君の声を聴く (コストコ)
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第1話 詐欺にあった話
コストコです。
GEの小説書くのは初めてですので、どうか温かい目で見てください。
それでは、どうぞ
フェンリル極東支部
かつては日本があったとされる土地に建設されたそこは支部拠点施設が地下にあることから「アナグラ」とよばれている。
アラガミが集結する激戦地の極東地域にある支部であることから、ほかの支部よりも優遇されており優秀なゴッドイーターも多く配属されている。
そんな対アラガミ戦線の花形とされる極東支部の現支部長であるペイラー・サカキは自身の研究室で忙しそうに目の前のキーボードを叩いていた。
彼の開いているのかいないのかわからない狐目は目の前の画面に表示されている二人の人物に向いていた。
「ふぅ…、適合率の確認完了っと。成功率はいつもと変わらず98%以上だし、今回も問題はなさそうだね、うん。」
そう言って彼が眼鏡をクイッと上にあげた時、彼の前にある出入り口のドアがスライドされ一人の女性が研究室へと入ってきた。
明るい髪色をしたその女性は、手に持った書類に目を向けながらサカキの声をかけた。
「サカキ支部長、そろそろお二人の適性検査のお時間です。」
「おっと、もうそんな時間かい?ありがとうヒバリ君、今行くよ。」
ヒバリと呼ばれた女性はサカキが立ち上がるのを見ると、出入り口から体を逸らし、彼に進路を譲った後、その後ろを歩き始めた。
「両名ともに、現在検査室前にて待機中です。」
「そうかそうか、行動が早くて何よりだね。あとはきちんと適合さえできれば文句なしだ。もしできなかったらとんでもないことになるからね。」
「支部長!縁起でもないこと言わないで下さいよ。もし本当に起こったら冗談じゃ済まされないんですからね!」
「フフ、すまないね。研究者というものは常に最悪のケースも視野に入れなければならない者だからね。」
そう言って口角を少し釣り上げたサカキは眼鏡をはずした。
その眼鏡のレンズを服の袖で拭いた彼は、再び眼鏡をかけた。
「さて、それじゃ行こうか。…新しい『
➡➡➡
極東支部適性検査室
ドアの上部にある札にそう書かれている部屋の前には簡素な長椅子が置いてある。
その椅子に二人の男女が座っていた。
男性の方は、お世辞にも整えられているとは言えない短い黒髪が特徴的であり、フェンリルから支給されたF武装式と呼ばれる制服を着ていた。
先ほどから目がきょろきょろと動かしており、どことなく緊張しているのがわかる。
平均的な男性の身長をしており、顔だちもいたって普通。
少なくともイケメンと呼ばれるような部類の男性ではないのは明らかである。
女性の方は明るい水色の髪をしており、短い髪は少し横にはねていた。
身長はそれほど高くはなく、どこか小動物を思わせるようなかわいい顔だちをしている。
胸部はそれほど突出してはおらず、スレンダーな体形をしている。
フードのある水色のパーカーのようなものを着ていた。余談ではあるが、この服は雑誌に掲載されており、ビビットシリーズと呼ばれているお高めの服である。
彼女は足をぶらぶらさせながらドアを見つめていた。
しばらく彼女はドアを見つめていたのだが、あまりに退屈だったのか隣の男性へと声をかけた。
「…なんだか、随分と遅いですよね。私たちもう30分くらいここで待ってません?」
「……」
「…あのー、大丈夫ですか?」
「うぇ!?あ、いや、大丈夫!なんていうか…すこし緊張しちゃって。」
「あ、そうなんですか。実は私も少し緊張しちゃってたんですよ。私だけじゃなくてよかったです。」
(今まで足ぶらぶらさせてたやつが言うセリフじゃねぇよ。)
至って笑顔でそういう女性に男はそう愚痴をこぼす。
男から見れば、彼女のしぐさや声色に緊張の色は欠片ほども見えなかった。
どうやらこういった緊張感のある場所でも自分のペースを崩すことのない明るい女性なのだろう。
「あ!そういえば自己紹介がまだでしたよね?私、本日適性検査を受けに来た柏原セイラって言います!よろしくおねがいしますね!」
「え、あ、…丁寧にどうも。あーっと、俺の名前は痣城レイジ。同じく適性検査をうけに来たんだ。俺からもよろしくってことで。」
「はい!」
そう言って屈託のない笑顔を向けるセイラの顔をみて少しだけ心に余裕ができたレイジは先ほどより緊張の抜けた声でセイラに話しかけた。
