幻物語 (K66提督)
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幻物語 壱

初投稿です。
つたない文章やご都合設定など、ご容赦いただけると幸いです。
「初心者君?へぇどれどれ、いっちょアドバイスでもしてやるか。」
という方はぜひ読んで感想をいただけると狂喜乱舞します。
よろしくお願いいたします。


001

 

―幻。現実には存在しないのに、あたかも存在したかのように記録されるもの。

また、実際にあった、起こったはずなのに、その存在を二度と確認できないもの。

 

僕が経験した最後の物語、それは実際にはなにもなかったのかもしれない。

なにも起きなかったのかもしれない。

 

それでも僕は語り継いでゆく。

僕の最後の終わりと始まりを、自分自身が忘れないために。

 

002

 

人の寿命というものは、なんとはかないものなのだろうか。

 

阿良々木暦92歳の誕生日。

 

それは愛する妻の、そして僕を知っている最後の人間の最後の日であった。

 

「あなた。いえ、暦。そこにいるのかしら」

 

「あぁいるよ。ひたぎ。」

 

「悔しいわね……また一つ暦に勝てなかったものができてしまったわ」

 

「ボウリングもカラオケも結局はひたぎの方がうまくなったじゃないか。

全国一位様に勝者顔するほど僕は負けず嫌いじゃないさ。」

 

「私にとって一度の敗北は一生の敗北よ」

 

どれだけストイックなんだ…

 

「それにね、暦。今回の敗北はもう覆すことはできないのよ」

 

「そんなことない、次の人生でも僕は何度だってお前の前に現れて、

 何度だってお前を救ってやる!勝負がつくことすらありえないからな!」

 

「ふふ、最後の最後まで阿良々木君はかっこいいわね。一週間ぶりに惚れ直しちゃったわ」

 

「なに言ってるんだ。お前だって阿良々木だろうが。お前の名前は阿良々木ひたぎ、

そして僕の名は阿良々木暦だ。」

 

というかそれは八九寺の芸風だ。

 

「失礼、かみました。」

 

「違う、わざとだ。」

 

「神は死んだ。」

 

「どこのニーチェだ!八九寺は確かに幽霊から神様になったけど失礼だろ!」

 

みためが只のロリツインテール小学生だったとしても、中身は神なのだ。

どんなに後ろから抱き着きやすいドラム缶体型の愛しい少女だったとしても神様だ。

 

あれでも。

 

「ふふ、そうね。死ぬのは私だったわね。」

 

「笑えねぇよ」

 

「忍さん?いるのかしら。」

 

僕の影から金髪の幼女が顔を覗かせる。

 

「なんじゃい、せっかく別れの時じゃろうからと空気をよんで聞き耳をたてておったのに」

 

そこは聞かないようにしようぜ。

 

「『僕がなんどだって救ってやる!』じゃったかのう。」

 

「やめて!すでに黒歴史になりそうだからやめて!」

 

「忍さん、お願いがあるわ。」

 

「吸血鬼にしてほしい。とかならお断りじゃ。」

 

「ひたぎ、お前!?」

 

「安心して頂戴。それはありえないわ。私からお断りさせて頂くぐらいよ。」

 

「なら……」

 

「忍野忍さん、旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードさん。

私を、食べてください。」

 

 

003

 

 

「「は……?」」

 

僕と忍の声が重なった。しかし忍の声にはわずかだが怒りの感情が紛れ込んでいるように聞こえた。

 

「ひたぎ、お前なにを言って……」

 

「暦。私はね、このまま死んで、ただ火に焼かれて煙と塵になるなんてまっぴらごめんなのよ。無駄に死んで、作業のように処分されるなんて絶対に嫌。」

 

死んでも、嫌。とひたぎは死にかけの状態とは思えないほどの力強い声で、目で、

そう訴えた。

 

「断る。儂に自分の主の伴侶を喰らう趣味なんぞないわい。」

 

「忍……」

 

「それなら、」

 

 

――暦。あなたが食べなさい。」

 

「なッ、ひたぎ!?」

 

「……小娘、貴様自分が何を言っておるのかわかっているんじゃろうな。」

 

「ええ、わかっているわ。」

 

「そんなこと僕にできるわけがないだろうが!!!」

 

「暦、あなたはさっき私が何度生まれ変わったとしても助けてくれると。

そう言ったわね。」

 

「そりゃそうだけど……」

 

「阿良々木暦。あなたは半吸血鬼、半人間の曖昧な存在。その寿命が永遠という保証

はどこにもないわ。」

 

「つまりは我が主様に完全な吸血鬼になれと、そう言いたいわけか?」

 

「なッ……!」

 

「そう、それもキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの下僕としてではなく、オリジナルな吸血鬼、阿良々木暦として」

 

「そんな……」

 

「暦、私の人生最後のお願いよ。私を、骨の髄まで残さず、吸血鬼阿良々木暦の最初の

食料として、あなたが生きていく糧として食べて頂戴。」

 

「……忍、少し部屋の外に出ていてくれるか?」

 

「……わかった。」

 

忍は、怒ったような、悲しんでいるような、そんな表情を浮かべ部屋を去ろうとした。

 

「お前様よ、それで、それでいいんじゃな?」

 

「あぁ、これでいい。僕は可愛い女の子のためならなんだってする男だ。」

 

それから数時間の間、部屋には一人の男のうめき声と、肉を裂くような音だけが響いていた。

 

そして。

 

「人間というのは強い生き物なんじゃな……」

 

部屋の外でも、弱く、小さな鬼の泣き声が消えるように広がっていった。

 

 

004

 

 

「のう、我が主様よ。」

 

「忍、そろそろやめないか?その呼び方、実際僕とお前のペアリングは解けちゃったんだしさ」

 

「ペアリングが切れても、主従関係は変わらんよ。お前様。」

 

それとも阿良々木様とでも呼ぼうかのう、と忍。

 

「それで、どうしたものかのう。」

 

「どうしようなぁ……」

 

阿良々木ひたぎの死後から半年後。現在、僕と忍は八九寺宅にいた。

といっても実際の八九寺さんちではなく、例の神社。

北白蛇神社である。

ちなみに神社の主、偉大なる八九寺神様は神無月の宴会とやらで一ヶ月出かけている。

そのため僕たちはここでお留守番(無許可)をしているというわけなのだが……

 

「さすがにこれはまずいのう……」

 

「正直今すぐにでも逃げ出したいのだけどなぁ……」

 

先ほどまで神社でゴロゴロしていた僕らの前に『くらやみ』が現れたのである。

理由はおそらく神無月で神様が不在の神社に無知な参拝者がやってきたことで

僕たちが一時的にでも神様として考えられてしまったからだろう。

ではなぜ僕たちがこんなに悠長なことを言っていられるかと言うと。

 

「今は僕の機転のおかげでなんとか様子見されてるけどなにがきっかけで襲ってくるか

わかったもんじゃないからなぁ。」

 

「いや、機転というよりトンチとか屁理屈とかの次元じゃとおもうぞお前様。まさか

あの『くらやみ』が留守番してるだけだからなんてくだらん言い訳で」

 

そうなのである。

 

「で、どうしよう。のぶえもん。」

 

「ひさびさじゃな、それ。でもやめろ。どうしようもこうしようも、八九寺が

帰ってきたときに『留守番ごくろう』とか言ってもらうしかないじゃろうて」

 

「帰ってきたときって、まだ十月始まったばかりなんですけど。」

 

「どうしようかのう」

 

「どうしようなぁ」

 

こんな感じでかれこれ一時間。

 

「まぁ、でもこのまま特に何もしなければ襲われることもないじゃろ。」

 

と、そのとき。

 

「いやー、私としたことがまさか名刺を忘れてしまうなんて、新人としては先輩の方々に早く認められたいですしねーっと、あれ?アタタタタタタタ木さん?なんでウチにいるんです?あぁッ!さては私がいないうちにここを占拠しようとしてたんですね!?そうはさせませんよ!」

 

「色々ツッコミたいのは山々だが八九寺!お前は今最も言ってはいけないことをいっt、」

 

とたんに『くらやみ』が待ってましたと言わんばかりに襲い掛かってきた!

 

「お前様ヤバイ!にげるぞ!」

 

「ぎやあああああああああああ!?」

 

「あ、阿良々木さん!?なんであれがここに!?」

 

「話はまたあったときだ!とにかく今は逃げる!お邪魔しました!」

 

「あ、阿良々木さーーーん!?」

 

とにかく今は八九寺とお話してる暇はない!

一刻も早くアレから逃げないと!

でもそもそもどこに!?というか逃げ切れられるものなのか!?

 

「くっ、ダメだ!追いつかれる!」

 

「お前様!」

 

「忍!」

 

『くらやみ』が僕らを呑み込もうとしたそのとき。

『くらやみ』もまた、なにかに呑まれようとしていた。

 

「ごきげんよう。さようなら。」

 

『くらやみ』を呑み込んだ『スキマ』の向こうで全盛期のキスショットに負けず劣らずの美女が僕らに微笑みかけ、出会いと別れを告げた。

 

 



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幻物語 弐

初心者投稿、第弐投目となります。
謎の急速展開が発生しておりますのでお気を付けください。
それでは、ぜひとも気軽にお楽しみください。


005

 

 

幻想郷。それは日本列島のどこかに存在するといわれている、小さくも大きくもない土地。

結界を管理しているのは博麗神社の巫女、また、幻想郷ができたきっかけとなった大妖怪『八雲紫』とその式神たちである。ここには人と妖怪が共に存在しており、なかには人と友好的な関係をもつ者もいる。

そして、そんな幻想郷に新たな住人が足を踏み入れた。

それは、幻想郷を騒がすささやかな異変の始まりだった。

 

 

006

 

 

少し肌寒い午後3時、博麗神社

 

「…何か来たわね。」

 

楽園の(貧乏で)素敵な(鬼)巫女。博麗霊夢。

 

「何かってなんなのぜ?」

 

普通の魔法使い。霧雨魔理沙。

 

「この感じは…人間じゃないわね、妖怪よ。それも大妖怪クラスの大物ね。」

 

「へぇ、んじゃあ久々の異変ってわけか、腕がなるな。」

 

「いや、それはないわね。少なくともここに害をなすのが目的ではないわ。」

 

「そんなの、なにを根拠に、」

 

「巫女の勘よ。博麗の勘に間違いはないわ。」

 

「んん…あ、でもさ、本人たちにその気がなくてもってことがあるかもじゃないか?

それに今回のはなんだか面白いことになる気がするんだ。」

 

「乙女の勘かしら?」

 

「魔女の勘だぜ!どうせ今日も暇なんだろ?様子だけでも見にいこうぜ!な!」

 

「はぁ、あんた巫女の仕事をなんだと思ってるのよ。まぁいいわ。確かに事前に防ぐのも大切だしね、どんな目的で来たかぐらいは聞いておいた方がいいだろうし」

 

「それじゃあ決まりだな!じゃあ私は先に行ってるぜ!」

 

「あ、ちょっと魔理沙!待ちなさい!…まったく!」

 

まんざらでもなさそうな霊夢であった。

 

 

007

 

 

熱い、体が焼けるように熱い、まるでじりじりと闇の住人を消そうとする太陽の光を浴びている時のようだ。

 

「ってマジで日なたじゃねぇか!熱い熱い熱い!」

 

すぐそばにあった岩陰に飛び込んだ瞬間、僕の体は何事もなかったように回復していた。

 

「そうだ!忍は!忍は大丈夫なのか!?」

 

僕が慌てて周囲を見渡すと、いた。木の陰ですやすやと寝息をたてている。

コイツ…僕が死ぬ寸前だってときに幸せそうな顔して寝やがって…

 

チューしてやろうか!

 

「お前様、それは事を起こす前に言うべきセリフじゃと思うんじゃがのう。」

 

「なにをいっているんだ忍、僕はお前を心配して人工呼吸をしただけでチューなんていやらしいこと、これっぽちもやってないぞ。」

 

「舌を入れる人口呼吸なぞ聞いたことがないんじゃが。」

 

「とにかく安心したぜ忍。無事でよかった。」

 

「寝起きを変態に襲われた今の状況を無事というのならまぁ、無事じゃな。少なくとも『くらやみ』に呑み込まれて消滅、ということにはなっていないようじゃな。」

 

そうだ。僕たちが『くらやみ』に呑まれそうになったとき一体何がおこったんだ?

 

「たしか間一髪のところで『くらやみ』自体がなにかに呑み込まれたんだよな。」

 

「あれは恐らく『スキマ』じゃろうな」

 

「『スキマ』?なんだよそれ、なにか心あたりでもあるのか?」

 

「心あたりというか、まぁあのアロハ小僧が言っておった怪異譚のひとつなんじゃがの」

 

「まだあいつの話してたことなんて覚えてたのか?お前が?」

 

たしか蜂の件の時はほとんど聞き流してたとか言ってたよな?

 

「なに、奴の話の中でもひときわ異彩を放っておる話じゃった。それだけのことじゃ。」

 

あとはたまたま儂の機嫌がよかった。とかもあるがの。と忍がうっとりした顔をうかべる。

十中八九ドーナツのことを考えているのだろう。よだれ垂れてる。

 

「スキマ女。

 

「様々な境界を操る能力を持っており、神隠しの招待ともいわれておる。

 

「なに?

 

「あぁ、境界というのは書いて字の如くじゃよ。

 

「例えば男と女の境界。例えば生と死の境界。例えば人と怪異の境界。例えばあの世とこの世の境界。

 

「と言った所じゃ。

 

「これだけでは只の神隠しの怪異じゃが異彩を放っておったのはそこではない。

 

「この怪異が並の怪異とかけ離れておる所。それは――

 

――多数の世界を保有しておる。いうことじゃ。」

 

 

008

 

 

「随分と詳しく知られているのね。この場合は光栄と言ったほうがいいのかしら。怪異殺しの怪異の王、熱血にして鉄血にして冷血の吸血鬼。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードさん?」

 

「…生憎それは昔の名じゃ、その名を有する吸血鬼はもうこの世にはおらんよ。」

 

「な、い、一体どこから!?」

 

何もなかったはずの場所から『くらやみ』を呑み込んだと思われる『スキマ』と、

あの時僕たちに微笑みかけた、絶世の美女が、そこにはいた。

 

「あら、そうだったわね。今は阿良々木暦さんの奴隷の、忍野忍さん―だったかしら?」

 

「…あなたは、一体何者ですか、なぜ僕たちの事をしっているんですか。」

 

「ふふっ、『わたしは何でも知っているお姉さんだよ。』だったかしら?あの娘の口癖は、」

 

「!?」

 

この人、臥煙さんの知り合いなのか?でも『あの娘』って、どういうことだ?

 

「あの娘は自分を信じすぎる娘だったわね、でも私はそこまでは言わないわ。」

 

「私の名は八雲紫、少なくとも阿良々木暦という男のことなら何でも知っている十八歳の麗しの乙女よ。」

 

「…………?」

 

「お前様、どこをどう見てもあの女が十八つには見えんのじゃが。どれだけ低く見積もっても三十後はn…」

 

「ばか忍、お前だってその見た目で七百近いだろうが。あの人だって怪異なんだろ?

なら見た目で歳を判断しちゃだめだ。」

 

「お前様、世界にはどうやってもごまかしきることが出来ないことが存在するんじゃ。

それを認めないものが『くらやみ』に呑まれてしまうんじゃ。」

 

「そ、そろそろその失礼な口を閉じていただいてもよろしいかしら?」

 

「あ、ごめんなさい。で、なんでしたっけ。」

 

「はぁ、ゴホン。では改めて。阿良々木暦さん、忍野忍さん。」

 

「――ようこそこの地へ、幻想郷はあなた達のすべてを受け入れますわ。」

 

 

009

 

 

「は、はぁ…」

 

「ちょおっと待ったぁ!!」

 

と、僕らがいまいち話についていけないでいると、頭上から物凄い速さでなにかが落下してきた。

 

「こ、今度はなんだ!?隕石!?」

 

「ごほっ、ごほっ、イテテ…少しとばし過ぎたのぜ…」

 

土煙から姿を現したのは白黒の服を着た…女の子?え?

 

お、親方!空から女の子が!!

 

「お前様、さすがにジ○リはまずいじゃろう。」

 

「あら、誰かと思えば魔理沙じゃない。なんのようかしら」

 

「その二人の幻想入り、私は認めないぜ!」

 

「私も、その二人がここに住むというには賛成しかねるわね。」

 

後ろから新たな声が聞こえたので振り向いてみるとそこには紅白の巫女衣装を着た少女がただならぬ形相で立っていた。

 

「すげぇ、忍、生の巫女さんだぜ?僕初めてみたよ。」

 

「この状況でそのリアクションをとれるお前様の方がよっぽどすげぇわい。」

 

「よせやい照れるぜ。」

 

「それで。」

 

紅白の巫女さんが紫さんをにらみつけて続けた。

 

「この二人を幻想郷が受け入れるっていうのはどういうことかしら?紫?ちゃんと納得のいく説明ができるんでしょうね。」

 

「どういうこともなにも、この二人を知っている者があの世界にはいなくなった。だからこちら側にご招待したのよ。」

 

「え、ちょっ、ちょっと待って下さい、紫さん。僕たちを知っている者がいなくなった?それが僕たちがここにきた理由なんですか?」

 

「ええ、そうよ。ここは幻想郷。語られることのなくなった者たちがたどり着く楽園。そして、これからあなた達が生きてゆく世界よ。」

 

「なるほどの。」

 

「忍?」

 

「これで全部合点がいった。小僧のいっておったスキマ女の正体は紛れもなく貴様。神隠しがおきたことが語れていても誰も神隠しにあった者が誰かわからない。それは既に全てに忘れられた者だったから。そういうことじゃな。」

 

「ま、待てよ忍。それじゃ僕たちも誰にも意識すらされてないってことか?それって怪異としてかなりヤバイことなんじゃないのか?」

 

「じゃから完全に消滅してしまう前に保護するのがこの女の目的なんじゃろ。」

 

「そういうことよ、暦さん。ご理解いただけました?」

 

「で、でも八九寺は?八九寺は僕のことをちゃんと覚えてるはずだ。」

 

「条件が満たされた時、八九寺はあの世界にはいなかったんじゃよ、お前様。」

 

「あ、」

 

そうか…神無月の宴会…

 

「これで納得してもらえたかしら霊夢?」

 

「そうね、確かにその二人が正規ルートでこの世界にきたことは理解したわ。」

でもね、と再び少女の眼光は鋭くなる。

 

「いくら正しいルートで入ってきたとしても、そんな大きな力を秘めた妖怪をおいそれとここに住まわせるわけにはいかないのよ。」

 

「異変を起こす前に潰してやるぜ!」

 

白黒の魔法使いが目にシイタケを作り、箒を突き付けてきた。

 

「はぁ、そういうこと。暦さん、忍さん。ちょうどいい機会なのでここ幻想郷での最大のルールをお教えいたしますわ。チュートリアルと言った所ですわね。」

 

「ルール?」

 

「はい、幻想郷の基本は弱肉強食。勝者のみが望む結果を得ることができるのです。しかしそれでは人間に勝ち目はなくなってしまう。そこで人と妖怪のパワーバランスを保つために生み出されたのが、」

 

「弾幕ごっこ。」

 

紅白の巫女さん(霊夢さんといったか?)が紫さんの言葉を続く。

 

「対戦者は己の『残機』というものを『命』として扱い、敵の弾幕によって『残機』を失ったほうの負け。」

理解が曖昧な僕が紫さんに助けを求める視線を送ると

 

「単純にいってしまえばそんな感じですわ。頑張ってください。」

 

「えっ、」

 

「さぁどうするんだ?このままここを出ていくか私たちと勝負するか。どちらか選べよ。」

 

金髪の魔女っ子が不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「出てくってもなぁ、」

 

「多分ここを出た瞬間儂らは消滅するじゃろうな。へたすると『くらやみ』が待ち受けておるかもしれんし。」

 

「じゃあやるしかないわけか…」

 

「へへッそうこなくっちゃな!こっちも暇してたんだ。せいぜい避けてみろよな!」

 

「魔理沙、目的が変わってるわよ。ま、勝つのは決まってるから別にどうだっていいけど。」

 

「えっと紫さん、これって思いっきりやってもケガとかってしないんですよね。」

 

「ええ、どれだけの攻撃を受けても最悪心に傷を負うくらいよ。」

 

「それって結構大丈夫じゃないですよね…」

 

「あら、始まる前からケガの心配かしら、大丈夫よ。ちゃんと手加減ぐらいはするから。」

 

「さすがは巫女さん。優しい人っぽくてよかった。」

 

「今だけだぜ、今だけ。」

 

「え?」

 

「よし!じゃあ始めようぜ!私と霊夢対あんた達二人のタッグ戦だ。」

 

「私たちが勝ったら幻想郷から出ていってもらう。」

 

「…ありえないだろうけどアンタたちが勝ったら些細な願いの一つぐらいはきいてあげるわ。」

 

「わかった。忍もそれでいいよな?」

 

「さすがはお前様。上げて落としていくテクニックかのう?」

 

「そんなことないさ。」

 

「それじゃあ、テンカウントで勝負開始するぜ。」

 

運命のテンカウントが、始まる。



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幻物語 参

初心者投稿参発目です。
書き溜めたストックを使いきってしまい、色々と試行錯誤していたせいで一日空いてしまって、もうしわけないです。
しかし、時間をかけたおかげか私のなかの厨二病がいい感じに発散できた内容となっております。
ご都合にご都合を重ねた厨二病乙な内容になっておりますので是非苦笑いでお楽しみ下さい。


010

 

 

「十、九、」

 

やれやれ、こんな所忍野のやつに見られたら絶対『元気いいなぁ、なにかいいことでもあったのかい?』とか皮肉をいわれるんだろうなぁ。

 

「五、四、」

 

さて、八九寺で鍛えた僕のクラウチングスタートを見せてやるとするか。

 

「二!一!」

 

女の子相手に戦うなんて僕の主義に反するんだけどなぁ、はぁーあ、用意。

 

「ぜr、」

 

「魔女っ子ちゃああああああああああああああああああああああんんん‼」

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!?」

 

「はぁっ、はぁっ、ああもうずっとツッコミたかったんだ!ねぇねぇなんでこんなひと昔前の魔女服みたいなのきてるの?なんで語尾に『ぜ』とかつけてるの?男言葉意識してるの?ねぇねぇ!あぁ、かわいいなぁ!あ、こら!暴れるな!スカートを脱がせにくいだろうが!」

 

はっはっは、この僕のシリアスがそう長く続くとでも思ったか!

え?運命のテンカウント?シリアス?なにそれ?そんなもん牛乳かけて食っちまったぜ!

 

「そりゃシリアルじゃろ、お前様。」

 

「ぎゃあああああああああ!うわああああああああああああああああああ!!」

 

「ちょっと!あんたなにやってんのよ!はなれなs…!!」

 

巫女さんの頬を忍の爪がギリギリのところで空振りしてゆく。

 

「かかっ、今のを避けるか、腋巫女。どうやら口がでかいだけのほら吹きじゃあないみたいじゃの。」

 

「当然よ。馬鹿にしないでくれる?」

 

「くそッ、中々しぶといぞこの娘、おい抵抗するな!おとなしくスカートの中身を見せろ!」

 

「み、見せるわけないだろうがこの変態があああああああああああああああ!!!」

 

『恋符・マスタースパーク』!!

 

「消えなさい!」

 

『霊符・夢想封印』!

 

「ちッ、少しかすったか、お前様!大丈夫か!」

 

「ぐぅぅわぁぁぁ!ばかなぁぁ!この、この私がこのような小娘にィィィィ!!おのれぇぇぇぇ!!」

 

「…大丈夫そうじゃな。」

 

「なっ!?」

 

「私たちのスペルカードが効いてない!?」

 

「いや、ばっちり効いておるじゃろ、あれ。」

 

「んぁぁぁあ!痛ぇぇぇえ…!」

 

「『アレ』はともかくあんたは…っ」

 

「かかっ、儂か?儂にはこれがあるからのう。」

 

と忍が掲げたのは、鞘の無い、一振りの太刀だった。

 

「『スペルカード』と言ったのう、そうじゃな、貴様らの作法に従うのなら、」

 

『妖刀・心渡り』

 

「かのう。そのまんまじゃが。」

 

かかっ、と忍は鋭い牙をむき出しにして凄惨に笑う。

 

「スペルカードがだめなら弾幕で叩き落とすまでよ!」

 

「くらえ変態!!」

 

「お前様よ、そろそろ真面目にやってはくれんかのぅ、流石の儂も一人で二人を相手するのはちと面倒なんじゃが。」

 

「わかってるよ。お遊びはここまでだ。」

 

ひたぎが死に、ここにくるまでの半年間、ずっと平和に隠居していたかというとそうでもない。むしろ旧キスショットと元眷属が完全吸血鬼化したと聞きつけた大勢のヴァンパイアハンターが僕たちの前に現れ(中には影縫さんもいたような気もするが、気のせいだと信じたい。)、毎日が死闘の連続だった。そのせいかおかげか、僕は吸血鬼の能力を完全に使いこなしていた。

 

僕はゆっくりと告げる。

 

『怪異・おもし蟹』。

 

かつて僕とひたぎが出会うきっかけとなった怪異の名を、

目の前の少女たちに語りかけるように。

 

 

011

 

 

『怪異・おもし蟹』

 

「え、」

 

「あ、あれ、なんで。」

 

二人の少女は訳のわからないといった様子で膝を落とした。

 

「おもし蟹。他には重石蟹、思いし神という名前もある怪異だよ。」

 

かつて、忍野のやつに聞いた知識を僕はそのまま口にする。

 

「この怪異は人の抱える『思い』と『しがらみ』を肩代わりし、代わりに支えてくれる神様なんだ。」

 

もっとも、この場合は僕の都合のいいように改良してあるが。

 

「『怪異を語り、伝える程度の能力』。」

 

紫さんが僕らの間に現れ、自信満々に語り始めた。

 

「したたかにして高らかにして愚かな吸血鬼、阿良々木暦。その能力は自身が見聞きし、体験した怪異を語り、相手にも経験させることのできる能力。」

 

「…でも、おもし蟹の話を、聞く限りじゃ、こんな風には、」

 

霊夢さんが額に汗をうかべ、きれぎれに言葉をつむぐ。

 

今、彼女たちには僕のおもし蟹にまつわる『思い』が『重み』として加わっているはずだ。

 

「それはまぁ、所詮は噂で伝わるような事だしねぇ、多少の変化は起こるでしょう。」

 

伝言ゲームみたいにね、と紫さん。

 

「さて、どうするかのぅ、儂らとしてはこのまま勝ってしまってもいいんじゃがのう。」

 

「へっ、冗談じゃないぜ、まだ私たちの残機は十分に余ってるんだ。満身創痍には早すぎる。」

 

「そういうことよ。私たちはまだ、負けてない。それに、」

 

『霊符・夢想封印』

『夢符・二重結界』

 

「『馬鹿にしないでくれる』ってさっきも言ったわよね。」

 

「おもし蟹が…?」

 

「かかっ、神を封印するとはの、神に仕える者のすることではないとおもうが?」

 

「大丈夫よ、神様は寛大だから。一発までなら誤射かもしれないじゃない。」

 

「巫女さん、それ以上いけない。」

 

「さて、」

 

ずり落ちかけたスカートを直しながら(ちっ)魔女っ娘ちゃんも立ち上がった。

 

「形勢逆転だな、変態野郎。」

 

 

012

 

 

「まずいぞ忍、」

 

「わかっておるわ。しかし儂らを閉じ込めておるこの結界を壊さんからにはどうにもならんじゃろ。」

 

「あ、いや、そうじゃなくて。魔女っ娘ちゃんの中で僕が完全に変態扱いされてるってことなんだけど。」

 

「変態じゃろ、お前様は。」

 

「え?」

 

「うん。」

 

「そうだったのか…いや、そんなはずは…」

 

「おふざけはそのくらいにしてもらえるかしら。」

 

巫女さんの凛とした声に僕と忍に緊張がはしる。

 

「これが弾幕ごっこじゃないならこのまま永久に封印してやるところなんだけどね、そういうわけにもいかないからさっさと負けを認めてこの地から去ってもらえないかしら。」

 

「私はまだ全然暴れたりないんだが。あの変態をボッコボコにしないと気が済まなそうなんだが。」

 

「…お前様よ、これはもう無理じゃろ。早めに諦めるべきじゃと儂は思うがのう。」

 

「い、いや、でも…」

 

「さぁ、どうするのかしら?あなた達に勝ち目はない。チェックメイト。詰みよ。」

 

「…はぁ、わかった、わかったよ。僕の負けだ。」

 

「ありゃ、ずいぶんといさぎいいんだな、もっとあがくと思ったが、拍子抜けだぜ。」

 

「おいおい。」

 

忍が肩をすくめる。

 

「いったい何を聞いとったんじゃ貴様は。負けたのはこの男で、儂じゃない。」

 

「は?」

 

「…あんまり暴れないでくれよ、忍。」

 

『怪異・キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』。

 

「かかっ、それはまぁ、儂の気分しだいじゃな。まぁせいぜいそこで儂の勇姿を見とれ、我が従僕よ。見蕩れておってもいいがの。」

 

そこにはかつての力を取り戻し、見た者すべてを虜にする絶命の美女が立っていた。

 

僕の終わりと始まりの怪異、怪異殺しの怪異の王。

 

熱血にして鉄血にして冷血の吸血鬼、

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

 

その力と姿を顕現させるには僕の持てる力全てを捧げなければいけないため、これは本当の本当に最後の手段なのだ。

今までこの力を使ったのは最初の一回のみだったのだが…

 

「詰みを覆すにはルールから逸脱した手が必要。仕方のないことじゃろ。」

 

動けない僕に全盛期に戻ってテンションMAXなお前ってのがやばすぎるんだよ…!

この後めちゃくちゃ~。の流れになるんだよ!

 

「そんな、あんた達、いったい何者…」

 

「通りすがりの吸血鬼コンビじゃ、覚えておけるものなら覚えておけ。人間。」

 

そこから先は、気絶してしまい何も見ていない。見ていないったら見ていない。

金髪の爆乳吸血鬼お姉さんがいたいけな少女二人を惨殺し続けるところなんて絶対に見ていない。

 

ちなみにこの後キスショットにめちゃくちゃ弄ばれた。(性的な意味ではなく)

 

 

013

 

 

結局、勝負がついたのは日がすっかり落ちたころだった。

 

「私たちの負けね。」

 

「くそー、こんな変態に負けるなんて…あんなの反則だぜ!」

 

「かかっ、あそこまでやってまだ正気でいられるとはの、なかなかタフな奴らじゃ。」

 

「さて、無事勝った暦さん達は彼女たちにどんな命令をするのかしら。」

 

いや、命令って紫さん…そんな薄い本じゃないんだから。

 

「どんな目に会わされても私はお前みたいな変態に絶対に屈したりはしないからな!」

 

魔女っ子ちゃんからの僕の扱いがどんどんひどい方向に向かってゆく。薄い本かよ。

 

「うーん、そうだな。よし、それじゃあ…」

 

「えっちなのはダメだぞ!ダメだからな!」

 

…なんだろうこのイジメたくなる感じ。

 

「いやだなぁ、僕が初対面の女の子にいきなりセクハラするような奴に見えるのかい?」

 

「「「「そうにしか見えない」」」」

 

異口同音。満場一致である。

 

「そんなこと言ったりしないから!清く正しい阿良々木さんだから!」

 

「わかったわよ。で?キモくやらしいむららぎさんは一体どんな命令をするのかしら」

 

くっ、巫女さんめ、八九寺みたいな返しを…

この巫女さん、デキるっ!

 

「お前様、話が進まんからさっさとしてくれんかのう」

 

「あ、そうだそうだ。じゃあ二人とも、僕のささやかな願いとして、」

 

「願いとして?」

 

紫さんが興味深々といった様子で先をうながす。近い近い。

 

「え、えっと、僕と、友達になってくれ。」

 

「「は?」」

 

二人の少女のあきれ声がハモる。

 

「ぷふっ、」

 

「忍さん!?なぜ笑うんです!?」

 

「く、くく、いや、『友達なんていらない。人間強度が下がるから。(キリッ』とか言って本当に数え切れてしまうほどの友達しかおらんかったお前様の口から『友達になってくれ』とか、あー、お腹痛い。」

 

「に、人間強度っていってももう僕人間じゃなくなってるし、それに怪異としては自分を知っている存在は多いほうがいいだろ?」

 

「あー、はいはい。そうじゃな。」

 

なにその生暖かい目。

 

「友達、ねぇ。ま、あなた達と友好を結んでおいて損はなさそうだしね。異変が起きないよう監視もできるし、私は別になってあげてもいいわよ。」

 

「う、友達…こんな変態と…いや、でも言うこと聞くって約束だし…ぐぬぬ。」

 

「魔女っ娘、いや、魔理沙ちゃん。」

 

「あ?なんだよ変態。」

 

「僕としてはスキンシップのつもりでも君が不快な思いをしてしまったことには代わりはない。だから僕に責任をとらせてくれ。」

 

「は、はぁ!?せせせ、責任って、なな、何を…」

 

魔理沙ちゃんの顔が赤く染まってゆき、

 

「僕と結婚しよう。魔理沙。」

 

爆発した。

 

「だ、だれがお前なんきゃ、お前なんかとけ、け、けっ…こ、ん、なんかするか!お前なんかせいぜい一生友達とかだ!ばーか!ばーかばーかばーか!」

 

「じゃあそれで。」

 

「ふぇ!?あ、う、こ、このぉ…」

 

「じゃあ、改めて、僕の名前は阿良々木暦。人間から吸血鬼に、吸血鬼から半人半吸血鬼に、そして最後には完全な吸血鬼に成ったごく平凡な男だよ。」

 

「歩んできた過去が平凡じゃないわよ…えっと、それで…」

 

霊夢さんの目線が僕の斜め下方向に向けられる。

 

「あぁ、こいつは忍野忍。伝説の吸血鬼、キスショット(以下略)の…なんだろう。」

 

「略すな、呼び捨てならまだ許せるが略すな。…まぁ搾りかすでいいじゃろ、表現的にはの。」

 

「なるほど、それでその搾りかすに妖力をいっぱいまで流し込んだのがさっきのってわけ。」

 

「そんなとこじゃ。」

 

忍が普通に会話してるな…気に入ったのかな?

 

「さっきのあれは色々と良くない影響が出そうだから使うのは控えてもらいたいわね。どこで何が起こってもおかしくないくらいの妖力だったから。」

 

「あれはあくまで最終手段だから、大丈夫だよ。滅多なことがなければ、使ったりしないさ。」

 

「滅多なことが起こりうるのよ。ここでは。っと、こっちの自己紹介がまだだったわね。私は博麗霊夢。幻想郷の素敵な巫女よ。そうね、霊夢でいいわ。」

 

「…霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。」

 

「え?なんだって?」

 

「っ~!!!」

 

また一層赤くなった。どこまで染まるんだろう。

 

「…はぁ、あんまりイジメないでくれる?結構な腐れ縁なのよ、そいつ。」

 

「そうなんだ。じゃあこれからよろしく。霊夢、魔理沙。」

 

「ま、ほどほどにね。」

 

「ふん、お断りだぜ。」

 

魔理沙はまだ顔を真っ赤にして怒っているようだ。嫌われたなぁ。



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幻物語 肆

初心者投稿四発目ということで、UA数がだんだん増えてきて調子にのっている僕であります(猛省)。
今回はシリアスゼロの完全ギャグ回となっております。
厨二病の次は、妄想回ということで、僕の中の『かわいい女の子』像がこれでもかと
出没しておりますのでドン引きしながらお楽しみください。


014

 

 

「さて、忍、これからどうしようか。」

 

「吸血鬼的にはこれからが絶好調といったところなんじゃがのう。流石の儂も疲れたわ。」

 

「だよなぁ。」

 

現在、僕らは霊夢たちと別れ、暗い森の中をさまよっていた。

 

「でも知らない土地でいきなり野宿するわけにもなぁ。ましてや森の中だし。」

 

当然霊夢と魔理沙の家に泊めてもらえないか頼んだのだが、

 

『うちにはもう鬼が一匹住み着いてるから、これ以上増えたらたまったもんじゃないわ』

 

とか、

 

『ば、馬鹿言うんじゃないぜ!誰がお前なんか泊めるか!それに、ま、まだそんな仲じゃ…と、とにかくダメだ!ダメったらダメだ!』

 

というように断られてしまった。

ちなみに紫さんは気づいたらいなくなっていた。

 

「あーぁ、どっかに吸血鬼を受け入れてくれる立派なお屋敷とかないかなー。」

 

「そんなもん、あるわけないじゃろうが。あっても古城とかでその辺で寝るのと変わらんわい」

 

「いや忍、こういう発言をすることによってフラグが立つかもしれないぞ?」

 

「お前様に立つのは死亡フラグだけじゃろ。」

 

などと、うろうろしながらうだうだやっている僕らの目の前に新たな刺客が!

 

ということもなく、もはやお馴染みの『くらやみ』が待ち受けていた。

 

「いやいや、お前様、馴染んじゃだめじゃろ、これ。またかなりヤバいことにまっておるじゃろ。」

 

「そうだよね。逃げよう。」

 

吸血コンビは逃げ出した!

しかし回り込まれてしまった!

 

『アナタハタベテモイイニンゲン?』

 

「キェァァァァァァァ!!?シャベッタァァァァ!!?」

 

『くらやみ』って喋れたの!?ここまでで一番の驚きなんだけど!?

 

『ってあれ、こいつ人間じゃない?』

 

「え?」

 

「なんだー。人間じゃないならもっと分かりやすい恰好してくれよー」

 

と。『くらやみ』の姿は女の子に変わってしまった。

 

「く、くらやみって女の子だったのか!」

 

「お前様、こやつどうも儂らの知っておる『くらやみ』とは別種のようじゃぞ。」

 

「あ、やっぱり?どうりで喋ったりしたわけだ。」

くらやみだった女の子は忍と同じくらいの背丈で、頭に大きな赤いリボンをつけていた。

 

「えっと、ところでお嬢ちゃんはいったい?」

 

「私?私はルーミア。人喰い妖怪だよ。」

 

「人喰い…」

 

今の僕に彼女をせめる権利はない。僕だってそちら側の存在となったのだから。

 

「僕の名前は阿良々木暦。吸血鬼だ。」

 

「ドラララララギ?」

 

「ルーミア、さっそく僕の名前をJOJO第四部の主人公の掛け声のように間違えるな、僕の名前は阿良々木だ。」

 

「へぇー、そーなのかー。」

 

「……。」

 

「……?」

 

おかしいな、会話が続かないぞ。

 

「じゃあ私はお腹が減ったから行くね、じゃあね阿良々木。」

 

「あ、うん…」

 

なんだったんだあの子…

 

「お前様、儂もう無理、限界、おんぶ。」

 

「おんぶって…お前時間がたつにつれてだんだん幼くなってってないか?抱っこさせて。」

僕はしぶしぶ忍を抱っこして森を進んでいった。

 

「とにかくこの森を出ないことにはどうするかも決められないからなぁ。」

 

『あら、懐かしい気配がしたから出てきてみれば。また随分とちんちくりんになったものね、ハートアンダーブレード。』

 

血の色よりも紅い月に照らされた少女からは、僕らと似た雰囲気が漂っていた。

 

 

015

 

 

「し、忍、あの娘、吸血鬼だよな。なんかお前の名前知ってるみたいだけど何者なんだ?」

 

「ふふ、そこの男はあなたの下僕かしら。あの時は下僕なんて絶対に作らないと言っていたのに、どういった心変わりかしらね。」

 

「いや、誰じゃお前。」

 

「……。」

 

「……。」

 

場が沈黙に包まれる。この言い方だと本当に知らないのか忘れているのか…

 

「ふ、ふふ、まぁあれからかなりの時がたっているから、あなた如きの記憶力じゃあ覚えていられないのも無理ないかしら。いいわ、思い出させてあげる。」

 

「おい、頭かき回してでも思い出してやれよ。ちょっと涙目になってるじゃねぇか。」

 

「なんで儂が見ず知らずの小娘のためなんぞに必殺記憶術を使わなならんのじゃ。」

いや、だから見ず知らずじゃないんだって…少なくともあっちからは。

 

「わ、私の名はレミリア・スカーレット。スカーレットデビルの名で恐れられる高貴なエリート吸血鬼よ。」

 

「あー、思い出した思い出した。食べ残しの血で口の周り真っ赤かなかりちゅま(笑)吸血鬼のダメリアか。まだそんなチビだったのか。」

 

「か、かりちゅまとかダメリアとか言うな!!それに身長だって、あれから五センチも伸びたんだぞ!」

 

「三百年で五センチか、先は長そうじゃの。」

 

「お、おい忍、流石にそろそろやめてやったほうが…」

 

「う、うううううう!もおぉぉぉぉ!!さ、咲夜ぁぁぁ!!」

 

ほら、泣いちゃった。

 

「お呼びでしょうか、お嬢様。」

 

「うわっ、」

 

この女の人、一体今どこから…?

 

「貴様がダメリアの下僕か?小娘。」

 

「ふふん、咲夜は私の従者よ。下僕なんて下品なもの、私が作るわけないじゃない。」

 

「十六夜咲夜と申します。ダ…レミリアお嬢様のメイドを務めさせていただいております。」

 

「ねぇ、咲夜?今あなたまでダメリアって言いかけなかった?」

 

「気のせいですわ、お嬢様。」

 

「そ、そう。」

 

「しかしダメリア、貴様にしてはなかなか空気の読めた登場じゃったな。見直したぞ。」

 

「そ、そう?そうでしょ?ふふん、もっと私を褒め称えなさい。」

 

「いやー、すごい都合のいいタイミングの登場じゃなー、流石はかりすまお嬢様じゃー。」

人工音声もびっくりの棒読みである。

 

「ふふふ、やっと私の凄さがわかったようね。」

 

…なんだか不憫な娘だなぁ。

 

「ところでハートアンダーブレード様。『都合のいい』というのはどういう事なのでしょうか。」

 

「あ、実は僕たちこの森で迷子になっておりまして…」

 

「…?あなたは…?」

 

「この男はしたたかにして高らかにして愚かな吸血鬼。阿良々木暦。我が主様じゃ。」

 

「は、はぁ!?あんたの、主!?下僕じゃなくて!?」

 

驚きの声をあげたのはレミリアお嬢様だ。そりゃ怪異の王とまで言われていた忍を知っているものなら、こんな冴えない男の手下だなんて言われて、信じるほうがおかしいのだろう。

 

「ま、いろいろとの、あったんじゃ。」

 

「ふ、ふうん。あ、あなたが、『あの』ハートアンダーブレードを従えるほどの力を…」

 

レミリアお嬢様が少しおびえたような様子で僕を見上げてくる。

従えるなんて、とんでもない。僕が勝手にキスショットをこんな存在にまで引きずり降ろしてしまっただけだ。

 

「そうでしたか、失礼いたしました。暦様。」

 

「あ、いえいえ。そんな、やめてください。そんな『様』なんてつけられるほどの奴じゃないですから。」

 

「ふふ、そうですか。では『暦さん』と、呼ばせていだたきますね。私のことは咲夜、とお呼びください。」

 

「あ、じゃあ僕も、『咲夜さん』で…」

 

まずい、僕の苦手なできるお姉さんタイプだ。こういう人を前にすると羽川や臥煙さんを思い出してあまり逆らえなくなる。

 

「随分とご機嫌じゃない?咲夜。」

 

「い、いえ、そんなことありませんわ。」

 

「ふうん、ま、いいけれど。それで?ハートアンダーブレード、あんた達は私に何を求めているのかしら?」

 

「儂は忍野忍。今となってはその名は過去のものじゃ、何、貴様の屋敷に儂らの寝床を用意しろと、それだけのことじゃ。」

 

「お前、少しは頼む側の態度ってものをわきまえろよ…ええと、ダメかな?レミリア・スカーレットお嬢様。」

 

「…はぇ?お嬢…あ、そうね。そうよ!あなた、ハートアンダーブレードの身内にしてはなかなか礼儀がなっているじゃない。いいわ、泊めてあげる。ハートアンダーブレード、寛大なこの私とあんたの主様にせいぜい感謝することね!」

 

結構チョロいんだな、この子…。…将来が不安になるな。

 

「あー、はいはい、わかったわかった。感謝するぞーお前様ー。」

 

「ちょっと!私には!?」

 

「それでは、ご案内いたしますね。忍様。暦さん。こちらへ。」

 

「あ、どうも。」

 

「無視しないでよー!!」

 

なんというか、やっぱり不憫な娘だなぁと思った。

 

 

016

 

 

「で、でかい…!」

 

「悪趣味な色しとるのう。」

 

「ふふ、素晴らしいでしょ。これが我が屋敷、その名も『紅魔館』よ!!」

 

咲夜さんに案内してもらうこと三十分。僕らはついにレミィの屋敷にたどり着いた。

ちなみに今、僕は忍を抱っこしつつ、レミィをおんぶしている。

ここにくるまでの間、忍に無視され続けるレミィの相手をしていたら、すっかり懐かれてしまったようだ。

『暦!私のことはレミィと呼びなさい!』と、あだ名で呼ぶことさえ許可されてしまった。

 

「ようこそいらっしゃいました。暦さん、忍様。紅魔館一同、あなた方お二人を大切なお客様として歓迎いたしますわ。」

 

「はい。お世話になります。」

 

「咲夜、まずは二人を来客用の部屋に案内してあげなさい。私はパチェの所に顔を出してくるから、ディナーの準備ができたら、呼びにきて頂戴。」

 

「かしこまりました。お嬢様。」

 

「それじゃあ、暦、キスショット、また後で。」

 

「じゃからその名は…もういいわい、好きに呼べ。」

 

「うん、また後で。レミィ。」

 

そのままレミィは館のほうへ飛んで行ってしまった。

そこでふと、紅魔館に立ちふさがる巨大な門に違和感を感じた。

 

「あれ?レミィの話だと門番さんがいるんですよね?今日はお休みなんですか?」

 

「この時間ですと館の中ですね。魔の力が高まるこの時間に紅魔館に侵入しようとする輩なんていませんから。」

 

「あぁなるほど。納得です。」

 

確かに、ただでさえ吸血鬼の館という時点で近寄りがたいのに真夜中に忍び込もうとする死にたがりなんていないだろうな。

 

「それでは客室までご案内いたしますね。」

 

「はい、お願いします。」

 

しかし、僕の足は門の前で止まってしまう。

 

「…?暦さん?」

 

「えっと、すみません咲夜さん。『入ってもいいですか』?」

 

「あ、ごめんなさい、そうでしたね。『どうぞ、お入り下さい。』」

 

『吸血鬼は初めてくる家には招いてもらわないと入れない』という吸血鬼の特徴で、実に面倒な制約の一つだ。

最も、全盛期の忍ならそんな弱点だって無視できるのだろうが、まだ僕はそんな高みまで達していない。

ともあれ無事、咲夜さんに許可をもらった僕は紅魔館に足を踏み入れた。

 

 

017

 

 

「あ、おかえりなさい、咲夜さん。そちらの方は…?なんだかただならない妖気を感じますが。」

 

「レミリアお嬢様のご友人の忍野忍様と、その主の阿良々木暦様よ。お嬢様が紅魔館のお客様としてお招きしたの。」

 

「様はやめてくださいって咲夜さん…えっと、阿良々木暦といいます。よろしくどうぞ。」

 

「これはどうもご丁寧に。私は紅魔館で門番をさせてもらってます、紅美鈴といいます。お気軽に美鈴とお呼びください。」

 

「門番とか中国とかでいいですよ暦さん。門番といっても大体いつも居眠りしてるサボり魔ですから。」

 

「そ、そうなんですか…?」

 

「い、いやぁ、あはは…だってここの門番なんて暇なものですよ。みんな怖い所だっていうのを知ってますからね。」

 

「即刻辞めてもらってもいいのよ、美鈴。」

 

「さ、咲夜さん!?それだけはご勘弁を…」

 

「冗談よ。さぁ、暦さん。馬鹿は放っておいて行きましょう。美鈴、この後夕食だからあまり汚れないように。」

 

「は、はぁ…」

 

「了解です!」

 

元気いっぱいな美鈴さんだった。涎たれてますよ。



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幻物語 伍

投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません…
万に一でも続きを楽しみにしてくださっている方のために、なるべく早く投稿したいと
思っていたのですが…
難しい!阿良々木さんをシリアスムードに持っていくのがとても難しいですね!
二か月ぶりくらいにこんなに頭使った気がします。
うんうん唸りながら書きましたので色々と矛盾しているところがあるとは思いますが
「やれやれ、困った新人だな☆」という感じのイケメン顔で読んでくださると
心がぴょんぴょんします!
それでは!「ご注文は吸血鬼ですか?」をお楽しみください!(違う)


018

 

 

「こちらが客室となっております。」

 

美鈴さんと別れた後、もう2分ほど歩いたところで僕らはようやく客室へとたどり着いた。

 

ちなみに忍は疲労が限界を迎えてしまったらしく、現在僕の肩に頭を預け、眠っている。

 

「ありがとうございます、咲夜さん。」

 

「それでは私はディナーの支度をして参りますので、何か御用がございましたら屋敷の妖精メイドたちになんなりとお申し付け下さい。」

 

「わかりました。」

 

「それでは、またディナーができましたら参りますね。」

 

「あ、咲夜さん。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「忍はこのとおり疲れ切って寝てるんですが実の所僕の方はそこまで疲れているってわけでもないんですよ。」

 

「あら、そうだったんですか。」

 

「はい、だから泊めてもらえるせめてものお礼として何かお手伝いさせてもらえないかなぁ、と。」

 

「そんな、暦さんはお客様なんですから、お部屋でお休みになっていてください。」

 

「でも…」

 

「ダメです。」

 

「はい…」

 

正直部屋の中でじっとしてるのも暇なんだよなぁ。

 

「あ、じゃあこの中探検させてもらってもいいですか?」

 

「探検、ですか?」

 

「ええ、さっきレミィが言ってたパチェさん?でしたっけ、その人にも挨拶したいですし。」

 

「そうですか、まぁそれぐらいでしたら大丈夫だと思います。お嬢様方地下の大図書館にいらっしゃると思いますので、迷子になったりしないでくださいね、ここは広いですから。」

 

パチリ、と咲夜さんがウインクするのでついドキッとしてしまう。

 

「あ、ところでレミィの妹さんにも挨拶したいんですけど、どこにいますかね。」

 

「!?」

 

「え?あの、咲夜さん?」

 

「あの、暦さんお嬢様の妹様とは…」

 

「え、あれ?いないですか?おっかしいなぁ、レミィの様子からして絶対二人姉妹の姉だと思ったんだけどなぁ…」

 

「………確かに、お嬢様には妹様がいらっしゃいます。」

 

「あ、やっぱりそうなんですね。」

 

「ですが……」

 

「え?」

 

「妹様にお会いすることは、お嬢様以外許可されておりません。」

 

「な、なんでなんです?」

 

「もうしわけありません。これ以上は暦さんでも教えることはできません。」

 

「でも……教えることはできませんが……1つだけ。妹様を、救ってあげて下さい。」

 

そう言って、咲夜さんは一瞬で姿を消した。

 

 

019

 

 

「レミィ、君の妹に会いたい。」

 

「…余計なことを言ったのは咲夜かしら、それともハートアンダーブレード?」

 

「僕の勝手な妄想だよ。君の言動から二人姉妹の姉だと推理した。」

 

「そう。でも無理よ、あの子を部屋から解放するわけにはいかない。日常を保つためにはね。」

 

「…僕は、女の子を助けるためならなんだってする男だ。レミィ、君の妹がどんな子なんかなんて関係ない。どんな子だって、僕は笑顔にしてみせる。」

 

たとえ僕がその笑顔を見ることができなくたっていい。『この世に生きている』ということを、後悔なんてしてほしくない。

 

「その男の人が、阿良々木暦さんかしら?レミィ。」

 

本棚の影から本を抱えた少女が姿を現す。

 

「どうも、あなたがパチュリーさんですか?」

 

「ええ、パチュリー・ノーレッジ。動かない大図書館とか、なんだか不名誉な名で呼ばれたりもするわね。ま、好きに呼んでちょうだい」

 

「僕は阿良々木暦。女の子の味方だよ。」

 

「あらそう、すてきね。…ところでレミィ?揉めていたようだけどどうしたのかしら。」

 

「別になにも、話ももう終わったしね。」

 

「終わってなんかない。レミィ、なぜそんなに妹のことを隠そうとするんだ。君たち姉妹に何があったんだよ。」

 

「隠すというか、封印かしらね。あの子は危険すぎるのよ。」

 

「封印…?」

 

「パチェ、あなたどういうつもり?」

 

「どういうつもりもなにもないわ。私の聖域で吸血鬼二人が物騒な妖気を出さないで欲しかっただけ。あなた達、自身の影響力をもっと自覚した方がいいわね。」

 

「レミィ、封印って、どういうことなんだ。君は自分の妹に、何をしているんだ。」

 

「はぁ、いいわ。あの子に会わせてあげる。条件があるけどね。」

 

「いいよ、なんだって言ってくれ。」

 

「いさぎがいいわね。やはりあなたは何かが違う。あのキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを打ち負かした力。見せてもらうわ。パチェ、この前言ってたあれをお願い。」

 

「図書館で暴れられても困るし、しょうがないわね。」

 

そういってパチュリーは持っていた本に手を添え、術式を唱える。

 

「固有結界を展開。地形イメージを阿良々木暦に委任。…構成完了。『特殊戦闘フィールド』解放。」

 

図書館が光に包まれた次の瞬間、目の前には懐かしの学び舎、私立 直江津高校のグラウンドが広がっていた。

 

 

020

 

 

「…これは、一体?」

 

「へぇ、不思議なところね、ここがあなたの思い出深い場所、ということなのね。」

 

「え?」

 

「ここは私が開発した『特殊戦闘フィールド形勢結界』。この中ならどんなに激しい戦闘を行っても現実世界に影響しないから、思う存分やって頂戴。私はこの建物の中でも見てくるわ。」

 

「…つまりは、レミィに勝てたら僕は妹さんに会わせてもらえるってことでいいのかな。」

 

「ええ、それでいいわ。そのかわり私が勝ったら、二度とこの事は口に出さないこと。」

 

「わかった。」

 

「それじゃあ…あら、曇っていて月が見えないわね、つまらないわ。うーん、そうね…」

 

「僕はもう、自分の選んだ未来に後悔なんてしない。僕は最善ではなくとも、最良の選択を選ぶんだ。」

 

『今夜は月が出てないけれど、あなたは本気で殺すわね。』

 

『したたかに、高らかに、愚かに、それでも僕は生きてやる。』

 

021

 

三人が結界に消えるほんの数秒前、暗い地下の部屋で、幼く、恐ろしい少女が目を覚ます。

 

「この妖気、お姉様のと…誰だろう。殺気がピリピリ伝わってくる。いいなぁ、私も遊びたい。」

 

「外、出ちゃおうかなぁ。」

 

少女は小さな手のひらを扉に向け、握りしめる。



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幻物語 陸

またしても投稿が遅れてしまい申し訳ありません…
バイトやらなんやらの私用でなかなか書く時間が作れなくて…
いや!言い訳ですね!遅筆の本性がとうとう顔を出し始めただけです!
それでもまだ見放さずにいてくれる方がいらっしゃたら嬉しいです。
では、幻物語第陸話。お楽しみください!


