艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー (きいこ)
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第一章「台場鎮守府編」
第1話「吹雪の場合1」


chapter1「吹雪編」

勢いで書いた艦これ小説です、ゲームはつい最近始めたばかりなので知識(あと文章力)は無いに等しいですが温かい目で見てくれたら嬉しいです。


「さてと、今日も仕事に励むか」

 

 

朝焼けに染まる海を眺めながら、男は大きく伸びをする。

 

 

「…やっぱり海はいいよな、見てると気持ちが癒される」

 

 

妙にロマンチックな台詞を吐くこの男の名前は海原充(うなばら みつる)

 

 

台場鎮守府に所属している司令官だ。

 

 

『鎮守府』

 

 

艦娘部隊を指揮する者…『提督』や艦娘達が身を置く施設であり、艦娘部隊の司令部でもある。

 

 

現在は新宿にある鎮守府の総本部である『大本営』、そして大本営の支部である『横須賀』『呉』『佐世保』『舞鶴』『大湊』『室蘭』の6ヶ所が前線を支えている、近年は深海棲艦との戦いが激化しているのに伴い新しい鎮守府の開設が進められている。

 

 

それぞれの鎮守府に提督と艦娘が在籍しており、日夜深海棲艦との戦いを繰り広げている。

 

 

「さてと、そろそろ仕事に戻らないとな、また先輩達が回してきた書類が来てるかもしれないし」

 

 

海原は鎮守府に戻ろうと砂浜を歩き始める、すると…

 

 

「ん?あれは…」

 

 

前方に誰かが倒れているのが見えた。

 

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

 

海原は慌てて倒れている人物に駆け寄る、倒れていたのはひとりの少女だった、年は15才前後といったあたりか、白を基調としたセーラー服を身に纏っている。

 

 

しかし、倒れていた少女は普通の人間と明らかに違う部分があった。

 

 

「…この子…」

 

 

背中にリュックサックのように背負っている機械、折れてはいるがしっかりとその存在をアピールしている大砲。

 

 

「艦娘…か?」

 

 

海原は倒れている少女を見つめながら、誰に言うでもなく呟いていた。

 

 

 

 

 

 

『あれ…?ここは…?』

 

 

特Ⅰ型駆逐艦1番艦『吹雪(ふぶき)』は激しい倦怠感と共に海の中で目を覚ました。

 

 

『あれ…?何で私…海の中に…』

 

 

そこまで言いかけて、吹雪は自身の置かれた状況を理解した。

 

 

『あぁ、そっか…出撃中に軽巡棲艦の攻撃を受けて…それで…』

 

 

轟沈(しず)んだのか、と最後に付け加える。

 

 

『…悔しいなぁ、もっと戦いたかったのになぁ』

 

 

そんな事をつぶやいている間にも吹雪はどんどん水底へと吸い込まれていく、水もどんどん冷たくなっていき、ついには先程まで見えていた日の光も見えなくなる。

 

 

『寒い…暗い…これが轟沈(しず)むって事なんだ…』

 

 

そんな状況にも関わらず不思議と恐怖は感じていなかった、確かに轟沈(しず)んでしまったらどうなるのかという不安はあるが、別に怖いとは思わない。

 

 

『…まぁでも、鎮守府(あそこ)に帰らなくてもいいのなら、ここで轟沈(しず)んだほうがいいのかもね…』

 

 

自嘲気味にフッ…と笑ったその時、目の前にエメラルドグリーンの光がふたつ見える。

 

 

『あれって…まさか…』

 

エメラルドグリーンの光は吹雪に向かってどんどん近づいてくる、すると先ほどまでは分からなかったが、それは深海棲艦の目だと言うことが分かった。

 

 

『深海棲艦…!』

 

 

突然現れた敵に吹雪はビクッと身体を震わせる、艦種は一番弱い駆逐棲艦だったが、今の吹雪は到底戦闘が出来る状態ではなかった。

 

 

『さすがにこれじゃ無理か…』

 

 

背中に背負った艤装は完全に破損、魚雷発射管は全て撃ち終えて空、左足と右腕は敵艦の砲撃を受けて欠損、身体全身は傷だらけ、これだけの損害を受けているにも関わらず不思議と痛みは感じなかった。

 

 

『あぁ、私…ここで食べられちゃうのか…』

 

 

吹雪は今から訪れる出あろう自分の最期を静かに待っていた、すると先ほどははっきりしていた意識が急に遠くなる。

 

 

『…もう…私も限界かな…』

 

 

駆逐棲艦がこちらを飲み込まんとばかりに口を大きく開けたが、吹雪はそのまま目を閉じる。

 

 

『じゃあね…みんな…』

 

 

鎮守府の艦娘達の顔を思い浮かべながら、吹雪は意識を手放した。

 

 

 

 

「…はっ!?」

 

 

吹雪は目を覚ますと勢いよくベッドから跳ね起きる。

 

 

「…夢?」

 

 

激しい動悸を抑えつつ、吹雪は今の状況を確認する。

 

 

自分は確かに敵の軽巡棲艦にやられ、轟沈(しず)んだ、それは間違いのない事実だ。

 

 

ならば今のこの状況は…?

 

 

「ここは…?」

 

 

吹雪はベッドに座った状態で辺りを見渡す、木造造りの部屋で広さはそこまで広くない、床には白い絨毯が敷かれているがあちこちに汚れが目立っている。

 

 

置いてある家具は物置棚と小さな机とテレビ、必要最低限…には一歩足りない量の家具が設置されてる。

 

 

「私…何でこんなところにいるんだろう?」

 

 

吹雪が首を傾げていると、突然部屋のドアが開く。

 

 

「…お?気が付いたか?」

 

 

入ってきたのはひとりの男だった、年齢は20代半ばといったところだろうか、若そうな年齢に似合わず頼りなさそうな顔をしている。

 

 

そして一番目を引くのはその服装、白い軍服を身にまとっており、胸には見覚えのあるエンブレムが付けられている。

 

 

「あなたは…海軍…?」

 

 

「やっぱり分かるみたいだな、俺は海原充、台場鎮守府の提督をしている日本海軍所属の人間だ、そういうお前は艦娘だな?」

 

 

「…はい、吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪です、あの…海原司令官、私は一体…」

 

 

吹雪が自己紹介をすると、海原に今の自分の状況に対しての説明を求める。

 

 

「おっと、そうだったな、お前は鎮守府の近くの浜辺に倒れてたんだ、何か覚えてないか?」

 

 

海原にそう聞かれると、吹雪はここに来るまでの経緯を事細かに話す。

 

 

轟沈(しず)んだのになぜか助かってここに打ち上げられてた…?」

 

 

海原は怪訝な顔で考え込むような仕草をする、もし吹雪の言うことが事実であるのなら、これは前代未聞の事態だ。

 

 

と言うのも、轟沈(しず)んだ艦娘が生還したという報告は深海棲艦との戦いが始まってから一度も聞いたことがない、だとすれば目の前にいる吹雪は初めて“轟沈して生還した艦娘”という事になる。

 

 

 

「…あれ?」

 

 

 

「どうした?」

 

 

吹雪が慌てて身体を見回しているのを見て海原は首を傾げる。

 

 

「私、轟沈(しず)むきっかけになった戦いの時に左足と右腕を持って行かれたんです、なのに治ってる…?」

 

 

吹雪は信じられないといった様子で自分の腕をまじまじとみる。

 

 

「………………………」

 

 

吹雪のその様子を見て海原は思考の海に身を沈める、自分が吹雪を発見したときは手足の欠損は確認できなかった、そもそも五体の欠損などの重大な損壊があればいくら艦娘といえど命に関わる、それが再び五体満足で生還したというのはいささか信じがたい。

 

 

「ひょっとしたら、お前が轟沈(しず)んだ時に“何か”が起こって、その“何か”がお前を回復させてここに送り届けたのかもな」

 

 

「“何か”…とは?」

 

 

「それは俺にも分からない、でも確かに“何か”が吹雪を生きて帰ってこさせた、これは紛れもない事実だ」

 

 

だとするなら、その“何か”の正体を知りたい、吹雪はそう強く思った、轟沈(しず)んだ自分が再び帰ってきた理由を、意味を、知らなくてはいけない、そんな気がした。

 

 

 

「…あの、海原司令官」

  

 

「ん?何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を…台場鎮守府に置いてください!」




本当に勢いで書いてしまったので飛び飛びな内容でしたが、いかがでしたか?続きはそのうち投稿しようと思いますがサイトの操作がおぼつかないのでいつになるか分かりません(汗)


あと最近スタメンで使ってる香取の大破率がうなぎ登りでバケツが足りません(大汗)


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第2話「吹雪の場合2」

投稿初日にお気に入り登録されていて非常に驚いております、登録していただいた方ありがとうございます!




海原は耳を疑った、この艦娘を?台場鎮守府(ここ)に置け?。

 

 

「海原司令官が言う“何か”が本当にあるのなら、私はそれを知りたいです、なのでお願いします!私をここに置いてください!」

 

 

海原は少し迷っていた、吹雪の申し出に対する答えは“YES”だ、この状態の吹雪をむげに追い出せるほど心無い人間ではないし、艦娘が生還したという興味深い事に対する真相は提督としては是非知ってみたい、しかしそれにはいくつか問題がある。

 

 

「…お前の申し出は聞いてやりたいが、お前はかつて別の鎮守府に居たんだろ?戻らなくてもいいのか?、なんなら俺がそこの提督に掛け合うけど」

 

 

これが一つ目の問題だ、吹雪が艦娘と言うことは轟沈(しず)む前にどこかの鎮守府に所属していたという事になる、艦娘は轟沈が確認された時点で所属記録から抹消…つまり除隊されてしまう、早い話が今の吹雪は無所属(ノラ)なのだ、もし前居た鎮守府に戻りたいと思っているのであれば海原は最大限手を貸すつもりでいる。

 

 

「いえ、前の鎮守府には戻りたくありません」

 

 

しかし、吹雪は海原の提案を拒否した。

 

 

「…理由を聞いてもいいか?」

 

 

「私、前は横須賀鎮守府にいたんですけど、そこの司令官は私達艦娘に色々と酷いことをしているんです」

 

 

「…横須賀が?」

 

 

横須賀鎮守府は支部の中では艦娘保有数が一番という事で有名な鎮守府だ、たしか第5艦隊まで存在して艦娘の在籍数は32人だと海原は記憶している。

 

 

「つまり、横須賀はブラック鎮守府だって事か?」

 

 

「はい、艦娘達の食費を削って武器開発や建造の資材を購入したり、練度(レベル)の低い艦娘や戦力不足の駆逐艦を捨て艦として突撃させたり、あとは性的暴行を加えたり…色々です」

 

 

「…前々から横須賀はブラックなんじゃないかって言われてたが、本当にブラック鎮守府だったとはな」

 

 

吹雪の話を聞いて海原は忌々しげに吐き捨てる。

 

 

「…お前には悪いが、生存していたことは横須賀の提督には伝えさせてもらう、轟沈(しず)んだハズの艦娘が生きていたってなったら色々と面倒なんだ」

  

 

「はい、それに関しては異議はありません、海原司令官に余計な問題を押し付けるワケにはいきませんから」

 

 

随分と物分かりがいいんだな、内心そう思いながら海原は電話を取ると横須賀鎮守府の番号を入力する。

 

 

「台場の海原だ、元気にしてるかクソ野郎」

 

 

(…あまり仲が良くないのかな)

 

 

いきなり相手の提督を罵倒する様子を見て吹雪は冷や汗を流す。

 

 

「お前の所の吹雪が生存していた、あぁ、そうだ、あぁ、あぁ、」

 

 

短い相づちだけしか言っていないが、海原の機嫌が目に見えて悪くなっていくのが顔を見て分かった。

 

 

「っ!!」

 

 

すると、突然海原が受話器を乱暴に置き、クソが!と小さく呟く、吹雪は横須賀の提督がなんと言ったのかはだいたい予想はついていた。

 

 

「…“軽巡棲艦如きにやられる艦娘なんざいらねぇ、吹雪はお前にくれてやる”…だとさ」

 

 

そう吹雪に告げる海原はどこか申しわけなさそうな顔をしていた。

 

 

「…そうですか、まぁ予想できたことなので別に何とも思ってないですよ」

 

 

そう自嘲気味に言う吹雪を見て、海原は改めて決意を固める。

 

 

「なら吹雪、俺の鎮守府に来るか?、俺がお前の生還した理由を一緒に探してやるよ」

 

 

海原はそう言って吹雪に手をさしのべる、“この鎮守府の現状”を考えると吹雪にとっては良くないのかもしれないが、身よりのない今の吹雪をこのまま追い出す事など出来なかった。

 

 

「もちろんお受けします、元は私が言い出したことです、どんな厳しい環境でも頑張ります!」

 

 

高らかにそう宣言する吹雪を見て、海原はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「そうか、なら今から一つ言っておく、心して聞け」

 

 

海原の言葉を聞いて吹雪は身を強ばらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウチの鎮守府、おまえ以外に艦娘いないぞ」

 

 

 

 

 

 

「艦娘がいないって、どう言うことですか司令官!」

 

 

海原に言われたことが未だに信じられず、つい声を荒げてしまう吹雪。

 

 

「今言ったとおりだ、台場鎮守府は工廠が差し押さえられてるから建造や開発が出来ない、つまりここで戦えるのはお前だけって事になる」

 

 

「それ鎮守府として成立してないと思うんですけど!?」

 

 

「そんなこと言われてもな…っと、そういえば吹雪にはこの台場鎮守府の事を話してなかったな」

 

 

「?」

 

 

「吹雪、そもそもお前はここに来るまでに『台場鎮守府』という名前の鎮守府を聞いたことがあったか?」

 

 

海原にそう言われて吹雪は記憶を辿る。

 

 

「…無い…です」

 

 

吹雪は台場鎮守府という鎮守府を聞いたことが無かった、しかしそれはよくよく考えればおかしな話だ、日本の各地にある鎮守府支部は互いの連携を取るために専用のネットワークを構築している、どの艦娘がどの鎮守府に所属しているか、この鎮守府の提督は誰か、そもそも鎮守府はいくつあるか…などの情報を共有できるようになっている、だからネットワークに無い鎮守府なんていうのはありえないのだ。

 

 

「そりゃそうだ、台場鎮守府は鎮守府専用ネットワーク…『電子書庫(データベース)』にも載っていない特別な場所だからな」

 

 

「えっ?どうしてですか?」

 

 

吹雪は首を傾げて海原に問うた。

 

 

「それは、この台場鎮守府は問題を起こした提督の流刑地…いわゆる陸の孤島だからだ」

 

 

「…えっ…?」

 

 

吹雪は言葉を失った、流刑地?陸の孤島?つまり司令官は…島流しになったって事…?。

 

 

「俺は以前ある作戦で主力艦隊の艦娘を5人轟沈(しず)めてしまったことがある、それに対する罰としてこの島流しの地…台場鎮守府に飛ばされたってわけさ」

 

 

「…そんな事が…」

 

 

吹雪は海原に何か声をかけようとしたが出来なかった、艦娘に指示を出す提督の責任は重大だ、自分の一瞬の判断ミスが艦娘の命を散らす結果になってしまう事だってありえる、そんな中で艦娘を5人も轟沈(しず)めてしまった提督の心の傷は浅いものではないのだろう、だから吹雪は自分の浅はかな一言では慰めにもならないだろうと思い、何も言えなかった。

 

 

「まぁでも、この海域は深海棲艦なんてほとんど出ないから安心しろ」

 

 

海原は笑ってそう言うが、それは“そんな俺にお前は指揮されたくないだろ?”という意味とも取れる、そんな風に言われているような気がして吹雪は悲しかった。

 

 

「司令官、失礼ながら言わせていただきます」

 

 

「?」

 

 

「司令官が艦娘を轟沈(しず)めていたとしても、それは過去の話です、私は今の司令官を…私を救ってくれた今のあなたを信じます、だからそんな事を言わないでください」

 

 

吹雪は海原の目をまっすぐに見て言った、反面海原は少し驚いたような顔をする。

 

 

「出過ぎた事を言いました、申し訳ありません」

 

 

吹雪は素直に頭を下げて謝罪する、一瞬ひっぱたかれるかも、と思ったが…

 

 

「ありがとな、今日初めて会ったばかりのお前にそこまで言ってもらえるなんて、嬉しいよ」

 

 

そんな心配は杞憂に終わった、海原は吹雪の頭を優しく撫でた。

 

 

「俺はもう誰かを轟沈(しず)ませるつもりはないし、全員が生きて帰ってこれる艦隊にするつもりだ、だから吹雪、こんな俺だが付いてきてくれないか?」

 

 

今度は海原が吹雪に頭を下げた、海原は過去の過ちを悔いているのだろう、だからこそ、目の前にいる吹雪にそのチャンスを与えもらおうとしているのだ。

 

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします!司令官!」

 

 

吹雪はとびっきりの笑顔で海原に敬礼をする。

 

 

「…よし!駆逐艦吹雪、今日からお前はここ…台場鎮守府の仲間だ!」

 

 

そう宣言する海原は、吹雪に負けず劣らずの笑顔だった。




感想どしどしお待ちしています!

戦艦と空母のレベリングが不足していて絶賛火力不足中…


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第3話「吹雪の場合3」

ちなみにゲームの初期艦は吹雪にしました、何気にレベルが一番高い(レベル89)艦娘でもあります。


「本当に全部差し押さえられてるんだなぁ…」

 

 

吹雪は鎮守府を歩き回りながら呟いた、あの後吹雪は正式に台場鎮守の艦娘となった、早速海原は吹雪を秘書艦に指名し、第一艦隊の旗艦(リーダー)にも指名した(ひとりしかいないので当然だが)。

 

 

それから数時間後、吹雪はこれから暮らしていくことになる鎮守府を見て回っているのだが、ものの見事にほとんどの施設が使えなくなっており、冒頭のセリフを呟いたのだ。

 

 

これは吹雪にとってはかなり深刻な問題だ、今の吹雪の武装は…

 

 

•12.7cm連装砲

 

•61cm三連装魚雷

 

 

と、ぶっちゃけ性能がかなり低いモノばかりだ。

 

 

原因は以前所属していた横須賀鎮守が性能主義で戦艦や空母の装備を優先的に開発し、駆逐艦などにはほとんど装備を回してもらえなかったという所にある。

 

 

このままでは深海棲艦と戦うことになったとしてもロクなダメージを与えることが出来ない。

 

 

「何か新しい戦力が必要だなぁ」

 

 

そんな事を考えながら鎮守府の廊下を歩いていると…

 

 

「…ん?」

 

 

廊下の途中に一つの部屋があった、他の施設のように鎖で施錠されておらず、普通に鍵が掛かっているだけのようだ。

 

 

ドアプレートには大分薄くなっている字で『武器庫』と書かれている。

 

 

「武器庫?どんな部屋なんだろ…」

 

 

あとで司令官に聞いてみよう、そう思いながら吹雪は鎮守府見学を続ける。

 

 

 

 

 

 

「武器庫?」

 

 

「はい、中に何があるのかご存じないですか?」

 

 

鎮守府見学を終えた後、執務室に戻った吹雪はさっき見つけた武器庫について海原に聞く。

 

 

「そうか、アレのことを吹雪には説明してなかったな」

 

 

そう言うと海原はデスクの引き出しから一本の鍵を取り出す。

 

 

「いいもん見せてやる、ついて来い」

 

 

「は、はい」

 

 

海原は吹雪をあの部屋の前まで連れていくと、鍵を開けて中に入る。

 

 

「さぁ、これがこの部屋の中にあるモノだ」

 

 

「こ、これは…!?」

 

 

その部屋の中にあったのはたくさんの武器だった。

 

 

いや、武器と言っても艦娘用の大砲や魚雷などではない、剣や槍、はたまたナギナタや手甲拳(ナックル)、近接戦闘で使う物理攻撃の為の武器だ。

 

 

「対深海棲艦用の近接戦闘用武装『深海棲器』、大本営の負の遺産だ」

 

 

「深海棲器…」

 

 

吹雪は深海棲器がずらりと並べられている棚へと近づく、全ての武器が駆逐棲艦と同じ黒色をしていてどこか無骨で冷たい印象を受ける、それはまるで冷たい海の底に眠っていた昔の海賊の財宝がたった今引き上げられたかのような雰囲気だった。

 

 

「元々は陸上での深海棲艦との戦闘を想定して陸軍用に開発されたのがきっかけだな」

 

 

「陸軍…ですか?」

 

 

「当時深海棲艦が陸地でも活動出来るかどうかで議論になったことがあるんだ、深海棲艦は海からやってくるから陸地では活動できないという意見もあったけど、その一方で戦闘は海上…つまり地上で行うから陸に上がれても不思議じゃないという意見もあった」

 

 

「結局はどっちに落ち着いたんですか?」

 

 

「それがまだ決着が着いてないんだよね、実際深海棲艦が陸に上がる前に倒しちゃうし、だからといって実験のためにわざと陸に上げるのは危険だし」

 

 

「まぁ、そりゃそうですよね」

 

 

深海棲艦については色々と謎が多いというのは艦娘である吹雪も知っていたが、こんな所まで議論の対象になっているとは思いもしなかった。

 

 

「まぁそんなわけで、最初は陸軍の武装や鎮守府の提督の護身用として開発されたんだが、途中で艦娘用の武装も開発しようって案が出たんだ」

 

 

「艦娘用…ですか?」

 

 

「砲撃や雷撃以外にも攻撃手段を持った方が戦闘で有利だと考えて開発が進められたけど、実装直前に大本営が白紙にしたんだよ」

 

 

「えっ?どうしてですか?」

 

 

「言ったとおり深海棲器は近接戦闘用の武装だ、砲雷撃…つまり遠距離型の攻撃を得意とする艦娘が扱うにはそれなりに訓練を積む必要があったんだよ」

 

 

「…それが今の話とどう繋がるんですか?」

 

 

話の意図がいまいち飲み込めないので吹雪は聞き返す。

 

 

「ならもう少し分かりやすい例えを出そう、レベル99の魔法使い(遠距離型)をラスボス手前でレベル1の戦士(近接型)に転職させて育て直そうと思うか?」

 

 

「…あー…」

 

 

ようやく海原の言わんとしている事が理解できた吹雪は微妙な顔で小さくつぶやく。

 

 

「未知の可能性を開拓するために金と労力をつぎ込むより、今確立されている可能性を更に伸ばすことに金と労力をつぎ込んだ方がいい…って大本営は考えたんだよ、結局開発途中だった深海棲器はここに死蔵されたってわけ」

 

 

「そんな事が…」

 

 

自分の知らないところで色んな事が起きてるんだなぁ、と吹雪は改めて思う。

 

 

「…司令官、と言うことはこれは艦娘の私でも使えるという事ですよね?」

 

 

「あぁ、もちろん使えるぞ、おまけに艦娘用に開発されたものだから縮小して武装に取り付ける機能もある、大本営も忘れてるだろうから許可とかはいらないと思うし」

 

 

「………司令官」

 

 

吹雪はしばらく深海棲器を見つめた後、海原の方を見て、言った。

 

 

「私、これを副砲(サブウェポン)にします」




中途半端かもしれませんがここで切ります。


最近伊8が欲しくて潜水艦レシピを回しているのに、出て来たのは伊58と伊19が2体ずつ…

はっちゃんカモオオオオォォン!!!!!!


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第4話「伊8の場合1」

chapter2「伊8編」

砲雷撃戦を全くと言っていいほどしていませんが 艦これ小説と言い張ります。

UAが増えていてめちゃ驚きました、ありがたい限りです。


「司令官、夕食の用意が出来ました」

 

 

「ありがとう、ここに置いてくれ」

 

 

「はい!」

 

 

吹雪は海原の夕食が乗ったトレイをデスクの脇に置いた。

 

 

「今日もずっと訓練してたのか?」

 

 

「はい、出撃が無いからといってじっとしてたら身体が鈍りますから、あと暇ですし」

 

 

絶対後者がメインの理由だろうなぁ、などと考えながら海原は味噌汁を啜る。

 

 

吹雪が台場鎮守府に来てから一週間が経った、この一週間吹雪は取りつかれたように深海棲器の自主訓練にのめり込んでいる、新しい武装の開発が出来ない以上この深海棲器を第二の戦力として使いこなさなければいけないと吹雪は考えたからだ。

 

 

ちなみにチョイスした深海棲器は手甲拳(ナックル)とナギナタのふたつ、訓練の甲斐もあり今では普通に接近戦が出来るようになっている。

 

 

ついでに言うと海原も深海棲器の訓練を受けていた事がある、深海棲器は鎮守府が敵艦に襲撃されたときの提督の護身用という意味もあるので定期的に訓練が行われていたのだ、現在でも海原は自主訓練を続けているし、吹雪に深海棲器のレクチャーをしたのも彼だ。

 

 

「大本営に建造と開発の工廠を解放するように要望は出してあるんだけど、ことごとく断られるんだよなぁ…、とりあえずは開発さえ出来れば吹雪に深海棲器なんて持たせなくてもいいのに…」

 

 

「私は結構気に入ってますよ?アレ」

 

 

「マジで?深海棲艦の装甲を素材に使ってるんだぞ?アレ」

 

 

「…マジですか?」

 

 

「マジだ」

 

 

鎮守府の闇を見たような気がして吹雪は顔をひきつらせる。

 

 

 

 

次の日の朝、今日も自主訓練に行こうとした吹雪だったが…

 

 

「吹雪、急で悪いが出撃だ」

 

 

「えっ?出撃ですか?」

 

 

予想外の展開に吹雪が思わず聞き返す。

 

 

「台場鎮守府の近海に深海棲艦が出現したという連絡が入った、吹雪はこれを倒してほしい」

 

 

海原にそう言われると、吹雪は目に見えて顔を輝かせる。

 

 

「はいっ!了解しました!」

 

 

久しぶりの出撃で吹雪は張り切っていた、かつては遠征や海域攻略の捨て艦としてしか使ってもらえなかったが、今日はちゃんとした戦闘要員として参加できる、こんなに嬉しい事はない。

 

 

「吹雪!出撃だ!」

 

 

「はい!吹雪、出ます!」

 

 

吹雪は勢いよく執務室を出て行った。

 

 

 

 

『吹雪、聞こえるか?』

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

出撃海域に到着した吹雪はインカム越しに聞こえる海原の応答に答える。

 

 

「司令官、カメラの方は問題ありませんか?」

 

 

『あぁ、よーく見えるぞ』

 

 

今回吹雪の武装には小型のカメラが搭載されており、出撃中の様子がある程度分かるようになっている。

 

 

「っ!!敵艦発見!艦種…潜水棲艦!」

 

 

吹雪の前方に敵艦…潜水棲艦が姿を現した、真っ白な髪を二つ括りにした見てくれをしており、頭には白い帽子を被っている。

 

 

『よし、戦闘開始!迎撃せよ!』

 

 

「了解!」

 

 

吹雪は深海棲器のナギナタを武装から取り出すと、潜水棲艦に向かって進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ…?」

 

 

突然聞こえた言葉に吹雪は慌てて辺りを見渡すが周りには吹雪と潜水棲艦しかいない。

 

 

「司令官、今何か言いましたか?」

 

 

『いや、何も言ってないぞ』

 

 

「なら誰が…」

 

 

そこまで言って吹雪はハタと気が付く、ここでは自分と敵艦以外は誰もいない、そして海原も何も言っていない、となれば残された可能性はひとつだけだ。

 

 

「もしかして…潜水棲艦(あなた)が…?」

 

 

ありえない、その可能性を考えたときに吹雪は真っ先にそう思った、深海棲艦が人語を話せるという報告は一度も入ったことがないし、深海棲艦が人語を理解できるという報告も聞いたことがない。

 

 

半信半疑といった様子で潜水棲艦をまじまじと見ていると、突然潜水棲艦に変化が現れる。

 

 

「っ!?」

 

 

潜水棲艦の姿に重なるように、もう一人の誰かが浮かび上がったのだ、そのもう一人は実体の無い半透明の状態で浮かんでおり、まるでホログラム映像を見ているようであった。

 

 

そのもう一人は変わった格好をしていた、白い海兵の帽子を被っており、髪は二つ括りにした金髪、そして服装はスクール水着とかなり奇抜ないでたちだ。

 

 

そのスクール水着のもう一人は潜水棲艦の後ろに控えるように浮かんでおり、守護霊のそれを連想させた。

 

 

「あれ…?」

 

 

ここで吹雪はある事に気づいた、そのもう一人と潜水棲艦の姿が妙に似通っているような、そんな気がした、そう思えるほどそのもう一人には潜水棲艦の“面影”があったのだ。

 

 

『どうした吹雪?はやく敵艦を倒せ』

 

 

「えっ!?は、はい!」

 

 

そこまで考えを巡らせていると、急にインカムから海原の声が聞こえてきて吹雪は我に返る。

 

 

(今こんな事を考えていても仕方がない!とにかく敵を倒さないと!)

 

 

 

そう意識を切り替えた吹雪は武装からナギナタを取り出すと、最大速度で潜水棲艦に肉薄する。

 

 

『止めて!私はまだ沈んでない!』

 

 

「っ!?」

 

 

ナギナタを振り上げたと同時に潜水棲艦が叫ぶ、やはりさっきの声の正体はこの潜水棲艦だった。

 

『私はまだ生きてる!沈んでなんかいない!なのにどうしてみんな私を攻撃するの!?どうして私の声が届かないの!?』

 

 

潜水棲艦が泣きじゃくったような声で吹雪に訴えかける、ふともう一人の方を見ると、とても悲しそうな顔をしていた、どうやらこのもう一人(めんどくさいので吹雪は“面影”と仮称することにした)は潜水棲艦の感情と同調しているみたいだ。

 

 

「あなたは一体…」

 

 

『誰か…私を助けてよ!』

 

 

潜水棲艦はありったけの感情を暴発させたような金切り声をあげ、同時に持っていたボロボロの本のようなモノから魚雷が何本も飛び出して吹雪に向かっていく。

 

 

「ぐあああぁっ!」

 

 

『吹雪っ!?』

 

 

雷撃をまともに食らった吹雪はそのまま海面をツーバウンド、一気に小破まで追い込まれる。

 

 

『一度撤退だ!鎮守府まで戻れ!』

 

 

「で、でも…!」

 

 

『いいから戻れ!体制を立て直すんだ!』

 

 

「…分かりました!」

 

 

吹雪は回れ右をすると、潜水棲艦から一気に距離をとるように後退し、その海域から撤退した。

 

 

吹雪の台場鎮守府での初出撃は、『敗北』という結果に終わった。




空母棲艦の先制空撃で駆逐艦が一発大破になったときの脱力感は異常。


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第5話「伊8の場合2」

高レベルの艦娘が駆逐艦と巡洋艦に偏っている我が艦隊。

そう言えば皆さんは「艦隊名」は変えていますか?自分はたまに変えます(だから何だ)。


「大丈夫だったか?吹雪」

 

 

「はい、ダメージも小破で済みましたので、問題はありません」

 

 

撤退後、帰投した吹雪の報告を聞いて海原は安堵の表情を浮かべる、いくらインカム越しに声が聞こえていようとも、カメラ越しに状況が確認できようとも、心配になるのに変わりはない。

 

 

「修理ドックの準備はしてあるからお前はすぐに修理してこい、ついでに補給もな」

 

 

「分かりました、それでは失礼します」

 

 

吹雪は軽く会釈をして執務室を後にする。

 

 

「…とりあえずは、また部下を失う結果にはならずに済んだな」

 

 

誰に対して話すわけでもなく、海原はそう小さく呟いた。

 

 

 

 

電子書庫(データベース)を使いたい?」

 

 

「はい、調べたい事があるんです」

 

 

修理と補給を終えて執務室に戻ってきた吹雪が最初に言ったセリフはそれだ。

 

 

「じゃあ俺が調べてやるよ、何が知りたい?」

 

 

「い、いえ…司令官に調べてもらうほどの事じゃ…」

 

 

「遠慮すんな遠慮すんな、部下の調べ物を手伝うのも上官の仕事だからな」

 

 

そう言って海原は電子書庫(データベース)の端末を起動させる。

 

 

「………………」

 

 

吹雪は少し考える、このまま海原に調べさせればあの事を勘ぐられるかもしれない、そうしたら自分の身も危うくなる可能性だって出てくる。

 

 

「…では、お願いします」

 

 

でも、このままあてもなく電子書庫(データベース)を漁っていても答にたどり着けるかは微妙だし、最終的には海原に話さなければいけない、ならここは渡りに船のこの状況に乗っかるべきだろう。

 

 

「よしきた!何を調べればいい?」

 

 

海原にそう聞かれると、吹雪は一枚の紙を渡す。

 

 

「…では司令官、“過去に轟沈した艦娘”の中から、この似顔絵と同じ艦娘がいないかどうかを探してください」

 

 

 

 

 

カタカタカタ…

 

 

夜の執務室にキーボードを叩く音が静かに響く。

 

 

「…あった」

 

 

検索開始から数分後、海原が唐突に言った。

 

 

「こいつじゃないか?」

 

 

そう言って海原は吹雪に画面を見せる。

 

 

「…はい、確かにこの艦娘です」

 

 

そこに映っていたのは、昼間遭遇した潜水棲艦…のそばに浮かんでいた“面影”の姿そのものだった。

 

 

「名前は『伊8』だそうだ」

 

 

そう言って海原は画面の詳細部分を指差す。

 

 

・名前:伊8(い・8)

 

・艦種:潜水艦

 

・クラス:巡潜3型2番艦

 

・所属:舞鶴鎮守府

 

・着任日:2043年03月25日

 

・轟沈日:2045年10月08日

 

・除隊日:2045年10月08日

 

 

 

「伊8っていうんですか…」

 

 

吹雪は電子書庫(データベース)の画面に表示されている伊8の顔写真をまじまじと見る、やっぱり同じだ、あの“面影”と…

 

 

「…吹雪、お前はこの艦娘と面識は?」

 

 

海原は真面目な表情になって持っている伊8の似顔絵を振る、これは修理を終えた吹雪が書いたモノだ、記憶頼みで書いたにしてはめちゃくちゃ上手い。

 

 

「無いです、実際の顔も名前も今初めて知りました」

 

 

 

吹雪がそう答えると、海原は吹雪の方を向き、核心をついた質問をする。

 

 

「お前…何を知っている?あの出撃で何を見てきたんだ?」

 

 

「…司令官、実は…」

 

 

吹雪は一抹の不安をかなぐり捨て、海原に今日あったことを話し始める。

 

 

「言葉を話す深海棲艦に艦娘の“面影”か…」

 

吹雪の話を聞いた海原は少し驚いたような表情になる、そりゃあこんな突飛な話を聞かされて驚くなと言う方に無理がある。

 

 

「…信じられないですよね、こんな話、やっぱり私疲れてるんでしょうか…」

 

 

吹雪はその場を誤魔化すように乾いた笑い声を出すが、海原はその場で考え込むようにうーん…と唸っている。

 

 

「…司令官?」

 

 

吹雪が怪訝な顔で海原を見ていると、彼の口から耳を疑う発見が飛び出した。

 

 

「お前の見たモノ…本当に艦娘の“面影”なのかもしれないぞ」

 

 

 

 

「深海棲艦の正体が…過去に轟沈(しず)んだ艦娘!?」

 

 

吹雪はあんぐりと口を開けてなにも言えずにいた。

 

 

「何年か前にそんな都市伝説が流れたことがあったんだ、すぐに否定されて忘れられたけどな」

 

 

当時を思い出すような表情で海原は言う。

 

 

「もしその都市伝説が本当なら、吹雪が遭遇した深海棲艦は轟沈(しず)んだ伊8ということになる、世界がひっくり返る程の衝撃的ニュースだな」

 

 

まるで他人事のような呑気さで海原は笑う。

 

 

「まだ事実だと断定されたワケじゃないですけどね…」

 

 

吹雪は苦笑しながら言った。

 

 

「でも、これで一つの可能性が浮かんだ」

 

 

 

ひとしきり笑って満足した海原は人差し指を立てて言う。

 

 

「可能性?どんな可能性ですか?」

 

 

 

「吹雪は深海棲艦と意思疎通が出来る能力を持っている…っていう可能性だ」

 

 

それを言われて吹雪はやっと自分の状況を理解する、今日の出撃で見た伊8の“面影”と声が自分の妄想ではなく本当に深海棲艦になった伊8のモノだとすれば、吹雪は深海棲艦との意思疎通の能力を持っているという事になる。

 

 

当然そんな能力を持った艦娘など前例が無い、これが大本営に知られればおそらく吹雪は身柄を拘束され身体中を調べられるだろう、それこそ非人道的な方法で…。

 

 

「多分これもお前が轟沈(しず)んだ時に起こった何かが影響してるんだと思うが、いかんせん一回出撃しただけだからな、せめてもう一回来てくれると検証の余地もあるんだが…」

 

 

「艦娘部隊の指揮官が言うセリフじゃないですよね…」

 

 

 

吹雪は呆れ気味に言って流すが、まさか本当に再会することになるとはこの時誰も思っていなかった。

 

 

 

 

次の日、台場鎮守府に再び深海棲艦の出現を知らせる連絡が入った、場所は昨日と同じ海域だという。

 

 

「…ひょっとしたら昨日の奴かもしれないぞ」

 

 

「ま、まさか…深海棲艦が意志を持って特定の場所に現れるなんてありえないですよ」

 

 

そう言って出撃した吹雪だったが…

 

 

「…ほんとうにまさかでした」

 

 

「だろ?」

 

 

目の前に現れた潜水棲艦…もとい伊8を見て吹雪が何とも言えないような顔をする。

 

 

『助けて…私…まだ沈んでないよ…』

 

 

伊8は虚ろな声でぶつぶつと呟きながら海上を蛇行していた、その“面影”もどこか悲しそうで…寂しそうだった。

 

 

『吹雪、伊8はなんて言っている?』

 

 

インカム越しに海原の声が聞こえてくる、今回も小型カメラとインカムを付けての出撃だ。

 

 

「まだ沈んでない、助けて、そんな事を繰り返し呟いています、攻撃してこないのを見ると敵意は無いかと」

 

 

『ふむ…よし、なら吹雪、今から作戦を伝えるからよーく聞いとけよ』

 

 

「はい!」

 

 

海原が口にした作戦は、吹雪の予想を遥か斜め上をいくものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、そいつと会話してみろ」




戦闘シーンがほとんど無いけど大丈夫だろうか…(焦)


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第6話「伊8の場合3」

はっちゃん編はこれにて終了です。


マジではっちゃん来てくれませんかねぇ…


「…えっ!?会話ですか!!?」

 

 

吹雪は驚いてつい声を大きくしてしまった。

 

 

『向こうの声が分かるならこっちから語りかけるのはそう難しくない、とりあえずやってみろ』

 

 

「簡単に言いますね司令官…」

 

 

吹雪は呆れつつも目の前の伊8に向かって声をかける。

 

 

「あの…伊8さん」

 

 

『…えっ!?』

 

 

すると、伊8は意外にもこちらの呼びかけに素直に反応してくれた、正直言って拍子抜けである。

 

 

『…あなた、私が分かるんですか…?』

 

 

今度は伊8が吹雪に語りかける、頭の中に声が直接響いてくるような…変な感じだ。

 

 

「はい、私は吹雪型駆逐艦の一番艦吹雪と言います、巡潜3型2番艦伊8さんですね?」

 

 

吹雪がそう訪ねると伊8はコクリと頷き、声を殺して涙を流した。

 

 

『…良かった、やっと私の声が届く人に会えた…』

 

 

その様子を見て吹雪は多少の罪悪感を感じる、今から自分はこの娘に残酷な事実を伝えなければいけない、そう考えただけで胸が締め付けられるようだ。

 

 

『ねぇ助けて!私、他の艦娘から狙われてるの、まだ沈んでないのに、ちゃんと艦娘なのに、みんなが私に砲を向けてくるの…』

 

 

「伊8さん」

 

 

耐えられない、これ以上聞いていたら自分は伊8に真実を伝えることは出来ない、吹雪は自分の心に鞭打って必死に口を動かす。

 

 

『単刀直入に言います、あなたは轟沈(しず)んだんです、もう深海棲艦になってしまっているんですよ』

 

 

 

 

『…えっ…?』

 

 

 

それを告げられた伊8は絶望的な表情(かお)をする。

 

 

『そんなハズない…!私は伊8、ちゃんとした艦娘…』

 

 

「下を向いて、自分を見てみたらどうですか?」

 

 

『えっ…?』

 

 

吹雪に言われて伊8は下を向いて海面を覗き込み、水面に映る自分の姿を見る。

 

 

『…そんな…私、もう…』

 

 

深海棲艦となってしまった自身を見て、伊8はポロポロと涙を流し、両手で顔を覆う。

 

「…………」

 

 

吹雪は無言で武装をナギナタから主砲に切り替え、伊8に向けて照準を合わせる。

 

 

『…いいのか?吹雪』

 

 

「…どうせ助からないんです、ならいっそここで楽にしてあげるのが救いってモンですよ」

 

 

口ではそう言うが、本当は胸が張り裂けそうだった、深海棲艦になってずっとひとりでさまよい続けている彼女を轟沈(しず)めてしまうのはとても辛い決断だ。

 

 

それ故に、吹雪は主砲を構えたが引き金を引けずにいた、撃とうとする度に手元が震えて照準がズレてしまい撃つことができない。

 

 

『吹雪さん、もう…私を轟沈(しず)めて下さい』

 

 

 

「っ!?」

 

 

突然伊8からそんな事を言われ、吹雪はビクッと身体を震わせる。

 

 

『私はもう深海棲艦…吹雪さんの敵です、みんなのところにも帰れないし誰とも話すことが出来ない、だったらここであなたに轟沈(しず)められたい…』

 

 

伊8の言葉を聞く度に吹雪の手の震えは大きくなっていく、手元からはカチャカチャと軽い金属音が鳴り、最早撃つどころではない。

 

 

『最期にあなたと話せて良かった、もう未練はありません、撃って下さい』

 

 

 

そう言う伊8の顔はとても満足げで、やり切ったと言わんばかりの笑顔だった。

 

 

「…では、安らかにお眠り下さい」

 

 

吹雪は震える手を何とか抑えると引き金を引こうとする、すると…

 

 

「っ!?これは…!?」

 

 

伊8の身体が淡い光に包まれ、潜水棲艦の身体にヒビが入っていく。

 

 

『な…何だ!?』

 

 

 

ヒビは潜水棲艦の身体中に広がっていき、ついには全身を覆うように広がった、そして…

 

 

パリン!という音と共に潜水棲艦の身体が卵の殻のように弾け飛び、漆黒の欠片となって四方八方に飛んでいく。

 

 

 

「…伊8さん…?」

 

 

 

そしてその殻の内側には、轟沈(しず)む前の“面影”と何も変わらない伊8の姿があった。

 

 

 

 

「まさか深海棲艦から艦娘が生まれるとは思わなかったな」

 

 

「私も予想外でした」

 

 

海原と吹雪はそう言いながら伊8をまじまじと見る、あの後吹雪は気を失っている伊8を抱えて台場鎮守府へと帰還、その後修復中に目を覚ましたので執務室に連れてきたのだ。

 

 

「あ、あの…そんなに見られると恥ずかしいです」

 

 

伊8は海原と吹雪に見つめられて身体をモジモジさせている。

 

 

「でも、修復してもやっぱり“それ”は治らなかったな」

 

 

海原の言う“それ”とは、伊8の右腕にある黒い痣だ、駆逐棲艦の装甲のような色をしたそれは伊8の二の腕全体を覆うように広がっている。

 

 

「深海棲艦だったときの名残のようなモノが残ってるんでしょうか?さしずめ深海棲艦との“混血艦(ハーフ)”といったところですかね」

 

 

「…だとしたら嫌な名残です」

 

 

伊8は不機嫌そうな顔で自分の腕を見つめる、そりゃ自分の身体にそんなものが残っていたら誰だって嫌だろう。

 

 

「そう言えば自己紹介をきちんとしていませんでしたね、元舞鶴鎮守府所属、巡潜3型2番艦の潜水艦娘『伊8』です、どうぞ気軽にハチと呼んで下さい」

 

 

伊8…ハチは丁寧にお辞儀をして自己紹介をした。

 

 

「吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です、よろしくお願いしますハチさん」

 

 

「台場鎮守府司令官の海原充だ、取り合えずはお前を助けられて良かったよ」

 

 

続いて吹雪と海原が自己紹介をする。

 

 

「それで、私の今後はどうなるんでしょうか…?」

 

 

ハチが不安そうな顔で海原に質問する、吹雪同様ハチは轟沈(しず)んだ時点で舞鶴鎮守府から除隊されていて現在無所属(ノラ)となっている、ハチ自身は戻りたいと思っているが舞鶴の提督が同意してくれなければそれは叶わない。

 

 

「そう言われると思って舞鶴の提督に連絡を取ったんだが…」

 

 

海原が歯切れの悪い調子で言いよどむ、その様子で舞鶴の提督がどんな返事をしたのかあらかた予想がついてしまった。

 

 

「拒否…ですか…」

 

 

「轟沈して生還した艦娘、奇跡の生還と言えば聞こえは良いが、見方によっては“曰く付き”ということにもなる、それに元深海棲艦ともなれば何が起きるか分からない」

 

 

海原はなるべくハチを落胆させないように慎重に話すように心掛ける。

 

 

 

「…そう、ですよね」

 

 

しかし、そんな海原の努力も虚しくハチは今にも泣きそうな顔で俯いている(海原が口下手なせいでもあるのだが)。

 

 

「まぁ、だからというわけではないが、良かったらうちの鎮守府に所属しないか?」

 

 

「…えっ?」

 

 

海原の提案にハチは目を丸くする、吹雪は最初から海原がそう言うのを分かっていたのでクスッと小さく笑うだけだった。

 

 

「ここだったらお前が深海棲艦との混血艦(ハーフ)だって事を知ってるから気を使う必要も無いし、台場鎮守府の性質上ここに来る奴なんていないからバレる心配もない、どうだ?うちに来ないか?」

 

 

そう言って海原はハチに右手を差し出す。

 

 

「……………」

 

 

ハチはしばらく熟考するように顎に手を当てて半目になる、やがて決意したのかハチは海原の顔を見て、言った。

 

 

「…そうですね、舞鶴に戻れないとなると行く宛も無いですし…はい、潜水艦伊8、台場鎮守府への着任を希望します」

 

 

 

それからすぐ後、伊8は台場鎮守府の艦娘として正式に登録された。

 

 

 

 

○台場鎮守府現戦力

 

•駆逐艦 吹雪Lv.38

 

•潜水艦 伊8 Lv.35←new!




感想気軽にお待ちしています。


次回は戦闘シーンが来る予定です(いまさら)。


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第7話「暁の場合1」

chapter3「暁編」

港湾棲姫(第二形態)の空撃が強すぎて泣けてくる今日のこの頃。


突き抜けるように晴れた青空、地平線に浮かぶ白い雲、そして穏やかに波打つコバルトブルーの海、これほど海に出かけるのに適した天気は無いだろう。

 

 

「敵艦発見!駆逐棲艦1体、軽巡棲艦1体、計2体!」

 

 

「交戦態勢に入ります!」

 

 

…もっとも、深海棲艦との戦闘においてそんな事は全く持って関係のない話なのだが。

 

 

「行くよ!ハチ!」

 

 

「了解です!」

 

 

吹雪とハチがそれぞれ得物を持って深海棲艦に突撃する、ハチが台場鎮守府に所属してから2週間が経った、彼女も台場鎮守府の雰囲気にすっかり慣れたようで吹雪や海原とも仲良くやっている。

 

 

以前は訓練用ターゲットを相手にひとりで行っていた自主訓練もハチと演習形式で行うようになってから戦闘スキルがみるみるうちに伸びていき、練度(レベル)もメキメキと上昇中である。

 

 

ハチも所属初日から深海棲器を所持した、ハチの武装自体は『61cm三連装酸素魚雷』と決して悪くはなかったのだが、やはり開発が出来ない台場鎮守府では少し心許ないという事から深海棲器の訓練を積んでいる。

 

 

ちなみに使用している深海棲器は小太刀2本と回転式拳銃(リボルバー)タイプの拳銃だ、小太刀は白兵戦用の武器として、拳銃は砲撃戦用の武器としてチョイスした。

 

 

「はあぁ!」

 

 

吹雪が猛スピードで駆逐棲艦に近づいていく、その合間に砲撃を行うが大したダメージにはなっていない。

 

 

駆逐棲艦も吹雪の接近を拒むように砲撃を開始、高速で鉛の砲弾が飛んでくるが吹雪は気にすることなく接近を続ける、そして砲弾が吹雪に当たる瞬間…

 

 

「はぁっ!」

 

 

武装から取り出した大振りの太刀で砲弾を真っ二つに斬り裂いた、この太刀はハチが所属してすぐの頃に吹雪が使い始めた深海棲器で、これを使って吹雪は“敵の砲弾を斬り落とす”という常人離れした技術を習得した。

 

 

訓練用のペイント弾などを使って猛特訓を重ねた結果、吹雪はわずか1週間あまりで“砲弾斬り”をマスターしてしまい、これには海原もただただ驚いていた。

 

 

そうして駆逐棲艦の砲弾を凌ぎながら高速で近づいて敵に肉薄した吹雪は…

 

 

「くらえええぇぇ!!!!」

 

 

手甲拳(ナックル)の深海棲器を両手に装着し、駆逐棲艦の土手っ腹に右ストレートをお見舞いする。

 

 

殴られた駆逐棲艦は勢い良く2~3m先までぶっ飛ばされ、着地点にいた軽巡棲艦に激突する。

 

 

「駆逐棲艦の小破を確認!」

 

 

小破した駆逐棲艦に追撃を加えるために吹雪はナギナタを構えて駆逐棲艦に迫る。

 

 

「っ!?」

 

 

しかし、後ろに控えていた軽巡棲艦が腕の主砲から砲弾を発射、吹雪目掛けて飛んでくる。

 

 

「やば…!」

 

 

この距離では回避行動をとれないと判断した吹雪は腕を胸の前でクロスさせ、手甲拳を盾代わりにする防御姿勢をとった。

 

 

「吹雪さん!」

 

 

ハチが足に装着していたホルスターから拳銃を引き抜き、思い切り引き金を引く。

 

 

乾いた発砲音と共に銃口から漆黒の弾丸が射出されると砲弾目掛けて一直線に飛んでいき、軽巡棲艦の撃った砲弾に着弾する。

 

 

刹那、吹雪に迫っていた砲弾が突如爆発し、無数の鉛の欠片となった。

 

 

ハチが撃った銃弾は内部に爆薬が仕込まれている特別製のモノだ、もちろんこの銃弾も深海棲器で出来ており、普通の銃弾よりも威力が高い(それでも駆逐艦の主砲程度の威力しかないのだが)ため砲撃戦でも牽制としてはそこそこの威力を発揮する。

 

 

「ありがとうハチ!」

 

 

「どういたしまして」

 

 

ハチは短くそう言うと海中に潜っていく。

 

 

「はあああぁぁ!」

 

 

吹雪が再びナギナタを構え、駆逐棲艦に向かって勢いよく右斜め下に斬りつける。

 

 

「まだまだぁ!」

 

 

攻撃はそれだけでは終わらず、ナギナタをそのまま左斜め上に向かって斬り返す。

 

 

駆逐棲艦は悲痛は呻き声をあげながら身悶える。

 

 

「トドメぇ!」

 

 

追撃として吹雪はナギナタを駆逐棲艦のエメラルドグリーンの目に突きつける。

 

 

「ハチ!」

 

 

「魚雷一斉発射!」

 

 

吹雪のインカム越しの合図と共にハチは水中から魚雷を発射、駆逐棲艦の脇腹にすべて命中する。

 

 

「駆逐棲艦撃沈!軽巡棲艦大破!」

 

 

魚雷の爆発ダメージで駆逐棲艦が撃沈、その爆発に巻き込まれた軽巡棲艦が大破になる。

 

 

「はっ!」

 

 

爆発のダメージで軽巡棲艦の動きが止まった隙を突いたハチは素早く海上へ飛び出し、持っている2本の小太刀で軽巡棲艦を素早く斬りつけていく。

 

 

更に吹雪が太刀で軽巡棲艦の頭部を一刀両断、完全に動きを停止した。

 

 

「…軽巡棲艦の撃沈を確認、周囲の敵影無し、戦闘終了です」

 

 

敵の旗艦(リーダー)を撃破した吹雪は海原に戦闘終了を報告する。

 

『ご苦労さん、これにて出撃任務は完了だ、気をつけて帰ってこいよ』

 

 

「了解です司令官!」

 

 

戦闘で勝利を収めた吹雪達は意気揚々と台場鎮守府へ帰投する。

 

 

 

 

 

 

「いや~、今回は大勝利だったね」

 

 

「はい、お陰で練度(レベル)も順調に上がってますし」

 

 

帰投後、ドックで修理を済ませた吹雪とハチは執務室のソファでくつろいでいた。

 

 

「どうしてお前らは執務室でくつろぐかね、艦娘の部屋はいくらでもあるだろ」

 

 

いつものように先輩から押し付けられた書類にペンを走らせながら海原がボヤく、しかし本気で追い出そうとしないのを見ると案外この状況を気に入っているのかもしれない。

 

 

「確かに部屋はたくさんありますけど、司令官がいないと寂しいじゃないですか」

 

 

「そうですよ、提督がいると何気ない会話でも楽しくなるんです」

 

 

吹雪とハチにそう言われ、海原は自然と顔を綻ばせてしまう、部下にそんな事を言われれば嬉しくなってしまうものだ。

 

 

「ったく、ふたりとも口が達者な事で」

 

 

 海原は書類を書きながらそっと呟いた。

 

 

 

 

鎮守府の各支部には“練度測定器(レベルスキャナー)”と呼ばれる装置が必ず設置されている、これはもちろん艦娘の練度(レベル)を計測する為の機械であり、艦娘の強さを計る為のモノだ。

 

 

「さてと、早速計りますか」

 

 

吹雪は練度測定器の前に立ってスイッチを入れる、病院などに置いてあるCTスキャンを立てにしたような見た目のそれは、上から下に向かってレーザーのような光を当てて艦娘の潜在能力を計る…というモノらしい、もっともコレは大本営の公式見解なので海原は全て信じているわけでもなかった。

 

 

測定自体は10秒ほどで終了し、モニターに吹雪とハチの現在の練度が表示される。

 

 

○駆逐艦『吹雪』

 

練度(レベル):70

 

○潜水艦『伊8』

 

練度(レベル):65

 

 

 

「おぉ、結構上がったね!」

 

 

「前回計ったときより10くらい上がってますね」

 

 

ふたりが満足そうにモニターを眺めていると…

 

 

「吹雪!ハチ!出撃だ!」

 

 

ドアが勢いよく開いて海原が入ってくる。

 

 

「出撃ですか?」

 

 

「あぁ、駆逐棲艦が一体この近くに来てるらしい」

 

 

「了解です、すぐに出撃準備に入ります!」

 

 

吹雪とハチは準備の為に出撃室に向かって駆けていった。

 

 

 

 

出撃任務を受けて吹雪とハチは台場鎮守府の近海へと向かった、このあたりは敵のはぐれ艦がやってくるくらいなので吹雪達のいい練習にもなっている。

 

 

「で、あれが今回の敵艦(ターゲット)でいいんだよね」

 

 

「はい、そうだと思います」

 

 

吹雪達は目の前にいる敵艦を見据える、艦種は駆逐棲艦が一体のみ、長い髪は黒色だが一部で白髪が混じっており縞模様に見える、頭には黒い帽子を被っており、服装は白いセーラー服だ。

 

 

「ハチ、この感じ…」

 

 

「はい、間違いありません」

 

 

吹雪とハチは互いに納得したようにうなずくと、インカム越しに状況を聞いている海原へ簡潔に伝える。

 

 

「司令官、敵艦に“面影”あり、この娘…艦娘です」  

 

 

 

『…よし、吹雪とハチはそのまま“面影”との会話を続行、情報を引き出せ』

 

 

「了解しました」

 

 

吹雪はそう言うと“面影”に声をかけようと試みる。

 

 

「あの~、すみません」

 

 

“面影”の艦娘は吹雪の言葉には反応せず、ただ俯いてボソボソと何かを呟くだけであった。

 

 

「?」

 

 

何を呟いているんだろう、と気になった吹雪とハチは“面影”に近付いて耳を澄ます。

 

 

『…ご…めん……ね』

 

 

ごめんね、声は所々掠れていたが、確かにそう聞こえた。

 

 

 

(“ごめんね”?誰かに謝ってるのかな…?)

 

 

続けて“面影”の声を聞く。

 

 

『ごめんね…ひび…き……いか…ずち……いな……づ…ま…私のせい…で』

 

 

今度はちゃんと聞き取ることが出来た、どうやら誰かに謝りたいという想いがある“面影”らしい。

 

 

「あの…私の声、聞こえてますか?」

 

 

吹雪は再び“面影”に声をかけるが、何も反応がない、試しに肩を叩いたりもしてみたが結果は同じだった。

 

 

「司令官、“面影”との会話は不可能と判断しました、情報は多少は引き出せたので帰投しようと思います」

 

 

『了解した、吹雪たち第一艦隊の帰投を許可する』

 

 

この日、“面影”との接触で得られた情報は、“面影”は誰かに謝りたいと思っている事と数人の艦娘と思われる名前だけだった。

 

 

 

 

帰投後、吹雪は海原に出撃であったことを報告し、例のごとく帰投中に描いた“面影”の似顔絵をもとに海原に電子書庫(データベース)で探してもらっている。

 

 

「…見つけた、この艦娘だな」

 

 

海原は電子書庫(データベース)の画面をふたりに見せる。

 

 

○艦娘名簿(轟沈艦)

 

・名前:(あかつき)

 

・練度:50

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:暁型1番艦

 

・所属:舞浜鎮守府

 

・着任日:2048年8月25日

 

・轟沈日:2049年10月14日

 

・除隊日2049年10月14日

 

 

 

 

「暁…さんですか」

 

 

ハチは電子書庫(データベース)の画面を興味深そうに見つめる、おそらく前の鎮守府では見たことが無かったのだろう(もっとも提督しかみないのであたりまえだが)。

 

 

「そうそう、吹雪に頼まれてた別件も調べておいたぞ」

 

 

そう言って海原は別フォルダに分けた資料を見せる。

 

 

「お前が言ってた『ひびき』『いなづま』『いかずち』の名前を調べておいた」

 

 

 

○艦娘名簿

 

・名前:(ひびき)

 

・練度:60

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:暁型2番艦

 

・所属:舞浜鎮守府

 

・着任日:2048年8月25日

 

・2050年現在活動中

 

 

 

 

・名前:(いかずち)

 

・練度:59

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:暁型3番艦

 

・所属:舞浜鎮守府

 

・着任日:2048年8月25日

 

・2050年現在活動中

 

 

 

 

・名前:(いなづま)

 

・練度:55

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:暁型4番艦

 

・所属:舞浜鎮守府

 

・着任日:2048年8月25日

 

・2050年現在活動中

 

 

 

「暁の同型艦だったんですね」

 

 

「ほかの姉妹艦はまだ健在のようですよ」

 

 

「…ん?」

 

 

ここで吹雪が名簿のデータの中で気になるところを見つける。

 

 

「舞浜鎮守府って、そんなところありましたっけ?」

 

 

「うーん…私も聞いたこと無いですね」

 

 

「舞浜鎮守府は2年くらい前に開かれたトコなんだよ、艦隊の規模はあまり大きくないけどそれなりの戦果をあげてるらしいぞ」

 

 

吹雪とハチの疑問に海原が答える、吹雪もハチも轟沈していたので知らなくても不思議ではない。

 

 

「うーん…しかし舞浜か、呉や佐世保に比べたら遠くはないな」

 

 

海原はそう呟くと自身の携帯で電車の路線図を呼び出す。

 

 

「…司令官?」

 

 

海原は携帯のモニターを見ながら考えるような仕草をすると、唐突に言い放った。

 

 

「お前ら、明日舞浜に行くぞ」




うちの吹雪がケッコンカッコカリ目前になってきました。


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第8話「暁の場合2」

吹雪とケッコンカッコカリしました、次の目標は三日月と初霜です。

はっちゃんを出そうと懲りずに潜水艦レシピをぶん回していたら島風(2体目)が建造されました、違う、君じゃないんだ。


「ほぇ~、ここが舞浜鎮守府ですか」

 

 

「台場より全然新しいですね」

 

 

「建ってから年数経ってないからな」

 

 

次の日、海原と吹雪とハチの3人は電車を乗り継いで舞浜鎮守府へとやってきた、目的は同型艦の響、雷、電に話を聞くためだ。

 

 

舞浜鎮守府は海原の言ったとおり2年ほど前に建てられた比較的新しい鎮守府だ、舞浜に限らずここ5年以内に鎮守府の新規建設が進められている所が多い、深海棲艦の活動が近年になって活発化しているので艦隊の活動効率をあげるのが主な目的とされている。

 

 

そんな真新しい舞浜鎮守府に意気揚々とやってきた3人だったが、ここでひとつの問題にぶち当たった。

 

 

「話聞くとして、何て言って切り出そう」

 

 

「え、考えてなかったんですか?」

 

 

「提督…」

 

 

中庭のベンチでうなだれている海原を吹雪もハチも呆れたような顔で見る、そう、話を聞こうとやってきたまでは良かったものの、どうやって話を聞こうかというのをまるで考えてなかったのだ。

 

 

「しょうがねーだろ、同型艦の話を聞けば暁の轟沈(しず)んだ理由も分かるんじゃないかって思ったら身体が勝手に舞浜行きを決めてたんだよ」

 

 

「だからって、少しは策とか考えてくださいよ」

 

 

「提督ともあろうあなたが無策で突撃してどうするんですか…」

 

 

特攻野郎にも程があるだろ、とふたりは心の中でつっこむ。

 

 

「でも、確かに暁さんの事をどうやって話すかは問題ですよね」

 

 

「あなたの仲間の暁が深海棲艦として生きています、なんて言ったところで信じてもらえる訳ないですし」

 

 

うーん、と3人が頭を悩ませていると…

 

 

「あの、少しいいかな」

 

 

海原の背後で声がするのでそちらを振り向く。

 

 

「っ!!お前は…」

 

 

ここで書いておくと、海原が座っているベンチは背もたれを背中合わせにふたつ設置されている、その声の主は海原が座っているベンチの背後に置かれているベンチに膝立ちの状態で話しかけてきたのだ。

 

 

「今の話、詳しく聞かせてもらえないかな」

 

 

その声の主は、暁型駆逐艦2番艦、響だった。

 

 

 

 

「ここなら誰にも聞かれる心配はないよ」

 

 

響に案内されるように通されたのは暁型が使っている自室だった、途中で同型艦の雷と電も連れてきていたのでこの部屋には6人が集まっている。

 

 

少々予想外の展開となったが、暁型が偶然にも海原の会話を聞いていたおかげで話が進みそうなのでこっそり感謝しておくことにする海原だった 。

 

 

「さて、では改めて自己紹介を…私は舞浜鎮守府所属、暁型駆逐艦2番艦の響だ」

 

 

「同じく3番艦の雷よ」

 

 

「同じく4番艦…電です」

 

 

暁型の挨拶を聞き終えた海原は吹雪たちを立たせ、挨拶を促す。

 

 

「台場鎮守府所属、吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です」

 

 

「台場鎮守府所属、巡潜3型2番艦潜水艦の伊8です」

 

 

「台場鎮守府提督の海原充だ、今日は突然押しかけてすまないな」

 

 

それぞれの挨拶を済ませると、海原たちはベッドに腰を下ろす。

 

 

「では、改めてさっきの話の内容を詳しく聞かせてくれないかな、暁が深海棲艦になって生きている、という事について」

 

 

「っ!?それってどういう事!?」

 

 

「暁が深海棲艦に…!?」

 

 

話を聞かされずに連れてこられた雷と電は動揺して身を乗り出す。

 

 

「…暁と思われる深海棲艦が度々台場鎮守府近海に出没している、その深海棲艦がお前たちに謝るような言動をとっていたんだ、それが轟沈(しず)んだキッカケなんじゃないかと思って俺たちはここに来た、何か知らないか?」

 

 

「たぶん、それは…」

 

 

「その前にひとついいかい?」

 

 

電が何かを言いかけたとき、響がそれを遮るように手を挙げる。

 

 

「なぜその深海棲艦が暁だと分かるんだい?そもそも艦娘が深海棲艦になるなんてなぜ断定できる?そして深海棲艦が言葉を話すなんて今まで聞いたことがない」

 

 

響が感じた疑問点を次々と海原たちにぶつけてくる、一気に話して誤魔化そうとしたのだが、冷静な判断力を持っているらしい響には通じなかったようだ。

 

 

「あなたたちは、一体何を知っているんだい?」

 

 

透き通ったアイスブルーの目で真っ直ぐ見つめられ、これは逃げられないなと海原は腹をくくる。

 

 

「ハチ、悪いが“アレ”をやるぞ」

 

 

「了解です、提督」

 

 

「…すまないな」

 

 

「気にしないでください、あなたに救われた命です、あなたの為に使います」

 

 

そう言ってハチは立ち上がると、着ているセーラー服の右袖を二の腕辺りまで捲っていく。

 

「なっ…!?」

 

 

「えっ…!?」

 

 

「嘘…!?」

 

 

“それ”を見た瞬間、3人凍り付いたように固まっていた。

 

 

「お前らは、艦娘と深海棲艦の混血艦(ハーフ)を…灰色の存在を信じるか?」

 

 

ハチは何も言わずに自分の腕を、深海棲艦化した腕をさらしていた。

 

 

響、雷、電の3人はハチの腕を見て愕然としていた、深海棲艦と艦娘の混血艦、そんな存在がいるなんて今まで聞いたこともなかったし想像もしていなかった。

 

 

「あり得るのですか…?混血艦(ハーフ)なんて…」

 

 

「詳しいことは俺にも分からない、でもハチと吹雪が一度轟沈(しず)んでいるのは事実だ、それは鎮守府の電子書庫(データベース)で確認している」

 

 

「つまり、一度轟沈んだ艦娘が再び生還(もど)ってきて、その際に深海棲艦と対話する能力を身に付けて混血艦(ハーフ)になった…という事だね?」

 

 

響は相変わらずの冷静さで海原の話をまとめる、同じ同型艦でもさっきから唖然としてばかりいる雷と電とではエラい違いだ。

 

 

「ざっくり言うとそうなるな、今の吹雪とハチは混血艦(ハーフ)になった影響なのか深海棲艦と意志疎通が出来る能力がある、ハチも最初は潜水棲艦として台場近海に現れた敵艦だったんだ」

 

「えっ!?」

 

 

海原の話を聞いて雷が驚きの声を漏らす。

 

「そこを私がハチと会話をして艦娘に戻したんです、轟沈(しず)んだ事を受け入れられずに苦しんでいたんですよ」

 

 

「…なるほど、そこまで聞いてしまうと、暁が深海棲艦になっているという話もあながち嘘じゃ無いのかもしれないね」

 

 

響が顎に手をあてて考えるような仕草をする、どうやら信じてもらえるらしい。

 

 

「それで話を戻すが、暁がお前たちに謝っていたことに関して何か知らないか?」

 

 

海原の質問を聞いた響は何かを決意したかのような顔をして、海原に話し始めた。

 

 

「あれは、暁が轟沈する直前の事だ…」

 

 

 

 

『ごめんって言ってるじゃない!』

 

 

『ぜーったいに許さないわ!』

 

 

『はわわ、ふたりとも落ち着いて欲しいのです…』

 

 

響が昼食の買い出しから戻って自室に入ると、雷と暁が何やら言い合いをしており電がオロオロしながらそれを止めようとしている。

 

 

『電、何があったんだい?』

 

 

『実は、雷が暁のプリンを食べちゃったみたいなのです、演習が終わったら食べようと楽しみにしてたみたいで…』

 

 

『それでご立腹なのか』

 

 

響の言葉に電が首を縦に振って肯定する。

 

 

『そもそも、食べようと思ってたのなら名前くらい書いておけばいいのよ!冷蔵庫にあんなに無防備に置いてあったら普通に食べられるわよ!』

 

 

『自分で買ってきたものでもないのにホイホイ食べる雷もどうかと思うわよ!』

 

 

『うーん、お互いの言うことに一理あるから仲裁がし辛いな…』

 

 

いつもは響が間に入ってふたりをなだめるのだが、この時は互いの主張が的を射ていたのでどちらが悪いとは言いづらかった。

 

 

『いっそのこと喧嘩両成敗で引き分け…みたいにすればいいと思うのです』

 

 

『…まぁ、ここはそれがベストだろうね』

 

 

話が決まると響がふたりを止めようとベッドから立ち上がる。

 

 

『暁型駆逐艦1番艦暁、至急提督執務室に来てください、繰り返します…』

 

 

すると、廊下のスピーカーから暁を招集する館内放送が流れる。

 

 

『暁に呼び出し…?』

 

 

『あ、そう言えば午後に出撃予定があったわね』

 

 

思い出したように言うと暁は踵を返して部屋を出て行こうとする。

 

 

『ちょっと暁!話は終わってないわよ!』

 

 

『出撃があるのよ、この件は一応持ち越してあげるわ』

 

 

『何よそれ!』

 

 

さも自分が悪いかのように言われて雷は激昂する。

 

 

『暁なんか、出撃中に轟沈(しず)んでも助けてあげないんだからね!てゆーか轟沈(しず)め!』

 

 

『ざーんねん、暁は簡単には沈まないのよ』

 

 

ムキー!と地団駄を踏んで悔しがる雷とそれを冷ややかな目で見ながら部屋を後にする暁、残った響と電はそれを黙って眺める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

そして、暁が轟沈したという連絡が届いたのは、その日の夕方の事だった…。

 

 

 

 

 

 

「…以上が大体の事の顛末だよ」

 

 

響の話を聞き終えた海原たちは何とも言えない空気になっていた、ぶっちゃけ喧嘩の内容は子供レベルの微笑ましいモノだが、その後に相手が轟沈んでしまっては内容など関係無くなる。

 

 

「私があの時轟沈(しず)めなんて言ったせいで暁は轟沈(しず)んだのよ、私のせいで…」

 

 

雷は目に涙を浮かべながら弱々しい声で呟いた、今でもその事で罪悪感を感じているようだ。

 

 

「雷のせいじゃないのです、空母棲艦の空撃が暁に当たったせいだって鹿島さんも言ってたじゃないですか」

 

 

「だって、後で言い過ぎたなって、仲直りしようって思ってた矢先にあんな事になって…」

 

 

依然涙を流す雷の頭を電が撫でて落ち着かせる。

 

 

「…響、お前に、いや…お前たちに提案がある」

 

 

ここでだんまりを決め込んでいた海原が慎重に口を開く。

 

 

「さっきも言ったように吹雪とハチは深海棲艦と会話する能力がある、つまりこのふたりを通訳として間に挟めば響たちも深海棲艦化した暁と話が出来るって事になる」

 

 

「っ!?」

 

 

その言葉を聞き、3人の顔色が瞬時に変わった。

 

 

「100パーセント成功する保証はないが、ハチの時のように暁を艦娘に戻すチャンスは残っていると思う」

 

 

3人は驚きと喜びがごちゃ混ぜになったような表情(かお)をしている、無くなったと思っていた希望が残っていた、そう考えただけで今にも身を乗り出しそうになっている。

 

 

「だから、もしよかったら俺たちに協力してくれないか?」

 

 

海原の提案に3人は顔を見合わせ、同じタイミングで頷いた。

 

 

「分かった、私たち暁型駆逐艦は、海原司令官に全力で協力するよ」

 

 

暁にもう一度会えるかもしれない、そんな千載一遇のチャンスを前に“断る”などといった選択肢はなかった。




pixiv版のストックが尽きたので少し更新の間隔が空くと思いますが、なにとぞご容赦ください。


バケツが枯渇しすぎてツラいでござる。


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第9話「暁の場合3」

今回は演習編です。




海原たちが舞浜に来て第6駆逐隊と話をしてから2日後、今度は響たちが台場鎮守府にやってきた。

 

 

「司令官に無理を言って3泊4日の外泊許可を貰ってきた、これで多少は時間とチャンスを作れるハズだよ」

 

 

そう言って響は舞浜の提督に発行してもらった外泊許可証を見せる。

 

 

「よし、ならあとは暁が現れるのを待つだけだな」

 

 

「そうは言いますけど、そう都合よく現れてくれるでしょうか?」

 

 

「来ないなら、来るまで待とう、暁さん、ですよ」

 

 

吹雪の疑問にハチが本で読んだ詩のもじりで答える、要は根気勝負だ。

 

「ヒマなら訓練でもしてきたらどうだ?せっかく余所の艦娘もいるんだし」

 

 

「それもそうですね、じゃあハチ、訓練所行こう」

 

 

「はい、今日も頑張りましょう」

 

 

「私たちもついて行っていいかい?吹雪たちの訓練を見学させてもらいたい」

 

 

「せっかくだから一緒に参加しましょうよ!演習みたいで楽しそうだし!」

 

 

「はいなのです!」

 

 

吹雪はハチと第6駆逐隊を引き連れ、いつもの訓練所へと向かっていく。

 

 

 

 

訓練所に着いた吹雪たちは台場艦隊と舞浜艦隊とで向かい合って立っていた。

 

 

「それではこれより、台場艦隊対舞浜艦隊との対艦演習を始めます!」

 

 

雷がフィールドの中央でそれっぽい雰囲気で声を上げる、せっかく余所の艦娘がいるのだからと響が演習を提案したのだ。

 

 

「ルールは一般的な模擬戦闘のルールとし、大破判定が出た時点で戦闘から脱落となります、どちらかが全滅するか制限時間になった時点で終了となります」

 

 

雷がいつもより真面目な口調でルールを説明していく、今回の演習は最もスタンダードな模擬戦闘という形式を取っている。

 

 

艦娘の艤装には演習用のトレーニングモードが存在し、受けたダメージにより小破、中破、大破の判定がランプで表示される、大破判定になると警告ブザーが鳴り、戦闘から抜けなければいけない。

 

 

ちなみに演習で使う弾丸や魚雷は艦娘に傷を付けない特別なモノとなっており、艤装のダメージ判定にのみ影響する。

 

 

「それでは、演習開始!」

 

 

○台場艦隊

 

・駆逐艦 吹雪 Lv.72

 

・潜水艦 伊8 Lv.69

 

VS

 

○舞浜艦隊

 

・駆逐艦 響 Lv.62

 

・駆逐艦 電 Lv.58

 

 

 

訓練所の電光掲示板には互いの艦娘名と練度(レベル)、ダメージの度合いが分かる簡易的なゲージが表示される。

 

 

「嘘っ!?台場のふたり練度(レベル)高っ!」

 

 

吹雪とハチの練度(レベル)が思った以上に高かったため、雷は驚きの表情を浮かべる。

 

 

「そいやっ!」

 

 

「ていーっ!」

 

 

先手必勝、と言わんばかりに響と電が砲撃を開始する。

 

 

「甘いっ!」

 

 

しかし、吹雪とハチはその砲撃をいとも簡単にかわして見せ、響たちに向かって猛スピードで肉薄する。

 

 

「何っ!?」

 

 

「接近!?」

 

 

響は近付けさせまいと吹雪に向けて弾丸を次々連射していく。

 

 

「なのです!」

 

 

電も負けじと弾丸を射出、ハチを狙い撃ちする。

 

 

しかしふたりがいくら撃っても吹雪とハチはダンスを踊るような軽やかさでその全てをかわしてしまう。

 

 

「…すごいな」

 

 

練度(レベル)以上の力量を感じるのです…」

 

 

響と電はすでにふたりがただ者ではないことを感じ取っていた、深海棲艦との混血艦(ハーフ)という特異点を抜きにしてもこのふたりは強い、向かい合っただけでそれがありありと伝わってくる。

 

 

「たぁっ!」

 

 

吹雪が再び砲撃を開始、それに気付いた響が自身も砲撃を行い砲弾を相殺する、爆発音と共に正面が硝煙で覆われて視界が塞がれる。

 

 

「これじゃあ狙いが…!」

 

 

体制を立て直そうと響が後ろに下がろうとする。

 

 

「っ!?」

 

 

刹那、最高速力で加速した吹雪が硝煙を突き破り響の目の前まで近づいてきた。

 

 

「しまっ…!」

 

 

響が慌てて後退しようとするが、吹雪に腕を掴まれて身動きがとれなくなっていた。

 

 

「魚雷全弾発射用意…」

 

 

「っ!?」

 

 

魚雷発射管を全てこちらに向けながらそう呟く吹雪を見て響は顔を青ざめさせる、零距離からの魚雷一斉射出など食らおうモノなら一撃で大破は免れない。

 

 

「発射!」

 

 

吹雪の合図と共に全ての発射管から魚雷が射出され、響を直撃して大爆発を起こす。

 

 

その数秒後、響の大破判定を告げるアラートが鳴り響いた。

 

 

「…まずはひとり」

 

 

大破状態でへたり込む響を見下ろしながら、“小破”判定を受けた吹雪は不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「ホントにナニモノよあの子…」

 

 

自爆技で響を戦闘不能にさせた吹雪を見て雷は戦慄する。

 

 

「自分も大破するかもしれないのに何のためらいもなく自爆技なんて…」

 

 

そこまで呟いて雷はハッとする。

 

 

「違う…“分かってたんだ”、魚雷一斉射出じゃ自分は大破しないって、じゃあ吹雪は駆逐艦の通常砲撃じゃ小破未満(カスダメ)で済むほどの防御力があるって事なの…?」

 

 

もしそうであれば物凄い事だ、駆逐艦の艦娘は駆逐棲艦の攻撃でも中破にさせられる…なんてことはザラにある、なのにそれを小破未満(カスダメ)で済んでしまうというのは革命的ともいえる事だ。

 

 

「…これが、混血艦(ハーフ)の力」

 

 

雷は無意識にゴクリと生唾を飲み込んでいた。

 

 

 

 

「…マズいですね」

 

 

電は確実にハチに追いつめられていた、本来駆逐艦は潜水艦に対して優位に立てる艦種である、それは戦艦や重巡洋艦などと違い、駆逐艦や軽巡洋艦は対潜水艦用装備…対潜装備を持つことが出来るからだ。

 

 

しかしハチは、そんな電の対潜攻撃をモノともせず水中を縦横無尽に泳ぎ回り電に雷撃を撃ち出している。

 

 

「でも、これなら!」

 

 

電はその場でくるりと回り、爆雷を360度まんべんなく投射する。

 

 

 

その直後、電を取り囲むように破裂音と共に水柱が上がる。

 

 

「これならどれかには当たるはず…」

 

 

そう呟いて電は警戒態勢を取る。

 

 

「残念でしたね」

 

 

刹那、電の背後で聞き慣れた声がする。

 

 

「っ!?」

 

 

「爆雷で私を仕留められるなんて思ってたんですか?だとしたら随分とナメられたものです」

 

 

振り向いた電が見たのは、大量の魚雷を構え、拳銃の銃口をこちらに向けているハチの姿だった。

 

 

発射(シュート)

 

 

その直後、魚雷と弾丸のダメージを受けた電の大破判定を知らせるアラートが聞こえた。

 

 

「…演習結果、台場艦隊の勝利」

 

 

その様子を見ていた雷は、呆然と立ち尽くすだけだった。




はっちゃんが建造できた!


…という夢を見ました。


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第10話「暁の場合4」

とうとうハチが建造できました!


「お帰り、演習はどうだった?」

 

 

補給を済ませた吹雪たちが再び執務室に戻ってくる、心なしか舞浜艦隊の面々が疲れているように見える。

 

 

「私たちの圧勝でした!」

 

 

吹雪たちは誇らしげな顔でピースをする。

 

 

「いろんな意味で規格外なんだね、台場艦隊は」

 

 

「あれはいくら何でも強すぎでしょ…」

 

 

「手も足も出なかったのです…」

 

 

執務室のソファでぐったりしている響たちを見て海原は苦笑する。

 

 

「吹雪たちは毎日訓練ばっかりしてるからな、戦闘技術なら練度(レベル)以上のモノを持ってるぞ」

 

 

「毎日訓練!?」

 

 

「飽きないのですか?」

 

 

海原の言葉に驚いた雷と電が吹雪に聞く、自分たちなら三日と持たないだろう。

 

 

「飽きるというか、それ以外にすることが無いからやってる…って感じかな」

 

 

「見ての通り辺境の鎮守府ですから、娯楽も何も無いんですよ」

 

 

吹雪とハチがそれぞれ答える、他の鎮守府の艦娘であれば外出許可さえ貰えれば近くの街へ繰り出す事も出来るが、台場鎮守府は近くの街へ行くのにも車で一時間以上掛かる。

 

 

「たまに司令官が街へ買い出しに行く時に買ってきてくれる漫画とかが娯楽と言えば娯楽かな」

 

 

「この前の『白子のバスケ』は面白かったですね」

 

 

その会話を聞いて響は何ともいえない気分になる、自分たちは漫画なんて外出許可さえ貰えれば近くの街へ行けば手にいれる事が出来た、コンビニで流行りのスイーツを食べる事だって出来た、だが吹雪とハチはそのほとんどが自由に出来ないのだ。

 

 

「吹雪たちは、他の鎮守府に移りたいと思ったことは無いのかい?」

 

 

「他の鎮守府…?」

 

 

「ここは暮らすのにも不便だし、楽しめるものも周りにない、何より出撃が少ないから艦娘としての任務をほとんど全う出来ないじゃないか」

 

だから、響は吹雪をかわいそうだと思い、憐れみを込めて聞いた。

 

 

「移りたいと思ったことは無いよ」

 

 

「私もありません」

 

 

しかし、吹雪とハチの答えはNOだった。

 

 

「…理由を聞いてもいいかい?」

 

 

「私、元々は横須賀鎮守府にいたんだけど、そこはブラック鎮守府で毎日ひどい目にあってたの、轟沈(しず)んだのだってロクな補給も無く捨て艦として特攻させられたのが原因だし」

 

 

「えっ…!?」

 

 

「横須賀が、ブラック!?」

 

 

「本当なのですか!?」

 

 

響たちが驚きの声を上げる、三人が知る限り横須賀鎮守府はトップクラスの戦力と練度(レベル)で数々の海域を制覇している物凄い鎮守府だ。

 

 

「華々しく活躍できるのは戦艦や空母だけ、駆逐艦なんて単なる捨て駒程度にしか扱われなかった、だから戻りたいなんて思ったことは一度もないよ」

 

 

そう言って吹雪はどこか懐かしむような目をして明後日の方を向く、これ以上深入りするのはやめた方がいいだろう、響はそう察する。

 

 

「無神経な事を聞いたね、すまない」

 

 

「気にしなくていいよ、ただの昔話だから」

 

 

そう言って吹雪は響に笑いかける。

 

 

「…そうだ、この前買ってきたシュークリーム、まだ残ってたからおやつで食ったらどうだ?」

 

 

湿っぽい空気を変えるつもりなのか、海原が思い出したようにそんなことを吹雪たちに言う。

 

 

「あ、そういえばそうでしたね!響、食べに行こう!」

 

 

「…うん、じゃあいただこうかな」

 

 

吹雪は響たちを連れて食堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁が現れたのは、それから2日後の事だった。

 

 

 

 

「…本当にここなのかい?」

 

 

「うん、電探(レーダー)だとこのあたりだって司令官は言ってた」

 

 

場所は例のごとく台場鎮守府近海、深海棲艦出現の連絡を受けた吹雪たちは第6駆逐隊を引き連れて出撃した。

 

 

「あ、あれじゃないですか?」

 

 

ハチが指差した先には一体の駆逐棲艦がいた、しかもただの駆逐棲艦ではない。

 

 

「…司令官、暁を発見しました、接触を試みます」

 

 

『おう、気張ってけよ』

 

 

そこには数日前に姿を見せた駆逐棲艦、暁がいた。

 

 

『…ごめんね、ごめんね』

 

 

暁は依然謝罪の言葉を呟きながら俯いて立っている、ここまで来て言うのもあれだが、響たちが話しかけて暁は気付くのかという疑問が吹雪の頭に浮かぶ。

 

 

「とりあえず、何かしら暁に話しかけてみて、敵対するような様子は無いからある程度近付いても大丈夫だと思うし」

 

 

「うん、分かった」

 

 

まずは響が暁に近付く、この時点では何も反応がない。

 

 

「…暁、聞こえるかい?私だ、響だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…えっ、響…?』

 

 

次の瞬間、今まで何も反応を示さなかった暁が、恐る恐る顔を上げた。




三日月の改二はよ。


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第11話「暁の場合5」

演習で香取を使っていたらいつの間にかレベル97になっていました。




「…大丈夫、響の声は暁に聞こえてるみたい」

 

 

暁が響の呼び掛けに応えたのを確認すると、会話を続けるように促す。

 

 

『響!雷!電!本当に、みんななの!?』

 

 

暁は響たちに呼び掛けるがその声は響たちには届かない、なので吹雪が通訳として暁の言葉を伝える。

 

 

「本当だ、ずっと会いたかったよ」

 

 

「暁…」

 

 

「…良かったのです」

 

 

響たちは涙ぐみながら姉との再開の喜びを噛み締める。

 

 

「暁!あの時はごめん!轟沈(しず)めなんて言って…本当にごめんなさい!」

 

 

雷が我先にと暁の前へ飛び出してあの時のことを謝罪する、ずっと言いたかったのに言えなかった、でも今なら言える、雷は全身全霊で今の気持ちを暁にぶつける。

 

 

『そんな、私の方こそ…プリン食べられたくらいであんなに怒っちゃって、ごめんなさい…』

 

 

暁も雷に向けて頭を下げて謝罪する、轟沈(しず)んだ後もずっとその事を考えていたようだ。

 

 

「…良かった、暁に言えて良かったよおおぉ!」

 

 

雷は号泣しながら暁を抱き締め、それにつられて響と電も抱き締めた、深海棲艦となってしまった彼女の身体は深い海のように冷たかった。

 

 

「こんなに冷たくなっちゃったのに、私たちに謝ろうとしてくれて、ありがとう…」

 

 

『お礼を言うのは私の方よ、こんな身体になった私に会いに来てくれて、本当にありがとう…』

 

 

そう言う暁の表情(かお)は、引きずり続けた未練が断ち切れたように晴れやかだった。

 

 

「っ!?」

 

 

その時、暁の身体が光り始め、身体の表面にヒビが入る。

 

 

「あ、暁!?」

 

 

「どうしちゃったの!?」

 

 

「は、はわわ!」

 

 

突然の出来事に3人は狼狽するが、台場艦隊の面子はとても落ち着いていた。

 

 

「…“艦娘化”が始まった」

 

 

「これで暁さんは…」

 

 

やがて光はどんどん強くなり、身体のヒビも全身に広がっていく、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘に戻る」

 

 

刹那、乾いた破裂音と共に駆逐棲艦の装甲が砕け散り、かつての駆逐艦暁がその姿を表した。

 

 

 

 

「あ…暁…?」

 

 

「ど、どうなってるの?」

 

 

「深海棲艦から艦娘に戻ったんだよ」

 

 

困惑する響たちに吹雪が間に入って説明する。

 

 

「…これが吹雪の言っていた“艦娘化”、なんだね?」

 

 

「たしかハチさんがこれで艦娘に戻ったって…」

 

 

「そう、ハチの時もこんな感じだったよ、深海棲艦の装甲の内側から艦娘としてのハチが出て来て…」

 

 

「といっても、私は覚えて無いんですけどね…」

 

 

ハチは苦笑しながら頬を掻く。

 

 

「じゃあ、暁は艦娘になったって事でいいのよね…?」

 

 

「またみんなと過ごせるんですよね…?」

 

 

雷と電は響の腕の中で眠っている暁を見ながら吹雪に訪ねる。

 

 

「それはそうなんだけど…」

 

 

ふたりの問に吹雪は歯切れの悪い言い方をすると、暁に近づいて服を捲る。

 

 

「っ!?」

 

 

「これは…!?」

 

 

「これをどう説明するかにもよるかな…」

 

 

そこには、腹部から右腕の付け根にまで広がっている深海棲艦の装甲痕が残っていた。

 

 

「深海棲艦だったときの名残ですね、私が舞浜で見せたのと同じものです」

 

 

「これは…司令官にどう説明したらいいんだ…」

 

 

「深海棲艦だったってバレたら、もしかして解体されちゃうの…?」

 

 

「それはイヤなのです!」

 

 

暁がどうなってしまうのかと不安になる響たちだが、それよりももっと大きな問題が近づいていることに全員気づかなかった。

 

 

「っ!?電探(レーダー)に敵艦隊の反応アリ!その数…5体!」

 

 

気付いたときには、深海棲艦の主力艦隊に周りを囲まれていた。

 

 

 

 

「いつのまにこんなに…!」

 

 

「…これはいささか不利ですね」

 

 

吹雪たちを取り囲む敵艦隊は5体。

 

•重巡棲艦

 

•軽巡棲艦

 

•軽巡棲艦

 

•駆逐棲艦

 

•駆逐棲艦

 

 

…と、なかなかバランスのとれている面子だ、おまけに全員雷撃を行えるので厄介なことこの上ない。

 

 

「司令官、作戦命令を」

 

 

吹雪はインカムを口に近づけ、海原に指示を仰ぐ。

 

 

『…今回は暁の保護が最優先だ、敵艦にある程度ダメージを与えて突破口を作れ、少しでもチャンスが出来たら全力で鎮守府まで待避』

 

 

「了解しました」

 

 

そう言って吹雪はインカムを離すと、響たちの方を向く。

 

 

「ここは私とハチが逃げ道を作るから、その間3人は暁を守っててね、突破口が出来たら合図を出すからその時に全力で撤退、OK?」

 

 

吹雪が手短に作戦を伝えると3人が頷く。

 

 

「行くよ!ハチ!」

 

 

「はい!」

 

 

吹雪は手甲拳(ナックル)とナギナタを、ハチは拳銃を構えて旗艦(リーダー)である重巡棲艦を見据える。

 

 

「突撃!」

 

 

「ファイアー!」

 

 

 

戦いの幕が切って落とされた。

 




建造で2体目の香取が来ました、多分演習要員になると思います。


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第12話「暁の場合6」

着弾観測射撃の有用性が分からない今日のこの頃。


台場艦隊と敵艦隊の戦闘が開始された、まずは吹雪が旗艦(リーダー)の重巡棲艦に肉薄し、手甲拳(ナックル)の右ストレートをお見舞いする。

 

 

「っ!?」

 

 

予想以上の重い一撃に重巡棲艦は驚いた表情(かお)をして後ろに後ずさる。

 

 

「まだまだァ!」

 

 

続けてもう一撃入れようと拳を振りかぶったが、随伴艦の駆逐棲艦が重巡棲艦を庇うように前へ出てきた。

 

 

「邪魔!」

 

 

しかし、吹雪の放った右ストレートの一撃で駆逐棲艦はあえなく撃沈、まさに一撃必殺だった。

 

 

「はああっ!」

 

 

盾を失った重巡棲艦が吹雪の拳撃を食らって一気に中破まで追い込まれる。

 

 

短期間で大ダメージを食らった重巡棲艦は動きが鈍りはじめ、攻撃動作がおぼつきだした。

 

 

この隙を見て吹雪は一瞬だけハチの方を見やる、すでにハチは駆逐棲艦と軽巡棲艦を1体ずつ撃沈させている、残りの敵兵力は中破の重巡棲艦と小破未満(カスダメ)の軽巡棲艦だ。

 

 

ここで吹雪はハチと合流し、一気に敵艦隊を弱体化させる作戦にでる。

 

 

しかし敵艦もやられっぱなしではない、重巡棲艦と軽巡棲艦が同時に主砲から次々と鉛弾を連射する。

 

 

「くっ…!!」

 

 

「これは…!!」

 

 

吹雪とハチは剣撃で弾丸を斬り落としているが、数の暴力には勝てず少しずつダメージを蓄積させていく。

 

 

「があっ!」

 

 

その時、重巡棲艦の砲撃が吹雪に直撃、小破のダメージを受ける。

 

 

「このっ…!」

 

 

ハチが反撃として拳銃の引き金を引き絞る、銃弾が重巡棲艦に直撃するが大破に追い込むほどのダメージは望めなかった。

 

 

 

 

「…凄いな」

 

 

響たち第6駆逐隊は吹雪たちの戦闘を見て唖然としていた、艦種のセオリーを超える戦闘力もそうだが一番驚いたのは吹雪たちが持っている近接兵装…深海棲器だ。

 

 

「艦娘が白兵戦なんて初めて見るわ…」

 

 

「常識外れなのです…」

 

 

元々艦娘は“軍艦”と例えられる深海棲艦に対抗するために開発されている、そのため艦娘の攻撃方法も砲撃や空撃、雷撃を主として想定されている。

 

 

更に言えば主砲や魚雷、艦載機などは大ざっぱに言ってしまえば“飛び道具”だ、射程距離が長い攻撃方を持つ相手にわざわざ近接戦闘を仕掛けるなどという選択肢はそもそも浮かばない、これが深海棲器が艦娘に定着しなかったもう一つの理由でもある。

 

 

 

 

 

 

「さてと、どうやって突破口を開こう…」

 

 

吹雪はナギナタを構えて眼前の軽巡棲艦から目を離さずに考える、多少苦労はしたが重巡棲艦は撃沈した、あとは撤退するキッカケを作るだけなのだがそれが難しかった。

 

 

軽巡棲艦は損傷も軽微だし残弾数もそれなりにある、下手に背中を見せて撤退などしようものなら格好の的にされるだろう。

 

 

「それなら、これで…!!」

 

 

吹雪はハチに向かってあるハンドサインを送る、それを見たハチは不敵な笑みを浮かべると“了解”の意思を示すハンドサインを返した。

 

 

「「魚雷全弾発射!!!!」」

 

 

吹雪とハチが魚雷を発射し雷撃を行う、しかしその魚雷はふたりを中心に扇状に広がっていき、明らかに軽巡棲艦には当たらない軌跡を描いている。

 

 

「主砲発射!撃てえぇ!」

 

 

続いて吹雪とハチは主砲と拳銃からありったけの銃弾を“自分達が撃った魚雷に向かって”撃ち出した。

 

 

銃弾が魚雷に命中したその瞬間、発射した魚雷が全て同時に爆発、凄まじい轟音と共に水しぶきが吹雪たちと軽巡棲艦との間に発生する。

 

 

「今です!全員撤退!最高速力(フルスロットル)!!!」

 

 

吹雪の合図と共に台場艦隊、舞浜艦隊が回れ右をして全速力で走り出す、水しぶきが目くらましをしている間に逃げ切らなければこの作戦は失敗に終わってしまう。

 

 

水しぶきが止む頃には、軽巡棲艦の眼前にいた艦娘たちはどこにもいなかった。




戦闘シーン難しい…


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第13話「暁の場合7」

編成系クエスト「三川艦隊を編成せよ」をクリアして放置したせいで出撃系クエスト「三川艦隊出撃せよ」がクリアできなくなりました。

要は三川艦隊のメンバー忘れた。


「司令官、台場艦隊、舞浜艦隊帰投しました」

 

 

無事撤退作戦を成功させた吹雪たちは台場鎮守府の提督室で海原に報告する。

 

 

「おう、ご苦労さん、暁も無事に保護できたみたいで何よりだ」

 

海原は吹雪におぶさりながら眠る暁を見ながら満足そうに頷く。

 

 

「とりあえずはそこのソファに寝かせておけ、目を覚ましたら話を聞けばいいさ」

 

 

「そうですね、じゃあ交代で暁の様子を見ましょう」

 

 

吹雪は暁を提督室のソファに寝かせて毛布をかける。

 

「吹雪、暁の様子は私達で見るよ」

 

 

吹雪がそう言うと響たち第6駆逐隊が名乗りを上げる。

 

 

「せっかく暁と再会出来たんだ、一緒にいたい」

 

「…うん、分かった、じゃあ暁はみんなに任せるね」

 

吹雪とハチは響たちに暁を任せると一度提督室を出て行く、暁が起きたときの為の準備をしにいくらしい。

 

 

 

 

…暁が目を覚ましたのは、それから15分後の事だった。

 

 

 

 

 

「…ん」

 

 

目を覚ました暁が最初に見たのは木製の見知らぬ天井だった。

 

 

「あれ、私…」

 

 

今の自分の状況を考えようと頭を働かせるが、あの日出撃してからの出来事が思い出せない、仕方ないのでとりあえず起き上がろうとするが身体全身が倦怠感に包まれ思うように身体が動かない。

 

 

「…暁?」

 

 

ふと自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、暁は右の方を向く。

 

 

「…えっ?」

 

 

そこには、かつて姉妹として、同じ鎮守府の仲間として共に過ごした妹たちの姿があった。

 

 

「響…雷…電…」

 

 

暁が3人の名前を呼ぶと、響たちは嬉しさのあまり目尻に涙を浮かべる。

 

 

「良かった…本当に良かった…」

 

 

「ちょ、ちょっと!どうしたのよ、何で泣いてるのよ!?」

 

 

人目もはばからず涙を流す3人を見て、暁は困惑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「私が深海棲艦に…?」

 

 

響、雷、電、そして戻ってきた吹雪、ハチがこれまでの経緯を説明する、それを聞いた暁は驚きを隠せず目を丸くしていた。

 

 

「そのようだと、何も覚えてないみたいだね」

 

 

響がそう言うと、暁は何も言わずに頷く。

 

 

「雷とケンカした後の出撃で空母棲艦の空撃を受けて…そこから先は覚えてないわ」

 

 

その後も暁の話を聞いたが、やはりハチの時と同じで轟沈(しず)んだ後のことは一切覚えていなかった。

 

 

「…轟沈(しず)んだ後に何があって深海棲艦になったのか、それが一番の謎だよな」

 

 

海原が椅子に座って伸びをしながら言う、“艦娘が轟沈すると深海棲艦になる”というのは既に事実として存在する、しかし“何故どうやって深海棲艦となるのか”という点についてはハチと暁のケースを見ても明らかにはならなかった。

 

 

「まだまだ調べなきゃいけないことが多いですね」

 

 

暁の話をまとめたメモを見て吹雪は軽くため息をつく。

 

 

「…じゃあ、次に目下の課題をどうにかしなければですね」

 

 

ハチがそう言って暁を見る、彼女が何を言いたいかは全員察しはついていた。

 

 

「暁が舞浜鎮守府に帰れるか、ということだね」

 

 

響が言うとハチがゆっくりと頷く、それとは対照的に暁は頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていた。

 

 

「えっ?私、舞浜鎮守府に帰れないの?除隊されてても艦娘に戻ったなら大丈夫なんじゃ…」

 

 

「…正確には純粋な艦娘ではありません」

 

 

ハチが暁の言葉を否定し、暁に服の裾を捲るように促す。

 

 

「…うそ、何これ」

 

 

 

「今の暁さんは、艦娘と深海棲艦の、混血艦(ハーフ)という表現が正しいですね」

 

 

その無慈悲な現実を前にして、暁は何も言えずに固まっていた。




編成系クエスト「金剛型戦艦を全て揃えよ」がクリアできないので艦隊解放が進まない今日のこの頃。

比叡カモーン!


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第14話「暁の場合8」

最近長門の建造に成功しました。

それはいいけど早く比叡来てください(切実)。


 

「そんな…私、どうなるの?」

 

 

暁が縋るような目で海原を見つめる、この状態の暁に事実を告げるのは酷な話だが、ごまかしてどうにかなる問題でもない。

 

 

「…一応舞浜鎮守府に帰ることは不可能ではない、でもその場合はその深海棲艦の“名残”を隠して生きていかなければいけない」

 

 

「…それは…」

 

 

『無理』だと暁は頭の中で断言した、服を着ていればバレずに過ごすことは出来るが修理ドックに入れば必ず服を脱ぐことになるし、戦闘中に被弾して服が破れようモノならそれこそバレる。

 

 

「それともう一つ、お前が吹雪やハチのように混血艦(ハーフ)になったのであれば、今のお前には深海棲艦と会話できる能力があるはずだ」

 

 

「私が、深海棲艦と…!?」

 

 

海原の言葉に暁は目を丸くする。

 

 

「まだ確定した訳じゃない、でももしその状態で深海棲艦化した艦娘にであったら、お前はかつての仲間をもう一度殺す事になる」

 

 

「っ!!」

 

 

暁はビクッと身体を震わせる、深海棲艦となって苦しんでいても、それで助けを求めても誰にも声は届かない、そんな中…自分だけがそれを分かって、でも何も出来ずに轟沈める事しか出来ないとしたら…。

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

暁は顔面蒼白になって小刻みに震えていた、もし本当にそんな状況になれば間違いなく自分は発狂してしまうだろう。

 

 

「今俺が言ったことはあくまでも可能性の話だ、もしかしたら普通に艦娘として生活出来るかもしれない、でもぶっちゃけ出たとこ勝負だな」

 

 

海原にそう言われて暁は絶望的な顔をして俯いた、海原の言った可能性は多分的中する、吹雪やハチの例を見ればそれは暁でも分かる、たとえ普通に艦娘として過ごせたとしても深海棲艦の“名残”や一度轟沈んでいるという過去のせいで後ろ指を指されるだろう。

 

 

「…海原司令官、聞いてもいいかい?」

 

 

「何だ?」

 

 

提督室に重苦しい空気が流れ始めた頃、響がそれを破って声を出す。

 

 

「もし私たちが、暁を台場鎮守府(ここ)に置いてほしいって言ったら、どうする?」

 

 

「えっ…?」

 

 

「ちょっ…響!?」

 

 

「何を言うのですか!?」

 

 

電と雷が目を剥いて響に噛みつくが、響はそれを無視して海原を見つめる。

 

 

「もちろんその時は暁を台場鎮守府の一員として歓迎しよう、ここなら混血艦の艦娘でも気兼ねなく過ごせるし、うちでは艦娘の深海棲艦化を調べているから暁のような経験者が力を貸してくれればこちらとしても心強い」

 

 

「ふむ、そうか…」

 

 

「ちょっと…響…?」

 

 

「あんたまさか…暁を見捨てるっていうの?」

 

 

電と雷が響を問い詰めるが、何かを考え込むような顔をしている響はそれ以降一切口を開かなかった。

 

 

「俺はこの件に関しては何も強制はしない、暁を連れて帰るのもここに置くのもお前たち次第だ、だからよく考えて…お前たちが後悔しない選択をしてくれ」

 

 

海原はそう言うと提督室を出て行った。

 

 

「暁、これを…」

 

 

海原が退室すると、吹雪が一枚の書類を暁に手渡す。

 

 

「…これは?」

 

 

「台場鎮守府の着任志願書です、もしここに残るならこれを書いてください、もちろんそのまま捨ててしまっても構いません」

 

 

吹雪は志願書を暁に渡すとハチを連れて提督室を後にする。

 

 

残された第6駆逐隊は、各々の思いを抱えたまま渡された志願書を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「あの言い方はキツかったんじゃないですか?」

 

 

鎮守府の食堂で夕食の準備をしている吹雪が咎めるように言う。

 

 

「…自覚はしているよ」

 

 

海原は机に頬杖をついてため息混じりに答える。

 

 

「でも暁をどうするかは俺が決める事じゃない、そりゃ向こうに戻って辛い目に遭うくらいなら台場に来てもらいたいけど、全員が納得した上で来てもわらなきゃ意味が無いんだ、だからあいつらでよく話し合って決めるべきだ」

 

 

「それを直接言ってあげればいいのに、提督ってば意外と不器用?」

 

 

食事が乗ったトレーを海原のテーブルに運んでいるハチが茶化すように言う。

 

 

「…うっせ」

 

 

海原は恥ずかしそうに顔を背けた。

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

 

暁は響たちにあてがわれた部屋に戻った後、志願書を見つめながら考えにふけっていた、舞浜に戻るか、それとも台場の一員になるか、どうすればいいのかと自問自答を続ける。

 

 

「大丈夫?」

 

 

もう1時間以上考え続けている暁を見て雷は心配になって声をかける。

 

 

「雷、私どうすればいい?」

 

 

頭の中が煮詰まってきた暁は雷に助けを求める。

 

 

「それは暁自身が決めることだよ」

 

 

すると、響がベッドから下りてきて暁に言う。

 

 

「私が…?」

 

 

「うん、本音を言えば私たちは暁には舞浜に来て欲しい、でもそれで暁が辛い思いをするなら私たちは諦める」

 

 

「響…」

 

 

「私も最初は暁には絶対帰ってきてほしかったけど、暁が楽しいって思える方がいいから…」

 

 

「雷…」

 

 

「い、電も…!」

 

 

今度は電がベッドの上段(台場の艦娘部屋は二段ベッド)からひょっこり顔をだす。

 

 

「電も、暁が幸せになるのが一番だと思うのです、二度と会えなくなるわけじゃなくなるし、それなら暁の思うように進んでほしいのです」

 

 

「電…」

 

 

自分の事を思ってくれている妹たちを見て暁は涙を流す。

 

 

「だから暁、自分の信じた選択を、自分の思うように選んで欲しい、私たちは何があっても暁の見方だから」

 

 

 

 

 

「…うん」

 

 

 

 

 

 

響のその言葉を聞き、暁は何かを決意したように頷いた。

 

 

 

 

 

 

「結果は出たかい?」

 

 

場所は変わり提督室、海原は決意を固めた目をしている暁を見てその答えを問う。

 

 

「はい」

 

 

暁は力強く頷くと、ポケットから取り出した紙を海原に差し出す。

 

 

 

「私、駆逐艦暁は、台場鎮守府への着任を志願いたします!」

 

 

そう宣言する暁の目には、一点の曇りもない決意の色が浮かんでいた。




戦艦レシピを回す。



「帰国子女の金剛デース!」



「高速戦艦榛名着任しました!」


…違う、君たちじゃないんだ。


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第15話「暁の場合9」

暁編これにて終了です。


次はどの艦娘が出るでしょうか?

予想してみてください(当たっても何もありませんが…)


そして次の日の朝、響たちが舞浜に帰る日だ、“せっかくなので見送る”という海原の意向で全員が台場鎮守府の埠頭に集まっている。

 

 

「本当にいいのか?」

 

 

海原は暁を見て再度問い掛ける。

 

 

「えぇ、暁に二言はないわ!」

 

 

暁はドン!と胸を叩いて宣言する、どうやら台場に残るという答えは変わらないらしい。

 

 

「海原司令官、この度は本当にありがとう」

 

 

「暁をよろしくね!」

 

 

「お手紙書くのです!」

 

 

艤装を着けて海に浮かぶ3人はそれぞれ感謝の言葉を口にする。

 

 

「あぁ、お前らも気をつけて帰れよ」

 

 

「うん、では…」

 

 

「頑張ってね!暁!」

 

 

「今度会いに行くのです!」

 

 

朝焼けに染まる海を滑走しながら、3人の姿は水平線へと消えていった。

 

 

「…またね、みんな」

 

 

暁は小さくそう言いながら控え目に手を振った。

 

 

「さてと、それじゃあ改めてやりますか」

 

 

「?」

 

 

海原の声に疑問符を浮かべて暁は振り返る。

 

 

「ようこそ台場鎮守府へ、我々は君の着任を大いに歓迎する」

 

 

「これからよろしくお願いします」

 

 

「また賑やかになりそうですね」

 

 

海原、吹雪、ハチがそれぞれ暁に歓迎の言葉をかける、暁が志願書を出したのは夜中だったので改めて言う機会が無かったのだ。

 

 

それを察した暁は慌てて服装を整えると、つたない敬礼の姿勢をとり…

 

 

「暁型駆逐艦1番艦暁よ、一人前のレディとして扱ってよね!」

 

 

 

自信満々の表情で言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「すごーい!こんなにいい装備初めて見た!」

 

 

「おー、確かにこれはいいものですね」

 

 

「そ、そんなにスゴい…?」

 

 

入隊手続きを済ませた後、吹雪とハチは暁の装備を見せてもらったのだが…。

 

 

•10cm連装高角砲

 

•12.7cm連装砲

 

•61cm四連装酸素魚雷

 

 

…と、なかなかに高性能な装備品を着けていた、魚雷や主砲は吹雪やハチとあまり変わらないが「10cm連装高角砲」は対空装備を持っていない台場艦隊にとってはかなりの上物と言える。

 

 

「どれだけ装備が枯渇してるのよこの鎮守府は…」

 

吹雪とハチのリアクションに暁は呆れを隠せないといった様子でため息をつく。

 

 

「まぁいいわ、次は暁が装備を選ぶわよ」

 

 

「えっ?暁が?」

 

 

「この鎮守府開発出来ないですよ」

 

 

 

暁の言葉にふたりそろって首を傾げる。

 

 

「そうじゃないわよ!吹雪さんとハチさんが持ってた剣みたいなやつ!」

 

 

「えっ?それって深海棲器?」

 

 

「暁さんに必要でしょうか…」

 

 

「必要よ!一人前のレディとして、郷に入れば郷に従うのは当然じゃない!」

 

 

別に深海棲器を持つのがルールってワケじゃないのになぁ…と吹雪は心の中で思ったが、暁がどうしてもと言うので海原に頼んで武器庫の鍵を開けてもらった。

 

 

「へぇー、結構色々な種類があるわね」

 

 

暁は棚に並べられた深海棲器をまじまじと見ながら“コレだ!”と思うものを選ぶ。

 

 

「…えっ」

 

 

「それ…ですか…?」

 

 

「えぇ、これにするわ」

 

 

そう言って暁が選んだ深海棲器はふたつ。

 

 

一つ目は野球のバットより少し長太い棍棒に鋭いトゲがびっしりと付いている深海棲器…『棘棍棒(メイス)』。

 

 

二つ目は暁の身の丈以上の長さがある『大鎌』、内側だけでなく外側にも刃がついている特殊な作りになっている。

 

 

「鎌はまだ分かるけど、棘棍棒(メイス)って…」

 

 

「仲間を守るために強くなるのもレディとして大切な事なのよ、だから強そうな武器を選んだの」

 

 

「完全に見た目重視じゃないですか…」

 

 

レディとは程遠い発想にふたりは呆れ顔で暁を見る。

 

 

「てか、それ重くないか?それなりに重量あると思うんだが…」

 

 

「ちょ、ちょうどいいに決まってるじゃない!」

 

 

海原の言葉に暁は即座に反論する、戦闘で武器に振り回されては自殺行為に等しいと海原は言いたかったのだが、暁にそれは察せなかったようだ。

 

 

(まぁ、暁が慣れてくれればいいか)

 

 

しかし説得がめんどくさくなって無責任に投げてしまう海原も似たようなモノなのだが…。

 

 

「さーて、早速コレを使いこなせるように訓練しないとね~」

 

 

暁は棘棍棒(メイス)を軽く振って楽しそうに言うが…

 

 

 

「…(訓練演習の時にあれ食らったらスゴく痛いよね)」

 

 

「(はい…とりあえず軽い防具だけでも見繕っておきましょう)」

 

 

吹雪とハチの心労を増加させている事には全く気づいていないのだった。

 




コレを書いてるときにうちの暁のが鎮守府の肥やしとなりつつある事を思い出しました、改二にした意味が無いですね。


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第16話「三日月の場合1」

chapter4「三日月編」

タイトル通り三日月編となります。


何気にUAが2000を越えていて驚きました、ありがとうございます!


世界各地の海で深海棲艦が蠢くこの世界にも夏の季節がやってきた。

 

 

本来であれば海水浴のシーズンだが、深海棲艦が現れてからは日本全域の海は立ち入りが禁止されているので夏期の避暑地はもっぱらプール施設だ。

 

 

特に夏場はその需要はとても高く、ここ2~3年で急激に数を増やしつつある。

 

 

 

「あっつーい…」

 

 

「溶けるぅ~」

 

 

…もっとも、プール施設とは縁のない台場鎮守府にとっては全然関係ない話なのだが。

 

 

「何でこの鎮守府冷房が無いんですか…」

 

 

「いくらなんでもおかしいですよ…」

 

 

そうグチる吹雪とハチは提督室のソファで伸びていた。

 

 

「島流し先の鎮守府だからな、わざわざ金出して空調設備なんて作る必要は無いって判断したんじゃないか?」

 

 

「大本営クズ過ぎる…」

 

 

吹雪が悪態をつきながら持っていたうちわで顔を扇ぐ、冷房や扇風機には劣るがコレがあるのと無いのとでは大きな差が出来る。

 

 

 

「だらしないわねこんな暑さで、そんなんじゃダメよ!」

 

 

「全身汗だくでそんな事言っても説得力ゼロですよ」

 

 

暁がだれているふたりに渇を入れるが、ハチの一蹴によりあえなく撃沈した。

 

 

「一人前のレディとして、暑いくらいでブーブー文句は言わないのよ!」

 

 

「はいはいレディレディ(笑)」

 

 

「絶対バカにしてるでしょ!?」

 

 

暁がブンブン腕を回してぷんすか!しているのをハチは面白そうに流している。

 

 

(…このふたりが一番暑苦しい)

 

 

そう思ったがあえて口には出さない吹雪だった。

 

 

 

 

「んんー!おいしい!」

 

 

「夏って感じがしますね」

 

 

「夏はやっぱりコレよね」

 

 

その日の昼下がり、3人は海原お手製のかき氷に舌鼓を打っていた、安売りしていたプラスチック製のかき氷機で作っているのでクオリティは低いが、3人にとっては十分すぎるほどのおいしさだった。

 

 

「そんなに暑いなら海に出てきたらどうだ?近海あたりなら深海棲艦も出にくいだろうし」

 

 

かき氷機を片している海原が吹雪に言う。

 

 

「イヤですよ、燃料が無駄に減るじゃないですか、ただでさえ大本営から支給される資材は少ないのに…」

 

 

しかし吹雪は海原の提案を却下する、それまでは行われていなかった大本営からの資材支給も吹雪たちが着任してからは少しずつだが行われるようになってきている、ただしそれはごくわずかな量であり、今のフルメンバーで全力戦闘を行えば無くなってしまう。

 

 

「別に艤装を着けなくても浜辺で泳ぐくらいなら十分だろ」

 

 

「それは私も考えたんですけど、私たち水着持ってないんですよ」

 

 

「…あー、そういやお前ら全員手ぶらでここに来たんだっけか」

 

 

その事をすっかり忘れていた海原だった。

 

 

 

 

次の日、吹雪たちは敵艦隊出現の一報を受け、台場近海よりも少し遠い海域へ出撃していた。

 

 

「…敵艦隊発見!戦闘開始します!」

 

 

程なくして敵艦隊を発見、その数は4体。

 

 

•軽巡棲艦

 

•軽母棲艦

 

•駆逐棲艦

 

•駆逐棲艦

 

 

今回は敵に軽空母が混じっている、対空に関してはからっきしの台場艦隊だが…

 

 

「暁にまっかせなさい!」

 

 

今回はニューフェイスの暁がいる、おまけに対空能力を備えた主砲『10cm連装高角砲』を持っているのだ。

 

 

開戦早々軽母棲艦が艦載機を出す、カブトガニを彷彿とさせる敵の艦載機が吹雪たちを攻撃せんと急降下を始めた。

 

 

「食らええええぇ!」

 

 

そうはさせまいと暁が高角砲を連射、上空に向けて放たれた砲弾が敵艦載機を次々と撃ち落としていく。

 

 

「スゴい…」

 

 

「これが対空砲…」

 

 

しかし暁の対空射撃も完璧ではなく、撃ち漏らした何機かの敵艦載機が魚雷や爆弾を投下していく。

 

 

「うわっ!」

 

 

「きゃっ!」

 

 

「あうっ!」

 

 

3人とも敵の空撃を食らったが被害は小破未満(カスダメ)で済んだ。

 

 

続いて軽巡棲艦と駆逐棲艦がこちらへ砲撃を行いながらこちらへ近付いてくる。

 

 

吹雪がナギナタと太刀の二刀流で敵の砲弾を叩き落としながら進路を作り、ハチと暁がそれに続く。

 

 

「はぁっ!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で駆逐棲艦の片割れを殴りつけ一撃で撃沈させる、吹雪の練度(レベル)であれば駆逐や軽巡なら手甲拳《ナックル》の一撃だけで倒すことが出来る。

 

 

「せいやあ!」

 

ハチが拳銃の引き金を引き駆逐棲艦のもう片方に銃弾をぶち込む、左目に命中した銃弾は大爆発を起こし駆逐棲艦が大破になる。

 

 

「やああぁぁ!」

 

 

トドメに暁が棘棍棒(メイス)を駆逐棲艦の脳天に叩きつけ撃沈させる。

 

 

「敵艦…残り2体!」

 

 

残敵は軽巡棲艦と軽母棲艦だけになった、軽母棲艦は続けて艦載機を発艦させ、軽巡棲艦は主砲から砲撃を連射していく。

 

 

吹雪は太刀を使って砲弾を切り裂きながら道を作り軽巡棲艦に肉薄し、暁とハチがそれに続いて艦載機を撃ち落とす。

 

 

「はあああぁ!」

 

 

続けて武装を太刀からナギナタに切り替えて、軽巡棲艦の身体に深く突き刺す。

 

 

「暁!」

 

 

「任せて!」

 

 

暁は吹雪が刺したナギナタを思い切り踏みつけると、そのしなりを利用して跳躍する。

 

 

跳躍した暁は軽巡棲艦の後ろに着地すると、鎌を展開させて軽巡棲艦の首もとへ刃を添える。

 

 

「てやああああぁぁぁ!」

 

 

暁が鎌を思い切り引くのと同時に、軽巡棲艦の雁首が胴体から削ぎ落とされる。

 

 

そこへ吹雪が太刀を叩きつけ軽巡棲艦の胴体を一刀両断、軽巡棲艦は完全に沈黙する。

 

 

「よし、あとは軽母棲艦だけ…」

 

 

吹雪が軽母棲艦の方を向くが、その眼前には軽母棲艦が新たに発艦させた艦載機が機銃を向けている光景が視界いっぱいに広がっていた。




ちなみに三日月は我が艦隊の中で2番目にレベルが高い艦娘でもあります(現在Lv97)。

一番高いのはもちろん吹雪です(現在Lv112)。


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第17話「三日月の場合2」

ここまでで三日月未登場ですが 三日月編と言い張ります。


「きゃああああぁぁ!!!!」

 

 

「吹雪さん!」

 

 

刹那、敵艦載機の空撃を真正面から受けた吹雪は後方へ吹き飛ばされる。

 

 

『大丈夫か吹雪!』

 

 

「はい…中破にはなりましたけど、まだいけます!」

 

 

そう言って吹雪は再び得物を持って立ち上がる。

 

 

「ファイヤー!」

 

 

「その頭潰してあげるわ!」

 

 

その間にもハチと暁が軽母棲艦に攻撃を仕掛ける、ハチは拳銃で軽母棲艦を銃撃し、暁は棘棍棒(メイス)を軽母棲艦の頭部に叩きつけ大破にする。

 

 

(深海棲器の影響もあるけど、やっぱり暁の攻撃力はスゴいなぁ、一撃の威力なら私たちの中で一番だよ)

 

 

そんな事を考えながら吹雪は再び軽母棲艦に接近する、相手はもう艦載機を出せる状態ではないので最早ただの的である。

 

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

 

 

吹雪は最大速力で軽母棲艦に肉薄し…

 

 

「くたばれええええぇ!!!!!」

 

 

その身体に渾身の右ストレートをお見舞いする。

 

 

ボロボロの状態で思い切り殴られた軽母棲艦はその身体を四散させながら後ろに飛んでいき、着水したと同時に沈んでいく。

 

 

「…司令官、旗艦(リーダー)の撃破を確認、戦闘終了します」

 

 

『了解、鎮守府への帰投を許可する、気をつけて帰って来いよ』

 

 

 

 

 

その後は特に敵艦隊に遭遇することもなく、吹雪たちは無事に鎮守府まで帰投することが出来た。

 

 

「お帰り、補給とドックの準備出来てるぜ」

 

 

桟橋までたどり着くと海原が3人を出迎えてくれていた、最早お馴染みの光景である。

 

 

「ありがとうございます、司令官」

 

 

そう言って艤装を解除し、ドックへ向かおうとした吹雪たちだが…

 

 

「ん?吹雪、ちょっといいか?」

 

 

吹雪が海原に呼び止められた。

 

 

「なんですか?」

 

 

「確かお前損傷度合いは中破だったよな?帰投してる間にもうそんなに治ったのか?」

 

 

海原が吹雪を見て首を傾げる、ここで特記しておくが艦娘にも人間のように自然治癒力が備わっている、しかしそれは人間のスペックとほぼ変わらないので中破や大破のダメージを治すにはドック入りが必要なのだ。

 

 

しかし今の吹雪の傷は中破になったときよりも明らかに回復しており、小破レベルまで治っている。

 

 

「はい、混血艦(ハーフ)になってから傷の治りがかなり早くなってるんです、小破未満(カスダメ)なら帰投中に完治しますよ」

 

 

「…それはスゴいな」

 

 

海原は目を丸くして吹雪を見る、ハチや暁も吹雪程ではないが自然治癒力が高まっているらしい。

 

 

「…わかった、ドックに行ってていいぞ」

 

 

海原がそう言うと吹雪は一礼してハチと暁を小走りで追いかける、その背中を見て海原は色々な考えを巡らせていた。

 

 

吹雪たちが混血艦(ハーフ)になってから変わったことは色々ある、先程の自然治癒力の向上や深海棲艦との意思疎通能力、それと練度測定器(レベルスキャナー)で分かったことだが、攻撃力や防御力などの艦娘としての基礎能力(ステータス)が大幅に伸びている、しかも軽巡洋艦と余裕で肩を並べられるレベルだ。

 

 

この能力向上の原因は主にふたつの可能性によるものだと海原は考えている。

 

 

ひとつは混血艦(ハーフ)になったことで深海棲艦と艦娘の能力の長所をそれぞれ受け継いだ可能性、吹雪たちの中を艦娘と深海棲艦が半々で占めており、互いの長所が発現しているというものだ。

 

 

そしてもうひとつは、吹雪たちが日に日に深海棲艦に近付いているという可能性だ、実を言うと艦娘よりも深海棲艦の方が潜在能力(ポテンシャル)生命力(バイタリティ)が高い。

 

 

艦娘がドックで傷を治すのに丸一日掛かるとするなら、深海棲艦はその3/4の時間で治してしまう、艦娘が敵艦隊の主力部隊を撃破しても日にちが経てば復活してしまうのが最たる例だ。

 

 

それを踏まえると、混血艦(ハーフ)となった吹雪たちは深海棲艦の能力を吸収している可能性もあれば、ただ深海棲艦へ少しずつ変化していっているに過ぎないという可能性もある。

 

 

もし吹雪たちが再び深海棲艦となってしまったら、自分はどうすればいいのだろうか…。

 

 

「覚悟しておくべきなんだろうな、“そういう日”がいつか来るって事を…」

 

 

 

楽しそうに談笑する3人を見て、海原は自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 

 

その日の夜、海原はいつも通り先輩提督から押し付けられた書類を片づけていた。

 

 

「…それ、司令官の仕事ではないんですよね?ならやる必要は無いと思うんですけど…」

 

 

その横で控えている秘書艦の吹雪が不機嫌そうな顔で海原に言う、毎度のように“どうせ暇だろ?”などと言われて書類を押し付けてくる先輩提督に嫌悪感を隠そうともしていないのがありありと分かる。

 

 

「確かにそうなんだが、実際ヒマだからな」

 

 

ケラケラと笑いながら海原は書類にペンを走らせる、確かにめんどくさいと言えばめんどくさいのだが慣れてきてしまっているのでそれ程苦痛には感じない。

 

 

「どうせだったら書類ワザと間違った書き方して返してやればいいんじゃないですか?どうせ怒られるのは向こうなんですから」

 

 

「お前なかなかエグい事考えるよな」

 

 

普段が真面目な吹雪なのでこういった言い方や態度をとるのを見ると海原でも少し驚く。

 

 

そんな会話をしていると提督室の卓上の電話が鳴った、音から察するに外線だろう。

 

 

「はい、台場鎮守府提督室」

 

 

『大本営の鹿沼だ、久し振りだな“艦娘殺し”』

 

 

「…クズの右腕が何の用だ」

 

 

電話の相手がとびっきりムカつく奴だったので海原はドスの利いた声で応える、その際に吹雪がビクッと肩を震わせてこちらを見るが、今は気にせず話を進める。

 

 

電話の相手は鹿沼敏久(かぬま としひさ)、鎮守府の本部である大本営直属の司令官であり、全ての司令官のトップである元帥…南雲藤和(なぐもふじかず)の右腕である。

 

 

『昨日の司令官会議で北方方面の海域攻略作戦を行うことが決まった、いくつかの鎮守府から主力部隊を召集し、大規模な特別艦隊を組んで敵主力艦隊を叩く…という内容だ』

 

 

「…そんな事でわざわざ電話をかけてきやがったのか?俺には関係ねぇ話しじゃねぇか」

 

 

 

『人の話は最後まで聞け、それでこっからが本題だ』

 

 

もったいぶるような言い方に海原は苛立ちを隠せない、鹿沼と南雲のふたりとは因縁深い仲なのでそれがさらにイライラを加速させる。

 

 

 

『その北方海域攻略作戦に台場艦隊も参加しろ、これは命令だ』

 

 

海原が鹿沼の言った事の内容を理解したのは、それから10秒程が経ってからだった




鹿沼と南雲と海原とで何があったのかはどこかで書こうと思います。


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第18話「三日月の場合3」

今回は暁編以上に長くなるかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。


鹿沼からの電話を終えた海原は自室にいるハチと暁を提督室に呼び出し、先程の電話の内容を大まかに説明する。

 

 

「台場艦隊を召集するなんて、大本営はどれだけ人員不足なんでしょうか」

 

 

「単に戦力が欲しいだけなんじゃないかなぁ、敵を蹂躙するにはまず火力だし」

 

 

「暁はこういう大規模攻略作戦は参加したことないからちょっと興味あるわね」

 

 

説明を聞いた3人は思い思いの感想を口にする。

 

 

「…いや、戦力なんて戦艦や正規空母がゴロゴロいる主戦力鎮守府の艦隊だけで十分事足りるさ」

 

 

「じゃあ何で暁たちを呼ぶのよ?」

 

 

海原の言葉に暁が首を傾げる、確かに今回の召集を“戦力に加わって欲しい”という風に解釈すれば決して悪い話ではない、しかし海原はこの召集には別の意図があると踏んでいた。

 

 

「そうだなぁ、さしずめ台場鎮守府(こんなところ)に左遷されて毎日を棒に振ってる提督の指揮する艦隊はどんなモンなのか見てみたい…ってとこじゃないかな」

 

 

「…要は見世物って事ですか」

 

 

「十中八九そうだと思うぜ、そもそも大本営から見捨てられたって事を意味する台場鎮守府にお呼びが掛かるなんて、そうとしか思えねーよ」

 

 

そう言う海原は愉快そうな口調だが、それとは対照的に吹雪たちの機嫌が目に見えて悪くなっていく。

 

 

「…大本営も随分と姑息な真似をしてくるモンですね」

 

「提督の有能さを大本営に知らしめるためにも、ここは作戦に参加して戦果をあげなければ…」

 

 

「…えーっと、ふたりとも目がイっちゃってるわよ…」

 

 

ハイライトの消えた目で深海棲器を構えるふたりを見て、暁は顔をひきつらせて冷や汗を流していた。

 

 

 

 

 

その翌日、大本営から作戦の概要が書かれたFAXが送られてきた、北方領土を根城にしている深海棲艦の本隊を叩くというのが主な目的らしい。

 

 

ちなみに今回参加するのは吹雪と暁だ、練度(レベル)で言えばハチの方が高いのだが、艤装がスクール水着のため深海棲艦の痕が目立ってしまうので今回は鎮守府で留守番だ。

 

 

「作戦はいつ始まるんですか?」

 

 

「一週間後だ、その間に出来るだけ準備を整えておけって書いてあるな」

 

 

「準備ですか、ならもう少し練度(レベル)をあげておいた方がいいかもしれないですね、暁には集中的に特訓をする事も考えないと…」

 

 

吹雪がぶつぶつと呟きながら頭の中で案を練っていく、現在の練度(レベル)は吹雪が91、ハチが89、そして暁が67である。

 

 

「とりあえずは練度(レベル)80代になるように特訓メニューを考えておこう…」

 

 

「80って…あんまり扱きすぎんなよ」

 

 

「大丈夫ですよ、私にかかればこれくらい楽勝です!」

 

 

吹雪はドン!と胸を叩いて豪語する、その姿を見て海原は頼もしくなったもんだと心の中で感心する。

 

 

(後輩の存在ってのは案外デカいモンなんだなぁ)

 

 

次の日から吹雪は暁の特訓のために訓練所にいることが多くなった。

 

 

「このぶんなら本当に80代いくかもな…」

 

 

日々の練度(レベル)の上がりようを見て海原は少し驚いたように呟く。

 

 

「うわあああぁぁぁん!!!!!もう許してくださいいいいいぃぃ!!!!!!」

 

 

時折訓練所の方から暁の悲痛な叫び声が聞こえたような気がしたが、気のせいだったと思いたい海原だった。

 

 

 

 

 

そして一週間後の大規模攻略作戦当日、吹雪と暁は集合場所である大本営へ向かうため電車に乗っていた。

 

 

「ったく、大本営の連中の頭はどうなってるのよ、作戦に召集しておいて交通費も寄越さないなんて」

 

 

「吹雪さん、その愚痴8回目よ…」

 

 

ブスッとした顔で愚痴をこぼす吹雪を暁が軽く注意する。

 

 

ちなみに暁の練度(レベル)だが、吹雪の特訓のおかげで82にまで上げる事に成功した、しかし特訓が余程厳しかったのか作戦前日には生きる屍のような状態になっており、さすがにコレではマズいとその日一日休ませてどうにかいつもの状態に戻したのだ。

 

 

『まもなく、新宿~新宿~終点です、都営環状線はお乗り換えです』

 

 

そうこうしているうちに新宿駅に着いたので吹雪たちは電車を降りる、その後はFAXに添付されている地図を頼りに大本営まで行くのだが、何分駅前は都会なので道が複雑だ。

 

 

「うわ…台場とは大違い…」

慣れない都会に悪戦苦闘しながらもようやく大本営の建物まで辿り着く、入り口では参加艦娘の身分確認を行うために大本営の役員が立っていた。

 

 

「暁、身分証出しといて」

 

 

「分かったわ」

 

 

吹雪と暁は事前に発行された作戦参加艦娘用の身分証を鞄から取り出し、入り口に出来た列に並ぶ。

 

 

「次の方、どうぞ」

 

 

吹雪たちの前に並んでいた3体の艦娘がそれぞれ身分証を提示する。

 

 

「舞鶴鎮守府所属、戦艦霧島です」

 

 

「同じく、戦艦榛名です」

 

 

「同じく、正規空母加賀です」

 

 

 

「…はい、確認いたしました、中へどうぞ」

 

 

身分確認を終えた艦娘が中へ入っていく。

 

 

「…戦艦に正規空母って、力の入れようがスゴいね」

 

 

「…何か無駄に緊張してきたわ」

 

 

いよいよ吹雪たちの順番になり、先程の3体に習って身分証を提示する。

 

 

「台場鎮守府所属、駆逐艦吹雪です」

 

 

「同じく、駆逐艦暁です」

 

 

身分証を受け取った大本営の役員は怪訝そうな顔をして吹雪たちを見る。

 

 

「台場鎮守府…?あぁ、あの“艦娘殺し”が飛ばされたっていう弱小鎮守府か」

 

 

ピキッ

 

 

役員がそう言った瞬間吹雪と暁の中で怒りの感情が生まれる、自分たちの司令官を侮辱されたからだ。

 

 

「こんな連中寄越すなんて上は何考えてんだか…ほら通って良いぞ、くれぐれも他の鎮守府の艦隊の邪魔はすんなよ」

 

 

台場鎮守府の艦娘と分かると役人は吹雪たちを見下すような態度をとる。

 

 

 

「…吹雪さん、あいつぶっ殺していい?」

 

 

役人の態度が気にくわなかったのか、入り口をくぐってすぐに暁が耳打ちする。

 

 

「やれと言いたいとこだけど、司令官の面目もあるから我慢ね」

 

 

「はーい…」

 

 

そんな少々物騒な会話をしつつ、ふたりは大本営の中へと足を踏み入れる。




○コラム「うちの艦隊のレベルトップ5」

1.吹雪改二 Lv112
2.初霜改二 Lv97
三日月改 Lv97
香取改 Lv97
3.鳥海改二 Lv84
4.響改二 Lv80
5.金剛改二 Lv79

…こうして書いてみると意外にバラつきがあった。


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第19話「三日月の場合4」

カスダメで中破になることほどイラつくものはない(格言


「えーっと、第1会議室だから…ここかな」

 

 

建物の中に入ったふたりは作戦の説明がされるという第1会議室の中に入る。

 

 

(…うわ)

 

 

会議室の中ではすでに20体ほどの艦娘が席に着いていた、そして予想通りと言えば予想通りだが、そのメンバーのほとんどが戦艦や正規空母だった。

 

 

(場違い感がスゴいなぁ…)

 

 

吹雪がそう思いながら空席を探す、場違い感を感じているのは向こうも同じらしく、艦娘たちの横を通り過ぎる度にこちらをジロジロ見てくる、“何で駆逐艦がこんな所にいるんだ?”とでも考えているのだろう。

 

 

後ろの方に空席を見つけてふたりで座るが、その後もこちらの方をチラチラ見てくる艦娘が何体かいる。

 

 

「(…何で暁たちこんなに見られてるわけ?)」

 

 

「(こんな大規模作戦に駆逐艦なんかを参加させるのが余程珍しいんじゃない?)」

 

 

「(なによそれ、ただの偏見じゃない)」

 

 

ふたりが小声で会話をしていると、会議室のドアが開いてふたりの男が入ってくる。

 

 

「元帥の南雲藤和(なぐもふじかず)だ、本日は遠いところ集まっていただき感謝する」

 

 

「元帥補佐の鹿沼敏久(かぬまとしひさ)です」

 

 

南雲と鹿沼はそれぞれ一礼する、大本営のトップ2の登場で会議室内に緊張が走った。

 

 

「では早速だが作戦内容の説明に入らせてもらう」

 

 

南雲はリモコンを操作してスクリーンを上から下ろし、プロジェクターとパワーポイントを起動させる。

 

 

「今回攻略するのはオホーツク海に位置する千島列島…いわゆる北方領土と呼ばれている所だ、その列島のひとつである色丹島を深海棲艦が根城にしている、今作戦の目的はその色丹島にある深海棲艦の根城を叩くというものだ」

 

 

北方領土というのは「歯舞群島」「色丹島」「国後島」「択捉島」などの島々からなる北方地域の事だ、深海棲艦が現れる前は日本とロシアで領有権争いをしていたが、深海棲艦が現れると世界各地の航海路(シーレーン)が次々と潰されていき、当時北方領土に駐屯して実行支配していたロシア軍が孤立するという事態が起きた。

 

 

結果から言うとそのロシア軍は空母棲艦の航空戦力で根絶やしにされ島民と共に全滅、それ以降北方領土問題は事実上の停戦状態になっている。

 

 

「今日は全員でこの大本営の宿舎で一日を過ごし、翌日早朝に我々が設営した北海道のベースキャンプへ出発する、なので今日は他の鎮守府の艦娘たちと親交を深めてくれ」

 

 

その他にも細々とした説明を少し挟み、最後に大本営が編成した本作戦の特別艦隊のメンバーが発表される。

 

 

「この紙に書いてあるメンバーで明日出撃してもらう、今のうちにチームワークを鍛えておけよ」

 

 

そう言って南雲は艦隊メンバーの書かれた大きな紙をホワイトボードに張り出す。

 

 

○第1艦隊

•戦艦 長門

•戦艦 ビスマルク

•戦艦 榛名

•空母 赤城

•重巡 ザラ

•軽母 瑞鳳

 

○第2艦隊

•航戦 扶桑

•航戦 山城

•空母 翔鶴

•重巡 プリンツ=オイゲン

•重巡 鳥海

•軽巡 川内

 

○第3艦隊

•戦艦 霧島

•戦艦 比叡

•航戦 伊勢

•航巡 鈴谷

•空母 蒼龍

•空母 飛龍

 

○第4艦隊

•戦艦 ローマ

•空母 瑞鶴

•空母 加賀

•重巡 摩耶

•駆逐 吹雪

•駆逐 暁

 

 

 

 

 

「えーっと、私たちは第4艦隊か」

 

 

「周りが戦艦や空母で変に緊張するな…」

 

 

 

「それではこれにて解散とする、各自思い思いの時間を過ごしてくれ」

 

 

そう締めくくると鹿沼と南雲は会議室を後にした。

 

 

「さてと、とりあえず同じ艦隊の艦娘に挨拶でもしておこうか」

 

 

「そうね、まずは第4艦隊の艦娘を探しましょ」

 

 

大本営の編成に従ってそれぞれ集まり合う艦娘たち、その中で『第4艦隊』と書かれた紙を持った艦娘を見つける、翔鶴型航空母艦2番艦の瑞鶴だ。

 

 

「あなた達が吹雪と暁?」

 

 

「はい、吹雪型1番艦の吹雪です」

 

 

「暁型1番艦の暁よ」

 

 

「翔鶴型2番艦の瑞鶴よ、よろしくね」

 

 

そう言って瑞鶴はニコリと笑う、とりあえずいい人そうで良かった、と吹雪は安堵する。

 

 

「しっかし、こんな大規模な攻略作戦に駆逐艦なんかを参加させるなんて、お前らのとこの提督は何考えてんだか」

 

 

和やかな挨拶に横槍を入れるのは高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶だ。

 

 

「そんな言い方は無いんじゃないの?摩耶、駆逐艦だって立派な戦力よ」

 

 

「そうかぁ?装甲は薄いし火力も出ねぇ、遠征くらいしか使い道がない駆逐艦のどこがいいってんだよ」

 

 

摩耶の好き勝手な物言いに吹雪と暁は苛立ちを募らせる。

 

 

(こっちだって来たくて来た訳じゃないっての…)

 

 

「それには私も同意見ね」

 

 

摩耶の発言に合いの手を入れるのはヴィットリオ・ヴェネト型戦艦4番艦のローマ、第4艦隊の旗艦(リーダー)だ。

 

 

「駆逐艦がこんな大規模作戦の戦力になるなんてとても思えないわ」

 

 

「ローマさんまで…」

 

 

「そう決めつけるのは早いと思うのだけれど?」

 

 

摩耶とローマの意見に異を唱えるのは加賀型航空母艦1番艦の加賀だ。

 

「加賀先輩…」

 

 

「私のいる舞鶴では海域攻略作戦に参加している戦艦や空母の護衛として駆逐艦が起用されるわ、確かに戦闘力では戦艦には劣るけれど、足の速さや雷撃の性能では重巡や戦艦にも負けてないわよ」

 

加賀の反論に摩耶とローマがタジタジになって言葉を詰まらせる、火力主義の2体にとって駆逐艦は戦力外の一言だが、余所の艦娘と艦隊を組むのであればそれを押し通す事は出来ない。

 

 

「…分かったよ、ただし、アタシたちの足手まといにだけはなるなよ」

 

 

「私からも忠告しておきます」

 

 

摩耶とローマは納得しきれていないようだが、とりあえずば吹雪と暁の参加を認めるようだ。

 

 

「安心して、あなたたちのことはこの瑞鶴と加賀先輩が守るから!」

 

 

「ちょ、いつから私も頭数に入ったのかしら!?」

 

 

「今です」

 

 

「今って…」

 

 

加賀は呆れ顔でため息をつくが、全力で否定しないところを見ると案外まんざらでもないようだ。

 

 

 

 

 

(…私たち、この艦隊でやっていけるのかな)

 

 

 

早くも不安になる吹雪だった。




ここに来て艦娘の名前ゾロゾロ出て来ましたが、多分第4艦隊以外はほぼ出ない可能性が大な気がしてきた(汗


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第20話「三日月の場合5」

UAが3000を超えました!本当にありがとうございます!


艦これアーケードをやってきました、もちろん初期艦は吹雪です。


「さてと、とりあえずは明日の作戦に備えて色々話し合っておきましょう」

 

所変わってここは第4艦隊に割り当てられた宿舎の部屋だ、ローマの提案で今日は夕食の時間まで会議を行うことになった。

 

 

「まずは配役ね、瑞鶴と加賀は空母だから索敵と空撃、戦闘艦の私と摩耶は砲撃で敵の殲滅、セオリー通りでいけばこんな所かしら」

 

 

「まぁ、それが妥当だろうな、砲雷撃戦の手数が不足気味なのが気になるけど…」

 

 

摩耶もローマの提案には概ね賛成のようだ。

 

 

「砲雷撃なら吹雪と暁もいるじゃない」

 

 

「駆逐艦の小口径砲じゃ駆逐棲艦を落とすのがやっとだろ、そんなんじゃ敵主力艦隊とやり合うなんて無理だぜ」

 

 

「でも駆逐棲艦や軽巡棲艦の露払いなら出来るわよ!」

 

 

 

摩耶の発言に暁が食ってかかる、混血艦(ハーフ)になった今の暁は軽巡並みの基礎能力(ステータス)があるのだ、軽巡棲艦にも十分立ち向かえる。

 

 

「よく言うわね、射程も火力もいちばん弱い駆逐艦のクセに」

 

 

「っ!!もう一度言ってみなさい!」

 

 

暁がローマの胸倉につかみかかろうとする、しかしローマがそれを片手で簡単に止めてしまう。

 

 

「ほら、力も戦艦(わたし)以下じゃない」

 

 

自分の全力を軽くいなされた暁は涙目になり悔しそうに座る。

 

 

「ローマ、大人気ないわよ」

 

 

「当然の事を言っただけです」

 

 

加賀のたしなめも全く意に介していないローマ、これでは中々話が進まない。

 

 

「そう言えば、吹雪は何か得意な戦術はあるの?」

 

 

話の流れを変えようと思った瑞鶴が吹雪に問う。

 

 

「得意な戦術…ですか」

 

 

「そう、砲撃が得意とか、魚雷の扱いが上手いとか、何か無い?」

 

 

「そうですね、砲雷撃戦は並程度に出来ますけど、強いて言えば白兵戦が一番得意です」

 

 

「は、白兵戦…?」

 

 

吹雪の予想外の答えに瑞鶴が素っ頓狂な声を出す。

 

 

「私と暁のいる台場鎮守府では工廠が使えないので建造も開発も出来ないんです、だから新しい兵装を導入する事が出来ないので近接兵装を使った白兵戦を取り入れて戦術の幅を広げてるんですよ」

 

 

「へ、へぇ…吹雪も結構苦労してるのね…って、台場鎮守府?そんな所聞いたこと無いけど、新しくできた鎮守府なの?」

 

 

「それは…」

 

 

瑞鶴の疑問に吹雪が言いよどむ、本来台場鎮守府は提督の左遷場所として作られている場所なので一般的には情報を開示されていない、瑞鶴が知らないのは当然なのだがそれをどう説明しようかと吹雪が悩んでいると…

 

 

「提督の流刑地である陸の孤島、だろ?」

 

 

摩耶がそれを答えて見せた。

 

 

「…どうしてそれを?」

 

 

「噂で聞いた事があるんだよ、問題を起こして処分に困った提督を左遷させるための鎮守府があるって、そこは海沿いに建ってるからいつ深海棲艦が襲ってきてもおかしくない、でも艦娘がいないから身を守る手段もない、そんないつ死ぬか分からない恐怖に耐えられずに海軍を去っていく…そんな自主除隊をさせるための場所だろ?」

 

 

摩耶は台場鎮守府の情報を的確に答えぬいていく、まるで初めから知っていたかのように…。

 

 

「そんな所があるの!?」

 

 

「初めて知りました…」

 

 

「驚きね…」

 

 

瑞鶴や加賀、ローマはとても驚いたような顔をして吹雪と暁を見る。

 

 

「と言うことはあなた達の提督は何かしら問題を起こして台場鎮守府に飛ばされたんでしょ?そんな人が指揮する艦娘なんて一緒の艦隊にいて欲しくないわよ」

 

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

 

ローマの言葉に吹雪が敏感に反応する、心なしか声のトーンが落ち、視線にも殺意に似た何かが宿っている。

 

 

「だからお前らの提督はそんな所に飛ばされるようなポンコツって事だろ?そんなヤツの指揮下にいるお前らに期待なんてできるわけ無い…」

 

 

摩耶がそこまで言い掛けたとき、首筋に何か冷たいものが当たる感触がした。

 

 

「その声帯を真っ二つにされたくなかったら、今すぐその忌々しい口を閉じる事ね」

 

 

その正体はすぐに分かった、暁が鎌の深海棲器を摩耶の喉元に押しつけているのだ。

 

 

「っ!!」

 

 

摩耶がその状況に気付いたとき、全身からどっと冷や汗が流れ出る、砲雷撃戦しかしたことのない摩耶にとって敵と火砲を交える事には相当の耐性がある、しかしこのような武器が直接生身に触れる状況…いわゆる白兵戦には全くの耐性がないので摩耶は一気に恐怖の感情に飲まれていた。

 

 

瑞鶴たちはあまりの急展開に付いてこられず、目を丸くしてこちらをただ見ているだけだった。

 

「お、おい吹雪!暁を止めてくれ!お前が旗艦(リーダー)だろ!!」

 

 

普段の威勢のいい性格はどこへやら、摩耶は涙目になって吹雪に訴えかける。

 

 

「…暁、深海棲器をしまって」

 

 

「…分かった」

 

 

暁は不服そうに鎌を格納すると、吹雪の隣に座る。

 

 

「言っとくけど、次司令官や台場の仲間を侮辱したらぶっ殺すから」

 

 

暁は殺意に満ちた目で摩耶を睨み付ける。

 

 

(こりゃ中々個性的な子たちが来たわね…)

 

 

瑞鶴は苦笑しながら心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

「んー!美味しい!やっぱり大本営のカレーは格別ね!」

 

 

その日の夕食の時間、第4艦隊のメンバーは食堂でカレーを食べていた、大本営のカレーは絶対に一度は食べておいた方がいい、という瑞鶴の熱弁により全員がカレーを注文することになったのだ。

 

 

「確かにこれはなかなかの味ね、瑞鶴が推すのも頷けるわ」

 

 

「おお!こりゃうめぇ!」

 

 

「…なるほど、確かに美味しいです」

 

 

大本営お手製のカレーは第4艦隊のメンバーにも好評だったようだ。

 

 

「とりあえず明日の配役の復習だけど…」

 

 

ここでローマが昼間の会議の内容を持ち出す、途中でギスギスした空気になってしまったが、どうにか話をまとめる事には成功したのだ。

 

 

「まずは吹雪と暁が白兵戦で敵を牽制して動きを止める、次に私たち主力艦が砲撃と空撃で敵を仕留める、基本的にはこんな流れでいいわね?」

 

 

「いいと思うわよ、さすがに白兵戦が加わるのは予想外だったけど…」

 

 

「私も異論はありません」

 

 

「反対じゃないけど、本当に牽制出来るのか?お前ら」

 

 

「それに関しては問題ありませんよ、たとえ戦艦棲艦が相手でも役目を果たせます」

 

 

「ずいぶん大きく出たねぇ、まぁせいぜい足引っ張らない程度に頼むぜ」

 

 

摩耶はお茶を飲みながら吹雪に言う、ある程度は吹雪たちの事を認めてくれるようになった摩耶だが、やはりまだ半信半疑といった様子である。

 

 

その後は他愛のない会話をしながら時間を潰していく。

 

 

 

 

 

 

 

時刻は日付が変わる頃、南雲藤和は執務室である人物を待っていた。

 

 

「失礼します、南雲元帥」

 

 

そう言ってノックもせずに入ってきたのはひとりの男だった、名前は榊原啓介(さかきばらけいすけ)、歳は30代半ばだが老け顔のせいで年齢以上に年上に見られがちなのが悩みだ。

 

一見頼りなさそうな見た目をしているが、実は艦娘開発の先駆者であり第一人者でもある、彼が立ち上げた艦娘開発部署『造船所』は今や深海棲艦との戦いにおいて欠かせない存在となっている、ちなみに艦娘開発の技術詳細などは複製や悪用を避けるため造船所の人間のみしか知ることが出来ないブラックボックスとなっている。

 

「新しい艦娘の建造を進めているという話を聞いたが、詳細を聞きたい」

 

 

「はい、建造予定の艦娘は…陽炎型駆逐艦8番艦『雪風』、秋月型駆逐艦1番艦『秋月』、マエストラーレ型駆逐艦3番艦『リベッチオ』の3体です』

 

 

榊原は手元の資料を読みながら南雲に説明する。

 

 

「建造状況は?」

 

 

「雪風と秋月はすでに建造が完了して覚醒しています、リベッチオは個体の組織形成が8割方終わっている状況ですね」

 

 

「そうか分かった、夜遅くにすまないね」

 

 

「いえ、また進展がありましたら報告に参ります」

 

 

榊原はそう言って一礼する。

 

 

「しかし、建造だの造船所だの、艦娘はまるで在りし日の艦艇の生まれ変わりみたいだな」

 

 

「いえ、『艦娘』というのは対深海棲艦用の生体兵器につけられた便宜上の()()です、実際は生まれ変わりでもなければかつての艦艇とも全く関係ありません」

 

 

「なるほど、そう言えば『深海棲艦』という名前も君がつけた便宜上の例えだったね、君は本当にユニークな発想を思いつく」

 

 

愉快そうに笑う南雲に榊原は恐れ入ります、と軽く頭を下げる。

 

 

「分かった、夜遅くにすまないね、ゆっくり休んでくれ」

 

 

「はい、失礼します」

 

 

榊原は南雲に一礼して執務室を後にする。

 

 

「………」

 

 

造船所に戻る通路を歩いている榊原はポケットから携帯を取り出すとある番号に電話をかける。

 

 

「…榊原だ、あぁ、例の件は何か分かったか?」

 

 

榊原は電話相手の話を聞いて顔を曇らせる、その様子を見るといい返答ではないようだ。

 

 

「分かった、引き続き調査を続けてくれ」

 

 

榊原は電話を切ると携帯をポケットにしまう。

 

 

「…………」

 

 

榊原の表情は造船所に戻るまでずっと曇ったままだった。




ちなみに艦これアーケードですが、吹雪以外では叢雲と暁をゲットしました、叢雲がキラカードでおっかなびっくり。


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第21話「三日月の場合6」

第4艦隊の初戦闘。

地味に暁の戦い方が一番えげつない。


翌日午前6時、大本営敷地内グラウンド。

 

 

「これより、君たち特別連合艦隊は北海道のベースキャンプに向けて出発する、道中の指揮権は第1艦隊旗艦(リーダー)の長門に一任する」

 

 

南雲が連合艦隊全員を召集して出発式を開く、ここからは北海道のベースキャンプに向けて海路を進むのだ。

 

 

「それでは、誰一人欠けることなく戻ってきてくれ!健闘を祈る!」

 

 

南雲の言葉に全員が敬礼を返し、出発式は終了となった。

 

 

「さてと、それじゃあ私たちも出発しましょうか」

 

 

「そうね、たしか第1艦隊から順番に行くんだっけ?」

 

 

「そう聞いています、固まって動くと返って動きが鈍くなるみたいだから、5分おきに出発するみたいね」

 

 

「てことは、第1艦隊はすでに出てるからアタシたちが出るのは15分後か…結構かかるなぁ」

 

 

今回の移動は5分おきに一艦隊ずつが出発し、比較的短い間隔を空けて移動する形式になる、理由としてはさっき加賀が言ったように固まって動くとかえってお互いが動く時に邪魔になってしまうから、もうひとつはあまり間隔が空きすぎると敵襲などで応援にすぐ駆けつけられないからだ。

 

 

「じゃあ軽く打ち合わせね、航海中は私と摩耶が前衛、吹雪と暁が中衛、加賀と瑞鶴が後衛の複縦陣で進むわ、戦闘が始まったら吹雪と暁が前へ出て白兵戦で牽制と足止め、そして私たちが砲撃や空撃でそれを仕留める、基本的にはこの流れで進みます」

 

 

ローマが航海中の陣形や戦闘中の作戦についておさらいし、全員が頷く。

 

 

そして15分が経過し、ローマたち第4艦隊が海へと出る。

 

 

「はぁ、わざわざ航海路(シーレーン)にしなくても飛行機を使えばもっと早く行けるのに…」

 

 

海の上を進みながら吹雪が小さくボヤく、ここからは十数時間をかけて北海道までの航海路を進んでいくのだ、1時間半ほどで行ける飛行機の方がよほどいい。

 

 

「あれ?吹雪知らないの?この前民間の旅客機が空母棲艦の艦載機に撃墜されたから航空路は全て封鎖されてるのよ、だから今飛行機は一機も飛んでないわ」

 

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

 

「知らなかったわ!」

 

 

瑞鶴の返答に吹雪だけでなく暁も驚きの表情を隠せない。

 

 

「てか何でお前ら知らねーんだよ、ひと月くらい前に全国の鎮守府に一斉配布された情報だぞ?」

 

 

「…もしかして、台場鎮守府はそういう情報すら行かないの?」

 

 

ローマが信じられないといった様子で吹雪たちを見る。

 

 

「まぁ、海軍を辞めさせる為の鎮守府にそんな情報流してもしょうがないですしね~」

 

 

「…マジかよ」

 

 

「でもそのおかげでこっちは気ままに過ごせて良いですよ、なーんにも縛られないで好きに出来ますし」

 

 

「別の意味でお前らがうらやましいよ…」

 

 

摩耶がため息をついて呟く。

 

 

「…っ!?電探(レーダー)に敵艦隊の反応アリ!総員警戒態勢!」

 

 

ローマの装備した電探(レーダー)が敵艦隊を感知したようだ、切迫したローマの指示を受けて全員が艤装を構える、その中で吹雪と暁だけは砲や魚雷ではなく近接兵装である深海棲器をそれぞれ展開させていた。

 

 

「それが近接兵装?こんな言い方アレだけど、大丈夫なの?」

 

 

「えぇ、もちろんです」

 

 

自信満々な吹雪の顔を見た瑞鶴は満足そうな表情で弓を構える、この弓は空母の艤装の一種で艦載機を飛ばすために用いる。

 

 

瑞鶴の場合は弓矢と飛行甲板がセットになっているタイプの艤装だ、それぞれの矢には各艦載機の能力が封じ込められており、飛行甲板はその艦載機の情報を読み取る役割を果たしている。

 

 

そして飛行甲板が艦載機情報を読み取ると、その艦載機を矢から実際の飛行機に変化させる内部コマンドのようなモノを矢に送り込む、弓道タイプの艤装の基本的な性能はこんなところだ、ちなみに加賀も同じ弓道タイプである。

 

 

「…敵艦隊発見!その数…5体!」

 

 

「えっ…5体!?」

 

 

「なかなか数が多いじゃねーか…!」

 

 

今回現れた敵艦隊は全5体、しかも…

 

◎戦艦棲艦

 

○戦艦棲艦

 

○重巡棲艦

 

○軽巡棲艦

 

○駆逐棲艦

 

 

 

…と、戦艦棲艦が2体もいるというかなり厳しい編成だ、ちなみに陣形は復縦陣を組んでおり、旗艦(リーダー)の戦艦棲艦は後方中央に控えている。

 

 

「総員即刻戦闘開始!吹雪と暁は白兵戦開始!」

 

 

「「了解!」」

 

 

ローマの合図と共に吹雪と暁がスタートダッシュを切る、駆逐艦の持ち味である速力をフルに生かして敵艦隊へ肉薄する。

 

 

当然敵艦も吹雪たちの接近を拒もうと砲撃を行ってくるが、砲弾斬りをマスターしているふたりにとっては妨害にすらならない。

 

 

「えっ…嘘!?」

 

 

「砲弾を、斬ってる…?」

 

 

「すげぇ…」

 

 

他のメンバーは今までのセオリーを全て覆すような光景にただただ目を見張るしか出来なかった。

 

 

「はあああああぁぁ!!!!!」

 

 

まず先手を打ったのは吹雪、手甲拳(ナックル)の深海棲器でいちばん手前にいた駆逐棲艦を一撃で撃沈、そして流れるような動きでその後にいる軽巡棲艦の頭部を殴り大破にさせる。

 

 

 

「まだまだぁ!」

 

 

さらに追撃とばかりに軽巡棲艦の顔面を殴りつけ後方に吹き飛ばし、その後ろにいた旗艦(リーダー)の戦艦棲艦に激突させる、殴られた衝撃で戦闘不能になった軽巡棲艦が大爆発を起こして軽巡棲艦は撃沈、旗艦(リーダー)にも小破未満(カスダメ)を負わせる。

 

 

「死ねえええぇ!!!!」

 

 

一方こちらは暁、鎌の深海棲器で重巡棲艦の腹を横一線に斬りつけ大ダメージを与える。

 

 

「はああっ!」

 

 

さらに鎌の内刃で重巡棲艦の首を切り落とし戦闘不能に持って行こうとしたが、首が落ちても重巡棲艦の動きが止まることはなかった。

 

 

「しぶといわ…よ!」

 

 

深海棲器を鎌から棘棍棒(メイス)にチェンジさせ、重巡棲艦に向けてプロ野球よろしくフルスイングさせる。

 

 

棘棍棒(メイス)に付いた鋭いトゲの応酬を浴びながら重巡棲艦は後方へ飛んでいき、戦艦棲艦へ激突する、これにより重巡棲艦は撃沈、戦艦棲艦は小破未満(カスダメ)を負う。

 

 

ふたりの牽制により一番厄介な戦艦棲艦の動きが止まり、攻撃のチャンスが生まれる。

 

 

…ちなみにここまでに費やした時間は正味30秒だ。

 

 

「吹雪!暁!交代(スイッチ)!」

 

 

ローマのかけ声で吹雪と暁が後ろに下がり、摩耶とローマが前へ出る。

 

 

「総員砲撃、空撃開始!」

 

 

その合図と共にローマと摩耶が主砲を撃ち、加賀と瑞鶴が艦載機を飛ばす。

 

 

ちなみに瑞鶴が飛ばした艦載機は艦上爆撃機(艦爆)、機体に取り付けた爆弾を敵艦に落とす事で相手を攻撃する種類の艦載機だ、一方で加賀が飛ばした艦載機は艦上攻撃機(艦攻)、これは機体に取り付けた魚雷を投下して雷撃を行う種類の艦載機だ。

 

 

まずはローマと摩耶が撃った主砲の砲弾が戦艦棲艦2体に着弾、炸薬の効果で大爆発を起こし戦艦棲艦を大破に、旗艦(リーダー)を中破にする。

 

 

戦艦棲艦はなんとか艦娘どもに一撃入れてやろうと砲を構えたが、瑞鶴と加賀の放った艦載機がそれを許さなかった。

 

 

瑞鶴の艦爆が投下した爆弾と加賀の艦攻が投下した魚雷が同時に命中、爆炎と水柱が同時に上がり、残りの戦艦棲艦を撃沈させる。

 

 

「…電探(レーダー)に敵艦反応無し、戦闘終了です」

 

 

 

 

 

第4艦隊の初戦闘は、全員無傷(ノーダメージ)の完全勝利という結果になった。




考えてみれば矢が艦載機になるっていう空母の設定が一番ファンタジーな気がする。


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第22話「三日月の場合7」

今回は敵潜水艦との戦闘回ですが、潜水艦に関しては独自設定で書いている所があるので実際のゲームの仕様とは異なる部分があると思います、あらかじめご了承ください。


「いやー、みなさんスゴかったです!さすがは大型艦、攻撃力も規格外ですね!」

 

 

「いや、瑞鶴たちよりあんたたちの方がよっぽど規格外なんだけど、駆逐艦だけで重巡と軽巡と駆逐倒すとかどんだけよ…」

 

 

「そもそも白兵戦なんてイレギュラーな戦法でそんな戦果上げるなんて快挙だぞ」

 

 

戦闘終了後、戦艦棲艦2体をすんなり倒してしまったローマたちに賞賛を送る吹雪だが、瑞鶴と摩耶にあっさり一蹴されてしまった。

 

 

その後も航海中に駆逐棲艦や軽巡棲艦などの小物が襲って来たが、全て吹雪と暁が白兵戦で倒してしまったので大型艦組はほとんど出番がなかった。

 

 

 

 

色丹島はオホーツク海に位置する千島列島を構成する島の一つだ。

 

 

かつては日本とロシアで領有権の主張を繰り返していたそうだが、深海棲艦の大空襲に逢ってからは無人島になっており事実上の無法地帯と化している。

 

 

そんな色丹島でかつて存在していた集落の跡地にひとりの少女が立っていた、年は十代半ばといったところか、艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばしており、グレーのワンピースを着ている。

 

 

「失礼します」

 

 

すると、少女のもとへひとりの女性が近付いてくる、白雪のような長い白髪をサイドテールにしており、その肌も髪と同じくらいに白かった。

 

 

「どうしたの?ベアトリス」

 

 

暗殺兵級(アサシン)からの報告なのですが、どうやら艦娘の大部隊がこちらへ襲撃をかけるようです」

 

 

ベアトリスと呼ばれた白髪の女性が持っていた報告書の内容を少女に伝える。

 

 

「…艦娘どもが色丹島(このしま)に?」

 

 

ベアトリスからの報告を聞いた少女は眉根を寄せて怪訝な顔をする。

 

 

「はい、20体ほどの連合艦隊で攻め入るようです」

 

 

「そうなのね……分かったわ、迎撃部隊を編成するから他の子たちを召集して」

 

 

「了解しました」

 

 

ベアトリスは一礼すると集落跡地を後にする。

 

 

「襲撃…ね、()()()たちの力がどれだけのものか、見せてもらおうじゃない」

 

 

少女は不適な笑みを浮かべ、眼前に広がる水平線を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 

一方その頃、第4艦隊は後少しでベースキャンプへ辿り着くという所で大ピンチに陥っていた。

 

 

「敵艦発見!数は2体!艦種…潜水棲艦!?」

 

 

そう、敵の潜水艦が現れたのだ。

 

 

「…摩耶、副砲は?」

 

 

「残念だが持ってねぇ」

 

 

摩耶は悔しそうに肩を竦める。

 

 

「あなた達は?何か対潜装備は…」

 

 

「何も無いです」

 

 

「暁も持ってないから主砲で戦うことになるわね」

 

 

3人の答えを聞いてすっかり判断に悩むローマ、水上艦相手なら主戦力として活躍できる戦艦だが、潜水艦が相手だとその力関係が逆転する。

 

 

早い話が戦艦や重巡洋艦は潜水艦に攻撃が出来ないのだ。

 

 

その理由は主にふたつある、ひとつは対潜装備は戦艦の艤装には規格が違うためそもそも載せることが出来ない。

 

 

 

もうひとつは“主砲の口径”だ、駆逐艦や軽巡洋艦は対潜装備を搭載していない場合は主砲を水中に打ち込んで対戦攻撃を行う、しかし戦艦のような大口径の主砲を水中に向かって撃ち込むと表面張力に負けてしまい水面で爆散してしまうのだ、艦娘が使う砲弾には炸薬が仕込まれており、それを爆発させやすくするために砲弾が脆く作られているのが原因だ。

 

 

その反面小口径の駆逐艦や軽巡洋艦の主砲の弾であれば水面に接する面積が少ないのである程度なら表面張力の影響を受けずに水中の潜水棲艦にもダメージを与えられる、しかし水中に向けて撃っているので弾速は格段に落ちるし、あまり深いところにいる敵には当てることが出来ない。

 

 

 

 

 

「さーて…どうしましょうかねぇ…」

 

 

 

つまるところ、第4艦隊はピンチなのだ。

 

 

 

「っ!!潜水棲艦、来ます!」

 

 

潜水棲艦が水中に潜ると、物凄いスピードでこちらへ向かってくる。

 

 

「このぉ!」

 

 

摩耶が主砲を撃つが、やはり水面に触れると同時に爆散してしまう、水面に接する面積が大きいため表面張力が大きく働くのだ。

 

 

「なら私が…!」

 

 

 

吹雪が深海棲器を主砲に持ち替えて潜水棲艦に向けて撃ちまくる、一応弾は水中に届いているがダメージは小破未満(カスダメ)だ。

 

 

「敵艦魚雷発射!回避行動をとれ!」

 

 

潜水棲艦が魚雷を撃ち出した、潜水艦の攻撃方法は魚雷しかないので比較的対策はしやすいのだが、水中で発射するのでタイミングが読みづらい。

 

 

ローマ、加賀、瑞鶴、吹雪はジャンプで魚雷をかわすことに成功したが、摩耶と暁がよけきれずにダメージを負った。

 

 

「くそっ…!あいつらやっかいだぜ…」

 

 

摩耶が悔しそうに潜水棲艦を睨み付ける、自分は攻撃出来ないだけあってなおさら悔しそうだ。

 

「…絶対にぶち殺す」

 

 

ヒットアンドアウェイで攻撃してくる潜水棲艦に相当イラついたのか、暁は感情も何も全て消し去った目で敵を見据え、手に持った主砲を撃つ。

 

 

弾は片方の潜水棲艦に命中するが、やはり決定打になるようなダメージは与えられていない。

 

 

「どっかその辺に爆雷とか落ちてないかなぁ…」

 

「いや落ちてるわけないでしょ…」

 

 

 

(…爆雷…か)

 

 

 

瑞鶴と加賀の呑気な会話を聞き、吹雪はあることを思いつく。

 

「ローマさん、艤装の砲弾はまだ残ってますか?」

 

 

「え?残ってるけど…」

 

 

「それ、一発出してもらってもいいですか?潜水棲艦に対抗する作戦を思い付きました」

 

 

吹雪はそう言うと考え付いた作戦を手短に伝える。

 

 

「…なるほど、分かったわ」

 

 

ローマは小さく頷くと、自身の艤装から装填済みの砲弾をひとつ取り出して吹雪に渡す。

 

 

「それっ!」

 

 

吹雪は主砲を撃って潜水棲艦をおびき寄せるためのアピール射撃を行う、案の定潜水棲艦はそれに反応して2体ともこちらに向かってくる。

 

 

(成否のカギはタイミング…!よく引き付けないと…!)

 

 

吹雪は猛スピードで近付いてくる潜水棲艦を見据え、投下のタイミングをはかる。

 

 

「……今だ!」

 

 

吹雪は持っている砲弾を水面に投下すると、素早く後ろに下がって魚雷と主砲を目一杯撃って砲弾を刺激する。

 

 

次の瞬間、戦艦の砲弾が水中で爆発し、凄まじい衝撃と水柱が上がる。

 

 

「うわっ!」

 

 

その衝撃は凄まじいもので、水上にいる吹雪も少しよろけてしまった。

 

 

水柱は数秒ほどで収まり、それ以降潜水棲艦が攻撃してくる様子もない。

 

 

「…電探(レーダー)に敵艦反応無し、潜水棲艦の撃沈を確認」

 

 

こうして、少しイレギュラーな方法ではあったが、潜水棲艦の撃退に成功した。




春イベ始まりましたね。


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第23話「三日月の場合8」

艦これアーケードめちゃくちゃ楽しいですね。

今1ー3まで攻略中です。


潜水棲艦との戦闘後は特に敵艦との遭遇は無くスムーズに進むことが出来た、そしてそれから4時間後、ようやく第4艦隊は北海道の知床半島に設営されたベースキャンプに到着した。

 

 

「着いたー!」

 

「長かった…」

 

 

移動時間が長かったことと何度も戦闘を挟んだ事が重なり(戦っていたのはほとんど吹雪たちだが)、ベースキャンプに着いたときにはすっかりバテてしまっていた。

 

 

「やっと着いたか」

 

 

まずはどうすればいいかとキョロキョロしていると、30代半ばと思われるひとりの男が出迎えに来た。

 

 

この男は長嶋幸太(ながしまこうた)、北海道エリアの鎮守府、室蘭鎮守府の司令官をしている男だ。

 

 

「第1から第3艦隊は10分20分くらいの間隔で来たのに、お前等が来たのは第3艦隊到着の2時間後だぞ、何やってたんだ」

 

 

まるで“どこかで道草でも食ってたんだろ”と言わんばかりの長嶋の態度に全員が憤りを感じる。

 

「申し訳ありませんでした、道中で敵艦隊との戦闘が何度かありまして」

 

 

しかしローマは大人の対応で長嶋の嫌味を流す、これが暁なら真っ先に相手の顔を殴りつけていただろう、現に今鎌を出そうとしているのに気付いて吹雪が慌てて止めていた。

 

 

(最近喧嘩っ早くなったからなぁ…)

 

 

混血艦(ハーフ)の影響が悪い方向にも出ているのだろうか、と吹雪は少し懸念する。

 

 

「そんなの戦艦や空母がいるお前たちなら楽に倒せるだろう…」

 

 

そこまで言い掛けたとき、 長嶋は吹雪と暁を見て何かを察したかのような顔をする。

 

 

「なるほど、そこの駆逐艦が足を引っ張っていたのか」

 

 

「っ!!」

 

 

長嶋の言葉に瑞鶴と加賀が前に出て抗議をしようとするがローマに止められる、今は争うべきではないと言っているのだ。

 

 

「そうかそうか、それはとんだ災難だったな、火力も装甲も貧弱な駆逐艦ではまず戦力にならないからな」

 

 

 

「……………」

 

 

ローマたちの沈黙を“肯定”と受け取ったのか、長嶋は知ったような口で偉そうに語り出す。

 

 

「そういうことなら仕方ない、ではこれから作戦内容の説明に入る、ついて来い」

 

 

長嶋は勝手に納得すると、第4艦隊をベースキャンプの中央広場へと誘導する、第4艦隊のメンバーはどこか納得いかないといった雰囲気でそれについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なによあいつ!気に入らないわね!」

 

 

参加艦娘全員がベースキャンプの中央広場で作戦説明が始まるまで待機していたが、その間瑞鶴はずっと長嶋に対する愚痴を言っていた。

 

「まぁ、駆逐艦の基礎能力(ステータス)が低いのは事実ですから、仕方ないですよ」

 

 

「白兵戦で敵艦を3体も屠るなんて普通の駆逐艦じゃ出来ないと思うけど…」

 

 

加賀が苦笑しながら吹雪に言う。

 

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

 

その時、長嶋が周りの会話を遮るように現れた、傍らには秘書艦の艦娘…妙高型重巡洋艦3番艦『足柄』を従えている。

 

 

「それではこれから敵地襲撃の概要を説明する」

 

 

足柄にホワイトボードを持ってこさせると長嶋は簡単な地図を書き、概要の説明に入る。

 

 

「第1と第2、第3と第4で連合艦隊を組み敵の根城を叩く、第1と第2は島内部の敵を、第3と第4は島外部を遊弋している敵を担当してもらう」

 

 

「(てことは、こっからはメンバーが倍に増えるって事か)」

 

 

「(正直言ってめんどくさいわ…)」

 

 

摩耶と暁がそれぞれ愚痴をこぼす。

 

 

「作戦決行は明日の朝5時、それまではこのベースキャンプで鋭気を養ってくれ」

 

 

それだけ言うと長嶋は足柄を連れてベースキャンプ奥にある司令官用の大きなテントへと戻っていく。

 

 

「…とりあえず」

 

 

「…挨拶だけしてこよっか」

 

 

第4艦隊の面々は“めんどくさい事になんなきゃいいなー”という不安を抱えながら第3艦隊の所へと向かう。

 

 

 

 

「で、あなたたちが第4艦隊なの?」

 

 

第3艦隊旗艦(リーダー)の艦娘…金剛型戦艦4番艦『霧島』は第4艦隊を値踏みするように見ながら言う。

 

 

「はい、第4艦隊旗艦(リーダー)…ヴィットリオ•ヴェネト型戦艦4番艦のローマです」

 

 

「翔鶴型航空母艦2番艦の瑞鶴です」

 

 

「加賀型航空母艦1番艦の加賀です」

 

 

「高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶だ」

 

 

「吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です」

 

 

「暁型駆逐艦1番艦の暁よ」

 

 

第4艦隊の面々がそれぞれ自己紹介をする。

 

 

「これはご丁寧に、私は第3艦隊旗艦(リーダー)…金剛型戦艦4番艦の霧島です」

 

 

「同じく、金剛型戦艦2番艦の比叡です」

 

 

「伊勢型航空戦艦1番艦の伊勢です」

 

 

「最上型航空巡洋艦3番艦の鈴谷だよ~」

 

 

「蒼龍型航空母艦1番艦の蒼龍です」

 

 

「飛龍型航空母艦1番艦の飛龍です」

 

 

第3艦隊の面々も自己紹介をする、ここで摩耶が第3艦隊の特徴に気付く。

 

 

「…なんか第3艦隊(そっち)って空母系ばっかじゃね?」

 

 

「仕方ないわよ、今回の作戦には戦艦と空母が多数参加してるから艦種も被るわ」

 

 

霧島が苦笑しながら答える、実際彼女の所属する舞鶴も戦艦と空母のみの参加だった、霧島個人としては軽巡洋艦や駆逐艦がいたほうがバランスがとれるので1体くらいは欲しいところだと考えている。

 

 

「でも火力なら第4艦隊(そっち)には負けてないと思いますよ」

 

 

「そっちには駆逐艦がいる分火力が下がってますけど、こっちにはその分空母がいますし」

 

 

蒼龍と飛龍はどこか誇らしげに言う、この2体は横須賀鎮守府の艦娘なのだが、提督の超火力主義が伝染っているせいか駆逐艦や軽巡洋艦をやや見下す傾向にある。

 

 

もっとも、それはブラック鎮守府である横須賀鎮守府所属のほとんどの大型艦娘に言えることなのだが。

 

 

「…あんたたちみたいな超火力主義の連中見てるとイライラするわね」

 

 

「ほめ言葉として受け取っておくわ」

 

 

瑞鶴の批判もどこ吹く風といった様子の蒼龍、こいつには何を言っても無駄だと早くも悟った瞬間だった。

 

 

「はぁ…あなたたち、今は同じ連合艦隊の仲間なんだからもっと打ち解け合う努力をしたらどうなの?」

 

 

霧島が大きなため息をついて蒼龍と瑞鶴に言う、その様子だと第3艦隊をまとめるのにもそれなりの苦労があったのだろうと推測できる。

 

 

「…苦労してるんですね」

 

 

「…お互いにね」

 

 

第3艦隊と第4艦隊の顔合わせは何ともギクシャクとしたスタートとなった。

 

 

 

 

「迎撃部隊の編成が整ったそうね」

 

 

「はい、こちらです」

 

 

色丹島集落跡地で少女とベアトリスは艦娘迎撃部隊の打ち合わせを行っていた、今はベアトリスの作成した部隊の編成リストを少女に見せている。

 

 

○第1部隊

 

・ベアトリス

 

王兵級(キング)×5

 

女王兵級(クイーン)×3

 

 

 

○第2部隊

 

・シャーロット

 

騎士兵級(ナイト)×15

 

歩兵級(ポーン)×50

 

 

 

 

王兵級(キング)女王兵級(クイーン)は分かるけど、どうして歩兵級(ポーン)をこんなに?」

 

 

歩兵級(ポーン)は我が部隊の中では1番力が弱い量産型です、敵に与えられるダメージも多くはありません、ですがもし、その微々たるダメージを常に受けるような状態になれば…どうなると思いますか?」

 

 

「…つまり、小さなかすり傷を積み重ねて致命傷に至らせるつもりなのね?」

 

 

「少しずつの変化に鈍感なのは、人間も艦娘も同じですから」

 

 

「なるほど面白いわね、いいわ、その編成で行きなさい」

 

「了解いたしました」

 

 

ベアトリスは一礼すると、編成の準備をするために立ち去っていく。




ちなみに1ー3は駆逐艦のみでクリアしました。

駆逐艦でも夜戦すれば戦艦棲艦に勝てるんですね。


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第24話「三日月の場合9」

いつから敵艦が6体以上の艦隊を組めないと錯覚していた?

というわけでベアトリスと連合艦隊の会敵(エンカウント)回。


翌日早朝、知床半島の埠頭に特別連合艦隊が集結し、来る決戦の時を待っていた。

 

 

「それではこれより、色丹島敵集積地強襲作戦を開始する」

 

 

長嶋の合図により作戦開始がアナウンスされる、ここから先は轟沈も覚悟しなければいけないような死闘が待ち受けているだろう、ここにいるどの艦娘もそれを覚悟しているのか引き締まった顔をしている。

 

 

「はぁ…結局いい作戦は思いつかず…」

 

 

「こんな凸凹チームワークで敵に勝てるのかしら…」

 

 

その中で第4艦隊の面々はすでに轟沈しそうな表情を浮かべていた、結局あの後色々なことを話し合ったが、第3艦隊と第4艦隊ではウマが合わなすぎてまともに話し合いが進まず何も作戦が決まらなかった。

 

 

「こうなったら出たとこ勝負で行くしかないっしょ!」

 

 

「そんなので勝てれば苦労しないわよ…」

 

 

瑞鶴のすこぶるポジティブな発想に加賀が釘を刺す、しかしこうでもしなければ正気を保っていられないのも事実だった、無計画(ノープラン)の出撃というのはそれほど危険なことなのだ。

 

 

「それでは、全艦隊出撃!」

 

 

長嶋の号令とともに第1艦隊と第2艦隊の第1連合艦隊と、第3艦隊と第4艦隊の第2連合艦隊が決戦の舞台へと繰り出す。

 

 

 

 

「はぁ…本当にどうなっちゃうんだろ」

 

 

「誰かが轟沈する結果にならなきゃいいけど…」

 

 

色丹島へ向かう道中、吹雪と暁はこれからのことで不安をもらす。

 

 

「大丈夫よ!幸運の空母と言われてる瑞鶴がいるんだから!イザとなったら守ってみせるわ!」

 

 

「台場組に関しては守る必要があるかどうか微妙な所だけどな…」

 

 

摩耶が苦笑しながら言う、これは“弱すぎて守る価値すらない”という意味ではなく、“強すぎるから守らなくても戦えるんじゃね?”という意味である。

 

 

「何でも良いけど、私たちの邪魔だけはしないでよね」

 

 

「弱っちい駆逐艦はなるべく隅っこに引っ込んでてね」

 

 

蒼龍と飛龍は相変わらず吹雪たちを見下すような発言で第4艦隊からのヘイトを集める。

 

 

「吹雪、暁、こうなったら開戦直後に白兵戦で敵旗艦(リーダー)をぶっ潰してやりなさい」

 

 

「いやいや、それはさすがに無茶ですよ」

 

 

ローマが苛つきながら第3艦隊に対抗心を燃やす、何だかんだ言ってローマや摩耶も一緒の戦場にいることで台場組の事を認め始めている、これはいい傾向だと瑞鶴たちは思っている。

 

 

「蒼龍、そろそろ偵察機を飛ばした方がいいんじゃない?」

 

 

「そうね、鈴谷も準備しておいて」

 

 

「了解~」

 

 

蒼龍、飛龍、鈴谷はそれぞれ偵察機を飛ばす、これは索敵用の艦載機で空から敵艦隊がいないかどうかを探す役割を果たす、警察官がヘリコプターを使って逃走中の犯人を追跡するアレを想像してもらえば分かりやすいだろう。

 

 

「火力主義のあなたたちが偵察機積んでるなんて意外ね」

 

 

「てっきり艦攻や艦爆ばかり積んでるのかと思ったわ」

 

 

「そんなわけ無いでしょ、空母はいわば艦隊の“目”よ」

 

 

「それくらい理解してるわ」

 

 

加賀と瑞鶴の言葉に蒼龍たちはムッとしながら反論する、向こうの提督もそれくらいは理解しているようだ。

 

 

「ローマ、砲撃戦の時なんだけど、陣形はどうすればいいかしら」

 

 

「そうね…空母は敵に接近されると不味いから、戦艦や重巡を前に出した単縦陣か復縦陣がいいんじゃない?」

 

 

空母組が憎まれ口を叩き合っている最中、ローマと霧島は戦闘中の陣形について話し合っていた、陣形は割と戦局を左右するモノなので慎重に決めなければならない。

 

 

「っ!!偵察機より敵艦隊発見の報告あり!その数…9体!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「9体!?」

 

 

色丹島まで目と鼻の先といったところで蒼龍の偵察機が敵艦隊を発見した、おそらく島の守備部隊なのだろうが、蒼龍の報告を聞いた艦隊の面々は何かの間違いだろ、と否定したくなった。

 

 

「…嘘」

 

 

「おいおいこりゃ…」

 

 

しかし程なくして現れた敵艦隊を見て、それが紛れもない事実だと言うことが分かった。

 

 

 

 

(ふふふ…驚いてる驚いてる)

 

 

ベアトリスはのこのことやってきた艦娘を見て余裕の笑みを浮かべていた、敵の艦娘は12体、こちらは王兵級(キング)が5体に女王兵級(クイーン)が3体…そしてベアトリス自身を含めた全9体、数で言えば艦娘側が有利だが…

 

 

 

(いくら数的有利を利用したところで、戦力で言えばこちらの方が断然有利なのよ)

 

 

ベアトリスは自信たっぷりの表情で心の中で呟く。

 

 

 

 

「何…?あの深海棲艦…」

 

 

「見たこともない姿をしてるわ…」

 

 

第2連合艦隊の面々は敵の艦隊を見て愕然としていた、編成としては…

 

 

○戦艦棲艦×5

 

○空母棲艦×3

 

と、それほど珍しくもない編成だ、しかし問題はその奥にいる旗艦(リーダー)と思われる深海棲艦にある。

 

 

骸骨のような白い肌に長いサイドテールの白髪、そこに黒いセーラー服のようなモノを着ている。

 

 

そして一番特徴的なのはその艤装、一言で言うなら『火砲を装備した人喰い箱(ミミック)』といったところだろうか、船体のあちこちからひしゃげた砲身が生えており、その正面には艦娘たちを喰らいつくさんとばかりに大きな口が付いていて、今か今かと手ぐすね引いて待っていた。

 

 

そしてその人喰い箱(ミミック)の上に腰掛けている白髪の深海棲艦の姿はまるで玉座に座る女王のようであった。

 

 

「あんな敵見たことある?」

 

 

「あるわけ無いでしょ!何よアレ!」

 

 

第2連合艦隊の艦娘であの人喰い箱(ミミック)の深海棲艦を見たことのある艦娘はいなかった、大本営から公開されている敵艦の資料にも無い深海棲艦なのでおそらくは初めて発見される新種の個体だろう。

 

 

「これはマズいわよ!新種の深海棲艦なんて想定外よ!」

 

 

「一度撤退した方がいいんじゃ…」

 

 

瑞鶴とローマは第3艦隊に撤退を提案するが…

 

 

「何言ってるのよ!ここで撤退したら作戦は失敗よ!退けるワケないじゃない!」

 

 

「ここは是が非でも旗艦を落とすべきよ!」

 

 

「敵の戦力も未知数なのに無謀過ぎるわ!」

 

 

戦う前から仲間割れの危機に瀕する第2連合艦隊、しかし…

 

 

「盛り上がってるところ悪いんですけど、撤退は無理そうですよ…?」

 

 

吹雪の言葉に全員が後ろを振り向く。

 

 

「なっ…!!」

 

 

「これは…」

 

 

そこには、50体もの駆逐棲艦が逃げ道を塞ぐようにしてバリケードを作る光景が広がっていた。




ちなみにベアトリスは実際にゲーム中に登場する深海棲艦を元に書いています、誰だか分かった人はイベント常連者だと思います。


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第25話「三日月の場合10」

UAが4000を超えました!ありがとうございます!

そう言えば駆逐棲艦って肺呼吸とエラ呼吸どっちなんだろうか…


第2連合艦隊は絶体絶命のピンチを迎えていた、前方には戦艦棲艦と空母棲艦、そして新種個体の人喰い箱(ミミック)ことベアトリス。

 

 

後方を見れば駆逐棲艦が幾重にも列をなして第2連合艦隊の退路を塞いでいる。

 

 

どう転んでも戦うしかない状況だ。

 

 

「…仕方がないわね、どうにかして退路を作りながら戦いましょう」

 

 

「退路を作るって、具体的にはどうするの?」

 

 

ローマの言葉に伊勢が首を傾げて質問する。

 

 

「…吹雪と暁に後ろの駆逐棲艦50体全てを相手してもらう」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「ちょっとローマ!?」

 

 

「気は確かですか!!?」

 

 

第3艦隊のメンバーは驚愕の表情でローマを見るが、それとは対照的に第4艦隊は妥当な判断だろうといった顔で平然としていた。

 

 

「ちょっときついかもしれないけど、お願いできる?」

 

 

「任せてください!」

 

 

「1体残らず殺し尽くしてやるわ!」

 

 

吹雪と暁は自信たっぷりにその役目を引き受ける。

 

 

「それじゃあ私たちは目の前の大物を相手することに集中しましょうか」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 

勝手に話をまとめるローマに蒼龍がつっかかる。

 

 

「駆逐艦なんかに後ろを任せていいんすか!?こんなバックアップ信頼出来ませんよ!!」

 

 

「そうかしら?私はこの子たちの事信頼してるわよ、少なくとも背中を預けられる位にはね」

 

 

ローマはそう言って蒼龍を見据える、戦場において背中を預けられるというのは最高の信頼関係と言えよう。

 

 

「ローマさん…」

 

 

「あの時は好き放題言ってごめんなさい、でも今はあなたたちの事…頼りにしてるわよ」

 

 

「っ!!はいっ!吹雪行きます!」

 

 

「あ!暁も!」

 

 

吹雪と暁は全速力で駆逐棲艦バリケードに突撃していく。

 

 

「さてと!じゃあ私たちはこのでかぶつを相手するわよ!」

 

 

「はい!」

 

 

「うっしゃあ!」

 

 

第2連合艦隊は気合い十分にベアトリスを見据えて戦闘態勢に入る。

 

 

 

「ふっ…艦娘風情がワタシに刃向かうか、面白い!」

 

 

「なっ…!?こいつ喋った!?」

 

 

「マジかよ!!」

 

 

初めて深海棲艦が人語を話す瞬間を目撃し、艦隊全員が驚く。

 

 

王兵級(キング)は砲撃を、女王兵級(クイーン)は空撃をそれぞれ始めろ!」

 

 

ベアトリスの指示を受け、戦艦棲艦と空母棲艦がそれぞれ行動を開始した。

 

 

第2連合艦隊と色丹島迎撃第1部隊との戦闘が始まった。

 

 

 

 

まずは吹雪たち駆逐艦サイド、深海棲器を構えて一番手前側の駆逐棲艦に肉薄していく。

 

 

今回は数が数なので右手に主砲、左手に太刀という組み合わせを使う、いつものように太刀で敵の砲弾を斬り落としつつ右手の主砲で駆逐棲艦にダメージを与える作戦だ。

 

 

「撃てええええぇぇぇ!!!!」

 

 

まずは吹雪が主砲を連射する、さすがに一撃で撃沈させるのは無理だが、中破か大破にさせることは可能だ。

 

 

「死ねやあああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

そこへ暁が鎌で追撃、駆逐棲艦の胴体を真っ二つにして次々と撃沈させていく。

 

 

しかし敵もただやられている訳ではない、50体の駆逐棲艦が同時に砲弾を放ち、それが雨あられの如く降り注ぐ。

 

 

「くっ…!」

 

 

「きゃあっ!」

 

 

深海棲器や高角砲などで必死に捌いてはいるが、この弾幕を全て防ぎきれるはずもなく小破未満(カスダメ)がちくちくと積み重なっていく。

 

 

 

 

一方こちらは戦艦空母組、敵陣前衛の戦艦棲艦と空母棲艦が先陣を切ってこちらへ向かってくる。

 

 

「艦載機、発艦始め!」

 

 

瑞鶴、加賀、蒼龍、飛龍、の正規空母が艦載機を放つ、空母棲艦がいるとはいえ正規空母4体の実力があれば制空権を取るのは容易いはずなのだが、ここで予想外の出来事が起こる。

 

 

「何であなた達艦戦積んでないのよ!」

 

 

蒼龍と飛龍は艦上戦闘機…艦戦を全く積んでいなかったのだ。

 

 

艦戦とは平たく言えば『敵空母の艦載機を撃ち落とすための艦載機』である、一度発艦させると常に上空を旋回して飛び回り、敵空母が飛ばしてくる艦爆や艦攻などの攻撃機を撃ち落とす役目を果たす、言わば航空戦の要とも言える艦載機だ。

 

 

一見すると便利に見える艦戦だが、艦載機を落として敵空母を弱体化させるという性質上艦戦自体に敵艦への攻撃力は無い、敵空母を弱らせたければ艦戦を積まなければいけないが、それは同時に攻撃力を捨てる事を意味する。

 

 

いかに攻撃機を残しつつ艦戦を積むか、空母はその塩梅がとても難しいのだ。

 

 

「敵空母を弱体化出来ればこっちの被害も減るのよ!なのに艦戦積んでないってアホじゃないの!?」

 

 

「何言ってるんですか!艦戦に攻撃力は無いんですよ!?そんなもの積んだって何にもならないじゃないですか!」

 

 

「あんたはとりあえずその腐った脳筋をどうにかしなさい!」

 

 

 

「どっちでもいいから戦え!ブン殴るわよ!」

 

 

さっきからケンカばかりしている瑞鶴と蒼龍を霧島が怒鳴りつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

(取り合えずはまだ戦えるわね)

 

 

ベアトリスは戦局を見ながらそう判断する、こちらの兵力は女王兵級(クイーン)はほとんどダメージを食らっていないし、王兵級(キング)は多少ダメージを負っているがまだ行ける。

 

 

(てかあいつらさっきからケンカばかりしているけど大丈夫なのかしら?)

 

 

チームワークがまるでなっていない第2連合艦隊の状態に敵ながら不安になるベアトリス、よく今まで戦闘を続けられたものだと正直に思う。

 

 

(こっちは特に気にしなくてもいいけど、問題はあっちかしらね)

 

 

ベアトリスは後方にいる2体の艦娘に視線を向ける、退路を塞ぐために用意した50体の歩兵級(ポーン)がすでに半分以下に減らされている。

 

 

(流石にこのままじゃよろしくないわね…)

 

 

そう思ったベアトリスは首筋に付けた無線機のような機械を手に持つ。

 

 

 

「アン、暗殺兵級(アサシン)を数体追加で寄越して」

 

 

 

 

 

 

「よしっ!あともう少し!」

 

 

 

吹雪はナギナタを構えて駆逐棲艦を睨む、弾幕をかいくぐりながらの激闘の末、50体いた駆逐棲艦を20程にまで減らすことが出来た。

 

 

「暁、まだ行ける?」

 

 

 

「当たり前じゃない!」

 

 

暁はそう言うがすでにふたりとも中破のダメージを負っており、若干ではあるが動きも鈍くなっている。

 

 

「コレで決める!」

 

 

ふたりは残りの駆逐棲艦に向かって突撃していくが…

 

 

「…えっ!?」

 

 

「何よこれ!?」

 

 

突然ふたりの足元に渦潮が発生した、それはどんどん大きくなっていき、吹雪と暁を飲み込まんとしている。

 

 

「渦潮ってこんな突然起こるモノだっけ!?」

 

 

「そんなハズは…あっ!?」

 

 

必死に渦潮から抜け出そうともがいている途中、吹雪は渦潮の発生原因を見つける。

 

 

「潜水棲艦だ!潜水棲艦が水中で高速旋回しながら泳いでるんだよ!」

 

 

ふと水面下を見れば、4体の潜水棲艦が同じ方向で素早く旋回し渦を作っている、イワシの群がサークル状に泳いでいるあの動きを想像してもらえれば分かりやすいだろう。

 

 

「まずい…このままじゃ…!」

 

 

渦潮はどんどん水流を強くしていき、駆逐艦の速力でも抜け出せないほどになっていた。

 

 

「も、もう…ダメぇ…」

 

 

暁が飲み込まれそうになるのを吹雪が手を掴んで支える、しかしこのままだといずれはふたりそろって飲み込まれてしまう。

 

 

「吹雪!暁!」

 

 

すると騒ぎに気づいた瑞鶴が吹雪に向かって手を伸ばす、吹雪は限界ギリギリの速力で渦潮の流れに逆らい何とか瑞鶴の手を掴むことが出来た、これで渦潮を抜け出せると思ったが。

 

 

 

「…えっ?」

 

 

 

突然吹雪は手の感覚が無くなるのを感じた、そしてそれは伸ばしていた腕を駆逐棲艦に砲撃で吹き飛ばされたのだという事に気づいたのはそれからすぐの事だった。

 

 

「うわああああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「きゃあああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

「吹雪いいぃ!暁いいいぃぃ!」

 

 

瑞鶴がふたりの名前を叫ぶが、すでにふたりは渦潮の中へと消えていた。

 

 

 

 

 

 

渦潮に飲み込まれた吹雪と暁は潜水棲艦の前まで引きずり込まれる。

 

 

(マズい!反撃しないと…!!)

 

 

そう思ってナギナタを展開させるが、水中では上手く動けず全く攻撃が出来ない。

 

 

潜水棲艦はそんな吹雪たちに一切の容赦もなく魚雷を撃ち込んだ。

 

 

(があああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!)

 

 

水中での雷撃を食らって吹雪と暁は大破のダメージを負う、何とか水上へ上がろうとするが、ふたりにはそんな余力すら残っていなかった。

 

 

(マズい…息が…)

 

吹雪と暁が息切れを起こそうとしていた、艦種によって例外もあるが艦娘も人間と同じ肺呼吸だ、無酸素活動時間が長引けば命に関わる。

 

 

 

(こんな所で終わっちゃダメ…!!こんな…所……で…………)

 

 

吹雪と暁は必死に水面へ手を伸ばしてもがくが、ふたりはそこで意識を手放してしまった。




いつも読んでくれている読者のみなさんのために何かしらの企画とかやってみようかしら、キャラ人気投票とか。


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第26話「三日月の場合11」

「艦これアーケード」で艦隊名変える方法が分からないので誰か教えてください(切実


「…ん?あれ?」

 

 

次に気が付いた時には吹雪は暗闇の中にひとりで立っていた、周りには何もないただひたすらな暗闇、でもその中にいる吹雪自身の身体だけははっきりと見ることができ、まるで自分にだけスポットライトが当たっているようだった。

 

 

「ここはどこ…?それに何で私こんな所に…?」

 

 

暗闇の中で吹雪は考えるが…

 

 

「…あれ…?そう言えば、私は誰…?どこから来たの…?」

 

 

海馬の奥底から記憶を掘り起こそうとするが、後少しで思い出せそうというところで霧のように霧散してしまう。

 

 

おかしい、何かがおかしい、吹雪は大切な何かが少しずつ音も立てずに崩れていくような不安に狩られる。

 

 

「だ、誰か!誰かいませんか!?」

 

 

このままでは自分が自分でいられなくなる、そう感じた吹雪は暗闇の中を駆けだしていた、しかしいくら進んでも何も見えてこない、本当に前に進んでいるのかという疑問すら覚える。

 

 

「…あ」

 

 

どのくらい走りつづけただろうかと考え始めたとき、前方の方に人影が見えた、その人影も吹雪と同じくスポットライトに当てられているかのように輪郭がはっきりとしていた。

 

 

「すみません!ここはど…こ……」

 

 

その人影に“ここはどこか”と聞こうとしたが、その人影の姿を見て吹雪は言葉を失ってしまった。

 

 

 

「…私…?」

 

 

なぜならそこにいた人影は、髪型、服装、はたまた艤装に至ってまで“吹雪そのもの”だったからだ(俯いたまま立っているので顔は分からない)。

 

 

「あの…あなたは誰ですか…?」

 

 

そのあまりの瓜二つっぷりに思わず“ここはどこか”より“お前は誰だ”が先に出てしまった。

 

 

吹雪の質問が聞こえたのか吹雪に似た人影はこちらへゆっくりと近付いてくる、その様子に若干の恐怖を覚えたが、足が棒になったかのように動くことが出来なかった。

 

 

そして人影は吹雪のすぐ目の前に来るとゆっくり顔を上げて…言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はあなた、あなたはわたしよ」

 

 

そう言う人影の顔は、吹雪そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!!?」

 

 

吹雪は勢いよく飛び起きると、息をはずませて慌てた様子で周囲をキョロキョロする。

 

 

「今のは…?」

 

 

先ほどの光景を思い出しながら吹雪は呟く、夢にしてはイヤにリアルだったが、現実だとしてもイヤに非現実的な出来事だ。

 

 

「…それよりもここは?」

 

それから色々考えてみたが、結局モヤモヤしたモノが胸の中でくすぶるだけだったので一度放棄し現状確認に専念することに。

 

 

今自分がいるのは砂浜の上だ、目の前には広大な大海原が広がっており、すぐ後ろを見ると石垣で作られた高台のようなモノが見える。

 

 

「…どこかの島に流されたのかな」

 

 

今の現状から考えるとそれが一番合理的だと吹雪は思う、だとすれば不幸中の幸いだ、あのまま大破のダメージを負ったまま海を漂流していたら間違いなく命を落としていただろう。

 

 

「っ!!そういえば暁は!?暁!!」

 

 

先程から暁の姿が見えないのに気づき、慌てて名前を呼ぶ。

 

 

「吹雪さーん!」

 

 

すると、高台の上から木材を持った暁が石垣を下ってこちらに向かってくるのが見えた。

 

 

「暁!無事だったんだね!」

 

 

「うん、潜水棲艦に攻撃されたときはどうなるかと思ったけど、なんかこの島に流れ着いたみたいで…」

 

 

気を失っていたのでどういう経緯でこの島に流れたのかは分からないが、バラバラに流されなくて本当に良かったと吹雪は思う。

 

 

「吹雪さん、ここってどこなのかしら?多分色丹島からはそんなに離れてないと思うんだけど…」

 

 

「そうだなぁ…調べてみよっか」

 

 

そう言って吹雪はポケットから小型の携帯端末を取り出す、万が一の事を考えて海原が持たせていたものだ。

 

 

これは『Pit(Portable Information Terminal)』と呼ばれるモノで、簡単に言えば携帯型情報端末だ、海軍の司令官全員に配布されており携帯電話としての機能はもちろん、GPSや電子書庫(データベース)の閲覧も出来る優れものなのだ。

 

 

「防水設計って司令官は言ってたけど、壊れてないといいなぁ…」

 

 

不安を残しつつ電源ボタン押す吹雪、しかしそれは杞憂に終わり、あっさりとPitは起動した。

 

 

「GPSで現在地を検索…と」

 

 

慣れた手つきでPitを操作し、GPSを起動させる。

 

 

「…出た!」

 

 

吹雪はPitの画面を凝視し、自分たちの現在地を確認する。

 

 

「現在地は…国後島(くなしりとう)だね、色丹島の北西辺りにある島みたい」

 

 

「あまり色丹島から離れてなくて良かったわ」

 

 

Pitの画面をのぞき込んでいた暁が安堵する、ここからなら色丹島に戻って戦闘に合流することもベースキャンプに戻ることも可能な場所だ。

 

 

「…ねぇ吹雪さん、瑞鶴さんたちには悪いけど、ここで少し休んでいかない?」

 

 

「えっ?」

 

 

「本当ならすぐにでも戻らなきゃ行けないんだろうけど、この状態じゃかえって足手まといになるんじゃないかしら」

 

 

暁はそう言って自身の艤装を見る、確かに今のふたりはかなりのダメージを受けている、一応自然治癒力で暁は中破、吹雪は小破にまで回復しているが、フルパワーを出すには程遠い状態だ。

 

 

「瑞鶴さんやローマさんには心配かけるかもしれないけど、ここは少し休んでベストコンディションの状態で戦線復帰する方がいいと思うの」

 

 

「…まぁ、それもそうだね」

 

 

暁の提案を聞いて吹雪は小さく頷く、暁の話は仲間には迷惑がかかるかもしれないが確かにスジが通っている、万全ではない今の状態で戦線復帰しても満足な戦果はあげられないだろうし、そうなれば完全な足手まといだ。

 

 

「分かった、それじゃあダメージが回復しきるまでここで一休みしていこう」

 

 

「やったー!」

 

 

暁は飛び上がって喜ぶ、自分が休みたかっただけじゃん…と思ったが今回は大目に見よう。

 

 

「あ、そうそう、さっき焚き木を拾いに高台の上に上がったらおもしろいもの見つけたわよ」

 

 

「へぇ~、何々?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“面影”を持った深海棲艦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当にいた」

 

 

「でしょ?」

 

 

暁の話を聞いてまさかと思い一緒に高台へ上がったところ、本当に深海棲艦がいた、駆逐棲艦ほどの背丈の深海棲艦が体育座りをしている、まさか陸の上で会うとは思ってもみなかったので驚きを隠せない。

 

 

「とりあえず“面影”が誰のモノか調べないと…」

 

 

Pitを起動させて電子書庫(データベース)を呼び出すと、駆逐棲艦の背後に浮かんでいる“面影”を見ながら轟沈艦リストをスクロールさせていく。

 

 

「…あった」

 

 

しばらくリストを眺めていると、ひとりの艦娘がヒットした。

 

 

○艦娘リスト(轟沈艦)

 

・名前:三日月(みかづき)

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:睦月型10番艦

 

・練度:19

 

・所属:室蘭鎮守府

 

・着任:2048年4月15日

 

・轟沈:2048年7月2日

 

・除隊:2048年7月2日

 

 

 

 

 

「着任から轟沈までの期間が短いわね」

 

 

練度(レベル)も低いし、何があったんだろう…?」

 

 

 

とりあえず話を聞こうと三日月に近付いたが、ここでふたりは聞き捨てなら無いセリフを聞くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海原司令官…今どこにいるんですか…?』




ここに来てついに三日月登場、いやぁ長かった…


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第27話「三日月の場合12」

艦これアーケードで1-4突破しました、敵艦隊全滅、かつこちらは無傷の完全S勝利です。

…なお駆逐艦のみの編成で突入したため、砲撃と空撃の被弾のプレッシャーが半端じゃなかった模様。


「……えっ?」

 

 

「海原…司令官…?」

 

 

吹雪と暁は唖然としながら三日月を見る、海原司令官と言えば、自分達が所属している台場鎮守府の司令官ではないか。

 

 

「じゃあ司令官は、昔室蘭鎮守府にいたって事?何で今台場鎮守府に…」

 

 

暁の言葉を聞いて吹雪は以前海原から聞いた話を思い出す。

 

 

『俺は以前ある作戦で艦娘を5体轟沈させてしまったことがある、その責任を負って俺は台場鎮守府に来たんだ』

 

 

つまりふたりの話を統合すると、三日月は海原の指揮していた艦隊の艦娘の1体で、その三日月と他の4体が轟沈したことで海原は台場鎮守府に飛ばされた、ということになる。

 

 

「…三日月さん、三日月さん」

 

 

それならば、何としてでも三日月を艦娘に戻さなければいけない、かつて自分の部下だった艦娘だ、会いたくないわけがない。

 

 

『…?』

 

 

三日月はゆっくりと顔を上げてこちらを見る、とりあえず声は聞こえたようだ。

 

 

「睦月型10番艦、三日月ですよね?」

 

 

『っ!!あなた、私が三日月だって、分かるんですか…?』

 

 

三日月は信じられないような顔をして吹雪を見る、その様子を見ると今まで深海棲艦として艦娘に追われていたと推測できる。

 

 

「はい、吹雪型1番艦の吹雪といいます、ある理由で深海棲艦と会話出来るんです」

 

 

「暁型1番艦暁よ、吹雪さんと同じく深海棲艦と話せるわ」

 

 

 

吹雪と暁が自己紹介をすると、三日月が涙を流して俯いた。

 

 

『…良かった…話せる艦娘がいて…本当に良かった…』

 

 

そう言って泣きじゃくる三日月、今までつらい思いをしてきたのだろう。

 

 

「…三日月さん、あなたに聞きたいことがあります」

 

 

『ぐすっ…何でしょう?』

 

 

三日月がある程度泣きやんだところで話を本題に移す、場合によってはPit越に海原と話をすることも視野に入れている。

 

 

「さっき海原司令官って言ってましたけど、あなたが所属していた鎮守府の司令官なんですか?」

 

 

『はい、私は以前室蘭鎮守府に所属していました、そこで艦隊指揮をとっていた海原司令官は若いながらも卓越した戦略眼で艦隊を導く素晴らしい人でした』

 

 

(司令官ってそんなにスゴい人だったんだ…)

 

 

普段の指揮を見ていて薄々感じてはいたが、そこまでの才能を持った人物だとは知らなかった、

 

 

『でも、私たちが轟沈するキッカケになったあの海戦での海原司令官の指揮は少しだけ変だったんです』

 

 

「変?」

 

 

「どんな風に?」

 

 

吹雪と暁が首を傾げて三日月に問う。

 

 

『その時の敵構成は戦艦棲艦や空母棲艦がいる敵艦隊で、こちらの艦隊は平均練度(レベル)が20くらいと明らかに不利だったんです』

 

 

「うわ…キツ」

 

 

「普通に考えれば撤退モノよね」

 

 

『私もそう思ったんですけど、なぜか海原司令官は戦闘続行を指示したんです』

 

 

「えっ!?」

 

 

「あの司令官が!?」

 

 

吹雪と暁が目を剥いて驚く、自分たちの知る海原であれば間違いなく撤退を選んでいるだろう、なのにその時は戦闘続行とはどういうことなのだろうか?。

 

 

『“あの”って…お二人は海原司令官とは知り合いなんですか?』

 

 

「知り合いもなにも、私たちはその海原司令官がいる鎮守府の艦娘ですよ」

 

 

「そうそう、おまけに吹雪さんは秘書艦なんだから」

 

 

『そ、そうなんですか!?司令官はまだ室蘭鎮守府にいますか!?元気でやっていますか!?』

 

 

吹雪たちが海原の部下と知ると三日月が矢継ぎ早に疑問をぶつけてくる、やはりここは当事者と話した方がいいだろう。

 

 

「それなんですけど…」

 

 

吹雪はPitで台場鎮守府の番号にダイヤルしながら現在の海原の状況を話す、海原は今は台場鎮守府という所にいること、その台場鎮守府がどういう所なのか、そしてその台場鎮守府に海原が移ったのは三日月たちが轟沈した作戦が関係している可能性があるということ。

 

 

『…そんな、司令官が…』

 

 

三日月は絶望的な表情をして狼狽する、三日月の様子を見ると海原は室蘭の方では艦娘に慕われていたようだ。

 

 

『はい、台場鎮守府提督室』

 

「お疲れさまです司令官、吹雪です」

 

 

『おう吹雪、俺の声が聞きたくて電話してきてくれたのか、優しい部下を持って俺は幸せだよ』

 

「司令官の御託を聞くために電話したわけじゃないんですけど」

 

 

「連れねぇな~」

 

 

海原はお茶目に言うと本題は何だ?とようやく真面目に聞いてくる。

 

 

「落ち着いて聞いてください、今深海棲艦になった三日月と接触中です」

 

 

「……吹雪、今何て言った?」

 

 

数秒の間を置き、先程のおちゃらけた態度とは一変、コレまでにないくらい真面目な口調で海原は吹雪に聞き返す。

 

 

「元室蘭鎮守府所属の艦娘、睦月型駆逐艦の三日月が深海棲艦となった状態で私たちの目の前にいます、三日月が司令官の艦娘だったと聞いたので、未練を解いて艦娘に戻すヒントが見つかればと思って…」

 

 

『…なるほど、そうだったのか』

 

 

海原は何かを考えているのか、少しの間無言になる。

 

 

『吹雪、三日月と話をしてみたい、拡声機能(ハンズフリー)にしてくれないか?』

 

 

「分かりました」

 

 

吹雪はPitの拡声キーを押し、三日月にPitを近づける。

 

 

『三日月、海原だ、聞こえたら返事をしてくれないか?』

 

 

『っ!!司令官!?海原司令官ですか!?』

 

 

三日月は興奮した様子でPitに向かって話しかけるが、海原の反応は無かった。

 

 

「司令官、今三日月が返事をしました」

 

 

『…やはりダメか、すまない三日月、今の俺には深海棲艦化した三日月の声は聞こえないみたいだ、吹雪に通訳をやらせるから、それで少し話をしてもいいか?』

 

 

「もちろんです!司令官!」

 

 

吹雪は三日月の言葉をそのまま伝えると、早速三日月が海原に問い掛けた。

 

 

『司令官、私たちが轟沈したあとに何があったんですか?どうして台場鎮守府なんていう所に飛ばされてしまったんですか?』

 

 

『それは…』

 

『やはり、私たちのせいですか?私たちが力及ばす敵艦隊を倒せなかったから…』

 

 

『それは違う!』

 

 

三日月がそう言うと、海原はそれを強く否定する。

 

 

『お前たちを轟沈させてしまったのは指揮官である俺のせいだ、お前たちは何も悪くない』

 

 

『ですが…』

 

 

「話の流れぶったぎって悪いんだけどさ」

 

 

ここで暁が空気を読まずに会話に入ってくる。

 

 

「さっき司令官は三日月たちが轟沈したのは自分のせいって言ってたけど、三日月の話じゃ司令官は戦略眼に優れたとても有能な人だって言ってたわよ、そんな人が格上の敵に無理して戦わせたり一度に艦娘を5体も轟沈させるなんて大失態を犯すとは考えにくいんだけど…」

 

 

「確かに、それもそうですね…」

 

 

「本当にその作戦の戦闘命令は司令官の意思だったの?何かウラがあるんじゃないの?」

 

 

『……』

 

 

暁に次々と疑問点を指摘されて海原は黙ってしまう、それは図星を突かれて逆上しているからではなく、あまりにも正論過ぎて何も言えなくなってしまったのだ。

 

 

『司令官、もしあの時に何かがあったのなら、私に聞かせていただけないでしょうか?』

 

 

「私からもお願いします」

 

 

「暁も聞きたいわ、司令官の部下である以上事情は知っておきたいし」

 

 

 

『…話すのは構わんが長くなるぞ、それに場合によっては胸糞悪くなる話かもしれない、特に三日月にとっては』

 

 

『かまいません、たとえ轟沈して深海棲艦になったとしても私は司令官の艦娘です、司令官をお慕いするこの気持ちはこの先何があっても変わりません』

 

 

三日月のこの言葉が決め手となったのか、海原は何かを決意したかのようにふぅ…と短く息を吐く。

 

 

『分かった、じゃあ話そう、ハチもこっちに来い、お前にも知る権利がある』

 

 

海原は吹雪たちが不在中に秘書艦を努めていたハチをそばに呼ぶ。

 

 

『それじゃあまずは、俺の生い立ちから軽く説明しよう』

 

 

ハチが来たのを確認すると、海原は自らの過去をゆっくりと話し始めた。




三日月エエ子や…

アーケードでも三日月ゲット出来て有頂天です。


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第28話「三日月の場合13」

海原の過去編です、少し長くなるかもしれません。

Q.タイトル「海原の場合」にすればよかったんでない?

A.こまけぇこたぁいいんだよ!


海原充が提督になったのは今から4年前、海原が21才の時だった。

 

 

 

「海原充、君を正式に日本海軍の提督として就任させる」

 

 

その就任式、海原は南雲元帥から提督の証であるバッジを受け取る。

 

 

「ありがとうございます、この海原、誠心誠意もって任務につかせていただきます」

 

 

(やった…!ついに俺は提督になったんだ!これでついに…!)

 

 

海原は嬉しさのあまり踊り出したくなったが、それを必死にこらえて南雲元帥に敬礼する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(深海棲艦(やつら)()()出来る!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことですか!」

 

 

着任して30分後、海原は大本営の廊下で南雲元帥に怒号を上げていた。

 

 

「言った通りだ、君には北海道に新設される室蘭鎮守府に就いてもらう」

 

 

海原が配属されるのは新規に開設されることになった鎮守府…『室蘭鎮守府』だった、もともと北海道の方には深海棲艦の出現頻度が多くないという理由から大本営からの派遣駐屯の艦隊がいるだけだったのだが、近年になって深海棲艦の活動が活発になってきたのでこの度鎮守府を新設したのだ。

 

 

「北海道といえば深海棲艦の出現報告が少なく、それも現れるのは駆逐棲艦程度だと聞きます! それじゃただの露払いじゃないですか!俺は前線の鎮守府について深海棲艦を根絶やしにしたいんです!」

 

 

「自惚れるな!」

 

 

南雲の渇に海原は一瞬身を震わせる。

 

 

「いくらお前が士官学校を主席で卒業し、仮想戦闘(シミュレーション)での勝率が100パーセントだった神童だとしても、実戦での経験がないお前では戦場ではただの足手まといだ!」

 

 

「なっ…!」

 

 

「実戦では敵は仮想戦闘(シミュレーション)のプログラム通りには動いてはくれない、無論失敗してもやり直しなんてモノは存在しない、戦場の現実(リアル)を知らんお前に艦隊指揮は無理だ!」

 

 

南雲はそれだけ言うと歩き去っていった。

 

 

「…くそっ!せっかく深海棲艦どもに復讐出来ると思ったのに…!」

 

 

海原は悔しさに身をふるわせながら壁を拳で殴りつける。

 

 

 

 

そもそも海原が提督を志そうと思ったのは今から9年前、深海棲艦の艦載機により引き起こされた『幕張大空襲』がきっかけだ。

 

 

空母棲艦の艦載機により幕張エリア全体が火の海と化したのがその名前の由来だ、少数の空母機動部隊で攻め込まれたというのもあり、当時このエリアの警護を担当していた幕張鎮守府が敵艦隊の察知が遅れたのも被害拡大の後押しをした。

 

 

当時千葉県美浜区に住んでいた海原はその大空襲に遭い16才で家族を失うことになってしまった、それ以来海原は深海棲艦への復讐を誓い、その憎悪と復讐心を糧に提督になるための勉強を死に物狂いでやった、提督になれば艦娘を指揮できる…つまり深海棲艦へ復讐出来るからだ。

 

 

その必死の努力のおかげもあり海原は士官学校を主席で卒業、仮想戦闘(シミュレーション)などでも熟練提督を唸らせる程の艦隊指揮能力を発揮させ、周囲からは海軍の神童ともてはやされた。

 

 

そしてやっと提督という地位につき、深海棲艦への…両親を殺した連中への復讐を果たせると、そう思っていた、しかし…

 

 

 

 

 

「こんな辺境で小物を狩るために提督になったんじゃねぇってのに…!」

 

 

海原は室蘭鎮守府の提督室で今日何度目になるか分からない愚痴を呟く。

 

 

コンコン

 

 

その時、提督室のドアが小さな音でノックされた、そう言えば今日は大本営が手配した艦娘がやってくる日だったな…と海原は思い出す。

 

 

「…入れ」

 

 

海原が不機嫌な声で返すと、失礼しますとか細い少女の声と共に扉が開き、1体の艦娘が入ってくる、少し癖のついた長い黒髪に月を思わせる金色の瞳、背は低く140cm程しかない。

 

 

「はじめまして、本日より室蘭鎮守府に着任しました、睦月型駆逐艦10番艦の三日月です」

 

 

黒髪の艦娘…三日月はそう挨拶すると海原に向かって敬礼する。

 

 

「…チッ、駆逐艦かよ、大本営もとんだ小物を寄越したな」

 

 

「あ、あの…?」

 

 

初対面でそんな事を言われて困惑する三日月、しかしそんな彼女に構いもせず海原は三日月の挨拶にこう返した。

 

 

「室蘭鎮守府提督の海原充だ、お前は俺の復讐のための道具でしかないしそれ以上の存在価値もない、それを理解してせいぜい頑張ることだな」

 

 

それが海原と三日月の出会いだった。

 

 

 

 

三日月が着任してから一週間が経った、三日月の海原に対する第一印象は当然だが最悪なものとなった、着任早々“お前は道具だ”などと言われていい気分な訳がない。

 

 

「はぁ、室蘭に来て一週間経つが、深海棲艦なんて一度も来ねぇじゃねぇか」

 

 

海原は提督室の席についてため息をつく、艦隊を指揮する地位を手に入れた、それを行う艦娘(どうぐ)も手に入れた、しかしその復讐相手が来なければ何の意味もない。

 

 

「いいことじゃないですか、それだけここが平和だって証拠です」

 

 

「それじゃ意味ないんだよ!深海棲艦をぶっ殺さねぇと俺が提督になった意味がねぇ!」

 

 

「…なぜ司令官はそこまで深海棲艦を倒すことに執着するんですか?平和な海を取り戻すのなら深海棲艦は来ない方がいいに決まってます」

 

 

三日月は怪訝な顔で海原を見る、この男の言動には理解しがたい部分が多々あった、やたら深海棲艦を倒すことに執念を燃やしていたり、提督としての仕事の一切合切をめんどくさがったり、自分を()()のための道具だと言ったり、数えたらきりがない。

 

 

「ヤツらは、深海棲艦は俺の両親や友人を皆殺しにした!だから俺は深海棲艦に復讐する為だけに提督になったんだ!海の平和だとか人類の安全なんて知ったことか!」

 

 

「…だから私は()()の道具なんですね」

 

 

机を叩いて自分を怒鳴りつける海原に臆する事なく三日月は冷静にそう返す、初めて室蘭に来たときのあの言葉の意味がようやく分かった。

 

 

「あぁそうだ、艦娘なんて深海棲艦と戦うためのただの兵器だ、道具だ、お前は何も考えずに俺の指示に従ってればいいんだよ」

 

 

その言葉を聞いて三日月はすぐに察した、この人は()()()と。

 

 

「司令官、僭越ながら言わせていただきます」

 

 

「あん?」

 

 

「復讐などという()()()()()目的のために司令官になったのであれば、今すぐその地位を下りるべきです!」

 

 

「っ!!んだとテメェ!」

 

 

海原は勢い良く椅子から立ち上がり、飛びかかるような勢いで三日月の肩を掴むと思い切り殴り飛ばす。

 

 

「お前に何が分かる!深海棲艦なんていう訳の分からない連中に大切なモノを奪われたこの悲しみが!苦しみが!お前に分かるか!?」

 

 

飛んでいった三日月の胸ぐらを掴むと、海原は激しい剣幕でまくし立てる。

 

 

「…確かに司令官の境遇は気の毒だと思いますし、大切なモノを奪われる気持ちは建造されたばかりの私にはまだ分かりません、ですが司令官のそのお考えはいつか身を滅ぼします!」

 

 

「こいつ…!」

 

 

逆上した海原は三日月を壁に叩きつける。

 

 

「っ!!」

 

激しい衝撃と痛みで三日月は目を回しそうになるが、なんとか耐え抜いてヨロヨロと立ち上がる。

 

 

「ただの道具の分際で俺に意見するんじゃねぇ!」

 

 

「いいえ、何度でも言わせていただきます!どうか復讐などというお気持ちで自分を動かさないでください!今の司令官は自らを妄執という鎖で縛っているようなものです!」

 

 

「黙れ!」

 

 

海原はさらに三日月へフルスイングの腹パンをお見舞する。

 

「…ごほぁ!」

 

 

三日月は激しく咳き込みながら胃の中身を提督室の床にぶちまけた、少しの間呼吸困難になり、苦しそうにもがきながらなおも咳き込む。

 

 

「ゲェホ!グェホ!オボェ…!」

 

 

「…それ以上痛い目見たくなかったら二度と俺に意見するんじゃねぇ、道具の分際で…」

 

 

海原はそれだけ言うと提督室を出て行った。

 

 

 

「…その()()の言葉であんなに心を乱す司令官も、大概だと思うんですけどね」

 

 

誰もいなくなった提督室で三日月はボソリと呟いた。




誰だって最初からいい人だとは限らないし、海原も例外ではない。

この頃の海原は相当やさぐれてますね、しばらくはこんなクズっぷりな海原をお楽しみください(楽しめるか)。


そう言えば三日月とケッコンしました。


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第29話「三日月の場合14」

艦これ経験者は今回の話で「(゚Д゚;?」なシーンがあるかもしれません。

UA5000超えました!ありがとうございます!


海原が室蘭鎮守府に着任してから2週間、この日海原は初めて艦娘の建造を行うことになった。

 

 

「せめて戦艦の1体でも来てくれりゃいいんだがな」

 

 

「何を言うんですか!まだ資材の少ないこの状況で戦艦なんて建造したらあっという間に枯渇してしまいます!ここは消費資材の少ない駆逐艦や軽巡洋艦を増やすべきです」

 

 

工廠の建造ドックの前でボヤく海原に三日月がつっこむ、しかし戦艦や空母などの大型艦と設定されている艦娘ほど消費する資材が多くなると言うのは海原も当然知っていた、というよりも小学校一年生で習う常用漢字よりも常識的な知識だ、むしろ知らない方がおかしい。

 

 

「わーってるよ、ちょっと言ってみただけだろ、いちいちしゃしゃり出てくんな」

 

 

そう言って海原は造船所に納める資材を建造ドックに入力する、建造ドックといってもこの鎮守府内で艦娘が造られているわけではない。

 

 

そもそも建造は大本営に併設されている艦娘開発部署である造船所でのみ建造が許されている、艦娘の開発技術が外部に漏洩したり悪用されたりするのを防ぐためだ。

 

 

ではなぜ各鎮守府には建造ドックなどというモノがあるのか?理由はこうだ、各鎮守府の提督が手持ちの資材から建造に使う分をドックに入力する、するとその入力した資材のデータが造船所に送られる、そして造船所はそのデータを元に資材を使い艦娘を建造し鎮守府へと送る、最後に建造した鎮守府は入力した分の資材と引き換えに艦娘を受け取る。

 

 

以上が艦娘建造の基本的な流れである、例えるなら着払いのネット通販をするのと似たような感覚だ。

 

 

「なら今回は少なめの資材で二回建造だ」

 

 

海原は建造ドックに資材データを入力して造船所へと送る、後は数日もすれば建造された艦娘が造船所から送られてくるのでその時に入力した分の資材を支払えばいい。

 

 

「出来れば軽巡洋艦とかが欲しいもんだが…」

 

 

「同じ資材量でも出来る艦娘のクラスはその時々によって変わるみたいですから、難しい所ですね」

 

 

 

 

それから2日後、建造された艦娘が室蘭鎮守府にやってきた。

 

 

「…あの、はじめまして、陽炎型駆逐艦8番艦雪風です」

 

 

まず1体目は陽炎型駆逐艦8番艦の『雪風』、新雪のような長い白髪に赤い目をした艦娘だ、その小さい体躯と相まって雪兎のような印象を抱かせる。

 

 

「秋月型駆逐艦1番艦の秋月だよ!よろしく!」

 

 

2体目は秋月型駆逐艦1番艦の『秋月』、赤紫色のセミロングをツインテールにした元気いっぱいの艦娘である。

 

 

「初めまして、私は室蘭鎮守府の秘書艦の三日月です」

 

 

「室蘭鎮守府の提督の海原充だ」

 

 

それぞれ自己紹介を済ませると、海原は三日月に言ったセリフをそのまま口にする。

 

 

「一つ言っておく、お前らは俺の復讐のためのただの道具だ、お前らの存在価値はそれ以上でも以下でもない」

 

 

「…えっ?」

 

 

「提督…?」

 

 

予想も付かない海原の発言に雪風も秋月も固まってしまう。

 

 

「司令官!あなたはまたそんな…!」

 

 

「お前は黙ってろ!」

 

 

突然の海原の怒号に雪風と秋月はひぃ!と震え上がる、しかし三日月はそれに動じる様子は全くなく、真剣な面もちで海原を見つめていた。

 

 

「俺は深海棲艦に復讐する為に提督になった、お前らはそのための道具だ、駒だ、それを弁えないようだったら叩き潰すからな、それだけは覚えておけ」

 

 

海原はそれだけ言うとさっさと提督室を出て行ってしまった。

 

 

 

「…まぁ、頑張って」

 

 

三日月はすでに半泣きのふたりをなだめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

雪風と秋月が室蘭鎮守府に着任してから3日が経った頃、ついに海原の望んでいた時がきた。

 

 

「ついに俺の所にも深海棲艦が来てくれたぜ!」

 

 

「司令官としてその発言は如何なものかと…」

 

 

「うちの提督は変わってますね」

 

 

「今更だよ」

 

 

雪風と秋月もこの鎮守府の雰囲気に慣れたのか、いちいちビクつかなくなった。

 

 

「ついに、ついに俺の復讐を果たせる…!」

 

 

 

「…水を差すようで悪いんですけど、私たち全員練度(レベル)1ですからね?せいぜい駆逐棲艦を落とすのが関の山ですよ」

 

 

三日月がそう海原に言う、すでに海原が室蘭鎮守府に着任してから3週間近く経っているが、まだ一度も深海棲艦との戦闘はないので練度(レベル)は全員1なのだ。

 

 

「何言ってんだ、たとえ戦艦棲艦だろうが空母棲艦だろうが轟沈覚悟で戦ってもらうからな、撤退なんてできると思うなよ」

 

 

「なっ…!?」

 

 

「そんな!」

 

 

雪風と秋月が愕然とし、初陣で轟沈してしまうのかと身体をガタガタと震わせ始める。

 

 

「何を言ってるんですか司令官は!私たちは駆逐艦、ましてや練度(レベル)1です!もし本当に戦艦棲艦と戦うことになったら勝つのは不可能です!艦娘の艦種とスペックをもっと理解して戦略を立てて下さい!」

 

 

「黙れ!道具のクセに上官に意見するな!」

 

 

海原は三日月を怒鳴りつけながら蹴り飛ばす、腹の辺りをモロに蹴られた三日月は激しくせき込みながらうずくまる。

 

 

「深海棲艦に復讐出来るならお前らがいくら轟沈しようが俺の知ったこっちゃねぇんだよ、替えの艦娘なんて建造でいくらでも増やせるんだからな」

 

 

「ゲホッ…!あなたという人は…!ゴホッ!」

 

 

三日月の顔を掴みながら悠々と語る海原、雪風と秋月は目尻に涙を浮かべながら目をそらす、こんな光景をこれ以上見ている事なんて出来なかった。

 

 

「とにかくすぐに出撃準備だ、敵前逃亡しようモンなら…どうなるかは分かってるよな?」

 

 

そんな脅しを受けつつ、室蘭鎮守府第1艦隊はオホーツク海近海へと出撃していく。

 

 

 

 

戦艦棲艦や空母棲艦が出て来たらどうしようと気を揉んでいたが、幸いそんな事はなかった、しかし…

 

 

「これ…勝てるのかな…」

 

 

現れた敵艦は重巡棲艦だった、単艦だったので数的にはこちらが有利だが、戦闘力で言うならあちらの方が圧倒的に上だ。

 

 

「砲雷撃戦…始め!」

 

 

室蘭艦隊と重巡棲艦との戦闘が始まった、まずは三日月が主砲を重巡棲艦に向けて発射、命中はしたがほとんど利いてる気がしない。

 

 

「撃ええええぇぇぇ!!!!!」

 

 

「いっけえええぇぇ!!!」

 

 

続いて雪風と秋月が主砲を発射、これも命中したが身体の表面で弾かれてしまいほとんどダメージにならない。

 

 

「これじゃあ撃沈どころか中破すら無理…!」

 

 

なんとか有効なダメージを与えられないかと三日月は考えたが、敵の重巡棲艦はそれを良しとしなかった。

 

 

「っ!?敵艦魚雷発射!回避…!」

 

 

回避行動を取れと言おうとしたが、重巡棲艦が続けて撃ちだした主砲が三日月たちに命中してしまった。

 

 

「あうぅ…!」

 

 

今の砲撃で直撃を受けた雪風が大破、三日月と秋月が中破になる。

 

 

「きゃああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

遅れて重巡棲艦の魚雷が命中、この攻撃が決まって全員が大破になってしまった。

 

 

(やっぱり練度(レベル)1の駆逐艦じゃ重巡棲艦には敵わない…!)

 

 

ここが限界だと感じた三日月は海原に撤退の許可を求めてインカムを使う。

 

 

『はあ?何を寝ぼけたこと言ってんだ、戦闘続行だ、敵艦を撃沈するまで帰投は認めん』

 

 

「なっ…!?」

 

 

しかし、返ってきたのはおおよそ正気とは思えない答えだった。

 

 

「正気ですか司令官!?全員大破なんですよ!この状態で続行しようモノなら全員轟沈してしまいます!」

 

 

『だから何だ?おまえらが轟沈してもまた替えの艦娘を建造すればいいだけだ、思う存分散ってこい』

 

 

淡々と述べる海原の言葉を聞き、三日月はある決意をする。

 

 

(あなたがそうおっしゃるのであれば、こちらにも考えがあります!)

