頑張って魔法剣士になりたい元男に祝福を! (狭霧 蓮)
しおりを挟む

0章 〜はじまりの日〜
プロローグ


剣無春人(けんなしはるひと)さん、ようこそ死後の世界へ。 あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。 若くして短い人生に終止符を打ったわけで……」

 

真っ白な部屋の中で告げられるその宣告に俺は「死んだ」と認識する。

 

事務的な配置の椅子にいつの間にか腰掛けていた俺は何かを思い出すようにぼうっとしていた。

 

向かい合わせに座る一人の女性……いや、人間じゃないこの人は。

自ら光るような艶を持つ柔らかな印象の透き通った腰までの長さはありそうな水色の髪。

年は俺とあまり変わらなさそうで同い年だろうか。

出るとこはしっかりと出てて無駄のない健康的で完璧な造形美の体は淡い紫色の羽衣に包まれていて神々しさを感じさせてくる。

 

……女神。

 

そのワードが頭に浮かんだのは無理もない……そうに違いないだろう?

 

透き通った髪と同じ色の瞳をパチパチとさせながら俺を凝視する美少女をよそに、記憶を手繰り寄せた。

 

 

俺は毎日の日課である模造刀だが日本刀の素振りを終わらせて、家の母屋で寛いでいた。

 

時刻は昼下がりとなったこの日、俺は学校を休んでいた。

 

理由としては付き合っていた女子との破局が原因で元カノと顔を合わせづらかったこともあり、仮病を使って休んだのだ。

 

女々しいと笑うのならば笑え。まぁ、己の心の中にぽっかりと空いた穴をふさぐのには少しばかりの充電期間は必要だと思うのだ。

 

明日からは気分を変えて心機一転、明るく前向きに学校に登校しよう……そう決意しながら俺は近くの河川敷にてランニングをこなそうと家から出た。

 

この選択が間違いだったのかもしれない……少なくともこの時はあんな事態に遭遇するとは思ってもいなかったが。

 

川端まで徒歩でそこまでの時間はかからないのだが、足取りは重い。

河川敷で始まったあの恋を引きずるように、歩いていたら無理も無いか?

 

「あ……春人!?」

「……な、夏海」

 

いつの間にか俺は未練の残る恋に引き摺られてきてしまった場所には、元カノの……西蓮寺夏海がいた。

何故ここにいるのかを聞いたら夏海も仮病を使って学校を休んだらしい……同じ行動に驚き戸惑ったが……俺たちは自然と笑いあっていた。

 

「皆勤の春人が仮病ねぇ……」

「うるせえよ……大体誰のせいで休んだと……」

「プークスクス! 女々しすぎよ、春人は」

「わ、笑うな! 女々しいのは理解してるよ!」

 

そんな会話から始まり。結局、長電話しているみたいに話し込んでしまい……

 

「もう4時か……」

「そうね……楽しい時間で本当にすぐ終わるよね」

「あ、ああ。 そうだな……」

 

楽しげな談笑から急降下して通夜かよ、今日は。

 

「あの、さ。 夏海」

「何? 春人」

 

恐る恐る切り出す俺……

 

「今回の恋は俺と君の価値観のすれ違いが原因で終わったよな」

 

「う、うん。 そだね」

「だからさ、もしなんだが……俺がもう少し大人になったら……また一緒に……」

 

俺の決意を話そうとした時……

 

「おいそこのガキ! どけぇ!」

 

後ろから大声が聞こえて来たと思ったら直後に俺は何者かによって殴り飛ばされた。

 

「いってぇ……」

 

俺が起き上がるとすぐに悲鳴が聞こえた

 

「い、いや! やめて!」

「いいじゃねえか、よぉな? 」

 

服を裂かれた夏海の下着、その上の白い肌の眩しい鎖骨あたりを見知らぬ男が舌を這わせていた。

よく見ると、その右手には刃渡が12センチほどのナイフが握られている。

 

最近、町では少女を狙った強姦惨殺事件がよく起きていた……俺と同年代の女子を狙う卑劣で残忍な行為……幾人かの被害者を出しながらも犯人は捕まっていなかった。

 

目の前のこいつが件の強姦魔……!

 

刹那に、どす黒い感情が俺の中に芽生えた……ああ、これが「殺意」か……そして並行して……湧き上がってくる勇気と「護る」という意思。

 

俺の手元に転がっていた親指ほどの大きさの石つぶてを幾つか拾うと、そのうちの一つを強姦魔のこめかみに目掛けて投げる。

 

「あ、だ!! いてぇ……ぎゃっ!?」

 

コントロールには自信があってね……子気味のいい音がなり、遅れて男が夏海から離れて側頭部を押さえながら俺を睨みつけてきた。

 

「逃げろ、夏海!」

 

立ち上がった男の脛に尖った石つぶてを投げつけてダメージを与えると俺は拾った太めの木の枝を上段に構えて、微動だにしなくなる。

 

目をつむり、精神を集中させる。

 

「死ねクソガキがぁぁぁァ!」

 

ナイフを両手保持で突き出し突進してくる男……引きつけて……枝を袈裟斬りのように振り下ろした。

 

バキッ!

 

枝が折れ、肩口を強打された男がナイフを落としながら悶えるのを確認した。折れた枝を放り、足元に転がっていたナイフを傍に蹴飛ばす。

 

「大丈夫か、君たち!?」

「ん? あ、警察を呼んでもらってもいいですかね? あと、救急車」

 

駆け寄ってきた近所のおじさんに110当番を頼み、男に気を緩めて背を見せてしまう。

実は、感触的になんだが男の鎖骨を折ってしまった気がする……こりゃ傷害罪も覚悟しないとな……

 

「救急車に乗るのは……お前だよクソガキ……!」

 

どすっ……どっ

 

鈍い音がした……どうやら……

 

そして直後に押し寄せてくる、焼け付くような激しい痛みと「何か」が体から抜けていく感覚を精神論の「ガマン」で押しこらえて俺は最期のチカラを振り絞ながら、夏海を守るために、振り向いた……火事場のクソ力とはこのことを言うのだろうな。

ナイフを俺の体から抜いて、後ろに下がった男は再び俺にその血に染まった凶刃を向けて心臓を狙うようにフラフラと歩み寄ってきた。

 

「死ね、クソガキッ!!」

「往生際が悪ぃンだよ、クソ野郎が!」

 

俺の激昂と思い、重心と体重をすべて乗せて振り抜いた拳がダメージが抜けきっていなかったのか、フラついていた男の顎にクリーンヒット。

その体を宙に浮かせた野郎は吹っ飛んだ。

 

「は、春人!?」

 

足元を見ると、そこには血溜まりができていた……それと同時に……力が抜けた……膝をつき、地に伏せる。

当たり前か、二回も刺された、場所的には急所の、太めの血管が通る場所のようだし……

 

朦朧とする意識、遠くから聞こえる夏海の声……

 

救急車とパトカーのサイレンが近づいてくる……

 

俺の体の感覚はもうない……瀕死なのだろうな……

 

「春人! 死なないでよ、春人!」

「バーロー……死ぬわけねぇだろうが……この俺が……」

 

気休めと我ながら死にかけのくせにとんでもないデマカセを言ったもんだよな……血溜まりに沈む俺の体に抱きつく夏海の体は血塗れなのは、当たり前か。

 

「なぁ、夏海。 こんな別れになっちまうのは……申し訳ないんだがよぉ……最期ぐらい笑って過ごそうや……」

 

「春人……?」

 

閉じる人生に未練はない……

 

「ロクな取り柄のない……俺でも……好きな(ヒト)を護れるンだな……夏海……今生の別れ故にさ……ひと言だけ……こんな終わりの恋にめげない……幸せを……掴んでくれよな……」

 

「こんな時に何言ってんのよ、春人! もうちょっとで救護隊の人が来るからあきらめたらだめ!」

 

「君! 諦めてはだめだ!」

 

応急処置でハンカチと付けていたベルトで止血してくれたオッサンに力ない笑みで礼を言うと、そろそろ限界が近くなってきた……この程度の応急手当てで俺が生き残れる可能性は0%だ。

失った血の量が多すぎるから、どうせこのまま死ぬ……ならせめて……

 

「ありがとな、夏海……少し休ませてくれ……」

 

人生に辛い山道あれば楽な下りの坂道がある。

 

俺の峠越えはその道半ばで終わったそれまでのこと……だが、夏海のそれはここで終わりじゃない……

鉛よりも重くなった瞼を閉じて俺は眠る……思い(ヒト)の、その胸の中で……永遠の眠りについた。

 

「春……人……? 春人、ねえ。 春人! 春人ォォォォ!」

 

最期に、夏海の絶叫が聞こえた気がした。

 

 

「あいつはどうなったんだ?」

 

「もちろん、あなたとの約束を守って幸せになることを誓ったわ。 彼女の人生は薔薇色を超えた黄金色の人生だから安心してあげて。 これが未来予想図だけど……」

 

少女が1枚の写真を俺に手渡してくる……それは―――見知らぬイケメンが彼女の手を取り、ウエディングケーキにナイフを差し込んでいるところを写した写真だった。

 

そうか、幸せになってくれたのか。

 

「 改めまして、私の名前はアクア。 日本において若くして死んだ人間を導く女神よ」

 

とまあ、俺はいろいろな説明をアクア様から受けたのだが、あまり興味のないことだったので割愛。 簡単にまとめると、天国という名の無間地獄に行くか、赤ん坊に転生するか……もしくは……

 

「異世界に転生してみない?」

 

と言われた……

 

「もちろん私たち神々の親切丁寧なサポートによってなんのリスクもなくその行く世界で読み書きができるようにしてあげるし、財宝でも特殊能力でも、神器クラスの武具でも一つだけあげるわ!」

「勇者候補になれってことか」

 

異世界転生……生かされる(誤字にあらず)世界には魔王が存在しており、日々人々はモンスターの脅威に怯えながら生きているそうな……そこで、俺らのような若者を勇者候補に仕立て上げ、転生させてその地にて生活をさせるとのこと。

……悪い話じゃない。天国が地獄と変わらんのであれば迷うことはないだろう。

 

「良し、わかった。 その異世界とやらに行くことにする」

「じゃあ、この中から持っていきたいと思った能力や神器を一つだけ選んでね」

 

アクア様はブ厚いカタログを俺に渡す。 お、重!?

しばらく眺めてみたが、数あるチート能力や武器と言うわけあってか、色々と目移りしてしまう。

が、とりあえず一つ目についた項目を見て俺は迷わずコレ、と選んだ。

 

「ふむむ、じゃあ大精霊との契約でいいのね?」

「ああ、どんなのかはわからないんだよな? 精霊が呼びかけに答えるまで」

「そうね、冬将軍とか色々な精霊がいるからそこまでは決めれないわ」

「冬将軍? なんだそりゃ……まぁいいか、時間も押してるんだろ?」

「ええ、そうなの。 話がわかる子って嫌いじゃないわ! さ、これが契約書よ! パパッと済ませて旅立ちの準備を済ませましょうか!」

 

俺は取り敢えず、なんだか神々しすぎる光を放つ羊皮紙っぽい何かに自分の名前を書く。

そして、アクア様が呪文のようなものを唱えると……書かれていた俺の名前が光とともに浮かび上がり、羊皮紙もまた光の粒子になって消えて行く。

光がだんだんと収束していき……ひとつの形を作って行く……人の形になってさらに虹色の光が溢れた、と思ったら何やら赤黒い光までチラついて火花見たく光った。

 

「……え? あ、これはまずいかも!?」

「な、何が起こってんだよこれは!?」

 

そして、一点に光が収縮すると一気に爆発した。

 

「うお!?」

「わぁ!?」

 

閃光に目が眩んだが、慣れてきた……見えるようになったのを確認すると、俺は恐る恐る目を開けた。

そこには闇色のロングヘアに光の粒子をきらめかせるドレスのような何かと重厚かつ壮麗な芸術品のような鎧を身にまとった。…姫騎士のような格好をした小人(体高15センチほど)が翅を羽ばたかさせて飛んでいた。

 

「えーと、あなたが私のマスター君かな? 私はハルナ。 精霊のハルナと申します」

「へぇー……これが精霊か」

「……」

 

俺が平凡な感想を述べていると、アクア様は硬直していた……なしてよ?

 

「あ、アレ!? なんで抑止力の救世主(セイヴァー)様が顕現しちゃったの!? ねえ、なんで!?」

「抑止力? なんだそりゃ」

「あ、私のステータス公開しときますねー」

 

疑問に答えるように、ハルナがふわりと飛びながら俺の頭に着地してぺちんと手をついた。

俺の記憶を読んだのが、馴染みのある型月風のデータ紹介だった。

 

 

【精霊のステータスが公開されました】

 

名前 ハルナ

精霊格 大星霊

身長/体重 不明/不明

性別 女性

属性 秩序:中立

特技 人道的救済、世界救世

好きなこと 食べ歩き、世界観光、対話

嫌いなこと 世界を滅ぼす旨の願い

ステータス 筋力 A++ 耐久 A 敏捷 A 魔力 EX 幸運 B+

 

スキル

 

対魔力 A+

全ての魔法、呪いが効かないもしくは効果が薄い。 三節以上の大魔術ですら手の一振りで明後日の方向に弾き飛ばす。

 

カリスマ EX

「全て」を魅了するある一種の呪い。 彼女の人柄により救われた人の数、世界の数が多すぎるため得られたスキルで魔の者には効果はなく、神の子である人にのみ効果が発揮される。

 

神性 C(A+)

神により創造されたモノ、ゆえに真祖のモノ。次元の旅を続けていた結果救った世界の数が多いことを認められとある世界の人類に認められ、神と崇め讃えられたことから得た神格。 そのとある世界が遠くなれば遠くなるほど神格が弱体化する。

 

千里眼 B(A+)

全てを、見通す眼。 過去、現在、未来を見ることが可能で、予知予見、透視はお手の物クラス……だが、ハルナはこれを自身から封印して2段階以上のランクダウンを施している。

 

所有能力

 

宝物庫

ハルナの持つ宝物の異空間保管場所。 彼女が所有するものは、英雄王の宝物庫にも引けを取らない。

ハルナの許可があれば、宝物庫の宝物を使うことが可能、そして異空間保管場所なのでストレージ容量が無限。

 

道具作成陣

ありとあらゆるものを加工できる万能の魔法陣。 人に作れるものであればなんでも作り出せる。 鉄ブロックと火薬で戦闘機を作り出せるMODは入っていません。

 

重力操作魔法

重力崩壊を引き起こして特異点生成によるマイクロブラックホールを生み出せたり、重力圧を利用した偏光による光学迷彩、超重力による時空間干渉で発生させる次元湾曲シールドなどの多彩な応用方法がある万能魔法。 魔法的なエレメンタルは闇に当たる。

 

元素掌握

四大元素をいとも簡単に扱い、嵐や日照りの天候操作もできる能力。 火と水、風、土を容易く扱う。

エクストラエレメンタルの光も扱えるため、洞窟などでも光源を作り出すことができる。 光と闇を合わせるのはご法度で、対消滅が起こる。

 

 

「うわぉ、なんだこのドチート精霊」

「ステータス見ていきなりそれ言いますか!? まぁいいですけどねー。 アクア様、硬直してないで業務全うしてくださいよ」

 

いいんかい、と心の内で突っ込みつつ、ハルナはアクア様に手続きを促していた。

 

「ねぇ、なんで顕現しちゃったの?」

「あの契約書、私と繋がってたみたいですよ……私だけと」

「あ、これ星霊の契約書だわ……そりゃ貴女と契約できて当然ね! じゃあ、まずは身なりよね。 血塗れの服装で向こうに送り出すわけにもいかないし……ちょちょいっとね」

 

俺は殺された時の服装で血塗れの服だった。 それが一瞬で綺麗な服装に戻っていた。

 

「お次は防具とかだけど、最低限のものはこっちで用意してあげる! 初期資金はこんだけね」

 

そう言いながらアクア様が指を振ると、着ていたパーカーの上に皮の胸当て、ガントレットに腰のベルトには鞘に収まった普通の剣と言う、冒険者風の姿に書き換えられていた。 そして俺の手には小袋があり、のぞいて見るとそこには「10000エリス」入っているようだった。

 

「なるほど、これでとりあえず準備はできたって事か」

「うん、そうなるわ。 じゃあ、貴方を異世界に送ります! 魔王を倒した暁には、報酬として、神々よりどんな願いも一つだけ叶えてあげちゃう! だから頑張ってね!(星霊との契約破棄は無理だけど……)」

「わかった。 じゃあ、よろしく頼むぞ、ハルナ」

「あ、私を召喚した際のデメリットの説明忘れてました。 逆転の因果を背負います」

「ん? なんだそry」

「さぁ、勇者よ! 旅立ちなさい!」

 

アクア様の宣言に俺の視界は光に染まった。

 

 

石畳の道を荷馬車が走る。

 

発展の見えない、中世ヨーロッパを彷彿とさせる街並みに俺はあっけにとられた。

 

「……マジで異世界だ。 ……おいおい、本気で異世界だ。 え、本当に? 本当に、俺ってこれからこの世界で魔法とか使ってみたり、冒険とかしちゃったりすんの? ……これ誰の声だよ?」

 

あれ?やけに声が高くな立てる気が……いや、待て……身長が下がってる……違う、いやそんなはずは―――まさか……!

 

俺は意を決して、ガシッと自らの胸あたりを掴む。

 

むにゅうと指が沈む、マシュマロのような柔らかさに対して程よい弾力を感じる夢のように柔らかい感触がそこにあった……そして……腹の奥が強張るような言いようのない感覚も……!

 

俺の胸にあるはずのない物があった―――おっぱいが!

 

「な ん で 女に なってんだぁぁぁあぁぁ!?」

 

俺の絶叫が街に響いたのは言うまでもなかった。

 

(続く)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冒険者登録と現状の確認を!

正直に驚きました。 日間アクセスで4位に入ってたのを……! 目を疑い、読み直してやっぱり稚拙な文章でなんだか申し訳ない気分になったのは内緒です(オイ


転生したら女になっていた……意味がまるっきりわからんのだがなってしまった事実は仕方ないのか?

 

「はぁ、とにかく現状の確認するか」

(そうですね、原因についてをまずは説明……の前に、ちょっと霊脈に潜ってきますね? この星に馴染まないといけないので)

「わかった、そんじゃ後でな」

(はい!)

 

ハルナは現在霊体化していて、契約者の俺と念話でやり取りをしていた。 何をしているかと言うと、まずはこの星のマナに体を馴染ませるため、マナの血管とも言える霊脈に潜り込むらしい。 そこで根を張るように結界を組むのだとかスピリチュアルについては門外―俺女だけど、漢でいいのか?―な俺にはサッパリわからんが。

ちょろっと聞いた話だが、星霊という存在は星に関わる精霊の事らしい。

っていうのも、ハルナは星の誕生から消滅と言う死までを見届ける役割を持つ精霊らしい。

この宇宙において星の誕生と消滅はなんだかんだ言ってよく起こるものらしいが、一つの宇宙見渡せるレベルの千里眼で全体を見通してこの先10万年ほどは星が生まれたり、死んだらはしないらしい。

創造主のくしゃみで起こった全ての始まり、ビックバンが起こって以来。 創造主によって創られて宇宙の管理を任されたハルナは1人で与えられた使命を全うしてきたらしい……ひとりぼっちな環境下で。

そんで、娯楽求めて千里眼を使い見つけたのが人間。 興味を持ち、人々の発達を見守りつつ過ごしてきたらしい。 創造主の神様に10万年の休暇をもらって、次元を超えて時代を超えて旅をしていた最中で、今回の契約に応じてこの場に現れたんだとか。

現在の姿は、この広い宇宙のどこかにいるであろう自分の同位体、1人の少女の姿を模したもので、実体は意識あるマナの塊らしいが、元ネタデアラの十香だろ? まぁ、あいつの好きにさせとくけども。

で、俺はと言うと、冒険者ギルドに赴いていた。

 

この世界では冒険者……とどのつまり何でも屋と言う職業がある。

この世界には、魔王がいる。

その魔王は魔王軍と幹部と思われる強力なモンスターを数体ほど従えているらしい。

冒険者ギルドはそんな魔王に対抗するために人間側が作った組織であるとわそんな旨の話を街のおばちゃんに聞いた。 そんなことより、ウチの息子の嫁にならないかい? とか聞かれた気もしたが、気のせいだ……気のせいだと思いたい。

ギルドの装備売り場にあった姿鏡に映る自分の姿を見て唖然とした?

 

「はぁ……よりによって美少女かよ、俺は」

 

切れ長の少し鋭い目つきの青い瞳。 髪は赤銅色か、これ?

……体型はモデル型で身長高くも出るとこは出てる感じかなぁ、コレは?

