしたものを私は知っている。

 

彼らを縛るは、為政者が作り上げた法ではない。彼らが守るは、将軍という空虚な器ではない。

己が信念という法。

 

 

 

そして……、己が守りたいと願った最愛の者のために、彼らは戦ったのです。」

 

 

「いくら汚名を着せられようとも、その心が折れることは無い。

私がそれを罪と定め、彼らを裁くとあらば、」

 

茂々が手を上げると、その後ろには多数の黒と白。手に持つは、刀。その切っ先は、彼らが守る主君に向いていた。

そして、城の周りでは全ての大砲が、その城に向いていた。

 

「暗愚な私に剣を向けた我が軍は、全て罪人にござる。

これを全て裁いていては、この国は滅ぶことになりましょう。」

 

 

「茂々っ!!貴様ァァァァ!!!!」

 

定々が叫ぶが、茂々は一つもそちらを見やることもない。

 

「全ての咎は、彼らの主君として足りえなかった将軍家にあり。

 

叔父上!!あなたを止めることが出来なかった私も、責を負う覚悟は出来ております。」

 

定々の前に投げられたのは『解官詔書』と書かれた、茂々の将軍辞任書。

 

「共に……、地獄へ参りましょう。」

「まさか……、貴様っ、将軍を辞する気かっ!!!」

 

 

天導衆の支えを振り切り、その辞任書を握りしめる。

 

「お帰り願いたい。

ここは……侍の国にござる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わる、

 

 

 

「……ククッ」

 

 

 

 

終わるはず、

 

 

 

 

「いつ、それが出来ないと申した?」

「!?」

 

 

だった。

 

それまでの空気と明らかに違う、その現場に充満するのは──殺気

 

 

 

「「「「「「っ!!」」」」」」

 

全員の危険度が、一気に引き上がった。

 

 

 

「将軍に刀を向ける、それを罪と定めるのであれば、我々がその全てを裁いてさしあげましょう。

 

定々公もそれをお希望であろう。」

 

 

 

 

──ドガーーンッッッ!!!

 

「んだとっ……!!」

 

土方も茂々の後ろで、刀を構えることしか出来なかった。それは、その茂々のより近くに現れた人物に、反応することが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞い上がる砂煙の中から出てきたのは……、

 

「ようやく来たか。」

「グハハハハッッ!!!待っておったぞっ!!

 

そして、貴様らはもう終わりだっ!!」

 

 

 

 

 

「銀時っ!!」

「そよっ!!」

 

 

「そういうことか……っ!」

 

桂が苦虫を噛み潰す相手。

 

 

「……。」

「貴様らの命など、八咫烏の前では無にも等しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現れたのは、銀時を抱えた奈落頭領、朧。

そして、そよ姫を抱えた奈落最強の

 

 

「葵殿……っ。」

 

……吉田葵。

 

 

 

 

 

 

「命令だ、八咫烏っ!!

国賊どもを……、わしの顔に泥を塗った全ての者どもを処罰しろっ!!!」

「「……」」──カチャ

 

二人は何も言わず、刀に空いている手をかけた。

 

 

 

──ジャッ!!!

 

その場にいる全員が刀に手をかける。が、誰にも勝てる自信がなかった。

朧はどうであれ、高杉と桂自身が葵の強さを身をもって知っていたのだ。

 

 

 

 

 

だが、その空気を打ち破ったのは、意外にも……

 

「出来ると思う根拠は何であるか、聞いてもよいか。」

「将軍様っ!!」

 

茂々本人であった。

真選組のもとを離れ、自ら葵たちに近づいた。

 

 

 

「……何を言っている。」

「……、

 

 

この者らは、……烏でない。」

 

 

──スーッ

 

刀を抜きながら、定々らに背を向け、向かう先は茂々のもと。

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この者は、私の忠臣であり……友だ。」

 

完全に抜かれた刀の切っ先は、前に向けられる。

 

 

茂々を守るように立った二人が、天導衆に刀を向けていた。



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踏み出す

たくさんのお気に入り登録、ありがとうございます!
最終話が目に見えるところまで来ています。

嬉しいような、悲しいような……。


 

「銀時……、ごめん、ね……。」

 

そう言ったのは、罪悪感からか。それとも自分の無力さからか。

落下してるなかで、少しばかり目を見開いた銀さんの首に抱きつき、そのまま体制を逆にした。

 

「!!……おまぇっ!!!」

 

 

上である私が、下になるように。

 

すぐにその意図に気づいた銀さんが、必死に自分が逆になろうとする。その優しさに、また心が痛む。

 

こんなにもあなたを傷つけたのに。

こんなにもあなたを裏切ったのに、突き放したのに。

 

あなたは、……あなた達は、まだ私の手をつかもうとしてくれた。

 

 

それだけで充分だった。

 

 

 

 

──ドガーーンッッッ!!!

 

かなりの高さから、城のどこかの屋根に叩きつけられた。

 

「ゲホッ!!……ッハァ、ハァ……ハァ……っ。」

 

落ちる寸前に銀さんを少しだけ横に投げる。かなり低いところからだから、衝撃は少ないはず。……私はというと、

 

「……ハハッ、松陽先生の娘じゃなかったら死んでるかな。」

 

不死である父上の血を受け継ぐ私は、それ相応の生命力と回復力があった。……まぁ、銀さんも負けてないと思うけどね。

 

 

──ズズズズ……ッ

 

「!?……銀時っ!!」

 

衝撃は抑えられていたけど、傾いていた屋根のせいで、銀さんは重力に任せて下に落ちていた。

こんなの原作には無かったけど、ここまで来ちゃったら、原作もクソもない……よなぁ。

 

 

「っ!!」

 

立ち上がろうとして、視界が歪む。自ら刺さりにいったとはいえ、刺さるのは痛い。そして、血は止まることを知らずに流れ続けていた。

血を失い過ぎていることは、正直、どうでもいい。危惧しなければならないのは、失血していることで身体に制限がかかっていること。

 

「松陽先生の回復力が失われつつあるのかぁ。」

 

朧に聞いていた。

虚の血を受け継いでいるとはいえ、それは純血ではない。つまり、本体とは違ってその人間離れした力は、永遠ではないということ。そして、身体にその異変を僅かにでも感じたら、そこから先、その力が消えるまでの時間は、とても短いということ。

 

それでも、

 

「戸惑う理由には……ならないんだよね。」

 

ごめん、朧。警告してくれたあなたの言葉を無視するけど。自分で決めた道だから、許してね。

 

 

 

──ダッ!!

 

空中に投げ出された銀さんの身体を向かって、屋根を蹴り、空中でそのまま抱きしめる。

 

──ザザーーーッッッ!!!

 

勢いを殺せず、銀さんを抱きしめたまま隣の屋根に、そのままの勢いで突っ込む。

 

「ゲホッ!!!!ッハァ……ハァ……、」

 

うぉっ、初めて血を吐いた……。って、感心してる場合じゃない……か。

 

 

 

「葵っ!」

 

晋助でも父上でもない声で、私をそう呼ぶのは一人しかいない。

 

「……血を流しすぎだ。」

「あー、そろそろやばいかな。」

 

回復はするのだが、その時間が明らかに長くなっていた。

 

「ちょっと休めば大丈夫……っだから。」

「……っ………なよ」

「??」

 

「ここまできて……尽きるなっ。」

「!……ありがとう。」

「……。」

 

……そんな朧、初めて見たよ?真っ赤だなぁ……

 

 

「銀時のこと、ちょっとお願い。」

「お前はどうする。」

「……もう一人、救いに行かなきゃ行けない人がいるんだ。」

 

城を見上げ、その人がいるであろう場所を見た。

 

「すぐに戻ってくる。多分、もうあんまり時間がないはず……。」

「わかった。」

 

銀さんを朧に任せ、近くの木に登り、そこから上を目指す。一般人には考えられないような跳躍力だが、そういうのはこの世界では通じない。

 

 

 

 

 

 

 

──バタンッ!

 

「!!」

「お待たせして申し訳ありません、そよ姫様。」

「ひっ……、あ、いやっ……」

 

……そりゃあ、そうだ。そよ姫は私が見えるようにしたその窓から、私が裏切っていたのを全てを見ていた。そして、ここから城の屋上の様子は見ることが出来ない。つまり、そよ姫の中では、友だちである銀さんを始めとする人たちに、刀を向けた人となっているのだ。恐れるのも無理はない。

 

「……お兄様の元へ戻りましょう。」

「……?」

「?」

 

信じてもらえるとは思っていない。いざとなったら、気絶させてでも連れて行くつもりだった。

そのそよ姫が、か細い声で何か言った。

 

 

 

 

「大丈夫……ですか?その……、()さんは……。」

「!!」

 

自分のことを信じることが出来ないなど、そんなことは私の勝手な想像だった。

彼女は、疑うという発想すらなかった。初めから、私を、吉田葵を信じてくれていた。疑っていると思った自分を恥んだ。

 

 

「申し訳ありません、姫様。」

「葵さん!?」

 

突然頭を下げた私に驚いて、そよ姫は慌てた。

 

「……参りましょう。

 

変革は、すぐそこまで迫ってますよ。」

「!……はいっ!!」

 

そよ姫を抱き上げ、来た道を戻る。

ものすごい高さから飛び降りているので、「きゃあ!!」と言って顔を埋めるそよ姫のは、普通の反応だ。

 

 

 

 

 

 

──キーンッッ!!!

 

──ダンッ!!!

 

──ドガーーンッッッ!!!!

 

 

「……何やってるの。」

 

降りた先で見えたのは、目を覚ましたのであろう銀さんが、全てを知っているため迂闊に手を出せずに防戦一方の朧と戦っている様子。

 

銀さんに何も説明してない私も悪いか……。

 

 

少々、考え事をしていた私に気づいて、止めてくれ、と言わんばかりの訴えを受けた。もちろん、朧から。

 

 

「ふふっ、根は優しいんだよな……。」

 

 

 

 

──キーンッッ!!!!!!!!!

 

「「!!」」

 

いや、朧。どうして、あなたまで驚く。

 

片手でそよ姫を抱いているため、片手で握る一本の刀で二人の動きを抑えた。

 

 

「銀時、落ち着いて。全てが終わったら、ちゃんと話すから。」

「葵姉……っ。」

 

 

 

 

 

 

あぁ、そんな風に顔を歪ませないで。

 

あなたは何も悪くない。あなたが傷つくようにしか事を運べなかった私の責任なのに。

 

 

 

 

 

……そんな資格はもう無いはずなのに。

 

あなたに背を向けた日から、その想いは捨てたはずなのに。

 

 

 

「!!」

 

 

「ごめんね。

 

 

ありがとう、銀時。」

 

 

 

 

受け止めていた刀を払い、そのまま銀さんの首に手を回した。

 

 

……大きくなった。

見下ろして話していたはずの目線は、見上げるまでになって。背丈もあっという間に追い抜かれて。

身体付きも男らしくなった。その成長を、そばで見ていたかった。

 

 

 

「もう少し……だから。」──トンッ

「!?」

 

首を軽く叩き、少しだけ気絶させる。

 

 

……もう少しで終わるから。

 

あなたが本当の意味で笑える日が来るはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに感じるなぁ。

 

 

 

「そこに私がいなくても、あなた達が幸せならそれでいいんです。」

 

あなたは、あなた達は納得しないかもしれないけど。

 

会えなかった十年間、その思いは、その誓いは、揺らぐことなんて一度もなかった。

揺らぐどころか、一層強くなっていったんです。

 

それぐらい、その存在が、

 

私の中で大きかったんです。

 

 

 

 




「朧。」
「……どうした。」

「ぱ……」
「……ぱ??」






「パス……っ。」
「!?」
「倒れ……っる、、、」
「……すまない。」
「ご、ごめんなさい!葵さんっ!!」



そよ姫を抱いて、銀さんも受け止めるのは無理だ……。



「行こっか。」
「あぁ。」

父上を守るために。

兄弟子を守るために。



大切な弟を守るために。


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最後の一歩

あと何話かなぁ……。

なんてことを考えながら執筆するようになりました。


 

 

「どういうつもりだ、朧。」

 

刀を向けた二人に声を発したのは、天導衆のリーダーと思われる男。そして、

 

「このままの意味ですよ。賢いあなた方なら理解していただけるでしょう。」

 

 

それに応えたのは、朧ではない。

 

「貴様の手引きか……吉田松陽の娘、吉田葵。」

 

まっすぐに眼光を向ける葵であった。

 

 

「そちらにつくというのが、どのような意味を持つのかわかっての行為であるのだろうな。」

「さぁ……。どのような罰を与えになろうとしているのかは想像もつきませぬが、一つだけ言えることがありますよ。」

 

 

 

 

──シュンッ!!

 

「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」

 

突然、船の両サイド、葵と朧の少し後ろの将軍の真横から現れたのは、深く帽子をかぶった奈落が二人。気配もなく現れた奈落に、真選組と見廻組は、身を挺して守るため将軍を取り囲むように立った。

 

 

 

 

 

──ザシュッ!!!!

