蒼の彼方のフォーリズム 天才の二人のその後 (蒼空)
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「明日の練習は中止にする」

始めまして、Vita版あおかな、みさきendのその後として書かせていただきます。
詳しいキャラ詳細や物語の設定は、書いていないので、わかる人でないと分からないです。
ですが、話自体は、知らない人でも楽しんでもらえるように書いていこうと思いますので、読んでくださると幸いです。


今年の夏に開催されるFCの大会は、俺達三年生にとって高校最後のFCになる。

当然みんなのやる気もいつもとは違う。

とてもやる気に満ち溢れていた。

 

「―――それじゃ、みんな降りてきてくれ」

 

ヘッドマイクから、正四角形のブイを周回していたみんなが、「了解」と一言言って降りてくる。

 

「晶也さん、どうしたんですか?」

「部活を終わるには、まだ少し早いよね?」

「暑さで頭でもやられたんですか?」

 

明日香、みさき、真白の順で、それぞれ窓果からドリンクを受け取りながら、言いたいことを言っている。

明日香とみさきに関してはいいのだが・・・・・・。

 

「いや、別に頭はやってないからな、正常だからな?」

「頭ってことは、他はどこかやられたんです―――?」

「あー、明日の練習についてだが」

 

面倒だから、スルーしとく。

 

「なんで無視するんですか!」

「明日の練習は中止にする」

 

俺がそう言うと、俺と窓果を除く全員が、不満げな様子だ。

 

「ちょっと晶也ー、ここにきてサドッぷりを表に出すの? 空気読んでよー」

「今休んじゃっていいんですか? 夏の大会まで、あと三週間ですよ?」

「怠けてる暇なんてないんじゃないですか?」

「そのことなんだけど、最近みんな頑張りすぎだ。特にみさきと明日香は、一度しっかりと休んだほうがいい」

 

最近の練習を見る限り、二人は異常な程熱心になりすぎている。

こういう時に無理して練習をしていたら、いくら心身ともに元気でも、どこかでその頑張りが空回りして怪我をするかもしれない。

 

「・・・わかりました」

「いやっ! だって今年で最後なんだよ!」

 

明日香はすぐに納得してくれたが、みさきは休む気はないらしい。

まぁみさきのことだから、それくらいは駄々をこねてくると思っていたけど―――。

 

「だからって、無理して練習して怪我でもしたら意味がないだろ?」

「大丈夫だって! 私が怪我をするように見える?」

「見える」

 

答えは即答だった。

みさきのがんばりは、時に自分を傷つけるかもしれない。

それが、心の場合だったり、外傷的なものだったりする。

だから、今ここで無理に練習させたらダメなんだ。

 

「真白は当然、私が怪我したりしないってわかるわよねー?」

「はい! みさき先輩なら怪我なんてしません!」

「そこ普通は止めろよ!」

 

みさきの事を本当に思っているのなら、止めてほしいものだ。

 

「とにかく、明日の連中は休みだ。あとみさき、あとで話したいことあるから、着替えたらそこの停留所に来てくれ」

「え? あ、はー。うん、わかった~」

 

短いため息の後に、罰の悪そうな顔で返事をした。

たぶん怒られると思ってるんだろう。

実際は明日行く場所について話そうと思ってるんだけどな。

 

 

 

 

明日香と真白は先に着替えて、マイペースなみさきは、少しあとから来た。

 

「あれ、みんなはどうしたの?」

「先に帰ってもらった。全員の前で話すような内容じゃないしな」

 

俺が停留所からグラシュの電源を入れ、起動キーを言って飛ぶと、みさきもあとをついてくる。

 

「なんで少し後ろを飛んでるんだ?」

「いやー。隣に並んだら、今日のことでお説教タイムでも始まるのかにゃって・・・・・違った?」

「違う。何も言わないから、隣に来てくれ、話にくい」

 

そう言うとみさきは、少し表情を和らげて、俺の隣に並ぶ。

 

「なぁ。俺の練習って、キツイか?」

「キツイよー、開始五分でやめたいくらい」

「・・・それはみさき個人の意見じゃないか?」

 

そうツッコンでやると、次にはしっかりとした回答が帰ってくる。

 

「・・・・・・冗談。今の私たちには、丁度いいくらいかな、真白もついてこれてるみたいだし」

「・・・・・・そうか」

 

真白も、去年の秋大会が終わる頃には夏と比べるとはるかにレベルが違う。

それこそ、俺が真白と、単純なスピーダー勝負をしたなら、負けてしまうかもしれないほどに。

・・・しばし、沈黙が落とすれた。

 

「そんな話のために私を呼んだの?」

「いや、本当は違う。・・・・・・明日福瑠島で夏祭りがあるみたいなんだ、それに行かないか?」

「・・・晶也ー、まさかそのために休みにしたの?」

 

俺の意見を聞くなり、みさきは呆れたような目で俺を見ている。

当然ただお祭りに行きたいために休みにしたわいけじゃない―――が

 

「それもあるかな」

「まさか晶也の口からそんな言葉が出るなんて、思っても見なかったにゃー、でもでもー、それって晶也にデートに誘われてるわけでしょ?」

「まぁ、そうなるな」

 

俺の返事を聞くなり、みさきのテンションはかなり上がった。

 

「もういっそみんなには「俺はみさきとデートに行く!だから明日の練習は中止だ!」とか言ってかっこよく決めてくれたら、かっこいいのににゃ~」

「さすがにそれはヤバいって」

 

主に葵先生にはなんて言われるか・・・。

それこそ今度こそコーチ解任になりかねない。

 

「でも私は~、そんな晶也でも・・・す、すすっ・・・・・・すーっ!」

「おい、無理しなくてもいいぞ」

 

相変わらず、「好き」とかそういう言葉を、すんなりと言えない。

普段気にしてないときはバンバン言ってるのに、そう言う雰囲気や、本気の意味になると、いまだに羞恥心の方が勝つらしい。

一度言ってしまえば問題ないのにな。

 

「うー!今だにしっかりはっきりと。大事なところで昌也に言いたいこと言えないのがくーやーしーいー!」

 

みさきは悔しさのあまり、手をぶんぶん振って暴れ出した

 

「お、おい。暴れないでくれ、当たるじゃないか!」

「晶也なら当たってもすぐにフォローできるでしょ?」

「いやそうだけど・・・あっ・・・」

 

暴れるみさきをおとなしくする方法が思い浮かんだ。

本当はこれはやってはいけないが、まぁ、大丈夫だろう。

俺自身、そうして見たいのもある。

 

「みさき、ちょっとこっち来てくれ」

「え?うん」

 

そして俺は手を広げ、みさきのメンブレンが俺のメンブレンに触れないギリギリで包む。

みさきは俺が何をしたいのか分からないような、文字とおり飼い主の行動を不思議そうに見ている子猫のように見ている。

 

「みさき、フォールって言ってくれ」

「え。・・・ええ?何言ってるの? おまわりさーん、彼氏さんが私を海へ落とそうとしてまーす!」

「違う! 俺がしっかりと受け止めるから。それに下は海だから大丈夫だ」

「失敗前提!?」

 

からかっているのか、照れ隠しなのか、なかなかフォールと言おうとしない。

恐怖心は・・・たぶんないな。

 

「大丈夫だ、俺を信じろ」

「うん・・・すー、はー・・・落ちるにゃん」

 

みさきは、一度深呼吸して気持ちを整えてから、去年の夏に受けた落下訓練の後に変えた、グラシュの解除キーを唱えた。

いつもの飛ぶ時とは違い、さらに落ちそうな解除キーだ。

実際に落ちるって言っているけど・・・。

 

「わっ!・・・っとと、ふう」

「・・・・・・よかった~落とされるのかと思ったー」

 

俺はスタンバイしていた手で、すぐにみさきの腕をつかんで、空中で受け止めた。

その時に少しバランスを崩したが、どうにか持ち直せた。

 

「それで?この後はどうしたいの?」

「手を繋いで飛んで帰ろう、送るよ」

 

俺はつかんでいた腕は、みさきの二の腕から片手を離し、片手をみさきと繋いだ。

 

「・・・っ! うー! うーっ!」

「ど、どうした?」

 

繋いだまま、目をギュっと瞑り、猫が出すような声(?)で唸るみさきに聞いてみる。

 

「こ、こうして、晶也と手を繋いでるのが、すっごい幸せだなって思って」

「それ、ひどいこと言うと、いまさら? って感じなんだけど・・・」

「違うよ、今までも同じ感情抱いてたけど、今回は空だし、なんか、ロマンチックだなって」

 

そう言うと、俺の手の感触をもっと感じたいと言っているかのように、そっと握る力を強くした。

 

そのあとは、みさきを家まで送り明日の時間などを確かめ合い、みさきに遠まわしに迫られたキスを交わし、お互いに変な感情を抱きだしたため、理性が保てるうちに、その日は急いだ別れた。




読んでくださってありがとうございます。
今後不定期投稿となりますが、失踪などということはないので、気長に待っていただけると嬉しいです。


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「やほやほー! まーさやー!」

修正しました。
最後の晶也の

その日俺は、明日の大会のことを考えながら家に帰った。
          ↓
その日俺は、今後の大会のことを考えながら家に帰った。

明日を今後に修正しました。

これは大事な言葉のミスなので、修正させて頂きました。

まだ次の話では大会編ではないです。

失礼しました。


次の日。

俺は九時にみさきの家の前に行くと約束した為、前夜、なかなか眠れない身体を無理やり寝かせ、朝早くから家を出た。

しかし、結果的にみさきの家にたどり着いたのは、約束の時間よりも後だった。

俺はインターホンを鳴らした。

 

「え! もう来たの? 今行くから!」

 

インターホンからは、少し遠くの方から叫んでいる、慌てた様子のみさきの声が聞こえた。

これ、もしも俺意外の人だったら、かなり恥ずかしい事になるんじゃないか?

まあ、それもみさきのいいところの一つか。

 

 

 

 

「やほやほー! まーさやー!」

 

大慌てで、浴衣を着たみさきが玄関から駆けてきた。

 

「今行くと言ってから、もしも晶也じゃなかったらって考えて、大急ぎで着替えようとしたら、なかなか帯が結べなくて~」

「慌ててる時はうまくいかないもんだからな。でもその急ぎも、無駄になったわけだ」

「無駄じゃないよ、急ぎながらも、昌也に会いたい気持ちを溜め込んでたから!」

 

それはなんとも器用な事を。

 

「それで・・・・・どお? 今年も似合ってるかな?」

 

みさきは腕を上下させ、腰を軽く左右に振る。

着ている浴衣は去年、みさきが夏が終わるから夏っぽいことをしたいと言った時に着た、黒色の浴衣に、白と紫の花がデザインされていて、帯も同じ赤色だ。

 

「去年より似合ってるぞ。 去年よりも可愛い、それにやっぱり浴衣は新鮮でなお良い」

「あははは~。やっぱり面と向かってはっきり言われるとこそばゆいにゃ~」

 

みさきは、本当にこそばゆいのか、もじもじ身体を動かしている。

 

「じゃ、行くか。あんまりここでイチャイチャしてて・・・その、誰かに見られると恥ずかしいしな」

「そうだね、誰かに見られる前にいこっか!」

 

そう言うと、みさきはその場でグラシュを起動させ―――

 

「飛ぶにゃん」

 

ピコンッとみさきのグラシュは黄色の羽を生やし、飛ぶ。

 

「おいみさき、決められたとこ以外で飛ぶのは禁止だって、いつも言ってるだろ?」

「私の決められた場所の中には、晶也の隣って言う、私専用の場所があるの! ほら晶也も、私の隣だから飛びなよ」

 

みさきは少し頬を赤くしながら、俺に手を差し出す。

その雰囲気は、去年俺がみさきに、再び飛ぶことを、蒼(そら)に戻ると約束した時のようだ。

当然お互いに飛んで行くから、手を繋ぐことはできない。

でも俺は、その手を握り、引っ張られるようにして、蒼(そら)へ羽ばたく。

 

「ああ行こう、今日はみさきとデートだ」

 

たまには、停留所からじゃなくても良いだろう。

きっと誰も見てないだろうし。

 

「・・・うん!」

 

 

 

 

―――ほどなくして、福瑠島の停留所に下りた。

まだお昼だというのに、辺りは人で混雑していた。

 

「みさき、手、繋ぐか・・・」

 

俺は隣にいるみさきの手を素早く握る。

躊躇したり、返事を待ってると、恥ずかしくて止めてしまいそうだからだ。

 

「あっ・・・うん、そうだね、はぐれると困るしね、繋ご」

 

俺が握ると、そっとみさきも握り返す。

昨日の帰りも感じたみさきの手の温もり、それなのに、なんだか久しぶりな気がした。

 

「さて、どうしよっか!」

「そうだな、まずはお祭りを開催している神社に行かないとだな」

「りょうかーい!」

 

みさきは無邪気に返し、手を繋いで神社へ向かう。

 

「晶也はさ、今日のこと、いつから決めてたの?」

「先週くらいかな、窓果からこのお祭りの事を教えてもらってさ、それで今日の予定を組んだんだ」

「そっか。・・・その、ありがとうね、私のために、部活を休みにしてまで連れてきてくれて」

 

みさきは、そう、はにかみながら言った。

 

「当然だろ。俺達付き合ってるんだから」

「うん」

 

そんなこんなで会話をしていると、時間の進みというものは早いものだ。

もう目的の神社の目の前に来ていた。

 

「ここの鳥居は大きいにゃー」

「四島列島の中で、二番目に大きいところだしな」

「ん? じゃあ一番は?」

「久奈浜にある神社だよ」

「へえー、そうなんだ」

 

みさきは興味深そうに鳥居を見ている。

 

「・・・・・・鳥居に興味あるのか?」

「ううん、別に。ただこんなに大きくてどうするのかなって」

「それ、俺も気になって前に調べたんだけど、ネットだと出てこなかったんだよな」

 

気になって日曜の休みを潰してまで調べたが、結果答えはなかった。

 

「だから俺はこう考えた。鳥居は、その向こうは神域とされているため、神がその門を潜り、神域に戻った。・・・こんな感じかな」

「晶也って、本当は頭いい?」

「みさきほどじゃないけどな」

 

みさきの頭の良さは、本当にすごいと思う。

きっと、これを天才と言うんだろう。

 

「ねえねえ、鳥居の話はもういいからさ、早く行こうよ!」

「そうだな・・・じゃあまずは何から行く?」

「お祭りといったら、これでしょ!」

 

そう言ってみさきが俺を連れていったのは―――

 

 

 

 

「カキ氷!」

「まあ、普通だな」

「・・・・・・晶也、なんかつまんなそう」

 

みさきがムッとして、明らかに不機嫌になった。

 

「つまんなくないって、ただありきたりだなって思っただけだって」

「・・・じゃあ晶也がおごって!」

「・・・・・・わかった、おごるよ」

 

財布にそこまでの余裕がないわけじゃないが、あまり贅沢できるほど多くもない。

みさきに一個分のカキ氷の小銭を渡し、俺は列から少し離れたところにあるベンチに腰掛けて待つ。

カキ氷の列は長いが、遅くても五分あれば帰る程度だった。

 

「つまらなそう、か・・・」

 

確かに、今年は自分も大会に出るだけあって、知らない間に気分が乗れてなかったり、浮かない顔をしていたかもしれにない。

まだ大会に参加する勇気が、百パーセントあるわけじゃない。

でも、だからと言って今、みさきとのデート中に浮かない顔をしていたら、みさきが傷つく、お互いの絆に溝が生まれるかもしれない。

 

「しっかりしないとな!」

 

俺は自身の頬を両手でパンパンッと叩き、気持ちを入れ替える。

今はせっかくのデートだ、楽しまないと。

 

「珍しいな、一人でお祭りか?」

 

隣に聞き覚えのある人が腰掛ける。

 

「あお・・・各務先生」

 

いつもの通りの格好の、いや、学校での白衣を着ていない、それ以外はいつも通りの各務先生が隣に腰掛けたのだ。

 

「ここは学校じゃないんだ、先生はいい」

「はい。それで、葵さんはここで何を?」

「ん? まあ、教師として、何かしでかす奴がいないか見回り中だ。そしたら晶也が浮かない顔でベンチにいたもんだから、担任として話しかけたわけだ。・・・鳶沢にでもフラれたか?」

「フラれてません! からかわないでください!」

 

と言うかなんでこの人は付き合っていること知ってるんだ。

先生にバレルといろいろとめんどくさいから隠してたのに・・・。

 

「そうか、晶也が強引過ぎて鳶沢がついていけなくなったのかと思ったんだが、違ったか」

「それで、結局何が言いたかったんですか?」

「ん? 晶也、お前今日停留所から飛ばなかっただろ」

「なっ!」

 

まさか、あれを見られていたのか?

いったいどこから?

俺が飛ぶとこから?

それともみさきと会話しているところすべて?

 

「コーチとして、FCを教える人として、あんまりいただけない行為だな」

「・・・はい、反省してます」

 

こればかりは、俺が悪い。

言い逃れはできないだろう。

 

「晶也ー! 買って・・・って、各務先生?」

「よう鳶沢、仲良くしてるか?」

「は、はい、いつも通りです」

 

葵さんはみさきが来ると、笑いながらみさきに呼びかける。

みさきもいきなり居た葵さんにどんな反応して言いかわからないのか、返しがぎこちない。

 

「まあ、話すことはそれだけだ。・・・あんまり浮かれすぎて、取り返しのつかないことをするなよ?」

「わ、わかってます!」

 

意地悪な笑みを浮かべて、俺をからかい、そう言い残して葵さんは去っていった。

 

「・・・なに話してたの?」

「たいしたことないよ」

 

俺はため息交じりにそう伝えた。

今日は誤算が多い。

葵さんもここに来ていたこと、停留所以外から飛ぶところを葵さんに見られていたこと、葵さんに付き合っていたことがバレていたこと。

・・・どれも葵さんが絡んでいる・・・・・・。

 

「さ、ほら、晶也口開けて」

「え、俺はいいって」

 

いつの間にか隣に座っていたみさきに、プラスチック製のスプーンを近づけられる。

まさか、こんな人の多い場所で「あーん」なんてやるつもりだろうか。

 

「いいから早く、私も恥ずかしいの!」

「ならそんな無理しなくてもいいだろ!」

 

どんな罰ゲームだよ!

あ、いや、正直嫌じゃないけど・・・。

 

「ほら、あーん、ん!」

 

これは逃げられそうにない・・・。

 

「あ、あーん・・・」

 

閑念して目を閉じて口を開ける。

すぐに口に甘いイチゴの味が広がる。

 

「あははは! 晶也顔赤いー!」

「・・・みさきもだろ」

 

やることを終えると、みさきが俺の顔を見ながら、大笑いしている。

しかし当のみさきも、顔が真っ赤になっている辺り、照れ隠しだろう。

 

「ね、ねえ晶也。もう一回・・・してみる?」

 

もじもじしながら、落ち着かない様子で、横目で俺に聞いてくる。

 

「誤解されそうな言い方するな。そしてやらない!」

「ええー! 晶也は私の体よりも、他の人の体を望むの!?」

「違う!! そんなこと大声で言うな!」

 

俺が慌てて反論すると、目を細め、してやったりと言った表情で俺を見る。

――小悪魔だ、ここに小悪魔がいる!

 

「―――っと、それいいとして、次はどうしようか?」

 

みさきは残ったシロップを飲み干し、近くにあったゴミ箱にカップを捨てると、俺に問いかける。

 

「みさきに任せるよ」

「ダメ。晶也にも楽しんでほしいから、だから次の場所は、私は選ばない」

 

これは、きっとみさきなりの気遣いなのだろう。

自分ばかり楽しんではいけない。

デートは二人で楽しむもの。

だから俺にも選択してほしいんだと、俺は思う。

・・・奥まで憶測だが。

 

「じゃあ、射的でもどうだ?」

「いいよ、晶也がそこに行きたいなら、私は着いて行くよ」

 

俺とみさきは再び、今度は自然な動作で手を握り、人混みの中を進んでいく。

 

 

 

 

―――射的の場所に着いてすぐ、俺はみさきに取って欲しい物を聞いた。

みさきは一通り見ている途中、何かが目に入ったのか、ソレに喰いついて、指をさした。

 

「アレがいい! アレ! シトーくん!」

「なっ、あいつ、こんなところにも・・・」

 

あの日、シトーくんぬいぐるみを明日香とみさきに取ってあげた以来、俺の行くとこには、シトーくんがかなりの確率でいる。

ま、まあ、四島列島のマスコットキャラだから仕方ないけど・・・。

 

「じゃあ晶也、頑張って!」

「ああ、まかせろ!」

 

俺は、一発百円、五百円一括払いで一発おまけコースを選び、銃を構える。

 

「あ、晶也違う違う、そうじゃなくて、こう構えて・・・・・・そうそう」

 

後ろで見ていたみさきが、後ろから俺にもたれかかるようにして、腕の位置など構えを修正する。

こういうのは、普通逆だと思うのだが、それ以上に、なぜみさきが銃の構えについて詳しいのかの方が気になる。

去年の落下訓練のあとに行っていた水鉄砲合戦(今俺命名)の時も、持ってきていた銃の名前を言いながら渡していた。

―――と、今はそんなこと考えている場合じゃなかった。

気づいたらお店の人が急かしているし、いつの間にかみさきも離れていた。

 

「ここを・・・こうだな」

 

俺は照準をキーホルダーサイズのシトーくんに合わせ―――撃つ。

 

「よし! 当たった!」

 

俺の渾身の一発は、見事シトーくんのおでこに命中した。

 

「っえ、あ、あれ?」

 

しかし、落ちるまではいかなかった。

俺は意地になり、もう一発、完全とはいかないが、ほぼ同じ場所に当てたが―――随分後ろに下がっただけで、まだ落ちない。

 

「・・・・・・どうなってんだよ」

「ほらほら頑張って~、私の為に頑張るにゃ~」

 

後ろで、気の抜けた声で声援を送るみさきがいる。

―――なんとも、力が逆に抜ける声援だ。

 

「あと一回、あと一回で落ちるはず!」

 

俺は同じ手順で撃つ。

―――そしてまだ落ちない。

また撃つ

―――まだ落ちない。

あと二発。

絶対にそれで終わらす。

 

―――俺は構え、絶対に落とすと心から強く想い、放った。

するとシトーくんは今までとは違う、グラグラを揺れはじめ――――――。

 

―――落ちろ!!

 

俺は願う、いや、念じた。

 

「あっ!」

 

俺よりも先にみさきが反応した。

俺は途中から伏せていた顔を上げ、あげ、そこを見た。

 

「落ち・・・た」

「やったね晶也! 落ちたよ!」

 

みさきはシトーくんを屋台のおじさんから受け取り、小さなシトーくんを胸に抱いている。

その表情はとても嬉しそうだ。

 

「ねえ晶也、晶也は何か取って欲しいものある?」

 

みれきは、俺から後一発込められた銃を受け取り、訪ねてくる。

 

「一発で取れるのか?」

「大丈夫。それで、晶也は何が欲しい?」

「そうだな・・・みさきが欲しい物が欲しい」

「私の?」

 

みさきは疑問を浮かべているのか、難しい表情をしていたが、すぐに「わかった」と言って、銃を片手で構える。

 

「じゃあ、あれでいいよね」

 

みさきは、片手、横向きで片目を閉じ、よく狙って撃つ。

そして、狙ったそれは、見事に命中し、落ちた。

 

「え? そんな簡単に?」

 

俺は訳が分からなかった。

 

「はい、晶也、シトーくん」

「あ、ああ、ありがとう」

 

元々何をやっても上手いみさきだ、まさかとは思ったが、まさかとは・・・。

俺もそれなりに自身ああったのだが。

これには屋台のおじさんも驚いているようだった。

 

「次はどこを見て回る?」

 

そんな俺を知ってか知らずか、みさきは陽気にそんなことを言いだす。

 

「そうだな、次は・・・」

「みさきちゃん凄いです!」

「みさき先輩は何をやっても天才なんです! これくらい楽勝ですよ!」

 

後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

「明日香と真白!」

 

後ろには、浴衣を着た二人が立っている。

二人とも、自分自身にぴったりな色の可愛い浴衣を着ていて、とても似合っている。

 

「ちょっと晶也。二人をみてあんまり鼻の下伸ばさないでよね?」

 

内心、みさきには失礼だと思いながら、二人の浴衣を可愛いと思ってしまったのはやはりいけなかったみたいだ。

みさきに心を読まれた、いや、顔に出ていた・・・のか?

 

「私は別に、晶也先輩にどう思われても嬉しくないです。それよりみさきせんぱーい! 私の浴衣どう思いますー?」

「あー、うん可愛いと思うようんうん」

 

みさきは顔を反らせて、いつも通りに軽く受け流す。

 

「もっとしっかりと~!」

「特にその柄とかね~」

 

みさきは尚も顔をそむけて言い続ける。

絶対に真白を相手にしていない。

顔を反らしてどこを見ているのかと思えば、俺の方だった。

 

「なあ真白、みさきは今・・・」

「晶也先輩、今は黙っていていください。数少ないみさき先輩の浴衣を堪能してるんですから!」

 

たちの悪い野良犬でも追い払うかの如く、手でシッシッと払う動作で、追い払われた。

 

「あ、あの、晶也さん、射的のやり方、教えてもらってもいいですか?」

「それならみさきの方・・・・・・そうだな、わかった」

 

みさきに頼もうとしたが、完全に真白にホールドされていて、動きそうにない。

 

「悪いみさき、ちょっと明日香の見てくる」

「あ、うん、わかった!」

 

後ろから、みさきが必死に真白を引き剥がそうとする声は聞こえるが、俺にはどうすることもできないため、み先に任せるしかない。

 

 

 

 

「―――それじゃ、ここをこうして」

 

さっきのみさきとは逆立場。

俺が明日香を後ろから教えている形だ。

 

「それでは、行きます!」

 

そう言って初弾を撃つ。

それは見事に目的の景品に辺り、景品を揺らす。

今明日香が狙っているのは、トビ子さんと言う、トビウオをモチーフに―――というかトビウオのまんまだけど―――作られたマスコットキャラだ。

シトーくんどどっちが可愛いかと聞かれたら、こっちと答えるが、もしも歩くシトーくんが目の前にいたら・・・きっとシトーくんを選ぶだろう。

選ばなかったら、呪われるかもしれない。

 

「うまいうまい! その調子でもう一回!」

「はい! ――――それ!」

 

その後も、みさきは快調に景品に当てていき、最後の一発で、見事ゲットした。

 

「ありがとうございます!」

「いや。それは明日香が自分の力で取ったものだよ」

「・・・はい!」

 

用が済んで、俺と明日香は二人の元へ戻ったのだが。

 

「あれ、窓果?」

「あ、晶也。やっと帰ってきたね」

 

もういいのか、みさきから離れた真白と、三人で会話していた。

 

「いつからいたんだ?」

「最初からいたよ?」

 

・・・・・え?

