世界が俺を求めてる (ゴーゴー)
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旧08 皆が俺の記憶を曖昧にしてくる


やっぱり一夏が代表の方がやり易いのでそっちの方向で


 ISを起動する度に現れるユリアと謎の神殿で喋ったり、気が付けば千冬さんやクラスメイト達に称賛されていたり、セシリアちゃんのつくった料理を食べることになっていたり、箒ちゃんとセシリアちゃんが良い笑顔で握手していたり、織斑がクレーターをつくったり、そんな授業を終えて放課後。

 

「織斑くん、おめでとー!」

 

 クラス代表就任のパーティーが開かれていた。忘れていたが先の決闘云々はクラス代表を決めるものであった。

 それで、誰がなったかと言えば、進行形で女子に囲まれている織斑家の一夏くんである。

 

「お前が相手では並みのIS乗りでは太刀打ちできん。それこそ国家代表レベルでもな。故に却下だ」

 

 最初は勝利してしまった俺がそのままクラス代表にという流れになっていたが千冬さんの一言でセシリアちゃんか織斑のどちらかがすることに。

 それじゃぁ、決闘した意味ないじゃないですか、やだなぁ、もう。

 しかしグッジョブ千冬さん。やりたくなかったので万々歳である。

 

「……その代わりと言ってはなんだが私の部屋を片付ける係に任命しよう」

 

 そして耳元で囁く千冬さん。あの、顔が近いというかなんというか……あ、良い匂い。

 ……いや待て魔境を掃除しろと。……それなんて罰ゲームですか。勝ったのに罰ゲームとはこれいかに。全然代わりになってないんですけどそれは……。むしろクラス代表した方が楽な気がしてならない。それほどに千冬さんの部屋は……いや、これ以上はやめておこう。俺も命は惜しい。

 

 で、何故クラス代表が織斑になったかというと単純に織斑がセシリアちゃんに勝ったからである。

 聞けばこの一週間は千冬さんに教えてもらっていたのだとか。

 開幕直後に瞬間加速で接近し、織斑のISである白式に搭載された雪片弐型から繰り出される零落白夜で一閃。僅か数秒のできごと。

 どう凄いのかはわからないが、とりあえず凄かった。千冬さんは言うまでもなく、織斑自身も凄い奴だった。織斑の血筋すげぇな。

 

 しかし、クラス代表、つまりはクラス委員長のようなものが決まった程度でパーティーはお祭り騒ぎの好きなクラスメイトである。インタビューとか言って先輩がいたりもした。前世では考えられない。

 そもそも前世ではパーティーなんて参加したことがない。いや、参加したことがないというよりパーティーが存在しなかった。誕生日やクリスマスなどパーティー日和の日でさえケーキを食べるだけでパーティーと呼べるものはしたことがない。

 強いて言うならば小学校の時の、いわゆるお別れ会とかお楽しみ会とかがそれにあたるのかもしれないが、やはりパーティーとは程遠い気もする。

 それにしても元気だなこの娘達……。俺もう眠いよ。帰って良いかな。

 

 ……それにしても腕に絡みながらニコニコ微笑み合う箒ちゃんとセシリアちゃんは何がしたかったのだろうか。怖いからやめてほしいな。あと、その、二人とも大きいんだから気を付けてね、本当、お兄さんとの約束。静まれ息子。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 翌朝。

 

 美味しそうな匂いに誘われ起床。また箒ちゃんが朝食を作ってくれているのかと視線をそちらへ向けるとエプロン姿の織斑がいた。

 

 織斑がいた。

 

「……んん?」

 

 見間違いかと目を擦り、もう一度見てみるとやっぱり織斑がいた。

 

「む、起きたかミコト。一夏、後どのくらいで完成する?」

 

「もうできるぞ」

 

「だ、そうだ。顔を洗ってくると良い」

 

「はい、ミコトさん。タオルですわ」

 

「お、おう……」

 

 謎過ぎる空間に軽く混乱していると、ベランダで洗濯物を干している箒ちゃんから声がかかり、どこからか持ってきたであろう大きめの卓袱台を拭いていたセシリアちゃんが棚からタオルを取り出して手渡してきた。

 あまりにも自然すぎるからそのまま洗面所に来てしまったが、これはどういうことなのだろうか。

 狐に化かされたというか、DIO様に階段一段分降ろされたというか、不思議でならない。

 

「鍵かけてたよね」

 

「何を言っているのだミコト。毎朝つくりにくると言ったら、不便だからと合鍵くれたんじゃないか」

 

 とは箒ちゃん。言われてみればそんなことを言ったような言わなかったような。

 

「あれ、でも俺合鍵とか持っ――」

 

「よし、できたぞミコト。冷める前に食べようぜ」

 

「そうだな、冷めてしまっては勿体ないからな」

 

「そうですわミコトさん。ささ、こちらに」

 

「何を言うか、ミコトは私の隣だ」

 

「卓袱台なんだから二人の間に座れば良いだろ? 俺はミコトの正面に座る」

 

 寝起きで頭も働かず、腹も減ったのでとりあえずこの事は保留することにした。時には現実逃避も必要だと思うの。うん。焼き魚おいしかったです。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

「――その情報古いよ」

 

 そんな朝を経て、箒ちゃん、セシリアちゃん、織斑、俺の四人で登校。

 我が一組では転入生とクラス対抗戦と呼ばれる読んで字のごとくクラス代表同士が戦うイベントの話題で溢れていた。

 そんな会話の中、専用機持ちは織斑と四組のクラス代表だから優勝間違いなしだね! という台詞とともに教室のドアがスパーンと開かれ腕組みをした見慣れたドヤ顔ツインテール。

 

「ミーコートー!」

 

 そして俺を見つけるとツインテール――鈴ちゃんは俺の鳩尾へ見事なタックルを披露してみせた。

 

「ミコト、ミコト、ミーコートー! えへへ」

 

 そして、顔をグリグリと押し付けて俺の匂いをかぐ鈴ちゃん。恥ずかしいからやめてほしいな。あと、食ったものが出ちゃうから、ほんと。

 

「……離れんか馬鹿者。SHRの時間ださっさと戻れ」

 

 グリグリと俺の腹へダメージを与え続けていた鈴ちゃんは猫のように首根っこを掴まれて千冬さんに引き剥がされてた。

 

「また後でねミコト!」

 

 そう言い残して去る鈴ちゃん。呆気に取られていると千冬さんが何故か抱き締めてきた。

 

「……よし、ではSHRを始める。座れ」

 

 そしてなにごともなかったかのようにSHRを始める千冬さん。何が良しなのかわからない。訳がわからないよ。

 

「くっ、やはり千冬さんもだったか」

 

「世界最強が相手ですか……不足はありませんわね」

 

 そして、何故か悔しそうにする箒ちゃんと冷や汗をかきながらも口角を上げるセシリアちゃん。

 こっちもこっちで訳がわからない。……俺が何をしたって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良いなぁ、千冬姉」

 

 

 

 あれ、何か寒気が……。 

 

 

 




酢豚のくだりどうしようかな……


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旧09 織斑が彼女達と張り合ってくる

みじけぇ。





 昼休み。

 

 四限目の授業の終わりを告げるチャイムが響きわたる。

 

「ミコト! 迎えn――」

 

 それと同時にクラスのドアが勢いよく開かれ、勢いのまま跳ね返って再び閉じた。

 

「……」

 

「ミコト! 迎えに来てやったわよ! あとついでに一夏!」

 

 クラスに微妙な空気が流れたが、全てをなかったことにした鈴ちゃんは元気よく俺の席まで走ってきてダイブした。勿論俺にむかって。死んじゃう。

 

「酢豚つくってきてやったわよ!」

 

 ぎゅーっと、ふにーっと抱きつく鈴ちゃん。小ぶりながら天晴れ。しかし毎度毎度抱きつくのはよろしくないと思うんだ。

 ほら、箒ちゃんとセシリアちゃんが不機嫌オーラ飛ばしてきて精神的なダメージが凄いから。

 

「生憎と――」

 

「――ミコトさんの昼食は用意してましてよ!」

 

 俺と鈴ちゃんを引き剥がす織斑に腕組みをして俺と鈴ちゃんの間に立ち塞がる二人。

 

「へー、そう、アンタたちもそうなのね」

 

 そんな二人を品定めするように視線を行き来させ、そう呟くと右手を差し出して自己紹介を行った。それにならい二人も名乗り上げて笑顔で握手を交わす。早速仲良くなったようで安心である。何やらお近づきのとか修学旅行とか幼稚園とか写真とか寝顔とか聞こえてた気がするが気のせいだろう。気のせいである。

 

 そんなこんなで鈴ちゃんを加えて屋上へ。織斑がレジャーシートを広げ、セシリアちゃんがパラソルを設置し、箒ちゃんが弁当箱を広げた。

 毎度お馴染みの光景になってはいるが、端から見れば、というか俺から見てもおかしな光景である。

 しかし慣れとは怖いもので今ではすっかり違和感が仕事をしていない。

 常々思うのだが、日々常識が砕かれていっている気がする。頑張れ俺、負けるな俺。

 

 気合いを取り直して昼食。

 

「ミコト、あーんっ」

 

 鈴ちゃんの“あーん”で修羅場ったり、互いが互いの料理を食べ合って作り方云々と、意外にも仲良く話していた。酢豚おいしです。

 

「付き合いが一番長いのは私だけどね」

 

 そしてセシリアちゃんの作ったサンドウィッチに手をかけたところ、鈴ちゃんのその一言で場がピリついた。

 余談ではあるがセシリアちゃんの料理の腕は涙が出るほどに悪かった。レシピの写真の見た目通りにつくるというある意味難易度の高いことをしていた結果である。

 それを聞いた織斑による料理合宿が行われたことで、セシリアちゃんの料理の腕はプロ級に変貌した。たった二泊三日でプロ級になるセシリアちゃんもセシリアちゃんだが、そうなるように指導した織斑は一体何者なのだろうか。

 

「む、だが最初に出会ったのは私だ。言うなれば私が()()()()()幼馴染みで、鈴は()()()()幼馴染みだな。私がファーストで、鈴がセカンドだ」

 

「た、タイミングや時間は関係ありませんわ! 今をどう過ごすかが大切なのですわ!」

 

 そしてその発言に対抗するように箒ちゃんとセシリアちゃんがそう言った。三者譲らず。

 やめて、俺のために争わないで! なんて気楽な性格になることができれば少しは胃の痛みをやわらげることはできるのだろうか。

 そもそも何故こんなにモテるのか疑問である。彼女達に対してやったことと言えば、織斑に同意し、殴ってくれと言わんばかりの男子の頬に軽く触れ、全自動のISで勝っただけ。

 おう……なんだこれ……。我ながら理解が及ばない。

 性格だってクラスの隅の方にいる陰キャそのままな上に見た目は転生のおかげが悪くはないレベルであるものの、ファッションセンスが皆無なので残念なことになっている。

 もう何かの隠謀なのかと思わざるを得ない。そう思うと急に恐ろしくなってきた。なにこれ怖い。

 

「――まぁ、最初に会ったのも付き合いが長いのも俺が一番だけどな」

 

 織斑がなにか言ってるけど気のせいだろう。気のせいだと、良いなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――我輩は猫である

 

 

 名前はまだない、という安直でありながら本人お気に入りのネーミングのラボにて。

 名付け親たる彼女は鼻唄混じりにキーボードを叩いていた。

 

「いっくんにも活躍の場をあげなきゃねっ」

 

 空中に投影された幾つものディスプレイの一つにはフルフェイス型ISの設計図が表示されている。そのISの名は――golem。

 

「ふふん、細工は流々、後は仕上げを御覧じろってねー」

 

 そしてその隣のディスプレイには“亡国機業”の文字が表示されていた。

 

「そしてミーくんの見せ場も用意する! 流石束さんだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――黒幕、始動。

 

 




一体、何ノ之束なんだ……。

鈴ちゃん可愛いけど、話つくるの難しい。

次回バトルを経てフランスとドイツへ。



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旧10 千冬さんが放課後授業をしてくる

バトルと言ったな、あれは嘘だ。見切りだからね、是非もないよネ!


 朝、目が覚めると当たり前と言わんばかりに例の四人(ミコトハーレム(笑))が朝食や洗濯、諸々の家事をしていた。

 勿論鍵はかけている。とはいっても合鍵がすでに出回っていたのでチェーンロックを千冬さんに頼み、後付けしてもらったものだ。つまり、鍵を持っていようがなかろうが、物理的に入って来れないようになっていたがこの有様である。

 更に恐ろしいのが、件のチェーンロックに傷が一つも付いていないことである。これが切られていたなら、納得はしたくはないが、理解はできる。切れば開くのだから当たり前だ。だが無傷となれば話が変わってくる。

 至極当然、切れば開くが、切らねば開かない。俺自身が開けない限りは不可能である。切った後に繋げるとか、新しいのを付け直すとか、方法はあるにしろ、どれも現実的ではない。

 いや、そもそもチェーンをどうにかできるはずはないのだ。束さん特製といえばお分かりいただけるだろうか。もしそれをどうにかできたのなら、この四人の中に束さん並みの化物がいるということになり、イコール地球破滅まったなし。恐ろしや。

 

「そうだ、ミコト。窓が全開だったわよ。学園内だから安全とは思うけど数少ない男のISなんだから気を付けなさいよねっ。本当無用心なんだから」

 

 とは鈴ちゃん。流石その無用心を利用しただけはある。説得力抜群である。全力で気を付けることにした。

 

「そう言えば、一夏。クラス代表になったんですってね」

 

「おう、本当はミコトがやる予定だったんだけどな。千冬姉が却下して流れ流され俺がやることになった」

 

「そ。ならちょうど良いわ、久し振りに賭けしない?」

 

「お、良いな。俺はIS学園に来てからのやつをダースで賭けよう。はじめてのISスーツがメインのやつ」

 

「くっ、そんなの賭けられたら私も秘蔵コレクション出すしかないじゃない」

 

「期待してるぜ?」

 

「……まぁ、良いわ。どうせ勝つのは私だからね!」

 

 朝食時。セシリアちゃんによるイギリス式の朝食に舌鼓を打ちながらの会話。

 一見、久し振りにあった友人と恒例であった賭け事の約束をしている青春ど真ん中の会話だが、素直にそう思えないのは気のせいか、それとも賭けられた商品に違和感があるせいなのか。

 秘蔵コレクションってそれ男同士の会話だと思うの。

 

「私は一夏に二ダース賭けよう」

 

「ならわたくしは倍で鈴さんに賭けますわ」

 

 そして他の友人達もその賭けにのり、かつては二人で行われていた遊びがこうして大勢で行われているところは大変微笑ましい。友人の輪が広がっていく感じがなんとも青春ぽい。ぽいぽいぽい。

 しかし、悲しいことにこの賭けに俺は参加させてもらえない。中学の頃から始まった遊びだが、織斑と鈴ちゃんと弾の三人でこそこそするばかりで、俺が何をしているのかを聞いても教えてくれないのだ。

 それは多分、低スペックすぎて勝てないであろう俺への配慮なのだろう。けして商品が俺だからとかそんなんじゃない。そう思いたい。真剣に。

 

「とりあえず参加費として一枚ずつ交換しましょ」

 

 俺が写った写真とか見てないし、存在しない。そうに違いない。早く授業にいこう。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「失礼します、織斑先生」

 

「よく来た。……ああ、それと今はプライベートだからいつも通りで構わん」

 

「わかりました千冬さん」

 

「ん」

 

 夕食を食べ終わり、冗談かと思われた千冬さんの部屋の掃除をやりにきていた。

 とは言ってもほぼ毎日来ているので、脱ぎ捨てられた服とか、散らばった書類やらを整理するだけなのですぐに終わる。

 この日も例にもれず三十分ほどで終えたので帰ろうとしたところで千冬さんに呼び止められた。

 

「ところで授業のほうはどうだ? ちゃんと理解できているんだろうな?」

 

「も、勿論ですたも」

 

 噛んだ。

 

「……ふむ。まぁたまには良いだろう。ミコト、教えてやるから少し座れ」

 

 加えて声が裏返ると言う動揺丸出しな嘘が通じるはずもなく、見破られた。

 しかし、教えてくれるとは思わなかった。怒られて織斑のように一週間で覚えろとか言われるものとばかり。

 予想外のできごとに驚きつつ、世界最強から一対一でISの授業を受けられるのは滅多にないことなので素直に受けることにする。

 おそらく単位をとれていなくても男性IS搭乗者ということで卒業はできるだろうけど、流石に格好悪いので願ったり叶ったりである。

 この際、わからないところを一つでも多く潰しておきたい。

 

「……あの、千冬さん?」

 

「どうした。む、そこは先程やっただろう。前のページをよく見ろ」

 

「あ、いえ、そのことではなくてですね……」

 

「ならばなんだ」

 

「……いえ、あの、この状況はなんですか」

 

「む……?」

 

 良くわからないと首を傾げる千冬さん。年上なのに可愛らしく見える大変素晴らしい仕草ではあるが、首を傾げたいのは俺の方である。

 今の状況を言えば、千冬さんに後ろから抱き締められていた。

 右肩の方から顔をだし、囁くように優しく教えてくれている。なんだこれ。

 それに背中に感じる圧倒的双丘。寝るときはしない派なのか、常識的に寝るときにはつけないのかは男なので知らないが、その、千冬さんはつけていなかった。布二枚を隔てているにも関わらず存在を大いにアピールしている。頑張れミコトジュニア。粘れ。

 

「あの、引っ付く必要は……」

 

「この方がすぐにミスに気がつけるからな。効率が良い」

 

 よりいっそう拘束が強まった。もはや勉強どころではない。これだから中身魔法使いは。

 

「……明日も授業だからな、そろそろ終わるか」

 

「あ、はい」

 

 なんとかバベルの塔を押さえ込み、どきっ放課後授業を乗り越えることに成功した。

 

「ミコト」

 

 さて、帰るというときに、またも千冬に呼び止められる。

 

「ん」

 

「ち、千冬さん?」

 

 立ち上がって俺を抱き締めると千冬さんは何事もなかったかのように敷かれた布団へ潜っていった。

 

 なんだこれ。

 




弾は蘭ちゃんのためだから、ホモとかじゃないから。……多分。

そしてヒロインズがただのヤバイやつらになってきたのでフランス辺りで軌道修正する予定。できたらいいな。


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旧11 世界が俺を覚醒したように見せかけてくる

良くあるお話


 

 亡国機業は“天災”が無人機でIS学園を襲撃するという情報を掴んだ。

 

 この混乱に乗じて襲撃し、御山ミコトを誘拐できれば、天災へのジョーカーカードになる。

 織斑一夏ではなく、御山ミコトの方が望ましいのは第二回目の時のあの事件のときのあの対応力と、ブリュンヒルデが助けに来るまでの間だけとは言え、生身でISから逃れる能力を買ったからである。それにIS学園に入ってからの戦闘も織斑一夏を軽く凌駕していた。

 その彼を交渉、あるいは洗脳してでも引き込むことができれば戦力の大幅な強化に繋がる。

 加えて身内であるブリュンヒルデも迂闊には手を出せなくなるだろう。

 

 

 ――天災と亡国機業、二つの最悪が動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、クラス対抗戦開始の数秒前。

 

「はっ、こっちの作戦はお見通しってか?」

 

「……」

 

 亡国機業、その実働部隊“モノクローム・アバター”に所属するオータムはそう言った。

 目の前には男――御山ミコトがいる。数年前に出会った時の逃げることだけを考えていたそれとは違い、戦う者の目をしていた。

 背後にいる生徒達を守らんとするように立ち塞がるミコト。何人たりとも通さないという意志は鋭く冷たい殺気となりオータムへ放たれる。

 

「良い顔になったじゃねぇか」

 

 対してオータムは笑顔を浮かべた。触れてしまえば斬れてしまいそうな殺気、明確な殺意。

 肌がピリつく。まさに戦場のそれ。戦闘狂の側面もあるオータムは歓喜に震えた。

 オータムは男が嫌いだ。存在そのものが嫌悪の対象だった。

 だが、この男だけはどうも嫌悪感が沸かない。他の男とは何かが違う。

 だからこそ当時も亡国機業に勧誘したし、ペット感覚で可愛がってやるのも良いかもしれないと思っていた。

 そして今、確信する。彼は同類だと。こちらの動きを観察し、いつでも動けるようにしている。

 冷静であるし、落ち着いていた。だがその内に秘めるのは荒々しい獣。

 まだ未熟なのか、獣の気配が滲み出ている。少しでもオータムが殺意を見せればその息を止めるため、爪を、牙を、持ちうる全てを惜しみ無く振るうだろう。

 彼もまた戦闘狂なのだ。オータムは再び震える。早く、早く牙を交えたい。そして本能のまま、貪るように殺し合いたい(愛し合いたい)

 オータムからドロドロとした殺気が溢れだす。ミコトの鋭く冷たい殺気とは違い、荒々しく燃えるような殺気。それぞれがぶつかり合う。

 殺気を通して重なりあう二人。感覚は研ぎ澄まされ、互いの全てが手に取るようにわかる。

 息遣い、心臓の鼓動、まるですぐそこにいるかのような、抱き合い互いを慰めあっているそんな感覚。

 

 最高の殺し合いにするために最高のタイミングを探る。

 

 当初の目的などオータムの頭のなかにはない。ただ、ミコトと愛し合うことで頭は一杯だ。

 一瞬、恋人のスコールの顔が過る。だがそれでも我慢ができない。こんな感覚は初めてであった。

 

『それでは両者、試合を始めてください』

 

 オータムの視線の先、ミコトの背後でクラス対抗戦が始めるための合図。

 同時にそれはこちらの合図ともなった。現れる乙女(戦神)とそれを狩らんとする蜘蛛(アラクネ)

 

 展開された大口のレーザー兵器。寸分の狂いもなく乙女へと吐き出される。

 それに対し、避ける必要もないとばかりに優雅に揺れる乙女。直撃の寸前、顕現した刀でそれを切り裂く。

 

「良いねぇ!」

 

 八本の足を利用した変則的な動き。オータムの操縦技術も加わり、それを捉えるのは容易いことではない。

 戦神の【戦死者を選定する女達】により、全てのISコアから戦闘データを取り出し再現する事ができる。

 それはあのブリュンヒルデの動きすらトレースすることができる。

 しかし、だからといってブリュンヒルデと同等の戦闘ができるかと聞かれれば答えはノー。

 ブリュンヒルデの強さは、その人離れした反射神経と圧倒的な戦闘センスにある。

 それらによりブリュンヒルデはその場、その場で新しい対応をできるが、戦神は既存の対応しかすることができない。

 言ってしまえば何千、何万という戦闘データでも対応できない動きをされれば対応不可なのだ。

 それに何万という数、いや、それ以上存在する戦闘データだが本当の意味で“使える”データはそれこそモンド・グロッソ出場者のデータくらいのもの。

 

 そしてオータムの操るアラクネは表舞台に出る前に強奪された機体――つまりそれに対するデータは一つもない。

 アラクネ自体のデータは存在するが、それと相対したISのデータどれも使えないものばかり。オータムの能力が高すぎて、戦闘にすら発展していない。

 

『……まずいぞ、旦那様』

 

 神殿。戦神のISコア、ユリアの造り出した世界。戦神を操っているのはミコトではなく、彼女だ。

 そしてその彼女は焦っていた。並大抵のIS相手なら問題は皆無だ。もし、その範疇を越えていたとしても瞬間に動きをトレースして食らい付き、隙をついて有効的な攻撃を再現すれば勝つことは難しいことではない。

 アラクネはISの中では異形の八本足。その動きをトレースするのはほぼ不可能だ。

 今はなんとか食らい付いているが、時間の問題。このままでは負ける。

 

『くっ、どうすれば良いのじゃ』

 

 焦るユリア。不意にその肩が叩かれた。

 

「――どけ、ユリア」

 

 いつも温和な彼の表情は酷く冷たく、無表情。瞬間、音を立て神殿が崩れる。

 真っ白だったそれは漆黒に塗り潰され、やがて世界を生み出す。

 

 【戦死者を選定する女達】が解かれる。それは死を意味していた。それがない戦神はただの糸の切れた人形でしかない。

 停止する戦神。オータムがそれを逃す訳はない。瞬時加速、目前、その命を刈るため足が振るわれる。

 

「おいおい……!」

 

 四本の足が消し飛んだ。白銀の槍。巨大な槍が戦神の右手に握られていた。

 

「邪魔だ退け」

 

 オータムが驚き喜んだ束の間、槍が迫る。死。抗うため差し出された足は、氷が溶けるようにいとも容易く拉げた。

 足のもがれた蜘蛛は地を這う。間も無く解け、オータムは生身で神の前に転がる。

 

「――殺れよ」

 

 オータムは死を覚悟した。いや、受け入れた。敗者にあるのは死のみ。

 それが戦闘狂同士の戦いなら尚更。

 

「……」

 

 だがミコトはISを解除した。オータムなど眼中にないかのように隣を素通りしていく。一度も振り返ることなく、去っていった。

 

「舐め腐りやがって……!」

 

 痛む身体に鞭を打ち立ち上がる。本当は追いかけて殺してやりたいがダメージが大きくアラクネも使えない。

 憎悪()がオータムの中で生じた。そしてそれはヤるだけヤって捨てていったミコトを思うほどに増加していく。

 顔が怒りによって歪む。怒り()が身体を蝕んでいく。今すぐにでも撒き散らしたいほどのそれ。

 だがオータムはなんとかそれを押し止めた。

 次、次だ。次会ったときに殺す。楽しむことはしない。憎悪をもって惨たらしく殺してやる。

 オータムはそう決意し、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 一方ミコトはクラス対抗戦の会場より、結構な距離がある男子トイレで用を足していた。

 

「しかしあのISなんだったんだ? ……まぁどうせ束さん辺りの仕業だろ」

 

 対抗戦が始まる直前、我慢していた尿意に勝てず、対抗戦に出る友人二人には悪いと思いつつトイレへ向かった。

 そして立ち塞がる謎の女。誰だ? なんて考えていると彼女はISを展開した。

 それに反応し、自動的に戦神が展開される。そこらからミコトに記憶はない。偏にトイレに行きたい、それだけが記憶に残っている。

 気が付けば女は倒れており、戦神も待機状態へ移行していた。

 訳がわからなかったがいつものようにユリアが勝手に倒してくれたのだろうと判断し、トイレへ一直線。

 

 ことの真相はこれである。

 

「もう終わったかな」

 

 オータムから憎悪を抱かれ、ユリアはより一層惚れ込み、その様子を影で見ていた生徒会長は微笑み、モニター越しに天災は手を上げ喜び、その報告を受けて世界最強は当たり前だと笑った。

 

「……鈴ちゃんに怒られるぞこれ」

 

 心配すべきはそこではないが、本人は何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな一幕

 

 

 

 




尿意には勝てないからね、是非もないよネ。

オータム「良いねぇ……!」

ミコト「トイレトイレトイレ」

ユリア「まずいぞ、旦那様」

ミコト「トイレトイレトイレトイレ」

思い付かなかったからこれで勘弁してくれると嬉しいな!