 

 

「…艦隊旗艦(リーダー)より命じます、今すぐ戦線離脱して撤退して下さい」

 

 

「えっ!?」

 

 

「三日月さん!?」

 

 

『テメェ!何勝手なこと言ってやがる!上官の俺に逆らったらどうなるか…!』

 

 

三日月は耳からインカムを外すとそれを握り潰して海へ捨てた。

 

 

「さて、うるさい司令官の声も聞こえなくなりました、私が敵の目くらましをするのでお二人は先頭についてください。

 

 

「は、はい…」

 

 

「分かった…」

 

 

撤退中、大破状態でうまく動けない身体を互いに支え合い、必死で鎮守府へと進んでいく。

 

 

(殺される覚悟はしておいた方がいいかもね…)

 

 

 

そんな中、三日月は鎮守府に戻った後どんな目に遭うのかと少し不安になっていた




海原のクズっぷりがどんどん加速していきますね。

でもぶっちゃけこういうシーンは書いてて楽しいです。


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第30話「三日月の場合15」

今回は少し短めです、次回が長くなりそうなのでここで少し調整。

色々驚くかもしれませんがやはりスルーで。


「俺の命令を無視するとはどういうつもりだ!」

 

 

三日月たちが帰投して提督室に戻ると、開口一番に怒号が飛んでくる、もしかしたら気まぐれで許してくれるんじゃないかと思ったりもしたが、無駄な期待だった。

 

 

「…ああしなければ自分を含む仲間の命が危険になると判断したので、無視させていただきました」

 

 

「こいつ…!」

 

 

海原は三日月の顔を思い切り殴りつけた、殴られた三日月はよろよろと後ずさり転びそうになったが、雪風と秋月が支えてくれたのでそれは免れた。

 

 

「何が仲間だ!道具にそんな馴れ合いの感情は必要ねえ!お前らはただ俺の命令を聞けばいいんだ!」

 

 

「…司令官、僭越(せんえつ)ながら言わせていただきます、今回の事は司令官のためでもあるんですよ?」

 

 

「あん?」

 

 

三日月の発言の意図が分からず海原は首を傾げる。

 

 

「艦娘の轟沈は海軍の“損失”に繋がります、そうなれば司令官にも何かしらのペナルティがかせられて司令官の株が下がってしまいまう可能性だってあるんです」

 

 

「ハッ!そんなの関係ないね、俺の目的を果たせるなら周りからどう思われようが知ったことか」

 

 

 

「果たしてそうでしょうか?他の上官殿の反感を買えば今の司令官の地位を追われる事にだってなりうるんですよ?、そうなれば司令官の目的である復讐も果たせなくなります」

 

 

「うっ…!」

 

 

三日月から正論を言われ何も言えなくなる海原、昔から口論の勝率は高くなかったが、まさかこんな駆逐艦の少女に負けるとは思ってもみなかった。

 

 

「司令官が私たちを道具として扱うのならばそれはそれで構いません、ですがその艦娘(どうぐ)を使うのなら私が言ったようなことも十分考慮して下さい、この鎮守府はもう、貴方だけのものではないんです」

 

 

「………」

 

 

海原は何も言えずに拳を握りながら俯いていた、三日月を殴り飛ばして黙らせようとも考えたが出来なかった、なぜかは自分でも分からなかったが、それをやってしまうと自分の中で大切な何かが失われてしまうような…そんな感じがしたのだ。

 

 

「…もういい、修理ドック行って休んでろ」

 

 

海原がそう言うと、三日月は軽く一礼して雪風たちを連れてドックへ向かう。

 

 

「…何してんだ、俺」

 

 

 

 

 

 

「司令官、練度測定器(レベルスキャナー)の測定結果です」

 

 

「ん」

 

 

海原は三日月から結果診断書を受け取る。

 

 

○駆逐艦「三日月」

練度(レベル):9

 

○駆逐艦「雪風」

練度(レベル):8

 

○駆逐艦「秋月」

練度(レベル):6

 

 

 

 

「…1ヶ月半でこれか」

 

 

海原は難しそうな顔をして唸る、海原が提督になって1ヶ月半が経とうとしていた、相変わらず海原は三日月たちを道具扱いしているが、あの一件以降はムチャな戦闘や進撃の指示は出さなくなった、何かしらの心境の変化があったのかもしれないが聞いても教えてくれなかった。

 

 

「仕方ありません、週に一度か二度の出撃ではこのくらいが限度です」

 

 

「だよなぁ、練度向上(レベルアップ)基礎能力(ステータス)増加を狙ってたが、これじゃいつまでたってもらちがあかねぇ」

 

 

そう言うと海原は現在の備蓄資材の量を確認する、これぐらいならいけるか…と考えると三日月にある指示を出した。

 

 

「三日月、戦力増強のために艦娘を2体建造する、軽巡洋艦を迎え入れるぞ」

 

 

 

 

その3日後、建造した艦娘が室蘭鎮守府に届けられる日がやってきた。

 

 

 

「軽巡…良くて重巡が来てくれればいいが…」

 

 

 

「どうでしょう、ウチは戦果が乏しいせいで支給される資材も微々たるものなので、それでも出せる限界の資材数を入力したんですが…」

 

 

三日月はうーん…と腕を組んで考える、資材の量的には軽巡洋艦が建造される確率が高いのだが、なにぶん艦娘の建造は素材のヒトのスペックにも多少左右されるため駆逐艦が建造される可能性もある。

 

 

三日月と海原がそうこう話していると、ドアを軽くノックする音が聞こえた。

 

 

「入れ」

 

 

海原がそう返すとドアが開き、今回建造した艦娘が入ってくる。

 

 

「…睦月型12番艦の駆逐艦夕月です、よろしくお願いいたします、司令殿」

 

 

1体目は睦月型駆逐艦12番艦の『夕月(ゆうづき)』、膝まである長い髪は金髪と黒髪が入り交じったような変わった髪色をしている、服装は濃紺色の和装に緋色の袴と神巫(カンナギ)のような印象を与える。

 

 

「陽炎型駆逐艦6番艦の夏潮です!敵艦隊との戦闘ならぜひワタシを使ってください!」

 

 

2体目は陽炎型駆逐艦6番艦の『夏潮(なつしお)』、スカイブルーのセミショートにグレーのデニムジャケットを着た活発そうな印象の艦娘だ。

 

 

「この室蘭鎮守府の提督をしている海原充だ、お前たちはこれから俺の復讐のための道具として頑張ってもらう」

 

 

「…司令…殿?」

 

 

「へ?提督?」

 

 

「俺はこれで失礼する、あとは任せたぞ三日月」

 

海原は自分の挨拶を済ませるとさっさと提督室を出て行ってしまった。

 

 

「…まぁ、こんなとこだけどよろしく」

 

 

また1から室蘭鎮守府(ここ)の説明をしないとな…と心の中でため息をつく三日月だった。




次回予告

着々と道具を増やしていく海原、しかしそんなある日、彼の心の有り様を変えてしまう大事件が発生する…!?

※作者の都合により予告なく変更する可能性がございます。


一度やってみてかった次回予告。


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第31話「三日月の場合16」

いつから深海棲艦は提督(プレイヤー)を攻撃しないと錯覚していた?


室蘭鎮守府にも6月がやってきた、本州では一般的に梅雨の季節に入るが、北海道に梅雨は無いので比較的落ち着いた天気が続いている。

 

 

「…それにしてもあいつら遅いな、好きな菓子買ってきていいって言ったから悩んでんのか?」

 

 

時計を見ながら海原は三日月に言う、雪風、秋月、夕月、夏潮の4体には近くの港町へ夕飯の買い出しに行かせている、往復するだけなら一時間も掛からない距離なのに2時間半経っても帰ってこない。

 

 

「もしかして道に迷ってるんじゃないでしょうか、全員あそこに行くのは初めてですし」

 

 

「…Pitのひとつでも持たせときゃ良かったな…」

 

 

「司令官、もしかして心配してるんですか?」

 

 

海原がぼそりと呟いたのを聞いて三日月は驚いたような顔をする、普段艦娘を道具扱いしている彼だけにとても意外だ。

 

「べっ…別に心配してる訳じゃねぇよ!なんかの事故や事件に巻き込まれたら面倒だなって思っただけだ!」

 

 

海原は慌てて否定するが、顔がほんの少し赤くなっているのを見るとあながち間違いではないらしい。

 

 

「そうですか、ふふっ、そうですか~」

 

 

「…なんか名も無き悪意をそれに感じるんだが」

 

 

海原は三日月をじろりと睨むが、三日月は何のことでしょう?とかわしてしまう。

 

 

(こいつといると調子狂うなぁ…)

 

 

などと心の中でぼやくと席を立って窓の外を見る、あくまでもこれは気分転換のタメであってあいつらが心配だから外を見ているわけではないということを強調しておく。

 

 

「…ったく、もう夕方だってのに、どこほっつき歩いてんだか」

 

 

そう呟きながら鎮守府へ続く石畳の道を見るが、雪風たちの姿は無い。

 

 

「…ん?」

 

 

仕事を再開しようと窓から視線を外しかけたとき、海原はある場所に目が止まった。

 

 

「あれは…?」

 

 

それは石畳の反対側に広がっている室蘭鎮守府の埠頭だ、海沿いに建っている(どの鎮守府もそうだが)室蘭鎮守府は立地場所の関係で窓から海が見渡せる。

 

 

その海に黒い物体が浮かんでいるのが見えたのだ。

 

 

(アザラシ…とかじゃねぇよな、深海棲艦の発現で既存の海洋生物はほとんど生き残ってないって聞くし…)

 

 

ならあそこに浮かんでいるのは何か、鋼のように光沢のある身体にエメラルドのような瞳、まるで駆逐棲艦のようだ。

 

 

(って、それじゃあそこにいるのは…!?)

 

 

海原の全身からイヤな汗が流れ始めたのと同時に黒い物体はその口を大きく開け、細長い大砲のような砲身を伸ばし、そして何か弾のようなモノを撃った。

 

 

「伏せろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!三日月いいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

海原はダッシュで三日月を抱え込むとドアの近くまで一気に転がり込む。

 

 

「きゃっ!司令官!?いったいどうした…」

 

 

 

その直後、ほんの数秒前まで海原が立っていた場所が爆音とともに跡形もなく吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

雪風、秋月、夕月、夏潮の4体は買い出しから戻って鎮守府の門をくぐり、本館へと繋がる石畳を歩いていた。

 

 

 

「…すっかり遅くなってしまいました」

 

 

「こりゃ提督に怒られちゃうかもね~」

 

 

不安そうにオドオドする雪風に対して脳天気な秋月、これでも海原の性格には慣れているので落ち着いている方だ。

 

 

「司令官殿にどう詫びればいいのか…」

 

 

「ぶたれたりしないよね…?」

 

 

むしろ問題なのは夕月と夏潮の方である、着任して日が浅い2体は初日の海原の第一印象も手伝い、自分はいったいこれからどうなってしまうのかと既にメンタルズタズタである。

 

 

「…大丈夫ですよ、司令官はあれでも優しい人ですから、多分」

 

 

「そうそう、なんだかんだ言って最後には許してくれるよ、多分」

 

 

「元気づけようとしてくれるのはありがたいが、最後の一言で全部台無しになったぞ」

 

 

夕月が苦笑したちょうどその時、鎮守府本館から激しい爆発音が聞こえた。

 

 

「な、何!?」

 

 

「あ!あそこ!鎮守府が爆発してる!」

 

 

秋月が指さす先には、鎮守府の建物が爆発している光景が見えた。

 

 

「…あれ、あそこって提督室の方じゃ…」

 

 

「っ!!急いで戻るよ!」

 

 

敵の攻撃を受けているかもしれない、そんな嫌な予感を感じながら雪風たちは鎮守府へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

間一髪で駆逐棲艦の攻撃を避けることが出来た海原は三日月を抱えたままさっきまで自分が立っていた場所を見る、壁は跡形もなく吹き飛ばされ、その周りに置いてあった家具や執務机なども吹き飛んでいた。

 

 

もし駆逐棲艦の砲撃に気付かずあのまま座っていたら…と考えただけで寒気がする。

 

 

 

「し、司令官!?何事ですか!?」

 

 

わけも分からず海原に抱えられて提督室の床を転がり、さらに部屋の一部が爆発して全く状況が分かっていない三日月はプチパニックだ。

 

 

「敵襲だ、駆逐棲艦がすぐそばの埠頭に侵入してやがる」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

海原の言葉に三日月は驚愕する。

 

 

「そんな…!!でも鎮守府周辺には深海棲艦の接近を感知する大型電探(レーダー)が…!」

 

 

「…それは多分、アレのせいだと思うぞ」

 

 

「?」

 

 

海原が指差した先にあったのは、空母棲艦の艦載機だ、おそらく電探(レーダー)の索敵範囲のギリギリ外から空撃で破壊したのだろう。

 

 

「(どうして空母棲艦の艦載機が…)」

 

 

「(俺たちが死んだかどうかを確かめに来たって所だろうな、上手く行けば敵を帰せるかもしれん、このまま死んだふりしてろ)」

 

 

「(は、はい…)」

 

 

敵艦載機はそのまま海原たちの近くまで飛んできてしばらく浮遊していた、死んでいるのかどうかを確認しているのだろう。

 

 

十数秒経った頃だろうか、敵艦載機はそのまま回れ右をして提督室から出て行った。

 

 

「…行ったみたいだな」

 

 

海原と三日月ははあぁ~、と大きく息を吐いて安堵する、こんなにも生きた心地がしなかったのはいつ以来だろうか。

 

 

「でもどうして深海棲艦がこんな所に…」

 

 

「そりゃ深海棲艦からすればここは敵の本拠地だからな、大元を叩けば勝てるって方程式は向こうにも有効だ」

 

 

「正論ですけど何か釈然としないですね、でも敵が帰ってくれて良かったです、もう攻めてくることも無いでしょうし…」

 

三日月がそう言って海原の方を見ると、壁がなくなり開放感抜群になった大穴から海を見ていた。

 

 

「…司令官?」

 

 

「…三日月、どうやら深海棲艦ってのは俺たちが思ってるより賢いヤツらみたいだぜ」

 

 

 

そう言う海原の視線の先には、戦艦棲艦や空母棲艦をメインにした敵の主力艦隊が姿を現していた。




さぁ、本土防衛戦(デス・ゲーム)の始まりだ。


イムヤが欲しくて潜水艦レシピで建造をぶん回しています。

でもゴーヤとイクしか建造されません。

…イムヤってそんな出にくかったっけ?


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第32話「三日月の場合17」

今回から試験的に少なめの文字数で短間隔の投稿を行おうと思います、話数が必然的に増えてしまうので“何か嫌だ”と思う方は感想なんかで言って貰えれば…と。


「こ、これは…」

 

 

眼前に広がる敵艦隊を見て三日月は言葉を失う、なぜなら敵の構成は…

 

○戦艦棲艦×3

 

○空母棲艦×2

 

○重巡棲艦×1

 

○駆逐棲艦×4

 

 

 

…と、駆逐艦1体がどう頑張っても倒せる兵力ではない。

 

 

「…こりゃ逃げるが勝ちだな」

 

 

「あら、司令官がそんな事を言うなんて珍しいですね?いつもなら“轟沈覚悟で特攻しろ”なんて言うのに」

 

 

「…戦術的撤退も必要な事だってのはお前からさんざん聞かされて耳タコだからな、流石に俺だって学習する」

 

 

「流石司令官です」

 

 

「…お前に言われると何かほめられてる気がしないんだよな…」

 

 

そうこう言っているうちに敵艦隊がこちらに攻撃を開始した、戦艦棲艦、重巡棲艦、駆逐棲艦は砲撃、空母棲艦は艦載機を飛ばしてくる。

 

 

「と言うわけだ!死ぬ気で走れええぇぇ!!!!」

 

 

 

「了解しましたああぁぁ!!!!!」

 

 

海原と三日月は回れ右からの死力猛ダッシュで提督室から飛び出す。

 

 

 

「うおおおおぉぉぉ!!!!!???」

 

 

するとその直後に提督室が大爆発に包まれ、部屋の基礎ごと崩れ落ちる。

 

 

「これじゃすぐに建物が崩れて圧死だ!外に出るぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

海原と三日月は外に出るために階段を駆け下りる、すると走った後の壁や床板が次々と爆破されていく。

 

 

「何でこんなに正確に砲撃が出来るんだ!?敵艦はサーモグラフィーでも搭載してんのか!?」

 

 

「どうやら敵艦載機に後をつけられてるようですね、爆撃も艦載機が行っているみたいです」

 

 

三日月にそう言われ海原は後ろを振り向く、すると敵艦載機が5~6機程こちらを追いかけてくるのが見える。

 

 

 

「流石は正規空母ってとこだな、大方俺たちが外に出たところを戦艦棲艦が仕留める…って算段だろう」

 

 

「…敵ながら賢いですね」

 

 

三日月は忌々しそうに舌打ちするとこの状況を打破する方法を考える、雪風たちが出掛けている今、戦えるのは自分しかいない、しかしいくら機動力に優れヒット&アウェイを最大の持ち味とする駆逐艦の自分が戦艦や空母を相手に戦っても5分と保たないだろう。

 

 

(…5分?)

 

 

ここで三日月はある考えを巡らせる、あの敵艦隊を相手取るなら3分…粘れば5分は保たせる事が出来るだろう、もしその5分があれば…あるいは…

 

 

 

「…司令官、その場しのぎ程度にしかなりませんが、作戦を思いつきました」

 

 

「おっ、何だ?」

 

 

「私が囮になって敵艦隊を引きつけて時間を稼ぎます、その間に司令官は逃げてください」

 

 

「……は?」

 

 

三日月にそう言われた瞬間、海原は時間が止まったように感じた、自分が囮になる?でもあの敵構成で三日月が敵うワケが…

 

 

「お前本気で言ってんのかよ!あんな敵艦相手に勝てるわけがねぇだろ!」

 

 

「勝つ必要があるんですか?司令官の逃げる時間を稼げるのであれば轟沈だって覚悟の上です」

 

 

「三日月…!」

 

 

「それが、司令官の()()である私の役目です」

 

 

三日月のその言葉を聞いて、海原は無意識に足を止めていた、背後から艦載機が来ているのに、足が動かなかった。

 

 

「司令官、今までありがとうございました、司令官の()()であれたことを、心から誇りに思います」

 

 

三日月はそう一方的に言って海原にビシッと敬礼すると、回れ右をして敵艦載機の方へ向かっていく。

 

 

「三日月!」

 

 

「逃げてください司令官!私では5分が限界です!」

 

 

三日月はそう叫びながら主砲で敵艦載機を撃ち落し、所々崩落した廊下を駆けていく。

 

 

「…くそっ!」

 

 

 

海原は後ろ髪を引かれる思いを抱えながら再び走り出した。




艦これアーケードの母港画面で三日月をつついたときキュン死にしそうになった。


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第33話「三日月の場合18」

艦娘が陸上でも活動出来るんだから深海棲艦だって陸に上がれないことはないと思う。




何とか外へ出た海原はキョロキョロと辺りを見回すが敵艦や艦載機の気配はない。

 

 

「よし、まずは緊急通信室へ行こう、他の鎮守府に応援を頼めば突破口が見えるはずだ」

 

 

緊急通信室とは鎮守府の地下に作られた通信設備を置いた部屋のことである、実はこのような深海棲艦による鎮守府の襲撃は今回が初めてではない、3年前にも横須賀鎮守府で敵艦隊の鎮守府襲撃があった、その教訓を生かして考案されたのがこの緊急通信室だ。

 

他の鎮守府支部に救援や応援を要求するための無線機などはもちろん、深海棲艦からの攻撃を凌ぐ地下シェルターとしての役割も持っているのだ。

 

 

 

海原はすぐさま通信室へ向かおうと走り出したが、突然自分の真横で爆発が起きた。

 

 

「うぐうぉ!」

 

 

その衝撃で海原は2mほど吹き飛ばされ、肘と膝を軽く擦りむいた。

 

 

「いってて…何が…」

 

 

そう言いながら起きあがると、つい先程まで埠頭で停泊しながら鎮守府本館を砲撃していた重巡棲艦が目の前に立っていた、所々損傷しているのを見ると三日月がダメージを与えたのだろう。

 

 

「なっ…!?」

 

 

(いつの間にここまで来たんだ!?いや、それよりも深海棲艦は陸上でも行動出来たのか!)

 

 

重巡棲艦は海原に主砲の砲口を向けて砲弾を装填する、逃げろと脳が警報を鳴らしまくっているのに身体が動いてくれない、海原は地面にへたった状態から動けなくなってた。

 

 

…怖い。

 

 

 

深海棲艦に砲を向けられて改めて思う、怖い、怖い、怖い、とても怖い。

 

 

あれほど憎んでいた深海棲艦が目の前にいるのに、怒りや憎しみといった感情は一切浮かんでこなかった、そこにあるのは底なしの恐怖のみ。

 

 

「や…やめろ…!やめてくれ!」

 

 

海原は後ろにずり下がりながら何とか逃げようとするが、重巡棲艦の右手が海原の頭をがっちりと掴む。

 

 

「た、助けてくれえええええぇぇ!!!!!」

 

 

海原が死を覚悟したその時、突然重巡棲艦の頭部が爆発した。

 

 

「な、何が…?」

 

 

重巡棲艦はそのまま後ろに倒れた、恐らく“轟沈”したのだろう。

 

 

「司令官!ご無事ですか!?」

 

 

すると艤装を装着した雪風たちがやってきた、今のは雪風が重巡棲艦を砲撃したのだろう。

 

 

「雪風!帰ってきたか!」

 

 

 

「はい、先程戻りました、それより司令官、この状況は…!?」

 

 

雪風は目の前に転がっている首なしの重巡棲艦を見ながら聞く。

 

 

「敵襲だ、鎮守府埠頭に敵艦隊が入ってきてやがる、構成は戦艦棲艦3体、空母棲艦2体、駆逐棲艦4体に今倒した重巡棲艦1体の計10体」

 

 

「なっ…!!10体!?」

 

 

「到底私たちで相手できる数ではない…!」

 

 

雪風と夕月が目を剥く、やっと最近軽巡棲艦を相手取れるようになってきたという室蘭艦隊の練度(レベル)ではオーバースペック過ぎる艦隊だ。

 

 

「…そうだ!お前ら、三日月の応援に回ってやってくれ!残りの9体を三日月だけで相手してるんだ!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

「三日月だけで!?」

 

 

雪風たちは驚愕の表情を浮かべる、そんな戦力相手に駆逐艦の三日月が1体だけで相手取るなど自殺行為に等しい。

 

 

「俺は今から無線で周りの鎮守府に応援を要請する!だからそれまでの間でいい!何とか持ちこたえてくれないか!?」

 

 

海原は雪風の肩を掴んで頼み込む、普段の海原なら絶対にあり得ない光景だけに全員が目を丸くしていた。

 

 

「分かりました、では…」

 

 

「待ってくれ、雪風は司令官殿の護衛として司令官殿のそばにいた方がいいと思うぞ」

 

 

「何言ってんだ夕月!んなことしたら戦力が…!」

 

 

「敵艦を屠るのも大事だが、司令官殿を守るのも()()である私たちの大事な役割なのだ!おまけに敵艦隊には空母棲艦がいる、艦載機で攻められたら司令官殿だけでは対処出来ないのだぞ!」

 

 

夕月に強く言われて海原は言葉に詰まる、夕月の言うことは正しい、もし今のようにまた敵艦がおそってこようものなら今度こそ海原は死ぬだろう、であれば誰かしら艦娘を護衛として付けるのが賢い選択と言える。

 

 

「…分かった、頼めるか?雪風」

 

 

「了解しました!雪風、司令官の護衛に付きます」

 

 

「では私たちは三日月の援護に回ろう」

 

 

「そうだね、応援要請頼んだよ、提督!」

 

 

「こっちは任せておいて!」

 

こうして海原と雪風、夕月と夏潮と秋月はそれぞれの役割を果たすために走り出した。

 




二次創作とはいえこの小説の設定ってゲームの世界観無視しすぎてるような…(今更だが)。


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第34話「三日月の場合19」

小分けに投稿するとか言っておきながらどこで切ったらいいか分からず結局ロングverで投稿…

艦これアーケードで2-2までクリアしました、相変わらず駆逐艦のみの艦隊です、駆逐艦のみんなが可愛すぎて外せないんだよォ!




まずは海原と雪風サイド、地下の緊急通信室に入ったふたりは通信の準備をする。

 

 

「そこの赤いボタンを押して、白いつまみを“00”番に合わせてくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

雪風が指示通り赤いボタンを押すと計器類のランプが一斉に点灯した、これが電源なのだろう、続いて白いつまみを00番に合わせて回す、すると通信機に取り付けられているディスプレイに“緊急事態”という赤文字が浮かび上がった。

 

 

「普通だったらどこの鎮守府に繋ぐとか設定しなきゃいけないんだが、この緊急モードの場合は全ての鎮守府に一斉に繋ぐことが出来る」

 

 

そう言うと海原はマイクを持ち手短に用件を言う。

 

 

「緊急事態!緊急事態!室蘭鎮守府の海原だ、鎮守府埠頭に敵艦隊が侵入し攻撃を受けている、構成は戦艦3、空母2、駆逐4の計9体、我が艦隊のみでの迎撃は困難と判断した、よって他の鎮守府からの応援を要請する!繰り返す…」

 

海原は急いで、かつ正確ににこちら側の情報を伝える、誰でもいい…来てくれ!

 

 

『…こちら青森駐屯基地の笹音(ささね)です!応援要請は私が受けます、すぐに駐屯している艦隊をそちらに急行させます、5分程で合流出来ると思うので何とか踏ん張ってください!』

 

 

海原の発信から20秒後、青森の駐屯基地から女性の声で返答が来た、ありがとうございます!と海原が礼を言って一度通信を切る。

 

 

「よし、夕月!応援要請が通ったぞ!5分後に合流予定だ、何とか持ちこたえてくれ!」

 

 

『了解した!何とかしてみせよう!』

 

 

海原はあらかじめ夕月に持たせておいたPitで連絡する。

 

 

「あとは応援が来るまで待機ですね」

 

雪風はそう言って近くにあった椅子に座る、こんな時によく落ち着いていられるモノだ。

 

 

「…あと俺に出来る事は何か無いもんか…」

 

 

海原はうーん…と考えを巡らせるが、びっくりするほど何も案が浮かばない。

 

 

「何もないですよ、司令官は深海棲艦と戦う能力は無いんですから、ここは私たちに任せていればいいんです」

 

 

雪風は足をぶらぶらさせながら呑気に言った。

 

 

「お前、自分の仲間が死ぬかもって時になんでそんなに呑気に構えてられるんだよ!」

 

 

「?司令官こそなんでそんなに怒っているんですか?私たちは司令官の道具です、仮に私たちが全滅しても新しく建造すればいくらでも替えが利くんですよ?なのにどうして?」

 

 

「…それは…」

 

 

雪風にそう言われ海原は言葉を詰まらせる、雪風のその質問は最近の海原の悩みそのものだった。

 

 

自分が艦娘を道具扱いしていたのは事実だ、それは今でもそう思っているしたぶんこれからも変わらない、でも…

 

 

艦娘たちの“自分は道具だ”という発言を聞くと、何故かひどく嫌な気持ちにさせられるのだ、それがどうしてなのかはいくら考えても分からなかった。

 

 

「…雪風、笑わずに聞いてくれるか?」

 

 

「ほぇ?何でしょう?」

 

 

海原は雪風に先程の悩みを打ち明ける、自分は艦娘を道具扱いしながらも、自分以外が艦娘を道具扱いすると腹が立つ、そんな矛盾した気持ちになる自分は一体何なのか…。

 

 

「なる程、司令官はそんな事を考えていたんですか」

 

 

「あぁ、自分でもわけ分かんねぇとは思ってんだけどな」

 

 

「そうなんですか、ふふっ」

 

 

海原のそれを聞くと、雪風はどこか嬉しそうな顔をして笑う。

 

 

「笑うなって言っただろ…」

 

 

「すみません、でも、司令官のお悩みの答えはとてもシンプルなモノですよ」

 

 

「お前になら分かるのか?」

 

 

「はい、答えは簡単です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官は、本当は私たちのことを道具扱いしたくないんです」

 

 

 

「…えっ?」

 

 

海原は一瞬、雪風に何を言われているのかが分からなかった、艦娘を道具扱いしたくない?自分が?。

 

 

「私たちが“自分は道具だ”と言って司令官が腹を立てるのは、その発言が司令官の本心とは反しているからです、司令官は深海棲艦に復讐するのが目的だと最初に聞きましたが、復讐心に駆られて本当の気持ちが見えなくなってるのではないですか?」

 

 

「……」

 

 

雪風の言葉に海原は何も言えなくなっていた、最初は深海棲艦に復讐するという目的で提督になったが、さっき重巡棲艦に迫られたとき、自分はどうなった?自分の中を恐怖の二文字に支配され、復讐心などというものはあっさりと恐怖心に塗りつぶされてしまっていたではないか。

 

 

提督になったとしても、深海棲艦に“自ら”手を下す手段なんて無い、復讐するにしろ何にしろ、全て艦娘に頼らなければ自分は深海棲艦(やつら)に何も出来ない、その現実が今になってのし掛かる。

 

 

『司令官のそのお考えはいつか身を滅ぼします!復讐などというお気持ちで自分を動かさないでください!今の司令官は自らを妄執という鎖で縛っているようなものです!』

 

 

三日月が室蘭に来た初日、彼女が言っていた言葉が頭の中をグルグル回る、三日月が言いたかったのは、このことだったのだろうか。

 

 

「…なぁ、雪風」

 

 

「はい?」

 

 

「俺さ、重巡棲艦に砲を向けられて、正直めちゃくちゃ怖かった、何も出来なかった、あれだけ復讐しようと憎んでた相手なのに面と向かった瞬間恐怖しか浮かばなかった」

 

 

「…それが普通の反応ですよ、あんなモノと相対して平常心でいられるわけがありません」

 

 

「じゃあお前らは、艦娘はどうなんだよ?怖いとは思わないのか?」

 

 

「それはもちろん怖いです、殺すか殺されるかの命のやり取りをしているんですから、怖くないわけがありません、実際私もまだ深海棲艦と戦うのは怖いです」

 

 

そう言う雪風の身体は微かに震えていた、当時の海原は艦娘のその気持ちが理解できなかった、“艦娘だから”、“深海棲艦と戦える存在だから”という理由で艦娘たちが恐怖を感じる必要はないと思っていた、でも今なら分かる、深海棲艦に殺意を向けられた経験をした今ならそれを理解できる。

 

 

「ありがとな、雪風」

 

 

「…司令官?」

 

 

急にお礼を言われて雪風はキョトンとする。

 

 

「お前たちが深海棲艦から守ってくれてるおかげで今の俺がある、ようやくそれに気づかされたよ」

 

 

「お礼を言われるような事は何もしてないですよ、司令官はただ私たちを使ってくれればいいんです、私たちはそれに全力で応えてみせますから」

 

 

「…ありがとう」

 

 

海原はもう一度そう言うと雪風の白い髪を撫でる。

 

 

(さてと、守られてばかりじゃ、司令官としての立つ瀬が無いってモンだよな!)

 

 

そう決意した海原の顔は、どこか吹っ切れたような、あるいはつきものが落ちたような、そんな晴れやかなものだった。




雪風のヒロイン力も負けてない、三日月はこの後思いっきりヒロインやってもらおうかな~(ニヤニヤ)。


ちなみにアーケードでの出撃艦隊ですが…

・吹雪
・叢雲
・暁
・朝潮
・三日月
・響

の6体です、敵の攻撃を食らおうものなら一撃大破は必至のドキドキ艦隊、よくこのメンツで2-2まで来られたなぁ。



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第35話「三日月の場合20」

♪はじめてのけんぞう

だーれにーもーなーいしょーでー、けーんーぞーおーなーのよー、レーシピーはーどうするーのー?(さいてーいちー!)

BBクイーンズ風に歌ってみよう!


一方こちらは夕月と夏潮と秋月サイド、夕月たちが着いた時点で三日月はかなり危ない状態だった。

 

 

「三日月!助太刀に来たぞ!」

 

 

「三日月!大丈夫!?」

 

 

「やば!大破になってるし!」

 

 

残敵は駆逐棲艦が全て撃沈、戦艦棲艦が1体中破、空母棲艦が1体小破…といったところだ、そして三日月は大破とかなり窮地に追い込まれている。

 

 

「あれ、みんな帰ってたんですか!?」

 

 

「ついさっきな、それより喜べ三日月、司令官殿がこちらに応援を呼ぶと言ってくださった」

 

 

「そ、それは本当ですか!?」

 

 

「あぁ、今雪風を護衛につけて緊急通信室にいる」

 

 

「…よかった、本当によかった」

 

 

夕月の朗報を聞いて安堵の表情を浮かべる、この兵力を相手に大破になるまで戦い続けて、とても辛かったのだろう。

 

 

『夕月!応援要請が通った!5分後に合流予定だからなんとか踏ん張ってくれ!』

 

 

 

すると、別れる前に海原から渡されていたPitから海原の声が聞こえる、どうやら支援艦隊が来てくれるようだ。

 

 

「了解した!なんとかしてみせよう!」

 

 

夕月はPitをポケットにしまうと、艤装を展開させて敵艦を見据える。

 

 

「さて、これからが正念場だ!応援が来るまで持ちこたえるぞ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

夕月たちは敵艦隊に向かって突撃していく、三日月はすでにボロボロなので休ませることも視野にいれていたのだが、本人が“まだいける”というので“少しでも危ないと感じたら絶対に離脱する”、という条件付きで夕月たちが戦闘参加を許可した。

 

 

まずは空母棲艦の艦載機が三日月たちに向かって急降下を始める、布陣の関係で空母棲艦は艦攻をうまく扱えない(敵艦は水上にいるが三日月たちは陸上の埠頭に立っているので魚雷がうまく働かない)ので艦爆に気をつければ最悪致命傷は免れる。

 

 

「させないよ…っと!」

 

 

まずは先陣をきって秋月が主砲を連射、秋月の主砲は対空砲を兼ねているので敵艦載機には有効だ。

 

 

秋月が敵艦載機を相手取っている隙に三日月たちが敵艦に砲撃を仕掛ける、しかし駆逐艦の…ましてや練度(レベル)10にも満たない艦娘が戦艦棲艦や空母棲艦を攻撃しても結果は火を見るより明らかだった。

 

 

「やはり小破未満(カスダメ)しか与えられないか…」

 

 

「こうなったら“小破未満(カスダメ)も積み重ねれば致命傷になる”作戦でいくしかないね」

 

 

「…それってただこれまで通り攻撃しまくるって事よね…」

 

 

秋月はそうつっこむが、実際そうするしか手がないのでひたすら攻撃を繰り返す。

 

 

しかし敵もただ豆鉄砲を受けているだけではない、時折戦艦棲艦の主砲が三日月たち目掛けて飛んで来ては埠頭のコンクリを抉っていく。

 

 

「…夕月たち、残弾数は?」

 

 

「…全員ほぼ半分といったところだ、三日月は?」

 

 

「私はもう底をつきかけてるわね、補充はさせてくれなさそうだし、申し訳ないけど、弾が尽きたら離脱してもいい?攻撃できないとただの足手まといでしょう?」

 

 

「何を言う、ここまで戦ってくれただけでも大金星というものだ、たとえ今ここで離脱しても責めはしない」

 

 

「そうだよ!むしろ三日月は休むべきだよ!」

 

 

申しわけなさそうに言う三日月に夕月と秋月は十分だ、とねぎらいの言葉をかける。

 

 

「…ありがとう、でもまだ大丈夫!」

 

 

三日月は主砲を構えて敵艦を見据える、彼女はまだ諦めていない。

 

 

「…敵わないな、三日月には」

 

 

「さすが室蘭鎮守府の秘書官だねぇ、提督とは大違いだよ」

 

 

「あの提督の下で育っただけはあるね」

 

 

3体はそれぞれ好きな感想を言っているが、夏潮と秋月の海原に対するボヤキがトランシーバーモードのPit越しにダダ漏れなのは気づいていなかった。

 

 

 

 

「ったく、あいつら好き勝手言いやがって」

 

 

海原は鎮守府の3階でフッ…と笑う。

 

 

「司令官!お願いですから通信室にいてください!今の私の練度(レベル)じゃ何かあっても司令官を守れないんですよ!」

 

 

雪風は海原の袖を引っ張って抗議するが、海原は聞く耳を持たない。

 

 

「安心しろ、俺は簡単に死なない、約束する」

 

 

海原は再び雪風の白い髪を撫でる、そのたびに雪風はもう…と頬を赤らめてため息をつく。

 

 

(しっかし、改めて触るとこいつの髪サラサラできれいだな、なんか興奮しちまいそうだ)

 

 

そんな下心を抱いたことは内緒にしておく。

 

 

「さてと、雪風、今から屋根に登るから一緒に来い」

 

 

「……は、はぁ!?司令官今何と!?」

 

 

「言ったろ、屋根に登るから来い、あいつらに好機(チャンス)を与えるのは司令官である俺の仕事だからな」

 

「いやいやいや!それと屋根に上がるのと何の関係があるんですか!あとその手に持っているモノは!?」

 

 

雪風が言っているのは海原の手にある大きなネットだった、これは地引き網漁などで使われる特大サイズのモノで、なぜか通信室の奥に仕舞い込まれていたのだ。

 

 

「見ての通り網だ、敵の布陣が最初見たときと変わっていないなら、これが大いに役立つ」

 

 

「ふえぇ…?」

 

ますます困惑する雪風を引き連れて海原は鎮守府の屋根へと登る。

 

 

 

「…よし、敵の配置は特に変わっていないな」

 

 

屋根の上から息を殺して下を観察したが、敵の布陣はそれほど変わっていなかった。

 

 

「よし、雪風、今から作戦を伝えるから心して聞け」

 

 

「は、はい…」

 

 

この時点ですでにイヤな予感しかしなかったが、とりあえず海原の作戦とやらを聞く。

 

 

 

「……えええええぇぇぇぇぇ!!!!!????」

 

 

 

この時、雪風は今度こそ死ぬかもしれないと思った。




そう言えばアーケードのアプデで雪風が実装されるみたいですね、もちろん白じゃなく茶色の方です。


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第36話「三日月の場合21」

…当初の予定より三日月編が長くなってしまった、暁編の倍くらいにはなるかな~、くらいには思っていたがどうしてこうなった。


「…さすがにちょっとキツくなってきたな」

 

夕月は辛そうな顔で敵艦を見る、支援艦隊の到着予定まであと2分といったところだが、敵艦へのダメージはあまり通っていない。

 

 

「こっちは全員大破寸前だし、そろそろマズいよね、私も少しフラフラしてきたよ…」

 

 

夏潮が顔を歪めて言う、自分と同格の相手ならともかく、はるかに格上の戦艦棲艦や空母棲艦を相手しているのだ、疲労の溜まりかたも尋常でなはい。

 

 

『夕月!聞こえるか!』

 

 

ここからどうしたものか、と考えていると、Pitから海原の声が聞こえてくる。

 

 

「司令官殿か、聞こえるぞ」

 

 

『よし、良く聞け、今から雪風をそちらに向かわせて敵艦の動きを封じるための作戦を行う、お前たちは出来るだけ敵を一カ所に固めておいてくれ』

 

 

「えっ!?ど、どう言うことですか司令官殿!」

 

 

『それじゃあ10秒後に作戦開始だ!準備にかかれ!』

 

「え、えぇ!?」

 

夕月たちは困惑しながらも敵艦の周辺に砲弾を発射、敵にそれをよけさせて中央よりに誘導させた。

『今だ雪風!“飛べ!”』

 

 

「うぴゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

そのきっかり10秒後、鎮守府本館の方から雪風の悲鳴が聞こえてきたので、何事かと声のした方を向く。

 

「な…!?」

 

 

「へ…?」

 

 

そこには、大きなネットを手に持って本館の屋根からこちらに向かって飛び降りる雪風の姿があった。

 

 

 

 

 

(死ぬかと思った!死ぬかと思った!)

 

なんとか無事着水できた雪風は自分がまだ生きている事を確かめると、敵艦に向かって最大速力(フルスロットル)で突撃していく。

 

それに気づいた敵艦がそれを阻止しようとこちらを向くが、すでに遅い。

 

 

「いっけええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

雪風は持っていた地引き網漁のネットを一気に広げると敵艦に向かって被せる、それに驚いた敵艦は少しの間動きを止めてしまった。

 

 

「まだまだ!」

 

 

続いてネットの紐を持って敵艦の周りをぐるりと旋回、2周ほどしたら旋回ルートから外れ、紐をめいっぱい引けば…

 

 

「…よし!完成です!」

 

 

敵艦隊はネットに巻かれて完全に身動きが取れなくなっていた。

 

 

 

 

「す、すごい…」

 

 

「あの敵艦隊を網でぐるぐる巻きに…」

 

 

三日月たちはその様子に唖然としながら見入っていた、しかもこの作戦にはもう一つ海原の策略があった。

 

このネットは少し目が粗めに作られているタイプのモノであり、戦艦棲艦の主砲の砲身をくぐらせることができるのだ、これをすれば砲撃で網を破られる事もなく拘束出来る。

 

 

空母棲艦の方にもこのネットは役に立つ、戦艦棲艦の砲身は通る網目のネットだが、空母棲艦の艦載機は通さない大きさになっている、艦載機の能力で破ることも出来るが、超至近距離で艦爆や艦攻を発動させることになるので自身もダメージを負ってしまう。

 

 

「司令官!拘束完了です!」

 

 

雪風がネットの紐をギュッと引っ張り、敵艦の動きを封じる。

 

 

「よし!お前ら!一斉攻撃!」

 

 

海原の合図で夕月たちが一斉に主砲を発射、三日月は弾が残っていないので魚雷を()()して雷撃を行う、この攻撃が有効打になったのか、空母棲艦が全員中破になる。

 

 

…その後、到着した支援艦隊の攻撃により、敵艦の掃討に成功した。

 

 

 

 

「本当に助かりました、ありがとうございます」

 

 

「いえいえ、同じ深海棲艦と戦っている者同士、助け合うのは当然です」

 

 

頭を下げてお礼を言う海原に対し、支援艦隊旗艦(リーダー)である妙高型重巡洋艦1番艦の妙高は謙遜するように言う。

 

 

「しかし、駆逐艦だけの艦隊で敵にあそこまでの打撃を与えるとは、よほどあなたの指揮が適切だったのですね」

 

 

妙高は三日月たちを見て感心するように言う、低練度(レベル)の駆逐艦が空母や戦艦を含む艦隊にスペック以上の戦果をあげた、妙高自身駆逐艦を軽視している訳ではないが、この結果は相当な評価に値する。

 

 

「いえ、俺は少し指示を出しただけですよ、頑張ったのはあいつらです」

 

 

「ふふっ、艦娘の事を大切になさっているんですね、あなたの部下が羨ましいです」

 

 

「…いえ、俺には、とてももったいない言葉です」

 

 

海原は一瞬の逡巡の後にそう言った、しかし、その時ほんの少し顔が曇ったのには誰も気づかなかった。

 

 

「………」

 

 

…三日月以外は。




○コラム、我が艦隊の艦隊名公開。

・第1艦隊「!!!吹雪タイム!!!」
・第2艦隊「虹色・夢色・初霜色」
・第3艦隊「三日月ノ舞」
・第4艦隊「キュアップラパパ!」
・第5艦隊「ラ王とんこつしょうゆ」
・第6艦隊「艦隊2000」
・第7艦隊「お好み焼き」

…こうして見るとひどいセンスだなぁ…。


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第37話「三日月の場合22」

レベル98~レベル99に必要な経験値、多すぎないっすか?演習20回くらいしないと上がらない…

大体演習1回で1万2000(旗艦ボーナス含む)だから…20万以上!?とんでもねぇー!


妙高たち支援艦隊が帰投した後、室蘭鎮守府のメンツはグラウンドで野営(キャンプ)の準備をしていた、本館は全壊しているわけではないので使える部屋を探せば良いのだが、所々崩れていてダメージを受けている建物に入るのは念のため避けた方がいいという海原の考えで野営(キャンプ)となった。

 

「さーてと、日も暮れかけてるし、ちゃっちゃと終わらせようぜ」

 

 

「それはいいですけど司令官、こんな大きなテントセットどこにあったんですか?」

 

 

三日月がテントの骨組みを組み立てながら言う、海原たちが準備しているテントは大人5人が川の字で寝れるのではというほどの大きさがある。

 

 

「通信室の奥に仕舞い込んであったんだよ、籠城目的にも使えるようにしたのか、非常食やら寝袋やらもあったぞ」

 

 

「本当にシェルターみたいだな…」

 

 

「なおさらなんでその中に地引き網があったのかが不思議だよ…」

 

 

そんな会話をしつつ10分程でテントは完成し、三日月たちが中へと入る。

 

 

「おぉ!結構広い!」

 

 

「これがテントというものか…」

 

「アウトドア感出るねー!」

 

 

初めてのテント体験にはしゃぐ三日月たち、それを見て海原は妙に微笑ましい気分になる。

 

 

 

 

 

 

「…非常食って乾パンくらいしかイメージなかったが、こりゃすげぇな」

 

 

通信室から持ってきた非常食を開封して海原は驚く、基本的な乾パンや缶詰めはもちろん、水でアツアツのご飯が食べられるアルファ化米まである。

 

 

「とりあえず五目飯を主食に缶詰めをつつくか、魚の味噌煮とかあったし」

 

 

「えー!せっかくだから肉食べましょうよー!」

 

 

「数少ないんだから我慢しろ、これから生きていけなくなるぞ」

 

 

「いや司令官、別にサバイバルとかじゃないんですから…」

 

 

…その後も海原が作ったドラム缶風呂を堪能したり、グラウンドに雑魚寝して星空を見たり、普段やらないような事をして艦娘たちは大はじゃぎだった。

 

 

 

 

 

「…ふぅ、今日はとんだ日になったな」

 

 

時刻は午後11時半、三日月たちが寝静まった後、海原はテントの外で折りたたみ椅子を出して座っていた、映画館の座席よろしくなドリンクホルダーがついているあのタイプだ。

 

 

「明日からは鎮守府の修繕に執務室の再生…やることが一気に山積みだ」

 

 

海原はコーラを飲みながら明日以降の予定を考える、今日の襲撃はすでに大本営に報告しているので明日には修理が入る、今まで暇だった鎮守府が忙しくなりそうだ。

 

 

「…司令官?」

 

 

ふと自分を呼ぶ声がしたので後ろを向くと、寝間着代わりのジャージを来た三日月が立っていた。

 

 

「三日月か、眠れないのか?」

 

 

「司令官こそ、こんな時間にどうされたんですか?」

 

 

「…ちょっと考え事」

 

 

「…隣、よろしいですか?」

 

 

「あぁ」

 

 

海原の様子を見て何かを察した三日月は新しく椅子を出して海原の隣に座る。

 

 

「コーラ飲むか?」

 

 

「いただきます」

 

 

三日月はコーラの入ったコップを受け取ると一口飲み、けほっと可愛らしいげっぷをする。

 

 

「…今日は本当にありがとな、お前らがいなかったら、俺は多分死んでた」

 

 

「どうされたんですか司令官?先ほどから随分と丸くなられたようですが…」

 

 

海原に突然お礼を言われて三日月は驚いた顔をして問う。

 

 

「やっぱり気づいてたか」

 

 

「秘書官ですから」

 

 

三日月は“ふふん♪”と得意げに鼻を鳴らす、その様子が可愛いと思ってしまったのは気のせいではないハズだと海原は思う。

 

 

「何か心境の変化があったのですか?よろしければこの三日月にお聞かせください」

 

 

三日月にそう言われて最初は断ろうかと思ったが、三日月のまっすぐな目を見てしまうとなぜだか逆らえなくなってしまう。

 

 

「…実は今日の襲撃の時、重巡棲艦に殺されそうになったんだ」

 

 

「えっ!?」

 

 

海原の言葉に三日月は思わず声を上げて驚いてしまい、慌てて口を手で押さえる。

 

 

「正直言って怖かったよ、深海棲艦に復讐するとかでかい口叩いてたのに、いざ仇を目の前にしたら恐怖で何も出来なかった、夕月たちが戻ってくれてなかったら今頃死んでただろうな」

 

 

 

「申し訳ありません、私が敵艦の動きをもっとよく見ていれば…」

 

 

「お前は悪くねぇよ、むしろ抜かれたのが重巡棲艦だけで済ませられたんだから快挙だ」

 

 

海原はそう言って三日月の艶やかな黒髪を撫でる、んっ…とくすぐったそうにするが、どこか気持ちよさそうに撫でられている。

 

 

「それでさ、その時気づいたんだよ、提督になって艦娘の指揮権を手に入れても、俺が“直接”深海棲艦に手を下す事は出来ない、艦娘におんぶにだっこで頼らなきゃ俺は何も出来ない、ようやくそれに気付かされたんだ」

 

 

「………………」

 

 

三日月は何も言わずに海原の話を聞いていた、その表情はどこか落ち着いた、初めから海原の言うことか分かっていたかのような反応だった。

 

 

「あの時お前が言った“身を滅ぼす”って言葉の意味、今なら分かるよ」

 

 

「…そうですか、それなら痛い思いをして言ったかいがありました」

 

 

「なんだそれ、嫌味か?」

 

 

「さぁ、どうでしょう?」

 

 

相変わらず三日月はひらりとかわしてしまい、思わず海原は苦笑してしまう。

 

 

「三日月、何を今更って思うかもしれんが、聞いてくれるか?」

 

 

海原の問いかけに、三日月は何も言わずに頷いた。

 

 

「俺は深海棲艦への復讐を止めるつもりはない、でも、もうそれだけで自分やお前たちを動かしたりはしない、お前たちが今まで俺を深海棲艦から守ってくれていたように、俺もお前たちを深海棲艦から守れるような司令官になろうと思う、誰一人欠けることなく帰ってこれるように、そして深海棲艦からの“轟沈”という弾からお前たちを守れるように」

 

 

「司令官…」

 

 

「だから三日月、これからは道具としてじゃなく、俺の部下として、鎮守府の仲間として、よろしく頼む」

 

 

海原はそう言うと椅子から立ち上がり、三日月に深々と頭を下げる、それを見た三日月は驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの笑顔になり…

 

 

「こちらこそよろしくお願いいたします、この三日月、司令官にいつまでも付き従う所存です」

 

 

海原にビシッと敬礼をする。

 

 

「それと、そう言う事はみんなにも言ってあげた方がいいと思いますよ?」

 

 

そう言うと三日月はテントの方へと視線を向ける。

 

 

「?」

 

 

三日月に釣られて海原もテントの方を向くと、夕月たちがテントの入り口から顔を覗かせてこちらを見ていた。

 

 

「なっ…!?お前らいつから…!」

 

 

「司令官殿が三日月にコーラを渡した辺りからです」

 

 

「ほぼ全部聞かれてんじゃねぇかよ!」

 

 

「いやぁ、提督もとうとう心を入れ替えてくれたね~、うれしい限りだよ」

 

 

「待て秋月、それはどういう意味だ!?」

 

 

「これはいいモノを見せてもらいました、お熱いですね~」

 

 

「夏潮!変な曲解してんじゃねぇ!」

 

「あ、あのっ!私も三日月みたいに司令官と懇ろ(ねんご)な関係になりたいです!」

 

 

「よーし雪風!お前は一番最初に誤解を解く必要がありそうだな!」

 

 

それぞれのコメントに翻弄される海原、それを見ていた三日月はとても楽しそうにクスクスと笑っていた。

 

 

「…まぁいいや、お前らもこれからは部下として、仲間としてよろしく頼む」

 

 

それを聞いた夕月たちは互いに顔を見合わせると、全員キリッとした表情になり…

 

 

 

「「「こちらこそ、よろしくお願いいたします!提督!」」」

 

 

寸分違わぬ敬礼を返した。

 

 

 

 

それを見た海原は、提督になってから一番の笑顔を浮かべた。

 




海原過去編前半終了。

そして運命はあの絶望の日へと向かっていく…


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第38話「三日月の場合23」

今回の話でデジャヴを感じたあなた、正解です。

そういえばブラウザー版の艦これには駆逐や軽巡でしかダメージを与えられない「PT小鬼群」という敵が登場するみたいですけど、もしキス島撤退作戦に登場しようもんなら絶好の狩り場になりそうですね。


 

 

 

 

「…とまぁ、前半部分はこんな感じだな」

 

 

海原の話を聞いていた吹雪たちは水を打ったように静まり返っていた。

 

 

「何て言うか、司令官って昔はクズだったのね」

 

 

その沈黙を破ったのは暁だった、開口一番に辛辣(しんらつ)な言葉を投げ掛けてくる。

 

 

『今から思えば返す言葉も無いな』

 

 

『し、司令官はクズなどではありません!確かにあの時は少しやさぐれてた時期もありましたけど、司令官は本当は優しくて思いやりのある人間なんです!』

 

 

「うわぁ…目の前の天使が眩しくて直視できない…」

 

 

尚も海原の弁明をする三日月を見て吹雪は目を細める、心が荒んでしまった自分には眩しく見えてしまう。

 

 

「でも、だったらなおのこと三日月たちが轟沈した理由が分からなくなったわ、司令官がクソクズから人並みに戻ったのならあんたが轟沈するような理由は無くなるわけだし」

 

 

『それは今から話す事を聞けば分かるさ』

 

 

 

そう言って海原は話の後半を語り出した。

 

 

 

鎮守府襲撃の翌日、建物の修理を担当する業者が室蘭に出入りするようになった、そして海原も予想していたことだが、大本営のトップである元帥…南雲が室蘭に様子を見に来ていた。

 

 

「まさか着任早々面倒事を起こすとはな、さすが主席(エリート)様はやることが違う」

 

 

南雲はイラついた感情を隠そうともせず海原に嫌みを言う、大方多額の建築費を費やして建てたばかりの鎮守府を一月かそこらで壊されたことが気に食わないのだろう。

 

 

「元帥殿にお褒めの言葉を頂けるとは、この海原、誠に光栄でございます」

 

 

しかし海原はそんな南雲の嫌みにも動じず、同じく嫌みで返す。

 

 

「チッ、ちょっと士官学校でいい成績をとったからって図に乗りやがって…」

 

 

南雲は忌々しげに吐き捨てると、海原の隣へ視線を移す。

 

 

「ところで、貴様の鎮守府では艦娘の(しつけ)もまともに出来ないのか?」

 

 

海原の視線の先には、それぞれカッターナイフやらハサミやらの刃物を持って南雲を睨みつけている三日月たちの姿があった。

 

 

「…これ以上司令官を侮辱するようであれば、たとえ元帥殿であろうと容赦はいたしません」

 

 

三日月は毅然とした態度で南雲に言った、夕月たちも同じ意見なのか、鋭い視線で南雲を睨む。

 

 

「…随分と病的に信頼されているようだな、どんなふうに(しつけ)ればこうなるのか」

 

 

南雲は三日月たちの態度にある種の気持ち悪さを感じつつ、修繕業者の所へと歩いていく。

 

 

「…流石に上官相手に得物を向けるのはいただけないと思うぞ」

 

 

海原がやや緊張した面もちで三日月に言う、もしかしたら本当に飛びかかるのでは、と肝を冷やした。

 

 

「うぅ…申し訳ありません、司令官を侮辱されてつい殺意が…」

 

 

「“つい”で殺意を湧かせるな」

 

 

「私としてはここで(はらわた)えぐり取って殺しても良かったんですけどね」

 

 

 

「うん、雪風はその物騒な発言を今すぐ止めようか」

 

 

 

こいつら将来的にヤンデレになったりしないよな?と今から不安になる海原だった。

 

 

鎮守府の修繕中も当然敵はやってくるので出撃任務は変わらずあった、しかし以前と比べて勝率は劇的に上がった、復讐の感情のみに捕らわれなくなった海原の心にも余裕が出て来て冷静な指揮が取れるようになり、かつて士官学校で“神童”と呼ばれるほどの類い希な艦隊指揮能力を思う存分発揮できるようになった。

 

 

「司令官!また無傷(ノーダメージ)で完全勝利です!」

 

 

帰投後、三日月たちが弾んだ声で提督室に入ってくる。

 

 

「そうか、流石は室蘭艦隊旗艦(リーダー)だな」

 

 

「い、いえ!これも司令官の作戦指揮のおかげです!私は何も…」

 

 

海原の言葉に三日月は恥ずかしそうに言った。

 

 

「おっ、早速見せ付けてくれるね~」

 

 

「三日月がうらやましいな」

 

 

「ぐむむ…正妻には敵いません…」

 

 

「雪風、いろいろおかしいよ…」

 

 

後ろでは夕月たちが羨望の、あるいは嫉妬の目でその様子を見ていた。

 

 

 

 

「…えっ?室蘭鎮守府(うち)の艦隊を大規模作戦に?」

 

 

室蘭鎮守府に大規模作戦への召集命令がかかったのは6月の末日の事だった。

 

 

『あぁ、沖ノ鳥島近海に出没している深海棲艦の主力艦隊を撃滅する作戦を開始する、室蘭の艦隊も参加してもらうぞ』

 

 

電話相手の鹿沼が淡々と要件を述べる、しかし海原は素直に首を縦に振ろうとは思わなかった。

 

「自慢ではないですが、我が艦隊は最も練度(レベル)が高い艦娘でも19ですよ?そのうえ改装も済ませていないのに、そんな部隊が参加して何のお役に立つんですか」

 

 

そう、三日月を筆頭とする室蘭艦隊は大規模作戦に参加するには練度(レベル)が足りていない、一番高くても三日月で練度(レベル)19、低いと夏潮で練度(レベル)10まで落ち込んでしまう。

 

 

『自惚れるな、大規模作戦と言っても主戦力鎮守府の艦隊が取りこぼした駆逐棲艦などの残党兵を狩るのが室蘭の役目だ、いきなり敵主力艦隊なんかと戦わせられるか』

 

 

鹿沼は窘めるように言うが、それでも不安は尽きない。

 

 

『言っておくが作戦決行は明日だ、迎えもすでに手配して向かわせている、拒否権は無いと思え、あと海原も一緒に来るように』

 

 

「…なぜ俺も同行を?」

 

 

『なに、主席(エリート)様の艦隊指揮をぜひ見てみたいと思ってね』

 

 

(…ようは見せ物にしたいって事か)

 

 

召集されるのは不満だが、三日月たちの様子を近くで見れるのであればプラスになるかな、と自分を納得させる。

 

 

「…分かりました、同行に同意します」

 

 

『お前が同意しようがしまいが来ることにはなるんだけどな、迎えは半日後くらいに行くから支度しとけ』

 

 

そう言って鹿沼は電話を切った。

 

 

「…とりあえずあいつらに伝えておくか」

 

 

そう言って海原は館内放送で三日月たちを呼び出した。

 

 

 

 

「大規模作戦…ですか?」

 

 

海原の説明を聞いて三日月は首を傾げる。

 

 

「どういうわけか室蘭にもお呼びがかかった、数時間もすれば迎えが来るらしい」

 

 

それを聞いた三日月たちはそれぞれ不安そうな表情を浮かべる。

 

 

「私たちでは露払いすら覚束ないというのに、上官殿は何を考えているのだろうか…」

 

練度(レベル)も低いし改装も済ませてない、そんな私たちが行っても足手まといになると思うんだけど…」

 

 

夕月と秋月がそれぞれ愚痴をこぼす。

 

 

「まぁ、俺の艦隊指揮を上官に見せつけたいって言ってたし、見せモンにでもしたいんじゃないか?」

 

 

それを聞くと、三日月たちの目からハイライトが消えていくのがありありと分かった。

 

 

「…上官殿にそこまで言われては、司令官の素晴らしさを身をもって教えて差し上げるのが部下の役目…ですよね?」

 

 

「そうだな、ここは大規模作戦に是非とも参加しなければ…」

 

 

「向こうに行くのが楽しみになってきちゃった」

 

 

「ねぇ、人って首ハネたらどんな顔した生首が出来るんだろうね」

 

 

「試してみよっか~」

 

 

三日月、夕月、秋月、雪風、夏潮がそれぞれ抑揚の無い声で譫言のように呟いていた。

 

 

(…なんか行かせちゃいけないような気がしてきた)

 

 

海原は今から心配になってきた。

 

 

 

 

その数時間後、室蘭一行を迎えに来た輸送機がグラウンドに到着する。

 

 

「海原司令官ですね、お迎えにあがりました」

 

 

「ご苦労様です」

 

 

輸送機のパイロットと海原は互いに敬礼をすると、輸送機に乗り込んでいく。

 

 

「飛行機って乗るの初めてだよ」

 

 

「緊張しちゃうな~」

 

 

秋月と夏潮が座席の上ではしゃぐのを見て海原が揺らすなよ~、と注意を入れる。

 

 

そんな6人を乗せた輸送機は室蘭鎮守府から離陸した。

 

 

…このフライトが三日月たちにとって地獄への片道切符になるとは、この時誰も予想していなかった。




ちなみにアーケード版で戦ってみたい敵は…

・PT小鬼群
・集積地棲姫
・ナガラ級mist

…こんな感じですかね、ブラウザー版やってみてええぇぇ!


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第39話「三日月の場合24」

艦これアーケードで沖ノ島海域(2-4)クリアしました!

ただし上2体の戦艦棲艦は夜戦込みでも落としきれなかった模様、夜戦の駆逐艦6体一斉砲撃でも倒せないとかどんだけ堅いんだflagship!


 

 

室蘭を発ってから4時間、海原たちを乗せた輸送機は大本営の発着場に着く。

 

 

「…ここに来るのも任命式以来だな」

 

 

たしか室蘭行きが決まって南雲に猛抗議したっけ、と当時を思い出す。

 

 

「ううぅ…」

 

 

「気持ち悪い…」

 

 

一方三日月たちは慣れない輸送機に長時間乗ったせいで酔ってしまい、完全に疲労困憊(グロッキー)状態だった。

 

 

 

「室蘭鎮守府司令官の海原です、大規模作戦への参加命令を受け馳せ参じました」

 

 

海原は大本営本館の入り口で受付をしている役員に挨拶をしている。

 

 

「…はい、確認いたしました、中へどうぞ」

 

 

受付を済ませた海原はすでに死にかけている部下を連れて本館へ入る。

 

「第1会議室だから…ここだな」

 

 

指定された部屋に入ると、すでに他の鎮守府の提督と艦娘が席に着いていた。

 

 

(呼ばれた司令官は俺だけじゃなかったのか)

 

 

海原は後ろの方にあった空席に三日月たちを座らせる、5席しか空きが無かったので海原は立っていることにした。

 

 

「司令官を立たせるなんていけません、私の席へどうぞ」

 

 

「いいっていいって、ずーっと長話聞かされるんだ、疲れるだろ」

 

 

 

三日月が自分の席を譲ろうとしたが、別に疲れるわけでもないので座るように言う。

 

 

 

「…すみません」

 

 

三日月が申し訳無さそうに席に座り直す。

 

 

(今まであまり意識してなかったけど、三日月って結構気遣いとか出来るやつなんだな)

 

 

デートとかに行ったら逆にエスコートされてしまうかもしれない、などと海原はのんきに考える。

 

 

海原の入室から10分後、会議室の扉が開いて南雲元帥と鹿沼が入ってくる。

 

 

「元帥の南雲だ、今日は集まってくれて感謝する、早速だが作戦の概要を説明させてもらう」

 

そう言うと南雲は黒板にチョークを走らせながら今作戦の内容を説明する。

 

 

「今回の作戦の舞台となるのは大平洋上に位置する沖ノ鳥島だ、この島を狙って深海棲艦が度々出没しているという報告が今年に入って20件を越えている、島民への被害は今の所報告されていないが、敵の強さも日に日に増してきており駐屯基地の警備艦隊だけでは限界があると判断した、よって各鎮守府の精鋭艦隊で構成する“特別連合艦隊”で敵の大本を叩く!これが今作戦の目的だ」

 

 

南雲は一息で作戦内容を説明した、心の中ではドヤ顔とかしてるんだろうか、と考えずにはいられない海原だった。

 

 

「なるほどな…これは腕が鳴る」

 

「ウチの戦力を上に見せつけるチャンスがやってきたな…」

 

 

「うまくやれば昇進出来るかも…」

 

 

説明を聞いた周りの提督たちはこそこそと自らの思惑を呟く、どうやらこの作戦を出世の足掛かりとしか考えていないようだ。

 

 

(本来は現地の島民を守る作戦なのにな、目先の利益にばかり気を向けてたら勝てる戦いも勝てないぜ)

 

海原はそうこっそり周りの提督に忠告しておく、面倒事になりそうなので口にはださなかったが。

 

 

 

 

作戦内容の説明が済んだ後、特別連合艦隊のメンバーが発表された。

 

○第1艦隊

・戦艦 陸奥

・戦艦 長門

・戦艦 金剛

・空母 信濃

・重巡 ザラ

・軽巡 長良

 

○第2艦隊

・戦艦 リットリオ

・戦艦 アイオワ

・戦艦 紀伊

・軽母 龍驤

・駆逐 夕立

・駆逐 神風

 

○第3艦隊

・空母 ヨークタウン

・軽母 瑞鳳

・軽巡 神通

・軽巡 天龍

・駆逐 睦月

・駆逐 皐月

 

○別動隊

・駆逐 三日月

・駆逐 雪風

・駆逐 夕月

・駆逐 夏潮

・駆逐 秋月

 

 

 

「…このメンバーで出撃してもらう」

 

 

「はい質問」

 

 

南雲が締めに入ろうとしたところで海原が手を上げる。

 

 

「…何だ、室蘭の海原」

 

 

「うちの艦隊が全員別動隊ってのに振り分けられてるんですが、これは?」

 

 

「追って説明する、今は話を聞いていろ」

 

 

海原の質問はあっさりと流されてしまった。

 

 

その後は細々とした説明などがなされて説明会は終了となり、編成表どおりに艦娘たちが集まり始めている。

 

 

「別動隊って何やりゃいいんだよ…」

 

 

追って説明すると言っておきながら結局何の説明も無く説明会が終わってしまったのでどうすればいいのか全くわからない海原。

 

 

『元帥の南雲より通達する、連合艦隊の編成が終わったら全員講堂に集合するように、繰り返す…』

 

 

すると、南雲から連合艦隊に向けて館内放送が入る。

 

 

「…行くか」

ぞろぞろと講堂へ向かっていく艦娘たちの後ろを室蘭はついて行った。

 

 

 

 

 

「それではこれより艦隊の配置を伝える」

 

 

講堂には南雲と鹿沼が待機しており、プロジェクターの映像を差し棒であちこちつついている。

 

 

「第1艦隊と第2艦隊は深海棲艦の根城になっていると思われるこの無人島への攻撃を、第3艦隊は沖ノ鳥島本島の警護だ、そして別動隊には巨人の剛腕(タイタン・アームズ)の見張りをしてもらう」

 

 

巨人の剛腕(タイタン・アームズ)?何でまたあんなモンの見張りを?」

 

 

「もし本土付近で戦闘になるような事があったら損傷する可能性があるからな、念のためだ、言っただろう?別動隊だと」

 

 

(…こりゃ相当暇な任務になりそうだな)

 

 

説明を聞いて複雑な気分の海原だった。




大規模作戦はこんな流れが通例のようです。

ちなみにアーケードでモーレイ海(3-1)もクリアしたんですけど、ボス戦のみでクリアというブラウザー版の理想型みたいな勝ち方でした。


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第40話「三日月の場合25」

Android版のリリースが待ち遠しい今日のこの頃。

アルペジオコラボの動画この前見たんですけど、火力100オーバーの潜水艦がビームで全体攻撃とか…


『沖ノ鳥島』

 

 

住所で言うなら東京都小笠原、場所で言うなら大平洋に位置するそれは日本領土最南端の場所だ、しかしこの島は他の島々とは違う所がある、沖ノ鳥島は人工浮遊島(メガフロート)で造られた人工島なのだ。

 

 

一昔前は大きな岩山のような無人島…といった島であったが、近年になって人工浮遊島(メガフロート)の技術を使った国土拡張計画が活発化していき、その先駆けとなったのが“沖ノ鳥島人工島化計画”だ。

 

 

島自体は1km四方の人工浮遊島(メガフロート)を無数につなぎ合わせて巨大な人工島を作り出しており人口は2500人ほど、そしてその島々の連結、及びけん引を担っているのが“巨人の剛腕(タイタン・アームズ)”と呼ばれる極太のケーブルだ、本島と近くの島とで繋がっており沖ノ鳥島が分解したり流されたりするのを防ぐ役割を持ち、それが人工浮遊島(メガフロート)の周りに6本ある。

 

 

「…で、今回私たちが警護するのがコレ…と」

 

 

三日月は巨人の剛腕(タイタン・アームズ)を見て息をのむ、ケーブルの直径は10mちょっと、しかしそれは細いケーブルが幾重にも絡み合ってこの太さになっている、それを覆うカバーは衝撃を吸収する特別な作りになっていてちょっとやそっとの波ではびくともしない。

 

 

「大きいな、人工浮遊島(メガフロート)を支えてるだけのことはある」

 

 

「今回はこれを守るだけの任務なんでしょ?簡単じゃん」

 

 

「油断しちゃだめだよ、敵艦が湧いて出てくるかもなんだし」

 

 

夕月たちが口々に言う、ケーブルの長さはそれぞれ500m~1kmほど、あまり目立たないように半分が海水に浸かっているとはいえ敵艦の標的になる可能性だって十二分にある。

 

 

「それはいいけど、なんか暇だね」

 

 

おそらくここにいる全員が感じているであろう事を遠慮なしで口に出す秋月、なにせ早朝から出撃してケーブル付近を航行しながら見回っているが、どの巨人の剛腕(タイタン・アームズ)も何も起こっていない、いや、本当なら起こらない方がいいのだが、こうも何もないとどうしても暇を感じてしまう。

 

 

『暇なのは平和な証拠だろ、別になんも悪い事じゃねーよ』

 

 

海原がインカム越しに言う、今回の出撃では全員に通信用のインカムを持たせている。

 

 

「確かにそうなんだけど…っていうか提督こそ大丈夫なの?男所帯でムサくない?」

 

 

『それに関しては大丈夫だ、だが秋月、お前のいうムサい連中もお前の声を聞いているのを忘れてないか?』

 

 

「…あ」

 

 

秋月は顔を青ざめさせてカタカタと震えだす、完全に忘れてたようだ。

 

 

「し、失礼しました!続けて警護任務にあたります!」

 

 

本人もいないのに秋月はその場で敬礼していた。

 

 

 

 

「ったく、秋月のやつ、いちいち変なこと口走りやがって」

 

 

海原はため息をついて机に頬杖をつく。

 

 

「お前の所の艦娘は礼儀ってモンを知らねぇみてぇだな」

 

 

そう言って海原に嫌みを言うのは呉鎮守府の提督をしている川原木秀平(かわらぎ しゅうへい)、まだ30代という若さで呉の艦隊運用を任されている優秀な人間だ。

 

 

「特にそういったことは教えてないですからね、うちみたいな辺境の鎮守府にお呼びがかかるなんて夢にも思ってませんでしたし」

 

 

「よくそんな事をぬけぬけと…」

 

 

川原木は不機嫌そうに吐き捨てる、ちなみに海原たちがいるのは大本営の中央作戦司令室だ、現在この中で元帥を含む召集された提督たちが各艦娘に指示を出している。

 

 

「第1、第2艦隊の様子はどうだ?」

 

 

「現在敵主力艦隊との交戦を開始しました、今の所甚大な被害は報告されていません」

 

 

佐世保鎮守府の提督の奥村裕貴(おくむら ゆうき)は第1艦隊と第2艦隊の様子を見て南雲に言う。

 

 

 

「第3艦隊は?」

 

 

「こちらも特に異常は報告されていません」

 

 

大湊鎮守府の提督の荻波秀典(おぎなみ ひでのり)も異常が無いことを南雲に報告する。

 

「分かった、何か異常が報告されたらすぐに知らせてくれ」

 

 

「「了解!」」

 

 

提督たちはそれぞれの持ち場で任務を再開した。

 

 

「しっかし、カメラ付きの艤装とはまたハイテクなモンを考えついたな…」

 

 

海原はモニターに映る戦闘中の映像を見て言う、今回作戦に参加する艦娘の艤装にはカメラが取り付けられている、コレは艤装のオプションパーツの一つで市販のビデオカメラよりもかなり性能がいい。

 

 

「艤装のオプションパーツは前からあったろ、何を今更」

 

 

「そうは言われても俺最近着任したばかりだし…」

 

 

などとのんきに会話をしていたまさにその時…

 

 

『別動隊三日月より報告!巨人の剛腕(タイタン・アームズ)第3ケーブル付近に敵艦隊の存在を確認!その数6体!』

 

 

三日月の報告に中央作戦司令室は緊張に包まれた。

 

 

 

 

「な…何コレ…」

 

 

三日月は目の前の敵艦隊を見て戦慄していた。

 

 

◎戦艦棲艦×4

 

○空母棲艦×2

 

 

というガチも甚だしい編成だった。

 

 

「マズいぞ!全員第3ケーブルに集結!三日月の援護に入れ!」

 

 

夕月がインカムで秋月たちに呼び掛ける、今は見回りの効率を考えてそれぞれのケーブルを1体ずつで見ていたのでバラバラになっているのだ

 

 

「「了解!」」

 

 

それを受けて夏潮、秋月、雪風は三日月のいる第3ケーブルへと全速力で向かう。

 

 

 

 

一方その頃、中央作戦司令室では巨人の剛腕(タイタン・アームズ)の敵艦隊をどうするかで大騒ぎになっていた。

 

 

「すぐに支援部隊を第3ケーブルへ送るべきだ!」

 

 

「バカ言え!第1、第2艦隊は交戦中だぞ!」

 

 

「本島に第3艦隊がいるだろう!あいつらならケーブルから一番近い!」

 

 

「そんな事をしたら本島の守りが手薄になる!本土から増援の艦隊を呼ぶべきだ!」

 

 

「何分掛かると思っている!」

あちこちで怒号が飛び交い、あーでもないこーでもないと叫びあっている。

 

 

「第3艦隊を巨人の剛腕(タイタン・アームズ)へと向かわせろ、それと入れ替わりで別動隊を本島へ撤退だ!」

 

 

南雲が提督たちへ指示を出す、それを聞いた荻波と海原が第3艦隊と別動隊にそれぞれ指示を出す。

 

 

『司令官殿、支援部隊は助かるのだが…もう一つ別の問題が浮かんだ』

 

 

「…別の問題?」

 

 

夕月の言葉に海原はイヤな予感しかしなかった。

 

 

『…第4と第2ケーブルに新手の潜水棲艦が多数出現、三日月のもとへ向かうのが困難です…』

 

 

それを聞き、中央作戦司令室に絶望の空気が漂い始めた。




三日月編が終わったらちょっとした日常編を入れてみようかな~、と計画中。

ほのぼのとした要素はいるよね、いるに違いない(断言)。


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第41話「三日月の場合26」

火事場の馬鹿力というのは今回の三日月のためにあるような言葉なんじゃないか、と思ってしまいました。



ヨークタウン型航空母艦1番艦のヨークタウンは随伴艦の艦娘を引き連れて巨人の剛腕(タイタン・アームズ)へと向かっていた。

 

 

「お願い…!間に合って!」

 

 

祈る気持ちでケーブルに沿って航行していくが、ここは深海棲艦が出現していない第6ケーブルだ、敵艦隊がいる第3ケーブルへ行くには迂回をしなければいけない。

 

 

「ヨークタウンさん!あまり早く行くと危ないですよ!」

 

 

随伴艦の天龍が速度を落とすように言うが、ヨークタウンにはそんな余裕などなかった。

 

 

『別動隊が戦艦、空母を含む強力な敵艦隊の襲撃を受けている、孤立している艦娘もいるので応援に向かってくれ、合流し次第別動隊は撤退させる』

 

 

そんな通信が入ったのがつい1~2分ほど前のこと、作戦会議では別動隊は全て駆逐艦での編成だった、そんなメンツが戦艦、空母クラスの艦隊と戦っても結果は目に見えている。

 

 

(早く…!早く助けに行かなくちゃ!)

 

 

だからこそヨークタウンは急いでいた、早く行かなければ別動隊の艦娘たちが轟沈してしまうかもしれない、時間が取れずほとんど会話もしていない艦娘だが、共に作戦を遂行する仲間である事には違いないのだ。

 

 

仲間を見殺しにすることだけは、このヨークタウンのプライドにかけて許さない、その一心で彼女は進んでいく。

 

 

 

 

時は少しだけ遡り、大本営中央作戦司令室。

 

 

「今すぐの撤退を認めないとは、どういう事ですか!」

 

 

海原はドン!と机を叩いて南雲に抗議する。

 

 

「現在別動隊と敵艦隊は本島から830m地点で戦っている、別動隊が撤退すれば敵艦隊もそれを追ってくるだろう、そうなればただでさえ本島から近い場所にいる敵艦隊をさらに本島に近付けることになってしまう」

 

 

「なら、向かっている第3艦隊と途中ですれ違うようにして撤退させれば…!」

 

 

「言っただろう!これ以上敵艦隊を本島へ近付けてはならないと!近付かれた上に戦闘など挟めば本島にも被害が及ぶ、それがなぜ分からん!」

 

 

「なら!別動隊は、三日月たちはどうするんですか!迂回中の第3艦隊が到着するまでどうやっても5分はかかります!ほとんど孤立同然の三日月たちでは到底太刀打ち出来ません!」

 

 

南雲と海原の言い合いは次第にヒートアップしていき、周りの提督たちはそれを見ていることしか出来なかった、間に割ってはいる勇気など持ち合わせてはいなかった。

 

 

「…撤退命令を出すなら好きにすればいい、島民2000人あまりの命を危険に晒してもいいのであればな」

 

 

「っ!?それは…」

 

 

南雲に言われ海原はぐうの音も出なかった、三日月たちの命と島民の命、海原はそれを今天秤にかけているのだ。

 

 

「駆逐艦如きの命で島民を守れるのであれば安い犠牲だろう?、なんなら造船所に取り合って()()()()の艦娘を無償で建造してやってもいいぞ?」

 

 

「テメェ!」

 

 

海原は相手が上官であることも忘れ南雲につかみかかる、ちょっと前の自分なら今の南雲の言葉に同意していただろうが、今は違う。

 

 

「あいつらは、俺の部下で、仲間で、家族だ!それ以上三日月を侮辱するんじゃねぇ!」

 

 

血走った眼で睨みつけられているのにも関わらず、南雲はとても落ち着いていた、その様子はまるで聞き飽きた子供の駄々を流す親のようであった。

 

 

「ふん、()()か、艦娘に情を持ちすぎるなと士官学校で散々言われなかったか?」

 

 

「生憎俺は主席(エリート)なんでね、教科書(セオリー)通りにするのは大嫌いなんだよ」

 

 

「…言ってろ、ただし撤退は認めん、これは命令だ」

 

 

「…くそっ!」

 

 

海原は乱暴に椅子に座ると、三日月が持っているインカムの無線回線にアクセスする。

 

 

「三日月、すまないが第3艦隊が来るまで撤退は認められない、このまま時間稼ぎを続けてくれ」

 

 

『…司令官のご命令であれば従いますが、今の状況は小破の私と潜水棲艦のバリケードを突破して中破した夕月、秋月、そして大破した夏潮、雪風です、長くは持ちません、最悪の場合…轟沈の可能性も視野に入るかと』

 

 

「大丈夫だ、絶対にお前らを沈めさせたりなんかしない、第3艦隊はすぐに来るから…俺を信じてくれ」

 

 

嘘だ、このまま戦闘を続ければ轟沈は絶対に免れない、たとえ第3艦隊が間に合っても生きて帰れる確率は低いと言わざるを得ないだろう。

 

 

『…何を仰るんですか司令官、私たちは司令官の艦娘で、部下で、家族です、たとえ何があろうと、私たちの司令官(おや)は海原司令官です、この命尽きるまで信じ続けます』

 

 

『三日月の言うとおりだ、司令官殿の言葉なら、どんな奇想天外な言葉だろうと信じます、貴方はそれに値するお人です』

 

 

『そうそう、提督は私たちを信じてどーんと構えてよ!』

 

 

『そうです!私たちは司令官を信じます、だから私たちのことも信じてください!』

 

 

『絶対に提督の所へ帰る事を約束します、安心してください』

 

 

「………」

 

 

海原は泣いていた、家族を死地へ追いやるような親を信じてくれる、我慢など出来るわけがなかった。

 

 

『それじゃあ、全員突撃!』

 

 

『『おおおおぉぉ!!!!!!』』

 

 

それを最後に通信は途絶え、耳障りなノイズだけがスピーカーから流れる。

 

 

「…もしもの事があったら俺がお前の弁護をしよう、せめてもの償いだ」

 

 

南雲はそれだけ言うと奥の部屋へ消えていった。

 

 

「……………………」

 

 

海原は何も言わず、ただ三日月たちの無事を祈って涙を流していた。

 

 

 

 

そして現在、敵艦との戦闘から7分近くが経っているが支援艦隊が来る気配はない、三日月の被害はどんどん拡大していき、とうとう恐れていた最悪の事態が起きてしまった。

 

「…ははは、どうやら私はここまでのようだ…」

 

 

夕月は身体の半分ほどを海水に浸からせながら言った、主砲は完全に破壊され使用不可、左足は敵艦に持って行かれ立ち上がることすら出来ない、そして何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

 

三日月の頭は真っ白になっていた、今まで寝食を共にし、同じ戦場を戦い抜いた仲間が目の前で息絶えようとしている、目の前の光景が現実のモノなのか、三日月は自問自答を繰り返している。

 

 

「そんな顔をするな、司令官殿の所に帰ることが出来なくなってしまったのが心残りだが、せめて…お前だけでも……」

 

 

行くな、三日月は夕月に手を伸ばしたが、それが彼女に届くことはなく、ひどくあっさりと海の中へ吸い込まれていった。

 

 

「夕月!夕月いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

 

 

三日月は海面に向かって夕月の名前を叫ぶが、当然返事は返ってこなかった。

 

 

(こんな所で固まってたらダメ…!早く戦闘を再開しないと!雪風たちだってまだ戦ってるのに…!)

 

三日月はそう自分を奮い立たせて立ち上がる。

 

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「っ!?雪風!?」

 

 

雪風の悲鳴が聞こえ、慌てて声のする方を向いた。

 

 

 

「……へ?」

 

 

そこには、敵空母の空撃を受け、身体が()()()()になって吹き飛ばされる雪風が見えた。

 

 

「ゆ、雪風ェ!」

 

 

敵の攻撃などお構いなしに駆け出した三日月は雪風の()()()を抱き留める。

 

 

「み、三日月…ごめん……やられちゃった………」

 

 

「な、何で雪風が謝るのよ!あなたのせいじゃ…」

 

 

「ごめんね…今まで黙ってたけど、私司令官の事が好きなんだ…」

 

 

「…何よそれ、今はそんな事どうでも…」

 

 

「三日月だって司令官の事好きでしょ?知ってたよ」

 

 

「それは…」

 

 

「本当はこの作戦が終わったら告白でもしてみようかな~、なんて考えてたんだけど、告白権は三日月にあげる事になりそうだね」

 

 

「やめてよ!そんな事言わないでよ!」

 

 

「本当にごめんね…私は先に逝くけど、司令官を……よろ……し…」

 

雪風はそのセリフを言い終える事なく、眠るように息を引き取った。

 

 

「雪風!雪風!」

 

「三日月!気をしっかり持って!」

 

 

「悲しむのは後にしよう!」

 

 

三日月の前に立ち、守るように砲を構える秋月と夏潮、今は戦わなくてはいけない、支援艦隊が到着するまでは何が何でも持ちこたえなければ…。

 

 

「はぁっ!」

 

 

秋月が主砲を撃って戦艦棲艦を砲撃するが、大破になって満足なパフォーマンスが出来ないのでダメージは無いに等しかった。

 

 

 

秋月と夏潮は続けて攻撃をしようとしたが、最悪のタイミングで弾切れを起こしてしまった。

 

 

 

「なら…!」

 

 

 

2体は雷撃戦に切り替えようとしたが、戦艦棲艦が4体同時に砲撃を仕掛けてきた。

 

 

「マズい…!」

 

 

今かわしたら三日月に砲弾が当たってしまう、しかし三日月を引っ張ってかわすだけの力は残っていなかった。

 

 

「…夏潮」

 

 

「…うん」

 

 

秋月と夏潮は何かを決意したように頷くと、最後の力を振り絞って三日月を後方へ思い切り突き飛ばした。

 

 

「っ!?何を…!」

 

 

そう問いただそうとしたが、その瞬間に激しい爆発音と閃光が発生して三日月は思わず目を瞑ってしまう、その直後にべちゃっとした粘着質な音と共に何かが自分に降りかかる。

 

 

「何が…?」

 

 

三日月は自分にかかったモノを手に絡ませる、それはドロッとした液体であり、赤色と緑色が混ざった色をしていた。

 

 

そしてその液体の中には、秋月たちが着ていた服の切れ端や肢体などが所々紛れていた。

 

 

「…あ……ああぁぁ…」

 

 

それを見た三日月は察してしまった、2体は三日月を助けるために自らの命を差し出し盾になったのだ、そしてこの液体は、艦娘()()()秋月たちだ。

 

 

 

「………」

 

 

三日月は雪風の上半身を海へ沈めると、秋月たちの液体を垂らしながらゆっくり立ち上がる、ついに自分だけになってしまった、どうすればいい?ドウスレバ…?。

 

 

「ははは…」

 

 

こうしているうちに敵の攻撃は自分に当たり続けて肉や骨を抉っていくが、痛みも何も感じない。

 

 

「あはははははははははハハハハハハハハははははははははははははははははははははハハはははははハハハハハハハハハハハはハはハはハはハはハはハはハはハはハはハ!!!!!!!!」

 

 

 

突然狂ったように笑い出す三日月に敵艦が一瞬怯む。

 

 

 

どうすればいいのか?簡単だ、敵を倒せばいい、どうヤッテ?知るモンか、とにかく殺せばイイ、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス…

 

 

 

 

 

「コロス!」

 

 

 

三日月は主砲を構えて最大速力で敵艦に突撃する、スピードを上げすぎて艤装が悲鳴を上げるが構いはしない。

 

 

戦艦棲艦や空母棲艦が砲撃や空撃を飛ばしてくるが、それを間一髪のタイミングでかわす、途中で右の耳が抉れてしまったが気にしない、まだもうヒトツ残っテルからネ。

 

 

三日月は戦艦棲艦の身体に肉薄し、そのまま飛び乗って肩に着地する、そして…

 

 

「シネ」

 

 

 

 

戦艦棲艦の口に主砲を突っ込み、頭部ごと吹き飛ばした。

 

 

 

「きゃはははははははhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!」

 

 

 

 

それからは文字通りの地獄絵図だった、敵艦の頭を潰し、ハラワタを引き裂き、肉を喰い千切り、狂った艦娘はその欲望のままに行動する。

 

 

「コロス…コロス…コロス…」

 

 

三日月はニタァ…と不気味な笑みを浮かべながら残りの敵艦に近づいていく、すでに三日月は左手を失い右の脇腹には大穴を空けているが、尚も止まることはない。

 

 

「コロス……コロ……ス………コ………………ロ……………………」

 

 

しかしこれだけのダメージを受けて生きていられるわけもなく、とうとう三日月は活動限界を迎えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ア……アァ……」

 

 

 

その身体はどんどんと海中へと沈み込んでいく、その時ヨークタウン含む支援艦隊がやって来るのが見えたが一足遅かった、ヨークタウンは絶望的な顔でこちらに近づいて手を伸ばしたが、それより早く体全体が海の中へと吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官……支援艦隊が来るまで、耐え抜いて見せました、ですが申し訳ありません……あなたのもとへは……帰れそうにありません…………

 

 

 

 

 

 

三日月はそのまま水底に吸い込まれ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、第3艦隊の奮闘により巨人の剛腕(タイタン・アームズ)の敵艦隊を撃破する事に成功した。

 

 

 

「こちらヨークタウン、敵艦隊の撃破に成功しました、ですが……別動隊の救助に失敗…轟沈してしまいました…」

 

 

ヨークタウンは泣きじゃくりながら報告の通信を入れた。




轟沈シーンは自分のイメージで書いたので普通に戦死するような感じになってしまいました。


あとヨークタウンの容姿に関する描写が全くなくてすみません(汗


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第42話「三日月の場合27」

今回は少し短めです。

イケメンな海原をいつか書いてみたいなぁ。


ヨークタウンの報告を聞いた海原は放心状態で力なく椅子に崩れ落ちた、三日月たちが轟沈()んだ、その現実は海原にとって何よりも重くのし掛かる。

 

 

「…元帥、第1艦隊、第2艦隊から報告です、敵主力艦隊の撃破に成功したとの事で…」

 

 

奥村がその中で申しわけなさそうに南雲に報告する。

 

 

 

「分かった、第1艦隊、第2艦隊は帰投し次第入居するように伝えてくれ、第3艦隊も帰投するように指示を」

 

 

南雲は淡々と部下たちに指示を出す、たった今艦娘が轟沈したとは思えない落ち着きぶりだ。

 

 

「…いつまでそうして腐っている、艦娘の帰投準備に入るぞ、早く動かんか」

 

 

南雲はいまだ放心状態の海原をたしなめる。

 

 

「…はい」

 

 

悲しむのは後からでも出来る、とりあえず今は、動くか…。

 

 

何かしら働いて気を紛らわせないと、自分が壊れてしまいそうだった。

 

 

 

 

それから1時間後、第1から第3艦隊が全て帰投した、大本営に併設されたドックやら補給施設やらは帰投した18体の艦娘の世話ですったもんだしていた。

 

 

「ふぅ、ようやく一息つける」

 

 

あらかたの作業の手伝いが終わった海原は休憩がてら大本営の中庭を訪れる、気付けば夜になっていて辺りは静かだった。

 

 

「ん?」

 

 

すると、中庭に設置されているベンチに艦娘が座っていることに気づく。

 

 

腰まで届く長い銀色の髪に黒い軍服を着ている、正規空母のヨークタウンだ。

 

 

(たしか三日月たちを助けるために色々頑張ってくれてたんだよな)

 

 

お礼を言っておかないとな、と思っていたので海原はヨークタウンへ近付く。

 

 

「こんばんは」

 

 

海原が声をかけるとヨークタウンがこちらを向く、すらりと整った顔立ちをしており“美人”の部類に入るだろうが、その目は泣きはらしたのか赤く腫れぼったくなっている。

 

 

「っ!失礼しました!お疲れさまです!」

 

 

ヨークタウンは海原が司令官と分かると勢いよく立ち上がって敬礼する。

 

 

「いやいや、かしこまらなくていいよ、座って座って」

 

 

海原の言葉にヨークタウンはすみません…と申しわけなさそうに言うと再びベンチへ腰を下ろす、隣いい?と海原が聞くとヨークタウンは頷いたので海原も座る。

 

「今日は色々頑張ってくれたみたいだな、お疲れさん」

 

 

「…いえ、私は何も…出来ませんでした…」

 

 

ヨークタウンは俯きながら掠れるような声で言った、今日のことを気にしてるようだ。

 

 

「そんなこと無いさ、お前たち艦娘のおかげで敵主力艦隊を撃破出来たんだ、それは誇れる事だぜ」

 

 

「……」

 

 

海原がそう言うと、ヨークタウンは声を押し殺して泣き始めた、何か気に障ることを言っただろうか?。

 

 

「…違うんです…!私が、私がもっと早くたどり着けていれば…!あの子たちは…!」

 

 

「…例の別動隊の事か?」

 

 

ヨークタウンはコクリと頷いた。

 

 

(その艦娘が俺の部下って言ったら変に責任感じさせちまうかな…)

 

 

ヨークタウンの様子を見て海原は迷う、ここで彼女の責任感を煽るようなマネをしていいものか…と。

 

 

(いや、ここはハッキリ伝えた方がいいよな…)

 

彼女をいつまでも悲しませていてはいけない、海原はそう強く思った。

 

 

 

「…ヨークタウン」

 

 

「はい?」

 

 

海原はスッとベンチから立ち上がるとヨークタウンの前に立つ、怪訝そうな顔をしているが、それに構わず海原は頭を下げる。

 

 

「ありがとう、俺の部下の…仲間のことをそこまで思ってくれて」

 

 

「…へっ?俺の…?」

 

 

それを聞いてヨークタウンは察した、あのとき自分が助けられなかった艦娘は、この人の部下なのだと。

 

 

「あの艦娘は俺の所属する室蘭鎮守府の艦娘なんだ、今日はあいつらのために頑張ってくれてありがとう」

 

 

そういうと海原はもう一度頭を下げた、それを見たヨークタウンは再びボロボロと涙を流す。

 

 

「申し訳ありません…!私の、私のせいであなたの部下を…轟沈(ころ)してしまいました、本当に申し訳ありません!」

 

 

そう言うヨークタウンはどこか怯えたような目をしていた、海原に糾弾されると思っているのだろうか?もっとも海原にそんな気は毛頭無いが。

 

 

「何を言うんだ、お前が責任を感じる必要は全くないし、俺もお前を責めるつもりは全くない、むしろ俺の部下のために涙を流してくれる事に感謝してるくらいだ」

 

 

海原はそう言ってヨークタウンの頭を撫でる、これはよく三日月たちにしていた事なのだが、少し馴れ馴れしかっただろうか…。

 

 

「…ありがとう、ありがとうございます…!」

 

 

しかしヨークタウンは嫌がる様子は見せず、そのまま海原に撫でられながら涙を流していた。

 

 

(こんなに悲しんでくれるやつがいるんだから、あいつらは幸せ者だな)

 

 

もし生きていたら見せてやりたかったな、そんな事を考えながら彼女の頭を撫でていた。

 

 

 

 

「見苦しい所を見せてしまってすみません、それと、ありがとうございます」

 

 

その5分後、落ち着いたヨークタウンが顔を赤らめて海原に頭を下げた。

 

 

「気にすんなって、でも、今回の事でお前たち第3艦隊が責任を感じる必要は本当にない、むしろ艦娘として敵艦を倒す任務を全うできたことを誇りに思え、もし第3艦隊の中で責任を感じている艦娘がいたら、そう言ってやってくれ」

 

 

「…あなたは優しいんですね、ついつい甘えてしまいそうです」

 

 

「なんならいつでも甘えに来ていいぞ、俺が究極の癒やしを提供してやる」

 

 

「ふふっ、それは是非ともお願いしたいですね」

 

 

海原の冗談混じりの言葉にヨークタウンはクスクスと笑う。

 

 

「では私はこれで、本当にありがとうございました」

 

 

「あぁ、元気出していけよ!」

 

 

海原はヨークタウンが本館に入っていくまでその後ろ姿を見ていた。

 

 

「…さてと、あいつらがいなくなったのは悲しいけど、あんなに悲しんでくれるやつだっているんだ、俺も前に進まないとな」

 

 

そう言って自分の頬をパチッと叩くと、海原も本館へ戻っていく。




次回か次々回で過去編は終わる予定です。

ぶっちゃけここまで読んで吹雪たちの事忘れてる人いそうだなぁ…


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第43話「三日月の場合28」

全部書こうとしたんですけど長くなりすぎると思ったので分けます。

上げて落とすのはクズの常套手段。


 

あの大規模作戦から3日後、海原は再び大本営を訪れていた、三日月を含む5体の艦娘を轟沈させてしまった事に対して、海原の処遇を決める軍法会議が行われるのである。

 

 

(南雲元帥は俺の弁護をするって言ってたけど、元帥って裁判長みたいな立場だろ?どうやって俺の弁護をするんだ…?)

 

 

考えながら海原は大本営の廊下を歩く、まさか代理で弁護人でも立てるのだろうか?。

 

 

(どうでもいいけど無駄に緊張するな、今回の結果で俺の今後が決まるわけだし…)

 

 

良くて降格、悪くて除隊といったところだろう。

 

 

(っと、ここか)

 

 

軍法会議が行われる大会議室の扉の前で海原は生唾を飲んだ。

 

 

(ここでクヨクヨしてもしょうがねぇ、行ってやるか!)

 

 

腹をくくった海原は大会議室の扉を開けた。

 

 

 

「…来たな」

 

 

扉をくぐって中に入ると、室内は重々しい雰囲気に包まれていた。

 

 

長机が『コ』の字のように設置され、その中央に南雲が、周りに幹部連中や他の鎮守府の提督が座っている。

 

 

「それではこれより、海原司令官の軍法会議を始める、海原司令官、前へ」

 

 

「はい」

 

 

海原は言われたとおり前へ出る、後ろを除けば前も左右も提督たちの視線を感じる、普段こういった事には慣れていないため余計に緊張する。

 

 

「それではまず、今回取り決めるのは室蘭鎮守府所属の駆逐艦娘5体を轟沈させた事に対する処罰だ」

 

 

司会進行役の鹿沼が事前にタイピングしてある原稿を読み上げる。

 

 

「それに関してはオレから話そう」

 

 

南雲がそう言うと席を立つ、海原の弁護をしてくれるのは本当らしい。

 

 

(元帥が弁護してくれても、艦娘轟沈の罪は重い、ましてや5体ともなれば降格は免れないよなぁ…)

 

 

せっかく三日月たちに心を洗われたのに、これではかなりマイナスからのスタートとなりそうだ、海原はそう考えながら南雲の言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の件は全て海原司令官の判断によるもので、オレを含む大規模作戦参加組は一切関わっていない」

 

 

「…へ」

 

 

海原は自分の耳を疑った、今南雲は何と言った?全て俺の判断…?。

 

 

「俺は別動隊を撤退させる方に賛成したのだが、海原司令官が“自分の艦隊に任せて欲しい”と自信を持って宣言したので、オレはその意志を汲む事にしたのだ」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

先程から事実とは全く違う事を言っている南雲につっかかる。

 

 

「元帥!話が違うじゃないですか!俺を弁護するんじゃなかったんですか!?」

 

 

「…何の話をしている?俺はそんな話をした覚えはないぞ?」

 

 

南雲は心当たりが無いように振る舞うが、海原には見えてしまった。

 

 

南雲や鹿沼、そして周りの提督連中がほんの少しだけ、嗤っている事に…。

 

 

(そういう…事かよ…!)

 

 

この時初めて、海原は自分が嵌められたという事を自覚した、南雲は初めから自分を弁護する気など無かった、海原を蹴落とすためのいい口実としてこの軍法会議を利用したのだ。

 

 

「あれだけの大口を叩いておきながらこのようなお粗末な結果になるとは、やはり新任のお前には荷が重すぎたか…」

 

 

南雲はわざとらしく嘆いて見せるが、彼の言い分にはほころびがある。

 

 

「ちょーっと待ってくださいよ元帥、さっきから流暢に語ってやがりますけど、元帥の言ってることが事実だって言う証拠でもあるんですか?元帥の証言だけでは明確な証拠にはなりませんよ」

 

 

そう、今の話は全て南雲の証言のみだ、ここには録音した音声やその時の様子を撮った写真など、物的証拠が何一つ用意されていない、裁判に等しい軍法会議で物的証拠も無しに当事者を糾弾するにはいささか強引と言える。

 

 

「何を言う、“お前が艦娘を轟沈させた”という事実さえあればそれまでの過程などどうとでも出来るんだよ」

 

 

「そんなめちゃくちゃな理屈が…!」

 

 

通る訳がない、そう言おうとしたが、ここにいる連中はみんな海原を黒にするために南雲が飼い慣らした共犯者(グル)なのだ、この空間の中でまともな常識や正義が通るなどと考える方が間違っている、そんな雰囲気すら感じさせる。

 

 

「とにかくお前は自分勝手な考えで艦娘を轟沈させた、以上だ、反論も申し開きも一切認めん」

 

 

南雲がそう結論づけると、鹿沼が締めの挨拶をして軍法会議は終了する、一方的にも程があるそれは最早軍法会議などとは呼べないモノとなっていた。

 

 

 

「何が…俺の何がイヤでこんな事しやがったんだ…!」

 

 

海原は自らをせせら笑いながら帰って行く提督連中を睨みつつ南雲に問うた。

 

 

「そうだなぁ、詰まるところ、出る杭は打たれる…って所だろうな、元帥(オレ)より優れた人間などいらん」

 

 

 

南雲は愉快そうに笑いながら鹿沼を連れて会議室を出る。

 

 

要はあいつらは、海原の優秀さが気に入らなくて嫉妬していたのだ、だから何かとかこつけて海原を落とすための理由を探し、今回の件が決め手となった、そういうことだ。

 

 

「…ちっくしょおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

誰もいなくなった会議室で、海原は腹の底…いや、心の底から叫んだ。

 

 




三日月編が終わったらちょっとした読者参加型企画を試験的にやろうかと目論んでおります。


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第44話「三日月の場合29」

海原の過去編完結。

思った以上に長くなってしまった…


『辞令、海原充司令官に、台場鎮守府への異動を命ずる』

 

 

 

一週間後、海原は軍法会議の結果を聞かされるために再び大本営に呼び出されていた、正直バックレてやろうと思っていたのだが、もう室蘭鎮守府は自分の居場所ではなくなってしまっているので行くしかなかった、そして南雲に渡されたのがこの辞令である。

 

 

「…台場鎮守府?」

 

 

初めて聞く名前の鎮守府に海原は首を傾げる、また新規の鎮守府でも建てたのだろうか。

 

 

 

「問題を起こした司令官を飛ばすための鎮守府だ、いわゆる島流しだな」

 

 

「…海軍の特命係って事ですか」

 

 

そんな認識でいいぞ、と南雲は言う。

 

 

「初めに言っておくが、台場鎮守府に艦娘はいない、工廠の機能も凍結させてあるから建造も出来ん、お前ひとりで過ごしてもらうことになる」

 

 

 

(なるほど、世間体があるからそう簡単に首を切れない、だから何もない場所に軟禁して辞職させようってハラか…)

 

 

だんだんと南雲の目的が分かってきた海原はあっけらかんとする、極刑も覚悟の上でこの場所に来たが、まさかこんな無期限休暇のような扱いを受けるとは思ってもいなかった。

 

 

「…なぜそんな鎮守府に俺を?俺を蹴落としたいのなら普通に除隊させれば済む話では?」

 

 

「確かにお前の優秀さはオレにとっては障害以外の何物でもない、だがそんな優秀な人材をおいそれと手放してしまうのはあまりにももったいないからな」

 

 

簡単に言えば都合の良いときにだけ使う駒、そう言うことである。

 

 

「流石は俺を陥れた元帥殿だ、そのお考えも格が違う」

 

 

「ふん、()()()()()()()()()()()ほめ言葉として受け取っておこう」

 

 

元帥は尚もとぼけながら海原の皮肉を受け流す。

 

 

「話は以上だ、お前にはさっさと台場鎮守府に移ってもらう」

 

海原は何も言わずに元帥室から出て行こうとするが、南雲に止められた。

 

 

「最後に言っておくが、台場鎮守府近海でも深海棲艦の出没報告がある、艦娘がいないお前では身を守る手段は無いぞ、死なないよう精々頑張ることだな」

 

 

海原は少しの間止まって南雲の話を聞いていたが、すぐに扉を閉めてその場を立ち去った。

 

 

 

 

「…ここが台場鎮守府か」

 

 

翌日、海原は大本営の役人の案内で台場鎮守府へとやってきた、昔はテーマパークやらテレビ局やらニューシャトルやらがあちこちにあって賑わっていたのだが、深海棲艦の襲撃やそれに対する迎撃などでほぼ全て壊滅してしまっており今は新地になっている。

 

 

門の中に入って敷地内を確認するが、人間どころか艦娘の気配すらない。

 

 

 

「まさに陸の孤島って感じだな、流刑先としてはこれ以上ない場所って事だ」

 

 

海原は自嘲めいた笑いを浮かべると、台場鎮守府の提督室へと足を運ぶ。

 

 

「…意外ときれいなんだな」

 

 

提督室を見て海原は素直にそう思う、自分が来るまでは半年ほど人はいなかったと聞いていたが、その割に中は埃も無く片づいていた。

 

 

「まぁ、無期限の休暇を貰えたって考えれば決して悪い話じゃないな」

 

 

びっくりするほどのプラス思考で海原は椅子に座る。

 

 

「これからは毎日退屈しそうだ、なぁ三日月?」

 

 

つい、元秘書艦の名前を呼んでしまったが、その声に答える主はもういない、この世のどこにも。

 

 

海原は何も言わずに提督室のドアを見つめる、あの日からいつも感じている三日月たちの面影、今すぐにでもドアを開けて司令官!と三日月たちが入ってくるような気がするが、もうその時は永遠にやってこない。

 

 

「…あれ、何で…俺…」

 

 

そこまで考えたとき、海原は初めて自分が泣いている事に気づく。

 

 

大切な人が亡くなって悲しくなるのは、その人が亡くなった時ではなく、その後の何気ない日常の中で“その人はもういない”と自覚した瞬間だ。

 

 

昔そんな話を誰かから聞いた気がした、その時は言葉の意味がよく分からなかったが、今なら痛いほど分かる、三日月たちはもういない、その姿を見ることはもう二度と叶わない。

 

 

 

「…三日月、雪風、秋月、夏潮、夕月…」

 

 

海原は泣きながら彼女たちの名前を呼んだが、それに対する返事が帰ってくることは、ついに無かった。




次回から通常の三日月編に戻ります。

…まだ後少し続きます。


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第45話「三日月の場合30」

三日月の改二早く来てくれないですかね~

…といってもパソコン持ってないのでブラウザー版プレイできないんですけどね…。


 

 

「…とまぁ、俺の過去はこんな所だな、たいして面白くもなかったろ?」

 

 

海原の話しを聞き終えた吹雪たちは沈黙していた、何も聞こえてこないので海原がどうしたー?とおちゃらけた声を出す。

 

 

「そんなの、司令官は悪くないじゃないですか!」

 

 

「そうよ!司令官への仕打ちはあんまりだわ!」

 

『はい、提督への処罰は不当です!』

 

 

『そんなの、絶対に許せません!』

 

 

吹雪、暁、ハチ、三日月は一斉に海原への処罰は不当だと訴える。

 

 

「って、吹雪さん、南雲元帥と鹿沼補佐官って確か…」

 

 

「…うん、大本営で作戦説明をしていた人だね」

 

 

吹雪は数日前の記憶を掘り起こす、あのジジイが海原を嵌めた、考えただけで腸が煮えくり返ってくる。

 

 

『っ!どこですか!そいつは今どこにいるんですか!?』

 

 

吹雪の肩をゆっさゆっさと揺らして聞いてくる三日月、相当頭に血が上っているらしい。

 

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて三日月、行ってどうするつもりなのさ」

 

 

『決まってるじゃないですか!殺してやるんです!肉をズタズタに引き裂いて腸をえぐり出してグチャグチャに踏み潰して頭をかち割って脳みそ踏みつぶさないと気が収まりません!』

 

 

「お、落ち着いて三日月!色々マズい事言いまくってるから!」

 

 

なんとか三日月を落ち着かせるが、その身体は未だにワナワナと震えている。

 

 

「でも何で三日月はこんな所にいるのかしら、轟沈したのが沖ノ鳥島なら、その周辺にいた方が自然なのに…」

 

 

『それは私にも分かりません…でも、司令官に会いたい、鎮守府に帰りたいって一心で進んでたらいつの間にかこんな所に来てたみたいです』

 

 

「帰巣本能ってヤツね」

 

 

「ハトじゃないんだから…」

 

 

暁の発言に吹雪がつっこむ、しかし本当に帰りたいという一心で東京から北海道まで来たのだとすれば相当すごいことである。

 

 

『…まあ何であれ、また三日月と話せたんだ、とても嬉しいよ』

 

『司令官…』

 

 

海原の言葉に三日月は目頭が熱くなるのを感じる、深海棲艦となってからは何も感じることなく過ごしてきたが、今海原と話をして心の奥底から満たされるような気持ちになる。

 

 

『私も、司令官とお話出来て嬉しいです、轟沈してからも私たちを思ってくれて、ありがとうございます』

 

 

三日月は目尻にうっすら涙を浮かべながらPitに向かって頭を下げる、すると…

 

 

『っ!?これは…!』

 

 

三日月の艦娘化が始まった、深海棲艦となった三日月の身体全身にヒビが入る。

 

 

「大丈夫だよ、艦娘に戻るだけだから」

 

 

「純粋な艦娘とは言い難いけどね…」

 

 

暁がそう言った時、三日月の殻が弾け飛び、かつて艦娘だった三日月が姿を現した。

 

 

「私、戻ったの…?」

 

 

三日月は自分の身体を見回す、先ほどまでは深海棲艦の姿をしていたが、今はあの時と同じ駆逐艦三日月としての姿をしている。

 

 

…もっとも、完全に一緒というわけではなかったが。

 

 

「…これは…」

 

 

「深海棲艦だったときの名残よ、アザみたいなモンだと考えればいいわ」

 

 

三日月にも深海棲艦の名残…深海痕が現れていた、場所は左腕全体と右の脇腹の2カ所、左腕に至っては指先まで変色しており長手袋をしているようだった。

 

 

『三日月の声が聞こえるって事は、艦娘化したか?』

 

 

「はい、やはり深海痕は残りましたが、艦娘化成功です」

 

 

吹雪が海原に報告する、深海痕があるということは三日月も混血艦(ハーフ)になっていると見て間違いないだろう。

 

 

「司令官、私の声が…?」

 

 

『あぁ、しっかりと聞こえるぞ、この日をどれだけ待ち望んでたことか…』

 

 

『うわ、提督泣いてる、似合わなーい』

 

 

ハチのちゃかしたつっこみにうっせ!と海原が返す。

 

 

『こほん、それでだ三日月、お前にひとつ提案がある』

 

 

「提案…ですか?」

 

 

突然の提案という言葉に三日月は首を傾げる。

 

 

『もしお前さえよければ、俺のいる台場鎮守府に来ないか?』

 

 

「もちろんです!是非入れてください!」

 

 

即答だった、一切の躊躇いもなかった。

 

 

「もう一度司令官のお役に立てるなら、これ以上の喜びはありません!この三日月、台場鎮守府への着任を希望します!」

 

 

「眩しい!目の前の天使が眩しすぎる!」

 

 

吹雪と暁が両手で顔を覆う、彼女を見ていると、自分たちはなんて心の荒んだ存在なのだろう…という気分にさせられる。

 

 

『三日月の声も聞けたことだし、そろそろ切るぞ』

 

 

「三日月と話さなくていいんですか?積もる話もあるでしょう?」

 

 

『三日月が戻ってからでも遅くはないさ、それにお前らは今大規模作戦中だ、そっちに集中してもらいたい』

 

 

「司令官…」

 

 

『その代わり、三日月をしっかり頼んだぞ』

 

 

海原は強い意志を込めて吹雪に言う、それは絶対に誰一人欠けることなく3体で帰ってこい、という意味も込められていた。

 

 

「はい!この吹雪、必ず三日月を台場鎮守府まで連れて帰ります!」

 

 

そう言って吹雪はPitの通話を切る。

 

 

「さてと、司令官にああ言った手前、ちゃんと三日月を連れて帰らないと」

 

 

「その前にこの島から出ることを考えないといけませんよ」

 

 

張り切る吹雪に三日月は言う、大規模作戦真っ只中の今、参加メンバーにいなかった三日月を連れ帰ったら怪しまれる可能性もある、そこも踏まえて作戦などを練らなければいけない。

 

 

「そんなの一休みしてからでいいわよ~」

 

 

もともと少し休んでからここを出るつもりだった暁はすでにぐうたらモードである。

 

 

「何を甘ったれた事言ってるんですか!善は急げ!鉄は熱いうちに打て!です!」

 

 

(うわぁ、めんどくさい子が来たなぁ)

 

 

渋々作戦会議に混ざりながら心の中でそんな事をボヤく暁だった。




…そういえば登場人物紹介とか作ってないなぁ、三日月編終わったら一度挟んでみよう。


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第46話「三日月の場合31」

艦これアーケードで響が轟沈してしまいました、ペナルティー(提督レベル1ダウン&艦娘レベルリセット)付で復活させたけどもう一度レベリングをやり直すのがしんどい…。

あと朝潮の改カードゲット出来ました、使い込むとゲット出来るって本当だったんですね、なら最初から使ってる吹雪の改カードくれませんかねぇ…

そう言えば深海棲艦の艦載機って名前とかあるんでしょうか…?


 

 

 

時は少し遡り、吹雪と暁が渦に飲まれた直後。

 

「吹雪!暁!」

 

 

「瑞鶴!気持ちは分かるけど、今は戦いに集中して!」

 

 

何度も吹雪たちの名前を呼ぶ瑞鶴にローマが渇を入れる、本当はすぐにでも探しに行きたいが、今はここで戦っている仲間の為にも退くわけにはいかない。

 

 

「艦載機、発艦!」

 

 

すぐに終わらせて吹雪たちを探しに行く、その一心で瑞鶴は艦戦と艦爆を発艦させる、蒼龍と飛龍もそれに続いて攻撃機(それしか積んでいないが)を発艦させる。

 

 

「摩耶!戦艦棲艦に向けて主砲発射!霧島は空母棲艦に向けて!」

 

 

「了解!」

 

 

「おっしゃあ!」

 

 

戦艦、重巡組も負けじと戦艦棲艦と空母棲艦を落としにかかる、旗艦(リーダー)のベアトリスが破格の強さを持っている事は明らかだ、ならばここは手前の取り巻きを倒して一対多数の状況を作り出した方が有利に戦える。

 

 

「図に乗るな!牡丹雪!」

 

 

そうはさせまいとベアトリスが動いた、人喰い箱(ミミック)の口が開き、艦載機のようなモノが大量に飛び出す。

 

 

「な、何あれ!?」

 

 

「艦載機…か?」

 

 

しかし今まで空母棲艦が発艦させていた艦載機とはまるで姿が違った、今までのカブトガニのようなそれではなく、白く丸っこい機体に手やら目やらが付いているなんとも変わった形だ、そしてその手には艦爆や艦攻の爆弾や魚雷が握られていた。

 

 

「って、おいおいおい!何だよあの数!?100や200じゃきかないぞ!」

 

 

そして連合艦隊を驚かせたのはその数、牡丹雪と名付けられた白い艦載機は人喰い箱(ミミック)の口から出るわ出るわ、その数はゆうに300機はあるだろう。

 

 

「瑞鶴!ありったけの艦上戦闘機を発艦させて!」

 

 

「了解です加賀先輩!」

 

 

瑞鶴と加賀は艦戦をこれでもかと発艦させる、これで少しでも牡丹雪の数を減らす作戦だ。

 

 

「そんなモノでわたしの牡丹雪を落とせると思っているのかしら?随分とナメられたものねぇ!」

 

 

しかし艦載機同士の戦い(ドッグファイト)ではベアトリスの牡丹雪が勝っていた、瑞鶴、加賀合わせて約200機あった艦戦がわずか20秒で70機程にまで減らされている。

 

 

「う、うそ…!?」

 

 

「でも相手の牡丹雪もそれなりに減らしたわ、これで少しは…!」

 

 

加賀がそう言った瞬間、残った牡丹雪132機が一斉に連合艦隊に向かって急降下してくる。

 

 

「マズい!対空射撃用意!撃てええぇぇ!!!!」

 

 

霧島が空母以外の艦娘に対空射撃を指示、主砲を空中に向かって放ち、牡丹雪を落としにかかる。

 

 

「牡丹雪!総攻撃!」

 

 

ベアトリスが指示を出すと、牡丹雪が自分で爆弾や魚雷を()()()()()

 

 

「なっ…!?」

 

 

「艦載機が、自分で爆弾を投擲した…!?」

 

 

あまりの光景に愕然とする連合艦隊、そして130を超える牡丹雪の攻撃など防ぎきれる訳もなく、雨霰の如く降り注ぐ爆弾の応酬を受けることになった。

 

 

「きゃああああぁ!」

 

 

「うぐっ!」

 

 

「おわぁ!」

 

 

今の攻撃で霧島、ローマ、伊勢、鈴谷、瑞鶴、加賀が大破、比叡、蒼龍、飛龍、摩耶が中破という大損害を受けた。

 

 

「瑞鶴、飛行甲板は?」

 

 

「加賀先輩同様に損傷甚大です、艦載機発艦は不可能ですね」

 

 

瑞鶴と加賀の飛行甲板の読み取り部分が大きく損傷してしまい、艦載機を飛ばすことが出来なくなってしまった。

 

 

「ローマさん!霧島さん!ここは退きましょう!流石にこの状況じゃ…!」

 

 

摩耶がローマたちに訴える、確かに今の状態で戦闘を続けたら致命傷は免れない。

 

 

「逃がすと思うかしら?」

 

 

ベアトリスが再び牡丹雪を発艦させる、その数は先程より少なめの200機、アレをまともに食らえば間違いなく助からない。

 

 

「瑞鶴さん!加賀さん!少し借ります!」

 

 

「えっ!?」

 

 

蒼龍と飛龍が瑞鶴と加賀の艦戦を引き抜くと、流れるような動きで発艦させる、数はベアトリスには遠く及ばないが、次弾装填の時間稼ぎにはなるだろう。

 

 

「本当はこんな使い方したくないけど…!」

 

 

今度は自分たちの攻撃機を発艦させ、ベアトリスの牡丹雪に()()()()()()()

 

 

「な、何を…!?」

 

 

「艦戦が無いので特攻(これ)で代用します、効果は薄いかもしれませんが…」

 

 

艦戦と特攻の奮闘もあり、ベアトリスの牡丹雪をごっそり減らすことに成功した、もう100機も残ってないのではないだろうか。

 

 

(…すごい、さすが主戦力鎮守府のトップ、艦載機の運用能力も伊達じゃないわね)

 

 

瑞鶴は驚いた顔で蒼龍たちを見る、火力馬鹿でしゃくに障るヤツらではあるが、その実力はまさに折り紙付きだ。

 

 

しかしそんな瑞鶴の関心とは裏腹に、蒼龍たちは浮かない顔をしていた。

 

 

(まさか空撃で艦戦がこんなに重要になるなんて…)

 

 

蒼龍も飛龍も艦上戦闘機を積んでこなかったことを大きく後悔していた、敵本体への攻撃力が無いため馬鹿にしていたが、いざ使ってみると戦いやすさが全く違っていた。

 

 

(主戦力鎮守府のエースが聞いて呆れるわね…)

 

 

蒼龍は自嘲気味に笑う、航空戦の事は何でも知っていると自負していたが、これではエースなどとは名乗れない。

 

 

「っ!瑞鶴!頭上に敵艦載機あり!」

 

 

「そんな!いつの間に!?」

 

 

ローマの警告で瑞鶴は上を向く、そこには数機の牡丹雪が爆弾を持って急降下してくるのが見えた。

 

(マズい!かわせない!)

 

今から避けるのはタイミング的に不可能だ、しかしコレを食らえば最悪命を落としかねない。

 

 

「瑞鶴さん!」

 

 

万事休すかと思われた次の瞬間、蒼龍が瑞鶴の前に飛び出し、牡丹雪の爆撃を身替わりになって受けた。

 

 

「えっ!?」

 

 

「ぐっ…うぅ…」

 

 

今の爆撃で蒼龍は大破になった、飛行甲板もやられてしまったので艦載機の発艦も不可能だ。

 

 

「どうして…」

 

 

「さぁ、どうしてでしょう…気付いたら、身体が勝手に動いてました」

 

 

蒼龍は乾いた笑いを浮かべる。

 

 

「ふっ…流石にしぶといわね、でも次で…」

 

 

そう言ってベアトリスはさらに牡丹雪を発艦させようとしたが、インカムにシャーロットからの連絡が入る。

 

 

『退却準備が整いました!すぐに戻って合流してください!』

 

 

「分かったわ!」

 

 

ベアトリスは踵を返して撤退準備に入る、本当はここで艦娘どもを全滅させたかったが、()()()の為にもここは従うべきだろう。

 

 

「今日のところはここまでにしてあげるわ、次会ったときは命は無いと思いなさいよ」

 

 

ベアトリスは戦艦棲艦に煙幕弾(スモーク)を撃たせると、煙に紛れて姿を消してしまった。

 

 

「…終わったの?」

 

 

「終わったというか、見逃してもらった…って感じかな…」

 

 

その後、第1連合艦隊と合流した瑞鶴たちは大破になった身体を引きずりながらベースキャンプへと帰投していく。

 

 




そうそう、アーケードでキス島撤退作戦のドロップで蒼龍が出ました。

…D敗北でも正規空母って出るんですね。


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第47話「三日月の場合32」

台場メンバー全く出てこないです。

てかベースキャンプでこんな事になってるのに吹雪たちはのんきに海原の話聞いてたんですね、何て危機感のない連中だ…。


 

そして現在、室蘭鎮守府司令官の長嶋幸太はベースキャンプの中央広場に設置されている司令部テントの中であるものを待っていた。

 

 

「失礼します提督、第1捜索艦隊帰投しました」

 

 

するとテントの入り口が開き1体の艦娘が入ってくる、栗色のロングヘアに深緑色の制服を着ている艦娘、球磨型重雷装巡洋艦4番艦の大井だ、長嶋が待っていたのは大井の報告である。

 

「結果はどうだった?」

 

 

長嶋が聞くと、大井が申し訳無さそうに目を伏せる、それを見て結果が芳しくなかったというのは大方予想できた。

 

 

「海域をくまなく探したのですが、吹雪さん、暁さんの2体を発見することは出来ませんでした」

 

 

 

「そうか…」

 

 

長嶋は唇を噛む、第1、第2連合艦隊が帰投してすぐに瑞鶴が泣きながら吹雪たちの捜索を懇願してきた、なので自身の室蘭鎮守府から艦娘を召集して捜索艦隊を出しているのだが、もう3度は艦隊をローテーションさせているのに未だ見つかる気配が無い、

 

 

「分かった、大井たち第1捜索艦隊は補給して休んでろ、北上たち第2捜索艦隊に出動するように伝えてくれ」

 

 

「はい…申し訳ありません、私たちが至らないばかりに…」

 

 

大井は悔しそうな表情で長嶋に頭を下げる、大井は長嶋が現室蘭鎮守府に着任したときに最初に配属された艦娘で、それ以降は彼の秘書官として二人三脚で鎮守府を運営してきた、今では鎮守府の中で最も長嶋から信頼されている艦娘である。

 

 

大井自身も長嶋には信頼と好意を寄せており、それは鎮守府の艦娘の中で一番だと自負している、そんな長嶋の期待に応えられないのが悔しくてたまらなかった。

 

 

「別にお前が謝る事じゃない、こういった捜索任務には良くあることだ、お前は何を気負わずにさっさと補給してこい」

 

 

「はい、ありがとうございます…」

 

 

長嶋にはああ言ってもらえたが、テントを出る大井の表情はどこか浮かないものであった。

 

テントを出た大井はPitをポケットから取り出すと第2捜索艦隊へ連絡を入れる。

 

 

『はいはーい、どしたの大井っち?』

 

 

電話口でどこか気の抜けた声を出すのは球磨型重雷装巡洋艦3番艦の北上、大井の次に室蘭にやってきた艦娘であり、付き合いが長いからか何かと馬が合う。

 

 

「第2捜索艦隊出動です、急いで準備してください」

 

『えぇー、また?正直キツいわー』

 

 

「ダメですよ北上さん、事態は一刻を争うんですから、行方不明の吹雪さんと暁さんを早く見つけないと命に関わるかもしれないって提督も言ってましたし」

 

 

『それは分かってるよー、本当に提督の事になると躍起になるよね、お熱いね~』

 

 

「なっ…!?何を言うんですか北上さん!?」

 

 

『あはは、冗談冗談、じゃあすぐに準備するね、でも否定しないって事は十分脈ありって事だよね~』

 

 

「北上さん!」

 

 

大井が文句を言う前に北上はさっさと通話を切ってしまった。

 

 

「まったくもう…北上さんももう少し真面目に仕事を…」

 

 

頬を赤らめてぶつくさと文句を言いながら補給に行こうとする。

 

 

「あれは…」

 

 

すると、その途中で瑞鶴がしょぼくれた顔をして広場の隅っこに座っているのが見えた、聞けば瑞鶴は吹雪を助けようとしたが叶わなかったらしい。

 

 

(やっぱり気にしてるのかしら…)

 

 

そう思った大井は瑞鶴のもとへ歩き出す。

 

 

「瑞鶴さん」

 

 

「…大井さん」

 

 

大井に気付いた瑞鶴はゆっくりと顔を上げる、大井は優しく笑いながら瑞鶴の隣へ腰を下ろす。

 

 

「心配ですか?あの子たちのこと」

 

 

「そりゃもちろん…だって瑞鶴があの時ちゃんと吹雪の手を引けてれば…」

 

 

「瑞鶴さん、過去はどれだけ悔やんでも変えられません、だけど未来は…これからなら変えることが出来ます、吹雪さんと暁さんは私たちが必ず見つけ出しますから、瑞鶴さんはどーんと腰を据えて待っていてください」

 

 

大井はドン!と胸を叩いて言う、今の言葉は昔大井が大きな失敗をしてしまった時に長嶋からかけてもらった言葉だ、我ながらこっぱずかしい受け売りだとは思うが、あの時の自分はこの言葉に救われたのだ。

 

 

「…ありがとうございます、本当は私も率先して探しに行きたいんですけど…」

 

 

「お気持ちは嬉しいんですけど、戦艦や正規空母の方々は消費する燃料が多くてローテに向いてないんです、すみません…」

 

 

「お、大井さんが謝る事じゃないですよ!そんな事は瑞鶴だって重々承知ですから!」

 

 

瑞鶴が慌てて首を振って言う、その様子が可笑しくて大井はつい笑ってしまった、それにつられて瑞鶴も笑う。

 

 

「ありがとうございます、少し元気が出てきました」

 

 

「いえ、私は何もしてませんよ」

 

 

そう言って大井は笑うと、瑞鶴と別れて補給テントへと向かう。

 

 

(でも、出会ってまだ数日しか経ってないのにあそこまで心配してもらえるなんて、あの子たちも幸せ者ね)

 

 

写真でしか見たことのない駆逐艦の少女の顔を思い浮かべて補給テントへと向かう大井の足取りは、心なしか少し軽かった。




そう言えば大井って事前登録の特典で貰うことが出来たみたいですね、ゲットした順(newソート)で並べると初期艦より前にくるんだとか。


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第48話「三日月の場合33」

台場艦隊中二病デビュー&三日月白兵戦デビュー(一瞬)編。

こうして吹雪たちは黒歴史のページを開き始めたのだった。

あとUAが10000を突破しました!本当にありがとうございます!


「さてと、そろそろベースキャンプに戻ろうか、瑞鶴さんたちも心配してるだろうし」

 

 

三日月が艦娘に戻ってから数時間後、身体の傷もほとんど治ってきたので吹雪たちはベースキャンプに帰投する事になった。

 

 

「三日月の事はどうやって説明する?」

 

 

「終わるまで隠れててもらうか、テキトーにごまかせばいいんじゃない?」

 

 

「そんないい加減な…」

 

 

やる気があるんだか無いんだかよく分からない会話をしながら吹雪たちは国後島を出る準備をする。

 

 

「吹雪さん、本当にこれを使って戦うんですか?」

 

 

「そうだよ、特に三日月は持っててもらわないと困るし」

 

 

それはそうですけど…と言いながら三日月は自らの右手に握られている太刀の深海棲器を見る。

 

 

 

三日月が艦娘化してすぐに分かったことだが、彼女は主砲や魚雷といった、艦娘の正規の艤装を何ひとつ持っていなかった、深海棲艦化した際に無くなったのかもしれないが、さすがにそれでは戦闘が出来ないということで吹雪の太刀を借りて少し訓練を受けていた。

 

 

「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ、深海棲器の扱い方は暁より飲み込み早かったし」

 

 

「特訓開始120分で暁と互角に組み手出来るようになったときは流石に少し引いたわよ…」

 

 

未だに信じられないといった様子で暁は言う、戦うまでは無理でも身を守る程度の技術は身につけてほしい、という方針のもと三日月に深海棲器の扱い方をレクチャーしたのだが、三日月の飲み込みが思った以上に早く、わずか2時間で最近熟練者の域に達し始めている暁とも互角にやり合えるようになった。

 

 

流石に砲弾斬りをこの短時間で習得するのは無理だったが、弾を刀身に当てて軌道を逸らす“受け流し”程度なら使えるようになった。

 

 

(これなら駆逐棲艦くらいなら相手できるかもね)

 

 

そんな事を考えながら吹雪たちはベースキャンプを目指して出航する。

 

 

 

「でも本当に三日月はスゴいよね、私ももっと強くならいと」

 

 

ベースキャンプへの航海路(シーレーン)を辿りながら吹雪は言う。

 

 

「そう言えば、前に響が…」

 

 

 

 

『カッコイイ技名を叫びながら戦うといつもより強くなるみたいだよ』

 

 

 

 

「…って言ってたわよ」

 

 

「いや、それ絶対騙されてるでしょ」

 

 

「いえ、案外そうでもないかもしれないですよ?」

 

 

吹雪が即座につっこんだが、三日月は意外と肯定的な反応を返してきた。

 

 

「昔司令官が言ってたんですけど、肉弾戦で声を出して戦うのは効果的なんだそうです、ただのパンチも無言で出すより腹から思い切り声を出して相手をブチのめした方がいいんだとか…」

 

 

「へぇ~、三日月スゴいね、そんな轟沈する前のこと覚えてるなんて」

 

 

「いえ、それを話している司令官が少し楽しそうだったので、司令官が好きなアクション映画を見てたときの合間に聞いていたんです」

 

 

「なるほどね、艤装の砲だったらあまり意味ないかもしれないけど、私たち白兵戦メインの艦隊だったら意外と役に立つかも」

 

 

「ならちょっと考えてみましょうよ!本当に強くなるかも!」

 

 

 

「うぇ…マジで?」

 

 

いくら理屈が通っててもいざやるとなると恥ずかしいものである。

 

 

(てか、響もからかうつもりで言ったハズなのにこうもマトモな展開になるとさぞ複雑だろうなぁ…)

 

 

そんな事を思いつつ吹雪たちは技名考案という中二くさい行為を始めた。

 

 

 

それから数十分後、もう少しでベースキャンプに到着という所で深海棲艦が現れた。

 

 

「駆逐3に軽巡1…か」

 

 

編成は典型的な水雷戦隊なので勝つのはそう難しくないだろう。

 

 

「暁!ちゃっちゃと終わらせるよ!」

 

 

「了解!」

 

 

三日月はそこで見学ね!と言って吹雪と暁は敵艦隊へ向かって突撃していく。

 

 

「えっ!?本当に白兵戦で戦うんですか!?」

 

 

手甲拳(ナックル)と鎌を持って肉薄する吹雪たちを見て三日月は驚愕する。

 

 

まずは敵艦と距離を詰めて得物の攻撃範囲(リーチ)内に入る、その間に敵艦隊は砲撃をしてくるが、砲弾斬りをマスターしている吹雪たちにとってはなんの障害にもならない。

 

 

「す、すごい…」

 

 

いともたやすく敵の砲弾を叩き斬っていく姿に三日月は魅入っていた、本当に艦娘の戦いなのか?そう疑いたくなるくらいだった。

 

 

「まずは…旗艦(リーダー)!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で軽巡棲艦を殴りつける、軽巡棲艦はその一撃で一気に大破まで追い込まれた、普段は一撃で撃沈できるのだが、当たり所がよかったのか大破で止まった。

 

 

(なら、さっき考えたアレを…!)

 

 

吹雪は深海棲器をナギナタに切り替え…

 

 

雪華繚乱(セッカリョウラン)!」

 

 

さっき暁たちと考えた技名を思い切り叫ぶ、技名とは裏腹にその実は普通に素早く連続斬りをするだけなのだが、そこは気分である。

 

 

雪華繚乱(セッカリョウラン)…もとい連続斬りを食らった軽巡棲艦は今度こそ撃沈する。

 

 

舞闘鎌撃(ブトウレンゲキ):暁闇(ギョウアン)!」

 

 

暁も技名を叫び、鎌を踊るように振り回して駆逐棲艦の船体のあちこちを切り落としていく、そのダメージで駆逐棲艦は次々と戦闘不能に陥っていく。

 

 

「これで勝ち…!」

 

 

敵艦隊は全て倒したと思われたが、胴体を真っ二つにされた駆逐棲艦の頭部だけが最期の悪足掻きで暁に向かって飛んでくる。

 

 

「ヤバ…!」

 

 

三日月夜の閃剣(クレセント・ブレイド)!」

 

 

一瞬大破を覚悟したが、三日月が太刀を使い駆逐棲艦を目にも止まらぬ速さで一閃の如く斬り裂く。

 

 

三日月の剣撃を食らった駆逐棲艦は音もなく真っ二つになり、海の底へと沈んでいく。

 

 

「大丈夫でしたか!?」

 

 

「だ、大丈夫…ありがと」

 

 

暁はなんとか平静を装うが、その背筋がゾッとなるのを感じていた。

 

 

(この子…駆逐棲艦斬るとき凄く狂気的な笑い浮かべてた…)

 

 

三日月の知ってはいけない一面を知ってしまったような気がして、暁は人知れず冷や汗を流していた。




暁の狂人度も大概だけど三日月も大概。



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第49話「三日月の場合34」

刀剣乱舞で敵の刀に「丙」って書いてあったけど、これって艦これで言う(ノーマル)(エリート)(フラグシップ)みたいなもんなんだろうか…


敵水雷戦隊との戦闘を終えた吹雪たちは無事ベースキャンプへと到着した。

 

 

「さてと、三日月は一旦ここで隠れててね」

 

 

「分かりました」

 

 

三日月には桟橋近くにある物置小屋に隠れてもらう事にした、本当は連れてきてもいいのだが、三日月の場合は深海痕が目立つ位置にある上に隠す手段も無いので人前には出られないのだ、もっともみんなに説明するのが面倒だというのもあるが。

 

 

「さてと、それじゃあ中央広場に向かおう」

 

 

「そうね、なんか妙に行きづらいけど…」

 

 

「頑張ってください~」

 

 

三日月に見送られながら吹雪たちは中央広場に向かう。

 

 

 

 

中央広場についた吹雪たちはそれとなく挨拶をしながら入ったのだが、入って3秒で瑞鶴が泣きながら飛びついてきた。

 

 

「あんたたちどこにいたのよ!?めちゃくちゃ心配したんだからね!あぁ、でも本当に生きてて良かった…」

 

 

瑞鶴は涙で顔をぐしゃぐしゃにして吹雪たちを抱きしめる。

 

 

 

「本当によく生きてたな!」

 

 

「よく帰ってきました」

 

 

 

「本当に心配したのよ」

 

 

摩耶たち他の第4艦隊のメンバーも吹雪たちの帰りを心から祝福していた。

 

 

「…心配かけてごめんなさい」

 

 

いままでこんなに心配してもらった事が無い吹雪は瑞鶴たちの様子を見て、何だか照れくさくなってしまった。

 

 

(もっと早く帰ってくれば良かったな…)

 

 

島でのんびりしていたことをちょっとだけ反省した吹雪だった。

 

 

 

 

 

「何!国後島に流れ着いたのか!?」

 

 

帰投後すぐに司令部テントに呼び出された吹雪と暁は長嶋に事の顛末を報告する、もちろん三日月の事は伏せて報告した。

 

 

「はい、身体の損傷もあったので、応急処置をして少し休んだ方がいいと判断しましたので…」

 

 

「なるほど、それはいい判断だったな」

 

 

「しっかりしてるのね、ウチの北上さんに見習わせたいくらいだわ…」

 

 

大井はため息をついて呟いた、その様子を見て本当に苦労してるんだろうな…と思う吹雪だった。

 

 

「まぁ何であれ、無事に戻ってこれて何よりだ、今日はゆっくり休むといい」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

2体が司令部テントを出ると、そこには瑞鶴とローマが待っていた。

 

 

「あの提督さんに何か言われなかった?」

 

 

どうやら長嶋に何か言われたりされたりしていないか心配で見にきてくれたようだ。

 

 

「大丈夫でしたよ、特に何もありませんでした」

 

 

「そう?なら良かった」

 

 

それを聞くと瑞鶴とローマは安堵した表情になる。

 

 

「今夜は作戦成功と2体の生還を祝って祝賀会をやるの、ぜひ参加してね」

 

 

「本当!?やったー!」

 

 

それを聞いて暁は飛び上がってはしゃいでいるが…

 

 

(…三日月の事はどうしよう…)

 

 

吹雪だけは浮かない顔をしていた。

 

 

 

 

「それでは、あまりすっきりしない結果となりましたが、色丹島の敵勢力排除の成功と、吹雪、暁の生還を祝いまして…乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

 

その日の夜、瑞鶴の乾杯の音頭と共に今回の大規模作戦に参加したメンバーは互いのグラスを当てる。

 

 

「いやぁ、大変だったね」

 

 

「アタシもあの時はどうなるかと思ったぜ」

 

 

艦娘たちは料理をつまみながら今回の作戦について思い思いの話をする。

 

 

「あの…」

 

 

「もしよろしければ、一緒にいいですか?」

 

 

 

すると、蒼龍と飛龍が第4艦隊の所へやってきた。

 

 

「もちろんいいわよ、あんたたちには色々助けられちゃったからね」

 

 

「あの時のとっさの艦戦さばき、お見事でした、流石は主戦力鎮守府の最前線…横須賀の艦娘です」

 

 

最初こそいがみ合っていた彼女たちだが、今では普通に友人のように接している。

 

 

「いえ、そんなご立派なモノではありません…」

 

 

「私たちが艦戦の存在を軽視したせいで苦戦を強いられたのは事実ですから…」

 

 

「過ぎたことは気にしないの、艦戦なんてこれから積めばいいんだから」

 

 

落ち込んでいる二航戦に瑞鶴が励ましの言葉を送る、それを聞いて蒼龍たちの表情が少し柔らかくなった。

 

 

「んじゃ、そう言うことで蒼龍先輩も飛龍先輩も飲んで飲んで!」

 

 

 

「えっ…ちょ…」

 

 

「ず、瑞鶴…?」

 

 

「諦めなさい、瑞鶴はこういう子よ」

 

 

瑞鶴と一番付き合いが長い加賀が諦めムードで二航戦に言う。

 

 

 

 

「(暁、ちょっと行ってくるね)」

 

 

「(分かったわ)」

 

 

祝賀会も盛り上がりを見せてきたところで吹雪は料理をいくつかの小皿に乗せてこっそりとテントを出る、三日月の分の食事を届けに行くのだ。

 

 

「結局何時間も待たせる結果になっちゃったなぁ…」

 

 

吹雪は軽いため息を吐きながら物置小屋に入る、電気を付けるとばれるかもしれないので中にあった懐中電灯で明かりを作っていた。

 

 

「三日月、ご飯持ってきたよ」

 

 

「ありがとうございます!ちょうどお腹が減ってたんですよ」

 

 

吹雪は三日月の前に小皿を並べる、内容はサイコロステーキにオムライス、そしてサラダ。

 

 

「ごめんね遅くなって、本当はこんな寂しい思いさせたくなかったんだけど…」

 

 

「そんな、とんでもないです、吹雪さんがこうして持ってきてくれるだけでも、十分嬉しいですよ」

 

 

(あぁ!やっぱり眩しい!眩しすぎる!)

 

 

懐中電灯しか明かりのない小屋の中だというのに、目の前にいる天使がめちゃくちゃ眩しく見えてしまう。

 

 

「吹雪さん、私は大丈夫ですから、そろそろ戻ってはどうですか?多分苦しい言い訳で抜けだしたんでしょう?」

 

 

バレテーラ、確かに暁にはジュース飲み過ぎてトイレに行くってごまかしておいて、などと言って抜けてきたが艦娘は身体構造的な理由でトイレをしないので今考えれば苦しすぎる言い訳だった。

 

 

「…うん、ごめん…もう戻るね」

 

 

「私のことはお気になさらず、思う存分楽しんできてください」

 

 

(あぁ…こんな天使を置いてパーティーに戻る自分に罪悪感が…)

 

 

後ろ髪を引かれる思いで吹雪はテントに戻っていく。

 

 

 

 

吹雪がテントに戻ると、加賀と瑞鶴がデュエットを組んで歌を歌っていた、どうやらカラオケ大会が始まったらしい。

 

 

「セーラーワ~ンピを~」

 

 

「剥~ぎ~取らないで~」

 

 

 

ノリノリで歌っているのは“おワン子クラブ”!の“セーラーワンピを剥ぎ取らないで”、数年前にCDが絶版した知る人ぞ知る曲だ。

 

 

(それにしても息ぴったりだなぁ…)

 

 

瑞鶴と加賀は親友同士と本人たちから聞いていたが、それに相応しい阿吽の呼吸っぷりを見せていた。

 

 

「ありがとうございます!続いて摩耶が歌います!」

 

 

「はぁ!?聞いてねーよ!」

 

 

テンションの上がった瑞鶴は摩耶をステージに引きずり出し、彼女が知っている曲を流してマイクを押し付ける。

 

 

「君の夏のあの日~忘れないよ~」

 

 

「布団に描いた~世界地図~」

 

 

歌っているのはアニメ“あの日見た髭面オヤジの名前を僕たちは知りたくもない”のエンディングテーマだった。

 

 

「摩耶さんって意外とそういうのも歌うんだな~」

 

 

思った以上に摩耶の歌が上手く拍手大喝采だった。

 

 

それから祝賀会は日付が変わる頃まで続いた。

 

 

 

 

 

 

「…(暁、行くよ)」

 

 

「(えぇ、わかったわ)」

 

 

祝賀会終了後、艦娘たちはそれぞれのテントに戻るなり爆睡してしまった、第4艦隊の面子も例外ではなく、瑞鶴たちもぐっすりと眠りこけている。

 

 

 

その隙を見て、吹雪たちは三日月の様子を見に行こうと計画していた。

 

 

「…誰も来てないわよね?」

 

 

「…うん、大丈夫みたい」

 

 

辺りを見回しながら物置小屋に向かう、扉を開けるとまだ起きていた三日月が出迎えてくれた。

 

 

「ごめんね、遅くなっちゃった」

 

 

「はい、暖かい飲み物持ってきたわ」

 

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

 

三日月は暁からココアを受け取ると、コクコクと小さく喉を鳴らしてゆっくり飲んでいく。

 

 

「あと、毛布も持ってきたよ、夏って言っても北海道は少し冷えるからね」

 

 

吹雪は余分に貰ってきた毛布を三日月に渡す。

 

 

「何から何まですみません…」

 

 

「なに言ってるのさ、こんな所に閉じこめちゃってるんだから、これくらいするのは当たり前だよ」

 

 

「そうそう、暁と吹雪さんがお世話するんだから、ドーンと満喫しなさい」

 

 

暁がそう言って胸を張ったその瞬間、突然小屋の電気が付き、何事かとスイッチのある扉付近をみる。

 

 

「こっそりテント抜け出して何してるのかと思ったら、こういう事だったのね」

 

 

そこには寝ていたハズの瑞鶴が立っていた。




艦これのキャラソンなら「二羽鶴」と「華の二水戦」がお気に入り。


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第50話「三日月の場合35」

少し駆け足かもしれませんが三日月編完結です。

次回はどんな艦娘が出るでしょうか…



吹雪たちは突然現れた瑞鶴を見て固まっていた、いつの間に後を付けられていたのだろうか?後ろを確認しながら小屋に向かったはずなのに全く気づかなかった。

 

 

「こっそりこんな所に来るもんだから猫でも拾ってきたのかと思ったけど、それを見る限りじゃ違うみたいね」

 

 

そう言って瑞鶴は三日月を、特に左腕の部分を見る。

 

 

「そんな険しい顔しなくても他言する気は無いわよ、何か訳ありなんでしょ?あんたたちの様子を見れば分かるわ」

 

 

 

瑞鶴は吹雪たちの事を糾弾するわけでもなく、ただそう言うだけだった。

 

 

「瑞鶴さん…」

 

 

「良かったら瑞鶴に聞かせてよ、力になれるかもしれないわ」

 

 

瑞鶴の言葉を聞いて、吹雪はなんて優しい艦娘なんだろうと感動していた、普通なら怪しむはずなのに、何も言わずに聞いてくれる。

 

 

「…実は…」

 

 

瑞鶴の事は信頼しているし、大丈夫だろうと思った吹雪は三日月の事、そして自分たちの一部の事をかいつまみながら話した。

 

 

「…なるほどね、深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)…そんな事があるなんて驚きだわ」

 

 

瑞鶴は吹雪のとなりで話を聞いていたが、それほど驚いているようには見えなかった。

 

 

 

「言う割にはそんなに驚いてないみたいですけど…」

 

 

「まぁ、吹雪と暁を見たらちょっと納得しちゃったからね、いくら近接兵装使ってるって言ってもあんたたち強すぎるし」

 

 

「あはは…やっぱり…」

 

 

やはり自分たちのオーバースペックはばれていたらしい。

 

 

「でも驚いてるのは本当よ、そんな事があるなんて聞いたこともないし、なにより艦娘が深海棲艦になるなんて…少しショックかな」

 

 

「ショック…ですか?」

 

 

「だって、今まで敵として戦ってた深海棲艦が実は仲間の艦娘かも…なんて考えたら、とても戦えないわよ」

 

 

瑞鶴は悲しそうな顔で俯いた、艦娘か深海棲艦かの違いが分かる吹雪たちとは違い、瑞鶴は深海棲艦はみんな深海棲艦としか認識出来ないし、“面影”も見えなければ声も聞こえない、そんな中でかつての仲間かもしれない深海棲艦と戦うのはとても辛い経験になるだろう。

 

 

「瑞鶴さんは気にしなくてもいいと思いますよ、艦娘だったとしても、今は敵である深海棲艦なんですから、普通に敵として倒せばいいんですよ」

 

 

「…そう言う吹雪は、辛くないの?」

 

 

「私…ですか?」

 

 

「うん、台場の艦娘だけだったらいいとしても、今後今回みたいな大規模作戦が行われて連合艦隊を組んだとき、深海棲艦化した艦娘と遭遇しても思うように助けられないんだよ?」

 

 

瑞鶴が吹雪に問いかけたことは、吹雪に限らず台場鎮守府のメンバー全員が懸念していた事だった、今回の三日月の場合はたまたま無人島にいたこともあってこっそり助けることが出来た(瑞鶴には見つかったが)、しかし今後瑞鶴の言ったような状況になる事も大いにありえる。

 

 

「…もしそうなったらそれは確かに辛いです、でも…それでも助けたいです、方法はまだ分からないですけど、絶対に助けます」

 

 

吹雪の真っ直ぐな目を見て、瑞鶴はどこか納得したような顔をする。

 

 

「…うん、その意思の強さがあったら、この先どんな事があっても乗り越えていけるよ」

 

 

瑞鶴は微笑みながら吹雪に言った。

 

 

 

「…ありがとうございます、少しスッキリしました」

 

 

 

「お礼なら瑞鶴だけじゃなくて、みんなにも言ってあげたら?」

 

 

 

そう言って瑞鶴は小屋のドアの方を見る。

 

 

「へ?」

 

 

瑞鶴に釣られてドアの方を見ると、ローマ達が戸の陰に隠れてこちらを見ていた。

 

 

「み、皆さんいつの間に!?」

 

 

「いつって、最初から」

 

「瑞鶴がどうしても後を付けてみようってうるさかったから何となく…」

 

 

 

「そうしたらなんか面白そうな話が聞けて…」

 

 

「全部聞かれてんじゃん!」

 

 

吹雪は赤面しながら頭を抱えた。

 

 

「全然気づかなかったわ…」

 

 

「そうですか?私は何となく気づきましたけど…」

 

 

暁も驚いた顔をしたが、三日月は気づいていたようで、特に驚いてはいなかった。

 

 

「安心しろよ、今の話の内容は絶対に他言しないって約束するぜ」

 

 

摩耶はニカッと笑って言う。

 

 

「私も摩耶と同意見です、今見たことは誰にも言いません」

 

 

「むしろ自分たちの秘密を探すなんて、立派な目的だと思うわ」

 

 

加賀とローマも摩耶に同意し、他言しないと約束してくれた。

 

 

「…みなさん、ありがとうございます」

 

 

「お礼なんかいいって、こういう時に助け合うのが仲間ってモンだろ?」

 

 

お礼を言う三日月に摩耶はそう笑って返す。

 

 

持つべきものは友達だ、この言葉はまさにこのためにあるのだと、吹雪は改めて思った。

 

 

 

 

次の日、集まった連合艦隊が大本営に帰投する日がやってきた、帰りも行きと同じく等間隔に時間を空けて航行する。

 

 

第4艦隊は今回も一番最後に出発する、しかし今度は行きとは少し違うことがある。

 

 

「本当に私も入って良かったんでしょうか…?」

 

 

「いいに決まってるじゃない、どーせ帰るまでは瑞鶴たちだけなんだから」

 

 

「そういう楽観的な考えが慢心に繋がるのよ、特に戦闘ではやめなさいね」

 

 

「分かってますよ加賀先輩」

 

 

瑞鶴は小さく舌を出して謝る、その様子を見て加賀はまったくもう…とため息をこぼした、帰りの航海は三日月も加わっているのだ。

 

 

「今回は敵艦に会うことなく帰りたいぜ、行きは戦闘挟んだせいでめちゃくちゃ時間掛かったからな」

 

 

「そうね、少しだけスピード上げた方がいいかもね」

 

 

そう言って第4艦隊は航行速度を少し速める、また行きの時のように敵艦に遭遇して遅れる…なんて事になるのはごめんだ。

 

 

しかしそんな心配は杞憂に終わり、敵艦と遭遇することなく大本営まで帰る事ができた。

 

 

「今回の作戦の成果は室蘭の提督から聞いている、本当にご苦労だった」

 

 

南雲は帰投した艦娘をグラウンドに集めると開口一番に労いの言葉をかける。

 

 

「(吹雪さん、あいつぶっ殺してきていい?)」

 

 

「(殺れと言いたいし私も混ざりたいところだけど、司令官に迷惑がかかるかもしれないから我慢ね)」

 

 

はーい…と暁は心の底から残念そうな声を出す、目の前にいる男が海原を嵌めた、それだけで南雲に対する殺意がどんどん沸き上がってくる、ちなみに三日月には大本営の外にある公衆トイレの中に隠れてもらっている。

 

 

南雲の話が終わると今回の大規模作戦は終了、解散となり、艦娘たちはそれぞれの鎮守府へと帰って行く。

 

 

「じゃあね吹雪、暁、また会うことがあったらよろしく」

 

 

「提督の許可が下りたら遊びに行くぜ」

 

 

「三日月にもよろしくお伝えください」

 

 

「気をつけて帰ってね」

 

 

瑞鶴たちと別れの挨拶を済ませた吹雪と暁は大本営を出て三日月と合流する。

 

 

「よっ、終わったみたいだな」

 

 

電車に乗るために駅へ向かおうとしたが、海原が突然声をかけてきた、よく見ると大本営前の路肩に車を止めている。

 

 

「司令官!?」

 

 

「何でここにいるのよ!?」

 

 

「早くお前たちに会いたくて車を飛ばして来ちまった」

 

 

驚愕する吹雪たちに海原は何の悪びれもなく答える。

 

 

「…司令官」

 

 

すると、吹雪の後ろにいた三日月が前へ出る、ずっと会いたいと思っていた司令官(おや)に、ようやく会うことが出来た。

 

 

「お帰り、三日月」

 

 

そう言って海原は三日月の頭を撫でる。

 

 

「はい!ただいまです!司令官!」

 

 

三日月はうれし涙を流しながら敬礼する。

 

 

 

「…良かったわね」

 

 

「…うん」

 

 

吹雪も暁も、その様子を満足そうな顔で見ていた。

 

 

 

 

 

「改めまして、睦月型駆逐艦10番艦の三日月です、どうぞこれからよろしくお願いします」

 

台場鎮守府に戻った後、三日月は提督室で改めて着任の挨拶をする。

 

 

「おう、またよろしくな」

 

 

「はい!また司令官のお役に立てるなんて、本当に夢のようです!」

 

 

「いい子だなぁ…」

 

 

「いい子よねぇ…」

 

 

「いい子ですねぇ…」

 

 

吹雪たちは嬉しそうに敬礼する三日月を見てほんわかとした気分になった、我が鎮守府の癒し系になりそうだ、などと吹雪が考えていると…

 

 

「と言うわけで吹雪さん、私にも深海棲器を選ばせてください、出来ればあの南雲(ジジイ)をブチ殺せそうなやつを」

 

 

「………」

 

 

前言撤回、癒し系になるのはもう少し先の話になりそうだ。

 

 

 

 

挨拶が終わると三日月は武器庫で深海棲器の吟味を始める。

 

 

「じゃあ、これとこれとこれとこれにします」

 

 

三日月が選択した深海棲器は4つ。

 

 

1つ目は斧の杖先が槍のようになっている『槍斧(ハルバード)』、突いて良し、切って良しの優秀な深海棲器だ。

 

 

2つ目は『戦輪(チャクラム)』、本来は投擲用の武器であるが、これは中央部分に持ち手が付いていて剣のような感覚で使える変わったタイプの物だ、しかし剣とは違いどんな体勢でも敵を斬る事が出来るのである程度の利便性もある。

 

 

3つ目は『星球鎚矛(モーニングスター)』、棒の先端に球体が付いており、そこから鋭いトゲがびっしり取り付けられている、暁の棘棍棒(メイス)と似ているがこちらは先端部分にしかトゲが無いのが特徴だ。

 

 

そして4つ目は『騎兵軍刀(サーベル)』、吹雪から借りた太刀の使い心地が良かったらしく、それに似た形状の深海棲器をチョイスした。

 

 

「クセのありそうな武器ばかり選んだね…」

 

 

 

「そうですか?剣よりも使いやすいですよ」

 

 

そう言って三日月は槍斧(ハルバード)を構える。

 

 

 

「それに、あの南雲(ジジイ)にこれの一撃を浴びせたらどんな声で鳴くのかを想像しただけで興奮…」

 

 

 

「はいストップ!それ以上は止めておこうか!」

 

 

何だか物騒な事を口走り始めたので慌てて止める。

 

 

「…とりあえず三日月はしばらく練度向上訓練(レベリング)かな、私が特訓に付き合うから一緒に頑張ろうね」

 

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

吹雪のその言葉を聞いて暁は顔をひきつらせる、あの地獄の訓練をこれから三日月がする事になる…そう考えただけで三日月が気の毒になってきた。

 

 

(三日月…とりあえず死なないで)

 

 

暁は心の中でそう祈りながら合掌していた。

 

 

 

「も、もう許してくださいいいいいいぃぃぃ!!!!!!」

 

 

それからしばらくの間、鎮守府に三日月の悲鳴が聞こえるようになったのは言うまでもない。




次回はDSFの艦娘設定が少し明らかになるかもしれません。


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第51話「Z3の場合1」

chapter5「Z3編」

と言うわけでタイトル通りZ3(マックス•シュルツ)編スタート…ですがしばらく台場の連中出ません。

この小説の艦娘設定を一部公開、ありきたりだって?まぁそう言うな。


『造船所』

 

 

艦娘の建造や艤装の開発など、現在各地で活動している艦娘の管理を一手に担っている組織だ、その技術やテクノロジーなどの詳細は一切の極秘とされており、海軍元帥でも知る権限を与えられていない。

 

 

「そろそろかな」

 

 

造船所所長の榊原は造船所のエントランスホールで腕時計を見ながら呟いた、今日は注文していた建造部で使う荷物が届く日なので待っているのだ。

 

 

「シロアリヤモメです~」

 

 

 

5分後、宅配業者が荷物を持ってきた、2mほどの長方形をしたダンボール箱を台車に乗せている。

 

 

「ご苦労様です」

 

 

榊原は宅配伝票の受領書にサインをすると、ダンボール箱の荷物を受け取る。

 

 

「さてと、とりあえずこいつを運ばないとな」

 

 

榊原はダンボール箱を造船所の台車に乗せ替えると、建造部の部署が入っている部屋へ持って行く。

 

 

「今川、例のモノが来たぞ」

 

 

榊原が台車を押して建造部の中へ入ると、建造部責任者の今川義人(いまかわ よしひと)が慌てて駆けてきた。

 

 

「榊原所長!それくらい俺が…!」

 

 

「良いって良いって、最近建造データが増えてるんだろ?そっちに集中しろよ」

 

 

榊原が笑ってそう言うと、今川はすみません…と申し訳無さそうに頭を下げる。

 

 

「保管室に入れればいい?」

 

 

「はい、43番に空きがありますので、そちらに…」

 

 

「了解~」

 

 

榊原は鼻歌を歌いながら台車を奥の部屋に運ぶ、そこにはコインロッカーのような収納スペースがものすごい数並んでいた。

 

 

「うぅ~、やっぱり冷えるな」

 

 

榊原は保管室に入るとダンボール箱を開封する、中には紙に包まれた1.6mほどの長モノが入っていた。

 

 

その紙を全て剥いだ先にあったのは、人間の女性の死体だった。

 

 

「いつ見ても思うけど、トチ狂った趣味してるぜ」

 

 

榊原はそう言いながら43番の収納スペースを開ける、すると物凄く冷たい冷気が吐き出され、空気中の水分が凍っているのかスモークのような煙がわき上がる。

 

 

この部屋は艦娘の素体を保存しておく部屋になっている、あまり知られてはいないが、艦娘は人間の死体を素材(ベース)に遺伝子組み替えや体細胞の改造など、様々な加工をされて出来上がる、その土台となる人間の死体が腐らないように冷凍保存しているのがこの部屋である、ちなみに今回送られてきた死体は近くの霊安室から身元不明で処理に困っていたモノを融通してもらったのだ。

 

 

「…そういえば新しい艦娘を建造してるんだっけか、ちょっと見てみるか」

 

 

榊原は今川に声をかけて保管室に隣接して造られている建造室に入る。

 

 

そこは強化ガラスで作られた円柱型のカプセルが30台は置かれている大きな部屋だった、ここは建造部のメインとも言える建造室、艦娘の建造は全てここで行っている。

 

 

カプセルは薄緑色の液体で満たされており、中央にはバスケットボール程の大きさがあるオタマジャクシのような生物が浮かんでいた、これが建造中の()()だ。

 

 

艦娘建造にはいくつかの過程(プロセス)があり、その一つがこの“組織形成”だ、先ほどの死体はまずこのカプセル…生成器の中に入れられて組織レベルで()()される、次にヒト以外の生物の遺伝子やらその他の素材やらを投入し、組織を再形成させて身体を1から作り直す、その組織形成の最初の段階(ステージ)がこのオタマジャクシだ、まだ目も開いておらず、うっすらと透けたまぶたからは白っぽい眼球がこちらを覗いている。

 

 

そして組織形成が次の段階(ステージ)へ移行すると…

 

 

「お、目が開いた」

 

 

ギョロッ!という効果音が聞こえてきそうな勢いで目が開いた、その眼球はこちらを認識しているのかしていないのか、四方八方にギョロギョロ動かしている、続けてオタマジャクシに変化が現れ、球体状の身体を突き破るように細い手足が飛び出す、雑に例えるならバスケットボールにストローを張り付けたようなモノを想像すると分かりやすいだろう。

 

 

続けて頭部が少しずつ伸びていき、生物の教科書などでよく見る受精直後の胎児のような姿になる、これが段階(ステージ)2だ。

 

 

ここからは成長が著しく早くなり、1時間から2時間ほどで身体が出来上がる、その後は中の液体を抜いて生成器から出せば建造は完了する。

 

 

「ん?この生成器の艦娘はすでに建造が終わってるな」

 

 

榊原が視線を移した先にある生成器には完全にヒトの姿になった艦娘が薄緑色の液体の中で眠っていた、榊原が内線でそれを伝えると、今川が建造室にやってきた。

 

 

「ありがとうございます榊原所長」

 

 

「いやいや、物のついでだよ」

 

 

今川は榊原にお礼を言うと生成器に入っている液体を抜き、中の艦娘を取り出す。

 

 

「この艦娘はどこの依頼なんだ?」

 

 

「横須賀ですね、あのクズまた戦艦を沈めてしまったので、もう一度戦艦造ってほしいって出力出来るデータギリギリの資材を送ってきたんですよ」

 

 

「またか、戦艦を捨て艦にするなと言っているのに…懲りないな」

 

 

「本当ですよ、資材が多くたって戦艦になるわけでもないのに…」

 

 

今川がため息をついて言う、鎮守府の提督の間では資材を多くつぎ込むほど強力な艦娘を建造出来るという認識が広がっているが、それは間違いである。

 

 

提督が建造の時に払った資材は全て建造された艦娘の艤装の製作に回される、当然つぎ込む資材が多ければ戦艦用の艤装を造ることは容易いが、その分要求される体力や身体の耐久性が高くなるので艦娘がそれに扱えるだけの力が無ければ意味がない、つまり建造された艦娘の艦種はその艦娘がどの艦種の艤装まで扱えるかで決まる。

 

 

艦娘がどの艦種の艤装まで扱えるのかは素体であるヒトの死体の生前のスペックに大きく影響する、生前丈夫な身体を持っていた素体であれば戦艦クラスの艤装でも扱えるので戦艦の艦娘になるが、生前病弱な体質だった素体の場合は巡洋艦や駆逐艦の艤装しか扱えなかったりするので艦種は巡洋艦や駆逐艦になる、いくら遺伝子や組織を再形成していても土台のヒトの遺伝子が一番大きく影響するのだ。

 

 

同じ資材を投入しても建造される艦種にバラつきが出たり、資材を大量に注ぎ込んでも駆逐艦になったりするのはこれが理由である。

 

 

もう一つ言うと、艦娘のスペックを無視して大型艦の艤装を使わせると身体がそれに耐えられなくなり艦娘が壊れてしまう、なので巡洋艦の艤装までしか扱えない艦娘を無理に艦種を戦艦にする事は出来ない。

 

 

「で、この艦娘は何の艦種になるんだ?」

 

 

榊原は目の前でへたり込んで眠っている艦娘を見て言う。

 

 

「…駆逐艦ですね、この身体性能では巡洋艦の艤装すら扱えません」

 

 

今川が検査装置のディスプレイを見て言うと、榊原は大笑いした、データギリギリの資材を出して建造されたのが駆逐艦とはとんだお笑い草である。

 

 

「じゃあ作成する艤装は駆逐艦用ですね、お釣りがすごいことになりそうだ」

 

 

ちなみに補足すると、このように戦艦を建造しようとして駆逐艦などの小型艦が出来た場合、当然作成されるのは駆逐艦用の艤装である、しかしそれで資材が余ったとしてもそれは返して貰えず、そのまま造船所の備蓄となってしまうのだ。

 

 

「横須賀のがっかりした顔が目に浮かびますね」

 

 

「まったくだ」

 

 

ふたりは笑いながら建造されたばかりの艦娘を見る。




艦娘の設定はもう少し捻りを入れたかったところ。

そしてこのエピソード少し続きます。


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第52話「Z3の場合2」

艦娘設定その2

…え?やっぱりありきたりだって?こまけぇこたぁいいんだよ!

でもあの子であってあの子じゃないって地味に切ないですよね。


横須賀に納品する艦娘の建造が終了した、あとは目覚めてから横須賀に寄越すだけなのだが、その前に一つやることがある。

 

 

「名前はどうするんだ?」

 

 

「そうですねぇ…何がいいかな」

 

 

今川はタブレットの艦船リストを見ながら吟味する、する事とは艦娘に名前を付ける作業だ。

 

 

ちなみに艦娘を建造する場合、同じ名前の艦娘は複数体存在させない、という造船所のルールがある、もちろん艦娘の名前はただの設定なので同名の艦娘は何体でも存在出来るのだが、名前を呼ぶときに紛らわしいからという理由でそうなっている。

 

 

そのため一度付けられた名前はリストにチェックが入れられダブらないようになっている、なおこのルールは()()()()()()()にのみ適用される、例えば吹雪が轟沈して除隊された場合、艦船リストからチェックが外され、次建造された艦娘に吹雪の名前を返して再び使えるようになる。

 

 

「駆逐艦でまだ使われてない艦娘…」

 

 

今川はリストを見ながら呟く、駆逐艦はどこぞのブラック鎮守府のせいで轟沈しやすい艦種なのでリストのチェックの入れ替わりが激しい、責任者の今川でも把握しきれていない部分があるほどだ。

 

「…あ、この名前はまだだな」

 

 

そう言うと今川はタブレットに艦娘の名前を入力していく。

 

「睦月型駆逐艦3番艦『弥生』、それがお前の名前だ」

 

 

今川が名前を入力し終えると、タブレットに繋がっている電極のようなモノを頭に付ける、これは名前などの艦娘の情報を艦娘の脳に刷り込むためのモノだ、一種の洗脳装置と言っても過言ではないだろう。

 

 

名付け作業が終わると、すぐに弥生はパチリと目を開けてスッと立ち上がる。

 

 

「…はじめまして、私は睦月型駆逐艦…」

 

 

そこまで言い掛けたとき、弥生の右腕が落ちた、比喩でもなんでもなく、ナイフで切ったバターのようにするりと落ちた。

 

 

続いて左腕、右目と弥生の身体が溶けるようにドロドロと流れ落ちていき、最終的にはヒトの原型を留められずスライムのようになってしまった。

 

 

「…建造失敗だな」

 

 

「やり直しですね…」

 

 

今川ははぁ…とため息をつく、このように建造されても形成が上手くいかず体組織が崩壊してしまうことがある、これは“失敗”として扱われ、建造はやり直しになる。

 

 

ちなみに失敗といっても今回の弥生のように全身が崩壊してしまう事もあれば、腕などのパーツの一部のみが欠損するだけの場合もあったりとわりとピンキリだ、どちらにせよ解体処分されるのだが、後者は捨て艦用の艦娘として使うために一部の鎮守府がこっそり引き取っている場合もある。

 

 

 

「そうだ、この間建造した雪風と秋月とリベッチオはどんな様子だ?」

 

 

 

「はい、雪風と秋月は現在佐世保鎮守府へ送る手続きをしていて、リベッチオは艤装の開発が9割方完了しています」

 

 

「そうか、雪風たちの様子を見てもいいか?」

 

 

「分かりました、こちらへどうぞ」

 

 

今川の案内で榊原は建造室を後にする。

 

 

 

 

榊原と今川は各鎮守府から送られてくる建造データを管理する中央管理室に移動する。

 

 

「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です!どうぞよろしくお願いします!」

 

 

そう元気よく挨拶するのは陽炎型駆逐艦8番艦の雪風、栗色のショートヘアーに白いセーラーワンピのような服を来ている。

 

 

「秋月型駆逐艦1番艦の秋月です!」

 

 

2体目は秋月型駆逐艦1番艦の秋月、セミロングの黒髪をポニーテールにした背の少し高い艦娘だ。

 

 

この2体には鎮守府へ送られるまでの間ここの仕事を手伝ってもらっている。

 

 

「リベッチオは?」

 

 

「個体の最終調整に入っています、明日には終わる算段ですよ」

 

 

「そうか、わかった」

 

 

「そう言えば、雪風と秋月って前にも建造されたことがありましたよね」

 

 

そう言って雪風たちを見るのは建造部唯一の女性職員である風音鈴夏(かざね りんか)だ。

 

 

「あぁ、そう言えばそうだったな、室蘭鎮守府に送ったけど、大規模作戦中に不慮の事故で轟沈したって大本営が…」

 

 

今川は当時を思い出しながら言う。

 

 

「それにしても前の雪風や秋月とは全然姿が違いますよね、たしか前の雪風は髪が白くておどおどした子じゃありませんでした?」

 

 

「姿が違うのは当たり前だよ、艦娘は人工生命だが素体は人間の遺伝子を使ってるんだ、同じ名前の艦娘は存在できても、同じ姿の艦娘は二度と建造出来ないから存在することは出来ないよ」

 

 

榊原はどこか懐かしむような目をして雪風たちを見る、たとえ同じ名前だったとしても、その姿や人格、記憶などは全くの別人なのだ、人間も同姓や同名でもその性別や人格や記憶は全く別物になるのと同じ事である、自分が知っている名前なのに相手は自分を全く知らない別人、同じ名前なのに…あの子じゃない、それが榊原に一種の寂しさを感じさせるのだ。

 

 

「…あの、どうしました?」

 

 

榊原の心中を察したのか、雪風が不安げな顔でこちらを見上げている。

 

 

「大丈夫だよ、ありがとう」

 

 

榊原はそう優しく言うと、雪風の栗色の髪を撫でる。

 

 

 

 

次に榊原がやってきたのは解体室、読んで時の如く艦娘の解体を行う部屋だ。

 

 

よく漫画やアニメなどで出てくる、ガラス越しに対象を観察する実験施設のような造りをしている。

 

 

「誰か解体するのか?」

 

 

榊原が声をかけたのは解体部責任者の野坂和也(のざか かずや)だ。

 

 

「はい、あの艦娘です」

 

 

野坂がガラスの向こう側を指さすと、1体の駆逐艦の艦娘が裸で立っていた、睦月型駆逐艦7番艦の文月だ、全ての感情が無くなってしまったかのように虚ろな目をしている。

 

 

「横須賀のバカがまたやらかしたんだよ、そのせいで心を壊した結果提督を殺しかけたって…」

 

 

「…またあいつか」

 

 

榊原は忌々しげに舌打ちをする、横須賀の素行の悪さは造船所内でも有名だった、明らかに人権を無視した艦娘の扱いで何度傷ついた艦娘を見てきたか分からない、国や警察に取り締まるよう何度も申告したが、“艦娘は人間ではないので基本的人権の尊重の例外にある、よって取締る必要も法律を作る必要もない”という理由でつっぱねられてしまっている。

 

 

「…すまないな、こんな役を押しつけてしまって」

 

 

榊原は野坂に頭を下げる、いくら艦娘が人の形をしたヒトではないモノであったとしても、傷つき悲しむ彼女たちを見るのは辛いものだ、野坂にそんな役をやらせてしまっていることを榊原はいつも申し訳ないと思っている。

 

 

「気にしないでくださいよ榊原所長、どうせ誰かがやらなきゃいけない事なんです、所長が我々にそう思ってくれているだけでも救われるってもんです」

 

 

野坂は笑いながら言うと、文月解体の準備を進める。

 

 

 

「…解体、開始」

 

 

野坂は解体装置のボタンを震える指先で押す、これをやるのは一度や二度ではないが、何度やってもこれだけは慣れない。

 

 

ボタンが押されると天井から薄緑色のドロッとした液体が降ってきて、文月の頭にかかる、すると…

 

 

「…えっ!?何これ!あたしの身体が…!いやああぁぁぁ!!!!!!助けてえええぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

先ほど建造失敗した弥生と同じように身体がドロドロと溶けていき、最終的にスライムのような物体になってしまった、この液体は“高速解体材”と言い、生成器に入っていた液体と似た成分のモノだ、人間が触れても無害だが、艦娘が触れると即座に細胞や体組織が分解されてしまう。

 

 

「解体完了、処理班は速やかに残骸を回収、破棄するように」

 

 

野坂は部下たちに事務的に伝えると、踵を返して解体室から立ち去ろうとする。

 

 

「…野坂、近所に美味い店が出来たんだ、今夜一緒にどうだ?」

 

 

「…はい、ご一緒させていただきます」

 

 

罪もない艦娘の命を奪ってしまった悲しみで涙を流す野坂に、榊原は優しく肩を叩いて言った。




多分次回か次次回辺りで台場パートに戻ります。


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第53話「Z3の場合3」

艦これに限った話じゃないですけど、ソシャゲとかで特定のキャラだけが被ると「好かれてるのかなぁ」って変に運命感じたりするときってありません?

何が言いたいかと言うといい加減パズドラで水と木のソニア来てください、火だけ4体来られても使い道に困ります。

艦これではアーケードで2-4を駆逐艦だけで周回させてます、キス島撤退作戦向けレベリングです。




大規模作戦から一週間が経った頃、海原は台場艦隊を召集してある資料を見せる。

 

 

練度上限艦娘限定改装(ケッコンカッコカリ)についての概要資料』

 

 

 

「ケッコンカッコカリ?」

 

 

「何ですかこれ?」

 

 

資料に表記されている事が理解できず、吹雪と三日月が首を傾げる。

 

 

練度(レベル)上限って、今の暁たちの状態の事よね?」

 

 

「そうだ、そもそも艦娘の練度(レベル)ってのは出撃や演習、自主訓練なんかで鍛えられた基礎能力(ステータス)がどれくらい伸びたかを数値化したものだ、当然その伸び代はずっとあるもんじゃないし、どこかで上限を迎える、それが練度(レベル)99…いわゆるカンストの状態だ」

 

 

「つまり、練度(レベル)99の私とハチと暁はこれ以上基礎能力(ステータス)の上昇は望めないって事ですか?」

 

 

「端的に言えばそうだな、そしてその無くなった伸び代をさらに伸ばす、練度(レベル)99の上を目指せるようになるのがこの特別な改装…ケッコンカッコカリだ、艦娘の新たな強化方法として造船所から資料が送られてきたから紹介しておこうと思ってな」

 

 

「てことは練度(レベル)100以上になることが出来るってわけ?」

 

 

「そんなとこだ、火力の伸びはあまり期待出来ないらしいが、機動力の大幅な上昇が見込めるらしい、つまりヒット&アウェイを専売特許とする駆逐艦や潜水艦のお前らには大きなアドバンテージになる」

 

 

海原がそう言うと、吹雪たちの顔が途端に輝き出す、予想通りの反応だったので思わず笑ってしまった。

 

 

「私、ケッコンカッコカリやりたいです!」

 

 

「わたしも!」

 

 

「暁もやりたいわ!一人前のレディなら、もっと強くならないと!」

 

 

吹雪、ハチ、暁のカンスト組が一斉に名乗りを上げる、しかし三日月だけは浮かない顔をしていた。

 

 

「私は出来ないんでしょうか…?」

 

 

現在の三日月の練度(レベル)ではカンストにはまだ足りない状態だ。

 

 

「三日月には悪いが、練度(レベル)上限の艦娘にしかケッコンカッコカリは出来ないらしい、基礎能力(ステータス)が上がりきった艦娘の艤装じゃないとこの改装は上手くいかないんだとさ」

 

 

「…そうですか」

 

 

三日月はしょんぼりした顔をする、ケッコンと聞いて三日月の乙女心が反応したらしいが、今の自分では練度(レベル)が足りない。

 

 

「心配するな、別に今回きりの話って訳じゃない、お前が練度(レベル)上限になったらすぐにケッコンカッコカリの用意をしてやるよ」

 

 

 

「っ!!本当ですか!?」

 

 

「あぁ、だからお前は何も心配せず普通に練度(レベル)を上げていけ」

 

 

「はい!ありがとうございます!私、頑張ります!」

 

 

 

そう言うと三日月は満面の笑みで海原に敬礼する。

 

 

「…吹雪さん、三日月の練度(レベル)っていくつだっけ?」

 

 

「たしか93だったはず…」

 

 

「これ、次の日あたりには上限になってるんじゃ…」

 

 

「いやぁ、流石にそう簡単にはいかないでしょ…」

 

 

そんな事を吹雪たちは話し合っていたが、次の日の自主訓練で三日月はわずか一日で練度(レベル)をカンストさせ、鎮守府中を驚かせたのはまた別のお話である。

 

 

 

 

「そういえば司令官、ケッコンカッコカリってどうやるんですか?」

 

 

「造船所に申請を出して艤装を送れば改装してくれるみたいだぞ」

 

 

三日月がカンストした日の夜、海原は吹雪たちのケッコンカッコカリ申請書を書きながら言う、三日月の奮闘もあり無事全員ケッコンカッコカリをする事が出来る。

 

 

「なんか面倒くさいですね」

 

 

「艤装の細かい設計技術は機密情報(ブラックボックス)だからな、俺たちが弄れるほど単純なモノじゃないってワケだ」

 

 

「それなら初めからケッコンカッコカリなんてやらなきゃいいんですよ、手間がかかるったらありゃしない」

 

 

「お前も辛口だな」

 

 

苦笑しながら言う海原に吹雪は普通ですよ、と言う。

 

 

「とりあえずケッコンカッコカリをするのは吹雪、ハチ、暁、三日月の4体だな、まさかうちの鎮守府にいる艦娘全員がカンストするとは思わなかったぜ」

 

 

「ずっと訓練しかしてない暇な連中ばかりですからね、そりゃカンストもしますよ」

 

 

「お前にだけは言われたくないと思うぞ」

 

 

海原はジト目で吹雪を見ながら言う、台場に来てからほぼ訓練しかしていない吹雪が言ってもなんの説得力も無い。

 

 

「サーナンノコトデショー?」

 

 

吹雪は海原のつっこみを棒読みではぐらかすと、急に海原の後ろに来て首に腕を絡める。

 

 

「急にどうした?」

 

 

「こうしていると、私と司令官のふたりきりだったときの事を思い出すな…と」

 

 

吹雪は海原の肩に顔を乗せると、思い出すように言う。

 

 

「そういえばお前しかいなかったときは毎晩こんな感じだったな、あれから二ヶ月くらいしか経ってないのに、随分と変わったもんだ」

 

 

思えば、吹雪がここに来たのが全ての切っ掛けだった、混血艦(ハーフ)の秘密を探す事になったり、艦娘の深海棲艦化の事を知ったり、二度と会えないと思ってた三日月にも会えた、それもこれも吹雪と出会えたおかげだと言っても過言ではないだろう。

 

 

「…吹雪、ありがとな」

 

 

海原は吹雪の手を取る、すると吹雪は海原の指に自分の指を絡める。

 

 

「私は何もしてませんよ、自らの過去の過ちを認めて前に進もうとした司令官が自分で勝ち取った結果です、だから司令官は胸を張っていてください、司令官は私たちの誇りなんですから」

 

 

 

「…ありがとう」

 

 

吹雪の言葉を聞いた海原は、もう一度吹雪にお礼を言った。

 

 

 

 

 

それから2日後、ケッコンカッコカリの改装を終えた吹雪たちの艤装が造船所から届いた。

 

 

「…なんか、あまり変わってませんね」

 

 

「というか全く変わってない気が…」

 

 

「これ本当に改装されたんですか…?」

 

 

試しに装着してみたが、見た目などは特に変わっていなかった、それこそ改装されたのかを疑いたくなるレベルで。

 

 

「艤装の内部にちょっと施しをする程度らしいからな、見た目は変わらないんだと」

 

 

海原がそう言うと吹雪たちはつまらないだの味気ないだの文句を言う、海原はそれを予想していたのでケッコンカッコカリの目玉であるアレを取り出す。

 

 

 

「艤装は変わらないが、副産物としてコイツがついてくる」

 

 

そう言って海原が取り出したのは指輪だった。

 

 

 

「指輪?」

 

 

「ケッコンカッコカリをした証として艦娘に配られるモンだ、指輪自体には特別な効力は無いから階級証の一種として考えればいい」

 

 

「ケッコンカッコカリって言うだけあって無駄に凝ってますね」

 

 

「こんなモノに金かけるなら艤装に金をかけてほしいわね」

 

 

「全くです」

 

 

相変わらずぶつくさと文句を言うが、指輪は素直に付けている、案外満更でもないらしい。

 

 

「まぁ、色々言いたいことはあるだろうが、ケッコンカッコカリおめでとう」

 

 

海原がそう言うと、吹雪たちははずかしそうにしながらも、嬉しそうに笑った。




そう言えばグリムノーツで主人公(男)が赤ずきんに変身したときに「性転換!?」って考えたのは僕だけじゃないはず。


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第54話「Z3の場合4」

友人「お前ロリコンだよな」

僕「は!?んなわけねーだろ!」

友人「ならマンガとかアニメの好きなキャラ言ってみ?」

僕「いいぜ?」

…みたいな会話をこの前して、キャラ名挙げていったらやっぱロリコンじゃねーか!とつっこまれた、マジか…



吹雪たちとケッコンカッコカリをした翌日、海原は秘書艦の吹雪を連れて大本営を訪れていた、どうやら先の大規模作戦関係で臨時司令官会議を行うらしい。

 

 

「どうして私たち台場鎮守府も呼ばれるんでしょうか…」

 

 

「大規模作戦にはうちも参加したからじゃないか?」

 

 

「あのクズ共が今更何をほざくのやら…」

 

 

吹雪が悪態をつきながらため息をつく。

 

 

「言っとくけど、ムカつくやつがいたからって深海棲器構えて突撃するんじゃないぞ」

 

 

以前室蘭にいたときに三日月たちが得物を持って上官を睨み付けるという事があったので、海原は一応釘を刺しておく。

 

 

「するわけ無いですよ、三日月や暁じゃないんですから」

 

 

(三日月はともかく、暁もそっち側なのか…)

 

 

今回連れてきたのが吹雪で良かった、とこっそり安堵する海原であった。

 

 

 

 

臨時司令官会議が行われる大会議室へ入ると、現在国内に存在している全ての鎮守府、駐屯基地の提督が集まっていた。

 

 

「うわ…すごい人数」

 

 

「全員集合みたいなことはFAXに書いてあったが、改めて見ると壮観だな」

 

 

そんな事を言いながらふたりは空いている席を見つけて適当に座る。

 

 

ここで吹雪は周りの席をキョロキョロ見渡す、ほとんどの提督が秘書艦を連れているが、その九割が戦艦、正規空母だった。

 

 

「(何でああも戦艦や正規空母に拘るんですかね)」

 

 

「(戦力誇示だろ、“オレはこんなすげー艦娘持ってるんだぜーいーだろー”、って事だと思うぞ)」

 

 

「(くっだらない…)」

 

 

吹雪はつまらなさそうに言って頬杖をつく、その時扉が開いて南雲元帥が入ってくる。

 

 

「今日は集まってくれて感謝する、今回君たちを召集したのは、先の大規模作戦で発見された新種の深海棲艦の事だ」

 

 

南雲がそう言うと、会議室中にざわめきが起こる。

 

 

(ベアトリスの事か…)

 

 

吹雪がその時のことを思い出す、あのベアトリスの砲撃の威力や新種の艦載機…牡丹雪にも散々苦しめられた。

 

 

「まずはこれを見てほしい」

 

 

南雲がプロジェクターを使いスクリーンに写真を投影する、そこには牡丹雪を発艦させるベアトリスの姿が映し出されていた。

 

 

「これは空母艦娘の偵察機を用いて撮影した写真だ、見ての通り、我々の知る深海棲艦には存在しない個体だ」

 

 

ベアトリスの写真を見た提督たちはざわめきを大きくする、戦艦棲艦や空母棲艦よりも人間らしい肢体、禍々しい口を開けて獲物を狙う人喰い箱(ミミック)のような艤装、今までの深海棲艦より一線を画する存在だということは明らかだった。

 

 

「この新種は艦載機を発艦させる事から空母だということが予想される、しかもその艦載機は我々の艦娘の艦載機の性能を凌駕すると思われる、おまけに配下の深海棲艦を統率するなど、我々と変わらない指揮能力があると考えていいだろう」

 

 

「深海棲艦に指揮能力!?」

 

 

「そんな事があり得るのか!?」

 

 

提督たちがあちこちで物議を醸し出す、深海棲艦に人並みの指揮能力があるなど今まで聞いたことがないのでこの事実は大きな驚きとなる。

 

 

「以上の事実を踏まえ、我々はこの新種を次のように名付ける」

 

 

南雲はプロジェクターを操作してスライドを次へ進める。

 

 

 

 

空母棲姫(くうぼせいき)

 

 

 

 

「…姫?艦ではないのですか?」

 

 

佐世保の提督が南雲に質問する。

 

 

 

「その理由はこうだ、他を圧倒する強固な力を持ち、己の統率力を用いて配下を指揮する、まるで女王蟻や女王蜂のようだとは思わんか?」

 

 

南雲の言葉に全員が押し黙る、確かに今までの話を統合すればベアトリスへの女王という比喩も頷けるものだ。

 

 

「よってこの新種には畏敬の念を込め『姫』という新たな艦種に制定し、名前は空母棲姫とする」

 

 

南雲はそう言うと、プロジェクターを操作しもう一枚写真を映す。

 

 

「続けてこちらは色丹島内部で戦っていた連合艦隊が撮影した写真だ」

 

 

その写真に写っていたのは空母棲姫に引けをとらないほどの化け物だった、頭から鬼のような二本の角を生やし、漆黒のワンピースを身に纏った深海棲艦、そして顔のない口だけの石像(ゴーレム)のような艤装を従えている。

 

 

「この新種も言葉を話すことができ、圧倒的な戦力と統率力で配下の深海棲艦を動かす新種だ、艦載機は持たず砲撃のみで攻撃してきた事から戦艦の可能性が高い、この個体も『姫』と認定し、このように名付ける」

 

 

 

 

戦艦棲姫(せんかんせいき)

 

 

 

 

「この空母棲姫と戦艦棲姫はこれまでの深海棲艦の上位にいる存在だと思われ、今後具体的な策を練る必要があると考える」

 

 

これを聞いた提督たちは揃いも揃って頭を抱える事になった、ただでさえ既存の戦艦棲艦や空母棲艦でも手を焼くのに、さらに上位の存在が現れるとなればこれまで以上の苦戦を強いられるのは必至だ。

 

 

「この『姫』の情報は後日電子書庫(データベース)にも配信するので、各自よく確認しておいてほしい、今日はこれで解散とする」

 

 

南雲のその言葉を合図に提督たちが会議室を後にしていくが、その足取りは皆重いものだった。

 

 

「しっかし、姫とはまた厄介なモンが出てきたな」

 

 

「今後の艦隊決戦に一石を投じるような話題でしたね」

 

 

海原と吹雪も台場に帰ろうと大本営の廊下を歩いていると…

 

 

「よぉ~海原」

 

 

どこかで聞いたことのあるクソムカつく声が聞こえた。

 

 

「…わざわざ俺に何の用だ」

 

 

振り向くとそこには横須賀鎮守府の司令官、佐瀬辺吉法(させべ よしのり)がエラそうに立っていた、傍らには秘書艦である大和型戦艦1番艦の大和を従えている。

 

 

 

ここで海原は吹雪の方をちらりと見る、吹雪は微かに震えていた、横須賀鎮守府は吹雪が所属していた鎮守府だ、しかし佐瀬辺の捨て艦戦法により轟沈してしまい、吹雪は台場鎮守府へとやってきた、つまりこいつは吹雪のトラウマそのものと言ってもいい。

 

 

 

「お前にお呼びがかかるなんて思ってもいなかったからな、せっかくの機会だし声でもかけてやろうと思ったんだよ」

 

 

「…そりゃどうも、じゃあ声をかけられたんだから満足だよな、俺は帰る」

 

 

海原は佐瀬辺への不快感を隠そうともせずに言う、これ以上こいつの前にいると吹雪を苦しめる事になる、そんな事をするわけにはいかないので海原はさっさとこの場から立ち去ろうとする。

 

 

「そう言わずに付き合えよ、特に吹雪(おまえ)には用があるんだよ」

 

 

佐瀬辺が自分に用?吹雪は佐瀬辺の発言の意図が理解できなかった。

 

 

「吹雪、横須賀に戻る気は無いか?」

 

 

 

「……は?」

 

 

今度こそ吹雪は訳が分からなくなる。

 

 

「台場鎮守府なんて世間から見捨てられた牢獄で一生を終えるより、主戦力鎮守府の最筆頭である横須賀で活躍した方がお前の為でもある」

 

 

「…その主戦力鎮守府の捨て艦戦法で私が轟沈したという事実をもうお忘れですか?仮に戻ったところでまた非人道的な方法で苦しめられるのがオチです」

 

 

吹雪は冷めたし視線で佐瀬辺を睨み付ける、自分の私利私欲で轟沈させたくせに戻ってこい?こいつの脳は腐敗を通り越してゴミになっているのではないかと吹雪は思った。

 

 

「それはお前の働き次第だ、俺に貢献するような働きを見せれば活躍の機会を与える、今までと何も変わらんだろう?」

 

 

佐瀬辺の言葉を聞き、はぁ…とため息をつく、この人は何も変わっていない、私利私欲のために艦娘を使い倒し、都合が悪くなれば捨てる、あの時から何一つ変わっていなかった。

 

 

「あなたはどこまでも腐りきった人間ですね、クソ過ぎて逆に尊敬できますよ」

 

 

吹雪がそう言うと、佐瀬辺がこめかみをひくつかせる、どうやら今の言葉は効いたらしい。

 

 

「お前、ずいぶん生意気な口を聞くようになったなぁ、駆逐艦の分際で…!」

 

 

 

佐瀬辺は吹雪の顎をつかんでクイッと持ち上げる、しかし吹雪はそれに臆することなく佐瀬辺を睨みつけていた。

 

 

 

「ケッ、生意気な目しやが…あいでででででで!!!!!!!」

 

 

「あんまりその汚らしい手で俺の秘書艦を触るのは止めてもらいたいもんだな」

 

 

見かねた海原が佐瀬辺の手を掴んで捻る。

 

 

「や、大和!止めさせろ!」

 

 

「ですがここで艤装を出しては…!」

 

 

「口答えするな!お前の友人のように輪姦されたいのか!」

 

 

佐瀬辺にそう怒鳴られると、大和は嫌々艤装を展開させ、海原に砲を向ける。

 

 

「今すぐその手を離してください」

 

 

大和は声を震わせながら海原に言った、その目からは“ごめんなさい”という感情が読み取れる。

 

 

(余程普段から脅迫を受けてるみたいだな…)

 

 

大和を不憫に思った海原は佐瀬辺の手を離す、それを見て大和は安堵するが、すぐにそれは絶望へと変わる。

 

 

 

「…今すぐ砲を下ろせ」

 

 

吹雪がナイフの深海棲器を大和の喉元へ突きつけたのだ。

 

 

大和はその吹雪の顔を見て恐ろしいと感じた、相手は駆逐艦、戦艦の自分にと比べても基礎能力(ステータス)はこちらが遥かに上だ、しかし吹雪の殺意に満ち溢れた眼孔で睨まれて、こいつには勝てない、下手をすれば殺されるとすら思ってしまう。

 

 

「……」

 

 

 

そんな吹雪の気迫に負け、大和は艤装を解除する。

 

 

「用は済んだか?それじゃあ俺はこれで失礼する」

 

 

海原はそれだけ言うと吹雪を連れてさっさと帰って行った、佐瀬辺と大和はその後ろ姿をただ見ている事しかできなかった。

 

 

「さっきのはやりすぎだぞ、大和だって本心でやってる訳じゃないんだ」

 

 

 

「うぅ…スミマセン、でも司令官が危ない目にあっててつい…」

 

 

(こいつもあっち側予備軍だな…)

 

 

そんな事を考えながら海原は駅へと向かっていく。




吹雪もやるときはやる。


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第55話「Z3の場合5」

太鼓の達人の家庭用作品に収録されてるミニゲームに100走があるんです、太鼓を連打して走るってだけのゲームなんですけど、頑張れば8秒台を出すことが出来るんですよね、どんちゃんってボルトより早かったのか…

どうでもいいけどそのミニゲームに出てくるパトリオッドンがクソ強くて7秒台狙わないと勝てない(記憶は曖昧だけどね)。


臨時司令官会議の翌日、吹雪たちは出撃任務で海に出ていた。

 

「敵艦発見!戦闘態勢に移行します!」

 

 

今回の敵編成は重巡棲艦3体、軽巡棲艦4体、駆逐棲艦3体の計10体だ、戦艦や空母はいないので被弾にさえ気を付ければ勝つのは難しくないだろう。

 

 

「戦闘開始!」

 

 

吹雪の合図と共に全員が突撃、いつも通り砲弾斬りで敵に肉薄する、今回は陣形を意識して隊列を組んでいる、まず前衛に吹雪、暁、三日月を置いて敵を叩く、そして後衛はハチが拳銃で援護射撃をして敵を牽制…という流れだ。

 

 

 

「すごい!身体が羽根みたいに軽い!」

 

 

「これがケッコンカッコカリの恩恵…という事でしょうか」

 

 

「サイコーじゃない!」

 

 

全員がケッコンカッコカリによる機動力の大幅向上に感動しつつ、敵艦隊への距離を縮めていく。

 

 

「はあっ!」

 

 

まずは吹雪が手甲拳(ナックル)で駆逐棲艦2体を撃沈、残りの1体を暁が鎌で一撃必殺、10秒もかからないうちに敵の前衛を全滅させた。

 

 

「その首、頂戴いたします!死ね!」

 

 

続けて三日月が槍斧(ハルバード)で軽巡棲艦の頭部を一刀両断、これも一撃必殺だった、続けて星球鎚矛(モーニングスター)を振り回しながらその場で一回転、三日月の周囲にいた軽巡棲艦が全員大破になる。

 

 

「それっ!」

 

 

それを見たハチが拳銃で軽巡棲艦を狙撃する、別格威力が高いわけではないが、瀕死の軽巡棲艦には十分な致命傷になり、一気に撃沈となる、これで残りの敵勢力は重巡棲艦のみとなった。

 

 

吹雪と三日月が残っている重巡棲艦へ突撃する、途中雑魚の砲撃や雷撃が飛んでくるが、全て紙一重のタイミングでかわす。

 

 

「食らえ…!」

 

 

一撃で仕留める、その思いを込めて吹雪は全力で手甲拳(ナックル)を振りかぶり…

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

いつかの時にやった技名を叫び、重巡棲艦の顔面を思い切り殴りつける、当たり所が良かったのか、重巡棲艦の首がもげて撃沈となる。

 

弧月(コゲツ)!」

 

 

三日月も負けじと槍斧(ハルバード)で重巡棲艦を下から上に向かって斬り上げる、顎を砕かれた重巡棲艦はよろよろと蛇行し、まともに戦闘を行える状態ではなくなった。

 

 

月光刃(ゲッコウジン)!」

 

 

トドメに騎兵軍刀(サーベル)で重巡棲艦を一閃し撃沈させる、これで残りの敵勢力は重巡棲艦1体のみだ。

 

 

「それじゃサクッと倒して帰りましょうか」

 

「そうだね」

 

 

「夕飯は司令官特製カレーって言ってましたから」

 

 

「ホントに!?ならさっさとぶっ殺さないと!」

 

 

全員が深海棲器を構えて重巡棲艦に向かおうとする。

 

 

「ーーーー!!」

 

 

しかしその時、重巡棲艦が声にならない声で咆哮をあげる。

 

 

「いったい何を…?」

 

 

そう言って吹雪たちが身構えると、重巡棲艦の周りを囲むようにして駆逐棲艦が海中から湧いて出てきた。

 

 

「新手!?」

 

 

「でも駆逐棲艦よ!落ち着いて倒せば問題無いわ!」

 

 

暁が棘棍棒(メイス)を構えて重巡棲艦に向かおうとする、しかしハチがそれを止めた。

 

 

「待ってください!“面影”を持った深海棲艦がいます!」

 

 

「っ!!」

 

 

「えっ!?“面影”!?」

 

 

「どこどこ!!?」

 

 

「あそこです!」

 

ハチが指差したのは重巡棲艦の真正面にいる駆逐棲艦だ、吹雪たちもそれに意識を集中させると、確かに艦娘の“面影”を感じる事が出来た。

 

 

赤紫色のショートヘアーに濃紺色の軍服を来た艦娘で、どこか悲しそうな顔をしている。

 

 

「とりあえずあの“面影”持ち以外を倒さないとですね」

 

 

「そうだね、サッサとやっちゃいますか」

 

 

そう言って吹雪たちは敵艦隊へと突撃する、重巡棲艦には多少手こずったが、“面影”持ち以外の深海棲艦を全て倒すことに成功する。

 

 

「すみません」

 

 

吹雪は“面影”持ちに声をかけるが、俯いてるだけで何も返事がなかった。

 

 

「これは暁みたいなパターンかな」

 

 

「暁の?どういう事よ」

 

「暁の時もこうやって何かに取り付かれたみたいに俯いてブツブツ言ってたし」

 

 

「あぁ、そう言えばそうでしたね」

 

 

ハチがそれに賛同する。

 

 

「…暁って深海棲艦だったときこんな根暗だったのね」

 

 

少し複雑な思いを抱えながら暁は“面影”持ちを見る。

 

 

『…か……ぜ……………』

 

 

すると突然、“面影”持ちが声を発した。

 

 

「かぜ…?」

 

 

吹雪たちはよく聞こうと耳を近づける。

 

 

『……し…ま……か………ぜ……………』

 

 

 

「しまかぜ?」

 

 

「艦娘の名前…でしょうか?」

 

 

他にも情報を聞き出そうと思ったが、“面影”持ちがそれ以上言葉を発する事はなかったので情報は聞き出せず、吹雪たちはやむなく撤退した。

 

 




ちなみに艦これ改では現在ミッドウェー海域を攻略中。


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第56話「Z3の場合6」

アーケードでアルフォンシーノ方面進出に駆逐艦で行こうとしたら編成制限(正規空母、装甲空母、軽空母のうち2体以上)に引っかかりました。

おまけに今の手持ちの空母系は蒼龍(Lv1)と龍壤(Lv3)だけというね、カード40枚近くあるのにこの惨状やいかに。

一応B勝利出来ました、ちなみにドロップは長門。

…アルフォンシーノって長門落ちるんだね。



帰投後、吹雪は先ほどの出撃で見た“面影”の似顔絵をもとに海原に電子書庫で検索してもらう。

 

 

「…出た、この艦娘だ」

 

 

○艦娘名簿(轟沈艦)

 

・名前:Z3(マックス•シュルツ)

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:Z1(レーベレヒト•マース)型3番艦

 

練度(レベル):45

 

・所属:呉鎮守府

 

・着任:2049年6月31日

 

・轟沈:2050年2月10日

 

・除隊:2050年2月10日

 

 

「マックス・シュルツって名前の駆逐艦らしい」

 

 

「轟沈したのが今から半年くらい前だから、結構最近ですね」

 

 

「あれ?呉鎮守府って、たしか摩耶さんがいる所よね」

 

 

暁がマックス・シュルツの情報を見て言う、大規模作戦の時に摩耶は呉鎮守府所属だという話を聞いていた。

 

 

「あ、そう言えばそうですね」

 

 

「呉って事は広島あたりですね、これはまた遠い所から…」

 

 

「それと、そのマックス・シュルツが言ってた“しまかぜ”って名前を調べたら、面白いことが分かったぜ」

 

 

そう言って海原は名簿のページを切り替える。

 

 

○艦娘名簿(現存艦)

 

・名前:島風(しまかぜ)

 

・艦種:駆逐艦

 

・クラス:島風型1番艦

 

練度(レベル):70

 

・所属:呉鎮守府

 

・着任:2049年1月25日

 

・2050年8月現在活動中

 

 

 

「呉鎮守府の艦娘だったんですね」

 

 

「と言うことは、マックス・シュルツの轟沈と島風は何かしら関係があるという事ですね」

 

 

「そう見て間違いないだろうな、暁の時も響たちの名前を呟いてたみたいだし」

 

 

「やけに暁の事例が出されるのが気になるわね…」

 

 

複雑そうな表情を浮かべる暁をよそに、マックス・シュルツ艦娘化作戦を実行に移す台場艦隊だった。

 

 

 

 

「とりあえず最初は摩耶さんに話を聞くのが近道かな」

 

 

一度自室に戻った吹雪は艦娘用のPitを取り出す、これは大規模作戦の後に全国の鎮守府に配布されたもので、電子書庫(データベース)などの提督用の機能は利用出来ないが、通話やメールといった機能は利用できる…簡単に言えば提督用のグレードダウン版と言ったところだろうか。

 

 

そのPitから摩耶の番号を選択し、発信ボタンを押す。

 

 

『はい、呉鎮守府の摩耶ですー』

 

 

呼び出し音3回で摩耶は電話に出た。

 

 

「お久しぶりです摩耶さん、台場鎮守府の吹雪です」

 

 

『吹雪!久しぶりだな、元気だったか?暁はどうしてる?』

 

 

「私は元気ですよ、暁も毎日元気に深海棲艦を狩りまくってます」

 

 

『相変わらずだな…』

 

 

ハハハ…と乾いた笑い声を出す摩耶、苦笑しているのが容易に想像できる。

 

 

『それで今日はどうしたんだ?ひょっとしてアタシのチャーミングな声を聞きに電話してくれたとか?』

 

 

「寝言は死んでから言ってください」

 

 

『お前も相変わらず辛口だな…』

 

 

渾身のボケをマジレスで返され、若干ハートブレイクな摩耶だった。

 

 

「それで用件なんですけど、単刀直入に聞きます、呉鎮守府に所属していたマックス・シュルツという駆逐艦について聞きたいんです」

 

 

吹雪がそう言うと、摩耶が若干慌てたような様子で声を出す。

 

 

『何で吹雪がマックスの事を…っ!?まさか…』

 

 

「はい、台場鎮守府近海に深海棲艦化したマックス・シュルツが現れました、調べたら呉鎮守府所属みたいだったので…」

 

 

『そうだったのか、確かにマックスは呉鎮守府所属だったよ、轟沈したのが半年くらい前、しっかり者だけど時々甘えん坊なところもあって、かわいい子だった』

 

 

摩耶がしみじみとマックスとの思い出を語る、その様子から鎮守府のみんなから愛されていたのだろう。

 

 

「そうだ、それともう一つ…」

 

 

吹雪はマックスが島風の名前を出していたことを話す。

 

 

『ふーむ…島風か、あいつがマックス轟沈の件に関わってるのは事実っちゃ事実だけど、何分込み入った話だし、当事者の島風から聞いたほうが詳しい話が聞けると思うし、今から島風の所行こうか?』

 

 

「いえ、それなら私たちが呉まで行きますよ?」

 

 

『いや、アタシが島風連れてそっちに行くよ、もしマックスが現れたら対応しやすいだろ?、ついでにマックスと縁のある艦娘も連れてくるから』

 

 

「分かりました、司令官には私から伝えておきます」

 

 

『おう!よろしくな!じゃあ日程とかは追って連絡するぜ』

 

 

「了解です!」

 

 

吹雪はPitの通話を切る。

 

 

「さてと、それじゃ司令官にも報告しないと…」

 

 

吹雪は提督室に向かうために自室を出て行った。

 

 

 

 

「さてと、それじゃあいつにも伝えておかないとな」

 

 

吹雪との通話を終えた摩耶は自室を出ると、ある艦娘の部屋へ向かう。

 

 

「島風、金剛さん、いる?」

 

 

「あら、こんな時間にどうしたの?摩耶」

 

 

金剛は読んでいる本から視線を外すと、摩耶の方を見る。

 

 

一方、島風はこちらを一瞥しただけで何も言わなかった。

 

 

「いや、ちょっと相談があって、アタシと島風と金剛さんとで一緒に東京まで遠出しません?」

 

 

それを聞くと、金剛は驚いた顔をする。

 

 

「東京まで?ずいぶん遠いわね、行くのは構わないけど、何か用があるの?」

 

 

摩耶はどう切り出そうかと悩んだが、やがて意を決したように口を開く。

 

 

「マックスに会いに行く…って言ったら、信じてくれますか?」

 

 

それを聞いた金剛は持っていた本を手から落とし、あの島風ですら目を剥いてこちらを見た。




そう言えば艦娘のステータスにある「対空」がイマイチよく分からない今日のこの頃。

「空母へのダメージを増やす」のか「空母からのダメージを減らす」のかどっちなのか、wikiみたけど情報量多い…


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第57話「Z3の場合7」

艦これアーケードの三日月がぐうかわ。

「どこ触ってるんですか!もう!」のモーションが特にたまりません。

暁もなかなかいいですよ、「司令官、ごきげんようです」と「本日はお日柄も良く…なのです」が特にいいっす。


それから3日後、摩耶たちが台場鎮守府にやってきた。

 

 

「よっ、摩耶様ご一行の到着だぜ!」

 

 

「おひさしぶりです摩耶さん!」

 

 

「あんた腹の肉増えたんじゃない?」

 

 

「その節はお世話になりました」

 

 

吹雪、暁、そして作戦中に助けられたら三日月がそれぞれ挨拶する。

 

 

「はじめまして、台場鎮守府所属の潜水艦伊8です、気軽にハチとお呼びください」

 

 

摩耶とは初対面だったハチがぺこりと挨拶をする。

 

 

「おう、よろしくなハチ、それで、お前が腰に下げてるのはやっぱり深海棲器か…?」

 

 

摩耶がそう言って指差すのはハチの右腿に付けられているホルスターに入った拳銃と、左の腰に帯刀されている2本の小太刀だ。

 

 

「はい、やはり魚雷だけでは心許ないので」

 

 

「拳銃は分かるとして、小太刀はリーチが短いんじゃないか?」

 

 

 

「そうでもないですよ?、敵艦の肉を削ぎ落としたり、目玉を抉りとったりするのに重宝します」

 

 

(…艦娘って混血艦(ハーフ)になったら気性が荒くなる性質でもあんのか…?)

 

 

こともなげにそんな事を言うハチを見てそう思わずにはいられない摩耶だった。

 

 

 

 

「はじめまして、金剛型戦艦1番艦の金剛と申します、この度はお招きいただきありがとうございます」

 

 

そう柔らかな物腰で海原に挨拶をするのは金剛型戦艦1番艦の金剛、色素の薄いプラチナブロンドの長い髪を揺らし、チェーンメイルとラメラーアーマーを身に纏った艦娘だ、その風貌から中世ヨーロッパの騎士を連想させる。

 

 

「いやいや、こっちこそこんなクソ暑い中遠いところからありがとう、冷たい飲み物を用意してあるからすぐに提督室に案内するよ」

 

 

 

「まぁ!それはありがとうございます!」

 

 

金剛は両手を合わせて嬉しそうに微笑む、大人らしい落ち着いた雰囲気の女性かと思いきや、子供っぽい無邪気な一面もあるらしい。

 

 

(暁もこれくらい出来ればレディなんだけどな)

 

 

海原はそんな事を思いながら金剛のそばにいる艦娘を見る。

 

 

「…島風型駆逐艦1番艦の島風です」

 

 

島風は俯きながら元気のない声で海原に挨拶する、濃紺色の半袖ブレザーとスカートを穿いた艦娘で、金剛よりも少し濃いめの長い金髪に黒いカチューシャをつけている。

 

 

「ようこそ台場鎮守府へ」

 

 

海原は少し屈んで島風に目線を合わせて挨拶するが、島風は目を合わせようとしない。

 

 

「ごめんなさい、島風ったら、マックスが轟沈してからずっとこんな感じで…」

 

 

金剛が申し訳無さそうに頭を下げる、やはりマックスの轟沈は島風と関係があるらしい、それも精神的に追い詰められるほどの何かが…。

 

 

「いや、大丈夫だよ、それじゃあ提督室に…」

 

 

そう言って海原が呉組を案内しようとしたとき、島風が唐突に口を開く。

 

 

「…マックスに会えるって、本当?」

 

 

 

そう言う島風の声は感情を感じさせるようなモノではなかったが、海原を見つめる目は真剣そのものだった。

 

 

「あぁ、会えるかどうかはマックス次第だから確約は出来ないが、可能性は十分にある」

 

 

「…そう」

 

 

海原がそう答えると、島風はまた無表情に戻ってしまった。

 

 

「さて、じゃあ提督室に行こう」

 

 

海原は金剛たちを連れて鎮守府へ入っていく。

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

そんな中、吹雪と三日月は金剛の後ろ姿をじっと見ていた。

 

 

 

 

海原は呉組を提督室に通すと、吹雪にアイスコーヒーを振る舞わせる。

 

 

「わざわざありがとうございます」

 

 

「いえ、こんな無茶な計画に協力してくれてるんですから、これくらいは」

 

 

アイスコーヒーを淹れながら吹雪が言う。

 

 

「…あの?」

 

 

吹雪がいつまでも自分の顔を見ていたので金剛が首を傾げる。

 

 

「あっ、すみません、何でもないです!」

 

 

吹雪は慌てたようにその場を離れる。

 

 

「それじゃあ、早速で悪いがマックスについて少し話を聞かせてもらいたい」

 

 

大まかな作戦内容は摩耶から聞いていたので金剛はコクリと頷く。

 

 

「はい、簡単に説明しますと…」

 

 

「…金剛さん、私から話すよ」

 

 

金剛が代理で説明しようとしたが、島風がそれを遮った。

 

 

「いいの?」

 

 

「うん、これは…私の罪だから」

 

 

島風はそう言うと、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

マックス・シュルツは呉鎮守府に所属している駆逐艦だ、主に遠征任務に従事しており出撃にはあまり出ないような艦娘であったが、それでも練度は遠征部隊の中でもかなり高い方に入っていた。

 

 

「マックス、今日の遠征は大活躍だったんだって?阿武隈から聞いたわよ」

 

 

「そんな、私は特に何も…」

 

 

「謙遜しなくてもいいわよ、あなたのおかげで資材をたくさん獲得できて提督がお喜びだって言ってたもの」

 

 

金剛が嬉しそうに言うとマックスは恥ずかしそうに謙遜(けんそん)する、マックスは金剛、島風と同じ部屋であった、マックス着任当初は金剛と島風がマックスの戦闘訓練を監督しており、その時の名残で3体はルームメイト同士だった。

 

 

「でも戦闘訓練を監督して思ったんだけど、マックスって砲撃精度も魚雷の扱いも水準以上の実力を持ってるわよね、出撃部隊に入っても十分やっていけると思うわよ」

 

 

「それは無理ですよ、だって…」

 

 

「私より遅いのに、そんなの無理に決まってるでしょ!」

 

 

すると、ベッドで雑誌を読んでいた島風が会話に割り込んでくる、マックスが出撃部隊に入るのは無理だと言っているのは、この島風がいるからだ。

 

 

現在出撃部隊の主戦力を担っている島風は建造当初から速力がとても速い艦娘だった、だから当時駆逐艦の中で最も速いとされていた“島風”の名を付けられた、島風自身はそれを誇りに思っており、同時にプライドでもあった。

 

 

「島風、そんな言い方はしちゃダメだっていつも言ってるじゃない、艦娘は速さだけじゃないのよ?」

 

 

金剛は島風の発言を咎めるように言う、島風とマックスは出会った当時からあまり馬が合わなかった、いや、合わないと言うよりは島風が一方的にマックスをライバル視している、と言う方が正しいだろうか。

 

 

「そんな事ない!速い方が敵の致命的な一撃をかわしやすくなるし、敵の照準を攪乱(かくらん)させることだって出来るもん!」

 

 

島風はまるでマックスに対抗するかのように言う、当時の戦闘訓練を見て分かったが、マックスの戦闘技術はずば抜けていた、速力は島風に大きく劣っていたが、それを補っても余りあるほどの砲撃の射撃能力と雷撃の魚雷操作能力に長けていた。

 

 

島風自身も戦闘能力は出撃部隊に選ばれるほどのモノを持っていたが、島風のそれなどあっという間に追い越してしまうくらいに高かった。

 

 

つまりは、自分より遅いくせに戦闘技術に長けているマックスに島風は嫉妬していたのだ、おまけにマックス自身はその戦闘技術に対して(おご)ったりせず、常に謙虚な態度でいたのも島風のイライラを加速させていた。

 

 

(私より遅いマックスなんて認めないんだから!明日のアレで身の程ってモンを分からせてやる!)

 

 

島風はマックスに対抗心を燃やしながらあることを計画していた。

 

 

…もっとも、その計画のせいであの悲劇が起こるなんて事は、この時彼女は夢にも思っていなかった。

 

 




艦娘図鑑で島風は当時40ノット出せたって言っていたので調べてみたら40ノットは時速で換算すると70kmくらいらしいです。

あのデカい鉄の塊が自動車の法定速度より速いスピードで海の上を進んでるって考えると確かに速いですね。


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第58話「Z3の場合8」

この前攻略サイトで「フィット砲」なるモノを見たんですけど、これってポケモンで例えるなら…

戦艦金剛に35.6cm砲→ピカチュウの10まんボルト!

戦艦金剛に46cm砲→ピカチュウのかみなり!

…みたいなモンなんですかね?

威力を取るか命中精度を取るか、悩ましい所です。


次の日、島風とマックスの2体は呉近海の警備任務に就いていた。

 

 

「警備任務に駆逐艦2体だけっていうのはいささか不用心な気もするけど」

 

 

「それだけ私たちの力が認められてるってことじゃん!まぁスピードは私が一番だけどね」

 

 

慎重なマックスと楽観的な島風、対照的な2体が警備ルートを航行していく、このあたりは深海棲艦の掃討が進んでいるので敵が出ると言ってもはぐれ艦隊が迷い込む程度だ、それを見越して提督は島風とマックスを選んだのだろうが、いくら戦闘能力が高いといえど自分たちは駆逐艦…万が一巡洋艦や戦艦が出没しようものならあっという間にやられてしまう。

 

 

出来れば提督もその辺を考えてほしかった、とマックスは心の中で愚痴を言う。

 

 

それからは特に敵などの出現もなく、警備ルートを航行し終えた、後は鎮守府まで戻るだけだ。

 

 

(さてと、じゃあ始めちゃおうかな~)

 

 

島風はその時をずっと待っていた。

 

 

「マックス、鎮守府まで競争しない?」

 

 

「えっ?」

 

 

唐突に言う島風にマックスは首を傾げる、鎮守府までおおよそ2km、直線距離なので普通に行っても時間はあまりかからない。

 

 

「先に鎮守府の桟橋に着いた方が勝ち!ね、やろう!」

 

 

「嫌ですよ、先輩と競争したって勝てるわけ無いんですから、わざわざ速力(スピード)上げて体力と燃料を消費したくないです」

 

 

「なっ…!?」

 

 

マックスの言葉に島風はカチンと来る、自分より遅いくせに、ちょっと戦闘能力が高いからって調子に乗ってる、島風はそう思った。

 

 

「競争は絶対やるの!じゃあスタートね!」

 

 

「あ、ちょっと…!」

 

 

マックスの制止を振り切ってスタートしてしまう。

 

 

「もう…!」

 

 

仕方なくマックスは速力(スピード)を上げる、別に島風に追い付く必要は無いが、あまり間隔を開けて戻ると金剛にとやかく言われそうなのでついて行く。

 

 

 

「ふっふ~ん、私に追いつける艦娘なんて誰もいないんだから」

 

 

島風は誇らしげに言いながら快速で飛ばしていく、すでにマックスの姿は見えなくなっており、このまま振り切るつもりでいた。

 

 

「そう、私が一番速い、これから先戦闘能力がマックスより低くなっても、この速力(スピード)があれば戦線から外される事はない、快速駆逐艦の私が主戦力でありつづけるんだ!」

 

 

島風は絶対の自信を持ってそう言い切る、島風は昔から艦娘一の快速駆逐艦として周りから色々な期待をされてきた、島風はそれに必死で応えようと努力を怠らなかった、みんなが流行りのファッションやカルチャーなどの話題に花を咲かせていたときも、一緒に美味しいモノでも食べに行こうと誘われたときも、轟沈してしまった仲間の葬儀を行うときも、それらを全て断って戦闘訓練や速力向上(スピードアップ)の訓練に明け暮れてた。

 

 

誰よりも必死に努力をして、誰よりも一番であろうとして、誰よりもその期待に応えようとして、島風は常に一番であろうとした、その結果彼女は誰にも負けない速力(スピード)と駆逐艦の枠に収まらない戦闘能力を手に入れ、主力艦隊の席を守り続けた、しかしそれと引き換えに鎮守府の艦娘との友好関係は失われてしまった、訓練ばかりにのめり込む島風を疎ましく思う艦娘が次第に増え始め、特に同じ駆逐艦との仲は完全に冷え切っていた。

 

 

しかし島風はそれでもいいと思っていた、自分が一番であれば、周りの期待に応えられればそれでいい、仲間や友達なんてモノは不要だ、自分は戦艦や空母に混ざって主力艦隊のメンバーを努める艦娘なのだ、世間の情勢に現を抜かしている連中とは違う。

 

 

そんなある日、呉鎮守府にマックスが着任した、島風は同室だった金剛と一緒にマックスの戦闘訓練を監督する事になったが、正直島風はあまり期待していなかった。

 

 

(私より遅いんだから、どうせたいしたことない)

 

 

しかし島風の予想は大きく裏切られ、マックスはその卓越した戦闘能力を十二分に見せ付けた。

 

 

「すごい…」

 

 

島風は素直にそう思った、この艦娘はそう遠くないうちにもっと強くなる、いずれ自分を追い越すくらいに…。

 

 

「っ!!」

 

 

そんな考えが頭を過ぎったとき、島風は身体を震わせた。

 

 

(もしこの先マックスが強くなったら、いずれ出撃部隊への誘いが来るかもしれない、そしたら自分は…?もし外されたりなんかしたら…)

 

 

周りの期待に応え続ける事でしか自身の存在意義を見いだせなくなっていた島風にとって、出撃部隊から外されるのは自己の存在を否定される事に等しかった、単に頑張ってほしいというだけだった周りからの期待は、何時しか島風にとって脅迫観念のようなモノになっていた、みんなが自分に期待している、それに応えられなければ、自分に存在価値など無い…。

 

 

島風がだんだんとおかしくなっていったのはそのあたりからだった、いままで以上に訓練にのめり込み、食事のときと眠るとき以外はほぼ全ての時間を訓練に注ぎ込んだ、さすがに金剛も心配になって止めようとしたが、島風は聞く耳を持たなかった。

 

 

そしてなにより、マックスの事を過敏過ぎるくらいにライバル視していた、彼女は日々の訓練を涼しい顔でやってのけ、いつも水準以上の優秀な成績を出していた、島風にとってマックスの存在は自分の立場を脅かす脅威となっていた。

 

 

もちろん島風だってマックスが努力をしている事は知っていた、一方的にライバル視している島風を“先輩”と慕ってくれて、自分より能力が優れている島風に追い付こうと努力をしていた、それが嬉しくもあり、同時に腹立たしかった。

 

 

『先輩に早く追い付けるように、頑張ります!』

 

 

やめて…

 

 

『早く戦闘能力を上げて、先輩と同じ出撃部隊に入りたいです』

 

 

やめて!私に追い付こうとしないで!

 

 

 

『早く先輩の隣で戦えるように…役に立てるようになりたいんです』

 

 

あんたなんか…!あんたなんか…!!

 

 

いなくなっちゃえばいいのに!

 

 

『だって私、先輩の事が大好きですから』

 

 

「っ!!」

 

 

気がつけば島風はいつの間にか止まっていた、距離的に鎮守府まで残り約1kmといった所だろうか。

 

 

「何で…何で…」

 

 

最初はいい仲間が、いいライバルが出来たと嬉しかったはずなのに…

 

 

 

いつから私は、マックスの事を邪魔だと思うようになってしまったのだろうか…

 

 

 

島風が目尻に涙を浮かべたその時…

 

 

 

「っ!?」

 

 

自分の後方から大きな爆撃音が聞こえた、距離が遠いので詳しい様子は伺えない。

 

 

(あの方向にはマックスが…っ!!)

 

 

最悪の可能性が脳裏を過ぎった島風は、猛スピードでUターンしてマックスのもとへ向かった。




ブラウザー版の艦これでは「運」はまるゆでしか上げられないと最近知って絶望しております(Vita版は同じ艦娘を合成しても運を上げることが出来る)。


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第59話「Z3の場合9」

最近艦これのステージで赤と青の矢印がクロスしてるような謎のマスを発見、敵空母が空撃するだけで戦闘が終わってこちらは何もせず…編成が悪いのだろうか…?