 

「晶也気づかなかったの?」

「晶也さん、それはさすがにひどいです!」

「最低です!」

 

三人も罵倒された。

気づかなかったというか、存在自体がそこにいたことに気づかなかった・・・いや、それを気づかないというのか。

 

「私ってそこまで影薄かった!? 泣くぞ? すっげえめんどくさい泣き方すっぞ!?」

 

あまりの扱いに、取り乱した窓果。

とりあえずここは宥めないとまずい。

 

「わ、悪かった!」

「本当にそう思ってる?」

「ああ、本当にそう思ってる!」

「じゃあトウモロコシおごってくれたら許してあげる!」

 

そう言うわけで、俺のお財布からまたお金出ていってしまった。

 

「ここのお祭りの焼きトウモロコシはおいしいんだよ!」

 

屋台の前で、窓果が機嫌よさげにそう言っている。

 

「じゃあ晶也、私も食べる! 買って」

「しょうがない、いいぞ」

 

さすがにみさきにお願いされたら断れない。

 

「みんな、良いって!」

「え?」

「本当に私もいいですか?」

「まあ、どうしてもっていうなら、みさき先輩に免じて、ここは奢られてあげますよ」

「じゃあ真白はいらないな」

「え、え!? ちょ、ちょっと、冗談ですよ! いります! いりますからー!」

 

真白が俺の袖を引っ張って止める。

 

「わかったわかったから、だから袖をつかまないでくれ」

 

全員分の焼きトウモロコシを買う羽目になったが、みんなおいしそうに食べている。

よく考えたら、俺は何も食べていない。

 

「晶也、残りあげる」

「いいのか?」

 

みさきが、綺麗に半分ほど食べ終えたものを差し出してくる。

俺はそれを受け取り、確認する。

 

「いいよ。だって晶也なにもたべてないじゃない?」

「ありがとう」

 

みさきの気遣いが、なんだかこそばゆい。

 

「・・・・・・うん! うまいな! この焼き加減とか絶妙だな」

「お! 晶也わかってるね!」

 

感想を述べると、窓果がそれに乗っかってくる。

 

「晶也にもこのトウモロコシのおいしさが分かるんだね」

「失礼だな、俺は人並みの味覚は持ち合わせてるぞ」

 

窓果は俺の事をいったいなんだと思っているのだろうか。

 

「じゃあ次はあれ食べにいきましょう!!」

 

真白が仕切り、みんなを引っ張っていく。

 

「・・・ええ!?」

 

そんな驚きの声を出したのは俺だけじゃない。

真白意外の全員が、そんな声を上げた。

 

「ましろうどん、出店バージョンです!」

 

なんというか、とりあえず驚いた。

まさかましろうどんが出店を出してるとは。

 

「あらみんな、いらっしゃい」

「あご出汁うどん下さい!」

 

みさきが手を上げ、ハイテンションで答える。

相変わらず、うどんのことになると動きが早くなる。

 

「はいはーい。みんなはどうする?」

 

牡丹さんが気を利かせて、俺達にも聞いてきてくれた

聞かれると、みんな同じものを注文し、しばらく待つことにした。

 

「出店とかだと、味落ちたりしない?」

 

窓果が申し訳程度に真白に聞いた。

 

「フフン。ましろうどんを甘く見ないでくださいよ! こんなことで味が落ちたりなんてしません!」

「真白っちが威張っても・・・」

 

そのあとも会話が続き、ちょうど会話のキリがいいところで、うどんが届く。

ましろうどんは神社の大きな空き地に設けられている、食べ物系の出店が密集する、いうところのフードコートのような場所にある。

辺りを出店に囲まれ、真ん中には丸いテーブルがいくつも設置されていて、俺達はそこに座って会話している。

 

「それじゃあ、いただきまーす!」

 

みさきはいつものようにうどんを食べ始め、おいしそうにしている。

 

「いつも通りの味だね」

「言った通りでしたでしょ? ましろうどんはこんなことでは味は落としません!」

 

真白は胸を張ってまた自信満々に言う。

 

「うう~、トビウオさん、ごめんなさい。でもやっぱり、おいしいです~」

 

そういいながら、明日香もいつものように泣きながらうどんを食べている。

 

「ってあれ、晶也のうどん油揚げがトッピングされてる!」

 

隣で食べていたみさきが、俺のうどんをみて反応した。

 

「今日限りの限定油揚げ乗せのあご出汁うどんだ」

 

さっき注文するとき、俺だけ最後になり、女性陣は先席を取りに行ってしまったため、俺はゆっくりきめてこれにした。

油揚げの油がうどんの汁と絡まり、とてもいい具合になっている。

 

「ま、晶也、食べかけでいいから、その油揚げ頂戴!」

 

みさきは俺の方に割り箸を向け、魚を狙う猫のように構える。

 

「そんな狙わなくてもやるよ、ほら」

 

俺は割り箸で半分食べた油揚げを掴み、みさきのどんぶりに移す。

 

「わーい、ありがとう!」

「ありがちな喜びをありがとう」

 

みさきはさっそく食べ、満足そうに食べている。

そんなにおいしいなら、あげた買いもあったもんだ。

 

 

 

 

―――あのあとも、周りにある屋台を周り、片っ端から食べていった。

途中、白瀬さんと一緒にいる部長に会い、少し立ち話などもした。

 

「ごちそうさまです、晶也さん」

「お粗末さまでした」

 

最後に明日香が出店なのにパフェ屋があり、そこで俺は明日香に奢ってあげることなった。

みんなはさすがに食べすぎたのか、さすがに便乗して頼もうとはしなかった。

 

「それじゃ、みんな食べ終わったところで、そろそろ私たちは別行動するね」

 

窓果が立ち上がると、明日香や真白も続いて立ち上がる。

 

「もういいのか?」

 

そういうと、窓果が俺に地近寄り、耳元で小声で話す。

 

「みさきっち、少し前から元気ないよ」

「え?」

 

気づかなかった。

俺からはいつも通りに見えていた。

 

「せっかくのデートでしょ? 一緒に楽しんであげないと、選手の心のケアは、コーチとして、恋人として大事だよ」

「ありがとう窓果、助かったよ」

「じゃあこの情報の見返りは~」

 

窓果は俺に向かってしてやったりと言った表情をすると。

 

「と思ったけど、今回はなし。今日は楽しかったから、ごちそうさま~」

 

そういって窓果は俺か離れ、真白と明日香を引き連れて歩いていった。

気づくともう日は沈み、暗くなっている。

 

「・・・ん? まってよ、みさき、今何時だ!?」

「え、ちょっとまってね・・・・・・七時五十分だ・・・にゃ!?」

 

俺はみさきが時間を言い終わるのと同時に、その手を掴んで走り出す。

当然浴衣を着ているからそんな早くは走れないが、それでもみさきにペースを合わせながら、その手を引く。

 

「私はこれからどこにさらわれちゃうのかにゃー?」

 

後ろでそんな緊張感のないことを言っているが、俺は目的地とは正反対にある最寄りの停留所に走った。

 

「よし、みさき、ここからは飛ぼう!」

「え、うんわかった」

 

俺が焦っているのがみさきにも伝わったのか、少し戸惑いつつも、慌てている感じだ。

 

「FLY!」

 

俺はみさきの手を握ったまま、ペアリングで飛んだ。

あの人にどうしてもとお願いしてやってもらうんだ。

絶対に見ないといけない。

そして神社の上通り過ぎ、その先の目的の場所、砂浜に下りた。

 

「ここって砂浜? うわ、靴に砂が入ったにゃ~」

 

みさきは下りると、靴を脱ぎ、裸足で歩く。

 

「ちょうどいい、あそこに座ろう」

「うん、そうだね」

 

俺とみさきは、近くにあった大木に腰を下ろし、俺は海を眺める。

 

「ねえ晶也~なにするの? ねえってば~・・・・・・晶也?」

 

隣ではみさきが俺に話しかけていたが、しばらくすると俺と同じように海を眺め始めた。

 

「いったい何が・・・ひゃっなに!」

 

みさきがなにか言おうとしたとき、夜空に突如と一筋の光が浮かび上がり、弾け、光の花が咲く。

 

―――花火だ。

 

「びっくりした。でもなんで? ここの花火大会って花火打ち上げないんじゃなかったけ?」

「俺が佐藤院さんにお願いして打ち上げてもらった」

「晶也そんなことできたの!?」

 

みさきが大げさと言うほどの驚きを見せる。

でも実際これは、佐藤院さんからのプレゼント。

なぜこうなったのか、事の発端は先週だ。

 

 

 

 

「晶也の嘘つきー!」

 

本気ではない、本当はそう思ってない、でもそう言いざるを得ない。

そんな感情のこもった声が、通話中のスマホから聞こえる。

 

「・・・・・・ごめん」

 

どうしてこうなったのか。

それは今日、俺はみさきに花火大会に行くと言って、忘れていて他の高校との合同練習を入れてしまった。

場所は福瑠島、当然普通なら練習終わり次第行けばよかったのだが、合同練習の後に、葵さんが俺を呼び、他の高校の部長たちと話し合っていたら遅くなり、間に合わなくなってしまった。

みさきは俺との初めての花火大会を心から楽しみにしていたみたいで、その声は少しずつ弱々しくなり、もしかしたら少し泣いているのかもしれない。

みんなの前では強がっているが、二人っきりの時は、時間が立つごとに、よく感情を表に出すようになった。

 

「泣いてるのか?」

「泣いてない! ・・・こんなことで、泣くわけない・・・」

「ごめん」

 

俺はただ謝るしかなかった。

 

「いいよ。仕方ない事だし・・・」

 

さすがにこれはあり得ないが、もしもこれで別れることになっても、覚悟していた。

 

「心配しなくても、こんなことで別れたりいないよ」

 

その言葉は、いつもの元気なみさきの声だった。

 

「その変わり、今度うどんをおごってもらう!」

「俺の財布が耐えられる限りならな」

「わーい! うどん食べ放題だー! おやすみ晶也ー」

 

その日はそれで電話を切った。

その後日だった、どこから聞いたのか、窓果が俺に、みさきとのことを話、今度行われる二回目の福瑠島のお祭りについて教えてくれた。

しかしそのお祭りでは、みさきの楽しみにしていた花火大会は行われることはない。

あくまで出店のみ。

しかし、一日考えた俺は、ある可能を思いついた。

 

次の日、俺は佐藤院さんとイロンモールで待ち合わせ、そこから砂浜である提案をした。

 

「お願いします!!」

 

聞いたところ、奇跡的な確率で、佐藤院の企業は、花火を扱っていた。

 

「いいですわ」

「いいんですか!?」

 

答えはすぐに帰ってきて、俺は驚きの声を上げる。

 

「ええ、実は佐藤グループでは、キャンセルされた花火があり、それの処分に困っていたところですわ。ちょうどいいので、昨年秋の大会で優勝なされた鳶沢みさきさんと、そのセコンドのあなたへの大きな花束として打ち上げてあげますわ」

「ありがとうございます!」

 

ますます佐藤院さんについての謎が深まったが、それよりも今は、感謝でいっぱいだった。

 

 

 

 

―――今のこの状況は、佐藤院さんのおかげだ。

 

『これより、佐藤グループによる、花火大会を開始します』

 

アナウンスが入り、俺はみさきと海を見続ける。

そしてすぐに、夜空には、大量の花火が打ち上げられる。

崖の上からは、出店の方にいた人歓声が聞こえた。

 

「・・・・・・綺麗だね」

「そうだな、きれいだ」

 

 

そんな他愛もない会話が続いた。

みさきは目をキラキラさせながら花火を見ている。

 

「私一人っ子だから、四島列島の、ここのお祭りきても、いつも一人で花火見てた。・・・でもなんでだろう、今は晶也と一緒だからかな、すっごく楽しい!」

「俺も、みさきといっしょですごく楽しいよ」

「・・・、晶也!」

 

みさきは俺の体を押し、俺はみさきに押し倒される。

 

「晶也、私・・・」

 

今の動きで、着崩れたみさきの浴衣が、なんとも色っぽい。

 

「みさき!」

 

俺はみさきの肩を掴み、クルリと周って立場逆転の、俺が押し倒す形となった。

 

「晶也、私明日香と射的に行く昌也を見て、すごく胸が苦しかった。・・・そんなちっぽけなことなのに、自分の大切な晶也が取られたみたいな、そんな気持ちでいっぱいだった」

 

蕩けた、それでいて不安な瞳で、俺を見つめる。

次第にさっきまで聞こえていた歓声、それどころか花火の音も耳に入ってこなくなる。

俺は鼓動が早くなるのを感じた。

 

「みさき・・・!」

 

俺はそんなみさきを愛おしく感じ―――

 

「・・・んっ!」

「っ・・・・・・」

 

―――ゆっくりと顔を近づけ、キスをした。

 

「ん、はあっ、んん!」

 

俺達はお互を求めあった。

幸い、ここは上からは見れない場所だ。

 

 

 

 

「・・・はあ、はあ、はあ、晶也、ストップもう無理、限界!」

 

お互いに息をきらせ、みさきの制止でキスをやめた。

次第に花火の音と歓声が耳に入ってくる。

 

「そうだな、これ以上は、まずいな」

 

お互いにこれが限界だ、これ以上は、理性では抑えられない。

俺は完全に体に力の入らない、腰の抜けたみさきを抱き起し、大木を背もたれにして、座る。

 

「今日の晶也、激しかったね」

「言わないでくれ、自分でも恥ずかしくて死にそうだ」

「ハハハハハ、死ぬがい」

「善処します」

 

みさきがお決まりのセリフを言ったため、つい反射で答えてしまった。

 

「・・・ありがとう」

「え?」

「こんなめんどくさい私と、今まで付き合ってくれて、それとこれからもよろしく」

 

そうか、もうすぐ俺達は、付き合い始めて一年になるのか。

すっかり忘れてた。

 

「ねえ晶也、少し、寝てもいい?」

「ああ、いいぞ」

 

そう言うと、みさきは俺の肩に体を預け、スースーと寝息を立てて幸せそうに寝むった。

 

 

 

 

「送ってくれてありがとう」

「夜道は危ないからな」

 

あのあと途中で俺も寝てしまい、花火が終わる頃に目が覚めた俺は、みさきを起こし、今に至る。

 

「明日は練習だから、遅れるなよ?」

「じゃあ晶也が真白より早く来ればいいだけのことだよ」

 

みさきが眠そうにそう言う。

 

「それもそうだな、じゃあ明日は六時に来るかな」

「え、ちょ、ちょっと待って!冗談だよ! 冗談! そんな時間に起きたら私死んじゃうよ、寝不足死するよ!」

「そんな死に方はないからな。・・・おやすみ」

 

俺はそれだけ言って行こうとすると。

 

「待って、忘れてる」

 

はっきり言うと、後ろからキスをせがまれた。

 

「まだ足りないのか・・・」

 

さすがにさっきやりつくしたはずなんだが・・・少なくとも俺は。

 

「私をこんなエッチな女に調教したのは晶也だよ」

「そんなこと言うな! あと調教なんてしてないからな!?」

「いいから、ね?」

 

俺は一回、そっとキスをした。

 

「おやすみ!」

「ああ、おやすみ」

 

この言葉を最後に、お互いに帰宅した。

明日からは本格的に練習が入る。

きっとみさきもこれまで以上のやる気でやるだろう。

俺も負けるわけにはいかないからな。

 

その日俺は、今後の大会のことを考えながら家に帰った。




次回投稿は二話よりも遅くなります。
もうしわけないです。

あおかなのアニメ、熱い展開ですね。
まさかあの人のFCが見れるなんて・・・夏大会の小説シーンの助けになります。


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「で、さっきの話の続きを聞こうか。晶也君」

お久しぶりです。
今回は予定通り前回の花火大会の次の日です。

今まで 晶也 の感じを 昌也と間違って表記していました。
全話すべて、書き直しました。
ファンの皆様、申し訳ありませんでした。


今だ昨日の夏祭りのことが頭から離れず、言わば興奮冷めやまずといった状態で今日の練習に入ったが、朝は当然の如く、みさきは遅刻ぎりぎりで練習に来た。

聞く所によると、今朝は真白が行っても起きなかったらしい。

昨日の今日だからあまり注意はしがたいけど、ここは一言コーチとして言ったほうがいいのだろう。

 

「みさき、昨日は眠れなかったのか?」

 

一番にフィールドフライを一通り終えて、浜辺で休憩するみさきに話しかける。

 

「そうなのよね。昨日あのあと眠れなくて」

「そうだったのか。でもしっかり睡眠をとらないと、本調子で練習できないぞ?」

「だってえ、あんな事の後だと、晶也の事を考えたら切なくなっちゃって眠れなくなっちゃったの」

「なっ!」

 

顔を赤くしたみさきの、この場に絶対に合わない爆発発言に、俺は頬を引きつらせることしかできない。

 

「へえ~、みさき先輩と・・・なにしたんですか? ・・・晶也センパイ?」

「急に後ろに立たないでくれ! それみさきのデマだ! 誤解だ!」

 

急に気配なく俺の後ろに真白が現れ、ビックリした。

暗殺術でももっているのだろうか。

 

「晶也さん、みさきちゃんとなにしたんですか・・・?」

「明日香も本気にしないでくれ!」

 

これは収拾がつかなくなってきた。

――――――主に真白だけ。

 

「そんな、デマでも誤解でもないよ。お互いに夜の浜辺で激しくお互いを求めあったじゃない!」

 

そういってみさきは、明らかに悪戯悪魔のような笑みを俺に向ける。

 

「ヘエー、ミサキサンパイト、夜の浜辺で、ヘエー」

「なんでそこだけしっかり言うんだ!」

 

今の真白は、体中からドス黒殺気を溢れ出していた。

と、そんなところに、さらに厄介な人物が舞い降りた。

 

「ほう。その話、私も是非知りたいな」

 

各務先生だ。

俺達の真ん中に降り立ち、当然のようにそういった。

 

「あ、私走り込み行かないと」

「あ、みさきちゃん、私もやります」

「じゃあ私も」

 

殺気までの雰囲気はどこえやら、三人は各務先生が降り立つやいなや、颯爽と練習に励みだした。

 

「で、さっきの話の続きを聞こうか。晶也君」

 

こちらもまた、みさきに負けないくらいの悪戯悪魔の笑みを浮かべて言った。

 

「あ、はい・・・・・・」

 

俺は後ろから、不気味にそっと肩に乗せる手を冷や汗を出しながら答えのだった。

 

 

 

 

各務先生との会話は数十分に渡り長くなり、その間は、窓果が変わりに練習を見ていてくれた。

 

「まああれだ、今後は気をつけるんだな」

「はい。わかりました」

 

俺はため息混じりに回れ右をして、みんなの練習しているところへ行く。

 

「やああああああ!!」

「そうはいきません!」

 

みさきが背中を触れようとした時に、バク宙するようにみさきの頭上をくるりと周り、明日香が後ろにつく。

 

「背中いただきますね!」

「っ!」

 

パキィンッと言う赤色の逆三角形が浮き上がり、同時にみさきの体をはじき出す。

 

「ポイント明日香、0対2」

 

点数を聞く限り、いつも通り、みさきは最初はショートカットしている。

 

「もう一回いきます!」

 

そう言って押し出されたみさきの背中に、もう一度明日香は触れて、さらにみさきは押し出される。

 

「ポイント明日香、0対3」

「うっ! こんなところで・・・負けない!」

「もういっ・・・キャッ!」

 

三度目のタッチを試みた明日香に、みさきは体をなんとか捻り、腕を横に振った。

それによりお互いのメンブレンが反発し、みさきと明日香が、まるで同じ極同しの磁石のように弾かれる。

 

「そおっ・・・れっ!!」

 

みさきは明日香よりも先に体制を立て直し、急いで明日香の背中に周り―――

 

「・・・まずは一点!」

「ポイントみさき、1対・・・」

 

窓果の点数をあげる言葉よりも早く、みさきが仕掛ける。

そしてそこから立て続けに―――

 

「もう一点!」

 

さらに―――

 

「まだまだあ!!」

 

見事二回連続ぽいんと確保。しかしみさきの攻撃は終わらない。

 

「ううりゃああああ!!」

 

例え練習でも絶対に負けたくない。そんな想いを強く抱き、みさきは明日香の背中に喰らいつく。

そして三点目を取り――――――

 

「もう、いっ・・・かうわっ!」

 

四度目の、逆転のタッチに行こうとしたときだった。

みさきはバランスを崩し、大きくよろける。

 

「頂きです!」

 

その好きを逃さず、明日香はソニックブーストでみさきの少し後方に周り、そこから得意のエアキックターンを発動し―――

 

「ポイント明日香、3対4。試合終了」

 

窓果がその言葉を言うのと同時に、練習試合は終了した。

みさきと明日香が順番に降りてくる。

ただみさきだけは、俺の下に降りてきた。

 

「あははは、負けちゃった」

「・・・・・・」

 

そのみさきの無理な笑いをみて、昨年の事が脳裏によぎる。

もうそんなことはないと確信しているが、やっぱりそういう顔をされると不安な意味でドキッとしてしまう。

 

「もう。そんな顔しなくても大丈夫。晶也はほんと心配性だね~」

「俺、そんな顔に出てたか?」

 

みさきが俺の心を読んだように言ってくる。

 

「うん。はっきり顔に出てた」

「・・・そうか。それは悪かったな」

「なんで晶也が謝るのさ」

「いや、顔に出てたってことは、少なくとも一瞬だけ信用してなかったってことだろ?」

 

俺はみさきを信用してる。だからみさきも俺を信用してる。

なのに俺が信用してやらないと、大げさな話、みさきは一人になってしまう。

 

「そんなのいいよ、晶也のことは、私が一番よく知ってるんだから」

「・・・そうだな」

「おお。晶也がツッコまなった!」

 

俺が納得したのがそんなに驚きなのか、みさきは少し驚いている様子だった。

 

「ほら、次の練習するぞ」

「はいはーい!」

 

そう言って大きく伸びをしながら部位の方向へ飛んでいこうとする。

そんなみさきに、俺は思い出しかのように声をかける。

 

「みさき!」

 

俺の声にみさきは「何?」というように振り向く。

 

「・・・怖いか?」

「うん! 怖い!」

 

みさきは言葉とは裏腹に笑顔で答えた。

 

「そうか・・・・・・次の練習は全員でのドックファイトの大乱闘だ!」

 

全員に聞こえるように、声を張って答える。

俺の声が聞こえると、みんな声をあげて「はい!」と答えて、ファーストブイとセカンドブイの間で鬼ごっこのように全員がたがいの背中を狙う。

 

「明日香、今度は勝つよ!」

「私だって、負けません!」

「二人共! 私のこと忘れてませんか!?」

 

三人とも、それぞれの思いで点を取り合っている。

この練習には、もちろんドッグファイトの練習もそうだが、選手が楽しんで、勝ち負けを気にせず気楽にゲーム方式で練習できるという点のほうが大きい。

どんなことも、楽しまなければ上達もしないし集中も続かないし、興味も薄れる。

だからこうして一日の練習に一回、こういう練習を取り入れている。

これをすることで、みさきもそうだが、明日香や真白もドッグファイトに持ち込まれたときの対処に強くなる。

 

 

 

 

ドッグファイト式大乱闘を開始して、数十分ほど経った。

 

「明日香、背中もらうよ!」

「じゃあ俺はみさきの背中を貰おうかな」

「え・・・? ・・・うっ!」

 

みさきは背中をタッチされ、弾かれる。

 

「晶也さん!?」

 

みさきに背中を取られかけていた明日香が、俺の存在に気づく。

 

「みんなの盛り上がってるのを見てたら、俺も燃えてきてさ。混ぜてくれよ、みんなの楽しいFCに」

「いいよ晶也。ただし覚悟して・・・よっ!!」

「ぐっ・・・やるなみさき」

 

俺に弾かれたあと、すぐさま体制を整えたみさきは、最近俺と明日香が、みさきが覚えたいと言い教え、習得した対スピーダー用の技。

ソニックブースト。

ただのソニックブーストだが、みさきの反射神経と直感があれば、それは対スピーダー用の封じ技になる。

ただし今回は俺の背中を取るために使ったようだ。

 

「もう一点!」

 

さらに食らいつき、みさきはまたもソニックブーストで加速しようとしたが―――

 

「甘いぞみさき!」

 

俺はみさきに背中を押された反動を利用し、加速し、そこからさらに俺もソニックブーストを使用し加速する。

みさきとの差は開いた。

 

「次は俺から行くぞ!」

 

ソニックブーストの加速を維持したまま、エアキックターンに繋げ、みさきの後ろに回ろうとした。

――――――でも

 

「うにゃあああああ!」

 

俺がエアキックターンを行うのと同時。

みさきも咄嗟のエアキックターンに繋げ、そのまま反転し、俺の速度に並ぶ。

本来ならこのままオールラウンダーで少しスピードよりになっている俺に部があるのだが―――

 

「行かせないよ!」

 

みさきは得意の背面飛行で俺の下に張り付く。

 

「その技は、これで破れる!」

 

俺は通常のスピードよりの飛行する体制のまま、コブラの体制を取る。

すると俺の体はそのまま急ブレーキをかけたように急減速し、みさきは一歩遅れ、離れてしまう。

 

「ここから・・・!」

 

そこから通常のコブラを繰り出し、背面飛行するみさきの背中にタッチした。

 

「キャッ・・・!」

 

みさきは空に向かって弾かれる。

 

「油断大敵です! 晶也さん!」

「しまった!」

 

みさきとのドッグファイトに夢中になっていて、明日香の事を忘れていた。

 

「いただきます!」

「うぐっ・・・!」

 

明日香にタッチされ、海面に向かって弾かれる。

 

「やりました!」

「・・・明日香さんも油断大敵ですよ!」

「え? ・・・・・・うきゃ!」

 

俺に触れ、浮かれている明日香に、真白が一撃加えた。

 

「いただきにゃー!」

「うにゃー!?」

 

立て直したみさきが、真白の背中をタッチ。

真白も海面の方に飛ばされる。

そして今度は先に体制を直した明日香がみさきを、その明日香を俺が、その俺が真白をと、きりのないイタチごっこがしばらく続いた。

 

 

 

 

「よし、はあ、はあ、終わりにしよう」

 

青空はもうなく、空は鮮やかに、夕日に照らされている。

周りにいるみんなを見てみると、みんなも息を切らせていた。

 

「はあ~、もうSTがゼロです」

「みんな今日はお疲れ様、今日の練習はこれで終わりだから、着替えて帰っていいよ」

 

それを聞いて、みんな着替えに行ってしまう。

 

「晶也、本当に楽しそうに飛んでたな」

「そんなことないですよ。彼女たちがいてくれたから、ここまで戻ってこれたんです」

「特に、鳶沢はそのなかでも効果絶大だったわけだ」

 

各務先生にそんなこと言われると、ちょっと誤魔化したくなるけど、本当のことだから言い返せない。

 

明日香が俺をコーチに選んでくれたから。

真白が俺に努力する事を教えてくれて。

そして、みさきが俺を届けてくれたから、俺が挫折した相手が、みさきだったから俺は、今こうしてこの蒼い空に再び居る。

 

「って各務先生。この会話何度目ですか」

「ん? そんなに何回もしたか?」

 

 

各務先生は少しとぼけるように答える。

きっと愛弟子が帰って来てくれて、本当に嬉しかったんだと思う。

たぶんまだ、俺がこうして飛んでいるのを見ると、嬉しくて仕方のないのだと思う。

 

「各務先生、俺・・・今なら超えられる気がします。昔の、あの頃の日向晶也を・・・」

「そうか。超えられるか・・・」

 

 

 

 

俺はその日も、着替えを終えたみさきと帰った。

帰りは練習中にここが惜しかった、あれが悔しいなどの会話をした。

特別な俺とみさきだからこそできる、本音のさらに本音の会話。

こうすることで、お互いに心のモヤや怖さを共有し、軽減している。

これはきっとみさきとだから、お互いに挫折を経験してるから共感できると思う。

俺はその日、みさきに明日も対戦するよう言われ、それを了承した。




次回も、不定期ながら完成しだい投稿します。

そして、私のような素人の小説をたくさんの人に読んで下さり、まさかお気入り登録が10を超えるなんて思っても見てませんでした。
今後とも多々ご迷惑おかけしますが、何卒よろしくお願いします!


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「私、がんばってきたのに・・・」

夏の日の出が始まってすぐの朝五時過ぎ。

なぜ今日こんなにも早く集まったかというと、ある人からの申し出があったからだ。

 

「よし、全員集まったな。今日はは海凌学園から練習に協力したいと連絡があって、二人の助っ人に来てもらってる」

 

最後に、みさきが遅刻ギリギリで到着したことを確認して、全員に話し出す。

 

「海凌ってことは、二人が帰ってきているの?」

 

今だ眠い目を擦りながら、みさきが最初に話した。

みさきの指す海凌の二人は、きっと乾さんとイリーナさんだろう。

 

「そう。そして今年は出場しない代わりに、俺達久奈浜に力を貸してくれるそうなんだ」

 

一体何が狙いなのか分からないが、二人が協力しれてくれるんだ。

この機会をコーチとして逃すわけには行かない。

 

「でもさ、ファイターの私には、あんまり得しないんじゃない? 明日香や真白なら為になるかもしれないけど」

「それはどうだろう。ファイターだって、ある程度スピードを持ってないと、スピーダーのスピードに追いつけずにうまくドックファイトに持ち込めないぞ?」

「ああ。それもそうだんね!」

 

みさきは納得した様子だ。

 

「そろそろ来る頃だが・・・」

 

俺がそう言うと、なんとタイミングがいいのだろう。

ヘリの音が聞こえ、すぐ近くに着陸した。

 

「ご機嫌よう。久奈浜の皆さん」

 

ヘリから、いつものようにイリーナさんが、そのあとを乾さんが続いて下りてくる。

 

「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」

「それではさっそく、練習を始めましょう」

 

そう言って、イリーナさんはみさきたちに目線を送るが、俺たちはまだ準備運動を何もしていない。

 

「すみません。まだ準備運動していなくて、よろしければ乾さんも一緒にどうですか?」

「わかりました。沙希、一緒に準備運動をして欲しいそうよ」

「了解。イリーナ」

 

失礼かもしれないが、いままでのイリーナさんなら、うちの沙希はいつでも準備はできれています。なんて言って断られるのかと思った。

 

「それじゃあみんな、いつも通り十分間軽く柔軟したら、二十分間一定の速度でフィールドフライだ」

 

俺が声を出すと、みんなその場で柔軟を始める。

 

窓果はみんなの様子を見ている。

俺はイリーナさんと少し離れたところで見守る。

 

「今回はなぜうちに協力を?」

「今年の夏の地区大会には出場しません。そこで、一つ、今私たちが行っている秘策を、久奈浜の人たちにだけ教えようと思ったんデス」

「秘策?」

「グラシュのバランサーをカットする。これが秘策です」

「バランサーを?!」

 

グラシュのバランサー、つまりは制御装置をオフに。

それは通常、いや、今まで絶対に誰も試さなかった方法。

いや、試さなかったというより、試すこと自体が危険に繋がる行為だからこそできなかったこと。

 

「でも、どうしてそれをうちに? 秘策なら言わないのが普通では?」

「どうして。それを聞かれると返答に困りマス。・・・デスが、沙希が言ったんデス。鳶沢みさきともっと飛んでみたい、と」

「みさきと?」

 

乾さんには去年、秋の地区大会で勝った。

その時は、覆面選手や白瀬さん、部中や俺でみさきを強化して、そしてみさきはスモーという背面飛行技を覚えた。

その時、試合の後にインカム越しに聞こえたふたりの会話。

―――次は・・・・・・私の展開に付き合ってほしいな。

 

「ええ、それで私は皆さんに秘策を教えようと思ったんです。沙希とは全力で、お互い対等で試合をしてもらいたい。・・・そうすることで、沙希はさらに上に行けるのだと思いマシタ」

「対等に、ですか」

「はい、対等にデス。・・・・・・それと、空に戻った日向さんのFCも、見てみたいデスね」

「ぜ、善処します」

 

俺はイリーナさんに見つめられ、つい覆面選手との会話の癖が出てしまった。

 

「晶也ー! フィールドフライ終わったよー!」

 

そういわれ、空を見上げると、みんなファーストブイに集まっていた。

 

「じゃあ次は、イリーナさん、指示をお願いします」

「それではまず、この映像を見てもらいマス」

 

そう言って、一枚のディスクとノートパソコンをバックから取り出した。

 

 

 

 

唖然。その言葉が一番今の状況にぴったりだろう。

ディスクの中の映像は、バランサーをカットした乾さんの模擬試合の様子が入っていた。

 

「す、すごいです! グラシュの羽があんなに大きくなって! ぶわーってなって、どわーって!」

「明日香落ち着きなよ・・・」

 

映像を見て興奮状態の明日香を、窓果が指摘する。

 

「でもこれ、普通の選手がして危なくないの?」

 

と、そこで、みさきが一番重要なところを指摘した。

映像の乾さんも、かなり披露していたし、今からこれを行う限り、当然選手の安全を保証しないといけない。

 

「ですから、まずは七十五パーセントほどで行きましょう」

「それでも危なそうな人は、もう少し落としてからですね」

 

俺とイリーナさんの意見が一致したところで、念のためもしもの時の保護者として白瀬さんと各務先生に来てもらうことにした。

 

「それじゃみんな、先生が来るまで時間があるから五分の休憩を入れて、そのあとは走り込み。水分補給を挟んでブイからブイへのタイムを計る。それじゃあ練習開始!」

「おー!」

 

乾さんと、いつも通り気の抜けた声を出したみれきを除いて、みんなが声を出し練習に映る準備を開始する。

 

 

 

 

「やってるな晶也。練習の方はどうだ?」

 

後ろから、各務先生がやってくる。

 

「おはようございます各務先生。こんな時間からありがとうございます」

「なに。これも顧問としての努め、だよ」

 

各務先生は、いつものように涼しげな笑顔で答えると、次後ろから白瀬さんがやってきた。

 

「やあ日向くん。今日は呼んでくれてありがとね。お礼にたまたま居合わせた子を連れてきたよ」

「あ、あの。私もついて来てしまったんですが、良かったんでしょうか?」

 

白瀬さんと一緒に、予想外にも市ノ瀬もやってきた。

こっちとしては問題ないけど、市ノ瀬は大丈夫なのだろうか。

 

「こっちは問題ないよ。それより市ノ瀬の方こそ大丈夫のか? 敵同士と練習しちゃっても。後でやりにくくならないか?」

「大丈夫ですよ。佐藤院さんにも連絡をとったら、せっかくの機会だから、言ってこいとまで言われてしまいました」

 

市ノ瀬は照れながらも、笑いながらそう口にした。

佐藤院さんの許可が出ているなら問題はないだろうし、本人も大丈夫そうだ。

 

「それじゃあ一緒に練習しよう。ちょうど今、グラシュのバランサーをカットして飛ぶ練習をしようとしていたところなんだ」

「グラシュのバランサーを? それって大丈夫なんですか・・・?」

 

そう言っている市ノ瀬は、かなり不安そうだ。

 

「危険に関しては大丈夫。各務先生や白瀬さんもいるから、もしもの時はすぐに対応できるし、無理ならやらなくてもいいよ?」

「いえ、せっかくのお誘いですし、少しくらいはやってみようと思います。それじゃあ私着替えてきますね」

 

市ノ瀬は張り切った様子で着替えに行った。

 