022

 

 

霊夢達と別れる前、家への宿泊を断られた後、僕は一つ気になったことを霊夢に質問した。

 

「なぁ霊夢。」

 

「なによ」

 

「弾幕ごっこって妖怪と人間の力関係のバランスを保つためにあるんだよな。」

 

「えぇ、そうだけど。」

 

「でも『弾幕に当たって死んだら負け』ってルールだと、僕らみたいな不死身の妖怪は実質負けなしなんじゃないのか?」

 

「…ええっと、そうね、実は弾幕ごっこには『当たり判定』っていうのがあってね。」

 

「当たり判定?」

 

「そう。体の中心からある程度の範囲を当たり判定エリアっていって、そこに敵の弾幕が当たると死ぬ。って感じになってるの。」

 

「へぇ、ちなみに僕の当たり判定ってどのくらいまでなの?」

 

「あんた達吸血鬼の当たり判定はそうとう狭くてね。特にあんたらコンビの再生力なら心臓か頭が無事ならセーフでしょうね。」

 

「なにそのナメック星人」

 

「は?」

 

「いや、なんでもない。」

 

つまりは吸血鬼や不死身の妖怪にでも死が存在するのがこの弾幕ごっこってわけだ。

 

「そういうことよ。ま、弾幕ごっこじゃなかったら吸血鬼ぐらい一瞬で消滅させられるけど。」

 

どうやら楽園の巫女様の辞書には『容赦』という文字はないようだ。

 

 

023

 

 

「せっかくの特別なステージ、永久の夜をゆっくりと楽しみましょう。」

 

『神罰・スターオブダビデ』

 

レミィの周囲に六方星の描かれた魔法陣が展開し、レーザーと弾幕が発射される。

 

「まずは小手調べよ。あなたの力、存分に見せて頂戴。」

 

「っ!こんなの避けろってのかよ!」

 

霊夢がいうにはスペルカードには制限時間があり、避け続けていれば、いつかは必ず相手に隙が現れる。そこを狙うのだ。とのことだった。

 

「避けるったって限界があるだろっ!熱っ!くそっ、」

 

当たり判定が無いとはいえ、痛いものは痛いって!

 

『怪異・火虎』!

 

「燃やせっ!」

 

火虎。

かつて羽川が生み出した虎の怪異。僕が使う場合のコイツの性質は不安材料の除去。僕が危険と判断するであろうものをあらかじめ始末してしまう能力をもつ。

今回の場合、僕が避けきれないと思うであろう弾幕を火虎の炎が相殺するという結果になる。

 

「よし、これなら…!」 

 

「あら、流石にぬるま湯すぎたかしらね。ならもっとすごいのをあげるわ。」

 

『神罰・幼きデーモンロード』

 

「う、お、な、なんじゃそりゃあ!?」

 

形状は先ほどのとは、さして差はないものの(強いて言うなら光輪が撃たれ始めたという所だろうか)、密度が尋常ではない。明らかに避けられる限界を超えている。

 

「ほらほら、あなたの力、こんなものじゃないはずよ。私は運命に縛られることのないあなたの真が見たい!見せなさい!あなたの選択を!」

 

『神槍・スピア・ザ・グングニル』!!

 

レミィがスペル名を宣言し終わるころ、すでに真紅の槍は僕の手の届く距離にまで迫っていた。

避けられない。そう自覚したとき、一人の伝説の吸血鬼の姿が頭をよぎった。

いや、ダメだ。これは僕が勝手に関わった案件だ。忍を、キスショットを巻き込むわけにはいかない。僕がなんとかしないと、『僕』じゃないとダメなんだ。

そして、真紅の槍が僕の服を突き破り、そのまま心臓に――

 

 

 

 

たどりつくことはなかった。

誰かが槍を寸前で停止させたのだ。だぼだぼな萌え袖で、その真紅の槍をつかみ取った。

 

「まったく、あなたはいつまでたっても愚かですねぇ、阿良々木先輩。」

 

そういう君は、相変わらず先輩に対する敬意がまるでないな。

 

 

024

 

 

先ほどから何だか騒がしい。

こっちは慣れない土地で彷徨ったせいでくたくたなのだから休ませて欲しいのだが…

 

『ドゴォ!!!』

 

爆音と共に部屋が吹き飛び、それと一緒に金髪ロリ吸血鬼ももれなくふっ飛ばされる。

 

「あ、みーつけた!うふふ、やっぱりすごい殺気。ぞくぞくしちゃうなぁ、ねぇお前、ちょっと私と遊んでよ!」

 

血の滲んだような赤黒い目を輝かせる彼女に、覚えがあった。

 

「…貴様は、レミリアの妹娘じゃな。」

 

「そう!私フランドール・スカーレット!お前は?」

 

「忍野忍。一度だけじゃが、あったこともあるんじゃがのぅ、忘れたか?」

 

「えー?私にあって生きてる人でしょー、うーんとねー、あー!!キスショット!お前キスショットでしょ!あれー?でも今忍野って言ったよね?キスショットの偽物?」

 

「偽物というかなれのはてというか搾りかすというか、そんな感じじゃ。」

 

「ふーん、よくわかんないからどうでもいいや!」

 

「しかしダメリアの奴、まだこの狂気の塊を始末しておらんかったのか。」

 

「あははっ、ダメリアってもしかしてお姉様のこと?面白いね!今度言ってやろーっと!」

 

「あいかわらず会話がなりたっておるのかわからんやつじゃな。フランドール。」

 

「じゃあ遊ぼうよ!殺し合いごっこ!ルールは死んだら負けね!」

 

「儂はもう少し寝ていたいんじゃがのぅ、まぁいいわい。遊んでやる。死んでも恨むなよ、キチガイ。」

 

「それじゃあ、よーい、ドッカーン!」

 

巨大な爆発と同時に、吸血鬼同士のもう一つの死闘が始まった。

 

 

025

 

 

「やれやれ、あなたという人は、あ、あなたという鬼は、のほうがよかったですかね?」

 

阿良々木先輩。と、およそ七十年以上ぶりにその生意気で、かわいい後輩の声を聞いた。

 

「扇ちゃん…?なんで…」

 

扇ちゃんは直江津高校を卒業と同時に姿を消した。なんでも羽川に対抗して旅に出たらしいというのは神原から聞いていたのだが…

 

「何でも何も阿良々木先輩。私はもともと怪異ですから、忍野メメの姪としての人生をまっとうしたとしても、あなたが私を必要とするなら、私はどこにだって駆けつけ、罵倒してあげますよ。」

 

最後の一言がなかったらめちゃくちゃかっこよかったんだけどなぁ…

 

「なるほどね、あなたの運命が見られなかったのはそういうこと。『一人の運命を見ようとしていたのに実は二人分だった。』そりゃあ見えないわよね。」

 

「運命…?」

 

「彼女は相手の運命を見る能力を持っているんですよ、阿良々木先輩。もちろんご存じかと思いますが。」

 

「でも知れた。高が知れたわ。暦。もしかしたらと思ったけど、やはりあなたを『あの子』に会わせるわけにはいかない。」

 

『紅色の幻想郷』

 

「堕ちなさい。」

 

紅い。ただそれだけだった。レミィから放たれた弾幕は鮮やかな紅で空間を満たそうと広がってゆく。

 

「あらら、まずいですね、どうするんですか?阿良々木先輩。」

 

「えっ、この状況で扇ちゃんが来たってことは扇ちゃんが今回の切り札なんじゃないの?」

 

「いやだなぁ、そんなわけないじゃないですか。それとも阿良々木先輩は、いたいけな後輩をあんな恐ろしいものの中に放り込むっていうんですか?」

 

「そんなこと言わないけどさ。」

 

「まぁ、切り札とは言わないにしても、お助けキャラ程度にはなれますかね。」

 

「扇ちゃん?」

 

「時間もありません、いいですか、阿良々木先輩。その耳を貫通させるぐらいかっぽじってよく聞いてください。」

 

「わ、わかった。」

 

「阿良々木先輩、吸血鬼の能力とはなんですか?」

 

「えっと、再生力?」

 

「それから?」

 

「それから…並み外れた身体能力とか、具現化能力とか、変身能力とか…」

 

「それです、阿良々木先輩。」

 

「え?」

 

「吸血鬼の能力の中で最も阿良々木先輩に適しているもの。それは変身能力です。」

 

「変身能力?」

 

「はい。あなたが春休みの時、唯一使いこなしたのは変身能力ですから。現在、阿良々木先輩は怪異を具現化させて使役しているようですが、その時、阿良々木先輩は何を意識していますか?」

 

「何を…みんなとの思い出かなぁ。」

 

「それだけ。」

 

「え、うん。」

 

「ではもっと深くまで意識してみましょう。初めて吸血鬼の変身能力を使ったときのように、その怪異の姿。雰囲気。能力まではっきりと。そして成りきってください、子供のころ変身ヒーローになりきって遊んだように。」

 

あなたの中の『最強』に

 

『怪異譚・キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』



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幻物語 漆

こうこうのおともだちと、そつぎょうりょこうでとうきょうにいってきました。
「はるのかんまつり」という、いべんとのためにあきはばらにいきました。
はじめて「ぶっぱん」というものにさんかして、ろくじかんならびました。
へとへとになったけど、たのしかったです。

3月22日39時40分、予告どうりに間に合ってほっとしてます!
…はい、すいません。全然間に合ってませんね。
昨日チェックしてくださった方や、楽しみにしてくださっている方がいらっしゃいましたら、ご期待にそえず申し訳ありません!(焼き土下座)
「やっとかよ、カスが…!」と罵りながらもみてくださるツンデレさんがいらっしゃいましたら、萌えハゲます!
それでは、やっとのことで完成した「幻物語 漆」!
お楽しみください!


026

 

 

一瞬。一瞬だった。赤の瞳が紅の弾幕を一瞥した。たったそれだけでレミィの弾幕は掻き消えた。

 

 

「『かかっ。』」

 

と、『僕』の顔をした『最強』が凄惨に笑う。

金髪赤眼、黒と赤のスーツを着て牙を光らせるその姿は、もはや『彼女』そのものだった。

 

「おかしいわね。あなたは力を失って幼女化したと暦に聞いていたのだけど。とりあえず久しぶりと言っておこうかしら、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード?」

 

「『ほう、レミリアか。かかっ、まぁ久しぶり、でいいじゃろうよ、儂らは怪異。見た目なんぞより魂が存在を証明してくれる。』」

 

一体、どうなっている?体が動かせない。自分の物じゃないみたいだ。

『僕』が『キスショット』になりきった結果、意識までキスショットになってしまったのだろうか。いや違う。『僕』の意識は『ここ』にちゃんとある。

 

「『しかし、奇妙な感じじゃのう。儂は従僕に屈辱的な扱いをうけて、吸血された。ここまでは覚えておるんじゃが、まさかその次に気が付いたら儂の姿が従僕になっているとはの。』」

 

『ここ』?『ここ』とはどこだ。『僕』はどこにいる。

 

「貴女がその男の姿になったというか、私が見た限りではその男の中身が貴女になったように思うけれどね。」

 

そも『僕』とは?『僕』とは…『僕』とは、誰だ。

 

「『相変わらず小難しい事を言う奴じゃのう貴様は。まぁじきに馴染むじゃろ。頭の中で騒いどる訳がわからんのもすぐ消えるじゃろうし。』」

 

『僕』、いや、『儂』の名は…『阿良々木』、違う?『キスショット――

 

「貴方は『阿良々木暦』で、そこは紛れもない、貴方の居場所ですよ。先輩。」

 

阿良々木、暦。『僕』の、名前…

 

「そうですよ、阿良々木先輩。いいからサボってないで早いとこ戻ってきちゃってください?」

 

「お、扇ちゃん…『ちっ、そういうことか、つまらん。』あれ、口が勝手に…?『ま、せいぜい頑張るんじゃな、我が従僕よ。儂は簡単には下らんぞ。』」

 

そう言い残した(?)『彼女』は、僕の意識の奥深くまで沈んでいった。

 

「あれ、姿がもとに…」

 

黒髪黒目、牙はもともとあるものとして、完全に阿良々木暦の姿に戻っている。

 

「扇ちゃん、これってどういう…」

 

事?と聞こうとした目線の先に既に彼女はいなかった。

まるではじめからそうだったように。

 

「暦」

 

僕がきょろきょろ扇ちゃんを探していると、レミィが僕に抱き着いてきた。

 

「レ、レミィ?どうしたんだ?」

 

「私の全力スペルが掻き消されたわけだし、負けは認めてあげる。そのかわり、今のスペルをもう二度と使わないと誓いなさい。さもなくば次は死ぬわ。」

 

「そんな、死ぬって…」

 

「誓って。お願い。」

 

「…わかった。誓うよ。紅色の吸血鬼に、金色の吸血鬼に、そして僕自身に誓って、あれはもう二度と使わない。」

 

「そう…ありがとう。」

 

「えっと、ところでレミィ、勝負のことなんだけど…」

 

「わかってるわ。誇り高き吸血鬼として約束は守る。貴方が妹に会うことを許可…」

 

「レミィ!!大変、外がヤバイことになってる!」

 

「パチェ?どうしたのよ。」

 

「あんたの妹が!フランドールが!屋敷で暴れてるのよ!!」

 

 

027

 

 

「いたっ!あそこだ!!」

 

「フラン!」

 

紅魔館南館2階。二人のロリ吸血鬼は死闘という名の遊戯を続けていた。

 

「キャハハハハ!こんなに楽しいのは何百年ぶりだろ!やっぱり弾幕ごっこなんかじゃ物足りない!全部!全部壊してやる!!」

 

柱の影で腰をぬかしていた妖精メイドに手を向け、握りしめる。

 

「くっ、馬鹿が!身内まで殺す気か!」

 

忍は体の一部分を蝙蝠に変化させ、メイドを守るように包み込む。

 

『想造・子う守り』

 

爆発はしたものの、メイドは蝙蝠でできた殻に囲まれ、無事なようだ。

 

「忍!」

 

「お、ようお前様。ご機嫌麗しゅう。」

 

「麗しくねぇよ、なんだよこれ!?あの子がレミィの妹なのか?」

 

「そう。そこで口を開けて突っ立っとるダメリアの妹、フランドール・スカーレットじゃ」

 

「フラン…?本当にフランなの…?どうしたのよ、その姿…」

 

まぶしいほどの金髪は黒く染まり、赤を基調としたドレスも青黒く、七色の羽は鈍く濁ってしまってしまい、真紅の瞳は深緑へと変化している。

 

「怪異としての性質が乱れとるんじゃ。今の『アレ』は怪異でも、ましてや生命でもない。定義的には『くらやみ』のそれに近い。」

 

「『くらやみ』…?」

 

「一つの説明不可能な『現象』。それが今の『アレ』じゃ。」

 

「ちょっと、怪異がなんとか、現象がなんとか、どういうことよ。あの子はどうしちゃったの?」

 

「怪異は観測されてこそ存在できる。大方地下にでも幽閉しておったんじゃろ、長い間他者に観測されなかった奴は存

在することすら危うくなるほど怪異性が薄まっていた。そこに儂らが来た。強すぎる妖力を放つ儂らを感知して、自分の存在を保とうと、怪異としての本能が暴走した。その結果がこれじゃ。」

 

「そんな…」

 

「制御できないような大きすぎる力はさっさと処分するべきなんじゃ。それをいつまでもいつまでも中途半端に押さえつけようとするからこういうことになる。」

 

「だ、だって…あの子を失いたくないから…私はあの子のためにも…」

 

「レミィ、それは違うよ。」

 

「え?」

 

「そりゃあ大きすぎる力を持つことは危険かもしれない。でもその場合、危ないのは力であってあの子じゃない。あの子だって僕やみんなみたいに毎日を楽しく笑って暮らすべきなんだ。」

 

「…暗くて寂しいのはもう嫌、戻りたくない。壊して殺して、自由になってやる。死んじゃえ。私を縛りつけるもの全て!!」

 

「フラン…」

 

「大丈夫。僕がなんとかしてやる。」

 

「でかい口を叩くもんじゃのうお前様よ。何か策でもあるのかの?」

 

「吸血鬼の最大の弱点は、存在そのものを吸い取られる同族からのエナジードレイン。多分それが使える。」

 

「ほう?ま、確かに暴走した力を落ち着かせるにはいいかもしれんの。しかしそれじゃと一歩間違えると消滅するぞ?奴はもともと存在が薄まったせいでこうなったんじゃから。」

 

「そこも大丈夫。なにも吸血するわけでもないから。」

 

そんなことしたら、僕の影にあの子を縛りつけかねない。

 

「吸血せずにエナジードレインじゃと?あの色ボケ猫でも使う気か?残念じゃがあんな低級怪異じゃ吸血鬼からエナジードレインすることなんて不可能じゃと思うぞ?」

 

「問題ないよ、…そろそろ始めよう。何だか時間もなさそうだ。」

 

「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ!死んじゃえ!死んじゃえ!死死死死死死死死死シシシシシ!!!!」

 

「かかっ、辛そうじゃのう。我が主様が助けてくれるらしいから、まぁ期待して待っておれ。」

 

「忍。僕があの子に近づいたらさっきメイドちゃんに使ってたヤツで僕ごと閉じ込めてくれ、できるか?」

 

「本来は対象を守る怪異であってそんな攻撃性はないんじゃがのう。主様の言う事ならしょうがないの、なんとかしてやるわ。」

 

「暦…私にも手伝わせて頂戴。あの子は私の、私の大事な家族なの。このまま見てるだけじゃ、あの子に謝る権利だってない。」

 

「レミィ…わかった。じゃあレミィは僕があの子に近づくサポートをしてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「私もお手伝いさせていただきますわ。」

 

「咲夜!よかった。無事だったのね。」

 

「はい、妖精メイドや使用悪魔たちの避難をさせていたのですが、途中で美鈴と合流できたので後は彼女に任せてきました。忍様のお心遣いのお陰で負傷者、死者ともにゼロですわ。」

 

「「えっ!?」」

 

僕とレミィの声がハモった。

 

「なんじゃ、儂が数少ない良心を発揮して救助活動するのがそんなにいかんのか?なんなら今から奴と結託してここら一体灰塵と化そうか?ん?」

 

「やめてください。死んでしまいます。」

 

「それでは、参りましょうか。」

 

「はい。」

 

「ええ。」

 

「かかっ、なんか『ボス戦』って感じじゃのう。『儂らの戦いはこれからじゃ』、とでも叫んでおくか?」

 

お前が言うセリフは『もうちっとだけ続くんじゃ。』だろうよ。

 

 

028

 

 

『怪異譚・障り猫』

 

「ちょっと、暦!?」

 

「大丈夫、こいつは話のできないやつじゃない。」

 

「怪異の魂を自らの体に宿す術か…思いついても普通はやらん邪道じゃが…一体何処の誰からの入れ知恵かのう。」

 

僕の髪が白く染まり、猫の耳が生えてくる

 

「『ん…おいおい、ご主人が亡くなって俺の役目も終わりだと思って消えたのに、にゃんだって野郎の体に憑依してんだよ。』猫。ちょっとした緊急事態だ。わけは後で話すから、少し協力してくれ。」

 

「なんか猫耳つけて独り言言っとる変態にしか見えんのう。」

 

「暦さん。いろいろとギリギリですわ…」

 

「咲夜?鼻血出てるわよ?大丈夫?」

 

「『吸血鬼の真祖が野郎を合わせて四人、そのうち一人は暴走してやがんにゃ?確かにただ事じゃねぇにゃあ。てか怖過ぎんだろ、帰りたいんだが。』終わったら早々に帰ってもらって構わないから。頼むよ、猫。『ちっ、ご主人にもお前をよろしく言われちまってるからにゃあ、』羽川が…『あぁ、そうだよ。健気だろ?感謝しやがれよ。』」

 

感謝なんて…もうこれ以上しきれないくらいしてるさ。

 

「『にゃはは、まぁそうだろうよ。』」

 

「お前様、もういいかの?」

 

「『ああ、大丈夫だ、行こう。』」

 

「では、」

 

『幻世・ザ・ワールド』!!

 

「そして時は動き出す…」

 

「『えっ、え!?』」

 

何が起きたのか、僕とレミィは一瞬の間に妹ちゃんの前に移動した。

 

「『時を操る程度の能力』。時を止め、お二人をお連れしました。」

 

「ご苦労様、咲夜、危ないから下がっていなさい。」

 

「かしこまりました。失礼いたします。」

 

そういうと、今度は一瞬にして忍がいる所まで移動していた。

 

「じゃあ、暦。妹を頼んだわ。」

 

『神槍・スピア・ザ・グングニル(with暦ver.)』!!

 

「『ちょ、まっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』」

 

「ナんだお前…!お前モ私をあノ暗い部屋に閉じ込メる気カ…!」

 

「『違うよ。僕と外に出よう。外に出ていろんな物を見て、家に帰って家族に話すんだ。きっと何よりも楽しいと思う

よ。』」

 

『想造・絞守』!!

 

忍が蝙蝠の殻で僕らを閉じ込める。

 

「猫、頼む。『にゃははは、吸血鬼の地位を使って俺様のエニャジードレインの力を強化したのか。百年以上生きただけあって少しは頭が回るようになったみたいだにゃあ、お前。』」

けあって少しは頭が回るようになったみたいだにゃあ、お前。』」

 

虎の威を借る狐のように、鬼の威を借りた猫が、恐ろしく、かわいそうな少女に触り、障る。

 

「『エナジードレイン』。」

 

「う、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

「『ごめん。辛いだろうけど、少しの間、我慢してくれ。』」

 

「や、めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!放せ、放せ放せ放せええええええええええええええ!!!」

 

弾幕がゼロ距離で当たり、僕の身体を削っていく。しかしこの子の痛みに比べたら、なんてことないだろう。なにせ存在そのものを吸われているのだ。痛いなんて次元ではない。

 

「う、あ、嫌だよ……死にたくない……消えたくない……私も、みんなと……」

 

暴走した妖力を吸われ、徐々に落ち着いてきた少女は涙を流しながら、一時の眠りについた。

 

 

029

 

 

「それで?お前様よ。無事暴走は止められたわけじゃが、この後一体どうする気じゃ?一旦は落ち着いたとしてもまたいつ暴走するかわからんぞ?それほどこやつの力は不安定なんじゃ。」

 

「安定しないなら、安定させられるくらいまで力を減らせばいい。」

 

「減らすといってものう…」

 

「さっきの忍が使ってた蝙蝠。あれってどんな怪異譚をもった怪異なんだ?」

 

「怪異譚も何もさっき儂がスキルでつくった…?…ふむ、なるほどの。」

 

「そう、吸血鬼のスキルを使えば怪異だって生み出すことができる。」

 

『偽造』『怪異・睡鵬』

 

鵬、おおとり、中国に伝わる伝説の鳥。

 

鵬の形をしたこの怪異の性質は『水泡』。つまりは『水の泡』というやつである。

 

対象に眠る才能や底力を『水の泡』、すなわち台無しにしてしまう怪異。

 

「え、それじゃあフランはもう吸血鬼じゃいられないってこと…?」

 

「阿呆。何百年も語り継がれた怪異ならまだしも、今ここで生み出された怪異が吸血鬼相手にそんなことできるわけな

いじゃろうが。せいぜい一時的な半吸血鬼化が限界じゃろうよ。」

 

「あくまで一時的だから定期的に怪異を憑けなきゃいけないけど、これなら特に危なげなく生活できると思う。」

 

「う、うん…あれ、ここ…お部屋じゃない?なんで?あれ?」

 

「っ!フラン!」

 

「うわっ、お姉様?どうしたの?紅魔館ボロボロ…もしかして、私がやったの…?」

 

「そ、それは…」

 

「そうじゃ。貴様が自らの力を制御できなかったからこんなことになった。」

 

「お、おい忍…」

 

「言ったじゃろう。自分の力も制御できない奴はさっさと消えるべきなんじゃ。誰も傷つけたくないならな。」

 

そんな冷たいことを言う忍はどこか自分を責めているようにも見えた。

 

「そうだよね…ごめんなさい、お姉様。私お部屋に戻るね。」

 

「そんな。謝るのは私のほうなのよ、フラン。今まで一人にしてごめんなさい。もう二度とあなたを独りぼっちになんかしないわ。ごめんね、ごめんねフラン。」

 

「お姉様…。私だって、フランだってお姉様と、咲夜と、めーりんと、パチュリーと、紅魔館のみんなとずっと一緒に

 

いたいよ!でも、でもっ!フランがみんなと一緒にいたら、みんなが壊れちゃうから…死んじゃうのは、嫌だから…!」

 

「大丈夫。もう君は他人を、自分を傷つけたりしなくてもいいんだ。友達だって、これからいくらでも作って行けるよ。」

 

『怪異・水鵬』

 

僕の手の上にブクブクと生まれ出たその怪異は妹ちゃんの目の前でパチンと割れて、妹ちゃんの中に眠る、吸血鬼としての『悪意』や『凶暴性』、そして『夜の住人』としての呪縛までも『台無し』にした。ちょうど春休み以降の僕みたいな状態になった感じだろう。

ての『悪意』や『凶暴性』、そして『夜の住人』としての呪縛までも『台無し』にした。ちょうど春休み以降の僕みたいな状態になった感じだろう。

 

「じゃあちょっと僕にむけて手を握ってみて。なんか破裂させる能力みたいなヤツ。」

 

「え、でもそれだとお兄ちゃんが…」

 

「大丈夫だよ、やってみて。」

 

「殺すつもりで思いっきりやってやれ。」

 

ちょっと忍さん?

 

「え、じゃ、じゃあ…」

 

『きゅっ』

 

「えいっ」

 

『バチン!!』

 

「おわっ」

 

「ふむ、まぁ癇癪玉程度の爆発かの。音と光だけだったみたいじゃし。」

 

「あ、え、なんで?私…?」

 

「さっきの水の鳥、あれが君の『狂気』を一時的に無効化したんだ。これで君は自分の意志に反して他人を傷つけることがなくなったんだよ。」

とがなくなったんだよ。」

 

「そ、それじゃあ…!」

 

「ええ。もう地下室なんかにいなくてもいいのよ、これからはずっと一緒ね。」

 

「かかっ、主様のイメージが強かったみたいで吸血鬼の制約も無効化されとるからの、日光すら効かんじゃろうよ。」

 

「じゃあフランお外に出てもいいの!?」

 

「ふふっ、そうね。」

 

「迷子になると危険ですので私か美鈴がお供いたしますわ。」

 

「やったぁ!お兄ちゃん、ありがとう!」

 

よかった。ようやく、彼女の心からの笑顔を見られた気がした。



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幻物語 捌

お待ちくださっていた方、大変お待たせいたしました。
そろそろ学校も始まるということで何だかリアルの方であたふたしてしまって
またしても投稿が遅れてしまいました……
というか、これからはこの投稿ペースに安定してしまいそうです。
待ちきれない方がいらっしゃいましたら、催促していただければ短いかもしれませんが、投稿させて頂きます。

それでは、ギャグ濃度100%、『幻物語 捌』
お楽しみください!


030

 

 

「いただきます!」

 

『いただきまーす。』

 

フランの声に続いて、僕、レミィ、パチュリー、美鈴さん、咲夜さんが続く。

ちなみに忍はよほど疲れたのか、先に咲夜さんにドーナツを作ってもらって先に眠ってしまった。なおドーナツはよほど美味しかったらしく、

 

「馬鹿な……ミスドを超えた、じゃと……!?いや、しかし、そんなはずは……じゃがこの味は……」

 

と一人で悶絶していた。恐るべし、咲夜さんドーナツ。メイドーナツとでも言うべきだろうか。

 

「それでそれで!?その後お兄ちゃん達はどうなったの!?」

 

「え、あ、ああ。どこまで話したっけ?あ、そうだ。ゾンビ軍団に囲まれてもうダメだと思ったその時!僕のよく知った人が助けてくれたんだ。誰だと思う?」

 

「えー?えーっとねー、んーとねー、わかった!咲夜!咲夜でしょ!」

 

「え?うーん……咲夜さんはまだ会ってなかったかなー?」

 

「妹様、私と暦さん達は今日あったばかりですわ。」

 

「あー、そっかー。」

 

「八九寺真宵。それも大人になった、ね。」

 

レミィが得意げに答える。

 

「え!?そうなの!?」

 

「う、うん……」

 

「すごーい!お姉様!なんでわかったの!?」

 

「ふふ、私のカリスマがあればこのくらいのことはお見通しなのよ。」

 

「あれ?でも確かレミィにはもうこの話したよね?」

 

「ちょ、ちょっと!?暦!?」

 

「えー?なにそれお嬢様ずるーい!」

 

「くすっ、」

 

「咲夜!?なんで笑うのよ!」

 

「はははっ」

 

「こ、暦まで!もぉぉぉ!」

 

「な、なんだか皆さん別人みたいですね…」

 

「ええ、恐らくは彼の影響でしょうね。」

 

「彼……暦さんのことですか?」

 

「え?僕?」

 

「ええ、あなたが来てからみんな変わったわ。」

 

「そうかな……そんなことないと思うけど……」

 

「いいえ、こうして紅魔館のみんなが集まって食事するなんて、今までじゃありえないもの。暦、貴方のおかげよ。」

 

「レミィがこうして好意を素直に伝えられているという時点で何かしらの影響があったことは間違いないわね。」

 

「……パチェ、あなただって今日はやけに口数が多いじゃない?」

 

「なっ、そ、そんなことないわよ……?」

 

「フランはお兄ちゃん大好きだよー!!」

 

「わ、わたしも……ぉ、ぉsたぃしてぉりまぁ……」

 

「咲夜?何か言った?」

 

「え、い、いえ……何でもありません……」

 

「あ、あはは……あの咲夜さんまで……何かの能力なんですかねぇ……」

 

美鈴さんは不思議そうな苦笑いを浮かべ、そう言った。能力?吸血鬼にそんな能力あっただろうか…?

 

「ふふ、ありえるかもね、さしずめ『気が置けない程度の能力』とか、かしらね?」

 

「へ?気?吸血鬼にそんな能力ありましたっけ?」

 

「あぁ、いえ、よくあるんですよ。幻想郷に迷い込んだ人が特殊な能力に目覚める、なんてことが。」

 

「気が置けない、ねぇ。」

 

それはないと思うけどなぁ。僕って第一印象大体悪くなりがちだし。

 

「ちなみに私が『運命を操る程度の能力』、咲夜が『時間を操る程度の能力』、それでフランが、」

 

「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だよー!今は上手く使えないけど!」

 

「私が『気を使う程度の能力』。パチュリー様は『七曜を操る程度の能力』をお持ちです。」

 

「み、みなさんもの凄い能力をお持ちですね……」

 

その内二人とは戦ったんだよな……よく生きてたなぁ、僕……。

 

「そんなこと言っても、先ほどお嬢様が言ったことが本当なら暦さんの力も使い方によってはそうとう凶悪ですよ?なにせ警戒ができないんですから。暗殺にはもってこいの能力です。」

 

咲夜さんが可愛らしく人差し指を立てて、怖いことを言った。

あ、暗殺って……

 

「そんな怖いことしないですって」

 

「わかってます、冗談ですよ。」

 

午前三時、そろそろ吸血鬼には眠くなってくる時間、食後に美味しい紅茶を飲んでいると、レミィが話を切り出してきた。

 

「そうだ、ねぇ暦、貴方これからどうするの?」

 

「どうする……うーん、どうしようもないかなぁ。」

 

「そう、それならしばらくここにいるといいわ。フランや私たちに貴方が過ごしてきた物語をもっと教えて頂戴。」

 

「お世話になってもいいなら願ってもない申し出なんだけど……いいのかな?」

 

「私は一向にかまわないわ。」

 

「私もメイドとして腕がなりますわ。ここはお客様が少ないですから。」

 

「お兄ちゃんまだここにいてくれるの!?やったあ!」

 

「えっと、じゃあお言葉に甘えて。」

 

「決まりね。」

 

「それでは、お部屋はあのままのお部屋をお使いください。」

 

「わかりました。」

 

「ご馳走様。それじゃ、私は図書館に戻るわね。」

 

「あ、えーっと、パチュリー、さん?」

 

「パチェでいいわ。」

 

「そう?じゃあ、パチェ。僕あの図書館見てみたいんだけど、案内してくれない?」

 

「あら、あなた本を読むのね。以外だわ。」

 

「読むって言っても有名どころやライトノベルばかりだけどね。」

 

「ライト……あぁ、結界の中の図書館にあった一風変わった本のことね。」

 

「多分。えっとそれで……」

 

「別にいいわよ。そのかわり明日にして頂戴。今日はもう疲れたわ。」

 

「あ、うん。じゃあ僕ももう寝ようかな。」

 

「そう?じゃあ咲夜、部屋まで送ってあげなさい。」

 

「かしこまりました。お嬢様。」

 

「そんな、いいですよ。別に。」

 

「でも暦、部屋までの道わかるの?迷子にでもなったら生きて帰ってこれるかわかんないわよ?」

 

紅魔館って迷宮かなんかですか……?

 

「じゃ、じゃあお願いします……」

 

「ふふっ、かしこまりました。」

 

 

031

 

 

咲夜さんに連れられながら僕が必至に道を覚えようと歩いていると、とある衝動に駆られた。

 

「あの、咲夜さん。」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「ここってお風呂って、ないですかね……?」

 

「お風呂……ですか?でも……」

 

咲夜さんが戸惑うのもわかる。吸血鬼は己の能力によって体をより健康な状態に保とうとするので、どれだけ汚れても次の瞬間にはもう綺麗になっているので、吸血鬼には入浴という行為の必要性が全くないのだ。

 

「でも、違うんです。そういうのじゃないんです!日本人としての血が騒ぐというか、心の汚れまでは綺麗になっていないというか……」

 

「は、はぁ。」

 

「とにかく!お風呂を!僕にバスタイムを!」

 

「そ、それはよろしいんですが……大丈夫なんですか?吸血鬼の方は流水に弱いとお嬢様に聞いていたのですが……」

 

「水ではなくお湯なので無問題です。」

 

僕はキメ顔でそういった。

 

「そ、そうなんですか!?お嬢様にお風呂にお誘いした時、『吸血鬼に流水はNGだから入れない』って断られたのですが……?」

 

「恐らくはレミィが風呂ギライでそれらしい嘘をいったんでしょうね。そもそも吸血鬼の真祖レベルの怪異なら弱点は弱点なりえないですから、その気になれば鏡にも映れますし、太陽だって日焼けがひどい程度で済みます。」

 

「そ、そういうものなんですか……」

 

「人のイメージを元にして存在しているようなものですから、その辺は結構曖昧なんです。」

 

「そうですか、そうですか……わかりました……」

 

「さ、咲夜さん?」

 

「では暦さん、お風呂はそちらになりますので、自由にお使いください。失礼いたします。」

 

「え?あっ」

 

いつの間にか部屋についていたようだ。咲夜さんは部屋の向かいの部屋から四つほど隣の扉を指さし、消えてしまった。

 

「さて……」

 

今日一日がんばった僕に至福のバスタイムのご褒美といこうか。

 

 

032

 

 

「うヴァーーーー……、さいっ……こう……」

 

これだけ大きなお屋敷だから、お風呂もかなり豪華な大理石のお風呂とかだろうと思っていたのだが、意外も意外。咲夜さんの趣味だろうか、なんと紅魔館のお風呂はTHE・和風の檜風呂だった。なんだか神原家のお風呂を思い出す。

 

「よく考えたら一人で風呂に入るなんていつぶりだろうなー」

 

いつもは忍が乱入してくるから一人でゆっくり浸かるなんてことは滅多にないのでなんだか新鮮な気分だ。

 

「いや、それもおかしいんだけどさ。」

 

……さみしい。まいった、こんなにも自分が寂しがりやさんになっているとは、ぜんぜん気が付かなかった。会話がないっていうのが辛い。

 

「……そろそろ上がろうかな……っと?」

 

「え?あれ……?って、こ、暦!?な、なんで!?」

 

湯船から出ようと体を起こしたところでいきなりレミィが現れた。何やら首から看板を下げている。

 

「なになに……?『お嬢様が嘘ついた罰です。お風呂に入ってください。』……だってさレミィ。」

 

「そんなっ、だからって暦が入ってるときに……さ、咲夜ぁぁぁぁぁ!!」

 

しかし叫んでも咲夜さんは現れない。どうやらそうとう怒っているようだ。

 

「なぁレミィ、咲夜さんかなり怒ってたみたいだし、ここは大人しく入った方がいいんじゃないか?」

 

「う、うるさい!そもそもなんで暦はそんなに平然とガン見してるのよ!レディの肌はそんなに簡単に見てもいい代物じゃないのよ!せめて目を背けるとかしなさいよ!」

 

「レディねぇ……レミィはどちらかと言えば『れでぃ(笑)』じゃないか?」

 

「な、なんですって!」

 

「確かにかわいいよ?顔は。だがしかしこれをレディと言い切るにはある一部分が圧倒的に足りない。僕はおっぱいならどんな大きさでも愛する自信があるが、流石に『無い』おっぱいを愛することはできない。せめて肌とおっぱいの境目がわかるくらいのおっぱいになってからでなおしてほしいものだな。はぁーあ、おっぱいおっぱい。」

 

「そ、そんな……お、お、おっぱ……胸のことばっかり言わなくてもいいじゃない!これから大きくなるもん!私レディだもん!」

 

はいはい、れでぃれでぃ(笑)

 

「うううううう!!し、」

 

「し?」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!」

 

『神槍・スピア・ザ・グングニル』!!!

 

「え、ちょ、まっ、ストップ!レミィストップ!」

 

こんなところでそんなの撃ったらお屋敷が大惨事に!

 

「ふ、ふふふ……大丈夫よ、紅魔館は爆発には慣れてるもの……きっと美鈴辺りが一時間くらいで直してくれるわ……(多分)」

 

「いやいや、無理だって!ていうか今多分って言わなかった!?わかった!謝る!謝るから!ごめんって!レミィは全世界のみんなが満場一致でみとめるレディだって!」

 

「もう遅い…我が紅の槍に刺され、一瞬のうちに消滅するがいい!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

『バァン!!』

 

「お姉様だけお兄ちゃんとお風呂入るなんてずるい!フランも入る!!」

 

「え!?フ、フラン!?」

 

「フラン!よかった、助かった……!」

 

「あれ?お姉様?なにやってるの?ダメだよーお風呂で暴れちゃ。」

 

「そ、そうだそうだー。」

 

「くっ、……暦、覚えてなさい……」

 

「まぁまぁ、いつもは忍が入ってくるから、慣れてるんだよ。」

 

「忍?」

 

「キスショットのことよ。」

 

「キスショット?キスショットなのに忍なの?」

 

「うーんと、なんて説明したらいいかな、まぁまた今度話すよ。」

 

「あら、じゃあそれも暦の『物語』ってわけなの?」

 

あ、タオル巻いてる。そんなに恥ずかしがることないのになぁ。

 

「うん、ある意味僕の中では一番印象深い物語かな。」

 

「じゃあここでお話ししてよ!私今聞きたい!」

 

「この話は結構デリケートだからなぁ、忍に確認とってからじゃないと。それにお風呂で話すにはちょっと長すぎるかな。具体的には映画が三本に分割できるくらい。」

 

「エイガ?なによそれ。」

 

「僕がいた世界での娯楽の一つかな。」

 

「へぇ、興味深いわね。パチェに作ってもらおうかしら。」

 

「へ?作るって、何を?」

 

「何をって、エイガを。あの子はすごいのよ、ロケットってやつまで作ったことあるんだから。」

 

「ロケット!?そ、それって宇宙まで行けるロケット!?」

 

「ええ。使ったのは月に行った時っきりだけど」

 

「行ったことあるの!?月に!?」

 

「ええ、ちょっと月のうさぎにケンカ売りにね」

 

「月にうさぎって、そんな、おとぎ話じゃあるまいし」

 

「なにいってるのよ、吸血鬼や魔法使いがいるんだもの、月にうさぎだっているわ。」

 

「そ、そんなもんかな?」

 

昔忍にも同じような事を言われたな……

 

「あうー、熱いー……お兄ちゃん洗ってーー」

 

「まかせろ。」

 

「ちょ、ちょっとフラン!?」

 

「ん、あれ、フランの方がおっきいんだね。」

 

「っ!?そんなわけないじゃない!ちゃんと見なさいよ!」

 

「いやいや、三ツ星おっぱいソムリエの僕が大きさを見間違えるわけないよ。」

 

「なによその資格!?とにかくフランの方がお、大きいなんて、そんなことありえないんだから!」

 

「レミィ、僕の奥さんが好きだった漫画に出てくるキャラの名言にこんな言葉がある。『ありえないなんて事はありえない』。」

 

「うるさいわよ!もうっ、もうっ!」

 

「むふー。気持ちぃー、お兄ちゃん髪洗うの上手だねー」

 

「お褒めに預かり光栄です、フランお嬢様。いつも忍の髪を洗ってるからね、慣れたもんさ。」

 

「へぇー、あーー、気持ちいー」

 

「う、ね、ねぇ暦?」

 

「何?」

 

「そ、その……私の髪も洗えばさっきの失礼な発言、聞かなかったことにしてあげてもいいわよ?」

 

「わかった。シャンプーからお風呂上りのドライヤーまで全部任せたまえ。僕のフルコースでレミィを風呂好きにしてやる。」

 

「もう、お姉様ったら。自分もやってほしいなら素直にそう言えばいいのに。」

 

「姉として、吸血鬼として色々と譲れないものがあるんだよ、きっと。」

 

「ふーん、へんなの」

 

「……よし!フラン終わり!湯船に入って待っててよ」

 

「はーい!お姉様こうたーい!」

 

「ふ、ふふ、しょうがないわね、この私の髪に触れることができるのだから光栄に思いなさい。」

 

「強気でいられるのも今のうちだぞ、レミィ。僕のマッサージテクニックで骨抜きにしてやんよ。」

 

「やれるもんならやってみなさい。高貴なこの私を満足させられるかどうか、お手並み拝見かしら。」

 

 

033

 

 

「……ふぅ!レミィも終わり!どうだった?」

 

「んあぁー……やめちゃやぁだぁー……もっとぉ、もっとやってよぉ……もっとレミィのことゴシゴシしてぇ……」

 

「お兄ちゃん、お姉様聞こえてないと思うよ?」

 

「気持ちよかったみたいで何よりかな。」

 

ちょっとやり過ぎた感じもあるけど……

 

「暦、お兄ちゃぁん、もっと、もっとぉ……」

 

「どうしようフラン、なんか君のお姉様すっごいかわいいんだけど」

 

「どうしようお兄ちゃん、もうお姉様のことお姉様として見れないかもしれない」

 

鼻息が荒いぞフラン。



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幻物語 玖

お久しぶりです。K66提督あらためド阿呆です……
……何が『このペースで安定する』だよ!!
めちゃくちゃ期間あいてるじゃねぇか!!
見てくださってる皆さまに申し訳ないと思わねえのか!(セルフ罵倒)

はい、というわけで、以前の投稿ペースに比べてかなり遅いアップになってしまいました……
専門学校というのは予想以上に忙しいものなのですね……
なのでこれからは心優しい皆さまがこめかみに筋をつけながら笑顔で(#^ω^)
待ってくれていることを信じて、のんびり投稿していきたいと思います。

いつもいつも謝罪ばかりになってしまって申し訳ありません。

それでは幻物語 ⑨、もとい玖!

「ゆっくり読んでいってね!」



034

 

レミィとフランの髪を乾かした後、僕は客間へ、レミィはフランにひきずられて自室に向かった。

 

「ふあ~ぁ、なんだかここに来てからトラブル続きで凄い疲れたなぁ。」

 

「随分と遅いお帰りじゃな、お前様。」

 

「あれ、忍、起きてたのか。」

 

「お前様やダメリアの叫び声がうるさ過ぎて寝られんかったわい。」

 

「あちゃ、それは悪いことしたかな。」

 

「まぁ、いいわい。話したいこともあったしのぅ。」

 

「話したい事?」

 

「フランドールの時の怪異憑依のことじゃ。怪異が自分の魂に怪異を宿すなんてこと、本来ならかなりの危険行為なんじゃぞ?わかっておるのか?」

 

「わかってるよ、もうこの身で体感済みだ。」

 

「何……?」

 

「あ……」

 

「どういう意味じゃ、ほれ、言うてみい。」

 

「あ、えーっと、そのですね……かくかくが、しかじかで……」

 

「ふむ。……はぁ!?全盛期の儂を憑依させたぁ!!?アホかお前様!!!そのまま呑まれておっても何らおかしくないんじゃぞ!!」

 

「は、はぁ……申し訳ないです……反省しております……」

 

「全く……それで?」

 

「え?」

 

「自分が自殺しかけていたこともわからんお前様じゃ。大方誰かにいらん入れ知恵をされたんじゃろう?ん?」

 

そう凄惨にほほ笑む忍の額には青筋が、そして金の瞳は少しずつ鮮血の色に染まっていった。

 

「え、えと、それがだな……」

 

まずい、忍ちゃんめっちゃ怒ってる。激おこ(死語)だ。

 

「ん?誰じゃ。ダメリアか?それともあの紫の魔女か。ドーナツのメイドでもありえん話ではないな。よし殺す。ドーナツメイドだけ残して皆殺しじゃ。」

 

「ち、違う違う!扇ちゃん!扇ちゃんが教えてくれたんだ!」

 

「……あぁ?オウギィ?あのなんか『黒い』娘のことか?」

 

「そ、そうだよ!扇ちゃん!忍野メメの姪で僕の後輩の後輩の忍野扇ちゃん!」

 

「しかしあの娘は小僧が認知したことによって怪異性を失い、普通の人間生活を送り、普通に死んだはずじゃろうが。」

 

「僕もそうだと思ってたんだけど……どうもカクカクが」

 

「なるほどのぅ、シカジカというわけか。……奴は元々お前様が無意識に生み出した怪異じゃからの、まぁ再発してもそこまでおかしくはないか。」

 

よかった。どうやら納得してくれたようだ。

 

「しかしのぅ、お前様よ。あの娘のせいで死にかけたということは、やはり手の込んだ自殺ということになるんじゃぞ?」

 

「いや、でも助けてくれたのも扇ちゃんで……」

 

「自分が自分を守るのは当然じゃろ。」

 

「そ、そう言われるとそうなんだよな……」

 

結局扇ちゃんは何がしたかったのだろうか

しかし、その真相は明らかにはならないだろう。いや、既に明らかになっているといってもいいのだろう。

彼女はいつだって僕の質問にこう答えるのだ。

 

『私は何も知りません。貴方が知っているんですよ阿良々木先輩。』と、

 

人を小馬鹿にした、無邪気な笑顔で。

 

[newpage]

035

 

幻想郷生活二日目。

現在の時刻は午後六時である。

 

「ん……ふぁああ。日も落ちてきたし、そろそろ起きようかな。」

 

普通の人間では遅すぎる起床だが、吸血鬼としては結構早起きな時間だ。

 

「忍、そろそろ起きようぜ。もう日も落ちかけてるし、きっとレミリア達も起きて来てるよ。」

 

「あ~?なんで儂があやつ等に合わせなならんのじゃ。少なくともあと三時間は寝る。」

 

「長いよ。昨日合わせて何時寝る気だ。ほら、起きろって。」

 

「チッ、めんどくさいのう。それじゃあ、ほれ。」

 

忍が寝転がったまま、僕に両手を伸ばしてきた。

 

「なんだよ。」

 

「だっこ。連れてけ。」

 

このダメ幼女が……

 

「お姫様だっこしていい?」

 

[newpage]

036

 

「咲夜さん。おはようございます。」

 

「あら、暦さん。おはよございます。お早いお目覚めですね、眠れませんでした?」

 

「いえ、そんなことないですよ?ぐっすり眠らせてもらいました。」

 

「だからまだ起きるには早いと言ったんじゃ。ほれ、戻って寝なおしじゃ。」

 

「あら、ずいぶんとだらしない生活を送っているのね。忍野忍さん?」

 

「あ、レミィ。おはよう。」

 

「お、おはよう……あ、あなた……」

 

「「は?」」(僕、咲夜さん。)

 

「あ”?」(忍。……さん。)

 

こわっ、

 

「え、ちょ、レミィ?レミリアさん?いったい何を……?」

 

「だって、昨日お、お風呂で、あ、あんなことされたんだもの……責任をとってもらうしかないじゃない……」

 

「「お前様(暦さん)?どういうことかの(ですか)……?」」

 

あぁ、『ゴゴゴゴゴゴ』って擬音がはっきり見えるよ……

 

「い、いや、何もない!何もやってないから!というかそもそも咲夜さんが……!」

 

「「問答無用!」」

 

「聞いておいてそれはひどくない!?」

 

あ……戦場ヶ原……ごめんな、約束守れそうにないや……

 

(キュッ)『バチィン‼‼』

 

「おわっ、」

 

「妹様!?」

 

「もう、ダメだよ。ケンカしちゃ。昨日みんなで仲直りしたばっかりなのに。」

 

「……申し訳ありません。少々取り乱しました。」

 

「ちっ、……お前様、後で詳しく話を聞かせてもらうからな、覚悟しておけ?」

 

目がマジだ……

 

「お手柔らかにお願いします……」

 

[newpage]

037

 

「はぁ?風呂に入っただけぇ?」

 

「だ!だけって!は、裸を見られたのよ!?もう暦にお嫁にもらってもらうしかないじゃないの!」

 

「ふん、そんなこと言い出したら今頃我が主様は全世界の女の夫じゃわい。」

 

「えっ!?暦さん!?それって……!?」

 

「いやいやいやいや!冗談!冗談ですって!そりゃ確かに見た女の子の裸は両方の手で数えられる人数超えてるかもしれないですけど、いくらなんでも全世界はないですって!」

 

「語るに落ちとるぞ、お前様。」

 

「ち、違うんだ!僕はただ一人でお風呂に入ってただけなの、に……?」

 

自らの無罪を主張していると、ふと上着の裾が引かれた。

 

「じゃあ、暦は私をお嫁にもらってくれないの?」

 

「そんなわけないだろう。いったい誰がそんなことを言ったんだ。」

 

「ダメーッ!!」

 

「え、ちょっと!?フラン!?」

 

「だめ!お兄ちゃんはフランと結婚するの!」

 

「いいかげんにしろよ、紅鬼姉妹が。我が主様の伴侶になろうなど、おこがましいにもほどがあるわ。地獄の底に帰省させてやろうか?」

 

「上等じゃない。紅魔館の新しいモニュメントにしてやるわよ!」

 

「待った待った待った!なんでそんな物騒なことになるんだ!」

 

「暦さん、大丈夫です。あれはじゃれあってるだけですよ。」

 

「「スペルカード!」」

 

『妖刀・心渡り』!『神槍・スピア・ザ・グングニル』!

 

「ほんとですか!?じゃれあってるんですか!?あれで!?」

 

「お姉様―!頑張れー!」

 

「なんじゃ?貴様は参加せんのか?妹のほう。」

 

「え?でも私弱くなっちゃったんでしょ?」

 

「あくまで吸血鬼として、じゃ。」

 

「それに弾幕ごっこなんだから、人間でも参加できるぐらいなのよ?」

 

「あ!そっか!じゃあ私もやる!」

 

『禁忌・レーヴァテイン』!

 

「いっくよー!」

 

『ガキィィィィィィ‼‼』

 

「ちょ、フラン!?なんでこっちくるのよ!?」

 

「かかっ!まずは雑魚をつぶす作戦か!妹の方はなかなか頭が回るようじゃなっ、ぁぁあ!?」

 

『ギャィィィィィン‼‼』

 

「ふははは!私だ!」

 

「なっ、妹の方が、もう一人じゃと!?」

 

「まだまだ!第二、第三のフランもいるよ!」

 

『禁忌・フォーオブアカインド』!

 

「ほら、皆さん楽しそうじゃないですか。」

 

「う、うーん……た、確かに?」

 

楽しんでいると言われればそう見えなくもないのかな……?

 

「そうですよ、さぁ、お子様方は置いておいて、お食事にしましょう。パチュリー様もお待ちですよ?」

 

「あ、ほんとですか?」

 

そうだった、大図書館を見学させてもらうんだった。

 

「はい、暦さん達が起きたら図書館までご案内するよう言われておりますので、お食事が終ったらお連れいたしますね。」

 

「はい、お願いします。」

 

「ちょっと咲夜!あなた主である私をほったらかして何やってるのよ!はやく手伝いなさい!」

 

「おいお前様!このままじゃラチがあかん。飯でもなんでも好きにすればいい、だから『あっち』モードで戦わせろ!」

 

「アハハハハ!これでどーだー!」

 

『QED・495年の波紋』

 

「震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!おおおおっ刻むぞ血液のビート!」

 

「ちょっ、フラン!それ吸血鬼倒す方!」

 

「お姉様達相手なんだから間違ってないでしょ!」

 

確かに間違ってはいない。でも半吸血鬼化してなかったら結構危ないぞ、フラン。

 

「やあああっ!『月光色の波紋疾走(ムーンライトブルー、オーバードラーイブ)』!」

 

「「ぎゃぁぁぁ!?」」

 

「行きましょうか、咲夜さん。」

 

「そうですね。参りましょうか。お嬢様方も終わりましたらいらっしゃってくださいね~」

 

「は~い!」

 

「「……」」

 

元気よく返事できたのはフランだけだった。

 

[newpage]

038

 

「お待たせ致しました。どうぞ、お召し上がりください。」

 

「おぉ!?おおおおお!!」

 

「忍、行儀悪いから椅子の上に立つなって。」

 

「いや、だってお前様よ、これはまずいじゃろ!もとい、美味いじゃろ!なんていうかもう、ぱないの!」

 

よだれを垂らして騒ぐ忍の前には、これでもかと言わんばかりの

ドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツドーナツ!

 

「こ、これ全部儂が食べあがってもよろしいんですかの!?」

 

「もともと怪しい日本語がさらにひどいことになってるぞ、忍」

 

「もちろんですわ。忍様のためにお作りいたしましたので、どうぞ気のすむまでお召し上がりください。」

 

「マジでか!じゃああと2セットくらい揚げておけ!これではまだ足りんからの!」

 

「かしこまりました。」

 

ずうずうしい客だなコイツ……

 

「暦さんはこちらをどうぞ。」

 

「あ、すみません。ありがとうございます。……おおっ。」

 

僕の朝(?)食は白米と味噌汁。魚の干物という和食の基本のようなラインナップだった。

 

「凄いですね、咲夜さん。心なしか輝いて見えますよ。」

 

「そんな……、毎日私の味噌汁が飲みたいだなんて……!大胆すぎます、暦さん……!」

 

「そんなこと言ってないわよ。咲夜。それより私もドーナツがいいんだけど。」

 

「ん?レミィは和食嫌い?」

 

「そんなことないんだけど……ほら、この魚骨とるのが面倒じゃない。それにお箸だって得意じゃないし……」

 

「……?でも吸血するときって骨まで全部食べるんじゃないの?」

 

「あー。そうね。そういえばここに来るまではそんなこともしてたわ。」

 

「来るまで?今はどうしてるんだ?」

 

「ここは妖力や魔力。その他不思議な力が充満してるから、人から直接吸血する必要はないのよ。その辺の元気が有り余ってる妖怪とか人間離れした人間に血液だけ提供してもらってるわ。もちろん合意の上だし、謝礼も払ってるわ。」

 

「情けない吸血鬼じゃのう。」

 

「仕方ないじゃない!好き勝手に襲ったりしたら……したら……」

 

「一言で言えば『鬼巫女あるところ暴れる者なし』と言ったところですね。」

 

「あぁ……なるほど……」

 

「ねぇー忍ー、フランにもドーナツちょうだーい。」

 

「おい、これはもう儂のドーナツじゃ。触れるでないわ。あと気安く呼ぶな。」

 

「忍、あと2セットも食べるんだろ?別に2個3個ぐらいあげたっていいだろ。」

 

「チッ、主様に言われてはしょうがないの、まぁその分追加で揚げてもらうとするわい、好きにしろ。」

 

「あんなこと言ってますけど……いいですか?」

 

「ええ、問題ありませんわ。むしろメイドとしての腕がなります。暦さんも沢山おかわりしてくださいね。私もそっちの方が嬉しいですから。」

 

「はい、じゃあお言葉に甘えて。はりきっておかわりさせてもらいます。」

 

「うふふ、無理はなさらないでくださいね?」

 

昨日も体験したけど、咲夜さんの料理は本当においしかった。きっと高級料理店の職人さんでさえ、うめき声をあげるだろう。

 

ちなみに結局忍は4セット平らげた。



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幻物語 拾

おはこんばんにちわ。
K66提督でございます。
相変わらず不定期な更新ですみません。
某艦隊をこれくしょんするゲームのイベントの攻略が終ったので、
一気に書き上げてきちゃいました!
いやー、艦がロケットランチャーとか頭おかしいんじゃないですかね?
そもそも陸上艦が水上艦をかばうとかこっちの鎮守府の場所がばれてて空襲されるとか…

失礼、話が逸れました。

えー、なに話してましたっけ。
……と、とにもかくにも紅魔館編ラストの『幻物語 拾』!
お楽しみください!