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旧12 転入生が俺の心を惑わそうとしてくる

ホモじゃないよ! ホントだよ!


 謎のIS乗りの襲撃を乗り越え、目的を果たした俺がアリーナに戻ると試合は既に終わっていた。いや、終わっていたというよりは中止されていたというのが正しい。

 なんでも、人の乗っていないIS――無人機が乱入したせいで試合どころではなくなったのだとか。

 

「褒めて、褒めてー!」

 

 会場に張られたバリアかなにかがハッキングされて無人機と一緒に閉じ込められた織斑と鈴ちゃん。

 なんとか逃げ回りバリアの解除と教師陣の突入まで持ち堪えろという教師陣の言葉に、倒してしまっても構わないのだろう? と返し、十分かからず撃破に成功。これにより今回の事件は幕を下ろした。

 以上の説明を千冬さんが終えたのと同時に、その後ろでウズウズしていた鈴ちゃんが飛び出し鳩尾タックルからの褒めて攻撃、それによりその場にいた全員から飛ばしてくる鋭い視線が突き刺さり、肉体的にも精神的にもミコトさんのライフはゼロです。

 

「俺も頑張ったんだぜ」

 

 わかったから肩を組まないでくれないかな。そんな趣味はないんだよ織斑。

 

 結局そこに箒ちゃん含め皆が寄ってきてもみくちゃにされる。これがハーレムの宿命なのかと戦慄しつつ、一度この状況に対して真剣に考えなければならないと改めて思った。

 好意自体は嬉しいが、理由が不確かな好意と言うのは言いようもない恐ろしさがある。

 よくよく考えてみればおかしいことはこれだけではない。鈴ちゃんのときの茶番もそうだし、理解に苦しむ場面が幾つもあった。

 そもそもISとはなにか。当たり前のように存在しているが前世にこんなものはなかった。如何せんそれ以外が前世と同じだからこの疑問も薄れていたがやはりおかしい。俺が今経験しているのは単純な転生ではなく、別世界への転生なのだ。

 いや、それどころか転生なのかも怪しい。神様とか名乗っていたアイツが本当に神様という保証はないし、可能性だけならこの世界はつくられた仮想世界とかでそのモルモットにと誘拐されただけというのも在り得ない話ではない。

 震えた。俺は今どこにいる? 目の前にいるコイツらはなんだ? グルグルと巡る思考と恐怖。逃げ出したくなる。

 

「ちょっと、箒! アンタ二回目でしょ!」

 

「早い者勝ちだ」

 

 ギュッと抱きしめられた。箒ちゃんから始まり、セシリアちゃん、鈴ちゃん、順に皆に抱きしめられていく。嬉しそうな彼女たちを見ていると、先ほどまでの思考が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 確かに、コレが偽物だという可能性はある。だからといって頭ごなしに否定するのは違う。彼女たちが偽物だという可能性があるのなら本物だという可能性もある。

 別に今すぐどうにかされるということはないだろうし、疑問は晴れないが急ぐ必要はない。ゆっくりとこの世界を理解していけば良いのだ。

 

「ほら、ミコト、俺の番」

 

 撤回。今すぐ元の世界に帰してください。

 

 

 

 そんなホームシックにかかりながら、むかえた休日。織斑に誘われ学園外に来ていた。

 本来ならば織斑と二人きりででかけるのは気が進まなかったが、友人である五反田弾に会いに行くということなので付いてきた次第である。

 

「良いよな、お前らは。女だらけのハーレムじゃねーか」

 

「弾、良く聞け。そんな良いものじゃないんだ。猥談もできず、趣味も合わない。しかもISの授業が難しいから予習復習で時間が奪われる。ハニートラップのせいで女関係には気を張らないといけない。

 気を張らないで良い身内とか代表候補生とかも、基本的に飯か特訓の二択。そのせいでプライベートは勉強と特訓で頭と肉体をやられる。

 なぁ、弾。俺はもう駄目かもしれない」

 

「……頑張った、お前は良く頑張ったよミコト。今日は思う存分ゲームして猥談しような」

 

「弾……俺はお前が友達で良かった」

 

「よせよ、気持ち悪い」

 

 二人して笑い合う。笑ったのは久々かもしれない。やはり友人との時間は尊いものだ。特に弾は、ボディータッチのやたら多いグレー織斑とエロ魔人数馬とは違い至極普通の高校生なので安心感がある。それこそここに来る前の友人と過ごしているかのような感覚。

 もうこのままここで暮らしたい。そして普通の高校に通って青春するんだ。

 

「ミコト、弾、飯できたぞ」

 

 そんな願望は幻想といわんばかりに、下の厨房で弾の祖父である厳さんと昼飯をつくっていた織斑が、滅多にない俺の癒しタイムをブレイクしてきた。おのれ織斑。いや誰も悪くはないんだけど。もう少し弾と二人で談笑していたかった。

 

「――っ」

 

 そこで気が付く。弾への好感度が高すぎることに。

 

 久しぶりの男子との交流で改めて男と話す方が楽しいと感じてそれで好感度が高くなっているのか? いや、それにしても”もう少し弾と二人で談笑していたかった”は、いくらなんでも……。

 顔が青ざめていく。ガタガタと体の震えが止まらない。いや、あり得ないだろ。だってそんな、まるで織斑じゃないか。大丈夫、息を吸え。素数だ。

 よし、大丈夫。俺は女が好きだ。おっぱいが好きだ。大丈夫。ほら、だって弾を見ても別に鼓動が早くなったりしない。あれだ、友人との会話を惜しんだだけなのだ。

 危ない、危うく流されて自分がそうなのかと勘違いをするところだった。

 

 俺はノーマルだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと今日は転入生を紹介します! それも二人ですよ!」

 

 俺はまともだということを再確認した休日を終えて、日常が始まる。

 どこのISスーツを買うとか、御山くんたちのスーツってどこのやつなの? とか、御揃いなんだぜとか、やっぱり二人は……とか、早速逃げ出したいような朝の喧騒に耐えて朝のSHRが始まった。

 そして開口一番に山田先生が言い放ったのがその言葉。

 こんな時期に、しかも二人も転入生が我がクラス――男のIS乗りがいるクラスにやってくるとなると色々と大人の事情が垣間見える。

 

「じゃぁ、入ってきてください」

 

 さて、どんなやつか来るのかと待ち構えていると金髪と銀髪の二人が入ってきた。

 対照的な二人。柔らかな雰囲気の金髪と鋭い雰囲気の銀髪。唯一同じなのは二人ともズボンを履いていること。

 

「じゃあ、自己紹介お願いしますね」

 

「はい」

 

 金髪が一歩前へ出て自己紹介を始めた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。こちらに僕と同じ境遇の、男の搭乗者がいると聞いて転入してき――」

 

 彼がそこまで言ったところで、クラスの皆から黄色い声が上がった。

 三人目の男性IS搭乗者。しかも美形となれば騒がざるを得ないだろう。

 それに対し千冬さんは呆れた様子で、織斑は耳を塞ぎ、山田先生はあたふたとして、銀髪の少女はムッとして、そんな中で彼は困ったような顔でこちらに視線を向けた。

 

 視線が合う。

 

 そして彼は優しく微笑んだ。これからよろしくね、そういった類いの意思を込めての微笑み。

 

 

「……嘘だろ」

 

 

 そんな中、俺はというと混乱していた。

 

「鼓動が早い……? ドキドキしている……?」

 

 男相手にである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――拝啓、御父様御母様

 

 

 あなたの息子はホモかもしれません。

 

 

 




【悲報】ミコトさん、男装金髪に騙されホモかもしれないと困惑


パッと書いたのでミスが多いかもしれません。


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旧15 睡魔に負けた俺が銀髪を勘違いさせる

生きてるよ!


 チュンチュン。

 

 なんとか天然兵器ハニートラップ(シャルルちゃん)を乗り越え朝を迎えた。耐えきってみせたぞ俺は。

 しかし、一歩間違えば朝チュンになっていたほどに過酷な戦いであった。証拠に一睡もできていない。少女特有の柔らかさと優しく良い匂いが理性を攻撃して寝るどころの話ではなかったのだ。

 

「寝るな」

 

 だからと言ってそれを言うわけにもいかず、千冬さんに叩かれる始末。言ったところでこの未来は変わらないだろうけど。

 授業中、睡魔に負けて沈黙していたところ撃沈したのが現状である。寝たい。

 

「では授業を終える」

 

 残りの時間を眠らずに耐えて本日の授業は終了。千冬さんに叩かれた数知れず。早く帰って寝よう。

 しかし、この調子でいくと俺は死ぬのではなかろうか。なにせシャルルちゃんと同じ部屋である限りあの添い寝は回避できず、即ち寝れないのである。……もしやこれが狙いなのか?

 今までのは全て演技で、眠らせないようにし、自滅させデータ取り放題という巧妙な策とか。むしろ男許すまじの女組織が企てた暗殺の可能性もある。証拠を残さず手を汚さず、完璧じゃないか。

 ……いや、睡眠不足で殺すとか有り得ない。死ぬ前に寝ちゃうもの。そもそもフランスの代表候補生として来ている時点で暗殺よりはデータの収集の方が有り得る。

 ダメだ、眠すぎて頭が上手く動かない。当初の予定通り帰ってシャルルちゃんが帰ってくるまで寝よう。

 

「御山ミコト、話がある。少し付き合え」

 

 いつものメンバーを振り切り、自室に向かっていると銀髪の少女、ボーデヴィッヒちゃんに呼び止められた。

 早く寝たいところではあるが、彼女には俺がホモかもしれないと困惑していたところを助けくれた恩がある。

 少しくらいなら我慢できるので彼女に付いていくことに。

 

「応じてくれて感謝する。先ずは一言謝罪させてくれ」

 

「……あぁ、いや」

 

 人気のない場所に連れていかれ、最初はカツアゲ的なことかと思ったが違った。

 何故か謝られている。正直心当たりがない。彼女に謝られるようなことはされていないのだ。

 

「ありがとう、優しいのだな。あの時のビンタもわざと受けてくれたのだろう? 本当はお前の実力を見てから判断するつもりだったのだが……カッとしてしまったのだ。押さえられなかった。

 恐らくあそこで受けるか避けられでもしていたら余計に頭が沸騰していただろう。だが一発叩いてスッキリしたことで冷静になれた」

 

 ふむ、いやしかし、見れば見るほどキャラの濃い娘である。

 銀髪に赤目、眼帯をつけて容姿もいわゆるロリ体型でしかも軍人。千冬さんから聞いた話では眼帯の下は金色らしい。確かその目はISを補助するための手術かなにかの結果だとか。それに彼女自身は試験管ベー――いや、待て千冬さん喋り過ぎだこれ。凄い込み入ったところまで話してるぞ。俺はどんな風に彼女と接すれば良いんだ。気まずいとかいうレベルではない。しかも一方的に知ってるとか人として有り得ないのではないだろうか。しかも人伝で聞くという。

 

「もう教官に相応しくないなどということは言わない。イギリスの代表候補生との戦い、無人機との戦い、明らかに私を越えている。それにどの戦いも全力ではないと見た。教官もその実力を買ってい――む、どうしたこちらを見て固まって」

 

 急に昼休みに呼び出し、世間話をするようなノリでここまで話しちゃった千冬さんとそれを何の突っ込みもなしに聞き終えた俺にドン引きである。

 眠たくて正常な判断ができなかったと言い訳しつつ、聞いてしまったことは仕方がないと割りきることにした。

 

「……聞いているのか?」

 

 彼女のけして普通ではない、簡単には触れてはいけない過去を一方的に知ってしまった俺は、大人としてどうすれば良いのだろうか。

 いくら中身がおっさんでも、このような経験はない。社会にでていれば少しは違ったのかもしれないが、生憎と高校生で死亡、二回目の高校生という摩訶不思議なおっさんにはこれをどうにかすることはできない。

 素直に聞いてしまったことを謝るのが良いのだろうか。それとも黙っているのが良いだろうか。悩めど答えはでない。眠さも助け、頭が回らないのだ。回ったところで答えはでないのだろうけど。

 

 あー、ダメだ、眠すぎて何を考えているのかすらあやふやになってきた。

 

「……無視は良くないぞ、御山ミコト」

 

 

 思考が混濁し、視界もぼやけて平衡感覚が失われてい――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ミコトはついに睡魔に負けて眠りに落ちた。

 

「おい、御山ミ――」

 

 返事もなく、フラつくミコトに首をかしげるラウラ。どうしたのかと聞こうとしたところでミコトはバランスを崩し、ラウラの方へ倒れこんだ。

 予期していなかったそれに判断が遅れたラウラもそのままバランスを崩す。そして、背後にあった壁に押し付けられた。

 

(こ、これは壁、ドン……!)

 

 瞬間、ラウラの脳裏に彼女の部下であるクラリッサとの会話が過る。

 

『む、それはなんだクラリッサ』

 

『これは少女漫画といって日本の恋愛について綴られている書物です』

 

『日本……教官の故郷だな。……それでこの男は何をしているのだ?』

 

『壁ドンですね』

 

『……壁ドン? カツ丼とか親子丼の仲間か?』

 

『いえ、これは愛情表現の一つで、つまり――プロポーズの一種ですね』

 

『……日本には変わった風習があるのだな』

 

 

 

(つ、つまり御山ミコトは私のことを……!)

 

 

 様々な勘違いと偶然と陰謀が重なり、ラウラはとんでもない結論にいたった。

 そして、脳の許容量を越え、気絶してしまう。そのことにより、ミコトもろとも地面へ倒れてしまった。

 

 

 

 

 ――そんな勘違いを残した放課後の一幕

 

 

 

 

 

 




間が開きましたが生きてます。

設定やら方向性やら難しい。

とりあえず福音まではいきます。



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旧16 ポンコツな金髪が俺にあーんを強要してくる

壁|・;)

壁|・・;)ノシ  ミ○

壁|・;)


※2018/11/19 更新したのはこの話ではありません。詳しくは活動報告へ。よろしくお願いいたします。
※2018/11/23 本編から旧に移動させました。


「私ね、愛人の娘なの――」

 

 ――から始まる彼女の独白はまさに悲劇と言えよう。

 

 涙ながらに語る彼女を見ればそれが嘘偽りのない話だと信じられる。震える彼女を見れば、これからのことへの恐怖が本物だとわかる。

 

 しかし、それでもなんとも言えない気持ちになるのは何故だろう。

 

「……あの……服を」

 

「それで会社から――」

 

「……その前に服を」

 

「男として――」

 

 多分、というか十中八九彼女――シャルロット・デュノアが裸で、そしてここがシャワールームだからである。

 

 

 事の経緯は保健室で目覚めたところから始まる。

 睡魔に負けて寝落ちした俺は気が付けば保健室にいた。おそらくボーデヴィッヒちゃんが運んでくれたのだろう。また彼女には借りをつくってしまった。いずれ何かで御返しをしたいところである。

 ふと窓を見てみると外は暗く、時計を見れば既に食堂が閉じている時間。

 仕方がないので飯は諦め、とりあえず寝汗でベトつく身体を洗おうと部屋にむかった。

 そして部屋に到着。着替えとタオルだけを持ちシャワールームのドアを開け、そして停止した。

 言い訳にしか聞こえないだろうが、寝起きだった俺はシャルルちゃん――改めシャルロットちゃんの存在が頭からすっかりと抜け落ちていたのだ。

 

『あ』

 

『あ』

 

 さん、はい。

 

『きゃぁー!』

 

 というラッキースケベ。現実でこんなことが本当に起きるとは思わなかった。これ(ラッキースケベ)ってどのくらいの確率なのだろうか。多分、凄まじく低いと思われる。なんでこんなところで運を使っちゃうのかな俺は。こんなことなら宝くじでも、なんて逃避をしているとシャルロットちゃんが語り始めて今に至る。

 

 服を着てください、本当。

 

 というか本当にバレていないと思っていたシャルロットちゃんに驚かざるを得ない。

 

「君は何も見ていない、いいね?」

 

 的な良くあるごり押しに俺が同意した形だと思っていたがシャルロットちゃんは本気で隠し通したと思っていたらしい。でないと今正体を明かす理由がない。

 しかし、前回も今回も裸を見たことには変わりがないのに前回は隠し通して、今回は自白とはどういうことなのだろうか。今回も押し通せば良いのに、とシャルロットちゃんに視線を向けて察した。あれだ、あの、ほら、タオルが今回はなかったね、うん。バレたかバレてないかの基準そこなんだ。

 

 

「そ、それでこれからはどうするんだ?」

 

 視線を逸らして、今後の話をすることにした。女の子の裸を見るのは良くない。

 

「バレっちゃったから本国に呼び戻されるかな。それから多分、処分されちゃうと思う」

 

 処分。デュノア社の一員としての処分なのか、フランス代表候補生としての処分なのか、人としての処分なのか、女としての処分なのか、いずれにしても最悪の結果には変わりはないだろう。

 狭いシャワールームで二人裸で向かい合いシリアスな話をするというギャグというかシュールだな、と思っていたが思ったよりも重く厄介な話になってきた。

 いじめられていて、それを助けるくらい単純なものならすぐにでも手を差し伸べることができる。しかしことがことだけにどう動けばいいのかわからない。

 デュノア社は勿論、代表候補生だからフランスがバックにいる可能性もある。千冬さんが見逃しているのはそこら辺が関係しているのかもしれない。もしくは別の思惑があるのか。

 雁字搦めすぎて俺にはどうしようもないことである。下手をして余計にシャルロットちゃんの立場を悪くしたくはない。

 だからといって見捨てるなんて選択肢はない。たとえスパイもどきだったとしても友人として過ごした時間に嘘はなかった。

 しかし、動けない。こういうとき、織斑の正義感というか純粋さは羨ましく感じる。

 

「とりあえず服を着ようか」

 

「あ」

 

 話が終わったからなのか、ようやく気が付いてくれたシャルロットちゃんとシャワールームを出た。このままではシャルロットちゃんは湯冷めするし、俺は普通に風邪引きそう。

 

「……」

 

「……」

 

 二人揃って無言。

 

 さて、俺にはどうすることもできないと言ったのは俺個人ではということであり、協力を仰げばそれこそ世界を引っくり返すことさえできる、むしろ既に引っくり返しているほどの人脈がある。無論、千冬さんと束さんの二人だ。

 もうこの二人の名前があるだけで負ける気がしない。チートを通り越してバグである。チートもバグの内のような気もするが、兎に角この二人は凄い。

 なんというか今まで主人公が頑張ってきたことを片手間にやってしまう最強キャラのような台無し感さえあるのだ。事実、この前の襲撃も千冬さんなら生身で解決していただろう。

 ならもう早々に彼女達に頼れば良いのではないかと思うかもしれないが、何分効力が強いので代償が大きいのだ。

 例えば千冬さんに今回のことを頼めばおそらく丸一週間は拘束され訳のわからないことをさせられ、例えば束さんに頼めば丸一週間は拘束され下手をすればここに戻ってこれないだろう。過去の経験からの推測なのでおそらくそうなる。

 でもまぁ、友人のためだ。一週間くらい我慢しようじゃないか。別段、とって食われる訳でもないし。ただなんか抱き枕にされたり着せ替え人形にされたり、見つめ合うだけで三時間とかその程度のことだ。うん、ぼく、ダイジョウブ。友人のためジョーカーを切ろうじゃないか。

 

「――聞いてくれ」

 

 シャルロットちゃん。俺に良い考えがある。と立ち上がったところでポケットから何かが落ちた。

 

「――! そうか、その手があったんだね!」

 

 それは生徒手帳であった。何故か付箋がしてあり、開きやすいようになっている。そしてそのページを見てシャルロットちゃんは手のひらを叩いて喜んでいた。

 

「あっ……でも私は二人を騙して……ここに、いても、い、良いの、かな……」

 

 そして落ち込むシャルロットちゃん。その手がどの手か知らないが元々シャルロットちゃんにここにいてもらうために動こうとしたのだからそれ事態は問題はない。その趣旨を伝え

 

「――俺達友達だろ?」

 

「――うんっ!」

 

 的なことで締め括っておいた。我ながら適当である。しかしシャルロットちゃんが嬉しそうなので良しとしておこう。うん。

 

 

 因みに生徒手帳の開いたページには特記事項が書かれており、IS学園にいる間は干渉されないから安全だぜ、みたいなことが書かれていた。ぶっちゃけ三年の猶予があるだけで根本的な解決になっていないような気がするけれど、そこら辺はおいおい織斑辺りが解決してくれることを願っておこう。あまりジョーカーは切りたくないのである。

 

 

「ね、ねぇ、ミコト。あーん、して?」

 

 その後、何故か甘えん坊モードに入ったシャルロットちゃんのためにせっせとご飯を運ぶ俺でした、まる

 

 

 

 




織斑「付箋、貼っときました」




長くなるので言い訳は活動報告にて。なお、活動報告は一ヶ月後にはマイページとのリンクを切るので見たい方はそれまでにお願いします。

※2018/11/19
上記のあとがきは当時のものです。活動報告は今後切りません。ややこしいですが、よろしくお願いいたします。


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本編
00 世界が俺の命を狙ってる


雑魚でモブな少年がオリ主に祭り上げられるお話。


 数メートル程の横断歩道。別段特別なところはなく、ただただ普通の横断歩道。信号機も普通で特筆すべき部分はまるでない。

 

 時間は夕方。学生達が家路につく頃合いである。

 

 現に女子小学生、それも低学年の少女達がワイワイとはしゃぎながら歩いている。

 彼女達についても特に語ることはない。それこそどこにでもいる平凡な小学生だ。

 

「さきいくよー」

 

「まってー」

 

 一人が走りだし、横断歩道へ飛び出した。横断歩道の歩行者用の信号機の色は――赤。

 

 そして運悪く、トラックが迫っていた。

 

(……!)

