夜神月「デアスノテ。直訳で分からない」 (ルシエド)
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シンセカイ・ゴッド

思い出の中のデスノコラを参考に、まったりゆったり連載していきます


「デアス ノテ。直訳で……分からない」

 夜神月17歳。学生です。
 彼は類稀なる優秀な頭脳、冷静な判断力、極めて高い学力を持つ天才であった。
 全国模試も一位。彼より頭のいい人間はそうそう居まい。

「全部英語か……頭悪い奴は読めないだろうな。だが僕は違う」

 夜神月は凡人とは違うその頭脳を駆使して、帰宅するなりノートの文章をエキサイト翻訳にかける。普段はひらがな入力にしているキーボードも、今日ばかりはアルファベット入力無双だ。
 彼には凡人には真似できない凡庸力、否、汎用力があるのである。

「使い方……このノートに名前を書かれた人間は死ぬ……
 クソっ、ダメだ、ここまでしか解読できない……なんて難解なんだ……!」

 彼の優秀な頭脳をもってしても、そのノートに書かれている文面は理解できないようだ。
 だが、内容だけは理解できている様子。流石だ。
 このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。それだけは確かなことなのだろう。

「まあいい。こんなものに頼る気はない」

 夜神月は躊躇いなくノートをゴミ箱に捨て、ベッドに横になり、天井のライトに重なるように携帯電話を掲げていじる。
 手が滑って顔に落ちた。
 ちょっと痛かった。





 その日の夜のこと。

「俺、渋井丸拓男。略してシブタク。へへ……付き合ってよおねーさん」

「ごめんなさい、私家訓で年収2000万以下の人と付き合ってはいけないことになってるの」

 コンビ二でからあげクンを買った帰り、月はコンビニ前で純朴そうな女性と、その女性に絡んでいる不潔そうなチーマーの男を発見する。
 月は渋井丸拓男なる男が名乗った名前を聞き、その発音から男の本名を十数パターン想像し、小脇に抱えていたバッグの中のデスノートに触れ、それを邪魔そうに端っこにどけた。

(奴の本名がどれか分からないな……仕方ない)

 そしてバッグの中から取り出されるは六法全書。
 月は周囲の人々の視界の合間を縫うように、渋井丸拓男の背後に忍び寄り、その脳天に六法全書を振り下ろす。そして再び人々の視界の合間を縫ってその場を立ち去った。
 その間、一秒あるかないか。
 振り下ろされる正義の鉄槌、法の裁き。
 誰も見ていない。どこにも証拠は残らない。ここに完全犯罪は成立する。

「た、タクー!」
「なんだ!? 何が起こったんだ!?」
「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!」

 後には突如倒れたようにしか見えない、頭蓋骨が陥没した死体だけが残された。

(世の中は腐っている。
 腐っている奴は死んだ方がいい。そのために法の裁きが必要なんだ)

 顔と名前を知らなくても特に問題なく殺せる新世界の神が、ここに誕生した。

(デスノートと六法全書で、世の中を変えてやる!)

 死神が落とした死のノートは、とんでもないモンスターを生み出してしまったようだ。










 それからしばらく経った後、都内に設置された特別捜査本部にて。

「局長、これはいったい……」

 警察官達が皆揃って難しい顔をして、唸っている。
 彼らの悩み事は、最近起こっている通称『キラ』なる者が起こしている犯罪だ。
 ここ最近世界中のいたるところで、居場所の分からない指名手配犯、刑務所に留置されていた死刑囚、立てこもりなどを行っていた犯罪者などが頭蓋骨陥没で殺されていた。
 どう考えても不可能な犯罪に、世界で一番頭の良い探偵(この表現は頭が悪そう)と呼ばれる名探偵『L』が立つ。
 日本の警察は特別捜査本部を用意し、Lと共に捜査をしていたのだが……

「うむ……」

 ここに来て奇妙な事件が連発していた。
 厳重に警戒されていた刑務所内で犯罪者達が次々と死亡し、犯罪者達が死の直前に壁に不可思議な絵を書いたり意味不明な遺書を書いたりと、死の直前に不自然な行動を取っていたのだ。
 まだ秘密裏に動いていたLはこれを見て、ぴーんと来た。
 そしてパソコン越しに特別捜査本部の皆に語りかける。

『キラは死の前の行動を操れる可能性がありますね』

「どういうことですかL!」

『まず頭蓋骨を陥没させる凶器を犯罪者に突きつける。
 "言うことを聞かなければ殺す"と言って言うことを聞かせ、操る。
 そして犯罪者が特定の行動を取った後、殺す。
 キラの正体は、相当悪知恵に長ける厄介な知能犯であるということです……』

「なんてことだ……」
「死の直前の行動を操れるなんて……!」
「しかも目撃情報も証拠も残ってない……!」

『これは報道を控えた方がいいでしょう。
 キラが犯罪者の死の直前の行動をどこまで操れるか実験している可能性がある』

 夜神月ことキラと、世界の警察を動かせる名探偵Lの頭脳戦。
 今のところ、この戦いはキラ有利で進んでいるようだ。

『こちらからも仕掛ける必要がありますね』

「L? 何を……」

『私にいい考えがある』

 やられてばかりでは悔しいな、とでも言わんばかりに、Lは対キラ用の初手を打った。





 その日のテレビは、一部物凄い視聴率を誇ったという。

『私は全世界の警察を動かせる唯一の人間"リンド・L・テイラー"通称「L」です』

 Lと名乗るテレビに出て来て、キラを煽り始めたのだ。
 超がつくほど頭がよく、その頭脳で今日までキラとして活動してきた夜神月だが、彼にも欠点はある。煽り耐性がちょっとだけ低く、意味もない勝利宣言をしたがる、負けず嫌いであるということだ。
 デスノートを地上に落とした死神・リュークは、面白くなりそうな予感がしていた。

『キラ、お前がどのような考えでこのような事をしているのか大体想像はつく。
 しかしおまえのしている事は……悪だ!!』

「あーっと天才の僕も今のにはカチンと来ちゃったなー仕方ないなー」

「お前本当に煽り耐性ないのな」

 月はデスノートを開いてペンを持つ。

(リンド・L・テイラー……いや、偽名かもしれない。デスノートを使っては確実性に欠ける)

 そしてノートとペンを放り投げて六法全書を掴み、駆け出した。

「おい月、どこに行くんだ?」

 その後をリュークが追う。
 やがて月が部屋から出て行ってから数十秒後、テレビ画面が暗くなり、テレビを放映していた者達の困惑の声が響き始める。どうやら生放送だったようだ。