あ、アカンて、旗艦狙って……



幻物語 拾

 

 

039

 

「こちらになります。」

 

「あ、地下にあるんですね。」

 

「はい、日光は本を痛めますので。それと召喚の儀式を行う時にはなるべく自然現象は少ない方がいいそうです。」

 

「へぇー、やっぱり貴重な本とかあるんですかね。……ん?召喚……?」

 

「到着です。では私はお嬢様方に食後のお茶をお出ししてきますので、失礼いたしますね。」

 

「はい。あ、忍のワガママとかあんまり聞かなくていいですよ、あんまり調子のると面倒ですから。」

 

「そんな、むしろメイド相手にぐらいワガママを言って下さらないと。私も張り合いがありませんわ。」

 

「そんなものですか?」

 

「そんなものですよ?……ふふっ。」

 

か、かわいい……

メイドで、可愛くて、ご飯も美味しくて、おいおい。最強じゃないか。

こんな女性に好意を持たれる男はさぞかし幸せだろうなぁ。

 

「あなた達、いつまでドアの前でお喋りしてるつもりよ。入るならさっさと入りなさいな。」

 

「パチェ。おはよう。」

 

「パチュリー様。失礼いたしました。それでは暦さん、また。」

 

「あ、はい。ありがとうございました。」

 

咲夜さんは頭を下げると姿を消した。きっと能力を使ったのだろう。

 

「便利な能力だなぁ。」

 

「あら、私はそうは思わないわね。」

 

「え?なんで?」

 

「まぁ、命に限りのある者には過ぎた能力ってことよ。」

 

「あっ、そうか……」

 

たとえ時と止められたとしても使用者である咲夜さんの時間は止まらない。

それが意味するのは……

 

「本人も承知のうえで使っているのだから、あまり口出しするのはよしなさいよ。」

 

「いや、でも……」

 

「いいわね?」

 

「はい……」

 

「よろしい。じゃあ改めて、私の城、大図書館へようこそ。阿良々木暦さん。」

 

「あ、はい。えっと、お招きいただきありがとうございます。」

 

「こあー?ちょっと来てくれるー?」

 

「『こあ』?紅魔館にはまだ住人がいるんですか?」

 

「住人というか、使い魔ね。昨日はシフトが入ってない日だったからいなかったけど。」

 

使い魔ってバイトなのか……

 

「パチュリー様ー?お呼びですかー?」

 

と、沢山の本を抱えた赤髪ロングの背中と頭に小さな羽を生やした女の子がふらふらと飛んで来た。

 

「こあ、アンタはいなかったから知らないと思うけれど、彼は昨日から紅魔館に宿泊しているお客さんよ。名前は、」

 

「阿良々木暦です。よろしくお願いします。」

 

「こ、小悪魔と申します……よろしくお願いいたします……え、まさかとは思いますが、パチュリー様のご友人ですか?」

 

「まさかとは失礼ね。そうだけど、何か問題でもあるのかしら?」

 

「……!そんな、あの引きこもりのパチュリー様に魔法使い以外のご友人ができるだなんて……!」

 

『バサバサッ』っと抱えていた本を落とし、驚愕する小悪魔さん。

確かにあまり外には出なさそうだけどそこまで驚くのか……

 

「『友達なんていらない。精神的な負担が増えるだけだもの』とか言ってたパチュリー様が……!私嬉しいです!」

 

「「そ、そんな事言ってない!!」」

 

「「……え?」」

 

「……なんで貴方まで叫んでいるのよ。」

 

う、うっかり自分の黒歴史だと思って反応してしまった……

 

「い、いや、なんでもない。大丈夫だ、問題ない。」

 

「ははぁ、『類は友を呼ぶ』ってヤツですね!」

 

「「うるさい!!」」

 

静かな図書館に吸血鬼と魔女の叫び声が響く。

 

「なんだ?パチュリーのやつ今日はやけに元気がいいな。ま、私は本を借りに来ただけだから関係ねぇけど、っと!」

 

040

 

回想。

 

『それじゃ、私はここにいるから、好きなように見学していって頂戴。

『え?案内?嫌よ、疲れるもの。

『……何よ、その顔。文句でもあるのかしら。

『どうしても案内が必要ならさっきどっかに飛んで行ったこあにでも頼みなさいな。

『そうそう、無いと思うけど、遭難とかされても困るしこれを渡しておくわ。

『その結晶には転移魔法の術式が刻まれているから、ここへ戻ってくるときはそれに妖力を込めなさい。

『貴方の出力なら十分動くはずよ。

『じゃあいってらっしゃーい。』

 

回想オワリ。

 

「って言われてもなぁ……どうしようか……あ、」

 

「へっへー、ちょっとセキュリティが甘すぎるぜ?パチュリー様ぁーっと、よっしゃ、大漁だぜ」

 

前方に白黒金髪魔女っこを発見。

何やら悪行を働いている模様。

ここは年上(恐らく)として間違いを正してやらねばなるまい。

 

『阿良々木精神回路より運動神経へ通達。正義執行用意。』

『こちら運動神経。正義執行了解。発射シークエンスを開始します。』

『両足神経回路、オールグリーン。』

『両腕神経回路、こちらも問題ありません。』

『前方遮蔽物なし。目標、まだこちらに気づいていません。』

『了解。発射シークエンス完了。発射カウントを開始します。』

『テンカウント。10、』

『9』

『8』

 

「ヒャア がまんできねぇ 0だ!」

 

恒例の茶番を早々に終えて、僕は魔理沙の脇腹に向かってダイブをキメた。

 

「まァァァァァりさァァァァァァァ!!!」

 

「ギヤァァァァァァァアア!?」

 

「全く、ダメじゃないか!盗みを働くのは立派な犯罪行為だぞ!ここは警察官の血をひく僕が責任をもってお前にお仕置きするからな!こら、暴れるな!パンツが脱がせにくi……!?馬鹿な!?ドロワーズだと!?わかってるな、魔理沙!見直したぜ!」

 

「いやぁぁぁぁ!!きゃぁぁぁぁ!!ぎやぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ああもう、その初々しい反応!かわいいなぁ、それにこのぼさぼさに見えて実はフワフワな手触りのこの金髪!忍の髪じゃサラサラでこうはいかないからな!」

 

「やめろぉぉぉ‼私に触れるな変態ぃぃ!!」

 

「ヤダね!ええい、もっと触らせろもっと嗅がせろもっと租借させろぉぉ!!」

 

「うわぁ、やめろ!髪を食うな、やめろって!」

 

「ううむ、まったりとして、でもコクがあり……ん?すこし香ばしい?なぁ魔理沙、昨日ちゃんとお風呂入った?」

 

「んなっっ!?し、死ねぇぇ!!」

 

『召喚・青眼の白龍』

 

「灰塵と化せ、変態!!やれ!ブ●ー・アイズ!!!」

 

「アウト!魔理沙それアウトォ!!」

 

『粉砕☆滅びのバーストストリーム』!!

 

まだだ、僕にはパチュリーからもらった奥の手がある!

 

「て、転移!!」

 

パチュリーにもらった結晶にエネルギー的なナニカを流し込む。

すると辺りが光に包まれ……

 

「あら、もう帰ってきたのね、気になる本は見つかったかしr――!?」

 

「ただいまパチュリー、せっかくで悪いんだけどコレ何とかしてくれ!」

 

「ふはははは!燃やせ!すべてを灰にしてしまえ、ブルー・●イズ!!」

 

「えぇ!?魔理沙!?貴女何やって……というか暦!なぜここに転送してきたのよ!?」

 

「便利な結界とかで何とかしてくださいお願いします!!」

 

「……それもそうね、じゃあそうするわ。『特殊戦闘フィールド』展開。

 

「それじゃ、後は頑張って頂戴。」

 

「え?」

 

041

 

パチュリーに嵌められて、結界に閉じ込められた僕らは愉快な追いかけっこを繰り広げていた。

 

「魔理沙!落ち着け!僕だ!阿良々木暦だ!」

 

「お前だから攻撃してるんだろうが!ちょろちょろ逃げてないで諦めて死ねぇ!!」

 

『粉砕☆滅びのバーストストリーム』!『恋符・マスタースパーク』!

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

魔理沙の召喚した『ドラゴン』は大きく、力も強いが、その分動きが単調なため、逃げ回る分にはたやすい。

 

「でもこのままじゃダメだよな!」

 

『怪異譚・障り猫』

 

僕の髪が白く染まり、『ネコミミ』が生える。

……これだけはどうにかならないかなぁ

 

「よろしく、猫『野郎、俺様をあんまり便利屋扱いするにゃよ?俺だってお前を喰っちまおうと思えばいつだってやれるんだぜ?』」

 

同じ体を共有しているからだろうか、しかしコイツにはそんな気が更々無いことがはっきりとわかった。

 

「『まったく、ご主人様には頭が上がらにゃいなにゃあ、お前。』」

 

あぁ、つくづくその通りだ。

 

「『エナジードレイン』。」

 

『グオアアアアァアァ!!』

 

「なっ!?おい、なにしてる!」

 

『アアアアアァアァァ……』

 

「ブ、ブル●アイズゥゥ!!」

 

白い龍と黒い魔法使いの叫び声がこだました。

 

042

 

一旦落ち着いて(ドラゴンを気に入っていたのか、魔理沙はしばらく泣いていた)、結界を出た僕たちを待っていたのは、拘束。

 

「それで?今日はどんな本を盗もうとしていたのかしら?」

 

「盗んだりしないって!借りてくだけだよ!死ぬまで!」

 

「た、助けてくれ、お前様!」

 

拘束といっても僕は忍の抱き着かれているだけだ。

 

魔理沙はパチュリーの魔法でがんじがらめにされているが。

 

「し、忍、どうしたんだよ。」

 

「この姉妹が!!」

 

「私たちは忍に暦と出会った時の話をしてほしいって頼んだだけじゃない。」

 

「『だけ』!?頼んだ『だけ』と言ったか!?この幻想郷では2時間超に亘って追いかけ回すことを『だけ』で済ますのか!?」

 

恐らく追いかけ回しただけでなく、弾幕で撃ち落とそうともしていたのだろう、忍のワンピースの所々が焦げてしまっている。

 

「だいたい分かった。よく頑張ったな忍。」

 

「うあぁ……優しくするなぁ……」

 

相当弱ってるなぁ―。

 

「な、何よ。なんだか私たちが悪いみたいじゃない。」

 

「『みたい』じゃなくて悪いのは貴女たちでしょう、レミィ?」

 

「え?」

 

「嫌だといっているのに無理矢理、しかも弾幕まで、持ち出して。一体いつから私の親友はそんなつまらない事をするようになってしまったのかしら。」

 

「う……」

 

「全く、ちゃんと謝りなさいよ。」

 

「そ、そんな、……わかったわよ。悪かったわ、忍。ごめんなさい。」

 

「ふん……」

 

「あ、あう、ごめんなさ、……グスッ、ごめんなっ、」

 

「あー、レミィ?大丈夫だから、コイツはそんなに根に持つような奴じゃ……奴じゃ……?」

 

あれ、けっこうねちっこい奴だった気が

 

「そ、それより!ありがとうパチュリー、パチュリーがくれた転移結晶がなかったら今頃消し炭になってる所だったよ。」

 

「そんな事を予防するために渡したわけじゃないんだけどね。まぁ、こちらからもお礼を言わせてもらうわ。お気に入りの本が盗まれずに済んだし。そうだ、あなたココで働きなさいよ、有効な魔理沙対策になりそうだわ」

 

「じょ、冗談じゃねえぜ!それに盗むとか人聞きの悪いことを言うなよ!図書館に人が本を借りにくるのは当たり前だろ!?」

 

「そうかもね。もしそれが私に許可をとった人で、尚且つキチンと返してくれる人なら、喜んで貸し出してあげるわ。」

 

「う、だ、だからいつも言ってるだろ!?ちゃんと返すって!死ぬまで借りるだけだってば!」

 

「それは『借りる』ではないだろ……」

 

ジャイアンかよ。

いや、どれだけ遅いかは別として、気が向いた時に返すジャイアンの方がまだましなのだろう。

遺品整理で貸していた本が返ってくるなんてたまったもんじゃない。

 

「ところでお気に入りの本ってどんな本なんだ?世界触手全集とか?」

 

「なんでよ。別に外の世界の普通の本なんだけどね、外界の妖怪変化の事がとても分かりやすく書いてある物語なの。……そういえばこの本も『怪異』という総称を使ってたわね。あなた達の世界ではみんなそうなのかしら?」

 

「いや、僕らの世界ではまず怪異の存在を認識してる人が極少数なんだけど……なんて名前の本?」

 

「『異形の羽』という人が書いた、『翼ノ旅』という本よ。最近になって幻想入りしたみたいなんだけど、とても興味深いわ。」

 

へぇ、『異形の羽』さんの『翼ノ旅』ねぇ……、ん?翼?

 

「興味深いというかパチュリー様その方の大ファンですよね?」

 

「そ、そんな事ないわよ!ただ目の付け所が他とは違うなと思ったから、あくまで資料として!」

 

翼……旅……

 

「資料を読書用、ディスプレイ用、保存用に分けて3冊、それもシリーズ全巻揃える必要が?」

 

「う、あ、こああなたちょっと黙ってなさい!」

 

「なんだと!?3冊もあるなら1冊ぐらいくれよ!」

 

うーん、なんだか心あたりが……

 

「てかそれ羽川の本じゃん。」

 

「ダメよ!なんなら外出時用にもう1冊欲しいくらい……なんですって?」

 

「『羽川 翼』。その本の作者で、僕の同級生だよ。」

 

「ドウ、キューセェ?暦、何よそれ。」

 

いつの間にかレミィが復活していた。吸血鬼は精神面での回復も早いのだろうか。

 

「あぁー、えーっと同級生ってのは、えーっと」

 

「寺子屋で同じ時間で共に勉強した者同士の事ですわ、お嬢様。それとお紅茶が入りました。忍様も、ドーナツをご用意しておりますわ。」

 

「ドーナツ!?メイドーナツか!」

 

「失礼ながら忍様、『瀟洒な』メイドーナツですわ。」

 

「ねぇねぇ咲夜!私のぶんは!?」

 

「妹様とお嬢様にはプリンをご用意致しました。」

 

「「プリン!?」」

 

凄い……ロリ吸血鬼3人の機嫌をいっぺんに……!?

ところで『カリスマ』とやらはどこにいったんだレミィ。

 

「えっと……つまり『異形の羽』の本名は『羽川 翼』といって、あなたの学友だったということ?」

 

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

「……ふっ、」

 

「鼻で笑われた!心外だ!」

 

「つまらないジョークはやめてもらいたいわね。あなたはユーモアのある面白い人だと思っていたけど、案外つまらないことも言うのね。」

 

「ジョークじゃないって!ほら、登場人物の中に『アンテナ君』っているだろ!?それが僕だって!」

 

「『アンテナ君』って出てくるたびに死にかけてて、そんなに強くもないくせに自分からトラブルに飛び込んで行くあの『アンテナ君』?」

 

「う、うん……」

 

羽川様、僕のことどんなふうに書いたんですか……

 

「た、確かに、昨日暦が話してくれた『物語』と『翼ノ旅』シリーズは似通ったところがたくさんあるけれどまさかそんな、いや、でも……えぇっ??」

 

そんなに信憑性ないかなぁ?

 

「……ホント?」

 

「ホント。」

 

「マジ?」

 

「マジ。大マジ。」

 

「…………」

 

沈黙。

 

「えー、コホン。おめでとう、阿良々木暦さん。たった今、あなたはこの大図書館の職員に内定したわ。任期は寿命が尽きるまでよ。」

 

「「はぁ!?」」

 

驚愕の声を上げたのは僕と魔理沙だ。

 

「あら、いいじゃない。つまり暦と忍は『私の』紅魔館のメンバーの一員としてずっと暮らしていくのね?私は大歓迎よ?」

 

「ホントに!?お兄ちゃん私たちと家族になるの!?やったぁ!!」

 

「ふざけるな、それじゃと儂が貴様の手下みたいになるじゃろうが。おいお前様よ、儂は絶対に許さんぞ」

 

「そうだそうだ!コイツがずっとココにいたらもう私が本を盗りにこれないじゃないか!」

 

とうとう自分で『盗る』と言ったな

 

「ええ、もちろんそれも目的の一つよ」

 

「なっ、おい暦!やめろよ!断れって!」

 

「そうじゃお前様!儂をダメリアの下っ端にするつもりか!」

 

「だからそのダメリアっていうのやめなさいよ!」

 

「ダメリアお姉様……(プッ」

 

「フラン!?」

 

「う~ん、宿なしの身としてずっとここにいられるのは願ってもない申し出なんだよなぁ……」

 

「なら……」

 

「残念だけどその話、今日は無かったことにしてもらうわ。」

 

「……咲夜?これはどういう事かしら?」

 

レミィの雰囲気が怪異の王たるそれに変わる。

 

「申し訳ございません、美鈴が突破されたようですね。」

 

「へぇ、突破……つまり今日は客人ではなく侵入者ということね、霊夢?」

 

「……すぐ帰るからその殺気をどうにかしなさい。」

 

「……そうね、まず何しにきたのかを聞こうかしら」

 

「私を助けに来てくれたのか!?さすが親友だぜ!」

 

「あら魔理沙、いたのね。」

 

「ええ!?」

 

「質問に答えなさい、霊夢。返答によっては強制的に排除させてもらう。」

 

「……阿良々木暦、忍野忍。両二名博麗神社にきなさい。これは命令よ。」

 

「残念だけど、今暦たちは紅魔館の客人として扱っているわ。理由もなく連れて行こうというのならそれ相応の対処をさせてもらうわよ。」

 

「あぁ、もう!面倒ね!異変よ異変!あんた達みたいな高位の妖怪が毎晩毎晩騒いでるせいでここ周辺の妖精達が怯えて姿を隠してんの!まぁ、いつもうっとうしい妖精がいなくなるだけなら静かになるから丁度いいんだけど、そのせいで自然現象にも大きな影響がでてるの。あんた達は家の中で引きこもってるだけだから知らないでしょうけど外はかなりひどいことになっているのよ。湖は干上がっちゃってるし風も草木もない。紅魔館を中心に辺りは荒野になってしまってるわ。」

 

「そ、そんなことに……」

 

「とにかく!事が落ち着いて妖精達が顔を出すようになるまでは二人とも神社にいてもらうから。」

 

神社なら結界もあるし、妖力もある程度抑えられるわ。と霊夢。

 

「それで?ご理解頂けたかしら?」

 

「あぁ、まさか僕たちのせいでそんなことになってたなんて……神社に行くことで解決するなら、協力させてもらう。いいかな、レミィ。」

 

「あなたがそれでいいのなら、私は引き止めたりしないわよ?まぁ強いて言えばあなた達二人の出会いの物語を聞きたかったかしらね?」

 

「じゃあ、落ち着いたらまた話にくるよ。忍もそれでいいか?」

 

「何がじゃ」

 

「何がって……まさか今の話何も聞いてなかったとかないよな……?」

 

「ドーナツ食べてたから」

 

「聞いてなかったんだな!?」

 

「冗談じゃて、儂はお前様の行く道を影に沿ってついていくだけじゃ。」

 

「そうか。それじゃあしばらくお世話になるよ、霊夢。」

 

「おいレミリア、世話になった。言いたくはないが礼を言う。」

 

忍がお礼を……やはり同胞として、尽くす礼はあるということなのだろうか。

 

「本当に素直じゃないわね、昔から。」

 

「ふん。」

 

「レミィ。咲夜さん。お世話になりました。短い間だったけど凄く楽しかったです。」

 

「ええ、次に会えるのを楽しみにしているわ。」

 

「お待ちしております。」

 

「ふあぁ、もう眠いし、出発するわよ。」

 

「あ、はい。」

 

「私も行く!!」

 

「「「……え?」」」

 

「ちょっとフラン!?何を言って……」

 

「だってお姉様もお兄ちゃんもお外に出ても大丈夫って言ったもん!だから私も行く!」

 

「え?……フラン?……なのか?殺気も狂気も全く感じなかったから一瞬誰かと思ったぜ。」

 

「……確かに、殺気どころか妖力すらほとんど感じられない……あんた達、一体何したのよ。」

 

「僕達は何もやってないさ。フランが自分で望んだ結果だよ」

 

みんなと仲良く笑いたい、遊びたい。僕達はそれをちょっと手助けしただけだ。

 

「ねぇ、いいでしょ?いいよねお姉様?」

 

「え、えぇ~そんなこと言われても……」

 

レミィが霊夢に『HELP』の視線をチラチラと送る。

 

「……はぁ、別にいいわよ。これ以上鬼が一人や二人増えたってそんなに変わらないわ。断って勝手に外で歩かれてもたまったもんじゃないし。」

 

「本当!?じゃあ私m」

 

「ダメです。」

 

「な、なんでよ咲夜!」

 

「お嬢さまは紅魔館の当主ですから、長期の留守はご法度ですわ。」

 

「そ、そんなぁぁぁ!!!」

 

「あ、あはは……」

 

こうして、僕と忍のパーティーにフランが加わった。

 

「なんだかパチュリー様途中から空気ですね。」

 

「そんなこと気にしたら負けよ。それとあなたも人の事言えないわよ。こあ。」




いかがでしたでしょうか。
今回初めて後書きというものを書かせてもらいました。

まず、
パチュリー、小悪魔ファンの方がいらっしゃったらすみません。

次に、えーっと……

『おひねり(コメント)』下さい!(直球)

毎回一つの投稿につき一つぐらいのペースでいただいているんですが、
控えめにいってもっと!もっと欲しい!
今ここを見てくださっているそこの貴方!
さぁ、恥ずかしがらずに、『コメントする』をクリックしましょう。
たとえいくつコメントが来ようと一つ一つ返信させて頂きます。

新米が失踪なんてことしないよう、なにとぞ!
よろしくお願いいたします。

では。  (罪)ノシ


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幻物語 拾ㇳ壱

どうも、どうもどうも!K66提督です!!

「コメント沢山だよ!やったねK6ちゃん!」

やっぱりコメントが多いとテンションが上がりますね!
これからもどしどしコメント頂けると嬉しいです!(露骨なアピール

あ、それと第壱話のアクセス数が1,000を突破致しました!
こんな阿呆の投稿を読んで下さり、感謝の心でいっぱいです!
どうかこれからも生温かい目で見守ってください!

それでは『幻物語 拾ㇳ壱』!
お楽しみください!


043

 

「それじゃあお姉様、いってきまーす!!」

 

「ホ、ホントに大丈夫?一人で勝手にうろうろしたらダメよ?暦と霊夢の言う事をちゃんと聞くのよ?それと知らない男、特に『(罪)』こんな感じの袋被った奴には絶対に近づかないこと。それと……」

 

「大丈夫だよ、レミィ。フランは僕が責任をもって守るから。」

 

「こ、暦が言うなら……」

 

「それじゃ、行くわよ。ふあぁ……」

 

かなり眠そうな霊夢は能力を使い、宙に浮かぶ。

 

「……ん?あぁ、そうか、あんた飛べなかったわね。ったく、めんどくさいわねぇ。」

 

「飛べることがさも当然のように言うな。鳥でもないのに空を飛べる方が少数派だ。」

 

「あら、じゃあここには少数派ばかりなのね。」

 

「え?」

 

霊夢が僕の後ろを指さして、嘲笑してくるので、「どういうことだ」と振り返ると

 

「?どうしたのお兄ちゃん。早く行こう?」

 

フラン、魔理沙、そして忍までもが宙に浮かんでいた。

 

「う、裏切ったな、忍!!」

 

「え~、お前様今どき空も飛べないの~?だっさ~い!空が飛べなくても許されるのは小学生までだよね~!キャハハハハハ!!」

 

「キャラをぶち壊してまで僕を馬鹿にしたいのかお前は!」

 

「変態なうえに飛べない……やっぱり終わってるな、お前……」

 

「やめて!そんな軽蔑と同情がごちゃ混ぜになった目で僕を見ないで!!」

 

「どうしようかしらねぇ……魔理沙、あんたの箒に」

 

「嫌だ。」

 

「でしょうねぇ……」

 

で、でしょうねぇって……

 

「あ、そうだ。バラバラに分けてみんなで持って行くっていうのは?」

 

「嫌だよ!!!どこからそんな発想が出てくるんだよ!!」

 

「血で服が汚れるから却下。」

 

「そこじゃねーよ!!」

 

「うるさいわね。」

 

「う……!?」

 

うるさい……うるさいって言われた……自分がバラバラにされそうになってるのに……

 

「というかこういう時こそ吸血鬼としての力の使いどころだと思うんじゃがお前様?」

 

儂みたいに。

 

「吸血鬼の……?――――あっ、」

 

幕間。

 

『怪異・一反木綿』

 

咲夜さんに借りたシーツに怪異を憑依させる。

……決して水木先生テイストの口うるさい感じの一反木綿ではない。

 

「うわぁー!!魔法の絨毯だぁーー!!」

 

フランが浮き上がったシーツを見て目を輝かせる

 

「全く……あんまり妖気は出さないようにして欲しいんだけど。早いうちに妖気を抑える訓練でもしないといけないわねぇ」

 

「訓練?それでどうにかできるものなのか?」

 

「どうにかしてもらわないと困るわ。能力を使うたびに異変を起こされるなんてたまったもんじゃないし。」

 

「あ、はい、ごめんなさい。善処します。」

 

「それじゃあ、行きましょうか。」

 

「しゅっぱーつ!!」

 

……いつの間にかフランが一反木綿に乗っかっていた。

 

「楽しい?」

 

「うん!」

 

それはよかった。

 

044

 

「なんか快適そうね、それ。」

 

「ん?そう?」

 

咲夜さんが持ってきてくれたシーツはそれなりの大きさがあって、まさに『空飛ぶ絨毯』といった感じだ。

 

「悪くはないの。我が主様にしてはなかなか良いものじゃ。」

 

空飛ぶ絨毯、もといシーツには僕とフラン、そして何故か忍も腰を下ろしていた。

 

「おい、あれだけ僕を馬鹿にしておいてなんでお前まで乗ってる。」

 

「え?儂が?お前様を?馬鹿にした??儂がそんな事するわけないじゃろうが?」

 

このぉ……

 

「お、おい、その、なんだ……私も、乗っけて……」

 

「ん?魔理沙?なんか言った?」

 

「ぐ、なんでもねぇよ!!気安く呼ぶな変態!!」

 

わっかりやすいなぁ……

 

「まぁまぁ、そんなに怒ってないでとりあえず座れよ。霊夢も。」

 

「ふぇ?い、いいのか?」

 

「まだ全然スペース空いてるし、全員乗れるよ。」

 

「そう、じゃあ遠慮なく。このまま真っすぐ15分ほど飛んでくれれば到着するから。」

 

「あいよー」

 

「ねぇねぇお兄ちゃん!もっと早く!スピード出して!」

 

「えっ?スピード?で、出るのかなぁ……」

 

「よーし、それなら私に任せろ!!」

 

「え?」

 

『恋符・マスタースパーク』

 

「とばすぜ!!」

 

「魔理沙、あんた何して、ぁ、きゃァァァァ!!?」

 

やばいやばいやばい!140kmは出てるって!!

 

「あははは!霊夢、『きゃぁー』だってー!!」

 

「と、とめてぇーーー!!!」

 

「おい、お前様!神社ってあれじゃないのか!?」

 

「え?」

 

ホントだ、鳥居が……!

 

「ちょ、魔理沙、ストップストップ!!」

 

「あ?」

 

「こ、こっち向けるなあああああああ!!!?」

 

魔理沙がそのまま振り返ったせいで全員にマスタースパークが直撃する。

完全に不意打ちだ。

 

一反木綿も消えてしまい、

 

「落ちるぅぅぅぅぅ!?」

 

045

 

「だ、大丈夫かお前らー!」

 

「大丈夫じゃねぇよ!現在進行形で落ちてる上に僕以外はもれなく皆気絶してるから!」

 

「そ、それは素直にゴメン……」

 

どうしようどうしようどうしよう!

 

「おい起きろ!……くそっ、魔理沙!箒で皆を受け止められるか!?」

 

「箒は基本2人乗りだ!できてもせいぜい1人が限界!」

 

1人っ……!

 

「じゃあ霊夢は頼むっ!……忍とフランはなんとかする!」

 

「わ、わかった!」

 

「さて……!」

 

なんとかとは言ったものの……どうする……!?

 

「どうにかっ……どうにもならない事をどうにかする方法……!」

 

やりたくないけどあれしかっ……!

 

『怪異譚・レイニーデ……

 

――――そいつは良い回答とは言えないねぇ。

 

どこからか声が響いたと思ったら、突然、巨大な『何か』に受け止められた。

 

「おぉ!サンキュー、萃香!!助かったぜ!!」

 

「全く、突然降ってきたから何事かと思ったよ。……それで?あんたからただ事じゃない妖気を感じたけど、あんたが噂の変態吸血鬼かい?」

 

巨大な、女の子……?

 

「へ、変態かどうかはともかく、多分その吸血鬼であってます。僕は阿良々木暦。元人間の愚かな吸血鬼です。」

 

「お、いいねぇ。ちゃんと自己紹介ができる奴に悪い奴はそういないってね。あたしは伊吹萃香。見ての通り、泣く子も黙る『鬼』さ。」

 

046

 

鬼――。日本の妖怪で、民話や郷土信仰に登場する悪い物、恐ろしい物、強い物を象徴する存在。伝承によっては、神聖な存在であるとも伝えられている。

僕ら吸血鬼にとっては、鬼という種族は親戚のようなものであり、なんだか親近感を感じる存在である。

 

「いやぁ、すまんすまん、マスパ撃ってたのすっかり忘れてたぜー」

 

「あんた……次にあんな事したら夢想封印ゼロ距離で喰らわせるからね。」

 

「う、わ、悪かったって……」

 

「そのくらいにしておいてやんなよー霊夢―」

 

「酔っ払いは黙ってなさい」

 

「きーびしぃーなぁー」

 

現在、博麗神社境内。茶の間で魔理沙は正座させられ、霊夢に説教されている。

萃香(呼び捨てにしろと言われた)は縁側で寝転がって自身の顔ぐらいの大きさのある瓢箪を煽っている。……見た目は完全に幼女だが、実年齢は忍の十倍以上らしい。

つくづく怪異は見た目によらないなぁ……

 

「そ、そうだ暦、フラン達はどうしたんだ?」

 

助けを求める視線が僕に向けられる。

しょうがないなぁ……

 

「フランと忍なら僕の影の中にいるよ。なんかフランの部屋を用意するんだってさ」

 

僕の影はマンションか何かかよ……

メゾン・ド・コヨミ入居者募集!!

 

「してねぇよ……」

 

「何のことだ?」

 

「いや、なんでもない……」

 

「いやぁー、相変わらず吸血鬼の連中は色々と便利な能力を持ってるねぇ、羨ましいよ」

 

「便利……なのか?これ?僕の影がいいように使われてるだけじゃないの?」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「おわぁ!!?フラン!?」

 

話をすればなんとやらである。僕の影からフランが飛び出してきた。

 

「お兄ちゃんの影の中ってすごいね!!紅魔館よりずっと広いの!」

 

「僕の影の中ってそんな風になってるの!?まじで!?」

 

「まぁ、儂のセンスがあれば我が主様の影の中に城を建てる事なぞ造作もないわい。」

 

「城ぉ!!?お前僕の影の中に何建ててくれちゃってんの!?」

 

「あー、あー、うるさいのう。別にどうでもいいじゃろうが。お前様の負担になるわけじゃあるまいし。」

 

「そうだけど!!」

 

なんか納得いかねぇ……

 

「はぁ、もういいわ。とにかく!後先考えずにスペルカードを使わないこと!いいわね!!」

 

「お、おう!肝に銘じておくぜ!!」

 

「じゃあ、私はもう寝るから。あんた達もさっさと寝なさい」

 

「んじゃあ私は帰るぜ」

 

「あたしはもう少し飲んでから寝るよー」

 

「儂は主様の影で」

 

「あたしもー……ふぁああ……」

 

「そうか、それじゃあ皆、おやすみ。」

 

「「「おやすみー」」」

 

今日も波瀾万丈だったなぁ…明日はもっと波瀾万丈になるのかな?

ね、ノブ太郎。

 

「『へけっ』……とでも言うと思ったか。この阿呆が。」

 




continue……


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幻物語 拾ㇳ弐

皆さんおはこんばんにちわ!

K66提督です!
季節の変わり目だからか、風邪をひいてしまいました……
皆さんもお気を付け下さい!

それでは『幻物語 拾ㇳ弐』をお楽しみください!



……はっくしょえぇ!!!


047

 

「う~ん……バッキンガム宮殿は噛んでも膨らまないよ……むにゃむにゃ」

 

『タァン!!』

 

「いつまで寝てるつもり!?うちの起床時間は朝6時よ!」

 

突然障子が開かれ、霊夢が怒号をあげる。

 

「う~ん、母さんあと5時間……って熱っちいいいい!!?」

 

「誰が母さんだ!!」

 

「霊夢閉めて!障子閉めて!日光が!日光があああ!!」

 

 

「大げさねぇ、聞いたわよ、あんた達クラスの吸血鬼は日光浴びてもある程度は大丈夫なんでしょ。」

 

「今!今まさにその『ある程度』が過ぎようとしているううう!!!」

 

そこまで言うと霊夢も流石にわかってくれたのか、障子を閉めてくれた。

 

「まぶしかったから閉めたのよ。」

 

「優しさのかけらもねぇ!!」

 

「あっはっは!!面白いねぇ!あんた!期待通りだよ!」

 

「あの、霊夢さん、今知らない人の声が……?」

 

廊下の方から吸血鬼の聴力でも小さめな声が聞こえてきた。

 

「あぁ、あんた昨日はもう寝てたから知らないわね、新しい『居候』の阿良々木暦よ。」

 

そんな『居候』の部分を強調しなくても……

 

「なるほど!あなたが噂の阿良々木暦様ですか!私、少名針妙丸と申します!どうぞよろしくお願い致します!」

 

お、おお、元気いっぱいだな……

 

「こ、こちらこそ。驚いたな……えっと、少名……」

 

「少名針妙丸です!針妙丸とお呼びください!」

 

「あ、そう?じゃあえっと……針妙丸って実は親指姫様……とか?」

 

すると針妙丸は顔を『むっ』としかめて、

 

「失敬な!私は『一寸法師』です!!誇り高き侍なのですよ!!」

 

「ふむ、なるほど。ごめんな、小さくて可愛らしいからてっきりお姫様かと思ったよ」

 

「か、かわっ!!?あ、あわわわわ、そ、そんな、私は侍ですよ!お、お姫様なんていうか弱い者と間違えないで欲しいです!」

 

「おい暦、あたしも小さくて可愛らしいだろうが。お姫様だぞ?」

 

「酒呑童子にお姫様とか言われてもなぁ……」

 

「あら、よく萃香が酒呑童子だってわかったわね」

 

「子供みたいな容姿に無限に酒の湧く瓢箪。おまけに苗字が伊吹ときたら誰でもわかるって」

 

「ありゃ、そうかい。あたしはてっきり『メメ』のやつに聞いたんだと思ったんだけどねぇ」

 

「は?」

 

今、なんと?

 

「だから『メメ』だよ、『忍野メメ』。実はあんたの事もメメのやつから聞いてたよ。『近い未来僕の友人が幻想郷に迷い込むだろうからその時はよろしく』ってさ。」

 

「あいつ……ん?あれ、じゃああいつも幻想郷に来てたのか!?」

 

「違う違う、あたしはたまに外の世界に遊びに行くからね、その時知り合ったのさ」

 

「外に?あれ?でも結界を自由に行き来することはできないんじゃ?」

 

「鬼っていうのは色々と規格外なモンなのよ、あんた達吸血鬼含めてね。」

 

「いやぁ、メメのやつには特別うまい酒を奢ってもらってさ、なんて酒だったかなぁ……すぴ……すぴり……」

 

「スピリタス……?」

 

「おー!そうそう!『すぴりたす』!美味かったなぁ、あれ……あんまりにも美味いから一気飲みしちまったぐらいさ。」

 

「い、一気飲みって……!?そ、そのまま飲んだのか!?水とか、氷とかで割らずに!?」

 

「いやいや、流石の私もそれはないって、」

 

「だ、だよねぇ……」

 

「ちゃんと7:3で焼酎で割ったって」

 

「焼酎で割るなよ!てかそれはもうお酒じゃないよ!火気厳禁の何かだよ!アルコール120%だよ!」

 

「強い酒ほど美味いってもんだろう?それがわからないうちはまだまだだね。」

 

「ええ……」

 

じゃあ僕ずっと『まだまだ』でいいや……

 

「はら、いつまでもお喋りしてないで、顔洗ってきなさい。朝ご飯にしましょう。」

 

「え!?」

 

「何よ」

 

「あ、いや、何だろう……?」

 

何故か博麗神社では食べ物にはありつけないと思っていた……?

でも一体なぜ……

 

「あんた今もの凄い失礼な事考えてるでしょ。」

 

「え!?いや、そんなことないって!いやぁ、楽しみだなぁ、霊夢の手料理!あ、味噌汁のいい匂いがしてきたぞぉ!」

 

「はぁ……今日は味噌汁じゃなくてお吸い物よ。もういいから早く顔洗ってきて。」

 

「アッハイ、すいません。」

 

048

 

博麗神社は井戸を引いているらしく、外で朝の身支度を整えるらしい。幸い井戸のある場所は神社で影になっているし、僕はこういう『昔ながら』な暮らしも趣があって好きなのだが、

 

「寒っ!!冷たっ!!無理、マジ無理。そもそも儂吸血鬼だから汚れたりしないし。それじゃあ。」

 

「おおおおお、おに、おにおにおにおにおにい、おにいちゃああん……さ、さむいィィ……」

 

ちなみに今現在の幻想郷の暦は外と同じく神無月。10月である。

 

「寒さに弱すぎるだろお前ら!現代っ子か!?」

 

そしてなぜフランは頭から水を被った!?

 

「風邪もひかんのに寒さに強くなる意味なんぞないわい。儂ら怪異の王は常に最先端、最上級の生活を送る義務があるのじゃ。」

 

「わけわかんねぇよ」

 

「おにいちゃぁん……」

 

「あぁ!?やばい!おい忍!フランに新しい服作ってやってくれ!暖かくて、可愛いやつ!」

 

「なんで儂が、お前様が作ればいいじゃろうが。」

 

「僕は八九寺に『私服のセンスがアララ木さん』とか言われてんだよ!チクショウ!」

 

「いやいやお前様よ、劇場版の私服のセンスはなかなかじゃったぞ?」

 

「え?まじ?」

 

「あー、なんだか寒くなくなってきたぁー、わぁ、お花畑と綺麗な川がみえるぅー……」

 

「フラァーン!!?ダメだ!!戻ってこーい!!」

 

「あー、お姉ちゃんがいるー」

 

「レミリアまだ生きてるから!不死だから!!」

 

「フランドールもじゃろ。」

 

「今は半分人間みたいなものなんだってば!!」

 

下手するとまじで死んじゃうんだって!

 

「む、それは流石に後々面倒そうじゃな。」

 

そういうと忍はフランを僕の影のなかに押し込んだ。

 

「とりあえず影の中なら寒かったりはせんじゃろ」

 

……そういえばフランは半吸血鬼化してるのになんで影に入れるんだ?

 

「なんか儂、幻想郷にきてからあらゆる影を操れるようになったみたいなんじゃよな」

 

「美鈴さんが言ってた、幻想郷に迷い込んだ人が能力に目覚めるってやつか」

 

じゃあその内僕も目覚めたりするのかな?

 

「ほう、どんないやらしい能力に目覚めるのかのう?」

 

「なんでいやらしい能力限定なんだよ!サイコキネシスとかテレポートとかいろいろカッコいいのだよ!!」

 

「アー、ハイハイ、カッコイイノー。じゃあそろそろ儂も影に戻ろうかの。」

 

「朝ご飯らしいから早めに戻ってこいよ」

 

「支度が終ったら戻る。」

 

忍も影の中に戻り、辺りがシンと静まり返る。

 

「さて、僕も戻ろうかな。」

 

「―――!―――!!」

 

「――――!!?」

 

「ん?」

 

何かの気配を感じ、振り返ったが、神社の裏山が広がっているだけで特に何もいなかった。

 

「忍かな?」

 

余計な仕事を作られて怒っているのかもしれないな、後で頭でも撫ででやろう。

 

「あんた顔洗うだけでどれだけの時間かかってるのよ。」

 

「あ、霊夢、ごめんごめん、今行くよ。」

 

 

「―――あいつがこの異変の犯人……!」

 

049

 

「おお、おいしそうだね。」

 

「紅魔館で咲夜の料理食べてたやつに何言われても皮肉にしか聞こえないわね。」

 

「そんな事ないって、可愛い女の子が作ってくれた手料理がまずいわけないじゃないか」

 

「……はぁ、そうやって無際限に自分のハーレムを広げていこうとするのはやめてくれる?諦めなさい、私は絶対に落ちないわよ。」

 

「ハーレム?何の事?」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

「おい腋巫女、我が主様には何をいっても無駄じゃ。朴念仁どころか植物よりも鈍感な男じゃからの。」

 

忍が影から頭を出してそんな事を言い出した。

 

「そ、そうみたいね……」

 

「??」

 

何だろう。僕は今ものすごく『主人公』している……?

 

「あれ?なぁ、忍。フランは?」

 

「着慣れない服を着て照れておるんじゃろ、ほれ、はよう出てこい。」

 

忍が影に手を突っ込み、かき回す。

なんで『チャプチャプ』いってんだろ……影って液体なのかな……?

 

「あ、待って、待って忍姉。」

 

「な、忍姉……だと……?」

 

「言っておくがフランドールが勝手に言っておるだけじゃからな、……ほれ、出て、こいと……!」

 

「いやあぁぁぁ……」

 

「おおおっ!かw「可愛いぃーー!!!」ん?」

 

意外も意外。僕よりも大きなリアクションをとったのは、霊夢だった。

 

「ちょっとフラン!何よこの服!あんた引きこもりだったくせにこんなに可愛い服持ってたの!?そうか、咲夜、咲夜ね!よし、ちょっと紅魔館まで行って私の分も作らせてくる!」

 

いくら日ごろから異変を解決してまわっている霊夢といってもやはりまだ高校生くらいの女の子。オシャレなどにも興味があるのだろう。

あ、ちなみにフランの服装は、

ニットの帽子にポンチョ、ホットパンツ、ブーツという、非常に可愛らしい仕上がりになっている。

忍様マジGJ。

 

「あぅぅ……こんなに足出してたら恥ずかしいよう……それに忍姉にはかされた『ぱんつ』ってやつ、ドロワーズと違ってなんだかぴっちりしてて落ち着かないし……」

 

「忍、その時の話kwsk。あとフランのドロワーズは僕が預かる。」

 

「黙れロリコン。性犯罪者予備軍。」

 

「『ロリ』じゃない!『ロリも』なんだ!!」

 

「あの~……霊夢さん行っちゃいましたけど~」

 

「その服、吸血鬼の具現化能力だろ?外の世界で同じような服装を見たことがあるよ。」

 

そういうと萃香は意地の悪そうな笑みを浮かべ、

 

「霊夢のやつ、珍しく満面の笑みで出かけてったからねぇ、今のうちに霊夢の喜びそうな服を一着二着作っといたほうがいいと思うよ?」

 

『障らぬ巫女に鉄拳制裁なし』ってことさ

 

「忍先生!お願いします!!」

 

まだ死ぬわけにはいかないんです!

 

「ちっ、……お前様……最近本当に儂をド○えもん扱いしとらんか?」

 

「ソンナコトナイヨー」

 

050

 

午前10時現在、博麗神社では幻想少女達による

小さなファッションショーが行われていた。

 

「ねぇ、どう?これ!」

 

霊夢がワンピースを体にあわせ、なぜかいる金髪魔法使いに感想を求める。

 

「おぉー!いいんじゃないか!?似合ってるぜ!!」

 

「咲夜、ちょっとこの執事服着てみなさいよ。」

 

「え、執事服……ですか……?」

 

あの後、霊夢が鬼の形相で帰ってきて、その道中で「おもしろそうだ」と魔理沙とレミリア、咲夜さんを引き連れてきた。

霊夢の分の服は忍がいくつか用意してくれていたのだが、思わぬ来訪者に僕と忍の二人態勢で、あらゆる知識、想像力を総動員して服を作り出した。

 

「お、お前様……」

 

「どうした忍?僕はここにいるぞ、わかるか?」

 

「お前様よ……儂はやりきったぞ……」

 

「あぁ、あぁそうだ。よくがんばったな、皆も喜んでるよ……」

 

満身創痍な忍の頭を感謝と労いを込めて撫でてやる。

 

「お前様……すまんが手を握っていてはくれぬか……儂はもう疲れた……」

 

「お、おい……?忍……?忍!!」

 

「次に目が覚めたら……ドーナツを……たらふく……(ガクッ」

 

「し、忍ーーーー!!!」

 

 

茶番終了。

 

 

疲れ果て、爆睡している忍をなんとか影の中に押し込んで、咲夜さんの用意してくれた紅茶とお茶菓子に手を伸ばす。

 

「うん、流石咲夜さんだ、やっぱり美味しい。」

 

「ねぇ、ちょっと暦!この服もう1サイズ下のやつ作ってよ。肩の部分がブカブカなの。」

 

「鬼よりも鬼らしいな!忍も僕も既に限界だよ!!」

 

「えぇー、しょうがないわねー、レミィ、あんたこれ直せる?」

 

「悪いけどオリジナルも見たことないのに具現化させるのは無理よ。仕立て直しくらいなら咲夜に頼みなさい。」

 

「咲夜ー。」

 

「もう終わったわ。」

 

「え?あぁ、ありがと。」

 

「おい霊夢!見ろよこの服!胸の所に穴が開いてるぜ!!」

 

「なにそれ、不良品?……ではなさそうね……外の世界ではこんなの着てる人がいるわけ?痴女専用の服ってことかしら」

 

「お姉様見てー!猫ちゃーん!」

 

「フランそれ下着よ!?早く上を着なさい!!咲夜!!」

 

「かしこまりました。」

 

ダメだ……みんな元気すぎてついていけない……

 

「老兵は退散じゃあー……」

 

風に当たりに縁側へ出ると、

 

「百年やそこらで何が老兵だい、情けない。」

 

「萃香、ここにいたのか。」

 

「あたしはオシャレなんかには興味ないからねぇ、酒が飲めればそれで十分さ。」

 

「血液すらもアルコール入ってそうだよな」

 

「そうそう、メメのやつからあんたに伝言があったのを思い出したよ。」

 

「伝言?忍野から?」

 

「なんでも、『近々僕の後輩が阿良々木君を訪ねてくるだろうから、よろしくね。』だってさ。」

 

近々……?

 

「ちなみにそれはいつ預かった伝言なんだ?」

 

「さぁ、40年前だったか、もっと前だったか……?」

 

「忍野のやつ……何時から数えて『近々』なんだ……」

 

「あいつは鬼のあたしから見ても掴みどころのないやつだったからねぇ、まるで雲を相手してるみたいだったよ。」

 

「萃香ー!暦ー!咲夜がお昼用意してくれるらしいからこっち来なさーい!」

 

「お、紅魔館のメイドの飯か、いいねぇ。」

 

「わかったー!今行くー!」

 

ちょうどよかった、ついでに忍用にメイドーナツを揚げてもらおう。

 

 



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幻物語 拾ㇳ参

お久しぶりです!K66提督です!!
授業やらバイトやらの合間を縫ってやっと書き上げることができました!
待っていてくださっていた方がいらっしゃいましたら、この場で御礼申し上げます!!

最近暑くなって、溶けそうな毎日ですが、皆さんは大丈夫ですか?
夏バテや熱中症にはくれぐれもお気を付けください!

それでは『幻物語 拾ㇳ参』お楽しみください!


051

 

幻想郷迷いの竹林。

竹の成長が通常よりもさらに早いため、毎時間ごとに姿が変わる自然の作り出した大迷宮である。

ここを迷うことなく進むことができる者は数少なく、一度迷い込めばそう簡単には戻ってこられないだろう。

 

そんな森を縦横無尽に駆け回る影が二つあった。

 

「ハァ、ハァ!姫様!急いでください!てゐのトラップで足止めをしてはいますが、いつまでもつか分かりません!」

 

鈴仙・優曇華院・イナバ。

かつては月の兎戦闘部隊隊長を務めていたが、幻想郷に来てからは、永遠亭診療所で

医者になる修行を積んでいる。

『狂気を操る程度の能力』を有する。

 

「ま、まってよ、私、そんなに走り回れるほど体力ないって……!」

 

蓬莱山輝夜。

月の都の姫君。外の世界においても、『竹取物語』という文献の中で『かぐや姫』として登場する。『永遠と須臾を操る程度の能力』を使うことができ、不老不死である。

現在幻想郷では、永遠亭の主で、職業はニート。

 

「くそっ、なんなのよあいつ……!うちの精鋭部隊全員でかかっても傷一つ付けられないなんて…………!?」

 

竹藪の影から一人の男が姿を現す。

 

「やっと見つけた。僕だって暇じゃないんだから君達にかまってあげられる時間もそんなにあるわけじゃないんだ。だからあんまり逃げないでくれよ。」

 

「っ!それならさっさとどこへでも行けばいいでしょ!!こっちだってあんたなんかに関わりたくないのよ!!!」

 

そう言うと、うどんげは両目を赤く染め、臨戦態勢をとる。

 

「それはできない。『アイツ』の為に、そこのお姫様が持ってる『蓬莱の薬』が必要不可欠なんだ。全く、面倒なことするよね、あのお姉さん。さっさと薬を渡してくれれば痛い思いしないで済んだのに。」

 

「あなた、永琳に何をしたのよ。」

 

息の上がっていた輝夜も、聞き捨てならないと男を睨み付ける。

 

「ちょっとした事だよ、『アイツ』のために妖気と少しの血をもらってんだ。死んではいないと思うよ。多分。あ、でもあのお姉さんも不死なんだっけ?じゃあもうちょっと本気で殺してもよかったかな。」

 

「貴様ァ!!!」

 

うどんげの眼が怒りで赤から紅へと変化し、男へ飛び掛かっていく。

 

「やめなさいうどんげ!!貴女の敵う相手じゃない!!」

 

しかし、怒り狂った彼女を止めれる者はどこにもいなかった。

 

「まぁ、落ち着けって。なにかヤな事でもあったのか?僕でよければ相談にのるよ?大丈夫。君は僕が助けてあげる。ホントだよ?」

 

怒りの対象であるその男を除いて。

 

「殺す!!貴様を殺す!!」

 

「『な~んて、嘘うさ。』ってのがあのいたずら兎ちゃんの口癖っぽかったね。」

 

「痛、アァァァァァア″ア″ア″!!!!!」

 

男がどこからか取り出した刀で、うどんげの眼と、『力』が切り捨てられる。

 

「うどんげ!!」

 

「殺しはしないよ?僕は優しいからね。でも助けはしない。

『君が自分で勝手に助かるだけさ』なんて無責任で甘っちょろい事も言わない。

僕は誰も助けない。幸せになるのは『アイツ』だけで、他はどうでもいいんだ。」

 

「とても大事な人のようね、その『アイツ』とやらは。」

 

「そうなんだ。『アイツ』のためなら僕は『生きて』やれる。なんだってできる。

だから君の持つ薬は絶対に手に入れる。」

 

「『生きて』やれる、ねぇ……。随分とカッコいいこと言うじゃない?こんな状況じゃなかったら惚れてたかもしれないわね。ありえないけど。」

 

「丁重にお断りさせてもらうね。」

 

「冗談よ、私にとっての『アイツ』」はあなたがここに来るまでにその刀で切り捨ててきた子たちなの。私もあの子たちのためなら何度だって死んであげるし、何度だって生きてあげられる。だから……お前はここで殺す!!!」

 

「そうだよな、誰にでも守りたい物、人、心がある。だからこの世から争いがなくならない。

僕は君と違って『人間』だし、それがよくわかる。だから――――

 

 

――――死ね。」

 

052

 

『ガキィィィンン!!』

 

輝夜の拳と男の刀が鈍い音をあげてぶつかり合う。

 

「おいおい、刀と拳がぶつかり合う音じゃないだろこれ。」

 

「生憎、私の日課は殺し合いの決闘でね、人を殺すことにためらいもないし、殺されることへの恐怖もない!」

 

「野蛮だなぁ、本当にお姫様?」

 

「夢を壊して悪いわね、こんなのでも外の世界の地上人も憧れるかぐや姫様よ。」

 

「うーん、まぁでも金閣を持ち上げたって伝説もあるし、ぜんぜん想定内だよね。」

 

そう言って男が不気味な笑みを浮かべた途端、拮抗していたはずの力が男の方へと傾いた。

 

「とりあえず、一本。」

 

「痛、ああああああああああ!!!!!」

 

刀は輝夜の拳を引き裂き、肩から下、輝夜の右腕を切り落とす。

 

「うへぇ、痛そうだ。僕じゃきっと耐えられないだろうなぁ。」

 

「ぐ、ひ、他人事みたいに、言って、くれるじゃない。」

 

額に玉のような汗を浮かべ、歯を食いしばって痛みを堪える。

 

「みたいっていうか他人事だし。あ、人じゃないのか。」

 

「殺し合いが日課だと、言ったでしょう。腕の一本や二本、私には大したことじゃない。」

 

「言ってたなぁ、ちゃんと聞き流してたよ?でもいくら不死だからって、女の子が自分の身体をそんな風に扱うのはどうかと思うけど。」

 

「ご心配なく。」

 

輝夜が刀をも受け止める拳で自らの心臓を貫く。

 

「さぁ、コンティニューといきましょうか。」

 

「うわ、こんなの何度殺してもキリがないじゃないか。」

 

「その通りよ。だからもう諦めなさい!!」

 

輝夜が再び剛拳を放とうと振りかぶる。

 

 

 

が、そこには拳どころか腕すらも存在していなかった。

 

「腕が……、再生していない……!?」

 

「いやぁ、びっくりした。無い腕で殴ろうとするもんだから、まだ奥の手というか、次の腕というか、何かあるのかと思った。」

 

「そんなっ……!?なぜ……!?」

 

「この刀はとある女性から貰った『妖刀』をすこし改造したものでさ、色んなモノが斬れる優れものなんだ。夢とか希望とか、愛とか絆とか、人とか怪異とか、ね。」

 

「カイ、イ……?」

 

「おっと、こっちでは妖怪だったかな?要するに君たちみたいな人間とは違う次元に存在している、魑魅魍魎達のことを、こちらでは『怪異』と呼ぶ。」

 

「つまり、その妖刀ってやつで斬られたせいで私の腕は再生できなかったってわけね。」

 

「そうそう。理解が早くて助かるよ、僕は『教える』っていうのがどうも苦手なんだ。」

 

「そう…………」

 

「まぁ、気を落とすなよ。すぐに全身バラバラにして腕がどうとか気にならなくしてやるから。」

 

「…………やっと、」

 

「ん?」

 

やっと見つけた……!