なんとまぁ雰囲気的には赤髪になる前の蒼崎青子っぽいな。

 

「……はぁ」

「おう、ねーちゃん。 ため息ばっかり吐いてたら幸せが逃げるぜ?」

「ん? 誰だ?」

「ふっ、名乗るほどの名前は持ち合わせてねぇな。 まぁ見ない顔だったから声をかけたまでよ」

 

俺に声をかけてきたのはモヒカンに肩パット――ヒャッハーって言葉が似合いそうな男だった。

 

「それはどうも。 実は冒険者になろうと思ってここにきたわけなんだが……冒険者登録ってどうやればいいんだ?」

「ああそうかい、命知らずめ。 ようこそ地獄の入口へ!ギルド加入の受付ならあそこだ」

 

男が指差す方向には受け付けらしきものが見えた……普通にいい人だった。

 

で、受付嬢に応対してもらう。

 

「確かに1000エリスを頂戴いたしました。 では、こちらのカードをお持ちください。」

 

免許証と同じくらいのサイズのカードを手渡してきた受付のお姉さんは俺に説明を続ける。

 

世界に生きるすべての生物には魂があること、然るべくはそれは魔物にも適応される。

そして冒険者にはレベルがある。レベルとは俺的に解釈すると、“魂の強さ”だと思う。

他の何かの生命活動にトドメを刺すと、その存在の魂の記憶、その一部を吸収できるとのことだ。

 

一つ言えるのは、まんまゲームだなこの世界のシステムはってことか。

どうせなら、初期装備の剣を使える職業たがら剣士系になりたいと思う。

せっかく生前の記憶保持で丸々(体は女になったが)持ち込んだんだ……剣道やってた手前、FEの剣士とかソードマスターとかに憧れてたわけだし。

 

「この書類に必要な事項をご記入ください。 あ、体重を記されなくても結構ですので」

 

言われるがままに俺たちは必要事項を書いていく

 

身長は目測、体重はわからんのでスルーして年は16。赤髪青目などと適当に書いて情報を埋めていく。

 

「はい、ではこの機械に手をかざしてもらえますか?」

 

俺は指示されたままに水晶の下にいろいろな歯車が噛み合った機械の水晶の上に手をかざすと。

 

カタカタカタッ……

 

とタイプライターを打つような古風な音と共に光が放出されてその下に置かれているカードに文字を刻んでいく。

 

コピー機とタイプライターの複合機器みたいだな。

 

「はい、結構ですよ。 ではステータスを確認させてもらいますね」

 

言いながらお姉さんは機器からカードを取り出すとそこに記されている数値を確かめている。

 

「え……? えぇぇぇ!?」

 

仰天するお姉さん。なしてだよ、驚く要素がどこにある?

 

「はい? どうかしましたか?」

 

「い、いえ。 筋力と体力が平均より低いのは目立ちますが、他のステータスが平均以上! 特に敏捷、器用さ、知力のステータスが高くて幸運、が平均より少し高いくらいですけど。 といいますか、この魔力どうなってるんですか!? 平均以上通り越して異常な数値ですよ!?」

 

ゑ、何それこわい。

 

と言うか、後ろの酒場まで聞こえたのか酒場の方からちらほらと人がやってきてるのが気になる。

 

いや、これは俺が転生者だからだろう……と思おう、そうしよう。

 

「上級職のアークウィザードも夢ではないですよ! ていうかアークウィザードが天職でしょう!」

 

「えっと、物理職でお願いします」

 

「はい、では物理職の希望ですね! ……って、はい?」

 

驚いてポロリとカードを落とす受付のお姉さん――俺、なにか変なこと言ったか?

 

「なにか?」

 

思わず俺が疑問符を浮かべるとお姉さんは引きつった笑みを浮かべながら俺に

 

「えっと、この筋力だと魔法剣士か盗賊か……軽装の近接職にしか」「魔法剣士!? あるんですか!?」「ひぇ!? は、はい! あります! ていうか顔が近いですよぉぉ!?」

 

魔法剣士の職業があると聞いた時俺は思わず興奮してしまい、受付のお姉さんの腕を掴んでずいっと顔を寄せてしまった……軽率な行動は控えよう、うん。

 

「あ、すいません……。 興奮しちゃって……」

 

思わず謝罪した。 だってお姉さんの引きっぷりがなんか悲しかったから。

 

「い、いえ。 すこし驚いただけですから。 でも本当にいいんですか? ステータス的にはアークウィザードの方が合っていますが……」

 

「下手に魔法使いから始めたら後が大変かなーと……それに、転職もできるんですよね?」

 

「それはそうですが……。 いえ、人の決めたことに口を出すのはギルドスタッフとして失格ですね。 では、魔法剣士で登録させていただきます! それでは、ようこそハルヒト様! 冒険者ギルドスタッフ一同、今後のご活躍をご期待させていただきます!」

 

こうして俺は〈魔法剣士〉になりました。

 

☆ こ の す ば ☆

 

「そんじゃ、俺がこうなった原因を説明してくれるんだよな?」

「はい、もちろん。 まずはそうですね……マスターは因果律をご存知ですかね?」

「そうなる可能性の原因と結果に直結する「そうなる運命」みたいなのだよな?」

 

現在、場所を今日泊まる宿に移してハルナと対話している。 対話というか、今回の俺の女体化についての説明だな……

 

「はい、その解釈で間違い無いです。 そして、私と契約を結んだ者は「因果逆転の業」を必ず背負う真理(ルール)があります」

「傍迷惑なルールだなおい。 そのデメリットってのはなんなんだ?」

「それが今回の女体化の原因になっているのですよ、マスター。 因果逆転は端的に言うと、「こうなっていた」になるはずの結果が正反対の事象に変わるようなものです」

「なんだそりゃ……」

「私のステータスをご存知なら、そのチート性能に見合う命に関わらないデメリットがそれだったまでです。 そして、因果逆転しているのはマスターのステータスにも影響が出ています」

 

言うや否や、ハルナの前に置いた冒険者カードに記されたステータスをその小さな手で指差す。

カードのステータスには、筋力 10 体力 15 魔力 99+ 知力 40 敏捷 35 器用 32 幸運 29 保有スキルポイント 40 と表記されている。

 

「私と契約を結んだことで、性別が女性に変わり元は物理職向けだったマスターのステータスですけど……ここで因果逆転してしまい、知識職のステータスにひっくり返ったわけですね。 ああ、魔力がカンストしてるのは私とパスが繋がっているからと思ってください。 私の保有魔力量は、アークウィザードが爆裂魔法を1日に二回撃ってもピンピンしてるクラスの魔力量ですので」

「なるほどな……このままだと俺は、高めの敏捷を活かして器用に依存したクリティカルを狙う一撃離脱戦法の、低い体力の紙装甲魔法戦士扱いってわけか」

「筋力と体力は私のブートキャンプでなんとかするとして、方針を固めましょう」

 

こうして、まずはこの先の準備として、商店街での売り子のアルバイトをしながら、ハルナに稽古をつけてもらうことにした。

 

「さて、マスター。 あなたはこれから私の第30人目の弟子です。 ビシビシ鍛えて上げますからね! 目指すは蒼の魔法使い兼剣士ですから!」

「封印指定はされたく無いから青子さんは目指さんからな!?」

 

そう言うことで、俺の異世界生活は今日から始まるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

近況と初めての戦闘を!

異世界に来てから一ヶ月ほどが過ぎた今日も、俺は

 

「いらっしゃいませ!」

 

丁寧な姿勢で気を付けから、体を少しだけ前に傾けて礼、そしてにっこりと営業スマイルで客人を出迎える。

 

目の前には50近くか前半のオッサンが脂汗と気色の悪い笑みを浮かべて俺を視姦している……お盛んなこった。

やたら胸を強調する制服(ユニフォーム)を着込んだ俺は現在、喫茶店でのバイトに勤しんでいた。

仕事を終えて、これまでのことを振り返り観る。

バイトを始めて3日目で50人近くの固定客が付く始末でこの街は一体どうなってやがるとも言いたくなるが、もうここまで来たらもはや諦めの境地だ。

尻を触ったりのセクハラしようものなら、その手を最小限の力で関節を極める小手捻りで締め上げながら「おやめくださいね? お客様?」とお願いすれば、みんなコクコクと必死に頷いて学習してくれたのでよしとしよう。

 

とまぁ、そこそこエリスも貯まってきたことだし、そろそろ本格的に冒険の準備をしようと思う。

まだ冒険の「ぼ」の経験すらないからな、俺は。 このままじゃ冒険者になった意味がない。

 

ここ一月、あの喫茶店でバイトして8時間働いても、日当は2000エリスだ。 時給にして250エリス……最低賃金なんてあってないもんで、そもそもここは日本じゃないしな。

初心者向けのクエストを受けるためにも装備を整えたい俺は、節約とバイトを頑張ってさすがに馬小屋は嫌だから宿の物置に泊めてもらっている。 そもそも、俺は元男だったが今や女でステータス的に見たら最弱の筋力値だ……もしもの事を考えたくもないので、狭い物置で寝泊まりしているわけ。 仲間がいるのならば馬小屋でもオッケーだと思うがな。 1日250エリスで泊めてもらえるよう交渉もしたしな……起きる時に体がバキバキなのは仕方ないことなので、もはや諦めたけど。

そんなことを考えながら、毛布をハルナの保有結界から引き摺り出してくるまり、俺は眠りについた。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

「せぁっ!」

「まだまだ甘いですよ、マスター?」

 

俺の持つ木刀をハルナの木剣がいなす。

 

「そんなんじゃ、ジャイアント・トードに丸呑みにされておしまいです」

「そうならねぇために、稽古頼んでんだろうがっ!」

 

軽口を叩きながらさらに連撃を積む。 袈裟斬り、斬り上げ、逆袈裟斬り!

この3連撃をハルナは紙一重まで引きつけて最低限の重心移動で、すり足で避け切って見せた。

俺は現在、ハルナの指導下でトレーニングを積んでいた……え? 寝てるんじゃないのかだって?

ここは俺の体の存在する場所ではなくて、ハルナの保有する宝具が作り出した空間だ。

空間から時間を切り離した限定領域で、俺の魂を体から引っこ抜き、ハルナの創生魔法で一時的な肉体を作ってもらい移動、この結界内で動いている。

俺の体の方は今、魔法的なコールドスリープ状態なので死んでいるわけじゃあないのでご安心を。 なので今の俺はホムンクルス状態ってわけで、俺の本体が疲れるわけではないので問題ない。 まぁ、精神は少し磨耗するが。

 

今は効果的な剣術の指導を受けつつ、体捌きを魂に刻み込んでいる。

なぜ魂なのか……これは俺の体を騙すためでもある。

因果律が狂っている俺の肉体は、呪われてるかのように筋力と体力のパラメーターが伸びにくくなっていると言うことで、完全に知識職向きの肉体ってわけなのだ。

で、その狂った因果律を騙すべく、その結果に至る原因を騙すべく魂に経験を積ませている。

ハルナ曰く、この結界内での経験は俺の魂に記憶されていると言う……だが、体にはそんな形跡がない。 つまりは矛盾が起こるのだとか。

それで何が起こるかと言うと、魂と肉体の経験の差の帳尻を合わせるためにその矛盾を快復させようと身体の成長の起点たる「基礎ステータス」に変化が起こると言う。

この場合、魂に刻まれた経験には相応の筋力を得ているはずなのに、体には予定を下回る筋力しかないとする。 すると肉体はその矛盾を快復させようとしてその筋力を補填しようと成長しやすくなる……と言うことだ。

ちなみに、基礎ステータスはその人間の素質によって振り分けが決まる。

俺の場合は、知力と器用、敏捷、魔力がダントツで伸びやすいとハルナに聞いた――筋力はともかく、体力はスタミナとHPに影響するから伸びやすくしないとこの先まずいらしい。

 

「あれから一月、だいぶマシにはなってきましたね、マスターの動き」

「褒めてんのか貶してんのかわからねぇいい方すんなよ」

「いや、褒めてますからね!?」

 

とまぁ、皆さんはお気付きか? このハルナ、俺と同程度の身長になっていることに。 見目麗しい美少女の姿は町のどんな男も絶対に振り向かせるに違いない。 まぁ、俺は今現在は同性なので興味がないし百合になるつもりも、毛頭ないしね。 と、タネを明かすと、ハルナに質量保存の法則は通じないだけだ。

霊体だし、実体は本来持ち合わせちゃいないからな、こいつは。

 

「明日は休みだし、装備を買いに行きますか」

「と言うことは、そろそろ本格的に冒険の準備を始めるんですね?」

「……いつまでも物置小屋で過ごすのは癪だからな」

「なるほど。 じゃあスキルもついでに覚えますか?」

「ああ、そうだな。 じゃあ、まずは起きないとな」

 

こうして俺は目を瞑ると、ハルナに導かれるがままに魂が肉体へと飛んだ。

 

 

「資金は40500エリスか。 皮鎧と剣は持ってたし、双剣で戦いたい」

「んーとですね、双剣を使うなら同じ長さに近い剣を使うのが一番です。 だから、これなんてどうですかね?」

 

頭の上に座るハルナと相談しながら、装備を選ぶ。

武器屋の店主は俺の頭上のハルナに興味津々なようだ……このひと月の間で、ハルナはアクセルでその名を知らぬ存在となった。 ハルナが俺の周りを飛び回り、付いてくる姿はまるで妖精のようだからだろうか?

 

「鋼の剣か、値段は……12500エリス」

「剣としての長さは及第点でしょう、買いですかね?」

「まぁ、そうだな」

 

店主にお金を払い、鋼の剣を鞘に収めて腰のベルトに吊るす。 他に買ったのは矢を数十発に矢筒だ。

矢筒と矢はハルナの保有結界に放り込み、ながら俺はアクセルの外に出た。

門番の人に冒険者カードを見せて、外に出たのだ。 使えそうな素材を探すために。

 

「木の枝だけでいいのか?」

「はい、それだけあれば弓は作れますよ。 弦は必要ない魔力で編むものを使ってもらいますから」

 

今回の素材集めはハルナの道具作成陣を試験的に試させてもらうのが目的だ。 この魔法には俺も使用できるらしいので使えるものは全て使おうという方針で意見が一致した。

ちなみにだがハルナの言い分を信じると、作ろうと思えば戦闘機でも作り出せるらしい。

あくまでも人に作れるものならば何でも作り出せるらしいからな。 つまりは、神代の古代都市に生きた人々が創り出したような物も作り出せるということ……コストバカにたかそうだけどな! AUO並みの黄金律があればいくらでも作り出せそうだが、そんなもん無い物ねだりだ。

 

「っとまぁ、こんなもんか……ん?」

「あ、これはマズイですね……」

 

近くの草むらが揺れてそこから毛のないチンパンジーみたいな、醜悪な猿っぽい何かが出てきた。

各々粗末な盾や石刃の手斧、石刃の剣やらを持っているのが5匹ほどかな?

 

「ギギィッ!!」

「ギィッ!」

「マスター、彼らはゴブリンです。 今のマスターじゃ太刀打ちできるか怪しいですよ――「魔法の練習相手がノコノコ出てきたわけか」ええ!? ちょっかい出すんですか!?」

「少なくとも、奴らは俺を逃してくれそうにないし」

 

いっちょまえに角突きの兜を被った個体が騒いでいるし

 

「オンナ! オンナ! 肉ウマソウ!」

「ギギィーッ!!」

 

人語を話すのはリーダー格だからだろうか? とりあえず俺は魔法を唱える。

 

「紅蓮に燃えよ! 《フレイム》ッ!」

 

中級魔法を覚えると使える火の魔法、《フレイム》はバレーボールくらいの大きさの火球を作り出せるポピュラーな魔法だ。 俺は火球を投げてゴブリンたちの足元の枯れ草を燃やした。

枯れ草ともなると、すぐに燃える。 そのぶん燃焼時間も短いが、脅かすには十分なはずだった。

 

「マホウ? ヘボイ! ヤッチマエ!」

 

ゴブリンどもは足元の火なんざ平気と言わんばかりにこちらに走ってきた……って何っ!?

火見たらさすがに逃げるだろっ!? どうなってんだこいつらの思考!?

 

「追い払うつもりだったけど、飛んだ誤算だなオイ!?」

「この世のゴブリンはたくましく、食物連鎖の下の方でも集団で自分たちよりも強いジャイアント・トードを狩りますからねー。 舐めてかかったら死にますよー?」

「それを、早く言えっつーのぉぉぉ!?」

 

ベソかいても仕方ねえ! 俺は中級魔法の一つで身体能力強化(エンハンスド)を使い、筋力と敏捷を強化。 さらに二本の剣を抜いて左手の鋼の剣に《エンチャント・ウインド》右手の黄金色の剣に《エンチャント・フレイム》を与えて、剣を構えた。

ちなみにだが、エンチャント系の魔法には武器の耐久値を肩代わりする効果があったりする。 切るたびにその効果が薄れる感じかな? 言い換えるとエンチャントが続く限り、剣が折れることはない

貧弱な俺の体力で、当たれば死にかねないゴブリンの攻撃力を舐めるつもりはない。 同人RPGの敗北イベントでモンスターに輪姦されるリョナ的展開はさらにノーサンキューだッッッ!!

 

「いくぞ……」

 

集中、まずは飛びかかってきた手斧と木の粗末な盾を持ったゴブリンAを狙い、風の刃を纏う鋼の剣を逆袈裟斬り気味に斬りあげる。

ゴブリンAはそれを盾で受け止めようとするが甘い! 鋼の剣は盾を両断しつつ、ゴブリンの胴と腰をサヨナラさせた。 エンチャント・ウインドの効果は斬れ味上昇と、瞬間リーチ延長。 振り抜いた刀身が一時的に倍加する効果を持つ!

次に右手の剣を真横に振り払うと三日月のような形の炎の塊が空を舞う。 炎の塊が、直撃したゴブリンBは一瞬で灰燼に帰した。

2匹のゴブリンはそれを見て武器を捨てて逃げ出すが、リーダー格のゴブリンは俺を睨みつけていた。

 

「オレノテシタ! ヨクモ!」

 

こいつの武器は鉄製の刃こぼれしたシミターだろうか? まぁ粗末な武器に違いはないだろう。

駆けてきたゴブリン・リーダーと切り結び、受け止める。

 

「仕掛けてきたのはお前らだ……悪く思うなよ……」

 

俺は、剣を手放しながら後ろに飛ぶ。ゴブリン・リーダーはつんのめって前に転びかけるが踏ん張って持ちこたえる。 そりゃ俺が丸腰になるわけだからな……本来なら

 

「全ての空を統べる颶風の女王よ。 汝に我は願う。 我を滅ぼそうと、我を倒そうとせん彼の敵に嵐天の鉄槌を与えよう! 〈テンペスト・ブレイク〉ッ!」

 

その詠唱を終えたハルナが放った真空刃の塊の、強力な精霊魔法を受けたゴブリン。 その瞬間に、ゴブリンは血煙と化した。




後にまた書き足すかも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この巡り会いに祝福を! 強敵からの逃走を!

投稿位置間違いで訂正投稿!


俺のあたりには、血の匂いが充満している。 土のシミとなったゴブリンだったものを見ながら一言。

 

「ゔぶ、嫌な匂いだ」

「独特の血の匂いは好きになれませんねー。 大丈夫ですか、マスター?」

「これが殺すってことなんだな。 この世界で」

「他者の命を奪わないと強くなれないのはこの世界での自然な摂理ですよ。 弱者は強者の餌になって当然な命の軽い世界ですよ。 この世界の過酷さを知ってもなお、前に進めますか? マスター」

 

俺に問いかける星霊の目には慈愛が見えた。 それはまるで、「ここで逃げ出しても誰も責めませんよ?」と問いかけるような瞳で俺を捉えるハルナは俺を心配してくれていた。

俺が、本当に魔物を殺せるのか、斃せるのかと。

 

「お前が血煙に吹き飛ばした奴に、俺さが殺した2匹に黙祷を――俺の魂の糧として、お前たちの魂を受け賜るっ!」

 

俺の中で覚悟が芽生えた。 本気でこの世界で生きよう、真剣に魔物を斃し、強くなった果てに魔王を倒そうと。

冒険者カードを見て見ると、俺が斃した魔物の履歴が記されていた。 ゴブリン2匹とゴブリン隊長の経験値を確認すると意外と多かったのか、俺のレベルが1上昇していた。

 

「お前が斃しても、俺の経験値に加算れるんだな」

「ええ、私とマスターの契約は魂を共有しているという形です。 リミッターの許容範囲であれば私も魔力を使い、精霊魔法を使っての支援ができるのですよ」

「〈テンペスト・ブレイク〉だったか? かなり強力な魔法だろこれ」

 

言いながら俺は、平原にできた窪みを見る。 圧縮された暴虐なる鉄槌はゴブリンを消しとばすには充分過ぎる、オーバーキルな規格外の一撃だった。

高密度な真空刃の塊は一瞬でゴブリンの体を数ミクロンよりも細かく切り削り、バラバラに解体させたのだ。当然、あたりの地形も削り取られて土煙となり、風に流されていった。

 

「そこまで魔力使ってないんで、多分問題ありませんよ。 加減したつもりだったですけど、やりすぎちゃいました」

「可愛こぶってんじゃねーよ!? 二次被害で地形破壊すんな!」

「地形修復は簡単ですよ?」

 

パチンッとハルナが指を鳴らすと、窪んだ大地が蠢動して穴が埋まった。

土の精霊に働きかけて大地を埋め立てたようだ。

 

「さぁ帰りましょうか、マスター」

「そうだな、ギルドに行けば討伐報酬出る筈だし今日はうまいもん食おうぜ」

「賛成です! 私はスモークリザードのハンバーグの定食が食べたいです!」

「賛成、あれは美味いしな! 逸品物のジャイアント・トードの唐揚げも追加してな!」

「わーい! パーっとやりましょう!」

 

大量の食材はこいつの小さな体のどこに収まるのかとかは突っ込むべきじゃない。 星霊だからと俺は勝手に納得してる。 ちなみにだが、ゴブリン討伐で得た小遣いはハルナの胃袋を満たすために頼んだ晩飯代に消え去った。

それから、オヤジとお袋。 異世界で、女になっちまったけど俺は楽しく生きてます。

こうして俺は初めてのレベルアップ、戦闘をこなしてアクセルの街に戻った。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

初の戦闘から少したったある日、俺は最近の日課になりつつあるゴブリン狩りの依頼を受けにギルドに来ていた。

 

「ゴブリンの群れが最近沸いてるよな」

「初心者殺しに追われてきたんじゃないのか?」

 