あと刀剣乱舞では2-4を攻略中、敵は(エリート)ばっかだわルート分岐点では直進するわで一筋縄ではいかなそう、そして打刀より短刀の方が敵に与えるダメージ多いというね。




 

猛ダッシュでマックスの所へ戻ってきた島風は目の前の光景を見て我が目を疑った。

 

 

「うそ…」

 

 

マックスが重巡棲艦を含む敵艦隊に囲まれていたのだ、それを見た島風は“ありえない”と思った、このあたりの海域は自分含む主力出撃部隊が深海棲艦の掃討を徹底的に行ってきた、メタい言い方をすれば1-1程度の敵くらいしか出ないはずだ、なのになぜこんな強力な敵艦隊が現れたのだ?バグか?なら運営出てこい。

 

 

と…まぁ冗談はこれくらいにして、重巡棲艦8体、軽巡棲艦12体の計20体構成の敵艦隊に島風は身震いする、いくら彼女の能力が高いとはいえ勝ち目は無いに等しい。

 

 

 

「待っててマックス!今助けるから!」

 

 

島風は重巡棲艦に向けて主砲を撃つが、まともにダメージを通すことが出来ない。

 

 

「いえ先輩、この敵の数では私たちだけで勝つのは難しいでしょう、先輩は鎮守府へ戻って応援を呼んで下さい」

 

 

「何言ってるのさ!そんな事してる間にマックスがやられたりなんかしたら…!」

 

 

「でも、私たちだけじゃこの敵艦隊には勝てません」

 

 

「それは…」

 

 

図星を突かれた島風は言葉に詰まる、いくら駆逐艦の枠を超えた戦闘能力を持っている島風でも、格上の重巡棲艦を何体も相手にするなど無理な話だ、バックアップの戦艦や空母がいるならまだしも、駆逐艦2体ではどうすることも出来ない。

 

 

「…分かった、マックスの案に乗るよ」

 

 

島風は悔しさに唇を噛み締めると、やがて絞り出すように言った。

 

 

「でも!絶対に生き延びてね!私も必ず助けを呼んでくるから!」

 

 

「はい、約束します」

 

 

マックスのその言葉を聞くと、島風は全速力(フルスロットル)で鎮守府へと向かっていった。

 

 

「…先輩、“いなくなってほしい”と“生き延びてほしい”、どちらがあなたの本音なんですか?」

 

 

小さくなっていく島風の背中を見て、マックスはぽつりと呟いた。

 

 

 

 

「提督!」

 

 

マックスと別れてから3分で鎮守府に着いた島風は艤装を仕舞うのも忘れて猛ダッシュで提督室へ入る、話し中だったのか金剛も一緒にいた。

 

 

「どうした島風、艤装も外さずに入ってきて」

 

 

呉鎮守府の提督である川原木と金剛は突然入ってきた島風に驚く、島風はそんなふたりのリアクションなど完全無視で先ほどの事の顛末を川原木に報告する。

 

 

「それは大変だ!すぐに支援艦隊を向かわせよう!」

 

 

それを聞いた川原木は目を剥いて立ち上がると、急いで支援艦隊を編成、出撃させる。

 

 

「よし、あとは支援艦隊の連中がマックスを助けてくれる、お前は安心して待ってろ」

 

 

「…はい」

 

 

島風は提督室に置かれているソファに座ると、祈るように震える手を合わせた。

 

 

「大丈夫よ、マックスが簡単にやられたりするわけないわ」

 

 

「そう…ですよね」

 

 

金剛はそう励ましてくれるが、島風はどうしても不安が拭えなかった、マックスの戦闘能力の高さは島風も知っている、しかしあれだけの規模の敵艦隊を相手にするとなれば話は別だ、いくら時間稼ぎでも長くは保たないだろう。

 

 

支援艦隊が出撃して10分が経った頃、提督室に通信が入った、島風は勢いよく提督のそばに駆けより、通信機のスピーカーに近づく。

 

 

『こちら支援艦隊旗艦高雄、目標地点の敵艦隊の掃討が完了しました』

 

 

「そうか、ご苦労さん、マックスの救出は成功したか?」

 

 

『…その事なのですが、海域全体をくまなく探して、潜水艦の子たちにも海中を探してもらったんですけど…』

 

 

高雄の言葉を聞いて、提督室にいる全員が最悪の答えを予想してしまった。

 

 

『マックスの発見は、出来ませんでした…』

 

 

その最悪の答えを突きつけられた島風は、糸を切られた操り人形(マリオネット)のように力なく崩れ落ちた。

 

 

 

 

「…これが大まかな内容です」

 

 

島風の話を聞いた海原たちは揃って難しい顔をする。

 

 

「なんて言うか、それって島風の自業自得…へぶっ!」

 

 

遠慮が無いにも程がある発言をした暁に吹雪が手甲拳(ナックル)で一発入れる、しかし暁が言ったことは台場組全員が思っていた事でもある。

 

 

さすがに自業自得とまでは言わないが、今回の件は島風にも少なからず非がある、もしそのせいでマックスが島風を怨んでいるような事になっていれば、2体を会わせるのは却って逆効果になるかもしれない。

 

 

「たとえそうだとしても、私はマックスに会いたい」

 

 

海原がそれを伝えると、島風が身を乗り出して訴える。

 

 

「私はどうしてもマックスに会って謝りたいの、それでマックスに殺されても構わない、どんな事をされてもマックスに会いたい!」

 

 

そう言って島風は海原の目を見据える、それを見て彼女の言うことが本気だということが分かった。

 

 

「…分かった、もとからそのつもりでお前を呼んだんだからな、でも本当に危なくなったら止めるからな」

 

 

「うん」

 

 

こうして、マックス・シュルツ艦娘化計画が本格的に始動した。




そろそろマックスの深海棲器を考えねば。


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第60話「Z3の場合10」

初めての大型艦建造を最低値で回したら矢矧という軽巡が出た、虹背景だからレアな艦娘なんだろうと喜んでいたらその直後にVitaがフリーズして無かったことに。

それから3ヶ月ちょっと経ちますが、いくら大型艦建造ぶん回しても矢矧出ません、早く来てください、先に阿賀野と能代が着任しちゃいましたよ?。


「そう言えば、さっきお前ら金剛の事やたら見つめてたけど、面識があるのか?」

 

 

作戦会議が終了して金剛と島風を用意した客室に通した後、海原は吹雪と三日月に聞く。

 

 

「いえ、確かに金剛は横須賀時代に同じ鎮守府で面識はあるんですけど、あの金剛じゃないんです」

 

 

「私もあの大規模作戦で見たことはあるんですけど、あの姿の金剛では…」

 

 

(先代か…)

 

 

2体の発言を聞いた海原はそう察する、“轟沈した艦娘の名前は新しく建造された艦娘に使える”というルールは海原も知っていた、吹雪と三日月の知っている金剛はすでに轟沈しているのだろう。

 

 

「お前らの知ってる金剛はどんな艦娘だったんだ?」

 

 

少し興味が湧いた海原は電子書庫(データベース)を起動させて検索をかける。

 

 

「えっと…栗色の長い髪に肩出しの巫女服みたいなのを着てて…」

 

 

「あっ!私の知ってる金剛と同じです!それで片言の日本語を喋ってる…」

 

 

「そうそう」

 

 

どうやら吹雪と三日月の記憶にある金剛は同じ個体のようだ。

 

 

「って…金剛って今までに4体も建造されてるのか!?」

 

 

電子書庫(データベース)の検索結果を見た海原は驚きの声を上げる、そこには同じ金剛の名前を持った艦娘が3体分轟沈艦リストに並んでいた、このリストに習うと今台場にいる金剛は四代目といったところだろうか、あと当然の事だが歴代の金剛は全員姿が異なっている。

 

 

「今の話に合う金剛は…こいつじゃないか?」

 

 

「あ~、そうですそうです、この金剛です」

 

 

「久しぶりにこのエセ外国人見ましたね」

 

2体の記憶にある金剛は先代…三代目の金剛だった、見た目はお淑やかな雰囲気だが、かなり活発な艦娘だったらしい。

 

 

「でも何で轟沈したんだろうな、戦果もかなり上げてるし、練度(レベル)も90近くあるから多分主力として活躍してたとは思うんだが…」

 

 

電子書庫(データベース)の画面を見ながら海原は考える、これを見る限りだと三代目金剛は横須賀鎮守府の主力艦隊の一員で数々の海域攻略に貢献している、こんな艦娘が轟沈とは、何があったのだろうか。

 

 

「先代金剛の轟沈は私の轟沈より後なので私も詳細は知らないですね、金剛は佐瀬辺司令官の事が好きだったのは知ってるんですけど…」

 

 

「はぁ!?あのクズを好いてた!?」

 

 

「肉体関係も持ってたみたいですよ、と言っても佐瀬辺司令官は毎晩色んな艦娘とセックスしまくってたんですけど、金剛とは特に多かったみたいです、もちろん艦娘に拒否権は無く強要でしたけど」

 

 

「吹雪さん詳しいですね…」

 

 

やたら佐瀬辺の裏事情に詳しい吹雪に三日月が言う。

 

 

「当時僚艦だった叢雲(むらくも)って駆逐艦の艦娘が被害にあってて、その子から聞いた」

 

 

「あいつ駆逐艦ともセックスしてんのかよ、とんだロリコンだな」

 

 

海原が鋭いツッコミを入れるが、この台場鎮守府も構成員を考えれば似たようなモノだろう。

 

 

「あんな最低なやつに尻尾振って抱かれてたって考えると、何だか金剛が哀れに思えてきて…」

 

 

そう言うと吹雪は遠い目をする、金剛がなぜ佐瀬辺の事を好きになったかは分からないが、あんな男に心を奪われるというのはいささか吹雪には理解し難かった。

 

 

「まぁ、人に抱くイメージってのはそれぞれだからな、金剛の中にはお前の知らない良い佐瀬辺がいたんだろう」

 

 

「それはそれでイヤですね、あのクズが良い人って考えると気持ち悪いです」

 

 

「本当に辛辣だなお前は…」

 

 

海原は苦笑しながらそう言った。

 

 

 

 

呉鎮守府の面々が台場に来て一日経ったが、マックスが現れる気配は無かった。

 

 

「そう都合良くはいかないようですね」

 

 

「ま、そんなもんさ、でもチャンスはきっと巡ってくる」

 

 

金剛が伏し目がちに言うと、海原は励ますように返した。

 

 

「そうだ、お前らにはまだ言ってなかったけど、年中暇なこの台場鎮守府に新しい娯楽がやってきたぞ」

 

 

「娯楽?」

 

 

「漫画でも買ってきたんですか?」

 

 

吹雪とハチは首を傾げて訊ねるが、海原はちっちっち、と人差し指を横に振る年寄り臭い事をする。

 

 

「残念だがそんなチャチなもんじゃあねぇ、新しい娯楽…それはこれだあああぁぁ!!!!!!!」

 

 

海原は机の中から大きめの箱を取り出す。

 

 

「そ、それは…!」

 

 

「PB4じゃあないですか!」

 

 

海原が出したのは最新家庭用ゲーム機のPlayBox4(プレイボックス)だった。

 

 

「先月あたりからやりくりしてやっとの思いで買ったんだよ、前にゲーセン行ったときお前らめっちゃはしゃいでたから喜ぶかと思って」

 

 

こればかりは海原もどや顔だ。

 

 

「凄いです司令官!」

 

 

「よく買えたわね!」

 

 

台場艦隊の連中は大はしゃぎしているが…。

 

 

「台場って年中こんな調子なのかしら…」

 

 

「これで全員ケッコン済みってのがすげぇよな…」

 

 

金剛と摩耶は複雑な顔をしていた。

 

 

 

 

「本当にアタシたちも一緒にやっていいのか?」

 

 

「もちろんです、マックスを探すのはもちろんですけど、焦ってもいい結果は出ません、向こうからやってこないとどうにもならないんですからここは腰を据えて待っていた方がいいんですよ」

 

 

「だから一緒にゲーム…ってわけなのね」

 

 

早速海原がゲットしてきたPB4をセッティングする吹雪たち、ソフトも一緒に買ってあるので何も心配はいらない。

 

 

ちなみにやるゲームは“ANGEL OF STRANGER(エンジェル オブ ストレンジャー)”という対戦アクションゲームだ。

 

ジャンルで言うなら格ゲーの方が近いが、このゲームは3Dフィールドをキャラクターが縦横無尽に駆け回りながらバトルをするという、今までの格ゲーとは少し違った形式になっている。

 

 

「暇つぶしに誰が強いか対戦してみようぜ」

 

 

「いいですね、面白そうです!」

 

 

「フッフッフ、こう見えてアタシゲームはかなり得意なんだぜ?」

 

 

「その摩耶さんの脳髄をぶちまけてやります!」

 

 

「ゲームの話だよな三日月!?」

 

 

かくして、決して広くない提督室で決して大きくないテレビを使った規模の小さいゲームが始まった。




本編に関係ない蛇足もぶっ込んでいくスタイル。

アーケードで3-4をクリアしました。

うちの駆逐艦かなり頑張った。


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第61話「Z3の場合11」

ちなみにこのゲームですが、バトルのイメージとしてはテイルズやポッ拳が近いかもしれません。

操作に関しては、プロモードはストツー、アマモードはスマブラみたいなイメージで考えました。

人間性が出ちゃうようなゲームって書いてて楽しいっすね(ゲス顔


海原の思いつきで始まったゲーム対決、先週スーパーの特売で買ってきたすげぇ美味いプリン(ただし賞味期限は一昨日)を景品に加え、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

○第一回戦 吹雪VSハチ

 

 

 

「まずはキャラクター選びからですね」

 

 

「どのキャラにしようかな…」

 

 

キャラクター選択画面で吹雪たちは迷いながらカーソルを動かしている。

 

 

「公式サイトや攻略サイトのコピーあるからコレも見とくといいぞ」

 

 

 

そう言って海原は数枚の紙を渡す。

 

 

 

「…じゃあ、このキャラ!」

 

 

それらも参考にして吹雪が選択したキャラは“コト=セレーヌ”、長い黒髪に紫色の瞳を持ち、背中に天使のような翼を3対6枚生やした少女だ、ちなみに翼の色は黒と白で左右非対称になっている、魔法攻撃を得意とする遠距離タイプのキャラだ。

 

 

「私はこのキャラで」

 

 

ハチが選択したのは“ジル=クリプトン”、短い黒髪と黒眼を持った少年だ、剣を使った接近戦を得意とする近距離タイプである。

 

 

今回のルールは制限時間99秒でより相手の体力を多く削ったほうの勝ちだ。

 

 

「それと、キャラの技のまとめがここにある」

 

 

海原はまた別の紙を吹雪たちに渡す。

 

 

「どれどれ…?」

 

 

○コト=セレーヌ技リスト(プロモード)

 

(シロ)(ヤリ) →→A

 

(クロ)(ヤリ) →←A

 

火炎弾(ファイアバレット) →↗➡B

 

青水弾(アクアバレット) →↑↓AB

 

亡霊部隊(ファントムユニット) ↓↓↗↙BB

 

魂喰鬼(ソウルイーター) →A↙BBA

 

 

 

「…何これ?暗号?」

 

 

「コマンドだ、その通りに入力すると技が出る」

 

 

「こんなの無理ですよ!」

 

 

吹雪が技リストを見ながら言う。

 

 

「そんなお前のために操作が簡単なアマモードがある、攻撃ボタン(AボタンとBボタン)と十字キーの2ボタンだけで技が出せるぞ」

 

 

「それを最初に言ってくださいよ…」

 

 

それを聞いた吹雪は設定をアマモードに切り替える。

 

 

気を取り直してバトルスタート、ゴングの音と共に戦いが始まった。

 

 

「先手必勝!」

 

 

開戦直後に吹雪がコマンドを入力。

 

 

(シロ)(ヤリ)!』

 

 

コトが正面に光の槍を飛ばし、ジルに向かって飛んでいく。

 

 

「甘いです!」

 

 

それをかわしたハチはジルを操作してコトへ接近する。

 

 

爆裂剣(バクレツケン)!』

 

 

続けて攻撃技のコマンドを入力、ジルが素早い動きで間合いを詰め、炎を纏った剣でコトを斬りつける。

 

 

「うそっ!?」

 

 

遠距離タイプだから多少は有利だろうと思っていた吹雪であるが、あっさりと接近戦に持ち込まれてしまった。

 

 

亡霊部隊(ファントムユニット)!』

 

 

コトが魔法陣からマントを羽織った幽霊を召喚し、ジルに突撃攻撃をする。

 

 

炎撃波(エンゲキハ)!』

 

 

それに負けじとジルは一歩後ろに下がり、炎を纏った衝撃波を剣から飛ばしてコトを狙い撃ちする、それをコトは素早い動きでかわすと、ステージ上空に魔法陣を展開させる。

 

 

「これでトドメ!」

 

 

吹雪が必殺技を発動させた、攻撃を当てたりダメージを受けたりするとゲージが貯まっていき、それが満タンになると強力な一撃を繰り出すことが出来るのだ。

 

 

 

「死ねえええぇ!!!!」

 

 

天使の大虐殺(エンジェル パグロム)!』

 

 

魔法陣から光の剣を次々と落としてジルにダメージを与える、まだ完全に操作慣れしていないハチは回避行動などがうまくとれなかった。

 

 

「やりますね吹雪さん、ならこれで!くたばれえええぇ!!!!!!!」

 

 

百火繚乱(ヒャッカリョウラン)!』

 

 

ハチも必殺技を発動させる、炎の連撃を何度も繰り出して連続でダメージを与えていく。

 

 

その後も一進一退の攻防が続き、初戦は吹雪の勝利で終わった。

 

 

「吹雪上手いな、初めてとは思えん」

 

 

「えへへ、私結構出来るみたいです!」

 

 

「深海棲艦の動きには反応出来るんだけどなぁ…」

 

 

喜ぶ吹雪に対し、ハチは悔しそうにコントローラーのボタンを押していた。

 

 

○第二回戦 三日月VS暁

 

 

「あれ?このキャラのアイコンにDLCって書いてあるけど、これ何?」

 

 

「あぁ、それはダウンロードコンテンツのキャラだ、ネットで追加のキャラをダウンロード出来るんだよ、コンテンツのページにあったからとりあえず落とした、確か“ネスター・ライフ”ってアニメとのコラボレーションセットって書いてあった」

 

 

「確かそれって先月までやってたアニメだよな」

 

 

「摩耶さん知ってるんですか?」

 

 

「これでもアニメとかは見る方なんだよ」

 

 

「ほぇ~、意外ですね」

 

 

「じゃあ暁はこのキャラで」

 

 

暁が選択したキャラはネスター・ライフコラボキャラの“レビィ=ヴァイアー”、青い髪に気だるげな金色のジト目をしている少女のキャラだ、水の魔法を得意とする遠距離タイプのキャラだが、物理攻撃で近距離戦闘をこなすことも出来るオールラウンダーな一面も持つ。

 

 

「なら私はこのキャラを…」

 

 

三日月が選択したキャラは同じくネスター・ライフから霜月弥生(しもつき やよい)、青みがかったセミロングの黒髪の少女で、歌の魔法を得意とする遠距離タイプのキャラクターだ、なおこの弥生の歌魔法は相手がフィールドのどこにいても効果がある超広範囲の射程圏を誇る、ただし敵が弥生から遠ければ遠いほどその効果は薄くなってしまう。

 

 

先ほどと同じ制限時間99秒でバトルスタート、先に動いたのは暁だった。

 

 

霊海の戦士(マリン・バトラー)青水騎兵軍刀(アクアサーベル)!』

 

 

レビィが水魔法で剣を形作ると弥生に向かって突進する、しかし三日月は素早いコマンド操作でそれをかわした。

 

 

歌撃弾(オペラ)!』

 

 

レビィからの攻撃をかわした弥生は魔法を発動、魔法陣から光弾が射出され、レビィに命中する。

 

 

「あぁ!ざっけんじゃないわよ!」

 

 

暁がキレ気味に言うと、すぐさま反撃に移る。

 

 

「させませんよ」

 

 

夜想歌(ノクターン)!』

 

 

それよりも先に弥生が魔法を発動させる、夜想歌(ノクターン)は相手の視界を奪う魔法だ、食らうと一定時間キャラクターの進行方向がめちゃくちゃになる。

 

 

「こいつ…ぶっ殺す!」

 

 

暁はコマンドを入力するが、夜想歌(ノクターン)の効果が残っており思うようにレビィが動かない。

 

 

刀歌(ソード)!』

 

 

弥生が歌魔法で刀を具現化させ、レビィをなぶるように攻撃していく。

 

 

「調子に乗ってんじゃないわよこの尼ァ!」

 

 

霊海の戦士(マリン・バトラー)青水弓(アクアアロー)!』

 

 

 

ようやく夜想歌(ノクターン)の切れたレビィはすぐさま魔法を発動、水の矢が何本も弥生にヒットして体力を減らしていく。

 

 

「よくもやってくれましたね…?そんなに自分の腸が見たいんですかぁ!?」

 

 

刀歌旋律刃(メロディアスブレイド)!』

 

 

弥生が必殺技を発動、刀から繰り出される閃光のような素早い連続斬りにレビィが大ダメージを受ける。

 

 

 

…ちなみにこの対決、結果から言うと三日月が勝ったのだが…

 

 

 

「絶対にぶち殺すから!その頭潰して脳みそ引っ掻き回してやるから!」

 

 

「あはははははは!!!!やれるものならやってみてください!返り討ちにして二度と自分の足で立てないようにしてやりますよ!」

 

 

 

ゲームの内容よりプレイ中の2体の気迫の方が余程印象的だったと、その場にいた全員が思った。




バトルの様子は全部書くととても長くなりそうなのでダイジェスト気味に書きました。

リアルでも暁と三日月みたいになる人って多分いますよね。

あとネスター・ライフは自分が別サイトに投稿しているオリジナル小説なのでアニメは存在しません(どーでもいいわ)。


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第62話「Z3の場合12」

Vita版の艦これ改には「追撃せず/夜戦」の選択をする離脱判定画面で△ボタンを押すと、敵と見方の残りHPが表示される「戦況確認」という機能があるんですけど、ブラウザー版にはそれが無いと知って驚きを隠せない自分。

Vita版は戦闘中ではダメージ受けたときにしかHPゲージ表示されないから重宝するんですけど、ブラウザー版にも実装されませんかねぇ…(嘆き


○第三回戦 摩耶VS金剛

 

 

「アタシの番だな!腕が鳴るぜ!」

 

 

「お手柔らかにお願いするわね」

 

 

張り切ってコントローラーを握る摩耶だが、金剛はあまりゲームが得意じゃないらしくいささか弱気だ。

 

 

摩耶が選択したキャラは“月見秋葉(つきみあきは)”、茶髪の長いツインテールの少女で、腕に装着している大砲から雷魔法を撃ち出す遠距離タイプだ。

 

 

金剛が選択したのは“レミニス=フルーアント”、鎖が巻かれた黒い翼を持つ天使のような姿の女性だ、スタイルは遠距離タイプ。

 

 

「おっしゃあ!先手必勝!」

 

 

開戦早々摩耶はコマンドを入力する。

 

 

電磁麻痺弾(パラライザー)!』

 

 

秋葉が大砲から電撃の弾丸を撃ち出す、この弾丸は食らった相手を少しの間動けなくさせる“マヒ”という状態にさせる効果がある(ただし一定確率)。

 

 

 

炎よ駆け出せ(フェア・ステイティング)!』

 

 

金剛も負けじとコマンドを入力、魔法陣から火柱が噴き出し、秋葉の打ち出した弾丸を相殺した。

 

 

電磁乱射砲(ガトリング)!』

 

 

続けて摩耶がたたみかけるようにコマンド入力、電撃の弾丸が次々と飛び出し、レミニスを狙い撃ちしていく。

 

 

水よ舞い踊れ(ウォア・ダァシグ)!』

 

 

レミニスはそれを華麗な動きでかわすと、魔法で作り出した水流を操って秋葉に突撃させる、秋葉はそれを食らってダメージを負った。

 

 

「…金剛さん上手くないですか?」

 

 

「偶然よ偶然」

 

 

金剛はそう言うが、とても初めてとは思えないキャラの動きでじわりじわりと摩耶を追いつめていた。

 

 

電磁投射砲(レールガン)!』

 

 

秋葉が必殺技を発動、大砲から極太のレーザーを撃ち出した。

 

 

闇よ飲み込め(ダァス・インティグ)!』

 

 

レミニスが自分の前方に黒い球体状の結界を張る、するとそれに触れたレーザーが結界に全て吸収されてしまった。

 

 

「何だとォ!?」

 

 

「へぇ、リスト見たけど中々便利な技ね」

 

金剛は関心しながら容赦なく必殺技ボタンを押す。

 

 

堕天使の怨讐(エンジュ・リベイジ)

 

 

フィールドのあちこちから漆黒の魔法陣が出現し、そこから怨霊のような霊体が這い出てくる。

 

 

怨霊はそのまま秋葉を魔法陣の中へ引きずり込んでいき、大ダメージを受ける。

 

 

「…マジかよ」

 

 

「あら、意外といけるのね」

 

 

ゲーム自体初めてやる金剛に負けてしまい言葉が出ない摩耶。

 

 

「金剛さん本当に初めてですか…?」

 

 

「初めてよ、勝てるとは思ってなかったけど」

 

 

「…うそん」

 

 

物凄い敗北感を抱えた摩耶だった。

 

 

○第四回戦 吹雪VS三日月

 

 

「吹雪さん、先輩だからって容赦はしませんよ!」

 

 

「すでにあんたの気迫に負けそうなんだけど」

 

 

先ほどの暁との勝負を見てしまうとどうにもビビりが先走る。

 

キャラは先程と同じく吹雪がコト=セレーヌ、三日月が霜月弥生を選ぶ。

 

 

試合開始、先に動いたのは吹雪だ。

 

 

加速装置(アクセラレイター)!』

 

 

自身の移動速度を上げる魔法を使い、俊敏になる。

 

 

夢想歌(トロイメライ)!』

 

 

弥生が魔法を使うと、魔法陣から影分身のように弥生が何人も出てくる。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「囲って棒で殴り殺す作戦です!」

 

 

三日月は得意げに言うと、弥生の影分身に攻撃指示を出す。

 

 

「調子に…乗るなぁ!」

 

 

分身の攻撃にジワジワと体力を減らしていくこの状況に終止符を打とうと、吹雪は攻撃コマンドを入力。

 

 

雷光弾(ライトニングバレット)!』

 

 

コトが拳銃を取り出すと雷撃の弾丸を射出、影分身の一体に命中するとそこから放射線状に雷が四方八方に飛び散った、これが効いたのか8体いた分身は全滅してしまった。

 

 

「ならこれでどうですか!?」

 

 

聖炭歌(オラトリオ)!』

 

 

弥生がマイクに声を通すと、魔法陣から真っ赤に焼けた植物のツタのようなモノがうにょうにょと出現。

 

 

「灰になって焼け死ね!」

 

 

焼けたツタがコトに向かって伸びていくが、開戦直後に加速装置(アクセラレイター)を使っていたおかげで華麗によけることが出来た。

 

 

「大人しく死ねばいいのに…!」

 

 

「三日月…あんたすごい怖いよ」

 

 

三日月の豹変ぶりに若干引きつつも、吹雪はコマンドを打ち込む。

 

 

 

天使の法裁(ジャッジメント)!』

 

 

コトが魔法陣から衝撃波をフィールド全体に飛ばし、弥生に大ダメージを与える。

 

 

このダメージが決め手となり、この勝負は吹雪が勝った。

 

 

「あ~、負けちゃいましたぁ…」

 

 

「改めてあんたの凄さが分かったわよ…」

 

 

吹雪は三日月を見ながらぼそりと呟いた




ちなみに島風は参加してません。

やりたいからこのゲーム回書いたけど、面白いかどうかがいまさら不安になってくる。


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第63話「Z3の場合13」

スピードワゴン「見てるか!?ツェッペリンの姐さん!レ級は死んだ!大げさかもしれねぇが、世界は救われたんだアアアァァ!」

↑グラーフ・ツェッペリンを見て真っ先に考えついたこと。


○最終戦 吹雪VS金剛

 

 

「プリンをゲットするのは私です!」

 

 

「プリンは食べなくてもいいんですけど、ここまで来たら勝ちたいですね」

 

 

お互い闘志満々でキャラクターを選ぶ、マックスが現れるまでの暇つぶしで何を熱くなっているのやら…

 

 

なお、今回は2体ともキャラクターを変えている。

 

 

吹雪のキャラは“アリシア=シャロット”、白雪のような白髪のショートヘアーに鮮血のような赤い目、先端が緑がかった白い耳と雪兎のような姿をした少女のキャラだ、スタイルは遠距離と近距離のオールラウンダーで氷の魔法を使いこなす。

 

 

金剛のキャラは“エオリア=ノール”、長い金髪にサファイアのような蒼い目を持つ少女のキャラで、音楽に関する魔法を使う遠距離タイプだ。

 

 

 

『Battle Start!』

 

 

試合開始の合図と共に両者が動き出す、先に攻撃を仕掛けたのは吹雪。

 

 

霊氷の創雪者(アイス・メイカー)霊氷弾(アイスバレット)!』

 

 

コマンド入力と共にアリシアが氷塊をエオリアに向けて撃ち出す。

 

 

霊音の喚幻楽団(リズム・オーケストラ)朱の霊譜(プレリュード)!』

 

 

しかしそれに応えるかのように金剛もコマンドを入力、魔法陣から五線譜のようなモノが飛び出し、それに呼応するように音符とメロディーが流れてくる、するとその音符たちが突如炎を纏い、アリシアに向かって扇状に飛び出した。

 

 

音符はアリシアの氷塊を全て粉砕しただけでは飽きたらず、その向こう側にいるアリシアにもダメージを与える。

 

 

「これは最先がいいですね」

 

 

「本当に金剛さんが初心者なのかが疑わしくなってくるよ…」

 

 

そうぼやきつつも吹雪は次のコマンドを入力。

 

 

霊氷の創雪者(アイス・メイカー)氷剣山(アイスバーグ)!』

 

 

アリシアの前方に魔法陣がいくつも出現し、そこから鋭い氷柱が剣山の如く飛び出した。

 

 

これはエオリアに命中し、体力を削る。

 

 

霊音の喚幻楽団(リズム・オーケストラ)蒼の霊譜(アルペジオ)!』

 

 

金剛も負けじと反撃する、青色の五線譜と音符が魔法陣から流れると、音符がフィールド上空に打ち上がり拡散する、打ち上げ花火のように拡散した音符たちは辺り一帯に降り注ぎ、その射程圏内にいたアリシアに大ダメージを負わせた。

 

 

霊氷の創雪者(アイス・メイカー)氷牙姫(グレイセス)!』

 

 

アリシアが氷の鉤爪を装着してエオリアに突撃、近接戦闘で着々とダメージを与えている。

 

 

順調に攻める吹雪だったがここでタイムアップ、結果は超僅差で金剛の勝利となった。

 

 

「まさか金剛さんが勝つとは…」

 

 

「あんた本当に初心者とは思えないわよ」

 

 

「偶然ですよ」

 

そうほがらかに笑う金剛を見て、全員が何ともいえない表情をしていた。

 

 

ちなみに賞品のプリンだが、期限切れだからいらない、と金剛が辞退したため準優勝の吹雪が貰うこととなった。

 

 

 

 

ゲームが終わりそろそろ夕食の支度でもしようかと思っていたとき、台場鎮守府に深海棲艦接近の報せが入った。

 

 

「マックスでしょうか?」

 

 

「詳しい艦種は分からないが、大型艦の気配ではないらしい」

 

 

「と言うことは駆逐棲艦や軽巡棲艦…」

 

 

「マックスの可能性も十分あるって事だな!」

 

 

何はともあれ、ここで予想の話をしていても何も始まらない、台場艦隊と呉艦隊は台場近海へと出撃していく。

 

 

 

出撃海域へと到着した吹雪たちは摩耶や金剛の電探(レーダー)を頼りに目標の深海棲艦を探す。

 

 

「…あ!あそこです!」

 

 

何かを発見した金剛が前方を指差す、すると駆逐棲艦が1体単艦でうろついているのが見えた。

 

 

「どうだ?吹雪」

 

 

摩耶がどこか期待するような声色で聞いてくる、吹雪も祈るような気持ちで眼前の深海棲艦を見据えた。

 

 

「……ビンゴです、あの深海棲艦はマックス・シュルツに間違いありません」

 

 

吹雪たち台場艦隊の目には、マックスの“面影”がハッキリと見えていた。

 

 

「よし、問題はどうやってマックスを艦娘に戻すか…だな」

 

 

「ここはやっぱり島風に話させた方がいいんじゃない?」

 

 

「まぁ、それが一番妥当な線でしょうね」

 

 

手短な打ち合わせの結果、マックスと一番因果関係のある島風をメインに会話をする、という事になった。

 

 

「…ねぇ、ひとつお願いしたいことがあるの」

 

 

マックスの所へ向かおうとした島風が、唐突に口を開いて言う。

 

 

「何?」

 

 

「もし私がマックスに襲われるような事があっても、みんなは手を出さないで」

 

 

「…えっ!?」

 

 

耳を疑うような提案に全員が驚く、それは、もしマックスが島風を殺したいほど怨んでいて、かつそれでマックスが島風に襲いかかってきて殴るなり蹴るなりされるような事があっても助けに入るな、という事である。

 

 

「自分勝手な事言ってるのは分かってる、けどどうしてもマックスに謝って私の気持ちを伝えたいの、お願い!」

 

 

島風は全員に頭を下げてお願いする、吹雪としては危険すぎる行為なのであまり首を縦に振りたくはなかったが、金剛と摩耶が笑って頷くのを見て、はぁと軽く息を吐く。

 

 

「…分かった、それでいいよ」

 

 

「本当に!?」

 

 

「ただし、本当に危ないってこっちが判断したら介入するから、それが島風の提案に乗る条件」

 

 

吹雪が釘を刺すと、島風は大きく頷いてマックスの方へと向かう、通訳として三日月も同行する。

 

 

「マックス!」

 

 

島風がマックスに近づいて名前を呼ぶ、しかしこれといった反応は無い。

 

 

「私だよ!島風だよ!」

 

 

『……シマ…カ…ゼ』

 

 

島風が名前を名乗ると、マックスはゆっくりとこちらへ視線を向ける。

 

 

『ッ!島カゼ!シマ風!』

 

 

マックスは島風の姿を確認すると、猛スピードでこちらへ駆けてくる。

 

 

「マックスさんは島風さんの事を認識してます、これなら話せそうですね」

 

 

「そう?良かった…」

 

 

『島風!シマカゼ!』

 

 

マックスは島風の名前を呼びながら彼女のもとへ向かう、そして勢いよく島風に飛びかかり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死ネエエエエエエエエェェェェ!!!!!!!!!!!」

 

 

島風に零距離で砲撃した。




北方棲姫や港湾棲姫といった、ダメージ表示に「混乱」って出る敵は三式弾を持たせるとダメージ上がるらしい、艦載機飛ばしてくる空母系の敵だから対空上がる装備が有効なのか…?ならヲ級にも三式弾特化を実装してほしいもんだが…


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第64話「Z3の場合14」

朝潮の改二が実装されたみたいですね、wiki見てきたら「何この美少女」でした。

朝潮好きの僕にとってはこの上ない朗報ですが、Vita版提督なので改装できず、改二追加のアップデート配信してくれませんかねぇ…。




「なっ…!?」

 

 

あまりに突然の出来事にその場にいた全員が絶句する。

 

 

「がはぁ…!」

 

 

砲撃された島風はそのまま吹き飛ばされ海面を石切のようにバウンドしていく。

 

 

『島風!』

 

 

マックスは再び島風に突撃すると、主砲から砲弾を次々と撃ち出していく。

 

 

「うっ…!」

 

 

マックスの撃った砲弾を島風はかわしていくが、所々に被弾してダメージを蓄積させていく。

 

 

『許さナい…!ユルサナイ!』

 

 

今度はマックスが島風に急速に接近していき、島風の胸ぐらを掴んだ。

 

 

『許さない!島風!許さない!許さない!島風ェ!』

 

 

主砲の砲身で島風を殴りつけながら狂ったロボットのように同じ事を叫び続けるマックス。

 

 

「………」

 

 

ボコボコにされていく島風を見ながら三日月は考えていた、今のマックスの様子は少しおかしい、これまでの“面影”持ちは譫言のような言動をしている個体もいたが、どれもそれなりの意思を持っていた、しかしマックスは違う、まるで何かに取り憑かれているように感情に突き動かされ、本来のマックスの人格を完全に無視しているようにも見える。

 

 

「…ひょっとしたら、何かのきっかけでマックスの元の人格を呼び起こせるかも…?」

 

 

すでに中破している島風など初めから気にしていない三日月はそのまま頭を悩ませていた。

 

 

「ぐふっ…!ごほぉ…!」

 

 

一方島風は依然としてマックスに殴られ続けていた、すでに歯の何本かが折れ、顔のあちこちが腫れ上がっている。

 

 

「マッ……ク…ス!」

 

 

『死ネエエエエエエエエェェェェ!』

 

 

マックスが主砲を持った手を大きく振りかぶり、島風の顔を潰さんと構える。

 

 

『…ェ』

 

 

 

「…ごめん、ごめんね」

 

 

 

しかし島風がそれより速くマックスに抱きつき、絞り出すような声で言った。

 

 

『アアアァァ!ガギャアアアァァ!!!!』

 

 

島風に抱きつかれたマックスはじたばたと暴れ出し、島風の肩に噛みつく、深海棲艦化して鋭くなっているマックスの歯はブレザーと皮膚をいとも簡単に貫き、島風の肉に食い込む。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

鋭い激痛が走り、ブレザーに赤黒い染みが広がっていくが、それでも島風はマックスを離そうとはしなかった、今離したら二度と会えなくなる、そんな気がしたから。

 

 

(今度は離さない!絶対に!)

 

 

「マックス、最初にあなたのことを置いていってごめん、助けられる力が無くてごめん、あなたを殺したのは私…本当にごめんなさい…!」

 

 

砲身で殴られて鼻の骨が折れようとも、ブレザーごと肩の肉を食いちぎられても、島風はマックスを抱きしめ続けた、自分の思いがマックスに届くと信じて…。

 

 

『ウうゥぅ…?セン…パ……イ?』

 

 

「っ!!」

 

 

マックスが微かに呟いたその言葉を、三日月は聞き逃さなかった。

 

 

「島風さん!マックスさんが自我を取り戻しかけてます!島風さんをセンパイって呼んでますよ!」

 

 

「本当!?」

 

 

「はい!このまま呼び掛ければ、艦娘化も不可能ではないと思います!」

 

 

ならばもっと呼び掛けなければいけない、絶対にマックスを艦娘に戻す、その一心で島風は想いをぶつける。

 

 

「マックス!私だよ!島風だよ!戻ってきて!」

 

 

『セン…パイ…!…グギャアアァァ!!!』

 

 

一度は自我が戻りかけるが、その度に深海棲艦に侵蝕されてしまう。

 

 

「…私ね、後悔してるの、自分のつまらないプライドのせいで何も悪くないマックスを疎んでた、マックスは私を慕ってくれてたのにそれを受け入れようとはしなかった、でもあなたがいなくなって、私はようやく気付いたの」

 

 

島風は一呼吸置くと、確かな意志を持ってマックスに告げた。

 

 

「マックスは、私にとって大切な友達で、仲間なんだって」

 

 

 

『…センパイ…』

 

 

 

「大好きだよ、マックス」

 

 

島風はそう言って、再度マックスを強く抱きしめた、すると先ほどまで暴れていたマックスはピタリと動きを止めると、ゆっくり島風から離れ…

 

 

『……はい、私もセンパイが大好きです』

 

 

あの時と変わらない笑顔を島風に向けて言った。

 

 

その直後、ピキッ!という音と共にマックスの身体にヒビが入り、それが全身に広がっていく。

 

 

そして、卵の殻が砕けるように深海棲艦の装甲が弾け飛び、マックスが姿を現した。

 

 

「おっとと…」

 

 

自分の方へ倒れてくるマックスを島風は慌てて支える、艦娘化したマックスは眠っていて、どこか安心したような表情をしていた。

 

 

「マックス…良かっ…た……」

 

 

無事にマックスを解放できて安堵した島風だったが、自身も相当なダメージを受けており、急に意識が遠ざかる。

 

 

「セーフ」

 

 

そのままマックス諸共倒れそうになるのを金剛がキャッチ、優しく抱きかかえた。

 

 

「ったく、冷や冷やさせやがって、一時はどうなるかと思ったぜ」

 

 

「そうですね、私も冷や汗が止まりませんでした」

 

 

摩耶と金剛が口々に言うが、その表情は笑っていた。

 

 

「よく頑張りましたね、立派でしたよ」

 

 

金剛はそう言って、島風の髪を優しくなでた。




そろそろ三日月の改二が来てもいいのよ?


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第65話「Z3の場合15」

マックス編終了です。

さて、次回はどんな艦娘が出るでしょうか…


マックスを連れて台場鎮守府へ帰投した吹雪たち、島風は帰投早々に高速修復材を使用してドック入りさせた、その甲斐もあり現在は意識を取り戻して元気に復活している。

 

 

「マックスにもこれがあるって事は、混血艦(ハーフ)か…」

 

 

摩耶がマックスを見て呟く、今回艦娘化させたマックスにも深海痕があった、場所は左足全体。

 

 

「そうですね、というか深海帰りの艦娘はだいたい混血艦(ハーフ)です」

 

 

「まぁ、お前らを見たら予想はつくけどな」

 

 

「これが混血艦(ハーフ)…マックスはどうなっちゃうのかしら…」

 

すでに吹雪たちを見ている摩耶はマックスの深海痕を見ても特段驚きはしなかったが、金剛は不安げな顔をしてマックスを見つめている。

 

それから約10分程でマックスが目を覚ました、やはり深海棲艦になっていた時のことは覚えておらず、島風をボコボコにしたことも覚えていなかった。

 

 

「マックス、あなたを置いていって本当にごめんなさい…」

 

 

起きてすぐに島風は改めてマックスに謝罪する、自分がつまらない意地を張ってマックスを置いていったせいで轟沈してしまつた、当然謝って許される事ではない。

 

 

「そんな…謝らないでください、それに先輩が私を疎んでいたことは知っていましたから」

 

 

「っ!!」

 

 

マックスにそう言われ、島風は固まってしまう、その事はマックス本人に一切伝えていないし、正直墓場まで持って行くつもりでいた。

 

 

「でも、それと同時に先輩が周囲からの期待に押しつぶされそうになって苦しんでいることも知っていました、そのために必死に努力していることも、周りから認め続けてもらおうとしていることも、そして、私が先輩にとって邪魔な存在になってきていることも…」

 

 

自身の内情をマックスに見透かされている事を告げられ、島風はブレザーの裾をぎゅっと握り締める、謝らなくていいと口では言ってるが、内心は嘲笑しているのだろうか…そんな風に考えてしまう。

 

 

「だから私はもっと努力しようと思ったんです、先輩と肩を並べられるくらいに強くなって、先輩の隣で戦えるようになって、私もみんなから期待されれば、先輩に寄せられる期待を少しでも私に向けることが出来れば、先輩の心の負担を減らせるんじゃないかって…」

 

 

「…えっ…?」

 

 

島風は目を剥いた、確かにマックスが必死に努力していることは島風も知っていた、しかしそれは、全部島風(わたし)の為だった…?。

 

 

「先輩は私にとっての目標だから、苦しむ先輩を見てるのは辛かった、だから先輩の力になりたかったんです、でも…全て裏目に出ていたんですね」

 

 

「…うぅっ…ひぐっ…」

 

 

気づけば島風は嗚咽を漏らしながら泣いていた、目の前にいる後輩がそこまで自分の事を想って行動してくれていた、しかし自分がそれに対してマックスにした仕打ちは…考えただけで罪悪感に呑まれそうになる。

 

 

「ごめん…ごめんなざい…」

 

 

「いいんですよ、全ては私が先輩の力になりたいっていう自己満足でやったんですから、でも、先輩は私にとって最高の先輩です、あなたの後輩であることを私は誇りに思います、この気持ちに嘘はありません」

 

 

限界だった、今まで堪えてきた感情が一気に爆発した、島風はマックスに飛びかかるようにして抱きつき、狂ったように泣き出した。

 

 

「マッグズうぅ!マッグズうぅううぅっ!!!!!!!」

 

 

そんな島風の髪を、マックスは何も言わずに撫でていた。

 

 

 

 

「…ごめんね、取り乱しちゃって」

 

 

その5分後、落ち着いた島風は少し恥ずかしそうに言う。

 

 

「いえ、先輩の可愛い所が見れてメシウマでした」

 

 

「ううううぅぅ!」

 

 

茶化すように言うマックスに島風はますます赤面する。

 

 

「それはそれとして、あなたたちが私を助けるために協力してくれたんですよね、どうもありがとうございます」

 

 

悶々としている島風をスルーしてマックスは海原に礼を言って頭を下げる。

 

 

「いやいや、俺たちはちょっと手を貸しただけさ、一番頑張ってくれたのは島風だ、お前を助けたいって一心で色々やってくれたぜ、改めてお礼言っとけ」

 

 

「それもそうですね、ありがとうございます、先輩」

 

 

「別に私は何も…」

 

 

「あらあら、本当はうれしいくせに恥ずかしがっちゃって」

 

 

「こ、金剛さん!」

 

 

そんな呉の仲間たちを見て、マックスは楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

その翌日、摩耶たちが呉鎮守府に帰る日がやってきた。

 

 

「じゃあなお前ら、元気にやれよ」

 

 

「はい、またお会いしましょう」

 

 

「今度は腹の贅肉引っ込めてきなさいよ」

 

 

「あとついでに二の腕のたるみも改善した方がいいと思いますよ」

 

 

「お前らは言葉の暴力というモノを学べ」

 

 

暁と三日月の暴言でハートブレイクな摩耶ががっくりと肩を落とす。

 

 

「それと、マックスも元気でな」

 

 

「また会おうね!」

 

 

「また会いに行くからね」

 

 

摩耶と島風と金剛がそれぞれ言う、呉組との話し合いの結果、マックスは台場鎮守府へ着任することになった、本人もそれを了承し、今日から正式に台場の一員である。

 

 

「はい、先輩も金剛さんも摩耶さんもお元気で」

 

 

マックスは少し名残惜しそうにしながらも、笑顔で金剛たちを見送る。

 

 

 

 

「改めまして自己紹介を、Z1型駆逐艦3番艦のマックス・シュルツです、これからよろしくお願いします」

 

 

提督室で挨拶を交わすマックスと吹雪たち、これで台場艦隊の艦娘は5体になった。

 

 

「うちの艦隊もだいぶ頭数が揃ってきたじゃないか」

 

 

目の前に並ぶ5体の艦娘を見て海原は嬉しそうに言う、吹雪しかいなかった最初期と比べれば大きな違いである。

 

 

そして毎度お馴染みの深海棲器選びだが、今回マックスが選んだのは3つ。

 

 

1つ目は“ワイヤー”、深海棲器製の5mほどのロープだ、それを鞭のように巻いて腰に下げるタイプのモノになっていて、必要な際はそれを伸ばして使用する、当然攻撃力は持っていない。

 

 

2つ目は“湾曲剣(シミター)”、三日月状に緩く湾曲した刀剣の深海棲器だ、刀身もそれほど長いものではないので小柄なマックスでも扱いやすい。

 

 

3つ目は“戦鎚(ウォーハンマー)”、文字通り大きなハンマーだ、打撃面にはミートハンマーのように細かい凹凸がついており、反対側は鋭く尖ったスパイクのようになっている。

 

 

「ワイヤーなんて何に使うの?」

 

 

「こういった武器だからこそ出来ることがあるんです、攻撃だけが武器ではないんですよ」

 

 

吹雪が聞くと、マックスはそう言って不適な笑みを浮かべる、何かしら考えがあるらしい。

 

 

「…そう言えば司令官、鎮守府の艦隊は独自で艦隊名を付けてるって摩耶さんが言ってたんですけど、本当なんですか?」

 

 

マックスの深海棲器を選び終えると、思い出したように三日月が海原に聞く。

 

 

「そう言えばつけてる鎮守府もあるな、本当だぞ、しかも造船所に届け出れば戦果報告にそれが載るらしい」

 

 

「なら、台場艦隊も艦隊名を付けられるんですか?」

 

 

「あぁ、付けられるぞ」

 

 

「なら何か考えようよ!」

 

 

ここで暁が食いついてくる、どうやら暁は中二要素に弱いらしい、特に反対意見も無かったので5体はそれぞれ案を出し合う。

 

 

(こういう光景も、何だか室蘭にいた頃を思い出すなぁ…)

 

 

あの時の事を思い出しながら、そう海原は思った。

 

 

「出来ました!」

 

 

5分後、アイデアがまとまったらしく、吹雪が代表で艦隊名が書かれた紙を海原に渡す。

 

 

「どれどれ…」

 

 

 

 

 

 

『Deep Sea Fleet』

 

 

 

 

「…ディープ・シー・フリート?」

 

 

「“深海艦隊”という意味です、深海帰りの混血艦の艦娘で構成された艦隊なのでそう名付けました、どうですか…?」

 

 

期待半分、不安半分で吹雪たちは海原の様子を伺う、艦隊名を見た海原はニッと笑うと…

 

 

 

「面白ぇじゃねぇか、採用だ!Deep Sea Fleet、これが今日から我が台場艦隊の艦隊名だ!」

 

 

海原がそう言うと、吹雪たちは嬉しそうにはしゃぐ。

 

 

台場鎮守府第一艦隊“Deep Sea Fleet”…ここに爆誕。




そう言えば瑞鳳をゲットしました。


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第66話「大鯨の場合1」

chapter6「大鯨編」

というわけで大鯨編スタート。

初っ端から演習回です。


マックスが台場鎮守府に来て一週間が経った、マックスは着任してすぐに吹雪の特訓を受けたのだが、意外にもすぐに順応して見せたので暁たちを驚かせた。

 

 

そんな蒸し暑い夏のある日の夜、台場鎮守府に電話がかかってきた。

 

 

「はい、台場鎮守府提督室」

 

 

『もしもし、舞浜鎮守府所属の響だよ』

 

 

「おぉ、響か、久しぶりだな」

 

 

電話相手は舞浜鎮守府の響だった、暁救出の時は世話になったものである。

 

 

『うん、久しぶり、暁は元気かい?』

 

 

「元気だぞ、最近ますます血気盛んになってきた」

 

 

『うん、あまり深くは考えたくないけど元気そうだね』

 

 

響が電話口でどんな顔をしているかは分からないが、多分ひきつっているだろう。

 

 

「なんなら暁たちを呼んでこようか?まだ起きてるし」

 

 

『そうだね、お願いしようかな、ついでに海原司令官にも伝えたいことがあるからその時は拡声機能(ハンズフリー)にしてもらえると助かるよ』

 

 

「りょーかい」

 

 

海原は受話器を置くと館内放送を使って台場艦隊に呼びかける。

 

 

「Deep Sea Fleetの連中に告ぐ、至急提督室に来い、特に暁は必ず来い、響から電話が来てるぞ」

 

 

海原が放送をかけてからDeep Sea Fleetが揃ったのは、それからわずか15秒後の事だった。

 

 

 

 

『久しぶりだね暁、元気だった?』

 

 

「元気に決まってるじゃない!」

 

 

暁は嬉しそうに響と話す、かつての仲間との会話とあって暁はとても嬉しそうだった、ちなみに今は拡声機能(ハンズフリー)にしているので海原たちにも聞こえている。

 

 

「そう言えば俺に話したいことがあるって言ってたが、何の話なんだ?」

 

 

『そうそう、単刀直入に聞きたいんだけど、今度台場鎮守府へ行ってもいいかい?』

 

 

「うちに?」

 

 

『うん、ひさしぶりに暁に会いたいし、あの時の演習のリベンジをするんだって雷と電が聞かなくてね、もっとも本人たちは寝てるけど』

 

 

やれやれ、といった感じで響は言う、そう言えば前回響たちが来たとき舞浜艦隊は吹雪たちにコテンパテンにされたんだっけか、と海原は思い出す。

 

 

「そういう事ならうちはいつでも大歓迎だ、いつ来る?」

 

 

『そうだね、すでに外出許可は取っているから、明後日から4日間でどう?』

 

 

 

「明後日から4日だな、了解した、じゃあこっちも準備しておくぜ」

 

 

『ありがとう、雷と電にも伝えておくよ、おやすみ』

 

 

「あぁ、おやすみ」

 

 

互いにそう挨拶すると海原は電話を切る。

 

 

「さてと、というわけで響たちが来ることになった、明日もてなす準備するぞ」

 

 

「了解です!」

 

 

「さーて、演習のリベンジに来るなら練度(レベル)上げとかないと」

 

 

「ハチはもう十分すぎるくらいに上がってると思うけど…」

 

 

指を鳴らすハチにマックスが引き気味に言う。

 

 

 

 

それから2日後、響たち舞浜鎮守府の面々がやってきた、しかし今回はいつもよりメンバーが2体ほど増えている。

 

 

「本当に暁なの!?幽霊じゃないよね!?」

 

 

1体目は睦月型駆逐艦13番艦の『神無月(かんなづき)』、長い薄茶色の髪に黒袴の巫女服を着た駆逐艦娘だ。

 

 

「響が言ってたのは本当だったのね…」

 

 

2体目は朝潮型駆逐艦1番艦の『朝潮(あさしお)』、セミロングの黒髪に私立小学校の制服のような格好をした駆逐艦娘だ。

 

 

この2体は暁型との仲が特に良かった艦娘で、暁轟沈の報せを受けたときはとても悲しんでいた。

 

 

 

「すまない、昨日台場に行く話を雷たちとしていたらこいつらに暁に会いに行くってところを聞かれて…」

 

 

「そりゃ災難だったな」

 

 

海原はハハハ…と苦笑する、ちなみに神無月と朝潮にはまだ暁が混血艦(ハーフ)だということは伝えておらず、轟沈時に奇跡的に助かって台場に漂着したのを助けられたと説明しているらしい、海原は心の中で響にグッジョブと言っておく。

 

 

 

「まぁとりあえず入れや、冷たいジュースを用意してある」

 

 

「やったー!」

 

 

「ありがとうなのです!」

 

 

海原に連れられ、舞浜鎮守府の駆逐艦たちは台場に入っていく。

 

 

 

 

「暁!演習のリベンジ戦をやるわよ!」

 

 

「着いて早々やるの?」

 

 

ジュースを飲み終えた雷は暁にビシッと指を突きつけると、リベンジ戦を宣言した。

 

 

「今回の私たちは一味違うんだから!」

 

 

「えっ?演習とか聞いてないけど?」

 

 

「あんたは勝手に付いてきただけだから知らないのです」

 

 

困惑する神無月に電がつっこみを入れる。

 

 

「どうする?」

 

 

「私たちはいいよ?すぐにでも演習できるし」

 

 

暁が吹雪たちに聞くと、全員がOKしたのですぐに演習を行うことになった。

 

 

「よし、そうと決まれば演習場に行くわよ!」

 

 

「いやにハイテンションね…」

 

 

暁が呆れ半分に言いながら一行は演習場へ移動する。

 

 

 

 

「ルールは前回同様どちらかが全員大破になった方が負けよ」

 

 

「分かったわ」

 

 

「それじゃあ、演習開始よ!」

 

 

雷が開戦の宣言を叫ぶ、今回は審判を付けずにフルメンバーで演習を行う、演習場の電光掲示板にメンバーと練度が表示された。

 

 

○台場艦隊『Deep Sea Fleet』

 

・駆逐艦:吹雪 Lv.130

・潜水艦:伊8 Lv.128

・駆逐艦:暁 Lv.127

・駆逐艦:三日月 Lv.125

・駆逐艦:Z3 Lv.97

 

VS

 

○舞浜艦隊

 

・駆逐艦:響 Lv.87

・駆逐艦:雷 Lv.85

・駆逐艦:電 Lv.84

・駆逐艦:神無月 Lv.65

・駆逐艦:朝潮 Lv.53

 

 

 

「……へ?」




さあ、素敵な蹂躙(パーティー)の始まりよ♪


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第67話「大鯨の場合2」

最近改二のif改装やコンバートの話題を見て思ったんですけど、「ロシアに行ってヴェールヌイになった響が日本に帰ってきたら」という設定で「響改二」をヴェールヌイのifコンバートとして実装しないかな~、というのを妄想してます。

史実では叶わなかった「お帰り響」を是非ゲームで!と思ったけど需要あるのだろうか…


「何よあの練度(レベル)!?」

 

 

「ケッコンカッコカリをしているのか…すごいな」

 

 

「てか、暁もケッコンカッコカリをしているなんて、いつの間にあそこまで上げたのですか…」

 

 

「ダテに吹雪さんの地獄入隊訓練を受けてないわよ!」

 

 

先に動いたのはDeep Sea Fleet、手にした主砲で正確無比な射撃を行う。

 

 

「うわっ!!」

 

 

「痛っ!?」

 

 

吹雪たちの弾幕が舞浜艦隊に着弾してダメージを受ける。

 

「これでも食らえぇ!」

 

 

神無月は主砲から砲弾を撃ち、一番練度(レベル)の低いマックスを狙い撃ちする。

 

 

「はっ!」

 

 

しかし、マックスの湾曲剣(シミター)が神無月の砲弾をいとも簡単に切り裂いた。

 

 

「はぁ!?何よあれ!?」

 

 

いきなり攻撃を防がれて神無月は目を剥いて驚いた。

 

 

「やっぱり台場艦隊の深海棲器は厄介ね…」

 

 

「接近されたらこっちは終わりだと考えた方がいいかな」

 

 

「ならば、あれの出番なのです!」

 

 

電がそう言うと、第6駆逐隊の面々はあるモノを取り出した。

 

 

「…それは?」

 

 

「こっちも白兵戦用の得物をこしらえたんだよ」

 

 

そう、響たちが出したのは深海棲器対策として用意した白兵戦用の武器だった、当然深海棲器ではなく普通にホームセンターなどで買えるような武器ばかりだが、白兵戦には参加出来るだろう。

 

 

ちなみにそれぞれの武器だが、響が“鎖鋸(チェーンソー)”、雷が“鉈”、電は“手斧(ハンドアックス)”だ。

 

 

「…これ艦隊戦だよね?」

 

 

「そのはずだけど…」

 

 

もはや自分たちの知っている艦隊戦とは別物の光景になっていて戸惑う神無月と朝潮だった。

 

 

「向こうも白兵戦を仕掛けるみたいですね」

 

 

「それなら、私たちも行きましょう!」

 

 

「そうね、総員、白兵戦用意!」

 

 

「「了解!」」

 

台場艦隊全員が深海棲器を構える、その光景に神無月たちはひいいぃぃ!と甲高い悲鳴を上げた。

 

 

「てやあああぁぁ!」

 

 

響が鎖鋸(チェーンソー)で吹雪に切りかかるが、それを吹雪はナギナタで軽々と受け止める。

 

 

甲高い金属音と共に響の鎖鋸(チェーンソー)が火花を散らしながら回り続けるが、吹雪のナギナタはびくともしない。

 

「てやっ!」

 

 

吹雪が鍔迫り合いの状態で響のわき腹に回し蹴りを食らわせる。

 

「うぐっ…!」

 

 

その衝撃で響はバランスを崩し、鎖鋸(チェーンソー)も落として仰向けに倒れてしまう、さらに追撃と吹雪は倒れた響に向かってかかと落としをお見舞い、腹の空気を一気に出された響は強烈な痛みと吐き気に襲われる。

 

 

「ゲホッ!オボェ…!」

 

 

胃の中をぶちまけそうになったが何とか堪え、素早い動きで鎖鋸(チェーンソー)を手に取る、しかし慣れない白兵戦と身体への直接攻撃のダメージですでにフラフラの状態だった。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

そんな状態でまともに艦隊戦が出来るわけもなく、吹雪の右ストレートが顔面に直撃する、その反動で響は海面を3バウンド、本来なら頭骨全体が粉々になるようなダメージだが、演習モードによる艤装の加護のおかげでそれは免れた。

 

ただし、それに伴う痛覚までは消し去ってはくれないのだが…

 

 

「あっ…うっ…!」

 

 

想像を絶する激痛に響は倒れたまま動けなくなってしまった、そんな響に吹雪は容赦なく砲を向ける。

 

 

「…こ……こ……うさ……ん……降参だ…よ…」

 

 

響が降参(リタイア)宣言を出した。

 

 

 

○現状戦況

 

・Deep Sea Fleet

 

・吹雪 :小破未満(カスダメ)

・伊8 :小破未満(カスダメ)

・暁 :小破未満(カスダメ)

・三日月:小破

・Z3 :小破

 

 

・舞浜艦隊

 

・響 :降参(リタイア)

・雷 :中破

・電 :中破

・神無月:小破

・朝潮 :小破




○艦これDSFこぼれ話
・初期設定ではこの小説の主人公は不知火だった。



短いですがここで一度切ります。

戦闘となると容赦がない吹雪ちゃん。



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第68話「大鯨の場合3」

現在艦これでは南方海域第3ステージ「東京急行/アイアンボトムサウンド」を攻略中、さてどうなることやら…


一方こちらは三日月と電、小破未満(カスダメ)の三日月に対して、電はすでに中破の状態になっていた。

 

 

(これは…マズいのです…)

 

 

普通に砲撃をしても深海棲器で砲弾は切り裂かれる、雷撃を行っても主砲射撃で撃ち抜かれて誘爆させられてしまう、かと言って白兵戦をしても力量は相手の方が各段に上、明らかに八方塞がりだ。

 

 

(でも、三日月さんなら…!)

 

 

吹雪や暁相手なら勝てないだろうが、相手が三日月なら多少の勝機があると電は踏んでいた、何故なら…

 

 

 

「魚雷発射なのです!」

 

 

三日月は砲を持っていないからだ、この事は演習直前の艤装モード切り替えの時に確認している、砲が使えなければ魚雷狙撃は出来ない、よって三日月にはこの戦法は有効だと電は判断した。

 

 

電の放った魚雷は猛スピードで三日月の方へ向かって進んでいく、扇状に放っているので横方向へかわすのは難しいと言っていいだろう。

 

 

そんな状況にもかかわらず、三日月は不敵な笑みを浮かべる、この時電は大きな誤算をしていた。

 

 

「いつから私が砲を持っていないと錯覚していたんですか?」

 

 

そう言って三日月はあるモノを取り出す、艦娘の砲撃戦に使われるのは大砲とは限らない、その事に電は気づいていなかった。

 

 

「っ!?それは…!」

 

 

三日月が取り出したのは短機関銃(サブマシンガン)だった、ハンドガンほどの大きさをした拳銃で、トリガーを引いている間弾丸が射出されつづけるという優れものである、一発一発の威力はやや低めだが、連続でヒットしやすいのでダメージを蓄積させやすい。

 

 

「撃てえええぇぇ!!!!!」

 

 

三日月は短機関銃(サブマシンガン)のトリガーを引き、弾丸を射出させる、甲高い発砲音と共に漆黒の弾丸が高速で飛び出す、射出された弾丸は魚雷に次々と命中していき、一本、また一本と爆発して水柱をあげていく。

 

 

「これじゃあ…!」

 

 

水柱が視界の邪魔をして思うように行動できない、その一瞬の躊躇が電の致命傷となった。

 

 

「な…!」

 

水柱を突き破って三日月がこちらに突進してきた、その手には星球鎚矛(モーニングスター)が握られている。

 

 

月女神の宵宴(ルナ・エクスキューション)!」

 

 

三日月が星球鎚矛(モーニングスター)で電の頭を思い切り殴打する、凄まじい衝撃が電の後頭部を襲い昏倒しそうになるが、何とか踏みとどまった。

 

 

月光の舞姫(ムーン・ロンド)!」

 

 

電が反撃に出ようと手斧(ハンドアックス)を構えるが、三日月がそれを許すはずがない、深海棲器を短機関銃(サブマシンガン)から戦輪(チャクラム)に切り替えると、ダンスを踊るような華麗なステップで電を切り裂いていく。

 

 

「はにゃああぁぁ!!!!」

 

 

連続攻撃を受けた電に大破判定が下り、艤装からアラートが鳴り響く。

 

 

 

 

こちらは雷とハチ、戦況は雷が大破寸前のダメージを受けており圧倒的に押されていた、今回雷は対潜水艦用装備を全く身につけておらず、主砲でハチを攻撃するしかなかった、そのため水中を縦横無尽に動き回るハチにはまともにダメージを与えられていない。

 

 

(でも、ハチさんの息継ぎのタイミングはだいたい掴めたわ!あとはその時を見計らえば…!)

 

 

いくら水中を自在に動き回れる潜水艦娘のハチといえど肺呼吸なのは他の艦娘と変わらない、連続無酸素活動時間は他の艦娘より長いが、いつまでも水中にはいられないのだ。

 

 

(…そろそろハチさんが飛び出す頃ね)

 

 

全身の神経を研ぎ澄ませ、ハチが飛び出す場所を予測する、そして…

 

 

 

「そこっ!」

 

 

雷は3時の方向へ主砲を放つ、ハチを狙い撃とうと全力で引き金を引き絞るが…

 

 

「えっ…?」

 

 

そこには誰もいなかった。

 

 

「私はここですよ?」

 

 

「っ!?」

 

 

刹那、いつの間にか自分の背後にいたハチに気づいたが、すでに遅い。

 

 

海王姫の戦弾(レヴィア・バレット)!」

 

 

ハチが拳銃の引き金を引く、射出された深海棲器製の銃弾が雷に命中し、炸薬の効果で爆発する。

 

 

双龍(ソウリュウ)(アギト)!」

 

 

さらに追撃として2本の小太刀で雷に突きを食らわせる、強い衝撃を受けて雷は後ろに吹き飛ぶ。

 

 

雷の艤装から大破判定のアラートが鳴った。




中二病にハマってきた台場艦隊たち。

あと西方海域第4ステージ「アンズ環礁秘匿泊地攻撃/ステビア海アンズ諸島沖」もなかなかの難易度、港湾棲姫強すぎ。


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第69話「大鯨の場合4」

南方海域第3ステージ「東京急行」、第4ステージ「突入!鉄底海峡」をクリア、南方海域を攻略しました。

現在はFS海域第3ステージ「FS作戦 上陸攻略戦」と深海中枢海域第3ステージ「深海中枢泊地攻撃」を攻略中。

中枢棲姫のHP600ってなんだ。


そんでもってこちらは神無月と暁、神無月からすれば暁に会いに来ただけなのに何故演習に付き合わねばならんのだ、という心境だが、そこは勝手に付いて来た自業自得ということで納得してもらうしかない。

 

 

 

「何なのよ本当に!」

 

 

開戦早々に神無月は台場艦隊の…いや、今の暁の恐ろしさを思い知ることとなった、練度(レベル)は自分の倍に近く、白兵戦などという未知の技術を身につけており、おまけにそれを使ってこちらの攻撃手段を潰してくるという、見事なまでの艦娘絶対殺すマンっぷりであった。

 

 

「簡単に勝てるなんて思わないでよ!」

 

 

そう言って暁は棘棍棒(メイス)を持って神無月へと突撃する、あんなもので殴られれば一溜まりもない、神無月は本能的に身震いする。

 

 

神無月は再び砲撃を行うが、棘棍棒(メイス)を盾にして全て防いでしまった。

 

 

(こんなの無理ゲーじゃない!)

 

 

それでも何とか足掻こうと神無月は魚雷を発射、しかし暁に当たる前に主砲で全て撃ち抜かれてしまった。

 

 

「ちょ…!?」

 

 

「隙ありいいいいぃぃぃ!!!!!!」

 

 

あまりにも現実離れした光景に神無月は唖然として動きを止めてしまう、その一瞬の隙を見逃すほど暁は愚かではなかった、身体のバネを目一杯使って跳躍し、全体重を乗せて棘棍棒(メイス)を振り下ろす。

 

 

撃鉄棍(ゲキテツコン)頭蓋破砕(ヘッドバッド)!」

 

 

「があっ…!」

 

 

振り下ろされた棘棍棒は神無月の脳天に命中、その衝撃で神無月は昏倒して気絶した、戦闘続行不可能と判断され、強制離脱となった。

 

 

 

 

最後は朝潮とマックス、練度(レベル)は台場艦隊の中で一番低いが、朝潮との練度(レベル)差は44もある。

 

 

先ほどから砲撃を行っているが、そのほとんどがマックスの湾曲剣(シミター)によって無効化されてしまう。

 

 

(どうすれば…!!)

 

 

朝潮が状況打破の手段を考えていると、マックスが猛スピードでこちらに近付いてくる。

 

「いったい何を…!?」

 

 

朝潮が牽制のために主砲を構えたその瞬間…

 

 

「それっ!」

 

 

マックスがワイヤーを伸ばして朝潮の右手…主砲を持っている手の手首に巻き付け、思い切り引っ張った。

 

 

「しまっ…!!」

 

 

朝潮は一気に焦りの色を顔に浮かべる、状況で言えばマックスと朝潮の2体がワイヤーで繋がり、朝潮の弾道上にマックスが固定されるという事になる。

 

 

一見すると砲弾を避けにくくなるのでマックスにとっては不利になると思われがちだが、それは間違いだ。

 

 

朝潮は手首をワイヤーで巻かれて引っ張られている、つまり朝潮は主砲の照準を自力で変えられないのだ、それに対してマックスは朝潮と繋がっているとはいえ頭を伏せたり身体をずらしたりと最低限の回避行動を取ることが出来る、照準が固定されているので避けるのは簡単だ。

 

 

「このっ!このっ!」

 

 

朝潮は主砲でマックスを狙撃するが、一直線に撃つしかないので簡単にかわされてしまう、そしてマックスはワイヤーを引きながら朝潮にあっという間に肉薄してしまった。

 

 

「まずっ…!」

 

 

気付いたときには時すでに遅し、マックスが湾曲剣(シミター)を持って朝潮に斬りかかる、素早い動きでX斬りを繰り出し、朝潮を吹き飛ばす。

 

 

「うぐっ…!!」

 

 

 

「やあぁっ!」

 

 

さらに追撃として戦鎚(ウォーハンマー)を横一線に振り、朝潮の顔面を殴りつける。

 

 

「ごふっ…!」

 

 

凄まじい痛みと共に朝潮は海面を転がる、顔の骨の一部が砕けたらしく、変な形に皮膚がめり込んでいる。

 

 

朝潮に大破判定が下り、舞浜艦隊の敗北が決まった。

 

 

 

(化け物だ…)

 

ボロボロになった舞浜艦隊の面々は台場艦隊に対して満場一致でそんな感想を抱いた。




戦艦棲姫の硬さに言葉が出ない、重巡の夜戦火力でもダメージ30。

…こいつ拠点型じゃないんだよね?



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SSSその1

71話の更新にもう少しかかりそうなので、つなぎとして本編で入れられそうにない小ネタを短編として投稿。

艦娘と過去の軍艦は無関係…という設定はDSFと共通してますが、艦娘の相関関係は本編とは別物です。

ちなみにSSSは「ショートショートのさらにショート」という意味です、4コママンガのノリで書いているので普通のSSより短いかもしれません。


○西村艦隊

 

・登場艦娘:扶桑、山城、時雨、満潮

 

「よし、今日の出撃任務はお前たちに出てもらう、頑張ってこいよ」

 

 

そう言って提督は扶桑たちを見て言う。

 

 

「今日はまた変わった編成なのね」

 

 

山城が自分の左右に並ぶ艦娘を見て提督に言った、このメンバーで出撃するのは初めてかもしれない、と山城は思う。

 

 

「今日は西村艦隊で揃えてみたぞ」

 

 

「西村艦隊って?」

 

 

聞き慣れない単語に時雨が首を傾げて提督に聞く。

 

 

「扶桑、山城、時雨、満潮、最上で編成された艦隊だ、かつて実際にこの艦隊で海戦が行われたという史実(エピソード)ある、最上はまだウチにいないからこの編成だが」

 

 

「へぇ、それを聞くと何だかこのメンバーに縁を感じるね」

 

 

「要は現担ぎでしょ?そんなの無くたって私たちが負けるわけないじゃない」

 

 

時雨と満潮はそれぞれ言い合う。

 

 

「まぁでも、西村艦隊は最終的に時雨以外全艦轟沈しちまうんだけどな」

 

 

「「一気に縁起悪くなったんですけど!?」」

 

 

西村艦隊全員のつっこみが提督室に響き渡る。

 

 

 

 

 

○何したの?

 

・登場艦娘:霧島、天龍、青葉

 

 

「天龍、ちょっといいかしら」

 

 

「何ですか?霧島さん」

 

 

天龍が食堂に行こうと廊下を歩いていると、霧島に名前を呼ばれる。

 

 

「青葉を見なかった?」

 

 

「青葉さんですか?見てないですね、何か伝言があるなら伝えますよ?」

 

 

「あらそう?なら青葉に会ったらこう伝えてほしいの」

 

 

そう言うと先ほどまでの朗らかな雰囲気から一変、人を殺しそうな恐ろしい形相になり…

 

 

「命が惜しかったら、すぐに私の部屋まで来るように…ってね」

 

 

「わ、分かりました…」

 

 

あまりの怖さに天龍は震える声で言うと、霧島はよろしくね~♪と朗らかな顔に戻ってその場を去っていく。

 

 

(…青葉さん何したんだ!?)

 

 

ちなみにその後食堂で青葉を発見し、先ほどの霧島の伝言を伝えると…

 

 

「…あぁ、はい、分かりました」

 

 

力無い声でそう答え、トボトボと食堂を出て行く、その足取りはまるで処刑台に向かって歩く死刑囚のようであった。

 

 

「…青葉さん、本当に何したんだろう」

 

 

正直めちゃくちゃ気になったが、青葉の様子を見ると聞く気になれなかった。

 

 

 

○整理はキチンと

 

・登場艦娘:瑞鶴、加賀

 

 

「瑞鶴!部屋はちゃんと片付けておきなさいって何度も言っているでしょう!?」

 

 

加賀はルームメイトの瑞鶴に対して怒りながら言う、片付けてもすぐに散らかってしまう瑞鶴の管理能力には加賀も呆れるしかない。

 

 

「そうは言いますけど加賀先輩、どうせまた散らかるんだからいつ片付けようが関係ないじゃないですか」

 

 

「散らかしてるのは他でもないあなただって事をよく理解しての発言かしら…?」

 

 

加賀は拳を握り締めて言う、瑞鶴の片づけ下手は親友の加賀自身も知っていたが、そろそろ何かしらの手を打たねばと考えていた。

 

 

「歩くのに邪魔だからこの辺のモノどかしてもいい?」

 

 

「いいですよー、その辺に置いといてください」

 

 

瑞鶴はこちらを見向きもせずマンガを読んでいた、その姿に若干のイラつきを覚えつつ、加賀は床に散らばっている瑞鶴の私物を拾い集める。

 

 

「…?」

 

 

すると、その中のあるモノに目が止まる、たしかこれは…

 

 

(…使えそうね)

 

 

その時、加賀が思い切り意地の悪い笑みを浮かべて瑞鶴を見る。

 

 

 

「ねぇー指入れてー、私の濡れた割れ目にオシオキして欲しいのー」

 

 

「っ!?」

 

 

突然聞こえた加賀の卑猥な声に瑞鶴はマッハのスピードで加賀を見る、そこには…

 

 

「あぁんー、イクー、あなたの指使いでイっちゃうのー、お潮噴いちゃうのー」

 

 

瑞鶴がひそかに隠し持っていたエロ本を棒読みで音読している加賀の姿があった。

 

 

「ななななななな何してるんですか加賀先輩!?」

 

 

「こんな所にこんな本を置きっぱなしにしてるものだから、こういう羞恥プレイが好きなのかと」

 

 

「んなわけあるかぁ!」

 

 

「あぁんー、あなたの肉棒に突かれるのすきぃー、出してぇー、あなたのミルク中に出してぇー」

 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!!片付けます!今すぐに部屋片づけますから!だからそれ以上はやめてえええぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

部屋はちゃんと片付けよう、心に軽いトラウマを残しつつ、そう誓う瑞鶴であった。

 

 

 

○不死鳥

 

・登場艦娘:響、暁、雷、電

 

 

「不死鳥?」

 

 

「そう、かつて実在していた駆逐艦『響』は不死鳥の通り名があったんだ、何度損傷してもすぐに修理されて戦線に返り咲いたって史実(エピソード)から来てるらしい」

 

 

提督の言葉に響たちはへぇ~、と興味津々な返事をする。

 

 

「てかお前ら、感心してるみたいだけど不死鳥知ってるのか?」

 

 

「そりゃ知ってるわよ!エンジュシティのスズの塔に出てくるほのお、ひこうタイプのポケモンでしょ?」

 

 

「バジリスク倒すためにグリフィンドール剣を持ってきた鳥でしょ?」

 

 

「カービィのボスに出てくる鳥でしょ?」

 

 

 

 

「なんか違くねーか!?」

 

 

 

微妙にズレた答えを出して何と言えばいいか分からない提督だった。

 

 

 




短編を書くのは苦手なのでその練習も兼ねてのSSSでした。


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第70話「大鯨の場合5」

活動報告でも告知しましたが、大鯨に持たせる深海棲器を募集しています、大鯨にこんな武器を使ってほしい!というアイデアがあればどしどしお寄せください!
感想、メッセージ、活動報告の返信のどれに書いても受け付けます。

そういえば一昨日大鯨をドロップでゲットしました、深海運河海域第1ステージのボスドロで出るという情報だったので、ボスの水母棲姫を狩ってたら二回目の出撃でゲット、割と出るんですね。


「しっかし、こりゃ死屍累々な光景だな…」

 

 

海原は演習から戻ってきた舞浜艦隊の様子を見て言う、響、雷、電は、ソファに座り込んで意気消沈としているし、神無月と朝潮に関しては完全に満身創痍(グロッキー)でソファに横たわっている。

 

 

「うーん…まだ頭痛い…」

 

 

「これ本当に骨繋がったの?まだ感覚変だし少し痛いんだけど…」

 

 

「大丈夫だよ、高速修復材まで使ったんだから、ちょっとは台場のドックを信用しなって」

 

 

「「誰のせいだと思ってんのよ!!」」

 

 

全く悪びれない吹雪の発言に2体が起き上がって文句を言うが、その直後に頭と顔に激痛が走ったので再びうめき声をあげて寝込む。

 

 

((いつか絶対仕返ししてやる…))

 

 

そんな事を考えながら…

 

 

 

 

 

次の日、Deep Sea Fleetは出撃任務で海に出ていた、しかし今回はいつもとは違う編成で出撃している。

 

・吹雪

・三日月

・マックス

・響

・雷

・神無月

 

 

と、舞浜艦隊も加わっている。

 

 

「別に響たちはお客さんなんだから台場でくつろいでれば良かったのに」

 

 

「いや、いくら遊びに来ているとはいえ、こういう任務に手を貸すのは仲間として当然のことだ」

 

 

吹雪の言葉に響はそう返す、律儀だなぁ…と吹雪は感心しつつ航行していく。

 

 

「それにしてもこの海域に入ってから一時間近く経つけど、敵の気配が全くないね」

 

 

「電探には何も反応が無いから、会敵はしばらくなさそうだね」

 

 

索敵係の響が電探の反応を見ながら言う、このまま戦闘無しで終わるかもしれない、などと考えながら10分程進んだとき…

 

 

「っ!!電探に敵艦隊の反応あり!数は4体、12時の方向!」

 

 

響の電探が敵艦隊の接近を知らせる、距離から考えて会敵まで20秒といったところか。

 

 

「じゃあ作戦はさっき打ち合わせたとおりで」

 

 

「吹雪たちが白兵戦で弱らせた敵を私たちが砲撃で仕留める…だね」

 

 

「うん、もしくはBパターンとしてその逆も視野に入れといて」

 

 

「了解」

 

 

手短に打ち合わせを終えると、敵の艦隊が姿を現した。

 

 

◎重巡棲艦

○重巡棲艦

○軽巡棲艦

○駆逐棲艦

 

 

 

「敵はたいした強さじゃないね」

 

 

「そうですね、これなら簡単に片付きそうです」

 

「重巡棲艦が2体もいるのにたいしたことないって言える吹雪たちって一体…」

 

 

相変わらず台場組の感覚に首を傾げながらも、戦闘が始まった。

 

 

まずは吹雪たち台場組が敵に接近する、ケッコンカッコカリの恩恵もあり、敵の砲撃準備が整う前に肉薄する事が出来た。

 

 

「ていっ!」

 

 

まずは吹雪が駆逐棲艦に手甲拳(ナックル)でパンチ、拳が駆逐棲艦の装甲を易々と貫き、一撃で撃沈となる。

 

 

続けて三日月が星球鎚矛(モーニングスター)で軽巡棲艦の頭部を殴打、水風船を潰すような感覚で軽巡棲艦の頭を粉々にする、神経の中枢機関を潰された軽巡棲艦はなすすべもなく撃沈、これも一撃必殺であった。

 

 

「っ!!まずっ…!?」

 

 

しかし敵もやられてばかりではない、重巡棲艦が腕の主砲で三日月を狙う。

 

 

「させないっ!」

 

 

重巡棲艦の主砲が火を噴く瞬間、マックスがワイヤーを伸ばして重巡棲艦の主砲に巻きつけ、思い切り引く。

 

 

「ーっ!?」

 

 

ワイヤーに引かれた重巡棲艦の主砲は明後日の方向を向き、何もない場所に砲弾を撃つ。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「お安いご用よ」

 

 

マックスはそうクールに返すと、もう一方の…旗艦(リーダー)の重巡棲艦へと向かっていく。

 

 

マックスが湾曲剣(シミター)を取り出し重巡棲艦を斬りつける、ダメージはそれなりに与えたようだが、重巡棲艦の装甲はそう易々と攻撃を通してくれない。

 

 

「響!」

 

 

「全主砲、斉射!」

 

 

マックスの合図で響たち舞浜艦隊が主砲を撃つ、発射された砲弾が重巡棲艦に命中、それぞれ小破と中破になって一瞬だけ怯む。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

壊月戦斧(ブレイク・インパクト)!」

 

 

剣聖の騎士(ホーリー・セイバー)!」

 

 

その隙を台場組が見逃す訳がない、吹雪は中破になった重巡棲艦に渾身の右ストレートを、三日月は小破になった旗艦の重巡棲艦に自身の全体重を乗せた斧の一撃を、マックスも旗艦の重巡棲艦に素早い剣の連続斬りをそれぞれお見舞いする。

 

 

台場組の深海棲器による猛攻に耐えられるわけもなく、残りの重巡棲艦2体が海の底に沈んでいく。

 

 

「…戦闘終了、辺りに敵艦の反応なし」

 

 

響は電探に意識を集中させたが、敵が迫ってくる気配はなかった。

 

 

「…改めて台場の戦闘見たけど、すごいね」

 

 

神無月が手を振りながらこちらにやってくる吹雪たちを見て言う。

 

 

「私も最初見たときは目を疑ったよ」

 

「本当にびっくりよね」

 

 

響と雷も口々にそう言う。

 

 

「神無月、雷、今回の戦闘を見て思ったことがあるんだ」

 

 

「奇遇ね、私もよ」

 

 

「私も、多分響と同じ事を考えてるわ」

 

 

自分たちから付いて来ておいて言うのもアレだが、今回の任務について3体とも同じ事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「今回の任務…舞浜艦隊(わたしたち)いらなくね?」」」

 

 




深海中枢海域で「戦艦ル級改」というブラックロックシューターみたいな目をしたル級に遭遇、HPが130まで上がっていて「なんじゃこりゃ!?」でした、てか改って何だよ。

…てことはル級改二もいるの…?


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第71話「大鯨の場合6」

艦これアーケードで潜水棲艦が出るようになったみたいですね、とりあえず今持ってる対潜装備を見たんですけど…

・94式爆雷投射機
・3式爆雷投射機
・93式水中聴音機

ロクなのがねぇ…


「吹雪たちの事だから手早く倒しそうだとは思ったけど、まさかこんなに早いとは思わなかったよ」

 

「そう?結構普通だよ」

 

 

「普通の艦娘は白兵戦したり駆逐棲艦をパンチで一撃必殺したりはしないよ」

 

 

神無月は呆れ顔で言う。

 

 

「っ!?敵艦隊接近中!数は1!会敵までおよそ30秒!」

 

 

響の電探が再び敵艦隊の接近を察知する。

 

 

「って、1体だけ?」

 

 

「電探の反応を見るに1体だね」

 

 

「はぐれ駆逐でもいるのかな…」

 

 

「案外戦艦棲艦がソロプレイしてたりしてね」

 

 

「それは勘弁願いたいね、戦艦棲艦は倒すのが大変だし」

 

 

「大変でも倒せるってあたり台場艦隊は異常だね…」

 

 

神無月の中で駆逐艦の定義が揺らいでいた。

 

 

 

響の言葉通り30秒前後で敵艦隊と遭遇した。

 

 

「よし!今度は私が!」

 

 

先ほどはほとんど出番のなかった神無月が張り切って駆逐棲艦に向かっていく。

 

 

「待って」

 

 

しかし吹雪が腕を横に伸ばして神無月の進路を塞ぐ。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

真剣な顔で駆逐棲艦を見る吹雪に神無月は怪訝な表情を浮かべる、そして気付けば三日月とマックスも吹雪と同じような顔をして駆逐棲艦を見つめている。

 

 

「吹雪、もしかして…」

 

 

吹雪たちの様子を見て何かを察した響は吹雪の近くに寄る。

 

 

「うん、あの深海棲艦、“面影”持ちだよ」

 

 

そう言って吹雪は目の前にいる“面影”をじっくりと観察する、背丈は一般的な軽巡くらいだろうか、青紫色のセミロングの髪をお下げにしており、鯨の絵が書かれた白いエプロンを着けている。

 

 

「ならここは台場組に任せた方がいいみたいだね、頼むよ」

 

 

「了解、私とマックスで話を聞いてくるから、響たちは三日月とここで待ってて」

 

 

「分かった」

 

 

吹雪はマックスを連れて“面影”のもとへ向かう。

 

 

「…ねぇ、“面影”とか話を聞くとか、何のこと?」

 

 

すると、台場組の事情を知らない神無月が首を傾げて三日月に聞く。

 

 

「そうですねぇ…“面影”というのは、平たく言えば深海棲艦になった艦娘…ですかね」

 

 

 

「はぁ!?艦娘が深海棲艦に!?どういうこと!?」

 

 

目を剥いて驚く神無月に、三日月は台場組の事情を軽く説明する。

 

 

「…そんな事ありえるの?」

 

 

「ありえますよ、現にコレが証拠です」

 

 

そう言って三日月は自分の深海痕をさらす。

 

 

「…信じられない…こんな事が…」

 

 

神無月は呆然としながら三日月の深海痕を見つめる、とここで神無月はあることに気づく。

 

 

「てことは、暁も!?」

 

 

「…やれやれ、騙し通せるかと思ったけど、ばれたか」

 

 

「どうせなら騙されときゃ良かったのに」

 

 

響と雷がそれぞれ口走る。

 

 

「知ってたの!?」

 

 

「当たり前田のクラッカーだよ、暁の艦娘化に立ち会ったのは私たちだからね」

 

 

「朝潮と神無月には知られたらめんどくさいから黙ってたのよ、だから神無月、この事は他言無用だからね、余所に混血艦(ハーフ)の事が知られたら二度と暁に会えなくなるかもしれないんだから」

 

 

響と雷は絶対に話すな、と神無月に念を押す。

 

 

「わ、分かったわよ」

 

 

3体の勢いに気圧され、渋々了承する神無月。

 

 

「お待たせ」

 

 

すると、深海棲艦との会話を終えた吹雪とマックスが戻ってくる。

 

 

「どうでした?」

 

 

「全然だめ、何言っても答えてくれないよ」

 

 

「そうですか…なら仕方ありませんね、一度引き返しましょう」

 

 

吹雪たちは駆逐棲艦を残して台場鎮守府へ帰投する。

 

 

 

 

帰投後、海原に似顔絵を渡して電子書庫(データベース)に検索をかけてもらっている。

 

 

「出た出た…って、ん?」

 

 

ディスプレイを見ている海原が眉をひそめる。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「これを見てくれ」

 

 

そう言うと海原はディスプレイを吹雪たちの方へ向ける。

 

 

○艦娘リスト(轟沈艦)

・名前:大鯨(たいげい)

・艦種:潜水母艦

・クラス:大鯨型1番艦

練度(レベル):1

・所属:横須賀鎮守府

・着任:2049年10月26日

・轟沈:2050年6月30日

 

 

「普通のリストに見えますけど…」

 

 

「て思うじゃん?問題は最後なんだよ」

 

 

「最後…?」

 

 

 

 

 

 

 

○備考

・建造失敗艦(四肢の一部不自由、身体能力低下)。

 

 

 

 

 

「…えっ?」

 

 

書かれている内容を見て、吹雪たちは一斉に疑問符を浮かべた。




今回の大鯨編は少し長くなる予定です、マックス編以上三日月編未満…になればいいな。


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第72話「大鯨の場合7」

○艦これDSFこぼれ話2
・この小説の没設定として、「吹雪は艦娘の記憶を持ったまま深海棲艦になった存在で、かつて所属していた鎮守府に再び捕虜として戻ってくる」という設定があった、しかも吹雪はそこの提督とケッコンカッコカリしていて相思相愛だった。


大鯨の深海棲器のアイデアを書いていただいたみなさん、ありがとうございます!引き続き募集しているので、ネタが湧き上がって仕方がないという方は是非~


「建造失敗艦…?これってどういうことですか?」

 

 

「建造が上手くいかなかった艦娘の事を言うんだ、五体満足じゃなかったり、身体能力が著しく低かったり、様々な理由で艦娘としての活動が出来ないと判断されると“建造失敗艦”となる、普通は解体処分されるのがセオリーなんだが…」

 

 

「この大鯨は横須賀に着任している…と」

 

 

「何か裏があると考えた方が良さそうですね」

 

 

吹雪たちは顎に手を当て頭を捻る。

 

 

「横須賀に聞くってのも手だけど、台場の事情を勘ぐられると面倒なんだよなぁ…」

 

 

「なら、大鯨を建造した造船所に聞いてみるのは?」

 

 

響が一つの提案を出す。

 

 

「造船所か、確かにあそこには信用出来る人もいるし、横須賀に比べたらまだ希望は持てるな」

 

 

 

「へぇ、司令官にも“信用”なんて言葉を使える人間がいたのね」

 

 

「失礼だな暁、俺にだって信頼関係を築いてる人間のひとりやふたりいるんだぞ」

 

 

「はいはい、それでどんな人なの?」

 

 

相変わらず辛辣な暁に海原はつっこみを入れるが、暁はそれを軽く受け流して聞く。

 

 

「榊原っていう造船所の所長さんだ」

 

 

「所長とお知り合いなんですか!?」

 

 

「あぁ、といっても最初の頃はあんな性格だったから所長には嫌われてたんだけどな、でも三日月たちが轟沈してからちょくちょく造船所の慰霊碑に手を合わせてたら向こうも俺を認めてくれるようになったんだ」

 

 

「へぇ~、人脈って人の見かけによらないのね」

 

 

「お前本当容赦ないよな」

 

 

海原が再度つっこむが、そんなものどこ吹く風と暁はスルーする。

 

 

「でも、造船所は艦娘を建造している総本山みたいなとこだ、混血艦(ハーフ)の事を話して吹雪たちの安全が脅かされるともっと厄介だし、もう少し考えてみる事にするよ」

 

 

そう言うと海原は手帳に今後の方針案としてメモを取る。

 

 

「報告ありがとう、補給して各自休んでくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

吹雪たちはそのまま提督室を後にする。

 

 

「…榊原所長…か」

 

 

誰もいなくなった提督室で、海原は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

その日の夜、海原が大鯨艦娘化計画の具体案を練っていると、Deep Sea Fleetのメンバー全員が提督室に入ってきた。

 

 

「こんな時間にどうしたんだ?もう日付が変わっちまうぞ」

 

 

「司令官、お話ししたいことがあります」

 

 

そう言って海原を見る吹雪たちの真剣な眼差しに、海原はつい身構えてしまう。

 

 

「あの後Deep Sea Fleetで話し合ったんですけど、大鯨の事、榊原所長にお話しするべきだと思います」

 

 

吹雪たちの意見を聞いて海原は少し驚いた顔をする。

 

 

「…その結果お前たちが台場鎮守府(ここ)にいられなくなるような結果になっても…か?」

 

 

そう、海原が懸念しているのはそこである、造船所は艦娘を建造している場所…つまり艦娘の専門家が集まっているのだ、そんなところに混血艦(ハーフ)の事を相談しようものなら吹雪たちは造船所の実験動物(モルモット)にされてしまうだろう。

 

 

「そんな事、混血艦(ハーフ)になったときから覚悟してました、それに造船所の実験動物(モルモット)にされたとしても、司令官を恨んだりはしませんし後悔もしません」

 

 

「私たちも吹雪と同意見です、いつかこんな状況になるかもしれない、というのは常々考えてましたから」

 

 

三日月も真っ直ぐな目で海原を見る、そんな自分の部下たちを見て、海原はたくましくなったと素直に思う、しかし…

 

 

()()部下を失うかもしれない、という俺の気持ちは考えてくれないのか?

 

 

その言葉が喉まで出かかったとき、海原はすんでの所でその言葉を飲み込む。

 

 

何を自分勝手なことを考えているんだ、吹雪たちは深海棲艦になってしまった艦娘(なかま)を助けようとしてるんだぞ、そのためにあんな覚悟まで決めてるのに、こんな自分勝手な意見など言えるわけがない。

 

 

「…司令官?」

 

 

急に黙り込んで俯いてしまった海原に吹雪は心配そうに声をかける。

 

 

「あ、あぁ…すまない、お前たちの気持ちは分かった、明日にでも榊原所長に相談してみるよ」

 

 

「了解です!いいお返事が聞けるといいですね」

 

 

そう言うと吹雪たちは提督室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あいつらも相応の覚悟を持って俺に進言したんだ、吹雪たちを失いたくない…なんて独りよがりを言ってる場合じゃねぇよな、俺も覚悟を決めるときが来たって事だ!」

 

 

海原は両手で頬をパチン!と叩くと、大鯨艦娘化計画の具体案を再び練っていく。

 

 

 

 

 

 

「見てごらん●●、夕日が綺麗だよ」

 

 

そう言って彼は地平線に身を沈めようとしている太陽を指差す、別に私から言わせれば夕日など毎日見ているのだから別段珍しくもない。

 

 

「ははっ、確かに●●の言うとおりかもしれないね、でもこのご時世にこうして落ち着いて夕日を見れるなんてそうあることじゃない、この時間は貴重だよ」

 

 

確かに彼の言うとおり、こうして浜辺に座って呑気に夕日を眺めるなど滅多に出来ないことだ、特に()()()()()

 

 

「いつか、こうして毎日のんびり夕日を眺める生活が送れるといいね」

 

 

ぼんやりと海を見ながら言う彼に対して、そうですね、と私は返事をした。




最後の部分はアニメで言うCパート(エンディング後のおまけ)のようなものだと思ってください、いずれ本編と繋がる予定です。


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第73話「大鯨の場合8」

対空ステータスが高いと開幕空撃で敵空母の艦載機をよりたくさん落とせるみたいですけど、なら極端な話、機銃や電探で対空上げまくれば空母や艦戦無しでも制空権確保出来るって事になるんですかね…?


翌日、台場組と舞浜組が合同で訓練を行うと言うことで、吹雪たちが舞浜組を引きずって訓練所に向かっていった。

 

 

「…それじゃ、いよいよ運命の時ってやつだな」

 

 

そう言って海原は電話の受話器を取ると、造船所の電話番号をダイヤルする。

 

 

『はい、造船所総合受付です』

 

 

呼び出し音3回で相手は出た、受話器の向こうから聞き慣れた女性の声が聞こえる、造船所に足を運んでいるときに何度も顔を合わせた受付嬢だ。

 

 

「台場鎮守府の海原といいます」

 

 

『あら海原さん、お久しぶりです』

 

 

「お久しぶりです、榊原所長とお話ししたいんですが、取り次ぎ願えますか?」

 

 

『はい、少々お待ちください』

 

 

受付嬢がそう言うと、どこかで聞いたようなクラシックをアレンジした保留音が聞こえてくる。

 

 

(…やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた)

 

 

榊原が出るまでの間、海原の心臓は早鐘のように鳴っていた、何度も電話で話した相手であるが、今回は内容が内容なだけあって余計に緊張する。

 

 

『はいはい榊原』

 

 

すると20秒ほどで榊原の声が聞こえてくる。

 

 

「お久しぶりです榊原所長、台場の海原です」

 

 

『おぉ、海原くん、あれから変わりないか?』

 

 

「はい、おかげさまで」

 

 

『そうかそうか、それで今日はどんな要件だ?』

 

 

「いえ、用というか、艦娘について少し聞きたい事が…」

 

『君が艦娘について知りたいとはずいぶん珍しいね、どんな艦娘だ?』

 

 

「以前横須賀鎮守府に所属していた潜水母艦、大鯨です」

 

 

言った、ついに言った、言ったった、もう後戻りは出来ないぞ俺、さあ榊原所長、どう答える!?

 

 

『…海原くん、大鯨の情報をどこで知ったんだ?これは造船所の内部データでしか閲覧できない秘匿情報(マスクデータ)なんだよ?』

 

 

「えっ?」

 

予想外の返答が返ってきて、海原は素っ頓狂な声をあげてしまう、秘匿情報(マスクデータ)?思い切り轟沈リストから閲覧出来るのだが…

 

 

「いや、俺は普通に轟沈リストから大鯨の情報を見つけましたよ?」

 

 

『何!?そんなバカな…!』

 

 

榊原がそう言うと、受話器の向こうからカチャカチャという音が聞こえてきた、おそらく電子書庫(データベース)を見ているのだろう。

 

 

『…本当だ、秘匿情報(マスクデータ)に登録しておくよう情報班に指示を出したのに…』

 

 

秘匿情報(マスクデータ)の管理ガバガバじゃないですか…」

 

 

さすがの海原も呆れ気味に言う。

 

 

『ははは…返す言葉も無い』

 

 

榊原は乾いた笑いを浮かべる。

 

 

(…ん?)

 

 

ここで海原はあることに気づく、大鯨の情報が秘匿情報(マスクデータ)に登録されているという事は…

 

 

 

「何か大鯨の情報で表沙汰にしたくない事でもあったんですか?建造失敗艦とも関係が?」

 

 

『残念だが、たとえ海原くんでも大鯨の情報は教えられない、こちらの事情があるんだ、察してくれ』

 

 

榊原はそう言って話を終わらせようとするが、海原がはいそうですかと納得するわけがない。

 

 

(…しょうがねぇ、出来れば使いたくなかったけど…)

 

 

 

ここで海原は最後のカードを切る。

 

 

「その大鯨が深海棲艦化していて、なおかつ艦娘に戻せるチャンスがあってもですか?」

 

 

海原がそう言うと、電話口の榊原がかすかに動揺したような声を出す、これで榊原は餌をちらつかされてる魚だ、あとはこちらの条件と合わせて榊原に交渉を持ちかければいい。

 

 

『それは、いったいどういうことだ?』

 

 

「昨日の出撃中にうちの艦娘たちが深海棲艦化した大鯨と会敵しました、電子書庫(データベース)で調べたところ、元横須賀鎮守府所属の大鯨だということが判明したんです、それで榊原所長にお話を伺おうと…」

 

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ、なぜ艦娘たちがその会敵した深海棲艦が大鯨だと認識出来たんだ?そもそも艦娘が深海棲艦になるなんて事例、今まで報告されたことがない』

 

 

榊原が海原の言葉を遮って言う、そう言えば響にも同じようなことを言われたなぁ…と呑気にそんなことを考える。

 

 

『…海原くん、君は何を知ってるんだ?説明してくれ』

 

 

「それなら一度会って話しましょう、大鯨の情報と引き換えに話しますよ」

 

 

『それは…』

 

 

「表沙汰に出来ない秘密を持っているのはお互い様みたいですし、ここは見たこと、聞いたことをお互い他言しない…というルールでひとつどうでしょう?」

 

 

 

『取り引き、ということか?』

 

 

「そう受け取ってもらって構いません」

 

 

榊原は少し悩むような声を出すと、意を決したように口を開く。

 

 

『分かった、お互い他言無用で話し合おう、午後から台場に向かうよ』

 

 

「ありがとうございます、お待ちしています」

 

 

海原はそう言って電話を切る。

 

 

「……ふうううぅぅ…とりあえず第1関門は突破かな」

 

 

緊張の糸が切れたのか、海原は大きく息を吐いて脱力する。




東京急行のボスに出てきた南方棲鬼の艦種がいまいち分からない今日のこの頃。

空撃と砲撃を行うので個人的には航空巡洋艦だと思っています、16inch砲じゃないので航空戦艦では無いはず。


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第74話「大鯨の場合9」

西方海域第4ステージ「アンズ環礁秘匿泊地攻撃」のボスとして登場する港湾水鬼が強すぎて泣けてきます、鬼って姫より弱い部類なんだけどなぁ…

現在建造で香取を2体ゲットしているんですが、鹿島がくる気配がありません、練習巡洋艦ってレシピあるのだろうか…


海原は榊原が来るまでの間に来客の準備を整えていた、その途中で吹雪たちが帰ってきたのだが…

 

 

「…SASUKEでもやってきたのか?」

 

 

「それで済むならまだ天国だよ…」

 

 

涼しい顔をしてお茶を飲む台場組に対し、舞浜組はぐったりした様子でソファに倒れ込んでいた、気力、体力ともに全て使い切っており、死屍累々(ししるいるい)とした光景が広がっている。

 

 

「サバイバル出撃とかあんなの無理に決まってるじゃない!下手すりゃ死ぬわ!」

 

 

「大丈夫よ、防死鎖(デスチェーン)付けてるんだから沈んでも助かるし」

 

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

 

朝潮が相当不満な様子で吹雪に詰め寄る、サバイバル出撃とは台場組がやっている訓練の一つだ、大破状態で出撃して戦闘を行い、“あ、やべ、もう沈むわ”的な生と死の境目を実体験で感じるというかなり綱渡りな訓練である。

 

 

ちなみに防死鎖(デスチェーン)というのは深海棲器で作られた鎖の事で、大破していない艦娘が大破した艦娘に繋げて轟沈を防ぐために使う、なので基本的にサバイバル出撃は大破艦娘と非大破艦娘のペアで行われる。

 

 

「それで、見えた?生死の瀬戸際は」

 

 

「見えてたまるか!」

 

 

朝潮はゼーゼーと肩で息をしながら吹雪につっこみを入れる、こんだけ喋れりゃ十分元気だな…と朝潮の剣幕をスルーしてのんきに考える。

 

 

 

 

 

それから一時間後、榊原が台場鎮守府へとやってきた、傍らには1体の艦娘を従えている。

 

 

「秘書艦ですか?」

 

 

「あぁ、最近忙しくなってきたからね、周りからも秘書艦を就けろって言われていたし」

 

 

榊原はそう言うと、秘書艦に挨拶をするように促す。

 

「はじめまして、陽炎型駆逐艦20番艦の『潮風(しおかぜ)』です」

 

 

そう言って潮風はお辞儀をする、群青色の髪にスカイブルーの瞳を持ち、白いセーラー服にホットパンツとかなり奇抜な格好をしている。

 

 

「おう、台場鎮守府司令官の海原だ」

 

 

 

海原も気さくな調子で挨拶を返すと、吹雪に榊原と潮風を提督室に案内させる。

 

 

「榊原所長、今更言うのもナンですが、今朝は挑発するような電話をしてしまいすみませんでした」

 

 

歩きながら海原は榊原に謝罪する、いくら交渉の席に彼を着かせようとしていたとはいえ、あれはやり過ぎだったか…?と海原の中でそんな思いがあった。

 

 

「別に海原くんが気にする事じゃないよ、それに君が言ったとおりお互い様だからね」

 

 

榊原は笑いながら言う。

 

 

海原たちは提督室に着くと、榊原と潮風に麦茶に振る舞う。

 

 

「さてと、まずはどちらのどこから話し始めるべきか…」

 

 

麦茶を一口飲んだ榊原が先に口を開く、これからお互いの秘密をカミングアウトするのだ、慎重を期さねばならない。

 

 

「なら俺から話します、その方が本題に入っていきやすいでしょう」

 

 

「助かるよ」

 

 

海原が話したのは台場鎮守府の大まかな現状だ、吹雪と最初に出会ってから今に至るまで、多少かいつまんだ部分もあったがほぼ全ての事を話した。

 

 

「…なるほど、つまり轟沈した艦娘が深海棲艦になり、再び艦娘に戻る…と、そしてその艦娘は深海棲艦との混血艦(ハーフ)になっている」

 

 

「そうなりますね、台場鎮守府の艦娘は全員深海棲艦でしたから」

 

 

「ふむ、それは中々興味深い話だね、艦娘が深海棲艦になるという事だけでも驚きなのに、さらに混血艦(ハーフ)として再び艦娘に戻るなんて…」

 

 

榊原は心底驚いたように言う、艦娘の権威である彼にも艦娘化は初耳だという。

 

 

混血艦(ハーフ)と言っていたけど、台場の艦娘たちは身体の調子は大丈夫なのか?」

 

 

「それに関しては“現状”問題ありません、深海痕が残るなどの後遺症のようなモノはありますけど、今のところは…」

 

 

「そうか、なら良いんだ、でも少し身体の様子がおかしくなったらいつでも言ってほしい、極秘で身体検査を行えるように取り計らうよ」

 

 

「なら、早速そのお言葉に甘えてもよろしいでしょうか…?」

 

 

海原と榊原の会話に入ってきたのは吹雪だった。

 

 

「身体検査を受けたい…ということかな?」

 

「はい、正直に言って今私たちの身体はどうなっているのかが分かりません、混血艦(ハーフ)になって身体のどこがどう変化しているのか、せめて今の状態が安全なのか危険なのか、それが分かれば今後の深海棲艦艦娘化や私たち自身の秘密を知るのに役立つと思うんです」

 

 

 

それを聞いた榊原は他の艦娘を見たが、みんな吹雪と同意見のようだった、そして榊原は次に海原を見る。

 

 

 

「所長が身体検査をしてくれるのであれば俺からもお願いしたいです、吹雪の言うとおり、俺も混血艦(ハーフ)になった彼女たちを知らなさすぎる」

 

 

「…分かった、身体検査は俺が責任を持ってやらせてもらうよ、詳しい日時が決まり次第造船所に招待する」

 

 

「助かります」

 

 

海原は榊原に礼をする。

 

 

「となると、海原くんが聞きたい大鯨の事と言うのは…」

 

「はい、台場艦隊が深海棲艦化した大鯨と会敵し、艦娘に戻すための方法を模索していたので、今回榊原所長に…」

 

 

「なるほど、そう言うことなら俺も全ての事を打ち明けよう、海原くんも危険を承知で打ち明けてくれたんだ、俺もそれに倣わないとな」

 

 

榊原はそう言うと、一呼吸の間を置いて話し始めた。

 

 

「まず結論から言えば、大鯨は電子書庫(データベース)の記述通り建造失敗艦だった、足腰と左腕の力が弱かったんだ、弱いと言っても歩けないほどでもなかったし、左腕もよほど重くない限りはモノを持つことも出来る、要は日常生活を送れる程度の体力はあったんだ」

 

 

「でも、艦娘として戦場に立てるだけの力は無かった」

 

海原がその続きを引き継ぐと、榊原は静かに頷いた。

 

 

「普通に暮らせたとしても戦えなければ意味がない、その結果大鯨は解体処分する事になったんだけど、横須賀のやつが大鯨を雑用係として引き取りたいって言ってきたみたいなんだ、解体するのはかわいそうだって」

 

 

「横須賀が?んなもん嘘に決まってますよ、せいぜいおもちゃにするのがオチです」

 

 

「俺も同意見だ、それに横須賀の暴挙を知っているうちの職員なら誰も首を縦に振らないだろう、()()()()()()な」

 

 

「…どういう事ですか?」

 

 

榊原の意図が分からず海原は首を傾げる。

 

 

「うちの職員事情を知っているあいつは自分を知らない新入りの女の子に話を持ちかけたんだ、不本意に解体されてしまう艦娘を救いたい…ってホラを吹いてね」

 

 

「そりゃあまた、横須賀も頭を使いましたね、利用された女の子が可哀想だ」

 

 

「轟沈の知らせを聞いたときはとてもショックを受けていたよ、しばらく自分を責め続けていたあの姿は今でも忘れられない」

 

 

 

とても悲しそうに語る榊原の話を聞いて、海原は横須賀に対しての怒りをふつふつと沸き上がらせる、ゲスな人間だと思っていたが、ここまで来ると逆に清々しさすら感じる。

 

「ん?ということは、所長は大鯨の引き渡しに関わっていなかったという事ですか?」

 

 

「あぁ、その女の子の報告で初めて知ったよ、そしてその後にすぐ轟沈してしまったから、横須賀でどんな扱いを受けていたかは俺にも分からないんだ」

 

 

「…そうだったんですね」

 

 

一通りの話を聞いた海原は胸の前で腕を組む、大鯨が横須賀で非人道的な扱いを受けていたのは確定でいいだろう、ならば“面影”と会話が出来れば、助けられる望みはある。

 

 

「時に海原くん、ひとつ確認があるんだが…」

 

 

「何ですか?」

 

 

「君の話によると、艦娘化はその艦娘の未練や思い残し、何か精神的なわだかまりを落とす事で起きる現象みたいだね?」

 

 

「少なくともその可能性は高いです、台場艦隊も心の憑き物が落ちたときに艦娘化しましたから」

 

 

「ふむ…そうか…」

 

 

そう言うと榊原はPitの電子書庫(データベース)を起動させ、ディスプレイをスワイプで操作していく。

 

 

「となると、大鯨の心のわだかまりを落とすのは、少し苦労するかもしれない」

 

 

そう言って榊原は電子書庫(データベース)の大鯨のページを開き、そのもうひとつの機密情報(マスクデータ)を表示させる。

 

 

○轟沈理由:自沈(じさつ)




アーケードのアップデートで陽炎型の陽炎、不知火、黒潮が追加されるみたいですね、不知火はお気に入りの艦娘の1体なので是非ゲットしたいです。


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SSSその2

ショートショートのさらにショート(またの名を行き場のないネタの掃き溜め場)第二弾。

個人的に一番艦種詐欺してる深海棲艦は装甲空母姫だと思います、最初見たときは開幕空撃で艦載機を飛ばしてきたので“空母か?”と思ったら砲撃戦では戦艦棲艦のマストアイテムである16inch砲をぶっ放してきたので“航空戦艦?”と思う、しかしリザルトの表記は「装甲空母」。

空母の装備じゃねー!とツッコミを入れてました。

艦これアーケードにもイベントマップ的なモノが出来たらこんなトンデモスペックな装甲空母姫と戦うのだろうか…


○さあどっち?

・登場艦娘:叢雲、初雪

 

「じゃ、よーく見ててね」

 

 

そう言って叢雲は手に乗せた100円玉を指で弾き、上に跳ね上げる。

 

 

100円玉はくるくると回りながら重力に従って落ちていき、再び叢雲の手に落ちていく。

 

 

「はっ!」

 

100円玉が叢雲の手に落ちる瞬間、パン!と両手で100円玉を挟んで隠す。

 

 

「さぁ、どっち!?」

 

 

「うーん…」

 

 

 

手の中にある100円玉は表か裏か、それを当ててもらおうとしたのだが…

 

 

「入ってる!」

 

 

初雪は叢雲の手を指差して自信満々に答えた。

 

(ごめん初雪、私そんなすごいマジック出来ないの…)

 

 

 

 

○足すといくつ?

・登場艦娘:摩耶、鳥海

 

 

鳥海と摩耶は休日を利用して街のゲームセンターに来ていた、やっているのは今はやりのクイズゲームである。

 

 

「さあ!次の問題いくぜ!」

 

 

これまで全問正解の摩耶が意気揚々と次の問題文を見る。

 

 

○第4問(入力問題)

・見ると縁起が良いとされている「初夢」、出てくる数字を全て足すといくつ?

 

 

 

「初夢って、一富士、二鷹、三茄子ってやつだよな?」

 

 

「そうよ、だから…」

 

 

「てことは、1+2+3で答えは『6』だな!」

 

 

「あ、ちょ…!」

 

 

違うよ!と鳥海は止めようとするが、すでに摩耶はタッチパネルに表示されているテンキーで答えを打ち込んでしまっていた。

 

 

「あれっ!?」

 

 

しかし、ゲーム画面には無慈悲な不正解の文字が表示される。

 

 

「バカ!答えは23でしょ!」

 

 

「えぇ!?何でだ!?」

 

 

「初夢は一富士、二鷹、三茄子の後に、四扇、五煙草、六座頭って続くんだから!」

 

 

「あれって6まであったの!?」

 

 

「常識じゃない!」

 

 

マジか~、と摩耶はうなだれるが、ここであることに気づく。

 

 

「ん?ちょっと待て、そうなると1+2+3+4+5+6って計算だよな?答え21じゃね?」

 

 

「えっ…?」

 

 

摩耶に指摘された鳥海は暗算をやり直す。

 

 

「…あ」

 

 

「鳥海…」

 

 

自分に向けられる摩耶の白い目が痛い、そう痛感する鳥海だった。

 

 

 

○本当の鬼

・登場艦娘:大井、三日月、暁、南方棲鬼

 

 

「それじゃあ、今年も節分の豆まきをやっていきましょう!駆逐艦のみんな、準備はOK?」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

もはや鎮守府の恒例行事となっている節分の豆まき、今年も駆逐艦が豆を持ってスタンバイしている。

 

 

「今年も天龍さんが鬼をやるんですか?」

 

 

「そう思ったんだけど、やっぱり鬼に対して豆をまく節分だから、今年は趣向を変えて本物の鬼に来てもらいました」

 

 

「えっ!?」

 

「本物!?」

 

 

三日月と暁が目を剥く。

 

 

「それでは鬼さん、入ってきてください!」

 

 

大井の声と共に入場してきたのは…

 

 

 

「ドーモ、鬼デス」

 

 

特別に仕込んだ鬼柄のビキニを着た南方棲鬼だった。

 

 

「って、なんであんたが入ってくるのよ」

 

 

「本物の鬼って聞いてビビりましたけど、いつぞやの露出痴女じゃないですか、寒さで頭イカレましたか?」

 

 

「あなたたち言いたい放題ね!泣くわよ!?」

 

 

暁と三日月の一ミリも遠慮のないコメントに既に涙目の南方棲鬼。

 

 

「どうせだったら離島棲鬼の方が良かったわよ、あの艶めかしい格好は犯しがいがありそうだし」

 

 

「そうですね、あの黒ストをビリビリに破いて露わになったおクチに豆をねじ込めば良い声で鳴くと思いますよ」

 

 

「ちょ、女の子が言っちゃだめな台詞吐きまくってない!?あとヴィクトリアを何だと思ってんのよ!」

 

「しょうがないわね、代わりにこの露出狂を節分の生け贄にしましょ」

 

 

「そうですね、あんな格好してるくらいですから感度も良さそうですし」

 

 

「話し聞きなさいよ!てか生け贄って何!?私何されるの!?」

 

 

ダラダラと嫌な汗を流しながら南方棲鬼は顔をひきつらせる。

 

 

「大丈夫よ、女としての尊厳を失うだけだから」

 

 

「すぐに快楽の絶頂に導いて差し上げますね」

 

 

「誰か助けてええええええぇぇ!!!!!」

 

 

1時間後。

 

 

「…えーと、大丈夫?」

 

 

「…大丈夫に見える?」

 

 

そこには、艶っぽい喘ぎ声を発しながら身体を痙攣させている南方棲鬼が裸で転がっていた。

 

 

「あの子たちの方がよっぽど“鬼”よ…」

 

 

今日一日でいろんなものを失った南方棲鬼がぼそりと呟いた。




久しぶりにきれいな三日月と暁を書こうと思ったらいつもの台場のノリになってしまった、どうしてこうなった。

アーケードで早く4ー3と4ー4がやりたいです、解放はよ。


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第75話「大鯨の場合10」

アーケードで4-1「ジャム島攻略作戦」に挑戦したところ、敵の潜水カ級にE敗北しました、こちらは叢雲が大破でカ級には一ミリもダメージ無し、そりゃE敗北にもなるね(クリアはしましたけど)、ちなみに追撃戦で島風を初ゲット(しかも中破カード)。




「自沈か、これは厳しいかもしれないな」

 

 

 

「どういうことですか?司令官」

 

 

海原の発言の意味が分からず吹雪が問う。

 

 

「自沈ということは自分から轟沈を選んだって事になる、つまり“もうこれ以上生きていたくない、死んでしまいたい”という気持ちから来る行動だ、つまり…」

 

 

 

海原の言わんとしていることが分かり、吹雪がハッとする。

 

 

 

「大鯨は復活を…艦娘化を望んでいない…?」

 

 

「その可能性はあるだろうな、自分から轟沈してるくらいだから未練やわだかまりなんかも無いだろうし、最悪艦娘化を拒否されるかもしれない」

 

 

「………」

 

 

提督室内に重苦しい空気が流れる、吹雪たちはこれまで深海棲艦化した艦娘たちを救ってきたが、その誰もが再び艦娘としての“生”を望んでいた、でも大鯨がそれを望んでいないとしたら…?

 

 

「…それでも」

 

 

何ともいえない空気が漂う中、吹雪が口を開く。

 

 

「それでも私は大鯨を助けたいです、司令官の言うとおり艦娘化を望んでいないかもしれないけど、それでも私は大鯨と話したいです、それで彼女には“生”の道を選んでほしい」

 

 

吹雪の確かな意志を持った言葉に、他の台場組が頷く。

 

 

「そうですね、吹雪さんの言うとおりです、大鯨さんにはもう一度やり直す権利があります」

 

 

「今まで辛い思いでしかなかったかもしれないけど、今度は楽しい思い出を作れるように、もう沈みたくないって思わせればいいのよ!」

 

 

口々に言う台場組を見て、榊原は自然と笑顔になっていた。

 

 

「君はいい部下に巡り会えたようだね」

 

 

「はい、俺もそう思います」

 

 

そう答える海原もいつの間にか笑顔を浮かべていた。

 

 

「…海原くん、身内の恥を忍んで頼みたい、大鯨を救うのに、どうか力を貸してほしい」

 

 

榊原は深々と頭を下げ、海原にお願いする。

 

 

「はい、もちろんです、力を合わせて大鯨を救いましょう!」

 

 

海原はもちろんと言わんばかりに快諾する。

 

 

 

 

榊原が帰った後、早速台場鎮守府では大鯨艦娘化に向けた緊急会議が行われていた、ちなみに舞浜組は午前中の特訓の疲労が残っていたようなので一足先に休ませた。

 

 

「さて、大鯨を艦娘に戻すための作戦を考える訳だが、どうしたもんか」

 

 

「出撃先で会話をする、というのがベターですが…」

 

 

「それだと他の敵艦やよその鎮守府の艦娘に邪魔される可能性もありますよね」

 

 

(ふむ…吹雪と三日月の言うことはどちらも一理ある、なら方法は…)

 

 

「よし、ならこうしよう、出撃先で大鯨との会話が困難だと判断したら、鎮守府に連れてきていいことにする」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「司令官正気ですか!?」

 

 

「深海棲艦をオモチカエリだなんて…!」

 

 

海原の発言に吹雪たちが目を剥く。

 

 

「でも実際それが一番手っ取り早いだろ?」

 

 

「それはそうですけど…」

 

 

海原の提案はもっともだが、吹雪たち…特に三日月は浮かない顔をしている。

 

 

「司令官…大丈夫なのですか?その…」

 

 

「室蘭時代の襲撃のことか?」

 

 

三日月は黙って頷く、以前海原が室蘭鎮守府にいた頃、深海棲艦の主力艦隊に鎮守府を襲撃されたことがある、そのとき海原は陸に上がってきた深海棲艦に砲撃されそうになり、決して小さくないトラウマを植え付けられた。

 

 

「確かにあれは怖かったが、いつまでも昔のことでビビっていられない、それにあの時は本物の深海棲艦だったけど今回は艦娘だ、それを忘れなければ怖いモンなんて無いさ」

 

 

それを聞くと吹雪たちはフッ…と不敵に笑う、そこからは“しょうがないですね”といった感情が見て取れた。

 

 

「分かりました、司令官の案に従います」

 

 

「司令官の思いに答えられるよう、Deep Sea Fleetは全力でがんばってみせます!」

 

 

吹雪たちは全員で海原に敬礼する。

 

 

(…本当に俺はいい部下を、家族を持ったもんだな)

 

 

それを見て、海原はいつの間にか笑っていた。




そう言えばこの小説はシリアス成分がすくないですね。


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第76話「大鯨の場合11」

上半身布団に巻かれた女の子が自転車の前カゴに押し込まれるって感じの内容のアニメ、2~3年前くらいに放送してたけど、あれのタイトルって何だっけ…?

…これの下書き打ってる時にずっと↑の事を考えてました、結局思い出せませんでした。


「すまない、出来れば大鯨救助まで手を貸したかったんだが…」

 

 

「いいっていいって、そんなの気にすんな」

 

 

次の日、舞浜組が鎮守府へ帰る日がやってきた、響たちは外泊許可の延長を考えていたようだが、さすがにこれ以上休むと他の艦娘のスケジュールにも影響してくるのでそれは叶わなかった。

 

 

「大鯨の件は進展し次第連絡入れるから」

 

 

「了解、頼んだよ」

 

名残惜しさを見せつつ、舞浜組は自分たちの鎮守府へと帰って行く。

 

 

 

「さて…と、大鯨オモチカエリ計画を実行させたいが、なにぶん敵艦の反応が無いんだよな…」

 

「こうなったらこちらから海に出向きます?」

 

 

「そうですね、暇つぶしに戦艦棲艦でも狩ってればそのうち現れるかもしれませんし」

 

 

「それはいいアイデアね、ひと狩り()っていくわよ!」

 

 

「(…てか、暇つぶしに戦艦棲艦狩れる私たちって一体…)」

 

 

台場鎮守府の数少ない常識人のハチがこっそりつぶやく。

 

 

 

 

そんな経緯もありDeep Sea Fleetは台場近海へ出撃する、出撃して数十分で敵艦に出くわした。

 

 

「敵は雷巡棲艦が5体だね」

 

 

吹雪が双眼鏡で敵艦を遠巻きに見る、まだ敵艦はこちらに気づいていないようだ。

 

 

 

「なら、あれが使えるわね」

 

 

そう言ってマックスはポケットからあるモノを取り出す。

 

 

「出よ、クーゲルシュライバー!」

 

 

「…って、ただのボールペンじゃん」

 

 

マックスが取り出したのはクーゲルシュライバー…もといボールペンだ、ちなみにクーゲルシュライバーとはドイツ語でボールペンの事だ。

 

 

「それ、マックスさんが普段使ってるボールペンですよね」

 

 

「えぇ、インクが無くなったから芯を換えようと思ったんだけど、このメーカーの作ってるボールペンが生産終了しちゃって…」

 

 

「あぁ、インクが換えられないからどうにもならなくなったのね」

 

 

「そうなのよ、だから武器として使えるようにちょっと改造を…ね」

 

 

そう言ってマックスがボールペンをノックすると…

 

 

「わっ!スパイクが飛び出した!」

 

 

インクの芯の代わりに鋭い針が飛び出した。

 

 

「うまく敵に肉薄すれば目潰しくらいには使えると思って」

 

 

「えっ!目潰し!?やりたいやりたい!」

 

 

「私もやりたいです!」

 

 

「お前らは黙ってろ」

 

 

目潰しと聞いて急にはしゃぎ出す暁と三日月に対してハチが冷静にツッコミを入れる。

 

 

そんなやりとりをしているうちに敵艦がこちらに気づいたので戦闘開始、Deep Sea Fleet全員が敵に肉薄する。

 

 

「てやあぁ!」

 

 

マックスが雷巡棲艦の砲弾を切り落としながら敵に近づき、雷巡棲艦に飛びかかる。

 

 

「ーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

 

 

刹那、マックスが素早く取り出したボールペンで雷巡棲艦の目を突き刺す、すると雷巡棲艦が声にならない声で悲痛な声を上げる。

 

 

「…効いてるみたいね」

 

 

目を突かれた雷巡棲艦はフラフラと左右に動く、視界が奪われてまともに動けないようだ。

 

 

「なら…!」

 

 

マックスは残りの雷巡棲艦の目を潰して移動不能にする、少なくとも雷巡棲艦は目潰しで移動を封じられることが証明された。

 

 

「今です!」

 

 

マックスが他のメンバーに攻撃の合図を出す。

 

 

「ヒャッハー!」

 

 

「死ねええええぇぇ!!!!」

 

 

残りのメンバー、特に暁と三日月が張り切って敵艦の掃討を行い、3分もしないうちに戦闘は終了した。

 

 

「意外とやるね、クーゲルシュライバー」

 

 

「戦艦棲艦とかに使ったら割と効きそうね」

 

 

「はいはいはーい!次は暁が使いたい!」

 

 

「ズルいですよ暁さん!ここは三日月に!」

 

 

「はいはい、順番ね」

 

 

我先にと暁と三日月がクーゲルシュライバーを借りたがっており、マックスがそれをどうどうとなだめている。

 

 

「…吹雪、この光景にそこはかとない異常性を感じる私はおかしいのかなぁ?」

 

 

「大丈夫だよハチ、私もハチと同意見だから」

 

 

ちなみにその後の会敵で戦艦棲艦4体、重巡棲艦3体の敵艦隊と出くわしたのだが、狂喜乱舞しながら敵の目にボールペンをねじ込んでいく暁と三日月の活躍もあり、割と簡単に勝つことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

それから2時間後、戦艦棲艦10体、重巡棲艦20体、雷巡棲艦19体、駆逐棲艦45体を狩りまくったDeep Sea Fleetの前に、ようやく大鯨が姿を現した。

 

 

「やれやれ、ようやく会えましたね」

 

 

「早速会話を試みましょう」

 

 

吹雪と三日月が大鯨に向かって話しかけるが、何も返事を返さない。

 

 

「とりあえず、鎮守府まで連れて帰ろうか」

 

 

「そうね、オモチカエリしましょ」

 

 

試しに吹雪が大鯨の手を引いてみたところ、驚くほど簡単に牽引出来た。

 

 

「ずいぶん素直な子だね」

 

 

「…あるいは、これから自分がどうなるかなんてまるで興味を持っていないか」

 

 

ハチの言葉に全員が息をのむ、大鯨が自我をまだ持っていながらこうしてされるがままなのであれば、彼女の心は完全に壊れてしまっている。

 

 

「…絶対に助けるよ、みんな」

 

 

真剣な吹雪の言葉に、全員が大きく頷いた。




ちなみにクーゲルシュライバーは以前マックスの深海棲器のアイデアとして貰っていたものです、使い方がこれで合っているかは知りません(おい)、多分また登場します。



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第77話「大鯨の場合12」

他のユーザーさんの艦これ系の小説を見ると、レギュラーメンバーの艦娘をタグにしている作品が結構あるんですけど、これってやった方がいいんでしょうか…?

検索の手助けとかになるならやってみようと思うんですけど…


大鯨を無事に台場鎮守府まで連れ帰る事に成功したDeep Sea Fleet、陸に上がった後も吹雪に連れられるままに歩いていき、あっけないほどスムーズに提督室までたどり着く。

 

「こいつが大鯨か、深海棲艦化した艦娘を見るのは初めてだが、本当に深海棲艦だな」

 

 

海原は大鯨をまじまじと見ながら言う、多少は艦娘っぽい見てくれをしているのかと思っていたが、思った以上に深海棲艦が前面に出ていた。

 

 

「仕方ないですよ、私たちみたいな混血艦でもない限りは“面影”を見れません」

 

 

吹雪は大鯨の身体をペタペタと触りながら言う、海原に近くで見られても、吹雪に身体を触られても大鯨は何もリアクションをしなかった。

 

 

「“面影”も悲しそうな顔で俯いてるだけですし、本当に会話出来るのかが不安になってきましたよ…」

 

 

吹雪がげんなりとしながらソファにもたれ掛かる、連れてくるのには成功したが、それからどうなるかは台場の頑張り次第だ。

 

 

「とりあえずはしばらくここで生活させて、彼女の心を開かせる事を優先して行動した方がいいかもしれないですね」

 

 

「だな、数日はその線で行こう」

 

 

話し合いの結果、深海棲艦の状態の大鯨と共同生活を送り、大鯨が心を開いてくれるように試行錯誤を重ねる、という方針になった。

 

 

 

 

「さて、とりあえず先んじては飯だ」

 

 

お腹が減ってはとれるコミュニケーションもとれない、という事で吹雪お手製の絶品カレーを振る舞う。

 

 

「…今更なんだけどさ、深海棲艦って腹減るのか?普通に食ったり出来るのか?」

 

 

「さぁ…?深海棲艦だったときの記憶は全員持っていないので、そこは何とも…」

 

 

「だよな~、その辺考えずにカレー出しちまった…」

 

 

「でも、普通に食べてるみたいだよ?」

 

 

ハチが指さす先には、普通にスプーンを持ってカレーを口に運ぶ大鯨の姿があった。

 

 

「ふむふむ、深海棲艦も普通に食事が出来る…と」

 

 

「そんなメモなんか取ってどうするのよ?」

 

 

手帳にサラサラとペンを走らせる海原を見て暁が聞く。

 

 

「知識として蓄えておくんだよ、俺たちは深海棲艦の事を何も知らないからな」

 

 

「少なくともカレーを食べられるって知識が今後戦いの役に立つとはあまり思えないけどね」

 

 

「夢のねぇヤツだな…」

 

 

ズバズバと的確ながらツッコミをしていく暁に海原が苦笑しながら言った。

 

 

 

 

大鯨の食事が済んでから数時間が経ったが、未だに大鯨は言葉を発しなかった、一応いつ喋り出してもいいように吹雪たちが交代で大鯨についているが、それが役に立っている様子は今のところない。

 

「それでね、私がちょっと触っただけで暁が変な声を上げて飛び上がってさ~、あれは面白かったよ」

 

 

吹雪は自分の面白かった思い出話を大鯨に話す、自分が彼女に付いているときはなるべく大鯨に話しかけるようにしていた、こちらからコミュニケーションを図る事で大鯨の心を開けるのではと考えたからだ。

 

 

他の台場のメンバーも同じく話しかけているのだが、トーク力の差が顕著に現れており、話し下手な艦娘はロクに話しを続けることが出来なかった。

 

 

「そう言えばこの前ファミレスに行ったときなんだけど、三日月がドリンクバーでコーラとココアとコーンスープを混ぜたヤツを暁に飲ませてたんだよ、飲んだ瞬間漫画みたいに吹き出して、あれは傑作だったな~、暁はキレて三日月殺しにかかってたし」

 

 

ケラケラと笑いながら吹雪は語って聞かせるが、大鯨はやはり何も答えない。

 

 

「…絶対に、あなたを助けてみせるから」

 

 

深い海のように冷たい大鯨の手を握り、吹雪はそっと呟いた。

 

 

 

 

大鯨を台場鎮守府に連れてきて2日が経った、相変わらず大鯨は何をしても答えてくれないが、それでも吹雪たちは懸命に大鯨に話しかけ続けた。

 

 

『…あの』

 

 

そんなある時、提督室で吹雪が大鯨に付いていると、聞き覚えのない声が一瞬だけ聞こえた。

 

 

「えっ…?」

 

 

吹雪は困惑しながら部屋の中を見渡す、今この空間で自分以外に言葉を発する事が出来るのは、彼女しかいない。

 

 

「大鯨…?」

 

 

『はい…そうですが…』

 

 

吹雪は一瞬耳を疑った、これまで一切言葉を話さなかった大鯨が、初めて言葉を発した。

 

 

『…あの、聞いても良いですか?』

 

 

「うん、何?」

 

 

吹雪は必死に平静を装うが、内心はめちゃくちゃ興奮していた、大鯨が言葉を話したのはとても大きな前進だと言えよう、さらにここから会話を進めていけば彼女の心を開くことも出来るはずだ、吹雪はそう信じて大鯨の次の言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつになったら私を殺してくれるんですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え………………?」

 

 

今度こそ、吹雪は本気で耳を疑った。




そう言えば最近は文字数少なめで投稿感覚が短い…というスタイルになりつつあることに今更気づく、煩わしいから一度にドーンとアップ、とかの方がいいんでしょうか?。


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第78話「大鯨の場合13」

アニメの最終回を見終えたとき、面白かったから続きが見たいと思って原作の漫画なり小説なりを買ったりする事がよくあるんですけど、その場合って改めて一巻から読み始めた方がいいのか、最終回の続きあたりから読んでもいいのか、毎回分からなくなるんですよね、そこんとこどうなんでしょう…?。

それは置いといて大鯨過去編、三日月編での反省を生かし駆け足で進めます。


「えっ…あなた……今何て……?」

 

 

大鯨の発言の意味がまだ脳内で処理しきれなかったので、つい吹雪がリピートをプリーズしてしまう。

 

 

『私を、殺して欲しいんです…』

 

 

「な…何で……」

 

 

『もう…生きていたくないんです、私は艦娘になんて戻りたくない、このまま死んでしまいたい…』

 

 

「そんな…」

 

 

やっと声が聞けたのに、やっと話が出来たのに、その口から発せられた言葉は“死にたい”、吹雪にとってこれほどショックな事はない。

 

 

「…とにかく、みんなにも知らせないと」

 

 

吹雪はPitを取り出すと、全員にCメールを送る。

 

 

 

 

「大鯨がやっと話す気になったと思ったら、いきなり死にたいと来たか、こりゃ前途多難だな」

 

 

困ったように海原が頭を掻く、ある程度は予想していたことだが、まさか本当になるとは驚きだ。

 

 

「どうしてそんなに生の道を拒む?」

 

 

『…私は、裏切られたんです、人間にも、艦娘にも、もう疲れてしまったんです…』

 

 

(艦娘にも…?)

 

 

ここで海原は引っかかりを見つける、人間に裏切られたというのは分かる、大方横須賀の佐瀬辺(クズ)の事だろう、しかし艦娘にも裏切られたというのは、どういうことなのだろうか…?。

 

 

「なぁ大鯨、良かったら、俺にワケを聞かせてくれないか?きれい事に聞こえるかもしれないが、俺はお前の問題に真剣に向き合いたいと思ってる、その上で…お前には生きてほしい」

 

 

海原が真剣な表情で大鯨を見ると、大鯨は少し考えるような仕草をする、やがて大鯨はゆっくり頷くと、その身の内を語り出した。

 

 

 

大鯨が横須賀の雑用係として引き取られた直後、佐瀬辺は本当に雑用係として大鯨を使っていた、お茶汲みから書類整理、鎮守府内の掃除など、身体の弱っている大鯨でも出来る仕事をやらせていた。

 

 

建造されて早々に“死”を迎えるハズだった自分にとって佐瀬辺はまさに救世主のような存在だった、一生この人に付いていこう、大鯨はそう心に決めた。

 

 

しかし、着任してから数日間、大鯨は妙な違和感を感じていた、艦娘たちの態度がよそよそしいというか、何かに怯えているような感じで生活しているのだ。

 

 

(何なんだろう…?)

 

 

大鯨はただ首を傾げる事しか出来なかったが、その理由はすぐに分かった。

 

 

大鯨が新たな疑問符を浮かべたその数時間後、出撃任務を終えた艦隊が帰投して提督室に報告に来ていた。

 

 

「大破()()で撤退とは!貴様はそれでも艦娘か!」

 

 

「ごほっ!申し訳…ありま…せ…ん…」

 

 

出撃艦隊旗艦の艦娘、古鷹型重巡洋艦1番艦『古鷹(ふるたか)』は佐瀬辺からの殴る蹴るの暴行を必死に耐えながら佐瀬辺に謝罪していた、理由は随伴艦の大破による撤退だ。

 

 

古鷹以外の艦娘は目尻に涙を溜めながらその光景を黙って見ている事しか出来なかった、もし止めに入れば何をされるか分からない、それを知っているから、助けたくても助けられない。

 

 

 

「提督!もうやめてください!随伴艦大破なら仕方ないじゃないですか!」

 

 

そう、知っていれば…

 

 

「大鯨…テメェ艦娘の分際で俺に意見しようってか!?」

 

 

「えっ…きゃあっ!?」

 

 

大鯨は佐瀬辺に思い切り突き飛ばされ、壁に背中を強く打ちつける。

 

 

「そもそもお前は俺が拾ってやったからこうして生きてられるんだぞ!その恩を仇で返すつもりなのか!?あぁ!?」

 

 

「いぎぃ!!」

 

 

顔を蹴り飛ばされた大鯨は噴き出す鼻血を押さえながらショート寸前の頭をフル回転させていた、なぜ私は提督に顔を蹴られているんだろうか?なぜ鼻血でエプロンを赤く染める事態になっているのだろうか?提督は私を拾ってくれた、とても慈悲深くて優しい方のはず、それなのになぜ…?。

 

 

「なぜ…あなたがこんな事を…?」

 

 

「はぁ?ひょっとして俺に拾われたから勘違いしちまったのか?言っとくけどな、俺がお前を拾ったのは 人形(オモチャ)が欲しかっただけだ、そこんとこも認識改めやがれ」

 

 

「っ!?そん…な…!」

 

 

蹴られたダメージといきなり受けた精神的ショックで大鯨はそのまま気を失ってしまった。

 

 

その日から、大鯨にとって地獄の日々が始まった。

 

 

 

 

「畜生!造船所のやつら、俺に指図するように文句を言いやがって…!何が艦娘を大切に扱えだ!」

 

 

佐瀬辺は縛られて床に倒れた大鯨を殴ったり蹴ったりしながら愚痴をこぼす、すでに大鯨の全身には痛々しい痣が何十カ所も出来ていたが、そんな事お構いなしに佐瀬辺は蹴り続ける、当の大鯨は猿ぐつわをされているので声をあげることも出来ない。

 

 

「深海棲艦の脅威から国民(バカども)を守っているのは誰だと思ってるんだ!俺ら鎮守府の提督だろ!?ただの道具屋は黙って艦娘(どうぐ)を作ってればいいんだよ!」

 

 

そう言って佐瀬辺はそばにあったポールハンガーを掴むと、自身のストレスを全てぶつけるようにして大鯨に叩きつける。

 

 

「ーっ!!!」

 

 

大鯨はくぐもった悲鳴を上げ、釣り上げられた鯉のようにのたうち回る。

 

 

「やれやれ、もう限界か」

 

佐瀬辺は舌打ちしながら大鯨を見下ろす、口に回された猿ぐつわは赤く染まっており、鼻や目からも血液が滴り落ちている、血に濡れた目は焦点が定まっておらず、視力が残っているかどうかも定かではない。

 

 

佐瀬辺は館内放送で大和を呼び出すと、彼女の前に大鯨を蹴飛ばす。

 

 

「ドックに放り込んでおけ、直ったら縛ってここに持って来い」

 

 

「…分かりました」

 

 

大和はぼそぼそとした声で返事をすると、大鯨を丁寧に抱きかかえて提督室を後にする。

 

 

廊下を歩いている途中、すれ違った艦娘たちが大和に抱えられた大鯨を見てひそひそと話している。

 

 

「(あの子、またやられたみたいね、可哀想に…)」

 

 

「(でも、あの子がいてくれて助かったよ、おかげでこっちは多少平和になったし)」

 

 

「(このままアイツの人形(オモチャ)でいてくれないかな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

…(みんなの気持ちも分かるけど、本当に薄情な連中ね)

 

 

それを聞いた大和は胸が締め付けられるような気分になる、大鯨が佐瀬辺の人形(オモチャ)になってから一週間ほどが経ち、大きく変わったことがある、それまで日替わりで様々な艦娘が受けていた暴力がほぼ全て大鯨に向かうようになったのだ。

 

 

いい身代わり人形がやってきた、その事に罪悪感が無いわけではなかったが、地獄の日々から解放される事への喜びの方が大きく、誰も大鯨を助けようとは思わなかった。

 

 

「………」

 

 

薄情だと周りを批判している大和自身も、大鯨がやってきてホッとしていたのは事実だった、今も自分の腕の中で苦しんでいる大鯨を助けたい、でも自分が同じ目にあうんじゃないかと思うとそれが怖くて…。

 

 

「…ごめん、ごめんね大鯨、私が弱いせいで、ごめんなさい…」

 

 

大和は涙を流しながら謝罪の言葉をつぶやき、大鯨を抱える腕により一層力を込める。

 

 

「(…ありがとう)」

 

 

大鯨が朦朧とする意識の中で大和にかけた言葉は、猿ぐつわに遮られて大和に届くことはなかった。




「Re:ゼロから始める異世界生活」の原作買おうかな、でも2クール目入って結構経つし、一巻から読むのがしんどそう…


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第79話「大鯨の場合14」

駆逐棲姫を見て思うんですけど、駆逐艦って鬼はいないんですかね?Vitaやってて一度も鬼を見かけていないんですよ。

あと軽巡棲鬼は見るけど姫は見たこと無いです、こっちはどっかにいそうなんですけどねぇ…


大鯨にとって最もつらい出来事が起こったのは、彼女が横須賀に着任してから5ヶ月が経った頃だった。

 

 

 

「大鯨、今何て言った?」

 

 

大鯨の報告に耳を疑った佐瀬辺は再び説明を求める。

 

「…妊娠…しました…」

 

 

大鯨はお腹をさすりながら絞り出すような声で言う、大鯨着任から1ヶ月が経った頃から佐瀬辺の暴力は性的なモノになっていた、その結果大鯨は佐瀬辺との子供を身ごもってしまった。

 

 

ここで補足しておくと、人間の身体を素材(ベース)に作られている艦娘にも生殖機能は存在する、当時の建造計画では戦闘中に生理などが来ると面倒、提督との不純な肉体関係で身ごもると艦娘としての活動は出来なくなる、などという理由から生殖機能を無くすつもりだったのだが、持って生まれた身体機能だからなのか、身体の再形成を行っても生殖機能は生きていた。

 

 

そこで造船所は妥協案として生殖機能の活動を極限まで抑えることにした、排卵などは行われるが生理が起こる規模のモノでもないし、万が一性行為などがあっても妊娠する確率は極めて低いだろうと判断された。

 

 

しかし、目の前の大鯨はそのミリ単位の確率に当たってしまったらしい。

 

 

「…今どれくらいだ?」

 

 

「…多分、3ヶ月弱だと思います」

 

 

「…そうか」

 

 

佐瀬辺はそう言って頷くと、おもむろに立ち上がって大鯨に近づいて掴みかかる。

 

 

 

「へっ!?提督!?」

 

 

「じっとしてろ」

 

 

佐瀬辺は大鯨の身体を抱えて机の上に座らせると、穿いていたタイツを破って強引に下着を脱がす。

 

 

「きゃああぁぁ!!!!やめてください!!!!!!」

 

 

「黙ってろ、気が散る」

 

 

佐瀬辺は大鯨の顔を殴りつける、次に大鯨の両足を開かせて、それぞれの足を紐で結んで固定する、女性として最もクリティカルな部分が丸見えになる開脚の姿勢にされた。

 

 

「ーーーーーっ!?」

 

 

羞恥心で顔を真っ赤にした大鯨は口をパクパクさせているが、そこから言葉が出ることは無かった。

 

 

「失礼します提督」

 

 

その時、提督室のドアがノックされて大和が入ってくる。

 

 

「な、何してるんですか提督!?」

 

 

入って早々に衝撃的な光景を見た大和は目を剥いて驚愕する。

 

 

「こいつが妊娠しちまったみたいだからな、然るべき処置をするんだよ」

 

 

「に…!?」

 

 

そう言って佐瀬辺は戸棚から小さめの瓶を取り出す。

 

 

「…それは?」

 

 

「硫酸だ、これを大鯨の膣内(なか)に注ぎ込んだら、どうなっちまうかな?」

 

 

「っ!?」

 

 

それを聞きいた大鯨は全身から血の気が引くのを感じた、硫酸は皮膚を火傷させる程の強酸だ、それを膣内(なか)に注ぎ込んだらどうなるかなど、想像に難くない。

 

 

「や…やめてください提督!どうかそれだけは!」

 

 

「しょうがねぇよな~、孕んじまったお前が悪いんだ、自業自得ってやつだよ」

 

 

佐瀬辺は瓶の蓋を開けて大鯨に近づく。

 

 

「大和、お前は何も見なかった事にしてここから立ち去れ、他言無用だ」

 

 

「え……でも……」

 

 

「早くしろ、お前も俺に孕まされたいか?何なら今ここでヤってもいいんだぜ?」

 

 

大和は何も言えずに俯いていた、大鯨を助けなくては、心の中ではその思いで一杯なのに、それに身体が応えてくれない、足を一歩踏みだそうとする度に身体がガタガタと震え、嫌な汗がダラダラと流れ落ちる。

 

 

 

「助けて…ください…大和さん…!」

 

 

「っ!!」

 

 

突然大鯨に助けを求められ、大和は一瞬飛び上がる。

 

 

「お願い…します……助けて…!」

 

 

涙を流して身体を震わせる大鯨が大和に懇願する、でもここで事を起こせば、自分はまた地獄の日々に…

 

 

「…ごめん…なさい…」

 

大和は足の震えになんとか耐えると、回れ右をしてドアの方へ向かう。

 

 

「う、嘘…!?やだ、やだよ!大和さん行かないで!行かないでお願い!助けて!助けて!お願いだから!」

 

 

大和は大鯨の悲鳴にも似た声に耐えられなくなり、その場から逃げるようにして提督室を出て行く。

 

 

「行かないでえええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

(ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!)

 

 

大和は心の中で念仏のようにごめんなさいと唱えながら、全てから逃げるようにして廊下を走り出す、狂っているとしかいいようのないあの空間から、そして我が身可愛さに大鯨を見捨てて逃げ出した罪から逃げるように…

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

その直後、大和の鼓膜を引き裂かんばかりの大鯨の悲鳴が提督室から響き渡る。

 

 

その声から逃げたくて、その現実から逃げたくて、大和は走るスピードを上げていく。

 

 

「ゲボェ…!オボエェェェ…!」

 

 

その足でトイレに駆け込んだ大和は胃の中身を盛大にぶちまけた、胃の中が空になってもなお吐き気が治まる事は無かった。

 

 

「ごめんなさい…!私が…私のせいで…!」

 

 

その時、大和は自分の心が壊れる音を聞いた気がした。

 

 

その後、大鯨はドックに放り込まれ身体の隅々まで元通りになった、腹の中の胎児がどうなったかは言うまでもない。

 

 

 

 

それからも佐瀬辺の肉体的、性的な暴力は続いた、日に日に大鯨は心をすり減らし続け、ついに限界を迎えた。

 

 

時間は丑三つ時、横須賀鎮守府の埠頭に大鯨は立っていた、手に持っているカゴの中には工廠から持ち出した魚雷が大量に入っている。

 

 

艤装を装着した大鯨は海の上に浮かび、そのまま少し進んでいく、思えば初めて艤装を装着して海上に浮かんだが、思いのほか上手くいった。

 

 

大鯨はカゴから一本のプラスチックボトルを取り出して蓋を開けると、何のためらいもなく中身を頭から被る、大鯨が被ったのはメタノールをゲル状にしたもの…いわゆる着火材だ、主にアウトドアで炭に火をつけるための補助剤として使われており、これは特に発火性の強いものだ。

 

 

「…あとはこれを使えば…」

 

 

全身着火材まみれになった大鯨が次に取り出したのは魚雷だ、これを零距離で何本も爆発させれば直撃した艦娘はどうなるかなど想像しなくても分かる。

 

 

 

大鯨は自沈(じさつ)しにここに来ていた、もう嫌だ、何もかもがうんざりだ、ここでこのまま奴隷のような扱いを受けるのであれば、今ここで死んでしまった方が遥かに楽だ。

 

 

「大鯨ちゃん!」

 

 

魚雷を使おうとしたまさにその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「…何ですか?大和さん」

 

 

振り向くと、そこには息を切らせた大和が桟橋に立っていた、深夜の見回りをしている途中に外へ出て行く大鯨を見つけて全速力で追ってきたのだ。

 

 

 

大鯨と目を合わせた大和はビクッと身体を震わせる、その目は完全に濁りきっており、絶望以外の何物も感じられなかった。

 

 

「大鯨ちゃん、あなた何をするつもりなの!?」

 

 

「…見れば分かるでしょう?死ぬんですよ」

 

 

「ダメよ!そんなの絶対にダメ!」

 

 

大和は何としてでも大鯨の自沈(じさつ)を止めようとしたが、次に大鯨の口から出た言葉に大和は完全に言葉を失ってしまう。

 

 

「大和さんにそれを言う資格があるんですか?我が身可愛さに私を見捨てたあなたに」

 

 

「っ!」

 

 

その声は冷たいナイフのように鋭く大和の身に突き刺ささる。

 

 

「今まで私に味方するような態度をとってましたけど、結局は大和さんも他のみんなと同じ、薄情者です」

 

 

「それは…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この偽善者」

 

 

決定的な言葉を突きつけられ、大和は完全に固まってしまった。

 

 

 

「…さようなら」

 

 

 

「ダメえええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

大和が艤装を装着して海上に飛び出すが、全てが遅かった。

 

 

直後、起爆した魚雷が一斉に弾け飛び、凄まじい炎と爆風が大鯨の立っていた所に発生する。

 

 

「大鯨ちゃん!大鯨ちゃん!」

 

 

複数の魚雷の誘爆効果と着火材の燃焼効果で炎の勢いは強くなり、なかなか大鯨のいた場所に近付けなかった。

 

 

しかし、ここで炎が収まるのを待っていては大鯨は助からない、大和は意を決して炎の中に飛び込む、艤装の効果があると言えどもその皮膚には火傷が広がっていく。

 

 

「……いた!」

 

 

ようやく収まりつつある炎の中を探して十数秒、大和の手が大鯨の手に当たるのを確認する、大和はそれを掴むと思い切り引き上げた。

 

 

 

「大鯨ちゃん!」

 

 

しかし、その手は恐ろしいほどに軽く、ひどくあっさりと海中から姿を現した。

 

 

「…え…」

 

 

大和は確かに大鯨を引き上げた、彼女の()()()()を…

 

 

 

「嫌ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

喉が潰れんばかりの大和の絶叫が、深夜の海に轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、潜水艦娘による捜索が行われたが、大鯨は発見できず、自沈(じさつ)という形での轟沈が正式に認められた。




Android6.0へのアップグレード通知が来たんですけどやるべきか否かで迷ってます。


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第80話「大鯨の場合15」

今日初めて泊地水鬼と戦いました、拠点型なので損害(中破)にするのが限界…

そう言えば泊地水鬼は拠点型ですけど、その下位の泊地棲鬼は拠点型じゃないんですね、なんか珍しさを感じます。


 

 

『…これがだいたいの事の顛末です』

 

 

大鯨の話を聞き終えた台場の連中は全員拳を握る、その身は怒りで震えていた。

 

 

「ひどい…ひどすぎる…」

 

 

「こんなの…あんまりじゃないですか」

 

 

吹雪たちは殺意の籠もった目で怒りの言葉を口にする。

 

 

「あいつ、本当にひよこミキサーの刑になって死ねばいいんですよ」

 

 

「同感だな」

 

 

海原はそう頷くと、改まって大鯨の方に向き合う。

 

 

「大鯨、お前の事情は分かった、何も知らない俺が言っても何にもならないだろうが、気の毒だとは思うよ」

 

 

『じゃあ…』

 

 

「お前を殺すことは出来ない、今の話を聞いたら尚更な」

 

 

『どうして…!』

 

 

「お前は今まで、人間の負の面しか知らずにつらい思い出ばかりを抱えて沈んじまった、それしか知らないお前をそのまま殺すなんて出来るわけねぇよ、これからは楽しい思い出をいっぱい作らせてやる、それこそ沈みたくないって思うほどな」

 

 

そう言って海原はニヤリと笑って大鯨を見る、それを聞いた大鯨は戸惑うような顔をする。

 

 

『…そう言われても、私はもう…』

 

 

「それでも気が変わらないって言うなら、深海棲艦(そのすがた)でしばらくここにいればいい、俺たちがその気にさせてやる」

 

 

 

真剣な眼差しで自分を見る海原に対して、大鯨が何を思ったのかは海原には分からない、でも…

 

 

『…分かりました、少し…ほんの少しだけ、前向きに考えてみます』

 

 

その言葉が聞けたということは、自分の事を少しでも信じてくれたという事なのだろう、大鯨のその言葉を聞き、海原はありがとうと言って笑った。

 

 

 

 

 

『そうか、そんな事が…』

 

 

「はい、所長のお役に立つ情報かどうかは分かりませんが…」

 

その日の夜、海原は榊原の所へ電話をかけ、大鯨から聞いた話の内容を話していた。

 

 

『いやいや、十分すぎるほどの話だったよ、本当にひどい話だ、大鯨がかわいそうでならないよ…』

 

 

「俺もそう思います」

 

 

榊原はやりきれない思いを込めて言う、それには海原も同じ気持ちだ。

 

「大鯨の事もそうですが、大鯨の最期を見た大和も気の毒だと思います、彼女からも何かしら話を聞ければ良いんですが…」

 

 

流石に横須賀に行くのは危険だよなぁ…などと海原が考えていると、榊原が意外な提案をしてきた。

 

 

『なら、台場に大和を寄越そうか?』

 

 

「えっ?そんな事出来るんですか?」

 

 

『簡単だよ、艤装の調整という理由をつけて造船所に呼び出せばいい、そのまま台場に向かわせれば横須賀の佐瀬辺も騙せる』

 

 

本当にこういうことを考えるのは上手いよなぁ…と海原は感心半分呆れ半分で思う。

 

 

「分かりました、じゃあそれでお願いします」

 

 

『了解した、じゃあ日程が確保出来次第連絡するよ』

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

そう言って海原は電話を切る。

 

 

「…さてと、こっからが勝負だな、まずは大和から話を聞いて…あわよくば2体を和解させられれば良いんだが…」

 

 

 

海原は椅子の背もたれに身体を預けて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…大和さんが、台場に?』

 

 

その言葉を、大鯨が提督室の扉越しに聞いていたことを海原は知らない…

 

 

 

 

 

『はぁ…どうしよう』

 

 

海原の話を偶然聞いてしまった大鯨は鎮守府埠頭に座り込んでため息をついていた。

 

 

大和が来る、それは深海棲艦(このすがた)の自分と会う事を意味する、今の自分を見て、大和はどんな顔をするのだろうか…

 

 

「どうしたの?こんなところで」

 

 

『吹雪さん…』

 

 

どうしたものかと悩んでいると、吹雪が隣にやってくる。

 

 

『どうしてここが?』

 

 

「また勝手に死なれたら困るからね、こうやって交代で見回ってるの」

 

 

『そんな事しませんよ、海原提督にああ言っちゃいましたし』

 

 

「ふーん、なら何でここに?」

 

『実は…』

 

 

大鯨は提督室で偶然聞いてしまった電話の内容を吹雪に話す。

 

 

「そっか、大和さんが来るんだ、なら大和さんと話すの?」

 

 

『別に…話す事なんて何も…』

 

 

「恥ずかしがらずに、素直になっちゃいなよ」

 

 

『私はこれでも素直です』

 

 

そっぽを向いてそう言い切る大鯨を見て、吹雪は一瞬意地の悪い顔をして言った。

 

 

「そうだよね~、自分を見捨てた偽善者となんて話したくないよね~」

 

 

吹雪がそう言った瞬間、大鯨が一瞬だけ眉を吊り上げる。

 

 

膣内(なか)に硫酸流されたときも、大和さんは大鯨を助けようとせずにしっぽ巻いて逃げちゃったような裏切り者だもんね~、そんな人と話なんてしたくないよね」

 

 

『…まれ』

 

 

「本当にヒドいよね、大和さんって、大鯨が怒るのも無理無いよ」

 

 

『黙れ…』

 

 

「おまけに大鯨が自沈(じさつ)したときも何も出来ずに見殺しにしたんでしょ?やっぱり…」

 

 

 

『黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!』

 

 

弾かれたように立ち上がった大鯨は吹雪の胸ぐらを掴み、一気にまくし立てる。

 

 

『あなたに大和さんの何が分かるって言うんですか!大和さんは私が傷つくたびにドックに入れてくれて、悲しくて泣いていたときには頭を撫でながら側にいてくれて、そのたびに大和さんは涙を流して悲しんで…心を痛めてたんですよ!!』

 

 

大鯨はものすごい剣幕と形相で吹雪を睨みつけるが、吹雪は何も言わずにただ大鯨を見ていた。

 

 

『いつも私のために悲しんで、私のために心傷(きず)ついて、一番私の事を理解してくれていたのは大和さんなんです!何も知らないあなたに大和さんを侮辱する権利なんて無い!』

 

 

大鯨はハァハァと息を弾ませて吹雪から手を離す。

 

 

「…つまり、それが大鯨の本音って事で良いんだよね?」

 

 

『えっ…?』

 

 

吹雪の言っていることが分からず首を傾げる大鯨だったが、すぐにその意味が分かりハッ!と口を押さえる。

 

 

「中々自分に素直になってくれないからカマをかけてみたけど、こんなにあっさり引っかかるとは思わなかったよ」

 

 

『…まさか、今のはワザと…?』

 

 

「うん、こうでもしないと本音を話してくれないと思って、もちろん今言ったことは私の本心じゃないよ」

 

吹雪は苦笑しながら言うと、大鯨はポロポロと涙を流す。

 

『…本当は私だってわかってるんですよ、大和さんは私と同じような扱いを、私より長い間受けてるんです、だからまた元の日々に戻るのは怖いし嫌だ、そう考えるのは当たり前なのに、そんな事は分かってたはずなのに…』

 

 

大鯨はボロボロに泣きじゃくりながら言う、自分だけ悲劇のヒロインを演じ、同じ被害者の大和を偽善者だと罵った自分が許せなかった。

 

 

「…謝りたいの?」

 

 

吹雪が聞くと、大鯨が頷く。

 

 

「なら、それまで死ぬわけにはいかないよね?」

 

 

吹雪が挑戦的に言うと、大鯨はそうですね…と言って苦笑する。

 

 

『…無いと思ってたけど、未練ってあるんだなぁ…』

 

誰に言うわけでもなく、大鯨はそっと呟いた。




分かっているからこそ認められない、そんな事ってあると思うんです。


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第81話「大鯨の場合16」

今回で大鯨編は終了です、次はどんな艦娘が出るでしょうか…

「Re:ゼロから始める異世界生活」にクルシュって女性のキャラが出てくるんですけど、そいつが長月にちょっと似てるんですよ、それを考えたらクルシュが長月にしか見えなくなりました。


「お久しぶりです、海原提督」

 

 

「久しぶり、すまないな、急に会いたいなんて言って」

 

 

その翌日の午後、榊原の根回しが良かったのか、思った以上に早く大和が台場鎮守府へやってきた。

 

 

「いえ、お気になさらないで下さい、それにあの時のお詫びもしたかったので…」

 

 

大和の言うあの時というのは、おそらく臨時司令官会議で海原に砲を向けた時のことだろう。

 

 

「別にそんなの気にしてないよ、お前だってあいつの命令で嫌々やってたんだろ?なら大和が罪悪感を感じる必要なんて何一つ無いさ」

 

 

海原が笑いながら言うと、大和は申し訳無さそうな顔でありがとうございます、と頭を下げてお礼を言った。

 

 

「あの、それで海原提督、大鯨ちゃんの事なんですが…」

 

 

お礼を言い終わると大和はおずおずと聞く、大和には大鯨の話を聞くという都合上、事前に台場鎮守府の事や大鯨の事情を説明していた。

 

 

「おっと、そうだったね、なら提督室でゆっくり話し合おう、冷たい飲み物を用意してるんだ」

 

 

「そんなお気を使わなくても…」

 

 

「いいっていいって、それにわざわざこんなクソ暑い中来てくれた客人に冷たい飲み物のひとつも用意できないようじゃ提督なんて務まらないよ」

 

 

「…すみません、ありがとうございます」

 

 

大和はやはり申し訳無さそうに、でもどこか嬉しそうにしながら提督室に向かう海原の背中を追う。

 

 

 

 

「はいどうぞ、口に合うかどうかは分からんが…」

 

 

海原は冷蔵庫から瓶ラムネを出して大和に振る舞う。

 

 

「ありがとうございます、いただきます」

 

 

大和は軽く頭を下げると出されたラムネを一口飲む、程よい炭酸の刺激とラムネの清涼感が喉を通りとても心地よい。

 

 

「さてと、確か大鯨の話だったよな」

 

 

「はい、深海棲艦になった大鯨ちゃんがここにいると聞いて…」

 

 

そうして話し始めるふたりだったが、その会話を聞いている者がいることにふたりは気づいていなかった。

 

 

 

 

『…吹雪さん、これ、私たち隠れる必要あったんですか?』

 

 

「いや…なんか勢いで」

 

 

吹雪と大鯨は隠れるようにソファの影に寝そべっていた、海原と大和が来る前、吹雪たちは提督室のソファでぐでーっとしながらくつろいでいたのだが、吹雪が思っていたよりも早く大和が来たのでとっさに隠れてしまったのだ。

 

 

「今大鯨と大和を合わせたら話せることも話せないと思ってさ」

 

 

 

『…まぁ、それは確かに認めますけど』

 

 

大鯨は少し恥ずかしそうにしてごにょごにょと呟く。

 

 

 

 

それから大和は大鯨の事について克明に話した、自沈(じさつ)までの大筋は大鯨が話したことと同じだったが、大和自身が感じていたことはやはり本人から聞かねば分からない。

 

 

「私は大鯨ちゃんが苦しんでいるのに何も出来なかったんです、日々暴力を振るわれて傷を作る度にドックに入れていましたけど、それだけしかしてあげられなかった…いや、それしかしようとしなかったんです」

 

 

大和は言葉を紡いでいく毎に身体を震わせ、その目からは涙がこぼれ落ちていく。

 

 

「硫酸事件の時だって、ちょっと勇気を出して提督を止めれば大鯨ちゃんを助けられたのに、私は我が身可愛さに逃げ出して、大鯨ちゃんを心傷(きず)つけてしまった、その日は罪悪感で何度も吐きました」

 

 

『…違う』

 

 

「大鯨ちゃんが自沈(じさつ)したときだって、元を辿れば私が大鯨ちゃんのことをちゃんと見ていればこんな事にはならなかった、私が…大鯨ちゃんを殺したんです」

 

 

 

『違う』

 

 

「今でも夢に大鯨ちゃんが出て来るんです、何で助けてくれなかったの?ってずっと私に問いかけて来て海に沈めようとするんです、そのたびに私は取り返しのつかない事をしたんだって…」

 

 

『違う…!』

 

 

「大鯨ちゃんの言うとおり、しょせん私は自分の保身しか考えていない偽善者なんですよ」

 

 

『違う!違う違う違う!大和さんは何も悪くない!大和さんは自分だって辛いのに私のために心傷(きず)ついてくれた、でも私はそんな大和さんの気持ちを考えようともせずに、大和さんの優しさを否定した…!大和さんが私を殺したのなら、私は大和さんの心を殺した…!』

 

 

大鯨は涙を流しながら大和の言葉を否定し続ける。

 

 

「…大鯨、そういうのは、本人に直接言った方がいいんじゃないかな」

 

 

吹雪にそう言われると大鯨は少し迷うような顔をしたが、やがて意を決したようにして頷く。

 

 

 

「…司令官、大和さん」

 

 

吹雪は大鯨と一緒にソファの影から姿を現す。

 

 

 

 

 

「吹雪に大鯨!?お前らどうして!?」

 

 

「大鯨…ちゃん…?なの…?」

 

 

変わり果てた姿の大鯨を見て、大和は声にならない声を漏らして涙を浮かべた。

 

 

『大和さん、お久しぶり…というのは少し変ですかね…えへへ…』

 

 

大鯨は苦笑しながら大和に再開の挨拶をする。

 

 

「大鯨ちゃん…ごめんなさい…!謝って許される事じゃないっていうのは分かってる、でも…!」

 

 

『そんな、大和さんが謝る必要なんて何一つ無いですよ!むしろ謝らなければいけないのは私の方です、大和さんだって提督のせいで苦しんでいたのに、その現実から目を背けて自分だけ悲劇のヒロインを演じて、結果大和さんの心を殺してしまった…本当にごめんなさい!』

 

 

大鯨は吹雪に通訳をしてもらいながら自分の気持ちを素直に伝えた、つたなくて上手く伝わらないかもそれないが、これが考えて考えて考え抜いた自分の本心なのだ。

 

 

「大鯨ちゃん…本当にごめんなさい…!私のせいであなたは…!」

 

 

そう言って大和は大鯨を抱きしめた、その身体は文字通り深い海のように冷たかった、大和から見れば大鯨は深海棲艦だ、でもその身体からは確かに大鯨を感じる事が出来た。

 

 

『謝らないでください大和さん!私のせいで大和さんは心を壊してしまって…ごめんなさい!』

 

 

大和と大鯨はお互いに泣きながら謝り合う。

 

 

 

 

 

 

「…良かったですね、仲直り出来て」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

吹雪と海原はお互いに笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、結果は出せたかい?」

 

 

海原は大鯨に向かい合うと、改めて問いかける。

 

 

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私、艦娘に戻ります、海原提督の言う楽しい思い出を、あなたたちと一緒に作っていきたいです、私は…もう迷いません』

 

 

その日、大鯨は艦娘としての“生の道”を選んだ。

 

 

 

 

「改めまして、潜水母艦大鯨です、これからよろしくお願いします」

 

 

無事に混血艦(ハーフ)として艦娘に戻り台場鎮守府の一員となった大鯨は提督室で敬礼をして着任の挨拶をする。

 

 

「おう、よろしくな」

 

 

「そう言えば大鯨さん、潜水母艦ってどんな艦なの?潜水艦とは違うの?」

 

 

潜水母艦という艦種の知識を持っていない暁が聞く。

 

 

「潜水母艦というのは、簡単に言えば潜水艦専属の補給艦…といった所ですね」

 

 

「潜水艦専属?ということはハチのためにあるような艦って事?」

 

 

「はい、潜水艦の艤装は消費する資材の量が少ないので長距離の遠征任務によく使われるみたいなんですけど、遠出をすると途中の補給が難しくなるので私のような潜水母艦が使われる…というのを造船所の人から聞きました」

 

 

といっても私は一度も潜水母艦として使われなかったので詳しくは知らないんですよね…と言って大鯨は苦笑する。

 

 

「大鯨ちゃん」

 

 

すると大和が大鯨のもとへやって来て、その肩に手を置いて言った。

 

 

「これから大鯨ちゃんは色んな事を経験すると思う、それはもちろん楽しいことばかりじゃない、時には辛い思いをしたり、それこそ死にたくなるような事だってあるかもしれない」

 

 

大和はそこまで言うと、一呼吸の間をおいて続ける。

 

 

「でもね、どんなに辛いことがあっても、死ぬことだけは考えちゃだめ、死んでしまえばそこで全てが終わってしまう、生きていれば絶対にチャンスは巡ってくるから、だから…あなたは生きて」

 

 

大和が真剣な眼差しで言うと、大鯨は大和の目を見つめ返して言った。

 

 

「はい、大和さんたちに救って貰ったこの命、決して粗末にはしません」

 

 

「…うん、ありがとう大鯨ちゃん」

 

 

それを聞いた大和は、どこか安心したような表情で大鯨を抱きしめた。

 

 

 

 

「海原提督、本当にありがとうございました」

 

 

「いいっていいって、それより大鯨と仲直り出来て良かったな」

 

 

「はい、それでは私はこれで…」

 

 

大和は深々と頭を下げると、台場鎮守府を後にした。

 

 

 

 

 

大和との別れを済ませた後、大鯨には深海棲器を選んで貰った、混血艦(ハーフ)になった影響なのかは分からないが、弱っていた大鯨の左腕と足腰の身体機能は轟沈前より大幅に向上しており、戦闘に参加出来る程度の力は取り戻していた。

 

 

「だからって非戦闘艦の大鯨を前線で戦わせる訳には…」

 

 

「いえ、私はもう台場鎮守府の一員なんですから、せめて後方支援くらいはこなせるようにならないと」

 

 

(立派だなぁ…)

 

 

そう言って深海棲器を選ぶ大鯨を見て、吹雪は一種の頼もしさを感じた。

 

 

 

そして大鯨が選んだ深海棲器は4つ。

 

 

1つ目は『手榴弾』、手投げタイプの爆弾の深海棲器で、一般的な手榴弾より爆発力が高い。

 

 

2つ目は『アサルトライフル』、中距離からの狙撃に特化した銃の深海棲器だ、銃身を取り替えればスナイパーライフルとしても使える優秀な武器である。

 

 

3つ目は『ククリ』、くの字に湾曲したナイフの深海棲器だ、普通にナイフとしても使えるが、投擲して離れた敵を攻撃する事も出来る。

 

 

4つ目は『和弓』、読んで字の如く弓矢の深海棲器だ、しかも矢の先端は鋭く尖っている上に返しがついているので簡単には抜けないようになっている。

 

 

 

「遠距離系の武器中心だね」

 

 

「はい、私は基礎能力的に前衛は向かないと思ったので…」

 

 

「なるほどね、じゃあ軽くトレーニングしてみようか」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 

…その一時間後、提督室で満身創痍(グロッキー)状態の大鯨が発見されるのはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

「…これは本当なのか?佐瀬辺くん」

 

 

南雲元帥は佐瀬辺から渡された写真をもう一度見て再度確認する。

 

 

「はい、うちの艦娘が写真に収めた内容に間違いはありません」

 

 

佐瀬辺は誇らしげに胸を張って言う。

 

 

「…分かった、情報をありがとう」

 

 

「いえいえ、では私はこれで」

 

 

佐瀬辺はそう言って礼をすると元帥の部屋から出て行った。

 

 

 

ひとり残った南雲は補佐の鹿沼に電話をかけると、開口一番にこう言った。

 

 

 

「台場鎮守府の海原と、その所属艦娘を全員大本営に呼び出してくれ」

 

 

佐瀬辺から渡された写真には、身体のあちこちに深海痕を露出させた吹雪たちDeep Sea Fleetの艦娘たちが写っていた。




大鯨の深海棲器のアイデアを送ってくれた皆様、本当にありがとうございました!また機会があればやりたいと思います。


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第二章「大演習祭編」
第82話「雪風の場合1」


chapter7「雪風編」

第二章「大演習祭(バトルフェスタ)編」&意外と隠れファンが多い室蘭雪風編スタート。

そして雪風の深海棲器も募集します、詳しくは活動報告にて!

あとお気に入りが100件を超えました!本当にありがとうございます!


少女がふと上を見上げれば、そこには満天の星空が広がっていた、億万の星々からなるその光景は、夜空を彩るイルミネーションのようであった。

 

 

しかし、少女はその星空が偽りのモノだということを知っている、夜の世界を照らし出す金色の満月も、夜空を分かつように広がる天の川も、どれだけ時間が経っても微動だにせず、朝が来るのを拒むようにその場に居座り続けている、それはまるで虚像天体(プラネタリウム)のようであった。

 

 

少女がふと周りを見渡せば、そこには一面の大海原が広がっていた、星の光をその身に反射させる夜の海は美しいの一言に尽き、いつまでも眺めていたいとすら思える。

 

 

しかし、少女はその海が偽りのモノだということを知っている、足元を見ると水は動いていないし波も立っていない、そして少女は今()()()()()()()()()、特別な装置などは何も装着していない素足の状態でだ、なぜそんな事が出来るかと言えば、少女と海面の間に見えない隔たりがあるからだ、例えるなら海全体に透明のアクリル板が被せられている…といったところだろうか。

 

 

 

 

 

 

偽物だ、この空も、この海も、この世界も、何もかもが偽物だ…

 

 

 

 

 

 

そんな偽物の世界で、少女はひたすらに戦っていた。

 

 

 

その相手は、少女の目の前にいる、自分と全く同じ顔をした少女だ。

 

 

 

どうして目の前の少女が自分と同じ顔をしているのか、目の前の少女は自分の偽物なのか、それとも彼女が本物で自分が偽物なのか、そもそもなぜこんな偽物の世界でこんな少女と戦っているのか、思い出そうとしても脳から情報が出てこない。

 

 

でも、この自分そっくりの少女とは戦わなくてはいけない、そして絶対に勝たなくてはいけない、それだけは海馬の奥底に深く焼き付いている。

 

 

 

もうどれくらい戦い続けたか分からなくなってきた頃、少女は足を滑らせて転んでしまった。

 

それをチャンスと捉えたもうひとりの少女は得物のナイフを少女の眉間に向け、躊躇なく振り下ろす。

 

 

『じゃあね、もうひとりの吹雪(わたし)

 

 

その瞬間、少女…吹雪は偽物の世界から追い出された。

 

 

 

 

 

「…ハッ!」

 

 

吹雪は勢いよくベッドから飛び起きると、浅く息をして周りを見渡す、もうひとりの自分は当然ながらいない。

 

 

「…また、あの夢か」

 

 

吹雪はぽつりと呟く、ここの所吹雪は同じ夢ばかりを見る、もうひとりの自分と訳も分からず戦って、でも決着がつくという所でいつも目が覚める、いつもこうだ。

 

 

「あの子、何者なんだろう…?」

 

 

普通であればただの夢だと思って気にする人はいないだろうが、どうも吹雪にはコレが何か意味があるように思えてならなかった。

 

 

「“夢は自分を映す鏡”だって聞いたことがあるけど、あの子が私にとって大事な意味を持ってる…?」

 

 

そこまで吹雪が考えていた時…

 

 

『Deep Sea Fleetのメンバーはすぐに全員提督室に来てくれ、急用の連絡をしたい』

 

 

館内放送で海原が吹雪たちの呼び出しをかけた、すぐに全員を集めるような急用とは、どんな内容なのだろうか…?

 

 

「あまりに良い話じゃなさそうだな…」

 

 

そう言って吹雪は身支度を整えて提督室に向かう。

 

 

 

「大本営から呼び出しですか?」

 

 

「連絡の内容というのは、その間の留守番…ですか?」

 

 

「いや、今回呼び出しがかかったのは俺だけじゃない、台場鎮守府に所属している艦娘…つまりDeep Sea Fleet全員だ」

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

海原の言葉にDeep Sea Fleet全員が同じタイミングではぁ!?と口にする。

 

 

「私たちまで大本営に呼ばれてるんですか?」

 

 

「司令官を召集するならまだ分かりますが、その所属艦娘…しかも全員を呼び出すとは…」

 

 

「大本営は何を考えてるのかしら…」

 

 

吹雪たちは驚いた様子でそれぞれ言い合う。

 

 

「というわけでこれから全員で大本営に行く、不平不満はあるだろうがお偉いさんの命令だ、我慢してくれ、それと外出するにあたって深海痕を隠せるような服装に着替えるように」

 

 

「「了解しました!」」

 

 

吹雪たちは一斉に敬礼をすると、それぞれ準備のために提督室を出る。

 

 

「…やっかいな事になりそうだな」

 

 

誰もいなくなった提督室で、海原はぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

「暑い…」

 

 

「溶ける…」

 

 

大本営に向かう道中、Deep Sea Fleetのメンバーは汗だくで炎天下のアスファルトを歩く、深海痕を出さないようにタイツを穿いたりパーカーを着たりと対策を練っていたのだが、真夏の南中時刻にそれをやるのは自殺行為である。

 

 

 

「キビキビ歩け、ダラダラしてたら余計着かなくなるぞ」

 

 

「ふぁ~い…」

 

 

「りょ~かいで~す…」

 

 

吹雪たちは返事をするのも億劫になってきているようで、大鯨に至っては今日10本目のスポーツドリンクを開けている。

 

 

そうこうしている内に台場一行は大本営の建物に着く。

 

 

「うーん!生き返るー!」

 

 

「やっぱりエアコン無いと生きていけないわね」

 

 

入り口をくぐった途端Deep Sea Fleetは一気に元気になる、空調設備の無い台場とは違い大本営は冷暖房完備のフル装備だ。

 

 

「受け付け済ませたぞ、とっとと来い」

 

 

「分かりました」

 

 

海原は吹雪たちを引き連れて大会議室の前まで来る。

 

 

 

「台場鎮守府の海原です、召集命令を受けて参りました」

 

 

「…入れ」

 

 

ノックをして南雲元帥の返事を受けると、深呼吸をして大会議室のドアを開け中に入る。

 

 

 

「…おいおい、なんだこりゃ」

 

 

部屋に入った瞬間、海原は会議室内を見渡して苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 

「来たみたいだな」

 

 

 

そこには、南雲元帥と横須賀の佐瀬辺、そして、他の鎮守府の提督たちが一同に集まっていた、しかも…

 

 

「どうして所長まで?」

 

 

「元帥に突然呼び出されてね、俺も詳しい内容は知らないんだ」

 

 

榊原まで来ていた、呼び出された趣旨を伝えられていないらしく、苦笑しながらそう言う。

 

 

元帥を中心に各鎮守府の提督、この集まり方はまるで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこれより、海原提督の()()()()()()の容疑に関する軍法会議を始める」




太鼓の達人×パズドラのコラボに胸アツな自分です。


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第83話「雪風の場合2」

Web版のリゼロを読みふけっていたせいで更新が遅れてしまいました(汗

大鯨と龍鳳の水着グラフィックがめちゃカワで撃沈しております、運営のTwitterに載っていたマックスの水着イラストも中々良かったです。

次は三日月の水着グラフィックを…


「軍法会議というのはどういう事ですか!俺は何も聞いていません!」

 

 

「どういう事も何も、お前の後ろにいる連中がその原因の発端だ」

 

 

そう言って南雲は海原の後ろにいる吹雪たちを指差す。

 

 

「おっしゃっている意味がよく分かりませんが…」

 

 

そこまで言って海原はふと気づく、自分がこの部屋に入ったとき、南雲は確かにこう言った、『深海棲艦庇護』と、つまりこの男は…

 

 

 

「だってそいつらは、深海棲艦じゃないか」

 

 

Deep Sea Fleetの秘密を、知っている。

 

 

 

 

「暁…?暁なのか!?」

 

 

「ハチ!お前確か轟沈したはずじゃ…!」

 

 

いきなりDeep Sea Fleetの秘密を見破られて海原は驚きを隠せなかったが、もっと驚いていたのは暁やハチがかつて所属していた鎮守府の提督たちだ、轟沈したと思っていた部下が生きて目の前にいる、我が目を疑いたくなる光景だった。

 

 

「互いに思うことはあるでしょうが、まずはこの写真をご覧ください!」

 

 

いつの間にか場を仕切っている横須賀の佐瀬辺がプロジェクターを起動させ、スクリーンに映像を映す。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「これは…!?」

 

 

そこには、台場鎮守府の何気ない日常が写った写真が映し出されていた、特に特筆すべき点も何もない写真だ。

 

 

 

もっとも、その吹雪たちの身体にある深海痕まで写り込んでいる、という点を除けばだが…

 

 

 

「この写真は我が横須賀鎮守府の有能な艦娘が撮影したものです、これらの身体には深海棲艦の装甲と酷似した痣のようなモノがあります、つまりあれらは深海棲艦という結論にたどり着くのです!」

 

 

普段の口調とはまるで違う、どこぞの有権者のような話し方で饒舌(じょうぜつ)に語ってみせる佐瀬辺、しかしそこで意義を唱えたのは大湊鎮守府の提督である。

 

 

「その考えは飛躍しすぎじゃないのか?そいつらはどう見ても艦娘の姿をしてるぞ、深海棲艦の装甲と同じような痣があったとしても100%深海棲艦だと決めつけるのは尚早だ」

 

 

「なら、真偽のほどは当事者に話して貰おうではありませんか」

 

 

佐瀬辺はそう言って海原にビシッと一差しを突きつける。

 

 

「洗いざらい話して貰うぞ、海原」

 

 

「何でお前が仕切ってんだよ、上から目線で言われたくねぇわクソが」

 

 

一気に胸くそが悪くなった海原は佐瀬辺に悪態をつく。

 

 

「口の効き方がなってねぇみたいだな~?お前は深海棲艦を匿っている罪でここにいるんだ、拒否権なんて無いと思えよ?」

 

 

いつの間にか容疑者から被告人になっていることに若干のイラつきを覚える、しかしDeep Sea Fleetが混血艦(ハーフ)である事を秘密裏にしていたのも事実なので、佐瀬辺に強気で返すことも出来なかった。

 

 

「…はぁ、分かったよ、話してやるから俺に土下座して感謝しろ」

 

 

「図に乗ってんじゃねぇよ艦娘殺し、とっとと話せ」

 

 

相変わらずの上から目線にさらにイラつくが、ここは大人の対応で受け流し、海原は吹雪に出会ってから今までのことを軽く説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、そいつらは深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)で、今後の深海棲艦の貴重な情報源として残すべき…というのがお前の言い分なんだな?」

 

 

「そう言うことだ、分かったらとっとと帰らせてくれ」

 

 

海原がダルそうに言うと、周りの提督連中が驚きの声でざわつく、今の海原の話はこれまでの深海棲艦に対する常識を覆す内容だ、驚くのも当然と言えよう。

 

 

しかし佐瀬辺はそんな周りの空気を無視して仰々しい態度で南雲に向き直る。

 

 

「どうですか元帥!海原はこのような危険因子を秘密裏に匿っていたのです!これは即刻解体処分にさせるべきかと思います」

 

 

 

「はぁ!?テメェ何寝ぼけたこと抜かしてやがる!」

 

 

佐瀬辺がとんでもないことをほざくので海原が声を荒げる。

 

 

「だってそうだろう?深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)と言うことは、深海棲艦としての思想も持っているという事だ、いつ深海側に寝返って我々に牙を剥くか分かったもんじゃないからな」

 

 

「テメェもういっぺん言ってみろ!」

 

 

とうとう堪忍袋の緒が切れた海原が佐瀬辺の胸ぐらを掴んで突き上げる。

 

 

「吹雪たちはちゃんとした艦娘だ!確かに深海棲艦だったときもあったが、今は艦娘だ!」

 

 

「それは分かんねぇだろ?艦娘のフリをして我々人間を皆殺しにする機会を伺ってるかも…」

 

 

「黙れ!」

 

 

 

「双方落ち着けぇい!」

 

 

すると、南雲が互いを仲裁させるために声を荒げて言う。

 

 

 

「互いの言い分は分かった、佐瀬辺くんはこの混血艦(ハーフ)の艦娘を危険なので解体処分にするべき、海原は深海棲艦の貴重な情報源として確保しておくべき…と言うことだな?」

 

 

 

南雲がそう言うと、佐瀬辺と海原が互いに頷く。

 

 

「…榊原所長はどう思う?」

 

 

南雲が榊原の方を意見を聞こうとそちらを見やる。

 

 

「ここは解体処分でしょう所長!こんな危険な存在を野放しにはしておけません!」

 

 

 

佐瀬辺は榊原を丸め込もうとアピールを繰り返す、なぜこんなに必死になっているかというと、艦娘の建造や解体など、艦娘に関する権限は全て造船所に帰属されるからだ。

 

 

例えばこの状況を例に取ると、南雲を含む提督たちが満場一致で吹雪たちの解体に賛成しても、造船所がそれを拒否すれば解体は出来ない、建造も解体も造船所でしか行えないのである意味当然と言える。

 

 

 

しかしそのシステムに意義を唱える提督も少なくなく、艦娘技術の詳細を開示して各鎮守府毎に建造や解体を行えるようにするべきだという意見もある。

 

 

しかしそれを行うことは絶対に出来ない、艦娘の素材は人間の死体だ、当然数には限りがあるから無尽蔵に建造し続けることは出来ないし、この情報を開示してしまえば提督たちが生きている人間を素材の徴収と称して殺し集めかねない。

 

 

提督たちは造船所を艦娘を建造するための体の良い道具屋のように考えているが、実際は誰よりも権限も立場も上なのだ。

 

 

「そうですねぇ、確かに佐瀬辺提督のいうことも一理ありますが、深海棲艦の貴重な情報源を解体するのは愚考…というのが造船所の考えです」

 

 

「つまり、これらの解体処分は出来ない…と」

 

 

 

「そうなりますね」

 

 

榊原の答えを聞くと、佐瀬辺は心底悔しそうに歯ぎしりをする、そう言えば佐瀬辺や南雲はなぜあんなにも悔しがっているのだろうか?深海棲艦を倒し戦争を終わらせるのであれば吹雪たちほど有用な材料は無いだろうに…。

 

 

「そうか、なら…」

 

 

榊原の返答を聞くと、南雲はしばしの間熟考し、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「台場鎮守府の艦娘全員を、こちらで雷撃処分する」




雪風の深海棲艦のアイデアですが、早速色々なネタを頂きました、ありがとうございます!皆さん本当に武器の知識が豊富で脱帽です。


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第84話「雪風の場合3」

そろそろこの小説にも“史実要素無し”みたいなタグを付けるべきなのだろうか…

そう言えばいつかの前書きで書いた“艦娘の記憶を持ったまま深海棲艦になった艦娘のお話”ですが、試しに書いてみようかと構想を練ってたりしてます、書き上がったら投稿してみようと思います(いつになるかは分かりませんが)。


 

「ら、雷撃処分…?」

 

 

南雲の言葉に海原が言葉を失った、“雷撃処分”、史実では損傷が激しく航行が不可能になった軍艦を魚雷などで意図的に轟沈させて処分する事を言った、正規空母の赤城や戦艦の比叡などがそれに当たると海原は記憶している。

 

 

 

「造船所での処分が出来ないのならこちら側で処分するまでだ」

 

 

「待って下さい元帥!なぜそこまでして…!」

 

 

「佐瀬辺くんの言ったとおりそこの混血艦(ハーフ)は危険極まりない存在だ、即刻始末しなければ我々の安全に関わる」

 

 

海原の反論にも応じず頑なにDeep Sea Fleetの処分を押し進めようとする南雲、その態度にホトホト困り果てた海原は強硬手段に出る。

 

 

 

「…お言葉ですが元帥、吹雪たちを処分してしまってはコレからの艦隊戦に影響が出るかもしれませんよ?」

 

 

「…何が言いたい?」

 

 

 

「こいつらは混血艦(ハーフ)になった影響か基礎能力(ステータス)が高くなっています、その力と俺の艦隊指揮能力を合わせれば来るべき艦隊決戦での活躍をお見せできるかと思います」

 

 

「…それを担保に今回のことを見逃せと?」

 

 

「はい、そもそも俺を台場鎮守府に飛ばしたのは俺の艦隊指揮能力を都合よく利用するためでしょう?なら俺と吹雪たちを都合よく利用するために台場に閉じ込めておけばいい、それに仮に吹雪たちが人間に牙を剥くような事があっても台場周辺は辺境地帯で人も住んでいない、死人が出るとしても俺くらいです」

 

 

海原は自分と吹雪たちの利用価値を悠然と語ってみせる、南雲が海原を海軍から追い出さずに台場鎮守府という窓際に置いているのは彼の優秀な指揮能力を利用するためだ、なら海原がその指揮能力で吹雪たちを使えば大規模作戦などで十二分にその力を利用できる、海原はそのメリットで南雲に勝負を挑む。

 

 

(決して強力なカードではないが、今はコレに賭けるしかない…!)

 

 

海原は焦りを顔の裏に隠して余裕を演じる。

 

 

「…ふむ、確かに海原の言うことにも一理あるな」

 

 

「な、南雲元帥!?一体何を…!?」

 

 

佐瀬辺は困惑した表情で南雲を見る、しかし南雲自身も両者の意見に筋が通っているので痛し痒しな心境だ。

 

 

「…よし、ならばこうしよう」

 

 

1~2分ほど考えた南雲は妥協案を考えたのか、再び口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海原、大演習祭(バトルフェスタ)に出ろ」

 

 

 

 

「バ…大演習祭(バトルフェスタ)にですか…?」

 

 

海原は困惑した様子で南雲を見る、大演習祭(バトルフェスタ)とは毎年10月に開催されている大規模演習の事だ、日本全国の鎮守府の精鋭艦隊たちが大本営に集い、その腕と技術を競い合う。

 

 

元々はただの演習会だったのだが、全国の鎮守府の艦娘たちが来ると言うこともあり、回を重ねるごとに参加している艦娘たちがお祭り騒ぎな状態になっていった、例えるなら文化祭のようなノリである。

 

 

そんな事もあり、いつしかその演習会は大演習祭(バトルフェスタ)と呼ばれ、海域攻略の次に提督たちが力を入れているイベントになった。

 

 

「その大演習祭(バトルフェスタ)の締めに各鎮守府の精鋭を集めた特別艦隊とお前たち台場艦隊との特別試合を組んでやる、その試合で台場艦隊が勝ったらそこの混血艦(ハーフ)どもをお前の好きにして良い」

 

 

そう来たか、と海原は渋い顔をする、大演習祭(バトルフェスタ)で南雲の用意する特別編成の艦隊に勝利すれば吹雪たちの雷撃処分を免れる、これだけ見れば良い条件だ、しかし…

 

 

(問題は勝てるかどうかだ…)

 

 

南雲の事だからきっと戦艦や正規空母などを惜しみなく投入したガチ編成で来るだろう、現在の吹雪たちなら戦艦棲艦に勝つのにはそれほど苦労しない、しかし本能のままに行動する深海棲艦とは違い相手は艦娘だ、深海棲艦ではやらないような緻密な作戦や駆け引きなどもあるだろう、そのような存在とぶつかったとき、Deep Sea Fleetは勝てるだろうか…?

 

 

海原は吹雪たちをチラリと見やる、彼女たちの反応次第では断ることも視野に入れていたが…。

 

 

(…やっぱりな)

 

 

 

吹雪たちに“断る”などという気は毛頭無く、やらせて下さい、とでも言いたそうな目でこちらを見つめていた。

 

 

(本当に手間のかかる部下を持ったモンだよ、俺は)

 

 

 

しかし海原はそれが嬉しくもあり、同時に誇らしくもあった。

 

 

 

「分かりました、海原充、元帥の提案に賛成いたします」

 

 

 

海原が名雲に敬礼をして返事を返すと、南雲はニヤリと不適な笑みを浮かべる。

 

 

「なら決まりだな、大演習祭(バトルフェスタ)での特別試合に勝てれば台場艦隊は存続、負ければ雷撃処分だ、精々本番までに腕を磨いておくんだな」

 

 

そう言うと南雲は軍法会議の解散命令を出し、集まっていた提督たちが次々と部屋から出て行く。

 

 

すると、舞鶴と舞浜の提督が暁とハチを見つめていた、何かしら思うことがあるのだろう。

 

 

しかし暁もハチもそんな提督たちを無視して部屋を出ようとする。

 

 

「話さなくていいのか?」

 

 

 

「話す事なんて何にもないわよ」

 

 

「私も同感です」

 

 

海原はその様子を見て問いかけるが、2体は素っ気なく返す、あのふたりはDeep Sea Fleetの雷撃処分が持ち上がっても反論も何も言わなかった、つまり元部下としての温情も何もないということだ、話すことなど無い。

 

「暁、舞浜に戻ってこないか?台場なんて所はお前には似合わないよ」

 

 

暁が何も言わずに素通りしていくので舞浜の提督が暁に声をかける、舞鶴も何か言いたそうな顔をしているが、舞鶴は一度ハチの再着任を拒否している、その後ろめたさもあるのだろう。

 

 

元提督の言葉を聞いた暁はその場で立ち止まると、舞浜の提督の方を見て、言った。

 

 

「あんたの所に戻る気は無いわ、暁の今の居場所は台場鎮守府よ、それと大演習祭(バトルフェスタ)の時は覚悟しておきなさい、ぶっ潰してあげるわ」

 

 

暁は挑戦的な笑みを浮かべて言い放つ、その迫力に気圧されたのか、舞浜の提督は数歩後ずさる。

 

 

「私も舞鶴には戻りません、私を一度拒絶したこと、よぉく覚えてますからね?」

 

 

ハチも舞鶴の提督を振り向きざまに見る、提督は何と言っていいか分からず、その場で俯くだけであった。

 

 

それだけ言うと暁とハチは今度こそ大会議室を出て行く、海原もそれに続いて部屋を出ようとすると…

「海原、俺が言えた義理じゃねぇが、暁の事頼んだぞ」

 

 

「俺からも頼む、ハチのこと…よろしくな」

 

舞鶴と舞浜の提督が海原に言った、このふたりは以前の軍法会議で海原の有罪判決に賛成した連中でもある、海原にとってはそんな事言われる義理も筋合いも無いのだが…

 

 

 

 

「…安心しろ、お前らの元部下は、俺が必ず守りぬいてやる」

 

 

 

そう言って海原は大会議室を後にした。

 

 

 

「「…ありがとう」」

 

 

 

誰もいなくなった大会議室で、ふたりは同時に小さく呟いた。




完全に榊原が空気になってましたが気にしてはいけません。


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第85話「雪風の場合4」

そろそろ戦艦の艦娘にもレ級のように雷撃が出来るような種類が出てもいいと思うんです。

そう言えばニュースで海上保安庁が尖閣諸島で中国の漁船乗組員を助けたってやつを見たんですけど、真っ先に雷と電の史実を思い浮かべた自分は艦これ脳だと思います(雷と電は敵の船員を救助したという史実があるらしいですね)。


「あんな事があった直後なのにすみません…」

 

 

「気にしないでくれ、元々招待すると言ったのは俺だからね」

 

 

榊原はそう言って静かに笑う、軍法会議という名の海原糾弾会が終わった後、榊原が以前約束していたDeep Sea Fleetの身体検査の話を持ちかけたので、海原はちょうど良いと乗っかることにした。

 

 

「それじゃあ検査に入ろう、本当に検査するのが俺で良いのかい?今からでも女性職員を呼べるよ?」

 

 

榊原は検査室に入る前にもう一度確認する、検査中は服を脱いでの全裸で行うので、当初の榊原の予定では検査には女性職員の風音を使うつもりでいた、しかし吹雪たちはそれを断り榊原を希望した。

 

 

「言い方悪くて申し訳ないんですけど、造船所内で信頼できる人が榊原所長しかいないので…それに榊原所長は艦娘にそういった事はしない人だというのは初めて会ったときに分かりましたから」

 

 

「別に謝るような事じゃないよ、顔見知りかつ信用できるような人に任せたいと思うのは当然のことだ」

 

 

吹雪の態度に榊原は怒るような素振りもなく笑って流す。

 

 

「それじゃあ早速検査に移ろうか、みんな検査室に入ってね」

 

 

榊原が吹雪たちを検査室に入れ、使用中の赤色灯を点灯させる。

 

 

「海原くんには申し訳ないんだけど、検査が終わるまでここで待っていてほしい、一応企業秘密の情報も少なからずあるからね」

 

 

「大丈夫ですよ、その辺は弁えてるつもりなんで」

 

 

海原の言葉に榊原は短くお礼を言うと、検査室のドアを閉める。

 

 

「…とは言ったものの、かなり暇を持て余しそうだな…」

 

 

短時間ですぐに終わるようなモノではないというのは薄々分かっていたが、いざこうして始まると案外暇になるものである。

 

 

「ゲーム機でも持ってくれば良かったか…」

 

 

などと愚痴に近い何かをこぼし始めた時…

 

 

「…あの~」

 

 

ふと、誰かに声をかけられた気がした、海原がキョロキョロと周りを見渡すと、通路の向こうにひとりの少女が立っていた。

 

 

「君は…」

 

 

海原はその少女をじっと見る、小豆色の髪を青いシュシュで結び、白を基調に青いラインが入ったセーラー服を着ている、下半身がスカートではなくホットパンツという出で立ちから活発そうな印象を与える。

 

 

その少女は海原のもとまで歩いて近づくと…

 

 

「初めまして、横須賀鎮守府所属、青葉型重巡洋艦1番艦の『青葉(あおば)』と申します」

 

 

少女…青葉はそう言って深々と頭を下げて挨拶をする、艦娘だったのか…と海原は少なからず驚きの感情を抱く、しかし海原はもっと驚くべき部分をみつけてしまった。

 

 

青葉の顔や手足には、青黒いアザや血を滲ませた傷が痛々しく広がっていたのだ。

 

 

「その傷、まさか佐瀬辺のヤツに…」

 

 

海原の言葉に青葉は何も言わずに頷き、肯定の意を示す。

 

 

(…本っ当にろくでもねぇヤツだ)

 

 

海原はそう心の中で毒づく、本当は口に出して言ってしまいたかったが、いくらクズな人間でも自分の所の提督を悪く言われては良い気はしないだろうと思い、それを思い留めた。

 

 

「批判したければして下さって構いません、おそらく海原司令官と青葉の考えていることは同じだと思いますので…」

 

 

しかしそれは要らぬ気遣いだったようで、青葉はあっさりと佐瀬辺への批判発言を認めてしまう。

 

 

「なら言わせて貰うが、佐瀬辺はどうしようもないくらいのクズだな」

 

 

「それには青葉も心の底から同意します」

 

 

海原の発言をあっさりと認めてしまうあたり、佐瀬辺の信頼と人望の無さが伺える。

 

 

「それで、青葉はどうしてこんな所に?まさか佐瀬辺にスパイを頼まれたとか?」

 

 

「ち、違います!断じてそんなことはありません!今回ここに来たのは青葉の独断です!本当です!」

 

 

青葉は慌てて両手を振ると、佐瀬辺絡みでは無いことを訴える、その目は懇願と不安でない交ぜになっており、今にも泣き出しそうであった。

 

 

「そんなに必死にならなくても君を疑ったりしないよ、青葉の独断だとすると、どんな目的が?」

 

 

海原が青葉に問いかけると、青葉はえーと、そのー、と言い辛そうに口ごもったが、やがて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今日の軍法会議で使われた写真なのですが、あれは青葉が撮ったものなんです…」




青葉は重巡洋艦の中でもトップクラスに好きなキャラです。


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第86話「雪風の場合5」

今回の夏イベで新たに登場した艦娘の「ウォースパイト」ですが、見た目がロイヤル金剛のイメージにドストライクでした、あれで薄手の甲冑来てれば間違いなくロイヤル金剛です(殴


「あの写真を、君が?」

 

 

突然の青葉のカミングアウトに海原は驚いた顔をする、確かに佐瀬辺はあの時優秀な艦娘が撮影したと言っていた、その艦娘が目の前の青葉、という事なのだろうか。

 

 

「はい、と言ってもそれを命令されたときは軍法会議で使うという事は言われなかったんです、命令の意図も教えてもらえず、かと言って断れば僚艦を解体すると脅され…」

 

 

「なるほどねぇ、なんか納得だわ」

 

 

海原が推測するに、この青葉という艦娘は情報収集能力に秀でているのだろう、それを佐瀬辺に利用されたというわけだ、それも最低の方法で…。

 

 

「申し訳ありませんでした、青葉の写真のせいであなたを貶めるような事に…」

 

 

青葉はきれいに腰を折って頭を下げると、海原に謝罪の言葉を向ける、海原はその青葉の姿勢を見るとゆっくりと立ち上がると…。

 

 

「…え?」

 

 

「話してくれて、ありがとな」

 

 

青葉の頭を優しく撫でた。

 

 

「…怒って、ないんですか?」

 

 

「怒る?何でだ?青葉は佐瀬辺に脅されてやったんだろう?その傷やアザを見れば分かる」

 

 

「いえ、これは確かに司令官にやられたものなんですけど、青葉が口答えをしたのが原因なんです」

 

 

「と言うと?」

 

 

「実は青葉も軍法会議に来ていたんです、と言っても部屋の外で待機していただけだったんですけど、そこで青葉の写真が使われたのを知って司令官に抗議したんです、“青葉は誰かを貶めるために情報係になったんじゃない”って…」

 

傷を指で撫でながら言う青葉を見て、海原は静かに怒りを沸かせていた、青葉の言ったことは至極当然の事だ、なのに佐瀬辺の利己主義な考えで青葉が被害にあうのは間違っている。

 

 

「…あんなやつの言うことなんか気にするな、お前が佐瀬辺に言ったことは正しいよ」

 

 

海原はそう言って再び青葉の頭を撫でる。

 

 

「…ありがとうございます、おかげで少し気が楽になりました」

 

 

「そりゃ良かった、てかそろそろ戻った方が良いんじゃないのか?あまり帰りが遅くなると佐瀬辺に目ぇ付けられるぞ」

 

 

「それもそうですね、ではこの辺でお暇いたします、またお会いしましょう」

 

 

「おう、またな」

 

 

帰って行く青葉の背中を、海原は見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

「佐瀬辺に目ぇ付けられるの覚悟で謝りに来てくれるとか、嬉しい反面申し訳ないぞ…」

 

 

もしこれがきっかけで青葉の傷が増えようモノなら海原は責任を感じてしまう。

 

 

 

 

 

青葉との会話から30分後、検査を終えた吹雪たちが部屋から出てきた。

 

 

「あぁ、お前ら終わったのか?」

 

 

 

「はい、あと榊原所長のご厚意で大鯨さん以外改装してもらいました」

 

 

「マジでか!?本当ですか所長!」

 

 

「あぁ、吹雪から大演習祭(バトルフェスタ)に出ることを聞いてね、せめてもの応援の気持ちだよ、資材は俺の奢りだから気にしないでいいよ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

海原は改めて榊原にお礼を言う、Deep Sea Fleetの改装は以前榊原に混血艦(ハーフ)の相談をしたときから考えていたことだが、まさか榊原の厚意で改装させてもらえるとは思っていなかった。

 

 

「…ん?それより所長、今吹雪が大鯨以外って言ってたんですけど、大鯨は改装出来なかったんですか?」

 

 

「それなんだがね、潜水母艦の大鯨は改装すると軽空母になる設計にしている、元々建造失敗艦の大鯨の身体は艤装を装着して長時間海に出れるほど丈夫じゃない、今は混血艦(ハーフ)の影響で克服したみたいだが、それはあくまでも“潜水母艦”としてだ、軽空母の艤装を装着して海に出れるまでにはなっていない」

 

 

検査結果を見ながら榊原は言う。

 

 

「改装させてやりたいのは山々なんだが、今無理に改装させると大鯨の身体が壊れる可能性が大なんだよ、一応今の身体で扱える範囲での艤装強化は施してあるけど…」

 

 

榊原はそこまで言うと、最後にすまないと付け加えて手のひらを顔の前に持って行く。

 

 

「そんな、強化してもらっただけでもありがたいです、本当にありがとうございます」

 

 

「我々からも感謝の意を、ありがとうございます」

 

 

海原と吹雪たちがそれぞれ榊原に向かって頭を下げる。

 

 

「そんな大げさな、艦娘の改装はどこの鎮守府でもやってるじゃないか」

 

 

「工廠が使えないから改装申請も出来なかったので、今回の改装は本当にありがたかったです」

 

 

海原の言葉を聞いた榊原は“あー…”といった様子で苦笑する、通常、艦娘の改装は工廠の端末で改装の申請を出さなければ改装が出来ない、以前は電話での受付も可だったのだが、作業効率や人為的失敗(ヒューマンエラー)などの理由で現在は申請式になっている。

 

 

「それで所長、検査結果の方は…」

 

 

わき道にそれかけた話を海原が戻すと、榊原はそうだったね、と言って検査結果の書かれたレポートを海原に見せながら説明する、ちなみにこれはすでに艦娘たちには伝えているので先に吹雪たちにはエントランスへ向かってもらうことにした。

 

 

「結論から言うと、吹雪たちはこちらで建造するときに使われている材料以外のモノが混ざっている、言わばコンタミネーションが発生している」

 

 

「…それが深海棲艦の成分、ですか」

 

 

「断定するには判断材料が不足しているが、造船所でサンプリングしている深海棲艦の装甲と成分が酷似している所を見ると、その可能性は極めて高いだろうね、深海棲艦との混血艦(ハーフ)というのもほぼ確定だろう」

 

 

そう言うと榊原はレポートのページをめくる、そこには吹雪たちの名前と、その下に円グラフが記載されている。

 

 

「これは艦娘の成分と深海棲艦の成分、それぞれがどれくらいの割合で占められているかを表したものだ、緑が艦娘で赤が深海棲艦ね」

 

 

榊原の説明を聞いた海原はレポートのグラフに目を通す、深海棲艦の成分が占める割合は艦娘ごとにかなりばらつきがある、一番低いとハチの35.1%で、一番高いとマックスの45.8%だ、平均して3割半ばから4割だろうと5()()()円グラフを見て思う。

 

 

 

 

「この数字は時間とともに増えるんでしょうか…?」

 

 

「それはまだ何とも言えない、しかし体調面においての変化が無いのであれば、深海棲艦から艦娘に戻ったときに“剥がれ落ちきらなかった”割合と考える事も出来る」

 

 

それを聞いた海原は考え込むように黙ってしまう、榊原の話が全て真実だと仮定した場合、艦娘化が起きる際に純粋に艦娘に戻りきれず、どうしても残ってしまった深海棲艦としての部分が原因で混血艦(ハーフ)になる、という事になる。

 

 

しかしその場合、そこから再び深海棲艦の浸食が始まる…という可能性もゼロではない、そこまで考えて海原は身震いするのを感じる。

 

 

「まぁ、半分近く深海棲艦としての成分を持っていながら現状何ともないって事を踏まえると、すぐに何かが起きるというのは考えにくいかな、一応念のために定期的に検査を受けることを検討してもらいたい所だけど…」

 

 

「分かりました、来月あたりにもう一度来てみます」

 

 

海原がそう言うと、榊原はありがとうとお礼を言うが、感謝すべきなのはむしろこちらの方だろう。

 

 

「…所長、最後にどうしても聞かなければいけないことがあります」

 

 

「…なんだい?」

 

 

感謝の言葉を述べた直後、海原は突然真剣な顔つきになり、単刀直入に聞いた。

 

 

 

「なぜこのページには吹雪のデータだけが載っていないんですか?」

 

 

海原は円グラフが記載されているページを指差して言う、彼の言うとおり、このページには吹雪のグラフだけが乗っていない、検査忘れ…などというのはありえないだろう。

 

 

「…実はね…」

 

 

 

その質問に対する答えを聞いた海原は、頭の中が真っ白になるのを確かに感じていた。

 

 

 

 

「あ、遅いですよ司令官!」

 

 

吹雪たちの退出から10分後、エントランスに海原の姿が現れた。

 

 

「…悪い悪い、待たせちまったな」

 

 

海原は手を縦にして顔の前に持ってくる動作を挟みながら吹雪たちに謝る。

 

 

「…司令官?浮かない顔をしているみたいですが、どうかされましたか?」

 

 

海原の顔色を見て三日月が心配そうに声をかける。

 

 

「…いや、何でも無いよ、それより早く帰ろうぜ、何だか腹減って来ちまった」

 

 

「…そうですね、今日の夕食は張り切らないと、です!」

 

 

海原は努めて明るく振る舞ったが、それが空元気であることは三日月には見抜かれていた。

 

 

(あんなモン見せられちゃ、それゃショックだよ)

 

 

 

海原は先ほど見せられた吹雪の検査データの事が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○吹雪

・深海棲艦汚染率:97.8%




青葉は二次創作では節操なしのパパラッチみたいに書かれるのをよく見るので、逆に純真なジャーナリストという感じで書きました。


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第87話「雪風の場合6」

艦娘の火力ステータスの反映は150までで、それ以降は切り捨てられる「火力キャップ」という仕様があるみたいですね。

つまり艦娘の火力は150がMAXという事になるわけですが 、それで戦艦棲姫の装甲とか抜けるモンなんですかね…?


『97%…!?これじゃあ混血艦(ハーフ)というよりほぼ深海棲艦じゃないですか!』

 

 

レポートを見た海原の目は驚愕で見開かれていた、いったい何故吹雪だけこんなにも汚染率が高いというのだろうか…?。

 

『うん、それはもちろん俺も気になった、でも深海棲艦だったときの記憶は艦娘には無いって言うし、吹雪は一番最初に台場に配属された艦娘みたいだから僚艦もみんな吹雪の事を知らない、だから君に聞きたい、吹雪は最初どんな様子だった?』

 

 

『最初…?』

 

 

榊原に言われ海原は記憶の糸を辿る、しかしここで海原は気付いた、吹雪に関してもっとも早く気付くべき所に。

 

 

吹雪が深海棲艦だった時を、海原は一度も見ていない。

 

 

海原と吹雪が最初に出会ったのは鎮守府敷地内の浜辺だ、吹雪はそこで倒れており、それを助けたのが全ての始まりだったと言って良い。

 

 

でも、吹雪はその時から艦娘だった、それ以降も深海棲艦になるような事もなく、ずっと艦娘の姿のままで今日まで過ごしてきた。

 

 

(吹雪も混血艦(ハーフ)だって言うなら、あいつはいつ深海棲艦から艦娘に戻ったんだ…?いや、まさか吹雪は、混血艦(ハーフ)にすらなっていない…?)

 

 

ここで海原はひとつの可能性を思いつく、まず…

 

 

①艦娘が轟沈する

 

②何らかの原因で深海棲艦となる

 

混血艦(ハーフ)として再び艦娘に戻る

 

 

吹雪たちのような混血艦(ハーフ)が生まれる手順が上の三段階だとしよう、これに倣うとDeep Sea Fleetは③に該当するはずだ。

 

 

だが、もしも吹雪が②の状態で止まっているのであればどうだろう?何かの理由で艦娘としての姿を残した状態で深海棲艦となっているのであれば、深海棲艦としての吹雪を見ていない事やこの浸食率にも合点がいく。

 

 

流石に極論過ぎると海原も思っているのだが、海原にはそれなりに心当たりがあった。

 

 

その最たる例として吹雪には深海痕が無い事が上げられる、ハチや暁、最近のメンツで言えば大鯨も、Deep Sea Fleetの全員が混血艦(ハーフ)であることが窺える深海痕がある、しかし吹雪には深海痕のようなアザなどは一切無い、それは吹雪本人や全裸枕殴りをやった三日月などが証言している。

 

 

深海棲艦時代の証明が不可能なことや深海痕が無いこと、そしてこの異常に高い汚染率、これらの材料が揃ってしまうと、どうしても先ほどの極論が頭に浮かんでしまう。

 

 

『…吹雪は、俺と初めて会ったときから艦娘の姿をしていました、深海棲艦時代の記憶も深海痕も持たない状態で…』

 

 

 

『…そうか、なら考えたくない可能性だが…』

 

 

それを聞くと、榊原は顔をしかめて唸るように考え込む、おそらく彼も海原と同じ結論にたどり着いたのだろう、しかしそれは何よりも考えたくない結論であり、何よりも現実に起きてほしくない可能性…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪は、艦娘の皮を被った深海棲艦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際憶測の域を出てないけど、妙に現実味があるから怖いんだよな…」

 

 

 

その日の夜、海原は提督室の椅子に腰掛けながら昼間の榊原との会話を思い出す、吹雪たちの身体のことを知れたのは良いことだ、ひとまずは安全と言うことが分かったし、定期的に検査をしてくれるのであれば有事の際に対応しやすい。

 

 

しかし、それと同時に怖くもあった、吹雪がこのまま深海棲艦になってしまうのではないか、以前そんな日が来るのを覚悟しなければいけないと感じたことがあったが、何だかそれがぐっと近くなったような気がする。

 

 

『吹雪本人にはこの事を伝えていない、俺よりも海原くんの方が彼女を混乱させる事が無いだろうからね』

 

 

「確かにそうかもしれませんけど、そう易々と伝えられるモンじゃないですって…」

 

 

昼間の榊原の言葉を思い出して、海原はため息をつく。

 

 

 

 

 

その建物を一言で言い表すなら“崩れかけの研究施設”と言ったところだろうか、大きさは一般的な学校の校舎の半分ほど、鉄筋コンクリートで作られたその建造物は遠目から見れば頑丈そうに見えるが、実際に中に入ってみると所々コンクリートの崩落が目立ち、鉄筋が露出している箇所も少なくない。

 

 

「大きめの地震とか来たらぽっくり崩れそうよね、あの方は何だってこんな建物を本拠地にしているのかしら、まぁ雨風は凌げるから問題は無いけど…」

 

 

そうボヤきやがらベアトリスは分厚い書類の束を両手に抱えて廊下を歩く、色丹島の仮説拠点を離れてからはここの本拠地に戻ってきている。

 

「ベアトリス、ちょっといいかしら?」

 

 

名前を呼ばれたベアトリスが声のする方を向くと、グレーのワンピースを来た黒髪の少女が立っていた。

 

 

「どうされました?」

 

 

歩兵級(ポーン)の新型の開発に成功したってシャーロットたちが言っていたから、その詳細を聞かせてもらおうと思って」

 

 

「それでしたら……こちらが資料になります」

 

 

ベアトリスは紙の束の中から器用に目的のモノだけを抜き出して少女に渡し、少女はありがとうと言ってその資料に目を通す。

 

 

「ふむふむ…全体的に攻撃力と防御力の強化、主兵装のグレードアップが主なのね」

 

 

「はい、歩兵級(ポーン)は攻めも受けも貧弱というのが最大の欠陥でしたから、これを期にパワーアップを図ろうかと」

 

 

「なるほどね、ところでベアトリス、歩兵級(ポーン)の機体のここに付けられているこれは…?」

 

 

そう言うと少女は歩兵級(ポーン)の下腹部に新たに取り付けられているパーツを指差して疑問を口にする。

 

 

歩兵級(ポーン)は歩いてこその歩兵級(ポーン)ですから、その真骨頂というわけです」

 

 

ベアトリスの説明を聞いた少女は少し驚いたような顔をしたが、やがて“なるほどね”と納得したような表情になり、資料をベアトリスに返す。

 

 

「実戦投入はいつになるの?」

 

 

「近日中には量産を進めて放つ予定ですよ、地下水路を使って進軍させ、秋葉原のホコ天に放つのを予定しています」

 

 

「分かったわ、思う存分やりなさい」

 

 

少女が無邪気な笑顔で親指を上向きに立てると、ベアトリスはアイアイサー!とおちゃらけたリアクションを取って廊下の向こうに消えていく。

 

 

「…ベアトリスの新型なら、人類掃滅計画にも進展が期待できるわね」

 

 

 

あどけなさの残る可愛らしい見た目には到底似合わない内容を呟きながら、少女は口の端をつり上げて嗤う。

 

 

 

「人間は皆殺しにしなければならない、それがあの人の願いなら…ね」

 

 

 




Android版の本格実装が開始されたみたいですけど、Android端末からのアカウント登録がまだ出来ないので足踏み状態が続いております。


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第88話「雪風の場合7」

どんどん話の内容が艦これから離れていくような…

そう言えばふと思ったんですけど、今の世代の子どもたちって金の脳とか知ってるんでしょうか?メロンパン入れになっていて銀の脳を集めると貰えるアレ、今となっては懐かしアイテムですよね。


Deep Sea Fleet改装の翌日、吹雪たちは出撃任務で戦闘海域を航行していた、台場からかなり離れた海域のため敵艦隊も強めの編成になっていることが多い。

 

 

「敵艦隊発見!戦闘態勢に移行する!」

 

 

実際、今し方会敵した敵艦隊もその例に漏れず、戦艦棲艦2体、重巡棲艦4体、駆逐棲艦3体という中々骨が折れる編成になっている。

 

開戦と同時に大鯨を除く全員が飛び出す、大鯨は体力的に激しく動き回る白兵戦に長時間耐えられないので、ライフルや弓を使っての遠距離射撃…固定砲台の役割に徹する。

 

 

まずは挨拶代わりに吹雪が駆逐棲艦を手甲拳(ナックル)で一発撃沈、改装されて基礎能力(ステータス)が向上した吹雪には駆逐棲艦など最早敵ではない。

 

 

続いて暁がその後ろにいる重巡棲艦を棘棍棒(メイス)で殴打、頭部が大きくひしゃげて大破になる、そこへ追撃として主砲をぶち込み、重巡棲艦を撃沈させる。

 

 

続いて三日月が星球鎚矛(モーニングスター)で戦艦棲艦にフルスイングをお見舞いするが、戦艦棲艦は主砲の艤装を盾代わりにしてそれを防ぐ、大きなダメージは与えられず主砲を大きくへこませる程度に終わった。

 

 

それをチャンスと捉えた戦艦棲艦が生きている主砲で三日月をロックオンする。

 

 

「まず…!」

 

 

改装や混血艦(ハーフ)の恩恵があるとはいえ、三日月は駆逐艦だ、戦艦の砲撃を食らおうものなら大ダメージは免れない。

 

 

とっさに三日月は腕を前に持ってきてガードしようとしたが…

 

 

「ショット!」

 

 

 

大鯨の撃ち出したライフル弾が戦艦棲艦の頭に命中、予想外の所から攻撃をもらった戦艦棲艦はたたらを踏み、攻撃動作が大幅に遅れた。

 

 

その隙を三日月が見逃すわけもなく、星球鎚矛(モーニングスター)を振るって戦艦棲艦の頭を叩き潰す、さらに武器を槍斧(ハルバード)に換装させ、その刃を胸の部分に二度叩きつける、致命傷を受けた戦艦棲艦が撃沈となり、残りは7体。

 

 

「よし!このまま押し切って…!」

 

 

そう言って吹雪は主砲を構えるが…

 

 

「吹雪さん!海中から駆逐棲艦が!」

 

 

「んなっ…!?」

 

 

駆逐棲艦のもう1体が海中から姿を現し、回避する暇も与えぬままその口を開けて吹雪の右腕を主砲ごと()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

吹雪は一瞬自分の理解が追いつかなかったが、想像を絶する激痛がその事実を否応なく押し付ける。

 

 

「吹雪さん!」

 

 

「三日月さんは吹雪を連れて後方へ待避!他のメンバーは吹雪さんを守りながら戦闘続行!」

 

 

「「了解!」」

 

 

旗艦(リーダー)代理を務める暁が艦隊全員に指示を出す、指示通り三日月は吹雪と共に後方へ下がり、中衛にいたハチやマックスが前衛へ出る。

 

 

 

 

吹雪は三日月に運ばれながら痛みに耐え、食いちぎられた自身の右腕を見やる、すると吹雪は腕の痛みさえも忘れるような光景を目撃する事となる。

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の肉が黒かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通、人間から作られている艦娘は身体構造の8割方が人間と同じになっている、当然身体を流れる血は赤く、その身体を支える骨は白く、その骨に付いている肉は赤やピンク色をしている。

 

 

しかし、吹雪が見たそれは違っていた、腕から噴き出す鮮血は鮮やかな赤色、その断面から露出している骨は不気味さを感じさせるほどの白色、ここまでは他の艦娘と何ら変わらない。

 

 

でも、その皮膚の下にある肉は、骨の周りを囲むその肉は、見事なまでに真っ黒だった、それはまるで深海棲艦の装甲のように…。

 

 

「…うっ…!」

 

 

それを見たとき、吹雪の頭に鋭い痛みが走った、割れるような鈍い痛みではなく、刃物か何かで頭部を裂かれたような痛みだ。

 

 

「何…これ…!!」

 

 

その痛みに混じり、吹雪の脳内に映像のようなモノが浮かぶ、それは外部から吹き込まれたようなモノではなく、自身の海馬の奥底から湧き上がるかつての記憶のような感覚だった、フラッシュバックとでも言うべきだろうか。

 

 

『……ぉ!これは………なかの上物………な……!」

 

 

『……うするの?この………殺……?』

 

 

『馬鹿…………様に相談しないと……よ………』

 

 

その映像はノイズだらけでまともに見ることが出来なかったが、自分がベッドか何かに拘束され、それを3人ほどの人物が囲むように見ているということしか分からなかった、その見ている誰かが発している声もノイズ混じりで聞き取ることは出来ない。

 

 

 

『へぇ、確かに………上…ね…』

 

 

 

『こ…な…ヒ………ノ…………ジャ…にも最…よ』

 

 

 

その映像を見る度に、その声を聞く度に、頭の痛みが激しさを増していく、その映像の中の人物のうち、真ん中の人物がこちらに向かって顔を寄せてくるのが見える、その人物は吹雪の頬を掴むと、ぐいっと自分の方へ引っ張る。

 

 

 

 

その人物は、長い黒髪を揺らすあどけなさの残る少女だった。

 

 

 

「っ!!」

 

 

その瞬間、吹雪の心臓が跳ねるように鼓動し、全身の血液が沸騰したように身体が熱くなる。

 

 

(何…が…?)

 

 

急激な身体の変化に戸惑いを隠せない吹雪、それでも何とか身体を動かそうとするが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪(あなた)は下がりなさい、ここから先は吹雪(わたし)の領分よ』

 

 

 

唐突に聞こえたその言葉を最後に、吹雪は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

三日月は吹雪を抱えながら後方へ下がっていた、頭痛がするのか頭を抑えながら苦しむ吹雪を見て、一刻も早く手当てをしなければと三日月は思っていたが、吹雪の身体に突然変化が現れた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

吹雪から突然黒いオーラのようなモノが漂いはじめ、信じられない事が起きる。

 

 

「…腕が…再生していく…!?」

 

 

千切れた吹雪の腕が見る見るうちに再生を始めていく、折れた骨が、千切れた毛細血管が、抉れた黒い肉が、そこから生えるように再生していく、例えるなら溶けていく蝋細工を映した映像を早戻しで見ているような光景だった

 

 

そして腕の再生が終わると同時に、吹雪の皮膚が所々を始点に黒く、髪が生え際から真っ白に染まっていく、深海棲艦の装甲にも似たその黒いモノは吹雪の皮膚全体を覆い尽くし、駆逐棲艦を連想させる見た目になってしまう。

 

 

しかしそれとは対照的に髪は真っ白に染まっており、ベアトリスのそれを連想させる。

 

 

「ふ…ぶき…さん?」

 

 

三日月は愕然とした様子で吹雪を見る、黒く染まった皮膚、それとは対照的に白く染まった髪、そして三日月を見つめる金眼と碧眼のオッドアイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の吹雪の姿は、まさに深海棲艦そのものだった。

 

 

 

『吹雪級駆逐棲艦1番艦『吹雪』、抜錨よ』

 

 

その深海棲艦…吹雪は眼前の敵艦隊を見つめると、そう呟いて嗤った。




このシーンは前々から考えていましたが、文章力の無さのせいでうまくいかず…

精進が必要ですね。


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第89話「雪風の場合8」

今更ですけど、甲標的って「魚雷」ではなく「その他」のカテゴリフォルダに入ってるんですね、魚雷のフォルダ何回見渡しても無かったので軽く焦りました。

装備と言えば、特定の艦娘が持ってる装備を別の艦娘に直接付ける、受け渡しみたいな方法が欲しいと思う今日のこの頃、いちいち外して別の艦娘に付けるのが面倒なんですよね…


突然の吹雪の変化にDeep Sea Fleetの全員が言葉を失っていた、目の前の吹雪が突然深海棲艦のようになってしまい、戦闘中だということも忘れて吹雪に見入ってしまう。

 

 

「っ!」

 

 

吹雪はそんな僚艦の視線を無視し、敵艦隊へとフルスロットルで突っ込む。

 

 

「あ…!吹雪さん!」

 

 

三日月が吹雪を呼び止めるが吹雪は聞く耳を持たない、両手に手甲拳(ナックル)を装着すると、先ほど自分の腕を喰った駆逐棲艦に肉薄する。

 

 

「ーっ!」

 

 

吹雪が拳を振りかぶり、駆逐棲艦に右ストレートをお見舞い、その一撃は駆逐棲艦の装甲を紙の如くぶち破り、一発撃沈にさせる。

 

 

続いて吹雪が向かったのはいまだ健在の重巡棲艦3体、いずれの重巡棲艦もこちらに主砲を向けているが、それが火を噴くより前に吹雪がナギナタで腕を切り落とす。

 

 

肢体を失って苦しそうに悶絶している重巡棲艦に吹雪は欠片の同情心も見せず、容赦なく腕を、足を、尻尾を、首を切断していく。

 

 

「沈め、量産型風情が」

 

 

目にも止まらぬ早業のナギナタさばきで重巡棲艦を全て倒した吹雪は、残った戦艦棲艦2体に突っ込む。

 

 

悪鬼羅刹の如く重巡棲艦を屠った吹雪に若干の恐怖を覚えた戦艦棲艦は、近付かれる前に吹雪を倒そうと主砲から砲弾を撃つ。

 

 

「…つまらない」

 

 

しかし吹雪は持ち前の砲弾切りのスキルでそれらを全て叩き落とす、それを見た戦艦棲艦は顔を驚愕の感情で染めるが、吹雪は敵に驚かせる暇さえも与えなかった。

 

 

戦艦棲艦に肉薄した吹雪は手甲拳(ナックル)で戦艦棲艦の顎にアッパーを食らわせる、その衝撃で顎の関節が砕け、戦艦棲艦は口を閉じる事が出来なくなる。

 

 

その開いた口に吹雪は魚雷を無理やりねじ込む、ねじ込んだ衝撃で前歯が砕けようと、魚雷の太さに耐えられず喉の内側が裂けようとお構いなしに魚雷をねじ込む、その時の戦艦棲艦は“苦しい”という表現さえ生易しいと思えるほどの苦悶の表情を浮かべていた。

 

 

ここまでに掛かった時間は正味10秒、戦艦棲艦を殺すという目的の前準備を果たした吹雪はなんの逡巡も無しに魚雷を爆発させる、身体の内側から破裂した戦艦棲艦は水を入れすぎた水風船のように弾け飛び、その中身を撒き散らしながら沈んでいく。

 

 

その勢いのままに吹雪は旗艦(リーダー)の戦艦棲艦に肉薄、僚艦のむごい死に方をすぐそばで見た戦艦棲艦は吹雪に怯えるように半歩後ろに下がる。

 

 

しかしそれで吹雪が攻撃を躊躇うわけがなく、一切の情け容赦無く戦艦棲艦を手甲拳(ナックル)で殴りつけていく、しかも今の吹雪は戦艦棲艦の主砲射程距離外まで接近しているので敵の反撃を受けることがない、敵の立場からすれば厄介なことこの上ない相手である。

 

 

そんな状況で吹雪は戦艦棲艦を殴る、殴る、ひたすらに殴る、前歯が砕け、鼻が折れ、額が割れ、目が潰れる、もはや戦艦棲艦は戦闘が出来る状態ではないが、それでも吹雪は攻撃を止めない。

 

 

「呆気ないわね」

 

 

最後に吹雪がナギナタで戦艦棲艦の首を落とし、敵旗艦(リーダー)を撃沈させる。

 

 

 

たった1体で重巡棲艦3体に戦艦棲艦2体を落とすという異常な結果を、三日月たちは唖然としながら見ていた。

 

 

 

 

もうどれくらいの間戦い続けただろうか、虚像天体(プラネタリウム)に浮かぶ星の光に照らされながら吹雪はもう一人の吹雪に向かってナギナタを振りかざす。

 

 

もう一人の吹雪…裏吹雪は吹雪と全く同じ武器を持って吹雪と相対する、吹雪も裏吹雪も戦闘力は均衡しており、本当に自分自身と戦っているようであった。

 

 

でも、目の前の裏吹雪には何が何でも勝たなくてはいけない、記憶が無くても魂がそれを訴えかける。

 

 

吹雪はナギナタを裏吹雪の腹に向かって横一線に振るが、裏吹雪はそれを紙一重でかわし、裏吹雪がそれの反撃として突きを繰り出す。

 

 

裏吹雪の突き攻撃が吹雪の鳩尾に命中、吹雪は肺の中の空気を全て吐き出し仰向けに倒れる。

 

 

吹雪はすぐさま立ち上がろうと両腕に力を入れるが、それよりも早く裏吹雪が太刀をこちらに向けて振り下ろしていた。

 

 

吹雪は慌ててナギナタを胸の前で構えて防御の態勢を取る、が…

 

 

裏吹雪の攻撃動作は吹雪に命中する一歩手前という所で突然止まった、ビデオを一時停止するかのごとく突然。

 

 

攻撃を止めた裏吹雪は虚像天体(プラネタリウム)の星空を見上げると、何かに納得した様子で口の端を吊り上げて笑い…

 

 

『今日はここまで…ね』

 

 

そう言って、空間に溶けるように消えていった。

 

 

一体何が…と思った吹雪は身体を起こそうとしたが、突然吹雪の意識が遠ざかっていく、電源コードをいきなり抜かれたパソコンのような感覚だった。

 

 

遠ざかる意識の中、吹雪の耳はどこからともなく聞こえてくる声を捉えていた。

 

 

『また会いに行くわね』

 

 

それを最後に、吹雪は意識を手放した。

 

 

 

 

「…うぅ?」

 

 

意識が戻った吹雪が最初に見た光景は見慣れた天井だった、どうやら自分は自室のベッドで寝ていたらしい。

 

 

「…私、確か…」

 

 

吹雪はまだ少しぼーっとする頭で記憶を辿る、たしか出撃中に駆逐棲艦に腕を食われて…

 

 

「…そうだ!腕!」

 

 

吹雪は慌てて自身の右腕を見るが、そこには食われる前と同様ちゃんと腕がついていた。

 

「夢…じゃないよね、流石に」

 

 

吹雪は右腕を撫でながらボソッと呟く、腕を食われる前に出撃していたのは確かだし、それも含めて全て夢…などとは考えられない。

 

 

「あの後みんなが鎮守府まで運んでくれたんだろうけど、その間に何があったんだろう…?」

 

 

吹雪は海馬の奥底から記憶を掘り起こそうとするが、腕を食われて気を失った後のことは何一つ覚えていなかった、唯一覚えている事と言えば…

 

 

「…またあそこだった」

 

 

裏吹雪と戦っていた記憶のみだった。

 

 

「また会いに行くって言ってたけど、本当に何者なんだろう…」

 

 

吹雪は眉間にしわを寄せて腕を組むが、何一つ答えなど出なかった。

 

 

「…そろそろ司令官に相談したほうがいいかもね」

 

 

そう言うと吹雪はベッドから降り、提督室に向かうために自室を出た。




ウォースパイトの英語がめちゃくちゃ流暢で驚きました。


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第90話「雪風の場合9」

塊魂(かたまりだましい)」という玉をころがしてステージ上に配置されたモノを巻き込んで大きくしていくというゲームがあるんですけど、数百メートルになった塊で家やビルを次々と巻き込んでいく爽快感はすごい。


吹雪が提督室に入ると、Deep Sea Fleetのメンバー全員が揃っていた、海原と三日月たちは吹雪の姿を見た途端、とても驚いたような顔で駆け寄ってくる。

 

 

「吹雪さん!もう身体は大丈夫なの!?」

 

 

「心配したんですよ?突然深海棲艦みたいになって…」

 

 

「でも元気そうで良かったわ」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

聞き捨てならないような単語がいくつも聞こえてきたような気がしたので、吹雪は一度全員に黙るように言う。

 

 

「みんな今とんでもないこと言わなかった!?私が深海棲艦になったってどういう事!?」

 

 

「…まさか吹雪さん、あの時の事を覚えていないんですか?」

 

 

 

「吹雪ちゃんひとりで戦艦棲艦2体と重巡棲艦3体を倒したんですよ?」

 

 

「はいぃ!?」

 

 

三日月と大鯨が全く身に覚えのない武勇伝を口にする、ここ最近そんな戦果をあげた覚えは吹雪には無い、もしあるとすれば…

 

 

「それってひょっとして、私が腕を駆逐棲艦に食われた後の事…?」

 

 

「何だ、覚えてるんじゃない」

 

 

マックスの口振りから察するに、吹雪の予想は当たったと考えていいだろう。

 

 

「でも、覚えてるのはそこまでなんだよ、腕持って行かれた後は何も…」

 

 

吹雪が頭を掻きながら苦笑すると、三日月たちが一斉に何かを考えるような顔をした。

 

 

「えーっと…私、あの後どうなったの?みんなの様子だとあまりよくなさそうな感じがするんだけど…」

 

 

吹雪が嫌な汗を流し始めると、Deep Sea Fleetを代表して三日月が前に出る。

 

 

「吹雪さん、そのことですが…」

 

 

 

三日月はその後のことの詳細を吹雪に聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 

「…そんな、私…」

 

 

三日月の説明を受けた吹雪は身を震わせながら絞り出すように言う。

 

 

「し、司令官…私どうすれば…」

 

 

縋るような目で見つめられた海原は息を詰まらせる、ここで吹雪に浸食率の話を伝えるべきか否か、もしここで話してしまえば吹雪に追い討ちをかける結果になってしまうかもしれない、しかし言わずに放っておけばあとで後悔する事態になるかもしれない、そんなジレンマに駆られていた。

 

 

「…吹雪、その事について話がある」

 

 

でも、打ち明けるのなら今打ち明けてしまった方がいい、言うのが後になればなるほど、言う方は言いづらいし、聞く方はショックが大きくなる、これはお互いの為なのだと、そう海原は自分に言い聞かせると、榊原の話を吹雪に聞かせる。

 

 

 

 

「…何ですかこれ…!これじゃ私、本当に深海棲艦じゃないですか!」

 

 

吹雪は海原から受け取った資料をシワが出来るほど強く握り締めると、驚きと悲しみと怒りがごちゃ混ぜになったような感情で言う。

 

 

「司令官は、この事を私に隠してたんですか?」

 

 

吹雪に半ば睨むような視線を向けられ、海原はばつの悪そうな顔をする、内緒にしていた事について言い訳をするつもりは無いし、何か言われるのは覚悟していたが、やはりこうして面と向かって言われるとメンタルがガリガリ削られる。

 

 

「…隠していた事については否定しないし素直に謝る、すまなかった、だが申し開きをさせてもらうなら、内容が内容だったし、下手なタイミングで言うとかえって混乱させてしまうと…」

 

 

「そんな御託はどうでもいいんです!司令官の事信じてたのに、こんな大事な事隠してたなんて…!」

 

 

「待ってくれ吹雪!俺は隠すつもりなんて毛頭無かった、ただタイミングを…!」

 

 

「もういいです!何も聞きたくありません!」

 

 

吹雪は全てを投げ出すように力任せに言うと、そのまま提督室を出て行ってしまった。

 

 

「…吹雪」

 

 

海原は悔やむように唇を噛み締める、三日月たちはただそれを黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

「最低だ…」

 

 

吹雪は自室のベッドに籠もってひたすら自己嫌悪に陥っていた、理由はもちろん提督室での一幕である。

 

 

自室に戻った直後の吹雪は怒りに満ちていた、その怒りの対象は海原でもなければDeep Sea Fleetのメンバーでもない。

 

 

海原の気持ちを分かっていながら、それを無視した自分自身だ。

 

 

海原の気持ちが分からないほど吹雪は馬鹿ではない、海原とはそこそこ付き合いも長いし信頼もしている、現にあの時造船所で榊原から直接話を聞いていたら自分はパニックになっていたかもしれない。

 

 

それなのに、自分は海原に怒りを覚えてしまった、隠しごとをされたと、信頼していた人物に裏切られたと、そんな事を思ってしまった。

 

 

海原の心情を察していながら見当違いの怒りをぶつけてしまった、自分はなんて器の小さい、浅ましい存在なのだろう。

 

 

「…司令官、ごめんなさい…」

 

 

ここにいない海原の事を思いながら、吹雪は涙を流した。

 

 

 

 

「元気出して下さい司令官、吹雪さんだって本気であんな事言わないですよ」

 

 

「だといいんだがなぁ…」

 

 

海原は頬杖を突きながらため息をつく、吹雪を傷つけてしまった事に対する罪悪感で打ちのめされそうになる。

 

 

その時、机の上の電話が鳴った。

 

 

「はい、台場鎮守府提督室」

 

 

『大本営の鹿沼だ』

 

 

「アンタかよ、何の用だ」

 

 

相手は南雲元帥補佐の鹿沼だった、どうせなら可愛い女の子と話したかったなぁ…などと考えながら海原はやる気のなさそうな返事をする。

 

 

『…一応言っておくが俺はお前の上官なんだぞ?』

 

 

「アンタを上官だと思った事なんて一度もねぇよ、それで用件は?」

 

 

海原の変わらない態度に鹿沼は諦めのため息をつき、用件を話す。

 

 

『…秋葉原の歩行者天国に駆逐棲艦が多数出現、アスファルトの路上を自走しながら民間人や街中への攻撃を繰り返している』

 

 

 

「何だと!?」

 

 

耳を疑うような鹿沼の発言に海原は思わず椅子から立ちあがる、三日月たちが驚いてこちらを見るがそれを気にしている余裕はない。

 

 

「駆逐棲艦が陸上を自走ってどういうことだ!?あんな牙の生えたナマコに陸上を移動出来る能力があるってのか!?」

 

 

『牙の生えたナマコってのはどうかと思うが、報告では船体の下部に白い足が生えているらしい、既存の駆逐棲艦の亜種のようなモノだろう』

 

 

鹿沼の説明を聞いた海原は息をのむ、戦艦棲艦や重巡棲艦が陸上に上がれるのは実体験があるので知っているが、まさか駆逐棲艦も自らの足を持って大地に降り立つとは思っても見なかった。

 

 

と、そこで海原の中にある疑問が浮かぶ。

 

 

「…ん?ちょっと待て、秋葉原って海に面してないだろ、その駆逐棲艦はどっから湧いてきやがった?」

 

 

そう、秋葉原のある東京都台東区は海に面していない、海からやってくる深海棲艦が歩行者天国にたどり着くには沿岸部から内陸部に向かって進軍する必要があるのだが、そのような報告は一切されていない。

 

 

『それは今調査中だが、目撃者の証言では突然街に現れたらしいぞ』

 

 

「突然ねぇ…それで俺たちに出撃要請ってワケか?」

 

 

『そんなとこだ、あと要請じゃない、命令だ、とっとと艦隊揃えて秋葉に来い』

 

 

それだけ言うと鹿沼は電話を切った。

 

 

「…なんか大変な事になってきたなぁ」

 

 

そうボヤきつつ、海原は三日月に吹雪を呼ぶように指示する。

 

 

 

 

 

 

東京都の地下には水害対策用の地下水路が現在十数カ所存在する、大雨などにより道路が冠水したり、河川が氾濫するような事態になったときにその水を逃がすための巨大な地下空間だ、その水は他の川や東京湾に放水するためにあちこちに水路が伸びている。

 

 

その水路の中にひとりの人影があった、身長は170cmほどとやや長身だが、膨らんだ胸元を見るに女性だということが分かる。

 

 

その肌は骸骨のように白く、長く伸びるふわっとした髪も肌と同じくらいに白かった、人間ではないのは一目瞭然である。

 

 

「ベアトリス先輩、こちらエリザベート、作戦の定時報告に入ります」

 

 

『了解~、首尾はどう?』

 

 

「とても順調に進んでいます、新型歩兵級(ポーン)の性能もありますが、艦娘が陸上戦で苦戦しているのも大きいです」

 

 

『普段海上でしか戦ってないからね、陸上戦と海上戦は似ているようで実は天と地ほどの差があるし、そのために陸上戦特化型のエリザベートに任せてるワケだから、頑張ってね』

 

 

「はい、ベアトリス先輩の満足するような成果を上げて見せます」

 

 

『可愛くて頼りがいのある後輩を持てて私は幸せだよ、それじゃまた連絡してね』

 

 

「了解です」

 

 

エリザベートは通信機での通話を終えると、それをジャケットのポケットにしまう。

 

 

「さてと、それじゃあ私もそろそろ動くとしましょうか」

 

 

エリザベートはそう言うと大量の新型歩兵級(ポーン)を引き連れて通路を歩く。




次回「秋葉原防衛戦」


エリザベートもイベントボスをモデルにしてます、ヒントは少ないですが、誰だか分かった人はすごいと思います。


ちなみに地下水路は首都圏外郭放水路をイメージしてます、それが段々と規模を広げて…という脳内設定です。


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第91話「雪風の場合10」

筆が乗ったので勢い余って投稿。

UAが30000を突破しました!皆様ありがとうございます!