己を確実に殺そうとしている妖刀を前に、輝夜は恐怖や焦りではなく、『喜び』を感じていた。

ようやく、ようやく『死ぬ』ことができる。

この忌まわしい『不死』を打ち破り、私を永遠から開放してくれる。

これほど心躍ることはない。

 

「気持ち悪いなぁ、君。何この状況でニヤニヤしてるんだよ。あれ、もしかして『そっち系』だった?」

 

「違うけれど、そうね、不死にとって自分を殺せるかもしれないモノはとても輝いて見える。とだけ言っておきましょうか。」

 

「……あぁ、そういう事。わかるよ、僕も同じようなもんだし。

『アイツ』のことを諦められたらどれだけ楽だろう。

『アイツ』のことを忘れられたらどれだけ救われただろう。

『アイツ』のために死ぬことができていたら、どれだけ満たされていただろう。

そんな事ばかり考えてた時期もあった。」

 

「それができないから辛いのよね。」

 

「そうそう、だからさ、さっさと不死の薬を渡してくれよ。そしたら殺してやるから。

僕は不死の薬を手に入れられるし、君は死ぬことができる。win-winの関係だ。」

 

「嫌よ。どうしても欲しいなら殺して奪い取りなさい。」

 

「はぁ、そんなに僕のこと信用できないかぁ。はいはい、わかったわかった。

じゃあ痛くないよう殺してやるから動かないでくれよ?」

 

やっと念願の『死』が手に入る……!

この世で最も美しい宝が手に……!

 

男が輝夜の首に刀を抜き放つ。

 

「ふっっざ、けんなぁぁぁぁああ!!!!」

 

しかし、刀が輝夜の白い首筋に届く前に、輝夜の身体は業火に包まれ、灰塵と化す。

 

「げほっ、あっつ、ごほっごほっ!ちょっと妹紅!!邪魔しないで頂戴!これで、この刀があれば私達不死でも死ぬことができるのよ!?」

 

灰になった輝夜はしかしすぐに再生し、炎を放った張本人へ文句を垂れる。

 

藤原妹紅。輝夜同様不死の身体をもつ蓬莱人。

輝夜とは複雑な因縁を持ち、日々殺し合いを繰り返している。

 

「死ねるだぁ!!?はっ!!そりゃあ素晴らしい事だなぁ!!?」

 

「妹紅……?」

 

何をそんなに怒っている・・・?

私が死ぬ事は妹紅にとっても好都合なはずだ。

 

「お前が死のうがどうなろうが私が知ったことじゃねぇがな、お前の所の兎達がわざわざ私の所まで来たんだよ、『姫様を助けて』ってなぁ。

頭悪ィよな、毎日殺し合ってる宿敵によりにもよって『助けて』ときたもんだ。自分達だって半分死にかけてるんじゃねーのってぐらいボロボロなのにお前みたいな底辺主様のために竹林を這ってきたんだ。

それでいざ駆けつけてみたら当の本人は何してやがる。

必死になって、自らの命を投げ捨ててまでテメェを助けようとしてくれた部下達の思いを足蹴にして、『やっと死ねる』とかほざきやがった。

ふざけんじゃねぇよ、いいか、お前は私が殺す。どこから来た誰かも知らねえヤツにお前は殺させねぇ。お前の命は私のモンだ。どうしても死にてぇってんなら私が死ぬまでぶっ殺してやる!!」

 

「ふぇっ、え?えええ?」

 

輝夜の顔が真っ赤に染まり、炎のように熱くなる。

 

「おいおい、いきなり現れて愛の告白とかカッコよすぎだろ。一瞬惚れるところだったぜ。」

 

「な、あ、愛とか!!そんなんじゃねぇ!!私はただ輝夜をテメェなんかに殺されてたまるかって事を言いたくてだな!!!」

 

「あー、はいはい、お熱いねぇー。もちろん物理的にも。

竹林が焼け野原になるのもあれだし、そろそろその炎の翼をしまってもらえると嬉しいな。」

 

「ちっ、気安く話しかけんじゃねぇよ、外道が。人の身体のままでとてつもない業を背負いやがって。よくもまぁ正気でいられるもんだ。ん、いや、正気じゃねぇのか。」

 

『業』という単語を妹紅が口にした途端、男の纏う雰囲気が豹変する。

 

「…………それで?不死の薬を手に入れるには二人まとめて跡形もなく切り刻んで殺してやればいいのかな……?」

 

眼は鋭く、声は重く、気は暗く。

輝夜と妹紅の二人はそこに 『闇』を、『夜』を、『影』を、『黒』を見る。

 

「も、妹紅……」

 

「きゅう……血鬼……?」

 

幻想郷に来るまでは妖怪退治を生業としていた妹紅が、かつて対峙し、敗北した大妖怪、怪異の王の名を口にする。

 

「僕をあんな屑みたいな連中と一緒にするんじゃねぇよ。なんども言うが僕は『人間』だ。」

 

人にして人ならざる業を背負う男にもう先ほどまでの貼り付けたような笑みはなく、

ただただ、『殺す』という感情のみが見て取れた。

 

「上等だ。へたに弾幕とかやるより手っ取り早くていい。」

 

妹紅が能力を発動させ、炎を身にまとい、男と対峙する。

 

「あー、もう、降参降参!!はいこれ、欲しがってた不死の薬。これ持って早いとこ何処へでもいってちょうだい。」

 

「なっ、お、おい輝夜!?」

 

「…………。いやぁ!ありがとう!実は僕も二人を同時に相手するのはちょっとしんどいだろうなぁって思ってたんだよ!!じゃあこれもらってくね!ばいばい!」

 

輝夜が不死の薬を放り投げると、男は再び笑顔を貼り付け、何処かへと姿を消した。

 

「輝夜、お前なんで……!?」

 

「もう疲れたわ。永琳や兎達も心配だし、帰りましょ。悪いけど手伝って頂戴。」

 

「でも不死の薬が……」

 

「気にしなくてもあの男の計画が達成されることはないわ。ヤツがこのまま計画を進めようとするなら確実に異変になる。そうなれば後はあの紅白巫女に任せておけば万事解決よ。」

 

「そんなこと言って、あの薬を飲まれたらどうするんだよ!!」

 

「あの薬を飲まれたからってどうなるのよ」

 

あの巫女に不死なんて関係ない。

実体験なのだから間違いないだろう。

 

「ん、まぁ……それもそうか……」

 

「そうよ、だからもう行きましょう、うどんげをお願い。私じゃ無理だし。」

 

「あ、そういえばお前腕が……死んでも再生しなかったし、どうなってんだよ。」

 

「それは後で説明するわ。うーん、どうしようかしらねぇ……永琳治せるかしら。」

 

「その永琳も相当な重傷って話だからな……」

 

「し、師匠の秘蔵の薬に『どんな傷でも即座に回復する豆粒』のサンプルがあったはずです……」

 

「あら、うどんげ。目が覚めたのね。『豆』ねぇ……、え?それって仙豆?DBの?マジ?」

 

「どれだけ研究所しても製造方法がわからなくて、数も少ないので絶対に使うなって言われてますけど……」

 

「状況が状況だし、しょうがないだろ。」

 

「え?……うわぁ!?も、妹紅さん!?どうして!?」

 

「あー、騒ぐな騒ぐな。帰ったらてゐのやつに説明してもらえ、な?」

 

「は、はぁ……」

 

「それよりうどんげ、貴女眼は大丈夫?」

 

「あ、はい……なんとか見えはするんですが能力が……」

 

「使えなくなってるのね。」

 

「はい……」

 

「私も腕が再生しなくなっちゃったし、恐らくあの刀のせいでしょうね……

私は右腕の『不死』と『怪力』をうどんげは『狂気の瞳』をあの刀に切り捨てられた。

『能力を失わせる能力』、ね……今度の異変は霊夢でも難儀かもしれないわね。」

 

「…………。」

 

「妹紅?」

 

「ん、いや、なんでもない。」

 

「まぁ、とにかく、これ以上この件にはかかわらないのが一番でしょうね。」

 

「で、でも姫様の腕が……」

 

「あー、そうねぇ……ま、なんとかなるでしょ。ご飯とかは妹紅に食べさせてもらうわ。」

 

「なっ、はぁぁあ!!?だ、誰がそんな事するか!!もう片方の手で食えばいいだろうが!」

 

「えー、嫌よ。そんなお行儀の悪い、お姫様のすることじゃないわ。」

 

「お前この前私ん家で寝っ転がりながら飯食ってただろが!!」

 

「えっ、姫様たちってそんな仲だったんですか!?いつも殺し合ってるのに!?」

 

「ふふ、なんでも私は妹紅の『モン』らしいわよ?」

 

「だからそれはっ……!」

 

「へぇーー?ほふーーーん?」

 

うどんげが面白いものを見つけたとばかりにニヤニヤし始める

 

「てめ、なんだその目は!?下ろすぞ!」

 

「うふふ、いいえー?なんでもないですよー?」

 

「だからその目をやめろーーーー!!!」

 

053

 

『ケンカというのは、同じレベルの者同士でしか起こらない』と言う話をご存じだろうか。

これは、お互いの言い分をどちらも譲らない、譲るための心の広さを持ち合わせていないので、ケンカが起こる、という話だ。

ではこの場合の『レベル』とは、即ち『心の広さ』ということになる。

だがしかし、一度ケンカが始まってしまえば、『心の広さ』など関係ない。

ケンカは発展し、悪化する。

初めは言葉を武器に、もしくは最初から暴力を伴うケンカかもしれない。

そして、始まりがどのような形であっても終わりがこない限り、悪化は止まらない。

そして、考えを絶対に曲げない者達が起こすケンカは、必ず一つの収束を迎える。

それはすなわち―――

 

 

 

 

 

「戦争じゃああああ!!!貴様ら絶対にぶっ殺してやる!!」

 

「やってみなさいよこの搾りカスのなんちゃって吸血鬼!成れの果ての分際で私達スカーレット姉妹に逆らおうなんて五千年早いのよ!!」

 

「やっひゃえもめえひゃん!!」

 

「だからそれは儂の分のドーナツじゃと言っとるじゃろうが!!何食っとんじゃ!!」

 

「お、おい忍やめろって、ドーナツなんかでそんなに怒るなよ」

 

ここで、大吸血鬼戦争in博麗神社が勃発されようとしている経緯を説明しよう。

お昼ご飯を作っている咲夜さんを手伝いながら(今回は咲夜さんもお客さんなので半ば強引にだが、手伝わせてもらえた。)忍のドーナツを揚げてもらっていたのだが、忍が復活する前にフランとレミリアがドーナツをほとんど平らげてしまった。

しかもよりによって最後の一個をフランが手にとった時点で忍が復活。

既に大量のドーナツが食べられてしまった事に気づいた忍の不機嫌ゲージが上昇してゆくのを感じ、咲夜さんに2セット目を頼むも、まさかの材料切れ。

ブチ切れた忍がレミィ達に『かりちゅま(笑)』だの、『キチガイ破壊神』だのと、罵詈雑言。

当然レミィ達も激昂し、後はお察し。売り言葉に買い言葉で現在に至る。

 

「なんか……?ドーナツ『なんか』じゃと……?」

 

あ、やばい。飛び火する。

 

「お前様よ……自分の言っておる事が理解できておるのか……?こともあろうかドーナツに向かって『なんか』じゃと……?」

 

「わ、悪い!失言だった!!すまん!!」

 

「ふん!暦の言う通りよ!『たかが』ドーナツ『如き』にそこまでムキになれるだなんて、『元』伝説の吸血鬼様は随分と器が小さいのねえ!?」

 

「レミィも頼むからガソリンスタンドにガスバーナー投げ込むレベルの煽り入れるのやめて!!?」

 

火に油どころでは無いのだ。

爆発力が計り知れない。幻想郷に来た時から忍は相当の妖力を溜め込んでいるはずだ。

 

「……あんたら、いい加減にしないと全員まとめて封印するわよ。今は昼食の時間。ケンカするならこの後外でやりなさい。」

 

霊夢様の静かな怒りは食卓の空気を一瞬で張りつめさせた。

 

「ご、ごめんなさい霊夢……」

 

あのレミィが速攻で謝った……

以前「霊夢をおこらせるな」って言ってたし、よほど恐ろしい思いをしたのだろう……

 

「ほ、ほら、忍も謝れって……」

 

「儂は…………」

 

「何よ、何か文句でもあるのかしら……?ん?」

 

ヤバイヤバイヤバイ!

何か出てる!霊夢から禍々しい何かが出てる!!

 

「し、忍!」

 

頼むっ、とりあえず謝っといてくれ……!

 

「儂悪くないもん!!めっちゃ頑張って貴様らの服作って、それで疲れて寝てただけなのに!!ご褒美にもらえるはずだったドーナツ食べられて!それで怒ったらなんか謝れとか言われて!!儂何にも悪い事してないのに!頑張ったのにィィィ!!うわああああぁぁ!!!アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

な、泣いたぁぁぁ!!?

 

「ちょ、何泣いてんのよあんた!?暦!あんたのパートナーでしょ、泣き止ませなさいよ!!」

 

「僕かよ!?泣かせたのは霊夢だろ!?」

 

「誇り高き吸血鬼ともあろうものがこれくらいで涙を流すなn(モガッ)ん!?んんんん!!んーー!!」

 

「申し訳ございませんお嬢様。しばらく黙っていて下さい。」

 

「あ、あわわわわ、し、忍さん?大丈夫ですよ!みんな怒ってないですよ!?」

 

「うあああああああ!!!」

 

「針妙丸!このタイミングでその慰めはNGだ、……ここは僕に任せてくれ。」

 

そう言って僕は泣き叫ぶ忍をそっと抱きしめる。

 

「う、あ?」

 

「ごめんな、忍。気づいてやれなかった。僕もお前もまだここに来て一週間も経ってないもんな。慣れない土地でまだ落ち着けてないのに事あるごとにお前に頼っちゃったな、僕の悪い癖だ。ごめん、ありがとう。」

 

忍を抱きしめ、そう囁きながら頭を撫でてやる。

 

「あ……忍のやつ、頭撫でてもらって……」

 

「いいなぁ……」

 

レミィとフランが羨ましそうな目で忍と僕を見つめる。

吸血鬼にとって『頭を撫でる』という行為は非常に特別な意味合いをもつ。

親愛、敬慕、服従……

その二人の関係の誓いの儀式のような行為、僕は忍への様々な想いをその行為に込める。

 

「ん……お前様、もうよい。」

 

「おう、落ち着いたか?」

 

「べ、別に、元々取り乱したりしとらんし?」

 

嘘つけ。忍は顔を真っ赤にしてそそくさと僕の影に潜っていった。

 

「へぇ、上手い事するのね。」

 

「お嬢様にも効くかしら」

 

「いいなぁ……」

 

「「え?」」

 

「あ、いや、何でもないぜ!!?」

 

「ん?魔理沙も頭撫でて欲しいの?」

 

「じょ、冗談じゃない!変態の菌がうつる!!」

 

「やめて!若干トラウマだから!!」

 

やめろ!やめてくれぇぇ……!

 

『うわっ!阿良々木菌だ!!気持ち悪ぃ~www!!』

『きったね!!おいこっちくんなってwww』

『はいバーリアー!バリアしたから俺には効きませーんwww』

 

「やめて……僕は……あぁぁぁ……」

 

「はぁ、今度はこっちか……」

 

至極面倒な吸血鬼コンビだった。

 

054

 

食後のお茶を終え、咲夜さん、レミィ、魔理沙達が帰っていって縁側で萃香とゴロゴロしていると、 (フランは謎の毛玉を追いかけまわしている。) 霊夢に呼び出された。

 

「修行?」

 

「そう、さっきもそうだったけどアンタ達はメンタルが弱すぎる。そんなんじゃ自分の術に呑まれて即暴走よ。」

 

「う……」

 

心当たりがある分、何も反論できない……

 

「さ、それじゃあさっさと始めるわよ。忍、だったかしら?あれも引っ張り出しなさい。」

 

「え、忍もやるのか?」

 

「当たり前でしょ、『あの』状態は確かに強いけど、その分危険も多い。いつ力に呑まれるかわかったもんじゃないわ。」

 

「呑まれるって言ってもなぁ……」

 

元々『アレ』は忍の……

 

「望むところじゃ、腋巫女。貴様は少々儂をなめすぎじゃ。ここらで儂の怖さを思い出させてやる必要があるかの。」

 

「ギャンギャン泣き喚いた後に頭撫でてもらって慰められてた幼女に怖さなんて……ねぇ?」

 

霊夢様煽る煽る。

 

「か、かかっ、そう言っていられるのも今のうちだけじゃ。」

 

お、言い返した。よかった、今はカリスマモードみたいだ。

 

「それで、修行っていっても何やるんだよ?まさか瞑想とか言わないよな?」

 

文字で表現するには少し地味すぎるぜ

 

「まぁ別にそれでもいいんだけどね、効率も悪いし、今回はありがちな方法で修行してもらうわ。」

 

「ありがちな方法?」

 

「自身の深層心理との戦闘をして意識の取り合いをしてもらう。」

 

「深層心理?」

 

僕の頭にふと扇ちゃんの姿が浮かぶ。

 

「ま、お前様の場合はあの真っ黒娘、儂の場合は……まぁ『アレ』じゃろうな。」

 

「だよな……大丈夫なのか?」

 

「かかっ、まぁ負けても『春休み』の再来になるだけじゃし、その時はお前様に何とかしてもらおうかの。」

 

「ここで『春休み』みたいな事になったら確実に異変扱いで即霊夢に消されるよ!!」

 

「まぁ、儂は負けんよ。『アレ』と違って儂にはお前様がおるからの。この居場所は誰にも譲るつもりはないわ。」

 

「忍……」

 

「じゃあそろそろ始めさせてもらおうかしらね。

えっと、まずこのお札を使ってあんた達を昏睡状態にする。んでこの時にあんた達の自意識と無意識がごちゃ混ぜになるから、それをあんた達の心の中で『自分』って勘に従って『自分』を組みなおしてくること。深層心理と戦闘になるとしたらここでしょうから、フィーリングで何とかしなさい、以上。」

 

「えっ、」

 

肝心の部分が凄い曖昧だったんだけど!?

 

「なるほど。わかった。」

 

「ホントにわかったのか!?話聞いてたか!?」

 

「お前様こそ、話聞いてなかったんじゃないのか?要するにその深層心理として出てきたヤツをぶっ飛ばしてやればいいんじゃろ?」

 

「ま、そういうことよ。」

 

「そういうことなんだ……」

 

「はいはい、じゃあさっさと覚悟を決めて頂戴。」

 

「儂はいつでもいいぞ。」

「僕もまぁ、大丈夫、かな?」

 

「そ、じゃあせいぜい頑張ってきなさい。」

 

『霊符・夢想封印(弱)』!!

 

「そんなコタツのつまみみたいな―――」

 

夢想封印に被弾した瞬間、僕の中の『自分』がバラバラに砕けてしまったかのような錯覚に襲われる。

百年を超える阿良々木暦の記憶を舞台にした自分探しならぬ、自分作りの旅が、始まる。

 



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幻物語 拾ㇳ肆

えっと。こんにちわ。また私です。
授業中サボって考えた分のストックを消費して連続投稿です!

……すいません!喋ることないですwww


とりあえず『幻物語 拾ㇳ肆』をお楽しみください!


055

 

「ごきげんよう、阿良々木先輩。まさか貴方の方から私のところまで来るなんて思ってもみませんでしたよ。

 

「え?迷惑だったかって?そんなわけないじゃないですか。

不肖、私こと忍野扇は阿良々木先輩の為ならいくらでも時間をあけますよ?

 

「なんて、神原先輩じゃあるまいし、そんなこと言いませんけどね。

 

「まぁでも私としてはもっと迷惑をかけに来てくれるぐらいのほうがいいんですよ。こうして先輩とお話しすることもできますし、何より暇つぶしになります。

 

「いやいや、そんな顔されても阿良々木先輩。ここって忍ちゃんのいる影の中と違って凄い暇なんですよ?

 

「スカスカで特に何もない。阿良々木先輩の心の中なんてこんなもんです。

 

「あはは、いやぁー、やっぱり阿良々木先輩はからかいがいがありますねぇ。

よく考えてみてくださいよ、先輩。私は貴方にとっての何でしたか?

 

「……嫁って。笑えない冗談をほざきますねこの愚か者は。真面目に答えてください。

 

「……はい、そうです。私は『貴方』の中の『貴方』という存在そのものと同義。いくら心の中をぐちゃぐちゃにかき回そうと中身が一つじゃ意味ないですよね。

 

「はっはー。つまりは完全な無駄足になってしまったわけですよ先輩。

無様ですねぇ、間抜けですねぇ。

 

「なんて、冗談ですよ阿良々木先輩。まったく、情けない顔をしますね、この愚か者は。

まぁ、本来の目的は果たすことはできないですが、こんな辺境まで来てくださった先輩にプレゼントを差し上げます。きっとどこかで役に立つと思いますよ。」

 

056

 

「プレゼント?それって扇ちゃんのレギンスとか?」

 

「私のレギンスが今後の何に役にたつんですか、あぁ、わかりました。ナニの役に立つんですね。死ねばいいのに。」

 

んなことしねぇよ。読者の皆様に誤解されるからそんなこと言わないでいただきたい。

 

「しかし扇ちゃんの制服すら余裕で着こなす僕に今更レギンスなんてプレゼントじゃそんなに効果はないぜ?」

 

「プレゼントとはいいましたが別に物じゃありません。可愛い後輩からのワンポイントアドバイスですよ。」

 

「えぇ~?」

 

「よくもまぁそこまで不満を表情だけで表現できますね、阿良々木先輩。モニターの向こうの皆様にお見せすることができないのが残念です。

とにかく、物語の展開上必要な事ですから、アドバイスだけはさせてもらいますよ。」

 

さっきからちょいちょいメタァな事を……

 

私達二人だけならこうなるのは必然ですよ。

 

「こいつっ……直接モノローグに……!?」

 

「はいはい、いいですか阿良々木先輩。先ほども申しあげたように、私は『貴方』という存在そのもの。記憶や思い出が脳に残るというのなら、私はバックアップ。貴方の生きて来た百数年は、確かに私の中に存在しています。」

 

「ふむ、なかなか深い事をおっしゃる。」

 

「以上です。」

 

「はぁ!?以上!?それだけ!!?」

 

「はい。台本にはそう記載されてますね。」

 

「やめなさい。」

 

ダイホンナンテナイヨ?ホントダヨ?

 

「ふぅ、さて、それではまだまだ名残惜しいですがそろそろ起きましょうか、阿良々木先輩。」

 

「えっ、ホントに終わりなの?なんかこう、内なる自分との死闘とかするぐらいの覚悟でここまで来たんだけど」

 

「貴方はそんなに私と殺し合いをしたいんですか?その辺の少年漫画っぽい事は忍ちゃんのほうでやってくれてますよ。」

 

そういえば『忍ちゃん』て……随分可愛い呼び方だな……

 

「うーん、じゃあ戻るか……?あれ?僕戻り方知らないんだけど……?」

 

「あー、はいはい。送ってきますよー。全く、手間のかかる先輩ですねぇ。」

 

「申し訳ない。」

 

「じゃあ3カウントで、3、2、1」

 

「え、早っ」

 

「あ、ついでに『これ』持って行ってください、0。」

 

カウントが終ると、徐々に僕の姿が霧のように消えてゆく。

 

「え、あ、えっと、ありがとう扇ちゃん!メンタルを鍛えるっていう目的は果たせたのかどうか微妙だけど話ができて楽しかった!!」

 

「いえいえ、私もいい感じに暇つぶしができました。まぁこれからも死なないように頑張ってくださいねー。」

 

消えてゆく僕の手の中には扇ちゃんから受け取った1枚のカードが握られていた。

 

057

 

「う……」

 

頭が痛い。気絶させられた時の影響だろうか?

 

「あれ、もう帰って来たのね。あと数時間はかかると思ったのに。」

 

「忍は……?」

 

「そこ」

 

霊夢が僕の隣を指さす。

 

「頑張れよ、忍……!」

 

今も精神世界の中で激闘を繰り広げているのだろう。隣で少し寝苦しそうな表情を浮かべる忍の手を握ってやると、心なしか表情が軽くなった気がした。

 

「あ、いや、さっさと帰ってきて二度寝してるだけよ?」

 

そのまま握っている手を舐めしゃぶってやった。

 

「「何しとんじゃあ!!」」

 

吸血鬼パンチと博麗キックが阿良々木暦に襲い掛かる!!

 

「痛ってぇ!?何しやがる!?」

 

「こっちセリフよ!!なんで今の流れから手をな、舐める行動につながるのよ!」

 

「お前様はホントにぶっ飛んでおるな。」

 

「ぶっ飛んでるのはお前の方だろ。『アレ』を即効で倒してくるとか、どんな汚い手を使ったんだ。」

 

「汚いと言われるのは心外じゃが、まぁ、少しばかり卑怯ではあるかの。」

 

忍にしては珍しく、苦笑いを浮かべた。

 

「当時の儂があんな簡単に倒せたとはのぅ、肝が冷えた。何、顔を合わせた瞬間に心渡でぶった切っただけじゃよ。『アレ』はいわば慢心の塊じゃからの。不意打ちで必殺できる手段があれば負けはせんよ。」

 

不意打ち―――、それはかつて忍野メメがキスショットから心臓を抜き取った戦法だった。

 

「まぁでも、お互いに無事に戻ってこれてよかった。」

 

「そうよ、忍ならまだしもなんであんたがこんなに早いのよ、あんたこそ何かズルしたんだんじゃないの?」

 

「んん……ズルといえばズルなのかなぁ」

 

「どういう意味じゃ」

 

「えっと、まぁ当然扇ちゃんが出て来たわけなんだけどさ、そこで散々罵られたあげく、謎のヒント?的なものとこれをもらって帰ってきたという感じで……」

 

僕はいつの間にか握られていたカードを二人に見せた。

 

「ちょ、あんたそれ……!?」

 

『扇符・rbjrkm:bv]pjg』

 

「うわっ!?」

 

カードを掲げた瞬間、僕を中心に黒いモヤのようなもやのようなものが噴き出て来た。

 

「霊夢!これって……!?」

 

「スペルカードよ!しかもこの密度……!」

 

「お前様早く止めんか!!どんな影響が出るかわからんのは危険すぎる!」

 

「と、止めるったってどうすれば……!?」

 

扇ちゃんめ、とんでもないものをお土産にしやがって……!

 

「そんなの、こうすればいのよ!!」

 

『神技・八方龍殺陣』!!!

 

霊夢が僕たちのまだ知らないスペルカードを発動させると、

僕の周りをお札が取り囲……み……?

 

「燃えろ!!!」

 

燃えた。

 

「ちょ、うわぁぁあ!!?」

 

 

『ピチュ―――ン。』

 

 

阿良々木暦。幻想郷にて初めての死を迎える。

 

058

 

「んで?なんであんたがなんでスペカなんて持ってんのよ。なんか操れてなかったけど。名前もなんか変だったし。」

 

「えっと、お土産というか、プレゼントというか……とりあえず貰い物です。」

 

「貰い物ぉ?」

 

なんでも霊夢がいうにはスペルカードというのは弾幕勝負を極め、独自の能力、技術を弾幕に応用し作成するものであり、簡単に取得できるものではないらしい。

 

「そもそも原則的に作成者にしかスペルカードは発動すらできないはずなんだけどね。」

 

「原則?てことは例外もあるのか?」

 

「人の持ってるスペカを奪って発動とかは無理だけど、そのスペカを模倣することはできる。つまりは『パクリ』ってやつね。まぁ相当器用なやつにしかそんな芸当できっこないけど。」

 

「そういうことならそのカードはお前様が作ったんじゃろうよ。」

 

「ん?どういうことだ?忍?」

 

「寝相とか寝言とかと一緒じゃ。気を失っている間にそのカードの『イメージ』、つまりは設計図を渡され、それを具現化したんじゃろ。」

 

「寝相って……つまり僕は寝ながらコレを作ったってことか?」

 

「そういうことじゃ。」

 

「寝てる間にスペカ出来上がってるとか……相変わらず『鬼』ってのは何もかもが企画外よね……」

 

「よせやい照れるぜ。」

 

「いつ私があんたの事褒めたのよ。……はぁ、まぁとりあえずあんた達がメンタル修行全部すっ飛ばしてきた事はもうこの際何も言わないけど、あんたのそのスペカ、どう見ても未完成だから、それだけは絶対に制御できるようになってもらうわ。」

 

「制御……どうやってやるんだ?」

 

「知らないわよそんなの。言ったでしょ、スペルカードは個人専用の必殺技みたいなもんなの。だから制御なんて自分の勘でやるしかしかないのよ。普通は作りながら制御方法も調整していくわけだからそもそも前提が違うし。」

 

「え、じゃあ制御なんて無理なんじゃ?」

 

「ま、実践あるのみよ。とりあえず萃香とかフランとかその辺と……」

 

「ちょ、ま、」

 

「ヤイヤイヤイヤイ!!そこまでだ悪者め!お前のせいでアタイの友達が怖がって出てこなくなっちゃったんだぞ!アタイが退治してやるから覚悟しろ!!」

 

「え、誰……?」

 

「アタイの名前はチルノ!氷を司る『さいきょー』の妖精だ!」

 

なんだか元気のいい子が来たな。

 

 



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幻物語 拾ㇳ伍

Guten Tag.
K66提督です。

某イカのゲームをプレイしていたらいつの間にかこんなに
投稿の日にちが空いてしまいました……すみません!!

それでもなんとか今回分は書き終えましたので、お楽しみください!

それでは!『幻物語 拾ㇳ伍』!
どうぞ!


059

 

「あんた湖のバカ妖精じゃない。なんでうちの神社にいるのよ。」

 

「バカって言うな!アタイはそこにいる異変の犯人を退治にきたんだ!!」

 

「えっ、僕!?異変って、……あ」

 

妖精がいなくなったとかのあれかぁ……

 

「アタイの弾幕でギャフンと言わせてやる!!」

 

躊躇皆無。いきなり戦闘開始である。

 

「うお、冷たっ!?こ、氷!?」

 

「ちょうどいいからそのバカで弾幕の練習しなさいよ。どうせそんなに強くないし。」

 

ちょっ、本人の目の前でそういうことは……!?

 

「アタイは、『さいきょー』だっ!!!」

 

『氷符・アイシクルフォール』!!

 

「くそっ、逃げ道がない!?」

 

氷の弾幕に周囲を囲まれ、逃げ道を失ってしまう。

 

「ふははは!どうだ!あたいの弾幕は回避不可能なのだ!!」

 

く、このままじゃ……?

 

「……あれ?」

 

逃げ道を失い、死さえも覚悟したが、弾幕が僕に当たることはなかった。

氷の弾幕は僕の周りのみに打ち出されており、僕自身を狙っているものは一つもないのだ。

 

「どうだ!アタイの弾幕の怖さに身動き一つできないだろ!!」

 

「え、えーっと……」

 

「何ぼさっとしてんのよ。そんなのにスペカ使うまでもないでしょ。さっさとショット弾で墜しちゃいなさい」

 

「『ショット』?」

 

「はぁ……通常弾幕のことよ……もしかしてだけど撃ったことないとか……」

 

「ないです。」

 

「でしょうね……てかあんたショットもロクなスペカも無しでどうやってレミィに勝ったのよ……」

 

「んんん……と言われてもなぁ……」

 

あのときは僕の暴走で勝負そのものが曖昧になっちゃったし……

 

「ショット=通常弾幕!ようするに普段投げたら危ないものを相手が避けられないくらい大量になげればいいのよ!!」

 

危ないもの……大量にってことは具現化しやすい身近なもの……

 

「あ、」

 

なぜか、いや、必然だろう。

この時僕の脳裏には、僕が最も愛した女性の凶悪な笑顔が目に浮かんだ。

 

 

ショット・『殺意ある文具』

 

 

鉛筆、ボールペン、定規、コンパス、はさみ、ホッチキス、

万年筆、カッターナイフ、メジャー、彫刻刀、文鎮。

どれも僕がリアルに体験した危険な、マジで危険な文具たち。

それらを具現化し、弾幕にする。

 

「あー、なんかひさびさに見る光景じゃなぁ……」

 

忍さんが感慨深そうな表情を浮かべる。

そういえば忍さん、ケンカの時一度として僕の味方してくれませんでしたね……

 

「へへん!いまさら抵抗したってもう遅……ってあ、あれ?ぎゃああああああああ!?」

 

『ピチュ―――――ン。』

 

060

 

「いてててて……くっそー、ちょっとだけど油断したぁ~」

 

「あんたいい加減にそのスペカ使うのやめなさいよ、当たんないんだから。」

 

「あ、そうだ霊夢!なんでコイツ退治しないんだ!?最近になってやっと皆と遊べるようになったけどちょっと前までアタイの遊び相手が皆どっかに隠れちゃってたんだぞ!!」

 

「聞けよ。……なんで私があんたら妖精なんかの為に働かなきゃいけないのよー」

 

そういって霊夢は心底面倒くさそうな顔をして神社の中へ帰っていってしまった。

 

「待て霊夢―!!」

 

「ま、まぁまぁ、チルノ……だっけ?確かに紅魔館で暴れてたせいで妖精たちに迷惑かけちゃったのは悪かった。謝るよ。でもほら、今はこの通りおとなしいモンだからさ。許してくれないか?」

 

「む、そういえばあんた誰だ?よそ者がいきなり異変起こすなんて久しぶりだ。」

 

「僕の名前は阿良々木暦。吸血鬼のお兄さんだ。」

 

「アララ、ギコヨミ?変な名前だなー。」

 

「阿良々木、暦だ。暦でいいよ。よろしく、チルノ。」

 

いちまでも地面に寝転んでいるチルノの手をつかみ、引っ張り起こしてやる

 

「お?おぉ?……っと、サンキュー!お前思ってたより良いキューケツキだったんだな!コヨミ!」

 

なんだか『暦』の発音が違う気もするが、まぁいいだろう。

どうやら僕は無事チルノと和解できたようだ。

 

「チ、チルノちゃーん!大丈夫―!?」

 

『にっしっし』と快活に笑うチルノと固い握手を交わしていると、神社の鳥居の方から、また違う妖精ちゃんがフワフワと飛んで来た。

 

「おう、大すけ!あたいは大丈夫だ!それに喜べ大すけ!コヨミは私達の新しい遊び相手だ!」

 

「へ?」

 

え、いつ?まぁ、別に嫌じゃないんだけどさ。

 

「も、もう!チルノちゃん!その『大すけ』っていうのやめてよぉ!!」

 

「え~?でも大すけは大すけだろ~?」

 

「もぉーーー!!」

 

「えっと……?だ、だい……?」

 

「あ、ごめんなさい!私、チルノちゃんの友達で、大妖精といいます!どうぞよろしくお願いします!!」

 

「や、これはご丁寧にどうも。阿良々木暦と申します。どうぞよろしく。」

 

なるほど『大妖精』、それで『大すけ』か。

 

「なかなか良いネーミングセンスしてるじゃないか、チルノ。」

 

「ほれみろ大すけ。やっぱりアタイは天才だってさ!」

 

そこまでは言ってない。

 

「とにかく『大すけ』なんて男の子みたいな呼び方は嫌なの!暦さんもやめてくださいね!!」

 

「う、うん……えっと、じゃあなんて呼ぼうかな。」

 

「他の子達は『大ちゃん』って呼んでくれているので……」

 

「『大ちゃん』か……うん、わかった。じゃあ僕もそう呼ばせてもらうよ。」

 

「は、はい!」

 

「ん?ところで大すけ、アタイと一緒に裏山にいたのに何であっちから来たんだ?」

 

「あ、それは……」

 

『私の生徒に手を出したのは………』

 

「お?この声って……」

 

鳥居のほうから……殺気……?

 

「チ、チルノ?この殺気の主が誰か知ってるのか?」

 

とてつもなく濃い殺気、しかも恐らくこの殺気は僕に向けられている……

 

「じ、実は……チルノちゃんがピンチだと思って慧音先生を呼んできちゃったの……」

 

『貴様かぁぁぁぁぁああ!!!!』

 

頭に角を生やして怒る(比喩的表現とかでなく)女性が僕の方へ走ってく……る……!?

 

「おいおい、大すけ……死人が出るぞっ!!?」

 

えっ、僕死ぬの

 

061

 

『ズドンッ…………』

 

強く、重い拳が僕目がけて炸裂する。ガードが無かったら間違いなく顔に穴が空いていただろう

 

「ぐっ……」

 

「せ、先生!!待っ、」

 

「わかっているさ、大妖精、チルノ。怖かっただろう?

だがもう大丈夫。私が来た!!!」

 

「そ、そうじゃなくてぇぇ……」

 

「うおおお!!せんせーかっけぇ!!」

 

「もう!チルノちゃん!!!」

 

「二人とも退いていなさい。すぐに……終わらせる!!」

 

大きな煙を上げ、慧音先生が僕に急接近する

 

「っ!?やばっ……」

 

なんとか後ろに退こうとするも、石畳につまずいてバランスを崩してしまう。

 

「終わりだ!!鉄拳、制裁!!」

 

『ゴッ……』

 

『ガアアァァンン!!!』

 

大地の割れる音と衝撃が境内に響く。

 

「ちょっと!あんたら一体何やっ……て……け、慧音!?やばっ!?」

 

『ピシャッ』

 

神社のふすまが勢いよく開かれ、そして閉じられる。

おい巫女。

 

「…………?」

 

慧音先生が手応えがないのを疑問に思ったのだろうか、怪訝な表情を浮かべる。

 

「……ク、カカッ、この時を待っておったぞ。弾幕なんて周りくどいこと儂は好かんが、格闘戦なら大歓迎じゃ!!!」

 

いつの間に潜りこんだのだろうか、忍が僕の影から飛び出し、慧音先生の拳を受け止め、

お返しと言わんばかりに吸血鬼パンチを繰り出す。

 

『ドゴッ』

 

「くっ……何者だ!?」

 

「忍野忍。通りすがりの吸血鬼じゃ。覚えておけるものなら覚えておけ、半人半神獣!」

 

忍が凄惨な笑みでそう告げると、人の力を超えた者同士のぶつかり合いが始まる。

 

『ズガッ』 『ベキッ』

 

「半人……?どういう意味だ……?」

 

「『ワ―ハクタク』。慧音は半分は人間、もう半分が『白澤』っていう神獣の身体を持っているの。」

 

「霊夢。……さっきはどうしたんだ?いつもの感じなら僕ごとまとめてぶっ飛ばしててもおかしくないだろうに。」

 

「いくら巫女でも、いえ、巫女だからこそ神に近い存在である神獣を退治するなんて、恐れ多くてできないわよ……」

 

霊夢はそういうと半分諦めたようなため息を吐く。

 

「弾幕ならまだしも格闘戦じゃあねぇ……あれに手を出すのも中々覚悟がいるだろうし。」

 

視線の先には忍と互角に殴りあう慧音先生。

 

「なるほど……」

 

『ガッ』 『バチィッ』

『ドカッ』 『ゴッ…』

 

聞いているだけで痛くなってくるような音をたてて、

二人の戦いはヒートアップしてゆく……

 

「んで?あんた慧音に何したのよ。アイツがあれほど本気になるなんて滅多にないはずなんだけど?」

 

「ご、ゴメンなさい……私のせいなんです……チルノちゃんが異変の犯人……勘違いでしたけど、暦さんに一人で突っ込んでいってしまって。それでチルノちゃんが危ないって思って、戦いを止めてもらおうと呼んだんですが……」

 

「なるほど、戦いどころか息の根すら止める勢いってわけね。ったく、面倒事しか起こさないわねあんた。」

 

「痛い痛い。なんでスネ蹴ってくるんだよ。」

 

「懲罰。」

 

「解せぬ。」

 

「それよりもほら、そろそろ見どころみたいよ。」

 

「うおっしゃいけー!せんせー!!」

 

「あぁ、もうバ……チルノちゃん!」

 

「なかなかやるなっ!忍野忍よ!!」

 

「カカッ、貴様も流石はワーハクタクといったところか?」

 

「上白沢!私の名前は上白沢慧音という!!人間の里で教師をやっているものだ!

本気の私とこれほど殴り合えるヤツは久々で嬉しい限りだが、そろそろ終わらせてもらう!!」

 

『師符・体当たり教育(物理)』

 

スペルカードを宣言し、月の光のようなオーラを纏った慧音先生が今までのおよそ倍以上の速さで忍に突っ込んでいく。

 

バイノハヤサデ―‼

 

「身体強化のスペルカード!?」

 

「スペルカードはその製作者の戦い方で特性も変わってくるから格闘戦用のがあってもおかしくは無いわ。にしても慧音、あんなスペカを持ってたなんて……格闘戦で互角と認めた相手にしか使わないってことかしら……なんかむかつくわね。」

 

「なるほど、全力というわけかの?ならば……」

 

凄惨に笑う忍が懐から……スペルカードを!?

 

「こちらも本気で答えるのが筋、じゃろうな?」

 

『偽槍・スピア・ザ・グングニル・レプリカ』

 

「ふむ、ちと名前が長いかの。まぁ全盛期の儂ほどではないが。」

 

忍が宣言したのに応え、スペルカードが見覚えのある真紅の槍へと変化する。

 

「あ、あれって!?」

 

「あぁーー!!あれお姉様のーーー!!」

 

「あれ、フラン、いつの間に戻って来てたんだ?」

 

「なんか忍姉の妖気が急に膨れ上がったから急いで帰って来たの!!ねぇそれよりなんで忍姉がお姉様のグングニル使ってるの!?」

 

「ちょ、ふふ、フラン、頭揺らすのは、ああああああああ……」

 

「湖の吸血鬼の再現スペルか……いいだろう!受けて立つ!!」

 

「堕ちろ!!」

 

忍の力で射出されたグングニルが超高速で慧音先生を襲うが、少しかすめたところでぎりぎりかわす。

 

「ぐっ……」

 

「まだまだ終わりだと思うな……?」

 

『偽剣・レーヴァテイン・レプリカ』

 

「あぁぁ!!!今度は私のまでーー!!!」

 

忍がグングニルを避け、体勢を崩した慧音先生に

今度はフランの剣を持ち、襲い掛かる。

ていうかフランさすがにもう僕限界だからやめ、おrrrrrrrrrrr

 

「ぐっ……!?」

 

「ゲームセットじゃ!!」

 

『ズバンッ……!!』

 

「角がっ……!?く…………」

 

忍が慧音先生の角を断つと、慧音先生は気を失ってしまい、人間の女性の姿へと変化する。

どうやら決着がついたみたいだ。

 

062

 

「いやぁー!すまなかった!まさか既に解決済みの案件だったとは!」

 

「いや、こちらこそすみません……その……角を……」

 

「ん?あぁ、大丈夫、私の角は力を失わない限り何度でも生え変わるから、戦利品としてもらっておいてくれ。何ならそのまま売りに出してもらえば結構な値打ちになると思うぞ?」

 

し、神獣の角を売りに出すなんて恐れ多すぎてできないって……

 

「ちょっと慧音!あんたウチの神社の地面こんなバッキバキにしてどうするつもりよ!ちゃんと責任とって直しなさいよ!!」

 

「まぁ落ち着けって霊夢~、元々誰かが来るような神社ってわけでもないだろ~?」

 

怒る霊夢に萃香が火に油を、もとい酒を注ぐように茶々を入れる。

 

「…………萃香、今日の晩御飯無し。」

 

「えぇぇ!?そりゃないよ霊夢!!?」

 

「ならこれ、晩御飯までになんとかしなさい、あんたなら余裕でしょ」

 

「んえぇ~……?むぅ、わかったよ~」

 

「申し訳ない。伊吹殿。」

 

「あはは、いいよぉ別に。霊夢も言ってたけどホントに大した事じゃないから。」

 

「そうだ。それじゃあお詫びにこの前手に入った銘酒を今度お持ちするよ。」

 

「ほんとかいっ!?うへへぇ~やった。もうけもうけ~」

 

「でも萃香。どうやって直すんだ?」

 

「ん?あぁそっか。まだ暦には見せてなかったね。まぁ見てなよ。あ、これ持ってて。」

 

作業をするのに邪魔なのだろう。萃香から瓢箪を受け取っ!?

 

「お、重っ!!?なんだこの瓢箪!?」

 

「あっはっはっは!!そりゃ鬼の瓢箪なんだから鬼にしか持てない重さだよ」

 

鬼でも結構重いぞこれ……

 

「さて、じゃあ始めようかね。おーいそこの子鬼二人!そこにいると危ないぞー」

 

「誰が子鬼じゃ!!ぶっ飛ばすぞアル中!!!」

 

「ちょっと忍姉!まださっきのどうやったか聞いてないんだけど!!教えてよ!私もグングニル使いたい!!」

 

「ええいうるさい!儂は疲れとるんじゃ!」

 

取っ組み合いながらもふたりは仲良く影の中に潜っていった。

 

「なぁなぁ、大すけ、何が始まるんだ?」

 

「さ、さぁ……ていうか大すけやめて」

 

「じゃあ始めようか……」

 

ピリッ――――――――――――――――

 

「…………っ!」

 

萃香が息を一つつき、精神を集中させるとまるで周りの空気までも緊張するかのように静まりかえる。

 

『萃マレ。』

 

『ズ……ズズズズ……』

 

「すげぇ……」

 

萃香が操っているのだろうか、激しい戦闘で崩れた地面が次々と元の場所へ、あるべき姿に戻ってゆく。

 

「『密と疎を操る程度の能力』。それが伊吹殿の能力だ。あらゆる物質の密と疎、つまりは密度を操ることができる。」

 

「密度を……すごいですね。」

 

「あぁ、流石は酒呑童子様といったところだろう。」

 

「っと、ふい~。はい、おしまい。」

 

「流石だな、伊吹殿。」

 

「あー、もう、その『伊吹殿』ってのやめてやめて。むず痒くてしょうがない。萃香でいいってば」

 

「しかし……」

 

「あんたも半分は神獣なんだからドシッとかまえなって!とにかく私を呼ぶときは萃香だ。じゃないと返事してやんないからね?」

 

『ニシシ』と萃香はいたずらに笑う。こう見てるとただの幼女なんだけどなぁ……

 

「おーい暦、瓢箪返してちょ~」

 

「あ、うん。」

 

「えへぇ~お帰り私のお酒~、ヒック。」

 

これだもんなぁ……

 

「おーい!鬼ー!ここまだ直ってないぞー!!」

 

「チ、チルノちゃん!!あの人きっと偉い人だよ!?」

 

「何言ってんだ大すけ?鬼は人じゃないだろ?」

 

「そうじゃなくて……もう!」

 

「す、すまない伊、萃香さ、萃香……チルノにはあとでよーく言い聞かせておく……」

 

「いいっていいって!あのくらいのガキはあんなもんだよ!それよりあっちの緑の子の方がちょっと固すぎるぐらいさ。」

 

「それならいいのだが……」

 

「それじゃああそこも直さないとね~」

 

「あ、じゃあまた瓢箪持ってるよ」

 

「ほい、『.zip』~っと。」

 

「……は?」

 

萃香が空いた片手で土の塊を集め、元の地面に戻してしまう。

 

「ってzipファイル圧縮じゃねぇか!!さっきの大仰な能力発動の儀式的なのはなんだったんだよ!!」

 

「うーん……ノリ?」

 

ノリ……

 

「この適当さが理解できないうちは僕も鬼としてまだまだってことなのかな……」

 

「ねぇー、晩御飯できたけどー、終わったー?」

 

「あ……霊夢……」

 

「な、なによそのテンション……気持ち悪いわね……あら、ばっちり綺麗になってるじゃない。上出来上出来。」

 

「すまなかったな、霊夢。生徒の安全が脅かされていると思うとつい。もう少し場所をわきまえるべきだった。」

 

「……もういいわよ。この通り神社も元通りになったし。ほら、あんた達も上がりなさいよ。晩御飯、食べてくでしょ?」

 

「飯だーーーー!!!」

 

「もう、バカ……わ、私たちもお邪魔していいんですか……?」

 

「ここでダメって言うほど私も鬼じゃないわよ。いいから食べていきなさい。」

 

「……!ありがとうございます!!」

 

「ほら!全員土埃まみれなんだから、綺麗にしてきなさい!!女子は風呂!ごm……暦は井戸!」

 

「い、井戸!?この時間に!?死ぬって!!!ていうか今ゴミって言いかけただろ!字面が似てるからって気づかないと思うなよ!!」

 

「チッ……まぁあんたは吸血鬼で汚れしらずだから別にいいか……じゃあ食卓の準備するから手伝って頂戴。」

 

「もちろん。」

 

「んじゃあ私らは風呂だね。暦~覗くなよ~?」

 

「覗っ!?かねぇよ……驚かすなよ……」

 

それこそ慧音先生に殺されるって。

 



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幻物語 拾ㇳ陸

暑中見舞い申し上げますK66提督です。
いやぁ暑いですね、暑い。
皆さまは体調をくずされたりしていませんでしょうか、私は外にでないので(おい)
大丈夫なのですが、暑いなか、元気に外で遊ばれてらっしゃる方はくれぐれも熱中症にはお気をつけください。
吸血鬼でなくともアイツ(日光)は我々の敵です。

ではでは、ぜひ涼しい快適な空間で『幻物語 拾ㇳ陸』をお楽しみください!


063

 

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

「はいはい、お粗末様でした。」

 

「よし、それじゃあそろそろ帰ろうか、チルノ、大妖精。」

 

「ん、もう帰っちゃうのか?まだ7時半だし、もう少しゆっくりしていけばいいのに。」

 

「居候の分際で偉そうな事言ってんじゃないわよ。でもまぁ、ホントに少しくらいゆっくりしてってもいいのよ?」

 

「そうしたいのは山々だが……明日は授業があるからな、妖精二人も早く寝ないとな。特にチルノ。お前は授業中に寝過ぎだ。」

 

「う、いや、ほら、アタイってば天才だから?授業聞いてなくてもわかっちゃうし……」

 

「授業くらい聞いてないと試験で点数とれないぞ?チルノ。」

 

実体験だから、間違いない。

僕もひたぎと羽川がいなかったらどうなってたことか……

 

「あ、いや、阿良々木君。実はチルノは試験では満点以外とったことないんだ。」

 

「…………」

 

慧音先生の一言に部屋が静まりかえる。

 

「ん?どうした皆?」

 

「はあああああああああ!!!?」

 

最初に叫び声をあげたのは霊夢だ。

 

「このバカ妖精が毎回満点!!?教師が嘘つくなんてどういう事よ慧音!?」

 

「じ、実はうちの寺子屋の試験はすべて語群抜きか選択問題なんだが、どういうわけかチルノは全問外したことないんだ。」

 

「へへん!やっぱアタイってば天才ね!」

 

「いやもうそれホントに天才級だよ……」

 

なんという豪運……

 

「チルノちゃ……ん……ダメだ……よ……ちゃんとお勉強……しなきゃ……」

 

「おや、大妖精がもう限界みたいだな、よしじゃあ帰るか。チルノ、私がおぶっていくから大妖精の家教えてくれるか?」

 

「わかった!」

 

「それじゃあお邪魔しました。」

 

「気をつけて帰りなさいよ」

 

「そうだ阿良々木君、明日よかったら人里の寺子屋に遊びにきてくれ。生徒の中には妖精たちも何人かいるから君が安全な者だと紹介できる。」

 

「それはありがたいけど……いいのか?」

 

「そうよ、こんな変態を小さい子に会わせて大丈夫?」

 

「どういう意味だ。」

 

「はっはっは!大丈夫!もし生徒に手を出そうものなら………アトカタモノコラナイヨウコロス。」

 

目のハイライトを消し、角を幻視するほどの迫力で慧音先生は宣言する

 

「……大丈夫そうね。」

 

「元々問題なんてないけど、そうだな……」

 

「せんせーまだー?」

 

「あぁ、すまない、今行く。それじゃあそういうことで。」

 

「うん、また明日。チルノも、また明日な」

 

「ん?明日?明日も暦と会うのか?」

 

「明日は僕もチルノたちの寺子屋まで行くんだ。」

 

「おぉ!そうか!わかった、待ってるな!」

 

「ん、おやすみ。」

 

「霊夢、お邪魔しました。」

 

「はいよー」

 

「暦!明日お前にリベンジするからな!覚悟しとけ!」

 

「ははは……わかったわかった」

 

064

 

「小うるさい妖精がいなくなると一気に静かになるわねぇ……」

 

「ん?さみしいのか?霊夢。」

 

「はぁ、あんた妖精のバカがうつったの?んなわけないでしょ」

 

「あははは、なんだ霊夢~そうだったのか~?おいで~私と一杯やろうよぉ」

 

「だから違うって…………呑むけどさ」

 

「あれ、霊夢ってもう二十歳超えてたの?」

 

「は?失礼ね、私まだ十七なんだけど」

 

「じゃあ飲めないだろ。『お酒はハタチになってから』だ。」

 

「何それ。外の世界のルールか何か?そんなのココじゃ無視よ、無視。よそはよそ、うちはうち。」

 

「うーん……郷に入っては郷に従えか……」

 

「そういう事。何ならアンタも呑む?」

 

「あ、いや、僕は遠慮しとくよ、アルコールはどうも苦手で」

 

「ちっ、御神酒で浄化してやろうと思ったのに」

 

「怖っ!?隙あらば滅しようとするのやめて!?」

 

「だって仕事だし」

 

「おい巫女。あんまり儂の主様をいじめるのはやめてもらおうか。そんなんでも儂の運命共同体じゃ」

 

「お兄ちゃんただいまー」

 

「おかえり。どうだった?」

 

晩ご飯の最中ずっとフランに絡まれて、というか絡みつかれていた忍がとうとう折れ、食事が終わってから今までずっと外で具現化能力の練習をしていたのだ。

 

「うん!ばっちり!」

 

「ま、ぼちぼちじゃな。モノの具現化程度ならできるようにはなった。」

 

「へぇ。あ、今着てる服さっきまでと違うけどそれって……」

 

「うん!私が作ったの!可愛い?」

 

「可愛い。異論は認めない。」

 

これから眠るつもりなのだろう、黒色の猫耳フードのパジャマ(尻尾付き)を身にまとったフラン。可愛すぎるぞなんてことしてくれたんだ忍。本当にありがとうございます。

 

「齢百年を超えた大樹のように安定した気持ち悪さじゃなお前様よ」

 

「あのね、お兄ちゃん!私特訓のおかげで新しい弾幕も使えるようになったんだ!だから明日!私と弾幕ごっこしよ?!」

 

「え”っ!!?あ、で、でも明日は人里に行く約束が……あはは……」

 

「人里!?人里に行くの!?」

 

「え?うん……慧音先生の所に……」

 

「ほう、慧音か。普段は教師をやっているんだったかの」

 

よっぽど印象に残ったみたいだな、そこまで覚えてるのか。

こいつも変わってきてるのかなぁ。

 

「そうそう。だからその授業の見学をね。どう?」

 

「行く行く!私人里ってずっと行ってみたかったの!」

 

「まぁこんな神域にずっといたんじゃ窮屈じゃしのぅ、たまには結界の外にも出たいの。」

 

「じゃあ決定だな。霊夢、いいよな?」

 

「別にかまわないけど問題とか起こさないでよねー、あ、あと白菜と白滝、豆腐と……なんか鍋に入りそうな美味しそうなの買ってきて」

 

「え?鍋?」

 

「そ、鍋。最近寒くなってきたし」

 

「いいねぇ、ついでにお酒も頼むよ」

 

「お酒は慧音先生から貰うんじゃなかったか?」

 

「それはそれだよ、美味いモノは多いに越したことないからね」

 

「あー、はいはい。じゃあもう寝るよ、また明日霊夢に日光で殺されかけてもたまんないし」

 

「あっそ、おやすみ。せいぜい寝坊しないことねー」

 

部屋を出て寝室へと向かう途中、僕はふと月を見上げた。

 

「満月か……」

 

昼に起きて、夜に眠る。

人間だった、ひたぎが生きていたころは普通だったそんな習慣。

 

「まさかまたこんな日の光を浴びながら……はおかしいな、日の光を避けながら生活する日々がくるなんて、考えもしなかったなぁ。」

 

明日は我慢してほんの少しだけ、日光を浴びてみるのもいいかもな……

 

065

 

夢をみている。そんな自覚ができる夢。なんといっただろうか。

 

「それは明晰夢、だね。阿良々木君。」

 

忍野。

 

「でも本当に夢なのかい?本当はこちらが現実で、向こうの世界のほうが夢なのかもしれないよ?」

 

今どきの異世界物が夢オチでした。

で済むと思うなよ

 

「はっはー、そうだね、そりゃそうだ。……でもさ、阿良々木君。君が今居る世界。幻想郷だったかな?そこが現実だという根拠もどこにもないよ。それは全て幻で、くらやみに呑まれた君が『無』の世界で見ている夢かもしれない」

 

お前、いきなり人の夢に出てきて何を『中学2年生が初めて本気で悩む哲学』みたいなこと言ってんだ。寝られなくなるやつだろうが、それ。

せっかくの明晰夢なんだからひたぎとか羽川とか、みんなが出てきてくれればよかったのに。

 

「そうつれない事言わないでくれよ阿良々木君。それで、君にとってのこの世界。どう思っているんだい?」

 

幻かどうかって話か?