冒険者のそんな会話を聞き流しながら、俺はクエストボードに出ていたゴブリンの群れの討滅を受注した。

 

「マスター、何度も言いますけど初心者殺しには十分注意してくださいよ?」

「出会わなけりゃ問題ない。 違うか?」

「出会う可能性があるから注意するのですよ!」

 

狩場に向かう道中、ハルナにはさんざ注意された。

初心者殺しなんてヘンテコな名前のモンスターだが、出会ったことがない。 なので、出会うはずがないと俺はタカをくくっていたのだ。 正直に言うと、かのAUOと同じく「慢心」していた。 舐めプしていたのだこの世界を。

そしてアクセルの街から少し離れた場所で俺はゴブリンの群れを見つけて数を把握した。

俺は弓に魔力を通わせて矢を装填する。 そしてキリキリと魔力で編んだ弦を引く。 矢弾に魔力を通わせて……放つ。

矢の着弾とともに閃光と轟音が鳴る。 土煙を巻き上げて十数匹のゴブリンが吹き飛んだ。

これは魔法を矢弾に付与して限界ギリギリまで魔力を溜め込み、放つ矢を爆発させる武器自壊の付与だ。手持ちの矢12本を全て使い切り、倒したゴブリンの数は29匹。

 

「これだけ倒しておけば十分だろう」

「む……マスター、すぐに引き上げることを、早急の撤退を提案します!」

「ん? なんでだ?」

「今の連続爆破で気取られた可能性があります!」

 

春奈の忠告は、それはかなり必死な表情だった。

 

「グルオゥァァアッ!!」

 

その咆哮はどこからか……黒い影が間近に迫ったのをハルナとの模擬戦闘で養われた直感と紙一重の回避の感覚で体を少しだけ傾けて避けるがしかし、咄嗟のことで重心移動が甘かったのか、頬に鋭い痛みが走る。

 

「マスターッ!?」

「かすり傷だ! なんだこいつ!?」

 

クソッ、なんでこうなったんだ。 俺は再びこちらに飛びかかってくる黒い獣を見て戦慄した。 心の奥底から恐怖を感じた……ライオン、トラと同等の大きさで、力強い筋肉質な体の獣。

 

『マスター!! ボケッとしない! 回避行動とって!』

「!」

 

ハルナが直接頭に大声を叩き込んでくれたおかげで、獣の飛びかかりを充分に引きつけながら、俺は軽業のスキルで前転、その足元に潜り込む形に回避した。

 

『あの獣は〈初心者殺し〉! マスター、全力で逃げますよ! 今のマスターが勝てる相手じゃない』

「特徴を教えてくれ、ハルナ! こいつから逃げるためには効率的な行動が不可避だ!」

 

鋼の剣を鞘から抜き放ち、身体にエンハンスドを掛け筋力、敏捷を強化しながら俺は身構えた。

ハルナとのやり取りで得た情報。 まずは初心者殺しの名前、駆け出し冒険者の天敵でかなり高い知能と強力な身体を持つ狡猾で慎重な大型モンスター。

俺は投擲ナイフ3本を取り出すと、魔力充填を開始しながら奴さんの動き挙動を観察する。

俺の周りをゆっくりと旋回して、機を伺っている様子だが摺り足で体位置を調整しているから、お互いにスキを見せていない状態だ。

 

『く、マスターと目標との距離が近すぎます! 私の魔法での援護は不可能です』

「お前、かなり賢いな……俺とハルナを分断し、あいつが魔法使うと俺にも被害が来ると分かった上で俺から距離を取らないわけか」

 

ガルルと唸り、奴は嗤う。

 

「凍て付かせよ《アイクシル・ランサー》!」

 

鋒を向けて魔法を発動させる。 氷の槍が生成されて初心者殺しに向かう。

奴はひらりと魔法を躱しながら俺に飛びかかる。予測通りの挙動。 俺は迎撃に投擲ナイフを投げる。

片足を着地させて避けようとする初心者殺しの手前でナイフの内部から魔力が溢れ出し、爆発した。

本能的に身を引いたのか初心者殺しはその爆発から逃れていたためほぼ無傷だった。

 

「ナイフは後5本か」

 

俺は投擲ナイフ全てに魔力を込めた。

 

「そら、爆発すんぞ!」

 

一投。 初心者殺しのいた場所に突き刺さり、派手に爆発させて地形を削る。

二投。 予測していた場所に投げて爆破。 木を足場に飛びかかろうとしていた初心者殺しはそれを避ける。 爆発の衝撃で木がへし折られて倒れる。

初心者殺しから距離を取ろうと、後退しながらナイフを投げていた。 ハルナの力で奴を倒すのは容易。 でもそれだと、ここらの森を破壊しかねない。

それに、ハルナの力頼りなのは正直に言うと気分がよろしくない!

 

「慢心してたツケが回ってきたわけだ。 だから、こっからはマジでいくぞ」

 

ギルゥアァ! と吠えながら初心者殺しが俺を叩き潰そうと前脚を振り上げながら飛びかかる。 俺はそれを体を横にして回避しつつ軽やかに片手バック転で横薙ぎの爪を避ける。

避けながら初心者殺しの手前にナイフを投げて爆破。さっきよりも強めに魔力を充填していたからさらに派手な爆発が起こった。 破壊に秀でた魔力の塊なので当たれば被害は大きいのを見ただけで理解したのか? この獣は?

 

すぐに飛び退いてまたもや無傷の初心者殺し。 しなやかに着地しつつ俺に躍り掛かる。

どうやら、首を撥ねようとしてるようだが、俺かって死ぬ気はない!

 

「はっ!」

 

鋼の剣で凶爪を弾こうとすると、奴は前脚を引っ込めてそれを避ける。 交錯する視線、やられた。 フェイント使うのかよ!?

すぐに俺は前に向かってダイブから受け身取りながら空中前転で相手の位置を確認する。

ちらりと後ろを見ながら後脚を俺の背中のあった位置に置いていた。 判断が遅れていたら、脊骨を引きずり出されてたなありゃ。

 

「オーケイ、お前が厄介なのはよーく分かった。 だが、タダでお前の胃袋に収まってやる道理はねぇ!」

 

走り寄る獣に対して、俺は地に鋼の剣を突き刺して魔法を発動する。

 

「それらは穿つ槍! 《ストーン・ランサー》!」

 

大地に魔力を流しこむと、石の槍を生み出して剣山が針山のごとく俺を囲うように生える。 初心者殺しの挙動に注意しながら、残りの投擲ナイフ2本を投げつけ、地に突き立て爆破する。

奴はそれをことごとく躱す、そこまでは予測通り。

 

「切りきざめ! 《ヴィンド・スラッシャー》!」

 

剣から手を離し、俺は風の魔法を発動。 かまいたちが発生して飛びかかってきた初心者殺しの毛皮を切り裂くが大したダメージとはなっていないようだが、惹きつけるための罠……!

 

「我が身は疾風が焔がごとく!《エンハンスド・ツヴァイ》!」

 

ヴィンド・スラッシャーの効果中に詠唱して身体を2段階目の強化を施す。

獣は嗤う。 俺を仕留めたと気を緩めた。

俺はそれを嘲笑う。 剣に触れて魔法を制御する。 石槍を内側に反らせていく。 初心者殺しの牙を爪を死ぬ気で、決死紙一重の回避、本当のギリギリで回避して着地前の初心者殺しの頭を思いっきり蹴りつけて跳躍し、石槍が曲がり足場と成ったところに降りる手前で

 

「発破ァッ!」

 

鋼の剣を爆破させた。 地を縦に、大穴を穿つように指向性を持たせて。 鋼の剣の破片は初心者殺しの四肢を満遍なく傷つけただろう。 かなりの魔力を充填して置いたからな。

 

ギャオオンっ!?

 

唸り声、の後に地響き。 地面がいきなり消し飛んで穴の底に叩きつけられたダメージは如何なるものか、想像に容易い。

 

「仕上がり上場! 逃げるんだヨォォォォ!」

 

俺はそれを見届けると、飛んでいたハルナを捕まえて全力の逃走を開始した。

後ろの穴からは怒り狂う獣の咆哮が聞こえたが気にしない!

 

こうして命からがらアクセルの街に逃げ帰ったのだった。

 

 

「ふぅ、まぁこんなもんか」

 

あの日から数日過ぎた今日、俺は今までの服、ジーンズと白のシャツをハルナの異空間に思い出の品としてしまわせてもらった。

俺の今の姿は、ハルナの力で作り出した武具と服で揃えているわけで。 白のタンクトップにフード付きの赤いジャケットと赤いミニスカート、黒のオーバーニーソックスを履いている普段着だ。

鉄鉱石に魔力を溜め込んで加工した軽くて丈夫な魔法金属の胸当てを作り、白狼の毛皮からクローブを作ったり、マントを作ったりと色々作った。

 

リストにあげると

 

頭 疾風の羽根飾り

体 魔法金属の胸当て

右手 白狼の弽(魔法強化の魔符を編み込んだサポーター

左手 白狼のグローブ(魔法金属の籠手

腰 白狼の皮編みベルト(吊るす魔法金属の草摺りと矢筒(15本)、白い鞘と赤い鞘も引っ掛けていたり、ポーチも下げたりしている)

脚 レガース付き魔法金属の強化ブーツ

アクセサリー マギリング・マント

武器 右手 銀狼の剣

左手 黄昏の剣 (白樺の魔法弓)

サブアーム 投擲ナイフ 8本

 

とまぁ、こんなもんかな? もちろんこれらは、ハルナにはお金を払って作ってもらった。 軽くて丈夫な魔法金属を使っているから想像以上に軽い。 ちなみに、あいつが納得する金額を貯めるのにソロでゴブリンの群れを、白狼の群れを討伐しまくってしんどかったがな。

装備調達の資金を短期間で貯めるのはキツかった。 なおあの初心者殺しはかなりのダメージを負って、弱っていたところを討伐依頼を受けたとあるパーティーに討伐されたらしい。 初心者殺しの討伐の手助けをしたと言うことでお礼を言われた。

とまぁ、俺がここまでの用意をしているのにはきちんと理由がある。 初心者殺しを倒したそのとあるパーティーのお誘いを受けたのだ。

ソロでもやっていける自信はあったが、初心者殺しから教わった……「舐めプダメ、ゼッタイ」と。

 

「やぁ、ケンナシさん」

「おう、ミツルギ。 一時のパーティーとは言え、よろしく頼むぜ」

「こちらこそよろしく頼むよ、僕たちだけでもよかったけど、魔法を使える仲間を探したいと思っていたからさ……もしも気に入ってくれたなら僕たちのパーティーに来て欲しいんだけど」

「そいつはお前らをもうちょっと知ってからだよ」

 

青い鎧を着込んだイケメンこと、茶髪のミツルギキョウヤと言うこの男は俺と同じような転生者だ。 魔剣グラムをアクア様から賜り、この世界で生きている自称勇者なソードマスターだとか。

俺が転生者だと言うことも知った上でパーティーに誘ってくれていた。

 

これから一週間こいつらの世話になる。 見極めさせてもらいますか、勇者の実力とやらを。




と言うわけでマツルギと一緒に次回は冒険です。 まともにチーム戦できるのだろうかとか言わないで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合流と冒険の準備を!

ミツルギ視点

 

それはある日のこと。

 

アクセルの街で「初心者殺しが近くにいるのではないか?」と言う噂の調査と、ひと月ほど前に星が落ちたと言う項目の予言師の依頼と言うことでかの街に王都から向かった。

着いた先で、予言師の依頼に関しては手詰まりだったけど、初心者殺しに関しての噂はビンゴだった。

すぐさま僕たちは初心者殺しの討伐に向かうことになったのだけど、その時に1人の少女とアクセルの街郊外ですれ違った。

頬を軽く斜めに切り裂かれたような傷に赤い髪をなびかせて、白いシャツにジーンズのと言う場違いな格好で全力疾走してくるその様は必死の表情で、並走するように飛翔する妖精を連れていた。

呼び止めようと思ったけどその速さは異常だった。 まるで二倍速で動いているかのように。

 

「やぁ、一体どうs「生き残れたぁぁ! ばんざーいッ!」

「待ってください、マスター!?」i――え?」

 

話しかけたが、思いっきりスルーされた!?

 

「「キョウヤが無視された!?」」

 

声を揃えてクレメアとフィオが驚き、僕は呆然とその後ろ姿を見送る。

 

「まさか、初心者殺しから逃げてきたの? たった1人で生き残ったの、あの子!?」

「そんな! 初心者殺しから生き残るなんてかなりの手練れよね? でも、なんであんなに必死に逃げるのかな……」

「と、とにかく2人とも。 レベルも十分上がってきているし、なにより、君達が初心者殺しに後手に回ることはないだろう? さ、先を急ごう」

 

そしてしばらく歩いた場所には穴からは這い出てくる大型のサーベルタイガーに似た魔物を見つけた。

 

「やっぱりいたか! フィオは援護を!クレメア、行くぞ!」

「任せて、キョウヤ!」

 

魔剣グラムを抜き、初心者殺しに斬りかかる。 が、初心者殺しと言えど僕でも気を抜けない相手のハズ(・・)だった。

しかし、グラムの一撃をろくに避けることもなく、頭蓋を斬り伏せられた初心者殺しはあっけなく討伐できた。

 

「なんでなこんなに簡単に討伐できたのかな……」

「うーん? これって火傷と裂傷じゃない?」

「這い出してきた穴も結構深い」

 

もしかしてここまで初心者殺しを弱らせたのは、あの子がやったのだろうか? アクセルに逃げ帰っていった彼女が。

 

「拍子抜けしたけど、討伐は出来たわけだし。 今日はもう宿に戻ろうか」

「ちょっといいかな、キョウヤ。 あの子がやったかもならあたしちょっと気になる」

 

クレメアが珍しく他の女子に興味を示していた。僕が他のパーティーの女性メンバーと話していると面白くなさそうな顔をするのに何故だろうか? そんなクレメアがこんな話をするなんて本当に珍しい。

 

「初心者殺しをここまで追い詰めるなんて相当な手練れだと思うのよ」

「そこらには爆発跡だから爆発魔法。 こっから察するに、魔法職か、魔法を扱える職業かな? それとそこらへんに飛び散ってる金属片は武器の破片かなぁ?」

 

クレメアの言いたいこと、フィオの推理を聞いて僕も彼女に興味が湧いて来た。 僕はあの子が何者なのかを知る必要がある知れない。

赤髪のあの少女を探そうと言う2人に同意して僕たちは街に帰還した。

 

そして翌日。

僕たち3人は手わけして調査を行なうついでに少女を探した。 王宮から承った依頼はこの地に落ちた〈星〉の調査。

抽象的で流れ星こと隕石がここに落ちたならアクセルの街は消し飛んでいるはず。

なんにせよ手がかりが全くない状態なので、予言師の依頼の方は難航していた。 聞き込みをしようにも当ても何もないから余計に困る。

アクセルの街には予言師がいない。 駆け出しの街に予言師がいても仕方ないといえばそうかもしれないけど。

とまぁ、たまたま落ち合った先の、3人で入った喫茶店に例の彼女はいた。

 

「いらっしゃいませ! 3名様ですか?」

 

華やかな雰囲気のウエイトレスの格好をした赤髪青目の超絶な美少女だった。

 

「あ、ハイ」

「では、座席にご案内いたします!」

 

先導されて座席に着くと、彼女は注文が決まれば呼んでほしいと言い残してカウンターに引っ込んで行き、お冷やを3つとおしぼりをお盆に乗せて持って来てくれた。

 

「この〈店のオススメ〉ってメニューを3つお願いするよ」

「はい! かしこまりました!」

 

紅茶とケーキのティーセットを頼み、彼女の運んで来たケーキと紅茶を楽しみながら、僕たちは情報を交換して話し込んでいた時にふと視線を感じて、その視線を追ってみるとそこにはあからさまに神々しい光を放つ妖精が飛んでいた。

 

「ふむふむ、その剣は〈魔剣グラム〉ですか?」

「え? あ、あぁ、そうだよ。 僕の自慢の魔剣さ」

「あ、あの時の妖精!」

「か、可愛いー……」

 

妖精は僕の目の前に降り立つと、じっと見つめて来た顔に何か付いていますか?

いや、この姿どこかで……あ、デート◯ライブのヒロインの1人――長いこと読んでないから名前が思い出せない!

と、とにかくそのライトノベルのキャラに似ていた。

 

「ふむむ? この魔剣、あなたを正式なマスターと認めていないようですね。 どうやら仮初めのマスターレベルですか」

「へ? それってどういう」

「あ、失礼。 私の名前はハルナと申します。 星霊のハルナです!」

 

はぐらかされた! はぐらかしたよね!? ってなんだか違う感じの……星霊(ほしれい)

 

「星霊ってなに?」

 

クレメアが興味津々に聞くと、彼女はにこやかに対応してくれた。

 

「はい、星霊は管理を任された管轄の、数多の恒星を、その創生から消滅までを観測する者ですね。 創世神に作られた〈四の真なる者(オリジン・フォー)〉の1柱でもあります。 ちなみに私は宇宙創生から生きています。 だから、かなり長生きなので当然あなた達の年上ですからね!」

「なにその壮大な寿命!?」

「いや、待って。 この子から感じる魔力トンデモナイ事になってるんだけど、ナニコレ一体!?」

「お、落ち着くんだ二人とも!」

 

混乱する二人を宥めながら、僕はもう一度星霊を名乗るハルナさんを見つめてみた。

 

「ステータスはかなり高めですね、えっとあなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

「あ、僕かい? 僕はミツルギキョウヤ。 この子はランサーのクレメアでこっちの子は盗賊のフィオだよ」

「ミツルギさんですね。 ひとつ依頼を受けてもらえませんか? 場合によったら、グラムの性能を強化して差し上げますから」

「え、グラムの強化を?」

「その気になれば神造兵装(ラスト・ファンタズム)クラスの武器、道具を私は創れますから、その辺の宝具(ノーブル・ファンタズム)の調整をする事くらい簡単にできますよ? あなたを正式なマスターにとまではいけませんが、認めさせる事のアドバイスも致しましょう。 ね、悪い取引じゃないですよね?」

 

その条件ならと、僕たちはハルナさんの依頼を受ける事にしたその内容を聞いて、僕たちが耳を疑ったわけなんだけど、それはまた別のお話。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

俺はバイトを終えてから晩飯を食べようと冒険者ギルドに行く。 昨日か一昨日かに勇者候補の魔剣使いがこの街にやってくると言う話も他の聞いていたがあまり気にしていなかった。

こちとらこの前初心者殺しに殺されかけたわけだし、ちょっとの間冒険はやめておこうと思っていたのだが。

 

「と、言うわけでパーティーを組まないかい?」

「なんで俺なんだ?」

 

俺はソードマスターの転生者を名乗るミツルギキョウヤに、パーティーに誘われた。

 

「君があの初心者殺しを弱らせたんだろう? なら、君はダイヤの原石と言っても過言じゃないほどの実力を持ってる事になる。 そんな優秀になる事が約束されたような人材を君は見逃せるかい?」

「いや、待て。 俺を過大評価しないでほしい」

「謙虚なのは大事でいい事だね。 だけど、卑屈になるのは良くないよ、ハルヒトさん」

「卑屈になんかなってねぇよ!? 自信くらいは持ち合わせてるよ!?」

 

このイケメン、俺をバカにしているのだろうか? 軽く上から目線だし、そのくせに悪気は感じないから余計に腹がたつ。

女冒険者二人、ランサーと盗賊を連れているのだが、遠距離と近距離をこなせる冒険者の仲間を欲しているらしい。

で、この前の初心者殺しを討伐したのが彼らであり、あそこまで弱った初心者殺しを見るのは初めてだったらしい。 奴をあそこまで弱らせたその手腕をぜひうちのパーティーで発揮してくれないだろうか? とミツルギは俺に持ちかけてきたのだ。

 

「ソロでやっていくのはさすがに世知辛い世界だよ? レベリングを安全にしたいなら僕たちがサポートする。 僕らは未来のパーティーメンバー候補を見極められる。 どうかな、お互いにwinwinでいい関係じゃないかな?」

「……そりゃそうだろうなぁ。 俺には得しかねぇが、あんたらのいくクエストについて行って、ステータス差で足を引っ張りかねないぞ?」

「大丈夫さ。 僕たちがキチンと護衛と君のレベルが上がりやすいようにサポートする。 だから、一週間だけ臨時パーティーとしてうちに来ないかい? これでも僕は、王都で名の通る冒険者だからね」

 

ミツルギは俺のレベルに合わせてクエストの予定を組むと言った。 普通ならこの提案は超がつくほどの待遇なのだろうが……

 

「わかった、わかった。 じゃあ、3日待ってくれるか? こっちもいろいろ準備があるし、白シャツとジーンズじゃあんたらの冒険について行ける自信がねぇ」

「わかった。じゃあ、3日後にここでまた会おう」

 

そう言うミツルギに、俺はソードマスター様の一行についていくことになったわけだ。

今現在、俺のレベルは5なんだが、本当にこいつらについて行けるのか、不安だ。

 

ちなみに取ったスキルは

 

双剣、弓、片手剣、狙撃、中級魔法、軽業、中級強化魔法、武器魔法付与、爆破魔法付与、筋力強化、体力強化をとってある。

ステータスは

筋力 13 体力 20 知力50 魔力 99+ 敏捷41 器用36 幸運 30 となっていた。

 

まぁ、頑張りますか




次の話からミツルギパーティーと冒険スタート! さぁどんな試練になるのか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔との会敵を!

