IS<インフィニット・ストラトス>~不死鳥の羽ばたき~ (火の鳥)
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~主人設定・能力・IS~

暇を見てどんどん書き足していきます。

場合にネタバレもあるので気をつけて下さい。

本編で書けなかった、裏話も多く、書きますので。


・不死鳥 悠人→織斑 悠人

 

・年齢 15歳

 

・性別 男性

 

・身長 179cm

 

・趣味

 

読書・鍛錬・料理・刀集め・拳銃集め・ギター・音楽、映画鑑賞・研究全般

千冬、束の世話・ランニング

 

・特技

 

・拳圧だけで戦車を破壊出来る。

・あらゆる、武器を使うことが出来る。

・ハッキング(束直伝)

 

・性格

 

真面目で責任感が強い。困った人を見過ごせない、お人好し。

若くして当主になったせいか、物事を一人で抱え込むことがある。

 

・容姿

 

黒髪、髪の長さは肩下位。

瞳はオッドアイ、左眼が朱色に近い紅、右眼が空の色と同じ蒼い眼。

細身だが鍛え上げられた、筋肉を持っている。

 

・使用武器

 

 

 

 

 

 



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~序章~
プロローグ


投稿開始。


 

 

不死鳥一族、それはいにしえの時代より続く一族である。

その歴史は人類が誕生する遥か以前から存在しているとも、言われている。

そして、唯の人でありながら神と契約した唯一の一族だ。

 

一族が契約した神の名は「不死鳥 」 大地、天空、宇宙の三大神の一柱である。

一族が「不死鳥」に与えられた使命は、ただ一つ。世界を守ること。

しかし、不死鳥一族は基本的に表の世界に介入してはならない。

不死鳥一族が動くのは世界規模もしくは宇宙規模のみである。

 

 

ただ、唯一の例外がある。

それは、運命が交差した時、或いは運命を動かす程の選択をした時だ。

運命の交差は不死鳥一族の運命とある事柄の運命が重なる時、運命を動かす選択は、ある事柄の運命の基点又は中心となる人物が重要な選択をした時、前者は間接的な介入を、後者は直接的な介入を不死鳥一族は行う。

 

 

そして、不死鳥一族は幾度となく世界を、誰にも気付かれることなく救って来た。

 

 

時は現代に移り、一人の子供の誕生ともに物語は大きく動くことになる。

そして、その子供の名は、「不死鳥 悠人」 不死鳥一族34代目当主となる運命を背負った子供である。

 




次回から物語が始まります。


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第一話~悲劇~

とりあえず話を進めます。


ざぁーーーーーーーーーーーーーー。

雨が降っていた。まるで誰かが泣いているかの様な大雨だ。

今が朝なのか夜なのか分からない位の雲が空一面を覆っていた。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ!」

 

 

この雨の中を走る一組の影があった。一人は女性だ。恐らく、20代だと思われる比較的、身体の線が細い女性だ。もう一人は子供だ。5歳位の男の子だ。目の色は左眼が朱色に近い紅、右眼が空と同じ蒼い眼、髪は黒髪、背丈は平均的な子供よりもやや高い位の身長だ。

 

 

それに周りを良く見るといたるところが燃えていた。

家が、畑が、森が、里を真っ赤に彩っていた。微かにひめいや怒号の様な声も聞こえる。

家と家の間を縫うように走る一組の影。女性の名は「不死鳥 美帆」。この里の当主の妻である。子供の名は「不死鳥 悠人」。この里の長にして不死鳥一族33代目当主「不死鳥 雄護」と美帆の息子である。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ!は、母上、どこまで行くのですかっ?」

 

 

屋敷からここまで、休まずに走って来たからか、少し疲れた顔をしている美帆に同じく疲れた顔の悠人は聞いた。

 

 

「はあっ、はあっ!悠人、あと少しだから頑張りなさい!」

 

 

「う、うん!」

 

 

互いに言葉を交わしながら、ひたすら走る。

そして大きな家を抜けた先に、蔵が見えた。

 

 

「悠人、ここに隠れていなさい。私が戻って来るまで、絶対にここから出ちゃダメよ!」

 

 