「適性検査かぁ…、なぁ、セイラは適性検査って何やるのか聞いたことある?俺そういう知識全然なくてさ。」
「えっと、確かパッチ検査の一種だったような気がしますね。それ以外のことはあんまり…。」
「あ、そうなのか。ただのパッチ検査ならそんなに身構えなくてもいいか。変に緊張してなんだか損したなー。教えてくれてありがとな、セイラ。」
「これくらいのことなら全然大丈夫ですよ!もしわからないことがあるなら遠慮しないで聞いてくださいね!」
「ははは、重ね重ねありがとう。なら何かあったらまたよろしく頼むわ。」
「はい!適性検査に通ったら二人ともゴッドイーターになるんですし、お互い助け合っていきましょう!せっかくの同期入隊ですし!」
そう言って胸の前で両手で拳を作るセイラ。
そのあと「ね!」と言いながらレイジの方へと顔を向け、可愛らしく首を少し曲げた。
レイジはそんな彼女に対して「そうだな」と少し笑いながら言葉を返した。
正直ゴッドイーターになるのに不安と期待が入り混じっていてこれからどうなっていくのか心配だったのだが、目の前にいる親切で快活なセイラを見ていると、この同期と一緒なら何とかなりそうだな、と思えてきた。
(悪そうなやつでもないし取っ付きにくそうなやつでもないし、仲良くやってけそうだ。同期になるかもしれないやつと険悪な仲だったらこの先の戦闘にも支障が出るかもしれないからなー。人間関係が劣悪過ぎて仲間に刺されるなんてシャレになんないし。)
そんなことをレイジが考えていると、部屋の四隅に取り付けてあるスピーカーから先ほどの声が聞こえてきた。
「柏原セイラさん、適性検査の準備ができました。直ちに適性検査室にお入りください。」
「あ、やっと呼ばれましたね!もう待ちくたびれちゃいましたよ。んー…あ、ほら!体を少し伸ばしただけなのにポキポキって音がしましたよ!」
「はは、まぁこんだけ長い間座ってたら無理もないさ。てか、早く行った方がいいんじゃないか?遅れたらお偉いさんに何言われるかわかんないぞ。」
「む、それもそうですね。それじゃ、お先に失礼しますね!また後で会いましょう!」
こちらに向かって笑顔で手を振るセイラに手を振り返しながら彼女を見送るレイジ。
そして、彼女が軽い足取りでドアの向こうまで行き、ドアが閉まってセイラが見えなくなった後、彼は椅子に座りながら大きく伸びをする。
ポキポキと、先ほどのセイラと同じような音を出しながら、伸びを終えたレイジは組んで頭上に伸ばしていた両手を戻しながらゆっくりと息を吐いた。
セイラがいた時とは違い、薄暗い部屋の中は静寂に包まれており、若干先ほどよりも重苦しい雰囲気になっていた。
思わずその雰囲気に呑まれそうになるが、先ほど彼女から検査はパッチ検査であると聞いたため幾分心に余裕ができていた。
「ま、そんなビビらなくても大丈夫だよな。所詮パッチ検査だし。命にかかわるようなことも起きは…」
「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
「しない…だろう…し…?」
突如目の前の扉の中から聞こえてきた悲鳴に思わず言葉を詰まらせる。
(おい、なんだ今の悲鳴はものすごく苦しそうだったんですけど?)
悲鳴の主は間違いなく先ほどセイラである。
しかも、その悲鳴がなんというかものすごく凄惨なのである。
まるで太ももに思い切りナイフでも突き刺さったかのような悲鳴が目の前の扉の中から聞こえてきたのである。
彼女が悲鳴を上げてからもう1分は経っただろうか。
先ほどとは打って変わって滝のような汗を流しているレイジは軽いパニックに陥っていた。
それもそのはず。
自分が受ける予定と同じ適性検査を受けた人間の悲鳴がいきなり聞こえてきたのだ。
不安になるなと言われても無理な話である。
(なんだ今の悲鳴は?おかしくねパッチ検査なんだろ?叫ぶ必要なんて一ミクロンもないはずだよな?え、ちょっと今俺の目の前の部屋で一体何が起きてんの?てかセイラは無事なのか?そして俺も無事でいられるのか?)
ぐるぐると数々の疑問が頭を回っている中、スピーカから先ほどと同じ女性の声が聞こえてきた。
「痣城レイジさん、適性検査の準備ができました。直ちに適性検査室にお入りください。」
(先ほどのセイラの悲鳴に全くのノータッチだと…。せめて説明とか欲しいんですけど…。このままだと安心してこのドアを開けることができないんですけど!?)