―――本物だよ、どれも。

ここに来て間もないのに出会ったみんな僕を遠ざけたりしなかった。

みんな態度に違いはあれど段々僕をここの住人として認めていってくれている気がする。仮にこの世界が幻だったとしても、もうみんな僕の心の一部として刻まれている。

まだそんなに時間がたったわけじゃないけど、僕はこの幻想郷が好きになったよ。

 

「そう。それならいいんだ。―――君ならきっとこの場所を守れるだろう。」

 

は?何を言って……?

 

 

 

―――しかし僕が覚えている会話はそこで途切れてしまった。

 

 

066

 

霜月一日。妖怪の山山頂、守谷神社。

 

「おかえりなさいませ。神奈子様、諏訪子様。」

 

「うむ、神社の番、ご苦労だった。」

 

「ただいま早苗ー、元気だったかい?」

 

現人神、東風谷早苗。

山神、八坂神奈子。

土着神、洩矢諏訪子。

 

それぞれ、この守谷神社を守護する神である。

 

「それで早苗、私がいない間何か変わったことは?」

 

「あ、はい、えっとですね、外来から新しく幻想入りした方が二人。なんでも吸血鬼だそうです。」

 

「ふむ、吸血鬼か。おい、やはりここに来てるみたいだぞ。」

 

早苗の話に頷き、後方のもう一つの影に話かける。

 

「……?神奈子様、そちらは……?」

 

「あぁ、まだ紹介してなかったな。最近知り合った外界の神でな、なんでも蛇神を喰らって神になったらしい。」

 

「へ、蛇神様を、ですか……」

 

「まぁ対して強く力を持っているわけでもない、せいぜい人の潜在意識に潜り込む程度のことしかできないような神だったみたいだけどな。」

 

「そうなのですか。えっと、東風谷早苗と申します。ここ守谷神社の巫女と現人神をやらせていただいております。失礼ですがお名前をお伺いしても……?」

 

「これは失礼、初めて会った方に自己紹介を忘れるなんてなんたる不覚。それでは失礼して。ここ数十年、外の世界の小さな町で道標の神様、みたいな事をやらせてもらってます。

 

 

「私の名前は『八九寺』、『八九寺真宵』と言います。」

 



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幻物語 拾ㇳ漆

よいてーこしょ!
K66提督です。

さて、傷物語の熱血パワーで最近のペースに比べると、割りと早めな投稿に
なりました?なってます?なっててください。なってることにしましょう。(やばい、短いだけかもしれない)

前回に続き、お喋り回となってしまいましたが、

ぜひ『幻物語 拾ㇳ漆』!お楽しみください!


067

 

昔の偉い人は言った。『早起きは三文の徳』。

三文とは現在の価値で言えば約90円。つまり、朝早く起きることによって、

毎朝90円分の得をすることができるというわけだ。

ここで僕は皆さんに問いたい。

 

90円、欲しいか?

 

と。

正直僕はいらない。むしろ100円払ってでも長く寝たい。

だから僕はここに宣言する。

宣戦布告する。

 

「おはよう、そしておやすみ。」

 

「さっさと起きろ!!!!」

 

『神技・八方龍殺陣』

 

「ぎゃあああああああああ!!!?熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!」

 

「ちっ、前に使ったときよりも耐性がついてるのね……そのまま消えろぉ!!」

 

「ごめんなさい!!起きた!起きました!だから止めてホントに消えるぅぅぅ!!」

 

あ、やばい……目が霞んできた……

 

「お~い霊夢~、そのへんにしときなって~早くご飯にしよ~」

 

「ふぅ、それもそうね、あんたもすぐ支度して朝食済ませなさい。今日、人里行くんでしょ」

 

「アイ……」

 

ありがとう萃香……なんとか消滅せずにすんだ……

 

「なんじゃい朝っぱらからうるさいのぅ……」

 

「お兄ちゃんおはよー!!」

 

「おはようフラン、忍」

 

影から半身を出す幼女二人に朝の挨拶を捧げる。

 

「しかしこうやって見るとホントの姉妹みたいだなぁ」

 

眩しいくらいの金髪に、見た者全てを虜にする可愛らしい顔つき、そして愛くるしい幼女体型。

 

「最後のはお前様の趣味じゃろ」

 

「モノローグにリアクションをするな、あれは一応僕の心の声って設定なんだぞ」

 

知るか。儂だってその気になればこのくらい。

 

おいやめろ。僕だけの空間に入り込んでくるな。

 

「お兄ちゃんたち何の話してるの?」

 

「いや、何でもない。」

 

「それより今日人里に行くんでしょ!?早く行こうよ!」

 

「まぁ待ちたまえフラン。まずは朝ご飯を食べて」

 

「ついでに昨日の特訓の時に外した『睡鵬』をもう一回付け直さんとな。ある程度感情のコントロールが出来てきているとはいえ何かあっては遅いからの。」

 

「以外とフランのこと真面目に考えてやってくれてるんだな……お前……」

 

「んなっ!?わ、儂はただ面倒事起こされても困るだけじゃし?別に気にしてなんかないし!?」

 

ツンデレいただきましたー、ごちそうさまです。

 

「まぁ、とにかくまずは朝ご飯だ。人里についてはまた食べながら話そう。」

 

そろそろ行かないとまた霊夢に怒鳴られるしな。

 

068

 

「お、この魚美味いな、なんて魚?」

 

「さぁ?今朝珍しく紫が来て置いてったのよ。ホントあのクラスの妖怪共は皆気まぐれで面倒くさいったらありゃしない」

 

「何って、サンマだろ?これ。」

 

ちょうど今が旬の秋の魚だ。

おろし大根と醤油と合わせるともう最高。

 

「サンマ?へぇ。聞いたことないし、外の魚なのね。」

 

「いやいや聞いたことないわけないだろ。サンマだよ?サンマ。秋が旬の海の魚。」

 

「お兄ちゃん私知ってるよ!『ファ―――――wwww』ってやる人だよね!!」

 

「それは明石家。むしろ何故そっちを知っている。」

 

まだ幻想入りするような人でもないだろうに

 

「海の魚なんて言われても、幻想郷には海なんて無いし。」

 

「えっ、そうなの?」

 

そいつは不憫だな……

 

「海には美味しい食べ物がいっぱいあるのになぁ……」

 

「吸血鬼からしたら海なんぞ無い方が都合がいいわい。」

 

あれ?でも海が無いのになんで塩とかがあるんだ?

 

「私が時々外から幻想入りさせてるからですわ。」

 

「うおわぁ!?ゆ、紫さん!?」

 

「ふふ、お久しぶりですわ、暦さん。」

 

「ちょっと紫、出てくるのはいいけどテーブルの上に出てこないで。邪魔。」

 

「あら、失礼。」

 

「ところで紫さん、幻想郷に海が無いっていうのは本当なんですか?」

 

「嘘言ってどうすんのよ」

 

「ええ、本当です。」

 

「それはまたどうして?」

 

「なんとなくです。」

 

「え?」

 

「だって生態系の管理が大変でしょう?地上でさえルールを守らない野蛮な雑魚妖怪たちで溢れているというのに海なんて作ったらどうなるかわかったもんじゃありませんわ。」

 

「迷惑なヤツがいたら妖怪だろうが人間だろうが私が容赦しないけどね。」

 

「それに海を作らないことで先ほど暦さんの言ったお塩。これが独占できるでしょう?

これを市場に流す量を調整することである程度の経済管理もできますのよ。」

 

なるほど。よく考えられてるなぁ。

ちなみに心の中で思ったことなので『言った』とかの表現はちょっと。

 

「何ですって!?じゃあこの間まで塩が高かったのは……!」

 

「私があまりお塩を流さなかったからでしょうね」

 

「そんな……うちの家計が紫なんかに踊らされていたというの……?」

 

「『なんか』って……幻想郷の頂点だろ……」

 

「うふふ、また塩の値段上げてやろうかしら?」

 

それは僕たちの食事にも影響出そうなんでやめてあげてください。

 

069

 

『怪異・一反木綿』

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「そういえば寺子屋行けば妖精騒動も収まるみたいな話になってたけどアンタ達これからどうすんのよ。異変が解決するならアンタ達をここに縛り付ける意味もなくなるわけだし」

 

霊夢スペカの件忘れてない……?

 

「とりあえずおつかいも頼まれたし今日はまだここにご厄介になろうと思ってるけど」

 

鍋食べたいし。

 

「あっそ。まぁ別にいいけどウチだっていつまでも居候を置いておくつもりもないからね、里に行くついでになんか考えときなさいよ。」

 

ふむ……それもそうだな……

 

「わかった、なんとかしてみる。」

 

「ま、アテがなければまた紅魔館じゃな。」

 

「お兄ちゃん達またお泊りするの?いいよ!」

 

「あくまで最後の手段かな。」

 

僕達もそろそろ幻想郷での住まいを構えるべきだろう。

 

「霊夢、人里って不動産とかないの?」

 

「フドウさん?……いや、そんな人はいなかったと思うけど。」

 

「お、おう……」

 

しまったそのレベルか……

 

「あ、間違っても人里で暮らそうとか言うんじゃないわよ?」

 

「え、なんで?」

 

「アンタ人里がなんで人里って呼ばれてると思ってんのよ……やめてよね、妖怪が里に入るってだけで不安がる人も少なくないんだから」

 

「え、でも慧音先生のとこには人も妖怪もいるんだろ?」

 

「それはまだ幼いっていうのもあるしなにより慧音の人徳のおかげ。他の妖怪はちゃんとバレないように人里うろついてるんだから。余計な波風立てるんじゃないわよ。」

 

「はい。」

 

「ねぇねぇお兄ちゃん!早く!早く行こ!!」

 

「待って待って、じゃあ行って来ます」

 

「はいはい、いってらっしゃい。」

 

「お前様よ、安全運転で頼むぞ。」

 

前回のが堪えたか……?

 

「ははは、魔理沙も乗ってないし大丈夫だよ」

 

よし、途中で思いっきりとばしてやろう……

 

070

 

「………………」

 

「悪かったって忍。そろそろ機嫌直せって」

 

「許さんわ!人里は怪異であることを隠さなきゃいかんとか言って儂に睡鵬を使ってまでまさかあんなつまらん事をするとはな!!絶対に許さん!!」

 

「いやー。正直睡鵬の件はすっかり忘れてたというか……」

 

阿良々木暦、睡鵬を使ったことを忘れた状態でジェットコースター並みのアクロバット飛行を遂行する事案が発生。忍ちゃん大激怒。

 

「忍姉可愛かったねぇ、『ぴゃああああああああああ!!』って!」

 

「黙れフランドール!!貴様は終始このバカにしがみついておったから安全じゃったんだろうがな!少し離れて座っておった儂は本当に死ぬ所じゃったんじゃ!!」

 

「だから機嫌直せって……なんか人通りも増えてきたし、多分そろそろ人里着くぞ?」

 

「……チッ、まぁ儂は寛大じゃから?お前様の態度次第では許してやらん事もないな?」

 

「はいはい、何すればいいんですかー?僕は忍さんの従順な下僕ですよー」

 

元は本当にそうだったから洒落にならないな

 

「そうじゃのう……よし。お前様……今日1日の間、『断る』事を禁止する!」

 

「は、ええぇえ!!?」

 

「返事は『はい』か『yes』じゃ」

 

「WRYYYYYYYY!!!!!!最っ高に『はい!』ってやつだアアアアハハハハーッ!!」

 

「黙れ。急にどうした。」

 

殴られた。真顔で

 

「いや、吸血鬼として、エンターテイナーとしてやっとかなきゃいけないかなって」

 

「今の咲夜がやってるの見たことある!!」

 

「時間止められるし、何か通じて思うことがあるのかな?」

 

「さぁの。それよりほれ、どうやら到着のようじゃぞ」

 

「おぉっ、」

 

ここまでの道もそれなりに人の通りやすいように整備されていたが、やっぱり全然違うな。

 

「明らかに『人が住んでる』って感じだな。」

 

「儂とフランドールの睡鵬が解けん程度までは吸血鬼性を弱めておけよお前様。問題を起こせば腋巫女に即退治されるぞ」

 

「弱めるって言ってもなぁ……どうやってやろう?」

 

「何か存在力を分散できる物を作るか、ここで何回か死んでおくか、じゃな。」

 

二つ目は聞かなかったことにしよう……

 

「存在を分散かぁ……なんかヴォル○モートみたいだな」

 

存在を分散……分身……『もう一人の僕!!』なんつって、

 

「あ、そうじゃん。」

 



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幻物語 拾ㇳ捌

すらまっぱぎー、K66提督です。

ペースを上げようと頑張ったらむしろ遅くなってしまうという……
情けないです……

前回に比べると少し長めになっています。

皆さまにも満足していただける内容になってればいいな、と思います!

それでは『幻物語 拾ㇳ捌』をお楽しみください!


071

 

―――――それでですね、やっと見つけた翼先輩がどうしていたかというと……」

 

「おいお前様。『分身を作る』という案を出した儂が言うのもなんじゃが……さっさと消してくれんか、ちょーうざいんじゃが。」

 

「ひどいなぁ、忍ちゃんは。せっかく私も顕現したんですから。せめて今日一日は自由にさせてもらいます。まったく、忍ちゃんは可愛いなぁ。影の中に入れても痛くないくらいだ。」

 

僕の吸血鬼性を抑えるにあたって、僕は分身を作りだした。

僕こと『阿良々木暦』の分身、つまりは『忍野扇』である。

 

「ええい、わかったからやめろ!いつまで儂を抱いておるつもりじゃ!!」

 

「ねぇねぇ、お姉さんは誰なの?」

 

「ん?あー、そういえば貴女とは初対面でしたね、私は忍野扇といいます。フランドール・スカーレットさん。どうぞ扇ちゃんとお呼びください。」

 

「オウギ……ちゃん……?」

 

「ええ、ええ。そうです。」

 

「んで?扇ちゃん。さっき言ってた羽川が―――って話の続きは?」

 

「え?知らないんですか?阿良々木先輩。他ならぬ私が知っているのに?」

 

「知らねぇよ。今の話は君が『忍野扇』っていう一人の人間になった後の話だっただろうが。

君が羽川を世界中にわたって追いかけ回してた時の」

 

「黙りなさい、この愚か者めが。私は翼先輩を追いかけてなんていません。私の行く所に必ず翼先輩がいるってだけです。先回りされているだけです。」

 

「そうかよ」

 

まぁ、この子には反論しても勝てないだろうから別にいいや

 

「それで……なんでしたっけ。あぁ、そうです。翼先輩の話ですね、えぇっと……あれです。あれはどこの国だったか、とにかくその場所で翼先輩を見つけた時、そこにもう『羽川翼』はいなかったんです。」

 

「お、おい、つまりそれって……」

 

「いやいや、別に亡くなったりしませんよ?むしろ幸せそうに、彼女は『家族』と一緒に笑ってましたから。」

 

「…………は?」

 

「結婚してました。翼先輩。エピソード君と。」

 

「はああああああああああああ!!!?」

 

「やっぱり普通じゃないですよね、あの方は。自分を殺しかけた人、というかヴァンパイアハーフと結婚するとか。文字通り腹を割った仲ってことなんですかねぇ?」

 

「え、エピソードってあのエピソードだろ!?なんでアイツがっ!?ぼ、僕は何も聞いてなかったぞ!!?」

 

「いやいや、阿良々木先輩。なんで翼先輩が結婚するのに貴方にいちいち報告しなきゃいけないんですか。あの方の人生はあの方が決めるものでしょうが」

 

「いや……でも……」

 

「もういいでしょう、少なくとも翼先輩は幸せそうでしたし、幸せと言っていました。彼女が阿良々木先輩に何の報告も入れなかったのは相手がエピソード君で、心配が先輩、もとい先輩が心配すると思ってでしょう。」

 

幸せ……か……

 

「あ、寺子屋とはあれではないですか?阿良々木先輩。」

 

「え?あ、あぁ、ホントだ。多分あれだよ。」

 

いや、間違いなくあれだろう。

 

「あれじゃろうなぁ」

 

そこには、神獣の角と思われる装飾のついた、立派な門を構える建物があった。

 

「趣味悪いですねぇ」

 

君もまともなセンスを持っているとは限らないぞ。扇子は持ってそうだけど。

 

072

 

「よく来てくれた。歓迎するよ、阿良々木君。」

 

「おはようございます。慧音先生。」

 

「おいおい、君は私の生徒ではないだろうに。もっと気軽に、慧音でいいさ」

 

「よう、来てやったぞ、慧音。昨日ぶりじゃな。」

 

「やぁ、昨日ぶり。フランドールも。」

 

扇ちゃんに抱えられる忍と僕の背中にへばりつくフランと順にしっかり目を合わせて挨拶する慧音先生。

 

「それで、そちらは……」

 

「どうも初めまして、私は忍野扇といいます。上白沢慧音さん。半人半神獣だなんて中途半端な存在、私からしたら非常に歯がゆいのですが今日のところは何も手を出さないでおくので安心してください。」

 

「忍野……つまりは忍さんの血縁か何かか……?それに私がワーハクタクだということは……」

 

慧音さんは僕に疑問と疑念の織り交じった視線を向ける。

なんで君はそう胡散臭い自己紹介しかできないんだ、扇ちゃん。

 

「僕が教えたってわけじゃないんですけど、その……僕が聞いたということは、扇ちゃんが聞いたということでもあるというか……」

 

「は?」

 

「『阿良々木暦』と『忍野扇』。イコールではないんですが、ええっと、なんて言えばいいのかな……」

 

「私は言うなれば『阿良々木暦』の嫌な所、なんですよ慧音さん。」

 

「…………」

 

僕は沈黙する。

 

「曲がったことが嫌いで、嘘が嫌いで、ご都合主義が嫌いで、自分が、嫌い。」

 

嫌いと嫌いが嫌いで嫌いの嫌いへ嫌いな嫌いは嫌いを嫌い。

 

「扇ちゃん……」

 

「私は阿良々木先輩が切り離した自己嫌悪と自己犠牲でできているどこにでもいる女子高生です。上白沢慧音さん。」

 

「そうか……、しかしまぁ、理解した。よろしくな、忍野扇さん。」

 

「おや……意外ですねぇ、ここまで正体を明かしてもあくまで友好的に接してこられるとは。大抵の方は不気味がるんですけどね。」

 

「ふむ、しかしまぁ安心したまえ扇さん。君はこの幻想郷において、およそ特別というわけではないよ。」

 

「はぁ。」

 

「私だって二重人格のようなものだし、自分も他人も隣人も友人も恋人も、全てが嫌いで気味が悪くて君が悪い。そんな事を言う奴がたくさんいる。それでも皆そんな自分を、そしてそんな周りを受け入れて生きている。

 

『幻想郷は全てを受け入れる。』

 

歓迎するよ、扇さん。ようこそ幻想郷へ。」

 

073

 

「つまりここはこうなるのがそうなるので……」

 

「せんせー!もう時間でーす!」

 

「む、そうだな。じゃあ今日の授業はここまで。今言ったところ、明日までにしっかりできるようにしておくこと!」

 

「「「はーい!」」」

 

久しぶりに学校の授業ってのを見たなぁ……

 

「お待たせ暦。どうだった、幻想郷の授業は」

 

「慧音さん。」

 

「うーん……君の方が圧倒的に年上なんだし、敬語もできればやめて欲しいんだが……まぁいいだろう。で、どうだった?」

 

「あ、はい、なんだか懐かしい感じになりました。それに妖精の子たちも案外すんなり僕のこと受け入れてくれたみたいで、嬉しいです。」

 

「ははは……そのようだな……」

 

「ねぇ暦!アンタ吸血鬼なんでしょ!?じゃあ湖の吸血鬼とどっちが強い!?」

 

「…………。」

 

「ちょ、ちょっとサニー!その湖の吸血鬼の妹がすっごいこっち見てるんだけど!?」

 

「おい暦!昨日の約束どおりアタイと勝負しろ!!今度は負けないからな!」

 

初めは皆警戒していたのだが、(突然吸血鬼が三人もやってきたのなら当然だ)チルノが話かけて来てくれたお陰で、僕や忍、フランに対しての警戒が少しずつほぐれていった。

 

結果、現在僕はジャングルジム状態である。

阿良々木=ジャングルジム=暦。

 

「あの阿良々木先輩。私は吸血鬼じゃないはずなのに何で私だけ警戒度数が下がらないんでしょうか。おかしいですねぇ、不思議ですねぇ。先ほど慧音さんの言っていたことと全然違う気がするのですが」

 

「本能じゃねぇの?」

 

きっと生物としての本能が扇ちゃんを危険だと判断しているのだろう。

正しい判断である。

 

「幼い者の方が聡いというのはよくある話じゃ。まぁこいつは常にウザさが滲みでとるからの、危険でなくとも近寄ったりせんわい。」

 

「なるほど、あー、傷ついちゃったなー、なんか騙されちゃった気分だなー。帰ろっかなー。」

 

「え、帰るって……それは困るよ扇ちゃん。」

 

それじゃそもそも君を呼んだ目的が……

 

「いや、もう決めました。帰ります帰ります。先輩の中に。吸血鬼性?知りませんよそんなの。自分でなんとかしてください。ふふ、――――まぁ私も阿良々木先輩も、『自分』なんですけどね。」

 

そう言って扇ちゃんは闇へと消える。

影ではなく、闇へ。

 

心の闇へと――――忍野扇は、消える。

 

それはもう、心底楽しそうに。

 

「――――ヒッ……!?」

 

「ん?みんなどうしたんだ?」

 

「あー、えっと……マズいな、」

 

僕を遊具にして騒いでいた妖精、妖怪の子たちが、揃って慧音さんの後ろに隠れてしまう。

突然吸血鬼性が戻ってしまったせいでやはり恐怖が生まれてしまったようだ(チルノはくっ付いたままだが)

 

「あ、阿良々木君……」

 

「すみません慧音さん。なんとかするんでそれまでその子達を安心させてあげてください。」

 

「あ、あぁ、わかった。元からそのつもりだ、任せてくれ。」

 

チルノをはがし、子供達を慧音さんに任せ、僕達は一旦教室を後にする。

 

「さて、どうしたものかな……」

 

「どうしようもこうしようも、あいつではない別の何かを作るしかないじゃろ」

 

「別の何か……ねぇ……」

 

「なんじゃ、気が進まんのか?」

 

「気が進まないと言えば……まぁその通りなんだけど……」

 

「だったらさっさとやればいいじゃろ。ほれ、後輩でも先輩でも幼馴染でも妹でも姉でも幼女でも少女でも童女でも熟女でもなんでもいいからさっさと作ればよかろうよ。」

 

「なんで女の子限定なんだよ。」

 

正確には熟女は女の子に含まれるのか微妙だが。

 

「扇ちゃんはさ、もう存在してるから、存在させてしまったから今更何も後悔とかしてないよ。でもその……僕の都合の良いように、僕の都合の悪いことを押し付けるためだけに命を生み出してしまうっていうのは、どうなのかなって……」

 

都合良く、目を背け、棚にあげて、全てを忘れて、押し付ける。

そんな相手をこれ以上増やしてはいけないし、そもそも一人として作るべきではないのだ。

自分の責任は自分にしかとれないのだから。他の誰かに肩代わりなど、してもらうべきではない。

 

「ふむ……まぁ確かにこれ以上忍野扇みたいなウザいのが増えるのは迷惑というか、うむ、ウザいの。」

 

そんなウザいウザい言わないでくれよ……あの子も僕の一部なんだ……

 

「しかしてどうするよお前様。分身を作るのが嫌だというなら何か代案を考えなくてはいかんじゃろう」

 

「結局ふりだしに戻る、かぁ……」

 

『なぁ……あれって……』

 

『やだ、妖怪……?』

 

しまった、里の人達も気づき始めてしまったようだ

 

「まずいな……このままじゃパニックになるぞ……」

 

「ん……いや、お前様よ。ここはいっそパニックになってもらった方がよいのかも知れんぞ?」

 

「は?おいおい忍、いいわけないだろ。そんな事したら霊夢に……」

 

「そう、異変になればあの巫女が制裁に来る。むしろそれが狙いなのじゃ。」

 

な、何を言って……?

 

「おいフランドール。たしか紅魔館では食事で人の血を摂る時もあるんじゃったな?」

 

「え?う、うん。たしか里の人達から貰ってるって咲夜が言ってた気がするけど……」

 

「ここで一つクイズじゃ、お前様。人間とは言っても悪魔の館に住んでいるあのメイドは一体何故、どうやって、血液なんていう本来販売されているようなモノではない品を手に入れられると思う?」

 

「え、だからそれは、きちんと相手の同意を得て、それ相応の対価を支払って、つまりは取引をして血を手に入れているって話だっただろ?」

 

「では悪魔の従者であるあの女は何故儂らのような扱いを受けず、正当な契約を結べたのかのぅ?」

 

「それは……えっと……」

 

「――紅魔館の住人が一度私に退治されているから。でしょ?」

 

突如聞こえた声の主は、紅白の巫女服に身を包み、僕達の頭上を浮かんでいた。

 

074

 

「れ、霊夢!?」

 

「はぁ……だからバレんなってあれほど言ったでしょーが……見たことない妖怪が里に居たりすると皆大騒ぎして私の所に連絡よこすから、こうして来ないわけにはいかなくなんのよ。ホント面倒ったらありゃしない……」

 

妖怪退治してお賽銭が増えるってんなら喜んでやるけどさ……

と愚痴を垂れる。

 

『み、巫女さん!そいつ妖怪だろ!?早いとこ追っ払っちゃってくれよ!』

 

どこからかそんな声が聞こえた。

ヴァンパイアハンターに追われていたときに散々受けていたがやはりはっきりとした拒絶というのには堪えるものがあるな……

 

「……ま、そういうわけだから、適当に弾幕戦やっちゃえば皆安心して騒いだりしなくなるから。早いとこ終わらせちゃいましょ」

 

「た、退治されろってことかよ……?」

 

「うん。忍の予想どおり、私が退治した妖怪には里の人間から無害認定、というか悪く言えば嘗められる。『コイツが暴れても博麗の巫女に任せればどうにでもなる』ってね。まぁよっぽど情けないやられ方でもしない限り大丈夫だろうけど。」

 

「怪異は、妖怪は人々に畏れられてこそ存在できるんだぜ?嘗められるなんてたまったもんじゃない。」

 

「だからそうならないようにせいぜい私に本気を出させてみなさいよ、博麗の巫女といい勝負をしたって箔が付くわよ?」

 

「箔……?」

 

「そ、人間から妖怪、妖精、神様に至るまで、博麗の巫女を知らない奴はそうそういない。

私を苦戦させたってのは妖怪達にとっての一種のステータスみたいよ?私も最近知ったんだけどね。レミリアとかはそういう理由でまだ少しは恐れられてるみたいだし。」

 

「ステータス……」

 

「ま、結局どいつもこいつも弾幕ごっこで遊びたいだけ。どうせアンタ達の事だって本気で怖がってなんてないのよ。」

 

娯楽、お遊び、ゲーム。見せ物よ。

 

お気楽そうに笑う霊夢の周囲に、もはやお馴染みの御札、そして対極図を立体の玉状にしたような物が複数現れた。

初めて会ったときにはなかった武器だ。恐らくあれが妖怪退治に臨む時の霊夢の正しい装備なのだろう。

 

「さて、ギャラリーも集まってきたことだし、そろそろ始めましょうか」

 

「忍、今回の勝負、僕に任せてくれないか。試してみたいこともある。」

 

「好きにせい、どのみち儂は弾幕は好かん。」

 

僕は忍とフランを安全な位置まで下がらせる。

 

「お兄ちゃん、頑張ってね!!」

 

「あの玉、札よりも高い退魔の気を感じる。札の方はいくつか当たっても痛いで済むじゃろうがあれは全力で避けた方がよい。不死性ごと削りとられかねんぞ。」

 

忍とフランに目で返事を返し、僕は気を引き締める。

退治されてしまえば無害認定を受けられる。しかし、誇り高き吸血鬼として簡単にやられるわけにはいかないだろう。怪異は『らしく』あれ。だ。

 

「そういえば前に勝負したときはアンタじゃなくて忍が相手だったわね。せっかくだし修行の成果、見せてもらおうかしら!!?」

 

「っ!!!」

 

『霊符・夢想封印』!!!

 

大捕り物、紅白巫女の吸血鬼退治は彼女のスペルカード発動と同時に開幕した。

 

 



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幻物語 拾ㇳ玖

お久しぶりです。
K66提督です。
前回の投稿から2週間と少しが空いてしまい、申し訳ない限りです……

苦手な戦闘描写ということで毎日頭痛に耐えながら
なんとか文字に起こすことができました。

暦と霊夢がかっこよく見えれば嬉しいです。

それでは『幻物語 拾 捌』お楽しみください!


075

 

『神技・八方龍殺陣』!!

 

「ぐっ!!」

 

きつい……!!けど……まだいける!

 

「油断大敵!!」

 

境界『二重弾幕結界』!!!

 

『うおおおおぉぉぉぉ!!!』

 

霊夢のスペルカードが発動するたびに、ギャラリーから歓声があがる。

 

「い、痛ええぇ!!!!!!」

 

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

足が溶けたっ…!!

 

「ったく、スペカ当たっといて当然のように耐えないでくれるかしら?大人しく絶えなさい!!」

 

今度はスペルカードではなく、さっきの陰陽玉が襲い掛かってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「避けろお前様!」

 

簡単に言うな……っ!!

 

避けろっ、その為には……っ

 

「まずは治れっ……!!」

 

不死力ごと破壊された右足に吸血鬼性を集中させ、回復させる。

 

『一反木綿』!!

 

着ている服に一反木綿を憑依させ、飛行する。

 

『あぁーー!!惜しいーー!!?』

 

またしてもギャラリーが盛り上がる。

まるっきり娯楽の感じだなっ、くそっ!!

あの辺とか賭けてんじゃねぇか!!

 

「あぁ、もう!!回復とかチートよチート!!」

 

「僕からしたらお前の力のがチートだよ!!」

 

ショット・『殺意ある文具』!!

 

「遅い遅い!!」

 

さっきからなんとか余裕を見つけてショットで反撃しているが、その全てが撃ち落とされるか避けられてしまう。

 

「やっぱりスペルカードじゃないとまともなダメージは入らないか……」

 

「ん?そんなことないわよ?全部使いようね。」

 

「なっ、後ろ!!?」

 

今の瞬間まで正面にいたはずじゃ……!?

 

「博麗の奥義、『夢想天生』。そのちょこっとをお披露目したのよ。完全版が見たいって言うなら、さっさと私を本気にさせてみなさいな!!」

 

ショット・『封魔針』

 

「まだショットが……!?っぐうぅぅ!!」

 

御札や陰陽玉と違い、隙間なくびっしりと撃たれる針は避けようがなかった。

避けるのすらままならないんじゃ反撃するなんて無理だ……!

 

「阿良々木君!そうではない!『避けてから攻撃する』のではなく、『攻撃しながら避ける』んだ!幸い君達吸血鬼の耐久性は高く、多少のダメージは耐えることが出来る!とにかく攻めろ!!」

 

「ちょっ、慧音!!アンタどっちの味方よ!!」

 

「私は、頑張っているヤツの味方だ!!」

 

「慧音さん……!」

 

「ふ、ふーん、あっそう。じゃあ私はコイツより頑張ってないってわけね……」

 

さっき巫女としての仕事めんどくさいって言ってたしな……

 

「あぁ、わかったわよ!ちょっと暦の実力を測って遊んでやろうと思ってたけど真面目にやってやろうじゃないのよ!!」

 

『大結界・博麗弾幕結界』!!

 

「しまっ、閉じ込められた!?」

 

「ふっふーんだ。はい私の勝ち。いくら不死身でも死に続ければそのうちピチュるでしょー」

 

『ピチューン。』

 

『ピチューン。』

 

曖昧な、しかし確実に残りの命を削られてゆく感覚。

所詮『ごっこ遊び』なので本当に死ぬことはない。

しかしこれは…………

 

「殺され続けるというのは身体によりも精神に大きなダメージを与える。果たしてあの結界から出て来た後、その身体に我が主様の心が残っておるかどうか……」

 

「お兄ちゃん……」

 

『ピチューン。』

 

『ピチューン。』

 

淡々と僕に己の死を自覚させる音が響く。

ふと気になり、ギャラリーを見てみる。……へっ、おい霊夢、ドン引きされてるぜ。

やり過ぎなんじゃないか?

 

『ピチューン。』 『ピチューン。』

 

フラン、慧音さん、大丈夫だよ。何も死ぬわけじゃない。

だからそんな顔するなって、たかがお遊びじゃないか。

 

『ピチューン。』 『ピチューン。』

 

忍。ごめん、やっぱり初めからお前に任せてれば案外あっさり勝ってたのかもな。

ごめん。

 

『ピチューン。』

 

気が遠くなる。恐らく次の死で僕の敗北が決まるだろう。

……勝ちたかったなぁ

 

「勝てよ、お前様。」

 

しの、ぶ…………!?

 

「許さんぞ、儂は許さん。こんな所で負けるようなら、儂はお前様を一生軽蔑する。吸血鬼、『忍野忍』の余生の全てを尽くし、お前様を軽蔑する。負けるな、勝て。阿良々木暦!!」

 

無茶苦茶言ってくれるなっ……!

 

「お前様がここで負けたら、吸血鬼の一生を使い、これまでの阿良々木暦が犯したセクハラの数々を全世界に知らしめてやる!!後世に語り継いでやる!!!!」

 

「そんなの負けられるわけねぇだろぉぉぉぉぉ!!!???」

 

『扇符・rbjrkm:bv]pjg』!!!!

 

……暴走でも何でもいい!!この状況を打開してくれ!!

噴出した黒い霧は霊夢の弾幕を飲み込み、消滅させていく。

 

「なっ、ちょ、アンタそれまだ制御できないんじゃ……!?」

 

「できないよ!!それでもとりあえずこの場をなんとかできればいい!」

 

「きゃー!お兄ちゃんかっこいいー!!」

 

「カッ「カカッ「カカカカカッ……!それでこそ我が主様じゃわい!後先のことなんぞ考えるな、どうせ出来ることしか出来んのじゃから、持ってる手札は全て切れ!!」

 

持ってる、手札!!

 

『怪異譚・レイニーデビル』!!

 

――――ドクンッ……

 

「『ぐ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』」

 

言うことをききやがれっ、僕は怪異の王、吸血鬼だ!!!

 

「『グ、我問フ。汝我ニ何ヲ願ウ。』願い?違うね、これは命令だ。この僕の力の一部になれ!レイニーデビル!!」

 

その瞬間、頭の中で騒ぐレイニーデビルが静かになり、僕の姿が変化する。

 

「雨合羽に……猿の腕……?」

 

「『流石、鋭いな霊夢。でも猿じゃない、悪魔の手だ。吸血鬼にはお似合いだろ?』」

 

「……アンタ何か性格変わってない……?」

 

「『じゃあ始めよう霊夢。ここからは俺のステージだ!!』」

 

「一人称まで変わってるし……上等!掛かってきなさい!!」

 

ショット・『封魔針』!!

 

「ハアア!!」

 

霧とレイニーデビルで針を受けきり、すぐさまこちらも反撃を行う

 

ショット・『殺意ある文具』!!

 

「っとと……少しはまともになってきたじゃない。それじゃあ次はこれよ!」

 

『霊符・夢想封印』!!

 

「来たか……!」

 

霧がスペルカードを消すことができるのはさっき証明された……

後はこの霧を操れれば……!

 

「く、痛っ……」

 

「ほらほらぁ、さっき切った啖呵は何だったのかしら!?」

 

考えろ……!どうすれば、どうすれば霊夢に勝てる……!

 

076

 

「あちゃー、結構苦戦してますねぇ」

 

「あれ?オウギちゃん?」

 

「やぁフランちゃん」

 

「なっ、貴様消えたはずじゃ!?」

 

「ふふふ、阿良々木先輩のピンチ有るところ扇ちゃん在りですよ?」

 

「むしろ貴様がピンチに引きずりこんでるような気もするがの……」

 

「はっはー、まぁ概ねその通りですかねー」

 

――――――『霊符・夢想封印 集』!!

 

「あらあら、危ない。そもそもなんですかあの霧みたいなやつ。まるで操れてないじゃないですか」

 

「何って、貴様が渡したスペルカードじゃろうが。名前がぐちゃぐちゃになった訳のわからんスペルカードじゃ」

 

「ぐちゃぐちゃって、え、もしかして阿良々木先輩あれの名前を読んでないんですか?」

 

「だから読むも何も名前がわからんと……」

 

「あちゃあ。やっぱりあの愚か者には言わないとわかりませんでしたか」

 

「……どういう意味じゃ」

 

「あのスペルカードにはまだ名前が無いんですよ。そりゃまともに動くわけがない。」

 

「つまりはあれに適当な名前を付けてやれば、それでちゃんとした効果が表れるという事か?」

 

「いいえ、残念ですがそれもないでしょう。少なくとも阿良々木先輩は心の中であのスペルカードがどんなモノなのかを曖昧ですが、イメージを元に発動させてるみたいですからね。

そのイメージにあった名前を付けてあげないと。」

 

「名前……か……確かに大事かもしれんの。儂ら怪異にとっても名というのは存在を確固にするための最低条件みたいなものじゃし。『名無しの怪異』なんぞ、怪しくはあれど結局何の怪異か分からんしの」

 

「ま、そんなところです。所詮あれも吸血鬼の具現化能力で生み出された物。

イメージすることが大事ですからね。」

 

「それで、問題はこの事をどうやって主様に伝えるかじゃのう。貴様なら直接伝えられるか?」

 

「うーん、えっとですね、今の阿良々木先輩の中レイニーデビルがいるせいで凄い居心地悪いんです。半分追い出されたような感じでしたし?」

 

「むぅ、ならばどうすれば……」

 

「いやいや、普通に伝えればいいじゃないですか。さっき叫んだみたいに。」

 

「そう何度も叫んだら恥ずかしいじゃろうが」

 

「フッ、」

 

「鼻で笑うな!!」

 

「まぁ、吸血鬼の聴力ならどうせこの会話も聞こえているんでしょうけどね。」

 

「早く言えよ、貴様。」

 

077

 

「名前……名前かぁ……」

 

つまりは名称を付けることによってイメージをしやすくするということか?

 

「何を独りでブツブツ言ってんのよ!集中しないと即死するわよ!」

 

「神技・八方龍殺陣」!!

 

「っっ!?考える暇も無しかっ、」

 

『怪異・子う守り』

 

フラン騒動の時に忍が使っていた怪異。流石フランの攻撃を受けきっただけあって

霊夢のスペカにも耐えられるようだ。

 

「腹立つわね……攻撃はてんでダメなくせにこっちの弾幕は打ち消したり完全に防御したり……」

 

「負けるわけにはいかなくなっちゃったからな、持久戦だ。単純な体力勝負なら人間に吸血鬼が負けたりしないさ。」

 

「そうね、いつまでもこんな事やってられないか、夕飯の準備もあるし。」

 

『夢想天生』

 

霊夢の姿が完全に消え、間もなく後頭部に強い衝撃を受ける。

 

「がっ…………!?」

 

「『空を飛ぶ程度の能力』、つまりは宙に浮く程度の能力を応用し、この世界の全てから浮くことで私を認識できなくする。それが博麗の奥義、『夢想天生』。これからアンタは私も見ることも触れることもできない。」

 

そう言って霊夢は再び姿を消す。

 

「……へっ、そんなのが博麗の奥義かよ……全然たいしたことないな……、ゲホッ、僕だって……クラスでしょっちゅう浮いてたぜ!!」

 

霧を限界まで放出するイメージで、僕の周りを取り囲ませる。

いくら見えなくたってこれなら霊夢も近づけな、

 

『ガスッ。』

 

直後、顎に鈍痛が響き、意識が遠のく。

 

「え、あ、なん……で……」

 

「『全てから浮く』って言ったじゃない。私のさじ加減次第でどこに存在してどこに存在しないかが決まるの。」

 

脳が揺れる。意識が薄れ、レイニーデビルや一反木綿を保つことができなくなる。

いくら不死身といえどそもそも欠損がなければ再生することもない。

―――――気絶。

流石妖怪退治の専門家だ。吸血鬼の倒し方くらい簡単に思いつくわけか。

 

「ていうかお前が妖怪じゃねぇの……」

 

「こんなんでも人間よ、悪いわね。」

 

くそ、こんなのチートだ。

不条理で、非常識で、理不尽だ。こんなの間違ってる。

 

 

――――――だったら、どうします?

 

 

間違ってるから……

 

 

「その間違いは、僕が正す。」

 

『扇符・愚か者には相応なる修正を』……!!

 

078

 

スペルカードが漆黒の扇子へと変化し、黒い霧がそれに吸収されてゆく。

 

「ふーん、それがそのスペカの本当の名前ってわけ。愚か者とは言ってくれるじゃない?」

 

「名前についてはお互い様だろ。『夢想天生』って、一体どこの世紀末だよ。ジャンプでやってくれ。」

 

「はぁ?世紀末?知らないわよそんなの。大体このスペカは博麗の巫女に代々受け継がれてきたものなんだから私が名付けたわけじゃないし。」

 

「…………それじゃあそろそろ終わりにしよう、霊夢。僕ももう残機0で後がない。

どっちが負けても恨みっこ無しだ。」

 

「どっちがって……アンタ以外に誰が負けるってのよ。」

「……さぁ、誰だろうなぁ!!」

 

僕が半ば不意打ちでショットを放つが、霊夢はまたしても姿を消してしまう。

間に合うか……!?

 

「届けっ……!!」

 

黒扇子を閉じたまま、疑似的な『くらやみ』を撃ち出す。

 

「……え!?あれ!?」

 

上手く霊夢が触れてくれたらしく、夢想天生が強制的に解除される。

 

「うおおぉぉお!!」

 

扇子を開き、今度は『黒い霧』を発生させる。

 

「アンタ……一体何を……!?」

 

「最初に撃った『くらやみ』が消去、次に撃った『黒い霧』が修正の役割を持った二つの弾幕が僕のスペルカード、『愚か者には相応なる修正を』だ。

霊夢、君の能力は元々『空を飛ぶ程度の能力』であって、『浮く』ことはできない。

なぜなら『浮く』と『飛ぶ』は結果が同じでも実際は全然違うものだからだ。

『黒い霧』の弾幕でその間違いを修正して、『全てから浮く』のではなく、『全てのルールを読み飛ばし、無視する』技に改変した。」

 

「改変ってアンタ……ウチに代々伝わる奥義って言ったわよね……?長い間積み重なった博麗の歴史に何してくれてんのよ。」

 

「えっ、あ、やばい?」

 

「まぁでも別に問題はないか、ようするに『飛ぶ』と『浮く』みたいに結果は同じってわけでしょ?

『姿が見える』ってルールを無視して、

『触れる』ってルールを無視して、

『弾幕に当たったら負け』ってルールを無視すればいい。」

 

まさに無法地帯。

『夢想転生』っていう名前にはもってこいのスペルカードになったわけだ。

 

「使い方が若干変わったのは面倒だけど、やっぱりアンタが負けるって結果は変わらない。一発で綺麗に消し飛ばしてあげるからそこ動くんじゃないわよ」

 

流石の才能を存分に発揮し、早くも改変されたスペルカードを使いこなす。

霊夢の姿、音、気配が消える。

 

「こっちこそ、綺麗に消し飛ばしてもらうぞ、霊夢!」

 

放たれるのは、法の外にも届く審判の一撃。

無際限の無慈悲な法典。

 

『怪異・斧乃木余接』

 

「斧乃木ちゃん、僕ごとでいい、綺麗さっぱりやっちゃってくれ!」

 

「うん。まぁ、元からそのつもりだよ、鬼ぃちゃん。どちらかと言えば、そっちの方が主だ。」

 

『例外の方が多い規則』

 

必殺技の名を恐らくはキメ顔で宣言した童女はその人差し指を驚異的な速度で膨張させながら、その場でクルリと一回転する。

 

『『ピチューン』』

 

生命のルールを無視する吸血鬼と物理のルールを無視する少女を消し飛ばし、

甲高いゲームセットの合図が夕焼けの空に鳴り響いた。



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幻物語 弐拾

そすんさー!!(挨拶)

K66提督です。
課題もやらずに続きをアップする⑨がいるらしいですね。

……はい、私です。

だって!なんかアニメ物語シリーズとか熱血編のDVDとか見返したら
テンション上がっちゃったんだもの!
しょうがないよね!

……先生に怒られてきます!

それでは皆様は『幻物語 弐拾』!お楽しみください!


079

 

「久々に吸血鬼をぶっ殺せてスカッとしたよ。しかもそれが鬼ぃちゃんだし。もう最高だね。」

 

「斧乃木ちゃん……むしろ僕を狙ったついでに霊夢にも当たっちゃったみたいな言い方するのやめてくれないかな……」

 

「え、なんで僕の思っていることがわかったのさ、鬼ぃちゃん。いつの間に吸血鬼に読心スキルなんてついたんだ。」

 

「いや否定しろよ!!」

 

「否定はしないが肯定はしようじゃないか。」

 

「ただの肯定だそれは!!」

 

戦いを終えた僕を待っていたのは、なんと人妖入り乱れた大勢からの称賛の嵐だった。

 

『興奮した』『ただ者じゃない』『セクハラの数々についてkwsk』

 

……最後のは称賛なのか不明だが、みんなが僕達のことを歓迎してくれた。

 

「さて、鬼ぃちゃんをからかうノルマも達成したことだし、僕はそろそろ帰るとするよ。」

 

「そんなノルマは最初から存在しない。ていうか、え?何?斧乃木ちゃん帰っちゃうの?」

 

章をまたいでもまだいたからてっきり阿良々木パーティーに参戦するのかと思ってたのに。

 

「レギュラー陣への仲間入りも名残惜しいんだけれどね、今の僕には貴方の小さい方の妹のひ孫にあたる子と一緒に世界を救うという使命があるんだ。だから今後呼び出したりするのもなるべく控えてほしい。」

 

「世界!?そんな大きなもの背負ってるのか!?」

 

「小さい小さい。世界は一人の女の子の命よりも軽いんだぜ。」

 

か、かっこいい……

 

「八九寺さんに頼まれてしまってね。『私を信仰して魔法少女になっておくれよキュップイ』とかなんとか」

 

「何言ってんのアイツ!?ていうか魔法少女!?」

 

「『魔法少女 よつぎ☆マギカ』だ。」

 

きっと魔法(物理)なんだろうなぁ……

 

「じゃあ帰るよ。世界が平和になったらまた会おう、鬼ぃちゃん。」

 

「それはヘタすると死亡フラグだぞ斧乃木ちゃん。」

 

斧乃木ちゃんの姿が光に包まれ、薄まってゆく。

 

「まぁ、向こうの世界は僕が守ってやるから、鬼ぃちゃんはこっちの世界を守ってあげなよ。『人は勝手に助かるだけ』っていうのがメメお兄ちゃんの持論だったけど、守ってあげることぐらいは他人にもできるんだぜ。」

 

「守る……?斧乃木ちゃん、それって一体……?」

 

しかし、斧乃木ちゃんが答えてくれることはなく、可愛らしく『あかんべ』をして元の世界に帰っていった。

 

「まぁ、ヤツのことじゃ。大方かっこつけたいからそれっぽいことを適当に言ったとかじゃろ。気にするまでもないと思うぞ、お前様。」

 

「忍。…………ごめん、負けた。お前がせっかく激励浴びせてくれたのにな。」

 

「かかっ、それこそ気にする必要もなければ、そもそもお前様は負けとらんよ。」

 

「負けてない?え、でも僕はたった一回霊夢を出し抜けただけで、あいつにはまだ残機が……」

 

「ついこの間忍とやりあって残機全損したばっかりなのにそんな早く増えてるわけないでしょ?吸血鬼の再生力と一緒にしないでよ。」

 

「え、てことは……」

 

「引き分け。と言いたいところだけど、あの女の子がターンした時に先に被弾したのは私だったしね。今回は私の負けだわ。」

 

「か、勝ってた……?」

 

「中々の勇姿じゃったぞ、お前様よ。ま、今回勝てたのもどうやら儂のお陰のようじゃがのぅ?かかっ、かかかっ」

 

自慢気に無い胸を反らす忍。

揉んでやれ、エイ。

 

『ガシッ』

 

「おっと、神聖な学び舎の前でいかがわしい行為は止めていただこうか……?」

 

「痛い痛い痛い!!ごめんなさい!!」

 

「全く……かっこいい所を見せたと思った途端にこれだ。本当に不思議な男だな、君は。」

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

右手を握りつぶされながら頭を撫でられたので、なんとも微妙な返事になってしまう。

嬉しいけど慧音さんそろそろ放して、色変わってきました。

 

「お兄ちゃーーーん!!」

 

「ぐふぉあ!!?」

 

背中にフランが激突!!?

 

「お兄ちゃん!凄かった!!なんかブワーってなったのがシューってなってゴァーって!!」

 

「お、おおおおおお、おち、落ち着けってフランンンンン今睡鵬解けちゃってるから、死ぬ、死んじゃうううう!!!」

 

「おいおいフランドール。それ以上はやめておけ?本当に死んでしまっては笑い話にもならん。」

 

「あ、ご、ごめんね?お兄ちゃん。」

 

「ん?あれ……あ、そうか……はは。」

 

「なんじゃ?どうした、お前様よ?」

 

「いや、何でもないよ。」

 

「何でもないならさっさと買い物して帰りましょうよ。お腹が減ってしょうがないわ。」

 

「そうだな、それじゃあ行こう。」

 

080

 

翌日、天気曇り。気温はそこそこ快適。

僕たちは再び人里の学校に訪れた。なんでもフランが学校生活に興味を持ったらしく、今日は見学だけでなく授業に参加させてもらっている。

僕は昨日と同じく見学。忍は相変わらず影の中でお昼寝中だ。

 

「じゃあ……チルノ。この問題やってみろー」

 

「zZZ……」

 

「チルノー」

 

「zZZ……」

 

「チ、チルノちゃん……!起きて……!」

 

「……はぁ、もういい、大妖精。後でチルノに居残るよう言っておいてくれ。」

 

「ぁ、は、はい……」

 

「(死んだな……チルノ……)」

 

「(あぁ……あの顔はお仕置き頭突きの顔だ……)」

 

全く、何処の世界でも授業をまともに聞かないやつはいるもんだな。

はいそこ、お前もだろとか言わない。

 

「それじゃあ代わりにーー、フラン!やってみてくれ。」

 

「は、はい!!」

 

お、ついにフランの出番か……!