 

「それは、あなた方は我らに罰を下す前に、この世から消え去るということです。」

 

 

それは、『一瞬』。

たしかに前に立っていた葵と朧が、それぞれ真選組と見廻組の前に立ち、現れた奈落を切り捨てたのだ。

 

深緑の瞳が、天導衆に向けられる。

 

「あなた方は地上に降りてくるべきではなかった、

 

ここに降りてきた時点で、天を突く者たちが多数いることを考慮すべきでした。」

 

その声とともに茂々は手を前に突き出した。それを合図に、全ての警察組織が一斉に構える。

 

 

「ここは……侍の国。

あなた方が支配できるほど、小さな国ではない。」

 

全ての警察組織と奈落が衝突した。

 

 

 

「茂々……っ、貴様ぁぁ!!このような者と手を組んだのか!売国奴と罵られたわしを、この国から追放する気かぁぁ!!」

「叔父上!申したであろう。あなたと共に私も罰を受ける所存。

 

一国の主である将軍家が行うべきことは、権力にものを言わせ、自らの身を守ることではない。

その身を粉にして国のために尽くし、そして、命をかけて家臣を守ること。国を守るためという立前で、国を売り、国民を売るなど

 

主が行うべき行為ではござらんっ!!」

 

叫ぶ茂々に切りかかろうとする奈落。が、その刀が茂々に届くことはない。

 

 

「使えぬと切り捨てるのではない。使えぬ家臣などござらん。

その者を信じ使うのが、主であり、将軍である。」

「っ!!」

 

その奈落を切り捨てたのは、葵。決して、血がそよ姫に付くことがないよう、防ぐことも忘れない。片手で戦う葵に、そよ姫は大切に守られていた。

 

「葵っ。」

「お疲れ様です、将軍様。」

「っ!!」

 

将軍に笑顔を向けた。茂々の気が少し緩む。それほど、彼女の存在は、過ごした時間は、彼にとって忘れられぬものであった。

 

「まだ気を緩ます時ではございません。

 

そよ姫様をお願いしてもよろしいですか?」

「!」

 

 

それは、その目とその言葉は、合図。

彼女が、……本気で戦うという決意。

 

「葵。」

「……?」

 

 

 

 

 

「死んでらならぬ。」

「……ご命令ならば、もちろん。」

「いや、

 

 

友としての頼みだ。」

「!!」

「お前とは話したいことが、まだたくさんある。」

「そうですか。」

 

 

そよ姫を受け渡し、茂々の前に立つ。

 

「では、待っていたください。」

「!」

「私も、あなたに紹介したい人がいるんです。」

 

 

思い浮かぶのは、いつも葵に勝負を挑んできた、彼女のこの世で最も大切な者たち。

 

 

 

 

「みんなで、お喋りしましょう。」

「!!……あぁ。」

 

刀についた血を振り払い、敵に相対した。

 

 

───────────────────────

 

 

《銀時side》

 

「……っ、」

「目を覚ましたか。」

「!!」

 

反射的に緊張を最高まで引き上げる声。既に本能的な行為、だが、すぐにその緊張は解いた。

緊張するだけ無駄だと分かったから。

 

「……やべぇ状況みてぇだな。」

「目を覚ますのがもう少し遅ければ、貴様を敵の前に放り出そうとしていたところだ。」

「はぁ!?」

「……暴れるな。そして降りろ。」

 

 

……なっ!?担がれてたのかよ、俺っ!!

すぐさま降りた。……恥ずかしいな、おい。

 

 

 

 

「朧!」

「葵姉っ!!」

「銀時!?目を覚ましたんだ。」

 

既に大量の奈落を切り伏せてきたのか、葵姉の刀も着物も血だらけだった。だが、その中に葵姉自身の血は一つもなかった。

 

 

「銀時!」

「葵っ!!」

「ヅラ!?高杉!?」

 

やって来たヅラと高杉も血だらけだった。

 

 

「「……。」」

「……。」

 

葵姉以外の三人が睨み合う。……そりゃあ、そうだ。俺は色々と目の前で見ていたから理解したけど、二人はそうじゃねぇ。どっちかと言うと、まだ、葵姉を連れ去ったやつだという認識だ。

 

「お、おいっ、ヅラ!高杉!」

 

 

 

 

「分かっている。焦るな、銀時。」

 

一触即発の雰囲気が一転、ヅラと高杉は、そいつに背を向けて刀を構えた。

 

「葵だけじゃねぇ、てめぇまでもが、んな緊張感なくそこに立ってんのは、そいつが信頼出来るやつか、てめぇが腑抜けたのどっちかだろうぜ。」

「あぁ!?俺がいつ、腑抜けたって!?」

「例えの話だろうがっ!!いちいち突っかかってくんな!天パ!!!」

「はぁ!?天パ舐めんじゃねぇぞ、ごら!低杉のくせによォ!」

「あ゛ぁ!?」

「やめろ、二人とも。みっともない……」

「うっせぇ!!ヅラぁ!!!」

「ヅラじゃない!!桂だぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

「三人とも、ちゃんと周りも見てね。」

 

それは、言い合ってても絶対に聞き逃さない声。

俺が、俺ら三人がずっと待っていた。

偽りじゃない、本物の……優しい声。

 

突き放されても、裏切られたと感じても、その手をどうしても離すことが出来なかった。

 

 

 

──ザシュッ!!!

 

俺らの背後から現れた二人の奈落を切り伏せて……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五人が背中合わせで構えた。

 

 

「くくっ、生きてみるもんだぜ。まさか、あんたに背中を預けられる日が来るたぁなァ。」

「ちっ、なんでてめぇもいるんだよ。」

「貴様らだけでは、葵の手を煩わせるだけだ。」

「「あ゛ぁ゛!?」」

 

 

「はいはい、集中して。」

「葵姉!!どっちの味方だよ!!」

 

でかい声で罵りあっていたのもあって、見渡す限り奈落に囲まれていた。

 

 

葵がまとう空気が僅かに変わったのを察知して、全員が刀を構え直した。

 

 

「……ありがとう。」

「「「「!!!」」」」

 

 

 

全員が戸惑ったのもつかの間。

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ。」

 

葵姉の合図で、全員が飛び出した。







「ありがとう」


その意味を聞いていれば。



「約束。」

その真意を探して当てていれば。





あんたの言葉の裏に隠された真実を見つけていれば、








「……、、、、、。」
「!」

その言葉を聞かずに済んだのか。


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歯車が音を立てた

 

 

《桂side》

 

「どけや、銀時ぃ!!」

「うるっせぇ!!!てめぇ、なんでこっち来んだよっ!!」

「……てめぇには負けねぇ。」

「はぁぁぁぁ!? バカじゃねぇの!?あ、バカだったなぁ!!そういや!!!」

「あんだと、ごら。てめぇだけ、葵にいいとこ見せられると思うんじゃねぇぞ!!」

 

 

 

……いつも通り。

 

 

いつも通りといえば、いつも通りだが……。

 

「お前ら最近、よく喧嘩するな。」

「「あ゛ぁ゛!?」」

「喧嘩するほど仲がいいということか。」

「「黙れ!ヅラァァァァ!!!」」

「ヅラじゃない!桂だぁぁぁ!!!」

 

 

口を動かしながらも、戦闘の速度が遅くなるわけもない。どちらかと言えば、二人は張り合えば張り合うほど速くなっていく。

 

 

 

──ザシュッ!

 

──ドガッッ!!

 

 

──ズシャァァァァ!!!!

 

 

 

 

「やはり……レベルの差というものか。」

 

圧倒的な実力の差。それが、この血に満ちた戦場に目に見える形で現れている。それは……数の差。

葵殿の切り伏せた敵の数は、五人の中で群を抜いていた。

 

そして、それは……、

 

 

──シュンッ!!

 

──ヒュンッ!!

 

「!」

「大丈夫?」

「……葵、ど、、の……。」

 

それは、自らの目の前の敵だけではない。

知らず知らずのうちに、自分以外の味方の敵を、少しずつ削っていっていた。

俺の前には、確かに、葵殿が背を向けていた方向にいた俺の元にいた敵が、心臓を投げた刀で貫かれ倒れていた。

 

「大変だねー、あの問題児二人と一緒にいるのは。」

「あ、……いやっ。葵殿が手綱を握られていたおかげで一緒に居られるだけです。」

「握ってたのは父上だよ。私なんかには、あの二人は抑えられないしね。」

 

喋りながらも、敵を切り伏せるその動作が途切れることなどない。俺は、その滑らかな動きを、目で追いそうになる自らを制するのに苦戦しかけていた。

 

 

「おっと。」

「!」

 

葵殿が見えなくなり、その代わりに普段は絶対に感じることのない箇所から、安心感を感じた。

 

「さっきの言葉、やっぱり訂正。」

「?」

 

 

「手綱、握ってたのは、やっぱり小太だよ。」

「!!」

 

 

 

その言葉を最後に聞いたのはいつだろう。

そんなふうに、あなたにもう一度、名を読んでほしいと願ったのはいつだろう。

 

あなたの笑顔を見たいと思ったのはいつだろう。

 

「さてと。あの二人を暴走させておくわけにはいかないし、さっさと片付けよっか。」

「っ……、はいっ。」

 

 

 

公園で初めてあなたを見た日、あなたの強さを目の当たりにしたあの日から、

 

 

こんなふうに、あなたに背中を預けられたいと思い続けてきたんです、葵殿。

 

 

───────────────────────

 

 

 

──ズシャッ!!

 

──ガンッ!!!!

 

 

「……ったく、どんだけ湧いてきやがるんだよ。」

「なんだぁ?もうへばってんのか、銀時。」

「誰がへばったなんて言った、バカ杉。」

 

 

 

──ズシャァァァァ!!!!!!!!

 

「!!」

 

再び、言い争いが始まりそうになったところに攻撃してきた奈落は、二人の元に到達する前に血肉になって散った。

 

「出たな、白髪野郎。」

 

立っていたのは朧。葵に劣るとはいえ、彼が倒してきた敵の数もまた、相当であった。

 

 

 

「同じ師の元で育ったとは思えんな、あの長髪男とお前らとでは。」

「……よく知ってるじゃねえかよ、俺らのこと。」

 

 

──グシャッ!!

 

──ドシャッッ!!!

 

 

「「……。」」

 

そして、気づく。

 

 

三人の息が異様に揃うことに。

 

葵が大丈夫であると言った人物、というだけで銀時と高杉は無意識のうちにお互いをかばいながら戦うようになり、葵から全てを知らされている朧は、彼女が命をかけて守りたいと思っていた者を見捨てることなどしない。

 

何より、

 

 

 

「同じ師の元で育ち、同じ女に愛を教えられれば、仕方の無いことか。」

「!」

「……は?それって、どういう……」

 

 

「説明している暇などない。そのままの意味で捕えろ。来るぞ。」

 

朧の言葉で、各々が眼前の敵に集中することで自動的に、互いに背中を預けるような形になる。

 

 

「んだよっ、っつーことは、てめぇも松陽の生徒ってことかよ。」

「お前らよりも前だ。その頃は葵はいなかったがな。」

「葵姉を狙った理由はなんだ。」

「……元々、俺の狙いは葵ではない、……松陽だ。」

「「!?」」

 

口を動かし、その言葉に衝撃を受けながらも、確実に目の前の敵を仕留めていく。三人の周囲にいる奈落は、次々とその数を減らしていった。

 

「詳しいことは、葵自身から聞け。俺から言える、お前らが聞きたい言葉は、

 

 

 

 

 

 

 

葵が話す八割のことは、松下村塾でのお前らの話だった。」

「「!!」」

「何に執着しているのかも知らないだろうが、あいつの行動の第一理由は大方お前らだ。」

 

 

そう信じていた。

 

そうであって欲しいと、どれだけ願ったか。

 

 

周囲がなんと言おうと、誰がどれだけ絶望しようと、

 

あの笑顔が、その存在が、偽りだと信じることが出来なかった。

 

 

 

 

「あんだ、銀時。泣いてんのか。」

「あぁ!?てめぇに言われたかねぇよ!!」

 

目を伏せる二人の頬に、一筋の涙が流れた。

 

 

「ったく、優しすぎる姉を持つと苦労するもんだな。」

「文句を言ってやれ。葵にはいくら言っても言い足りない。それに、言われれば、言われたで喜ぶだろう。」

「まじかよ。」

 

三人の口元に僅かに笑みが浮かんだのは、それぞれの知るところだ。

 

 

「じゃあ、さっさと片付けようぜ。」

「あぁ。」

「てめぇに言われなくても、そのつもりだ。」

 

と言っても、構える三人の周りにいる奈落の数はあと僅か。あともう少しすれば、葵のもとに援護にいけると、

 

 

 

 

 

 

誰もが信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ズン

 

「「!!??」」

 

銀時たちだけではない。奈落の動きまでもを止め、そしておさえつけた。

 

 

「っ!?……っんだよ、これっ!!!」

 

それは、まるで実際に手で押さえつけられているような感覚。自動的に地面に膝をつき、そして空気までもを掌握してしまうような……オーラ。

 

 

「まさか……っ、そんなっ!なぜだっ!!!」

「どういうことだ……っ、白髪野郎っ。」

 

先程までの朧からは想像もつかないような、焦りよう。信じられないものを見るような、見開いた目。

 

「おいっ!答えやがれっ!!!」

「……急げ。」

「あぁ?」

 

朧に掴みかかる高杉の手を、逆に強くつかみ返した。

 

 

「急いで葵の元へ行け!!ここは俺が何とかする、手遅れになる前に急げっ!!」

 

その切羽詰まった朧の形相に、二人は何も言い返すことが出来なかった。が、感じ取った緊急事態にすぐに、葵と桂の元へ向かった。

 

 

 

「松陽は……死んでない。なぜ……、二つの気配を感じるっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵姉っ!!!!」

「グハッ!!!」

「ヅラっ!?」

 

走ってやって来た銀時と高杉の方へ投げつけられたのは、傷だらけの桂だった。

 

 

「おいっ!葵はどうした!!!」

 

その問に答えたのは桂ではなく、

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ。あれが松陽の教え子たち、そして、あなたの大切な弟ですか。」

「「!?」」

 

それは聞き慣れた声。だが、そこに心はない。まるで機械が話しているような、そして、恐怖に突き落とすようなそんな声。

 

 

「てめぇ、誰だ。」

「あら。普段から会ってるんじゃないですか、……銀時?」

「!」

 

 

違うとわかっているのに、どうしても自分の師と重ねてしまう。それくらい、目の前の異様な雰囲気を持つ男は、吉田松陽と似ていた。

 

 

 

 

 

──ギーンッッッッ!!!!