 

(……!)

 

 運転手と少女、驚く両者。

 

 しかし、両者慌てず。

 

 今すぐブレーキを踏めばギリギリではあるが横断歩道へ差し掛かる前で止まることができる。

 少女の方もここで立ち止まらず走り抜ければ万一トラックが止まらなかったとしても轢かれることはない。

 端から見れば事故寸前であったが、運転手と少女は事故の可能性は皆無と理解していた。それを実行する余裕もあった。

 だから運転手はブレーキを、少女は次の一歩を、踏み出そうとしたところで二人の視界の中に一人の少年が現れた。

 

「……」

 

 見るからに平凡、見るからに“やれやれ系”、見るからに転生しそうな雰囲気。

 そんな少年はその“事故寸前”の光景を見ていた。

 

(轢かなきゃ!)

 

(轢かれかけてあのお兄さんに助けられて死んでもらわなきゃ!)

 

(そして死んだ彼を転生させなきゃ!)

 

 運転手と少女、そしてその場面を偶然見ていた神様の心が一つになる。

 

 彼をオリ主にしなければという使命感にかられた彼らは準備を始めた。

 運転手はブレーキに向かっていた足をアクセルに向けて全力で踏み込む。

 少女は駆け抜けようとしていた足を止めトラックの方へ体を向ける。さながら“迫るトラックに恐怖した少女”を演じてその場に座り込む。

 神様はスムーズに転生できるように書類を作製し、前々から用意していた転生者への台詞のテキストを読み直す。

 

 ――後は仕上げを御覧じろってね!

 

 三人の心はシンクロする。後は少年が少女を助けて代わりに少年が轢かれて死ぬ。そして神様により転生され、オリ主として別の世界で俺Tueeeするのだ。

 

 運転手はこの後に捕まることを覚悟していた。

 

 少女は自分の目の前で人が死ぬことによるトラウマを背負う覚悟していた。

 

 神様は一人だけ優遇して転生させることによる天界でのゴタゴタを覚悟していた。

 

 三者三様、背負うものは違えどそれでも等しく覚悟していた。

 

 それは彼が紡ぐであろう俺Tueeeハーレムの礎となるため。

 

 一秒とないその刹那、変哲のない横断歩道で繰り広げられるプロローグにすらならないプロローグのための一場面。その一瞬のための覚悟。

 

 さぁ、出番だよオリ主(ヒーロー)

 

 君の欲望(俺Tueeeハーレム)のためにその一歩を踏み出すんだ!

 

「は?」

 

「え?」

 

「あれ?」

 

 そして吹き飛ぶ少女。鮮血を撒き散らし、その小さな体を何度も地面に打ち付けやがて動かなくなった。

 運転手は唖然としてハンドル操作を誤り民家に突撃。

 

 見るも無惨な結果となった。

 

「タンマ、ちょっとタンマ」

 

 神様は予想外の出来事にテンパった。しかしそこは神様、記憶を消して事故直前にまで時間を巻き戻した。

 

 何かの間違いかともう一度繰り返してみるが結果は同じ。

 オリ主候補である少年は微動だにしなかった。

 

「おかしい」

 

「……この状況の方がおかしいかと思うんですけど」

 

 仕方がないので神様自ら少年に接触。

 

「テンプレだろ! トラックとそのトラックに轢かれそうな少女いたら助けるのが普通だろ!」

 

「いやしかし俺の運動能力じゃ少女は助けられても俺が死んじゃうんですけど」

 

「それで良いんだよ!」

 

「良くないよ、死にたくないもん」

 

「ないもん、じゃないの。ここはスムーズに死んでくれないと物語が始まらないの、わかる? わかったら少女を助けて死になさい」

 

「嫌ですけど」

 

「何でだよ!」

 

「いや……貴方死ねって言われて死にます? 死なないでしょ」

 

「……」

 

「それにほら、助けたとしても少女にトラウマ埋め込んじゃうじゃない。目の前で人がミンチって小学生にはキツいと思うんだ。トラウマを抱えて生きるくらいならいっそ、ねぇ? 人としてどうかと思うんですけど、そもそも俺関係ないですし、余計なことして人生終えるのはちょっと……俺にも家族とか友人いますし。そりゃ、少女には悪いけど、見知らぬ少女より自分の命かなって」

 

「テンプレに従えよ! 始まんねーよ! いい加減にしろ!」

 

「……何が?」

 

「転生だよ! オリ主だよ! 俺Tueeeハーレムだよ!」

 

「……」

 

「こういうことだよ!」

 

 

 

 

 

 神様パワーにより少年、無事に少女を助けて転生完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親友にならなきゃ!」

 

 

「男女とか言われていじめられてるところを助けてもらわなきゃ!」

 

 

「中国から日本に来たばかりでカタコトでいじめられてるところを助けてもらわなきゃ!」

 

 

「喧嘩吹っ掛けて決闘で負けなきゃ!」

 

 

「ラッキースケベで男装バレなきゃ!」

 

 

「変なシステムに乗っ取られたところを助けてもらって嫁にしなきゃ!」

 

 

 

 

 

 彼を巻き込まなければという使命感、ヒロインしなきゃという使命感。

 

 

「俺が何をしたって言うんだ……!」

 

 

 逆に何もしようとしないのが悪いんだよ、オリ主しないのが悪いんだよ、と彼に“俺Tueeeハーレム”をさせるために世界が動く。

 

 

 

 

 

 見よ、これが世界の強制力だ!

 

 

 

 



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01  織斑が俺を巻き込んでくる

転生者、名を――御山ミコト。


いきなり一人称になるという。実力がないから是非もないよネ!


「やーい! 男女!」

 

「男女! 男女!」

 

 なんともまあ、微笑ましい光景であろうことか。

 一人の少女を囲む数人の男子達。男女、男女と一つ覚えに連呼する様はどこからどう見てもガキのそれ。

 男が女をいじめるのはなんとやら、察するに真ん中のガキと左端のガキは彼女に気があるようだ。他はとりあえず騒ぎたいだけのクソガキだろう。

 

 確か理不尽に殺されたのが高校卒業間近の頃だったから今世を含めれば約十年以上前の光景が目の前に広がっている。

 普通はこんな体験はできないと喜ぶべきか、また十年程やり直さなければならないことに面倒がるべきか、強くてニューゲームに嬉しがるべきか、しかしその“強くて”が世間一般から見れば“雑魚”なので何時まで保てるか心配すべきなのか。

 

 目眩く思考や感情、してしまったものはどうしようもない。喚こうが喜ぼうが戻ることはない。

 なればこの二度目の人生、悔いのないように――とか言いつつ人間とはそう変わるものではない。死んでも治らないのは伊達ではないのだ。

 三日坊主なのも助け、気付けば前世と同じく流れていくだけの人生を送っていた。これからもそうありたいと切に思う。

 

 さて、未来像を描けたところで彼らのいじめ紛いの行為を止めるべきか否かの選択肢が俺に突きつけられている。

 放っておいて帰ってしまえばそれで仕舞いなのだろうが、織斑に掃除を手伝ってくれと頼まれている身である俺にその選択肢はない。

 

 どうするか思考する前に話の筋を一度逸らして織斑について少し触れておこう。

 

 ――織斑、織斑一夏とは子供ながらイケメンであり、尚且つ鼻につかない性格で運動もできて勉強もできる、そんな奴だった。

 彼とは当時、ガキどもと仲良く遊ぶだなんて苦痛から逃れ、且つ大人達には心配や不審を抱かせないようにとノラリクラリしていた俺を“友達ができない可哀想な奴”と勘違いした織斑に声をかけられてからの付き合いである。 

 “良い奴”なのは確かだが、この織斑少年には少し不思議なところがある。

 具体的に言えばやたらと姉に会わせたがる。

 

「ちふゆねーはすごいんだぜ!」

 

「ちふゆねーはな、かっこいいんだぜ!」

 

 単なるシスコンか、イケメンが台無しだなこりゃ、と思っていたが行動がチグハグだった。

 シスコンならば姉と他の男を引き合わそうとするだろうか。自慢したいだけの可能性もあるがどうも織斑の姉――織斑千冬を友人、あるいはそれ以上か、そんな仲にしようとしている節がある。

 やたら家に俺を呼び織斑姉と二人きりにしようとしたり、泊まっていけと強引に俺を引き留め風呂で鉢合わせるように仕組んだり。

 絵面が小学生と高校生なのだから一部の性癖の持ち主を除けばなんともない場面なのだがそれを小学生たる織斑弟がしているのがなんとも奇妙だ。

 ひょっとしたら彼も転生しているのかもしれない。でないとこの年で色恋とか、どう説明すれば良いのか。

 何がしたいんだ織斑。そんな疑問。

 あー、そう言えば織斑姉も姉で変な人だった。俺の顔を見るなり「なるほど、聞いていた通り隙がない」とか訳のわからないことを言ったり、竹刀を俺の目の前で当たらないように振った後に「今のを避けるか、やるな」と言ったり、いやいや貴女が外しただけですよ、とは言えず。

 ともかく、織斑家は姉弟揃ってどこかおかしいらしい。早々に縁を切りたかったが許してくれず。

 というわけで今でも交流は存在している。できれば織斑とは距離を取りたいので本当であれば掃除を手伝うなんてしたくはないのだが、言い難い恐怖がそれを邪魔する。

 というより、一度断った時に凄く面倒なことになったので聞ける範囲なら彼の願いを聞いてやろうといった次第である。

 

 

 戻して、止めるか否か。

 

 

 俺が本当の子供であれば本能のままに行動に出ていただろうがなまじ中身が大人なので介入すべきかどうかの葛藤が生まれてくる。

 

 子供の喧嘩に大人が介入すれば確かにその場はおさまるであろう。しかし、子供同士のことで大人が出しゃばるのはどうであろう。

 危険な場合はそれが正しいだろうが、ある程度は放っておいて自分達で解決する場を与える必要もある。

 どれが正しいかわからない故の葛藤。勢いに任せれば楽なのだろうが、勢いに乗れるほど彼らに思い入れはない。

 

 ま、どうせ何時ものごとく織斑が止めて大団円だろう。そうやって女の子を落としているところを何度か見たことがある。この年で凄いな織斑。

 長々と思考しておいてこの結果である。

 

 掃除という単純作業中の暇潰しとしては上々なので問題はない。

 

「お前ら寄ってたかって楽しいのかよ!」

 

 ほら、言っている側から織斑(ヒーロー)の登場である。

 

「なんだよお前、その男女の味方すんのかよ!」

 

「もしかしてお前そいつのこと好きなのかよ!」

 

 なんともぶっ飛んだ等式であろう。味方するイコール好き、ガキ特有の算数である。

 

「好きとかそんなの関係ないだろ。困ってる奴がいたら助ける、それが男ってもんだろ」

 

 やだ格好良い。織斑、やっぱりお前転生してない? 格好良すぎる。とても小学生の台詞には思えない。俺が本当の小学生であった頃はどちらかと言えばクソガキの側だったからその年でその台詞が出ることが信じられない。織斑、お前俺の中じゃ疑惑の存在だぞ。

 

「だよな、ミコト!」

 

「……ん?」

 

 どうしてそこで俺に振るんだコイツ。いつもなら一人で解決するするだろうに。びっくりして返事の前に変な間が空いたじゃないか。いや、返事とも言えない返事ではあるが。

 

「だから、ミコトもそう思うよな!」

 

「え、あ、うん、そうだね」

 

 何故このタイミングで俺を巻き込んだ織斑。なんやかんやとそれだけはしなかっただろうに。

 

「それに男女ってのも気に食わない。どこからどうみても可愛い女の子じゃねーか! リボンも似合ってて可愛いだろ!」

 

 織斑必殺の真剣な顔で異性を褒める、頂きました。これで落ちた女数知れず。小学生なのに凄いよ織斑。

 

「だよな、ミコト!」

 

「……ん?」

 

 なんなの、今日の織斑なんなの。一々俺の同意を求めなくて良いんだよ?

 いつもみたいに俺を巻き込まずに穏便に済ませてくれるとミコトさん嬉しい。

 いいや、聞こえなかったことにして掃除を続けよう。優先すべきは掃除である。掃除万歳。ビバ掃除。

 

「だよな、ミコト!」

 

 掃除。掃除っと。

 

「だよな、ミコト!」

 

 掃除。掃除。掃除をしましょう。

 

「だよな、ミコト!」

 

「そーですね!」

 

 織斑お前は村人か、それしか喋れないのか“はい”を選択しないと進まないイベントかこれは。

 

「なんだよ、御山(みやま)! お前もコイツのこと好きなのかよ!」

 

「いや、別に」

 

「男女が好きとか物好きなやつー!」

 

「人の話聞いてくれると嬉しいな」

 

「やーい! やーい!」

 

「……」

 

 ガキ面倒くせぇ。

 

 しかし参った。標的が織斑から俺へシフトしてしまった。どうにかまた織斑に矛先が向くようにしかけたいがどうしたものか。

 ……仕方あるまい、大人の力見せてやる。

 

「あのな――」

 

 恥ずかしいのでカット。正論に正論を重ねて反撃させない大人気ないやり方で説き伏せ、言葉で勝てないと判断したガキどもが手を上げたところで織斑がカウンターパンチ。

 暴力沙汰で先生に呼ばれたりと大変だったが概ね問題なく事は終わった。

 

「そ、そのだな……ミ、ミコトのことは名前で呼ぶから、特別に私のこともほ、箒と呼んでも良いぞ」

 

 問題なのは自意識過剰でなければ俺にホの字っぽいこの娘である。普通は織斑の方にホの字になるだろうに。俺殆ど何もしてないんですけど。放棄しても良いですか。箒だけに……ごほん。

 

 しかし不思議なのは何故今回にいたって織斑が俺を巻き込んだのか。ま、織斑が不思議なのは今に始まったことではない。考えるだけ無駄か。

 

 

 

 

 そんな小学生時代の一幕。

 

 

 




モッピーさくっと攻略。他のヒロインもさくっと攻略していくよ!



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02 謎の茶番が俺を襲ってくる

茶番乙

鈴ちゃんも強制力の犠牲になったのだ。




 束さんとの出会いは例の放棄事件の翌日。放課後の帰り道であった。

 彼女はなんというか、騒がしい人だった。俺を見つけるなり「殺す」宣言をしたかと思えば手のひらを返して「ミーくん、愛してるぜっ!」と謎の愛を叫び去っていった。

 情緒不安定なのかなぁ、と心配して見送ったのは記憶に新しい。

 

 それから間もなく、各国から何故か日本へ向けて放たれた無数のミサイルをフルフェイスのパワードスーツが斬り伏せるという事件、白騎士事件が起こった。

 

 そのパワードスーツ――インフィニット・ストラトスを開発したのがなんと束さん。

 

 高校生にもなってフリフリのエプロンドレスに身を包んだ痛い人かと思っていたが凄い人だったらしい。

 頭の良い人はどこかネジが飛んでいることが多いので束さんの奇行はそういうことなのだろう。

 

 そしてこの変人束さんが大和撫子筆頭の箒ちゃんの実姉だというのだから世の中わからない。

 知力の姉、武力の妹、実はこの姉妹とんでもないのではなかろうかと俺の中で一時期話題となった。

 武力の姉、家事の弟のあの姉弟と並ぶ濃さであった。

 

 その後、この二組が知り合いどころか家族ぐるみの付き合いと知って俺はこの人達は敵に回さないよう気を付けようと思った。それほどにヤバい。

 特に姉二人。束さんの方はISの開発者であるところからお察し、千冬さんの方は……素手で鉄板に穴を空けると言えばおわかりいただけるだろうか。因みに鉄板は数センチ以上の厚さであったことをここに記す。やべぇ。

 

「あ、ありがとうミコト。……大切にする」

 

 リボンを胸に抱き、満面の笑みを浮かべる箒ちゃん。

 

 “ISやべぇ”となったため、その開発者である束さんの血縁者はどこかしらに狙われる可能性があるとかなんとかで箒ちゃんは引っ越すことに。

 その時にやたら“箒が新しいリボン欲しがってたアピール”や“ふむ、そう言えばリボンが安く売ってたなアピール”などの周り(織斑)の圧力により、強制的にリボンを箒ちゃんにプレゼントした。

 

 いや、プレゼントするのは良いけどさ。強制するのは良くないよ。こういうのは本人の気持ちというかなんというか。せめて俺に選ばせてよ。

 

 なんて言えず。まぁ、喜んでいたので良しとしよう。

 

「その……だな。こ、これを私だと思って持っていてくれ」

 

 箒ちゃんはプレゼントしたリボンをその場でつけ、元々していたリボンを俺にくれた。

 ……あれ、このリボン交換どこかで……確かリリカ……これ以上はやめておこう。

 

 

 

「パンダ! パンダ!」

 

「片言! 片言!」

 

「中国! 麻婆豆腐!」

 

 

 なんだこの既視感は……。そして悪口か何かわからない悪口は……。

 

 箒ちゃんと入れ替わるように中国から転入生がやってきた。

 名を凰鈴音。ツインテールと八重歯が可愛らしい少女。片言の日本語が可愛らしい。頑張ってるけど舌足らずっぽくなる片言が愛らしい。

 

 そしてこれは友達をつくろうと四苦八苦している姿を影ながら応援していた頃の話。

 

 影ながらではなく、手を差し伸べれば良かったかもしれないがしかし大人である俺がそれをしてしまうと少女の成長を邪魔することになりかねないのでやめておいた。

 精神が大人な俺が子供達に関わるのはあまりよろしくないだろう。

 

 ともかくそんな時期。

 

 凰ちゃんはいじめの標的となった。日本という外国に放り出された彼女は不安でオドオドした性格だったのでそれらが原因なのだろう。

 

 箒ちゃんの時と同じく俺が出ていけばこのいじめはなくなるかもしれない。だがそうはしない。

 

 大人が子供に手を差し伸べるのは本当にどうしようもなくなった時だけにするのが望ましい。

 その結果、傷ついたとしてもそれは成長に繋がる。命に関わること以外は放置するのが一番だと俺は思うのだ。箒ちゃんの時以来、そうすることにした。考えるの面倒だし。

 

 しかしそう心配する必要ない。なんてったってこのクラスにはヒーローが――織斑一夏がいるのだから。

 

「だよな! ミコト!」

 

 

 ま た か。

 

 織斑よ、お前は俺に何をさせたいのだ。この前女の子がいじめられてた時は俺を巻き込まずに解決したろうに。

 そのたまに俺を巻き込むそれはなんなんだ。いや、本当なんなんだ。

 

「なんだよ、御山。文句あんのかよ」

 

「あ? もしかしてお前リンリンちゃんのこと好きなのかよ!」

 

「ヒャッハー!」

 

 既視感が凄い。なんだこれ。

 

 俺がいったい何をしたって言うんだ……。

 

「好きってなら守ってみせろよヒーロー!」

 

 何そのザ・悪役みたいな台詞。

 

 心の中で泣いていると俺の知らぬところで話が進んでいたらしく、いじめっ子の一人が凰ちゃんを殴ろうとしていた。

 拳を振りかぶり、顔に向けて一直線。うわ、女の子殴るのは良くないよ。なんて思いつつ傍観。

 暴力云々は俺の仕事ではない。織斑の仕事である。そもそもトップスピードに到達した拳を止められるのは織斑くらいしかいない。俺には無理だ。頑張れ織斑。

 

「……」

 

「……」

 

 何故か織斑は助けにいかず、いじめっ子も拳を途中で止めた。

 そしてその場にいた全員が期待を込めた目で俺を見つめた。

 

「好きってなら守ってみせろよヒーロー!」

 

 まるで俺に止めろと言わんばかりのアイコンタクトの後、彼らはまるで何事もなかったかのように繰り返した。

 

「……」

 

「……」

 

 何この茶番……。俺に何をさせたいの本当に。束さん以上に奇妙すぎだ。病院に行った方が良いと俺は思う。

 

 依然として止めぬ俺に痺れを切らしたのか、凰ちゃんは俺の背後に、いじめっ子は俺の前に移動して拳を振りかぶり顔スレスレで止めた。

 そしてその拳を止めてカウンターを入れろとばかりの無言の圧力。

 仕方ないので軽くさわる程度にいじめっ子の頬に拳を当ててあげると有り得ない程の勢いで吹き飛んだ。

 

「お、覚えていろ!」

 

 負け犬の如くいじめっ子ズは去り、凰ちゃんは頬を赤く染め「ありが、ト」と言った。

 織斑は満足そうに腕を組み、頷いていた。

 

 

 

 

 

 ……なんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?」

 

「いや、流石に毎日は……せめて週一くらいだと助かる」

 

 後から「あれって味噌汁告白の酢豚版では?」と気が付き、マジレスしたことによる羞恥に悶えた。

 しかし酢豚をチョイスした鈴ちゃんにも問題があると思うの。

 

 あの謎の茶番からこれまたしばらく、中国に帰るときに彼女はそう言った。

 

 あれから日本語も上達した鈴ちゃんは元々の性格を取り戻したのか活発になり、元気で健康的な少女になった。

 男勝りなとこもあったりするが少女らしいところもあり、まさに美少女。

 初期のオドオドしていた鈴ちゃんも可愛いが今の鈴ちゃんはもっと可愛らしい。

 

 ファーストコンタクトは謎の茶番だったがあれ以降は普通だったので助かった。

 

 

 

 ……問題は鈴ちゃんも箒ちゃんの時と同じく俺にホの字となっているところである。

 

 

 いや、もうチョロインとかいうレベルじゃないんですけど……。

 

 ……考えても仕方がない。きっと若気の至りとかそんな感じのやつだろう。

 

 

 

 

 

 そんな現実逃避をした中学時代の一幕。

 

 

 




ミコトくんがもうちょっと乗り気だったら違和感なくラブコメれた模様。

強行手段の結果がこれである。

これで良いのか世界よ。




……え? 投稿の間隔?


なんのことかサッパリさ!