心の中で「説明プリーズ!!」と叫ぶレイジ。
そんな彼の心の叫びが聞こえたのか再びスピーカーから女の人の声が聞こえる。
「えっと…痣城レイジさん?聞こえてますか?早く適性検査室にお入りください。」
無常にも彼の叫びは届いていなかったらしい。
結局説明はしないのかよ、と思い肩を落とすレイジ。
そして、先ほどのセイラとは対照的に重い足取りで検査室の入口へと向かう。
その顔は、誰が見ても分かるくらい不安と恐怖でいっぱいだった。
すると何を思ったのか入口の前に立ったレイジは下にうつむいて何かを呟き始めた。
(大丈夫問題ない所詮パッチ検査だ何も怖くないセイラの悲鳴も勘違いだ大丈夫大丈夫)
扉の前で半ば自己暗示気味に呟いている彼は傍から見たら危ない人である。
そして、なんと数分間も自己暗示の呟きをつづけたレイジは一度大きく深呼吸をすると、まるで死を覚悟した兵士のような顔をしながら入口の扉を開けた。
びくびくしながらスライド式の鉄扉をくぐって検査室に入るレイジ。
そんな彼の瞳に入ってきたのは大きな剣のようなものを乗せたプレス機のようなものだった。
じーっと目の前の機械を見つめているレイジの耳にスピーカから発せられた男性の声が入ってきた。
『ふむ、予想より63秒遅いね。心の準備に少し手間取ったのかな?まぁ、細かなことは気にしないことにしよう。さて、フェンリル極東支部へようこそ、新人君!さっそくだけど、君には今から神機使いになるための適性検査を受けてもらうことになっている。まぁ、気を張らずにリラックスして受けてくれたまえ。…あれ?おーい、聞こえてるかい?』
長々と話をしていたスピーカの声の主、ペイラー・サカキは自分の声に全く反応を示していないレイジにやっと気づいて声をかける。
しかし、レイジは先ほどと同じように目の前の機械を見つめ続けていた。
『…まったく反応がないねぇ。おっかしいなぁ?ヒバリ君、このスピーカーちゃんとはいってるのかい?』
『はい、きちんとはいってますから特に問題はないとは思うんですけど…』
「あの、すいません」
『おや…?』
やっと声を出したレイジは恐る恐るといった具合でスピーカーの向こうのペイラーに話しかけた。
「これって適性検査ですよね?」
『?ああ、その通りだとも。それがどうかしたのかな?』
「…適性検査ってパッチ検査なんですよね?あの、見た感じどう見てもパッチ検査じゃないんですけど。」
『パッチ検査?君は一体何を…』
『支部長!適性検査は表向きではパッチ検査ということになっています。』
『…ああ!そうだったそうだった。いやぁすっかり忘れていたよ。』
「え、忘れてたって?ていうか表向きっていったいどういう…」
『まあまあ、落ち着き給え。さっきも言っただろう?細かなことは気にしないことにしようってさ。』
「いやいやいや、全然細かくないでしょ!説明を要求します!」
『大丈夫大丈夫。時間的な面ではパッチ検査と何ら変わりはないよ。一瞬で終わってしまうからねぇ。もちろん、痛みを感じるのだって一瞬さ。』
「やっぱりパッチ検査じゃないのかよ!ていうか今痛みを感じるとか言わなかったか!?一体なにする気だよ!」
『何って…さっきも言っただろう?適性検査だよ、君がゴッドイーターになるためのね。なに、心配することはない。君はフェンリルがきちんと調べて、ほぼ神機に適合できると判断されたんだ。もっとリラックスしたまえ。その方がいい結果が出やすいよ。それとも、僕らフェンリルのことが信用できないのかな?』
「今さっき信用できなくなりました。ていうかやってることは詐欺と何ら変わりがないじゃないかよ!とにかくまずは、この適性検査がどういったものなのかきっちりと説明を…」
『んー困ったなぁ。このままじゃおしゃべりばかりでらちがあかない。少々手荒だが、早急に適性検査を受けてもらうとしよう。』
「ちょっと待て!俺の話はまだ…ってな、なんだこれ!?うわ、ちょ、は、はなせ!この!」
突如として床から出てきたアームに手足をつかまれたレイジは、アームに続いて出てきた椅子に無理やり座らされた。
椅子に座らされた後もアームがレイジを離す気配はない。
そして、レイジの座った椅子はきゅるきゅるとタイヤの回る音を鳴らしながらプレス機のような機械の前まで移動した。
「おい!一体何させる気だよ!ちょ、待てっ…何かプレス機の上のくぼみの部分にドリル見たいのが見えるんですけど!ねぇ、俺の腕がアームに無理やりくぼみ部分に置かれたんですけど!?まてまてまてまて!心の準備もなにもまだできてないんですけど!?」
無情にも固定されてしまった腕を引き離そうとしながら抗議の言葉を叫び続けるレイジ。
そしてそのわずか数秒後