 

「「!!!」」

「……その声で、その容姿で、

 

 

その名前を呼ぶなっ、……偽物っ!」

「その傷でまだ動けるとは……、不良品の中ならば、最高傑作ですね、あなたは。」

 

──ブルッ

 

何故か、その葵の姿を見て、身震いがした。

葵が纏うそのオーラも、目の前の松陽に似た人物と同じ感じがしたから。

 

 

 

 

「葵姉っ!」

「来るなっ!!!」

「「!?」」

 

それは、いつも優しくて冷静だった葵の、聞いたことのない感情的な声。

 

「それ以上動いたら……っ、葵姉がっ!!」

「大丈夫。」

 

 

 

 

 

そいつにやられたのであろう。葵の脇腹からは、止まることなく出血していた。

 

「大丈夫だから。……お姉ちゃんを信じなさい。」

 

 

そう言って少し笑いかけると、再び目の前の敵に向き合った。

 

 

 

「まさか……、あなたが現れるとは、ね。」

「私のことは知ってるようですが……、これは、あなたの未来には無かった出来事のようですね。」

「……そこまで気づいてますか。」

 

 

その時浮かべた苦笑いは、目の前の敵の圧倒的な実力にというだけではない。

 

 

 

 

「歯車が……、狂った。」

 

 

吉田葵の改変が崩れる音が、頭に響いた気がした。







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確信

遅くなってしまい申し訳ありませんっ!
書きたいことがありすぎて、パンクしかけました。本当に申し訳ありません。

今回、これを書くにあたってBGMを流しながら書きました。
機〇戦〇ガ〇ダ〇の私が最も好きなBGM、あのUから始まるやつです!!想像しながら読んでいただけると、より一層面白いのではないかなぁ、と思います。


「……っ」

 

張り詰めた空気とはこういうことを言う。

 

 

強敵を前にして、数では圧倒的有利な俺たちを制するそのオーラ。

 

 

 

それほど敵が凄まじい、

 

それもある。

 

 

 

「これが……葵殿の本気……。」

 

その空気を作るのは、決して敵だけではなかった。

その敵を前に佇む葵からも、凄まじい殺気を含むオーラが滲み出ていた。

それは、一般人が浴びればあてられるなんてものじゃ済まされない。最悪、死ぬかもしれない。そんな空気が充満していた。

 

現に今も、将軍とそよ姫のことは、真選組と見廻組が身を挺して守っており、その警察組織でさえも、平隊士は抑えなければ震えが止まらない。

 

 

 

──カチャ

 

葵が刀を手にかけた。

 

 

「ほぉ、その怪我でまだ私に立ち向かいますか。」

 

葵の脇腹からは、止まることを知らずに多量の血が流れ出ていた。

それでも決して顔を歪めることはない。

 

 

 

「これが、私の役目ですから。」

「フッ、……そうですね。そして私の前で、松陽の前で、無残にも散ることがあなたの運命です。」

「「「「「「っ!!」」」」」」

 

後ろで見ている銀時たちが、僅かに反応する。が、それを見越したように、虚の背後に控える奈落たちも構えた。

 

 

 

 

 

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

いつ動いたのかも分からない、目にも止まらぬ速さで二人の剣は交わった。

 

 

 

 

──ゴクリ

 

そう、唾を飲み込んだのは誰か。

 

味方も敵も関係ない。

双方がその異様な速さの戦闘に釘付けになった。

 

 

「葵姉が……、押されてる……。」

「っ、あいつ何もんだっ……。」

 

スピードは拮抗している。けれども、葵の顔は次第に歪んでいく。長年、一緒にいた銀時たちや蒼汰でさえ、見たことのない顔だった。

 

「葵姉があんな押されんのかよ……。」

「気配もなく、突然、葵殿の背後に現われて、その脇腹を刺したんだ。」

「は?葵の背後!?」

「あぁ。僅かに混乱したすきに、俺と葵殿を制圧する勢いだった。

 

その前に、葵殿が俺を避けさせてくれたが……。」

 

自分が重傷を負ってることを欠片も気にすることなく、一目散に桂の身体を押して、強制的に虚からの攻撃をかわさせたのだ。

 

 

 

 

「ハァ、……ハァ、……っ。」

「動きが鈍ってきたようですね?」

「……何のことでしょうか。」

「強がるのもいつまで続けられるでしょうか。」

「そのセリフ……、

 

 

 

 

忘れないでくださいよ。」

「……。」

 

 

誰がどう見ても葵が押されていた。

 

いつでも戦闘出来るように、全員が構え直した。

 

 

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

───ガンッ!!!!

 

 

 

 

「スピード……、上がった……?」

 

桂がすぐに気づいた。

 

先程まで虚に付いていくのが精一杯のように見えた葵の動きが、ぴったりと虚と同じスピードでやりあっていたのだ。

 

 

「……上がったんじゃねぇ、反応してるだけだ。」

「は??」

 

銀時は、信じられないものを見るようにその戦闘を、食い気味で見ていた。

 

「実際のスピードじゃ追いつけねぇから、予測して本能で動いてんだよ、葵姉は……。」

「!?そんなことっ、相当戦歴を積むか、」

「あぁ、実際にあいつとやったことがあるか。どっちかってことだろ……。」

 

 

 

──『そんな事はありえない。』

 

誰もが一瞬、そう思った。だが、彼女なら……

 

 

 

 

葵なら何か対策をしていたのでは、と思ってしまう。

 

 

「やはり……そうでしたか。」

「……?」

 

 

「……今、気づいたような口ぶりですね。」

「予測はしていましたが、確信はしていませんでしたよ。ですが、あなたに会って、確信しました。」

 

 

訪れた久しぶりの落ち着き。敵である虚の言葉に耳を貸してしまうのは、

 

 

師の姿であるからか、……それとも、異様に信憑性が感じられるからか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、あなたは未来がわかるようですね。」

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

「いえ……わかる、と言うのには語弊があるでしょうか。

 

『未来から来た』と言うのが、正しいですか?」

「……。」

 

 

虚が言い放ったことは、到底信じられない言葉。

 

 

 

そして、葵が長年抱えてきた秘密。

 

 

 

複雑な空気があたりを覆う。非現実的過ぎるこの話を、すぐさま理解するのもおかしい話なのだ。

 

「……未来がわかる私を、消しに来たということですか。」

「えぇ、それもありますよ。ですが、聞きたいこともあったので、消す前に聞いておこうかと。」

 

そう言うと、虚は刀をしまい、余裕の態度で葵の方に向き直った。

 

「どうしてこの世界に、そこまで執着するのでしょうか。

 

未来がわかるのであれば、あなた自身が英雄になる道を選ぶことも出来たはず。そうすれば、守るものを増やさなくて済む。

 

そこまでの力を持ちながら、どうして弱者を守るためだけにその力を使うのでしょうか。あなたほどの実力であるならば、私の手元に置いておきたいくらいだ。」

「……。」

 

 

虚の言葉を聞きながら、葵の表情は読めなくなっていった。

 

 

が、かすかに見える口角が上がった。

 

「あなたには分からないですよ。」

「……はい?」

 

 

 

葵は、後ろからのたくさんの視線を……幸せに感じていた。

 

「最初は思いましたよ。私が運命の全てを覆し、彼らを救う方法だってありました。それが一番、最短であることも分かっていました。

 

でも、それではダメなんです。

 

ここに存在しているのは私ではない。生きているのは私ではない。

 

そんな私のやるべき事は、彼らの運命を奪ってまで安全にすることではない。

 

 

大切だと思う彼らのために、彼らの運命を守ること。

 

 

 

 

私がしたいことは、私が生き残ることではありませんから。」

「……。」

「きっと理解できませんよ。

 

 

自らの命を犠牲にしたとしても、守りたいと思う存在のことは。……あなたにはね。」

 

「そこまでして、彼らに未来をたくせる理由は何でしょうか。

未来で彼らが成功しているのが見えましたか?」

「いいえ。」

 

周囲は少し驚いたであろう。未来がわかると言うならば、もちろんそこまで知って自分たちを信じていると思ったからだ。

しかし、

 

 

「彼らを見て、成功すると確信したからです。」

 

本当にこの先を知らなかった葵の行動の中には、確かに多少の介入があったのかもしれない。

でも葵は分かっていた。例え、自分がこの世界に生まれなかったとしても、きっと彼らならこの世界を守っていくのだろうと。

 

「私がどんな介入をしたところで先は変わりません。でも、変わらないんだったら、

 

『幸せであって欲しい』

 

未来がわかる異端児(転生者)としてではなく、共に今を生きた姉として、私は生きてきたんです。」

 

 

 

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

突然仕掛けたのは、虚の方。その攻撃に驚いたのは、銀時たちだけではない。

 

 

 

「どういうことだ。」

 

分かっていたかのようにしっかりと受け止めた葵に対して、虚でさえ驚いたのだ。虚が初めて見せた、若干の感情。

 

 

受け止めるだけにとどまらない。葵はそのまま攻撃を仕掛けていく。

 

「彼らを守るためだけに、腕を磨いてきた訳では無いんですよ。」

 

 

 

 

葵は予測していた。

自分が考える最悪の未来が、最悪の形ではまってしまった歯車によって引き起こされるとしたら、どのようなものか。

 

「答えはあなたですよ。

 

あなたが誕生することが、最も懸念すべきことでした。」

 

 

そう気づいた時に、葵が行ったこと。

 

「……っ!!まさかっ、……松陽かっ!!」

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

「えぇ。そうです。」

 

葵が松下村塾にいた頃、唯一、本気でやり合っていたのは、松陽だけ。その時の気持ちは、どれほどのものか。いつの日か戦うかもしれない敵に備えて、自らを愛してくれる父を本気で倒しに行かなければならないのは。

 

 

「全て、この時のために、準備してきたんです。」

 

 

彼女が転生者として、できる最大限の幸せと警戒を。

彼女の命と人生のすべてをかけて。

 

 

 

全てはあの時の誓いのために。



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『僅か』を『一瞬』へ。

投稿間、空いてしまって申し訳ありません!

見捨てず、最終話までお付き合い下さいぃぃっっ!!


 

《松陽side》

 

 

『葵は私に、いえ……、私たちにたくさんの幸せを運んできてくれますね。』

 

 

いつの日か、私の愛おしい人である晴香が、私に言った言葉です。

 

 

たった二歳で病に侵されて寝込んでしまったあなたに、晴香は毎晩謝っていました。

丈夫に産んであげられなくてごめんなさい。

苦しいのを変わってあげられなくてごめんなさい。

 

どれもこれも晴香のせいではないのに、たくさん謝っていた晴香の姿は、今でも苦しいほど覚えていますよ。

 

 

『母上と父上……?』

 

あなたが初めて話してくれた言葉です。

もう目を覚まさないと言われていたあなたが目を覚ました時、私は自分でも驚くほど喜んでいました。晴香に出会った時と同じような気持ちになったんです。

 

 

 

『私が責任を持って、面倒見ますので……お願いします。』

 

その言葉の通り、あなたは蒼汰を、銀時たちを大切に育ててくれました。たくさんの愛情を込めてくれました。

それは、いつも私の家に溢れていました。その空間が、私は大好きでした。

 

 

『この世で最も大切なものを守りたい時に使います。例え……自分の命を犠牲にしても。』

 

あなたが示してくれた答え。見せてくれた覚悟。

親子だからでしょうか。あなたが何を伝えたいのか、何をしたいのか、しようとしているのか、分かってしまったような気がしたんです。

 

 

『ありがとう。』

 

背中越しに言ったあなたの顔を、私は想像でしか見ることは出来ませんでした。あなたはどんな顔をしていましたか。

きっと、大切な弟たちを……いえ、きっと私も守ってもらっていたのでしょうね。

 

 

 

 

私が親であるせいで苦しめていたはずなのに、あなたは私をいつも慕ってくれました。

剣の稽古をつけて欲しいと頼んできた時も。真剣な目をして、まっすぐこちらを見るあなたの目から、私は逃げられないと思ったんですよ。

 

そして、その目で……

 

 

 

 

 

 

『ここからなるべく遠くに行ってください。少しの間で構わないんです。』

 

その声で、私に伝えに来てくれたあなたを、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

 

「「っ!!!」」

「私の手助けは不要でしたか?

 

 

 

 

 

……葵。」

 

 

 

父として、守りたい。

 

あなたがまっすぐ放ったあの宿題の答えから十年。

その刀を握る、あなたの横で。

 

 

「父上……っ。」

 

 

───────────────────────

 

 

「松……陽……!?」

 

葵と虚の間に入り、双方の刀を止めたのは、虚でもあった吉田松陽であった。

 

 

「銀ちゃんっ!!」

「桂さんっ、高杉さんっ、大丈夫ですか!?」

 

松陽を呼んできた神楽と新八がすぐに駆け寄る。

 

 

「お待たせしました、将軍様。」

「礼を言うぞ、蒼汰。」

「いえ。」

 

将軍に一礼し、副長である土方の横に将軍を守るようにして蒼汰も立つ。

 

 

 

 

 

 

「よくやった。」

「っ!!……ありがとうございます。」

 

それは蒼汰が敬愛する、真選組鬼の副長からの珍しい褒めの言葉だった。

 

 

 

 

 

「まさか……、自分の姿を見ることが出来る日が来るとは思いませんでした。嬉しいですよ、あなたに会えて。

 

あなたの大切な娘のおかげですか、……松陽?」

 

 

初めて見た銀時たち、そして実の息子である蒼汰でさえも驚いただろう。葵だって、自分の世界にいた時、その展開には驚いたのだ。

まさか目の前に、自分が敬愛する師が二人もいるとは思いもよらない。

 

「私も嬉しいですよ。ですがそれは、あなたを見たからではありません。」

「……。」

 

 

 

 

「私の大切な娘が、刀を握って弟たちを守ってくれている、

 

 

 

そして、その横に立てている自分がいるからです。」

「!!」

 

その言葉と共に松陽に向けられた笑顔に、驚いた葵。そして、

 

 

「松陽……、」

 

その姿を見て驚いた、かつての弟子……朧。

 

 

「話は後でゆっくりしますが……、」

 

そう言うと何をしたいのか察したのか、葵がすぐに促した。

 

「どうぞ。」

「!?」

「私の話は後でも大丈夫みたいですから。」

 

その言葉に後押しされて、僅かばかり葵の横から離れる。立った場所は朧の目の前。

 

 

 

「長い間……苦しい思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。

そして、葵を信じてくれてありがとうございます。」

 

それは、精一杯の感謝と、そばにいることが出来ず注げなかったたくさんの愛が込められていた。

 

 

どれほど成長したとしても、一度、師として仰いだものからの感謝と愛ほど嬉しいものはなかった。

 

「……あなたが無事であるなら、それ以上は何もいらない。」

「そうですか。」

 

そう言って、松陽は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「美しいですねぇ。

 

私にかかればすぐにでも消えてしまうような命。弱者が、命を懸けあって守るなど、自ら死にに行くようなものですよ。」

 

様子を見ていた虚が、嫌味のように言い放った。

 

「そんなに互いを命をかけて守りたいのであれば、

 

 

……守らせてあげますよ。」

 

「松陽っ!!」

 

 

 

人外なスピードと、その力で真っ直ぐ二人に突っ込んできた。朧を守るように、松陽が腰に刺してある刀を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

 

「……また、あなたですか。」

 

虚の握る刀が、松陽と朧にあたる前に止まり、カタカタと音を立てる。

 

「ずっと守ってきた人たちに剣を向けられて、黙って見ているわけないでしょう。」

「……フッ、」

「何かおかしいことでも?」

 

刀を受け止め、葵が虚と真っ向から対峙した。

 

 

「気づいていますか?私とあなたの差を。」

「……。」

 

 

 

──ザッ!!

