歌合わせ (百行)
しおりを挟む

洋食のねだり方

「ハンバーグ食べたい。」

我ながら雅じゃないチョイスだと思う。

初期刀で相棒、母のようで父のようでもある歌仙兼定は、

その号の通り風流を愛する文系名刀だ。

故に審神者である私の立ち振る舞いにはかなりうるさい。

今は作務衣を着ているが最初のころ、

現世から持ってきたジャージを目にするやいなや、

「まずは身だしなみから」と日々重い着物を着せようとしてきた。

数か月にわたる服装戦争は作務衣という形で落ち着いた。

「おっ、いいねぇ。ハンバーグ。」

さすが和泉。お前は賛同してくれると思っていた。

1人と2振で過ごす間、食のほとんどを歌仙に頼ってきた。

歌仙の料理はもちろん美味しい。

だが現代っ子である私には少々物足りなかった。

洋食を食べてたくて、レシピとにらめっこした日が懐かしい。

料理のできる刀剣も増え、洋食を食べる機会も以前に比べたら多くはなったが

量が多い分作るのはカレーやシチューだ。

めったなことがない限り、ハンバーグなんて食べられない。

「今日の昼ってさ、私たちと歌仙しかいないんだよね。

これはチャンスじゃない?」

今日は出陣に遠征にと部隊は全て出払っている。

増えたと言っても、有力な本丸に比べたらまだまだ弱小。

非番でも本丸内の仕事はたくさんある。

「あー……でも二代目がいいって言うか?」

顔を見合わせる。とてもそんな気がしない。

それにこの未処理の書類数。リクエストを受け付けてもらうには多すぎる。

「この書類……終わったら聞いてくれるかも……」

言ってみて確信した。無理だ。

お昼まで1時間強。

ハンバーグのことは忘れよう。

そうだ、そんなもの食べなくたって生きていける。

 

 

 

 

「今日はやけに静かに仕事をしているね。」

内番着に身をつつんだ歌仙が障子から顔を出した。

「昼餉の用意ができたよ。厨においで。」

もうそんな時間か。黙って集中すると時間の流れはとても速い。

「あー疲れた。行こうぜ、主。」

席を立つ和泉に続き厨に向かう……と、そこにあるのは……

「は、ハンバーグ!」

思わず声が出る。

「ああ、昨日読んだ本に出てきてね。どうしても作りたくなったんだ。」

昨日読んだ本…?

「あ、夏目漱石……。」

「なんだそれ?人の名前か?」

昨晩、明日は非番だから夜は書を読むと言って書庫を漁るのに付き合った。

今からだいたい300年ほど前の作品だっただろうか。

とにかく心の中で夏目漱石に感謝を伝える。

今後食べたいものは、それが出てくる本を渡そう。

そう思いながら席に着く。

このメンバーでの食事は久々だ。

 




はじめまして。まいこと申します。
初投稿なので、ほのぼのと日常を書こうと思ったのですが、
完成してみたら、もともと構成を練っていた連載の方の審神者設定がないと
おや?と思われてしまうかもしれないものになってしまいました…(汗
初期刀は歌仙兼定、原作とは違い、
その後仲間になるのが和泉守兼定という設定でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サヨナラだけが

『全審神者に告ぐ。

3日以内にすべての所持刀剣の顕現を解き、現世に帰還すること。』

 

逆行軍が降伏した。

そんな知らせが届いたのは桜がもうすぐ咲くであろう頃。

何年も続いてきた戦いが

沢山の犠牲を出してきた戦いが

ついに終わったのだ。

 

3日とはなんて短い時間だろう。

長い長い時を過ごしてきた刀剣はもちろん、

人間にだって3日なんてあっという間だ。

もう明日にはここを離れないといけない。

なのに。

彼らはあまりにも別れに無頓着すぎではないか。

右も左もわからないまま始まったこの生活。

はじめは私と二振。仲間はどんどん増える。

戦いは苦しかった。みんなが傷つくのが怖かった。

早く終われ。早く、早くと何度願っただろう。

でもみんなと過ごす時間は楽しくて愛おしくて。

このまま続けばいいとも思っていた。

 

それは自分だけだったのだろう。

知らせが届いてから刀剣たちと祝杯をあげ、飲んだり騒いだり。

酒が入って余計にさみしくなったのだろう。

私は彼らに言った。

離れたくない。いっそのこと私を隠して……

後々後悔した。あまりにも軽率な発言だ。

彼らは神様なのだ。その気になればこんな小娘の1人や2人…

だがそんな心配は無用だったらしい。

寂しい。しかし、当然だ。

彼らにとって私など一時の持ち主でしかないのだろう。

そんなことを思いながら最後の眠りについた。

 

 

 

彼らを刀に還す。それは一瞬で終わる。

なにもしなくても政府が決めた時間に顕現は解けるようだ。

私の前にそろって並ぶ刀剣たち。

これでお別れ。何を言っていいのかわからない。

「みんな……今までありがとう……」

そんなことしか言えない。言葉が思いつかない。思わず下を向く。

「主よ、これを。」

目の前にずいと差し出されたのは紙の束。これは…手紙?いつの間に?