「吹雪、提督が呼んでるわよ」

 

 

マックスが吹雪を呼びに自室に行くと、吹雪はベッドに潜り込んで丸くなっていた。

 

 

「………」

 

 

行きたくない、そう吹雪は言おうとしたが、そのまま何も答えず狸寝入りを決め込む。

 

 

「…狸寝入りなら通用しないわよ、私が声をかけて掛け布団が約0.5cmずれたのを見逃すと思って?」

 

 

バレテーラ、あっさり見抜かれて吹雪は軽くため息をつく、というかマックスのその無駄に鋭い観察眼は一体何なのだろうか。

 

 

「……今更どの面下げて司令官に会えばいいのよ、私の事を思ってくれてる司令官の気持ちを無視して見当違いの怒りをぶつけた私に…」

 

 

バレているのなら仕方ない、そう思い知らん振りを諦めた吹雪は布団の中からボソボソとした声で答える。

 

 

「そこまで分かってるならやるべき事はひとつよ、提督にそれを伝えて謝れば済む話だわ」

 

 

「それは…そうなんだけど…」

 

 

そんなもの吹雪が一番分かっている、しかしあんなに海原を痛烈に批判してしまった手前、どうにも顔を出しづらい、もし許してくれなかったらどうしよう、そんな不安さえも湧き上がってしまう。

 

 

「提督がその程度であなたを見限るような人ではないのは、あなたが一番理解しているんじゃないかしら?」

 

 

「本当にマックスって人の痛いとこ的確に突いてくるよね」

 

 

唇を尖らせながら吹雪はベッドから起き上がる。

 

 

「痛いと思うのはその事を理解して認めているという事よ、なら提督が怒るとも思えないけど?現に提督は今責任を感じてどうやって吹雪に謝ろうかと三日月たちに相談しているわよ、そんな提督をこのまま放っておくつもり?」

 

 

マックスにトドメをさされ、吹雪は胸の奥が痛むのを感じた、自分の浅ましさのせいで海原の心を苦しめている、それは海原を誰よりも慕っている(自称)吹雪にとっては絶対にしてはならない失態だ。

 

 

「…ねぇ、私が司令官に会うとき、一緒にいて欲しいって言ったら…怒る?」

 

 

吹雪が恐る恐るといった様子でマックスに訊ねると、マックスは怒る様子も無く答えた。

 

 

 

「怒るわけ無いじゃない、ちゃんと吹雪が仲直り出来るまでそばにいるわ」

 

 

マックスのその言葉に後押しされたのか、吹雪はベッドから下りると…

 

 

「提督室に行くよ、司令官に…ちゃんと謝らないと」

 

 

吹雪のその言葉を聞くと、マックスは優しく微笑んで吹雪の手を取って提督室まで導く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁちなみに、私が吹雪を呼びにきたのは提督が出撃作戦の説明をする為なのよ、だから否応なく全員が見守る中で謝ることになるから寂しくないわよ、だから安心しなさい」

 

 

「謀ったなあああぁぁ!!!??」

 

 

ものすごい握力のマックスに手を握られながら、吹雪は提督室にひきずられるように向かっていった。

 

 

 

 

 

「先ほどは申し訳ありませんでした…!」

 

 

提督室に着くなり吹雪は全力で謝罪の気持ちを込めて頭を下げる。

 

 

「司令官の私を思う心情を察していながら、自分の矮小な心に身を任せて司令官の心を苦しめてしまいました、お詫びのしようもありません…」

 

 

自分の思っている感情の全てをさらけ出して海原に謝罪するが、本当は許してもらえなかったらどうしよう、という不安で今にも倒れそうだった。

 

 

どれくらいの時間が経っただろうか、実際はほんの数秒の沈黙だったのだろうが、吹雪にはそれが何分にも感じられた。

 

 

海原はゆっくりとした歩みで吹雪に近づく、依然頭を下げたままの吹雪の視界にも海原の靴のつま先が目に入る、ぶたれるのだろうか、そんな不安が頭をよぎる。

 

 

「顔を上げてくれ」

 

 

その声に従って吹雪は顔を上げる、すると…

 

 

 

「ありがとな」

 

 

顔を上げた瞬間に吹雪は海原に頭を撫でられる、その時吹雪の目に映った海原の顔は、笑っていた。

 

 

「本当は大事なことを隠してた俺が吹雪に謝んなきゃいけないのに、こうやってお前から謝られてるなんて、情けないな…」

 

 

ハハハ…と苦笑する海原を見て、吹雪は自然と涙がこぼれ落ちる。

 

 

「ごめんな…さい、私…司令官の気持ち…分かって…たのに…司令官の心を…苦しめ…て…」

 

 

「いいんだよ、気にすんな、そうやってお前が涙を流してくれるのが、俺は嬉しいぜ」

 

 

海原が嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる吹雪を抱きしめると、吹雪はごめんなさい、と何度も繰り返しながら海原にしがみついて泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((ひょっとしたら私たち、かなりオジャマムシなんじゃ…))

 

 

同じ空間にいる三日月たちがそんな事を感じていたが、今更部屋を出て行くために動く度胸も無いので、なんとか空気になるように頑張っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に海原と仲直りをした吹雪を加えたDeep Sea Fleet全員を前に、海原は今回の作戦内容を説明する。

 

 

「深海棲艦が陸上で自走!?」

 

 

説明を聞いた吹雪たちは驚きのあまり目を見張る。

 

 

「駆逐棲艦が自らの足で陸を歩くなんて、俄には信じがたい事ですが…」

 

 

「でも実際に被害が起きているなら、大本営の頭の腐った妄言ではないと思います」

 

 

思い思いに好き勝手なことを言っているDeep Sea Fleetを見て海原が続ける。

 

 

「今回の作戦場所は秋葉原の歩行者天国、台場鎮守府としては初めての陸上戦になる、ひとつ言っておくが、海上戦と陸上戦は似ているようで天と地ほどの差がある、くれぐれも気をつけて事にあたってくれ」

 

 

海原が念を押して言うと、吹雪たちは不適な笑みをこぼして海原に言う。

 

 

「何を言いますか司令官、Deep Sea Fleetは白兵戦特化型の艦隊です、おまけに陸上戦の訓練も余所の鎮守府に負けないくらい積んでいると自負しています、もちろんそれで慢心するつもりもありませんが、簡単に負けるつもりも毛頭ありません」

 

 

吹雪たちの言葉に海原はフッ…と口の端を吊り上げる、やっぱり俺は部下に恵まれている、改めて海原は思った。

 

 

 

「なら俺から言うことは何もない、Deep Sea Fleet…出撃だ!」

 

 

 

「「了解!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台場鎮守府を発った吹雪たちは徒歩とバスを使って秋葉原へと向かう、電車は秋葉原駅が封鎖されているため使えない。

 

 

「司令官の話じゃ秋葉原駅が防衛戦の本部って事になってるから、そこに行けば色々話が聞けたりするのかな?」

 

 

「そうだと思うわよ、多分大本営の連中がいるだろうから、そいつらとっ捕まえて話聞きましょう」

 

 

吹雪の疑問に暁がそう答えつつ、一行は秋葉原駅に到着する。

 

 

「あの、大本営から出撃命令を受けて馳せ参じた台場鎮守府ですけど…」

 

 

その辺をうろついていた大本営の役員を捕まえて話を聞いてみる、なにやら忙しそうにマットレスを抱えて走っていたが、何をしているのだろうか…?。

 

 

「おぉ、増援の娘たちか!今は人手が足りないからありがたい、向こうに南雲元帥がいるから、説明を受けてきてくれ!」

 

 

そう言って役員はインフォメーションセンターの方を指差すと、またどこかへせわしなく走っていった。

 

 

「…とりあえず行ってみましょうか」

 

 

「そうね」

 

 

今ひとつ状況が飲み込めないまま、吹雪たちは言われたとおりにインフォメーションセンターへと向かう。

 

 

 

 

 

インフォメーションセンターに着いたDeep Sea Fleetは目の前の光景に戦慄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急患の艦娘が通ります!道を空けてください!」

 

 

「艦隊を再編成する!白雪、初霜、川内は粉雪(こなゆき)満月(みちつき)半月(なかつき)囲炉裏(いろり)と入れ替わりで出撃だ!」

 

「急患です!長門、羽黒、(ほむら)が大破!高速修復材を急いで!」

 

 

 

 

 

そこには、大破になった艦娘たちが何十体も痛々しい姿でマットレスに寝かされ、高速修復材や応急手当てで処置を受けている光景が広がっていた。

 

 

 

そこに戦艦や正規空母の姿が多数見受けられる事や、その奥にいる南雲が焦った様子で各所に指示を出している事から、戦況は絶望的に悪いのだという事をDeep Sea Fleetは嫌でも察してしまった。




参考までにJR東日本の秋葉原駅構内図を見てみたんですけど、図で見ると何が何だかさっぱりですね。


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第92話「雪風の場合11」

小破になった戦艦棲姫への砲撃が6回連続でMissになってVitaをぶん投げそうになりました、深海棲艦って小破になると回避率が上がるんでしょうか…

秋葉原にはほとんど行ったことがないので今回の話はGoogleマップの秋葉原駅周辺の地図を見ながら書きました、位置関係とかメチャクチャなところもありますが、その辺は許してください。


「それで、戦況は?」

 

 

「見ての通りだ、慣れない陸上戦で予想以上に被害が大きい、正直窓際鎮守府の艦娘擬きの手でも借りたい状況だ」

 

 

「…状況は把握しました、では私たちはどのように動けばよろしいでしょうか?」

 

 

状況を説明する南雲の言い方は所々シャクに触る部分はあるが、吹雪はそれに対する不満を飲み込んで南雲の指示を仰ぐ。

 

 

「一番被害の大きい歩行者天国付近は戦艦や正規空母が抑えているからまだ保つ、だから台場鎮守府には末端の道に逃げ込んだ残党を始末して欲しい、近隣住民の避難は終えているが、ひょっとしたら逃げ遅れがいるかもしれない、それにも気を配りつつやってくれ」

 

「了解しました、取り急ぎ任務にあたります」

 

吹雪は南雲に敬礼を返すと、三日月たちを引き連れて秋葉原駅を出て行った。

 

 

 

 

 

 

吹雪たちが向かったのは歩行者天国のある中央通りから少し外れた場所にある大きめの通りだ、歩行者天国は主力部隊が中心となって戦闘を行っているが、それを逃れた残党の駆逐棲艦が駅周辺で暴れているらしい。

 

 

「で、今回のターゲットはあの駆逐棲艦…と」

 

 

吹雪は眼前の敵艦を見据える、大きさは海上で見る駆逐棲艦と変わらないが、その船体の下部からは白い足が4本生えている、オタマジャクシとカエルの中間の姿を想像すると分かりやすいだろう、その不気味な四肢を動かしながら歩き回って砲撃を行う様子はまるで戦車のようであった。

 

 

 

駆逐棲艦であればそう苦戦はしないだろうと考え吹雪たちは戦闘を開始した、まずは敵の砲弾をかわしたり叩き落としたりながら肉薄、といきたかったのだが…

 

 

「うわっ!?」

 

 

駆逐棲艦の外れた砲弾がアスファルトや近くに建っていたビルのコンクリをえぐり取り、その破片やら土やら砂塵やらが吹雪たちに降りかかる。

 

 

「主力部隊が押されてたのはこれが原因か…!」

 

 

海上戦と陸上戦の決定的な違いを早くも理解させられるDeep Sea Fleet、海上戦であれば敵の砲弾をかわしても水柱が上がる程度だが、陸上戦ではアスファルトやその下にある地面の土、おまけに建物やその他建造物など、障害になる遮蔽物があまりにも多すぎる。

 

 

そして艦娘が陸上戦をするにあたって最も障害になるものと言えるのが移動方法だ、海上戦では艦娘は常に艤装である水上移動装置を装着して水面を滑るように移動するが、ここは陸上戦なので当然自らの足で歩くなり走るなりして戦う、もちろん力の入れ方や重心の取り方、果てはそれに伴う身体の動かし方などの全てが変わってくる。

 

 

スケート靴を履いたこともない人間がプロアイススケーターのように滑れないのと同じで、訓練も無しに全く戦い方の違う陸上戦闘を艦娘がぶっつけ本番でやっても、普段通りに戦うなど無理なのだ。

 

 

雪花繚乱!(セッカリョウラン)!」

 

 

月華美刃!(ゲッカビジン)

 

 

しかし、Deep Sea Fleetはその不利な状況(ディスアドバンテージ)をものともせずに攻撃を加える、普段から陸上での戦闘訓練を積んでいる吹雪たちにとっては流れ弾の砕いたコンクリなどに気をつければ特に障害は無かったのだ。

 

 

しかし駆逐棲艦は吹雪と三日月の攻撃を食らっても撃沈せず、再び砲撃の用意をするために口を開ける。

 

 

「こいつ…!全体的に強化されてるわよ!攻撃力も防御力も既存の駆逐棲艦の比じゃない!」

 

 

「駆逐棲艦って言うよりは駆逐戦車だねこりゃ、殴って分かったけど装甲も相当上がってるみたいだし…」

 

 

楽に倒せるなどという甘い考えで戦闘を始めた自分達を呪いつつ、どうしたものかと吹雪は頭を悩ませる。

 

 

そうしている間にも駆逐戦車は砲弾の充填(リロード)を終え、口から伸びる砲身から砲弾を発射させようと足に力を入れる。

 

 

「せいやああぁぁぁ!」

 

 

すると、何を血迷ったか大鯨が駆逐戦車に向かって猛ダッシュで近付いていく。

 

 

「大鯨!?」

 

 

一体何を、と吹雪は言おうとしたが、その手に握られているモノを見て彼女の思惑を察する。

 

 

「これでも食らえええええぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 

大鯨はその手に持っているモノ…手榴弾を駆逐戦車の口の中に放り込み、すぐさまライフル銃で駆逐戦車の鼻先を撃ち抜く。

 

 

狙撃された駆逐戦車は一瞬ではあるが攻撃動作が遅れ、砲撃のタイミングがわずかにズレた、そしてそのわずかなズレが駆逐戦車にとっては致命的な遅れだということには気付いていなかった。

 

刹那、耳をつんざくような爆発音とともに、駆逐戦車が内側から爆発する、破裂した手榴弾が駆逐戦車の砲弾に誘爆して大爆発を起こしたのだ。

 

 

「お掃除完了…です♪」

 

 

もはや原型を留めていない駆逐戦車の死骸を前に、大鯨はその場に似合わない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「こちら台場鎮守府、タイムズタワー付近の敵艦を1体撃沈しました」

 

 

『了解した、引き続き任務にあたれ』

 

 

了解、と返事をして吹雪はPitの通話を切る。

 

 

「さてと、それじゃあ駆逐戦車を探しますか」

 

 

「もう少し奥の方がいいんじゃないかしら?」

 

 

「そうだね、じゃあ向こうの方へ行ってみようか」

 

 

吹雪たちは手早く作戦をまとめると、もっと奥の方…首都高速のある方へと向かっていくが…

 

 

 

「主力部隊は真面目に仕事してるのかな…」

 

 

「敵が敵ですからねぇ…」

 

 

移動してからわずか2分で再び敵艦に遭遇、駆逐戦車が新たに2体都営環状線の踏切に現れた。

 

 

 

今回は前衛と後衛に3体ずつの陣形を作って戦闘を行う、海上と違って道路の広さには限りがあるので6体全員が前に出てしまうとお互いが邪魔になってしまうからだ。

 

 

戦闘開始とともに前衛の吹雪、暁、三日月が一斉に砲撃を開始、駆逐戦車には撃たれるとやっかいなので砲撃で怯ませてから近づくようにする。

 

 

ちなみに吹雪の主砲はこの前の戦闘で腕ごと敵艦に食われてしまっているので、深海棲器の拳銃を変わりにしている。

 

 

3体の一斉砲撃を受けた駆逐戦車のAとBは狙い通り怯んで攻撃動作が遅れた、その隙に吹雪たち前衛が一斉に駆逐戦車を攻撃する。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

月女神の宵宴(ルナ・エクスキューション)!」

 

 

舞闘鎌撃(ブトウレンゲキ)暁闇(ギョウアン)!」

 

 

吹雪と暁が駆逐戦車A、三日月が駆逐戦車Bに攻撃を行う、そしてさらに後衛のハチ、マックス、大鯨が主砲や拳銃で砲撃を行って追加でダメージを与える。

 

 

しかしそれでも駆逐戦車を落とす事は出来ず、駆逐戦車のAとBは大破で止まる、駆逐戦車はダメージに似合わない俊敏さで即座に反撃に移った、前足を器用に使って環状線のレールを掴むと、固定金具もろとも枕木から引き剥がし、鉄パイプを構えるヤンキーよろしくなポーズをとる。

 

 

「嫌な予感…!」

 

 

 

吹雪が冷や汗をかいたまさにその時、駆逐戦車がレールをDeep Sea Fleetめがけて振りかぶる。

 

 

「うわあああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「伏せろおおおおおぉぉ!!!!」

 

 

間一髪吹雪たちはかわすことに成功したが、近くにあった踏切の警報機が砕け飛び、脇に捨て置かれた自動車のボンネットがえぐり取られた、あんな一撃を食らえば大怪我では済まない。

 

 

さらに言うとレール連結部のボルトは外れていないため、駆逐戦車が振り回しているレールは10m強の長さになっている、その様は正に鉄の鞭のようであった、駆逐戦車がレールを振るうたびにアスファルトが砕け散っていき、足場が少しずつ悪くなっている。

 

 

「調子に…乗るなああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

砲撃とレール鞭を交互に使う駆逐戦車に激おこぷんぷん丸な暁が棘棍棒(メイス)を構え、攻撃が止んだ一瞬のタイミングで駆逐戦車の懐に突撃していく。

 

 

撃鉄棍(ゲキテツコン)肋骨破砕(ボディクラッシュ)!」

 

 

暁が駆逐戦車Aの横っ腹に棘棍棒(メイス)のフルスイングをお見舞、そのついでに鎌で駆逐戦車Aの左前足を切り落とす。

 

 

「くたばれええええぇぇぇ!!!!!」

 

 

撃沈判定となった駆逐戦車Aの亡骸を踏みつけて暁は跳躍、駆逐戦車Bの脳天に棘棍棒(メイス)の一撃をお見舞いする。

 

 

暁の攻撃で駆逐戦車は共に撃沈、完全に沈黙した。

 

 

「今回キツすぎるわよ…」

 

 

「こんなのがまだ続くって考えただけで気分萎えるわ…」

 

 

吹雪たちは全員ため息をつくと、駆逐戦車の撃沈報告をしてさらに移動を開始する。

 

 

 

 

Deep Sea Fleetが駆逐戦車を倒したのと同時刻、地下水路の中を1体の人型の駆逐棲艦が駆逐戦車を連れて歩いていた。

 

 

その駆逐棲艦は駆逐艦娘ほどの背丈をしており、ベアトリスやエリザベートと同じような白い髪を長く伸ばしている。

 

 

ベアトリスともエリザベートとも違うその駆逐棲艦は、夢遊病の人間のように朦朧とした意識で妄言のような言葉をぶつぶつ呟きながらフラフラと歩いていた。

 

 

『…シれいかン…ウなバらシれイかン…どこデすカ…ドコにいるんでスカ…ドコニ…シレいかン…』

 

 

 

その時、白髪の駆逐棲艦が何かに気付いたように真上を見上げる、何に気付いたのかは分からないが、言葉には出来ない“何か”をその駆逐棲艦は感じていた。

 

 

奇しくもその真上の地上には、吹雪たちDeep Sea Fleetが萎えたテンションで南雲に駆逐戦車の撃破報告を行っていたのであった。

 

 

 

『やレ』

 

 

白髪の駆逐棲艦は、一切のためらいもなく天井への砲撃を駆逐戦車に指示した。




お気づきだと思いますが、駆逐戦車はゲーム中の駆逐棲艦後期型です、でもゲーム中ではHPがちょっと上がって装備を連装砲に換装してる以外に強化された感じがしません。


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第93話「雪風の場合12」

そろそろキャラクター人気投票の第二回をやってみようかとキャラをリストアップしたら、思ったよりキャラ増えてなかった、今は誰が人気なんでしょうか。

そう言えば「雪風の場合11」でpixiv版が100話に到達しました、こっちもそろそろですね。


 

「…ん?」

 

 

Deep Sea Fleetが移動を始めようとした時、吹雪は地面が揺れるのを感じた。

 

 

「ねぇ、今地面揺れなかった?」

 

 

吹雪が三日月たちに問いかけると、他のメンバーも気づいたらしい。

 

 

「そう言えば、微かだけど揺れたわね」

 

 

「地震…でしょうか?」

 

 

「向こうで主力部隊が撃ち合ってるから、その時の衝撃が来てるんじゃない?現に今も断続的に揺れてるし」

 

 

暁の言うとおり、その正体不明の地面の揺れは今も断続的に感じている、しかし主力部隊が戦闘を行っているとはいえ、ここは流石に距離が離れすぎている、それに吹雪はもっと別の違和感を感じていた。

 

 

「でもこの揺れ方、もっと直接足元に来るような、それこそ地面の下から誰かが叩いてるような感じが…」

 

 

吹雪がそこまで言ったとき、“それ”は確かに吹雪の視界に入ってきた、今Deep Sea Fleetがいるアスファルトのあちらこちらに亀裂のようなモノが広がっているのを、それはまるで、氷の張った池の上に人が乗って、それが割れて池に落ちるあの光景のような…

 

 

「っ!!」

 

 

吹雪は全身の血管にドライアイスをぶち込まれたような悪寒に襲われる、もし自分の推測が正しければ、ここにいたら死ぬ。

 

 

「全員ここから離れて!」

 

 

そう叫ぶと同時に吹雪はここじゃないどこかに向かって走り出す。

 

 

「えっ!?ちょっと吹雪さん!どういうこと!?

 

 

あまりに突然の吹雪の行動に暁たちはついていけず、すぐに動けなかった。

 

 

「床が…いや、地面が抜ける!」

 

 

吹雪のその言葉で他の全員もようやく今の状況を理解して顔を青くする、未だに止まない地面の揺れ、そしてどんどん増えていくアスファルトの亀裂、これらの状況から導き出される未来は…ひとつしかない。

 

 

刹那、アスファルトの亀裂がわずかに広がったかと思うと、そこからアスファルトが…地面が崩落していく。

 

 

「「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」」

 

 

そこからはまさに一瞬の出来事だった、穴の大きさは一気に10m程にもなり、誰よりも先に駆け出した吹雪さえも突如地面に開いた穴に飲み込まれて落ちていく。

 

 

これから奈落のそこに落ちていくのだろうか…?そう思った吹雪だったが。

 

 

「ぐごぼにょぇ!!」

 

 

突然全身を叩きつけるような衝撃に襲われ吹雪は昏倒しそうになる、どうやら落下は終わったらしい。

 

 

「痛った…」

 

 

まだチカチカする頭を左右に振って無理やり意識を呼び戻す、周りには三日月たちが同様にうーん…と唸りながら目を回していた。

 

 

「みんな大丈夫?」

 

 

「何とか…」

 

 

「マジで死ぬかと思ったわよ…」

 

「陸の上で轟沈とか笑えないですからね…」

 

 

打撲などは負ったようだが、どうやら全員無事のようだ。

 

 

「んで、ここどこなのよ?」

 

 

暁は妙に埃っぽいコンクリの床から起き上がると辺りを見渡す、上には今自分たちが落ちてきた大穴があり、あそこまでの距離は目測で10mといったところだろう、環状線のレールが落ちずにそのまま残っているのは何だか不思議な光景だった。

 

 

そして今Deep Sea Fleetがいるのは大きな通路のようだ、幅は目測で7~8mくらいだろうか、その通路が果てしない長さで続いている、地下鉄のトンネルを二周りほど大きくしたモノだと考えれば分かりやすいだろう。

 

 

「トンネルみたいだけど、線路がない所を見ると地下鉄ではなさそうね」

 

 

「じゃあ一体…?」

 

 

うーん…とDeep Sea Fleetは頭を悩ませていたが、吹雪が以前海原から聞いた話のことを思い出す。

 

 

 

「そう言えば、首都圏の地下には大雨や河川の氾濫で街が冠水しないように水を逃がすための緊急用水路があるって前に司令官が言ってたよ」

 

 

「てことは、ここはその一部かも…?」

 

 

「その可能性はあるんじゃないかな」

 

 

「確かにその線は濃厚なんじゃないかしら、ここの水路、長い間使ってないみたいだし」

 

 

そう言うと暁は埃を被ってグレーに近くなっている自分の黒タイツを見る。

 

 

「あのぉ…色々考察してる所悪いんですけど、私たちをここに招き入れたであろう招待主(ホスト)さんがこちらを見てますよぉ…?」

 

 

吹雪たちが大鯨の指さす方向を向くと、ベアトリスのような白髪を持つ深海棲艦が、2体の駆逐戦車を従えてこちらを凝視しているのが見えた。

 

 

「そうか、さっきの揺れはこの駆逐戦車が天井を砲撃したから…」

 

 

「でもどうして私たちが上にいるって分かったんでしょうか…?」

 

 

 

それぞれが目の前の駆逐棲艦について色々言い合っている中、三日月がその深海棲艦を見るやいなや、信じられないモノを見たといった様子で身体を震わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪風…?」

 

 

 

その深海棲艦には、かつて室蘭鎮守府で共に過ごした仲間、駆逐艦雪風の“面影”があったのだ。

 

 

 

 

「雪風って、司令官が室蘭にいたときの艦娘の?」

 

 

「はい、あの“面影”…間違いありません」

 

 

そう言って三日月は目の前の“面影”を見る、腿のあたりまで届く長い白髪に鮮血のような赤い目、そしていつも気に入って着ていた黒い薄手のダウンジャケットに紺色のフレアスカート、間違いなく雪風だ。

 

 

「こりゃラッキーだよ、うまくいけば雪風を艦娘に戻せるかもしれないよ?」

 

 

「おまけに同じ室蘭鎮守府にいた三日月がいるならなおのこと話しやすいし」

 

 

「そうですね、やってみます」

 

 

思わぬ所で雪風との再会を果たした三日月は、脇にいる駆逐戦車を刺激しないように恐る恐る近づく。

 

 

『…シれいかン…ウナばらシレいカン…』

 

 

「なんか、司令官の名前を言ってますね」

 

 

「雪風は司令官の事好きでしたから」

 

 

大鯨の疑問に三日月はそう言って答えつつ、少しずつ雪風に近付いていく。

 

 

「…雪風?」

 

 

『…エ?』

 

雪風に声をかけると、雪風はそれに反応するようにこちらを見る。

 

 

「雪風、私…三日月だよ、私のこと、分かる?」

 

 

『ミかづ…キ?』

 

 

雪風が三日月の名前を口にした瞬間、それは起こった。

 

 

『ヴぁ…イギャ…アギュアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!!!!!』

 

 

突然雪風が両手で頭を抱え、何かに苦しむように悶えはじめる。

 

 

「ゆ、雪風!?どうしたの!?」

 

 

見かねた三日月は雪風に駆け寄ろうとするが…

 

 

『来ルなあぁ!!!!』

 

 

雪風の感情に呼応するかのように左右の駆逐戦車が同時に三日月目掛けて砲撃を放つ。

 

 

「ぐああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

コンクリ片と粉塵を撒き散らしながら三日月は後方に勢いよく吹き飛んでいく、落下の時の打撲のダメージが残っているのか、全身に相当な痛みが走る。

 

 

「話し合いが出来るような状態じゃなさそうだね」

 

 

「仕方無いわね、とりあえずあの駆逐戦車を片付けてから雪風とのトークタイムといきましょう、雪風は傷つけないようにしないと」

 

 

時間をかければ会話が可能かもしれないが、それは随伴艦の駆逐戦車が許さないだろう、まずはそれを排除する事が先決だ。

 

 

「駆逐戦車は私たちが片付けます!三日月は引き続き雪風との会話を!」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

まずは吹雪たちが駆逐戦車に向かって突撃する、なるべく強力な一撃を加えて駆逐戦車を後方に後ずさりさせ、雪風と三日月から出来る限り離した。

 

 

ひとり残って雪風と対峙した三日月は深海棲艦としての雪風を見る、髪が白いのは艦娘時代から変わっていないが、その肌は全身が白くなっており、ベアトリスのそれを思わせる。

 

そして雪風の両腕にはいくつものひっかき傷が残っており、それが白い肌に赤いラインとして伸びて異常なほど栄えている、相当強い力で引っかいたのか、傷口は肉が抉れとる程深かった。

 

 

『グギギギギャ…!ヤめロ…!ヤメろ!()()()()()()!』

 

 

ちなみに今の雪風は頭の中の何かを振り払うように必死に壁に頭を打ち付けていた、割れた額から噴き出すように血が流れ落ちているが、お構いなしに頭をすごい力で壁にぶつけている。

 

 

「…雪風」

 

『黙レ!そノ口を閉ジろ!ソレ以上()()()()()()!』

 

 

雪風は怒りに満ちた顔で三日月の方を向く、その顔や前髪は流血でほとんどが赤く染まっていた、目にも大量の血液が流れ込んでいるが、見えているのだろうか…?。

 

 

 

「雪風、一緒に帰ろう?」

 

 

『だあアアァぁまあアアアアアァァぁれええェェェぇ!!!!!!!!!!』

 

 

雪風は怒りに身を任せて顔や頭を掻き毟る、顔には新たなひっかき傷がその赤いラインを伸ばし、白い髪は血に染まった手で掻かれて所々が赤くなっていく。

 

 

『殺す!殺す殺ス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺す殺す殺ス殺す殺す殺す殺す殺ス殺す殺ス殺す!』

 

 

雪風は艤装を展開させると殺意を剥き出しにして三日月に向かっていく。

 

 

 

雪風、今度こそ、あなたを救ってみせる!

 

 

その確固たる決意を胸に秘め、三日月は雪風と刃を交える。




次回「雪風VS三日月」

雪風編書いてると、これって艦これ小説だよな?と思うようなシーンがちょいちょいあります。


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第94話「雪風の場合13」

三日月と雪風の戦闘が始まった、まずは互いが前に飛び出して間合いを詰める。

 

 

その合間に雪風が艤装の主砲から砲弾を打ち出す、その狙いは的確で、こちらの急所を確実に狙ってくるモノであった。

 

 

三日月はそれらを騎兵軍刀(サーベル)で全て真っ二つに切り裂き道を作る、雪風は驚いた顔をして目を剥くが、三日月はそれを無視して騎兵軍刀(サーベル)を構える。

 

 

 

「せいやあぁっ!」

 

 

三日月が雪風の右肩から左腰にかけて袈裟切りを繰り出し、さらに刀をひっくり返して逆袈裟切りを繰り出す。

 

 

『っ!』

 

 

三日月の連撃を受けた雪風は怯むが、峰打ちなので雪風に直接的なダメージは無い、会話する時間を稼ぐためというのが目的だが、あまりダメージを与えて本当に死なれては困るというのも大きい。

 

 

…まぁ、死ななければ喜んで星球鎚矛(モーニングスター)を何度も頭に叩きつけるくらいは平気でやる三日月なので、この状況は雪風にとってはある意味良かったのかもしれないが。

 

『だあああぁぁぁ!』

 

 

その峰打ちを雪風がどう捉えたのかは分からないが、雄叫びを上げながら雪風は砲撃を再開、腕と背中の主砲から砲弾を次々連射していく。

 

 

「うぐぅっ!!」

 

 

騎兵軍刀(サーベル)で何とか捌きながら弾を避けていくが、何発かが三日月に命中、深海棲艦化の影響なのか一発一発の威力が高く、こちらに確実にダメージを与えてくる。

 

 

「雪風!私よ、三日月よ!海原司令官と一緒に室蘭鎮守府で過ごした、三日月よ!」

 

 

『うがあアアアアアああぁァァァァァァァぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!黙れ!!!黙レ!!!!黙れ!黙れ!黙れ!黙レ!黙れ!!!黙れええええエエエえエエエぇぇぇ!!!!!!』

 

 

雪風は一心不乱に頭をガシガシと掻き毟りながら悶え、再び壁に頭を叩きつける、ベチャッ、ベチョッ、と粘っこい水音とともにコンクリの壁に紅い花が描かれていく。

 

 

その様子を見ながら三日月は考える、今の雪風の状態はマックスが深海棲艦だったときと似たようなモノなのだろう、深海棲艦となってしまった自我が前に出ている時に艦娘としての記憶や自我がそれに抵抗して前に出ようとしている、今回はその互いの自我のせめぎ合いが激しいから雪風があんなに心を乱している。

 

 

「これは骨が折れそうね、僚艦の私じゃ、雪風の自我を起こす事は出来ない…か」

 

 

やはり海馬の奥底にいる海原でないと雪風の自我を起こす事は出来ないのだろうか、しかし彼はここにはいない、そんな考えを巡らせていると…

 

 

「三日月!」

 

 

駆逐戦車との戦闘を終えた吹雪が三日月に何かを投げる。

 

「…Pit?」

 

 

それは吹雪のPitだった、画面を見ると通話中と表示される。

 

 

『三日月!俺だ!海原だ!』

 

 

「司令官!?」

 

 

Pitを耳に当てると、そこからは海原の声が聞こえてきた、吹雪が海原のPitに電話を繋いだのだろう。

 

 

『事情は吹雪から聞いている、そのPitを使え!俺が、雪風を起こしてみせる!』

 

 

「…了解です!」

 

 

それだけで全てを察した三日月はハンズフリーをONにして雪風に向ける。

 

『雪風ぇ!俺だ、海原だ!聞こえるかぁ!』

 

 

海原はPit越しに雪風に呼びかける、一見するとカッコイい光景だが、海原側から見れば電話越しに意味不明な事を叫んでいる怪しい男…という絵面なのだからなんともかわいそうな事である。

 

 

『…シレい…カン…?』

 

 

海原の声に反応したのか、雪風は自傷行為を止めると三日月の…彼女の持つPitを見る、すでに額の皮膚は完全に削がれており、白い頭蓋骨が露出していた、そこからとめどなく流れる血液の赤が嫌に栄えていたのは三日月の記憶にこびり付くことになった。

 

 

「司令官、雪風が反応しています!」

 

 

『よし、このままトライだ! 』

 

 

手応えを掴んだ海原は続けて雪風に話しかける。

 

 

『シレ…いか……ん…うぎぃ!』

 

 

雪風は引き続き海原の声に反応する様子を見せ、艦娘の自我を表に出していく、しかしその度に深海棲艦の自我が邪魔をする。

 

 

『あ…ガき…グギぎガ…シレ…イカ…ン…ぐぎぎぃ!』

 

 

雪風は左手で頭を押さえながら右手の人差し指を口に入れると、それを躊躇なく噛み砕く、バリバリと骨の砕ける音が鳴り、雪風の口の端から血が垂れ落ちる。

 

 

フーッ…フーッ…と浅く息を吐くと、多少落ち着きを取り戻したように頭から左手を離す、自傷行為で痛覚などの五感を刺激していないと艦娘の自我を保つのが難しいようだ。

 

 

 

「だいぶ利いてきてますね、あともう一押しといった所でしょうか」

 

 

『よし、なら三日月、今から…』

 

 

海原から伝えられた作戦を聞いた三日月は少し驚いたような顔をしていたが、やがて口の端を吊り上げる。

 

 

「了解しました、司令官もなかなか罪なお人ですね」

 

 

『うっせ、自覚はあるわ』

 

 

互いに軽口を叩き合うと、三日月はPitを持って雪風に向かって突っ込む、雪風はそれに反応できず対応が一瞬遅れる。

 

 

「雪風!」

 

 

三日月はその一瞬を突き、雪風に思い切り抱き付く。

 

 

『グぎゃア!?』

 

 

「雪風、またこうやって会える日を楽しみにしてたのよ?あなたは違うの?」

 

 

『ア…ガぁ…!黙……れ…!』

 

 

雪風は三日月を拒むように引き剥がそうとするが、三日月はそれに抵抗して雪風にしがみつく。

 

 

「…うっ!」

 

 

雪風が三日月の肩に噛み付いた、マックスの時もそうだったが、深海棲艦は抱きつかれると肩に噛み付く習性でもあるのだろうか、服を血に染めながら三日月はそんな事を考える。

 

「さぁ雪風、司令官からのラブコールよ、心して聞きなさい!」

 

 

そう言うと三日月はPitを雪風の耳に押し当てる。

 

 

『…雪風、本当にすまなかった』

 

 

『ガ……!?』

 

 

その瞬間、あれだけ暴れていた雪風がぴたりと大人しくなり、その動きを止めてしまった。

 

 

『俺の作戦のせいでお前たちが轟沈するような事になって、こうして今お前が苦しんでいる、こうなったのも全て俺のせいだ』

 

 

海原は自らの過去を雪風に詫びながら聞かせる、雪風は何も言わなかったが、その顔を微かに左右に動かしていたのを三日月は確かに感じた。

 

 

『今更こんなこと言うのも虫がよすぎるかもしれないけど、俺にはどうしてもお前が必要なんだよ』

 

女たらしのような台詞だという自覚を持ちつつ海原は続ける、途中雪風の身体が微かに震えているのに三日月が気づいた、抱きつくような体勢なので顔は分からないが、おそらく泣いているのだろう。

 

 

『だから雪風、帰ってきてくれ、そして、また俺の部下に…仲間に…家族になってくれ』

 

 

真剣そのものな声色で海原はPitの向こうにいる雪風に語りかける、自分のせいで雪風が轟沈した事を彼女自身がどう感じているのかは分からない、でも、雪風には帰ってきてほしい、その一心で雪風に訴えかけた。

 

 

話を聞き終えた雪風は三日月からそっと離れると、彼女の手に握られていたPitを受け取り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ありがとうございます司令官、この雪風、いつまでも司令官のお側におります」

 

 

目尻に涙を溜めながら言った雪風の言葉は、海原の耳にもしっかりと届いていた。




次回「バトル・エアフィールド」

雪風の艦娘化(ドロップ)に成功しましたが、雪風編はここからが本番です。

ちなみに次回予告のタイトルはテキトーなのでその通りになるとは限りません、あまり期待しないでください。


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第95話「雪風の場合14」

期間限定グラフィックで吹雪のハッピ姿が追加されたみたいですね、かわいいっす。


艦娘に戻った雪風は今、三日月に膝枕をされながら静かに眠っている、深海棲艦だったときに行った自傷行為の後は残っていなかったが、変わりに混血艦(ハーフ)の特徴とも言える深海痕が残っていた、場所は下半身ほぼ全域、腰から下はほとんどまっ黒になっていたが、何故か左足の膝から下は無事だった。

 

 

「雪風を艦娘に戻せたのはいいんだけど、ここからどうやって出るかを考えないといけませんね」

 

 

雪風の容態を見ながら三日月は言う、残った問題はここからの脱出…地上に戻る事であった、落ちてきた穴から出るのは天井が高すぎるので無理、しかし地上の水を逃がす水路である以上は出入り口のようなモノがどこかにあるはずなのだ。

 

 

「出口を探すにしても、どっちにいけばいいかも分からないし、これは下手に動くと危険かもしれませんねぇ」

 

 

「でもここでじっとしてても助けが来る可能性は薄いよね、何かしらのアクションを起こす必要はあると思うな」

 

 

大鯨もハチも口々に言うが、やはり意見は割れている。

 

 

「あ、雪風が目を覚ましました!」

 

 

三日月の言葉に全員が雪風を見る。

 

 

「…うぅ?」

 

 

雪風がゆっくりとまぶたを開ける、その真紅の目が三日月を捉えると…

 

 

「っ!?三日月…!?」

 

 

勢いよく起き上がり、三日月の顔に自分の顔を思い切りぶつけた。

 

 

「…えーと、大丈夫?」

吹雪は心配そうに声をかけるが、2体は顔を押さえて悶絶している事しか出来なかった。

 

 

 

 

「陽炎型駆逐艦8番艦の雪風といいます、このたびは助けていただき、本当にありがとうございました」

 

 

お互いの顔のダメージが回復した頃、雪風が全員の前で挨拶をした。

 

 

「どういたしまして、吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪だよ、これからよろしく」

 

 

「はい!」

 

 

その後、他のメンバーとの自己紹介を済ませると、雪風は今の自分の現状や台場鎮守府の事などを吹雪たちから聞かされる。

 

 

「…つまり、今の私は深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)になっていて、三日月たちはその秘密を探すために同じ深海棲艦になってしまった艦娘を助けながら情報を集めて調査をしている…と」

 

 

「大ざっぱに言うとそんな感じかな、というか混血艦(ハーフ)って事実を簡単に受け入れすぎだと思うけど」

 

 

「まぁ…この足を見れば嫌でも受け入れなきゃいけないですし、それで悲観していても何も変わらないので」

 

 

そういう雪風を見て、吹雪はしっかりしてるなぁ…という印象を持つ、雪風が前にいた室蘭が元ブラックだったのも影響しているんだろうか。

 

 

「それじゃ雪風、ここで提案なんだけど、あなたが良ければ台場鎮守府に…」

 

 

「もちろん入ります!」

 

 

吹雪がその話しを持ちかけると、雪風は身を乗り出して吹雪の申し出を即答で受ける。

 

「私がもう一度司令官のお役に立てるんであれば、これほど嬉しい事はありません、是非台場鎮守府にいれてください!」

 

 

「う、うん、分かった」

 

 

(多分この子、司令官の事好きなんだな…)

 

 

一瞬で察した吹雪だった。

 

 

 

 

「…三日月、本当にこれ使うの?」

 

 

「もちろん、雪風の主砲は旧式だから砲撃戦ではあまり活躍出来ないし、副兵装(サブウェポン)としては上物よ?」

 

 

雪風は三日月から借りた深海棲器の騎兵軍刀(サーベル)を見ながら半信半疑で問う、雪風は轟沈時に魚雷を失っており、持っている兵装は旧式の単装砲のみだ。

 

 

流石に心許なさすぎるということで三日月が深海棲器を雪風に貸したのだが、当の雪風はめちゃくちゃ不安そうである。

 

 

「大丈夫だよ、今回の雪風は非戦闘員(ゲスト)だから戦う必要もないし、何かあったら私たちが守るから、それは護身用と思っておけばいいよ」

 

 

「いえ、その護身用の使い方がイマイチ分からないんですが…」

 

 

「まぁ、今はレクチャーするような余裕もないし、本当に気休め程度に持っといて」

 

 

「不安だ…」

 

 

雪風は騎兵軍刀(サーベル)の鞘を強く握りながら水路を歩く、ちなみに現在Deep Sea Fleet+雪風は地上への出入り口を探すために水路を歩いていた、埋め込み式の明かりなどはあるので真っ暗というわけではなかったが、やはり足下に不安が残る。

 

 

「それにしても何も見えてこないね、本当に出口とかあるの?」

 

 

すでに30分以上歩いているが、出入り口の明かりなどは見えてこない。

 

 

「あるはずだよ、入り口なら排水口みたいな所に出るはずだし、出口なら川なり海なりに出るはず」

 

 

「…ねぇ、ちょっと待って」

 

 

吹雪がそう言うと、ハチが突然真面目な口調で話を切り出す。

 

 

「ひょっとして駆逐戦車たちの進入経路って、この水路じゃないの?」

 

 

「…へ?」

 

 

それを聞いた吹雪たちは一斉に足を止める。

 

 

「そもそもおかしいじゃない、元々地上から湧くように現れたって言われてる駆逐戦車がどうしてこんな地下水路にいるの?それにあんな目立つ駆逐戦車を内陸のアキバに運ぶとすれば手段が限られるわ、海から陸に上がろうとすれば途中で確実に見つかる、かと言って空母棲艦を使って空から運ぶにしても目立ってしまう、つまり誰の目にも付かずにあの駆逐戦車を運ぶには…」

 

 

「…地下水路を使って海から直接駆逐戦車を進軍させる…?」

 

 

「つまりこの水路全体が、敵の本拠地…?」

 

 

そこまで考えた時、吹雪たちは得体の知れない悪寒に襲われ鳥肌が立つ、ハチの推測が正しければ、これからいつ駆逐戦車に遭遇しても不思議じゃない、明るい地上ならともかく、こんな暗い、しかもスペースが限られる地下で戦うなど無理だ。

 

 

「…ここからは、あまり音を立てないで静かに歩いていこう」

 

 

そうなっては全滅は必至だ、ここは何としても無事に地上に出なければならない、ここからは静かに移動する作戦で行こうとしたが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこにいるのは誰?何者なの?」

 

 

暗闇の中から聞こえてきた声によってそれは計画倒れに終わった。

 

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

吹雪たちは慌てて声のする方を向くと、闇の中からひとりの人影が這い出るように現れた。

 

 

よく見るとその人影は女性だということが分かった、緩くウェーブのかかった長い髪は雪風のような白髪で、それが膝の辺りまで伸びている、黒のライダージャケットに青と黒のチェック柄のスリムジーンズを身に纏っており、パンクファッションの一歩手前…といった感じの奇抜な出で立ちである。

 

 

ライダージャケットからはふくよかなバストが激しい自己主張をしており、たいへんけしからん状態だ、恐らく上半身はライダージャケット以外何も着ていないだろう。

 

 

そして、ジャケットの袖口から見える白い手がその女性の正体を何よりも分かりやすく表している。

 

 

「ベアトリスと同じ言葉を話す深海棲艦、つまり…」

 

「“姫”級…!」

 

目の前の“姫”に吹雪たちは戦慄する、先日の緊急会議で新たに制定された艦種…“姫”、圧倒的な能力を持ち、なおかつ人語を使い配下の深海棲艦を統率する知性を持つ、既存の深海棲艦の上位に位置すると言われている特別な艦種だ。

 

 

(ヤバい…!これはとてもヤバい!)

 

 

吹雪は冷や汗をダラダラ流してこの後の展開を考える、もし目の前の“姫”がベアトリスと同等の、もしくはそれ以上の能力だとすれば、Deep Sea Fleetに勝ち目はない、こいつとは戦ってはならない、戦闘を避けて全力で逃げなければ、ここで全員死ぬ。

 

 

吹雪が他のメンバーの方を見ると、全員が吹雪と同じ事を考えていたようで、“逃げよう”という意志がアイコンタクトで伝わる、なら取るべき行動はひとつだろう。

 

 

「総員回れ右!逃げろおおおおぉぉ!!!!」

 

 

吹雪の合図でDeep Sea Fleetはクルリと180度ターンをして、“姫”からの逃走を図る、そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日月が飛んだ、比喩でも何でもなく、そのまま前方へ飛んでいった。

 

 

「…えっ?」

 

吹雪は何が起きたのか分からずに目を白黒させていた、Deep Sea Fleetと“姫”の間には数mの距離があったはずだ、そして“姫”は艤装のようなモノをなにひとつ身に付けていなかった、つまり…

 

 

「もう一度聞くわ、あなたたちは……何者?」

 

 

 

吹雪が振り向いた先には、柄と鉄球の部分が紐で繋がれた、けん玉のようなタイプの星球鎚矛(モーニングスター)を持った“姫”が最後通告を口にしていた。

 

 




次回「台場艦隊VSエリザベート」

エリザベートの服装は自分の妄想で決めました、画像だと白いボディスーツみたいな格好してましたけど、正直裸にしか見えません。


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第96話「雪風の場合15」

「提督」の英語発音をずっと「アドミラル」だと思ってたんですけど、ウォースパイトの台詞をよく聞くと「アドマイラル」って聞こえるんですよね、ずっと勘違いしていたのか…。

そう言えばウォースパイトの声優さんがTwitterで公開されてましたけど、声が可愛くて個人的に好きです。


“姫”の持つけん玉に吹雪は目を剥く、今まで戦ってきた深海棲艦に近接兵装を持つ個体はいなかった、しかしこの“姫”は今までの深海棲艦とは違う、けん玉を見た瞬間それを理解した。

 

 

「とりあえずあなたの質問には答えた方が良さそうね、私は吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪、艦娘よ」

 

 

「へぇ、あなたが艦娘?ベアトリス先輩が言ってたより随分おぼこいのね」

 

 

「多分ベアトリスが言ってるのは戦艦の艦娘だと思うわよ、私は駆逐艦だからちゃっちいけど」

 

 

吹雪は金剛などの戦艦娘を想像しながら言う、出来れば自分も戦艦になりたかったが、吹雪の素体がコレなのだから仕方ない。

 

 

「なら私も名乗らないとね、私はエリザベート、ベアトリス先輩たちの中では唯一の陸戦特化型よ」

 

そう言って“姫”…エリザベートはフフン♪と鼻を鳴らしてけん玉を構える。

 

 

「…出来ることならこのまま見逃してほしいんだけど」

 

 

「残念だけどそれは出来ない相談ね、艦娘と分かればあなたたちは私の敵、生きて帰れると思わない…で!」

 

 

言い終わるか言い終わらないかというタイミングでエリザベートが再びけん玉を振るう、バランスボールほどもある鉄球が猛スピードで吹雪目掛けて飛んできた。

 

「うひゃあ!」

 

 

間一髪のタイミングで吹雪たちはそれをかわす、あの質量があの速度でぶつかってきたら致命傷は必至だろう、しかし威力絶大なけん玉にも弱点はある。

 

 

「もらったァ!」

 

それは、けん玉の鉄球を飛ばしている間はエリザベート側が無防備になるという点だ、いくら威力が高くてもかわして懐に潜り込んでしまえば脅威ではない、エリザベートに肉薄して手甲拳(ナックル)を構えた吹雪は自分の攻撃が当たると確信していた。

 

 

「残念、読みが甘いわよ」

 

 

しかし、その吹雪の確信はエリザベートがけん玉を持っていない左手に構えられた主砲によって砕かれる。

 

 

「がああぁっ!!!!!」

 

 

零距離から砲撃を受けた吹雪が勢いよく後方へ吹き飛んだ。

 

 

「自分が得意としている武器はその弱点を知り尽くした上でバトルスタイルを組み立てて副兵装(サブウェポン)を選ぶの、それでこそ使い手と呼べるのよ、私がそれを理解していないとでもおもった?」

 

 

エリザベートはまだ硝煙の上がっている主砲の砲口をぺろりと舐めながら得意げに語る、相手がそれほどの馬鹿であって欲しいと思っていた吹雪だが、そう甘くはなかった。

 

 

次にマックスと暁がエリザベートに向けて砲撃を行ったが、エリザベートはなれた動作でそれをかわしてしまう、行き場を失った砲弾は水路の壁に命中し、外壁がガラガラと崩れる。

 

「やば…!」

 

 

「砲撃は行わない方がいいかもしれないわね、下手に撃ちまくるとかえって自分の首を絞めかねないわ」

 

 

砲撃が不利だと考えたDeep Sea Fleetはそれぞれ得物を構えて白兵戦へと移行する。

 

 

迫り来る鉄球をかわしつつ、マックスが戦鎚(ウォーハンマー)でエリザベートの腹を狙う。

 

 

「甘い!」

 

 

しかし、それはエリザベートの手に向かって戻ってくる鉄球の一撃によって阻止された、突然背中にぶち当たる質量にマックスはくの字になる。

 

 

「かっ…はあっ…!」

 

 

鉄球をモロに食らったマックスは背骨の折れる音を聞きながらエリザベートの後方へ転がっていく、艤装の加護があるにも関わらず背骨を折る大怪我を負ってしまったマックス、これを生身で食らえば間違いなくミンチになるだろう。

 

 

エリザベートが鉄球を再びDeep Sea Fleetに向けて飛ばしてくる、次は吹雪が前に飛び出す。

 

 

「だりゃあああぁぁぁ!!!!!」

 

 

吹雪は迫ってくる鉄球に手甲拳(ナックル)を打ちつける、鋭い金属音と共に凄まじい衝撃が右手に走った。

 

 

「うぐっ…!」

 

「へぇ、なかなかやるじゃない」

 

 

エリザベートはニヤリと笑うと、けん玉を左手に持ち替え、空いた右手に大振りの太刀を持つ。

 

 

「太刀…!?」

 

「中距離系統しか使えないと思ってたら大間違いよ」

 

 

エリザベートが右足を一歩大きく踏み出して太刀を一閃、吹雪の腹を掠める、直撃こそしなかったが、着ていた服がすっぱりと斬れていた。

 

 

(こいつ、間違いなくやばい!)

 

 

マックスを負傷させた鉄球の威力といい、吹雪の服を裂いた太刀の威力といい、こちらの艤装の加護をほぼ無視で大ダメージを与えてくるエリザベートは相当の手練れだということが分かった。

 

 

エリザベートが鉄球を手元まで戻すと、再びそれを飛ばす、エリザベートに一矢報いるにはあのけん玉をどうにかしないと話にならない。

 

 

暁が棘棍棒(メイス)で鉄球を止める、反動で1mほど後ろにずり下がるが、得物が頑丈なおかげで目立った負傷は負わずに済んだ。

 

 

それをエリザベートが戻す前に吹雪がナギナタでエリザベートに切りかかるが、太刀でそれを止めてしまう。

 

 

「死ねぇ!」

 

 

さらに三日月が槍斧(ハルバード)をエリザベートに向けて振り下ろす、いくら武器の幅が広くても、このような数の暴力には勝てないだろう、Deep Sea Fleetはそう踏んでいた。

 

 

「…えっ?」

 

 

しかし、三日月が感じたのは骨肉を裂く感覚ではなく、何か硬いものに刃物を打ち付けるようなモノであった。

 

 

「だから、あなたたちは甘いのよ」

 

 

そういうエリザベートの両腕には、腕全体を覆うほどの大きさをした鋼鉄のアームカバーが付けられていた。

 

 

「盾…!?」

 

 

予想外の出来事にその場にいた全員が驚愕する。

 

アームカバーは腕の上部を覆うような作りになっており、大きな一枚板を腕に付けるような光景を想像すると分かりやすいだろう、そのアームカバーには所々に白いラインが入れられており、どこか空港の滑走路を思わせる見た目だった。

 

 

「ぐああぁっ!」

 

 

膠着(こうちゃく)状態になった三日月を突然横殴りの衝撃が襲う、そのまま吹き飛ばされた三日月はコンクリの地面をツーバウンドする。

 

 

一体何が、と吹雪がエリザベートの後方を見る。

 

 

「…黒い、牡丹雪?」

 

 

そこにあったのは、以前ベアトリスが使用したトンデモ性能の艦載機…牡丹雪だった、しかし牡丹雪とはカラーリングが異なっており、機体全体が黒く塗装されている、ライトのような目も赤から淡い緑色になっていた、それが10機ほどエリザベートの後ろに浮かんでいる。

 

 

「『影夜叉(かげやしゃ)』、夜目の利かない牡丹雪の次世代機として作られた半自立型空襲機(サテライト)よ」

 

 

(夜戦特化型…!?)

 

 

吹雪は冷や汗をダラダラと流す、そもそも空母艦娘は夜戦では戦闘に参加できない、艦載機の発艦自体は出来るのだが、艦載機は夜目が利かないので狙いが定まらず味方誤射(フレンドリーファイア)の確率が跳ね上がってしまう、そのため空母艦娘は特別な理由が無い限りは夜戦に参加しないという風潮があるのだ。

 

 

それは空母棲艦の艦載機も同じだと思われてきたが、目の前の艦載機…影夜叉がそれを克服しているのだとしたら、今の状況は圧倒的に不利だ、ただでさえ暗い水路内で視界不良なのに、影夜叉がそれを無視して行動できるなら全滅は必至である。

 

 

「さぁ、楽しい夜会の続きをしましょうか」

 

 

まるで確実に仕留められる豚をなぶる狩人のような調子で、エリザベートは不敵な笑みを浮かべるのだった。




次回「リコリス」

影夜叉は以前ヲ級がタコヤキ艦載機の緑色バージョンを発艦させている画像を見つけたので、そこから来てます、タコヤキの上位互換なんでしょうか…?

てか今のヲ級ってあんなの出すんですね。


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第97話「雪風の場合16」

この前pixivで三日月がオルフェンズのメイス振りかざしてるイラスト見つけました、うちの狂犬三日月のまさにそれでした。


 

 

 

勝ち目がない

 

 

 

 

 

 

エリザベートを前に吹雪たちが抱いた感想が満場一致でそれだった、高い白兵戦能力に砲撃能力、おまけに夜戦特化型の艦載機である影夜叉、どれを取っても隙がない。

 

 

しかしそれでも戦うしかない、ここにいるのはDeep Sea Fleetの6体(とおまけの雪風)だけなのだ、逃げ道はないし逃げることも許されない、負け戦になると分かっていても戦わなければならない。

 

 

(先手必勝!)

 

 

 

大鯨がライフル銃を撃ってエリザベートを狙い撃ちするが、腕を覆う鋼鉄の滑走路によって防がれてしまう。

 

 

「私の兵装…『リコリス』の防御力は一級品なのよ、下手な攻撃が通るとは思わない事ね」

 

 

エリザベートがそう言うと、けん玉を横一線に振って鉄球を横なぎに飛ばす、速度が速かったせいで避けることが出来ず、巻き込まれた暁が壁に叩きつけられる

 

 

「げほっ…!ごぼぉっ!」

 

 

鉄球を真正面から受けた暁が胸に手を押さえて喀血(かっけつ)し、コンクリの地面に赤い水溜まりを作る、すると胸の辺りに妙な違和感を覚えたので首を下げて確認する。

 

 

「っ!?」

 

 

 

すると、折れた肋骨が胸の皮膚を突き破って鳩尾の辺りから飛び出していた、生で見る自分の骨は不気味なほど白く、所々血に濡れていた。

 

 

「…っ…ぉぇ…!」

 

 

自分のとんでもない姿に暁は一気に吐き気に襲われ、胃の中身が食道を逆流するのを感じる、なんとか抑えようと手を口に押し当てるが、堪えきれずに消化中の食べ物と胃酸を吐き出す、指の間から胃の中身がこぼれ落ちて血だまりと混ざり変な色になる。

 

 

(…心臓に刺さらなかっただけマシな方ね、飛び出た骨は…抜かない方がいいか、抜いたら噴き出しそうだし…)

 

 

アドレナリン全開なおかげで動けないこともないが、何分痛覚が脳に痛みをひっきりなしに訴えかけているので思うように動けない。

 

 

 

「暁…!?それ…!」

 

 

「ごめん、悪いけどしばらく動けそうにない」

 

 

嘔吐物塗れの手を乱暴に服の裾で拭くと、鎌を出して自分のすぐ側に置く、最低限の自衛を行えるようにするためだ。

 

 

残ったメンバーもそれぞれ応戦するが、エリザベートには思うようにダメージが入っていない、むしろ台場側がジリ貧で押されている。

 

 

「わわっ!?」

 

 

エリザベートの放った鉄球と砲撃が天井に命中し、コンクリの破片があちこちに落下してくる。

 

 

「こんなのも武器にするなんて…このままじゃ本当に全滅する…!」

 

 

暁は動けないなりになんとか打開策を考えようと頭を巡らせる、するとすぐに好機が巡ってきた。

 

 

「あれは…!」

 

 

そこには吹雪と三日月とハチがエリザベートと鍔迫り合いになっている、しかも右手は太刀で吹雪を押さえ、左手では三日月の斧をリコリスで防いでいる、鉄球を出せる余裕は無いはずだ。

 

 

「…チャンス」

 

 

暁はなるべく音を立てずに、息を殺して立ち上がる、力を入れる度に血が流れ出して服を赤く染めていくが、今はそんな事どうでもいい、戦えるのであればどんな状態だろうと構わない。

 

 

「あんたの首を元帥(クズ)の前に差し出したらさぞ喜ぶでしょうね、それとも手足の指を一本ずつ切り落として“殺して下さい”って泣きすがる様子を見て楽しむ解体ショーでも開こうかしら」

 

 

今までにないくらい狂気的な、愉しそうな笑みを浮かべて鎌を構える、アドレナリン全開の今の暁は目の前のエリザベートをどう酷たらしく殺して悦に浸ろうか…ということしか考えていなかった。

 

 

「…死ね」

 

 

暁は大量の血を滴らせながらエリザベートに向かって飛び出す、今の彼女は両手が塞がっている、反撃なんて出来はしない、暁はその首を確実に落とせると確信していた。

 

 

だからこそ暁は気づくことが出来なかった、先程から暁の周りを監視するように浮遊する影夜叉の存在に…

 

 

 

「うわあっ!」

 

 

「きゃああっ!」

 

 

鍔迫り合いになっていた吹雪たちが突然後方に吹き飛ばされた、影夜叉が吹雪たちの身体を突き飛ばしたのだ。

 

 

「本当にあなたたちは学習しないわね」

 

 

鍔迫り合い状態から解放されたエリザベートは気怠げに言うと、今まさに自分の首を落とそうと跳躍しながら飛びかかってくる暁の方を向く。

 

 

「なっ…!?」

 

 

暁は目を剥いた、なぜ奇襲がバレてしまったのだろうか、エリザベートは吹雪たちに付きっ切りだったはずだし、エリザベートがこちらを見ていた様子も無い。

 

 

「言ったでしょ?夜目が利く半自立型空襲機(サテライト)だって」

 

 

そう言ってエリザベートは側を飛んでいた影夜叉を指で優しく撫でる、そこで暁は気付いた、今までの自分の隠密行動は、影夜叉の目によってとうにバレていたのだということに。

 

 

「こんのクソ尼がああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

どこまでもこちらの打つ手をへし折ってくるエリザベートと、影夜叉の事を忘れていた自分自身、両方への怒りでおおよそレディとは程遠い暴言を吐き捨てる暁、エリザベートはそんな暁には毛ほどの興味も持たず、無慈悲に主砲を向ける。

 

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

零距離からの砲撃を受けた暁はそのまま真上に吹き飛ばされて天井に叩きつけられる、ちょうどそこはエリザベートが鉄球と砲撃で天井を崩した場所で表面がデコボコしており、背中へのダメージを余計に増やすことになった。

 

 

(なんとか受け身を取らないと…!)

 

 

暁は鎌を手放して落下に備えようとしたが…

 

 

 

「…へ」

 

 

エリザベートが追撃のために放った鉄球が目と鼻の先に迫るのを見て、暁は思考が止まった。

 

 

刹那、凄まじい衝撃とともに薄くなったコンクリの天井とその上のアスファルトを突き破り、暁は地上へと放り出された。

 

 

 

 

「よし!こっちの駆逐棲艦は片付いたわ!」

 

 

「周囲に敵艦の反応は…無いな」

 

 

一方こちらは秋葉原の歩行者天国、新型駆逐棲艦の臨時掃討艦隊で同じ第2艦隊に組み込まれた摩耶と瑞鶴が周辺の駆逐戦車を倒したことを確認する、すでに摩耶は中破寸前のダメージを負っているが、まだ戦える。

 

 

「じゃあ他のエリアの援護に回った方が良さそうね」

 

 

「そうだな、みんな!移動するぞ!」

 

 

第2艦隊の旗艦(リーダー)を任されていた摩耶が他の艦娘に指示を出す、そして摩耶たちが移動しようとしたまさにそのとき…

 

 

「っ!?」

 

 

「何だ!?」

 

 

 

歩行者天国のアスファルトが爆発するように弾け飛び、地中からヒモに繋がれた鉄球と誰かの人影が飛び出した、人影はそのまま地面に投げ出され、うつ伏せの状態でぐったりしている。

 

 

「あ、暁!?」

 

 

「どうしたのその身体!?」

 

 

摩耶と瑞鶴はそれが暁だということにすぐに気付いた、2体が慌てて暁に駆け寄ると、他の艦娘たちも何だ何だと近付いてくる。

 

 

「あぁ…!げぼぉっ…!」

 

 

暁はすでに瀕死の重傷を負っていた、地上に飛び出す直前に鉄球と天井に板挟みになった衝撃であちこちの骨は砕け、内臓のいくつかも破裂してしまっていた、先程身体から飛び出ていた肋骨は身体の中に押し戻され、今度は背中から突き出ている。

 

 

大量の血を吐き出しながら咳き込む暁に瑞鶴たちは大丈夫かと声をかけるが、暁はそれどころではなかった、ズタズタになった内臓器官は神経をパンクさせるほどの痛み信号を脳に送り続けており、暁の意識は痛みと苦しみに支配されていた。

 

 

「っ!!」

 

 

その時、エリザベートが鉄球を引き戻そうとしているのか、アスファルトに空いた穴に向かって鉄球が戻っていくのを暁は見た。

 

 

(ダメ!)

 

 

その瞬間暁は痛みも何も全て無視して鉄球のヒモを掴む、まだだ、まだ死んでいない、死んでいないなら戦わなければいけない、自分がこんな所で戦線離脱など許されない、あそこには台場艦隊しかいないのだから、戻らなければ、自分たちが戦わなければ…!

 

 

その一心で暁は紐を掴み、アスファルトの上をズリズリと引きずられていく、しかしその途中でそれが止まった。

 

 

「事情はわかんねーけど、暁が必死になってしがみついてるコレの先には、敵がいるって事でいいんだよな?」

 

 

紐を掴んで動きを止めた摩耶がそう言ってニッと笑う、それを見た暁はハタと気づく。

 

 

 

 

 

 

なんだ、いるじゃないか、自分たち以外に戦える者たちが、今ここに。

 

 

 

 

 

「…えぇ、今回のアキバ襲撃の主謀者と直通よ、だから…助けて……力を………貸して……………」

 

 

暁は血を吐きながら言う、すでに出血多量で意識も朦朧としていているが、暁は確かに摩耶に助けてと言うことが出来た。

 

 

「…おう!任せろ!」

 

 

暁の言葉を聞いた摩耶は紐を掴んで立ち上がると、高らかに宣言した。

 

 

「動けるヤツらはこの紐をありったけの力で引いてくれ!今回のアキバ襲撃の主謀者が釣れるぞ!」

 

 

それを聞いた他の艦娘たちはこぞって鉄球や紐を掴み、綱引きのような光景になる。

 

 

「瑞鶴は暁を駅の救護所へ頼む!暁!よく頑張ったな!後はアタシたちに任せろ!」

 

 

「了解!気をつけてね摩耶!」

 

 

「…お願い…ね…」

 

 

瑞鶴は暁を抱えて大急ぎで走り出し、暁は安心したのか気を失ってしまった。

 

 

「それじゃあいくぜ!せーの…引けえええええぇぇ!!!!!!!」

 

 

 

摩耶たちが思いっきり紐を引っ張ると、それに釣られて地下にいたエリザベートが地上に引きずり出された。

 

 

 

「さぁて、ようやく顔を拝めたな、黒幕サンよ」

 

 

総勢18体にも及ぶ掃討艦隊の前に引きずり出されたエリザベートは、ただ冷や汗を流すことしか出来なかった。




次回「飛行場姫」

トンデモ展開かもしれませんが、一応こういう内容でストーリーを考えてました。


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第98話「雪風の場合17」

雪風編終了です、次はどんな艦娘が出てくるでしょうか。


「…確かこういうのを形勢逆転って言うのよね、逆転されてるのは私の方だけど…」

 

 

そんなことを言いながらエリザベートは顔をひきつらせる、そりゃいきなり3艦隊分の艦娘の前に出されたら焦りもするだろう。

 

 

「こうなったら、先手必勝!」

 

 

エリザベートが鉄球を素早く戻すと、それを摩耶たちに向けて飛ばす。

 

 

「おわぁ!?」

 

 

「何じゃありゃ!?」

 

 

エリザベートの白兵戦に摩耶たちは目を丸くする、暁はこんなの相手にあんなボロボロになるまで戦っていたのだ、摩耶は自然と拳を強く握っていた。

 

 

紅葉(くれは)型は敵の攪乱!嬌鶴(きょうかく)さんは艦載機の用意をお願いします!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「かしこまり~!」

 

 

摩耶の指示に従い、紅葉型駆逐艦1番艦『紅葉』、2番艦『音葉(おとは)』、3番艦『琴葉(ことは)』は主砲を持って前に飛び出し、翔鶴型航空母艦3番艦『嬌鶴』は艦載機発艦の準備をする。

 

 

「これは負けてられませんね、行くわよ長門!」

 

 

「ふぇ!?私もですかぁ!?」

 

 

 

第1艦隊旗艦(リーダー)の金剛が摩耶に対抗心を燃やしたのか、ビクビクしている長門を引きずって前衛へ飛び出す。

 

 

「だいたいね、あなたのその引っ込み思案な性格どうにかしなさいよ!世界のビックセブンが泣くわよ!」

 

 

「そんなの名前だけですよぅ!」

 

 

戦艦娘でありながら引っ込み思案で奥手な長門を金剛がたしなめる、これで全鎮守府戦果ランキングのトップ5に常駐しているのだからすごいものである。

 

 

「艦載機発艦です!」

 

 

そんなこんなしている間に嬌鶴が艦爆機を発艦させる、いくら鉄球を操るエリザベートでも80機近くある艦載機を全て撃ち落とすのは困難だろう。

 

 

エリザベートは鉄球と主砲を使って艦載機を撃墜させていくが、全てを撃ち落とすことは出来なかった。

 

 

「くっ…!」

 

 

エリザベートはリコリスを展開させて艦爆の攻撃を防ぐ、先程の駆逐艦娘の豆鉄砲とは比較にならないくらいの衝撃がエリザベートに降りかかる。

 

 

(やば…!リコリスが保たないかも…!)

 

 

相手は正規空母、ましてや練度(レベル)120オーバーの一撃だ、戦艦の砲撃を防ぎきる防御力を持ったリコリスでも受けるダメージは馬鹿にならない。

 

 

「このっ…!」

 

 

しかしエリザベートの能力も負けてはいない、ひとたびけん玉を振るえば戦艦さえも中破にさせ、太刀を振れば白兵戦慣れしていない艦娘たちを斬り伏せる、陸戦特化型のエリザベートだからこそ出来る芸当だ。

 

 

「影夜叉!」

 

 

そしてエリザベートが保有している艦載機の影夜叉、夜戦特化な上に機体の性能も牡丹雪に負けず劣らずという恐ろしい代物である。

 

 

「あいつって空母なのか?見た目からして姫みたいだし、空母棲姫か?」

 

 

「空母棲姫というよりも、あの盾みたいな艤装が何だか滑走路みたいだし、さしずめ飛行場姫(ひこうじょうき)ってところじゃないかしら」

 

 

「飛行場姫か、そりゃぴったりだな」

 

 

金剛の言葉に摩耶が愉快そうにケラケラと笑う、敵の姫の通称(コードネーム)が決まったところで艦隊の隊列を入れ替える、流石に18体全員で動くとしっちゃかめっちゃかになってしまうので、6体ひとかたまりのグループを3つ作ってローテーションさせている。

 

 

「摩耶、回復がてら暁ちゃんの所へ行ってあげなさい、ここは私たちが引き受けるから」

 

 

「えっ、でも旗艦(リーダー)のアタシが離れるのはマズいんじゃ…」

 

 

「何言ってるの、見知った顔を見せて安心させてあげるのも旗艦(リーダー)として必要な事よ、たまには僚艦の意見も聞きなさい」

 

 

「それじゃアタシが普段からワンマンみたいじゃないですか…」

 

 

「違うの?」

 

 

「違いますよ!誤解されるような言い方はやめてください!」

 

 

金剛の茶化すような言い方に脱力しつつ、摩耶は暁のいる救護所へと向かっていく。

 

 

 

 

「もう身体は大丈夫なのか?」

 

 

「うん、高速修復材を使って治してもらったからもう平気」

 

 

救護所にいた暁はすっかり回復してマットレスに暇そうに寝転がっていた、特に後遺症なども残っていないとの事なのですぐに復帰できるだろう。

 

 

「それより摩耶さんその身体…」

 

 

暁は摩耶の身体を見て顔をしかめる、大破寸前のダメージを受けた摩耶はあちこちに傷をつくっていた。

 

 

「ん?あぁ、こんなの少し休めばどうって事無い…」

 

 

「あれだけお腹引っ込めなって言ったのに、さらにぽっちゃりしちゃってるじゃない!」

 

 

「そっちかよ!あと腹は出てねぇよ!あぁもう、来るんじゃなかった!」

 

 

口ではそう言いつつも、暁のいつも通りの様子に安心した摩耶だった。

 

 

 

 

「はぁ…!はぁ…!」

 

 

エリザベートは確実に追い詰められていた、最初こそ有利に戦っていた彼女だったが、艦娘のローテーションによる持久戦はエリザベートでもハードルが高いものであった。

 

 

「持久戦に持ち込むなんて、艦娘共も中々えげつないことしてくれるじゃない…」

 

 

そう吐き捨てるとエリザベートは自分の兵装を確認する、主砲の残弾数は残りわずか、影夜叉もだいぶ落とされてしまい残りはそう多くない、リコリスは所々に穴が空いていていつ限界を迎えるか分からない。

 

(引き際…って所ね)

 

 

今回の計画で新型歩兵級(ポーン)のデータは十分取れた、ならば後は速やかにここから撤退することが最優先だ、現段階では艦娘を倒す必要もこちらが無駄な戦いを続けて被害を増やす必要も無い。

 

 

エリザベートは影夜叉を飛ばすと、艦爆の爆弾とはまた違う黒い弾のようなモノを落とす。

 

 

「うわっ!?煙が…!」

 

 

エリザベートが使ったのは煙幕弾(スモーク)だ、前回ベアトリスが使ったモノよりも煙が晴れにくくその場に残りやすい改良版である。

 

 

その隙にエリザベートは出てきた穴に再び飛び込む、その際に吹雪たちが何か言っていたような気がしたが無視、そのまま水路の奥へと姿を消した。

 

 

煙が晴れたときには当然エリザベートの姿はなく、残された艦娘たちは何ともいえない表情をしていたのだった。

 

 

その後、地下に残された台場の面々も摩耶たちの手によって助け出され、高速修復材による治療を受けて事なきを得た。

 

 

 

 

 

 

 

敵の撤退という幸か不幸か分からない結果に終わったが、秋葉原防衛戦は終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これが新しく拾ってきた艦娘擬きか」

 

 

地下水路から救出された吹雪たちは瑞鶴や摩耶たちと談笑したのち、南雲から呼び出しを受けた、理由は秋葉原防衛戦中に艦娘化(ドロップ)した雪風についてである。

 

 

「お前はこれをどうするつもりだ?」

 

 

「鎮守府に連れ帰って台場の一員として迎えるつもりです」

 

 

吹雪が迷わずそう言うと、南雲は少しだけ考えるような仕草をし、やがて口を開く。

 

 

「まぁいいだろう、好きにしろ」

 

 

「…随分とあっさり引き下がりますね」

 

 

「どうせ大演習祭(バトルフェスタ)が終われば処分されるんだ、それまでの思いで作りって考えればいい」

 

 

やけに南雲の物わかりの良い発言に吹雪が首を傾げるが、その理由を聞いて納得してしまう。

 

 

「ではその言葉、そっくり元帥にお返ししましょう、我々は大演習祭(バトルフェスタ)で相手艦隊に勝利し、あなたたちの目論見を阻止して見せます」

 

 

「こりゃまた随分大きく出たものだ、それなりに期待させてもらおう」

 

 

期待の感情など全くこもっていない調子で南雲は言うと、足早にその場を去っていく。

 

 

「シャクに触るのは変わらないけど、雪風の件は現状お咎め無しって事にしてもらえたし、儲けモンだね」

 

 

小さくなっていく南雲の背中を見ながらそう呟くと、吹雪も仲間たちのいる場所へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

「改めまして、陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です、これからよろしくお願いします!」

 

 

 

吹雪たちが台場鎮守府へ戻った後、雪風の自己紹介が行われた、綺麗な白髪を揺らして敬礼をする姿はとても絵になる。

 

 

「お帰り雪風、またよろしくな」

 

 

「司令官、また貴方にお会いできるのを楽しみにしてました」

 

 

雪風は愛おしそうな目で海原を見ると、何の迷いもなく海原を抱き締める。

 

Deep Sea Fleetはその感動の再開に水を差すような真似はせず、何も言わずにそれを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「…何でこんなのがあるの?」

 

 

「私にも分かりません…」

 

 

吹雪と三日月が怪訝な顔をして口々に言う、例のごとく雪風にも深海棲器を選ばせた、今回雪風が選んだのは3つ。

 

 

1つ目は『方天戟(ほうてんげき)』、一見すると長い槍のような武器だが、そこに内側に反った斧の刃が付いている変わった見た目の武器だ。

 

 

2つ目は『青竜刀(せいりゅうとう)』、幅の広いやや湾曲した刃を持つ片手剣だ、ちなみにこの形のモノは柳葉刀(りゅうようとう)とも呼ばれているらしい。

 

 

そして3つ目が…『包丁』だ、サイズも刃の長さも一般的な家庭にある普通の包丁と変わらない。

 

 

「何で包丁なの?」

 

 

「室蘭時代に見てたお昼の恋愛ドラマで女性がこれを使って男性をバラバラに切り刻んでるシーンがあったので、きっと強い武器なんですよ!」

 

 

「そのドラマ絶対違うベクトルの恋愛劇だと思うよ!?」

 

 

雪風の中の恋愛観がどうなってるのかが地味に気になる吹雪だった。

 

 

 




次回「前世、あるいは蘇る事のない記憶」

雪風の深海棲器募集でアイデアを送ってくださった皆様、ありがとうございました!



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第99話「篝の場合1」

chapter8「篝編」

(かがり)編スタート。

前々からやろうと思っていた架空艦編です。




…あと最初に言います、今回は艦娘や今までのDSFのキャラは一切出ません。


平日の冬の朝ほど布団から出たくないものである。

 

 

学生、社会人問わず誰もが思っている事だろう、何なら格言として世界に広げてもいい。

 

 

そんな事を考えながらベッドの中で丸まっている少女…天使(あまつか)夜衣(やえ)はベッド脇のサイドテーブルで未だ鳴り続けている目覚まし時計のアラームと格闘していた、このままアラームを止めて二度寝してしまおうか、などと考えはじめたとき…

 

 

「ぐぼぉ!」

突然わき腹のあたりにものすごい衝撃と激痛が走り、夜衣はのたうち回りながらベッドから転げ落ちる。

 

 

「何が…!?」

 

 

気がつけば目の前には母親が立っていた。

 

 

「あんたね、いつまで寝てるのよ!いい加減にしないとかかと落とし食らわすわよ!」

 

 

「もう食らわせてたよねぇ!?」

 

 

完全な事後報告に夜衣は全力でつっこむ。

 

 

 

 

「あーもー、まだあばら骨が痛い…」

 

 

学校について何分も経っていないのにすでに満身創痍なこの状況はいったい何なのだろうか、とあばら骨をさすりながらボヤく。

 

 

「おはよ、元気ないけど何かあった?」

 

 

すると、隣の席の友人、柊楓(ひいらぎ かえで)が登校してきた、すでに死にそうになっている夜衣を見て怪訝な顔をしている。

 

 

「朝起きるのを渋ってたらお母さんにかかと落とし食らわされた」

 

 

「アクティブなお母さんだね…」

 

 

楓が苦笑しながら席に座ると、HR開始のチャイムが鳴って担任教師が入ってくる。

 

 

「今日は開始一発目から重要な話をする、すでにニュースを見ている人もいるかもしれんが、隣町の通り魔がこの近くに来ているらしい」

 

 

それを聞いた途端、朝ののほほんムードだった教室に緊張が走った、通り魔はここ連日ニュースになっている連続殺人犯だ。

 

 

人気のない夜の時間帯を狙って背後から刃物で命を狙う…という手口で何人もの人を殺害している、ここ一週間のニュース番組のトップを独占している話題だ。

 

 

「夜間の外出は極力避け、やむを得ず外出する場合はふたり以上で外出するように」

 

 

他にも諸々の細かい注意事項を話し、朝のHRは終わった。

 

 

「そうだ天使、今日の放課後に頼みたいことがあるんだ、職員室に来てくれ」

 

 

「ふぇ?あっはい、分かりました」

 

 

元々クラス委員長の夜衣は担任から様々な頼まれ事をする機会があったが、今回もその類だろう。

 

「じゃ、よろしくな~」

 

 

それを伝えると担任教師は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「あぁ…疲れた…」

 

 

その日の放課後、夜衣は身体全身に“疲労感”というモノを纏わせているかのような様子で下校道を歩いていた。

 

 

すぐに終わるような雑用程度だと思っていた担任教師からの頼まれ事は、ほぼ物置同然となっていた資料室の片付けという、放課後にやるにはかなりの大イベントだった。

 

 

散らかり放題だった資料室の片付けは終わるまでにかなりの時間が掛かってしまい、終わる頃には午後7時を回っていた、今は1月なのでこの時間になれば辺りは真っ暗である。

 

 

「通り魔に気をつけろとか言っときながらこんな時間まで残す先生もなかなか鬼畜よね、多分襲われるようなことにはならないと思うけど…」

 

 

そう呟きながら夜衣は自分の周りを見渡す、右を見れば田園風景、左を見れば家がぽつりぽつりと建っているだけの住宅街、こんな片田舎に通り魔が好んで寄り付くとは夜衣にはいささか思えなかった、人気のない場所だからこそ寄りつくのかも知れないが。

 

 

「深海棲艦とか言う怪物が海で暴れてるこのご時世に通り魔とか、逆に平和そうに感じちゃうのがすごいわよね」

 

 

深海棲艦や艦娘の事は当然夜衣も知るところではあったが、彼女が住んでいるのは内陸部の方なので正直あまり実感がわいていなかった。

 

 

「………早く帰ろう」

 

 

街灯も少ないこの夜道にちょっと怖くなった夜衣は足を速める。

 

 

「だから夜は嫌いなのよ…」

 

 

夜衣はその名前とは裏腹に夜や暗いところが嫌いな質の人間だった、本人もよく分かっていないのだが、どういうわけか暗い場所に対して必要以上の恐怖心を感じてしまうのだ、だから寝るときは豆球だけでは落ち着かず、ベッドの脇にスタンドライトを暗めに調整して付けているし、こういった夜間などは得体の知れない不安と恐怖心で身が呑まれそうになる。

 

 

試しに両親に相談してみたところ、幼少期の頃にお仕置きとして夜衣を床下収納に押し込んだことがあるらしく、そのトラウマなのでは?というとんでもない返答が返ってきた。

 

 

しかし自分にそんな記憶は全く無い、単に忘れているだけかもしれないが、もしそれが本当だとすれば迷惑きわまりない話である。

 

 

「私の夜嫌いがそんな覚えてもいない出来事のせいなんて、笑い話にもならない…」

 

 

その時の事を思い出してムカついてきた夜衣だったが、急に背中に何かが当たるような感触がした、はて何だろうと思い背中に手を回してみる。

 

 

 

「…へ」

 

 

包丁が刺さっていることが分かった。

 

 

一体何が起きたのか分からなかった、なぜ包丁が刺さっているのか、そもそも誰が刺したのか、いや、誰が刺したかは想像に難くなかった。

 

 

(通り魔…!?)

 

 

夜衣は巷で話題の通り魔殺人犯の標的にされたのだ。

 

 

それを理解した瞬間、背中を始点に凄まじい痛みが全身を駆け回る、出来れば気付きたくなかったが、一度気づいてしまった神経に気づかなかったフリなど出来るわけもなく、全身全霊の神経による痛覚アピールを全身全霊で受けるハメになる。

 

 

 

夜衣は喉が潰れるほどの声量で叫び声を上げるハズだったが、それは叶わなかった、夜衣の背中を刺した何者かが背中から引き抜いた包丁で喉を声帯ごと切り裂いていたからだ。

 

 

夜衣の首から赤黒い血液が噴き出すように流れ出る、頸動脈が傷付いたようだ。

 

 

一気にパニックになった夜衣は首と背中から血を流しながら全速力で走り出す。

 

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

 

 

 

脳の髄まで恐怖で塗りつぶされた夜衣は傷の痛みも忘れて必死に走る、そして通り魔は夜衣の恐怖心をわざと掻き立てるように足音を立てながら追いかけてくる、それが夜衣のパニックをより増幅させるものとなった。

 

 

しかし、そんな流れ出るような出血を放置したままで走り続ければどうなるか、想像しなくても分かる。

 

 

「あっ…!」

 

 

足がもつれて夜衣が転んでしまう、すぐに立ち上がろうとするが、出血多量によるショック症状で身体が痙攣してしまいうまく立ち上がれない。

 

 

それでも逃げようと夜衣は這いずって動こうとするが、自分の真後ろに人の気配がした。

 

 

(っ!?)

 

 

次の瞬間、うつ伏せになった夜衣の上に通り魔がのし掛かってくる、何とかどかそうとしてみるが、女子高生の夜衣が成人男性の体重に敵うわけがない。

 

 

(ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!)

 

 

通り魔が夜衣の背中に包丁でもう一撃入れる、再び身体に激痛が走り、脳がスパークするような感覚を覚える。

 

 

(…ヤバい、意識が…)

 

 

血が減りすぎて意識が段々と朦朧としてくる、それは否応なく自分の死期が近づいていることを意味していた。

 

 

(嫌だ…!こんな所で死にたくない、誰か助けて…!)

 

 

夜衣はそう叫ぼうとするが、声帯をやられているのでそれは叶わなかった。

 

 

通り魔は夜衣の背中に一撃食らわせた後、夜衣の身体をごろんと転がして仰向けにする、そして夜衣の心臓に包丁を何の躊躇もなく突き刺した。

 

 

(があっ…!)

 

 

三度目の激痛に襲われた夜衣だが、その刺激でも意識がはっきりする事はなく、どんどん目の前が暗くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜なんて、大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この状況に不似合いな悪態を最期に、天使夜衣は意識を手放し…命を落とした。




次回「秋の鎮守府」

今回の話は篝編の前日譚のようなものだと思ってください。

…ぶっちゃけ本編と絡む事はほぼ無いですが。


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第100話「篝の場合2」

本編でも100話到達。

活動報告にて篝の深海棲器の募集を始めました。


厳しい戦いだった秋葉原防衛戦が終わり、季節は9月…秋に入った。

 

 

昼の時間が段々と短くなり、秋の夜長には鈴虫の鳴き声が心を穏やかにさせてくれる。

 

 

「うーん…」

 

 

しかし、そんな秋の夜長の情緒をすべて無視して鎮守府の食堂でうなり声を上げている者がいた、吹雪である。

 

 

「どうした吹雪、ひとりでうなったりなんかして」

 

 

「あ、司令官、実は今日Deep Sea Fleet全員で練度(レベル)を測定したんですけど…」

 

 

そう言って吹雪は測定結果の書かれた紙を海原に渡す。

 

 

「どれどれ…?」

 

 

・吹雪:Lv.151

・伊8:Lv.147

・暁:Lv.145

・三日月:Lv.144

・Z3:Lv.140

・大鯨:Lv.124

・雪風:Lv.91

 

 

 

 

「だいぶ上がったな、特に吹雪」

 

 

「140越えてから伸びが緩やかになって中々上がらないんですよ…」

 

 

そう言いながら151に乗せている吹雪に脱帽する海原だった。

 

 

「そう言えば、艦娘の練度(レベル)ってケッコンカッコカリするといくつまで上がるんですか?」

 

 

「確か155まで上がるってのは榊原所長から聞いたな、近い内に200まで引き上げるらしいけど」

 

 

「なら大演習祭(バトルフェスタ)までに155まで上げなきゃですね」

 

 

「おいおい、あんま無理しすぎるとかえって身体に毒だぜ?今の練度(レベル)でも十分高い位置にいるんだから…」

 

 

「それじゃダメなんです!」

 

 

海原がそこまで言ったとき、吹雪が声を荒げて海原の言葉を遮る。

 

 

大演習祭(バトルフェスタ)の演習は文字通り私たちの命がかかっているんです!私たちだけならともかく、司令官にもまた部下を失わせる事になってしまいます、私はもう司令官につらい思いをさせたくないんです!」

 

 

「吹雪…」

 

 

「司令官が私たちを心配してくれているのは分かっていますし、そのお気持ちはとても嬉しいです、だからこそ、私は司令官とみんながいるこの場所を、台場鎮守府を守りたいんです」

 

 

海原は何も言えずに吹雪を見つめていた、確かに大演習祭(バトルフェスタ)で勝たないと吹雪たちは雷撃処分されてしまう、それは海原としてももちろん避けたい事であるし、吹雪もそれを避けるために鍛錬に励んでいると思っていた。

 

 

でもそれだけではなかった、吹雪は自分の命のためだけではなく、自分のためにも頑張ってくれていたのだ、司令官として、家族の親として、これほど嬉しいことはない。

 

 

「…ありがとな、吹雪」

 

「いえ、司令官に受けた恩に比べれば些細なことです、絶対に大演習祭(バトルフェスタ)で勝利してこの場所を守って見せます、だから司令官は安心してどっかり構えていてください」

 

 

「あぁ、期待してるぞ、でも本当に身体には気をつけろよ?」

 

 

「それに関しては問題ありません、みんなの身体の限界はキチンと把握していますから!」

 

 

(それって裏を返せば限界ギリギリまで使い倒すって事だよな…)

 

 

スパルタっぷりに磨きがかかっている吹雪だった。

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊発見!戦闘開始!」

 

 

その翌日、吹雪たちは出撃任務で戦闘海域に出向いていた、今回の出撃メンバーは吹雪、ハチ、大鯨、雪風、マックス、暁だ。

 

 

敵艦隊は軽巡棲艦3体と駆逐棲艦3体の水雷戦隊構成だ、Deep Sea Fleetなら余裕で勝てるだろうが、そうも言っていられない事態になった。

 

 

「…いるね」

 

「いるわね」

 

 

 

駆逐棲艦の1体が“面影”持ちだったのだ、話をしようと思ったが他の随伴艦が邪魔なのでそれを取り除かなければならない。

 

 

「総員敵艦隊を掃滅!“面影”持ちは傷つけるな!」

 

 

「「了解!」」

 

 

まずは前衛の吹雪、暁、雪風、マックスが敵艦隊へと肉薄する。

 

 

「せいやぁ!」

 

 

雪風が方天戟を横なぎに振って軽巡棲艦を攻撃、大ダメージを与える、軽巡棲艦が反撃として背中の主砲から砲弾を撃つが、雪風はギリギリまで身を屈めて姿勢を低くする事でそれをかわす。

 

 

その勢いで青竜刀を抜刀した雪風は逆袈裟を繰り出して軽巡棲艦を斬り上げる、軽巡棲艦が大破状態になり、攻撃動作が極端に遅くなる。

 

 

「これで…どうですか!?」

 

 

雪風が軽巡棲艦の頭部に主砲をぶち込む…が、軽巡棲艦はそれでも沈まなかった。

 

 

「まさか…司令艦(フラグシップ)…!?」

 

 

雪風は驚愕したように目を見開く、 実は深海棲艦の能力にも個体差が存在し、その差はかなりピンキリだ、駆逐棲艦が軽巡棲艦のスペックを上回るような例も報告されている。

 

 

そのような特に能力の高い個体を“部隊長(エリート)”、さらに能力の高い個体は“司令艦(フラグシップ)”と呼ばれている。

 

 

部隊長(エリート)司令艦(フラグシップ)の発見例はほとんどない、Deep Sea Fleetも海原から話に聞いていただけだったのだが、今回はその司令艦(フラグシップ)に遭遇してしまったらしい。

 

 

目の前の軽巡棲艦はすでに大破のダメージを受けているだろうが、油断は出来ない。

 

 

「攻撃される前に倒す!」

 

 

雪風は装備を包丁に換装させ、大破になった軽巡棲艦に何度も突き刺す。

 

 

 

「死ね…!死ね…!死ね…!死ね…!」

 

 

雪風は取り付かれたように軽巡棲艦をメッタ刺しにして殺しにかかる、とにかく相手に何もさせない、何かされる前に殺す、司令艦(フラグシップ)はそれだけ脅威となる個体なのだ。

 

 

「死ねえええええぇぇぇ!!!!!!」

 

 

雪風が魚雷を軽巡棲艦に零距離でぶつける、凄まじい衝撃が軽巡棲艦を襲い、今度こそ軽巡棲艦が撃沈となる。

 

 

雪風が吹雪の方を見やると、すでに“面影”以外の敵艦を片づけていた、どうやら司令艦(フラグシップ)は自分が戦った軽巡棲艦だけだったらしい。

 

 

「…さて、あとは目の前の“面影”だけだね」

 

 

吹雪たちは目の前の“面影”を見やる、特に攻撃するような素振りは見せず、ただ波の動きに実を委ねていた、“面影”が動いていない間に吹雪はポケットからメモ帳とペンを取り出し、“面影”のスケッチを始める。

 

 

身長は吹雪と暁の中間くらいだろうか、背中を覆う長い髪は漆黒の黒髪、うつむきがちな目は妖しげな雰囲気を思わせる紫色、黒を基調とした和服には赤色のゴシック風アレンジが施されている、和ゴス…と言うのだろうか。

 

 

「あの~、聞こえますか?」

 

 

吹雪が近づいて声をかけてみるが、“面影”は何も言わずに俯いていた、それ以降も“面影”は何の反応も見せなかったため、吹雪たちは帰投することにした。

 

 

 

 

 

 

帰投後、“面影”に遭遇した事を海原に報告し、電子書庫(データベース)で検索をかけてもらった。

 

 

「…出た、この艦娘だ」

 

 

海原はディスプレイを回転させると書いてある内容を吹雪たちに見せる。

 

 

 

 

○艦娘リスト(轟沈艦)

・名前:(かがり)

・艦種:駆逐艦

・クラス:暁型5番艦

練度(レベル):77

・所属:佐世保鎮守府

・着任:2048年12月30日

・轟沈:2050年3月10日

 

 

 

「篝…ですか、暁型なんですね」

 

 

吹雪がそう言うと、海原は顎に手を当てて眉根を寄せる。

 

 

「妙だな、史実じゃ暁型駆逐艦は4隻までだったはずなんだが…」

 

 

「造船所のオリジナルとかでは?」

 

 

「もし本当にそうなら時代錯誤もいいとこだろ、オリジナル艦艇なんて…」

 

 

そう海原は言うが、艦娘と過去の軍艦は名前だけの繋がりで史実とは一切関係無いので別段弊害があるわけではない。

 

 

(後で榊原所長にでも聞いてみるか)

 

 

そう思いながら海原は佐世保鎮守府の電話番号をダイヤルする。

 

 

 

 

 

「つーわけだから、篝に関して色々教えろ」

 

 

『いきなり電話してきたと思えばずいぶんエラそうだな、今の時間俺結構忙しいんだぞ』

 

 

「んなもん年中ヒマな台場には関係ないね、いいからとっとと情報吐け」

 

 

佐世保鎮守府提督の奥村は苛つき気味に返すが、海原はそんな事全く気にとめていない。

 

 

『…まぁ、篝は主力艦隊で活躍してた駆逐艦だったよ、真面目でいい子だった』

 

 

「へぇ~、何で轟沈しちまったんだ?」

 

 

『詳しい事は長くなるから省くが、篝の轟沈には川内(せんだい)が関係してるな』

 

 

「川内…川内型軽巡の1番艦か、何があったんだ?」

 

 

海原にそう聞かれた奥村はそれから先の言葉を躊躇うように無言になったが、やがて意を決したように口を開いた。

 

 

『篝が轟沈した理由は、夜戦中の川内による味方誤射(フレンドリファイア)が原因なんだよ』

 

 

 

「………は?」

 

 

海原は暫し無言になった後、気の抜けた声をあげていた。




次回「夜戦嫌いの川内」

エリートとフラグシップは暁編にも一度登場しましたが、まだ設定固まる前に出してしまっていたので今回の話で設定組み直しました、見切り発車怖い。


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第101話「篝の場合3」

土曜日に東京ゲームショウ2016に行ってきました、午前中から中に入ったんですけど、人の多さに昼前にバテるという情けない状態に…

物販コーナーで響のつままれラバーストラップをお土産にしました、可愛かったんですけど、三日月が無かったのが悔やまれます。


『暁型5番艦の篝?』

 

 

「はい、俺の記憶では、史実の暁型駆逐艦は4隻しか存在していなかったと思ったので…」

 

 

『あぁ、あれは造船所が考案したオリジナルだよ、海原くんの言うとおり、篝という艦は存在しない』

 

 

榊原は海原の質問にそう答える。

 

 

『艦娘の名前は歴史上存在した軍艦から取られているけど、実在しているモノである以上いずれネタ切れを起こすからね』

 

 

「随分とメタな発言ですね…」

 

 

海原のつっこみに榊原は事実だから、と悪びれもせずに答える。

 

 

『そんなわけだから造船所では架空艦の建造も行っているんだよ、今の暁型駆逐艦なら3体、金剛型戦艦なら2体架空艦が建造されてるよ、今言ったモノ以外にも色々あるし』

 

 

「何か俺の知らない所で色んな事が進んでるんですね…」

 

 

時代に取り残されたような気分になる海原だった。

 

 

『それはそうと海原くん、架空艦以外にも聞きたいことがあったんじゃないかな?』

 

 

榊原の言葉に海原はそうだったそうだった、と思い出す、というかこっちが本題だったのに忘れてどうする。

 

 

「実は、佐世保鎮守府に所属している川内型軽巡洋艦の川内について知りたいんです」

 

 

『川内…?それはまた唐突だね、君がそうやって聞いてくるということは…』

 

 

「はい、実は今言った篝の“面影”を持った駆逐棲艦とDeep Sea Fleetが接触しまして、佐世保に確認をとったら川内が関係していると言われたんですよ」

 

 

『そうだったのか、でもそれなら佐世保の奥村くんに聞けば済む話だろう?何か造船所に聞かなければいけない事情があるのか?』

 

 

榊原にそう聞かれると、海原は先ほどの奥村との電話でのやりとりを思い出しながら話す。

 

 

 

 

味方誤射(フレンドリファイア)ってのは一体どういうことだ?」

 

 

『川内と篝はとある夜戦任務で敵の中枢艦隊を撃破する任務についてた、その途中で川内は近づいてきた篝を敵と誤認して撃っちまったんだよ、大破していた篝はそのまま轟沈…てわけさ』

 

 

「そりゃいくら何でも川内がマヌケ過ぎるだろ、最近の電探は僚艦の電探とリンクさせて味方の位置をモニタリング出来る仕様になってるし、なにより敵味方の判別をハッキリさせずに撃つのは危険すぎる」

 

 

『確かにそれはそうなんだけどな、問題は川内の性格にあるんだよ』

 

 

「性格…?」

 

 

奥村の言わんとしていることが分からずに疑問符を浮かべる海原。

 

 

『あいつは、川内は夜戦が…夜が嫌いなんだよ』

 

 

 

 

 

 

『…夜が嫌い?』

 

 

「はい、昼前は何ともないみたいなんですけど、夜になると急に不安がったり怯えたりするみたいなんです、まるで見えない何かから逃れようとするみたいに」

 

 

海原がそう言うと、榊原はふむ…と言ったきり無言になる、キーボードを叩く音がかすかに聞こえるので電子書庫(データベース)を使っているのだろう。

 

 

『…海原くん、川内とは話を聞く予定はあるのか?』

 

 

「えぇ、明日台場に来てもらう予定です」

 

 

『そうか、ならすまないが、川内を連れて造船所まで来てくれないか?』

 

 

「造船所まで…ですか?」

 

 

『うん、ちょっと気になることがあってね、直接会って話したい』

 

 

「了解しました、川内が台場に来たら話をしてみます」

 

 

『助かるよ、それじゃあ明日』

 

 

互いに挨拶を済ませると海原は電話を切る。

 

 

 

「…夜戦嫌いの川内…か」

 

 

 

 

 

 

 

「…はじめまして、川内型軽巡洋艦1番艦の川内と言います…」

 

 

その翌日の午前中、川内が台場鎮守府にやってきた、黒髪のセミショートをツインテールにしており、服装はオレンジ色のセーラー服に花びらを思わせるデザインのフレアスカートだ、活発そうな見た目とは相反しておどおどしている。

 

 

「台場鎮守府提督の海原だ、遠路遙々すまなかったな、早速中に案内するよ」

 

 

「あ、あのっ…!」

 

 

海原が川内を連れて提督室へ向かおうとすると、川内が気弱そうな声を出す。

 

 

「どうした?」

 

 

「…えぇと、篝に会えるかもしれないって提督から聞いたんだけど、本当?」

 

 

不安を隠しきれないといった様子で川内は聞いてくる、諸々の事情は奥村から聞いているらしいが、まだ半信半疑といったところなのだろう。

 

 

「あぁ、確実ではないかもしれんが、可能性は高いと思うぞ」

 

 

「…そう」

 

 

それを聞いた川内は提督室に通されるまで口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…本当だったんだね、混血艦(ハーフ)の話」

 

 

川内は提督室にいるDeep Sea Fleetの面々を見て、驚いたように言う。

 

 

「川内さんが驚くのも無理はないですよ、こんな突飛な話、そう簡単に信じられるようなモノではないですし」

 

 

吹雪は苦笑しながら川内に言う。

 

 

「それじゃお前ら出かける準備しとけ、俺は川内連れて玄関で待ってるから」

 

 

「もう準備万端ですよ」

 

 

「司令官のご命令があればいつでも」

 

 

吹雪と雪風が諸々の持ち物を入れたバッグを掲げて誇らしげな顔をする、他のメンツも同様のようだ。

 

 

「準備が良いことで、じゃあ行くか」

 

 

「…へ?どこに?」

 

 

「川内の夜戦嫌いを克服するための協力者のとこ…かな」

 

 

「?」

 

 

川内はただ首を傾げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかったね、急に来てほしいなんて言って」

 

 

「いえ、Deep Sea Fleetの定期検査もありましたのでちょうどよかったです」

 

 

互いの挨拶を済ませると、榊原は川内の方を向く。

 

 

「久しぶり…と言っても覚えてないか、造船所所長の榊原だよ」

 

 

「生みの親の顔を忘れるわけ無いじゃん、私が建造されてから佐世保に配属されるまで食事の用意とか色々してくれた人だよね?あのときはありがとう、また会えてうれしいよ」

 

 

川内が笑いながらそう言うと、榊原は嬉しそうな顔をして海原たちを中へ招き入れる。

 

 

「それじゃあ早速本題に入るけど、川内は夜が怖いんだよね?」

 

 

榊原は応接室に海原と川内を通すと、川内に事情を聞くために早速本題へ入った(Deep Sea Fleetは風音に預けて検査中)。

 

 

 

「…うん、昼間は何ともないんだけど、夜になると途端に得体の知れない怖さが身体の奥底から沸き上がってきて、何て言ったらいいのか分かんないけど、見えない何かに追いかけられてるような、そんなよく分かんない感覚」

 

 

川内は何とか言葉にして説明しようとしているが、自身の中にあるモノが曖昧すぎて言葉にする事すらままならない。

 

 

「奥村から聞いてた話とほぼ合致するな」

 

 

「それはいつ頃からか覚えてる?」

 

 

「建造されてすぐの頃からだよ、最初は単に私がビビりなだけかと思ったんだけど、佐世保に来てからはより“怖い”って感情がより実体化されてきてるって言うか…」

 

 

川内自身もよく分かっていない“恐怖”の話を聞いていた榊原は、おもむろにバッグから取り出した書類と川内の顔を交互に見る。

 

 

「…川内、最初に君の覚悟を聞いておきたい」

 

 

「…え?」

 

 

覚悟…という単語を急に出された川内は身を強ばらせる。

 

 

「これから川内の夜戦嫌いについて俺なりの考察を話すけど、場合によっては君を混乱させたり不快な思いをさせたりするかもしれない、それでも聞くかい?」

 

 

「聞きます!」

 

 

川内はテーブルに身を乗り出し、向かい合って座っている榊原に顔を近づける。

 

 

「私が篝にやったことは決して許される事じゃない、でも、篝を助けられるなら、あの時の償いが出来るなら、私はどんな事にも耐えて見せます」

 

 

確固たる意志を持った川内の目を見た榊原はどこか納得したように頷くと、榊原の見解を口にする。

 

 

「川内の夜戦嫌いは、川内の“前世”が関係してると俺は思う」




次回「天使夜衣」

実は川内はくノ一風の衣装を着たオリジナルにしようかという案もあったんですけど、ゲーム通りの姿で登場させました。


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第102話「篝の場合4」

最近知ったんですけど、戦艦ル級の火力ってノーマルだと60しか無いんですね、軽巡の球磨より低いって考えたらなんか大したことなさそうに見えてきて驚いた。

でももっと驚いたのはフラグシップでも90しかないってこと(金剛と同じくらい)、てっきり大和型くらいあると思ってたけどなんか拍子抜けだった。

…でも味方を一撃大破させるくらいのダメージは平気で与えてくるんだよなぁ…


「前世…?」

 

 

聞き慣れない単語に海原と川内は首を傾げる。

 

 

「海原くんは艦娘の素体が人間だっていうのは知ってるね?」

 

 

「はい、人の死体に手を加えて艦娘にしてる…という程度には」

 

 

海原の回答に榊原は大体合ってるね、と言って頷く。

 

 

「それなら話は早い、前世とは素体の人間が生前持っていた記憶の事なんだ」

 

 

「記憶…?」

 

「そう、でも基本的には素体の記憶は建造時に我々が消してしまうから艦娘には引き継がれない、艦娘としての情報を脳に刷り込む時にそれが邪魔になるからね」

 

 

「なるほど、中古のパソコンみたいな感じですね、家電店で中古パソコンを買っても前の持ち主のデータは業者が消去しているから残っていない、それは残っていたら前の持ち主にとって不都合があるから」

 

 

「そう考えてもらって構わないよ」

 

 

 

海原と榊原は何の疑いもなく普通に会話をしていたが、川内だけはふたりの会話を聞いてとてつもないおぞましさを感じていた。

 

 

(…何となく予想はついてたけど、私ってこんな非人道的な方法で生まれてきたんだ…)

 

 

死者にに安らかな眠りを与える事も許さず身体を隅から隅まで弄くりまわし、死ぬ前に持っていた記憶を…思い出を全て消され、挙げ句人間が作り出した偽りの記憶(プログラム)を洗脳のように頭に刷り込まれて艦娘は生まれてくる、まさに悪魔の実験とも言えるような内容ではないか、川内はそう感じていた。

 

 

「川内」

 

「ひゃい!?」

 

 

急に名前を呼ばれて川内は素っ頓狂な声を出す。

 

 

「悪いがこの部屋で見たり聞いたりしたことは全て他言無用でお願いするよ、外部に漏れたら都合の悪いこともあるからね」

 

 

「…死者を冒涜するような方法で艦娘を建造してる事とか?」

 

 

半ば睨むような視線を川内から受け、榊原は両手を上げてやれやれのポーズを取ってため息をつく。

 

 

「軽蔑したければすればいい、俺もそういう事をしてるって自覚はある、でも俺たちは深海棲艦との戦いに何としても勝たなければいけない、そのためなら君たち艦娘からどんな侮蔑の言葉を投げられたって構わないさ、それに俺は君に言ったぞ、不快な思いをするけどその覚悟はあるかって」

 

 

榊原の言葉に川内はたじろぐ、確かに覚悟は決めていたつもりだったが、今の話は川内の予想をはるかに越えていた。

 

 

「それに、覚悟が必要なのは君だけじゃないしね…」

 

 

榊原は川内に聞こえないように言ったのかもしれないが、川内はそれを確かに聞いた、そして察してしまった。

 

 

(所長も覚悟を決めてたんだ…)

 

 

榊原は艦娘の生みの親…言ってしまえば父親のような存在だ、そんな父親が娘から侮蔑の言葉をぶつけられて平気なわけがない、非人道的な事をしている自覚があるのなら尚更だ、榊原にその覚悟が無ければ川内を退室させていただろうが、前世が関わっているのであれば川内自身もその話を聞く必要が出てくる、川内に覚悟を問うたのはそれもあるのだろう、不快感と混乱で激情しないか、それで話を聞かなくなってしまわないかという…。

 

 

 

「……失礼な事言ってごめん、話…続けて」

 

 

それなら自分も最後まで榊原の話を聞く義務がある、彼も覚悟を決めて自分の前でこの話をするのなら、自分もそれを聞かなければ。

 

 

川内の言葉を聞いてふたりは脇道にそれかかった話を戻す。

 

 

「さっきの記憶の話だけど、基本的には艦娘には素体の記憶は残らない、でも稀に素体の記憶が残ったまま建造される艦娘がいる」

 

 

「そんな事があるんですか?」

 

 

「うん、事例が少ないからどういったきっかけでそうなるかははっきりしてないんだけど、心の奥底に深く染み着くような記憶…例えばトラウマなんかがあったりすると前世持ちの艦娘が建造される場合があったりするね」

 

 

榊原の説明を聞いた海原と川内が目を丸くする、艦娘についての知識はある程度持っていると思っていたが、前世までは海原の知識に無かった。

 

 

「つまり、川内の夜戦嫌いはその前世に関係してると…」

 

 

「その可能性は高いと思うよ」

 

 

そう言うと榊原は持っていた書類を海原たちの方に向けてテーブルに置く。

 

 

「これは?」

 

 

「素体のプロフィールだよ、つまり川内が人間だったときの情報」

 

 

海原と川内はプロフィールに目を通す、それは履歴書のようなレイアウトで、左上には川内と顔の似た黒髪の少女の写真が張られている。

 

 

「名前は天使(あまつか)夜衣(やえ)、地元の学校に通う高校二年生の女の子だ」

 

 

「天使夜衣…人間だったときの、もう一人の私…」

 

川内はプロフィールの顔写真をまじまじと見る、見れば見るほど川内にそっくりであった、同一人物なので当然なのだが。

 

 

「この夜衣って子が川内の夜戦嫌いの原因だと?」

 

 

「あくまで可能性だけどね、プロフィールの一番下の欄を見てごらん」

 

 

ふたりは言われたとおりに視線を落とす。

 

 

 

 

 

○死因:殺人

 

 

 

「さ、殺人!?殺されたってのか…?」

 

 

「当時捜査してた警察に話を聞いたんだけど、どうやら夜間の下校中に通り魔殺人にあったみたいなんだ、背後から刃物で背中と喉をやられて」

 

 

「なるほど、だから夜の時間を怖がるのか、殺されたときの記憶がトラウマになってるから…」

 

 

「それもあるんだけど、警察の話では夜衣は即死じゃなかったみたいなんだ、滴るような血痕が30mくらい続いてたって事だから、刺された後も苦しみと恐怖に耐えながら逃げようとしたけど叶わず…ってとこじゃないかな」

 

 

榊原の見解を聞いた川内は物悲しそうに目を伏せる、夜になるといつも感じる不安は、恐怖は、彼女が死ぬ間際に感じていたものなのだろうか、でも彼女が…夜衣が感じていた不安や恐怖は今の川内が感じているものよりもずっと強大なものであっただろう。

 

 

川内は悲しさを覚えると同時に、夜衣に対する怒りも同時に感じていた、同一人物であっても川内に夜衣だったときの記憶は無い、あるのは死ぬ間際の夜に対する前世(トラウマ)だけだ、そして、記憶が無ければ川内にとって夜衣という存在は他人でしかない。

 

 

(何でそんな訳の分からない他人の前世(トラウマ)なんかで私が苦しい思いをしなきゃならないのよ!)

 

 

川内のやり場の無いその怒りは、榊原の話が終わって風音が吹雪たちを連れてくるまで消えることは無かった。




刀剣乱舞でオープニングムービーが出来てて何気に驚いた。



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第103話「篝の場合5」

深海中枢海域最終ステージが未だクリア出来ません、ボス2マス前のル級改の猛攻を耐えたのに次のボス前のヲ級改の空撃で摩耶が大破、ダメコンないとダメな気がしてきました。


海原たちが応接室で話をしていた頃、吹雪たちは身体検査を受けていた。

 

 

「…はい、これで検査は終了よ」

 

 

 

「ありがとうございます、結果はどうですか?」

 

 

「結果は…前回から全く変わってないわね、ミリ単位まで横這いよ」

 

 

風音は前回の検査結果と照らし合わせて確認するが、汚染率はコンマ以下の数値まで前回と全く変わっていなかった。

 

 

「でも、変わってないとなると妙ね…」

 

 

 

そう言うと風音は眉間にしわを寄せて唸るように考える、検査開始からすでに3回はこの表情を見ているのだが、美人なのにもったいないなぁ…などと吹雪はのんきに考えていた。

 

 

「何が妙なんですか?」

 

 

「さっき吹雪ちゃんが“反転”したって言ってたでしょう?それなら少しは汚染率に変動があってもおかしくないと思ったんだけど…」

 

 

「あ~、なるほど…」

 

 

吹雪は納得したように頷く、ちなみに反転とは以前吹雪がなった深海棲艦化の呼称(吹雪命名)である。

 

「それで変わらないのなら、汚染率は本当に深海棲艦の残りかすの割合なのかもね、何はともあれ汚染率に変化は無し、その他身体的異常は見受けられない、とりあえずば現状維持って事で安心していいと思うわよ」

 

 

そう言うと風音は検査結果の書かれた書類を吹雪たちに渡す。

 

 

「ありがとうございました、またよろしくお願いします」

 

 

「うん、何かあったらいつでも頼ってね」

 

 

風音の笑顔に見送られながら吹雪たちは検査室を後にし、応接室に向かうために廊下を歩く。

 

 

「さてと、異常無しって結果は出たけど、まだ油断は禁物だよね」

 

 

「そうね、特に吹雪さんはまた反転したら大変だし、念のために戦闘から離れてみたら?」

 

 

「何でそうなるのさ!」

 

 

暁の発言に吹雪が反論する。

 

 

 

「前回吹雪が反論したときは駆逐棲艦に腕を噛み千切られた時、つまり身体的な重傷を負ったときが引き金(トリガー)になってるの、それを考えたら暁の案も十分検討の余地はあると想うわよ?」

 

 

「それは…そうだけど…」

 

 

マックスの正論に吹雪は何も言えずに俯いてしまう。

 

 

「別に今すぐにとは言わないわ、吹雪はDeep Sea Fleetの旗艦(リーダー)で主戦力なんだから、抜けられたらむしろ私たちが困るもの」

 

 

「そうそう、吹雪さんあってのDeep Sea Fleetなんだから、簡単に外させないわよ」

 

 

「吹雪さんが反転するほどのダメージを受けないように私たちがフォローしますからぁ、安心してください」

 

 

「みんな…」

 

 

メンバーの言葉に吹雪は目頭が熱くなるのを感じる。

 

 

「みんなありがとね、なんだか泣けてきちゃった…」

 

 

「あ~、泣き顔吹雪さん可愛いです~」

 

 

「う、うるさいな!」

 

 

応接室に戻るまでの間、暁たちは涙目で頬を赤らめている吹雪をからかって遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベアトリス、量産型の新規開発に成功したって事だけど、詳細を聞かせてもらってもいい?」

 

 

「はい、こちらが資料になります」

 

 

ベアトリスは少女に新型の資料を渡す。

 

 

「どれどれ…?」

 

 

 

 

 

○量産型仕様書(スペック)

・名前:癒送兵級(ビショップ)

個体番号(シリアルナンバー):H/S:Bishop

・用途:物資運搬、補給

・各能力

機動:S

攻撃:E

防御:A

 

 

 

 

「…運び屋の量産型?」

 

 

今までにないタイプに少女は首を傾げる。

 

 

王兵級(キング)女王兵級(クイーン)歩兵級(ポーン)などの量産型に燃料や弾を補給するための量産型です、そろそろ兵站(へいたん)の強化をはかる頃かと思いまして」

 

 

「なるほど、確かにこれは重要なモノだわ」

 

 

少女は感心するような様子で資料をベアトリスに返す。

 

 

「運用はもう始まってるの?」

 

 

「はい、すでにいくつかの部隊に配置しています、結果は今の所良好です」

 

 

「そう…分かったわ、本当にベアトリスは優秀ね、あなたを作って正解だったわ」

 

 

「お褒めに預かり光栄の極みでございます、このベアトリス、あなた様のお役に立てるのならどんな事でもいたします」

 

 

ベアトリスはそう言って少女の前に跪く、少女はそんなベアトリスを愛おしそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…本当に生きててくれてありがとう、これほど嬉しいことは無いわ」

 

 

川内は目の前で涙を流して喜んでいる女性を見て乾いた笑いを浮かべていた、成功すると踏んでいた作戦だったがこうも上手く行くとは思わなかった。

 

 

「さぁ、早くお家に入りましょう、夜衣」

 

 

「……うん」

 

 

天使夜衣の母親…天使(あまつか)雪衣(ゆきえ)に手を引かれる川内は、どうしようもないくらいに気まずい顔をしていた。

 

 

 




次回「望まれなかった再会」

実は前半部分はもう少し文章量多かったんですけど、投稿しようと下書きコピペしてたら操作ミスで前半丸ごと消えてしまいました、書いた内容全然覚えていなかった(全て書き直すのしんどかったのもある)ので結構削られてると思います(タイミング見て加筆しようかな…)。


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第104話「篝の場合6」

ソフトを買ってから約7ヶ月、ようやく艦これ改をクリアしました、丁作戦(一番低い難易度)でこんな時間かかるとは思いませんでした。


今回の話の内容と103話の最後の会話の内容で矛盾が発生してしまったので103話の最後を少し書き直しました、見切り発車怖い(学習しろよ)。


事の起こりは造船所での出来事まで遡る。

 

 

 

 

 

「天使夜衣の住所が知りたい?」

 

 

吹雪と海原たちが合流して鎮守府へ帰ろうかという話になったとき、川内が榊原にそうお願いしたのだ。

 

 

「うん、教えてほしいの」

 

 

「聞いてどうするつもり?」

 

 

「実際に行ってみるの、夜衣の事が何か分かれば夜嫌いを克服するヒントが見つかるかもだから」

 

 

「…川内の言うことは確かに理にかなってるけど、あんまりおすすめは出来ないかもね」

 

 

「えっ?どうして?」

 

 

「他の艦娘ならともかく、川内は素体に容姿が似すぎてる、夜衣の知人に見つかったらトラブルになる可能性も無視できない」

 

 

榊原はそう言って腕を組む、艦娘によって個体差はあるが、艦娘の容姿は素体の容姿と似る事がある、素体を分解&再構成しているので似るのは当然なのだが、どの程度似るかは艦娘によって異なる。

 

 

川内のように瓜二つに建造される艦娘もいれば、まるで別人のようになってしまう艦娘もいる。

 

 

「トラブルにならないように注意して行動するから、なんなら監視をつけてもいいし、お願い!私の夜嫌いのせいで篝が轟沈しちゃったのに、このままじゃいけないと思うの!」

 

 

両手を合わせて頼み込む川内に榊原はどうしたものか…と頭を悩ませる。

 

 

「いいんじゃないですか?」

 

 

ここで川内に助け船を出したのは海原だった。

 

 

「篝を助けるために夜嫌いを克服する必要があるかどうかは微妙な所ですけど、それが原因で篝が轟沈してるのであれば放置するのも得策ではないと思うんで、何なら俺も付き添いますし」

 

 

その言葉が後押しになったのか、榊原が首を縦に振る。

 

 

「…分かった、ただし軽率な行動は絶対に慎むようにに、海原くんの同行の判断はそちらに任せるよ」

 

 

「あ、ありがとう!」

 

 

川内は榊原に頭を下げてお礼を言う。

 

 

「…はい、これが天使夜衣の住所、都内だからそんなに遠くはないと思うよ」

 

 

榊原から住所の書かれた書類を受け取ると、海原一行は造船所を後にする。

 

 

 

 

その翌日、早速川内は夜衣の住所を訪ねるべく都内某所へと向かった、詳しい場所はプライバシー保護のため伏せる事にする。

 

 

「…東京都内って聞いたから都会かと思ったけど、結構田舎なのね」

 

 

「東京=都会ってイメージ持ってる人多いけど、実際都会なのは23区の中心くらいだからね、そっから外れればほとんど片田舎だよ」

 

 

川内の愚痴に同行人の吹雪が返す、本当は海原が行ければ良かったのだが、大本営が緊急の司令官会議を行うとかで行けなくなってしまったので提督代理で吹雪が同行している。

 

 

ちなみに海原には三日月がついているのだが、その同行人は誰にするかでじゃんけん大会という名の殴り合いがあったのは海原は知らない。

 

 

「それで、そこが夜衣の通ってた高校だね」

 

 

吹雪が資料を見ながら目の前の校舎を見る、授業中なのかとても静かだ。

 

 

「…こうして(ゆかり)の場所を辿れば何か頭にビビッとくるモノがあるんじゃないかって思ったけど、何にも感じないや」

 

 

「そりゃ記憶を抹消されてるからね、上書きされる前のセーブデータはどうやったって復元できないよ、今の川内が持ってる前世(トラウマ)は言わばバグみたいなモンだし」

 

 

川内もその辺予想ついてたでしょ?と吹雪は他人事のように言う。

 

 

「だよねぇ…こうなったら夜衣の力を借りるしかないか」

 

 

「?」

 

 

川内の言葉の意味が分からず吹雪が首を傾げる。

 

 

「実際に夜衣の両親に会ってみるんだよ」

 

 

川内のその言葉を聞いた吹雪はこれといったリアクションはしなかったが、その目にはわずかに驚きの感情が見て取れた。

 

 

「私の姿って夜衣にすごくそっくりみたいだから、それを利用して両親に近づくの、姿が同じなら疑わないだろうし、事件のショックで記憶喪失になったって言えば色々情報吐いてもらえそうじゃん?」

 

 

川内は得意げに自分の計画を吹雪に語る、正直あまり誉められた方法ではないが、この時の川内はそれが最善の方法だと思っていた、それに加えて訳の分からない前世(トラウマ)を残していった夜衣に対する怒りや当てつけのような感情なんかもあり、ちょっとくらいこの姿を利用したって罰は当たらないだろうと考えていた。

 

 

「…ふーん、上手くいくといいね」

 

 

「絶対に上手くいくよ!」

 

 

川内は自信満々に言うが、川内の計画は最悪の結果に終わるということに吹雪は既に気付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(身を持って経験しないと、分からない事もあるしね)

 

 

 

 

 

しかし吹雪は何も言わず、哀れみにも似た目で川内を見ることしかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は川内と雪衣が対面したときに戻ってくる、雪衣は玄関に立っている川内を見るや否や目に大粒の涙を浮かべて飛びかかってきた。

 

 

(何て言うか、ここまで喜ばれると本当のこと言い辛いや)

 

 

人目もはばからず大泣きで抱きついてくる雪衣を見て騙している事に対する罪悪感を抱かないわけでもなかったが、川内はそれでも許してくれると思っていた。

 

 

(人格や記憶は変わっても身体は夜衣と同じだし、別に問題ないよね)

 

 

騙しているというわずかな罪悪感と、家の外で大泣きされているというどうしようもない気まずさをない交ぜにしながら、川内は雪衣に手を引かれて家の中に入っていく。

 

 

「…取り合えずば順調みたいね」

 

 

 

玄関先での様子を見守っていた吹雪は川内が出て来るのを待つために天使家から少し離れた曲がり角に座る。

 

 

 

「…さてと、川内はどんな顔をして出てくるかな」

 

 

口ではそう言う吹雪だが、絶対に笑顔ではないだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあなたが帰ってきてくれるなんて夢のようだわ」

 

 

「その言葉さっきも聞いたよ~」

 

 

無事天使家に潜入した川内は夜衣を演じながら雪衣と取り留めのない話をする、父親は仕事に行っているらしく、今家の中にいるのは雪衣と川内のふたりだけだ。

 

 

「それで夜衣、事件のショックで記憶が無いって本当?」

 

 

雪衣は心底悲しそうな顔をして川内を見る、雪衣には死亡した自分の身体をとある医療施設の人が頑張って蘇生してくれて、記憶喪失はその影響だと説明した、自分でもかなり苦しい言い訳だと思ったが、雪衣はそれをなんの疑いもなく信じてくれた。

 

 

(チョロいお母さんだなぁ…)

 

 

 

川内はそんな事を考えていたが、当の雪衣からしてみればひどい話である、見ず知らずの通り魔に娘を殺されかけ、あまつさえ記憶まで無くしてしまったのだ、これほど悲しいことはないだろう。

 

 

「うん…お母さんの事も、私自身のこともほとんど覚えてないの、ごめんね」

 

 

「そんなこと無いわ!これからゆっくり思い出していけばいいのよ!」

 

 

雪衣は笑顔で振る舞っているが、内心は穏やかではないだろうと川内は思う。

 

 

「それでお母さん、聞きたいことがあるんだけど…」

 

 

「何?何でも言って!」

 

 

「実は私、目覚めてから夜が怖いの」

 

 

川内はいきなり核心を突いて雪衣に問い掛ける、それを聞かれた雪衣は取り繕った笑顔に影を落とした。

 

 

「暗くなると何でか知らないけど急に怖くなるの、施設の人は殺されたときのトラウマみたいなモノだって言うんだけど、私は何か別の理由があるんじゃないかなって…」

 

 

川内がそう言うと、雪衣はその口を恐る恐る開いた。

 

 

「…今の夜衣は覚えてないかもしれないけど、あなたは元々夜…というより暗いところを怖がる子だったのよ」

 

 

「暗いところを?」

 

 

つまり夜衣は死ぬ前から夜嫌いだったということだろうか…?よく分からなかったので続きを話すように促す。

 

 

「夜衣は小学生の頃お父さんにお仕置きとして床下収納に閉じ込められたら事があったのよ、それがよほど怖かったのか、その日以来あなたは暗い場所を怖がるようになったの」

 

 

雪衣の話を聞いた川内はあっけらかんとした様子で雪衣を見る、つまり川内の夜嫌いのルーツは夜衣で、その原因を作ったのは両親ということになる。

 

 

(まさか私の夜嫌いに二段重ねの原因があったとは…)

 

 

まだ見ぬ父親に密かな怒りを沸かせる川内であった。

 

 

「今日はお父さんも早く帰ってくるだろうから、あなたが帰ってきたお祝いをしましょう、お父さんも絶対喜ぶわよ」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

嬉しさのあまり小躍りする雪衣を見て、川内はその罪悪感を少しずつ大きくしていった。

 

 

(…ひょっとして私、大変な事をしてるのかも)

 

 

そう思い始めた川内だったが、もう事がその程度では済まなくなっていることに、川内はついに気づく事は無かった。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、父親の天使高雅(こうが)は帰宅するや否や娘がいることにひとしきり驚いた後、男に似合わない大粒の涙を流して喜び、川内を抱きしめた。

 

 

(…お父さんも帰ってきたことだし、そろそろ本当のことを伝えよう)

 

 

川内は両親を呼ぶと、何の脈絡もなく真実を突きつける。

 

 

「ごめん、実は私、夜衣じゃないんだ」

 

 

開口一番に出た娘の台詞にふたりは固まってしまう、一体何を言ってるんだ?そう言いたげに川内を見つめている。

 

 

それを皮きりに川内は次々と真実を両親に突きつけていく、夜衣はあの日に間違い無く死んでいる事、自分はその夜衣の身体から作られた艦娘で、深海棲艦と戦うために軍に所属している事、そして“夜衣”の記憶や人格はその際に抹消され、今の自分は軽巡洋艦“川内”だということ。

 

 

「………」

 

 

 

全てを打ち明けられた両親は茫然自失といった様子で川内を見ていた、つまり、もう夜衣は…

 

 

「…てことは何?夜衣はもうこの世のどこにもいないって事?」

 

 

「はい、でも私は夜衣さんの身体から作られました、だから…」

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけないでッ!!!!」

 

 

 

 

川内が説明を続けていると、突然雪衣が声を上げて川内に掴みかかる。

 

 

 

「あなた…!今まで私たちを騙してたの!?」

 

 

「だ、騙してたことは悪いと思ってます…」

 

 

「“悪いと思ってます”?そんなモンで俺たちが許せると思ってんのか!?」

 

 

川内の言葉が高雅の逆鱗に触れたらしく、高雅も川内に迫って声を荒げる。

 

 

「俺たちは死んだと思ってた娘が、家族が生きてたって知ってめちゃくちゃ嬉しかったんだぞ!これでまた3人一緒に暮らせるって、なのにお前はそれを…!俺たちの気持ちを弄んだんだぞ!その自覚があんのか!えぇ!?」

 

 

「っ!!」

 

 

高雅にそう怒鳴りつけられ、川内はようやく自分がしでかした事の重大さに気づいた、自分は夜衣の容姿を利用して両親を…遺族の心を悪戯に傷つけたのだ、前世(トラウマ)を残した夜衣への怒りと当てつけという身勝手な理由で…。

 

 

「で、でも…先ほども言いましたが、私は夜衣さんの身体をもとに建造されました、姿だってそっくりでしょう…?それならあなたたちの娘って事に…」

 

 

自分の軽率さと浅はかさが招いた結果に身を振るわせながら、川内は弁明を続ける。

 

 

「まだ分かってねぇみてぇだな」

 

 

高雅は川内の胸ぐらを掴んでぐいっと引き寄せる、怒りに満ちた顔で迫られた川内は恐怖で身を竦ませる。

 

 

「姿形は夜衣でもその記憶や人格は全くの別人、それを夜衣って言えんのか!そんなもん、夜衣の皮を被った偽物じゃねぇか!」

 

 

「…あ」

 

 

川内は自分の認識がまだ甘かった事を自覚する、確かに川内の容姿は夜衣そのものだ、しかし夜衣の記憶や人格、その他諸々の情報はすでに抹消されている、つまり、“天使夜衣”という自我はもうこの世のどこにも存在してないのだ、その空っぽになった夜衣の中に存在しているのは“川内”という全くの別人格、そうなってしまえばもう夜衣ではなくなってしまう、高雅の言うとおり夜衣の皮を被った“何か”だ。

 

 

「…申し訳ありませんでした」

 

 

高雅から解放された川内はそのまま土下座をして雪衣と高雅に謝罪する、当然こんな事で許されるものでないというのは重々承知しているが、今の川内にはこれしか思いつかなかった。

 

 

「…出ていけ、二度とその面を見せんじゃねぇ」

 

 

高雅は静かに川内に言った、そう言われた川内はゆっくりと立ち上がったが、すぐに出て行く気にはなれなかった。

 

 

「あの……本当にごめんなさ…」

 

 

「出ていけって言ってんだよ!夜衣(にんげん)の皮を被った艦娘(バケモノ)が!」

 

 

「っ!」

 

 

高雅から浴びせられたその言葉は、鋭いナイフのように川内を貫いた。

 

 

「…お邪魔しました」

 

 

川内はそのまま回れ右をしてリビングを後にする。

 

 

「今回の事は、本当に申し訳ないと思っています…」

 

 

去り際に川内はせめてもの思いでその言葉を口にしたが、ふたりからは何も返ってこなかった。

 

 

天使家を出た川内は吹雪と合流するために歩き始めたが、堪えきれなくなったモノが目から溢れ出して視界を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、最低だ…」

 

 

今の川内に、涙を堪えることは出来なかった。




次回「たとえ偽物でも…」

そう言えば川内が出て来るまで吹雪何してたんだろう…


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第105話「篝の場合7」

勝敗で獲得経験値が変わるという話を聞いたので、演習でLv.75の加賀を殴って検証してみました。

・S勝利:15616EXP
・D敗北:7276 EXP

…意外と差があった(単艦なので旗艦&MVPボーナス含む)。

艦これ×なか卯コラボキャンペーン始まりましたね、3Dカード対象点が近場にあったので牛丼食べてカードゲットしてきました、絵柄は瑞穂だったんですけど、なんか姫級の深海棲艦みたいな顔してますね、この子。


「お帰り、結果は…聞くまでもないか」

 

 

天使家から出て来た川内を見て吹雪は言う、その泣きはらした目が全てを物語っていた。

 

 

「夜衣のご両親に何かと言われたんでしょ?」

 

 

「…人間の皮を被ったバケモノだって…」

 

 

川内は消え入りそうな声で答えるとまた涙を流しはじめる。

 

 

「結構キツい事を言われたんだね…」

 

 

「…吹雪はこうなるって初めから分かってたの?」

 

 

まるで最初から結果が見えていたかのような物言いをする吹雪に川内は睨むような視線を送る。

 

 

「当たり前でしょ、娘を思うご両親の気持ちを利用したんだからこうなるのは当然の結果だよ、せめて初めから正体を明かして協力を申し出るとかすれば結果は違ったと思うよ?」

 

 

「……何でそれを言ってくれなかったのさ、言ってくれれば、雪衣さんたちを傷つけずに済んだかもしれないのに…!」

 

 

川内は吹雪の肩をつかんで問い掛けるが、当の吹雪は冷めた表情で川内を見つめるだけだった。

 

 

「事前に言ってたとしても結果は変わらなかったと思うよ」

 

 

「何でさ!」

 

 

徐々に苛立ちを見せ始める川内に吹雪は核心をついた一言を言い放つ。

 

 

 

 

「じゃあ聞くけど、川内さんはどんな気持ちで夜衣のご両親に会ったの?」

 

 

「…えっ?」

 

 

言われたことの意味が分からず、川内は頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「自分の夜嫌いを克服したい、夜衣の事を知りたい、そしてご両親と真剣に向き合って話をしたい、そういう心構えで川内さんはご両親に会った?」

 

 

「…それは…」

 

 

川内は何も言えずに俯いてしまう、吹雪の問いかけに対する川内の答えはNOだ、自分は夜衣の両親を体の良い情報源としか考えていなかったしそれに対する罪悪感も感じていなかった、おまけに雪衣や高雅に怒鳴られるまで自分の起こした事の重大さに気付く事も出来なかったし、完全に川内の自業自得による結果と言えよう。

 

 

「だから私は何も言わなかったの、川内さんの中の不純な気持ちが消えない限りは、ご両親に川内さんの声は届かないよ」

 

 

「…………」

 

 

川内は身体を震わせて再び泣き出してしまう、こんなにも自分の意識が、考えが、覚悟が、ありとあらゆるモノが足りていなかった、その現実を実感する度に涙がこぼれてくる。

 

 

「……吹雪、一個わがまま言ってもいい?」

 

 

「何?」

 

 

川内が何を言うかはすでに分かっていたが、吹雪はあえて先を促す。

 

 

「明日、もう一度リベンジしてもいい?今度はまっすぐな気持ちで向き合ってみせるから」

 

 

「もちろん、とことんまで付き合うよ」

 

 

川内の吹っ切れたような表情を見て、吹雪は笑ってそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、川内と吹雪は再び天使家を訪れていた、玄関口に立っている川内を見て雪衣が思い切り不機嫌な顔をする。

 

 

「…それで?懲りもせずにのこのことやってきたわけ?」

 

 

雪衣は川内を軽蔑するような目で見る、川内はそんな雪衣の言葉に臆する事無く話を続ける。

 

 

「お願いします、夜衣さんの事でお話を聞かせてください」

 

 

「…話すことは何もないわ、帰ってちょうだい」

 

 

川内は頭を下げて雪衣に頼み込むが、あっさりと断られてしまう。

 

 

「昨日のことは完全に私の不徳の致す所でした、申し訳ありません、ですがどうしてもあなた方の協力が必要なんです…」

 

 

「帰って!これ以上夜衣の姿で、夜衣の声で私たちを苦しめないで!」

 

 

しかし川内の必死の説得も虚しく、結果は決裂で終わりそうだ。

 

 

(やっぱりダメなのかな…)

 

 

川内が諦めかけたその時…

 

 

 

 

「…えっ?」

 

 

深海棲艦の襲撃を知らせるサイレンが、片田舎の町に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「な、何これ!?」

 

 

雪衣がサイレンを聞いて動揺する、ここは内陸の方なのでサイレンを聞く機会が無いのだろう。

 

 

「深海棲艦襲撃のサイレンですね、敵が来ます」

 

 

「し、深海棲艦!?」

 

雪衣は目を剥いた、深海棲艦の事はもちろん知っていたが、海に面していないこの地域では関係のない事だと思っていたからだ。

 

 

「でも何でこんな内陸部に深海棲艦が…?」

 

 

「たぶん駆逐戦車だと思うよ、秋葉原襲撃でエリザベートが味をしめたってとこかな」

 

 

川内の疑問に吹雪が答える、このあたりにも緊急用の水路が通っているみたいなので、ベアトリスやエリザベートが駆逐戦車を放ったのだろう。

 

 

経緯はどうであれサイレンが鳴った時点でこの町に深海棲艦が出現したことは確定なのだ、ならば早々に対策を練らなければならない。

 

 

「この地域でサイレンがなったらどうする事になってますか?」

 

 

こうなってしまっては交渉は不可能だと判断した川内は気持ちを切り替えて雪衣に聞く。

 

 

「ええっと…一応シェルターに避難するって事になってるけど…」

 

 

急に雰囲気が変わった川内に戸惑いながら雪衣は答える。

 

 

「シェルターの場所は?」

 

 

「この先に500mくらい進んだとこに…」

 

 

そう言うと雪衣は北西の方向を指さす。

 

 

「川内さん、私はこの区画の駐屯基地に連絡をするので川内さんは近隣住民を集めて下さい」

 

 

「了解、というワケなので雪衣さん、申し訳ないですけど、私たちに従って避難していただきます」

 

 

「はぁ!?何であんたに従わなきゃなんないのよ!」

 

 

「艦娘は有事の際には民間人への避難指示など特定の行動に限って指揮権を持つんです、つまり今の私たちにはあなた方を避難させる権利と義務と責任があるんです」

 

 

川内は雪衣にそう説明するが、少し杓子定規になってしまったことを少し後悔する。

 

 

「……信用しろって言うの?昨日あれだけのことをしたあんたを?」

 

 

「雪衣さんが仰りたい事はもちろん分かります、ですが今は一刻の猶予もありません、私はあなたたちを守りたいんです、今この時だけ、私たちを信じて貰えないでしょうか…?」

 

 

川内はそう言うと精一杯の誠意を持って頭を下げる、昨日のことで川内は雪衣や高雅に対して大きな負い目を感じている、しかしそれを抜きにしても自分は雪衣を守らなければならない、いや、守りたい、それが艦娘である自分の意志だ。

 

 

それに自分は身体だけで言えば雪衣の娘だ、たとえ偽物と言われても、親を守るのが娘としての使命だろう。

 

 

 

「…分かったわ、今回だけよ」

 

 

川内の気持ちが伝わったのか、雪衣はそれを了承してくれた。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

それを皮きりに川内は近隣の家を回って避難住民を集めた、その数は20人、主にお年寄りや未就学児、その母親がメインだった。

 

 

「川内さん、駐屯基地によるとすでに町では戦闘が始まっていて、いつ敵艦が現れるか分からない状況みたいだよ」

 

 

「艦種は?」

 

 

 

「駆逐戦車が10体くらいだって、すでに戦艦部隊が4体倒してるみたい、私たちの状況を基地長に伝えたら近くの住民をシェルターに連れて来てって」

 

 

「分かった」

 

 

合流した吹雪からの報告を聞くと、川内は集まった避難住民を前に号令をかける。

 

 

「これよりシェルターへの避難移動を開始します!出来るだけ皆さんのペースに合わせますが、可能な限り迅速な移動にご協力をお願いします!万が一戦闘になった場合は速やかに私たちから離れてください!」

 

 

川内の言葉に全員が肯定の意志を示すと、先頭に川内、その後に吹雪の順番で避難住民を引っ張る。

 

 

(駆逐戦車とのエンカウントだけは勘弁ね…)

 

 

そんな事を思いながら川内は先頭を歩く。

 

 

 

 

「…本当に勘弁してよ」

 

 

シェルターまで残り約300mといったところで恐れていた事が起きてしまった、駆逐戦車とのエンカウントである。

 

 

「数は1体か…素直に通してはくれなさそうだね」

 

 

川内は忌々しげに駆逐戦車を睨み付ける、一方駆逐戦車はそんな川内の心内など知ったことかと頭部の主砲を構える。

 

 

「…川内さん、この駆逐戦車は私が引き受けます」

 

 

「吹雪…?」

 

 

吹雪は手甲拳(ナックル)を構えて駆逐戦車と相対する。

 

 

「川内さんはこのまま住民の皆さんを連れて先に進んで、駆逐艦の私より軽巡の川内さんの方が頼りになる」

 

 

「………分かった、頼んだよ!」

 

 

「任せて!」

 

 

川内は吹雪をこの場に残して避難住民を連れて歩き始める、それに反応して駆逐戦車が川内に砲身を向けてきたが…

 

 

「おーっと、あんたの相手はこの私だよ」

 

 

駆逐戦車を殴りつけてこちらに視線を向けさせると、吹雪は不適な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(でも、絶対私より吹雪の方が戦闘力上だよね…)

 

 

戦闘中の吹雪をチラリと一瞥しながら、川内は心の中でそう思った。




次回「これがバケモノだ」

艦これ改の中枢棲姫戦(ラスボス)のドロップで大和が出たんですけど、消費資材がヤバそうなので一度も使ってません。


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第106話「篝の場合8」

「制空権優勢以上かつ主砲×2で戦艦や重巡が確率で連撃をする」という話を何かで見たんですけど、あれって主砲×2以外は無効なんでしょうか…?

「主砲/主砲/三式弾/偵察機」の青葉は連撃をするんですけど、「主砲/主砲/副砲/電探」の鳥海は連撃をしないんです、鳥海は副砲外した方がいいんでしょうか?


吹雪を残して避難用シェルターを目指して移動する川内たち避難住民一行、しかしシェルターまであと150mほどといったところで最悪の事態になってしまった。

 

 

「…嘘でしょ…?」

 

 

住宅地を抜けて田園風景が目立ちはじめた道路に駆逐戦車が1体待ちかまえていた、すでに敵はこちらに気づいており、船体腹部にある主砲2機がこちらをロックオンしている。

 

 

「…やるしかないか!」

 

 

見逃してくれないと判断した川内は戦闘態勢に移行、避難住民を後ろに下がらせると右手に主砲を構えて駆逐戦車に向けて撃つ。

 

 

砲弾は見事駆逐戦車に命中したが、一撃で撃沈は出来なかった。

 

 

(もう一発…!)

 

 

川内は駆逐戦車から距離を取って再び狙いを定めるが、駆逐戦車がそれより先に2機の主砲を同時に撃ってきた。

 

 

「うわっ…!」

 

 

川内はそれを紙一重でかわし、たった今まで川内の立っていた場所のアスファルトが地面ごとえぐり取られる。

 

 

「あぁもう!アキバの時もそうだったけど、やっぱり陸上戦は厄介ね!」

 

 

被った土を手で払いながら川内は舌打ちをする、駆逐戦車の攻撃準備が整う前に砲撃を行おうとしたが…

 

「っ!!嘘…!?」

 

 

装填(リロード)中の駆逐戦車が右前足でガードレールを引き剥がし、長物の要領でそれを持つ。

 

 

「近接用の得物とか聞いてない…よ!」

 

 

猛スピードで振り下ろされるガードレールを川内は深海棲器の太刀で受け止める、さっきの別れ際に吹雪から借りたものなのだが、まさかこんな所で使うことになるとは思っていなかった。

 

 

「くっ…!ぐぎぎ…!」

 

 

両者鍔迫り合いになっているがパワーは駆逐戦車の方が上のようで、川内はジリ貧で押されていた、この膠着(こうちゃく)状態をどうにかしなければ押し負ける、しかし両手で太刀を押さえているので砲撃が出来ない、どうしたものかと素早く頭を回し始めていたその時…

 

 

 

「しまっ…!?」

 

 

砲撃準備の整った駆逐戦車のわき腹の主砲が川内目掛けて砲弾をぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

駆逐戦車の砲撃を受けた川内はそのまま後方へ吹き飛ばされて堅いアスファルトの上をバウンドする。

 

 

「あぅ…ぐぁぅ…」

 

 

砲弾が直撃だった上にアスファルトに身体を打ち付けた川内はかなりのダメージを受けていた、身体中に鈍い痛みを感じながら川内は太刀を杖代わりに立ち上がる、額の方から血が垂れてくるが、強引に服の袖で拭う。

 

 

「だりゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

川内は駆逐戦車の長物のリーチ内に入らないように注意しながら砲撃を行う、駆逐戦車もそれをかわしていくが食らう弾数の方が多く、着実にダメージを受けていく。

 

 

しかし駆逐戦車には致命傷になるようなダメージは入っていなかった。

 

 

「まさかこいつ、部隊長(エリート)…!?」

 

 

駆逐棲艦にも部隊長(エリート)司令艦(フラグシップ)といった上位種は存在するが、たたでさえ手を焼く駆逐戦車にも上位種がいるというのだろうか、勘弁願いたい話である。

 

 

しかし部隊長(エリート)だろうがなんだろうが関係ない、この駆逐戦車を倒さなければ住民の安全な避難は出来ないのだ、川内は依然として痛む足を引きずるようにして駆逐戦車に接近する。

 

 

「主砲がダメなら雷撃で!」

 

 

川内は魚雷発射管から一本引き抜くと、ダーツの要領で投擲する、今までやったことの無い技術だが、図体がデカい上に海上戦では必須の未来位置予測を行う必要が無いのである程度当てやすい。

 

 

魚雷を食らった駆逐戦車がよろけて攻撃動作が鈍る、田んぼに落として動けなくするという手もあるのだが、収穫時期間近で実った稲穂を見るとやりたくなかった。

 

 

一方川内の方も駆逐戦車の砲撃を掠る程度だが食らっており、ちくちくとダメージを積み重ねている。

 

 

「これで決める…!」

 

 

右手に主砲、左手に太刀を持って駆逐戦車に突撃する、相手も相当ダメージを食らっているはずなのであと一撃入れれば勝てるだろう。

 

 

 

 

…そう思っていた川内だったが、ここで予想外の事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

駆逐戦車が跳躍した、ガードレールを投げ捨てて自由になった4本の足を使って前方にジャンプし、川内の目の前に着地した。

 

 

「そりゃ無いって!」

 

 

急ブレーキをかけた川内は慌てて距離を取ろうとしたがすでに遅かった、川内は駆逐戦車の左前足にがっしり掴まれてしまう。

 

 

「うぐっ…」

 

 

馬鹿みたいな握力が身体に襲いかかり、あちこちの骨が軋む音がする、何とか脱出しようともがくが、腕を抜くことすら出来ないので身体を(よじ)る事しか出来ない、この時川内はこのまま投げ飛ばされるモノだと思っていたが、駆逐戦車はそんな慈悲深い怪物ではなかった。

 

 

駆逐戦車は右前足で川内の左腕を器用に出して掴むと、躊躇無くそれを引きちぎった。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

想像を絶する痛みに脳がスパークする、艤装の加護のお陰で出血は一定の量まで抑えられているが、放っておけば出血死は免れない。

 

 

川内はそのまま駆逐戦車に投げ飛ばされ、アスファルトに叩きつけられる、物陰に隠れていた住民が川内の状態を見て悲鳴をあげたり目を覆ったりしていた。

 

 

「あっ…!うぐぅ…!」

 

 

川内は何とか立ち上がろうとするが、腕の痛みが酷くて思うように動けない。

 

 

(ダメだ、こんな所でダウンしたらダメだ…!)

 

 

 

この後ろには避難住民がいるのだ、今ここで自分が倒れれば駆逐戦車の狙いは雪衣たちに向かうだろう、それだけは絶対に許されない。

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

 

「ちょっとあんた…!」

 

 

見かねた雪衣が声をかける、そのほかの住民たちも川内を見て目に涙を浮かべていた、今まで深海棲艦という存在は対岸の火事のように考えていたが、こんな年端も行かない少女が傷つきながら戦っているという現実を目の当たりにして言葉が出なかった。

 

 

「大丈夫です…!大丈夫ですから!絶対にあなたたちを守って見せます!」

 

 

後ろの雪衣たちを何が何でも守り抜いてシェルターに連れて行く、その一心で川内は立ち上がるが、正直身体はフラフラだし腕の痛みで精神が狂っているのか、こんな状況なのににやけ笑いが出てしまう。

 

 

「何であんたはそこまでして…!」

 

 

「何でって、そりゃ私が艦娘だからですよ、深海棲艦から日本国民を守るのが私たちの使命です」

 

 

川内は杓子定規にそう答える。

 

 

「それに、あなたを見ていると胸の奥からこみ上げてくるような“何か”を感じるんですよ、まるで夜衣さんが助けろって言ってるみたいに」

 

 

ただし、それに川内の気持ちを上乗せして…。

 

 

「えっ…?」

 

 

「例え偽物と言われても、私の身体は夜衣さんなんです!仮に艦娘でなくても、助ける理由はそれだけあれば十分です!」

 

 

そう言うと川内は駆け出した、片腕が無いせいでバランスが取りにくいが、転ばないように走る。

 

 

駆逐戦車が川内を狙って砲撃を行うが、それを川内は紙一重のタイミングでかわす、その内の一発が腹部を掠めて血が流れ落ちるが、それすら気にならないほどのアドレナリン全開で川内は走る。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

駆逐戦車に肉薄した川内は片手で持てるだけの魚雷を持つとそれを駆逐戦車の中に放り込み、主砲を撃って砲弾をぶち込む。

 

 

砲弾によって誘爆した魚雷は駆逐戦車の中で大爆発を起こしてその船体を木っ端みじんに吹き飛ばす。

 

 

「どんなもんよ…」

 

 

川内は力無く笑うと、そのままフラついて倒れそうになるが…

 

 

「…へ…?」

 

 

雪衣が川内のそばに駆け寄り、その身体を支えてくれた。

 

 

「…ありがとう…ございます…」

 

 

「…………」

 

 

雪衣は何も言わなかったが、シェルターに着くまでの間ずっと肩を貸してくれていた。

 

 

ちなみにそのすぐ後に吹雪が追い付いてきたのだが、ボロボロになった川内を見てめちゃくちゃ驚いていたのはまた別のお話。




次回「想いを託して」

小説では軽巡ボコボコにしてる後期型eliteですけど、ゲームでは強いんですかね?駆逐艦でも楽に撃破できるような強さだったら違和感不可避ですね。


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第107話「篝の場合9」

お久しぶりです、最近仕事が忙しくてすっかり遅れてしまいました…




川内と吹雪の奮戦もあり、雪衣たち避難住民は無事に避難用シェルターにたどり着くことが出来た、このシェルターは地下に造られている巨大な建造物であり、この地域の住民を全員収容しても余裕がある程の規模である、救護用の医療設備や炊き出し用の調理設備、さらには艦娘用の簡易ドックも完備されている最新鋭のモノだ。

 

 

「うわ、すごい人」

 

 

シェルターの中はすでにほとんどの住民が入っており、皆それぞれ不安そうな顔で身を寄せ合っていた、辺りには駐屯基地の海軍職員や艦娘たちが住民を励ましたり負傷者の救護にあたっている、中には炊き出しをしている艦娘もおり、温かいスープを作って配っていた。

 

 

「すみません、ドックの使用許可貰ってくるんで川内さんを少しお願いしてもいいですか?」

 

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

 

吹雪は川内を雪衣ひとりに一旦任せると、ドック管理室に向かっていく。

 

 

(にしてもこの子、本当に重いわね…)

 

 

雪衣は川内を支えながら心の中でぼやく、今の川内は出血量を抑えるために艤装を展開させたままになっているので体重が重くなっている、そのため吹雪と雪衣のふたりで運んでいた。

 

 

(こんなになるまで私たちを…)

 

 

しかし、それを知っていながら吹雪の頼みを断らなかったのは雪衣なりに何かしら思うところがあったのだろうか。

 

 

「…ごめんなさい、こんな所で迷惑かけて…」

 

 

「…別に迷惑だとは思ってないわよ、昨日のことを許したわけじゃないけど、こんなになるまで私たちを守ってくれたことには素直に感謝してるし、ありがとね」

 

 

「雪衣さん…」

 

 

 

ツンケンしているものの、若干の照れ隠しが見て取れる雪衣の言葉を聞いて川内は自然と顔を綻ばせてしまう。

 

 

 

「雪衣!大丈夫だったか!?」

 

 

ふたりがそのまま吹雪を待っていると、高雅が雪衣のもとへ駆けてきた、高雅は近くの会社に勤めているらしいのでそこから避難してきたのだろう。

 

 

「っ!?お前…!何で雪衣と一緒にいるんだ!」

 

 

高雅は雪衣のそばに川内がいることに気付くと、親の敵を見るような目で川内を睨む。

 

 

「高雅、これには訳が…」

 

 

「とっとと雪衣から離れろ!」

 

 

高雅は雪衣の助け舟も待たずに川内を突き飛ばす、その反動で転倒した川内は尻餅をついたが、片腕が無いので上手くバランスを取ることが出来ずそのまま上半身を倒してしまう。

 

 

「ってお前、その腕…!」

 

 

ここで高雅は川内の左腕が無いことに今更気付く、破れた服の袖口で上手く隠されているが千切れた肉や骨の断面は中々にエグい事になっており、そこからは血液がポタポタと滴り落ちている。

 

 

「深海棲艦に持って行かれまして、でも入渠すれば治るので大丈夫です」

 

 

艦娘から見れば四肢欠損はままある(それでも重傷な事には変わりないのだが)事だが、人間から見れば卒倒ものの光景である、川内は高雅に気を使ってそう言ったが…

 

 

「別にテメェの心配なんかしてねぇよ、気持ちの悪ぃバケモノだと思っただけだ」

 

 

高雅は川内の心配などこれっぽっちもしていなかったようで、川内の発言を一蹴する、民間人からこのような言葉を言われることは初めてではないが、やはり面と向かって言われるとくるモノがある。

 

 

「川内さん、入渠ドックの使用許可もらってきたよ…ってどうしたの?」

 

「…いや、ちょっとバランス崩しちゃってね、転んじゃった」

 

 

倒れている川内を見て吹雪は怪訝な顔をするが、川内は適当にごまかす。

 

 

「気をつけなきゃダメだよ?じゃあドック行こうか、雪衣さん、ありがとうございました」

 

 

吹雪は雪衣に軽く会釈をすると、川内を連れて入渠設備のある部屋へと向かう。

 

 

「…何であいつと一緒にいたんだ?」

 

 

「シェルターに着くまであの子が守ってくれたのよ、あんなにボロボロになってまで…ね」

 

 

「ハッ!それがあの艦娘(バケモノ)の仕事だろ?何を当たり前のことを…」

 

 

高雅はバカバカしいといった様子で言うが、雪衣だけはどこか浮かない顔をしていた。

 

 

 

 

高速修復材を使ってドック入りした川内はすぐに完全復活した、千切れた腕も完全に元通りになり、後遺症なども見られなかった。

 

 

「はーい!スパイスの香りが決め手の海軍特性カレー、配膳はこちらとなっておりまーす!」

 

 

そして今、川内は吹雪と一緒に夕食のカレーの配膳を手伝っていた、ちなみに警備艦隊の報告によると侵攻してきた敵艦は全滅が確認されており、明日には避難住民を帰しても大丈夫だろうという結論が出た。

 

 

「…これで全員に行き渡ったかしらね、あなたたちも食べてきなさい」

 

 

一通りカレーの配膳が終わった頃、駐屯基地所属の艦娘…雲龍型航空母艦3番艦の『葛城(かつらぎ)』が川内と吹雪に言う。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「お先に頂きます」

 

 

吹雪と川内はカレーの乗ったお盆を受け取ると、適当な場所に座って食べ始める。

 

 

「そう言えば川内さん、雪衣さんの説得はどうするの?」

 

 

「うーん…出来れば続けたいけど、こんな状況じゃ話聞きたくても無理だよ…」

 

 

「だよねぇ…」

 

 

その後もうんうん頭を悩ませていたが、結局いい案は浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「川内さん、大丈夫?」

 

 

「うん、カンテラあるからなんとか」

 

 

その日の深夜、川内と吹雪は見張りのためにカンテラ片手にシェルター内を歩き回っていた、深海棲艦の夜襲を警戒した方がいいという葛城の意見からシェルター周辺とシェルター内での見張りを行っているのだ。

 

 

「吹雪、今何時くらい?」

 

 

「えーっと…午前2時だね、草木も眠る丑三つ時~」

 

 

「私の心臓にダメージ与えてくるのやめてくれる!?カンテラあるから多少は大丈夫だけどかなり怖いんだからね!?」

 

 

「ごめんごめん…」

 

 

てへぺろ☆と吹雪は可愛く謝ると、2体はそのまま見張りを続ける。

 

 

「…ん?」

 

「誰か泣いてる…?」

 

 

それから10分程たった頃、子供の泣き声が聞こえてきた。

 

 

「こんな状況だし、小さい子とか泣いてるのかもね」

 

 

「えーっと…どこだろう?」

 

 

泣き声の発信源に行ってみると、未就学児くらいの女の子が不安そうに泣いており、女の子の母親が必死にあやしていた、その隣ではなぜか雪衣も一緒になってあやしていた、多分泣き声に起こされて手伝っているのだろう。

 

「どうしたんですか?」

 

 

「それがこの子、急に泣き出して止まらなくなっちゃって…」

 

 

「どうしたのかしら…」

 

 

母親と雪衣がほとほと困り果てた様子で女の子を見る、泣き声はそれほど大きくはないが、周りの迷惑になっているのは間違いないだろう、現に近くにいる何人かの人が睨むようにこちらを見ている。

 

 

「…すみません、私にやらせてもらってもいいですか?」

 

 

ここで協力を申し出たのは意外にも川内だった。

 

「えっ?あんた子供あやせるの?」

 

 

「こう見えても自身あるんですよ、子守歌を使ってあやすのが得意なんです」

 

 

「今時子供が子守歌で寝るのかしらね…」

 

 

半信半疑といった様子で雪衣は川内を見るが、川内は気にせず子守歌を歌い始める。

 

 

「遠い昔の記憶~波間に揺蕩(たゆた)う~」

 

 

 

正直あまり子守歌っぽくない歌詞だが、歌の出だし聞いた瞬間雪衣が目を剥いた。

 

 

「…嘘、何で…?」

 

 

ありえない、彼女がこの歌を知っているわけがない、だってこの歌は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜衣が小さかった頃に聞かせてた、私のオリジナルの子守歌なのに…

 

 

 

 

(川内、あんたはやっぱり…)

 

 

 

 

 

その翌日、避難住民の帰宅が済んだ頃、吹雪と川内は再び天使家を訪れていた。

 

 

『今日この後うちに来て、話したいことがあるの』

 

 

今朝雪衣からそう言われたときは驚いた、一体何を話してくれるのだろうか…?

 

 

「まさか雪衣さんからお呼びがかかるとは思わなかったよ」

 

 

「本当だよね」

 

 

川内がインターホンを押すと、玄関から雪衣が出て来た。

 

「いらっしゃい、入って」

 

 

そう言って雪衣は2体を家の中に招き入れる、そこには昨日の怒りや憎しみといった感情は見られなかった。

 

 

リビングに入ると高雅が既に席に着いていた、それを見た川内は一瞬苦い顔をするが、すぐに元に戻す。

 

 

「それで、お話というのは…?」

 

 

吹雪と川内、雪衣と高雅が向かい合うように席に着くと、早速川内が本題に入る。

 

 

「そうね…じゃあまず川内、あなたには夜衣の記憶が多かれ少なかれ残ってるのよね?」

 

 

「はい、といっても殺されるときの恐怖くらいしか残ってないですけど…」

 

 

川内はそう苦笑しながら言うと、雪衣は次の質問を投げかける。

 

 

「あなたは、それが嫌だって思ったことがある?」

 

 

「それは…」

 

 

雪衣にそう聞かれた川内は答えに詰まる、確かに川内は最初夜衣の前世(トラウマ)をよく思っていなかったし、はっきり言って夜衣に対する怒りの感情すらあった。

 

 

「はい、最初の頃はそういった感情もありました、夜衣の記憶のせいで自分が夜嫌いになって、それで怒りを感じることもありました」

 

 

でもここでそれを隠すことは許されない、川内は包み隠さず全てを打ち明ける。

 

 

「…でも、今は違います、夜衣の過去を知った今はこの前世(トラウマ)も理解できるし、あなた方と会って夜衣は確かにいたって事も分かりました、それに私と夜衣は同じ存在です、私が夜嫌いを克服出来れば、私の中の夜衣も恐怖の記憶を乗り越える事が出来ると思っています、だから私はもう夜衣から逃げません、私は夜衣と一緒に生きていきます」

 

 

そして、今の自分の本音を余すところ無くふたりに伝える、せっかく雪衣が用意してくれた最後のチャンスをふいにしたくはない。

 

 

「…そう、ありがとう、やっぱりあなたに話を聞いて正解だったわ」

 

 

そう言って雪衣はテーブルの上に何かを置く。

 

 

「…髪飾り?」

 

 

それは髪飾りだった、赤いリボンに銀色の球のようなモノが付いている、比較的シンプルなデザインの髪飾りである。

 

 

「…あれ?」

 

 

それを見た瞬間川内はある違和感を覚えた、このような髪飾りを見るのは初めてなのに、なぜか初めて見たような感じがしない、デジャヴ…というやつだろうか?。

 

 

「それは夜衣が生前身に付けていたモノなのよ、つまりあの子の形見」

 

 

「あぁ、それで…」

 

 

それを聞いた川内は納得する、自分の中にある夜衣の記憶にこの髪飾りは琴線に触れるものがあったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたに、これを受け取ってほしいの」

 

 

「…えっ?」

 

 

川内はそのまま固まってしまっていた。




次回「招かれざる客」

ちなみに雪衣が出した夜衣の髪飾りは川内改二が付けているアレを想像してもらえれば分かりやすいと思います、ずっと花の髪飾りだと思ってたんですけど、画像見たら全く違った。


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第108話「篝の場合10」

最近週刊になりがちですみません…

そう言えば博麗神社秋季例大祭に行ってきました、太鼓の達人の出典ブースで青い霊夢の着せ替えアイテムをゲット出来る会場限定ガシャがあったんですけど、残念ながらレミリアでした。


「私が、これをですか…?」

 

 

「えぇ、受け取ってほしいの、正確には“返す”…の方が正しいかもしれないけど」

 

 

川内は髪飾りを見たまま固まってしまう、確かに川内と夜衣は同一人物だ、しかし…

 

 

「でも…今の私が持つよりあなた方が持っていた方がいいのでは…?」

 

 

今の川内には夜衣の記憶はほとんど残っていないしこの髪飾りにも何の思い入れも無い、そんな人物に返すよりも雪衣たちが持っていた方が余程良いのではないのだろうか?

 

 

「…いいえ、これはあなたが持っているべきよ、あなたからはちゃんと夜衣を感じるもの」

 

 

「へっ?」

 

 

川内はぽかんとした顔で雪衣を見る、一体自分のどこに夜衣を感じたのだろうか?。

 

 

「あなたが昨夜歌ってた子守歌、実は私が夜衣に聞かせてたオリジナルの歌なの」

 

 

「そうだったんですか!?」

 

 

雪衣の告白に川内は驚きを隠せない、実際あの子守歌は“どこで聞いたかは覚えてないけど内容は覚えてる”というレベルで知っていたのだが、まさかそのルーツが夜衣だとは思ってもいなかった。

 

 

「あなたがあの歌を覚えるって事は夜衣の心がまだ残ってるって事、あなたにこれを返すには十分な理由よ」

 

 

「…本当に受け取ってしまっていいんですか」

 

 

「もちろん、それに今回のことでちゃんと分かったから」

 

 

「?」

 

 

雪衣が言った言葉の意味が分からず川内は頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「たとえ別人になっても、記憶が無くても、夜衣はやっぱり夜衣なんだって」

 

 

「っ!」

 

 

雪衣からそれを言われた瞬間、川内の中から何かが込み上げてきた、この感情が何なのかは川内自身にも分からなかったが、まるで自分以外の誰かが心の底から喜んでいるようでもあった。

 

 

「今朝高雅とふたりで話し合ったのよ、これをあなたに託すかどうかを、高雅はちょっと迷ったみたいだけど、最終的には認めてくれたわ」

 

 

ね?と雪衣は悪戯っぽく高雅を見る、当の本人は恥ずかしそうに顔を背けるが、その顔はどこか嬉しそうだった。

 

 

「まぁその…何だ、昨日はあんな事言っちまって悪かったな」

 

 

「高雅さん…」

 

「お前が全くの別人になっちまったのは確かにショックだったけど、それでも夜衣の心がまだお前の中にいてくれたみたいで嬉しかったよ」

 

 

高雅は川内の方こそ見なかったが、その顔は確かに笑っていた。

 

 

「だから川内、これはあなたが持っていて、これからもあの子と、夜衣と生き続けて」

 

 

高雅と雪衣の言葉に、川内は涙を流していた、自分はふたりの事を覚えていないのに、全くの他人のはずなのに、今すぐ泣き叫んでしまいたいくらい嬉しかった、ひょっとしたら夜衣がそう感じているのかもしれない、川内は自然とそう思った。

 

 

「…はい、大切に…使わせていただき…ます……」

 

 

嗚咽になんとか耐えながらそう言った川内は髪飾りを受け取ると、それを頭の左側に器用に着ける。

 

 

「…うん、やっぱり夜衣はこうでなくちゃ」

 

 

「似合ってるぞ」

 

 

雪衣たちの言葉を受けた川内は目尻に涙を浮かべたまま立ち上がると…

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

とびっきりの笑顔で敬礼をした。

 

 

 

…その後、川内と吹雪は夜衣の様々な思い出話を聞かせてもらいながら楽しく談笑していた、その光景はまさに家族そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっとゆっくりしてもいいのに…」

 

 

「そうしたいのは山々なんですけど、戻って上官に報告しなければならないので…」

 

 

その日の夕方、吹雪と川内は天使夫妻を後にするために別れの挨拶をしていた、雪衣は泊まっていってもいいと言ってくれたのだが、本来の目的は篝の艦娘化だ、あまりのんびりしてはいられない。

 

 

「今回はご協力ありがとうございました、心から感謝します」

 

 

「また来てちょうだいね」

 

 

雪衣たちに見送られながら川内と吹雪は夜衣のいた町を後にした。

 

 

 

「仲直り出来てよかったね、川内さん」

 

 

「うん」

 

 

受け取った髪飾りを弄りながら川内は嬉しそうに言った。

 

 

 

 

2体が台場鎮守府に戻る頃にはすっかり夜になっていた、吹雪が手をつないでくれたおかげでパニックになることはなかったが、その分女子同士で手を繋いでいるというシチュエーションに対して別の恥ずかしさがこみ上げてくる川内だった。

 

 

「ただいま戻りました~」

 

 

「あ、お帰りなさい!」

 

 

正面玄関をくぐると雪風が出迎えてくれた。

 

 

「私たちが出てる間に変わったことはあった?」

 

 

「変わったこと、ですか…」

 

 

吹雪の質問に雪風は気まずそうに目線をそらす、どうやら何かがあったらしい。

 

 

「今、鎮守府に予想外のお客様が見えてます…」

 

 

「予想外のお客様…?誰のこと?」

 

 

「提督室にいるので、一緒に来てください」

 

 

そう言うと雪風は吹雪たちを提督室に案内する。

 

 

「おぉ、吹雪に川内、今戻ったのか?」

 

 

提督室に入ると海原が書類を書きながら出迎えてくれた、そして雪風の言っていたお客様はソファに腰掛けていた。

 

 

「はい、ただいま戻り…まし……た……」

 

 

そのお客様とは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…篝…?」

 

 

深海棲艦となった篝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェックメイト、そう宣言した私は盤上の駒を進める。

 

 

『うわぁ、また負けてしまった…』

 

 

そう言うと彼は心底悔しそうに頭を抱える、かれこれもう10連敗目だ。

 

 

『本当に●●は強いね、全然敵わないよ』

 

 

彼は苦笑しながら言うけれど、彼は戦略というモノがまるで分かっていない、ただ目の前の状況の対処方法しか考えていないから先の手を読めずに詰んでしまう、何度も彼に言っていることなのに全然改善されていない。

 

 

『俺はこの手のゲームは苦手でね、特にこのチェスは相手の裏をかいたり先の手を読む必要があるから実に頭を使う、ゆえにとても難しい!』

 

 

彼はそう得意げに語るけど、この前ペグ・ソリティアでも同じ事を言ってた辺り先読み自体が苦手なタイプなんだと思う。

 

 

そんな事じゃこの世界で生きていくのは厳しいって何度も言ってるけど、彼は人が良いから直すのは時間が掛かるかもね。

 

 

 

 

 

 

まぁ、そんなダメンズ気質の彼をフォローする事に密かな喜びを感じている私も大概だと思うんだけど。

 

 




最近「Lostorage incited WIXOSS」というアニメにハマっております、OPが井口裕香さんなんですけど、加賀が歌ってるって妄想をすると中々面白かったり。


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第109話「篝の場合11」

艦これアーケードでイベントが始まるみたいですけど、3-4クリアまで駆逐艦しか使っていなかったので重巡や戦艦のレベリングが追いついていないのが現状です。

イベントPVの泊地棲鬼がめちゃかっこよかった。


「どうして篝がここにいるんですか!?」

 

 

吹雪は驚愕した表情で海原に聞く。

 

 

「俺が居ない間に暁たちがオモチカエリしたみたいなんだ、とりあえず大鯨と同じくしばらくうちで預かることになった」

 

 

「そうだったんですか、なら川内さんと篝が話しやすくなってプラスになりますね」

 

 

吹雪と海原が話している間、川内は身を震わせながら篝を見ていた。

 

 

「…ねぇ吹雪、本当にこの子が篝なの…?」

 

 

「うん、篝の“面影”があるから間違いないよ」

 

 

吹雪は篝を見ながらそう言った、その“面影”は以前見た時と同じ和ゴスを着た少女を映している。

 

 

「川内さん、篝さんと話してみてはいかがですか?」

 

 

「えっ?話せるの?」

 

 

雪風の提案に川内は面食らった。

 

 

「直接はムリですけど、混血艦(ハーフ)の私たちを通訳に通せば間接的に会話が出来ます、やってみますか?」

 

 

「うん、お願い」

 

 

川内がそう返答すると、雪風が篝のそばに付いてスタンバイする。

 

 

「…篝?聞こえる?私だよ、川内だよ」

 

 

川内が篝に声をかけると、篝はゆっくりと川内さんの方に首を動かす。

 

 

『…川内さん?』

 

 

すると篝は思いの外あっさりと川内の声に反応する、一応川内の事は認識出来ているようだ。

 

 

「…本当に篝なんだね…」

 

 

川内はそう呟くと篝に向かって手を伸ばす、会えてよかった、自分が深海棲艦(こんなすがた)にしておいて言えたことではないが、また会うことが出来て、また話をする事が出来て本当によかった。

 

 

まずは思い切り抱きしめたい、篝を肌で感じたい、そして篝に謝りたい…

 

 

 

『触らないでください、私を殺したくせによくもいけしゃあしゃあと』

 

 

しかし、川内の伸ばした手は篝に拒絶されてしまった。

 

 

「…か…篝…?」

 

 

『私、川内さんを許すつもりはありませんので』

 

 

はっきりと、篝は川内にその言葉を突きつけた。

 

 

「あんたを撃っちゃったのは本当にごめん、でも私も夜嫌いを克服出来るように…!」

 

 

『失礼します』

 

 

「篝!待って…!」

 

 

篝は川内の言葉を遮ると、海原に一礼して提督室を出て行ってしまった。

 

 

「篝…」

 

 

川内は泣きそうな顔で俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ごめんなさい、川内さん』

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ相当恨んでるみたいだな」

 

 

「和解は難しそうですね…」

 

 

海原と吹雪は提督室で頭を悩ませる、川内は篝との一件でショックを受けて再起不能になってしまったのであてがった部屋に帰した。

 

 

「暁たちの話じゃ篝は特に自分の未練とかは話してなかったみたいだしなぁ、今回は骨が折れそうだ」

 

 

ふたりは互いにため息をつきながらお茶を飲む。

 

 

「そういえば司令官、緊急会議はどんな内容だったんですか?」

 

 

思い出したように吹雪は海原に聞く。

 

 

「この前の秋葉原防衛戦で姿が確認された深海棲艦についてだ」

 

 

「あぁ、駆逐戦車とエリザベートですか」

 

 

「そうそれ、駆逐戦車の出現を受けて今後は陸上での砲雷撃戦の訓練も取り入れようって話になったんだよ」

 

 

「…それよりも白兵戦やったほうが早くないですか?」

 

 

「白兵戦は砲雷撃と違って1から鍛えなきゃいけないような技術だからな、それに大本営の連中も深海棲器の事なんかすっかり忘れてるだろうし」

 

 

「そういう所能無しですよね、大本営」

 

 

吹雪の容赦ないつっこみで海原も“だな”、と同意して笑う。

 

 

「まぁ大まかな内容はこんなとこかな、あとはエリザベートのコードネームも決まったぞ、『飛行場姫(ひこうじょうき)』だそうだ」

 

 

「飛行場姫?空母棲姫や戦艦棲姫とはまた違ったネーミングですね」

 

 

「戦闘中に使ってた盾みたいな艤装が滑走路みたいだからそんな名前になったらしいぞ」

 

 

「最早艦種制定する気ないですよねそれ」

 

 

「艦種は一応航空戦艦って事になるらしいぞ、艦載機飛ばすし砲撃もするし」

 

 

「それも十分脅威ですけど、一番の脅威はあの白兵戦能力ですよ、あれは強すぎますって…」

 

 

その時の事を思い出して吹雪は苦い顔をする、出来ればエリザベートとは二度と戦いたくない。

 

 

「あ、そういえば数日後に新しい艦娘が台場に来るぞ」

 

 

「うえぇ!?いきなりすぎやしませんか!?」

 

 

唐突な海原の発表に吹雪が素っ頓狂な声を出す。

 

 

「会議の後に造船所に寄って艦娘の建造を依頼したんだよ、2~3日もすれば届くと思うぞ」

 

「軽いですね司令官、軽石持たせたゴースより軽いですよ…」

 

 

吹雪が呆れ顔でため息をついたまさにその時…

 

 

「っ!?」

 

 

「何!?」

 

 

突如凄まじい爆発音が鳴り響いた。

 

 

「大変です司令官!深海棲艦がここに夜襲を仕掛けてきました!」

 

 

三日月が大慌てで提督室に入ってきたのは、その直後のことだった。

 

 

 




次回「夜戦」

艦これ改で吹雪が重巡リ級eliteを一撃必殺(クリティカル有り)するのを見て(゚Д゚?)ってなった。



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第110話「篝の場合12」

歴史改変を目論む刀剣乱舞の敵…“歴史修正主義者”が艦これの世界に攻め込んできた、奴らの目的は艦娘たちが持つ在りし日の艦の記憶や歴史を改変し艦娘の存在を消すことだった。

事態を察知した刀剣男士たちは歴史修正主義者を追って艦これの世界へ向かう、そこで接触した艦娘たちに事情を話し共闘する事になる。

歴史修正主義者もどういうわけか深海棲艦と手を組み艦娘と刀剣男士に攻撃を仕掛けてくる。

たとえ生きる世界が違えども、辿った歴史が違えども、大切なものを守りたい、その想いだけは変わらない。

艦これ×刀剣乱舞コラボイベント開催!



…という妄想をしてみました(※実際はこんなイベントありません)


「こんな真夜中に仕掛けてくるなんて、深海棲艦もいい趣味してるわね、まぁミンチにしてしまえばそれで済む話だけど」

 

「台場の艦娘ってみんなこんなバイオレンスな頭してるの?」

 

 

寝ているところを叩き起こされて不機嫌なマックスの呟きに川内は顔をひきつらせる、敵艦隊の夜襲が確認されると海原はすぐに迎撃用の艦隊を編成、出撃させた。

 

 

吹雪、暁、三日月、ハチは近海に進入中の敵本隊を叩き、大鯨と雪風は鎮守府の建物内の警備兼海原の護衛、そしてマックスと川内と篝は鎮守府敷地内の哨戒(しょうかい)にあたっていた。

 

 

「てか、沿岸から敵艦隊が来てるのに敷地内や建物内を守る必要あるの?」

 

 

「当然よ、深海棲艦は戦車以外でも陸上での活動が可能だもの、万が一吹雪たちの間をくぐって入ってこられたらやっかいだわ」

 

 

「ちょっと待って、深海棲艦って戦車以外も陸に上がれるの?」

 

 

「そうよ、それにこれは提督が実際に経験しているわ、室蘭時代に陸上で重巡棲艦に襲われた事があるって以前言ってたし」

 

 

「…私、今どんでもない事実を聞かされた気がする」

 

 

今まで知らなかった重大な事実を知り、川内は驚きを隠せない。

 

 

『のんきに会話するのもいーですけど、ちゃんと警戒しないと敵に襲われますよ』

 

 

横で川内の手を握っている篝がきつめの口調で2体を咎める。

 

 

「それくらい分かってるわよ、ていうかわざわざ建物内より危険度の高い敷地内哨戒に参加するなんて、余程川内さん想いなのね、手まで繋いじゃって」

 

 

『別にそんなんじゃありません、また川内さんが間違って味方を撃たないよーに見張ってるだけです、あと手を繋いでるのは手綱代わりです』

 

 

「暴れ馬みたいな言われようね…」

 

 

マックスの呆れ半分の返しに“事実ですから”と返す篝、もちろん川内はこのやりとりが理解できないので首を傾げるだけだったが。

 

 

『マックス!川内さん!こちら敵本隊迎撃舞台の吹雪!聞こえる!?』

 

 

すると、無線機モードにしていたPitから吹雪の声が聞こえてくる。

 

 

「こちらマックス、どうしたの?」

 

 

『敵の艦隊が強すぎるから可能なら応援に来て!構成は重巡棲艦2体に軽巡棲艦が2体でどちらも司令艦(フラグシップ)と思われる!こっち来れる!?』

 

 

「分かったわ、すぐに向かう」

 

 

吹雪の応援要請を受け、マックスたちは戦闘海域の方へと向かっていく。

 

 

 

 

吹雪たち敵本隊迎撃部隊は苦戦を強いられていた、敵の数や艦種は吹雪たちだけでも相手出来る連中だが、重巡棲艦に司令艦(フラグシップ)と思われる個体が混ざっているのが災いした、電子書庫(データベース)の情報では重巡棲艦は司令艦(フラグシップ)レベルになると下手な戦艦よりも脅威になるらしい。

 

 

「何だってこんな強敵が台場近くまで来てるのよ!はぐれ艦隊でも強すぎでしょ!」

 

 

手甲拳(ナックル)で重巡棲艦に鉄拳を食らわせながら吹雪が愚痴をこぼす、重巡棲艦は攻撃力もさながら防御力も各段に上がっており、吹雪の一撃でも致命傷を与えられない、500mほど後ろには台場鎮守府の埠頭があるので何としてもここで食い止める必要がある。

 

 

「吹雪!お待たせ!」

 

 

そこへマックスたちが合流し、残敵の排除を行うために戦闘態勢に移行する、これなら何とかなるかも…と思っていた吹雪だったが、ここで想定外の事態が起こる。

 

 

「んなっ…!?」

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

敵の増援が現れたのだ、追加で重巡棲艦が3体、駆逐棲艦が2体追加で海中から出現する。

 

 

「勘弁してよね!たたでさえ今の状況が苦しいのに…!」

 

 

吹雪はようやく力尽きた重巡棲艦を踏みつけて沈めると、忌々しげに舌打ちをする、もう片方の司令艦(フラグシップ)と思われる重巡棲艦は暁と三日月のふたり掛かりでようやく大破寸前になった所だし、同じく司令艦(フラグシップ)と思われる軽巡棲艦はマックスとハチの奮闘でどちらも大破、これだけ見れば増援が来てもあまり影響がなさそうに思えるが、夜戦のせいで普段以上に苦戦している。

 

 

その主な原因として視界の狭さがある、Deep Sea Fleetは深海棲艦の性質を持っているので多少夜目が効く、おそらく夜目が効かないと海の底まで見渡せないからという深海棲艦の能力なのだろうが、それでも昼間の70%程の視野しか確保できないので戦いづらい。

 

 

「そういえば川内さんは大丈夫かな、まだ完全には夜嫌い克服できてないし…」

 

 

新手の相手をしながら吹雪は川内の方を見やる、 一応は駆逐棲艦を相手に普通に戦っている、ように見えるが…

 

 

「…やっぱりすぐには無理だよね」

 

身体をガタガタ震わせており、誰の目から見ても怯えているのが分かった。

 

 

 

 

 

 

『怖い』

 

 

川内の中を支配する感情はその一点のみであった、夜衣の両親とも仲直り出来て、少しは何かが変わるのではないかと思っていたが、やはり無理だった、夜衣の怖いという感情が全身を支配し、川内の余裕を奪う。

 

 

しかし、自分のすぐ後ろには篝がいる、ここで怖がっていてはまたあの時の二の舞だ、絶対に自分を見失ってはならない、絶対に。

 

 

川内はそう何度も心の中で言い聞かせた、しかしそれ故に気付けなかった、トドメをさせなかった駆逐棲艦が川内のすぐそばまで来ていることに…

 

 

「…あ」

 

 

暗がりに浮かぶ駆逐棲艦が川内の視界に入り、獲物を狩り捕るようなギラギラした目が合う、そしてそれは夜衣の死に際の記憶に残されている通り魔の狂気に満ちたその目とよく似ており…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

必死に保とうとしていた平常心は、まるで砂の城を崩すかの如く簡単に壊れた。




次回「ほんのちょっとの勇気」

ちなみにDSFの世界ではエリートやフラグシップは全てノーマルと同じ見た目なので外見で判断する方法はありません。


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SSSその3

ショートショートのさらにショート第三弾。

現在活動報告にて109話で台場が建造している新造艦の深海棲器を募集しています、宜しければ是非!


○ナスカ

・登場艦娘:鳥海、摩耶

 

「よし!次の問題だ!」

 

 

再びゲーセンのクイズゲームに挑戦中の鳥海と摩耶。

 

○第25問/入力問題

・世界遺産にも登録されている、ペルーに存在するのは「○○○の地上絵」?

 

 

「これは分かるぜ!“ナスカ”だ!」

 

 

摩耶がパネルに答えを打ち込むと、画面に正解の文字が出る。

 

 

「よっしゃあ!」

 

「すごいわね摩耶、ナスカ知ってるの?」

 

 

「当たり前だろ?トマトにジャガイモ…」

 

 

「それはナス科よ」

 

 

摩耶はナスカの地上絵をどんな風にイメージしていたのだろうか、そう思いながら鳥海はつっこみを入れる。

 

 

 

 

 

○リズム感

・登場艦娘:秋月、朝潮

 

「本当に出来るんですか?秋月さん」

 

 

「当たり前でしょ?この秋月に任せなさいって」

 

 

ゲーセンに来ていた秋月と朝潮はゲーム筐体を前にそんな会話を繰り広げていた、今秋月がやろうとしているのは『Beat Shoot!』という音楽ゲームだ、画面に表示される敵を曲のリズムに合わせて撃ち抜いていくというルールとなっている、この日は課題曲を規定点数以上取ると景品が貰えるチャレンジデーなるものをやっていたため、秋月が挑戦することになった。

 

 

「射撃能力なら駆逐艦一の秋月の実力、とくと見るがいいわ!」

 

 

~プレイ後~

 

 

「まさか…そんな…」

 

 

秋月はゲーム画面を見ながら愕然としていた、結果から言えばチャレンジは失敗した、点数も目標の10分の1にも満たないという有様である。

 

 

「確かに秋月さんの狙いは正確でしたけど、リズム感が無さ過ぎてタイミング外しまくってましたね」

 

 

「無念…」

 

 

心底悔しそうに秋月は崩れ落ちる。

 

 

 

 

○SOS!

・登場艦娘:青葉、吹雪

 

「ん?青葉さん、あれって何ですか?」

 

 

「あれって?」

 

 

「ほら、あのバスの所の…」

 

 

昼食の買い出し帰り、吹雪は前から走ってくるバスを指差した、その行き先表示には『SOS』と出ている。

 

 

「あぁ、あれは文字通り緊急事態って意味だよ、バスジャックなんかにあったとき、ああやって周りに事態を知らせるの」

 

 

「へぇ…バス会社も中々やりますね」

 

 

「あれは中々頭いいアイデアだと思うよ」

 

 

2体はそう感心しながらすれ違うバスを見送る。

 

 

「…ってそれじゃあのバスやばいって事じゃないですか!のんきに感心してる場合じゃないですよ!」

 

 

「もしもし警察ですか!?SOSのバスを見つけました!」

 

 

 

ちなみにその後、SOSを出していたバスは無事に保護されてみんな無事だったみたいです、もちろん犯人は捕まりました。 by吹雪

 

 

 

○『おかしも』と『いかのおすし』

・登場艦娘:大井、暁、三日月

 

鎮守府でも防災と防犯の意識を高めよう、という提督の意向の元、駆逐艦娘を集めて大井を先生役に特別講習を行うことになった。

 

 

「それでは皆さん、まずは『おかしも』の約束がわかる人~?」

 

 

大井の質問にほとんどの駆逐艦娘が手を挙げる。

 

 

「それでは暁さん、答えをどうぞ」

 

 

指名された暁は自信満々に答えを言う。

 

 

(『お』)さない、(『か』)けない、(『し』ゃべ)らない、(『も』ど)らない…です!」

 

「はい、正解です!」

 

 

大井の声とともに周りの駆逐艦娘が拍手を送る。

 

 

「では次、『いかのおすし』がわかる人~?」

 

 

次の問題は手を挙げる艦娘が半分ほどに減っていた、こちらは駆逐艦娘には少し難しいだろう。

 

 

「では三日月さん、答えをどうぞ」

 

 

指名された三日月はこれまた自信満々に答えを発表する。

 

 

生か(『いか』)さずに殺す、死体も(『の』こ)さない、(『お』)し潰す、(『す』み)になるまで焼く、(『し』)ぬまで殺す…です」

 

 

三日月の答えに大井含む部屋にいた駆逐艦娘がざわつく。

 

 

「えーっと三日月さん…?その答えはどうやって考えたんですか…?」

 

 

「前に雪風が『いかのおすし』は近付いてきた不審者の撃退法を謳ったものだって教えてくれました、多分あちこちに言いふらしてると思います」

 

 

「暁さん、雪風さんを呼んできてください、再教育です♪」

 

 

 

数時間後、顔を青くして大井の自室から出て行く雪風と三日月が発見されたのはまた別のお話。




ちなみに皆さんはいかのおすし全部言えますか?


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第111話「篝の場合13」

明石を持っていると主砲や魚雷なんかの装備品を強化できる機能が解放されるみたいなんですけど、正直ドロップ限定で入手が運次第のキャラをそういう攻略に必要な機能の解放条件にするのはどうかと思う。


「ちょ…!川内さん!?」

 

 

「川内さん!落ち着いてください!」

 

 

 

「うわあああああぁぁ!!!!!来るな!来るなあぁ!!!!」

 

 

完全にパニック状態になった川内はめったやたらに主砲を撃ちまくる、当然狙いは滅茶苦茶なのでほとんど当たっていなかったのだが、これが予想外に敵艦のヘイトを稼いでしまったらしく、今まで吹雪たちを狙っていた敵艦の何体かがターゲットを川内に切り替える。

 

 

「い…いや…来ないで…!来ないで!来るな来るな来るな来るな来るな来るな!」

 

 

川内は主砲を撃ちながら敵に背を向けてフルスロットルで逃げ出す、最早まともに戦闘が出来る状態ではない。

 

 

『川内さん!』

 

 

すると、篝が慌てた様子で川内を追いかけていく。

 

 

「篝!?」

 

 

『川内さんは私が追いかけますから!皆さんは川内さんを追っている敵をお願いします!』

 

 

そう言うと篝はそのまま川内を追いかけて闇夜に消えてしまった。

 

 

「篝…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなただけじゃ川内さんと会話出来ないじゃん…」

 

 

吹雪のその呟きが篝に届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

 

川内は必死に敵からの逃亡をはかるために全速力で移動していた、後先のことなど何も考えず、ただその場から逃げ出したいという一心で逃げ出していた。

 

 

川内がようやく少し落ち着いて立ち止まったのは、戦闘地点から700mほど離れたところだった、この周辺は岩礁(がんしょう)が所々海面から突き出ており、それこそ人一人が身を隠せるほどのものがそこかしこに点在している。

 

 

 

「…そう言えば、あの時もこんな夜だったなぁ」

 

 

夜空に浮かぶ朧月を見やり、川内は“あの時”の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

『日向が被弾により中破!ポーラは護衛に回ってください!』

 

 

『熊野と楪葉(ゆずりは)は前方の敵旗艦(リーダー)を狙って!電探でのモニタリングも忘れずに!』

 

 

2050年3月10日、この日佐世保鎮守府の第一艦隊は敵主力艦隊撃破の任務で夜間出撃を行っていた、闇夜に紛れての不意打ちはこちら側の大きな利点(アドバンテージ)として働き、敵艦の数も残り3体となった、しかし敵自体の練度(レベル)が高いことが災いして長期戦に持ち込まれ、味方のダメージを増やしたのは大きな痛手となった。

 

 

川内もこの艦隊に混ざって出撃していたが、夜に対する恐怖で満足なパフォーマンスが発揮できず、軽い援護射撃くらいしか出来ていない。

 

 

「怖い…怖いよ…」

 

 

いつ敵が現れてもいいように主砲は構えているが、その手は恐怖で震えておりまともに照準が定まっていない。

 

 

『川内!篝が大破しましたわ!川内の方へ向かわせるので守ってくださいまし!』

 

 

「りょ、了解!」

 

 

熊野からの通信に返事をすると、電探のコンソールを弄って端末に情報を映す、自分の方へオレンジ色の点が近付いているのでこれが篝だろう、辺りに敵艦を示す赤色の点は見当たらないので比較的安全に合流出来そうだ。

 

 

「……………」

 

 

すぐそばでは砲を撃ち合う音が響く、砲が火を噴く度に一瞬明かりがちらつき、必死に戦っている艦娘の横顔が見え隠れする、ふと上を見上げると、薄雲に覆われた朧月がこちらを無表情に見下ろしている。

 

 

完全な真っ暗ではない、ひとりぼっちではない、でも身体の奥から“恐怖”という感情がとめどなく沸き上がってくる、何故かは分からない、でも暗いところは怖くて堪らない、すでに川内の恐怖心は限界に達していた。

 

 

「川内さん!」

 

 

するとその時、川内のもとへやってきた篝が声をかけて腕を取る。

 

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

川内はそれを敵艦の接触だと勘違いし、篝に向けて主砲を撃ちまくった。

 

 

「うっ…!」

 

 

至近距離で撃たれたためほとんどの砲弾を食らい、篝はそのまま仰向けに倒れる。

 

 

(何でこんな近くにまで敵艦が…!?)

 

 

しかしパニック状態でそれが篝だと気づいていない川内は息を弾ませて周囲を警戒する。

 

 

『川内!篝の電探の反応が途絶えてしまいましたわ!合流は出来ておりますの!?』

 

 

「えっ…?」

 

 

再び熊野から入った通信を聞き、川内は固まってしまう。

 

 

さっき熊野は何と言っていた?篝が自分の所に来るから守ってやれと言ったはずだ、なら篝は遅かれ早かれ自分のもとへやってくる、ならあの時の敵艦は…?

 

 

川内は恐怖とは別の意味で身体を震わせて端末を取り出す、すると先程まで自分の所へ近付いていた篝の反応が消えていた。

 

 

「あ…ああぁ…」

 

見たくない、目を反らしてしまいたい、でもそれは許されない、川内は持っていたライトを今主砲を撃った地点へ向ける。

 

 

 

そこには、身体のほとんどを海に沈め、何も映していない濁りきった双眸をこちらに向けた篝が事切れていた。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

自分が篝を殺した。

 

 

その現実を認識した瞬間、川内は戦闘中ということを忘れ、喉が潰れんばかりの声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ははは、全然ダメじゃん…私…」

 

 

川内はそう自嘲気味に笑うと海面を睨み付ける、結局自分は何も変わってない、前世の事を知って、それで自分の夜嫌いを克服出来るかと思い夜衣の両親にも会ったのに、いざ実際に戦場に出ればこの様だ。

 

 

「篝を救うって、あれだけ意気込んでたのに、篝にあれだけ恩を受けておいて、その結果がこれかよ…」

 

 

川内は篝に対してとても大きな恩がある、川内は篝着任当初から教育係を務めており、部屋も川内と同じだった、しかしそれまでずっと一人部屋だった川内にとって篝というルームメイトは不安の種でしかなかった、川内が一人部屋だったのは自分が夜嫌いだったからだ。

 

 

元々は別の艦娘とルームシェアをしていたのだが、夜中に突然声を上げて飛び起きたり、心配になって近づいたルームシェアの艦娘に手を上げてしまったりと問題を起こしてしまう事が多々あったせいで誰も川内と同室になりたがらなくなってしまったのだ。

 

 

篝もそのうち自分に辟易して部屋を出て行く、そう思っていたのだが…

 

 

『川内さん、大丈夫ですか?』

 

 

『川内さんが不安なら、私がいつまでも手を握りますよ、これで怖くありません!』

 

 

何日、何週間、何ヶ月経っても篝は自分の元から去ろうとはしなかった、むしろ怖くて不安で震えている夜はいつも決まって手を握ってくれるなど、夜嫌いの自分のために色々なことをしてくれた。

 

 

『川内さんの不安が全部無くなるまで私が側にいますから、安心してください、私からいなくなるなんて事はありません!』

 

 

誰よりも自分のそばに寄り添ってくれて、誰よりも自分の事を理解してくれた篝、そんな子を自分は殺してしまったのだ。

 

 

「恩を仇で返すなんて、本当に私最低じゃん…」

 

気付けば川内は涙を流しながら自らの弱さを呪っていた。

 

 

「っ!!」

 

 

刹那、背後に何者かの気配を察知した川内は素早く後ろを向いて主砲を撃つ、振り向きざまに撃ったので当たってはいないだろう。

 

 

(まさかさっきの敵が追ってきた!?)

 

 

そう予想した川内はもう一発主砲をぶち込んでやろうと敵の姿をよく見る。

 

 

 

 

「…うそ…」

 

 

しかし敵だと思っていたそれは、川内を追いかけてきた篝だった。

 

 

しかも振り向きざまに撃った主砲の弾は篝の右わき腹を掠めており、その肉を抉っていた。

 

 

 

また篝を撃ってしまった、傷付けてしまった、同じ罪を二度も犯してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事実が川内の心を壊すのに、時間など掛からなかった。

 

 




次回「夜の支配者」

ちなみにゲームでの夜戦火力は火力+雷装で計算されるので駆逐や重巡がめちゃ強くなったりしますが、この小説ではその要素は排除してます。


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第112話「篝の場合14」

最近番外編を書いてみようと思うんですけど、どんな話が読みたい…とかあったりしますか?

・瑞鶴と加賀の休日ショッピング

・島風&仲直りした駆逐艦娘たちとのお出かけ

今のところ上の二つを考えています。


「か、篝…!?ちが…!わたっ!そんなつもり…!ちが…!」

 

 

川内は激しく狼狽し、支離滅裂な言葉を吐きながらあちこちに視線を移す。

 

 

『川内さん落ち着いてください!私、あなたを責める気は微塵も…!』

 

 

なんとか川内に伝えようと篝は川内に近づき言葉を発するが、それが川内に届くことはない。

 

 

 

「ひいぃ!?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

 

川内は泣きじゃくりながらひたすらごめんなさいを繰り返し、その場に頭を抱えてうずくまる、ただでさえ川内が嫌っている夜という状況にこの追い討ちが加わり、すでに川内は正常な精神状態を保てなくなっていた。

 

 

『川内さん…』

 

 

篝は歯がゆい気持ちで一杯になり唇を噛み締める、自分が何を言っても川内には届かない、今の篝に…言葉で伝えることは叶わない。

 

 

『………』

 

 

気が付けば、篝は身を屈めて川内を抱きしめていた、言葉で伝えられないのなら、行動で伝えればいい。

 

 

『私、川内さんの事、恨んでなんて無いですよ?そりゃー川内さんに沈められてこんな姿になったのは悲しかったですけど、それ以上に川内さんを助けたかったんです、川内さんが夜嫌いで苦しんでいたことは知ってたし、沈む直前に見た川内さんのあんなに怯えきった顔が頭にこびり付いて離れなかった、あんな顔見たら恨もうにも恨めませんよ…』

 

 

聞こえないと分かっていても、篝は川内に語りかけ続ける、もちろんその間はずっと川内の事を抱きしめていた、想いが伝わると信じて…

 

 

『でも川内さんの心の傷は深そうだったから、ちょっと突き放すような言い方をしちゃいました、優しくして甘えさせるより、自分で立ち上がれるようにしなきゃって思ったんですけど、逆効果でしたね、ごめんなさい』

 

 

篝は申し訳無さそうに言って謝る、もちろんそれも聞こえていない。

 

 

『でも、諦めないでください、今川内さんがどれだけ辛くて苦しいかは私には計り知れません、苦しんでいるのを知っているから“分かる”なんて軽はずみな同情は出来ません、でも諦めてほしくはありません』

 

 

そう言うと篝は一度川内から離れると、川内の手を強く握って真正面から語りかける、当人は依然うずくまっているので表情までは窺えない。

 

 

『川内さんはいつだって私の目標で、憧れなんです、そんな川内さんが苦しんでいるのなら私は助けたい、出来ることがあるなら何だって協力してあげたい、それだけは私の本心なんです』

 

 

ここで川内に変化が起こった、うずくまったままの川内がその顔をゆっくりと上げ、篝の方を向いたのだ、その目は絶望しきったように濁っており、篝は一瞬身を震わせた。

 

 

『…川内さん、どうか諦めないでください、あなたは自分の夜嫌いを、トラウマを克服できます、私はそう信じています、好意の押し付けだと思うのならそれで構いません、でも諦めることだけはしないでください、川内さんは自分が思っているよりも、ずっと勇気のある艦娘なんですよ』

 

 

篝は川内の目をしっかりと見て言う、聞こえていなくてもいい、でもこの気持ちだけは届いてほしい、そんな矛盾した想いだけが篝を突き動かしていた。

 

 

『もしそれでも怖いのなら、私が前みたいにいつまでも手を握っています、私はどんな事があっても川内さんの味方でいます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“川内さんが夜を克服出来ますように”、それが私の“未練”ですから…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篝はそう言うと、川内に笑いかける。

 

 

「…篝、ひょっとして、“諦めるな”的な事言ってる?」

 

 

『っ!?』

 

 

突然川内に自分の胸の内を読まれ、篝はドキッとする。

 

 

「ずっと一緒にいたせいかな、あんたの言いたいことが何となくだけど分かるようになったんだ、多分篝は今の私を…何もしないで怯えて腐っている私を許さない、絶対に諦めるなって思ってる、そうでしょ?」

 

そう言われた篝は少しの沈黙の後、肯定の意を示すためにコクリと頷く。

 

 

「…ハハッ、後輩にこんな事思われているようじゃ、教育係としても先輩としても失格かな」

 

 

そう言うと川内はおもむろに立ち上がる。

 

 

「篝、ありがとね」

 

 

川内は雪衣から貰った…いや、返された髪飾りを外すと、両手で包み込むように持つと胸の前に持ってくる。

 

 

「…夜衣、あんたの怖いって気持ち、身に染みて感じるよ」

 

 

川内はその場にいないもう一人の自分に向かって語りかける、はっきり言って自分は夜が怖い、それは川内自身が感じている事でもあるし、自分の前身である夜衣が感じている事でもあるのだ。

 

 

「私も夜が怖いし、正直今すぐにでもここから逃げ出したい、でもいつまでもそれじゃダメなんだよ」

 

 

川内は両目を閉じ、写真でしか見たことのない夜衣の姿を目の前に思い浮かべながら言う。

 

「だからさ、一緒に克服しよう、私も頑張るから、勇気を出すからさ」

 

夜衣は川内の前身…つまりはもう一人の自分であり、過去の自分だ、夜衣が死んだという過去はどうやっても変えられないし、それで生まれたトラウマも夜衣と共に残り続ける。

 

 

しかし、もしもその過去を変えられるとしたら、恐怖に怯える夜衣の手を取って救い上げられるとしたら、それは今の自分である川内だけだ、過去の自分のトラウマを乗り越えられるのは自分自身以外の何者でもない。

 

 

「私はずっと夜衣の側にいるし、夜衣の味方でいる、それでも怖いのなら、私の空元気で夜衣の手を引いてあげる、だから夜衣、乗り越えよう、私と一緒に…この夜を越えていこう!」

 

 

川内は髪飾りをぎゅっと握り締めると、両目を見開いて宣言する。

 

 

「…っ!」

 

 

すると、川内の中で変化が訪れた、今まで自分の周りを取り巻いていた恐怖という感情のもやが、霧が晴れるように霧散していく、今まで自分にのし掛かっていた不安が、まるで憑き物が落ちたようにストンと無くなっていく、それこそ、何かが吹っ切れたように…。

 

 

「…ありがとう、夜衣」

 

川内は夜衣に感謝すると、再び髪飾りを着ける、髪飾り自体には魔力的な力は何もないはずなのに、まるで誰かが隣に寄り添ってくれているような安心感があった。

 

 

「…やっと、やっとこの時が来た」

 

 

自分を遮る恐怖が消え去った今、川内の感覚は最大限に研ぎ澄まされていた、すぐ後ろにいる篝の気配はもちろん、それまでは全く気づかなかった波の音も聞こえる。

 

 

…そして、前方から近付いてくる、吹雪たちが取りこぼした深海棲艦の敵意までが全身の皮膚にビリビリと伝わってくる。

 

 

元々川内は夜戦に関しては天性の才能があった、夜目は他の艦娘に比べてかなり利く方だったし、周りの敵味方の気配なども敏感に感じ取ることが出来た、しかし、それと同時に受け継がれた過去のトラウマがその才能を潰してしまっていた、奥村も川内の夜戦の才能を見抜いており、何とか克服させようとしていたが、上手くはいかなかった。

 

 

「この時をどれだけ待ち望んでた事か…!」

 

 

 

しかし今、川内の夜戦能力を邪魔するモノは何もない、その才能と能力を思う存分に発揮できる、それは川内自身が最も望んでいたことだ、そして自らを縛り付ける鎖が千切られた今…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちに待った…夜戦だああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

彼女は夜の支配者となる。




次回「夜の支配者」

艦これアーケードのイベント海域の攻略を進めています、現在第4ステージを攻略中で泊地棲鬼を一回倒しました、さすが鬼は強いですね、イベント限定艦種だけあります。


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第113話「篝の場合15」

篝編終了です、次はどんな艦娘が出るでしょうか。

活動報告にてキャラクター人気投票を開催しています、よろしければご参加ください~。


川内は電探を起動させると、コンソールのモニターに表示されている情報に目を通す、これを見る限りだとあの深海棲艦以外に敵はいないようだ。

 

 

「さすがにちょっと緊張するけど、今度こそ大丈夫!」

 

 

川内は主砲を構えて眼前の敵艦に向かって突撃する、艦種は軽巡棲艦、おそらく司令艦(フラグシップ)だろう。

 

 

川内が軽巡棲艦に攻撃を加えようとすると、敵の船体が一瞬オレンジ色に光る、敵が砲撃をしてきたのだ。

 

 

「うわっと!」

 

 

その直後に飛んできた軽巡棲艦の砲弾を川内は身を捻ってかわす、光った場所から大まかな弾の軌跡を予想しての回避行動だったが、上手くいって良かった。

 

 

(…流石にすぐ克服ってのは無理か)

 

 

敵の攻撃を間近でかわした川内は身震いするのを感じる、トラウマから開放されたとはいえ、長年心の奥底に張り付いた感情はすぐには消え去ってはくれなかったようだ。

 

 

でも怖いという気分にはならない、むしろ武者震いとすら感じられる、それほどまでに今の川内の戦闘意欲は高まっていた。

 

 

「今までの私とは違うよ!」

 

 

川内は目の前の軽巡棲艦を睨むと、今度はこちらが主砲を撃って軽巡棲艦を攻撃する。

 

 

川内の撃った砲弾は軽巡棲艦に命中してダメージを与える、装甲の柔い部分に当たったのか、すでに中破相当のダメージを負っていた。

 

 

軽巡棲艦も反撃として背部の主砲から砲撃を次々と行う、川内はそれを紙一重のタイミングでかわしていくが、敵の主砲が蛇のようにうねるアームに取り付けられているタイプなので細かく射出角度を調整して的確にこちらを狙ってくる。

 

 

「くっ!」

 

 

軽巡棲艦の撃った弾のひとつが川内の頬を掠める、皮膚が裂けるような鋭い痛みが走り、傷口からじわりと血が滲む。

 

 

「…へぇ、なかなかやるじゃん」

 

 

傷口から溢れた血を指で掬い舐めると、川内はニタァ…と不敵な笑みを浮かべて軽巡棲艦に突撃していく。

 

 

軽巡棲艦は尚も砲撃を続けている、途中かすり傷を作りながら小破未満(カスダメ)を積み上げていくが、川内は気にせず軽巡棲艦に接近していく。

 

 

「はぁっ!」

 

 

軽巡棲艦まであと数メートルといったところで川内は大きく跳躍し、軽巡棲艦の背後をとる。

 

 

「食らえええええええぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

川内は軽巡棲艦のがら空きの背中に借りっぱなしだった吹雪の太刀を突き刺す、すでに外側から中破相当のダメージを受けているのだ、内側からもダメージを受ければ無事では済まない。

 

 

さらに川内は太刀を引き抜くと切り口に主砲の砲身を突っ込み、軽巡棲艦の内側から砲撃を行う、零距離未満とも言える場所から攻撃された軽巡棲艦は内側から爆発を起こし、海の底へと沈んでいく。

 

 

「ふああぁぁ…勝ったあぁ…」

 

 

電探のコンソールのモニターに敵艦の反応が無いことを確認すると、川内はその場にへたり込んでしまう、たった1体相手しただけなのにどっと疲れが押し寄せてくる。

 

 

『川内さん、夜嫌い克服おめでとうございます!スゴかったですよ!』

 

 

そこへ篝がはしゃぎ気味なテンションでやってくる、もちろんその声は川内には聞こえていないのだが、そこは大袈裟にとっている“ルンルン♪”みたいなリアクションでカバー。

 

 

「何?ひょっとして祝福してくれてるとか?」

 

 

川内がそう言うと、篝は嬉しそうに頷く。

 

 

「へへっ、それは嬉しいね、よっこらしょ…と」

 

川内はそう言って力無く笑うとおもむろに立ち上がり…

 

 

 

「ありがとね、篝のおかげで夜嫌いを克服出来た、私はもう大丈夫、本当にありがとう」

 

 

篝の頭を優しく撫でる、その身体は深い海のように冷たかったが、川内にはそれすら愛おしく感じられた。

 

 

『…私の方こそありがとうございます、これで、私の未練は消えました、もう亡霊として生きる必要もありませんね』

 

 

 

篝は心から嬉しそうに笑う、その直後、篝の身体が光り出し、深海棲艦の装甲にヒビが入る。

 

「っ!これは…!?」

 

 

ヒビは篝の全身に広がっていき、卵のカラが弾け飛ぶように飛散する。

 

 

「…篝?」

 

 

そこに現れたのは、かつて自分が轟沈(ころ)した大切な後輩、篝そのものだった。

 

 

「はい、川内さんを誰よりもお慕いする、あなたの篝です」

 

 

篝はスカートの裾を摘まむと、長く艶やかな黒髪を揺らしてお辞儀をする。

 

 

それを見た川内は、無意識に涙を流して篝を抱きしめていた。

 

 

「良かった…!本当に良かった…!!」

 

 

嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる川内の背中を、篝は優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篝の艦娘化(ドロップ)後、戦闘を終えた吹雪たちと合流した川内と篝は台場鎮守府まで帰投、篝の事を説明すると同時に途中でパニックになり戦線離脱した事を謝罪するが、吹雪たちはそれを許してくれた。

 

 

「改めまして、本日より台場鎮守府所属になります、暁型駆逐艦5番艦の篝です、どうぞお見知り置きを」

 

 

篝が台場鎮守府メンバーの前で挨拶をする、篝も深海棲艦との混血艦(ハーフ)艦娘化(ドロップ)しており、深海痕は右頬、左わき腹、右腿に出来ていた。

 

 

「あっさり台場鎮守府に入るのを決めたけど、良かったのか?川内と佐世保に戻るって事も出来るんだぞ?」

 

 

海原の言葉に、篝は首を横に振ってそれを否定する。

 

 

「いえ、こんな姿では佐世保に帰れませんし、それに川内さんはもう私がいなくても夜を乗り越えられます、ですからこれからは台場鎮守府で助けていただいた恩を返しながらご厄介になろうかと思います」

 

 

そう言って篝はにこりと笑う、川内もそれを良しとしているようで、“篝をよろしく”と海原を信頼して任せる方針のようだ。

 

 

「そういうことなら我が台場鎮守府は篝の着任を歓迎しよう、これからよろしくな」

 

 

「はい!よろしくお願いいたします!」

 

 

篝は満面の笑みで敬礼をする。

 

 

 

 

川内が佐世保に帰った後、毎度お馴染みの深海棲器選びを行った。

 

 

「なるほど、白兵戦ですか…台場鎮守府は中々変わった戦い方を取り入れているのですね」

 

 

「変わってるのは認めるよ、てか無理して深海棲器を持つ必要は無いよ?見たとこ結構優秀な装備持ってるし」

 

 

吹雪は篝の装備品を見ながら言う、主力艦隊に所属していただけあって篝の装備は豪華なモノであった。

 

 

・10cm連装高角砲

 

・53cm艦首酸素魚雷

 

・33号対水上電探

 

 

Deep Sea Fleetでは誰も持っていなかった電探を持っていたのでこれからの艦隊戦での活躍が期待できるだろう。

 

 

「…決めました!」

 

 

長考の末に篝が選んだ深海棲器は3つ。

 

 

1つ目は『クレイモア』

 

1m程の刀身を持った両刃の剣だ、全身が黒色をしており、柄の部分には申し訳程度の装飾として深紅の宝石のような玉が埋め込まれている。

 

 

2つ目は『鎖鎌』

 

3m程の鎖に繋がれた小振りの鎌の深海棲器だ、鎖の遠心力を利用して鎌を遠くまで飛ばし、離れた敵にダメージを与える事が出来る、ちなみに鎖の反対側には野球ボール程の大きさをした鉄球が繋がれており、これを敵にぶつけて打撃戦を行うことも出来る。

 

 

3つ目は『フライパン』

 

一般家庭で使われる調理器具のフライパンよりも大きく、よく年末年始に放送されているスポーツ王を決めるバラエティ番組で登場する巨大テニスラケットを想像してもらえれば分かりやすい、基本的には盾のように使うが打撃武器としても一応使える。

 

 

 

「…って何でフライパンなんてモノがあるのよ、大本営は何を考えてこれを作ったんだか…」

 

 

「まぁ、雪風の包丁の前例があるし、大本営にも頭の湧いたバカがいるんじゃないかしら」

 

 

吹雪の疑問に暁が辛口なコメントをする、他にも武器なのかと言いたくなるようなモノもチラホラ見えるので、暁の予想もあながち間違ってないのかもしれない。

 

 

「さてと、それじゃあ早速篝に入隊訓練を施さないと」

 

 

「いやー、それは必要無いんじゃないかしら…?篝さんは練度(レベル)も十分高いし、吹雪さんが訓練を施すまでも…」

 

 

「いえ!私はこれから台場鎮守府の戦力として頑張らなければいけないんですから!是非とも訓練を受けさせてください!」

 

 

あの地獄の入隊訓練を篝に受けさせたくなかったので暁がそっとフォローを入れようとするが、篝の真面目さが却って悪い方向へと転がってしまった。

 

 

「その意気だ!じゃあ私も張り切っちゃうよ!」

 

 

(あぁ‥また犠牲者が‥)

 

 

これから篝を待ち受ける運命を想像し、暁は心の中で十字架を切る。

 

 

その日、練度(レベル)150オーバーの駆逐艦による扱きを受けた篝の嘆きと苦しみの叫びが訓練所から発せられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!上手くいった!」

 

 

 

ベアトリスは透明な巨大カプセルに取り付けられたコンソールのモニターを見ながらガッツポーズをする。

 

 

「どうしたの?いやにテンション上げて」

 

 

するとシャーロットが長い髪を揺らして部屋に入ってくる。

 

 

「シャロか、実は『キメラ』の開発が上手くいきそうなんだ」

 

 

「あら、そうなの?そう言えばこれも随分長いことやってるわよね、たしか2年くらいだっけ?」

 

 

「言われてみればそれくらい経つわね、それにしても本当に時間掛かった…」

 

 

ベアトリスは肩をコキコキ鳴らしながら息を吐く。

 

 

「でも身体が出来ても兵装が無いと役に立たないでしょ、そろそろ開発にかかったら?」

 

 

「兵装は既に組み上がってるから心配はいらないわ、そこにおいてあるやつがそうよ」

 

 

「随分早いわね…」

 

 

「素材にした艦娘の兵装を一部使ってるからね」

 

 

シャーロットは台の上に乗っている『キメラ』の兵装をまじまじと見る。

 

 

「…ん?」

 

 

ここでシャーロットは兵装の一部に何かが書いてあるのに気づく。

 

 

●●型駆逐艦●番艦●●

 

●●型駆●●●番艦●●

 

 

 

おそらく個人を特定するためのネームプレートのようなモノなのだろうが、加工した行程でネームプレートの文字が潰れてしまって何が書いてあったのかが分からない。

 

 

「ねぇベアー、このキメラって何の艦娘を元にしてるの?」

 

 

「えーっと確か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『秋月』と『夏潮』…だったかな」

 

 

 




次回「ヒーラー」

ちなみに篝の深海棲器は最初3枠としていましたが、もう一枠増やしました、chapter9で登場するのでお楽しみに~。


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第114話「大鳳の場合1」

chapter9「大鳳編」

とある読者様のコメントで「戦艦少女」なる艦これの中国版の存在を知りました、早速落としてやってみたんですけど中々面白かったです、艦これとの仕様の違いなんかは当然あったんですけど…

・初めて入手した艦娘はロックするかどうかの確認画面が出る。

・建造では他のユーザーが回したレシピ&それで何が出たかの履歴が見れる。

・第一艦隊でも遠征に出せる。

・陣形選択の際に補正効果の説明が出る

↑の戦艦少女独自の仕様は本家にも実装してほしいです。


「そろそろ来る頃だな」

 

 

海原は腕時計を見ながらその時を待っていた、この日海原とDeep Sea Fleetは新造艦を迎えるために鎮守府入り口で待機していた。

 

 

「誰が来るんでしょうか?」

 

 

結局詳細を聞かされていなかった吹雪が首を傾げる。

 

 

「この資源から察するに重巡クラスですね、運が良ければ空母か戦艦…といったところでしょうか」

 

 

海原が依頼した資材データを見ながら三日月が推測する。

 

 

「…おっ、来たみたいだな」

 

 

艦娘運搬用の造船所の車両が台場鎮守府の入り口にやってくる。

 

 

「お疲れ様です海原提督、ご依頼の建造艦娘をお届けに来ました」

 

 

「お疲れ様です風音さん、どうもありがとうございます」

 

 

ふたりは互いに一礼すると、風音が荷台の扉を開け、1体の艦娘が下りてくる。

 

 

変わった服装をしている艦娘だった、裾の短い漆黒の修道服を着ており、下半身には濃さの違う紺色のスカートを穿いている、長い髪は光沢すら感じさせる銀髪で、頭にはプラチナ色のティアラを着けている、ファンタジー系のゲームに登場する“プリースト”がイメージとしては近いだろう。

 

 

「工作艦『明石(あかし)』だ、よろしく!」

 

 

その黒い双眸で台場鎮守府のメンバーを見渡すと、明石はそう挨拶した。

 

 

 

 

『工作艦』

 

 

簡単に言えば出撃先で損傷した艦艇を修理するための艦、動く修理工場だ。

 

 

戦艦や巡洋艦をRPGで言う戦士や剣士などの攻撃役(アタッカー)とするならば、工作艦はその後ろに控える僧侶や魔法使いなどの回復役(ヒーラー)といった立ち位置である、宿屋(ドック)でしか回復できない体力を出撃先(ダンジョン)でも回復できるとなればまさに鬼に金棒である。

 

 

味方側にいると心強い回復役(ヒーラー)だが、敵として出てくれば一番最初に狙われるというのはどこの世界でも変わらない、“明石を見つけたら真っ先に落とせ”という命令を敵海軍が出したという史実が残されているほどだ。

 

 

しかし裏を返せばそれだけ明石の修理能力が優れていたという証明にもなるので、ある意味それは誇れることなのかもしれない。

 

 

 

 

 

そしてこの世界での明石だが、艦娘や艤装の整備士として全ての鎮守府と駐屯基地に1体必ず配属されており、同名の艦娘が複数体存在できる唯一の例外でもある、ちなみに当然だが全国に存在している明石は全員容姿が違う。

 

 

原則として艦娘の建造は工廠からデータを造船所で送る事でしか出来ないのだが、いくら海軍の特命係と言われている台場鎮守府でも整備士のひとりでもいなければ満足に艦隊を運用できない、という海原の筋を通した要望に応え、特例として明石の建造を認可したのだ。

 

 

「…というわけで、明石には吹雪たちの艤装の整備や修理なんかをこれから担当してもらうことになる、戦闘に参加することは無いが、我が鎮守府最強の裏方として活躍すること間違い無しだ」

 

 

資材と引き換えに明石を受けとった後、提督室で改めて自己紹介をしてもらっていた。

 

 

「艤装や装備に関することならどんどん頼ってね、装備のメンテナンスや深海棲器の手入れまで、ちょちょいのちょいでやってみせよう!」

 

 

「…ん?何で明石さんが深海棲器を知ってるんですか?」

 

 

疑問に思った吹雪が怪訝そうな顔で聞く、さっき台場に着いたばかりの明石が深海棲器を知っているのはいささか不自然に感じる。

 

 

「ここに来る前に榊原所長から深海棲器に関する知識を詰め込まれたんだよ、そしてみんなが混血艦(ハーフ)だということやこの台場鎮守府の現状も所長から聞いているから知ってる」

 

 

それを聞いて吹雪は少し不安になる、この台場鎮守府は深海棲艦との混血艦(ハーフ)のみで構成された艦隊だ、そんな艦隊に純粋な艦娘が着任して、明石は敬遠してしまわないだろうか…?。

 

 

「でも安心して、確かに最初こそ驚きはしたけど、私はみんなが深海棲艦との混血艦(ハーフ)だろうと敬遠したりする事は無い、むしろ台場鎮守府のために色々尽力したいと思ってる、私は戦闘はからっきしだけど、裏の方からDeep Sea Fleetを支えていきたいの、台場鎮守府の一員として…これからよろしくお願いします!」

 

 

 

そう言って明石はDeep Sea Fleetに笑いかけて敬礼をする、どうやら吹雪の心配は杞憂で終わりそうだ。

 

 

「こちらこそ、これからよろしくお願いします!」

 

 

Deep Sea Fleetをメンバーは嬉しそうに敬礼を返す。

 

 

「…あれ?でも深海棲器って大本営で開発してたんですよね?何で榊原所長がその知識を持ってるんだろう…」

 

 

「何でも、榊原所長が大本営のデータからくすね…貰ったとか」

 

 

「なんか今不穏な空気漂う単語を口にしかけなかった?」

 

 

「き、気のせいじゃないか…?」

 

 

明石は気まずそうに目をそらす。

 

 

(所長って意外と裏でスゴいことやってるんだな…)

 

 

こっそりそんな事を思う吹雪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

明石が着任の挨拶を済ませた後、彼女の作業用の工房を用意する作業に入る、工廠は閉鎖されていて使えないため、空いている大きめの多目的ホールを作業場に改造する事にした、明石と一緒に持ち込まれた道具や機械類を台場メンバー全員で運び入れ、造船所から渡されたマニュアルを元にセッティングする。

 

 

「…よし!こんなもんでどうだ!」

 

 

作業開始から2時間後、ようやく最低限の整備作業が出来るだけの環境が整った、自分が活躍出来る“戦場”が用意された明石は感動で目をキラキラさせている。

 

 

「作業環境はまだまだって所だけど、これから随時改善していくからしばらくはこれで我慢してくれ、悪いな」

 

 

「いやいや、これだけでも十分立派なモノだよ、これなら艤装整備もバッチリこなせる!」

 

 

弾んだ声を出す明石に海原は心の中でホッとする。

 

 

「そうだ提督、早速深海棲器の新規開発をやろうと思うんだけど…」

 

「新規開発?そんな事できるのか?」

 

 

「うん、深海棲器の仕様や製造方なんかは所長に叩き込まれたから、だから提督に許可を貰いたいんだ」

 

 

「そういうことなら俺はOKだ、どんな武器が出来るか楽しみにしてるぜ」

 

 

 

「任せてよ!技術班代表の誇りにかけて、あっと驚くようなステキ武器を開発して見せよう!」

 

 

明石は自信たっぷりに胸を叩く




次回「明石の魔改造(アレンジ)ステキ武器」

明石のイメージは本文で語られている通りプリーストです、修理工場ということで回復職をモチーフにしました、洋風の服装って難しい。

ちなみにゲームの姿の明石は横須賀にいます。


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第115話「大鳳の場合2」

戦艦少女で資材稼ぎをやっております、演習や遠征では燃料と弾薬を消費しないのでそこそこ効率がいいです、あと疲労度もないので出撃し放題でレベリングも進みます。

刀剣乱舞も3-4攻略目指して奮戦中。


「ったく、何でこんな時に会議に参加しなきゃならないんだよ、めんどくせぇ…ばっくれて帰りてぇ…」

 

 

海原がため息をつきながら渋谷の街中を歩いている、明石が台場にやってきた翌日、海原は臨時司令官会議をやるとの事で大本営から呼び出しを受けていた。

 

 

「ダメですよ司令官さん、司令官会議は大切なイベントなのですから」

 

 

その横から篝が優等生のテンプレみたいな台詞でつっこみを入れる、いつもは秘書艦である吹雪が同行するのだが、ちょうど出撃中で不在だったため篝が同行する事になったのだ。

 

 

「分かってるよ、でも今まで散々放っておいたクセに急に呼び出しを増やすってのもシャクにさわるなぁって思っただけだ」

 

 

「それには同意致しますが…」

 

 

海原が愚痴っている間に台場御一行は大本営に到着、受付を済ませていつもの会議室に足を運ぶ、室内は予想通り戦艦や正規空母の秘書艦が大半を占めていた。

 

 

「相も変わらず大型艦ばっかで窮屈な所だな、そんなに戦力誇示がしたいのかね」

 

 

「それは偏見なのでは?奥村司令官も戦艦の艦娘を連れてましたが、戦力誇示ではなく純粋に仲が良いからという理由でしたよ」

 

 

「そうなのか、ごめんな、お前がいるのに」

 

 

「いっ、いえ!こちらこそ過ぎた言葉でした!すみません!」

 

 

海原が軽く謝ると、篝は少し慌てたように両手を振る、篝は真面目な良い子だが、もう少し砕けた態度で接してもいいんじゃないかと海原は思う、どうせ公私の差などあってないような鎮守府だし、三日月、暁、雪風の狂犬トリオ…ダイバケルベロス(海原命名)に至っては日常的にじゃれ合いという名の殺し合いをしている程だ。

 

 

「そういえばお前の元上司はどこかな…っと」

 

 

海原がキョロキョロと周りを見渡すと、少し離れた斜め右の席に座っていた、隣には秘書艦の艦娘を連れている

 

 

「篝、お前の言ってた仲の良い戦艦って…」

 

 

「はい、金剛型戦艦5番艦“水剱(みつるぎ)”、奥村司令官の秘書艦です」

 

 

海原は奥村の秘書艦…水剱をじっと見つめる、アイスブルーのロングヘアーに紺色の和風甲冑を身に纏った艦娘だ、後ろ姿なので表情は見えない、入ってくるときに見れば良かったな…とちょっぴり後悔する。

 

 

「全員集まっているようだな」

 

 

その時、南雲元帥が相変わらずのムカつく面構えで入ってきた。

 

 

「今回集まってもらったのは、深海棲艦の新種が新たに発見されたからだ」

 

 

南雲の議題に部屋中の提督がざわめきだす。

 

 

「今回発見された新種がコイツだ」

 

 

そう言うと南雲はプロジェクターにパソコンの画像を投影する。

 

 

「…なんだありゃ」

 

 

それを見た海原はとてもシンプルな疑問を口にした、その深海棲艦の外見を一言で言うのなら『鋼の球体にヒトの上半身が生えた生物』というのが一番適当だろうか、ヒトの上半身は頑丈そうな兜のようなモノを被っているため顔は見えない、そして腕はホースのように不自然に太く、背中側で固定されている。

 

 

「この深海棲艦は他の艦に燃料や砲弾などの物資を運搬、補給する輸送艦のような役割を持っているとの報告が入っている、ここに見える腕をホースのように使い燃料などを補給しているようだ、尚攻撃をしてこないので攻撃力は無いと思われる」

 

 

全員が南雲の説明を食い入るように聞いている、チラリと横を見れば篝も手帳を開いて南雲の話を素早くメモしている。

 

 

「我々はこの個体を『輸送棲艦(ゆそうせいかん)』と命名し、新たな敵勢力として認識する」

 

「輸送棲艦か、敵も戦略的になってきやがったな」

 

 

「兵站を強化する敵…ある意味では戦艦棲艦よりも厄介な相手かもしれませんね、艦娘も深海棲艦も資材さえ尽きなければいつまでも戦えますから、疲労や轟沈を考えなければ…の話になりますが」

 

 

篝が悩ましいといった様子で呟く、確かに兵站などの準備を万全にしたものが戦いを制するという話を海原もどこかで聞いたような気がする、敵もそれをやろうとしているのなら確かに厄介だ。

 

 

「この輸送棲艦は電子書庫(データベース)にも追加してあるので確認しておくように」

 

 

その後も諸々の話などがあったが、臨時司令官会議は30分ほどで終了してしまった、これなら資料をメールで送るだけで良かったのではないだろうか?という疑問が湧いた海原だったが、口に出すと面倒くさそうなので言わないでおいた。

 

 

「篝、奥村に挨拶していくか?」

 

 

「…よろしいのですか?」

 

 

「俺より付き合いの長い元上司だろ?ダメだという理由がどこにある」

 

 

海原はそう言うと、手荷物をまとめて帰ろうとしている奥村に近づいて声をかける。

 

 

「よぉ奥村、元気してっか?」

 

 

「何だよ海原…って篝…!?」

 

 

奥村はめんどくさそうにこちらを向くが、篝を見て一気に顔色を変えた、水剱も同様である。

 

 

「…上手くいったんだな」

 

 

「おかげさまでな、お前が篝や川内の情報を事前に吐いてくれたからスムーズに事が運んだぜ、そういや川内はどうしてる?」

 

 

「前よりも断然元気にやってるよ、それと、夜嫌いを克服出来てからは夜戦での戦績がうなぎ登りだ、今じゃ夜戦で川内の右に出る艦娘はいないとまで言われてるぞ」

 

 

「ほぇ~、そりゃスゴいな、良かったな篝、先輩大活躍だってよ」

 

 

「はい、本当に…良かったです」

 

 

篝は心からホッとした様子で息を吐くようにそっと呟いた。

 

 

「…海原、俺は一度お前を蹴落とそうとしてあの時の軍法会議に参加した、俺がこんな事言える立場じゃないってのは分かってるけど、篝の事…よろしく頼む」

 

 

奥村はそう言って海原に頭を下げる、その様子に水剱は驚いたような表情をする。

 

 

「…俺はあの時のことを許した訳じゃない、でも篝の事は何が何でも守ってやる、だから安心して任せろ」

 

 

海原が得意気に言うのを聞いて安心したのか、奥村は小さく“ありがとう”と呟いた。

 

 

「篝、これから色々大変だろうが、海原の所で頑張れよ、川内も応援してたぞ」

 

 

「はい、誠心誠意持って頑張らせていただきます、水剱さんもお元気で」

 

 

「えぇ、たまには連絡してね、私も応援してるから」

 

 

水剱もにこやかに笑ってそう言った。

 

 

それから別れの挨拶を軽く交わすと、お互いにそれぞれの鎮守府へと帰って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい提督!待ってたよ!」

 

 

台場に戻って来るや否や明石が出迎えてくれた、服装はあのプリーストの修道服ではなく、群青色の作業着を着ている、作業中はこちらの方が動きやすいらしい。

 

 

「ん?何か急ぎの用があったのか?」

 

 

「昨日提督に許可を貰って開発してた深海棲器が完成したんだ、お披露目するから工房に来て!」

 

 

「マジか!ずいぶん早いな」

 

 

「これでも艦隊の技術職だからね」

 

 

明石は得意げに胸を張る、張れるだけの胸が少々不足気味な事については言わないでおこう。

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!これが私が新たに開発した深海棲器です!」

 

 

出撃から戻ってきた吹雪たちを含む台場メンバー全員を集めた明石は、新しい深海棲器のお披露目会を開催していた。

 

 

「えっと…」

 

 

「これってまさか…」

 

 

吹雪たちは目の前に鎮座されている深海棲器を見て顔をひきつらせる、120cm程の鉄の筒の中心に鋭い針が通っており、その筒には人の腕を通す隙間とマジックハンドなどでよく見る引き金が付けられている。

 

 

「深海棲器『パイルバンカー』、コードネームは『フレイム・スピアー』だよ」

 

 

その武器は、俗にパイルバンカーと呼ばれているモノであった。

 

 

「それで明石、このパイルバンカーはどうやって使うんだ?」

 

 

パイルバンカーをよく知らない海原が明石に説明を求める。

 

 

「はい、まずはこの隙間に腕を通して…」

 

 

海原に言われたとおり明石はパイルバンカーの使い方を実演する。

 

 

「この引き金を引くと…」

 

 

パイルバンカーを装着した明石がマジックハンドのような引き金を引く。

 

 

「うおぉ!?」

 

 

すると、鉄の筒から顔を覗かせていた槍の穂先のような針がものすごい勢いで飛び出す。

 

 

「こうやって敵を刺突する目的の武器がこのパイルバンカー!、しかもスピアーの部分はドリルみたいに回転するようになってるんだ、先端がヤスリみたいになってるから敵の肉をすりつぶしながら穴を空ける事だって出来るよ」

 

 

「可愛らしい顔してとんでもないモン作りやがったな」

 

 

「というより、今の説明だとコードネームの“フレイム”の要素が無いような…?」

 

 

大鯨が頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「あ、それはね、ここのスイッチを入れると…」

 

 

明石が本体に取り付けられているつまみを回す、するとスピアーの先端が赤く染まっていく。

 

 

「スピアーの先端には発熱装置が内蔵されてるの、最高700℃まで上げられるよ」

 

 

「…なんか、これで攻撃される敵を想像すると気の毒になってくるな」

 

 

性能が優秀過ぎて敵に若干同情してしまう。

 

 

「というわけで、このフレイム・スピアーは篝の武器として進呈するよ」

 

 

「えっ!?私ですか!?」

 

 

突然のご指名に篝は驚いた顔をする。

 

 

「作るときに提督から“どうせなら着任したばかりの篝に入隊祝いとして作ってやってほしい”って言われてたから、篝に合いそうな武器にしたの」

 

 

「私のどこを見てコレを作ったのですか!?」

 

 

不服そうに反論する篝だが、自分のために作ってくれたという嬉しさもあり、結局パイルバンカーを受け取ったのだった。

 

 

ちなみに明石も自分の深海棲器をふたつ選んでいた。

 

 

1つ目は『スコップ』

 

軍用に作られたモノであり、白兵戦でも刺突目的で使える片手で使うサイズのモノだ。

 

2つ目は『大太刀』

 

吹雪が使っている太刀よりも刀身が長く、90cm程ある刀だ。

 

 

「大太刀はともかく、スコップなんて何に使うんだよ…」

 

 

「敵の装甲を採取するためだよ、深海棲器の素材に必要だし」

 

 

「スコップじゃ無理じゃね…?」

 

 

あとお前は戦闘参加しないだろ、という突っ込みは言わないでおいた。




次回「装甲空母」

いい加減薙刀の刀剣男士来てください、短刀と脇差と打刀と太刀しかいないので戦術の幅が広がりません。


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第116話「大鳳の場合3」

活動報告にて大鳳の深海棲器を募集しています、大鳳にはこれ!というアイデアをお待ちしています!