『うわーっ、停電だ!?』

 そして更に十数秒後、断末魔が響く。

『あべしっ』

 更に十数秒後、夜神月は自室に戻っていた。

「裁きは完了した」

「バカだ……バカだこいつ……」

 月が部屋を出てから一分強が経ったくらいの頃だろうか。
 テレビの中のスタジオにようやく電気がついた。
 そしてリンド・L・テイラーの頭蓋骨が陥没した死体を見て、スタジオの人間が悲鳴を上げる。

『きゃあああああ!』
『し、死んでる……』
『キラや! キラの仕業や!』

 無様な男の死体を見ながら、月は上機嫌にほくそ笑んだ。

「神の裁きだ。Lともあろう者が、間抜けすぎ――」

『し、信じられない……こんな短時間で迷わず殴り殺しに来るとは……』

「――な、に?」

『キラ、お前が殺したのは私ではない。
 今日死刑にされる予定だった犯罪者……私のカワリミだ。
 お前は瞬時にテレビ局に侵入し、停電を起こし、リンド・L・テイラーを殴殺した』

 だがその笑みはすぐにかき消え、月は本当に無様だったのが自分であったと気付く。

『ネットの速報性が蔓延しているこのご時世だ。時間差放送なんてやってられん。
 お前の犯行の手口から考え、全国各地の放映局を使い同時に別々のLがお前を煽っていた。
 その内の一人、関東担当の放送局の人間が消された。つまりお前は、関東に居る』

「……!」

「間抜けは見つかったようだな、ライト」

「うるさいぞリューク!」

『そしてもう一つはっきりした。
 やはり顔と名前と現在地が分からない人間は殺せないようだな、キラ』

 顔も出さずに笑うLがだんだんと上機嫌になっていき、月の顔がみるみる内に怒りで歪んでいく。

『違うというのなら、私をこの場で殺してみろ!』

「Lめ……この屈辱は、必ずこの手で……」

「おっ、ライト今度は拳で殴り殺しに行くのか?」

『どんな気持ち? どんな気持ちだキラ? 悔しいか? ん? ん?』

「ぶ っ 殺 す」

「そうそう、その調子だ。だから早く俺が落としたノート一回でいいから使ってくれよ……」

 リュークの懇願とチラチラ視界に入って来るデスノートをガン無視して、月は世界のどこかのLに、テレビの向こうでもLが世界のどこかのキラに、相手に聞こえない宣戦布告を行う。

「L……」
『キラ……』

「必ずお前を探し出して六法全書の染みにする!」
『必ずお前を探し出して始末する!』

「僕が」
『私が』

「正義だ!」
『正義だ!』

 ブツン、とテレビの映像が途切れる。
 それと同時、振り下ろされた六法全書が八つ当たり気味にテレビを粉砕した。
 頑丈なテレビが砕け、金属がちぎれる音が響き渡る。

「ククク……勝った方が正義か。面白くなってきたじゃないか、月」

「勝った者が正義だなんていうのは悪の言い分だよ、リューク。
 正義っていうのはもっと不動なものなんだ。揺らがないものなんだ。だから僕は正義なんだよ」

「お、おう」

 ライトは激怒した。
 必ず、かの刻舟求剣のLを除かなければならぬと決意した。
 ライトには政治がわからぬ。ライトはデスノートの所有者である。英語なんて読めなくても特に問題なく模試などは乗り切ってきた。彼は普通の範囲で優秀な人間であった。
 けれども自分の邪魔になりそうな人間に対しては、人一倍に敏感であった。

 今日も彼の手によって、法の裁きは鉄槌と成りて悪に振り下ろされていく。




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深く関わると人間も死神も無念に死んでいく弥海砂とかいう本物の死神

 レイ・ペンバーは、駅のホームのベンチに座りながら、電車の中で六法全書を投げる夜神月と、閉じかけていた電車のドアの合間を飛んで来る六法全書を見ていた。
 どこか、他人事のように。

「さよならレイ・ペンバー」

 六法全書はレイ・ペンバーの頭蓋骨を陥没させ、跳ね返り、閉まる直前のドアの隙間を通過して電車の中の月のバッグの中に収まる。
 そうして目にも留まらぬ速さで、目撃者も証拠も残さず、月はレイ・ペンバーの抹殺を完了していた。

(これでFBIの全ての人間の脳天をかち割ったことになる。
 FBIの人間の名前なんて分かるわけがない。
 冷静に理詰めで考えれば、これが最善手中の最善手に決まってるんだ)

 連続殺人犯キラ。いまだその尻尾も掴ませていないそれを捕まえるため、LはFBIの人員を動かして捜査していた……が。
 その全員が、キラの手によって頭蓋骨陥没による死を迎えていた。
 全員が凶器を突きつけられて死の直前の行動を操られていたため、FBIのメンバーのリストの所持者やらあれやこれやで犯人を特定することはできない。

 頭脳犯キラは今日も絶好調だった。





 こいつはなんか怪しいな、といった感じのLのフィーリングで容疑者の中からピックアップされた夜神月君の部屋に監視カメラと盗聴器が仕掛けられてから数日が経っていた。
 崇高なる頭脳を持つ月はこれまでの犯罪で一切の証拠を残していなかったが、流石に金田一並みの直感力と死神力を持つLの直感から完全に逃れることはできない。
 探偵とは、行く先々で犯罪に出会う死神の別称。
 デスノートを地上に落とすのが死神なら、探偵もまた死神。
 その直感力はゴッドの域なのだ。

「結局、月君がキラだって証拠は何も見つかりませんでしたね」

 アホの松田が口を開く。
 顔出しをしてくれるようになったLが、その意見に同意した。

「そうですね。暇さえあれば六法全書を読んでいるくらいです……凶器はどこにあるのやら」

 盗撮記録映像の中では、夜神月が机に向かいつつ六法全書を熟読していた。
 彼が六法全書を読んでいる間も、犯罪者は裁かれ続けている。彼は部屋も出ていなければ、L視点では凶器を手にしてすらいない。
 もうこれ無罪ってことでええやん? せやな、といった流れに、捜査本部は傾いていた。

「これで息子の疑いは晴れたと考えていいのだろうか」

 夜神月の父、夜神総一郎がLに問いかける。
 普通ならば容疑者から夜神月を容疑者から外すであろうこの場面。
 しかしLは、理詰めの思考によって夜神月への疑いをいまだ外してはいなかった。