問いかけようと顔をあげるが、目の前には刀が並ぶだけだった。

 

 

 

あの後、泣きじゃくって手紙を読むどころではなく、

半ば引きずられるように現世に帰った。心に穴が開いたようだ。

手紙なんてもらうのは一体いつぶりだろう。

子どものころに友達と可愛い紙でやりとりをした程度か。

ようやく読もうという気になった時には新しい生活も始まっていた。

 

 

そこに書かれていたのは

忘れもしないあの日々の出来事。

ともに笑い、泣き、戦った日々。

身を持てたことへの喜び、感謝。

全員分だ。私の刀たち全員からの手紙だ。

自然と涙があふれる。

顔と手紙をうんと離して何度も何度も読み返す。絶対に汚すものか。

この手紙は、あの日々は私の宝だ。

私の愛しい刀たち。彼らに出会えて本当に幸せだ。

どんなに辛くても大丈夫。私は一人じゃない、そう思えた。

 

 





なぜ手紙を渡したのか。
私個人の解釈ですが、刀剣はモノとしての意識が高い。モノである彼らは、口で言葉を伝えるよりも形でモノを残すことを重要視する。
そう思ってお手紙を書いていただきました。

ちなみに、米/津/玄/師/様/v/i/v/iに触発されて考えたものでした。
お別れは悲しいものだけど、始まりでもある。
彼女を愛していたからこそのお別れであるといいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

「おかえり。お疲れさま。」

「ああ。」

今日も応える声はそっけない。必要以上の会話はないが、いつもの、があるだけ私たちは近い関係になれてるのかもしれない。

 

大倶利伽羅。彼はこの本丸にきた最初の太刀だった。「だった」というのは今は打刀としてここに在るからで。

ようやく戦力も整ってきた本丸。彼には立ち上げから世話になりっぱなしだった。他の刀剣たちも練度の高い大倶利伽羅には一目置き、「馴れ合うつもりはない」と言いながら周囲をよく見て動く彼を慕っていた。そして私も。政府と刀剣の板挟みで押しつぶされそうな時、彼のさりげない優しさに幾度となく助けられた。

そんな、夏本番まであと少しの時期だったか。政府から刀種変更知らせが届いた。「太刀から打刀へ」言って仕舞えば簡単で。勿論それが何を意味するのか、数字上の違いは通告されたが、彼は「彼」であれるのか、私にはわからない。不安で、心配で仕様がなかったが、それを外に出すわけにはいかない。

その日の職務は全くと言っていいほど進まなかった。文字を書いても間違うばかりだ。ともに書類を片付けていた長谷部が珍しく、仕事を明日に回そうと提案してきた。あの長谷部がその日の仕事を翌日まで持ち越すことを自ら言ってくるとは…自分が思っている以上に私は「わかりやすい」のかもしれない。

 

ひとまず水でも飲もうと部屋を出て歩くと、縁側にひとり座っている大倶利伽羅を見つけた。政府からの通達はすでに知らせてある。

「倶利伽羅、隣いいですか?」

思わず彼の隣に腰かけたものの何を言っていいかわからない。気の利いた言葉のひとつやふたつ、言えたならいいのだろうが言葉を発してしまえば全て弱音になってしまいそうだ。目が合ったまま間抜けに口をパクパクさせる。

 

と、その時感じる頭へのわずかな重み。心配するな、というように大きな掌が数度髪を撫でつけた。彼が直接触れてくるのは初めてのことだ。

はっとする。本当に不安なのは彼ではないか。自身の身に実際何が起こるのかわからない状況で気を使わせてしまったことに罪悪感を覚える。

「戦えればそれでいい。あんたが気負う必要はない。」

変わらない優しい言葉とそこに見え隠れする不安。違う。優しい言葉が欲しいのではない。私は私のやり方で、彼らを守りたい。

「倶利伽羅、手を…貸して下さい」

答えを聞かずに自分の頭の上にあった手を、自らの両手で包み込む。

「必ず、あなた方をお守りします」

誰かが言っていた。不安ならば手を繋げばいい。凝り固まった薄暗い思いは人の温度で溶けるのだ。

 

それから戦いの前後はよく手を繋ぐ。緊張、不安、後悔、悲しみ。刀である彼らの日々に生まれてしまったもの。溜めて溜めて壊れてしまわないように、溶かし出すのは私の役目だ。

そして今日も。

何も言わなくても触れているだけで黒いものが溶けて温かくなるのがわかる。

 

彼の手はこんなにも温かかっただろうか?

そこに役目以上のものを自覚するのはまだ先だ。




お久しぶりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。