~艦これDSFこぼれ話~
使う機会が無かったのでお蔵入りになっていますが、台場鎮守府の艦娘には全員前世の設定があります。


次の日、吹雪たちは出撃任務で遠海に出ていた、出撃メンバーは吹雪、篝、マックス、ハチの4体、残りの暁、雪風、三日月、大鯨の4体には遠征任務に出てもらっている。

 

 

「敵艦隊の反応有り!数は1体です!」

 

 

篝の電探が敵艦隊の存在を感知、コンソールのモニターには赤い点が1つ映し出されている。

 

 

「会敵までどれくらい?」

 

 

「この距離ですと…2分くらいでしょうか」

 

 

「了解、じゃあハチは先に潜水して奇襲の準備を、ほかのみんなはいつでも攻撃出来るようにしておいて」

 

 

「「了解!」」

 

 

吹雪の指示でハチは水中に身を潜める、ハチの連続無酸素活動時間は約3分、今から潜り始めても十分息は続く。

 

 

「敵艦隊発見!戦闘開始!」

 

 

Deep Sea Fleetと敵艦隊が会敵した、編成は戦艦棲艦のみという珍しい編成である。

 

 

 

 

吹雪たちは目標の戦艦棲艦に向かって攻撃を開始する、まずは砲撃を行いながら少しずつ戦艦棲艦との距離を詰めていく、途中戦艦棲艦も砲撃をして来るが、持ち前の機動力と砲弾切りを生かしてそれをかわす。

 

 

「それっ!」

 

 

まずは吹雪が戦艦棲艦に手甲拳(ナックル)で一撃加える、しかし戦艦棲艦は両腕をクロスさせてそれを防ぐ。

 

 

「なっ…!?固い…!!」

 

 

ダメージこそ通っているが、致命傷には至っていないようだった。

 

 

「まさか部隊長(エリート)…?いや、あるいは司令艦(フラグシップ)…!?」

 

 

吹雪は自身の身体から嫌な汗が流れるのを感じる、部隊長(エリート)にしろ司令艦(フラグシップ)にしろ駆逐艦の火力では簡単に倒せない、それを察した吹雪は一度後ろに下がる、安易に攻めては敵の反撃を食らいやすいと判断したからだ。

 

 

「敵の戦艦棲艦は部隊長(エリート)以上の上位種個体だと予想される、反撃を食らわないように細心の注意を払って攻めること!」

 

 

「「了解!」」

 

 

吹雪はそう言うが、戦艦棲艦は主砲の射程距離が長く、ある程度の距離を取っていても砲弾がこちらに届いてしまうため、苦戦は避けられない。

 

 

「はぁっ!」

 

 

まずは敵の背後を取っていたマックスが戦鎚(ウォーハンマー)で戦艦棲艦の腹部を殴打する、深海棲器の威力や殺傷力は艦娘の基礎能力(ステータス)に影響しないため、主砲以上にダメージを通すことが出来る。

 

 

…もっとも、それで敵の装甲までは無視できないのだが。

 

 

「…損傷軽微か」

 

 

マックスは忌々しげに舌打ちをすると、一度距離を取って主砲を撃ち込む、しかし上位種個体の装甲は駆逐艦の主砲程度の威力では簡単に貫けない。

 

 

「ーっ!?」

 

 

すると、戦艦棲艦が突然驚いた表情をしてたたらを踏む、海中で待機していたハチが雷撃を行ったらしい。

 

 

「ぷはぁ!なんだか大変なことになっているみたいだったから勝手に攻撃しちゃった、大丈夫だった?」

 

 

息を切らせたハチが浮上してくると、軽く手を合わせて吹雪に謝罪する。

 

 

「いや、むしろナイスファインプレーだよ!グッジョブ!」

 

 

吹雪がハチに向けて親指を立てると、ハチは嬉しそうな顔をして戦艦棲艦に攻撃を開始した。

 

 

「っ!?マズい‥!」

 

 

しかし戦艦棲艦がそれに感づき、両手に装着された副砲を両方ハチに向けてくる。

 

 

「ハチ!」

 

 

そこへマックスがワイヤーを伸ばして戦艦棲艦の両手に巻き付ける。

 

 

「ほあぁっ!」

 

 

マックスが伸ばしたワイヤーを引っ張ると戦艦棲艦の両腕が明後日の方向を向き、砲撃の着弾位置をズラした。

 

 

「ファイア!」

 

 

そのスキにハチが拳銃の引き金を引く、銃口から射出された漆黒の弾丸は戦艦棲艦の顔面に命中し、爆発を起こす。

 

 

「ー!ー!っ」

 

 

戦艦棲艦は悲痛なうめき声を上げながら悶絶する、銃撃の影響で右目が潰れたらしく、血が流れ落ちる右目を瞑りながらこちらを睨んでいる、ダメージもそれなりに入ったようで、中破相当の傷を負っていた。

 

 

「篝!やるよ!」

 

 

「了解です!」

 

 

吹雪と篝は同時に戦艦棲艦に向かって突撃していく、戦艦棲艦は不明瞭な視界の中砲撃を行うが、片目しか使えないので照準は定まっておらず簡単にかわすことが出来た。

 

 

「てやあぁっ!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で戦艦棲艦に向けて拳を振りかぶる、戦艦棲艦は両腕の副砲でそれをガード、これで戦艦棲艦の両腕は塞がった。

 

 

「篝!交代(スイッチ)!」

 

 

吹雪が素早く敵から飛び退くと、篝が入れ替わりで前に出る、あらかじめ最大の700℃まで加熱しておいたフレイム・スピアーを戦艦棲艦に突きつけ、その引き金を引く。

 

 

炎獄の槍機兵(フレア・ランサー)!」

 

 

“台場に所属している艦娘はカッコイイ技名を持つのがならわし”という暁のデマを真に受けた篝が中二全開の技名を叫びながらフレイム・スピアーのスパイク部分を戦艦棲艦の胴体に突き刺す。

 

 

「ーーっ!?」

 

 

喉が潰れんばかりの絶叫を戦艦棲艦が上げる、スパイクは戦艦棲艦の胸に深く刺さり、超高温に熱せられた先端部分が装甲や肉を焼いていく。

 

 

最初こそ主砲を撃って抵抗した戦艦棲艦だが、1分も経つ頃にはピクリとも動かなくなった。

 

 

「…戦艦棲艦の撃沈を確認、戦闘終了です」

 

 

篝がフレイム・スピアーを引き抜くと、戦艦棲艦はそのままうつ伏せに倒れて海中に沈んでいく。

 

 

戦闘を終えた吹雪たちは他に敵艦隊がいなければこれで帰投しようかという話になっていたのだが、篝の電探が敵の新手を察知した、しかも肉眼で確認できるほど近くに来ていた。

 

 

艦種は空母棲艦のみ、さっきの戦艦棲艦といい、深海棲艦の間ではソロプレイでも流行っているのだろうか。

 

 

しかもその空母棲艦は“面影”持ちというオマケまで付いてきた。

 

 

 

 

「空母の“面影”持ちは初めてだよね」

 

 

「そう言えばそうね、取りあえず艦載機出される前に話つけちゃいましょう」

 

 

そう言うと吹雪は“面影”持ちの空母棲艦に近付くと、こんにちはと挨拶をする。

 

 

『…?』

 

 

“面影”は怪訝そうな表情で首を傾げる、栗色のショートヘアーに白いシャツ、赤のスカートに黒の胸当てを着けている艦娘だ、左手には飛行甲板、右手にはボウガンを持っている。

 

 

「あなた、艦娘ですよね?」

 

 

『っ!?』

 

 

吹雪の言葉に“面影”は狼狽した様子を見せる、それを見て“面影”は深海棲艦になっているという自覚があるのだと吹雪は確信する。

 

 

『どうして…?今まで誰も分からなかったのに…』

 

 

“面影”は声を震わせながら吹雪に問う、その様子だと長い間苦労していたようだ。

 

 

「ちょっと訳ありで、“そういうの”が見える能力があるんです、そこにいる子たちもあなたみたいな深海棲艦の状態から戻った艦娘なんですよ」

 

 

『えっ…!?』

 

 

“面影”は目を剥いた、ならば自分もそこにいる艦娘のように戻れるのだろうか?また艦娘だったときのように…蒼い海の上を翔る事が出来るのだろうか…?。

 

 

「もし良ければ、私たちの鎮守府に来ませんか?あなたを戻す手伝いが出来るかもしれません」

 

 

そう言うと吹雪は“面影”に手を差し伸べた。

 

 

『…はい、お願いします』

 

 

 

戻れるのなら、翔る事が出来るのなら、私は何でもやってみせよう、“面影”は胸の内に秘めた確かな思いと共に吹雪の手を取った。

 

 

 

 

 

 

帰投後、早速オモチカエリした“面影”をスケッチし、それをもとに海原に検索をかけてもらう。

 

 

「…出た、この艦娘だな」

 

 

 

○艦娘名簿(轟沈艦)

 

・名前:大鳳(たいほう)

・艦種:装甲空母

・クラス:大鳳型1番艦

練度(レベル):99

・所属:大湊鎮守府

・着任:2040年10月15日

・轟沈:2046年12月14日

 

 

「2040年!?超古株じゃないですか!」

 

 

「深海棲艦出現当初から活躍していた…俗に言う“最初期組”らしいぞ」

 

 

「すごーい!」

 

 

『そ、そんなすごくないですよ…』

 

 

大鳳は恥ずかしそうにして吹雪たちの声を否定する。

 

 

「しかし、最大練度(レベル)の…ましてや防御力も際立って高い装甲空母のお前が轟沈って、何があったんだ?お前の“未練”に関係することなのか?」

 

 

海原がそう質問すると、大鳳はちょっと迷った様子を見せつつも頷いた、当たらずとも遠からず…といった所だろうか、ちなみに台場の事や混血艦(ハーフ)の事は帰投中に吹雪から説明を受けていた、純粋な艦娘として戻れない事を知って残念そうにしていたが、自分の目的の事を思えば贅沢は言ってられないと言って気丈に振る舞っていた。

 

 

そして大鳳が口にした未練というのは、至極シンプルなモノだった。

 

 

『“会いたい人がいる”…それが私の未練です』




次回「西村恭吾(にしむらきょうご)

番外編「瑞鶴と加賀の休日」チラッと見せます↓


「加賀先輩…そのコス気合い入りすぎじゃないですか?」

「そうかしら?自分で言うのもアレだけど、中々良いと思うわよ」

「そりゃ似合ってますけど…」

「んん~!似合ってますぞお嬢様方!」

「うん、OTK兵団もスゴい格好だよね、間違いなく補導モノだよ」



…瑞鶴と加賀のコス衣装どうしようかな~(チラッ


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第117話「大鳳の場合4」

キャラクター人気投票の結果を活動報告に掲載しました、三日月すげぇ。

艦娘がパーソナリティという設定でラジオ(またはドラマCD)をやってみたら面白そうだと思います。

…試しに吹雪と三日月と暁をMCでゲストに摩耶…というシチュエーションで一本短編を書いてみたらエラいことになってしまいました、これはお蔵入りだな…。


「会いたい人?誰なんだ?」

 

 

極めてシンプルな内容に多少驚いた海原だが、大鳳に先を促す。

 

 

西村恭吾(にしむらきょうご)、大湊鎮守府の提督です』

 

 

「司令官に会いたいんですか?」

 

 

吹雪がそう尋ねると、大鳳は首を縦に振る。

 

 

『私が轟沈したあの日、大湊鎮守府に敵艦隊の急襲があったんです、主力艦隊は出撃任務で出ていたので、残存戦力の私たちが提督と鎮守府を守るために防衛に出ていたんですけど、敵の猛攻に耐えられず私は轟沈してしまいました…』

 

 

大鳳は落ち込んだ様子で自分の過去を話す。

 

 

「つまり、お前は提督が無事だったかどうかの安否を知りたいって訳だな?」

 

 

海原がそう聞くと、大鳳は頷いて肯定の意を示す。

 

 

「よし、そう言うことなら台場鎮守府は全力で大鳳に協力しよう」

 

 

『っ!?あ、ありがとうございます!』

 

 

大鳳は嬉し泣きの涙を目尻に浮かべ、海原に頭を下げる。

 

 

「まずは大湊の提督の調査だな、名前はなんて言ったっけ?」

 

 

海原は電子書庫(データベース)を起動させ、人事関係のフォルダを呼び出す、海原の記憶では今の大湊の提督は荻波秀典(おぎなみひでのり)だったはずだ、沖ノ鳥島海戦でも作戦に参加していたし、先日の臨時司令官会議にも顔を出していた。

 

 

「西村恭吾って言ってました」

 

 

吹雪の返答を聞いた海原はキーボードを叩く指を止め、不審そうに眉をひそめる。

 

 

「…西村恭吾?それ、大鳳がそう言ったのか?」

 

 

「はい、間違いなくそう言いました」

 

 

「……」

 

 

海原は顎に手を当てて考え始める、現大湊鎮守府の提督は荻波秀典だ、それは今画面に表示されている大湊鎮守府の情報にも書かれている、しかし大鳳は大湊の提督は西村恭吾だと言った、つまり荻波は西村の後に提督として就任したということになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…なら荻波の前任にあたる西村はどうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか急襲に巻き込まれて死んじまったとかってオチじゃないよな…)

 

 

 

急に不安になった海原は電子書庫(データベース)内の検索エンジンに『西村恭吾』と打ち込む、電子書庫(データベース)は退役や殉職などで海軍を去った人物の情報も閲覧できるため、西村という人間が実在しているのであればヒットするはずだ。

 

 

「…あの、司令官?」

 

 

さっきから難しい顔をしてモニターを見つめている海原を見て、吹雪や大鳳が不安げな様子で声をかける。

 

 

「…大鳳、さい先の悪い情報で申し訳ないが、西村恭吾はすでに海軍にはいない」

 

 

『えっ…!?』

 

 

海原の言葉を聞いた大鳳は絶望的な表情で言葉を失う。

 

 

「じゃあ西村さんは既に…!?」

 

 

「いや、死んだわけじゃない、電子書庫(データベース)の情報では西村恭吾は2047年に“退役”している、大鳳が轟沈したのはその一年前だから、少なくともお前は西村恭吾を守れたんだよ」

 

 

海原はそう言って大鳳の不安を取り除こうとする、それを聞いた大鳳は静かに涙を流し…

 

 

『良かった…本当に良かった…です…』

 

 

心から嬉しそうに、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、西村さんが殉職じゃなく退役だって事は分かったけど、問題はどうやって西村さんに会うか…だな」

 

 

「既に海軍にいないとなれば自宅を訪問するしか方法は無い…んでしょうけど…」

 

 

「住所が分からなけりゃどうしようもない…か」

 

 

海原たちは早速新たな問題にぶつかり頭を悩ませていた、退役した西村と接触するための手段を海原たちは持っていないのだ、電子書庫(データベース)では住所までは分からないし、ダメもとで大本営に問い合わせるにしても3年も前に海軍を去った人間の住所などの情報を保管しているとは思えない。

 

 

「まぁ、これに関しては俺の方で色々模索してみるよ、泥船に乗ったつもりで構えてろ」

 

 

「ひたすらに安心できない泥船ですね」

 

 

「泥船だからな」

 

 

海原と吹雪がそんな冗談のやり取りをしていると、暁率いる遠征部隊が帰投して提督室にやってきた。

 

 

「司令官、遠征部隊帰投よ、これ報告書」

 

 

「おう、お疲れさん」

 

 

海原は暁から受け取った報告書に目を通す。

 

 

「随分獲得資材が多いな、穴場でも見つけたのか?」

 

 

「違うわよ、途中で敵艦隊に遭遇したからぶっ殺して身包み剥いだだけ」

 

 

「お前本当に趣味悪いな」

 

 

「別に普通でしょ、三日月たちも賛成してくれたわよ」

 

 

「私は一応止めたんですけどねぇ…」

 

 

呆れ顔の海原をよそに涼しい顔で暁は返す、ただひとり大鯨だけは控えめに暁に抗議していた。

 

 

「そうだ、お前たちにも言っておくことが…」

 

 

海原は暁たちに大鳳の事を伝え、仲良くしてやれと言って解散させた。

 

 

「さてと、俺は西村さんに会う方法を考えるか、どっかに情報持ってる都合のいい人とかいねぇかな…」

 

 

「世の中そんなに甘くないですよ」

 

 

その後も色々知恵を絞ってみたが、吹雪のつっこみ通り都合よくアイデアは出てくれなかった。

 

 

 

 

 

「…という事があったんですよ」

 

 

『そうか、大鳳に会ったのか、彼女の事は覚えているよ、艦載機の運用能力がとても優れていてね、当時は最高能力の空母…なんて言われてたんだ』

 

 

その日の夜、海原は大鳳の事を報告するために榊原に電話をかけていた、榊原は当時を懐かしむように言い、しみじみとした雰囲気を感じさせていた。

 

 

『それで、大鳳はどんな思い残しを?』

 

 

「大湊鎮守府の前任提督である西村恭吾に会いたいって言ってます、今は彼と接触する方法を探してるんですが、何分既に退役しているので現住所が分からず難航してるんですよ」

 

 

海原は“ははは…”と力無く笑うが、その直後に意外な言葉が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『西村さんの住所なら、俺知ってるよ』

 

 

 

「……へ?」

 

 

都合のいい人は、意外と近くにいた。




次回「偽りの恩人」

戦艦少女の攻略が滞り気味、鳥海や青葉なんかの重巡はそろってきたけど、戦艦がいないのが心許ない。


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第118話「大鳳の場合5」

艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetーのpixiv版が投稿してから1年以上経過していた事にさっき気付きました(2015年10月3日に第1話投稿)、ハーメルン版も投稿から8ヶ月経過してました、時の流れって早いもんですね。


「こうも事がうまく進むなんて思ってもみなかったな」

 

 

「灯台もと暗しってやつですね」

 

 

榊原から貰ったFAXを見ながら海原は言う、そこには教えてもらった西村の住所が書かれていた。

 

 

「青森県のむつ市か、結構遠いな…」

 

 

「青森ですか、ならお土産はりんごですね」

 

 

「旅行に行くんじゃないんだぞ、あとお前の他に三日月も連れて行く」

 

 

「三日月もですか?」

 

 

吹雪が首を傾げる。

 

 

「場合によっては混血艦(ハーフ)の説明をする必要があるかもしれないからな、お前は深海痕がないから説得力が薄いし」

 

 

「なるほど、納得しました」

 

 

「…悪いな、こんな扱いばかりで」

 

 

「気にしないでください司令官、だれも司令官が好き好んで見せ物扱いしてるだなんて思ってませんから」

 

 

申し訳無さそうに言う海原に吹雪は笑ってそれを許す。

 

 

「さてと、とりあえず今は出来るだけの準備をしておこう」

 

 

海原は電子書庫(データベース)に表情されている西村の情報を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二日後、海原は吹雪と三日月を引き連れて青森県むつ市へとやってきた、目的はもちろん西村恭吾に会いに行くためである。

 

 

「問題は西村さんに何て説明すればいいかが一番の問題だよな」

 

 

「普通に事実を説明すればいいんですよ、そのために私たちがいるんですから」

 

 

「そうですよ、司令官は安心して西村さんと話をしてください」

 

 

吹雪と三日月は自信満々で海原に言う、2体とも海原の秘書艦(片方は元だが)だけあってとても頼もしい。

 

 

「ところで司令官、それは一体何のために?」

 

 

そう言って吹雪は海原が提げている紙袋を指差す、中には出発前に買っておいた酒の一升瓶が入っている。

 

 

「西村さんの誕生日がもうすぐみたいだからな、お近付きの印としてバースデープレゼントだ」

 

 

「西村さんがお酒好きかどうかなんて分からないのでは…?」

 

 

「心配ご無用、榊原所長に聞いてその辺はリサーチ済みだ、何でも所長と西村さんはそれなりの仲みたいで、住所も年賀状を送るときに聞いたんだと」

 

 

「あぁ、それで所長は西村さんの住所知ってたんですね」

 

 

「あの人の人脈の広さには驚かされます」

 

 

そんな会話をしているうちに台場一行は聞いていた住所の家に到着、表札にも『西村』と書かれている。

 

 

「…考えても仕方ないか」

 

 

どう挨拶しようか玄関前で少し考え込んでいた海原だが、意を決したようにインターホンを押す。

 

 

 

「…はい、お待たせしました」

 

 

待つこと十数秒、ドアが開いてひとりの女性が出てきた、年齢は50代半ばといった辺りだろうか、頭には白髪が目立ち始めているが、あまり年を感じさせない見た目をしている、西村は妻子持ちというのを榊原から聞いていたので、この人は西村の妻だろう。

 

 

「突然押しかけて申し訳ありません、私は日本海軍所属、台場鎮守府提督の海原充と申します、西村恭吾さんはご在宅でしょうか?」

 

 

海原は丁寧な口調で西村の妻と思われる女性に挨拶をする、その様子が普段と違いすぎる事に笑いがこみ上げてくる吹雪と三日月だったが、なんとかこらえた。

 

 

「海軍の方ですか…?失礼ですが主人とはどのような…?」

 

 

「おっと、これは失礼いたしました、私は西村さんが海軍にいた頃にとてもお世話になっておりまして、私にとって恩人のような方なんです、そんな西村さんの誕生日が近いという話を聞きまして、お祝いの品をお持ちした次第であります」

 

 

海原は西村の妻(主人と言っていたので奥さんで間違いないだろう)に事情を説明する、もちろん内容のほとんどは嘘であり、そもそも海原が海軍に所属する前に退役した西村とは全く接点がない。

 

 

それに対してかなりの罪悪感を感じるが、本人と話せれば何とかなるだろうと信じて海原は偽りの恩人として西村を扱う。

 

 

「まぁ、そうだったんですね、それはわざわざありがとうございます、でもすみません、主人は今はおりません」

 

 

「お出かけ…でしょうか?」

 

 

海原が西村の妻にそう聞くと、妻はものすごく言いづらそうな顔をした後、重々しく口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…主人は去年病気で亡くなりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…どうすりゃいいんだ…」

 

 

その日の夜、予約していた宿にチェックインした海原は部屋に入るなりため息をついた。

 

 

西村恭吾は既に死んでいる、それは即ち大鳳の願いを叶える事が出来ないことを意味していた、その現実の重みが今更ながら海原の身体にのし掛かる。

 

 

「大鳳さんに何て説明するかが問題ですよね」

 

 

「そりゃあありのままに真実を伝えるしかないですよ」

 

 

「だとしても、この結果は大鳳にとって酷だよなぁ…」

 

 

 

いきなり分厚い壁にぶち当たった海原たちはどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 

「一応妥協案も用意したが、大鳳がこれで納得するかどうか…」

 

 

そう言って海原はポケットから一枚の紙を取り出す、そこには西村恭吾が埋葬されている墓地がある霊園の場所が書かれていた、西村の墓の前で手を合わせる事を許してもらえないだろうか、というお願いを妻にダメ元でしてみたのだが、二つ返事で快諾して地図を書いてくれた。

 

 

ここに大鳳を連れて行って一緒に墓参りをするというのが海原の考えた妥協案である。

 

 

「まぁ、それは台場に戻ってから考えましょう、大鳳さん本人に聞かないとどうにもなりません」

 

 

「…そうだな」

 

 

海原はそう返すが、正直今は大鳳の反応よりも心に引っかかっているモノがあった。

 

 

 

西村の妻から霊園の地図を渡されたときに言われた言葉…

 

 

 

 

 

 

 

 

『故人になってもここまで思ってくれるなんて、あの人も幸せ者ね、ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽りだらけの言葉を信じてそんな言葉をかけてくれた西村の妻の笑顔を見て、密かに胸を痛める海原だった。




次回「墓参り」

本文では書き忘れましたが、西村恭吾の年齢設定は60才(享年)です。

最近ポケットモンスタームーンを買いました、最初のパートナーはアシマリ(水タイプ)です、可愛い。


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第119話「大鳳の場合6」

大鳳編早くもクライマックス突入です。

読み切り小説として「艦隊これくしょんー空母棲艦赤城ー」を投稿しました、DSFの最初期設定が元になってます、ちなみに読み切りなので続きはありません。


虚像天体(プラネタリウム)の星空の下、吹雪と裏吹雪は戦っていた、この偽物の世界で彼女と戦うのはもう何度目になるだろうか、ひょっとしたら数えるのを諦めるくらいかもしれないし、案外片手で事足りるくらいかもしれない、この世界ではどうにも記憶が曖昧だ。

 

 

『それで、私のことは思い出してもらえた?』

 

 

裏吹雪はナギナタを振るいながら吹雪に問い掛ける。

 

 

「…どういう意味?」

 

 

吹雪は裏吹雪の言葉の意味が分からず首を傾げた、いや、分かりたくなかったというほうが正しいのかもしれない。

 

 

『そのままの意味よ、私はあなた自身なんだからすぐに思い出せそうな気がするんだけどね』

 

 

裏吹雪はどこかおちゃらけた態度で吹雪に言う、それを聞いた吹雪の顔には焦りの色が浮かんでいた。

 

 

「違う!私は私ひとりよ!あなたなんて知らない!」

 

 

『あらあら、随分な言われようね、私はあなたから生まれたのに』

 

 

「…えっ?」

 

 

裏吹雪の言葉に吹雪は目を見開いた、目の前の裏吹雪は、自分から生まれた…?

 

 

「ど、どういうこと!?」

 

 

『それはあなた自身がよーく知っているはずよ、本当は全部思い出してるんじゃないの?』

 

 

裏吹雪はそこまで言うと、“時間だ”と呟いて闇に溶けるように消えていく。

 

 

「……………」

 

 

偽物の世界から追い出されるまでの間、吹雪は裏吹雪がいた場所をずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅん?」

 

 

目が覚めると吹雪は布団の中で寝ていた、場所は青森の宿である。

 

 

(そっか…確か司令官と三日月で西村さんの奥様に…)

 

 

そこまで考えて吹雪は右を向く、そこには海原が気持ちよさそうな表情で眠っていた。

 

 

壁掛け時計を見るとまだ午前5時だった、起きるのには少しだけ早いだろう。

 

 

「…少しだけ、独り占めしてもいいよね」

 

 

そう呟くと、吹雪は海原が起きるまでの間、彼の寝顔を堪能していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~うめぇな、吹雪たちが作る飯も美味いけど、こういう宿で食う朝飯ってまた違った美味さがある」

 

 

「分かります、なんかこう、特別感があるんですよね」

 

 

「はい、とても美味しいです」

 

 

海原が起床したあとは食堂で朝食をとる、バイキング形式なので好きなモノをとれる、こういうホテルや旅館で食べる食事はいつもより美味しく感じる不思議な魔力がある。

 

 

「今日は雪風たちへの土産を適当に買って帰ろうと思うんだが、それでいいか?」

 

 

海原は吹雪の方を向くが、吹雪は箸を止めて何かを考え込むようであった。

 

 

「吹雪?吹雪~?」

 

 

「…はっ!?はい!」

 

 

「大丈夫か?なんか考えてたみたいだけど」

 

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

 

吹雪はそう言って取り繕うが、内心は今朝の夢の事を考えていた。

 

 

(裏吹雪って…本当に何者なんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

売店で適当に留守番組への土産を買った海原と吹雪は台場鎮守府へと帰ってきた、行きも帰りも新幹線を使ったのだが、普段乗ることのない新幹線に吹雪と三日月がはしゃいでいたのはここだけの秘密である。

 

 

「お帰りなさい司令官、青森はどうでした?」

 

 

「ただいま雪風、別に観光とかはしてないよ、旅行目的じゃないし」

 

 

「あれ、そうだったんですか?別にもっとゆっくりしていっても良かったんですよ?」

 

 

「んなワケに行くか、それより大鳳はどうしてる?」

 

 

「大鳳さんなら、暁さんたちと提督室で桃鉄やってます」

 

 

「すっかり台場に馴染んでるな…」

 

 

海原は苦笑しながらお土産を雪風に渡すと、大鳳のいる提督室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…そうですか、提督は亡くなっていたんですね…』

 

 

海原の報告を聞いた大鳳は悲しそうに目を伏せる。

 

 

「すまない、でかい口叩いておきながらこんな事に…」

 

 

 

『いえいえそんな!ここまで調べていただいただけでも十分ですから!』

 

 

大鳳は慌てて首を振って海原に言う。

 

 

「それで、妥協案ってワケじゃないんだが…」

 

 

海原は大鳳に青森で考えていた事を話す、西村の墓がある霊園の場所を聞いたこと、墓参りの許可を西村の妻から貰った事を。

 

 

「…というわけだ、もしお前が西村さんの墓参りを望むなら、青森まで連れて行ってやる、どうする?」

 

 

『行きます!』

 

 

大鳳は海原の提案に即答で応じる。

 

 

『会えないのなら、せめてお墓の前であの人に気持ちを伝えたいです』

 

 

 

「…分かった、俺たちに任せろ」

 

 

 

 

 

 

その翌日、早速海原は大鳳を連れて再び青森までやってきた、今回は吹雪に加えて篝も連れている。

 

 

『あの…本当にこれで大丈夫なんでしょうか…』

 

 

「パーカーのフードは目深に被ってるし、深海棲艦の身体は長袖長ズボンの服で隠れてるからへーきへーき」

 

 

「そんな適当で良いのですか司令官…?」

 

 

すこぶる軽い海原の態度に篝は溜め息をつく、海原一行は西村の妻に教えて貰った霊園に来ていた、海原たち以外に墓参(ぼさん)客はいなかったので深海棲艦の身体が目立たないように変装させた大鳳が怪しまれることもないだろう。

 

 

「…ここだな」

 

 

海原がある墓石の前で足を止めた、場所もメモに書いてある通りだし、墓石にも西村の名前が書いてある。

 

 

『…提督』

 

 

大鳳は黙って西村の墓石を見つめていた、会いたいと切望していた人物がこんな姿になっている、そのショックは小さくはない。

 

 

海原が線香に火を付けて墓石に立てる、そして手を合わせようとしたとき、海原以外の墓参(ぼさん)客がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あなたは確か…海原さん」

 

 

西村恭吾の妻…西村織恵(おりえ)だった。

 

 

 




次回「本当の娘のように」

キャリア~掟破りの警察署長~という刑事ドラマが面白い今日のこの頃。


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第120話「大鳳の場合7」

大鳳編終了です。

元ブラック鎮守府に着任した提督が艦娘に嫌われつつもなんとかしようと頑張っていく…いわゆる“ブラ鎮復興モノ”が好きでそういう系の話をよく読んでるんですけど、自分もそういうブラ鎮復興モノ書いてみたいという衝動がわいてきた今日のこの頃。


「織恵さん…」

 

 

「早速夫の墓参に来てくれたんですね、ありがとうございます」

 

 

織恵はそうにこやかに挨拶をすると海原の隣へやってきた、その手にはバケツが下げられており、中には柄杓や花が入っていた。

 

 

「そちらの子は…艦娘さんですか?」

 

 

「は、はい、ついて来て貰ったんです」

 

 

海原がそう言うと吹雪は軽く会釈をする、大鳳はフードを目深に被り直して海原の後ろに隠れた。

 

 

「すみません、少し人見知りしてしまうやつでして…」

 

 

海原が苦笑して誤魔化すが、織恵は笑ってそれを許してくれた。

 

 

織恵は西村の墓石に向き直ると、バケツの花を手向けて手を合わせる。

 

 

「さてと、水を汲んでこないと…」

 

 

「あ、私が行ってきますよ、確か入り口に水道ありましたよね?」

 

 

「あら、そう?悪いわね…」

 

 

吹雪がバケツを持って水道の方へ向かおうと歩き出したとき…

 

 

「うわっとと…!」

 

 

土が盛り上がって出来た石畳の小さな段差に躓いて転びそうになり、手近にあったモノを無意識に掴む。

 

 

「…あっ」

 

 

そこで吹雪が掴んだモノは、不幸にも大鳳が目深に被っているフードであった。

 

 

「っ!?やば…!」

 

 

それに気付いた海原と大鳳は慌ててフードを被せようとしたが…

 

 

「えっ…!?深海棲艦!?ど、どういうこと!?」

 

 

大鳳の姿を思い切り織恵に見られてしまった。

 

 

(…こりゃ腹割るしかねーな)

 

 

隠しきれない、そう思った海原は全てを打ち明けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうですか、そんな事情が…」

 

 

海原は織恵にこれまでの経緯を全て話した、もちろん自分が西村とは面識が無く、恩人というのも嘘だという事も含めて全て。

 

 

「申し訳ありませんでした、西村さんの…故人を侮辱するような真似をしてしまい、お詫びのしようもございません」

 

 

海原は織恵に誠心誠意を込めて頭を下げる、いくら大鳳の未練を解くためとはいえ、海原たちがやったことは許されることではない。

 

 

「そんな…顔を上げてください、そんな事情があっては話せないのも無理はありません」

 

 

侮蔑の言葉のひとつやふたつは覚悟していたが、織恵は海原の事を許してくれた、織恵は海原に優しく笑いかけると、大鳳の方へ視線を向ける。

 

 

「あなたが大鳳なのね、あなたの事は夫から聞いたことがあるわ」

 

 

『提督から…ですか?』

 

 

「えぇ、あの人が鎮守府に着任したとき最初に出会った艦娘で、頼りない自分をいつも支えてくれたって話してくれたの」

 

 

『そう…だったんですか』

 

 

大鳳は自分の着任当初の事を思い出す、最初の建造で自分は大湊にやってきた、でもそれで資材のほとんどを使ってしまい、当時は鎮守府運営に本当に苦労したものだった。

 

 

「あの人はあなたの事をとても気に入ってたみたいでね、まるで娘が帰ってきたみたいだって嬉しそうだったの」

 

 

「帰ってきた…?」

 

 

引っかかるような言い回しに海原は首を傾げる。

 

 

「私たちには娘がいたんですけど、15年前に亡くしてしまったんです、だから夫はなおさら嬉しそうに大鳳の事を話していました」

 

 

『提督がそこまで私のことを…』

 

 

大切に思われていたのか、と大鳳は無意識に涙を流していた。

 

 

「夫はお迎えが来る時もあなたのことを話してましたよ、大湊鎮守府急襲事件の時は身を挺して守ってくれて、逃げる時間を稼いでくれてありがとうって、そう言ってたの」

 

 

そう言う意味では、あなたは夫の命の恩人って事になるわね、織恵はそう付け加える。

 

 

「あの人を守ってくれて本当にありがとう、あなたはもう私たちの娘よ」

 

 

そう言うと織恵は大鳳の手を握り、愛娘に向けるような笑顔を大鳳に向けてくれた、それこそ本当の娘のように。

 

 

『………』

 

 

大鳳は目から大粒の涙を流しながら泣いていた、西村提督にそこまで大切に思われていたこと、そしてその妻である織恵から感謝の言葉をかけて貰った事、そのひとつひとつが嬉しくてうれし涙が止まらない。

 

 

『…ありがとう…ございます…!』

 

 

その直後、大鳳の艦娘化(ドロップ)が起こり、かつての装甲空母がその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…提督、ようやくお会いできました」

 

 

 

大鳳の艦娘化(ドロップ)後、改めて墓石に向き直って墓参りの続きを行う。

 

 

「私の事を想ってくれて、本当にありがとうございます、私もあなたと出会えて幸せでした」

 

 

そう言うと大鳳は墓前で手を合わせ、心からの追悼の意を表する。

 

 

「…本当に信頼しあってたのね、なんだか嫉妬しちゃうな~」

 

 

織恵はどこか羨ましそうに大鳳を見る。

 

 

「…もういいのか?」

 

 

追悼を終えて立ち上がるのを見て海原が聞く。

 

 

「はい、二度と来れないというわけではないので、織恵さんもいつでも墓参に来ていいと言ってくださいましたし」

 

 

「もちろんよ、いつでも会いに来てあげてね、あの人寂しがり屋な所あるから」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

それから織恵と海原たちは軽く世間話をした後に別れ、海原たちは台場鎮守府へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大鳳型装甲空母の1番艦『大鳳』です、これからよろしくお願いします」

 

 

台場鎮守府に戻った後、大鳳はDeep Sea Fleetのメンバーに自己紹介をしていた。

 

 

「ついに我が台場鎮守府にも航空戦力が加わりましたね!」

 

 

「これで大演習祭(バトルフェスタ)にも勝機が見えてきました!」

 

 

吹雪たちは台場鎮守府初の空母に喜んでいたが、大鳳はどこが気まずそうな顔をしていた。

 

 

「えーっと、その事なんですけど…今の私、艦上戦闘機しか積んでいないんです…」

 

 

 

 

 

「艦戦しか積んでないってマジですか…?」

 

 

「残念ながらマジです、轟沈したときに攻撃機が外れたみたいで…」

 

 

大鳳はあはは…と苦笑しながら指で顔を掻く。

 

 

「まぁ、モノは考えようさ、艦戦しか積んでないということは敵艦載機の撃墜に専念できる、そうすれば吹雪たちが空撃を気にする必要もなくなるわけだ」

 

 

「なるほど、確かにそれはいいですね!」

 

 

「頼りにしてますね、大鳳さん!」

 

 

「…はい!お任せください!」

 

 

吹雪たちからの期待の視線に、大鳳は嬉しそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大鳳の挨拶を終えた後、海原は大鳳を連れて明石の工房へ向かった、最初期組である大鳳の艤装は少し古いタイプだというのを本人から聞いたので、現状の艤装でも戦えるかどうかを明石に聞きに行ったのだ。

 

 

「…なるほど、確かに少し古いタイプだね、でもこれなら改良を加えて強化できそうだよ」

 

 

「なら頼んでもいいか?ついでに深海棲器も見繕ってやってくれ」

 

 

「了解!必ず提督と大鳳さんの期待に応えるよ!」

 

 

それを聞いた海原は大鳳を明石に預けて工房を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、大鳳の艤装の改良が終わったという連絡があったので海原はDeep Sea Fleetを連れて工房へと向かった。

 

 

「じゃじゃーん!Newバージョン大鳳さんの完成~!」

 

 

明石は大鳳の横で膝立ちになって大鳳に両腕を向ける。

 

 

「おぉ!いいんじゃないか?」

 

 

「かっこいいです大鳳さん!」

 

 

Newバージョン大鳳を見た海原たちは口々にそんな感想を言う、今までの赤を基調とした艤装から黒を基調としたデザインに一新されている。

 

 

「艤装や装甲のパーツに深海棲器を組み込んでみたの、装甲空母の持ち味である防御力もグーンとアップ!飛行甲板も深海棲器で強化されてるから簡単には壊れないよ!」

 

 

明石は誇らしげな口調で胸を張る、あの短時間でここまで仕上げる彼女の作業ぶりは流石の一言につきる。

 

 

そして明石が大鳳向けに制作した深海棲器は3つ。

 

 

1つ目は『大盾(タワーシールド)』、深海棲器製の大型の盾で、その防御力は戦艦の砲撃を凌ぐほどだ。

 

 

2つ目は『片手斧(トマホーク)』、片手で持てるサイズの小振りの斧だ、三日月の槍斧(ハルバード)よりも小さく軽いので扱いやすい。

 

 

3つ目は『ボウガン』、大鳳の航空艤装は加賀のような弓道タイプではなく、ボウガンを射出して艦載機を発艦させるタイプなのだが、これは遠距離武器としての普通のボウガンだ、矢尻には炸薬が仕込んであるので目標に命中すると小規模だが爆発が起こるというオマケ付きである。

 

 

「大鳳さんは最大練度(レベル)に達してるから、取り合えずば白兵戦の訓練から始めましょうか」

 

 

「えーと、艦娘に白兵戦は必要なんでしょうか…?」

 

 

「何言ってるんですか!艦娘に白兵戦は今や必須科目なんですよ!」

 

 

「そうなの!?」

 

 

「しれっとデタラメ教えないでよ三日月」

 

 

早速大鳳をからかっている三日月をたしなめつつ、吹雪は大鳳の特訓メニューを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、みんな集まってくれてありがとう」

 

 

少女は目の前にいるベアトリス、シャーロット、エリザベートを前に言った。

 

 

「あなたたちを呼んだのは、あの計画を最終段階に移すためよ」

 

 

「ということは…」

 

 

「いよいよやるのですね」

 

 

ベアトリスとシャーロットがそう言うと、少女はコクリと頷き、高らかに宣言した。

 

 

「これより、『人類殲滅作戦』ステージ3…『本土急襲攻撃作戦』の準備に入ります!」




次回「大演習祭(バトルフェスタ)開幕式」

空母棲艦赤城のUAが700越えててびっくり。

Deep Sea FleetのUAも50000突破です、ありがとうございます!


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第121話「大演習祭1」

chapter10「大演習祭編」

いつかの前書きに書いたブラ鎮復興モノですが、書くかどうかは別として設定だけでも考えてみようと思い色々頭を捻ってたらいつの間にか“ロイヤル金剛と室蘭雪風、蔑むような目で見られるならどっちだ”などという二択に行き着きました、何でこうなった。

あと、この小説がハーメルンの投稿作品を紹介するブログで紹介されててめちゃ驚いた。


「みんな、とうとうこの日がやってきた」

 

 

海原はDeep Sea Fleetのメンバー全員を前に語る、10月31日、今日は大演習祭(バトルフェスタ)当日だ。

 

 

「今日の演習の結果でお前たちDeep Sea Fleetの運命が決まる、負けるとは毛頭思ってないが、十分気を引き締めて挑むように!」

 

 

「「はっ!」」

 

 

吹雪たちは一斉に海原に敬礼を返した。

 

 

 

 

 

「司令官、本当に全員で来てよかったんですか?」

 

 

「良いんだよ、せっかくの大事な試合の日に留守番なんてさせられるか、最低限の貴重品は持ってきたから仮に深海棲艦に鎮守府襲撃されても何とかなる」

 

 

「本当に司令官はポジティブですよね」

 

 

そんな会話をしながら一行は大演習祭(バトルフェスタ)の会場である横須賀鎮守府へと向かう、正直あの佐瀬辺のいる所になんて行きたくないのだが、大演習祭(バトルフェスタ)レベルの大規模な演習が出来るほど敷地が広い鎮守府は横須賀以外には無い、よって大演習祭(バトルフェスタ)は毎年横須賀で行われるのだ。

 

 

「うわ~、すごい盛り上がりようですね」

 

 

「出店の数も多いですし、(フェスタ)と呼ばれるだけのことはありますね」

 

 

横須賀の敷地内に入った吹雪たちは感嘆の声を漏らす、中ではあちこちの鎮守府の艦娘たちが出店を開いて食べ物などを売っている、それこそ高校の文化祭のような光景だった。

 

 

「せっかくですから何か買っていきましょうよ!」

 

 

「あ、なら私が行ってきますよ」

 

 

「私も付き添います」

 

 

大鳳と篝が買い出しを名乗り出たので、全員が食べたいものをリクエストする、大鳳と篝はそれを手早くメモすると、手分けして目的のモノを探しに行く。

 

 

「さてと、演習が始まるまでまだ時間があるし、大鳳たちが戻ったらどっか見て回って…」

 

 

「おやおやぁ~?これは台場鎮守府の海原くんじゃないか~」

 

 

このあとの計画を簡単に立てておこうと頭を回し始めた時、無性なまでに腹立たしい猫なで声が聞こえる。

 

 

「…何の用だ佐瀬辺」

 

 

声の主は横須賀鎮守府提督の佐瀬辺だった、こちらを見下すような目で見ながら顔をニマニマさせている、正直気持ち悪い。

 

 

「いやね?海原くんが心配になって様子を見に来たんだよ、これから自分の部下が無惨にも雷撃処分されるとなれば…どんな気分かなぁ?ってね」

 

 

佐瀬辺はゲヒャヒャと笑いながら変わらず見下した目で海原を見る、本当なら今すぐにでもそのツラをぶん殴ってやりたいところだが、そこは我慢である。

 

 

「お前には悪いけど、俺たちは負けるだなんてこれっぽっちも思ってねぇからな、むしろテメェらの艦隊を完膚無きまでに叩きのめしてやる」

 

 

「おいおい冗談は止めてくれよ、台場鎮守府のメンバーは駆逐艦が中心の弱小艦隊、各鎮守府の精鋭を束ねた特別艦隊に勝てるわけがねぇ」

 

 

佐瀬辺はDeep Sea Fleetの面子を値踏み刷るように見ながら言う、ちょうど大鳳がこの場にいないのでむこうは都合の良い勘違いをしてくれている。

 

 

「さぁそれはどうだろうな~?油断してる時の格下ほど怖いモノはないんだぜ?」

 

 

「ケッ!言ってろ、どうせお前に勝ち目はない、精々命乞いのセリフでも考えておくんだな」

 

 

そう言うと佐瀬辺は高笑いをしながら去っていった。

 

 

「…みんな、絶対に勝つよ」

 

 

吹雪の言葉に全員が頷く、メンバーの士気が上がったのならあのクズも役に立ったな…などと海原はのんきに考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「佐瀬辺を殺す!!」」

 

 

「目的変わってるぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後、所変わって大演習祭(バトルフェスタ)の演習場、南雲が参加鎮守府の提督や艦娘を前に開幕式を執り行っていた。

 

 

「今日のために艦隊を鍛え、その練度(レベル)を上げてきた提督諸君は多いだろう、今日はその全てをぶつけ、互いの腕を競い合ってくれ」

 

 

南雲はお決まりの挨拶を長々と語ると、鹿沼に大きなホワイトボードと白い箱を持ってこさせる。

 

 

「ではこれから対戦カードの抽選を行う」

 

 

大演習祭(バトルフェスタ)はトーナメント制の勝ち抜けバトルとなっており、その組み合わせは始まる直前に南雲自らが抽選を行う、ちなみに前回の優勝者である横須賀鎮守府はシードとして参加するので抽選の候補には入ってない。

 

 

抽選の結果、組み合わせは以下の通りになった。

 

 

 

・呉鎮守府VS舞鶴鎮守府

 

・舞浜鎮守府VS室蘭鎮守府

 

・佐世保鎮守府VS大湊鎮守府

 

 

 

「それではこれより…大演習祭(バトルフェスタ)の開幕を宣言する!」

 

 

南雲の声と共に、提督や艦娘たちがおおぉ!と雄叫びをあげた。

 

 

 

大演習祭(バトルフェスタ)…ここに開幕。

 

 




次回「呉鎮守府VS舞鶴鎮守府」

ようやく第二章も中盤を過ぎました。


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第122話「大演習祭2」

この度ブラウザー版のショートランドサーバーに着任しました、Android版ダイレクト着任にマジ感謝。

現在は1-4攻略に向けて1-3でレベリング中、艦隊名はもちろん「!!!吹雪タイム!!!」です。


「さてと、俺たちの出番は最後だし、ここでのんびりと見物させてもらいますか」

 

 

開幕式を済ませた海原はDeep Sea Fleetを連れて観客席に来ていた、他の鎮守府や駐屯基地の艦娘がかなりの人数集まっている。

 

「確か最初は呉と舞鶴でしたよね、どんな戦いになるんでしょうか」

 

 

「多分戦艦が撃ち合うだけの試合になると思いますよ?」

 

 

吹雪の疑問に三日月が答えた、戦艦は艦隊戦の花形ともいえる艦娘なので抜擢されるのは間違いないだろう。

 

 

「となると少し退屈な試合になりそうですね、戦艦が遠くから撃ち合ってるだけじゃ面白みが無いですよ」

 

 

「言ってやるな、実際戦艦は一番火力が出る艦娘だからな、こういう演習でもよく使われるもんだ」

 

 

海原がそう言った時、両鎮守府の艦娘が入場してきた、それと同時に参加している艦娘の名前と練度(レベル)、艤装の耐久力を示すゲージが表示される。

 

 

 

○舞鶴鎮守府

 

・艦隊名:多芸趣味

 

・戦艦:霧島 Lv.115

・戦艦:榛名 Lv.99

・正規空母:加賀 Lv.96

・重巡洋艦:愛宕 Lv.99

・水上機母艦:千歳 Lv.99

・水上機母艦:千代田 Lv.98

 

VS

 

○呉鎮守府

 

・艦隊名:ダイヤモンド・キラー

 

・戦艦:金剛 Lv.145

・戦艦:長門 Lv.120

・正規空母:嬌鶴 Lv.132

・正規空母:朱龍 Lv.91

・重巡洋艦:摩耶 Lv.93

・駆逐艦:島風 Lv.91

 

 

「…水上機母艦?」

 

 

「なんだって舞鶴はそんなモノを…?」

 

 

対戦メンバーが表示された瞬間、周りの提督連中がざわつきだす。

 

 

「水上機母艦って何ですか?」

 

 

吹雪が首を傾げながら海原に聞く。

 

 

「そうだなぁ、簡単に言えば水上偵察機専門の空母だ、艦爆や艦攻は積めないけど、偵察機を積めるから戦闘より索敵特化型の艦だ」

 

 

「つまり攻撃役(アタッカー)には不向き…という事ですね」

 

 

「それなのに何でこんなガチ演習のメンバーに…?」

 

 

戦闘には不向きの水上機母艦を抜擢した舞鶴の意図が分からず首を傾げる海原たち、それをよそに呉VS舞鶴の演習が始まった。

 

 

 

 

 

「島風!まずは相手に向かって突撃!」

 

 

「了解!」

 

 

まず最初に動いたのは呉の島風、持ち前の快速で相手艦隊に向かって突撃していく。

 

 

「総員砲撃開始!駆逐艦をターゲットに集中砲火!」

 

 

 

それに対して舞鶴は島風を近付かせまいと砲撃を開始した、駆逐艦の装甲を紙のごとく貫き通す威力の砲弾が島風に降り注ぐ。

 

 

「うわっ!ととと!」

 

 

 

しかし島風はそれを持ち前のスピードを生かしかわしていく、途中掠るような被弾はあったものの大したダメージにはなっていない。

 

 

「長門は私と砲撃開始!嬌鶴と朱龍は攻撃機を発艦させて!」

 

 

「りょ…了解!」

 

 

「分かりました!」

 

 

「攻撃隊発艦!行きなさい!」

 

 

長門は演習特有の雰囲気にビビりながら金剛と砲撃を開始、嬌鶴と朱龍も艦攻と艦爆を発艦させ、島風を守りつつ攻めに入る。

 

 

「航空戦に持ちかけて来たわね…!加賀!」

 

 

「任せて!」

 

 

一方霧島率いる舞鶴も呉に対抗すべく航空戦に入る、ただし舞鶴の方が空母の数が少ないため、艦戦を使ってある程度艦載機を落として弱体化させてから攻めに入るというスタイルを取った。

 

 

「もはやこれ敵味方関係ないって!」

 

 

そして島風は敵が撃ったのか味方が撃ったのかも分からないような弾幕の中を猛スピードで駆け抜け、防空対策で正面の警戒がおろそかになっている愛宕に向かっていく。

 

 

「食らええぇ!」

 

 

島風が魚雷を発射して雷撃を行う、放たれた魚雷は正確なコントロールで愛宕に吸い込まれた。

 

 

「きゃああっ!」

 

 

島風の魚雷を食らった愛宕は一気に大破状態になる。

 

 

(この雷撃のダメージ…!この子本当に駆逐艦なの!?)

 

 

想像以上にダメージを食らった愛宕は驚愕の表情で島風を見る。

 

 

言い忘れていたが、大演習祭(バトルフェスタ)のルールは大破になったら即退場の模擬戦ルールではなく、艤装の耐久力ギリギリまで減らされると退場になる実戦ルールになっている。

 

 

艤装の耐久力は残っている割合によって小破、中破、大破と分けられており、75%以下が小破、50%以下が中破、25%以下が大破となる、模擬戦では25%以下まで耐久力を減らせば退場となるが、実戦ルールでは耐久力が無くなるギリギリまで減らす必要がある、生存率が上がると捉えるか追撃の手間が増えると捉えるかは提督次第である、もちろん実戦と言っても演習の設定なので轟沈はしない。

 

 

「トドメ…!」

 

 

島風は愛宕を戦闘不能にするために主砲を構えて愛宕に狙いを定める、駆逐艦である島風では戦艦や空母に致命傷を負わせられないため、確実に撃破数を増やす作戦だ。

 

 

「まず…!」

 

 

愛宕はとっさに距離を取ろうと後ずさるが、もう遅い。

 

 

もらった、島風にはその確信があったが…

 

 

「っ!?」

 

 

突然どこからか砲撃を食らい、島風は攻撃姿勢を崩してしまった。

 

 

「どこから…?」

 

 

島風は砲撃を当てられた方へ視線を向ける。

 

 

「なっ…!?」

 

 

そこには、駆逐艦用の防空砲をこちらに向けている水上機母艦…千歳と千代田の姿があった。




次回「オールラウンダー」

本当は1試合1話にする予定だったのですが、長くなって更新期間が空いてしまうと思ったので分けることにしました。

一刻も早く三日月を迎え入れなければ(使命感


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第123話「大演習祭3」

東部オリョール海(2-3)に低燃費の潜水艦を出撃させて資材マスを踏みまくる「オリョールクルージング(オリョクル)という方法があるらしいので、早速潜水艦を出撃させてみたら一歩目から大破になりました。

オリョクルって使える方法なのかな…


「水上機母艦が砲撃…!?」

 

 

「嘘でしょ…!?」

 

 

金剛と長門は揃って目を向いた。

 

 

「何言ってるのよ、別に不思議な事じゃないでしょ?」

 

 

「水上機母艦は主砲、魚雷、水上機の全てを積めるんだから」

 

 

事もなげに千代田と千歳は言ってのける、あまり知られていないが水上機母艦の艤装は航空戦、砲雷撃戦の全てに対応出来るように造られている、もちろん本質は水上機を搭載させる艦なので砲雷撃戦の能力はそれほど高くはないのだが、手数の多さではどの艦娘よりも勝る。

 

 

「さすがに戦艦や空母には負けるけど、駆逐艦の相手くらいなら出来るわよ!」

 

 

そう言うと千代田と千歳が水上偵察機『瑞雲』を発艦させる、これは通常の偵察機に改良を加えたモノで、艦爆のような爆撃能力が備わっている優れものだ。

 

 

「うわっ!」

 

 

「それそれそれ!どんどん行くわよ!」

 

 

瑞雲による爆撃、そして主砲や魚雷による多種多彩な攻撃で島風を攻撃していく、最初に彼女の強力な雷撃で相手艦隊に大ダメージを与えるというのが呉の作戦であったため、島風は若干の焦りを感じていた。

 

 

(愛宕さんは大破にしたけど、まだ戦闘不能に追い込んだわけじゃないし…どうすれば…!)

 

 

持ち前のスピードで千歳と千代田の攻撃をかわしていくが、ちくちくと微量なダメージが積み重なっていく、ちらりと電光掲示板を見やると、すでに両鎮守府の何体かが退場になっている。

 

 

「っ!?しまっ…!」

 

 

千歳と千代田の攻撃をかわしていく島風だったが、いつの間にか2体が挟み撃ちをするような位置関係になっていた、それに気づいた島風はそれを逃れようとするがすでに遅い。

 

 

「うわああああぁぁぁ!!!!」

 

 

砲撃、雷撃、空撃の全てを一身に受けた島風は戦闘不能になり退場になった。

 

 

 

 

 

「あー、島風が退場になった」

 

 

「さすがに駆逐艦じゃ無理があったか」

 

 

一方こちらは観戦中の台場一行、演習を眺めながら感想を口々に言い合っていた。

 

 

「提督、ひとつ聞きたいんですけど、朱龍さんや加賀さんが発艦させているあの艦上戦闘機は何ですか?」

 

 

 

 

 

「あれか?あれは『烈風』っていう艦上戦闘機だ、お前のいたころは無かったのか?」

 

 

海原はそう大鳳に問う、烈風は現在開発されている艦上戦闘機の中で最も使われている機体だ、前世代機の『紫電改二』よりも対空能力に優れており、艦載機同士の戦い(ドッグファイト)では専ら烈風が使われている。

 

 

「はい、私が現役だった頃は紫電改二が主流でしたから…」

 

 

「紫電改二…烈風の前世代機か、しかしこんな所にもジェネレーションギャップが出るとは…」

 

 

艦娘の武装も新しい種類が次々と開発されているため、大鳳のジェネレーションギャップも仕方がないと言えば仕方がない。

 

 

「あ、司令官、演習終わったみたいですよ、舞鶴が勝ちました」

 

 

「マジかよ、水上機母艦がいたのによく勝てたな」

 

 

「あの攻撃範囲の広さは反則級ですからね」

 

 

そう言って吹雪はバトルフィールドを見る、脱落して落ち込んでいる島風を摩耶と金剛が励ましていた。

 

 

「次は舞浜と室蘭か、どんな連中が出てくるやら」

 

 

海原は若干の期待を乗せて呟いた。

 

 

 

 

 

 

「…青葉、そっちはどう?」

 

 

「バッチリです大和さん、大演習祭(バトルフェスタ)が終わるまでには来てくれるそうです」

 

 

一方こちらは横須賀鎮守府の提督室、青葉と大和はこの中で密会を行っていた。

 

 

「青葉、改めて言うけれど、この極秘計画は今まで細心の注意を払って進めてきた、もしこれが提督に知られれば私たちの命は無いと思った方がいい、それでも青葉は私に付き合ってくれる?」

 

 

大和はそう言って青葉に覚悟を聞く、もし戻るなら今がそのギリギリのポイントだ、これ以上進めばどうなるかは大和自身も分からない。

 

 

「もちろんです大和さん、この青葉、最後まであなたについて行きます」

 

 

青葉はそう言うと大和に笑みを向けた、それを聞いた大和は不敵にほくそ笑む。

 

 

「…分かったわ、じゃあ例のアレの準備を続けて」

 

 

「了解!」

 

 

そう言うと青葉は中断していた作業を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふっ、覚悟していてくださいね、提督」




次回「舞浜鎮守府VS室蘭鎮守府」

敵空母撃破の任務報酬で赤城が貰えました、でもボーキサイトの消費が痛いのでしばらくは隼鷹と千代田に頑張ってもらいます。


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第124話「大演習祭4」

皆さんは艦これのレベリングはどうやっていますか?

僕の場合なんですけど…

1.育てたい艦娘を一体に絞ってリーダーに設定する

2.改装レベルまでレベリングして改装

3.以下、1と2の繰り返し。

こんな感じでやってます、レベリング対象を6体組み込むのもアリなんですけど、低レベルだとダメージ受けて入渠してしまうのでかえって効率が悪くなります(泣

他にいいレベリング方法とかあれば教えてください(汗


「次は舞浜と室蘭の対決か、どうなるのか楽しみだな」

 

 

「どんな艦隊で挑むのかも気になりますしね」

 

 

そう話しているうちに互いの艦隊が演習場に入場してくる。

 

 

 

○室蘭鎮守府

・艦隊名:さんまの塩焼き

 

・重雷装巡洋艦:大井 Lv.140

・重雷装巡洋艦:北上 Lv.132

・正規空母:ヨークタウン Lv.99

・正規空母:信濃 Lv.99

・戦艦:アイオワ Lv.102

・戦艦:ビスマルク Lv.115

 

 

VS

 

 

○舞浜鎮守府

・艦隊名:第一主力水雷戦隊

 

・軽巡洋艦:天龍 Lv.100

・駆逐艦:紅葉 Lv.99

・駆逐艦:音葉 Lv.99

・駆逐艦:琴葉 Lv.99

・駆逐艦:叢雲 Lv.99

・駆逐艦:文月 Lv.99

 

 

 

 

 

「はぁ!?舞浜は水雷戦隊なのか!?」

 

 

「正気かよ!絶対に勝てるわけねぇよ!」

 

 

観客席に座っていた提督たちが口々にそんな事を言うが、当の舞浜の提督である三川雪谷(みかわゆきや)は周りの評価など全く意に介さないといった様子で天龍たちを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!いよいよ大演習祭(バトルフェスタ)の演習だ、気張ってけよ!」

 

 

天龍が紅葉たちを見ながら言う、やる気満々な天龍とは対照的に駆逐艦たちは不安そうである。

 

 

「あの…天龍さん、本当に私たちが出場しても良かったんでしょうか?駆逐艦の火力じゃ向こうの艦隊に勝つのは到底無理…」

 

 

「紅葉」

 

 

弱気な発言をする紅葉の言葉を天龍が遮った。

 

 

「さっきも言っただろ?()()()()()()()って、確かに純粋な火力勝負なら俺たち軽巡洋艦や駆逐艦の力じゃ押し負ける、でも今回の演習で重要なのは“勝つ事”じゃない、“格上の相手にどれだけ勝つための工夫が出来るか”だ」

 

 

「勝つための工夫…?」

 

 

天龍の言葉の意味がイマイチ分からず紅葉が首を傾げる。

 

 

「“足りない力量は工夫で補え”ってのがウチの提督の心情だ、猪口才(ちょこざい)でも悪知恵でも何でもいい、格上の相手と渡り合えるようにどれだけ知恵を絞れるか、それが今回俺たち第一主力水雷戦隊を選んだ理由だ」

 

 

「工夫で補う…」

 

 

「もちろんそれでも埋まらない力量差だってあるし、この演習も工夫を凝らしたって勝てないかもしれない、でも知恵を絞って工夫を凝らして頭を使ったヤツの方が戦場では生き残れる、そういったことで培われるノウハウは生死を分ける戦場では強力な武器になる」

 

 

天龍の言葉に紅葉たちは一種の畏怖のような感覚を覚える、天龍は自分たちよりも遥かに多くの場数を踏んでいる、実際紅葉たちが束になっても天龍には敵わないし、時折奇想天外な戦術でピンチの状況をひっくり返したりもする、そんな彼女の発する言葉の重みに紅葉たちは気圧されてしまった。

 

 

「だからお前ら、敗北を恐れるな、勝ちに行くことだけを考えろ、そのために知恵を絞りまくれ、その経験は絶対に明日のお前らを強くする、勝利にどこまでも貪欲になれ!」

 

 

「「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」

 

 

 

紅葉たちの雄叫びと同時に試合開始のブザーが鳴り、室蘭鎮守府VS舞浜鎮守府の演習が始まった。

 

 

 

 

 

「相手は水雷戦隊、私たちだけでカタがつくわ、ヨークタウン!」

 

 

「了解!」

 

 

信濃とヨークタウンが艦載機を発艦、艦攻と艦爆が天龍たちに向かって飛んでいく。

 

 

「総員、対空射撃用意!」

 

 

天龍が紅葉たちに指示を出すと、艦載機迎撃用の機関銃…機銃を構える。

 

 

「撃てえええぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

水雷戦隊が機銃を一斉に撃ちまくる、射出された銃弾が相手艦隊の艦載機を次々と撃ち落としていく。

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

「なんて技術…」

 

 

地上から艦載機を撃ち落とすという機銃の特性上艦戦よりは対空面で劣ってしまうのだが、天龍たちの命中精度が異常なほど高く、艦載機の数は3分の1程にまで減らされた。

 

 

「対空射撃訓練を嫌と言うほどやらせたかいがあったぜ、総員最大船速で突き進め!」

 

 

「「了解!」」

 

 

天龍の合図で紅葉たちがスピードを上げる、残った艦載機が爆弾や魚雷で攻撃をしてくるが、持ち前の機動力でそれをかわしていく。

 

 

「最初の目標はアイオワさんだ、輪形雷撃用意!」

 

 

まず水雷戦隊が最初にターゲットに設定したのは戦艦のアイオワだ、天龍たちはアイオワの周囲をぐるぐる周回し、取り囲むようなポジションを取る。

 

 

「何を…?」

 

相手艦隊の意図が分からずにアイオワは困惑するが…

 

 

「雷撃開始!」

 

 

「魚雷…撃てえええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

アイオワを囲んでいた天龍たちが一斉に雷撃を開始した、発射された魚雷は全方位からアイオワ目掛けて飛んでくる。

 

 

「しまった…!」

 

 

慌てて避けようとするアイオワだが、全方位から飛んできているので避ける場所がない。

 

 

「きゃあああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

命中した魚雷が一斉に爆発しアイオワに大ダメージを与える、当たりどころが悪かったらしく、今の雷撃でアイオワは戦闘不能になった。

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

「アイオワさんが一撃で…」

 

 

今の攻撃で水雷戦隊に対する警戒度を上げた北上と大井が天龍たちに雷撃を行う、雷撃能力の高い重雷装巡洋艦の彼女たちにかかれば戦艦棲艦だろうと大破にすることも出来る。

 

 

しかし単縦陣での一糸乱れぬ行動で天龍たちは雷撃をかわしていく、それはまるでアリの行列のようであった。

 

 

「次は空母のヨークタウンさんか信濃さんに…」

 

 

天龍が次のターゲットを頭の中で考えていると…

 

 

「きゃあっ!」

 

 

突如叢雲が雷撃を食らった。

 

 

「叢雲!?大丈夫か!」

 

 

「え、えぇ…大丈夫よ天龍さん、まだ小破」

 

 

幸い大したダメージは負っておらず、小破程度で済んだ。

 

 

「一体どっから…?」

 

 

雷巡ペアは魚雷を撃った直後だったし、すぐさま連発出来るような状態ではなかったはずだ、なら誰が?などと素早く考えながら天龍は周りを見渡す。

 

 

「おいおい、マジかよ…」

 

 

「残念だけど、魚雷を撃てるのは駆逐艦や巡洋艦だけじゃないのよ」

 

 

そこには、魚雷発射管をこちらに向けている戦艦ビスマルクの姿があった。




次回「BattleShip Torpedo」

東部オリョール海(2-3)を攻略して沖ノ島海域(2-4)を解放しました、オリョールよりもちょっと難しいらしいのでレベリングを進めています。


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第125話「大演習祭5」

漣と曙を改装したらグラフィックが変わってびっくり。

特定の艦娘の編成でボイスが変わったり特殊能力がついたりすると面白そうですよね、吹雪と霰を一緒の艦隊に組み込んだら吹雪の攻撃が必ず命中する…みたいな。


「戦艦が雷撃…だと!?」

 

 

天龍は目を剥いてビスマルクを見る、本来魚雷発射管の装備は戦艦の艤装には規格が合わないため付けられないはずだ。

 

 

「戦艦専用の魚雷発射管の開発が進められていてね、これはその試作機(ヴェータ版)なのよ」

 

 

ビスマルクは得意げな表情でこちらを見つめると、再び天龍たちに魚雷を撃ち出す。

 

 

「冗談じゃねぇぞ…!ターゲットをビスマルクに変更!輪形雷撃用意!」

 

 

「「了解!」」

 

 

天龍たちは再び輪形雷撃の姿勢に移るが、そう易々と敵に攻撃のチャンスを作らせるほど室蘭も馬鹿ではない。

 

 

「そうはさせないわ!北上さん!」

 

 

「はいはーい、一気に行くよ大井っち!」

 

 

雷巡ペアがありったけの魚雷を水雷戦隊に向けて発射、天龍たちはかわそうとするが、避けきれずに琴葉と叢雲に命中、直撃だったので戦闘不能になってしまった。

 

 

「うぅ…悔しい…」

 

 

「すみません天龍さん、後は頼みます…」

 

2体が退避したのを確認すると、天龍は残りの駆逐艦にハンドサインを送り、作戦を指示する。

 

 

紅葉たちがそれに頷くと、紅葉、音葉がビスマルクに向かって猛スピードで突撃していく。

 

 

「一体何を…?」

 

 

ビスマルクは紅葉と音葉の行動に警戒しつつ砲撃を行うが、紅葉たちはそれをかわして進んでいく。

 

 

「今です!」

 

 

ビスマルクまであと数メートルといったところで紅葉と音葉は上半身を後ろに倒し、左手を海面に付けて滑る…スライディングのような体勢でビスマルクの艤装の下をくぐり抜ける。

 

 

「雷撃用意!」

 

 

「撃てえぇ!」

 

 

紅葉と音葉がビスマルクの背後から雷撃を行う、至近距離だったことと艤装の機関部に直撃したことが災いして大破になる。

 

 

「この…!!」

 

 

ビスマルクは後ろを向いて紅葉たちを狙おうとするが…

 

 

「安易にターゲットを変更すると危ないぜ、ビスマルクさん」

 

 

「っ!?」

 

 

真後ろから天龍の声が聞こえ、ビスマルクは思わず視線を後ろに向ける、するとそこには天龍と文月が主砲と魚雷を構えてこちらを狙い撃ちしているのが見えた。

 

 

(やられた…!)

 

 

ビスマルクがそれに気付いたときには、すでに戦闘不能になっていた。

 

 

 

 

「…すげぇ」

 

 

「水雷戦隊が戦艦2体を退場させちまった…」

 

 

一方こちらは観客席、水雷戦隊の活躍を見ていた提督連中が感嘆の声を漏らす。

 

 

「本当にすごいですね、軽巡と駆逐の戦果とは思えないですよ」

 

 

「お前がそれ言うか?それにお前らもこれからあれ以上のすげぇモンを連中に見せつける事になるんだぞ?」

 

 

「変にハードル上げないで下さいよぅ…」

 

 

「白兵戦で戦艦棲艦ぶちのめすやつのセリフとは思えないな…」

 

 

海原は苦笑しながら言った。

 

 

 

 

ちなみに演習の結果は室蘭鎮守府の勝利で終わった、結果自体は大方の提督たちの予想通りであったが、戦艦や空母相手に大破2体、中破1体、小破1体の損害を与えたという大戦果をみんなが称えた。

 

 

「お疲れ様天龍、ずいぶん強くなったわね」

 

 

試合を終えて天龍が演習場を後にしようとすると、ヨークタウンがこちらに来てそう言った、彼女とは沖ノ鳥島海戦以降連絡を取り合う仲になっている。

 

 

「ありがとうございますヨークタウンさん、本当はもっと戦果出したかったんですけどね、ははは…」

 

 

「謙遜しなくていいわよ、この艦隊相手にこれだけの結果を出したんだから、それは誇ってもいいと思うわよ」

 

 

「ヨークタウンさんにそう言われると照れますね…」

 

 

天龍は頬を赤らめて照れ臭そうに頭を掻く。

 

 

「今日はありがとう、またよろしくね」

 

 

そう言うとヨークタウンは右手を差し出す、ヨークタウンは演習が終わると対戦相手に敬意を込めて握手を求める性格で、勝っても負けても必ずそうしている。

 

 

「こちらこそ、またよろしくお願いします」

 

 

天龍もヨークタウンの手を取り、互いの健闘を称え合う、その姿に観客席からは惜しみない拍手が送られた。




次回「佐世保鎮守府VS大湊鎮守府」

均等にレベリングするとイベントで出撃させる艦娘に苦労しないというのを聞いたので出来るだけ幅広くやっとります、トップ5はこんな感じ↓

1位:吹雪改 Lv.42
2位:千代田航 Lv.33
3位:金剛改 Lv.32
4位:伊勢改 Lv.31
5位:鳥海改 Lv.29

すでに均等じゃねぇ…。


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番外編「瑞鶴と加賀の休日(前編)」

以前言っていた番外編を投稿、思ったよりも長くなったので前後編に分けます。


「ついにやってきた!日本の首都東京!」

 

 

「この前も秋葉防衛戦で来たでしょ」

 

 

東京駅入り口で大々的に叫ぶ瑞鶴と、さして珍しくもないといった様子で返す加賀、珍しく2体の休日が一致した今日、瑞鶴と加賀は東京へショッピングに繰り出していた。

 

 

「東京と言えば日本の中心とも言える場所ですよ?これがテンション上がらずにはいられませんって」

 

 

「まぁ、確かに都会に来てバカみたいに無意味にテンション上がるのは分からなくもないけれど、あと日本の中心は正確には日本橋よ」

 

 

「何か今サラッと罵倒された気がするんですがそれは」

 

 

瑞鶴のつっこみに加賀は気のせい気のせい、とそれをかわす。

 

 

「それは置いておいて、最初はどこに行く?瑞鶴の事だから秋葉原のメイドさんのおみあしを見てニマニマしたいとは思うけど…」

 

 

「人前でそんな嘘言うの止めてもらえませんかねぇ!?」

 

 

カラカラと笑いながら瑞鶴をからかう加賀と割と本気で焦る瑞鶴、対照的で面白い2体だった。

 

 

「まぁ、やっぱり最初は秋葉原ですかね、アニメショップなんかも行きたいですし」

 

 

「瑞鶴のサブカル好きは相変わらずね、私も人のことは言えないけど」

 

 

瑞鶴の提案に加賀も賛成し、2体は秋葉原へと向かった。

 

 

 

 

「思ったより進んでないですね…」

 

 

「被害が被害だからね」

 

 

秋葉原についた瑞鶴と加賀は目の前の光景を見てそう呟いた、先日のエリザベート率いる駆逐戦車たちの襲撃で秋葉原駅周辺は決して小さくない被害を受けた、建物の修繕などの復興作業は行われているが、中々思うように進んでいないのが現状である。

 

 

「さてと、まずはどこに行こうかな…ん?」

 

 

瑞鶴がキョロキョロと辺りを見回すと、通りの向こうに人集りが出来ていた。

 

 

「なんか人が集まってますね」

 

 

「行ってみる?」

 

 

「はい、何か楽しそうです」

 

 

加賀と瑞鶴は人集りの方へと向かっていく。

 

 

 

 

「“秋葉原復興チャリティーイベント”…?」

 

 

人集りの最前列にはそのような垂れ幕がかかっていた。

 

 

「秋葉原復興に何か我々も役にたてないかと思ってね、同人サークルでチャリティーイベントを開いたんだよ」

 

 

瑞鶴が首を傾げていると、側にいた20代前半の男性が解説する、この人もサークルの人なのだろうか。

 

 

「ということは、あなたも…?」

 

 

「そう、俺は同人サークル“OTK(オタク)兵団”の一員で、ペロって名前で活動してるよ」

 

 

「なんか犬みたいな名前ね」

 

 

「加賀先輩失礼ですよ…!」

 

 

瑞鶴は慌ててフォローを入れるが、ペロはよく言われるよ、と笑って許してくれた。

 

 

「それで、このチャリティーイベントはどんなモノなの?」

 

 

「主にはサークルが作った同人誌やグッズの販売だね、出張コミケみたいなモンだよ」

 

 

「へぇ~、中々面白そうね」

 

 

加賀は興味ありげに会場を見る、加賀もサブカルチャー好きの瑞鶴に影響されて多少はそういうモノを嗜むようになってきていた、こういうイベントにも興味が湧いているのだろう。

 

 

「あと、もう少ししたらコスプレコンテストも始まるから見ていくといいよ、もし参加するなら早いうちにね」

 

 

そう言うとペロは主催団体の集まりへと消えていった。

 

 

「…ねぇ瑞鶴」

 

 

「何ですか加賀先輩?」

 

 

「コスプレイベント、出場してみない?」

 

 

「…え!?」

 

 

加賀の思わぬ発言に瑞鶴は加賀の方を見やる。

 

 

「なんか面白そうだし、たまにはこういうのも良いんじゃないかしら?」

 

 

「…加賀先輩にサブカルを教えたのは間違いだったかしら…」

 

 

微妙に責任を感じる瑞鶴だった。

 

 

 

 

コスプレコンテストにエントリーした2体は早速選んだ衣装に着替え、更衣室から出てくる。

 

 

瑞鶴が選んだ衣装は忍者を連想させる和風装束だ、それに黒い眼帯と短剣(レプリカ)を持っている、“暗殺九ノ一”というコンセプトらしい。

 

 

一方加賀は青を基調としたメイド衣装を着ていた、今加賀が読んでいる吸血鬼モノのライトノベルに登場するキャラクターのコスプレのようで、青いロングヘアーのウィッグまで着けている。

 

 

「加賀先輩、ずいぶん気合いの入った格好ですね…」

 

 

「そうかしら?自分で言うのもアレだけど、中々似合うと思ってるわよ」

 

 

「確かに似合ってますけど…」

 

 

自分より気合いが入っている加賀を見てなんだか複雑になる瑞鶴であった。

 

 

「おっ、君たちも参加するんだね」

 

 

すると先ほど別れたペロが瑞鶴たちに話しかけてきた、重厚な雰囲気の鎧を身にまとっており、どこかの騎士のような格好である。

 

 

「…うん、俺が睨んだ通りだ、ふたりともすごく似合ってるよ」

 

 

「そ、そうですか…?」

 

 

「面と向かって言われると少し照れるわね…」

 

 

瑞鶴と加賀は恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

 

「ペロさんがここにいるって事はOTK兵団も参加するんですか?」

 

 

「あー…うん、まぁね…」

 

 

ペロはなぜか歯切れ悪そうに答える、どうしたというのだろうか…?。

 

 

「おー!やっと見つけましたぞペロ殿!」

 

 

するとひとりの男がペロの所へやってきた、おそらくOTK兵団のメンバーだろう。

 

 

「えっ…!?」

 

 

「ちょっ…!!」

 

 

その男を見て2体は絶句する、理由は男の格好である。

 

 

「もう用意は出来ましたかな?」

 

 

「それ以前に何だよその格好は!?」

 

 

ペロが男の格好につっこみを入れる、何せ上半身はサンバカーニバルのような衣装で下半身は葉っぱで股間を隠してるだけというかなーり人目を引く格好なのだから。

 

 

「ワタクシの新作衣装ですぞ!どうですかな!?」

 

 

「ちったぁ人目を気にしろボケェ!」

 

 

堂々とポーズを取る脳内カーニバルな男にペロが全力投球でつっこむ。

 

 

「同人サークルって面白い人たちが多いのね、勉強になったわ」

 

 

「いや~…ああいうのを参考にしたらダメになる気がするんですけどね…」

 

 

そこそこ失礼な会話をしながら2体はこっそりOTK兵団と別れる。

 

 

 

 

「それでは次に参りましょう!エントリーナンバー15番、瑞鶴さんと加賀さんのペアでの参加です!」

 

 

「いよいよですね先輩、なんか緊張してきました…!」

 

 

「落ち着きなさい瑞鶴、こういうときは観客をジャガイモかゴミ捨て場のゴミ袋だと思えばいいのよ」

 

 

「ジャガイモはともかくゴミ袋は初耳なんですがそれは」

 

 

そして始まったコスプレコンテスト、自分の順番がやってきてガチガチに緊張する瑞鶴、加賀のボケで少しは和らいだが、深海棲艦と相対するのとはまた別の緊張感に上手く身体が動かない。

 

 

それでもなんとかステージ上に上がった2体はそれぞれポーズを取る、観客のおぉ!という声を聞く限りウケてはいるようだ。

 

 

「加賀先輩!敵を殲滅して下さい!」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

加賀がコスプレしているキャラクターのセリフを言うためにここで一芝居、それに合わせて動く加賀に客席からは喝采が上がった。

 

 

「瑞鶴さん、加賀さん、ありがとうございました!」

 

 

司会の声と共にステージ脇に捌ける瑞鶴と加賀、その時盛大な拍手が送られ、2体は嬉しい気持ちになった。

 

 

 

…ちなみにその後にOTK兵団の出番もあったのだが、あまりにもカオスな格好をしているメンバーが多すぎて途中で中断させられてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

コンテスト会場を後にした瑞鶴と加賀はアニメショップなどで適当に買い物をして歩行者天国をブラブラと歩いていた、ちなみにコンテスト終了後にコスプレの格好をOTK兵団に撮ってもらい、それを2体で待ち受けにした。

 

 

「次はどこに行きましょうか?」

 

 

「そうね…お腹も空いてきたしお昼でもどう?」

 

 

「おっ、良いですね!ならこの近くの美味しいお店は…」

 

 

瑞鶴は持ってきた東京の観光用雑誌を見ながら店の目星をつける。

 

 

「この辺りだともんじゃのお店が人気みたいです」

 

 

「もんじゃ…いいわね、ならそこにしましょう」

 

 

「はい!そうと決まればレッツゴー!です」

 

 

ハイテンションで歩いていく瑞鶴を微笑ましく眺めながら加賀もそれに続く。




ちなみに加賀のコスプレは実際のラノベのキャラが元ネタになってます、誰か分かったあなたは魔族特区の住人。


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第126話「大演習祭6」

あけましておめでとうございます、今年もDeep Sea Fleetと台場の連中をどうぞよろしくお願いします。

駆逐艦のレベリングしようと久々に1-5行ったら二戦目のカ級と三戦目のヨ級が突然eliteになっていた、お前ら何がどうしてそうなった。


次の対戦カードは佐世保鎮守府VS大湊鎮守府だ、両艦隊が入場し、電光掲示板に艦隊の情報が表示される。

 

 

 

○佐世保鎮守府

・艦隊名:艦載機絶対落とすマン

 

・正規空母:サラトガ Lv.110

・正規空母:牙龍(がりゅう) Lv.100

・戦艦:水剱 Lv.99

・戦艦:神忌(かむい) Lv.99

・駆逐艦:雪風 Lv.88

・駆逐艦:秋月 Lv.85

 

 

○大湊鎮守府

・艦隊名:古参舐めんな

 

・正規空母:瑞鶴 Lv.105

・正規空母:翠龍(すいりゅう)Lv.103

・航空戦艦:伊勢 Lv.100

・航空戦艦:日向 Lv.99

・水雷巡洋艦:(ひかる) Lv.159

・水雷巡洋艦:夕顔(ゆうがお) Lv.158

 

 

「えっ…!?雪風!?」

 

 

佐世保側に雪風がいることに吹雪が驚く。

 

 

「どう言うことですか司令官!?」

 

 

元室蘭(こっち)の雪風が轟沈した後に佐世保(あっち)の雪風が建造されたんだろうな、轟沈したらダブり禁止のルールは無くなるわけだし、秋月がいるのも納得だ」

 

 

そう言って海原は佐世保の雪風と秋月を見る、どちらも自分が知っている姿とは全く違うし、当然自分のことも知らない、雪風は吹雪たちのおかげで再会できたが、秋月もどこかで会えるのだろうか…?。

 

 

 

「それよりも、あの水雷巡洋艦ってのは何なんだ?そんな艦種聞いたことも無いんだが…」

 

 

「水雷巡洋艦というのは、簡単に言えば駆逐艦の前身のような艦種だよ」

 

 

海原が首を傾げていると、榊原がやってきて海原の隣に座る。

 

 

「所長も来てたんですね」

 

 

「もちろん、大演習祭(バトルフェスタ)は毎年見に来てるよ、艦娘開発者としては見逃せないからね」

 

 

榊原は楽しそうに言う。

 

 

「それで所長、駆逐艦の前身と言うのは…?」

 

 

「元々は最初期に水雷…雷撃専門の艦種として何体か建造されたんだけど、その後に火砲と水雷兵装を併せ持つ駆逐艦が開発されたからそれ以降の水雷巡洋艦は全て駆逐艦や軽巡洋艦、重雷装巡洋艦に艦種が変更されたんだよ」

 

 

「つまり…艦娘の試作機のような存在なんですか?」

 

 

「そうなるね、水雷巡洋艦は10体くらい建造されたんだけど、今残っているのは大湊にいる光、夕顔、(あおい)の3体だけだ」

 

 

榊原が当時を懐かしむように言う、すると話を聞いていた吹雪が疑問をぶつける。

 

 

「ということは、水雷巡洋艦は駆逐艦にすら劣る艦種って事ですよね?こう言ってはナンですが、かなり弱いのでは?」

 

 

「確かに水雷巡洋艦の基礎能力(ステータス)は他の駆逐艦や軽巡洋艦には劣る、でも水巡には彼女たちだけの専売特許があるんだよね」

 

 

「専売特許…?」

 

 

「まぁ、見てれば分かるさ」

 

 

榊原は至って楽しそうな表情で演習場を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ翠龍!艦載機発艦行くわよ!」

 

 

「分かったわ!」

 

 

瑞鶴と翠龍が艦載機を発艦、それに続いて伊勢、日向が砲雷撃戦を開始する。

 

 

「秋月!雪風!対空射撃始め!」

 

 

「了解!」

 

 

「はい!分かりました!」

 

 

佐世保の雪風と秋月も対抗するために行動を開始、防空砲を構えて一斉に射出する。

 

 

「何っ!?」

 

 

「攻撃隊の3割が撃墜…!?」

 

 

駆逐艦の対空射撃のみで航空隊の3割が落とされた事に瑞鶴と翠龍が目を剥く。

 

 

「あの子たちには防空技術を目一杯叩き込んでるからね、これくらいは朝飯前です!」

 

 

水剱が得意げに言うと神忌と共に砲撃戦を開始、ここからは戦艦の砲撃や空母の空撃が肝になる。

 

 

「光!夕顔!最古参の実力を見せてあげなさい!」

 

 

「かしこまりました!」

 

 

「我ら水雷巡洋艦の力…見るがいい!」

 

 

しかし、それだけが艦隊戦の全てとは限らない。

 

 

「夕顔!雷撃開始です!」

 

 

「御意!」

 

 

光と夕顔が前に出て雷撃を開始、魚雷は牙龍とサラトガに向かって真っ直ぐ向かっていく。

 

 

「前方から魚雷接近中!避けて下さい!」

 

 

水剱は牙龍とサラトガに向けて警告を促す、2体も魚雷の存在に感づいてかわそうと横方向に少し動く。

 

 

「残念でした」

 

 

するとそのとき、サラトガにかわされた魚雷が()()()()()()サラトガに向かって突撃していく。

 

 

「なっ…!?」

 

 

サラトガがその異常に気づいたときにはすでに手遅れで、雷撃がサラトガに直撃する。

 

 

「サラトガ!」

 

 

牙龍がサラトガに駆け寄るが、すでに戦闘不能状態になっていた。

 

 

「お仲間の心配をしている場合か?」

 

 

夕顔が牙龍を見ながら不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「っ!?まさか…!!」

 

 

牙龍が後ろを振り向くと、夕顔が()()()()魚雷が迫ってきていた。

 

 

「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

強力な雷撃が牙龍に命中、機関部に直撃し戦闘不能状態になった。

 

 

 

 

 

「…なんじゃありゃ」

 

 

光と夕顔の雷撃を見た海原は口をあんぐりと開けていた。

 

 

「あれが水雷巡洋艦の専売特許、遠距離操作(リモートコントロール)型の酸素魚雷…『回天(かいてん)』だよ」

 

 




次回「旧式が弱いとは限らない」

水雷巡洋艦や回天は一応Wikipediaなんかで調べてはいますが、作中の設定はそれをもとにした自分のオリジナルなので史実などとは異なります、なのでつっこみは勘弁(汗


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番外編「瑞鶴と加賀の休日(後編)」

番外編の後編です、事件もハプニングも何もない平和な話ですが、こういうのもいいよね。

艦これアーケードのイベントで敵が2艦隊同時にエンカウントする、という擬似連合艦隊みたいな新要素がありましたが、そのうちブラウザー版でも敵が連合艦隊で来るというフラグなんじゃないかとビクビクしています。

実際敵が12体で来られたら確実に死ぬ。


もんじゃ屋に着いた2体は早速もんじゃを注文、瑞鶴はシーフードもんじゃで加賀は明太子餅もんじゃだ。

 

「瑞鶴、キャベツはもう少し細かく切った方がいいわよ」

 

 

「そうですか?ならもう少し…」

 

 

ヘラでキャベツをザクザク切りながら取り留めのない話をする。

 

 

「もうすぐ冬本番になるわね、今のうちに冬物とか出しておいた方がいいわよ」

 

 

「そう言えばもうそんな時期なんですね、寒くなるなぁ…訓練めんどくさい…」

 

 

「ちゃんとサボらないでやるのよ、あんまり怠けてばっかりだと翔鶴に稽古付けてもらうからね」

 

 

「それだけは勘弁して下さい!」

 

 

悪夢を思い出すような表情で瑞鶴は身体を震わせる、翔鶴は造船所時代の先輩で艦載機操作の教官をつとめていたのだが、あまりにも訓練が厳しくて瑞鶴の心にトラウマを残している、そのため翔鶴は瑞鶴が一番苦手としている艦娘だ。

 

 

「翔鶴さんの訓練だけは二度と受けたくないです…」

 

 

「そうは言いつつも去年翔鶴の戦闘訓練あなた受けてるのよね、リアルに血反吐を吐いてる姿を見るのは流石に初めてだったけど」

 

 

「コントロール・ランを7時間ぶっ続けでやったときは死ぬかと思いましたよ」

 

 

もんじゃをチビチビ食べながら瑞鶴は遠い目をして言う、コントロール・ランというのは艦載機を操作しながら相手の空撃をかわすという空母艦娘が行っている戦闘訓練の一つだ、手元で艦載機を操作しながら上空から来る空撃をかわさなければいけないため、かなりの技術と集中力を要する。

 

 

「私も出来るだけそれは避けたいけど、実戦で支障が出るようだったら考えるからね」

 

 

「はい…」

 

 

加賀にしっかりと釘を刺された瑞鶴はしょんぼりしながらもんじゃを口に運ぶ。

 

 

(まぁ、可愛い後輩があそこまでボロボロになるのは見たくないし、瑞鶴には頑張ってもらいたいわね)

 

 

そう心に思った加賀だったが、なんだか恥ずかしくて口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

次に2体がやってきたのは原宿の雑貨屋だ、ファンシー系からゲテモノ系まで幅広い品揃えを売りにしている話題の店である。

 

 

「あ、これ加賀先輩に似合うんじゃないですか?」

 

 

そう言って瑞鶴はイルカのキーホルダーを手に取る。

 

 

「中々可愛いわね、なら瑞鶴はこれかしら」

 

 

加賀が手に取ったのは純白の翼を生やした天使の女の子のキーホルダーだ。

 

 

「えぇ~?私そんな純真な艦娘じゃないですよぉ…」

 

 

瑞鶴は気恥ずかしそうに言う。

 

 

「そう?ならこっちは…」

 

 

「天使の方でいいです」

 

 

なら代わりにと手に取ったグロテスクなスライムのキーホルダーを見て音速のスピードで天使のキーホルダーを受け取る瑞鶴、流石にそこまで心が汚れてはいない(たぶん)。

 

 

 

 

雑貨屋を出た瑞鶴と加賀は原宿に移動した、目当ては雑誌で特集されていたクレープ屋台である。

 

 

「やっぱ原宿と言えばクレープですよね」

 

 

「例の屋台はこの先少し行った所にあるみたいよ」

 

 

「よーし、早速行きましょう!クレープが私たちを呼んでいる!」

 

 

「あんまりはしゃがないの、もう…」

 

 

ルンルン気分で先を行く瑞鶴にため息をつく加賀。

 

 

「あの~、すみません」

 

 

その時、2体のもとにひとりの男が近付いてきた、年齢は25代半ばといった辺りだろうか、スーツを着ており真面目そうなビジネスマンといった印象だ。

 

 

「…はい?」

 

 

突然見知らぬ男性に声をかけられ怪訝な顔をして振り向く。

 

 

「突然すみません、僕はこういう者です」

 

 

男はポケットから名刺を取り出して瑞鶴に渡す、彼は芸能プロダクションの人間で城崎(きさき)という名前らしい。

 

 

「…しかもこのプロダクションかなり大手じゃない、有名なアイドルや役者なんかの著名人を多数輩出してるってこの間テレビの特集でやってたわよ」

 

 

「そんなプロダクションの方が私たちに何用で?」

 

 

城崎の意図が分からず2体が首を傾げる。

 

 

「実は今、今度結成しようと思っているアイドルユニットの人材を探していてね、声をかけて回っているんだ」

 

 

「えっ、それってつまり…」

 

 

「スカウト…?」

 

 

2体の疑問に城崎は首を縦に振って肯定する。

 

 

(そう言えば原宿って芸能人のスカウトも多いって聞いてたけど、本当にスカウトってあるんだ…)

 

 

内心驚きながら瑞鶴は城崎の話を聞く。

 

 

「ちょっとそこの喫茶店で話だけでも聞いていきません?」

 

 

「せっかくのお話ですけど、お断りさせてもらいます、芸能界に興味は無いので…」

 

 

瑞鶴は城崎の話をやんわりと断る、スカウトを受けて嬉しくないわけではないが、自分は軍属の艦娘だ、そんな事は出来ない。

 

 

瑞鶴に断られた城崎は大人しく引き下がって人混みの中に消えていく。

 

 

「運が良かったわね、ああいうスカウトはネチネチ付きまとうタチの悪い人もいるって聞くし」

 

 

「そうなんですか?なら気をつけないとですね」

 

 

スカウトを受けたという驚きを胸に残しながら2体はクレープ屋台へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

「んまーい!このイチゴホイップ最高!」

 

 

「このバナナチョコカスタードも中々いけるわよ」

 

 

瑞鶴と加賀は近くのベンチに座ると目的のクレープに舌鼓を打つ、互いのクレープを食べさせあう姿は色んな意味で微笑ましい光景だ。

 

 

「瑞鶴は本当に楽しそうね、ただあちこち歩き回ってるだけなのに」

 

 

「加賀先輩とだから楽しいんですよ、先輩と来れて本当に良かったです!」

 

 

クリームを頬に付けながら笑顔を向けてくる瑞鶴を見て、加賀も自然と顔を綻ばせる。

 

 

「…えぇ、私も瑞鶴と来れて良かったわ、あなたは私の大切な後輩で、親友だもの」

 

 

「はい!私も加賀先輩は大切な先輩で親友です!」

 

 

そう返してくる瑞鶴は、とびっきりの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

空が夕焼けに染まり始めてきた頃、それぞれの鎮守府に帰ろうと再び東京駅に戻ってきた瑞鶴と加賀、すると瑞鶴が気になる光景を目にした。

 

 

「…ん?」

 

 

ひとりの少女が困った顔で地図を見ながら同じ場所を行ったり来たりしているのだ、おそらく迷ってしまったのだろう。

 

 

「先輩…」

 

 

瑞鶴は少女の方を指差しながら控えめに加賀に話し掛ける、それを見て瑞鶴の言わんとしていることを察した加賀は何も言わずに頷いた。

 

 

「君、どうしたの?」

 

 

瑞鶴はウロウロしている少女に声をかける、話を聞くと電車の乗り場が分からなくなってしまったらしい。

 

 

瑞鶴が乗り場まで案内すると言うと、少女がぱぁっと笑顔になってお礼を言う。

 

 

(本当に瑞鶴はお人好しね)

 

 

それを見ていた加賀はそう心の中で思ったが、それが瑞鶴の良いところなのだと、また同時に思っていた。

 

 

 

 

「へぇ~、親戚の家に泊まりに行った帰りなんだ、見た感じまだ中学生くらいでしょ?それなのにひとりで来るなんて立派だよね」

 

 

「最近の子はこれくらい普通ですよ?」

 

 

「そうなの!?すごいな~」

 

 

乗り場までの移動中、瑞鶴と加賀は少女と他愛のない話をしていた、少しの時間だったが、外部の人間と話すのは久し振りだったので楽しかった。

 

 

「ほら、ここの電車に乗れば大丈夫だよ」

 

 

5分程で目的の電車乗り場にたどり着いた、時間にすればたいしたことはないが、東京駅は大きくて広い上に乗り場や乗り入れている電車の数も多いのだ、地図を見ても迷ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 

「ありがとうございました、()()のお姉ちゃん」

 

 

少女はぺこりとお辞儀をすると乗り場の方へ向かっていった。

 

 

「それじゃ、私たちも行きましょうか、また予定が合ったら出掛けましょう」

 

 

「はい、今日はありがとうございました!また行きましょうね!」

 

 

瑞鶴も加賀と別れると、目的の電車に乗るために構内を歩く。

 

 

(…あれ?そう言えば、私が艦娘だって事、あの女の子に話してたっけ…?)

 

 

一瞬そんな事を考えた瑞鶴だったが、それはすぐに構内の雑踏の人の流れのように記憶の彼方へと消えていった。




初の番外編でしたがいかがだったでしょうか?

他にも番外編は考えているので気長にお待ち下さい(汗


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第127話「大演習祭7」

今年中に攻略しようと思っていた沖ノ島海域ですが、試しに出撃してみたら一発で攻略出来ました、ボスで戦艦棲艦3体出て来たときは目が点になりましたが何とか昼戦で全滅。

現在キス島撤退作戦攻略に向けてレベリングを進めております、頼むぞ由良。


「水雷巡洋艦か、大湊がこんな隠し玉を持ってるとはな」

 

 

回天の威力を見ながら海原は言う。

 

 

「隠し玉と呼べるほどのスペックは持っていないよ、さっきも言ったけど、水雷巡洋艦は艦娘の試作機みたいな存在だから他の艦娘と比べて基礎能力(ステータス)も低い、今のは防御力が低い空母相手だから戦闘不能に出来たけど、戦艦だったら中破が関の山だよ」

 

 

榊原はそう言って海原の発言を一部否定する、彼の言うとおり光たちの回天は戦艦の艦娘には有効打を与えられていないようだ、当たってはいるが中破で止まっている。

 

 

「それでも戦艦を中破に出来るのはすごいと思いますよ、最古の艦娘とは思えません」

 

 

「古いからといって弱いとは限らないんだよ、能力が低いのは事実だけど、長年の経験で培った技術やノウハウに関してはその辺の艦娘よりはるかに長けているからね」

 

 

「なるほど…確かにそうですね」

 

 

榊原の言葉に海原は頷いて納得する。

 

 

「あ、大湊が勝ったみたいですよ」

 

 

「マジか、水雷巡洋艦の連中結構やるな」

 

 

海原は感心したように光たちを見つめる、そこにはガッツポーズを決めて勝利の喜びを全身で表現する彼女たちの姿があった。

 

 

 

 

 

佐世保と大湊の試合で一回戦が全て終了した、ここからは二回戦に入るのだが、その間に約30分の休憩時間が入る。

 

 

「マックス!久しぶり」

 

 

「お久しぶりです先輩」

 

 

海原たちが出店で買ってきた食べ物などを適当に食べ漁っていたところ、島風がこちらにやってきた。

 

 

「さっきはみっともない姿見せちゃったね、これじゃ先輩の面目丸潰れだよ…」

 

 

島風は心底悔しそうに言う、おそらく相手の水上機母艦の千歳&千代田にやられた時のことを言っているのだろう。

 

 

「そんな事ありませんよ、その前に重巡を大破にしてたじゃないですか、スゴいと思いますよ」

 

 

「そ、そうかな…?」

 

 

島風は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

 

「でもマックスの元気そうな顔が見れて良かったよ、私も一安心」

 

何とも言えない恥ずかしさを誤魔化すように島風は話題をそらす。

 

「そう言う先輩こそ大丈夫なんですか?まだぼっちだったりしてないですか?」

 

 

「ぼっち言うな!ちゃんと関係修復の努力はやってるよ、この前だって朧たちとパフェ食べに行ったんだから!」

 

 

ぼっちと言われたことにご立腹なのか、島風は膨れっ面で抗議をする。

 

 

「…先輩にも一緒にパフェを食べに行ける艦娘が出来たんですね、私嬉しいです」

 

 

「涙ぐみながらそんな悲しい事言うの止めてもらえませんかねぇ!?いや、事実なんだけど!事実なんだけどなんか泣きたくなってくるから!」

 

 

そう訴える島風はすでに涙目であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー暁!元気にやってる?」

 

 

「その後は変わりないのですか?」

 

 

「海原司令官も来ていたんだね」

 

 

続いてやってきたのは響たち第六駆逐隊だった、暁に会えて嬉しいのか、楽しそうに話している。

 

 

「そう言えば向こうの方で佐瀬辺司令官と南雲元帥が仲良さそうに話してたけど、あのふたりって仲良しなのかしら?」

 

 

「どうだろうね、話してるのは何回か見たことあるけど…」

 

 

雷と響の何気ない会話に暁は過敏に反応した。

 

 

「…あぁもう、あの佐瀬辺(クズ)元帥(ゴミ)の事は出来るだけ考えないようにしてたのに…」

 

 

暁はイライラした様子で髪をかきむしる、それを見た雷たちは眉をひそめた。

 

 

「暁、あのふたりが嫌いなの?」

 

 

「出来れば今すぐふたりの所にいってぶっ殺したいくらいには嫌いよ」

 

 

「そんなに!?」

 

 

「…なんか思い出しただけで殺意がわいてきた、ちょっとシメてくる」

 

 

「ちょ、ちょっと暁!?落ち着いて!」

 

 

「まずは生きたまま腹を裂いて腸を目の前に晒して精神を狂わせてからナイフで皮膚をベリベリと…」

 

 

「なんか怖いこと口走ってるよ!?」

 

 

「もう手遅れなのです…」

 

 

何とかして暁を落ち着けた響たちだが、しばらく会っていない間に暁の闇が深くなっているような気がした第六駆逐隊であった。

 

 

 




次回「横須賀鎮守府VS舞鶴鎮守府」

何気に横須賀の編成が一番気になる、という人の方が多いんじゃないかと個人的に思っております。


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第128話「大演習祭8」

最近デイリー任務の建造(最低値)でよく秋雲に会います、夕雲型で建造出来るのってこいつだけなんでしょうか。

キス島のハズレルートの一歩目…3-2-1と呼ばれているマスは経験値が美味しいのでレベリングにお薦め、というのを聞いたので最近はそこばかり行ってます。


「いよいよ横須賀のお出ましか」

 

 

「どんな編成で来るんでしょうね?」

 

 

「あの佐瀬辺の事ですから、たぶん戦艦6体とかで来るんじゃないですか?」

 

 

「流石にそこまで脳筋艦隊じゃないと思うぞ…」

 

 

海原が大鯨につっこんだところで両鎮守府の艦隊が入場してくる。

 

 

○舞鶴鎮守府

・艦隊名:遠征艦隊雪月花『雪組』

 

・戦艦:陸奥 Lv.120

・戦艦:霧島 Lv.110

・軽空母:瑞鳳 Lv.97

・軽空母:龍鳳 Lv.93

・重巡洋艦:プリンツ・オイゲンLv.95

・重巡洋艦:ザラ Lv.90

 

VS

 

○横須賀鎮守府

・艦隊名:神風攻撃隊

 

・航空戦艦:扶桑 Lv.154

・航空戦艦:山城 Lv.155

・正規空母:赤城 Lv.153

・駆逐艦:夕立 Lv.70

・駆逐艦:時雨 Lv.76

・駆逐艦:照月 Lv.77

 

 

 

「…は?横須賀が駆逐艦?」

 

 

メンバーの意外さに海原が素っ頓狂な声を出す。

 

 

「なんか意外ですね、てっきり戦艦多用の艦隊だと思ってましたけど」

 

 

「それなりに練度(レベル)もあるみたいですし」

 

 

吹雪たちが口々に言い合っている中、海原は別の所に焦点が行く。

 

 

「艦隊名の“神風”って確か“特攻”って意味があったよな…」

 

 

横須賀には珍しい駆逐艦、そして神風という艦隊名。

 

 

「っ!!まさかあいつら…!」

 

 

その時、海原は最悪の可能性を頭に浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「…なんか、相手の艦隊の雰囲気が妙ね」

 

 

舞鶴艦隊旗艦(リーダー)の陸奥は横須賀艦隊…とくに前衛の駆逐艦たちに違和感を感じていた、大演習祭(バトルフェスタ)のような演習でも駆逐艦が起用されることは普通にあることだし、練度(レベル)も決して低くはない、3体ともブカブカの黒いローブを着ている点を除けば何らおかしな事はない。

 

 

陸奥が違和感を感じたのは面子でも練度(レベル)でもなく、その表情だ。

 

 

「何であんなに怯えた顔をしてるのかしら…?」

 

 

相手艦隊の表情が全体的に暗いのだ、駆逐艦たちは何かに怯えるような顔で身を震わせているし、後ろの戦艦や空母は夕立たちに対してやりきれないような表情を向けている。

 

 

どうにも掴み所のない雰囲気に困惑する陸奥だったが、試合開始の合図が鳴ったため陸奥の思考はそこで止まることになった。

 

 

試合開始と同時に前衛の夕立たち駆逐艦3体が猛スピードでこちらに突っ込んでくる、こちらも瑞鳳と龍鳳が艦載機を発艦させ、夕立たちを狙おうと急降下してくる。

 

 

「全艦!対空射撃急ぐっぽい!」

 

 

夕立の合図で時雨と照月が機銃を一斉に発射、瑞鳳と龍鳳が放った艦載機を粗方撃ち落とす。

 

 

「……やっぱり何かが変…」

 

 

陸奥は対空射撃を続けながらこちらに向かってくる夕立たちを見て、先程までの違和感を強くする、後ろの戦艦たちがあまり攻撃してこないこと、こちらのターゲットが全て夕立たちに向かうような攻め方をしていること。

 

 

いや、それ以前に夕立たちが機銃以外の攻撃兵装を何も持っていないこと…

 

 

 

 

(ひょっとしてあの子たち、はじめからこちらを攻撃するつもりがない…!?)

 

 

そこまで考えた陸奥が目を見張る、機銃は艦載機の撃墜に特化した装備だが、艦娘への攻撃力は皆無だ、その機銃しか装備していないとなればこちらを攻撃する気がないと判断するのが妥当である。

 

 

 

「…なぜ横須賀はそんな事を…?」

 

 

しかし、艦娘の装備品だけが艦娘の攻撃手段とは限らない。

 

 

「ぽーい!」

 

 

「っ!?しまった…!」

 

 

つい考えるのに夢中になってしまい、陸奥は夕立たちに超至近距離までの接近を許してしまった、しかしここまで近付いても機銃は陸奥たちにダメージを与える事は出来ないし、主砲を撃つにしても爆風や衝撃波で自分もダメージを受けてしまう。

 

 

「食らうっぽい!」

 

 

その言葉とは裏腹に、夕立たちがとった行動は陸奥たちに“抱き付く”というものだった。

 

 

「あなたたち何を…!?」

 

 

夕立は陸奥に、時雨は龍鳳に、照月は瑞鳳にそれぞれしがみつく、その様子に陸奥含め舞鶴艦隊は目を点にさせて夕立たちを見る。

 

 

「…ごめんなさい、本当はこんな方法、取りたくはなかったっぽい…」

 

 

「何を言って…」

 

 

陸奥の言葉を待たずに夕立は着ていたローブを少しはだけさせる。

 

 

「っ!?」

 

 

それを見た瞬間、陸奥は全身の血の気が引くのを感じた、そのローブの下にあったのは…

 

 

「結構痛いと思うけど、我慢してほしいっぽい」

 

 

魚雷、着火材、カセットコンロのボンベ、ガソリン、ありったけの爆発物を身体に巻き付けた夕立の姿だった、ローブはそれを隠すために着ていたのだろう。

 

 

「特攻攻撃…」

 

 

陸奥は身を震わせながら後ろを向く、龍鳳と瑞鳳も目尻に涙を浮かべながら首を横に振っていた、この状況を見れば時雨や照月も同じ状態だろう。

 

 

「………」

 

 

夕立はポケットから起爆装置と思われるスイッチを取り出すと、ボタンに指をかける。

 

 

「ダメ!待って…!」

 

 

陸奥はそれを止めようとしたが、夕立は何のためらいもなく起爆装置のボタンを押した。

 

 

 

刹那、凄まじい爆風と爆炎と衝撃が零距離で全身を叩きつけ、戦艦の装甲を貫いてダメージを与えてくる、あまりの衝撃に陸奥は後方へ大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「うぅ…ぐぅ…」

 

 

やっと爆発の勢いが収まってきた頃、陸奥の艤装からは戦闘不能になったことを知らせるアラートが途切れ途切れに鳴り響く、艤装の加護が爆発のダメージに耐えられなかったらしく、陸奥の全身には出血を伴う傷が所々出来ていて、一番爆発から近かった右腕の骨も折れている。

 

 

龍鳳と瑞鳳も同じく戦闘不能になっており、装甲が戦艦よりもろい分傷が深くなっている。

 

 

「そうだ…!夕立ちゃんは…!? 」

 

 

駆逐艦の装甲は戦艦や軽空母よりも薄い、戦艦の装甲を持つ陸奥ですらこのダメージなのだ、絶対に無事では済まない。

 

 

骨折の痛みに鞭打って身体を動かすと、夕立は離れた所に倒れていた。

 

 

「…う…そ……」

 

 

気を失って倒れている夕立の両腕は千切れ飛び、穴の開いた腹部からは腸がヒモのように垂れ下がっていた。

 

 

周りを見渡せば時雨と照月も四肢欠損の大怪我を負っており、胸の肉が抉れて肋骨が露出している時雨を見た龍鳳が泣きじゃくりながら嘔吐している。

 

 

当然駆逐艦たちは全員戦闘不能、艤装の加護で出血が抑えられているため死んではいないが、危篤状態なのは変わらない。

 

 

横須賀の非情ともいえる作戦で両艦隊のメンバーは開始1分半で一気に半減させられてしまった。

 

 

夕立たちの惨状を見て完全に戦意を喪失させてしまった舞鶴艦隊だが…

 

 

「…まだ、やるって言うの…?」

 

 

後衛の扶桑たちが残った霧島たちに主砲を向けて狙いを定め、赤城も艦載機発艦のために弓を構えていた。

 

 

 

 

…戦いは、まだ終わらない。




次回「1vs1×3」

ちなみに舞鶴の艦隊名の“遠征艦隊雪月花”は僕が実際に第二、第三艦隊に設定している艦隊名です、第四艦隊が解放されたら“花組”をつくる予定。


あと舞鶴艦隊に龍鳳がいましたが、これは今の大鯨が改装不可能なため龍鳳が存在できない、という理由から造船所が新規に龍鳳を独立個体で建造した、という設定になってます。


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第129話「大演習祭9」

128話で秋雲が夕雲型だと前書きで書いてましたが、正しくは陽炎型だという感想を頂きました、制服が夕雲と同じだったので間違えてしまいました…すみません(汗

運営のTwitterに来月あたりイベントをやる…みたいな事が書いてありましたが、高速修復材の数が極端に少ない(現在176個)ので不安しかありません、資材も各平均25000くらい(弾薬のみ35000)なので貯めなきゃですね。


「さてと、これからどうしたものか…」

 

 

残された霧島、プリンツ、ザラの舞鶴艦隊は状況が不利な事を痛感させられていた、龍鳳と瑞鳳がやられてしまったので航空戦力は全滅、しかし向こうには赤城がいるのでこちらは重巡2体の機銃のみで対抗しなければならない。

 

 

扶桑と山城は同じ戦艦の霧島で何とかやるしかない、最悪プリンツたちにも砲撃に参加してもらえば十分戦えるだろうが、扶桑たちは航空戦艦…通常の戦艦よりも装甲が強化された艦種だ、いかんせん火力不足である。

 

 

「やるしかない…か、プリンツ!ザラ!砲撃開始!」

 

 

「はい!」

 

 

「了解しました!」

 

 

霧島の合図で重巡2体が砲撃を開始、それに合わせて扶桑と山城も砲撃を行う、先程の威嚇射撃とはまるで違う、本気で相手を仕留める砲撃を…。

 

 

「くっ…!意外と激しいわね…」

 

 

霧島は扶桑たちの砲撃をかわしつつ主砲を撃つが、霧島のスピードでは回避が追い付かず小破未満(カスダメ)が増えていく、通常の戦艦よりもスピードが速い高速戦艦の金剛型に分類されている霧島だが、戦艦の中では少し速い方というだけで重巡のプリンツたちに比べればずっと遅い。

 

 

しかし逆を言えば高速戦艦に分類されていない扶桑たちは霧島より遅いので、かわす暇を与えずに攻撃すればこちらにも勝機がある。

 

 

「第一次攻撃隊…発艦!」

 

 

しかし、その考えは赤城の発艦させる艦載機によって棄却させられる事になる、こちらに空母がいないため艦上戦闘機を入れない攻撃機のみの全力攻撃が霧島たちを襲う。

 

 

「プリンツ!ザラ!」

 

 

「対空射撃!よぉーい…」

 

 

「てええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

プリンツとザラが機銃を発射、2体の対空射撃により艦載機は全体の4分の1を落とす結果になったが、攻撃隊の弱体化には一歩及ばなかった。

 

 

「きゃああっ!」

 

赤城の攻撃隊による空撃が霧島たちを襲う、霧島は何とか小破で耐えることが出来たが、プリンツとザラは中破判定を食らってしまった。

 

 

「なら…これでどう!?」

 

 

霧島は主砲に新たな弾を装填すると、何を思ったか上空に向けてそれを発射した。

 

 

「何を…?」

 

 

扶桑たちは霧島の行動に首を傾げたが、その理由はすぐに分かった。

 

 

「っ!?あれは…!」

 

 

霧島の撃った砲弾が上空で爆発し、その中から小さなサイズの弾丸が拡散しながら赤城の攻撃隊に向かって降り注ぐ。

 

 

「三式弾!?」

 

 

その正体に気付いた扶桑たちは目を剥いた、『三式弾』とは戦艦や重巡洋艦などの比較的大型の艤装を扱う艦娘が装備できる特殊な砲弾だ。

 

 

その効果は大雑把に言えば“打ち上げ花火式の機銃”だ、打ち上げられた三式弾は上空で爆散、中に詰め込まれた小さな砲弾が飛んでいる艦載機を撃ち落とすという仕組みである、任意で狙いを定めることが出来ないので命中率は低く、艦娘へのダメージも望めないので最近ではほとんど使われていない装備である。

 

 

霧島の放った三式弾は赤城の攻撃隊に次々と命中していき、最初に放った全体数の8割を落とす事に成功した。

 

 

「周りの艦娘は揃って使えないって言うけど、まだまだ捨てたもんじゃないわよ?」

 

 

霧島はそう言って得意げな顔をするが、依然劣勢なのは変わらない、赤城の艦載機はまだ残っているだろうし、扶桑たちにはほとんどダメージが入っていない、夕立たちの特攻で陸奥と空母を失ってしまったのがデカすぎる。

 

 

「でも…!やるしかない!」

 

 

霧島は命中率を上げるため、扶桑たちに接近しながら砲撃を続ける、反撃を食らう可能性も上がってしまうが、そこは致し方ない。

 

 

プリンツとザラも赤城をターゲットに砲撃を開始、艦載機を操作していて警戒が疎かになっていた赤城はそれをまともに食らってしまった、艦載機はある程度自動で行動するが、個別の機体への細かい指示は赤城の艤装から行わなければいけないため、どうしても操作中は無防備になってしまう。

 

 

「やっぱりダメージは浅いわね…」

 

 

プリンツは忌々しげに舌打ちをすると、素早く次弾装填をして赤城に撃ち込む。

 

「くっ…!きゃあ!」

 

 

この攻撃も赤城に命中、そのはずみでデバイスの操作をミスってしまい、一部の攻撃機のターゲットを扶桑に設定してしまった。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

「扶桑!大丈夫!?」

 

 

ダメージを受けた扶桑に山城が慌てて駆け寄る、致命傷は受けていないようだが、扶桑に小破判定が下ってしまった。

 

 

「あの重巡が厄介ね、第二次攻撃隊…発艦!」

 

 

赤城はプリンツとザラを最優先で倒す作戦に切り替え、艦載機を発艦、その数は先程の倍はある。

 

 

「多っ…!!」

 

 

霧島とプリンツたちは機銃と三式弾で応戦するが、三式弾の命中率が悪くほとんど落とせていない。

 

 

「があああああぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 

赤城の空撃のほとんどが霧島たちに命中し、霧島が大破、プリンツたちが戦闘不能になってしまった。

 

 

「まさか航空戦を主体に攻撃してくるとはね…」

 

 

霧島はすぐさま反撃に移ろうと立ち上がったが…

 

 

「…へ」

 

 

空撃の合間に扶桑たちが撃っていた主砲の砲弾が霧島の眼前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧島の艤装から戦闘不能を知らせるアラートが鳴り、舞鶴艦隊の敗北が決まった。

 

 

 

 

試合終了後、それぞれの艦娘たちが観客席に戻っていくが、横須賀の艦娘たちに勝利の喜びなどという感情は持ち合わせていなかった。




次回「室蘭鎮守府VS大湊鎮守府」

扶桑と山城の出番が少ない気もしましたが気にしたら負けです。


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第130話「大演習祭10」

新作小説「艦隊これくしょんー黒から白へ変わる物語ー」を連載開始しました、前々から書いてみたかったブラック鎮守府復興モノです、ちょっとヒネクレた話になるかもしれませんが、興味があれば是非~。

来月のイベントに向けて雪月花隊をフル稼働で動かして資材を集めています。


次は第二回戦の最終戦となる室蘭鎮守府VS大湊鎮守府の試合となる。

 

 

○大湊鎮守府

・艦隊名:第1突撃主力小隊

 

・戦艦:イリノイ Lv.98

・戦艦:因幡(いなば) Lv.99

・正規空母:大鷹(たいよう) Lv.99

・正規空母:レキシントンLv.96

・重巡洋艦:加古 Lv.96

・水雷巡洋艦:夕顔 Lv.158

 

 

VS

 

 

○室蘭鎮守府

・艦隊名:アサシン・ダイバー

 

・戦艦:アイオワ Lv.102

・戦艦:ビスマルク Lv.115

・正規空母:紫龍(しりゅう) Lv.99

・潜水艦:U-511 Lv.90

・潜水艦:伊168 Lv.92

・潜水艦:呂500 Lv.97

 

 

 

「潜水艦か…」

 

 

旗艦(リーダー)のイリノイが苦い顔で相手の潜水艦を見る、今こちらのメンバーで潜艦装備を持っている艦娘はいない、一応空母の艦攻の魚雷や重巡洋艦の副砲などで対応出来なくもないが、どうしても決定力に欠ける。

 

 

「大鷹!レキシントン!」

 

 

イリノイが空母組に航空隊の発艦を指示、大鷹たちは艦載機を発艦させてアイオワたち目掛けて飛ばしていく。

 

 

「紫龍!航空隊発艦!ユーたちは雷撃用意!」

 

 

アイオワも随伴艦に指示を送る、紫龍が艦載機を飛ばし、潜水艦3体が水中に潜って移動を始める。

 

 

「水中から雷撃されたら厄介ね…」

 

 

潜水艦の雷撃を警戒したイリノイと因幡は副砲を撃ち出す、一応水中には届いているが、潜水艦に命中している様子はない。

 

 

「ならこれで…!」

 

 

夕顔が回天を潜水艦に向けて発射、巧みな操作テクニックでU-511に命中させる。

 

 

「ぷはああぁっ!」

 

 

ダメージを受けた拍子に肺の酸素が抜けたのか、U-511が水中から飛び出す、プレートアーマーのような艤装のせいでダメージは浅い。

 

 

「食らえ!」

 

 

イリノイがU-511に主砲を発射、真正面から食らったU-511は大きく後ろに吹き飛ばされ、一撃で戦闘不能になる。

 

 

「潜水艦はユーだけじゃないわよ!」

 

 

イリノイたちの注意がU-511に向かっている隙に水中の伊168と呂500が魚雷を発射、魚雷は加古とイリノイへ向かって水中を進んでいく。

 

 

「うわっ!」

 

 

「くっ…!」

 

 

雷撃能力に特化した潜水艦の攻撃は思ったよりもダメージが入り、イリノイが小破、加古が中破になる。

 

 

「こんのぉ!」

 

 

加古が水面に向けて主砲を撃つが、水面に着弾した瞬間に爆散してしまう。

 

 

「落ち着きなさい加古!潜水艦でも肺呼吸、息継ぎのために水面に顔をだした所を狙うのよ!」

 

 

イリノイがそう言って加古を落ち着かせるが、伊168と呂500は現在建造されている潜水艦の中でもトップクラスの連続無酸素活動時間を誇る艦娘だ、一度海に潜れば10分は息を止めていられる。

 

 

しかし潜水艦が上がってくるのをわざわざ待つほど大湊は呑気していない。

 

 

「対潜航空隊…発艦!」

 

 

大鷹とレキシントンが艦爆と艦攻を大量に発艦、しかしターゲットはアイオワたち水上艦ではなく、潜水艦が潜んでいる海面一帯である。

 

 

大量にバラまかれた爆弾や魚雷は水中で次々と爆発を起こし、何本もの水柱が上がる。

 

 

「ごほぉ!」

 

 

「がはあぁ!」

 

 

すると水柱に紛れて伊168と呂500が水上に飛び出してくる、爆弾か魚雷のどれかがヒットしたようだが、掠り傷だったのか艤装の耐久力は小破相当までしか減っていない。

 

 

「中々やるわね…」

 

 

「でも潜水艦はそう簡単には倒せません!」

 

 

憎々しげにイリノイを睨むと伊168と呂500が再び海中に身を潜めた、対潜攻撃はレキシントンと大鷹に一任することにし、イリノイたちはアイオワたちの相手に専念する。

 

 

室蘭は潜水艦を加えているので砲撃戦に参加できるのは2体、大湊は3体(水雷巡洋艦は主砲を持っていない)、数で言えば大湊が有利だが、数的有利で勝てるほど艦隊戦は甘くない。

 

 

「因幡!加古!砲撃戦開始!」

 

 

「反撃だああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「覚悟するがいい…!」

 

 

イリノイ、加古、因幡が一斉に砲撃を開始するが、アイオワとビスマルクはそれをかわしつつ反撃に移る、イリノイたちもアイオワの砲撃を避けようとするが…

 

 

「うわっ…!」

 

 

潜水艦の雷撃に回避行動を妨害され、戦艦2体の砲撃をまともに食らうことになる。

 

この攻撃で加古と夕顔が戦闘不能になり、イリノイと因幡も中破になる。

 

 

 

「…ふふふ、潜水艦を舐めてると、痛い目見るんだからね」

 

 

 

装甲も薄いし攻撃方法も雷撃しか無いので小馬鹿にされがちな潜水艦だが、だからといって舐めてかかると手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

 

 

「紫龍!」

 

 

「航空隊発艦!」

 

 

紫龍が艦載機を発艦させ、トドメをさしにかかる。

 

 

大湊は空母が2体とも健在だが、対潜攻撃にも艦載機を回しているのでフルパワーを出せない。

 

 

「レキシントン!大鷹!避けて!」

 

 

紫龍の艦載機がレキシントンと大鷹に迫っているのに気づいたイリノイが2体に呼び掛ける、それに気づいたレキシントンたちはかわそうとしたが…

 

 

「うわっ!」

 

 

またしても潜水艦の雷撃が2体を直撃、そこへ紫龍の艦載機による空撃が加わり、一撃で戦闘不能になった。

 

 

「レキシントン!大鷹!」

 

 

「ひとつ教えてあげる」

 

 

伊168と呂500が海中から顔を出し、ありったけの魚雷をこちらに向けてくる。

 

 

「最弱の駆逐艦が最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も…恐ろしいのよ!」

 

 

2体の潜水艦による雷撃は、残り少ない戦艦の耐久力を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了、勝者…室蘭鎮守府。




次回「横須賀鎮守府VS室蘭鎮守府」

次回は決勝戦となります。


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第131話「大演習祭11」

第六駆逐隊を1-5に出撃させる任務を達成するために1-5に出撃したところ、ボスマスの潜水棲艦がflagshipになってて目が点に、あれ?こいつ前までeliteだったよね…?アプデの影響なのだろうか?。


次の試合はいよいよ決勝戦、この試合で大演習祭(バトルフェスタ)の優勝が決まるというだけあって会場もかなり盛り上がっている。

 

 

そんな興奮の中、両鎮守府の艦娘たちが入場してくる。

 

 

○横須賀鎮守府

・艦隊名:無敵艦隊

 

・戦艦:大和 Lv.160

・戦艦:比叡 Lv.155

・戦艦:ウォースパイト Lv.155

・戦艦:出雲(いずも) Lv.155

・正規空母:煌鶴(こうかく) Lv.155

・正規空母:赤城 Lv.153

 

 

○室蘭鎮守府

・艦隊名:インビジブル・サブマリン

 

・重雷装巡洋艦:大井 Lv.140

・重雷装巡洋艦:北上 Lv.132

・正規空母:ヨークタウン Lv.99

・軽空母:鳳翔Lv.148

・戦艦:アイオワ Lv.102

・潜水艦:まるゆ Lv.140

 

 

 

「うわぁ…よりによって大和さんだよぉ…勝てる気がしないよ…」

 

 

「戦う前から怖じ気づいてどうするんですか、いくら艦娘最強クラスの大和さんでも私たち雷巡の雷撃なら有効打になると思いますよ」

 

 

「だと良いんだけどね…」

 

 

勝つ気満々の大井とは対照的に北上は弱気である、大和は言わずとしれた横須賀鎮守府の最高戦力であり、全艦娘の中でもトップクラスの基礎能力(ステータス)を誇っている、大演習祭(バトルフェスタ)では必ずここぞという時に登場し、対戦相手の艦隊を薙ぎ倒してきた。

 

 

「行きますよ北上さん!」

 

 

「こうなったら行くしかないよね…!」

 

 

試合開始と同時に雷巡コンビが先陣をきって前に飛び出す、それと同時に互いの戦艦、空母たちがそれぞれ行動を開始。

 

 

「まるゆさん!妨害役、よろしくお願いします!」

 

 

「お任せください!」

 

 

潜水艦のまるゆも海中に身を潜め、機会をうかがうために水中を遊泳する。

 

 

相手の砲撃や空撃をかわしつつ、魚雷の射程距離まで近づいた雷巡コンビはありったけの魚雷を戦艦たちに向けて発射する。

 

 

「…えっ!?」

 

 

「かわさない…!?」

 

 

しかし、魚雷が迫ってきてるというのに大和たちはかわす気配がない、いや、それ以前に開戦直後から戦艦たちがほぼ動いていないのだ。

 

 

大井と北上の魚雷は大和と出雲に命中、凄まじい衝撃とともに水柱が上がる。

 

 

「いくら戦艦でもこの数の魚雷を食らって無傷でいられるわけがないわ」

 

 

「中破くらいなら望めるかもね」

 

 

しかし、雷撃を直撃で食らった大和と出雲は小破にすらなっていなかった。

 

 

「嘘でしょ!?」

 

 

「戦艦の装甲が厚いからって流石にこれは…!」

 

 

ありえない、大井がそこまで言い掛けたとき、大和たち戦艦の身体が普段と違うことに気付いた。

 

 

両手両足、そして腹周りに紫色のプロテクターのようなものを身に付けていたのだ、例えるならSF映画などで見るパワードスーツのパーツを部分的に装着していると言えば分かりやすいだろうか。

 

 

「…なるほどね」

 

 

強化装甲(バルジ)…ですか」

 

 

北上と大井が忌々しげに顔を歪める、強化装甲(バルジ)とは艦娘が身に付ける兵装の一つで、艤装の加護を強化して防御力を飛躍的に上げる効果を持つ。

 

 

基本的にどの艦娘も装着できるが、その一方で強化装甲(バルジ)は装備すると艤装の速力が落ちるという欠点も併せ持つ、ただでさえ遅い戦艦がさらに遅くなっては艦隊行動に支障がでるということで戦艦が装着するのはかなり稀である。

 

 

「これじゃあまともにダメージを与えられないよ!」

 

 

「たしかにそうですね、でもこれで横須賀の作戦が大体分かりました」

 

 

「作戦?」

 

 

北上が頭に疑問符を浮かべて首を傾げる、大和たちは強化装甲(バルジ)を装着している影響でほとんどスピードが出ない状態だ、つまり初めから攻撃をかわす気が無い、底上げされた防御力にモノを言わせて攻撃を受けきり、持ち前の大火力で敵を撃つ“固定砲台”の役割に徹するつもりでいるのだろう。

 

 

「相手が動かないのであればこちらは攻撃を当て放題、いくら防御力を上げても微量なダメージを積み重ねればいつかは倒せます!」

 

 

「気の長い話だね…」

 

 

北上は“めんどくせー”と言わんばかりの顔をすると、再び大和たちに攻撃を仕掛けようと魚雷を発射する。

 

 

「…やっぱりダメか」

 

 

やはりダメージは浅く、小破にするにはもう何発か当てる必要があるだろう。

 

 

「きゃあああぁっ!」

 

 

ここで大和の砲撃がアイオワに直撃、当たりどころが悪かったのか一撃で戦闘不能になった。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「嘘でしょ!?掠り傷はあったけど小破になってなかったよね!?」

 

 

続けて比叡、ウォースパイトの砲撃がヨークタウンと鳳翔に命中、鳳翔が戦闘不能、ヨークタウンが大破になる。

 

 

「そんな…」

 

 

「圧倒的過ぎる…」

 

 

あまりの戦力差に北上と大井が絶望的な表情で相手艦隊を見る、これが主戦力鎮守府のトップの実力なのだろうか…。

 

 

「まだまだ!最後の最後まで諦めないのが艦娘よ!」

 

 

ヨークタウンが大破の身体に鞭打って艦載機を発艦させる、幸い飛行甲板は生きていたが、大破になった影響で艤装の能力がダウンしており発艦できた艦載機の数は少ない。

 

 

ヨークタウンの艦載機は煌鶴と赤城に難なく撃墜され、そのまま空撃を食らって戦闘不能になる。

 

 

「そんな…」

 

 

「あとは私たちとまるゆさんだけ…」

 

 

「きゃあっ!」

 

 

しかし、妨害役のまるゆも煌鶴の航空対潜攻撃で戦闘不能にされ、残るは大井と北上のみとなった。

 

 

相手は空母が小破になっているが戦艦は全員小破未満(カスダメ)、こちらは4体が戦闘不能、誰がどう見ても室蘭の敗北は明らかだった。

 

 

「でもここで降参したら…」

 

 

「艦娘の名が泣きますよね!」

 

 

それでも試合を諦めていない2体は攻めに転じようと横須賀艦隊に接近を試みたが…

 

 

「なっ…!?」

 

 

「へっ…!?」

 

 

トドメを刺そうと大和たちが一斉砲撃を行い、その一撃一撃が即死級の砲弾がこれでもかというほど雷巡コンビに降り注ぐ。

 

 

「があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

「ぐああああああああああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

大和たちの放った砲弾は2体に何発も直撃する、当然このダメージに大井たちが耐えられるわけもなく戦闘不能になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着、優勝…横須賀鎮守府。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…戻りましょう」

 

 

大和たち横須賀艦隊は強化装甲(バルジ)で遅くなった身体を引きずるようにして演習場から立ち去っていく、優勝したにもかかわらずその顔はとても暗いものであった。

 

 

「いやぁ、よくやってくれたよお前たち」

 

 

艤装を解除して通路を歩いていると、向こう側から佐瀬辺が我が物顔で歩いてくるのが見える、その顔を見て大和たちは艤装を展開させて最大威力で砲撃をぶちかましてやりそうになったが、なんとか堪える。

 

 

「これで今年も大演習祭(バトルフェスタ)の優勝カップは俺の物だ、俺の司令官としての株も上がることだろう、これからも俺のためにしっかり働いてくれよ」

 

 

そう言い残すと佐瀬辺は笑いながら観客席の方へと歩いていく、結局は自分の事しか考えていない佐瀬辺に沸々と怒りを沸き上がらせる大和であったが、それと同時に()()()()を実行したときの佐瀬辺のリアクションが見れることにとてもわくわくしていた。

 

 

「提督がどんな顔をするか、想像しただけでニヤニヤが止まりません」

 

 

大和は不気味に口の端をつり上げると、再び通路を歩き始める。




次回「台場鎮守府VS特別艦隊」

お待たせしました、次回より台場の連中が登場です。


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第132話「大演習祭12」

ポケットモンスターサン・ムーンのとあるイベントの会話で「トレーナーだって使えないポケモンは勝手にパーティーから外してしまうでしょう?」というセリフがあるんですけど、まさかポケモンやっててこんな耳の痛いメタ発言を聞くことになるとは思わなかった。


今年の大演習祭(バトルフェスタ)優勝は横須賀鎮守府となり、これで4連覇になる、通常であればここで表彰式になるが、今回はその前に特別試合が行われる、そのアナウンスに他の鎮守府の艦娘や駐屯基地の司令官たちが何だ何だとざわつき出す。

 

 

「さてと、いよいよ俺たち台場鎮守府の出番だな」

 

 

「…なんか急に緊張してきました」

 

 

「…私も」

 

 

吹雪と暁が身体を強ばらせて弱々しく呟く、この試合の結果で自分の生死が決まるのだから無理もない。

 

 

「大丈夫だ、今日のためにみんな訓練を重ねて練度(レベル)も上げまくったんだろ?ならあとはそれを相手の艦隊に全てぶつけるだけだ、お前らなら勝てる、俺はそう信じてるぜ」

 

 

「司令官…」

 

 

「だからお前たち、全力でやってこい!」

 

 

海原からの全幅の信頼と期待が込められた言葉に吹雪たちは目頭を熱くさせる。

 

 

「了解しました!台場鎮守府第1艦隊Deep Sea Fleet…行って参ります!」

 

 

吹雪たち参加メンバーが一斉に敬礼をすると、海原もそれを返す。

 

 

 

 

 

今回の特別試合は通常の演習とは少し違うルールで行う、台場は通常のルール通り任意に選んだ6体の艦娘を参加させるが、相手艦隊は各鎮守府の提督が任意で選んだ艦娘1体…計6体で編成された艦隊となる、今回参加させるのは横須賀、佐世保、室蘭、舞鶴、呉、舞浜である。

 

 

「あいつら、意気揚々と行ったはいいけどやっぱ心配になるな…」

 

 

「司令官って意外と心配性なんですね、というよりは親馬鹿?」

 

 

「からかうな、心配なものは心配なんだよ」

 

 

雪風にちゃかされた海原は不機嫌そうに唇を尖らせる、それを見た雪風はペロリと舌を出して可愛く謝った。

 

 

「大丈夫ですよ、吹雪たちなら負けません!あの子たちの強さは私たちがよく知ってますから!」

 

 

 

すると後ろの座席に座っている瑞鶴が海原を励ます、いや、瑞鶴だけではない。

 

 

加賀、摩耶、ローマ、第六駆逐隊、川内、島風、金剛、etc.今まで台場鎮守府と関わってきた艦娘たちが一緒にDeep Sea Fleetを応援したいとやってきてくれたのだ、その光景を見た海原は涙が出そうなほど嬉しかった。

 

 

「さてと、それじゃお前の鎮守府の雑魚艦娘があっさりやられる所をのんびり見させてもらおうか」

 

 

そして、呼んでもいないのにいつの間にか佐瀬辺が海原の隣に座っていた、その佐瀬辺の態度に周りの艦娘たちが不快感を露わにしていたが、口には出さなかった。

 

 

「残念だが台場の艦娘はそう簡単には負けないぜ、お前らの精鋭を集めた艦隊だろうが余裕で倒してやる」

 

 

「ケッ!言ってろ、虚勢を張ったって負けるもんは負けるんだよ」

 

 

互いに最悪の空気を遠慮なく出していると、Deep Sea Fleetと特別艦隊が入場してくる。

 

 

○特別艦隊

・艦隊名:ユニゾンレイド

 

・戦艦:武蔵 Lv.156/横須賀鎮守府

・戦艦:神忌 Lv.99/佐世保鎮守府

・戦艦:陸奥 Lv.120/舞鶴鎮守府

・戦艦:ビスマルク Lv.115/室蘭鎮守府

・正規空母:グラーフ・ツェッペリン Lv.126/呉鎮守府

・正規空母:翔鶴 Lv.148/舞浜鎮守府

 

 

 

 

VS

 

 

 

○台場鎮守府

・艦隊名:Deep Sea Fleet

 

・駆逐艦:吹雪 Lv.189

・駆逐艦:暁 Lv.188

・駆逐艦:三日月 Lv.185

・駆逐艦:篝 Lv.180

・装甲空母:大鳳 Lv.170

・潜水母艦:大鯨 Lv159

 

 

 

「なっ…!?何だあの練度(レベル)は!?」

 

 

互いの練度(レベル)差に佐瀬辺は驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「別に不思議なことじゃないだろ?この前のケッコンカッコカリ艦娘限定の改装で上限が200まで上がったんだ、それはお前も知ってるはずだぞ?」

 

 

「そうじゃねぇ!あんな短期間であそこまで練度(レベル)を上げるなんて普通じゃねえって言ってんだよ!」

 

 

「それだけ俺たちがこの演習のために全力を注いできたって事だ、お前と一緒にすんじゃねぇ」

 

 

声に凄みを利かせて佐瀬辺に迫る海原を見て、佐瀬辺が一筋の冷や汗を流す。

 

 

「だ、だが相手は駆逐艦だ、あの装甲空母は多少厄介かもしれないが、我々ユニゾンレイドの相手じゃない!それに戦闘力皆無のゴミみたいな大鯨だって入ってるんだ、勝つのは俺たちだ!」

 

 

佐瀬辺は相変わらずの態度で返すが、今の佐瀬辺のある一言が海原の琴線に触れた。

 

 

「…じゃあテメェにひとつ言っておいてやるよ」

 

 

海原はドスの利いた声で佐瀬辺の胸ぐらを掴むと、顔を佐瀬辺に近づける。

 

 

「テメェがゴミだと言っている大鯨がどれだけお前らの艦隊を手こずらせるか、よぉく見ておくんだな」

 

 

鬼神の如き形相で迫られ、佐瀬辺は生唾を飲み込む。

 

 

「か、勝手に言ってやがれ!」

 

 

その空気に耐えられなかった佐瀬辺は海原の手を無理やり振りほどくと、その場から逃げるように立ち去る。

 

 

「…ふぅ、邪魔者もいなくなったことだし、ゆっくり試合を見ましょうか」

 

 

佐瀬辺がいなくなって心底すっきりとした様子で加賀がそう言うと、全員が頷いて演習場の方を見る。

 

 

 

 

 

 

一方こちらは演習場の艦娘たち、ユニゾンレイド旗艦(リーダー)の艦娘…大和型戦艦2番艦の武蔵は目の前の相手艦隊を見て肩を震わせていた、理由は“怒り”である。

 

 

「お前たち、来る場所を間違えていないか…?」

 

 

「いいえ、私たちDeep Sea Fleetがあなたたちユニゾンレイドの相手です」

 

 

「ふざけるなっ!」

 

 

吹雪の返答に武蔵が激昂する。

 

 

「私たちの相手がお前たちのような駆逐艦だと!?悪ふざけも大概にしろ!こっちは戦艦4体に正規空母が2体だ!敵うわけがない!」

 

 

このような大火力編成を組まれたからどんな艦娘が相手なのかと見てみれば、ほとんどが駆逐艦ではないか、この編成では相手にならない。

 

 

「それは実際に戦ってみれば分かることです、それとも…駆逐艦相手にビビってるんですか?」

 

 

吹雪の安い挑発を聞いて武蔵は完全にキレた、単純なやつだと吹雪は思う。

 

 

「いいだろう…!駆逐艦風情がこの武蔵にでかい口を叩いたこと、存分に後悔させてやる!」

 

 

武蔵は艤装を全力展開、開戦と同時に吹雪たちを潰す気で戦闘準備をする。

 

 

その一方で他の一部の艦娘たち…翔鶴と神忌は複雑な表情を浮かべていた、理由は目の前の暁と篝である、轟沈したハズの仲間が生きて目の前にいる、その状況にある種の感動すら覚えるが、相手は完全にこちらのことを“敵”として見ている、その現実に2体はそれぞれ胸を痛めた。

 

 

「そう言えば大鯨、自殺したと思っていたが生きていたんだな、自殺なんかしないでそのまま提督の性人形(ラブドール)になっていれば他の艦娘の役に立っただろうに、艦娘なのに戦えない穀潰しの癖して愚かなやつだ」

 

 

今の武蔵の発言で吹雪たちはユニゾンレイドを完全に“敵”と認識した、こいつらは絶対に潰す、そのつもりで艤装を展開させる。

 

 

「特別艦隊ユニゾンレイド、いざ参らん!」

 

 

「台場鎮守府第1艦隊Deep Sea Fleet、抜錨です!」

 

 

 

運命をかけた試合が始まる。

 

 

 

 

まずは翔鶴とグラーフが艦載機を発艦、それと同時に大鳳も艦上戦闘機を発艦させ、艦載機同士の戦い(ドッグファイト)に持ち込む。

 

 

「…グラーフさん、あの艦戦は何でしょうか?」

 

 

「さぁ…?私も見たことが無いな…」

 

 

翔鶴とグラーフが互いに首を傾げる、2体が発艦させた艦戦は“烈風改”、現在開発されている艦戦の中で最強と言われている烈風をさらに強化したモノで、つい最近になって登場した最新式の艦上戦闘機だ。

 

 

しかし大鳳が発艦させた艦戦は翔鶴もグラーフも見たことのない機体だった、それは観客席にいる他の空母艦娘も同じようで、皆首を傾げていた。

 

 

「おそらく相当古い機体だな、性能も低いだろうから恐れる必要はない」

 

 

そう言って安心するグラーフだが…

 

 

「えっ…?」

 

 

「嘘…だろ…!?」

 

 

その数十秒後、翔鶴とグラーフは目を剥く事になった、何せ正規空母2体の発艦させた大量の艦載機が、1体の装甲空母の艦戦によって9割が落とされてしまったのだから…。

 

 

「こっちは最強の烈風改を積んでるんだぞ!?それに発艦させた数もこちらが多い!」

 

 

「何なんですかあの艦戦は…!?」

 

 

2体がひたすら驚いていると、大鳳はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「これが私の“旧式”艦上戦闘機…“震電改”の実力です」

 

 

 




次回「最強の旧式」

イベントに向けて電探の開発に勤しんでいます(索敵値的な目的で)。


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第133話「大演習祭13」

キス島のレベリングと同時に西方海域の攻略も進めております、現在ステージ3のリランカ島空襲まで攻略済み。

今はステージ4のカスガダマ沖海戦を攻略中、ボスに装甲空母鬼がいて目が点に、いやいやいや!通常海域に鬼はダメだって!強すぎるって!


「震電改…そんな艦載機があったんですね」

 

 

観客席の瑞鶴が心底驚いたように言う、震電改は最初期に開発された艦上戦闘機だ、その性能は現在使われている烈風改を大幅に上回るものであったが、その分莫大な開発コストがかかるデメリットが大きくすぐに開発打ち切りとなった。

 

 

開発されていた期間がとても短かったので流通数も少なく、現在所持しているのは大鳳のみ、電子書庫(データベース)の装備品一覧からも抹消されているので今では幻の装備となっている。

 

 

「凄い…ユニゾンレイドの航空隊をこうもあっさり落とすなんて、やっぱり凄い艦載機なのね」

 

 

「艦載機だけでは無いわよ、それを操る大鳳の技量も相当なものだわ」

 

 

感嘆の声を漏らす瑞鶴に加賀が間に入る。

 

 

「いくら性能のいい艦載機でも、その性能を生かすも殺すも使い手の空母次第、大鳳は震電改の性能を熟知してそれを最大限に生かせるように戦っている、流石は最初期組と呼ばれる歴戦の空母ね、瑞鶴もよく見て学んでおきなさい」

 

 

加賀は食い入るように大鳳の戦いぶりを見る、それほど彼女の技量が優れているという事なのだろう。

 

 

瑞鶴もそれにならって大鳳を観察する、艦戦である震電改以外の艦載機を一切持っていないので空撃が出来ないということだが、その分艦戦を使った対空のみに全神経を集中させているようだ、攻撃機が無いというハンディをまるで感じさせない戦いぶりに瑞鶴も思わず息をのむ。

 

 

 

 

 

一方こちらは演習場、対空面は大鳳に完全に一任し、吹雪たちは砲雷撃戦に入る。

 

 

「みんな!行くわよ!」

 

 

吹雪のかけ声と共に暁、三日月、篝が主砲の射程圏内まで接近する。

 

 

「あははは!全員鏖殺(おうさつ)してやるわ!」

 

 

「暁さん、鏖殺(おうさつ)はかわいそうですよ、全員じわりじわりと(なぶ)り殺しにしてあげないと!」

 

 

暁と三日月が水を得た魚のようにハイテンションでユニゾンレイドに向かっていく。

 

 

「吹雪さん、あの2体の戦闘狂(バトルマニア)っぷりはどうにかならないのでしょうか」

 

 

「…そんな篝にいい言葉を教えてあげる、“手遅れ”だよ」

 

 

「あっ…」

 

 

それだけで全てを察したような表情になる篝、そんな吹雪たちの心労など全く知らない暁と三日月は狂気的な笑いを浮かべながら主砲を撃ちまくっている。

 

 

「よし、こっちも行こうか、大鯨!“アレ”よろしく!」

 

 

「了解です!」

 

 

吹雪と篝も砲雷撃に加わり、残った大鯨は後方で何もせずに待機している。

 

 

「さてと、動けない私にしか出来ないこの役割、しっかりと果たさないと…!」

 

 

大鯨は頬を叩いて渇を入れると、愛用の武器であるスナイパーライフルの準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そりゃそりゃそりゃ!」

 

暁が主砲を撃ちまくってユニゾンレイドに攻撃をする、動きがのろい戦艦が相手なので命中率は8割越えと中々の数字だが、ダメージはほとんど入っていない。

 

 

「どうした、その程度か?そんな砲撃痛くも痒くもないぞ!」

 

 

武蔵が悠然とした態度で言う、元から高い防御力に加え強化装甲(バルジ)まで装備している彼女の耐久値のゲージはミリ単位でしか減っていない。

 

 

そのほかの陸奥を含めた戦艦たちにも攻撃は当たっているが、武蔵同様効果的なダメージは与えられていない。

 

 

武蔵たちも対抗して砲撃を行っているが、駆逐艦の持ち前のスピードで全てかわされてしまう、ヒット&アウェイを持ち味とする駆逐艦の真骨頂がそこにあった。

 

 

「暁!10時の方向砲撃警戒!」

 

 

「了解!」

 

 

陸奥とビスマルクの砲撃を確認した吹雪が暁に警告、それに暁は素早く反応して回避行動を取る。

 

 

「くっ…!忌々しい駆逐艦共め、弱いくせに逃げ足だけは無駄に速いな…」

 

 

「その逃げ足にひたすら翻弄されているあなた達は見ていて滑稽(こっけい)ですけどね」

 

 

「ぐぬぬ…!雑魚のくせにデカい口を!」

 

 

吹雪の挑発に簡単に乗った武蔵は主砲で狙い撃ちするが、武蔵は先程の大和同様強化装甲(バルジ)を装着して固定砲台の役割に徹している、動かずに砲撃をしているので簡単に軌道を読まれてかわされてしまう。

 

 

「…っ!!そこだ!」

 

 

しかしそこは横須賀最強の一角、射程の軌道上に吹雪が入ったほんの一瞬を見逃さずに砲撃を放とうとする。

 

 

「うっ…!」

 

 

しかし、別の場所からの砲撃によって武蔵の砲撃は遮られてしまった。

 

 

「一体どこから…?」

 

 

武蔵が弾の飛んできた方を見ると、遙か後方で大鯨がスナイパーライフルでこちらを狙撃するのが見えた。

 

 

「ライフル銃だと…!?穀潰しの雑魚が味な真似を…!」

 

 

ダメージはほとんど入っていなかったが、イライラが急上昇した武蔵は大鯨に向けて照準を合わせる。

 

 

「がっ…!!」

 

 

しかし、後方からの雷撃でそれもキャンセルさせられてしまった。

 

 

「つれないですね~、あなたの相手は私たちですよ?よそ見なんて寂しい事しないで下さいよ~」

 

 

武蔵が振り返ると、吹雪が魚雷をダーツのように持って構えている吹雪の姿があった。

 

 

「こんの…!クソ虫共がああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

完全に頭に血が上った武蔵は独楽鼠(こまねずみ)のように動き回るDeep Sea Fleetに向けて砲撃を仕掛けるが、ことごとくかわされてしまう、気持ちいいくらいに敵のヒット&アウェイが成功しているので武蔵のイライラはさらに加速する。

 

 

「落ち着きなさいよ武蔵!そんなに撃ったらすぐに弾が無くなるわよ!」

 

 

それを見かねたビスマルクが武蔵の肩を掴んで止めに入る。

 

 

「む…確かにそうだな、落ち着かなくては…」

 

 

武蔵は気持ちを落ち着けるために一度深呼吸をする、すると、ここで武蔵はある事に気付く。

 

 

「…あいつら、さっきからずっと主砲を撃ちっぱなしだが、なぜ弾切れを起こさないんだ?」

 

 

「言われてみれば確かにそうね、あれだけ絶えず撃ってたらそろそろ切れてもおかしくないのに…」

 

 

ビスマルクもDeep Sea Fleetの行動を不審に思う、あれだけ後先考えずに撃ちまくっていたらあっと言う間に弾切れを起こすだろう、艦隊戦では“いかに弾を切らさないように節約しつつ敵を倒すか”が最も重要な戦闘テクニックとなる、弾が切れれば艦娘は敵に対して為す術が無くなってしまうからだ、つまり戦闘中の弾切れはそのまま艦娘の死に直結する。

 

 

それなのに惜しみなく弾丸を使っているDeep Sea Fleetは何を考えているのだろうか?

 

 

「弾が無くならない魔法の艤装を使っているワケじゃあるまいし…」

 

 

武蔵がそんなバカみたいな考えを口にしたとき…

 

 

「ご名答、その通りですよ」

 

 

それを聞いていた吹雪がそれに割り込んでくる。

 

 

「私たちDeep Sea Fleetが使っている主砲は、使っても永遠に弾が無くならない特別な艤装を使ってるんです、だから弾切れなんて気にしなくてもいいんですよ」

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

吹雪の驚くべき発言に、武蔵たちは目を剥いて驚いていた。

 

 

 




次回「無限の弾丸(インフィニティ・バレット)

ちなみに吹雪は主砲を無くしているので雷撃のみで参加しています。


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第134話「大演習祭14」

遅ればせながら映画「君の名は。」を見てきました、中盤以降の展開にただただ驚きです。

戦闘中…というか出撃中の補給はゲーム内でも実現しないかな~と考えております。


無限の弾丸(インフィニティ・バレット)?」

 

 

「あぁ、事前にあいつらに言っておいたんだよ、向こうが弾切れを起こさない事に不審がったら“弾切れを起こさない魔法の艤装だ”ってハッタリをかましとけってな」

 

 

「そううまく行くの?魔法の艤装って言ったって、ただ後ろで大鯨さんがこっそり補給してるだけじゃん、すぐにバレると思うよ」

 

 

島風がもっともなつっこみをする、そう、“弾切れを起こさない魔法の艤装”の正体は、弾が切れそうになったら大鯨に弾丸を補給してもらう…という至極単純なトリックである、魔法でも何でもないただの“戦闘中の補給”だ。

 

 

潜水母艦である大鯨は簡易的ではあるが資材物資などの保管庫を艤装に有している、それを利用して戦闘中の補給を行うという作戦を思いついたのだ。

 

 

 

「それならあいつらはそんなトリックにすら気付けないバカだってことだ、現に大鯨が狙われてない事を考えると、まだユニゾンレイドは気付いてないだろう」

 

「というか普通は戦闘中に補給してるなんて考えないよね、弾切れを起こさないように節約しながら戦うのがセオリーなのに、弾切れを起こすのを前提に補給役を置いておくなんて意表を突くのもいいとこだよ」

 

 

「本当に台場の作戦は予想の斜め上をいくよね、恐れ入るよ」

 

 

瑞鶴と川内が口々にそんな事を言う。

 

 

「こっちは雷撃処分がかかってるからな、使える手段は何でも使うさ、策は多くて多すぎる事はない」

 

 

海原はそう言って吹雪たちの方を見る、あの様子だと本当にバレてはいないだろう。

 

 

「でも、試合開始からそこそこ経つのにこんなトリックも見破れないなんて、ユニゾンレイドも大したことないのね」

 

 

ローマが半ば呆れ気味に言うが、ユニゾンレイドに限らず現場の選手の視野は観客が思っているよりも狭いものである。

 

 

例えばスポーツ中継などを見ているとき、ミスをした選手に対して“ここはこうすれば良かったのに”、“何でここでこんな凡ミスをするんだ”、などといったつっこみをした経験はないだろうか。

 

 

たとえそのつっこみの内容が正しかったとしても、それは競技場全体を上から広々と見渡せ、プレイなどせずにのんびりと状況を考えられる“中継映像”だからこそ出来る事だ。

 

 

しかし実際に現場でプレイしている選手は競技場を上から見渡すことなど出来ないし、刻一刻と変化している状況に対してのんびりと考えるような余裕もない、よって選手は観客が思っているような“最適解”のプレイを必ずする事は出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれは現場で試合をしている武蔵たちにも当てはまる、目の前をちょこまかと動き回っている吹雪たちを狙って攻撃していれば後方で補給をしている大鯨は視界に入りにくい。

 

 

「なぜだ…!なぜ弾切れを起こさないのだ!?」

 

 

武蔵は焦りにも似た感情を抱きながら吹雪たちを攻撃していた、相変わらずこちらの攻撃は全てかわされてしまい、吹雪たちから一方的に攻撃され続けている。

 

 

Deep Sea Fleetからの攻撃によるダメージはこの際無視してもいいと武蔵たちは思っていた、所詮は駆逐艦の貧弱な攻撃力、自分たちがやられるなんて事は絶対にありえないからだ。

 

 

だが問題はあの弾が尽きない魔法の艤装だ、相手が弾切れを起こさないのであれば間違いなく長期戦になるだろう、そうなればこちらの弾丸が尽きるのも時間の問題である。

 

 

「…ん?」

 

 

そこからさらに時間が経ち、どうしたものかと武蔵が打開策を考えていたとき、“それ“は武蔵の視界に映った。

 

 

「なっ…!?あれは…!?」

 

 

大鯨が三日月の弾丸と燃料を素早く補給しているのを見た、見てしまった。

 

 

「ははっ…」

 

 

それを見た瞬間、武蔵はこみ上げてくる笑いをこらえることが出来なかった、魔法の艤装だの何だの言っていたが、タネが割れてしまえば何て事のない話だったのだ。

 

 

「あっはっはっはっはっは!」

 

 

武蔵は声をあげて高らかに笑う、突然笑い出したので僚艦がびっくりした様子で武蔵を見るが、かまわず笑い続ける。

 

 

戦闘中の資材補給、こんな簡単なトリックに気付かずに魔法の艤装とかいう吹雪のハッタリに騙されていた、そんな自分の愚かさがおかしくてたまらない。

 

 

「なるほどな!大鯨に弾丸を補給させて弾切れを起こさないようにしていたとは、台場も中々ナメた真似をしてくれる!」

 

 

「やばっ!バレた!」

 

 

「全艦大鯨に向けて一斉攻撃!奴らの補給ルートを寸断しろ!」

 

 

武蔵の号令で戦艦と空母が一斉に大鯨を狙って攻撃を開始する。

 

 

「ふっ…!ほっ…!やっ…!」

 

 

その攻撃を大鯨はほとんど身体を動かすことなくかわしていく、激しい動きが出来ない大鯨は“必要最小限の動きで攻撃を避ける”事に特化した訓練を行っている、今では砲撃一発なら軽く身体を捻る程度でかわす事が出来るほどだ。

 

 

「きゃああぁっ!」

 

 

しかし翔鶴とグラーフの空撃が大鯨に直撃、一撃で戦闘不能になってしまった。

 

 

「よし!これで奴らは補給が出来なくなった!このままガス欠になるまで追い込めば我々の勝ちだ!」

 

すでに勝った気になって高笑いしている武蔵だが、吹雪たちDeep Sea Fleetは少しも動じていない。

 

 

「すみません、もっと時間を稼げれば良かったんですけど…」

 

 

「何言ってるの、十分だよ、後は私たちに任せて」

 

 

大鯨は申し訳無さそうに舞台袖に下がっていく。

 

「Deep Sea Fleetよ、大鯨という補給兵を失った今、お前たちに長期戦は無理だ、降参するならこの試合を穏便に終わらせてやるぞ?」

 

 

武蔵はそうドヤ顔で言うが、それに対する吹雪の答えは決まっている。

 

 

「そっちこそ、そのダメージで試合を続けて後半保つんですか?」

 

 

「は?お前一体何を…」

 

 

言っているんだ、と口にしながら武蔵は電光掲示板を見やる。

 

 

「何!?」

 

 

電光掲示板に表示されている耐久値の情報を見て武蔵は目を剥いた、武蔵は中破寸前の小破、ほかの艦娘たちは全員中破になっていたのだ。

 

 

「どういうことだ!?駆逐艦の攻撃で戦艦を中破にするなんて…!」

 

 

「確かに私たち駆逐艦の攻撃力では戦艦に微々たるダメージしか与えられません、でもノーダメージで済むわけじゃない、いくら駆逐艦の微量なダメージでも何十何百も食らえばトータルの数字は莫大なものになります」

 

 

驚いている武蔵を無視して吹雪は得意げに語る、いくら戦艦の防御力が高くても攻撃に対するダメージをゼロにすることは出来ない、身体に傷やダメージは無くてもその身体を加護している艤装はダメージを受けるからだ。

 

 

「だ、だがすでに大鯨は戦闘不能だ!お前たちの残弾数でこの艦隊の耐久値を削りきることは不可能だぞ!」

 

 

武蔵の言うとおり、Deep Sea Fleetがユニゾンレイドの耐久値をここまで削れたのは大鯨による途中補給のおかげだ、それが断たれた今、Deep Sea Fleetがユニゾンレイドに勝つことは不可能に近いだろう。

 

 

「確かに砲雷撃戦でユニゾンレイドに勝つことは無理ですね」

 

 

吹雪は砲雷撃戦での勝利は不可能だと認めた、そう、()()()()()()

 

 

「でも、いつ私たちのバトルスタイルが砲雷撃戦だと言いました?」

 

 

「…どういうことだ?お前は何を言っている?」

 

 

吹雪の言っていることが理解できずに武蔵は首を傾げる。

 

 

「つまりこういう事ですよ、総員、()()()()()!」

 

 

「「了解!!!」」

 

 

吹雪の号令と同時にDeep Sea Fleetが深海棲器を取りだす。

 

 

「なん…だと…!?」

 

 

近接兵装を構えるDeep Sea Fleetを見て、武蔵は今度こそ言葉を失った。

 

 

 




次回「白兵戦」

リベッチオがカレー洋リカンカ沖(4-5)でドロップするようになったみたいなんですが、カスガダマクリアしてないのであまり関係ない話でした。


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第135話「大演習祭15」

カスガダマ沖海戦の攻略を引き続き行っています、ボスドロップで阿武隈(2体目)手に入れました。

以前はジャム島のドロップでゲットしたんですけど、金背景のわりに結構出てくる阿武隈さん。


 

「何だあれは!?」

 

 

「艦娘が近接兵装だと…!?」

 

 

深海棲器を構える吹雪たちを見て周りの提督や艦娘連中が次々と驚きの声をあげる。

 

 

「やっぱり第一印象は同じなのね」

 

 

「私たちはもう見慣れてるけど、初見だとこうなるわよ」

 

 

加賀とローマが周りを見てそれぞれ言う。

 

 

「というか、始めから白兵戦で戦えばよかったんじゃないですか?吹雪たちはそっちの方が得意でしょう?」

 

 

「別にそれでもよかったんだが、白兵戦は相手に接近する必要があるから相手の身体能力が高いとかわされたりカウンターもらったりするんだよ、だから砲雷撃戦であらかじめ艤装の耐久値を削って性能ダウンと艦娘の体力消耗を狙ったんだ」

 

 

「てことは、さっきまでの砲雷撃戦は相手を疲れさせて弱らせるために…?」

 

 

「いくら腕っ節が強い喧嘩番長でも、徹夜明けでフラフラの状態じゃまともに戦えないだろ?」

 

 

得意げに語る海原を見て瑞鶴は改めて思う、“台場は強い”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員、突撃!」

 

 

吹雪の号令と共に暁、三日月、篝が吹雪の後に続いて突撃する、大鳳は引き続き航空戦での防空に回ってもらっている。

 

 

「怯むな!相手が近付いているなら当てやすくなっただけのこと!撃て!撃てえええぇ!」

 

 

武蔵たちは砲撃を再開、即死級の弾丸が吹雪たちに向かって飛んでいく、すでに武蔵たちにかなり接近しているのでかわすのはほぼ不可能だろう。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

しかし、砲弾切りをマスターしているDeep Sea Fleetには無駄な心配である。

 

 

「何だと!?」

 

 

武蔵は目を剥いて脳が一瞬フリーズする、近接兵装だけでも驚きなのにそれを使って砲弾を切り裂く光景を見ればフリーズもするだろう。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で武蔵に右ストレートをお見舞いする、武蔵は腕をクロスさせてそれを防ぐが…

 

 

(重い…!!)

 

 

想像以上に身体にかかる衝撃が大きく武蔵は冷や汗をかく、ちらりと電光掲示板を見ると砲撃よりも耐久値が多く減っている。

 

 

「なるほど、これが台場の隠し玉というワケか…」

 

 

膠着状態になりながら武蔵は憎々しげに呟く、吹雪はこの状態では有効なダメージは与えられないと判断したのか、左手でナギナタを持つと武蔵の腹を横一線に斬りつける。

 

 

「くっ…!」

 

 

艤装の加護で傷はつかなかったが、鋭い痛みが武蔵を襲う、耐久値もそれなりの量を持って行かれ、中破の判定が下る。

 

 

一方暁と三日月は航空戦力を削ぐために翔鶴とグラーフを相手取っていた、空母は相手に接近されると対抗手段が無いため、かなりの苦戦を強いられていた。

 

 

「くたばれえええぇ!」

 

 

暁が棘棍棒(メイス)を翔鶴目掛けて振りかぶる、翔鶴はそれを飛行甲板で防御。

 

 

月下夜攻(ゲッカヤコウ)!」

 

 

その隙を狙って三日月が星球鎚矛(モーニングスター)で翔鶴の空いた脇腹を殴打、肉を抉るかのような衝撃が翔鶴を襲う。

 

 

「ぐほぉっ!」

 

 

翔鶴は激しい吐き気と激痛に襲われ、そのまま脇腹を抑えて片膝をついてしまう、すでにダメージは大破になっていた。

 

 

「申し訳ないですけど、ここで死んでくださいね、勝つためなんです」

 

 

三日月は屈託のない笑顔でそう告げると、無慈悲に槍斧(ハルバード)を翔鶴に振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴、戦闘不能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔鶴!」

 

 

グラーフは翔鶴の方を見るが、すでに戦闘不能になり舞台袖に引っ込んでいた。

 

 

「くたばったお仲間の心配をしてる場合かしら?」

 

 

すると暁がバスターソードを肩に担いで立ちふさがっていた、ちなみにこのバスターソードは今回の大演習祭(バトルフェスタ)に向けて明石がこしらえたモノだ。

 

 

「出来ればこのバスターソードの初陣は演習じゃなくて実戦の方が良かったんだけどね、あぁ~、早くこれで敵の首を跳ねて肉をズタズタに切り裂く感触を味わいたいわぁ‥」

 

 

うっとりとした表情で刀身を舐め回す暁を見てグラーフは身震いする、この艦娘は狂っているんじゃないだろうか、そう思わずにはいられなかった。

 

 

「艤装の加護があるから斬れたりはしないと思うけど、骨折くらいは覚悟しておいてよ…ね!」

 

 

暁は猛スピードでグラーフに接近すると、バスターソードをグラーフの首もと目掛けて振り下ろす。

 

 

グラーフはそれを間一髪で避けると、巡洋艦の副砲で暁を砲撃する、しかし暁はその弾丸をバスターソードで軽々切り裂き防御、その様子にグラーフは目を剥くが暁は取り合わず果敢に攻撃を仕掛ける。

 

 

「調子に…乗るな!」

 

 

グラーフは暁の剣をかわしていくと再び副砲を発射、今度は暁の身体に直撃し、甲高い金属音と共に後ろにずり下がる、耐久値はほとんど減っておらず小破未満(カスダメ)だ。

 

 

「…殺す、絶対ぶっ殺す」

 

 

今の攻撃にイラついたのか、暁は狂気的な笑みを浮かべると再びグラーフに向かって突進する、グラーフは副砲を構えて砲撃準備をするが…

 

 

「うぐぅ…!」

 

 

三日月の投げた戦輪(チャクラム)がグラーフに命中、砲撃を妨害する。

 

 

「行くわよ三日月さん!」

 

 

「はい!暁さん!」

 

 

グラーフが怯んでいる隙に暁と三日月は互いに剣を構え…

 

 

「「暁月(アカツキ)太刀(タチ)!!!!」」

 

 

暁はバスターソード、三日月は騎兵軍刀(サーベル)での2体同時攻撃をグラーフに食らわせる。

 

 

「ぐわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

グラーフ・ツェッペリン、戦闘不能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだ…!?この艦隊は…!!」

 

 

この短時間で2体も戦闘不能になっている状況に、武蔵の思考は段々と追い付かなくなっていく。




次回「一撃必殺」

いつも通りの台場艦隊ですね(白目

グラーフの砲撃シーンですが、空母にも副砲を装備できるのでグラーフには副砲も搭載しております、ちなみに空母に副砲乗せられるの最近になって気付きました。


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第136話「大演習祭16」

カスガダマ沖海戦ですが、大破撤退が続いております。

一歩目のル級flagshipの攻撃で蒼龍が大破で撤退、ほぼダメージなしで来たのに三歩目のヲ級flagshipの空撃で三日月が大破し撤退…など。

特に蒼龍は一度大破になると鋼材が三桁吹き飛ぶので勘弁願いたい所。


「まさか正規空母を2体も戦闘不能にするなんてね、それも白兵戦で、あなたたちを少し見くびってたわ」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいのですよ」

 

 

翔鶴とグラーフが戦闘不能になり、篝と戦っていた陸奥は若干の焦りを感じていた、こちらの航空戦力が全滅してしまったのはかなりの痛手だ、対して台場の装甲空母は未だ健在、先程から艦戦しか発艦させていないのを見ると攻撃機は積んでいないようだが、それだけで攻撃機が無いと決めつけるのは早い。

 

 

「…あの装甲空母も早いうちに倒した方がいいわね」

 

「行かせると思いますか?大鳳さんを倒すなら、先に私の相手を頼むのですよ」

 

 

早々にターゲットを大鳳に切り替えようと思ったが、目の前では篝が行く手を阻んでいる。

 

 

「悪いけど、さっさと倒させてもらうわよ!」

 

 

「こちらもさっさと倒れるつもりはありません!」

 

 

陸奥は篝に主砲を向けて容赦ない一撃を撃ち出す、しかし篝は駆逐艦の持ち味であるスピードを生かしてかわす、そしてクレイモアを取り出すと一直線に突進してきた。

 

 

「やば…!」

 

 

陸奥は慌てて次砲を撃とうとするが、今撃った砲撃の反動がまだ残っているので無理だった、戦艦の砲撃は威力こそ高いものの撃ったときの反動が大きいので連射が出来ない、駆逐艦の主砲をピストルとするなら戦艦の主砲はバズーカだ、反動が大きい分外した時の隙も大きい。

 

 

陸奥はあっという間に距離を詰められ、クレイモアによる袈裟斬りを食らう。

 

 

「くっ…!」

 

 

鋭い痛みとともに陸奥の耐久値が大きく減る、そのダメージは駆逐艦の主砲を大きく上回るものであった。

 

 

続けて攻撃を行おうとした篝だが、反動から解放された陸奥が篝に砲口を向ける。

 

 

篝は一瞬面食らった顔をしたが、すぐに現状打破のために行動に移った、パイルバンカーの深海棲器…フレイム・スピアーを左腕に装着すると、スパイクを砲身に対して斜めに当たるように射出する。

 

 

「っ!?」

 

 

ものすごい勢いでスパイクをぶつけられた砲身は篝への軌道からズレる。

 

 

その瞬間砲撃が行われるが、弾丸は篝を掠めて何もない方向へと飛んでいく、おまけに篝自身も砲身を撃った反動で勢い良く後ろに移動し、緊急回避も同時にやってのけた。

 

 

「なんて戦法…!」

 

 

陸奥が目を丸くして驚く、あの一瞬でこんな方法を思いつくなんて、まるで鍛えられた戦士のようだ。

 

 

しかし篝はただかわすだけでは終わらなかった、右手に鎖鎌を持つとそれを陸奥に飛ばして胴体に巻き付ける、鎌の部分は取り外しているので攻撃力は無いに等しい状態だが、篝の目的は別にあった。

 

 

「何これ…!?」

 

 

いきなり鎖を巻かれた陸奥は当然困惑するが、篝はそれを無視して鎖を手繰り寄せて陸奥に接近、身体が密着しそうなほど近付いた。

 

 

(何をするつもりなの!?)

 

 

引き離したいが鎖で繋がれているので無理、砲撃しようにも砲身よりも手前にいるので無理、出来たとしてもこう距離が近くては自分も巻き添えでダメージを受けてしまう。

 

 

篝はフレイム・スピアーの発熱装置を起動させ、温度をMAXの1000℃まで上げる、以前は上限が700℃だったが、明石に改良してもらったのだ。

 

 

超高熱になったフレイム・スピアーを陸奥に向けると、その鳩尾に向けて容赦なく撃ち出す。

 

 

「がぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

陸奥の身体に灼熱のスパイクが超高速で突き刺さり、陸奥の肋骨が粉々になる、しかも鎖で繋がれているので吹き飛ぶこともなく、その場でスパイクが骨を砕き肌を焼き続けながら陸奥の耐久値をガリガリ削っていく。

 

 

「あ……!が……!?ぎ……!!」

 

 

艤装の加護のおかげで身体を貫く事は無かったが、徐々に加護がスパイクのダメージに耐えられなくなってきており、陸奥の皮膚が焼け爛れはじめる。

 

 

その時、陸奥の戦闘不能を警告するアラートが艤装から鳴り響く、それを聞いた篝はフレイム・スピアーを陸奥から離して鎖を解くと、そのまま腹を蹴飛ばして仰向けに倒す。

 

 

陸奥の肋骨はほとんどが粉々になって肺や内臓に食い込んでいた、幸い心臓は傷ついていなかったが、胸には目に見える程のへこみが出来上がっている、皮膚は火傷で爛れ一部が壊死していた。

 

 

「…ば………け……も…………の」

 

 

まともに呼吸も出来ない陸奥がようやく口にしたのは、その4文字だった。

 

 

「…ごめんなさい、本当はこんな残酷な事はしたくないんです」

 

 

篝は陸奥のもとへ駆け寄ると優しく語りかけるように言う。

 

 

「でも、この試合に負けると私たちは雷撃処分で殺されてしまうんです、だからどんな手を使ってでも勝たなくてはいけない、分かってください…」

 

 

篝の言葉を聞いた陸奥は何かを言おうとしたが、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正規空母を倒した暁と三日月が次に標的にしたのはビスマルクと神忌だ、この調子で相手の戦力を封じていこうと考えていた暁たちだったが…

 

 

「魚雷発射!」

 

ビスマルクが魚雷を扇状に発射、ビスマルクが雷撃可能な戦艦だという事を忘れていたので暁と三日月は慌てて主砲で魚雷を狙い撃ち、当たる前に誘爆させる。

 

 

爆発と同時に水柱が上がるが、暁たちはそれを無視して突っ切る。

 

 

「かかったわね」

 

 

するとそこには、主砲をこちらに向けて構えているビスマルクと神忌の姿があった。

 

 

刹那、凄まじい衝撃が2体を襲い、暁たちは勢い良く後ろに飛んでいく。

 

 

「調子に乗ったツケよ、たっぷりと身体で味わいなさい」

 

 

ビスマルクと神忌はこれでもかと言うほどのドヤ顔で暁たちの耐久値を見るが…

 

 

 

「えっ…!?」

 

 

「嘘…!?」

 

 

暁と三日月の耐久値は、戦闘不能になるギリギリ寸前の所で持ちこたえていた。

 

 

「痛たたたた…やっぱり戦艦の砲撃は効くわね、三日月さん、大丈夫?」

 

 

「はい、左肩の骨が砕けた程度で済みました、暁さんこそ大丈夫なんですか?」

 

 

「当たり前じゃない、右腕の骨が折れたくらいよ」

 

 

おおよそ軽傷とは思えない内容の会話をしながら暁たちはフラフラと立ち上がる。

 

 

「何で戦艦の砲撃を食らって耐えられるのよ…!」

 

 

 

「っ!!それは…!?」

 

 

ビスマルクは目を剥いて驚いていたが、神忌が暁たちの服を見てその理由に気付いた、2体の着ていた服は砲撃により焼け落ちてしまったのだが、その服の下には深海棲艦のような黒色の甲冑のようなモノを着ていたのだ。

 

 

「深海棲器“防御装甲(プロテクトアーマー)”、明石さんの深海棲器製造技術を結集させた特注品の鎧のおかげよ…!」

 

 

そう言いながら口の端から血を流してニタリと嗤う暁たちに、ビスマルクと神忌はただただ戦慄していた。




次回「狂イ乱レル乙女」

台場が押してますが、そう長くは続きません。


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第137話「大演習祭17」

戦艦が増えてきて戦力が拡大してきました、現在金剛、比叡、霧島、扶桑、山城、伊勢、陸奥の7体がいます、建造運がないので全てドロップでお迎えしました。


ビスマルクと神忌は目の前の駆逐艦2体を前に震えが止まらなかった、片方は左肩を粉砕骨折、もう片方は右腕を骨折しているというのに楽しそうに笑いながらこちらを見ている。

 

 

「何なのよあの駆逐艦は!?あんな怪我でニタニタ笑ってられるなんて、おかしいんじゃないの!?」

 

 

「そうかしら?これくらいの怪我、エリザベートに内臓と肋骨潰された時に比べたらまだマシな方よ」

 

 

「そうですね、室蘭時代に脇腹に風穴開けられた時に比べれば全然たいしたこと無いですよ」

 

 

2体は動く方の腕でそれぞれ深海棲器を構える、確かに軽くはない怪我だが、これよりもひどい重傷を何度も負っているのでこれくらいの痛みは耐えられる、これまでの経験や戦いが暁と三日月の精神と肉体を鍛えていた。

 

 

「行きますよ暁さん!」

 

 

「オーケイ三日月さん!」

 

 

暁と三日月が猛スピードでビスマルクたちに突進する、大破になっているので機動力を含め艤装の性能がダウンしてしまっているが、少し機動力が落ちたくらいでは混血艦(ハーフ)のスピードは殺せない。

 

 

ビスマルクと神忌が砲撃を行うが、暁と三日月はそれぞれバスターソードと騎兵軍刀(サーベル)で弾丸を切り裂いていく。

 

「何なのよあのスキル!チートもいいところでしょ!」

 

 

「なら、これでどう!?」

 

 

ビスマルクは再び雷撃を行う、魚雷の残りは少ないので節約したい所だったが、この際仕方ない。

 

 

「回避行動!」

 

 

「そりゃっ!」

 

 

しかし暁たちはそれをジャンプで軽々とかわしてしまった。

 

 

「はあ!?」

 

 

「ジャンプ!?」

 

 

「さっきは面食らって誘爆回避にしたけど、軽量級の駆逐艦はこんな事だって出来るのよ!」

 

 

そのままビスマルクたちに肉薄した暁と三日月は棘棍棒(メイス)星球鎚矛(モーニングスター)で思い切り殴りつける。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

「調子に…乗るなぁ!」

 

 

ビスマルクと神忌が超至近距離からの砲撃を行うが、暁たちはそれを紙一重のタイミングでかわし、剣による素早い斬撃で斬りつける。

 

 

そこから先は棘棍棒(メイス)星球鎚矛(モーニングスター)によるリンチが繰り広げられた、ビスマルクたちの砲撃の反動が収まっていないのでやりたい放題である。

 

 

 

「あははははははははは!!!死ね死ね死ね死ねえぇ!二度と海の上に立てないようにしてやるわ!」

 

 

「2体仲良く手足潰してダルマにしてあげますからねぇ!きゃははははははは!!!!」

 

 

 

狂ったように叫び嗤いながら深海棲器を打ち付けている暁たちの姿は残虐な悪魔のようでもあり 、汚れのない無垢で欲望に素直な天使のようでもあった。

 

 

 

ビスマルクと神忌は戦闘不能寸前の大破になり、そのまま倒れてしまった。

 

 

「気絶したみたいね、さっさとトドメをさしちゃいましょ」

 

 

「そうですね、サクッと始末しましょう」

 

 

暁と三日月が深海棲器を振り下ろそうとした時…

 

 

 

「残念でした」

 

 

「戦艦がそう簡単に気絶すると思う?」

 

 

気絶したフリをしていた戦艦2体が暁たちに主砲を向け、無慈悲に砲撃を行う。

 

 

「ーっ!!」

 

 

「ーっ!?」

 

 

零距離で砲撃を受けた暁たちは勢い良く後ろに吹き飛び、衝撃に耐えられなかった防御装甲(プロテクトアーマー)の破片があちらこちらにまき散らされる。

 

 

「あちゃー、ちょっとやりすぎちゃったかな」

 

 

「別にいいんじゃない?調子に乗ったツケよ」

 

 

暁は折れた腕の骨が皮膚を突き破って飛び出ており、三日月に至っては左肩の皮膚が裂けて腕そのものがとれかかっている、気絶したのかピクリとも動かない。

 

 

当然2体は戦闘不能になり、戦線離脱を余儀なくされる。

 

 

台場の主力艦娘を2体も削ったビスマルクたちだが、こちらのダメージも決して軽くはない、深海棲器によるリンチで出血を伴う傷があちこちに出来ており、骨にヒビが入っている所も少なくなかった。

 

 

「さてと、それじゃあ次はあっちを潰してきますか」

 

 

そう言って神忌は武蔵と交戦を続けている吹雪を見る、武蔵の方は少しずつダメージを蓄積させているが、大和型の持ち味である高い防御力と強化装甲(バルジ)の効果で致命傷に至るダメージは受けていない、対して吹雪は未だノーダメージだ。

 

 

ちなみに篝は武蔵の砲撃で戦闘不能になっていた、防御装甲(プロテクトアーマー)を装着しているにも関わらず一撃で耐久値を削りきるのは流石大和型と言ったところか。

 

 

「残念ですが、あなたたちはここでリタイアです」

 

 

吹雪を仕留めに行こうとしたまさにその時、後ろから何者かの声が聞こえ、ビスマルクたちは驚いたように後ろを振り向いた。

 

 

「きゃあぁっ!」

 

 

「うぐっ…!」

 

 

刹那、砲撃にも似た衝撃が2体を襲い、そのままビスマルクと神忌は尻餅をついて倒れた。

 

 

「私は空母なので駆逐艦の皆さんのようなスピードはありません、なので相手の懐に素早く潜り込む白兵戦はあまり得意ではありませんが、狙撃なら誰にも負けない自信があるんですよ?」

 

 

そう言うと攻撃の主…大鳳は炸薬仕込みの矢を装填させたボウガンをこちらに向け、ためらいなくその引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

ビスマルク、神忌―戦闘不能。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にしぶといやつだな、さっさと倒れればいいものを」

 

 

「こっちにも負けられない理由がありますからね、それまではどこまでもしぶとくいかせてもらいますよ」

 

 

だんだんと疲労が蓄積してきた武蔵がウザそうに言うが、それに対して吹雪は軽口で返す。

 

 

「なら、私も少し力を出させてもらおう!」

 

 

そう言うと武蔵は自分の左右両脇に副砲を顕現させる。

 

 

「副砲!?」

 

 

「副砲を積んでいる艦娘はそう多くはないが、私は別だぞ!」

 

 

武蔵は主砲と副砲を交互に撃ちながら吹雪を仕留めにかかる、吹雪は弾丸斬りを使って接触をはかろうとするが、副砲を出したために攻撃範囲と頻度が広がり、安易に近づけない状況に立たされてしまった。

 

 

それでも何とか武蔵に接近する事に成功し、渾身の右ストレートをお見舞いしてやる。

 

 

「どうした?利かぬぞ」

 

 

ダメージこそ砲撃戦のときより増しているが、未だ武蔵は中破のままだ。

 

 

「くたばれ!」

 

 

再度攻撃を加えようと体勢を立て直すが、それよりも早く武蔵が装填を終えた主砲をこちらに向ける。

 

 

(やば…!)

 

 

武蔵の正面にいた吹雪は慌てて回避行動を取り、武蔵の背後に回ろうと左に旋回する。

 

 

「かかったな」

 

 

しかしその吹雪が避けた先には、先ほど展開させた副砲が吹雪を喰い殺さんと待ち構えていた。

 

 

(しまった…!)

 

 

はめられたと吹雪が気付いたときには既に遅く、武蔵の副砲による砲撃が容赦なく吹雪を襲う。

 

 

「ぐがっ…!」

 

 

弾丸は吹雪の顔面に直撃し、そのまま海面を10バウンドしながら吹き飛ばされた。

 

 

「あっ…!ぐっ…!」

 

 

吹雪は仰向けに倒れた状態で何とか立ち上がろうとするが、当たりどころが悪かったのか身体から力が抜けていき、だんだんと意識が遠のいてしまう。

 

 

(ダメだ…!何とか立ち上がらないと、ここで負けたらみんなが、司令官の守りたかったモノが無くなってしまう…!)

 

 

 

吹雪はなんとか立ち上がろうと泥沼の中をもがくように手足を動かそうとするが、そのまま吹雪は意識を手放してしまった。




次回「リーザ」

最近は正規空母の数を増やしたいです、未だに赤城と蒼龍だけというのは寂しい。


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第138話「大演習祭18」

今回の話はいつも以上にご都合主義が強くなっていますので、少し描写や設定がおかしな事になっているかもしれませんが許してください。

イベントに彩雲が二つ以上必要だと運営Twitterに書いてあったのですが、ゲーム始めたばかりの頃に出たひとつしか持っていないのでピンチです。


もう何度目になるか分からない虚像天体(プラネタリウム)の世界、その中で吹雪と裏吹雪は戦っていた、今日こそは決着をつける、その一心で吹雪は得物を裏吹雪に向ける。

 

 

『そんな攻撃じゃ私には勝てないわよ!』

 

 

裏吹雪がナギナタを使って果敢に攻めてくる、それに対して吹雪は太刀を使って裏吹雪の攻撃を受け流しつつ攻めに転じる。

 

 

『…へぇ、随分と腕を上げたじゃない、この前は迷いまくっている目をしていたけど、今は何かが吹っ切れたような目になってる、そんなに私を消したいみたいね』

 

 

裏吹雪はどこか自嘲めいたように嗤うと、攻めをさらに激しくする。

 

 

「違うよ、確かに前はこの戦いに勝ってあなたを消そうとしたけど、今は違う」

 

 

 

「だって私、あなたの気持ちが分かったから」

 

 

『っ!?』

 

 

吹雪がそう言った瞬間、裏吹雪は目を見開いて一瞬だが硬直する、その隙を吹雪は見逃さなかった。

 

 

「そりゃ!」

 

 

吹雪は足掛けを使って裏吹雪を転ばせ、仰向けの体勢にさせる、そこへさらに裏吹雪の腰元に乗っかり、馬乗りの体勢になる。

 

 

『ぐほっ!!』

 

 

思い切り背中を打ち付けた裏吹雪は肺の中の空気をしこたま吐き出し、目を回しそうになる、反撃に移ろうと上半身を上げようとしたが…

 

 

「チェックメイトだよ」

 

 

吹雪がナギナタを裏吹雪の首筋に突きつけていた。

 

 

『…参ったわ、降参よ』

 

 

裏吹雪は自らの敗北を認め、得物を手放した。

 

『それで吹雪、今のは…』

 

 

「うん、あなたのこと…思い出した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は轟沈したときに深海棲艦によって深海棲艦として蘇生させられた、あなたはその時に生まれた深海棲艦としての別人格…だよね」

 

 

 

 

 

 

「海原さん!吹雪が…!」

 

 

瑞鶴があわてた様子で海原に言う、吹雪が武蔵の砲撃で吹き飛ばされて気絶してしまった、これには瑞鶴たちも驚きを隠せない。

 

 

「…確かに少しヤバいかもな、でもまだ試合は終わっちゃいない、演習は吹雪の負けを認めてないんだ、最後の最後まで信じて構えてる事しか俺には出来ない」

 

 

海原はそう言って余裕そうにしているが、それはただの虚勢だ、本当はこのまま負けてしまうのでは、また部下を失ってしまうのではと不安で仕方がない、しかし自分は吹雪たちの提督だ、部下の勝利を信じて見守るのが自分の仕事であり使命である。

 

 

「でも、ちょっとくらいは行動を起こさないとな」

 

 

海原はそう言っておもむろに立ち上がると、観客席の壁まで進んで手すりを掴む。

 

 

「海原さん…?」

 

 

首を傾げる瑞鶴たちの視線など意に介さず、海原は大きく息を吸い込むと…

 

 

「吹雪いいいいいいぃぃぃぃ!!!!!負けんじゃねええええぇぇぇぞおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

海原の叫びが、演習場に響き渡る。

 

 

 

 

 

『思い出してくれたのね、私のこと』

 

 

裏吹雪はどこか嬉しそうな顔をして言う。

 

 

「うん、でも最初はそれを認めるのが怖かった、認めたら、今度こそ私は深海棲艦になっちゃうんじゃないかって考えたら恐ろしかった…」

 

 

『だから、私を消して艦娘に戻ろうとしたのね』

 

 

裏吹雪がそう言うと、吹雪は頷いてそれを肯定する。

 

 

『私は深海棲艦の手によって生み出され、気がついたときにはあなたの中にいた、目的も何も与えられなかった私はあなたと共に生きていこうとしたけど、あなたの心はずっと頑なに私を拒絶して、私の存在を認めてくれなかった、あなたと戦って勝てば、強さを証明すれば受け入れてもらえるかと思ったけど、結局勝てなかった』

 

 

裏吹雪は諦めたような表情で吹雪に言う。

 

 

『さぁ、トドメをさしなさい、それで私は消滅するわ、あなたが深海棲艦であることは変えられないけど、私に怯えることなく生きていけるわよ』

 

 

裏吹雪は両手を広げて降参の姿勢をとるが、吹雪は構えたナギナタを下げ、裏吹雪からどく。

 

 

『…何のつもり?』

 

 

「言ったでしょ、あなたの気持ちが分かるって、人格は別でもあなたは私の一部なんだから、あなたは本当は消えたくないんでしょ?」

 

 

『………』

 

 

吹雪の問い掛けに、裏吹雪は何も言わずに視線を逸らす。

 

 

『…知った風な口を利かないで、確かに消えるのは嫌よ、いくら人格だけの存在でも消えるのは…死ぬのは怖い、でも私には行くところも帰るところも生きる目的も理由も何もない、私の中はがらんどうなのよ、それにあなたは私を拒絶した、そんな私に居場所なんてない』

 

 

裏吹雪は目尻に涙を溜めながら絞り出すような声で言う。

 

 

「じゃあさ、このまま私と一緒に生きるっていうのはどう?」

 

 

 

『…えっ?』

 

 

吹雪のその言葉に、裏吹雪は息をするのも忘れて呆けた顔をする。

 

 

『あなた、いったい何を…』

 

 

「確かに私はあなたが怖かったからずっと拒絶してきた、でもこれまであなたと話してようやく分かったんだ、あなたのことも、この深海棲艦の身体のことも、全部ひっくるめて私の一部で、これからも否定しようが無いって」

 

 

『吹雪…』

 

 

「だから私はあなたを受け入れる、だってあなたは吹雪(わたし)だもん」

 

 

吹雪は笑いながらそう裏吹雪に言った。

 

 

『…うぐ…ひっぐ…』

 

 

裏吹雪は嗚咽を漏らして泣きじゃくりながら吹雪に抱き付いた、ようやく認めてもらえた、ようやく受け入れてもらえた、何もない自分にようやく居場所をもらえた、それだけで嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

『ありがとう、吹雪』

 

 

するとその時、裏吹雪の身体に変化が訪れた、さっきまで吹雪と全く同じ姿をしていた裏吹雪だが、その皮膚が、服が、髪が、まるでメッキが剥がれていくように消えていき、その内側から別の姿の裏吹雪が現れる。

 

 

白い髪に黒い肌、そして青と金のオッドアイ…あの日吹雪が反転したときと同じ姿になっていた

 

 

『これが私の本当の姿なの、吹雪と話しやすいように姿を変えてたんだ』

 

 

「ずいぶんと器用なこと出来るんだね…」

 

 

その様子に驚いた様子の吹雪だったが、すぐに別の驚きがやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『吹雪いいいいいいぃぃぃぃ!!!!!負けんじゃねええええぇぇぇぞおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

虚像天体(プラネタリウム)の夜空の果てから、海原の声が聞こえてきたのだ。

 

 

『…呼ばれてるね』

 

 

「そうだね、早く戻って決着をつけないと」

 

 

そう言って吹雪が立ち上がると、裏吹雪に向けて手を差し出す。

 

 

『?』

 

 

その行動の意図が分からずに裏吹雪は首を傾げる。

 

 

「言ったでしょ、あなたを受け入れるって、一緒に生きるって、だから一緒に戻ろう?」

 

 

吹雪のその言葉で全てを察した裏吹雪は、少し照れくさそうに吹雪の手を取って立ち上がる。

 

 

『…ねぇ吹雪、戻る前に一つお願いがあるんだ』

 

 

「お願い?」

 

 

『私に…名前を付けてほしいの』

 

 

「名前を…?」

 

 

裏吹雪の予想外の内容のお願いに吹雪は思わずキョトンとしてしまう。

 

 

『どっちも吹雪じゃややこしいでしょ、それと私は吹雪の別人格だから吹雪なんだけど、私もちゃんとした意思と人格を持ったひとつの存在なんだっていう証がほしいの、だからお願い、私に名前を付けて』

 

 

「…うん、分かった」

 

 

吹雪は少しの間考えた後、裏吹雪にその名前を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“リーザ”、それがあなたの名前だよ」

 

 

『リーザ…リーザ…うん!気に入ったよ、ありがとう!』

 

 

裏吹雪…リーザは嬉しそうに笑うと、おもむろに吹雪の手を握る。

 

 

『私の名前はリーザ、これからは吹雪と共に生きて、吹雪を守っていくよ、これからよろしくね』

 

 

「うん、こちらこそよろしく、リーザ」

 

 

吹雪もリーザの手を握り返す、その会話を最後に、吹雪とリーザは虚像天体(プラネタリウム)の世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした大鳳、それで終わりか?」

 

 

大鳳は息を弾ませて眼前の武蔵を睨む、気絶してしまった吹雪を庇いながら戦いを続けているが、駆逐艦よりもスピードが出ない大鳳では白兵戦には向いておらず、結果掠り傷を積み重ねて中破になっている。

 

 

さてどうしたものかと大鳳が考えていると…

 

 

 

「な、何だ!?」

 

 

今まで気絶していた吹雪が突然黒いオーラに包まれ、髪と肌の色が変わっていく。

 

 

「まさか、反転…!?」

 

 

他の台場メンバーから話だけで聞いていた反転だが、まさかここで起きるとは思っていなかった。

 

 

それだけでは終わらず、反転と同時に無くなりかけていた吹雪の耐久値のゲージが一気にMAXまで回復する。

 

 

「ど、どうなっているんだ…!?」

 

 

困惑する武蔵をよそに吹雪はゆっくりと立ち上がり、目の前の敵…武蔵を見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪型駆逐艦1番艦“吹雪”…」

 

 

 

 

『吹雪級駆逐棲艦1番艦“リーザ”…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『抜錨します!!』」

 

 

 

 

 

 

 

反撃はまだ終わらない、終わらせない。




次回「鉄翼の鳳凰」

吹雪とリーザのシーンは色々悩みまくってこの形になりました、もうちょっと上手く書きたかったなぁ…


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第139話「大演習祭19」

なぜ戦艦ル級は火力60でこちらの戦艦を中破や大破に出来るのかをル級に小一時間問い詰めたい。

いい加減榛名来てください、第四艦隊が解放できません。


「ちょっと…!何あれ!?」

 

 

「吹雪…だよね?大丈夫なの?あれ…」

 

 

 

反転した吹雪を見て瑞鶴たちが揃って目を剥いている、かく言う台場メンバーもこの事態に多少の焦りを感じていた、また前のように暴走したらどんな事になるか分からない。

 

 

「ん?司令官、あそこ…」

 

 

そう言って雪風が吹雪の方を指差す、すると吹雪がこちらを向いて親指を上に立てていた、俗に言うグッジョブの仕草である。

 

 

「吹雪さん、ひょっとして自我がある…?」

 

 

その吹雪の仕草を見て暁がぽつりと呟く、他の台場メンバーも暁と同意見のようで、どこか安心した表情になる。

 

 

「…詳しい事情は分からないけど、どうやら大丈夫なようね」

 

 

台場メンバーはホッと胸をなで下ろし、三日月は未だに事態を飲み込めていない瑞鶴たちに反転の事情を説明していた。

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪…さん…?」

 

突然の反転に大鳳が呆然として吹雪を見つめる、大鳳は以前三日月たちから反転の話を聞いたことがあった、そのときは突然人が変わったように好戦的になり、一種の暴走状態になっていたと聞く。

 

 

「大鳳さん、多分驚いてると思うけど、今の私はちゃんと自我も正気もあるから、安心して」

 

そう言ってにっこり笑う吹雪の顔は、確かに反転前に見せるあの笑顔だった。

 

 

「…はい、分かりました!」

 

 

その笑顔を見て大鳳は安心した、大丈夫、いつもの吹雪だ、何らかの事情があってその姿になったのだろうが、ちゃんと吹雪だ、何も心配する事はない。

 

「大鳳さん!援護よろしく!」

 

 

「任せてください!」

 

 

「リーザ!行くよ!」

 

 

『オーケー!思いっきりやっちゃえ!』

 

 

大鳳に援護を任せて吹雪は武蔵に向かって突撃する。

 

 

「どんな手を使おうが無駄なことだ!この武蔵には勝てないぞ!」

 

 

武蔵は主砲と副砲による砲撃を行うが、弾丸斬りとスピードによって全てかわされてしまう。

 

 

「さっきよりも速い…!」

 

 

武蔵はあっという間に距離を詰められ、手甲拳(ナックル)による一撃を食らう。

 

 

(ぐっ…!さっきよりも重い…!?)

 

 

耐久値の減りが先程よりも激しいことに武蔵は驚きを隠せない、やはり姿が変わった事が理由のようだ。

 

 

「調子に…乗るなぁ!」

 

 

武蔵は反動から立ち直った主砲で吹雪を狙い撃ちにする、弾丸は吹雪に直撃し、凄まじい轟音が鳴り響く。

 

 

「はははは!どうだ!我が主砲の威力は!?」

 

 

武蔵は高らかに笑いながら立ち込める硝煙が晴れるのを待つ。

 

 

しかしそこにあったのは、戦闘不能になっている吹雪などではなく…

 

 

「そうですね、一つ言わせてもらうなら…“この程度ですか”?」

 

 

大型のタワーシールドで武蔵の主砲撃を防ぐ大鳳の姿があった。

 

 

「何だと…!?」

 

 

「装甲空母の防御力…ナメてもらっては困りますよ!」

 

 

そう言って大鳳は驚いて固まっている武蔵に向かってフルスロットルで突進する、それに遅れて反応した武蔵は副砲で迎え撃とうとするが間に合わない。

 

 

鳳凰(ホウオウ)鋼翼(コウヨク)!」

 

 

大鳳が左右の手に装着しているタワーシールドで武蔵を思い切り殴りつける。

 

 

「がっ…!?」

 

 

重い一撃を食らった武蔵は意識を持って行かれそうになるが気合いで踏ん張る、一般的に盾は攻撃から身を守るための防具であるが、その材質は鉄や鋼などの金属類だ、十分鈍器としても扱える。

 

 

(…大破か)

 

 

大鳳の攻撃で武蔵の耐久値が大破相当になる、もう何発か食らえば戦闘不能は免れない。

 

雪華繚乱(セッカリョウラン)!」

 

 

鳳凰(ホウオウ)鋼爪(コウソウ)!」

 

 

吹雪のナギナタと大鳳の片手斧(トマホーク)による攻撃で耐久値を順調に削っていく、ここで大鳳は後ろに下がり、後方射撃支援に移行する。

 

 

「これでトドメ!」

 

 

吹雪は渾身の右ストレートを武蔵にぶつけようと右腕を振りかぶる。

 

 

「…へ?」

 

 

しかし拳が武蔵に当たる瞬間、武蔵は装着していた強化装甲(バルジ)切り離(パージ)した。

 

 

それによりスピードが上がった(というより元に戻った)武蔵は吹雪の攻撃を紙一重でかわす。

 

 

「いつまでも同じだと思っていたら大間違いだぞ?」

 

 

吹雪の右ストレートは空を切り、勢い余って前面によろける、いわゆる“空振り”というやつだ。

 

「これでトドメだな」

 

 

武蔵は主砲、副砲を全て吹雪に向けて狙いを定める、その後ろでは大鳳が砲撃妨害のためにボウガンを展開させているが、矢の装填が間に合わない。

 

 

「終わりだ」

 

 

吹雪がやられる、誰もがそう思ったそのとき…

 

 

『終わり?それはどうかしら?』

 

 

吹雪が拳銃を展開させ、背後を一切見ずに武蔵を正確に狙撃した。

 

 

「何!?」

 

 

銃撃に怯んだ武蔵は砲撃に失敗、その隙に吹雪は武蔵の背後に回り込む。

 

「ありがとうリーザ!」

 

 

『これくらいどうってことないわよ』

 

 

リーザはどこか誇らしげに言った、武蔵に砲撃される寸前、リーザが吹雪の身体を操作して武蔵を銃撃したのだ。

 

 

「このクズがあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

ことごとく攻撃の邪魔をしてくる吹雪に武蔵は完全に頭にきたらしく、素早く後ろを向くと吹雪のいる方へとにかく砲撃をしまくる。

 

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

狙いも定めていないデタラメな砲撃だったが、そのうちの一発が命中して吹雪は大きく吹き飛ばされる、深海棲艦の反転による能力上昇と防御装甲(プロテクトアーマー)の効果でダメージは大破相当で止まった。

 

 

何とか反撃の一手を考えなければ、そう思っていた吹雪は吹き飛んだ先に大鳳がいることに気づく、このままでは大鳳に激突してしまうが、大鳳がタワーシールドを持ったままなのを見てある作戦を思いつく。

 

 

「リーザ!やれる!?」

 

 

『任せて!』

 

 

直接口に出さなくても以心伝心で吹雪の作戦はリーザに伝えられる、そしてリーザからオーケーをもらった吹雪は身体の操作権を一部リーザに任せる。

 

 

「大鳳さん!タワーシールドをそのままにしててください!」

 

 

「えっ、えっ!?」

 

 

突然そんなことを言われて困惑する大鳳をよそに、吹雪は大鳳の所までたどり着くと…

 

 

『いっけえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』

 

 

大鳳のタワーシールドを思い切り踏みつけ、その反動を利用して再び武蔵に向かって飛んでいく。

 

 

「何だと!?」

 

 

さすがにこれには武蔵も口をあんぐりと開けて呆然とするばかりであった。

 

 

(マズい!反撃しなければ…!)

 

 

武蔵は砲撃を行おうとするが…

 

 

(しまった!反動が…!)

 

 

主砲も副砲も同時に撃ってしまったため、どちらもまだ反動から立ち直っていないのだ、つまり今の武蔵は何も出来ないただの的である。

 

 

「これで本当にトドメよ!」

 

 

『手加減なんかせずに思いっきりやっちゃいましょう!』

 

 

吹雪とリーザは手甲拳(ナックル)を装着した腕を武蔵の顔に向けてロックオンする。

 

 

「や、止めろ!よせ!私は、私は!最強の艦娘、大和型の…」

 

 

「『雪月花(セツゲッカ)双拳(ソウケン)!!!』」

 

 

吹雪とリーザ、2体の力がこもった一撃が武蔵の顔面を捉える。

 

 

「ごぼぉ!」

 

 

強化装甲(バルジ)を無くした分防御力が下がった武蔵は派手に吹き飛び、仰向けに倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武蔵-戦闘不能。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝者-台場鎮守府「Deep Sea Fleet」。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

勝った。

 

 

 

 

 

 

目の前で倒れている武蔵を見ながら、吹雪はその現実を受け入れる、勝った、駆逐艦ばかりの、それこそ舐めプとしか思えないような艦隊が、戦艦空母のガチ編成艦隊に勝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、観客席から拍手と歓声が沸き起こった。




次回「表彰式」

第二章も終わりが近づいてきました。


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第140話「大演習祭20」

イベント間近ですね、とりあえずは新艦娘ゲット出来るように頑張っていこうと思います。

艦これ関係ないけど今日人生で初めて119番通報しました。


「司令官!やりました!勝ちましたよ!」

 

 

試合終了後、吹雪と大鳳が観客席に戻ってきた、吹雪は元の艦娘の姿に戻っていたが、リーザを受け入れた影響なのかオッドアイだけは戻らなかった。

 

 

「よくやったぞお前たち!見事な勝利だ!」

 

 

海原は今回演習に参加したメンバーに激励の言葉を贈る。

 

 

「そんなよしてくださいよ司令官~、当然の結果なんですから~」

 

 

『めちゃくちゃニヤケながらそんな事言っても説得力皆無よ?』

 

 

勝利の余韻に浸る暇もなくリーザに突っ込まれる。

 

 

「…ん?今の声は誰だ?」

 

すると海原が首を傾げて吹雪に聞く、リーザの声は吹雪本人以外にも普通に聞こえるらしいのだが、吹雪の身体から声が聞こえるというかなり奇妙な光景になっている。

 

 

「あぁ、そう言えば説明しないとですね」

 

 

思い出したように言う吹雪はポンと手を打ち、リーザと一緒に説明を始める。

 

 

 

 

 

「…へぇ~、深海棲艦としての別人格ねぇ、流石にこりゃ驚いたぜ」

 

 

5分後、粗方の説明を聞いた海原は心底驚いたように言う、吹雪が説明したのはリーザが吹雪の別人格だということ、リーザとは以前から夢の中…深層心理のような所で戦っていたということ、そして先ほどの演習中に気絶しているときに和解し、共に生きる道を選んだということなどだ。

 

 

「急に反転したときはどうなるかと思ったわよ、脅かしてくれちゃって」

 

 

『ごめんごめん、でもこれからはみんなと仲良くしていくつもりだからよろしくしてくれると嬉しいな~』

 

 

マックスの冷ややかな視線を受けつつ、リーザは苦笑(といっても皆からは見えないが)しながら言う。

 

 

「そういう事なら俺は歓迎だ、これからよろしくな」

 

 

…などと和気藹々とした雰囲気になっていたとき…

 

 

 

「海原あぁ!」

 

 

佐瀬辺が血相を変えてこちらに走ってくる。

 

 

「何だ佐瀬辺、もうちょっと勝利の余韻に浸らせろ」

 

 

「何が勝利だ!あんな演習は無効だ!」

 

 

佐瀬辺は唾を撒き散らしながらそう喚き立てる。

 

 

「無効?何寝ぼけたこと言ってんだ、俺たちは正々堂々と戦ったぞ、イカサマなんて何もしてない」

 

 

「とぼけるんじゃねぇ!何だあの近接兵装は!?艦娘が白兵戦なんて聞いたこと無いぞ!」

 

 

「あぁ、深海棲器のことか、別に艦娘が砲雷撃戦以外の方法で戦ってはいけないなんてルールはないぞ、それにあの深海棲器は元々大本営が艦娘用装備として公式に開発していたものだ、尚更おかしなことはない」

 

 

完全なる正論で返された佐瀬辺は歯ぎしりをして海原を睨む、その小物感に笑いがこみ上げそうになったが、今は我慢しておく。

 

 

「だ、だがさっきの吹雪のアレは何だ!?あれはどう見ても深海棲艦の見た目だったぞ!」

 

 

佐瀬辺にそれを言われた海原は渋い顔をする、ただでさえ混血艦(ハーフ)で肩身の狭い吹雪に反転まで見られてしまえば流石に崖っぷちだ。

 

 

「これは吹雪が持つ特別な変身能力なんだよ、別に艦娘がもつ能力なんだからルール違反じゃないよな?」

 

 

海原は底浅な言い訳をして何とかごまかそうとする、流石にこれではごまかしきれないか、と思ったが…

 

 

「ぐぬぬ…」

 

 

あっさり信じていた。

 

 

「(信じましたよこの人)」

 

 

『(バカなのね)』

 

 

吹雪とリーザがそう小声で話していると、南雲がエラそうな歩き方でこちらにやってくる。

 

 

「元帥、約束通り大演習祭(バトルフェスタ)で勝利してみせました、これで雷撃処分は無しですね」

 

 

海原は勝ち誇った顔で南雲に言う。

 

 

「…好きにしろ、ただし待遇や扱いを変えるつもりは無いぞ、これまで通りの窓際だ」

 

 

南雲はそれだけ言うと踵を返して立ち去る。

 

 

「あっ!元帥!いいのですか!?奴らを野放しにして!」

 

 

「約束は約束だからな、元帥の俺が守らなければ示しがつかない、それにあの強さなら尚更利用しがいがある」

 

 

南雲は今度こそ観客席から立ち去った。

 

 

「海原あぁ…!お前元帥に何をした!」

 

 

「何でそうなるんだよ、てか何でそんな怒ってるんだよ、どの道今年の優勝は横須賀だろ?それは変わらねぇだろ」

 

 

海原がそう言うと、佐瀬辺はその怒りで歪んだ顔を元に戻し始め、ひきつったようなアホ面をさらす。

 

 

「そ、そうだよなぁ…!誰がなんと言おうと優勝は俺たち横須賀だよなぁ!!分かってんじゃねぇか!」

 

 

「(あっさりと態度ひっくり返しましたよ)」

 

 

『(本当にバカなのね)』

 

 

吹雪とリーザに人知れず罵倒されているのにも気付かず、佐瀬辺は高笑いと共に観客席を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

佐瀬辺と元帥とのやり取りから約10分後、横須賀鎮守府の無駄にだだっ広いグラウンドに提督及び艦娘が集められ、表彰式が行われた。

 

 

「おめでとう、横須賀鎮守府」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

表彰式は校庭でやる全校集会のような形になっており、朝礼台にあたる場所にあるお立ち台で南雲が優勝トロフィーを佐瀬辺に渡している。

 

 

(よし!これで主戦力鎮守府最強の座は今年も横須賀になった!こんなにも気分のいいモノはない!)

 

 

佐瀬辺は踊り出したくなるのをこらえてお立ち台を下りる。

 

 

「そこまでだ!」

 

 

しかし、その表彰式は唐突に終わりを迎えた。

 

 

「な、何だお前らは!?」

 

 

突然グラウンドに黒い制服を着た男女が10人ほど現れ、佐瀬辺の周りを取り囲む。

 

 

「海軍警察よ、大人しくしてなさい」

 

 

すると隊長と思わしき爆乳の女性が佐瀬辺の前に出て警察手帳を見せる。

 

 

「海軍警察が俺に何の用だ!?」

 

 

佐瀬辺は女性隊長の手帳を見て目を剥いた、海軍警察とは文字通り海軍内の法的事案を担当する警察組織のことだ、鎮守府を運営する上での違法行為…資材の不正利用や書類偽造などの取り締まりを主な任務としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐瀬辺提督、あなたを鎮守府運営法違反で逮捕します」




次回「退場(レッドカード)

そろそろ三章以降の話もまとめておかないとな…


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第141話「大演習祭21」

第二章終了です。

二章終わるのに半年か…長かったなぁ…。


「鎮守府運営法違反…!?何の話だ!」

 

 

佐瀬辺は爆乳リーダーの海軍警察に向かって否定の言葉を口にするが、その目からは明らかな動揺が見て取れる。

 

 

「それはあなたが一番よく知っているんじゃないかしら?」

 

 

「それは艦娘の扱いに関してか?それならお前らに何かを言われる筋合いはないぞ!俺が艦娘をどう扱おうがそれを取り締まる法律は無いからな!」

 

 

佐瀬辺の言うとおり艦娘の扱いに関しては法的な禁則事項は存在しない、言ってしまえば佐瀬辺が吹雪や大鯨にしてきたことも合法なのだ、しかし海軍警察もそれを知らないほど馬鹿ではない。

 

 

「いいえ、あなたを逮捕する理由、それはこれです!」

 

 

リーダーはポケットから紙の束を取り出すと、佐瀬辺に向けて突きつける。

 

 

「なっ…!?それは…!」

 

 

「やっぱり見覚えがあるようね」

 

 

リーダーが佐瀬辺に突きつけた紙の束の正体は、これまで佐瀬辺が行ってきた資材の不正利用や艦娘の轟沈理由を偽造した書類…不正の証拠の数々だ。

 

 

「何でそれがこんな所にある!?この書類は俺が保管してあるはず…!」

 

 

それを言ってしまえば罪を認めてしまう事になるのだが、今の佐瀬辺にはそんな余裕すら持てなかった。

 

 

「私たちが集めました」

 

 

すると、海軍警察と佐瀬辺の周りを囲っていた野次馬を割って2体の艦娘が近付いてくる。

 

 

「っ!!お前ら…!」

 

 

そこには大和と青葉がいた。

 

 

「以前から提督を告発しようという計画を青葉と立てて秘密裏に証拠を集めていました、提督は書類の管理に隙がないのでここまで集めるのに本当に大変でしたよ」

 

 

「そして集めた証拠品を海軍警察に提出してようやく逮捕に踏み切れました、わざわざこんな大勢の前で逮捕出来るようにこの日を選んだんですよ、感謝してくださいね」

 

 

大和と青葉が勝ち誇ったような顔で言ってのける。

 

「き…貴様らああああああああああぁぁあああぁぁぁぁああぁ!!!!!!!!」

 

 

 

「提督…」

 

 

「司令官…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「年貢の納め時(ゲームオーバー)ですよ」」

 

 

 

「さぁ来なさい、あなたにはキッツーイ取り調べが待ってるんだからね」

 

 

「ま、待て!これは陰謀だ!俺は何も知らない!」

 

 

「書類に覚えのある発言してた時点で説得力無いわよこのタコ」

 

 

海軍警察に連行されるも佐瀬辺は未だ抵抗を続ける。

 

 

「佐瀬辺くん…」

 

 

すると南雲が佐瀬辺の前に出てくる。

 

 

「元帥!私は無実です!この艦娘どもが私を陥れようと罠にはめたのです!私は何もしていない!」

 

 

「…君は誰よりも主戦力鎮守府の中で貢献してくれた、とても優秀な司令官だと思っていたのだが…残念だよ」

 

 

南雲は憐れみのこもった目で佐瀬辺を見る。

 

 

「元帥…!待ってください!私の話を聞いてください!私は無実です!」

 

 

子供のように喚き散らす佐瀬辺を鬱陶しそうに見たリーダーは佐瀬辺を連れて行くように部下に指示する。

 

 

「離せ!離せええええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 

佐瀬辺はそのまま海軍警察に連行された。

 

 

 

その直後、横須賀鎮守府の艦娘たちが一斉に喜びの歓声をあげたのは言うまでもない。

 

 

 

 

佐瀬辺連行というサプライズなのかアクシデントなのか分からない出来事のおかげで表彰式は中断となった。

 

 

「良かった…良かったよぅ…」

 

 

「もうあんな思いしなくてもいいんだよね…!?いいんだよね!?」

 

 

横須賀の艦娘たちは未だうれし泣きをしながら佐瀬辺が逮捕されたことを喜んでいる、その様子を見ればどれだけ佐瀬辺が艦娘たちに酷いことをしてきたかが分かるだろう。

 

 

「大和、今回の件に関する非は佐瀬辺くんの不正に気付けずに艦娘たちへの非人道的な行いを見逃していた俺にある、海軍代表として謝罪しよう」

 

 

南雲は今回の佐瀬辺逮捕作戦の首謀者である大和に謝罪の意思を示す。

 

 

「…意外ですね、こう言っては失礼ですが、提督と元帥は癒着しているものだと思っていました」

 

 

「信じてもらえないかもしれないが、佐瀬辺くんの不正は本当に知らなかったんだ、だから俺も驚いているよ」

 

 

南雲はそう言うが、大和はその言葉を全て信じているわけではなかった、不正の全てを知らなかったにしても、何かしら黙認している部分があるのでは…と疑っていた。

 

 

「君の疑心はもっともだ、その代わりというワケではないが、横須賀の次の提督はマトモな人間を着任させるということを約束するよ、あと艦娘に対する扱いをもっと考えるよう俺の方でも努力をしよう」

 

 

その南雲の言葉がどこまで本当なのか大和には分からなかったが、今後の自分たちの環境が改善されるのであればそれを少しは信じてもいいと思っていた。

 

 

「…そう言うことでしたら、今は何も言わないでおきます」

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 

そう言いうと南雲は今後の手続きのために補佐の鹿沼と何やら話をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしあの佐瀬辺を告発するなんてよく考えたもんだな」

 

 

「バレたらどうしようかと内心ヒヤヒヤでしたよ」

 

 

南雲から解散命令が出されて他の鎮守府の提督や艦娘連中が帰りはじめた頃、海原と大和は横須賀の提督室で談笑していた。

 

 

「でも今後は新しい提督が来るんだろ?南雲の話が本当ならマトモなやつが来るとかなんとか…」

 

 

「そうですね、そこはそれなりに期待しながら待つことにします、でも本当のことを言うと、横須賀にはあなたに就いて欲しいって願望が私にはあるんです」

 

 

大和はそう言っていたずらっぽく笑う、それを聞いた海原は少し驚いたような顔をしたが、やがて口を開く。

 

 

「…今の俺は台場鎮守府の司令官だ、吹雪たちの居場所を離れるわけにはいかないよ、それにあいつらを横須賀に連れて行ったとしても、横須賀の艦娘たちが吹雪たちを受け入れてくれるかは分からない、お前が俺をそういう風に評価してくれるのは冗談抜きで嬉しいけど、その気持ちだけ受け取っておくよ」

 

 

ごめんな、と最後に付け加えて海原は笑う。

 

 

「気にしないでください、それにあなたならそう言うだろうと思っていましたし、何だか吹雪ちゃんたちが羨ましいです」

 

 

「そんな羨望されるような所じゃないけどな、台場は」

 

 

海原と大和は互いに笑うと、束の間の談笑を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

鎮守府へ戻った後、海原たちは特別演習勝利のお祝いとして祝賀会を開いていた。

 

 

「えー…それでは、演習の勝利とDeep Sea Fleetの存続を祝いまして、わたしく海原が乾杯の音頭を取らせていただきます」

 

 

「そんな似合わない挨拶いいからさっさと料理食べさせてよ、大鯨さん特性の祝い料理が冷めちゃうでしょ」

 

 

「司令官が言うと言葉のありがたみが薄れますね」

 

 

「てめぇらちょっとは気分と雰囲気出せよ!」

 

 

こんな時でも平常運転なDeep Sea Fleetを見て呆れる海原だが、やっぱりこれが台場鎮守府だな、と同時に思い安心した。

 

 

「それじゃお前ら!じゃんじゃん飲んで食え!この勝利に乾杯!」

 

 

「「かんぱーい!!!!!」」

 

 

このどんちゃん騒ぎは日付が変わるまで続けられ、吹雪たちは自分たちの居場所を守れたことを改めて実感しながら騒いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「●●、この世でもっとも恐ろしい兵器は何か分かるかい?」

 

 

突然の彼からの問い掛けに、私は一瞬固まってしまった。

 

 

しかし彼は真面目に聞いているようだったので、私も真面目に考えてみようと思う。

 

 

世の中にはたくさんの兵器がある、細菌やウイルスを使った生物兵器、毒ガスなどを使った化学兵器、数え上げればきりがない。

 

 

その中で私が最も恐ろしいと思うのは原子爆弾などの核兵器だ、爆風と熱風で全てを吹き飛ばすその威力は言わずもがなだが、内部被爆などの効果で使用後も対象を苦しめ続ける、攻撃性と持続性を併せ持つチートもいいところな兵器だ。

 

 

「なるほど、核兵器か、悪くない選択肢だが正解ではない」

 

 

彼の不正解という言葉に私は驚いてしまった、この世に核兵器を超えるモノが存在するのだろうか、私には思い浮かばなかったので彼に降参だと伝える。

 

 

「答えは簡単だよ、この世で最も恐ろしい兵器、それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「核兵器を含め、今●●が頭の中に挙げていた兵器を全て作り出してしまうことが出来る“人間”そのものさ、言わば人間は“兵器を生み出す生きた兵器”、●●もそう思わないかい?」

 

 

どこか自虐的な彼の物言いに、私は何も言うことが出来なかった。




次回「艦娘(ドラッグ)

次回より第三章となります。


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第三章「東京湾沖海戦編」
第142話「夕月の場合1」


第三章「東京湾沖海戦編」&chapter11「夕月編」連載開始です。

活動報告にて夕月の深海棲器募集も行いますので、アイデアのある方はぜひどうぞ~。


11月に入り急に冷え込んだある日の深夜、都内某所の路地裏をひとりの少女が歩いていた、年は15~16くらいだろうか、長い黒髪を背中に流し、白いダッフルコートに黒いスカート、黒タイツを身にまとっている、丑三つ時の路地裏にいるには不自然な人物であることは間違いない。

 

 

「ねぇねぇお嬢ちゃん、こんな所で何してるのかな~?」

 

 

突然後ろから声をかけられ少女が後ろを向くと、いかにもチンピラですと言わんばかりの格好をした3人の男が立っていた、名前を付けるのも面倒な連中なので左からカス、クズ、ゴミとしておこう。

 

 

「良かったら俺たちといいところに行かない?」

 

 

いつの時代のナンパ台詞だよ、というつっこみを少女は心の中で入れておくが、少女はそのまま無視して去ろうとする。

 

 

「ちょっとちょっと~、無視はひどいんじゃない?俺傷ついちゃうな~」

 

 

カスが少女の腕を掴んで引き止める、少女はそれを振り解こうとするが…

 

 

「おーっと、痛い目見たくなかったら俺たちの言うとおりにしようね~」

 

 

カスがポケットから取り出した折り畳み式のナイフで少女の顔をペチペチと叩く、そんな状況で少女は恐怖する様子は見せず、ただ何も言わずカスを見ている。

 

 

「じゃあこっちに来てね、大声出したら喉にこれ刺しちゃうよ?」

 

 

カスが少女の喉元にナイフを押し当てながら腕を掴んで歩かせようとすると、突然乾いた発砲音のような音が小さく辺りに響く。

 

 

「…ん?何の音だ?」

 

 

ゴミとクズが首を傾げていると、カスが突然仰向けに倒れる。

 

 

「お前何急に倒れてんだよ…」

 

 

カスの腹には大きな穴が空いており、そこからおびただしい量の血が流れ出ている。

 

 

見れば少女の右手には不思議な機械が握られていた、それはまるで軍艦に取り付けられている大砲を縮小したようなモノだった、少女はそれでカスの腹部を撃ったのだ。

 

 

「ひぃ…!!」

 

 

悲鳴をあげそうになったクズの頭を少女が大砲で撃ち抜く、頭部のほとんどが無くなったクズは脳や血液を辺りに撒き散らし、下顎だけが残った頭部を残してその場に倒れる、その時に吹き飛んだ眼球がゴミを見るような形で転がってくる。

 

 

そのあまりにも異常な光景に闘争本能がビンビンに刺激されたゴミが脱兎のごとく逃げ出そうとするが、少女がゴミの足を撃ってうつ伏せに転ばせる。

 

 

「助けて…!」

 

 

ゴミが助けを呼ぼうと叫ぼうとするが、少女が馬乗りになって口に何かを猿ぐつわ代わりに詰め込まれる。

 

 

それは、少女がカスの腹の穴に手を突っ込んで引きずり出した心臓だった、まだ微かに鼓動しており、妙な生暖かさをダイレクトに感じる。

 

 

いよいよ気が狂いそうになったゴミだったが、その直後に少女に頭を吹き飛ばされて絶命する。

 

 

「…へぇ、中々いい性能の消音器(サイレンサー)じゃない、ベアトリスもいいもの作るわね」

 

 

純白のダッフルコートを返り血で真っ赤に染めた少女は不気味に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大演習祭(バトルフェスタ)から一週間がたった頃、海原は吹雪たちの検査のために造船所を訪れていた、検査終了までは榊原と話をしながら待っていたのだが…

 

 

「艦娘を民間人に密売…?」

 

 

「そういう事案が最近になって報告されてるんだよ」

 

 

そう言って榊原ははぁ…とため息をつく、待っている間に榊原から聞かされたのは、一部の鎮守府や駐屯基地の司令官が金儲けの目的で艦娘を民間人に密売している…という内容だった。

 

 

「艤装を展開させた艦娘は人間をはるかに超える攻撃力を持っているからね、テロや強盗なんかの犯罪目的で買う輩がいるんだよ、駆逐艦が1体もいれば小さな銀行くらい襲えるからね」

 

 

「でもちょっと待ってください、犯罪目的で艦娘を買う所までは分かりました、でもその場合燃料や弾丸はどうするんですか?陸上で行動するなら燃料はあまり気にしなくてもいいですけど、弾丸はどうやっても必要になりますよね?」

 

 

海原はそこに疑問を持った、艦娘が艦隊行動などで活動するには燃料と弾丸が必要になる、燃料は艦娘が海上を移動する時に必要になるもので、足に装着する水上移動装置を動かすのに必要だ、そのため陸上で艤装を使う場合は燃料はほぼ使わない。

 

 

しかし弾丸だけは別だ、民間人が艦娘を買ったとしても、その圧倒的な力を発揮するための弾丸が途中で切れてしまえば艦娘は何も出来なくなってしまう、かといって民間人が軍事施設である鎮守府の補給部屋など使えるわけもない、ならばどうするか?