美帆は悠人を蔵に入れながら、そう言った。

「母上はどうするの?」

 

 

「私は、神凪や周郷<すごう>達のところまで戻って、奴らを迎撃しないと!今は、押されているけど時期に援軍が来るから、それまで持たせないと」

 

 

そう言いつつ、自身の武器を確認する。

 

 

「悠人、これを」

 

 

美帆は悠人に一本の刀を渡す。

 

 

「母上、これは?」

 

 

「これは不死鳥一族の当主が代々継承する、霊剣『不死鳥』奴らはこの刀と彼方の力を手に入れる為に里を襲撃してきたのよ」

 

 

 

三者視点side out

 

 

 

悠人side

 

 

「これは不死鳥一族の当主が代々継承する、霊剣『不死鳥』。奴らはこの刀と彼方の力を手に入れる為に里を襲撃してきたのよ」

 

 

僕は母上が言ったことが直ぐには理解出来なかった。

 

 

(え?僕の力?『不死鳥』を狙うなら分かるけど、何でっ!?僕なんかを手に入れても意味なんかないのに)

 

 

僕が困惑しているのが分かったのか、母上は言った。

 

 

「悠人。彼方の力は歴代の当主達よりも強いの。それこそ、初代当主や29代目に匹敵するか、それ以上の力があるの」

 

 

僕は驚いた。僕たち不死鳥一族の開祖にして先祖の宥神様や総曽祖父の勇磨様と同じ位の力があるなんて。

 

 

「それに奴らが悠人を狙う一番の理由は、彼方が31代目当主『不死鳥 祐介』の生まれ変わりだからよ」

 

 

母上は表情を少し悲しそうに変えながら、そう言った。

 

 

(え?不死鳥 祐介って、あの伝説の!?歴代当主最強で初代以降から途絶えた無限流の2代目継承者の、あの祐介様!?)

 

 

僕は混乱しながらも母上に聞いた。

 

 

「母上、祐介様って、あの伝説の?」

 

 

母上は苦笑しながら

 

 

「確かに、あの祐介様だけど。一応、貴方の曽祖父様よ」

 

僕は更に驚いた。曽祖父様の名前は知っていたけど、てっきりただの同名の人だと思っていた。

 

 

「悠人。驚くのは分かるけど詳しいことはこの状況を切り抜けてから話すわ。だから、今はここに隠れてなさい」

 

 

母上が真剣な表情で言うと、僕もまだ混乱しているけど、しっかりと頷いた。

 

 

 

悠人side out

 

 

 

「悠人、何があってもここから出てはダメよ!」

 

 

そう言い、美帆は蔵から出た。

 

 

・・・・・・・あれからどれくらいの時間がたったのか。数分か数十分か?

外の様子は雨と風が強い所為でよく分からない。もう戦いは終わったのか、どうかも定かではない。

いくら考えても、外の様子が分からない以上、どうにもならない。

 

 

「もしかしたら、もう戦いが終わっているかもしれない。良し!ちょっと様子を見てみよう」

 

 

そう自分に言い聞かせ、悠人は蔵を出た。

 

 

 

「はあっ、はあっ!」

 

 

 

悠人は『不死鳥』を抱えながら走った。さっきから、大丈夫と自分に言い聞かせているが嫌な予感は止まらない。

雨はもう、止んでいた。あとは風が強く吹いているだけだ。

風に美帆の場所を聞きながら、駆けた。一番広い道を、恐らく里の中心に続く道を走りながら悠人は思った。

 

 

どうか、間に合ってくれと!

 

 

「見えた!」

 

 

遠目にだけど里の中心にある、広場が見えて来た。

周りに里の人たちや知らない人たちも倒れていたけど、もう戦闘が終わったのか、その場はやけに静かだった。広場に美帆の姿を見つけた時、悠人は「間に合った。」と思った。だから、

 

 

「母上っ!!」

 

 

美帆は悠人の声に気づいたのか、顔だけをこちらに向けた。悠人は顔を綻ばせようとして、だが美帆の顔を見た瞬間、悠人はその表情を消した。

 

 