「いえ、日本にはニンジャのカゲブンシンがあると聞きます。
 それを考えれば、部屋に居ながら犯罪者を裁くことも難しくはないでしょう。
 月君がカメラの存在に気付きアリバイを確保しながら殺している可能性は十分にあります」

「むぅ」
「確かに」
「そう言われると、完璧なアリバイとは思えなくなってくるな……」

「とりあえず監視カメラと盗聴器は外しましょうか。クロでもシロでも意味無いですし」

 月の部屋に付けていたカメラと盗聴器を外し、あーでもないこーでもないと話し合いながら日々の時間を過ごしていたところ、第二のキラが出現し、ついでに宇生田が死んだ。





 第二のキラ登場!
 と世の中がハッスルマッスルし始めた頃。
 色々あれこれあって第二のキラ・弥海砂は夜神月の自宅を特定し、突撃していた。
 これには流石の月も苦笑い。
 もうちょっと思慮をもって慎重に行動してもらいたいものだ、と月は内心冷や汗をかいていた。

「何故、僕がキラだと分かった」

「あ、やっぱり死神の目の取り引きはしてないんですね」

「……目の取引?」

「やっべ、言うの忘れてた」

「……リューク?」

「俺達死神はノートの所有者の寿命の半分と引き換えに、死神の目をやれるんだ。
 うっかりすっかり忘れてたぜライト。正直すまんかった」

「うっかりすっかり?」

「うっかりすっかり」

「……」

 次やらかしたらリンゴでこいつのアナル拡張してやる、と夜神月は心に決めた。

「で、その死神の目とやらは何ができるんだ?」

「そこから先は、私が話そう」

「お前は……この子の死神の、レムと言ったか」

「そうだ」

「単刀直入に聞こう。死神の目は、何ができるんだ?」

 リュークが排気ガスにまみれた車を掃除した後の雑巾みたいな色の死神なら、レムはこぼした牛乳を拭いた後洗うのを忘れた雑巾みたいな色合いだな、なんて思いながら月はレムに問いかける。
 隠すことでもないので、レムは死神の目の取引について、彼に教えた。

「寿命の半分と引き換えに得た死神の目からは―――ビームが出る」

「───ビーム、だと」

「―――ビーム、だ」

 真顔でそういうレムを見て、月はそれが冗談でもなんでもないことを知る。

「ビームか」

 月は今日まで世界に正義を示してきた六法全書を見る。
 それが急に、とてつもなくショボい武器に見えてきた。

「ビームか……」

 月は片手で顔を覆い、天井を見上げた。
 ビーム。カッコいい。
 そういったランゲージが彼の脳裏を駆け巡り、彼に取引をするかしないかの選択を迷わせる。

「ライト、ライト、実際に見せようか?」

「えぇ……」

 そこにミサが畳み掛けるようにすり寄ってくる。
 実際に見せるといってもどうするべきか。
 月はデスノートを手に取り、もったいなくて使い捨てられなかった39800円の小型液晶テレビの電源をつける。
 すると画面の中に、顔を隠した銀行強盗の立てこもり犯の生中継が流れていた。

(この男は裁くべき悪だ……しかし名前が分からない……)

 月は役立たずノートをベッドに放り投げる。ベッドの脇に落ちるノート。どうでもいいと思っている内にどこに置いたか忘れ、ベッドの脇に落ちたという可能性もその内思い至らなくなってしまう、部屋の中での無くし物黄金パターンだ。
 月はノートの方に全く意識を割くことなく、ミサにテレビの人間を殺してみるよう頼み込む。

「あいつを殺ってみてくれないか?」

「あいあいさー。見てて、私の眼力!」

「眼力ってそりゃあ目からビームが出たら眼力(物理)だろうけどって何その目怖っ!」

 カッ、と目を見開くミサ。顔が怖い。
 彼女が窓の方を向くと、その目から放たれたビームが月の部屋の窓を融解させながら、夜空の彼方へとすっ飛んで行った。
 数秒の後、生中継中のテレビの中の映像に変化が起きる。

『皆様! 今の映像をご覧いただけましたでしょうか!?
 と、突如! 立てこもり犯が死亡しました!
 この抉れた頭! ま、まさかキラの仕業なのでしょうか!?』

 頭の抉れた犯罪者を見て、ニュースキャスターが喚いている。
 本物だ、と、月は風通しのよくなった窓を見ながら、虚しく思った。

「ライトー、褒めて褒めてー!」

「死神の目……顔を見ただけで殺せる力、か……ふふっ……寒っ……」

 月はミサに窓を弁償しろと言う。ミサは彼女にしてくれたら弁償すると返した。無論丁重にお断りしながら、月は軽く戦慄する。
 自分で窓を壊したにもかかわらずこう言える図々しさは、尋常なものではない。
 キチガイに刃物より、バカにビームの方がよっぽど怖い。世界の一つの真理であった。










「そういえば何故、僕がキラだと分かったのか、そこをまだ聞いてなかったな」

「死神の目のビームで撃たれても、ノート所有者は死なないの。
 だからあの日青山で、片っ端から撃っていこうとしたら、一発目で大当たり!」

「お前は魔女狩り当時の人間か何かか?」

 むかーしむかし、あるところに、魔女と疑いをかけられた人がいました。周囲の人はその人を紐で縛って「浮き上がってきたら魔女、浮き上がってこなかったら魔女ではない」と言って川に沈めました。浮かんできませんでした。終わり。
 実際に記録が残っている魔女狩りの一環である。
 月はミサにまたしても戦慄させられていた。

「どうどう? 私にメロメロになった?」

「家訓でね。バストが90以下の女性とは付き合ってはいけないことになってるんだ」

「なにそれこわい」

 ミサは無い胸をペタペタ触る。夢と希望で胸が膨らむだなんてほざいたのは誰だったか。
 ミサが90の大台に乗るには14cmも足りていない。彼女にデスノート、略してデストはあってもバストはない。ノーバストでナーバスとなるミサ。月の負けて死ね(パイツァ・バスト)宣言に、彼女は軽く打ちひしがれていた。