 

 

「簡単だよ、その都度燃料や弾丸を買わせるんだ、一度艦娘の力に魅了された人たちは抜け出せなくなってどんどん金を出していくからね」

 

 

「それじゃまるでドラッグじゃないですか」

 

 

「その通り、艦娘の密売は新たなドラッグとして少しずつだが世に広まりつつある、これだけは何としてでも防がなければいけない」

 

 

吹雪たちの検査が終わるまでの間、新たな問題の発生に榊原と海原は頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうですか、そんなことが…」

 

 

帰りの電車内で艦娘密売の話を聞いた吹雪は悲しそうな顔をしていた、密売の当事者からすれば兵器の闇取引のような感覚なのだろうが、吹雪たち艦娘から見れば人身売買そのものである。

 

 

「ひどいことする人もいたものですよね」

 

 

「そうだな…」

 

 

海原はそう言って座席にもたれ掛かる、すると右斜めのドア側でふたりの男が言い争いをしているのに気づいた。

 

 

「おいあんた、さっきから俺の足を踏んでるんだよ、退けてくれよ」

 

 

20代半ばといったところの長身の男は自分の足を踏んでいる小柄な小太り男に抗議する。

 

 

「だ、黙れよ!この俺に指図するな!どうなっても知らないぞ!?」

 

 

 

小柄な小太り男は依然長身の男の足を踏みつけながら意味不明な言葉を大声で発していた、それにつられて何だ何だと周りの客がそのふたりの男を見る。

 

 

「はぁ?何を言ってるんだよ…退けさせてもらうからな」

 

 

長身の男は小太り男の足を持ち上げようと手を伸ばす。

 

 

「俺に触るな!撃て化け物!」

 

 

刹那、凄まじい発砲音と共に長身の男が突然吹き飛んだ、長身の男は腰から真っ二つに裂け、血と内蔵を周りの乗客にぶっかけながら車内の床を水っぽい音と共にバウンドする。

 

 

長身の男を吹き飛ばしたのは小太り男ではなく、そばにいたひとりの少女だった、その少女は右手に小さな大砲のような機械を手にしており、砲口からは硝煙が上がっている、この大砲で長身の男を撃ち殺したのは誰が見ても明らかだった。

 

 

 

海原がその少女が艦娘であると認識するのと同時に、電車内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。




次回「バトル・トレイン」

この話書いてるときポケモンBWのバトルサブウェイを思い出してました。


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第143話「夕月の場合2」

幕張メッセでやってるJAEPOの艦これアーケードステージを見てきました、いろいろな新情報が見れて良かったです、装甲空母鬼やべぇ。

やっぱり休日は書きまくれるので良いですね。


「動くな!動くとドッカーンて撃つぞ!俺の言うことを聞け!俺は強いんだぞ!」

 

 

小柄な小太り男…略して“小太りチビ()”は艦娘にもう一度砲撃指示を出す、指示された艦娘は主砲を天井に向かって撃ち、轟音と共に天井に大穴を開ける。

 

 

その一瞬で乗客達は時を止められたかのように動かなくなった。

 

 

「よ、よし!そのまま床に座れ!変なことすんなよ!今の俺は支配者なんだからな!」

 

 

小太りチビ男の指示で乗客が床に腰を下ろす、もちろん海原や吹雪たちも例外ではない。

 

 

「(まさかこんな所で密売艦娘に出くわすとはな…)」

 

 

「(どうしましょう…?)」

 

 

海原は床に座りながら打開策を考える、別に縛られているワケではないので相手に突撃して取り押さえることも不可能ではないが、周りに民間人の乗客が乗っているので下手な冒険は出来ない。

 

 

「(そもそも何であの艦娘はデブな豚男…略して“豚(マン)”の言うことを聞いてるんだ…?別に艦娘を強制的に言うこと聞かす機能があるわけでも無いのに…)」

 

 

「(おそらく理由はアレだと思いますよ)」

 

 

そう言って三日月が艦娘の首もとを指差す、首には首輪(チョーカー)のようなモノが付けられており、小太りチビ()の左手にはスイッチのようなモノが握られていた、そして艦娘は時折首輪(チョーカー)を指で撫でては身体を震わせている。

 

 

「(あの首輪(チョーカー)は爆発物か何かだと思います、そして豚(マン)が持っているスイッチを押すと爆発して艦娘の首を飛ばす…といったシロモノではないかと)」

 

 

「(つまり脅迫されてる可能性があるってことか、ロクな事しねぇなあの野郎)」

 

 

海原は小さく舌打ちをすると、なんとかあのスイッチを奪いつつ艦娘を救う方法は無いものか…と方法を考える。

 

 

「(それにしてもあの豚(マン)はさっきから情緒不安定ですね、やけにキョロキョロしたり、変な言動をしたり、少しおかしいですよ)」

 

 

「(薬中(薬物中毒者)なのでは?)」

 

 

「(薬中云々は置いておくとして、あいつが艦娘のチカラに酔って自分や周りを見失ってるのは間違いないな、身に余るチカラは身を滅ぼす)」

 

 

海原の頭の中に打開策がぽつりぽつりと浮かびはじめた頃…

 

 

「お客様!どうされました!?」

 

 

車両間の仕切り扉を開けて車掌が入ってきた、あんな轟音の出る主砲を2発も撃って隣の車両の人間が気付かないわけがない、それで隣の車両の人間が車掌に異常事態が起きている事を伝えたのだ。

 

 

「わああああぁぁ!!!!!来るなあぁ!!!!」

 

 

小太りチビ()は悲鳴に近い声を上げて艦娘に主砲を向けさせる。

 

 

「ひいっ!?」

 

 

足元に転がる真っ二つになった人間の死体、天井に開いた大穴、そして無骨な鉄の武器をこちらに向ける少女、異常事態という言葉がかわいく思えるほどの出来事が起きていた。

 

 

「(車掌さん!逃げてください!)」

 

 

「(あなたの力じゃ艦娘には敵いません!)」

 

 

吹雪と三日月が小声で車掌に言うが、当然声が届くわけがない。

 

 

 

「お、お客様、まずは落ち着いてください…」

 

 

「来るなって言ってるだるぅぅおおおおぉぉぉ!!!!」

 

 

小太りチビ()は車掌に向かって砲撃をするよう艦娘に指示、艦娘の主砲から放たれた弾丸が車掌を直撃し、隣の車両に吹き飛びながら()ぜる。

 

 

「は、はは…!どうだ!俺に逆らうからこういう事になるんだ!今の俺は無敵なんだぞ!?」

 

 

車内が車掌の血とハラワタで染められパニックになっている隣の車両の乗客など無視して小太りチビ男は仕切り扉を閉める。

 

 

いよいよ現場の緊張が限界に達しようとしていたとき、吹雪があるアイデアを思いつく。

 

 

「(いっそのこと駅に着くのを待って豚男が逃げるところを押さえるというのは…?)」

 

 

「(悪くはないが次の駅までまだ7~8分ある、それに駅に着いたらその分人が増えて被害が拡大する可能性も出てくるし、ここはやっぱり突撃して取り押さえる作戦で行こうと思う)」

 

 

「(どうするつもりですか?)」

 

 

海原は出来るだけ小さな声で吹雪たちに作戦を耳打ちすると、吹雪たちは無言でコクリと頷いた。

 

 

「それじゃいくぜ…いち…にの…さん!」

 

 

海原の合図と共に海原、吹雪、三日月が立ち上がり、小太りチビ()と艦娘に向かって走り出す。

 

 

「うわっ!?何だ何だ!?来るな!」

 

 

小太りチビ()がパニックになって艦娘に砲撃を指示するが、それより前に吹雪が主砲を展開させて艦娘を砲撃する、しかし吹雪の主砲から射出されたのは弾丸ではなく、圧縮された空気の弾だ。

 

 

艦娘の主砲艤装には3種類の射撃モードが存在する、ひとつめは戦闘などで実弾を射出する“実戦モード”、ふたつめは演習などで専用の弾丸を射出する“演習モード”。

 

 

そしてみっつめは今吹雪が使った“空砲モード”、実弾は使わず圧縮された空気砲を射出するモードだ、主に艦隊行動中に何らかの合図や信号を送ったりするときなどに使われる。

 

 

殺傷力は皆無の空砲だが、艦娘1体突き飛ばすくらいの威力は余裕で持っている。

 

 

「日本海軍台場鎮守府所属の駆逐艦吹雪よ、大人しくしなさい」

 

 

吹雪は艦娘に馬乗りになって取り押さえると、主砲を蹴飛ばして艦娘の頭に砲身を実戦モードで突きつける。

 

 

艦娘という唯一の武器を失った小太りチビ()は焦った様子で左手のスイッチを押そうとしたが…

 

 

「チェストおおおおおおおおおぉぉ!!!!!」

 

 

海原が小太りチビ男の手元を蹴り上げてスイッチを蹴り飛ばし、それを三日月がキャッチ。

 

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

手持ちの武器を全て奪われて激昂した小太りチビ()が海原に掴みかかるが、海原はそれを軽くいなして背負い投げする。

 

「日本海軍台場鎮守府所属、司令官の海原だ、大人しく次の駅で降りてもらおうか」

 

 

 

そう海原から告げられた小太りチビ()は、死刑宣告をされた囚人のような顔をしていた。

 

 

 

 

都営環状線有楽町駅は騒然としていた、ホームとコンコースの一部にいた一般客は全て追い出され、代わりに海軍警察と造船所所長の榊原が駅の入り口で待機していた、完全なる厳戒態勢である。

 

 

「海原くん、怪我は無かったかい?」

 

 

 

連行された小太りチビ()を連れた海軍警察と一緒に駅から出て来た海原は榊原から心配そうに声をかけられる。

 

 

「えぇ、あの男が頭の悪いおかげでなんとかなりました」

 

 

海原はくたびれたように言う。

 

 

「所長、ご報告があります」

 

 

榊原と海原が話をしていると、海軍警察のひとりが榊原のもとへやってきた。

 

 

「ん?どんな内容だい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逮捕した男の話によると、自宅にももう1体人質として艦娘を置いているそうです」




次回「忌むべき艦娘(バケモノ)

ルビの設定疲れた…


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第144話「夕月の場合3」

○戦艦ル級(ノーマル)
・火力60

○軽巡ツ級(ノーマル)
・火力58

おい待て、いつから軽巡が戦艦並の火力引っさげて登場するようになった。


「艦娘の身元が分かりました」

 

 

艦娘の身元を調べ終えた海軍警察のひとりが報告にやってくる、ちなみに出動部隊の一部には小太り男の自宅へ艦娘の保護に向かわせている、幸いこの近くのようなので、保護した後に一度ここで合流して2体まとめて海軍警察署に送ることになった。

 

 

 

「名前は綾波型駆逐艦8番艦の『(あけぼの)』、新潟駐屯基地に所属する艦娘です、人質に取られていた艦娘の名前は同じく綾波型駆逐艦11番艦の『(あかね)』、曙と同じ新潟駐屯基地所属の艦娘です」

 

 

「同じく駐屯基地の艦娘か、てことは曙と茜を売ったのはそこの司令官と見て間違いなさそうだね」

 

 

榊原と報告に来た隊員はそう話していた、あとは海軍警察が新潟駐屯基地の司令官に事情を聞けば事態はかなり進展するだろう、それと合わせて取り調べで分かったことだが、曙の首に付けられていた首輪(チョーカー)は本当に爆弾だった、おまけに監禁されていた茜の首にも同じ首輪(チョーカー)爆弾が付けられており、電車内で小太り男が持っていた起爆スイッチは茜の爆弾のものだった。

 

 

つまり曙は小太りの自宅に監禁されていた茜を守るために犯行に及んだのだ。

 

 

ちなみに曙はその近くで手錠をかけられて立っていた、この手錠は“封錨錠(アンカーバインド)”と呼ばれるモノで、艦娘の艤装の能力を封じる効果がある道具だ。

 

 

「所長、曙だけでもどこか人目のつかない所に移動させませんか?ここじゃ目立ちます」

 

 

先ほどから野次馬の好奇の視線に晒されて俯いている曙を見て海原が榊原に声をかける、有楽町駅まで乗ってきた海軍警察の車は小太り男の自宅へ向かうのに乗って行ってしまっているので曙は側で立っているしかないのだ、最低限の人払いをしているとはいえ立ち入り禁止のロープの外側からは大勢の野次馬がこちらを見ている。

 

 

別に艦娘が人前に出ても法律上は問題ないのだが、人間を遙かに越える力を持った艦娘がこのような状態で公衆の面前に晒されるのはあまりよろしくない。

 

 

「黙れ、それを決めるのは俺ら海軍警察だ、一介の提督がどうこう意見するな」

 

 

すると今回出動した部隊長と思われる男がやってきて海原に言い放ち、それを聞いて海原が不快感をあらわにする、海軍警察は警察組織の一部であるが、その権限は半ば独立したものになっている、おまけにその権限は強めに作られており、それが海軍警察が担当すべき法的事案と認められれば海軍元帥と言えどもその決定を覆せない。

 

 

「しかし、艦娘が殺人とは世も末だな、こいつの神経を疑うよ」

 

 

曙を睨みながら隊長は言う、それを聞いた曙は泣きそうな顔でスカートを握りしめる。

 

 

「この艦娘どうなりますかね?殺人は結構罪が重いですけど…」

 

 

「解体処分だろうな、まったくこの艦娘は何考えてんだか」

 

 

「解体されても自業自得ですよね、人殺してるワケですし」

 

 

近くにいた隊員の会話を聞いていた海原は密かに怒りを沸かせていた、曙の行ったことは確かに殺人だ、それはどんな事情があれ許されることではない、なのになぜ海原は怒っているのか?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば質問を変えよう、そもそも曙がそんな罪を犯さなければならなくなった原因はどこにある?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに殺人を犯した曙にももちろん罪はある、しかしそれの前に艦娘を違法に購入した男やそもそも艦娘を民間人に売った新潟駐屯基地の司令官、罪の重さならこのふたりも負けてはいない。

 

 

なのになぜ曙だけが悪いような空気にならなければいけないのだ。

 

 

「あの子がふたり殺したらしいわよ」

 

 

「やだ怖い…艦娘ってやつでしょ?深海棲艦を倒す兵器だって聞いてたけど、その力を人殺しに悪用するなんて最低ね」

 

 

「あんなのがいたらおちおち生活できねぇな、隔離しちまえばいいのに」

 

 

「遺族の方が可愛そう…あんな化け物死刑になっちゃえばいいのよ」

 

 

 

どこから情報を聞きつけたのか、気付けば野次馬たちの心無い言葉による会話があちこちで行われていた、中には実際に曙に対して罵詈雑言を言ったり石を投げたりする輩もいる。

 

 

(違うだろ…本当に悪いのは曙じゃないだろ…何で、何でこんな…!)

 

 

 

「お前みたいな無法者がいるから海軍の風当たりが強くなるんだぞ、それを自覚してるのか?」

 

 

待てよ

 

 

「あんたみたいな化け物は死んじゃえばいいのよ!」

 

 

「遺族に謝れ!死んで罪を償え!」

 

 

 

待てよ…!

 

 

「お前は、艦娘の面汚しだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てっつってんだろ!!!!」

 

 

 

気付けば海原は、声を大にして叫んでいた。

 

 

 




次回「人間はそんなに偉いのか」

大演習祭(バトルフェスタ)編で初登場した架空艦のクラスが知りたいというコメントがあったので↓に書きます。

朱龍(しゅりゅう):蒼龍型航空母艦2番艦
翠龍(すいりゅう):蒼龍型航空母艦3番艦
紫龍(しりゅう):蒼龍型航空母艦4番艦
牙龍(がりゅう):飛龍型航空母艦2番艦
神忌(かむい):扶桑型戦艦3番艦
(ひかる):光型水雷巡洋艦1番艦
夕顔(ゆうがお):光型水雷巡洋艦2番艦
(あおい):光型水雷巡洋艦4番艦(名前のみ)
因幡(いなば):長門型戦艦3番艦
出雲(いずも):長門型戦艦4番艦
大鷹(たいよう):大鷹型航空母艦1番艦
煌鶴(こうかく):翔鶴型航空母艦4番艦

…こうして書くと結構ありますね。


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第145話「夕月の場合4」

冬イベントE-3攻略中です、未だに輸送作戦終わってません。

レ級のいるBマスは敵が輪形陣なので致命傷を食らう事はあまりないんですが、フラッグマスの手前にいるル級flagship×2体の攻撃で鳥海と赤城が大破祭りで撤退するハメになります(泣


海原が大声で叫んだことにより周囲が静まり返る、いったい何事だと野次馬や海軍警察隊員、曙でさえも海原の方を見ていた。

 

 

「さっきから黙って聞いてりゃ曙ばっか悪者にして、おかしいだろ!」

 

 

「何がおかしいんだ?コイツはすでにふたりの人間を殺している、殺人罪は免れないぞ」

 

 

「そんな事は理解してる!俺が言いたいのは、そもそも新潟駐屯基地の司令官が曙を民間人に密売しなけりゃ曙が殺人をするような状況にもならなかったってことだ!元凶である駐屯基地の司令官にだって曙同等の、それ以上の罪があるはずだぞ!」

 

 

海原の言うことには一理ある、確かに曙の罪は決して軽くはない、しかし曙がそんな行動をとってしまったのは新潟駐屯基地の司令官が曙と茜を民間人に密売したことがそもそもの原因であり元凶だ、その罪は重いと言わざるをえない、早い話が曙は加害者であると同時に被害者なのだ。

 

 

「それに曙は仲間である茜を人質に捕られてオマケに爆弾で脅迫されてた、つまり曙は自分と茜の命を守るために不本意に殺人を犯したってことだ、情状酌量の余地だってあるだろ!」

 

 

海原の発言に榊原や吹雪たちがその通りだと頷く、海原の言うとおり曙が殺人を犯した背景を鑑みれば曙にも同情出来る点は存在し、情状酌量の余地は十分にある。

 

 

「情状酌量だ?人間でもない艦娘のどこに情をかける必要がある?」

 

 

「…は?」

 

 

隊長の発言に海原は言葉を失ってしまった、こいつは今何て言った?。

 

 

「艦娘は人間とは認められていないし人権なんてモノもない、深海棲艦と戦うためだけの兵器だ、そんな下等の存在に情だの何だの…バカバカしい」

 

 

「何だとテメェ!!もういっぺん言ってみろ!」

 

 

海原は激昂したように叫ぶと隊長の胸ぐらを掴む。

 

 

「何をそんなに怒る必要がある?俺は何か間違ったことを言ったか?」

 

 

「あぁ間違ってるよ!確かに艦娘は人間じゃないし人権も無い、深海棲艦と戦うための兵器だってその考えも別に否定はしない!」

 

 

意外にも海原が隊長の発言のほとんどの部分を肯定したため、隊長や周りの隊員や野次馬が呆けた顔をする、しかし海原はその後に“でもな”、と付け加えると…

 

 

「こいつら艦娘にだって人間と同じように意思があって、人格があって、心があるんだ!嬉しいときは笑って、悲しいときには泣く、それが人間じゃないから、人権が無いからってだけでそれらが全部無視されていいわけねぇだろ!」

 

 

海原はここにいるほぼ全員に聞こえるほどの声量で隊長に向かって言う、人間の死体から作られた艦娘にも人間的感情は存在する、それらは当然尊重されるべきモノであり、人間の都合で蔑ろにされるべきではない。

 

 

「それは違うな、そもそも人間でもない化け物が人間らしい感情を持っている方がおかしいんだよ、感情というモノは人間が持っているからこそ価値がある、化け物が感情を持っても邪魔なだけだ」

 

 

「そんなに人間であることが偉いのかよ?その人間を深海棲艦の脅威から守ってるのは艦娘なんだぞ!あいつらが普段どんな気持ちで戦ってるのか考えたことがあるのか!?常に死線を彷徨いながら傷つき悲しんでるんだぞ!」

 

 

「それが艦娘の作られた目的であり役目だろう?艦娘なんて所詮は人間を守るために死んでいく兵器、そんな使い捨ての化け物に心があるだのなんだの…くだらないんだよ!」

 

 

「っ!」

 

 

海原は隊長の顔面を殴りつけようと拳を振り上げたが、すんでのところで吹雪が止めに入る。

 

 

「ダメですよ司令官、ここで殴ってしまっては司令官の負けです」

 

 

『それにこんな奴殴る価値も無いわ、司令官の手が無駄に汚れるだけよ』

 

 

吹雪とリーザに諭された海原は隊長を掴んでいた手を離し、少し乱暴に突き飛ばす。

 

 

「とんだ青二才だな、俺は忙しいから行かせてもらうぞ、こんな深海棲艦と戦うための化け物に情を移すような狂人と話しても時間の無駄だ」

 

 

海原の言葉など全く心に響いていない隊長は一方的に話を打ち切るとどこかへ行ってしまった。

 

 

「…クソが…!」

 

 

海原の腹のムカムカは茜が到着するまで治まることはなかった。

 

 

 

 

 

「茜!無事だった!?怪我はない!?」

 

 

「大丈夫だよ、首輪付けられて縛られてた事以外は特に何もされてないし」

 

 

それから5分後、茜を乗せた海軍警察の車が到着した、茜が下りて来るなり曙は茜のもとへ駆け寄り、無事であった事を喜んでいた、発見されたときの茜は首輪(チョーカー)爆弾を付けられ手足を縛られていたという点を除けば目立った怪我はなかった、食事なども与えられていたようで、健康面でも問題は無いそうだ。

 

 

「おい化け者共、無駄話はいいからさっさと車に乗れ、変な真似したら叩き潰すからな」

 

 

そんな感動の再会の余韻にひたる暇もなく、隊長の鼻につく一言で2体は車に乗せられる。

 

 

「…ねぇ」

 

 

車に乗る直前、曙は海原の方をチラリと見て…

 

 

「ありがとう」

 

 

目尻に涙を浮かべた笑顔で、確かにそう言った。

 

 

曙と茜は車に乗ると、そのまま海軍警察署に連行されていった。

 

 

「俺は、何も出来なかったよ」

 

 

とてもやりきれないといった感情を持ちながら、海原はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

海軍警察が撤収作業を終えた後、そこにはいつも通りの有楽町駅の光景が広がっていた、曙に心無い言葉や石を投げた野次馬たちも雑踏の中に消えていき、ついさっきまでの騒動など初めから無かったかのように人々が歩いていく。

 

「じゃあ海原くん、俺も造船所に戻るよ、もしかしたら取り調べに付き合わなきゃいけないかもだけどね」

 

 

「見苦しい所を見せてしまってすみませんでした」

 

 

海原は榊原に頭を下げて謝罪する。

 

 

「気にしなくていい、俺も海原くんと同じ気持ちだったからね、むしろよく言ってくれたと思ったよ」

 

 

そう言って榊原は笑うと、あの隊長の事について少しだけ聞くことが出来た、どうやらあの隊長の男は艦娘に対しては“深海棲艦と闘うためのただの兵器”としか考えておらず、艦娘のもつ人格や感情に関しては否定的な考えの持ち主のようだ。

 

 

「曙と茜の処分が少しでも軽くなるように俺の方でも努力してみるよ、こんな理由で艦娘を解体したくはないからね」

 

 

「ありがとうございます、どうか曙たちをよろしくお願いします」

 

 

そう言って海原は榊原と別れると、吹雪たちを引き連れて台場鎮守府へと帰って行く。

 

 

 

 




次回「嘘つき」

この話を書いてるとき、どこぞのラビット呪われた子供たち(イニシエーター)を思い浮かべてました、個人的には序列98位のフクロウちゃんの方が好きです。


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第146話「夕月の場合5」

戦艦ル級flagshipに大破撤退を強いられているんだ…!

ホントにどうにかなりませんかねマジで、ちなみに出撃メンバーですが…

・吹雪
・金剛
・鳥海
・由良
・蒼龍
・赤城

こんな感じです、特に赤城と鳥海の大破率がハンパない、おすすめの編成とかありますか?




曙と茜の騒動の翌日、Deep Sea Fleetは出撃任務で海に出ていた、大演習祭(バトルフェスタ)以降大本営から出撃関連の任務がよく届くようになり、吹雪たちの出撃頻度もそれに応じて多くなっていた。

 

 

ガチ艦隊に勝利した吹雪たちの実力が認められたのかもしれないが、当の本人たちは面倒事が増えたとしか思っていない。

 

 

「敵艦隊の反応ありです、数は4体、この速度だと会敵まで15秒ほどです」

 

 

篝の電探が敵艦隊を捉える、ちなみに今日の出撃メンバーは吹雪、ハチ、マックス、暁、篝、大鳳だ、他のメンバーは遠征に出ている。

 

そして15秒後、敵艦隊と会敵する、編成は戦艦棲艦、空母棲艦、重巡棲艦、駆逐棲艦だ。

 

 

「っ!?敵の駆逐棲艦に“面影”を確認!」

 

 

吹雪の言葉で残りのメンバーに緊張が走り、敵艦隊が攻撃を仕掛ける前に全員で“面影”の姿を確認する。

 

 

膝あたりまである長い髪は金髪と黒髪が混ざっている変わった髪色をしていた、服装は濃紺色の和装に緋色の袴という神巫(カンナギ)のような印象を与える“面影”である。

 

 

「それじゃ、総員“面影”を残して敵を全滅!皆殺しだああああぁぁ!!!!!!」

 

 

吹雪の合図と同時にDeep Sea Fleetが敵艦隊に突撃する。

 

 

まずは挨拶とばかりに空母棲艦が艦載機を発艦、それに合わせて大鳳も震電改を発艦させ、航空戦を開始する。

 

 

上空で大鳳が敵艦載機を落としている間に海上では吹雪たちが戦艦棲艦に向かって行く、戦艦棲艦と重巡棲艦が砲撃を行うが、砲弾斬りでそれらを全て落とす。

 

 

まずは吹雪が手甲拳(ナックル)で戦艦棲艦に右ストレートをお見舞いする、しかし戦艦棲艦にはそれほどダメージが入っている様子はなかった。

 

 

司令艦(フラグシップ)か…」

 

 

装甲の硬さからそう当たりを付けた吹雪は戦艦棲艦の次弾装填が終わる前にもう一撃顔面にパンチを入れる。

 

 

立て続けに重い一撃を食らった戦艦棲艦はたたらを踏んで後ろに下がる、それと同時に次弾装填が終わったらしく、手に握られた主砲を吹雪に向けて撃った。

 

 

『吹雪!借りるよ!』

 

 

しかしリーザが吹雪の身体を操作し、命中する寸前のところで上半身を強引に反らしてそれを回避した。

 

 

「いったああああぁぁぁぁ!!!!???背骨折れたんじゃない!?」

 

 

『折れたら私が血反吐吐いてでも戦うから無問題(もーまんたい)!』

 

 

「あんたのその心意気は嬉しいけど私の身体の許容範囲(キャパシティ)考えてよね!?」

 

 

リーザの回避行動で被弾は免れたが、変わりに背骨が痛くなるという副産物がついてきてしまった。

 

 

「吹雪さん!援護します!」

 

 

するとここで空母棲艦と重巡棲艦を沈めた篝たちがやってきた、まずは篝がフレイム・スピアーで戦艦棲艦の背中を刺突、超高温のスピアーが超高速で容赦なく突き刺さる。

 

 

「───っ!?」

 

 

戦艦棲艦が悲痛な叫び声をあげながら前方に突き飛ばされる。

 

 

「あら、どこへ行くのかしら?」

 

 

「ここまで来て逃げられるとでも思ってるんですか?」

 

 

これはヤバいと思った戦艦棲艦は突き飛ばされた勢いで逃亡を図ろうとしたが、マックスがワイヤーで戦艦棲艦の首を繋ぎ、ハチが海中から戦艦棲艦の足を掴んで完全に逃げられなくさせる。

 

 

「───っ!」

 

 

膝立ちになった戦艦棲艦は目尻に涙を浮かべて金切り声をあげている、命乞いでもしているのだろうか。

 

 

「良いわねぇ…その絶望的な顔、助けてくれって事なのかしら?でもそんな顔をぐっちゃぐちゃにぶっ潰すのって最っ高に愉しいのよねぇ!」

 

 

最っ高に狂った笑顔で暁がバスターソードを戦艦棲艦に何度も叩きつける、肉を断ち、骨を砕き、頭を潰し、己の快楽に身を任せて戦艦棲艦の命を摘み取る。

 

 

「あぁ…やっぱりこの感じたまらないわねぇ…」

 

 

バスターソードにこびりついた戦艦棲艦の体液を舐めとりながら悦に浸っていた。

 

 

「さてと、それじゃそこの駆逐棲艦の“面影”に話し聞こうか」

 

 

暁の狂人めいた行動にも馴れた台場メンバーはさっさと駆逐棲艦に近付く。

 

 

「あの~、聞こえますか?」

 

 

吹雪が“面影”に近付いて話しかけると、“面影”は吹雪の方を向いて首を傾げた、どうやら話は通じそうだ。

 

 

「あなた、轟沈して深海棲艦になってしまった艦娘…ですよね?」

 

 

『っ!!分かるのか…?私のことが…!』

 

 

“面影”は心底驚いた様子で吹雪に問い掛ける。

 

 

「はい、私たちはあなたのような深海棲艦の状態から艦娘に戻った過去があって、その影響であなたと言葉を交わせる能力があるんです」

 

 

『…そうなのか、良かった…やっと私の声が届く相手に会えたのか…』

 

 

“面影”は涙ぐみながら自分の存在を認識してくれる相手に会えたことを喜んでいた。

 

 

 

「よかったら私たちの鎮守府に来ませんか?あなたを元に戻す手伝いが出来るかもしれません」

 

 

吹雪がそう言うと、“面影”は是非と首を縦に振る。

 

 

 

「ではまずあなたの名前と、轟沈前に所属していた鎮守府を教えてください」

 

 

そう言って吹雪はポケットからメモ帳を取り出してペンを握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『睦月型駆逐艦12番艦の夕月だ、所属は室蘭鎮守府』

 

 

 

 

 

 

「司令官!Deep Sea Fleet帰投しました!」

 

 

 

「おう、ご苦労さん、補給行って休んでこい」

 

 

 

「それどころじゃないんですよ司令官、ビッグニュースがあるんです!」

 

 

 

「ビッグニュース?」

 

 

帰投するなりそんな事を言う吹雪に海原は首を傾げるが、次の瞬間そんな疑問も吹き飛ぶほどの衝撃を与える言葉が吹雪の口から放たれる。

 

 

「じゃーん!出撃中に夕月さんの“面影”に出会ったので、オモチカエリしてきました!」

 

 

吹雪たち出撃メンバーが深海棲艦状態の夕月を提督室に通す。

 

 

「…夕月…?」

 

 

あまりの衝撃に海原は持っていたペンを取り落として立ち上がる、あの夕月が帰ってきた…?かつて室蘭時代に自分の部下だったあの夕月が…?

 

 

『司令殿…』

 

 

夕月はゆっくりと海原の方へと歩いていく。

 

 

「夕月…!夕月!」

 

 

海原は夕月のもとへと駆け寄り、その身体を抱き締めようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…嘘つき』

 

 

しかし夕月は、その海原の手を冷たく払いのけた。




次回「許さない」

信じてたのに…


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第147話「夕月の場合6」

感想で編成例を書いてくれた方ありがとうございました。

駆逐3、軽巡1、航巡2が多かったんですけど、航巡は改装直後の最上しかいなかったので千代田を代役にしてます、航空巡洋艦って何気にレアな事に今更気付く。


「ゆ、夕月…?」

 

 

差し伸べようとした手を払われた海原は目を見開いて夕月を見る、それは夕月の言葉を聞いていた吹雪たちも同様で、完全に予想外といった顔をしている。

 

 

『沈めたりしないって言ったのに、助けるって言ったのに、どうして司令殿は嘘をついたんですか、どうして私たちを裏切ったんですか!』

 

 

「…………………」

 

 

吹雪経由で告げられた夕月の言葉に海原は何も言えずに俯いた、あの沖ノ鳥島海戦で海原は三日月たちの艦隊に撤退の指示を出せず、轟沈すると分かっている死地へと追いやってしまった。

 

支援艦隊は向かっていたが時間的に間に合わないという予測も作戦本部内では立っていたし、別働隊の轟沈はほぼ確定していた、それなのに海原は絶対に沈ませないと、間に合わない可能性が高かった支援艦隊が来るという嘘を吐いた。

 

 

「夕月、すまなかった、お前を轟沈させる結果になってしまって、お前を助けられなくて、本当にごめん」

 

 

精一杯の謝罪の意思を込めて海原は頭を下げる、

 

 

『…助けると言っておきながら私たちを轟沈させた司令殿を、私は許すつもりはない』

 

 

夕月はそのまま提督室を出て行ってしまった。

 

 

「夕月…」

 

今の海原に、夕月の後を追うことは出来なかった。

 

 

「…司令官…」

 

 

吹雪たちは何と海原に声をかけていいかが分からず、その場で突っ立っていることしか出来なかった。

 

 

「…吹雪、夕月を部屋に案内してやってくれ、お前らも補給に行ってこい」

 

 

「…はい」

 

 

何も出来ない自分にどうしようもない無力さを感じつつ、吹雪たちは提督室を後にした。

 

 

「…夕月、本当にごめん」

 

 

 

 

「司令官、遠征完了です!」

 

 

夕月が来てから約30分後、三日月、雪風、大鯨が遠征から帰投して提督室に戻ってきた。

 

 

「あ、あぁ…ご苦労さん、補給して休んでこい」

 

 

海原は報告書を受け取ると三日月たちを補給に向かわせようとするが、明らかに海原の様子がおかしいことに三日月は敏感に気づいた。

 

 

「…司令官、何かあったのですか?」

 

 

三日月の鋭い指摘に海原はドキリとする、今目の前にいる三日月と雪風は室蘭時代海原の部下だった艦娘だ、当然夕月を知っている。

 

 

(俺を恨んでるって知ったら、どんなリアクションするかな…)

 

 

それが少し心配になったが、海原は吹雪たちが夕月をオモチカエリしたことを遠征艦隊に伝える。

 

 

「ゆ、夕月が…!?」

 

 

「ここにいるんですか…?」

 

 

三日月と雪風は目を剥いて驚いていた、大鯨もまた多かれ少なかれ驚いているが、理由はまた別の所にあった。

 

 

「夕月ちゃんは提督の事を恨んでるんですか?」

 

 

「あぁ、助からないって分かってるのに絶対に沈ませない、なんて嘘をついたからな…」

 

 

「そんな…だってアレは司令官のせいじゃ…」

 

 

「夕月から見れば同じ事だよ、本部では支援艦隊が間に合うかは分からないって見解だったし、三日月たちの轟沈はほぼ確定していた、なのに俺は嘘を吐いてお前らを見殺しにした、夕月が恨むのも当然だ」

 

 

海原の言葉に三日月と雪風はやるせない表情で俯いた、2体も夕月同様海原の言葉を信じて戦った結果轟沈してしまった過去があるが、海原の事は恨んでいない、彼がその嘘を吐くのにどれだけ辛い決断を強いられたか、それが理解できるからだ。

 

 

しかしどれだけきれい事で取り繕っても嘘は嘘だ、その嘘を吐いた海原にどんな背景や経緯があったかなどは夕月には関係ない。

 

 

「…私たちの方から、夕月と話してみます、私たちなら、夕月も分かってくれるかもしれませんし」

 

 

「あぁ、頼むよ、すまないな…」

 

 

「気にしないでください、司令官と夕月がすれ違ったままなのは私たちもいやですから」

 

 

三日月たちは提督室を出て行くと、一度大鯨と別れて夕月のいる部屋に向かう。

 

 

 

 

「何かいざ会うってなったら緊張するな…」

 

 

「緊張する必要なんてどこにあるのよ、昔の仲間に会うだけでしょ」

 

 

夕月のいる13号室の前で三日月と雪風は謎の緊張感に苛まれていた、海原のことを恨んでいる夕月に、自分たちは何と言って会えばいいのだろうか。

 

 

ノックをしてみたが返事が無いため、三日月はそのままドアを開けて中に入る。

 

 

「夕月…いる?」

 

 

夕月はベッドの上で体育座りをしていた、その後ろに浮かぶ“面影”はあのときの夕月の姿そのものであり、また会えたことに喜びを感じる。

 

 

『三日月…?雪風…?』

 

 

夕月は2体の姿を確認するなり立ち上がると、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。

 

 

『三日月!雪風!本当にお前たちなのか!?』

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

「また会えたね、夕月」

 

 

三日月と雪風がそう言って笑うと、夕月は涙を流して2体に抱き付いた。

 

 

『良かった、また会えて…良かった…』

 

 

三日月たちはそんな夕月をただ優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

『…そうか、お前たちもあの後轟沈したのか』

 

 

「うん、でもその後に吹雪さんたちに助けられて、混血艦(ハーフ)だけど艦娘に戻れたの」

 

 

「もちろん司令官のおかげでもあるのよ、こんな私たちを受け入れてくれるおかげで今でも生きていられるし」

 

 

『そう…なのか…』

 

 

そう答える夕月の表情はどんよりとしたモノであった。

 

 

「…やっぱり司令官の事、許せない…?」

 

 

恐る恐るといった様子で三日月が聞くと、夕月は顔を縦に振ってそれを肯定する。

 

 

『司令殿は助かる見込みも無いのに私たちを絶対に沈ませないって嘘を吐いた、初めから私たちを沈めるためにあんな嘘を吐いたんだ、許せるわけがない』

 

 

「それは違うよ!そりゃ確かに司令官は嘘を吐いたけど、司令官だってあの嘘を吐くのにどれだけ辛かったか…」

 

 

『私の方がもっと辛かったぞ!』

 

 

三日月の言葉を遮って夕月が急に声を上げる。

 

 

『痛い思いをして!苦しい思いをして!死ぬ気でもがいたけど叶わなくて!私は轟沈した!深海棲艦になってからは誰からも敵意を向けられて!誰にも声は届かなくて!助けてと言うことすら許されなかった!これだけの目にあった私に許せと言うのか!?助からないと知りながらぬか喜びをさせるような嘘を吐いた司令殿を!?』

 

 

「それは…」

 

 

三日月は何も言えずに俯いてしまった、夕月がどれだけ辛い目にあったかは痛いほど分かる、でも海原の気持ちも分かってほしい、そんな両者の思いに板挟みになってしまい言葉が出なくなってしまった。

 

 

『…悪いが、しばらくひとりにしてくれないか?今は誰にも会いたくない』

 

 

夕月にそう言われ、三日月たちは何も言わずに部屋を後にする。

 

 

「…三日月」

 

 

「…うん、分かってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「絶対に夕月を救う」」

 

 

三日月と雪風は互いにそう心に誓うと、済ませていなかった補給をしに明石の工房へ向かう。




次回「すれ違う心」

分かってる、でもやっぱり許せないよ…


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第148話「夕月の場合7」

イベント海域E-3ですが、レ級マス回避編成で挑んだところ、ボス前で離島棲姫が待ち構える空襲マスに飛ばされました、索敵値が足りないらしい。

ならばと金剛、鳥海、高雄に零式水上偵察機を2機ずつ搭載、吹雪に電探、蒼龍に彩雲…という盤石の体勢で挑むも、やはり空襲マスにシューット!されました。

これでダメだともう打つ手が無い…。


夕月が台場鎮守府に来て一日経った、海原はあのとき以降夕月に会うことが出来ていない。

 

 

(どの面下げて会えばいいんだろうな…)

 

 

海原が頭を悩ませながら廊下を歩いていると、向こう側から夕月が歩いてきた。

 

 

「あっ…夕月…!」

 

 

海原は夕月に声をかけたが、夕月はそれに応えず歩いていこうとする。

 

 

「待ってくれ夕月!」

 

 

海原が歩いていこうとする夕月の腕を掴み、引き留めようとする。

 

 

『…離してくれ』

 

 

しかし夕月はそれを無理やり振り払って行ってしまった。

 

 

「夕月…」

 

 

 

 

『…はぁ』

 

 

その足で部屋に戻った夕月はベッドに倒れ込むと、枕に顔をうずめてため息を吐く。

 

 

『司令殿…』

 

 

夕月の頭にあるのは海原の事だ、夕月とて海原があんな嘘を何も考えずに吐いたと思っていないし、彼の気持ちも全く察せないほどバカではない。

 

 

しかし、やはりどうしても許せないのだ、ひとり残された海原だってとても辛かっただろうし、苦しい思いもしてきただろう。

 

 

でもそれを言うなら自分だって轟沈して深海棲艦になってからはとても辛い日々ばかりだった、出会う艦娘からは敵意を向けられ、声をかけても届かない、そんな日がずっと続き、夕月の心は少しずつすり減っていった。

 

 

海原だけが悪いわけじゃない、頭では理解していても感情がそれに納得してくれない、そんな自分がとても腹立たしかった。

 

 

「夕月、入るよ」

 

 

するとノックも無しに部屋のドアが開いて吹雪が入ってくる、入るよと言い終わる頃には部屋の中に入っていた。

 

 

『ノックもせずに入りながら“入るよ”って言っても意味ないだろ』

 

 

『別にいいじゃない、カタいこと言いっこなしよ』

 

 

夕月は起き上がると吹雪につっこみを入れるがリーザの軽い一言で流され、呆れたようにため息を吐く。

 

 

「部屋に引きこもってばかりじゃ余計ネガティブな事しか浮かばなくなるよ、外に出て軽く身体動かせば?」

 

 

『…悪いが今はそんな気分じゃないんだ』

 

 

吹雪が外に行かないかと誘うが、夕月は気まずそうに目をそらして断ってしまう。

 

 

「ひょっとして、司令官の事考えてたの?」

 

 

吹雪にそう指摘された夕月はコクリと頷く。

 

 

「三日月から聞いたよ、司令官の事、許せないって」

 

 

『…私だって司令殿が悪いわけじゃないって分かってるさ、でもやっぱり納得出来ないんだよ…』

 

 

夕月は袴の裾をぎゅっと握り締めて泣きそうな顔で俯く。

 

 

(夕月も内心複雑なんだろうな…)

 

 

どうすれば彼女の心に歩み寄れるだろうか、吹雪は考えていたが…

 

 

『許せないなら、別に許さなくてもいいんじゃない?』

 

 

その答えを出したのは、意外にもリーザだった。

 

 

『えっ…?』

 

 

『許せないなら許せないままでいいと思うわよ、人間も艦娘も意思や心がある生き物なんだから、どうしても譲れない部分はあるし、それでケンカになったり、相手を許せないって思ったりもする事だってある、だから無理して許す必要は無いよ』

 

 

『でも、それだと根本的な解決にはならないんじゃ…?』

 

 

自分の伝えたい事がいまいち伝わっていないらしく、そう反論する夕月にリーザはうーん…と少し頭を悩ませる。

 

 

『じゃあ言い方を変えるね、夕月と司令官の信頼関係は、そのたった一つの“許せない事”があっただけで壊れちゃうような薄っぺらいモノなの?』

 

 

『っ!!それは…』

 

 

『違うでしょ?確かにどれだけ強い絆や信頼関係があったとしても、許せない事がきっかけでヒビが入ることもある、でもだからってそれで夕月と司令官の関係が崩れるなんて事は無い、ヒビが入ったら、別の何かでそのヒビを埋めればいいんだよ』

 

 

『別の…何か…?』

 

 

『そう、例えばその許せない出来事を覆い隠すくらいの良い思い出をこれから作っていく…とかね、たとえヒビが入ったとしても、相手を嫌いにならなければちゃんと仲直り出来るんだよ』

 

 

『嫌いに…ならなければ……』

 

 

『夕月は、司令官が嫌い?殺してやりたいほど憎い?』

 

 

そのリーザの問いに、夕月は首を横に振って否定する。

 

 

『なら何も思い悩む必要は無いよ、許せなくたってちゃんと仲直り出来る、現に司令官はまだ夕月のことを想ってるし、仲直りしたいと思ってる、あとは夕月自身がそれにどう向き合ってどういう答えを出すか…だよ』

 

 

『どう…向き合う…か…』

 

 

『私が夕月に言えるのはここまで、後はじっくり考えてみて』

 

 

リーザはそう言うとそれ以降何も言わなくなった、吹雪も空気を読んだのか、何も言わずに部屋を後にする。

 

 

「リーザも中々いいこと言うね」

 

 

『綺麗事だっていう自覚はあるわよ、人間関係なんてそんな簡単にうまくいくわけでもないし、ほんのちょっとのきっかけで完全に壊れちゃう事だって掃いて捨てるほどある、でも夕月の心の支えになるのなら、そんな綺麗事に頼ったっていいでしょ?すれ違ったままなんて嫌だし』

 

 

「そうだね、私もそう思うよ」

 

 

吹雪とリーザがそう話ながら歩いていると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

『これは…!?』

 

 

深海棲艦の接近を知らせる警報が、鎮守府中に鳴り響いた。




次回「変わるもの、変わらないもの」

貴方はいつだってそうだった…


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第149話「夕月の場合8」

イベント海域E-3ですが、戦力ゲージがまだ6割くらい残っている状態です、夜戦に突入しても後衛が6体とも残っている場合がほとんどなので、深海双子棲姫がノーダメージで戦闘終了…というパターンもザラにあって中々キツいです。


「全く、この鎮守府はよく深海棲艦がやってくるわね、誘蛾灯(ゆうがとう)に寄ってくる醜い蛾のようだわ」

 

「本当にねー」

 

 

マックスと暁がダルそうにぼやきながら接近してくる深海棲艦を見据える、鎮守府の防衛電探が深海棲艦の接近を察知し、海原は迎撃のため緊急出撃を命じた。

 

 

今回も2チームに分かれて迎撃戦を行う、沖へ出て戦闘を行うのは暁、マックス、雪風、ハチ、大鳳、そして鎮守府に残って防衛を行うのは吹雪、大鯨、篝、三日月だ。

 

 

「ほら、敵さんが来ましたよ、無駄なおしゃべりはそこまでです」

 

 

雪風が敵を肉眼で発見し、旗艦(リーダー)の暁に伝える。

 

 

「分かったわ、司令官に通信入れるわね」

 

 

暁はインカムのマイクに口を近づけ、会敵の状況を海原に伝えた。

 

 

 

 

 

『こちら海上戦闘部隊旗艦(リーダー)暁、敵艦隊を発見したわ、構成は重巡棲艦3体、軽巡棲艦2体、駆逐棲艦1体よ、撃破にはそう時間はかからないと思うから、司令官は提督室でお茶でも飲みながらのんびり待っててちょうだい』

 

 

提督室の海原はインカム越しに聞こえてくる暁の報告を聞きながら艦隊指揮の手はずを整える。

 

 

「こらこら暁、敵の戦力を過小評価するのは危険だっていつも言ってるだろ?何時如何(いついか)なる時も油断せずに事にあたれ、いいな?」

 

 

『了解、それじゃみんな!戦闘開始!』

 

 

暁の号令と共に部隊全員が雄叫びをあげ、砲や得物を撃ち合う音がインカム越しに鳴り響く。

 

 

「さてと、あとは鎮守府敷地周辺を見回ってる吹雪たちだな」

 

 

海原は無線回線を吹雪たちのインカムに切り替える。

 

 

「吹雪、そっちはどうだ?」

 

 

『はい、こちら鎮守府敷地哨戒部隊旗艦(リーダー)吹雪、現在敵影は確認出来ません』

 

 

「そうか、暁たちなら海岸まで敵の接近を許すことは無いだろうが、空母棲艦の艦載機なんかにも気を配りながら哨戒を続けてくれ、くれぐれも油断するんじゃないぞ」

 

 

『了解しました!』

 

 

両者の報告を聞き終わると、ふう…と息を吐いて椅子にもたれ掛かる。

 

 

「とりあえずは今のところ順調だな」

 

 

「このまま何もなく終わってくれればいいんですけどねぇ」

 

 

海原の隣で控えているオペレーター役の大鯨が緊張感など微塵も感じさせないおっとりとした口調で言う。

 

 

「俺もそうあってほしいと思うが、何が起こるか分からないのが艦隊戦だ、待機するこちらも気を抜かずにいよう」

 

 

「そうですね、では私はそんな緊張感を解すためにお茶を淹れますねぇ」

 

 

「お前俺の話聞いてた?」

 

 

海原のつっこみなどどこ吹く風といったように大鯨はお茶を淹れはじめる。

 

 

『……………』

 

 

そんな一連のやり取りを眺めながら夕月は提督室のソファに座って思い詰めるように考えていた、許せないなら許さなくてもいい、リーザに言われたその言葉がさっきからずっと頭の中をぐるぐると回っている、自分はそれに対してどんな答えを出せばいいのだろうか、どんな答えを出したいのだろうか、そんな事をずっと考えていた。

 

 

『司令殿…』

 

 

大鯨を通じて何か話をしようか、そんな事を考えていたとき…

 

 

『こちら鎮守府敷地哨戒部隊旗艦(リーダー)吹雪!緊急の連絡です!』

 

 

「どうした!?」

 

 

『敷地内の排水路から駆逐戦車が進軍してきました!数は5体!現在交戦中ですが、そのうちの1体が鎮守府の建物に向かって進撃中!』

 

 

「何だと!?」

 

 

その報告に海原は思わず立ち上がった、大鯨も吹雪の耳を疑うような報告に驚いてこちらを見ている。

 

 

『こちらは今いる4体を相手取るので手一杯です!司令官は大至急建物から避難してください!』

 

 

 

「分かった!夕月!大鯨!聞いての通りだ!逃げるぞ!」

 

 

「了解です!」

 

 

『し、司令殿!?駆逐戦車とは何だ!?』

 

 

「陸上での歩行移動が可能な駆逐棲艦ですよ、かなり強いです」

 

 

『そ、そんなヤツがいるのか!?』

 

 

自分の知らない間に出現した新種の敵に驚きつつ、夕月は大鯨に手を引かれて走り出す。

 

 

「提督…先に行ってて…いいですよぉ…!」

 

 

しかし走り出して十数秒で大鯨がバテはじめてしまった、走る体力など皆無の大鯨には短距離でも猛ダッシュは身体に堪える。

 

 

「んなわけいくか!」

 

海原は大鯨をおんぶすると、左手で夕月の手を取って走り出す。

 

「別に置いていってもいいんですよぉ?道なら分かりますし、最低限の自衛なら出来ますしぃ…」

 

「バカ野郎!それで大鯨が駆逐戦車にやられちまったら俺はどうなる!?もう二度と俺のせいで仲間を失いたくないんだよ!」

 

 

それくらい分かれ!と背中越しに大鯨を怒鳴りつけると、夕月の手を引きながら階段を駆け降りる。

 

「…ごめんなさい、ありがとうございます」

 

大鯨はほんのり顔を赤らめると、海原の背中に身を預ける、こんな欠陥を抱えた自分でも海原は“仲間”だと言ってくれる、見捨てずに守ろうとしてくれる、この人のもとへ来れて良かったと、大鯨はこの瞬間の幸せをしっかりと噛みしめていた。

 

 

『………』

 

 

夕月はそんな大鯨の姿を、どこか羨ましそうに見つめていた。

 

 

 

『…“俺のせい”…か』

 

 

そして海原のその言葉を聞いて、夕月は人知れず胸を痛めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よし、駆逐戦車はいないようだな」

 

 

建物の正面玄関から外に出た海原は周りを見渡すが、駆逐戦車の姿は無かった。

 

 

『こちら海上戦闘部隊旗艦(リーダー)の暁!こっちの敵は片付いたわ!吹雪さんから事情は聞いてるから、すぐに戻って応援に向かうわ!』

 

 

「暁か!助かった、頼むぞ!」

 

 

『了解!』

 

 

海原はインカムを胸ポケットに戻すと、再び夕月の手を取って走り出す。

 

 

「なっ…!?」

 

 

しかしその時、正面にあった物資備蓄用の倉庫の物影から駆逐戦車が姿を現した。

 

 

「しまった…!物影に隠れてたから見えなかったのか!」

 

 

駆逐戦車は海原たちの姿を認識すると、口と頭部、左右両脇腹の計4機の主砲をこちらに向け、発射準備に入る。

 

 

「させません!」

 

 

それを見るなり大鯨が海原の背中から降りると、ライフルとククリ、そして腕に小型の盾を装備して駆逐戦車と対峙する。

 

 

「提督は逃げてください!ここは私が食い止めます!」

 

 

「待てよ大鯨!お前単騎での戦闘は苦手だろ!」

 

 

「駆逐戦車程度なら私でも相手できます!だから早く!」

 

 

大鯨はそう言ってライフルで駆逐戦車を狙撃する、今この駆逐戦車を相手に戦えるのは大鯨だけだ、そして海原は深海棲艦とは戦えない、つまり…

 

 

「くっ…!絶対に死ぬなよ!」

 

 

今の海原に出来ることは、駆逐戦車を戦闘力の弱い大鯨に任せ、無様に逃げ出すことだけだ。

 

 

「結局俺は何も出来ねぇのかよ…!仲間がこんなに頑張ってんのに、俺は一番戦闘が苦手な大鯨にすら敵を押し付けて、こうして逃げることしか出来ねぇってのかよ!」

 

 

海原はそう叫びながら夕月の手を引いて走り出す。

 

 

『司令殿…』

 

唇を噛みしめて悔しさに顔を歪ませる海原を見て、夕月は再びズキンと胸が痛むのを感じる、なぜ海原がそこまで苦しむ必要があるのだろうか、提督は深海棲艦と戦うことは出来ない、提督室で艦娘に指示を出すことが提督である海原の仕事だ、なのになぜ海原はこれほど自分たちのことを…。

 

 

そう考えるほど夕月の胸の痛みは大きくなっていく。

 

「っ!!」

 

 

その時、ひときわ大きな爆発音が後方で鳴り、海原は足を止めて大鯨の方を見る。

 

 

「っ!?大鯨…!」

 

 

そこには、駆逐戦車の砲撃を食らって大破相当のダメージを受けて倒れている大鯨の姿があった、深海棲器の盾でも大鯨の防御力の低さをカバーしきれず、大ダメージを受けてしまった。

 

 

(やっぱり大鯨1体じゃ無茶だったんだ…!)

 

 

大鯨を脅威の対象と見なさなくなったのか、駆逐戦車は攻撃対象を大鯨から海原たちにチェンジし、砲口をこちらに向ける。

 

 

「やば…!」

 

 

海原は夕月の手を取って猛ダッシュで走り出す、大鯨を置いていく事に後ろ髪を引かれる思いがあったが、ターゲットをこちらに変えたのでこれ以上駆逐戦車に狙われる事は無いだろう。

 

 

「思った以上に早いじゃねぇか…!」

 

 

駆逐戦車の移動速度が思った以上に早かった、ゆっくり漕いだ自転車くらいは出ているのではないだろうか。

 

 

このままではいずれ追い付かれてしまう、何か策を考えなければいけないと海原が頭を悩ませていたとき、駆逐戦車が全ての主砲から砲撃をしてきた、弾丸が海原たちのもとへ容赦なく降ってくる。

 

 

『マズい…!』

 

 

このままでは海原の命が危ない、夕月は深海棲艦の艤装を展開させて弾丸を撃ち落とそうとしたが…

 

 

「夕月危ねええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

弾丸が当たる直前に海原が夕月を抱きかかえて横へ転がる。

 

 

刹那、弾丸が炸薬の効果で爆発し、爆炎と砕けたコンクリ片をあたりに撒き散らす。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

海原は何とか夕月を庇うため、爆発地点に背中を向けて夕月の盾になるように転がった、そのせいでコンクリ片や爆炎が容赦なく海原の背中を襲う。

 

 

『司令殿!!大丈夫ですか!?』

 

 

夕月はぐったりしている海原の身体を揺する、そして見てしまった。

 

 

『っ!!司令殿…』

 

 

制服の背中部分が焼け落ち、露出した背中の皮膚は火傷で爛れ、砕けた小さなコンクリ片が突き刺さっている海原の痛々しい背中を…

 

 

『なぜ、なぜそこまでして私を…!』

 

 

自分は海原に許さないと言った、その後も声をかけられるたびに冷たい態度で接し続け、海原から差し伸べられた手を全て払いのけた、なのになぜ海原はこんなになってまで自分を助けてくれるのだろうか…。

 

 

「何だ…夕月、何で助けたのかって…聞きたそうな顔を…してる…な?」

 

 

爆発の衝撃で身体中が痛む海原は小さな声で絶え絶えと言葉を紡ぐ、海原のその問いに夕月は首を縦に振ってそれを肯定する。

 

 

「…今度…こそ、守りたかったん…だよ、俺の…嘘のせいで…お前たちは轟沈しちまった…からな、だから…どうしてもお前を…守りたかった、それが…提督である俺の…役目だ…」

 

 

本当は声を出すのもやっとのはずなのに、海原は力なく笑ってそう言った。

 

 

『…あぁ、そうだ、そうだった、貴方は、いつだってそうだった…』

 

 

この時、夕月はようやく気付いた、海原はあの時から何も変わっていなかった、最初こそ深海棲艦に復讐するためには手段を選ばない暴君のような人間ではあったが、深海棲艦襲撃事件以降は艦娘に対する認識を改め、自分たちを本当の家族のように扱ってくれるようになった。

 

 

提督の癖に上下関係に厳しくなく、そのくせ艦娘の命に関わる事になると上官命令をこれでもかと言うほど強調し、艦娘の安全を第一に考えてくれていた。

 

 

 

他の何よりも艦娘を大切にしてくれる海原に、夕月は何時しか惹かれていた、自分たちを守ろうとしてくれたように、夕月も海原を、海原が待つ鎮守府を守るために戦いたいと思うようになっていった。

 

 

そしてだからこそ、あの時嘘を吐いた海原が許せなかった、もしあの時海原が正直に轟沈してしまうと言っても、夕月は戦うことを拒まなかった、海原のために戦って、海原のために死ねるのであればそれこそ夕月の本望だからだ、だから心傷(きず)ついてまで嘘を吐いてほしくなかった、素直に死んでこいと言ってほしかった。

 

 

『まぁそれこそ、司令殿には出来ないことだろうな』

 

 

そう言いながら夕月は愛おしそうに海原の頬を指でなぞると、艤装を展開させて駆逐戦車を見据える。

 

 

『貴様、よくも司令殿を傷つけてくれたな、そんなに死にたいのなら手伝ってやろう』

 

 

対する駆逐戦車は弾丸の装填を終え、眼前の夕月を“敵”と認識して攻撃態勢に入る。

 

 

正直に言って海原の事はやはりまだ許せそうにない、それでも自分は前に進んでいこうと思う、海原が今までずっと自分たちの事を想い続けてくれたように、今度は自分がこの先ずっと海原を想い、そして護り続けていこうと思う。

 

 

それでヒビが埋まっていくかは夕月自身も分からないが、海原が自分を想いづけてくれる限り、自分もそれに応え続けていきたい、それが今の夕月が出せる“答え”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『司令殿にはこれ以上指一本弾丸一発触れさせない!司令殿は…私が護る!』

 

 

夕月の目には、確かな決意の色が浮かんでいた。




次回「月下二舞ウ武士(モノノフ)

貴方の側で何時までも…


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第150話「夕月の場合9」

冬イベントクリアできませんでした…ボスを最終形態にしたあとは全て夜戦で双子棲姫を引っ張り出せず、そのままイベントを終えてしまいました…。

ちなみにイベント終わりにキス島行ったらあっさりクリア出来ました、今は北方海域艦隊決戦の攻略に取りかかっています。


夕月は主砲を構えて駆逐戦車に向かって突撃する、陸上での戦闘経験は皆無なので、そこはぶっつけ本番だ。

 

 

先に攻撃したのは夕月、射出された弾丸が駆逐戦車に命中するが、ほとんどダメージは入っていない。

 

 

『こいつ、既存の駆逐棲艦より強いぞ…!』

 

 

最初の一撃で格の違いを理解した夕月は一度距離を取り、反撃を食らわないようにしながら砲撃を行う。

 

 

駆逐戦車が次弾装填を終えて弾丸を射出する、夕月はそれを軽い身のこなしでかわしていくが…

 

 

「うおっ!?」

 

 

そのうちの一発が倒れている海原の近くに着弾、海原はとっさに転がって事なきをえたが、背中の傷が刺激されたようで苦悶の表情を浮かべる。

 

 

『このままじゃ司令殿が危険だな…』

 

 

夕月は主砲を駆逐戦車に向けて撃ちつつ、グラウンドの方へと少しずつ移動していく。

 

 

『ほらどうした!?そんな豆鉄砲じゃ私は倒せないぞ!貴様も存外たいしたことないんだな!』

 

 

夕月の安い挑発文句に見事に乗った駆逐戦車は先ほどよりも速いスピードで夕月に迫ってくる。

 

 

『よし、これで司令殿と大鯨はとりあえず安全だな』

 

 

グラウンドの中心まで移動すると、夕月は駆逐戦車と向かい合って戦闘を再開、一応攻撃自体は当たっているがダメージは相変わらず小破未満(カスダメ)だ。

 

 

『このまま持久戦に持ち込むのは愚策だな…』

 

 

あいにく夕月の残弾も無限ではない、それは敵も同様だろうが、攻撃頻度は相手の方が少ないため弾切れを起こすとすれば間違いなくこちら側だろう。

 

 

『ならばこれなら…!』

 

 

夕月は発射管から魚雷を抜くとダーツの要領で駆逐戦車に向かってぶん投げる、主砲撃よりダメージは通っているが、それでも足りない。

 

 

『動きは鈍くなっているが、それでも足りないな…』

 

 

ひたすら攻撃するしかないな、と夕月はめげずに攻撃を再開するが、ここで予想外の事態になった。

 

 

『なっ…!?』

 

 

駆逐戦車が4本の足を器用に使い、大ジャンプを噛まして夕月と一気に距離を縮めてきた、以前川内に使ったのとほぼ同じ動きである。

 

 

『その巨体でその跳躍力は反則だろ…!』

 

 

距離を取ろうとした夕月だったが、そのまま駆逐戦車の前足から繰り出されるパンチに殴り飛ばされる。

 

 

『ごほぉ!』

 

 

夕月は大きく吹き飛ばされ、海原の近くに着地する。

 

 

「ゆ、夕月…!」

 

 

『大丈夫だ!私はまだやれる!必ず貴方を護ってみせる!』

 

 

聞こえないと分かっていても、夕月は海原の方を向いてそう言ってみせる、するとここで夕月は海原の腰元に護身用として持っていた脇差があるのに気付く。

 

 

『すまない司令殿、借りるぞ!』

 

 

夕月は脇差を腰元から抜き取ると、抜刀して駆逐戦車に向かっていく。

 

 

砲撃で駆逐戦車を牽制しつつ、夕月は駆逐戦車の攻撃をかわして距離を詰める。

 

 

『はあっ!』

 

 

夕月は駆逐戦車の左前足を脇差で思い切り斬りつける、駆逐戦車は悲痛なうめき声を上げて動きを止める、夕月は白兵戦をやったこともなければ刀すら持ったこともない、ましてや陸上での砲雷撃戦も初めてなので攻撃動作の全てが覚束ないが、それでも何とか戦えている。

 

 

『せいっ!せいっ!やあっ!とおっ!』

 

 

夕月は砲撃に剣撃を織り交ぜながら駆逐戦車を攻撃する、その甲斐あって駆逐戦車の体力をだいぶ削いだが、それでもまだ小破相当だろう。

 

 

『やはり練度(レベル)が足りないのか…!』

 

 

夕月の練度(レベル)は轟沈したときからずっと止まったまま、つまり改装練度(レベル)にも達していないのだ、既存の駆逐棲艦よりも性能が上がっている戦車と1対1(サシ)で殺り合っても夕月が不利なのは目に見えている。

 

 

『っ!?しまっ…!』

 

 

そして慣れない戦闘による疲労のせいなのか、夕月は足を取られて転んでしまった、それを見逃さなかった駆逐戦車は全ての主砲を夕月に向け、撃った。

 

 

『ぐああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!』

 

 

至近距離から砲撃された夕月は大きく吹き飛ばされ地面を3バウンド、一気に大破相当のダメージを負う。

 

 

『ぐっ…!あぁ…!』

 

 

夕月は立ち上がろうとしたが、左足の骨が砕けて動くことが出来なかった。

 

 

ならばと刀を杖代わりにして生きている右足で立ち上がり、艤装の出力最大で砲撃をする、しかし大破していて艤装の能力がダウンしており、夕月自身の練度(レベル)も低いのでダメージはほぼゼロに近い。

 

 

そんな状態の夕月に脅威を感じなくなったのか、駆逐戦車は夕月の砲撃をものともせずに接近し、動けない夕月を前足で掴む。

 

 

『くそっ…!は、離せ…!』

 

 

そう言われて普通に離すわけもなく、夕月は思い切り駆逐戦車に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 

『があああああぁぁっ!!!!!』

 

 

全身を激しく打ち付けた夕月はさらに右腕と胸骨を骨折、完全に動けなくなってしまった。

 

 

『こ…このぉ…!』

 

 

夕月は殺意に満ちた目で駆逐戦車を睨み付けるが、当の駆逐戦車は全く気にしていない様子で夕月に砲を向ける。

 

 

『…ここまでか』

 

 

夕月が諦めかけたその時、小さな小石が駆逐戦車に投げつけられ、装甲に当たって弾かれる。

 

 

「おい駆逐戦車ァ!さっきから俺を無視してんじゃねぇ!こっちに来やがれってんだ!」

 

 

海原が痛む身体に鞭打って立ち上がり、駆逐戦車に石を投げていたのだ、もちろん夕月を守るための行動である。

 

 

海原の狙い通り駆逐戦車は狙いを夕月から海原に切り替えて近付いていく。

 

 

『お、おい待て!貴様の相手は私だぞ!私と戦え!』

 

 

夕月は必死に駆逐戦車に呼び掛けるが、駆逐戦車は戦闘不能の夕月など目もくれず海原に向かっていく。

 

 

『…護れないのか…?私じゃ司令殿を護れないのか…!?』

 

 

夕月は唇を噛み指先が手のひらに食い込むほど拳を握る、唇が切れて口の中で鉄の味がしたが、夕月はさらに噛む力を強める。

 

 

『止めろ…!止めてくれ!司令殿を、司令殿を殺さないでくれ!私はまだ何も司令殿に伝えていないんだ!自分の答えも、これからの自分の“道”も!何も!』

 

 

夕月は慟哭しながら駆逐戦車に訴えかけるが、それを無視して海原に砲を向けた、海原がダッシュで逃げたとしてもかわすのは難しいだろう。

 

 

『誰か…助けてくれ…!誰か助けてくれええええええぇぇ!!!!!!』

 

 

自身のプライドも何もかなぐり捨て、夕月は助けを求めた、ここは自分以外誰もいない、助けに来る者は誰もいない、それが分かっていても、夕月は叫んだ。

 

 

いよいよ駆逐戦車が砲撃を放とうとした時、その背後から何者かが砲撃を撃ち込んでそれを中断させた。

 

 

一体誰が、と夕月が砲撃が放たれた方へ首を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたわね、あんたのその“助けて”って言葉、しっかりと聞き届けたわよ」

 

 

そこには、海上戦闘を終えた暁たちと、駆逐戦車を片付けて暁たちと合流した吹雪たちがいた。




次回「道」

これが私の答えだ。


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第151話「夕月の場合10」

夕月編終了です。

北方海域艦隊決戦の道中で榛名をゲットしました、ついに第四艦隊解放です!


残った駆逐戦車は暁たちが骨も残さず始末し、大鯨と夕月は高速修復材付きでドックへ放り込まれ、海原は三日月による応急手当てを受けた、幸い海原の怪我は命に関わるモノではなく、多少時間はかかるがちゃんと完治するとのことだ。

 

 

『はぁ…』

 

 

夕月は大きなため息を吐いてベッドに座り俯いていた、海原が比較的軽傷で済んだという知らせを聞いたときはホッと胸を撫で下ろしたが、それと同時にどうしようもないくらいの無力感が全身を襲う。

 

 

『…何も、出来なかった』

 

 

夕月は袴の裾をぎゅっと握りしめて唇を噛み締む、自分が海原を護ると豪語しておきながら、実際はほぼ何も出来ずにやられてしまった。

 

 

相手が強かった?そんなものは言い訳だ、やられた理由はただ一つ、自分が弱かったからだ。

 

 

室蘭時代は戦闘の回数が少なかったから練度(レベル)も上がりにくかったので仕方ないと言えば仕方ないのだろうが…

 

 

『…いや、それも言い訳だな、ここの吹雪たちみたいに自主訓練をする機会はいくらでもあったはずだ』

 

 

もしその時にもう少し練度(レベル)を上げていれば、今回の駆逐戦車との戦いも少しは違う結末になったのではないだろうか。

 

 

いや違う、そもそもあの時もっと自主訓練などで練度(レベル)を上げていれば、あの戦いで敵艦隊に打ち勝つくらいの強さを身に付けられていれば、海原が心を痛めずに戦闘続行命令を出せたのではないだろうか、もっと強ければ、そもそも轟沈などせずに、海原が心傷(きず)付く事も無かったのではないだろうか。

 

 

『…私は、何て無力なんだ…!』

 

 

夕月は涙を流しながら己の弱さを呪った、自分は海原を許せないだの何だのと言っているが、それはただの被害妄想で本当は自分が弱かったために海原に辛い決断をさせてしまったのではないだろうか。

 

 

『…分からない、分からないよ…』

 

 

夕月は嗚咽を漏らしながら泣き続ける、本当の真実はどこにあって、何を信じればいいのか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。

 

 

『夕月、入るよ』

 

 

すると吹雪が相変わらずノックもせずに入ってくる。

 

 

『だから入った後に言ったんじゃ意味ないだろ』

 

 

『カタいこと言わない言わない』

 

 

夕月は再度つっこみを入れるが、これもリーザに流される。

 

 

「どうかしたの?司令官は無事だったのに、何を泣いてるの?」

 

 

『…それは…』

 

 

『駆逐戦車にボコボコにされて、自信でも無くした?』

 

 

『っ…!?』

 

 

図星を突かれて夕月は息を詰まらせる。

 

 

『…あいつに負けて、思うんだ、本当は自分が弱かったために司令殿が心傷(きず)ついたんじゃないかって、自分がもっと強ければ、轟沈するような事にはならなかったんじゃ…って』

 

 

『ふーん…随分つまんない事で悩んでるのね』

 

 

「ちょっとリーザ…!」

 

 

真剣に思い詰めている夕月にリーザが一蹴するような発言をしたので吹雪が咎めようとする。

 

 

『司令官が夕月をどう思ってるかなんて、そんなの司令官本人じゃないと分からないわ、いっそのこと直接本人と話せばいいのよ』

 

 

『司令殿と…直接?』

 

 

『良いわよね?さっきからドアの外で待機してる司令官?』

 

 

リーザがそう言うと夕月が驚いた様子でドアの方を見る。

 

 

「…ははは、バレていたのか」

 

 

リーザに見破られた海原は指で頬を掻きながらドアを開けて入ってくる。

 

 

『司令殿…』

 

 

夕月は海原に何と言っていいのか分からず、ただ黙ることしか出来なかった。

 

 

『あとはふたりきりで話した方がいいんじゃないかしら?』

 

 

『しかし、この状態では司令殿に声は…』

 

 

「そんな夕月にこれをあげよう」

 

 

そう言って吹雪が差し出したのはスケッチブックとペンだった。

 

 

「“筆談”って手を使えば言葉が通じなくても話が出来るよ、だから夕月、司令官と本音で話してみて」

 

 

吹雪はそう言って笑うと、いそいそと部屋を出て行こうとする。

 

 

「それでは司令官、あとはよろしくお願いします」

 

それだけ言うと吹雪は部屋を後にした。

 

 

『夕月と司令官だけで大丈夫かしら』

 

 

「大丈夫だよ、それに…ふたりきりだからこそ話し合う意味があるんじゃないかな」

 

 

『ふふっ…違いないわね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ふたりきりで取り残された海原と夕月は何から話し始めたらいいのか分からず、気まずい無言の空間を生み出していた。

 

 

(…いつまでもだんまりじゃダメだよな)

 

 

そう腹を括った夕月はスケッチブックにペンを走らせる、その音に海原が気付いてこちらを見るが、何も言わずに夕月が書き終えるのを待っていた。

 

 

やがて書き終えた夕月はその文面を海原に見せる。

 

 

『護れなくてごめんなさい』

 

 

「…どういう意味だ?」

 

 

しかし海原は夕月の書いたことの意味を理解できず、首を傾げるだけだった、それを見た夕月は更に細かく、詳しく文字を書き込んでいく。

 

 

『私は司令殿を護りたかった、でも私は何も出来ずに敵にやられてしまった、そんな弱い私でごめんなさい』

 

 

「そんな事無いぞ、夕月は俺を守ろうと必死で戦ってくれたんだ、お前が謝る必要なんてどこにもない」

 

 

海原はそう言って笑う、それを見た夕月は思う、やっぱりこの人は変わっていない。

 

 

『今回のことで思う、室蘭時代にもっと鍛えて練度(レベル)を上げておけば、沖ノ鳥島での戦いで轟沈しなくて済んだのかもしれない、司令殿が心を痛めて私たちに戦闘命令を出さずに済んだのかもしれない、本当に悪いのは弱かったために轟沈した自分なのかもしれないと…』

 

 

「それは違う!」

 

 

夕月の文面を読んだ海原はすぐにそれを否定し、夕月の肩を掴む。

 

 

「あの時悪かったのはお前たちじゃない、沈むと分かっていて嘘を吐いた俺だ、だからお前は悪くない」

 

 

『司令殿…』

 

 

「お前が嘘吐きの俺に怒りや恨みを覚えるのは当然のことだ、それらは全て俺が受け止める、どんな恨み辛みの言葉だって受け入れる、だから二度と自分が悪かったなんて言わないでくれ、俺のせいで自分を心傷(きず)つけないでくれ…」

 

 

海原は泣きそうになるのを必死で堪え、縋るように夕月に言った。

 

 

『…やっぱり、貴方は変わってないな、私たちのために自分を犠牲にして、傷付けて、本当に馬鹿な人だ』

夕月はスケッチブックにペンを走らせると、その文面を海原に見せる。

 

 

『ありがとう、そこまで私たちのことを想ってくれて、でも正直私は今でも司令殿を許せるかどうかは分からない、どうしても、心がそれを拒んでしまうんだ』

 

 

「…あぁ、それは当然のことだ、俺は許されるべきじゃない」

 

 

海原は真剣な眼差しで夕月の書いた文面を読む、それを聞いた夕月はスケッチブックのページをめくる。

 

 

『でも、それでも、それでも司令殿が私の事を想い続けてくれるなら、私はそれに応え続けていきたい、それが私の出した答えだ』

 

 

「夕月…」

 

 

『司令殿は、こんな私の事を、まだ想い続けてくれますか?一度は貴方を冷たく突き放した私が、司令殿の側でまたお仕えする事を、許してくれますか?』

 

 

夕月はまたページをめくって文面を海原を見せる、スケッチブックを持つ夕月の手は震えていた、自分は一度海原の手を払いのけてしまった、もしかしたら拒絶されるかもしれない、そう思うと怖くてたまらなかった。

 

 

『っ…!!司令…殿…』

 

 

しかしその不安とは裏腹に、海原は夕月のことを優しく抱き締めていた。

 

 

「…当たり前だ、どんな姿になっても、どんな事になっても、お前は俺の掛け替えのない大切な部下で、仲間で、家族だ」

 

 

『…うっ…!ひぐっ…!』

 

 

限界だった、夕月の目からは止めどなく涙が溢れ出し、嗚咽を漏らしながら泣いていた。

 

 

夕月は涙を流しながらスケッチブックにペンを走らせた、涙でペンのインクを滲ませながら、自分を想いを伝えるために、ペンの走らせ続けた。

 

 

『ありがとうございます、この私…夕月は、その最期の時まで貴方の側で、貴方のために戦い続ける事を誓います、これからもずっと…ずっとよろしくお願いします』

 

 

夕月はその文面を海原に見せると、左手で海原に敬礼をする。

 

 

「あぁ、こちらこそ、これからもよろしくな」

 

海原も敬礼を返すと、夕月の髪を撫でる。

 

 

 

『ありがとう…司令殿」

 

 

その直後、夕月の艦娘化(ドロップ)が始まり、かつての艦娘としての夕月が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、睦月型駆逐艦12番艦の夕月だ、これからよろしく頼む」

 

 

艦娘化(ドロップ)後、夕月は台場鎮守府のメンバーを前に着任の挨拶を行った。

 

 

「決着がついたみたいだね、司令官と」

 

 

「…まだ決着がついたかどうかは自分でも微妙なところだが、自分の答えはしっかり出したつもりだ」

 

 

「…うん、それが出せればこれから十分やっていけるよ、これからよろしくね、夕月」

 

 

「あぁ、よろしく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に深海棲器を持つの?」

 

 

「もちろんだ、私はもっと強くなければいけない、今度こそあの戦車に一泡吹かせてやるんだ」

 

 

夕月はそう言って武器庫に並ぶ深海棲器を眺めて吟味する、今回夕月は3種類の深海棲器を持つ事を選んだ、まずは武器庫から1種類を選び、残りの2種類は明石に特注で作ってもらう。

 

 

「…よし、これに決めた」

 

 

夕月が手に取ったのは2本の脇差だ、海原が護身用に持っていたモノとほぼ同じ長さの刀である。

 

 

「おぉ、結構サマになってるね、どこぞの女侍みたいだよ」

 

 

「そ、そうか…?」

 

 

吹雪にそう言われた夕月は照れた顔をして頬を赤らめる。

 

 

「…あ、明石さんから深海棲器の開発が終わったってメールが来たよ」

 

 

「随分と早いな!?」

 

 

「なんか張り切ったみたいだよ、じゃあ明石さんの工房へ行こうか」

 

 

「張り切ったで済ませてしまうのか…」

 

 

釈然としない気分を胸に仕舞いつつ、2体は明石の工房へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!これが夕月の深海棲器だよ」

 

 

今回明石が夕月のために開発した深海棲器はふたつ。

 

 

ひとつめは『鉄扇』

 

骨組みから紙の部分まで全て深海棲器で出来ている、言わば鋼鉄の扇子だ、おまけに扇の部分は鋭い刃になっており、打撃に加えて最低限の斬撃も出来る設計になっている。

 

 

 

ふたつめは『ショーテル』

 

三日月状に大きく湾曲した片手剣の深海棲器で、相手が盾を構えていても攻撃の命中が見込める、形が変わっているため普通の刀剣より扱いが難しいが、武器としては優秀だ。

 

 

「鉄扇って…かなり使い道が限定されそうな武器だな」

 

 

「いや~、夕月のその格好見たらこれを作んなきゃって思ってね、これは使命だよ使命」

 

 

「どんな使命だ…」

 

 

「あ、そうそう、あと深海棲器じゃないけど、これも作ってみたよ」

 

 

そう言って明石が持ってきたのは、3種類の仮面だった。

 

 

「仮面…?」

 

 

「それを隠すのに必要だと思ってね」

 

 

「…これか」

 

 

明石に指摘されて夕月は自分の顔…正確には顔の右半分に出来た深海痕を指で撫でる。

 

 

夕月も例にもれず深海痕が残っていたのだが、その場所が左足と顔の右半分だったのだ、足ならまだ隠すことが出来るが、流石に顔に出来てはどうしようもないということで、明石が専用の仮面を作ったのだ。

 

 

ちなみにその仮面だが、ひとつは漫画の中二臭いキャラがつけているような、顔の右側だけを覆うタイプのピエロ柄の仮面。

 

もうひとつは西洋のオペラなどで見る、目の周りだけを覆うタイプの青い仮面。

 

さらにもうひとつはお祭りや祭事などで見かける狐のお面だ、白地に赤い着色が施されている、スタンダードなタイプである。

 

 

「しかしなぜ3種類も?」

 

 

「趣味」

 

 

「正直だなお前は!?」

 

 

悪びれもせず答える明石に夕月は思わずつっこんだ。

 

 

「というより、最初のふたつは分かるが最後の狐面は必要か?」

 

 

「え?そりゃあ…普通に被っても良いし、深海痕だけを覆うように半分だけ被っても良いし、とにかく和装には狐面なんだよ!古事記にも書いてあるんだよ!」

 

 

「絶対に嘘だろ貴様!」

 

 

そう言いつつちゃんと三つとも持って帰った夕月だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これが完成形なの?ベアトリス」

 

 

「はい、コードネーム“キメラ”、その完全版です」

 

 

ベアトリスはそう言って培養カプセルの中で液体に浸かっているキメラを少女見せる、そのキメラは奇妙な見てくれをしていた、背丈は駆逐艦娘より少し高いくらいだが、その腰元からは太長い尻尾のようなモノが生えており、その先端は鋭い牙を持つ竜の頭のようになっている。

 

 

「そのキメラの尻尾みたいなのは何なの?」

 

 

「それは駆逐艦の艦娘“夏潮”の脳と体細胞を詰め込んだ部分です、流石にひとつの身体に2体分の脳を入れるのは困難だったので、別の媒体に入れて本体に詰め込んだ駆逐艦娘“秋月”の脳神経と繋げて連動させてるんです」

 

 

「なるほど、それがその尻尾のドラゴンみたいな頭なのね、それにしてもよく拒絶反応が出なかったわね」

 

 

「とんでもない、拒絶反応ありまくりでしたよ、結局どうしても拒絶反応を無くすことが出来なかったんで、これを使うことにしました」

 

 

「…それは?」

 

 

ベアトリスが取り出したのは銀色のチョーカーと、培養カプセルの中に詰まっているのと同じ色の液体が入った小さな瓶だ。

 

 

「これは拒絶反応を抑えるために神経を麻痺させる特別な劇薬です、これをチョーカーの中に充填させて、チョーカーに仕込んだ注射針で絶えず体内に流し込み続けます、今は培養カプセルに詰まってる少し薄めた薬に浸けてるんでどうにかなってますけど、外に出して戦闘させるにはこれが必須になります」

 

 

「中々めんどくさい感じに仕上がっちゃったわね」

 

 

「しかもこの劇薬は副作用が激しくて、神経や体細胞に大きな負担をかけることになります、なので連続して動かすとなると2分くらいが限界ですね」

 

 

「2分…短いわね」

 

 

「それ以上続けると身体の細胞が自立崩壊を起こしてしまいます、つまりこのキメラは“使い捨て”として稼働させるのが前提になってしまいますね」

 

 

ベアトリスの説明を聞いた少女はふむ…と考えるような仕草をする。

 

 

「…分かったわ、キメラの使用を許可します、使い捨てとして使うなら最適なタイミングでね」

 

 

「かしこまりました」

 

 

少女はベアトリスを残して部屋を後にした。

 

 

「さて…と、あなたにはこれからしっかり働いてもらうわよ、ひとたび動き出せば死ぬまで止まれない、最初で最期の、文字通りの死闘でね」

 

 

ベアトリスは薄気味悪い笑みを浮かべながら、カプセルの中で眠るキメラを見つめていた。

 




次回「新戦力」

夕月の深海棲器を考えてくれた皆様、ありがとうございました。


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第152話「蛍の場合1」

chapter12「蛍編」連載開始、活動報告にて蛍の深海棲器も募集します。

第4艦隊解放で遠征艦隊雪月花【花組】が組めるようになり、雪月花隊の正式結成です。



○こぼれ話
夕月のイメージはブラック・ブレットの壬生朝霞。

和服ロリは至高なり。


「は?艦娘の進呈?」

 

 

夕月が台場鎮守府に所属してから一週間がたった頃、大本営の鹿沼元帥補佐から“艦娘を台場鎮守府に送る”という内容の電話がかかってきた。

 

 

『演習で素晴らしい勝利を収めた台場へのささやかな褒美だ、戦力増強の足しにするがいい』

 

 

「…お前らが素直に褒めるなんて何か企んでるんじゃないのか?」

 

 

『お前は本当に失礼な奴だな、いくら演習とは言え上げた戦果に対する当然の賞与だ、大人しく受け取れ』

 

 

鹿沼が言うとちっともありがたみを感じないのだが、それはあえて言わないでおく。

 

 

「そういうことならありがたく受け取ろう、それでその艦娘はいつうちにやってくるんだ?」

 

 

『今日の昼頃だ、今からせいぜい歓迎の準備でもしておくんだな』

 

 

「は!?今日の昼!?」

 

 

海原は慌てて時計を見る、現在午前10時30分、昼頃に来るのであれば最短であと1時間半くらいしか無い。

 

 

「お前いつもいつも連絡が急なんだよ!もっと余裕を持って連絡よこせ!」

 

 

『ふん、台場がそんな事言える立場かよ、とにかく今日の昼頃に艦娘を1体台場に送る、確かに伝えたからな』

 

 

鹿沼はそれだけ言うとさっさと電話を切ってしまった。

 

 

「ったくあの野郎…しょうがない、吹雪たち集めて歓迎の準備しとくか」

 

 

海原は館内放送でDeep Sea Fleetのメンバー全員を呼び出して艦娘が来る旨を伝える。

 

 

「なるほど、大本営もようやく私たちの実力を認めたということですね」

 

 

「どうだろうな、あの大本営の事だ、何かろくでもないことを企んでいるかもしれない」

 

 

夕月が吹雪の発言を否定してそう言った。

 

 

「まぁ何にせよ、艦娘が来るなら迎える準備をしておかなきゃいけない、頼めるか?」

 

 

「お任せください!新任があっと驚くような歓迎会にしてみせます!」

 

 

吹雪たちは海原の頼みを快諾する。

 

 

「…といっても、明石さんの時もそうだったけどあまりやることって無いよね」

 

 

「そういえばそうだったわね、せいぜい垂れ幕作るくらいだったし…」

 

 

「おまけに艦娘化(ドロップ)艦娘に至っては軽い打ち上げ程度のモノで済ませちゃってたしね」

 

 

「全員で隠し芸とかでもやる?」

 

 

「そもそもあんた隠し芸持ってるの?」

 

 

「コマ回しで綱渡りが出来るよ」

 

 

「何に使うのよそれ…」

 

 

Deep Sea Fleet全員があーだこーだやっているのを眺めつつ海原はテレビを点ける、ちょうど午前のワイドショーをやっていた。

 

 

(…他に何か面白そうな番組は…)

 

 

海原はチャンネルを変えようとリモコンを手に取ったが…

 

 

『…それでは次の話題です、先日起きた艦娘が人を殺害するという事件の続報です』

 

 

「っ!?」

 

 

司会者の発言に驚いた海原はそのままリモコンを置く。

 

 

『事件を受け、世間一般では艦娘は危険極まりない存在だという認識が強くなり、海軍に対して艦娘の運用を止めるよう訴えるデモ活動が一部で行われています』

 

 

司会者のMCの後に、実際にデモ活動をしている人々の映像が流れた、そこには鎮守府や駐屯基地の門の前で“艦娘反対!”や“我々の安全を返せ!”などと書かれているプラカードを掲げて何やら騒いでいるようだ。

 

 

「…クソッタレが」

 

 

胸糞の悪くなる光景だと海原は思う、しかしチャンネルを変えようとは思わなかった、艦隊の指揮を預かる司令官として、こういった世情は知っておかなければいけない、世間で艦娘がどう思われているのか、どういう目で見られているのか、それを知った上で人々に艦娘への理解を広めていく必要がある、ただ頭ごなしに言ったところで人の心には何も響かないのだ。

 

 

気付けば映像はデモの様子からスタジオでのやりとりに切り替わっていた、そこには有名な政党の政治家や各方面の専門家、なぜか有名アイドルなどが自分の意見や見解などを言い合っている。

 

 

『艦娘というのは銃よりも簡単に人を殺せる非常に危険な兵器です、即刻使用を取りやめるべきだと思います』

 

 

『私もそれに賛成です、今こそ日本政府と海軍が一丸となって、艦娘よりも安全で人々が安心出来るような防衛策を考えなきゃいけない』

 

 

『皆さん論点がズレてきてませんか?さっきから人を殺せるだの危険だの言ってますけど、艦娘は本来深海棲艦と戦うための兵器ですよ?人殺しの道具じゃないんですからね』

 

 

『そもそも艦娘じゃないと深海棲艦に勝てないというのは本当なのか?既存の武器だけで倒せるんじゃないのか?』

 

 

『それが出来ないから艦娘が使われるようになったんでしょう』

 

 

『そもそもこんな事件が起きたのは件の艦娘がその力を悪用して殺人を犯したから起きたことだ、その艦娘だけを処分してしまえば済む話だろ?』

 

 

『悪用じゃないでしょ、仲間の艦娘を人質にとられて不本意に殺人を強要された、と聞いてますよ?』

 

 

『どうだか、その艦娘にもそんな目に遭うだけの落ち度があったんじゃないのか?自業自得ってとこだろ』

 

 

 

 

「…本当、好き勝手言ってくれるぜ」

 

 

画面の向こうにいる連中を眺めながら海原はそうぽつりと言う。

 

 

「何が艦娘よりも安全で安心な防衛策だ、艦娘が戦ってるのは殺るか殺られるかの戦場だぞ、そんな命の奪い合いに安心も安全も無いんだよ」

 

 

好き勝手な事を言っている出演者をある程度見て海原は確信した、この連中は艦娘のことを何も知らずに発言している。

 

 

「あんたらが政治活動出来るのも、アイドルとしてテレビで歌えるのも、こんなところでくだらない議論が出来るのも、艦娘たちがその裏で命を削って戦ってるからなんだけどな…」

 

 

その海原の言葉がテレビの出演者に届くことはもちろん無く、ただの独り言として虚空に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時刻は昼過ぎ、台場鎮守府に届けられる艦娘を乗せた造船所の車がやってきた。

 

 

「お久しぶりです海原さん、艦娘のお届けに来ました、突然ですみません…」

 

 

「ありがとうございます、こちらも届くことをつい90分くらい前に聞かされてかなりドタバタしてましたよ~」

 

 

海原と風音はそう言って互いに笑うと、風音が車の荷台のドアを開ける。

 

 

「こちらが今回台場鎮守府に所属する艦娘です」

 

 

風音の言葉と共にその艦娘が下りてきた。

 

 

「っ!!お前は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、クソ提督」

 

 

車から下りてきた艦娘は、綾波型駆逐艦8番艦の艦娘…曙だった。




次回「仲間は(カタキ)

沈む方が悪い。


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第153話「蛍の場合2」

ハーメルン版「艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー」が今日で投稿開始から1年となりました、いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!投稿はこれからも続けていきますので、今後もよろしくお願いします!

ブラウザー版は現在南方海域の珊瑚諸島沖海戦(5-2)を攻略中です、ゲージのシルエットが装甲空母姫…またお前か、カスガダマの再来ですね。


曙を受け取った海原は提督室で待っている吹雪たちに紹介すべく、曙を提督室に案内する。

 

 

「まさか進呈される艦娘がお前だったとはな」

 

 

「何よ、不満だっての?」

 

 

曙は不服そうにブスッとした態度で言う。

 

 

「そうじゃねぇよ、あの後お前がどうなったかが気になってたんだ、ひょっとしたら解体されたんじゃないかって思ってたけど、生きててくれて嬉しいよ」

 

 

「…いっそのこと解体された方がまだ楽だったわよ」

 

 

曙はどこかうんざりした様子で呟いた、あの後連行された曙と茜は海軍警察で取り調べを受けた、その後の海軍警察と軍上層部を交えた軍法会議での結果、茜はただの被害者ということで他の鎮守府への異動という判断が下された。

 

 

一方曙の処分については解体するか否かで意見が割れて相当もめたらしい、曙は殺人を犯した加害者であるが、それと同時に艦娘密売の被害者でもあるからだ。

 

 

何度も議論を重ねた結果、解体するのも始末が悪いからこの台場鎮守府に異動させて“島流し”扱いにする…という結果に落ち着いたのだそうだ。

 

 

当然曙と茜を民間人に密売した新潟駐屯基地司令官の冬木渚(ふゆきなぎさ)とそれを購入した民間人の田部井俊幸(たべいとしゆき)も軍法会議にかけられた、冬木は懲戒処分からの懲役刑、田部井も同様に懲役刑を言い渡された。

 

 

書いてしまえばこの程度で済んでしまうのだが、本当に大変だったのはこの後である、大本営での軍法会議が終わった後、曙と茜は身体検査のために造船所に送られることになったのだが、どこから聞きつけたのかマスコミや報道メディアの関係者が曙たちを出待ちしており、2体を質問責めにした。

 

 

人を殺したのは本当なのか、いくら友人が人質にされていたとはいえ殺人を犯すのはどうなのか、何か他に平和的解決方法があったのではないか、被害者遺族に対して何か言うことはないか…などと矢継ぎ早に質問を投げかける、ただでさえ心傷ついている曙たちにとって、傷口に塩を塗る行為以外の何物でもなかった。

 

 

そして何よりも曙を傷つけたのは、曙の“密売の被害者”である部分を無視し、完全な“黒”として曙を扱っている報道メディアの態度だった。

 

 

「どいつもこいつも根掘り葉掘り無神経に聞いてきて、本っ当にウザいったらありゃしない!」

 

 

「あいつらはそれが仕事だからな、でもお前の気持ちは分かるぞ、俺もああいう奴は嫌いだ」

 

 

「安い同情はやめてくれる?正直言って嬉しくない」

 

 

「安いって…俺はこれでも親身になってるつもりだぜ?」

 

 

「どうだか」

 

 

さっきからやたらと厳しい態度の曙に戸惑いを隠せない海原、もとからこういう性格なのだろうか?。

 

 

「まぁ取りあえず、うちの鎮守府に来たからにはお前も俺の大切な仲間だ、マスコミ連中に絡まれそうになったら俺が守ってやるから安心しとけ」

 

 

そう言って海原は曙をなだめるために頭を撫でようとする。

 

 

 

「っ!?いやぁっ!」

 

 

海原の手が曙の髪に触れようとした瞬間、曙の様子が一変した、海原の手に驚いたように身を震わせたかと思えば、急に短い叫び声をあげ、海原の手を思い切りはたいたのだ。

 

 

「っ!?曙…?」

 

 

そのあまりの変わりように海原は目を丸くするが、当の曙はそれどころではないようだった、視線はあちこちに泳ぎまくり、まるで目の前の海原に怯えるように身体を小刻みに震わせる。

 

 

「ど、どうしたんだ?撫でられるの、そんなに嫌だったか…?」

 

 

思い切り叩かれて少し痛む右手をさすりながら海原が聞く。

 

 

「そうよ!あんまり馴れ馴れしく触んないでよ!このクソ提督!」

 

 

曙は大声で怒鳴って海原の問いに答えた。

 

 

「…そうだよな、すまなかった」

 

 

海原は曙に謝罪する、普段吹雪たちとコミュニケーションを取るときは頭を撫でるの事は普通にあったが、そういうことを好まない艦娘もいるという事だ、今後は気をつけなければいけない。

 

 

 

「…怒ら…ないの…?私、今あんたの手はたいちゃったんだけど…」

 

 

「別にそんなことで怒んねえよ、それに今のは俺も悪かったしな」

 

 

そう言って海原は笑う、それを見た曙は驚いた顔をしていたが、何も言わずに海原について行く。

 

 

「…ごめんなさい」

 

 

曙の消え入りそうな声で呟いたが、それが海原に届くことは無かった。

 

 

 

 

「…と言うわけで、今日から台場鎮守府に所属する事になった曙だ、仲良くしてやってくれ」

 

 

提督室に着いた海原は早速吹雪たちに曙を紹介する、その後に曙にも自己紹介をするよう促す。

 

 

「駆逐艦曙です、これからよろしくお願いします」

 

 

曙はそう言って敬礼をする。

 

 

「それじゃクソ提督、私はいつ戦闘に出られるのかしら?」

 

 

挨拶が終わるなり、曙は海原にそう聞いてきた。

 

 

「戦闘か?しばらくは出撃の予定は無いぞ、戦うことが好きなのか?」

 

 

「当然よ、だって私の目的は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の親友の艦娘…蛍を殺した深海棲艦への復讐なんだから」




次回「拒絶」

どっちつかずの半端モノのクセに!


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番外編「片桐雪穂」

とある少女の、二度と思い起こされることのない記憶の破片の物語。

書いたまま放置してた番外編を投稿。


「うわぁ~、結構積もったなぁ」

 

 

辺り一面に広がる銀世界を前に少女…片桐雪穂(かたぎりゆきほ)が感嘆の声をあげる。

 

 

「昨日は寒波の影響で雪降るとか言ってたけど、ここまで降るとは思わなかったよ」

 

 

雪穂は部屋の窓を開けると、上半身を乗り出して雪景色を堪能する。

 

 

「…うへぇ、当たり前だけど寒いや、こんな日に学校行きたくないな…」

 

 

雪景色を見ることが出来てラッキーだったが、それと同時に今日が平日な事にアンラッキーな雪穂だった。

 

 

「雪穂!朝ご飯出来てるわよ!」

 

 

「はーい!今行く!」

 

 

母親に呼ばれた雪穂は朝食を食べるため、自室を出て家族の待つリビングへと向かう。

 

 

 

 

「くううぅ…やっぱり寒い…」

 

 

朝食を食べ終えた雪穂は学校へ向かうが、積雪の影響で気温がかなり低く、家を出た瞬間Uターンしたくなる衝動に襲われる。

 

 

「雪穂、おはよう」

 

 

そんなUターン衝動に耐えながら雪道を歩いていると、後ろから雪穂の友人である北瀬凛花(きたせりんか)が小走りでやってきた。

 

 

「おはよう凛花、雪積もってるのに走ったら転ぶわよ」

 

 

「大丈夫だよ、すでに一回転んでるから」

 

 

「その時点ですでに大丈夫じゃないでしょ…」

 

 

雪穂は凛花に呆れつつふたり並んで学校までの道のりを歩く。

 

 

「というか、こんな天気なのに雪穂はリアクション薄いよね、普通雪が降ったら辺り構わず走り回って喜びを表現しそうなモンだけど」

 

 

「中学生にもなって雪で騒ぐヤツなんていないわよ」

 

 

「私は騒ぐよ?」

 

 

「じゃああんたは年中脳内お花畑なのね」

 

 

「ひどーい!」

 

 

そんな何気ない会話をしながら歩いていると…

 

 

「おはよう!片桐」

 

 

雪穂と同じ中学校で先輩でもある男子生徒…鞍馬啓太(くらまけいた)に声をかけられる。

 

 

「お、おはようございます!鞍馬先輩!」

 

 

「今日もクソ寒いな、凍えちまいそうだよ」

 

 

「ほ、本当にそうですよね!私も朝から凍えそうです!」

 

 

雪穂はぎこちない様子で鞍馬と会話する、雪穂は鞍馬に想いを寄せている相手なのだが、未だにそれを伝える勇気が出ずに告白出来ないでいる。

 

 

「おっと、部活の朝練に遅れちまうな、じゃ!」

 

 

鞍馬はそう言うと小走りで去っていった。

 

 

「鞍馬先輩…いつ見てもかっこいいよねぇ…」

 

 

「出たよ雪穂の乙女モード…」

 

 

鞍馬を見てうっとりしている雪穂に凛花は呆れ顔で言った。

 

 

 

 

「よーし、それじゃこの間の小テスト返すぞ」

 

 

その日の3時間目、数学の授業で行われた小テストの返却が行われた。

 

 

「うっ…」

 

 

雪穂は自分のテスト用紙に赤字で書かれた点数に思わず言葉を失う。

 

 

「雪穂ー、数学の点数どうだった…って21点!?何この絶望的な数字!?」

 

 

凛花は雪穂の点数を見て目を見張る。

 

 

「勉強はしてたんだけど、全然出来なかったよ…」

 

 

雪穂は落胆しながら机に突っ伏す。

 

 

「でも鞍馬先輩と同じ志望校の高校に行きたいんでしょ?ならもっと点数上げないとマズいんじゃない?先輩の志望校そこそこの偏差値だって言うし…」

 

 

「そうなんだよね…よし!次の学期末テストまでになんとか挽回しよう!早速今日の放課後から勉強だー!」

 

 

雪穂はえいえいおー!のポーズをとって気合いを入れ直す。

 

 

「…というか、一緒の高校に行きたいほど好きならさっさと告白すればいいじゃん、このままなあなあでいたらいつか他の誰かが告白したりして機会を逃すかもよ、ひょっとしたら明日にでもそれが来るかもしれないし」

 

 

「そんなこと…分かってるわよ…」

 

 

それが出来たら苦労はしない、心の中でそう愚痴る雪穂だった。

 

 

 

 

 

 

 

放課後、委員会の仕事があって一緒に帰れないという凛花と別れた雪穂はひとりで下校する。

 

 

「告白、かぁ…そりゃしたいけど、やっぱり恥ずかしいよなぁ…」

 

 

そう思いつつも、今日凛花に言われた事がずっと雪穂の中で引っかかり続けていた、鞍馬は男女問わず仲良くできる人間であり、そのおかげか彼に好意を寄せる女子もそれなりにいると聞く、このままでは本当に他の誰かに先を越されるかもしれない。

 

 

「…勇気、出さなきゃな」

 

 

自分の中の憧れだけで、自分の中の片思いだけで終わるのは嫌だ、好きになったからには、何が何でも手に入れたい。

 

 

「よし、来週バレンタインデーだし、チョコと一緒に告白しよう、そうしよう」

 

 

そうと決まれば週末は材料の買い出しに行こう、などと頭の中で計画を練っていたとき…

 

 

「お、片桐じゃん」

 

 

「く、鞍馬先輩!?」

 

 

後ろから鞍馬に声をかけられた、雪穂と鞍馬は途中まで帰り道が同じなのだ。

 

 

「良かったら途中まで一緒に帰ろうぜ、部活連中がこぞって用あるって言いやがってよ、嫌だったか?」

 

 

「い、いえいえ!全然大丈夫です!はい!」

 

 

何とか平静さを保ちつつ、雪穂と鞍馬は並んで下校道を歩く。

 

 

(…き、気まずい!何か話さないと…!)

 

 

互いに無言で歩くというその空気に耐えられなくなった雪穂は、何か話題はないかと必死で頭を働かせていた。

 

 

「そういやさ片桐」

 

 

「は、はい!何でしょう!?」

 

 

「お前って、今好きな奴とかいるの?」

 

 

「…えっ?」

 

 

突然そんな事を聞かれ、雪穂は思わず思考停止してしまう。

 

 

「好きな男とか、いる?」

 

 

再び鞍馬にそう聞かれ、雪穂はどう答えたものかと悩んだが…

 

 

 

「…はい、いますよ」

 

 

出来れば、自分のこの気持ちに気づいてほしい、その密かな願いと共に雪穂はそう答えた。

 

 

「っ!!そうか…悪かったな、変なこと聞いて、今のは忘れてくれ」

 

 

雪穂の答えを聞いた鞍馬はそう素っ気なく返す、その目には一瞬だけ絶望の色が灯ったが、雪穂はそれに気づかなかった。

 

 

好きな人と一緒に帰り道を歩く、このささやかな幸せを感じる時が、少しでも長く続きますように。

 

 

そんな事を考えながら、雪穂は鞍馬と一緒に歩いていく。

 




この番外編の内容が本編に大きく関わることはたぶんないと思います。


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第154話「蛍の場合3」

最近のゲームの解説書は電子タイプになっているモノが多いですが、解説書片手に操作を確認するタイプの自分にとっては弊害でしかなかったりします、特に携帯機(Vitaとか)だと一々ゲームを一時停止して解説書を開かなければいけないのでめんどくさかったり…

遠征用の駆逐艦にキラキラを付けるために最近は1-1によく出撃するのですが、初風と長波の大破率がぶっちぎりで高い、もうちょっと頑張ろうよ…。


「復讐…?」

 

 

「そうよ、私の親友とも言える艦娘…蛍は深海棲艦に殺されたの、それを奪った深海棲艦が私は憎い!だから私はあいつらを根絶やしにする!深海棲艦に復讐するんだ!」

 

 

曙は激情したように声を荒げる。

 

 

「復讐…ね、それだけで突っ走ったら自分が死ぬぜ」

 

 

「望むところよ、深海棲艦に復讐出来るなら命だって惜しくないわ」

 

 

曙は依然強気な態度を崩さず、そう言ってのける。

 

 

「…そうか、吹雪、曙に鎮守府を案内してやれ」

 

 

「は、はい!分かりました!」

 

 

曙の態度には何も触れず話を終わらせた海原は、吹雪に鎮守府の案内を命令する。

 

 

「それじゃ曙、鎮守府を案内するから付いて来て」

 

 

「分かったわ」

 

 

吹雪と曙は先に提督室を後にする、それに続いて他の艦娘たちもぞろぞろと出て行った。

 

 

「…それで司令殿、曙に何も言わなかったのはどういうお考えがあってのことなんだ?」

 

 

「んー?何の話だ?」

 

 

ただ1体提督室に残った夕月の問いかけに海原はどこかおちゃらけたような口調で返す。

 

 

「とぼけなくてもいい、復讐心で身を縛る事がどれだけ危険で無謀で愚かな事だというのは司令殿が一番知っているはずだ、なのに曙には何も言わずにいた、司令殿の事だ、何かお考えがあっての事なのだろう?」

 

 

夕月はフッ…と笑いながら海原に言った、その察しの良さは流石旧室蘭組と言ったところか。

 

 

「確かに復讐心だけで自分を突き動かすのは危険だ、だがかつて俺がそうだったように、そういうのは周りが何を言っても本人は聞く耳を持たない、だから実際に経験で思い知らせた方がよく伝わるんだよ」

 

 

「なるほど、つまり曙をわざと危険にさらして身体に教え込むという訳だな、司令殿にこんなスパルタな一面があるとは驚きだ」

 

 

夕月は茶化すように海原に言った、それを受けた海原は気まずそうに苦笑する。

 

 

「人聞きの悪い言い方するなよ、それにこれは仮に曙が危険な目に遭うような事態になってもお前らが守ってくれるだろうという期待も込みなんだぜ?」

 

 

「モノは言いようとはよく言ったものだな、しかしそこまで信頼されていると考えれば悪い気はしないか」

 

 

「頼めるか?」

 

 

「何を当たり前のことを言っている、曙は何があろうと私たちが守る、司令殿は安心していてくれ」

 

 

「…ありがとう」

 

 

自信満々に宣言する夕月の頭を海原は優しく撫でる、それを夕月は心地良さそうに受け入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、とりあえず主要な鎮守府の施設を案内していくよ、まずはここ」

 

 

一方こちらは吹雪と曙、吹雪が最初に案内したのは食堂だった。

 

 

「基本的にはここでご飯を食べるよ、ご飯はいつも大鯨さんが作ってるけど、他の艦娘が作ることもある」

 

 

「ふーん」

 

 

次に吹雪が案内したのは大浴場だ、入渠ドックも併設されており、それなりの広さを持っている。

 

 

「お湯は定期的に入れ替えてるけど、基本的にはいつでも入れるから好きなときに使っていいよ」

 

 

「ふーん、それで次は?」

 

 

「あとは曙の部屋だよ、こっちこっち」

 

 

最後に案内したのは曙の自室だ、位置で言えば夕月の隣になる。

 

 

「ここが曙の部屋だよ、レイアウトなんかは好きに弄っても構わないから、小物なんかのインテリアなんかは好きに買って置いていいけど、家具を新調したいときは一応司令官と相談してね」

 

 

「ふーん、分かったわ」

 

 

「ここまでで何か質問ある?」

 

 

「別に」

 

 

吹雪の問いに曙は素っ気ない態度で答える。

 

 

「それじゃあ曙の今後の予定は司令官と相談してこれから決めるから、それまでは好きに過ごしてていいよ、といってもここは基本的に暇なんだけど…」

 

 

吹雪は苦笑しながらそう言うと、再び提督室の方へと歩いていく。

 

 

「…お風呂、行こうかな」

 

 

残された曙は大浴場の方へと歩みを進めた。

 

 

 

 

「ふぅ…中々良い湯加減じゃない」

 

 

湯船に浸かりながら曙はそう呟くと、よく漫画などで見る片足を水面から出して伸ばすセレブっぽい仕草を真似する。

 

 

「…今日からこの鎮守府でやっていくのか、上手くいくかな…」

 

 

すでに不安でしかない曙はこれからの鎮守府生活を想像して表情を曇らせる、自分は殺人の罪でここに追いやられた艦娘だ、いくら茜を守る為であったとはいえ、曙自身にも罪の意識は多かれ少なかれ存在する、そんな自分を台場の艦娘は受け入れてくれるのだろうか…?。

 

 

「…まぁ、深海棲艦に復讐するのに、艦娘との友好関係なんて必要ないんだけどね」

 

 

どこか自虐的な笑みを浮かべると、曙は身体を洗おうと湯船から上がり洗い場へ移動する。

 

 

「あれ?曙さんもお風呂だったんですね」

 

 

すると、三日月、夕月、ハチ、篝が大浴場に入ってきた、そうよ…と普通に返そうとしたが、この時曙は信じられないモノを見てしまった。

 

 

「…へ」

 

 

それは、三日月たちの身体にある深海痕だった。

 

 

「あ、あんたたち…それ…!」

 

 

曙は目を剥いて三日月たちの深海痕を指差す。

 

 

「あ、すみません!言ってなかったですね、実は私たち、深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)なんです」

 

 

「は…混血艦(ハーフ)…?」

 

 

「はい、私たちは一度轟沈して深海棲艦になりました、そして深海棲艦の混血艦(ハーフ)としてまた艦娘に戻ってきたんです」

 

 

「な、何よそれ…!何なのよそれ!」

 

 

曙は激しく狼狽しながら後ずさる、その時に足を滑らせて尻餅をついてしまった。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

夕月が曙に駆け寄って手を差しだそうとする。

 

 

「さ、触らないで!」

 

 

しかし曙は差し出された夕月の手を払いのけた、手を叩かれた夕月は驚いたような顔で曙を見る。

 

 

「だ、大丈夫だ曙、私たちは深海棲艦の名残を残しているが、ちゃんと艦娘だ…」

 

 

夕月は曙を落ち着かせようとゆっくりと近付くが…

 

 

「く、来るな!深海棲艦!」

 

 

曙は決定的な一言を夕月に浴びせかける、目の前にいる夕月たちは自分が最も憎んでいる深海棲艦と混ざっている、つまり…自分の敵だ。

 

 

「…ちょっとそれは無いんじゃないんですか?」

 

 

それに気を悪くした篝が曙に睨みを利かせるが、それに気付いた三日月が慌てて止める。

 

 

「う、うるさいわね!半端モノのクセに!」

 

 

そう言うと、曙は夕月たちを突き飛ばして大浴場を出て行ってしまった。

 

 

残された艦娘たちは、曙の出て行った扉をただ見つめるだけだった。

 




次回「姫宮朱里」

覚えていない、それでも確かに残ってる。


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第155話「蛍の場合4」

この前初風をつついて遊んでた所…

初風「何触ってんのよ!妙高姉さんに言いつけるわよ!」

…妙高お前のオカンかよ。


『お前!今日レストランの前で一緒にいた男は誰だ!』

 

 

『はぁ?何の話かしら?』

 

 

『とぼけるな!ここに証拠があるんだぞ!』

 

 

『…付け回してたの?趣味悪いわね』

 

 

『そんな事はどうだっていい!こいつは誰なんだ!!』

 

 

『会社の同期よ、ご飯奢るから相談に乗って欲しいって頼まれてね』

 

 

『嘘を吐け!浮気だな!浮気なんだな!?』

 

 

『ちょっと!いきなり浮気呼ばわりは無いんじゃないの!?だったら言わせてもらうけど、昨日あなたと一緒にホテルに入っていったこの女は誰なのよ!?』

 

 

『なっ…!?隠し撮りかよ!何考えてんだ!?』

 

 

『あなたにだけは言われたくない!』

 

 

 

『………』

 

 

また始まった、隣の部屋で大喧嘩をしている両親をふすまの隙間から覗きながら、少女…姫宮朱里(ひめみやあかり)はうんざりした様子でため息をつく。

 

 

『…お腹…空いたな…』

 

 

朱里は空腹に耐えながら両親の喧嘩が終わるまで待つ、いや、正確には両親の機嫌が良くなるまで待たなければならない、両親の…特に母親の機嫌が悪いときに飯をねだるととんでもない目に遭わされる、夕飯に生ゴミを出された去年の誕生日から朱里はそれを学んだ、あの日は一晩中トイレから出られなかったのを今でも覚えている。

 

 

『だいたいお前はいつもそうなんだよ!』

 

 

『そう言うあなただって!』

 

 

喧嘩が始まってから既に一時間が経とうとしているが、両親の喧嘩が終わる気配はまるでない、多分あのふたりは自分が腹を空かしている事など気にもとめていないだろう、そして、今日が朱里の13回目の誕生日であるということも、あのふたりは覚えていない。

 

 

『…うっ…うっ…ひぐっ…』

 

 

朱里は両親にバレないように嗚咽を漏らして泣き出す、物心ついた時から両親の虐待を受け続け、朱里の心は既に壊れかけていた、もう嫌だ、うんざりだ、なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないんだ、そんな理不尽に押しつぶされそうになり、朱里は泣き続けた。

 

 

『おいガキ!さっきからうるせぇぞ!何をピーピー泣いてやがんだ!』

 

 

その時、部屋のふすまが開いて父親がものすごい剣幕で入ってきた、泣き声を聞かれたらしい。

 

 

『ちったぁ静かに出来ねぇのかよ!穀潰しの疫病神がぁ!』

 

 

父親は朱里の頬目掛けて手のひらを思い切り振り下ろす。

 

 

『きゃあっ!』

 

 

朱里は激しい痛みと共に脳が揺さぶられる感覚に襲われる、それと同時に頬がじんじんと焼け付くようにヒリヒリする。

 

 

『そもそも俺たちの仲が悪くなったのも、花李亜(かりあ)が浮気をするようになったのも、全部お前のせいだ!俺たちはただセックスがしたかっただけなのに、勝手にお前が産まれてきて、俺たちの生活を壊したんだ!お前は誰からも望まれずに産まれてきた疫病神なんだよ!』

 

 

父親は朱里を殴りながら大声でまくし立て続ける、この父親の台詞は耳にたこが出来るほど聞かされてきたが、何度聞いても朱里の心を抉る。

 

 

『…お、お母さん…助け…』

 

 

朱里は母親に助けを求めようとするが、正直期待はしていなかった、母親の人となりは虐待されている朱里を助けようともせずに薄ら笑いを浮かべているその様子を見てもらえば察しはつくだろう。

 

 

『私をお母さんだなんて呼ばないで、あんたを娘だと思った事なんて一度もないわ、あんたなんて、産まれて来なきゃ良かったのよ』

 

 

母親は朱里の助けをバッサリ切り捨て、心無い言葉を浴びせる。

 

 

『…ったく、つくづく腹の立つガキだ…!』

 

 

朱里を気の済むまで殴り続けた父親は満足したのか、アザだらけの腫れ上がった顔になった朱里を蹴飛ばして部屋の奥に追いやる。

 

 

『花李亜、このガキに飯食わしとけ、死なれたら世間体に関わる』

 

 

『分かってるわよ、とりあえずまた生ゴミでもあげときましょう、犬用のフードカップどこ行ったかしら…』

 

 

娘を虐待するときだけは仲が良くなる両親はゴミを見るような目で朱里を一別すると、ふすまを閉めて部屋を出ていく。

 

 

『………』

 

 

既に虫の息になっている朱里は虐待のダメージと空腹で、だんだんと意識が遠のいていった。

 

 

 

『…助けて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?はっ!」

 

 

曙は勢いよくベッドから起き上がると、慌てたように辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 

「…あれ、私…」

 

 

なぜ自分はベッドで寝ていたのだろうか、曙はボーッとする頭を働かせて記憶を整理する。

 

 

「…あぁ、そっか…」

 

 

確か三日月たちから逃げるように大浴場を後にして、その足で自室のベッドに潜り込み、そのまま眠ってしまったのだった。

 

 

「そう言えば何か夢を見てたような気がするけど…何だったっけ…?」

 

 

曙は夢の内容を思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せてみるが、内容が全く思い出せない。

 

 

「あれ…?何で私…」

 

 

夢の内容は思い出せないのに、曙の目からは涙がとめどなく流れ落ちていく、まるで覚えていない夢の内容に反応していたかのように…。

 

 

「何なのかしら…」

 

 

いまいち腑に落ちない感覚だが、このまま二度寝するような気分でもなかったので曙はベッドから降りる、ふと窓の外を見れば外はすっかり暗くなっており、空には金色の月が顔をのぞかせていた。

 

 

「23時かぁ…もう誰もいないわよね…」

 

 

別に人恋しくなったわけではないが、そんな事を呟きながら曙は自室を出て提督室に向かう。




次回「葛藤」

灰色で何が悪い。


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第156話「蛍の場合5」

先日の太鼓の達人のアップデートでけものフレンズの「ようこそジャパリパークへ」が収録されたので近いうちにプレイしてみたい今日のこのごろ、逃げ恥の「恋」もやりたいですね。

…てか最近ネットでよく見る「○○なフレンズなんだね!」の元ネタってもしかしてコレか…?


時は少し遡り、曙が大浴場を出て行ってから10分後の提督室。

 

 

 

「…そうか、曙がそんな事を…」

 

 

事の顛末を聞いた海原は何とも言えない表情でふむ…と息を吐く。

 

 

「でも、曙の反応が一番自然だと思いますよ、今までが都合よく行き過ぎていただけで、普通はああなると思います」

 

 

吹雪はそう言っているが、その表情はやはり浮かないものであった。

 

 

「…こう言ってはなんたが、曙は少し変じゃないか?他人から触られるのを極端に嫌がったり、司令殿や我々に数々の暴言を吐いたり、普通じゃないと思うんだが…」

 

 

「それについてなんだがな、俺は曙の前世に何か関係があるんじゃないかと考えている」

 

 

夕月の疑問に海原がひとつの可能性を出す。

 

 

「前世…ですか?」

 

 

「あぁ、まず曙の他人に触られたくないという部分だが、触ろうとしたときに何かに怯えるような表情を見せるんだよ、民間人に買われてた時に暴力を振るわれた様子もない、なら前世で何かしらのトラウマがあると思うんだ」

 

 

「なるほど…」

 

 

「そして暴言についてだが、俺も曙には色々辛辣な言葉を投げられた、でもいずれの言葉も曙の本心とはどこか違う気がするんだよな」

 

 

「つまり、思ってもいないことをつい言ってしまってる…と?」

 

 

「思ってもいない…とはまた違うと思うんだ、何て言ったらいいか分からないが、本心だけど本心じゃない…みたいな?」

 

 

「ふむ…なるほどな、ところで司令殿、ひとつ聞きたいことがある」

 

 

「何だ?」

 

 

「…前世とは何だ?」

 

 

その後、前世の説明を受けた夕月と大鳳がひとしきり驚いていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「…というわけで、曙の前世について聞きたいんです」

 

 

吹雪たちを部屋に返した後、海原は榊原に電話をかけ、曙の前世について聞いてみた。

 

 

『前世か…本当はそういう話はかなりデリケートだから易々とは教えられないが、海原君になら特別にいいだろう』

 

 

 

艦娘の前世の話はプライバシーや諸々の事情で簡単には教えてくれない、というのは海原も知っていたのでダメもとだったのだが、案外軽い感じで教えてくれた。

 

 

「自分で言うのもアレですけど、所長って随分俺を高く買ってますよね、そんな出来た人間でもないのに」

 

 

『いや、実際海原君は信頼できる人間だよ、初めて前世の情報を教えたときからそれはさらに強まった』

 

 

「…?」

 

 

榊原の言わんとしている事がいまいち理解出来ず、海原は首を傾げる。

 

 

『俺が前世の情報を公開しなかった理由はもう一つある、それは知り合いが艦娘になっている可能性があることを知られないようにするためだ』

 

 

「知り合い…ですか?」

 

 

『艦娘は人間の死体から作られた人工生命体(ホムンクルス)、つまり艦娘になる前は当然人間だったということだ、それを過去に大切な人を亡くした人間が知ったら、どうなると思う?』

 

 

「…自分の知っている人間が艦娘として生きているか調べ回って、最悪会いに行く…?」

 

 

榊原の問い掛けに海原がそう答えると、榊原はそれを肯定する。

 

 

『たとえその艦娘が前世で知り合いだったとしても艦娘である今は“他人”だ、当時の記憶も人格も何一つ残っていないから当然その人のことを艦娘は覚えていない、そんな状態の艦娘に人間が会いに行ってもトラブルになるだけだ、だから前世の情報は何一つ公開していないんだよ』

 

 

「…なら尚更ですよ、どうしてそんな重大な情報を俺に?」

 

 

『ふむ、ならば逆に聞こう、海原君は艦娘の前世に関する情報を聞いて、俺にそう言うことを調べてもらおうと思ったことはあるかい?』

 

 

榊原にそう聞かれ、海原は言葉に詰まる、その質問の答えは正直に言えばYESだ、かつての自分の知り合いが、友達が、家族が、もし艦娘として再び生を受けているのであれば、是非とも見てみたい、でも…

 

 

「…はい、全くないと言えば嘘になります、でも、それは知ってはいけないことだと思うんです」

 

 

それをする事は許されない、海原は自然とそれを理解していた。

 

 

「たとえ死んでしまった人が艦娘として生きていたとしても、もうそれはその人じゃない“他人”です、俺の家族や友達は死んだんです、もう二度と起きあがってくることも話すこともない、俺はそれを認めなければいけないんです、死んだ事実を認められずに故人の面影を艦娘に重ねるのはただの馬鹿ですよ」

 

 

海原のその答えを聞いた榊原はそうか、と言って短く息を吐いた、顔は見えないのでその表情はうかがい知れないが、おそらく笑っているだろう。

 

 

『…やっぱり君を信じて正解だったよ、そう言ってくれる君にだからこそ、信じてこの情報を教えられるんだ』

 

 

「…もったいないお言葉、ありがとうございます」

 

 

榊原から多大な信頼を得ている事を改めて自覚した海原は、嬉しくなるのと同時にその信頼を裏切らないように行動しようと心に誓う。

 

 

『これから君に言う曙の前世の情報は他言無用だよ、吹雪たちになら話してもいいけど、話すときは慎重にね』

 

 

「了解しました」

 

 

海原がそう返事をすると、榊原は言葉を選ぶように慎重に話し始めた。

 

 

『曙の前世の名前は姫宮朱里、年齢は13才で中学一年生の女の子だ』

 

 

「13才?結構な早死にですね、事故にでもあったんですか?」

 

 

海原が死因について尋ねると、榊原は少し考えるように間を空ける。

 

 

『それが…その死因なんだけどね…』

 

 

やがて榊原は言い辛そうに言葉を紡ぐと、決定的な事実を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『姫宮朱里は、実の両親に殺されてるんだよ』

 

 

「…は?すみません所長…今、何と…?」

 

 

『…姫宮朱里は、実の両親に殺されている、保険金目当てでね』

 

 

榊原の口から聞かされた曙…朱里の死因を聞いた海原は言葉を失ってしまった。

 

 

『君が動揺するのも無理はない、現に俺もこれを聞いたときは自分の耳を疑ったよ』

 

 

そう言って榊原は力無く笑う。

 

 

『おまけに朱里は幼い頃からDVや育児放棄(ネグレクト)なんかの虐待を受けていたみたいでね、だいぶ心をすり減らしてたみたいだよ』

 

 

「つまり曙の攻撃的な態度や言動は…」

 

 

『虐待や育児放棄(ネグレクト)で自分自身を押さえつけられてきた反動…という見方も出来るね、といってもどの程度前世の記憶が艦娘に影響するかはまだよく分かってないから、まだ何とも言えないけどね』

 

 

榊原の見解を聞いた海原は顎に手を添えて考えを巡らせる、曙の前世…朱里は日常的に両親から虐待を受け、最終的には殺された、今の曙の性格が前世の影響を受けているのであれば、自分はどんな事が出来るだろうか…?

 

 

その後も朱里についての情報を榊原から聞いたが、思わず耳を塞ぎたくなるような事ばかりだった。

 

 

「…ありがとうございました、後は俺の方で色々考えてみます」

 

 

『そうか、くれぐれも慎重にするんだよ、前世の記憶に無闇に突っかかると、取り返しのつかないことになりかねないからね』

 

 

「分かりました、肝に銘じます」

 

 

海原は電話を切ると、ふぅ…と大きく息を吐く。

 

 

「曙の前世…か、川内の時よりも闇が深そうだな」

 

 

誰もいない提督室で、海原はそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の話は…?」

 

 

その扉の向こうで、曙が海原と榊原との会話を部分的に立ち聞きしていたことに気付かずに…。




次回「叶わなかった邂逅」


昨日の味方は今日の敵。


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第157話「蛍の場合6」

最近「アクセルワールドVSソードアートオンラインー千年の黄昏(ミレニアム・トワイライト)ー」を買いました、こういう他作品のキャラが一同に集う展開は好きなので結構楽しいです。

…そう言えばもうすぐ4月1日ですね(意味深


次の日、海原は提督室で出撃任務に出すメンバーの編成を行っていた。

 

 

「…何?メンバーにお前を?」

 

 

「えぇ、入れてほしいの」

 

 

その途中で曙が出撃メンバーに立候補したのだ。

 

 

「…予定ではしばらく遠征に従事してもらうつもりだったんだが」

 

 

「そんなモノどうだって良いわ、私は深海棲艦を倒せればそれでいいのよ、分かったらさっさとメンバーに私を加えなさい」

 

 

曙は物怖じしない態度で海原に詰め寄る。

 

 

「分かったよ、それじゃ今回の出撃メンバーは吹雪、曙、篝、夕月の4体でいこう」

 

 

海原は放送機器のスイッチを入れると、館内放送で今の4体を提督室に集める。

 

 

 

 

「曙って、今までに実戦経験はあるの?」

 

 

「それなりにはあるわよ、だから足を引っ張るような事にはならないわ」

 

 

「ほう、随分と大口を叩くものだ、それなりに期待させてもらおう」

 

 

海上を進むDeep Sea Fleetは敵艦隊を探しながら曙と談笑をしていた。

 

 

「ていうか、それ…何?」

 

 

曙は吹雪たちが持っている深海棲器を指差して怪訝そうな顔をする。

 

 

「深海棲器って言って、深海棲艦の装甲を原材料に作られた白兵戦用の武器だよ」

 

 

「はぁ!?深海棲艦の装甲から!?」

 

 

曙は目を剥いて吹雪の手甲拳(ナックル)を見る。

 

 

「曙も何か持つ?戦闘指南は私がするよ?」

 

 

「冗談!そんなモノ持てるわけないでしょ!深海棲艦から作られてる武器なんて…!あり得ないわ!」

 

 

曙は深海棲器に拒否反応を起こしたのか、少し吹雪から離れる。

 

 

「…敵艦隊発見です、数は1体、この距離だと会敵まで30秒」

 

 

篝が電探で敵艦隊を発見した、それを聞いた曙は一転して目を輝かせる。

 

 

「待ってなさい!深海棲艦!私が倒してやるわ!」

 

 

曙は主砲を構えると、敵艦隊が現れるのを今か今かと待っていた。

 

 

そして30秒後、敵艦隊が姿を現した、艦種は駆逐棲艦が1体。

 

 

「先手必勝!」

 

 

敵艦を見るなり曙は主砲を持って突撃する。

 

 

「待って!」

 

 

しかしそこで吹雪が曙の首根っこを掴んで止める。

 

 

「ぐぇっ!」

 

 

曙は首をガクンと曲げながら奇妙な声を出す。

 

 

「な、何すんのよ!、首もげたかと思ったじゃない!」

 

 

首を押さえながら曙が猛抗議する。

 

 

「あの深海棲艦、“面影”持ちだよ…」

 

 

吹雪は眼前の駆逐棲艦と、その後ろに見える面影を見据える、常盤色の長い髪に黄色いたれ目、黒地に赤い刺繍が入った巫女装束…といった出で立ちの艦娘だ。

 

 

「…“面影”?」

 

 

「深海棲艦になった元艦娘のことだよ、私たちは混血艦(ハーフ)だから深海棲艦になった艦娘の声を聞くことが出来る、私たちDeep Sea Fleetはそんな“面影”と会話をしたりして“面影”を元の艦娘に戻して救うのが目的なの」

 

 

吹雪が曙に“面影”について説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらない」

 

 

曙はそんな吹雪の…Deep Sea Fleetの行動理念をバッサリと切り捨てた。

 

 

「たとえ味方だったとしても深海棲艦になればソイツは敵よ、救う必要は無いわ」

 

 

「そんな事はないよ、現にここにいるDeep Sea Fleetのメンバーはかつて深海棲艦だった、みんな未練を残して沈んでいって、助けを求めても届かなくて、だけど私たちが言葉を交わして、歩み寄って、それでみんな救われたの、だから敵だとしても救う意味はあるんだよ」

 

 

吹雪はここにいる艦娘たちの思いを代弁するように言葉を紡ぎ、曙に語って聞かせる。

 

 

「そんなの、そいつが弱かったから沈んだだけでしょ?沈む方が悪いのよ、ただの自業自得に付き合う必要は無いわ!」

 

 

「曙…!あんた…!」

 

 

その一言に頭に血が上った吹雪は曙に手を上げそうになったが、ここで予想外の事が起きた。

 

 

「…えっ?」

 

 

“面影”持ちの駆逐棲艦が猛スピードでこちらに向かってきたのだ。

 

 

『曙!曙!』

 

 

しかも曙の名前を呼びながら…だ。

 

 

「…曙の知り合い…なの…?」

 

 

事情が飲み込めない吹雪は駆逐棲艦に詳しい話を聞こうと近付こうとしたが…

 

 

『ひっ…!?』

 

 

「…来るな、深海棲艦!」

 

 

曙が駆逐棲艦に向けて威嚇射撃を行ったのだ、そのせいで驚いた駆逐棲艦は吹雪たちから数メートルの所で止まる。

 

 

「待って曙!さっきも言ったでしょ!あの深海棲艦は元艦娘なんだよ!」

 

 

「だったら何だって言うのよ!たとえ艦娘だったとしても深海棲艦になった時点でそれは私の敵よ!助ける理由も義理もないわ!」

 

 

曙は吹雪にそう言い放つと、今度は主砲を駆逐棲艦に向け、こう告げた。

 

 

「あんたが誰かは知らないけど、あんたはもう艦娘じゃないわ!私の大切な親友を奪った深海棲艦…私の敵よ!」

 

 

曙がそう言い切ると、“面影”はボロボロと涙を流し、踵を返して走り出してしまった。

 

 

「曙!あんた何て事を…!」

 

 

「本当の事を言ったまでよ」

 

 

吹雪の追求に曙は悪びれもせず答える、対象の深海棲艦は逃亡、他に敵艦隊も見あたらないので、Deep Sea Fleetはこれで帰投という結果になった。

 

 

 

 

 

帰投後、吹雪は海原に結果を報告し、似顔絵のスケッチを書いて海原に検索をかけてもらっている。

 

 

「…むぅ、これは…」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

突然海原が苦い顔をしたので、吹雪が首を傾げて聞く。

 

 

「…これを見てみろ」

 

 

そう言うと、海原は“面影”の艦娘データを吹雪に見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○艦娘名簿(轟沈艦)

 

・名前:(ほたる)

・艦種:駆逐艦

艦級(クラス):暁型8番艦

練度(レベル):57

・所属:新潟駐屯基地

・轟沈:2050年4月2日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これは…」

 

 

吹雪の頭の中には、考え得る中で最悪の展開が浮かんでいた。




次回「然るべき対応」

苦しめ、徹底的に。


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第158話「蛍の場合7」

今回の蛍編は少し長くなりそうです。

あとこの小説では“珍しく”シリアスな展開になりそうです(すっとぼけ。

艦これアーケードのイベント海域の続報が出ましたが、色々ヤバいですね、装甲ギミックに至近弾(砲撃サークルの直撃を避けても余波でカスダメ受ける)とか難易度の跳ね上がりようがすげぇ。


「まさか今日遭遇した深海棲艦が蛍…曙の親友だったとは、これは少し困ったことになりましたね」

 

 

「ん?どう言うことだ?」

 

 

首を傾げる海原に、吹雪は今日の出撃での事を話す。

 

 

「なるほどな、曙が深海棲艦化した蛍に罵詈雑言を浴びせた…と」

 

 

「蛍は深く心傷ついた様子で泣きながら逃げていきました、再び現れるかは分かりません」

 

 

「そうか、なら今回は中々苦戦しそうだな…」

 

 

海原は小さくため息をつくと、パソコンを立ち上げて文書を作成する。

 

 

「何を作ってるんですか?」

 

 

「曙に関する考察だよ、前世の記憶と今の性格との関係とか、俺なりの考えを書いていってるんだ、こういう情報は整理しておくと考えがまとまりやすい」

 

 

「ほぇ~、提督みたいな事するんですね」

 

 

「提督だからな」

 

 

そんなのどかなやり取りをしつつ、海原はキーボードをカタカタと打ち、吹雪は書類仕事を進めていた。

 

 

 

 

 

 

「…おっと、もうこんな時間なのか」

 

 

気付けば時刻は午後9時を回っており、吹雪も書類仕事を終えて文庫本を読んでいた。

 

 

「そろそろ飯行くか、てか先に食ってて良かったんだぞ?」

 

 

「いえ、私は司令官の秘書艦ですから、司令官のお側にいることが仕事です、それに二人きりにもなれますし」

 

 

「…お前秘書艦の意味わざと履き違えてないか?」

 

 

「気のせいですよー」

 

 

そんな吹雪の棒読みな返事に半ば呆れつつ、海原は吹雪を連れて食堂に向かう。

 

 

 

 

 

「クソ提督、ちょっといいかしら?」

 

 

海原たちが提督室を出て5分程が経った頃、曙が提督室に入ってきた、当然食事に行っているので誰もいない。

 

 

「…いないわね」

 

 

昨日の会話の内容について問いただしてやろうか、などと考えながらやってきたのだが、肝心の当人はいなかった。

 

 

「仕方ないわね、書き置き残して部屋でゲームでも…」

 

 

曙は海原の机にあったメモ帳から一枚抜き取ると、話があるので後で呼べ、と書いてキーボードの上に置いておく。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、曙はパソコンの電源が入れっぱなしになっていることに気づく。

 

 

「ったく、こういう所で抜けてるんだから…」

 

 

曙はため息を吐きながら何気なしにパソコンのディスプレイを見やる。

 

 

『曙に関する考察』

 

 

「…えっ?」

 

 

そこには書きかけの文書が表示されており、タイトルには自分の名前が書かれていた。

 

 

 

「…ちょっとだけ、ちょっとだけだし…」

 

 

見てはいけないものだというのはすぐに気付いたが、自分の名前が書いてあるという事に対する好奇心に負けてしまい、曙は文書に目を通す。

 

 

「えーと、何々…?」

 

 

曙は文書を読み進める、読み進めて読み進めて読み進めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督室を飛び出した。

 

 

その足で自室に駆け込むと、ベッドに潜り込んで身体をガタガタと震わせる。

 

 

「…何よあれ…!何なのよあれ…!?」

 

 

未だに脳裏に焼き付いている文書の内容がぐるぐると頭の中を回る。

 

 

『現在曙は極端に攻撃的な態度や特定の仕草に対して拒絶反応を起こすといったやや不可解な点がいくつか見受けられる』

 

 

『この不可解な点の原因について色々な可能性を考えた結果、曙の前世…姫宮朱里の記憶が影響しているのではないかというのが個人的には有力だ』

 

 

『姫宮朱里は生前両親から虐待を受け、その末に殺害されている、その時の記憶が現在の曙に何かしらの影響を及ぼしているのではないかと俺は考えている』

 

 

『別段日常生活に致命的な悪影響が及ぶ訳ではないが、仮にこれが戦闘行為などの妨げになりうる場合…』

 

 

『然るべき対応をする事も考える必要がある』

 

 

 

「そもそも私って人間だったの…?それに両親に殺されたってどういうこと…!?てか然るべき対応って何なの!?」

 

 

曙の中に良くない考えがぐちゃぐちゃと渦巻き始める、そして行き着いた最悪の結末が…

 

 

 

「もしかして私…解体されちゃうの…?」

 

 

曙は勢い良くベッドから起き上がると、自分の両腕を掴んで身を震わせる、提督に対する態度は最悪、その上まともにコミュニケーションやスキンシップが出来ず、それが戦闘に影響するとなれば役立たずもいいところだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、解体されるのだけは嫌だ。

 

 

 

いや、それよりも曙が一番衝撃を受けた事がある、文書の最後に書いてあった一文だ。

 

 

『曙が深海棲艦化した蛍に辛辣な言葉を浴びせたらしく、蛍への再接触をはかる必要があるだろう』

 

 

ここの文面を読んで曙は吹雪の言っていたことを思い返す、吹雪たちは“轟沈した艦娘”の“面影”を見ることが出来る、と。

 

 

…ならば同じく轟沈した蛍も深海棲艦として彷徨っているのではないか?。

 

 

そして今日自分はその深海棲艦になった蛍に言ったのではないか?お前は敵だ…と。

 

 

「っ!?」

 

 

その事実を自覚した瞬間、曙は部屋を飛び出してトイレに駆け込み、思い切り吐いた。

 

 

 

「ぅおぇ…!オボェ…!」

 

 

自分が蛍に敵だと言ってしまった、その事実を自覚すればするほど胃を雑巾絞りされたかのような猛烈な吐き気に襲われ、吐瀉物を口からぶちまける。

 

 

(私が…蛍に言った…私が…蛍に砲を向けた…私が…私が…!私が!)

 

 

親友にしてしまった事に対する途方もない罪悪感と、これから自分がどうなってしまうのかという途方もない不安感に押し潰されそうになり、曙は更に吐き続けた。




次回「憔悴(しょうすい)

心は簡単にすり減り、壊れていく。


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第159話「蛍の場合8」

南方海域ステージ2「珊瑚諸島沖海戦」クリアしました、最終形態が南方棲戦鬼になっててかなり驚いた。

戦鬼(いくさおに)ってくらいだからさぞかし強いだろうと思ったら防御力が10しかなくてさらに驚いた、というわけでステージ3「サーモン沖海戦」解放です。

…そう言えば明日って4月1日ですね(フフフ


『ちょっと!靴下を洗濯機に入れるときは裏返った状態で入れないでっていつも言ってるでしょ!?』

 

 

『うるせぇな!お前はいつもいつも細けぇんだよ!』

 

 

『何よその言い方!』

 

 

いつものように繰り広げられる夫婦喧嘩に朱里は隣の部屋で耳を塞いで体育座りをしていた、夫婦喧嘩は犬も食わないという言葉を以前国語の授業で聞いたことがあるが、これは犬が食ったら即死レベルの劇薬だろう。

 

 

『…くそっ!あいつは何だって…!』

 

 

すると父親…勝己(かつみ)が襖を開けて朱里のいる部屋に入ってきた、この部屋は両親の寝室になっているのだが、勝己はよく夫婦喧嘩でイラついた時にここでふて寝をするのだ。

 

 

『あ?何だよその目は?』

 

 

突然入ってきた勝己にびっくりした朱里は思わず勝己の方を見た、しかしそれが勝己の神経を逆撫でしてしまったらしい。

 

 

『えっと…いや…別に…』

 

 

『何だその目はって聞いてるんだ!』

 

 

勝己は朱里に思い切り平手打ちを食らわせ、朱里の胸ぐらを掴む。

 

 

『テメェのその目はいつも気に入らねぇんだよ!このガキが!』

 

 

勝己は朱里の顔を容赦なく拳で殴りつける、すでに意識朦朧の状態であるが、勝己は構わず殴り続ける。

 

 

(…そう言えば、お父さんから名前を呼ばれた事、一度も無いな…)

 

 

そんなやや場違いな思い出と共に、朱里は気を失ってしまった。

 

 

 

 

「…はっ!?」

 

 

曙はベッドから勢い良く飛び起きる。

 

 

「…今の夢は…!?」

 

 

曙はまた涙を流しながら今の夢の内容を思い返す。

 

 

「今のが、姫宮朱里…?人間だったときの私…なの?」

 

 

曙がそこまで考えたとき、はたと気づいた。

 

 

「あれ?私…夢の内容を覚えてる…?」

 

 

今までは何も思い出せずにただ涙を流すだけだったのに、今朝は夢の内容をしっかりと覚えていた、昨夜海原の文書を読んで前世の事を知ったからなのだろうか?。

 

 

「…あの子が朱里の記憶…あんなの、辛すぎるよ…」

 

 

曙は掛け布団をぎゅっと握り締め、自分の前世の少女に同情するのと同時に、これからあんな夢を見続ける事になるのかと不安になる。

 

 

海原に相談してみようかと考えたときもあったが、すぐにその案は捨てた、もしそれを相談すれば、自分が海原の文書を勝手に見たことがバレてしまう、それこそ厳罰モノだろう、かといって吹雪たちに相談しても結局は海原に話が行ってしまう、それに混血艦(ハーフ)ということもあり何となく信用できない。

 

 

「…どうしよう、どうしたら…」

 

 

考えれば考えるほど頭の中はぐちゃぐちゃになって纏まらない、結局曙は自分で抱え込むという選択肢しか選べなかった。

 

 

「…お腹空いた」

 

 

腹が鳴った事に気づき、ぐちゃぐちゃなまま考えることを放棄した曙は食堂へと向かった。

 

 

「…まだヒリヒリするや」

 

 

食べたものと胃酸を吐きすぎて喉が焼け付くような感覚に襲われながら…

 

 

 

 

 

「あ、おはよう曙」

 

 

食堂に入ると、吹雪と明石が朝食を取っていた。

 

 

「…おはよう」

 

 

誰かと話す気になれない曙は挨拶だけ返してカウンターへ向かう。

 

 

「おはようございます曙さん、今日は唐揚げ定食です!」

 

 

大鯨がご飯に味噌汁、そしてメインディッシュの唐揚げが乗ったトレイを差し出す。

 

 

「…ありがとう」

 

 

曙は抑揚の無い声でトレイを受け取ると、近くの席についてもそもそと食べ始める。

 

 

「(…ねぇ、何か曙の様子、変じゃない?)」

 

 

「(そうだね、昨日戦闘中に一悶着あったって言うし、それを気にしてるのかもな…)」

 

 

「(そうかなぁ…?曙の性格的にそれは無いと思うんだけど…)」

 

 

「(なら何か別の原因があるとか…?)」

 

 

昨日とは明らかに曙の様子が違うことに気付いた吹雪と明石、思い切って本人に聞いてみることにした。

 

 

「なぁ曙」

 

 

「……」

 

 

明石が声をかけてみるが、ぼーっとしているのか返事がない。

 

 

「曙~?」

 

 

「…へあっ!?な、何よ明石さん!?」

 

 

2回目の声かけで気付いた曙は、ビクッと椅子から少し飛び上がって明石を見る。

 

 

「いや、何だか様子が変だと思ったから、何かあった?」

 

 

「…別に何もないわよ」

 

 

それを指摘された曙は気まずそうに顔を逸らす、昨夜のことはとてもじゃないが誰かに言う気にはなれない。

 

 

「え~?そんなわけ無いだろ、どう見ても様子おかしいもん」

 

 

「何でもないって言ってるでしょ!」

 

 

急に声を荒げた曙に明石が驚いて半歩下がる、曙はそれに気付くと、また気まずそうに顔を逸らす。

 

 

「…何かあるなら相談に乗るよ?私たち、曙の仲間だから…」

 

 

「うるさいわね!半端モノのあんたたちには到底分かんないような事なのよ!構わないでくれる!?」

 

 

曙は大声で明石に向かってまくし立てた。

 

 

 

「あ…」

 

 

やっちまった、曙がそれに気付いたときには既に遅かった。

 

 

「おやおや、曙は今日はご機嫌斜めなようだ、まぁそんな日もあるよね」

 

 

しかし明石はそう笑って曙の発言を流した。

 

 

「…ちが…私…そんな…」

 

 

曙は震える声で弁明を試みようとしたが、言葉が出てこない、何とか言葉を絞り出そうとするが、乾いた雑巾のように何も出てこない。

 

 

「勢いで何かを言ってしまうのは誰にだってあることさ、気にしない気にしない」

 

 

しかしそんな曙を明石は何も言わずに許した、なぜ許せるのだろうか、自分はあんな事を言ってしまったのに、しかも明石は混血艦(ハーフ)ではない純粋な艦娘だというのに、なぜ彼女はそんな顔で許せるのだろうか…それが曙には分からなかった。

 

 

「っ!!」

 

 

とてつもなくいたたまれない気持ちになった曙はそのまま食堂を飛び出していってしまった。

 

 

「…絶対に何かあるな」

 

 

「…そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

食堂を飛び出した曙はあてもなく廊下をさまよい歩く、今日の自分のスケジュールは出撃も遠征も入っていない、このまま気ままにブラブラと過ごそうか、などと考えていたとき…。

 

 

「よっ、曙」

 

 

海原が廊下の向こうからやってきた。

 

 

「………」

 

 

曙はそれを無視して行こうとするが、海原が曙の手を掴んで止める。

 

 

「どうした?何かあったのか?」

 

 

「…何でもないわよ、離してくれる?」

 

 

「何でも無いって事はないだろ、何かあるなら話してみろ」

 

 

「何も無いっていってるじゃない!何でどいつもこいつも私にしつこく構うのよ!」

 

 

急に激情した曙に面食らう海原、そんな彼を曙は無視してさっさと行ってしまう。

 

 

「…どうしたんだ…?曙のやつ…」

 

 

 

 

その日を境に曙は前世の記憶の夢を見ることが多くなっていた、ほぼ毎晩のように虐待の夢を見続け、それを誰にも相談できない日々が続いていた。

 

 

「…また…か」

 

 

いつものように泣きながら目を覚ました曙はのそりと起き上がり、着替えを始める、何度も何度も夢の中で虐待され続けた曙は精神的にかなり参っている状態だった、それによってストレスも溜まっていき、それを他の艦娘や海原に当たってしまうこともしばしばあった。

 

 

「…どうしたらいいのよ、本当に…」

 

 

本当は全部ぶちまけて楽になりたい、でもそうしたら機密情報を知った罪で罰せられるかもしれない、それに海原の文書に書いてあった“然るべき対応”…これがずっと曙の中で引っかかっていた。

 

 

「…やっぱり解体されちゃうのかな」

 

 

本当はそうじゃないのかもしれない、でも今の曙はそれ以外考えられない程ネガティブになっていた。

 

 

そんな調子で頭を悩ませていたとき、ふとある疑問が頭を過ぎる。

 

 

「…ん?待って、クソ提督が私を解体する主な理由って、私の前世の記憶やそこからくる態度…なのよね?」

 

 

そこから数分程思考の海に身を沈めた曙は、ひとつの答えに行き着く。

 

 

「…そっか、簡単な事じゃない」

 

 

解体を回避する方法、それはとてつもなく簡単なことだった…

 

 

 

 

 

「…ねぇ、やっぱり最近の曙おかしいよ」

 

 

「そうですよね、やはり(くだん)の艦娘売買事件を引きずっているのでしょうか…」

 

 

「…あ、曙さん来ましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよっ!みんな!」

 

 

答えは簡単だ、(じぶん)を殺せばいい。




次回「自暴自棄(ヤケクソ)

自分騙してまで好かれたいの?


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第160話「蛍の場合9」

事案待った無し回。

ここの所遠征要因だった村雨がレベル20になったので改装したらグラフィックが変わった、正直言って男を知ったような見た目になってた、絶対こいつ処女じゃない。



「…えっ?」

 

 

曙のあまりの変わりようにその場にいた全員が困惑する。

 

 

「大鯨さん、今日のメニューは何ですか?」

 

 

「えっ?は、はい!今日は洋風でベーコンエッグにトーストです!」

 

 

「わーい!大鯨さんの洋食って美味しいから好きなんですよ」

 

 

曙はトレイを受け取ると、近くの席に座ってトーストを頬張る。

 

 

「(…本当に曙どうしちゃったの?)」

 

 

「(頭でも打ったとか?)」

 

 

「(もしくは、自分の中で何かが吹っ切れたとか?)」

 

 

「何話してるの?」

 

 

吹雪たちがひそひそ話をしていると、曙がコーヒー牛乳(ホット)のカップ片手にこちらに聞き耳を立てていた。

 

 

「へっ!?い、いや~、今日の曙が随分ご機嫌だから、何か良いことでもあったのかな~って…」

 

 

明石がそう言うと、曙はにっこりと笑ってそれに答えた。

 

 

「そうよ、ここの所ずっと悩んでた事があったんだけど、それがすっきり解決したの!中々解決しなくてイライラしちゃってたんだけど、キツく当たっちゃってごめんね」

 

 

「へ、へぇ、そうなのか…」

 

 

 

あまりにも明るいテンションの曙に面食らう明石、しかし曙の悩みが解決したのならそれは良いことなのだろう、()()()()()()()()()()()()…。

 

 

「本当に気分が良いわ~、朝食がいつもより美味しい!」

 

 

曙は残りの朝食の飲み込むと、手早く食器を片付けて食堂を出て行った。

 

 

「…本当に解決したと思う?」

 

 

吹雪の問いかけに、残りの艦娘は揃って首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

「ク…提督!おはよ!」

 

 

続いて曙は提督室にやってきた、とびっきりの明るい挨拶で部屋に入ってくる。

 

 

「お、おう、随分と機嫌が良いな…」

 

 

「そうなのよ、ずっと悩んでたことが解決したから最高に気分がいいの!」

 

 

曙はルンタッタ♪…といった効果音が聞こえてきそうなルンルン気分で小躍りする。

 

 

「…お前、本当に解決したのか?」

 

 

しかし海原はそんな曙の目をじっと見つめる、その瞳の奥に見えるのは晴れやかさではなく、重苦しい鉛色の曇天模様だったからだ。

 

 

「解決したに決まってるじゃない!今日の私はとってもご機嫌よ!」

 

 

気持ち悪いくらいにハイテンションの曙を見て疑心を深める海原、しかし曙はそんな海原の心情などどこ吹く風といったように提督室を出て行く。

 

 

「…あいつ、大丈夫なのか…?」

 

 

 

 

「おええぇぇ…」

 

 

それから数時間後、曙はトイレの個室にこもり、食べたばかりの昼食を全部吐き出していた、自身の心と乖離(かいり)した言動や態度ばかり取っていた曙は精神的な気持ち悪さに襲われ続け、あっという間に限界を迎えた。

 

 

「…ダメだ、これぐらいで根をあげたらダメだ、愛想良く振る舞わないと、クソ提督に好かれないと、解体される…!それだけは嫌だ…!」

 

 

口元を吐瀉物塗れにしながら涙目で咳き込む曙、以前までは解体されてもいいや…などと考えていたが、今は解体される訳にはいかない。

 

 

「…蛍に会いたい、たとえ深海棲艦になってたとしても会いたい、だからまだ解体される訳にはいかないんだ…!」

 

 

しかし、深海棲艦になった蛍に会うには吹雪たちの協力が不可欠だ、しかし一度はああ言ってしまった手前頼みづらいのが現状だ、それに頼んだとしても吹雪たちが承諾してくれるとは限らない。

 

 

「そのためには何としてもこの鎮守府の艦娘からの好感度を上げておかないと…!もっと好かれるように…!もっと愛想良く…!」

 

 

そう強く思えば思うほど、吐き出す吐瀉物の量が増えていった。

 

 

 

 

曙が急に愛想良くなってから5日が経った、相変わらず曙は愛想良く振る舞っているが、確実に心身ともに弱っていた。

 

 

変わらず前世の悪夢は毎晩のように見続けるし、それに加えて自分を殺して明るく振る舞う心と乖離(かいり)した態度、それはさながら笑顔の仮面を被せた女優のようであった。

 

 

「おはよ!吹雪!」

 

 

「お、おはよう…」

 

 

不自然なくらいに明るい曙の挨拶に吹雪は顔をひきつらせながら返す、本人が自覚しているかどうかは知らないが、その顔色は日に日に悪くなり、やつれてきている。

 

 

「…ねぇ曙、本当に何があったの?私で良かったら力になるからさ、だから話してみてよ」

 

 

流石に見ていられなくなってきた吹雪が曙の手を握ってそう言うが…

 

 

「何言ってるのよ吹雪、私に悩みなんて無いわ、元気元気!」

 

 

曙はそう言ってガッツポーズをするが、それがそれが虚勢だというのは誰が見ても明らかだった。

 

 

「あ、そろそろ遠征行かないと!じゃあね!」

 

 

曙はそのまま小走りで行ってしまった。

 

 

「…あんた、今日は出撃も遠征も予定入ってないでしょ、それに艦娘のスケジュール管理してるの私と司令官だってこと、知ってるよね?それにすら気が回らないほど憔悴してるってことなの…?」

 

 

 

 

 

「…えーっと、クソ提督の文書フォルダーは…これね」

 

 

その日の深夜、曙は提督室に忍び込んで海原のパソコンをこっそり弄っていた、目的は海原が作成している自分の考察文書だ。

 

 

「…やっぱり続きが作成されてるわね」

 

 

曙は早速文書に目を通した。

 

 

 

『最近の曙の精神状態に異常が見受けられる、具体的な例を上げるなら、明らかに無理をして笑顔を作っていたり、何か苦しいことがあるのに無理やり押し込めて明るく振る舞っていたり、どうにも心と行動が乖離(かいり)しているような振る舞いがとても目立つ』

 

 

『仮にこれも前世の影響なのであれば、早急に手を打つ必要がある、然るべき対応を行う日も前倒した方がいいだろう』

 

 

「…うそ」

 

 

ディスプレイに表示された文書を見た曙は凍りついたように動けなくなり、それと同時に全身の血管にドライアイスをぶち込まれたかのような悪寒に襲われた。

 

 

「…あれだけ…愛想良く振る舞ってたのに…それでも…ダメだって言うの…?これだけ…自分を殺したのに…それでも足りないの…?」

 

 

曙は消え入りそうな声でそう言いながら身を震わせる。

 

 

「うっ…!」

 

 

曙は今日何度目になるか分からない吐き気に襲われ、手早くパソコンの電源を落としてトイレに駆け込む。

 

 

「おげええぇぇ…」

 

 

胃の中の夕食をほぼ全て戻した曙は口から涎と胃液をダラダラと垂らしながら脳をフル回転させる、何とか解体を免れる方法は無いのか、手っ取り早く海原に気に入られる方法は無いのか…。

 

 

「…やるしかない」

 

散々悩んだ挙げ句、曙は自分の中の最後の手段を取る事を決めた、自分が考えられる中でも最も効果のある、最悪の手段を…。

 

 

 

 

 

 

「…提督」

 

 

次の日の夜、海原がひとりで書類仕事をしていると、曙が静かに提督室に入ってきた、なぜか室内だというのに厚手のコートを着ている。

 

 

「ん?曙か、こんな時間にどうした?もう日付が変わるぞ」

 

 

「…提督にご奉仕しようと思って」

 

 

曙はぼそぼそと呟くように言うと、海原の所までフラフラと歩いてくる。

 

 

「奉仕?お茶でも淹れてくれるのか?それとも肩でも揉んでくれるとか?」

 

 

ここの所曙の様子が変だったので、こうして自ら歩み寄ってくれることにうれしくなった海原はそう言って曙に聞く。

 

 

「…やだなぁ提督、こんな時間にするご奉仕なんて…ひとつしか無いでしょ…?」

 

 

そう言って曙は羽織っていたコートを脱ぎ捨てる。

 

 

「っ!?」

 

 

この時、海原はつい10秒前の自分と過去の自分をぶっ殺してやりたいと心から思った、なぜ曙の様子をもっとよく見ておかなったのか、なぜ無理矢理にでも聞き出そうとしなかったのか、そんな後悔だけが一気に押し寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…夜のご奉仕…させていただきます…」

 

 

そう言って迫ってくる曙は、下着も何も身に付けていない全裸だった。

 

 

「提督…私の身体で、思う存分気持ち良くなってくださいね」

 

 

 

死んだ魚のように濁りきった目で見つめられた海原は、恐怖という感情に全身を支配されていた。




次回「色仕掛け」

漂う色香は腐敗の香り。


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第161話「蛍の場合10」

蛍編の折り返し地点です、というかここからが本番です。

南方海域ステージ3「第一次サーモン沖海戦」に出撃したところ、2歩目の夜戦マスで戦艦タ級の連撃により金剛が大破、あえなく撤退になりました、心臓に悪すぎるステージです。

てか、夜戦マスかどうかって戦闘開始前に分かる仕様になってるんですね、あれ。


「お、おい曙…!?」

 

 

曙のあられもない姿に絶句する海原、曙はそんな海原の事など完全無視で素早くズボンのチャックを開けると、何の躊躇いもなく中に手を入れて海原の一物を取り出す。

 

 

「何してんだ曙!!今すぐやめろ!」

 

 

海原の一物を咥えようとする曙を引きはがそうとするが、曙は断固として離れようとはしなかった。

 

 

「おい止めろって!どうしちまったんだよ本当に!?」

 

 

海原は本気で焦りながら曙を離そうとする、なぜこんな事になっているのか、それを必死に考えていると、不意に曙が海原から離れる、ようやく考え直してくれたか、などと思ったが、すぐに自分が甘かったと思い知らされる。

 

 

「あぁ、そっかぁ…提督はこっち方がいいのね…」

 

 

そう言うと、曙は海原の腰元にまたがり、海原の一物を自身の陰部へとに入れようとする、言ってしまえばセックス3秒前な状況だ。

 

 

「止めろ!それはマジでシャレにならない!」

 

 

今度こそ身の危険を感じた海原は死ぬ気で曙をはがしにかかる、しかし曙も艤装を簡易展開させているらしく、小さな体躯に似合わぬ怪力で抵抗する、何が何でも海原とセックスするつもりのようだ。

 

 

「大丈夫よぉ…ちゃんと気持ち良くしてあげるから、だから…」

 

 

「私のこと…解体しないでぐだざい…!」

 

 

「っ!?」

 

 

そう縋るように懇願する曙の濁りきった目からは、大粒の涙が流れていた。

 

 

「お、おい、今のどういうことだよ…解体って何の話だよ!?」

 

 

突然曙の口から飛び出した解体という単語に狼狽する海原、曙を解体する予定などもちろん無いし、海原自身もそんな気は毛頭無い、なのになぜ曙は自分が解体されるなどと思っているのだろうか…?。

 

 

「お願いじまず…何でもじまずがら…提督の望む事ならセックスでも何でもじまずから…だから解体だけは…!解体だけはしないでくだざい!」

 

 

涙と鼻水で顔をグチャグチャにした曙が海原の上着の襟を掴んで懇願する、幸いそのお陰でまだ海原の一物は入れられずに済んでいるが、曙は入れるつもりだろう。

 

 

「…おい曙、何があったんだ?何がお前をそこまで追い詰めてるんだ?」

 

 

「どぼけないでよ!私の前世が原因で解体するんでしょ!?提督の文書読んだんだからね!?」

 

 

「っ!?お前…あれを…!?」

 

 

「えぇそうよ!私の今の性格は前世の姫宮朱里が影響してるから、然るべき対応をする必要があるって書いてたでしょう!?それってそんなめんどくさい艦娘は使い物にならないからゴメンだって事で解体するって意味じゃないの!?」

 

 

曙はそう一息でまくし立てる、それを聞いた海原はますます過去の自分に殺意が湧いた、そして今の自分にも言ってやりたい、俺は馬鹿だと。

 

 

「だから私はクソ提督とセックスする!私の気持ちよさから離れられなくなれば解体なんて出来ないでしょ!?」

 

 

もはや自暴自棄(ヤケクソ)といった感じで曙は今度こそ海原の一物を自身の陰部に入れようとする。

 

 

しかし、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ごめん、曙」

 

 

海原が、曙の身体を抱き締めたからだ。

 

 

「ふぇっ…?」

 

 

「俺のせいでお前がこんなに追い詰められてたなんて、提督失格だな…」

 

 

「は、離してよ!私はまだ解体されたくないんだから!」

 

 

「曙、聞いてくれ」

 

 

「お願いだから解体しないでよ!性格が気に入らないなら心壊してでも直すから!性玩具(ラブドール)がいいなら私の身体が壊れるまでヤリ捨てていいから!ク…提督の言うことなら何だって聞くから!だから、だから…!」

 

 

「俺は!」

 

 

曙の縋りつくような言葉を全て斬り捨てるように海原が声を荒げ、曙は怯えるように身を震わせる、そして海原は曙の肩を掴んで自分の目の前まで引き離すと、確かにこう言った。

 

 

「俺はお前のことを解体するつもりなんて、毛頭無いよ」

 

 

そう優しく言うと、海原は曙のサラサラの髪を撫でる。

 

 

「…へ…?解体…しない…の…?」

 

 

「当たり前だ、誰が家族を売るようなまねするか」

 

 

「だ、だって…!文書には然るべき対応をするって…!」

 

 

「確かに書いたよ、でもそれは解体なんかじゃない、俺が考えた然るべき対応、それはな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の全てを認めて、受け入れることだ」

 

 

「…えっ?」

 

 

海原の言っている事の意味が分からず、曙は首を傾げる。

 

 

「確かにお前は性格キツいし、言葉も態度も良いとは言えない、でもそれがお前が“曙”として持って産まれてきた自我だ、たとえ前世の影響で付いて来たモノだとしても変える事なんてできねぇよ」

 

 

「クソ提督…」

 

 

「だったら話は簡単だ、それがお前の性格なんだと、それが曙なんだと認めて受け入れてやればいい、無理に変えさせるよりも、それを受け入れてやる方が良いことだってあるんだよ」

 

 

「…じゃあ…本当に…」

 

 

「あぁ、解体なんてしない、お前は何も怖がらずにありのままのお前でいろ、俺は…俺たちはそれを受け入れてやる」

 

 

海原はそう言って、再び曙の髪を撫でた。

 

 

「………ぅう……うぅぅ…」

 

 

それを聞いた曙は嗚咽を漏らしながら泣いていた、その涙は先程のような悲しい涙ではなく、心の底から溢れんばかりの嬉しさに満ちた涙だった。

 

 

 

「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

曙は喉が潰れんばかりの声で泣き叫び、海原に抱きついてひたすらに涙を流していた、まるで今までため込んできた不安や恐怖、悲しみを全て吐き出すように…。

 

 

「ごめんな、お前の事苦しめちまって、これからは何も我慢せずに何でも言えよ、お前はもう…ここの一員なんだからな」

 

 

海原は曙が泣きやむまで、ずっと背中を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やれやれ、一時は本当にどうなるかと思いましたけど、解決したようで良かったわね」

 

 

「曙さんがそんな風に考えてたとは…私たちも気付いてあげれば良かったですね」

 

 

「そうですね、提督と交わりそうになったことは、大目に見るとしましょう」

 

 

…ちなみにこの一部始終はコートを羽織って廊下を歩く曙を不審に思ってつけてきた吹雪たちにも見られていたのだが、満場一致で見なかったことにする事にした。

 

 

 

 

 

『おいガキぃ!お前自分が何したか分かってんのか!?』

 

 

『あんたのせいでご近所に悪い噂がたっちゃったじゃない!この疫病神!』

 

 

勝己と花李亜はいつものように朱里に殴る蹴るの暴行を加えていた、原因は朱里が近所の住民に虐待を受けていることをほのめかしたからだ。

 

 

『ご…ごめんなさい…!ごめんなさい!』

 

 

身体中にアザや傷を作った朱里は泣きながら謝るが、依然両親からは激しく暴行されていた。

 

 

(誰か…!誰か助けて!)

 

 

朱里はそう心の中で叫んだ、そうしたところで何かが変わるわけではない、そんな事は分かっていた、でも叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

大丈夫だよ、俺がお前の事を認めてやるから

 

 

 

 

『っ!!』

 

 

その時、頭の中で誰かの声が聞こえてきた、どこかで聞いたような、とても懐かしい…

 

 

『あぁ…そっか…』

 

 

そこで朱里はやっと思い出した、その声の主を、そして自分が誰なのかを…

 

 

『提督…!』

 

 

朱里は両親の手を掴むと、それを突き飛ばすように振り払った。

 

 

『きゃあっ!』

 

 

『痛っ!このガキ…!』

 

 

勝己は朱里につかみかかろうと起き上がるが、その直後に絶句して固まってしまう。

 

 

何故ならそこには、見たことのない武器を身に纏い、大砲のようなモノをこちらに向けている朱里の姿があったからだ。

 

 

『おいガキ…なんだそりゃ…』

 

 

『…朱里…?』

 

 

『今の私は姫宮朱里じゃないわ!綾波型駆逐艦“曙”よ!』

 

 

朱里…曙がそう言うと、曙の姿が変化していく、ショートカットの黒髪は葵色のロングヘアーに、黒のジャージは白を基調としたセーラー服に変わっていった。

 

 

『朱里…今まで辛かったよね、痛くて、苦しくて、でもこれからは…』

 

 

『これからは私が、曙が朱里の分まで生きるから、だからあなたは、ゆっくり休んでね…』

 

 

曙はそう言って自分の胸元をさすると、主砲を両親に向ける。

 

 

『もうあんたたちなんか怖くわ!あんたたちは私を、いや、朱里を苦しめ続ける忌々しい記憶でしかない!だから私が朱里を解放する!この悪夢から!永遠に!』

 

 

曙は何の躊躇いもなく主砲を撃ち出し、勝己と花李亜を撃ち抜く、撃たれた両親は黒い影のような塊となり、そのまま虚空へと霧散していく。

 

 

『…終わったよ、朱里』

 

 

そう言って曙は後ろを振り向く、そこにはかつての自分…朱里が立っていた。

 

 

『…ありがとう曙、私を助けてくれて』

 

 

朱里は曙の前まで歩いてくると、にこりと笑ってお礼を言う。

 

 

『…全然助けてないよ、ここにいるあなたも、今撃った両親も、全部はあなたの記憶でしかない、両親を撃ったからってあなたが死んだ事実は変わらないし、この世界だって夢の中みたいなもの、実際は何も変わってない、ただ夢の内容を書き換えただけだもの…』

 

 

曙は悲しそうな顔で目を伏せる、この世界は曙と朱里の記憶の奥底…つまりは夢と変わらない、そこで曙が何かをしたところで過去の事実は何も変わらないのだ。

 

 

『それでも、曙は私の中にある辛い記憶を撃ち消してくれた、それだけでも嬉しいよ』

 

 

朱里はそう言って曙に抱き付いた。

 

 

『…ありがとう、朱里』

 

 

それを聞いた曙はなんだか嬉しい気持ちになり、朱里に抱きつき返す。

 

 

『…それじゃあ私はもう行くね』

 

 

『…行っちゃうの?』

 

 

『あなたからいなくなる訳じゃないよ、だってあなたは私だもん』

 

 

『…そっか、そうだよね、ありがとう(朱里)

 

 

『こちらこそ、ありがとう()

 

 

その言葉を最後に、朱里は空間に溶けるように光の粒子となり、曙の中へと入っていく、何か暖かいモノが身体に入っていくのを、曙は確かに感じていた。

 

 

それと同時に、それまでいた部屋が音を立てて崩壊していく、まるでその役目を終えたかのように…。

 

 

『…見ててね、朱里』

 

 

 

 

 

「…うぅ?」

 

 

目を覚ますと、曙は自室のベッドで眠っていた。

 

 

「…そっか、あの後泣き疲れて寝ちゃったのか」

 

 

多分自分を運んだのは海原だろう、昨日は彼に対してとんでもない事をしてしまった、後で死ぬ気で土下座をして謝るしかない。

 

 

「…朱里」

 

 

曙は胸元に手を当てる、昨夜の夢のことはしっかりと覚えている、確かに自分の中に朱里を感じる。

 

 

「…よし!まずは提督の所に行かないとね」

 

 

 

頬をパン!と叩いて気合いを入れ直すと、海原に全力土下座をするために提督室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

『頑張って、曙』

 

 

 

 

 

 

 

ふと、部屋を出るときに朱里の声が聞こえたような気がしたが、後ろを振り向いても誰もいなかった。

 

 

「うん、頑張るよ、朱里」

 

 

そのいない誰かに応えるようにそう返すと、曙は扉を閉めて歩き出した。




次回「艦娘VS艦娘」

たとえ敵対してでも、助けてみせる。


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第162話「蛍の場合11」

同士討ちは基本、古事記にも書いてある。




「昨夜は申し訳ありませんでした!」

 

 

提督室に入るなりそんな事を良いながら土下座をする曙を見て、海原は口をポカンと開けて見ていた。

 

 

「あの時は私の早合点で提督に大変なご迷惑をおかけしてしまいました、お詫びのしようもございません!」

 

 

どうやら昨日のセックス紛いの事を謝罪しているようだ。

 

 

「別に気にしてないよ、あの時はお前の変化に気付いてやれなかった俺に落ち度があるんだから、お前が責任感じる必要は無いさ、だから顔上げろ」

 

 

海原はそう言って曙の行動を許した。

 

 

「…ありがとうございます、提督」

 

 

曙は立ち上がって海原に敬礼する。

 

 

「別に無理に畏まらなくてもいいんだぞ?敬語なんて使わなくても良いし、今まで通りクソ提督で呼んでみろ」

 

 

海原の言葉に曙は首を横に振って答える。

 

 

「もう過去を理由に甘えるのは止めにするって決めたの、過去に捕らわれて自分勝手に振る舞っていた私を、あなたは叱咤することなく救ってくれた、あなただけじゃない、ここの艦娘たちにも私は大きすぎるほど迷惑をかけた、でもみんなは私の事を心配してくれた、私はそんなみんなの恩に報いたいの、タメ口でいいならそうするけど、それでも私はそんなあなたに尊敬と敬意を持って接するわ、提督」

 

 

曙はそう言うと、再び海原に敬礼をする。

 

 

 

「…そうか、何があったかは言及しないが、お前もずいぶんと成長したな」

 

 

海原はそう言って曙の頭を撫でようとするが、すぐに慌てて手を引っ込める、曙が着任した初日に撫でようとしてトラウマを呼び起こしてしまったからだ、また同じ事をしてしまえば本末転倒だろう。

 

 

「………」

 

 

しかし曙はそんな海原の思いとは反対に、頬を赤らめて少し背伸びをする、まるで撫でてほしいと言っているかのように…。

 

 

「…これから改めてよろしくな、曙」

 

 

それを察した海原は曙の頭に手を置き、優しく撫でる。

 

 

「はい、よろしくお願いします、提督」

 

 

曙は心底満足そうな笑顔で、そう返した。

 

 

 

ちなみにこのすぐ後に吹雪にこの光景を見られ、しばらくいじられたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

海原とのやりとりの後、曙がDeep Sea Fleetのメンバーを提督室に集めてほしいとお願いをしたので、海原が放送をかけて吹雪たちを提督室に集合させた。

 

 

「どうしたのさ曙、話がある…なんて急に畏まって」

 

 

集まったDeep Sea Fleetを代表して吹雪が曙に聞く、一方で吹雪にそう聞かれた曙は、Deep Sea Fleetを前にして腰を折り…

 

 

「蛍を助けるのに協力してください!」

 

 

そうお願いをした。

 

 

「蛍を…?」

 

 

突然そんな事を言われて固まってしまう吹雪、他のメンバーも同様に困惑しているようだ。

 

 

「私は前、深海棲艦になった蛍を助けようとした吹雪たちにひどいことを言った、それだけじゃなく蛍にもひどいことを言ってしまった、私がこんな事を頼める立場じゃ無いって事は分かってる、だけど私は蛍を助けたいの、だからお願い!蛍を助けてください!お願いします!」

 

 

曙は再び土下座をして吹雪たちにお願いをする、あんな事を言っておきながら今更虫のいい発言だというのは重々承知している、でもどうしても蛍を助けたい、混血艦(ハーフ)であっても構わない、また一緒にいたい、そんな曙の想いを全力でぶつけた土下座だった。

 

 

「…本当に、曙ってバカだよね」

 

 

「…えっ?」

 

 

予想とは違った返答が返ってきたので、曙は顔を上げる。

 

 

「曙はもう私たちの、台場鎮守府の仲間なんだよ?仲間を助けるのに一々お願いしたり土下座なんてしなくてもいいじゃん、それに蛍は元々助けるつもりだったし、逆に曙が協力してくれるなら願ったり叶ったりだよ」

 

 

「そうよ、過去は過去、お互い水に流しましょ」

 

 

吹雪たちは誰一人曙の事を咎めず、笑ってそれを許してくれた、その優しさに、曙は自然と涙を流していた。

 

 

「ほらほら、泣いてる場合じゃないよ、蛍を助けるんでしょ?だったらみんなで力を合わせて頑張ろうよ!」

 

 

「そうですよ、曙さんはもう私たちの仲間なんですから、一緒に頑張りましょう?」

 

 

泣いている自分を優しく励ましてくれる吹雪たちに、曙は胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じた、初めて感じる仲間という雰囲気が、とても心地よくて、暖かかった。

 

 

「…うん!よろしく!」

 

 

この時、曙はようやく本当の帰るべき鎮守府(いえ)と、守るべき仲間(かぞく)に出会えたと、そう感じていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ曙、敵艦隊に蛍の“面影”がいたらそれ以外の敵艦を排除して蛍だけの状況を作る、そうしたら私たちが通訳になって曙が蛍と会話をする、この作戦で行くけど、問題は無い?」

 

 

「えぇ、問題ないわ、必ず私が蛍を艦娘化(ドロップ)させてみせる」

 

 

その日の午後、蛍の手掛かりを探すためにDeep Sea Fleetは戦闘海域へ出撃していた、今回の布陣は吹雪、曙、篝、夕月、マックス、大鳳だ。

 

 

今回の出撃先は前回蛍の“面影”を見かけたのと同じ戦闘海域の地点だ、蛍がまだこの付近を彷徨っているのであれば、再び会敵する可能性は十分にある。

 

 

「…蛍と話すの、怖い?」

 

 

出撃してからずっと不安そうな顔をしている曙に吹雪が聞く、曙は首を縦に振って答えた。

 

 

「私は蛍にひどいことを言った、砲を向けて敵だと言った、知らなかったとはいえ、蛍を心傷つけたのは変わりないよ、そんな私の話を蛍が聞いてくれるのかが、不安で…怖い」

 

 

蛍にあってもいないのにすでに泣きそうになっている曙の手を、吹雪が握る。

 

 

「大丈夫だよ、ちゃんと気持ちを込めて話せば、きっと蛍にも気持ちは伝わるよ」

 

 

「…うん、ありがとね、吹雪」

 

 

そう励ましてくれる吹雪を見て、曙も自然と笑顔になる。

 

 

「電探に反応あり!艦娘の反応が4体に敵艦の反応が1体、交戦中の艦娘だと思われます!」

 

 

篝が電探の反応を艦隊全体に伝える、どうやら敵と交戦している艦娘の艦隊が近くにいるようだ。

 

 

「…ひょっとしてこの敵艦が蛍なんじゃ…?」

 

 

「一応、遠目で確認だけしてみようか」

 

 

Deep Sea Fleetは交戦中の艦娘部隊のもとへと進路を変え、進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「…まさか」

 

 

「本当に蛍だとはね…」

 

 

悪い予感ほど当たるというが、出来ればこういう予感は当たってほしくないものだと吹雪たちはため息をつく。

 

 

吹雪たちの目の前では深海棲艦と戦闘をしている艦娘部隊がいる、それ自体は別に気にするような光景ではない。

 

 

問題なのはその艦娘部隊が相手取っている深海棲艦が蛍の“面影”持ちだという所だ。

 

 

「…どうしようか、余所の艦娘がいるなんて初めての事態だし、かといって諦めるなんて事も出来ないし…」

 

 

「見た感じ蛍の方も体力的に限界みたいだから、決断するなら急いだ方がいいわね」

 

 

吹雪とマックスが口々に言い合う、蛍は艦娘たちの攻撃をよけながら逃走の機会をうかがっているようだが、すでに蛍は大破相当のダメージを負っており、撃沈も時間の問題だ。

 

 

「この際あの艦娘どもを撃ち取って蛍との会話に持って行けば済むのではないか?」

 

 

「いやいや、流石によその艦娘と事を構えるのはマズいんじゃ…」

 

 

そんな事をぐちぐちと話し合っている時、曙は見てしまった、艦娘部隊の中にいた空母の艦娘が艦載機を放ち、蛍に目掛けて攻撃を仕掛ける光景を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目ええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 

 

そこからは本能だった、曙は吹雪たちの制止を振り切り全速力で蛍目掛けて突進、続けて主砲として使っている防空砲を撃って艦載機を撃墜し、蛍の前に立ちふさがる。

 

 

 

 

 

「…あなた、いったい何なの?」

 

 

突然現れて攻撃の邪魔をしただけでなく、敵であるはずの深海棲艦を庇うような行動をとる曙に、艦娘部隊の旗艦(リーダー)の艦娘が訝しげに聞く。

 

 

「…蛍はやらせない」

 

 

曙は艦娘たちに主砲を向ける、曙自身も避けたい事態であったが、蛍を守るため、彼女は艦娘の“敵”になることを選んだ。

 

 

「…やれやれ、無鉄砲な仲間を持つと苦労するね」

 

 

そこへまた別の艦娘たちがやってきて、曙同様主砲をこちらに向けて敵対の意志を示す。

 

 

「その代わり、絶対に結果出してよ!」

 

 

その艦娘たち…Deep Sea Fleetの旗艦(リーダー)である吹雪が曙に向かって言う。

 

 

「…必ず!」

 

 

曙は強く頷くと、自分の背後で困惑している蛍に向かって言った。

 

 

「今度は、私があなたを助けるからね」




次回「曙光に照らされし蛍」

蛍と曙、2体の過去に鍵はある。


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番外編「島風の休日」

いつか書くとか言っておきながらずるずると引きずってた番外編を投稿。




「…ん?朝か…」

 

 

呉鎮守府所属艦娘、駆逐艦島風は目覚まし時計のアラーム音と共に目を覚まし、むくりと起き上がる。

 

 

「…そっか、今日は非番だっけ」

 

 

現在時刻は午前6時、いつもなら朝一の遠征任務に出る所だが、今日は何も予定が入っていない日…いわゆる非番であった。

 

 

もう少し寝ていれば良かったかな、などと思ったりしながら島風は寝間着からいつも着ている紺色のブレザーに袖を通す。

 

 

顔を洗ってぼーっとしていた頭と目を覚ますと、朝食を取りに食堂へ行く。

 

 

 

 

 

 

 

台場でのマックスの件から約2ヶ月、精神的にも落ち着きを取り戻した島風はしばらくの間“ゆっくり歩く”ことを選んだ、期待に応えることだけが自分の存在意義では無い、マックスのおかげでそれに気づくことが出来たからだ。

 

 

そのためにまず島風が取り組んだのは冷え切った艦娘との関係の修復だ、強くなるために犠牲にしてきた艦娘たちとの関係…特に駆逐艦と再び仲良くなる、そのために島風は積極的にコミュニケーションを取っている。

 

 

最初は何を今更、と突っぱねられる事も多かったが、現在では普通に話すことが出来る艦娘も徐々に増え始め、少しずつではあるが改善に向かっている。

 

 

「あれ?島風今日は非番なの?」

 

 

いつものレバニラ定食を島風が食べていると、トーストとベーコンエッグのセットを持った艦娘…陽炎型駆逐艦1番艦“陽炎”がこちらにやってきた、彼女はマックスとの一件の後島風と一番最初に仲良くなった艦娘で、今では自他共に認める友人の間柄である。

 

 

「そうなんだよ、なのにいつも通りの時間に起きちゃってさ、何だか勿体ない気分」

 

 

「あはは、生活リズムっていうのは簡単には崩れるもんじゃないからね」

 

 

他愛のない会話をしながら2体は朝食を食べる。

 

 

「そうだ島風、今日非番なんでしょ?私と出掛けない?」

 

 

「今日?別に構わないけど、どこに行くの?」

 

 

「幸明堂」

 

 

「幸明堂!?行く行く!」

 

 

幸明堂とは最近街に出来た甘味処だ、なんでもそこのメニューの和風パフェが最高に美味いらしい、以前雑誌の特集記事で見てから行きたいと思っていたので、これは願ってもない機会だ。

 

 

「決まりね、じゃあ今日の正午に鎮守府の正門前で、他にも何体か連れてくるから」

 

 

「オッケー分かった!」

 

 

島風が答えると、先に食べ終えた陽炎が一足先に食堂を後にする。

 

 

「さてと、私も食べたら色々準備しておかないと…」

 

 

手早く残りのレバニラを飲み込んで食器を片付けると、食堂を出て自室へ向かう島風。

 

 

「ん?電話だ、相手は…提督!?」

 

 

着信中のPitのディスプレイには川原木の名前が表示されていた。

 

 

「はい、島風です」

 

 

『川原木だ、お前今鎮守府にいるか?』

 

 

「はい、食堂の辺りです」

 

 

「そうか、悪いんだが、すぐに提督室に来てくれないか?話しておきたいことがあるんだ」

 

 

「分かりました、すぐに行きます」

 

 

島風は通話を切ると、提督室に向かって小走りで移動する。

 

 

「…何かやらかしちゃった、って事じゃないよね…?」

 

 

 

 

「非番なのにすまないな、このあと何か予定はあるか?その後でもいいが…」

 

 

「大丈夫ですよ、陽炎たちと出掛ける予定はありますけど、昼からですし」

 

 

提督室に来た島風はやや緊張した面もちで川原木と話す。

 

 

「早速本題なんだが、島風、お前には近日中に出撃部隊に戻ってもらおうかと思っている」

 

 

「……えっ?出撃部隊に、ですか?」

 

 

予想外の内容に島風は呆けてしまう、マックスとの一件の後、島風はしばらく出撃部隊を外れて遠征組に就きたいと川原木に具申していた。

 

 

先述の通り艦娘たちとのコミュニケーションをはかるためであるが、主な理由は出撃部隊に自分が必要不可欠ではないということに気づいたからだ、周りの期待に応えることだけが自分の存在意義ではない、しばらくは出撃から離れてのんびりと遠征組で心を休めよう、そう思っての離脱だった。

 

 

「出撃部隊の連中が島風に戻ってきてほしいって言ってるんだよ」

 

 

「そう…なんですか?」

 

 

「そんな意外そうな顔する必要もないだろ、お前は立派な主戦力なんだから」

 

 

川原木はそう言うが、島風はどこか浮かない顔をしていた。

 

 

「不安か?戻るのが」

 

 

川原木の問いに島風は首を縦に振って肯定する。

 

 

「…私は今までマックスに負けたくないっていう独りよがりな気持ちでやってきました、それなのに勝手に抜け出して遠征組に入ったのに、また出撃部隊に戻ってきてもいいのでしょうか…」

 

 

島風は不安そうな顔で俯く、今まで自分が必死に訓練に明け暮れて戦果を稼いできたのは、マックスに負けたくないという自分勝手な、それこそ被害妄想と言われても文句は言えないような理由だった、それなのに勝手に遠征組に異動した自分がまた出撃部隊に戻ったりしてもいいのだろうか。

 

 

「なに言ってるの、もちろんよ」

 

 

すると、提督室の戸影から金剛が姿を現した。

 

 

「ごめんなさい提督、盗み聞きするつもりはなかったのですが、報告に来たら偶然…」

 

 

「気にするな、それよりお前からも島風に言ってやってくれないか?出撃部隊のお前が言った方が説得力がある」

 

 

「はい、もちろんです」

 

 

金剛は笑って返すと、島風の方へと向き直る。

 

 

「あなたに出撃部隊に戻ってきてほしいっていうのは、私含め出撃部隊全員の本心よ」

 

 

「どうして…」

 

 

「あなたが出撃部隊を抜けた後、私からあなたの事を話したのよ、そうしたらみんながあなたにプレッシャーをかけ過ぎたせいだって責任感じちゃって…」

 

 

「そんな、別にみんなのせいじゃ…」

 

 

「だから遠征に勤しみながら艦娘たちの関係修復にあくせくとしているあなたを見て、もう一度出撃部隊に戻ってきてほしいって思ったの、今度は見えない足枷にもがくあなたとじゃなく、心から晴れやかな気持ちで出撃出来るあなたと…」

 

 

「…金剛さん…」

 

 

島風は涙を浮かべながら金剛に抱き付いた、悪いのは自分なのに、自分のせいで一度マックスを沈めたのに、こんな暖かい言葉をかけてもらえるなんて…。

 

 

「…島風、出撃部隊復帰の件、受けてくれるか?」

 

 

川原木は改めて島風に聞く、島風は金剛から離れると…

 

 

「はい!駆逐艦島風、出撃部隊復帰の命を喜んでお受けします!」

 

 

心から笑って敬礼を返した。

 

 

「それと、その件と併せてお前に伝えたい事がある」

 

 

「ほぇ…?何でしょう?」

 

 

「…島風、大演習祭(バトルフェスタ)に出てくれ」

 

 

 

 

「ば…大演習祭(バトルフェスタ)ですか!?」

 

 

島風は目を見開いて驚愕する。

 

 

「戦艦や空母の力押しが大演習祭(バトルフェスタ)のセオリーではあるが、快速かつ雷撃での攻撃力を持つお前なら活躍出来ると思うんだ」

 

 

「で、でも私…大演習祭(バトルフェスタ)なんて出たこと無いですし、みんなの足引っ張っちゃったら…」

 

 

島風はもじもじしながら迷っている素振りを見せる、それを見た川原木は押しの一手を繰り出した。

 

 

「そう言えば台場の海原に聞いたんだが、今年の大演習祭(バトルフェスタ)、あいつらも出るみたいだぞ」

 

 

「っ!?」

 

 

それを聞いた途端、島風の目の色が変わった、今の台場には…

 

 

「鎮守府の艦娘全員連れて行くって言ってたから、マックスに会える可能性大だそ?後輩に活躍見せるチャンスかも…」

 

 

「ううぅ…」

 

 

マックスを引き合いに出されて悔しそうな顔をする島風、散々頭の中で葛藤した末…

 

 

「…分かりました、大演習祭(バトルフェスタ)…出ます」

 

 

「おぉ!そうか!お前ならそう言ってくれると思ったよ!」

 

 

「あんな事言っておいて白々しいですよ!まぁ…マックスに会うチャンス作ってくれたのは嬉しいですけど…」

 

 

島風は恥ずかしそうに川原木を睨むが、本人はどこ吹く風といったようにとぼけてみせる。

 

 

 

 

それから数時間後の正午、島風は鎮守府正門で陽炎を待っていた。

 

 

「お待たせ!島風!」

 

 

陽炎は数分でやってきた、その後ろには野分、初風を連れている。

 

 

「それじゃ行こっか、和風パフェが私たちを呼んでるよ!」

 

 

「テンション高いですね…」

 

 

「元からよ」

 

 

ハイテンションの陽炎に野分と初風は呆れ気味に言った。

 

 

 

 

「お待たせしました、和風パフェでございます」

 

 

甘味処についた陽炎たちは早速和風パフェを注文、宇治金時のように小豆と抹茶…そしていくつかの和菓子を盛り付けたパフェだ。

 

 

「「いただきまーす!」」

 

 

4体は息をそろえてパフェをぱくつく。

 

 

「ふぉー!美味しい!」

 

 

「このあんこがたまらない!」

 

 

「夏みかんの酸味が甘過ぎないようにしているのもいいアクセントですね」

 

 

陽炎たちはパフェに舌鼓を打ちながら談笑を楽しんでいた。

 

 

「………」

 

 

そんな中で、島風は今の自分の状況を不思議に思っていた、こうして仲のいい艦娘と一緒に出掛けて甘いものを食べる、少し前なら絶対有り得なかった光景が、今現実として存在している。

 

 

(これも、マックスのおかげ…なのかな)

 

 

自分のせいでマックスを失ってしまって、でもそれがきっかけで得られるモノもあって、それを考えると何だか不思議な気分だった。

 

 

(次会ったときは、ごめんなさいよりも、ありがとう、かな)

 

 

島風はそう思いながらフッ…と笑う。

 

 

「島風~?どうしたの?パフェ食べないの?」

 

 

「食べないなら私が貰っちゃうよー!」

 

 

「あっ…!ちょっ…!こら!食べるなー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マックス、私のせいであなたが沈むことになってごめんなさい、たとえあなたがもう謝らなくてもいいと言っても、私はいつまでもその気持ちを忘れないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、走るばかりだった私に立ち止まることを、マックスが沈んで以来ひとりで閉じこもっていた私に歩き出す勇気を与えてくれて、本当にありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは、いつまでも私の自慢の後輩で、かけがえのない宝物だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の現在(いま)を、この時をずっと大切にしていこう、そう誓いながら、島風は目の前にある幸せを噛みしめていた。




いやー、こっちの金剛は綺麗ですねー(目そらし


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第163話「蛍の場合12」

この小説の下書きに使ってるメモ帳アプリのデータ漁ってたら、以前感想欄で書かれていた「絆☆創☆膏だ!のマックス」の短編の書きかけデータを発見、自分で書いてたの忘れてただけにパンドラの箱見つけた気分になった。


この艦娘たちはいったい何なのだろうか。

 

 

敵深海棲艦の前に立ちはだかる吹雪たちを見て、静岡駐屯基地所属の艦娘…桜花型重巡洋艦1番艦の“桜花(おうか)”は素直にそう思った。

 

 

「何なのですかあなたたちは、突然戦闘の邪魔をしたと思えば敵を庇うような真似を」

 

 

桜花は落ち着いた、それでいて威圧するような声色で吹雪に問い掛けた。

 

 

「いやー、ちょっとこの深海棲艦とは因縁がありましてね、悪いんですけど、この獲物はこちらに譲って貰えません?」

 

 

吹雪は桜花に交渉の体を保ちながら言う、ここで桜花たちが下がってくれれば御の字なのだが…

 

 

「何でそんな事しなきゃいけないのよ、それにこれは任務でやってることなの、敵を見逃すなんて出来ないわ、分かったら早くその深海棲艦を渡しなさい」

 

 

桜花は主砲を向けながら吹雪に警告する、おそらく従わなければ自分たちごと撃つということなのだろう。

 

 

(さてと、ここからどうしたものかな…)

 

 

 

互いに膠着状態になりながら吹雪は頭をフル回転させる、こうなったらこのまま蛍を艦娘化(ドロップ)させてしまった方がいいだろう。

 

 

「…曙、私たちが応戦して時間を稼ぐから、その間に蛍を艦娘化(ドロップ)させて、でも長くは保たないと思うから手短に」

 

 

「…了解」

 

 

曙は吹雪の耳打ちに頷くと、身体を後ろに向けて蛍に向き直る、通訳には篝が同席した。

 

 

「…蛍」

 

 

『ひいっ!?』

 

 

曙に声をかけられた蛍は一瞬にして恐怖という感情に呑まれ、一目散に逃げ出そうとする。

 

 

「待って蛍!私…あなたに謝りたいの!」

 

 

曙は逃げようとする蛍の腕を掴んで引き止める、前の自分なら深海棲艦の身体など穢らわしくて触れなかったが、今は違う、手から感じる深海棲艦特有の冷たさと、わずかに感じる温かさ、それが蛍だと思うと全てが愛おしく思えた。

 

 

『…えっ?』

 

 

蛍は不安げな顔で曙の方を見る、逃げられる可能性を懸念していたが、幸いにもそうはならなかった。

 

 

「…あなたさっきから何してるの?深海棲艦と話してるようだけど、もしかしてそいつの仲間なの?」

 

 

すると膠着状態だった静岡組の艦娘…桜花型重巡洋艦3番艦“幻花(げんか)”は曙たちの方へと視線を向ける、これ以上の時間稼ぎは厳しいだろう。

 

 

「…その問いにあえて答えるならYESですね」

 

 

幻花の問いに吹雪は正直に答えた、誤魔化して時間を稼ぐという手段もあったが、現在進行形で曙と蛍が会話中のため、それは無理があった。

 

 

「そうですか、なら残念ですが…」

 

 

 

「現時刻をもって、あなたたちを深海棲艦の増援と認識、排除させてもらいます!」

 

 

言うなり桜花、幻花、そして桜花型重巡洋艦2番艦の“氷花(ひょうか)”は一斉に砲撃を開始、軽空母の祥鳳も艦載機を発艦させる。

 

 

「大鳳さん!」

 

 

「はい!震電改…発艦!」

 

 

大鳳も艦上戦闘機…震電改を発艦させる、祥鳳の放った艦載機が吹雪たち目掛けて急降下してくるが、大鳳の艦戦がそれを全て撃ち落とす。

 

 

「うそっ!?」

 

 

「私の艦載機を全て撃ち落とすなんて…」

 

 

艦載機同士の戦い(ドッグファイト)で私の右に出る者はいませんよ?」

 

 

大鳳はボウガンを構えて得意げな顔でポージングをする、それに触発された祥鳳は続けざまに艦載機を発艦させるが、これも大鳳にほとんど落とされてしまう、震電改も何機か撃墜されてしまったが、まだ戦闘には影響はない。

 

 

桜花、氷花、幻花の3体も吹雪たちに砲撃を浴びせるが、吹雪たちも正確無比な射撃で弾丸を撃ち落としていく、撃ち合っているのはどちらも3体ずつだが、駆逐艦である吹雪たちの方が連射性能は上なのでより落としやすい。

 

 

「な、何よあの子たち!?装備から察するに駆逐艦みたいだけど、あれが駆逐艦の能力なの!?」

 

 

「相当な練度(レベル)みたいね」

 

 

氷花と幻花は驚きを隠せずにいるようで、実力未知数の吹雪たちを警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曙たちは戦闘中の吹雪たちから少し離れたところで会話を続行していた、篝による通訳で割とスムーズに進んでいる。

 

 

「蛍、本当にごめんね、あなたはあの時私を庇って轟沈した、それなのに私はあなたにひどいことを言った、申し開きのしようもないよ…」

 

 

『そんな…曙が謝るような事じゃないわ』

 

 

泣きそうな顔で落ち込む曙に蛍は優しい言葉をかけたが、曙はそれを否定する。

 

 

「本当は吹雪から艦娘化(ドロップ)の話を聞いた時に蛍を取り戻せるかもしれないって事に気付くべきだったのよ、でも私は蛍を殺した深海棲艦への復讐心でそれが見えなかった、それどころか一番会いたかった親友をひどい言葉と行動で心傷つけた、本当にごめん…ごめんなさい…!」

 

 

曙は今自分が一番蛍に伝えたかった事を伝える、元々曙はその性格が原因で新潟駐屯基地の司令官含むメンバー連中からも煙たがられていた、でもそんな中でルームメイトの蛍だけは自分の事を受け入れてくれた、曙にとって蛍は掛け替えのない唯一無二の親友だった。

 

 

しかし、その親友の蛍は出撃中に轟沈してしまった、大破状態になった曙を敵の攻撃から庇って…

 

 

「蛍…あんな事を言った私が言うのも虫が良すぎる話かもだけど、また私と…親友になってくれる?」

 

 

曙は縋るような気持ちで蛍に問うた、もしかしたら否定されるかもしれない、そう考えたら怖くもあったが、この想いだけはどうしても伝えなければいけないのだ。

 

 

『もちろんだよ、曙は私にとっても大切な親友だもん、私も曙があの後無事だったかが気になってたから、こうしてまた会えて嬉しいよ』

 

 

しかし蛍はそんな曙のことを許してくれた、自分のことを親友だと言ってくれた、それだけで嬉し涙が溢れてくる。

 

 

「ありがとう蛍…大好き」

 

 

『私も大好きだよ、曙」

 

 

 

その直後、蛍の艦娘化(ドロップ)が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何あれ!?」

 

 

桜花たちは蛍の艦娘化(ドロップ)現象に目を剥いていた、何せ深海棲艦の身体の内側から艦娘が姿を現したのだから…。

 

 

「どうやらこの勝負、私たちの勝ちみたいですね」

 

 

吹雪は勝ち誇ったような顔で桜花に向かって言う。

 

 

「…いったいどういうことなの?どうして深海棲艦から艦娘が…!?」

 

 

「篝と夕月は蛍をお願い、私とマックスが時間を稼ぐから…」

 

 

吹雪は動揺する桜花たちの事を完全に無視して撤退指示を出す。

 

 

「待ちなさい!あなたたちには静岡駐屯基地まで同行してもらいます!」

 

 

しかしその途中で桜花が割り込み、吹雪たちにそう告げた。

 

 

「…理由を聞いても?」

 

 

「あなたたちの素性と目的、そしてその現象の詳細を吐いてもらいます」

 

 

桜花は主砲を構えながら氷花と幻花に封錨錠(アンカーバインド)をかけるように指示する。

 

 

「残念ですが、それは拒否させてもらいます!」

 

 

吹雪は主砲の弾丸カートリッジを素早く別の物に入れ替えると、海面に向けて撃つ。

 

 

「っ!?」

 

 

「んな…!?」

 

 

刹那、着弾した弾丸が眩いほどの光を放ち、桜花たちの視界を塞ぐ、明石が作成した試作装備…閃光弾(フラッシュ)だ、夜戦などでつかう照明弾とは違い、こちらは主に敵の目眩ましを目的として作られたモノである。

 

 

「猪口才な手口を…!」

 

 

光が弱くなったところを狙って桜花は吹雪たちの方へと向かう。

 

 

「…逃げられましたね」

 

 

しかしそこに、吹雪たちの姿はどこにも無かった。




次回「新たな姫」

いざ、開戦の時。


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第164話「蛍の場合13」

蛍編終了です。

ペルソナ5のイゴールの声がペルソナ4(アニメ版)と全然違ってて最初驚いた。


「…うぅん…?」

 

 

目を覚ました蛍が最初に見たのは見知らぬ天井だった。

 

 

「…あれ…私…確か曙を庇って…」

 

 

ぼーっとする頭を動かして蛍は記憶の糸を手繰り寄せる、自分が覚えているのはあの時曙を庇って轟沈した所まで、そこから先は何だか長い夢を見ていたような気がするが、よく思い出せない。

 

 

「ここ…どこだろう…?」

 

 

起き上がって周りを見渡してみるが、やはり自分の記憶にないベッドで眠っており、自分の記憶にない部屋の中にいた。

 

 

「…鎮守府…なのかな…」

 

 

現状を確認するため、蛍はベッドから下りると部屋のドアを開けて外に出る。

 

 

「…やっぱりどこかの鎮守府みたいね」

 

 

部屋の建物の内装を見て蛍はそう判断する、鎮守府毎に多少の違いはあるものの、大方の内装は共通しているため、そう判断できた。

 

 

「あれ?蛍目を覚ましたの?」

 

 

ふと、誰かに自分の名前を呼ばれたので蛍は声のする方を向く、そこには見知らぬ艦娘が立っていた。

 

 

「初めまして、私は吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪、ここ台場鎮守府で秘書艦をやってるの、よろしく!」

 

 

その艦娘…吹雪はニコッと笑って蛍に挨拶する。

 

 

「…暁型駆逐艦8番艦の蛍…です」

 

 

吹雪の明るい様子に若干気圧されながら、蛍も自己紹介をする。

 

 

「身体の方は大丈夫?どこか変な所は無い?」

 

 

「はい、特には…」

 

 

無いです…と言おうとしたが、ここで蛍はあることに気付いた。

 

 

「…何…これ…」

 

 

蛍が服の袖を捲ったとき、右手首から下が真っ黒に染まっている事に気付いた、それはまるで深海棲艦の装甲のように…。

 

 

「…やっぱり深海痕はあるか」

 

 

吹雪は蛍の深海痕を確認しながら言う、蛍の深海痕は右手首下から腕を伝い、下腹部にかけて広がっていた。

 

 

「これ…なんなの…?」

 

 

「あなたが深海棲艦だったときの名残だよ、深海痕って私たちは呼んでるけど」

 

 

「し、深海棲艦…!?」

 

 

蛍はひどく動揺した様子で狼狽える、いきなりこんな物を見てしまえば当然の反応だろう。

 

 

「詳しくは提督室で話すよ、曙もまだいるはずだし、とにかく来て」

 

 

「っ!!曙!?曙がここにいるの!?」

 

 

蛍は聞き捨てならない言葉を聞いてさらに驚いていた。

 

 

「うん、いるよ、深海棲艦になったあなたを救うために、いっぱい頑張ってくれた、だから早く行こう」

 

 

そう言って吹雪は蛍の手を取って歩き出す、蛍もそれに従い歩みを進め、その足を確実に速くしていく。

 

 

 

 

 

「司令官、蛍を連れてきました」

 

 

吹雪と蛍が提督室に入ると、中にいた海原と曙がこちらを見る。

 

 

「おう、ご苦労さん、ほれ曙、待ちわびた親友とのご対面だぜ?」

 

 

海原にそう言われた曙はどこか緊張した面持ちで立ち上がると、ぎこちない動きで蛍の前まで歩く。

 

 

「…曙…曙…何だよね…?」

 

 

蛍が震える唇でそう言うと、曙はゆっくりと頷く。

 

 

「そうだよ、お帰り、蛍」

 

 

曙が笑って両手を広げると、蛍はたまらず曙に飛び込んだ。

 

 

「…ただいまぁ…!」

 

 

嬉しさのあまり号泣する蛍を、曙も涙を流しながら抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「そう…ですか、私にそんな事が…」

 

 

感動の再開を喜び合った後、蛍は吹雪と海原から今回の事の顛末を聞かされた、それを聞いた蛍は何と言っていいか分からない複雑な表情をしていた。

 

 

「それで、曙は今この台場鎮守府に所属しているんですね」

 

 

「そうだ、最初はお前を沈めた深海棲艦に復讐しようと心を弱らせていた時もあったが、蛍を助けるために一番頑張ってくれたんだぞ」

 

 

海原はそう言って曙の頭を撫でる、曙は嬉しそうにそれを受け入れていた。

 

 

「そうだったんですね、本当にありがとう、曙」

 

 

「お礼なんていいよ、だって私たち親友でしょ?」

 

 

そう言って笑う曙を見て、蛍は何かを決心したような表情をすると海原に向き直る。

 

 

「…海原提督、お願いしたいことがあります」

 

 

「何だ?」

 

 

「私を…台場鎮守府に入れて下さい」

 

 

蛍は丁寧に腰を折り、海原にそう進言した。

 

 

「私は曙やこの台場鎮守府の皆さんに助けられました、だから今度は私がここの鎮守府で皆さんを助けていきたいです、どうでしょう…?」

 

 

「もちろん大歓迎だ、もとよりこっちは初めからお前を勧誘するつもりだったしな」

 

 

海原はそう言うと、蛍に向かって右手を伸ばす。

 

 

「これからよろしくな、蛍」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

蛍は笑って海原の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

蛍は改めてDeep Sea Fleetの前で挨拶をした後、蛍の深海棲器を選ぶ作業に入っていた、今回選んだのは3種類。

 

 

1つ目は『大太刀』

 

吹雪が使っている太刀よりも大型の刀だ。

 

 

 

 

2つ目は『ハープーンガン』

 

素潜り漁などで使われる一本銛を射出する銃だ、これは明石が趣味で作成した深海棲器で、コードネームは『ダッシュ・ランサー』。

 

 

3つ目は『アサシンブレード』

 

籠手に短剣(ダガー)が仕込まれている暗器で、出し入れが自在に出来るので奇襲や不意打ちに適している、これも明石の作成した深海棲器で、コードネームは『疑心暗器』。

 

 

 

「明石さんも結構バラエティ豊かなモノ作るのね、恐れ入ったわ」

 

 

曙は疑心暗器を見て感心するように言う。

 

 

「曙も何か作ってもらえば?これ結構面白いよ」

 

 

蛍は疑心暗器の短剣(ダガー)部分を出し入れしながら楽しそうに言う。

 

 

「…そうね、ちょっと考えてみようかしら」

 

 

目の前にあったナイフを弄りながら、曙はぼそりと呟いた。

 

 

 

 

「お呼びでしょうか?」

 

 

少女に呼ばれたベアトリスは跪き、少女の次の言葉を待つ。

 

 

「長期任務を終えたメアリーとマーガレットが戻ってきたんですって?」

 

 

少女はベアトリスにそう問い掛ける。

 

 

「はい、もうじきこちらに来るかと…」

 

 

ベアトリスが言い終わるか終わらないかというタイミングで2体の深海棲艦が現れた。

 

 

「お待たせしました、メアリーならびにマーガレット、只今戻りました」

 

 

1体の名はメアリー、漆黒のロングヘアーに黒いショートワンピを身にまとった深海棲艦だ、ショートワンピの上からは簡素な鎧を付けており、頭にも簡素な兜を被っている。

 

 

「今回の任務の報告をさせていただきます」

 

 

もう1体の名はマーガレット、ややくせっ毛のある黒髪のサイドテールに明治時代の西洋かぶれ(ハイカラ)文化を思わせるような黒い服を着ている。

 

 

「…分かったわ、報告ご苦労様、戻ってきて早々で悪いけど、メアリーとマーガレットも今回の作戦に参加してもらうから、あとでベアトリスから詳細を聞いてね」

 

 

「「了解しました」」

 

 

メアリーたちはお辞儀をすると、そのまま部屋を後にした。

 

 

「それじゃあベアトリス、作戦を開始しましょう、人間を滅ぼす作戦…その余興を…」

 

 

「はい、かしこまりました、七海(ななみ)様」

 

 

ベアトリスは少女…七海に跪くと、作戦開始の最終準備に取りかかる。

 

 

 

七海はベアトリスを見送ると、机の上の写真立てを手に取る、そこには七海と男性がツーショットで写っている写真が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もうすぐあなたの願いが叶いそうです、だからそれまで待っていてくださいね、博士」

 

 

そう呟くと、七海は写真の男性を指で撫でる。




次回「東京湾沖海戦」

蛍の深海棲器のアイデアを送ってくださった皆様、ありがとうございました!


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第165話「東京湾沖海戦1」

chapter13「東京湾沖海戦編」更新開始です。

横須賀鎮守府が主な舞台になる予定です。

大和は良妻賢母、ばっちゃが言ってた。


「さて、それでは今回の作戦概要を説明します」

 

 

七海はベアトリス、シャーロット、エリザベート、メアリー、マーガレットを前に説明を始める。

 

 

「まずは砦兵級(ルーク)騎士兵級(ナイト)を中心とした前衛部隊を大量に送り込む、中途半端な雑魚を延々と相手して疲れてきたところをベアトリスたちが追撃、一気に追い込む」

 

 

七海はホワイトボードに作戦の流れを書き込んでいく。

 

 

「なるほど、艦娘どもには休む暇を与えないという事ですね」

 

 

「さすが七海様、完璧な作戦です!」

 

 

メアリーとマーガレットが目を輝かせて七海を見るが、当人は“普通に思いつくでしょ”と言ってそれを流す。

 

 

「それとベアトリス、キメラを使うタイミングはあなたに任せるわ」

 

 

「了解しました」

 

 

ベアトリスは敬礼をする。

 

 

「それと、もうひとつ言っておくことがあるわ」

 

 

「…何でしょう…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の作戦は、私も出るわ」

 

 

その直後、ベアトリスたちが驚愕の声をあげたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍が鎮守府に着任してから4日が経った、蛍はDeep Sea Fleetのメンバーとも打ち解けはじめ、楽しそうに毎日を過ごしている。

 

 

「深海棲器を作ってほしい?」

 

 

「うん、明石さんにお願いしたいの」

 

 

そんな中、曙は明石の工房にやってくるなりそんな事をお願いしていた。

 

 

「珍しいね、曙がそんな事を言うなんて」

 

 

「私だって台場鎮守府の一員だっていう実感が欲しくなったの、それにもう深海棲器への嫌悪感は克服したわ」

 

 

明石のリアクションを見た曙はやや不満げに言う、自分だっていつまでも昔と同じではない、日々成長しているのだ。

 

 

「そういうことならお安いご用!曙にぴったりの深海棲器を見繕っておくよ」

 

 

「本当!?」

 

 

「うん、でも今はちょっと材料が足りないから、何日か時間を貰える?完成し次第曙に連絡するよ」

 

 

「分かったわ、期待してるわね!」

 

 

「任せなさい!」

 

 

曙は工房を後にすると、ルンルン気分で廊下を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、提督、本日の出撃報告のまとめです」

 

 

深夜の横須賀鎮守府提督室、大和は報告書を提督に提出する。

 

 

「ありがとう大和、こんな時間まですまないね」

 

 

そう言って報告書を受け取るのは30代半ばの男だ、木村裕樹(きむらゆうき)、佐瀬部に代わり横須賀鎮守府の提督として着任した人間だ。

 

 

その人間性は佐瀬部の真反対と言ってもいいほどの優良物件だ、艦隊指揮の腕は抜群、艦娘たちへの態度も友好的かつ社交的、そのおかげで心傷ついた艦娘たちも徐々に回復を見せ、佐瀬部の時に比べると圧倒的に笑顔が増えた。

 

 

「いえ、私たちのためにしていただいてるのですから、お手伝いをするのは当然です、それに秘書艦ですし」

 

 

大和はにこりと笑って木村の側に立つ、彼のおかげでここの艦娘たちは回復の兆しを見せ始めている、彼には感謝してもしきれない。

 

 

「いやはや、頼れる秘書艦がいてくれて心強い限りだよ」

 

 

木村は心底嬉しそうにしながらパソコンのメールをチェックする。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、大本営から新着のメールが届いていた。

 

 

「鎮守府間相互着任会のお知らせか、もうそんな時期なんだな」

 

 

鎮守府間相互着任会とは、余所の鎮守府同士が艦娘を選び、別の鎮守府へ期間限定で着任させるイベントだ、インターンシップや3days、交換留学のようなモノをイメージすれば分かりやすいだろう。

 

 

「そういえばもうすぐですね、交換先の鎮守府は各鎮守府が話し合いで決めるそうですが、どうされますか?」

 

 

大和がそう言うと、木村は少し考えるような仕草をする。

 

 

「…大和、お前は何か希望はあるか?艦娘の意見も取り入れたい」

 

 

数十秒ほど考えた後、木村は大和の方を向いてそう聞いた。

 

 

「えっ?そうですね…どの鎮守府の艦娘も実力者揃いですし、どこと交換してもここの艦娘たちには良い経験になると思います、呉や室蘭もいいですが、あ…でも久しぶりに台場の吹雪ちゃんに会うのも悪くはないかも…」

 

 

「…ん?台場鎮守府?確かあそこは…」

 

 

大和の呟きに木村が反応する、それを見た大和はしまった!と思ったが、すでに後の祭り、この木村という男にはもうひとつ特徴的な事があった、それは…

 

 

(そうだった!この人は…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦やそれに関係するもの…提督の大切なモノを奪った存在の事を心の底から憎んでいるんだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大和、今年の交換先は台場鎮守府にしよう」

 

 

木村の怖いくらいの笑顔に、大和は冷や汗を流しながら生唾を飲むことしか出来なかった。




次回「混ざりモノの交換艦娘」

忌々しい奴らだ。


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第166話「東京湾沖海戦2」

集積地棲姫「また来たのか…もう帰れよぉ!」

提督「帰らせてくれよぉ!(ボスドロ掘りが終わらないよぉ!)

…集積地棲姫のセリフを見て思いついた、絶対ひとりはこんな会話してる人いると思う。

現在活動報告にて曙の深海棲器を募集しています、彼女に似合いそうな武器をお寄せ下さい!

避難所代わりに作った活動報告のキャラクター案投稿所のコメント数が意外と伸びててびっくり。


「はぁ!?横須賀の新提督が相互着任会にウチを!?」

 

 

『はい、そうなんです…』

 

 

海原は電話口の大和につい声を荒げる、木村とのやり取りがあった翌日、木村が相互着任会の交換相手に台場を選んだ事を伝えると、当然ながら海原は驚いていた。

 

 

「でも何だってウチなんかを…鎮守府の候補なら他にもあるだろうに…」

 

 

『それなんですけど…』

 

 

海原がそうぼやくと、大和はとても申し訳無さそうに木村の大体の人となりを語る。

 

 

簡単に言えばこうだ、木村は深海棲艦に家族や友人を皆殺しにされた過去があり、深海棲艦を心の底から憎んでいるそうだ、その復讐心を糧に努力をして提督になり、自分から全てを奪った深海棲艦を皆殺しにして復讐するのが目的らしい。

 

 

「…完全に俺と被ってんな、いや、違いがあるとすれば、その木村は自分が艦娘におんぶに抱っこってのを理解してる所か」

 

 

木村は深海棲艦への復讐は艦娘がいなければ成し得ないという事をしっかりと理解しており、その復讐を遂げるための手段である艦娘をとても大切にしている、それでいて艦娘を部下であり仲間だと本気で思っているのだから恐れ入る。

 

 

「その点に関しちゃ素直に尊敬するよ、でもそれを聞いてさらに分かんなくなったな、何でそんなに深海棲艦を憎んでるやつが台場を指名するんだか…」

 

 

『提督の真意は私にもはかりかねますが、おそらく海原提督や吹雪ちゃんたちが純粋に得をするような事ではないと思います』

 

 

「奇遇だな大和、俺も全く同じ事を考えていた」

 

 

大和と海原はお互いにいやな予感をほとばしらせており、ふたり揃って頭を抱えていた。

 

 

「…まぁいいや、相互着任会のオファーは引き受けるよ」

 

 

『よろしいのですか?』

 

 

「余所の提督や艦娘たちと交流を深めるのも重要な事だ」

 

 

『…本音は?』

 

 

「木村に吹雪たちを力ずくででも認めさせる」

 

 

それを言った瞬間、お互いが可笑しそうに笑ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

「…というわけで、明後日から1週間鎮守府間相互着任会として横須賀鎮守府に行ってもらう」

 

 

大和との電話のあと、Deep Sea Fleetを全員集合させて企画の内容を説明する。

 

 

「横須賀ですか、あそこはあまりいい思い出が無いんですよねー」

 

 

「でも武蔵さんとは仲直りしてますし、多少はやりやすいと思いますよ」

 

 

「蒼龍さんたちにも会えるからいいんじゃないかしら、武蔵さんも大鯨さんに会いたがってたし」

 

 

「というか、それって全員が行けるモノなの?」

 

 

吹雪たちがわいのわいの話している中、曙がそんな質問を投げかける。

 

 

「いや、全員ではないな、大和に聞いたら2~5体の範囲で選ぶって言ってたし」

 

 

曙の疑問にそう答えると、海原が一枚の紙を取り出す。

 

 

「というわけで、相互着任会に参加したいやつは明日の夜までにここに名前を書いてくれ、よーく相談し合って決めろよ」

 

 

海原は吹雪に紙を預けると、その日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

「…で、横須賀に行くのはお前らって事でいいんだな?」

 

 

翌日の夜、横須賀行きを決めた5体の艦娘が提督室に集まった。

 

 

「はい、この5体で行きます」

 

 

メンバーは吹雪、暁、曙、大鯨、マックスだ。

 

 

「大鯨も行くんだな、大丈夫か?」

 

 

「はい、武蔵さんとは演習の後で和解してますから、もう大丈夫です」

 

 

「そっか…てか、曙が行くとは予想外だったな、てっきりこういうのには興味ないモンだと思ってたが」

 

 

「そうでもないわよ?こういう催し物は嫌いじゃないし、それに台場以外の鎮守府の空気も知っておきたいし」

 

 

「その最初の鎮守府が元ブラ鎮の横須賀ってのも中々ハードル高いわね」

 

 

「えっ!?横須賀ってブラ鎮だったの!?」

 

 

暁の発言に曙は目を剥いていた、常にトップクラスの戦果をあげていた横須賀の名は曙でも知っている、そこがブラ鎮だったと知れば曙でなくても驚くだろう。

 

 

「よし、それじゃあ明日からお前らは1週間限定で横須賀の艦娘だ、向こうの提督の言うことをよく聞いておくんだぞ」

 

 

「司令官が言うと説得力の欠片も感じられませんね」

 

 

吹雪のつっこみに他のメンバーが頷いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

翌日、電車を乗り継いで横須賀鎮守府に到着した吹雪たち、あらかじめ予定時間を伝えていたからなのか、門の前では大和と武蔵が出迎えてくれていた。

 

 

「遠路はるばるよく来たな、台場鎮守府の艦娘たちよ」

 

 

「横須賀鎮守にようこそ、歓迎しますね」

 

 

「お久しぶりです大和さん、武蔵さん、今日から1週間よろしくお願いします」

 

 

吹雪がそう挨拶して大和たちに一礼し、暁たちもそれに従う、武蔵とは前の演習で本格的に敵対した関係だったが、今は和解して仲の良い間柄となっている。

 

 

「…大鯨も久しぶりだな、その後は変わりないか?」

 

 

「はい、おかげさまで毎日が楽しいですよ」

 

 

武蔵が大鯨に視線を向けて少し気まずそうに聞くが、大鯨はそれに対してにっこりと笑ってそれに返した、武蔵は大鯨に心無い言葉を言ってしまった事もあり気まずい関係だったが、演習後に真剣に謝罪する武蔵を見て大鯨はそれを許してくれたのだ。

 

 

「長旅で疲れただろう、何なら車椅子を用意するが…」

 

 

「もう武蔵さん!そんなお気遣いはいいんですよ!武蔵さんが謝ってくれるだけで十分ですから!」

 

 

大鯨はそう言って両手を左右に振った。

 

 

「そうか、なら早速中へ入ろう、提督がお待ちだ」

 

 

武蔵と大和に連れられ、吹雪たちは提督室へと向かう。

 

 

 

 

「やぁよく来たね、台場鎮守府の諸君」

 

 

提督室に着くと、横須賀鎮守府の提督…木村裕樹が吹雪たちを迎えてくれた。

 

 

「台場鎮守府所属、吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です、今回はよろしくお願いします」

 

 

吹雪は木村に敬礼して挨拶をすると、それ以外のメンバーも自己紹介をする。

 

 

「はいはいよろしく、しかし台場鎮守府は深海棲艦との混血艦(ハーフ)なんていう忌々しい存在を匿っているという噂を聞いていたが、まさか本当だったとはね」

 

 

木村の言葉で吹雪たちの表情が険しくなる、そばで聞いていた大和と武蔵はやっぱり…などと言いたげな顔をしていた。

 

 

「こんな危なっかしいモノを野放しにしておくなんて、大本営は何を考えてるのやら、俺だったら即刻殺処分だぞ」

 

 

暁たちの深海痕を睨付けながら悠然と語る木村に、Deep Sea Fleetはイライラを募らせていた。

 

 

「…で?そんな深海棲艦嫌いのあんたが何で台場鎮守府なんかをご指名したのかしら?」

 

 

暁が木村への殺意を押し殺して聞く、暁の言うとおり、木村が深海棲艦を憎んでいるのであれば台場鎮守府のような場所は普通選ばないはずだ。

 

 

「そんなの決まってるじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たち紛い物を潰すためさ、海軍の平和のためにね」




次回「異物」

灰色の存在は邪道。


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第167話「東京湾沖海戦3」

太鼓の達人のアップデートの追加曲が中々豪華だった。

個人的に「メタナイトの逆襲メドレー」はウルトラスーパーデラックスやってたから懐かしい。

そして「GO/アニメ“グランブルーファンタジー”より」は追加はえー。


木村の言葉を聞いた吹雪たちは同様を隠せなかった、潰す?どういうことなのだろうか…?。

 

 

「考えても見ろ、艦娘と深海棲艦の混血艦(ハーフ)…確かにその身の半分は艦娘なんだろうが、もう半分は深海棲艦ということだ、そんな危険な存在を野放しには出来ない」

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!確かに私たちは混血艦(ハーフ)です、ですがあなたの考えるような危険な存在ではありません!」

 

 

「危険なやつほどそう言うものだ、大本営のお偉いさんはお前たちに有用性を見出しているみたいだが、まったくそいつらの気がしれないよ」

 

 

「…それで?あんたは私たちをどうしたいわけ?まさかここでそんな事を言うために呼び出したの?」

 

 

イライラと殺意を抑えすぎて握った拳から血を滲ませている暁が木村に問い掛けた。

 

 

「まさか、お前らを…台場鎮守府を選んだのは、監視のためだ」

 

 

「…監視?それはどういう事かしら?」

 

 

木村の発言の意味が分かりかねるマックスが問うた。

 

 

「考えてもみろ、この相互着任会は“互いの鎮守府の艦娘”を交換するイベントだ、お前たちが横須賀鎮守府に来たように、こちらの艦娘も台場鎮守府に向かう事になる」

 

 

「っ!?まさか…!」

 

 

木村の意図を察した吹雪が顔を青ざめさせる。

 

 

「そうだ、その台場鎮守府に向かったうち艦娘に向こうの監視を命令してある、台場鎮守府で待機しているお前の仲間の行動を見張り、その結果台場の艦娘が危険な存在だと俺たちが判断した場合それを大本営に通告する、ここで監視をしたらお前たちが本性を隠すかもしれないからな」

 

 

得意げに語る木村に対し、吹雪たちは冷や汗を流していた、台場鎮守府では深海棲器の開発やその訓練などが行われている、それらは戦術の幅を広げる…などと言えばごまかせるだろうが、問題なのは向こうにいる三日月たちだ。

 

 

ぶっちゃけ台場鎮守府の艦娘たちは軒並み手が出やすいのだ、特に台場ケルベロス辺りが顕著で、何かというとすぐに喧嘩腰になる、それが横須賀の艦娘に向けられないか…という懸念材料がバーゲンの大安売りのごとく沸き上がってくる。

 

 

「さてと、悪いがお前たちのPitをこちらで預からせてもらう、持っているなら出せ」

 

 

「…Pitを?」

 

 

「監視の事を台場の連中に連絡されたら正しい監視が出来ないからな、だから相互着任会の間は台場鎮守府との連絡を一切禁止する」

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!いくら何でもそれはやり過ぎだと思います!」

 

 

吹雪がそう反論すると、木村の表情が険しくなる。

 

 

「…いいか?勘違いしているようだから言っておくぞ、お前たち混血艦(ハーフ)は本来存在する事が許されない異端の存在だ、そんなお前たちが今生きていられるのは大本営がその存在を認可して、周りがそれに苦言を呈さないからだ、でもどこかの鎮守府から混血艦(ハーフ)は危ない、なんていう反対意見が出たら…大本営は何もしないわけにはいかないよな?」

 

 

「っ!!あなたという人は…!」

 

 

吹雪は木村の思惑を知り、拳を握りながら睨み付ける。

 

 

「言っておくがこれは海軍のためだ、全国の提督や艦娘を混血艦(ハーフ)という深海棲艦以外の『敵』から守れるのであれば、お前たちの命など安いものだろう」

 

 

「…………」

 

 

Deep Sea Fleetは最早怒りを通り越して呆れの感情しか抱いていなかった、なぜ自分たちの事をよく知りもしないこの男に反乱分子の烙印を押されなければならないのだろう、今まで自分たちは海軍のマイナスになるような事はしなかったはずだ、秋葉原防衛戦ではエリザベートを追い返すのに一役買ったし、大演習祭(バトルフェスタ)では南雲元帥の提示した条件通りに戦い、勝利を収めた、こんな初対面の男に脅迫まがいの事を言われる筋合いはないはずなのだ。

 

 

「分かったらさっさとPitを出せ、持ってないなんて嘘をついたら大本営にあること無いこと言いふらすからな」

 

 

「…仕方ない…か」

 

 

木村の言っていることが本気だと悟った吹雪たちは大人しくPitを差し出す。

 

 

「それじゃあこれから今いる艦娘たちにお前らの事を紹介する、準備をするから用意してある部屋で待機してろ、15分位したら放送で呼び掛ける」

 

 

そう言うと、木村は武蔵に吹雪たちを部屋に案内するよう命令し、大和以外を退室させる。

 

 

「さてと、それじゃ早速チェックだな」

 

 

吹雪たちが出て行ったのを確認すると、木村は吹雪たちが差し出したPitをいじり始める。

 

 

「提督!それは流石にいけません!艦娘にもプライバシーと言うモノが…!」

 

 

「あいつらは艦娘じゃない、深海棲艦に身を堕とした裏切り者だ、裏切り者にプライバシーなんてモノはない、それにこれはお前たちが安心して明日を迎えられるようにする為に必要な事だ、海軍のためだよ」

 

 

木村はそう言って吹雪のPitのデータをチェックしていく、通話履歴やメールの内容、果ては写真までも漁っていく。

 

 

「…提督、それは本当に海軍の為なのですか?」

 

 

「…何が言いたいんだ?大和」

 

 

意味ありげな発言をした大和を、木村は眉をひそめて見つめる。

 

 

「海軍の為…というのは建て前なのではありませんか?ご自身の過去の憎しみと復讐心を正当化しようと…」

 

 

「それ以上の発言は許さんぞ」

 

 

今まで聞いた事のないほどドスの聞いた低い声と、こちらを射抜くような鋭い視線で見つめられ、大和は思わず数歩後ずさる。

 

 

「俺は艦娘を何よりも大切にする主義だが、その領域に立ち入る事は誰であろうと許さん、分かったな?」

 

 

「…はい」

 

 

「ならよろしい、さて…吹雪のデータに怪しいモノは無かったな、次は暁だ…」

 

 

木村は元の穏やかな様子に戻り、引き続きPitをいじる。

 

 

(…提督、あなたのやろうとしているそれは、本当に海軍のためを思っての事なのですか?過去の復讐心を正当化するための建て前なのではありませんか?あなたの本心は…どこにあるのですか…?)

 

 

 

 

 

時を同じくして、台場鎮守府の門には3体の艦娘が立っていた。

 

 

「相互着任会で横須賀鎮守府から来ました、阿賀野型軽巡洋艦3番艦の『矢矧(やはぎ)』です」

 

 

 

「同じく、青雲型駆逐艦3番艦の『天雲(あまぐも)』です」

 

 

「白露型駆逐艦11番艦の『秋霖(しゅうりん)』です」

 

 

横須賀鎮守府からやってきた艦娘たちは海原の前で敬礼をする。

 

 

「ようこそ台場鎮守府へ、長旅ご苦労だったね、中へ案内するよ」

 

 

海原は矢矧たちを中へと招き入れる。

 

 

(…この人が裏切り者を匿っている反逆者…、しっかり監視しないとね)

 

 

矢矧たちが不気味にほくそ笑んでいる事に気付く事なく…。




次回「差し金」

読者の方から頂いた艦娘登場、都合上全ての設定を採用出来なかった事をお詫び申し上げます。

おまけ:!!!吹雪タイム!!!のnewソート古い順。


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古参を大切にしよう、温故知新でいこっ!