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03 世界最強の拳が俺達を襲ってくる

特に個性的な部分はなし。

タイトル通り、IS二次創作恒例の世界最強パンチを受けるだけの話。

多分、こうやって個性が死んでいくのだろう。

一話のような(自分でいうのもなんだけど)斬新な話が書けるようになれば良いのにな、と天に願いつつ。




 千冬さんがISの競技で世界一位になったり、応援しに外国にいったら織斑と間違われて謎の組織に拐われたり、その過程で謎の組織の人に何故か気に入られて勧誘されたり、普通では味わえない中学時代を経て受験当日。

 

 受ける高校は藍越学園。学費の安さと就職率の高さで有名な学校である。その分、求められる学力が高く、受かるのは難しい。

 とは言え、俺は記念受験のようなもので緊張の欠片もない。

 

 志望は公立一択なので受ける気はなかったのだが、隣で地図とにらめっこしている織斑がやたらと同じ学校へ行こうとしつこかったので受けることにした次第である。

 

 因みに俺に受かる要素は一つもない。強くてニューゲームをしているにも拘わらず、小学生以来テストで満点をとったことがないほどに頭は悪い。

 というより小学校の六年間で英単語も公式も抜け落ちた。正直に言えば中学も危なかった。自分のことながら不甲斐ない。

 

 そして現在、特典としてもらった桁がおかしい通帳がなければ受けようとも思わないその藍越学園の受験会場にて迷子となっていた。

 

「仕方ない、次のドア開けて違ったら中の人に聞こう」

 

 受験なんだから事前に把握しておけ、最初から人に聞けよ、地図くらいきちんと読めよ、などと突っ込みたいが今回織斑には落ち度はない。

 カンニング防止のためか会場は前日に伝えられ、会場内には何故かわからないが人も少ない、その上迷路のように入り組んでおり迷うのは必至。

 

 普通は会場の場所が前日に教えられたりするなんてことはないはずなのだが俺は知っている。

 その場所や時間、地図が封入された封筒に兎のマークが記されていたことを。

 それを見たとき織斑に伝えようと思ったのだが束さんのことである、二重三重に策を用意しているだろうという考えの下、伝えるのをやめた。 

 束さんが関わった事に関しては諦めるのが最善とこの数年で学んだからだ。

 馬鹿な俺ではあるが、災厄に単身無手で突っ込むほど愚かではない。

 

「あれは……IS?」

 

 そして開けた扉の先にあったのはインフィニット・ストラトス。

 

「なぁ、ミコト。せっかくだし触ってみようぜ」

 

 あっ……。

 

 いや、何も言うまい。なんとなくこれから起こることは察しがつくが何も言うまい。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「ちょっと、そこの生徒何し――って男!?」

 

 女性にしか起動できないはずのISを起動した織斑。そしてそれを見て驚く何処からともなく現れた女性。

 

 

 ――その日は世界初の男性IS搭乗者の誕生の日となった

 

 

 並びに二人目の誕生日となったこともここに記す。

 

 ……本当、残念なことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三年間頑張りましょうねっ」

 

「……」

 

 沈黙である。

 

 緑の髪という奇抜な副担任の挨拶を見事にスルーしたクラスメイト達には「目上の人を無視するのはいけないよ」と言ってやりたかったがしかし状況が状況なのでやめておいた。

 

 もっとも、状況が適していたとしても小心者の俺がそんなことができるはずもないのだが、なんて余談。

 

 世にも珍しい客寄せパンダ(男性IS搭乗者)が二人もいればそちらに集中してしまうのは仕方がない。立場が逆で男子校に女子がいれば俺だって先生の話を無視して凝視してしまう自信がある。そんな自信は必要ないけれど。

 

 今の状況を言ってしまえば女子の中に俺と織斑というハーレムである。

 

 そのハーレムが見た目だけというところが悲しいというか残念なところというか。しかしハーレム願望など特にないので別段そうでもなかったり。……でもちょっぴり期待したり。一人くらいは彼女ができれば良いな、とは思っている。

 ……非常に……非常に、残念ながら千冬さんからハニートラップの可能性があるからそういうことになる場合は申告しろとのお達しなので、実質三年間はガールフレンドは望めない。だって彼女ができたことを千冬さんに報告とかそれなんて羞恥プレイ。

 ……もしかすると死ぬまでできないかもしれない。ハニートラップ怖い。

 

 戻して。

 

 もっと具体的な状況を説明すると、俺と織斑は男性IS搭乗者として保護――という名目上モルモットになるはずだったが世界最強(織斑千冬)天災(篠ノ之束)のビッグネームが身内とわかりその案は却下。

 そして束さんの手により世界へ報道、揉めに揉めて俺と織斑がIS学園に進学することとなった。

 

 織斑はポカンとしてそのあとに俺の受験勉強が……と嘆いていたが、勉強などまったくしていなかった俺にとってはそれはもう万々歳であった。

 ハニートラップ云々で高々と上がっていた両手は下がってしまったが別のお話。

 

「織斑一夏、です」

 

 注意事項やらISについてやら、とてつもない量の情報を入学までの今までに詰め込まれたが、そも俺の頭では覚えられないと進言したが千冬さんの鋭い眼光には勝てず、電話帳ほどの参考書を読まされるはめとなった。

 一つ言っておくが読むべきはそれだけでなく参考書の他に教科書が追加される。馬鹿じゃねーの、と思わず叫んだほどである。あの時誰もいなくて助かった。

 更に追記しておくと、IS学園と言えど高校なので勿論IS以外の勉強もやることになる。

 強くてニューゲーム以下略。この頭脳が恨めしい。卒業できるかな……。できないだろうな……。

 まぁ、でも希少な男性IS搭乗者が留年というのは格好がつかないとかなんとかで政府の人がなんとかしてくれるだろう。最終手段として束さんに土下座するのもわるくはない。……十中八九千冬さんに風穴を開けられそうではあるが。卒業か、死か。

 ……卒業できるかな……。

 

 なんて思考の側では織斑が副担任に促され、自己紹介をしていた。

 しかし、この副担任でけぇな……たゆんたゆんじゃねぇか……。何がとは言わないけどさ……ナニがとは。

 

 んん、話を戻そう。

 

 そして織斑は名前とよろしくお願いしますの一言を言い終え、もっと情報を、と要求する少女達の視線を浴びながら声高らかに「以上です!」と言いきった。

 するとお笑い芸人よろしく彼女達はズッコケ、織斑自身には拳が突き刺さった。

 

「まともに自己紹介もできんのか」

 

「ち、千冬姉!?」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

 いつの間にか教室にいた千冬さんから二度目の拳が突き刺さる。反応を見るに織斑は千冬さんがここで働いていることを知らなかったようである。

 

「まぁ良い……おい御山、ついでにお前も自己紹介をしておけ」

 

「……はい」

 

 席を立つと同時にホログラムか何かで俺の名前が机の上に表示された。なんだこの技術は。

 前世では考えられない技術に戦慄。机にディスプレイが埋め込まれていたり、この世界は技術が進んでいる。いや、ISの時点でそれはわかっていたけども。

 

 束さんすげぇな。

 

 さて、自己紹介。千冬さんの言うことに従う他はないので自己紹介を始める。

 参考までに、従わなかった場合のことを想定すると俺は進行形で床で伸びている織斑と同じ末路を辿ることになるだろう。それはごめんである。

 

「御山ミコト……趣味は……」

 

 シンキングタイム。

 

 無難に読書でも良いが、ここは織斑を除けば女しかいない言わば敵地。

 下手なことを言ってしまえば明日はない。すると無難が本当に無難なのかという不安が襲ってくる。

 そうなってしまうとどれも正解のようで不正解にも思えてしまう不思議。

 

 ということで、こう言うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……特にありません!」

 

 

 

 

 床って冷たいんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 




もう正直に言ってしまえば、セッシーの決闘云々がモッピーと同室云々の後だったか前だったのか、そもそもどのタイミングでセッシーがワンサマに話しかけるのかとか、全く覚えてないどうしよう。

ぼかして書こう。

そんな感じの私の原作知識。今度アニメ借りにいこうかしら。もしくは原作買いにいくか。

そしてお気に入りが倍以上になっててビックリ。

評価バーが赤く染まってやがる……! と戦慄してビビりながら投稿。うぉ、こえぇ。



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04 織斑達が俺に決闘させようとしてくる

繋ぎのお話し

面白味も斬新さもオチもなし

次はちゃんとしたお話し!


……になると良いな


 千冬さんの拳がフルスロットルした後の自己紹介は滞りなく進み終え、休み時間。至福の時間かと思っていたがそうではなかった。

 人、人人。もはや外の風景が見えないのほどに廊下へわらわらと人が集まっている。

 目的は勿論俺と織斑。身近に珍しいものがあるとなれば野次馬になるのが人の性。当然の真理だった。

 目という目が俺達を突き刺していく。それは好奇であったり、嫌悪だったり、腐であったり、様々。

 その全てが少女ということに、モテ期到来かと喜ぶべきか、異性に見られ続けられることに対し胃を痛めるべきか。

 

「……少し良いか」

 

 机に突っ伏していると不意に声をかけられた。全員が全員、声をかけるか否かと探り合いをしたりキャッキャッしている時に声をかけてくる猛者がいた。

 

「箒ちゃん?」

 

「う、うむ」

 

 箒ちゃんだった。

 

 視線が気になるのか場所を変えようとは箒ちゃん。それについては同意だったので彼女の後をついていった。そして屋上へ。太陽燦々、良い天気である。

 

「……」

 

「……」

 

 指をツンツンさせて、時折こちらへ顔を向けて視線が合い、頬を染めて俯く。その繰り返し。

 非常に可愛らしい仕草ではあるが、沈黙には耐えられない系男子なのでなにか声をかけてくれると助かる。自分からかけても良いのだが女子に話しかけるの苦手系男子なので勘弁してほしい。

 

「ひさ……久しぶり、だな」

 

「そうだね、久しぶり」

 

 やっと声をかけてくれた箒ちゃん。任せろ、話しかけるのは苦手だが話をどうにかこうにか広げるのは得意系男子なのだ俺は。

 

「リボン、今でもしてくれてるんだな」

 

「あ、当たり前だ。これはミコトからもらった大切なものだからな」

 

 箒ちゃんはリボンへそっと触れ、嬉しそうに微笑んだ。なんと様になる光景だろうか。

 

「ミコトもリボン、つけていてくれたのだな」

 

「箒ちゃんからもらった大切なものだからな」

 

「こ、こら、真似するんじゃない!」

 

 頬を膨らませる箒ちゃん。艶のある黒髪、豊満な双丘、きゅっと締まった腰、スラッと伸びた足、そんな大人っぽい容姿とは裏腹な子供っぽい怒り方がなんとも刺激される。ギャップというやつだろう。

 眼福と共に、もっと的確で美しい表現ができる語彙力が欲しいと思った。

 

 緊張が解けた俺と箒ちゃんはその後少し話して、教室に戻った。遅れたら腹に風穴が空く。もしくは首がなくなる。

 

 

 戻るとすぐにISの授業が始まった。聞き覚えのない単語を教科書と参考書を睨みながらノートへ書き殴る。

 しかし内容は右から左へスルースタイル。見た目だけは真面目にしようという精神である。

 専門用語ってどうしてこんなに覚えにくいのだろうか。漢字の羅列だったり英字の羅列だったり、そして長いし似たような名前が多い。

 

 勉強なんて嫌いだ。くそったれ。

 

「古い電話帳と間違って捨てました!」

 

「馬鹿者が」

 

 織斑撃沈。

 

 勉強死すべしと呪い始めた頃であった。最前列で頭を抱えていた織斑が、でけぇ副担任の回文先生に何かわからないことがあるかと聞いたところ「まるっと全部わからない」と返し千冬さんの参考書はどうした、の問いに対する答えが先の電話帳と間違って、である。

 確かに厚さは似てるかもしれないが捨てる前に一度確認するだろう。いや、そもそも今時電話帳なんて見ないぞ。良くあったな。

 そして更に言えばそれを正直に話してしまうところが馬鹿だ。もう少しマシな嘘があるだろうに。

 可能性の一つとして、電話帳云々を言い訳として言ったにしても、もっとあるだろう。マジか織斑。大丈夫か織斑。

 

「……御山、貴様は捨てたなんて言わないだろうな」

 

「大丈夫です、持ってます」

 

 ノートもとって授業もきちんと聞く。理解できているかを除けば完璧である。褒めても良いんだぜ。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよろしくて」

 

 知識は身に付かず、疲労感のみが残ったグロッキーな状態で迎えた休み時間。幸いなのは次の授業が一般教養なところか。

 しかし英語か……もう良いんじゃないかな英語やらなくて。ISのおかげで日本語も浸透してきたし、共通語日本語で良いと思うんだ。今度、束さんに頼んでみようかな、そうしよう。それが良い。

 なんてことを思っていると見事に女尊男卑に染まってそうな高飛車っぽい女生徒が声をかけてきた。

 

「んぁ?」

 

 織斑、その返事はどうかと思う。

 

「まぁ! なんですのそのお返事!」

 

 から始まる織斑とのコント。その最中で織斑の天然ボケに対し周りの女子がまたもズッコケて早速クラスの団結力を発揮した。ここは芸人育成学校だっただろうか。

 

「覚えていなさい!」

 

 金髪の少女は俺に向かってそう宣言して去っていった。……また俺の知らぬところで話が進んでいたらしい。この思考を始めると周りをシャットアウトしてしまう癖はどうにかした方が良いと切に思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では来週、オルコット、織斑、御山の三名で代表決定戦を行う」

 

 クラス代表を自薦他薦の推薦で決めることになり、珍しさで男である俺と織斑が推薦された。それに対し件の金髪――セシリア・オルコットが男など笑止から始まる日本への罵倒を繰り返し自分こそがクラス代表と声高らかに宣言。それに対し、日本を馬鹿にされたと織斑参戦、当然のように傍観していた俺を巻き込み、決闘の流れとなった。

 聞けばオルコットさんはISの代表候補とのこと。ISに触れて間もない俺たちに勝ち目はない。にも拘わらず織斑はやる気満々だし、千冬さんは伸びきった鼻をへし折ってやれなんてあたかも俺が実力者のように言うし、箒ちゃんは特訓しようと剣道をさせようとする。俺剣道したことねぇよ……。

 

 

 

 

 

 

 そんな入学早々の一幕。

 

 

 

 




最後の辺りは思いつかなかったので大ざっぱカット。

実力がないから仕方ないよね!


次回ニューヒロイン登場。



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05 葛藤が俺を襲ってくる

オレンジになった。夢とは尽く覚めるものである。

今回は何書いてるんだろう私。というお話。

そして予告詐欺。ニューヒロインなんていなかった。次回には出せると良いな。


 箒ちゃんとの再会やら決闘云々やら、お腹一杯な初日を終えて放課後。初日から寮生活になるとのことなので、部屋割りやら鍵やらを貰うために織斑と話しながら教室で待っていた。

 他愛ない会話に花を咲かせていた。授業面倒だったとか、食堂の飯が美味かったとか、これぞ高校生な一場面。こうして青春をもう一度経験できたことについては、あの訳のわからない神様に感謝しても良いかもしれない。

 俺達を囲む女子がいなければの話ではあるが……。しかしまぁ、こうしてルールを無視した転生をした代償だと思えばいくらかは気持ちが楽だろうか。

 ……いや、そもそも転生は俺の望んだところではないのだからやはりおかしい。危なかった。危うくこの状態を受け入れるところであった。

 

「御山くん、織斑くん、お待たせしましたっ」

 

 しばらく。

 

 山田先生と千冬さんが現れた。

 織斑がそんなの聞いてないぞ千冬姉! 織斑先生だ馬鹿者、という今日だけで数度見たやり取りを披露したり、更に女風呂云々と織斑がホモ疑惑をかけられたり、それに俺が巻き込まれたり、薄い本が厚くなったりと考えるだけで頭が痛くなるような出来事があったが些細なことである。……そう思わないと保ちそうもない。誰が助けてくれないだろうか。

 女尊男卑でなくてもやれ痴漢だやれセクハラだと男子の立場が弱かった時代を、両手で吊革を持ったりアピールしながら頑張ってきた俺にとっては胃がマッハで赤ゲージへ突入しかねないこの学校は本当に死活問題である。もう一度だけ、誰か助けてくれないだろうか。

 

「……っと、ここか」

 

 俺に与えられたのは一人部屋。この学園は相部屋とのことなので織斑と同じ部屋かと思っていたがそうではないらしい。千冬さんが言うには貴重な男性IS搭乗者にストレスを与えないための配慮なのだとか。あとハニートラップを危惧して。

 庶民である俺にとってこの待遇こそがストレスの原因になりかねないがしかし女子と同じ部屋になるよりはマシなので我慢しよう。こんな時に手放しに喜べるような精神が欲しい。

 もっとも、日が経てば慣れて一人部屋最高となるのだろうが。この地位に溺れて男尊女卑思考にならないように気を付けよう。

 

「……広すぎないか、これ」

 

 明らかに広い。まるで二つの部屋をぶち抜いて一つにしたかのような広さである。というかおそらくその通り。なにしろ出入口用のドアが二つある。

 

「ん、帰ったかミコト。上着を預かろう。そうだ、風呂か夕食か、どちらにする?」

 

「え……あぁ、飯で」

 

「うむ、わかった。温めてくるから少し待っていてくれ」

 

 普通そこまでするのだろうか。この工事もタダではなかろうに。

 ベッドなんて二、三人は余裕で寝れるくらいの大きさだしテレビは見たことのない大きさであるし、ついでとばかりにブルーレイやらスピーカーやら高そうなオプションが目白押しである。電化製品に関しては全てが最新のお高いものばかり。

 IS学園のパンフレットによれば部屋にないはずのトイレまである。

 こんな暮らしを三年間も……。そう考えると卒業後に普通の暮らしに戻れるか不安である。

 

「よし、できたぞミコト。温かいうちに食べてくれ」

 

「あぁ、ありがとう箒ちゃ――箒ちゃん!?」

 

 気が動転してスルーしまっていたが何故か箒ちゃんが部屋にいた。なんというか居て当たり前かのような雰囲気でこの部屋に馴染んでいた。エプロンをつけて食卓に料理を運ぶ姿なんてまるで新妻である。

 

「ど、どうしてここに」

 

「何を言っている。夕食をご馳走すると約束したではないか」

 

「……そうだっけ?」

 

「む、私も怒るときは怒るのだぞ。約束を忘れるのは良くない」

 

「す、すまん、こんど埋め合わせよう」

 

「ほ、本当か!」

 

「……そんなに近寄らなくても嘘は言わない」

 

 ずいっ、と顔を近付けてくる箒ちゃん。興奮した様子で嬉しそうに言った。本当だと言うと、によによと笑顔を浮かべた。

 それからいただきます、と一緒に食事をとることにした。因みにメニューは箒ちゃんお得意の和食。とても美味しかったことをここに記しておく。ごちそうさまでした。

 

「では私は自分の部屋に戻るとしよう。暖かくして寝るのだぞ、ミコト」

 

「わかってる。おやすみ、箒ちゃん」

 

「うむ、おやすみ、ミコト」

 

 その後、洗濯物と洗い物と、俺の明日着る服やベッドメイキング、教科書の準備などを済ませた箒ちゃんは自分の部屋に戻っていった。

 悪いと思いながらも押しきられ任せてしまったが、心が痛む。本当、何故ここまでしてくれるのだろうか。

 ……いや、まて。もしかしなくてまだ俺にホの字なのだろうか彼女。

 六年ほど会っていなかったので半分忘れていた上にこれほどの時間が空いたので熱は冷めていたかと思っていたが、ここまでしてくれるということは……つまりそういうことである。

 

 ……うぉ、マジか……。

 

 罪悪感が凄まじい。端から見れば惚れられていることを利用して周りの世話をさせているクソ野郎である。悪逆非道もいいところである。

 しかもこれが相手の好意に気付いていないのならまだしも、気付いていてこの仕打ち。気付いているなら何かしらの返事というか……いやしかし告白もされていないのに返事というのは些か難易度が高い。これで勘違いなら死も同然だ。

 そもそも、どういう返事をすれば良いのか。好きか嫌いかと聞かれれば好きではあるが、それが恋愛的なものかと聞かれれば首を捻らざるを得ない。

 しかし、告白されたと仮定してみれば満更でもない気もする。我ながらクズっぷりが半端ではないがこれも年齢イコール以下御察しの俺なので仕方ない。拗らせるとこうなる。

 というか箒ちゃんがホの字になったのは小学生時代。その年頃に良くある大人に憧れる的な勘違いであるなら俺とくっつくのはよろしくないかもしれない。もっと良い出会いがある可能性である。

 だからと言ってその気持ちを“勘違い”だと決めつけるのも良くない。周りがなんと言おうと本人がそう思うのなら、それは紛れもない本物なのだから俺がとやかく言う資格はない。

 それどころか、俺の事が好きというのが幻想である可能性もゼロではない。年齢以下御察し特有の妄想も有り得る。

 

 

 

 一体どうすれば良いんだ……!

 

 

 

 結局答えは出ず。眠れぬ夜を過ごした。思春期って怖い。中身的にはおっさんだけれども。

 

 

 

 

 

 しかし、この件とは関係ないがどうやって箒ちゃんはこの部屋に入ったのだろうか。鍵がかかっていたはずなのだが……。

 

「ミコト、朝だぞ」

 

「……箒ちゃん?」

 

 なんて考えていると箒ちゃんがいた。どうも起こしに来てくれたようだ。

 

「……どうやって入ってきたんだ?」

 

「普通に開けて入ってきたぞ」

 

「普通に……?」

 

 何を言っているんだと首を傾げる箒ちゃん。おそらく鍵を閉め忘れたのだろう。

 

「うむ、普通に、な」

 

「まぁ良いや。それより箒ちゃん、ご飯食べに行こう」

 

「そう言うと思って作ってきた。食べてくれ」

 

 箒ちゃんはそういうと手に持っていた風呂敷を食卓に置いた。風呂敷を解くとお重が現れ、蓋を開けると美味しそうな朝御飯が顔を出した。

 

「あれ、箒ちゃんヘアピンなんて使ってたっけ」

 

 お茶をいれようと席を立った箒ちゃんのポケットからヘアピンが落ちてきた。

 

「ああ、持っていると色々便利なのでな」

 

「へぇーそうなんだ」

 

 そう言って箒ちゃんはヘアピンをポケットにしまい、今度こそお茶をいれに台所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……色々、とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒ちゃんが何かを言った気がするが良く聞こえなかった。多分、気のせいだろう。

 そう思いながらテレビの電源を入れるのであった。

 

 

 

 

 そんな朝の一幕。

 

 




どうしてこうなったし。

因みに黄色までは大丈夫。それ以降は多分心が折れて終わる。

や、優しくしてねっ キャルルン♡




はい。



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06 束さんが俺Tueeeさせようとしてくる

自ら勘違いして進んで惚れにいくスタイル! 流石セシリアさんやで!

そしてニューヒロイン、隠れたISヒロインといえばこれ! 



 ……いや、そんなことよりお気に入りとかがバグってるんですけど……うぉ、なんだこれ……

こえぇ


 本日、晴天。

 

 ハイキング日和、昼寝日和、人によってそれぞれではあろうがそれほどに気持ちの良い日である。陽射しも風も程好い。絶好の一言に尽きる。

 

「そんな……!」

 

 どこまでも続く蒼穹の中、降り注ぐ弾丸(レーザー)の雨。十や二十では済まないそれを紙一重に掻い潜り、避ける。

 

 

 ――片や、セシリア・オルコット操る“蒼い雫(ブルー・ティアーズ )

 

 

 ――片や、御山ミコト操る“戦神(ヴァルキュリア)

 

 

 大勢が見守る中、IS学園にあるアリーナにて二機のISが舞っていた。

 搭乗者は代表候補生と素人、ドがつくド素人。誰が見ても結果は明らかである。

 実力や経験、何をとってもブルー・ティアーズ、セシリア・オルコットの優勢であり、勝利は確実であった。

 

 ――あったのだが

 

「くっ、当たりなさい!」

 

 試合開始から二十数分。

 

 それこそ止まっている的を射貫くのと大差ないはずの簡単な試合。いや、試合と言うのも馬鹿馬鹿しい練習にもならない作業。

 

 しかし当たらず。

 

 セシリアの目の前でユラユラと嘲笑うかのように揺れ避けるフルフェイスのIS。

 最小限の動きでセシリアの攻撃を回避し、時に手にした剣で切り裂く。

 

 それがセシリアの怒りを掻き立てた。

 頭にある無駄な装飾――頭部から流れるように伸びた長髪のような金のケーブル――と動きに合わせて揺れるドレスのような腰アーマー。実用性よりデザインを優先したかのようなISに翻弄されるのが苛立った。

 ド素人が代表候補生である自分を嘲笑っているのが腹立った。

 

「お行きなさい!」

 

 スターライトmkIII(レーザーライフル)だけでは弾幕が足りないと判断したセシリアはブルー・ティアーズの名の由来ともなったブルー・ティアーズ(BT兵器)を展開させ上下左右、あらゆる角度から戦神を狙った。

 

 

『――この程度……か』

 

 

 フルフェイスのためか少しこもった声。しかし嫌に通る声。まるで期待外れと言わんばかりの一言だった。

 

 しかし、それに対してセシリア・オルコットが怒ることはなかった。怒りが一周したのか、許容量を越えたのか、その言葉はやけにセシリアの心に突き刺さった。

 

 この程度。

 

 この程度、ですって?