「うぅ……月のバカぁ……でも諦めない……最後にシェアで勝つのは低脂肪乳なんだから……」

「馬鹿話ばかりしていないで、いい加減前を向け」

 月とミサは今、夜景の見えるビルの屋上に居る。
 そして月が指差す方向に、もう一つのビルがあった。
 ミサはそのそのビルを見て目をカッと見開く。

「何その目怖っ……ミサ、薙ぎ払え」

「りょーかい!」

 閃光、崩壊、蒸発。
 そうしてミサの手により、"Lと警察の合同による捜査本部"は、跡形もなくビームによって消し飛ばされていた。
 夜神月の冷静かつ知的な頭脳は、既に『野生の勘』とでも言うべきスキルを発現させている。
 Lの居場所は分かっていたのだ。
 ただ、力技では入れないセキュリティがあったから攻めあぐねていただけで。

「L、僕の勝ちだ」

 お互いに顔も名前も全てが分からない相手を探し合い、先に見つかり特定された方が負けという知を競うデスゲーム。Lとのそれに勝利したことを確信し、月はその場を立ち去った。




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あいつこそがテニスの王子様

 もぞもぞもぞと、ミサが吹っ飛ばしたビルの瓦礫の下からLと警察官達が這い出て来る。

「皆さん、生きてます?」

「うーす……」
「なんとか……」
「知らなかったのか。俺は死なない」

 タネを明かせば簡単な話だ。
 こんなこともあろうかと理論を使い、Lはビル一つをダミーに使って、地下の部屋を捜査本部として使っていたのである。
 この先読み。流石はLだ。
 ミサビームは地上の建造物だけを破壊し、地下には影響を及ぼさなかったのである。

「今回出て来た第二のキラは、これまでのキラとは違いビームで殺す……予想通りでしたね」

「ですがL、それが分かっただけではどうにも……」

「いえ、もう一つ分かったことがありますよ。
 我々のビルを破壊したビームが、ヨツバグループ東京本社から飛んで来たということです」

「「「 ! 」」」

「あのヨツバのビルに、そうそう部外者は入れません。ならばキラは、ヨツバの人間」

 ビームの射角から、Lはビームがどこから飛んで来たのかを推理する。
 Lが指差す先には、巨大企業ヨツバグループのビルが悠然と立っていた。

「ヨツバビル本社。おそらくそこに、キラは居ます」

「なるほど!」
「流石L!」
「なんて冷静で的確な判断力なんだ!」

 ヨツバグループ編、開幕。





 神は世界創造の一週間の中で一日休みを取っていた。つまり新世界の神になるには働きっぱなしでは駄目で、休日を確保しなければならないのでは? と月は考えた。
 新世界の神になるため、彼は休日を取ることにした。
 そして自分が休んでいる間も神の裁きを行うため、手元で腐っていたデスノートをヨツバのとある人間に手渡すのであった。

 デスノートの説明と贈呈を受けた人間はこっそり社長を脅し、自分に足りない部分を補うために次期社長の座も狙えると言われている有能な人間、七人を集めさせた。
 その人間に足りないもの。それは知恵である。
 自分の利になる、ヨツバの利になる、そんな殺し方を思いつくための知恵である。
 そのためデスノートの現所有者は、自分がデスノートの所有者であるということを隠し、他の人間と同じくキラに脅された社長に集められたという体で、何食わぬ顔で会議に混じっていた。

「では今日も、会議を始める」

 サングラスハゲの尾々井剛が口を開く。自らの内より光を発する頭部と、外から来る光をカットするサングラスの組み合わせが、尾々井がこの中でリーダー格であるということの証明となる。

「我々の中にキラが居る。我々の会議の結果をキラが裁きに反映させる。今日もその前提で……」

「そんなことわざわざ言う必要があんのかよハゲ」

「なんだと?」

「それだからお前はハゲなんだよ」
「これだからハゲは」「しょうがないなハゲは」「まったくハゲだから」
「ハゲハゲ言いすぎじゃね?」「ハゲに人権はねーわ」
「ハーゲーハーゲーそんなのやーだーかーみのけー消え去っていくー」
「「「「「「 ハゲハゲハゲハゲハゲハー 」」」」」」

「俺がキラだったら、お前ら即座に殺してるところだ……!
 ハゲに罪はない! 神はハゲを赦している! ハゲはステータスなんだ! 希少価値だ!」

「仮に希少だとしても価値はないだろう」

 新たなるキラを含めた八人は、今日も知を絞って生産的な話し合いをしていた。

「好きな奴に好きな死なせ方をさせられるキラの力、か」

「『冨樫 義博
  過労死
  寝る間も惜しんで最高クオリティでハンターハンターを完結させる
  その後心残りが無くなったことに満足しながら、安らかに死を迎える』ってできるか?」

「!」

「お前天才か!?」

「いや冨樫って本名なのか? ペンネームじゃなくて?」

「本名って話を聞いたことがあるが」

「23日フルに使って執筆させる感じか……しかし冨樫ほどの才を死なせてしまうというのも……」

「だが今のペースで、冨樫が寿命で死ぬ前にハンタを完結させられるのかは疑問だろう?」

 三人寄れば文殊の知恵と言うならば、八人寄ればいかほどか。
 船頭多くして船山に登るとしても、そのまま船が天を衝くならば問題はない。

「まずはヨツバの価値を上げなければな」

「ライバル企業の奴らを事故や病気に見せかけて殺していけばいいのか?」

「いやもっと確実な方法がある。
 『○○ ○○
  事故死
  自室のパソコンで児童ポルノ画像を収集、保存。
  その後近所の小学校の女子児童に怪しく声をかけ、通報された後逃走中に事故死』
 と書けばいいだけだ。物理的・社会的に殺せる上に応用が効く。ショタホモでも可だ。
 どいつもこの方向性で攻めればいい。死後に警察の手によってPCが検められれば最高だな」

「な、奈南川……」
「恐ろしいやつだ、奈南川……」
「お前だけは敵に回したくないな……」

 彼らの恐ろしい企みは進んでいく。
 ヨツバグループの価値を上げるため、彼らは他者の有力な人間を色々な意味で殺す方法を思案していた。デスノートは、社会的にも人を殺せるのだ。
 月は使わないが、極めて優秀な殺人兵器なのである。
 この場に集った八人にも良心がないわけではないだろうが、彼らが話し合っている内容は極悪非道と言って差し支えないものであった。