ミツルギ御一行とともにアクセルの街を出て2日目。

俺たちは目的の場所である火山エリアの中継の街、アスナイによっていた。

アスナイ……明日がないとも読めるこの街の名前に俺は若干引いたが。 で、俺たちはアスナイの酒場にて夕食をとっていた。

 

「たかだか2日でレベル25になるとか思ってもみなかったよ。 一昨日までレベル15だったのに」

「はは、僕のレベルも1つ上がったよ。 ここら辺のモンスターの質が良すぎるんだろうね」

「キョウヤ、見て! 私もレベル上がったわ」

「あたしの槍さばきも上手くなったでしょう?」

 

キョウヤが相槌を返し、フィオがキョウヤに自身のレベルを見せてクレメアは槍さばきを自慢する。

アクセル付近もそこそこ強いモンスターがいると聞いていたが、一撃熊とマンティコアの縄張り争いにかち合って襲われた時に爆撃矢で迎撃、一撃熊の目を射ぬいたついでに起爆して頭部吹き飛ばして斃し、レベルが4上昇。

マンティコアの蝙蝠の羽付け根あたりに投擲ナイフを投げつつ起爆して羽をへし折り、撃墜。 ヘイト集めんのも嫌だったので、飛行するモンスターが総じて弱い火の魔法剣と氷の魔法剣のエンチャントを施して落下ダメージの抜けきっていなかったマンティコアに突撃。

首元執拗に狙い、氷属性付与の黄昏の剣を首に突き刺して爆破付与の爆破。 首と胴を別れさせてやり倒して、レベルが5上昇。

ちなみに、黄昏の剣は魔法耐性に強いので、爆破に使っても形が残っていて、刀身に軽くヒビが入る程度のダメージだった。

鞘に収めておけば勝手に周囲の魔力か俺の魔力を吸って自己修復する優れものだ。

ちなみに、この剣はハルナに貰ったものだけどな。

 

「ゴブリンの群れやらコボルトの群れに遭遇すればそりゃレベルも上がるわな」

「一体あの5日で君に何があったんだい。 魔物相手に躊躇いがないと言うか、絶対倒す意思と言うか」

「なーに、3日で白狼倒しまくって勘を鍛えたんだよ。 あと、殺らなきゃ殺られる世界だし」

 

魔物がどう動くのかを多角的に見て観察した上で、対策を練りつつどう動けば優位な立ち回りをできるかを考える努力をしているわけだ。

ちなみにだが、装備作成のためにアクセル付近の白狼を討伐もしくは追い払いまくったので、レベルを3日で15にした。

コツさえつかめば爆破で追っ払うのも、討伐するのも楽だった……初心者殺しと対峙して生き残ってる時点で俺もそこそこ運がいいみたいだ。 慢心だけはもうしたくないから、作戦に隙がないかとかは入念にチェックするようにしているが。

 

「やっぱり、初心者殺しを討伐寸前まで痛めつけた戦術眼はまぐれじゃなかったんだね」

「いや、俺だけじゃ死んでた。 間違いなくハルナが近くにいてくれたからとも言える」

 

ハルナの忠告に耳を傾けていれば、初心者殺しとの遭遇の危険性はなかったはずだ。

 

「あの時もハルナの一喝がなかったら、身動き取れぬまま初心者殺しの奴に首なり足なり折られて嬲り殺しにされていただろうさ」

 

俺はあの時の、初心者殺しとの殺り取りの顛末をキョウヤたちに話した。 生きるか死ぬかのやり取りのだったし。

 

「な、え……そんな過酷な状況で生き残れたのかい!?」

「おう、そだぞ? なんか問題でもあるのか?」

「ハルヒちゃんって意外と大物?」

「あたしだと諦めかねない状況だわ!?」

 

三者三様で驚くミツルギ御一行……当然の反応だよな。

 

「初心者殺しは一刀で斬り伏せていたから、そこまで手強い相手とは思わなかった」

「よし、グラムじゃなくて鉄の剣で初心者殺しと殺りとりしてみようか!」

「ウエイトプリーズッ! 君の話を聞くと自信がなくなったから!」

 

そんな漫才以下の茶番はともかく、俺たちは本来の目的である、火山で何をするのかのうち合わせをする。

今回の火山に行く理由は鉱石の採取、それからこれから秋に変わるため生態系に変化の出る季節という事で、竜種の調査だ。

 

「この季節に火山にいる竜種と言えば、ファイヤードラゴン、ブレイズワイバーン、エンシェントドラゴンだね。 僕もドラゴン退治を何度かしているから、その種類のドラゴンは何体か討伐してる」

「さすが竜殺しの魔剣グラムだな」

「そうじゃないわ、ハルヒちゃん! キョウヤもすごいのよ!」

「まあまあ、クレメア。 落ち着いて」

 

グラムの竜殺しでドラゴン倒したんじゃーねーのか? と俺は茶々を入れた。

 

「でも、まぁとんだイレギュラーな存在もいる――骸竜が出たとか言う噂も聞いてる」

「骸竜?」

「鉱物を食べる竜で、正式な名称はスカルヘッド・ドラゴンだよ。 頭部に竜の髑髏を被ったような模様が特徴があるよ。 竜のランクとしては下位だけどね」

「そいつも間違いなく竜種の特性、龍壁(ドラゴン・ウォード)もあるんだっけ?」

 

俺は知識を交換する。 ちなみにハルナはたらふく食べて俺の頭の上で仰向けに張り付くような体勢で寝ている――お前はリスザルか。

龍壁(ドラゴン・ウォード)。 それは、下位ドラゴンであっても最強生命体たる格を与える能力である。

竜種はもともと下位だろうが膨大な魔力をその身に宿しているが、この龍壁はその膨大な魔力を障壁に変換、常時展開してその身の硬さを増している障壁なんだとか。

要するに、ドラゴンを狩るには龍殺し(ドラゴンキラー)の属性で龍壁を破壊、貫通させないといけないのだ。

もしくは大質量の魔力で龍壁ごと潰すかの二択だ。

龍壁の魔法耐性はセイバークラスの対魔力相当(あくまでもミツルギの話)なんだとか。

魔法にも、物理にも強いトンデモ生命体。 それがこの世界の竜種なのだ。

 

「まぁ、ドラゴンに遭遇してもすぐに撤退するよ。 さて、今回の納品指定鉱物はアダマンタイト。 希少鉱石に違いはないけど、この前の調査で大鉱脈が発見されたので、国有の鉱脈になってる。 で、今回の依頼は王室からの直々のものなので、ある一定量以下なら冒険者がその一部をもらっても構わないことになっているよ」

「なるほどな……火山の素材クエストG級ってわけか」

 

某モンハンのフィールドも鉱物の宝庫だったのを思い出す。 御守りの発掘にも精を出してたっけなぁ。

 

「じーきゅう? ナニソレ」

「あ、なんでもないぞ」

「さて、明日は火山に出発する! 各々準備と補給をキチンと済ませておくように! じゃあ解散!」

 

一応リーダーのキョウヤが解散の号令を出したので、俺たちは明日に備えて準備と物資の補給を終わらせて3日目の夜は暮れていった。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

「ハルヒちゃん! そっちの奴落として!」

「任せろ。 吹っ飛べ!」

 

フィオの要請で俺が狙撃した昆虫モンスター〈ドレイクビー〉の群れのど真ん中で、爆破付与した矢弾が無属性魔力を撒き散らしながら爆発して群れを吹き飛ばした。

ドレイクビーは大型化した鎌のような前脚を持つ巨大な肉食の昆虫だ。 本来なら1匹で行動することが多いが、近くに巣があるようで複数体の群れが行動していた。

 

バラバラと昆虫の足やら内臓が焼き滅ぼされて他にぼとぼとと落ちていく様はSAN値チェックのダイスを振りたくなるほどの様だった。

まぁ、ゲームじゃないんで現実逃避はできません!

虫の群れはともかく、俺たちは火山内には立ち入らず、周辺の探索を行った。 アダマンタイトの鉱脈は火山の外周にあるのだとか。

 

「〈遠視〉でこの辺りを見て見たんですけど、どうやら一悶着ありそうですよ?」

 

呑気なハルナの声に俺は過剰反応しそうな心臓の早鐘を抑える。

 

「一悶着? なんだい、それは」

「あ、みなさん伏せてくださいねー」

 

一同が『は?』と言う顔になったら突如として遠方から炎の塊が――ってえ!?

俺の頭から飛び立ち、手を突き出してハルナは言葉を紡ぐ。

 

「曲がりに()がれ、次元よ曲がれ。 展開、次元歪曲フィールド」

 

ハルナのつぶやきの直後に空間が捻れる曲がる。 歪な湾曲した結界にその塊は直撃して閃光と轟音が響き渡った。

閃光の規模から見て、俺たちが立っていた場所の地面が消し飛ぶくらいの威力じゃないか、今のは!?

 

「な、なななな!?」

「なんなのよ、今のはぁぁ!?」

 

フィオかビビり、言葉にできないことを代弁するようにクレメアか絶叫した。

爆破魔法使うせいで、爆弾魔扱いの魔法剣士になりつつあるから、俺ははそこまでビビってないんだからね!?

 

「今のは一体?」

 

呆然と俺が言うとハルナがその疑問に応えてくれた。

 

「エンシェントドラゴンの老生体と強力な個体の、若いエンシェントドラゴンが縄張り争いをしてるみたいですよ? ここだとまた流れ火焔ブレスが飛んできますから、洞窟に避難しましょうか」

 

ハルナの提案に俺たちは素直に従い、洞窟に逃げ込んだ。

 

「それにしても、エンシェントドラゴンの老生体か。 彼らは年を重ねるごとに魔力が莫大なものになるとも聞くからさすがにグラムでも退治できなさそうだ」

「ちなみに、ドラゴンのブレスは全てを燃やし尽くす龍属性の魔力ですので、あの場で私が防がなかったら皆さんが問答無用で消し炭、灰燼に帰す惨状になってたかもです」

 

さらっと言うハルナの言葉に俺たちは青い顔になる。

 

「やっぱり火山も世知辛いな! これだからドラゴンとか嫌いなんだよ! ――もしかして、あの時は走っても逃げれなかったのか?」

「私が次元歪曲させて防いだのにもきちんと理由があります。 ドラゴンのブレスは人々の使う魔法をも焼き切りますので、結界や加護程度じゃ防げません。 マスターの言う通り、逃げたとしても理不尽すぎるその破壊力で周囲もろとも吹き飛ばされてたに違いないですので、私が防ぐしかなかったと」

 

……アクセルに帰りたい。 そう思った俺は悪くないだろう

 

「この辺にもアダマンタイトの鉱脈はあるはずだから、採取を済ませて街に戻ろうか。 さすがにドラゴン2体を相手取る勇気は僕にもないよ」

 

ミツルギは苦笑い(引き攣った無理な笑顔)しながら提案する。 それに俺たちは乗った。

そんで暫くして、洞窟の奥の方にてアダマンタイトの鉱脈を見つけた俺たちはツルハシで壁を叩き、指定量の鉱石を取ると、すぐにきた道を引き返す。

が、フィオがそれに待ったをかけた。

 

「敵探知に反応があるよ!」

「サイズは?」

「かーなーり、大きい……いやまって。 私たちの上にいるんですけど!?」

「! みんな、散開するんだ!」

 

キョウヤの指示に従い、俺たちは散った。

直後に轟音。 落ちてきたのは、がっちりとした四肢を持つドラゴンだった。

 

IGAAAAAッ!!

 

咆哮が洞窟に轟く、俺たちの前に立ちふさがるは骸龍、スカルヘッド・ドラゴンだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この暴龍からの逃走を!

「退路を断たれた!?」

「みんな、注意するように! 指示を出す余裕はなさそうだから、隙を見て撤退できるようにしておいてほしい!」

「「りょーかい、キョウヤ!」」

「わーったよ――チクショウ、最近ろくな目に合わねえよ!? みんな、エンチャントくわえとくぞ!」

 

俺は剣を抜くと、氷の魔法剣と風の魔法剣を発動しつつ、他の面々の武器にも魔法剣を与えた。 適当に(クレメア)(キョウヤ)(フィオ)に与えておいた。

 

「どの属性が弱点かはわからん、ハルナ。 奴の情報は!?」

「現在、該当データがないんだよマスター! アレのデータが無いから、解析中! ちょっと持ちこたえて!」

「データが無いだと!?」

 

ハルナが言うにはあのドラゴンは突然変異体の属性らしく、該当データが無いと言うのだ。

星のマナからデータを取っているハルナの言うことは正しい情報だ。

 

「仕方ねぇ、行くぞ!」

 

ハルナに解析を任せると、俺は暴れるドラゴンに攻撃を仕掛けた。

 

右手の逆袈裟斬りから切つけるが弾かれ、反動を利用して上段から左手の氷の剣を叩きつける――が、ギィィィッンッ!と当たり前のように弾かれた。

振り回される尻尾に気がついてその場でしゃがんで回避、バックステップで距離を取りながら、キョウヤ、クレメアと変わる。

俺は剣を鞘に収めて投擲ナイフを二本手に取るとに魔力を充填、飽和ギリギリまで魔力を溜め込んだナイフをドラゴンの鼻っ面に投げつけた。

すぽっと1つが龍の鼻の穴に飛び込んでマナが溢れ出て弾け、2つ目のナイフが仰け反って開いた口の中に飛び込み内部で爆発した。

体内粘膜内で、無属性の魔力の拡散は流石に効いたようで

 

GIGAAAAッ!!

 

直後に怒りの咆哮をあげていた。 骸龍の目の周りが赤く発光して四肢からも同じような光が見える。

 

「頭吹き飛ばすつもりだったが、どんだけタフなんだよあん畜生め――よく見たら、ティガ◯ックスに似てるなおい!?」

「いや、メタい事言ってる場合じゃ無い!」

 

ミツルギのツッコミは、怒り狂った骸龍の咆哮にかき消され、奴っさんはあちこちに走り回り突進を繰り返す。

見た感じ、黒◯龍だよ!?

 

「解析完了! ってこのスカルヘッド・ドラゴン……上位個体ですよ!? これはまずい、今のミツルギくんとグラムじゃあの鱗は切れませんよ!? あの鱗……アダマンタイトの成分が出てます!」

「んだと!?」

 

ハルナの叫び声を聞き、グラムを突き立てようと頑張っていたキョウヤもなんだってと言わんばかりの驚きっぷりだった。

確かに、先程から闇の魔法剣付与のグラムを火花を散らしながらはじきかえすあの鱗は硬すぎる。

クレメアもフィオも頑張っちゃいるが……このままじゃジリ貧だ!

 

「龍壁を無力化するには龍殺しが必要……キョウヤのグラムならなんとかできるのか!?」

「わからない! グラムはまだ僕を仮初めの所有者としてしか見ていないんだ!」

「なんだと!?」

 

つまり、グラムは本来の持ち主であるジグルド以外には使われたく無いってのか!?

 

「ええい、四の五も言ってられねえ! ちょっとばかしか奴を抑えてくれ! 1分でいい!」

「! わかった、2人とも時間を稼ぐよ!」

「わかった、任せなさい!」

「頼みますよ、ハルヒちゃん!」

 

俺は中級魔法、アイクシル・ランサーを放ち、ドラゴンを牽制しつ、ナイフを手に取り魔力を充填。

俺は体にエンハンスド・ツヴァイを与えて身体能力を二倍にするとドラゴンの動向を観察する。

動き方の擦り合わせを慎重に……行動パターンを頭に叩き込み、戦術を組み立てる。

即興の罠、落とし穴は作れる。 たとえナイフが数本でもやってやる!

そこに行くまでに導く誘導の罠と、挑発。 ヘイト管理をしくじれば間違いなく全滅する。

リスキーだが、俺に見えたのは1つの作戦しかなかった。

 

「よし。 みんな、あとは俺に任せてくれ!」

「無茶はしないでくれよ! ケンナシくん!」

 

俺はナイフ足元に4本突き刺してその場を離れる。

並列思考のスキルを用いて演算。 右手に魔力球を浮遊させるとそのなかでアイクシル・ランサーとヴィンド・スラッシャー、フレイム・ブラスターを同時に発動させる。

高速詠唱のスキルで詠唱は省けるので無し。 そして、左手に弓を持った。

 

「〈トライ・バースト〉オォォッ!」

 

俺は形状崩壊を始めた魔力球を引き絞り、魔導矢弾(トライ・バースト)を弓に、魔力で編んだ弦につがえて放った。

これは魔導矢弾作成のスキルで作り出せる魔弾で、魔導矢弾作成は魔法剣から派生するスキルの一種だ。

魔法を合成して魔法弾を作れるスキルだ。

トライ・バーストは氷、風、火を合わせて生み出される魔弾……その性能は辛い水蒸気爆発並みだ。

そのため、避けもせず当たった骸龍はと言うと強力な爆薬で顔を吹きとばされたようにダメージを負っていた

 

GAAAAA!?

 

怯んだ骸龍に対して俺は弓を放って氷の魔法剣を付与した剣の柄を握り、白刃を鞘から疾らせた。

疾る剣から空気中の水蒸気が固まった三日月塊……氷の斬撃が飛翔した。

斬撃は龍の顔に儚い音を響かせて砕け散りながら命中、絶対零下の温度は龍の目を、その粘膜を氷結させて奴の目を一時的に失明させた俺は挑発するように効かない中級魔法を雨あられと撃ち込こむ。 魔力残量は気にしない、疲労もないし、まだまだ撃ち込める。

龍壁に阻まれて有効打にならないチクチクと刺すように魔法を撃ち込んでみるがダメージは皆無みたいだ。

しばらくすると、骸龍は視力を回復させ、俺を睨めつけるように直視して、唸るそこにアイクシル・ランサーを撃ち込んで、挑発する。

 

「おら、こっちだ」

 

GAAAAAAAAAAaaa!!!

 

直後に怒り狂う骸龍、それを俺は冷静に見つめる。

地を蹴り、爪を振り上げて飛びかかってきた骸龍の手前には、着地予測地点には俺の張った罠が。

 

「じゃあな、デカブツ」

 

その声とともにナイフを起爆した。 縦に指向性を待たせて穴が掘られた。

そして骸龍は底に落ちて行くと、そこに俺は掘った穴の淵にナイフを投げて二本突き立てると爆破して岩、土を穴に降らせて奴さんを生き埋めにしてやった。

 

「埋めたのかい……?」

 

ミツルギの問いかけに俺は弓を回収して折りたたむと、矢筒に差し込んで固定しながら答える。

 

「奴がこの洞窟の天井を登ってたのを見てな……埋める方がいいと思ったのさ。 まぁ、穴を掘れるドラゴンだとかなら自力で出てくるだろうし」

「じゃあ、逃げるが」

「勝ちよね!」

 

フィオとクレメアの意見をミツルギはわかったと受け入れて俺たちは逃走した――それはもう、見事にな。

それからしばらく、洞窟を抜けて火山地帯を走り抜いた俺たちは振り返った。

 

「やれやれ、なんとか事なきを得たとも言えるね」

「最後のやつすごかったよ、ハルヒちゃん!」

「うん、真面目に1人であんなことするなんて」

 

逃げ延びた俺は、3人に感謝なのか嫉妬なのかわからない感情を感じた。

ハルナに遠視を頼むと、快く引き受けてくれた。

 

「エンシェントドラゴン達はもういないようですね。 遠視で探しても見えませんので……あ」

「なんだ、その「あ」っていうのは!?」

 

直後に、地震のような揺れとともに、大地がめくれて黒い影が飛び出した。

 

GAAAAAAAAAAaaa!!

 

天を衝く咆哮、発光した目の周り、赤い四肢……激昂した黒き暴龍が、そこにいた。

威嚇のつもりか、骸龍は吠え唸っていた。

 

「やっぱり穴掘れんのかよこいつ!?」

「「ぎゃー!?」」

 

クレメアとフィオがハモりながら悲鳴をあげる。

 

「やっぱり、アダマンタイトを持ってると狙われるみたいだな!」

「アダマンタイトのコーティングされた鱗、骸龍の主食は鉱石……あり得なくないね!」

「つまり、アスナイまで逃げてもこいつは追ってくるぞ、間違いなく」

「なら、ここで……倒すしかない」

 

ミツルギは覚悟を決めたのか剣を抜く。

 

「みんなは先に逃げてくれないか? ここは僕1人で食い止めるか――「ふざけんじゃねぇよ、このバカが」……え?」

 

俺も剣を抜き、左手に取り出した弓を持つ。 矢はあと7本ある。

 

「お前だけ残して俺たちが逃げれるわけねぇだろうが。 だいたい、クレメアとフィオが黙っちゃいねぇぞ、ミツルギ」

「そうよ! 私達だって戦えるんだから!」

「キョウヤが死んであたしたちが生き残るのなんて絶対ナンセンスなんだからぁぁあ!」

「みんな……ありがとう!」

 

俺たちは各々の得物を構えた。

 

「さあこのドラゴンを――」

 

「「「狩るよ!」」」

 

さぁ、狩の時間だ!




たくさんの評価ありがとうございます。
とまぁ、評価とお気に入りでモチベーション保ってるわけじゃないんで酷評なりなんなりはご自由にどうぞ。

あくまでも私は、描きたいように書いてまいりますので


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴龍と決着を! そして新たな始まりを!

黄昏に染まる地平、空は夕闇に染まりつつあった。

四肢を突っ張り、天に(カシラ)擡げる暴龍は爆音と遜色なき咆哮をあたりに轟かせる。

 

GURUGAAAAッ!!