 

 セシリアの脳裏に過ったのはこれまでの記憶。

 両親の死。それ(遺産)に群がろうとする奴らから守るため勉強を頑張ってきたこと。IS適性、BTシステム適性ともにAという優秀さからブルー・ティアーズのテストパイロットに抜擢されたこと。それから練習を重ね、代表候補生となったこと。

 どれもセシリアにとっては誇れることであり、これがオルコット家だと貴族としても誇れることだった。

 

 その全てを目の前の男は“この程度か”の一言で切り伏せた。全てを否定されたかのような感覚に陥った。

 

 許せるだろうか。

 

「ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」

 

 自分の努力を否定され、家まで蔑ろにする目の前の男を許せるだろうか。

 

 答えは当然――否。

 

 ブルー・ティアーズを避け本体へ迫る戦神。対してセシリアは展開していなかったミサイル搭載のブルー・ティアーズを仕掛けた。

 しかしそれらは呆気なく破壊された。もはや回避不可。苦し紛れに乱射するが当たらず。

 

 その絶望の中、セシリアはこの男に負けるかという思いと自分の積み上げてきたものは本物だという確信をもって――成長を遂げた。

 

 

「――曲がれ」

 

 

 遥か後方へ消え去るはずのレーザーはまるで意思を持ったかのように曲がり、再び神を穿たんと迫る。

 ビームの偏向射撃。未習得であったその技術をもってして、神を討つ。

 “BT兵器展開時は自分が動けない”という致命傷をも克服。

 一種のトランス状態。今この時、セシリア・オルコットは国家代表レベルに足を踏み入れようとしていた。

 

 加速するブルー・ティアーズ。圧倒的弾幕。縦横無尽に駆け巡るレーザー達。さながら檻のように乙女を包囲し、ついにはその装甲に傷をつけた。

 それでも差は縮まらず。言ってしまえば装甲に傷をつける程度の攻撃しか通らないでいた。撃てども撃てども、致命傷たり得ない。全力を越えた力でさえも届かない。

 

 けれどセシリアの表情に絶望はない。清々しいまでの笑顔。口角を上げてこの戦いを楽しんでいた。

 

 彼の動きにはまだまだ余裕がある。その余裕から相当な実力を持っていることが推し量れる。それこそセシリアを負かすことなどものの数分で完了してしまうほどに。

 伸びきった鼻をへし折り、セシリアを陥れることもできた。上には上がいると叩きつけることもできた。

 

 であるのにそれをしなかったのは偏にセシリアの実力を引き出すため。女尊男卑に曇った目を目覚めさせ、余計なものを排除し、本来の力を呼び起こすため。彼女の成長を促すため。セシリアのためを思い優しく諭したのだ。

 

「インターセプター!」

 

 既にBT兵器もレーザーライフルも打ち砕かれている。残ったのは不得意なインターセプター(ショートブレード)のみ。勝てる見込みはない。

 

 それでも彼女は戦神のもとへ加速する。

 

 

 

 ――決着は間も無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――少し戻って

 

 

「……」

 

 一週間が経った。つまりはセシリア・オルコットとの決闘の日である。

 窓の外には燦々と輝く太陽。これまでに重ねた特訓の成果を盛大に披露するには絶好の日和。

 

 それとは対照的に俺の心は淀んでいた。曇りも曇り、曇天であった。

 

 それもそのはずと言うべきか。前世では考えられないことの連続で疲労困憊。グロッキーここに極めりといったところだ。

 女子という女子の様々な視線を集め、ISという専門的勉学。

 あとコスプレのようなこの制服。この腰に巻いている細いベルトのようなものははたして意味があるのだろうか……。織斑のようなイケメンが着ると様になるのだが、俺だとなんというか、浮いている。

 

 いやしかし、そもそも披露すべき実力も伴っていないのだから憂鬱にもなる。

 この一週間、決闘のためにやったことと言えば剣道のみ。しかも初心者だから服の着方や竹刀の握り方や作法や歩き方など、もはや剣道の“け”の字に突入したかも怪しいレベルで期限がきてしまった。

 体力を使い疲れるだけの日々。文句の一つも言いたいところではあるが「これで勝ったも同然だな」と誇らしげに胸を張る箒ちゃんを見ると何も言えなくなった。言えるはずもあるまい。

 

 良く考えれば何百時間とISに乗っていたオルコットさんにたかが一週間特訓したところで勝てるわけはない。ならば箒ちゃんを責める権利はなく、むしろ懇切丁寧に教えてくれたことに感謝するのが道理だ。

 道着姿の箒ちゃん、眼福でした。ありがとうございます。

 

「……」

 

 ……さて、現実逃避はやめよう。真正面から向き合う他ないのである。背けたいこと山の如しではあるが世の中、そう上手くは回っていない。嫌でもしなければならない場面などいくらでも転がっている。

 それが女尊男卑という男性の立場が低く、しかも男性IS搭乗者ということで、それを良く思わない女性から隙を付け狙われている身である以上、逃げ場は無いに等しい。

 ……おそらく束さんがいるから大丈夫ではある思うが、なるべく迷惑をかける行為は回避すべきである。

 しかしまぁ、気を付ける必要はないだろう。女尊男卑に染まった女性やらが出てくる前に千冬さんが俺を咎めるのは目に見えている。まず気を付けるべきは彼女である。理不尽な暴力は振るわないが、彼女の鋭い視線はある種、暴力より恐ろしい。

 

 もっとも、今回の場合にいたっては小学生レベルのとるに足らない我が儘なのではあるが……。

 

 現実を見ようと宣いながら、またも逸らしてしまっていたがそろそろ相対しなければならない。時間はすぐそこまで迫っているのだ。

 

「くっ、なんでこんなに……ピチピチなんだ……!」

 

 手にしたISスーツを力一杯に睨み付けた。

 

 俺が背けたい現実とはこれ(ISスーツ)のことである。スクール水着のようなピッチリと体に吸い付くのが安易に予想できるそれのことである。

 良く良く考えてもらいたい。これがプールや海ならば、まだ許せる。それでもやはり抵抗はあるが納得はできる。水に入ってしまえば気にならないということも納得できる要因だ。

 

 しかし、だ。

 

 これは名の通り、ISを操縦するときに着るものである。言うまでもないが水に入ることはない。

 想像してくれ、学校の校庭でプールがあるわけでもないのにピチピチの水着もどきを着ている男が立っている姿を。

 

 ……やばくないですかね。

 

 よしんば、それが許せたとしてもまだ問題はある。それはこの上下で分かれている構造にある。

 いや、分かれているのは良い。だがてめぇ、丈の短い上の部分は許さん。

 腹を出すメリットはなんだ。お腹出してると冷えてお腹が痛くなるだろ、ふざけるな、どういう考えでこうなった。そう、開発者には問い質したい。男の露出なんて誰が喜ぶんだ。

 

 ISスーツを着るのを躊躇う理由は他にもある。少し下世話な話にはなるが、ぶっちゃければエロい。

 通常のISスーツの見た目は俗に言うスク水にニーハイである。

 

 マニアックか! 誰だこんなの考えたの! ふざけるな! グッジョブッ!

 

 今回は決闘だけなのでまだ良いとして、今後は実習の時間はそんなエロエロな女子に囲まれて過ごすことになる。

 本当に下世話な話ではあるが俺のアレがアレするのは必至だ。頑張っても一時間もつ自信がない。

 しかもその時の自分の姿は例に漏れずISスーツ。そんなピチピチのスーツでアレがアレすれば丸見えのバレバレだ。そうなってみろ、俺の人生は終わりだ。回復の余地はない。お先真っ暗の悲しい人生の始まりである。終わったり始まったり忙しいことになる。

 

 聞くところによると別にISスーツを着なくてもISは起動するし駆動もする。事実、俺と織斑は普通の制服でそれをした。

 あくまでISスーツは補助なのだ。故に俺はこのISスーツを着ない。

 

 と、問屋は卸さない。

 

「着ろ」

 

 千冬さんの一言で撃沈。俺には勝てなかったよ……。

 

「着るしか、ないのか……」

 

 俺と同じく決闘をする織斑はなんの葛藤もなく着替えて出ていった。そろそろ俺も行かなくてはならない。時間とは有限なのである。

 

「……ふぅ」

 

 深く息を吐き、意を決する。俺も男だ。覚悟はできている。

 

 

 ――着るぞ……!

 

 

 

 

 

 

「遅い」

 

 そんな覚悟は通じず。すいませんと頭を下げたところ、頭上を出席簿アタックが通りすぎた。千冬さんは「避けるか、流石だな。……しかし遅れるのは良くない気を付けろ」と言っていたが偶然である。偶然万歳。

 

「これが御山くんのIS――戦神です」

 

「はぁ、これが……」

 

 専用機が与えられるとは聞いていたが、受け取った今でも実感はない。

 初戦は俺とオルコットさんとのことで戦神に乗り込むことに。

 

 最適化やらなんやら専門用語が並べられたが正直に言えば記憶にないので何一つ理解できなかった。とりあえず、行ってこいとのこと。逝ってこいの間違いだと思いました。

 ともかく、ISを起動しなければ始まらない。 馴れないISスーツ姿に羞恥を覚えながら戦神に手を置いた。

 

 

 

 ――ISに触れたらそこは神殿であった

 

 

 

 訳がわからないとは思うが俺にもわからなかった。

 戦神に触れて起動したらこの神殿っぽいところにいたのだ。説明を求む。

 

「良く来た、我が旦那様よ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……夢か」

 

「……まぁ、気持ちはわからんでもないが落ち着け我が旦那様よ。これは夢でも幻でもない、紛れもない現実じゃ」

 

 一言で言うなら透き通るような白髪のスタイル抜群の女性がドヤ顔でそこにいた。訳がわからないが、わからないわからないと喚くばかりでは話は進むまい。ならば怪しさ満点ではあるがこの女性の話に耳を傾けるのも悪くはない。

 

「今何か思わなかったか?」

 

「い、いいえ」

 

「……何か腑に落ちんがまぁ良いじゃろ。端的に言おう。儂はこの戦神のISコアじゃ」

 

「……はぁ」

 

「その様子じゃと理解していないようじゃの……。まったく我が旦那様は世話が焼けるのう」

 

 と困った風に言いつつ、嬉しそうに顔を緩めるこの美人さん。ええ……なんなのこの人……。

 そして然り気無く旦那様と俺を呼んでいる辺りに戦慄しつつ、織斑と同じ部類のヤバイ人だと俺の中で認定された。美人なのに勿体無い……。

 

「ISコアは流石に知っておるじゃろ」

 

「それはまぁ」

 

「実はISコアには一つ一つ人格があるのじゃ。これは我が創造主様ですら確定的には知り得ていないことじゃ。存在は知っておるが理解はしていないということじゃろうな」

 

「……それでその人格さんが俺に何か用でも?」

 

「用がなくては会いに来てはならんのか……?」

 

 その悲しそうな顔は卑怯だと思うの。

 

 涙目の彼女の頭を撫でて――撫でさせられて――慰めた。

 それから御満悦の彼女によると、通常のISコアの人格は人前に現れることはないらしい。

 本当の意味で絆を結び、信じ合えたその時に対話することが可能になるとのこと。

 俺、乗ったばかりなんですけどそれは……。

 

「旦那様は特別な存在じゃからな。儂にとってもISにとってものう」

 

 なぁに、その理屈抜きの適当な感じ……。

 

「この戦神に搭載されている単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の説明を、と思っての」

 

 聞いてみれば俺に会いに来たきちんとした理由があった。

 

「【戦死者を選定する女達(ヴァルキュリュル)】は言ってしまえばコアネットワークを利用したトレースシステム。確かドイツ辺りが開発中のVT(ヴァルキリー・トレース)システムがあったが、それの上位互換の完成形じゃな」

 

 VTシステムがそもそも何かわからないが、要約すれば自動操縦ということらしい。

 詳しく言えば、過去現在を含めた戦闘データを束さんから与えられた上位の権限により抜き取り、その場その場で最適な動きをトレースし戦う、というものらしいが全くわからない。とりあえず束さんすげぇと思っておくことにした。束さんすげぇ。

 

 凄いと言えば、この判断云々やらなんやらはこの美人さん――ユリアがしているとのこと。

 因みにヴァルキ『ュリア』である。名前が欲しいとせがまれてつけたものだ。センスについては何も言ってはいけない。いや、本当に。

 

「あれ、ってことは今も戦っている感じ? 話してて大丈夫?」

 

「ああ、戦っている。もっとも相手が弱すぎて話にならんけどの。この程度の娘、造作もないわい」

 

「『この程度』って流石に『か』わいそうと言うか、なんというか」

 

 一生懸命頑張って育てたゲームキャラをチートで強化したキャラで叩きのめすかのような罪悪感が押し寄せてくる。完全に悪役である。すまないオルコットさん。

 この試合が終わったら不正紛いのチートだったことを告げて謝ろう。そう、心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御山さん、いいえミコトさん! 感謝いたしますわ。おかげでわたくし目が覚めましたの。

 そ、それで、あの、よろしければわたくしの特訓に付き合っていただけないでしょうか……? も、勿論二人きりで……」

 

 頬を染め上目使いでこちらを見つめるオルコットさん。

 翌日、あれは束さん印のチートだから云々を言おうとしたところ、その前にこれである。

 ……俺の目が腐っていなくて自惚れでなければオルコットさんはチョロコットさんだった。

 

 

 

 

 

 俺、何かしましたか。

 

 

 

 




ということでIS二次創作お馴染みの“ISコア”さんでした。

オリジナルキャラはあまり出したくないので最初は別の作品のキャラとかをISコアにしようかと思ったけど知らない人がいたらこの元ネタ知らねーよ、となる気がしたので却下。

その結果、のじゃ美人に決定しました。ボンキュッボンです。

今回は強制力というより勘違い系と言う名の強制力でした。




いやいや、そんなことよりですね。

お気に入り登録とか評価人数とかが見たことない数値になって戦慄しました。

前話投稿した日に四十数人のお気に入りが増えて喜んでいたら次の日まさかの三百越えの増加。
みるみる増えるそれに恐れて戦きました。なんだ、誰かの陰謀か、上げて落とすやつか、とテンパる私。

一時期真っ赤に戻ったり、恐怖に震えてました。

いやしかし嬉しいものは嬉しいもので。ニヤニヤが止まらなかった、本当。

だからこそこの話が受け入れられるのかとビクビク。

ともかく、皆さんありがとう!



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07 ISスーツが俺の煩悩を刺激してくる

もうね、何書いてるんだ私は、と。

今回の話、ほぼISスーツについて。

話進む進まないとかそんなレベルじゃないよ……。

強制力どこいった。ただの煩悩の塊だよぉ……。


そんなことより赤になったりオレンジになったり、黄色にならない奇跡。そしてお気に入りが自分の作品の中で最高を叩き出したありがとう!

モチベーションあっぷあっぷだじぇ!

上がった結果、この有り様という。なんだこれ。



あ、そうそう。全く関係ない話ではあるけどこの作品で初めて誤字報告機能的なものを知りました。

なにあれ、超便利。クリック一発で書きかえてくれるんだぜ……凄い楽なんだ。ありがとう。


「ついに……来たか……」

 

 目を瞑り、深く息を吐き、深く吸う。それを二度、三度と繰り返し胸に手を当てた。

 大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせ、暗示し洗脳する。鋼の鎧を纏い、心臓を鉄でコーティングする。自我を奥の奥へと封じ込め、固く、硬く、堅く、難く――閉ざす。堅牢たるそれに幾重もの鍵と鎖を巻き付け、けして表に出ぬように厳重に。それを覆い尽くすようにと檻を巡らせ彼方へ。

 そしてゆっくりと、極めてゆっくりと目を開き、拳に力を入れて決意を固める。覚悟はできた。

 

 

 ――さぁ、行こうか

 

 

「あ、御山くんだ!」

 

「なるほど、筋肉質ではない、と。織斑くんとの対比ね」

 

 そこは桃源郷か、地獄か、見渡す限りスク水ニーハイ。

 俺の覚悟は紙くず同然に破り捨てられ、アルミの鎧は砕かれ心臓のメッキは剥がされた。(ほど)かれ、()かれ、溶かれて、熔けて――開かれた。堅牢たるそれも、鍵も、鎖も、断ち切られ彼方へ飛んだはずの檻すら抉じ開けられた。

 

 格好をつけてみたが……うん、格好悪かったね。煩悩のくそったれ。

 

 煩悩は男の子なので仕方がないと割りきり、できるだけ彼女らを視界に入れないようにして授業の始まりを待つ。

 俺は思うのです。スク水とニーハイで絶対領域的なものを作る必要はあるのでしょうか。そこまで足を隠すなら、上下繋がったタイプかズボン型でも良いんじゃないかな、ってね。

 いや、この際ISスーツは廃止しよう、そうしよう。だってもう、そういうお店にしか見えないもの……。

 

「……」

 

「ミコトのそれ格好良いな」

 

 そして俺のピタピタスーツを摘まむのをやめろ織斑。端から見ればどう見ても脱がそうとしている奴にしか見えない。……ほら、ヒソヒソと認めたくない現実が聞こえてくる。

 これに限ったことじゃないけど、何で必要以上にボディータッチするの、ねぇ。本当なんでだよ……。

 

 戻して。

 

 言うまでもなく今日はIS実習の初日である。

 

 例の決闘の翌日。セシリアちゃん――名前で呼ぶまで帰りませんと部屋にいた。どうやって入った――がクラスの皆に日本を侮辱云々を謝罪した朝を経ての実習の時間。

 昨日危惧したことが現実となり、現在絶賛ピンチのミコトさんはここです。助けて当麻。俺だってミコトなんだよってミコトはミコトは言ってみるんだよ……誰か助けて……。

 

 さて、気を取り直して。取り直すような内容ではないが、要はまた下世話な話である。言わなくても良いが、俺の中の何かが言わざるを得ないのでと叫ぶので言わせてもらう。

 兎も角、言いたいことは沢山あるがとりあえずは、おかしいだろ、と。

 まず、胸の平均値が高すぎる。有り得ないことではないが高すぎる。高校生と言えど、数週間前までは中学生だったのにも関わらずこの大きさ。先に言った通り有り得なくはない。だが全員が全員というのは流石におかしい。中には年相応の子もいるがそれにしても多い。

 あれか、日本式ハニートラップか。そう言えば多種多様な国から来ているはずなのにこのクラス殆ど日本人である。陰謀か。あれだけハニートラップには気を付けろと言っておきながら自国のハニートラップにはかかれという隠れたメッセージなのか。

 ふざけるなよ、日本人が誰でも大きい方が良いと思ったら大間違いだぞ日本政府。グッジョブ。

 

 そして一番突っ込みたいのが、そのいわゆる乳袋と呼ばれるそれだ。

 現実でも不可能ではないらしいのだが全員が全員、それも大きくない子もそうなっているのはどういうことなのだろうか。

 つまり、つまり、だ。ISスーツには標準で乳袋が自然にできるような細工がされているのだと推測される。なんだその無駄な努力と技術は。馬鹿じゃねーのグッジョブいや馬鹿だ。

 

 そもそも、皆が疑問に思わないのが疑問である。年端もいかぬ少女達がこんなエr――ハレn――エロエロな格好をするのは如何なものかと。

 羞恥はないのだろうか。確かに俺と織斑がいなければ同性しかいないのでそんなものはないかもしれないが、大会など大きなところにでればその姿は世界中に晒されるのだ。あの千冬さんがISを装着しているとはいえこの姿(ISスーツ)になっているのは普段とのギャップというか、ね。もし俺がその立場なら耐えられる自信がない。

 

 というか、このデザイン考えたのは絶対に男だ。こんなにポイントを押さえているのは自らの欲望を体現したからであろう。女尊男卑と言えど男の欲望は健在であった。

 

 

「ミ、ミコト」

 

「んん、ミコトさん」

 

 呼ばれて現実に戻ってくる。助かった。もう少し戻るのが遅かったら手遅れになるところだ。

 さてと、振り返ると箒ちゃんとセシリアちゃんがいた。二人とも例に漏れずISスーツ。

 

「ど、どうだ、似合うか……?」

 

「ミコトさんの好みに合っていれば良いのですけど……」

 

 ……いや……まぁ……二人とも、良く考えてくれ。似合うも何も二人とも同じ服装というか、言うなれば体操服を着て、似合うかどうか聞くようなものである。

 確かに似合っている。似合ってはいるのだが、それを言われてはたして嬉しいのだろうか。疑問である。しかもISスーツ(男的主観エロスーツ)を似合っているとは、失礼というかなんと言いますか。大丈夫ですか。

 

「ミ、ミコト……」

 

「ミコトさん……」

 

「に、似合ってると思う、よ?」

 

 不安そうな顔には勝てなかったよ……。

 

 ぱあぁっ、と笑顔を浮かべる二人。大変可愛らしく愛らしいのだが、複雑な気分だ。

 

「なぁ、ミコト。俺も似合ってるかな」

 

 

 

 

 織斑ェ……。

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずオチがついたので投稿。

これからどうしよう……。

シャルロットさんとかラウラさんとかはテンプレが溢れてるけど、鈴ちゃんヒロイン少ないんだよ……鈴ちゃんのテンプレってどうすんだよ……。

基本的にオリ主ヒロイン――、織斑ヒロイン鈴、とかそんなんばっかだよ……。

無人機とかの辺りも基本的に織斑と鈴ちゃん、その外でオリ主が二機同時に相手にとか、織斑と鈴ちゃんのやつにソレスタルビーイングとかだよ……。

というかオリ主がクラス代表のやつが少ないんだよ……。なんで皆やる気ないんだよ、頑張れよ、オリ主だろ。できる、君達ならできる。

最初は私だって鈴ちゃん外すか、とか思ったけど俺Tueeeハーレムだし外すわけにはいかないし。そうなると鈴ちゃんとの接点とか持たせるためにクラス代表させたいし、鈴ちゃん可愛いし。可愛いよ、鈴ちゃん。鈴ちゃんなうだよ、鈴ちゃん。

いや、そもそも一夏どうしよ。ヒロインなしってのも可哀想だし、だからといってモブつけるのもなんだし、オリ主ハーレムだから渡すわけにいかないし……。

もうあれだ、一夏TSさせっか、流行ってるし。いや、しないですけどね。パクりいくない。

あ、でもリスペクトという形ならあるいは……。

いいや、一夏は男のままハーレムに加えよう。BLタグつけなきゃ(錯乱


冗談はさておき、これからどうしようか。

これだから見切り発車は!