「きゃああああ!!」

 

後ろから真白のものと思われる悲鳴が聞こえたので、慌てて振り向いた。

 

「腕と足を広げて! 大の字をとって!」

「は、はあいい!」

 

真白は俺の言ったとおりに、回転に逆らって大の字の姿勢をとった。

 

「そのままゆっくりと腰を地面に着けて、そしたらすぐに電源を切って」

「・・・はあ、なんとか止まった・・・・・・」

「いったいどれくらい切ったんだ?」

「えっと・・・は、半分・・・です」

 

そう言って真白はグラシュのバランサーの調整を白瀬さんに聞きながら、調整し始めた。

あとは白瀬さんに任せ、俺はみさきと明日香の様子を見に、グラシュを起動してブイの方を見に行った。

 

「こ、これはなかなか・・・この子を初めて使った時の事を思い出すにゃ・・・うわっ! ・・・と」

 

みさきは少し危なげな様子で飛行している。

だがそれでも、一応普通に飛行できている。

どれくらいカットしたのだろうか。

 

「ま、晶也さん、見てください! どうです・・・か!」

 

明日香はみさきよりも慣れているような様子だった。

みさきよりも少なくカットしたのか、ほとんどいつも通りだった。

みさきのことだから、負けじと明日香よりも多くカットしたんだろう。

 

「二人共どのくらいカットしたんだ?」

 

「私は十三パーセントかな」

「私は半分です!」

「は、半分?!」

 

驚いた。

みさきよりも明日香のほうが多くカットしていた。

てっきりみさきの方が多いとばかり思ってた。

 

「じゃあ私だって! 次は半分までカットする!」

 

そう言ってみさきは一度地面に降り、グラシュを調整しだす。

 

「明日香、本当に大丈夫なのか?」

「はい! 少しぎこちないですけど・・・問題はないです・・・・・・たぶん」

 

「ま、晶也!!」

 

下からやたらと歯を食いしばっているみさきの声が聞こえ、俺は見下ろした。

 

「これ、これなら! どう!」

「わかった! わかったから止めるんだ!」

 

みさきの足はガクガク震えていて、今にも制御を失い、暴走しそうだった。

 

「ふぐうううう!」

 

みきは少しずつ上昇して俺のいるところまで来る。

 

「明日香、これで試合しよう!」

「無理だ」

「いや!」

 

みさきはきっと、負けたくないのだろう。

やっと同じ場所に、近い場所まできたのに、ここで引き離されるわけには行かない。

自分だって散々努力してここまで来た。

そんな思いを、俺も以前感じたことがあるからわかる。

今のみさきの目は、そんな目をしている。

 

「わかった・・・」

「やっ―――」

「ただし、三十パーセントまで落としてだ」

「・・・・・・わかった」

 

 

 

 

「それでは、これから倉科明日香対鳶沢みさきの試合を始める」

 

白瀬さんが審判のもと、二人はファーストブイに並んだ。

 

「よろしくお願いします! みさきちゃん!」

「よ、よろしく明日香。絶対に勝つからね」

「私だって、負けません!」

 

今回のセコンドは、みさきが俺、明日香は各務先生だ。

 

「―――セット!」

 

ホイッスルを合図に、二人は飛び込んでいく。

 

「うにゃああああああああ!!」

 

当然だが、みさきは最初から全身全霊で飛び出した。

 

「行きます!」

 

明日香も、オールラウンダーとは思えない初速で飛び出し、みさきを追い抜く。

 

『みさき、ショートカット!』

「っ、うん!」

 

みさきは少し辛そうに体をセカンドラインに向け、飛んでいく。

 

「ポイント明日香ちゃん。1対0」

 

通常通り、明日香はポイントを取り、その反動でセカンドラインに飛び出した。

 

『来るぞみさき!』

「行かせない!」

 

みさきは全神経を集中させて、明日香の動きを見る。

一方明日香は、まだ技を出すのは危険なのか、一直線でみさきに向かう。

 

「・・・えい!」

「え?」

 

瞬間だった。

明日香が消えた―――ように見えた。

だが実際は、みさきにぶつかる瞬間、降下体制に入った瞬間に二連続ソニックブーストをして、急加速した

 

「もう一回!」

 

さらに上昇の時もソニックブーストを使い、みさきをいとも簡単に抜いた。

みさきも俺も、そんな事態に呆気にとられ、遅れを出した。

 

『・・・っ! みさき、今すぐサードラインにショートカット! このままじゃ明日香の独走で終わるぞ!』

「わ、分かってる!」

 

みさきも全力で次のラインに移動した。

しかしまだ慣れきっていないみさきは、通常飛行で向かう。

さっきの明日香の動き、まさに超光速のローヨーヨーと言ったところだろうか。

 

「ポイント明日香ちゃん。2対0」

 

「各務先生。私、このまま勝ってもいいんでしょうか?」

『何だそんなことか。いいんだ倉科、手加減はいいそのまま続けろ』

「は、はい!」

 

そしてその後も、明日香の独走は続いた。

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

全員がイリーナさん達二人に挨拶し、解散となった。

 

「さすが莉佳だね。私なんてまだ十パーセントしか無理なのに」

「そんなことないよ。真白だって同じ位の経験者だったら、きっと私よりもすごいよ!」

「乾さん、まあ見てくださいね!」

「うん。またくる」

 

みんな思い思い、今日の練習を思い返し、話している。

だがそんな中―――

 

「・・・みさき?」

 

一人で停留所で待つみさきを見かけた。

待っていたのは俺だと思うが、その表情は浮かない顔だ。

俺は停留所に着くと、みさきに飛びながら話を聞くと言って、帰路にたった。

 

「・・・どうした? また逃げたくなったか?」

 

こんな事をいきなり面と向かって言えるのも、俺とみさきの今の関係があってこそだ。

 

「・・・少し、そう思ったかも・・・」

 

またみさきも、俺には本当に、正直に言ってくれる。

 

「そうか・・・逃げたい・・・か」

 

その気持ちはわからなくはない。

俺も同じ状況なら、きっとそう思う。

今日の明日香との試合は、あの後みさきが無理にソニックブーストを使おうとした結果、制御に失敗し、中止になった。

さらに得点は15対0という悲痛な結果となった。

 

「私、がんばったきたのに・・・また離された。せっかく近づいたと思ったのに・・・・・・」

「ならその倍練習すればいいだけだ」

「晶也は、私を、また届けてくれる?」

 

みさきは珍しく、不安な様子で俺を見て言った。

 

「どうしてそんな不安そうなんだ?」

「だって今年は晶也も大会に出るわけだし。でるなら当然優勝狙うでしょ? だから敵になる相手をとことん強くするなんてことするのかなって・・・それに晶也だって練習しないといけないでしょ?」

「忘れてないか? 俺はコーチだぞ? それにみんなが強くなってくれた方が、試合も楽しいだろ?」

 

みさきはしばしの沈黙のあとに―――

 

「それじゃあ晶也。今年も私を、届けてくれる? ううん、届けて、昌也!」

「ああ、まかせとけ。今年もしっかり届けるから」

 

今年は去年とは違う。

俺はみさきの力になれる。

去年は指をくわえて覆面選手や部長との特訓を見てたけど、今年は俺が、みさきの本当の意味で力になるときだ。

 

「そうとなったら、明日から練習だ!」

「うん!」

 

練習と言っても、みんなも一緒だから、去年のようにはいかないけど、それでもみさきとは全力で向き合うつもりだ。

 




お久しぶりです!
いつも楽しんで読んでくださっている皆様、誠にありがとうございます!
みさきルートだけで、ほかのルートはまだプレイのため、「ここはこんなんじゃない」「え?なんで?」となるようなことあるかもしれませんが、ご了承ください。
また、「そんな動き無理だろ」「おいおい・・・」といった飛行などをする場合があるかもしれません。
その時は優しく指摘してくださると、とても為になります!
今後とも、よろしくお願いします。


※大事なお知らせ。
今週からリアルで学校が始まり、就職の年となるため、大幅に投稿がおくれ、手付かずの月があるかもしれません。
読者の皆様には、私事でご迷惑をおかけしますが、ご理解の元、何卒よろしくお願いします。

みなさんのコメント、すごく嬉しく、やる気が満ち溢れてきます!






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「まさ・・・や・・・・・・?」

忙しい中、やっとのことで投稿できました!
お待たせしました!
投稿日をこれ以上先送りにしないために、今回は少し短いです。


「ほらみさき、もっともっとうまく、頭を使うんだ。直感で制御しようとしたらダメだ」

「そ、そんな・・・こと、言われても~!」

 

今みさきは、夜の海の上を落ち着きのない様子であたふたとしながら飛んでいる。

あの日明日香に負けて以来、一瞬不安にも思われたみきだが、次の日からは俄然やる気を出して練習した。

だが当然、部の練習で今年もみさき一人に全力を尽くすわけにも行かず、こうして今、部の練習の後に飛んでいる。

今日までの二日間で、みさきは二十五パーセントまでなら完璧に使いこなせるようになった。

今は前回の三十パーセントに挑戦しているところだ。

今回はしっかりと順序を踏んでいるため、三十パーセントにしても、前回のようにひどい様子はない。

だがまだ完璧とはいかない。

 

「このあたりからは、だいぶシビアなコントロールが必要になるはずだ」

「うぅぅうにゃあああぁあぁああ!!」

 

みさきは無理やり言うことを聞かせようとして、失敗する。

バランスを崩し落下するが、俺が下に周りこんで上方向に二回ほど弾く。

 

「もう一回だ!」

 

俺がそう言うと、みさきはどうにか体制を立て直し、もう一度ぎこちない飛行をしながら技を決めようとする。

体制を立て直す速さや、静止状態はだいぶマシになってきたが、いままで通りに飛ぼうとすると落下してしまう。

 

「みさきの場合は体で覚えるしかないからな。何度もやってコツをつかむしかないんだ」

「それって、スモーの、時みたいに?」

 

マイクみさきの声が聞こえた。

どうやら去年練習したスモーと、今年のバランサーの解除の練習と照らし合わせているみたいだ。

 

「まあ、だいたいそうだな」

「じゃあ、いつかコツを掴めるわけだ・・・うわっとと・・・危なかったにゃ~」

 

みさきが体勢を崩し、俺がさっきと同じようにカバーしようとしたところ、今度は自分で持ち直すことができた。

 

「今日もう遅いから、続きはまた明日にしよう」

「わかった」

 

俺はみさきと一緒に部室のバスのあるところに降りて、グラシュを停止した。

 

「それじゃ晶也、着替えるから一緒に入って」

「ああ、わかった」

 

俺は会話に流されるまま、みさきと共にバスの中へ入った。

そしてそこで、今の状況を理解した。

 

「ちょっと待て、流れに飲まれてここまできたけど、おかしくないか?」

「今更何言ってるの。ほらほら、脱ぐから目を閉じてて~」

 

みさきは平然と着ているフライングスーツに手をかける。

俺は慌てて目を閉じると、スーツを脱ぎ始めた音が聞こえた。

 

「な、なあ、結局目を閉じるなら、外で待っててもいいんじゃないか?」

 

俺は妙な想像を膨らませないようにしながらみさきに言った。

 

「外で待ってて、覗かれないか心配だし~・・・それとも晶也、そんなにみたいの?」

「一応健全な男としては・・・その、みたい・・・です」

 

みさきの言葉に、思わず語尾に「です」と付けてしまった。

 

「・・・・・・いいよ」

「え?」

 

みさきの返事に、場が静まり返る。

 

「いい、のか?」

「晶也がそんなに見たいなら・・・・・・そろそろ・・・いいかなって」

 

最初は絶対になにかあると思ったが、みさきの声を聴いていると、いつものように恥ずかしいのを押さえ込んえいるときの声だ。

 

「ほ、ほら! 早く目を開けて! 私の気持ちが変わる前にー!」

 

俺はみさきに急かされ、慌てて目を開け、目の前で着替えていたみさきを見る。

 

「え・・・?」

 

俺が見たみさきは、下は下着だけ、上は制服のみの格好だった。

 

「どお晶也? 男子はワイシャツとそこの胸元から見える胸に興奮するって聞いたけど・・・・・・興奮した?」

 

そう言いながら、屈んでワイシャツの胸もとをチラチラと見せつけてくる。

器用なことに、同時に下の方もチラチラ見せてくる。

 

「しない! いいからシャツしまえ! ボタンを閉めろ! スカートを穿け! リボンをしろ!」

「えー! それにツッコミと要求が多いよ!」

 

みさきは着替えの続きをしながら、俺との会話を続ける。

 

「・・・それよりさー。晶也はいいわけ? 私の練習にばっかり付き合ってたら、今度は晶也が置いていかれない?」

「それなら心配いらない。俺も俺でしっかり練習してるから」

 

そういって俺はグラシュを見せた。

実はみさきの練習を見ている最中も、部活での練習でも、俺は俺なりに少しづつバランサーをカットしている。

とはいっても、まだまだだけど。

 

「俺もみんなの練習見てる時はバランサーを調整してるから」

「へー。考えたね。それで? 今はどのくらい?」

「今は三十パーセントだな」

「さ、ささささ、三十!? それってつまり、このままだと近いうちに晶也に追い抜かれる!?」

 

みさきは俺の数字を聞いて、簡単に追い抜かれる光景を想像したのだろう。

かなりがっくりとしている。

 

「心配しなくても、みさきと同時進行してくから大丈夫だ。みさきだけ置いていったりなんかしない」

「そっかー。よかった、てっきり私一人でおいていかれるのかと思ったよ」

 

先ほどとうって変わって、俺の言葉を聞いたみさきは、安堵下様子で会話を続ける。

 

「・・・・・・よし! 着替え終わったよ。帰ろっ!」

「そうだな。明日も今日と同じ時間だから、遅れるなよ?」

「だーかーら。そう言うなら晶也が朝早く来ればいいだけのことだよ! うん」

 

俺とみさきはバスから出て、停留所に歩き始めた。

明日の時間を教え、遅れないように伝えると、ついこの間も話したであろう会話内容が再び始まった。

 

「それじゃあ前も言ったが、明日は六時に迎えに行くからな」

「いいよ。その代わりしっかり起こしてね?」

 

どうやらみさきは、俺に起こされる気満々らしい。

 

「それじゃあ、明日」

「ああ、明日、絶対に行くからな」

 

その会話を最後に、俺とみさきは停留所から飛び立ち、それぞれの家に帰った。

 

 

 

 

翌日、俺は約束通りみさきの家に六時ジャストに訪れると、案の定熟睡していた。

俺はみさきの家の人に許可をもらい、玄関から入ってみさきの部屋に訪れる。

 

「・・・・・・ほんと、でかい枕だな」

 

もう十分に見慣れた部屋に入る。

とそこでまず目に入っいたのは、当然みさきなのだが、なにやら大きく長い枕枕を、抱いて寝ている。

 

「・・・むにゃ~。・・・んにゃ~」

 

昨日俺が行くと言ったにも関わらず、無防備にネグリジェのような服を着てお腹を出し、おまけに涎をすこし滴らしながらこれ以上ないほどに気持ちよく寝ている。

 

「おいみさき起きろ。起きてなにか着るんだ」

 

俺はみさきの体を揺すり、起こそうと試みる。

 

「んにゃ~? あ、はい」

 

みさきはの不足の猫のように起き上がり、両手をあげた。

 

「・・・・・・」

 

意味がさっぱりだ。

・・・・・・いやわからないわけじゃないが、その先を考えたくない。

いやだが、この状況は一男子としては、嬉しくなくはないが・・・・・・。

 

「どうしたの~早く~」

 

みさきは尚も目を閉じたまま俺を待つ。

 

「わ、わかった・・・・・・」

 

俺は、まるで逃げられないドッグファイトを挑まれているような感覚で、みさきの服に手をかけ、脱がしていく。

ここは臆してたら絶対に止まる。だから俺は、ささっと黒いネグリジェを脱がし、そしてみさきは下着姿になった。

 

「ええっと・・・次は・・・・・・」

 

これ、この状況は本当にいいのだろうか。

傍からみたら、みさきが寝ぼけているのをいいことに脱がしてるようにしか・・・・・・。

でもここまできたら・・・。

 

「・・・・・・」

 

俺はみさきの背中に回し、下着の留め具に手をかけ――――――

 

「まさ・・・や・・・・・・?」

「っ・・・・・・」

 

消え入るような俺の名前を口にするみさきの声が聞こえ、俺はつい視線を上に向ける。

そしてそこで、みさきと目があった。

お互いに何も話さないまま、何時間にも感じられる時間が立つ。

だが実際にはたった数十秒。

その沈黙を破ったのは、みるみるうちに顔を茹でタコのように真っ赤にしたみさきだった。

 

「キャアアアアアアアアア!!」

「うああああああああああ!!」

 

俺もワンテンポ遅れてみさきに負けないくらいの悲鳴をあげる。

そしてそれと同時に、みさきはベットの後ろの窓側に、俺は部屋のドア側に一瞬で離れる。

 

「な、ななななな何で、まままま晶也がいるの!?」

「あ、いや、これ事故で・・・・・・!」

 

事故といっても、この状況は確実にヤバイ。

 

「うわー、私が寝ているうちに晶也にめちゃくちゃにされたー!」

 

みさきが嘘かホントか、鳴き真似のような言葉と共に、そんな台詞が聞こえた。

 

「してないから! 絶対にみさきの想像しているような事してない!」

「・・・誓う?」

「ああ誓う。神にだって誓える!」

 

俺がそう言うと、みさきはすこし考えたあと。

 

「じゃあ・・・うどん好きなだけ、いい?」

「ああ、大会が終わったら好きなだけ食べさせてやる!」

「わーい! うどんだー!」

 

俺の言葉を行くとみさきはすぐに復活し、着替え始める。

それで俺は気づいた。

やられた。あれはみさきの演技だったのだと。

 

「・・・さっきのは演技なのか?」

「ん~? なんのこと?」

 

みさきは本当に何も知らないように装っているが、一切俺と目を合わそうとしていない。

だがあの悲鳴の上げよう、半分以上は本当だろう。

俺のこの日は、波乱は幕開けとなった。




次回もできしだいそぐに投稿します!
いつも楽しんで読んでいただきありがとうございます。
みなさんのコメントと楽しん頂いているのが分かるだけで、私も書いていて幸せです!


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「さあさあ真白。私から一点でも取ったらご褒美あげる~!」

やっとのことで投稿できました!
せっかくのGWなので、この時間を有効に使って、「一話でも!」と思い、なんとか仕上げることができました。


波乱の朝を迎えた俺とみさきは、あのあとはなんとも言い難い空気の中、部室に向かった。

 

「早いな明日香。もう来てたんだな」

「はい! 早く乾さんみたいに飛べるようになりたいです!」

 

俺達が来た時間も、そこそこ集合時間よりも早いが、明日香はすでに着替えていて、一人でフィールドフライを始めていた。

 

「晶也! 私もすぐ飛ぶ!」

 

明日香の張り切りようを見て、隣にいるみさきは負けたくないと目で訴えかけながら俺と視線を合わせたあとに着替えに行った。

―――それから過ぐに真白や窓果も集合し、今日の練習が始まった。

 

「真白と明日香はもっと力を抜いて。みさきはもっと考えるんだ」

 

部活中はバランサーのカットは控えめにして、みんなの練習に集中している。

みんな相変わらずといったところだ。

 

「みさきの負けず嫌いは相変わらずだね」

「そうだな。でもだからみさきはもっと強くなると思う」

 

部室から出てきた窓果が、みさきと明日香を見て言った。

窓果の手にはみんなの今の状態などを記したものを持っている。

 

「真白は今どのくらいだ?」

 

正直、真白の進行状態はあまりよくない。

さらに言うと、このバランサーの練習を、無理をしてやる必要もない。

大会にでる選手全員がそれをするわけでもないし、並の選手では到底できない。

だから今からでも遅くないから、いつも通り基礎をみっちりやっていった方が、上達するのかもしれない。

 

「・・・・・・真白、ちょっといいか?」

「え? あ、はい。わかりました」

 

みさきと明日香のはるか後方を飛んでいた真白が、俺のいるところに降りてきた。

 

「この練習、やめるか?」

 

本来、選手に向かってここまではっきり言っていいものかと考えたが、この言葉が一番だと、そう思った。

 

「なんでですか? 私の上達が遅いからですか?」

 

案の定、真白は不満たっぷりの表情で、俺に訴えかけてきた。

 

「そうじゃないんだ・・・・・・いいや、それもそうなんだけど、別に大会に出る選手全員が同じことをしてくるわけじゃないし、真白にはまだ来年がある。ここで焦って、このままこの練習を続けて結果を出せなかったら悔しいだろ?」

「・・・・・・はい、それは、確かに悔しいです。経験豊富で腕はよくても、それに見合った装備をしていないで結果的にボスを倒せないって感じでしょうか」

 

真白は得意のゲームに例えて、状況を理解した様子だ。

 

「わかりました。晶也先輩がそこまで言うなら従います」

「・・・悪いな」

「いえ。これが現実なんですから、仕方ないですよ」

 

俺は真白に逆に励まされた。

 

「でも、今慣れてるとこまでだったら試合でも使えるから、真白の強みになるな」

「はい! 私の新しい必殺技です!」

 

真白はガッツポーズをして喜んでいた。

 

「よし!午後からは新しく真白ようにメニューを考えてあるから、頼むぞ!」

「任せてください!」

 

俺は飛んでいる二人にもマイクで連絡を取り、昼食にしようと言った。

 

 

 

 

昼食は真白の持ってきた真白うどんのあご出汁漬けうどんだった。

 

「うへ~お腹がいっぱいにゃ~」

 

みさきは敷いてあるブルーシートの上に寝ころび、満足している様子だ。

 

「あんなに食べて大丈夫か? まだ練習するんだぞ」

「ええーまだ練習するの? 私そろそろ他の方法を試したい」

 

最近真面目に練習していたみさきが、久しぶりに駄々をこねた。

俺はそんなみさきの隣に座り、声をかける。

 

「あと四日なんだぞ。大会前の三日間は休みにするから、今追い込んでかないとまずいぞ?」

「ええー、もうそんな? 私はまだまだ大丈夫かと思ったのにな」

 

みさきは寝ころんで、空を見ながら少し残念そうな顔をしながら言う。

今みさきの見上げている空には、明日香と真白が飛んでいる。

真白をさらに強化するため、オールラウンダーの明日香を使ってでの、対スピーダー戦を想定した試合をしている。

 

「明日香・・・またうまくなってる」

「怖いな・・・」

「え・・・・・・うん、怖い」

 

明日香はきっと決勝に行く。

もしも俺かみさきが決勝かそれまでにあたったら、勝てる気はしない。

負けるのが怖い。

あの時のような感情にならないか、たまに自分が怖くなる。

まだあのドロドロとした感情はある。でも飛べる。

 

「俺とみさき。戦ったらどっちが勝つと思う?」

「それはとうぜん私だよ~」

 

みさきは即答で気の抜けた声で答える。

とそこで、窓果の「ぷおおぉぉおおん!」という口真似の声が聞こえ、二人の試合は終わったようだ。

 

「・・・終わったみたいだな。みさき、次を頼む。ブイは二つで対ファイター戦を想定した練習をするから」

「はーい~」

 

みさきはゆらゆらと立ち上がり、フラフラと飛んでいく。

その後ろ姿を見ていると、ついつい心配になってしまう。

俺も指示を出すため、立ち上がって真下に向かう。

すると窓果のやたらノリノリの掛け声と主に先ほどと同じ口真似をし試合が開始した。

 

「行きますよ、みさきセンパイ!」

 

真白はすでに真ん中で待機していたみさきの元に全力で飛んでいく。

 

『みさき、ローヨーヨーの対処、覚えてるよな?』

 

最近はバランサーの練習ばかりでなかなか模擬試合ができていなかったため、冗談も交えてみさきに聞く。

 

「言われなくても・・・大丈夫っ!」

 

みさきは真白の頭を抑え、下に弾く。

 

「さあさあ真白。私から一点でも取ったらご褒美あげる~!」

「にゃーーー!! ほんとですか!」

 

真白はみさきの誘いにまんまと乗り、ドッグファイトが始まる。

まあ、これがしたかったからいいのだけど、やる気の原因は・・・まあいつも通りかな。

 

「いただきます!」

「・・・・・・え?」

 

みさきは油断していたんか、真白に後ろを取られた。

しかし流石みさきが、体を咄嗟に翻し真白の手の照準を背中から前に変えた。

 

「もう少しだったのに!」

 

真白はかなりくやしそそうだ。

 

「・・・やるわね真白!」

 

みさきはそれまで本気でやってなかったのか、そのあとは一歩的にポイントを取って試合は終わった。

 

 

 

 

「ダメです! 勝てません!」

 

真白は地面に四つん這いになり、ガクリと項垂れている。

あのあとなんども試合を繰り返したが、みさきの圧勝だった。

 

「私、ダメでしょうか」

「いや真白、それは違う。みさきや明日香が普通より強いんだ、真白は十分なほどに強いぞ。たぶん並大抵の選手なら普通に勝てるんじゃないか?」

「ちょっと晶也! それってまるで私と明日香が普通じゃないみたいじゃない!」

「そうです! みさきセンパイは普通の人間です!」

 

真白にフォローを入れたつもりだったが、本人までそっちに加勢されてしまった。

 

「違うよ真白。私は人類犬科だよ」

「あれ、みさきセンパイは人類猫科じゃないですか?」

「そうなの。私去年気づいたんだ、自分は人類猫科じゃなくて、人類犬科なんだって」

 

みさきと真白の会話に軽くツッコミをいれて、話をもどす。

 

「さっきも言ったけど、みさきと明日香は並大抵の選手じゃない。もちろん乾や真藤さんもそれに入る。・・・ある意味では部長だってそうだ」

「それ言われても、あんまり自信わかないです」

「だよねー。晶也の気遣いとかフォローって、なんかたまに逆効果になるんだよねー」

 

真白の言葉にみさきがさらに付け加える。

真白には自信を持って欲しかったが、ダメだったみたいだ。

俺のアドバイスは、そんなにいけないのだろうか。

 

「まあつまり、真白も十分すぎるほど強い選手だってことだ。・・・・・・明日香、今日の練習は終わりにするから、降りてきてくれ今後の連絡をするから」

『はい! わかりました』

 

みさきと真白が試合をしているあいだ、一人隅っこでひたすら飛んでいた明日香に連絡を入れた。

 

「・・・・・・よし、みんな集まったな―――」

 

俺はみんなが集合したのを確認して、今後の予定を伝える。

 

「―――明日から大会の日までは練習は休み。みんな心身共に万全の状態にしておくように。特に明日香は飛ばないように」

 

以前飛ぶのを控えるように部員全員に言ったが、みさきは俺に止められ、明日香は飛んでいるところを目撃されてしまった。

 

「それじゃあ解散」

 

俺は一言そう告げて、みさきと停留所にやってきた。

今となっては、みさきを家まで送っていくのは日課になりつつある。

 

「フライ」

「飛ぶにゃん」

 

グラシュの機動キーを言って夕焼け空に飛んだ。

そしていつもならこのままみさきを家まで送り届け、別れるのだが今日は違う。

 

「み、みさき? 今日なんだけどさ。うちの家の人みんな出かけて五日くらい帰ってこないんだよ。来るか?」

「え・・・・・・うえぇぇえぇええ!?」

 

隣を飛んでいるみさきが、顔を真っ赤にして絶叫した。

 

「ま、まま晶也からの家に・・・晶也に誘われて、晶也の家の人がいなくて、夜は二人っきり・・・イチャイチャする・・・そして・・・・・・」

「待ってくれ! それ以上は言うな!」

「だ、だだだってつまりは大人の階段を遥か上の方まで登っちゃうんでしょ!? 上り詰めるんでしょ?」

 

みさきは半ば吹っ切れたやけくそな感じで、恥ずかしさを押し殺して大声で言った。

幸い周りには誰もいない。

 

「しないから! そんなことしない!」

「しないはしないで、女子としては嫌だにゃ~」

 

みさきはいつも通りの茶化すような口調で俺に言う。

どっちなんだ。

 

「と、とりあえずどうするんだ?」

「・・・・・・行こうかな」

 

少し考えたのか、それとも言うのが恥ずかしかったのか。

みさきは一瞬間を空けてから、俺に答えを出した。

 

 

 

 

それから着替えなどを取りに、みさきの家に一度立ち寄り、俺に家に招いた。

 

「ここが晶也の家。なんだか今年で三年も一緒にいるのに、一回も家に中に入ったことなかったな~」

 

玄関に入ると、みさきは立ち止まり、家を見渡す。

 

「とりあえず夕飯にしよう。ほら入ってくれ」

 

玄関で止まっているみさきを、リビングに招いて、途中買ってきた食材をテーブルに置いた。

 

「じゃあ私が作るから、晶也はゆっくりしてて」

 

みさきは持ってきたエプロンの腰の紐をキュッと結ぶ。

 

「髪、結ぶんだな」

「あれ、見たことなかったかっけ?」

 

みさきは腰まである長い髪を後ろでまとめ、髪留めで一つにまとめた。

ポニーテールと言うやつだ。

 

「ないよ。珍しいと思って」

「じゃあ。どお? 似合う?」

「十分すぎるほどにな」

 

俺に褒められると、みさきは嬉しそうに夕飯を作りに行った。

夕飯を待っている間、本当に暇になり、俺はしばらくテレビを見たあとに、みさきの荷物などを自分の部屋に運ぶことにした。

 

「・・・・・・よし、これでいいな」

 

俺は階段を上りきり、机の横にみさきの荷物を置いた。

 

「さて、風呂でも入るか」

 

やることがなくなり、練習で流した汗を落とすために、風呂に行こうとした時だった。

 

「うおぉっと・・・・・・!」

 

みさきの荷物の取っ手に足が引っかかり、コケそうになった。

 

「やっちゃったか」

 

荷物は無事かと後ろを見ると、案の定カバンがひっくり返っていた。

 

「・・・・・・ん・・・これは・・・・・・」

 

カバンを元に戻し、こぼれた荷物を戻していると、靴下サイズの薄い布地を手にとった。

―――人はなぜだろう。わざわざ広げなくてもいいのに、こういう時に限って、余計なものに余計なことをしてしまう。

俺はその布を広げ、見た。

しっかりと。

ピンクのそれを・・・。

 

「なっ・・・・・・!!」

 

俺は何もなかったかのように、それをかばんにしまった。

そしてまた、何もなかったかのようにみさきに一言言って、風呂に入った。

 

 

 

 

「晶也、夕飯でいたよ」

 

みさきがお風呂のドア越しに伝えてくる。

俺は一言返事を返して、すぐに風呂を出て着替えてからリビングへと向かった。

 

「・・・うどん?」

「そう!うどん!」

 

みさきが元気に返してくれた。

 

「でもでも。一工夫してあるから、おいしいよ!」

「そうなのか? じゃあとりあえず夕飯を食べるか」

 

俺とみさきは席に着き、いただきますと一言言ってから、まずは一口。

ちなみにうどんはざるうどんだ。

 

「この味、あご出汁?」

「さっすが晶也だね! そうだよ、あご出汁を使ってるのあとはそこにエビの出汁を取って、混ぜてる」

 