彼の想像を絶する叫びがフェンリル極東支部に響き渡った。
グダグダだなぁー
もっと精進しないと…
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第2話 好奇心は人をも殺す
早く出したいです…
とある部隊隊長の自室
ベッドの周りや家具であるタンスの上など部屋中に置かれている大小さまざまなぬいぐるみが特徴的なその部屋の個人専用ターミナルの前に一人の女性が立っていた。
肩にかかるほどの長さの黒髪に凛とした吊り目の瞳が特徴のきれいな容姿をしているその女性はまさしく戦う女というような雰囲気が漂っている。
しかし、それよりもさらに驚くべきはその服装である。
下の方は普通の黒のジーンズパンツなのでなんの問題もない。
問題はその上の方である。
何と彼女の服装は、シャツも下着も一切つけず、黒のジャケットを上から着ているというかなり大胆な服装だった。
そのジャケットも胸元部分までしかなく、へそも丸出しである。
さらには前のチャックは胸元が大きすぎるのか、それとも彼女が意図的にそうしているのか全開となっていたのだ。
そんな何とも開放的な服装をしている女性はターミナルを両手でいじくりながらぶつぶつと何かを呟いていた。
「んー、やっぱり実地演習前に一度アラガミの講義をした方がいいのかしら?でも調べればデータベースで確認もできるし、おおまかな部分だけ説明して、後はあの狐目…じゃなくて支部長に任せればいいか。。あ、そうだ、アラガミとの戦闘の前に神機の扱い方についても説明しておかないといけないわね…。これは…どうだろう?正直習うより慣れろって感じなんだけど説明しておかないと後が大変そうだし…ああああ!もう!考えることが多すぎる!」
「失礼しますね。…うわぁ、なんだかすごく大変そうですね。」
女性が頭を両手でかきむしりながら叫び声をあげていたタイミングで部屋に入ってきたのはフェンリルのオペレーターに配給される制服を着た若い青年だった。
部屋に入っていきなり入居人の叫び声を聞いたその青年は思わず苦笑いをしてしまう。
「ん?あら、テルオミ君じゃない。どうしたの、何か私に用事?」
「はい、先ほど新しく入隊したゴッドイーター二名の適性検査が終わりましたので至急エントランスまで移動してください。」
テルオミと呼ばれた青年にそう言われると女性は口元を両手で覆った後深いため息を吐いた。
その顔には緊張と不安が入り混じった何とも言えない表情が張り付いている。
「はぁ~、とうとう来たわねこの時が。ううぅ…緊張するわ。」
「あはは、珍しいですね。あなたがそんなに緊張している姿、初めて見たかもしれません。」
「緊張もするわよ。今までアラガミをたたきつぶすことくらいしかやってこなかったんだもの。誰かにものを教えるだなんて一回もしたことないんだから。」
「何事も経験ってやつですよ。それにほら、こうやって教練講師の打診が回ってきたということは、それだけの実力と信頼があるってことじゃないですか。むしろあなたの実力を考えてみればむしろ遅いくらいじゃないですか?」
「どうかしら?あの狐目のことだもの。きっと面倒だから私に押し付けたのよ。それに私じゃなくても、ブレンダンさんとかタツミさんとか、もっとふさわしい人がほかにいると思うの。寄りにもよってなんで私に…。」
「タツミさんもブレンダンさんもサテライト拠点の防衛等で極東支部を離れることが多いですからね、しょうがないですよ。いい加減に腹をくくったらどうですか?」
「…テルオミ君、貴方他人事だと思ってない?」
「やだなぁ、そんなわけないじゃないですか、あはは。」
恨めしそうな視線を向けてくる女性に全く動じず、笑顔で受け流すテルオミ。
そんな彼を見て何を言っても無駄だと判断した女性は、大きく深呼吸をした後、両頬を二回両手で叩いた。
「…よし!いつまでもグダグダ言ってなんていらんないわね。泣き言なんて言ってたら彼らまで不安になってしまうもの。いい加減覚悟を決めないと!」
「そうそう、その意気ですよ。新人二人のこれからをつくっていくんですから、しっかりお願いしますよ!」
「…ストレートにハードルあげてくるわね。ま、やれるだけのことはやるつもりよ。でも、これからの戦いを生き抜けるかどうかは最終的に、彼ら次第だけどね。」
そう言ってわずかに笑みを浮かべた後、女性は自室を出て速足で昇降機へと歩いて行った。
途中に背後から聞こえたテルオミの「頑張ってくださいね!」という声に手だけ振りながら答え、彼女は開かれた昇降機の扉をくぐり、エントランスへと向かった。
➡➡➡
極東支部エントランス