 

「日が沈むまでに決着をつけよう!」

「了解、来るぞ!」

 

俺の言葉にミツルギたちが反応して、散会する。

直後にドラゴンが突進、ヘイトは俺に向けられているようだ。

4対1。 数字にすれば大きな差だが、結局のところそれは意味がない――俺たちと龍の、その戦力差は10対4とも言えるのだからな。

 

「ミツルギ、お前は魔剣に問いかけろ! お前の意思を組んでくれりゃグラムも手を貸してくれるだろうさ!」

「やってみる! 2人はスカルヘッド・ドラゴンの足止めを! ケンナシさんはどうす――!」

「この状態だ! お互いに、この局面で生き残れるように努力しようぜっ!」

 

ミツルギに一方的な返事を返しながら俺は、矢に魔力を込めておく。

骸龍(スカルヘッド・ドラゴン)の攻撃範囲に注意をしながら、バックステップで距離を取り、大木のような尻尾、鞭のようにしなるそれを避ける。

クレメア、フィオは龍の動きをよく見て躱している。

 

〈みなさんに私のパスをつなぎました、マスター! 瞬間反射(リ・ダイレクト)で思念会話できるので、活用してください!〉

『ナイスだ、ハルナ! みんな、ハルナのアドバイスを聞いてくれ。 活路を見出すヒントになるかもしれない!』

 

俺はハルナが張ってくれた思念会話経路(パス)でコイツが解析した今戦っているこのドラゴンが持つ潜在性、行動とその予備動作を伝えた。

すると、被弾ギリギリの攻防をしていた俺たちは余裕を持ってドラゴンの攻撃を避けれるようになってきていた。

 

「こっちの動きに無駄がなくなって、余裕が生まれたからか? 冷静に判断ができるぞ」

「確かに、あそこまで正確な情報だと避けることが難しく無くなるね」

 

右手の剣でドラゴンの振り下ろされる爪を受け流して躱し、遅れて来る尻尾を前転回避で避けながら距離を取るとそこに入れ違うようにミツルギのグラムが空を切り裂き、龍の皮膚を切り裂いた。

ここ数分の攻防のうちで、龍壁(ドラゴン・ウォード)にも綻びが出てきたのか、あちこちの鱗が剥がれて皮膚が見えるようになっていた。

龍壁の弱点は、執拗な攻撃を受けると徐々にその堅牢さが損なわれていくことだろう。

底なしの魔力とはいえ、媒体である龍鱗がなけりゃ龍壁は有効にならないと、ハルナの言う通りだった。

龍鱗は魔力を注ぐと龍壁を発生させれる。 なので、盾の素材に使えて、龍属性の魔力を唯一弾ける最高級の性能を持つ盾の作成に使われる。

龍鱗を龍の血とともに鉄などの金属、合金に溶け込ませればドラゴンキラーメタルとなり、龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の武器を作成できるわけだ。

なお、ミツルギのグラムに関しては神の作り出した神造兵装で、神器な訳だが。

夕暮れは迫り、もう時間がない。

 

「タイムリミットも近いか……仕留めれるのか」

 

キョウヤの弱音を聞いた俺は、念話で話しかける。

 

『ミツルギ! 一か八か、やりてぇことがある。 ハルナ、アレはできたか?』

『もちろん、加工完了です!』

 

だんだんとこちらのスタミナも無くなっている、ジリ貧になりかねないから打って出ることにした。

 

『ミツルギ、タイミングを合わせて俺をグラムに乗っけて空にカチ上げて欲しい』

『何する気なの!?』

『空襲するつもりですか?』

『フィオ、正解だ。 「奴を殺せる(それができる)」矢をハルナに造ってもらった』

 

俺はミツルギたちに作戦の詳細を話す。 このやり取りの中でも暴れまわるドラゴンの攻撃を避けているわけだが。

 

龍の爪を避けて俺は奴の懐に潜り込んで鱗の無い皮膚を氷の魔法剣の効果の残る銀狼の剣で切り裂いた。

鱗に対して肉質は柔らかいよう、俺は怯んだドラゴンの腹に振り下ろし、横薙ぎで十字に切り裂いてバックステップ。 魔力を収束させて氷の鏃を生み出すと左手の弓に番えて魔力の弦を引き、鏃をその傷に向けて放つ。

 

GAAAAAAAAAッ!!?

 

肉が凍りつき、激痛が龍を襲う。 ヘイトが俺に向けられて龍の目に憤怒が灯り、咆哮している隙に俺はミツルギのグラムに乗る。

 

「行くよ、ケンナシさん!」

「おう、頼むぜ!」

 

ミツルギがグラムを振り抜き、その上の俺はカタパルトが如く跳んだ。

左手の弓に〈魔法剣 風〉を付与。 飛びながら、架空に手をかざしてハルナに頼む。

 

「ハルナ、頼む!」

「工程完了! 〈アダマンタイトの矢〉、完成です!」

 

ハルナに造ってもらったのは、あの骸龍の鱗を素材に、アダマンタイトを掘った時に出た鉄鉱石を合わせて作り出した全てが金属で構成された矢だ。

全体の重さは4キロはあろう鏃の主成分はアダマンタイト。 これなら貫ける(・・・)

俺は自由落下しながらハルナの作り出した矢を番え引きしぼり、魔力を注ぐ。 〈魔法剣 雷〉付与!

 

「往生しやがれぇぇぇぇ!」

 

魔法剣 風 の効果で弓から射出されるものには〈加速〉が与えられている。 加速付与によって初速98m/sの矢が飛んだ。 その速度、新幹線より少し早いくらいだ。

放たれた矢はこちらを見上げる骸龍の眉間、頭蓋をぶち抜き貫いた。

そして魔法剣の魔力が弾けて雷に、放電される。

 

GAOOOONE……ッ!?

 

骸龍の過電流が脳を焼き、その思考能力を殺す。 だがまだ奴の心臓は動いているであろうその肉体、本能は生きている……もちろんそれで終わらないとは読んでいた!

 

「今だ、キョウヤ(・・・・)ァァァァッ!」

「任せて!(信頼してくれる人がいる。 そして僕には仲間がいる!だから、その人たちに報いたいから……力を貸してくれ、グラムよ!) これで終わりだぁぁぁッ!!」

 

ミツルギが剣を構える。その剣からは暖かな波動が放たれ、神秘が漏れ出していた。

 

超克の龍断つ魔剣(トゥルー・オブ・グラム)ッ!!」

 

思わず「やっぱり型月要素混じってるよなこの世界」と言ってしまったが誰にもきかれてないだろう。

ミツルギがグラムを覚醒させ、瀕死の骸龍、その心臓に魔剣を突き立てると龍の口、鼻、目から、身体中から光が溢れて弾け、夕闇の空に一筋の光の柱が輝いた。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

朝が来たと思ったら昼前だった。 洗面所の鏡を見ながら髪を梳かして跳ね放題の寝癖を直し、顔を洗い歯を磨く。 ハルナに教わった薄い化粧をして身支度を整えると、金属鎧以外の服に腰のベルトに愛剣二本を佩く。 鎧とかはハルナの宝物庫(ストレージ)に保管させてもらった。

昨日のドラゴンとのやり取りを辛くも生き残れた俺は宿のチェックアウトを済ませてアスナイのギルド、酒場でキョウヤたちと落ち合う約束をしていたので、そこに向かった。

 

「やぁ、よく眠れたかい?」

「あぁ、泥のように眠ったら昼近くになっててびっくりしたぞ」

「ハルヒもお寝坊さんだね。 あたしも人のこと言えないけど」

「私たちも起きたのが先ほどでしたから」

 

酒場で朝昼兼の飯を食べながらこれからの予定を立てる。

丸2日をかけてアクセルに戻るわけなので明日にはこの街を出ることになった。

 

「それにしても、スカルヘッド・ドラゴンの遺骸をこの街に運ぶことになるとは思わなかったね」

「ハルナが運んでくれたから良かったが」

 

骸龍の身体は20トン近くあるはずだったが、ハルナはお得意の重力魔法でその重さを100分の1にして片手で軽々運んでいたが、それでも200キロ近くの巨体だったと思うが。

運ばれて来た骸龍の遺骸はギルドに収め、額が額だけにすぐにエリスが用意できるわけではないようで、後日その報酬が支払われるとのこと。

希少種の骸龍は今まで確認されていなかったために大発見。珍しいものだったので破格の報酬が支払われるのだとか。

ギルドの人の言う話じゃ5億エリスになるとの話だ。

 

「しかし、にわか成金とはまさにこのことだよな……」

「そうだね。 報酬は4分割で良かったのかい、本当に?」

「ああ、それで構わない均等にな」

 

後腐れは持ちたくないので、均等にしてほしいと俺がミツルギに頼んだ。

 

「さて、僕たちの冒険も残すところ、あと2日だね。 これまで、どうだった? ハルヒトは」

「いいパーティーだと思うぜ。 けどまだ俺はキョウヤたちについていけない。 今回はうまく言ったけど、今度はどうなるか、わからなねぇしな」

 

俺はキョウヤに改めて一緒には行けない、と伝えた。

 

「そうか。 でも、王都にはいつか来てくれないか? 君のことは王室に話さないとならないから。 僕がここにいる理由を知ってくれているとは思うけど」

「もちろん、わかっている。 いつか俺がお前たちに追いつける日が来たなら、共に戦ってもいいと思ってる。 だからその日まで待ってくれないか?」

 

俺の提案にキョウヤはわかったと首を縦に振ってくれた。

 

「なら、王室には君のことを星霊の巫女が現れたとだけ伝えておくよ。 まだ時ではないと君からの伝言があったと伝えておけば国王様もわかってくださるはずだ」

「わかった。 その辺はキョウヤに任せるよ」

 

こうして、俺は改めて断りを入れて、アクセルへの帰路に出発した。

 

 

そしてあれから一ヶ月が過ぎて空は高くなり、秋も過ぎ去ろうとしている今日、あの人に出会った。

 

「そこのあなた、私たちにお金を恵んでください!」

「なんでここにいるんだ、アクア様?」

「ほえ?」

 

青い髪に青い瞳を持つ俺を導いた彼女(女神)がそこにいたのだから。




と言うわけで、プロローグの0章はここまでとなります。
次回からは原作に突入!
と言うことで今回はここまで! 失礼します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

主人公設定

とりあえず、主人公の設定だけは上げておきます。


主人公 ケンナシ ハルヒト (剣無 春人

 

性別 女(精神♂

 

職業 魔法剣士

 

経歴

 

猟奇殺人犯から元カノを護った末に人生を終えた男子高校生だった少女。

女神アクアより賜った「特典」のデメリットの因果逆転による呪いで男から反転して性別が女になってしまった経緯を持つ転生者。

ステータスにもバグが生じているために物理型の潜在ステータスが知識型にひっくり返っている。

実はそのほかにも様々と反転している。

 

容姿

ミス・ブルーこと蒼崎青子に似ていて、赤髪青目で端整な顔立ちに出るとこはきちんと出ているナイスバデーの持ち主である。

 

性格

平凡を愛する少女で、できるだけ楽をしたいが冒険もしたいと言う歪んだ行動理念を持つ変人。

「紅魔族」のゆんゆんに対しては不憫だと思う一方で、「普通の紅魔族」にも柔軟に対応することができる。

コレは二ヶ月この異世界で過ごした中で、濃厚で色々な出会いを経験して人としても成長しているためにある。

ちなみに、男だった前世の影響で女としてはだらしなく、色々とガードが緩い少女になってしまっている。

そのためか、カズマにはある一件以来「処女ビッチ」のあだ名をつけられている。

カズマ…いや、カスマさんの理性は持つのだろうか(主に精神BLに

 

ステータス…1章開始時点

 

レベル40(実際のレベルは80超えている)

 

筋力 63

体力 84

知力 112

魔力 999(カンスト、バグ表記

敏捷 140

器用 115

幸運 100(カンスト

 

習得スキル

弓(派生に狙撃

片手剣(派生に双剣

中級魔法(派生に中級強化魔法

 

簡易魔法説明

 

フレイム…火の魔力を撃ち出す魔法

フレイム・ブラスター…ハルヒトの使える魔法で最高の威力を持つ直線照射型魔法。 ハルヒト命名は火炎放射器。

アイクシル…氷の小さな氷柱を撃ち出す魔法

アイクシル・ランサー…立派な長大な馬上で使う突撃槍(ランス)に匹敵する大きさの氷柱を撃ち出す魔法。 着弾箇所を凍らせて足場を悪くする副次効果がある。

ウインドノック…空圧式打撃魔法。 ピンポイントで放てば大木にも穴を開ける打撃力を出せるが、それをするためには高い器用のステータスが必要。

ヴィンド・スラッシャー…風を圧縮して鎌鼬を作り出し、対象の魔物を切り裂く魔法。 鉄は切れないがイノシシの皮程度なら軽々切り刻む威力を持つ。

ロックエッジ…鋭い石刃を生み出し、撃ち出す魔法。

ストーンランサー…対象の足元から石刃の槍を作り出して串刺しにする。 自分を中心に範囲設定すると、対集団でも使える。

エンハンスド…初段の身体強化魔法。

エンハンスド・ツヴァイ…二段階目の身体強化魔法。 自身の身体能力を倍加する効果を持つ。

武器魔法付与(魔法剣と武器爆破魔法付与

 

魔法剣…魔法「剣」とは銘打っているが、武器であれば何にでも追加属性効果を付与できる万能魔法。

 

簡易魔法剣説明

 

魔法剣・火…炎熱を刀身に纏わせて高温で焼き切る効果を持つ。 また、魔力を燃焼させ斬撃を飛ばすことも可能。

魔法剣・氷…全てを凍てつくす冷気を刀身に纏わせて対象を氷結させながら砕き散らす効果で防御弱体化のデバフを与えることが可能。

魔法剣・風…刀身に風を纏わせて対象を削るか切り裂くかを使い分けれる効果を持つ。 効果時間を犠牲にして瞬間的に射程を伸ばせる。

魔法剣・地…刀身の耐久性を底上げしつつ、打撃ダメージを重点に置いた魔法剣。 「重みで物を叩き切る」に特化している。 追加効果として毒状態にすることもある。

魔法剣・光…遠距離攻撃特化の魔法剣。 武器を振るう度に光弾を放つことが可能で、対象以外の物体を透過させることもできる。

魔法剣・闇…斬、壊属性を活性化させて、武器に凶刃の効果を与える。 冥府の魔力でもある闇だが実はアンデット、悪魔に対して特攻を持つ。

 

武器爆破魔法説明

 

武器に魔力を宿し、魔力暴走を引き起こすことで無属性の爆破ダメージを与える付与魔法。

魔力の規模に比例して威力が増す効果を持ち、金属製の武器に付与して爆破すれば地雷のように使うことも可能。

基本的に武器を犠牲にして発動するタイプの魔法ゆえに使い手は少ない、武器を破壊することは非効率的であるためだとか。

現地では爆裂魔法に次ぐネタ魔法として認可されている。

 

自動スキル

 

筋力強化…戦闘興奮時、筋力ステータスを5%強化する自動スキル

体力強化…戦闘興奮時、体力ステータスを10%強化する自動スキル

 

装備品

 

頭から順に

 

頭…疾風の羽根飾り

体…超霊銀(ミスリルダイト)の胸当て

右手…超霊銀の籠手(ガントレット)(アクセサリに白狼の弽、魔法強化のルーンを刻んだ帯を巻いている。

左手…超霊銀の手甲(グローブ)(アクセサリに、メギンギョルズ(準神器の力の帯)

腰…白狼の皮編みベルト(アクセサリに矢筒、魔法金属の草摺り、ポーションポーチ、鞘二本

脚…烈風のブーツ(アクセサリはなし

背…マギリング・クローク

 

武器

メイン

右手…黄昏の剣(トワライト・ソード)

左手…聖暁の剣(サンライズ・ソード)

サブ

右手…投擲ナイフ(8本

左手…イチイの弓

 

対人関係…1章内

 

カズマ…仲間の(主にアクア)騒動に巻き込まれる哀れな冒険者(笑)で放っておけない奴。

何かと世話を焼いてしまい、自分の屋敷に居候させている転生者仲間。

 

アクア…女神と言う正体を知ってるが、その性格を知って以来女神と扱えなくなってしまった可哀想な人。




次の更新はGW中になるかも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章 出会いの秋!(あぁ駄女神さま)
この出会いに祝福を! ようこそ異世界へ!


更新がGWなると言ったな…あれは嘘だ


部屋に差し込む朝日を浴びて俺は目を覚ます。

先日の轟龍モドキこと、スカルヘッド・ドラゴンの討伐のおりに出た報酬でとある屋敷を購入した。

その価格は2億エリスから値下げされて半額の1億エリスだったので迷わず購入した。

ちなみにだが、値下げの条件としてとある少女と同居状態にあるが。

 

「ふぁぁ…。 ん、おはよ。 アンナ」

《おはよう、ハルヒト。 今日は何をしに行くの?》

 

目の前の棚に置いてあるクマのぬいぐるみに声をかけると、挨拶が帰ってくる。

俺は軽く逡巡して今日の予定を立てる。 え? 誰と話してんのだって?

 

「そだなぁ……カエル狩りをして飯食って、狼退治をして風呂入って寝る。 こんなのだが?」

《えー、またカエル狩りなの? 私もさすがに飽きてきたのー!》

 

クマからぬぅっと少女が顔を出す。 むぅぅ、とむくれっ面をした宙に浮かぶ半透明な少女が俺にズズイっと顔を寄せてきた。

面白くないようだが、俺にも譲れない一線はある。

 

「バカヤロウ、お前は亡霊だから腹は減らんだろうが、俺は生きてる。 腹も減るし命も一つしかないだろ? 楽に稼げるならばそれに越したことはない」

 

相棒のハルナはまだ寝ているようで、無防備に臍を丸出しにして腹をボリボリとかく姿を見ていると、チート的存在とは思えないだらしなさだった。

白いワンピースを身に纏った小さな少女。 彼女はこの屋敷に憑いている幽霊のアンナ・フィランテ・エステロイドと言う。

俺は彼女を認識して視ることができて、話すことができる。 ぶっちゃけた話だが、ハルナの影響だろうと当たりをつけてはいるが、自信はない。

その要因は一切不明だからな。

アンナと雑談しながらナイトキャップを壁掛けに引っ掛けて、白の寝間着から普段着のジーンズと白のシャツに着替えると俺は園芸用の茶色のエプロンをかけて庭の片隅にある小さな石碑に向かう。

性懲りも無く生えて来ていた雑草の芽を摘み取ってから麻袋に入れて持って来ていたキレイな布で石碑、アンナの墓を拭いて掃除を済ませる。

 

「これでよしっと」

《ありがとうなの、ハルヒト!》

「別にいいさ。 気まぐれでやってるに過ぎないからな」

 

俺はこの子の墓守としてこの屋敷に住んでいる、と言うのは建前。 本音はまぁ、寂しがりなアンナを放っておけるわけもないから、だ。

いつかアンナが成仏するまで付き合ってやるつもりではあるが。

 

俺は日課となりつつある墓の手入れを終わらせて、朝食を摂り済ませ、ふと気がつくとアンナは屋敷のどこかに行ったようで姿は見えなかった。

そんでもってまだ時刻は8時であったが相棒のハルナを起こしに自室に戻ったら、クマのぬいぐるみが一人で動いていた。 軽いホラーである。

ぬいぐるみに憑依しているのはもちろんアンナ。 そのアンナ in ぬいぐるみはホタテのような貝殻にワタとバネを敷いて作られたベットのようなものの上で大の字で眠る小さな人をつつく。

 

《おーい、ハルナちゃーん、起ーきーろー。 8時なのー》

「ふぁい、おきましゅ〜……。 ただいまおきましゅ」

 

寝ぼけながら貝殻いっぱいに散らばった闇色の髪をまとめあげると手首に括り付けていた赤のリボンで括り、起き上がるのは星霊のハルナ。

かつての宇宙創生から今まで、悠久の時を生きる超越的な存在にしていくつもの世界を旅して巡る者。

二つ名、異名は数知れなくて謎の多い精霊の一種だ。

 

「おはようハルナ。 悪いが、今日も狩にいくぞ」

「了解です、マスター。 あ、アンナちゃん。 おはようございます」

《おはよーなの!》

 

クマのぬいぐるみの腕が動いてハルナとハイタッチを交わす姿はまるで滑らかに動く人形劇を見ているようだった。

ちなみにだがアンナはどんなぬいぐるみ、人形にも憑依できて関節がないにもかかわらずヌルヌル動ける。

その時は本当に気持ち悪いほどにヌルヌルとダンスを踊っていた。

この世には理解しがたい謎は多く溢れているのだから、なんとも言えないが。

 

ハルナの朝食が終わるのを待ちながら俺は身支度を整える。

シャツとジーンズを脱ぎ、畳んでしまうと戦闘服としている服に着替える。

黒のタンクトップに 赤いミニスカートと黒ニーソ。 それに赤い皮の強化ブーツを合わせて防具を身につけて赤のジャケットをはおる。

俺の赤髪に合わせるとどうしてもイメージが赤になってしまうが、今更だ。

黄昏の剣(トワライト・ソード)を手に取り鞘に収める。

黄昏の剣には自己修復能力があるのだが、夕日に当てるとさらに修復速度が早まる特殊な能力を持つ準神器だ。

切れ味も普通の剣と比べたら月とスッポンと言いたくなるほどの業物だが……神造兵装をお手本にハルナが作り出した原初の剣故に耐久性は高く、夕日を刀身に溜め込んで黄昏の焔を放つことも可能な剣だ(この事実は最近知った

そして、この前のスカルヘッド・ドラゴンとの戦いで折れはせずとも、刃がダメになった銀狼の剣をハルナに託してそれをベースに新たな剣を作り出してもらった。

その銘は聖暁の剣(サンライズ・ソード)

神造兵装である約束された勝利の剣(エクスカリバー)をモデルに設計されたらしいこの剣は日光を浴びると3日間かけて鍔に据えられた宝魔石に光を貯蔵する。

そして、最大まで光を貯蔵すると、この剣は光刃を放てるようになる。

輪転する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)とも違うが袈裟斬りに振り抜くと、光の波動斬を放てるわけではあるがその威力はまだ試していないため不明だ。

日当たりのいいかも窓際にかけてあったので、光の貯蔵はMAXまで溜まっているはずだった。

耐久性も抜群なので、試しに行った武器爆破魔法にも余裕で耐えていた。

 

新たな武器、新たな装いを立て鏡の前でチェックして不備がないかを調べたが問題はなさそうだった。

 

「よっし、準備完了だ。 アンナ、一緒に来るか?」

《はーい、私も行くの!》

 

言いながらアンナは俺の右手薬指にはめられた指輪に取り憑いた。

これはソウルリングといい、魂だけの存在となった幽霊を取り憑かせることができる魔導アイテムだ。

最も、取り憑けるのは無害な幽霊、亡霊に限るけどな。

 

自分の体の大きさの倍はあるはずのサンドイッチを食べきり、ご機嫌なハルナと合流した俺たちは屋敷を出た。

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

カエルの討伐クエスト終わらせてほの達成報告のために俺はギルドに訪れた。 ハルナは何やらやることがあるとのことだったので、別行動である。

とまぁ、ギルドに訪れたのだが……アレってジャージだよな?