みさきに作った料理を食べたのは、今回が初めてだが、これはなんとも、商品化してもいいレベルだ。

 

―――そのあとは他愛もない会話を続けて、夕食は終わった。

 

 

 

 

場所は俺の部屋になる。

夕飯のあとは、みさきも入浴を済ませ、今は部屋で会話しているところだ。

 

「―――でね、真白が~」

 

話題は今日の練習で、真白との試合についてだった。

 

「みさきはほんとに真白のことがすきなんだな」

「なに~、もしかして昌也妬いてるの?」

「そんなに仲がいいと少しな」

 

同性であっても、彼女があまりにも仲がいいと、嫉妬、とまではいかないけど、少しくらい妬く。

でもそれをはっきり言うのが気恥ずかしくて、少し声が小さくなってしまった。

 

「へえー、晶也も妬いたりするんだね」

「当たり前だろ?」

 

みさきは意外そうな顔で言ってきたので、半眼で言い返した。

 

「じゃあ私が他の男子といたら、すごいことになるわけだ」

「じゃあ逆に、普段のみさきを見る限り、俺が他の女子といたらものすごいことになるわけだ」

「なる! 絶対なる! その子にもの凄いことして、晶也に二度と近寄りたくなくなるようなことをする自分が想像できた!」

 

みさきは少し慌てたように言う。

 

「二度と近寄りたくなくなって、何するんだよ」

「そりゃ・・・口では言えないことだよ~」

 

口で言えないことって、何をする気なんだよ。

―――俺がみさきとそんな会話をしていると、窓がコンコンッと数回叩かれた。

叩かれた意味と人物は分かっているので、カーテンを開け、窓を開ける。

 

「市ノ瀬か、こんばんわ。どうかしたのか?」

 

窓を開けると、予想通りそこには市ノ瀬がいた。

 

「いえ、そんな急で話すような話ではないのですが、眠ろうとしたらなかなか眠れなくて、そうしたら日向さんの部屋の電気がまだついていて、もしかしたらまだ起きていて、話し相手になってるくれるかなって思ったので・・・・・・もしかしてもう寝るところでしたか?」

「いや、まだ大丈夫だよ」

 

市ノ瀬とは家が隣だったり、一時期一緒に練習したりとした時期もあったため、たまにこうして眠れない時はお互いに他愛もない会話をして気を紛らしていた。

 

「あれ、市ノ瀬ちゃん! こんばんわ、ほんとに隣同士なんだね―」

 

後ろから、ベットに座っていたみさきが、ひょこっと顔を出す。

 

「えっ。鳶沢さん!?」

 

それをみた市ノ瀬は、見てはいけない場面を見てしまったかのような顔をする。

 

「あ、今日はみさきが泊りに来てるんだ」

「そうなの。私とうとう、今夜晶也においしく頂かれちゃうの」

 

そんな市ノ瀬に、みさきが意味ありげな表情と、モジモジした仕草と共に、頬を赤く染める。

 

「え・・・あ。えっ・・・おひしふ・・・」

 

市ノ瀬は顔を真っ赤にして、動揺している。

 

「違うんだ! 別にそんな変な意味じゃ・・・」

「ええ? だって晶也いったじゃない。今日は俺に家に来ないか? って!」

「言った。行ったけどそんな風には言ってない!」

 

さらに誤解の生まれそうな言い回しをするみさきに、俺は突っ込んだが、さらに市ノ瀬の顔が赤くなる。

 

「わ、私! お二人の大事な時間を邪魔してしまい・・・その、すみません!!」

 

そういって市ノ瀬は窓を勢いよく閉め、同時にすごい速さでカーテンを閉めて電気を消した。

 

「・・・あ・・・・・・」

 

完全に誤解されてしまった俺は、なんて口にしたらいいのかわからず、少しの間その場で固まった。

 

「晶也ー、大丈夫?」

「大丈夫じゃない! なんであんな誤解の生まれるような言い方をしたんだよ」

「だって、晶也はよく市ノ瀬ちゃんとああして話してるんでしょ?」

 

つまりこの反応は、妬いているということだろうか。

 

「そうだけど、別に普通のことじゃないのか?」

「よくない! もしも私の知らないところで、市ノ瀬ちゃんに晶也を口説かれたら、私きっと病む! ヤンデレになってまで晶也を手に入れる!」

 

みさきの言葉は、少し本気っぽかった。

 

「わかった。だから落ち着いてくれ」

「じゃあ・・・いいけど」

 

そういって、俺の方に乗り出してうた身を戻す。

 

「俺達もそろそろ寝よう。明日に支障をきたすしな」

「明日って練習無いんだよね? じゃあイチャイチャしようよー」

「それはどうかな。・・・まあ明日になってからのお楽しみだ」

 

そう言って布団に入った。

俺がベットで、みさきは敷布団だ。

 

 

 

 

―――もう少しで熟睡できそうなところで、隣に何かが入ってくる感じがする。

この部屋に二人しかいないから、予想は過ぎについた。

 

「みさき、何してるんだ?」

「だって、、寂しいんだもん」

 

みさきは誤魔化すようにそういう。

 

「でも熱いだろ」

「んー・・・じゃあこうしよう」

 

みさきは布団から手を出すと、机の上にあったエアコンの電源をつけた。

 

「これならいいでしょ?」

「・・・・・・今日だけな。あんまりエアコンの聞いた部屋で寝ると、体壊すからな」

「了解にゃー・・・んっ」

 

みさきは俺に方に身体を向けると、目を閉じて、ソレをされるのを待った。

 

「眠れなくなるなよ?」

「・・・大丈夫」

 

俺はみさきに、一瞬だけ触れるキスをした。

 

「っ・・・ありがと。おやすみ、晶也」

「おやすみ」

 

こうして、波乱のみさきとのちょっとした同居生活の一夜目は終わった。




次回も投稿日は不明ですが、頑張ります!


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「え、もう? 飛ばないの?」

今回は約二週間近くも遅れてしまい申し訳ありません。
学校の方で文化祭が始まり、準備で忙しく、なかなか各時間が取れずに遅れてしまいました。
私の個人事情ではありますがここしばらくさらに遅れる可能性がありますが、今後共みなさまに読んでいただけると光栄です。

長文になってしまいましたが、本編をどうぞ。


大会までいよいよ今日を入れて残り四日。

みさきの練習ができるのは前日まで。

つまりあと三日間の間に、みさきには再び明日香と互角になってもらわないと困る。

 

「起きろみさき、そろそろ練習するぞ」

 

朝食もみさきの作った手料理。メニューはハムエッグとパンといたって普通だった。

ただ張り切りすぎて早起きしたみさきが、少し寝かせてほしいと言ったから、お昼くらいまで寝かせてあげた。

 

「ふにゃ~・・・晶也どうしたの?」

 

眠い目を擦りながら、みさきは起き上がる。

 

「外に出るぞ。着替えてくれ」

「えー、まだ寝てたい~」

 

そういってみさきは再び布団に戻る。

俺はみさきから布団を剥ぎ、起きろともう一度言った。

 

 

 

 

「うへー、熱いにゃ~」

 

みさきは完全にやる気のない感じでよたよた後ろを着いてきている。

 

「よし、ここでいいだろ」

「ん?! 砂浜? ・・・・・・あっ、もしかして!」

 

みさきは何を考えたのか、みるみるうちに顔色が真っ青になり、真夏なのにガタガタ震えている。

 

「きょ、去年の・・・今年もやるの? あの夏の、砂浜で若い肉体を散々に責められ、空でいたいけな体を責めらせ、若い肉体をムチで打たれ紐で吊るされ、思い出すだけで寒気のする練習を!!」

「紐って点は言いせんいってるぞ」

「え。私ムチで叩かれるの・・・・・・?」

「そんなことしない。いまから準備するから待っててくれ」

 

俺はそう言って、みさきだけ残し、木から木へロープを張る。

 

「よし、できた」

「これって、何をするの? 遊び? リンボーダンス?」

 

見ていたみさきは、俺のお隣にきて、説明を求める。

 

「やり方はあとで教えるよ。言えることは、バランス感覚を少しでも強化しようと思って、昔小さい頃にこんな遊びをしてたのを思い出したんだ」

「へえ。晶也ってこんな遊びしてたんだ」

 

みさきが興味深そうにロープを見ながら言った。

遊びと言っても、葵さんにバランス感覚や、足腰の動きなどを柔らかく、細かく動かせるようにするためにしていた、一種の練習だ。

 

「じゃあまずは、グラシュを履いたまま片足を上げて、一分耐えてみてくれ」

「わ、わかった・・・」

 

そう言ってその場でみさきは右足を上げて、左足でバランスを取り始める―――が。

 

「わ、とと。おわ! にゃ! ふにゃあ!」

 

地面がサラサラした砂なため、みさきは思った通りにバランスを取れないと言った様子だ。

すごいグラグラしている。

 

「こ、これ。なんとも、バランスが、取りにくいー!」

「地面が砂って言うのと、グラシュの重さが合わさって、通常よりも大変なんだよ」

 

俺が話ている間も、みさきは大変そうにしている。

そして俺もグラシュを穿履いて、みさきの隣で同じ練習を始める。

 

「晶也って、もしかしてこの練習したことあるの?」

「あるけど?」

「なら、コツとか教えてほしいんだけどな」

「コツと教えたら練習の意味はないだろ。まあコツがないわけでもないが、この練習は単純に、その人のバランス感覚を鍛えるから、結果的には努力するしかないんだよ」

 

そう言うとみさきは、短くため息をつき―――

 

「はーーー」

 

―――ひと呼吸分の間を空けて。

 

「その発言は、コーチとしては適切だけど、彼氏としてはちょっとな~」

「じゃあコツを知りたかったわけか?」

「そうだね。こう言う時は、優しくさりげなく、コツを教えてくれるのが、私の彼氏としてはベストかな」

 

そういいながらも、みさきはバランスを取り続けている、

余裕に話しているところを見ると、もう十分になれてきている感じだ。

時間も二分ほど耐えている。

 

「よし、じゃあ次。左足上げて」

「あ、うん」

 

みさきは会話しながらも、俺の指示をしっかりと聞いて練習をこなす。

 

「もう十分にコツを掴んだみたいだな」

「そうだね。晶也が一緒にいてくれるからかな?」

「俺が隣にいるだけでうまくなるなら、さぞ苦労しないことだろうな」

 

飛行姿勢とかならそうかもしれないが、この練習で俺のを見ても、なんも得られないと思うんだが。

 

「本当だよ。晶也が隣にいると、頑張らなきゃって気持ちになれるから。だから頑張れるんだよ、私」

 

みさきはたまに、唐突にこんな照れくさい一言を言う。

 

「まあ、片足上げて言う言葉じゃないけどな」

 

言葉と場があっていないことに、少し笑いながら返す。

 

「あはははは、それもそうだね」

 

みさきもそれに気づき、一緒に笑う。

 

 

 

 

最初のバランス運動を何度か繰り返し、完全に慣れたところで、いよいよメインの練習に入る。

 

「それじゃあそろそろこのロープを使うか」

「それで? これはどんな使い方するの?」

 

少しの休憩を入れ、その間に持ってきていたスポーツドリンクを飲んでいたみさきが改めて聞いてきた。

 

「やり方は簡単。このロープの端から端まで行って帰ってくるだけ」

「え、それだけ? たったそれだけの事?」

 

みさきは拍子抜けの様子だったが、この練習の難しさはすぐにわかるだろう。

さっそく右側の端に行き、片足をロープに乗せる。

 

「お。・・・おお? おおおっと! うわっ!!」

 

みさきは両足を乗せた途端、見事に背中から転んだ。

幸いどんなに転んでも、下は砂だから、怪我をすることはない。

それを踏まえて砂浜にしたわけだけど。

 

「いったーい」

「大丈夫か? でもこれで、難しいってことが分かっただろ?」

 

俺はみさきに手を差し伸べ、みさきはその手を握り、立ち上がる。

 

「だけど、絶対に克服して見せる!」

「ならもう一回だ」

「うん!」

 

それからみさきは、やっては転びを繰り返し、途中休憩を挟みながらも、数時間立った頃だ。

 

「できたあ!!」

 

週百をゆうに超える回数の中で、やっと成功した。

 

「よし。お疲れさま。今日はここまでにしよう」

「え、もう? 飛ばないの?」

「今日は休みなのにかなり練習したからな。これ以上は完全にオーバーワークだ」

 

俺が中止を宣言するとみさきは不満たっぷりに反論する。

上手く行ったから、ちょうど乗ってきたところなんだろう。

 

「晶也はいつも意地悪する~、まあ確かに、私は意外とマゾいとこあるけどさ、こう言うのは違うと思うんだ」

「じゃあみさきは、この先の休日はずっと、俺とイチャイチャできなくてもいいわけか―――」

「練習が中途半端に終わらせられるのもダメだけど、晶也とイチャイチャできないのはもっとダメ!!」

 

そういってみさきは全力で否定した。

 

「なら今日の練習はこれくらいにして、どこか出かけよう。丁度昼時だしな」

「うん! そうしよう!」

 

俺が提案すると、みさきはすぐに着替えに行った―――。

 

 

 

 

「じゃあまずはどこに行こっか」

「そうだな。白瀬さんのところに行ってもいいか?」

「うん、いいよ」

 

商店街を歩いていて、ふと白瀬さんに聞きたいことを思い出し、立ち寄ることにした―――。

 

「いらっしゃい日向くん。それにみさきちゃんも。僕に何か用かな?」

 

いつも通りカウンターに行くと、白瀬さんが暇をしていた。

 

「はい。今日はちょっと変わったことを聞きに来ました」

「変わったこと・・・・・・夜の練習に―――」

「違います! ふざけないでください!」

「晶也はそのためにここに・・・」

「みさきも便乗するな!」

 

俺が止めると、二人はニヤニヤしながら俺を見る。

 

「ほんと。晶也は可愛いにゃー」

「そうだね、この初々しい反応とかがね」

「変なこと言わないでください。白瀬さんが言うと冗談に聞こえません!」

 

いつから二人の仲はこんなにも深まったのだろう。

 

「―――で、それはそれとして、何を聞きにきたんだい?」

「それはですね。過去に試合で、グラシュのバランサーを切って練習した人がいるかどうかなんです」

 

そう聞くと、白瀬さんはノートパソコンを持ち出し、俺たちに見せる。

 

「そろそろそんなことを聞きに来る頃かと思って、準備してたんだ。―――これが過去五年間の上位四位まで勝ち上がった選手のデータで、これが僕の見た今までの試合の動画結果。見た感じ誰もバランサーのカットしてなかったみたいだ」

「そうですか。・・・・・・そうなると、俺たちが初の試みなわけですね」

「そういうことになるね」

 

俺は白瀬さんにお礼を言って店を出た。

 

「どうしたの晶也、表情が浮かないけど」

「えっ、・・・ああ、大丈夫」

「そっか。じゃあ次どこ行こうか!」

 

そして俺とみさきは、次の場所を考えながら、手をつなぎぶらぶらと商店街を歩いた。

 

 

 

 

「はあー、今日は疲れたにゃ~」

 

昨日と同じように、俺の部屋で寝るつまりのみさきは、先にベットで横になっている。

 

「それじゃあ晶也、何しようか!」

「何もしない、寝るぞ」

 

そう言って俺はみさきのとなりに入る。

 

「つまんない! せっかくのお泊り会なのになんにもイチャイチャしてない!!」

「おい、あんまり大きな声を出すなよ。近所迷惑だろ? それに世間一般的に、彼氏の家で、同じ布団で寝ていれば十分イチャイチャだろ?」

「そうだけど、あたしをこんな普通のイチャイチャじゃ満足できない体にしたのは晶也だからね?」

「―――誤解が生まれそうな言い方をするな!」

 

俺もみさきも、夜遅いのに、構わず大声を出してしまった。

しかしそんなこともお構いなく、みさきは駄々をこねる。

 

「やだやだ! イチャイチャするー! ・・・・・・それに! 今日くらいイチャイチャしないと、大会が近くなったらできなくなるから、だから、今がいい」

 

俺は尚も駄々をこねて、聞こうとしないみさきを、ガバッと置き、そのままベットに押し倒した感じにする。

今みさきは、俺の両腕に挟まれ、ジッと見つめられたまま、オロオロとしている。

 

「え、ええっと。え? あれ? 晶也さん? もしかして、怒っちゃいましたか? え? ええ?」

「い・・・イチャイチャしたいんだろ?」

 

オロオロするみさきに、俺は、自分でも言ってて少し恥ずかしいが、そう言った。

 

「ひ、久しぶりの、ご、強引な昌也さんで―――んくっ」

 

俺はみさきの言葉を無視し、その唇に自分の唇を交わした。

 

「んんっ・・・ん。はあはあっんん・・・」

 

俺がみさきにキスしたはずなのに、俺は、求めるみさきのなすがままになっている。

 

「ん、はあはあ。・・・もっと―――うんんっ!」

 

そろそろみさきが「もっと」と言い出す頃と想い、俺は少し乱暴にキスをした。

この二日目の夜は、そんな甘い夜だった。



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「私だって。強くなってるんです!」

お久しぶりです!
今週中になんとか仕上げられました。


「ふにゃあああああああ!!」

「もっと背筋伸ばして!」

「やってる!」

 

今日の練習も朝からを予定していたが、昨日あの後に夜更かししてしまったことで、起きたのは俺もみさきも昼過ぎだった。

今日は予定よりも早いが、飛行練習に移ることにした。

隣では俺も一緒に飛び、一応ヘッドセットをつけ、隣にいながら直接アドバイスをすることにした。

 

「あーもー! 明日香も真白も今頃遊んでるのにー!」

「少なくとも明日香は飛んでるだろうな。絶対」

 

今までの行動から察するに、きっと家の近くとかで飛んでいるだろう。

あまり勧めたくはないが、探し出して無理に止めるのは、逆効果だと思うから、止めるのはやめておこう。

 

「―――もっと安定して飛ぶんだ」

「やってるって!」

 

そういってみさきは、スピードを上げたり、何度も姿勢を直そうとするが、なかなか上手くいかず、かえってバランスを崩してしまう。

昨日の練習がかなり効いたらしく、バランサーを七十近くまでカットしても、飛んでいられる程度にはなった。

 

「昨日の練習がだいぶ役に立ったみたいだな」

「晶也のおかげだよ!」

 

しかしそんな不安も、

この調子でいけば、大会で誰とぶつかっても大丈夫なはずだ。

 

「よし、みさき。ハイヨーヨーいってみよう」

「うん!」

 

みさきは楽しそうに、言われたとおりに練習をこなしていく。

そんなみさきを見ていると、こっちもつい頬の力を緩めてしまう。

まるで自分のことのように思える。

こお感情はコーチとしてはだめだと思う。

だけど???

みさきが強くなることが、何よりもうれしい。

 

「次、エアキックターン!」

「はい!」

 

ハイヨーヨーを繰り返していたみさきが、俺に言われると同時、体をくるりと回し、両足をきれいに合わせて踏み込み文字通り空を蹴る。

そして勢いよく真上に、頭上に飛んだ。

みさきの通ったあとには、まるで流れ星のような、綺麗なきりもみ上のコントレイルが残っている。

 

「うにゃあああ!!」

 

みさきの頑張る声が聞こえる。

 

「みさきは、いいのか?」

「・・・・・・なにが?」

 

疲れたのか、少し間をあけてから返事が返ってきた。

 

「いや、あとで話すよ。一回降りてきてくれ」

 

一度練習はここまでにして、休憩を入れる。

このあとは助っ人に来てもらって、練習試合を一回するつもりだ。

―――みさきは地面に降りると、グラシュの電源を切る。

 

「それで。さっきの話の続きは?」

 

俺はみさきにドリンクを手渡し、近くの防波堤に座る。

―――俺が座ると、飲み物を飲みながら、みさきも隣に腰を下ろした。

 

「俺が大会にでるってことは、決勝、もしくはそれ以外、へたしたら一回戦で当たることになるかもしれないんだ。みさきはそれでも・・・・・・」

 

あとに続く言葉は言えなかった。

言ってしまうと、みさきのやる気を削いでしまいそうで、言えなかった。

 

「私はそんなこと気にされなくても、全力でバチバチしに行くよ! それが晶也でも・・・というか晶也だと俄然やる気出して試合する」

「俺は怖い。これだけ練習して、もしも簡単に他の選手に負けしまったら、また挫折しそうで。またあのドロドロとした感情に飲まれてしまいそうで・・・・・・」

「大丈夫! そんなことにならないように、こうして一緒に練習してるんだから」

 

みさきは俺の言葉を理解したうえで、今の言葉を全て否定するような表情と口調で強くそういった。

 

「どちらかと言うと、一方的に練習捨てるけどな。・・・・・・でもありがとな」

「まかせといて! 晶也にやられた倍の連練習を考えておくから! 私の練習量に死ぬがよい!」

「ぜ、善処します」

 

俺は苦笑いしながら返した。

 

 

 

 

―――休憩も一段落ついて、助っ人を待っている間に、俺とみさきは軽くフィールドフライをしてた時だった。

 

「あの! 遅れてしまい、申し訳ありません」

 

飛んでいる俺とみさきの隣に、市ノ瀬が飛んできた。

 

「別にいいよ。無理行って来てもらったのはこっちだし」

「あ、いえ、そんなことないですよ。いい勉強になりますし、こちらこそ!」

 

今日の練習試合の助っ人は、市ノ瀬だ。

誤解は一応、昨日の夜にメールで説明して、納得してもらった。

 

 

 

 

「ではこれより、練習試合を始めます。実際と違うのは、セコンドが俺一人で二人分やること、伝えるのは見失った時とアドバイスのみ。・・・・・・ではセット―――!」

 

俺の笛を合図に、二人はファーストラインを飛んでいく。

スピーダーの市ノ瀬はローヨーヨーでブイへ、みさきはセカンドラインへショートカットした。

・・・っとここまでは完ぺきにいつも通りの試合。

問題はここからだ。

みさきは今回、バランサーを六十パーセントまでしかカットしていない。

安全と確実性、それとスモー使用時の状態を見ておきたいからだ。

―――そうこうしているうちに、市ノ瀬がみさきと接触した。

みさきが市ノ瀬を抑えたのだ。

 

『二人とも、手加減はしなくていいからな。特にみさき、いいな?』

「そんなこと言われなくても、私はいつでも本気だよ!」

 

みさきは、向かってくる市ノ瀬に一直線に飛んでいく。

いつものみさきなら、絶対にやらない事だ。

きっとみさきの中で、何か考えがあるのだろう。

 

「―――行きます!」

 

向かってくるみさきを、市ノ瀬はシザーズでうまくかわす。

 

「まだ終わらない!」

 

みさきは体をクルリと回し、去年の秋大会以降に、明日香に教えてもらったエアキックターンを、さっそく使う。

しかしそれでは加速は足らない―――。

 

「ここを・・・こう・・・えいっ!」

 

みさきはまだまだ明日香ほどのスピードは出せないが、ソニックブーストでさらに加速する。

去年の秋から、今まで、みさきは幾多の技を覚え、苦手だったメンブレンの扱いも得意になりつつあった。

 

「っ!!」

 

だがみさきは、二つのメンブレンを使う技を上手く繋げたが、あと少しのところで追いつけず、途中でショートカット。

市ノ瀬はブイタッチで二点目を取る。

―――そしてその刹那、驚きの行動に出た。

 

「私だって。強くなってるんです!」

 

市ノ瀬はブイの反動を利用し、頭上に飛んだ。

明日香や乾さんと同じようなことをしてくるとは、思わなった。

 

「すごいね。まさかそれをやってくるなんて思わなかったよ。・・・でも市ノ瀬ちゃんなら。そんなにガードは甘くないはず!」

 

ヘッドセットから小さなみさきの声が聞こえ、みさきは上昇する。

 

「うりゃああ!」

 

みさきは右や左に小刻みに動きながら、フェイントをかけながら接近する。

 

「―――そこですっ!!」

「えっ!?」

 

見ていた俺に、みさきも驚きの声をあげる。

みさきの速さと寸前でのフェイントは、そう簡単に読めないはず。

市ノ瀬は、俺とみさきの知らないうちに、ここまで強くなっていたのか。

 

「じゃあこれ!」

 

弾かれ、海を背中にして降下していたみさきは、体勢を立て直し、コブラを使って急加速をする。

 

「きゃっ!」

 

まさかみさきがコブラを使ってくるとは思わなかった市ノ瀬は、みさきを止めきれず、後ろからタッチされ、今度は市ノ瀬が斜め下方向に強く弾かれた。

 

「いくにゃあああっ!」

 

みさきはそこからさらに、落ちていく市ノ瀬が体勢を立て直す前に、急降下してスイシーダをした。

 

「っ!!」

 

これでみさきが二点、市ノ瀬も二点、同点だ。

―――俺はヘッドセットで二人に今のみさきの得点が入ったのを試合さながらに言った。

そしてその後の展開は一歩的だった。

みさきは今までとは違い、スモーとメンブレンを使用した技を使い、特典を重ねて行った。

そして―――。

 

『そこまで!』

 

俺が笛を鳴らすと、二人は疲れ、ヘトヘトで降りてきた。

 

「鳶沢さん。やっぱり強すぎです・・・」

「そんなことない。市ノ瀬ちゃんだって、私を止めたじゃない! すごいことだよ!」

 

みさきは試合に負けた市ノ瀬を労っている。

 

「そうだ。市ノ瀬が一度みさきを止めたのは、そう簡単にできないことだ。去年に比べて市ノ瀬はすごい進化してると思う」

 

みさきに続き、俺はお世辞でも労いでもない、本当に感じたありのままを、コーチとして言った。

 

「市ノ瀬のいいとこは、個性がないところだし、逆にそれが弱い理由でもある。でもそれは、まだたくさんの可能性を秘めているわけでもある。だからもっといろんな技を練習して、ゆっくり自分の個性をつかめばいいさ」

「・・・はい!!」

 

市ノ瀬は元気に返事をし、ぺこりと一礼した。

 

「それと、今日は本当にありがとうございました! おかげさまで、また強くなれた気がします!」

 

もう一回ぺこりと頭を下げ、ささっと足って帰ってしまった。

 

 

 

 

日は沈みかけた夕暮れどき、俺の家からみさきが家から出てくるのを待っていた。

実はまだ日にちはあるんだが、みさきがこれ以上いたらイチャイチャしちゃって寝不足になりそうといったから、泊まり込みは今日までになった。

 

「おまたせ」

「本当に送らなくていいんだな?」

「もう。晶也は心配性だにゃ~。大丈夫だって、それじゃあ、大会の日に会おうね」

 

本来ならあと二日か一日は練習できたのだが、みさきの体力や練習成果をみたら、オーバーワークにならないのはここらへんだと思い、明日からはなしにした。

そして、お互いに会うのは大会の日にしようと約束した。

 

「そうだな。・・・・・・寝坊するなよ」

「はいはい。わかってるってば・・・・・・とぶにゃんっ」

 

みさきはその場でグラシュを起動して飛んだ。

 

「まったく、周りに誰もいないからいいけど・・・・・・」

「前にも言ったでしょ、私の停留所は晶也の隣。バイバイ」

 

そういって飛んでいってしまった。

その後部屋に戻ったが、なんだかいつも通りの部屋なのに、少し寂しく感じた。




最近は暑い日が続いていますね。
こんな時こそグラシュで空を飛んで生暖かい風を浴びてみたいですね!