「この中にキラが居る……か」

「おいおい三堂、変にキラの正体を探ったらお前が殺されるかもしれんぞ」

 三堂芯吾のメガネがキラリと光る。
 煌めくメガネは知性の証。メガネを付けてるだけで人はちょっと頭がよさそうに見えるもの。

「かもしれないが……私は既に、キラの正体を見抜いているんだよ」

「!」

「どういうことだ三堂!?」

 メガネクイッとする三堂。それだけで頭が良さそうに見える。
 頭脳派アピールを欠かさない三堂は、どこかサマにならない動きでタバコを吸った。ゆったりとタバコの煙が広がり、三堂を除いた七人の内何人かが顔をしかめる。

「キラはタバコの煙を少しでも吸うと……亀頭に血管が浮き出る」

「なんだって!?」

 三堂の言葉に、皆が一斉に席を立った。
 外されるベルト、パンツごとずり下ろされるあれこれ。露出するメンズカノン。人によって「私はLです」「俺はMだ」「僕はS!」と自己主張に個人差はあれど、皆違って皆いい。
 されど、どれもどこかしら変になっているということはない様子だ。

「なんだ、なんともないじゃないか」

「ああ。だがマヌケは見つかったようだな」

 三堂の言葉に反応し、全てをずり下ろし全てをさらけ出したのは六人。
 そう、六人だ。一人足りない。
 この中でただ一人だけ……"ヨツバのキラ"火口卿介だけは、自分の股間がそうなっている可能性を危険視し(上の口でどう言い繕っても体は正直)、真っ先に逃走を選んでいた。
 そのため、メンズカノンを隠し一人だけ逃げ出そうとした火口がキラであると、証明されてしまったのである。

「ち、違う、俺は……」

「火口、お前がキラだ。ここで股間をさらけ出せなかったのがその証拠」

 露出された股間こそが真実を語るのだ。ここに居たのが知性溢れる月かLであったなら、その優秀な頭脳と判断力によって、一瞬で猥褻物を出すくらいはやってのけただろう。
 しかし火口にそれだけの知性はない。
 結果、彼は自分がキラであると皆に知られてしまっていた。

「大丈夫だ火口。私達はお前の正体を口外するつもりはない」

「み、三堂……」

「ああ、俺達だけの秘密だ」

「葉鳥……」

「俺も居るぜ」

「鷹橋……」

「お前らだけにいいカッコさせるかよ」

「尾々井……」

「ヨツバグループの繁栄を願ってるのは、お前だけじゃないんだぜ」
「コーホー」

「み、皆……!」

「分かってるな、お前達。俺達は今日キラの正体を知った。なら、すべきことは……」

 コクリ、と皆が一斉に頷く。
 自分がキラだとバレても皆が黙ってくれるのだ、と思いながら火口は感涙の涙を流した。

「これが友情パワーか……」

 今日の会議はこれでお開きかな、と思案しつつ奈南川がふっと笑う。

 この日、火口は確かな友情と仲間意識の存在を確信する。










 その日の夜、警察に『火口卿介がキラです』という匿名の通報が七件届き、警察に追い詰められた火口は自家用車で逃げ出した。










 追い詰められた火口は、死神の目をゲッツして首都高を大爆走。
 捕まってたまるかと言わんばかりに、自分を追って来る警察をビームで片っ端からぶっ飛ばして行った。
 飛び交う銃弾。ビームが全て見切って撃ち落とす。
 走るパトカー。ビームは破壊する。
 出動した自衛隊。ビームで全滅した。

「どうやら顔を見ただけで殺せるキラになったようですね」

 火口が流し目をするたびに検問が吹き飛び、火口のウィンク一つで戦車がぶっ飛ぶ。
 悪夢のような光景だった。

「どうですかワタリ」

「火口卿介は剣道五段です。銃を使っても制圧は難しいかと」

「分かった」

 L、ワタリ、"なんか役に立つかもしれないからついて来いや"と連れられて来た月はヘリに乗り、火口を追跡する。
 彼らのヘリと並んで飛んでいたテレビ局のヘリや自衛隊のヘリは次々と落ちていったが、彼らのヘリはバレルロールや宙返りを駆使して巧みにビームを回避していった。

「火口卿介ー、大人しく投降しなさーい」

「クソがぁ! もう誰も信じねえぞ!」

 警察による投降の呼びかけに、人間不信に陥った火口がビームの返答を返す。
 火口の暴走を止められる者はもう居ないのか、と誰もが思ったその時。首都高を埋め尽くすほどの数のパトカーが飛び出して来て、一斉に火口の車に体当たりを始めた。
 火口はビームでなぎ払うが、パトカーの数が多すぎて処理限界を超えてしまう。

 100のパトカーとその搭乗者が砕けようとも、1つのパトカーとその搭乗者が届けば勝ちだ。
 これこそが人間の知性の証。
 数学を用いた冷静沈着な計算による理知の打撃。
 またの名をカミカゼ・アタックである。

 そうして、一つのパトカーが火口の車に体当りし、続いて複数のパトカーが群がるように火口の車に突き刺さっていく。

「Fooー! カタルシスだぜ!」
「これだから警察はやめられねえな!」
「Fooー!」

「うわあああああああ」

 火口の車が首都高の壁に衝突し、パトカーを巻き込んで大爆発。
 警察官と火口はふんわりと飛び出し爆発を回避。火口はビームでキエエエエと飛びかかってくる警察官をなぎ払うが、後続が次々わらわらと群がってくる。

「来るなぁ! 誰も来るなぁッ!」

 ビームを乱射しながら、周囲に来るな来るなと叫び続ける火口。
 夜神総一郎を始めとする捜査本部の面々が到着した頃には、火口を取り押さえるためにL(竜崎)と月がヘリから飛び出していた。
 夜神月は中学時代二度テニスの全国大会を優勝した強者。
 Lは月と拮抗するほどのテニスの腕を持ち、かつて竜崎スミレの指導も受けていたことがあり、その縁で今の偽名を名乗っている名探偵。
 それを知っていたからこそ、松田桃太は、二人がテニスラケットを持って飛び出した意味を理解できていた。

「始めるのか、テニスを―――!」

 火口がビームを放ち、月がラケットを振るう。
 ラケットが抉った空間が盾となり、ビームを遮断した。

「む、あれは、月君が中学時代に対戦した相手、徳川カズヤのブラックホール!」

「知っているのか松田!」

「はい! 当時U-17選抜の合宿にて月君を追い詰めたこともある男の技です!
 空間を削り取り、あらゆるテニスボールを止める技……!
 ビームが通れる空間がなければ、ビームは届かない!
 テニスボールを受け止められるならばビームを受け止められるのも必然!
 まさか月君が中学生時代に苦戦させられた対戦者の技を習得しているなんて……!」