 

「おいこら、初っ端から挫かれたぞ」

「しょ、しょうがないじゃない。 急に転移させられてろくな用意もできなかったんだから!」

 

緑のジャージを着た茶髪の俺と同い年くらいの男が青髪の少女に食いついていた。 青髪の女についてはなんか見たことがある気がするんだが、気のせいか?

 

「――なぁ、アクア。 俺たち、なんかあの子にスッゲー見られてんだけど」

「え? カズマの自意識過剰じゃないの? クソニートがそんな自信もてるんですか? プークスクス! ちょーウケるんですけど!」

「なんだとこの駄女神が!? ニートじゃねえし! 出先で死んだからニートじゃないし!? …どうした、アクア?」

「匂うわ、アンデットじゃないけど。 迷える魂の匂いが!」

 

騒がしい連中だと俺は思った。 頼んでいたエール系の酒、クリムゾンビアを呷りジョッキを空にする。

そしておかわりを頼もうと、店員を呼ぼうとしたらあっちで話していた青髪の少女が後ろにいて俺の右手薬指にはめられたソウルリングを指差してこう言った。

心なしかリングが ビクゥッ! と震えた気もしたが。

 

「ちょっと、そこのあなた! お金貸してくれない!? じゃなくて、幽霊に憑かれてるわね?」

「おかわりたの……へ? 何言ってんだあんたは」

「私がすぐにその取り憑いてる幽霊を祓ってあげるから、2000エリス貸してください!」

「いや、まて。 大いに待て。 確かにこのソウルリングに友達を憑かしてるけど、害はないからお祓いは勘弁してくれ。 それとこれ。 連れの人と合わせて冒険者登録料は2000エリスだろう? 持っていきな」

 

とりあえずあまり深く関わらないほうがいいだろう。

 

「おい、アクア何してんだよ!? もらうわけないよなさすがに!?」

「アクア――まさか」

 

その名前を聞いて俺はピンと来た。 あった気がするわけだ、なるほどなと。

 

「アクシズ教の御神体がなんでこんなところにいるんですか? 女神アクア様」

「え、あなたあったこともないのになんで私のこと知ってるの!? ねぇ、なんで!?」

「だぁぁっ、何女神だってバラしてんだこのバカ!?」

「二人とも落ち着け、俺も転生者だ。 アクア様に関しては置いといて、ここに来たのやはいつだ? 日本人(・・・)くん?」

 

確信に近いものを持っていた俺はジャージの少年に尋ねて見た。

 

「てことは、あんたも日本人なのか……! って、蒼崎青子そっくりだな。 俺はカズマ。 佐藤カズマだ」

「よろしい。 俺はハルヒト。 剣無ハルヒト――こんななりだが、元男だ」

 

俺の自己紹介を受けて「え?」と言う目をしたカズマを殴りたい衝動に駆られたが、我慢した俺はアクア様改めてアクア、カズマ(カズマでいいと言われたので)の面倒をみることにした。

白状しとくと、同郷のカズマを見捨てることができなかったわけだ。

あと、アニオタ仲間は見捨てれるわけがないだろう? ……俺の価値観はそんなもんさ。

 

「ステータスが低すぎて、冒険者止まりだったんですけど……どうなってんだよこれ」

「崇め讃えなさい、カズマ! 私はアークプリーストよ!」

「とまぁ言うべきかこれは。 ようこそ地獄の入り口へ! なんてな」

 

こうして、俺は冒険者となったカズマと、レベル1のアークプリーストとなったアクアを自分の屋敷に居候させることにしたのだった……アンナが放って置けなくて購入したそこそこ大きな屋敷だったので、部屋は余ってるからな。

 

そして、1週間の時が流れるのはあっという間だったが

 

続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カズマ達の付き添いを!

「おめぇら! 今日はもう上がっていいぞ!」

「ありがとうございましたー!」

『したー!』

 

大声が城壁の拡張工事現場に響き渡り、俺たちは親方から今日の日当をもらう。

 

「今日もよく働いたわね、私たち!」

「ああ、そうだな! 帰って飯食おうぜ! ……疲れた」

 

アクアの言葉に相槌を返して俺たちはとある屋敷へ足を進める。

門をくぐり、玄関をノックしてから鍵を使って扉の錠を開ける。

 

「ただいま〜! ハルヒ、ごはんできてる!?」

「今日も働いたぜ……疲れた」

「二人ともおつかれさん。 飯か風呂かどっちがいい?」

 

屋敷に入り、居間に向かうと、黒のエプロンをつけた赤髪をまとめて括った、いわゆるポニーテールの髪をした少女が俺たちに提案する。

この屋敷の主人のハルヒトと言う俺と同じ転生者だ。

見た目は赤髪で青目な蒼崎青子に似ているが、元は俺と同じ男だそうな。

 

「じゃあ、風呂には先に俺が入る。 アクアは後でいいよな?」

「そうね、ハルヒ。 私は先にご飯食べるわ!」

「了解だ。 そんじゃとっとと風呂済ましてきなよ、カズマ」

 

数分後、言われるがままに俺は風呂を済ませてアクアと交代。 晩飯にありついた。

 

「アクアはお金払ってたか?」

「いつもいってるが、いいんだぞ? そんなのは気にしなくて?」

「いや、さすがにタダ飯食うのは気がひけるんだよ。 1,000エリス払わしてもらうな、いつも通り」

「わーったよ。 あー、そうだ。空き部屋2つの掃除しといたから、自由に使ってくれ。 最低限の家具、ベットと机とかはあるからさ」

 

何から何まで申し訳ない気もするが、遠慮せずそうさせてもらうことにした。

 

「何から何までありがとうな、ハルヒト」

「なーに、俺の自己満足でしかないよ。 ちなみに、この先は資金貯めてホーム買うのか? しょーじき言って、うちにいてくれても構わないんだけど」

「俺がヒモになったらどうする気だ。 面倒見てくれるのか?」

「アホか。 お前がそんな風になるタマじゃないって俺の直感がそう言ってんだよ」

 

変わった奴だと思うが、この好意的なものに隠れて悪意も見当たらないからこのままで行こうか……いつまでも甘える気は無いが。

 

「そろそろ一週間経つんだよなぁ、こっちにきてから。 ハルヒトはいつも何やってんだ?」

「何やってると言われてもなぁ。 どう言う答えを望んでるんだ?」

「ああ、クエストだよ。 簡単に稼げるクエストとか知らないか?」

「初心者向けのクエストだと、カエル狩りかゴブリン狩りだな。 まぁ、まだ挑まない方が身のためだと思うぞ?」

「え、強いのか? カエルやゴブリン如きが」

 

素朴な疑問をハルヒトに聞くと、少しだけムッとした顔をしてハルヒトはこう答えてくれた。

 

「カエル如きって言っても、ジャイアント・トードは牛くらいの大きさをしてるし、ゴブリンは中級魔法で脅しても逃げないなかなかタフな精神力と群れて行動するから数の暴力を持つ魔物だ。 見た目に騙されて死ぬ駆け出しの冒険者を何人か見てきたから、舐めてかかると死ぬぞ? まず、ゲーム感覚で魔物を狩れると思うなら冒険者はやめるべきだな……カズマは魔王を倒す気でいるか?」

「え、マジか。 魔物が強いってこの街は駆け出しの街だよな? あと、質問に答えると日本に帰りたいって願いを叶えてもらいたいし、倒せるなら倒したいぜ?」

「そ、そうか。 切実な願いだな」

 

そりゃそうだろうと思う。 今でこそ労働の喜びを感じている以上、あんな部屋にこもってネットゲームに入り浸った不健康な生活はやりたく無い。 が、この世界には娯楽という娯楽が博打、カジノくらいしかない。

本はあるにあるが、一冊一冊が高い上に、ラノベ的なものは無い。

この世界そのものがファンタジーだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、男として娯楽を求めたっていいじゃ無いか!?

だいたい、この世界は魔王軍に侵略されてやばいのではなかったのか? それに冒険者として、血肉湧き踊るようなやり取りはまだ一切やったことがない。 憧れると言えば憧れるけども、俺の貧弱なステータスで武器防具はまだ装備できないしなぁ……はぁ。

筋肉痛でガタガタの体を鞭打つようにしてがむしゃらに働いている今日この頃を見返して思う。 労働基準法のあった俺たちの故郷の日本がどれほど居心地のいい場所だったかをしみじみと思ったのだ。

バイトでも最低賃金は時給で750円↑が常識なんだから恐れ多い。

そんな労働基準法はこの世界じゃ何それおいしいの? 扱いで、存在すらしない。

ここはそんな世界なんだ、と諦観するのではなく、俺は前に向かって歩くことを選択することにしたから引く気もないけどな!

 

「やれやれ。 俺の使ってたお古の剣でよけりゃ貸してやるぞ? 切れ味とかは保証しないが。 カエルについては金属製の防具を身につけていたら捕食されにくいからな」

「……へ?」

 

思考にはまっていたが、ふとハルヒトが俺に声をかけてきた。

 

「はぁ、俺も付き合ってやんよ。 明日は狩を休む気だったけどなぁ。 ――冒険したいんだろ?」

「いいのか!? すごい頼もしいが申し訳なくもあるんだけど、本当にいいのか?」

 

思わず声に出してハルヒトを見据える、否、見つめる。

 

「そ、そんなにみつめんなよ。 その代わり、ヤバくなるまで手を貸さないって条件を飲めるか?」

「わかった、ヤバくなったら助けてくれよな? まだ俺は駆け出しなんだしさ!?」

「わーってるって。 そんじゃ明日の昼にでも行こうか」

 

その条件を俺は飲んだことを次の日に後悔することになるとはつゆ知らず、俺は意気揚々とベットに入り眠るのだった。

明日は冒険だ!

 

☆ こ の す ば !! ☆

 

「だわぁぁぁ!? 助けてくれぇぇぇ!」

「おーい、カエルから逃げてばっかりだといつまでも倒せねーぞカズマ」

「こんなのがカエルな訳ねぇヨォォォォ!」

「プークスクス! やばい、超うけるんですけど! カズマったら、顔真っ赤で超必死なんですけど!」

 

カズマの魂底(たまそこ)からの叫びをさらりと流しながら俺は水筒の水を呷った。

俺は普段着の白シャツとジーンズを着てイチイの弓をベルトに引っ掛けてカズマの動きを観察していた。

黄昏の剣を腰に佩てはいるが、抜くつもりはない。

今日ここに、カエル狩りに来てるのは俺とカズマ、そして俺の隣で腹を抱えて笑うアクアの3人だ。

ハルナは多分食べ物の屋台巡りか、ウィズさんの店でお茶でもして世間話に花を咲かせていることだろう。

ちなみに、ハルナ。 最近信仰を集めるようになって来たようで、何人かの冒険者に加護を頼み込まれて幸運を高めるアミュレットを作り、授けたらしい。

信仰のない冒険者のほとんどが勝手に信仰し始めかけていて焦ってるらしい――話が逸れたか。

 

「こんなに逞しいカエルだなんて思ってもなかったんだヨォォォォ! 助けてくださいぃぃぃぃ――アクアー! アクアー‼︎ お前もいつまでも笑ってないで助けろよおおおお! ハルヒトォォォォ! マジでやばいから助けてくれぇぇぇ!」

「まずは、私をアクアさんと呼ぶところから始めてみましょうか」

「アクア様ー!」

 

カズマはプライドをかなぐり捨てて、アクアに助けを求める。 ちなみに、アクアはカエル相手に武器なんて振り回さなくてもいいと、素手である。

舐めプもいいところだが、なんとなくアクアの起こす顛末を読んだ上で、注意しなかったが。

そしてアクアが大声でご高説を垂れ始めるとその声に反応したのか、カズマを追っていたカエルがこちらにやって来た。

俺はとりあえず、巻き込まれるのも面倒だったので、ススッとその場所から離れた。

 

「しょうがないわねー! いいわ、助けてあげるわよヒキニート! その代わり、明日からはこの私を崇めなさい! 街に帰ったらアクシズ教に入信し、1日3回祈りを捧げること!それから、高いお酒を私に3日に一度奉納する――ヒュグッ!?」

「あ、喰われた」

「アクアー!? お、お前食われてんじゃねえよおおおお!?」

 

捕食して飲み込むために動きを止めたカエルにカズマは果敢に向かっていく。

仲間の女を救うために彼はひたすら走っていた。

そして俺のお古でもある鉄の剣を振り下ろして、カエルの頭蓋をカチ割って倒していた……お見事。

アクアの足を掴んで二人掛かりで引き抜いてやると、カエルの粘液でネトネトになったアクアが泣きじゃくりながら俺に抱きついて来た。 うわ、生臭え!?

 

「ぐすっ、うえええええっ! ぐすっあぐぅっ!」

「よーしよし、怖かったんだな。 よく頑張ったよお前は」

「びえええええッ!! 怖がったの、怖がったのぉぉ!」

 

俺の胸にすがりつくように、泣きついて来たアクアを邪険に振り払うを是、とはできなかった俺はひとしきり泣いて彼女が落ち着くのを待つことにした。

カエルの粘液でネチョネチョになって泣くアクアと、カエルの粘液塗れになりつつもそれを抱きとめる俺と言うひどい画図をイメージすると色々萎えるので頭から振り払った。

 

「ううっ……ぐずっ……ありがど……ありがどうね、カズマ……うわあああああん……!」

 

礼を言いながらも泣くと言うなんとも器用なことをしているアクアの、粘液まみれの頭をえらいえらいと撫でてやり、慰める。

そしてまぁ、カズマはと言うと申し訳なさそうな顔をして俺とアクアを見ていた……なんだ? 俺の胸あたりもガン見してるよーな。

俺はカズマの視線を追い下を見ると黒い下着が、ブラジャーがシャツの下からこんにちわをしていた。

 

「おい、カズマ。 目線が露骨にいやらしすぎだ……さすがに俺も怒るぞ?」

「あ、ごめん!(さすがにガン見しすぎた……でも、ハルヒトって本当にけしからん躰つきだな)」

 

反射的なカズマの謝罪、しかし、目を逸らさないこの童貞をどうしてくれようか。 一応俺にも羞恥心はある。

裸を見られたわけではないが、なぜか冒険者の男達からエロいものを見る視線をされる時が時たまあったことがあり、少しだけトラウマ化していたのだ。

とりあえずアクアが泣き止んだので制裁を加えることにした。

 

「いい加減にしろ!」

 

俺は立ち上がり、カズマの元にズカズカと歩み寄ると、尻を蹴り上げた。 顔を真っ赤に染めた俺を見てカズマも唖然としていたようだが、蹴られた直後に

 

「いってぇぇぇえええ!?」

 

尻を単に突き上げるようにしてカズマは突っ伏していた。

 

「エロい目で女の人見て無事で済むと思ってたの? 世の中そんなに甘いと思ってたの? プークスクス! 超うけるんですけど!」

「ぐぬぬ、正論だが言い方に腹がたつ!」

 

復活したアクアに小馬鹿にされながらも、カズマは己の非を認めて次には謝って来たので

 

「さすがに、デリカシーなかったな。 ごめん」

「次はないようにな?」

 

素直に謝って来たのと、蹴り上げたことでチャラにしてやろうと思った。

 

「今日のところは、帰ろう。 見てて思った。 今のお前らには危険すぎるよ、このカエルは」

「大丈夫だったか? ハルヒトの言うことに俺は賛成だ。 今日はもう帰ろう。 せめて冒険者に見える格好になってから再挑戦しよう」

「愚問ね! 女神がたかだかカエルにここまでの目に遭わされて、黙って引き下がれるもんですか! 私はもう汚されてしまったわ。 今の汚れた私を信者が見たら、信仰心なんてダダ下がりよ! これでカエル相手に引き下がったなんて知れたら、美しくも麗しいアクア様の名が廃るってものだわ!」

 

日頃大喜びで大量の荷物運んだり(と、カズマから聞いた)、風呂上がりの晩飯を楽しみにして、居間のテーブルに突っ伏しながらヨダレ垂らして寝るあの姿を見れば(少なくとも屋敷ではあられもない姿をしてる)今の、粘液塗れのアクアの姿なんて今更な気がする。 まぁ、アクシズ教徒の大元らしい主神だと思うが。

 

「あ、おい待てアクア!」

 

カズマの制止を振り切ってアクアは駆け出した。

 

 

「カズマ……武器出しとけ」

「……お、おう」

 

俺が弓を構えるのを見てカズマは鉄の剣を鞘から抜いた。

駆ける勢いのままにアクアはその手に光を宿らせてカエルの腹に殴りかかった。

 

「あなたに恨みほ無いわ! でも、あなたの同胞が私に与えた屈辱の恨みを代わりに受け取りなさい! 神の力を思い知れ! 私の前に立ち塞がったこと、そして神に牙を剥いたこと! 地獄で後悔しながら懺悔なさい! ゴッドブローッ! その効果、相手は死ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

かっこいい口上と共に放たれたアクアの拳はぶよんとカエルの柔らかい腹にめり込むが、殴られたカエルにダメージらしいダメージは無いようだった。

打撃系の攻撃はあまり効果がない。 カエルのあの柔らかい体は並みの打撃攻撃が効かないんだよなーと考えながら。

 

「……か、カエルってよく見ると可愛いと思うの」

 

アクアの呟きが俺の耳に届く頃にはカエルが獲物を飲み込もうとして動かなくなった。

俺はカズマに協力して二匹目のカエルを倒し、粘液まみれで泣きじゃくる女神を連れ、今日の討伐を終えた。

カズマ達の倒さないといけないカエルの数は3体である……先が思いやられる滑り出しだった。

 

(続く)




感想等はご自由に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中二魔女っ子とあの忌まわしいカエルに爆裂を!