次回は秋の大会に入ります。


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「ねー、早くお昼食べに行こうよー!」

投稿が二週間も遅れてしまい、深くお詫び申し上げます。
恐らく次話も同じくらいになると、予想しています。

こんなにも投稿ペースが遅いのに、閲覧や感想、評価していただき、いつも誠にありがとうございます。


夏の熱気と、観客の想いが熱く燃える浜辺の会場。

高校生活最後のFCの大会。

 

「みさきちゃん、起きてください。トーナメント表みにいきますよ」

 

朝が苦手なみさきの体を、明日香は起こそうとして揺すっている。

 

「んにゃー・・・。ここで寝ている~」

「ダメだ。見に行くぞ。今年は俺も出場するんだから、自分のは自分で見に行くんだ」

「りょーかーい」

 

相変わらすマイペースなみさきは、寝起きの猫のようにゆっくりと起き上がり、両手を伸ばして伸びをする。

 

「今年のトーナメント表は、去年みたいなことにならないといいけど・・・」

「でもみさきなら、勝つ気で行くだろ?」

「そんな滅相もない! 乾さん相手に、真っ向から勝つ気でなんて、怖くて無理、絶対無理!」

 

そんなこと言ってるみさきだが、去年の乾さんとの約束もある。

きっと当たったら、スモーを使って初めから全力でいくだろう。

 

「―――でも負けない。私は晶也と当たるまで、絶対に負けない!」

「あの、みさきセンパイ。それいわゆるフラグですよ?」

「私と晶也の愛の前に! フラグなんてただの棒よ!」

「そんなこと公衆の面前で叫ばないでくれ・・・」

 

今年の大会だが、参加人数は当然秋の大会よりも多い。

それに四島の全同年代にとって、高校最後の大舞台だ。

みさきはスモ―を使わないと勝てない相手も出てくるだろう。

 

「みさきは相手にもよるが、三回戦辺りから余裕がなくなってきたら積極的にスモ―を使っていこう。明日香はなるべき技の連発は禁物だな。真白は気を抜かずに、練習の成果を発揮しよう」

 

俺がみんなに伝えると、みんなは俺をやれやれといった様子で見る。

 

「まーさーやー、立場わかってる? 今年は晶也も出るんだから、少しは自分のこと考えないと」

「そうですよ。私たちは自分で判断します。ですから、晶也さんは自分の作戦を考えていてください」

「わ、私だって二年目なんですから、いつまでも自立できないままじゃ困りますしね」

「みんな、そんな心配しなくても、俺は自分の作戦も考えてあるから大丈夫だ」

 

そうこう話しているうちに、トーナメント表のある場所に着いた。

みんなはさっそく、それぞれ自分の名前を探し出した。

 

「あ、ありました! 私は今日の部ですね」

「俺は明日の部だ」

 

先にみつけた俺と明日香は、邪魔にならないようん、少し離れたところで話す。

どうやら明日香別の部になったようだ。

正直言うと、明日香と同じ部だったら、危なかったかもしれない。

 

「まさやー、私は明日だったよー」

「私も明日の部でした~」

 

少し安心したみさきと、みさきと一緒の部になった真白が上機嫌で戻ってきた。

俺は二人にも自分の部を説明し、それに続いて明日香も説明した。

 

「明日香だけ、別ブロックか」

「うう、私もみんなと同じがよかったです~」

 

一人だけ別の部になってしまった明日香は残念そうに肩を落とした。

 

「でも乾さんも今日の部らしいぞ?」

「ほんとですか! 去年はみさきちゃんと当たってしまって、一緒に試合出来なかったので、一緒に飛んでみたいです!」

「勝ち続ければ、今日の部の決勝で当たるだろうな」

「はい!」

 

明日香は今からもう試合したくてたまらないと言った様子だ。

 

「よし、それじゃテントに戻ろう」

 

 

 

 

 

「明日香、エアキックターン!」

『はい!』

 

マイクから聞こえるのは、まさに今、第一試合真っ最中の明日香の声。

その声からは、余裕のある状況であると、読み取れる。

 

「―――っ!」

 

エアキックターンを使った明日香は、加速して相手選手の背中を取った。

 

「そのままセカンドブイへ!」

 

相手のタイプはスピーダー。

最初はあえてショートカットさせて、そのあとブロックで見事止め、ドッグファイトで得点を重ね、今ちょうどドッグファイトを止めて、ブイを取りに行くところだ。

さっきのタッチで相手の選手はかなりバランスを崩した。

これだけリードすれば、そう簡単に追いつけないだろう。

そして次の指示を出そうとしたところで、試合終了の音が鳴る。

結果は九対一、明日香の圧勝だった。

 

「お疲れさま、慣れないドッグファイトで疲れただろ?」

「いえ、まだまだいけます!」

 

明日香は両手で拳を作り、俺に訴えかける。

 

「そうか、じゃあ次も頼むぞ」

「はい!」

「―――でーも! その前に、お昼だよねっ!」

 

ベンチに腰掛けてたみさきが、ガバッと勢いよく立ち上がる。

 

「そうだな。今年も真白うどんが出店してるって聞いたから、行ってみよう。」

「おー!」

 

俺達は出張真白うどんのあるブースに向かった。

 

「あ、日向さん、それに皆さんも、こんにちは」

 

途中、市ノ瀬に出会った。

その手には、この日限定、お持ち帰り用の発泡スチロールのどんぶりに盛られた肉うどんを持っていた。

 

「莉佳もうちのうどん買ってくれたんだね! ありがと」

「真白のとこの肉うどんはおいしいから」

「そういえば莉佳は今日の部なの?」

 

うどんから話題を変え、市ノ瀬の大会に変わった。

 

「うん、私は今日の部だよ。今年は真白とは試合できそうにないね」

「そうなんだ・・・でも勝ち続ければどこかで当たるから、だからお互い頑張ろうね! 」

「うん! それじゃあ私そろそろ行くね。佐藤院さん、私が来るまでお昼食べるのを待ってるかもしれないから」

 

そう言って市ノ瀬は高藤のテントの方へ小走りで駆けていった。

 

「ねー、早くお昼食べに行こうよー!」

「あ、ごめんなさい、行きましょう!」

 

みさきが空腹を訴えると、市ノ瀬の走っていった方を見ていた真白は、待たせてしまったみさきに、一言謝って、俺たちは再び歩いていく。

 

 

 

 

「ぷはー! やっぱこの一杯の為に生きているわ! FCやっててよかったー!」

 

豪快にうどんの汁を全部飲み干したみさきが、ドラマとかの居酒屋のシーンで、お酒を一気飲みしたサラリーマンのようなことを言った。

 

「みさきのFCは、うどんを美味しく食べるためだけにあるのか?」

 

本人はこの一杯と言っているが、実際はこれで三杯目だ。

お腹を壊さないか心配だが、いつものみさきなら普通の量か。

 

「そうだよ。私はうどんを美味しく食べるために、FCで体を動かして―――って違ーう! 私のFCはうどんを美味しく食べるだけに・・・じゃないというと嘘になるから、それもそうだけど、一番は晶也と自分のためだから!」

「嬉しこと言ってくれるな」

 

今この場には俺とみさきしかいない。

最初はみんなでお昼のうどんを食べていたが、みさきがお代わりするといったから、付き添いで俺が残ることにしたからだ。

 

「だって約束したでしょ? 今度は私が晶也を届ける番だって・・・どお? 届いた?」

「・・・・・・まだわからない。でもきっと、届いてると思う」

 

まだ去年のみさきみたいに、はっきりとした感情はない。

でもこの一年、みさきがいてくれたから俺は飛んでいられた。

空から逃げずに済んだ。

だからきっと、この大会が終わる頃には、届いてると、そう俺は俺を信じている。

 

「はー! お腹一杯、これ以上は無理ですにゃ~」

「今日が試合じゃなくてよかったな」

 

俺は笑いも交え、みさきに言った。

 

「そうだね。本当に今日じゃなくてよかったよ」

「あ、そういえば、晶也のセコンドなんだけどさ」

「ああ、そのことなら問題ないぞ?」

「私、お願いがあるの・・・・・・・」

 

 

 

 

みさきとお昼の間ずっと夢中で話していると、いつの間にかアナウンスが流れ、次の試合のお知らせが聞こえた。

俺とみさきは、俺が明日香のセコンドをすることもあり、テントに戻ることにした。

 

「それじゃ明日香、準備はいいな?」

「はい! コーチ!」

 

明日香はいつも通りの元気は声で返事をした。

 

「よし! 次も勝とう!」

「はい!」

 

明日香は返事を返すと、グラシュを起動させ、最初のブイ、ファーストブイについた。

 

『それではいいですか?』

 

マイク越しに、審判の確認の声が聞こえる。

会場は試合が始まる前の、静寂に包まれる―――。

 

『セット!』

 

―――試合開始の合図とともに、二人はスタートした。

観客席も一気に白熱する。

スタートしてファーストラインの半分を通過したところで、さっさく相手の選手はショートカットした。

ここでショートカットということは、相手はファイターの可能性が高い。

これなら一気に行ける!

 

「明日香、ファーストブイをタッチしたら、そのまま反動を利用して上に上昇、ローヨーヨで加速、もし相手がブロックしてきたら、ギリギリでソニックブーストを使って急加速」

『はい!』

 

明日香は俺の指示通りファーストブイをタッチ、そのまま反動を利用し上昇、そのままローヨーヨーをする。

そして相手選手は狙い通り、明日香の動きの先を読み、降下しきるタイミングで当たるように動き出す。

そしてみるみるうちに、両者の距離が縮まり―――。

 

「明日香、今!」

 

俺が叫ぶと同時、明日香も自分なりにタイミングを考え、見事俺の指示するタイミングと重なって動いた。

そのため動きにタイムラグなどなく、ソニックブーストでの奇襲は完璧に決まった。

これが明日香のFC脳の凄さなのだろう。

 

「よし、そのまま得点を取っていこう」

『はい!』

 

今は相手の選手は、明日香がいきなりソニックブーストを使ったことで、驚いてバランスを崩し、かなりの差がある。

結果、明日香はそのままセカンドブイ、サードブイと、得点を重ねていく。

―――その後の試合展開はまたも明日香の独占勝ちだった。

 

「お疲れ様、調子いいみたいだな」

「はい! 知らない選手との試合、とても楽しいです!」

「無理はしないようにな」

「はい」

 

 

 

 

その後二試合行ったが、どれも明日香に触れることができず、追いつくこともできない選手ばかりだった。

次はいよいよ、今日の部の決勝、相手ももちろん乾さんだ。

これの決勝で、勝ったほうが、明々後日の決勝での相手になる。

 

「明日香、絶対に勝とう!」

「はい! 行ってきますね。FLY!」

 

明日香は今日一番の笑顔と、自信を胸に、スタートラインへ飛んだ。

そして二人は特に会話することなく――――――試合は開始した。




次話はいよいよみさき達の試合です!


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「二ヒヒ~そんなに顔を真っ赤にしてどうしたのかな? 晶也くんっ」

次話です!
みさき成分多めです!


観客の熱気は最高潮に達し、試合は終了した。

 

「やりました! やりましたよー!」

 

乾さんが試合中にバランサーの完全開放をしたときは驚いた。

その乾さんの強さに、明日香は一時はどうなるかと思ったが、延長戦になった時にグラシュのバランサーのオールカットを成功させ、乾に勝つことができた。

あんな飛び方、俺は見たことない。

もしかしたら俺は、真藤先輩が言っていた、FCが変わる瞬間に出くわしたのかもしれない。

 

「あ、明日香大丈夫?!」

 

体力を使い切った明日香を、みさきが肩を貸し、支えながらテントまで歩いてくる。

明日香の周りには、自然と真白達もついている。

 

「大丈夫か明日香」

 

俺は疲れきった明日香を心配して、声をかけた。

 

「はい・・・大丈夫です~」

「今日は一日お疲れ様、明日は試合がないから、ゆっくり休んでくれ」

「はい、そうしますね、あははは」

 

明日香はこんな状態なのにも関わらず、笑ってみせた。

 

「明日香はすごいなーもー!」

 

そういってみさきは、明日香の髪を少しクシャクシャっとする。

きっとみさきはただ正直に、そう心から思っているんだと思う。

羨ましいとか、負けたくないとか、そんなんじゃなくて、同じ久奈浜の部員として・・・・・・。

 

 

 

 

今日は佐藤院さんから明日香へのお祝いも兼ねて、みんなで高藤の食堂でお祝いパーティをしたいと誘われ、先生方も含めてみんなで夕食を食べた。

夕食の頃には明日香もいつも通り元気になり、高藤や部員のみんなと楽しそうに夕食を食べていた。

それともう一つ、前日に佐藤院さんから着替えを持ってくるようにと言われていたが、やっとその意味がわかった。

なんと、高藤の体育館と宿舎を使って、泊まっていってもいいと言われた。

体育館は練習に使っていいと言われた。

 

「日向! これなら今年も優勝間違いないな!」

「それはまだわからないですが・・・優勝してみせます」

 

今はもう久奈浜にいない部長だけど、この大会のために、わざわざ来てくれた。

ほんと、部長はこの部のことが好きなんだと、つくづく思う。

 

「それより日向、しっかり筋肉はつけたか、試合は明日だろ? 筋肉なくて、スピードと勝利はないぞ!」

「あ、はい、それに関しては、部長に言われた通りのメニューは定期的にこなしてますよ。本当にありがとうございます」

「おう! あれぐらいいいってことよ。っとそれもそうだが、鳶沢の方はどうだ? ・・・倉科には勝てそうなのか?」

 

本来どっちも応援して、公平にしている部長が、みさきのことを聞いてきた。

去年一緒に練習しただけあって、部長もそれになりに入れ込んでいるみたいだ。

 

「・・・・・・コーチとして言うなら、決められません。ですが一選手としてなら、勝ちたい。恋人としてなら、勝ってほしい・・・ってところです」

「日向はなかなか複雑なところにいるわけだ・・・・・・自分の気持ちに負けるなよ。潰れそうになっら言ってくれてかまわないぞ、いつでも相談に乗る。」

「はい、ありがとうございます」

 

部長との会話が一通り終わると、スマホにメールが届き、内容を見た。

―――そろそろ私が恋しくなる頃かなーって。

そんな晶也に、お風呂上がりの私を見せてあげる!

会場近くの砂浜のベンチで待ってる。

そんな内容だった。

 

「部長すみません、少し出てきます」

「おう」

 

こんな時間にあんな内容でくるとは、何かほかにもあると思って、俺は足早にみさきの下へ向かった。

 

 

 

 

暗い夜の砂浜を照らす満月の光が、綺麗に海に反射してキラキラしれいる。

 

「あ、いた・・・・・・ベンチで、待ってるって言ってたのに―――」

 

海の方を見上げると、夜空のうす暗いキャンパスに、黄色のラインが引かれている。

 

「みさき、明日は大会なんだから、飛んだらダメだろ?」

 

俺は近所迷惑にならない程度に声を上げて言った。

すると声が届き、みさきが俺に気づいて、慌てて降りてくる。

 

「ごめん、でも飛んでないと気持ちがブレそうでさ」

「気持ちがブレる?」

「そ、明日は晶也とぶつかるかもしれないじゃない? その時に、本気で晶也と飛べるのかなって・・・」

 

みさきは不安な表情で、ベンチに座っている、俺の隣に座る。

 

「本気で試合しないと、相手に失礼だって、去年言ったろ?」

「でも、小さいころだけど、一度晶也は私に負けて、飛ぶのをやめたじゃない? もしまたそんなことになったらって思って・・・考えてたら不安になってきて、聞いておきたかったんだ、本当にもう、そうならないかって」

「大丈夫だ。もう俺は空から逃げない。去年みさきは俺のために飛んでくれた、今度は俺が飛ぶ番だから、みさきも本気で俺を倒しに来てくれて構わないけど・・・・・・」

 

俺も俺で、みさきと同じ心配をしてしまう。

お互い心配性だと思った。

 

「逆にみさきが明日香や俺に負けたら―――」

「ならない!」

 

俺の言葉を悟ったのか、みさきがすぐに返した。

 

「そんなことぜっっったいならない! もう二度と、あんな事にならない、そんなことしたら、私晶也の彼女として居られない気がする・・・・・・」

「それは言いすぎだろ」

「ぜんぜん言いすぎじゃない! そんなの、晶也の苦労と、私への期待を裏切るのと一緒だもん」

 

みさきは俺の手を握って言った。

 

「・・・・・・まったく、俺達二人とも、心配性だな!」

「・・・そうだね、心配しすぎだね」

「晶也!」

 

みさきは立ち上がって俺に言う。

 

「決勝は、私と晶也で、最高のFCをしよう!」

 

みさきは今まで見たこともない決意の込めた瞳で俺を見つめる。

 

「ああ、そうだな」

 

俺は立ち上り、みさきを抱きしめた。

 

「キャっ・・・・・・」

「今は嫌だったか?」

 

急に小さな悲鳴を上げたみさきに、不味かったかもしれないと、内心慌てて聞いた。

 

「ううん、いきなりだったから、ちょっとビックリしただけ、晶也にされるなら、どこでもどんな時でもいいに決まってるで、でも・・・・・・」

「でも?」

 

みさきは何かを堪えるように言っている。

 

「あんまり抱きしめらえていると、そ、その、アレをしたい気分になって・・・・・・」

「キス、するか?」

 

俺がそう聞くと、咄嗟にみさきは離れた。

 

「ダメ! 今はダメ! したいけど、今すると気持ちが揺らいじゃうからダメ!」

 

顔を真っ赤にして、みさきが訴える。

 

「じゃあ大会が終わるまでお預けってことでいいのか?」

「ンーーー! そうやって意地悪言うんだから! ・・・でもそれで・・・・・・いい!」

 

みさきは我慢するように、目をギュっと強く閉じる。

 

「それになんだろ、このお預けって聞いた瞬間に感じた、すごくそそるもの感覚・・・」

 

みさきのMの部分が反応したのか、そんなことを言ってくる。

確か去年、かなりMいとこがあるとか、そんな感じの事を言ってた気がした。

 

「それじゃあ門限近いし、そろそろ戻らないとな。おやすみ」

「そうだね。佐藤院さんに何かされる前に帰らないと・・・おやすみ」

 

そう言ってみさきと別れて、それぞれの宿舎に戻った。

 

 

 

 

―――大会、二日目の部、午前試合。

 

『さあ今年二日目の予選試合が始まります! まずは午前の部からです! この午前の部に選ばれた人は、昨日の部での決勝選手、倉科明日香選手との試合をせず、シード扱いとして、決勝に出てもらいます! そのため午前の部は名高る選手が多く、白熱した試合が見れると期待しています!!』

 

 

昨年と昨日に引き続き、今年も同じ実況担当らしい。

 

「そうういことなんですね、だから今日の試合に皆さんがいたんですね」

 

今の明日香の言い方だと、まるで明日香が弱いみたいな感じになっている。

 

「明日香も当然強いからな。それはコーチとして、俺が保証する。明日香は強いよ」

「そうですか? えへへ、ありがとうございます~」

 

明日香は喜んで受け入れてくれた。

自分の力を受け入れられたのが、よっぽど嬉しかったのだろう。

 

「私、晶也さんと一緒に飛んでみたいです!」

「そんなの、いつも飛んでるじゃないか」

「そうじゃなくて、FCの選手として復帰した晶也さんと、私全力で飛んでみたいです!」

 

明日香も昨日のみさきのように、見たこともない決意で俺を見つめる。

 

「ああ、決勝で当たったら、一緒に飛ぼう」

「はい!」

「あ、晶也さん、午前の部が始まるみたいですよ!」

 

俺と明日香が話していると、午前の部の最初の試合の選手が呼ばれていた―――。

 

 

 

 

 

第一試合を無事クリアした俺は、次の試合まで他の選手の試合をみている。

そして第二試合は佐藤院さんが勝ったため、トーナメント形式通りで行くと、次は俺の次の相手は、佐藤院さんだ。

そして今更ながら考えた。

今年の試合は少し特殊だ。

一日目に一人、決勝者を出し、次の日に午前と午後にわけて、午前が本線決勝のシード権獲得、午後が前日の決勝者と試合をして、勝っ方が午前決勝者と試合。

でもこうすつことで、弱い選手が強い選手と当たりにくくなり、大番狂わせとかを、起こし安くしているのかもしれない。

 

「ほんと、すごかったにゃ~」

 

俺のとなりにはみさきがいて、簡単な感想を述べている。

 

「次はいよいよ晶也だね、がんばって! 私は午後の部だから、気楽に居られるけどね~」

 

そう、俺は午前の部、みさきは午後の部になっている。

 

「ああ、行ってくる。 それじゃあ葵さん、セコンドお願いします」

「わかった。行ってこい」

「・・・はい」

 

俺はグラシュを履き、電源をいれて、あとは飛ぶだけにする。

背中には、後ろから聞こえるみんなの声援―――。

 

『さあ! 次の試合は見ものですよ! その強さは今も健在か!? 元天才のスカイウォーカーと呼ばれていた、日向晶也選手と、相手になるのは、名門高藤のFC部現部長! 佐藤院麗子選手!』

 

実況の言葉で、俺の心臓ドクンと大きく脈打つ。

体中に広がる、客席からの期待の感覚、この感じに、飲み込まれていけない。

 

「FLY!!」

 

俺はそれを振り払うかのように、力強く言って飛んだ。

先に佐藤院さんがスタンバイしていた。

 

「よろしくお願いしますわ。一度あなたとは試合をしてみたかったので」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

こう話しているうちにも、実況のおかけで声援は大きくなる。

この感覚だ、この感覚こそ、俺が挫折した原因の一つでもある、期待の感情。

周りからの圧力と声援で、俺の心は壊れかけたんだ。

そう考えると、心臓がドクンドクンと、無脈が早くなる。

少し呼吸が苦しくなるが、我慢しないといけない。

ここで体調が悪いことになると、試合は棄権扱いになる。

 

『―――晶也!』

「みさき・・・・・・!」

 

ヘッドセットから聞こえてきたのは、少し活の入れるみさきの声だ。

 

『しっかりして、周りの声なんて気にする必要ない! 晶也は晶也なんだから! 自分のFCをして!』

「・・・・・・ああ、わかった。それより―――」

『私、この日の為に、密かにセコンドの練習したから! だから大丈夫』

 

昨日、お昼にお願いされたこと、それはセコンドの交代だ。

最初は各務先生にお願いしていたが、みさきは部の練習のあとに、各務先生に俺の試合の動画や、セコンドのやり方を勉強したと言っていた。

でも心配になり、今日の最初の試合は、葵さんに任せた。

そしてそのセコンドの様子を、みさきは食い入るようにみていたと後に聞いた。

 

『ただ晶也ごめん、私ってファイターのことしかよく知らないから、試合の指示は、ファイター寄りの指示になると思うの』

「俺は選手だから、みさきの指示で動くよ。それに俺はオールラウンダーだから、そんなの気にしなくていいから」

『うん!』

 

そして試合開始の合図とともに、俺と佐藤院さんは飛ぶ。

佐藤院さんは、一直線にブイを取りに行く。

 

『え、ええっと。晶也、ショートカット!』

「わかった!」

 

俺はみさきの指示で、セカンドラインへ移動する。

 

『えっと・・・次は・・・』

「みさき、そんな無理して指示ださなくてもいいぞ。俺は俺で、わかってるから」

『う、うん・・・・・・』

 

みさきの声が、申し訳んなさそうな声色に変わる。

少し言いすぎたのだろうか。

しかしそんな事を話しているうちに、佐藤院さんはセカンドラインへと入り、一直線に向かってくる。

―――きっと俺を試そうとしているのだろうか。

 

「行きますわ!」

 

佐藤院さんは速度を上げる。

俺はそれをじっと見つめ、フェイントが来ないかを見極める。

 

「・・・・・・そこっ!」

 

寸前で真上に移動しようとした佐藤院さんを、俺は指先で触れて、バランスを崩さす。

 

「・・・っ!」

 

佐藤院さんは来た方へ少しよろける。

―――俺はその瞬間を逃さない。

 

「はああっ!」

 

ソニックブーストを使って、間合いを詰める。

―――同時にお腹の辺りに触れ、さらに、完璧に佐藤院さんのバランスを崩す。

 

「もらいます!」

 

俺はバランスを崩した佐藤院さんの背中を、上から真下、海面方向へ弾く。

 

「キャっ!」

 

審判が点数を読み上げる。

―――さらに俺はそこから明日香もよくやる技、エアキックターンで繋げ、さらに得点を重ねに行く。

 

「さらに行きます!」

 

見事追撃に成功し、二点目を獲得。

 

「っ!」

 

佐藤院さんはさすがに二回目はうまく受け、すぐに体制を立て直す。

もう一度行こうとしていた俺だが、佐藤院さんの動きを見て、すぐにサードブイに向かって飛ぶ。

俺の行動を見て、佐藤院さんは渋々ショートカットしている。

そして三点目をブイで取り、佐藤院さんのいるサードラインに向かう。

 

「さあ来なさい、止めてあげますわ」

 

佐藤院に向かって、ソニックブーストで加速する。

さっきのお返しと思われんばかりに、俺も佐藤院さんと同じようにフェイント狙いで飛ぶ。

 

「そこですわ!」

 

ここは流石現役、俺のまだ完璧ではない、見え見えのフェイントを簡単に見破り、俺は弾かれる。

ここまではさっきの佐藤院と同じ。

このままじゃまずい。

 

「―――体制を・・・!」

「遅いですわ」

 

佐藤院は背中をタッチし、俺は弾かれる。

 

「なっ!」

 

佐藤院さんは俺の背後に回っていたんだ。

―――今の俺はそんなに遅いのかと、実感する。

 

「ってあれ、佐藤院さんは・・・!?」

 

視界にいない。

俺が体制を整えているうちに、どこに!?

 

『晶也! 上!』

 

ヘッドセットからみさきの大声とともに、俺は上を見る。

そこには手伸ばす佐藤院さんがいて、俺は咄嗟に手を出す。

―――お互いははじかれ、俺は海面へ、佐藤院さんは上空へ。

今の状況で三対二、このままなら負けることはない。

―――そんなことを考えていると、佐藤院さんはすでに反動を利用して、上空からローヨーヨーをして、フォースブイへと向かって飛んでいる。

 

「っ、やられた」

 

まさかこれを狙って!?

俺は慌てて次のラインへショートカット。

そして佐藤院さんを待つ。

 

「みさき、さっきのは助かった、ありがとう」

『ねえ晶也、もっと落ち着ついて、冷静にならないと、焦るなんて、晶也らしくない』

 

まさか普段みさきに言っていることを、そのままいわれるとは、思ってもみなかった。

 

「ああ、そうだな、少し焦ってたかもしれない。それに、みさきと決勝で試合するって約束したしな」

『っ! ううー! こう言う時にそう言うこと言うのはズルいって、いつも言ってるのに~!』

 

ヘッドセットからは、いつもの照れて恥ずかしがっているみさきの焦った声が聞こえる。

そしてそう会話しているうちに、佐藤院さんは俺のもうすぐ近くまで来ている。

 

『晶也、佐藤院さんならきっとさっきと同じことするよ』

「え、何でわかるんだ?」

『佐藤院さん、一度成功しかけた技は、もう一度仕掛ける癖みたいなパターンがあると思うの、今日の試合を見ててそんな気がした』

 

ここはセコンドであるみさきの指示に

 

「こんどそこ! 抜かせてもらいますわ!」

 

突っ込んでくる佐藤院さん、案の定、みさきのと言う通り最初と同じ、直前で真上に行こうとしてた。

今度は動きが分かっていたから、完璧に弾き返す。

 

「そんな!」

「背中もうますよ!」

 

俺はすぐに背中に周り、飛ばされた佐藤院さんの背中を取る。

審判が点を取ったことを告げる。

これで同点

 

「もう一度!」

 

また明日香のようにエアキックターンで接近し、点を重ねる。

これで一点リード―――!。

 

「次!」

「えっ!?」

 

最近復帰したばかりの俺なのに、明日香と同じ連続エアキックターンを成功させ、驚きの声を上げる佐藤院さん。

しかしそこで、背中に触れる寸前で、試合終了の音が響き渡る。

とたん会場はさらに歓声と熱気であふれる。

結果は結果は三対四。

俺が一点多く、何とか勝てた。

 

「おかえり晶也・・・大丈夫?」

「ああ、あそこまで本機で飛んだのは、久しぶりで・・・少しばてただけだ」

 

自分でもわかる、少し呼吸が上がっている。

実況が何か言っているが、耳に入ってこない。

この祝福される歓声が、逆に怖い、俺はまだ、このアメーバのようなものに勝ったわけじゃない。

こいつはいつでも、俺のすぐそばにいて、俺を苦しめようとする。

呼吸が次第に荒くなる。

 

「ま、晶也―――!?」

 

声をかけるみさきの声が、次第に小さくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

甘い香りがして、ゆっくりと目が覚めた。

薄らと瞼を開けると、どこかを見ている黒い髪を後ろ一本にまとめたみさきの顔。

こんな真下から眺めたのは、初めてかもしれない。

―――ん? 真下?

 

「あ、目が覚めた? 脅かささせないでよね、急に倒れたから何かと思った」

「ご、ごめん。でも・・・」

「二ヒヒ~そんなに顔を真っ赤にしてどうしたのかな? 晶也くんっ」

 

みさきは慣れない状況で顔を真っ赤にしている俺を、盛大に揶揄ってくれた。

そしてよく見れば、ここは医務室。

そしてみさきの見ていたのは、医務室にある、試合を生中継しているモニターだった。

 

「みさきこそ恥ずかしくないのか?」

「そんなことないにゃ~」

 

みさきは平然と言って見せた。

いつもなら顔を真っ赤に染めているところなのに・・・。

 

「・・・さてはお前、みさきじゃないな?」

「そう、私はみさきになりすましたシトーくんだべー!」

 

みさきはシトーくんをバッグから取り出し、そう返す。

いつも持ち歩いているんだな、それ・・・。

 

「己シトーくん、俺のみさきを何処へやった」

「彼女に膝枕されて、顔を真っ赤にして変態の顔になっている晶也君には、教えられないだべ」

「誰がいつ変態顔したんだよ、みさき」

 

流石に本気で返す。

 

「だって、彼女に膝枕だよ? 変な顔しない男子なんていないでしょ? 男子の夢だよ? どおどお! さっき興奮してる?」

「普通に、興奮してる」

「おお、意外と素直」

「みさきよりはな」

 

そんな会話が続く。

ふと何気なく時計を見た。

時間はお昼過ぎだった。

どうやら随分と寝てしまったようだ。

 

「それで、晶也は体の調子はどお? 医務室の先生は、貧血だっていってたけど、私の血を分けようか?」

「ただでさえ低血圧のみさきから、それ以上血を抜いたら、ずっと寝てるだろ」

「アハハは、それそうだね、ありえそう」

 

みさきは無邪気に笑っている。

釣られて俺も笑顔になる。

 

「調子はもう大丈夫そうだ。それにみさきの試合も近いだろ?」

「うん。だけど、もう少し、もう少しだけ、ね。・・・その、ま、まま、晶也がして欲しいって思うなら、このままでも・・・いいよ?」

 

みさきは顔を真っ赤にしている。

俺はお言葉に甘え、出し好きな彼女の膝枕を、もう少しだけ堪能した。

 

 

 

 

 

「んー! それじゃあいっちょ行きますかー!」

 

フライングスーツを着て、グラシュを起動させたみさきが大きく伸びをする。

その表情はやる気に満ちていた。

 

「まずは初戦だ。慎重に・・・といっても無理か、みさきのしたいようにしてこい。よほどピンチにならない限り、俺は何も言わないから」

「うん! その言葉を待ってました! ・・・飛ぶにゃん!」

 

そう言ってみさきはスタートラインについた。

相手は今年初めての相手。

でも他県から訪れているため、その力はわからない。

でもみさきならきっと勝つだろう。

 

「―――セットッ!」

 

審判の言葉が聞こえ、スタートの音とともに、みさきは飛んだ。




明日(投稿した時間だとすでに今日)から三泊四日の修学旅行のため、投稿は再来週にできるように―――
ぜ、善処します!

いつも閲覧していただきありがとうございます。
「ここが面白かった!」や「ここがよかった」などの感想など受け付けておりますので、どうぞよろしくお願いします。


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「わー、ちょっとまった! 暑いからくっつかないで!」

今回は少し短いかもです。
いつも見ていただきありがとうございます!