その顔はすごく儚げで今にも消えてしまいそうな顔だった。

その時、悠人は幼いながらも分かってしまった。自分は間に合わなかったのだと。

美帆は小さく「ごめんね。」と呟き、ゆっくりとその身体を倒した。

 

 

「は、母上――――――――――っ!!!」

 

 

悲しみに満ちた声が、雲に覆われた空に高く響いた・・・・・。




いやー、長くなってしまった。

早く、原作キャラを出したいけど(°_°;)(; °_°)まだ少しかかりそうだな。
次回ではまたオリキャラを出します。
なかなか、原作に入れませんがどうか暖かい目で待ってやって下さい。

誤字、脱字、感想などもどしどし待ってます。


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第二話~喪失~

戦闘描写は難しいですね。


時間は少し、遡る。美帆が悠人を隠したところまで・・・。

 

 

美帆side

 

 

「悠人、何があってもここから出てはダメよ!」

 

 

私は悠人にそう言って、蔵を急いで出た。

今、この里にはそれほど戦力は多くない。不死鳥一族の分家も神凪、周郷<すごう>、松上、姫咲、分家の長の家系である御鏡家しか、今はいない。

しかも、御鏡家当主の御鏡 徹は今は外にお客を迎えに行っていてここにはいない。

外に出払っている、分家のものたちに救援要請を出したとはいえ、直ぐには来ない。

 

 

「状況はかなり、厳しわね。せめて、徹さんがいてくれたら状況は大分、違っていたかもしれないわ」

 

 

そう言いながら、美帆は急いで戦場の最前線に戻って行った。

 

 

「姫咲!状況はどうなっているの!?」

 

 

敵を迎撃している最前線に戻って来た私は、直ぐ近くにいた姫咲に状況を聞いた。

 

 

「美帆様!ご無事でしたか。今はなんとか押し返すことが出来ましたが、油断は出来ない状況です」

 

 

美帆は姫咲から現状を聞き、直ぐに指示を出した。

 

 

「前線はそのまま状態を維持!後衛は援護射撃を怠るな!!先ほど、外に救援要請をだした!あと暫く持ちこたえれば、必ず勝機はこちらに来るわ!!全員、一丸となって敵を抑えなさい!」

 

 

美帆がそう指示を出すと、姫咲を始め、部隊の長たちはそれぞれ敬礼して部下たちに指示を出しに行った。

 

 

「美帆様、戻られましたか。無事、悠人様を隠すことが出来たようですな。」

 

 

そう声をかけて来たのは、この里で一番の最長寿である神凪一族の現当主、神凪 義昌<よしまさ>だった。

 

 

「義昌。ええっ、悠人はあの蔵に隠して来たわ。あそこに入って入れば、気配や魔力とかも感知出来ないからね。後はこいつらを片付ければ万事解決よ」

「そうですな。敵に余程の隠し玉でもない限り、こちらの陣形は崩せない筈です。しかし、奴らめ当主が崩御なされたのを何処で知ったのだ!一族でもそれを知っているのは極限られているぞ」

 

 

義昌は苛立ちを含めながら言った。

 

 

「それは間者が潜んでいたのよ。その件は御鏡の方で動いているみたいだから、程なく捕まる筈よ」

「なるほど。相変わらず、御鏡の奴は仕事が早いな。ならば、儂は安心してこの場に集中出来る」

 

 

そう言い、義昌は前線に向かおうとする。

 

 

「義昌?貴方が前に出なくてももう大丈夫なはずよ」

「確かに、この現状では儂が前に出なくとも、抑えられるでしょう。しかし、儂の勘が前に行けと言っているのです。それに、さっきから敵がやけに大人しいうえに、嫌な予感もします」

 

 

そう言い、前方を睨む義昌。美帆は長い戦闘経験からくる義昌の勘を信用していた。だから、迷わずに義昌に指示を出した。

 

 

「分かりました。直ぐに最前線に行き、現場で指示をお願いします。私の方でも不足の事態に備えておきます」

「では、儂は前線で陣頭指揮を取りに行きます。美帆様、敵が何をしてくるか分からない以上、常に警戒はしといて下さい」

 

 

義昌は美帆に一言、注意を促してから前線に向かった。

 

 

「しかし、確かに義昌の言ったとおり変ね。敵の目的は悠人と『不死鳥』の筈なのにこうも攻め手が緩いなんて、敵は何を考えているの?それとも義昌が言った用に隠し玉でもあるのかしら?」

 

 

私はいつでも自分も動けるように警戒しながら、敵の奇妙な動きについて考えるのだった・・・・。

 

 

美帆side out

 

 

 

???side

 

 

(はぁ~~~~~~~~~っ、いくら契約とはいえ何でこんな極東の田舎まで態々、私が出向かないといけないのでしょうね!)