 

────キーンッッッ!!!!!!!!

 

 

お互いが引き、再び剣が交わる。

 

「感情とは、人を弱くする。

 

松陽が来てから、あなたの力は突然下がっている。剣を受け止めているのも、先程よりも余裕が無い。

……松陽が来て、安心でもしましたか。」

 

 

──ガンッ!!!!!

 

力の押し合いに負けて、葵が後退する。が、怯むことなく、次は葵から攻撃を仕掛けた。

 

 

──キーンッッッ!!!!

 

若干押されているとはいえ、拮抗に近い二人の力は中心で交り、睨み合った。

 

 

「確かに、感情は人を弱くします。ですが……それは、あなたも同じでは?」

「私が感情に左右されている?

 

あなたは私を、少々見くびっているようですね。」

 

 

──ガンッ!!!!!

 

「っ!!」

「たかが人間を相手に、私が狼狽えるとでも?」

 

力に負け弾き飛ばされた葵だったが、その顔には僅かに……

 

 

 

──ドガーーンッッッ!!!!!

 

今日一の爆発を起こしたのは、葵の最大限の力を込めた攻撃。

今日初めて、僅かであるが、虚が剣を受け止めるために仰け反った。

 

「!?」

「……、見くびっているのはあなたの方だ。」

「……。」

「感情は……、人を弱くするだけじゃないっ。

 

 

 

向けられて、……向けられていると感じることで、強くなることもあるっ!!」

 

 

 

 

 

虚の目の前から仕掛けられる攻撃。

 

このわずかな時間の中で、虚と葵が剣を交わした数は数える程しかないのかもしれない。

ただ、虚の中では既に“吉田葵”という人物への観察は終了していた。そして、そこから……

 

 

 

『この状況で自分に真っ向から向かって来る意味は無い』という答えが導かれた。

 

かすかに生まれた疑問は、例え虚といえど、注意を散漫にさせる。いや、虚程の実力であるからこそ、周囲に警戒を向けるのは当たり前の行動であった。

 

 

 

「考え過ぎですよ。」

「!?」

 

目の前に迫る、自分よりも遥かに浅はかであり、実力もしたであるはずの少女から感じたのは、言い知れぬ恐怖。

それが、虚から生まれたイレギュラーである“吉田松陽”によるものであると、気づくことはない。

 

 

 

 

散漫になった注意が、葵の放つ殺気によって一気に集約される。多少の警戒が、いつもよりも僅かに葵からの攻撃を慎重に防がせた。

 

 

 

その全て。

 

 

全ての『僅か』が、

 

 

 

 

 

 

一瞬の隙を生む。

 

 

 

 

 

──ギーーンッッッッ!!!!

 

 

「葵姉の狙った通りじゃねぇかよっ!」

「なにっ!?」

 

葵の剣を受けた虚の背後から飛び出したのは、桂、高杉、そして銀時の三人。

 

 

三人を幼い頃から見てきた葵であるからこそ、

 

そして、幼い頃から葵を慕ってきた三人であるからこそ、

 

 

 

『僅か』を合わせた『一瞬』を。

 

口で言わずとも、見ただけで察せる四人であるからこそ、

 

 

 

 

「感情が、信頼が。

 

何も感じない、力だけを持つあなたを上回ったんです。」

 

 

 

成せた技。

 

 

 

 

「……っ、」

 

 

三人の剣が、三方向から、虚の身体を貫いた。






残念ですが、まだまだ続きますm(_ _)m


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私のただ一人の弟

んー、もう少しで終わりかと思ってたんですけど、なんか増えてきちゃって、もうちょっと続きそうですねぇ。


 

「ここまでとは……。」

 

その言葉を聞き、三人は貫いていた刀を引き抜いた。

いかに最強と言われようと、刀が刺さっていた場所からは当たり前のように血が流れる。支えられる形になっていた刀を抜いたことで、虚はそのまま前に倒れた。

 

 

「よく気づいたじゃねえか、銀時。」

「……あぁ?」

「葵殿の狙いだ。最初に気づいたのは、お前だろ。」

「あぁ……、」

 

葵が自身に虚の集中を向けさせて、銀時たちにその一瞬の隙を付いてほしいという葵の狙いを、最初に感じ取ったのは銀時であった。

だが、

 

「んなの……、お前らだって気づけただろうよ。」

「「??」」

 

 

銀時が最初に気づいたのは、偶然などではなかった。

小さな合図ではあったが、確かに葵から銀時に向けて何かメッセージが発せられていたのだ。

とは言っても、あの虚と戦闘を行いながらすべての指示を出すことなど不可能で、やはりそこには、銀時だからという理由があるのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「離れてっ!!!」

「「「!?!?」」」

 

力なく倒れた虚の死以外の選択を考えていなかった三人に向けて、葵の声が響いた。

 

 

 

──キーンッッッッ!!!!!!

 

刀が交わる甲高い音が周囲に響き渡り、その衝撃波は近くにいた銀時たちだけでなく、遠くから見ていた真選組や将軍の元まで届いた。

 

 

「っ!?」

「何だってんだっ!?」

「まだ生きてやがんのかィ、あのバケモンは。」

 

 

飛び込んだ形になり、三人を守るために動いた葵も、男の大人の力で振り下ろされた刀の力に押される。

 

「っ、」

「これも防ぎますか……、全く、やはりあなたを殺すのは惜しいですね。」

「あなたに殺される気は無いっ。」

 

葵に促される形でひいた銀時たちのもとに、松陽が現れた。

 

「大丈夫ですか、三人とも。」

「っ、あぁ……、」

「あやつは……、不死身なのですかっ……!」

 

四人が見つめる先には、葵と虚の姿があった。

 

 

 

「やはり、知っていたようですね。私が不死身であること。」

「別に確信してた訳ではありませんよ。」

「あら、そうでしたか。」

 

そう。葵の中で、目の前にいる虚が不死身であることの確信は無かった。だが、最大限に警戒していたのは事実だった。

なぜなら、葵が知る未来で虚が不死身であるのは、殺された松陽から生き返った虚が銀時の前に現れたことで、証明されるのであって、松陽が生きるこの世界では、確信できる事実は何も無かったのだ。

 

「銀時たちが油断してると思って、気が緩みましたね。あなたなら私なんかにバレることなく、彼らを切り伏せることなど容易なはずです。」

「そうですねぇ。ただ、別に油断した訳ではありませんよ。」

「……。」

「今殺さなくては、と囚われていなかったからですよ。」

「いつでも殺せる、ということですか。」

「そういうことですね。」

 

表情一つ崩すことなく、淡々と事実だけを並べているかのように虚は話した。

 

 

「……色々と確信できたので、良かったということにしますよ。」

「ほぉ……、何を確信できたのか知りたいものですね。私を倒せる策でも思いつきましたか?」

 

少し俯いた葵が顔を上げた時、その表情は少し柔らかくなっていた。

 

 

「それは、私が探さなくとも私の大切な人達が見つけてきますので、安心して下さい。」

「……。」

「私が確信したのは、

 

 

 

 

私の父上の事ですよ。」

「!?」

「松陽のこと……ですか?」

 

名前があがった松陽自身も、元は松陽と同じ身体であった虚も、そして松陽に関わった全ての人が驚いた。

 

 

「私はずっと考えていました。どうにかして、父上を解放することは出来ないか、と。」

 

虚の身体からイレギュラーで現れたとはいえ、松陽であっても中身は虚であることに変わりはない。虚の身体を持っている以上、これからも天導衆から狙われることは間違いない。

 

「こんなにも人に愛され、たくさんの人を育ててきた父上が、あなたの身体を持っているという理由だけで、その生活を制限される。

 

その事実を、どうにかして変えたいと思ったんですよ。」

 

葵がこの世界に転生して、自分のするべきことを見つけていく上で、虚が現れるという最悪の展開を回避するために動いていくと同時に、それは自分が愛する父である松陽を守れるのでは、と考えついた。

 

「あなたにとっては雑兵でしかない天導衆たちでも、今、その数を極端に減らされては、例えあなたでもどうにかして父上から離れるのではないかと考えたんですよ。」

 

そう。もちろん、将軍や銀時たちを守るためでもあったが、天導衆を倒すことで無理矢理、虚を引きずり出していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

葵の話す言葉についていけない者、そして、自らの身体を自分以上に理解していることに驚く者。

三者三様の理由だが、その事実に全員が声を出すことも出来なかった。

 

その静寂を消し去ったのは……

 

 

「では……、賢いあなたなら気づいていますよね?」

 

虚だった。

まだ、葵を試すかのような表情で聞いた。

 

 

「……、

 

 

 

 

 

元々、父上の持つ不死の力というのは、一つの身体が持つであろう能力です。

そして先程、目の前であなたが復活しました。

 

つまり今、父上には不死の能力は無いということです。」

「素晴らしい。

 

 

 

 

 

では、……答え合わせをしてみましょうか。」

「!?」

 

松陽が不死身であることすら知らなかった者でも、その意味と虚の性格を考えれば、何をするのかすぐに感じた。

 

そしてその思考の速度を上回って、虚は松陽の元へ近づいた。

 

 

「松陽っ!!」

 

銀時が叫ぶ。

だが、例え不死の力を失ったとしても、備わっていた剣の力までもが消失する訳では無い。

元は同じ身体なのであれば、いきなり急所を突かれるという訳では無いのだ。

 

ただ、そこにある不死身と不死身でないのでは、大きな差があった。

 

 

 

 

 

 

 

──ズシャッ!!!!!

 

残酷なまでに響き渡る、人を貫く音。

 

 

そして、

 

 

 

「葵っ!!!」

 

「あなたに……っ、父上は渡さない。」

 

流れる血を気にも止めず、松陽に向かっていた刀を自らの脇腹に刺して受け止め、そのまま虚の手を掴む。

 

「?」

「例えあなたでも、その力を受け継いだ子どもにまでは、干渉できないみたいですね。」

「まぁ、そうでしょうね。

 

ですが、それは余裕でいられる理由になりますか?あなたの偽物の不死の力は、既に機能の低下が著しいことは知っているんですよ?」

 

そう言われても、葵は表情を崩すことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上から受け継いだのが『私だけ』なんて、いつ言いましたか?」

 

 

 

 

──シュンッ

 

 

──ザシュッ!!!!!

 

風を切り裂くような音、そして次に聞こえたのは間違いなく何かを斬る音。

 

 

 

 

 

 

 

「父上から受け継いだのが、私だけはずあるわけないじゃないですか。

私には大切な弟がいるんです。」

 

葵が掴んでいた虚の腕だけが、葵の手元に残った。

 

 

葵の横に立つのは、黒い制服を着て、血のついた刀を握る葵のただ一人の弟。

例え似てないように感じても、二人が並べば、確かに感じる二人の血の繋がり。

 

 

 

 

 

 

──間違いなく、ここに最強の姉弟が揃った。



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最強の姉弟の愛

本格的に最終回に向かって行ってますねぇ……。


 

 

──ヒュー、

 

間に風が吹き、衣類をはためかせる。誰もがその異常な空気と光景から、目を離すことが出来なかった。

 

 

「……嬉しいですよ。こんなにも素晴らしい力を持っている者が二人もいるとは。

 

そして、その二人ともが私の血を受け継いでいる……。

 

 

本当に素晴らしい。やはり、殺すのが勿体無い。」

 

虚の斬られた腕は既に再生し、新たな刀を握っていた。

 

虚から発せられる異様な空気と、それに全く動じることのない二人の姉弟。

 

 

「お前に殺される気なんて、一つもない。」

「……、」

 

沈黙を破る声。

 

 

 

 

それを合図に、両者が一斉に動いた。

 

 

──ギーンッッッッ!!!!!

 

「「「「「「っ!?!?」」」」」」

 

 

目で追うなんて、そんな次元じゃない。

さっきまで、一瞬前までそこにあった気配が、次の瞬間には別のところから感じる。

 

何度もぶつかり合う三人の刀の衝撃波と、甲高い音が周囲を包む。

 

真選組も見廻組も、そして最強の姉弟の側で共に育った攘夷戦争の伝説の三人でも、その速さと戦闘を明確に察知することは出来なかった。

この場において、三人の気配を明確に察知することが出来ている人物など、戦っている本人たちを除けば一人しかないなかった。

 

 

 

「葵……っ、蒼汰……っ。」

 

幼い頃から二人を育てた父、吉田松陽だった。

 

 

「松陽……?」

 

銀時を支える松陽の手が、微かに震えているのを感じた。

 

恐怖を感じたのか。……否。

 

 

 

「やはり……、姉弟なのですねっ。」

 

傍から見れば、場違いだと罵る人もいるだろう。だが、吉田松陽にとってそんなことはちっぽけなことだった。

 

 

弟たちを、家族を誰よりも何よりも大切に想ったために、家族から離れた葵。

その姉を慕い、背を追うように剣の腕を磨いた蒼汰。

 

どちらも自分の子に生まれたばかりに背負わせてしまった運命。

そのことに対して、二人は一度たりとも不満や文句を言ったことなんてなかった。それどころか、いつでも松陽のことを父と慕った。

 

そこにはきっと、そんな虚の血になど縛られたりしない大切な姉弟の愛があったんだと。

そう認識したことに、認識できる状況が目の前にあることに、松陽は喜びを感じたのだ。

 

 

 

「なるほど。離れていても心は一つ、なんてぬるいことを言いたいのですか。」

 

葵と蒼汰の攻撃を受ける虚が、余裕そうに口を開く。

 

「でも不思議ですねぇ。

 

姉はあなたに、ずっと隠し事をしてきたんですよ。」

「っ、」

 

攻撃をする葵が、若干、顔を歪ませる。

 

「その姉を、まだ信じるというのですか。」

「……。」

 

怯む葵に、虚が言葉を続けた。

剣が拮抗してる三人にとって、僅かな精神の乱れが、即、死に繋がる。

 

 

「隙が出来ましたね。」

「っ!!」

 

とっさに攻撃から防御に転じる。が、そんな時間を与えてくれるほど敵は甘くない。

 

 

 

──キーンッッッ!!

 

「っ!!」

「……まだ、信じるということですか。」

 

 

虚の剣を防いだのは蒼汰だった。

 

「……お前には分からない。」

「蒼汰……っ?」

 

虚の剣を防ぐ蒼汰の顔は、髪に隠れてはっきり見えなかったが、次の瞬間、その顔を上げてはっきりと言った。

 

 

「葵姉ちゃんは、僕らのことをずっと守ってきた!