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第168話「東京湾沖海戦4」

艦これ始めて4ヶ月以上経ってますが、未だに大井が来ていません、建造もそれなりにしてるんですけどね…

先月日向をゲットしたので、通常建造で手に入る戦艦を全てゲットしました、結局一度も通常建造で戦艦建造出来ないまま揃いました(全てドロップのみ)。

あとは大型建造の大和型と海外戦艦を残すのみですが、揃うかなぁ…


木村から準備が出来たという館内放送が流れたので、吹雪たちは横須賀鎮守府の食堂に向かう、中に入ると台場鎮守府とは比較にならないほどの艦娘たちがキレイに列を成して待機していた、その最前列の艦娘の何体かは深海痕に気付いたようで、声こそ出さなかったが目を剥いていた。

 

 

「今日から相互着任会で一週間この横須賀鎮守府に限定着任する台場鎮守府の艦娘たちだ」

 

 

木村の挨拶が終わると、吹雪たちは1体ずつ前に出て自己紹介する、出来れば混血艦(ハーフ)の事は伝えずに一週間平和に過ごしたいな~、などと考えていたのだが…

 

 

「あぁ、それと最後に一つ…」

 

 

木村は締めの一言を言おうとしたようだが、何を思ったかマックスをこちらに抱き抱えると、左足の深海痕を隠すために穿いていたハイソックスを躊躇なく下ろす。

 

 

 

「こいつらは全員深海棲艦と艦娘の混血艦(ハーフ)みたいだから、気をつけろよ」

 

 

堂々とぶっちゃけやがった、しかも深海痕を全員に晒した状態で。

 

 

その直後、食堂が驚愕に包まれたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「(ねぇ、深海棲艦との混血艦(ハーフ)って本当なのかな…?)」

 

 

「(あの黒いアザがその証拠でしょ、何だか怖いわね)」

 

 

「(いつ深海棲艦になって私たちに襲いかかってくるか分かったもんじゃないわ)」

 

 

「(関わらないようにしましょ)」

 

 

期間限定着任挨拶終了から約1時間後、何とか大騒ぎの食堂から抜け出した吹雪たちはこのまま部屋に閉じこもっていようか…などと考えていたとき、吹雪たちに提督室への召集命令がかかってしまった、それで今は提督室に向かっている最中なのだが、途中すれ違う艦娘たちがこちらを見ながらヒソヒソと話しながら後ろ指を指してくる。

 

 

「…あのクソッタレ、余計な事ばっか言いやがって…」

 

 

暁は心底不機嫌そうな表情で乱暴な言葉を吐き捨てる、一応深海痕は隠せるような服装で来たのだが、木村のせいで台無しである。

 

 

「失礼します」

 

 

提督室にたどり着いた吹雪たちはノックをして中に入る、台場ではノックなどせずにずかずかと入る艦娘も多いが、余所ではそんなことは出来ないのでそこはちゃんとする。

 

 

「おぉ、来たな」

 

 

Deep Sea Fleetを迎えたのは木村と秘書艦の大和、そして3体の艦娘だった、状況を見る限りだと出撃が何かだろうか。

 

 

「お前たちを呼んだのは出撃任務に出てもらおうと思ったからだ、お前たちの中から3体選んで出撃艦隊に加わってもらう」

 

 

そう言うと木村は出撃艦隊の3体の艦娘に自己紹介するよう促す。

 

 

「雲龍航空母艦の雲龍よ」

 

 

「…古鷹型重巡の古鷹です」

 

 

「ザラ型重巡のポーラです」

 

 

雲龍たちはDeep Sea Fleetに向けて挨拶をするが、その態度はあまり友好的ではなかった、やはり混血艦(ハーフ)ということで警戒しているのだろう。

 

 

「…メンバーはこちらで選んでもいいんですか?」

 

 

「あぁ、お前たちの戦闘力は全く把握してないからな、そっちに任せる」

 

 

木村にそう言われると、吹雪たちはメンバー選出のためにプチ会議を行っていた。

 

 

…そして30秒後、結論が出た吹雪は木村にメンバーを伝える。

 

 

 

「こちらからは私とマックスと大鯨さんが参加します」

 

 

 

 

 

 

「さてと、それじゃあこれからの段取りを確認するわよ」

 

 

期間限定着任の挨拶を終えて部屋に通された矢矧、天雲、秋霖の3体はベッドに座ると、ノートを囲って今後の予定について話し合っていた。

 

 

「基本的には艦娘たちや海原提督の監視を行うわけだけど、くれぐれも気付かれずにやるのよ、ヤツらと普通に接するふりをして情報を聞き出すの、もし提督の言っていたように台場の目的が“深海棲艦の混血艦(ハーフ)を集めて海軍に反逆を起こす”事なら、鎮守府内や艦娘たちを調べれば何かしらのネタはあるはず」

 

 

「それを私たちで見つけるという事ですね」

 

 

秋霖がそう言うと、矢矧が頷く、一応台場の艦娘が混血艦(ハーフ)だという事は先ほどの挨拶で聞かされたが、矢矧たちは気にしないから仲良くしようという演技をしておいたので友好的な関係を築くのはそう難しくはないだろう。

 

 

「あんな得体のしれない連中と仲良しごっこするのは気が乗らないけど、これも提督が掲げる海軍の安全の為に頑張りましょう」

 

 

「はい!」

 

 

「了解です!」

 

 

こうして、木村が台場に向けた艦娘(スパイ)による極秘任務が密かに始まった。




次回「異端の力」

得物が唸る。

そう言えば以前遠征から帰ってきた朧がこんな事になってました。

【挿絵表示】


朧ちゃんのサービスカットですね!(違


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第169話「東京湾沖海戦5」

レーベを獲得出来る遠征を出現させるために任務を消化していたのですが、伊号潜水艦を3体編成するという任務にぶち当たりました。

…イムヤとゴーヤしかいないのでハチかイクを建造しよう。


古鷹を旗艦(リーダー)とした出撃艦隊は鎮守府を出発したが、その雰囲気はお世辞にも良いものとは言えなかった。

 

 

「言っておくけど、私たちの足を引っ張るような真似だけはしないでね、ただでさえ駆逐艦は弱くてお荷物なのに…」

 

 

特に雲龍は前任である佐瀬辺の火力主義がまだ残っているようで、吹雪たちをかなり格下に見ている、古鷹とポーラも雲龍ほどではないが、やはり戦力としてはあまり期待していないようだ。

 

 

『あの提督といいここの艦娘たちといい、何でこうも腹の立つ連中ばかりなのかしらね』

 

 

「(しょうがないよ、駆逐艦の火力が空母や重巡に劣るのは事実だし)」

 

 

今まで空気を読んで何も言わなかったリーザだが、先ほどからの言われように我慢できなくなったのか初めて口を開いて苦言を呈す、それに吹雪は小声で答えるが、リーザはいまいち納得しきれていないようだ。

 

 

「そういえば、大鯨さんって潜水母艦なんですよね?そんな戦力外もいいところな非戦闘艦が何か役に立つんですかぁ?」

 

 

航行中にポーラがしゃくに障る言い方で大鯨に聞いてくる、さすがに一言言ってやろうと思った吹雪だが、大鯨はそれを片手で制す。

 

 

「大丈夫ですよぉ、私だってちゃんと戦闘でお役に立てますからぁ」

 

 

大鯨は朗らかに笑ってそうポーラに返した、その様子を見れば空気を悪くしないために気を使ったのだと思われるだろう、まぁ実際そうなのだが。

 

 

「うーん…おかしいわね…」

 

 

「どうしたんですか?古鷹さん」

 

 

先ほどから古鷹が首を傾げながら電探のモニターを軽く叩いているので、疑問に思ったポーラが聞く。

 

 

「さっきから電探の調子が悪いのよ、画面に時々ノイズみたいなのが走って、うまく表示されないのよね」

 

 

そう言って古鷹は電探の画面をボーラに見せる、確かに電波がうまく受信できていないテレビのようにノイズが時々走っているようだ。

 

 

「帰ったら明石さんに見てもらった方がいいかもしれませんよ」

 

 

「そうね、そうするわ」

 

 

古鷹はそう言うと引き続きノイズの走る電探の画面を見ながら周囲を警戒する。

 

 

「…電探に敵艦隊の反応あり、会敵までおよそ2分です」

 

 

古鷹の電探が敵艦隊の気配を察知する、そしてそれはすぐに肉眼で確認できる距離になる。

 

 

編成は重巡棲艦、軽巡棲艦、軽巡棲艦、雷巡棲艦の巡洋艦隊だ。

 

 

 

「雲龍さんは艦載機の発艦を、ポーラと台場は私と砲撃準備!」

 

 

「分かったわ」

 

 

「了解です!」

 

 

雲龍は艦載機を発艦させるために腰元のケースから人型の紙葉(しよう)を取り出す、この紙葉(しよう)は雲龍の艦載機の媒体で、これを飛行甲板に通すことで艦載機を発艦させる、この紙葉(しよう)の媒体を使うモノは陰陽道タイプと呼ばれる艤装で、弓道タイプの後に開発された艤装だ、媒体が紙であるため大量に持ち運べる利点があるが、媒体が紙であるが故に艦載機の耐久性が弱くとても撃ち落とされやすいという欠点も合わせ持つ。

 

 

弓道タイプが量より質であるのなら、陰陽道タイプはその逆だ、艦載機の弱さを数で補う、やや癖のある戦闘スタイルを特徴とする艤装なのである。

 

 

「艦載機…発艦!」

 

 

雲龍が紙葉(しよう)を巻物のような飛行甲板に通す、この巻物型の飛行甲板もコンパクト性を重視したモノで、弓道タイプの飛行甲板に組み込まれている電子回路を紙に張り付けているのである、この飛行甲板も敵の攻撃に弱く、当たりどころが悪ければ即刻艦載機発艦不能となってしまうのがたまに傷だ。

 

 

ポーラと吹雪たちも主砲発射の準備をする、正直台場としては白兵戦で戦った方が早いのだが、今の自分たちは期間限定ではあるが横須賀鎮守府の艦娘で、この艦隊の旗艦(リーダー)は古鷹だ、郷に入っては郷に従え…である。

 

 

雲龍の艦爆が敵艦隊に投下され、重巡棲艦以外の敵を全て撃沈させる、その攻撃力と艦載機の練度(レベル)はさすが横須賀と言ったところだろう。

 

 

「主砲発射!撃てえええええええええぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

古鷹の合図でポーラ、吹雪、マックスが一斉に砲撃を開始、4体の砲撃と雲龍の艦攻による雷撃が重巡棲艦に襲い掛かる。

 

 

すでに小破相当のダメージを受けていた重巡棲艦はこの攻撃に耐えられず撃沈、部隊長(エリート)以上の個体がいなかったのが幸いした。

 

 

「…提督、戦闘終了です」

 

 

古鷹がインカムで戦闘終了を木村に報告する。

 

 

『被害状況は?』

 

 

「ダメージを受けた者はゼロ、完全勝利です」

 

 

古鷹がそう伝えると、木村はインカム越しでも分かるほど安堵の息を吐く。

 

 

『了解した、これで任務完了だ、気をつけて帰投してくれ』

 

 

「了解しまし…」

 

 

古鷹がそう言おうとした直後…

 

 

「きゃあああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

突然どこからか砲撃が行われ、それが雲龍に直撃する。

 

 

「雲龍!?」

 

 

まともに食らった雲龍は中破相当のダメージを負った、飛行甲板は完全に破壊されており、艦載機の発艦は不可能である。

 

 

「いったいどこから…!?」

 

古鷹たちは辺りを見渡し、砲撃元を探す。

 

 

 

「居た…って嘘!?」

 

 

 

雲龍を砲撃した敵艦隊は古鷹たちの真後ろから接近中だった、構成は戦艦棲艦3体、空母棲艦2体、重巡棲艦1体の強力な面子だ。

 

 

「どうして!?電探には何も…!」

 

 

古鷹は電探のモニターを見るが、接近中の敵艦隊はそこには映っていない、それ以前に画面を走るノイズがさっきよりも酷くなっており、最早まともに状況確認も出来ない。

 

 

「あぁもう!何でこんな時に故障するのよ!」

 

 

古鷹がイライラしながら頭を掻き毟るが、吹雪とリーザはここで敵艦隊の旗艦(リーダー)と思われる戦艦棲艦に不自然な部分があることに気づく。

 

 

『あれって、アンテナ?』

 

 

「そう…見えるね…」

 

 

戦艦棲艦の肩の部分の艤装にアンテナが取り付けられているのだ、大きさは家の屋根などに取り付けられているテレビアンテナを幾分か小さくしたような見た目で、それを取り付けられた戦艦棲艦が近づくたびに古鷹の電探のノイズが酷くなっていく。

 

 

「…古鷹さん」

 

 

「何よ!今忙しいんだから話しかけないで!」

 

 

吹雪に話し掛けられた古鷹はかなりイラついた様子で返すが、それを吹雪は無視して古鷹に進言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの敵艦隊…妨害電波を出している可能性があります」




次回「ウォーリア・モンク・スナイパー」

最強の足止め。


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第170話「東京湾沖海戦6」

活動報告でにて第2回キャラクター人気投票を開催しています、ぜひご参加ください!

太鼓の達人でメタナイトの逆襲メドレー配信されたので、一発フルコンボを友人の前で堂々宣言してプレイした結果↓

【挿絵表示】

友人に冷ややかな目で見られました、畜生!メタナイトに逆襲された!(責任転嫁)。


「妨害電波…?」

 

 

吹雪の発言に古鷹は首を傾げる、吹雪の考えはこうだ。

 

 

そもそも電探というのはレーダーのように電波を飛ばしてそれに反応するモノをモニターに映す装備だ、艦娘の電探は同じ周波数の電波を飛ばして互いに同調させているので電探はそれを“味方”と判断し、それ以外の巡航物は深海棲艦…つまり“敵”と認識するのだ。

 

 

おそらくあの戦艦棲艦のアンテナは艦娘の電探と同じ周波数を飛ばして相殺するジャミング装置…いわば深海電探とも言える役割を果たしているのだろう。

 

 

「あの敵艦隊はだいぶ前から私たちをつけていたのでしょう、そしてさっきの巡洋艦隊はそれを隠すための(みの)…と言った所でしょうか」

 

 

「つまりはじめからあいつらの手のひらの上だったってわけね、忌々しい…!」

 

 

古鷹は舌打ちしながら敵艦隊を睨み付ける、もうすでに戦艦棲艦や空母棲艦は攻撃準備を終え、いつでも牙を剥く事が出来る状態だ、それでも攻撃してこないのは雲龍を機能不全にした事による余裕の現れだろうか。

 

 

「提督!敵の増援と会敵しました!、戦艦3体、空母2体、重巡1体です!おまけに雲龍は奇襲を受けて中破!攻撃不能状態です!」

 

 

『何だと!?』

 

 

木村は驚いた様子で椅子から立ち上がる、いくら横須賀の練度(レベル)が高くても主力の雲龍が攻撃不能では戦艦棲艦を3体も相手取るのは無謀と言える。

 

 

『総員撤退!戦闘は無しだ!』

 

 

「了解!」

 

 

古鷹たちは中破の雲龍を庇いながら撤退を試みようとするが…

 

 

「っ!敵空母棲艦艦載機発艦です!」

 

 

2体の空母棲艦が艦載機を発艦させた、どうやら古鷹たちを逃がすつもりは無いらしく、攻撃機のみのガチ攻め体制で向かってくる。

 

 

「総員対空射撃!」

 

 

古鷹の指示で雲龍を除く全員が対空射撃を行う、古鷹とポーラは対空用機関銃で敵艦載機を撃墜していくが、命中率に若干難がある。

 

 

「って、あなたたち何で主砲なのよ!しかも何その命中率!」

 

 

対空用機関銃など当然持ち合わせていない吹雪たち台場組は主砲で、大鯨に至ってはアサルトライフルで対空射撃を行っている、当然連射出来ないので効率は悪いのだが、撃った弾丸は必ず艦載機に命中しており、その数を確実に減らしていく。

 

 

「対空用機関銃なんてご立派な装備は持ってませんからね、主砲で代用するしかないんですよ!無いなら無いなりに工夫を凝らす!それが台場のやり方です!」

 

 

古鷹のつっこみにそう答えながら吹雪は敵艦載機を落とし続けていく、しかし敵が空母棲艦だけではないという事を忘れてはいけない。

 

 

「敵戦艦棲艦砲撃確認!来ます!」

 

 

戦艦棲艦が3体同時に砲撃を行い、殺人級の弾丸が降り注ぐ。

 

 

「っ!?マズい…!」

 

 

しかもそのうちの一発が古鷹へ直撃ルートを決め込んできた、古鷹は最悪大破を覚悟したが…

 

 

「させません!」

 

 

吹雪がナギナタを振るって弾丸を切り裂き、古鷹を守った。

 

 

「あなた…それは…!?」

 

 

初めて見る深海棲器に古鷹は目を剥いているが、吹雪はそれに構わず口を開く。

 

 

「古鷹さん!私とマックスで敵を足止めするので、その隙に撤退して下さい!マックス行くよ!」

 

 

「えぇ、分かったわ!」

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!駆逐艦があれだけの数相手に勝てるワケが…!」

 

 

吹雪の言葉に古鷹は反論するが、吹雪とマックスはそれに取り合わず敵艦隊に向かって突撃していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それじゃあハチは読書が好きなのね」

 

 

「はい、本を読むのは楽しいです」

 

 

台場鎮守府の食堂、ハチと矢矧は互いの趣味について話し合っていた。

 

 

「ハチさんはDeep Sea Fleetの中で一番頭が良いですからね、知恵袋的な存在なんですよ」

 

 

すると天雲と秋霖を連れて食堂に入ってきた三日月がそう言ってハチの隣に座る。

 

 

「そうなの?でも私たちも頭の良さなら負けないわよ?艦娘たるもの教養は重要なんだから」

 

 

「あら、それじゃあ試してみますか?」

 

 

矢矧が得意気な顔をすると、ハチがニヤリと笑って紙に何かを書き始めた。

 

 

「ここに書いてある10問のクイズに答えてみて下さい」

 

 

「ふふっ、あまり私を侮ってもらっちゃ困るわよ」

 

 

矢矧は意気揚々と問題を受け取る。

 

 

 

 

 

問1.自動販売機で一度の買い物で入るお金の上限は?

 

問2.レジで一度に使える硬貨は何枚まで?

 

問3.横断歩道が日本で始まったのは1920年ですが、当初はどんな模様だった?

 

問4.「カラオケ」を略さずに言うと?

 

問5.星座占いなどで使われる12の星座の事を何という?

 

問6.『籠球』←この漢字で表されるスポーツは?

 

問7.人間の消化器官で、胃と小腸の間にあるモノは?

 

問8.金属元素の中で、唯一常温で液体になる金属は?

 

問9.サメの頭部にに備わっている器官で、微弱な電流を感知する器官を何という?

 

問10.日本の県庁所在地で、都道府県名と県庁所在地名が同じ場所は何ヶ所ある?

 

 

 

 

「ってこれ半分くらい雑学じゃない!普通こういうのって5教科とかでしょ!」

 

 

「雑学も教養のうち…ですよ?」

 

 

抗議する矢矧にハチはふふん♪と鼻を鳴らす。

 

 

(どうしよう…ほとんど分からない…!)

 

 

しかし矢矧はそれどころでは無く、問題を前にダラダラと汗を流すしか出来なかった。




次回「駆逐艦(デストロイヤー)

その名に違わぬ力を見よ。

○おまけ
!!!吹雪タイム!!!の艦種別レベルランキング【駆逐艦編】

【挿絵表示】

何気にレベルの開きが凄まじい艦種だったり。


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第171話「東京湾沖海戦7」

仕事が休みだったので借りていた「甲鉄城のカバネリ」を最終話まで一気見してました、生駒かっけー。

…え?ゴールデンウイーク?何それ美味しいの?(白目


吹雪とマックスはフルスロットルで敵艦隊へと肉薄していく、その途中で砲撃と空撃が襲うが、駆逐艦持ち前の速力を生かして紙一重のタイミングでかわしていく。

 

 

「マックス!まずは厄介な空母棲艦からやるよ!二手に別れて各個撃破!」

 

 

「分かったわ!」

 

 

吹雪はマックスにそう告げると、自分が担当する空母棲艦を見る、銀髪のロングヘアーに黒のゴシックドレスを着ており、背中には野球場にいるビール売り子が背負っているビールタンクのようなモノを背負っている、そこからは太いホースが2本伸びており、そのホースは空母棲艦の持つメガホンのような形をしている発射口へと繋がっている、この発射口からピッチングマシンの如く黒い球体を射出させ、艦載機へと変えるのだ。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で空母棲艦の顔面に右ストレートを食らわせる、空母棲艦は後方に勢いよく吹き飛び、仰向けになって倒れる。

 

 

吹雪はそのまま倒れている空母棲艦に馬乗りになると、両手で空母棲艦の顔面をひたすらに殴り続ける。

 

 

これが戦艦棲艦などの砲撃が可能な艦種であれば自身への余波のダメージを覚悟で吹雪に攻撃出来たのだろうが、空母の艦載機は艦娘も深海棲艦も媒体の状態では攻撃力を持たない、この空母棲艦の場合はボールを吹雪にぶつけるくらいしか出来ない、馬乗り状態からは抜け出せるだろうが、決めの一手にはならない。

 

 

しかし深海棲艦とてやられる僚艦をただ見ているほど無情な生き物ではない、戦艦棲艦が吹雪に照準を合わせて主砲を構え、撃った。

 

 

『吹雪!危ない!』

 

 

戦艦棲艦の攻撃に気付いたリーザが吹雪の身体を操作して空母棲艦から降りると、空母棲艦の首根っこを掴んで上半身を持ち上げ、戦艦棲艦の砲撃を受け止める盾にした。

 

 

戦艦棲艦の砲撃をまともに食らった空母棲艦は致命傷を負った、吹雪の連続パンチに加え戦艦棲艦の砲撃、すでに轟沈寸前の状態だった。

 

 

『量産型風情がご主人様を傷付けようだなんて、片腹痛いのよ』

 

 

氷のように冷たい言葉でそう言うと、リーザは空母棲艦の首をナギナタで切りつけ、絶命させた。

 

 

「助かったよリーザ、ありがとう」

 

 

『お礼なんて言わなくていいのよ、あなたを守るのが私の役目だもの』

 

 

そう言ってリーザは操作権を吹雪に返す。

 

 

残りの敵艦隊は戦艦棲艦3体と重巡1体、なんとかなりそうな数ではあるが、苦戦は避けられないだろう。

 

 

吹雪はナギナタを構えて戦艦棲艦に向かって突撃する、戦艦棲艦は吹雪に砲撃を行うが、吹雪はそれをナギナタで切り裂いて防いでいく。

 

 

砲弾切りを目の当たりにした戦艦棲艦は驚いたような顔をするが、吹雪はそれに取り合わずナギナタで戦艦棲艦の脇腹を切り裂く。

 

 

鋭い痛みに襲われた戦艦棲艦は思わず片膝をつく、それが吹雪を相手にしている戦艦棲艦にとって自殺行為になるということに気づくよしもなかった。

 

 

「てやああぁっ!」

 

 

吹雪はナギナタを戦艦棲艦の胸元に深々と突き刺し、ちょうど心臓の位置を貫く。

 

 

戦艦棲艦は苦しそうにもがくが、その抵抗もすぐに弱々しいモノへと変わり、ついには動かなくなる、砲撃による外側からの攻撃には強い防御力を持つ戦艦棲艦だが、内側からの中身への攻撃には弱いのだ。

 

 

戦艦棲艦の撃沈を確認すると、ここで吹雪はマックスの方を見る、すでに空母棲艦と重巡棲艦を倒しており、残りは戦艦棲艦2体だ。

 

 

マックスは戦艦棲艦の肩に足を乗せて飛び乗ると、クーゲルシュライバーを戦艦棲艦の右目に根元まで突き刺し、それを勢い良く引き抜いて眼球をえぐり出す。

 

 

戦艦棲艦は悲痛な叫び声をあげながら右目を押さえて身悶えるが、マックスはそんな戦艦棲艦に欠片の同情心も見せず、戦鎚(ウォーハンマー)で頭を殴りつけて目を回させる。

 

 

「…歯ごたえが無い、死ね」

 

 

マックスは湾曲剣(シミター)で戦艦棲艦の首を切り落とすと、胴体を蹴飛ばしてそれを海中へと沈める。

 

 

これで残りの敵は戦艦棲艦1体だけとなった、僚艦を沈められた怒りからなのか、かなり殺気立っている。

 

 

吹雪とマックスは2体同時に戦艦棲艦へと向かっていく、敵の反撃を受ける前にさっさと倒しておきたい所だ。

 

 

戦艦棲艦の砲撃をかわしながら肉薄していき、吹雪は手甲拳(ナックル)での右ストレートを、マックスは戦鎚(ウォーハンマー)での殴打を加える。

 

 

2体同時に攻撃された戦艦棲艦はたたらを踏むが、倒れるまでには至らなかった。

 

 

部隊長(エリート)…?いや、この防御力だと司令艦(フラグシップ)かな、ちょっとヤバい相手だね…」

 

 

「別に倒してしまえば何の問題ないわ、さっさと決着をつけてしまいましょう」

 

 

吹雪たちは続けて戦艦棲艦を攻撃し続けるが、中々参ったと言わせることが出来ないでいた。

 

 

「っ!?ヤバい…!」

 

 

その時、戦艦棲艦が吹雪に主砲をロックオンし、狙いを定める。

 

 

「吹雪!」

 

 

そこへマックスがワイヤーを伸ばして吹雪の身体に巻き付けると、それを思い切り引いて吹雪の位置を無理やりズラす。

 

 

戦艦棲艦の放った主砲の弾丸は吹雪を掠めて飛んでいき、近くの海面へと着弾して水柱を上げる。

 

 

「ありがとうマックス!」

 

 

「どう致しまして、それより敵は装填中で攻撃出来ないはず、一気に攻めるわよ」

 

 

「オーケイ!」

 

 

2体は未だ小破相当のダメージしか受けていない戦艦棲艦へと攻撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

「…信じられない、何なのよあの子たち…!」

 

 

白兵戦で敵艦隊を圧倒している吹雪とマックスを見て、古鷹は我が目を疑っていた、艦娘が白兵戦をやるということだけでも驚きなのに、それを使って敵艦隊を圧倒…ましてや駆逐艦がそれをやっているなど、到底信じられない光景であった。

 

 

「ほら、ポーラさんも古鷹さんも撤退してください」

 

 

雲龍の応急手当てを終えた大鯨が古鷹とポーラに声をかけるが、2体はそれどころではない。

 

 

「で、でも…!相手は司令艦(フラグシップ)相当の戦艦棲艦なのよ!?いくらあの子たちがすごいからってそれは…!」

 

 

「雲龍さんの撤退の護衛に最低でも2体は必要です、ですからここは私たちに任せて、あなたたちは撤退してください」

 

 

そう言いながら大鯨はライフルのスコープを覗いて攻撃の機会を伺っている、さっきまでは敵艦載機の撃墜を行っていたが、全て落としたので支援に移行するのだ。

 

 

「………」

 

 

大鯨には撤退しろと言われたが古鷹たちはその場から離れることが出来なかった、大鯨の言うことは間違っていない、雲龍は中破しているし艦載機を発艦出来ない危険な状態だ、そんな雲龍がこのまま戦闘場所にいるよりも古鷹とポーラが付いて撤退したほうが余程安全だろう。

 

 

(でも…やっぱりそれは…)

 

 

だが、彼女たちの本質は駆逐艦、いくら白兵戦で敵を圧倒できても防御力は高くないはずだ、そこへ戦艦棲艦の砲撃を食らえばどうなるかなど、火を見るより明らかだろう。

 

 

「…何をしてるんですか?」

 

 

人は理屈で考え情で動く生き物だというのを誰かから聞いたことがあるが、それは人を素体にしている艦娘も同じなようだ。

 

 

「悪いけど、あなたたちを見捨てて逃げるようなまねは…出来ないわよ!」

 

 

気付けば古鷹は、主砲を構えて戦艦棲艦に向かって突撃していた。

 

 

 

 

 

 

「流石にマズくなってきたかな…」

 

 

「そうね…」

 

 

吹雪とマックスは中破相当になってもなお衰えない能力を見せ付ける戦艦棲艦を前に焦りを感じていた、吹雪とマックスはどちらも中破、おまけに吹雪は大破寸前だ、これ以上の戦闘は困難だと感じた2体は隙を見て撤退しようと身体を動かすが…

 

 

「っ!?マズ…!!」

 

 

マックスの疲労とダメージが蓄積した影響なのか、よろけてそのまま水面に倒れ込んでしまった。

 

 

「マックス…!」

 

 

吹雪はマックスを助けようと駆け寄るが、戦艦棲艦が2体同時に主砲を向けて撃とうとしていた、主砲で妨害しようと思ったがとても間に合わない。

 

 

「どうすれば…!!」

 

 

戦艦棲艦の引き金が引かれようとしていたまさにその時、後方から放たれた砲撃が戦艦棲艦に命中、砲撃を阻止した。

 

 

(誰が…!?)

 

 

吹雪が後ろを見ると、古鷹が砲口から硝煙を上げた主砲を構えてこちらに近付いてくる。

 

 

「…撤退したんじゃなかったんですか?」

 

 

「駆逐艦に逃がされるなんて重巡としてのプライドが許さないのよ」

 

 

「そうですか、随分と無謀なんですね」

 

 

吹雪はマックスの介抱をしながらそう素っ気なく返す。

 

 

「それに、期間限定だとはいえあなたたちは横須賀の仲間だからね、見捨てるなんて出来ないわ」

 

 

「えっ?」

 

 

古鷹の言葉に吹雪は彼女の方を見る。

 

 

「ごめんなさい、後でちゃんと謝るから、今は私に、あなた達を守らせて」

 

 

そう言って古鷹は戦艦棲艦に向けて雷撃を行う、重巡の雷撃能力は軽巡や駆逐に比べると多少劣る艦種であるが、決して弱くはない。

 

 

怯みから立ち直った戦艦棲艦はターゲットを古鷹に切り替えて砲撃をするが、古鷹はそれを見事な身体能力でかわしていく、流石に白兵戦特化の駆逐艦であるDeep Sea Fleetには届かないが、彼女は戦闘のエキスパートが集まる横須賀鎮守府の艦娘だ、格上相手の戦い方は十分心得ている。

 

 

「はぁっ!」

 

 

古鷹の砲撃が戦艦棲艦に命中する、装甲は完全に抜けていないようだが、それでも十分なダメージを与えているあたり流石重巡と言ったところだろう。

 

 

主砲の反動が消えるまでの時間稼ぎで戦艦棲艦が副砲で古鷹を狙い撃つ、命中こそしたが損害は軽微だ。

 

 

古鷹が立て続けに砲撃を行おうとしたが、反動から立ち直った戦艦棲艦の主砲が古鷹目掛けて火を噴いた。

 

 

「マズい…!」

 

 

古鷹は両腕をクロスさせて衝撃に備える、しかそそれが古鷹に届くことはなかった。

 

 

「せいやぁ!」

 

 

吹雪が太刀を使って戦艦棲艦の弾丸を切り落としたのだ。

 

 

「自分だけ美味しいところを持っていこうだなんて、ズルいですよ?」

 

 

「私たちだって期間限定ですが古鷹さんたちの仲間です、お手伝いします」

 

 

吹雪とマックスが得物を構えて古鷹の両脇に立つ。

 

 

「全くもう…これじゃますます重巡の立つ瀬が無いじゃない」

 

 

古鷹はそう言うとフッ…と笑い、主砲を構えて高らかに言って見せた。

 

 

「あなたたちは白兵戦で敵の攻撃を阻止して!決定打は私が与えます!」

 

 

「「了解!」」

 

 

吹雪たちは再び戦艦棲艦に肉薄していく、戦艦棲艦は吹雪たちを狙い撃ちしようと主砲をまっすぐこちらに向ける。

 

 

「っ!?」

 

 

刹那、戦艦棲艦の主砲が爆発を起こし、戦艦棲艦の腕ごと吹き飛んだ。

 

 

一体何がと古鷹がちらりと後ろを見ると、大鯨がライフルを持ってピースサインをしていた、ライフルの弾丸を主砲の砲口の中に撃ち込み、内側から破壊したのだ。

 

 

「すごい…こんな事が出来るなんて…!」

 

 

台場の戦闘能力の高さを改めて認識した古鷹だった、一方で吹雪たちはヒットアンドアウェイで戦艦棲艦の体力を確実に減らしていき、大破相当までダメージを与えた。

 

 

片腕の主砲を失った戦艦棲艦はもう片方の主砲で応戦するが、腕が吹き飛んだダメージですでにフラフラであり、いつ力尽きてもおかしくない状態だった。

 

 

「古鷹さん!」

 

 

「お願いします!」

 

 

トドメの一撃を古鷹に託すと、吹雪たちは戦艦棲艦の前から飛び退く。

 

 

「いっけええええええぇぇ!!!!」

 

 

古鷹の放った主砲の弾丸が戦艦棲艦に命中、重巡の高火力の一撃が戦艦棲艦を襲う、さらに追い打ちとして吹雪とマックスが雷撃を撃ち込み、戦艦棲艦の命を削り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…敵艦隊の全滅を確認、勝利です」

 

 

撃沈した戦艦棲艦を見据えて、古鷹は静かにそう艦隊に告げた。




次回「東京湾沖海戦:前哨戦」

○おまけ:前回の話でハチが出していた問題の答え。


問1.自動販売機で一度の買い物で入るお金の上限は?
答:4200円

問2.レジで一度に使える硬貨は何枚まで?
答:20枚

問3.横断歩道が日本で始まったのは1920年ですが、当初はどんな模様だった?
答:市松模様

問4.「カラオケ」を略さずに言うと?
答:空オーケストラ

問5.星座占いなどで使われる12の星座の事を何という?
答:黄道十二星座

問6.『籠球』←この漢字で表されるスポーツは?
答:バスケットボール

問7.人間の消化器官で、胃と小腸の間にあるモノは?
答:十二指腸

問8.金属元素の中で、唯一常温で液体になる金属は?
答:水銀

問9.サメの頭部にに備わっている器官で、微弱な電流を感知する器官を何という?
答:ロレンチーニ器官

問10.日本の県庁所在地で、都道府県名と県庁所在地名が同じ場所は何ヶ所ある?
答:30ヶ所


ちなみに矢矧が分かったのは十二指腸と黄道十二星座と水銀だけでした。


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第172話「東京湾沖海戦8」

イベント海域現在E-3攻略中です、輸送地点すら出現してません。

キャラクター人気投票は今日いっぱいまでなので、まだの方は是非どうぞ!


「提督、艦隊帰投しました」

 

 

出撃艦隊旗艦(リーダー)の古鷹は提督室で出撃艦隊結果の報告を行う。

 

 

「…以上になります」

 

 

一通りの報告を聞いた木村は顎に手を当て、考えるような仕草をする。

 

 

「ふむ…敵の増援を返り討ちに出来たのは上場だが、ひとつ気になる点がある」

 

 

木村が人差し指を立てて古鷹に問い掛ける。

 

 

「何でしょう…?」

 

 

「台場組が白兵戦で敵の増援の殆どを倒した…というのは事実か?」

 

 

今の報告で古鷹が言っていたことだが、木村は今一度確認するように古鷹に問う、台場組に白兵戦の心得があることは大和や武蔵から聞いていたが、木村は砲雷撃戦が出来なくなった時の緊急手段…副兵装(サブウェポン)のようなモノだと思っていた、それがまさか主兵装(メインウェポン)以上の働きをするとは思ってもいなかった。

 

 

「はい、事実です」

 

 

古鷹は変な誤魔化しは一切無しで事実のみを伝える。

 

 

「…分かった、報告ありがとう、戻っていいよ」

 

 

木村がそう言うと、古鷹は失礼しますとお辞儀をして提督室を後にした。

 

 

「…台場鎮守府か、思った以上に面白そうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

「まさか今年の相互着任会があんたたちとはね、驚いたわよ」

 

 

「これから一週間よろしくね」

 

 

古鷹が報告を行っているのと同じ頃、吹雪たちは横須賀の食堂で夕食を食べていた、その隣にはかつて北方領土攻略作戦で共に戦った蒼龍と飛龍が座っており、楽しそうに談笑していた。

 

 

「よろしくお願いします!蒼龍さんたちは変わりないですか?」

 

 

「もちろん元気してたわよ、艦上戦闘機の扱いもだいぶ上達したし」

 

 

「そういえばあの時は持ってなかったわね、そのせいでクソの役にも立たなかったけど」

 

 

「うん、暁ちゃんはオブラートという言葉を覚えようか」

 

 

「ナニソレオイシイノ?」

 

 

蒼龍と暁が相変わらずの会話を繰り広げていると、武蔵と赤城がトレイを持ってこちらにやってきた。

 

 

「私たちも一緒にいいか?」

 

 

「いいですよ、こっちにどうぞ」

 

 

飛龍がその辺の空き椅子を並べ、そこに赤城と武蔵が座る。

 

 

「てか、赤城さん相変わらず少ないですね~、よくそれで動けますよね」

 

 

飛龍は赤城のトレイに乗っている鯖味噌定食を見て言う、飛龍の言うとおり赤城の分の量は他の艦娘が食べているモノの半分以下しかない。

 

 

「仕方ないじゃないですか、すぐにお腹一杯になるんだもん…」

 

 

赤城は少し恥ずかしそうにしながら言う、赤城は横須賀鎮守府の中でも1、2位を争うほど食が細い艦娘で有名だ、午前中目一杯訓練をした後の昼食でも文庫本サイズのお弁当で満腹になってしまうほどである。

 

 

「その点武蔵さんは馬鹿みたいに食べますよね~」

 

 

「お前は私に喧嘩を売っているのか…?」

 

 

自分のトレイに乗っている大盛りカレーを見ながら飛龍はケラケラ笑っているので、武蔵は拳をわなわなと震わせながら飛龍を見る。

 

 

「馬鹿になんてしてないですよ、ただ食べたものがお腹じゃなくてその胸の重りに行ってると思うとなんか笑えるなーって…」

 

 

「よし飛龍、ちょっと表に出ようか、悪いが暁、レフリー役を頼む」

 

 

「分かったわ!」

 

 

「ぎゃー!ごめんなさい!謝るから!謝るから髪引っ張って引きずるのは止めて!ハゲる!ハゲるから!」

 

 

「ふふっ」

 

 

横須賀の艦娘たちの仲むつまじい光景を見て、吹雪は自然と顔を綻ばせる。

 

 

「吹雪、今日の出撃でちょっと気になったことがあるんだけど…」

 

 

そんなとき、隣に座っていたマックスが吹雪に話し掛ける。

 

 

「ん?どんな事?」

 

 

「今日の出撃中に遭遇した電探持ちの増援艦隊なんだけど、どうしてわざわざ私たちに近づいてきたのかしら」

 

 

「…というと?」

 

 

「ほら、あの深海電探は艦娘の電探の電波をジャミングして姿が映らないようにするものでしょう?ならそのまま姿を消した状態で空母に超遠距離攻撃を仕掛けさせればよっぽど効率的だと思わない?なぜ反撃を食らう危険を覚悟で私たちに接近してきたのかしら」

 

 

マックスにそう指摘されて吹雪もハッとする、確かにそう言われてみればおかしな話だ。

 

 

「そう言えばそうだね、どうしてなんだろう…?実はあまり頭が良くないからじゃない?」

 

 

「それもあるかもしれないけど、第一そんな作戦も分からないような低脳なやつにそんなアイテムを持たせるかしら?」

 

 

「あー…確かに…」

 

 

その後も色々考えてはみたが、結局考察の結果は出ないままだった。

 

 

 

 

「さてと、それじゃあ初日で得られた情報を整理しましょう」

 

 

相互着任会初日の深夜、台場鎮守府の客室で矢矧は天雲と秋霖を交えて極秘の定例会を行っていた。

 

 

「とりあえず今日得られた情報の中には海原提督が反逆者であるような証拠や証言は見当たらなかったですね」

 

 

「艦娘たちに関しても同じ感じです、一部の艦娘は血の気が多くて何だか穢らわしい感じですが、それ以外に気になる点はありません」

 

 

「ふむ…なるほど、初日でこれだけ分かれば十分だけど、もう少し切り込んだ捜査が必要になってくるわね、明日から本腰入れていきましょう」

 

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

「ん?誰かのPitがメールを受信したな…」

 

 

所変わって横須賀鎮守府提督室、木村の机の中に保管してある台場組のPit…その中の吹雪のPitがメールを受信した事に気付いた木村は、机の引き出しの中からPitを取り出すと躊躇無くそれを見る、気づけば吹雪のPitには不在着信が十数件も溜まっているが、気にせず全て消去した。

 

 

 

 

 

 

・From:三日月

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「…なんだこれは?」

 

 

画面に表示されている内容を見て木村が首を傾げていると…

 

 

「提督!」

 

 

大和が息を弾ませて提督室に駆け込んできた。

 

 

「どうしたんだ?そんなに慌てて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京湾遠海に姫級の深海棲艦が3体、僚艦を大量に引き連れてやってきました!」

 

 

 

 




次回「大正浪漫&黒武者」

○おまけ

【挿絵表示】

・ル級flagshipのせいでいつまで経ってもB地点に到達できないの図。



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第173話「東京湾沖海戦9」

イベント海戦現在E-3を攻略中です、護衛棲姫が劇場版の深海吹雪に見えて仕方ない。

でも拠点型じゃなくて本当に良かった(三式弾持ってない)。


「よし、揃ったようだな」

 

 

午後9時、これから各々の部屋で雑談やら恋バナやらテレビ鑑賞やら裸枕殴りやらが始まろうという時間に主力艦娘が提督室に集められていた。

 

 

「今回の目的は東京湾沖遠海に接近中の敵艦隊を退ける事だ、敵の数は軽く見積もっても100体はいるだろう」

 

 

「100体…ですか」

 

 

「簡単に相手できる数ではないな」

 

 

大和と武蔵が顔をしかめる、今まで様々な海戦に参加してきた2体だが、この敵の数を…しかも夜戦で相手取るのは流石に経験がない。

 

 

「艦隊編成は2艦隊による殲滅戦とし、第1艦隊は大和を旗艦(リーダー)に扶桑、山城、蒼龍、照月、時雨、第2艦隊は武蔵を旗艦(リーダー)に比叡、赤城、大淀、五月雨、朧で構成、敵の殲滅にあたれ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

総勢12体の艦娘が一斉に敬礼をする、今回は出撃場所と鎮守府が近いので控えの艦娘を出しやすいのが幸いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりの夜戦ね、気を引き締めていかないと…!」

 

 

出撃ドックで最終調整をしながら大和は両手で頬をパチンと叩いて気合いを入れ直す、一応今回参加する艦娘は全員夜戦経験者であるが、油断は出来ない。

 

 

「あとはなるようにしかならないさ、今から気負っても仕方がない」

 

 

武蔵はそう言って大和の不安を軽減しようとするが、彼女も夜戦は久しぶりの事なので若干の不安を抱えている。

 

 

そんな事をしているうちに艦隊全員の準備が完了したようなので、大和が号令をかける。

 

 

「殲滅戦闘連合艦隊、出撃します!」

 

 

大和たちが、夜の闇へと身を溶かしていく。

 

 

 

 

「…前方に大量の敵艦隊の反応あり、かなりの数です」

 

 

出撃してから数十分後、大和の電探が捉えた敵艦隊が各々の電探のディスプレイに表示される、その数はかなり多く、見えているだけでも50…実際はその倍はいるだろう。

 

 

「武蔵、そろそろあれをやるわよ」

 

 

それを確認した大和はインカム越しに武蔵に呼び掛ける。

 

 

『了解した、合図は大和に任せる』

 

 

「OK、それじゃあ行くわよ!」

 

 

武蔵からスタンバイOKの合図を受けると、第1、第2艦隊の全員が主砲を上向きに構える。

 

 

「用意…撃てええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 

 

大和が大声を張り上げて号令を出すと、それに合わせて主砲から弾丸を2連射、合計24発の弾丸が上空に向かって撃ち出される。

 

 

撃ち出された弾丸は上空で一斉に眩い光を発して空を明るく照らす、大和たちが撃ちだしたのは照明弾だ、空中を照らして視界を確保するための弾だ。

 

 

「…武蔵、そっちはどう?」

 

 

『大丈夫だ、流石に昼間同然とまではいかないが、敵艦隊の輪郭が見えるくらいの視界は保っているぞ』

 

 

武蔵の答えを聞いた大和は一安心し、敵艦隊を見据える、艦種は重巡棲艦や軽巡棲艦、雷巡棲艦がほとんどで、戦艦棲艦や空母棲艦はいなかった。

 

 

「…閃光弾とは、艦娘も中々小賢しい真似をしてくれますね」

 

 

「闇討ちは失敗って所ね」

 

 

「だが、私達の作戦にはさして影響はない」

 

 

その後方にいるメアリー、マーガレット、ベアトリスを除けばだが…

 

 

 

 

 

 

「あれが空母棲姫…実際に見たのは初めてだけど、禍々しいわね…」

 

 

大和は空母棲姫を見据えて冷や汗を流す、電子書庫(データベース)で見た写真よりも何倍も美しく、そして危険な香りが漂っている深海棲艦だった。

 

 

その手前にいる2体の姫級は電子書庫(データベース)では見たことのない個体だった、片方は黒色の簡素な鎧を身に付けており、もう片方は時代劇などで見る大正浪漫風の服を着ている、新種だろうか?。

 

 

「『総員…戦闘開始!』」

 

 

大和と武蔵の声に呼応するようにそれぞれの艦隊の艦娘たちが駆け出す、まずは先手必勝と言わんばかりに蒼龍と赤城がそれぞれ艦載機を発艦させ、航空戦を有利に運ぼうとする。

 

 

2体の発艦させた攻撃機は爆撃と雷撃を軽巡棲艦と雷巡棲艦に撃ち込み、その数をみるみるうちに減らしていく。

 

 

「すごい命中率だな、流石は夜偵だ」

 

 

その鮮やかな空撃を見た武蔵は感心するように言う、夜偵というのは夜間戦闘でも空母が戦いやすいよう改良を施した艦載機の事だ、暗い場所でも視界を確保出来るように暗視装置が内蔵されており、命中率の上昇と味方誤射(フレンドリファイア)の抑制に一役買っている、深海棲艦の武装で例えるならエリザベートの影夜叉に近い。

 

 

他の空母以外の艦娘たちも砲撃で重巡棲艦などの敵僚艦の数を減らしていくが、重巡棲艦は中途半端に装甲が堅い深海棲艦として知られており、半端な攻撃では撃沈せずに生き残ってしまうことがよくある、そんな特徴もあってか艦娘たちの間では重巡棲艦は深海棲艦の壁…もしくは砦役と言われている。

 

 

「…変ね」

 

 

戦闘が始まってから10分が経とうとしていた頃、大和は敵の行動に違和感を感じていた。

 

 

僚艦の後方で控えている姫級3体が目立った攻撃をしてこないのだ、といってもベアトリスは謎の白い艦載機を発艦させてこちらの航空戦を妨害してくるが、その数はせいぜい数十機程度、一度に200近い艦載機を飛ばしてくるという大本営の発表とは大きく行動が食い違っている、それに発艦させる数もこちらの艦載機よりもやや少なめになるように調整しているようにも見える。

 

 

それに新種の姫級2体の行動も妙だ、時折砲撃や雷撃を行ってくるが、あくまで牽制用の攻撃といった感じでこちらを潰しに来ている様子はまるで感じられない、まるで初めから勝つ気が無いような、そんな感じだ。

 

 

段々と嫌な予感を大きくしていく大和だが、それが的中する事にはこの時気付けなかった。

 

 

 

 

 

「さてと、そろそろ仕掛けるタイミングかしらね」

 

 

盾として使っている砦兵級(ルーク)騎士兵級(ナイト)の減り具合を見てベアトリスは攻め時を見極める、今回の目的は艦娘の殲滅ではなく、あくまでも艦娘の疲弊と戦力の消耗だ、いくら戦艦級(バトルシップ)の艦娘といっても大ダメージを受ければしばらくは動けないだろう、この戦いで出来るだけ艦娘を疲弊させて殺さないように痛めつけ、人間側の手札を削ぐ、それがこの前哨戦の狙いだ。

 

 

「メアリー、マーガレット、そろそろ攻めるわよ」

 

 

「了解したしました、ベアトリス先輩」

 

 

「久しぶりにひと暴れしちゃおっかな~」

 

 

メアリーとマーガレットは水を得た魚のように生き生きとした目をして眼前の大和たちを見据える。

 

 

「それと分かってるとは思うけど…」

 

 

「心得ていますよ、艦娘は殺さない、あくまでもダメージを与えるだけ…ですよね」

 

 

「任せてください、きっちりやってみせます!」

 

 

自信満々に言ってみせる2体を見てベアトリスは安心すると、艦載機を発艦させる準備に入る。

 

 

「敵の飛行場級(エアポート)は私に任せろ!お前たちは戦艦級(バトルシップ)巡洋艦級(クルーザー)を中心に各個撃破!」

 

 

「「了解!!」」

 

 

マーガレットとメアリーが艦娘たちに向かって突撃し、ベアトリスはエリザベートから借りた影夜叉を発艦させる。

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 

「敵姫級、強襲開始!迎撃態勢に入れ!」

 

 

僚艦が残りわずかといった所で姫級3体の攻撃が激化、ベアトリスは100はあろうかという数の艦載機を発艦させ、新種の姫級は瀕死の重巡棲艦を踏みつけてこちらへ猛スピードで向かってくる。

 

 

「早い…!!」

 

 

「駆逐艦…もしくは軽巡洋艦といったところですね…」

 

 

大和と扶桑はそう当たりをつけると、蒼龍と赤城に全力航空戦を指示、他の僚艦にも全力攻撃を言い渡す。

 

 

「相手がスピードアタッカーなら…!」

 

 

「僕たちの出番だね!」

 

 

照月、時雨、五月雨がメアリーとマーガレットの前に立ちふさがり砲撃を行うが、2体はそれを容易くかわしてしまう。

 

 

「くらいなさい!」

 

 

「てやああぁっ!」

 

 

照月たちの砲撃をかわしたメアリーとマーガレットは主砲で照月たちを正確に狙撃していく。

 

 

砲撃は3体に直撃したが、致命傷にはならず中破寸前の小破で留まった。

 

 

「攻撃力は私たち駆逐艦とそれほど変わらないみたいですね」

 

 

「でもあの黒鎧の方が攻撃力は高いみたいだ、あっちが軽巡棲艦と見た方がいいかもね」

 

 

五月雨と時雨はそんな事を言い合いながらメアリーとマーガレットを睨む、攻撃力こそ戦艦棲艦には劣るが、スピードや攻撃の精密性は抜きん出ており、流石は姫級といったところだろうか。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 

「くうっ!」

 

 

赤城と蒼龍がベアトリスの空撃で大破になる、赤城は飛行甲板が生きているので艦載機の発艦は可能だが、蒼龍は飛行甲板の読みとり部分がやられてしまったので発艦不可能だ。

 

 

「駆逐艦と大淀は対空射撃に専念!戦艦は空母棲姫と新種姫級に攻撃!」

 

 

大和が照月たちにそう指示を出す、空母組が戦闘不能になった今、対空に専念出来るのは機銃を持っている駆逐と軽巡の連中のみだ。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「くっ…!」

 

 

しかし機銃程度でベアトリスの操る影夜叉を対処出来るわけもなく、戦艦組もダメージを蓄積させていく。

 

 

新種姫級も抜群のコンビネーションでこちらのダメージを蓄積させていく、こちら側の攻撃は敵の機動力によってことごとくかわされ、かつ向こう側からの攻撃は大和たちの鈍足ぶりが災いしてほとんど命中してしまう、戦艦と駆逐艦は昔から相性の悪い艦種なのだ。

 

 

「メアリー!マーガレット!潮時よ!」

 

 

ベアトリスがメアリーたちに指示を出すと、2体は足止め用の雷撃を撃つと、踵を返してベアトリスの方へ戻っていく。

 

 

「っ!!待て!」

 

 

撤退していくベアトリスたちを逃すものかと武蔵は砲撃を撃ち込もうとするが…

 

 

「メアリー!マーガレット!」

 

 

メアリーとマーガレットが撃った煙幕弾(スモーク)で視界が塞れ、撃つことが出来なかった。

 

 

「…明日また来る、精々準備をしておくんだな」

 

 

そんな捨て台詞を残し、ベアトリスたちは姿を消した。




次回「オペレーターと提督補佐」

○オマケ

【挿絵表示】

ちょっと待て、前衛の三番目にとんでもない奴がいるんだが。


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第174話「東京湾沖海戦10」

イベント海域ですが、相変わらずE-3で止まってます。

敵編成にヌ級改が加わったせいで制空権が取れなくなりました、基地航空隊を使おうにもボスマスまで届く行動範囲を持つ艦載機が無いので打つ手無し、戦艦タ級の連撃が来ないことを祈るばかりです…。


大和たち連合艦隊は帰投後すぐさま事の顛末を木村に報告する、それを聞いた木村は顔を青ざめさせた。

 

 

「姫級の深海棲艦が明日また来るだと!?すぐに大本営に連絡しないと!」

 

 

木村は大本営に電話をかける、木村はベアトリスの言っていた言葉を全て信じているワケではない、明日また来るというのはタダの嘘なのかもしれないとどこかで思っているが、本当にやってきたら取り返しのつかない事態になるのは目に見えているし、場合によっては横須賀の全力だけでは手に負えない可能性だってある。

 

 

『…なるほど、空母棲姫の言葉を全て信じるわけにはいかないが、無視していいような内容ではないな』

 

 

電話越しに状況を把握した南雲元帥はしばらく無言になる、対応策を練っているのだろう。

 

 

『…よし』

 

 

1分ほど考えた後、南雲はいつもより重苦しい口調でこう告げた。

 

 

『今から全主戦力鎮守府に非常事態宣言を発令、提督と主力艦娘を横須賀に緊急召集させよう』

 

 

 

 

 

『緊急召集』

 

 

文字通り 大本営が非常事態と判断した時のみ発令出来る召集命令だ、通常は事前に日時等をメールやFAXなどで通達して集められるのだが、この緊急召集は各提督のPitなどに直接届けられる、内容は要約すれば“これが来たら如何なる状況でもすぐに来い”という事である。

 

 

午前2時の横須賀鎮守府大会議室、普通なら眠っているような時間だが、この大会議室ではそんな雰囲気など微塵も感じさせないほどの物々しさに包まれていた、理由はもちろん緊急召集である。

 

 

「ったく、23時にいきなり緊急召集の連絡寄越すとか何なんだよ本当に…」

 

 

もちろん海原もそのひとりであり、眠い目を擦って席についていた。

 

 

「どうした海原、お前ずいぶん眠そうじゃないか」

 

 

海原が眠そうにしていると、後ろの席に座っている奥村がからかい口調で聞いてくる。

 

 

「そりゃ眠って10分後に起こされたら眠いに決まってるわ、てかお前こそ眠くねぇのかよ、佐世保からここまで結構距離あったろ」

 

 

「俺?リニアの中で仮眠取れたから割とスッキリ」

 

 

「畜生、遠方故の利点か…」

 

 

全然眠そうにしていない奥村を恨めしそうに睨んでいると、南雲元帥が大会議室に入ってくる。

 

 

「提督諸君、夜分遅くの緊急召集に集まってくれてありがとう」

 

 

南雲は簡単に挨拶を済ませると、すぐさま本題に入る。

 

 

「…という事が先ほど横須賀で起こった」

 

 

南雲が軽く状況説明をすると、周りの提督連中がざわめきだす。

 

 

「空母棲姫の言葉を信じるべきかどうかは未だ不安が残るが、かと言って無視するような事も出来ない、よって我々は空母棲姫の言葉通り今日深海棲艦が再び攻め込んでくるという前提で迎撃作戦を決行、横須賀鎮守府に作戦本部を臨時設営する」

 

 

「(なるほど、だから召集場所が大本営じゃなく横須賀だったのか)」

 

 

「(移動する手間を省く為だろうな、新宿から横須賀だと距離あるし)」

 

 

召集場所がいつもと違った事への疑問が解けた所で、南雲はもう一つの重大な情報を伝える。

 

 

「そしてもう一つ、先ほどの横須賀艦隊の出撃で新種の姫級が2体確認された」

 

 

南雲の言葉に室内のざわめきがさらに大きくなる、現在確認されている姫級は空母棲姫(ベアトリス)戦艦棲姫(シャーロット)飛行場姫(エリザベート)の3体だ、これだけでもかなり手を焼くというのにさらに新種が現れるとなれば…提督たちが頭を抱えるのも無理はない。

 

 

「その新種がこの個体だ、夜偵で撮影したため画質は荒いが、この空母棲姫の手前にいる2体がそうだな」

 

 

南雲はスクリーンに映された写真の姫級をレーザーポインターで示す、写真右側に写っているのは簡素な黒色の鎧を身にまとった長い黒髪の深海棲艦で、頭部には黒色の兜を被っている。

 

 

写真左側に写っている深海棲艦は大正浪漫を彷彿させる着物を身にまとっており、くせっ毛の黒いセミロングをサイドテールにしている。

 

 

「この2体の深海棲艦は機動力に優れているが攻撃力は戦艦棲姫よりは劣るという特徴を持っており、駆逐艦や軽巡洋艦に近い性質を持っていると思われる、よって我々は右側の鎧を『軽巡棲姫(けいじゅんせいき)』、左側の和服を『駆逐棲姫(くちくせいき)』と名付け、新たな敵勢力と認識する」

 

 

「(駆逐棲姫に軽巡棲姫…こんなのが一度に攻めてきたら海軍の全戦力を束にしても敵わないんじゃねぇのか…?)」

 

 

「(お前らんとこの白兵戦ならいけるんじゃね?)」

 

 

「(無茶言うな、飛行場姫1体にボロボロにされたのに5体全部とか無理ゲーにも程があんだろ…)」

 

 

奥村と海原がひそひそ話していると、南雲の話は臨時設営本部でのそれぞれの提督の役割分担に移っていた、南雲はそれぞれの提督に役割を振り分ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、何で俺の担当がここなんだよ!」

 

 

海原が大会議室で納得のいかないといった様子で言う、海原に割り当てられたのは大会議室に設営される中央司令部の総監督だ、これから出撃する各艦隊の状況を逐一把握し的確な指示を出す、まさに艦娘たちの司令塔といった超重大な役割である。

 

 

「こういうのは木村がやるもんだろ、あいつここの提督なんだし…」

 

 

「海原司令官、その愚痴もう3回目ですよ、いい加減腹を括ってはいかがですか?」

 

 

と、口を開けば愚痴しか出てこない海原に対して隣にいる艦娘…駆逐母艦『早瀬(はやせ)』が呆れ気味に言う。

 

 

駆逐母艦とは補給艦の一種で、史実では主に駆逐艦などの小型艦艇に物資を補給するための艦だ、潜水母艦大鯨の親戚といった所だろうか。

 

 

この早瀬も補給艦としての機能を艤装に有しており、戦闘海域での兵站の要として重宝されている、しかしどこまで行っても本質は補給艦なので戦闘力は無いに等しい。

 

 

「そうは言いますけどね早瀬さん、俺みたいな窓際鎮守府の外され者がやるよりも主戦力鎮守府のトップである木村がやった方がよっぽど戦果がでると思うわけでございますよ」

 

 

「謙遜しなくてもいいんですよ海原司令官、あなたの艦隊指揮能力は群を抜いていると所長が仰ってましたから、そんな方と作戦行動が出来て私も嬉しいです」

 

 

「所長…こんな神聖な幼女艦娘(ホーリーロリボディ)になんて尾ひれを吹き込んで…」

 

 

早瀬からの期待の眼差しに海原は思わず眩しさを感じて目をそらす、長年の台場生活で荒んだ自分の心は早瀬の純粋無垢には強すぎる。

 

 

「そういや早瀬、司令部総監督の俺のサポートって事で造船所からお前がやってきたわけだが、お前は何が出来るんだ?」

 

 

「私が来て1時間以上経ってようやくそれを聞きますか…」

 

 

今更な質問をされて早瀬がため息をつく。

 

 

「私の役割は簡単に言えばオペレーターです」

 

 

「オペレーター?」

 

 

早瀬の発言の意図が分からず海原が首を傾げる。

 

 

「さっき海原司令官に配線してもらったそこの機械がありますよね?」

 

 

「あぁ、なんかやけにアンテナとかたくさん立ってるコレのことか」

 

 

海原は先程までせっせと準備していた大きめの機材を見ながら言う。

 

 

「この機械と私の艤装をケーブルで繋いで、こうすれば…」

 

 

早瀬は機材と自分の艤装をケーブルで接続し、さらに自身の電探と手のひらに乗るくらいの正方形の機材をケーブルで接続し、電探の電源を入れる。

 

 

「うおっ!?」

 

 

刹那、海原は目の前で起きた出来事をすぐ理解出来なかった、床に置いた正方形の機材からはまるで映写機のように半透明の立体映像が映し出されて現れた、見えているのはモニターだろうか?監視カメラの親機のように何分割にもなった画面が砂嵐を映している。

 

 

「これは…?」

 

 

「今回参加する艦娘の電探と艤装内蔵カメラを写す大型モニターです、作戦が始まったら全艦隊の戦闘状況が一斉にここから見ることが出来ます、もっとも艦娘全員となると流石に数が多いので各艦隊旗艦(リーダー)のモノに限定されますが…」

 

 

早瀬はそう控え目に言う、戦闘力は皆無の早瀬だが、彼女には他の戦闘艦娘にはない唯一無二の特徴がある、それがこの複数の戦況を同時に把握・認識し思考する事が出来るオペレーション能力だ、その指揮系統能力は他の艦娘の誰よりも秀でている。

 

 

「すげぇ…早瀬にこんな能力が…」

 

 

「各艦隊の大まかな戦況はここから確認できるので、私はその中で危なくなった部分や急な判断を要するモノをピックアップして海原司令官にお伝えします」

 

 

「それを俺がビシッと指示すればいいわけだな?」

 

 

「はい!私の力と海原司令官の艦隊指揮能力が合わさればまさに鬼に金棒です!」

 

 

(どうしよう…期待がすげー重い!)

 

 

早瀬のキラッキラな目で見つめられて海原は再び目を逸らしてしまう、やはり神聖な幼女艦娘(ホーリーロリボディ)は海原の天敵らしい。

 

 

「そういえば、海原司令官の補佐としてもうひとり駐屯基地から司令官が来るんですよね?」

 

 

「あぁ、そろそろ来る頃だと思うぞ」

 

 

海原と早瀬がそんな会話をしていると、会議室のドアがノックされてひとりの男が入ってくる、年は20代前半くらいだろうか、顔立ちはかなり整っているが、不健康なのか目つきだけは鋭い。

 

 

「失礼します、海原さんの補佐として本日任務に付きます、新潟駐屯基地所属の伊刈戒人(いかりかいと)といいます、どうぞよろしくお願いします!」

 

 

伊刈はそう言ってビシッと敬礼する。

 

 

 




次回「深海棲艦の祖」

キャラクター募集でいただいた早瀬と伊刈戒人登場。

早瀬のオペレーション能力は「神のみぞ知るセカイ」の落とし神モードを想像してもらえれば分かりやすいと思います、神のみ知らない人は画像検索してみてね。

○オマケ

【挿絵表示】

ツ級に金剛、霧島、鳥海の攻撃をカスダメで吸われたせいで護衛棲姫倒し損ねた図。

ツ級ウウウウウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!


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第175話「東京湾沖海戦11」

やっとE-4クリアしました!

【挿絵表示】

三式弾とかの有効装備何一つ持ってなかったけどどうにかなりました!

でも音量OFFにしていたせいで撃破ボイス聞き損ねた…

てかクリア報酬のカタパルトって何ぞ?万年不調の利根に使うと喜ぶとか?


早瀬の艤装の準備を終えた後、今回参加する艦隊の電探、及びカメラ情報をディスプレイに投影させる作業に入る。

 

 

『リブラ隊、レオ隊の電探及びカメラ接続を確認しました』

 

 

早瀬は機械のような感情希薄な口調で確認作業を行っていく、普段は感情豊かな早瀬だが、オペレーターの本領を発揮する官制モードに入るとこのように淡々とした口調になる、何でも感情に流されず事実のみを正確に伝え、判断するための機能らしい。

 

 

今回参加する艦隊は12艦隊、それぞれに艦隊名が付けられており、作戦中はそれで艦隊を判断する。

 

 

『ヴァルゴ隊、タウロス隊、アクエリアス隊の電探及びカメラ接続を確認、サジタリウス隊のカメラに接続不良を確認、艦隊旗艦(リーダー)は確認作業をお願いします』

 

 

12個のモニターを前に早瀬はまるで全てを同時に見ているかのように、素早く、かつ的確な指示を出していく。

 

 

「…すげぇな、流石はオペレーター艦として建造されただけのことはあるぜ」

 

 

「確かにそうですね、これには私も目を見張るものがあります」

 

 

海原と伊刈はその様子を見て目を丸くしていた、自分たちの補佐(サポート)としてやってきたはずの彼女だが、これではどちらがメインなのか分からない。

 

 

「でも、台場鎮守府の海原さんと一緒に任務につけて良かったです、海原さんとは一度会ってお話ししたいと思ってましたので」

 

 

「ん?俺の事知ってるのか?」

 

 

「えぇ、深海棲艦との混血艦(ハーフ)の艦娘を置いてる異端の提督だって噂が私の所まで来てましたから」

 

 

「とうとう異端呼ばわりか、別に気にしてねぇからいいけどさ」

 

 

伊刈の口から語られる自分に対する評価を海原は軽く流す。

 

 

「私は海原さんを異端だとは思いませんよ、むしろ私の目的を達成するために必要な事を知ってるかもしれない人だと思ってずっと会いたいと思ってました」

 

 

「伊刈の目的?」

 

 

「はい、深海棲艦との“和解”です」

 

 

伊刈のその言葉を聞いて海原は少し驚いた顔をするが、すぐに元の表情に戻る。

 

 

「和解か、そんな事を言う奴は今時珍しいな、何か理由があるのか?」

 

 

海原にそう問われた伊刈はどう答えようか悩んでいるようであったが、やがて口を開き、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、深海棲艦に命を救われた事があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらレオ隊旗艦(リーダー)ローマ、電探及びカメラの接続を開始しました」

 

 

 

東京湾近海、今回の作戦に参加する艦隊のひとつ、レオ隊の旗艦(リーダー)をつとめる艦娘…戦艦ローマは電探と艤装装着型の記録カメラの接続確認をしていた。

 

 

『レオ隊の電探及びカメラの接続を確認しました、引き続き作戦を遂行してください』

 

 

ローマの耳に装着しているインカムから早瀬の感情希薄な声が返って来たのを聞くと、後ろを振り向いて僚艦の様子を見る。

 

 

「みんな、コンディションはどう?」

 

 

そう言ってローマが見る僚艦の姿は、とても懐かしさを感じる面子であった。

 

 

「大丈夫です!いつでも戦えます!」

 

 

「私も万全です」

 

 

「おう!アタシもだぜ!」

 

 

「当然じゃない!敵をミンチにする準備は万端よ!」

 

 

「私も大丈夫です!」

 

 

ローマ、瑞鶴、加賀、摩耶、暁、吹雪で構成されたレオ隊は、奇しくも北方領土奪還作戦で戦ったメンバーと全く同じだったのだ。

 

 

「でも、またこのメンバーで集まれるなんて思ってもみなかったわ」

 

 

「本当ですよね、何かの縁を感じます」

 

 

ローマと瑞鶴が楽しそうに談笑していると、加賀が思い出したように吹雪に聞く。

 

 

「そう言えば、あなたたち以外の台場組もここに来てるの?」

 

 

「来てますよ、サジタリウス隊に曙とマックスが、アリエス隊に台場鎮守府から駆り出された三日月と雪風がいます、残りは鎮守府の防衛でお留守番してます」

 

 

「そう、台場組がそんなに来てるのなら、今回の戦いは多少こちらに利があるかもしれないわね」

 

 

「いや…知ってるとは思いますけどみんな駆逐艦ですよ?」

 

 

「何を言うの、台場組の戦闘力の高さは私たちがよく知ってるわ、大演習祭(バトルフェスタ)での活躍もしっかり見せてもらったし」

 

 

「そうそう!頼りにしてるからな!」

 

 

合いの手を入れるように摩耶も会話に混ざる。

 

 

「はい!頑張ります!」

 

 

「摩耶さんも結構まともな事言うのね、流石は艦娘界の腹ボテ担当ね」

 

 

「勝手に変な二つ名つけんじゃねぇ!あと誰が腹ボテだ!妊娠なんてしてねぇよ!」

 

 

「だってそのお腹みたら…ねぇ?」

 

 

「もうアタシの腹弄るの止めてもらえませんかねぇ!てか見るな!触るな!摘まもうとするなぁ!」

 

 

暁と摩耶の微笑ましいやり取りに、助け船を出そうとする者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾遠海よりもさらに遠海、七海たちは大量の深海棲艦を引き連れて東京湾へと向かっていた。

 

 

「…そろそろ目的地に到着する頃ね、あと15分くらいかしら」

 

 

先頭にいたベアトリスがレーダーを見ながらおおよその到着時間を予測する。

 

 

「七海様、お願いします」

 

 

ベアトリスが一番後ろを航行している七海に頭を下げると、七海は頷いて艤装を動かす、七海の艤装は至極シンプルなモノだった、腰のベルトから2本の支柱が横方向に一直線に伸びており、その左右両端には艤装の本体がある。

 

 

その本体もシンプルな作りであり、簡単に言えば抽選会などでのくじ引きで使われる穴の空いた黒い箱が巨大化したモノ…と言えば分かりやすいだろうか。

 

 

「…飛行場級形態(エアポートフォルム)

 

 

七海がそう呟くと、艤装の穴の部分からメガホンのようなモノが付いた太いホースが飛び出し、それが上空を向く。

 

 

御霊骸(ミタマムクロ)、発射」

 

 

ボン!という音と共にメガホンから白い弾が飛び出し、上空に撃ち出される。

 

 

そしてそれは空中で数機の艦載機へと姿を変えた、本体は動物の頭骨を思わせるほど白く、目のように見える穴からは紫色の淡い光が漏れ出している、それはまるで鬼火を宿した髑髏(されこうべ)のようであった。

 

 

「…敵を捕捉、数は50以上」

 

 

ゆうに十数キロは離れている距離だというのに、七海の艦載機…御霊骸は敵の情報を大まかだが読み取って見せた。

 

 

「へぇ、艦娘たちも本気ってわけね」

 

 

「その方がやりがいがあるってものよ」

 

 

エリザベートとシャーロットもこれから始まるであろう戦いに胸を踊らせるように嗤う。

 

 

()()()()も存分に暴れさせてやるからね、楽しみにしてなさい」

 

 

そう言ってシャーロットは従えている石像(ゴーレム)のような半自立型の艤装を撫でる、すると石像(ゴーレム)は小さく震える。

 

 

「随分とやる気なのね、これなら今回は楽勝かな?」

 

 

シャーロットはそう満足げに言うと、後ろを航行しているメアリーとマーガレットの方を見る、大きなカプセルを乗せたボートを牽引しており、中には使い捨ての切り札が眠っている。

 

 

「あなたたち、しっかり引っ張るのよー」

 

 

「シャーロット先輩も手伝って下さいよ~」

 

 

「これ結構重いんですよ…」

 

 

メアリーとマーガレットはシャーロットに助けを求めるが、当の本人は朗らかに笑ってスルーしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この戦いで艦娘を多く失わせれば人間の守りは薄くなる、そこを突けば人類抹殺計画は大きく歩みを進められるはず)

 

 

(だから博士、もう少しだけ待っていてください、あなたの願いは、私が叶えます)

 

 

 

そんな和やかな光景を後ろで眺めながら、七海は密かに決意を固めていた。




次回「単体複心」

そう言えば神威ゲットしたはいいけどどう使えばいいのやら…


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第176話「東京湾沖海戦12」

春イベントですが、最終的な結果はこうなりました。

【挿絵表示】

残念ながらクリアならず。

最終形態で戦艦棲姫が出て来たときは「あ、無理だ」ってなりました。


「深海棲艦に…助けられた?」

 

 

伊刈の言葉に海原は思わず言葉を失う、深海棲艦に命を救われたというのは、どういうことだろうか?。

 

 

「今から7年前、当時提督をやっていた私の父と乗っていた船が嵐にあって、その時波に揺れた衝撃で私は海に投げ出されてしまったんです」

 

 

「…それを助けたのが深海棲艦だと?」

 

 

海原がそう言うと、伊刈は頷いて肯定する。

 

 

「その深海棲艦は荒波に揉まれてまともに泳げなかった私を近くの入り江まで運んでくれました、深海棲艦の話は当時子供だった私も父から聞いていたので最初は恐怖するしかなかったんですけど、その深海棲艦は優しい声で“大丈夫”、“怖くないよ”と私に話し掛けてくれたんです」

 

 

「言葉を話す深海棲艦…姫級か…」

 

 

人間を助けた姫級の深海棲艦、俄には信じがたい話だが、伊刈が嘘を吐いているとは思えない。

 

 

「その深海棲艦は嵐が収まるまで私を介抱して、一番近くの海岸まで運んでくれたんです」

 

 

「…その深海棲艦はどうなったんだ?」

 

 

海原が伊刈にそう問い掛ける、今の伊刈の話が事実であれば、深海棲艦と人類の関係を大きく変えるきっかけになる存在になっているだろうし、今とはもう少し違う結果になっていたはずだ。

 

 

「…残念ですが、私を送り届ける際に艦娘に“人(さら)いの深海棲艦”と誤解されて倒されてしまいました、その艦娘や父にも事情を説明したんですが、敵に洗脳されたに違いないって言われて誰も信じてくれませんでした」

 

 

「…なるほどな、だからお前は和解を…」

 

 

伊刈が深海棲艦との和解を望んでいる理由を知った海原がそう言うと、伊刈は頷く。

 

 

「確かに深海棲艦は私たち人間に牙を剥く敵です、でもあの時私を助けてくれた深海棲艦のような個体もいるのであれば、対話が出来て、それが進めばこの戦争も終わりが見えてくるんじゃないかと思うんです」

 

 

「だからお前は吹雪たち混血艦(ハーフ)に興味を持ってたのか」

 

 

「はい、深海棲艦に関する情報を知ることが出来れば、和解という結末に近づけるんじゃないかと思って…」

 

 

そう自分の過去や思いを打ち明けた伊刈だが、それを聞いた海原はどこか申し訳無さそうな表情をしていた。

 

 

「伊刈には悪いが、吹雪たちは深海棲艦だったときの記憶はほぼ無いんだ、だからお前が欲しがっているような情報は持ってないと思う、すまない」

 

 

「いえいえ!海原さんが謝るような事は何もないですよ!これは私のわがままですし!」

 

 

頭を下げて謝罪する海原に慌てて両手を振ってそれを否定する伊刈。

 

 

「でも、深海棲艦との和解は俺も賛成だな、俺も最初は深海棲艦に復讐するために提督になったけど、吹雪たちを見てるうちにそんな未来もありなんじゃないかって思い始めてる」

 

 

「海原提督、伊刈提督、お話中のところ申し訳ありませんが、前衛の4艦隊が会敵しました」

 

 

海原と伊刈が話をしている中で早瀬が無感情な声でそう告げる。

 

 

「本当か早瀬!?」

 

 

「はい、前衛に水上打撃艦隊と空母機動艦隊によるバリケード、後衛には空母棲姫、戦艦棲姫、飛行場姫、軽巡棲姫、駆逐棲姫、そして正体不明の深海棲艦の6体による本隊の二段構えです」

 

 

「…敵も本気ってわけか」

 

 

「苦戦が予想されますね…」

 

 

早瀬の艤装モニターに表示されているカメラの映像を見た海原と伊刈が顔をしかめる、まさに艦隊決戦の名に相応しい布陣だ。

 

 

「お二人とも、艦隊指揮の配置についてください」

 

 

「OK了解だ、伊刈!とっとと勝って終わらせるぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

ふたりはインカムをそれぞれ付け、戦いを始める。

 

 

 

 

 

 

「…なによあの数」

 

 

「見たところ50体以上はいるわね」

 

 

「こりゃ骨が折れそうだぜ…」

 

 

眼前に広がる敵連合艦隊を見てレオ隊の面々は唖然とする、こんな数の敵を一度に見るのは初めであるし、さらに後ろには姫級の深海棲艦が5体もいる。

 

 

今回の布陣は前衛、中衛、後衛に4艦隊ずつ配置する三段構えの隊列になっている、まず前衛のアリエス隊、レオ隊、アクエリアス隊、ヴァルゴ隊は主力戦艦や空母を中心とした火力重視の艦隊で、持ち前の攻撃力で敵を一気に叩き数を減らす。

 

 

中衛のサジタリウス隊、タウロス隊、スコーピオン隊、カプリコーン隊は水雷戦隊を中心とした機動力重視の艦隊で、前衛が取りこぼした敵や攻撃を耐えてダメージを負った敵をヒットアンドアウェイで追撃し仕留める。

 

 

そして後衛のリブラ隊、ジェミニ隊、ピスケス隊、キャンサー隊は再び火力重視の主力艦隊で、ここまで防衛ラインを突破してきた敵を完膚無きまでに叩きのめす。

 

 

各艦隊はこのような布陣になっている、それぞれの艦隊はその都度状況を見て隊列を入れ替えるようになっており、仲間の消耗にも対応できるようになっている、後衛の後ろには補給部隊も待機したいるため、現在整えられる中では盤石の布陣で望んでいる。

 

 

『敵艦隊、前衛の射程圏内に入りました、戦闘を開始してください』

 

 

「…よし!みんな行くわよ!戦闘開始!」

 

 

 

「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」

 

 

ローマの合図と共にレオ隊含め前衛艦隊が敵艦隊のバリケードに突撃し、戦いの火蓋が切られた。

 

 

まずは瑞鶴と加賀含む空母たちが艦載機を発艦させ、バリケードの一掃をはかる。

 

 

「向こうも攻めてきたか、女王兵級(クイーン)幼女王兵級(リトルクイーン)返り討ちにしてやりなさい!」

 

 

ベアトリスの指示に従い、空母棲艦と軽母棲艦が艦載機を発艦、艦載機同士の戦い(ドッグファイト)に持ち込む、実力は艦娘側が優位に立っており、最前列をうろついている駆逐棲艦や軽巡棲艦をちらほらと撃沈していく。

 

 

「向こうも結構やるわね、シャロ、ちょっと暴れてきてくれない?」

 

 

「了解、行くわよ、()()()()()!」

 

 

シャーロットは艤装の石像(ゴーレム)を従え、前列の艦娘部隊に向かって突撃していく。

 

 

『戦艦棲姫が向かってきます、総員迎撃体制に入ってください』

 

 

早瀬のオペレーションに前衛艦隊が身構える、その時、シャーロットを見ていた吹雪と暁が違和感に気づく。

 

 

「…えっ?」

 

 

「嘘…でしょ…?」

 

 

その違和感の正体に気付いた吹雪と暁は身を小さく震わせ、額を脂汗が伝う。

 

 

「…どうしたの?吹雪、暁」

 

 

その様子にどこかおかしいと感じた瑞鶴が2体に尋ねる。

 

 

「…シャーロットの後ろの石像(ゴーレム)、“面影”があります…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それも、10体以上の…」

 

 

吹雪の言葉に、レオ隊の全員が言葉を失ってしまう。




次回「失敗作」

深海棲艦になることすら叶わない…

○おまけ
今回のイベントで初ゲットした艦娘たち。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

ヒトミが出撃2回目でゲットできたのは運が良かったです、前回の雪辱は果たしたぜ(イヨは別として)。

海防組は全員ゲットしておきたかったな…


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第177話「東京湾沖海戦13」

投稿がすっかり遅くなってしまいました、それもこれもペルソナ5ってヤツが悪いんだ。

南西諸島海域のどこかでドロップしてから今日まで我が艦隊の主力を支えてきた!!!吹雪タイム!!!初戦艦の金剛が改二になりました!初戦艦で思い出深い艦娘なので嬉しいですね~。

【挿絵表示】

…その割には南西諸島のどのステージでドロップしたか思い出せないのですが。

そう言えばまとめサイトなどで「好きな艦これ二次創作は誰の何?」と言った話題を度々目にしますが、このテーマで大々的にアンケートとか取ったら面白そうだと思います。


「どういうこと…?“面影”って、深海棲艦が艦娘だった時の姿なんでしょ?」

 

 

「それが複数見えるとうことは、あの石像(ゴーレム)は何体もの艦娘から出来ている…ということ…?」

 

 

シャーロットの艤装についてそれぞれ考察する瑞鶴と加賀だが、それを許すほど敵の気は長くなかった。

 

 

シャーロットが石像(ゴーレム)を急接近させると、アリエス隊の駆逐艦娘をその剛腕で掴み、逆さ吊りの状態にする。

 

 

 

「…やれ、アルビオン」

 

 

シャーロットは艤装の石像(ゴーレム)…アルビオンにそれだけを命令する、アルビオンは駆逐艦娘の両足を器用に握ると…

 

 

 

 

 

そのまま思い切り引き裂いた。

 

 

「…え?」

 

 

何が起きたのか前衛の艦娘は理解ができなかった、ブチブチブチ!という物凄い音と共に駆逐艦娘の身体は裂けるチーズも裸足で逃げ出すほど綺麗に真っ二つになっており、その断面からは内臓や脳、そして大量の血液が海面を赤く染めながらドボドボと落ちていく。

 

 

前衛部隊がパニック状態になったのはその直後だった、アルビオンが砲を撃てば命中した艦娘は戦艦であろうが容赦なく大破状態にされ、接近されれば剛腕で殴られ頭を潰される、艤装の加護でもその威力を殺しきる事は出来ず、1体…また1体と艦娘が命を散らしていく。

 

 

艦娘たちは負けじと砲撃をアルビオンに浴びせるが、防御力が高いのかダメージはほとんど通っていない。

 

 

「まずいわよ!このままじゃ前衛艦隊がガタガタになる!」

 

 

「どうにかしないとマズいわね…」

 

 

瑞鶴とローマが対策を考えていたが、アルビオンのターゲットがとうとうレオ隊に向いてしまい、即死級のパンチが飛んでくる。

 

 

「はあっ!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)でアルビオンのパンチを受け止める、凄まじい衝撃と激痛が吹雪を襲い、骨が軋む音が聞こえる。

 

 

「…へぇ、艦娘にしては中々やるじゃない」

 

 

「それはどうも、あなたのその艤装…アルビオンも中々のものですね、いったい何体の艦娘を使ってるんですか?」

 

 

腕の痛みに顔をしかめながら吹雪はシャーロットにそう返す。

 

 

「あら、アルビオンの正体を見破られたのは初めてね、そうね…大体20体かしら、ヒュースに改造するときの失敗作をまとめたモノがこのアルビオンよ」

 

 

「っ!?失敗作の寄せ集め…!?」

 

 

シャーロットの言葉に吹雪たちは目を剥いた、吹雪たち元深海組は深海棲艦によって改造されて作られた存在だ、それが失敗した姿のなれの果て…それが目の前のアルビオンだというのか。

 

 

戦艦級(バトルシップ)飛行場級(エアポート)巡洋艦級(クルーザー)、全種の艦娘の遺伝子を寄せ集めて作られてるから能力は折り紙付きよ、アルビオン!」

 

 

シャーロットの指示でアルビオンは再び吹雪たち目掛けてメガトンパンチをお見舞いする。

 

 

「させないわよ!」

 

 

すかさず暁が棘棍棒(メイス)を拳に叩きつけて防御、その衝撃で暁が数メートル後ろにずり下がる。

 

 

「いたた…中々クルわね…」

 

 

両腕の痺れに耐えながら暁はシャーロットとアルビオンを睨み付ける、棘棍棒(メイス)を直に殴ったにも関わらずアルビオンの拳には傷ひとつ付いていなかった。

 

 

「……」

 

 

ローマはチラリと他の艦隊の様子を見やる、控えの艦娘が入れ替わり立ち替わりで素早く交代しながら戦うスイッチ戦法のおかげで前衛はかろうじて持ちこたえているが、それも長くは続かないだろう。

 

 

「てか、戦艦棲姫自体は攻撃してこないのか?ずっとアルビオンが戦ってるけどよ」

 

 

摩耶の言葉に全員がはたと気付く、確かにシャーロットの攻撃は強力だが、それらは全て彼女の従えているアルビオンが行っており、シャーロット自身はアルビオンと繋がっているコードの長さに気を付けながら移動しているのみ、攻撃をしてくる様子はない。

 

 

「…もしかしてシャーロット本体はそれほど力を持っていない…?」

 

 

その仮説が正しいのであれば、こちらがやれることはひとつしかない。

 

 

「総員、戦艦棲姫本体に向けて攻撃!」

 

 

ローマの合図でレオ隊の全員がシャーロット本体に砲撃を行う。

 

 

「っ!!アルビオン!」

 

 

それに気付いたシャーロットはアルビオンを自身の前に立たせ、盾にして攻撃を防ぐ、戦艦や空母の攻撃をまともに食らったアルビオンは爆炎と硝煙に包まれる、しかしアルビオンにはそれほどダメージは入っていないようで、煙を振り払って咆哮する。

 

 

「かかったわね!」

 

 

するとそれを待っていたかのように吹雪がアルビオンに接近し、アルビオンの口の中に何かを投げ入れる。

 

 

「あの艦娘何を…?」

 

 

その行動にシャーロットは首を傾げたが…

 

 

「━━━━━━━━っ!!!!!」

 

 

刹那、アルビオンの外皮(がいひ)の一部が内側から吹き飛んだ。

 

 

「何だと!?」

 

 

突然ダメージを受けたアルビオンを見てシャーロットは目を剥いた。

 

 

「何かあったときのために大鯨さんから何個か貰ってきてましたけど、早速お役立ちですね」

 

 

そう言って吹雪が手にしたのは普段大鯨が戦闘で使っている手榴弾だ、外側がダメなら内側から…という事でアルビオンの口から体内に手榴弾を放り込み、内側から直接ダメージを与えたのだ。

 

 

「おのれ…!」

 

 

シャーロットは憎らしげに吹雪を睨みつけるが、アルビオンに攻撃をさせようとはしない、今の手榴弾によるダメージが堪えているようだ。

 

 

「シャーロット先輩!一度下がってください!ここは私が場を繋ぎます!」

 

 

そう言ってエリザベートがシャーロットと入れ替わりで現れた、5メートル四方の正方形の形をした艤装の上に立っており、その身には滑走路を思わせる防御兵装リコリスを、そしてDeep Sea Fleetを散々苦しめたけん玉を装備している。

 

 

「久しぶりねあの時の艦娘!今日は徹底的に追い詰めてやるから覚悟しておきなさい!」

 

 

「うぅ…エリザベートとは二度と戦いたくなかったのに…」

 

 

「あのけん玉を見ただけで胸の辺りが痛むわ…」

 

 

過去の戦いの記憶を刺激されて古傷が痛み出す吹雪たちと暁、特に暁は肋骨複雑骨折に内臓多数破裂の重傷を負わされたので尚更戦いたくはないだろう。

 

 

「さぁ!第二ラウンド開始よ!」

 

 

エリザベートが意気揚々とけん玉を掲げたが…

 

 

「っ!?」

 

 

その直後、エリザベートの艤装に激しい衝撃が走り、水柱が上がる。

 

 

『かかったみたいですね』

 

 

すると、ローマのインカムから早瀬の無機質な声が聞こえる。

 

 

『レオ隊のあなた達が飛行場姫と対話している隙に空母棲姫と交戦していた水雷戦隊の一部に雷撃をさせたんですよ、これだけの魚雷を食らえばいくら姫級といえど…』

 

 

大ダメージは免れない、と言おうとしたが…

 

 

 

「残念~、私に雷撃は利かないのよ、なんて言ったって私の兵装は雷撃を無効化するんですもの」

 

 

エリザベートの愉しそうな笑い声にそれは塗りつぶされた。




次回「イカダ」

陸上型の秘密。


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第178話「東京湾沖海戦14」

富士急ハイランドで瑞雲祭りなるイベントが開催されるようですが、この前の飛行機といい艦これのコラボは予想の斜め上をいきますね。


「雷撃が利かない艤装…!?」

 

 

「そんなのアリかよ!」

 

 

水雷戦隊の雷撃を無効化したエリザベートの艤装にレオ隊の面々は動揺を隠せない。

 

 

「だったら砲撃で仕留めるのみ!」

 

 

ローマが砲撃をエリザベートに浴びせるが、リコリスによってそれを防いでしまう。

 

 

「くっ…!雷撃は無効化されるし砲撃は防御兵装でダメージ軽減…こちらの攻撃手段を徹底的に潰してくるわね」

 

 

「ムカつく奴だな!」

 

 

「ムカつく?最っ高のほめ言葉ね!」

 

 

摩耶の苦言にエリザベートは顔をニタつかせると、けん玉を前衛艦隊に向けて力一杯振るう。

 

 

「うわあ!」

 

 

「きゃあっ!」

 

 

けん玉は前衛艦隊の艦娘たちを次々と巻き込みながら横なぎに飛んでいき、打撃ダメージを与えていく。

 

 

「てやああぁっ!」

 

 

それをかわした吹雪が手甲拳(ナックル)でエリザベートに殴りかかるが、これもリコリスを自身の正面に構えて防御、簡単に押し返されてしまう。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

そして艤装の四隅に取り付けられている砲台からの砲撃で吹き飛ばされる、戦艦の主砲ほどの威力は無いが、艤装の主を守るためにあるそれは要塞砲といったところか。

 

 

「このっ…!」

 

 

吹雪はヤケクソ気味に魚雷を発射するが、やはり艤装がダメージを負っているようには見えない。

 

 

「だから魚雷は無駄だって言ってるでしょ!!」

 

 

エリザベートは防御していた方の手に主砲を持つと、吹雪に照準を合わせる。

 

 

「やば…!」

 

 

吹雪はとっさの判断で魚雷を一本エリザベートの足元に向かって投げる、爆発の衝撃で足元をふらつかせて照準をズラそう、そう考えての魚雷投擲だったのだが、艤装の効果でダメージが入らない可能性の方が高いだろうと内心思っていた。

 

 

「きゃっ!」

 

 

「…えっ?」

 

 

しかし、吹雪の予想と反して魚雷は艤装の上でもしっかりと爆発し、その爆炎と衝撃波がエリザベートをふらつかせて砲撃を妨げる。

 

 

(どういうこと…?エリザベートの言うことが本当なら魚雷は無効化されるはずじゃ…?)

 

 

 

一度エリザベートから距離を取って頭をフル回転させる吹雪、するとある可能性が頭に浮かぶ。

 

 

「…ローマさん」

 

 

「どうしたの吹雪?」

 

 

「あのエリザベートの艤装なんですけど…」

 

 

 

 

 

「…中々しぶといわね」

 

 

後方で戦況を観察していた七海は若干イラついた様子で呟いた、開戦からすでに30分以上が経っているが、いまだにこちらの部隊が艦娘の三重バリケードを突破できる様子がない。

 

 

「…メアリー、マーガレット」

 

 

「はい」

 

 

「何でしょうか七海様?」

 

 

自身の護衛に付いていたメアリーたちを呼ぶと、七海は最後のカードをオープンする。

 

 

狂戦姫(ヴァルキリー)を起こして、実戦投入の準備を」

 

 

「「了解しました」」

 

 

メアリーたちは声を揃えて返事をすると、七海陣営の最後の切り札…キメラこと狂戦姫(ヴァルキリー)が眠っているカプセルを引いてくる。

 

 

「強力なヒュースなのに使い捨てなのが惜しいけど、きっとそれに見合うだけの戦果を上げてくれるでしょう、期待してるわよ、元艦娘さん」

 

 

七海は不気味な笑いを浮かべると、狂戦姫(ヴァルキリー)を覚醒させる。

 

 

 

「…グルル…グルギャ…!」

 

 

地獄の使者が目を覚ます。

 

 

 

 

 

『海原提督、リブラ隊とスコーピオン隊で大破艦娘が出ました』

 

 

「護衛艦娘を付けて即座に撤退させろ!回復済みの艦娘を出撃させて穴を埋める!」

 

 

『了解、指示を送ります』

 

 

「海原さん!金剛、長門、赤城の高速修復終わりました!」

 

 

「了解!すぐに出撃できるように桟橋で待機!」

 

 

「了解!」

 

 

中央司令部では海原と伊刈がひっきりなしに送られてくる状況報告に対して的確な指示を送り続けていた、開戦直後からこのような状況が続いているため、ふたりの頭は常にフル回転である。

 

 

「海原くん、忙しい所悪いが失礼するよ」

 

 

そんなとき、開けっ放しのドアから榊原が何の前触れもなく入ってきた。

 

 

「所長!?どうしてこんな所に?」

 

 

「早瀬の艤装に異常がないかを見に来たんだ」

 

 

そう言って榊原はノートパソコンを取り出すと、起動中の早瀬の艤装とケーブルで接続する。

 

 

「君たちの邪魔にならないようすぐに済ませるから少しだけここにいさせてほしい、早瀬の艤装は他の艦娘の艤装と違って作りが結構複雑だから細かなメンテナンスが必要なんだよ」

 

 

「いえいえとんでもないです!不測の事態になる方が大変なのでむしろありがたいですよ!」

 

 

「念入りにお願いしますね」

 

 

「了解、バッチリ仕上げてみせよう」

 

 

榊原はパチパチと音を立ててキーボードを指で叩く。

 

 

「艤装システムに異常なし、ディスプレイにも異常は…」

 

 

榊原はカメラの映像を映す12のモニターを順番に見ていく。

 

 

「っ!?」

 

 

すると、その内のひとつに視線が移ったとき、榊原は雷に打たれたように固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…嘘…だろ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…所長?」

 

 

その様子に海原は首を傾げたが、榊原にそれを気にするほどの余裕は無かった。




次回「届かなかった手」

救えっこ無いのに…

○おまけ

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一撃重傷とか笑えないんですが…槍こえー…

そう言えば刀剣乱舞にも重傷で撤退しなかったら轟沈みたいなことになるのだろうか…


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第179話「東京湾沖海戦15」

NicoBoxというバックグラウンドで音楽を再生出来るニコニコ動画のアプリがあるんですけど、それで別のゲームのBGMや音ゲーの曲を再生しながら艦これをやることにハマってます。

・天照/太鼓の達人
・忘却のティルナノグ/太鼓の達人
・狂花水月/星のカービィトリプルデラックス

個人的に上の3曲は戦闘BGMとして流すと盛り上がります。


「飛行場姫が乗っているのは艤装じゃない?」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

ローマと摩耶は吹雪の推理を聞いて首を傾げる。

 

 

「さっき魚雷をエリザベートにぶつけたときに思ったんです、もしあの艤装が本当に魚雷を無効化するなら、たとえエリザベートの足元からぶつけてもエリザベートにはダメージがいかないハズです、もちろん“無効化”の範囲にもよるかもしれませんが、少なくともさっきの攻撃では普通に爆発してました」

 

 

「…なるほど、そういうことなのね」

 

 

「…ごめん、アタシまだ分かんない」

 

 

吹雪の言わんとしていることを理解したローマに対し、摩耶はさらに首を傾げる。

 

 

「つまりエリザベートが乗っている物体は身体の一部である艤装ではなくただの浮島…鉄の塊です」

 

 

「…てことは、艤装じゃないただの鉄の塊に魚雷を当ててるだけだから飛行場姫自身にはダメージはいかない、噛み砕けばイカダやボートに乗りながら戦ってるようなもの…って事か?」

 

 

「はい、ボートの底を棒で突いてもその上にいる人には当たりませんから」

 

 

吹雪の説明に摩耶はあっけらかんとした表情になる、雷撃無効化などというトンデモ性能な艤装かと思えばふたを開けてみればただの鉄塊(イカダ)、全く笑わせてくれる。

 

 

「それじゃああの飛行場姫に雷撃を当てるには…」

 

 

「あの浮島を破壊するか、もしくはエリザベートを浮島から下ろすかのふたつしかないと思います、砲撃や空撃が盾で防がれてしまう現状では足元を狙うガード不能の雷撃が一番効果的ですから」

 

 

「まぁ、そうなるわよね、問題はどうやってあの浮島を破壊するかだけど…」

 

 

「ギャガアアアアアアァァァ!!!!!」

 

 

レオ隊がエリザベートの攻略法を話し合っていた時、突如耳をつんざくような雄叫びが七海陣営の方から聞こえてきた。

 

 

「何事!?」

 

 

「おいおい!何だありゃ!?」

 

 

見れば敵陣から弾丸の如きスピードでこちらに向かってくる1体の深海棲艦が見えた、体格は駆逐艦娘よりやや高いくらいで、首には黒い首輪(チョーカー)が付けられている、その背後からは大蛇を思わせる太長い尻尾が生えている、その尻尾の先端は歪な形をした口になっており、その奥からは砲身を覗かせている。

 

 

「ガアアアアアアアァァァァアアアァァァ!!!!!!!!!」

 

 

謎の深海棲艦は尻尾をうねらせながら前衛艦隊に向かってくると、アリエス隊の戦艦娘に尻尾の主砲で砲撃を食らわせる、その荒れ狂う姿はまるで旧約聖書の海の悪魔、レヴィアタンのようであった。

 

 

「がはっ!」

 

 

殴られた戦艦娘は勢いよく後方に吹き飛ばされ、中破のダメージを負う。

 

 

「はぁ!?戦艦娘が一撃で中破!?」

 

 

「あいつ戦艦棲艦!?」

 

 

レヴィアタンは続けて魚雷を3方向に扇状に撃ち出し、辺りの艦娘に命中させていく、食らった艦娘たちは戦艦だろうと空母だろうと大ダメージを負う、レヴィアタンは態勢が崩れた隙を見て一気に中衛の方まで進んでいく。

 

 

「雷撃!?」

 

 

「しかも何よあの威力!?」

 

 

レオ隊がレヴィアタンの戦闘力に度肝を抜いている時、吹雪と暁はあることに気付いた。

 

 

「…えっ?“面影”がある…?」

 

 

新種の戦艦棲艦に2体の“面影”があったのである、しかも常に見えている訳ではなく、映りの悪いノイズ混じりのテレビのように途切れ途切れに見えたり消えたりしている、まるでその“面影”の艦娘の自我が消えていこうとしてるような…。

 

 

 

そして、その“面影”にひどく見覚えがある艦娘がいた。

 

 

 

 

 

 

「嘘…で…しょ…?」

 

 

アリエス隊にいた三日月と雪風は自分の脇を駆け抜けていくレヴィアタンを見て我が目を疑っていた、何せそこに見える“面影”は…

 

 

「秋月…?夏潮…?」

 

 

かつて室蘭鎮守府で共に過ごした秋月と夕月のモノであったからだ。

 

 

「秋月!夏潮!」

 

 

三日月と雪風は艦隊行動も忘れてレヴィアタンの後を追い掛ける。

 

 

「あっ…!待ちなさい三日月!雪風!」

 

 

勝手に艦隊を離れていく2体に旗艦(リーダー)の矢矧が止めるが、三日月たちは構わず追い掛けた。

 

 

 

「秋月!夏潮!三日月よ!私のこと分かる!?」

 

 

三日月はレヴィアタンに呼び掛けるが、レヴィアタンも“面影”も何も反応がない、完全に自我を乗っ取られているようだ。

 

 

「グギャ…?」

 

 

すると、今声を掛けたせいかレヴィアタンがこちらを向き、三日月たちと目が合う。

 

 

「ガギャアアアアアァアアアアァ!!」

 

 

三日月たちを視界に捉えるなりレヴィアタンは尻尾の主砲を向け、猛スピードで向かってくる。

 

 

「っ!!」

 

 

溢れんばかりの殺気に満ちた鮮血のような眼に射竦められて三日月たちは固まってしまう、見知った“面影”を持つ深海棲艦から向けられる殺気に気圧されてしまったのだ、殺される、そう確信した三日月たちだったが…

 

 

「…えっ?」

 

 

その尻尾が三日月を捉える寸前のところでレヴィアタンはその動きを止めた、まるで彼女には攻撃できないという本能があるかのように…

 

 

「…ミ…カ……ヅキ…………?」

 

 

「っ!?」

 

 

レヴィアタンの口から呟かれたその言葉は、間違いなく自分の名前であった。

 

 

「秋月!?夏潮!?私が分かる!?」

 

 

「私だよ!雪風だよ!」

 

 

消えそうになっている“面影”や自我を呼び覚ませないかと三日月たちはレヴィアタンに呼び掛け続けるが…

 

 

「…ガギャ…?」

 

 

レヴィアタンの腕が、足が、胴体が溶けるように組織崩壊を起こし、どんどんその原型を失っていく。

 

 

「…えっ…?嘘嘘!?待ってよ秋月!夏潮!嫌だよ!消えちゃ嫌だよ!」

 

 

「待ってよ!私たち…もっと話したいこととかいっぱい…!」

 

 

 

三日月と雪風はレヴィアタンを逝かせまいと手を握って引き留めようとしたが、その手もついには崩れて無くなってしまった。

 

 

「…そんな…」

 

 

「秋月…夏潮…」

 

 

戦場のド真ん中ということも忘れ、三日月たちは泣き崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり持続時間は短かかったわね、あまり役には立たなかったかな」

 

 

 

 

 

そんな様子を見ながら、ベアトリスはそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい」

 

 

「今…何て言いました…?」

 

 

その言葉を聞いた三日月と雪風は、完全に自制心を無くしていた。




次回「始まりの深海棲艦」

子供は親から生まれる、じゃあ最初の親はどうやってこの世に生まれたんだろうね?


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第180話「東京湾沖海戦16」

冬イベでゲットして以降すっかりお気に入りの野分の声を担当している声優さんが小澤亜李さんっていうのを最近知ったんですけど、どこかで聞いた名前だな~って思ったら太鼓の達人のオリジナル曲「希望へのメロディー」を歌っている人だというのを今更になって気付く。

野分が歌っているのを想像しながらゲーセンでプレイしたらちょっと笑えた。


「ちょっとあなたたち!?落ち着きなさい!」

 

 

完全に怒りで支配された三日月と雪風は矢矧の制止も振り切り、深海棲器片手にベアトリスに向かって突撃する。

 

 

「あらあら、随分とその肉塊にご執心なのね、でもそれを失ったからって私たちは退かないわよ?牡丹雪!」

 

 

そう言ってベアトリスは牡丹雪を発艦させる、真っ赤な目を爛々と輝かせる半自立型戦闘機(サテライト)は三日月たちめがけて急降下してくる。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

「だりゃあぁっ!」

 

 

しかし三日月たちは深海棲器を使ってそれらを弾き飛ばし、無理やり道を作る。

 

 

「ちょっ…!いくら何でも滅茶苦茶でしょ!?」

 

 

目を剥いているベアトリスなど気にもとめず、三日月と雪風は槍斧(ハルバード)と青竜刀でベアトリスに斬ってかかる。

 

 

「ぐうぅっ!」

 

 

籠手でガードはしたものの、深海棲器による一撃はベアトリスの籠手を裂き、その身にダメージを与える。

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!」

 

 

三日月と雪風は完全に我を忘れて深海棲器による猛攻を繰り返す、装甲を砕き、皮膚を切り裂き、骨肉を断ち、思いつく限りの暴力を加える、より相手が痛がるように、苦痛を味わえるように、恐怖させられるように、そして殺しやすいように。

 

 

「くっ…そっ…!」

 

 

ベアトリスの艦種は艦娘で言うなら空母だ、艦載機を飛ばして超遠距離からの攻撃を得意とする、しかし手が届くほどの超至近距離からの攻撃には他の空母棲艦同様滅法弱い、艦載機を発艦させる余裕も無ければ至近距離からの空撃による相打ちの危険もあるからだ、人間から“姫”と恐れられる彼女でも自らの艦載機の攻撃を受ければ軽傷では済まない。

 

 

 

「アアアアアアアアァ!!!!!!!!」

 

 

「ガャアアアアアァアアアアァ!!!!!!!!」

 

 

ダメージを追ってボロボロになっていくベアトリスにトドメをさそうと喉が潰れんばかりの叫び声を上げて三日月たちは得物を振り上げる。

 

 

「ぐぎっ!?」

 

 

「ぐぁっ…!」

 

 

しかしその一手は敵の砲撃により阻まれてしまった。

 

 

 

「全く、ベアトリス先輩ともあろう方がこんなチンケな巡洋艦級(クルーザー)相手に苦労してどうするんですか」

 

 

「ここは私たちが相手をします、ベアトリス先輩はシャーロット先輩と一緒に休んでいてください」

 

 

メアリーとマーガレットがベアトリスを庇うように立ちはだかり、三日月と雪風に砲撃を加えたのだ。

 

 

「すまない…頼んだわよあなたたち…!」

 

 

ベアトリスは足を引きずるようにして後方へ下がっていく。

 

 

 

「コロス!」

 

 

「シネ!」

 

 

標的(ターゲット)が変わろうが三日月たちは依然として攻撃を止めず、メアリーたちに得物を向ける。

 

 

「残念」

 

 

「そんな怒りに任せた攻撃は簡単にかわせるのよ」

 

しかしメアリーとマーガレットは三日月たちの攻撃をまるでダンスを踊るようにひらりとかわす、そして…

 

 

「ひとつ教えておいてあげる、“怒り”を力に変える事は強さにおいて間違いではないわ、でも本当に強いのは…」

 

 

 

「その“怒り”を正しく力に変えられる“冷静さ”を持っている者よ、闇雲に怒りをぶつけているだけのあなたたちは、ただ目的も無く暴れているだけの愚かな獣よ」

 

 

三日月の腹にフルスイングでパンチを食らわせ、砲撃で後方へ吹き飛ばす。

 

 

「ごふぁ…!」

 

 

「ゲホッ…ゴホッ…!」

 

 

手痛い一撃を食らった2体は胃液を吐き出しながら嗚咽を漏らす。

 

 

「だから言ったじゃない!無謀なのよ!」

 

 

矢矧は2体を素早く後方へ下げると、メアリーたちに向けて砲を構える。

 

 

(とはいえ私は軽巡、戦艦は交代(スイッチ)作業で不在、相手は駆逐と軽巡でも姫クラス…勝てるのかしら…?)

 

 

矢矧は目の前の敵を見据えながらも、額に浮かぶ脂汗を止められずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたちさぁ、さっきから何度も雷撃ばかりやってるけど、いい加減無駄だって事を理解したら?」

 

 

こちらはレオ隊サイド、エリザベート撃破のためのいい案があるというローマの指示のもと、吹雪たちと中衛の一部水雷戦隊がエリザベートの浮島に雷撃を続けていた。

 

 

「ならその言葉、そっくりあなたに返しましょう」

 

 

 

依然エリザベートに目立ったダメージを与えられてはいないが、ローマは余裕を見せた表情でエリザベートに指を突きつけてこう言った。

 

 

「私はただ闇雲に雷撃を指示したわけではないわ、今までの雷撃が浮島のどこに向かっていたか、よく思い出してみなさい」

 

 

「え…?」

 

 

ローマにそう言われ、エリザベートは浮島に命中した雷撃の命中箇所を思い出す。

 

 

「…全て鋼鉄島前方の一カ所のみ…ってまさか…!?」

 

 

ようやくローマの狙いに気づいたエリザベートは顔を青くするが、すでに遅い。

 

 

「確かにめったやたらに雷撃を行ったらその浮島は強固な盾になるでしょう、でもそんな鋼鉄の島でも強力な雷撃を一カ所に集中的にぶつけられたら、耐久も脆くなるわよね?」

 

 

ローマはニヤリと笑うと最後の雷撃を水雷戦隊に指示し、魚雷を鋼鉄島にぶつける。

 

 

「っ!?」

 

 

すると、耐久力が限界に達した鋼鉄島の前面部に穴が空き、ものすごい勢いで浸水が始まる。

 

 

「きゃああっ!」

 

 

浸水で浮力のバランスを失った鋼鉄島は大きく傾き、エリザベートは海面に投げ出された、他の深海棲艦のように水上移動装置は付けていないらしく、沈まないように必死にもがいている。

 

 

「今よ!雷撃開始!」

 

 

ローマの号令により魚雷の装填を終えた水雷戦隊たちが魚雷を一斉にエリザベートに向けて発射。

 

 

「ぎゃああああああああぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

雷撃をまともに食らったエリザベートは一気に大ダメージを受け、溺れそうになる。

 

 

「全くもう…あんた泳げないんだから浮き輪のひとつでも持っておきなさいっていつも言ってるでしょ」

 

 

「…ごめんなさい」

 

 

するとアルビオンを休ませるために後方にいたシャーロットがエリザベートの身体を抱えて再び後ろへと下がる。

 

 

 

 

「…マズいわね」

 

 

少しずつ劣勢になっていく戦況に七海は焦りを感じ始めていた、ベアトリス、シャーロット、エリザベートが戦闘不能、そしてメアリーとマーガレットもいつまで保つか分からない、単純な個々の戦力で言えばこちらに分があるが、向こうは控えの艦娘を絶えず入れ替えているのでこちらの一方的な消耗戦になってしまっている。

 

 

「…仕方ない、私も行くか」

 

 

七海は意を決したように呟くと、艤装を変化させて前衛へと繰り出す。

 

 

「ベアトリス、私も出るから後ろはよろしくね」

 

 

「はっ!ご武運を!」

 

 

「くれぐれも無理だけはしないで下さいね!」

 

 

「何かあればすぐにお助けします!」

 

 

ベアトリスたちに敬礼されながら七海は出撃する。

 

 

戦艦級形態(バトルシップフォーム)、一気に決めるわ」

 

 




次回「博士」

深海棲艦の秘密。


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第181話「東京湾沖海戦17」

第三章「東京湾沖海戦編」終了です、戦いが終わった後の横須賀鎮守府でのゴタゴタは第四章で書いていきます。


「敵陣営から正体不明の深海棲艦が出撃!最大限の警戒をしてください!」

 

 

七海が出撃するなり前衛艦隊は警戒態勢を強める、何せ七海は艦種はおろか能力も不明、実力未知数の敵ほど恐ろしいモノはない。

 

 

「食らえっ!」

 

 

七海の主砲が火を噴き、正確な狙いでレオ隊のローマに命中する。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

この一撃でローマは中破のダメージを負い、艤装能力が下がってしまった。

 

 

「嘘!?ローマさんが一撃で中破!?」

 

 

「あいつ戦艦棲艦!?」

 

 

レオ隊のみならず他の艦隊の艦娘たちも名波の能力に目を剥いた。

 

 

巡洋艦級形態(クルーザーフォーム)!」

 

 

次の砲撃を警戒していた艦娘たちだが、ここで七海の艤装に変化が起こる、今まで展開させていた大口径主砲を格納させ、巡洋艦レベルの中口径主砲と副砲、そして魚雷発射管を展開させる。

 

 

「はっ!」

 

 

七海が再び砲撃を行い、間髪入れずに大量の魚雷を扇状に撃ちだして雷撃を行う。

 

 

「雷撃!?」

 

 

「戦艦じゃないの…?」

 

 

砲撃は前衛の艦娘たちを掠める程度の被害で収まったが、そのすぐ後に飛んできた雷撃があちらこちらの艦娘に命中、中破、もしくは大破する艦娘が続出した。

 

 

「何なのよあの深海棲艦は!?」

 

 

「高火力の主砲に雷撃って…!チートでしょ!」

 

 

砲撃と雷撃を使い分けながらこちらの戦力を確実に削っていく七海に艦娘たちは焦りの色を見せていた、だが七海のスペックはこれだけに留まらない。

 

 

飛行場級形態(エアポートフォーム)…御霊骸!」

 

 

七海は巡洋艦級形態(クルーザーフォーム)の装備を引っ込めると、最初に索敵を行ったときと同じ装備を展開させ、艦載機を発艦させる。

 

 

「なっ…!?艦載機!?」

 

 

「あの深海棲艦、様々な艦種の装備をリアルタイムで換装しながら戦う能力があるみたいね」

 

 

「なおチートでしょ!?」

 

 

ローマの推理に暁が信じられないモノを見たといった顔をする、そんな事をしている間にも七海は砲撃、雷撃、空撃をリアルタイムで切り替えながら猛攻を続けていく。

 

 

「調子に…乗ってんじゃ…!ないわよ!」

 

 

七海の攻撃にイラついた暁は深海棲器で七海の弾丸を切り裂くと、先手必勝で突撃、吹雪もそれに続く。

 

 

「よし!あいつらの白兵戦能力ならいけるかも…!」

 

 

2体の実力を知っている摩耶は突破口を開けるのではないかと期待を大にしていたのだが…

 

 

「残念…白兵戦は私の十八番なの」

 

 

七海は艤装から黒い刀身の日本刀を取り出すと、吹雪と暁の攻撃を簡単に受け止める。

 

 

「んな…!?」

 

 

「うそ…!?」

 

 

「私の本分は一騎当千、ふたり相手なんて欠伸しながらでも出来るわ」

 

 

そう言うと七海は日本刀を素早く捌いて吹雪と暁に切りかかる。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

「強い…!」

 

 

「あまりヒュースを舐めないでもらいたいわね!」

 

 

七海はさらに攻撃の手を強める、2対1という数的有利があるにも関わらず七海になかなか刃を届かせることが出来ない。

 

 

「吹雪!暁!どけ!」

 

 

「「っ!!」」

 

 

突如後ろから聞こえてきた摩耶の声に敏感に反応した吹雪たちは素早く左右に飛び退く。

 

 

「きゃああっ!」

 

 

すると、今まで吹雪たちがいたところに弾丸の雨が降り注ぎ、七海に強力な砲撃を浴びせる、2体が白兵戦を行っている時に前衛艦隊の艦娘たちが砲撃準備をしてタイミングを合わせていたのだ。

 

 

「七海様!?」

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

大ダメージを負った七海をベアトリスとシャーロットが介抱し、素早く後ろに下がる。

 

 

「ここは撤退しましょう!準備をし直せば機会はまたやってきます!」

 

 

「でも…ここでやらないと計画が…博士の悲願が…!」

 

 

「確かにそれも七海様の大切な目的です!ですが我々にとって七海様の事もそれと同様に、いえ…それ以上に大切なんです!」

 

 

「どうかお聞き入れください…!」

 

 

ベアトリスとシャーロットの必死の懇願に七海は考えるように俯いた後、分かったわ、とベアトリスたちの言うことを聞き入れた。

 

 

「総員撤退!直ちに戦線離脱だ!」

 

 

ベアトリスがそう号令をかけると、七海含め深海陣営が撤退していく、艦娘たちは逃すかと追撃を行おうとするが、突如海底から大量の輸送棲艦が姿を現し立ちはだかる、撤退の時間稼ぎの為の壁役と言ったところだろうか、全くもって用意周到な連中だ。

 

 

「…待って下さい!あなたは何者なんですか!?なぜこんな意味のない争いをするんですか!?」

 

 

去り際に吹雪が七海にこう問いかけると、七海はちらりと後ろを振り向き、こう答えた。

 

 

「…そうね、あなたたちの言葉を借りるなら、私は深海棲艦の祖であり始原、始まりの深海棲艦と言ったところかしら」

 

 

「…始まりの…深海棲艦…」

 

 

「それと、この戦いを意味のないことだとあなたは言うけれど、意味はあるわ、私たちの目的は人間を殺すこと、それだけよ」

 

 

「どうしてそんな目的を…?」

 

 

「どうしてか?そんなの決まってるじゃない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが()()()()()()()の、博士の願いだからよ」

 

 

「っ!?」

 

 

七海の言葉を聞いた吹雪は言葉を失ってしまった、目的がくだらないから?悪だから?そんな事はどうでも良かった。

 

 

 

 

 

「深海棲艦は…人間が作った…?」

 

 

七海の口から飛び出した深海棲艦の真実に、吹雪の思考は止まってしまう。

 

 

「…吹雪さん?」

 

 

暁に呼ばれて吹雪はハッと我に返る、すでに七海たちは撤退し、壁として現れた輸送棲艦も何処かえ姿を消していた。

 

 

「帰投命令出たわよ?帰りましょ?」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

横須賀の桟橋に帰るまで、吹雪の頭の中から七海の言葉が消えることは無かった。

 

 

 

 

榊原は造船所の所長室で一枚の写真を眺めていた、今日の海戦で早瀬が艤装に映していたカメラ映像のスクリーンショットだ、早瀬の艤装で映した映像は全て常時録画され、後からじっくり見たり気になる部分を切り取ってスクリーンショットに残すことが出来る。

 

 

その写真に写っているのは艦娘のカメラが偶然捉えた七海の姿だ、多少遠目ではあるが、榊原にはそれが七海だとはっきり分かる。

 

 

 

「やっぱりお前だったのか…」

 

 

榊原はそう呟くと、机の引き出しから写真立てを取り出す、その写真には()()()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()姿()()()()()()()()の姿が写っていた。

 

 

 

「…七海」

 

 

 

 

 

 

「七海様、お加減はいかがですか?」

 

 

「ありがとう、シャーロットに治療してもらったからもう大丈夫、あとはしばらく休めば回復するわ」

 

 

「それは良かったです、七海様の身にもしものことがあれば、私は…」

 

 

「もう、あなたは相変わらず心配性ね」

 

 

ベッドで横になりながら七海はベアトリスの過保護な反応を見て可笑しそうに笑う。

 

 

「ベアトリス、悪いんだけど、そこの机の写真立てを取ってくれる?」

 

 

「はい、これですね?どうぞ」

 

 

七海はベッドから起き上がるとベアトリスから写真立てを受け取り、自分の隣に写っている若い男性を指先で撫でる。

 

 

「博士、今回は失敗してしまいましたが、絶対にあなたの願を叶えてみせます、ですから、どうか待っていて下さい」

 

 

「その写真の男性は、七海様の大切な方なのですか?いつもその写真を見ているようですが…」

 

 

写真の男性について詳しく知らないベアトリスが七海に問う。

 

 

「えぇそうよ、()()()()()()、私の一番大切な人で…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦(わたしたち)の生みの親よ」




次回「ヒューマノイド・ソルジャー」

次回より第四章に入ります、chapter14は七海の過去回想の予定。

深海棲艦の正体は見破ってた人結構いるんじゃないでしょうか。


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第四章「ヒューマノイド・ソルジャー編」
第182話「H/S:0011」


第四章「ヒューマノイド・ソルジャー編」&chapter14「H/S:001編」更新開始。

深海棲艦の始原である七海の誕生経緯を語る過去回想です。

連載当初からご都合主義で続けてきたこの小説ですが、この話以降さらにそれが強くなります、あらかじめご了承ください。

タイトルでは0011になってますが、最後の1はナンバリングなのでそこ注意!(笑)


『深海棲艦が現れてから人類の平和は失われてしまった』

 

 

 

深海棲艦発生以降人々は口を揃えてそう言った。

 

 

では深海棲艦が現れる前は人類は平和だったかと聞けば、大多数の人間は首を横に振ってNOと言うだろう、それはなぜか?理由は至極簡単だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦が現れる前は、人と人が戦争をしていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第三次世界大戦』

 

 

 

 

そう名付けられたその戦争はアジア、ヨーロッパ、アメリカなどの主要国が参戦した、主な火種のきっかけは枯渇した化石燃料や資源の奪い合いだったと記録されているが、規模が大きくなりすぎて最初の火種を正確に把握している者はいないだろう、話が大きくなりすぎて始発点を見失うのと同じだ、きっかけなど最早どうでもいい、向こうが攻撃してきたからこちらも同じように攻撃する、戦争というのはその程度の事でいくらでも大きくなれる。

 

 

その火の粉は当時平和主義を掲げていた日本にも降りかかるようになった、他国からの襲撃が相次いで起こり、資源の略奪や国民の鹵獲が行われるようになった、その戦火が次第に大きくなった日本政府はとうとう100年近く守り続けてきた平和主義を捨て、戦争への参加…迎撃を決意した。

 

 

とはいえ政府が最初にぶち当たったのは徴兵だ、日本にも自衛隊という名の国防軍が存在するが、当然人数に限りがあるし戦いを続けていけば戦死などで数は減る、国民を徴兵するという手もあるのだが、平和主義を掲げてきた日本に対人…それも殺しの戦闘経験がある者などいるわけもなく、技術を仕込むだけの時間も無い。

 

 

第三次世界大戦に日本が参加してから約5年、人員的、戦力的にも限界が見えてきた日本政府はとうとう禁忌とも言える手段を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦死した兵士や戦争の犠牲者の一般人の死体を素材にクローン技術、遺伝子組み替え技術を応用して軍事用人造人間…ヒューマノイドの兵士を大量生産するという、まさに悪魔の所業とも呼べる計画だった。

 

 

クローンのような人造人間は何も遠い未来の技術ではない、世界初の哺乳類クローンである羊のドリーなどと言うシロモノがすでに40年近く前に作られているのだ、ヒトのクローンが出来上がっていても不思議はない。

 

 

戸籍や人権などの諸々の理由でヒトのクローンの製造は禁じられていたが、日本政府は極秘で研究を続けており、戦争に勝つために日本はその禁忌の技術を実戦投入する事を決意する、軍事用ヒューマノイド『軍事用人工兵士(ヒューマノイド・ソルジャー)』…通称ヒュースの製造に踏み切った。

 

 

 

ヒュース製造計画は他国は疎か国民にも知られないように極秘で進められた、ヒュースを完成させるため、その手の分野に詳しい専門家や研究者などが集められて開発が始まった。

 

 

 

 

 

そして開発が始まってから2年、ついにそれは完成した。

 

 

「おぉ、ついに完成したぞ!」

 

 

 

ヒューマノイド・ソルジャーの開発主任を任されていた榊原啓介はヒュースの開発成功に嬉しさのあまり踊り出しそうだった、開発開始から芳しくない結果が続いていたが、とうとう完成した。

 

 

榊原の目の前にあるヒュース製造用のカプセルの中では中学生くらいの背丈の長い黒髪の少女が緑色の液体の中で眠っていた、この少女が榊原たち開発チームが完成させた初めてのヒュースだ、そのあどけなさの残る見た目はとても殺戮用の兵士とは思えない。

 

 

「それでは覚醒準備に入りましょう」

 

 

研究員のひとりがカプセルの脇に取り付けられている機材とパソコンをケーブルで繋ぐ、これは強制記憶(インプット)と呼ばれる作業で、このパソコンからヒュースの脳へ直接情報を刷り込み、教育の手間を省くのだ。

 

 

「まずは名前ですね、どんな名前にしましょう」

 

 

「そうだな、“七海”…なんてのはどうだ?」

 

 

「七海?」

 

 

「日本は島国だからな、まずはこの海を支配しなければ他国へは攻められない、最終的に七つの海を制覇すればどこへでも攻撃を仕掛けられる」

 

 

「なるほど、それで七海なんですね、分かりました、その名前で登録しましょう」

 

 

研究員はパソコンにヒュース…七海の名前を入力する、これで七海の脳には自分の名前として刷り込まれる。

 

 

その他に強制記憶(インプット)されるのは七海の個体を表す個体識別番号(シリアルナンバー)や日常生活においての必要最低限の知識、戦闘や殺しに関する知識などだ、兵士として育てられるため、殺人に対する善悪や人道、道徳といった知識は対人戦闘の妨げになるので除外する。

 

 

 

「それでは覚醒させます」

 

 

あらかたの強制記憶(インプット)を終えた研究員はパソコンを操作して中の液体を抜き、カプセルを開けて七海を外へ出す。

 

 

 

「…目覚めますかね?」

 

 

「そのはずだが…何せヒトのヒューマノイドはついこの間まで開発が禁じられていた未知の領域だからな、何が起きても不思議はない」

 

 

榊原はそう言うと七海の頬を指でつついてみる。

 

 

「…ん」

 

 

すると、それに反応したのかヒュースの少女はゆっくりと目を開け、黒い双眸で榊原を見る。

 

 

「はじめまして、俺は榊原啓介、よろしくな、お前の名前は?」

 

 

榊原は七海にそう挨拶をすると、強制記憶(インプット)が正常に行われているかの確認もかねて自己紹介をさせる。

 

 

「…はじめまして、私は個体識別番号(シリアルナンバー)“H/S:001”、名前を七海といいます、これからよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、ヒューマノイド・ソルジャー…後に深海棲艦と呼ばれる事になる怪物とひとりの男の出会いだ。




次回「七海の観察日誌」

あくまでも七海と榊原との関係を書いていくので第三次世界大戦とかにはあまり触れません、その他突っ込みどころ満載な展開ですが、近未来のちょっと進んだオーバーテクノロジーということで!。


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第183話「H/S:0012」

演習をしようと榛名旗艦(リーダー)の6体艦隊を選んだら戦闘始まった瞬間に春雨単騎になってた。
演習艦隊はリアルタイムで反映されると聞いていたがここまでリアルタイムだとは思わなかった。

【挿絵表示】

この画面まではちゃんと6体いたのになぁ…


七海の覚醒は問題なく成功し、強制記憶(インプット)した知識にも欠落などの異常は見られなかった、あとは戦闘訓練などで実戦技術を磨く段階に入る。

 

 

「さてと、ここが俺の…いや、俺たちの部屋だ」

 

 

榊原は七海を連れて一度研究所内にある自室へ戻る、彼女は戦闘、及び敵の殲滅を目的に作られたヒュースだが、それ以外ではこの研究所内で日常生活を送ることになる、戦うことが出来ても日常生活がマトモに送れないようではまず話にならないので、稼働チェックも兼ねて榊原と行動を共にして普段の生活になれるという事から始めている。

 

 

「…お邪魔します」

 

 

七海はそう遠慮がちに言うと、靴も脱がずに土足で上がろうとする。

 

 

「待て待て!部屋に上がるときは靴を脱いで入るんだ!」

 

 

「そうなのですか?、ですが博士、いちいち靴を着脱していては戦闘の妨げに…」

 

 

「戦闘云々以前にここではそういうルールなんだよ、確かに七海は戦闘用のヒュースだが、ここで生活する以上はルールを覚えて守ってくれ」

 

 

「…分かりました」

 

 

七海は不思議そうな顔をしつつも靴を脱いで部屋に入る、もっともその靴は揃えられておらず乱雑に脱ぎ散らかされているのだが。

 

 

「一般常識も強制記憶(インプット)しておけば良かったな…」

 

 

そんな事を思いながら少し後悔する榊原だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…よし、今日のデータ採取はここまで」

 

 

 

榊原は七海から採取した戦闘データをパソコンに記録していく、七海が覚醒してから今日で一週間目、すでに七海は戦闘の実戦訓練を受けており、その詳細なデータを記録して今後のヒュース運用に生かしていく。

 

 

「腹が減っただろ、ちょうどいい時間だし食事にしよう」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

榊原と七海は研究所内に併設されている食堂へ足を運ぶ、本当なら食事睡眠を一切取らずに24時間戦い続けられる戦闘マシンとして製造したかったのだが、人間の身体が素材になっているからなのかそれは出来なかった、持って生まれた機能を侵すのは許されないことらしい。

 

 

「でも、七海の戦闘力の延び幅は凄まじいね、俺も目を見張るよ」

 

 

昼食のカレーを食べながら榊原は言う、七海が行っている訓練は一騎当千…1対他を目的とした戦闘訓練だ、状況的に味方残兵数が減っていたので一刻も早くヒュースを実用可能までに育成する必要があった、そのため準備期間に余裕が無く、なるべく知識は強制記憶(インプット)で済ませてあとは身体に戦いのイロハを叩き込むという荒削りな方法を取っていたのだ。

 

 

軍団スタイルにしなかったのは敵味方の判別を教えるのは面倒な上にチームプレイの知識は強制記憶(インプット)では限界がある、おまけにそれを叩き込む時間もない、よって“目に映るもの全てが敵”という最も楽な一騎当千を選んだのだ。

 

 

「政府は一刻も早くヒュースを実用可能レベルに育てろ…と言うが、まだうちにいるヒュースは七海だけだ、下手に動かしてお前が死んだら本末転倒だからね、慎重に動かなきゃいけない」

 

 

「次のヒュースの製造は進んでいるんですか?」

 

 

「うん、着々と進んでいるよ」

 

 

そう言って榊原はタブレット端末を七海に見せる。

 

 

 

 

個体識別番号(シリアルナンバー)/コードネーム……開発状況(%)

 

・H/S:002/暁海(あけみ)……95%

 

・H/S:003/夕海(ゆみ)……87%

 

・H/S:004/夜海(よみ)……80%

 

 

 

 

「…意外と順調ですね」

 

 

「七海のデータ採取が順調にいったからね、あと数日のうちには覚醒出来るはずだよ」

 

 

「そうすれば、私も戦場に?」

 

 

「当初はその予定だったけど、ひょっとしたら七海はこのままテスターになってもらうかもしれない」

 

 

「テスター…ですか?」

 

 

「全員を戦場に出したらその間研究や実験をするための被験者がいなくなるからね、1体は残ってくれた方が都合がいいんだよ」

 

 

「…そうですか」

 

 

七海は特に何も言わずにカレーを食べ続ける、その様子はどこか寂しそうだった。

 

 

「戦場に出たかった?」

 

 

「…よく分かりません、でも、博士は戦うために…人間を殺すために私を作りました、それなのにテスターだけでも博士のお役に立てますか?」

 

 

そう言って七海は不安そうな顔で榊原の顔を覗いてくる、覚醒からずっと一緒にいるからなのか七海は榊原に懐いている、それ故に彼の役に立てなくなる事が七海にとっては不安でしかなかった。

 

 

「そんな事無いよ、七海は目を覚ました時からずっと俺たちの力になってくれてる、役立たずなんて思ってないよ」

 

 

榊原はそう言って七海の髪を撫でる、しかし榊原は彼女が不安そうにしているのは戦うことが出来ない事に対する不満からだと思っていた、チームプレイを想定して造られていなヒュースには他者や仲間を思う気持ちは強制記憶(インプット)されていないし教えてもいない、七海の心情には気付いていないのだ。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

榊原に撫でてもらえて、七海は少し嬉しそうに笑う。

 

 

 

 

 

「見てごらん七海、夕日が綺麗だよ」

 

 

そう言って榊原は地平線に身を沈めようとしている太陽を指差す、研究所内で訓練漬けもナンだから気分転換に、と榊原が七海と近くの海岸を散歩していたのだが、別に七海から言わせれば夕日など毎日見ているのだから別段珍しくもない。

 

 

「…別に夕日なんて窓から毎日見れますよ?」

 

 

「ははっ、確かに七海の言うとおりかもしれないね、でもこのご時世にこうして落ち着いて夕日を見れるなんてそうあることじゃない、この時間は貴重だよ」

 

 

確かに彼の言うとおり、こうして浜辺に座って呑気に夕日を眺めるなど滅多に出来ないことだ、特に第三次世界大戦なんていう戦争をしている()()()()()

 

 

「いつか、こうして毎日のんびり夕日を眺める生活が送れるといいね」

 

 

ぼんやりと海を見ながら言う彼に対して、そうですね、と七海は返事をした。

 

 

 

(…博士がそんな毎日を送れるように、私が頑張らないと、早く戦いに出られれば、早く人間を殺せれば…!)

 

 

…そんな思いを胸に秘めながら。




最後の浜辺での会話シーンは72話の最後にちょっと加筆したモノです。

○オマケ:2-5突破後の補給画面

【挿絵表示】

Σ(゚Д゚)ってなった。


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第184話「H/S:0013」

久しぶりにVita版の艦これ改を起動させたら開発資材が絶望的だった。

【挿絵表示】

…徹甲弾作るハズが…。


七海覚醒から一ヶ月後

 

 

 

 

「七海、今日は新しい兵装を試してもらうよ」

 

 

そう言って榊原が用意したのは七海の足より一回りほど大きな鋼鉄のブーツだった。

 

 

「…それは?」

 

 

「水上移動装置だ、これを装着するとアメンボのように水の上を移動することが出来る」

 

 

「水上移動…ですか?でも私の戦闘スタイルは一騎当千の陸上戦では…?」

 

 

「それは確かにそうなんだが、何せ日本は島国だからね、七海を敵地まで送る方法が海路しか無いんだよ、空路は敵国の戦闘機が飛んでいるから撃墜される可能性があるし、船で運ぶにも遅い上に大きいから目立ってしまう、だから七海が直接海上を移動するのが一番手っ取り早いんだ」

 

 

「随分と踏み切ったアイデアですね…」

 

 

水上移動装置の説明を聞いた七海はその計画の大胆さに驚きを隠せない。

 

 

「それと、これも一緒にに付けてもらう」

 

 

水上移動装置を装着した七海に榊原は追加で兵装を取り出す、それはリュックサックのような背負い式の機械と大砲のような機械、まるで軍艦の艤装を人間が身に付けるために縮尺したようなモノであった。

 

 

「海上移動時の護身用武装…通称“艤装”だ、遠距離からの砲撃で敵船を攻撃できる」

 

 

「…博士、お言葉ですがこんなモノで戦えるのですか?見た目はかなり貧弱なような…」

 

 

「案ずるな、見た目はおもちゃみたいだが、威力は十分だぞ」

 

 

自信満々に言ってのける榊原だが、七海はどうにも半信半疑…といった様子である。

 

 

「…そう言えば博士、艤装というのはどういう意味なのですか?」

 

 

「軍艦の武装を総じて艤装って言うんだよ、大砲とかね」

 

 

「軍艦…確か武装を施した戦闘用の船の事ですよね?」

 

 

「そうだよ、一般的なのは戦艦(バトルシップ)巡洋艦(クルーザー)だね、他にも色々種類はあるけど、他はあまり見ないかな」

 

 

榊原の説明を七海は熱心に聞いていた、正直軍艦に関しては全く知識のない七海だが、榊原がこうして武装のモチーフにすると言うことは軍艦というのは強力な兵器なのだろう。

 

 

「それじゃあ早速実験に移ろう、俺は機材の準備をするから先に地下に行っててくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

七海は一度榊原と別れると、研究所地下の実験訓練施設へと向かった。

 

 

 

 

 

 

実験訓練施設で榊原と合流した七海は艤装を身に付け、訓練施設に備え付けられた巨大なプールに来ていた。

 

 

「それじゃあまずは水上に立つ所からスタートだ」

 

 

「了解」

 

 

七海は鋼鉄のブーツを履いたままプールサイドを歩くと、恐る恐る水面につま先を近付ける、すると鋼鉄のブーツは水に浸かる事無くその水面を捉え、七海をプールの上へ立たせる。

 

 

「…凄い、これが艤装…」

 

 

「よし、次はそのまま移動してほしい、前後左右の体重移動で進むようになっている」

 

 

「分かりました」

 

 

七海は水面に立った状態で体重を前にかける、すると七海のブーツがアイススケートのように前方へとゆっくり進んでいく。

 

 

その後も後退や左右の移動と様々な行動を試したが、どれも問題なく行うことができた、大した運動神経である。

 

 

「よし、次は攻撃艤装の訓練だ、今から用意する的に向かって砲撃を行ってくれ」

 

 

「了解」

 

 

榊原の説明が終わると、水中から大きさ数メートルの大きな鉄の的が現れた。

 

 

「基本的な扱い方は拳銃と同じだよ、攻撃艤装にある引き金を引いたら弾が飛び出す、それなりに反動があるから気をつけてね」

 

 

「はい!」

 

 

七海は的の中心に狙いを定めて砲口を向け…引き金を引いた。

 

 

「っ!!」

 

 

凄まじい轟音と共に弾が射出される、衝撃で吹き飛びそうになったが、なんとかこらえた。

 

 

七海が撃ちだした弾は的の中心に命中し、風穴を空けて貫通する。

 

 

「…うそ」

 

 

その威力に撃った七海自身が目を剥く最早護身用武装の域を越えている、普通に海上戦闘でも通用する威力だ。

 

 

「うん、威力も申し分ないな、次の的を用意するから次は移動しながら撃ってみて」

 

 

「わ、分かりました!」

 

 

その後も1時間程訓練が続いたが、いずれも榊原を十二分に満足させる結果を出すことができ、七海も満足げだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、榊原と七海は自室でチェスをやっていた、置いてあったチェスセットに七海が興味を示したのでルール説明がてら相手をしたのだが、それがきっかけで七海がチェスにハマった、相手の手を読みながら戦略を練るという行為が戦闘用ヒューマノイドである彼女の琴線に触れたのか、以降はこうして空いた時間に榊原に対局を求めているのだ。

 

 

「チェックメイトです、博士」

 

 

そう宣言した七海は盤上の駒を進める。

 

 

「うわぁ、また負けてしまった…」

 

 

そう言うと榊原は心底悔しそうに頭を抱える、かれこれもう10連敗目だ。

 

 

「本当に七海は強いね、全然敵わないよ」

 

 

榊原は苦笑しながら言うが、彼は戦略というモノがまるで分かっていない、ただ目の前の状況の対処方法しか考えていないから先の手を読めずに詰んでしまう、七海は何度も彼に言っているのだが全然改善されていない。

 

 

「俺はこの手のゲームは苦手でね、特にこのチェスは相手の裏をかいたり先の手を読む必要があるから実に頭を使う、ゆえにとても難しい!」

 

 

榊原はそう得意げに語るが、以前パソコンでやっていたペグ・ソリティアでも同じ事を言ってた辺り先読み自体が苦手なタイプなのだろう。

 

 

「そんな事ではこの世界で生きていくのは厳しいですよ?ただでさえ戦争中でこういう戦略眼を養わなければいけないのに…」

 

 

「俺はあくまでヒュースの開発者だからそんなモノは必要ないんだ、そういうのは軍の司令官にでも任せておけばいいんだよ」

 

 

 

「もう…あなたという人は…」

 

 

七海はそんな事を言う榊原に呆れながらため息を吐くが、そんなダメンズ気質の彼をフォローする事に密かな喜びを感じている七海も大概なのかもしれない。

 

 

 




次回「最も恐ろしい兵器は?」

七海と榊原、その別れはすぐそこに…

チェスのシーンは108話のCパートから、七海が深海棲艦の通常種にチェスの駒の名前を付けている理由でもあったり。


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第185話「H/S:0014」

由良の改二が来てヒャッホウ!な自分ですが、レベルがまだこんなです。

【挿絵表示】

レベル70越えた辺りからキツくなりますね。


七海覚醒から二ヶ月後

 

 

 

 

榊原は研究所の開発主任室で落ち着かない様子でとある人物を待っていた。

 

 

「博士、暁海…以下2名の製造結果を持ってきました」

 

 

それから数分して七海が主任室に入ってくる、榊原の目的は彼女…もっと正確に言えば彼女の持っているA4用紙数十枚に上る暁海たちの製造結果の報告書だ。

 

 

「ありがとう七海、どれどれ…」

 

 

榊原は戦果報告書に目を通し、それぞれの個体の製造結果に目を通す。

 

 

「…あまり結果は良くないみたいだな」

 

 

「覚醒まで後一歩という所までは来ているのですが、予想外のトラブルが続いています」

 

 

それを聞いた榊原は表情を曇らせる、暁海たちの製造から一月弱は経っているが、作業が難航しており中々覚醒段階までこぎ着けることが出来ないでいた。

 

 

 

「…悪魔の所業はそう都合良くはいかないって事なんだな…」

 

 

そう言うと榊原は何か思い詰めるような顔になる。

 

 

「…どうしました?博士、なにやら物憂いているようですが…」

 

 

それを見た七海は心配そうに榊原の顔を覗き込む、すると榊原は唐突にこんな事を問い掛けた。

 

 

「七海、この世でもっとも恐ろしい兵器は何か分かるかい?」

 

 

「えっ?」

 

 

突然の彼からの問い掛けに、七海は一瞬固まってしまった。

 

 

何の謎かけかと思ったが、榊原は真面目に聞いているようだったので、七海も真面目に考える。

 

 

世の中にはたくさんの兵器がある、細菌やウイルスを使った生物兵器、毒ガスなどを使った化学兵器、数え上げればきりがない。

 

 

その中で七海が最も恐ろしいと思うのは原子爆弾などの核兵器だ、爆風と熱風で全てを吹き飛ばすその威力は言わずもがなだが、内部被爆などの効果で使用後も対象を苦しめ続ける、攻撃性と持続性を併せ持つチートもいいところな兵器だ。

 

 

「なるほど、核兵器か、悪くない選択肢だが正解ではない」

 

 

榊原の不正解という言葉に七海は驚いてしまった、この世に核兵器を超えるモノが存在するのだろうか、七海には思い浮かばなかったので彼に降参だと伝える。

 

 

「答えは簡単だよ、この世で最も恐ろしい兵器、それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「核兵器を含め、今七海が頭の中に挙げていた兵器を全て作り出してしまうことが出来る“人間”そのものさ、言わば人間は“兵器を生み出す生きた兵器”、七海もそう思わないかい?」

 

 

どこか自虐的な榊原の問いかけに、七海は何と答えれば良いか分からなかった。

 

 

「…どうしたのですか?急にそんな事を言い出して…」

 

 

「たまに思うんだよ、俺たちのしていることは、本当に正しいのかなって…」

 

 

「えっ…?」

 

 

榊原の発言の意図が分からず、七海は疑問符を浮かべる。

 

 

「俺たちがやってることは死者に安息の眠りを与えることすら許さず、俺たちの勝手な都合で終わった命を蒸し返す…言わば人の道から外れた行為だ、当然これは許されることじゃない」

 

 

 

「……………」

 

 

榊原の言葉を七海は何も言わずに聞く。

 

 

「政府内部の連中はお前たちの事を人の道から外れた方法で生み出された化け物だの恐ろしい兵器だのって言うようなヤツが幾らかいる、でもそんな化け物を産み出すのを許した政府内部の人間やそれを実際に生み出している俺たちは、それ以上の恐ろしい兵器や化け物なんじゃないか?」

 

 

「…………」

 

 

「俺たちって、結局何やってんだろうな…?」

 

 

自嘲めいた笑いを浮かべながら誰かに問いかけるように榊原は呟く、七海はそんな彼の言葉を聞き終えると、何かを決意したような氷上で口を開く。

 

 

「博士、僭越ながら言わせていただきます、博士がしていることは、私は正しいと思います」

 

 

「?」

 

 

「生まれるはずがなかった私に命を与えてくれたのは博士です、何もないがらんどうの私に人間を殺すという目的を与えてくれたのも博士です、私はそんな博士に感謝していますし恩義も感じています、博士が何を憂いているかは私には分かりません、ですが博士が正しいと思って私を生み出したのなら、博士が正しいと思って人間を殺す目的を与えたのなら、それは私にとっての“正義”です」

 

 

 

「七海…?」

 

 

「この先何があっても私は博士を信じます、博士に向けられる刃は全て私が折ります、ですから博士は自分が正しいと思ったことを私に命じてください、私はあなたのために正義を貫きます」

 

 

七海はそう言うと、主に忠誠を誓う騎士のように榊原に跪く。

 

 

「七海…」

 

 

それを見て、榊原は一抹の“恐怖”を覚えた。

 

 

元々七海には恩義や感謝、正義といった人間らしい感情は強制記憶(インプット)していなかったし積極的に教えようともして来なかった、与えられた任務だけを情に流されずに淡々とこなすための兵士として育てる事を目的としていたからだ。

 

 

もし七海がプログラムで出来たロボットであればそれは正しいだろう、しかし七海は人間を元にしたヒューマノイドであり、人間は教えられていない事でも自らの経験や考えによって勝手に学習していく生き物だ。

 

 

ただし学習した知識やそれに基づく行動に対する善悪というのは他人による外からの教育でしか学習できない、それを受けてこなかった七海は自らの行動の善悪を全て榊原個人にとっての利害によって決めている、それは完全な“依存”と言ってもいいだろう。

 

 

今の七海にとっての“正義”や“目的”とは、榊原にとって利益になることであり、敵の殲滅はそのための“手段”になってしまっていた。

 

 

(俺は…七海の育て方を間違ってしまったのか…?)

 

 

自分に向けられる愛情とも言える行き過ぎた信頼に、榊原は恐怖を隠せなかった。




次回「純真無垢の兵器」

哀しい程に真っ直ぐで、残酷なほどに無垢だった…。

今回の回想部分は141話参照、多分次回でchapter14終わります。


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番外編「台場鎮守府の七夕」

今日は七夕と言うことでさっき思いついたネタを殴り書きして投稿、なんとか間に合いました。

※時系列は本編とは別物です、ゲームのDLCイベントみたいなモノと思って下さい。


 

 

「司令官、そっちの笹持ってて下さい」

 

 

「へいよ」

 

 

「雪風、そこ紐で留めといて」

 

 

「ちょっと待ってて下さい…来た!発動!疑似展開/人理の礎(ロード・カルアデス)!」

 

 

「宝具発動させてないで手伝え!」

 

 

7月7日…世の中では七夕と言われているこの日、台場鎮守府では世間の波に乗っかり、クソ暑い熱帯夜に笹を飾って短冊にお願いをするという狂気の沙汰ともいえるイベントに参加している。

 

「よし、笹も飾り終えた事だし、短冊に願い事でも書きますか」

 

 

「いやー、大変でしたね」

 

 

「あんたは何もしてないでしょ!」

 

 

「失礼ですね暁さん、私は人類史を守るために色々と…」

 

 

「笹飾りについて言ってるのよ!」

 

 

「だってめんどくさいですし…」

 

 

「ぶち殺されたいのかしら!?」

 

 

暁と雪風が仲良くじゃれ合っているのをよそに、他のメンバーはアウトドア用のテーブル類などの準備を始める、七夕と言うことで笹と星空を眺めながら屋外で夕食を食べるというキャンプさながらのアクティブディナーである。

 

 

「…で、何これ?」

 

 

準備を終えた後、曙が目の前に設置された“それ”を見て改めてシンプルに質問する。

 

 

「何って、流しそうめんの装置だけど?」

 

 

吹雪がさも当然のように言う、曙の前にあるのは竹を半分に割ったものが段々に連結された装置…所謂流しそうめんをするためのカラクリだ。

 

 

「いや、それは分かるんだけど、何で流しそうめん?普通夏の夜のアウトドアと言えばバーベキューとか…」

 

 

「そりゃそうめんは七夕の行事食だからに決まってるでしょ、ちなみに今日のメニューはこれだけです」

 

 

「本当にそうめんだけなの!?絶対に物足りなくなるでしょ!」

 

 

「そこは心配無用、そうめん以外の食材も流す予定だから」

 

 

「最早流しそうめんですら無くなってるわよね!?」

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでDeep Sea Fleetのメンバーは笹に飾る短冊に願い事を書いていく、願い事は公平(?)に一人一枚である。

 

 

「暁は何書いたんだ?」

 

 

「ん?これ」

 

 

海原が暁に聞くと、暁は黄色い短冊を海原に見せる。

 

 

 

 

『深海棲艦をブチ殺す快感をもっと味わえますように』

 

 

 

 

「…お前は相変わらずの平常運転だな」

 

 

「そ、そうかしら…?ごく一般的な範疇だと思うんだけど…」

 

 

「お前のごく一般的な範疇はすでに一般的を振り切ってるな」

 

 

すでに手遅れ感のある暁に若干呆れつつ、他のメンバーの短冊も覗いて回る。

 

 

「司令官!私の短冊も見て下さい!」

 

 

すると雪風が身を乗り出す勢いで海原に短冊を見せてくる。

 

 

 

『司令官と将来結ばれますように』

 

 

「…え」

 

 

短冊の内容に顔をひきつらせる海原、見ると雪風が“うっふーん♥”と言いたげに唇を尖らせ、いかにもキス待ちと言ったポーズをする。

 

 

「…吹雪さん、司令官にタカるウジ虫が現れたようですよ」

 

 

「それは大変ね三日月、ウジ虫は駆除しないと」

 

 

するといつの間にか雪風の後ろに吹雪と三日月がハイライトの消えた目をして立っており、それぞれ深海棲器を雪風の首根っこに向けて構えている。

 

 

「っ!!」

 

 

刹那、顔を青ざめさせた雪風は脱兎の如く走り去ったが、猟犬と化した2体が雪風を逃すはずがなかった。

 

 

その数秒後、雪風の断末魔が夜の闇に響き渡り、ボロ雑巾のようになった雪風が吹雪たちに引きずられてきたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「…よし、これで全員だな」

 

 

ドッタンバッタン大騒ぎもあったが、無事全員分の短冊を飾り終えた海原は満足げに頷いた。

 

 

「…そういや他の連中は何書いたんだ…?」

 

 

雪風狩りで全員見る暇が無かったので、ついでに他のメンバーの短冊も見る。

 

 

『潜水時間が伸びますように 伊8』

 

『艦上戦闘機以外の艦載機が欲しい 大鳳』

 

『司令官がいつまでも私たちの司令官でいてくれますように 三日月』

 

『鎮守府の台所事情が良くなりますように 大鯨』

 

『もっと提督の役に立てますように 曙』

 

『この鎮守府の雰囲気に早く馴染めますように 蛍』

 

『もっと殺傷力のある深海棲器が欲しい 篝』

 

『新種の深海棲器開発のアイデアが閃きますように 明石』

 

『あのボールペンが再販しますように Z3』

 

 

…何やら自分への当てつけが混ざっているような気もするが、気のせいと言うことにしておいた。

 

 

「…ん?これは吹雪のか」

 

 

『Deep Sea Fleetがこれからもずっと一緒にいられますように 吹雪』

 

 

 

 

「…やれやれ、こりゃ頑張らないとな」

 

 

 

 

 

「おぉ!美味しい!」

 

 

「でしょ?そうめんもまだまだ捨てたもんじゃないわよ」

 

 

短冊を飾った後はディナータイム、Deep Sea Fleet全員が流しそうめんに舌鼓を打っていた。

 

 

「はい、そうめん行くよ~」

 

 

流す係の吹雪があらかじめ茹でておいたそうめんを流す。

 

 

「はい取った!」

 

 

「あ!ズルいわよ暁!あなたさっきからずっと取ってるじゃない!」

 

 

一番上にいる暁ばかりがそうめんを取っているので、二番目にいるハチが文句を言う。

 

 

「こう言うのは早い者勝ちなのよ~」

 

 

勝ち誇ったような顔でそう言うと、暁は美味しそうにそうめんを啜る。

 

 

「吹雪!早く次流して!」

 

 

「はいはい、行くよ~」

 

 

吹雪が次のそうめんを流す、それを暁が当然のように取ろうとするが…

 

 

「させないわ!」

 

 

ハチがチューブのわさびを暁の口に押し込み、中身を思い切り暁の口内にぶちまける。

 

 

「ーっ!!!」

 

 

暁がその辺を転げ回りながら悶絶している間にハチは難なくそうめんを取り、苦しむ暁など完全無視でそうめんを味わう。

 

 

「ハチ…!何してくれてんのかしら…!?」

 

 

「暁がそうめん独占してるから天罰よ、涙と鼻水でザマァな事になってるわね」

 

 

「表出ろ、殺す」

 

 

「ここ既に表よ」

 

 

「今すぐぶっ殺す!」

 

 

暁が箸をハチの両目目掛けて振り下ろすが、それよりも早くハチはわさびを自分の手に出すと、それを思い切り暁の両目に擦り付ける。

 

 

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

あまりの刺激に暁は再び無様に地面を転げ回る。

 

 

「さて、暁がくたばってる間にそうめん食べちゃいましょう」

 

 

グロッキーな暁を蹴飛ばしてそうめんを味わうハチを蛍がビビりながら見ていたことは本人は気づいていなかった。

 

 

 

 

「吹雪~、こっちにもそうめん頂戴!」

 

 

「後ろにも救いを!」

 

 

後列にいる明石と大鳳が箸を構えて待っているのを見て、吹雪はサイドメニューを投入する。

 

 

「それじゃ次は明石の好きなもの流すよ、はいプリン入りまーす」

 

 

「待て待て待て!」

 

 

とんでもない単語を聞いたDeep Sea Fleetの面々が総つっこみを入れる。

 

 

「ほらほら、プリン流れちゃうよ~」

 

 

「いやもう溶けてるから!変な黄色の液体になってるから!」

 

 

その後も様々な変わり種が投入されたが、まともに味わえたのはソーセージくらいだった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかったね、七夕アウトドア」

 

 

「若干一名死にかけましたけどね」

 

 

ボロ雑巾にされたことを根に持っていた雪風がブスッとしながら抗議する。

 

 

「あ?」

 

 

「…すみません何でもないです」

 

 

三日月の睨みに負けた雪風はあっさり引き下がり、片付けを再開する。

 

 

30分後、全ての荷物を片づけ終えた台場メンバーが鎮守府に戻ろうとすると…

 

 

 

「…あ」

 

 

夜空を見上げた吹雪が思わず声をあげた。

 

 

「どうしたの吹雪?」

 

 

「…空」

 

 

空がどうかしたのか、と思いながら他のメンバーが夜空を見上げる。

 

 

「…うわぁ」

 

 

「…きれい」

 

 

見上げたそこには、満点の星空が広がっていた、その中央付近には天の川がはっきりと見える。

 

 

「…七夕って、織り姫と彦星が天の川を渡って年に一度会う日なんだよね」

 

 

「そう言えばそうだったわね、すっかり忘れてたけど」

 

 

「…きれいだね、これだけ良く見えれば、織り姫と彦星も会えるかな、私たちの願いも叶うかな」

 

 

「…きっと会えるよ、そして私たちの願いも…ね」

 

 

 

 

 

 

 

その日見た夜空の星々は、普段見るよりも輝いて見えた、それはまるで織り姫と彦星がみんなの願いを叶えるているかのようであった。




七夕中に投稿しようと急いで書いたので普段以上にめちゃくちゃな内容ですが、お楽しみいただけたでしょうか?本編は近いうちに投稿しますのでもう少しだけお待ち下さい。


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第186話「H/S:0015」

H/S:001編終了です、次回からは本編に戻ります、東京湾沖海戦を終えて戻ってきた後の一悶着から始まる予定。

そしてついに明石を手に入れました。

【挿絵表示】

改修工廠に行ってみたら改修出来る装備が3つしかなくて“少なっ!?”って思いました、これって増えるんですかね?。


七海覚醒から2ヶ月と2週間。

 

 

 

「マズい!もう火の手がここにまで!」

 

 

燃え盛る炎の中、榊原は七海の手を引いて研究所内を走り回っていた、極秘に続けられていたヒュースの研究だが、ついに敵国の情報員にそれを嗅ぎ付けられたのだ。

 

 

ヒュースが実戦投入されることを恐れた敵国は研究所の襲撃を実行、研究所の外側は火の海と化し、内部にも火が回っていた。

 

 

職員はほぼほぼ全員が避難していたが、榊原だけは開発主任としての責務を果たすべく、研究所内に残っていた。

 

 

「博士!私たちも早く逃げなければ手遅れになります!」

 

 

「待て、まだやることがある」

 

 

避難を促す七海に対して榊原は待てと言い装置を操作している、今ふたりがいるメイン開発室は研究所内でも最も強固な造りになっており、防火構造も万全になっている、しかしそれ以外の避難経路が潰れてしまっては意味がないのであまり長居できないのは変わらない。

 

 

「七海、すまないがこの電極を頭に付けてくれ」

 

 

「?はい…」

 

 

七海は榊原に言われたとおりの場所に電極を付ける。

 

「これで何をするんですか?」

 

 

「…強制記憶(インプット)だよ、起きたまま…ね」

 

 

「!?」

 

 

それを聞いた七海は身体を強ばらせる、原則として強制記憶(インプット)は対象が眠っている時…意識が覚醒していない時に行うと決まっている、意識がある状態で行うと流れ込んでくる情報に脳や精神が対応しきれず心身に異常をきたす恐れがあるからだ。

 

 

「ですが博士、強制記憶(インプット)は…」

 

 

「あぁ分かってる、少しキツいかもしれないが我慢してくれ」

 

 

そう言って榊原は強制記憶(インプット)装置を起動させる。

 

 

「っ!!」

 

 

次の瞬間、七海の頭に強い衝撃が走った、あえて言葉で例えるなら、まるで脳をかき混ぜられているような…そんな不快感と衝撃が脳内を支配する。

 

 

「…これ…は…?」

 

 

七海の中に流れてきた情報は主にふたつ、ひとつはヒュースに関する知識全般、そしてもうひとつは地図情報だった。

 

 

「地図…?」

 

 

「その地図は研究所の支部の位置を表したモノだ」

 

 

「支部…?研究所はここだけのハズでは…?」

 

 

「この研究所が機能しなくなったときのために政府が極秘で建設した予備の研究所だ、完成したばかりで俺も場所は知らないが、いまからでも使えるはずだ」

 

 

「なるほど!私と博士でそこへ移り住むのですね!」

 

 

「…七海は先に地下の訓練施設へ向かってくれ、すぐに追いつく」

 

 

「分かりました!」

 

 

七海はメイン開発室内にあるエレベーターで地下へと向かう。

 

 

「…七海、すまない」

 

 

榊原はそう呟くとメインコンピューターを操作し、最後の仕事に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

「こんな所にこんな場所が…」

 

 

研究所の地下にある訓練施設には緊急脱出用の水路がある、今回のように何らかの出来事で地上からの脱出が不可能になった場合はここから避難することとなっている、海抜が高い場所に建てられているこの研究所だからこそ出来た事だ。

 

 

「この水路は海に直接繋がっているから、そのまま地図の場所まで行きなさい」

 

 

水路に停泊させてある小型モーターボートのエンジンをかけながら榊原は言う。

 

 

「…博士?」

 

 

その口振りに七海は一抹の不安を覚える、その言い方ではまるで…

 

 

「…七海、すまないがここでお別れだ」

 

 

「っ!?」

 

 

その不安が的中し、七海は目を剥いた。

 

 

「博士…?何を言って…?」

 

 

「悪いが俺は七海と一緒には行けない、俺はヒュースの開発主任として、今回の後始末をしなければいけない、だからお前だけでも逃げろ、お前は存在自体が機密情報のヒュースだ、敵国に捕まればどうなるかは言うまでもない」

 

 

「私も残ります!博士の身に何かあったら私は…!それに上では検査中の暁海たちがまだ…!」

 

 

「それなら心配は無用だ」

 

 

そう言って榊原は七海に緑色の液体が入ったアンプルを3本渡す、それぞれのアンプルの中にはBB弾の弾を二周りほど大きくしたような球状の物体が浮いている。

 

 

「お前を先に行かせた後に“解体”してきた、その中にあるのは遺伝子情報の入ったサンプリング細胞だ、これを持って行け、メインコンピューターのデータも七海に強制記憶(インプット)させた後に全て消去した、つまり今ヒュースの全情報を握っているのはお前だけということになる」

 

 

「博士…」

 

 

その言葉だけで七海は全てを理解してしまった、榊原は“自分ひとりで逃げてヒュースの情報を守れ”と言っているのだ、もしヒュースの情報が敵国に漏れてそれが複製でもされれば最悪の事態は避けられないだろう。

 

 

「でも…それでも私は…!博士と離れたくありません!だって私は!博士の事を…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛しているから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

その言葉が口から出る前に、榊原は七海の事を抱きしめた。

 

 

「ありがとう、七海のその気持ちは嬉しいよ、でも俺じゃ七海を幸せにしてやれない、俺は悪魔の実験でお前という兵器を生み出したマッドサイエンティストだ、お前の望む幸せを与えてやることは出来ない」

 

 

「うぅ…博士…!」

 

 

子供のように泣きじゃくる七海を引き離すと、モーターボートのアクセルをフルスロットルで入れる、モーターボートは徐々にスピードを上げ、榊原の姿がどんどん小さくなっていく。

 

 

「博士…!いや…嫌です!博士!」

 

 

「七海!俺からの願いはひとつだ、『生きろ』!そうすればきっとまたどこかで会える!だから…!」

 

 

「博士ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

 

七海が榊原の声を聞き取れたのはそこまでだった、榊原の姿は既に見えなくなっており、モーターボートは暗闇の中をどんどん加速しながら突き進んでいく、やがて前方に光が見え、モーターボートは地下水路から抜け出した。

 

 

七海が後ろを振り返ると、炎に包まれた研究所が見えた。

 

 

「博士…」

 

 

七海は涙を流しつつも戻ろうとはしなかった、戻れば榊原が命を懸けて全てを自分に託した彼の行いが無駄になってしまう、七海は唇を噛みしめ、そのまま小さくなっていく研究所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海が研究所を脱出してから数時間後、モーターボートは日本領海に浮かぶとある島に漂着した、榊原から強制記憶(インプット)で脳内に刷り込まれた地図にあった島である。

 

 

「ここに…研究所が…?」

 

 

モーターボートから降りた七海は荷物一式を持って島内を散策する、島の規模はそれなりでどうやら無人島のようだが、辺りは草木が生い茂っており、とても研究所があるとは思えない。

 

 

「…ん?」

 

 

しばらく歩くと、ジャングルのように生い茂る草木に紛れるようにコンクリート製の建物が姿を現した、基礎はしっかりしているようだがあちこちが崩れており、鉄筋が剥き出しになっている箇所すらある。

 

 

「…まさかここが研究所…なわけないよね…?」

 

 

その廃墟のような建物の中を見渡してみると、コンクリートの床が一カ所だけ真新しい部分があった、その周辺だけつい最近工事されたように綺麗になっており、いかにも何かあります的な雰囲気を醸し出している。

 

 

「…もしかして」

 

 

七海がその床を調べると、その床が動いて地下への階段が現れた、この階段が研究所の入り口と考えてまず間違いないだろう。

 

 

「…逆に目立ちまくりでしょこの研究所」

 

 

そう愚痴りながら七海は階段を降りていく、しばらく行くとこれまた意味ありげなゴツい扉が姿を見せ、それを開けると七海が見覚えのある研究所の内装が目に入った、どうやら本家の研究所の内装を再現しているらしい。

 

「機器系統は機能してるみたいだけど、電源はどこから来てるのかしら…?海底ケーブルでも引いてるとか…?」

 

 

そんな事を考えながら七海はメインコンピューターと思わしき端末を操作する、使い方は強制記憶(インプット)のおかげですべて分かる、流石に中のデータまでは共有されていないようだが、今の七海にかかれば復元は造作もない、なぜならさっき“覚えた”ことをそのままコンピューターに記録していけばいいのだから…。

 

 

 

 

 

全ての情報をメインコンピューターに記録し終えた後、近くにあった椅子に座り、今後について考える。

 

 

 

「私…これからどうすればいいんだろう…」

 

 

誰もいない新たな研究所で七海は思考を巡らせる。

 

 

「博士…」

 

 

自分はこれから何をすればいいのか、自分に何が出来るのか、自分を逃がして命を救ってくれた榊原に対して、自分はどうすればいいのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなもの、考えるまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間を…皆殺しにする…!」

 

 

元々自分は人間と戦うために造られたヒューマノイド・ソルジャーだ、その目的を果たすための拠点も手段も既にある。

 

 

それに榊原たち開発チームの味方であるはずの日本政府も七海以降…暁海たちのヒュース開発が難航し始めてからは自分たちを“税金(かね)食い虫”と手のひらを返して見下す人間が増え始めていた、ならばここで自分が人間の殲滅を成し遂げれば榊原や自分たちを下に見ていた政府の連中も七海を見直すに違いない。

 

 

「私が博士の代わり目的を果たせば、博士の行いが正しいという事が証明できる…!」

 

 

ヒューマノイド・ソルジャーである自分が人間を滅ぼし、自分たちが敵に回した存在がどれだけのモノなのかを敵に知らしめる、そしてその実績を日本政府に見せ付けて自分たちの有用性をアピールすれば、二度と榊原の事を悪く言う人間は現れないだろう。

 

 

「私が…博士の意志を継いで見せる!」

 

 

こうして七海は榊原の目的を引き継ぐべく、ヒュースの独自開発を開始した。

 

 

 

 

 

 

七海がヒュースの独自開発を初めてから約2年、ようやくその第一号の開発に成功した。

 

 

「…ついに、ついに完成したわ…!」

 

 

目の前の完成個体を前に七海は興奮を押さえられずに小躍りする、七海が初めて独自に造り上げたヒュースは榊原が開発していた個体とは大きく異なるモノだった。

 

 

まずその身体は人型ではなく、一言で言えば魚の身体をそのまま不格好に巨大化させたような生物と言うべきだろうか、それもそうだ、素材(ベース)となる遺伝子は暁海たちのモノを使っているが、組み合わせに使った遺伝子の殆どは島の近海で捕獲した魚の遺伝子を使っているのだから。

 

 

つまりこのヒュースは水中や水上を泳ぎ周り、人間を捕食し食い殺すタイプのヒュースだ、兵装関連では皮膚の周りを金属で覆って防御力を上げており、脳からの電気信号で作動する大砲も備わっている。

 

 

「名前は、どうしようかしら…」

 

 

魚型のヒュースを前に七海は頭を捻らせる、せっかく自分が開発したヒュースなのだ、名前も多少は凝ったモノにしたい。

 

 

「…よし、歩兵級(ポーン)にしましょう」

 

 

散々悩んだ結果、七海は榊原と遊んだ思い出のゲームであるチェスの駒の一つ…ポーンの名前を与えることにした。

 

 

「開発のコツは掴んだし、あとはこれを大量に造れば人間を皆殺しに出来るはず…!」

 

 

いよいよ動き始める自分の計画に、七海は静かな笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数ヶ月が経った2039年初夏、世界で初めて深海棲艦の存在が確認され、その脅威への対応に追われた各国は次々と停戦を余儀なくされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これが私と博士の昔話よ」

 

 

そして時は現在に戻り、榊原との思い出話を語り終えた七海は再び榊原との写真に視線を落とす。

 

 

「なるほど、七海様にはそのような経緯があって生まれたのですね、と言うことは七海様は今でも榊原博士の事を?」

 

 

「えぇ、今でもどこかで生きていると信じてるわ、そしていつか再会できたときに胸を張って会えるように、人間を倒さなくちゃいけないの、それが私が造られた目的であり、博士の願いだから…」

 

 

七海は優しげな表情で写真の榊原をじっと見つめる。

 

 

 

博士、あなたは今どこで何をしていますか?もし無事に生きているのであれば、どうか安心して下さい、あなたが私を作った目的である人間殲滅は私が責任を持って果たします、そしてそれが果たされた暁には、あなたの居場所を探してお迎えに上がります、あなたのやってきた事が全て正しかったということを、私が証明して見せます、ですから、どうかそれまで無事でいて下さい。

 

 

 

そう心の中で願いながら七海は榊原の事を想う、自分の今の行動は正しい、いずれは必ず榊原のためになる、そう信じる彼女の心は悲しいくらいに真っ直ぐで、残酷な程に無垢で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

哀れなくらい純粋だった。




次回「独りよがりの馬鹿」

お前のやってることはただの独りよがりだ。


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第187話「渋谷奪還作戦1」

chapter15「渋谷奪還作戦編」更新開始です。

少し前に追加した「オリジナル深海棲艦あり」のタグはこのための伏線だったのだよ!(どーでもいい)。


東京湾沖海戦の作戦終了後、帰投した直後の横須賀鎮守府の様子は大混乱の一言だった、大ダメージを負った艦娘の入渠や応急手当、それに伴う作業などで動ける艦娘や提督たちは右へ左へ走り回る結果となり、それらが全て終わる頃には空が白み始めていた。

 

 

「さて、疲労困憊で限界を迎えている提督諸君も多いだろうが、今回の作戦に関しての臨時会議を今から執り行おうと思う、もう少し頑張って欲しい」

 

 

午前5時50分、徹夜で行われた東京湾沖海戦を終え、今回の作戦で新たに判明した情報の共有を主な目的とした臨時会議が開催された。

 

 

「まず今回の作戦で得られた最重要情報がある、深海棲艦の親玉と思わしき個体が現れた」

 

 

開始早々南雲が発したその言葉に、提督たちは一気にざわめきだす。

 

 

「まずはこの写真を見てほしい」

 

 

そう言うと南雲はスクリーンに写真の映像を映し出す、それは作戦中に早瀬が撮影した艤装のカメラ映像のスクリーンショットだった、その写真に写っていたのは長い黒髪の少女…七海だった。

 

 

「この深海棲艦は自らのことを“深海棲艦の祖”、“始まりの深海棲艦”と名乗っており、これまでの姫級を束ねる深海棲艦の始原と断定していいだろう」

 

 

提督たちは七海の写真を見ながら口々に感想を言い合うが、その中で最も多かったのは“意外だ”という意見だった、深海棲艦の親玉という位だからもっと巨大な体躯で禍々しい見た目をしているのだろうと思っていたが、まさかこんな年端もいかない少女の姿をしているとは思っても見なかった、

 

 

「大本営はこの個体を始原棲姫(しげんせいき)と名付け、我々海軍の最重要標的と認識する」

 

 

南雲の発表に提督たちは不思議と闘志を湧かせていた、今まで存在すらあやふやだったラスボスの存在がついに明らかになった、それだけでも提督たちにとっては終戦への十分な道標となる。

 

 

「始原棲姫の能力などは追って電子書庫(データベース)に記載しておくので、各自よく確認するように」

 

 

それから10分くらいで臨時会議は終了し、各鎮守府の提督や艦娘たちは解散となった、相互着任会については臨時会議での協議の結果、続行という形になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、俺に話って?」

 

 

臨時会議終了後、“話がある”と言って海原は木村を提督室まで連れてくる、木村はどこかだるそうに本題を促す。

 

 

「吹雪たちにPitを返せ、お前が没収してるんだろ?」

 

 

海原は鋭い睨みを聞かせて木村の事を見る。

 

 

「へぇ、どうして分かったんだい?確かに俺はあの混血艦(ハーフ)共のPitを預かっている、でもあいつらの連絡手段は封じているから君が知ることは出来ないはずだ」

 

 

海原にガンを飛ばされても全く動じていない木村はそう問いかける。

 

 

「簡単な話さ、コレだよ」

 

 

海原は自分の携帯電話のディスプレイを木村に押し付けるようにして見せる。

 

 

「艦娘用のPitでもGPSは使えるって事を忘れてたみたいだな」

 

 

海原の携帯電話のディスプレイには吹雪たちのPitの位置を示すGPSの地図が映し出されていた、その位置は横須賀鎮守府の提督室を指し示している。

 

 

「電話が繋がらないから変だと思ってGPSを使ったらずっとここから移動していないことが分かった、あいつらが自分からPitを預けるような真似をするとは思えない、となると残る可能性は“お前がPitを没収した”だ」

 

 

畳み掛けるように木村を問い詰める海原、一方問い詰められた木村は何も言わずにゆっくりと歩き出し、吹雪たちのPitが入れられている自分の机に向かって引き出しを開ける。

 

 

「…返してやってもいいが、ひとつ条件がある」

 

 

「あぁ?盗られたモン取り返すのに何でお前の条件を飲まなきゃいけない?」

 

 

 

「…海原充、俺の質問に正直に答えろ」

 

 

木村は海原のごもっともな反論を無視すると、机の引き出しから取り出した“それ”を海原に突きつける。

 

 

「ずいぶんと荒っぽい手段に出るんだな、横須賀鎮守府を立て直した英雄のする事とは思えない」

 

 

“それ”を向けられているにも関わらず、海原は飄々(ひょうひょう)とした態度で木村に返す、余程余裕があるのか、それともこうしていないと平常心を保てないほど内心追い詰められているのか、それは木村には分からなかった。

 

 

「話を逸らそうとするな、黙って俺の質問に答えろ」

 

 

「…分かったよ、それでその“質問”ってのは?」

 

 

海原は途端に真面目な表情になると、鋭い視線を木村に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前…深海棲艦と内通しているだろ?」

 

 

そう言って、木村は海原に向けている“それ”…拳銃の引き金に指を添える。

 




次回「艦娘(ドラッグ)中毒」

ちなみに始原棲姫にはゲーム的な設定も用意してます。

・艦種は『姫』。

・『耐久』『火力』『雷装』『回避』『運』…など、『数字が入るステータス』は全て100統一。

・全ての攻撃フェイズに参加し、攻撃フェイズ毎に装備をリアルタイムで換装する。
例)航空戦なら艦載機、砲撃戦なら主砲で砲撃を行った後に艦載機での航空攻撃、雷撃、開幕雷撃は魚雷…と言った具合。

…こんな感じの設定です、一言で言えば「戦艦レ級の劣化版」ですね。


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番外編「水原香織」

とある少女の、二度と思い出される事のない記憶の欠片。

通算UAが10万を突破してました、いつも読んでいただきありがとうございます!

あと感想数も800件を突破しました、感謝です!(翔鶴MVPセリフ風)


照りつける太陽、空を突き抜けるようにそびえ立つ積乱雲、辺りに鳴り響く蝉の声、夏本番とも言える8月の上旬に相応しいシチュエーションだ。

 

 

「ぷはあっ!」

 

 

そんな夏の日の昼下がり、ひとりの少女が息を切らせながら水面から顔を出す、彼女の名前は水原香織(みずはらかおり)、都心の高校に通う水泳部の女子生徒だ、今日は夏休みを利用して学校のプールに練習に来ている。

 

 

「どうだった!?」

 

 

香織はプールサイドでタイムの計測をしていた友人の後輩女子部員、霜月暁(しもつきあきら)に問い掛ける。

 

 

「うーん…さっきよりかは多少伸びてはいますけど、大会に出るためにはもう少し縮める必要がありますね」

 

 

「マジかぁ…」

 

 

香織は大きくため息を吐きながらうなだれる、今の泳ぎでもかなり本気を出した筈だったのだが、それでもまだ足りないらしい。

 

 

「…今日はここまでにしませんか?練習も大切ですけど、今日は午前中からぶっ続けですし、あまり根を詰めても…」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

暁の言葉に従って香織はプールから上がる、暁の言うとおり今日は朝から続けているせいか身体に疲労が溜まり始めている、ここで突き詰めて足でも攣ろうものならシャレにならない。

 

 

「ごめんね暁、朝から付き合ってもらっちゃって、私のタイム計測で暁ほとんど練習出来なかったし…」

 

 

「そんな事気にしないでください、私が好きでやってることですから、それに香織先輩は私が水泳をやろうと思ったきっかけになった憧れの人です、そんな先輩の手助けが出来て私も嬉しいんです」

 

 

暁は屈託のない笑顔で香織を見る、暁は1年の3学期に水泳未経験で水泳部に入ったルーキー中のルーキーだ、しかし入部直後からその頭角を現し始め、今や2年の中ではトップクラスの実力を持つ将来有望な部員であった、何でも去年香織が出た大会を偶然見学したときに泳ぐ香織の姿を見て一目惚れし、それまで帰宅部であったが水泳部に入ることを決めたらしい、今聞いてもすごい入部動機だ。

 

 

「…ありがとう暁、それじゃ着替えに行こうか、付き合ってくれたお礼にお昼ご飯奢るよ」

 

 

「本当ですか!?なら私ダックドナルドのダブルチーズバーガーがいいです!」

 

 

「いいけど、この前も同じお店だったよね、違うところじゃなくていいの?」

 

 

「先輩の懐事情は把握済みですから」

 

 

「…なんか申し訳なくなってきた」

 

 

 

 

 

 

ダックドナルドに付いたふたりはそれぞれダブルチーズバーガーとビックダックを注文し、空いている手頃な席につく。

 

 

 

「そう言えば先輩、来栖先輩とはどうなんですか?」

 

 

「席ついて食べ始めて開口一番の言葉がそれですか暁サン…」

 

 

唐突な暁の質問に香織は顔をひきつらせる、来栖…来栖和則(くるすかずのり)は香織や暁と同じ水泳部の部長を努めている男子部員で、香織の交際相手だ。

 

 

「もうイくところまでイっちゃったんですか?というかヤりました?」

 

 

「するわけ無いでしょ!まだキス止まりよ!」

 

 

「キスしたのは認めるんですね…でも付き合ってもうすぐ半年なんですよね?そろそろ踏み込んでもいいんじゃないですか?」

 

 

「そんなのは分かってるけど、何か女の私から迫るとビッチみたいで嫌なんだよね…こういうのは和則からリードしてくれないとイマイチ踏ん切りが…」

 

 

「色々めんどくさいカップルですね」

 

 

コーラを飲みながら暁はつっこみを入れる。

 

 

「で、でも!来週の夏祭り一緒に行くし!全く進展無いって訳じゃないわよ!」

 

 

「そうなんですか?先輩がお祭りデート…これは勝負下着+浴衣で決まりですね!」

 

 

「何でオモチカエリ前提で話が進んでるのかしら…?」

 

 

すぐにそっち方向に話を持って行こうとする暁にはもう呆れるしかなかった。

 

 

 

 

「何か風強くなってきてるわね」

 

 

その帰り道、午前中よりも風速が強くなっていることに気付いた香織がぽつりと呟く。

 

 

「台風が近付いてるみたいですからね、明後日にはこっちにも来るらしいです」

 

 

「…しばらくはプール使えないかもなぁ…ってうわっ!?」

 

 

香織が思わずそんな愚痴を漏らしていると、突風が吹いてふたりの身体を前方に押しやる。

 

 

「ビル風ですかね…?風も強いですし、このあたり高層ビル多いですし」

 

 

「都会も良いところばかりじゃないわね…って、あんなビルあったっけ?」

 

 

香織の視線の先には高さ30メートルほどのビルが建っており、ビル全身に作業用の足場が組まれている。

 

 

「最近作業を開始したビルみたいですよ、元々建ってたビルが損傷したので修繕してるみたいです」

 

 

「第三次世界大戦の爪痕かしらね、今は深海棲艦とかいうのが海に棲みついた影響で停戦中みたいだけど」

 

 

これから日本はどうなるのかしらね…と香織は足場に覆われたビルを見上げながら思う。

 

 

「せんぱーい!そこのクレープ屋台が3割引セールやってますよ!デザート食べましょう!」

 

 

ふと気付けば暁が少し先にあるクレープの屋台カーから手を振っている。

 

 

「…はいはい、今行くよ」

 

 

(まぁ、今それを考えても仕方ないか)

 

 

そう思いながら、香織は暁の方へと歩き出した。




本編はもう少しお待ち下さい。

予定通り話が進めば海原がテレビに出ます。


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第188話「渋谷奪還作戦2」

夏イベント目前ですね、輸送作戦に向けて軽巡と駆逐の数は増やしましたが、ボーキサイトが不安…

そう言えば前に共謀罪の答弁をニュースで見ていたときのことですけど…

「花見であれば弁当を、テロの視察であれば地図や双眼鏡やメモ帳などを…」

上の答弁を聞いたとき野鳥観察(バードウォッチング)の人が一番危ないんじゃね?と思ったのは自分だけじゃないはず。


「…何を言い出すかと思えば、深海棲艦と内通?バカバカしい」

 

 

「いいから俺の質問に答えろ」

 

 

銃を向けられて内心ヒヤッとした海原だが、質問の内容のくだらなさにそれがどこかへ吹き飛んでしまった。

 

 

「なら簡潔に答えてやろう、答えは“NO”だ、深海棲艦と内通だなんて…馬鹿も休み休み言え」

 

 

海原は木村の問いに答え、Pitを返すよう迫る。

 

 

「そうか、分かった」

 

 

「素直に言うつもりはないって事だな」

 

 

木村はそう言うと引き金を引いて銃を発砲する、サイレンサーを付けているので大きな音ではなかったが、確かな発砲音と共に弾丸が銃口から射出された。

 

 

「…おいおい、こっちは質問に答えたっていうのに随分な扱いだな」

 

 

海原は一筋の冷や汗を流しながら木村に言う、木村の撃った弾丸は海原の右頬を掠めて飛んでいき、背後の壁に穴をあけてめり込んだ、威嚇射撃といった所だろうか。

 

 

「お前が真実を言えばそれで済む話しさ」

 

 

「だから言っただろ、俺は深海棲艦と内通なんてしていない、お前の勝手な妄想だ」

 

 

「嘘を吐くな!」

 

 

木村は突然海原を怒鳴りつけると拳銃をもう一度撃つ、今度は左頬を掠めて弾丸が飛んでいき、壁にふたつ目の穴を作る。

 

 

「…なぜ嘘だと思う?」

 

 

「考えても見ろ、普通なら忌諱(きい)するような混血艦(ハーフ)何て言う化け物をお前は何体も匿っている、何か企んでるとしか思えない!」

 

 

木村は拳銃の次弾を装填しながら大声でまくしたてる、確かに木村の言うことには筋が通っているかもしれないが、それだけの理由で内通者だと思われるのは海原にとっては本意ではない。

 

 

「お前の言うことには一理ある、だが俺や艦娘たちが深海棲艦との内通者だと断定する証拠にするには決定力不足なんじゃないのか?実際に深海棲艦と密会してるような証拠写真なんかがあれば話は別だが、混血艦(ハーフ)ってだけで内通者と断定するのはこじつけに近いぞ」

 

 

海原はそう言って木村に反論する、しかし彼はそんな海原の言葉などには耳も貸さず、さらにこう続ける。

 

 

「別に確たる証拠なんていらない、深海棲艦に関わるモノは全て悪!早々に始末するのが海軍の為だ!元帥はあの化け者共の存在を許してるみたいだが、みんなあの化け物に騙されている!」

 

 

「なぜ混血艦(ハーフ)の事をそこまで毛嫌いする?あいつらがお前に何か危害を加えたわけじゃないだろ?」

 

 

「深海棲艦は俺から大切な人たちを奪った悪だ!だから深海棲艦の一部であるあいつらも悪!俺は司令官として鎮守府の艦娘を守るために危険因子は排除する義務がある!これは海軍と艦娘たちのための正義だ!」

 

 

無茶苦茶だ、海原はそう率直に思う、木村は混血艦(ハーフ)の事を何も理解していないし理解しようともしていない、おまけに根本の理由は自分の大切な人を殺されたから、これは木村の独善的な自己満足に過ぎない。

 

 

 

「…ひとつだけ言っておく、お前のやってる事は正義でもなんでもない!自分の感情を周りに押し付けてるだけの独りよがりな自己満足だ!馬鹿の極みだ!」

 

 

「っ!!黙れえぇ!」

 

 

激情した木村はもう一度銃を撃とうと引き金を引くが、それより先に海原が携帯電話を木村の右手に投げつける。

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

その衝撃で木村は拳銃を落としてしまった、慌てて拾おうとするが、海原がダッシュで木村との間合いを一気に詰めて拳銃を蹴り飛ばす。

 

 

「このっ…!」

 

 

拳銃を失った木村は海原に殴りかかろうとするが、海原はその腕を掴んで思い切りぶん回して木村を壁に叩きつける、背中から叩きつけられた木村は肺の中の空気を吐き出し、そのままずるずるとへたり込んでしまう。

 

 

「よくも俺や吹雪たちを振り回してくれたな、お前の馬鹿みたいな独りよがりのせいでこっちは大迷惑だぜ」

 

 

「うるせぇ!お前に何が分かる!家族や友達…大切な人たちを深海棲艦に皆殺しにされたこの悲しさが!自分じゃ何も守れない…あいつらに傷ひとつ付けられないこの無力さがお前に分かるか!?何も知らないやつが知った風な口利くんじゃねぇ!」

 

 

木村がそう吐き捨てた瞬間、顔への凄まじい衝撃と共にの視界が突然横向きになった、つい今まで起きて座っていたはずなのに、まるで寝転がったように視界が横を向いたのだ。

 

 

「…ならその言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ」

 

 

しかしその理由はすぐに分かった、木村は海原に殴られていたのだ、その反動で木村は倒れて横向きになり、顔の骨への痛みが遅れてやってくる。

 

 

「吹雪たちの事を知ろうともせずに、勝手に自分勝手な正義ばっか語ってんじゃねぇ!」

 

 

海原は倒れた木村の胸倉を掴んで引き寄せると、さらに続けてまくし立てる。

 

 

「お前の気持ちは俺も分かるよ、俺も家族や友人を深海棲艦の空襲で失って、あいつらに復讐する目的で提督になった、憎かったし悔しかったよ」

 

 

「なら何で尚更あいつらを庇うような真似なんて…」

 

 

「んなもん理由は簡単だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらが生きたいって願ったからだよ」




次回「和解への道」

○オマケ
足柄の右手の主砲が床の模様の関係でぱっと見ボウガンに見えなくもない瞬間。

【挿絵表示】


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第189話「渋谷奪還作戦3」

期間限定海域攻略中ですが、現在E-4で止まってます。

連撃で削ってカットインでトドメをさすのが有効というアドバイスを貰ったので、暁と愛宕をカットイン装備に換装させてトライ中です、今の所発動率は10回以上出撃してそれぞれ1回なので運に見放されなければいける…はず。

現在の最高記録。

【挿絵表示】



「あの混血艦(ハーフ)共が願った…?」

 

 

海原の言った言葉の意味が理解できずに木村はキョトンとする。

 

 

「深海棲艦の正体は轟沈した艦娘だ、吹雪たち混血艦(ハーフ)は深海棲艦になった艦娘の声を聞くことが出来る、吹雪たちは深海棲艦の艦娘だったときの無念や未練に耳を傾けて、心を満たして再び艦娘に戻すんだよ」

 

 

「…つまりあいつらは初めから混血艦(ハーフ)だった訳じゃなくて、一度轟沈して混血艦(ハーフ)として生まれ変わったって事か?」

 

 

「そう言うことだ、あいつらは深海棲艦の時に沈みたくない、艦娘に戻りたい、まだ生きていたいって願ったんだよ、だから吹雪たちはそれに応えて深海棲艦の呪縛から解放して艦娘に戻していった、混血艦(ハーフ)はあくまでもその副産物だ」

 

 

「…結局お前は何が言いたいんだ?混血艦(ハーフ)が生まれる経緯は分かった、だがそれだけじゃあいつらが危険じゃないって証拠にはならないぞ」

 

 

そう言って木村は海原を睨む、それを聞いた海原はやれやれ…と言いたげに溜息を吐く。

 

 

「まだ分かんねぇのか?ならこう言ってやる、混血艦(ハーフ)は確かに深海棲艦との混ざりモノだ、だがその深海棲艦も元を辿ればお前が大切にしている艦娘だ、その艦娘たちは敵になっても『仲間の所へ帰りたい』、『死にたくない、生きたい』っていう色んな想いを持って必死にもがいてるんだよ、お前はそんな艦娘たちの想いも否定するのか?」

 

 

「っ!?それは…」

 

 

木村は気まずそうに目を逸らす、海原の言うとおり台場鎮守府の艦娘たちはみんな様々な想いを抱えていた、喧嘩別れした僚艦に謝りたい、司令官と交わした約束を果たしたい、それらは深海棲艦になっても強い想いとして深海棲艦の心に残り続けていた。

 

 

そして様々な想いを持った深海棲艦は海を彷徨い続け、吹雪たちはその深海棲艦たちの声を聞き、想いを叶えて艦娘へと戻していった。

 

 

「別にお前の深海棲艦に復讐するってのは否定しねぇよ、でも吹雪たち混血艦(ハーフ)にだってそれぞれの想いがあるって事だけは知っておいてくれ」

 

 

海原はそう言うと、木村に背を向けて歩き出して退室する。

 

 

「………………………」

 

 

 

誰もいなくなった提督室で、木村はしばらくの間考え込むように座ったまま動かなかった。

 

 

 

 

「どうしたんですか?こんな朝早くに呼び出して…」

 

 

「朝一の遠征にでも行かせるの?」

 

 

吹雪たちは眠い目を擦りながらダルそうに木村に尋ねる、現在時刻午前6時45分、朝食を食べ終えて今日はどうしようかと考えていた時、木村から突然提督室に来るようにという放送があったため、こうしてやってきたのだ。

 

 

「あぁ、用と言っても出撃や遠征じゃない」

 

 

木村はそう言って机の引き出しを開けて中をごそごそする。

 

 

「これをお前たちに返そうと思ってな」

 

 

「これは…」

 

 

木村が机から取り出したのは吹雪たちのPitだった、没収されてから数日経っているが、ほぼ操作をしていなかったのでバッテリーはまだ半分以上のこっていた。

 

 

「何で急に返す気になったのよ?また何か企んでるの?」

 

 

「そんなんじゃねぇよ、さっき海原に説教されちまってな」

 

 

肩をすくめてそう言う木村に吹雪たちは話が見えずに首を傾げる。

 

 

「…仕方ねぇ、話すか…」

 

 

腹をくくった木村は今回の相互着任会で台場鎮守府を選んだ理由と、そこで計画していた事を全て話す、そして先ほど海原なら言われた説教の内容も全て…。

 

 

「なるほど、司令官を告発するためのネタを探すために自分の所の艦娘を送りこむ事が目的でしたか」

 

 

「はっきり言ってろくでもないわね」

 

 

台場鎮守府が選ばれた理由が分かり納得したように吹雪は頷くが、暁は容赦なくそれを批判する、他の曙、マックス、大鯨も口にこそ出さなかったが、怒りと不快感を露わにしていた。

 

 

「お前たち混血艦(ハーフ)にも俺が大切にしている艦娘の心がちゃんと残ってて、それは深海棲艦だった頃からお前たちを動かしていた、海原に殴られるまで考えもしなかったよ」

 

 

木村は何かを悟ったようにそう言うと、改めて吹雪たちに向き直り…

 

 

「今まですまなかった、どうか許してほしい」

 

 

そう言って頭を下げた、それを見た吹雪たちは驚いた顔をしたが、すぐに木村に声をかける。

 

 

「私たちのことが分かってもらえればそれでいいですよ、それに木村司令官の気持ちも分かりますから」

 

 

「…海原がそうだったからか?」

 

 

木村がそう言うと、吹雪は頷いて肯定する。

 

 

「木村司令官に今すぐ混血艦(ハーフ)を受け入れろとは言いません、ただ私たちが危険な存在ではないということだけでも分かってもらえたなら、今はそれでいいです」

 

 

「全く、海原みたいな事言うやつだな、あいつに似たんじゃないか?」

 

 

つい数時間前に海原から似たようなことを言われたのを思い出しながら木村は苦笑する。

 

 

「まぁその…何だ、残り少ない日数だが、改めてよろしくな」

 

 

木村はこっぱずかしそうに言うと、吹雪たちは一斉に木村に向かって敬礼し…

 

 

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

とびっきりの笑顔でそう返した。




次回「アンチ艦娘」

力を持つものはいつだって『黒』、たとえそれが白だったとしても。

何か取って付けたような感じになりましたがお許しを…。


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第190話「渋谷奪還作戦4」

期間限定海域E-4をクリアしました!最後に愛宕のカットインが決めてくれました!


「ふぅ、今日も今日とて忙しいな」

 

 

みなほ銀行新宿支店に勤める銀行員、片瀬敦(かたせあつし)は忙しそうに銀行フロア内を移動していた、都心の銀行支店だからかやってくる客の数も常に一定数おり、仕事の量もそれに比例して増えていく。

 

 

「っと、そろそろ昼休みだな、もう一踏ん張りだ」

 

 

今日の昼食は何を食べようか…などと考えていたまさにその時、銀行入り口の自動ドアが爆発により吹き飛んだ。

 

 

「っ!?」

 

 

何事かと片瀬が入り口の方を見ると、中学生程の背丈をした少女が4人勢いよく中へ突入してきた、皆鉄のような材質で出来た四角い箱を持っており、まるで銃を向けるような体勢で箱を構えている。

 

 

人の入りがそれなりにあった銀行のフロア内は当然一瞬でパニックになり、あちらこちらで人々が走り回っている。

 

 

「っ!!」

 

 

その時、少女が構えていた鉄の箱が凄まじい轟音と共に火を噴き、銀行の壁に大穴を開ける、穴は建物を貫通しており、外の景色と突然の爆発に狼狽する歩行者の姿がチラチラと見えた。

 

 

「あれ銃器なのか!?どう見ても大砲並の威力じゃねぇか!」

 

 

カウンターの影に伏せていた片瀬が驚きのあまり目を剥いた、今の少女の発砲により銀行内の人間は一斉に床に伏せ、一気に水を打ったように静まりかえった。

 

 

「全員動くな、騒ぐな、大人しくしろ」

 

 

すると今度は入り口から顔を覆面で隠した人間が10人ほど中へ入ってくる、詳しい性別は分からなかったが、背格好から推測するに男だろう。

 

 

その中のリーダーと思わしき男が布製の袋をいくつか持って片瀬のいるカウンターへ歩いていく。

 

 

「この袋に入るだけ金を入れろ、素早くな」

 

 

銃やナイフといった武器の類を一切用いず、リーダーの男はそうシンプルに要求する。

 

 

「…………」

 

 

片瀬はリーダーの男の言うとおりに金を袋に詰める、今ここで何か騒ぎを起こせば他のお客にも危害が及ぶかもしれない、お客を守るにはこれが一番の選択だ。

 

 

(ったくあいつら…!俺が死んだら化けて出てやるからな!)

 

 

片瀬は金を袋に詰めながら横目で壁の穴を見る、他の従業員は客を見捨てて我先にと穴から逃げ出してしまったのだ。

 

 

「…ほらよ」

 

 

そんな仕事仲間への苛立ちを含ませて、片瀬はやや乱暴に袋をリーダーの男に突き返す。

 

 

「ありがとよ、それじゃあな」

 

 

リーダーは袋を手早く回収すると他の仲間に撤退を指示する、最後に自分が出て行こうとしたとき、入り口付近で待機していた少女たちが縋るような目でリーダーの男を見て、こう言った。

 

 

「ねぇ…早くおかわりちょうだいよ…」

 

 

「これが終わったら好きなだけやるから我慢しな、それじゃお前ら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掃除だ」

 

 

それからすぐに通報を受けた警察が銀行に到着したが、そこに犯人の姿は無く、代わりに原型を留めていない人間だった肉塊がフロア中に紅い花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあぁ…おはようございます~」

 

 

「おはよう吹雪ちゃん、ずいぶん眠そうね」

 

 

相互着任会4日目、いつものように眠そうに食堂にやってくるDeep Sea Fleetを見た蒼龍はまたか、といった様子で吹雪に言う。

 

 

「やっぱり仕事が何もない台場と比べるとどうしても普段普通の艦娘がやってるような仕事でも疲れるんですよね、慣れないし」

 

 

「あんた将来他の鎮守府に異動出来なさそうね」

 

 

「異動するつもりもないですけどね」

 

 

そう言って吹雪は朝食を注文しようと席を立つ、するとスカートのポケットから小さな紙が落ちた。

 

 

「吹雪、何か落ちたよ」

 

 

「あ、本当だ、ありがとうございます、昨日計った練度(レベル)の測定結果入れっぱなしだったや」

 

 

「へぇ、吹雪の練度(レベル)かぁ、ねぇ見てもいい?」

 

 

「いいですよ」

 

 

吹雪の許可を貰った蒼龍は吹雪の測定結果を見る。

 

 

 

 

 

○測定結果

・名前:吹雪

練度(レベル):199

 

基礎能力(ステータス)

・機動力:S

・攻撃力:D

・防御力:D

 

 

 

 

「…何て言うか、相変わらずスゴいわね」

 

 

「別に普通ですよ、曙だってこれくらいですし、ほら」

 

 

「勝手に私のハードル上げるの止めてね!?あと何で私の測定結果持ってるの!?」

 

 

勝手に競走馬にされた挙げ句測定結果を勝手に見せられた曙が抗議するが、華麗にスルーされた。

 

 

 

○測定結果

・名前:曙

練度(レベル):85

 

 

基礎能力(ステータス)

・機動力:A

・攻撃力:E

・防御力:E

 

 

 

「ほぇ~、全体的に控えめなのね」

 

 

「いやいや蒼龍さん、これが駆逐艦の普通ですからね、攻撃力と防御力Dランクって軽巡の標準位置ですからね、感覚麻痺してきたんじゃないですか?」

 

 

何やら吹雪基準で話が進んでいきそうだったので曙が慌てて訂正する。

 

 

「朝から相変わらずの盛り上がりようだな」

 

 

そんな馬鹿騒ぎをしていると、武蔵が食後のコーヒーを飲みながら吹雪の向かいに座る。

 

 

「おはようございます武蔵さん、ニュース見てるんですか?」

 

 

Pitでニュースサイトを見ていた武蔵に吹雪が聞く。

 

 

「あぁ、ちょっと気になる話題があってな、台場は今月の頭にあった艦娘の違法売買の事件を知ってるか?」

 

 

武蔵の問いかけにDeep Sea Fleet…特に曙が反応する、それもそのはず、ここにいる吹雪たちはその事件の目撃者であるし、曙にいたっては事件の加害者だ。

 

 

「はい、何でもそれで艦娘に否定的な意見を持つ民間人が増えたとか…」

 

 

「その通りだ、しかもその艦娘反対運動は今でも続いてるらしい」

 

 

「迷惑な話ですね」

 

 

「全くだ、だがこの問題に更に拍車をかける事件が起こったらしくてな、これを見てくれ」

 

 

そう言って武蔵はPitの画面を吹雪たちに見せる、そこには昨日の昼頃に起きた銀行強盗事件のニュース記事が表示されていた、10人ほどの男が銀行へ押し入り金を奪い、中の客と従業員を皆殺しにして逃走したらしい。

 

 

「…この銀行強盗に艦娘が関わってるんですか?」

 

 

「警察はその線が濃厚と発表しているらしい、そしてこれが事実なら非常に由々しき事態になる」

 

 

「…と言うと?」

 

 

「つまりだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘の違法な売買行為が“組織”で行われるようになっている、ということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…すっかり寒くなりましたね」

 

 

「いよいよ冬も本番だね」

 

 

一方こちらは台場サイド、三日月と明石が買い出しを終えて帰路についていた。

 

 

「…ん?」

 

 

「あれは…?」

 

 

鎮守府の入り口の所まで帰ってきたとき、門の側に5~6人ほどの人が立っているのに気付く、その内の何人かは大きなカメラを持っており、まるでメディアの取材陣のようであった。

 

 

三日月と明石がそのメディアのような集団を見ていると、2体に気付いたマイクを持った女性が小走りで近付いてくる。

 

 

「すみません!ここの鎮守府の方ですか?」

 

 

「…そうですけど、あなたは…?」

 

 

三日月が訝しげな目で女性を見ると、その女性はこう名乗った。

 

 

「私、テレビ夕日の報道番組、ハイパーKチャンネルの絵菜(かいな)と言います、艦娘売買事件の加害者の艦娘にお会いしたいのですが…」

 

 

その自己紹介に、三日月と明石が唖然としたのは言うまでもない。




次回「無遠慮な人」

誰にでも守られるべきテリトリーは存在する、それは艦娘とて例外ではない。


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第191話「渋谷奪還作戦5」

期間限定海域E-5をクリアしました!レベル12のリシュリューが決めてくれました!

現在E-6の攻略を始めてますが、TPゲージ1150って何だ。


「はい、私がここの司令官の海原です」

 

 

報道メディアの人が来ている、という知らせを聞いた海原はまさかと思ったが、門まで来てみれば本当にいるではないか。

 

 

「テレビ夕日のハイパーKチャンネルの絵菜と言います、今月の頭にあった都営環状線の事件の加害者の艦娘、こちらにいますよね?お話を伺いたいんですが」

 

 

絵菜は海原に詰め寄るように聞いてくる、本当なら帰れと一蹴したいところだが、その前に聞かなければならないことがある。

 

 

「その前に、なぜ加害者の艦娘がここにいると思ったんですか?ニュースやメディアではその艦娘がどこにいったかなんて言ってなかったですよ」

 

 

海原は慎重に言葉を選びながら絵菜に問う、まず一番に聞きたかったのは事件の加害者…曙がここにいるという情報をどこで手に入れたのかだ、曙のその後については海軍上層部も情報をメディアには一切開示しておらず、普通なら知り得ない事だ。

 

 

「すみません、情報源(ソース)は明かせません」

 

 

絵菜はニコリと笑い、ハッキリと海原の問いに答えることを拒絶した。

 

 

(となると、軍内部の誰かが漏らしたかだな、銀行強盗の事件で余計にメディアが艦娘をつついてるって言うし…)

 

 

メディアに出回っていないとなれば内部から聞き出したということになる、先日の銀行強盗事件で艦娘が関わっていると判明して以降メディアが大本営に連日集まっていると海原は聞いていた、おそらく対応に困った一部の人間が曙に関する事を聞いてくるメディアを台場に向かわせたのだろう。

 

 

「すみませんが、当事者の艦娘には非番を与えていて、3日間の旅行に行っています」

 

 

海原は絵菜にそう言った、もちろん曙は非番ではないし居ない理由も旅行ではなく相互着任会なのだが、“居ない”事に変わりはないので嘘は言っていない。

 

 

「旅行…?行き先はどちらに?」

 

 

「すみませんがお教えするわけにはいかないですね、艦娘にも守られるべきテリトリーはありますので」

 

 

海原はそう答えて絵菜の質問をやり過ごす。

 

 

「…分かりました、また伺います」

 

 

海原の対応に若干不服そうな絵菜であったが、実際にいないのだからこう言うしかない、それにいたとしても曙をメディアに会わせる気はない、散々心傷を抉られている彼女にこれ以上追い討ちをかけるような事はしたくなかった。

 

 

もっと粘るものだと思っていたが、予想に反して絵菜は大人しく引き下がって帰って行った。

 

 

「司令官…」

 

 

「司令殿…」

 

 

絵菜の姿が見えなくなると、近くの物陰に隠れていた三日月と夕月が姿を現す。

 

 

「…まさかメディアが来るとは思わなかったな、曙が横須賀に行ってて良かったぜ」

 

 

「ですが、この事は横須賀の司令に話すべきかと思います、あの女、大人しく引き下がったように見えましたが、どこか狡猾さを秘めているような感じがしました」

 

 

「ほう、お前も気付いたか」

 

 

夕月の観察眼に海原は感心するように言う。

 

 

「まぁ、とりあえず木村には報告しておいた方がいいだろうな」

 

 

海原は三日月と夕月を引き連れて鎮守府へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…一方そのころ、絵菜とその他スタッフの乗るバンの中。

 

 

 

『艦娘にも守られるべきテリトリーはありますので』

 

 

先程海原から言われた言葉が頭の中をぐるぐると周り、その度に彼女の中でイライラが募る。

 

 

「…あんな殺人兵器に守られるテリトリーなんて…バカみたい」

 

 

そう呟いて拳を握り締める絵菜の瞳に宿る感情は、『憎悪』だった。

 

 

 

 

 

 

「…というワケだ、必ず来るかどうかは分からんが、一応用心しておいてくれないか?」

 

 

海原が提督室に戻った後、さっきあった事の顛末を話す。

 

 

『なるほど、分かった、メディアが来るような事があったら適当にあしらっておくよ』

 

 

「すまないな、そっちにまで迷惑かけて」

 

 

『俺だってお前やお前の所の艦娘に迷惑かけまくったんだ、お互い様だよ』

 

 

「そうか…悪いな、よろしく頼む」

 

 

『了解』

 

 

海原が受話器を置くと、それと同時に提督室のドアがノックされる。

 

 

「海原提督、矢矧、天雲、秋霖です」

 

 

「どうぞ」

 

 

海原が答えると、ドアが開いて矢矧たちが入ってくる。

 

 

「どうしたんだ?3体揃って」

 

 

海原がそう聞くと、矢矧たちが揃って腰を折り…

 

 

「この度は申し訳ありませんでした、提督の指示とはいえ、あなたとここの艦娘たちにご迷惑をお掛けしてしまいました、改めてお詫び申し上げます」

 

 

代表で矢矧が海原に謝罪した。

 

 

「おいおい、別にそんなかしこまって謝らなくていいよ、お前たちは木村の指示でやったんだから矢矧たちに罪はない、これから仲直りしていけばいいだけさ」

 

 

海原はそう言って笑う、それを見た矢矧たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにフッ…と口元を緩める。

 

 

「それでは海原提督、残り僅かですが、改めてよろしくお願いします」

 

 

矢矧たちはそう言って無駄のないきれいな動きで敬礼する。

 

 

「あぁ、こちらこそ」

 

 

海原もそれに倣い、敬礼を返した。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、しかしマスコミか、海原も厄介な案件を抱え込んだもんだな」

 

 

木村は椅子の背もたれに寄りかかって伸びをしながら誰に言うわけでもなくぼやく。

 

 

「それにしても、まさか曙ちゃんがあの事件の加害者だったなんて…」

 

 

その横で会話の内容を聞いていた大和が依然信じられないといった様子で言う。

 

 

「俺も驚いたよ、でも海原から話を聞く限りじゃ友人を人質に取られて、おまけに首に爆弾を付けられてたって話じゃねぇか、なのに曙だけが槍玉にあがってるのが気に食わねえな」

 

 

「全くです」

 

 

木村と大和は口々にそう言う。

 

 

「失礼します、提督」

 

 

すると、提督室のドアが開いて古鷹が入ってくる、その表情には困惑と焦りが浮かんでいた。

 

 

「どうした古鷹?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…玄関に絵菜さんという女性の方が来ています、テレビ夕日のハイパーKチャンネルのインタビュアーだそうで…」

 

 

 

「…おいおい、まだ海原と電話して半日も経ってないぞ」

 

 

どうやって追い返すかの対策をさっさと考えておけば良かった、そう後悔する木村だった。




次回「憎い艦娘」
あの時死んでれば良かったんだ。

オマケ:E-5攻略中の一コマ。

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発狂するかと思った。


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第192話「渋谷奪還作戦6」

ようやくE-6の輸送作戦が終わりました、戦力ゲージのボスはベアトリスINシーズンサマー!…もう夏休み終わってますよベア子さん。

そう言えば今年の夏は色々あったなぁ…

太鼓の達人では青空のラプソディ(小林さんちのメイドラゴン)にフルボッコだドン!にされ…

テイルズオブベルセリアでは業魔に襲われ…

ペルソナ4では洗脳された仲間に殺され…


…実に充実した夏でした。


「横須賀鎮守府司令官の木村です、テレビ局のインタビュアーさんが本日はどのようなご用件で?」

 

 

木村が鎮守府の玄関口に向かうと、絵菜と数名のカメラマンやその他スタッフが待ちかまえていた。

 

 

「都営環状線事件の加害者の艦娘…こちらにいますよね?」

 

 

絵菜は強気な口調で木村に詰め寄る、まるでここに曙がいることが分かっているような口振りだった。

 

 

「何のことでしょう?私には何のことだか…」

 

 

「とぼけないでください、ここにいることは調べがついてるんですよ」

 

 

とぼけて追い返そうと思ったが、絵菜は引き下がらなかった。

 

 

「…いったいその情報をどこで?」

 

 

情報源(ソース)については明かせません」

 

 

「海軍内部の情報漏洩(リーク)ですか?」

 

 

「明かせません」

 

 

絵菜はにっこりと笑って否定する。

 

 

(…飄々とかわしやがるけど、曙の情報を知り得るのは内部の人間だけだ、誰かが漏らしたのは間違いなさそうだな)

 

 

そうなるとごまかしは一切通用しないと見ていいだろう、海原には悪いがここは曙がいると明かした上で帰ってもらおう。

 

 

「…確かにその艦娘はここにいますが、あなたに会わせる気はありません、これ以上彼女の心を心傷つけるわけにはいきませんので、どうかお引き取り下さい」

 

 

木村はハッキリと絵菜の要求を断り、帰るように言う。

 

 

事前の予約(アポイント)も無かったので大人しく帰ると思ったが…

 

 

 

「…人の心を持たない化け物が心の心傷だなんて笑わせないで、あんなのただの兵器でしょ」

 

 

絵菜から放たれたその言葉は、怒りと憎しみに満ちていた。

 

 

「…あなたのような考えを持つ人がいることは理解しています、ですがインタビュアーである立場のあなたが決めつけるような考えを持っていては公平に真実を発表できませんよ」

 

 

「あなたに何が分かるって言うのよ!」

 

 

絵菜は突然激昂したように声を荒げる。

 

 

「私は夫を艦娘に殺されたの!事件があった環状線に夫は車掌として乗っていた、そこで夫は艦娘に撃たれて殺されたのよ!だから私が艦娘の恐ろしさを伝えるの!」

 

 

絵菜は一息で木村にまくし立てる、そう言えば事件のニュースでは曙が車掌を撃ち殺したという内容があったのを思い出す、そう考えれば彼女は被害者だ、事件の加害者に心境を聞く権利の一つもあるだろう。

 

 

「そうですか、なら尚更あなたを会わせるわけにはいきませんね」

 

 

だからこそ、木村は曙と絵菜を会わせるべきではないと思った、彼女の立場なら尚更…だ。

 

 

「どうしてよ!私は事件の事を取材する仕事で来てるのよ!?話を聞く権利くらいあるんじゃないの!?」

 

 

そう木村に詰め寄る絵菜だが、木村は決定的な一言で絵菜の主張を一蹴する。

 

 

「あなたがしているのは仕事ではありません、旦那さんを殺された恨みを個人的にぶつけようとしている私事(しごと)です」

 

 

「っ!!」

 

 

絵菜はすんでのところで木村に掴みかかりそうになったが、その手が木村を掴むことはなかった。

 

 

「絵菜さん!それはマズいですよ!」

 

 

「どうか抑えて!」

 

 

側にいたスタッフが絵菜を止めたのだ、いくら気に障る事を言われたとはいえ、海軍の司令官を殴るのはマズすぎる。

 

 

「…このまま引き下がるつもりは無いから」

 

 

絵菜はそう吐き捨てると、スタッフを引き連れてバンに乗り走り去っていった。

 

 

「…やれやれ、本当にやっかいな事になりそうだな」

 

 

木村はそうため息を吐くと、鎮守府へと戻っていく。

 

 

 

 

 

「ハチ、突然だけど、前回のリベンジさせて」

 

 

「へっ?」

 

 

台場鎮守府の食堂、ハチはいきなり矢矧にそう言われあっけにとられてしまう。

 

 

「この前ハチにクイズ出してもらったけど全然解けなかったからね、もう一度やってほしいの」

 

 

「なるほど、そういうことですか、それなら…」

 

 

矢矧の発言の意図を理解したハチは手頃な紙を見つけると、何やら問題を書き込み始める。

 

 

「この問題を解いてみて下さい、今回は1問だけですけど…」

 

 

紙を受け取った矢矧は問題に目を通す。

 

 

 

 

 

○問題:次の式はある法則によって成立しています、それは何でしょう?

 

・戦車+剛毅=悪魔

 

・魔術師+塔=星

 

・運命+正義=世界

 

・戦車+教皇=刑死者

 

・恋人+刑死者=月

 

 

 

 

 

「…え」

 

 

その後数時間悩んでいたが、結局答えは出せなかった。

 

 

「所長、例の強盗団の艦娘の検査結果が出ました」

 

 

 

所変わってこちらは造船所の所長室、榊原は風音から検査結果と報告書を受け取っていた、横須賀で木村が絵菜と問答をしている頃、犯行を終えて逃走中の強盗団の艦娘を2体確保したという海軍警察の連絡を受け、今まで身体検査をしていたのだ。

 

 

「ありがとう風音、どれどれ…」

 

 

榊原は報告書の文字を目で追っていくが、内容を読み進めていくごとに榊原の表情が曇っていく。

 

 

「風音、ここに書かれていることは全て事実で間違いないね?」

 

 

「…はい、確保された2体の艦娘から極めて依存性の高い薬物が検出されました、おそらく強盗団は艦娘を監禁して薬漬けにした後、薬物の投与をダシに犯罪行為に加担させていたのでしょう」

 

 

「…一度依存症にさせてしまえば手懐けるのは容易いということか、組織だからこそ出来る芸当だな」

 

 

榊原が忌々しげに言う、強盗団がどうやって艦娘たちを従わせていたのか、榊原はそのトリックが分からなかった、しかしそのカラクリが分かってしまえば何て事のない話だった。

 

 

「艦娘たちは今どうしてる?」

 

 

「地下の別室で隔離しています、所属先や事情を聞こうにもクスリが切れた影響で暴れていて会話もマトモに出来ない状態です、潮風さんたちでも手に負えず、こんな事は言いたくないですが、解体しか無いかと…」

 

 

風音はとても言いにくそうに最後の言葉を口にする、それを聞いた榊原はやはりか…と呟くと、考え込むように黙る。

 

 

「…分かった、解体班には俺から話を通しておくよ、艦娘の所属先は電子書庫(データベース)で調べておく」

 

 

「…分かりました、失礼します」

 

 

風音は一礼して所長室を後にした、それを見送ると榊原は電子書庫(データベース)にアクセスし、今回確保された艦娘のプロフィールを洗っていく。

 

 

「………………」

 

 

榊原はモニターに映し出された艦娘の情報をしばらく凝視した後、電話を取ってある番号にダイヤルする。

 

 

「…もしもし、造船所所長の榊原です、すみませんがお話が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○艦娘名簿

・名前:山風

・クラス:白露型駆逐艦8番艦

・所属:室蘭鎮守府

 

 

○艦娘名簿

・名前:浜風

・クラス:陽炎型駆逐艦13番艦

・所属:舞浜鎮守府




次回「幽霊船(ファンタズマ)

存在しない艦娘、その正体とは…


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第193話「渋谷奪還作戦7」

夏イベントですが、残念ながら完走出来ませんでした…

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アークロイヤルは欲しかったですが、ウォースパイトやグラーフがゲット出来たので収穫はありました。

イベント中にゲットしたレーベでマックス建造チャレンジしたら一発でマックス建造出来て驚いています、出るもんですね。


1週間にわたり行われていた相互着任会も最終日を迎え、吹雪たちが台場へ帰る日になった。

 

 

 

「1週間お世話になりました」

 

 

「またいつでも来てくれ、歓迎しよう」

 

 

「今回は急に大規模作戦が入って大変だったから、次はゆっくりしたいですね」

 

 

武蔵と大和に見送られ、吹雪たちは台場へ戻るべく帰路につく。

 

 

「一時はどうなるかと思ったけど、終わってみれば楽しかったね」

 

 

「最終的には木村とも和解できたし、成果は上々って所ね」

 

 

吹雪たちが思い思いの感想を言い合っていたまさにその時…

 

 

「台場鎮守府所属の艦娘、曙さんですよね?ちょっとお話伺えるかしら?」

 

 

突然物陰からひとりの女性と数人の男が現れて吹雪たちを取り囲み、女性はマイクを持って曙に詰め寄った。

 

 

「な、何なんですかあなたたちは!?」

 

 

半ば押しかけのような状態で曙にマイクとカメラを向けてくる連中に、吹雪が間に入る。

 

 

「テレビ夕日のハイパーKチャンネルの絵菜と言います、彼女が先日の都営環状線の事件の“加害者”…曙さんよね?彼女にお話を聞きたいの」

 

 

絵菜は吹雪たちに素性を名乗ると、吹雪を押し退けて曙にカメラを向ける。

 

 

「困りますいきなり!そういうのは鎮守府にアポを取って貰わないと…!」

 

 

「アポが取れなかったからこうして直接来てるんじゃない」

 

 

尚も吹雪が止めに入るが、絵菜はそう言って吹雪を一蹴する。

 

 

「いや、だったら素直に引き下がりなさいよ、こんな方法で押し掛けてくるなんて馬鹿じゃないの?」

 

 

暁が遠慮の“え”の字も無い言葉で絵菜に突っかかる、暁に限らず台場鎮守府の艦娘たちはメディア関係者にあまり良い印象を抱いていない、曙の心傷に散々塩を塗ったというのが主な理由だ。

 

 

「何とでも言いなさい、私にはこの事件の真相を突き止める使命があるのよ、さぁ、話を聞かせてちょうだい」

 

 

絵菜は高圧的な態度で曙に詰め寄った、これでは取材というより尋問だ。

 

 

「ちょっと…!」

 

 

「いいわよ吹雪、取材受けるから」

 

 

行き過ぎた取材行為に吹雪が止めに入ろうとしたが、曙がそれを遮る。

 

 

「この様子じゃ話すまで帰してくれそうにないし、協力しないと面倒くさそう」

 

 

最早なげやりとも言える諦めムードで曙は言った、“協力”というより“観念”といった感じだろうか。

 

 

「中々物分かりがいいじゃない、なら聞かせてもらうわ」

 

 

おおよそ質問する側とは思えない態度はそのままに、取材と言う名の尋問が始まった。

 

 

「まず、あなたはどうして殺人を犯したの?」

 

 

最初の質問に曙は“またか”という気持ちを隠しきれなかった、その手の質問はあの時に何度も聞かれている、なのでこちらからの答えもひとつだ。

 

 

「私と友達を買った奴からそう命令されたからです、人殺しなんてしたくなかったけど、友達と自分の命が人質に取られていたから、逆らえなかったんです」

 

 

「逃げようとは思わなかったの?」

 

 

「何度も思いました、でも爆弾の首輪を外すことは出来ないし、起爆装置のリモコンを奪おうにも部屋にいるときは鍵付きの金庫に仕舞われていたから逃げても死ぬかもしれない、そう考えると怖くて逃げられませんでした」

 

 

曙は淡々と質問に答えていくが、その心境は決して穏やかではない、あの事件は今もなお曙のトラウマとして心に刻み込まれている、しかしそれを忘れてしまおうとは思わない、確かに思い出すのも恐ろしい記憶だが、本当に忘れてしまえば何かを無くしてしまうような気がするから、いつまでも記憶の片隅に置いておこうと曙は決めていた。

 

 

「…本当にそうかしら?」

 

 

「?」

 

 

絵菜の切り返しに曙が首を傾げる、曙が言ったことは当然と言えば当然なのだが、どうやら腑に落ちていないらしい。

 

 

「逃げられなかったんじゃなくて逃げなかったんじゃないの?」

 

 

「…どういうことですか?」

 

 

この時すでに曙は絵菜が何と言うかを察していた、自分がこう答えた時、取材者が何と言うかはこの1パターンしかない。

 

 

「あなたが逃げる努力をしなかっただけじゃないかって言ってるの、その起爆装置だって金庫に仕舞うときに奪おうと思えば奪えたはずだし、何なら警察に駆け込むことだって出来たはず、何の努力もせずに言いなりになってるだけだったあなたにも非はあるんじゃないかしら?その挙げ句に殺人なんて馬鹿馬鹿しい…」

 

 

絵菜はそう言って曙を非難する、しかしそれこそ曙が一番言われてきた、そして一番言われたくなかった言葉であった。

 

 

「…口では何とでも言えますよ、それに実際にそんな状況にたった事がない外野にだけはそんな事言われたくないです」

 

 

曙ははっきりとした言葉で絵菜の見解を否定する、彼女のような言葉は何度もメディア関係者からぶつけられたが、実際に経験したこともない第三者からそんな風に言われるのだけは我慢ならなかった。

 

 

「…人殺しが生意気言ってんじゃないわよ、あなた本当に反省してるの?自分が殺した人やその遺族に対して、罪の意識はちゃんとあるのかしら?」

 

 

絵菜が明らかな怒気を含んだ口調で曙に問い掛ける、なぜ彼女はそこまでこの事件にこだわるのだろうか、曙には分からなかった。

 

 

「…もちろん、私が殺してしまった人やその家族には申し訳ないと思っています、でも…」

 

 

以前の曙ならここで謝罪の言葉を吐くだけで終わっていただろう、でも今の曙は違う。

 

 

「私は人を殺した“加害者”でもあり、組織に金で売られ、友人と自分の命を人質に取られ、やりたくもない殺人を強要された“被害者”でもあるんです、そんな私のことを、もっとちゃんと見てください」

 

 

自分の心の底からの本音を、自分が本当に伝えたかった事を、ハッキリと口に出すことが出来る、台場鎮守府での出来事が曙を確かに強く成長させていた。

 

 

「っ!」

 

 

刹那、突如その場にパン!という乾いた音がいやに良く響いた。

 

 

「ふざけないでちょうだい!」

 

 

絵菜が曙の頬を思い切り叩いたのだ、一瞬何をされたか理解できなかった曙だが、数秒遅れて自身の右頬にヒリヒリとした痛みが伝わってくる。

 

 

「人を殺しておいて自分は被害者?馬鹿も休み休み言いなさい!あんたが殺した人を…私の夫を返してよ!何であの人はあんたみたいな艦娘(バケモノ)なんかに殺されなきゃいけなかったのよ!返してよ…!返してよ!」

 

 

絵菜は曙の胸倉を掴んでガクガクと揺さぶると、涙ながらにまくし立てる。

 

 

「夫…?」

 

 

絵菜の言葉を聞いて曙はどこか腑に落ちたような気分になる、なぜ彼女がここまでこの事件に固執するのか、それが曙には分からなかったが、絵菜の夫が被害者ならばそれも納得がいく。

 

 

「あの、これ以上私情を挟んで取材をするようならお引き取りください、あなたのしていることは取材ではなく個人的な尋問と糾弾です」

 

 

そこへ吹雪が間に止めに入る、絵菜はハッと我に返ったような顔をすると、どこかばつの悪そうな顔をして帰り支度を始める。

 

 

「…このまま終わらせるつもりはないから」

 

 

それだけ言うと、絵菜はスタッフと車に乗って走り去ってしまった。

 

 

吹雪たちはその姿をただ見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

「それじゃあ、室蘭と舞浜の提督は艦娘売買の事実を否定してるんだね?」

 

 

「はい、海軍警察の事情聴取の報告によると、艦娘を民間人に売ったような事実はないし、そもそもその艦娘が鎮守府に在籍していた事もない、と言っているようです」

 

 

造船所所長室、榊原は潮風から海軍警察が行った事情聴取の結果報告を聞いていた。

 

 

「ふむ…なるほど…」

 

 

榊原は保護している山風と浜風のデータを見ながらうーん…と唸る、何度確認してもこの艦娘の所属記録は室蘭と舞浜だ、所属記録は各鎮守府への配属が決まった時点で電子書庫(データベース)に記録されるため、基本的に間違うことは無いはずだ。

 

 

「となると残りの可能性は…」

 

 

榊原が頭を回しながらあれこれ考えていると、あるひとつの仮説が頭に浮かんだ。

 

 

「…だとしたら、まさか…」

 

 

ある程度考えをまとめると、榊原は潮風にこう指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「潮風、ちょっと“マザー”のデータを見てきてくれないか」




次回「安楽死」

せめて苦しまず安らかに…


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第194話「渋谷奪還作戦8」

土曜日に東京ゲームショウに行ってきました、物販コーナーのコスパで艦これのグッズを見てきたんですが、やはり三日月のアイテムって無いですね…、つままれストラップとか出ないかなぁ…

あと初めてVRを体験したんですけど、あれスゴいですね。


インタビュアーの取材…もとい尋問という予想外のイベントもあったが、吹雪たちは無事に台場鎮守府まで帰ることが出来た。

 

 

「ひとまずおかえり、と言っておくかな、相互着任会はどうだった?」

 

 

「楽しかったですよ、木村司令官とも最終的には和解できましたし」

 

 

『最初はとにかくムカつくヤツだったけどね、私の吹雪を散々馬鹿にして…ブツブツ…』

 

 

「でも久しぶりに蒼龍さんたちに会えて楽しかったわよね」

 

 

「そうですね、武蔵さんも私のことをとても気にしてくれて、会えて良かったです」

 

 

吹雪たちが思い思いの感想を口にする、とりあえず結果は上々と言って良いだろう。

 

 

「あ、そうだ司令官、帰り際にこんな事があったんですけど…」

 

 

吹雪は絵菜との事を海原に報告する。

 

 

「…ったくあの女インタビュアー、木村からあしらったって連絡貰ったときは安心したが、まさか直に聞きに来るとはな…」

 

 

海原は小さく舌打ちをして不機嫌そうな顔をする。

 

 

「と言うことは、台場にも来てたんですか?」

 

 

「あぁ、その時は非番の旅行だって言って追い返したが、ありゃ絶対海軍上層部の情報提供(リーク)だ、じゃなきゃ台場から横須賀に一直線に来た説明がつかねぇ」

 

 

「上もロクな事しないわね、まったく恐れ入るわ」

 

 

マックスが呆れながらそう言ったとき、大鯨が素朴な疑問を海原にぶつけた。

 

 

「そもそもどうして上層部の方たちは提督の所へ絵菜さんを行かせたんでしょうか?普通に考えれば部下に余計なことを言われて海軍のイメージダウンになるような事を避けて自分たちが無難な見解を発表しそうなモノですけど…」

 

 

「そこは俺も気になってたんだが、何せ相手はあの元帥やその補佐を始めとする上層部だ、あの連中の考えてることは未だによく分からん」

 

 

「ですよねぇ…」

 

 

その後は諸々の細かい報告などをして解散となり、相互着任会は本当に終了した。

 

 

 

 

解散後、明石から深海棲器が出来上がっているので取りに来て欲しいという連絡をもらった曙は明石の工房へ向かった。

 

 

 

「さて、相互着任会ですっかり渡しそびれちゃったけど、モノはすっかり出来上がってるよ」

 

 

そう言って明石は出来上がった深海棲器を作業台の上に並べる、今回作成した深海棲器は4つ。

 

 

1つ目は『スティレット』

 

別名ミセリコルデ、短剣の一種だが、刃が無いので主に刺突用に使われる変わった刀剣だ、十字架の長い方の先端を尖らせたモノと言えば分かりやすいだろうか。

 

 

2つ目は『双銃剣(デュアルガンソード)

 

2本1組の銃剣(ガンソード)、銃身が刀剣で覆われており、柄にある引き金を引くと小口径の弾丸が飛び出す、銃口が剣先にあるので刺突中に弾丸を撃ち出すことも出来るが、銃口を塞いで暴発させないように注意。

 

 

3つ目は『棘棍棒(メイス)

 

暁が持っているのと似たような形の深海棲器だが、これはトゲ部分が回転するようになっており、殴ったと同時にヤスリのように相手を高速で引き裂いていくという素敵な改造が加えられている。

 

 

そして4つ目は『サブアーム』

 

艤装に取り付けるいわゆるオプションパーツで、文字通り腕の形をしている、接近してきた敵に打撃でダメージを与える、主砲を持たせて砲撃戦の手数を増やすといったことが出来る、大ざっぱな命令は手元のデバイスで行えるが、細かい操作などは曙が手動で行う必要がある。

 

 

 

「艤装のオプションパーツなんてよく考えついたわね」

 

 

「前々から作ってみたいって思ってたからね、これはその第一段階だよ」

 

 

「第一段階から既にスゴいんだけど…」

 

 

サブアームを軽く動かしながら曙は言う。

 

 

 

 

 

 

所変わってここは造船所の所長室、榊原は一風変わったお客をもてなしていた。

 

 

「それでは所長、最近話題になっている艦娘の犯罪行為についてどうお考えでしょうか?」

 

 

「いきなり核心を突くような聞き方をするね、その方が答えやすいから嫌いじゃないけど」

 

 

一風変わったお客…絵菜の質問に榊原は少しの間考えるような仕草をする、艦娘売買事件は榊原が今最も重要視している案件だ、自分たちが開発した艦娘が悪用され、犯罪の道具にされている、非常に由々しき事態である。

 

 

「これはあくまで俺の見解だけど、正直言ってそんな事をする連中には怒りを覚えるよ、本来人を守る目的で生まれてきた艦娘たちが人の悪意によって守るべき人を傷つけている、艦娘たちがかわいそうでならない」

 

 

「…やはり艦娘の味方なんですね、この際ですから言わせていただきますが、艦娘の運用を取りやめて別の兵器を作った方がいいのではないですか?」

 

 

「誰の味方とかそんなんじゃないよ、ただ俺は艦娘の開発者として思ったことを言ったまで、それに艦娘は深海棲艦に対抗できる唯一の存在だ、取りやめることは出来ないよ」

 

 

「…人間に危害を加える可能性があってもですか?」

 

 

 

絵菜がそう問いかけると、榊原は再び考え込むような仕草をして、代わりにこう絵菜に問いかける。

 

 

「なら少し視点を変えて話をしよう、ドラマでも現実でも殺人事件の凶器に包丁がよく使われているけど、“包丁を世の中から無くそう”と世間が騒がないのはなぜだと思う?」

 

 

「そんなの決まってます、包丁は調理器具であって人殺しの道具じゃありません、それに包丁は料理に必要な道具ですから、誰も無くそうだなんて思いませんよ」

 

 

絵菜がそう榊原に食ってかかるが、こう返される事は予想がついていた。

 

 

「艦娘もそれと同じなんだよ、彼女たちは深海棲艦から国民を守る唯一の兵器であって人殺しの道具じゃない、それに既存の兵器では深海棲艦は倒せないから艦娘が開発されたんだ、それを無くそうものなら日本は壊滅だよ」

 

 

榊原にそう返された絵菜はすぐさま反論しようとしたが出来なかった、榊原の言ったことは筋が通っている、確かに艦娘は本来人間に危害を加える深海棲艦という敵から人間を守る兵器であって人間に危害に加える道具やその手段ではない、まさに今の包丁の例えと同じである。

 

 

「…所長、そろそろお時間です」

 

 

すると、最初からいたがずっと無言を貫いていた潮風が榊原に耳打ちする。

 

 

「おっと、もうそんな時間か、すまないが取材は…」

 

 

榊原はそう言って席から立ちかけたが、しばしの間無言になり、言おうと思っていた台詞の一部を変更する。

 

 

「先日の銀行強盗団の艦娘の様子を見に行くんだけど、君も来るかい?」

 

 

「えっ?よろしいんですか?」

 

 

突然そんな事を言われた絵菜は目を丸くする。

 

 

「うん、この事件で艦娘の現状がどうなってるかを知って貰うにはちょうどいいからね」

 

 

そう言うと榊原は潮風と絵菜を連れて地下の部屋へ向かう。

 

 

「(所長、急にどうしたんですか?一般人をあの場所に連れて行こうだなんて)」

 

 

「(もし彼女が本当に艦娘の事をただの憎むべき兵器として見ているなら“アレ”を見ても何も感じないだろう、でももしそれ以外に何か思うような所があるなら、彼女は無事ではいられないはずだ)」

 

 

「(所長…ひょっとして先ほどの取材で艦娘を叩かれた事根に持ってます?)」

 

 

「(そんなんじゃないよ、確かに艦娘は人間じゃないし人権も持たないただの兵器だ、でもそんな艦娘には“ただの兵器”で終わらせてはいけない何かを持っている、それを分かって貰いたいんだ)」

 

 

「(それでこんな方法を取るなんて、所長も人が悪いですね)」

 

 

「(自覚はしてるよ)」

 

 

そんなひそひそ話をしているうちに3人は地下のとある部屋の前までやってくる、入り口の脇には見張りなのか風音が立っていた。

 

 

「状態はどう?」

 

 

「依然変わらずですね、多少治まりましたが、まだ…」

 

 

「そうか…ありがとう、それじゃあ例の準備に入ってくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

そう言うと風音は小走りで歩き出し、廊下の奥へと姿を消してしまった。

 

 

「ではご案内します、こちらへどうぞ」

 

 

そう言って榊原は今風音が立っていた部屋の隣のドアを開け、絵菜を中へと通す。

 

 

「…なんですか?ここは」

 

 

部屋の中を見て絵菜は怪訝な顔をする、そこは形で言えば長方形の部屋で、よく刑事ドラマなどで見る取調室の様子を観察するためのマジックミラーが張られている場所に似ていた。

 

 

「この壁は特殊な作りになっていてね、隣の部屋からは普通の壁に見えるが、こちらからはガラス越しのように部屋の様子を見ることが出来るんだ、今は暗幕を引いてあるが、これをどかせばすぐに分かる」

 

 

榊原は暗幕をゆっくりと開き、隣の部屋の様子が見えるようにする。

 

 

「っ!?」

 

 

そこに広がっていた光景は、思わず目を疑いたくなるモノであった。

 

 

部屋の中には2体の艦娘がいたのだが、その様子は明らかにマトモとは言えない状態だった。

 

 

1体目の緑色の髪の艦娘は半狂乱になりながらずっと自身の腕や足などの身体をガリガリと引っ掻いていた、皮膚が裂け中の肉が露出しそこからは鮮血が滴り落ちているが、緑色の髪の艦娘はお構いなしで自分の肉を削っていく、まるで見えない何かを必死で払い落とそうとしているようだった。

 

 

もう1体の銀髪の艦娘は言葉にならない何かを叫びながら自身の頭を壁に何度も打ち付けている、そのせいで壁には彼女の血があちこちにこびり付いており、綺麗だったであろう彼女の銀髪も所々赤く染まっている。

 

 

「あ、あの…彼女たち…は…?」

 

 

絵菜は震える声を絞り出し、やっとの思いで榊原に問いかける。

 

 

「強盗団の艦娘は薬物で身も心も調教されていたのは君も知っているよね、彼女たちはその成れの果てってわけさ」

 

 

榊原は絵菜にそう説明するが、絵菜はそれどころではなかった、目の前で理性と自我を失って自傷行為を繰り返す艦娘を、絵菜は兵器として見ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今からこの2体を解体(しょぶん)する」

 

 

榊原の口から出たその言葉に、絵菜は今度こそ言葉を失ってしまった。

 

 

 




次回「代わりがいるからこそ」

その選択肢は、残酷で…

○オマケ
192話でハチが出した問題の答え↓

A:タロットのカード番号

・魔術師=1番
・教皇=5番
・恋人=6番
・戦車=7番
・剛毅=8番
・運命=10番
・正義=11番
・刑死者=12番
・悪魔=15番
・塔=16番
・星=17番
・月=18番
・世界=21番

カード番号の数字を使った足し算でした。


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第195話「渋谷奪還作戦9」

秋刀魚祭りで海防艦がドロップすると聞いて、松輪ゲット目指して1ー5回ってますが、出る気配無いです…

ヴェールヌイの秋刀魚祭りグラを見て「えっ?ウツギ?」と思わず呟いてしまった(主にジャケットを見て)


「処分って…どういう…?」

 

 

榊原の言葉に頭の理解が付いて行けず、絵菜はつい聞き返してしまう。

 

 

「言葉通りの意味だよ、解体処分…つまりは殺処分だ」

 

 

トドメと言わんばかりの榊原の言葉に絵菜は戦慄する、ここに来るまで艦娘というのは人間に危害を加える忌諱すべき存在、自分の夫を殺した憎むべき存在だと思っていた、しかし実際にこうして薬物の副作用で苦しむ艦娘を見て、さっきまでの憎しみは頭の中で霧散してしまう、今絵菜の目に映っている艦娘たちは殺人兵器ではなく、年端もいかない少女そのものだった。

 

 

「所長、設備とクスリの準備が出来ました」

 

 

すると先ほど奥の方へ消えていった風音が部屋に入ってきた、手には注射器と透明の液体が入ったアンプルが握られている。

 

 

「よし、それじゃあ始めよう」

 

 

榊原は部屋の隅にある放送機器らしき機械の電源を入れ、マイクを掴んで話し始める。

 

 

「所長の榊原だ、山風、浜風の2体にこれからクスリの投与を行う」

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

榊原がそう言うと山風と浜風は即座にその言葉に反応し、部屋の天井のスピーカーに向かって支離滅裂な言葉をマシンガンのように吐き出した。

 

 

「クスリ…!私に…ちゅーて、ちゅーてして!」

 

 

「私にも…おちゅーって…!」

 

 

スピーカーを見上げながらクスリを求める山風たちの姿は餓死寸前の物乞いのようであった。

 

 

「分かった、今から行くから大人しく待ってるんだよ、もし暴れたらクスリは無しだからね」

 

 

山風と浜風は勢いよく頷くと、部屋の真ん中に直立不動で立って待っている。

 

 

「…さて、俺たちも行こうか」

 

 

「…本当にクスリを投与するんですか?」

 

 

「まぁ、クスリと言えばクスリだね」

 

 

絵菜の疑問を意味深な言い方ではぐらかした榊原は風音と絵菜を連れて山風たちのいる部屋に入る。

 

 

「あぁ…クスリ…クスリ…早く…」

 

 

「ちょうだい…ちょうだい…」

 

 

山風たちは左右で焦点の合っていない双眸でこちらを見ながらクスリをねだる、先ほどから開けっ放しになっている口からは涎が垂れ流しになって2体の胸元を濡らしており、クスリの副作用に耐えるためなのか爪を皮膚に突き立てたり指を噛み砕いたりしている。

 

 

「それじゃあ少しチクッとするけど我慢してね」

 

 

榊原は山風と浜風の2体にクスリを注射する、すると注射された2体は10秒も経たない内に倒れ込んでしまった。

 

 

「…所長、これは…?」

 

 

「即効性の睡眠薬だよ、解体されると知って暴れられたら困るからね」

 

 

「クスリを与えるというのはそのための嘘だったんですね」

 

 

「睡眠薬だってクスリだよ、ただそれが艦娘の望んでいる危険薬物(ドラッグ)じゃなかったってだけの話さ」

 

 

榊原はひょうひょうとした態度でそう言うと眠った山風を抱きかかえ、風音に浜風を抱えさせて移動する。

 

 

「…ここは?」

 

 

次にやってきたのはさっきの取調室よりも広い部屋だった、二つの部屋がガラスのはまった壁で区切られており、漫画に出てくる隔離実験室のようだった、この部屋は以前小説にも登場した艦娘の解体室だ。

 

 

 

「艦娘の解体室だよ、今からここでこの2体を解体処分する」

 

 

榊原はそう言って風音と共に奥の部屋に山風と浜風を寝かせてまたこちらに戻ってくる。

 

 

「………」

 

 

これから殺処分されることなど何も知らずに眠っている山風たちを見て、絵菜は胸が締め付けられるような気分になる、どうしてこんな気持ちになるのかは絵菜自身にも分からなかった、この艦娘たちに情が湧いたのか、はたまた自分にもこの艦娘と同い年くらいの娘がいるから、それと重なるのか、全て合っているようで全て違っているような、そんな言葉にし難い感覚だ。

 

 

「良かったら、君が解体してみるかい?」

 

 

「…えっ?」

 

 

榊原がとんでもないことを言い出したので思わずあっけらかんとしてしまう。

 

 

「このボタンを押せば艦娘の解体が行われる、今日は特別にやってみてもいいよ」

 

 

「…私にあの子たちを殺せと言うんですか?」

 

 

「君が艦娘を憎んでいるならその機会を与えてもいいと言ってるんだ、どうするかは君の自由だよ」

 

 

榊原はそう言って解体装置のボタンから半歩ズレて絵菜に道を譲る、その目はこちらを試すようなモノで、まるでこちらの考えを見透かしているような印象だ。

 

 

「………」

 

 

絵菜は恐る恐るといった足取りでボタンの前に立つ、これを押せばあの2体の艦娘は解体されて死ぬ、これを押すだけで…

 

 

 

「…………」

 

 

絵菜はここで初めて自分の身体が震えていることに気付いた、艦娘は人間を傷つける危険な存在、自分の最愛の人である夫を殺した忌むべき存在、さっきまでそう思っていたはずなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………私には、出来ません…」

 

 

 

絵菜の手がボタンに触れることは無かった、どうしても身体が動かなかったのだ。

 

 

絵菜はボタンからゆっくり後ずさる、それを榊原は初めから分かっていたような顔で見ると、今度は自分がボタンの前に立つ。

 

 

「…無理そうなら出ても構わないよ」

 

 

最終確認のために榊原が絵菜の方を見て言うが、絵菜は首を横に振る、ここまで来て逃げることは出来ないし許されない、自分から首を突っ込んだからには最後まで見守る義務がある。

 

 

 

「解体…開始」

 

 

絵菜の意志を確認した榊原はボタンに手をかけ、押した。

 

 

その直後、天井が開いて緑色の液体…高速解体材が山風と浜風に降りかかる。

 

 

皮膚が溶け、肉が溶け、骨が溶け、(ハラワタ)が溶け、脳が溶け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついには全てが無に帰した。

 

 

「…解体終了、担当班は残骸の回収と処分を」

 

 

榊原がそう指示すると、真っ白い衛生服を着た職員が部屋が手早く山風と浜風だったモノをバケツに放り入れ、ダストシュートに放り込んだ。

 

 

「…………」

 

 

その一部始終を見て、絵菜は何も言わずに俯くことしか出来なかった。




次回「移動要塞型特殊歩行兵装」

大地に降り立つ姿はまさに要塞の如く…


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第196話「渋谷奪還作戦10」

資材が回復してきたので、大和型やビスマルクにチャレンジしてみようとマックスを秘書にして大型艦建造を一回だけ回しました。

瑞鳳でした。

持ってなかったので当たりっちゃ当たりなんですが、大型艦建造で出したという事実が言葉にできないモヤモヤを生み出します。


「大丈夫かい?」

 

 

解体作業を終えて部屋から出て来た榊原たちだが、所長室に戻るなり絵菜が放心状態で座り込んでしまったため、榊原がコーヒーを淹れた。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

絵菜はカップを受け取るとゆっくりコーヒーを口に流していく、さっきまで少女が溶けていくというグロテスクかつショッキングな光景を見て身体が震えることもあったが、今では大分落ち着いてきた。

 

 

「しかし君があそこまでショックを受けるとは思わなかったよ、何とも思わないだろうと思って見学を許可したんだけど、これは予想外だったよ」

 

 

「…随分意地悪な事を言うんですね」

 

 

榊原の言葉に絵菜は不機嫌そうな顔で睨む。

 

 

「ごめんごめん、でも正直な事を言うと、君を連れてきたのは君が艦娘を憎んでいると聞いたからどういう反応をするかと気になったからなんだ」

 

 

「…なお意地悪ですね」

 

 

「否定はしないよ」

 

 

榊原が苦笑しながら肩をすくめる、それを見た絵菜はさらに不機嫌そうな顔をするが、それ以上追求しない辺り彼女にも何か思うところがあるのだろう。

 

 

「正直ここに来るまでは艦娘のことを憎んでいました、でも、あの子たちを見ていたら、そんな気持ちが霧散するようにどこかへ消えてしまったんです…」

 

 

「…そうか」

 

 

俯きながらそう言う絵菜に、榊原は特に何かを言うわけではなかった。

 

 

 

「…でも、それを言うなら私も意外だと思いましたよ、艦娘を肯定する立場なのに割とあっさりあの子たちを切り捨てましたよね、もっと親身になって助けると思いましたけど…」

 

 

 

絵菜がそう聞くと、榊原の顔に影が落ちる。

 

 

「…そうだな、ならひとつたとえ話をしよう、3万円で買ったデジタルカメラを5万円で修理に出そうと思うかい?なおカメラは量産品ですぐに同じモノを買い直せる種類とする」

 

 

突然のたとえ話に驚いた様子の絵菜だが、10秒ほど考えるような仕草をした後、口を開く。

 

 

「それだったら新しいカメラを買った方が安上がりですよ、一点モノの貴重なカメラなら修理しますけど、量販店で売っているようなモノならまず修理に出さずに買い換えます」

 

 

絵菜は榊原のたとえ話にそう答える、おそらく大多数の人が絵菜と同じ答えを出すだろう、榊原はその答えを待っていたかのような様子で話を再開する。

 

 

「艦娘もそれと同じなんだよ、艦娘は深海棲艦と戦うことを目的とした量産型の兵器だ、それがままならなくなった個体に時間と労力と金をかける余裕は無いよ」

 

 

「…随分残酷な事を言うんですね、量産品だから個人の意志は尊重されないんですか?」

 

 

「量産品()()()()()だよ、その艦娘が二度と製造できない一点モノであればその貴重さを理由に保護出来るかもしれない、それこそ艦娘個人で見ればそれぞれが一点モノみたいなものだけど、でも艦娘は量産型兵器で目的は深海棲艦との戦闘、重要視されるのは“艦娘個人”ではなく“艦娘”そのものだ、代わりがいるからこそ戦力外を早々に切り捨てて空いた穴を埋めなければいけない、そんな残酷な選択を取らなければいけないんだよ、それは本当に辛く、悲しいことだ」

 

 

榊原は心の底から悲しそうな声で絵菜にそう語って聞かせる、それを見た絵菜は何かを決意したような表情になり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…榊原所長、ご相談したいことが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

七海はベアトリスに案内されて兵装開発施設に足を運んでいた、七海が設計した新兵装の開発をベアトリスにお願いしていたのだが、それが完成したとの報告を受けてやってきたのだ。

 

 

「それでベアトリス、これがそうなのね?」

 

 

 

「はい、移動要塞型特殊歩行兵装…通称“ユミル”です」

 

 

ベアトリスは新兵装…ユミルを七海に紹介する、ユミルを一言で言うなら巨大な駆逐戦車と言ったところか、実物大の戦車のような本体に巨大な足が4本生えており、身体のあちこちから大口径の主砲がいくつも伸びている、ユミルの前面には怪物のような口が鋭い牙を見せつけるようにして存在し、喉の奥には砲門が顔を覗かせている。

 

 

そしてユミルの上部には操縦席が存在し、誰かが乗って動かすというのが基本のスタイルだ。

 

 

「…すごいわね、私の設計よりも数段バージョンアップしてる、それで、パイロットのヒュースの製造状況は?」

 

 

「はい、このために製造されたヒューマノイド・ソルジャー…“ユリアナ”はすでに完成しています、強制記憶(インプット)と覚醒も済んでいるのですぐにでも実践に出せます」

 

 

「…そう、分かったわ」

 

 

「しかし七海様、今回の作戦の拠点が渋谷とありますが、あそこは海もなければ排水用の地下空洞も無いですよ?侵入出来るんですか?」

 

 

作戦要項を事前に読み込んでいたベアトリスは七海に疑問をぶつける。

 

 

「それに関しては大丈夫よ、そのために東京の都心部を調べて回ったんだから」

 

 

「それって、東京駅で迷子になって艦娘に道案内してもらったってアレですか?」

 

 

「…変なことは思い出さなくてよろしい」

 

 

変な記憶を掘り起こされた七海は恥ずかしそうにコホンと咳払いをして話の流れを強引に戻す。

 

 

「何も進入経路は海に直接繋がっている排水路だけじゃないわ、今回に限って言えば、人間は東京に地下空洞を毛細血管のように張り巡らせているもの、今回はそれをちょっと利用させてもらうだけよ…」

 

 

七海はそう言って不敵に笑ったが、ベアトリスはその発言の意図を理解できずにいた。

 

 

 

 

「…おい、今なんて言った?」

 

 

日の入り時刻を迎えた台場鎮守府提督室、そこで海原は耳を疑うような話しを耳にしていた。

 

 

『言ったとおりだ、お前、明日のハイパーKチャンネルに出ろ』

 

 

それがこの、鹿沼からのワイドショー出演オファーである。

 

 

『最近艦娘が悪用される事件が多発してるからな、そのせいで世論が騒がしいからメディアの影響力を使ってそれを沈めるという元帥のお考えだ』

 

 

「…それでテレビ出演ってのはまだ理解できるよ、でも何で俺なんだ?そういうのは上層部の得意分野だろ?」

 

 

『その上層部がめんどくさがってお互い譲り合ってるのが現状なんだ、下手なことを言えば大衆と軍内部の両方から叩かれるからな』

 

 

「…それで切り捨てやすい窓際の俺に押し付けようってハラか、本当に海軍上層部はロクでもねぇ奴らばっかだな」

 

 

『話を最後まで聞け、確かにそういう理由もあるが、お前が選ばれた主な理由はまた別にあるぞ』

 

 

「?」

 

 

『今回の海軍上層部の目的は艦娘に対しての反対感情の沈静化だ、それには艦娘が完全な加害者じゃないって事を世間にアピールする必要がある』

 

 

「…それが俺とどう繋がる?」

 

 

『お前は艦娘のことを第一に考える主義の人間だ、艦娘にとってマイナスになるような事はしないし言わない、そう言った意味ではお前ほどの適任はいない』

 

 

そこまで聞いて海原はようやく鹿沼の発言の意図を理解した、用は自分がテレビに出て艦娘を庇えと言っているのだ。

 

 

「…そう言うことなら出てやってもいい、ただしひとつ言っておく」

 

 

『何だ?』

 

 

「お前の言うとおり俺は艦娘を第一に考えてメディアにコメントする、だが艦娘は庇っても海軍そのものを庇う気はないからな、そもそもこの事件は海軍の司令官が艦娘を不正に民間人に売ったことが発端だ、それに関しては素直に海軍の非を認める、正直海軍の信頼が地に落ちようが知ったこっちゃ無いが、海軍の信頼あっての艦娘の信頼だ、なるべくダメージが少なくなるようにコメントしてやるが、変にごまかすような事はしない、無傷で済むとは思うなよ」

 

 

『別にそれでいい、艦娘を世論から守れれば後はお前に任せる、詳しいことは後でFAXを送る』

 

 

「…了解」

 

 

海原は電話を切ると、椅子の背もたれに背中を預けてふぅ…と息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっかいな事になりやがったぜ…」




次回「敵渋谷陸上泊地強襲作戦」

陸の上に作られた深海棲艦の泊地を強襲、これを破壊せよ!