 

 

私はそう思いながら適当に戦闘をしていると思われるところまで歩いていく。

 

 

「アヴァロン殿、やっと来ましたか!」

 

 

私にそう声をかけたのは初老の男性だった。おそらく、この部隊を任された者だろう。緊張感のない私に呆れながら声をかけてきた。

 

 

「いや~~、だってねぇ?猛者と戦えると聞いたから契約したのに、さっきから雑魚ばかりじゃないですか。そりゃ、やる気もなくなりますよ」

 

 

そう言いながら私は嗤う。男が「この、戦闘狂が」と言っているが、気にしない。なぜなら、戦いこそが私の存在意義、殺し合いこそが私を満たしてくれる。

弱い者を殺しても私は満たされない。強き存在をこの手で屠ってこそ、私は満たされる。

その時、戦場の空気が変わった。私の感覚が告げている。猛者が来たと。

 

 

「じゃあ、契約通り私は猛者とだけ戦いますから、後の雑魚はよろしくお願いしますね」

 

 

私は抑えきれない、狂喜を抱えながら戦場へ、歩いて行った・・・・・・。

 

 

アヴァロンside out

 

 

 

義昌は戦場に着いた瞬間、己の得物を取り出した。それは5尺もある長い刀だった。

義昌は己の得物を担ぐと、戦場に声を張り上げた。

 

 

「お前たち、一旦下がれ!儂が出る!!」

 

 

義昌が声を出した途端、周りの空気が変わった。仲間からは「義昌様だ!」、「義昌様が前線に来て下さった!」などの声が上がり、敵からは新たに来た義昌に対する警戒の色が見てとれた。

義昌は全員に声が届いたことを確認すると大きく一歩を踏み出した。

敵はその迷いない行動に動揺し更に、警戒した。それを見た、義昌は笑みを浮かべて、次の瞬間、その身体が消えた・・・・・。

敵は戦慄した。前方にいた筈の相手がいきなり、消えたのだから。

敵は焦ったが、次の瞬間、前触れなく目の前に現れた義昌に、その焦りは恐怖に変わった。

 

 

「はぁ~~~っ。この程度の動きも見えないとは貴様ら、精進が足りんぞ」

義昌は溜息を吐きつつ、

「まあいい、挨拶代わりだ。薙ぎ払え、炎雷<えんらい>流 奥義『轟琉閃』」

 

 

そう言い、刀を左から右に向けて薙ぎ払った。その瞬間、

前方にいた敵が数百人規模で吹き飛んだ。それはもう見事に吹き飛んだ。

 

 

敵方の、この部隊を纏めている初老の男、名は「鎌足」と言う男は目を見開いた。まるで竜巻に巻き込まれたかの様に吹き飛ぶ、自身の部下たちを。

鎌足は思った、非常識だと。

 

 

美帆の方でもその光景は見えていた。

 

 

「うわ~~~~っ。相変わらず、義昌の攻撃は非常識よね。どうやったらあんな風に人間が吹き飛ぶのよ。なんか、変な薬でも飲んでるんじゃないでしょうね?」

 

 

味方にすらこう言われる、義昌。ある意味、憐れである。

 

 

敵をある程度、蹂躙した義昌は構えを解いた。

圧倒的だった。あちこちで敵が倒れ伏している。義昌は刀を何度か切り払っただけである。それだけで前方の敵を駆逐してしまった。まだ、後方に敵は多く残ってはいるがそれでも凄まじいの一言である。

何かもう、この男チートではなかろうか?