話せないことだって、好きで隠してたはずない!ずっと話したかった!だけど、僕らを巻き込まないように一人で全部背負って、裏切りを演じてくれた。

 

葵姉ちゃんを知らないお前なんかが、葵姉ちゃんを悪く言うな!!」

 

僅かだが、蒼汰の剣圧が虚のそれを上回り、虚を後退させる。

 

 

「なるほど。

 

美しい姉弟愛と、同じ仲間を騙してきた者同士ということですかね。」──ギーンッッッッ!!!!!

 

言い終える前に、その先を言わせないかのように、次は葵が虚に飛びかかった。

 

「お前なんかに、私たちを語る権利なんてないっ!」

 

 

二人の戦ってる後ろで、蒼汰が立っていた。

 

「蒼汰っ!!」

 

葵が叫ぶ。それは、気にするなという意味で。

 

だが、蒼汰は覚悟する。いや、覚悟はしていた。葵を助けるために二人の間に入った瞬間から。

 

 

 

 

 

だから伝えたのだ。

 

葵のもとへ行く前に、隣にいた自分の上司に。

 

 

 

『土方副長、』

『なんだ。』

『申し訳ありません。』

『……は?』

 

 

戻れないことを覚悟していたから。

 

 

───────────────────────

 

 

《土方side》

 

目の前で異次元の戦闘が繰り広げられている。

ここにいるヤツらの殆どが、その異常な光景に驚いているだろう。

 

が、俺たちだけは違った。

 

もちろん、その光景に驚いてはいる。だが、それ以上にその場に蒼汰がいることに驚いている。

そして、共闘しているのがあの甘党野郎が「姉」と呼んだ奴。つまり、少なからず攘夷に関わっている奴と共闘し、そして、そいつのことを蒼汰も「姉」と慕っている。

真選組にとっちゃ、そっちの方が一大事だった。

 

 

そして、それを蒼汰も分かっている。

 

だから、俺の側を離れる時にあんなことを言ったんだろう。

 

 

 

『申し訳ありません。』

 

 

 

「どうなってんでさァ、土方さん。蒼汰の野郎、攘夷の奴らと組んでたってことですかィ。」

 

総悟の殺気が、俺に向けられる。

 

そりゃあそうだ。攘夷と繋がっているとバレた時に一番に責任を負われるのは近藤さんだからだ。

 

 

 

「真相はあいつ自身に聞け。」

 

総悟からの殺気を気にすることもなく、俺は目の前の戦闘を見ていた。

 

あいつから姉の話を聞いたことは何度かあった。ミツバが死んだ時に、まるで自分のことのように悲しむあいつの顔が、ものすごく印象的で、それから何度かあいつの姉のことを話すようになった。

 

だが、蒼汰の話の中に姉の詳しい話は全く出てこなかった。それどころか、蒼汰の詳しい家族構造ですら明確ではなかった。

蒼汰自身の生まれや、育った地の情報ははっきりしていたから詳しく追求することは無かったが、話を聞くたびに蒼汰の家族に興味があった。

 

 

そして、調べた結果行き着いたのが、“吉田松陽”という名。そして、奪われた“姉”という存在がいたという事実のみ。

どこを、どう探してもあいつの“姉”のその後の情報が出てこなかった。

どうしても蒼汰の話が嘘だと思えなかった俺が辿り着いた答えは、あいつの姉が政府の人物、それもかなり重要な地位に着いた人物であるということ。

 

そこからは、どう調べても答えを見つけることは出来なかった。その間に蒼汰が、真選組で確実に信頼を得ていき、誰もその素性を疑わなくなっていった。

忠実に、真選組のために行動していた。

 

 

近藤さんにだけは蒼汰の話をし、後は俺たちの胸にとどめておこうという近藤さんの提案に甘えた。

 

 

 

 

 

「良かったじゃねぇか、蒼汰。」

 

当初から、明らかに他の隊士とはレベルが違った。総悟とも確実に殺り合えるレベル。

 

だからこそ、初めて見た。

 

 

「てめぇが、てめぇの実力を全て発揮して戦ったとしても、着いてきてくれる奴なんだろ。」

 

思いっきり戦えるからか、それとも探していた姉と共闘しているからか。

正直、俺はどっちでもいい。

 

 

 

 

 

「謝ってんじゃねぇよ。

 

素性のはっきりしてねぇ奴をそばに置いておくほど腑抜けでねぇし、てめぇほどの実力者を手放す程、俺はアホじゃねぇぞ。」

 

 

だから、今だけは思いっきり戦ってこい。蒼汰。



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純血の毒は、愛の形


今回の話には、たくさんの独自解釈が含まれています。違うっ!!と思っても、暖かく受け止めていただけると嬉しいです。


 

「さて……、先に膝をつくのはどちらでしょうね。」

「「……っ、」」

 

拮抗し続けた剣速と剣圧。

 

その敵を知っている者ならば、みなこう言うだろう。

 

 

『よくやった』と。

 

それほどまでに、やつが周囲に与えている影響は計り知れないものだった。誰一人、その戦いに割って入ることなど出来なかった。

 

全員が、その戦いの行く末を見守ることしか出来なかったのだ。

 

 

そしてその戦いは拮抗してるように見えた。

だが、そうでは無かった。

 

二対一であっても、相対する敵の方が

 

スピードも、技術も、経験も、

 

全てを上回っていた。

 

 

「……っハァ、ハァっ、」

「ほう、まだ立ち上がりますか。」

「あなたに……、これ以上、大切な人を奪われたくないので。」

 

立ち上がった葵は、蒼汰を守るように立った。

 

 

“傷を受け、それを修復する度に、不死の力は失われていく”

 

そしてそれは、子として受け継がれた時点で、その力が永遠ではない不完全なものになる。それと同じように、姉よりも弟の方がその劣化は激しいものになっていた。

 

「自分の命の灯が後どのくらいか、わかってないのでしょうか。」

「……自分の身体ですから。あなたよりは、分かってますよ。」

 

それでも、その力が葵の中にもう、ほんのわずかしか残っていないことは明確だった。普段なら治っているはずの傷が治らず、葵の身体からは傷を介して大量の血が溢れ出ていた。

 

 

「あなたの言った通り、私は異端児、本来、この世界にいる存在ではありません。

そんな異端児にしか出来ないこともあるんですよ。」

「……。」

 

 

──カチャ

 

そう言うと、葵は懐から一本のクナイを取り出した。

 

「そんなもので、私を倒せるとでも?」

「そんなに馬鹿ではありませんよ。」

 

 

追い詰められていた顔から一変、クナイに反射した光によって一層怪しく微笑んだように見えた葵は、狙いを定めた。

 

 

──シュンッ!!

 

──ザッ!!

 

「……。」

 

クナイは、虚の頬を僅かにかすめ、その背後の煙の中に吸い込まれた。

 

「バレてましたか。」

「もちろんですよ。」

 

葵が方角を示す、クナイを投げた煙の先。

真っ直ぐに見つめるその先で、ドサッと大きな音が鳴った。

 

「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」

「逃がさないっ。」

 

 

──シュンッ!!──シュンッ!!!!

 

──ズシャッ!!

 

続けさまにクナイを投げ、虚の横を通り抜け煙の中に突っ込んだ。

 

 

──キーンッッ!!──ズシャッ!!!!

 

 

「全く……本当にあなたは、どこまでも私を楽しませてくれる。」

「葵……姉……。」

 

晴れた煙の中から現れたのは、葵と、

 

 

その足元に転がる二人の奈落。そして、

 

 

「おじ上……っ!?」

 

力なく目を閉じる、かつての国の長・徳川定々。

 

「この男を連れ出して、何をするつもりだったんでしょう。」

「あなたには知る必要のないことですよ。それに、既に殺してしまったのであれば、尚更……。」

 

 

 

「誰が殺したなんて言いましたか。」

「!」

 

その葵の言葉に、茂々が顔を上げる。

 

「こんな男に、死という楽な選択など与えるわけないじゃないですか。

あなた方に渡すなんてことも。

 

 

 

殺すなんてしてしまったら、私の大切な“友”が悲しみます。」

「!!」

 

虚から目を離し、振り向いて見た先には、真選組と見廻組に守られる茂々の姿。

 

 

 

 

「美しい姉弟愛、強い友愛、そして師弟愛。

 

 

あなたを縛るものは、どれも弱すぎる。

そんなものに縛られるせいで、あなたは死ぬことになる。

 

 

そろそろ終わりにしましょうか。」

 

完全に葵を仕留めるために、一気にその間合いを詰める。

 

 

「葵っ!!!」

 

松陽だけではない。彼女に関わった全ての人たち、いや、その場に居合わせた全ての者がその名を叫んだ。

かわすために全く動くことのない彼女をの名を。

 

「葵姉っ!!」

「葵姉ちゃんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ。」

 

──ガクンッ

 

「!?」

 

 

 

「……どういうことだ、……。」

 

小さな声で葵が『ゼロ』と言った瞬間、間近に迫っていた虚は、まるで葵を交わすかのように、葵の僅か数ミリ横の空を斬った。

 

この場にいる誰も、虚でさえもその状況を説明出来なかった。

ただ一人、それを仕掛けた本人であろう葵だけが、風に着物をなびかせて立っていた。

 

 

「幻覚から来るんですね……、若干、平衡感覚もやられていますか?」

「一体っ、……何をしたっ。」

 

再度、葵に詰め寄り、攻撃を仕掛ける。が、やはり、その力は何かに引っかかっているようで、葵は難なくその剣を防いだ。

 

 

「もう少し、早めてみますか。」

「!?」

 

 

──キーンッッ!!!!!!

 

決して深くはない、掠めるだけの虚にとっては、気にすることもない小さな傷。

 

 

 

「『塵も積もれば山となる』とは、この事ですね。」

 

葵が指さしたのは、まさに、今、葵自身が付けた小さな傷。

 

 

「あなたの身体に毒が回っているんですよ。」

「毒……?そんなもの、私に効くとでも?」

「確かに。

世間で知られる毒に、あなたがやられることなどありえません。

 

 

ですが、私の言う毒は、あなたの中に混ざってはいけないもの。

そういうものが体内に侵入すると、身体は勝手にそれを取り除こうとする拒否反応を起こします。」

「私の身体が、勝手に取り除こうとするほどの毒が侵入しているということですか。」

 

 

虚は考えた。一体、何が混ざれば身体に支障をきたすほどの、毒になるのか。

 

 

 

──『もう少し早めてみますか』

 

──『塵も積もれば山となる』

 

 

葵の言葉、行動。

 

 

 

すべてを繋ぎ合わせ、そして、たどり着く。

 

 

 

 

「なるほど……、あなたの血ですか。」

 

その答えに、周囲は驚く。

 

「さすがですね。正確に言えば、私の血の中に流れる、母上の血です。

 

不死という能力を持つあなたの体内に、不死の力を持たない血が入り込むことは、その力を劣化させることになる。」

「人間のような下等生物に、私が……っ、」

「その下等生物があなたの行動を鈍らせた。

父上と母上が私に与えてくれた愛が、あなたに一矢報いた。

 

 

 

私にチャンスを与えた。」

 

 

深くない傷。実力差により、つけられる傷が急所に届かなくとも、少しずつ着実に命に近づく。自動的に傷を回復していくその能力が、葵の作戦を可能にしたのだ。

 

 

「だから……あの時……っ、」

「……どういうことだ、銀時。」

 

 

 

『ごめんね、銀時。』

 

木刀を見つめて思い出すのは、自分の木刀に葵が自ら刺さってきた時のこと。

 

例え、葵が愛する大切な人が傷ついたとしても、未来のために自らが傷つく。

全てはこの時のために行われていたことだった。

 

 

 

「動きが鈍ってきたようですね。」

「私が?何のことでしょうか。」

「強がっていられるのもいつまででしょう。」

「強がっているのは……っ!!!」

 

 

──『その言葉、忘れないでくださいよ。』

 

 

「っ!!!」

 

それは、虚にとっては最大の屈辱。息絶え絶えの見下していた相手に言い放った言葉。その状況と真逆の状況に、今なっているのだ。

 

 

 

 

 

「膝をつくのは、あなたの方ですよ。いや……

 

 

 

 

つく前に、あなたの身体はその反応の速度に耐えれなくなって……」

 

 

 

──グシャッ!!!

 

「……はちきれる。」

 

 

さっきまで人だった塊が、元の姿を想像出来ないほどに粉々になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僅かな静寂のあとに響き渡るのは、歓喜。

 

「やった……。」

 

誰かがそう呟けば、連鎖するようにあたりに広がる。

 

平隊士たちが歓喜に湧く中、納得いかない顔のものが、若干名。

そして、その中には葵もいた。

 

 

 

 

──ここまで上手くいくもの?

───もっと考えていたのに、こんなにもあっさり??

 

 

 

 

 

 

 

 

その疑問は、現実となって目の前で起こる。

 

 

 

──グシャッ!!!!!

 

「っ!!??」

 

 

「ありがとう。私は君に礼を言わなくてはならないようです。

 

私自身の可能性が広がったのですから。」

「どう……して……っ、」

 

 

葵のことを背後から刺していたのは、たった今、目の前で肉片となった虚だった。

散らばった肉片が復活したようには見えなかった。

 

 

「!!……手首っ、」

「素晴らしい。正解ですよ、葵。」

「っ!」

 

蒼汰と共に、自らの身体を使って切り落とした手首から、その身体が復活したのだった。

 

 

 

「葵姉ぇぇぇぇ!!!!」

 

絶望へのカウントダウンは止まらない。





……実は、後数えるほど。


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“さいご”で最大の贈り物は、愛

お待たせしてしまって、本当に申し訳ありませんっ!!!

最終話まで、あともう少しです。
最後の最後に、アンケートを取ろうと思っています。ご協力いただけたら嬉しいです。


 

「葵姉から、離れやがれぇぇぇぇ!!!」

「……。」

 

 

──ズシャッ!!!!!!

 

「っ、!!」

 

葵の脇腹に刺さっていた虚の刀は、半ば強制的にそこに迫った銀時によって抜かれた。

 

 

 

──ドサッ、

 

葵が、今日、初めて片膝をついた。脇腹から流れる血は次第に激しくなり、手で覆う口元からも血が流れていた。

 

 

「葵姉……!?」

「偽りの血がもう少しで消えそうですね。」

 

混乱する銀時に、淡々とその状況を伝える虚。悔しいことに、話されるその内容は全て、事実であった。

 

 

「このまま放っておいてもいずれは尽きる命。ですが……、あなたには少々借りがありますからね。

 

最期は、私の手で終わらせてあげますよ。」

「「「「「「「!!!」」」」」」」

 

全員がその言葉に、身体を強ばらせる。ここにいる全ての人間が、少なくとも一度はその人物に救われた。

 

 

 

 

 

その恩義を忘れるような者は、この場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

──ザッ!!!!