さて記念すべき第一問は……

 

「ふむ、因数分解か……懐かしいなぁ……」

 

…………。

 

「って因数分解ィ!!?小学生レベルじゃないだろそれ!!!?」

 

「どうしましたーお父さーん。授業参観中はお静かにー?」

 

「誰がお父さんか!!ちょっ、待ってくださいよ慧音さん!たしか昨日の授業では『ひっ算』とかでしたよね!?」

 

「そうだな。」

 

「それでなんでいきなり因数分解なんですか!?」

 

「おかしいかな……?」

 

「うーん……僕のいた世界ではもっと沢山の事を学んでから勉強したけど、幻想郷ではこれが普通なのかなぁ……?ちなみに皆はこの問題わかるのか?」

 

「えっと……一応……少しくらいは……」

 

「ぜんぜーん。」

 

「わかんなーい。」

 

唯一首を縦に振ったのは大ちゃんだけだった。

確かに頭良さそうだもんなぁー。

 

「え?あ、あれ……?」

 

まさか理解しているのが自分だけだったとは思わなかったようで、戸惑っている。

可愛い。

 

「しかし、そうか……」

 

やっぱりまだ難しすぎるよなぁ……

 

「慧音さん。」

 

「なんですお父さん。」

 

気に入ったんですか、それ。

 

「良かったらなんですけど、この授業だけ僕に先生をやらせてもらえないですか?」

 

「阿良々木君が……?構わないが……大丈夫か?」

 

「はい。実は僕もそんなに勉強ができるというわけではないんですが、こと算数・数学に関しては自信があるんです。」

 

僕のことが大嫌いなアイツに教えてもらった数学の楽しさを、ぜひこの子達にも知ってもらいたいのだ。

 

「……そうか、うん。わかった。それじゃあよろしく頼む。阿良々木先生。」

 

「任せてください。」

 

暦のパーフェクト算数教室の始まりだ。

 

081

 

「博麗神社行きのバスがあります!始めに三人乗りました!途中で一人降りて、五人乗りました!博麗神社で二人降りて、残りは何人でしょう!!」

 

「はーい!」「はい!」「はいはいはいはい!!」

「うぁぁぁぁぁい!!」「わかったーーー!!!」

 

「はいじゃあサニー!」

 

「百人乗っても大丈夫!!」

 

「それは物置だ……バスにそんなに入らないし……じゃあ次!チルノ!!」

 

「幻想郷にバスはないからゼロ人!」

 

「誰がトンチの問題だと言ったよ!!問題そのものを否定するんじゃありません!!次!フラン!」

 

「えーっとえーっと、ご、五人!」

 

「大正解!おめでとう!正解者にはノブえもん人形をプレゼントだ!」

 

「……おい慧音。儂が寝とる間に何があった。あとノブえもんって何じゃ」

 

「授業ももう終わりだから最後にはおさらいを兼ねたクイズ大会だそうだ。それで賞品が無いのも面白くないので、正解者には阿良々木君お手製のぬいぐるみが進呈されるという話だ。」

 

「む、確かによく見れば色々と種類があるようじゃな。蟹、蝸牛、蛇、猫、そしてノブえもん、と。……ってなんで儂だけ名指しなんじゃ!!!」

 

「それじゃあラスト二問!」

 

こうして、僕も含めた授業に参加した全員が楽しく算数を学ぶことができた。

その後、他の科目はおとなしく見学し、今日の全ての授業が終了した。

 

「じゃあ今日はここまで。お前達寄り道せず帰るんだぞー。」

 

「「はぁーい!」」

 

「アララギ先生、ばいばーい!」

 

「おーう」

 

ワイワイガヤガヤと教室を後にする子供達に手を振り、お別れする。

 

「お疲れ、フラン。学校はどうだった?」

 

「楽しかったー!!みんなとも沢山お話したんだよ!!」

 

「阿良々木君、今日はありがとう。とても楽しそうな授業で、参考になったよ。」

 

「いや、そんな。途中から僕も一緒になって遊んでたみたいなようなものですし……」

 

「そうは言うがな、阿良々木君。あのぐらいの歳の子供達と同じ目線になって一緒に遊んでやれるというのも実は凄いことだったりするんだぞ?」

 

「こやつは元から精神レベルが九、十歳くらいで止まっておるだけじゃ。

ま、慧音は少し頭が固すぎる気もするがの?」

 

「失敬な、『少年の心を忘れない』と言ってもらおうか。」

 

むしろそれしか覚えていないが。

大人の雰囲気なんて僕には似合わないだろう。

 

「うむ、頭の硬さには自信があるぞ。瓦二十枚くらいなら頭突きで割れる。」

 

「誰が物理的な意味での『かたさ』と言った。」

 

「ところでフラン、君さえ良ければ今後もここに通ってみないか?他の子とも打ち解けているようだし、きっと楽しいぞ?」

 

「えっ……行きたい……けど……」

 

何かを気にした様子で、フランが僕を見上げる。

 

「僕は良い事だと思うけど……流石にレミィに相談するべきだろうなぁ……」

 

「そうだな。まずは家族に相談してみるのがいいだろう。それじゃあ、レミリア・スカーレット嬢の許可を得られたら、フランはめでたく私の新しい生徒というわけだな!よろしく!」

 

「う、うん……」

 

慧音さんが差し出した手をフランがおずおずと握り返す。

今のフランならきっと大丈夫だ、そんな気がする。

 

082

 

慧音さんと別れた後、霊夢に頼まれていた夕飯の買い出しを済ませ、神社へと帰還した。

 

「……おかえり。」

 

何故か不機嫌そうな霊夢が僕達を迎えてくれた。

 

「何だよ霊夢、そんな仏頂面して……あれ?」

 

「おかえりなさい。暦、フラン。忍は影の中かしら?随分と遅かったわね?」

 

「あ、あぁ、夕飯の買い出しに行ってたから……」

 

何故か博麗神社の居間には、優雅に紅茶をたしなむレミィとその横に控える咲夜さんがいた。

しかし何というか、ちゃぶ台で紅茶飲んでる光景って物凄いシュールだな……

 

「それで?レミリア。夕飯の支度で忙しいような時間にウチに押しかけてきた理由を教えてもらえるかしら……?」

 

『返答によっては今すぐに叩き出す』という語気を込めて、鬼巫女様は問いかける。

 

「こ、今晩はここで暦達を待っていた方が話がスムーズに進むって運命の流れが見えたから……そ、それで?フラン。私に何か言いたいことがあるみたいなんだけど、どうしたの?」

 

「あ、うん……えっとね、私……学校に、行きたいの……!」

 

「へ?が、学校?人里の……?でもあそこは……」

 

「うん。人間も、妖精も、他の妖怪もいた。あっ、お友達もいっぱい出来たんだよ!!」

 

「と、友達……?フランに……?」

 

レミィが驚いた様子でフランと僕を順に見る。

ついこの間初めて屋敷から出たフランに友達ができたというのだ。驚くのが普通だろう。

 

「フランの言ってることは本当だよ。今日もみんなと一緒に勉強してきたんだ。」

 

「お兄ちゃんも先生でね!楽しかった!」

 

「へ、へぇ……あのフランが……」

 

「それに聞いて驚け?実はフラン、昨日から『睡鵬』憑いてないんだぜ?」

 

「「はぁ!!?」」

 

驚いたのはレミィだけでなく、霊夢もだった。

咲夜さんも声には出さないものの、目を見開いて驚いているのが丸わかりだ。

 

「あれ?霊夢も気が付かなかったのか?」

 

「気が付くって、昨日からでしょ?てことは昨日の夜も……えぇぇ??」

 

「今日は曇りだったし、日光も大丈夫だろうと思って実験してみました。」

 

「実験ってアンタね……」

 

「じゃ、じゃあフランは吸血鬼状態のままで人里を歩き回ってきたってこと……?それで何ともなかったの……?」

 

「正確には里の子供達と一緒に授業も受けた。買い物中わがままも言ったけど能力が暴走したりもなかったよ。」

 

もうフランは自身をコントロールすることができる。

それに気づいたのは霊夢との勝負の後、フランに飛びつかれた時だ。

冗談で死ぬ死ぬ言ってはいたが、その余裕があった。本能的にフランに恐怖がなかった。

ちゃんと『手加減』がされているとわかったからだ。

期待が確信に変わったのはもちろん今日一日を通しての事だ。

慧音さんと握手した時、手を『握った』のに能力が発動することはなかった。

僕に対してだけでなく、誰にでも相手のことを考えて行動するということが出来ている。

当たり前のようで、とても難しい事だ。

 

「嘘……私、全然気が付かなかった……」

 

「ってフランも気づいてなかったのかよ。無意識でやってたってことかな?」

 

「フランが……ね……」

 

「お姉様……?」

 

「フラン、学校は楽しかった?」

 

「……!うん!とっても!!」

 

「そう。……わかった。学校通うことを許可しようじゃない。」

 

「やったぁ!お姉様大好き!!」

 

よかったな、フラ……

 

「ただし!」

 

ン……?

 

「まず学校に『通う』というからには自宅から、紅魔館から通うこと。

それと学校にはこの私も同行するわ。」

 

「お、お嬢様!?」

 

「何よ咲夜。フランも自分をコントロールできるようになったみたいだし、別に学校くらい許可してあげてもいいじゃない?」

 

「い、いえ、そうではなく……以前も申し上げましたように、お嬢様は紅魔館の当主なのですから屋敷にいていただかないと……」

 

「嫌。」

 

「!?」

 

おっと、何か面倒なことになってきたぞ?

 

「あー、なんか長くなりそうだし私晩御飯作ってくるわ。萃香ー、手伝ってー」

 

「あいよー」

 

霊夢と萃香が居間の暖簾を分け、台所に入ってゆくのと同じくらいのタイミングで、

二人の言い争いもヒートアップしだした。

 

「お嬢様!!いつもいつも思いつきでそういう事を言わないで下さい!」

 

「なっ、お、思いつきじゃないわよ!私はフランは心配だからついて行くだけで……」

 

「嘘です!!大方さっきの話を聞いて『楽しそうだな、羨ましいな』とでも思ったんでしょう!!今日だって人里で直接暦さん達に会いに行けばいいのにわざわざ神社まで!!」

 

「一々口うるさいわね、演出ってモンがあるのよ!!ロマンを弁えなさい!」

 

「ロマンもマロンも知りません!!紅魔館の主ともあろうお方が学校に通うなど!

里の人間達にバカにされるのがオチですよ!」

 

「ばっ、バカになんてっ、この私のカリスマがあれば全然平気よ!」

 

「カリスマ(笑)」

 

「今なんで笑った!なんで笑ったぁぁぁぁ!!?」

 

 

結局二人のケンカは霊夢が晩御飯を作り終わるまで続き、

鬼巫女降臨の寸前のフランの一言で終結した。

 

「私も……お姉様と一緒に行きたいな……ダメ?咲夜?」

 

『魅了』。

 

天使のような悪魔の上目遣いに勝てる生物など、この世に存在しなかった。

 




……え、もう弐拾!?
ということで、初心者投稿もとうとう20回目に到達しました!
えっと、コメントやお気に入りしてくださった方々、これまでありがとうございました!
失踪しないよう頑張って疾走していきますので、皆さまの温かい応援をこれからもよろしくお願い致します!


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幻物語 弐拾ㇳ壱

よいてーこしょ!

どうも、K66提督です。

前回と比べて結構短い内容になっているので、早め(?)の更新となります。
博麗神社編が終わり、阿良々木さん達は次の舞台へと身を移します。

少しではありますが、『幻物語 弐拾ㇳ壱』をどうぞお楽しみください!!



083

 

妖怪の山中枢、白狼天狗詰所。

自衛天狗軍、白狼天狗部隊隊長、犬走椛は部下からの報告を受けていた。

 

『報告、深夜3時。妖怪の山麓にて侵入者の反応有り。現在、白狼天狗第六部隊が捜索を行っております。山の木々には何やら刀傷のような痕跡があり――』

 

「おい、……そこにいる貴様、貴様が侵入者だな。」

 

「おいおい、何の証拠もなしに人を犯人扱いはちょっと酷いんじゃないか?」

 

持ち前の狼の嗅覚は侵入者の怪しげな臭いをしっかりと嗅ぎ取っていた。

柱の向こうからは、笑顔をむりやり貼り付けたような表情の不気味な男が姿を現す。

 

「ここは山の住民でも許された者にしか立ち入りを禁止された場所だ!それを知らないというのが何よりの証拠!覚悟しろ、侵入者!!」

 

短剣と盾を構えた白狼天狗は、両の眼を赤く光らせ、侵入者へ斬りかかる。

 

「へぇ、一人だけこんな小屋の中にいるから、きっと外の雑魚達よりも強いんだろうと思ってたけど、予想以上だ。君を喰えば『コイツ』はもっと完成に近づくだろう。」

 

『ザシュッ』

 

「ガフッ…………!?」

 

「でも、赤い眼っていうのはちょっと飽きたな。次はこの子達のボスでも狩りに行こうか」

 

灯火に照らされた男の顔は不気味な笑みを浮かべていた。

 

084

 

フランのチャーム発動後、結局レミィは生徒ではなく、イギリス生まれであることを生かし、英語教諭として学校へ通う事に決まった。咲夜さんもそれで何とか納得し、この一件は解決した。

その後皆で晩御飯を食べ、約束通りフランはレミィ達と一緒に紅魔館へ帰っていった。

 

「……寂しいけど何も二度と会えないわけじゃないもんな。また何度か学校に顔を出してみよう。」

 

『れーいーむーさぁーん!!おはようございまーす!!霊夢さーん!?いらっしゃいますかー!!?』

 

時は少し進んで、翌日の朝六時半過ぎ。

一時間ほど前に神社の裏の大樹で暮らしているという光の三妖精達、

サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアに叩き起こされて、

ついさっきまで鬼ごっこで延々と鬼にされていた。

あいつら音も姿もなくてどこにいるかわからないし、どうも僕の居場所が把握されてるっぽいんだよなぁ……

 

「しかし誰だろ?こんな早い時間に……」

 

先ほどから神社の前でずっと霊夢に話しかけて(というか叫びかけて)

いる誰かさんがいるのだ。

 

「女の子の声っぽいけど……」

 

「あ、」

 

「あ?」

 

「見つけました!阿良々木さん!!お久しぶりです!!」

 

「さ、早苗ちゃん!?なんで君がここに!?」

 

「ふっふっふっ、何を隠そう私は幻想郷の住民だったのですよ!」

 

「ナ、ナンダッテー!?」

 

『バァン!!』

 

「うるっさいわね!!朝っぱらから迷惑なのよ!!まだ営業時間外……って早苗じゃない、何やってんのよ。」

 

そこにいた少女は、緑の髪に緑の瞳、そして霊夢とは若干異なったデザインの巫女服を着た女の子だった。

また、かつて僕が外の世界で出会い、共に怪異に翻弄された、旧知の仲だ。

 

「今日は阿良々木さんをお迎えにあがりました!」

 

085

 

「迎えにきたって、コイツを?アンタ達今度は何を企んでるのよ。」

 

「な、何も企んでなんていませんって、だからそんな怖い顔しないでください……」

 

「……はぁ、まぁ何もしてなくても気づいたら事の元凶になってるような奴らだしね、

アンタ等は。何言ってもしょうがないか。それで?アンタ達二人知り合いみたいだけど、どういう仲なの?」

 

霊夢が部屋の中に戻っていくので、僕と早苗ちゃんも部屋にあがる。

 

「昔の知り合いだよ。もう五年は前だったかなぁ……あの時は早苗ちゃんも女子高生だったよね。」

 

「あー、もうそんなに昔になるんですねぇ」

 

「そのジョシコーセイってのが何なのかは知らないけど、要するに早苗がまだ外の世界に

いる時に知り合ったってわけね。」

 

「はい!それで、色々お世話になったお礼に、ウチで泊まってもらおうと思って昨日から人里で探してる時に、慧音さんに阿良々木さんはここだって聞いたので!」

 

「ふーん、それでアンタはどうすんのよ。行くの?」

 

霊夢が何故か置いてあった煎餅をくわえながら、聞いてきた。

 

「行くって……どこに?」

 

「だから早苗ん家。妖怪の山の、守谷神社。」

 

「うーん……霊夢にも大分お世話になったからなぁ……」

 

「私としては、居候が減るのはありがたいわね、食費も浮くし。」

 

「はは……それじゃあお世話になろうかな。忍もそれでいいか?」

 

『どーでもいい。眠いんじゃから起こすでないファァ……zZZ』

 

「いいってさ。」

 

「ホントですか!?やった!きっと御三方もお喜びになります!」

 

「ん?御三方?ねぇ早苗。あの二柱以外に誰か来てんの?」

 

「えっ!?あ、あはは……」

 

「面倒起こすんじゃないわよ……?」

 

「は、はいぃ……」

 

同じ巫女でも、霊夢と早苗ちゃんでは全く違うんだなと思った。

 

086

 

あの後、早苗ちゃんも一緒に朝食を食べて、霊夢、萃香、針妙丸にお礼を別れを告げて、博麗神社を後にした。

 

「それにしても早苗ちゃんも飛べるのか……幻想郷の住人はみんな空を飛ぶのか?」

 

「いえいえ、もちろん飛行能力を持ってない方も割といますし、私も霊夢さんみたいな

変態機動できるわけじゃないですから。あ、今の霊夢さんには言わないでくださいね!?」

 

「…………。」

 

「え、言わないでくださいよ!?絶対ですよ!?」

 

「冗談だよ。話を戻すけど、僕は服や靴に一反木綿っていう怪異を憑依させて飛んでるわけなんだけどさ、早苗ちゃんはどんなトリックで飛んでるんだい?」

 

「私はこの世界に来るとき、現人神に転生して風祝の力を授かりましたから。その能力です。」

 

「現人神……か……」

 

その言葉には聞き覚えと、死に覚えがあった。

かつて僕の知らないところで神になり、

僕の知らないところで人に戻り、

僕の知らない人生を歩んだ、妹の友達で、僕の――

 

「僕の、なんだろうな……」

 

「阿良々木さん?」

 

「あ、いや、ゴメン。何でもない。」

 

「そうですか?あ、そろそろ見えてきますよ!」

 

「おぉ……!!これは凄いな……!」

 

人里と飛び越え、収穫が終わった田んぼを見送った先には、とても色鮮やかに紅葉した

山々が連なっていた。

 

「神無月で秋の神様がいらっしゃるのが遅くなるので、幻想郷の紅葉はこれからなんです。あ、収穫は神無月前にできるようにしてくださるんですけどね?」

 

「じゃあつまりあれは神無月から秋の神様が帰ってきたって合図なのか……!」

 

興奮冷めやまない僕は少し高度を落とし、紅葉を間近で楽しむことにした。

 

「そういや大学生時代にひたぎと紅葉狩りに行ったことがあったなぁ……」

 

(椛をやったのはお前か……!!)

 

「え?うわっ!!?」

 

どこからか声がしたと思ったら、突然の突風に襲われた。

 

「あ、文さん!?何を!!?」

 

「おや、早苗さんも一緒でしたか。」

 

わけがわからず、早苗ちゃんが話しているほうへ視線を向けると、

 

「て、天狗……!」

 

烏の翼に高下駄、そして恐らく先ほどの風を巻き起こしたであろう羽団扇。

一目で天狗とわかる少女は僕に向かって殺気を発し続けている。

 

「文さん、どうしたんですか……?そんないきなり攻撃するなんて……」

 

「驚きましたよ、早苗さん。まさか貴女がこんな凶悪犯と一緒にいるだなんて。」

 

「き、凶悪犯!?」

 

僕は何もやって……な…いはず?だよね?

 

「確かに阿良々木さんは少しえっちなところとか意地悪なところもありますけど、そんな、凶悪犯だなんて……!」

 

「早苗ちゃんフォローになってないぞ!?」

 

「早苗さん、その男は妖怪の山に無断で侵入し、白狼天狗数十名に重傷を負わせ、さらに我々の長である大天狗様を殺害した大悪党です!!」

 

「なっ!?」

 

「そんなっ……阿良々木さん!?」

 

「や、やってないよ!!僕じゃないって!そもそも本物の天狗と会ったのだって初めてだ!」

 

「犯人は皆そう言うんです。それに外見も目撃者の証言に一致してます。

黒髪で身長は平均、性別は男。スペルカードや『程度の能力』ではない不思議な術を使う、外来人。種族が人間と書かれていますが……まぁ誤差の範囲でしょう。」

 

紛れもなく彼方だ。と天狗の少女はまるで犯人を追い詰める探偵のようなセリフを口にした。

 

「阿良々木さん、いささか状況がマズいです。ここは一旦霊夢さんの所に戻って、アリバイを証明してもらうのがいいでしょう。」

 

今にも殺されそうな状況でも、早苗ちゃんが冷静に最善策を提案してくれる。

 

……だが。

 

「……どうやらそうもいかないようだぜ、早苗ちゃん。」

 

「逃がしませんよ。」

 

周りを見渡すと、既に僕達は大量の天狗軍に完全包囲されてしまっていた。

 

「早苗ちゃん、君は地上に降りて安全な場所で待っててくれ。」

 

「そんな!阿良々木さんを置いてなんていけません!」

 

「頼む、君も戦ってしまうと一緒に犯人扱いされてしまう。それはダメだ。」

 

「……分かりました。相変わらずですね、阿良々木さんは。絶対に無事でいてくださいね!!」

 

未だにまだ納得のいかないような苦笑いで応援の言葉をくれる。

 

「忍。」

 

「なんじゃお前様。あの娘には巻き込めないような事を言っておいて、儂には手伝えと言うのか?」

 

「意地悪な事言うなよ、お前だってこういうのは嫌いじゃないだろ?」

 

「かかっ、まぁ確かに寝起きのラジオ体操変わりぐらいにはなるかの。」」

 

「全軍!かかれぇ!!」

 

『ウオオオオオオオォォ!!!!』

 

天狗軍約数百人の咆哮が、秋の乾いた空を揺らした。

 



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幻物語 弐拾ㇳ弐

お久しぶりです!K66提督です!

前回の投稿から約半月が経ってしまいました……
大変申し訳ないです。

物語も大体半分かもう折り返したかなという所で、内容を考えるのが
めちゃくちゃ大変でした。
本文の内容が意味不明になっていたらすみません……

『あぁ、こいつ迷走してんな』といった感じで楽しんでいただければ幸いです!

それでは!『幻物語 弐拾ㇳ弐』をどうぞ!!



087

 

「数が数だ。本気で行くぞ!忍!!」

 

『怪異・キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード』!!

 

自分も戦えるぐらいの余力を残して忍を全盛期の二つ手前くらいまで

パワーアップさせる。

 

「かかっ、珍しく思い切りがいいの!お前様よ!」

 

「すまん!全盛期まではパワーアップできなかった!」

 

『妖刀・心渡』『偽剣・レーヴァテイン・レプリカ』

 

「ここまで力が上がれば上等じゃ!!」

 

高速で接近する天狗の小部隊を忍が二刀流で迎撃する。

 

「く、後方部隊!砲撃準備!」

 

『天符・ボレアス』!!

『風符・空斬』!!

『宝具・羽団扇』!!

 

「げ、」

 

スペルカードの一斉射撃!?

 

「放て!!」

 

『ドゥッ!!』

 

「お前様!」

 

「分かってる!」

 

『扇符・愚か者には相応なる修正を』!

 

閉じた扇子から撃ちだした『くらやみ』が敵の弾幕を打ち消す。

若干卑怯な気もするが、大勢に囲まれているので容赦してもらいたい。

 

「なっ!?」

 

そして弾幕を一瞬のうちに消滅させられ呆けているところに……!

 

「忍!」

 

「任せておけ!」

 

『偽槍・スピア・ザ・グングニル・レプリカ』

 

『キィン――――……』

 

『ぐあぁぁぁ!!!』

 

真紅の槍は空気を切り裂き、軍勢の一角を戦闘不能にする。

 

「……っ!やはり吸血鬼相手では無理がありますか……!もう十分です!各自負傷者を連れて退避しなさい!!」

 

最初に戦いを仕掛けて来た鴉天狗の少女(文さんだったか?)が号令をかけると、

大勢の天狗達が徐々に撤退を始める。

 

「なんじゃ、逃げていきよるわい。威勢のわりには大したことなかったのぅ。」

 

「でもまだ、文さんって人が残ってる。」

 

「かかっ、それもそうじゃな。気を引き締めていかんと――

 

「忍!?」

 

なんだ!?忍が一瞬でふっ飛ばされた……!?

 

「大したことない、ですか。まぁ確かにアナタ達のような吸血鬼の真祖に比べたら下位の天狗なんて足元にも及ばないでしょうね。」

 

どうなってる……!?文さんがやったのか……!?

 

「『加速・アクセル 1st』。河童と共同開発した、自身の能力を半分に抑えることができるスペルカードです。能ある天狗は団扇を隠すってやつです。」

 

それを言うなら鷹と爪では?

 

「元々相手を殺さずに捕らえるために使用するものですが、吸血鬼相手に力を隠しても意味がありませんね!!」

 

『加速・アクセル 2nd』、

『加速・アクセル 3rd』、

『加速・アクセル 4th』!

 

「なっ……!!?」

 

「スペルカード一枚につき、力は半分に。そして私が使用していたカードは4枚。

後はまぁ、お分かりでしょう。」

 

「16倍の……力……」

 

「……正直、私も貴方が犯人だとはいません。

早苗さんをかばって戦場から遠ざけるような人が悪人とは思えませんから。」

 

「そんなっ、じゃあ何で!!?」

 

「こうみえても私、天狗政界ではなかなかの立場――

人間でいうと中間管理職と言ったところでしょうか?

――とにかくそのせいで大天狗様が殺害された件の、犯人捜しとそれへの制裁の統帥を任されてしまったわけです。しかし、私としては重傷を負った白狼天狗の友人の見舞いにいち早く駆けつけたいわけなんです。」

 

「それで、僕を犯人に仕立て上げて、事件を解決したことにしようってわけかよ。」

 

「申し訳ないんですがね。ちょうどいい所に不死能力の持ち主がいましたから。

人助け、いや、天狗助けだと思って一度でいいんで死んではくれませんかね?」

 

「……それだと、僕はこれからの生涯を太陽だけじゃなくて天狗からも隠れて

生きていかなくちゃいけないんじゃないのか。」

 

「その点は問題ありませんよ。そもそも誰も犯人に恨みを持ったりしていないんですから。」

 

「恨みが、無い……?自分達の長が殺されたっていうのにか?」

 

「ええ。今も恐らく、里では次の長を決めるために年寄り達とその取り巻きが

大口論を繰り広げていることでしょう。」

 

「そ、そんな……それじゃあまるで、殺された方が都合がいいみたいじゃないか!」

 

「都合がいいんですよ、少なくとも長の後釜を狙っている年寄り共にはね。」

 

「冗談だろ……?」

 

「見もしない誰かのために、そこまで感情的になれる優しい貴方とは違って、

天狗はずる賢いんです。」

 

――本当に、嫌気がさす。

 

まるで自分自身を罵倒するかのように、彼女は悲しそうな顔でそう言った。

 

「現に私も自らの都合で、何の関係もない貴方を殺そうとしている。

そしてその事に何の負い目も感じない。風よりも、音よりも早く殺します。

痛みを感じる暇もないので安心して下さい。では、『さようなら。』」

 

『キュィ―――――ッ』

 

天狗による本気の突進攻撃。

それは音速を超える少女の翼は一筋の黒い線を引き、僕の体を何の抵抗もなく消し飛ばす。

 

――ことはなかった。

 

「ごめんなさい、阿良々木さん。忍ちゃんが私のところまで飛ばされてきて、居ても立っても居られなくなってしまいました。忍ちゃんは安全な所に寝かせてありますから、安心してください。」

 

「……ははっ、変わっていないのは君もだな。早苗ちゃん。」

 

さっき言っていた現人神としての能力なのだろう。

風の壁を作り、文さんの攻撃を防いでくれた。

 

「か、変わってないことないですよ!?ほら、胸だってこんなに成長しましたし!?」

 

ふむ……そう言われると確かに。

この胸は羽川と比べてもいい勝負ができるかもしれない。

 

「東風谷早苗さん。ここで彼に手を貸すという事は、貴女も我々天狗に敵対するということ

になりますが、承知の上ということでよろしいのですか?」

 

「そちらこそ、私達守谷の恩人である阿良々木さんに手を出すという事は、

守谷との全面戦争を望んでいると取りますが?」

 

マズい……ここで彼女達が争い合うだなんて、それこそ何の意味もない……!

 

「さな――

 

「おいおい、キスショットの気配がしたと思って驚いて戻ってきたら、何だよこれ。」

 

聞き覚えのある声が側にある大きな杉の樹から聞こえ、僕たちの視線がそちらに集まる。

 

「な、『何』だ、お前……!?」

 

そこにいる男は、僕と同じ身長で、僕と同じ髪の色で、僕と同じ声色で、

不気味な笑みを浮かべて、確かにこう言った。

 

「『何』と聞かれたら……そりゃまぁ、『阿良々木暦』だよ。吸血鬼。」

 

088

 

「黒髪に男性平均くらいの身長……そして種族は、『人間』……!」

 

「あれ?天狗じゃん。犬っころ天狗しかいないって思ってたけど、カラスもいたのか。」

 

「っ!!貴様がっ、真犯人か……!!」

 

「はぁ、真犯人って……証拠も無いのにそんな事言われてもなぁ……

それよりこっちの吸血鬼の方が犯人っぽくない?僕だって怪異の専門家なんだから、

無差別に退治したりしないって。」

 

「専門家?専門家だって?」

 

ってことは、忍野の伝言の『後輩』ってまさか……

 

「僕……つまりはパラレルワールドの『阿良々木暦』だっていうのか……?」

 

「『僕』、とかさぁ、お前なんかと同じ目線で僕を語るんじゃねぇよ。『化物』。

お前は『元』阿良々木暦のただの吸血鬼であって、『人間』の僕からしたらただの偽物で、

化物なんだよ、っ!っと。だから僕が大天狗を殺したって証拠はないんだから、

不意打ち必殺みたいな事するの、やめてくれよ。」

 

「大天狗様が殺害された事を知っている時点で、貴様が犯人であることは決定事項だ!!」

 

「しまった。失言失言。えっと……んで?誰が殺されたんだって?(笑)」

 

「貴様ァァァ!!」

 

『止マレ。』

 

「えっ!?っ!!?」

 

文さんが男に殴りかかろうとしたと同時に男は何かをつぶやき、

瞬間、文さんの動きがそこで止まってしまう。

 

「『天狗に対する絶対命令権』。こんな便利なものを大天狗が持ってたとは……

棚からぼた餅ってところかな。」

 

「やはり、大天狗様を……!我らが父を……、よくも、お父さんを……!!」

 

両眼から大粒の涙をこぼしながら文さんは男をにらみつけるが、天狗という種族の

血に刻まれた掟がその憎しみを行動に起こす事を許すことはなかった。

 

『堕チロ。』

 

「ぁ―――」

 

「文さん!!」

 

命令に従い、気を失った文さんはそのまま地面へ向かい、自由落下を始める。

……が、僕よりも反応の速かった早苗ちゃんが文さんを寸での所で受け止めた。

 

「あ、ミスったな。お前達を殺させてから自殺させればよかった、

眼が怖過ぎて焦っちゃったぜ。」

 

「この野郎……!」

 

「そんな怖い顔すんなよ、吸血鬼。あの天狗に狙われてたんだろ?

なら僕はお前の命の恩人じゃないか。」

 

「ふざけんな!!」

 

『バシィ!!』

 

「なっ!!?」

 

吸血鬼のフルパワーで殴ったのに、片手で、しっかりと受け止められた。

 

「落ち着けって。血の気が多いなぁ。何かやなことでもあったのか?

僕が聞いてやるから、話してみろよ。」

 

「お前……人間じゃなかったのかよ。何のためにここまで来た!!」

 

「無視かよ。あれ?お前も知ってんだろ?忍野メメ。ほら、あのアロハの……」

 

「答えろよ!!」

 

ノラリクラリとした態度に腹が立つ。

忍野に似ているようで、全く違う、こいつは人の神経を逆なですることを楽しんでいるのだ。

 

「はいはい、ったくうるせぇな。人間だよ、人間。銃に撃たれれば死ぬし、

包丁に刺されれば死ぬ。水や食物を摂らなければ死ぬし、

高い所から死ぬ。あ、でも今のところ寿命では死んでないなぁ。」

 

今のところ……?こいつ、一体何を言って……?

 

「んで……あと何だっけ?あぁ、ここに来た理由だっけ?何てことないさ。

『アイツ』を――いや、お前は知ってるのか。

『キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード』を救うため、僕はここに来た。

お前もアイツに情があるというのなら僕の邪魔はしない事だな、吸血鬼。」

 

そう言い残し、豪風と共に人間、『阿良々木暦』は姿を消してしまった。

 

089

 

「キスショットを、救う?だって……?あいつは……あの『阿良々木暦』は……?」

 

救うも何も、キスショットは……

 

「っ!!そうだ、忍!!それに早苗ちゃん達も!!」

 

早苗ちゃんの言っていたように、忍は少し離れた木陰で眠っていた。

ここ最近、忍は特に眠っていることが多いな……

僕とは違い、常に吸血鬼性を抑えている忍には日中の行動は疲れてしまうのだろうか。

まぁ特に目立った傷などもないので、きっと大丈夫だろう。

僕は忍を静かに影の中に落とし、早苗ちゃん達も元へ向かった。

 

「あっ、阿良々木さん!!さっきのもう一人の阿良々木さんは!?」

 

「どっかに行っちゃったよ。わけわかんないこと言って。それより文さんは?大丈夫?」

 

「はい……気絶しているだけみたいなんですが……」

 

「気絶したままじゃどうしても天狗に狙われるだけだよな……」

 

「はい。博麗神社や守谷に連れていけば誘拐、天狗の里に連れていくか、この場に置いていこうなら宣戦布告と取られるでしょうね……」

 

どうしたものか……

 

「おーい!暦ー!守谷のー!どこだー?」

 

声のした方に目を向けると、嫌に曇った空に小さな鬼の影が一つあった。

 

「す、萃香!?」

 

「おー、いたいた。どうやら少し遅かったかな?いやぁ、ごめんごめん。

暦達二人の力が急に膨れ上がったもんだから、人里の皆やら妖精が大騒ぎでさ。

人の渦に霊夢が呑み込まれそうになってたから私が代わりに駆けつけたんだ。

……それで、何があった?」

 

「えっと……」

 

近くにあった小岩に腰かけ、かくかくがしかじかでうんぬんかんぬんをあーだこーだったことを萃香に説明した。

 

「それじゃあメメの言っていた『後輩』っていうのは暦自身だったってことか……

そいつに大天狗と射命丸がねぇ……」

 

「僕……じゃなくてアイツが言うには僕達吸血鬼や怪異なんかと一緒にするなって話だったけどな。事あるごとに主張してた。『お前たち化物と違って僕は人間だ』って。」

 

「『化物』と、『人間』……それじゃあそっちの……えーっと、面倒だな。『偽暦』ってわけでもないし……『裏暦』にしとこうか。その『裏暦』は自称人間てわけかい?」

 

「いや……自称じゃなくて、あれは人間だったよ。少なくとも怪異の気配は感じなかった。」

 

「天狗を下し、吸血鬼の拳を片手で受け止める人間だって?笑えないねぇ。」

 

「『裏暦』さんは『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』を救うために来たって言ってたんですよね?」

 

「うん。でも早苗ちゃんも知ってるように、忍はここにいる。だからきっとあの『阿良々木暦』は僕とは違う世界、『パラレルワールドの阿良々木暦』なんだよ。」

 

「ぱ、ぱられ?何ですか?それ?」

 

「パラレルワールド、いわゆる並行世界って概念があって、今僕達が存在している世界に平行して、様々な世界が無限に広がっているんだ。」

 

「は、はぁ……?」

 

「例えば早苗ちゃんが幻想郷に来なかった世界。例えば僕と君が出会わなかった世界。

そもそも君の世界に僕がいないことだってあるかもしれない。つまりは僕達から見た『かもしれない』の世界がパラレルワールドってことかな。」

 

「ほえー。やっぱり物知りですね!阿良々木さん!!」

 

「いやぁ、伊達に百年以上生きてないさ」

 

そこには実体験と受け売りを得意げに語る吸血鬼がいた。

というか、僕だった。

 

「それじゃあ『裏暦』さんの世界には忍ちゃんがいないってことなんでしょうか……」

 

「わざわざ『キスショット』って呼んでたからな……もしかしたらそうかもしれない。」

 

「つまりは『裏暦』には果たすべき目的があってここに来たってわけか。

……おい、紫。あんたの事だ。そこにいるんだろう?盗み聞きしてないでさっさと説明したらどうだい。」

 

萃香は僕の後ろの『何か』を睨みつけ、鬱陶しそうに言い放った。

 

「ふふ、バレていました……って、あら?」

 

が、紫さんが姿を現したのは萃香の睨み付けていた所とは全く的外れな所だった。

 

「…………。」

 

酔った鬼さん真っ赤になった。

 

090

 

「確かに先ほど暦さんの仰っていたとおり、あの『阿良々木暦』さんは別の世界線の住人です。」

 

小さくなって隠れてしまった萃香を早苗さんに捜索してもらい、僕は紫にあの男についての話を聞かせてもらっていた。

 

「や、やっぱりアイツの事知ってるんですね!?」

 

「ふふ、最初にお会いした時にも言ったでしょう?『私は少なくとも、阿良々木暦という男のことなら何でも知っている』、と。それは例え別世界の『阿良々木暦』だったとしても例外ではありませんから。」

 

「知っているなら教えてください、紫さん。アイツの気配は完全に人間のモノだった。

それなのにアイツは吸血鬼の全力を片手で受け止めたんです。あれは、あの力は……?」

 

「……月の姫の伝説。金閣の屋根を持ち上げた怪力がその秘密ですわ。」

 

「月の……?」

 

「……残念ですが、これ以上は教えられません。」

 

「え、な、何で!?」

 

「これ以上はフェアではないですから。物語を破綻させてしまいます。」

 

「物語……?ぎ、犠牲者だって出てるんですよ!?冗談を言ってる場合じゃないでしょう!!」

 

「犠牲者だって出るでしょうね、全ては筋書き通り。

今更語りだした物語を放棄することは許されません。

阿良々木暦さん、物語を終わらせる事が出来るのは語り部である貴方しかいない。

それが物語に選ばれた主人公の義務であり、責任なのです。」

 

この世界に、この物語に、どうか相応しい結末を―――

 

意味不明な言葉を残し、紫さんは再びスキマの中に潜っていってしまった。

 

「物語の、結末………」

 

……そんなの、ハッピーエンドが良いに決まっているじゃないか。

 



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幻物語 弐拾ㇳ参

どうもー、K66提督です。

急激に寒くなって参りましたが、皆様
体調を崩されたりしていないでしょうか。
寝る時にはしっかり布団をかぶって寝てくださいね?

またしても投稿が遅れてしまいました……
なんとか10月中に投稿を、と思っていたのですが間に合わず……
世間が『とりっくおあとり~と~』とか言ってやがる間、
私はPCの前で『Dead or Die』してましたww

そんなこんなでやっと投稿できた『幻物語 弐拾ㇳ参』!
お楽しみ下さい!!


091

 

早苗ちゃんが探しているはずの萃香が文さんと一緒に戻ってきた。

文さんが目を覚ましたので、萃香が共に天狗の里に出向き事態の収拾をつけにいくと言う。

何でも妖怪の山は、元々鬼が治めていたらしい。

 

「大体この子を差し置いて天狗の長を決めようってのがおかしいんだよね。

今までそういうのは血筋で決めてきたってのに。何を今更会議なんてするのかねぇ」

 

「や、やめてくださいよ萃香さん。そういう期待とか重圧に耐えられなくなったから、

烏天狗部隊から抜けて新聞記者になったんですよ?都合の良いときばっかり娘面も

できませんよ」

 

「親が死んだんだから、立場なんて忘れて枕元で思いっきり泣いてやりな。

それも親孝行ってもんさ。」

 

「あゃゃ……」

 

「それじゃあ暦、私たちは天狗の里に向かうけれどアンタ達はどうするんだ?」

 

「僕達はこのまま元の目的通り、早苗ちゃんの神社に行くよ。

何だか僕達を待ってる人がいるらしいんだ。」

 

「へぇ?守谷の神達が暦を?」

 

「うーん……どうもそういうわけじゃないみたいなんだよなぁ」

 

「はぁ、こ、暦さーん!萃香さん見つからないでs、ってあれ!?萃香さん!?」

 

「あははは!それじゃあ行こうか文!あのバカ共に喝入れてやんないとね!!」

 

「お、お手柔らかに……では、暦さん。早苗さん。この度はご迷惑をお掛けしました……

それから、今はいらっしゃらないみたいですが、忍野忍さんにも心からお詫びを。」

 

「はい。また今度、改めて話を聞きたいです。記者さんなら幻想郷の色々な事に詳しいだろうし。」

 

「っ!……はい!それはもう!!幻想郷の名所から皆さんの恥ずかしい私生活まで、

真実を隠さず読者にお伝えする!!それが『文々。新聞』の売り文句ですから!!」

 

「私生活だとっ……!?」

 

「はいはい、その話はまた今度。問題が一区切りしてからにしな」

 

「そうですね、それではお二方、また近いうちに。」

 

「はい!よかったまた取材に来てくださいね!」

 

「僕も、取材とかなら喜んで受けるよ。」

 

別れの、というよりは再会の為の挨拶を終えると、文さんはお辞儀を一つして

萃香と共に雲を斬るようなもの凄い速さで飛び去っていってしまった。

 

「さて、それじゃあいよいよ僕達も神社に行くとしようか」

 

本来なら、すぐにでも『裏暦』とやらを追うべきなのだろうが、文字通り風のように

消えてしまったため奴がどこに向かったのかもわからない。

とにかく今後の事も考えないといけないし、一度腰を落ち着かせられる所に向かうのが

最適案だろう。

 

「そうですね!少し遅くなってしまいましたし、急ぎましょう!!」

 

太陽も傾き、紅葉と同じく紅色鮮やかに染まった空を僕達は早々と飛び超えていった。

 

092

 

「ようこそ暦さん!ここが私達守谷一家の神社です!!」

 

「あっはい、お邪魔しますー」

 

「何かテンション低いですね!!?」

 

「ん、まぁだってあっちの世界で一応見てはいるわけだし……何か雰囲気変わってるけど」

 

「おかえり早苗ー、あといらっしゃい暦ー。遅かったねぇ何かあったの?」

 

軽く早苗ちゃんで遊びながら境内を進んでいくと、金髪の幼女(忍ではない)が

出迎えてくれた。

 

「久しぶり諏訪子!!早速だけど抱っこしてもいい!?」

 

「う、うん……それにしても相変わらず神に対してなのになんの遠慮もないね、暦は。

まぁそんな所が好きなんだけどさ!」

 

「す、すすっすす好き!?好きって!?諏訪子様何を言ってるんです!!?」

 

「あはははは!!そんなに慌てなくても盗ったりしないから安心しなって早苗!!」

 

「ななななな、何の事ですかね!!?あはは、やだなぁ諏訪子様は!!

ついにボケられてしまったんですか?あ、あはははは!」

 

「早苗後で本殿裏な」

 

「ごめんなさい調子に乗りました。」

 

「許さん。」

 

「うぇえ!!!?」

 

「そ、そこは許してやってくれよ諏訪子……」

 

「冗談だって。早苗はホントからかいがいのある娘だね」

 

「ひどいですよぅ……あぅぅ……」

 

何だかんだでやっぱり仲のいい家族って感じだなぁ

 

「よく来たな、阿良々木。歓迎するぞ。」

 

諏訪子と早苗ちゃんの微笑ましい親子漫才を眺めながら本殿へ辿り着くと、

守谷一家の三柱目。八坂神奈子さんが顔を出してくれた。

 

「神奈子さん。どうも、お久しぶりです。」

 

「う、うむ。久しい、久しいな。それで、その……あの、だな。」

 

「…………?あぁ、忍ですか?忍なら影の中で――」

 

「影の中だな!?わかった!!」

 

僕の言葉を聞くや否や、神奈子さんがダッシュで影の中に手を突っ込んできた。

 

「ちょっ、神奈子さん!?」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!?うぬ、山の軍神か!?何故うぬがおる!?あっ、やっ、

た、助けよお前様ぁぁ!!」

 

「む、無理言うなって、相手は神だぞ?しかもそんじょそこらの木っ端神じゃない、

八坂の軍神様なんかに勝てるわけないだろ。残念だけど諦めてくれ。」

 

「し、忍ぅぅぅぅぅぅ!!!あぁぁ!!!その突き刺すような目つき!!

眩しいくらいの金髪!!何度見ても昔の諏訪子そっくりだ!!最っっ高だな!!

最近諏訪子はますます私に構ってくれないんだ、だからもっと罵倒してくれ!

もっと睨み付けてくれ!もっと噛みついてくれぇぇぇ!!!」

 

「こ、この薄情者ぉぉお!!」

 

南無。現実は時として非情なのである。

 

「――ぁっらっらっぎさぁぁぁぁああああん!!!!」

 

『スッ……』と一歩右へ避けると、僕が元いた場所をツインテールの少女が

なかなかの速度で滑っていく。流石凹凸のないだけあって摩擦係数が少ないようだ。

 

「そんな、避けられました!!?」

 

「ふはは!!僕はお前と違って一度受けた奇襲は二度と効かないんだよ!!」

 

「くっ……まさか阿良々木さんにそんな学習能力があったとは……」

 

失礼なヤツだな。

 

まぁ、しかし、寛大な僕この生意気な女子小学生の失礼な発言も全て

水に流してやるとしようじゃないか。

 

まぁやり返すけど。

 

「では、僕のターンといこうじゃないか……?いくぞ八九寺ぃぃぃぃ!!!」

 

「きゃーー!!!?」

 

「お前!!わざわざ異世界まで僕を探しにくるなんて可愛いやつめ!!

大好きだぞ、八九寺!ああやばい、もう我慢できない、もっと触らせろもっと嗅がせろもっと絡ませろ!」

 

「きゃーー!きゃーーー!!ぎゃーーーーー!!!」

 

「こらっ!暴れるな!愛が育みにくいだろうが!」

 

「ぎゃあああああああああああああっ!!」

 

『がうっ!!』

 

と、八九寺に噛まれた。約一ヶ月ぶりである。

 

『がりぃ……』

 

そして何故か忍にも腕を嚙み千切られそうだった。

 

「痛え!!何すんだコイツら!特に忍!!噛みつくならあっちだろうが!!」

 

「そうだ!暦ばかりに構ってずるいぞ!ぜひ私にも噛みついて、いや、齧り付いてくれ!!」

 

『がうっ!がうっ!!』

『ギ……ゴリィ……』

 

「痛たたたたたたた!や、やめろ二人とも!両腕がお亡くなりになる!!」

 

「ほら!忍!!神の血は美味いぞ!!さぁはやく!はぁ!はぁ!」

 

「うわぁ……」

 

神聖な境内のド真ん中で幼女にセクハラをし、その末路をまた幼女(神)にドン引きされる

二人がいた。というか、僕と神奈子さんだった。

 

093

 

「やれやれ。しかし、お探ししましたよ、ウララギさん。」

 

「おい八九寺。いくら久しぶりに会ったからって人の名前を今回の物語の黒幕につけるべき呼び名みたいに呼び間違えるな。僕の名前は阿良々木だ。」

 

「失礼。噛みました。」

 

「違う、わざとだ。」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃないっ!?」

 

「とりま生ー。」

 

「さてはお前、神無月の酒宴でビールの味を覚えやがったな!?」

 

いくら神だからってその姿でジョッキにビールは絵面的にマズいだろ!

文字だからいいけど!文字だったからよかったけど!!

 

「それで、阿良々木さん。」

 

まるで初めから間違いなんてなかったかのように、八九寺は話を続ける。

 

「この世界に来てしまった理由はおおよそ神奈子さん達に伺いました。

私が神無月に行ったことで阿良々木さん達を認識する方がいなくなったせいだとか……

ごめんなさい。」

 

「おいおい八九寺。そんなお前が謝ることじゃないだろ。」

 

確かに八九寺が最後の一人だったことに変わりはないけど、怪異として人に語られない

事にはいずれ僕達は存在を失っていただろう。

 

「つまりは阿良々木さんにお友達がいないのが悪いということですね。」

 

「違っ……くはないけどさぁ……もうちょっとほら……」

 

「あぁ、すみません。もう少しビブラートに包むべきでしたね。」

 

「それを言うならオブラートだ、声を震わせてどうする。」

 

八九寺P今度はミュージカルに進出か?

ららら木さんも出演しちゃうぞっ!

 

「真宵ちゃん相当暦の事心配だったみたいでさー、普段なら話しかけもしないウチ等

にすら訪ねてきたんだよー」

 

けろけろ。

 

聞いたこともない笑い方で諏訪子がそんな事を言った。

 

「えっ、何々?八九寺そんなに熱心に僕達の事探してくれたの??」

 

「……そんなの、心配するに決まってるじゃないですか。

私だって素直に気遣いなくお話できるのは阿良々木さん達くらいなんですから。」

 

「八九寺……」

 

「まぁ別に斧乃木さんも空いてる時間なら会えたりもしますけど忙しそうですし

気を使っちゃうんですよねー。」

 

「僕の中に一瞬でも生まれたシリアスさんに謝れ!!」

 

「あぁ、あの牛乳かけるとおいしい、」

 

「それはシリアル。というかそのネタはもう僕がやった。」

 

「む、そうでしたか。不覚です。」

 

「でも嬉しいよ八九寺。まさか世界を超えてまで会いに来てくれるなんて」

 

「私もお会いできて嬉しいですよ、阿良々木さん。」

 

「さて、漫才は終わったかな?」

 

「いつもの事ながら一度始まると本当に長いのぅ」

 

ずっと僕達の掛け合いを横で眺めていた諏訪子達がタイミングを見計らって、

口を開いた。

 

「お腹も減りましたし、そろそろ夕飯にしましょうか。」

 

「そうだ、今日は暦達と真宵の再開を祝って宴会だ!」

 

「ええっ!?お酒の準備なんてしてないですよ!!?」

 

「じゃあおつかいだ!買ってきて早苗!!」

 

「そんな横暴な……もう日もほぼ落ちてますし、

今から里に下りてもどこも酒屋さん開いてないですって。」

 

「えーー!?やだー!宴会やりたいー!!幻想郷のお酒久しぶりに飲みたいのーー!!」

 

駄々こねだしたぞこの神様。

 

「無理ですよぉ……」

 

早苗ちゃんが助けを求めるようにこちらを見つめてくるが、先ほど忍にも言った通り、

神様の我儘をどうにかできるほど僕に力はない。

 

「神奈子様ぁー……」

 

「うーん……私に言われてもなぁ……諏訪子、今夜中にはどうやっても無理だろ。

また明日でもいいんじゃないか?」

 

「黙れ。」

 

「んはああぁっ!はぁ、雑な扱いもまた良い……」

 

ダメだこの神様……はやく何とかしないと……

 

「話は聞かせてもらったぁ!!」

 

ヘタをすると僕よりヤバイ軍神様に呆れていると、僕達のもとに二つの影が降り立った。

 

「酒宴と聞いて、伊吹萃香、ただいま参上!酒と祭りごとは私に任せな!!」

 

094

 

「萃香!それに文さんも!」

 

「こんばんは阿良々木さん。思ってたより早い再会でしたね……あはは。」

 

「ええ、てっきり再開は最終決戦かエピローグ後かと……」

 

「天狗の里の長問題も萃香さんの鶴の、

というか鬼の一声で全部解決しちゃいましたからね……」

 

「解決したんですか、そりゃよかった。」

 

「良いのか悪いのかよくわかんないんですけどね……」

 

「よくわかんない?」

 

「いつまでも屁理屈を言う年寄り達に一言『本来なら文がやるべきだけど、

そんなに不満なら仕方ない。今後の山の統治は私がやってやる。後でつべこべ言うなよ』

って……」

 

「あ、あぁー……」

 

確かに言いそうだ……

 

「元々管理していたのは鬼の種族でしたからね……誰も文句は言えませんでした……」

 

「それは色々とご愁傷様で……」

 

「いやまぁ、すぐ飽きられると思うんですけどね……?飽きてくれるといいなぁ……」

 

頑張れ、天狗族の方々……!

 

「それで?一体何の宴会なんだい?」

 

「この子が暦達を探してはるばる幻想郷まで来て、無事再会も果たせた歓迎とお祝いの

宴会かな!」

 

「へぇー、外の世界から暦達を……それじゃあ盛大に祝わないと!」

 

「そうそう!せっかくのお祝いなんだし大規模にやんなきゃね!

お酒とご飯があれば参加者は勝手に集まるし!!」

 

「場所とご飯はウチで用意できないこともないんですが……

肝心のお酒を今切らしてて……」

 

「よしわかった!酒の用意は私に任せな!極上のモノを用意してやるよ!

だから早苗は飯を大量にこしらえておくこと!」

 

「は、はいっ!」

 

な、なんだか大事になってきたな……

 

「なぁ萃香、僕達にも手伝えることないか?」

 

「ない!!精々宴会ネタでも考えておくんだね~!期待してるからね!」

 

「え、宴会ネタ!?」

 

「ふっふっふっ、望むところです。

『ロリコンと被害者達の会』の爆笑コントを見せつけてやろうじゃないですか。」

 

「ロリコンは我が主様で間違いないとして、被害者『達』ってなんじゃ。

儂も入っとるわけじゃあるまいな。」

 

「鉄板の吸血鬼ギャグ、期待してますよ!お二方!」

 

「やらん!儂は絶対にコントなんぞやらんからな!」

 

「待って!?それより芸名考え直して!?」

 

「それじゃあ私は眷属の鴉たちも使って参加者を集めてきましょうかね。

広報役は得意分野です!!」

 

「~~~~!!よーし!!盛大な大宴会にするぞー!!早苗ー!私も手伝うー!!」

 

これは……ちょっと本気でネタ出ししないといけないかもしれない……!

 



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幻物語 弐拾ㇳ肆

初めまして!K66提督と申します!

今日から初心者投稿を始めさせていただきたいと思います!

……なんてね、もう弐拾超えてるのに何言ってんだこいつって感じなんですけども。


一ヶ月ぶりの投稿ということで、皆さんに忘れられてるんじゃないか、
失踪したと思われてるんじゃないかと内心ビクビクです。

違うんです、学校生活とバイトに追われる毎日で、なかなか書く暇がなかったんです。
……いいわけですね。もっと頑張ります。

そんなわけで挙動不審になりつつも書きあがった『幻物語 弐拾ㇳ肆』
ぜひぜひお楽しみください!

あ、あと感想欲しいです(ボソッ)


095

 

「ファミマみた?」

 

「そんな気軽にコンビニの場所を確認されても!」

 

「おい、儂を放置するな!!」

 

『ドッwwww』

 

霜月某日、守谷神社では幻想郷の各地から人妖入り乱れて参加者が集まり、

大宴会が行われていた。

あまりにも参加者が集ったので、室内だけでなく境内全体を宴会会場にして

軽いお祭り騒ぎだ。

 

「いいぞー!新入り吸血鬼ー!」

 

「お兄ちゃんさいこー!!」

 

「……ふぅ、なんとかウケたな。二人ともお疲れ。」

 

萃香の宣言通り、本当にネタをやらされた(ご丁寧に特設ステージまで用意されていた)

僕達だったが、八九寺Pの秘蔵ネタ帳のおかげで無事に乗り切ることができた。

 

「なんで儂がいじられキャラなんじゃ……そもそもあの場面で……(ブツブツ」

 

「私はあと三つぐらいネタをやりたかったですけどねー。忍さんがこれじゃ仕方ないです。

お、この葡萄酒すっごい美味しいですよ。阿良々木さんもどうです?」

 

いつの間に持ってきたのだろうか、ジョッキいっぱいに入ったワインを煽る八九寺。

 

「僕はいいよ。お茶もあるし。」

 

「相変わらずお酒を飲まないんですね、阿良々木さん。」

 

「僕的にはお前がそんなにお酒にハマると思わなかったけどな……」

 

お酒が嫌いな神様はいないと言うが、どうやら本当だったようだ。

 

『おーい!!暦ー!!』

 

「ん?」

 

少し遠くの所から小さな影が僕達に両手を振って呼びかける。

多分諏訪子の声だ。

 

「ほら三人とも、そんな端っこにいないでこっちおいでよー!!」

 

「やれやれ、主催者様のご命令とあっちゃ仕方ないな。」

 

諏訪子の呼びかけに応え、周りより少し広めな場所に陣取っている一角にたどり着く。

集まっているメンバーは諏訪子に神奈子さん。霊夢、魔理沙にレミリア……

幻想郷に来たばかりの僕でもかなりの実力者ぞろいなのがわかった。

 

「……すごいな、迫力ありすぎだろ、このメンツ。」

 

「あ~、こよみら~、あはは、こよみ~こっちこいこっち~」

 

「うわ、魔理沙酔いすぎだろ。お酒弱いのか?」

 

まぁ、呼ばれたし行くけど。

 

「あぁ、この子宴会になるといつもこうなのよ……酒に弱いってわけじゃないんだけど

『タダ酒なんだから吞まなきゃ損だぜ!!』なんて言って調子にのるから……」

 

「へぇー、そういう霊夢は?呑んでないのか?」

 

「私はタダ酒よりタダ飯。山の幸をふんだんに使った物が沢山あって美味しいわよ。」

 

「えへへぇ、ぎゅ~~っ」

 

「あーあー、ほら魔理沙、アンタ記憶残るタイプなんだから。後で後悔するから止めときなさいって。」

 

「い~やぁ~だぁ~ずっとこよみといるの~」

 

「…………。」

 

「あれ?阿良々木さんの事ですし、間髪いれずに襲い掛かると思ったら。

意外にも何もしないんですね?」

 

「失礼な、いいか、八九寺。相手がお前ならまだしも、酔っている女の子相手に襲い掛かったりする下種野郎じゃないぞ僕は。」

 

なでなで。

 

「相手が私ならまだしもなんですか……」

 

当たり前だ。

むしろ積極的に襲い掛かる。

 

「久しぶりね、暦!!」

 

「やぁレミィ、久しぶり……じゃなくないか?昨日会ったばかりだと思うぞ?」

 

「え?昨日?そうだったかしら……なんだか一ヶ月ぶりくらいな気がしたわ……」

 

ナンデダロウネー

 

「まぁ、いいわ。それより聞いて頂戴よ!今日から早速人里の学校に行ったんだけどね!?」

 

「お、おう。」

 

一度始まったレミィの愚痴は長かった。

フランが全然言うことを聞いてくれないだとか、

先生なのに敬語を使ってもらえないだとか、

生徒たちがうるさくて授業にならないだとか。

 

早くも心が折れてそうだ。

 

「お兄ちゃーーーーーーーん!!」

 

『ゴスッ……』

 

「ぐはっ、」

 

「コーーヨーーミィィィィ!!!」

 

『ドゴォ!!』

 

「ぐはぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「ご、ごめんなさいっ……!」

 

『プニョン』

 

「ぐ、え……えっ!!?」

 

『プニョン』……だと……!?

 

「もー、大ちゃんってばー、それじゃあ抱き着いてるだけじゃん」

 

「ふぇ?……あっ!ご、ごめんなさい!!」

 

「構わん、続けたまえ。」

 

「……はぁ、結局は乳ですか、阿良々木さん。

所詮は貴方もただの一般男性だったということです。

男性が巨乳好きなのは一般常識ですからね」

 

「なっ、違うぞ八九寺!!確かに僕はおっぱいが好きだが、巨乳だけが好きなんじゃない!

僕は全てのおっぱいを平等に愛する自信がある!!」

 

「胸なら私にも自信があります!!どきなさい、そこの緑髪巨乳の妖精!