ちなみに東京駅で迷子になった七海は番外編「瑞鶴と加賀の休日(後編)」を参照。


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第197話「渋谷奪還作戦11」

大鯨をゲットしようと2-5に出撃したら浜風が手に入りました、違う、君じゃないんだ。


尺の都合で前回の次回予告の内容は少しだけ見送りになりそうです、あくまで予告なので許してください…


東京サブウェイ藩蔵紋線の運転手、小立遠矢(こたちとおや)は少々憂鬱な気分で電車を運転していた、今日は休日だというのに朝から乗車率が平日並に高かった、おそらく路線周辺で規模の大きなイベントなどが開催されているのだろう、乗客が増えるのは会社としては大きなプラスになるのだがその分ダイヤの微妙な遅れやしょうもないトラブルがよく起こるので小立からすれば迷惑極まりない話である、その上人身事故などの大きな事故が起きる可能性も大きくなるので尚更たまったものではない。

 

 

「そろそろ渋谷だな…」

 

 

あと数分もしないうちに電車は終点の渋谷駅に到着する、そろそろ速度を落とそうか…と小立は1段に入れていたマスコンを切って惰性走行に切り替え、ブレーキレバーを握る手に力を込める。

 

 

「…ん?」

 

 

すると、小立は前方の光景に違和感を覚えた、普通ならトンネルの景色が延々と退屈に流れるだけなのだが、明らかにそれとは違うモノが見える、なにやら大きな足の生えたモノが…。

 

 

「障害物…!」

 

 

そう判断した小立はブレーキレバーを一気に非常ブレーキまで持って行く、電車は60キロ程度出ていたので、この速度でいきなり急ブレーキをかければ乗客への衝撃もかなりのモノになるだろうが、それでも衝突して大惨事になるよりは遥かにマシだ。

 

 

甲高いブレーキ音を響かせながら電車は速度を落としていく、障害物まであと100メートル程しか無いが、速度はまだ40キロも出ている。

 

 

 

残り80メートル…60メートル…40メートル…残り20メートルを切ってもまだ25キロ程出ていた。

 

 

 

「ダメだ…!ぶつかる!!」

 

 

衝突までに止まれないと確信した小立は衝撃に備えようとする、その時彼はその障害物の全容を目の当たりにした、鮮血のように真っ赤な瞳に真っ白な肌と長い髪を持った女性、そしてその女性が乗る…さながらSF映画に出て来るような多脚戦車のような機械…

 

 

しかし、結果から言えば電車がその障害物に衝突する事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突するはずの先頭車両は、その前半分が跡形もなく吹き飛んでいたのだから。

 

 

 

 

 

 

鹿沼からオファーの電話があった翌日、海原は曙と共にテレビ夕日のある港区の六本木に来ていた。

 

 

「へぇ、これが楽屋ってやつなのね」

 

 

「意外と質素な部屋なんだな」

 

 

番組の開始時間までまだ90分ほどあるため、海原たちは番組スタッフから楽屋(出演者の控え室)に案内されていた。

 

 

「バラエティーとかならここでドッキリが入るけど、やっぱりそういう仕掛けとかあるのかしら?引き出し開けたらアウト~、ってケツバットとか…」

 

 

「いや、ねぇだろ、俺たちが出るのはニュース番組という名のワイドショーだし、そもそも一般人に普通ドッキリなんて出さねぇって」

 

 

置いてあったペットボトルのお茶を飲みながら海原は言う。

 

 

「しっかし、元帥もえげつねぇ事言ってくれるよな、テレビに出るときに曙を一緒に出演させろ…だなんて、正気の沙汰じゃねぇよ」

 

 

「まあ、番組の意向で当事者にも話をさせたいっていうのは昨日のFAXにも書いてあったし、確かにスジは通ってるからね、しょうがないわよ」

 

 

「…お前にはこういうことさせたくなかったんだけどなぁ」

 

 

はぁ…と海原は溜め息を吐くが、曙はそれほど嫌そうな顔はしていなかった。

 

 

「別に提督が気にする事じゃないわ、それにこれで艦娘に対する見方が変わってくれれば私も(やぶさ)かではないし」

 

 

曙がテレビ出演に対して思ったよりも前向きなので海原はひとまず安心する、すると楽屋のドアが控えめにノックされる。

 

 

「どうぞー」

 

 

海原がそう返すと、ドアが開いて女性が入ってくる、絵菜だった。

 

 

「またアンタか、また(コイツ)に根掘り葉掘り聞こうってのか?」

 

 

「…いえ、今日はそうじゃないの」

 

 

海原が不快感を露わにして絵菜を睨むと、絵菜は申し訳無さそうな顔をして曙を見る、以前の高圧的な態度とは打って変わった絵菜に曙は戸惑いを隠せない。

 

 

「あの…今までごめんなさい」

 

 

絵菜は海原と曙に向かって深々と頭を下げて謝罪をする、その様子にふたりは目を丸くする。

 

 

「ど、どうしたんだいきなり…?」

 

 

「この前、造船所の榊原所長の所へ取材に行ったんです、そこで保護された例の銀行強盗団が違法に売買した艦娘を見てきました、そして、解体されるところも…」

 

 

絵菜は造船所へ取材に行った経緯と、そこで何があったかを克明に話した。

 

 

「…なるほど、それはキツいモノを見てきたな」

 

 

「あの時、私の中の色んな価値観が粉々に砕けました、艦娘は夫を殺した憎い存在だと思っていたのに、あの子たちを見て、全てが変わりました…」

 

 

絵菜は泣きそうな顔で自らの心情を吐露する、そして、一通り語り尽くすと、絵菜は真剣な表情になり…

 

 

「私は、艦娘への見方を変えようと思います、個人的な偏見にまみれた目じゃなく、ジャーナリストとしての公平な目で、そして人としての純粋な目で彼女たちの心と、真摯に…」

 

 

海原の目を真っ直ぐに見て、彼女はためらいなくそう言った。

 

 

「…そうか」

 

 

海原はそれ以上何かを言うことは無かったが、その表情はどこか満足げだった。

 

 

「それともう一つ、今日海原さんが出演するハイパーKチャンネル、私がメインキャスターなんですよ」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「はい、艦娘の解体の映像を公開して艦娘の実情の提示と、彼女たちは本当に悪なのかということを世間に問いかける、そういった内容を予定しています」

 

 

「公開って、随分と思い切ったな」

 

 

「海軍上層部の許可は取っています、艦娘の是非を問うには、これくらいしか出来ませんから…」

 

 

絵菜は苦笑しながら頬を掻く。

 

 

「そういう訳なので海原さん、今日はお互いよろしくお願いします」

 

 

「あぁ、よろしく」

 

 

絵菜は軽く会釈をすると、楽屋を後にした。

 

 

「…良かったな、曙」

 

 

ふたりだけになり静まり返った楽屋に、海原の声がやけに通って聞こえた。

 

 

「…うん」

 

 

曙はそれしか返さなかったが、その声は海原以上に通っており、そう返した彼女の顔は、心の底から嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

番組開始予定時刻が近付いてきたので海原と曙がスタジオに入ると、もうすでにほとんどの出演者が集まっていた、各方面の専門家や有名タレントなど、割とテレビでよく見るバラエティー豊かな面子である。

 

 

「…ニュース番組って聞いたからもっと“堅い”のを想像してたけど、意外とバラエティー色強いのね」

 

 

「ニュースって言ってもワイドショーという名のバラエティーだからな、専門家がマトモな事を言ったりもするが、基本芸能人やタレントが望んでもいない好き勝手な個人論をぺちゃくちゃ喋るだけでうるさいだけだ、最近の選挙特番が良い例だよ、政治と全然関係ないタレントが当たり障りのない質問で政権者をヨイショするばかりで中身なんてありゃしない」

 

 

「すぐ近くに出演者や番組スタッフいるのによく堂々と言えるわよね、本当にそういうところ尊敬するわ…」

 

 

曙は額に手を当てて尊敬半分呆れ半分で言う。

 

 

「俺は艦娘の是非について語りに来ただけで出演者(こいつら)に媚びを売りに来た訳じゃないからな、そもそも望んでここに来た訳じゃねぇし」

 

 

好き放題言っている海原に対して一部の出演者や番組スタッフが睨むような視線を向けるが、海原は全く意に介さない。

 

 

そうこうしている内に開始時間間近になり、出演者及びスタッフも全員配置に付く、海原と曙はスタッフに指示された通り端の方に座る、先ほどの発言を聞いていたのか左右にいる出演者が睨みを利かせているが、海原が全く気にしていないのは言うまでもない。

 

 

「本番5秒前!…3…2…1…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少々不穏な雰囲気の中、番組が始まった。




次回「テレビ論争」

その実態を目の当たりにしたとき、あなたは何を思いますか?

果たしてこの予告通りに話がすすむのか…(おい


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第198話「渋谷奪還作戦12」

ほぼ一ヶ月近く更新が空いてしまいすみませんでした(汗、あとpixiv版が先月で投稿二周年を迎えていたことにさっき気付いて時の流れの速さを痛感します。

最近ドラゴンクエスト11(3DS版)をプレイしています、これが初ドラクエなのですが中々面白いです、70時間以上プレイしてもクリアが見えない辺りこのゲームのボリュームナメてました。

艦これのイベントはE-2をクリアしてE-3に取り掛かろうとしているんですが、トリプルゲージという心折設計で早くも挫けそう。




「さて、今回は最近になって頻発している、人間が艦娘を不正に売買して犯罪行為を行わせている問題について特集したいと思います」

 

 

絵菜の司会進行で番組のコーナーはつつがなく進んでいく、原稿を読み上げていく絵菜の姿は中々様になっており、海原たちの知っている彼女とはまた別の一面をみせている。

 

 

「今回は特別ゲストとして、海軍の鎮守府に所属している現役の司令官にお越しいただきました」

 

 

開始早々に絵菜からの紹介を受けた海原は姿勢を正す。

 

 

「ご紹介にあずかりました、台場鎮守府の司令官をしています、海原充といいます」

 

 

海原は畏まった態度で自己紹介をする、横にいる曙が“コレジャナイ感”で笑いを堪えているのが視線の端に映ったが、海原自身も多少は自覚しているので大目に見ることにした。

 

 

「それでは海原さん、最近の艦娘が利用されている事件について、どう思われますか?」

 

 

「そうですね、とにかく艦娘たちが気の毒でならないというのが本音です、聞くところによれば犯罪の片棒を担がせるために薬物依存にさせて飼い慣らしていたとか、犯人には強い怒りを感じますよ」

 

 

海原は落ち着いた様子で絵菜の質問に答えていく、今回のテレビ出演で重要なのは艦娘は世間で噂になっているような悪ではないということを伝えることだ、それだけは何としても達成しなければならない。

 

 

「なるほど、世間では艦娘の運用を取り止めるべきだという声が日に日に大きくなっているようですが、それについてはどう思われますか?」

 

 

「まったくバカバカしい事だと思いますよ、艦娘は深海棲艦に対抗できる唯一の手段です、それを取り止めようなんて自殺行為もいいところですよ」

 

 

 

「しかし、たとえ利用されていたとしてもその艦娘たちは実際人を殺しているんですよね?そんな人を殺せるような兵器を使い続けるのは問題があるのでは?」

 

 

そう言って海原に反論したのはどこかの政党に所属している浪川(なみかわ)とかいう議員だ、どこの政党かは海原が覚えていないので知らないが、最近艦娘反対に賛同してから支持率が伸びたらしい。

 

 

「あなたは一つ大きな勘違いをしている、本来艦娘は深海棲艦を倒すための兵器であり人を殺すための道具じゃない、今回は良識の無い人間が間違った方法で艦娘を悪用したに過ぎない、艦娘たちが責められるような道理はありませんよ」

 

 

海原がそう言うと、浪川はうぐっ…と息を詰まらせる、本当に自分の信念を持って艦娘保有に反対しているのならこの程度のカウンターで言葉を詰まらせるようでは話にならないのだが…。

 

 

(支持率稼ぎのために大衆の意見に同意しているだけか…)

 

 

そう確信した海原は浪川を早々に黙らせようか、などと考えていたが、浪川がさらに言葉を返してきた。

 

 

 

「で、では今回のように悪用されるリスクを負ってでも艦娘の運用を続けていくと?」

 

 

「それは悪用する人間が悪いんであって艦娘たちに罪はない、それにリスクを承知で目先の利益を取るのは我々海軍だけではないでしょう?例えば原子力発電所なんかは40年前に起こった東日本大震災での被爆事故という大きなリスクの前例があるにもかかわらず脱原発は進んでいない、それどころか原発の必要性を訴えて稼働を再開する場所もある、それと同じです」

 

 

海原がそう言うと、浪川は完全に沈黙してしまった、もっと食い下がってくると思っていたが、拍子抜けである。

 

 

「そうでしょうか?俺はそうは思いません、彼女たちにも非はありますよね?環状線事件にしろ今回の銀行強盗にしろ、努力をすれば艦娘も逃げられたはずです、自分から現状を変える努力を怠った艦娘にも罪はあると思うんですがねぇ」

 

 

「そ、そうですよ!それは私も言いたかった!」

 

 

すると今度は専門家の枠で呼ばれた蘇我(そが)というやたらえらそうな男が海原に意見した、それに引っ付くように浪川も割り入ってくる。

 

 

「聞いた話じゃ君の隣に座っている彼女がその事件で人を撃った艦娘だそうじゃないか、この際だから言わせてもらうけど、君がいくら被害者の顔をしたって人を殺したっていう罪は消えてなくならないんだよ、問題解決のために自分から何の努力も行動もしなかった君に被害者の名乗る資格は無い、君はただの人殺しだ!」

 

 

蘇我が曙を指差し堂々とその言葉を突きつける、ある程度の覚悟はしてきた曙だったが、やはりこうして面と向かって言われてしまうと心を抉られる気分になる。

 

 

 

(…やっぱり絵菜さんみたいな事を言う奴ばかりだな)

 

 

ある程度予想できたこととはいえ、海原は呆れながら小さくため息を吐く、隣を見れば曙が悲しそうな顔で俯いていた。

 

 

(…よし、ならアレをやるか)

 

 

海原は本番前にこっそりポケットに忍ばせていたモノを曙にこっそり手渡す。

 

 

「(ほ、本当にやるの…?何もここまでしなくても…)」

 

 

「(口で言ったって伝わらない奴には伝わらないんだよ、ここは実践あるのみだ)」

 

 

「(うぅ…なんだか罪悪感…)」

 

 

曙はやや不安そうに海原から受け取ったモノを隠しながらそっと席から立ち上がる。

 

 

「…しかしそうは言いますがね蘇我さん、環状線事件の艦娘…ここにいる曙はあなたの言う努力や行動を封じるために爆弾付きの首輪を着けて、さらには同じモノを着けた友人を人質にとられていたんですよ?その点に至っては仕方ないのでは?」

 

 

「それこそ起爆装置を奪うなりこっそり抜け出して警察に駆け込むなり努力をするべきだったんですよ、俺ならそうしてますねぇ」

 

 

「ほほう、それはすごい、出来れば今ここでこいつにそのお手本を見せてもらいたいですね」

 

 

「俺もそうしたいところですが、何せそういった状況では無いですから…」

 

 

蘇我はハハハ、と笑いながら海原の発言を流すが、その言葉こそ海原が待ち望んでいた言葉だった。

 

 

「…なるほど、では今から検証してみましょう」

 

 

海原はそう言って曙にハンドサインで合図を送ると、曙は素早い行動で蘇我の後ろに回り込み、首筋に何かを取り付ける。

 

 

「な、なんだこれは…!?」

 

 

突然首に何かを着けられた蘇我は、慌てて首筋に触れてその形を確かめる。

 

 

「…首輪…?」

 

 

「事件で使われた首輪型の爆弾を再現しました、俺が持っているこのスイッチを押すと爆発するようになっています」

 

 

海原はそう言ってポケットから取り出した防犯ブザーのような形状の起爆装置を手で弄ぶ。

 

 

「ふん、そんなことを言って、どうせレプリカか何かだろ?いいからこれを外せ」

 

 

「レプリカ?いえいえとんでもない」

 

 

海原はポケットから蘇我の首に着けた首輪と同型のモノを取り出すと、スタジオ真ん中の床に放り投げ、スイッチを押す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、首輪が小さな爆発を起こし、決して小さくない爆発音がスタジオ中に響きわたった。

 

 

スタジオからは出演者とスタッフの悲鳴が聞こえ、一気に緊迫した雰囲気になる。

 

 

「これでその首輪が本物だと信じてもらえましたか?」

 

 

海原はニコリと笑いながら蘇我の元へ近付くと、すっかり怯えてガタガタと震える蘇我の前にカッターナイフを置く。

 

 

「今からあなたにミッションを出します、その首輪を爆破されたくなかったら、そのカッターナイフでここにいる誰かひとりを切りつけてください、それが嫌なら俺から起爆装置を奪って爆破を阻止してください、制限時間は10分です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、検証開始だ」

 

 

そう蘇我に向かって呟く海原の顔は、悪魔ですら震え上がらせるほどの恐ろしい笑顔だった。




次回「言うは易し行うは難し」

これでもお前は、こいつを否定できるか?


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第199話「渋谷奪還作戦13」

秋イベントですが、E-4のギミック解除で時間切れになりました、涼月…君に会いたかった…

でも神風や矢矧、時津風なんかの未入手艦娘もゲットできたのでそれなりに収穫はありました。

…そろそろ翔鶴が欲しい。


「ふ、ふざけるな!今すぐこの首輪を取れ!」

 

 

爆弾首輪を付けられた蘇我は大慌てで海原に外すようまくし立てるが、当の本人はそんなものどこ吹く風といった風に口笛を吹いている。

 

 

「取って欲しかったら今言ったミッションをクリアしてみてくださいよ、そのカッターで誰かを切るか、俺から起爆装置を奪うか」

 

 

海原は起爆装置を弄びながらけらけらと笑っている、海原が本気なのだということを悟った蘇我は脂汗を流してテーブルの上のカッターナイフを見つめる、これでこの中の誰かを切りつければ首輪は外してもらえる、しかしそれをやればさっきまで偉そうに曙に説教をしていた自分の立場が無くなってしまう。

 

 

引くに引けなくなった蘇我は意を決して海原の前に出る、余裕綽々の海原をものすごい形相で睨みながら蘇我は足を1歩前に出す。

 

 

「おっと、それ以上近づいたらこのボタン押しますよ」

 

 

すると海原は2歩後ずさりをして、起爆装置のボタンに親指をかける。

 

 

「ふざけるな!それじゃあ起爆装置を奪うのなんて不可能じゃないか!理不尽だ!」

 

 

「言っておきますがこの検証は曙からの事情聴取を元に再現したものです、つまりこの状況はここにいる曙が実際に経験した出来事、それを不可能だの理不尽だのと言うのなら、それをひっくり返すための“努力”をしてみてください、あなたが彼女にやれたはずだと豪語したその“努力”ってのを、我々に見せてください」

 

 

海原は底意地の悪い笑みを浮かべて蘇我を見る、まさに行くも戻るも地獄といった状況に蘇我の呼吸は荒くなっていき、真夏の猛暑日にフルマラソンをした後のような量の汗をダラダラと流している。

 

 

(どうする…!?どうすれば…!?)

 

 

蘇我は頭をフル回転させてどうにか海原から起爆装置を奪う方法を模索する、普通に近づいてはその前に起爆スイッチを押されてしまう、なら何かしらの方法で海原の不意を付いて起爆装置を奪うしかない。

 

 

近くのモノを投げて気を逸らす…などの奇襲作戦も考えたが、どれも確実性はないうえに、どのような案を浮かべても死の危険が伴うため安易に実行できなかった。

 

 

そして段々と精神的に追い詰められていった蘇我が最後に取った行動は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…これは仕方ない、仕方ない事なんだ…)

 

 

起爆装置を奪うのを諦め、カッターナイフで誰かを切りつける事だった。

 

 

「お、おいアンタ…何の真似だ!?」

 

 

蘇我がターゲットにしたのは最初に海原に突っかかってきた浪川だった。

 

 

「こ、これは仕方ない事なんだ!あいつに脅されて、もうこうするしかないんだ!大丈夫、殺しはしない!」

 

 

蘇我はカッターナイフを浪川に向けて振り下ろす。

 

 

しかし、その刃が浪川を切る事は無かった。

 

 

「あ、あんた…」

 

 

曙がすんでのところで蘇我の腕を掴み、それを阻止したのだ。

 

 

「…検証終了です、ありがとな曙」

 

 

海原が静かにそう言うと、曙は蘇我の手からカッターナイフを取り上げ、再び海原の隣へ戻る。

 

 

「これで分かったでしょう?努力だ何だと外野が何かを言ったところで、実際にその情況に立たされればこの通りです」

 

 

「う、うるさい!御託はもうたくさんだ!早くこれを外せ!」

 

 

蘇我は自分の行動を恥じることもなく、最早自分の立場など完全に忘れて海原を怒鳴りつける。

 

 

「…分かりました」

 

 

蘇我に対して失望の目を向けながら海原はそう言うと、躊躇なく起爆装置のスイッチを押した、首輪から電子音が鳴り、ランプが待機(グリーン)から起爆(レッド)になる。

 

 

「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

蘇我はスタジオの床にのたうち回りながら叫んでいる、しかしいつまで経っても爆発する気配はない。

 

 

「ぁぇ…?」

 

 

さすがに不振に思ったのか、蘇我は首輪を指で撫でる、するともう一度電子音が鳴り、首輪が外れて床に落ちた。

 

 

「本当に爆発すると思いました?模造品(レプリカ)ですよ、流石に本物を使うわけにはいきませんから」

 

 

「え?でも、最初のやつは爆発して…」

 

 

数十分前の光景を思い出した浪川が海原に聞く。

 

 

「あぁ、あっちは本物ですよ、一度本物を見れば次が偽物でも信じてしまう、よくある思いこみを利用させてもらいました」

 

 

海原が解説しながら蘇我の首から外れた首輪を回収する、その時…

 

 

「ふざけるなああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

突然キレた蘇我が海原の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!あんなモノは検証でも何でもない!ただの脅迫だ!こんなふざけた方法で人を侮辱するのがそんなに楽しいか!?」

 

 

一方的にまくし立てる蘇我の言葉を海原は全て聞き流すと、今度は海原が蘇我の胸ぐらを掴み、ドスの利いた低い声で迫る。

 

 

「…ならアンタに聞く、さっきの言葉、もう一度曙に言えるか?」

 

 

「は…?何言って…」

 

 

「問題解決の為に努力をしなかった艦娘が悪い…ってアンタは言ったよな、その言葉、もう一度曙に言えるか?たった今努力することを放棄して他者を傷付ける事を選んだアンタにそれを言えるか!?」

 

 

海原にそう怒鳴られた蘇我は糸の切れた操り人形(マリオネット)のようにへなへなと崩れ落ちた、言えるわけが無かった、あのときの緊張や恐怖と同じ、いや、それ以上のモノをあの事件で経験してきたと言うのなら、今の蘇我に曙を批判する事など出来なかった。

 

 

 

 

途中で一波乱あったが、気を取り直して番組を再会しようと絵菜が再び場を仕切り直したとき、スタッフのひとりがコードレスホンの子機を持って海原のもとへやってきた。

 

 

「(すみません、海軍の鹿沼さんという方から電話が来ています、緊急の用件らしいのですが…)」

 

 

(鹿沼から、緊急…?)

 

 

嫌な予感がした海原は急いで電話を受けとると、保留状態を解除する。

 

 

『番組中に悪いな、急ぎの用が出来たから電話させてもらったよ』

 

 

「あんたからの急用ってだけで嫌な予感しかしないんだが、どんな内容なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『渋谷駅付近で姫級の深海棲艦と多数の駆逐戦車が出現し、()()()()()を展開させている、すぐに番組を抜けて渋谷に来て作戦に加わってくれ』




次回「泊地棲姫」


その姫、大地を震わす難攻不落の砦なり。


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第200話「渋谷奪還作戦14」

気付けばブラウザー版の艦これを始めて一年が経ちました、ですがイベント海域は一度も完走していません…

そして由良のクリスマスボイスの「あーん♪」がまた聞けるので嬉しい。


鹿沼からの連絡を受けた海原はすぐに曙を連れて渋谷に向かった、周辺の交通は完全にマヒしていたためテレビ夕日の空撮用ヘリで近くの公園まで乗せてもらった、そのおかげで想定よりも早く現場に到着することが出来た。

 

 

「あ、司令官!こっちです!」

 

 

作戦の拠点となる渋谷駅近くのスクランブル交差点に設置された仮設テントへ向かうと、すでに到着していた吹雪たちDeep Sea Fleetのメンバーが待機していた、他には海軍警察、レスキュー隊、救急隊、陸上自衛隊などの人間があちらこちらを走り回っている。

 

 

「それぞれの隊員さんたちには民間人の避難や人払いなどを任せているそうです、ここら一帯の住民はすでにこの下にあるシェルターへ避難させているようですよ」

 

 

「そうか、そういやこの真下には避難用の地下シェルターがあるんだっけか」

 

 

海原は道路脇に現れているシェルターの入り口を見て言った、渋谷の地下には大規模な避難用シェルターが存在し、深海棲艦の空襲などにも耐えられるようになっている。

 

 

「しかし、今回の作戦の拠点がスクランブル交差点というのが些か疑問だな、こんなだだっ広い場所に拠点を構えては敵に狙ってくれと言っているようなものじゃないか」

 

 

すると夕月が先ほどからずっと疑問に思っていた事を周りを見渡しながら呟く、今回の作戦の拠点はスクランブル交差点の端の方…人気ファッションショップの309(通称サンキュー)の近くだ、夕月の言うとおり周辺に遮蔽物などはほとんどないため敵からはこちらの姿が丸見えになる、しかしこれはデメリットばかりではない。

 

 

「確かにお前の言うとおりだが、それは逆を言えば敵も身を隠す手段が無いから自分たちからも敵の姿がよく見えるって事だ、そうすれば奇襲を受ける確率も減るし、下手に入り組んだ場所や屋内にいるよりも瓦礫の下敷きになりにくい、お互いノーガードだからまだ牽制のし合いで済んでるんだ」

 

 

「なるほど、大本営の作戦も案外まともなんだな…」

 

 

「まるで大本営がまともじゃないみたいな言い方は止めてもらいたいもんだがな」

 

 

夕月のトゲを隠そうともしない言い方に鹿沼が反応して言い返す、海原に作戦の指示をするためにこちらに来たようだ。

 

 

「生憎だが私はお前らの事をマトモだと思ったことは一度もない」

 

「…それじゃあお前たち台場への指示を説明する」

 

 

挑戦的な台詞で挑発してくる夕月を無視して鹿沼は説明を始める。

 

 

「今回の作戦名は『敵渋谷陸上泊地強襲作戦』、目的は陸上泊地艦隊の撃滅、艦隊を構成するのは多数の駆逐戦車とその旗艦(リーダー)である姫級…『泊地棲姫(はくちせいき)』だ」

 

 

鹿沼は説明しながら海原にコピー用紙を渡す、そこには空母艦娘の索敵機が空撮した今回の作戦の撃破目標である深海棲艦…泊地棲姫の写真がプリントされ、その下には現時点で判明している攻撃方法や能力などが書かれている。

 

 

泊地棲姫の姿は一言で言えば“巨大ロボに乗った姫級”といった所だろうか、巨大化した駆逐戦車のような四足歩行の艤装に姫級の上半身が生えている、いや、泊地棲姫の手元には操作デバイスのようなモノが見えるので、生えているというよりはコックピットのような場所に乗り込んでいると言った方が正しいかもしれない。

 

 

そして武装は艤装の左右にそれぞれ搭載されている大口径主砲3基×2、後方に搭載されている対空機銃と艦載機の発艦装置、前方に搭載されている中口径主砲2基、そして前方には駆逐戦車同様に巨大な口が付いており、主砲の位置も併せて顔のように見える、しかも口の中には火炎放射器が内蔵されており、うかつに接近すれば灼熱の炎を浴びる事になる。

 

 

「…何て言うか、すげぇな、こんなにフル装備で仕掛けてくるなんて…」

 

 

「それだけならまだいいさ、泊地棲姫本体も小口径の主砲1基と小型の盾を持っている、攻守共に隙がないぞ」

 

 

鹿沼のさらなる追い討ちに海原は頭を抱えたくなる、今までの空母棲姫や戦艦棲姫、飛行場姫などの姫級も十分海軍の艦娘たちを苦しめてきたが、この泊地棲姫の脅威はそれらに匹敵、あるいは上回るものかもしれない、そう考えただけでこちらに勝機があるかどうかが怪しくなってくる。

 

 

「…こいつのヤバさは分かったが、そもそもこいつらはどっから湧いてきたんだ?渋谷の地下には秋葉の時の進入経路になった地下水路は通ってないはずだぞ?」

 

 

一通りの説明を聞いた海原が一番疑問に思っていることを聞く、海原の言うとおり渋谷には地下水路は通っていない、一応掠ってはいるのだが、それを使っても直接渋谷へは来れないはずだ。

 

 

「…地下鉄のトンネルを使ってここまで来たんだ、水路の壁を掘って…な、おかげで今の渋谷駅は深海棲艦の巣窟だ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

鹿沼の言葉に海原は目を剥いた、地下鉄のトンネルを使ったというのはまだ分かる、しかし深海棲艦が壁を掘ってそこまでたどり着くというのはにわかに信じがたい事であった、それが本当なら深海棲艦たちは初めから地下の構造を理解しているということになる。

 

 

(深海棲艦…本当に何者なんだあいつらは…?)

 

 

深海棲艦に対する悩みは尽きないが、まずは駅を深海棲艦に占拠されているこの現状をなんとかしなくてはならない。

 

 

「で、俺たちは何をすればいいんだ?」

 

 

「メンバーを戦闘班と支援班のふたつに分けてくれ、戦闘班はこのまま泊地中核へ出撃、支援班はシェルターの救援活動を手伝ってもらう、中は避難中に怪我をした民間人が大勢いるんだ、正直集まってもらった救急隊や医師だけでは足りない」

 

 

「了解、チーム分けが出来たらそっちに向かわせる」

 

 

海原がそう言うと鹿沼は拠点の本部にいる南雲元帥の所へ小走りで向かっていく。

 

 

「さてと、それじゃさっさとチーム決めするか」

 

 

 

「正直鹿沼や元帥の指揮下に入るのはしゃくですが…」

 

 

「民間人を守るのが私たちの役目だから、ここは従うしかないね」

 

 

一部のDSFのメンバーは不満げであったが、班分けは滞りなくスムーズに進んだ、話し合いの結果、戦闘班は吹雪、暁、三日月、篝、大鳳、曙、蛍、支援班はハチ、マックス、大鯨、明石、雪風となった。

 

 

「よし、それじゃあ各班行動開始!」

 

 

「「了解!」」

 

 

海原が号令を出すと、戦闘班、支援班に分かれたDSFの艦娘たちがそれぞれの持ち場へと向かっていく。

 

 

「…さてと、俺も行くとするか」

 

 

艦娘たちの姿を見送ると、海原も拠点へと足を運んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘班の吹雪たちは敵泊地の中核となっている新宿駅南口へと向かったが、そこはすでに戦場と化していた、アスファルトはあちこちが砲撃の衝撃でクレーターを作っており、駅の内外や周辺の建物は瓦礫の山になっている、駅の入り口付近では大和や武蔵などの横須賀鎮守府を中心とした面々がすでに駆逐戦車と戦闘を行ってた。

 

 

「大和さん!武蔵さん!」

 

 

「おぉ!お前たちか、助かった!」

 

 

武蔵が苦しそうな顔をして吹雪たちの到着に安堵する、どうやら相当苦戦しているようだ。

 

 

「あなたたちも来てくれたんですね、助かりました、()()()()()()では私たち戦艦は力を出し切れないので…」

 

 

大和も駆逐戦車を忌々しげに睨みながら言う、戦艦の大口径主砲は威力は高いが、こういった陸上での砲撃戦では真価を発揮できない、こういった市街地などでの高威力の砲撃は瓦礫や砂塵などをより多く生むからだ。

 

 

「おや、ちょっと見回りに出ていた間にまた新手が来ていたのか、数で押したところで私に勝てるわけがなかろうに」

 

 

すると、駅の中から瓦礫を掻き分けるようにして泊地棲姫が現れた、増援の吹雪たちを目にしても泊地棲姫は恐れる様子もなく、悠然と構えている。

 

 

「…あなたが部隊の親玉ね?」

 

 

「いかにも、我が名はユリアナ、この移動要塞ユミルの乗り手にして此度の作戦部隊の将を務める、そしてこれからお前たちを葬り去る者だ」

 

 

泊地棲姫(ユリアナ)は吹雪の質問に丁寧に答えると、自ら名前を名乗って腰を折る、その余裕さは自分が負けるなどと毛頭思っていない故だろうか。

 

 

『吹雪、あいつ見た目の物腰は柔らかいけど、かなりの強敵だよ気を付けて』

 

 

同じ深海棲艦として通ずる何かをユリアナから感じたのか、リーザがいつになく真剣に吹雪に警告する。

 

 

「分かってる、負けるわけにはいかないよ」

 

 

吹雪はナギナタを取り出すと、それをユリアナに突きつけ、こう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならこちらも宣言します、私は…いえ、私たちはこれからあなたを打ち倒し、渋谷を奪還します、葬り去られるのはあなたの方です」

 

 

その吹雪の言葉に大和たちは“よく言った”と言わんばかりに口の端を吊り上げると、ユリアナに主砲を向ける。

 

 

一方ユリアナは吹雪の宣言を聞いて少し驚いたような顔をしたが、すぐに挑戦的な笑顔を作り…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い、ではその力…私に見せてみろ!」

 

 

周囲の駆逐戦車に戦闘開始の指示を出し、ユミルの全主砲を吹雪たちに向けた。

 

 

 

 

 




次回「命の取捨」

全てを救い上げるなんて出来はしない。


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第201話「渋谷奪還作戦15」

前々から気になっていたゼノブレイド2をプレイするためにNintendo Switchを先日購入しました、全国的に品薄&クリスマスシーズンという無謀なタイミングでしたが、幸運にも近所のゲオで買えました、ホムラ可愛い。




一方こちらはハチ率いる支援班、シェルター内の救援活動の手伝いと言われて海原と共に中へ入ったのだが、予想以上にひどい状態だった、あちこちに大なり小なり怪我をした人が寝かされており、医師や救護員などがその治療に追われていた。

 

 

「で、私たちは何をやればいいのかしら…」

 

 

「救援物資を運んだりそれぞれ必要なところへ持って行くのが現時点の仕事かな」

 

 

「よし、ならちゃっちゃとやるわよ」

 

 

ハチたちはそれぞれ持ち場につき、救援活動の支援にあたる。

 

 

「…でも、本当に酷い有様ね、ほとんどが重傷者じゃない」

 

 

海原とペアでシェルター内を走り回っていたハチが辺りを見渡して言う、現在救護を受けている負傷者は数百人、そのうち重傷者はゆうに100人を軽く越えている、シェルター内に集まっている数十人の医療関係者では到底手が足りない。

 

 

「…ん?」

 

 

その時、ハチは負傷者が寝かされているエリアの一角に、衝立(ついたて)で区切られている場所があることに気づく。

 

 

そこには他の負傷者よりも明らかに致命傷を負っている人たちばかりが寝かされており、まさに死まで秒読みといった状態だった、家族らしき人が側で悲しそうに泣いていたり近くの医療関係者に救護を求めていたりしているのだが、誰一人助けに来る様子はない、どう見ても()()な光景だった。

 

 

「提督、あれ…」

 

 

ハチが海原にその()()とも言える光景を疑問をぶつけるように指差して見せる、その光景を見た海原は負傷者の腕に巻かれている()()を目にし、それが()()ではなく()()な光景だということを確信する。

 

 

「…あいつらの腕に巻いてあるやつがその答えだよ」

 

 

不安そうな表情でこちらを見るハチに対し、海原は負傷者の()()を指差した、仕切りエリアの全ての負傷者の腕には黒いカードのようなモノが巻かれていた、よく見ると仕切りエリア以外の負傷者…シェルター内にいる全ての負傷者の腕に似たようなカードが巻かれていた、違いがあるとすればカードの色だろう、緑や黄色、それに赤などの3色のカードが巻かれている、しかし黒いカードが巻かれているのは仕切りエリアの負傷者だけだった。

 

 

「提督、あのカードは…?」

 

 

「あれは“トリアージ・タッグ”っていって、こういう大規模な災害現場なんかで負傷者の怪我の程度を簡易的に表すモノだ、一番軽傷な人が緑、そこから黄色、赤になるほど怪我が重くなる」

 

 

「…じゃあ、そこにいる黒は…?」

 

 

ハチは恐る恐るといった様子で海原に聞く、しかし()()()()()という表現で黒の事に言及しなかった時点である程度察しはついていたのだが、聞かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒は“死亡”、もしくは“処置を施してもたすかる見込みのない人”…要は『諦めろ』って事だ」

 

 

「っ!!」

 

 

海原の決定的な一言にハチはギュッと胸を締め付けられるような気持ちになる。

 

 

「残酷な事言うようだけど、今ここにいる連中だけじゃシェルター内の負傷者を全員助けるのはほぼ不可能だ、人も物資も全然足りてないしそうした設備も無い、なら助かりそうにない奴から切り捨てていくしかない、1人の致命傷者に時間をかけて100人の重傷者を死なせるより、1人を切り捨てて100人を救う方が理にかなう」

 

 

「…確かに理屈ではそうですけど…」

 

 

ハチが納得出来ないといった様子で言う、確かに海原の言うことは筋が通っているが、たとえ理屈がそうだとしても人の情がそれに納得するかと言えば必ずしもそうではない、むしろ人を救う立場の人間なら101人を救うことが一番いい選択肢だ、だが現実はそう甘くない。

 

 

 

「お前が納得できないのも当然だ、人間は理屈で考えて情で動く、今の例えなら101人を救うことが何より良い方法だろう、でも医師の需要に対して人間の供給が圧倒的に足りない状況下で101人を救う事なんて不可能だ、それが人数がより多い目の前の状況なら尚更、こういうプロってのは、時に理屈で考えて理屈で動く冷徹さも求められるんだ」

 

 

「…はい、それはもちろん分かってます」

 

 

ハチはそう海原に返すが、やはり胸の奥につかえのようなモノが残ってしまう、せめて何か自分に出来ることはないか、そう思い始めたとき…

 

 

「でも、だからといって俺たちに出来ることが無いわけじゃない」

 

 

海原がさっきまでとは打って変わって明るい口調になって言う。

 

 

「今走り回っている連中がひとりでも多くの人たちを助けられるように精一杯協力する事だ、今やっている物資の運搬だってそうだし、グリーンレベルの負傷者の応急処置なら俺たちでも協力できる、流石に黒を減らすことは出来ないが、救い上げる命の数は増やせるはずだ」

 

 

海原はそう言うと、持っていた救援物資の段ボールを担ぐと、早歩きで歩き出した。

 

 

「行くぞハチ、俺たちみんなでこいつらを助けるんだ」

 

 

「…はい!」

 

 

 

海原の言葉を聞いたハチは同様に段ボールを抱えて歩き出した。

 

 




次回「エゴ」

人はいつだって自分勝手な利己主義者(エゴイスト)である。


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第202話「渋谷奪還作戦16」

今更ですがあけましておめでとうございます、今年もDeep Sea Fleetをよろしくお願いします。

自分は正月早々出勤したり先週の雪の影響で終電間際まで修羅場だったりと、鬼灯様にキレられそうな状況でした。


そしてこちらは戦闘班、吹雪たちがユリアナと戦闘を開始してから30分以上経過しているが、戦況は確実に悪くなっていた。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

「青葉!」

 

 

ユリアナの砲撃で青葉が大破になり、追撃しようとするユリアナを止めようと比叡が主砲を撃ち出す、しかし駆逐戦車が飛び出して盾となり、砲撃がユリアナに命中することはなかった。

 

 

「くそっ!こいつら次から次へと…!」

 

 

「武蔵さん!空母隊がそろそろガス欠です!」

 

 

「分かった!赤城たち空母隊は青葉を連れて拠点へ退避!交代が来るまでは舞浜の防空駆逐隊が死ぬ気で対応だ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

武蔵の指示で戦場の艦娘たちはそれぞれ動き出す、高速修復材を湯水のように使い、艦娘をローテーションで回してユリアナを全力で攻撃しているが、ユリアナに与えられたダメージは小破相当で膝をつかせるまでには至っていない、艤装であるユミルの多彩な攻撃手段や装甲といったスペックもさることながら、ユリアナを守るように立ちはだかる駆逐戦車がその攻撃を邪魔しているのだ。

 

 

戦線は少しずつだが後退していき、あともう少しで拠点があるスクランブル交差点に差しかかかってしまう程まで来ていた。

 

 

「てやあぁっ!」

 

 

吹雪が手甲拳(ナックル)で駆逐戦車の脳天の装甲を砕き、篝がパイルバンカーでその脳髄を貫く、かれこれ50体以上は倒しているが、駆逐戦車の控えが尽きる気配は無い。

 

 

「武蔵さんと大和さんももう下がった方がいいですよ!いくら大和型とは言えもう持ちません!」

 

 

古鷹がユリアナの砲撃をかわしながら大和たちに退避を具申する、大和たちは開戦からずっと戦いっぱなしだったため、既に大破寸前のダメージを負っていた。

 

 

「…すまない、すぐに戻る、扶桑!山城!指揮を頼む!」

 

 

「了解しました!」

 

 

「お任せください!」

 

 

大和と武蔵は護衛の駆逐艦娘に連れられながら拠点へと退避する。

 

 

「…ふん、どれほど我を楽しませてくれるのかと思ったが、存外大したことはないのだな」

 

 

期待はずれといった様子でユリアナが言う、その余裕綽々とした態度に周りの艦娘たちが一斉にムカついた。

 

 

「ナメるんじゃないわ…よ!」

 

 

扶桑がユリアナに主砲と副砲を同時に撃つ、砲撃は全て命中しているが、ユミルに致命的なダメージを与えられていない。

 

 

「無駄だ、ユミルの装甲は戦艦級(バトルシップ)の艦娘の兵装や肉体組織を取り入れている、生半可な攻撃では壊せまい」

 

 

そう得意げに言うと、ユリアナはユミル正面の中口径主砲を扶桑にロックオンし、的確に狙撃する。

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「扶桑!」

 

 

砲撃を受けて転倒する扶桑を山城が受け止める、ダメージは中破相当で済んだようだが、左足の骨にヒビが入ってしまった。

 

 

「トドメだ」

 

 

ユリアナが中口径主砲と小口径主砲を全て扶桑と山城に向ける。

 

 

「させるかぁ!」

 

 

「させません!」

 

 

しかしそれを阻止するために曙と蛍がそれぞれスティレットとハープーンガンでユミルの足を攻撃する。

 

 

『ー!?』

 

 

硬い皮膚と分厚い筋肉でダメージこそ少なかったが、ユミルの痛覚を刺激する事は出来たらしく、その巨体を苦しそうに揺らす、そのせいで砲撃の照準がずれ、弾丸は扶桑と山城の両脇のアスファルトを抉るだけで終わった。

 

 

「ふん、少しは頭を使うようだな、なら…これでどうだ?」

 

 

ユリアナはユミルを操作して体の向きを変えると、口を大きく開けさせる。

 

 

「ファイアー!」

 

 

刹那、ユミルの口から激しい火炎放射が放たれ、正面にいた艦娘たちを焼いていく。

 

 

「今だユミル!前進!」

 

 

ユリアナの指示により、ユミルは艦娘たちを蹴散らしながら前進していく。

 

 

「しまった!炎に怯んで攻撃の手が緩んだ隙に…!」

 

 

「追うわよ!」

 

 

艦娘たちはユリアナを追って攻撃を加え続けたが、ついにユリアナ率いる陸上艦隊がスクランブル交差点に到達してしまった。

 

 

 

 

「…ん?木村から…?」

 

 

海原がポケットの中で振動している携帯電話を取り出すと、ディスプレイには横須賀の木村の名前が表示されていた、確か今は地上の救護所で艦娘の応急処置をしていたはずだ。

 

 

「もしもし?どうした?」

 

 

『大変な事になった!泊地棲姫がスクランブル交差点まで進軍してきやがった!』

 

 

「はぁ!?」

 

 

木村の言葉に海原が驚愕する、地上では大和型含む横須賀の精鋭たち、そして舞浜や幕張の主力部隊が戦っているはずだ、それらを押す泊地棲姫の戦闘力とはいったいどれほどのモノなのだろうか。

 

 

『そのせいで泊地棲姫の射程距離が拠点にまで届くようになっちまったんだ!だからこれから救護所だけでもシェルター内に移す!このままじゃろくな処置も出来ないからな!』

 

 

「分かった、こっちも準備しておく」

 

 

海原は電話を切ると、シェルター内にいる自衛隊や海軍の連中にそのことを伝え、急遽艦娘用の救護所を用意することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし、設営途中で問題が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談じゃねぇ!何であんな化け物たちを中へ入れなきゃならねぇんだよ!」

 

 

「そうよ!断固反対するわ!」

 

 

シェルター内の避難住民たちが反対して騒ぎ始めたのだ。

 

 

 




次回「一番偉いのは?」

少なくとも、お前らよりは偉い。


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第203話「渋谷奪還作戦17」

艦これを始めて約1年と2ヶ月、とうとう吹雪と念願のケッコンカッコカリを行うことが出来ました、いや~長かった。

【挿絵表示】


最近「みんなで決めるゲーム音楽ベスト100」という動画を見るのにハマっています、知らないゲームでも音楽を聞いているとついつい楽しくなりますね。

あとポプテピピックというアニメの狂気に惹かれつつあります、OPが太鼓の達人に収録されると知ってヒャッホウ!でした。







何気ないヴェアアアアアアア!が重巡棲姫を傷付けた。


 

「まさか反対されるとはな、さてどうしたもんか…」

 

 

救護所の設置に反対して騒いでいる避難住民と、それを抑えている隊員たちを見て海原はため息を吐く、反対の理由はその気になれば人も殺せる艦娘(バケモノ)をシェルターに入れることに生理的嫌悪感を覚える…といった自己中心的なもので、中には設置予定スペースに座り込んでいる者までいる。

 

 

「提督、どうしましょう?このままでは…」

 

 

大鯨が不安そうに聞いてくる、ただでさえ支援班のハチや大鯨たちもシェルター内の避難住民から煙たがられているのに、これから負傷した艦娘たちを運んでくるのは無理がある。

 

 

「…仕方ねぇ、ここは俺が何とかするか」

 

 

すると、意を決したようにそう言った海原は騒いでいる避難住民を抑えている隊員たちの方へと歩いていく。

 

 

「みなさん、ここは俺が避難住民を説得するので救護所の設営をお願いします、半ば強行突破になるかもしれませんが、俺が責任を取ります」

 

 

海原は避難住民を説得している隊員たちに向かって言う、陸自の隊員や医療関係者よりは艦娘側の立場に近い海軍司令官の海原の方が説得力はあるだろう、海原の申し出を受けた隊員たちは説得を海原に任せ、簡易ベッドやその他設備などを設置していく。

 

 

「おい、邪魔だ、さっさとどけ」

 

 

それからの海原の行動は早かった、座り込んでいる避難住民を道に落ちているゴミを退かすかのようにぞんざいに引っ張っていく。

 

 

「おい!何すんだよ!?」

 

 

「さっき陸自の隊員が説明してただろ?今からここに救護所を設営する、これは決定事項だ、反対意見は聞かん」

 

 

「何だよそれ!一方的じゃねぇか!」

 

 

「こんな所に化け物を連れてくるんじゃねぇよ!上でやってりゃいいじゃねぇか!」

 

 

強硬手段に出るという海原の言葉も聞かずに尚反対する避難住民たち、流石に鬱陶しくなってきた海原は次の手を打つ。

 

 

「なら一つ教えてやる、現状戦線はだいぶ押されていて艦娘側は不利だ、敵はすでにこのシェルターのあるスクランブル交差点に差しかかかっている」

 

 

海原の言葉に避難住民たちは一斉にどよめき出す、普通ならこういうときは安心できるようにポジティブな事をいうのがセオリーだが、この連中にそんな気を使う必要な無いと判断した海原はストレートに事実だけを伝える。

 

 

「戦線後退の影響で救護所がある艦娘の拠点が敵の射程圏内に入った、そのせいで負傷した艦娘の処置がマトモに行えないからより安全なここで手当を行う、それが理由だ、納得したか?」

 

 

海原は淡々と事実を口にして避難住民たちを黙らせようとするが、それでも避難住民たちの反対意見は止まなかった。

 

 

「そもそも艦娘は兵器なんだろ!?満足に手当なんかしなくても動ければそれでいいじゃねぇかよ!」

 

 

「そうだそうだ!あいつらは人間じゃない!救護所なんか必要ないじゃないか!」

 

 

その意見が出たとき、海原はやっぱり来たか…と心の中でため息を吐く、艦娘は兵器か人間か、その線引きの議論は海軍の内輪だけでなく今や民間人の間にも広がりつつある、そして今海原はその線引きに対する自分なりの答えで避難住民を説得しなければならない。

 

 

「そうだよ、艦娘は人間じゃねぇ、だが兵器でもねぇ、『艦娘』は『艦娘』だ、艦娘は人間同様に感情や自我がある、それと同時に深海棲艦と戦う力を持った兵器でもある、つまり人間と兵器の二面性を併せ持つ艦娘は『艦娘』っていう第三のカテゴリーなんだよ、それを『人間』だの『兵器』だのって古いカテゴリーに無理矢理収めることに何の意味がある?」

 

 

そして、これが今の海原の答えだ。

 

 

「『兵器』のように深海棲艦を倒し『人間』のように休息や食事をする、それが『艦娘』という第三の存在だ、その艦娘にとって今必要なのは安全に手当てが出来る場所だ、違うか?」

 

 

海原はそう避難住民に問う、艦娘は人間か兵器か、その議論は内輪でも外側でも平行線になることが多い、理由は先ほど海原が言ったとおり艦娘は人間と兵器の二面性を持っているからだ、どちらも併せ持っているからこそどちらかに収めることに対して平行線の議論が生まれる、ならば新たに第三の選択肢を作ってそこに収めてしまえばいい、それが海原の考えだった。

 

 

避難住民たちはそれでも反論しようとしたが、前例がなければ作ればいいという海原の無茶苦茶な理屈で迫られ、反論の言葉が見つからなかった、結果避難住民たちは泣く泣く座り込みを止めるしかなかった。

 

 

「安全地帯でふんぞり返って命令だけしてる司令官が偉そうに…!」

 

 

その途中、ひとりの中年の男が海原を睨みながら吐き捨てるように言う。

 

 

「…確かに俺は安全な場所から艦娘に指示を出しているだけだ、お前らの言うように偉そうに言える立場じゃない、けどな、今この瞬間にも命を懸けて戦ってる艦娘たちは、少なくとも今のお前らよりは偉いと思うぞ」

 

 

海原はその言葉に腹を立てる事もせず、静かにそう返した、そしてそうこうしているうちに救護所の設営が完了し、大破や轟沈寸前の重傷を負った艦娘が優先的に運ばれてくる。

 

 

それを見た避難住民たちは総じて顔を引きつらせた、全身血塗れの艦娘や四肢が欠損している艦娘、思わず目を覆いたくなるような光景が容赦なく飛び込んでくる、本当なら衝立などの仕切りを使うべきなのだろうが、あえて使わないように海原が周りに指示した。

 

 

民間人が普段目撃する事がない戦闘中のリアルタイムな艦娘を知ってもらおうというのが主な目的だ、大衆から人ならざる化け物と忌まれている艦娘も、ひとたび戦闘に出れば人と同様に怪我はするし、最悪戦死(ごうちん)する事だってある、しかしその部分を民間人が知る機会は皆無と言っていいだろう、だから海原はあえて隠さずに全てを見せるという判断を下した。

 

 

(…これが鹿沼や元帥にバレたら大目玉食らうだろうな…)

 

 

…もっとも、いくら海軍司令官の海原と言えどそこまでの決定を下せるほどの権限など持っているわけもなく、ほぼ独断での決行なのだが。

 

 

「高速修復材持って来い!」

 

 

「ガーゼは常に清潔なモノに交換しておけよ!」

 

 

「こっち包帯足りないぞ!」

 

 

一方急ピッチで設営された救護所では艦娘たちの応急手当がてんてこ舞いで行われていた、室内なので高速修復材の中身をぶっかけるわけにはいかず、修復材を染み込ませたガーゼで体を拭いて傷を修復する方法を取っていた、尚回転率を重視するために小破相当まで回復したら処置を切り上げている。

 

 

それを見ていた避難住民たちはその痛々しい光景に目を反らす、しかしそれをするということは艦娘のことを化け物ではなく人に近い存在であるという事を認めている事になる、もっとも当人たちは自覚していないようだが。

 

 

「すみません!通してください!轟沈艦娘が出ました!」

 

 

担架を担いできた隊員の言葉にその場にいた隊員たちが一斉にそちらを見た、運ばれてきた艦娘は両足と左手を失っており、左脇腹に開いた大きな風穴からは骨や内臓が丸見えになっている。

 

 

「海風!海風!返事してよ!ねぇ!」

 

 

そして、運ばれてきた艦娘…白露型駆逐艦7番艦『海風』に付いて来た艦娘が必死に海風の亡骸に声をかけている、海風と同じ鎮守府に所属している『村雨』だ。

 

 

 

「ねぇ海風!起きてよ!今度一緒に原宿のクレープ食べに行くって約束したじゃない!チョコバナナ食べるんだって…言ってたじゃない…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もうやめておけ、その子はもうこの世にいない」

 

 

すると、応急手当を終えて戦線に復帰しようとしていた武蔵が村雨の肩に手を置いて諭すように言う、目の前の友人の死から目を反らすように話しかける村雨を、無慈悲に現実に引き戻すように…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

海風の死を自覚してしまった村雨は人目もはばからず狂ったように泣き叫ぶ、それを見た武蔵は村雨の頬を思い切り殴った、殴られた勢いで村雨は床に叩きつけられるように床を転がったが、武蔵は構わず村雨の胸倉を掴んで持ち上げる。

 

 

「泣いてる暇があったらさっさと戦線に戻れ!今はここにいる人たちを守ることだけを考えるんだ!死んだ連中のことは忘れろ!」

 

 

武蔵はそう村雨を一喝する、死んだ海風を侮辱するような事を言った武蔵に対して村雨は激昂しかけたが、武蔵の目に浮かんでいるモノを見た村雨はすぐに悟った、彼女は今までにそういった戦いをたくさん経験していて、それと同時に失っているのだと。

 

 

「…悲しむのは後からいくらでも出来る、今は任務を遂行する事だけに集中するんだ」

 

 

武蔵は落ち着いた口調に戻ると村雨を下ろし、それ以降は何も言わずにシェルターの出口へと歩いていく。

 

 

「…はい!」

 

 

村雨は涙を流しながら大きく返事をすると、武蔵の後を追うようにシェルター出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

避難住民たちは救護所で武蔵と村雨の一幕を見て震えていた、その理由は艦娘の死をリアルに見たからでも武蔵の厳しい言葉を聞いたからでもない。

 

 

 

…それらを含めた目の前の艦娘たちの全ての言動や行動が、“自分たちを守るため”という目的から来ているからだ、彼女たちを化け物と罵り、様々な罵詈雑言で非難した自分たちを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避難住民たちの心の中にあった艦娘に対する“化け物”という像が別のモノに変わっていくのを、住民たちは少しずつ感じていた。




次回「変わり始める思い」

それは確かに人の心の何かを動かした。




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第204話「渋谷奪還作戦18」

長らくお待たせしました、黒から白へ変わる物語も書き上がり次第投稿しますので、もう少しお待ち下さい。

現在イベント海域E-5(輸送)を攻略中ですが、空襲マスで駆逐艦が大破しまくるせいで一度もボスにたどり着けていません、色々やべぇ。




「…ねぇ吹雪さん、本当に暁たちだけ抜けてきて良かったのかな」

 

 

「大丈夫だよ、武蔵さんたちには断ってきたし、それに元凶をやった方が効率もいいって言ってたし」

 

 

吹雪と暁はひそひそと会話をしながら渋谷駅構内を駆け回っていた、駅からぞろぞろと出て来てはユリアナへの攻撃を妨害してくる駆逐戦車の元を叩くべく、深海棲艦が掘ったという地下鉄のトンネルを調べる為にDeep Sea Fleetの戦闘班は渋谷駅の調査に乗り出した、調査メンバーは吹雪、暁、三日月、篝の4体、残りはユリアナへの対抗戦力温存のために残ってもらっている。

 

 

「うわ…スゴいことになってるわね」

 

 

「駅構内とは思えないね」

 

 

渋谷駅構内は爆破テロにでも遭ったのかと思うほどあちこちが崩れており、床には瓦礫が散乱していた。

 

 

「で、駆逐戦車の進入経路になってる藩蔵紋線のホームはどっちでしたっけ?」

 

 

「えっと…こっちだね」

 

 

事前に頭に叩き込んできた構内の見取り図を思い浮かべながら、吹雪たちは目的のホームへと到着する。

 

 

藩蔵紋線のホームは構内同様荒れに荒れていた、壁や床のあちこちには大穴が空いており、一部が崩れて瓦礫の山になっている、天井を支える柱も何本か折れており、崩れてしまわないかが心配だ。

 

 

「…なんか、不自然なくらい静かよね」

 

 

「本当にここが駆逐戦車の進入経路なんでしょうか…」

 

 

吹雪たちは進入経路とされている藩蔵紋線のホームを見渡しながら口々に言う、確かにホームの荒れ具合からここが駆逐戦車の進入経路と見て間違いないのだろうが、肝心の駆逐戦車の姿はどこにもない。

 

 

「……………」

 

 

そんなホームの様子を見て、吹雪はある種の焦燥感を感じていた、ユリアナとの戦闘中までは駅の入り口から絶えず駆逐戦車が姿を現していた、つまり今この駅構内は駆逐戦車の巣になっているはずだ、しかし自分たちが構内に進入してからここに来るまでの間、駆逐戦車の姿は一体も見ていない、そして、駆逐戦車が駅から姿を消したのは吹雪たちが構内に進入したのとほぼ同じタイミングだ、偶然にしては出来すぎている。

 

 

 

まるで、こちらが駅構内に進入する事を知っていて、このホームにやってくるよう仕向けられているかのような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

刹那、背後から物凄い殺気を感じた吹雪は素早く真横へ跳んだ。

 

 

「吹雪さん!?どうしたの…」

 

 

いきなりの吹雪の行動に驚いた暁だったが、次の瞬間、吹雪が立っていた場所に巨大な鉄球が飛んできて、その先にあった壁に穴を空ける。

 

 

「なっ…!?」

 

 

あまりに突然の出来事に事態が飲み込めず、口をあんぐりと開けていた暁たちだったが…

 

 

「あら、私の不意打ちをかわすなんて、中々やるのね」

 

 

背後からひどく聞き覚えのある声が聞こえてきて、吹雪たちは後ろを振り向く。

 

 

「…あなたたちは…」

 

 

そこにいたのは、かつてDeep Sea Fleetの手を散々焼いた飛行場姫ことエリザベート、そして…

 

 

「お久しぶりです、粗悪品のみなさん」

 

 

始原棲姫と名付けられた始まりの深海棲艦…七海だった。

 

 

 

 

 

 

「提督!夕立と時雨の処置終わりました!」

 

 

「了解!ガーゼ交換してウォースパイトの手当に移れ!」

 

 

 

海原たちはシェルター内で艦娘たちの応急手当てに追われていた、戦闘が激しくなるにつれ大破相当の大ダメージを受けて運び込まれてくる艦娘が増えていき、高速修復材を使用しても人手が足りなくなる状態にまでなっている。

 

 

「えーっと、ウォースパイトさんの容態は…」

 

 

 

「…あ、あの…!」

 

 

 

そんな中、各艦娘の損傷度合いを見ながらてんてこ舞いだったハチにひとりの女性が声をかけた。

 

 

 

「私にも、何かお手伝いさせてください!」

 

 

「…えっ!?」

 

 

女性の思わぬ申し出に、ハチは目を丸くしてしまう。

 

 

「私たちを守るために艦娘さんたちはそんなに傷ついているんですよね?なら私も艦娘さんのために何かしたいんです!」

 

 

女性は真っ直ぐな眼差しでハチを見る、正直申し出はとてもありがたいのだが、民間人に艦娘の手当を手伝わせてもいいのだろうか…?。

 

 

「よし、ならお言葉に甘えさせてもらうぜ」

 

 

すると、女性の話を聞いていた海原がそれを承諾し、高速修復材の入ったバケツとガーゼを渡す。

 

 

「このガーゼにバケツの中の液体を染み込ませて艦娘の損傷箇所を撫でるように拭いてほしい、といっても勝手なんか分からないだろうから基本はこの金髪の艦娘の手当を手伝ってくれ」

 

 

「は、はい!分かりました!」

 

 

女性はガーゼと修復材を受け取ると、早速作業に取り掛かる。

 

 

「…いいんですか提督?民間人に手当を手伝わせたりなんかして…」

 

 

「猫の手も借りたいのは事実だからな、それに、さっきまで艦娘のことを毛嫌いしていた人たちがこうして艦娘のために何かしようとしてくれてるんなら、それは大きな一歩だ」

 

 

そう言って海原は周りを見渡す、女性の申し出を聞いていた他の避難住民たちがそれに触発されたのか、救護作業の手伝いを申し出る人がぽつぽつとだが出始めている、中には先程まで救護所の設営に反対していた人も混じっていた。

 

 

「もしこれが戦場の艦娘のリアルを見た結果なら、世間の艦娘に対する認知を変えるきっかけになると思う、それは今の艦娘の現状にとって良いことだと思うぞ」

 

 

「…そうですね、私もそう思います」

 

 

正直、今の艦娘に対する世間の風当たりは強い、特に曙や違法売買艦娘が巻き込まれた事件以降はさらにそれが強まっている、敵視していると言っても過言ではないだろう。

 

 

「俺も何か手伝うよ!」

 

 

「こっちの段ボールを手伝ってくれ!」

 

 

「分かった!任せろ!」

 

 

しかし今この瞬間、それが少しずつだが変わろうとしていた、艦娘に対する認知が人間を傷つける“敵”ではなく、人間を守る“味方”になりつつある、確かにそれは海原の言うとおり大きな一歩と言えるだろう。

 

 

「さてと、私も頑張らなくちゃ」

 

 

変わりつつある何かに心が温かくなるのを感じながら、ハチは手伝いを申し出た女性と共に手当てを再開した。

 

 

「そういえば名前を名乗っていませんでしたね、私は伊8と言います、ハチと呼んで下さい」

 

 

「ハチさんですね、私は霜月暁(しもつきあきら)と言います、気軽に暁と呼んで下さい」

 

 

「分かりました、一緒に頑張りましょう暁さん!」

 

 

「はい!ハチさん!」

 

 

 

 

「…それで、どうだ?うまく行ったか?」

 

 

 

作戦司令本部から少し離れた場所で、南雲は携帯で誰かに電話をかけていた。

 

 

「そうか、なら速やかにその場から離れろ、決して証拠は残すんじゃないぞ」

 

 

 

『…………』

 

 

電話口から微かに聞こえるのは女の声だった、いや、女と言うにはもう少し幼い…少女と呼べるくらいの年齢の声色だろうか。

 

 

「お前がそれを知る必要はない、さっさとその場から立ち去れ」

 

 

南雲は少女の質問と思われる声をバッサリ斬り捨てると、さっさと電話を切ってしまう。

 

 

「さて、あとはゆっくり泳がせるか」

 

 

南雲は不気味な笑みを浮かべると、何事も無かったかのように本部へと戻っていった。




次回「“博士”と“所長”」

自分の正しさを、怪物は今一度考える。

霜月暁2回目の登場。


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第205話「渋谷奪還作戦19」

艦これ運営Twitterのエイプリールフールツイートが今年も凄い内容でしたね、文月の漫画や第2期は本当っぽいですけど、瑞雲Inよみうりランドやアイススケートは去年の瑞雲祭りの実績(前科)のせいで嘘だと思えなくなった(笑)

でも文月の漫画は読みたいですね、フミィ。


ちなみに冬イベはE-5でタイムアップでした、空襲マスでの大破撤退が何十回も続いたのが主な理由です。


最悪の展開だ。

 

 

目の前の七海とエリザベートを前にして、吹雪は脂汗を額に浮かべる。

 

 

エリザベートは以前秋葉防衛戦でDeep Sea Fleetを持ち前の白兵戦能力で散々苦しめた強敵であり、七海は戦艦や巡洋艦、空母などの様々な艦種の艤装をリアルタイムで換装しながら戦う能力を持っている多芸な深海棲艦だ。

 

 

エリザベートが力で敵を圧倒するタイプなら、七海は器用さで敵を翻弄するタイプといった所だろうか、スタイルこそ違えどどちらも油断すればこちらの命など簡単に摘み取られてしまうほどの強敵だ。

 

 

「なるほど、敵艦隊の姫級がユリアナだけと思いきや、こんなところに伏兵を置いていたんですね」

 

 

「彼女の乗っているユミルはあれでも人工物だからね、メンテナンスの為にここにいるのよ」

 

 

「…出来ることならこのまま引き下がってもらいたいんですけどね」

 

 

「それは無理な相談ね、言ったでしょう?人間を滅ぼすのが私たちの目的、それは人間に味方するあなたたち艦娘も例外ではないわ」

 

 

七海はニヤリと口の端をつり上げ、不敵な笑みを吹雪たちに向ける。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

七海サイドと吹雪サイドは互いに動かず睨み合う、少しでも視線を相手から外せば()られる、それを本能的に察知した吹雪たちは脂汗を流しながら拳を握り締め、奥歯をギリギリと噛み締める、このまま膠着状態が続けば敵の術中にハマるだけだ、こちらから仕掛けなければ不利になるのは目に見えている(元々戦力的にこちらが不利だが)。

 

 

「っ!!」

 

 

先に動いたのは暁だった、先手必勝と言わんばかりに主砲を撃ち、それと同時に走り出す、暁の撃った砲弾は七海とエリザベートの1メートル手前のホームに着弾、凄まじい轟音とともに着弾地点のコンクリートが砕け飛び、細かい砂塵が七海たちを包む。

 

 

(この隙に…!)

 

 

砂塵を煙幕代わりにして七海たちに近づき、棘棍棒(メイス)を思い切り振り上げる。

 

 

(頭を潰して一撃で殺す!)

 

 

その一点に集中し、暁は棘棍棒(メイス)を振り下ろす、七海の頭蓋骨を砕き、脳を潰し、血潮と脳漿を撒き散らす、そう確信していた。

 

 

 

しかし、結果から言えばそれは空振りに終わった。

 

 

「えっ…?」

 

 

棘棍棒(メイス)が空を切る感覚に暁は困惑し、一瞬思考が止まる。

 

 

「残念、後一歩足りなかったわね」

 

 

直後、砂塵の煙幕を突き破るように正面から砲撃が飛んできて、暁に直撃する。

 

 

「がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 

受け身もガードも出来ていない無防備な状態で砲撃を食らった暁はそのまま勢い良く後方に吹き飛ばされ、コンクリートのホームを3バウンドして柱に激突する。

 

 

「暁!?」

 

 

「あっ…うぎぃ…!」

 

 

暁はすぐさま立ち上がろうとしたが、左腕に激痛が走る、砲撃された衝撃で折れたらしい。

 

 

「クソが…!」

 

 

暁はそう吐き捨てるように言うと、篝に支えられながら立ち上がる。

 

 

「砂塵を起こしたまでは良かったけど、詰めが甘いとしか言いようがないわね」

 

 

砲撃によりかき消された砂塵の中から七海とエリザベートが姿を現す、そしてその横には…

 

 

「…なるほど、それでこちらの様子を見ていたというわけですか」

 

 

七海とエリザベートの艦載機、影夜叉と御霊骸がふたりの周りを浮遊していた、暁の攻撃も艦載機越しに筒抜けだったというわけだ。

 

 

「このホームだけじゃないわ、この渋谷駅全体にサテライトを配置してるの、人間の言葉を借りるなら“監視ドローン”って所かしら、ここへ来るまでにあなた達が歩兵級(ポーン)に遭遇しなかったのも、ここに入ってくるのを見て中の歩兵級(ポーン)を避けたからよ」

 

 

「…そんな事までしてたんですか?」

 

 

 

「ここに来るだろうということは大方予想がついていたからね、お膳立てというやつよ」

 

 

 

用意周到なやつだ、得意げに語る七海を見て吹雪は素直にそう思った。

 

 

「まぁそう言うわけで、大人しく死んでもらうわよ!」

 

 

七海とエリザベートが再び攻撃を開始する、エリザベートは鉄球を飛ばし、七海は艤装を戦艦級形態(バットルシップフォーム)にチェンジさせて砲撃を行う。

 

 

吹雪たちはそれらをかわしていきながら七海たちに接近していく、砲撃はコンクリ片や砂塵で自分たちの視界を塞いでしまうため、ここでは封じる。

 

 

「くっ…!」

 

 

砲撃や近接攻撃で吹き飛んだ柱やホームのコンクリが飛んできて身体中に当たる、秋葉原の時もそうだったが、やはり陸での戦いは障害が多すぎる。

 

 

雪月花(セツゲッカ)!」

 

 

鉄球と砲弾の弾幕をかいくぐり、何とか至近距離まで近付いた吹雪は渾身の右ストレートをお見舞いする。

 

 

「甘い!」

 

 

しかしそれはエリザベートの防御兵装(リコリス)によって遮られてしまう。

 

 

月光閃剣(ゲッコウセンケン)!」

 

 

そこへ三日月が騎兵軍刀(サーベル)で切りかかる、ガード中で身動きが取れないところへ追撃を敢行する、以前秋葉で使った手口だ。

 

 

「…御霊骸」

 

 

七海の御霊骸が三日月を銃撃し、それを阻止する。

 

 

「私の存在も忘れないでもらいたいわね」

 

 

「忘れるわけないのですよ!」

 

 

七海が御霊骸を操作しているスキに篝がパイルバンカーで七海に詰め寄り、引き金を引く。

 

 

緋槍(ヒソウ)

 

 

最大温度まで加熱された超高温のスパイクが七海目掛けて射出される、七海は持っていた主砲で防御したが、高速射出されたスパイクの衝撃を殺しきることは出来ず、勢い良く後ろへ吹き飛ばされる。

 

 

「七海様!?」

 

 

「大丈夫よ!問題ないわ!」

 

 

七海は大きくへこんだ主砲を投げ捨てると、腰に下げていた双剣を引き抜いて篝に向かっていく。

 

 

「何この剣術…!?凄い…!」

 

 

七海の剣捌ききを見た篝は目を剥いた、その身のこなしはまさに達人レベルであり、篝もクレイモアで応戦しているが到底防ぎきれない。

 

 

「元々私は一騎当千を目的として博士に設計されたからね、これくらい朝飯前なの…よ!」

 

 

七海が双剣によるX字切りを繰り出し、守りが追い付かなくなっていた篝のクレイモアを吹き飛ばす。

 

 

「があっ!」

 

 

さらに追い討ちとして巡洋艦級形態(クルーザーフォーム)の中口径主砲で篝を砲撃する、受け身も防御もマトモに出来ていない状態での零距離砲撃を受けた篝は大きく後ろに吹き飛ばされ、ホームに激しく叩きつけられる。

 

 

「がはっ…!ごぼっ…!」

 

 

肋骨を粉砕骨折した篝は喀血しながらホームの上でのたうち回る。

 

 

「このっ…!」

 

 

ダウンした篝にトドメを刺そうと主砲を向けた七海に暁がバスターソードで攻撃を加える、折れた腕は破って紐状にしたタイツとホーム上にあった売店の雑誌で無理矢理固定している。

 

 

「そんな状態で私に勝てるとでも思ってるのかしら?」

 

 

「勝とうだなんて考えてないわ、殺すのよ!特にアンタみたいなアバズレのクソ尼は殺して下さいって痛哭するまで嬲ったら最っ高に愉しそうだわ!」

 

 

暁が狂気に充ちた笑顔でバスターソードを振り回す、暁は吹雪と三日月に並ぶ白兵戦能力を持っており、当然剣術の腕もかなりのモノだ。

 

 

「あら、ずいぶんお転婆な艦娘ね、でも…」

 

 

 

「その血気盛んなあまり周りが見えてないのは、いささか考え物かもね」

 

 

「?」

 

 

何のことだ?と暁が疑問符を浮かべてちらりと周囲を一瞥する。

 

 

「っ!?」

 

 

そこにはゆうに10機を越える御霊骸が爆弾を構えて暁を狙っていた、それは以前エリザベートが暁に使った戦法であった。

 

 

「こんの…!クソがぁ!!」

 

 

以前エリザベートに使われた手に再び引っかかった、その事に対して自分に猛烈に腹が立った暁はバスターソードを七海の喉元に突きつけようとする。

 

 

「直情的になって理性を無くすのは戦う上で良くない事よ、覚えておきなさい」

 

 

そう言って七海は御霊骸に攻撃を指示、爆弾による一斉爆撃を全身に受ける。

 

 

「ぎゃあああああああぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

爆風と爆炎によって吹き飛ばされた暁はホームに叩きつけられる。

 

 

「あっ…あぅ…」

 

 

全身を激痛が支配し、暁はまともに動くことが出来なかった、おまけに爆撃で折れた腕が千切れ飛び、立ち上がることすら出来ない。

 

 

「暁!?」

 

 

「余所見をしてる場合かしら?」

 

 

吹雪が暁の方を向いたが、すぐさまエリザベートと七海が攻め立てる。

 

 

「なぜあなた達はそこまでして“博士”の願いを叶えようとするんですか!?、人間を滅ぼすなんて願いを叶えることが、本当に正しいと思ってるんですか!?」

 

 

三日月と2体がかりで攻撃を防ぎながら吹雪は七海に問い掛ける。

 

 

「黙りなさい!あなた達みたいな艦娘が、私たちの粗悪品の分際が博士を…!」

 

 

 

 

「榊原啓介博士の事を侮辱するな!」

 

 

七海は素早い剣捌きで十字切りを繰り出すが、吹雪と三日月はバックステップでそれをかわす、すぐに反撃してくると思った七海とエリザベートは防御の姿勢を取った。

 

 

 

「…今、何て…?」

 

 

しかし、その予想に反し吹雪は呆けた顔でそんな言葉を口にするだけだった。

 

 

「?」

 

 

あまりに予想外の展開に七海は思わず攻撃態勢を解いてしまう、それはエリザベートも同じだったようで、頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

「あなた、今榊原啓介って言いましたか…?」

 

 

「…えぇ、榊原啓介、艦娘や人間が深海棲艦と呼ぶ私の生みの親よ」

 

 

「っ!?」

 

 

七海のその言葉を聞いた吹雪と三日月は目を剥いて驚いた、榊原啓介といえば艦娘を建造している造船所の所長で、艦娘開発の第一人者だ、そんな人物が深海棲艦の生みの親?吹雪は訳が分からなかった。

 

 

「あの人が、深海棲艦を作った…?」

 

 

「っ!?」

 

 

呆然とした吹雪の口から出た言葉に、今度は七海が驚いた、今この艦娘は“あの人”と言った、それすなわちこの艦娘は博士を知っているという事だ、もしそうであれば、何としてでも博士の情報を聞き出さねば。

 

 

「あなた、博士を知っているの!?博士はどこ!?今は何をしているの!?」

 

 

七海は持っていた双剣すら投げ捨てて吹雪に駆け寄り、肩を掴んで榊原の事を聞く。

 

 

「どこで何をって…もしかしてあなた知らないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦娘開発の第一人者にして、私たち艦娘を生み出している組織のトップ、その人が榊原啓介ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぇ?」

 

 

吹雪が放ったその言葉は、七海に空白の現実として、何よりも重くのし掛かることになる。




次回「真実」

その真実を、怪物は認めたくなかった。


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第206話「渋谷奪還作戦20」

最近「ソードアート・オンライン フェイタル・バレット」というファントムバレット編の舞台になったGGOを取り扱ったゲームをプレイしています、推しキャラは「アファシス」です。

ちなみにアファシスは戦闘の参加から資金の管理まで色々やってくれる頼れるプレイヤーサポートAIなのですが、最大の特徴は「性別や容姿をプレイヤーが自由に設定できる」という点。

…プレイヤーの性癖(ストライクゾーン)が如実に反映されそうなキャラだと思ったのは自分だけではないはず。


「…あなた、何を言ってるの…?艦娘を開発しているのが、博士…?」

 

 

吹雪の言葉を聞いた七海は愕然としていた、艦娘を開発しているのが博士?そんな馬鹿な、自分たちヒューマノイドソルジャーを開発したのが博士なのに、それに敵対する存在である艦娘を新たに開発しているなんて…

 

 

「そんなの、ありえないわ!」

 

 

七海は吹雪の言葉を振り払うように首を横に振ると、艤装を戦艦級形態(バトルシップフォーム)にシフトする。

 

 

「そんなデタラメで私を騙そうったって、そうはいかないわよ!」

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!榊原さんの話は本当なんですよ!」

 

 

「黙りなさい!」

 

 

七海は声を張り上げて砲撃を行う、狙いなど定めていなかったので砲弾は吹雪達の通り過ぎ、後方の売店に直撃する、爆撃音とともに陳列していた商品があちらこちらに飛散する。

 

 

「七海さん!落ち着いて話を聞いて下さい!」

 

 

「うるさいうるさいうるさい!博士は対人戦闘用のヒューマノイドとして私を生み出したのよ!つまり人間を倒すのが私の使命!そんな私を作った博士が艦娘なんてヒュースに敵対するあなた達みたいな存在、作るわけない!」

 

 

(…なるほど、そういうことだったのか)

 

 

七海の言葉を聞いて、吹雪は彼女を作った榊原の意図を何となくだが察することが出来た、具体的な用途や目的は分からないが、榊原は人間と戦う兵士として七海を生み出した、となれば七海の言う人間を滅ぼすのが使命というのはあながち間違ってはいないだろう。

 

 

しかしここで言う人間とは、あくまで榊原や七海を生み出した組織、もしくは国が敵と認めた一部の人間だけの筈だ、これまでの七海の言動から察するに、彼女はこの世界の全ての人間が敵なのだと勘違いしているのではないか?もしそうであればこの状況は榊原にとって好ましいものではない、だからそれを阻止するために艦娘を生み出したのではないか?。

 

 

「…榊原さんは、本当にそれを望んでいるんですか?」

 

 

「え…?」

 

 

ほぼこじつけに近い推測ではあるが、ある程度筋は通っている、それにもし、今の吹雪の推測が合っているなら…

 

 

「あなたは榊原さんに生み出された目的に従って人間を滅ぼそうとしてるんですよね?でも榊原さんはそれに敵対する私たち艦娘を作った、つまり榊原さんは今のこの現状を望んでないんじゃないですか?あなたのしていることは、間違っているんじゃないですか!?」

 

 

七海を、止めなければいけない。

 

 

「黙れええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

 

 

 

今の言葉が七海の琴線に触れたのか、七海は大声を張り上げて砲撃を行う。

 

 

「あなたに博士の何が分かるっていうのよ!あの人の背負ってきた苦労が!苦しみが!悲しみが!何も知らないあなたが博士の愚弄するな!」

 

 

七海は怒りに身を任せて叫びながら次々と砲弾を撃ち込んでいく、照準もコントロールもデタラメなので避けるのは造作もないが、逆に言えば規則性が無いので次の弾の軌道を予測する事が難しく、連続してかわすのは困難を極める。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

「ぐうっ!」

 

 

避けた先に飛んできた砲弾が吹雪達に命中する、艤装が戦艦級形態(バトルシップフォーム)なため威力も高く、大ダメージ受けてしまった。

 

 

 

「七海様!大変です!ユリアナが損傷大、ユミルも限界との事!」

 

 

「何ですって!?」

 

 

そんなとき、地上にいるユリアナからの報告をエリザベートから聞き、七海は耳を疑う、ユミルは今日の作戦のために万全の準備を整えて用意した兵装だ、それが大破とは…

 

 

(艦娘の戦闘力を甘く見てたわね…)

 

 

「…やむを得ないわ、撤退するわよ、ユリアナにここまで裏道使って退避するように伝えて、艦娘の足止めとして歩兵級(ポーン)を壁役駅入り口に配置するわ」

 

 

「て、撤退するのですか!?」

 

 

「厄介な足止めが目の前にいるし、一度帰って作戦を練り直したいの」

 

 

「了解しました!」

 

 

エリザベートがユリアナとやり取りをしている間、七海は撤退準備を始める。

 

 

「…ん?」

 

 

その時、七海は自分の前で負傷して倒れている吹雪が目に入る。

 

 

(………………)

 

 

頭の中で先程の吹雪の言葉がぐるぐると回る、彼女の言葉を信じたわけではないが、この艦娘は博士の情報を知っている、ならば利用しない手は無いだろう。

 

 

「…ねぇあなた、さっきの口振りからすると、あなたは博士の事をよく知ってるみたいだけど、会ったことはあるの?どこにいるかも知っているのかしら?」

 

 

七海の問い掛けに吹雪は少し戸惑ったが、問いの答えはYESなので首を縦に振る。

 

 

「…そう、ならあなた…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、私たちと一緒に来てもらうわよ」

 

 

「っ!?」

 

 

七海のその言葉を聞いた吹雪はどっと嫌な汗が流れるのを感じた、ここにいては危険だ、そう思いとっさに飛び退こうとしたが…

 

 

「うわっ!?」

 

 

鉄球を取り外したエリザベートの鎖が吹雪の身体に巻きつき、七海側に引き寄せられてしまった。

 

 

「こ、こら…放せ…!」

 

 

「少し眠っててもらうわよ」

 

 

抵抗しようと暴れる吹雪に七海は注射器のようなモノを取り出して吹雪の腕に突き刺す、すると途端に吹雪はぐったりとして動かなくなってしまった、これは七海が開発した即効性の麻酔薬で、人間ほどの大きさなら瞬時に眠らせる事が出来る。

 

 

 

「吹雪さん!」

 

 

「吹雪さんを放しなさい!」

 

 

篝が折れた足を引きずってパイルバンカーを構えたが、突如天井が崩落しユミルとユリアナが落ちてきた。

 

 

「七海様、只今戻りました、こんな不甲斐ない結果に終わってしまい申し訳ございません…」

 

 

「気にしなくて良いわ、それより早く撤退するわよ、アシストよろしく」

 

 

「はい!」

 

 

七海とエリザベートは鎖で縛った吹雪を抱えながら進入経路であるトンネルへと戻っていき、ユリアナはユミルの生きている火炎放射器を使って暁たちの行く手を塞ぐ。

 

 

「くっ…!」

 

 

「これじゃ近付けない!」

 

 

こうして手を拱いている間にも吹雪は七海達の手によってどんどん遠ざかってしまう。

 

 

「…そろそろか」

 

 

七海の姿がかなり小さくなったのを見計らい、ユリアナは火炎放射器の引き金を固定したままユミルから飛び降りる。

 

 

「…じゃあな」

 

 

そう言うと、ユリアナは猛ダッシュでトンネルの奥へと走り去っていった。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

暁が火傷覚悟で炎を無視して行こうとしたまさにその時、ユミルが突如大爆発を起こした。

 

 

「うわああああああああああああぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

大型兵装の大爆発で暁たちは大きく後ろへと吹き飛ばされ、ホームを何バウンドもする。

 

 

そして爆発の衝撃で地下鉄トンネルの天井が崩落し、トンネルの入口を完全に塞いでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そんな…」

 

 

「吹雪さん…」

 

 

吹雪が深海棲艦に連れて行かれた、その事実を受け入れることが出来ず、暁たちは呆然と落盤したトンネルを見ていることしか出来なかった。

 

 

 




次回「思惑」

それぞれの思いが交錯し、やがてひとつの結末へと集束する…





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第207話「渋谷奪還作戦21」

今回で第四章とchapter15は終了です。

今更気付いたんですが、西方海域のカスガダマ沖海戦のボス艦隊名って「敵東方中枢艦隊」なんですね、西方海域なのに東方艦隊ってこれいかに。




ボロボロになった暁たちがやっとの思いで地上に戻ると、そこには世紀末的な光景が広がっていた、ビルなどの建物はあちこちが崩れて瓦礫の山と化しており、中には倒壊しているモノもあった、アスファルトもほとんどが吹き飛んで下の土が露出しており、まともに歩ける部分を探す方が難しいくらいだった。

 

 

「大和さんたち、こんな状態で戦ってたんだ…」

 

 

「それであのユリアナを負かすんですから、凄いもんですよね」

 

 

敵が去って変わり果てた町並みを見て暁たちは立ち尽くしていた。

 

 

「暁!それにみんな!」

 

 

「無事だった!?」

 

 

すると、支援班としてシェルターに残っていたハチたちがこちらに駆けてくるのが見えた。

 

 

「ハチ!シェルターの避難住民は?」

 

 

「全員無事ですよ、今海軍のお偉いさんや陸自の人たちが帰宅の手伝いをしています、この周辺に住んでいて帰れそうにない帰宅困難者は近くの指定避難所でしばらく過ごすことになるそうです」

 

 

「そう…大変なのはこれからって所ね」

 

 

「ところで暁、さっきから吹雪の姿が見えないようだけど、どうしたの?」

 

 

マックスからそれを聞かれ、暁は答えに詰まった、吹雪が連れて行かれたのはそのまま伝えるほかないが、たぶんみんなは、特に海原はショックを受けるだろう、そう考えるととても気が重い。

 

 

「…とりあえず、司令官と南雲元帥(クソジジィ)の所へ案内して、吹雪さんの事もそこで説明するわ」

 

 

 

 

暁たちは海原と南雲のいるシェルターへ移動すると、怪我の手当を受けながら渋谷駅での事を手短に説明する、構内に七海とエリザベートが伏兵として待機していたこと、そしてその2体によって吹雪がさらわれてしまったこと。

 

 

「吹雪が始原棲姫と飛行場姫に連れて行かれた…!?」

 

 

暁の説明を聞いた海原は目を剥いた、海原だけではない、支援班のDeep Sea Fleetメンバー、そしてシェルター内にいた大和や武蔵などの吹雪を知る艦娘達も驚きを隠せなかった。

 

 

「そんな…!吹雪が…嘘でしょ!?」

 

 

「…残念だけど、本当よ」

 

 

「信じられん…あの吹雪だぞ?大演習祭(バトルフェスタ)で私を白兵戦で負かしたあいつだぞ?それが…」

 

 

それぞれの艦娘が吹雪が連れて行かれた事に対して“まさかあの吹雪が”という思いを抱いていた、それだけみんなが吹雪という艦娘を評価していたのだろう。

 

 

「……………」

 

 

みんなが絶望に近い空気に包まれている中、探索班の艦娘たちは不思議と冷静だった、その主な理由は吹雪をさらった“理由”である。

 

 

あの時、七海が吹雪をさらったのは“榊原を知っているか”という七海の質問にイエスと答えたからというのが大きい、つまり七海は吹雪から榊原の情報を得ようとしてさらったのだ。

 

 

(もし本当に所長の情報のためにさらったんだとしたら、七海が吹雪さんに危害を加える可能性は低い)

 

 

(それに吹雪さんの事です、暁さんのような無理に抵抗して事を悪くする馬鹿じゃない)

 

 

(なら、吹雪が生きて帰ってこられる可能性も十分にある)

 

 

暁たちはそれぞれそんな事を考えながら報告を続けたが、七海を生み出したのは榊原だということは言わなかった、これは深海棲艦の誕生の秘密、さらに言えば艦娘が生まれ、この10年に渡る戦争が始まるきっかけを作り出した話だ、機密情報なんて生易しいレベルではない。

 

 

それに、この事を今南雲に伝えれば、海軍や警察は榊原を捕らえ“深海棲艦を作り出した狂気の大罪人”として扱うだろう。

 

 

別に榊原のしたことが許される事だと言うつもりはない、でもこのまま榊原が捕らえられるのは好ましいことではない、そう暁たちは思ったのだ。

 

 

自分たちは七海の事を何も知らない、榊原がなぜ七海を生み出したのか、そして七海や榊原が何を感じて、何を思っているのか、それを知るまでは榊原が捕まってはいけない。

 

 

(司令官や他のみんなには悪いけど、この事はまだ言うべきじゃない)

 

 

(吹雪さんはきっと帰ってくる)

 

 

(だからそれまでは…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この『世界の秘密』は、仕舞っておこう…。

 

 

 

 

 

 

その夜、南雲は一度大本営に戻り、今後の渋谷の復興について案を練っていた。

 

 

「元帥、失礼します」

 

 

すると、部屋のドアがノックされて1体の艦娘が入ってくる、陽炎型駆逐艦4番艦『親潮』、大本営所属の艦娘だ。

 

 

「…親潮か、昼間はご苦労だったな」

 

 

南雲は書きかけの書類から目を離すと、親潮の方を見て労いの言葉をかける、昼間というのは渋谷奪還作戦中にかけていた電話の件だろうか。

 

 

「いえ、それは問題ないのですが…流石に今回のご命令はマズいのでは…?」

 

 

「…と言うと?」

 

 

そう言ってくる親潮に対し、南雲は少し視線を鋭くして見つめる。

 

 

「私は以前から榊原所長の身辺を探れと元帥からご命令を受けて行動してきました、ですが()()()()()()()()()()()()だなんて、いくら何でもやり過ぎなのでは…?」

 

 

「…お前がそれを気にする必要はない、お前はただ言われたことだけをしろ、無論お前に不利益を被らせるつもりはない、お前の行動によって生じる責任はすべて俺が取る、だから親潮、お前は何も考えず任務にあたれ」

 

 

南雲は有無を言わせぬ気迫で親潮にそう告げた。

 

 

「…了解しました」

 

 

南雲の気迫に気圧された親潮は何も言うことが出来ず、そのまま部屋を後にした。

 

 

「………」

 

 

南雲はポケットから小型の受信機を取り出すと、それにイヤホンを挿して耳にはめる、イヤホンからは盗聴器を仕掛けた造船所の所長室の様子が聞こえてくる。

 

 

「…今の所は気付かれてはいないようだな、さすがは親潮だ」

 

 

南雲はラジオを聴くフリをして所長室の盗聴を続ける。

 

 

(おそらく榊原は始原棲姫の正体に気付いている、そしてその行方を追っている、それだけは阻止しなければならない)

 

 

(もし深海棲艦の正体が明るみに出るような事があれば榊原は人類の敵を生み出した大罪人のマッドサイエンティストとして扱われるだろう、そうなれば、おそらく俺も…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が何でも榊原よりも先に深海棲…ヒューマノイド・ソルジャーを見つけ出して、始末する、それが俺の使()()()

 

 

そう言う南雲の顔は、不気味なほどにこやかな笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

時を同じくしてこちらは七海のいるヒュース研究所の支部、その中で七海は目覚めた吹雪と向かい合っていた。

 

 

「急にこんな所に連れてきてごめんなさいね、別に危害を加えたり何かを強制するつもりは無いわ、あなたが持ってる博士の情報を提供してくれたらすぐに帰してあげるから」

 

 

「…その割には随分扱いが雑な気がしますが」

 

 

七海の穏やかな口上に対し、吹雪は不機嫌さを隠そうともせずに返す、いきなり眠らせれてこんな所に運ばれてきたと思えば、両手両足を縛られて椅子に座らされてるのだからそれも致し方ないか。

 

 

「あなたに暴れられても困るから、そうさせてもらったの」

 

 

「…別に逃げだそうだなんて考えてませんよ、自分が置かれてる状況はよく理解してますから大人しく従います、今あなたが言ったことが本当なら、ですけどね」

 

 

「…ありがとう」

 

 

吹雪は嫌みのつもりで言ったのだが、普通にお礼を言われて少し戸惑う、なんだかやけにしおらしいが、どうしたというのだろうか…?。

 

 

「早速博士の情報を…と言いたいところだけど、その前にひとつ聞かせて、南雲藤和という名前に聞き覚えは?」

 

 

「っ!?どうしてその名前を…!」

 

 

七海の口から南雲の名前が出てきて吹雪は驚く、なぜ彼女の口から海軍元帥の名前が出て来るのだろうか…?。

 

 

「…知っているのね、その男を」

 

 

「知ってるも何も、今の海軍の元帥…私たち艦娘を指揮する司令官の中で一番偉い人が南雲藤和ですよ」

 

 

吹雪がそう言うと、七海は口の端を僅かに歪める。

 

 

「…へぇ、あいつが艦娘の指揮官のトップね、笑わせてくれるわ」

 

 

心なしか、そう言う七海には怒りの感情が沸き上がっているような気がした。

 

 

「…その南雲元帥とあなたがどう関係してるんですか?なぜ南雲元帥の名前をあなたが…?」

 

 

「そりゃもちろん知ってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の…ヒューマノイド・ソルジャー計画のGOサインを出したの、あの人だもん」




次回「密談と密約」

戦争を終わらせるため、世界の秘密をかけた極秘作戦が始まる。


予告はそれっぽいこと書いてますが、実際のスケールは小さいです。


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最終章「終戦編」
第208話「七海の場合1」


最終章「終戦編」&chapter final「七海編」更新開始。

ご都合主義&ガバガバ設定でお送りしたこの物語もクライマックスになります、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

説明過多な回ですがご容赦ください。


「所長、例の艦娘売買事件の真犯人ですが、取り調べは順調のようですよ」

 

 

「そうか、とりあえずは一安心だな」

 

 

渋谷奪還作戦から一日経った造船所の所長室、榊原は潮風の報告を聞いてほっと胸をなで下ろす。

 

 

「それにしても、電子書庫(データベース)の内容を改ざんするなんて大胆な事をよく考え付いたもんだね」

 

 

先日の不正売買の艦娘によって起こされた銀行強盗事件、その際に確保した山風と浜風の元配属先の鎮守府の提督が関与を否定していたが、データにも残されているのにそれを否定する事に疑問に思った榊原が独自に調査した。

 

 

その結果、全く別の駐屯基地の司令官がハッカーを雇い電子書庫(データベース)の記録を改ざんし、無関係な人間が容疑者にあがるように仕立てた事が判明した。

 

 

「件の駐屯基地の司令官はハッカーを雇ったようですが、流石にマザーの事には気付かなかったようですね」

 

 

今回の事件の真犯人が判明したきっかけは『マザー』と呼ばれる、簡単に言えば電子書庫(データベース)のバックアップ用サーバーだ。

 

 

電子書庫(データベース)に新たに記録、もしくは更新されたデータは自動的にマザーにバックアップデータとして記録される、その際に『いつどの端末から何のデータを記録、更新したか』というログも全て一緒に記録され、変更前と後のデータをビフォー・アフター形式で確認できるという優れモノだ。

 

 

榊原がマザーのデータをチェックしていた所、山風と浜風の所属先のデータのみが変更されているログを見つけ、そのビフォー・アフターを確認して今回の駐屯基地を特定したのだ、おまけに電子書庫(データベース)とマザーのサーバーはケーブルで繋がっているが別になっており、記録や更新があった時以外はオフラインになっている、そのためハッカーも見逃したのだろう。

 

 

「強盗団の方も全員逮捕されて取り調べも進んでいるようですし、何とか収束に向かっているみたいです」

 

 

「そうか…犠牲になってしまった艦娘の事を考えると胸が痛むけど、解決に向かっているなら良かった」

 

 

榊原はそう言っているが、あの事件で何の罪も無い艦娘が解体される結果となってしまった、こんな事は二度と起きないようにしなければならない。

 

 

「では所長、艦娘の建造状況の確認に行ってきます」

 

 

「あぁ、頼んだよ」

 

 

潮風は所長室を後にする。

 

 

「……………………」

 

 

自分ひとりしかいなくなった所長室で、榊原は窓の外を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海…どこにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、じゃあ博士は今は艦娘を開発する組織…造船所の所長をしているのね?」

 

 

七海からの問い掛けに吹雪は頷いて肯定する、七海からの要望通り、吹雪は榊原の情報を全て話した、今どこで何をしているのかはもちろん、世間ではどんな人として認知されているかなども吹雪が知る限り全てだ。

 

 

「うん、榊原さんはちゃんと生きてるよ」

 

 

「…そう、良かった」

 

 

それを聞いて、七海は心底安心したように呟いた、本当に榊原を大切に思っているのだろう。

 

 

「それじゃ、今度は七海について聞かせてよ」

 

 

「…私の?」

 

 

吹雪の思ってもみない発言に七海はポカンとしてしまう。

 

 

「私もあなたのことが知りたいの、どうして榊原さんは七海を作ったのか、深海棲艦も艦娘もいない世界にどうしてあなたが生まれることになったのかを」

 

 

吹雪は七海を真っ直ぐに見て言う、出会った当初は彼女のことを深海棲艦の親玉…敵だとしか思っていなかった、でもこうして少しだが話してみて分かったことがある。

 

 

彼女は敵ではない、いや、敵として片付けてはいけない、彼女を作ったのが榊原であるのなら、それにはちゃんと意味があり、想いがある、それを知らずに敵として片付けるのは許されない、吹雪はそう感じていた。

 

 

「…そうね、私だけ情報をもらうのはフェアじゃないし、博士の情報料として話してあげる、私たち深海棲艦…ヒューマノイド・ソルジャーについて…」

 

 

七海はそう言うと、何から話そうかと自分の身の上を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

『七海…どこにいるんだ?』

 

 

 

「…榊原はまだヒュースの居場所を掴んでいないようだな」

 

 

南雲は所長室を盗聴しながら書類仕事を片付けていた、どうやらまだ榊原はヒュースの居所を掴んでいないらしい。

 

 

(ヒュースの居場所が分かれば即刻部隊を編成して叩き潰す、そうなれば俺の肩の荷も降りる)

 

 

イヤホンで所長室の様子を聞きながら南雲は今までのことを思い返す。

 

 

元々自分は第三次世界大戦を終結させるために動いていた日本政府の重役だった、ヒューマノイド・ソルジャーの事を思い付いたのは徴兵に限界が来ていた時で、自分の鶴の一声で 押し切って実行に移した、当時は日本が劣勢を極めていたため、正直戦争を終わらせることが出来ればどんな手だろうと構わなかった。

 

 

しかしその結果は失敗、研究所は敵国の工作員によって襲撃され、当時開発が成功していた第一号にも逃げられるというお粗末な結末となった。

 

 

しかしそれから2年以上が経ち、今の深海棲艦が現れた、その報告を聞いて南雲は察した、あの第一号は生きている、そして我々人間に宣戦布告をしているのだと。

 

 

しかしそれは南雲にとって何より都合の悪いことだった、もしあの第一号がヒュース計画の立案が自分だということを知っていたら、もしそれを世間に暴露でもされれば、今現在も燎原の如く広がっていく深海棲艦の侵攻が自分のせいで起こっているとバレてしまう、それだけは何としてでも阻止しなければならない、すぐにでも見つけだして始末してしまいたかったが、それを行う兵力も手段も持ち合わせてはいなかった。

 

そんなときだった、当時ヒュース計画の開発主任だった榊原が艦娘という深海棲艦への対抗手段を開発し、それを指揮する海軍を組織するという政府の発表を聞いたのは。

 

 

こいつは使える、そう考えた南雲は当時の自分のコネや権力、持てる全ての力を使って海軍のトップ…元帥の役職に就いた、海軍に入れば深海棲艦の情報を得られやすいし、第一号の居場所も探しやすくなる、それに一番偉い階級なら深海棲艦の情報も不自然無く要求できる、南雲が元帥の座を欲したのもそれが理由だ。

 

 

幸いなことに榊原は自分がヒュース計画の立案者だということを知らないため、予想通り榊原は深海棲艦の情報を自分に持ってきてくれている。

 

 

しかしそれが出来るのは自分が一番偉い元帥だからだ、つまり自分は今の立場を守り続けなければならない、そのために南雲は将来有望な人間…自分のポジションを脅かす危険がある提督を権力で摘み取り、そういった人間を潰すために()()()()()()()()()()()へと追いやっていった。

 

 

一番最近では士官学校で神童と呼ばれていた海原という若造に不祥事を背負わせ、台場鎮守府へ島流しにした、いつも通りすぐに深海棲艦に怯えて海軍を去ると思っていたが、意外なことに妙な艦娘を集めて未だに台場に居座っている、しかし今となってはそんな事どうでもいい。

 

 

榊原が第一号の居場所を突き止めれば全てが終わる、そうなれば後は第一号を抹殺して榊原を深海棲艦の開発者として吊し上げれば全ての責任は榊原に向かい、自分は完全に当事者という蚊帳の外へと行けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それまでは泳がせてやる、精々今のうちに人生を楽しんでおくんだな、榊原)

 

 

南雲は口の端を吊り上げてニヤリと笑い、そのまま所長室の盗聴を続けていた。




次回「手引き」

あの人にどうしても会いたい、そして伝えたい、伝えなければならない。


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第209話「七海の場合2」

よみずいランドが今週末から開催されましたね、去年に引き続きリアル瑞雲や今年は1/20日向などで大盛況みたいですが、艦これのリアルイベントで運営のやる気のベクトルが毎回明後日の方向へ行くのは何故なんでしょうね。

それとペルソナ5のアニメが始まって毎回ハイテンションで見ていますが、心なしか鴨志田のクソっぷりがゲームより幾分かマイルドになってるような気がしました。


「…と、まぁこれが私が生まれた経緯よ」

 

 

七海はこれまでの自分の事を吹雪に話した、第三次世界大戦の事から榊原との出会い、そしてあの別れの日からこれまでの事も全て…。

 

 

「…第三次世界大戦、私たちが生まれる前は人間同士が戦争をしていたなんて…」

 

 

七海の話を聞いた吹雪は驚きを隠せなかった、七海の正体は人間と戦うために榊原に作られたヒューマノイドで、深海棲艦は七海が作り出したその複製品だった。

 

 

そして、艦娘は榊原が作り出した七海(ヒュース)のアナザータイプ、元々はひとつの存在だったのだ、“深海棲艦”や“艦娘”という名称が違うだけで、本来はこの両者に違いなど初めからどこにも無かった。

 

 

だが、これで様々な深海棲艦や艦娘への“疑問”という点同士が線で繋がる、深海棲艦への対抗手段が艦娘の攻撃しか無いのは、お互いが同じ存在だから、轟沈した艦娘が深海棲艦へと生まれ変わるのは、七海たちが艦娘の身体を回収してヒュースへと作り替えているから、そもそもそんな事が出来たのは、艦娘も深海棲艦も元は同じヒュースだから。

 

 

轟沈した艦娘は七海たちによって深海棲艦へと作り替えられ、また新たな艦娘が作られる、終わりのない敵と味方のループが続いていく。

 

 

詰まるところ、艦娘も深海棲艦も人間の身勝手な都合によって生み出され、これまた人間の身勝手な都合で同族殺しも同然の戦争を強いられている哀れな道具だったのだ。

 

 

「それで、七海は榊原さんにもう一度会って話がしたいって事だよね?」

 

 

「えぇ、だからあなたには博士と私が密会出来るよう取り計らってほしいの」

 

 

七海はそう言って“お願いします”と頭を下げる。

 

 

「…分かった、七海の要求を呑むよ」

 

 

「ほ、本当!?」

 

 

七海の言葉に吹雪は首を縦に振って頷いた、彼女が今までしてきたことは多分間違っている、七海の話を聞いた吹雪は改めてそう確信した。

 

 

榊原が七海たちヒュースを作った目的である“人間を倒す”というのは、あくまでも日本を攻撃する敵国の一部の人間だけだ、しかし“目に映るモノ全てが敵”という一騎当千型に育成された事に加え、余計な知識を一切排除し最低限ギリギリの情報しか与えられなかったが故に“全ての人間を倒し榊原を認めさせる”という一辺倒で不器用な考えに陥ってしまった。

 

 

(でも、それを教えるのは私の役目じゃない)

 

 

おそらくそれを吹雪が言っても彼女は認めようとしないだろう、それは生みの親である榊原の役目であり、責任だ。

 

 

…もっとも、“戦争”などという誰の所為にも出来ない事象の最中に七海を生み出した榊原に、果たして“責任”など問えるのか甚だ疑問ではあるのだが。

 

 

「それじゃあ、三日後の午前0時にベアトリスをあなたの拠点へ向かわせるわ、その時に博士からの返事を聞かせてちょうだい」

 

 

「分かった」

 

 

吹雪は七海に台場鎮守府の詳しい場所を地図に書いて教える。

 

 

「ありがとう吹雪、あなたのおかげで博士に会う希望が持てたわ」

 

 

そう言って七海は吹雪に笑いかける、それを見て吹雪は胸を痛めた、おそらく榊原は七海の望む答えを返さないだろう、それに薄々気付いていながら黙っている自分に対し、罪悪感が芽生えていた。

 

 

「七海様、お話はまとまりそうですか?」

 

 

するとベアトリスがふたり分のお茶を持って部屋に入ってくる。

 

 

「えぇ、博士に密会の話を持って行ってくれるそうよ」

 

 

「そうですか!ついに七海様の悲願が叶いますね!」

 

 

ベアトリスも自分の事のように嬉しそうにしている、敵ながら良い関係だなと吹雪は内心羨ましくなった。

 

 

(いや、元々敵じゃないのか…)

 

 

そんなことを考えていると、ベアトリスが吹雪の顔をじっと見つめていた。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

「いや、お前の顔…どっかで見たことあるんだよな~」

 

 

「そりゃ何度も戦ってるし」

 

 

「いやいや、それよりも前、戦場で相見えるよりも前にどこかで…」

 

 

ベアトリスが記憶の糸を辿りながらうんうん唸っていると…

 

 

「あれじゃないですか?前に侵蝕が途中で止まった“失敗作”の…」

 

 

するといつの間にか開いていたドアにもたれ掛かっていたエリザベートがそう言った。

 

 

「…あぁ!そうか!お前あの時の“失敗作”か!」

 

 

ベアトリスは思い出したように手をポンと叩く。

 

 

「“失敗作”…?」

 

 

エリザベートとベアトリスのやり取りを見て吹雪は疑問符を浮かべる、自分が“失敗作”?どういうことだろうか…?。

 

 

『…ちょっと、私の吹雪を失敗作だなんて言わないでよ』

 

 

その時、リーザが怒気を含んだ声で吹雪の中から訴えかける。

 

 

「うわっ!?こいつの中から声が…!?」

 

 

「…彼女はリーザ、私が深海棲艦になったときに生まれた、私の別人格だよ」

 

 

驚いて目を丸くしているベアトリスたちに吹雪がリーザを軽く紹介する。

 

 

「別人格…って事はそのリーザってのはやっぱり侵蝕の…」

 

 

「そう考えて間違い無さそうね、ならその子は“失敗作”じゃなかったって事かしら」

 

 

『…ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ」

 

 

ベアトリスとエリザベートの会話を遮り、リーザがいつの間にやら“反転”してベアトリスに詰め寄っていた、一瞬のうちに漆黒の肌に白い髪という深海棲艦のような容姿になった吹雪にベアトリスは目を剥く。

 

 

「なっ!?お前…!!」

 

 

「私は吹雪の裏の人格であるリーザ、普段は吹雪に身体と行動権を預けてるけど、裏の私を表に出すとこうなるのよ、つまりこれが吹雪の裏側に潜んでいる深海棲艦としての身体と人格よ!分かったら愛しの吹雪を失敗作だのと侮辱するのは止めて貰おうかしら!」

 

 

リーザはそう言って更にベアトリスに詰め寄った、正直前半の口上と最後の要求が全然一致していないと思ったベアトリスだったが、到底突っ込める雰囲気ではなかった。

 

 

「…驚いたな、まさかこんな形でふたつの人格が同居してるとは」

 

 

「侵蝕で生まれた身体と人格を内側に閉じ込めた…って所かしら、意志の力とでも言うのかな」

 

 

「…あんたたちさっきから何を言ってんのよ」

 

 

『リーザ、一度戻って、私が話すよ』

 

 

リーザが更に問い詰めようとしたが、吹雪が戻るように言った。

 

 

「…分かった』

 

 

リーザは身体と行動権を吹雪に戻し、何時もの艦娘としての吹雪の姿になる。

 

 

「それでベアトリス、失敗作とか侵蝕とか、どういうことなの?」

 

 

「あー、それはだな…口で説明するのは難しいんだが…」

 

 

「だったら生成室に連れて行って生で見ながら説明した方がいいんじゃない?」

 

 

「いやいやいや…それはいくら何でもマズいだろ、コイツにしてみれば艦娘を深海棲艦に作り替える行程を直に見せる事になるんだぞ?流石に酷ってモン…」

 

 

「構わないよ、見せて」

 

 

「だろ…ってえぇ!?」

 

 

吹雪の予想外の返答にベアトリスは素っ頓狂な声を出す。

 

 

「私の今の身体が作られた現場がここにあるのなら、見てみたい、深海棲艦…ヒューマノイド・ソルジャーをもっとよく知る為にも、戦争を終わらせる為にも」

 

 

真っ直ぐな言葉と目を向けられたベアトリスは少し悩んだが、やがて折れた。

 

 

「…分かった、だが艦娘のお前が見たら相当キツい光景になると思うぞ、それだけは覚悟しておけ」

 

 

「分かった」

 

 

吹雪はベアトリスに連れられ生成室に向かおうとする。

 

 

「待って吹雪、これを返しておくわ」

 

 

部屋を後にしようとした吹雪に七海があるモノを渡す、それは吹雪のPitだった。

 

 

「…返してくれるの?」

 

 

「あなたはもう私たちの協力者だもの、それくらいはしないとね」

 

 

協力者というよりは共犯者だな、と思う吹雪だったが、あえて言わないでおいた。

 

 

 

ベアトリスに連れられて歩きながら早速電源を入れようとした吹雪だったが…

 

 

(……………………)

 

 

PitにGPS機能が付いている事を思い出した、今ここで電源を入れれば吹雪の居場所が知られてしまうだろう、自分が深海棲艦に浚われた事はすでに大本営まで伝わっているハズだ、そんな状態で自分の居場所が台場や大本営に伝われば『吹雪の居場所=深海棲艦のアジト』という認識をされる。

 

 

そうなれば大本営がここへ討伐艦隊を送り込んでくるのは明らかだ、七海との約束を果たす為にもそれは避けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…なら、こっちの居場所がバレないように連絡すればいい)

 

 

もっとも、抜け道を知っている吹雪にとっては取るに足らない問題なのだが。

 

 

吹雪は徐にPitを裏返すと、バッテリーパックカバーに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、手掛かりは無しか…いや、いいんだ、ありがとな」

 

 

海原は痩せ我慢にもなっていない取り繕いで電話を切ると、はあぁ…と大きく溜め息を吐く、吹雪が深海棲艦にさらわれてから丸一日が経ったが、その行方は掴めていない、Pitの電源は切られているようで、GPSでの探索も出来ない、余所の鎮守府の艦娘も捜索に協力してくれているが未だ手掛かり無しだ。

 

 

「…吹雪、どこにいるんだ」

 

 

そう力無く呟きながら海原はパソコンのGPS情報を更新するが、やはり吹雪の場所は移らない。

 

 

「…提督、気をしっかり持って下さい、吹雪さんはきっと無事でいますよ」

 

 

「そうよ、だってあの吹雪よ?簡単にくたっばったりしないって!」

 

 

大鯨と曙が必死に励ましているが、海原の表情は依然浮かばないものであった、海原だけではない、Deep Sea Fleetの艦娘全員が提督室に集まって吉報が来るのを祈るようにして待っていた。

 

 

「………………………」

 

 

そんな中、三日月、暁、篝の3体だけは落ち着いた様子で座っていた、始原棲姫である七海が吹雪をさらった目的と、下手に危害を加える事はないだろうという事を知っているからだ。

 

 

(多分吹雪さんはPitを持っていても電源は入れてないはず、敵と対話しているなら居場所がバレるような事はしないだろうし)

 

 

そう予想をしている暁のポケットに入れているPitがマナーモードで震える。

 

 

(…?)

 

 

取り出してディスプレイを見ると、発信者は吹雪だった。

 

 

「っ!?」

 

 

それを見た暁は飛び上がりそうになるのをこらえて海原の方を見るが、海原が吹雪の居場所を見つけたような様子はない、こうして電話をしてきているという事はPitの電源は入ってるハズなのに、どういうことだろうか?。

 

 

暁は隣に座っている三日月と篝にディスプレイを見せ、提督室のドアを指差す、2体は驚いたような顔をしたが、すぐに小さく頷いた。

 

 

暁は目立たないようにこっそり提督室を出ると、少し離れた廊下で吹雪からの着信に応答する。

 

 

「もしもし、吹雪さん?無事?そう、なら良かったわ、でもどうやってかけてきてたの?」

 

 

 

『……………』

 

 

「なるほどね、そんな抜け道があったなんて知らなかったわ、えぇ、あの事ならまだみんなには言ってない、みんなには悪いけど、吹雪さんが帰ってくるまで秘密にしてるつもり」

 

 

『…………………………』

 

 

「了解、三日月さんと篝さんにも伝えとく、頑張ってね吹雪さん」

 

 

暁は通話を終了すると、提督室に戻ろうと後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今の話、どういうこと?」

 

 

「っ!!」

 

 

 

そこには、視線だけで相手を射殺しそうなほど鋭い眼光でこちらを睨んでいるハチが立っていた。



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第210話「七海の場合3」

5周年任務の2-5を攻略中です、軽空母を含めた下ルートで挑戦中ですが、2戦目のル級flagshipの攻撃で軽空母や駆逐艦が大破になる事故が多発なので全く先に進めずにいます、サミュエル欲しい…


「着いたぞ、ここが生成室だ」

 

 

ベアトリスに連れられて吹雪は生成室へとやってきた。

 

 

「ここが…」

 

 

その部屋は学校の教室を一回りほど広くしたような場所だった、部屋の右側には人の身長の3倍はあろうかという大きさの正方形の箱…魚の養殖などで使われる生け簀のような装置が並んでおり、左側には人の身長ほどの大きさをしたカプセル状の装置が並んでいる。

 

 

そして部屋の中央にはそれらの装置とケーブルで繋がれているコンピューターのような大きな端末が設置されており、その手前には手術室にあるような簡素な手術台が置かれていた。

 

 

「右側のデカいやつは歩兵級(ポーン)なんかの大型のヒュースを生み出すときに使われる生成器で、左側の小さいのは艦娘をヒュースに作り替える時に使う生成器だ、真ん中のデカい端末で左右の生成器を管理してる、手前のベッドは艦娘の死体を検査するときに使うな」

 

 

ベアトリスは部屋にあるモノについて簡単に説明する、造船所にある艦娘を建造する部屋に似ている、と吹雪は思いながら部屋を見渡す。

 

 

「これが建造中の深海棲艦…」

 

 

右側の大きな生け簀型の装置を見ながら吹雪はそう零す、中ではホオジロザメにカジキが持つ角のようなモノが伸びた深海棲艦が薄緑色の液体に浸かっていた、見た目で言えば駆逐棲艦あたりだろうか?。

 

 

「そいつは今生成中の歩兵級(ポーン)だ、完成までもう少しって所だな」

 

 

「…ポーン?」

 

 

「ヒュースの識別名だ、ヒューマノイド・ソルジャーは既存の生物の遺伝子情報を複数掛け合わせて生み出される、だから1体1体戦闘力なんかの潜在能力(ポテンシャル)が異なる、だから我々は能力の優劣に応じてチェスの駒の名でランク分けしているんだ」

 

 

「…何でチェス?」

 

 

「七海様が榊原様とよく遊んでいたから、というのが理由みたいだ」

 

 

「へぇー、深海側の本名がちゃんとあったんだね」

 

 

吹雪は半ば感心しながら歩兵級(ポーン)を見つめる、ちなみに他の艦種の深海棲艦にもチェスの名前が付けられているようで、吹雪がベアトリスに聞いたところ…

 

 

駆逐棲艦=歩兵級(ポーン)

 

軽巡棲艦&雷巡棲艦=騎士兵級(ナイト)

 

重巡棲艦=砦兵級(ルーク)

 

軽母棲艦=幼女王兵級(リトルクイーン)

 

戦艦棲艦=王兵級(キング)

 

空母棲艦=女王兵級(クイーン)

 

潜水棲艦=暗殺兵級(アサシン)

 

輸送棲艦=癒送兵級(ビショップ)

 

 

…このような分類になっているらしい、余談だが暗殺兵級(アサシン)幼女王兵級(リトルクイーン)はオリジナルとのこと。

 

 

「……………」

 

 

ベアトリスの講義を聞いている間、吹雪はこの部屋の光景にある違和感を感じていた、別に今更この部屋の様子を異常だとは思ったりしない、もっと別の何か、既視感のような…

 

 

 

(…そうだ、私…この場所を知ってる)

 

 

しかしそれは混血艦(ハーフ)となっている吹雪にとっては“既視感”ではなく“記憶”と呼ぶべきだろう、吹雪が混血艦(ハーフ)として生きている以上、吹雪自身もこの部屋で深海棲艦(ヒュース)への改造施術を受けている、エリザベートが自分を見て“失敗作”と言っているのがその証拠だ

 

 

(でも…その時自分に何があったのか、どうしても思い出せない)

 

 

いったい自分はどのように彼女たちに改造され、そしてリーザを内に宿した失敗作となったのだろうか…?。

 

 

「…さて、授業はこのくらいにして、いよいよメインイベントといくか」

 

 

その言葉にハッとする吹雪をよそにベアトリスは部屋の正面の壁側に置かれている業務用冷蔵庫のような棚を開ける。

 

 

「っ!?」

 

 

その中身を見た吹雪はぎょっとする、中に入っていたのは駆逐艦の艦娘だった、全身に激しい裂傷などの傷を負い、左腕と右足が欠損している。

 

 

「ついさっきメアリーとマーガレットが回収してきたんだ、今は薬で眠っている」

 

 

そう言ってベアトリスはその艦娘をベッドに寝かせ、残っている手足を拘束する。

 

 

「そして登場するのがこいつだ」

 

 

ベアトリスが取り出したのは黒い液体の入ったアンプルだった、一見すると黒い絵の具を溶かした水に見えなくも無いが、その正体がそんな穏やかなモノでない事は予想がついていた。

 

 

「これはヒュースの遺伝子情報が入った特別な薬品だ、榊原様のヒュース開発技術を七海様がアレンジして作ったものだ、これを艦娘の身体に摂取させる事で遺伝子情報が上書きされ、肉体的、精神的に侵食されることになる」

 

 

ベアトリスはアンプルを注射器に取り付けながら淡々と説明しているが、それを聞いている吹雪は身体を小さく震わせていた、これを注射されただけで艦娘は精神と肉体を深海棲艦へと改造される、そんなとんでもない代物を七海は開発していたのだ。

 

 

「…最後に聞くが、本当に見るのか?」

 

 

注射器の針を駆逐艦娘の腕に刺す寸前の所でベアトリスは吹雪に最後の確認をする。

 

 

「うん、私だって一度はこれをやられた身だし、知る義務がある」

 

 

吹雪の変わらない決心を聞くと、ベアトリスは注射針を駆逐艦娘の腕に刺し、ピストンを押して薬品を流し込んでいく。

 

 

「………………っ!?」

 

 

それから変化が起こったのは薬品を流されてから10秒程が経ったときだった、針を刺した部分を起点として、皮膚の内側が黒く染まっていく、それは吹雪の反転とほぼ同じような変化であった。

 

 

「っぁあっ!!」

 

 

侵蝕が右腕全体に広がった辺りで駆逐艦娘が意識を取り戻す、しかしその様子は自然な目覚めではなく、強い刺激により無理やり覚醒させられたそれだった。

 

 

「ああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!がああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

目を覚ました駆逐艦娘は拘束されたベッドの上で断末魔とも言える悲鳴を上げながら身悶えていた、それは侵蝕が身体全体に広がっていくごとに激しさを増していき、身体の右半分が黒く染まる頃には激しく血を吐きながら苦痛の叫びを上げていた。

 

 

それを間近で見ていた吹雪にとっては目と耳を覆いたくなるモノだったが、駆逐艦娘に起きた驚くべき変化に吹雪は目が釘付けになった。

 

 

「再生していく…」

 

 

欠損した手や足が侵蝕が届くのと同時に再生していく、いや、再生というよりは侵蝕部分から新たに生えてきていると言った方が正しいかもしれない。

 

 

そうして侵蝕は身体全体に広がると、首を伝って顔を覆い、そして最後はその瞳の光さえも飲み込んで…

 

 

 

「…改造施術終了、新たなヒュースの出来上がりだ」

 

 

そう言うとベアトリスはベッドの拘束具を外し、駆逐艦娘だったモノを起き上がらせる。

 

 

「…これがヒューマノイド・ソルジャー」

 

 

新たに出来上がったヒュースを吹雪はまじまじと見つめる、全身黒く染まった皮膚に白い髪、そして深海棲艦の特徴でもある緑色の瞳、まさに出撃中に遭遇する人型の駆逐棲艦そのものだった。

 

 

「…この子、ずっと虚ろな目でぼーっとしてるけど、艦娘だったときの記憶は残ってないの?

 

 

 

「いや、人格や記憶は残ってるよ、侵蝕と言っても記憶を消して新たに書き込む上書きをする訳じゃない、既にある艦娘の記憶や人格を下の階層に追いやり、ヒュースの情報をその上に書き加えて蓋をするって所だな、ここに来る途中にお前が言っていた“面影”は上書きされて下の階層に追いやられた艦娘の記憶や人格をお前が視覚的に認識したもの、艦娘化(ドロップ)はそれを刺激することで艦娘の情報が再び上の階層に押し上げられる事により艦娘としての自我を取り戻した現象…と言ったところだろう」

 

 

ベアトリスはそう解説するが、艦娘の艦娘化(ドロップ)現象はベアトリス自身も初めて耳にする事らしく、今の説明もほとんどが推測によるものらしい、ぶっちゃけ深海棲艦でもよく分からない…との事だ。

 

 

しかし今までの経験から考えるとあらゆる事に合点がいく、深海痕にしたってそうだ、あれは深海棲艦だったときの名残と言うよりは、欠損部分を補うために新たに生えてきたヒュースの一部なのだろう、つまりDeep Sea Fleetの艦娘たちは轟沈した際に深海痕があった部分を失っている事になる。

 

 

「それでベアトリス、もう一つ聞きたいんだけど…」

 

 

「お前自身の事、だよな?」

 

 

吹雪の質問を先回りしたベアトリスに吹雪は頷いて答える。

 

 

「今のを見て私もこれと同じ事をされたのは想像がつく、でも私はこうして艦娘の状態を保てているし、目覚めた時に海岸に倒れていた事を考えると艦娘化(ドロップ)した可能性は低い、私に何があったの?エリザベートが失敗作って言ってたことと関係あるの?」

 

 

「…そうだな、話せばそれなりに長くはなるんだが…」

 

 

ベアトリスはそう言うと、記憶の糸を解くように当時のことを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ!これは中々の上物を拾ってきたな!」

 

 

そう嬉々とした表情のベアトリスの視線の先には、先程暗殺兵級(アサシン)に回収された吹雪がベッドに拘束されながら寝かされていた。

 

 

『どうするの?この艦娘、傷酷いようだし殺す?』

 

 

エリザベートが吹雪の身体の様子を観察しながら言う。 

 

 

 

『馬鹿、まずは七海様に相談しないとダメよ』

 

 

そう言ってベアトリスは七海を呼びに一度部屋を後にする。

 

 

『しっかし、ベアトリス先輩はこんなボロ雑巾みたいな艦娘のどこを見て上物だなんて判断したのかしら…』

 

 

どこか腑に落ちないと言った様子で、エリザベートは引き続き吹雪の基礎データを取っていく。

 

 

 

 

『へぇ、確かにこれは上物ね』

 

 

 

ベアトリスに呼ばれて部屋にやってきた七海は吹雪を見るなりベアトリスと同じ評価を下す。 

 

 

 

『これならヒューマノイド・ソルジャーにも最適よ』

 

 

そう言って七海は吹雪の顎を軽く掴んでこちらを向かせる、吹雪は虚ろな半開きの目をこちらに向けているが、意識は無いはずなので自分の姿は認識できていないだろう。

 

 

エリザベートのデータ採取が終わると、早速吹雪のヒュース改造施術が開始された、注射器によって注入されたヒュースの特殊薬品が吹雪の身体を侵蝕している、初めは何の反応も無かった吹雪だが…

 

 

 

『っぐぁ…!?』

 

 

身体の7割程が侵蝕された辺りで吹雪の意識が覚醒、侵蝕の苦痛に苦しみ悶えながら声にならない声を上げている、そして侵蝕が身体全体を覆い尽くそうとしたまさにその時…

 

 

『っ!?』

 

 

『これは…!?』

 

 

身体を覆っていた侵蝕が見る見るうちに引いていき、元の肌色へと戻っていく、さらには欠損により侵蝕で生えてきた手足さえも元の肌色へと戻っていくのだ。

 

 

1分もしない内に吹雪は元の姿に戻り、何事も無かったかのように眠りについた。

 

 

 

『今のは…』

 

 

『何が…起きたんだ…?』

 

 

不可思議な現象を目の当たりにした七海たちは、眠り続ける吹雪をただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

「…とまぁ、これがお前の改造施術中に起きた出来事だ」

 

 

ベアトリスから一通りの説明を聞いた吹雪は呆然としながらこれまでの事を思い返す、他のDeep Sea Fleetと比べて侵蝕率が高かったこと、リーザという別人格を保持していること、出撃中に腕を持って行かれたとき、自分の肉が黒かったこと、それら全ては吹雪だけが持つ特異性だと思っていたが、それは当たり前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪は最初から艦娘化(ドロップ)などしていなかった、深海棲艦としての身体と人格を自身の内側に仕舞い込んだ本当の意味での混血艦(ハーフ)、それが吹雪の正体だったのだ。

 

 

「…予想通り過ぎて笑いも起きないや」

 

 

そう言って乾いた笑いを浮かべる吹雪だったが、自分が他のDeep Sea Fleetとは似ているが全く別の存在である事実を突きつけられ、流石に動揺を隠せずにいた。

 

 




次回「仲間を信じて」

長くなったので分けます。

ベアトリスの回想の内容は88話に少しだけ伏線としてあったりします。


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第211話「七海の場合4」

大変お久しぶりでございます、更新が延びに延びてすみません。

軌跡シリーズ全作プレイを決行したら思いのほかゲームにハマって投稿がすっかり疎かになってしまいました(閃の軌跡Ⅲを買ったはいいがストーリー全く分からなかった為)、現在は碧と閃Ⅰを同時プレイ中。

…黒白物語も鋭意執筆中です(汗

艦これのスケートイベントの告知を見ていよいよこのゲームの本質を疑い始める。


「…暁、もう一度確認するが、今の話は本当か?」

 

 

海原の再びの問い掛けに、暁は首を縦に振って肯定する、吹雪との会話をハチに聞かれた暁はそのまま提督室へと連行され、渋谷での出来事を洗いざらい吐く結果となった、そして当然と言えば当然だが、その話を聞いた全員(ただし三日月と篝を除く)が目を剥く事になる。

 

 

「まさか深海棲艦の正体が始原棲姫に作られた人工物だったとはな…」

 

 

「おまけにその始原棲姫を生み出したのが人間…それも榊原所長だなんて…」

 

 

「俄には信じがたい話よね…」

 

 

台場メンバーは未だ半信半疑といったように口を揃えて言い合う、暁たちの口から告げられた“世界の秘密”の大きさを考えれば当然ともいえるが。

 

 

「それで、吹雪は始原棲姫と所長との密会を取り付ける約束をするために返されるんだよな?」

 

 

「えぇ、明日には帰って来れるって言ってたわ」

 

 

「そうか…分かった、ならこっちも吹雪がいつ戻ってきても行動出来るように準備しておかないとな」

 

 

そう言うと海原はDeep Sea Fleetの艦娘たちにそれぞれ指示を出す、と言ってもやることと言えば榊原にスケジュールの確認をしたり密談場所の候補を絞るくらいで、本格的に行動を始めるのは吹雪が戻ってきてからになる。

 

 

「…司令官、その…司令官が吹雪さんの事を一番心配してたのに、黙っててごめんなさい…」

 

 

自分も榊原に電話をかけようとした時、暁がしおらしい様子(激レア)で謝ってきた。

 

 

「内容が内容だったから仕方ないさ、あんな秘密知っちまったら誰だって混乱するだろうし、それこそ余所に漏れでもしたら大変な事になりかねない、少なくともお前の判断は間違ってないと思ってるよ」

 

 

「…つまり正しい選択をしたとは思ってないって事よね、やっぱり本当は怒ってるんじゃない」

 

 

「うぐっ…つくづく痛いところを突いてくるなお前は…」

 

 

暁のジトーっとした目で見られた海原は顔をひきつらせる。

 

 

「確かに何とも思ってないと言えば嘘になるさ、でもお前たちが吹雪の事を黙ってたことは一切責めるつもりは無いから、そこだけは信じてくれ」

 

 

「…分かった、ありがとね」

 

 

暁はそう言って照れたように笑う(超激レア)。

 

 

「…そう言えば暁、お前吹雪とはPitを使って会話してたみたいだが、どうやったんだ?電源を入れればGPSで端末の位置が分かるハズなんだが…」

 

 

そう言って海原は依然吹雪の端末の場所が表示されないパソコンのディスプレイを見ながら聞く。

 

 

「あぁ、それにはちょっとしたカラクリがあるのよ」

 

 

そう言って暁はPitの裏のカバーとバッテリーパックを取り外し、バッテリーパックが入っていた端末本体の中から小さなチップを抜き取った。

 

 

「…それは?」

 

 

「GPSの位置情報が記録されてるチップよ、普段はこんな感じでSIMカードと同じスロットに入ってるんだけど、これを抜くとGPSに探知されずにPitを使えるようになるの」

 

 

「そ、そうなのか!?」

 

 

暁の解説に海原は驚いたように言う、てっきり本体内部に内蔵されていると思っていたのだが、こんな簡単に着脱できるモノだとは思ってもみなかった。

 

 

「…本当だ、暁のGPS情報が表示されなくなってる」

 

 

「まっ、一種の裏技ってやつよ、暁も吹雪さんから聞いて初めて知ったんだけど」

 

 

「つか、何で吹雪がそんな事知ってるんだ?」

 

 

「暇つぶしにPitのあちこちを弄ってたら偶然見つけたみたいよ、いつか使える手かもしれないから黙ってたんですって、他の艦娘に話したら広まって対策されるかもしれないし」

 

 

「…つくづく規格外だな、あいつは」

 

 

今更ながら吹雪という艦娘を規格外さを思い知る海原であった。

 

 

 

 

 

「七海様、吹雪を用意した部屋に通しました、今日はもう休むとの事です」

 

 

「お疲れさま、無理もないでしょう、あの子にとって今日は色々あり過ぎただろうし」

 

 

その夜、七海はベアトリスと自室で話をしていた、その主な内容は深海棲艦…七海が生み出した最初の深海棲艦(ヒュース)駆逐棲艦(ポーン)がその存在を確認されてから艦娘が誕生し、今までに至るまでの簡単な経緯だ、夕食の時に吹雪が噛み砕きながら説明してくれたのだが、七海たちにはどうしても引っかかる部分があった。

 

 

 

「最初に深海棲艦が現れてから艦娘が誕生して実戦配備されるまで半年、どう考えても早すぎますよね」

 

 

ベアトリスの指摘に七海も頷く、既存の兵器の新型ならばまだ分かるが、相手は一切の情報が無い完全な未知の敵性生物だ、その生物的性質などの詳細情報、それを分析した上での対抗手段の確立…既存の軍事兵器の対策を1から作り上げるのだとすれば、深海棲艦の対抗手段として艦娘を生み出すのは文字通り完全に0から始めたはずだ、いくら人間科学力が発達しているとはいえとても半年なんて短期間で出来るとは思えない。

 

 

「多分博士はかなり早い段階で深海棲艦の正体がヒュースで、それを生み出しているのが私だって事に気付いてたんだと思う、だからヒュースのアナザータイプである艦娘を短期間で生み出せたのよ」

 

 

「なる程、ならヒュースと艦娘の性質が似ていたことも説明が付きますね」

 

 

ベアトリスは納得したように頷いたが、同時に新たな疑問が浮かぶ。

 

 

「しかしそれだと尚更分かりません、なぜ榊原様は七海様がヒュースを生み出していると知りながら対抗策である艦娘を開発したのでしょうか?」

 

 

ベアトリスは腕を組んでうーん…と唸るが、七海はそれとは対称的にそんな思い悩むような素振りも無くただ榊原と七海が写っているあの写真を見ているだけだった。

 

 

「………………」

 

 

ずっと胸の奥に引っかかっていた吹雪の言葉、そして今もなお艦娘を作り続けている榊原の行動、それは何度考えても一つの結論へと収束する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もし、本当に博士がこの状況を望んでいなくて、私のしてきたことが間違っていたなら…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、どうすればいいのだろうか…




次回「密談」

終わりへのカウントダウンが始まる…


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第212話「七海の場合5」

最近になって艦隊名を変えました、新艦隊名は「風雲!香取先生」です、太鼓の達人のオリジナル楽曲「風雲!バチお先生」が元ネタ。

最近は異世界モノの小説やアニメが流行ってるらしいので自分も何かネタを出せないかと頭を捻ってみましたが、まず異世界に飛ばされる理由付けで悩むという体たらくを発揮することになりました。

…個人的にスキルやステータスはあまり使いたくない派です。


「ふう、なんか色々な事があったけど、ようやく台場に帰れるよ」

 

 

翌日の午前中、吹雪は七海たちの拠点から台場鎮守府へと戻るため、単艦で海路を進んでいた。

 

 

「とりあえず戻ったら司令官やみんなに今回のことちゃんと説明しておかないとだけど、みんなから何て言われるかな…」

 

 

帰還後の事を想像しながら吹雪は頭を悩ませる、七海に拉致されてから一度も連絡を寄越さなかったのは状況的に考えれば不自然ではないが、暁からバレたと電話が来たときはイヤな汗が顔を伝ったものだ。

 

 

「司令官は怒ってなかったって言ってたけど、連絡できる状況でそれをしなかったっていうのは流石に指摘されるかもなぁ…」

 

 

とりあえず覚悟はしておこう、そんな事を思いながら吹雪は台場への帰路を行くのだった。

 

 

 

 

幸い道中敵と遭遇することもなく(七海が手を回してくれたのかもしれない)スムーズに進むことが出来、昼前には無事に台場鎮守府へと帰ることが出来た。

 

 

「…何か入りづらいな」

 

 

ほんの数日留守にしていただけなのに、玄関をくぐるのに無駄な緊張感が全身を苛んだ、状況が状況なだけに仕方ない事だが。

 

 

「はぁ…ここでウジウジしててもしょうがない!」

 

 

意を決して吹雪は扉を開けて玄関を潜ると、ただいま~…と控え目に声を出す。

 

 

「………」

 

 

声が小さかったせいか、吹雪の声に反応する艦娘はいなかった。

 

 

「…提督室に行ってみよう」

 

 

そう呟いた吹雪が歩き出そうとしたとき…

 

 

「…吹雪?」

 

 

ふと声がしたのでそちらを向くと、ハチがひどく驚いた様子でこちらを見ていた。

 

 

「あ…ハチ、ただい…」

 

 

 

吹雪がただいま、と言おうとしたが、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お帰りなさい、吹雪」

 

 

ハチが涙ぐみながら吹雪を抱きしめ、心の底から安心したような、そして嬉しそうな声色で吹雪を迎えた。

 

 

 

「…ただいま、ハチ」

 

 

あぁ、帰ってきたんだな、改めてそれを実感しながら、吹雪は啜り泣くハチのことを抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

 

「司令官、ただいま帰還しました」

 

 

ハチの熱烈とも言える抱擁を堪能した後、すぐさまDeep Sea Fleet全員が集められた提督室で吹雪は海原に帰還報告をする。

 

 

「おう、話は暁からある程度は聞いてるよ、大変だったな、連絡よこさなかった事に関してはお咎め無しってことにするから、気にすんな」

 

 

「…すみません、ありがとうございます」

 

 

見透かされてたか、と吹雪は嬉し恥ずかしと言った様子で海原に返した。

 

 

「それよりも、始原棲姫…七海と所長の密会を取り付ける約束をして来たんだろ?その辺も含めて向こうで何があったかを聞かせてくれ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

吹雪は向こうであった出来事を頭の中で整理しつつ、事の詳細を報告していく。

 

 

 

 

「…なるほどな、そんな事が…」

 

 

第三次世界大戦、榊原が七海を生み出した目的、七海の真意と目的、そして吹雪自身の正体、その目で見てきた事の全てをみんなの前で打ち明けた。

 

 

「でもそれだと、七海さんのしている事は、榊原所長が七海さんを作った本当の目的とは外れてしまっていますよね…」

 

 

大鯨の言葉に海原たちは一斉に頷く、七海は敵国の人間と戦うために作られた兵士だ、そう言った意味では深海棲艦という増援を生み出して応戦する七海のやり方は正しいと言える、しかしその七海の思考にはひとつだけ欠落があった。

 

 

 

敵と味方の区別を付けていないのである、攻撃してもいい人間、そうでない人間、はたまた守る対象である人間、そういった区別を一切付けず、全ての人間たちを敵として処理しようとしている、この致命的な思考回路の欠落は“自分以外は全て敵”の一騎当千型として育てられた当時の背景が影響したのだろう。

 

 

榊原自身も当然その人間のうちのひとりだし、仮に全ての人間を滅ぼしてしまったら誰も七海の成果を認めることは出来ない、しかし七海の未成熟な頭にはそこまでの考えは及んでいないのだろう

 

 

「何にせよ、まずは所長に七海の事を話さなきゃ始まらないな、早速連絡を取ってみるか」

 

 

海原は造船所の電話番号へとダイヤルし、榊原のいる所長室へと繋いでもらう。

 

 

『やあ海原くん、どうしたんだい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…所長、始原棲姫…七海の事についてお話ししたいことがあります」

 

 

 

 

「すみません所長、突然押し掛けるような真似を…」

 

 

「いや、気にしないでくれ、しかし最初に海原くんから七海の話を聞いたときは耳を疑ったよ、まさか君の所の吹雪と七海が会って話をしていたとは…」

 

 

電話の後、海原は吹雪を連れて造船所の所長室を訪れていた、部屋の外では潮風に人払いを徹底させているので誰かに聞かれる心配は無いだろう。

 

 

「それで、七海が俺と話がしたいってことだよね?」

 

 

「はい、三日後にベアトリス…空母棲姫が台場鎮守府に返事を聞きに来るので、所長のお返事を聞いてきて欲しいとの事でした」

 

 

「…そうか」

 

 

それを聞き、榊原はふぅ…と息を吐いて俯く、七海と会って話が出来る、これは千載一遇の願ってもないチャンスだ、返事はOK以外に無いだろう。

 

 

だが、それは七海に自分が今までしてきた行いを全否定する事でもある、こんな戦争はすぐにでも終わらせるべきだ、しかし全ての真実を告げられて、彼女の心はそれに耐えられるのだろうか、そんな自分勝手な葛藤が頭の中に浮かぶ。

 

 

「…七海に伝えてくれ、是非会って話がしたい、答えはOKだと」

 

 

だが、そんな事で悩むのは許されない、七海には…彼女には全てを伝えなければならない、例えそれが未だ自分に愛を向けている彼女を絶望させることになったとしても。

 

 

「わかりました、ベアトリスにはそう伝えておきます、七海からの返事はまた追って連絡しますね」

 

 

「あぁ、頼んだよ」

 

 

榊原からの返事を聞いた海原は今後の簡単な打合せをして、所長室を後にした。

 

 

「…七海、やっと君に会えるんだね」

 

 

自分以外誰も居なくなった所長室で、榊原は七海の写真を見つめていた。

 

 

 

 

「榊原の奴、とうとう尻尾を出したな」

 

 

今までの会話を盗聴で聞いていた南雲はニヤリと笑みを浮かべ、“計画”をより具体的に練っていく。




次回「再会」

色濃い硝煙の中、怪物と狂人は再び出会う。


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第213話「七海の場合6」

ここ近年の気象状況を見て、春と秋が段々無くなっているような気がします、夏は残暑をいつまでも引きずっていると思いきや急に寒くなるし、冬は暖かくなったと思ったら一気に暑くなるし、日本から四季が無くなるのもそう遠い未来の話じゃないような感じがします。

艦これのスケートショーがついに開催されたようですが、中々凄いことになったみたいですね(分かりづらい


造船所でのやり取りから三日後の深夜、返事を聞きに来たベアトリスに榊原が密会に応じた事を伝えた、それを聞いたベアトリスは自分の事のように喜んで七海の拠点へ戻っていき、更にその日の昼頃に吹雪のPitに連絡が来た。

 

 

「七海から指定された日時は12月24日の午後5時、場所は台場鎮守府海岸だそうです」

 

 

その足で海原と吹雪は造船所に報告に行き、榊原に日時と場所を伝える。

 

 

「24日か、聖夜祭前夜(クリスマスイブ)を選ぶとは七海も凝った事考えるもんだな」

 

 

「ははは、たぶん七海はそんな事知らないだろうから偶然だと思うけどね、季節のイベントなんて強制記憶(インプット)してなかったし」

 

 

そう言って榊原は潮風に24日は何も予定を入れないように伝えると、自身も手帳のスケジュールに(マーク)を付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

南雲は盗聴用のイヤホンを耳から外すと、館内放送を使ってある人物を呼び出す。

 

 

「お呼びでしょうか、南雲元帥」

 

 

それから1分せずに元帥執務室の扉がノックされ、南雲が呼び出した人物…鹿沼が入ってくる。

 

 

「鹿沼、緊急の極秘作戦を決行する、日時は24日の17時、場所は台場鎮守府」

 

 

南雲の口から語られた日時に鹿沼は驚いたような顔をする。

 

 

「…それはまた随分と変わった内容ですね、どんな作戦なのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深海棲艦の親玉…始原棲姫の殲滅作戦だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけだから、博士との密会は今説明したとおりに事を進めてね」

 

 

「畏まりました、七海様」

 

 

七海の研究所でも同様にスケジューリングと準備が進められており、七海とベアトリスで最終調整が行われていた。

 

 

「…それと、先ほどの件ですが、やはりご決断を変えるつもりは…?」

 

 

ベアトリスは先程の密会での説明会で七海が話した“決意”の事をもう一度問う、その表情はどこか悲しそうな、憂いを帯びているようであった。

 

 

「…あなたたちには申し訳無いけど、もう決めたことだから、それが私自身の“けじめ”でもあるし、博士に対する“償い”でもあるから」

 

 

そう言って七海は覚悟の色を浮かべた目でベアトリスを見つめる、主にそこまで言われてしまってはこちらも引き止める事など出来はしない、本当にずるいお人だとベアトリスは思う。

 

 

「わかりました、七海様の決意がそこまで堅いのでしたら、最早私からは何も言いません」

 

 

「ありがとう、そして…ごめんなさい、私のワガママに付き合わせる事になってしまって…」

 

 

七海が感謝の言葉を伝えると共に謝罪の言葉を伝えると、ベアトリスはそのまま七海に跪き…

 

 

「七海様が謝る必要などありません、我々は七海様に命を貰った存在、その最期の時まで…我々一同お供させていただきます」

 

 

全幅の信頼と敬愛を込めて七海に言った。

 

 

そんなベアトリスに七海はもう一度ありがとう、とお礼を言うと、榊原の写真を手に取る。

 

 

(博士、いよいよあなたに会うことが出来ます、改めて再会できた暁には、これまでの出来事をお話ししたいです)

 

 

(でももし、私のしてきたことが間違っていたのなら、その時はご安心ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕は、自分で下ろします。

 

 

 

 

 

それからは何事もなく静かに日々が過ぎていき、ついに約束の日、12月24日(クリスマスイブ)がやってきた。

 

 

「やあ海原くん、待たせて悪いね」

 

 

七海の待ち合わせ時刻30分前の午後4時30分、榊原が潮風を連れて台場にやってきた、すでに太陽は水平線に半分以上身を隠しており、空は見事な茜色に染まっていた。

 

 

「いえいえ、それにここは俺たちの鎮守府なので待つも何も無いですから、気にしないで下さい」

 

 

「ははっ、それもそうだったね」

 

 

榊原は冗談めいた笑いを浮かべるが、それでもどこか落ち着きのない様子であった。

 

 

「やっぱり緊張しますか?」

 

 

「そりゃあね、会うのはほぼ10年ぶりだし、おまけにその10年で何もかもが変わってしまった、だから余計に緊張するのかな」

 

 

榊原はそう言って肩を竦める。

 

 

「まぁ、何にせよ後は七海たちが来るまで待つしか無いわけですし、適当にその辺に座りながら話でもしましょうよ」

 

 

そう言って吹雪が浜辺に敷いてあるレジャーシートを指して言う、ご丁寧にアウトドア用のミニテーブルと簡単なお菓子や飲み物まで用意されていた。

 

 

「…やれやれ、君たちにはすっかりお見通しという訳だね」

 

 

それが自分の気持ちを解そうと用意してくれたモノだという事にすぐに気付いた榊原は、降参だと言わんばかりに両手を上げ、大人しくレジャーシートに腰を下ろすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…司令官、来たみたいです」

 

 

 

それから30分後の午後5時、沈みかけていた太陽も水平線から僅かに姿を覗かせる程になっており、いわゆる暁闇(ぎょうあん)と呼ばれる空模様になった頃、“彼女たち”はやってきた。

 

 

僅かに見える日の光に照らされたのはいくつもの人型の影、それがこちらに近付いてくる、

 

 

「お待たせ吹雪」

 

 

やってきたのはベアトリス含む深海棲艦の姫級…その確認されている個体全てだった。

 

 

「随分と大所帯で来たんだね、護衛ならベアトリスだけで十分だと思ったけど」

 

 

「まぁ色々あってね、それで…あなたが榊原博士ですね」

 

 

「あぁ、この度はこうして会う機会を設けてくれて感謝しているよ」

 

 

「こちらこそ、我が主の望みを受け入れてくれた事に感謝します、それでは…後はお任せします」

 

 

 

そう言ってベアトリス含む姫級全員がその場から立ち退く、そしてそこに姿を現したのは…

 

 

 

「…七海」

 

 

あの日から変わらない姿でそこに立つ黒髪の少女…七海の姿だった。

 

 

 

「…博士、ようやく…会えましたね」

 

 

榊原の姿を目にした七海は涙を浮かべながら水面を滑るように移動して榊原に近付く、あの日から一日たりとも忘れたことは無かった、どれだけ会いたいと思ったことか、そんな彼が今、こうして目の前にいる、それだけで七海は涙が止まらなかった。

 

 

「ああ、会いたかったよ、七海」

 

 

それは榊原とて同じだった、あの日から早10年、自分と彼女の関係は大きく変わってしまった、でも互いが互いを想い合って再会を望んでいたこと、今日こうして会えたことを互いに喜び合えたこと、長い年月が経っても変わらないことが確かにあった、それを知ることが出来ただけでも嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その再会は唐突に終わりを告げる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 

 

刹那、凄まじい衝撃と熱が海原たちを襲い、浜辺にいた全員が後方へ吹き飛ばされる。

 

 

一体何が、と榊原は衝撃と熱の発生源の方を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ」

 

 

 

そこには、今まで七海たちがいた場所が火の海と化している光景が広がっていた。




次回「問いかけ」

怪物は、ただシンプルに問い掛ける。




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第214話「七海の場合7」

軌跡シリーズを閃の軌跡3までクリアしたので改めて投稿、やりふけっている間に太鼓の達人のDLCで超お気に入りの「太鼓侍」が配信されたりスマブラspecialの続報が出たりと色々ありました。

いよいよ艦これも第二期に移行しますね、海域は一部リセットされるようですが、5-2までしか突破していないのであまり痛くなかったり。


「七海…!?」

 

 

榊原たちは何が起きたのか一瞬理解できなかった、どこからかの攻撃で七海たちが撃たれたというのを理解したときには、すでに七海のいた場所は炎に包まれていた。

 

 

「…10年にも渡り我々人間を苦しめてくれた深海棲艦の最期がコレとは、何とも呆気ないものだな」

 

 

榊原たちが呆然としていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

 

「元帥…」

 

 

そこには南雲と鹿沼、そして海軍警察の隊員たちがぞろぞろとやってきた、さらに後ろには大本営所属の艦娘たちが艤装を展開させて控えている、今の砲撃も彼女たちが行ったものだろう。

 

 

海月(みつき)隊長、彼が例の男です」

 

 

「はい、造船所所長榊原啓介さん、国家に対する反逆の疑いであなたを拘束します」

 

 

そう言って前に出てきたのは大演習祭(バトルフェスタ)で佐瀬辺を拘束、逮捕した爆乳の女性リーダー…海月だった。

 

 

「なっ…!!拘束!?」

 

 

 

「元帥!これは一体どういうことですか!」

 

 

隊員たちに手錠をはめられ拘束されながら榊原は南雲に問う、海原や台場の艦娘たちも反逆罪とやらの共犯者で一緒に拘束されていた。

 

 

「いやね、この10年間我々の敵として数多の犠牲を出しながら戦ってきた深海棲艦、その原種(オリジナル)を君が作ったという信じがたい情報を入手してね、調査のためにコレを使って身辺を調べてみたらビンゴだった訳だ」

 

 

南雲は懐から小さい機械を取り出した。

 

 

「それは…!」

 

 

「今の言動から察するに盗聴器の類というワケですね、所長室で話していた密談の話は全てあなたに筒抜けだったというワケですか」

 

 

もっと南雲の動向に気をつけておくべきだった、そう後悔しながら吹雪は南雲を睨む。

 

 

「艦娘開発の権威、そして人類の起死回生の一手を生み出した救世主の正体が深海棲艦などという怪物を生み出したマッドサイエンティストだったとは、世の中分からないものだな」

 

 

 

「この件は日本を、いや世界中を震撼させる出来事になるだろう」

 

 

南雲と鹿沼が好き放題口に出していると、ふたりにとって聞こえてくるはずのない声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほどね、あえて博士を泳がせて、私と博士…あなたの汚職の最大の証拠を消そうって魂胆か」

 

 

「ずいぶんと趣味の悪い真似をしてくれるな」

 

 

「っ!?」

 

 

突如七海のいた炎の中から声が聞こえ、その場にいた全員がそちらを向く。

 

 

「残念だけど、こっちもそんなにバカじゃないのよ」

 

 

そこには、七海を守るように防御兵装(リコリス)を展開させて立ちはだかる飛行場姫(エリザベート)が居た。

 

 

南雲は改めて艦娘たちに砲撃を指示しようとしたが…

 

 

「おぉっと、それはしない方が身のためだぞ」

 

 

気付けば南雲や艦娘たちを艦載機が取り囲んでいた、ベアトリスの牡丹雪にエリザベートの影夜叉、そして七海の御霊骸とまさにオールスターな面子である。

 

 

「我々の目的はあくまでも榊原氏との対話だ、そちらがそれを飲んでもらえればこちらからは一切の戦闘行為は仕掛けないし、そのサテライトにも攻撃はさせないと約束しよう」

 

 

ベアトリスは凄むような声で南雲たちに向けて言う、本当ならサテライトなど使わずに非武装での交渉と行きたかったのだが、すでにこちらは一撃(実際には何発もだが)もらっている、これくらいは許されるだろう。

 

 

 

 

 

「南雲さん、まさかあなたが元帥になってるとは思いもしなかったわ、大方博士の動向を伺うためなんでしょうけど」

 

 

七海はエリザベートとベアトリスを護衛につけながら榊原たちの方へと少し近づく。

 

 

「お久しぶりですね南雲さん、あの時の視察以来でしょうか」

 

 

「何を言ってるんだ?俺は深海棲艦に知り合いは居ないんだがな」

 

 

あくまでとぼける南雲に対し、七海は少しも動じずに次の台詞を口にする。

 

 

「…そうですか、なら改めて自己紹介をしたほうがいいかもしれませんね」

 

 

七海はそう言うと恭しくお辞儀をし…

 

 

 

「私の名前は七海、第三次世界大戦中に日本政府の計画によって作られた人造人間(ホムンクルス)の兵士…ヒューマノイド・ソルジャーと呼ばれる存在です、そちらの榊原啓介氏によって開発されました、言わば艦娘の原点(ルーツ)です」

 

 

そう挨拶をした。

 

 

人造人間(ホムンクルス)…!?てことは深海棲艦の始原って…」

 

 

「それに第三次世界大戦って…」

 

 

七海の自己紹介の直後、海軍警察や艦娘たちがざわついた、深海棲艦の正体が人間の作り出した人工生命、その真実はそこにいる人間たちに十分な衝撃(インパクト)を与えるものであった。

 

 

「そして、その計画を企画、立案して鶴の一言でGOサインを出したのは南雲さん、あなたですよね」

 

 

「なっ…!?」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

警察隊員や艦娘たちは今度こそ言葉を失ってしまった、榊原所長が深海棲艦を生み出したというのも十分驚きに値するモノだが、今の発言はさらにその上を行く驚きを与えた。

 

 

「元帥…!?それは一体どういう…!」

 

 

その中で最も驚いていたのは榊原自身だった、別組織とはいえ、上司に近い存在の南雲がヒュース計画の立案者、その情報は榊原には伝えられてはいなかった。

 

 

「一体何の話をしてるんだ?俺にはさっぱり分からんな」

 

 

しかし南雲はやはりと言うべきかシラを切る、相手は人類の敵として戦ってきた深海棲艦の親玉、七海が何を言ったところで信じはしないだろう、南雲はそう高を括る。

 

 

「…そうですか、では…」

 

 

 

 

しかし、南雲は七海の切り札を知らなかった。

 

 

「コレを見ても、同じ事が言えますか?」

 

 

そう言って七海が取り出したのは、ヒューマノイド・ソルジャー計画の概要が書かれた政府の内部書類だった。

 

 

「っ!?」

 

 

それを見た瞬間、南雲の顔には焦りの色が浮かぶ、何故それをあいつが持っているんだ、あの書類は自分の権限を使って処分したはず、なのに何故残っている?そんな疑問が頭を駆け巡る。

 

 

「ここには当時計画されていたヒュース計画の概要や具体案、予算の見積もりなどが書かれています、そしてここには計画に参加した政府関係者の署名があなたの名前も含めはっきり書かれています、ご丁寧に拇印付きでね」

 

 

七海は書類の右上を指差しながら得意げに説明する、そこには当時ヒュース計画に参加を表明した人間の名前がずらりと並んでおり、その横には拇印も確かに押されている、実印ならいざ知らず、偽造が難しいとされている拇印での書類となれば物的証拠としての信頼性は高いと言えよう。

 

 

ちなみにこのデータは榊原に渡された研究所のデータに紛れていたモノで、複雑なパスワードやらセキュリティーやらでプロテクトされていたのだが、ようやく解除が出来たのだ。

 

 

「…………」

 

 

決定的な証拠を突きつけられて南雲は言葉を失う、海月も懐疑的な目で南雲を見つめていた。

 

 

「もう一度言いますが、私の目的は榊原氏との会話です、それさえ叶えてくれれば何も危害を加えるつもりもありませんし、この書類をあなた方海軍警察に渡してもいいです、この10年間の真実を明らかにする証拠がどれだけ重要で貴重なものか、考えなくても分かりますよね?」

 

 

七海は再度南雲や海月たちに自分の要求を突きつける、七海の持っている“それ”はこの交渉の場において最強のカードであり、更にそれを覆す切り札(ジョーカー)など南雲も持ち合わせてはいなかった。

 

 

「…榊原所長の拘束を解いてやれ」

 

 

海月は隊員たちにそう指示する、それを聞いた南雲は口を挟もうとしたが…

 

 

「南雲元帥、あなたには別途お話を聞かせて貰う必要が出てきました、流石にあんなモノを見せられてしまっては、我々も動かざるを得ない」

 

 

それよりも早く海月が鋭い視線を南雲に向ける、拘束こそされなかったが、海軍警察の影響力は海軍元帥よりも上だ、こうなっては誰も海月を止められない。

 

 

「七海殿、我々はそちらの要求を承諾する、対話に応じよう」

 

海月がそう声を上げると、七海はそれを聞くなり猛スピードで榊原に近づき、思い切り抱きしめた。

 

 

「あぁ、博士…この日をどれだけ待ち望んでいた事か、ようやく会えましたね」

 

 

七海は目尻に涙を浮かべながら榊原との再開を心から喜ぶ。

 

 

「…あぁ、ようやく会えたね、七海」

 

 

しかし、そんな笑顔の七海とは裏腹に、榊原の顔は曇っていた、七海に会いたいと思っていたのは紛れもない事実だ、しかし日本の起死回生の一手として生み出された七海が今や日本…世界の敵になってしまったのは紛れもなく自分のせいである、あの時自分も七海と一緒に逃げていれば、それ以前に敵国の諜報員にヒュースの事を知られないように対策をもっと立てていれば。

 

 

…それ以前に、自分が七海を生み出さなければ、そんな考えすら頭を過ったこともあった、そんな自分が今更どの面を下げて七海に会えばいいのだろうか、そんな自己嫌悪の自問自答を繰り返していた。

 

 

「博士、あなたと別れてから10年間、私は独自にヒュースの開発を進めてきました、私以降のヒュースの開発が難航し始めてから、政府の人間は手のひらを返したように博士を非難するようになって、それがずっと悔しかったからです」

 

 

「だから私は自分の開発したヒュースで沢山の人間を倒せるようにずっと努力してきました、そうして成果を挙げれば博士を非難してきた奴らを黙らせられる、博士のやってきたことが正しかったと証明出来る、そう信じて…」

 

 

七海は榊原と別れてから今までの事を楽しそうに話す、その内容は些細な日常の出来事からヒュースに関する内容まで、本当に様々な“思い出話”を。

 

 

しかし話が“今”に進むにつれ、次第に七海から笑顔が消えていった。

 

 

「…“艦娘”と呼ばれる存在が初めて現れたとき、本当は既にそれを作ったのが博士だという可能性を浮かべていました、回収した艦娘の身体を調べたら、その主成分がヒュースとほとんど変わっていなかったから」

 

 

「でも“そんなはずはない”とそれをずっと否定してきました、人間を倒すために活動を続けている私たちに敵対する存在を、博士がわざわざ生み出すわけがない、そう思うことでその“可能性”を否定し続けてきました」

 

 

「でも、吹雪から艦娘を作っているのが博士だというのを聞いて、一番信じたくなかった可能性が現実のモノになって、どうしても博士の真意を確かめたくなって、今日こうして会いに来ました」

 

 

話が進むにつれ七海の顔が“不安”と“悲哀”に歪んでいき、幼さを残したその顔は今にも泣き出してしまいそうだった。

 

 

「博士、正直に答えてください、私は今まで博士の意志を継ごうと頑張って来ました、でも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のしてきたことは、間違っていたんですか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きそうな…いや、すでにうっすらと涙を浮かべながら、しかししっかりと榊原の顔を見ながら、七海は問い掛けた。

 

 

 

「……………………………………」

 

 

そんな七海の問い掛けに榊原は答えることが出来ず、ただ立ち尽くすしか出来なかった。




次回「終戦」

『さようなら』か『ただいま』か、怪物に許された結末は…。

最後の七海が榊原に問い掛けるシーンですが、このDSFの小説を書くときに一番最初に考え付いたシーンです、ほぼラストシーンから逆算して書いてきましたが、ようやくここまで来ました。


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第215話「七海の場合8」

お久しぶりです、閃の軌跡Ⅳ発売&仕事のシフト変更ですっかり遅くなりました、閃の軌跡面白かったなぁ。

ポケットモンスターシリーズの新作「let's goイーブイ」が地味に楽しみです、こういう愛でる系には少なからず惹かれます。

スマブラSPで何のキャラ使うか悩み所。


 

「…………………」

 

 

七海は榊原の目をじっと見つめながら答えを待っていた、本当のことを言えば先の問い掛けには“NO”と答えて欲しかったが、不思議と七海の中ではその可能性は低いと思っていた。

 

 

時間にしてみれば1分位しか経っていなかったのだろうが、それが彼女にとっては1時間にも感じた、短くも長い沈黙の後、榊原はついに口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁそうだ、七海、お前のしたことは…間違っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

 

その言葉を七海が本当の意味で理解したのは、それから数十秒が経ってからだった、それは七海が最も聞きたくなかった言葉であり、榊原から最も言われたくなかった言葉である。

 

 

「確かに俺が七海を作ったのは戦争で戦う兵士として使うためだったし、一騎当千を目的として調教したのも俺だ、でもそれは任務として敵地に出向いたときに限った事でこの世界全ての人間を敵に回すことは望んでない、ましてや守るべき味方である日本人を敵に回すなんて、俺が一番望んでいないことだ」

 

 

榊原の口からは変わらず彼の“本音”が綴られていく、本来なら耳を塞ぎたくなるような内容であるはずなのに、心のどこかで納得している自分も確かにいた、やはり自分は榊原の本心を、彼の思いを…

 

 

「博士…もう…」

 

 

もう十分だ、そう言おうとしたが、それよりも早く榊原が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、悪いのはお前じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…えっ?」

 

 

「確かにお前のしたことは俺が望んだ結果にはならなかった、でも悪いのはお前じゃない、全部俺が悪いんだ」

 

 

榊原はそう言うと、頭の中で言葉を選ぶように話し始めた。

 

 

「ちゃんとした敵味方の区別も、常識や道徳も、殺しに対する正しい善悪感情も何も教えずに、俺たちの都合のいい事だけをお前に吹き込んだ、その結果お前は俺のために間違った道を突き進んでしまった」

 

 

 

 

 

「本当なら気の一つでも聞かせて“NO”と言ってやるべきなんだろうけど、お前の真剣さに応えて、俺も包み隠さず全てをお前に打ち明ける、全ては生みの親である俺の責任だ、本当にすまない」

 

 

そう言って榊原は七海に頭を下げた、今までの悔やんでも悔やみきれない想いや七海への罪悪感、その全てを伝える。

 

 

「…博士、どうかお顔を上げてください」

 

 

七海に言われて榊原は七海の顔を見る、その表情はとても満足げで、晴れやかであった、まるで今までの付き物や未練が全て無くなったかのように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全てを話していただきありがとうございます、おかげで決心がつきました」

 

 

 

 

 

 

「へ…?七海…?」

 

 

一体何を、と問いかけようとしたが、七海は榊原の手に何かを握らせると、踵を返してそのままベアトリス達と沖へと駆けていった。

 

 

「七海…!?」

 

 

予想外の行動に榊原や吹雪たちは思わず追いかけようとしたが…

 

 

「わわっ…!?」

 

 

「これは…!」

 

突如海中から大量の駆逐棲艦が現れ、その行く手を塞いだ。

 

 

そして七海たちはある程度の距離を進むと、ベアトリス達と一緒に横一列に並ぶ。

 

 

「…ごめんなさい、こんな事につき合わせてしまって」

 

 

 

「何を言っているんですか、七海様がお決めになったことです、なら我々はそれに従うまでですよ」

 

 

 

ベアトリス達のその言葉に七海は“ありがとう”と小さくつぶやくと、着ていた上着を全員一斉に脱ぎ捨てる。

 

 

「っ…!?七海、それは…!!」

 

 

七海たちの身体には大量のガスボンベや火薬、各種可燃物や爆発物が身に付けられていた、その姿を見た全員がこれから七海たちが何をしようとしているかを嫌でも察してしまった。

 

 

「七海!止めろ!頼む!止めてくれぇ!」

 

 

榊原は海に飛び込んで七海のもとへ駆けていこうとしたが、駆逐棲艦に主砲を向けられ、その足を止められてしまった。

 

 

「私はこれまで博士のためを思って活動してきました、ですがそれが博士の望んだ結果とならなかったのなら、最早や私に生きる意味はありません」

 

 

「何を言っているんだ!そんな事はない!」

 

 

「いいえ!むしろ私の生み出したヒュースで博士が守ろうとした多くの人が死に、犠牲になったことは事実です!その責任は取らなければならないんです!」

 

 

七海はそう言うと懐から手のひらサイズの端末を取り出す、おそらく起爆装置に相当するものだろう。

 

 

「七海!止めて!」

 

 

吹雪が行く手を阻む駆逐棲艦を深海棲器で吹き飛ばしながら七海の方へと向かっていく、こんな所で榊原と七海が分かれてしまうのは絶対にだめだ、榊原はまだ七海に本心の“続き”を聞かせられていない、せめてそれまでは…!。

 

 

「…ありがとう吹雪、貴方のおかげで博士に会って、話をすることが出来た、感謝してもし足りないくらいよ」

 

 

七海が儚げな笑顔でそう言うと、起爆装置の端末を掲げ、こう宣言した。

 

 

「聞け!艦娘に人間よ!我々ヒューマノイド・ソルジャーは、これまでの責任を取り、この世界から退場する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦い…貴方達の勝ちだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう高らかに宣言した後、七海は端末のボタンを押した。

 

 

刹那、凄まじい爆発が起き、七海達が経っていた場所が火の海になる。

 

 

「七海いいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ、これでいい、これで博士に向けて負債を返せる)

 

 

暗い水底に沈み行く中、七海はそんな事をぼんやりと考えていた、自分が沈む事に対しては恐怖は感じないし、この世界に対する未練もない、自分の身勝手に巻き込んでしまったベアトリス達には申し訳ないと思っているが、それ以前にこんな計画に乗ってくれたことに感謝している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ…でも最後に博士や吹雪たちと一緒に話したり遊んだりしたかったなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何の未練も無いと思ったけど…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっとだけ、残っちゃったなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2050年12月24日 午後5時45分。

 

 

10年近く続いた人類と艦娘、それに対する深海棲艦との戦争は、敵の“自決”という形で幕を閉じた。




次回「後日談(エピローグ)

今回は空白を多用してみました、読みづらかったらすみません。

エピローグとしてますがまだ少し続きます。


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エピローグ
第216話「後日談1」


ここからは後日談となります。


スマブラSPをプレイしていますが、弱いので黒星を積み重ねている日々です、早くマイキャラを定めたいところ。ルキナとカムイ(女)が見た目的に好み。

DLCファイターにジョーカー(ペルソナ5)が来ると知って超驚いた。


 

「電探に反応あり、数は6体、会敵(エンカウント)まであと数分って所かしらね」

 

 

「了解、それじゃ各自警戒しながらそのまま航行」

 

 

暁からの敵艦隊情報を元に、吹雪は他のメンバーに指示を出す。

 

 

「…はぁ、全くもう、こんなクソ寒いのに出撃任務だなんて、ついてないわね」

 

 

「暖房の効いた部屋でアイス食べたいです…」

 

 

「こたつでゲームってのもいいよね」

 

 

「こら暁、三日月に雪風も、無駄話してないで周囲の警戒をする!いつ敵が撃ってくるか分からないんだよ」

 

 

「そうは言っても吹雪さん、来る日も来る日も終わりが見えない残党狩りばかりじゃ退屈しますよ」

 

 

無駄口が減らない暁たちを吹雪がたしなめるが、暁はどこかだるそうに反論する。

 

 

「…まぁ、それはそうだけどさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦いから1ヶ月が経とうとしていた。

 

 

 

だが、海の平和は、戻っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海からの終戦宣言後、すぐに関係各所が対応に追われることになった、まずはこの戦争に関する関係者、つまり榊原や南雲などのヒュース製造に関わった当時の関係者の責任追及が始まった。

 

 

これにはヒュースの被害にあった各国の首脳たちも集めた会議で討論されたが、ヒュースが生み出されたのは第三次世界大戦…責任の追求がしようのない戦争の最中であったこと、当時の日本は火の粉を飛ばされた被害者的立場にもあったこと、日本以外でも人造人間(ヒューマノイド)の企画、製造の事実が判明したことなどもあり、特に具体的な刑罰などには問われなかったが、その代わりに深海棲艦の残党をすべて駆逐するまでその職務を全うするよう言い渡された。

 

 

七海から榊原に手渡されたデータには研究所の支部の場所のGPSデータが入っており、榊原含む造船所や海軍警察の人員が現地に調査に向かった。

 

 

そこには今まで製造された深海棲艦のデータや製造中の個体サンプル、そして今現在放たれている深海棲艦のデータなどが見つかった、研究所本部のバックアップがあったとはいえ、それらのデータの基礎をを七海一人で作り上げた事には榊原を驚かせた。

 

 

そしてそのデータによると、今現在放たれている深海棲艦の数が少なく見積もっても3桁後半…多く見積もると4桁前半にも上る事が判明し、当分は残党狩りで戦いは終わらないという事実を突きつけられることになった。

 

 

それらの事実をまとめ、海軍警察や大本営、日本政府は今後の具体的な対応を発表した、深海棲艦の残党がすべて駆逐されるまでは今まで通り海軍や艦娘は運営を続行、ただし敵の増援の可能性が消えたため今後は地方の小規模鎮守府や駐屯基地を中心に少しずつ解体&統合を行い数を減らしていく。

 

 

そして完全に深海棲艦の駆逐が完了と判断された場合、海軍警察や大本営などの艦隊運営組織は解体され、かつての海上自衛隊へと戻される、艦娘は引き続き海上自衛隊所属の護衛艦として引き続き任に就くか、退役して人間社会に出るかのどちらかを任意に選ばせる事になった。

 

 

社会復帰に関する国民に対する艦娘への認知や理解は未だ課題もあるが、渋谷奪還作戦での一件や海原のテレビでの発言、各関係者の努力などにより、少しずつではあるが良い方向へと向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、それにしてもこんなに忙しくなるなら窓際のままの方が良かったわ」

 

 

「そんなこと言わないの、ようやく開発や建造が堂々と出来るようになったんだから、そこは喜ばないと」

 

 

「そうですよ、資材の支給だって他の鎮守府同様相応の量をもらえるようになったのですから」

 

 

暁の愚痴に吹雪と篝がそう言ってなだめる、終戦や今後の残党駆除にあたり、台場が正式に鎮守府として認められる事となった、これまでの作戦での戦績や功績を鑑みての措置らしいが、一刻も早く残党駆除を終わらせるための戦力保持が主な理由だろう。

 

 

今まで以上に忙しい日々を送ることになったDeep Sea Fleetだが、吹雪の言ったように建造や開発が自由に行えるのはこれまでにない利点だ。

 

 

「そのおかげで艦隊全員が電探を持てるようになったんだし、それには感謝しないとね」

 

 

「それはそうなんだけど、早くも今までのスローライフが懐かしいわ…」

 

 

もう戻っては来ないであろう自堕落な生活を懐かしむ暁であったが、敵艦隊の接近でそれは中断されることになった。

 

 

「…えっ?」

 

 

「何…?あれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこに現れた敵艦隊は、武装もなにも施していない、丸腰の輸送棲艦たちだった。

 

 

 

 

「…えーっと…」

 

 

「これは…」

 

 

目の前で何もせずにこちらを見つめる輸送棲艦たちに、吹雪たちは戸惑いを隠せない、攻撃してくるわけでもなく(そもそも武器がないので無理だが)、それでいて何か行動を起こすわけでもなく、ただこちらを見つめるだけ、そんな輸送棲艦に吹雪たちもどう行動すればいいのか決めあぐねていた。

 

 

「えっと、もしかして、何か私たちに伝えたいことがある…とか?」

 

 

吹雪が恐る恐るそう問いかけると、旗艦(リーダー)と思われる輸送棲艦の一体がゆっくりと首を縦に振る、吹雪はそれを“肯定”と捉えると、自分たちがどうすればいいかを再び問う。

 

 

すると輸送棲艦たちはこちらに背を向けて航行を始め、旗艦(リーダー)の輸送棲艦をこちらを振り向きながらゆっくりと動き出す。

 

 

「…付いて行けばいいの?」

 

 

吹雪の問いに輸送棲艦は再び頷くと、吹雪たちは輸送棲艦の後へ付いて行く。

 

 

「あれは…」

 

 

「入り江…みたいですね」

 

 

しばらく進むと、岩で出来た小さな入り江が見えてきた、入り江の中心は岩盤の洞窟になっており、中には十数人が入る事が出来るスペースが見える。

 

 

輸送棲艦は入り江の入り口まで来ると、船体下部から4足の足を出して上陸する、輸送棲艦が陸に上がれるという衝撃的な事実に驚きつつも、吹雪たちもそれに続いて中へ入る。

 

 

「…ここは…?」

 

吹雪が周りを見渡しながら呟くと、輸送棲艦の球体状の船体が開き、そこから何かが転がり落ちる。

 

 

「っ!?」

 

 

「これは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中から出て来たのは、七海、ベアトリス、シャーロット、エリザベート、メアリー、マーガレット…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時に自決したヒュースそのものだった。

 




次回「未練と責任」

まだだ、まだ死なせんよ。


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第217話「後日談2」

あけましておめでとうございます(今更

以前原作を読んで気に入った「盾の勇者の成り上がり」のアニメが放送開始したのですが、ラフタリアのイントネーションが思っていたのと違ってん?てなりました。

東京コンセプションのシズクと並んで散歩に行きたい今日のこの頃。


「………」

 

 

目を開けたとき、いの一番に七海の視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった、その次に七海は今の現状を確認する、自分はベッドに寝かされており、腕には包帯やら点滴の針やら、病院の入院患者の初期装備のような施しがされていた。

 

 

ここはどこなのか、なぜ自分がこのような状態になっているのか、疑問が頭の中に浮かんでいるが、一番頭の中を支配したのはコレだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ自分は生きているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海は首を回して辺りを見回す、自分以外にもベアトリスたちが同様の装備で寝かされているが、意識はまだ取り戻していないようだ。

 

 

「…私、何で生きてるの…?あの時確かに…」

 

 

覚醒直後でぼーっとする頭を無理やり働かせながら、七海はゆっくりと身を起こす、しかし上半身は重力が倍になったかのように重たく感じ、まるで自分の身体ではないようである。

 

 

「とりあえずここがどこか把握しないと…」

 

 

七海は改めてキョロキョロと辺りを見渡す、するとベッド脇に置かれているサイドテーブルに“呼出”と書かれた小さな端末が置かれていた。

 

 

「これ、前に博士と見た医療ドラマに出てきたナースコールってやつかしら…」

 

 

危なくはないかと一瞬押すのをためらった七海だが、このような手厚い施しをされているのだから敵地のど真ん中というわけではないだろうと思い、端末の呼び出しボタンを押す。

 

 

「…………………」

 

 

“ピンポーン”と小さな音が鳴ったが、それ以外には特に何も変化が無く、本当に誰かが呼び出しに気付いているのか不安になる。

 

 

「…本当にコールされてるのかしら、これ…」

 

 

七海は繰り返しコールボタンをカチカチ押すが、やはりファミレスの呼び出しボタンのようなピンポーンという小さな音がするだけで、誰かが来るような気配はない。

 

 

「………………… ?」

 

 

七海が首を傾げ、再度ボタンを押そうとしたその時、部屋の入り口の引き戸が開いた。

 

 

「すみません、所用で部屋を空けていたもので」

 

 

そう言って入ってきたのはひとりの少女だった。

 

 

「初めまして、榊原所長の秘書をしています、艦娘の潮風といいます」

 

 

「…博士の…?」

 

 

少女…潮風の紹介を受け、七海の疑問符がさらに大きくなる、この場所が榊原に何か関係があるのだろうか?その榊原の秘書だという潮風がここにいるのもそれに関係しているというのか?。

 

 

「ここは造船所、艦娘を製造する施設で、ここはその医務室です」

 

 

「造船所…吹雪の話にあった…」

 

 

造船所という単語を聞き、ようやく七海の中の疑問(ピース)が組み合わさっていく、ここが造船所ということは榊原はここで働いていて、彼女はその補佐を務めているという事だろう。

 

 

「…えっ、と言うことは、博士ももしかしてここに…?」

 

 

「はい、あなたたちがここに運び込まれてからずっと気が気でなさそうにしていましたよ…っとその前に…」

 

 

潮風は持っていたバインダーに挟まっている紙を見つめながら、ベッド近くに置かれている椅子に座る。

 

 

「所長と面会する前にいくつか質問させてくださいね、軽い問診みたいなものです」

 

 

そういうと潮風は書かれている項目を順番に読み上げる、その結果、七海はあの自決の後すぐに意識を失ってしまい、次に目覚めたときにはここで寝ていた…という事が分かった。

 

 

「ふむ…するとあの日から今日までの事は何も覚えていない…と言うことですね」

 

 

「えぇ、まさかあの日から一ヶ月も経っていたなんて…」

 

 

七海はそう沈んだ声で言いながら目を伏せる、彼女とて唐突かつ一方的に別れを突きつけて自決した事に対しては多少なりとも罪悪感はある、しかしこれも自分がしてしまった事に対する責任でありケジメだと言い聞かせて実行した、にも関わらず自分が望んだことではないとはいえ結果的にのこのこと戻ってきてしまい気まずさを感じていた。

 

 

「所長、呼んできますね」

 

 

「えっ?あぁ、うん…」

 

 

「大丈夫ですよ、所長はあなたのことをずっと心配していました、嫌われてしまった…なんて事はありません」

 

 

七海の生返事に何かを察した潮風が退室間際にそう言うと、榊原を呼びに部屋を出て行く。

 

 

「…博士」

 

 

榊原が来るまでの5分間、七海は胸がぎゅっと締め付けられるような感覚が消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海…」

 

 

部屋に入ってきた榊原は複雑な顔をしていた、怒っているような、喜んでいるような、悲しんでいるような、色々な感情がごちゃ混ぜになっているような表情だった。

 

 

「博士…えっと、その…ただいま…です…」

 

 

何と声をかければいいのか分からず、七海は最初に榊原から教えてもらった言葉を口にする。

 

 

 

「七海…!」

 

 

榊原は感極まった口調でつかつかと早足で七海に近づき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!という乾いた音が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この…!馬鹿野郎が!!」

 

 

 

「…え」

 

 

それが榊原にひっぱたかれたと認識するのに、七海は10秒掛かった。




次回「七海型護衛艦」

榊原のターン!


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第218話「後日談3」

スマブラでカムイを見て興味がわいたのでファイアーエムブレムifをプレイしていますが、一回の戦闘で戦死者が平均10人近く出るというエラいことになっています。フェニックスモードを選択して良かった。


榊原にひっぱたかれた七海は頬を手で押さえながら呆然と榊原を見ていた、ジーンとした痛みが遅れて頬に伝わるが、それすらも知覚から追い出されるような光景を七海は見ていた。

 

 

(…怖い)

 

 

榊原の表情を見た七海が最初に浮かべた感想がそれだった、つまるところ、榊原は怒っているのだ、それも今まで見てきた中でも一番のレベルで。

 

 

「俺があんな別れ方で納得すると、本気で思っていたのか!?」

 

 

「…えっ?」

 

 

榊原の怒号とも言える声に七海は素っ頓狂な声を出す。

 

 

「俺は10年前のあの日以来ずっとお前を探してた、造船所の所長として働きながらお前を捜索するための艦隊を秘密裏に編成して、あちこちの海域へ向かわせた、それこそ毎日、日本中の海域の隅々まで、でもお前に関する有力な情報は見つからなかった、去年の東京湾沖海戦までは」

 

 

「敵艦隊の中に七海の姿を見て、俺は目を疑ったよ、何せ今まで俺たちが戦ってきた深海棲艦の将になっていたんだからな、でもそんな予感は薄々感じていたんだ、深海棲艦のつくりがヒュースにそっくりだったから、そんな漠然としたモノがあの時確信に変わったよ、この10年間俺たち人類を脅かしていた深海棲艦という敵は七海が作り出し、それを俺が作った艦娘と戦っていた、つまり俺と七海はお互いの存在を知らないまま戦争をしていたって訳だ、滑稽にも程がある」

 

 

そう自嘲気味に笑う榊原に、七海はなんと声をかければよいか分からず、口をわずかに上下させながら固まってしまう。

 

 

「やっと…やっとお前に会えるんだって思っていたのに、何が“責任をとって退場する“だ!そんなこと…俺が納得できるわけが無いだろうが!」

 

 

「で、ですが私は結果的に博士にとって不本意な結果になる行動をしてきました、博士を否定する人間に、博士のしてきたことが間違っていなかったと証明したかったのに、それが全て間違っていたなら、博士のお役に立てないなら、私がいる意味が無いじゃないですか!死んで責任を取るしか無いじゃないですか!」

 

 

「馬鹿野郎!やっぱお前は何も分かってねぇ!たとえそれで世間から責任を取ったと認められたとしても、俺はお前の事を認めねぇぞ!」

 

 

「な…なぜですか…!なぜそこまで…!?」

 

 

「まだ分らねぇのか!そんなもん決まってんだろ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の事が、大切だからだ!」

 

 

「…へっ?」

 

 

七海がその言葉の意味を理解した時には、七海は榊原に抱きしめられていた。

 

 

「確かにお前を作ったのは第三次世界大戦に投入するための兵隊を確保するのが目的で、お前の面倒を俺が見る事になったのはほぼ成り行きみたいなもんだ、でもお前と一緒に過ごす内に俺の中で少しずつ気持ちが変わっていった、一言で言えば情が移ったんだ、好きになったんだよ」

 

 

「…博士……」

 

 

「だから七海、俺を置いていくな、あの時断腸の思いでお前を逃がして、10年越しにやっと再会できたんだ、もうどこにも行かずに…俺の側にいてくれ」

 

 

「………………」

 

 

その榊原の言葉が()()()()()()()はこの時七海には分からなかった、ただひとつ言えるのは、榊原は自分を必要としてくれている事だ、榊原のために今までしてきたことは間違いだったと否定しながらも、彼は自分を作ったことを一度も後悔してはいなかった、あんなことをしてしまった自分を尚受け入れ、好きだと言ってくれている。

 

 

 

「…ごめんなさい()()、私の考えが浅はかでした、そしてありがとうございます、こんな私のことを大切だと言ってくれて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、そんなあなたを愛しています、()()()()

 

 

 

それは七海にとって、最大かつ最高の自己存在証明だ。

 

 

「…俺もだよ、七海」

 

 

 

 

 

 

この時、周りにいた連中はこの光景を微笑ましく見ていたのだが…

 

 

 

((…何か起きづらい!!))

 

 

とうに目が覚めていたベアトリスたちが気まずそうに寝たふりをしていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

その後、偶然を装って起き上がったベアトリスたちと共に身体検査が行われたが、七海が開発しただけあってか、活動に支障をきたすような異常は見つからなかった、しかし流石にアルビノよろしくな肌は目立つと判断されたのか、全体的な再調整が榊原と七海の共同で行われた。

 

 

 

そして目を覚ましてから二週間が経った頃…

 

 

 

「それではこれより着任式を始めます、まず…七海型護衛艦1番艦『七海』」

 

 

「はい」

 

 

「同じく2番艦…ベアトリス改め『暁海(あけみ)

 

 

「はい」

 

 

「同じく3番艦…シャーロット改め『夕海(ゆみ)』」

 

 

「はい」

 

 

『同じく4番館…エリザベート改め『夜海(よみ)』」

 

 

「はい」

 

 

「同じく5番艦…メアリー改め『夏海(なつみ)』」

 

 

「はい」

 

 

「同じく6番艦…マーガレット改め『冬海(ふゆみ)』」

 

 

「はい」

 

 

「現時刻をもって、以上の6体を『七海型護衛艦』として艦隊に迎え入れます、残党狩りも含め、一日でも早く平和な海を取り戻すことに尽力して下さい、それが果たされたとき、真の意味であなたたちの責任が果たされます」

 

 

「了解!!」

 

 

 




次回「この地球(ほし)の記憶の1ページに」

この時代、この時、この瞬間、私たちは確かに存在していました。

ちなみに榊原の言っていた七海捜索艦隊ですが、20話の最後に榊原が電話で話していた相手が捜索艦隊の旗艦艦娘です、いずれその辺の描写をしようと伏線だけ張っていたのですが、この話を書くまで忘れてました。特にメンバー等の設定は無いですが、水雷戦隊と潜水艦が主なメンバーです。


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最終話「証明」

今回の投稿でDeep Sea Fleetの本編は終了です。

三年に渡る物語にお付き合いいただき、ありがとうございました。

近日中に裏話を綴ったあとがきのようなものを投稿する予定なので、読みたい人だけ読んでみてやってください(笑)。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上が、ヒューマノイド・ソルジャーの今日(こんにち)に到るまでの大まかな軌跡である…と」

 

 

吹雪は紙に走らせていたペンを置くと、両手を突き上げて大きく伸びをする。

 

 

『本日より、東京湾及び新お台場海浜公園の海開きが発表されました、制海権奪還宣言が発令されてから、初めての海開きとなります、十数年ぶりに解禁された海水浴に都民のみならず、東京近辺から海水浴客が押し寄せることが予想されており…』

 

「そっか、もうそんな季節だっけ」

 

 

部屋のテレビからたれ流されていたニュースを目にした吹雪は、ふとそんなことを呟いた。

 

 

2053年7月…大本営から深海棲艦の残党を駆逐し終えた事を意味する『制海権奪還宣言』が発令されてから1年が経とうとしていた。

 

 

 

護衛艦として艦隊に加わった七海たちの尽力により、向こう5年は掛かるだろうと予想されていた残党狩りがその半分以下の期間で達成することが出来、2052年8月12日を以て制海権を奪還、海の平和が戻ったと正式に発表された。

 

 

制海権奪還宣言発令からまもなく、造船所からも今後は艦娘の新規建造は一切行わず、既存の艦娘や艤装のメンテナンスのみを行うという声明が発表された、倫理的にも賛否両論ある艦娘の建造を、深海棲艦という脅威が去った後も続ける必要は無いという榊原の判断だ。

 

 

そして全国にあった海軍鎮守府は全て解体され、かつての海上自衛隊基地として再編成された、その際に所属艦娘の配置も任意含め大幅に見直された。

 

 

「…それにしても、台場に居た頃に比べたらだいぶ暇になったぁ、戦う必要が無くなったんだから当然っちゃ当然か、他のみんなも元気にやってると良いけど」

 

 

『まぁいいんじゃない?警察が暇なのは平和な証拠って言うように、海自が暇なのは海が平和って事でしょ、きっと他のみんなも暇してるはずよ』

 

 

なんとなしに呟いた吹雪のぼやきにリーザがそう返す、鎮守府解体や艦娘の配置換えの影響を受け、Deep Sea Fleetのメンバーのほとんどが各地の基地へ異動する事になった、今吹雪がいる横須賀基地にいるDSFメンバーは暁と三日月のみ、ほかのメンバーは各地の基地でそれぞれの任についている。

 

 

『何?今になって寂しいとか思ってるの?』

 

 

「まさか、確かに離れ離れになったのは残念だけど、チャットアプリやグループ通話で連絡はいつでも取れるし、逆に瑞鶴さんや武蔵さんなんかが横須賀(こっち)に来たことを考えれば、決して悪い事じゃないよ」

 

 

『それもそっか、昨日だってグループ通話でずっとだべってたもんね」

 

 

そんな会話をしていると吹雪の部屋のドアが軽くノックされた。

 

 

「吹雪、瑞鶴だけど…入ってもいい?」

 

 

「どうぞー」

 

 

吹雪の返事とともに入ってきたのは瑞鶴と加賀、そして金剛だった。

 

 

「また随分と大所帯ですね」

 

 

「揃いも揃って非番だからね、暇だったから遊びに来たのよ、元台場のみんなと離れて寂しがってるだろうし、なるべくね」

 

 

 

「もうそんなの慣れましたよ、今は瑞鶴さんたちも居ますし、暁や三日月もいるから全然です」

 

 

吹雪はそう言いながら瑞鶴たちにジュースを振る舞い、取り留めのない話をする。

 

 

「そういえば、さっき海原さんが忙しそうに電話しながら歩いてるの見たよ、ここの所ずっとそうだよね」

 

 

「辺境の鎮守府提督が今や横須賀の司令官だものね、あの人も出世したわよ」

 

 

「でもよかったの?吹雪、あの人の秘書艦にならなくて、今秘書艦やってる大和さんも勧めてくれたんでしょう?」

 

 

金剛の問い掛けに、吹雪は黙って首を横に振った、奪還宣言後は当然台場鎮守府も解体されることとなり、海原はこれまでの戦果が正式に認められ横須賀基地の司令官に任命される事となった、その際秘書艦第一候補に挙がっていた大和が吹雪に秘書艦をやらないかと勧めたのだが、吹雪は断っていた。

 

 

「確かに私は台場で司令官の秘書艦でしたけど、それはあくまでも台場だったから出来たことです、試しに大和さんにここでの秘書艦の仕事を見せて貰ったんですけど、とても私じゃ勤まらないですよ」

 

 

『そう言ってるけど、最近は大和から仕事終わりに個人レッスンしてもらってるでしょ?十分そのポジションねらってるじゃない』

 

 

「ち、違うよ!あれは大和さんが“何かあった時の代役(ピンチヒッター)も必要だし、もし良ければ一緒に勉強してみませんか?”って好意で言ってくれてるだけで、断ったら悪いでしょ!」

 

 

 

「でも断らないあたり脈ありね」

 

 

「うふふ、その時はお赤飯炊かないと」

 

 

「ちょ、ちょっと瑞鶴さん!金剛さんも!」

 

 

 

面白そうに笑いながら吹雪をからかう瑞鶴と金剛を加賀は微笑ましそうに眺めていた。

 

 

「そ、そんな事より!榊原所長と七海さん!式の日取りが決まったそうですよ!」

 

 

「えっ、本当!?」

 

 

「それはめでたいわね」

 

 

吹雪の言葉に瑞鶴たちは驚きと喜びの表情を浮かべる、七海型護衛艦は艦隊に加わった後、各地の鎮守府で残党狩りに尽力し、奪還宣言後は七海が榊原の秘書艦として、暁海たちは職員として造船所で働くこととなった、深海棲艦時代にアルビオンやユミルなど大型艤装の製造や調整を行っていたときのノウハウを買われての抜擢だったのだが、今や優秀な現場スタッフとして活躍している。

 

 

ちなみに七海が榊原の秘書艦になるにあたって元秘書艦の潮風と交代する形になったのだが、その際に散々二人の仲をからかわれたのは言うまでもない、そんなふたりが()()する事になったという知らせを聞いたときは驚いたものだ。

 

 

「暁海たちも自分のことのように喜んでくれたみたいだし、良かったわね」

 

 

「でも良く政府が許可したわよね、ヒュースと人間の結婚なんて」

 

 

 

「暁海たちはともかく、七海は人造とはいえ人間とほぼ変わらない生体構造なのであまり問題は無いだろうって判断みたいですよ、それにヒュースは人間の身勝手で生み出された存在だから、せめて本人が満足のいく幸せな生涯を全うさせるのも一種の“責任”だって、周りの人たちからの後押しがあったみたいです、彼女は世間から見れば加害者ですけど、人の欲望から生まれた被害者でもあるって、あと残党狩りも率先して行っていた事もあってか、一応の責任は果たしたと世間的にも認知されてるみたいです」

 

 

 

「なるほど、モノは言いようね」

 

 

金剛が半ば呆れるように言ったが、その表情はどこか嬉しそうだ。

 

 

「で、式はいつなの?」

 

 

「三ヶ月後みたいですよ、招待状は近日中に送るらしいです」

 

 

「三ヶ月後か、予定あけとかないとなぁ…」

 

 

「ところで吹雪、さっきから気になってたんだけど、その紙の束は何?」

 

 

加賀が机の上にある“それ”…さっきまでペンを走らせていた紙の束を指差す。

 

 

「あぁ…これですか、実は本を書こうと思ってるんです」

 

 

「はぁ!?本を!?」

 

 

「吹雪…小説家にでもなるの?」

 

 

「いや、そんな大げさなもんじゃないですよ、簡単に言えば艦娘と深海棲艦…ヒュースの記録です」

 

 

「記録…?」

 

 

吹雪の言葉の意味が理解できず、全員が首を傾げる。

 

 

「新規の艦娘が今後建造されることが無いのは造船所の発表ですでに皆さん知っていると思います、でも私たち艦娘はベースが人間なのでいつかは寿命を迎えて死んでしまいます、今はたくさんの艦娘が生きていますけど、今後何十年と経てば艦娘はいずれこの世界から居なくなってしまいます」

 

 

「そうなれば私たち艦娘がいた記憶も次第に人々の記憶から薄れて、何百年も経てばこの戦争の記憶もいずれは歴史の教科書からも消えてしまい、誰の記憶にも残らない日が来るかもしれません、人間の記憶では10年は長いかもしれませんが、この地球(ほし)の膨大な記憶からすればほんの1ページです」

 

 

「だからせめて、私たちが生きてきた軌跡を何らかの形で残そうって思ったんです、今この時代、この時間、この瞬間、艦娘(わたしたち)は確かに存在していたんだって事を、この地球(ほし)の記憶の1ページに遙か遠い未来まで残り続けるように」

 

 

なのでこの本はそのきっかけです、と吹雪は恥ずかしそうに笑いながら言った。

 

 

「吹雪…」

 

 

「何か中二臭い」

 

 

「何かにほだされた?」

 

 

「なっ…!?」

 

 

吹雪自身は心底真面目に話したのだが、どうやら新しいからかいのネタを提供してしまったらしい。

 

 

「人がせっかく真剣に話したのにぃ!」

 

 

「ごめんごめん!でもそう言うのは必要よね、艦娘が存在した記憶を未来まで残す…か、私たちも何かそういうの考えないとね」

 

 

「幼稚園や児童館で巡業紙芝居でもやる?」

 

 

「紙芝居って…どこの村よ…」

 

 

金剛の発言に瑞鶴がつっこんだとき、加賀が思い出したように言った。

 

 

「そういえば、講習会の希望者を来週から募集し始めるみたいよ」

 

 

「えっ、もう?思ったより早いわね、まだ社会進出政策も十分じゃない段階なのに」

 

 

「教育するだけなら早すぎる事もないんじゃない?一般常識や義務教育の知識って複雑だし数は多いしで大変だろうし、むしろ時間かけてゆっくり刷り込んだ方がいいわよ」

 

 

「あ、その話もう出てるんですね」

 

 

「艦娘の社会進出…最初聞いたときは私も驚いたわ」

 

 

瑞鶴たちが口々にそんなことを言う、自衛隊を退役して人間社会で生きていくという選択肢を艦娘に与える動きは海軍時代から考えられていた事であり、特に榊原が中心となって社会に向けて艦娘に対する理解を求める運動を積極的に行ってきた。

 

 

その努力の甲斐もあり、現在では一部の企業や公共施設などから艦娘の雇用を認める声があがり始めた、ただし艦娘は基本軍属の兵士として開発されていたこともあり、基礎知識や一般常識などは必要最低限のモノしか強制記憶(インプット)されていない、艦娘たちも自主的に知識を蓄えたりしているが、当然それでは人間社会ではやっていけない。

 

 

そのため社会進出希望の艦娘を対象に学校教育を行う計画が本格的に動き始め、時期はまだ調整中だが数年をかけて教育を行っていく予定だ。

 

 

「みんなの周りでは社会進出希望の艦娘っているの?」

 

 

「うーん…今の所はごく僅かってところね、今までずっと軍にいたし、このまま今の生き方でいいって子が多いみたい、あと曙ちゃんの事件で艦娘への風当たりが強かった頃のイメージが残ってるみたいで、社会に出るのを恐れてるのかも」

 

 

「あぁ…確かにそれはあるかもね、その頃加賀先輩と出掛けたことあったけど、艦娘ってバレて心無い言葉投げられたことあるわよ」

 

 

「そういえばそんな事もあったわね、今となっては懐かしいけど、瑞鶴が色々言われるのが辛かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

そんな他愛もない話が続いていたとき、三日月と暁が勢いよく入ってきた。

 

 

「吹雪さん!司令官から出撃要請よ!」

 

 

「自家用のクルーザーが座礁して転覆しかけてるみたいなんです!私たちで救援に向かえとの事!」

 

 

どうやら海原からの急務の連絡のようだ。

 

 

「分かった、すぐに行くよ、すみません皆さん、続きはまた今度…」

 

 

「行ってらっしゃい、本が出来たら真っ先に買うからね」

 

 

「楽しみにしてるわよー」

 

 

「まだ出すって決めてませんから!」

 

 

「本って何の話?」

 

 

「何でもない!」

 

 

『実はね~』

 

 

「もう!リーザ!」

 

 

吹雪は必死に誤魔化しつつ、暁たちと出撃港へと向かう。

 

 

 

 

 

『それじゃ吹雪たち、民間人の救援任務、頼んだぞ』

 

 

「はい、お任せください司令官!」

 

 

吹雪はインカムから聞こえてくる海原の声に自信満々に答える。

 

 

「それじゃいい?暁、三日月、今日も頑張るわよ!」

 

 

「オーケイ!」

 

 

「いつでも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海上自衛隊横須賀基地第一艦隊…出撃します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し汗ばむ初夏の晴天の空の下、今日も少女たちは海を駆けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『深海棲艦と艦娘…そしてヒューマノイド・ソルジャー、彼女たちがこの世界に存在し、生きていた記憶が未来永劫人々に残ることを願って、私は筆を取ろうと思う、願わくばこの手記がその証のひとつとなれば、本望である』

 

~吹雪の手記より抜粋~

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー ~Fin~

 

 

 

 

 




艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetーこれにて終幕。

裏話で気になる事があれば感想に書くと答えられる範囲で答えるかも…?

あと活動報告でキャラクター人気投票を開催しましたので、よろしければご参加ください。


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extra chapter
ex.01「神通隊の場合1」


extra chapter「神通隊編」です。

本編に入れる予定だったけど都合でボツになった話を時系列を整理して投稿(またの名をネタの供養)。

瑞鶴の話を書いている時にふと思い出し書きたくなりました。

終わる終わる詐欺みたいですみません(汗


突然だが、人間は様々な欲望を持っている。食欲、物欲、性欲、金銭欲…等々数え始めたら暇がない。

 

 

しかしその中でも『睡眠欲』がもっとも強い欲望なのではないかと考える。とてつもない眠気の前には食欲も性欲も勝てはしない、迷わず眠ることを選ぶだろう。

 

 

「…なぁ吹雪、続きは明日…つうか数時間後にして寝ちまわないか?」

 

 

よってこの場合、朝までに仕上げなければならない書類を前に徹夜覚悟で戦っている海原には眠る権利があるだろう。現在時刻午前1時15分、提督室では海原、吹雪、暁、曙、蛍が机を突きつけあって書類とにらめっこしていた。

 

 

「何言ってるんですか司令官、その書類を朝までに仕上げて大本営に送らないといけないって言ってたのは司令官ですよ?私たちもこうして徹夜覚悟で手伝ってるんですから、ほら!頑張りましょう!」

 

 

吹雪はそう言って3本目のエナジードリンクを飲み干すと、空になったスチール缶を部屋の隅にあるゴミ箱に放り投げる。それなりに距離があったにも関わらず無駄のない軌道を描き、吸い込まれるようにしてスチール缶はゴミ箱に入った。

 

 

「でも吹雪…私もそろそろ限界…少しだけ仮眠させて…」

 

 

「右に同じく…これじゃ逆に進まないよ…」

 

 

 

曙と蛍が今にも閉じそうになっている瞼をこじ開けながら書類に書いてある内容をパソコンのファイルに打ち込んでいく。ちなみに海原たちがやっている仕事の内容は先月中の出撃記録のデータ送信だ。どうやら大本営側で保管しているデータが何らかの原因で消失してしまったようで、すぐにデータを復旧させないと向こうの事務手続きに深刻な影響が出るのだとか。

 

 

「はぁ…しょうがないな、じゃあ30分だけ仮眠してていいよ、時間になったら起こすから」

 

 

吹雪がそう言うや否や曙と蛍は一瞬のうちに机に突っ伏し、すぐに寝息を立て始めた。それを見た吹雪はまったくもう…とため息を吐いて呆れる。

 

 

「タイムリミットはもうすぐだって言うのに…そういえば何でデータをわざわざメール報告用の添付ファイルに打ち込まなきゃいけないんですか?出撃記録の再提出ならこっちの添付ファイルをそのまま送ればいいと思うんですけど…」

 

 

「それはだな、セキュリティや不正防止、諸々の理由でこういう書類系のデータはコピー出来ないようになってるんだよ、メールの添付データはコピーされたものだからな、それに引っかかる」

 

 

「ずいぶんとめんどくさいですね…というかそれなら完全に向こうのミスじゃないですか、それなら少しくらいゴネて期日を延ばせないんですか?」

 

 

「それは無理だ、何せこの出撃記録に関する事務手続きを元に支給資源なんかが決まるからな、延びれば延びるほどこっちの首が締まる」

 

 

「何という負のスパイラル」

 

 

とにかくこの作業を終わらせなければならないのは確定らしく、吹雪は諦めてデータの打ち込み作業に徹する。

 

 

 

 

 

 

 

それから3時間後、仮眠中だった曙と蛍の口にタバスコを流し込んで起こし、フル稼働で作業を続けてようやく終わらせることができた。

 

 

「…ようやく…終わった…」

 

 

生きる屍のようになった海原がメールの送信手続きを終え、燃え尽きたボクシング選手のごとく真っ白になっていた。

 

 

「もう無理…寝る…今すぐ部屋に戻って寝る」

 

 

「私も…おやすみなさい…」

 

 

曙と蛍は力つきる寸前のゾンビのような挙動で部屋に戻っていく、しばらくは起きてこれないだろう。

 

 

「…俺も少し寝るわ、おやすみ」

 

 

海原も真っ白(に見える)な身体を引きずり、自室に引っ込んでいく。

 

 

「ふぁ…私もそろそろ休もうかな」

 

 

吹雪も欠伸をしながら片付けを始める、燃え尽きている海原たちに比べて吹雪は涼しい顔をしている。伊達に台場の秘書艦はやっておらず、これくらいの徹夜作業は全く経験が無かったわけではない。

 

 

 

「…ん?」

 

 

パソコンの作業ファイルを閉じようとしたとき、ふとたった今まで打ち込んでいた出撃記録が目に入る、最後の記録の日付が2月28日となっている。

 

 

「…あれ…?確か司令官…()()のって言ってたよね…?」

 

 

今は4月、なのでこれでは先々月だ、吹雪が嫌な汗をダラダラと流し始めたとき、海原のパソコンからメールの受信を知らせる通知音が鳴る。

 

 

「…………」

 

 

 

嫌な予感がする、吹雪は震える手で恐る恐るメールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先ほどメールを確認しましたが、日付が2月のものでした、大本営側で欲しいのは3月の日付のものです、送信し直してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦りと眠気は判断能力を鈍らせるという話は当然吹雪も知ってはいるが 、こういう場合は大抵やらかした後に気付くものである。

 

 

 

この直後、海原たちがさらなる地獄を見たのは言うまでもない。




ちなみに時系列は218話から3ヶ月ほど経った2051年の4月くらいの話です。


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ex.02「神通隊の場合2」

ファイアーエムブレム風花雪月をプレイし始めたのですが、難易度がカジュアル(失った仲間は次回戦闘で復活)までしかないので、フェニックス(戦闘不能になっても次ターンで復活)でゾンビ戦法やってた自分は詰むかもしれません。そういえばあのゲームって使えるキャラ全滅したらどうなるのでしょうね。


 

 

「こんにちは、大鳳ただいま参りました」

 

 

「いらっしゃい、待ってたよ」

 

 

大鳳が開発課の第一工廠へ向かうと、七海型護衛艦2番艦のベアトリス…もとい暁海が出迎えてくれた。新しく開発した艦載機装備の実戦テスターを頼みたいという暁海からの依頼を受け、この日大鳳は造船所を訪れていた。

 

 

「悪いね、急に呼び出して」

 

 

「気にしないでください、新装備のテスターをさせてもらえるなんて機会、滅多にありませんから」

 

 

急な依頼にも関わらず来てくれた大鳳に申し訳なさそうに言う暁海だが、大鳳はそれを笑って否定した。暁海たちが七海型護衛艦として艦隊に加わって以降、彼女たちは造船所の開発課と呼ばれている部署で働いている、ここでは各鎮守府から送られてきた開発要請のデータをもとに、艦娘の装備品を作っている。

 

 

かつて深海棲艦時代にヒュースの装備や艤装を独自に開発していた技術力を買われての配属だったが、現在では開発課の主力チームの一員として活躍している。

 

 

 

 

 

「それにしても、どうして私をテスターに選んだんですか?暁海さんは深海棲艦時代に艦載機系装備を扱っていましたし、こう言ってはナンですが私なんかを頼らなくてもご自身でどうにかなったのでは?」

 

 

大鳳が不思議そうに問いかけると、暁海は“あー…”と言って頭をかく、どうやら彼女がそういった疑問を持つのは予想していたらしい。それもそうだ、実際暁海はかつて空母棲姫(ベアトリス)として牡丹雪を自在に操っていたため、大鳳の指摘通り艦載機系の装備の扱いには十二分に心得がある、それに加えて今の造船所にはかつて影夜叉を操っていた飛行場姫(エリザベート)…夜海がいるのだ。

 

 

そんな艦載機の扱いに長けた元姫級がいるにも関わらず、未だに“旧式”の震電改を使っている自分にお呼びが掛かったことを大鳳が疑問に思うのも当然だろう。

 

 

「正直言えば私もそれで済ませたかったんだけど、私や夜海の艤装は七海様が主だって開発していたから、榊原所長が主導で開発していた艦娘用の艤装とは作りや扱い方に少なくない違いがあるのよ、元のベースは同じだけど、それぞれお互いにブラッシュアップしていたしね。だから純粋な艦娘の艤装でのデータも欲しかったのよ、それに大鳳は空母艦娘の中で一番の古株で艦載機の扱いも一番上手いってみんな言ってるわよ」

 

 

「そんな大袈裟な…私なんて他の空母艦娘と変わりませんよ、特別な努力をしたわけでもありませんし、ただ少し昔から居座っているだけです。深海棲艦でいたときのブランクを引けば尚更」

 

 

大鳳はそう言って謙遜するが、その経験年数の差が艦娘としてのあらゆるノウハウに決定的な差を生み出しているのも事実である。現に深海棲艦時代のブランクがあるとはいえ、大鳳の能力は今現在でも他の空母艦娘と比べて頭一つ抜けている強さを持つ。

 

 

「それに私が強くなれたのは当時私を指揮していた西村提督の手腕のお陰でもありますし、やっぱりあの人は凄かったです…」

 

 

今はもう居ない故人を思いながら、大鳳は儚げな笑顔で言う。

 

 

「何だか父を思う娘みたいね」

 

 

その様子を見た暁海がそんな事を呟いた。

 

 

 

「…そう…ですね、確かにあの人は上司というよりお父さんといった雰囲気の人でした、娘さんを亡くしていると奥様から聞いたことがありましたが、ひょっとしたらどこかで面影を感じていたのかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そりゃそうよ、だって本当に娘なんだもの、前世の方でだけどね)

 

 

当時を懐かしむ大鳳を見て、暁海は心の中でそっと呟いた。大鳳は知る由も無いことだが、彼女の前世での名前は“西村香織”、つまり西村恭吾と織恵の実の娘だ。

 

 

(あなたは何も覚えていないと思うけど、あなたが提督と慕っていた人は間違いなくあなたの父親で、あなたが奥様と呼んでいた人も、間違いなくあなたの母親なのよ)

 

 

お互いに気付かないまま親子で鎮守府を運営していたという事実を、暁海はそっと胸にしまい込む。

 

 

 

 

 

「それでこれが…」

 

 

「えぇ、これからあなたに試験運用してもらう新型艦載機…『白魔』よ」

 

 

工作台に置かれた艦載機…白魔を大鳳はまじまじと見る。見た目は暁海が使っている牡丹雪に似ているが、形が球体状から流線形になっている。

 

 

「牡丹雪の基本性能に艦娘の艦載機の内部機構やらを色々組み合わせてブラッシュアップしたの、理論上はあなたの使っている震電改と同等かそれ以上の性能を出せるわ、それでいてコストは烈風改とほぼ同じ!」

 

 

暁海は自慢げに白魔の特徴を語っているが、大鳳の一番知りたいことはそこではなかった。

 

 

「では、この白魔の短所や弱点は何ですか?」

 

 

「えっ、弱点…?いきなりそこ聞く?普通は長所とかメリットとか聞きそうなもんだけど…」

 

 

「当然です、装備には必ず得手不得手があります、欠点が無い物なんて存在しません、装備を扱う上で何より大切なのはその装備の欠点を知ることです、この装備は何が不得手なのか、その不得手を補うためには自分がどんな技術を研けばいいのか、どんな装備と組み合わせればより長所を伸ばし短所を補えるか、もちろん長所を把握するのも大切ですが、それ以上に短所を把握してそれに合った戦術を立てる事も大切なんですよ」

 

 

大鳳はそう言って装備運用の何たるかの持論を暁海に語って聞かせる、それを聞いた暁海は大鳳が最強空母だと言われる理由が分かったような気がして、“納得”といった表情をしている。

 

 

「…なるほどね、そりゃ最強空母だって言われるわけだわ、それでこの白魔の欠点だけど、機体の運動性能に独特の癖があることと、従来の艦載機に比べて対空砲の攻撃に弱いことかな」

 

 

「ふむふむ…分かりました、装甲空母大鳳、改めて白魔の試験運用の依頼をお受けいたします」

 

 

「ありがとう、それじゃあよろしくね」

 

 

大鳳は白魔の機体を受け取ると、軽い挨拶をして開発課を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとほぼ同時刻、台場鎮守府海域沖合では3体の深海棲艦がゆっくりと航行していた。体躯から推測するに駆逐艦のようである、その航路はふらふらと蛇行気味で、明確な意思を持って移動しているようではなかったが、時折こんな事を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神通さん…今…そっちに……行きます』

 

 

 




次回「神通教官」

ちなみに白魔とは、災害を引き起こすほどの大雪を悪魔に例えた言葉です、空母棲姫が大量に繰り出す艦載機のひとつひとつを雪の結晶とするのなら…というイメージでつけました。

それと作中での開発は指定量の資源を支払えば装備品と交換してもらえる(確定入手)という設定です、烈風改ならボーキサイト10万、今ではもう交換できませんが、震電改なら29万5000がレートです。


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ex.03「神通隊の場合3」

思い出した頃に投稿。果たして設定を忘れずに書けているのでしょうか。


「さてと、今日も今日とてレッツ残党狩りと洒落込みますか、今日は何体狩れるやら」

 

 

「そうは言っても掃討作戦が順調に進んでるおかげで敵も減る一方だから、収穫を得るのはだんだん難しくなりそうね」

 

 

「おまけに数が減れば減るほど発見が難しくなる、全くやっかいなことだ」

 

 

大鳳が造船所で白魔の説明を受けていたのと同時刻、吹雪、夕月、蛍、曙は海域の哨戒へと赴いていた。こうして暇を見つけては残党を殲滅するために出撃を繰り返しているが、未だ終わりが見えてくる様子はない。

 

 

「…あ、電探に反応あり、数は4体、そろそろ会敵するよ」

 

 

吹雪の合図で全員が会話を止めて得物を構える、そしてその合図から程なくして敵艦隊が姿を現した、数は駆逐棲艦が3体とそれ程脅威ではない編成だったのだが…

 

 

「…えっ?」

 

 

「嘘…!?」

 

 

その3体全員が“面影”持ちという今までにない状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、聞こえますか…?」

 

 

吹雪は早速駆逐棲艦の“面影”と接触を図るが、これといった反応は返ってこなかった。“面影”の方も虚ろな目をしながらぶつぶつと何かを呟くばかりで、吹雪が話しかけ続けているのがまるで聞こえていないようだ。

 

 

「まずは台場鎮守府まで連れてこれそうか試してみましょ、それでダメなら吹雪が似顔絵を描いて提督に調べてもらえばいいわ」

 

 

そう言って曙が牽引用のワイヤーをそれぞれの駆逐棲艦に装着する、“面影”との意志疎通が困難なケースは特段珍しいものでは無かったため、こう言った場合の対応もこなれたものだ。

 

 

「さてと、あとは素直に従ってくれればいいんだけど…」

 

 

駆逐棲艦に繋げたワイヤーを自分の艤装に接続した曙はゆっくりと駆逐棲艦たちを引っ張る、駆逐棲艦たちは抵抗するような動きも見せず、素直に曙に引っ張られていく。

 

 

「これなら台場鎮守府まで何とか連れて行けそうね。ほら!見てないであんたたちも手伝って!結構重いんだから」

 

 

そう言って曙はワイヤーの残りを吹雪たちに放ると、夕月がそれを受け取って艤装に接続する、吹雪と蛍は敵艦隊と遭遇したときの事を考え周囲の警戒に専念していた。

 

 

台場鎮守府までの帰り道、駆逐棲艦の“面影”たちは変わらずぶつぶつと何かをうわごとのように終始呟いていた、最初は何と言っているか分からなかったが、耳が慣れたのかだんだんとその内容が分かるようになってきた。

 

 

『教官…神通教官…待っててください…今…そちらに向かいます…』

 

 

(神通“教官”…か)

 

 

 

 

帰投後、吹雪は連れ帰った駆逐棲艦たちの似顔絵を書いた後、海原に電子書庫(データベース)で検索してもらっていた。

 

 

「…出た、この艦娘たちだな」

 

 

海原はパソコンの画面を吹雪たちに見せる。

 

 

○艦娘リスト(轟沈艦娘)

 

・名前:朧

・艦種:駆逐艦

・クラス:綾波型7番艦

練度(レベル):25

・所属:大湊鎮守府

・轟沈:2050年4月20日

 

 

 

・名前:不知火

・艦種:駆逐艦

・クラス:陽炎型2番艦

練度(レベル):23

・所属:大湊鎮守府

・轟沈:2050年4月20日

 

 

・名前:若葉

・艦種:駆逐艦

・クラス:初春型3番艦

練度(レベル):27

・所属:大湊鎮守府

・轟沈:2050年4月20日

 

 

 

 

 

 

「…見たところ随分練度(レベル)が低いな、と言うことは先程“面影”の言っていた教官というのはやはり…」

 

 

「うん、その神通って艦娘がこの3体の教育係だったんだろうね」

 

 

「大湊鎮守府って事は瑞鶴さんのいる所よね、何か聞き出せないかしら」

 

 

「うーん、事情を話せば何とかなるかもしれないけど、轟沈に関わる話は何かとデリケートな話題になるからね、話すにしても少し慎重にアプローチした方がいいかも」

 

 

 

「てか提督に直接聞いてもらえばいいじゃない、もう深海棲艦や“面影”の正体は海軍全体に知られてるんでしょ?別に大手を振って行動したって問題無いと思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

「…前々から思ってたけど、みんなって何気にそれぞれの鎮守府に知り合い多いよね、人脈(パイプ)が太いというかなんというか…」

 

 

吹雪たちの会話を端から眺めていた蛍が率直な感想を言う。それを聞いた海原は“今までの経験の賜物だな”とどこか懐かしむように言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど、それでうちに連絡をしてきたってことだね』

 

 

その後、海原は大湊鎮守府の荻波に電話をかけ、朧たちの件と神通についての事情を説明した。

 

 

『確かに神通はうちの鎮守府では新規着任した艦娘…特に駆逐艦の教育係を任せていたよ、色々あって朧たちが轟沈してしまったんだけど、理由の子細は本人から直接説明させるよ、艦娘化(ドロップ)のチャンスがあるなら神通がいた方が朧たちも安心するだろうし、事情を話して台場鎮守府まで行くように取り計らうから段取りが決まったらまた連絡する』

 

 

 

「了解、ならこっちも準備して待ってる」

 

 

そう言って海原は電話を切ると、Deep Sea Fleetを招集して今後の対応について話を進めるのだった。




次回「鬼教官神通」
アメとムチ。どちらも使い方を誤れば待つのは悲劇のみ…


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