 

「……既に風前の灯火である者を、命をかけて守ろうとする、か。下等生物特有の行動ですね。」

「みん、っな……。」

 

全員が葵を取り囲むように虚に迫る。そこには攘夷志士も警察も万事屋も幕府も関係ない。銀時、桂、高杉、そして松陽を先頭に、全員が葵を守るように刀を構えた。

 

「下等生物で結構。俺たちのことをなんと言おうと構わねぇが……。

 

 

 

葵のことを悪く言うのだけは許さねぇっ。」

「!!」

 

 

 

大勢を前にして、狼狽える様子など全く見せず、虚はある一点に狙いを定めた。

 

「なるほど。

 

では、敬意を評して彼女を狙うのはやめましょう。」

「「!!」」

 

 

目の前にいたはずの虚は、既にそこにはいなかった。

 

 

「最愛の人を奪うという形で許してあげます。」

「蒼汰ぁっ!!!」

 

怪我を考慮して少し後ろにいた蒼汰の真横に、虚が現れた。

 

「っ、!」

 

傷によって力の入りにくい体にムチを打ち、必死に敵を見据える。だが、……所詮、見据えるだけ。

 

なんの障害もなく、蒼汰に向けて虚の刀が振り上げられた。

 

 

 

──ズシャッッッッ!!!!

 

そのまま振り下ろされた刀が、身体を斬った。

あたりには血が流れ、真っ赤に染まる。

 

 

「っ、……?」

 

 

その認識が、一瞬遅れる。

 

この流れる血は自分のものか。

やってこない痛みの原因は何か。

 

 

「救ってあげようとした命を、自ら私に差し出すとは。

 

全くあなたのやることは、理解できませんね。」

「……。」

 

蒼汰の前に立ちはだかるのは、先程まで確かにいっぽも動くことの出来なかった、大切な姉・葵であった。

 

「姉……ちゃん……?」

 

 

──ドサッ

 

「葵姉ちゃんっ!!!」

 

葵の肩から腰まで振り抜かれた傷から流れる血の量が、葵が既に限界を迎えていることを示していた。自ら立っていることが出来ず、蒼汰のいる背後に、そのまま倒れてきた。

 

 

「姉ちゃんっ!!!葵姉ちゃんっっ!!」

 

蒼汰の腕の中にいる葵は目を閉じ、ピクリとも動かなかった。

 

 

「美しい姉弟愛の中で、姉弟もろとも、ここで死にますか。」

 

目の前に立つ虚が、無慈悲に二人に向けて刀を振り下ろす。

 

 

 

 

──キーンッッ!!!

 

 

「これ以上、私の大切な子どもたちに手を出すことは許しません。」

「松陽……。」

 

振り下ろされた刀を松陽が受け止めた。

 

 

 

 

「まあ、いいでしょう。

 

本来の目的は、未来が視える力を消すこと。既に目的は達成されていますからね。」

「!!、待ちやがれ!!!」

「いいんですか?これ以上放っておけば、姉だけではなく、弟も死にますよ。」

「っ!!」

 

 

 

 

 

颯爽と歩いていく虚の背に、誰も飛び込むことは出来なかった。

天導衆を乗せた船が、空に浮かび上がった。

 

「……。」

 

 

誰もが思い知る。

 

 

圧倒的な力の差を。

 

 

 

「葵っ、姉ちゃんっ……。」

 

 

それに一人で立ち向かった、姉の偉大さを。

 

 

その沈黙を打ち破れるものが、現実を受け止めきれる者が、

 

 

 

 

「皆の者、動け!!」

「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」

 

一人しか、いや、1人だけいた。

 

 

「傷ついた者たちは城に運び入れろ!傷の具合を見て、皆で手当するのだ!!

城にある全てのものを使え!!」

 

「っ、」

「……っ、」

 

 

その凛々しい声が、その場を和ませ、張り詰めさせる。

それが長であり、

 

 

「『立ち止まってはいけない。疑ってはいけない。

 

自分を信じることが出来ないものが、他人のために何かすることなど出来ない。』

 

……葵の言葉だっ。」

 

葵が仕え、守り、育て上げた【将】であった。

 

 

「っ!真選組、全員に継告ぐ!!負傷者を全員、城に運び入れろっ!!」

「「「「「「「「っ、ぉぉぉおおおお!!!!」」」」」」」」

 

「見廻組。運ばれた負傷者の手当を担当しなさい。エリートにしか出来ませんよ。」

「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」

 

 

 

黒と白が、江戸という色が混ざり合う。

 

 

「蒼汰。お前はそこにいろ。」

「……副長っ、」

「上司命令だ。いいな。」

「っ、はい。」

 

 

土方もその場を離れ、万事屋も動きに行った。

その場に残ったのは、松陽とその子どもたちだけ。

 

「!」

 

松陽が、蒼汰の手が僅かに震えていることに気がついた。

蒼汰は葵のことを支えている。つまり、直に葵の命の音が聞こえるのだ。

 

 

──ギュ

 

「!」

「大丈夫ですよ、蒼汰。」

「……、」

 

蒼汰が静かに頷いた。

 

 

その二人の手に、……もう一つ。手が重なった。

 

「「!!」」

「……、、」

 

既に話すことも出来ない葵が、目を開け、蒼汰の方を見た。口を開け、何かを伝えようとする仕草をする。

 

「なにっ?……姉ちゃんっ、どうしたの?」

 

 

 

顔を近づけた蒼汰に、葵はキスをした。

 

「!?」

「葵……?」

 

 

松陽も動揺したが、すぐに気がついた。

 

「傷が……。」

 

 

 

蒼汰の身体にあった傷が、治りかけていたのだ。

 

「これ……血……??」

 

葵の口から注がれたのは、葵自身の血。

 

それは、葵の体内に残った、最後の力。

同じ松陽と晴香の血を受け継ぎ、葵の弟である蒼汰だからこそ、渡すことの出来る、“最期”の最大の贈り物。

 

 

 

 

「…、……、…ぃ………っ。」

「……何?葵姉ちゃん、……聞こえないよっ、」

 

 

震える手を動かし、葵が手を置いた先は、蒼汰の頭の上。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がん……ばった……ね、

 

 

 

 

 

ぁりが……と。」

 

 

 

うっすら微笑んだ葵。その手は力無く、父である松陽の上に落ちた。

 

 

 

 

「葵姉ちゃんっ!!!!!」

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

手当に当たっていたものが全員、振り返った。

僅かだけども残っていた不死の力で、まだ力尽きるまではいかないはずだった。

 

 

それを葵もわかっていた。

 

 

 

分かっていて、その力を全て蒼汰にあげたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

すべては愛する弟のために。

 

「蒼汰とやら!早く、葵を城の中へ!!」

「っはい!!」

 

 

叫ぶのは、彼女の最後の上司。この国の将であり、彼もまた、彼女を姉として慕ったもの。

 

 

 

 

 

「まだ、事切れて良い時間ではないぞ、葵っ。」

 

 

その拳が強く握られていた。

 

空はまるで全員の心が反映したかのように、雨が降り出していた。



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気づいた気持ち。~軌跡

後……一話か二話か……。

長い間、たくさんの応援ありがとうございました!
今回はアンケートがあります!!
私の活動報告の方にございますので、お答えしてほしいです!!


 

 

10年以上、この未来に向けて私は生きてきた。

 

例え嫌われたとしても、裏切り者だと軽蔑されたとしても。

 

 

私が最も愛した君たちが助かるなら、と。

悲しいとか嬉しいいう感情は、極力抑えてきたんです。

そうしなければ、君たちへの本当の気持ちの大きさに対して、軽蔑された時に耐えられない気がしたから。

 

 

 

でも、

 

 

『手助けは不要でしたか、葵?』

 

私を愛してくれた父は、私を信じてくれていた。

 

 

『葵姉ちゃんを知らないお前が、葵姉ちゃんを悪く言うな!!』

 

血の繋がった弟は、分かってくれていた。

 

 

全員が自分を取り囲み、自分が見せてきた背中を見せてくれた。

守られていると、実感した。

 

 

そして、

 

『葵のことを悪く言うのだけは許さねぇ。』

 

 

そう、あなたが叫んだ時。……私は気づいたんです。

 

 

 

『お姉ちゃんが大好きだから…………。。』

 

あなたに出会った時、

 

 

『葵姉がその刀を抜かなくてもいいように、 俺が強くなる!

 

だから心配すんな!!』

 

ちょっと前まで、私が守っていかなきゃと思っていた君に、もう守られていたんだと気づいた時、

 

 

 

 

そんなにも前から、私は君の姉として守りたかったのではない。

 

 

『鬼子拾い』と言われだしたあの日、

あなたと戦場で出会ったあの日から、

 

 

 

 

 

 

 

──“坂田銀時”という人物が、好きだったのだと。

 

前世でも、この世界に来てからも、感じることのなかったあの感情。

銀時に『葵』と呼ばれた時の、変な気持ち。

 

 

……本当にあの時、戦ってなくてよかった。

 

 

 

 

気づいた、気づくことの出来たたくさんの気持ち。

向けられたたくさんの感情。

大切な人の笑顔。

溢れんばかりの愛。

 

私が貰えなかった、欲しかったものが全部ここにあった。

 

 

私は幸せな世界で生きてた。

輝く素敵な世界を生きることが出来た。

 

 

自分の命を犠牲にしてでも、という存在にまた出会えた。

今度は守ることが出来た。

 

 

 

 

「……私、上手くやれたかなぁ。」

 

決して拾われることはないと思っていた、独り言。それは、

 

 

「頑張ったわよ、葵は。」

「!!」

 

優しくて、安心する声。すぐに感じた浮遊感。

 

 

目を開くと、辺りは色鮮やかな世界。……感じる懐かしさ。

 

 

 

「久しぶり、葵ちゃん?」

「。

 

小さい文字、止めたんだ……神様。」

「うん。僕も色々あったからね。」

 

 

来るのは三度目。真っ白な空間だったそこは、既に、その面影はなかった。

 

「葵ちゃんの軌跡だね。」

 

私が出会った人たちの色。支えられてきた跡。

 

 

 

そして、その空間に存在する……愛の色。

 

「晴香さん……?」

「久しぶりね、葵。」

 

 

私の母。松陽先生の愛した人。

私にたくさんのことを、たくさんの愛を教えてくれた人。

 

 

──ギュッ

 

「!!」

「頑張ったね。お疲れ様、葵。」

「晴……」

「あら、晴香じゃないでしょ?」

「!!

 

 

……母上っ、!!」

 

 

いつぶりだろう。

 

自分が強くならなくては、と思ってずっと我慢してきた。

本当は、みんなと一緒にいたかった。もっとたくさん笑っていたかった。

 

それでも我慢してきた。

 

泣いてしまったら、決意が緩んでしまう気がして。

あの暖かい空間に戻りたくなってしまう気がして。

 

 

「っ、……、っ、」

「……。」

 

母上は、黙って私を抱きしめてくれた。

私は止まらない涙を感じて、初めて自分が追い詰められていたことに気づいた。

 

 

 

 

 

「さてと。葵ちゃんも、落ち着いた?」

「……うん。

 

私は……死んだの?」

 

この空間に来た時点で、死んだのではないと思ったが、母上がいるなら話は別だった。

 

「ううん、ここは葵ちゃんの精神の中だからね。ここが存在するうちは、葵ちゃんは死んでないよ。

 

だけど……」

 

 

神様が指さした方向を見ると、そこには明らかに何かしらの境界線があった。

そこから先は“無”の世界。何も無かった。

 

「侵食されてるんだ。もうすぐこの世界は消えちゃう。」

「!?」

「あの侵食が、葵ちゃんの命のリミットだよ。」

「……そっか。」

「……意外と落ち着いてるんだね?」

 

命のタイムリミットが迫ってると言われても、あんまり同様はしなかった。

 

「まぁ、覚悟はしてたからね。」

 

 

逆に、あそこまで生きれた方が凄かった。

やるべき事はやりきった。やりたかった事は、全部やってきたんだ。

 

 

 

「葵……、本当にいいの?」

「!」

 

聞いてきたのは母上だった。

 

 

「気づいたんでしょ?自分の気持ちに。

もっとみんなと過ごしたいって、思ったんでしょ?」

「……。」

 

 

母上の言う通りだった。

みんなと一緒にいたいって、思ってしまった自分がいた。

もっといろんなものを見たいと、思ってしまった。

 

 

……もっと一緒にいたい、大好きな人の存在に気づいてしまった。

 

 

「葵。あなたは頑張ったんだから。

 

自分の好きな道を選んでいいのよ。」

「!」

 

「困った、手のかかる弟はたくさんいるかもしれないけど、

 

私と松陽さんから見れば、あなたはこれからもずっと、私たちの子どもなんだから。」

「……。」

 

 

 

「さぁ、葵ちゃん。どうする?

 

 

ここで僕らと一緒に行くも、元の世界に戻るも、君次第。

好きな方を選んで。……後悔しない方を!」

 

 

 

「私は……、」





《アンケート》

吉田葵の運命を決めるのは、あなたの意見!
この後、葵ちゃんをどうして欲しいですか??

生きて欲しい!とか死んでも、感動的な終わり方にしてほしい!!とか簡単な意見でも、
詳しくこんな感じ……と言っていただいても構いません!!

ぜひ、ご意見お願いします!!

※注意
本小説の感想欄に書いていただいても、規定により削除されてしまいますので、活動報告の方にお願いします。


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望んだ終わり方
新しい運命、新しい感情



遅くなり申し訳ありません。たくさんのコメントありがとうございました!
葵ちゃんが、みなさんにたくさん愛されていることがわかり、すごく嬉しかったです。
みなさんに決めていただいた運命を、葵ちゃんは辿ります!!

fulluさん、大日小進さん、ノートンさん、セニアさん、遥奏音さん、Ture of Vampさん、ピロネン6さん、邪龍王さん、チミチャンガさん、わさび、さん、スコルとハティさん、まいまい2518さんありがとうございました!!