「そうか! それで月君はあの技を! なんて冷静で的確な判断力なんだ!」

「こいつは面白くなってきましたね……!」

「松田、お前の『面白い』が面白かったこと一度もないだろ」

 月がブラックホールで防ぐと同時、竜崎は攻めに転じる。

「がっ……!」

 Lが放った打球が路面で跳ね返り、火口の顎に命中。顎骨を粉々に粉砕した。

「む、あれは、月君が中学時代に対戦した越前リョーマが得意としたツイストサーブ!」

「知っているのか松田!」

「はい! ツイスト回転で異様なバウンドをするサーブです!
 あれならば、テニスをやったことのないような人間ならばまず目で追えません!
 銃弾は目で追えてもテニスボールを目で追えないのは道理!
 目で追えなければビームで撃てない!
 ビームで撃てなければ叩き落とせない!
 ツイストサーブは顔面に向かって跳ねるため、顎に当たれば一撃でその意識を刈り取れます!」

「そうか! それで竜崎はあの技を! なんて冷静で的確な判断力なんだ!」

「こいつは面白くなってきましたね……!」

「松田、お前の『面白い』が面白かったこと一度もないだろ」

 顎を砕かれた火口が気絶し、倒れ、警察官達がそれを取り押さえる。

「終わったな……」

 月のその呟きが、皆に安堵の息を漏らさせていた。










 そして月はLから離れ、一人ほくそ笑む。

(計画通り)

 そして腕時計を操作し、腕時計に仕込んでいた六法全書を取り出した。
 瞬時に踏み込む。
 周囲の人間の視界の合間を縫う。
 六法全書を振り上げる。

 そして一撃にて、火口卿介の頭蓋骨を陥没させた。

(さよなら火口)

 月は証拠隠滅をはかるため、六法全書を丸めて飲み込む。
 何もかもが当初の予定通りだ。
 これで、本物のキラ―――夜神月に繋がる情報源は消えて失せる。

「りゅ、竜崎! 火口が突然死にました!」

「なんだと!?」

 第三のキラ、火口の死をもって、Lの捜査はまたしても振り出しに戻った。

 ヨツバグループ編、終幕。




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訴訟も辞さない(迫真)

 ガチャリ、とLの新たな拠点のドアが内側から開かれる。
 内側から開いたのは死神・レム。
 外から入って来るは新世界の神・夜神月。
 ミサのことを引き合いに出されたレムは、こうして月にいいように使われていた。
 Lの新たな拠点の弱点……『壁をすり抜けられる死神には無力』という点を突くために。

「いいぞ、夜神月」

「いいぞ?」

「……どうぞ、お入りください」

 月は腕時計に仕込んだ六法全書を取り出し、振り下ろす。

「ご苦労。お前はもう用済みだ」

「ひでぶっ」

 そしていいように使っていたレムの頭蓋骨を陥没させた。
 死神に通常の武器は通用しない。ならば六法全書の一撃も通用しないのか?
 否。断じて否だ。
 本来の法の裁きは物理攻撃ではない。目には見えない罪を裁く、目には見えない鉄槌だ。
 なればこそ、レムの死は当然と言えよう。

(夜神月……
 神を顎で使い、神を殴り殺すとは……神を超えている……)

 レムは死して砂になる。その砂を踏み越え、月はLの拠点へと踏み込んだ。
 二階から十九階までのフロアを通る時間も余分だ、と考え、月は一階から二十階まで一歩で移動する。途中にあるセキュリティは無視し、この施設を掌握しているワタリを探し始めた。
 そしてワタリを発見し、その背後からノータイムで六法全書を振り下ろす……が。
 六法全書はワタリの体をすり抜ける。

「残像でございます」

「その僕も残像だ」

「!?」

 ワタリは残像を残して移動、六法全書の攻撃をかわして月のうなじに手刀を突き刺した。
 だが、誰が予想できようか。六法全書を振り下ろした月が残像であり、その月に攻撃を仕掛けたワタリの脳天に、既に六法全書が振り下ろされていたなどと。
 頭脳戦は月の勝利。ワタリの頭蓋骨は、無残に陥没していた。

「不覚……! 残像に、残像、とは……!」

「二手三手先を考える頭脳が足りなかったな」

 月は隣の部屋にLの気を感じ、部屋から部屋へと空間跳躍。
 六法全書のケースを鞘に、六法全書を刀に見立てた抜刀術にてLの頭蓋骨を陥没させる。
 その技量はまさしく神業。反撃を許さぬ先の先の完成形。
 宮本武蔵の剣技を彷彿とさせるほどの、美しき一撃であった。

(……夜神月……)

 竜崎は声を上げる間もなく倒れ、死にゆく身で自分を殺した下手人の顔を見る。
 そこには、とてつもなく悪い顔をした月が、Lをバカにする気持ちを目に浮かべながら――m9――笑っていた。

(! やはり……私は……間違ってなかった……が……ま…………………………松田の馬鹿……)

 かくして、宿命の対決における勝者と敗者は決定される。

(これで邪魔者は全て消えた……来る! 新世界!)

 月は異常を察知した父達が駆けつけてくる足音を聞きながら、ほくそ笑んでいた。










 その後、一週間ののちに『私が死んだら夜神月がキラです』というLの遺言が公開された。

 死者の遺言は全てにおいて優先される。

 夜神月の緊急逮捕が行われ、彼はキラの正体として裁判所に立たされていた。










 遺言状は絶対である。
 それは探偵が一番良く知っていることだ。遺書がちゃんと残されてれば、起きなかった遺産目当ての殺人事件がいくつあったことか。
 遺書イズ大正義。遺書と逮捕状は同義と言ってなんら差し支えない。
 逮捕時に月がキラであるという証拠は特になかったが、逮捕後に彼からデスノートなどの証拠品が押収されたことで、月は死刑コース一直線だった。

「クックック、ブザマだなライト」

「まったくだ。僕は目撃証言も、状況証拠も、物的証拠も一つも残してないというのにね」

 月は簀巻にされて裁判所の一室に放り込まれ、自分を嘲笑するリュークを見上げるように睨んでいた。こいつも面白かったがここまでだな、とリュークは自分のノートを取り出す。