プロットもなにもねぇよ、ネタしかねぇよ、それにもってくまでの道筋難しいよぉ、ふぇぇ。

プレッシャーふぇぇ。

つまり、更新遅れるかもしれないけど見捨てないでくれると嬉しいな!

鈴ちゃん可愛いな!


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08 皆が俺の記憶を曖昧にして織斑が張り合ってくる

※2018 11/19
 詳しくは活動報告の方へ。08は旧08と09を連結し、少しだけいじった、ほぼ変わらない話です。


 ISを起動する度に現れるユリアと謎の神殿で喋ったり、気が付けば千冬さんやクラスメイト達に称賛されていたり、セシリアちゃんのつくった料理を食べることになっていたり、箒ちゃんとセシリアちゃんが良い笑顔で握手していたり、織斑がクレーターをつくったり、そんな授業を終えて放課後。

 

「織斑くん、おめでとー!」

 

 クラス代表就任のパーティーが開かれていた。忘れていたが先の決闘云々はクラス代表を決めるものであった。

 それで、誰がなったかと言えば、進行形で女子に囲まれている織斑家の一夏くんである。

 

「お前が相手では並みのIS乗りでは太刀打ちできん。それこそ国家代表レベルでもな。故に却下だ」

 

 最初は勝利してしまった俺がそのままクラス代表にという流れになっていたが千冬さんの一言でセシリアちゃんか織斑のどちらかがすることに。

 それじゃぁ、決闘した意味ないじゃないですか、やだなぁ、もう。

 しかしグッジョブ千冬さん。やりたくなかったので万々歳である。

 

「……その代わりと言ってはなんだが私の部屋を片付ける係に任命しよう」

 

 そして耳元で囁く千冬さん。あの、顔が近いというかなんというか……あ、良い匂い。

 ……いや待て魔境を掃除しろと。……それなんて罰ゲームですか。勝ったのに罰ゲームとはこれいかに。全然代わりになってないんですけどそれは……。むしろクラス代表した方が楽な気がしてならない。それほどに千冬さんの部屋は……いや、これ以上はやめておこう。俺も命は惜しい。

 

 で、何故クラス代表が織斑になったかというと単純に織斑がセシリアちゃんに勝ったからである。

 聞けばこの一週間は千冬さんに教えてもらっていたのだとか。

 開幕直後に瞬間加速で接近し、織斑のISである白式に搭載された雪片弐型から繰り出される零落白夜で一閃。僅か数秒のできごと。

 どう凄いのかはわからないが、とりあえず凄かった。千冬さんは言うまでもなく、織斑自身も凄い奴だった。織斑の血筋すげぇな。

 

 しかし、クラス代表、つまりはクラス委員長のようなものが決まった程度でパーティーはお祭り騒ぎの好きなクラスメイトである。インタビューとか言って先輩がいたりもした。前世では考えられない。

 そもそも前世ではパーティーなんて参加したことがない。いや、参加したことがないというよりパーティーが存在しなかった。誕生日やクリスマスなどパーティー日和の日でさえケーキを食べるだけでパーティーと呼べるものはしたことがない。

 強いて言うならば小学校の時の、いわゆるお別れ会とかお楽しみ会とかがそれにあたるのかもしれないが、やはりパーティーとは程遠い気もする。

 それにしても元気だなこの娘達……。俺もう眠いよ。帰って良いかな。

 

 ……それにしても腕に絡みながらニコニコ微笑み合う箒ちゃんとセシリアちゃんは何がしたかったのだろうか。怖いからやめてほしいな。あと、その、二人とも大きいんだから気を付けてね、本当、お兄さんとの約束。静まれ息子。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 翌朝。

 

 美味しそうな匂いに誘われ起床。また箒ちゃんが朝食を作ってくれているのかと視線をそちらへ向けるとエプロン姿の織斑がいた。

 

 織斑がいた。

 

「……んん?」

 

 見間違いかと目を擦り、もう一度見てみるとやっぱり織斑がいた。

 

「む、起きたかミコト。一夏、後どのくらいで完成する?」

 

「もうできるぞ」

 

「だ、そうだ。顔を洗ってくると良い」

 

「はい、ミコトさん。タオルですわ」

 

「お、おう……」

 

 謎過ぎる空間に軽く混乱していると、ベランダで洗濯物を干している箒ちゃんから声がかかり、どこからか持ってきたであろう大きめの卓袱台を拭いていたセシリアちゃんが棚からタオルを取り出して手渡してきた。

 あまりにも自然すぎるからそのまま洗面所に来てしまったが、これはどういうことなのだろうか。

 狐に化かされたというか、DIO様に階段一段分降ろされたというか、不思議でならない。

 

「鍵かけてたよね」

 

「何を言っているのだミコト。毎朝つくりにくると言ったら、不便だからと合鍵くれたんじゃないか」

 

 とは箒ちゃん。言われてみればそんなことを言ったような言わなかったような。

 

「あれ、でも俺合鍵とか持っ――」

 

「よし、できたぞミコト。冷める前に食べようぜ」

 

「そうだな、冷めてしまっては勿体ないからな」

 

「そうですわミコトさん。ささ、こちらに」

 

「何を言うか、ミコトは私の隣だ」

 

「卓袱台なんだから二人の間に座れば良いだろ? 俺はミコトの正面に座る」

 

 寝起きで頭も働かず、腹も減ったのでとりあえずこの事は保留することにした。時には現実逃避も必要だと思うの。うん。焼き魚おいしかったです。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

「――その情報古いよ」

 

 そんな朝を経て、箒ちゃん、セシリアちゃん、織斑、俺の四人で登校。

 我が一組では転入生とクラス対抗戦と呼ばれる読んで字のごとくクラス代表同士が戦うイベントの話題で溢れていた。

 そんな会話の中、専用機持ちは織斑と四組のクラス代表だから優勝間違いなしだね! という台詞とともに教室のドアがスパーンと開かれ腕組みをした見慣れたドヤ顔ツインテール。

 

「ミーコートー!」

 

 そして俺を見つけるとツインテール――鈴ちゃんは俺の鳩尾へ見事なタックルを披露してみせた。

 

「ミコト、ミコト、ミーコートー! えへへ」

 

 そして、顔をグリグリと押し付けて俺の匂いをかぐ鈴ちゃん。恥ずかしいからやめてほしいな。あと、食ったものが出ちゃうから、ほんと。

 

「……離れんか馬鹿者。SHRの時間ださっさと戻れ」

 

 グリグリと俺の腹へダメージを与え続けていた鈴ちゃんは猫のように首根っこを掴まれて千冬さんに引き剥がされてた。

 

「また後でねミコト!」

 

 そう言い残して去る鈴ちゃん。呆気に取られていると千冬さんが何故か抱き締めてきた。

 

「……よし、ではSHRを始める。座れ」

 

 そしてなにごともなかったかのようにSHRを始める千冬さん。何が良しなのかわからない。訳がわからないよ。

 

「くっ、やはり千冬さんもだったか」

 

「世界最強が相手ですか……不足はありませんわね」

 

 そして、何故か悔しそうにする箒ちゃんと冷や汗をかきながらも口角を上げるセシリアちゃん。

 こっちもこっちで訳がわからない。……俺が何をしたって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良いなぁ、千冬姉」

 

 

 

 あれ、何か寒気が……。 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 四限目の授業の終わりを告げるチャイムが響きわたる。

 

「ミコト! 迎えn――」

 

 それと同時にクラスのドアが勢いよく開かれ、勢いのまま跳ね返って再び閉じた。

 

「……」

 

「ミコト! 迎えに来てやったわよ! あとついでに一夏!」

 

 クラスに微妙な空気が流れたが、全てをなかったことにした鈴ちゃんは元気よく俺の席まで走ってきてダイブした。勿論俺にむかって。死んじゃう。

 

「酢豚つくってきてやったわよ!」

 

 ぎゅーっと、ふにーっと抱きつく鈴ちゃん。小ぶりながら天晴れ。しかし毎度毎度抱きつくのはよろしくないと思うんだ。

 ほら、箒ちゃんとセシリアちゃんが不機嫌オーラ飛ばしてきて精神的なダメージが凄いから。

 

「生憎と――」

 

「――ミコトさんの昼食は用意してましてよ!」

 

 俺と鈴ちゃんを引き剥がす織斑に腕組みをして俺と鈴ちゃんの間に立ち塞がる二人。

 

「へー、そう、アンタたちもそうなのね」

 

 そんな二人を品定めするように視線を行き来させ、そう呟くと右手を差し出して自己紹介を行った。それにならい二人も名乗り上げて笑顔で握手を交わす。早速仲良くなったようで安心である。何やらお近づきのとか修学旅行とか幼稚園とか写真とか寝顔とか聞こえてた気がするが気のせいだろう。気のせいである。

 

 そんなこんなで鈴ちゃんを加えて屋上へ。織斑がレジャーシートを広げ、セシリアちゃんがパラソルを設置し、箒ちゃんが弁当箱を広げた。

 毎度お馴染みの光景になってはいるが、端から見れば、というか俺から見てもおかしな光景である。

 しかし慣れとは怖いもので今ではすっかり違和感が仕事をしていない。

 常々思うのだが、日々常識が砕かれていっている気がする。頑張れ俺、負けるな俺。

 

 気合いを取り直して昼食。

 

「ミコト、あーんっ」

 

 鈴ちゃんの“あーん”で修羅場ったり、互いが互いの料理を食べ合って作り方云々と、意外にも仲良く話していた。酢豚おいしです。

 

「付き合いが一番長いのは私だけどね」

 

 そしてセシリアちゃんの作ったサンドウィッチに手をかけたところ、鈴ちゃんのその一言で場がピリついた。

 余談ではあるがセシリアちゃんの料理の腕は涙が出るほどに悪かった。レシピの写真の見た目通りにつくるというある意味難易度の高いことをしていた結果である。

 それを聞いた織斑による料理合宿が行われたことで、セシリアちゃんの料理の腕はプロ級に変貌した。たった二泊三日でプロ級になるセシリアちゃんもセシリアちゃんだが、そうなるように指導した織斑は一体何者なのだろうか。

 

「む、だが最初に出会ったのは私だ。言うなれば私が()()()()()幼馴染みで、鈴は()()()()幼馴染みだな。私がファーストで、鈴がセカンドだ」

 

「た、タイミングや時間は関係ありませんわ! 今をどう過ごすかが大切なのですわ!」

 

 そしてその発言に対抗するように箒ちゃんとセシリアちゃんがそう言った。三者譲らず。

 やめて、俺のために争わないで! なんて気楽な性格になることができれば少しは胃の痛みをやわらげることはできるのだろうか。

 そもそも何故こんなにモテるのか疑問である。彼女達に対してやったことと言えば、織斑に同意し、殴ってくれと言わんばかりの男子の頬に軽く触れ、全自動のISで勝っただけ。

 おう……なんだこれ……。我ながら理解が及ばない。

 性格だってクラスの隅の方にいる陰キャそのままな上に見た目は転生のおかげが悪くはないレベルであるものの、ファッションセンスが皆無なので残念なことになっている。

 もう何かの隠謀なのかと思わざるを得ない。そう思うと急に恐ろしくなってきた。なにこれ怖い。

 

「――まぁ、最初に会ったのも付き合いが長いのも俺が一番だけどな」

 

 織斑がなにか言ってるけど気のせいだろう。気のせいだと、良いなぁ……。



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09 千冬さんが放課後授業してくる

※2018 11/19
 詳しくは活動報告の方へ。09は旧10をほんの少しだけいじった、ほぼ変わらない話です。


 朝、目が覚めると当たり前と言わんばかりに例の四人(ミコトハーレム(笑))が朝食や洗濯、諸々の家事をしていた。

 勿論鍵はかけている。とはいっても合鍵がすでに出回っていたのでチェーンロックを千冬さんに頼み、後付けしてもらったものだ。つまり、鍵を持っていようがなかろうが、物理的に入って来れないようになっていたがこの有様である。

 更に恐ろしいのが、件のチェーンロックに傷が一つも付いていないことである。これが切られていたなら、納得はしたくはないが、理解はできる。切れば開くのだから当たり前だ。だが無傷となれば話が変わってくる。

 至極当然、切れば開くが、切らねば開かない。俺自身が開けない限りは不可能である。切った後に繋げるとか、新しいのを付け直すとか、方法はあるにしろ、どれも現実的ではない。

 いや、そもそもチェーンをどうにかできるはずはないのだ。束さん特製といえばお分かりいただけるだろうか。もしそれをどうにかできたのなら、この四人の中に束さん並みの化物がいるということになり、イコール地球破滅まったなし。恐ろしや。

 

「そうだ、ミコト。窓が全開だったわよ。学園内だから安全とは思うけど数少ない男のISなんだから気を付けなさいよねっ。本当無用心なんだから」

 

 とは鈴ちゃん。流石その無用心を利用しただけはある。説得力抜群である。全力で気を付けることにした。

 

「そう言えば、一夏。クラス代表になったんですってね」

 

「おう、本当はミコトがやる予定だったんだけどな。千冬姉が却下して流れ流され俺がやることになった」

 

「そ。ならちょうど良いわ、久し振りに賭けしない?」

 

「お、良いな。俺はIS学園に来てからのやつをダースで賭けよう。はじめてのISスーツがメインのやつ」

 

「くっ、そんなの賭けられたら私も秘蔵コレクション出すしかないじゃない」

 

「期待してるぜ?」

 

「……まぁ、良いわ。どうせ勝つのは私だからね!」

 

 朝食時。セシリアちゃんによるイギリス式の朝食に舌鼓を打ちながらの会話。

 一見、久し振りにあった友人と恒例であった賭け事の約束をしている青春ど真ん中の会話だが、素直にそう思えないのは気のせいか、それとも賭けられた商品に違和感があるせいなのか。

 秘蔵コレクションってそれ男同士の会話だと思うの。

 

「私は一夏に二ダース賭けよう」

 

「ならわたくしは倍で鈴さんに賭けますわ」

 

 そして他の友人達もその賭けにのり、かつては二人で行われていた遊びがこうして大勢で行われているところは大変微笑ましい。友人の輪が広がっていく感じがなんとも青春ぽい。ぽいぽいぽい。

 しかし、悲しいことにこの賭けに俺は参加させてもらえない。中学の頃から始まった遊びだが、織斑と鈴ちゃんと弾の三人でこそこそするばかりで、俺が何をしているのかを聞いても教えてくれないのだ。

 それは多分、低スペックすぎて勝てないであろう俺への配慮なのだろう。けして商品が俺だからとかそんなんじゃない。そう思いたい。真剣に。

 

「とりあえず参加費として一枚ずつ交換しましょ」

 

 俺が写った写真とか見てないし、存在しない。そうに違いない。早く授業にいこう。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「失礼します、織斑先生」

 

「よく来た。……ああ、それと今はプライベートだからいつも通りで構わん」

 

「わかりました千冬さん」

 

「ん」

 

 夕食を食べ終わり、冗談かと思われた千冬さんの部屋の掃除をやりにきていた。

 とは言ってもほぼ毎日来ているので、脱ぎ捨てられた服とか、散らばった書類やらを整理するだけなのですぐに終わる。

 この日も例にもれず三十分ほどで終えたので帰ろうとしたところで千冬さんに呼び止められた。

 

「ところで授業のほうはどうだ? ちゃんと理解できているんだろうな?」

 

「も、勿論ですたも」

 

 噛んだ。

 

「……ふむ。まぁたまには良いだろう。ミコト、教えてやるから少し座れ」

 

 加えて声が裏返ると言う動揺丸出しな嘘が通じるはずもなく、見破られた。

 しかし、教えてくれるとは思わなかった。怒られて織斑のように一週間で覚えろとか言われるものとばかり。

 予想外のできごとに驚きつつ、世界最強から一対一でISの授業を受けられるのは滅多にないことなので素直に受けることにする。

 おそらく単位をとれていなくても男性IS搭乗者ということで卒業はできるだろうけど、流石に格好悪いので願ったり叶ったりである。

 この際、わからないところを一つでも多く潰しておきたい。

 

「……あの、千冬さん?」

 

「どうした。む、そこは先程やっただろう。前のページをよく見ろ」

 

「あ、いえ、そのことではなくてですね……」

 

「ならばなんだ」

 

「……いえ、あの、この状況はなんですか」

 

「む……?」

 

 良くわからないと首を傾げる千冬さん。年上なのに可愛らしく見える大変素晴らしい仕草ではあるが、首を傾げたいのは俺の方である。

 今の状況を言えば、千冬さんに後ろから抱き締められていた。

 右肩の方から顔をだし、囁くように優しく教えてくれている。なんだこれ。

 それに背中に感じる圧倒的双丘。寝るときはしない派なのか、常識的に寝るときにはつけないのかは男なので知らないが、その、千冬さんはつけていなかった。布二枚を隔てているにも関わらず存在を大いにアピールしている。頑張れミコトジュニア。粘れ。

 

「あの、引っ付く必要は……」

 

「この方がすぐにミスに気がつけるからな。効率が良い」

 

 よりいっそう拘束が強まった。もはや勉強どころではない。これだから中身魔法使いは。

 

「……明日も授業だからな、そろそろ終わるか」

 

「あ、はい」

 

 なんとかバベルの塔を押さえ込み、どきっ放課後授業を乗り越えることに成功した。

 

「ミコト」

 

 さて、帰るというときに、またも千冬さんに呼び止められる。

 

「ん」

 

「ち、千冬さん?」

 

 立ち上がって俺を抱き締めると千冬さんは何事もなかったかのように敷かれた布団へ潜っていった。

 

 なんだこれ。

 

 

 

 

 

 

 ――我輩は猫である

 

 

 名前はまだない、という安直でありながら本人お気に入りのネーミングのラボにて。

 名付け親たる彼女は鼻唄混じりにキーボードを叩いていた。

 

「いっくんにも活躍の場をあげなきゃねっ」

 

 空中に投影された幾つものディスプレイの一つにはフルフェイス型ISの設計図が表示されている。そのISの名は――golem。

 

「ふふん、細工は流々、後は仕上げを御覧じろってねー」

 

 ――黒幕始動



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10 皆がサスミコしてくる

※2018 11/19
 詳しくは活動報告の方へ。
 クラス対抗戦の話です。この話が丸々書き直した新規の話となります。


 クラス対抗戦当日。いつもは閑散としているアリーナは隙間なく埋まっている。ついでに左隣の箒ちゃんと右隣のセシリアちゃんとの隙間もピッタリとくっついて埋まっていた。まるでハーレム野郎である。……ハーレム野郎だった。もしここが共学であったなら男からの視線に怯えている場面である。しかしここは特殊な状況ではあるが女子校だ。そんな視線にビクつく必要なんてない。教師たちがいる辺りから凄い視線を感じるがそれは気のせいだろう。……うん。

 あまり隣に意識を向けないようにして開会式を行っているアリーナの中心に視線を向ける。そこには織斑、鈴ちゃんと始まり、一年の代表が並んでいた。男の織斑は勿論、鈴ちゃんも目立っている。皆がスク水よろしくな紺色のISスーツを着てる中、鈴ちゃんだけピンク色のチャイナドレス風のISスーツに身を包んでいるのだからそれはもう目立っていた。

 そんな風に鈴ちゃんを見ていると、結構な距離があるにも関わらず俺の姿を見つけたらしく、両手を大きく振って俺の名前を叫びだした。やだ恥ずかしい。参観日にきた親に名前を呼びながら応援されたときのような恥ずかしさである。両手で顔を覆い隠したかったが、ホールドされているため動かない。これがハーレムの弊害か……! と戦慄していると鈴ちゃんが教師に怒られていた。開会式の途中ですることではなかったので仕方のない処置である。

 

「以上です!」

 

 ズッコケ。なんてどこかで見たような開会宣言を織斑が行い、その時同様大半の生徒がズッコケたのでアリーナが揺れたが些細なことである。地震かと思いました。

 さて、そんな開会式が終わり、早速一組対二組、つまり織斑対鈴ちゃんの試合である。アナウンスがあり、二人がそれぞれ白式と甲龍を装着してアリーナに入場した。両選手の軽い紹介があり、カウントダウンが始まり、そして零を刻んだ。

 

「どう見るセシリア」

 

「そうですわね。鈴さんの圧勝、と言いたいところですが、一夏さんの成長は目を見張るものがあります。単純な近接戦闘のみでしたら勝てる可能性は十分ありますわ」

 

「そうなるとやはりあの浮いている武器が厄介か」

 

「ですわね。あれは私のBT兵器(ブルー・ティアーズ)と同じ第三世代兵器ですわ。正体がわからない上に彼女はそれを使いこなせる代表候補生。やはり勝つのは難しいでしょう」

 

「しかし、一夏には"零落白夜"と"瞬時加速"がある」

 

「ええ、一夏さんがそれを鈴さんにぶつけることができれば勝つことはできますわ。それでもそれを問題にしないのが代表候補生ですわ」

 

 織斑と鈴ちゃんがぶつかり、戦闘が始まる。それと同時に俺を挟んで箒ちゃんとセシリアちゃんによる戦闘解説が始まった。普段は変人な一面もあるが、二人とも真面目な部分もある。代表候補生であるセシリアちゃんは勿論のこと、箒ちゃんも実力でIS学園に入学しているのだ。俺のような学力低め系男子がいたり、異常なまでのノリの良さのせいでアホっぽく見えたりするIS学園だが、その実態は超のつくエリート校である。IS部門を抜いたとしても全国、どころか世界を含めても高校の中では上位に位置しているのだ。こういう真面目な時は真面目に学び吸収しているのだろう。偉い。俺なんてもうアクション映画を見に来るようなテンションでいた。Lサイズのコーラなんて飲んでいる場合ではない。反省しなければ。良く考えたら世界に二人しかいない男のIS乗りと代表候補生の戦いを見る機会なんてあまりないだろう。皆が一生懸命学んでいるのに、それを娯楽気分で見るのは良くない。俺も気を引き締め真面目に見るとしよう。……はたして全自動操作の俺が学ぶことがあるのだろうか。やっぱりズルいよ全自動。

 

「その代表候補である貴様は一夏に負けていたがな」

 

「あ、あれは不意討ちの初見殺しという奴ですわ! 今やれば私が勝ちますわ!」

 

「ふん、それでも負けは負けだ。そう思うだろミコト」

 

「それは、えっと……うー! ミコトさん! 箒さんがいじめてきますわ!」

 

「いじめてなどいない。私は事実を言っているだけだ。なぁ、ミコト」

 

「ミコトさん!」

 

 そんな感じで真剣に見ようと思っていたら両隣の会話が脱線していた。良く見ると周りの人達もキャッキャわいわいと楽しそうに試合を見ている。どうやらアクション映画感覚で正解だったようだ。なんか損した気分である。……いや、そもそも両腕に美少女を絡ませている時点でアウトだ。美少女侍らせて試合を見るとかどこの金持ちだと突込みがきそうである。しかし望んでこうなっている訳ではないのだ。この状況が嫌かと問われると即答できないが、不可抗力なのである。

 

「む。あれは……透明の弾……空気か?」

 

「空間に圧力を加えて発射しているのですわ」

 

「厄介だな」

 

「……厄介なんてものではありませんわ。見えない上に射出ユニットには砲身がありませんからどこから来るかも予測できません。更に見る限り稼働範囲に制限がないようですから、常に警戒しなければならないので……これは強敵ですわね」

 

「なんだ、なら問題ないな」

 

「箒さん、今の聞いてまして?」

 

「ああ。ただ見えなくて何時何処から飛んでくるかわからないだけだろう? ならば気配を感じとれば良いのだ」

 

「気配を感じとる……? そんなことができるんですの?」

 

「まぁ、IS込みになると他の要因も関わってくるから簡単にとはいかないだろうが、一夏ならやれるさ。ほら、見てみろ。被弾数が少なくなってきているだろう?」

 

「本当ですわ。流石一夏さんですわ」

 