私とキャラが被っているんですよ!阿良々木さんは渡しませんよ!!」

 

「わ、私だって好きで大きいわけじゃ……!重いし、体育の時痛いし、

学校でも男の子達にバカにされるし……いい事なんて全然ないです!!」

 

「……チッ」

 

舌打ち……?

 

音のした方に視線を向けると、

 

「……レミィ?」

 

「わ、私じゃないわよ!?」

 

じゃあ誰が……

 

「なによ妖精の分際で……」

 

声のしていたのはレミィのさらに先、いつの間にかレミィの少し後ろで控えていた

 

「……さ、咲夜さん?」

 

「ハッ……な、なんでしょう?」

 

『ニコッ』といつものように笑いかけてくれる咲夜さんだが、

その笑顔が若干引きつっている。

 

「咲夜貴女ねぇ……」

 

「あ!お、お料理が無いですね!すぐにお持ちいたしますのでお待ちを!」

 

「ちょっ、待ちなさ、……まったく。」

 

咲夜さん……一体どうしたんだろうか?

 

「そうだ、それより大ちゃん。良い事無いなんて言っちゃいけないぞ。

少なくとも君の胸のおかげで僕は救われたんだ。」

 

「え?そ、そうなんですか……?」

 

「あぁ、フランとチルノのダメージも即回復さ。」

 

「何!?大すけのおっぱいにはそんな能力があったのか!?」

 

「だ、大すけって呼ばないで!!」

 

「いいなぁ、フランも欲しいー」

 

「え、あ、え?」

 

「こらこら、あまりはしゃぎ過ぎるなよ、君達。

本当ならもう家に帰らせる時間なんだからな。」

三人の保護者役としても参加しているのだろう。

慧音さんが皆のもとにやってきた。

 

「あ、慧音さん。こんばんは。」

 

「あぁ、こんばんは。阿良々木君。」

 

慧音さんに挨拶をしたところで、彼女の後ろにもう一人いる事に気が付いた。

 

「慧音さん、後ろの人は……?」

 

「ん、あぁ、そうそう、暦にも紹介したかったんだ。私の古くからの知り合いでな。

ほら、妹紅。紹介するからこっちに来ないか」

 

「ちょっ、慧音、何度も言ってるけど私はこんな事やってる場合じゃ……!?」

 

「……?」

 

慧音さんに無理矢理引っ張りだされた白髪の少女は僕の顔を見て驚きの表情を浮かべる

 

「おい……二度も私の前に姿を現すなんていい度胸じゃねぇか……!」

 

しかし、驚きの表情はすぐに怒りのモノへと置き換わる。

 

「え?」

 

『不死・火の鳥― 鳳凰天翔 ―』!!

 

慧音さんに『妹紅』と呼ばれるその少女の一撃は

宴会場を業火に包まれた戦場へと豹変させた。

 

096

 

『キャアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「も、妹紅!?何しているんだ!」

 

「ごめん慧音、事情は後で話すから早く子供達と一緒に避難してほしい。」

 

「お、おい妹紅!?」

 

慧音さんがなんとか止めに入ってくれたが、彼女が止まる様子もない。

 

「くそっ、何だっていうんだよ……!」

 

「てめぇに会えたのはある意味ラッキーだこの外道!不浄の業火に焼かれて死ね!!」

 

『パゼストバイフェニックス』!!

 

少女は早くもスペルカードを展開し、僕の視界を炎で埋め尽くした。

 

「ぐっ……」

 

避けたら神社が燃える……!

 

『扇符・愚か者には相応なる修正を』!!

 

「ぎり、ぎ、りっ!」

 

『きゃあああああ!!』

 

しまった、消し逃した……!?

 

「間に合えっ……」

 

『ジ……、ゴウッ――』

 

「ぐ、あああああああああああ!!」

 

流れ弾に襲われそうになった女の子を庇うことには成功したが、

 

「熱い、と言うか痛い……!?太陽に焼かれてるみたいだ……!」

 

「……?何だ……?お前今、何で……?」

白髪の少女は僕を怪訝な表情で睨み付ける。

僕が女の子を守ったことに驚いているのか……?

 

「お前様!その炎、恐らく退魔の系統のモノじゃ!」

 

「落ち着け妹紅!阿良々木君は危険な妖怪ではない!」

 

「退魔?」

 

「危険じゃない?」

 

「「それってどういう事なんだ?」」

 

「「ん?」」

 

097

 

「つまりは妹紅達は既にウララ木に襲われ、ここにいる阿良々木君を奴と勘違いし、復讐の為に攻撃を仕掛けたと。」

 

え、その呼び方定着しちゃってるの?

誰だ広めたヤツ。

 

「本当にすまなかった!!顔を見た瞬間頭の中が真っ白になって……!」

 

「あぁ、いや。別に大丈夫だって。ほら傷だってもう回復したし、

誰もケガだってしなかったんだから。」

 

ホントはまだちょっとヒリヒリするけどそこは黙っておくのが

大人というものだろう。

 

「そうよ妹紅、何回殺しても全部バカにしたようなオーバーリアクションするだけで

何にも手応えないんだから」

 

霊夢が妹紅の炎でほど良く温まった料理を頬張りながら言った

 

「死ななくてもとんでもなく痛い事には変わりないんだけどな!?

事あるごとに滅殺しようとするのやめていただけません!?」

 

「あ、これおいしー」

 

「聞いて!?」

 

「な、何だか吸血鬼のわりに随分……」

 

「気さくというか、気の置けない男だろ?阿良々木君は。」

 

「慧音。」

 

「実はな、妹紅。私が彼に初めて会った時もお前と同じような状況だったんだ。」

 

「えっ?」

 

「生徒達が吸血鬼に襲われている、とバカな勘違いをしてしまってな。実際戦ったのは彼と

一緒にいる金髪の娘……忍野忍と言うのだが、私が負けて戦いが終った後、彼らは

憤慨することもなくむしろ気絶した私を心配してくれたんだ。」

 

「へぇ……良い奴らなんだな。」

 

「本人達は絶対に認めないがな。」

 

「………よし。」

 

「妹紅?」

 

「阿良々木。」

 

ぎゃいぎゃいと騒いでいた僕達の所に妹紅が寄ってきた。

 

「ん?」

 

「謝った矢先にこんな事言うのは変だって事は理解してる。それでも聞いてくれるか?」

 

真剣な眼差しで僕らを見つめる妹紅に、僕や周りの皆も姿勢を改める。

 

「阿良々木。私はヤツを、もう一人の阿良々木暦を殺したい。殺さなきゃならない。

そのために力を貸してくれないか。」

 

098

 

「こんなのがもう一人……?ちょっと妹紅、どういう事か詳しく説明しなさいよ。」

 

「いや、実は私もどういう事なのかあまりわかってないんだが……」

 

「それじゃあそこは僕が説明する。紫さんからアイツの正体くらいは聞いてるから。」

 

「紫に……?あいつ、今度は何企んでるのよ……」

 

「それじゃあ、まずはアイツの正体からなんだけど……」

 

『別に説明なんてしなくてもいいだろーよ』

 

「……!?」

 

「い、今のって!?」

 

どこからか聞こえた声に反応し、みんなの目線が僕に集まる。

だけど今のは……

 

「はーい、どうもー。噂をすれば立つ影こと話題の男、『阿良々木暦』でーす。」

 

「っ!!てめぇ!」

 

今度こそ探していた敵を前にした妹紅は即座に臨戦態勢をとった。

 

「お、あの時のイケメンじゃん。その後お姫様とはいかがですかー?」

 

「うるせぇ!!そんな事てめぇに関係ねぇだろ!!」

 

今にも攻撃を始めようとする妹紅の肩に手を置き、制止する。

 

「妹紅、今はとりあえず落ち着いてくれ。アイツがどんな能力を持っているかがまだ

わからない以上手は出せない。」

 

少なくとも吸血鬼の本気の拳を片手で受け止める程度の力があるのだ。

 

「そうそう、そんなに警戒しないでさぁ、穏便に、平和的に話を進めようぜ。」

 

「それで、何しに来たんだよ、『人間。』」

 

「だからそんな身構えるなよ、『吸血鬼。』お前に用はないからさ。」

 

「……?」

 

どういう事だ?僕に用がない……?

それじゃあ誰に……

 

「そこの、紫の服を着た魔女さんだ。」

 

ヤツが指した先には、七曜の魔法使い、パチュリー・ノーレッジがいた。

危険を察知したのか、小悪魔さんがパチュリーを庇うように前に立つ。

 

「……やれやれ、たまの気まぐれで外に出て来たらこんな事になるなんて。

やっぱり図書館の外じゃ碌なことが起きないわね。」

 

「図書館の中でも碌なことないですけどね……」

 

ドラゴンや吸血鬼が暴れたり、コソ泥魔法使いに本を盗まれたり。

なるほど確かに碌なことではない。

 

「それで?一体何の用かしら自称人間さん?」

 

「自称じゃなくて正真正銘の人間だってば。」

 

「並の妖怪なんかより禍々しい妖気を発しながら何を……まぁいいわ。

それより質問に答えてくれないかしら。」

 

「そうやってすぐに解答を求めるなよ。最近の若者の悪い癖だぜ。」

 

「……おい『人間』、いい加減に答えろよ。それとも何の用も無しにここに

来たのか?」

 

「チッ……あーあー、全くお堅いね、『吸血鬼』。そんなに短気じゃ長生きできないぜ?

あ、そっか不死身か。」

 

「おい。」

 

「はいはいはいはい、いいよ教えてやる。魔女さん、僕が欲しいのは賢者の石だ。

賢者の石を譲ってもらいたい。」

 

「……どんな金属でも黄金に変え、体内に含めば永遠の命と万能を司る力を得ることができる古代錬金術師が目指した空想の物質。そんなもの、私が持っているとでも?」

 

「あぁ、持っている、確実に。火水木金土日月の七曜、つまりは万能を司る力。

そして老いることのない魔女の肉体。それは賢者の石の力だ。」

 

「あら、思っていたよりも頭がキレるみたいね。でも少し違う。

七曜を司る力も、魔女の身体も、賢者の石を作り出すために『必要不可欠な要素』。

賢者の石を使ったことによってこの力を手に入れたのではなく、

この力を手に入れたことで、賢者の石を作り出すことができる。

つまり、賢者の石は不老不死の薬でも、世界を支配する力を持つ石でもない。

あれは―――」

 

「生命を、世界を生み出すことのできる神の血液。それが賢者の石の正体だ。」

 

パチュリーの言葉を遮り、ヤツは始めから全て知っていたかのように

得意げに語る。

 

「……それを知っていてなお、あの石を求めるというのなら、私は絶対にあの石は渡さない。」

 

「安心しろよ、僕は世界の全てをぶっ壊して新しい世界を作るとか、そんな事を言ってるわけじゃないんだ。……やり直す。そこにいる『阿良々木暦』が選んだ選択肢を僕も選ぶために、あの凄惨な春休みからもう一度。」

 

「なっ……!?」

 

春休みをやり直すだって!!?

 

「キスショットを殺さない。

ギロチンカッターも、エピソードも。そして……

羽川も。今度は殺さない。」

 

羽川を……殺した……?

 

「……余計な事を言ったな。とにかく、あの世界を、あの春休みを僕はもう一度作り出す。

そのためにはパチュリー・ノーレッジ、君の『体内』に埋まっている賢者の石がどうしても必要なんだ。」

 

「お断りよ。私はまだ、死ぬ気はない。」

 

「はぁ……ま、そうだよなぁ、ハイどうぞ。ってわけにはいかないか。

わかった。じゃあ譲ってもらうのは諦めて――――

 

 

 

 

―――――力ずくで、お前から抉り取ろう!!!!」

 



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幻物語 弐拾ㇳ伍

あああああああああ!!!!!!
間に合わなかったぁぁぁぁああ!!!!!

あ、明けましておめでとうございます。K66提督です。

2016年、間に合いませんでしたね……
すみません……
大急ぎでなんとか間に合うかどうかって感じでしたがあと少し間に合いませんでした。

こんな駄文でもよければお年玉としてお受け取りください。

では『幻物語 弐拾ㇳ伍』お楽しみ下さい!


099

 

『召喚・黒イ嫌ワレ者』

 

『ギャガァァァァァアア!!』

 

裏暦が片手を掲げると、どこからか無数の鴉が現れて僕達に襲い掛かってくる。

 

「スペルカード!!?」

 

「郷に入っては郷に従え。専門家たるもの現場のルールは守らないとね。」

 

「つまりこっちが有利な状況でもその上で私達を圧倒しようって腹づもりなわけね。

随分となめられたもんじゃない?」

 

『獄符・千本の針の山』

 

紅い目を煌々とさせながら永遠に幼き紅い月、レミリア・スカーレットが

襲い掛かってくる鴉達にスペルカードを展開した。

 

「すげぇ……あれだけいた鴉が一瞬で……」

 

「パチェは私達の家族よ。家族に手を出すって言うのなら私も黙っていられないわよ。」

 

「私も、パチェを殺そうなんて絶対に許さない!やろう、お姉様!」

 

「ふふっ、そうね、ちょうどいい見せ場じゃない。私達スカーレット姉妹の力、見せてやるわ!」

 

「レミィ……?フラン……?やるって何を……」

 

『死期・終わりを告げる御旗』

 

『終局・明けることのない夜』

 

「私の『運命を操る程度の能力』とフランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』

を掛け合わせて編み出した最凶のスペル!その名も――」

 

『紅符・スカー・デッド』!!

 

「だっさ。」

 

「「!?」」

 

「忍さん!?」

 

お前唐突にそれはねぇだろ!!

レミィ達せっかくカッコつけたのに!

 

「いやまぁ本人達が満足してるならいいと思うがの?でも『スカー・デッド』……プフッ、」

 

「~~~~~~~~~!!?だから言ったじゃないお姉様!

やっぱりこの名前カッコよくないよ!!」

 

「な、何言ってるのよ、カッコいいじゃない。ほら『スカーレット(紅)』と『スカー(骸骨)』『デッド(死)』でちゃんと発音もかけてあるし……」

 

「ぶふぉっ!!」

 

「ほらぁぁあ!!お兄ちゃんまで笑ってるぅぅ!!」

 

「あ、ご、ごめんってフラン!大丈夫、微笑ましくて可愛げのある良い名前だと思うぞ?

それにほら!威力だって絶大じゃないか!残ってた鴉達も全滅だ!」

 

「むぅ……お兄ちゃん褒めてないでしょ……」

 

「アンタ達いつまでお遊戯やってんの!!次、来るわよ!!」

 

霊夢から救いの手、もといお叱りの言葉が飛んでくる。

 

「その通り!鴉を落としただけで俺が止まると思うな!!」

 

『崩落・鹿苑寺金閣』!!

 

「圧し殺せ!!」

 

名前の通り、古い日本式の家の瓦礫が雨のような密度で降ってくる。

 

「明らかに金閣寺の質量超えてんだろこれ……!」

 

「お前様!あれ、消せるか!!?」

 

「無理だ無理!一層は消せてもその後ろからどんどん降ってくる!!」

 

「チッ、なら儂とお前様で『子う守り』で――

 

『大奇跡・八坂の神風』

 

「他人様の家の庭で……」

 

『マウンテン・オブ・フェイス』

 

「随分と好き勝手に暴れてくれるじゃないか?」

 

『祟符・ミシャクジさま』

 

「宴会の邪魔すンな!!」

 

「うおおおおお!!?」

 

すげぇ!流石は神様!

 

「これなら行けるかもしれない……レミィ!フラン!パチュリーの事守ってくれ!僕と忍はアイツと決着をつけてくる!」

 

「もちろんよ!私の家族には指一本ふれさせたりしないわ!」

 

「お兄ちゃん、忍姉、頑張って!」

 

「え、ちょっと待ってフラン、忍姉ってどういう……」

 

「さて、それじゃあ決着を付けに行くとするかの。」

 

「さっきの鴉と言い、今の金閣寺と言い、アイツの能力って多分……」

 

「『斬りつけた相手の能力を奪う能力』じゃろうな、恐らくは。」

 

「つまり、僕達吸血鬼の能力を奪われた瞬間負けが確定するってことか……」

 

「かか、そう臆するなよお前様。ようはヤツの斬撃をうける前に倒してしまえばいいだけの事じゃ。」

 

「忍、そういうのをフラグって言うんだぞ……」

 

「別に殺してしまっても構わんのじゃろう?」

 

「おいやめろ。」

 

『不死・火の鳥― 鳳凰天翔 ―』

 

「お、どうやら藤原の娘も行ったようじゃの。」

 

「それじゃ、僕達も行こうか!」

 

『怪異・一反木綿』

 

『真名解放・キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』

 

「忍……!お前……!」

 

「か「かか「かかかかか!驚いたか?驚いたじゃろう!!

儂とてこの幻想郷に来て何の変化があったわけではないという事じゃ!」

 

コイツ……そんなの使えるならさっきの金閣寺だって余裕だろ……

 

「さぁ行くぞ暦!安心せい!ヤツがどんな術を使ってきても儂が全て蹴散らしてくれるわ!」

 

「――っ!はははっ!」

 

まさか『暦』って呼ばれる日がくるとはな……!

 

「上等だ!行こう!」

 

100

 

――行くって何処に行く気だ?

 

『幻朧月睨―ルナティックレッドアイズ―』――!

 

ピシッ―――――

パリィイン!!

 

誰かの声が聞こえた気がした。

それと同時に何かが割れる音も。

 

「パチェ!!!」

 

「――っ!な、何が起きたんだ!?」

 

レミィの叫び声でおぼろ気だった意識が鮮明になる。

 

「……弱い。弱いなぁ。ヌルゲー過ぎてつまんねぇよ。幻想郷でもかなりの実力者が揃ってるって思って少しだけチャンスを与えてやったのになぁ。拍子抜けだぜ。」

 

つまらなそうに言うヤツの足元には、赤い水溜りがあり、そこにはパチュリーが物のように転がされていた。

 

「お前……何をした!」

 

「何って、幻覚だよ、全部。最初からな。召喚した鴉の眼に兎の幻術を仕込んでおいた。

後は動かなくなったお前らを素通りしてコレから賢者の石を取り出したってわけ。」

 

『コレ』。

その辺の石ころを扱うのと同じようにヤツはパチュリーを足でゴロリと転がした

 

「幻覚……鈴仙のか……!」

 

「うんそう。あのブレザー兎。……さて、じゃあ目的も果たしたし帰ろうかな。

これ以上お前らの相手するのもなんか馬鹿らしいし。」

 

「まっ、待て!!」

 

「……

 

……ガッカリだ阿良々木暦。お前の選択肢、本当に正解か怪しくなってきたなぁ?――』

 

まるで文句をつけるかのように僕を睨み付けながら裏暦は姿を消してしまった。

 

101

 

裏暦が姿を消した後、まだ息のあったパチュリーを抱えて

妹紅に幻想郷唯一の医者である、八意永琳さんの診療所、『永遠亭』へと案内してもらった。

現在集中治療に入るとの事で、咲夜さんは治療室に同伴。

その他の紅魔館メンバーと僕と忍は永遠亭の客間でそわそわしながら待機している。

 

「お姉様、パチェ大丈夫だよね?きっと元気になるよね?」

 

「だ、大丈夫よ。あの子だって紅魔館の一員なんだから。こんな事じゃどうって事ないわ。

……大丈夫よね?」

 

「安心しなさい。永琳はたまに天然な所があるけど仕事に関しては完璧よ。私の腕だって結局一夜で直しちゃったし。」

 

「う、腕……」

 

「さっき話しただろ?あの野郎に腕ぶった切られた奴がコイツだよ。」

 

「えっ!!?」

 

こ、この大人しそうなお嬢さんが、アイツと血にまみれた死闘を……?

 

「あら。なんだか新鮮なリアクションね。最近だと私達月の民の事を戦闘民族か何かだと

思ってる人等が多いみたいで私悲しいわ。」

 

「今朝腕が治ったからっていきなり殴りかかってきたのによく言うぜ……」

 

「な、殴り……」

 

「心配して相手にしてくれなかったけどねー」

 

「っ!?お、や、やめろよ!!今はそんなの関係ないだろ!!?」

 

「ふふふ、はいはーい。とにかく安心しなさい吸血鬼姉妹。貴女達の家族は必ず

永琳が直してくれるわ。だからいつまでも気を張ってないで少しは心を落ち着かせなさいな。お茶とお菓子くらいなら出せるわよ。」

 

「えっと……出してくるのはやっぱり……」

 

「お願いね、うどんげ♪」

 

「はぁい……少々お待ちを……てゐー!ちょっと手伝ってー!!」

 

『てゐちゃんは只今お留守うさー!!』

 

「いるじゃないの!いいから手伝いなさい!!」

 

『えええぇぇぇぇぇ……』と誰かの断末魔みたいな声を聴きながらようやく僕達は

気持ちを落ち着かせる事ができたのだった。

 

102

 

同刻、治療室内。

 

「八意様。パチュリー様の容態はどうなんでしょうか……」

 

「そうね……簡潔に言ってしまえば治療することはできるわ。」

 

「そ、そうですか……」

 

八意永琳の言葉を聞き、咲夜はホッと心を撫でおろす。

 

「でも問題はその後よ……」

 

「え?」

 

「この子、言うなれば体の核、賢者の石だったかしら?それを抜き取られたってことでしょ?」

 

「はい……パチュリー様は賢者の石は魔法使いの身体を永遠に保つための術式が凝縮された、魔法使い個人個人の研究の結晶とおっしゃっていました」

 

「はぁ……やっぱりそうなのね……今この子には魔術回路らしきものが一切存在してない。

つまりはごく普通の人間の女の子になってしまってるわけなのよ。」

 

「それは、もう魔法が使えなくなってしまったということですか……?」

 

「……それだけならいいんだけどね。身体保存の術式を失った。今まで止まっていた身体や魂の時間が一気に流れ出すからこの子は……時間操作系の能力者である貴女ならもうわかったかしら。」

 

「それは…………」

 

永琳の言う通り、咲夜は彼女が言っていることをすぐに理解した。

しかしどうしてもその事実を口に出す事はできなかった。

この後、目の前にいる自身の主の友人、いや、自身の家族に待ち受けている終わりが

理解できてしまうがゆえに。

 

「彼女を救うことができるのは三つ。

一つはこのままこの診療所に残って姫様の能力で身体と魂の時間を永遠のままにする事。

二つ目は貴女のご主人様かその妹、あるいは付き添いの男の子たちのどちらかに吸血してもらって、眷属となる事。日光の下には出れなくなるけどまぁ元々引きこもりみたいな生活送ってたみたいだし、問題ないでしょう。というか吸血鬼多いわね……?

あとは三つ目……まぁこれはわかりきったことなんだけど、あの男から賢者の石を取り返してくる事。あまり時間もないけどまぁあと一週間はもつでしょう。もたせてみせるわ。」

 

「それが、パチュリー様を救う方法……」

 

「ま、おすすめはこのままうちに残ることだけどね。容態が急変しても私がすぐに対応できるし」

 

「もう一つ……パチュリー様を救う方法があります……」

 

「あら?何かしら……他に何か……」

 

「ようは時間の経過を止められればいいんですよね……なら、」

 

 

――私がその時間を肩代わりします。

 

 




前回コメント沢山頂けて、とても嬉しかったです!!
今回もぜひお年玉(コメント)頂けたらと思います!
それでは今年もよろしくお願いします! 


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幻物語 弐拾ㇳ陸

お久しぶりです。K66提督です。

まだまだ寒い季節が続きますがいかがお過ごしでしょうか。
私はなんたらエンザさんのせいでくたばっておりました。

ということで投稿めちゃくちゃに空いてしまいまして申し訳ございませんでしたぁぁ!!!
もうなんか恒例になるつつあるこの謝罪なのですが、今回はホントに長いですね……
前回から一ヶ月以上……ドン引きです。
で、でも失踪はしませんので今後も気長に待っていて頂ければと思います!

それではお待たせ致しました『幻物語 弐拾ㇳ陸』!お楽しみください!


103

 

「私の能力は『時間を操る程度の能力』。

パチュリー様の時間を停止させる事も難しくはありません。」

 

「……まぁ、あなたの能力は姫様と非常に似通っているし、同じ措置が

とれなくもないけど……」

 

「けど、何でしょう。」

 

「その能力を使った場合、あなたはどうなるのかしら。」

 

「…………」

 

「姫様の能力でもできるのは時の流れを一瞬と永遠の間で操るだけなんだから

時の流れを『止める』のには相当の負荷がかかるはず。それが長い間続くとなったら、

最悪の場合あなたまで死ぬことになるわよ。」

 

「構いません。その位の覚悟、この能力を使うと決めたときに済ませていますので。」

 

「……構うに、決まっているでしょう……相変わらず、こういう時に頭が固いわねぇ、咲夜は。」

 

先ほどまで意識を失っていた少女が息を荒げながら、咲夜を窘める。

 

「パ、パチュリー様!!?」

 

「驚いた。まだ意識が保てるなんて……今のあなた、心臓が無いようなものよ?」

 

「はっ……、紅魔館の魔女が、心臓がない如きでくたばるわけないでしょ……

魔女としての核が抜かれたとはいえ……知識まで失ったわけじゃないんだから、

魔法使いの初歩、空気中のマナで多少回復するくらいの事はできるわよ……げほっげほっ、

それに幸いここには治癒を得意とする精霊達が大勢いるみたいだし?」

 

「……全く、回復したと言っても本当に多少ね。魂と肉体の老化も早まりつつあるし、

まともに動くこともできないでしょう?」

 

「別に、元々そこまで動くこともなかったし、問題ないわ。」

 

「軽口を叩ける余裕があるのはいいことだけど、身体保存の代償が無くなったわけじゃないから状況にあまり違いはない。私としてはやっぱりこのままここに残ってほしいわけなんだけど、どうするのかしら?」

 

「パチュリー様、私……」

 

咲夜が能力の補助魔道具である懐中時計を取り出し、パチュリーの説得を試みる。

 

「ダメよ。」

 

が、パチュリーはこれを良しとする気はこれっぽちもなかった。

 

「わ、私なら大丈夫です!!パチュリー様もご存じのとおり、私がこの能力を手に入れた時

から覚悟は出来ています!!」

 

「はぁ……、まったく。咲夜、気持ちはとても嬉しいけどあなたの主人は私じゃなくて

すぐそこでハラハラしながら盗み聞きしてる小さな吸血鬼でしょ?ならそっちの気持ちも

考えてやるべきじゃないかしら?」

 

「……え?」

 

パチュリーが苦笑いしながら部屋の扉の方を指差すと、咲夜と永琳の目線がそちらへ移動する。

 

「う……気づいてたなら早く言いなさいよパチェ……コソコソしてたのが馬鹿みたいじゃない。」

 

「て~ゐ~…………?」

 

『ギクッ』

 

永琳の声にレミリアの後ろに隠れていた兎が飛び上がる。

 

「私が呼ぶまで治療室には誰も来させないように言っておいたわよねぇ……?」

 

「あ!そ、そういえば鈴仙に手伝えって言われてたうさー!!」

 

「ちょっ、こらっ、待ちなさい!!てゐ!!!」

 

バタバタバタバタ……と永琳、てゐが治療室からかけ出ていくのと入れ替わりに

閉め切っていた部屋の中に新鮮な空気が流れ込む。

 

「それで?どこから聞いてたのかしらレミィ?」

 

「あー、正直結構最初の方から……?」

 

「正確には咲夜さんが死ぬ危険があるってところからです。」

 

レミィが間が悪そうに頭をかく後ろからぞろぞろと僕やフラン達が治療室内に

入る。

 

「こ、暦さん、それに皆さんまで……」

 

「一体どういう事か、説明してください咲夜さん。」

 

104

 

~ 少女説明中… ~

 

「……というのが現在の状況です。」

 

「咲夜アンタねぇ(むぐっ)……!?」

 

「あの、咲夜さん。一つ質問が。」

 

イライラが頂点に近く、語気の荒いレミリアの口を押えて話題をずらす。

 

「は、はい。何でしょう?」

 

「パチュリーにも聞きたいんだけど、咲夜さんの話だと今パチュリーは魔法とかが全く使えないんじゃないのか?ごく普通の女の子と変わりないぐらいになっちゃってるんだよな?」

 

「(むぐ……)プハッ、でもパチェの身体に魔力を感じるわよ。ただちょっと顔が青白いくらいで……あれ、それはいつもか」

 

僕の腕から抜け出したレミィがぷにぷにむきゅむきゅとパチュリーの顔を撫でまわす。

 

「うお、何このしっとりもちもちの手触り。パチェ、アンタこれで一儲けできるんじゃない?」

 

「お姉様それ私にもやらせて!」

 

ぷにぷにぷに。

むきゅむきゅむきゅ。

 

「ちょっ、レミィ、やめなひゃ、やめなさいよ、もう!」

 

吸血鬼姉妹に弄ばれるが、パチュリーも負けじと抵抗する。

 

「ったく、……別に賢者の石を失ったからといって何も完全に魔法が使えなくなるわけじゃないわ。……というかさっきから話聞いてたんじゃなかったの?今の私は魔女ではないにしても魔法使い程度の事はできる。自分でマナを生み出して魔法を発動させることはできないけど精霊とか植物のマナを借りれば小規模なくらいは使えるわ。」

 

「「??」」

 

僕を含め、室内の多半数が目を点にし、首を傾げる。

 

「まぁとにかく私は大丈夫だから。今日のところは大人しく屋敷に帰って……」

 

「いいわきゃねーだろ。」

 

部屋の一つだけある閉ざされた大きな木と和紙でできた窓を魔理沙が蹴破って入ってきた。

 

「魔理沙それ不法侵入と器物破損……」

 

「え?知らねぇよ、なんだそれ?」

 

幻想郷にはその辺の法律がないのか……?

 

「んなわけないでしょ。魔理沙が知らない、というか気にしてないだけ。

それで?何しに来たの魔理沙。ここには本はないわよ?」

 

「あなたを心配してお見舞いにきたのよ、パチュリー。思ったより元気そうじゃない。

安心したわ。」

 

魔理沙が窓から強引に入ってきたのに対し、金髪の綺麗なお姉さんが部屋の入口から行儀よく入ってきた。

 

「げ……アリス……」

 

「『げ』とはまた随分なご挨拶ね、友達が大怪我して運ばれたから心配きて来てあげたっていうのに」

 

「えぇ~……」

 

「あ、あの……あなたは……」

 

「アリス・マーガトロイドよ。アリスでいいわ。阿良々木暦さん。あなた達の漫才、とても面白かったわ。……って、あら?他の二人は神社でお留守番かしら?」

 

「あ、いや、二人は今……」

 

あいつらは今僕の影の中でくつろいでいる。

ヤツに見事に騙された忍はかなりの屈辱を受けたようだ。

 

とういうかサラッと八九寺まで影の中に入らないでほしい。

流石神様、滅茶苦茶である。

 

「気を付けなさい、暦。ソイツ、レズだから。」

 

パチュリーがジトッとアリスさんを睨み付けながらとんでもない事を口にする。

 

「えっ、」

 

「だっ、だから違うって言ってるでしょう!!?私は可愛い女の子とお友達に(あわよくばそれ以上の関係に)なりたいだけだってば!そ、そんなふしだらな事なんて考えた事も無いというか考えただけで……//////」

 

「既にその言動がおかしい事を自覚しなさいよ!私にまで手を出そうとした事、未だにトラウマなんだかr、グハァ!!」

 

「パ、パチュリー様ぁぁ!!?」

 

その後、興奮状態のアリスさんが鼻血を噴き出したり、血でドレスを汚されたレミィが半ギレで泣き出したりと、軽いパニックが巻き起こった。

 

105

 

「……ごほん、それじゃあ話を戻すぞ……おい、パチュリー。」

 

「げほっ、おえっ、な、何よ……」

 

「お前、老衰延滞の魔法使うので限界だな?」

 

「……な、何の事かしら?さっき皆にも説明したけど精霊のマナを借りれば……」

 

「ダウト」

 

「……はぁ。はいはい、降参。あなたの言う通りよ魔理沙。」

 

「なっ、どういう事よパチェ!!」

 

「今魔理沙の言った『老衰延滞魔法』っていうのは人間のみじゃなく命を持つもの全ての

生を保つことのできるっていう……まぁ、魔法使いが魔女、魔導士になるのに必須の魔法ね。

それでこの魔法が中々燃費の悪い魔法でね……自分のマナをそのまま使える魔女なら

永久機関が出来上がるんだけど、今の状態じゃ魔力切れの方が早いから結局長くは持たないってわけなのよ」

 

「「……??」」

 

先ほどと同じメンバーが同じように首を傾げる。

 

「と、とにかくヤバイってことなのよね!!?大変じゃない!!どうするのよパチェ!!」

 

「どうもこうもねぇ……」

 

「ようは賢者の石を取り戻せれば何とかなるんだよな?」

 

「そういう事。……咲夜もうまくいくかどうかも分からない事に命を使うくらいなら

私の分まであのド下種野郎の身体中ナイフまみれにしてきて頂戴な。」

 

「……はい!」

 

「ん、じゃあ結局はやっぱりあの人間と再戦って事なのね。……上等じゃない、今度こそヤツを血祭りにあげてやるわ。」

 

「その話……乗ったぁああああああ!!」

 

ザパァァァァ!!と目を真っ赤に腫らせた忍が影から勢いよく飛び出して来た。

……やっぱり影って液体なのか……?

 

「ヤツは絶対に許さん!!この儂をコケにしたこと、死後、いや、転生後まで後悔させてやる!!!」

 

「私も力をお貸しいたしますよ、阿良々木さん。」

 

「八九寺。でもお前神社は大丈夫なのか?神無月が終ったんだから神社に帰らなくちゃいけないんじゃ……」

 

「帰る……ですか……改めて聞くととても幸せになれる気がしますね……でも大丈夫なのです!!神無月が終っても私が戻らなかったら斧乃木さんに一時的に代理をやってもらえるよう既に手続きを済ませておりますので!」

 

「適当だな!神様!!」

 

「存外神なんてそんなものなのです。気にし出したらきりがないですよ?テケリ・リさん。」

 

「やめろ八九寺。人の名前をSAN値を持って行かれる神話に登場する宇宙生物の鳴き声みたいに間違えるな。僕の名前は阿良々木だ。」

 

「失礼、噛みました。」

 

「違う、わざとだ……」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃないっ!?」

 

「噛みマミっt」

 

「それ以上いけない。」

 

「それじゃあ行きましょうか。魔理沙、パチュリー。」

 

「行くのは構わないけど取り敢えず初対面の幼女と少女にその目つきはやめろ。通報するぞ。」

 

「あら、そんな事したら器物損壊と不法侵入で魔理沙まで捕まっちゃうわよ?」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。行くってパチェをどこに連れていく気よ?」

 

「魔界。」

 

106

 

「魔界!!?」

 

「ちょっ、ちょっと待って。それまさかアンタの……」

 

「うん、実家。」

 

「嫌!!!絶っっっ対に嫌!!!!」

 

「えー、なんでよー?これからレミリア達はまたあの男の人と戦う事になるんでしょう?

だったらパチュリーは確実に安全な所にいた方がいいじゃない。」

 

「安全?安全と言った!?前に初めてアンタの実家に行った時何されたか知らないとは言わせないわよ!!」

 

「え?」

 

「アンタのお母さんよ!つらつらつらつら延々と娘自慢を……しかも美化されまくってるから現実とのギャップで頭痛くなるし……」

 

思い出しただけでも辛そうなパチュリーの肩に魔理沙がそっと手を置く。

 

「諦めろ、パチュリー。アイツはもう既に魔界入りのゲートと術式を用意してる……」

 

「そういうこと♪それじゃあ早速行くわよ!あ、パチュリーはそのままじっとしててね。

ベッドごと転移するから。下手に座標がずれると空間の狭間に落っこちるわよ。」

 

「嫌あぁぁぁぁぁ!!!」

 

「それじゃあレミリア、パチュリーは私達がしっかり守るから後はお願いねー」

 

「……えっ?あ、ちょっ、待っ……」

 

突然名前を呼ばれたレミィが呼び止めるように手を伸ばす。

 

『じゃねー』

 

『あああああああ……』

 

当人達以外がほとんど状況を理解出来ていないまま、アリスさんと魔理沙、パチュリーは魔方陣の光と共に消えてしまった。

 

「え、えっと……行ってらっしゃい……?」

 

伸ばしても間に合わなかった手をゆっくり振りながら、レミィは疑問形でそう言った。

 



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幻物語 弐拾ㇳ漆

お久しぶりです。K66提督です。

あまりに久しぶりすぎて「遂に逃げやがったなアイツ」と
思われた方も少なからずいらっしゃると思います。
生きてました。ごめんなさい。

私は何度でも蘇るさ、不死鳥のように!(一度死んだ)

それでは、長々と前書きを伸ばしてしまっても仕方がないので、
今回も『幻物語 弐拾ㇳ漆』をお楽しみ下さい!


※今回ご都合設定があります。
お気を付けください。


107

 

 

魔力や霊力が最も高まる時間。丑三つ時。

月の光が雲に隠され、完全な闇となった地上で一人の男が不満そうな表情を浮かべている。

 

「はーぁ……『蓬莱の薬』に『賢者の石』、それと儀式の発動に必要な魔力。材料自体はもう全部揃ったのに肝心の儀式を行う『場所』がないとは……使えねーなぁ、幻想郷」

 

阿良々木暦、人の身体のまま人の理から外れた存在。

アレを上手く利用してやれば私の計画も一気に実現できるものになるだろう。

 

「どうしよっかなー、のんびりしてるとどうせまたアイツ等が来るんだろうしなぁ」

 

まずは『お友達』になろう。『親友』になろう。

友達ってのはいいものだ。騙して言い包めて巻き込んで、用が済んだら友情も人情も、全部ひっくり返して捨てればいいんだから。

そうと決まれば友達になる第一歩。元気な挨拶と自己紹介だ。

 

「ずるいよなぁ、タダでさえ力のある化物達が徒党を組んでひ弱な人間を殺しにかかってくるんだから。あーあ、弱者は辛いねー。」

 

『そうだそうだ! 全くもって君の言う通りだ! 』

 

「……誰だよ」

 

『君と同じ弱者。この幻想郷に常に命を狙われている可哀想な女の子さ』

 

「女の子……ねぇ、ならその可愛い顔を是非見てみたいな?」

 

『おっと、これは失礼。自己紹介どころかまだ自分の姿すら明かしてなかったね』

 

なんて、『失礼』なんて思っていないのに私は口から出まかせを吐く。

さて、そろそろ姿を見せてあげよう。

私は雲の隙間からさした月のスポットライトの下に立つ。

 

『初めまして、阿良々木暦君。私は鬼人正邪っていうんだ、よろしくね』

 

さぁ、始めよう。陥善超悪の物語、演じ切って見せようじゃあないか。

 

 

108

 

 

アリスさんと魔理沙にパチュリーを誘拐された後、患者がいないのに病院にいるのもおかしいので、僕達は一旦紅魔館に移動した。

 

「えっと……今更なんだけど、その、魔界って大丈夫なの?魔王とかに食われたりしない?」

 

「うーん……まぁその辺は大丈夫だと思うわよ?他でもないアリスの母親が魔王、ていうか魔界の神様だし?」

 

「ま、魔界の神……」

 

噛み様に現人神に祟り神に山神に魔界神……

 

「なんか神様の連続登場で驚きも薄くなってきたよ」

 

「まぁ、八百万の神といいますし。今どき神様なんて特に珍しくないですよ、阿良々木さん」

 

「神様の口からそんな事聞きたくなかったなぁー……」

 

「とりあえずパチュリーは連絡くるのを待ちましょうか。それよりもあの男よ。

ちょっと全員集合!咲夜、お茶はあとでいいから。忍も出てきなさいって」

 

「ちっ、……何時から儂に命令できる身分になったんじゃ?レミリア」

 

レミィが裏暦攻略会議を始めようと全員を部屋のテーブルへと集める。

 

「まぁまぁ忍。今はそんな事でケンカしてる場合じゃないんだからさ」

 

「ふん」

 

「そ、それじゃあ始めようかしら。今回、私達は奇襲だったとはいえ奴に全くと言っていいほど歯が立たなかった。相手にもされてなかったぐらいにね」

 

「僕達が戦ってた、というか戦っていると思わされていたのはアイツが作った幻だったんだよな。あれは鈴仙ちゃんの能力って話だけど……」

 

「『狂気を操る程度の能力』と『波長を操る程度の能力』。それらを同時に使うことによって

全員に共通の幻を見せた。他者の能力をあれ程上手く使いこなしているとなると、正面からの戦闘はあまり避けたいところですが……」

 

「そうね……もしフランや咲夜の能力が奴に奪われたとしたら……」

 

「……時間操作の能力、破壊の能力を奴が手に入れるわけか、笑えんの」

 

「忍、あの刀って……」

 

「心渡……に似てはいるがあれには斬った怪異を吸収する力なんて無いはずじゃ」

 

「奴とまともに戦うにはまずあの刀を奪うか壊さないといけないわけね」

 

「奪う、にはやっぱり近づかないといけないよな……」

 

「…………武器」

 

「え?」

 

「武器が必要じゃな。長物を使ってくる相手に素手で挑もうなど無理にもほどがあるじゃろ」

 

「そりゃあそうだけど……お前には心渡があるだろうに」

 

「残念じゃが、アレ――『真名解放』を使ってしまったからには儂が奴と戦うわけにはいかんのじゃ」

 

「……?そりゃまたなんで?」

 

「あれは儂がこの地に来てから徐々に、周囲に悪い影響を与えない程度に少しずつ

妖力的なエネルギーを溜め込んだから出来たことじゃ。またしばらくは使えん。」

 

「てことは……」

 

「奴と戦うのはお前様ということじゃ。『自分殺し』とはまた、今回も愉快な結末になりそうじゃのう」

 

「マジかよ……」

 

「じゃあ暦が忍の刀で戦うってこと?」

 

レミィが『忍』と呼ぶ度にいちいちピクリ、と反応する忍さん。

呼べって言ったのはお前だろうに。

 

「それでもいいんじゃが……よくよく考えてみたら人間(自称)相手に怪異が怪異殺しの刀を使ったところで……な?」

 

「つまりは暦さんの為の武器、またはそれになり得るような魔道具を用意しなければ

ならないということですね」

 

「魔道具……となるとあそこかしら?」

 

「あそこですかね」

 

レミィがニヤニヤするのに対して、咲夜さんは困ったように苦笑いを浮かべ肯定する。

 

「えっと……どこですか?」

 

「胡散臭いことで有名な店主が経営している古道具屋、『香霖堂』よ」

 

 

109

 

 

「やぁいらっしゃい阿良々木君。また随分と遅かったねぇ、待ちくたびれたよ」

 

どこぞのアロハ野郎を思い出す懐かしいフレーズで香霖堂店主、森近霖之助さんは

向かい入れてくれた

 

「あの、なぜ僕の名前を……」

 

「あぁ、すまないすまない。『この姿の僕』とは初めましてだったね、阿良々木君」

 

そう言うと白髪の男は煙草をくわえ、机の上に足を組んで。

 

「はっはー、初めまして。そして久しぶり阿良々木君。元気にやってたみたいだねぇ」

 

見透かしたように、そう宣った。

 

「お、お前!?」

 

「おっと、そこまでだ。ごめんよ阿良々木君。前の名前を呼ぶのは止めてくれ、存在がブレてしまうからね。まぁどうしてもっていうなら森近霖之助の方で頼むよ」

 

「お……森近。なんでお前がこんな所に……とっくに死んでるものだと思ってたんだけど」

 

「ひどいな阿良々木君は。いや、実は仕事でちょっとミスっちゃってさ、不死の呪いを受けちゃってさぁ。その影響か何なのか知らないけど髪が真っ白になっちゃうし。踏んだり蹴ったりだよ」

 

「不死の……」

 

「まぁ、阿良々木君とは違って病気みたいなものだし、解呪の方法を探しながらここで古道具屋なんてのをやってるわけさ」

 

「ふーん……」

 

「それで?阿良々木君。君は何をお望みかな?骨董品からえっちな本まで、ウチの品ぞろえに抜かりはないぜ?」

 

「この状況でなんで僕がえっちな本を買いに来たと思ったんだよ。」

 

「ん?……はっはー、阿良々木君。君は相変わらず会う度に違う女の子を連れているね

どうも、十六夜さん。今日もお嬢様のお使いかい?」

 

「い、いえ……今日は暦さんの付き添いで来たのですが……お二人はお知り合いだったのですか……?」

 

「まぁねー、僕と阿良々木君は一言じゃ言い表せない只ならぬ関係だから」

 

「なっ!!?」

 

咲夜さんが口を覆い隠してフラフラと後退してゆく。

 

「さ~くやぁ~、いつまで店の入り口で突っ立って……って咲夜!?どうしたのよ!?」

 

「お前……特に理由もなく僕の人間関係をかき回すような事を言うな!!」

 

「いやぁー、はっはっはー」

 

「笑い事じゃねぇ!!」

 

閑話休題。

 

 

「武器……ねぇ、そりゃまた物騒な物をお求めだ。全く阿良々木君は元気いいなぁ、何か良い事でもあったのかい?」

 

「良い事続きだよ、生憎と。それよりも森近、今回は怪異じゃなくて人間が相手なんだ。

まぁ人間と言っても怪異の専門家で、大分人間離れしている感じなんだけど……」

 

「ふーん……いいよ。オーケー、阿良々木君。最高の武器を用意しようじゃないか。

来るべき決戦に相応しい、そんな武器をね」

 

「……お前にしてはやけに物分かりがいいな、以前までならここで皮肉の一つや二つ言ってただろうに」

 

「まぁ今の僕はバランサーってわけじゃない、ただの売れない古道具屋店主だからね。

お客様のご希望を叶えるのが今の僕の仕事だ」

 

「僕もお前も、お互いあの頃とは随分変わったなぁ」

 

そんなものだよ、阿良々木君。

と、やっぱりわかったような事をこの男は口にするのだった。

 

 

110

 

 

「はい、これ」

 

しばらく待っていろと言った森近が店の奥、倉庫の方から

一振りの刀を持ち出してきた。

 

「えっと……僕の素人目じゃ何の変哲もない刀なんだけど……

これも霊験あらたかな不思議な刀だったりするのか?」

 

「いや?阿良々木君の言う通り、何の変哲もない刀。骨董品だ。」

 

「はぁ!?ちょっと香霖堂!!私達はこの戦いに相応しい最高の武器を探しに来てるのよ!?何でこんな玩具みたいなのを持ってくるのよ!!」

 

「まぁまぁ。落ち着けよ、お嬢様。元気いいなぁ、何かいいことでもあったのかい?

阿良々木君達の話を聞くに、どうも敵さんの能力は怪異性を奪い、操る能力みたいだからね。

下手に特殊な伝説、能力を持ってる武器を使うよりもこっちの方がいいのさ」

 

「それで、普通の刀か……銘とかはあるのか?この刀」

 

「無いよ。無い。無銘の刀。せっかくだし、阿良々木君がつけてあげるってのもいいんじゃない?」

 

「僕が?」

 

「『名は体を現す』という言葉があるように名前っていうのは存在を証明するのに

重要な要素の一つだからね」

 

「名前、ねぇ……」

 

「思いつかないなら私が付けてあげてもいいわよ!?」

 

「あ、いえ。結構です。」

 

「遠慮なんてしなくていいわよ。暦の刀だから……そうね!『コヨミソード』、『アララギ剣』っていうのもいいわね……」

 

「勘弁してください。」

 

「なんでよ!!」

 

「かか、わからぬのか阿呆め。うぬのネーミングセンスはそれだけでこの刀を台無しにすような壊滅的なものなんじゃから引っ込んでおれ。」

 

「な、何ですってぇぇ!!?」

 

「ちょ、やめ、やめろ、このポンコツ吸血鬼!!残念お嬢様!!」

 

隙あらばケンカしてるな、コイツら……

 

「それで?阿良々木君。名前は決まったかい?」

 

「『宿木』……てのはどうかな」

 

「ヤドリギ?なにそれ。ヤドカリの親戚か何か?」

 

被子植物真正双子葉類ビャクダン目ビャクダン科ヤドリギ属、ヤドリギ。

寄生型の植物で、鳥の糞などで宿主とる樹に張り付きそこから発芽。

樹皮に根を下ろし寄生を始める。

国によっては神聖なものとされており、宿り木信仰なんてものまである。

 

「へぇ、宿り木ね。いいんじゃないかい?阿良々木君の生き様っぽくて」

 

「誰が寄生型だ。」

 

他人に頼らなければ、誰かの助けがなければ何もできない。

そんな僕にはぴったしの刀。ぴったしの名前。

 

『劇刀・宿木』。

 

僕の声に応え、刃に蒼色の根のような光が走った。

 

 

……ような気がした。

 




久々の後書きです。

初投稿から何気に1年が経ちました。
始めの頃から読んでくださっている方にも、一気読みをして下さった方にも
深く感謝を申しあげます。

だらだらと続いている物語ですが、もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに!


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幻物語 弐拾ㇳ捌

こんばんわ!
最近すっかり不定期投稿になってしまったK66提督です。

いやぁ、もうしわけない!
でも思うのです。
書きたくない時に書いても面白い文章は書けないのではないか、と。

…………。
はい、ごめんなさい。受け売りです。山田エルフ先生の。
しかも僕の場合、書きたいときに書いても面白いとは限らないっていうね。
ははは。(泣)

そんなこんなで書きました。
個人的にはもっとシリアルも混ぜていきたいのですが、物語終盤ということで
なかなかシリアスから抜け出せない

『幻物語 弐拾ㇳ捌』お楽しみ下さい!!


111

 

計画は順調だ。

やはり私が予想した通り、いや、予想していた以上にこの男の闇は深い。

自分が殺した愛する女を甦らせる為に、この幻想郷を犠牲にする。

それだけならまぁ、よくある狂愛劇だろう。

大事なのはその後だ。

誰もが不幸で、誰もが理不尽で、誰にも都合の良い。

そんな不安定で、気持ちの悪い、薄っぺらな結末を男は望む。

 

天邪鬼の私が言うのも何だがこの男、実にひねくれている。

世間が右と言えば、上と言う。そんなひねくれ方。

 

「なぁトモダチ」

実に気味が悪い。

「そうだシンユウ」

最低だ!!

「待てよアララギ」

最低で最悪で最凶で!

「聞いてくれよ暦」

吐き気の及ぼす邪悪!

「行こうぜ、相棒。」

最っ……悪だね!!!!

 

 

 

 

予定は順調。

暗い夜に出会った彼女は不思議な魔道具を駆使して僕を手伝ってくれている。

某猫型ロボットみたいだ。と言ったら怒られた。

彼女は僕の考えにとても共感してくれた。

この地であの春休みをもう一度やり直す。

そしてあの男、あの幸せそうにヘラヘラと笑いを浮かべていたもう一人の化物と

同じ運命を辿るのだ。

全員が幸せに、みんなが笑っている世界を作る。

それが僕の願い。

 

なぁトモダチ

「なんだよ妖怪」

そうだシンユウ

「どうした妖怪」

待てよアララギ

「早く来いよ、妖怪」

聞いてくれよ暦

「ホントか?妖怪」

行こうぜ、相棒

「あぁ、行こう。妖怪」

 

 

みんなが笑う僕の世界に、笑えない奴は要らない。

 

 

112

 

 

あれから二週間が経った。

奴に目立った動きはなく、僕は咲夜さんや美鈴さん、忍達に日々刀を使った近接戦闘の

稽古をつけてもらっていた。

 

「じゃあ互いに飛行は禁止。弾幕や能力の行使は……まぁアリでいいじゃろ。

双方、準備はいいかの?」

 

「ばっちこい」

 

刀に手を掛けて、気持ちを戦闘モードに切り替える。

 

「問題ありません」

 

対するは咲夜さん。

いつものメイド服ではなく、ピッタリとしたストレッチスーツのようなものの

上から、体が覆い隠されるくらいの大きな外套を羽織っている。

全体に黒い恰好なので、咲夜さんの銀髪がとても美しく映えていた。

 

「それでは……」

 

忍が試合開始の合図を始める。

 

「咲夜さん咲夜さん」

 

「何でしょう?」

 

「ぴっちりスーツって、何だかえっちですよね」

 

「っ!?」

 

「始め!!」

 

『怪異譚・おもし蟹』

 

「きゃっ!?えっ?えっ!?」

 

時間を操る咲夜さんに対抗するには、初手必殺しかない!

 

「うわぁ」

 

なんか忍のドン引きする声が聞こえるけど知らん!

 

「咲夜さん、すみません!」

 

ザシュッ

 

布を裂く鋭い音。

吸血鬼の力で振り払われた刀は、

見事に黒い外套のみを切り裂いた。

 

『そして時は動き出す――』

 

ドスッ。

 

…………い

 

「痛てぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!」

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

『世界。』

 

ドスッ。

 

「ぐ、ぅううううううううううううう!!!!」

 

短く、冷たい言葉が響く度、僕の身体に刺さるナイフの数が増えてゆく。

 

5本。10本。20本。

35本目。

 

念入りに手入れされたナイフが僕の心臓に突き刺さったところで、

咲夜さんの攻撃の手が止まった。

 

「……暦さん、いつまでそうしているつもりですか?私もずっと同じ事をしていると

くたびれてきてしまうのですが」

 

「いつまでそうしてるはあなたの方よ、咲夜」

 

「……?っ!?な、」

 

―—カランッ

 

と、音をたて落下するナイフ

 

「今のは、幻覚ですか……」

 

目頭を押さえてふらつく咲夜さん

 

『怪異・狐火』

 

元々は何もない所にいきなり火の玉が浮かぶ怪異。

僕の語る『狐火』は何もない所に何かあるように見せる、つまりは幻覚を見せる怪異という

ように改変されている。

 

「おいおい、起こすのは反則じゃろ」

 

「だってこのままじゃつまらないじゃない。ほら咲夜!ボーっとしてないでさっさと本腰入れなさい!」

 

「ありがとうございます、お嬢様。……対人戦ではもう二度と使うまいと思っていたのですが、暦さん相手ならば不足はありません」

 

そう言うと咲夜さんは先ほどまでは使っていなかった

一回りほど大きいナイフ、もといダガーを両手に構えた。

 

「暦さん、イギリスはロンドンで語られる殺人鬼の逸話はご存知でしょうか?」

 

「え?……あぁ、『切り裂きジャック』の事ですか?でもあれって半分作り話みたいな……」

 

「そうなんですよ。殺人鬼だとか臓器収集癖を持った変態だとか」

 

 

 

――――――私はただ、お嬢様のおやつを仕入れに行っていただけなのに。

 

『真相・夜霧の殺人姫』

 

彼女の手には、いまだ鼓動を続ける 『 心臓 』 が握られていた。

 

 

 

113

 

 

「さ、咲夜さん、それは……?」

 

いつか見た光景。

 

「貴方の心臓です。暦さん」

 

春休み、あのアロハ男もまた、吸血鬼の心臓を片手に握っていた。

 

「時間操作の応用で、暦さんの心臓を空間ごと抜き取りました。切り取ったわけではないのでまだこの心臓は暦さんと繋がっています。……ですが」

 

グッ……

と、咲夜さんが少し握る力を強めただけで、僕の脳、そして全神経に激痛が走る。

 

「痛、う……ぐぅ……」

 

「獲物に抵抗されると要らない傷を付けて鮮度が落ちてしまうので、

こうやって少しずつ心を壊して、自分から死を乞うように仕込みを施します。

というわけで暦さん、精神的に死なないうちに降参して下さい」

 

「なんだか私のわがままであんな事させてたかと思うと少しゾッとするわね……」

 

「いや、なんでゾッとなんじゃ。反省しろよ」

 

「あんただって今まで食べてきた人間の数なんて数えてないくせに」

 

「300、飛んで2人じゃが」

 

「なんで覚えてんのよ!?逆に怖いんだけど!!」

 

「クリス、メアリー、ミカ、レミリア、ボブ、ジョニー、マイケル……」

 

「絶対適当に言ってるでしょ!?……あと途中で私の名前出さなかった?出したわよね?」

 

「出してない」

 

レミィと忍がまたギャーギャーと言い争いを始めている。

 

「……ははっ、なんだか外野が盛り上がってるな」

 

「暦さん、早く降参してください。私だってこんなこと長く続けたくないんです」

 

その言葉と共に、咲夜さんの手の力がより強くなる。

 

「うっ……ダ、ダメですよ……咲夜さん、こういう戦法をとるなら、非情になりきらないと」

 

そういうのを負けフラグって言うんだぜ。

 

『 神童・机上の数論 』

 

唱えたのはスペルカード。

咲夜さんが時間を操るのなら、僕は――――――

 

「空間を支配する!!」

 

「っえ!?」

 

突然のスペルカードの発動に警戒した咲夜さんが僕の背後に周る。

 

のに対し、僕はバックステップで咲夜さんとの距離を詰め、心臓を取り返した。

 

「そんな……時間を止めたはずなのに何故私の動きが……」

 

再度の幻覚を疑ったのか、咲夜さんが自分の手の甲をつねって言った。

 

「幻覚なのか、それとも現実なのか、嘘か本当か。そんな言葉遊びも

面白そうだけどこれは現実、虎の子のスペルカード、『神童・机上の数論』です」

 

まだ咲夜さんに教えるわけにはいかないが、このスペルカードは

僕を中心とした半径約100m以内の空間を机上とし、そこに数式を立てて解を出す。

 

咲夜さんが現在、時間を停止し、行うこと、止める長さ、時間停止解除後の出現位置などを

予測演算、実際に起こった事象と瞬時に照らし合わせて誤差を修正し、対応する。

 

ちなみにさっきのバックステップは予測より左に5cmほどずれた。

 

「スペルカードは弾幕を発生させるためにあって特殊能力を発動させるものでは無いのですが……」

 

「えっ」

 

動揺し、気の緩んだ僕の額に投げられたと思われるナイフの先が触れる寸前に、

僕はリンボーダンスのように後ろに反る。

 

「くっ……」

 

『 咲夜の世界 』!!