「流石のお前もチェックメイトか。
 なら俺が俺のノートにお前の名前を書いて……」

「何を勘違いしてるんだリューク? 僕のターンはここからだよ」

「ほう? だが逮捕されて裁判にかけられてるお前に何ができるんだ?」

 だが、自分のノートを警察に確保され、自分がキラであるという証拠をあらかた固められたこの状況で、夜神月はニヤリと笑った。
 その笑みに何かを感じ、リュークはノートに月の名を書く作業を止める。

「僕はデスノートのルールを知った後、悪の排除を続けようと考えた……
 それは自分には警察が動いても戦えるというひとつの自信があったからだしね」

「ひとつの自信……?」

「まあ、見てるといいさ」

 月は簀巻きにされた状態で呼ばれ、足首だけを動かしてささささっと裁判の場に向かった。





 夜神月の秘策。
 その名を『刑法第39条』と言う。

「夜神月。発言をどうぞ」

「僕はデスノートのせいで当時心神喪失状態にありました」

「な、なんだってー!?」

 刑法第39条・心神喪失者の行為は、罰しない。
 つまり、"人を操作し記憶を奪うデスノートの悪影響によって夜神月は正気ではなかった"という主張のゴリ押しである。

「デスノートの所有と放棄で記憶障害が起こることは、検察側により立証されています」

「マジかよデスノート最低だな」
「夜神月もまた、デスノートに踊らされていただけの被害者だったのか……」
「俺、渋井丸拓男。略してシブタク。へへ……付き合ってよおねーさん」
「デスノートが悪いんやな……悲劇やな……」

「弁護側の我々としては、当時被告人が正常な精神状態であったとは言いがたいと主張します」

「魅上検事、弁護側の主張は真実なのでしょうか?」

「はい。デスノートには、人間の精神を正常でなくする作用があることは事実です」

 当時月が正気であったという証拠はない。だが当時正気でなかったという証拠もない。
 普通ならば通らない主張だろう。
 普通なら。

「夜神月には当時正常な判断力がなかったのです。
 デスノートには人間の精神に悪影響を与える可能性が示唆されています」

「むぅ……これは無罪もありえますね」

 だが今日この裁判所には、"夜神月の味方ばかり"が集まっていた。

(検事は僕の手の者・魅上照。
 当然弁護士は僕の味方。これで負けろという方が無茶な話だ)

 検事の席では魅上が親指を立てている。
 弁護士の席では雇った弁護士が親指を立てている。
 裁判長の席では札束を握った裁判長が親指を立てている。
 傍聴席では月に丸め込まれて月の無実を信じている松田も親指を立てていた。

(加え、ミサを使えば、裁判長も弁護士もデスノートで好きなように操れる。
 無罪判決を取ることなんて、ケツの毛を毟るよりもはるかにたやすいことだ)

 六法全書に刑法39条。
 彼の武器は一貫して(ルール)であった。
 だがここまで有利な状況があるならば、自分を守るための嘘のルールを作る必要すらない。

「では、判決! 無罪!
 閉廷! 解散! 帰宅!」

 夜神月は『ルールという存在を最大限に活用する』点において、まさしく神の域に居る。

(デスノートは―――責任能力があったという事実ですら、殺せる! これが神の力だ!)

 キラが法となる暗黒の時代へ、世界は向かいつつあった。





次で最終回です

次回、「夜神月死す」。デュエルスタンバイ!


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夜神月死す

 何かがおかしい、と魅上照が気付いた時はもう遅かった。
 無罪を勝ち取ったはずの裁判は何故か続き、月は被告人として最高裁判所に立たされる。
 月が雇った弁護人も、買収した裁判長もどこかへ行ってしまっていて、代わりに仮面を付けた少年が二人、裁判長と弁護士が居るべき場所に立っていた。

「ここからの裁判、裁判長を務めさせていただきます、N(ニア)です」

「で、俺が弁護士のM(メロ)だ」

 魅上や傍聴席からざわめきが上がり、平静を装った月が穏やかな笑みをたたえながらニアに話しかける。

「これは、どういうことかな」

「詰みというやつですよ。夜神月」

 ニアは髪の毛の先を指でいじりながら、ニアとメロが尊敬していた先人Lを殺した、大量殺人犯キラに勝利宣言を行う。

「私には行動力が欠けている。
 メロは冷静さに欠けている。
 私達は、一人ではLを越すどころか並ぶことも出来ない……」

 裁判長・弁護士・検事。
 その三つの席の内二つを奪取した時点で、ニアとメロは勝利を確信していた。

「けれども、私達は二人です。
 私達二人で裁判長・弁護士・検事の三つのポストの内の二つを獲れれば?
 どんな状況からでも、狙った犯罪者をピンポイントで死刑にできる。
 二人だからこそ、私達はLにもできなかったことができるんです。
 一人ではLに届かなかったとしても……二人ならLに並べる。二人ならLを越せる」

「……!」

 魅上照が月の味方であったとしても、検事が減刑を申し出ることなどできない。
 チェックメイト、と誰かが傍聴席にて呟いた。

「待った! け、検察側は意義を申し立てる!」

「却下します。Lボタンのゆさぶるも許可しません。Lの後継者だけに」

 ニアが裁判長が使う木槌を振り下ろし、厳格な音を響かせようとする。
 だが使い慣れていなかったからか、木槌は少年の手からすっぽ抜けて飛んでいく。
 日本の裁判には木槌がそもそも使われていないため、その存在を認識していなかった魅上の隙だらけの頭に、その木槌が突き刺さった。

「エンッ」

 魅上の頭蓋骨が陥没し、厳格な音が響き渡る。
 まあこれでいいか、とニアは木槌が鳴らす音を妥協した。

「判決。死刑!」

 魅上の頭蓋骨ドラムの音をバックに、ニアは月の敗北を宣告する。

「うわあああああああ! 死にたくない! 逝きたくないいいいいいいいいいッ!」

 月が叫ぶ。
 醜態を晒す。
 死にたくない、死にたくないと暴れ始める。
 メロがそれを見て勝利を確信し、安堵の息を吐きながら、ポケットの中に手を突っ込んだ。
 ぐちょっ、と祝福の鐘のように音が鳴る。
 ポケットの中に入れられていた剥き出しの板チョコが、メロの手を暖かにかつ柔らかに、抱きしめるように包み込んでいった。





 人間が好きだったアニメの最終回を見ている時と似たような気持ちを、リュークは醜態を晒す月を見ながら感じていた。
 デスノートが警察に没収されたこともあって、リュークのつまらなそうな表情は関係者の皆に見えていることだろう。