 

 

 

──ピッ、ピッ、ピッ

 

 

静かな部屋に、一定の音だけが響く。

 

 

──ガラッ

 

「!……今日も来てくれたんだ。」

「まだ……、起きてないか。」

「……うん。」

 

一定の音だけが響く静かな部屋にやって来たのは、桂だった。

 

「いいの?一応、追われてる身なんでしょ?」

「俺に構っていられるほど、暇じゃないらしいからな。

 

それに、いざとなればお前が捕まえればいいだろう、蒼汰。」

 

その静かな部屋にいたのは、蒼汰だった。

 

「僕に小太郎のこと捕まえるのなんて、無理に決まってるでしょ。」

 

そう言うと、蒼汰が視線を戻した。その先にいたのは、たくさんの管に繋がり、目を閉じたままの葵だった。

 

 

「蒼汰。少しお前も休め。」

「……大丈夫だよ。みんなに比べれば、僕なんて何もしてないからね。」

「そんな顔で言われても、説得力が皆無だ。」

 

蒼汰の目の下にははっきりとクマがあり、一つも休んでいないことは明らかだった。

 

 

「まだ処分が決まらんのか。」

「仕方ないよ。ここまで事が大きくなっちゃったんだから、最終的な決定は、将軍様がすると思う。」

「その将軍は、仕事がありすぎると。」

「定々公の処遇の決定、天導衆との交渉、虚の調査……。

 

やらなきゃいけない事が溜まってるんじゃない?僕らのところにも詳しいことは、入ってこないし、小太郎がここまで入ってこれちゃってるしね。」

「……まぁ、それ以外の理由もあるか。」

「土方副長に、ここで休んでろって命令されちゃってさ。」

 

 

葵が眠りについてから、既に二週間が経っていた。

 

一時的とはいえ、虚や天導衆を江戸から追い出したことに賞賛するものはたくさんいた。が、それは同時に、その全ての仕事が将軍である茂々に回ってくることを意味しており、政治期間は目まぐるしく動いていた。

 

「……晋助は、今日はいないんだ。」

「あぁ。先生と一緒に、将軍といるぞ。」

「ついこの間までなら、考えられないね。」

「高杉も、恩を売れるだけ売っておくつもりらしいぞ。」

「晋助らしいや。」

 

 

葵が介入した世界では、普通では回らない方向へ歯車が回っていた。それでも、それは、確かに葵が望んだ回り方だった。

 

彼女の大切な父・吉田松陽は死ぬことなく大切な門下や息子と暮らしていた。身体から虚の血は消え、代償として不死の力を失ったが、吉田松陽として生き始めることが出来た。

 

大切な弟・吉田蒼汰は、今は謹慎中という身であるが、既にその処遇は決まっているようなものだった。

もちろん、真選組副長補佐としての復帰。結果的に真選組を騙していたことになってしまったが、既に葵が将軍に事情を話していたのと、今回は直属の上司であった土方が、既にその事について調べて知っていたことが、復帰を早々に促すことに繋がった。

 

今は療養期間として、謹慎中のままにしているが。

 

 

桂と高杉も、虚を追い出すことに貢献したことと、今、現在、政府に協力的なこともあり攘夷時代のことも、不問という形で処理される予定になった。

 

結果的に天導衆から引き抜くことになった朧は、葵の約束通り将軍の護衛として、将軍のもとにいれることになった。

 

もちろん、以上のことは将軍が茂々になったことが、大きく関わっていたが、その将軍をそこまで押し上げたのも、言ってしまえば葵であった。

 

 

 

そしてもう一つ。

 

あの後、そよ姫と茂々の付き人であった爺やと、鈴蘭が出会えたのだという。

鈴蘭は亡くなってしまったが、すぐに爺やを送り出したため、葵の知る世界よりも長く二人が話すことが出来たことは、誰も知らない。

 

 

 

誰もが少しだけでも幸せに暮らしている世界。

全員が葵と関わり、そして、感謝してたくさんの人が葵の見舞いに来た。

そんな世界で、

 

 

 

「あやつは、まだ来んのか。」

「……うん。土方副長は会ってるって言ってたから、どこかに行ってるわけじゃないみたいだけど。」

「あんの、馬鹿は何を考えているんだ。」

 

そんな世界で、彼女が愛してると気づいた人物だけが、一度も顔を見せなかった。

 

「一体、何に責任を感じているんだ、銀時は。」

「……葵姉ちゃんが差し向けたとはいえ、銀兄は葵姉ちゃんを刺しちゃったから。

その傷も、全く関係ないわけじゃない。……そういうことかな。」

「そんなめんどくさいことを考えているのか、あいつは。」

 

そう言うと桂は、葵に近づいた。

 

「見舞いの品がまた増えたな。」

「昨日、見廻組の信女さんと、吉原の月詠さんが来たんだ。後、万事屋の二人も。」

「そうか。」

 

 

そう言うと桂は、葵の透き通った手を握った。

 

「葵殿。あやつをまた叱ってやってください。

俺たちの手綱を握ってるのは、やはりあなたです。」

「……。」

 

 

──ガラッ

 

「あら、小太郎ですか?」

「んだよ、てめぇも今日来たのか。」

「!」

 

 

扉を開けて現れたのは、大混乱に陥っている政府に最も尽力していると言っても過言ではない二人、松陽と高杉だった。

 

 

「蒼汰、これ頼むわ。」

「いつもありがとう、晋助。」

「……これ、お前が買ったのか。」

「んだよ、悪いか。」

「いや……。お前が買ってるところを想像すると……、っ」

「小太郎、それ言っちゃダメだよ。」

 

桂も、その発言を止める蒼汰も、お腹を抱えて笑い出した。

 

「あぁ?笑うんじゃねぇよ!」

「いやいや、きっと葵殿も笑っているぞ。

 

 

お前が花束を持ってくるとは、明日は槍が降るな。」

「大丈夫、大丈夫。僕も初めて持ってきた時そう思ったけど、降らなかったから。」

「そうか、それは良かった。」

「おい、てめぇら……っ、」

 

こめかみに血管を浮かび上がらせた高杉が、二人を睨んでいた。そして、そこから更に言い合いになる。

 

 

 

「……楽しそうですねぇ、葵。」

 

そんな光景を、松陽は葵のそばから見ていた。

 

「あなたにも見せてあげたいんですよ。

あなたを待っている人が、こんなにたくさんいることを感じてほしいんです。」

 

既に、棚に乗り切らなくなっているたくさんの見舞い品。

 

 

酢昆布、ドーナツ、マヨネーズ、タバスコ、バナナ……圧倒的に食べ物が多いが。

吊るされている千羽鶴は、将軍とそよ姫がたくさんの人にお願いして作ったものらしい。

高杉が持ってくる花も、たくさんの花瓶に飾られていた。

 

 

そして、その棚に松陽が立てかけたものは、いつか松陽が葵に渡したもの。

 

「あの言葉はあなたにとって、覚悟の決意だったんですね。」

 

 

『この刀は、この世で最も大切なものを守りたい時に使います。例え……自分の命を犠牲にしても。

 

“その人のために斬った時に、後悔しない”

 

そう思える瞬間にだけ、この刀を抜くことにします。』

 

葵がそう誓った通り、家を出てあちら側に着くまでは、決してその刀を抜かなかった。

そして、結果的に裏切った時からそれを使い始めた。

 

 

「流石ですね、葵は。」

 

“守る”というのは、何も戦闘においてだけの話ではない。彼らと戦うことで、彼女なりに守っていたのだ。

 

剣を向けることに後悔しない、と誓って。

 

 

 

「葵。

みんな待ってますよ。小太郎も、晋助も、銀時も蒼汰も。

 

そして私も。

 

 

あなたと色んなことを話したいんです。」

 

葵の手を握る松陽の手に、涙が落ちた。

 

「!!……あなたはっ、本当にっ、」

 

 

生まれて初めて泣いた。

虚の身体であった時には、決して生まれなかった“悲しい”という感情。

それが葵によって生み出されたのだった。



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全てが詰まった場所、人


こんにちは。投稿が遅くなり、申し訳ありません!!
作者の想像だと、あと一話……??


 

 

「……。」

 

 

──ザッ、ザッ、ザッ、

 

人の気配が少ない、ほとんどいないような小さな村。そこを、一人の男が歩いていた。

 

 

「銀ちゃーーん!!」

「銀さーーん!!」

 

歩いていた銀時を呼ぶ、神楽と新八。

 

 

「結局、着いてきたのかよ。」

「銀ちゃんだけ休みなんてずるいネ!!」

「そうですよ!!僕たちも休みが欲しいんです!」

「はは……、そうかよ。」

 

三人が歩いているのは、いつの日か訪れたことのあった銀時の大切な思い出が詰まっている、“松下村塾”。

葵によって守られた、未来の形の一つ。

 

 

「ありがとな。」

 

一人で来るつもりだった。全てではなくとも、多少なりとも葵の考えていたことがわかった今、再びここに来たかった。

ただ、来ることにも時間がかかってしまった。何も知らなかったとはいえ、自分のせいで大切な姉を苦しめ続けてきた。そして、彼女が眠ってしまった原因に、間接的にでも関わってしまった。

 

そんな自分に、ここに来る、そして会いに行く資格などあるのか。

 

 

周りになんと言われようとも、その資格があるとは思えなかった。そんな葛藤の中、ここに来る決意がようやくついたのだ。葵が眠って三週間のことだった。

 

 

「……。」

 

松陽の家となっている松下村塾。葵の側についてるので、今は、誰もいないその家は、銀時にとっての全てが詰まっていた。

 

 

「銀ちゃんたち、ここで勉強してたアルカ!!」

「おう。……っても、ほとんど寝てたけどな。」

 

軽く笑って答える銀時も、当時の席、一番後ろの外に近い席に座った。寝るのに、寄りかかる壁もあって、眠気を誘う気持ちのいい風も入ってきた。

 

 

「松陽さんが教えてたんですか?」

「いーや。松陽も教えてたけど、葵姉も教えてたな。

 

そーいや、葵姉の話は聞いてたな……。」

「銀ちゃん、姉ちゃんのこと好きだったアルナ!!」

「……はっ!?」

 

神楽の突然の言葉に、驚きを隠せない銀時。

 

「な、ななな、何言ってんだよ!?」

「……銀さんこそ。今更、何言ってるんですか。」

「今もめっちゃ好きアルネ!」

 

呆れたように銀時を見る新八と神楽。

 

 

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

「じゃあ、好きじゃないんですか?」

「は??……いやっ、好きじゃないわけじゃねぇけど……。」

 

 

 

 

「銀ちゃん!!お客さんアルヨ!!!」

 

銀時が悶々と考えている所に、玄関から神楽が叫んだ。

 

「客?誰だよ、こんな田舎に……」

「ここにいたか。」

「……あんたかよ。」

 

玄関に立っていたのは、かつては間接的に銀時らの兄弟子であった、今は将軍の下につく、朧だった。

 

 

「まだ、葵に会いに行ってないようだな。」

「……悪かったな。」

「いや。

 

葵が凄かった、ということが分かるだけだ。」

「……は?」

 

そう言うと、朧は一枚の手紙を銀時に差し出した。

 

 

「葵が生きていて、お前が何かに後ろめたく感じているのであれば、渡して欲しいと頼まれたものだ。」

「!?」

「お前がこうなることまで分かっていた、ということだ。」

「まじかー。」

 

天を仰いぎ、手で目を覆ったその頬を、涙がつたった。

 

 

───────────────────────

 

 

かつて葵の授業を受けた席で、銀時は、その手紙を開いた。

 

銀時の持つ教科書に、よく書いて貰っていた葵の綺麗な文字がそこには並んでいた。

 

 

 

『銀時へ。

 

 

まず、この手紙を渡されなければならない状況に、あなたを追い詰めてしまってごめんなさい。

あなたは優しくて、責任感が強いから、きっと人一倍たくさんのものを抱えてしまう。そして、そうだと分かっているのに、あなたにその荷物を背負わせてしまって、本当にごめんなさい。

きっと、あなたは自分のせいでと感じているんだと思う。

だけど、絶対にそんなことない。銀時が悪いことなんて、一つも無い。

だから、どうか。自分を責めないで。追い詰めないで。

もしそこに私が関わっているのであれば、それは、私が自ら望んだこと。銀時は、何も気にする必要ないよ。

 

 

銀時と離れていた時間。みんなの前に、敵として立った時間。

きっと、たくさん傷つけたよね。それについて弁明するつもりも、許して欲しいとも思ってない。

 

ただ、これだけは知っていて欲しい。

 

私は、ずっとみんなを信じていたよ。

 

きっと、また立ち向かってきてくれる。

きっと、また助け合って前に進んでくれる。

 

あなたにこの手紙を渡すことが出来ているのなら、きっとその通りだったんだろうな。

 

 

本当にありがとう。

 

あの日、私と出会ってくれてありがとう。

 

私を姉として慕ってくれてありがとう。

 

最後まで信じてくれてありがとう。

 

 

あなたの姉になれて、本当に幸せでした。

あなたが、みんなが笑う世界を、私は心から願っていました。

 

 

あなたのことが大好きでした。

 

 

また、あなたの笑顔を直接、見れますように。

 

吉田 葵。』

 

 

 

 

全てのことが、走馬灯のように駆け巡った。

 

楽しかったこと、辛かったこと。嬉しかったこと、悲しかったこと。面白かったこと、楽しかったこと……。

 

 

思い返せば、いつも、どんな時も、葵は見守ってくれていた。守ってくれた。

 

 

 

 

「……戦場で。葵の話すことの八割は、お前達のことだと言ったな。

 

 

その八割のうち、ほとんどはお前の話だ、坂田銀時。」

「!!」

「お前の自慢ばかり、俺は聞かされていた。」

「……。」

 

 

少し黙ったあと、朧が言ったことに、銀時は耳を疑った。

 

「……お前が羨ましかった。」

「!?」

「松陽が愛した娘に、こんなにも愛されているお前が。その女が、命をかけてでも守りたいと思われるお前が。」

「葵……姉……が??」

 

 

「今度はお前の番ではないのか。」

「!!」

「幾度となく、助けられたのではないのか。」

「……。」

「その葵が、お前を待っている。」

「……葵姉は、俺のせいで……、」

「貴様の知ってる吉田葵は、お前に責任を負わせるような奴か。」

「!!!」

「少なくとも、俺の知っている吉田葵は、そのような弱い者ではない。」

 

 

そう。

 

彼が、いや、吉田葵に関わった全てのものが、彼女に守られた。

そのせいで彼女が倒れたことについて、誰かを責めるような者ではないのだ。

 