任務受注のための受付や複数の共同ターミナル、出撃用昇降機から各フロア移動用の昇降機などがあり、任務出撃前の準備から様々な場所への移動も可能とする場所である。
そのエントランスにある受付の前方に設置されているソファに一人の男性が座っていた。
先ほど詐欺まがいの適性検査を受け、無事に神機に適合することができた痣城レイジである。
顔を下に向けたままソファに座っている彼は傍から見ても分かるほどの暗い雰囲気を醸し出していた。
彼はしばらく視線を床に集中させていたがふと何を思ったのか自分の腕に新しく装着させられた赤い腕輪に視線を移した。
パッチ検査だと同期に言われて安心して検査に向かったと思えば、実態は何の説明もなくいきなり自分の腕にドリルをぶっ刺しながら腕輪をはめ込むというとんでもないものだった適合検査。
しかも腕輪がはめ込まれた後、痛さに悶絶しながらもスピーカーから聞こえてくるあの憎たらしい男の声に従って目の前にあった大剣を手に取ったらいきなりそこから黒い繊維のようなものが無数に飛び出てきて、件の腕輪に入り込んできた。
一瞬何かが体の中を這いずり回るような感覚に襲われたものの特にこれといった変化はなくそのまま検査は無事終了。
そしてこの腕輪はおろか先ほどの適性検査の詳細な説明もされずにエントランスに誘導され、そのまま放置されているのが今の現状である。
ここまでの流れをかなり簡単に説明するなら就職先でいきなり詐欺にあって謎の腕輪を無理やりはめ込まれた、ということになる。
この後、「その腕輪めっちゃ高いからお金請求するね」と言われる未来すら安易に想像できてしまう。
そうれくらいに彼の中のフェンリルのイメージはがた落ちしていた。
不安と憎悪が入り混じった視線を腕輪に向けていると前方からカツカツと誰かが歩いてくる音がした。
視線を腕輪から前方に移すと、そこには少し横にはねた短い水色の髪をしている同期の少女、柏原セイラが立っていた。
彼女はその可愛らしい顔をカクンと小首をかしげたあと、心配そうに声をかけた。
「あの~大丈夫ですか?なんか、凄い顔してましたけど…」
「いや、大丈夫。この先きちんとこの場所でなんの問題もなく働けるか不安になってただけだから。」
「えっと、全然大丈夫そうには思えないんですけど…」
レイジの返答に苦笑いを浮かべるセイラ。
彼の表情はいたって真剣であり冗談なのか本気なのかが全然わからないのだろう。
「あれ、そういえばセイラは何してたんだ?さっきちょっとこの辺散歩してくるとか言ってなかったっけ?」
実はセイラもレイジと同じように適性検査を終えた後、エントランスで待機していたのだが、数分前にあまりにも暇だから少し近辺を散歩してきます、と彼に言って姿をくらませていたのだ。
彼に指摘されたセイラは頬をほんの少しだけ赤くさせながら恥ずかしそうに呟いた。
「えーっと…実は…広すぎて道に迷ってしまって。…途中親切な清掃員のおばさんに道を聞いて何とかここに戻ってきたんです。」
「ああ…なるほど。確か支部の拠点だか何だかが地下にあるからアナグラって呼ばれてるんだっけ?だとしたらここって外から見た以上に広いのかもしれないなー。いやまぁ、見た目も随分と大きかったけどさ。」
「うぅ~、16にもなって迷子なんて恥ずかしいです。…あ、でも!ただ迷子になってたわけじゃないんですよ?」
そう言って彼女が取り出したのは2本の缶ジュースだった。
彼女は缶ジュースをソファのまえのテーブルに置くと自身もレイジの隣に腰を下ろした。
「そろそろのども乾いてきたので、さっき迷子になっていたときに自販機で買っておいたんです!」
「おお!サンキュー、セイラ!ちょうどのどが渇いてたとこなんだ。」
「えへへ、どういたしまして!あ、お金なら気にしなくてもいいですよ。今回は私のおごりです!同期入隊の記念ってことで。」
「え、いいのか?なんか悪いなぁ、俺ばっかりもらってばっかで…。んじゃあセイラも何か困ったことがあったら俺に何でも言ってくれよ。俺にできる範囲なら手伝うからさ。」
「はい!お互い持ちつ持たれつで行きましょう!」
「迷子になった時も連絡していいからな」
「その話はもうおしまいにしましょうよ…」
そう言って頬を搔くセイラを見て一瞬小さく笑った後、レイジはテーブルに置かれた缶を手に取り両手の中で転がし始めた。
「それにしてもさぁ…」
「はい?」
「なーんか実感わかないよな、俺たちがゴッドイーターになったんだってさ。」
「…言われてみれば確かにそうかもしれませんね。適性検査が終わった後も特に何を言われるわけでもなく、エントランスで待機しているだけですからね。」
レイジの言葉に思うところがあったのかセイラも両手で缶を持ちながら同調する。