試合終了のホーンが鳴った。

結果はみさきの圧勝だった。

相手は他県ではそれなりに名も知れていて、俺も見たことはある相手だったが、みさきはセカンドラインでスモーを使い、そのままドッグファイトで三点。

相手がドッグファイトでバランスを崩したところで、ブイタッチをして二点。

そしてこの午後の部の一回戦でわかった今までのみさきとの違い。

それは飛行姿勢だった。

元々はグラシュのバランサーカット時のグラシュを制御する為にしていた練習だったが、思わぬところで、みさきをさらにレベルアップさせてくれたようだ。

 

「んー! 疲れた~。うどん食べたーい」

 

みさきは気楽そうに両腕を伸ばし、伸びをしながら戻ってきた。

みさきは本気でしていたはずだが、頭はイマイチ熱くなれなかったようだ。

 

「ねえ晶也、今日の夕飯に真白うどんのあごだしうどん追加してもらおうよ!」

「あとで佐藤院さんに言っておくよ」

「んにゃー! やったー! うどん、うどん! 今日の夕飯はうどんだー!」

 

みさきはそんなことを言いながらテントの中のベンチへ腰を下ろす。

 

「次は真白だな」

「これに勝てばみさきセンパイと試合ができる・・・うー! 私絶対に勝ちます!」

「おう。その生きだ!」

 

アナウンスで真白の名前が呼ばれ、スタートラインへ飛んでいった。

相手の選手は見たことのあるグラシュを履いていた。

あのグラシュはインヴェイドのファイター用グラシュ。

確か最近発売されたばかりの新型のはず。

 

「・・・セット!」

 

ホーンの合図と共に、二人は飛ぶ。

 

「やっぱりショートカットしてきたか・・・」

 

真白はドッグファイトに弱いわけじゃないが、初めて試合をする相手だと、癖や動きがわかりにくい。

でもしれは相手も一緒だ。

 

『真白、シザーズで突っ込んで、寸前でローヨーヨー』

「はい!」

 

相手選手が位置につくのと同時に、真白はブイをタッチし、指示通りシザーズで突っ込む。

 

『今っ!』

「ええっい!」

 

真白は全力で姿勢を変え、直前でのローヨーヨーを成功させる。

相手選手は反応が遅れ、遅れて真白を追いかけるが、追いつかないのが分かり、ショートカットする。

 

『その調子だ! 次は超上空からのきりもみ降下』

「了解です!」

 

真白はブイの反動を利用して上空へ上昇。

そしてすぐさま指示通りにきりもみで急降下。

そのきりもみに、相手選手は突っ込んでくる。

 

「わ、わわわっ!?」

 

ヘッドセットから聞こえるのは、予想外な動きをした選手に対しての戸惑いと驚きの声。

 

『落ち着け。これほ好都合だ。俺の合図で両手を前に出すんだ!』

「は、はい」

 

そして二人の距離が人一人分くらいまで近づいた時だった。

 

『出して!』

「はいー!!」

 

真白は半ばやけくそで、両手を前に出す。

その急な行動に、相手選手はついて行けず、そのまま伸ばし真白の手が辺り、お互いは弾き飛ばされる。

 

『真白急げ! 早く体制を立て直さないと、回り込まれるぞ!』

 

この状況、お互いがバランスを崩している状態では、先に体制を持ちなおした方の勝ちだ。

今までの真白ならピンチだけど、今の真白なら、この状況をチャンスに変えられると思う。

そう持ったから、思い切って賭けに出た。

もしも失敗したら、後で真白に死ぬほど謝るつもりだ。

 

「っ・・・ってあれ? 体が自然に・・・」

『ぼっとするな! 急げ! ブイにむかって飛ぶんだ!』

 

無駄な力を入れず、自然の動作くで体制を持ちなおした。

それは今までの経験不足な真白では、絶対に不可能なことだ。

 

「晶也、今の真白の動き、なんだか今までと違くない?」

「みさきも気づいたか。・・・そうなんだよ、夏の練習の間、ずっと一人で基礎練習とフィールドフライを繰り返し、たまにみさきと模擬試合をさせてた練習の成果だ」

 

フィールドフライで飛び方の基本と持久力。

柔軟やマラソンなどの基礎練習で体を作って。

最後にみさきとの対ファイター戦の試合を想定した模擬試合で飛ばされることで、自然と体に体制を立て直す術を教えた。

今の真白なら、その辺のファイターには負けないスピーダーになっているはずだ。

 

「わ、私、いつの間にそんなにレベルアップしたんでしょうか」

 

自分の進化に、真白は戸惑いながらも、ブイをタッチしていく。

 

『相手との差もそれなりになった。これなら残りの時間内をブイタッチで逃げ切れる』

「了解です!」

 

陽気な真白の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

試合終了のホーンが鳴る。

結果は予想通り、あの後は真白の独走で、圧勝だった。

 

「よくやったな真白。正直驚いたよ」

「そんなことないです。晶也センパイの練習のおかげです」

 

珍しく、真白がそんなことを言った。

いつも通りなら、私だって本気出せば、こんなもんですよ! とか言うかと思った。

 

「そんなことないよ。今の試合は、真白の努力の成果だよ」

 

後ろからみさきが褒めながら出てくる。

 

「み、みさきセンパーイ! みさきセンパイはやっぱり私のことを見てくれてたんですね!」

「わー、ちょっとまった! 暑いからくっつかないで!」

 

みさきに褒められた真白は、いつも通りみさきに飛びついている。

 

「二人ともそんなに仲良くするのはいいけど、次の試合はみさきと真白だぞ?」

 

去年白瀬さんがいっていた、本当にお互いが本気なら、一緒にいることが平気じゃない。

たぶんみさきは、まだ真白を本当に怖いとは思ってないはずだ。

そして真白も、みさきとの強さに差がありすぎで、怖いことの意味がまだ分からない。

そんなとこだと思う。

 

『次の試合が始まります、指定選手は、スタートラインへ―――』

 

二人のじゃれ合いもひと段落着いたところで、アナウンスが流れる。

 

「さあ二人とも、試合がはじまるから、それぞれスタートラインに行くんだ」

「はいにゃ~」

「わかりました」

 

みさきと真白は、グラシュを起動させて、スタートラインへ着いた。

今回は両選手とも、久奈浜の選手ということで、一人セコンドをしてもらわなければならない。

 

『みさき、聞こえるか?』

「はいはーい、よく聞こえるよー。私のセコンドはやっぱり晶也なんだね」

『有坂、お前のセコンドは私だ。鳶沢が相手だからって、手を抜いたりしたら、反省文と練習内容追加だからな?』

「は、はい! わかりました! 各務先生!」

 

真白のセコンドには去年俺がみさきとのマンツーマンで練習しているときに、代わりにコーチをしてくれた葵さんがしてくれると、名乗り出てくれた。

 

「晶也」

 

ふと、葵さんが、マイクに手を当てて、選手には聞こえないようにして声をかけてきた。

 

「お前がどれだけコーチとして育ったか、みてやろう」

「ありがとうございます。各務先生」

「今は葵でいい」

 

珍しく、葵さんが、そう言ってくれた。

 

「セット!」

 

ホーンの音と共に、二人は飛び立つ。

 

『みさき、ショートカット』

「にゃっ!」

 

短い独特の返事と共に、みさきはショートカット。

 

『有坂、ブイをタッチしたら、小さく上下に揺れながら、鳶沢の頭上を行くんだ』

「は、はい」

 

葵さんも何か指示を出しているみたいだけど、ルール上、セコンド同士は、指示がばれないように、同じ高校どうしでも、距離を取らなければならない。

 

『みさき、くるぞ!』

「わかってる」

 

真白はブイをタッチすると、上昇したまま、その高度で、上下に飛び出す。

 

『みさき、タイミングを見計らってスモ―』

「うん!」

 

みさきはジッと真白の動きをみて、タイミングを図る。

 

『有坂、鳶沢はたぶん得意の背面飛びで張り付くつもりだ、張り付く瞬間は恐らく、鳶沢の手前で、こちらが上昇するときだ。そのタイミングで腕をのばして弾け』

「うにゃー! そこだー!」

 

タイミングは真白が頭上にくる手前で、上下するタイミングの中で、上に上がるとき。

そのときなら相手の動きに合わせてスモ―ができるはずだ。

そしてみさきは俺の指示なく、それをやってくれた。

みさきのFC脳が鍛えられている証拠だ。

 

「―――えい!」

「っ・・・・・・え!?」

 

真白が、みさきがスモーで入ろうと、お腹を上にした瞬間に、手で弾いた。

 

「そんな!」

 

思わず俺までも驚きの声を上げる。

今の動きは、真白一人じゃ無理だ。

・・・ということは、葵さんの指示。

流石としか言いようがない。

こちらがスモーしやすいように、わざとあんな動きをしてきたのか。

 

『みさき、今から追っても無理だ。サードラインへショートカット』

「う、うん。・・・それより晶也、真白ってあんなに強いの?」

『あれはたぶん葵さんの指示だ。・・・でもその指示通りに動くなんてな。それだけ真白に練習の成果が出てるってことだ』

「そうなんだ・・・」

 

ヘッドセットからは、少し不安なみさきの声。

まさかセコンドが違うだけで、ここまで力の差が出るとは・・・もし葵さんがみさきのセコンドをしたらどうなるか、少し気になった。

でも俺が一番みさきの事を理解してるんだ、だから俺意外に、完璧にみさきのセコンドをできる人なんていない。

 

『でも俺達だって、練習はしただろ? その成果を見せつけてやればいいさ!』

「うん!」

 

そしてみさきはサードラインへ着き、真白を迎え撃つ。




書いていて気が付いたのですが・・・市ノ瀬の試合を入れてないことに気づき、近いうちにサイドストーリーとして投稿します。

いつも感想や評価ありがとうございます。
とても励みになってます!
おかげさまで頑張れてます!←もちろんこれからも頑張ります!


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「真白ー! バチバチしようよ!」

お久しぶりです。
いよいよ夏本番ですね!
皆さんお体の方は大丈夫でしょうか?

ちなみに私は先週修学旅行で沖縄へ行った際、これまた見事に風邪を引いて帰ってきました(笑)(*´∀`*)


現状真白に二点、こっちは零点。

サードラインまで追い込まれて、残り時間はまだ五分弱残ってる。

ここで一点でもとらないと、みさきが負ける・・・・・・。

 

『少し遊んでやろう。・・・有坂、さっきと同じように飛ぶんだ』

「はい!」

 

 

真白はブイをタッチしさっきと同じように迫ってくる。

 

『さっきと同じ? 誘ってるのか。・・・みさき、突っ込め! チキンレースだ!』

「え、え?チキンレース? ・・・・・・わかった! ・・・うりゃあああ!」 

 

みさきはサードラインの真ん中から、全速力で真白に向かって飛んでいく。

 

「え?! ちょ、ちょっとみさきセンパイ!? きゃっ!」

「真白~。まだまだだね~!」

 

全力で向かってくるみさきに、真白は怯み、飛行姿勢が崩れ、みさきは簡単に真白の背中をタッチした。

これで一点、審判が得点が入ったことを告げる。

 

『うまくいったな。でも喜んでられないぞ? そのままフォースブイに全力で飛ぶんだ!』

「うん!」

 

これで勝機は見えてきた!

 

「一点!」

 

フォースブイをタッチして、みさきは二点目を獲得。

これで並んだ。

 

『真白がシュートカットしてるな。・・・よし。みさき、お待ちかねのバチバチだ!』

「待ってましたにゃ~!」

 

みさきはそう言って、さっきと同じように全力で真白に向かっていく。

 

「真白ー! バチバチしようよ!」

 

みさきは真白に向かって叫ぶ。

 

『有坂、誘いに乗るふりをして、手で弾くんだ』

「うう。みさきセンパイを騙したくはないですが・・・ごめんなさい! みさきセンパイ!」

 

よし!

どうやら真白は接近するみさきのドッグファイトに乗るようだ。

そのまま何も動かず、みさきが真白に触れて、弾いた。

 

「行くにゃー!」

「えい!」

「――――――っ!?」

 

みさきが本気で向かっていったところで、真白が弾いた。

それも絶妙なタイミングだ。

あれはみさきの反射でも無理だ。

 

『流石葵さん。みさきの癖や対応できない痛いところをとことん突いてくる・・・でもそれよりもすごいのは、その指示をこなす真白だ』

「ちょっと、真白が怖くなってきたかも・・・」

 

みさきのそんな声が聞こえた。

 

『みさき・・・?』

「ああ、ううん。晶也が考えているような意味じゃないの、ただ同じ。乾さんの時と似た感じ・・・相手が何をしてくるかわからないのが怖い。今の真白は、私の知らないましろだよ・・・」

『・・・・・・そうだな、あんな真白、俺も知らない。でも俺たちは、もっとすごいってことを見せてやろう! もう出し惜しみもなしだ!』

 

ソニックブーストやエアキックターンなどは、葵さんがよく知っているから、すぐに対応されるかもしれないと思って、使わせてなかったが、これはいよいよ使うしかない。

 

『行ってこい! みさき!』

「うん!」

 

みさきは元気に返し、静止からのソニックブーストを使った。

基本的に、スピードが乗っていて、そのスピードをさらに上げるために使う技だが、みさきは独自に、ファイター用に、静止からのソニックブーストを成功させて、完成させていた。

静止からのソニックブーストは、反動が強いため、体力が消耗している時に使うと、失敗しやすかったり、反動でバランスを崩すのが基本だ。

だけど、バランサーの全面カットを目標にしていたみさきにとって、これくらいの反動はなんともない。

 

『ほう。静止からのソニックブーストか。面白い使い方覚えたみたいだな。有坂、今からじゃ中途半端に避けることになる。ならそのまま受けたほうがいい。・・・身構えとけよ?』

「は、はい!――――――きゃ!」

 

みさきが真白に触れ、真白は強く海面へ飛ばされる。

 

「―――かーらーのっ!」

 

みさきは弾いた状態から、エアキックターンで海面へ飛ばされる真白を追う。

 

「ここっ!」

 

さらに、真白を通り過ぎたあたりで、高速移動からの急停止をして、真白の背中をタッチ。

これで一点リード!

 

「うにゃあああああ!」

 

みさきはチャンスとばかりに、さらにそこから上昇し、飛ばされた真白の背中にガッツキに行く。

 

『待つんだみさき! 今行ったらダメだ!』

 

距離はそれなりにある。

最悪の場合、体制を立て直されて、不意打ちで同点にまた戻れされるかもしれない。

でも俺がみさきに声をかけた時には遅かった。

 

「っ!」

「後ろもらいます! みさきセンパイ!」

 

予想通り、体制を立て直した真白が、手で岬を弾いた。

上昇していた時のスピードで、急にはじかれため、海面へ飛ばされていく。

 

「―――取らせない!!」

 

みさきは後ろに真白が回ったと同時に、無理やり体を捻り、手を振り回し、体全体で暴れてみせた。

 

「あっ・・・きゃあ!」

 

すでにみさきに手を伸ばしていた真白の手が、みさきのフライングスーツの浮き袋に触れ、弾かれる。

 

『みさき! 行け!』

「わかってる!!」

 

みさきの切羽詰まった声が聞こえる。

俺は時間を確認する。

残り時間一分を切っていた。

 

「ふんにゃああああ!!」

「うあっ!」

 

弾かれた真白を、みさきが追撃で頭上から海面へ叩きつけるように勢いよく弾いた。

あの技はスイシーダだ。

たぶんみさきは勢いで行ったから、自分では気づいてないけど、この状況ではちょっと強引だが、いい判断だ。

 

「いっけええ!」

 

そしてみさきは弾かれた真白の後ろに回り――――――。

タッチした。

そしてその後すぐ、試合終了のホーンがなり、結果は三対四、みさきの勝利だ。

試合を終えた二人が、フラフラと降りてくる。

 

「お疲れ様二人共、特に真白。まさかあそこまでみさきと互角に試合をするなんて、思ってもなかったよ」

「そうだね真白。お陰さまで、あたしあもうヘトヘトで動けないなにゃ~」

 

俺とみさきは、今日の真白を賞賛する。

 

「みさき先輩に褒められちゃいました~! これで私、みさきセンパイの専属の練習試合用の選手になれるんですね!」

「晶也ー、今日はまだ試合あるの~?」

「あー! みさきセンパイ! 無視しないでくださーい!」

 

みさきと真白は、試合が終わったばかりにも関わらず、相変わらずだった。

それにいつの間にか会話には、明日香や窓果も参加していた。

 

「有坂真白、随分と強くなられたのですね」

 

一人テントにやってきた佐藤院さんが言った。

 

「はい、正直驚きました」

「今の有坂真白となら、とてもいい勝負ができそうですわね」

「練習試合の申し込みなら、いつでも歓迎ですよ」

 

この夏の大会が終わると、俺たち三年生は事実上部活を卒業になるけど、真白はあと一年この部活にいる。

それに俺も時間があれば積極的にコーチとしてまだまだ面倒を見るつもりだ。

高藤との練習試合なんて、すごく嬉しい。

 

「そうですか。では今度よろしくお願いしますわ」

「はい。こちらこそ」

「じゃあその練習試合、僕も参加しようかな」

「真藤さん!?」

「やあ、こんにちわ」

 

いつの間にか、俺と佐藤院さんの間に、真藤さんが立っていた。

 

「というわけで、今度練習試合するときは、日向くん。是非相手をお願いするよ」

「はい。こちらこそ!」

 

俺が返事を返すと、得意の笑顔で返してくれた。

そしてみんなと楽しそうに話すみさきを、ジッと見つめ出す。

 

「・・・・・・今の鳶沢くんとなら、とても楽しい試合ができそうだ。・・・でも相変わらず、やっかいで面倒そうだけどね」

「はい。うちのみさきは、やっかいで面倒ですよ」

 

俺は自分の娘でも自慢するかのように言った。

正直あとあと考えれうと、ちょっと恥ずかしいが、みさきなら、真藤さんに、万が一の可能性で、勝ってしまうんじゃないかと、そう思った。

 

「お手柔らかに頼むよ」

「みさきは全力でいきますけどね」

「なら全力で相手するだけだよ」

 

こうして真藤さんとゆっくり会話するのは、随分と久しぶりな気がする。

 

「それじゃあ僕はそろそろ戻ろうかな。市ノ瀬くんに今後のアドバイスなどを言わないといけないしね」

「わかりました。ありがとうございました」

「こちらこそ。久しぶりに楽しく話せて良かったよ、それじゃ」

 

そう言って真藤さんは、その場で振り返り、自分のテントの方へ歩いていく。

 

「私もそろろそろ戻りますわ。お邪魔したわ、日向晶也」

「はい。佐藤院さんも、いろいろありがとうございます」

 

俺が軽く会釈すると、佐藤院さんも同じように返し、その場で綺麗に回れ右をして、先に向かった真藤さんを追いかけるようして戻っていった。




この作品も気づけば12話目。
ここまで来れたのは、読んでくださった皆さんのおかげです。
これからも、よろしくお願いします!

皆さん、お体には本当にお気を付け下さい。


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「うん! 行ってくる! ・・・飛ぶにゃん!」

今日から夏休み兼就職活動で登校日が遅れるかもしれなんせん。
誠に私事でしみません。

そして、皆さまが読んでくださるおかげで、毎日コツコツ頑張れています!
ありがとうございます!

今回は予定していた抜けていた市ノ瀬の試合を、今回の話のような形で、入れることができました。

それでは短いですが、本編をお楽しみください!


今行われているのは、午後の部別ブロックの、市ノ瀬対本島の選手との試合。

みさきは決勝にすすめ、残すは別ブロックから勝ち上がって来た選手との試合を終えれば、いよいよ明日香との決勝試合。

それに勝てば、俺との本線決勝試合。

こうして考えると、俺だけ先に決勝に行ったのは、みさきや明日香、そのほかの選手にも申し訳にない気がする。

 

「あ! 莉佳ちゃんが同点に追いつきましたよ!」

「このまま順調にいけば、次当たるのは市ノ瀬ちゃんか~」

 

試合を見上げている俺の後ろでは、同じ試合を真剣に見ている二人。

当然真白も観ている。

 

「市ノ瀬か。なんだか去年の夏の大会を思い出すな」

「んー。その言い方、私に言ってる?」

 

俺はみさきの方を振り向いて、意味ありげに言った。

去年の夏、市ノ瀬との試合で、やりずらいと言って、前半はちょっと雰囲気に流されかけたみさきだ。

 

「大丈夫だって。あの試合の後言ったでしょ? 市ノ瀬ちゃんもあんな顔できるんだって。だから大丈夫、本気で行くから!」

「ええ? なんの話ですか? 私も知りたいです!」

 

俺とみさきに、明日香や真白の、二人の知らない会話に、明日香は興味深々だった。

 

「内緒~」

「ええー!」

 

そうして会話が試合の会話から、そっちの会話に流れていった。

そう話しているうちに、市ノ瀬はさらに一ポイント、得意のブイタッチで入れる。

これでリードした、後は逃げ切るか、順調にスピードで押し切るか。

この試合はお互いにスピ―ダ―だから、この後の展開はそんなところだろう。

 

「そういえばみさき、さっき各務先生と、なに話してたんだ?」

 

みさきは試合のあと、各務先生と話していた。

何かアドバイスでも貰ったんだろうか。

 

「ああ、あれね。あれはセコンドのことについて話してたの。私はやっぱりプレイヤー一筋でいいでーすって」

「じゃあもう俺のセコンドはしないわけか」

「そうだね~。もう晶也のセコンドはやらないね。・・・寂しい?」

「別に」

「ちょっと傷つくな~」

 

そういうと、みさきはムスッとした表情で、俺を見る。

 

「いつでも会えるからいいってことだ」

「そ、そそそう言うのは、軽々しく言わないでほしいな~!」

 

満更でもない様子で、みさきは否定した。

 

「みさきのそういう反応は可愛いな」

「うーあー!!」

 

限界を超えたみさきは、唸るような声をあげ、俺の背中をポカポカと。可愛らしくたたいてくる。

そんな俺とみさきを、ほかのみんなは、微笑ましく見ている。

 

「こんなみんなのいる前で、そういうのは本当にどうかと思うな! うん!」

 

みさきは一人でテンパっている。

 

「本当のことなんだから、仕方ないだろ?」

「うー、逆らえない自分がいる・・・・・・」

「あ、莉佳ちゃんの試合、終わったみたいですよ!」

 

俺がみさきをからかっていると、明日香が試合の終了を教えてくれる。

それで俺とみさきも、気になる結果を見た。

 

「・・・・・・やっぱり市ノ瀬が勝ったか。次は市ノ瀬とだぞ?」

「楽しみだにゃ~。強くなった市ノ瀬ちゃん」

 

みさきは軽く伸びをして、次に準備運動をして、そのやる気をアピールしている。

 

「今回は相手選手が連続で試合するから、五分の休憩があるみたいだな。その間に作戦を練ろう」

「うん!」

 

この五分で俺とみさきは、市ノ瀬の試合の一部始終を見ていたのもあり、じっくりと作戦を練った。

 

 

 

 

『―――時間になりました。試合に出場する選手は、スタートラインへ向かってください』

 

きっちり五分後に、アナウンスが入る、みさきはスタートラインへ向かう準備をする。

 

「全力で当たってこい! みさき!」

「うん! 行ってくる! ・・・飛ぶにゃん!」

 

俺が試合前に一言言うと、みさきはグラシュを起動させて、スタートラインへ向かった。

 

「鳶沢さん。よろしくお願いします!」

「あたしも、よろしくね、市ノ瀬ちゃん。最初から手加減なしでいくからね」

「もちろんです!」

 

みさきがそう宣言すると、地上の俺からは声しか聞こえないが、返ってきた市ノ瀬の声は、とても元気のよく、少し喜びも混じっている感じだ。

 

「セット!」

 

―――ホーンを合図に、二人は勢いよく飛び出す。

市ノ瀬は一直線にブイに。

みさきは一目散にショートカットでセカンドラインへ移動する。

 

「行きます!」

 

まずは先にブイタッチで得点を入れた市ノ瀬が、その反動を利用して、みさきに向かっていく。

そしてそこからシザーズでみさきを誘う。

 

「へえ。市ノ瀬ちゃんのシザーズ、前に見たときより切れがある」

『相手を褒めてる場合じゃないだろ。しっかり対応しろよ?』

「言われなくてもわかってるー」

 

市ノ瀬はすぐ目の目だ。

 

「・・・・・・」

 

みさきはジッと止まって。

 

「そこです!」

「っ! こっち!」

 

二人の距離はぎりぎり。

一瞬左に行こうとしていた市ノ瀬を、みさきは釣られずに腕を伸ばして弾く。

 

「キャっ!」

 

それにより飛ばされ、背中ががら空きになる。

そしてみさきが、その隙を逃すわけがない。

得意になったメンブレンを使った飛行技で、背中に周り、確実に一点を取った。

 

「もう一回行くよ!」

 

そこから、いつもの調子でもう一度背中をタッチし、みさきは二点目を取る。

 

「っ! なら!」

 

そう言ってみさきに向かっていく市ノ瀬。

みさきにドッグファイトを仕掛けるようだ。

去年の試合で、スピーダーなのに、しっかりとみさきとドッグファイトができていた。

そしえ今年も、自分からしてくるわけだから、何もないとはいえない。

 

「まだまだ行くよ!」

 

向かってきた市ノ瀬を、みさきははたくようにタッチし、頭上へ飛ばしてしまう。

そしてみさきは、飛ばされて、バランスを持ち直しそうな市ノ瀬にもう一度タッチし、バランスを崩そうとしたが・・・。

 

「・・・っ。させません!!」

「うえ?!」

 

みさきが下から、市ノ瀬の足に触れようとしたところで、つま先に触れてしまい、相手を加速させてしまった。

 

『みさき! それじゃ相手を有利にしちゃうだろ!』

「わかってるって! あれ~、おかしいなあ。確かに行けるって思ってたのに」

『っ! 追うんだみさき! 市ノ瀬の狙いはドッグファイトじゃない!』

「え!?」

 

俺とみさきは、てっきりドッグファイトを挑むもんだと思っていたが・・・。

狙いはみさきのミス狙い?

みさきは市ノ瀬に加速を与えてしまい、市ノ瀬は悠遊にブイをタッチし、二対二で、みさきと並ぶ。

 

『サードラインへショートカット!』

「うん」

 

みさきもなんだか謎な様子で、ショートカットした。




みなさん、お体にはお気を付けください。
ではまた次回の小説でお会いしましょう。


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「みさにゃんは。晶也に少しだけ甘えさせてもらうにゃ~」

サードラインへショートカットしたみさき。

ここで一点取れずに、さっきと同じようなことになれば、二度前になる。

それは避けないとまずい。

 

『みさき、止めて弾いたら、すぐに背中を狙いに行くんだ』

「りょーかい」

 

みさきは俄然やる気で答えた。

さっきの事はやっぱり謎なままだけど、気にしても仕方ない、あれはミスだ。

きっとそうだ。

 

「行きます!」

 

市ノ瀬がみさきに接近している。

 

「うにゃあああ!!」

 

みさきは手を伸ばしてそれを阻止する。

当然市ノ瀬は、海面方向へ弾かれる。

 

「行くよ!」

 

そしてみさきは市ノ瀬の背中に回る。

そしてみさきは、市ノ瀬の背中に触れようと手を伸ばす。

 

「もらいます!」

「え?」

 

瞬間、市ノ瀬は体を捻り、自分が上に行くように体制を変えた。

そしてもう止めることのできないみさきの腕は、しっかりと市ノ瀬の体をタッチし、市ノ瀬はサードラインのラインの上まで弾いてしまう。

 

「そういうことか!」

 

俺は思わず声を上げてしまった。

 

「なにがわかったんですか? 晶也さん」

「市ノ瀬のトリックだよ!」

「トリック・・・ですか?」

 

真白も聞きに、俺の方へ来る。

 

「答えは簡単、市ノ瀬は体をうまく動かして、みさきのタッチを利用していた」

「・・・・・・え、それだけですか?」

「ああ、それだけだ。・・・・・・聞いてただろみさき、そういうことだ」

『つなりタッチにフェイントをかければいいわけ?』

「そういうことだ。そうとわかれば、フォースラインへショートカット!」

『うん!』

 

みさきは今度こそ! と言った面持ちで、次のラインへショートカットした。

 

「今度も行きます!」

 

ブイタッチ三対二になり、リードした市ノ瀬が、さらに得点を重ねようと、みさきに突っ込んでくる。

 

『みさき、普通に叩くんだ』

「わかった!」

 

そしてみさきは、接近した市ノ瀬を、見事に真下に弾いた。

ここまではさっきと似ている。

問題はここからだ。

もう時間は少ない、これ以上取られたら、みさきは負けてしまう。

 

「うにゃあああ!!」

 

みさきは市ノ瀬に突っ込んでいく、恐らく背中に回る―――。

でもそれだとまた同じ手をくらう。

 

「きゃっ!!」

 

しかしみさきは背中に回ることなく、そのままの勢いで市ノ瀬に突っ込んだ。

スイシーダだ。

 

「ふんにゃあああああ!!」

 

そこから水しぶきで見えなかった市ノ瀬が見えると、みさきは怯んだ市ノ瀬に向かって、エアキックターン、ソニックブースト、そしてファイターの初速の速さを武器に、突っ込んでいく。

 

「背中・・・・・・いただき!!」

 

そしてみさきは見事市ノ瀬の対応が入る前に、背中をタッチし、同点に並ぶ。

 

「もう・・・・・・一回っ!!」

 

そしてみさきはもう残り少ない体力を使って、もう一度同じコンボ技で、今度は斜め上方向に勢いよく弾かれた市ノ瀬に向かって飛んでいく。

市ノ瀬は、こちらに・・・・・・みさきのいる方へ背中を向けている。

そしてあの勢いだと恐らく思うように体が動かせないだろう。

 

「――――――負けない!」

 

そして試合終了のホーンと共に、みさきは市ノ瀬に触っていた。

 

「得点表は!?」

 

俺は慌てて掲示板を見る・・・・・・。

 

「やっ・・・・・・」

「やったああああ!! アッハハハハ、やったよ晶也!」

 

そういってみさきは、砂浜に降り立って、俺に飛びついた。

普段のみさきなら、あまり想像できない状態だ。

自然と俺の頬も赤くなる。

 

「ありがとう晶也」

「最後の方は、俺は何もしてない、全部みさきとみさきのFC脳の勝利だよ」

 

素直にそういった。

だってそうでしか思えない。

 

「あ、ごめん。今離れるね」

 

みさきは我に返り、俺から名残惜しそうに、ゆっくりと離れる。

 

「でもまだ明日香との試合が残ってるからな? 気を抜くなよ?」

「うん、大丈夫」

 

みさきは笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

その夜。

俺は前のように、みさきと同じ場所で待ち合わせして、会うことにした。

 

「・・・・・・みさき、ダメじゃないか、しっかりと休んでないと。明日は明日香との試合なんだぞ?」

 

俺が待ち合わせ場所に着くと、また同じように、みさきは空から降りてきて、ベンチに座る。

普通ならここで恋人らしい会話に入るのだが、そうわいかない。

みさきは明日の練習の為に、体をめいっぱい休ませないといけない。

なのにみさきは飛んでいた、それもかなりスピードを出してだ・・・・・・。

だから俺はみさきを叱った。

 

「・・・・・ごめん。でもあたし、今飛ばないと、おかしくなりそうで・・・・・・明日香が怖い」

 

みさきはバツの悪そうな、それでいて、不安で怯えているような、複雑な表情で言った。

だけど、ここで引き下がった、コーチとしてダメだ。

 

「そうかもしれない。・・・・・・だけど、俺に気持ちをぶつけて欲しかった、もう一人で抱え込まないって、約束しただろ?」

「わかってるよ、わかってるし、晶也のこと信用してないわけじゃないけど・・・・・・飛びたかった、それだけ」

 

みさき、今度はまるで、隠していたおやつが、親にバレた子供のような感じに言った。

 

「じゃあせめて、俺がいるときに飛んでくれ、じゃないと何かあった時に困るだろ」

「・・・・・・うん、次からはそうするね」

 

俺はつくづく、コーチとしてまだまだだなと思った。

でもみさきもいつもの表情に戻ってくれたみたいだから、安心した。

 

「明日の試合、みさきなら勝てるから・・・・・・って、これはコーチがいうわけにはいかないか」

 

俺は苦笑い混じりに言う。

こんなこと、本当ならコーチがするもんじゃない。

一人の選手に肩入れしすぎたら、他の選手と差別化して見てしまう。

それは去年、葵さんに言われたことだ。

 

「でも、いいんじゃないかな? 今の晶也は、私の彼氏でしょ? 恋人なら、私の勝利を応援してほしいな」

「・・・・・・そうだな、今ならいいな」

「そうそう。誰も聞いてないし、大丈夫! っということでっ!」

 

そう言ってみさきは、俺の肩に、そっと寄りかかった。

 

「みさにゃんは。晶也に少しだけ甘えさせてもらうにゃ~」

 

そしてみさきは、目を閉じる。

 

「五分だけな」

 

五分だけ、許すことにした。

それ以上は、門限もあるし、夏だからと言って湯冷めしないとは限らないので、薄着でいつまでも外で眠るわけにはいかない。

 

「・・・・・・」

 

俺はゆっくりと顔を動かし、幸せそうに眠るみさきの顔をみた。

そして思う。

できれば二人には試合して欲しくないけど、なってしまったものは仕方がない。

みさきならきっと勝ってくれる。

コーチとしても、たぶん本心はみさきに勝って欲しいと思っている。

だけど、コーチとしての感情は、俺の心の奥にしまっておこうと、そう思った。

 

「・・・・・・みさき、そろそろもどるぞ」

 

本格的にみさきが熟睡しだす前に、少し早いけど、起こして、お互い自分の部屋に帰った。




次回更新は来週を予定しております。
次回は明日香対みさきの大市場!
気合いれて、書かせてもらいます!