(どう見てもお前の負けだ、ライト)

 リュークはこざっぱりとした性格だ。
 死神らしい、と言い換えてもいい。
 月と過ごした日々を楽しかったと思いながら、特に何の躊躇いも抱かず、リュークは自分のデスノートを開いて月の名前を書き始めた。

(結構長い間互いの退屈しのぎになったな。色々面白かったぜ)

 そして『夜神月』と、書き終える。

(牢獄に入れられたんじゃ、お前がいつ死ぬかも分からない。
 待っているのも面倒だ。もうお前は終わりだ。あばよライト、ここで死ね)

 が。
 夜神月の余命40秒が確定したその瞬間、月は手遅れになってからリュークの所業に気付き、狂乱していた様子を豹変させた。

「ちょっ、リュークッ!? 何してるッ!?」

「え?」

 狂乱していた月の口から、困惑と動揺こそあるものの"予想以上に理性的な声"が出て来たことにリュークも驚く。
 集合時間に集合場所に自分しか居ない時、「あれ? 俺だけ時間か場所間違えた?」と思うのと似たような"やらかしたかも感"が、リュークの背筋に走った。

「お前が負けたしもういいかなーと思ってお前の名前をノートに……」

「こんなの演技に決まってるだろ!?
 すました顔で勝利を確信してる、そこの死ぬガキ隊二人を騙すための!」

「えっ」
「えっ」
「えっ」

 シブがき隊のパチモン的ネーミングを押し付けられたメロニア、そしてリュークの声がハモる。

「だってお前、今の様子見せられたら普通負けだと思うだろ」

「迫真の演技だよ!
 僕は公式解析マニュアルにも演技力カンストと書かれてる男だぞ!?
 ピンチの連続、これで決着……と思わせて! そこから逆転して大爆笑の予定だったんだよ!」

「マジか、すっかり騙されたわ。死神を騙すとか、お前神を超えてるなライト」

「嬉しくないわそんな褒め言葉!
 そこの死ぬガキ隊は顔と名前を隠してたつもりでいたけどな!
 デスノートで操ったジェバンニが一晩でやってくれたんだよ! 顔写真も本名も確保済みだ!」

「えっ」「えっ」

「そうやって死刑台の前で、僕が突如死刑台から奇跡の大脱出!
 戸惑うショタ二人をデスノートで操った人間で円形にスクラム組んで囲む!
 そしてデスノート担当のミサがこいつらの見えるところでこいつらの名前を書く!
 残り40秒の余命の中で恐怖から狂乱するメロニア!
 周囲は操られた人間に囲まれていて脱出も不可能!
 そんな奴らの醜態を眺めながら、ワイン片手に優雅に勝利宣言するつもりだったんだぞ……!」

「もはやゲスノートだぜ、ライト」

 リュークはやっちまったなあ、と思いつつ。
 まあ過ぎたことはしょうがない、とあっさり割り切る。

「すまんな」

「すまんで済むか!」

「めんご」

「めんごで済むか!」

「りんご」

「二度と食わせねえよッ!」

 40秒は案外短い。
 月がキレてリュークが謝れば、40秒なんてあっという間に過ぎてしまう。
 ドクン、と己の心臓が麻痺したその瞬間に、ライトはその事実を認識した。

「……あっ……かっ……」

「一応言っておくか。ライト、デスノートを使った人間が天国や地獄に行けると思うな」

 崩れ落ちるライトの顔から血の気が失せ、その体から命が失われていく。
 夏に道路の上でのたうち回るミミズのように、夜神月は死んでいく。



「天国か地獄かあるかどうかは別として……僕デスノート一回も使ってないから…………………」



 新世界の神を名乗る非凡な天才は、「ちくしょう」と凡庸な人間と変わらぬ末期の言葉を口にして、冷たい床に倒れ伏していった。
 月に言いくるめられていた松田は、その瞬間プッツンした。
 腰から拳銃を抜き、リュークに向かって発砲する。

「うわあああああああッ!」

 だが拳銃弾は当然リュークを貫通し、角度の問題でその向こうのニアの眉間を撃ち抜く。

「うわらばっ」

 それを見て、メロまでもがキレた。

「馬鹿野郎ーっ! 松田誰を撃ってる!? ふざけるなーっ!」

「リューク……! 殺す! こいつは殺さなきゃ駄目なんだ!」

「だから『誰を撃ってる』って言ってんだろうがアホンダラ! ニアに当たってんだよ!」

「んじゃ俺死神界に帰るわ。あばよ」

 リュークが横に飛んで、裁判所から出て行く。
 必然、リュークを狙う松田の銃口が向く先もズレる。

「うわあああああああッ!」

 松田が残弾全てを使い切る勢いで連射した弾丸はリュークを通り抜け、メロを蜂の巣にした。

「たわばっ」

 なおも諦めず、松田はリュークに最後の一発を撃つ。

「うわあああああああッ!」

 それは裁判所扉の金属ドアノブに当たり跳弾、松田の股間に突き刺さった。

「いってれぼっ」

 松田、絶命。

「………………全員死んだ………………」

 月、ニア、メロ、松田が死んだ後の裁判所内に、和やかな談笑の声が響き渡る。

「俺、渋井丸拓男(しぶいまるたくろう)。略してシブタク。よろしくぅ」

「私、夜神粧裕(やがみさゆ)。略してミサ。ミサミサだよー」

「俺、伊出英基(いでひでき)。略してひで。この裁判本当にひでえ」

 そんな裁判所に弥海砂が飛び込んで来る。
 彼女は月が死んだこの世界に絶望し、涙をこらえるように瞼の下にビームを溜め始めた。

「あ、あああ、ライト……! そんなぁ……! いやああああああああああああッ!」

 溜めがなくてもビルを破壊する威力のデスノート由来のビーム。略してデスビームが一分以上溜められ、閉じられた瞼の隙間からビームが漏れ始した。
 それを見ながら、傍聴席の高田清美は聡明な思考力でこの先の未来を先読みする。

「あ、分かった。これ爆発オチだ」

 やがて大爆発が起こり、裁判所が吹き飛び、キノコ雲が生まれた。

 悪は滅びる。それは世界の法則である。

 この日の決着を最後に―――この地上から、死神とデスノートという二つの存在は、地上から姿を消すのであった。





おしまい

リューク「ぅ~疲れましたw これにて完結です!」


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