レイジはしばらく両手で缶を転がした後、また視線を自分の腕輪に向けた。
ここに来るまではなかったこの腕輪がどういうものかはよくわからないが、恐らくはこれがゴッドイーターの印のようなものになるのだろう。
そう思ってこの腕輪を見ると、先ほどとはまた違った感情が生まれてくる。
「…まぁ、今日やったことっていってもドリルぶっ刺されて無様に悲鳴あげただけなんだけどな。」
「そういえばあれものすごく痛かったですよね!ひどいですよ!私、公式FBSで適性検査はパッチ検査だって聞いてたから安心してきたのに…。別の意味で予想を裏切られました…。」
「ワクワクとドキドキが一瞬で痛みと恐怖に変わったね俺は…。まぁあれだろ?フェンリルでは俺たちの手首をドリルで穴あけパッチンする検査をパッチ検査っていうんだろ?」
「……??すいませんそれどういう意味なんですか?」
「…すまん、俺のボケのレベルが低すぎた。ほんとにごめん、だから今の発言はなかったことにしてくれ。」
自分のギャグのセンスに悲しみを感じ、若干肩を落としつつもレイジは缶ジュースを開けようとプルタブに指をかけ…すんでのところで指の動きを止めた。
彼が指を止めた理由は、缶ジュースに書かれている名前にあった。
「なぁ、セイラ…この『初恋ジュース』ってなんだ?俺こんな飲み物見たことも聞いたこともないんだけど…」
「あ!実はこれ、自販機に『極東支部限定!ここでしか飲めない味!』って書いてあったんです。私、こういう不思議そうなものとか限定品に弱いんですよね。」
そう言って自分の分の『初恋ジュース』を見せて嬉しそうに笑うセイラ。
「なるほど、限定品か…」と呟いて自分の手元にある『初恋ジュース』を見つめる。
彼ももちろん人並みに好奇心はあるので珍しいものなどには興味を示すことがある。
仮に自分が彼女と同じように自販機でこんな不思議そうな飲み物が売っていたら、思わず買ってしまうだろう。
「あ、もしかして…嫌でしたか?それならすぐに違う飲み物買ってきますけど…。」
「いや、俺もこういう珍しい物、好きだからさ。こんな面白そうなものが売ってたら、思わず買うよな。」
「ですよね!だって『初恋』ですよ、『初恋』!一体どんな味なのか気になりますよね!」
そう興奮気味に話すセイラを見て小さく笑みを浮かべるレイジ。
そして彼は『初恋ジュース』のプルタブをあげて缶をセイラの方に向けた。
「よし、せっかく二人とも飲み物を持ってることだし、乾杯でもするか!ほら、セイラも缶開けて。」
「あ、はい!ちょっと待っててくださいね…っと。」
セイラはレイジにせかされて慌てたように缶を開けると、彼の缶と対面するように自分の缶を向けた。
「それじゃあ、改めて!二人の同期入隊を祝して…」
「「乾杯!」」
そう言って軽く缶を突き合わせて乾杯をする二人。
彼らは乾杯をした後、何とはなしに二人で顔を見合わせた。
そして、二人同時に笑った後、
これまた二人同時に、『初恋ジュース』なる飲み物を一気に飲み込んだ。
「…ねぇ、ヒバリ」
「えっと、なんでしょうか。」
エントランスの受付カウンターにいるヒバリに声をかけたのは先ほど自身の部屋でテルオミと話をしていた女性だった。
その女性の手元には部屋を出た時にはなかったいくつかの資料があった。
彼女の表情は限りなく無表情に近く、感情の起伏がほとんどみられていなかった。
彼女に声をかけられたヒバリは苦笑いをしながら受け答えをしている。
「…私、テルオミ君に新人二人がいるからすぐにエントランスに来いって言われたから来たんだけど。」
「あ、そうなんですか…。」
「だからね、私はなるべくいそいで資料をまとめてここに来たの。新人二人のプロフィールとか、いろいろなデータを収集してね。…すごく大変だったのよ。」
「そ、それは大変でしたね…」
そこまで会話をしてから女性はうつむいて肩を震わせた。
その震える背中には憤怒に近い感情が見え隠れしていた。
それを見たヒバリは、これはまずいと思いとっさに耳をふさいだ。
その瞬間、女性はばっ!と顔をあげて大声で叫んだ。
「なのに!どうして!その新人二人がここにいないのよぉぉぉおおおお!!!!」
うがぁああああ!と怒りの叫び声をあげる女性。
なんで時間通りに待機してないのよ!とか私の苦労を返せ!など怒号を言う女性をなんとか落ち着かせようと声をかけるヒバリ。
エントランスに響く女性の声のせいなのか否か、テーブルにおいてある持ち主の分からない二つの缶ジュースの内一つが倒れた。
わずかに残った中身がテーブルに飛び散る。
その缶の表面には『初恋ジュース』という何とも不思議な名前が表記されていた。
主人公とセイラちゃん達は一体どこに行ったんでしょうね?