 

 

「何だ!情けない、敵だな。もう少し、根性を見せんかい。全く、その程度の力でよく儂らに喧嘩を売れたものだ」

「いや~~っ、それはしょうがないかと。こいつらは数しか取り柄がない。雑魚ですから。逆に貴方が強すぎるのだと思いますよ?」

 

 

義昌に返答しながら前方から男が歩いてきた。

薄緑色の腰近くまである髪を真っ直ぐ下ろして、ダークブラウンの眼をしていて、その表情を狂喜に歪めながら。何より、異質なのはこの男の格好だ。俗に執事が着る執事服を来ていたのだから。

 

 

「ふんっ。今更、聞くことでもないが貴様は何者だ?この場に何しに来た」

「心地よい殺気ですねぇ~~っ。今から、それを味わえると思うとゾクゾクしてきましたよ」

 

 

義昌はその男に何をしにきたのかと問うと、男は義昌の殺気を心地よさそうに受けながらこう答えたのだった。

 

 

「ふふっ。先ずは貴方の質問に答えましょうか。私の名は『アヴァロン』、貴方を殺しに来た敵です」

 

 

その男、アヴァロンは義昌の問いに静かに答えたのだった。

 

 

その頃、美帆の元にもアヴァロンが参戦してきたことの情報が届いたのだった。

 

 

「はぁっ!?アヴァロンって、あの特級指名手配犯のあのアヴァロン!?何で、こんなところにいるのよ!と言うか、そいつは本物でしょうね?」

「おそらく、間違いないかと。ここにいる理由は敵方に雇われたと思われます。後先程、部下の報告によりますと略、間違いなく本物だと。容姿や格好などが全て、一致したみたいですから」

 

 

美帆は溜息を吐いた。唯でさえ、敵の動きが不気味なのに今度は指名手配犯の危険人物がここに来たのだから溜息も吐きたくなる。

 

 

「とりあえずは分かったわ。で今そいつは何をしているの?」

「どうやら、義昌様と戦闘をしているようです」

「そう。義昌が敗けるとは思わないけど万が一のこと考えていつでも部隊を動けるようにしておいて」

 

 

美帆は部下にそう指示を出して前方を見据えた。義昌の実力を疑うつもりは無いが、美帆が気になっているのはアヴァロンのことである。

『アヴァロン』世界を股にかける傭兵であり、任務達成率は100%の凄腕の傭兵だ。何より、彼が恐れられているのは彼と敵対した者は例外なく、殺されているからである。

更には敵対した者を全て、消しているからか誰も彼の実力は分からないのである。

美帆の心に一抹の不安が過ぎった。もし、義昌が敗けたら形勢が逆転されるからだ。自分や他の当主たちも強いが義昌程ではない。義昌に勝てる人間は今は居ない当主を除けば、御鏡 徹だけである。

 

 

それにさっきから物凄い、衝撃音や何かを地面に叩きつける振動が被っきりなしに此方に届いているのだ。

戦闘が続いていることをみるに、アヴァロンは少なくとも義昌と互角以上に戦える存在であることがわかる。

その時、唐突に戦闘音が止んだ。次に物凄い力が収束されるのが分かった。

 

 

「義昌、次で決めるつもりね。相手も魔力を収束させているし」

 

 

そう言い、美帆は前方を注意深く見据えた。

 

 

「はははははははっ!やるなっ、小僧!儂とここまで死合えるのは当主と徹の坊主以来だよ」

「お褒めに預かり光栄です。私も久しぶりに猛者と戦えて興奮が止まりませんよ。ですが、いい加減、次で決着を着けませんか?」

「はっ!確かに、いい加減に貴様を片付けて、他の援護に行かんとな。ならば、次で最後だ!」

 

 

そう言い、義昌は刀を右肩に担ぐようにして身体を限界まで右側に捻った構えをした。

アヴァロンも自身の得物である、刃渡り150cm、刃厚20cmの両刃の西洋剣を左肩の上まで持っていき構えた。

片方は気をもう片方は魔力をそれぞれ凝縮していく。

この硬直は一瞬だったのかそれとも永遠だったのか、二人はまるで合わせたかのように互いの相手に向かって踏み込んだ。

 

 

「行くぞ!!小僧!!!炎雷流 秘奥義『須佐之男』」

「行きますよ!<ダーク・エンド・ブレイク>」

 