また、ご感想など、どしどし送ってやってください!


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「それ、私の台詞!」

短いですが、更新させてもらいます。
掛け持ちでほかの某サイトの方でも忙しくなり始め、更新が遅れる事があり、誠見申し訳ないです。


いよいよ明日香対みさきの日がやってきた。

 

「晶也さん。私、グラシュのバランサーはカットしないでやりたいです」

 

試合の準備中、テントの外で佐藤院さんと明日香について話していると、本人がやってきた。

佐藤院さんは明日香のセコンドになってくれるらしく、それで今の、去年とは成長した明日香について話していた。

 

「でもどうしてだ明日香。それは、みさきとの力の差が出来るからか?」

 

たぶん明日香もまだ完璧に使いこなせてない。

諸刃の剣なんだと思う。

明日香も同じ考えで俺にカットしないと言ってきたんだろうけど、念のため聞いておく。

 

「いえ! みさきちゃんとはそんな力の差なんて! ただまだ使いこなせてないいうか。コツは掴んだんですけど、使って海に落ちてしまったら、それはそれでみさきちゃんに失礼かなって」

 

実際、相手選手のグラシュが止まり、海に落ちた場合は、試合のルール場では棄権扱いになってしまう。

俺の予想とは少し違ったけど、どの道明日香は相手のことを考えているんだと、改めて思った。

 

「明日香、手加減はいらないからね」

 

準備を終えたみさきが、テントから出てきた。

二人はもう「今すぐ飛びたい」という雰囲気を全身から滲み出していた。

 

『それでは試合を開始します。指定選手は、スタートラインへ向かってください』

 

「行ってくる、晶也!」

「楽しんでこい!」

「うん!」

 

そう言ってみさきは飛ぶ。

 

「佐藤院さん。今年もよろしくお願いしますね!」

「任せなさい! 日向晶也からあなたのことは聞いてありますから。・・・・・・といっても、私も日向晶也も、基本的な位置情報や迷った時に支持を出すだけですけどね」

「それでも、よろしくお願いします!」

「ええ。任せなさい。ですから倉科明日香。あなたは自由に、この蒼い空を飛んでくるといいですわ!」

 

明日香の方も、短いを会話を終えて、スタートラインへ飛んだようだ。

 

『――――――セット!!』

 

いつも試合前に一言挨拶をしている二人だが、今回はしていないようだ。

それだけ、二人の間には、絆と、二人でも気づかないライバル関係が築かれている証拠だ。

――――――そして静かな会場にホーンが鳴り響く。

 

「っ!」

 

みさきも明日香も、いつも以上のやる気で駆け出す。

当然みさきはショートカットをして、明日香はファーストブイに行くはず・・・・・・はずだった。

 

「何!?」

 

――――――俺は驚く。

 

『ええ!?』

 

さらに俺が驚くのと同時、同じようにみさきの驚いた声も聞こえた。

俺もみさきも、目の前の光景がわからないと言った感じだ。

 

「・・・・・・どういうこと? 明日香がショートカットなんて・・・・・・」

『とりあえずブイを取ろう』

 

あまり指示を出すつもりはなかったが、早速出してしまった。

何せ状況が状況だ、異例すぎる。

まさかファイター相手にオールラウンダーの選手がショートカットを選ぶなんて思わなかった。

それも明日香はなんでもいけるが、特にスピーダーよりのオールラウンダーに近い。

不利になるのは目に見えているはず。

 

「ま、まずは一点っと・・・・・・」

 

みさきはブイに触れて、一点を取る。

 

「手加減しないよ!!」

 

みさきはブイの反動を利用して勢いよく飛び出す。

ファイターの初速にソニックブーストを乗せた、今となっては、みさきの得意技だ。

 

「止めます! みさきちゃん!」

 

明日香は身構えている。

 

「そう簡単に捕まらないから!」

 

みさきはローヨーヨーを浅く行い、そこにシザーズも取り入れる。

今までのみさきなら絶対にできない複雑な技だ。

それに高度は明日香の頭上。

乾さん戦法だ。

相手の頭上に常にいることで、いつでも相手を自分の監視下に置く。

バードケージ。

みさきはそれに似たようなことをする。

これはポジションの大事さがわからない選手にはわけのわからない技だ。

でも相手は明日香。当然全て知っている。

 

「んっ!」

 

明日香はみさきが頭上を通り過ぎる瞬間、体を仰け反り、みさきの真下に、背中を海面にして飛行した・・・・・・。

そしてその行動に、その場にいたその技の意味がわかる人間は、みんな言葉を失った。

その中でも特に、みさきには大きなショックでもあった。

 

「えっ・・・・・・!?」

『背面飛行!?』

 

みさきが去年、乾さんとの試合を想定して考えた、ポジションの奪い合いをし、条件を同じにするために習得した技。

――――――スモー。

それを明日香は、今やってのけた・・・・・・のか?

そのスゴさに思わず声が出てしまう。

 

「そんな、スモーが使えるなんて・・・・・・」

「この日の為に、練習もしました。グラシュだって、ファイターよりに、白瀬さんに調整の仕方を教えてもらって、調整しました」

 

つまり明日香は、俺とみさきが大会前の部活が休みの時に練習してるのと同じで、同じように練習してたってことか・・・・・・。

 

「さあみさきちゃん! バチバチしましょう!」

 

明日香がみさきを挑発するような事をいう。

もちろん本人にはそんなつもりもないし、それはみさきもわかっている。

 

「それ、私の台詞!」

 

そしてみさきも、背面飛行、すなわちスモー状態の明日香から腕による攻撃を受けるが、みさきも負けじと交わしながら手で攻撃を仕掛けていく。

そしてそれを交わしながら、明日香もさらに攻撃をしていく。

 

「これじゃ、こっちが・・・・・・キャッ!」

 

みさきがバランスを崩した。

流石にお互いに攻防しながらの飛行は気が散って飛行が崩れたんだ。

みさきは少し失速ししてしまう。

 

「今です!」

 

そしてみさきの隙を逃すことなく、明日香は背面飛行のまま、ソニックブーストを使い、数回きりもみしながら、通常の飛行姿勢に直してセカンドブイを触る。

さらに、その反動を利用してサードブイを取りに行く。

みさきの失速は思ったより大きかったらようで、今からサードラインへ行く頃には、明日香は通り過ぎてしまう。

 

『みさき、仕方がない。フォースブイへショートカット・・・・・・』

「・・・・・・うん」

 

返ってきたみさきの返事は、まるで自分の全てを奪われたような、そんな悲しい声音だった。




次の更新は、早くて来週を予定しています。


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『いけー!! みさき!!』

数日過ぎてしまい申し訳ないです。


スモーを奪われたみさきに、もう成す術はなかった。

スモーはみさきが唯一明日香でさえ持っていない特別な飛行方法兼戦術だ。

俺はてっきりスモーを対策とした飛行方法や技を使ってくると思ってたけど、そんなことなかった。

明日香はその技自体をコピーしてきたんだ。

いつもならさすが明日香だなって言って、それで終わり。

でも今は、みさきに勝ってほしい。

だからそれだけで終わらない・・・・・・終われない。

俺は必死にスモーの弱点を探す。

まさか自分たちで覚えた技の弱点を、自分で見つける結果となるとは、思わなかった。

 

『みさき、明日香を止めるぞ。今度はこっちがスモーをする版だ! ・・・・・・得意だろ?』

「うん、絶対に止める!」

 

みさきはフォースラインの四分の二あたりで旋回する。

今度はこっちが抑える側。

さっきの明日香の立ち位置だ。

そしてみさきの得意とする状況。

 

「行きますよ! みさきちゃん!」

 

みさきが旋回して少し経った頃、やっと明日香はフォースブイに触れ、その反動を利用して加速する。

 

『来るぞみさき!』

「行くにゃああああ!!」

 

みさきの頭上を高速で飛んでくる明日香。

みさきは明日香に仕掛けていく。

 

「その手はくらいません!」

 

しかし明日香は、みさきが仕掛けるよりも早く、みさきに触れる。

でもみさきは、その攻撃を、自慢の反射神経で、腕を振って防ぐ。

疑いの腕と腕が触れ、弾かれる。

二人の弾かれた方向はフォースライン場に並行してだ。

明日香が来た方へ、みさきはファースとブイ方向へ。

この状況ならすでに触れていて、ブイを触れることができるが、みさきはそれをしない。

みさきの、明日香とドッグファイトをしたいという心の表れだと思う。

 

「行きます!」

「こっちもいくよー!」

 

弾かれた明日香が、その身を翻し、回転するのを見て、みさきも同じように身を翻し、一回転する。

――――――エアキックターンだ。

そして次の瞬間、二人はエアキックターンで突っ込んでいく。

 

「っ!」

「うくっ! まだまだ!!」

 

今度はみさきから仕掛け出す。

全力でソニックブーストを使用し、明日香に近づく。

運良く、明日香は今の反動でついてこれない、一瞬間ができる。

 

「いっけえ!」

 

みさきは明日香に触れる。

 

「―――っ!」

 

明日香は斜め下に弾かれる。

でもただはじかれただけ、得点は入らない。

 

「次!」

 

みさきは全速力で明日香に近づく。

そして明日香をもう一度弾くと、明日香は海面ぎりぎりまで追いやられる。

 

「これで・・・・・・同点!!」

 

明日香はブイで二点、みさきは最初のブイタッチと、このタッチで二点。

やっと並んだ。

 

「やりましたね! お返しです!」

 

明日香は元気に、そして無邪気にそう言う声が聞こえる。

それと同時に、みさきが弾かれる。

しかしそれは背中じゃない。

ちょっとホッとした。

 

「明日香!」

「みさきちゃん!」

 

二人はお互いの名前を呼び合い、海面ギリギリで、激しいドッグファイトが始まる。

逃げたら負け、そんな雰囲気が、見ているこっちにもはっきり感じられるようなドッグファイト。

飛行技は使用せずに、明日香とみさきの、二人の技量だけで行っている。

みさきのドッグファイトに、明日香は完璧についてきている。

これには流石に驚いた。

 

「明日香に。絶対に負けたくない!!」

「私だって、絶対に負けたくないです!!」

 

二人の思い強い。

その強さが、試合に大きく動くこともなる。

去年の試合に比じゃない。

二人のドッグファイトに観客も、見てる選手や俺たちも、すごく気持ちが高ぶらされる。

 

「うにゃあああ!!」

 

みさきの動きがさらに細かく、無駄がなくなる。

そして試合は大きく動く。

 

「っ!?」

 

明日香の腕に、みさきの手が微かに掠った。

弾け飛ぶまではいかなかったが、明日香の動きを封じ、攻撃を開始するには十分な時間だった。

 

「後ろ―――もら・・・・・・」

 

しかし、明日香の背中に回ったところで、試合終了のホーンが鳴った。

 

 

 

 

 

同点という事で、十分の休憩の後に、試合は延長戦に入る。

明日香は佐藤院さんの方で、みさきは久奈浜のテントで休憩を取る。

 

「大丈夫かみさき」

「うん大丈夫。そより、明日香は、やっぱり安全装置を切ってくるかな?」

 

みさきは俺に聞いてくるが、恐らくそうだろう。

佐藤院のことだ、明日香が嫌だと言っても、いっきに試合を決めにくるずだ。

そしてこの話の流れだと、だいたい予想はつく、乾さんとの試合の時の明日香も、同じ顔をしてた。

絶対に負けたくない、だから無理だとしても、それに可能性があるなら、それに賭ける、もっと飛びたい。

そんな、やる気と自信が滲み出てこないかと思うほどの表情だ。

 

「晶也、私も安全装置を切る!」

「そう言うと思ってた。だけど進められない。練習の時ですら、完全に解除した飛行はできなかっただろ?」

「それでも、明日香は飛んだ。だから私もできる!」

 

こうなった選手には、その選手にしかわからない何かがあるんだと思う。

これもまた、コーチとしてダメな決断かもしれない、でも俺は・・・・・・。

 

 

 

 

 

『さあいよいよ始まろうとしています! 倉科選手対鳶沢選手の延長試合を行います』

 

実況席から実況が入る。

すでに少し前に選手はアナウンスで、スタートラインについている。

 

「セット!」

 

ホーンの合図と共に、勢いよくスタート。

明日香は安全装置の解除を、やっぱりしてきた。

メンブレンの羽は普段より大きく、スピードはファーストラインのはずなのに、もうみさきと随分距離ができている。

みさきはセカンドラインへショートカット、明日香を迎え撃つ。

そして明日香のスピードはブイタッチでさらに速さを増す。

もうセカンドライン上を飛んでいる。

 

『来るぞ!』

「う、うん!」

 

明日香は超光速のシザーズで、みさきを翻弄する。

 

「う、うわっ! ととっ。・・・ど、どっち?! ・・・・・・こっち!」

 

もうへとへとのみさきは、明日香の移動についていけるようにスタンバイしている時でさえ、不安定になるほど、体力を消耗している。

そしてみさきは、直前で明日香の動きが分かり、頭上を通り過ぎようとした明日香に向かって手を伸ばす。

 

「見え見えです!」

 

しかし明日香に交わされてしまい、さらにカウンターを受けてしまう。

 

「行きます!」

 

さらに明日香は、みさきを中心に五芒星の軌跡を描き、短距離切り替えしを繰り返し、単騎で包囲する技ペンタグラム・フォースを行う。

 

『みさき、よく見て交わすんだ!』

「うん。わかった」

 

みさきは明日香の動き目で追っていく。

ペンタグラム・フォースは、同じ場所を回ることから、どうしても隙が生まれる。

そこを見極めて動けば、問題ない。

 

「えいっ!」

「えっ・・・・・・?!」

 

しかし明日香は早めに切り上げ、みさきの背中に触れる。

こうして早めに切り上げることで、相手にパターンを読む隙を与えないという方法だろう。

実際、みさきが読む前に動いたことで、見事得点を入れられた。

そして得点は明日香のリードへ。

 

「負けたくない・・・・・・私は勝って、晶也と飛ぶんだから!!」

 

海面方向へ弾かれたみさきのグラシュの羽が、みさきの感情に影響されたかのように、大きくなる。

 

「あれは!!」

 

隣から、佐藤院さんが驚いた声を上げる。

それもそうだろう、みさきができることは、誰も知らない。

まさにこの間の明日香対乾さん戦を彷彿とさせる試合展開だ。

――――――この土壇場で、みさきも安全装置の解除を成功させたんだ。

それはまさに、絶望の中に見えた一筋の光だった。

条件は同じ、それでドッグファイトとなれば、みさきが有利のはずだ。

 

「みさきちゃんもできるようになったんですね・・・・・・でも、私だって晶也さんと試合したいです!!」

 

明日香がみさきに仕掛けに行く。

 

「負けない!」

 

明日香のタッチを弾いて止め、まだ慣れないのか、少し大きめに半円を描いて明日香の背中めがけて手を伸ばす。

 

「えいっ!」

 

しかし明日香は、それを背面飛びのような感じで避け、逆にみさきの背中に回る。

 

「貰います!」

 

同時に明日香はみさきんお背中に向かって手を伸ばす。

 

「渡さない!」

 

みさきは体を半回転させ、背中とお腹を逆にし、同時に腕を振って明日香と弾きあう。

・・・・・・息をする暇もないほどの、攻防戦が繰り広げられる。

 

『っ?! みさき! もう時間がない! 一点でも取るんだ!!』

 

このまま明日香がリードしたまま時間を迎えれば、当然負ける。

でも一点でも取れば同点になり、その場合は時間経過後、そこから先に一点取った方の勝ちになる。

 

「わかった!!」

 

みさきは明日香の攻撃を避けながら、攻撃を繰り出すが、なかなか触れることができない。

 

「負けたくない!」

 

明日香に追いかけられていたみさきは、上空に上がる。

当然明日香もそれについていくが、みさきは次の瞬間、エアキックターンで真下に向かって飛んでいく。

その行動に後れを取った、明日香は、一瞬動きが止まる。

 

「ふにゃあああああ!!!」

 

明日香の周りを、四方八方に飛び周り、その速さにコントレイルの球体ができる。

それは明日香と乾さんが試合でみせた、綺麗な球体ほどの大きさはないが、しっかりと球体になっている。

しかも明日香はその中から下手に動けない。

俺はそんな技を出したみさきに、すごく興奮した。

みさきはいつあんな技を思いついたのか、いつの間にあんなに強くなってしまったのか。

選手とそても、コーチとしても、最高に興奮する。

自分の育ててきた選手がここまで育つなんて・・・・・・そんな嬉しい気持ちでいっぱいだ。

 

「いっけえええ!!」

 

みさきは球体を作る動きを止め、その早さをキープしたまま、瞬時に明日香の背中に飛び込む。

 

「あっ!」

 

明日香の声が、みさきのしているマイクから聞こえたと同時に、試合の時間は終わっていた。

しかし、審判はみさきの得点を口にする。

それはつまり、みさきは時間ギリギリで、得点できたんだ。

 

「すごいです! みさきちゃん!」

「まだまだ行くよ!!」

 

みさきは弾かれた明日香に急接近していく。

その行動に、明日香も突進していく。

 

「うっ!」

「っ!」

 

お互いに頭からぶつかり合い、弾かれる。

そしてみさきは上に向かって飛んでいく。

それに明日香も共に飛んでいく。

明日香が右に行けばみさきが、そして弾かれ、みさきが左に行けば明日香が、それのくりかえしだった。

 

「明日香すごい。私についてきてる」

「みさきちゃんこそ、初めての解除なのに、こんなにうまく飛べるなんてすごいです」

 

本当なら会話する余裕なんてないはずなのに、二人にしかわからない間で、会話をしている。

 

「でも!」

「はい!」

「負けない!」

「負けないです!」

 

二人の言葉が重なり、再び激しく激突する。

 

「ふんにゃあああああああ!!」

 

しかしみさきはその反動を最小限に和らげ、明日香より先に明日香に向かって飛んでいく。

 

「まだまだ終わりません!」

 

しかしみさきの攻撃を交わし、みさきの頭上に移動した。

 

「こっちだって!」

 

しかしみさきも終わらない。

みさきの頭上にいる明日香の方へ体を翻し、解除状態からの背面飛行をする。

解除状態の背面飛行なんて、本来なら恐怖でまともに飛ぶこともできないはずなのに、みさきは見事やり遂げた・

 

「しまった!」

 

その思わぬ行動に、明日香は対処できず、みさきの攻撃を受ける。

 

「取る!!」

 

みさきは弾いた明日香に、ソニックブーストを使ってさらに勢いをつけて飛ばす。

 

「っ!!」

 

そして垂直エアキックターンを使って急加速――――――。

 

『いけー!! みさき!!』

 

気づけば俺は、叫んでいた。

そしてみさきは・・・・・・。




もう最終話はすぐそこですね。
本当に、ここまでたくさんの人達に見ていただき、嬉しい限りです!
あと少しの間も、よろしくお願いします!


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「ほらみさきー! 勝ったら晶也を好きなようにしていいよー!」

遅れてしまい、申し訳ないです。


・・・・・・みさきは勝った。

今のみさきに、勝てる相手なんているのか?

それこそ俺なんて、決勝ですぐに返り討ちにされるかもしれないほどだ。

でもそれだけ・・・・・・それだけみさきは強い選手になったんだ。

もう何度も言ってるけど、本当に嬉しい。

試合が終わってみさきが降りてきたとき、俺は人目を気にせず、思いっきり飛びついたくらいだ。

流石にこの時は、葵さんも目をつむってくれたみたいで、特に何も言われなかった。

 

「あーあ、雨か~」

 

高藤の校舎にある、食堂の窓から外を見ているみさきが言った。

昨日までは晴れていたのに、今日は大雨だ。

流石にここまで雨が降ると、試合も困難だ。

その為俺とみさきの決勝は、明日に持ち越しとなった。

 

「つまーんなーい! 試合がしたい! 飛びたい!」

「みさきちゃん、すごいやる気ですね」

 

みさきの隣でココアを飲んでいた明日香が、みさきのやる気に驚いている。

 

「だって昨日の今日だよ! 明日香とあんなに良い試合して、今日は晶也と全力でバチバチできると思ってたのに!」

「仕方ないだろ? 雨あ降ったんだから。明日まで我慢だ、俺は逃げたりしないって」

 

あんまり騒ぐみさきを、周りの人に迷惑と思い、落ち着かせる。

 

「それに試合と練習禁止ってヒドイ! せっかく雨天でも飛べる場所があるのに!」

 

そう、みさきには明日のことも考えて、絶対に飛ぶなと言っている。

昨日の試合も随分疲れが出てるみたいだし・・・・・・本人は気づいてないみたいだけど。

だから、真白は練習に行って、明日香もついさっき練習の休憩に入ったところだ。

みさきは俺とずっとここで話してる。

 

「みさきちゃん、強くなるには、休むことも大切だって、この前みたスカイウォーカーの専門雑誌に書いてありました!」

「うう、そうだけど・・・・・・は~、仕方ない、うどんを食べてゆっくりするかにゃ~」

 

そう言ってみさきは、うどんを買いに行った。

ちなみにこのあとは、ひたすらうどんを食べ続けていた。

 

 

 

 

日が落ちる時間になった。

俺は校舎のロビーにあるソファーで寝てしまったいた。

 

「あ、晶也やっと起きた?」

 

俺が体を起こすと、みさきが隣に座っているのがわかった。

俺が寝ている間、ずっといてくれたのか?

 

「あ、別にあたしのことは気にしないでよね。晶也の隣なら、飽きないからいいし」

 

どうやら読まれていたらしい。

試合の時もそれくらい読んでくれると頼もしいのだけど。

 

「そういえば、みさきは俺の隣にいて平気なんか?」

「え? 別に平気だけど?」

 

どうやらみさきにはほとんど効果がないらしい。

 

「どうやら俺はまだ、みさきに平気と思われるほどの選手らしいな」

 

俺は何気なくそういった。

 

「あ、そういう意味で言ったわけじゃないから! それに晶也の隣にいるほうが、逆に明日の試合を深く考えなくていいから」

「なんか、みさきらしいな」

 

みさきのこういうところは、選手として見習いたい。

俺もこんな気持ちになれたら、最高の気分で試合できるのだろうか。

 

「晶也はどうなの?」

「正直、こうしている間も、みさきのことが怖い。それはそう言う意味とかじゃなくて、みさきとの試合でどうなるのかが、すごく怖い。みさきも明日香のように、時々ありえないヒラメキと反射で動くことがあるから、すごく怖い」

 

それに、俺はみさきの試合のすべてを知っている。

だから有利な点がいくつかあるわけだし、弱点や苦手なとこ知ってる。

でも、明日香とみさきにはそんなの通用しない。

明日香には俺の技術、みさきは俺の練習と知識を今まで教えてきたつもりだ。

そんな二人のうちのみさきに、俺の今の技術が通用するのだろうか。

 

「ねえ晶也~。お腹空いたから食べにいこうにゃ~」

「そうだな。もう日が沈んでるし、食べに行こう」

 

俺ちみさきは立ち上がり、二人で食堂に向かった。

 

「さあ久奈浜の皆さん! 特に日向晶也と、鳶沢みさきはじゃんじゃん食べて、明日の試合に備えてください!」

 

さながら食堂のおばちゃん風の格好で、俺やみさきにじゃんじゃん夕食を運んでくる。

その量はもの凄い。

でもさすがにそんな食べれるわけもなく、隣の人や部長に回していく。

しかし俺の隣に座っている人物は違った・・・・・・。

 

「っにゃー! このうどん美味しい! 盛り付けてある天ぷらもサクサク~!」

 

隣に座るみさきは、次々来るみさきように作られたうどんを、次々と平らげていく。

 

「鳶沢くん、すごい速さで食べていくね。僕も負けていられないね!」

 

その後ろで食べていた真藤さんが、みさきの食べるスピードをみて、何かの闘争心に火が付いたのか、負けじともの凄い速さで食べ始め、佐藤院さんも追加のうどんを持ってくるので忙しくなってきた。

でもそのおかげで、こっちに追加の料理がそれ以上来なくなり、こちらも安心して食べ始めてる。

 

「真藤さん、負けませんからね!」

 

それに気づいたみさきが、さらにスピードを上げる。

流石は真白うどんの早食い勝負で優勝しただけではある。

 

「むっ! 鳶沢くんやるね。でもこっちには秘策があるんだ!」

 

そして真藤さんは立ち上がり、片手に箸、片手にうどんのどんぶりと、何かのポーズをとる。

 

「真藤選手! ここで得意のコブラだー!!」

 

さらにいつからいたのか、保坂が実況を開始し始める。

というか、うどんの早食い勝負、コブラはどうなんだろ・・・・・・。

 

「私だって! うにゃあああああ!!」

 

みさきはどんぶりに顔を突っ込むようにして食べ続ける。

 

「おおっと、鳶沢選手も! 普段のFCの試合のように超近距離でのうどんとのドッグファイトだー!」

 

あれは、そういうことなんだろうか。

 

「みさきちゃん頑張って!」

「みさきセンパイファイトです! 勝ったら私を一日好きにできる権利を上げちゃいます!」

 

いつの間にか、二人の周りには人だかりができて、それぞれに声援が送られる。

 

「えぇ~。それだとちょっよやる気が・・・・・・」

「うぁみさきセンパイ! 食べるスピード下がってますよ!」

 

どうやら真白の一言で、みさきのやる気が下がったらしい。

真白はなんでか気づいてないみたいだけど。

まあ、でも、俺はゆっくりと夕飯を食べさせてもらうかな。

 

「ほらみさきー! 勝ったら晶也を好きなようにしていいよー!」

 

ゆっくりと夕飯を食べていると、なんか聞き覚えのある声で、そんな言葉が聞こえた。

 

「窓果、なんで俺の名前を出したんだ」

「だって~。その方がみさきのやる気が出るから~・・・・・・テヘッ!」

 

・・・・・・返す言葉もない。

でも実際、みさきはやる気を取り戻し、さっきとは比べ物にはならない速さでうどんを啜っていくが・・・・・・。

 

「なに!? 日向くんを・・・好きにできる権利!? ・・・うおおおおおおお!!」

 

それを聞いてなぜか真藤さんまで本気になっている。

いつもの温厚な真藤さんとは真逆の真藤さんになってしまった。

 

「今回の勝利報酬を聞いた真藤さんが、本気モードになってしまった! 久奈浜の作戦が裏目に出てしまった!」

「もっと小さな声で言えばよかっいた・・・・・・」

 

窓果が、まるで勝負に敗れたかのように膝をついて言っている。

というか、報酬が俺と言うのはどうなんだろうか。

――――――そしてその後も二人の勝負は続いた。

 

 

 

 

「うにゃ~。もう食べられない」

 

見事真藤さんに勝ったみさきは、先ほど俺が寝ていたソファーで、今度はみさきが横になっている。

 

「明日の試合大丈夫なのか?」

「うん。問題ないよ。朝にはお腹空いてるから」

 

みさきのお腹は、いったいどんな構造してるんだろう。

 

「ねえ晶也。あれ本当?」

「・・・・・・何が?」

 

なんとなくわかったから、恐る恐る聞き返す。

 

「好きにできるやつ」

 

・・・・・・やっぱり。

 

「んー。どうするかな。・・・・・・明日の大会に勝てたらな」

「じゃあ晶也が勝ったら私を自由にする権利をあげる!」

「それって自分で言うものか?」

 

自分で自分を売っているようなもんだな。

 

「いいの! それで晶也のやる気もさらに上がっら嬉しいし・・・・・・どお? 上がった?」

「ちょっとだけな~」

「えー。そこは嘘でも・・・上った! もういろいろなモノも上がった! だから今すぐ二人で部屋に行こう! ・・・くらいは言って欲しかったな~」

 

ロビーでなんてこと言い出すんだ・・・・・・。

 

「俺がそんなこと言うと?」

「それもそうだにゃ~」

「それじゃあほら、明日は早いんだから、お互い部屋に戻って寝よう」

「うん、そうしよう」

 

そうして、俺とみさきは明日に備えて、早めに部屋に戻って眠ることにした。




八月中には終われるように予定していますが、ずれるかもしれません。
残り短いですが、最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。


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「バチバチしよ! 晶也!」

物語もいよいよクライマックス!
決勝戦は二話に分けて書いていきます。


大会最終日、泣いても悔やんでも、これが最後の試合であり、高校最後の公式試合になる。

そしてその最後の試合を彩るのは、俺とみさきだ。

 

「晶也さん! みさきちゃん! 頑張ってください!」

 

テントにいる明日香が、俺とみさきに声援を送る。

それに続いて窓果や真白も言葉を送ってくれる。

 

「二人とも、頑張ってください! 特にみさきセンパイは!」

「なんだかんだ。私も最後までマネージャーさせてもらってたし、みんなの練習に関わってきたわけで、もっとやってたい気持ちもあるけどね。・・・・・・高校最後の公式試合、頑張ってね」

 

真白も窓果も、最後には頑張って、ただそれだけ言ってくれた。

今まで精一杯頑張ってきた俺たちには、その言葉が一番の声援になる。

 

「晶也。この試合のセコンドは、私がしよう」

 

そう言ってテントから出てきたのは、葵さんだった。

そして今、俺のセコンドをすると言ってくれた。

 

「はい! お願いします!」

 

これは願ってない事だった。

でもただ一つ、気になることがある。

 

「でも、みさきのセコンドは・・・・・・」

 

そう、みさきのセコンドだ。

俺は試合に出るし、葵さんは俺のセコンド。

では一体誰がみさきのセコンドをするのだろうか。

 

「僕がしよう」

 

そう言って階段から降りてくるのは、真藤さんだ。

 

「真藤さんが?」

「うん。鳶沢くんにちょっと興味が沸いてきてね。・・・どおかな?」

 

そう言ってみさきの方を向く。

 

「ぜ、全然いいです! お願いします!」

 

流石にみさきもこれには驚いている様子で、真藤さんの言葉には即答だった。

 

「それじゃあ決まりだね。よろしく鳶沢くん、それじゃあ試合の話がしたいから、こっちで話そうか」

「はい、お願いします!」

 

みさきと新堂さんは、隣の空きテントに向かって歩いて行った。

 

「それじゃあ晶也、私たちの話をしようか」

「はい」

 

俺も、葵さんと話を始める――――――。

 

 

 

 

試合開始の時間も近くなってきた。

俺も葵さんの話を聴き終わって、しばらくたった。

今はずっと、高ぶった心を落ち着かせている。

 

「晶也さん。やっぱり緊張してますか?」

 

椅子に座っていた俺に、明日香が声をかけてきた。

 

「ああ、うん。すごく緊張してる、だけど同時にすごく楽しみだよ」

「そうですよね! 私も楽しみです!」

 

・・・・・・明日香も楽しい?