そしてこの教練講師は一体誰なんでしょうね?
謎ばかりです。
そして相変わらずのグダグダ感。
すみませんとしか言いようがありません。
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第3話
「えっと…とりあえずは私自身の紹介ね。今回貴方たちの総合教練担当になった柊ユイです。まぁ堅苦しいのは苦手だから、お互いかしこまらないで行きましょう。これからよろしくお願いね…と言いたいところなんだけど…」
「よ、よろしくお願いしm…うっ」
「うぁぁ…お腹が痛い…」
「…大丈夫?無理しないで、医務室へ行く?」
自己紹介をやめて心配そうに目の前の二人の新人を見つめるユイという女性。
その女性の目の前には、あわてたように右手を口元にあてて若干苦しそうにしている痣城レイジと、胃のある所に手を当てて苦い顔をしている柏原セイラがいた。
彼女の言葉に彼らは激しく首を横に振り「大丈夫です…」と小さくつぶやいた。
何とも締まりのない対面となってしまったこの時間からおよそ数十分前。
エントランスで怒り狂っていたユイはそのままヒバリになだめられながらも怒鳴り続けていた。
数分間、ずっと怒鳴りつづけていたユイだったが、レイジとセイラ二人がエントランスに戻ってきたとき、彼女は怒鳴るのをやめた。
ユイはズンズンと彼らに近づき、怒りのままに感情をぶつけて叱ろうとしたのだが、二人のあまりにも辛そうな顔を見て思わず言葉を詰まらせた。
彼らの顔色は健康な人のものとは到底言えず、今にも衛生上よろしくないものを口からぶちまけてしまうのではないかと思ってしまうほどである。
苦しそうに口元を押さえながらも遅れたことに対する謝罪の言葉を口にする彼らを見て、ユイは怒るに怒れず、とりあえず彼らに遅れた理由を問いただした。
レイジたちは『初恋ジュース』なる飲み物を一気飲みした後、その想像を絶するほどのまずさに彼らの胃がかなりのダメージをおってしまったのだ。
なまじ一気に全部飲み干してしまったので、胃にくる衝撃も相当なものとなっただろう。
当然そのダメージに耐えることはかなわず、すぐに二人そろってトイレに直行。
トイレの中で具体的にどうなったかは彼らの尊厳やその他諸々を守るために控えさせてもらう。
だが、あえて言葉にするなら、なりたてとはいえ常人を凌駕した強靭な身体を持つゴッドイーターがこんな風になるとは、『初恋ジュース』恐るべしといったところだろう。
事の顛末を聞き終えたユイは、同情しているような何とも言えないような笑みを浮かべて彼らの肩に手を置いて、それなら仕方がないと彼らを責めることなくなだめ続けた。
近くで話を聞いていたヒバリも彼女と同じような笑みを浮かべていた。
ついでに「あの狐目…今度という今度は問答無用でぶっ飛ばしてやる。」と静かに呟いたユイの言葉はあえてスルーした。
そして、彼女たちの具合が落ち着くのを待ってから自己紹介をしようとして今に至るというわけである。
「…本当に大丈夫なの?まぁ、顔色は前よりだいぶ良くなってるけど…。」
「はい、本当に大丈夫です。心配をおかけして申し訳ありません。」
「申し訳ありません…。」
心配そうにレイジたちの顔を覗き込むユイに謝罪の言葉を口にするレイジ。
それに続いて同じようにセイラも謝罪する。
レイジの方はもうだいぶ顔色もよくなっており、既に立ち直りつつあるのだが、セイラの方はまだ少し顔色が悪く時折苦しそうに腹を押さえたり、口元を押さえたりしていた。
「そう…なら、悪いけど話を続けさせてもらうわね。二人にはこれからサカキ博士によるメディカルチェックを受けてもらうことになっているわ。あ、サカキ博士っていうのはこの極東支部の支部長を務めている人よ。貴方たちもさっきの適合検査で声くらいなら聴いたかもね。」
「ああ、あのくそ忌々しい男のことですか。あいつ支部長だったのか…。信じらんねぇ…。ますますこれからが不安になってきた。」