 

互いの攻撃がぶつかり合った次の瞬間、光が辺りを覆った。

 

 

「くう~~~っ!義昌の奴、手加減なく放つんだから。少しは周りことも考えなさいよ!」

 

 

そう愚痴を零しながら衝撃と突風を身体を伏せて躱していた。

他の者たちも衝撃をやり過ごしていた。

辺り一面、凄い状態だった。まるで局地的な竜巻が発生したかのような惨状だった。

 

 

「とりあえず、全員無事!?」

 

 

美帆が周りにそう聞くと、「大丈夫です!」、「特に問題ありません!」などの声が聞こえてきたから大丈夫だろうと美帆は思った。

現状把握が終わり、美帆は前を見た。

 

 

さっきまで剣戟の音が響いていた戦場は今は静かだった。まるで世界に自分独りになったかのような静けさだった。

美帆は前方を警戒しながら刀の柄に手を掛けていた。

 

 

突如、空気変わった。最前方にいる部下たちは一様に「義昌様!?」、「まさか、義昌様が!?」などと言う声が聞こえた。嫌な予感がしつつも、前を見る。

前にいる部下たちが左右に退いた。その中を歩いてくる、一人の男と男の右手に襟を掴まれ引きずられている男。

 

 

美帆はこの現実を認めた。こちらの最強の手札が敵に敗れたのだと。

 

 

「いや~~~っ。なかなか楽しかったですよ。久しぶりに充実した、殺し合いでしたよ」

 

 

そう言い、アヴァロンは狂ったように嗤った。まるで、さっきまでの快感を噛み締めるように。

「ああっ。あと、これ返しますね」

 

 

言いつつ、右手で持ってきたものを放り投げてきた。一瞬、びっくりするも直ぐに冷静になり、自分の前に放り投げられた人物を見る。

 

 

「義昌!?大丈夫っ!!?」

義昌が傷だらけで倒れていた。

 

 

「ぐふっ!ふ、不甲斐ないところをお見せして、すみません美帆様」

「そんなことは良いから、今は治療が先よ!誰か!今すぐ、義昌を救護室に運んで!!」

美帆は義昌に応急処置を施しながら指示を出した。

 

 

そのあと直ぐに複数人の救護班に連れて行かれる義昌を見ながら、美帆はアヴァロンに問うた。

 

 

「此方としては有り難いけど、何で義昌を殺さなかったのかしら?」

アヴァロンは此方を見て、「あ、終わりました?」と言いつつ、肩を竦めながら答えた。

 

 

「確かに普通の敵ならばそのまま、殺していましたが彼は特別です。なんせ、数年振りに私と全力で殺し合える人物に出会えたのですから。このまま殺すなんて、勿体無いことはしませんよ。彼にはいずれ、また私と戦ってもらう予定ですから。それまで今より、もっと強くなってもらいたいですね!態々、急所は外して上げたのですから」

「噂には聞いていたけど、想像以上に狂っているわね」

 

 

自身の言葉に酔ったように言い、顔を狂喜で彩ったアヴァロンを見て美帆は背筋が凍るのだった。

「ふふっ。ありがとうございます。私にとっては褒め言葉ですよ」

 

 

「別に褒めていないけど」と小さく呟きつつ、美帆は自身の刀を抜いた。

 

 

「おや?今度は貴方が私と殺し合いをしくれるのですか?古の姫君よ」

「他に誰がいると言うのよ。私以外に貴方に対抗出来る人がいないなら私が戦うしかないじゃない!」

 

 

「いや~~っ。てっきり、自分の上司が倒されたから周りものが襲ってくるのかと思いきや、ただ傍観するだけとは、トンだ腰抜けどもですね」

そう言い、肩を竦め態とらしく溜息を吐いた。その直後。

アヴァロンの周りにいた者たちは「野郎、舐めやがって!」、「よくも、義昌様を!」、「許さない!!」と言った声が上がり、

 

 