 

「本気のみさきちゃんと何度か試合をして、その時の私、すごく楽しいんです! もちろんどの選手の方との試合も楽しいですよ。・・・でもそのなかでも、みさきちゃんとの試合は、特別に楽しいんです! その気持ちは、試合を見ていても同じです!」

「だから、みさきと俺の試合も、楽しみなんだな」

「はい!」

 

明日香は、いつも、どんな気持ちで試合してるんだろう・・・・・・いや、楽しんで飛んでいる。

でも俺は、以前の試合をしていた頃の日向晶也の、最後の試合は・・・・・・楽しんで飛んでいなかった。

でも今の俺なら、あの頃の俺より、断然いいモチベーションで試合をできる。

 

『まもなく決勝戦を開始開始します。試合に出場する選手は、スタートラインについてください』

 

アナウンスが入り、俺は席を立ち、グラシュの電源を入れる。

 

「スー・・・・・・ハ~。FLY!!」

 

俺は大きく深呼吸して、グラシュの機動キーと言う。

 

「晶也!」

 

スタートラインへ飛ぼうとしたら、後ろから葵さんに呼び止められる。

 

「楽しんでこい」

「・・・はい!」

 

葵さんのその言葉を胸に、俺はスタートラインに着いた。

 

「ついに、ここまできたね、晶也」

「ああ、これも全部、部のみんなや、みさきのお陰だ、ありがとう」

 

今の俺がここに居るのは、俺と一緒にここまで来てくれた部のみんなと、俺の心の中で燻っていた、燃え尽きずなかなか火のつかない気持ちに火をつけてくれたみさきのおかげだ。

どれだけお礼を言っても、言い切れない。

 

「お礼を言うのは早いよ」

「そうだな」

「あの、そろそろ初めてますよ!」

 

あまり長く話過ぎたのか、審判の人が会話を中断させる。

 

「はい、すみません」

「いつでも行けます」

 

俺とみさきは、スタートできるように体制を整える。

 

「――――――セット!」

 

俺は勢いよくスタートする。

俺にとっては完璧なスタートだ。

 

「うにゃああ!」

 

まずみさきはショートカットする。

それはいつも通りだ。

このまま俺はセカンドブイを触れ、得点を入れてみさきとドッグファイトで試合をするつもりだ。

そして予定通りブイに触れ、みさきに向かってシザーズで様子を伺うように飛んでいく。

まあ当然、そんな見え見えの動きは、みさきにバレバレで、止められてしまう。

そして本来試合中なら、起こりえないが、選手と選手が向かい合う。

 

「晶也・・・・・・」

 

そう言って俺を見る、彼女の目は、とても闘争心でいっぱいだった。

今すぐにでも飛んで、バチバチしたい。

今まで見てきた、みさき以上の、本気の目だ。

 

「行くぞみさき!」

 

みさきに小細工は不要、全力で突っ込んで、全力で当たる!

俺はみさきに触れようと、いきなり腕を動かす。

 

「バチバチしよ! 晶也!」

 

しかしみさきの反射神経の前にはそんなのは不要。

あっさりと返され、その言葉と共にやりかえされる。

 

「ああ! やろう!」

 

ある程度弾かれた俺は、みさきに急接近し、また触れようとする。

 

「甘い甘い!」

 

しかしそれも交わされる。

 

「背中もら・・・・・・っ!?」

 

先ほどのように、カウンターを入れたみさきは、また俺がバランスを崩したと思い、背中に周り触れようとしたが。

 

「そっちも甘い!」

 

俺はくるりとみさきの頭上を回転しながら後ろに回り込む。

 

「くっ! 私だって!」

 

弾かれたみさきは、すぐに翻し、俺に向かって飛んでくる。

 

「そんな動きじゃ俺に勝てないぞ!」

 

俺は交わし、みさきを追いかけようとしたが―――。

 

「ふにゃあああ!!」

 

みさきは明日香の試合でも見せた、あの球体状の相手を囲う技を行う。

中の様子は最悪だ、コントレイルの球体の壁で、みさきがどのあたりを飛んでいるかなんてわかわらない。

でもこの技は、グラシュを解除状態で飛んでいてこそできる技。

でも見た感じ今のみさきのグラシュは、解除してない。

だからこの技は不完全なはずだ。

 

「落ち着け、落ち着いてみれば、わかるはずだ・・・・・・」

 

いくら法則してなく飛んでいるとしても、必ず一回は俺の目の前の位置を通りはずだ。

その時に行けば打開できる。

・・・・・・もっとも、みさきがそれまで待っててくれるならだけど、

 

「いくよっ!!」

「うっ・・・く!」

 

やっぱり、待ってはくれないか。

読む前に背中を取られた。

きっとみさきもわかっているはずだ、この技はキリがいいところでやめないといけないと。

その結果がこれか。

・・・・・・やっぱみさきはすごい。

 

「こっちも行くぞ!」

 

明日香とは断然違う、本物の、俺だけのペンタグラム・フォース。

 

「その技の弱点は知ってるよ」

 

みさきは俺に方位されても、平然としている。

それはきっと、明日香と同じだと思っているから。

 

「・・・・・・ってあれ?!」

 

みさきは気づいたらしい。

 

『晶也さん、すごいです!』

 

俺のペンタグラム・フォスを見て、観客の人も驚いているようだ。

葵さんのヘッドセット腰に、明日香やみんなの驚きと綺麗という言葉が聞こえる。

 

『日向センパイ流ってやつですね!』

 

真白のそんな声が聞こえる。

 

『日向選手! ここで見たこともない大技だー! これが元現役最強のスカイウォーカーと言われた選手の力かー!』 

 

今年も実況をしている保坂の声が聞こえる。

最強・・・今の俺にはもったいない言葉かもしれない。

真白の言葉を借りるとしたら、俺流のペンタグラム・フォース。

それは本来横に一つの星型にさらに、高速でブレずに飛ぶことで、横の星が消える前に縦の星を作り、二つに縦横の星を重ねて相手を囲う技だ。

本来横だけだと動きはすぐに読まれるけど、これなら頭上や足元を見る必要が出てくる。

 

「うー! これじゃあわからない!」

 

みさきも困っている様子だ。

そんな声が俺にも聞こえる。

 

みさきが下を見たときには上に、右を見たときには下。

みさきが見たときには、俺はそこにいない。

そしてある程度慣れてきたとき、その時がチャンスだ。

 

「え! いつの間に!」

 

俺はみさきの背中を取った。

 

「ソニックブースト!」

 

俺は現役の時から愛用している技で、みさきに急接近していく。

 

「させない!!」

 

しかしみさきも足で踏ん張り、垂直エアキックターンで交わす。

今度は俺が下、みさきが上のポジションになる。

 

「にゃあああ!!」

 

みさきは降下しながらシザーズを行う。

その動きは大きいが、素早い。

 

「つっ!!」

 

急なことで対応が遅れ、弾かれる。

しかも降下の勢いもあったため、すぐには体制を整えられない。

 

「今度こそ背中いただき!」

 

そしてみさきは俺の背中に触れる。

 

「まだまだ!」

 

海面すれすれだが、みさきはさらに仕掛けるつもりだ。

うまく行けば、ポジションを変え、みさきを海面すれすれに追い込める。

しかし、みさきは行こうとした体を急に止めた。

恐らく真藤さんに止められたんだろう。

みさきは熱くなって、ポジションの事を忘れてたのかもしれない。

チャンスだったが、真藤さんの言葉で再びみさきのチャンスに変わる。

そしてみさきはサードブイをタッチしに行ってしまう。

 

『晶也、ショートカットだ』

「はい!」

 

今度は俺がショートカットをする。

試合時間もあと半分くらいだろうか。




次の投稿は間に合えば明日を予定しています。


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「終わったね、私たちの、高校生活最後の夏」

決勝試合、今のところ二対二で同点だ。

このままだとみさきに負ける。

もちろん全力を尽くしているわけで、それでみさきが俺に勝ってくれるなら嬉しいことだけど、選手として考えると、やっぱり勝ちたい。

俺がセカンドラインに移動し終えると、みさきがブイに触れ、向かってくる。

これでみさきが一点リードだ。

しかしこのまま行くと点がとれないこともあり得なくない。

今のみさきは無敵だ。

できるかわからないけど、あれをやるか・・・・・・。

みさきは俺の頭上を飛行する。

みさきはきっと俺が、あれをできないと思っている。

 

「うあああ!!」

 

俺はがむしゃらに、頭上を飛行するみさきに向かって逆さで飛ぶ。

 

「晶也も!?」

 

その飛行方法に、みさきが驚く。

 

「でも、かなり辛いけどね」

 

俺も即興ながら、背面飛行ができた。

でもついて行くのでやっとだ。

みさきは嫌そうに俺から逃げる。

でもそれを手に取るように分かるため、俺もなんとかついて行く。

そして次第に・・・・・・。

 

「でも、少しづつなれてきたぞ・・・ほら!」

 

俺はみさきに向かって手を伸ばす。

 

「見え見え!」

 

やっぱりドッグファイトが得意なみさきに向かって背面からの攻撃は、少し無理があったみたいだ。

あっさりと交わされる。

 

「やっぱキツい」

「背面飛行は・・・こうするんだよ――――――」

 

そして俺はみさきに弾かれる。

背面飛行中だけあって、かなり大きく崩した。

これはダメだったかもしれない。

 

「――――――晶也!」

 

そして弾かれ、体制を立直す頃には・・・・・・。

そこにはもうみさきがいる。

それも、背面飛行で、俺の背中を取っていた。

 

「いただき!」

 

そして後ろから弾かれ、海面方向に弾かれていた体は、今度は綺麗な青空に向かって弾かれる。

しかしみさきはここで、大きなミスをした。

 

「もう一回!!」

 

さらにみさき、そこから繋げようと、俺に急接近するが、そう何度も取らせるわけにはいかない。

 

「取らせない!」

 

俺は垂直方向に弾かれた体を、力任せに右方向に捻り、みさきのタッチを交わす。

 

「っ!」

 

そしてさっき弾かれた反動を利用し、俺はセカンドブイとサードブイの間を繋ぐライン。

・・・・・・セカンドラインへ戻っていた。

そして弾かれた反動を利用し、サードブイに向かって飛ぶ。

 

「しまった!!」

 

みさきのそんな声が聞こえる。

さっきみさきの犯した大きなミス。

それは海面側から俺に触れたことだ。

海面側から俺を弾いたことで、俺は自然と元のラインに戻っていいて、次のブイに向かってみさきより先に飛ぶことができる。

これはみさきに何度も教えたんだけど、熱くなりすぎて気付かなかったのかもしれない。

でも、それに真藤が気づかないのはおかしい・・・・・・どうしたんだろうか。

 

『晶也、今の動きはよかったな。でも、油断してられないぞ?』

「はい!」

 

葵さんに褒められ、無意識に体が喜んでしまう。

セコンドとして葵さんに褒められたのは、いつぶりだろう。

――――――俺はサードブイにタッチし、サードラインへやってきた。

しかしそこで止まる。

本当は、ここで抜くか不意を突いて点を重ねないと、負けてしまう。

でもみさき相手に、どんなことをすればいいんだ?

今まで散々練習して、弱点もわかってるはずだけど、どうしたら勝てるんだ?

その弱点が本当にあってるのか?

確かみさきの弱点はFC脳がまだまだ育ちきってないって事だ。

でもそれだけなのか?

そこを突けば、みさきに勝てるのか?

でもそれで、俺はいいのか?

 

「・・・・・・またバチバチするぞ! みさき」

 

俺はサードブイで止まっていた体を、動かす。

みさきに向かって、また突っ込んでいく。

それはみさきへの宣戦布告みたいなものだ。

みさき去年の明日香との試合のとき、勝ち方にこだわってはだめだと、そんな感じのことを言った事を思い出す。

だけど今の俺は、いい意味でそれを守れてない。

みさきとの、ドッグファイトを選んだ。

もしもこれで負けたとしても、もちろん悔しいけど、悔いはない。

 

「うん!」

 

みさきの俺の言葉に一言返事で返し、俺に突っ込みを弾く。

 

「いくよ!」

 

みさきは、もう完全に慣れてしまった、垂直エアキックターンを使って突っ込んでくる。

 

「こっちも!」

 

俺もエアキックターンを使って突っ込む。

 

「っ!」

「くっ!」

 

お互いの体が弾かれて一瞬、間ができる。

その二秒のみたない間を破ったのは俺だ。

俺はソニックブーストで頭上に向かって、勢いよく飛ぶ。

当然みさきは、俺を追ってくる。

 

「負けないからね! 晶也!」

 

背面飛行に変えたみさきが、そう言ってくる。

 

「俺も負けるつもりなんてないさ!」

 

そして俺とみさきの距離が、メンブレンで弾かれるかどうかって言うギリギリの距離までの急接近する。

そして本来なら起こりえない、コントレイル同士がが混ざり合う現象が起きてるのがわかった。

でも今は、それは気にしてられる状況じゃない。

なんとして、みさきから二点取らないと・・・・・・負ける!

俺はみさきを振り切るため、その場で、俺が編み出したペンタグラム・フォースを使う。

その複雑なメンブレンの移動に、みさきはついてこれないはずだ。

 

「ふにゃあああああ! 曲がってー!!」

「なっ!!」

 

しかし、みさきはついてきた、さっき程の距離ではなくとも、背面飛行でなくても、みさきは俺の複雑なペンタグラム・フォースに、ついて来た。

昨日までのみさきならありえない事だ。

この技は、予想だと明日香もすぐには真似できない技のはずだ。

なのに・・・・・・なのにみさきは!!

 

「すごいぞみさき! この技の動きについてくるなんて!」

 

試合をしている相手なのに、嬉しくてたまらない。

そして同時に、燃える。

そんな選手に勝てば、どれだけ嬉しいだろうか。

 

「っ・・・・・・!」

 

さっきまで無我夢中でついて来たみさきだが、何度も周回しているうちに、だんだん体力を奪われ、失速してきている。

その差はどんどん開くばかりだ。

そろそろ頃合かもしれない。

俺は急に体を反転させて、エアキックターンでみさきとは逆の方向に行く。

その急な行動に、みさきはついてこれない。

 

「あっ!」

 

みさきの「しまった」と言わんばかりの声が聞こえる。

しかしまだ終わらない。

逆に行ったとこから、今度は戻るように、エアキックターンをする。

そう、みさきに向かって行くんだ。

 

「うああああ!!」

 

行け! 当たれ、みさきを弾け!

そうすれば、そこから得点が重ねられる!

 

『晶也、試合時間が一分切ったぞ』

 

普段なら選手を焦らせないために、時間を言わない葵さんが、時間を告げてくれる。

でも、今の俺にとってはありがたい言葉だった。

 

「うっ!!」

 

見事に、この奇襲戦法は、みさきに直撃した。

これで、みさきの体制はすぐには戻らない。

 

「いっけえ!!」

 

今度は弾かれたみさきに向かって、ソニックブーストを使って急接近する。

 

「一点!」

 

そしてみさきの背中に触れる。

これで同点、でもまだだ!

 

「もう一回!」

 

その場でエアキックターンを行い、みさきの背中目掛けて飛んでいく。

 

「・・・・・・っ!」

 

これで二点目。

一点リード。

 

「もう一回!」

「これ以上は!!」

 

さっきと同じ要領で、もう一度点を入れようとしたときだ。

みさきは腕を動かし、俺の攻撃を弾き、俺の攻撃を凌いだ。

 

「今度は! 私が!」

 

そしてみさきが俺をさらに弾く、このあと、タッチされるのを覚悟した。

ここで点を入れられたら終わりだ。

同点になり、延長でもしもみさきが安全装置を解除したら、今の俺だと負ける。

なんとしても体を動かさないと。

でも、弾かれた衝撃で動かない。

ここで、終わるのか・・・・・・?

 

「これで、同て・・・・・・!!」

 

しかし、みさきが俺に触れることはなかった。

みさきが触れるよりも数秒早く、試合終了のホーンが鳴り響いた。

その瞬間、観客も、実況も、一瞬静まり返った。

恐らく、俺とみさきの、息を呑み暇すらないドッグファイトに、みんな言葉を失っていたんだと思う。

俺だって、この試合のような最高のドッグファイトを見ていたら、同じ気持ちになる。

 

そして審判の勝者の名前をあげる声がして―――。

 

『か・・・勝ったのは久奈浜学院、日向晶也選手だー!』

 

―――そして保坂の実況が入ったとたん、会場が物凄い歓声で満たされる。

 

「あーあ、負けちゃった」

 

みさきは残念そうで、気の抜けたような声で言って。

 

「・・・・・・おめでとう、晶也!」

 

そう、俺を祝福してくれる。

 

「ああ、ありがとう」

 

当然俺も返す。

 

 

 

 

俺とみさきは、歓声を浴びながら、テントに戻る。

 

「おめでとうございます、日向センパイ」

「おめでとうございます、晶也さん!」

 

明日香と真白が、いち早く駆けつけ、俺の祝福してくれる。

 

「みさきセンパイも、すごいドッグファイトでした! 私もファイターになれば、みさき先輩とあんな試合を~!」

「まあ真白はまず、筋肉つけてムッキムキにしないとね~」

 

真白の言葉を、軽く流す感じで、みさきが言う。

 

「ひどいですよ~、みさきセンパイ!」

 

その会話にみんなが笑う。

 

「おめでと、晶也、それともチャンピオン?」

 

窓果がふざけ半分で言ってくる。

でもからかってるわけじゃないのは分かる。

 

「窓果も、ありがとう。あと、晶也でいいから」

「おめでとう、日向くん」

 

真藤さんも、俺にお祝いの言葉をいいに来てくれた。

 

「ありがとうございます、あ、一つ質問していいですか?」

「ん? なんだい?」

 

俺はあの時、なぜみさきに海面側から俺を弾くことに、みさきに注意を入れなかったのか、気になっていたことを聞いた。

 

「・・・・・・真藤さんなら、気づいていたんですよね?」

「あれは、僕も気づいていなかったんだよ。日向くんと鳶沢くんの試合に見とれてしまってね。僕もセコンドとして、まだまだかな」

 

本当に、そうなんだろうか。

でも真藤さんが嘘をつくとは考えにくい。

きっと本当なんだろう。

 

「おめでとう晶也、上出来だったぞ」

「ありがとうございます、葵さん」

 

葵さんも、いつも通りの祝福だった。

 

「終わったね、私たちの、高校生活最後の夏」

 

真白たちと話していたみさきが、俺の隣に来て呟いた。

 

「ああ、そうだな。終わったな」

 

これで、俺たちの高校での試合は、終わったんだ。

最高の幕引きで、終わった。

少なくとも、久奈浜学院の中に、誰ひとり最悪の結果となった人なんていない。

みんな、それまでの練習の成果を出し切ったはずだ。

・・・・・・来年の今頃は、俺たちは何をしてるんだろう。




次回で 蒼の彼方のフォーリズム~天才の二人のその後~ は完結となります。
次回更新は明日を予定しております。
あと一話となりましたが、最後までよろしくお願いします。


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~二人の道~ 「飛ぼう晶也! この空を超えて、さあ行こう!」

夏の暑い日が海面を照らし、その光を反射してキラキラと輝いている。

夏の大会から数日がたった。

今日はみんなと海で約束をしていた。

 

「まーさやー! 遅いよー!」

 

いつも練習で使っている砂浜で、俺たちは約束していた。

停留所からそこに向けて飛んでいると、飛んで俺が来るのをまっていたのか、みさきに呼ばれる。

 

「ごめん。少し遅れた」

「もう、みんな来てるよ?」

 

みさきにそう言われて、俺はみさきと砂浜に降りる。

 

「あ、やっと来ましたね! 遅いですよ!」

「もうみんな食べ始めちゃってますよー?」

 

俺がみさきと砂浜に降りると、真白と明日香が声をかけてくる。

周りを見ると、みんなもう集まっていて、バーベキューで焼いたものを食べ始めている。

 

「晶也が寝坊とは、珍しいな。雨でも降るのか?」

「違います、寝坊じゃないんですよ?」

 

葵さんがからかってくるので真面目に返しておく。

それに遅れたのは、ある物の申し込み手続きを書いていたからだ。

 

「とりあえず晶也も食べよう食べよう!」

 

俺と一緒にお降りてきたはずのみさきも、もうすでに食べている。

今日来てくれたのは、高藤の市ノ瀬や真藤さんに佐藤院さん、白瀬さんやみなもちゃんに、部長や葵さんと、久奈浜FC部のみんなだ。

今日のバーベキューも、改めての俺の優勝祝いを兼ねているらしく、すごく嬉しい。

 

「ねえ晶也、さっきから色んな子の胸見てない?」

「・・・・・え?!」

 

急にみさきは何を言い出すんだ。

・・・・・・見てない・・・と思う。

 

「さっから感じるイヤラシイ視線は、日向センパイなんですね。・・・ヤダ、こっち見ないでください!」

 

真白に拒絶された。

目を見て弁解しようとしただけなのに。

 

「晶也さんは、やっぱりそういうの好きなんですか?」

「え? 明日香?」

 

明日香も何をいいだすんだ。

 

「晶也、取り返しのつかないことはするなよ?」

「葵さんまで! やめてください!」

 

なんかどんどん誤解が生まれていく。

 

「やだー日向くーん、私を襲うの?」

「安心してくれ、襲わないから」

 

窓果は完璧に返しておかないと、めんどくさいことになる。

一番的に回したくない相手だ。

 

「それはそうと、晶也はどうするんだい? この大会で勝ったわけだから、全国へ行けるわけだし、やっぱり狙うは全国かい?」

 

白瀬さんが、話を変えてくれた。

その話は、今からしようとしていたところだ。

 

「その話は今日話そうと思っていたんです。今ならみんなもいますし、ちょうどいいですから」

「それで? どうするんだい?」

 

この話は、みんなもそうだけど、一番みさきが気になってるはずだ。

俺が来年から全国に挑む場合は、みさきは置いて行く事になる。

そうなれば、俺とみさきの間には、あきらかな溝が生まれるかも知れない。

 

「俺は・・・・・・とりえあず行けるとこまで行こうと思います。まずの目標にしているのは、昔日向晶也がいた全国の舞台、そこを目指します」

「うん、僕はいい目標だと思うよ」

「晶也が決めた事なら、私は何も言うことはない」

 

葵さんに白瀬さんも、納得してくれた。

 

「それと、一緒に行く人を決めてるんです」

「チームで行くのかい?」

「はい、そうしてるつもりです」

 

俺なんかが、一人で全国にいったところで、限界がある。

だから、俺は今の俺と、いや、それ以上の才能と実力を持った人を、チームとして一緒に行こうと考えた。

まあ、チームといっても、やり方は今まで通りだけど。

実は遅れた理由のその手続きとは、来年から始まる全国試合の出場メンバーの記載書だ。

そしてその相手も決めている。

 

「それじゃあ話も一段落したところで! 海でおーよごー!!」

 

急に待ちわびたと言わんばかりに、窓果が拳を振り上げ、そう宣言する。

そしてみんなは海に向かって走って行く。

まあ、ちょうどいいけど。

 

「・・・・・・なあ、みさきちょっといいか?」

「ええ、別にいいけど」

 

みさきは俺に声をかけられると、普通にしてるつもりだろうけど、声がいつもと違った。

大方、来年から全国に行って離れ離れになるから、別れ話でも切り出されるとでも思ってるんだろう。

まさか自分がチームメンバーに選ばれるとは思ってないだろう。

可愛そうだけど、さっきの仕返しに、ちょっとからかってあげようかな。

俺はみさきを連れて、みんなとは少し外れたとこに来た。

ここなら誰も見てないはずだ。

 

「みさき、あのさ、俺たち付き合ってもう十分だよな?」

「え? あ、ああ、うん、そうだね!」

 

明らかに動揺してる・・・・・・。

本気で後戻りのできないところまで行く前に、本題に行ってあげよう。

じゃないよ後が怖い。

 

「でさ、来年の全国のチームの事なんだけど、みさきにも来てもらいたいんだ。大会優勝の、みさきを好きにしていいって約束が本当なら、来てくれるよな?」

「え・・・・・・いいの?! 私で、いいの? また投げ出すかもよ?!」

 

みさきのテンションは一変、ものすごく嬉しそうだ。

投げ出されるのは困るけど・・・・・・。

 

「あ、ああ、もちろんだ、だからそんなに顔を近づけないでくれ! 近いから!」

「よかったー! もしかしら別れ話でも切り出されるのかと思ってた~」

 

やっぱり、そんなことを考えてたのか。

 

「そんな話するわけないだろ? みさきと二人っきりで話したかっただけだよ」

「なんだ、もう、それならそうと言って欲しかったにゃ~」

 

まあ、さっきの仕返しのつもりだったんだけど、言ったら怒られるな。

 

「まあ、別れるもなにも、こんなめんどくさい彼女、俺しか付き合えないからな」

「う、なんかそれ、喜んでいいのか、起こったほうがいいのか、わからない」

 

できれば喜んで欲しい。

 

「前に自分でめんどくさい彼女だけどって言ったのは、みさきだろ?」

「そうだけどさー、もっと言葉を選んでほしいにゃ~」

「さ、話も終わったし、俺たちも泳ぎに行くぞ」

 

俺はみんなのいる海に向かって走ろうとすると・・・・・・。

 

「待って晶也、忘れてる・・・・・・!」

「っん!?」

 

そう言って腕を引っ張られて、その勢いでみさきとキスをしてしまった。

咄嗟なことで、この状況にすぐに頭が追いつかない。

すぐに終わるかと思ったら、かなり長い時間キスをしている。

 

「っはー! 久しぶりのキスだったね!」

「でもいきなりはやめてほしかったな、びっくりした」

 

みさきは笑顔でいっぱいだった。

 

「だってえ、今までおあずけにしてたぶん、早くキスしたかったんだもん」

「それをしたのはみさきじゃなかったっけ?」

「まあ、そうだけどね。でもそのお陰で、一番美味しいキスだったよ~」

 

まあ、そうだったけど・・・・・。

 

「あ、そうだみさき」

 

俺は大事なことを思い出した。

まだしっかりと言ってない。

 

「しっかりと届けてもらった。みさきが俺を届けたんだ。今回の大会に優勝できたのもみさきのおかげだ・・・・・・ありがとう、みさき」

「そっか、私本当に晶也を届けたんだね・・・・・・しっかりできたんだ」

「そうだ、みさきが俺を届けたんだ、しっかりとな」

 

お互いの約束をしっかり果たしたことを確認して、俺とみさきはみんなのいる場所に向かって走った。

 

 

 

 

「みさきと俺は、初めはまったく真逆の相手だと思ってた」

「急にどうしたの? 晶也・・・・・・あ、ううん、なんでもない」

 

急に話しだした俺に、みさきはどうしたのか聞いてくる。

でも俺は、その言葉を無視し、一度みさきの目を見てから話を続ける。

今の俺たちは、砂浜でみんながビーチバレーをしているのを、座って見ている。

隣には当然みさきがいる。

 

「でも、去年の夏の大会をきっかけに俺とみさきは、大きく変わった、真逆だと思ってたはずなのに、あの夕日に照らされた教室で交わしたお互いの過去・・・・・・」

「ああ、あの日の事ね」

 

時々みさきが相槌を打つように言葉を挟む。

 

「それで同じことに気づいた、俺もみさきも、空をずっと待ってたままだった。・・・・・・誰かが、自分をもう一度あの空に戻してくれるのを待ってた」

「それであたしには晶也、晶也にはあたしっ・・・て訳か・・・・・・」

 

みさきが補足するように言う。

 

「夏の大会であたしは、負けたくない、明日香には負けたくないって思って、試合とかじゃくて、よくわかんないもので負けて、挫折した」

 

今度はみさきが話し出す。

 

「それで私は、飛ぶことをあっさり諦めた。まるで子供が、手放した風船みたいに、あっさり消えて・・・・・・」

「でも部活のみんなは、みさきに声をかけ続けた」

 

今度は俺が、さっきとみさきの立ち位置に着く。

 

「でも・・・あの時の私はとりあえず悔しくて、もう飛べないって決めつけて・・・・・・みんなに何か言われても、何も知らないくせにって・・・酷いこと考えた」

「そんなこと思ってたのか」

 

意外だった、みさきもそんな感情を持ったりするんだと、そう思った。

 

「そりゃあたしだって人だもん、するよ? ・・・・・でも、晶也は最後まで声をかけてくれて、あの時の晶也は、太陽みたいに眩しい存在だった」

「で、俺はみさきの心の中で燻っていた気持ちを、もう一度燃やしたのか」

 

ほんと、俺たちは似た者同士だ。

 

「俺は・・・この折れかけた翼を、もう一度大きく広げてどこまでも飛ぶ力を、誰かから貰いたかった。・・・この思いを、誰かに受け止めて欲しかった」

「それがたまたま私だった」

「たまたまというか、メルヘンチックに言うと、運命? ・・・とか?」

「ふにゃ~。晶也にしては随分メルヘンにいったね~」

 

みさきに笑われた。

まあ、別にかまわないけど。

 

「あたしも晶也も・・・挫折したことでたくさん泣いて、いっぱい悔しい思いをして、でもまたこうして飛んでる・・・・・・そんな二人が結ばれてるなんて、運命としか言えないよ!」

「みさきが言うなら、そうかもな」

 

すると急にみさきが立ち上がり、俺に手を差し出す。

 

「飛ぼう晶也! この空を超えて、さあ行こう!」

「ああ、飛ぼうみさき!」

 

俺はそのみさきの手を取って立ち上がり、それぞれはグラシュの電源を起動する。

 

「飛ぶにゃん!」

「FLY!」

 

俺とみさきは声を合わせ、このどこまでも広がる青い空に向かって、飛んだ。

 

 

 

 

そして一年後・・・とある離島出身の男女二人ペアが、全国大会で優勝と準優勝を勝ち取ったのは、全国で大きな話題となり、一躍有名になった。




今更ながら、決勝試合は、rays of the sun を聴きながら読むと、作者としてはさらに燃えるんじゃないかと思います。
私も聞きながら執筆してました(笑)
また、最後の晶也とみさきが砂浜で今までの自分達を話すシーンの台詞は、rays of the sunの歌詞から、連想したものを台詞に合うように書きました。
その変も注目していただけると嬉しいです。

さてさて、長かったこのシリーズ、前話でお伝いした通り、この話で最後です。
今までコメントして下さった方 最後までお気に入り登録して下さった方 他にも、ブックマークをして密かに応援してくれていたり、読んでくれていた人もいたと思いますが、
ここまでこれたのもそんな皆さんの、言葉と、言葉なき応援のおかげです。

毎回話の続きを投稿するたんびに、誰か見てくれているのか、誰も見てくれていなかったらどうしよう、などと考えていました(笑)
ですがしっかりと閲覧してくれている方や、感想をくれる方もいて、励まされ、勇気をもらいました。
本当に、お礼だけでは表すことができないほど、感謝でいっぱいです。
私一人では、最後まで来れませんでした。

近いうち、今年中に、主人公 晶也、ヒロインみさき+オリジナルヒロインのオリジナル版の方も書く予定でいるので、そちらも見ていただけたら光栄です。
また、作者としてまだまだなので、至らないところもまだたくさんあります。
なにかおかしな点があったら、ビシバシ指摘してやってください!(明日香風)(笑)

それでは皆さん、またお会いできることを、心から祈っております。
長くなりましたが、今まで本当にありがとうございました。


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