「不安に思わなくてもいいけれど、油断はしない方がいいわよ。弱みを握られたら最後、一生こき使われ続けるから…」
そう言って恨めしそうな顔をするユイを見てさらに不安が増していくレイジ。
もう不安とストレスで胃に穴が開きそうになってくる。
先ほどの『初恋ジュース』で胃に多大なダメージを負っているというのにさらに追い打ちをかけられている現状に思わずため息をつく。
初任給でまずは胃薬を買おうと決めたレイジはふと何かを思い出したのか、少し慌てた様子でユイに話しかけた。
「あ、そうだ!ユイさん、一つ聞きたいことがあるんですが…」
「ん、何かしら?あ、もしかしてメディカルチェックが心配なの?大丈夫よ、一応腕は確かだし研究者としては素晴らしい人だからきちんとやってくれるはずよ。…人間性は時々疑いたくなるようなときがあるけどね。」
「いや、確かにメディカルチェックも心配ですけどそっちじゃなくてですね…。あの、先ほど受けた適合検査なんですけど…」
そうレイジが言うとユイは「あ~…」と言ってばつが悪そうに目線を逸らした。
そのあと、すまなそうにユイは言葉をつづけた。
「貴方達、もしかして適合検査はパッチ検査だって聞いていたくち?」
「はい、俺はセイラに教えてもらって知ったんですけど、セイラは公式FBSから聞いたって言ってました。」
「あー、そうなの。それは悪いことしちゃったわね…。実は、というかもう受けた貴方達はわかると思うけど、あれはパッチ検査じゃないわ。パッチ検査なんかよりもずっと過酷なものよ。」
「過酷なもの…ですか?」
「そう。貴方達が体験した痛みはもちろん、もし失敗したら、神機に喰い尽されて肉片になってしまう生きるか死ぬかの二択の検査なの。」
「え…し、死ぬ!?」
「まぁ、今ではより正確な遺伝子検査等ができるようになっているから失敗することはほとんどないそうだけどね。あ、貴方達はもう安心していいわよ。きちんと神機に適合してるから、いきなり食われて肉片になることもないわ。」
驚きを隠せないでいるレイジをなだめるようにユイが説明をするが、レイジの顔は不安で覆いつくされていた。
「いや、その何というか、めっちゃ怖い検査だったんですね…。ていうか、そんな危険な検査ならなおのことその…嘘とか広めちゃまずいんじゃないんですか?」
そう言うレイジの言葉にユイは苦い顔をして頬を数回指で搔いた。
「…ゴッドイーターはいつも人員不足でね、どの支部でも一人でも多くのゴッドイーターが欲しい状況なの。だからフェンリルも適合検査がそこまで過酷なものとは公表できないのよ。もし適合検査がどういうものなのか公表したら、ゴッドイーターになりたい希望者がどんどん減ってしまうもの。もちろん、ただでさえ大きい家族の反対だってさらに大きくなってくる。まぁ、それ以外にも公表できない理由はあるのだけれどね…。」
そう言って何ともいえない表情を浮かべて苦笑するユイ。
彼女もこのフェンリルの対応に思うところがあるのだろうか、少しだけ複雑な顔をしていた。
彼女の言葉を聞いたレイジも真剣な顔でうなずいていた。
「そうなんですか…。何というか…大変なんですね、フェンリルもゴッドイーターも。…なんか、話を聞くたびに色々な不安が出てきます。サカキ博士のことといい、この職場のことといい。」
果たして自分はこの職場で生き抜くことができるのか、とまじめに顎に手を当てて考え込んでいるレイジを見て、クスリと笑ったユイは励ますような口調で彼に声をかけた。
「フフ、まぁ、そんなに悩む必要もないわよ。ここの職員もゴッドイーターも良い人ばかりだから。それに何か困ったら目の前の頼りになるお姉さんに何でも相談してちょうだい。いつでも力になるから、ね?」
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