 

「お前の姉も、……いや、お前が愛する女も、そうではないのか。」

「!」

「お前にとって葵の存在が大きいように、葵にとってもお前の存在は大きい。

 

そのことに気づけ、吉田銀時。」

「……っ、!!」

 

 

葵に与えられた、大切な名前。

 

 

 

彼女が、銀時にすべてを与えた。

 

名前も、

 

環境も、

 

生きる術も、

 

 

そして、愛も。

 

 

 

「神楽、新八。帰るぞ。」

「「!!」」

「行かなきゃなんねぇところでが出来た。」

「はい!」「ウン!!」

 

 

走り出したが、銀時はすぐに止まった。

 

「?」

「……ありがとな、葵を守ってくれて。」

「……貴様に礼を言われる筋合いはない。」

「そうかよ。」

 

 

そう言うと、再び走り出した。

 

 

「葵。お前の弟は、相当面倒くさいな。

 

お前の言った通りだ。」

 

 

 

『弟……。』

『そ。悪ガキで、まだまだ未熟者だし、面倒くさいんだけどね。』

『そうなのか……?』

『それでも……、どうしても見捨てられないんだよ。

 

大好きだから。』

 

 

 

葵が唯一、表情を豊かにして話す内容だった。

だんだんと、その話を聞くことが朧も楽しみになっていた。実質、弟弟子にあたる彼らの話を。

 

「早く目を覚ませ。そして聞かせて欲しい。

 

 

お前の大切な弟たちの話を。」

 

 

朧が思い浮かべたのは、望む未来。

 

 

 

 

いつの日か葵が望んだ、キラキラした未来。



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【最終回】IF~転生先で、私は鬼子を拾い、彼は私に幸せを与えました。



こんにちは。
とうとうこの日を迎えました。そして、迎えることが出来ました。
本当に嬉しいです。そして、この作品を読んでくださった皆様には、本当に感謝です。

どのような終わり方にしようか、たくさん悩み、結局たどり着いたのは、私がこの小説の連載を始めた頃に考えた終わり方でした。

終わり方に納得出来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、どうが、お許し下さい。


最終回ですが、特別版としてご希望のあった【死亡ルート】模作成中です。ですが、とりあえず完結です。

更新を止めてしまった時期、受験にぶち当たり再び止めた一年。読者の皆様のおかげでここまでこれました。2年と4ヶ月、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

たくさんの人に葵ちゃんを愛していただき、本当に幸せでした。
では、最終回!どうぞ、よろしくお願いします!!


「本当によかったんですか?」

 

声が響いた場所は、何も無い空間。

“無”という言葉が良く似合うその空間で、誰かの背中に声を投げかけたのは、葵の世界にいた神様。

 

「葵が決めたことなら、いいのよ。それに……」

 

 

『君が復活することは出来るよ。けど、代わりに何かを失う。代償として、君の身体は完全に復活することは出来ないんだ。』

『それでも構わない。』

 

代償に、何かしらの障がいが出ると言われても、一つも揺らぐことのなかったその瞳が、すべてを物語っていた。

 

 

「あんなにも強い目で言われちゃったら、何も言えないもの。

 

さすが松陽さんの子ね。」

 

そう、笑いながら言ったのは晴香だった。

 

「吉田松陽に似てましたか。」

「えぇ。一度だけ、同じ顔をした松陽さんを見たことがあるわ。」

 

そう言うと、よほど面白いのか思い出して笑っていた。

 

 

 

『私は決して人に胸を張れるような生き方はしてきませんてました。』

『……。』

『その罪が消えることは一生ないと思っています。それは、私が一生背負っていかなければならないものです。』

『私をその罪滅ぼしに、守りたいということですか?』

『もしかしたら、それもあるのかもしれません。

 

 

ですが、それだけではないことをどうか分かってほしいのです。

 

 

あなたを一目見た瞬間、私の中で存在しなかった感情が生まれました。

私には欠けている部分もたくさんあります。ですが、あなたを悲しませるようなことだけはしません。』

 

 

会って早々、いい生き方をしていないと言い切り、

それでも自分を信じて共に生きてほしいと言われ、

 

あまりにも真っ直ぐな瞳でそれを言うから……。

 

 

 

「私よりもあなたの方が悲しいんじゃないんですか?」

「……、」

 

晴香が投げかけたのは、もちろん神様であった。

 

「いえ、逆でしたね。

あなたはきっと、葵に生きてほしい。」

「……。」

「それがあなたの願いだから。

 

 

そうですよね、葵の弟さん?」

「……いつから気づいていたんですか。」

 

驚きを通り越したような顔をしながら、神様は聞いた。

 

「あなたに会って、しばらくしてからですよ。

 

葵の蒼汰に対する愛情の注ぎ方と、それを見るあなたの目を見て……。

確信してた訳ではありませんが、予想はしていましたよ。」

 

 

そう。

 

葵に転生の道を与えたのも、

 

何度も精神世界から力を貸したのも、

 

復活させることに貢献したのも、

 

 

「……恩返しみたいなものですよ。

 

僕のせいで彼女は自由ではなかった。

彼女のおかげで僕は生きることが出来た。」

 

前世で、葵が自分の命を懸けて守りたいと思っていた存在・弟だったのだ。

 

「だから、その姉にもう一度楽しく生きてほしいと思ったんですね。」

 

その長い時間で、神様も成長したのだ。

 

 

「次は、僕が姉を自由にする番ですから。」

「そう。」

 

 

──ポンポン

 

「!?」

「頑張ったわね。

 

そして、私に葵をくれてありがとう。」

「……っ、」

 

 

神様と言えど、その年齢はまだ幼い少年だったのだ。

 

「さてと、行きましょう。

 

葵のことはもう少し待つ必要があるみたいね。」

「はい。」

「もうちょっとだけ、二人で楽しく見学してましょ。」

 

 

 

母親に手を引かれる子どものように、二人は手を繋いで白い光の中に消えた。

 

後には、涙の水だけが横に流れた。

 

 

その涙は、きっと悲しみだけではないはず……。

 

 

───────────────────────

 

 

セミが鳴きわめき、太陽はジリジリと地を照らす。

 

一秒でもたっていれば汗が吹き出しそうな気温の外とは対象に、汗ひとつかかない場所に一人の男は立っていた。

 

 

『僕らは依頼を受けてきますから、一人で行ってきてくださいね。』

『しょーちゃんの護衛なんて、神楽様にお任せアル!!』

『朧さんもいますしね。』

 

そう言って、半ば強制的に休みを作らされた銀時がいる涼しい場所は、病院だった。普段なら、絶対に入ることのないVIP専用の病棟。

 

 

その扉の一つの前に、銀時は立っていた。

まだ目を覚ました、という連絡はない。ただ、松下村塾で朧に会い、手紙を読み、そして自分の気持ちに素直になり、眠っていたとしても会いに行かなければ、と感じたのだ。

 

しかし、ギリギリになって、やはり怖気付く。誰だって、多少なりとも自分が関わったせいで、目を覚まさない状態になってしまった相手に、何も感じず会いに行くことなどできない。

 

 

 

『貴様の知っている吉田葵は、お前に責任を負わせるような奴か。』

 

松下村塾で言われた朧の言葉が、銀時の頭に響く。

 

「俺……、弱くなったかな……。」

 

自分がこんなにも迷ってること。それを、乾いた笑いで吹き飛ばした。

 

 

 

『松下村塾、吉田松陽が弟子、坂田銀時。』

 

あの名前を名乗った日から、自分も彼女を守るんだと決めた。

いつも、彼女の方が先を歩いていたけど、

 

 

──今度こそは、隣を胸を張って歩けるように。

 

 

 

 

 

それは、“偶然”。

 

それでも、その理由が全くないとは言いきれない。

 

 

 

彼にとっても、そして、彼女にとっても、

 

その存在は

 

 

あまりに大きかったから。

 

 

 

──ガラッ

 

いつもと変わらない風景。

 

葵の命を知らせる一定した音と、風に揺れるカーテンの擦れる音。

 

ひとつ違うといえば、白い光に包まれているカーテンのところに、いつもはない黒い影があったこと。

 

 

 

「……、」

 

白い光に次第に慣れていった銀時の目に、その影が映る頃、ゆっくりとその影は振り向いていた。

 

 

 

 

「……っ、」

「……

 

 

 

 

 

 

 

銀時?」

 

その声を、二度と聞けないとまで覚悟したその声を、一体どれだけ待ったことか。

 

 

「あお……い、姉……??」

「やっぱり、銀時だよね。」

 

その笑顔は、昔、よく見たあの笑顔。

自分たちが取り戻したかった、大切な姉の笑顔だった。

 

「……っ!!」

 

 

 

思わず入口から駆け寄った。ベッドを飛び越えて、それでも勢い余らずに、優しく抱きしめた。

 

「わわっ!!」

「葵姉……っ!

 

 

 

 

……よかったっ、ほんとに……っっ、、」

 

 

抱きしめた葵が、銀時の腕の中におさまる。

 

自分の大切な姉は、こんなにも小さかっただろうか。

 

こんなにも細かっただろうか。こんなにも儚かっただろうか。

 

 

昔、追いかける背中は大かかった気がしたのに。

 

守ってもらっていた背中は、しっかりとしていた気がしたのに。

 

近くて感じると、こんなにも消えそうなものなのか。

 

 

 

 

それは、彼女が女であり、

 

銀時にとって守られる存在から、守りたいと思う存在に変わった証でもあったが、

 

 

それだけではなかった。

 

 

「葵姉……、俺のこと見えてる?」

「……気づくの早いなぁ、さすが銀時。」

 

そう言って、少し悲しそうに笑った葵の目の焦点は、銀時のことを見ていなかった。

 

 

そう。神様が言っていた“復活の代償”。それが、葵は視力として表れていた。

だが、そんなことは知らない銀時。もちろん、自分のせいだと感じていた。

 

「銀時のせいじゃないよ。」

「!!」

 

見えていない葵に、銀時の表情など分かるはずもないのだが、

 

 

「わかりやすいなぁ。」

 

彼女が培った、感じ取る力と、

 

 

命をかけて守りたいと思い、そして、

 

 

特別な感情を抱いた相手。

 

 

「銀時の、みんなのもとに戻ってくるために私が自ら望んだことだよ。」

「!?」

 

すべて話したとしても、きっと理解できない。

だから、話さない。けども、嘘はついていない。確かに、彼女は彼に会うために、代償を払ったのだ。

 

 

「だから……

 

 

 

 

 

泣かないで。」

 

銀時の頬には、いつの間にか、大粒の涙がつたっていた。

 

「!!」

 

 

銀時は、もう一度、葵を強く抱き締めた。

 

「今度は、……俺が守るから。」

「銀時のせいじゃないよ?……全然、責任なんて感じる必要ないんだよ?」

「そうじゃねぇ!!」

「!?」

 

突然の大きな声に、小さな葵の体が驚きで跳ねた。

 

 

 

 

「大事なやつを守りたいって思うのは、普通のことだろ。」

「……?」

「……なんで、そんなに鈍いんだよ。」

「へっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵のことが好きだって言ってんだよ!!

 

だから守らせろっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の沈黙。

 

 

「あ、葵……??」

 

不安になった銀時が、腕の中にいる葵の顔を覗くために、少し離すと……

 

 

「!?」

「……、、、、」

 

そこには、見たことのない、葵の戸惑った真っ赤な顔。

 

 

「ぶっ、……ははははっっ、」

「な、なんで笑うの!?」

「いや、……

 

 

 

 

 

 

初めて、葵に勝った気がした。」

「~~~~~っ!!」

 

いつも余裕の表情で、銀時の前に立っていた姉が、自分の前で女になった。

 

 

 

 

 

 

「大好きだ、葵っ!!」

 

 

ただ、

 

 

 

「っ、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私もだよ!!!」

 

 

 

──チュッ、

 

「!?!?!?」

「まだまだ、私の勝ちかな?」

 

 

ニヤニヤしながら、見上げるその顔が、どうしようもなく愛おしく感じる自分は、一生勝つことなんて出来ないと、銀時は思い知っていた。

 

 

 

 

 

 

外の光が、青空が、……全てが彼ら二人を祝福しているようだった。

 

 







──キーーンッッッ!!!


「んだよっ!!こいつ!!!」
「見えてねぇんじゃねぇのかよ!!!」
「情報と違ぇじゃねぇか!!!」


その後、パタリと争いがなくなる訳ではなく、天導衆がバックにつかなくなったことで、江戸は一層、天人に狙われることになっていた。

その中心にいる将軍と、その妹君はもちろんであった。

しかし、彼らを傷つけられたものは誰一人としていなかった。



「彼らの命を取りたくば、まず、私を倒していただきたい。」

天人の前に立ち塞がる者は、いつの日かこう呼ばれていた。


“人斬り似蔵の再来”……と。

盲目ながら、圧倒的な戦闘センスと、その剣の実力が、その者をそう呼ばせた。


しかし、彼女の実力がそれだけではないことを、彼らは知らない。




「てめぇ、誰の許可得て、人の女に手ぇ出してんだ、ゴラ!!!」
「てめぇの女になったことを許可した覚えもねぇよ!!!」
「なんで、てめぇらに許可とんなきゃなんねぇ!!!」
「私には取るべきではありませんか?」
「後、僕にも。」
「ぐっ……、ぼちぼち取りに行きます……多分。」
「まだまだ銀時に、葵を渡すわけにはいきませんねぇ。」


彼女を取り巻く者達の存在を知るものは、極一部。
味方にとっては、もはや日常茶飯事の出来事であったが。






「葵さんも大変ですね。」
「あぁ。だが……」

妹・そよの言葉に肯定を示したが、葵の顔を見た茂々は感じていた。

「不死の力を失い、力が劣ったとしても、


きっと今の方が幸せなのだろうな。」


守られるという感覚。葵が感じてこなかったものだった。

感じたいと思っていたものだった。








──彼女は確かに、幸せの中にいた。

───それは、劣化という代償を受けて得たものだった。

────彼女にとって、それはあまりに大きい褒美だったのだ。






「……さてと。これはいらないですね。」
「葵ー?帰るぞー??」
「はーい。」

葵がいるのは、松下村塾の彼女の部屋だった。
その手には、一枚の真っ白な封筒。


「良かった。」

それを見て懐にしまい、少し笑った葵は、映るはずない青く澄み渡る空を見上げ、愛する人の元へ戻った。




fin.


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