「仲間を募集しましょう!」

 

街に戻った俺は、さっさと風呂に入りたいと思い、メインストリートを突っ走った。

屋敷に向かう道中の人たちに、同情のような視線を受けたのは言うまでも無い。

カエルの粘液の生臭い臭いを風呂に入って落とし、外食でもどうか、と2人に声をかけた。 傷心間もない2人には癒しが必要だろう、と考えて冒険者の酒場に足を運んだ。

普段着に着替えたアクア、カズマはカエルのモモ肉の唐揚げを食いながら作戦会議をしていた。

 

冒険者ギルドは冒険者のサポート組織であり討伐したモンスターの買い取りをしている。

それにモンスター料理のウリな酒場を併設していることから冒険者の溜まり場、待ち合わせ場所になっている。

今日討伐したカエル2匹の肉をギルドに売ったので、2人はそこそこの小遣いを稼ぐことができたと思うが。

 

あの巨体を持つカエルを俺たちで運ぶことは困難だ……と言うか運べる気がしない。

だがギルドに申請すると、倒したモンスターの移送サービスを受けることができる。

 

カエルの引き取り価格は一匹につき五千エリスで引き取ってくれる。

ちなみに移送費込みで五千エリスだ。

それが2匹いたので今日の報酬は10000エリスってわけだ

が…この金額は外壁拡張工事の、カズマたちの日当と変わらん。

この世界の賃金はかなり安い……そりゃ未発達の世界に安定した格差の無い社会なんざ無理だろうけどな。

 

「カエルがこんなにうまいとは驚いたな」

「案外ゲテモノも美味いぞ? サンドワームの縁側とかも酒のアテにはイケるからなぁ」

 

カエルの肉は変なクセも無い淡白な味がする。 日本で言うところの鶏の胸肉みたいでいくらでもイケそうな味なのだ。 最初のうちはチョット硬いのが気になるけどな。

この世界に来た当初が懐かしく感じるな。 このモンスター料理に抵抗感があったが、定食として出されたトカゲやカエルも食べてみれば味がわかりうまいということもわかる。

俺の隣でカエルのモモ肉を頬張る女神様はなんでも躊躇なくモリモリ食べてはいるが。 ちなみに俺がよく調理するのは羊肉や豚肉だ。 安くて質のいい肉屋の旦那を贔屓にしてるからな。

 

「でもなぁ……。 仲間ったって駆け出しでろくな装備の無い俺達のパーティーに入ってくれる奴なんているのか?」

「まぁ、かずまはさ。 最弱の〈冒険者〉とは言えまだまだ伸び代はあると思うぞ? 自称女神のそこの〈アークプリースト〉は需要があるかもだが」

 

カズマの疑問も最もだと思う。

 

「ひょっと、ふぉのひひはあわ」

「飲み込め、飲み込んでからしゃべれ」

 

カズマに指摘を受けたアクアは、その口の中のものを飲み込みながらに俺に食ってかかってきた。

 

「ちょっと、その言い方は語弊があるわ! 自称女神じゃなくて本物よ!」

「……わかった、わかった。 で、募集はどうするんだ?」

「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。 なにせ、私は最上級職のアークプリーストよ? あらゆる状態異常の治癒、回復魔法もつかえてその果てには蘇生だってお手の物。 カズマのせいで地上に落とされて本来の力とは程遠い状態でもこれだけの力があるのは、私が仮にも女神だからなのよ? わかったらハルヒ、カエルの唐揚げ一つちょうだい! そのついでに讃えなさい!」

「今日はちっとも活躍してないお前を讃えるのは抵抗感しかない。 だがまぁ……ほれ」

 

喚こうとするアクアの口に唐揚げを放り込み黙らせた俺は、嬉しそうにそれを頬張る女神様を、カズマも同じ心境なのだろうか……不安げに眺めていた。

 

☆このすば☆

 

翌日の冒険者ギルドにて。

 

「…人、こないわね」

「…こないな」

 

アクアが寂しそうに呟いたのに俺は相槌を打った。 やはり心配になった俺は普段時のフル装備で2人の仲間候補を見立てることにした。

なお、先ほど求人の張り紙を出したことに違いはないのだが……誰も見ていないということはないと思う。

 

まぁ、来ない理由も察している。

 

「なぁ、ハードル下げようぜ。 俺たちの目標が魔王討伐だから仕方ないっちゃ仕方ないんだが…」

「カズマの言う通りだな。 上級職のみの募集はいくらなんでも厳しすぎると思うが?」

 

カズマたちの目標は魔王の討伐。

 

俺か? 成り行きでこいつらを拾ったわけだし、面倒は見ておくべきだと思っているのである程度までは付き合ったやろうとも思っているが。

まぁ、魔王の討伐なんて今の俺にも到底無理だと思うが。

 

「うう、だって……」

 

話が逸れた。

俺の職は現在〈マジックソードマン〉で、この職は中級職扱いになる。

そんな俺よりも確実に強い上級職の人々はガチの勇者候補となる。 まぁ、もうそろそろジョブチェンジの案内が来ているので、俺も上級職に成るつもりではあるけどな。

アクアの思惑としては、魔王討伐のためにできるだけ強い強力な人材で固めておきたいんだろう。

 

「このままじゃ誰も来ないぞ? 大体お前は上級職かもしれんが、俺は最弱職なんだ。 周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる……」

 

アクアにそう言いながらカズマが席を立とうとした時だった。

 

「上級職の冒険者募集を見てきたのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

気怠そうな赤い瞳に、しっとりとした肩口ほどの長さの黒髪。 俺たちのテーブルの前にやってきたのは黒いマントに黒いワンピース、黒いブーツを履いて身の丈に近い長さの杖を持っている。

その頭にはとんがり帽子を被っている……魔女っ子。

 

人形のように整った顔立ちのロリっ子だった。

 

どう見積もっても12〜13歳にしか見えない片目を眼帯で隠した少女が羽織っていたマントを翻しながら……

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法を操る者!」

「…冷やかしに来たのか?」

「…なにやってんのさ、めぐみん」

「冷やかしとち、ちがわい! って、ハルヒトではないですか」

 

女の子に思わず突っ込むカズマ。 俺は知り合いの登場に思わずずっこけかけた。

 

「知り合いなの、ハルヒと…ってあなたもしかして紅魔族?」

 

アクアの問いにコクリと頷く少女が彼女に冒険者カードを渡す。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は大地を穿ち、岩をも砕く! 」

おい、お前の魔法は…まあいいか

「と言うわけで、優秀な魔法使いはいりませんか? あと、図々しいお願いなのですが、もう3日も何も食べていないのです……面接の前に何か食べさせてもらってもいいですか?」

 

そう言うめぐみんは悲しげな瞳でカズマを見る。

彼女のお腹からキューと切なげな音がなる…またろくなもの食べてないのかよ。

 

「飯を奢るくらいなら別にいいけど……その眼帯は?」

「はい、この眼帯はマジックアイテムです。 なかなか便利ですよ?」

 

そう言ってカズマに眼帯を渡すめぐみん。

カズマがそれを付けると……

 

「ほぉー……こいつは凄いな。 普通に見えるぞこれ」

 

カズマが外して俺に手渡してきた……見ておけということか?

まぁ前からちょっと興味あったけど……。

 

「……おお、確かに便利そうだな」

 

眼帯をつけた方の目は普通見えなくなるはずだがこの眼帯はマジックアイテムの名の通り、目の前にある筈の眼帯が隔てている筈の景色が見えるのだ……透視機能なのだろうなこれは。

さらに加えて、相手との距離が示されたマーカーのようでもある。

距離計測器みたいな機能なのだろうか?

 

「魔法射程を掴むためのマジックアイテムか? この眼帯は?」

「ええ。 あると何かと便利なのですが、私は半分ファッションでつけています。」

 

……なんだそりゃ

ファッションでつけていますって……かなり便利なアイテムだと思うのだが……。

眼帯を付け直しためぐみんを見ながらアクアが説明してくれる。

 

「……ええとね。 カズマに説明すると、彼女達紅魔族は生まれつき高い知力と魔力を持ち合わせていることから、大抵は魔法使いのエキスパートになるの。 紅魔族は名前の由来となっている特徴的な紅い瞳と……。 それぞれが変な名前を持っているの」

「変な名前とは失礼な。 私から言わせてもらうと、町の人々の方が変な名前をしていると思うのですが」

 

俺たちの名前の方が変とは……やっぱり変わった感性だな、紅魔族は。

 

「ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」

「母はゆいゆい。 父はひょいさぶろー」

『……』

 

思考停止する俺たち……数秒の沈黙に耐えきれなくなったのかカズマが切り出す。

 

「とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだな? 仲間にしてもいいか?」

「暫定メンバーのアクアに聞け、仮メンバーの俺に降るな」

「おい、私の両親の名前について言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

カズマに詰め寄るめぐみんに、アクアが冒険者カードを返す。

 

「いーんじゃない? 冒険者カードは偽装できないし、彼女は上級職の〈アークウィザード〉で間違いないわ」

「おい。 彼女ではなく、私のことはちゃんと名前で呼んでほしい」

 

抗議してきためぐみんに俺はメニューを渡す。

 

「まぁ、なんか食って落ち着けよ こっちの男がカズマで、こいつはアクアだ」

「はい、しかし。 ハルヒトの知り合いですか、この方々は」

「まぁな。 この前拾って以来、面倒を見てる」

「なるほど、そう言うことでしたか…」

「え、ハルヒトとこの子って知り合いなのか?」

 

俺は軽くカズマにそう言うことだ、と伝えてそれ以降話さなかった…こいつの厄介なところを見てどんな反応をするかが愉しみだからな。

食いつくようにメニューを凝視するめぐみんに俺は小さく微笑んだ。

 

☆KO NO SU BA☆

 

「爆裂魔法は最強の攻撃魔法。 その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。 準備が整うまであのカエルの足止めをお願いします」

 

満腹になっためぐみんを連れてカズマたちは忌まわしいカエルに、リベンジに来ていた。 俺はアクアのフォローに回ることにしたが…不安だった。

平原の遠く離れた場所には一匹のカエルの姿が。

そのカエルはこちらに気がついたのか向かってくる。

 

「カズマ。 向こうにもカエルがいる…そっちは頼むぞ」

「わかった。遠い方のカエルを魔法の標的に、近い方はハルヒトとアクアに任せる」

 

カズマにめぐみんの近くにいてもらい、俺とアクアで近い方のカエルに仕掛けることにした。

 

「アクア、この前のリベンジだ。 猪突猛進に突っ込むな……よ……」

「何よ! 打撃が効きづらいカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ! 今のところ活躍のない私でもできるってこ、ひゅぐっ!」

 

俺の言うことを聞かずアクアが突っ込んでいく。

さすがは女神様……身を挺してカエルの動きを止めてくださったようだ。

…学習能力のないアクアに哀れみの視線をむけながら俺は獲物を飲み込もうと動かなくなったカエルの頭部を抜いた剣で斬りつけた。

一撃で頭蓋をかち割られたカエルは絶命した。

じたばたと足をバタバタさせるアクアをカエルの口から引っ張りだして救出。

ふとカズマとめぐみんの方を見ると…彼女の持つ杖の先に光が灯る。

ヤバそうな、それを例えるのならば光を極限まで凝縮したもので…まるで小さな太陽だ。 派手さだけは他の追従を寄せ付けないネタ魔法には見えんよなぁ…

 

「〈エクスプロージョン〉っ!」

 

めぐみんが紅い瞳を輝かせて呪文を、膨大な魔力の塊を解き放つ。

 

その光はカエルに突き刺さると、その凶悪な効果を発揮した……閃光と轟音の後には……

 

「いててて……。 相変わらずなんつー威力だ……」

 

泣きじゃくっていたアクアと俺は魔法の起こした爆風ですっ転んで尻を強打した。

粘液まみれのアクアを連れてカズマ達の方に向かいながらその魔法の爪痕である20メートル以上はありそうなクレーターを目の前にして俺は押し黙った。

 

相変わらずの過剰攻撃力と内心で俺が感動していると、ボコンっと近くの土が隆起した。

のろのろと土の中から這い出てきたのはジャイアントトードだった。

おそらく、地中で眠っていたのだろう。 まぁ、最初の頃は雨の降っていないこの平原でどうやって生きているのだろうかと思っていたが…日中は土の中で眠るんだよな、カエルは。

 

「めぐみん! 一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

カズマがそう言う、その途中で言葉が切れる。

カズマの視線を追うように見てみると……めぐみんが倒れていた。

 

「ふ…。 我が奥義である爆裂魔法はその絶大な威力ゆえ消費魔力もまた絶大。 …要約すると、限界を超える魔力を使ったので、身動きが取れません」

「やっぱりネタ魔法だな、爆裂魔法は」

 

俺がめぐみんを背負うと、カズマ達の方に走る。

さすがに2ヶ月間冒険してないから基礎体力や筋力は上がっているので苦もなくめぐみんを背負える。

 

「カズマ! ……にげるぞー…ん?」

 

逃げるぞ言いった俺の視界が黒に染まった……

 

「ハルヒトォォォォ! お前、何食われてんだよォォォォ!?」

 

またしてもカズマの絶叫が聞こえた気がした。

 

◯カズマ視点

 

「生臭い…。 生臭いよぅ…」

「もう泣くなよ、アクア」

「カエルの体内って、臭いけどいい感じに温かいんですね…。 知りたくもない知識が増えました」

 

粘液まみれのアクアを慰める粘液まみれのハルヒトに同じく粘液まみれのめぐみんは俺の背中で知りたくもない知識を教えてくれながら、めぐみんは俺の背中におぶさっていた。

魔法を使う者は魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を削ることになる、ハルヒトから聞いた話だが、めぐみんの有様を見て俺は把握した。

魔力が枯渇している状態で大きな魔法を使うと命に関わることもあるそうな。

 

「今後、爆裂魔法は緊急の時以外禁止だな。 これからは他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん」

 

俺がそう言うと、背中のめぐみんが肩を掴む手に力を込めた…何だか嫌な予感がするんだけど、気のせいだよな?

チラッとハルヒトを見るとアイツ…目をそらしたのか?

 

「…使えません」

「…は? 何が使えないんだ?」

 

めぐみんの言葉に思わずオウム返しで言葉を返す。

めぐみんが俺に掴まる手にさらに力を込めて、そのまな板のような胸が背中に押し付けられた。

 

「…私は爆裂魔法しか使えないです。 他には、一切の魔法が使えません」

「…マジか」

「…マジです」

 

俺とめぐみんが静まり返るなか、持ち直したアクアが会話に参加する。

 

「爆裂魔法しか使えないってどういうこと? 爆裂魔法を習得できるほどのスキルポイントがあるなら、他の魔法を習得していないわけがないでしょう?」

 

……スキルポイント?

 

疑問を浮かべる俺にハルヒトが説明してくれる。

 

「あ、そか。 カズマは知らないんだな。 スキルポイントてのは職業についた時にもらえる、スキル習得に必要なポイントだ。 ギルドのお姉さんの話じゃ、優秀な者ほど初期ポイントは多いらしい。 このポイントを振り分けて様々なスキルを習得するのだとよ」

「なるほどな。 スキルポイントを振ってスキルツリーを完成させるのか……」

「ちなみに俺はマギリングソードマンって中級職だ…弓も使えるから便利な職なんだぜ?」

「そ、そうか…だから弓を使うのがうまいのか」

「それと、日本にいた頃、たしなみ程度に弓道を習っていたからな…」

 

ハルヒトは態とらしく、恥ずかしそうに目をそらして、それ以降しゃべらなくなった。

 

「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。 爆発系統の魔法が好きじゃないんです。 爆裂魔法だけが好きなのです」

 

めぐみんの独白に俺はもちろん、アクアとハルヒトも真剣な面持ち聞いていた。

 

「もちろん他の属性のスキルも習得すれば、冒険は楽になるでしょう。…でもダメなのです。 私は爆裂魔法しか愛せない。 たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも。 たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。 それでも私は爆裂魔法しか愛せない! だって、私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから! 」

「素晴らしい! 素晴らしいわ! その非効率ながらもロマンを追い求める姿に私は感動したわ!」

 

めぐみんの独白にハルヒトが諦めの顔をしていた。

……まずい、どうもこの魔法使いはダメな系だ。

よりにもよってアクアが同調しているのはその証拠だ。

俺はここ二回の戦いで、どうもこの女神ちっとも使えないのではと思い始めている。

はっきり言ってアクア1人でも厄介なのにこれ以上問題児は……。

よし、決めた。

 

「そっか。 多分茨の道だろうけど頑張れよ。 お、そろそろ街が見えてきたな。 それじゃあ、ギルドに着いたら報酬を山分けにしよう。 うん、まあ機会があればまたどこかで会うこともあるだろう」

 

その言葉に俺を掴んでいるめぐみんのてにさらに力が込められた。

 

「ふ…。 我が望みは爆裂魔法を放つこと。 報酬などおまけに過ぎず…なんなら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出してもらえるなら我は無報酬でも構わない。 そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費ちょっとだけ! これはもう長期契約を交わすしかないのだろうか!」

「いやいや、そんな強力な力は俺たちみたいな弱小パーティーには向いていない。 そう、めぐみんの力は宝の持ち腐れだ。 俺たちのような駆け出しには普通の魔法使いで十分だ。 ほら、俺なんか最弱職の冒険者なんだからさ」

 

俺はそう言いながら、ギルドに着いたらすぐ追い出せるようにめぐみんの手を緩めようとする。

 

「なぁ、カズマ。 めぐみんを入れてやったらどうだ?」

 

俺とめぐみんのやりとりを見ていたハルヒトが突如としてそんなことを言い出した。

 

「……お前の考えていることはまあわかる。 めぐみんのフォローは俺が責任持って行う。 だからこの子を入れてやれないか?」

「ハルヒト……でもなあ……」

「言い忘れてたが、めぐみんは俺の知り合いだ。 そこも踏まえて俺からも頼むよ…もしめぐみんの面倒を見てくれるって言うなら、俺もお前らのパーティーに入るからさ。 今日の惨状を見たらお前らもめぐみんも放って置けなくなった」

「見捨てないでください! もうどこのパーティーも拾ってくれないのです! ダンジョン探索の際は荷物持ちでもなんでもします! お願いです、私を見捨てないでください!」

 

ハルヒトの言葉に抗議したかったが…それどころじゃなかった。 めぐみんが大声で言うのは必死だからだろう。

もう街中に差し掛かっていたので通行人たちにめぐみんの声が聞こえたようで、ひそひそと何かを話している。

 

「――やだ、あの男。 小さい子を捨てようとしてる…」

「――隣にはなんか粘液まみれの女の子2人連れてるわよ」

「――あんな小さい子を弄んで捨てるなんて、飛んだクズだね。 見て! 女の子全員ヌルヌルよ? いったいどんなプレイしたのよあの変態」

 

間違いなくあらぬ誤解を受けてるぞこれは…!

アクアがそれを見てニヤニヤしているのが憎たらしい。

 

そしてめぐみんにもそれが聞こえたようで…俺が肩越しにめぐみんを見ると、口元をニヤリと歪めて大声で

 

「どんなプレイでも大丈夫ですから! 先ほどのカエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えてみせ」

 

かなりの大声で言うめぐみんの言葉を遮るように俺は

 

「よーし分かった! めぐみん、これからよろしくな!」

 

と、こういうしかなかった……仲間が増えました。

 

(続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鋼の女騎士とキャベツとの乱戦を!

カエルに食われる体験を久々にした俺は、浴場に来ていた。 もはやおばちゃんとかの裸にいちいち反応しなくなったのは精神が完全に順応したからなのだろう。

カエルは鎧を着た獲物というか人を食わない。 基本的に嫌うのだが、寝ぼけていたのかそれとも飢えていたのか…俺とめぐみんのニコイチで量を優先したのかはわからないが食われた。

 

「やれやれ……酷い目にあったな、今日も」

「なんだかんだ言って、ハルヒもカエルに食べられるのね。 親近感を覚えるんですけど」

 

粘液まみれの俺たちは生臭い。 そのためか、カズマに追いやられるようにして俺たちは大衆浴場に来ていた。

まぁ屋敷を購入して以来、久々に大衆浴場を使う気がする…が。 めぐみんの視線が俺の胸元に突き刺さっていた。

 

「相変わらずの大きさですね…着痩せしてるんですか?」

「俺に言うな、聞くな。 なりたくてこの大きさにしたわけじゃない」

 

ちなみに、カズマが報酬を受け取ってくるとの事で冒険者カードを預けておいた。

 

「しかし、ハルヒト。 まだ中級職だったのですか?」

 

めぐみんが疑問を述べるので俺はそれに応えた。

 

「まぁな…アークウィザードにもなれるらしいが、俺は剣士になりたかったからさ…たとえ無理だとしても剣を使える方が懐に入られた時に対応できるし」

「なるほど。 アークウィザードでも剣は使えるはずですが…いずれ転職するのですか?」

「めぐみんがいるし、当分は魔法職は必要ないだろ」

 

そうですか……とあからさまにしょんぼりするめぐみんに後ろ髪を引かれる思いだが、俺は魔法使い系の職業に転職する気はない。

物理でダメなら魔法で!が売りな魔法と物理の合わさった職って便利だろう?

俺たちは身体を洗い、汚れを落とした後湯船に浸かる。

みんなと世間話をしていたらちょうどいい時間になった

 

「っぱぁ! さてと、私は先に上がるからね」

「おいよ、めぐみんはどうする?」

「私も上がりますよ……ハルヒトはまだ入るんですか?」

 

アクアが湯船から上がり、めぐみんに俺がどうするのかを聞くと、続くように立ち上がる。

 

「俺はもうちょい浸かるよ。 長風呂は文化だ」

「そうですか? のぼせないように注意してくださいね、では後で酒場で落ち合いましょう」

「はいよー」

 

俺はめぐみんに返事を返して、湯船に浸かる。

 

やはり、風呂はいい……身体を清潔に保つ事と、疲れが抜けていく感覚は日本人が好むことだ。

数分後に風呂から上がった俺は、清潔なタオルで体の水滴を拭き取る。

受付のおばちゃんに頼んでおいた速洗濯の代金を払って服を受け取り、着る。

この速洗濯は受付のおばちゃんに頼むと魔法を用いて洗濯から乾燥までを一瞬で終わらせるサービスである。

 

若干服が焦げるのが玉に瑕なのだが、今日はうまいことやってくれたらしい……焦げた匂いがしない。

依頼主の幸運の値に依存すると聞いているが、真偽は定かではない……ぶっちゃけると、二回ほど衣服が焦げた。

さてと、ギルドに向かいますか。

 

☆このすば!☆

 

「なぁ、スキルはどうやって覚えればいいんだ?」

 

カエル討伐の翌日、俺たちは遅めの昼食を取っていた。

 

俺の眼の前ではうちのパーティーに入るまでろくな物を食べることができなかったのだろう。

めぐみんが一心不乱に定食に食らいついており、俺の隣では近くの店員さんに定食のおかわりを頼むアクア……年頃の女とは思えない食いっぷりである。

 

「スキルの取り方か? 冒険者カードの習得可能スキル欄にある好きなスキルを……ってカズマは冒険者だったな」

「冒険者は誰かに、スキルを教えてもらう必要があるわ。 例えばハルヒの持つ〈狙撃〉を覚えたければまず目で見て、そしてスキルの使用方法を教えて貰えばいいわ。 教えて貰えばカードの習得可能スキル欄に、その項目が現れるからスキルポイントを使ってスキルを習得すればいいの」

 

俺の言葉をアクアが引き継いでくれたので俺も冒険者カードを見直す。

俺の持っているスキルでカズマでも使えそうなのは……狙撃と弓くらいか……あとは片手剣くらいだろうか?