 試合が進むとまた真面目モードに入ったのか、二人とも解説をし始めた。いきなり一夏がダメージを受けたので驚いたが、なるほど空気を圧縮して打ち出していたのか。……それってどうなんだ? 強い空気砲みたいなものだろうし、それでISを倒せるイメージがわかない。そもそも空間の圧縮ってどういうもので、どうやっているのだろう。とある学園都市の第一位みたいなことか? そう考えると強そうだ。

 

「箒ちゃん、セシリアちゃん、ちょっとトイレいきたいから放してもらっていい?」

 

 その謎空気砲に織斑が対応してきているのに驚きつつ、コーラの飲み過ぎか、尿意が来たのでトイレへ向かう。済ませた後、トイレから観客席まで少し遠いので駆け足で戻った。

 

「あれ、閉まってる」

 

 先程まで開いていたはずのドアが閉じられていた。何故このタイミングで閉めたのかと首を傾げながら、些細なことなので何も気にもせず扉を開く。するとどうだろう。向こう側、観客席にいた生徒達が流れ込んできた。

 

「開いたわよ!」

 

「早く避難するのよ!」

 

「見て、御山くんがいるわ」

 

「まさか、これを見越して!?」

 

「流石ミコトくんです!」

 

「サスミコ!」

 

 わーわー、と騒ぐ彼女達の波に飲み込まれ、気が付くとアリーナ内部にいて一人ポツンと立ち尽くしていた。何が起きたとアリーナ中心を見ると、白式でも甲龍でもなく、第三の謎のISが二人と戦っている。

 

「ミコト! ミコトも来てくれたのか!」

 

「箒ちゃん、これは一体何が――」

 

「行くぞ!」

 

「あの、箒ちゃん、せつめ――」

 

「今の私はなにもできない。それでも一夏を応援することはできる!」

 

「話を聞いてください」

 

 何事かもわからないまま、偶然出会った箒ちゃんに手を握られて走る。どこに行くのか、何をするのかわからないが、箒ちゃんの手を振りほどくことはできない。物理的に。握力が凄い。でもまぁ、事情を知ってそうな箒ちゃんについていくのがどのみち正解のような気がするので良しとしよう。

 

「着いた! 一夏待っていろ! 今応援にいくからな!」

 

 目的地につくと箒ちゃんは俺の手を放して走っていっく。ここが何処なのかと見渡すとアリーナへと続くピットであった。

 

「一夏! 男ならこの程度容易く乗り越えて見せろ!」

 

 何でここに、と箒ちゃんに聞く前に箒ちゃんが行動に出ていた。なるほど、そういうことかと、俺も応援しようと箒ちゃんの横に立つとアリーナから謎のISがビームを出しそうな雰囲気でこちらを見ている。あれ、これピンチじゃ――

 

「――儂だよ!」

 

 次の瞬間、ユリアが仁王立ちをしていた。満面の笑顔である。例の如く神殿の中であった。どうやら危険を察知したユリアが"戦神"を起動してくれたらしい。

 

「正体不明のISに攻撃されたようじゃ。間一髪展開したので傷一つないぞ。あ、侍ガールは無事じゃから安心するのじゃ旦那様。きちんと御姫様抱っこしておいたぞ!」

 

 簡潔に説明を求めるとそう返ってきた。一先ず、感謝を述べ、頭を撫でる(強制)とユリアは満足そうに微笑んだ。

 

「で、そのISと今は戦っているのか?」

 

 織斑と鈴ちゃんが二人がかりでも押さえるのがやっとの相手である。全自動とはいえ、気を引き締めなければならないだろう。最悪、俺の身体のことを無視して限界を超えた戦闘を頼まなければならないかもしれない。

 

「いや、もう倒したぞ」

 

 あっ、うん。そっか。……そっかぁ。

 



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11 転入生が俺の心を惑わそうとしてくる

※2018 11/19
 詳しくは活動報告の方へ。11は旧12の冒頭を書き直したものになります。あとは旧と同じです。


 俺がトイレに行っている間に、無人機が現れたらしい。生徒達は逃げようとしたが、ハッキングされたのかドアが開かず閉じ込められたとのこと。しかしそれは内から開けられないものだったらしく、外からは簡単に開けることが後に判明した。俺が開けたのがそれだったようだ。

 しかし、アリーナの戦闘区域のバリアは強固なハッキングをされたため、無人機と織斑と鈴ちゃんは閉じ込められたままだったらしい。

 なんとか逃げ回りバリアの解除と教師陣の突入まで持ち堪えろという教師陣の言葉に、倒してしまっても構わないのだろう? と返し、二人は戦闘を続行。かなり健闘したらしく、後少しで倒せるところまではいったらしい。そこで起きたハプニングが箒ちゃんと俺による応援だった。これにより無人機がターゲットをこちらに向けたせいで大惨事になりかけたが、ユリアのおかげでこれも回避。あとはユリアと織斑の"零落白夜"の合わせ技で無人機を撃破。その後、箒ちゃんと俺は千冬さんに怒られたり、色々とあったが、今回の事件はそうして幕を下ろした。

 

「褒めて褒めてー!」

 

 以上の説明を千冬さんが終えたのと同時に、その後ろでウズウズしていた鈴ちゃんが飛び出し鳩尾タックルからの褒めて攻撃、それによりその場にいた全員から飛ばしてくる鋭い視線が突き刺さり、肉体的にも精神的にもミコトさんのライフはゼロです。

 

「俺も頑張ったんだぜ」

 

 わかったから肩を組まないでくれないかな。そんな趣味はないんだよ織斑。

 

 結局そこに箒ちゃん含め皆が寄ってきてもみくちゃにされる。これがハーレムの宿命なのかと戦慄しつつ、一度この状況に対して真剣に考えなければならないと改めて思った。

 好意自体は嬉しいが、理由が不確かな好意と言うのは言いようもない恐ろしさがある。

 よくよく考えてみればおかしいことはこれだけではない。鈴ちゃんのときの茶番もそうだし、理解に苦しむ場面が幾つもあった。

 そもそもISとはなにか。当たり前のように存在しているが前世にこんなものはなかった。如何せんそれ以外が前世と同じだからこの疑問も薄れていたがやはりおかしい。俺が今経験しているのは単純な転生ではなく、別世界への転生なのだ。

 いや、それどころか転生なのかも怪しい。神様とか名乗っていたアイツが本当に神様という保証はないし、可能性だけならこの世界はつくられた仮想世界とかでそのモルモットにと誘拐されただけというのも在り得ない話ではない。

 震えた。俺は今どこにいる? 目の前にいるコイツらはなんだ? グルグルと巡る思考と恐怖。逃げ出したくなる。

 

「ちょっと、箒! アンタ二回目でしょ!」

 

「早い者勝ちだ」

 

 ギュッと抱きしめられた。箒ちゃんから始まり、セシリアちゃん、鈴ちゃん、順に皆に抱きしめられていく。嬉しそうな彼女たちを見ていると、先ほどまでの思考が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 確かに、コレが偽物だという可能性はある。だからといって頭ごなしに否定するのは違う。彼女たちが偽物だという可能性があるのなら本物だという可能性もある。

 別に今すぐどうにかされるということはないだろうし、疑問は晴れないが急ぐ必要はない。ゆっくりとこの世界を理解していけば良いのだ。

 

「ほら、ミコト、俺の番」

 

 撤回。今すぐ元の世界に帰してください。

 

 

 

 そんなホームシックにかかりながら、むかえた休日。織斑に誘われ学園外に来ていた。

 本来ならば織斑と二人きりででかけるのは気が進まなかったが、友人である五反田弾に会いに行くということなので付いてきた次第である。

 

「良いよな、お前らは。女だらけのハーレムじゃねーか」

 

「弾、良く聞け。そんな良いものじゃないんだ。猥談もできず、趣味も合わない。しかもISの授業が難しいから予習復習で時間が奪われる。ハニートラップのせいで女関係には気を張らないといけない。

 気を張らないで良い身内とか代表候補生とかも、基本的に飯か特訓の二択。そのせいでプライベートは勉強と特訓で頭と肉体をやられる。

 なぁ、弾。俺はもう駄目かもしれない」

 

「……頑張った、お前は良く頑張ったよミコト。今日は思う存分ゲームして猥談しような」

 

「弾……俺はお前が友達で良かった」

 

「よせよ、気持ち悪い」

 

 二人して笑い合う。笑ったのは久々かもしれない。やはり友人との時間は尊いものだ。特に弾は、ボディータッチのやたら多いグレー織斑とエロ魔人数馬とは違い至極普通の高校生なので安心感がある。それこそここに来る前の友人と過ごしているかのような感覚。

 もうこのままここで暮らしたい。そして普通の高校に通って青春するんだ。

 

「ミコト、弾、飯できたぞ」

 

 そんな願望は幻想といわんばかりに、下の厨房で弾の祖父である厳さんと昼飯をつくっていた織斑が、滅多にない俺の癒しタイムをブレイクしてきた。おのれ織斑。いや誰も悪くはないんだけど。もう少し弾と二人で談笑していたかった。

 

「――っ」

 

 そこで気が付く。弾への好感度が高すぎることに。

 

 久しぶりの男子との交流で改めて男と話す方が楽しいと感じてそれで好感度が高くなっているのか? いや、それにしても”もう少し弾と二人で談笑していたかった”は、いくらなんでも……。

 顔が青ざめていく。ガタガタと体の震えが止まらない。いや、あり得ないだろ。だってそんな、まるで織斑じゃないか。大丈夫、息を吸え。素数だ。

 よし、大丈夫。俺は女が好きだ。おっぱいが好きだ。大丈夫。ほら、だって弾を見ても別に鼓動が早くなったりしない。あれだ、友人との会話を惜しんだだけなのだ。

 危ない、危うく流されて自分がそうなのかと勘違いをするところだった。

 

 俺はノーマルだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと今日は転入生を紹介します! それも二人ですよ!」

 

 俺はまともだということを再確認した休日を終えて、日常が始まる。

 どこのISスーツを買うとか、御山くんたちのスーツってどこのやつなの? とか、御揃いなんだぜとか、やっぱり二人は……とか、早速逃げ出したいような朝の喧騒に耐えて朝のSHRが始まった。

 そして開口一番に山田先生が言い放ったのがその言葉。

 こんな時期に、しかも二人も転入生が我がクラス――男のIS乗りがいるクラスにやってくるとなると色々と大人の事情が垣間見える。

 

「じゃぁ、入ってきてください」

 

 さて、どんなやつか来るのかと待ち構えていると金髪と銀髪の二人が入ってきた。

 対照的な二人。柔らかな雰囲気の金髪と鋭い雰囲気の銀髪。唯一同じなのは二人ともズボンを履いていること。

 

「じゃあ、自己紹介お願いしますね」

 

「はい」

 

 金髪が一歩前へ出て自己紹介を始めた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。こちらに僕と同じ境遇の、男の搭乗者がいると聞いて転入してき――」

 

 彼がそこまで言ったところで、クラスの皆から黄色い声が上がった。

 三人目の男性IS搭乗者。しかも美形となれば騒がざるを得ないだろう。

 それに対し千冬さんは呆れた様子で、織斑は耳を塞ぎ、山田先生はあたふたとして、銀髪の少女はムッとして、そんな中で彼は困ったような顔でこちらに視線を向けた。

 

 視線が合う。

 

 そして彼は優しく微笑んだ。これからよろしくね、そういった類いの意思を込めての微笑み。

 

 

「……嘘だろ」

 

 

 そんな中、俺はというと混乱していた。

 

「鼓動が早い……? ドキドキしている……?」

 

 男相手にである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――拝啓、御父様御母様

 

 

 あなたの息子はホモかもしれません。

 

 

 



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12 銀髪の方の転入生が俺の目を覚まさせてくれた

もはや強制力どこいった。ホモネタばっかじゃねーか、と言われそうだけれどこれが私の限界。

そしてシャルロットの設定、かなり独自設定が入るのでご注意を。


「静かにしろ」

 

 興奮冷めやらぬ様子の生徒達は千冬さんの一言で静まり返った。まさに鶴の一声とはこのことだろう。

 皆が一様に姿勢を正し、もう一人の銀髪の転入生に視線を向けている。

 

 IS学園はその特性上、日本人以外の生徒も多い。その上制服の改造が許可されていたり、生活に関する校則はある程度緩くなっている。

 そのため、黒以外の髪は珍しくはないがこれほどまで透き通った銀髪はいない。

 それに病的な真っ白な肌と、真っ赤な瞳。平均よりも低めの身長が相重なり、どことなくこの世のものではない、それこそ天使のような。

 

 中性的な王子様のような美少年に見劣りしないその容姿に、正していた姿勢は崩れ、皆その可憐な姿に表情を緩めていた。

 

「……自己紹介をしろ」

 

「はい、教官」

 

 しかし、そんな少女のことはどうだって良い。俺の頭の中は美少年――シャルル・デュノアのことでいっぱいであった。

 振り払おうとしても消えぬ、朗らかな微笑み。はらりと流れる金糸の髪。紫色の瞳は優艶でいて艶やか。

 そしてどこか儚げで悲しげな雰囲気の彼。

 

 いや、待て落ち着け。もう一度落ち着け。何を冷静に彼の魅力をモノローグで語っているんだ。

 確かに中性的で見ようよっては男にも女にも見える。だが男だ。

 笑顔は、少女のそれでしかなかったし、皆には見えぬように腰の辺りで小さく手を振る辺り凄い可愛らしい少女の仕草にほかならないが、それでも――男だ。

 

 男にドキっとしてしまった事実を忘れたくて、二度とそのような事態に陥らないために、デュノアは男だと言い聞かせる。

 それでもなお張り付く笑顔を剥がすためこれまでのドキドキ体験を思い出すことにした。

 汗滴る道着姿の箒ちゃん、夏の日のへそ出し鈴ちゃん、ISスーツのセシリアちゃん、抱き締めてくる千冬さん、たゆんたゆんな山田先生、無防備な蘭ちゃん、笑顔の可愛らしいデュノア。

 変態ぽいが大丈夫だ。ちゃんと女の子でドキドキしている。不健全だが男としては健――何さらっと入ってるんだデュノア……! いや、まだ弾とか織斑が入っていないのが救いと考えるべきか……!

 

「貴様が御山ミコトか」

 

「え、あ、はい」

 

 恐怖に襲われ、どうにかなってしまいそうになっていると不意に声をかけられた。

 頭を抱えていたため、下がっていた視線を前に向け、何時の間にか自己紹介を終えた銀髪の彼女と視線を合わせる。

 瞬間、頬に痛みが走った。平手打ち、ビンタ、いわゆるそれを彼女が放ったのだ。

 

「貴様だけは許さん」

 

 頭の中がスッキリとした。恐怖や困惑といった念がその一撃で吹き飛んだ。

 あまりもの衝撃で自分がホモではないかと思ってしまっていたが良く考えてみればそんなことはない。

 例えば特殊メイクで胸をつけ、顔も整形レベルの化粧をして、どこからどう誰が見ても女という状態になった男の上半身ヌードを見せられたとしよう。

 中身が男だと知らない者が見ればそれ相応の反応をするに違いない。

 それは女の容姿に反応したのであって中身の男に反応したわけではないのだ。

 ならばそれはホモとは言わない。だまし絵に騙されたようなものだ。

 ゆっくりと目を瞑り、そして開ける。先程は男という認識が薄いまま笑顔を向けられた。いわば不意打ちのようなもの。だから今度はきちんと男だという認識をもってデュノアを見れば反応しまい。

 

「……よし」

 

 成功である。ドキドキしない。微塵も、欠片も、全くドキドキしない。よってここに俺がホモではないと証明された。やったよ、よく頑張った。

 

 だが、これは俺だけではなし得なかったことだ。彼女が――ラウラ・ボーデヴィッヒが一撃くれなかったら混乱したまま織斑エンドという最悪な結末を迎えていたかもしれない。

 去り際に言っていた一言は良く聞こえなかったが、多分「大丈夫か?」的な一言だったに違いないだろう。今度彼女と話す機会があったらお礼をしなければ。ありがとうボーデヴィッヒちゃん。

 

「――二組との合同で実習を行う。各々遅れないように。……織斑、御山、同じ男同士デュノアの面倒を見てやれ」

 

 転入生二人の自己紹介も終え、皆が一時限目の準備に取りかかる。

 女子はグランド近くの更衣室で着替えることができるが俺と織斑、そしてデュノアは男であるためグランドと離れたアリーナの更衣室で着替えることになっているので少し急がなければ授業開始に間に合わず、千冬さんの拳を受けることになってしまう。

 

「走るぞミコト!」

 

 だからといって手を繋ぐ必要はあるのか織斑。百歩譲って道のわからないデュノアを導く意味でならば手を繋ぐ理由にはなるが、それならば俺を間に挟む必要はなかろう。なんでお前が俺の手を掴んで俺がデュノアの手を掴まなければならないんだ。おかしいだろこれ。

 気が付けば織斑により俺とデュノアの手が連結され、そして余った俺の手と織斑の手が連結していた。

 病気レベルにおかしくなってしまった織斑を心配しながら、周りからこれ以上ホモ認定されぬよう、せめてデュノアの方は手を離し――なぜ悲しそうな顔をするデュノア。その捨てられた子犬みたいな顔はやめろ。

 

「三人で手を繋いでるわ!」

 

「厚くなるなる!」

 

 遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ時間もあるし自己紹介でもするか」

 

 女子達の猛攻から織斑が頑張り、なんとか無傷で逃れることに成功。俺達は一体何と戦っているのだろうか。

 それはともかくとして織斑にしてはまともな提案だったので今日何度目かという自己紹介タイムが行うことに。そして名前を言い合うだけの簡単なそれを終えて着替えている途中、デュノアが頬を染めて恥ずかしそうにそう言った。

 

「あ、あのさ……二人のこと、な、名前で呼んでも良い……かな?」

 

「勿論だ。な、ミコト」

 

「……おう」

 

 な、ミコト。だよな、ミコト。それ系統の言葉が織斑から放たれた時は、大抵おかしいか面倒なことだったので返事が一瞬遅れたが、なんとか肯定できた。

 

「……一夏……ミコト。……えへへ」

 

 嬉しそうに俺と織斑の名前を噛み締めるように呟き、嬉しそうに微笑んだ。いや微笑んだというより、嬉しさがピークに達してこぼれてしまった、という感じ。

 どうしたのかと聞くと、初めての友達ができて嬉しかったとのこと。

 

「……と、友達だよね……? な、名前で呼びあったら友達ってお母さんが……」

 

 それに対して無反応、というか呆気に取られ黙ってしまっていると不安そうにデュノアが慌てていた。

 

 デュノア社の社長の息子ということであり、普通の学校ではなく金持ちが集う学校に通っていたらしい。

 そこでは友達なんて関係はなく、パイプをつくったり、取り入ったり、そんな関係ばかりだったという。

 それに加え過保護な親だったらしく、箱入りで学校にも殆ど通っていなかったらしく――つまりは友達ゼロのボッチだったとのこと。

 

「いや、友達だよ」

 

 デュノアの肩を優しく叩いた。

 もしかすると女に見える中性的な見た目もボッチへの道を加速させたのかもしれない。現に俺は二度とドキドキしないようにデュノアとの関わりは最低限にするのもありかもしれないと考えていた。

 そんな身勝手なことで彼を一人にして良いのか? 否だ。

 彼に悪いところなんて一つもない。それなのに俺は……。

 

 罪悪感、同情。そんな感情がないとは言い切れない。半分くらいはそれが占めているだろう。

 だから、これからそんな感情が消えるまで一緒にいて、本当の友達になれる日を目指せば良い。

 それで弾や数馬、箒ちゃん達も紹介して皆で馬鹿をやれるそんな日が訪れればそれはきっと。

 

「そうだろ? 織斑」

 

「おう!」

 

 

 

 ――そんな未来を望んだ青春の一幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅刻だ馬鹿者」

 

 

 時間の管理には気を付けようと思いました。

 

 

 

 




そして今更ながら、簪ちゃんとか会長とかを絡めるには最初の部屋割りでどっちかを同じ部屋にしておくべきだったと後悔。

諸々後悔が多いので福音辺りを終えたら書き直すかもしれません。面倒なので書き直さないかもしれません。

つまり見切り発車!