 

咲夜さんのスペルカード発動する寸前、

『 机上の数論 』によりはじき出された解に僕は苦笑いを浮かべる

 

解:<時を止めている間に四肢の空間を抜き取る>

 

そう。このスペルカードはあくまで予測ができるだけで、時間が止まっている間はどうしようもない。されるがままなのだ。

うーん、これは詰みかなぁ……

 

「む……また嫌なものを思い出させるような……」

 

忍が心底嫌そうな顔でぶつぶつ文句を言う。

 

「まいった!飛行禁止だし、これじゃあどうしようもない!」

 

いつかのキスショットのように、手足のない状態で地べたに転がりながら僕はキメ顔でそう言った。

 

 

114

 

 

あの男は何者なのだ。

急に現れたかと思ったらこの屋敷を、正確にはこの屋敷で管理している旧地獄の

エネルギー源をよこせと言う。

目的を探ろうと心を読もうとしたが、その瞬間に本能が拒否反応を起こした。

 

この男には関わっていけない。

この男の深層心理には踏み込むべきではない。

さもなくば心を読んだコチラが奴の闇に呑まれることになる。と、

本能が激しく訴えかけてきた。

 

「ここが旧地獄か、あんまりパッとしねぇなぁ」

 

鬼人正邪。彼女の心から間接的に目的を探ろうともしてみたが、ダメだ。

この天邪鬼は心の底から嘘やハッタリだらけで、ちっとも信用ならない。

まさに天邪鬼。

 

「じゃあ案内ありがとね、お嬢さん」

 

「あなた……一体ここで何をするつもり?ここは地霊殿が責任をもって管理している場所。

事によっては好き勝手なことさせるわけにはいかないわ」

 

私の言葉に男は目を細めて、恐ろしいことを言い出した。

 

「覚り妖怪だと思ってわざわざ説明しなかったんだけど……お嬢さん覚りじゃないの?

……まぁいいや。隠すようなことでもないしね。僕はここに地獄を作るんだ。ここにある

エネルギーを種火して時空に歪みを入れて、春休みの時空軸とここの時空軸を繋げる。

欲を言うとあのメイドさんの力も貰っときたいんだけどまぁなんとかなるだろ」

 

言っていることの半分くらいは理解できなかったのだが、一点どうしても

聞き逃せない箇所があった。

 

「時空に歪みを入れるですって……!?そんな事をしたらこの地底どころか幻想郷全域に

影響が……!」

 

「うん。被害は出るだろうね。少なくとも普通の人間、動物は死ぬんじゃないかな?

よくわかんないけど」

 

「よ、よくわからないって……」

 

殺される。このままこの男を放っておいたらこの幻想郷に生きる全ての生命が全滅の危機

に陥ってしまう。私や他の力のある妖怪ならなんとか致命傷くらいで済むかもしれないが、

あの子達、地霊殿で飼っているあの子達は確実に死んでしまう。

 

止めなければ。

 

「そ……」

 

守らなくては。

 

「ん?何かなお嬢さん?」

 

私はあの子達の主人なのだから。

 

「そんな事」

 

どこから取り出したのだろうか。男が刀の柄に手をかける。

 

「そんな事……!」

 

男は裂けた笑いを浮かべて刀を構え……!

 

「そんな事させるかよ」

 

ギィィイイン!!

 

と黒く、禍々しい邪気を放つ刃は鬼の鋼の肉体に弾かれた。

 

「ゆ、勇儀さん……!!何故……!?」

 

「こいしが慌てて私の所まで教えに来てくれた。よく頑張ったな、さとり。あとはアタシに任せな」

 

こいし。その名前を聞き、私は感極まって泣き出してしまう。

あの子が……!!

 

「……チッ、今度は地獄の鬼さんが相手かよ。毎度毎度鬼ばっかり、いい加減にしてくれよな」

 

「安心しろ。手前に今後なんてもんは存在しねぇ。ここで死んでもらうぞ。

幸いここは地獄だしな」

 

「生憎だけど、まだ僕は死ねないなぁ、殺り残した事があるんだ」

 

この状況でも男は余裕そうにヘラヘラと軽口を叩く。

 

「鬼の四天王が一人、怪力乱神こと星熊勇儀!!推して参る!!」



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幻物語 弐拾ㇳ玖

こんにちわ。K66提督です。
いつもより早く投稿できました!
なんか嬉しいです(笑)

今回は戦闘よりも会話の方が多い回になりました。
その場の雰囲気が上手く伝わっているといいなと思います!
それでは、『幻物語 弐拾ㇳ玖』をお楽しみ下さい!


115

 

 

「暦!奴だ!奴が出た!!」

 

戦闘訓練の休憩で木陰で談笑していた所に、魔理沙が血相を変えて

飛び込んできた。

 

「ま、魔理沙!?お前パチュリー達と魔界に行ったんじゃ……」

 

「あぁ、アリスの母親がウザいから逃げてきた。それよりも奴だ!

とうとう姿を現しやがった」

 

「遂に最終決戦ってことね……私達にケンカを売ったこと、今度こそ後悔させてやるわ」

 

「それで魔理沙あいつはどこに?」

 

「地底だよ。アイツ等地底に隠れてやがった」

 

アイツ“ら“?

 

「なぁ魔理沙、複数系なのはどういう意味だ?」

 

「規模が大きくなってやがる。鬼人正邪って指名手配犯と手を結んで、

善悪の判別が付かない低級な付喪神を従えて軍を作ったんだ」

 

「一人でも厄介なのに仲間を作ったってことか……」

 

「霊夢と萃香、妹紅達が先に向かってる。お前達もすぐに準備してくれ!」

 

「わかった。僕はすぐに行けるけど、、レミィ達は?」

 

「うーん、そうね。本当なら全員でパチェの弔い合戦といきたい所なんだけど」

 

「死んでねぇよ」

 

「流石に紅魔館を完全に留守にするのも心配ね、火事場泥棒を企む輩も出るかもしれないし。そうねぇ……じゃあ美鈴と咲夜、アナタ達暦について行ってあげなさい。

留守は私とフランが預かるわ。」

 

「「「えっ!!?」」」

 

レミィの言葉に忍を除く、その場の全員が驚きの声をあげる。

 

「何よ」

 

「い、いや……てっきりレミィは絶対自分が行くって譲らないと思ってたから……」

 

「てっきり留守番は私だと思ってました……」

 

眼をまんまるにして驚く美鈴さん。

 

「お嬢様、よろしいのですか?私共としても、もちろんお嬢様方が戦場に出向かない方が

心配事がなくてよいのですが……」

 

「嫌だ!私は行く!!お留守番はお姉様だけでしてればいいじゃない!」

 

「駄々をこねるな、フランドール。レミリアも考えがあっての事じゃろ」

 

駄々をこねるフランを諭し、珍しくレミリアをフォローする忍。

 

「力が抑えられている忍ならまだしも、私達があの男と対峙するのは不都合な事が

多い。この間と違って今回はこちらから攻め込むわけだし、気づかない所からいきなり

襲われて力を奪われる、何てこともあるかもしれない。となると対処のしにくい能力を持っている私達は行くべきではないのよ」

 

「ま、そういう事じゃな。しかし今の儂の吸血鬼性はスペルカード無しでは復元できない。

つまりは奪われる力がそもそも無いということじゃな」

 

「僕はできれば忍もここに残って欲しかったりするんだけど……」

 

吸血鬼性が薄いってことはつまり殺されれば死んでしまうってわけで……

 

「やだ」

 

「だよなぁ……」

 

知ってた。

 

「むー……!!っじゃあこの前のお兄ちゃんのやつ!す、すい……ほう?あれなら

人間の女の子と同じぐらいになるんでしょ!?」

 

「そんなの余計に行かせられないわよ。人間が旧地獄なんかに行ったらそのまま帰ってこられなくなるじゃない。」

 

そりゃそうだ。

 

「いくら吸血鬼性が薄いっていってもやっぱり人間とは違うから忍は大丈夫なんだよ。

帰ってきたら僕がうんと遊んでやるから」

 

「ほんとっ!?絶対だからね!約束守らないとキュッとしちゃうからね!?」

 

これは……早まったかな……?

 

「えっと……ちなみに何で遊ぶつもり?」

 

「せんとーくんれん!咲夜達とやってたやつ!!」

 

それ約束守ってもキュッとされちゃいません……?

 

冷や汗をにじませる僕の肩に優しく手がのせられる。

 

「お前様……」

 

「忍……?」

 

忍が普段見せない笑顔をにっこりと僕に向けていた。

 

「何回か死ぬと思うけど、頑張ってね?」

 

「こういう時お前とリンク切れてる事が心底悔しいよ!」

 

 

116

 

 

僕の命と引き換えに、紅魔館に残る事を了解してくれたフランとレミリアを残し、

魔理沙の案内で僕達は地底へと向かった。

 

「よし、ここだ」

 

妖怪の山のふもと、箒から飛び降りる魔理沙の後を追い、僕達も大きな岩の目の前に降り立つ。

 

「岩……?まさかここが入口だったとか言わないよな?これじゃあ完全に崩れちゃったんじゃないか?」

 

「そういう風に見せてるだけさ。射命丸が多くの実力者を呼ぶために幻想郷各地に

報道してるからな。多分霊夢が面白半分のやつ等まで集まってこないように偽装の結界を張ってるんだ」

 

そう言って魔理沙は岩をすり抜けて奥に入っていく。

 

「きゃぁ!!?」

 

「っ!?魔理沙!!?」

 

岩の向こうから悲鳴が聞こえたので慌てて僕も岩の奥へ飛び込んだ。

 

「えっと……随分可愛い悲鳴だったね」

 

「……うっさい」

 

洞窟内に入ると、岩の足場が湿っていたからだろうか、金髪の魔法使いさんがひっくり返っていた。

 

「魔理沙さん大丈夫ですか、っとと。苔とか結構滑りますねここ……」

 

「なら浮かんでればいいじゃないの。律儀に歩く必要なんてないわ」

 

「『飛べよ』は禁句中の禁句ですよ咲夜さん……」

 

「うぬら……ここは既に敵地なんじゃから少しは緊張感を……ほれ、お出ましじゃ」

 

『――――ッ!!!』

 

現れたソイツの咆哮が洞窟内で反響し、空気を震わせる。

 

「な、なんだコイツ!?」

 

「付喪神、を狂化させて傀儡にしてるな……ちっ、えげつない事するぜ」

 

「思った通り、簡単には辿り着かせてくれないってわけか……!」

 

「いや、こいつらには悪いがこんな所で時間をくってられないからな。

ちょっと荒いけど通してもらうぜ」

 

『恋符――

 

「ちょっ、魔理沙、こんな狭い所で……!」

 

――マスタースパーク』!!

 

『――ッ!!』

 

付喪神の断末魔と共に、洞窟が崩壊した。

 

 

117

 

 

「バカ!魔理沙のバカ!何だってこんな岩だらけの洞窟の中でスペルカードなんて使うんだよ!崩れるに決まってるだろ!!」

 

崩壊し、降ってくる大岩から逃げ走りながら僕と魔理沙が取っ組み合いを繰り広げる。

 

「いいから走れよバカ!そうやって絡んでくると私まで潰されるだろこのバカ!!」

 

「バカって言う方がバカだろバカ!バーカバーカ!」

 

「くだらん事やっとらんで早う走れ!道がなくなってしまっては辿り着くものも辿り着けん!」

 

「もうすこし先に縦穴がある!そこから落ちれば旧都はすぐだ!そこで霊夢達と合流する!何があるかわからないし、念のため戦う準備もしておいてくれ!」

 

まるで洞窟までもが僕達を狙っているかのように、先ほどよりも強い勢いで

岩が迫ってくる。

 

「飛び込めぇぇぇぇえ!!」

 

自由落下。

僕達一行は、文字通り地獄へ落ちていった。

 

 

気がついたのはそれから大体20分ぐらい後だろうか、僕の半身は土に埋まっていた。

 

「あ、気がつきました?暦さん」

 

気絶して僕に気をまわしてくれたのだろう。

美鈴さんが膝枕をしてくれていた。

あと何故か咲夜さんが凄い睨んでる。

 

「イテテ……魔理沙のせいで余計なダメージを……」

 

「女々っちい奴だなぁ、男ならいつまでもうじうじ言うなよ」

 

「暦さん、目が覚めたならもういいでしょう。美鈴も、いつまでものんびりしないで」

 

「ははーん?さては咲夜さん、私に暦さんを取られて妬いてるんですね?なんなら譲りましょうか?膝枕」

 

「そそそそそ、そんなことないわよ!!?で、でもいい加減に起きてください暦さん!」

 

「「あ、はい」」

 

にやにやしていた僕と美鈴さんだったが、咲夜さんがナイフを光らせたのを見て、

一瞬で素に戻る。

 

「それで?落ちてきたはいいけど霊夢達とはどこで合流するんだ?」

 

大きな橋の向こうに、灯篭の光が見える。恐らくあれが旧都なのだろう。

 

「わからん。合流するとは言ったけど多分霊夢のことだからそのまま突っ込んでるだろうな」

 

「なんだよそれ……どうにかして霊夢と連絡はとれないのか?ちょっと前に万能便利アイテムを使ってたよな」

 

「陰陽玉の事か?今回は事態が急すぎたからな、預かってない」

 

「となると、わしらも先に進んで追いつくしかないってことじゃな」

 

「それなら早く行きましょう。今こうしてる間もあの男は計画を進めているに違いありません」

 

「そうだな、急ごう」

 

「……盛り上がってるところ悪いのだけれど、そのまま進んだらアナタ達死ぬわよ?」

 

「っ!!?」

 

背後にいきなり現れた気配に、その場の全員が臨戦態勢をとる。

 

「ってなんだ、パルスィか。珍しいなお前から話しかけてくるなんて」

 

金髪に翠色の瞳。そしてファンタジーの登場人物にいそうなエルフ耳。

またしてもとびきりの美少女の登場だ。

 

「別に。アナタ達が状況を弁えずに楽しそうにお喋りしてたのが妬ましかっただけよ」

 

「ふーん。ま、いいや。それで?何があったんだ?橋を渡っただけで死ぬなんて随分と物騒じゃないか」

 

「旧都は今戦場よ。既に半分以上が奴らの手に落ちてしまっている。戦況を知らないあなた達がのこのこ入って行っても無駄死にするだけでしょうね」

 

「は、半分以上……?旧都のゴロツキ達が低級付喪神なんかに圧されてるっていうのかよ」

 

「そのゴロツキ達が操られてる。よほど強い催眠にかけられているみたいね、

しかもそれがまだ伝染病みたいに広がっている。都が完全に落ちるのも時間の問題よ」

 

「嘘だろ……地獄の鬼を操るなんて……」

 

鬼を、操る……?

敵戦力は付喪神だけじゃないってのか……?

 

「一介の鬼ならそこまで手こずる事はないのだけどね……いくら何でも『あの子』は反則よ」

 

「パルスィ、まさか――」

 

「……星熊勇儀。旧都最強の怪力乱神が、敵軍に取り込まれたわ」

 

 

118

 

 

いけ好かない。

悪党である事は確実なのに、奴はそれを認め、反省し、後悔している。

排除すべき絶対悪。

それなのになぜか奴に攻撃を加えるこちらが罪悪感を感じている。

 

「はぁああああ!!」

 

「はっはー、何だ何だ?怪力乱神の力はこんなものかよ?名前負けしてんじゃねーの?」

 

「上等……!」

 

『剛力・音を置き去りにした拳』

 

「ぐっ……」

 

バァアン!!!

 

音速を超える拳により潰された空気が炸裂し、常人ならその振動のみで死に至るほどの

衝撃が起こる。

それをまともに身に受けた男は……

 

「痛って。折れた折れた。絶対折れたわこれ。ほら、なんか腫れてるもん」

 

「化物が……っ!」

 

「お前に言われたくねーよこの怪力乱ゴリラー。そのおっぱいも実は筋肉なんじゃねーの??」

 

「言わせておけば!!」

 

休むことなく全てが一撃必殺の拳を何度も打ち込む。

 

「チッ、痛てぇって……!」

 

『召喚・黒イ嫌ワレ者』

 

…………っ!

 

「スペルカード!?」

 

男が放った札から、とても数えきれない数の鴉が現れる。

 

「こんなもん!!」

 

しかし赤い眼をした鴉は拳の一振りでバラバラに霧散した。

 

「次にこうなるのはお前さんだ……!」

 

自分の使い魔が一瞬で消されたにも関わらず、気持ちの悪い笑みを浮かべている

男に更なる一撃を――!!

 



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幻物語 参拾

『今月中と言ったな、あれは今日だ!!』

えー、お久しぶりでございます。K66提督でございます。

前回の投稿から約二か月も経っていたんですね。
ほとんど失踪してるじゃねぇか。
もうホントすいません。
人理修複とか塗りバトルとか色々忙しくて……

強めに罵っていただけると幸い……じゃなくて、
今回も楽しんでいただけると幸いです。

それでは『幻物語 参拾』、どうぞ!


119

 

 

パルスィ(さん付けしたら睨まれた)に連れられて到着したのは、すこしくたびれた居酒屋だった。

 

「ここよ、勇儀の事に関してはこの中で説明するわ。霊夢達も中で待ってる」

 

パルスィは敵のいない事を確認してから引き戸を開けた

店の周囲は静寂に包まれているが、用心するのに越したことはないだろう。

 

「お、来たね。暦」

 

「遅い!!一体どこで油売ってたのよ!!」

 

開口一番、顔を真っ赤にして魔理沙に詰め寄る霊夢

 

「わ、悪い悪い……って酒臭っ!お前飲んでたのか!?」

 

「萃香に飲まされた」

 

「私が飲ませた」

 

何故飲ませたし。

何故ドヤ顔だし。

 

「……ま、この状況で居酒屋で飲んでる事を妬みはすれ、咎める理由なんてないけれど。

貴女達、地底の異変を解決しに来たのでしょう?だったらいい加減に作戦会議でもなんでも始めなさいな。いつも通りパッと倒してパッと会心なり縦に割るなりして、何も無かったように意味のない日常を送らせて頂戴」

 

「へいへい。相変わらずの性格だなぁ、パルスィ」

 

と、萃香。

 

「あんたもそのマイペースな所は平常運転じゃない」

 

「いつも通りじゃないのはアイツだけか……」

 

「そうね……全く、鬼の四天王の名が泣いてるわ……」

 

「えっと……その人がさっき言ってた星熊勇儀って人?」

 

「人、っていうか鬼ね。鬼の四天王の一人、怪力乱神こと星熊勇儀。

正直前回の事があるから、今回は生死に関係なく制裁してやろうと思ってたんだけど

アイツが向こう側にいるとなると少しは考えて行動しないとまた逃げられかねないし……」

 

「それで、まずは暦達と合流しようってなったわけだ」

 

「最悪、勇儀か奴のどちらかを暦達に任せて各個撃破になるかもと思ってたけど、

咲夜と美鈴が来てくれたのは嬉しい誤算だわ……って何よアンタ達。なんか口数少なくない?」

 

「霊夢達が気楽すぎるのよ……鬼の四天王って、要するに萃香さんと同じぐらいの強さ

の方が敵戦力にいるってことでしょう?それってかなり深刻な事態なんじゃないの?」

 

「まぁ、単純な『力』だけなら完全に私より上だけどねぇ」

 

萃香のとぼけたような爆弾発言に、僕や咲夜さんの頬に冷や汗が伝う。

 

「そ、そんなのどうやって戦えばいいんだよ。僕達でまとめてかかれば何とかなるのか?」

 

「心配しなくても私達がなんとかするわよ。魔理沙と萃香と私、三人でなら抑え込むことくらいならできるだろうから、あの自称人間はアンタ達に任せるわ」

 

「しょうがない。今回の異変は暦に譲ってやるよ、感謝しろよなっ!」

 

「うーん……まぁ三人いればなんとかなるかなぁ……なるかなぁ?」

 

「あ、それでしたら私も残ります。いいですよね、咲夜さん」

 

「え?あ、そうね。そっちの方がいいかも」

 

「美鈴が?そりゃ近接格闘最強クラスの貴女がいてくれるのは心強いけど……でもいいの?そっちでも重要な戦力じゃないの?」

 

「私の能力は『気を使う程度の能力』、気付けは得意分野なんです。なので上手くいけば星熊さんを正気に戻して暦さん達の所に駆けつけることもできるかもしれません」

 

「なるほどねぇ、うん。じゃあお願いするわ。戦力は大きいのに越したことないからね」

 

「それじゃあ勇儀さんの所には霊夢、魔理沙、萃香、美鈴さん。奴の所には僕、忍、咲夜さんが向かうって事でいいな?」

 

「「「異議なし!」」」

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

避難しにきた子だろうか、可愛らしい女の子がおずおずと話しかけてきた。

 

「古明地さとりと言います……あの、あなたは先ほどの男とは別の方……なんですよね?」

 

「あー、えーっと……」

 

同一人物ではあるんだけど違うっていうか……うーん、どう説明したものか。

 

「なるほど、パラレルワールドの同一人物……」

 

「そうそう……って、え?」

 

「そいつはさとり妖怪、心を読む妖怪よ」

 

霊夢が横に来て教えてくれる。

 

「なるほど」

 

「実はあの男に家族の一人の『霊烏路空』という子が捕まってしまったんです。さっきまで一緒にいたはずの妹もどこかに行ってしまって……きっとあの子を助けに行ったんだと思います。

阿良々木さん、会っていきなりこんなお願い失礼だとは思いますが…………?

え?あ、阿良々木さん?」

 

「ん?」

 

「あなたって、お人良しって言われたことないですか?」

 

「よく言われる。人じゃないのにね」

 

 

120

 

 

「…………いた、あそこだ。」

 

パルスィに案内された地霊殿のさらに奥、曰く旧灼熱地獄のど真ん中に奴は陣取っていた。

 

「『陣取る』の文字通り、何やら魔方陣のようなものが展開されておる……どうやらギリギリ手遅れになる前に辿り着けたようじゃな」

 

「てことは奴の隣にいるのが鬼人正邪ですか?それとも……」

 

「それともの方ですね、あれが霊烏路空さんです。正邪は……見当たりませんね……」

 

「人質か……」

 

あれが阿良々木暦のあり得たかもしれない未来の一つだと思うとゾッとする。

 

「お前様は『ああ』はならぬよ、絶対にな。儂が保証してやる。」

 

「……サンキュー」

 

忍の何気なさそうな言葉に、何気ない態度でそんな事を言ってくれる事実に

温かくなった心で最終決戦に覚悟を決め、刀に手を添える。

 

「じゃあ、作戦通りに。行こう!」

 

僕の合図で三人同時に飛び出す。

 

『咲夜の世界』――……

 

『そして時は動き出す』

 

「うぅぉぉおおおおおお!!!」

 

飛び出すと同時、咲夜さんが時間を止めて、奴から刀を奪いとる。

そうして丸腰になった所に僕が一撃で!!

 

『ドスッ!!』

 

「やぁあああああ!!!」

 

心臓に突き刺した刀を力に任せて振りぬく。

 

『ドサッ』

 

「え?お兄さん誰?あ、あれ?」

 

霊烏路さんが突然現れた同じ顔に戸惑ったように、僕と足元に横たわる死体を交互に見る。

 

「早く逃げて。まだここは危険だ」

 

戸惑う霊烏路さんに咲夜が寄り添い、忍が少し遅れてこちらに来る。

 

「おい、お前様。この死体――」

 

「わかってる、『血が出ない死体』なんてあるわけがない。咲夜さん、刀は……」

 

「あ、こちらに」

 

咲夜さんが差し出した刀を忍が受け取る。

 

「ふむ……」

 

「どうだ、忍」

 

「残念なことに予想通り、じゃな。こいつは『心渡』じゃ」

 

「ってことは……」

 

「こ、暦さん!!し、死体が!」

 

「!!」

 

咲夜さんの慌てた声にそちらを振り向くと、死体が消えていた

 

「やっぱ、そう簡単には行かないよな……なぁ、人間!」

 

「ん……何だよ、いつもみたいに『』で登場させろよ、化物」

 

「いい加減お前に遊ばれるのも嫌気が指してきたからな。すぐに決着を付けさせてもらうぞ」

 

「鬼人正邪、アナタももう年貢の納め時よ。命が欲しかったら投降しなさい」

 

「おいおいおい、私は天邪鬼だぜ?そんな風に命令されて『はいわかりました』なんて言うわけねぇだろ」

 

「なるほどの。心渡を手放した時点で想像はついたがやはり、か」

 

「――――。――、―――――――!!!!」

 

「中身はまだ未完成か。しかしまぁ、主様だけでなく儂まで出てくるとはのぅ……二度目とはいえ慣れんわい」

 

「じゃあ元キスショット……忍ちゃんだっけ?心渡を返してくれよ。流石にこの男相手に夢渡だけじゃ辛いからさ」

 

「元キスショット、と呼べ。貴様だけはな。貴様のお仲間のセリフを借りるわけじゃないが

それで『はいどうぞ』と渡すと思っているのか?」

 

「あー、じゃあいいや。もう返してもらったし。」

 

「なっ!?」

 

驚きの声をあげたのは僕だったか忍だったか。

いつの間にか奴の手には心渡、夢渡が握られていた。

 

「それじゃあお見せしよう、本土初公開、『隠渡』の作り方だ」

 

「かくしわたり……?」

 

「『斬る』力と『生かす』力。二つを矛盾させて両立させる。俺の専門家としての真骨頂は

『辻褄合わせ』でさ。都合よく、手順よく、思い通りに。それが俺の専門技術だ」

 

そう言い終わるころには奴の手に『隠渡』が握られていた。

 

「じゃあ始めようぜ。お、3対3で丁度いいな」

 

化物と人間、元伝説と未完の伝説、メイドと天邪鬼が対峙する。

 

「「死ね!!阿良々木暦!!」」

 

お互いに持ちうる最大の憎悪をもって、二人の男は雄たけびをあげた

 

 

121 

 

 

「おら、くらえ!!」

 

『神宝・ブリリアントドラゴンバレッタ』!

 

『扇符・愚か者には相応なる修正を』

 

「ごっこ遊びなんてする気はないぞ!」

 

鞘から『宿木』を抜き、『隠渡』と刃をかち合わせてしのぎを削り合う。

 

「うおっ、物騒な奴だなぁ、殺す気満々かよ」

 

「何を今更!!」

 

『怪異・おもし蟹』!

 

「効くわけねぇだろ、こんなの」

 

『ドスッ』

 

おもし蟹の重力増加をものともせず、涼しい顔で刀を蟹に突き刺す。

 

「それぐらい知ってる!」

 

出し惜しみは無しだっ……!!

 

『怪異譚・障り猫』

 

「『エナジードレイン!』」

 

「づっっ……ああ˝あ˝あ˝あ˝!!」

 

流石に堪えたのか、僕の手を振り払いスペルカードを発動させる。

 

『召喚・黒イ嫌ワレ者』、『幻朧月睨』!!

 

「狂っちまえぇ!!」

 

「『ワンパターンだな!させるかよ!』」

 

『神童・机上の数論』、『怪異・狐火』!

 

空間把握、未来予想、幻覚を無効化!

 

「クソがぁ!!」

 

小細工は通用しないと踏んだのか、刀での打ち合いに切り替わる。

 

「『くッッ……!』」

 

怪異退治でずっと刀を使ってきたコイツ相手じゃ流石に不利か……!?

 

「死ね!死んじまえよ主人公!!!」

 

「猫!交代だ!」

 

『怪異譚・レイニーデビル』!!

 

「『オラァァ!!』」

 

『ガキィイイイン!!』

 

吸血鬼と悪魔の全力で振り払った刀は相手の刀と強く打ち合い、甲高い音をあげる。

瞬間お互いに後ろに下がり、距離をとる。

 

「ころころころころと……バラエティ豊かなこって、羨ましいねぇ!特撮ヒーローみたいだな!」

 

「日曜朝にこんな戦い放送できるかよ。子供は確実に泣くぞ」

 

「はっはー、違いない」

 

「……おい人間、いや、阿良々木暦。どうしてお前はそんな風になっちまったんだよ。忍野も、羽川も、戦場ヶ原とも出会っている僕が!どうしてお前みたいになっちまうんだよ!」

 

「っ!……はっ、おいおい、随分と残酷なこと聞いてくれるな、阿良々木暦。逆に俺も教えてほしいね、どうやったらそんな幸せそうになれるのかをさ」

 

「幸せ……?」

 

「そうだろうがよ、裏切ったキスショットと和解して、それなりに愉快な人生を送って、一緒に生きて来た皆が死んだら今度はこっちの世界でまた愉快な生活を送っている。そんなの理不尽だろ。

なんでお前だけ笑っている。なんでお前だけ慕われる。なんでお前だけ!!!」

 

「…………」

 

「だから俺はやり直す。あの惨劇を、春休みをやり直すんだ。なぁ、頼むよ正義の味方。

自分を助けると思って、見逃してくれよ。もういいだろ?もう満足しただろ。俺を、お前にさせてくれよ」

 

男は笑った。初めて見た時の不気味な笑いではなく、自らを嘲るような悲しい顔で笑った。

 

『日符・』

 

「っ!しまっ……!?」

 

『吸血殺しの黒い太陽』

 

その手に生み出されたのは、吸血鬼の最大の弱点。

闇を浄化する聖なる光。

『太陽』そのものだった。

 

 

122

 

 

自らとの闘いを繰り広げる暦さんと距離をとり、私と空さん、そして鬼人正邪は地霊殿の前まで移動してきた。

 

「ここまで来れば暦さんの邪魔にはならないでしょう……さて」

 

「おい、いいのかー?自分同士の戦いなんてお互いに死んじまうんじゃねーの?

ほら、戻って加勢してやろうぜぇ」

 

「……奇襲の作戦が失敗した場合は私があなたの担当なのよ。それに暦さんがあんな胡散臭い男に負けるわけないじゃない」

 

本当は忍さんも暦さんと一緒に戦うはずなのだが。

むしろあっちの方が心配だ、

あんな殺意の塊を一人で相手にするのは危険すぎる……

 

「霊烏路さん、街の酒屋であなたの主人と橋姫が待ってるわ。ここは私に任せてあなたは…………え?」

 

「お、始まったかな?」

 

視界の端に突然現れた途轍もない光に、つい眼を奪われる。

 

「何よ……あれ……」

 

パチュリー様のロイヤルフレアに似てもいるが、光の色がおかしい。

『黒い光』、そう呼ぶのがふさわしい禍々しい太陽が先ほどまで私達がいた場所で

煌々と燃え盛っていた。

 

「って、太陽!!?」

 

悪い予感がして、今度は空さんの方に振り替える。

 

「八咫烏の力、盗られちゃった……神様に悪いことには使っちゃいけないって言われたのに……」

 

八咫烏……!太陽の化身の力……!?

 

「対吸血鬼用最終兵器。思ってたより早い発動だったなぁ、意外と苦戦したのかな?」

 

「暦さん!!」

 

「おっと」

 

すぐにでも駆けつけようとする私に正邪が通せんぼうする。

 

「貴様……!そこをどけ!!さもなくば殺す!!」

 

「全く。わかってねぇなぁ、だぁーかぁーらぁー、天邪鬼にそんな事言っても逆効果だって」

 

『逆符・天邪鬼の夢』

 

「上下左右、裏表。全てが逆さまなこの世界、果たして攻略できるかな?」

 

 



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幻物語 参拾ㇳ壱

お待たせいたしましたぁぁぁ……
K66提督でございます。

一ヶ月以上の期間を空けてようやく投稿……といいたい所なのですが、
短い!圧倒的に短い!!

広げた風呂敷を畳むのがこんなにも難しいとは……
もっと勉強です。

さて、残り少ないですがラストスパート頑張って参りますので
応援よろしくお願いいたします!

『幻物語 参拾ㇳ壱』お楽しみください!


124

 

 

僕は死んだ。

いや、不死身の存在なのだから、この場合は『消滅した』というのが正しいのだろうか。

僕は消滅した。

消滅した吸血鬼はどうなるのだろうか。死後の世界とやらはあるのだろうか。

まぁ、たとえ僕が人間だったとしても地獄行きだと言うのは周知のことだろう。

ごめん戦場ヶ原……約束、守れなかった……

 

「あのー、アライさん?」

 

吸血鬼が死んだ後のこんな真っ暗な世界まで来てくれて嬉しいが八九寺、

僕の名前を2017年、ダークホース枠として大ヒットしたアニメ作品に登場する、

とにかく前向きなことが取り柄な、アライグマを擬人化した女の子みたいな

名前で間違えるな、僕の名前は阿良々木だ。

 

「失礼噛みました」

 

「違う、わざとだ」

 

「がおー!かんじゃうぞー!」

 

「かまないでくださーい!」

 

わーい、たーのしー!!

 

「あやや……元気そうなのは何よりですが暦さん、大変切羽詰まった状況ですので

起きて下さると嬉しいです」

 

「ん、あれ?文さん?というか僕、生きてる?」

 

「こちらの文さんが間に合わなかったら阿良々木さんは今頃、灰の山になって桜の木に

振りかけられていたことでしょうね。感謝したほうがいいですよ」

 

「なんか真っ赤な花が咲きそうだな、その桜」

 

血染め桜的な。

 

「ちなみにここまで文さんを案内したのは私です。私にも心から感謝した後に崇め奉り、

お百度参りするといいです。」

 

吸血鬼の信仰を受ける神様ってそれはもう魔神なのでは……?

 

「あ、あのっ!八九寺様!?話をそらさないでいただけますか!?」

 

「おっと、そうでした。阿良々木さん、無駄話をしている暇はありませんよ。

こうしている間にも私達は攻撃を受けているのです」

 

八九寺に言われて気が付いたが、僕は今恐らく文さんが作り出したであろう

竜巻の塔の中にいた。

塔の中はそよ風程度に風があり、どうやら外部からの熱と光を防いでいるようだ。

風の向こうに見える真っ黒な太陽。

 

「あれが、奴の奥の手のスペルカード……」

 

使用者を核とし、周囲を焼き尽くすまさに神の炎。

『日符・吸血殺しの黒い太陽』……と奴は言っていただろうか。

 

「ふむ、やはりあれはスペルカードでしたか。先ほどは暦さんを助けるのが最優先で

チラッとしか見えませんでしたが、途轍もない熱量でした。恐らくは『耐久スペル』でしょう」

 

「耐久スペル?」

 

「はい。高い掃討力を持つかわりに、行動制限、時間制限などのデメリットをもつスペルカードのことです。霊夢さんの『夢想天生』や、魔理沙さんの『ブレイジングスター』など、

あとは私が今使っているこの『暴風壁』も耐久スペルです」

 

「へぇ」

 

なるほど、全然わからん。

 

「あやや……さてはあんまり理解してないですね?」

 

「要するにあの太陽が消えた瞬間が最大のチャンスという事です。

阿良々木さん、何か一撃で倒せるような必殺技ないんですか?」

 

「ひ、必殺技……?」

 

「こう、聞くだけで死の呪いが降りかかる怪異譚とか!!何かないんですか」

 

「あるわけないだろ!あったとしてもそれ、僕が生きてる時点でデマだから!

お前こそ神様的パワーでなんとかできないのかよ!」

 

「残念ですが、天界規定により現世に大きな影響を与えることは禁止されていますので」

 

「真面目か」

 

「暦さん!そろそろ敵の耐久スペルが解けます!それと同時にこちらのスペルも解きますのですぐに戦闘準備を!」

 

「え?あ、わ、わかった!」

 

必殺……必ず、殺す技……?

 

 

125

 

 

「さぁ!一体どうやったら抜け出せるかな!?紅魔館のメイドさんよぉ!」

 

「…………」

 

空間転移、いや違う……

これは……結界?

 

「と、なると……」

 

「おやぁ?もう諦めちゃったのかな?がんばれよぉ、メイドさーん!

ほらほらぁ、時間をかければ反転世界も慣れてくるぜ?」

 

あまり気は進まないけど……そんな事言ってられないか。

というか、

 

「うるさいわね。バカにするのもいい加減にしなさいよ、小鬼風情が」

 

『怪符・情報抹消』

 

「え……!?」

 

「外の世界で『仕入れ』をやっていた時によく使っていた事象の書き換えスキルよ。

……あの頃の感覚が戻る気がして進んで使いたくないけど。さて……」

 

暦さんは……あれは、風の塔?天狗の仕業かしら……?

となると暦さんは任せて私は忍さんの方に援軍に行った方がいいかしら

 

「礼を言うわ、天邪鬼。あなたのお陰で頭が冷えた。あのまま私が駆けつけていたら

逆に足手まといになるかもしれなかったしね」

 

「ぐ……」

 

悔しそうな顔をしてこちらを睨み付ける天邪鬼。

妨害に対して礼を言われたことに天邪鬼のプライドが傷ついたらしい。

 

「頭を冷やしてくれたお礼にここは見逃してあげるわ。

……お節介を焼くつもりはないけど、あの男に関わるのはもうやめた方がいい。

奴はあなたを味方とは思っていない。事が起きる前に身を隠しなさい」

 

「…………」

 

「あなたも薄々気が付いているんじゃないの?奴があなたに向ける目が私達に向ける目と全く同じ、別人でも見ているような気味の悪い視線だってこと」

 

「……それが暦の望みだ。幻想郷の全てを、お前らの方の阿良々木暦の世界のモノ

に置き換える」

 

「置き換える、ですって……?」

 

「そう。人里は街に、妖怪の山は天文台に、ちょうど神社もある。博麗神社が北白蛇神社

になるんだろう」

 

「幻想郷を、丸々塗り替えるっていうの?」

 

「土地だけじゃない。人も妖怪も動物も、全部だ」

 

「それじゃあ私も、あなただって……」

 

「んー、まぁ確かに消えちまうなぁ」

 

「じゃあ何故……」

 

「わかんねぇ。あいつの側に居た影響かな、もうとっくに狂っちまってるんだよ私も」

 

「鬼人正邪、あなた……」

 

「ちっ、なーんか冷めちまったなぁ」

 

「そう、じゃあ地上に出て自首でもしてきなさい。小人のお姫様もあなたの事、心配してたわよ」

 

「余計なお世話だー!」

 

舌を出して睨み付けてくる天邪鬼を無視して、忍さんの元へ向かうべく

飛び立った。

 

「『……さて、そろそろかな』」

 

天邪鬼が呟いたその小さな声は、私の耳に入ることはなかった。

 

 

126

 

 

『体は骸で出来ている』

 

 

とある国に生まれた、それはそれは美しい姫。

 

 

『美貌に恋し、心を捧ぐ』

 

 

その美しさから「うつくし姫」と呼ばれ、あらゆる人にもてはやされました。

 

 

『幾年の時を越えて不滅』

 

 

しかし、「見てくれではなく、もっと内面を見てほしい」と願う姫。

 

 

『たった一筋の光もなく』

 

 

その願いを叶えるべく、魔女が「外見と透明にし、内面の有様が他人に見える魔法」

をかけてくれました。

 

 

『たった一人の救いもなし』

 

 

こうして、うつくし姫の心の美しさを目の当たりにした人間は、

 

 

『愚か者は其処に独り、屍の山で涙を流す』

 

 

ある者は感動し、ある者は恋し、ある者は罪の意識を持ち、

 

 

『ならばこの命の罪は重く』

 

 

自らの命を姫に差し出したのです。

 

 

『この体は』

 

 

こうして、うつくし姫の周りには

 

 

『愛しき犠牲で出来ていた』

 

 

姫が愛し、愛された民の死体の山だけが残ったのでした。

 

 

127

 

 

「ぐ……がふっ、な、何を……した……?」

 

竜巻が晴れ、八九寺を連れ、距離を取ろうとした文さんへ襲い掛かろうとしていた奴の手が文さんへ届く寸前で、僕は1つの物語を語り終えた。

その物語の名は――

 

「『童話・うつくし姫』。きっとお前の知らない、忍よりも、キスショットよりも前、あいつが人間だった時の罪の物語だ」

 

聞いた者全てが呪われる怪異譚ではなく、

出会った者全てが自ら命を絶つ物語。

これは、これだけは絶対に、君の知らない物語。

 

「残念だけどお前の物語はここで幕引きだ、阿良々木暦」

 

足元に横たわる男の横に立ち、僕は事の終わりを告げる。

 

「終わり、か……自決とはまた我ながらあっけない負け方だったなぁ、

結局俺は主人公どころかラスボスキャラにすらなれなかったわけだ」

 

僕と同じ顔をしているその男は悔しそうに、しかし今までと違い、やけに晴れた苦笑いを浮かべていた。

 

「……ずっと見てたんだろ?幻想郷の管理者様よぉ」

 

虚空に語り掛ける阿良々木暦。

その声に応えるように『スキマ』が現れた。

 

「御機嫌よう、暦さん方」

 

「紫さん……いたんですね」

 

「よぉスキマ妖怪。満足のいく結末になったかよ」

 

「あら、なんのことかしら?」

 

「……紫さん、あの……!」

 

「暦さん!!」

 

突然目の前に咲夜さんが現れ、張りつめた顔で僕の腕をつかむ。

 

「すぐに来てください!忍さんが!!」

 

僕が吸血鬼になって以来、忍と僕のペアリングは切れている。

でも何故かこの時だけは、忍の身に何が起こったのかわかった気がした。

 



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幻物語 参拾ㇳ弐

お久しぶり(3ヶ月半ぶり)です。K66提督です。

大変長らくお待たせしすぎて既に失踪判決が出ていても何も不思議ではないという……

それでも待っていたと言ってくださる方がいたら、とても嬉しいです。

さて、割と長く続いた幻物語も今回で最後となりました。
上手く幕を降ろせたかどうかはあまりわかりませんが、最後まで楽しんで
読んで頂けたらと思います。

それでは最終回、『幻物語 参拾ㇳ弐』をお楽しみ下さい!


128

 

 

うつくし姫。

儂が主様にあの話をしたのはいつじゃったか……

……ダメじゃな、思い出せん。

何せ儂が吸血鬼になってから約七世紀、その七分の一をあの男と共に歩んできたことになる長いか短いで言うのなら、長いのだろうと儂は思う。だから忘れてもしょうがない。

 

それはそうと……

 

「か、かかっ……まさか発動のタイミングが揃うとは思わんかったわい……」

 

『童話・うつくし姫』と『自壊の願望』。

 

阿良々木暦によって紡がれる悲しい物語と、忍野忍によって語られる罪への嘆き。

『自壊の願望』によって『童話・うつくし姫』が物語から史実へと変化し、

『童話・うつくし姫』によって『自壊の願望』はより強い呪いとなり

忍野忍、及びキスショットに降りかかる。

 

「『――ツ!――――ッッ!!ガッ…………』」

 

「果てたか……まぁ無理もないの、碌な吸血鬼性も持たずにこの自殺衝動には耐えられぬ。……現に、儂も……っ!ぅぅぅあ……っ!!」

 

限界か……

儂が死んで、あの男はどういうリアクションをとるのだろうか。

怒るだろうか、悲しむだろうか。

願わくばたった一滴でもいいから儂の為に涙を流してほしいものじゃの……

 

「かかっ」

 

不思議じゃの

あの時、あの初めて我が主様に出会った時にはあんなにも怖かった死が

今じゃ何ともないわい

『自壊の願望』の影響なのか、それとも阿良々木暦という人間と出会えたからなのか……改めて振り返ってみると中々壮絶で愉快な生涯じゃった

 

「かかっ!」かかかかっ!!」

 

「…………」

 

「かかかかかかっ!!!」

 

「…………」

 

「かかかか……

 

「な、何爆笑してんの?お前」

 

「かかか――――はぇ?」

 

 

129

 

 

咲夜さんの表情がただ事じゃなかったので全力で駆け付けたはいいんだけど……

 

「かかかかっ!!」

 

何アレ怖っ、めっちゃ笑ってるんですけど。

謎の胸騒ぎは何だったのか。

 

「あー、咲夜さん?忍さんがなんでしたっけ?」

 

「えっ、その……とても大きい魔力が爆発したと思ったら忍さんと敵が突然

血を噴き出して倒れたので……」

 

ふむ、なるほど……

噴き出した血は既に蒸発済み、そして寝転がって笑う忍……

 

「かかかか……

 

「な、何爆笑してんの?お前」

 

「かかか――――はぇ?」

 

少々の沈黙。

 

「咲夜さんが凄い形相で呼びに来たから文字通りすっ飛んできたんだけど……

もしかして忍も、使った……?」

 

とりあえず応急処置で忍を僕の血まみれにしながら

ほとんど確信していることを改めて聞く。

 

「……み、見ればわかるじゃろうがっ、がぼっ、ごぼごぼっ!

ちょっ、お前様!もういい、もういいわい!げほっ」

 

「あぁ、ごめんごめん」

 

これでもかと血を浴びせられ溺れかけた忍に平謝りして

忍を抱き起す。

 

「どうやらお前様の方もキリがついたようじゃな」

 

「そっちもな」

 

まさか同時にアレを使ってたとは思わなかったけど。

 

「忍さん、これは……死んでいるのでしょうか?」

 

少し離れたところで倒れて、目を開かないキスショット(仮)に

ナイフを向けて警戒する咲夜さん。

 

「死んではおらん……まぁそこは不死身の怪異だからこそか。

じゃがあの状態では放っておけばそのうち回復力が枯渇して消滅するじゃろうな」

 

「キスショット!!」

 

スキマの中から裏暦が慌てたように現れ、側に寄り添った。

というか何で生きてるんだコイツ

 

「人間としては死んでます。あれはもう思念体に近いかと」

 

「なんだ八九寺、まだいたのか」

 

文さんの掴んだリュックにぶら下がる形で輸送されてきた八九寺。

 

「まだいたとはなんですか、まだとは!!私達がいなければ今頃阿良々木さんは――」

 

「あの、紫さん。コイツらって一体どうなるんですか?」

 

ギャアギャアと五月蠅い八九寺は忍に投げつけて放置。

 

「どうなる、とは?それは貴方が決めることですわ、暦さん。

敗者は勝者の思うがままに、それが幻想郷のルールです」

 

「僕は……」

 

僕は、どうしたいのだろうか。

道を誤り、違う結末を迎えた僕を。

救いたいのだろうか。

罰したいのだろうか。

正直な所、『何も感じない』というのが今の気持ちだ。

僕なのに僕ではない。

 

僕は……こいつを……

 

「喰え」

 

「――は?」

 

キスショットを抱きかかえた僕と同じ風貌をした男は、

あろうことか『あいつ』と同じ要求をしてきた。

 

「だから喰えって、吸血鬼。エナジードレインだ。

それで兎の眼も、お姫様の怪力も、今まで俺が斬った『全ての怪異の能力』

がお前の物になる。キスショットに使った賢者の石もまだほとんど消費していない

後は元に返すなりお前が利用するなり好きにしろ」

 

「ふむ……おい、お前様。こやつの言う事、案外良い提案かもしれんぞ」

 

「なっ……忍まで!」

 

「考えてみろお前様、このままこやつ等を消滅させたら奪われた能力は帰ってこないままじゃ。しかしお前様なら……」

 

「僕なら……皆に奪われた能力を返せるのか?」

 

「この刀、『隠渡』の力は奪うだけじゃない。奪った能力の変換と譲渡、キスショットはその力を使って復活させた。最もこの世界のやつ等の能力は癖が強すぎて変換しきれなかったが。とにかく、この刀ごと俺を呑み込んじまえば万事解決、一件落着ってわけだ」

 

「お前は――」

 

それでいいのか、と言いかけて言葉が詰まる。

いいはずがないのだ。高校二年直前の春からこの男はあの地獄から抜け出せずにいる。

犠牲者のまま、自分の後悔に縛られ人の枠から外れてしまったこの男を僕は……

 

「殺せるのか、って?優しい、優しいねぇ主人公。一方的で、残酷な、善意の押し付けだ。殺せ阿良々木暦、俺はもう十分満足した。そろそろ俺の物語も幕を下ろしてもいいだろ?悪いが奪った能力、返しといてくれ」

 

「そんな借りてたDVD返しといてくれみたいな…………ホントにいいんだな?」

 

「あぁ、既に骨身は残ってないからもう一人の阿良々木暦の魂、残さず喰いきってくれ」

 

そう言われるとなんか嫌だなぁ……自分食べるのかぁ……

 

「お前にも謝らないとな、キスショット……二度もお前を死なせてしまって……」

 

悲しげな目でキスショットの頭を撫でる裏暦の首筋に僕は歯を突き立てた

 

 

130

 

 

『う……』

 

『目が覚めたか、従僕よ』

 

気が付くと俺はキスショットに膝枕されていた。

 

『お前、キスショットか?ここは……』

 

キスショットの膝から起き上がり、周りの景色を確認する。

そしてその結果、学習塾跡の屋上だった。

 

『ここはあの時のままじゃな……』

 

羽川を失い、意気消沈する僕に気分転換にとここで話をしたのだ

 

『その後、お前と戦って……俺は、お前を……』

 

『そうじゃったな……』

 

『俺はまだあの時の――』

 

『なぁ従僕よ、儂はな、あの時うぬに殺されたかったんじゃ』

 

『……え?』

 

『元々、儂はあの場所……うぬと初めて出会った場所でひっそりと死んでいくつもりじゃった。しかし直前で、うぬに出会った儂は死ぬのが怖くなった。無様にも命乞いをしてしまった』

 

『それを、僕が助けた……』

 

『そう。何も関係ないはずのうぬは自らの命を差し出した。なんのメリットも無いというのにな』

 

『今の俺には想像できない行動だな……』

 

『嬉しかった』

 

『え?』

 

『嬉しかったと言っておる。あの時助けてくれたことも、あの時殺してくれたことも

うぬはその時最も辛い選択を儂の為に選んでくれた。感謝しておるよ』

 

『俺は、間違っていなかった……のか?』

 

『そうじゃな……うぬが間違ったのだとしたら、儂を殺した後も怪異と関わってしまったことかのぅ』

 

『それは……』

 

初めのうちは忍野への借金を返済するためのアルバイトのつもりだった。

キスショットの残した心渡、夢渡があったから戦闘に関して苦労することはなかった。

そしてとある件により、自分のいる世界が本来とは異なった歴史を歩んでいることを知った。

あの【主人公】の世界を知った。羨ましいあの世界を、笑い、泣き、怒り、都合よく進んでゆくあの世界を知った。

だから……

 

『やり直そうと思った……か。のぅ我が従僕よ、置換魔術による過去の再現に儂を置換しなかった理由を聞いてもよいかの?』

 

『お前が、良かったんだ。お前だけは、他で代用なんてしたくなかったんだよ』

 

『う、うぬ……よくもそんな恥ずかしい台詞を臆面もなく口にできるな……』

 

『悪かった、キスショット。俺の我儘のせいでお前を二度も死なせてしまった。』

 

『気にするな、我が従僕よ。儂は吸血鬼じゃぞ?二度どころか何千、何万と死んでおる。それに……またうぬに会う事ができた』

 

そう言ってキスショットがこちらに腕を伸ばし、引き寄せてくる。

 

『キスショット……?』

 

『愛しておるぞ、我が従僕。いや、暦。じゃからそんなに自分を嫌わないでくれ。

儂が愛する男を嫌う者がいるというのは、悲しいからの』

 

『……俺も、愛してるよキスショット。だから、僕に殺されて死にたいだなんて悲しいこと、言わないでくれよ』

 

男の物語は幕を下ろす。

その結末が幸か不幸か、それは当人たちにしかわからない。

それは、阿良々木暦とは違う、阿良々木暦の幻の物語。

阿良々木暦の、終わりの物語。

 

 

131

 

 

後日談。というか今回のオチ。

裏暦を吸収し、妖刀『隠渡』と奴が奪ってきた大量の能力、魔力、妖力を手に入れた。

これらを返す過程でもまたひと悶着あったのだが、それはまたおいおい。

 

あの後地霊殿と紅魔館からの融資により、僕は人里から少し離れたところに住居を建てることが出来た。

現在はそこで怪異の専門家……みたいな事をやって生計を立てている。

専門家といっても病や呪いの治療がメインで、妖怪相手にドンパチするような派手な仕事はしていない。

そういうのは目の前の紅白巫女の仕事だ。

 

「にしても、この無駄な大きさは何なのかしらね。アンタ達2人じゃかなりもてあますんじゃないの?」

 

来客用の椅子に腰かけ、来客用のお茶菓子を盗み食いする霊夢が皮肉をたれる。

 

「何だか元々店としても使えるようにわざと大きめに建ててくれたらしい。

まぁ、お客さんが来ない日もこうしてお前や魔理沙、レミィがほぼ毎日遊びに来るから

もてあますってことは無いよ」

 

八九寺の命令(本人は啓示とか言っていたが)により設置した、北白蛇神社の分社的な神棚から八九寺も遊びに来る

 

「ところで忍は?こんなに広い家に住んでるのにまた影の中にいるの?」

 

「あいつは今日紅魔館に行ってるよ。咲夜さんが新作ドーナツを開発したんだってさ」

 

「ふーん……随分と馴染んでるわねぇアンタもまだ慧音の寺子屋に顔出してるみたいじゃない?」

 

ほほ笑む霊夢だが目が笑っていない。

『不用意に人里には近づくなと言ったはずだが?』

というプレッシャーが凄い。

 

「い、いやほら、あれは慧音先生が……」

 

『あのー、すみませーん。怪異の相談所ってここで合ってますかー?』

 

霊夢がスペルカード手を伸ばす瞬間、扉の向こうから救いの声があがる。

 

「ほ、ほら!霊夢!お客さん来たみたいだからさ!今日の所は帰ってくれよ!

話はまた今度聞くからさ!」

 

「……ちっ、わかったわよ。退治系の依頼だったら私に回しなさいよね」

 

「さて……」

 

お客を迎え入れる為、僕は玄関のドアノブに手をかける。

ここから、阿良々木暦の物語は再び始まるのだ。

 

 

 

幻想郷での阿良々木暦の活躍、乞う、ご期待。

 

 



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