 

「それじゃあ、めぐみんに教えて貰えば俺でも〈爆裂魔法〉が使えるようになるってことか?」

「その通りなのです! 」

「うおっ!」

 

カズマの何気ない一言を拾っためぐみんが食いつく……爆裂魔法の同志を見つけたと言わんばかりだ。

 

「その通りですよカズマ! まぁ、習得に必要なポイントはバカみたいに必要ですが……。 冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。 爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう。 と言うか、それ以外に価値のあるスキルなんてありますか? いいえ、ありませんとも! さあ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

 

めぐみんの熱弁、ずいと寄せる顔が近いのでカズマがテンパっていた。

 

「ちょ、ちょっと待て! おち、落ち着けロリっ子! つーか、スキルポイントってのは今3ポイントしかないんだが…」

「ろ、ロリっ子…⁉︎」

 

熱弁していためぐみんはカズマにロリっ子呼ばわりされためか意気消沈…相当ショックだったようだな。 いやまぁ、ロリには違いないが。

 

「冒険者が爆裂魔法を習得しようと思うなら、スキルポイントの10や20じゃ効かないわよ? 十年くらいかけてレベルを上げ続けて一切ポイントを使わず貯めれば、もしかしたら習得できるかも? ってくらい」

 

アクアがめぐみんの話を引き継いで説明をくれるが、十年でも取れるのは取れるんだな。

 

「待てるかそんなもん」

「…それでも、十年くらいで習得はできるんだな」

 

俺としては至極どうでもいい話なわけだが。

 

「ふ…。 この我がロリっ子…」

 

しょんぼり項垂れるめぐみんに俺はあとでネロイドをおごってやろうと思った。

 

「しかし、せっかく多彩なスキルを覚えることができる冒険者なんだからなぁ…。 色々覚えておきたいわけなんだが…アクア。 お前、なんか便利なスキル持ってないか? できれば習得ポイントが少ない方がいいんだが」

 

いや、アクアは確か〈宴会芸〉とか言う戦闘とは無関係なスキルをとっていた気がするが……

 

「……しょうがないわねー。 言っとくけど私のスキルは半端ないわよ? そう誰にでもホイホイ教えるもんじゃないんだからね?」

 

神妙な顔をして頷くカズマに満足したのかアクアは手に持っていた水の入ったコップを何を思ったのか頭に乗せる。

そして、ポケットから取り出した何かの種をテーブルに置く。

 

「このコップにこの種を指で弾いて、一発で入れるとあら不思議! コップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

「誰が宴会芸スキル教えろって言ったこの駄女神!」

「って宴会芸じゃねぇか!? なんでそんなの取る余裕があるのさ!?」

「ええ――!?」

 

思わず俺も突っ込んだ…いや、立派な支援スキルなんだけどさ、宴会芸も。

俺とカズマに突っ込まれてショックを受けたのか、アクアはショボーンとしながらテーブルの上の種を指で弾いて転がし始めた。

いやまあ、自慢のスキルを教えようとして突っ込まれたら落ち込むかもしれないが…目立つから頭の上のコップを下ろしてほしい。

 

「ハルヒトのスキルはなんかいいのあるか?」

「うーん。 俺のスキルか…狙撃スキルと弓スキルでも覚えるか? 俺には関係のないが、使う場合は矢弾代がかかる」

 

カズマが俺にも聞いてきたので無難なやつを教えようかと思っていると、笑い声が聞こえた。

 

「あっはっは! 面白いねキミたち! ねぇ、キミがダクネスが入りたがってるパーティーの人? 有用なスキルが欲しいんだろ? 盗賊スキルなんてどうかな?」

 

隣のテーブルから明るい声が聞こえた。

反射的にそちらを見ると2人の女性がテーブルに腰掛けてこっちを見ていた。

1人は軽装で盗賊風、頬に小さな刀傷がある銀髪の美少女。

もう1人はカズマよりも身長が高そうな、フルプレートアーマーを身に付けた金髪の美女だ。

 

「えっと、盗賊スキル? どんなのがあるんでしょう?」

 

カズマの質問に上機嫌で盗賊風の少女は応える。

 

「よくぞ聞いてくれました。 盗賊スキル発動使えるよー。 罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。 持ってるだけでお得なスキルが盛りだくさんだよ。 キミ、職業の冒険者なんだろ? 盗賊のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ? どうだい? 今ならクリムゾンビア一杯でいいよ?」

「安い……まぁ、どうするかはカズマ次第だな」

「よし、その話乗った!」

 

俺のつぶやき(後押し)にカズマは嬉々として店員を呼ぶ。

 

「すんませーん、こっちの人に冷えたクリムゾンビアを一つ!」

「あ、そうだ。 用事がらあるんだった。 また後でな」

 

そう言い残して俺は、席を後にする。

 

☆KONOSUBA☆

 

ハルヒトはとある道具屋を訪ねた。 カランコロン、とドアを変えた時に音がして、店の奥の方から「はぁ〜い」と彼女には聞き慣れたはずの声、間延びした声が聞こえた。

 

「いらっしゃいませ! ってアレ? マスターじゃないですか」

「んあ? なんでお前が店番してんだよ」

 

ここは〈ウィズ魔道具店〉。 色々な魔道具を扱う店で、店主のウィズは引退した歴戦の大魔導士、アークウィザードである…と、それは表向きの情報。 ウィズには裏向きの情報もあるが、ハルヒトはそのどちらも知っていたりする。

 

「えっと、ウィズが、蓄えの砂糖がなくなって栄養不足に、そのせいか自然成仏寸前で…私が繋ぎ止めてますけど」

「それを早く言ってくれよ!?」

 

ハルヒトはそう言うや否や、カウンターの奥の部屋に上がり込み、そこで目を回している、半透明になりかけた…茶髪の美女の肩を揺すった。

 

「おい、ウィズ! 三途の川を渡るにはまだ早いぞ! 〈ドレインタッチ〉して生命力を!」

「は、はひぃ…〈ドレインタッチ〉っ…」

 

ハルヒトが女性の手を取ると、淡くその手が光った。

すると、彼女は軽い倦怠感に襲われる。 が、それは彼女にとって、苦になるものではない。 しかし、だんだん目眩の感覚を覚えだして若干焦燥し始めた時に、美女…ウィズの身体ははっきりとした輪郭を取り戻し、半透明になりかけた体も元に戻っていた。

 

「ごめんなさい、大丈夫? ハルヒトさん」

「この程度なら問題ないさ…少しばかりクラクラするが」

「うう、ハルナ様から生命力を譲渡してもらえればいいんですが…」

「それをしたらウィズが成仏もとい強制昇天ものですから!? 私がものすっごいあと味悪いですから、やめてください!?」

 

ウィズはすこししょんぼりしていた。 先程から成仏だの昇天だのの単語が出ているが、ウィズはリッチーと呼ばれるアンデットである。

アンデットの王。 リッチーは〈ノーライフキング〉とも呼ばれる大魔導士が禁呪を用いて神の説く理を捨てて不死となった存在だ。

そんなリッチーがなぜこの街にいるか…まではハルヒトも把握していないが、詮索するつもりもなかった。

何せ、ウィズは人を襲わない。 それどころか集合墓地の迷える魂たちを天に導くプリーストの真似事までしているため、人類の味方であるとハルヒトは判断しているのだ。

 

「たく、いつでも頼ってくれてもいいって言ってるじゃねえか。 こっちかって頼るばっかりは嫌だって言うのに」

「す、すみません…」

「いや、そこは謝るところじゃないから…はぁ、まあいいや。 今日も例のアレを頼みに来た」

「あ、はい。 〈レベルドレイン〉ですか?」

「ああ、頼むよ」

 

集合墓地のゾンビの討伐の折にウィズと出会ったハルヒトはその人柄と行動を見て思わず「あんたは天使か」と突っ込んで以来の付き合いとなっている。 何より、ハルナが彼女をいたく気に入ってしまい、ハルナはよくこうしてウィズの店に遊びに来ているのだ。

そして、リッチーは最高位のアンデット故に強力なスキルを幾多も有している。 その中でも〈タッチ〉系は他者より生命力を奪ったり、魔力を奪うことも可能らしく、意識して相手に触れると、意識した状態異常を引き起こせるトンデモスキルなのだ。

そして、ハルヒトは定期的にウィズに〈レベルドレイン〉を行使してもらい、レベルを下げている。

実はレベルが下がるスキルや薬品がこの世には出回っている。 しかし出回っているが偽物だったり、高価だったりとおいそれと手を出せるものではない。 そこでハルヒトはリッチーのウィズにそれを聞き、定期的にレベルを下げらようになったのだ。

と言うのも、レベルが下がることに関して、デメリットが存在しないことにある。

レベルを上げれば、ステータスが上昇する。 そして上昇したステータスはレベルが下がっても変動しないのだ。

つまり、レベルを下げてまたレベルを上げれば、何度でもステータスが成長するのだ。

応じてスキルポイントも上昇するし、レベルを下げても蓄えたスキルポイントはそのぶん減らないのだ。

言い切ろう、メリットしかない。 リッチーの呪詛の類は確かに体内に流れ込むが、ハルナにそれを浄化して貰えば問題ないので、実際のところはハルヒトにしかできないことなのではあるが。

 

「今回もレベルを3下げればいいんですね?」

「おう、今日にでも上級職に成ろうと思ってさ…いい加減に中級職からクラスアップしてくださいとルナさんに泣き付かれた」

 

こうして、ハルヒトはクラスアップに必要なレベルを維持しながら、レベルをダウンさせてもらうのであった。

 

☆このすば!!☆

 

俺がギルドに戻ると、カズマもスキルを習得して戻ってきていた。

 

「公の場でいきなりぱんつ脱がされたからって、いつまでもメソメソしてもしょうがないね! よし、ダクネス。 あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索してくるよ! 下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」

「おい、まてよ。 なんかすでにアクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるから本当に待って」

 

早口で弁明するカズマの声…ぱんつを脱がしただと?

 

「戻ってきたらなんの騒ぎだ、何やったんだよカズマ…」

「ハルヒト!? どこ行ってたんだよ!」

 

とまぁ、カズマが経緯を俺に話すのだが…掻い摘んで、経緯をまとめると

 

「なるほど、スキルを習って実践して相手のものをランダムに取るスティールでクリスさんのぱんつを脱がし、彼女の有り金全部とぱんつを交換したってことか?」

 

神妙な顔して頷くカズマ…悪気はなかったと見るか。

 

「…すまなかった、クリスさん。 うちのバカがやらかしたことについては謝らせてくれ」

 

俺は彼女に深く頭をさげる…

 

「いいって、いいって! あたしが持ちかけた賭けみたいなものだったし…本当に、気にしないでね? でも、これくらいの逆襲はしたっていいでしょ?」

「は、はぁ…」

「それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてダクネス! それじゃあ行ってみようかな!」

 

悪戯な笑みを残してクリスさんはメンバー募集掲示板を見に行ってすぐにパーティーを見つけたのだろう。

ダクネスと呼んだ人に手を振りながら、臨時パーティーと共にギルドを後にしていった。

 

「えっと、ダクネスさんは行かなくて良かったの?」

 

俺の座っている場所の真ん前に、自然に座るダクネスって人にカズマが訪ねていた。

 

「うむ。 私は前衛職だからな前衛職なんてどこにでも有り余っている。 でも、盗賊はダンジョンに必須な割に地味だからなり手があまり多くない職業だ。 クリスの需要ならいくらでもある」

 

なるぼど…職業によって需要があるないはやっぱりあるんだな。

めぐみんの話ではダンジョン探索は朝一からで…おそらく、クリスさん達はダンジョン前でキャンプするのだろうと。

 

「それはそうと、カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

めぐみんがカズマにそう聞くと、ニヤリと不敵に笑う。

 

「ふふん、まあ見てろよ? 行くぜ! スティール!」

 

カズマが右手を突き出すように構えるとその手には黒い布が握られていた。

 

ぱんつだった

 

「なんですか? レベルが上がってステータスが上がったら、冒険者から変態にジョブチェンジしたのですか? …あの、スースーするのでぱんつ返してください」

 

てか、めぐみん…意外と過激な下着を身につけてるんだな。 黒とは驚いた。

 

「本当に故意でやってないんだよな?」

 

やった当の本人の慌てぶりからわざとじゃないとは思いたいが、ぱんつを返すカズマは一層小さくなっていた。

 

「あ、あれ⁉︎ お、おかしいなー…こんなはずじゃ…。 ランダムで何かを奪い取るスキルのはずなのに!」

 

周りの女性からの視線は零下を超えた凍える眼差し…全てがカズマに向けられている。

と、突然バンとテーブルが叩かれた。

椅子を蹴って立ち上がったのはダクネスさん…なぜにそんなに目を爛々と輝かせているんだ?

 

「やはり、やはり私の目に狂いはなかった! こんな幼げな少女の下着を公衆の前で剝ぎ取るなんて、何という鬼畜…! 是非とも、是非とも私をこのパーティーにいれて欲しい!」

「いらない」

「んんっ…⁉︎ くっ…!」

 

カズマの即答に頬を赤らめて体を震わせる…まさかこの人、M(マゾ)ッ気をお持ちで?

 

「ねぇ、カズマ。 この人誰? この人が昨日言ってた、私たちがお風呂に入ってる間に面接に来た人?」

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。 断る理由なんてないのでは?」

 

カズマがしまったという顔をする。

 

「…何か問題でもあるのか?」

 

俺がカズマに直球で聞くと手招きしてきたのでそっちに行くと、ひそひそと

 

「めぐみん、アクアだけでも大変なんだぞ、これから…問題児がこれ以上増えたら俺とお前にかなりの負担になるだろ!?」

 

こんなことを言ってきた…まぁダメなところもあればいいところもあるのが人だ…が、うちの面々はそれの振り切り方が極端ってわけなのだろう。

 

「組むだけ組んでみたらどうだ?」

 

とりあえず組んでみてダメなら断る…これでいいだろうとカズマに言う。

するとカズマは裏切り者と言いたげな顔で意を決したように表情を引き締めた。

 

「実はなダクネス。 俺たちはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

カズマの意図を察した俺は口を出さず見守ることにした。

 

「ちょうどいい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。 俺たちはどうあっても魔王を倒したい。 そう、俺はそのために冒険者になったんだ。 と、言うわけで。 俺たちの冒険は過酷なものになるだろう……特にダクネス。 女騎士のあんたなんて、魔王に捕まったらそれはもうとんでもない目に遭わされる役どころだよな?」

「ああ、全くその通りだ! 昔から、魔王にいやらしい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな! それだけでも行く価値はある!」

「「えッ⁉︎」」

「む? 何かおかしなことを私は口走ったか?」

 

強い同意のダクネスさんに驚いた俺とカズマの声がハモる…同意するところじゃない気がするのだが、あれ? おかしいのは俺たちの方なのか?

 

「め、めぐみんも聞いてくれ。 俺たちの相手は魔王だ。 この世で最強の存在に俺たちは喧嘩を売るつもりなんだ。 そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

それを聞いた途端にめぐみんがガタンと椅子を蹴って立ち上がる……椅子に恨みでもあるのか、この連中は。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者! 我を差し置き最強を名乗る魔王! そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

ギルド内の視線を集めて、めぐみんがそれはそれは見ていて清々しくも感じる厨二病宣言をした。

自信満々なドヤ顔してんじゃないよ……魔王が爆裂魔法一発でノックアウトできるとかどんなイージーモードだよ。

 

「ねぇカズマ、ハルヒ……」

 

がっくりと項垂れるカズマの袖をクイクイと引っ張るアクア。

 

「私、カズマの話を聞いたら何だか腰が引けてきたんですけど。 なんかこう、もっと楽して魔王討伐できる方法ない?」

 

アクアの発言にカズマがこめかみを押さえながら言った。

 

「むしろ、お前が一番やる気を出せ」

 

と、その時だった。

 

[緊急クエスト、緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。 街の中にいる冒険者の各員は至急冒険者ギルドに集まってください!]

 

受付嬢ルナさんの声が街に響き渡る……大音量のアナウンスが流れてきた。

マジックアイテムで音声を増幅拡大しているのだろう。

 

「おい、緊急クエストってなんだ? モンスターが街に襲撃に来たのか?」

「もしそうなら緊急事態かもしれんが、おそらく〈キャベツ〉かな?」

 

カズマの疑問、普通のファンタジーな異世界なら通るベタなイベントだと思う。

しかし、俺やダクネスさん、めぐみんがどことなく嬉しそうな雰囲気で、不安を感じている様子はない。

 

「多分、キャベツの収穫だろう。 そろそろ収穫の時期だしな」

「は? キャベツ? キャベツってモンスターか何かか?」

 

カズマが呆然とそんなことを言う。

すると、ダクネスさんとめぐみんが彼をかわいそうな人を見る目で見つめていた…そういや、こいつ知らんよな。

 

「キャベツとは、緑色の丸いやつです。 食べられるものです」

「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい野菜のことだ」

「そんなこと知っとるわぁぁぁ! じゃあなんだ? 緊急クエストだの騒いで、冒険者に農家のお手伝いさせようってのか? このギルドの連中は?」

「いや、サンマの収穫のお手伝いの方が簡単なお仕事だろう…」

 

カズマがとうとう頭がオーバーヒートしたのか、説明を求めるようにアクアを見ると

 

「あー…カズマは知らなくて当然よね。 ええっと、この世界のキャベツは…」

 

アクアがなんだか申し訳なさそうに説明をくれようとするのを遮るようにルナさんが大声で説明を始めた。

 

「みなさん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気がついている方もいらっしゃると思いますが、キャベツです! 今年も秋キャベツの収穫時期がやってまいりました! 今年の秋キャベツは出来が良く、一玉の収穫につき報酬は一万エリスです! すでに街中の住民の皆様には家に避難して頂きました! ではみなさん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください! くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をなされないようお願い致します! なお人数が人数。 額が額なので、報酬の受け渡しは後日まとめてとなります!」

 

カズマの顔に怪訝なものを聞くような雰囲気が。 キャベツの収穫? キャベツに逆襲されて怪我をなされないよう? そんなことを考えているように見えるが。

 

「…は?」

 

彼の疑問はさておき、ギルドの冒険者連中は歓声をあげる。 連中を追うように、ギルドの建物を出ると…

街中を悠々と飛び回る緑色の丸いやつ…紛れもなくそれは…キャベツだった。

カズマがことを把握できずに立ち尽くしていると、いつの間にか彼の隣に来ていたアクアが厳かに告げる。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ。 味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるものかとばかりに。 街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り、海を越え……最後には人知れぬ秘境の奥でひっそりと最期を迎えると言われているわ。 なら、私たちは彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようってことよ」

「俺、屋敷に帰って寝ててもいいかな」

 

呆然とつぶやくカズマの隣を勇敢な冒険者達が気勢を上げて駆け抜けていく…彼らもキャベツの生き様に感化されて熱く滾る漢達なのだろうか?

俺はハルナに借りている倉庫(インベントリ)からイチイの弓と矢筒を呼び出すと矢筒を腰に固定して左手には弓を持つ。

矢筒には倉庫から一緒に呼び出された石の矢が詰まっている。

 

「よし、カズマ…。俺はキャベツの収穫に行ってくりゅうっ!」

 

おそらく俺の目は$になっているだろう…一万エリス…待ってろよぉぉぉ!

 

「あ、おい待てハルヒト! お、おいていくなぁぁぁ!?」

「あ、待ってよハルヒー!?」

 

あ、そうそう。

これは余談だが、ダクネスさんは…不器用だった…剣がなかなか当たらないクルセイダーというのも納得。

しかし、硬かった…最硬にな!

 

☆KONOSUBA☆

 

[キャベキャベキャベツ!]

 

キャベツの鳴き声がこだまするその戦場で、ハルヒトは踊る。 彼女が引きしぼる弓の弦はキリキリと不快な音響を鳴らす。

 

「……狙撃!」

 

ヒュッと放たれた矢はハルヒトに打撃を加えようとしていたキャベツを射抜き、地に落とす。

 

「狙撃!」

 

矢を番え、撃つ……番えて撃つ……

 

矢弾はハルヒトからしたら無限と言っても過言ではない。

倉庫には有り余るほどに備蓄されているためストックされた矢がまだまだあるのだ。

ハルヒトが矢を放つたびに転がるキャベツはゆうに八十玉を超えていた。

やがて矢筒の矢は尽きるが、ハルヒトは矢筒と反対側に吊るしてあった鋼の剣を抜くとそれを地に突き刺した。

 

「ちょうどいい……試すか」

 

ハルヒトは体内に棲まう存在、ハルナを通じて出会った精霊に呼びかける。

 

精霊回廊(プロムナード)を使うのは久々だが…いっちょやってみますか!」

 

地に刺した黄昏の剣を抜き、天に掲げるようにして構えてハルヒトは詠唱を唄った。

剣を右手に持ち、弓を倉庫に格納したハルヒトは左手を突き出す。

その突き出された手の先には赤い火球が宙に浮いていた。

 

「全てを焼き焦がす火炎の王よ。 汝に我は願う。 我を滅ぼそうと、我を倒そうとせん彼の敵に終焔を与えよう」

 

ハルヒトの手先の火球が小さく収縮していく。

 

「我の願いは汝の、汝の願いは我の願い。 永劫の時を焼却せし汝の咆哮を轟かせよう……!」

 

やがてその火球は徐々に大きくその魔力密度を増して行く……そして……ハルヒトは火炎の王の名と共にその終焔を解き放つ!

 

「〈ロアー・イフリート・クリムゾン〉ッ!」

 

解き放たれた焔が、辺りを赤く照らし出す!

 

着弾点を中心に巨大な火柱と大気が急加熱されたことにより上昇気流が発生…火柱に引き寄せられるようにしてキャベツ達は上昇気流に吸い寄せらていった。

 

中級魔法の〈クリムゾン〉にハルヒトは炎の大精霊、《炎王イフリート》の力を借り、それを上級魔法に近い威力に増幅させた。

その威力は火炎魔法の中で最強と謳われる〈インフェルノ〉には劣るが、引けを取らない威力になる。

紅蓮の焔が飛来するキャベツ達を包み、焼かれたキャベツ達はいい火加減で火を通されていたのであった。

 

「…後日が楽しみだ…!」

 

ハルヒトのつぶやきは近くで呆然と見守っていたカズマとアクアに聞こえることはなかった…。

 

(続く)



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 50~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。