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13 ポンコツな金髪が俺に正体を明かしてくる

シャルちゃんはポンコツぼっちになりました。

何時もかもしれませんが、今回読みにくいと思います。


 男子三人仲良く千冬さんに制裁を下され、それを合図に二組との合同授業が開始した。

 一組は日本政府の思惑か日本人が多く、それこそセシリアちゃんくらいしか外国人がいなかったので、外国人の割合が多い二組との授業はいささか新鮮というか、やはり日本人より発育がよろしいというか、頑張れジュニア。しかしよく考えてみると箒ちゃん並びに一組の皆も――よそう。

 

「凰、オルコット、前に出ろ」

 

 さて、授業が始まるという時に鈴ちゃん達が千冬さんに呼ばれた。面倒そうに出る二人に千冬さんが何かを呟き俄然やる気になった瞬間に叫び声。

 何事かとその声の方へ顔を向けると同時に衝撃が走る。本当何が起こった。

 

「大丈夫か? 旦那様」

 

 気が付けばいつもの神殿。

 操縦を誤った山田先生が俺に突っ込み、ユリアがそれに反応してISを展開、そしてその山田先生をお姫様抱っこで受け止めているのが現状である。お姫様抱っこの意味は一体。

 

「褒めて良いのじゃぞ」

 

 腰に手を当て豊満な胸を強調するドヤ顔ユリアちゃんの頭を撫で――例の如く撫でないと涙目――そして山田先生を下ろすように頼んだ。

 しかしこの感覚はどうも不思議な感じがする。ISを起動すると基本的に俺はこの謎空間の神殿でユリアと話すことになる。外の様子は空中に投影されたモニターで見ることができて、会話などもそのモニター越しにすることが可能だ。ちょうどテレビ電話のような感覚。

 こうやってユリアと話している間も神殿の外では俺の身体がユリアによって動かされているのだからなんとも言えない。束さんのことだから命に関わるようなことはないのだろうけど、精神と身体が切り離されるのはあまり気分の良いものではない。悪いかと聞かれると実感はないのでそうは言えないのだが。

 やはり不思議というのが的確な表現だろうか。

 

「――以後は敬意をもって接するように」

 

 なんて思考の海に浸っていると山田先生対鈴ちゃんとセシリアちゃんの戦いが、山田先生の圧勝で終わっていた。

 千冬さん的には普段舐められている山田先生の実力を示して生徒達に認めされるとかそういった意図があったのだろうが――

 

「まやまやすごーい!」

 

「今度教えてー!」

 

 ――うん、まぁ、山田先生のキャラ的にはこのままの方が良いのかもしれない。

 

「では残りの時間、グループにわかれて実習を行う。リーダーは専用機持ちに任せる。以上」

 

 と言われるがままにリーダーとして用意されていた量産機の近くを陣取ってみるが、リーダーって何をすれば良いのだろうか。

 残念ながら全ての動作をユリアに任せているため実技は教えられないし、いまだにISコアとか基本のこと以外さっぱりな座学も無理である。言ってしまえば俺が彼女らに教えられることは一つもない。

 いや、そもそも具体的になにをするか言わない千冬さんも悪いと思うのだ。

 

「とりあえず出席番号順に並んでくれ」

 

「習うより慣れろってのが私の持論。理論云々よりまずは乗りなさい」

 

 織斑、鈴ちゃん、他全員リーダーを全うしていた。なにその対応力。少しで良いからわけてほしい。

 何をして良いのかわからないと言って何もしないわけにもいかず、周りを見ながら見よう見まねでなんとか切り抜けた。

 お願いします、と女子達から手を差し伸べられ、その際腰を折りながら差し伸ばすものだから双丘が重力に従いなんとも言えないご馳走さまです。

 なんてことがあったり、立ったままISを解除してしまった女子がいて乗れなくなってしまいお姫様抱っこをして乗せるはめになったり、しかし俺の意思は神殿の中だから特に役得なことはなかったり、普段の二倍増しで疲れた授業をなんとか乗り越えることができた。

 

「……ベッドが増えてる」

 

 シャルルを加えたいつものメンバーで食事を取ったこと以外はいつもの日を過ごし放課後。

 夕食も終え部屋に戻ると何故かいつも先回りしている面々が居らず、代わりにベッドが一つ増えていた。

 どういうことかと千冬さんに連絡したところ、シャルルと同じ部屋になるとかなんとか。

 元々二人部屋を二つ繋げた、つまりは四人過ごせる広さなので問題はないのだが連絡の一つは欲しかったと言うと曰く山田先生が言い忘れていたとか。大丈夫かあの人……。

 面々がいないのは流石に、会ったばかりのシャルルがいる部屋に無断で入るのはよろしくないとの判断らしい。その常識を少しでも俺に向けてほしいところだが今更なので黙っておく。言ったところで無駄である。俺も馬鹿ではない。

 

「えへ」

 

 遅れてやってきたシャルルと部屋のどこに何があるかとか、シャワーをどう使うとか確認をして各々適当に時間を潰しているとシャルルが凄い笑顔で携帯電話を見ていたので、どうしたと聞くと

 

「見て、アドレス帳が友達の名前でいっぱい」

 

 ずい、と顔を近付けて嬉しそうに携帯を見せてくるシャルル。俺から始まり織斑、箒ちゃんと続き、いつものメンバーのアドレスが並んでいる。悲しくなってきた。

 

「ん、先にシャワー借りて良いかな?」

 

「どうぞ」

 

 少し時間を潰し、シャルルがシャワーを浴びにシャワー室へ。

 アドレス交換だけであんなに喜べるなんて、本当にぼっちだったんだなと再確認。今度の休日、弾のところに連れていこう。数馬も呼んで、いや呼べるだけ呼んで騒ぐのも悪くない。全員と友達、なんてことにはならないだろうが、そういうのも悪くはないだろう。

 そうと決まればシャルルの予定を聞いて――と、ここまで考えて何気なく、別段意味もなくシャルルのベッドへ視線を向けた。

 

「……」

 

 思考が停止。目を擦り、瞬きをしてもう一度視線を向ける。

 

 ――下着。

 

 女性ものの下着がそこにあった。サイズは大きめ。いやいや、そんなことはどうでも良い。

 問題なのは何故ここに女性ものの下着があるのか。

 

「あー!」

 

 程なく悲鳴がシャワー室から聞こえた。ドタドタと悲鳴の主であるシャルルが飛び出てきてその下着を雑に掴んで鞄に投げ入れる。

 

「シャ――」

 

「ち、違うから!」

 

「いや、まだ何も」

 

「男装して近付いてISのデータとるとかそんなのじゃないから!」

 

「……」

 

「え、えっと、あの、ほら」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「――趣味だから! 女性の下着を集めるのが趣味だから!」

 

 それはそれでダメだと思う。そしてスパイ的なことを暴露されたが、それよりも問題なのが一つだけ。

 

「……シャルル、服」

 

「うぇ、え?」

 

 指を指すとシャルルは視線を下に向けた。彼――彼女はおそらく下着を置き忘れてしまったことに気が付き、シャワー室から出てきたのだろう。そのための悲鳴だと考えられる。そして彼女はそれを見られないため急いでしまった結果、そのまま出てきた。

 つまり、裸である。一応本能からかタオルで前は隠しているが大きすぎる胸は隠しきれていない。

 シャルルは女の子だった。わけがわからないとはこのことか。

 

「わ、わわわ」

 

 顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり。羞恥とバレてしまったことへの恐怖がいったりきたりしているのだろう。

 やがて彼女は俯くと決心したかのように高らかにこう言った。

 

 

 

「じょ、女装が趣味だから!」

 

 

 

 それは無理があると思う。

 

 

 

 




初日に正体を明かす系ヒロイン。


ラウラ「私の出番はいつになったら……」

私にもわからない。 


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14 ポンコツな金髪が俺に変態行為を強要してくる

シャルロットさん誰これ状態。今回の話は胸ばっか。


「女装が趣味だから!」

 

 そう宣うほぼ裸の美少女を目の前に俺はただただ黙ることしかできないでいた。むしろこの状況で何か言える人がいるとは思えない。いたら尊敬してしまう。

 しかもそれがたわわに実った果実を誤魔化すための一言なのだから余計に何も言えなくなる。まだ服を着ていたのなら詰め物をしていたとか、女装で納得できなくもないが、タオル一枚では誤魔化せないだろう。

 付け加えると、その言い訳でドヤ顔しているのが理解できない。彼女の中では誤魔化せているのだろうか。あれだ、この子アホの子だ。

 と、こんな風に突然のポンコツさにどう反応すべきかと無言のままいたのが彼女の不安を煽ったのか再び慌てだした。視線を泳がして時折こちらをチラチラと見ては口笛を吹いたりしている。吹けていないけど。

 

「これ取り外し可能なんだよ!」

 

 そして俺の視線に、やはり先の言い訳が通じないと思ったのか、また破茶目茶なことを言い出した。取り外し可能か……そうきたか……ドヤ顔可愛いなぁ。

 

「本当だからね! ちょっと待ってて外してくるから!」

 

 小走りでシャワー室に戻っていく彼女を見送り、ベッドに腰をかける。

 どうしたものか。無論、男装少女のシャルルちゃんについてである。千冬さんに報告すべきか、否か。

 本来であれば即刻報告すべきなのだろうが、シャルルちゃんのぼっちぷりとか、馬鹿っぷりとか、そこらを見ると躊躇われる。

 まだ一日と経ってはいないが悪い子ではないのだ。騙されていたと考えるとなんとも言えない気分にはなる。しかしそれでも報告を躊躇してしまう程には彼女に好感を抱いていることも確かだ。

 あー、いや、やめよう。躊躇している時点で答えは出ている。

 よく考えればあの千冬さんが見抜けないとも思わないし、スパイの対象が俺だけではなく織斑も含まれているなら束さんも黙ってはいないだろう。

 その絶対的な双璧が何もしないなら俺ごときが何かをする必要はない。ここは騙されてあげよう。

 

「ほら、取れてるでしょ?」

 

 ドヤぁ。シャワー室から帰ってきた彼女は胸を張る彼女を見て、というよりは胸を見て唸る。

 あの巨大な二つの丘をどうやって平らにしているのだろうか。押し潰すにも限界があるだろうに。

 

「デュノア社の英知の結晶だからねっ」

 

 その意味も含め、本当に取り外せるのかと言うと自慢気に再び胸を張った。やだこの子可愛い。

 でも取り外し可能な胸が俺でも知ってるような会社の英知の結晶だというのはなんというか……悲しくなる。しかし自慢気なところを見ると取り外しは嘘なのは確かだろうが、胸が消える技術はもしかするとデュノア社の英知の結晶なのかもしれない。

 

「さ、触ってみてよ」

 

 半分呆れながら、そうなんだね凄いね、と返すとそれを俺が信じていないと解釈したのか本日最大の爆弾を投降してきた。おい、待て。違う。

 流石にサラシか何かで保護されているとは言え触るわけにはいかない。

 しかし止まらず、触って、触らない、というやり取りを繰り広げることに。

 

「ミ、ミコトぉ……」

 

 悩ましげな声を出すんじゃない。結局負けて触ることになった。この状況はなんだ。本当なにをしているのだろうか俺は。

 顔を赤く染め、きゅっと目を瞑るシャルル。やめろ、変な気分になる。そもそもこれは不味い。だってシャルルは男ということになっているが女だ。その胸を触るというのはやはり不味いだろう。これが男同士ならまだしも……いや、どっちにしても不味い。

 

「早く……」

 

 とりあえず自分の頬を殴って冷静になる。なったところでおかしなことには変わりはないが、もう一発殴っておいた。煩悩消え去れ。

 少し触れて、本当だね取り外せるね、と感情を込めれば終いである。何を恐れることがあるのか。

 

 男、御山ミコト、いきます。

 

「……」

 

 外はカリッ、中はフワフワ、そんなフレーズが脳を過った。触った感触は固く、しかしその奥に感じる柔らかさ。まさにカリフワ的な感動がそこにはあった。何を言っているのかわからないかもしれないが、カリフワなのだ。触れれば触れるほど癖になる感触というか、状況も相まって一瞬でやめるはずが手が吸い付いたように離れない。

 

「……んっ……」

 

「わ、悪い」

 

 催眠にかかったように思考が停止していた俺。シャルルの声によって戻ってきた俺は慌てて手を離した。

 罪悪感というか自己嫌悪というか思春期だから仕方ないよねとか、頭を抱えているとシャルルがこちらを覗き込み――

 

 

 

「ミコトのえっち」

 

 

 

 ――そう言った。

 

 この子、女であることを隠す気があるのだろうか。そう思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝よう」

 

 いつもに比べればまだ早い時間だが寝ることにする。今日は色々とありすぎた。寝巻きに着替え、布団に潜る。今日の出来事は忘れてしまおう。それが良い。そして明日からシャルルが女だということには一切触れず普通の友達として過ごそう。

 

「……シャル、ルさん?」

 

「なに?」

 

 首を傾げるシャルルさんはとても愛らしいがそういう問題ではない。

 

「……何故俺のベッドに入っているのでしょうか」

 

「友達でしょ?」

 

 言われましても。俺にそんな習慣はないし、多分日本にもない。そのことをやんわりと伝えるとまた首を傾げた。

 

「お母さんが子供の時はそうしてたって」

 

 それはお母さんが女だからではなかろうか。勝手なイメージではあるが女の子のお泊まり会とか同じ布団で寝てるようなそんなイメージ。

 

「ダメ……?」

 

 ダメじゃないです。

 

 恐らくこの子に勝てる日は来ない。結局一緒に寝ることになった。

 まるで在り来たりな恋愛ものの主人公になった気分である。俺は明日死ぬのかもしれない。

 

 




ちょっとなに書いてるか自分でもわからない。

方向性もくそもないね。仕方ないよね。


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15 世界が平和を奪ってくる

壁ドンをなくし、アニメに沿う形にしました。特に事件もない回なので面白味は微妙ですが、よろしくお願いします(ゝω・´★)


「んぅ……おはよぉ、みこと……」

 

 蜂蜜に大量の砂糖を溶かして煮詰めてもまだ足りないくらいに甘ったるい声と、身体の随所で感じる柔らかな感触、それとほのかな良い香りで目が覚める。目を擦り横を見ると、とろん、とした表情でシャルルちゃんがこちらを見ながら微笑んでいた。女であることを隠す気はないようである。この子がスパイとは……大丈夫なのかフランス。いや、スパイではなく、バレる前提でのハニートラップということか……? つまりシャルルちゃんは天然ハニートラップ兵器だった? えげつないなフランス。

 

「……ミコト?」

 

「あ、あぁ、おはよう」

 

「うん、おはよう。朝ごはん僕が作ってあげるねっ」

 

「そうか、ありがとう。頼んだ」

 

 しかし、ハニートラップが真の正体だったとしたら不味くはなかろうか。俺、裸を観た上に胸を揉み、更には添い寝までしてしまっている。端から見なくてもアウトだ。と言うかハニートラップ云々抜きにしてアウトである。人としてどうなのだろうか。一応は全て不可抗力だが、不可抗力で無罪になるのなら裁判はいらない。

 仮定通りにシャルルちゃんがスパイで、既に仕事を終えていたとしたら終わりだ。世界でただ二人だけの男性IS操縦者、フランス代表候補生にセクハラか! なんて文字がテレビで踊ることになる。下手をすればセクハラ以上のことになるだろう。嫌すぎる。 自業自得ではあるのが更に残念だ。

 しかしそうなるとフランスが性別を偽っていることが問題になるから、隠蔽して、偽ったこととセクハラで痛み分けになるのか?

 いや、俺をどうこうするのが目的ではなく、情報とかデータを盗むことが目的という可能性もある。というかそちらの可能性の方が高い。そうなると一晩経っているので目的は達成されたと見るべきだ。

 どちらにしろシャルルちゃんが敵であった場合、俺はもうフランスの手の上である。……天災と最強の双璧を崩せればの話ではあるが。あれ、割りと余裕だ。

 

「ごちそうさま」

 

 結局何時も通りの結論に至る。あの二人が好意的な内は頭空っぽでも何とかなるのだ。やはり心配は不要である。

 そんな風に思いながら食べ終えた食器を片付けて、学校へ向かう。いつの間にかシャルルちゃんと手を繋いでいたが些細なことである。

 

 

 

 

 

 

 放課後。今日は珍しく平和的に一日が終わった。ISの実践授業でもこの間のようなことはなく、織斑も変なことをしなかったのだ。銀髪美少女ことラウラ・ボーデヴィッヒちゃんも、初日のビンタ以降何のアクションもなかった。出席簿アタックもなかったし、実に爽やかで晴れやかな一日である。あとは放課後の訓練がつつがなく終わることができれば完璧だ。

 

「くっ、強い!」

 

「その反射神経、流石ですわね」

 

「後ろに目でもついてるのかしら」

 

 何時ものメンバーで訓練をしていた時のことである。全自動のおかげで最強(笑)な俺は毎回恒例のサンドバッグ役を引き受けて、箒ちゃんとセシリアちゃん、それから鈴ちゃんと戦っていた。戦っていたといっても俺は謎の精神空間である神殿でユリアと戯れていた(戯れさせられていた)だけなので、俺自身は訓練も何もない。良く考えると全自動操作なので訓練は必要なかった。

 

「全自動? そんなものできる訳がないだろう」

 

「まぁ、ミコトさんも冗談を言うんですのね」

 

「そんなのあったら全員がブリュンヒルデよ」

 

 その事を伝えると否定された。なんとか説明しようとしたが、頑なに信じようとしない。全自動なんだけど。

 もしかすると時折発動する"力"が働いているのかもしれない。それなら諦めるしかないだろう。そうじゃないかもしれないが、彼女達がそういうならそうしておこう。少し罪悪感もあるが、仕方がない。

 

「一度使ってみる?」

 

「できるのか?」

 

 サンドバッグ役も一段落し、ISを解いて織斑とシャルルちゃんの方を見る。シャルルちゃんは銃を織斑に貸して、的当てをしていた。なんとも青春といった光景だ。うん、やっぱり平和が一番である。

 

「御山ミコト、私と戦え」

 

 フラグだった。ISを纏ったボーデヴィッヒちゃんが何かを打っ放して来て、この一言である。

 それからは展開が早かった。ボーデヴィッヒちゃんが挑発してきて、それに何故か織斑が否と応え、ボーデヴィッヒちゃんがそれに対し撃つことで更に挑発し、シャルルちゃんはそれを受けとめ、戦いが始まろうとしたところで、教師による静止があり事態は収束したのである。

 

「先戻ってるね」

 

 それから、これ以上訓練するのも微妙な空気になったので解散となった。箒ちゃん達と別れ、更衣室に向かう。それから着替えようとしたところで、シャルルちゃんがISスーツの上から制服を羽織るというレベルの高い格好をして部屋に戻ろうとしていた。戻る途中で女子に会うと騒がれないだろうかそれ。

 

「えぇ、何だよ一緒に着替えようぜ。な、ミコト」

 

 な、ミコト、じゃないんだよ。一緒に着替えたいというのはどういう感情なのか。相変わらず織斑の感性がわからない。

 そしてシャルルちゃんを見送り着替え終え、帰ろうとしたところで織斑が急用を思い出したとかで走って消えていった。一緒に帰りたがるのにな珍しい。そう思いながら更衣室を後にした。

 

「嘘だろ」

 

 日も沈みかけ、空がオレンジ色に染まっているのを眺めながら歩いていると、ガシャン、という音がした。何だと音のした方、下へ視線をやると、右足に刃のないトラバサミが装着されている。……何でだよ。

 痛みはないが動けない。なんとか外そうとするが、全く動かなかった。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

 

 どうするかと悩んでいると不意に声をかけられる。そちらを向くと千冬さんがいた。次の瞬間、千冬さんが消える。何事かと驚いていると、背後に千冬さんがいて抱きすくめられていた。まさにポルナレフ。

 

「……とまぁ、アイツも悪い奴ではない。気にかけてやってくれ」

 

「え、あ、はい」

 

 あまりにも驚いていたので、思わず返事をしたが、何の話だったか聞いていなかった。気にかけてやってくれ、と悪いことではないので良しとする。

 

「なくなってる」

 

 その後、千冬さんにトラバサミを外して(壊して)もらおうとしたが、既になくなっていた。

 

「……帰るか」

 

 気にしないことにして帰路につく。ボーデヴィッヒちゃんの襲撃といい、千冬さんの瞬間移動といい、謎のトラバサミといい、平和な一日は幻想であった。

 

 

 そんな夕暮れの一幕。

 

 



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16 ポンコツな金髪が俺にあーんを強要してくる

二話投稿しているので、まだ読んでない方は前の話からお読みください。

※この話は新規で書き直した15に合わせるため、一部だけを書き換えたものであり、内容は旧16と変わりません。2018/11/23現在、書き直しで新規で書いたのは10と15のみです。


「私ね、愛人の娘なの――」

 

 ――から始まる彼女の独白はまさに悲劇と言えよう。

 

 涙ながらに語る彼女を見ればそれが嘘偽りのない話だと信じられる。震える彼女を見れば、これからのことへの恐怖が本物だとわかる。

 

 しかし、それでもなんとも言えない気持ちになるのは何故だろう。

 

「……あの……服を」

 

「それで会社から――」

 

「……その前に服を」

 

「男として――」

 

 多分、というか十中八九彼女――シャルロット・デュノアが裸で、そしてここがシャワールームだからである。

 

 

 事の経緯は部屋に到着したところから始まる。と言っても別段壮大なものではない。

 単にシャワーを浴びようと着替えとタオルだけを持ちシャワールームのドアを開けたのだ。

 言い訳にしか聞こえないだろうが、トラバサミやらで軽くポルナレフしていた俺はシャルルちゃん――改めシャルロットちゃんの存在が頭からすっかりと抜け落ちていたのである。

 

『あ』

 

『あ』

 

 さん、はい。

 

『きゃぁー!』

 

 というラッキースケベ。現実でこんなことが本当に起きるとは思わなかった。これ(ラッキースケベ)ってどのくらいの確率なのだろうか。多分、凄まじく低いと思われる。なんでこんなところで運を使っちゃうのかな俺は。こんなことなら宝くじでも、なんて逃避をしているとシャルロットちゃんが語り始めて今に至る。

 

 服を着てください、本当。

 

 というか本当にバレていないと思っていたシャルロットちゃんに驚かざるを得ない。

 

「君は何も見ていない、いいね?」

 

 的な良くあるごり押しに俺が同意した形だと思っていたがシャルロットちゃんは本気で隠し通したと思っていたらしい。でないと今正体を明かす理由がない。

 しかし、前回も今回も裸を見たことには変わりがないのに前回は隠し通して、今回は自白とはどういうことなのだろうか。今回も押し通せば良いのに、とシャルロットちゃんに視線を向けて察した。あれだ、あの、ほら、タオルが今回はなかったね、うん。バレたかバレてないかの基準そこなんだ。

 

 

「そ、それでこれからはどうするんだ?」

 

 視線を逸らして、今後の話をすることにした。女の子の裸を見るのは良くない。

 

「バレっちゃったから本国に呼び戻されるかな。それから多分、処分されちゃうと思う」

 

 処分。デュノア社の一員としての処分なのか、フランス代表候補生としての処分なのか、人としての処分なのか、女としての処分なのか、いずれにしても最悪の結果には変わりはないだろう。

 狭いシャワールームで二人裸で向かい合いシリアスな話をするというギャグというかシュールだな、と思っていたが思ったよりも重く厄介な話になってきた。

 いじめられていて、それを助けるくらい単純なものならすぐにでも手を差し伸べることができる。しかしことがことだけにどう動けばいいのかわからない。

 デュノア社は勿論、代表候補生だからフランスがバックにいる可能性もある。千冬さんが見逃しているのはそこら辺が関係しているのかもしれない。もしくは別の思惑があるのか。

 雁字搦めすぎて俺にはどうしようもないことである。下手をして余計にシャルロットちゃんの立場を悪くしたくはない。

 だからといって見捨てるなんて選択肢はない。たとえスパイもどきだったとしても友人として過ごした時間に嘘はなかった。

 しかし、動けない。こういうとき、織斑の正義感というか純粋さは羨ましく感じる。

 

「とりあえず服を着ようか」

 

「あ」

 

 話が終わったからなのか、ようやく気が付いてくれたシャルロットちゃんとシャワールームを出た。このままではシャルロットちゃんは湯冷めするし、俺は普通に風邪引きそう。

 

「……」

 

「……」

 

 二人揃って無言。

 

 さて、俺にはどうすることもできないと言ったのは俺個人ではということであり、協力を仰げばそれこそ世界を引っくり返すことさえできる、むしろ既に引っくり返しているほどの人脈がある。無論、千冬さんと束さんの二人だ。

 もうこの二人の名前があるだけで負ける気がしない。チートを通り越してバグである。チートもバグの内のような気もするが、兎に角この二人は凄い。

 なんというか今まで主人公が頑張ってきたことを片手間にやってしまう最強キャラのような台無し感さえあるのだ。事実、この前の襲撃も千冬さんなら生身で解決していただろう。

 ならもう早々に彼女達に頼れば良いのではないかと思うかもしれないが、何分効力が強いので代償が大きいのだ。

 例えば千冬さんに今回のことを頼めばおそらく丸一週間は拘束され訳のわからないことをさせられ、例えば束さんに頼めば丸一週間は拘束され下手をすればここに戻ってこれないだろう。過去の経験からの推測なのでおそらくそうなる。

 でもまぁ、友人のためだ。一週間くらい我慢しようじゃないか。別段、とって食われる訳でもないし。ただなんか抱き枕にされたり着せ替え人形にされたり、見つめ合うだけで三時間とかその程度のことだ。うん、ぼく、ダイジョウブ。友人のためジョーカーを切ろうじゃないか。

 

「――聞いてくれ」

 

 シャルロットちゃん。俺に良い考えがある。と立ち上がったところでポケットから何かが落ちた。

 

「――! そうか、その手があったんだね!」

 

 それは生徒手帳であった。何故か付箋がしてあり、開きやすいようになっている。そしてそのページを見てシャルロットちゃんは手のひらを叩いて喜んでいた。

 

「あっ……でも私は二人を騙して……ここに、いても、い、良いの、かな……」

 

 そして落ち込むシャルロットちゃん。その手がどの手か知らないが元々シャルロットちゃんにここにいてもらうために動こうとしたのだからそれ事態は問題はない。その趣旨を伝え

 

「――俺達友達だろ?」

 

「――うんっ!」

 

 的なことで締め括っておいた。我ながら適当である。しかしシャルロットちゃんが嬉しそうなので良しとしておこう。うん。

 

 

 因みに生徒手帳の開いたページには特記事項が書かれており、IS学園にいる間は干渉されないから安全だぜ、みたいなことが書かれていた。ぶっちゃけ三年の猶予があるだけで根本的な解決になっていないような気がするけれど、そこら辺はおいおい織斑辺りが解決してくれることを願っておこう。あまりジョーカーは切りたくないのである。

 

 

「ね、ねぇ、ミコト。あーん、して?」

 

 その後、何故か甘えん坊モードに入ったシャルロットちゃんのためにせっせとご飯を運ぶ俺でした、まる

 

 

 

 




次回より書き直しではなく、新規の話となります。話が進むよ!


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