「皆、落ち着きなさい!怒りに任せて、攻めても敵の思う壺よ!」

と慌てて注意を促すも、既に遅く。「義昌の敵っ!!」、「ここで、討ってくれる!」と言いながら。

一人が怒りに任せて、飛び掛れば他の者も追従するかのようにアヴァロンに襲いかかった。

 

 

「ははっ!軽く、挑発しただけなのですが何ともチョロい人たちですねぇ。まあ、残念ながら貴方たち程度、私の足止めにすらなりませんよ。<ダーク・レイン>」

 

 

自身に襲いかかろうとする連中を呆れながら見て、アヴァロンは指を一回「パチンッ!」と弾いた。

 

 

その瞬間、襲いかかろうとした全員が吹き飛ばされた。

美帆は眼を見開いた。敵の攻撃手段がまるで分からなかったのだから。

 

 

アヴァロンは倒れ伏した人たちを見ながら、地面に刺していた剣を抜いた。

美帆もアヴァロンを睨み据えながら、剣を握り、戦闘態勢を整えた。

 

 

「なかなか良い、殺気ですね。ではそろそろ始めるとしましょう。古の姫君よ!」

「姫って柄じゃないんだけどね。だけど、全力で貴方を倒すわ!!アヴァロン!!!」

 

 

そう言い合いながら、互いに力をぶつけ合った・・・・・。

 

 

三者視点side out

 

 

 

美帆side

 

 

強い・・・・。私はアヴァロンの斬撃を弾きながら思った。

戦闘前の軽い調子やふざけた態度に惑わされたが、戦闘が始まった瞬間にそれらは吹き飛んだ。背後からの奇襲や死角からの斬撃を尽く、防ぐか、避けられた。

逆に向こうの攻撃はまだ、直撃こそないものの、ギリギリで弾くか避けたりしている。

私は敵の、アヴァロンの認識を改めた。

 

 

「流石に義昌をたおしただけあって、強いわね。さっきから攻撃が全く、当たらないわよっ!!」

そう言いつつ、逆袈裟に切り上げる。

 

 

「はははっ!貴方もなかなか、やりますねぇ。古の姫君よ。掠りはすれど、未だに直撃を一つも貰わないとは!ふふっ!愉しくなってきましたよ」

体を開いて、避けつつ回し蹴りを放ってきた。

 

 

「私は楽しくはないけどね!」

そう言いながら、アヴァロンの真上におおきな火球を作り、下に叩きつけた。

 

 

「いやはや流石、天空神の加護を受けし一族ですね。並みの魔術師よりも厄介ですよ」

そう言い、剣で火球を切り裂く。

 

 

「ならせめて、一撃くらい喰らいなさい!!無限流 奥義『燕』」

アヴァロンに高速で接近しつつ、フェイントを交ぜながら薙ぎ払う。

 

 

私の一撃を受け止めつつ、鍔競り合う。

「愉しい時間でしたが、そろそろ終わりにしましょう。古の姫君よ」

 

 

そう言い、アヴァロンは腰に吊るしている鞘に剣を収めて構える。

「そうね。私もこの一撃に全てを賭けるわ!!」

 

 

私は刀を自身の正面に掲げて構える。

時が止まったかのような場。

二人共、この一撃に全てを込めるために極限まで集中力を高めている。

誰も声を出さない、いや出せない。

燃えている、家屋の種火が弾けた瞬間、

 

 

「「はあ――――――っ!!!!!」」

同時に飛び出した。

 

 

「無限流 究極奥義『天地創世』」

「閻神<えんしん>流 秘奥義『永劫回帰』」

 

 

互いの最大の攻撃がぶつかり合った。

 

 

「くう――――っ!!」

「うお――――――っ!!」

 

 

互いの攻撃が相手を打ち倒そうと競り合う。攻撃の余波が残っている家屋を吹き飛ばす。

 

 

(私は敗けられない!悠人の為のも眠りに就いた、夫の為にも私は負けられないんだ!!)

私は自身の切り札を解放する。

 

 

「封神開放!!!」

私の瞳は朱に金をはいた紅色に染まる。

 

 

「なにぃ――――!?」

アヴァロンは驚いているようだ。

 

 

徐々に私の剣がアヴァロンの方に押し込まれていく。

アヴァロンは「バカなっ!!」と言い、初めて焦りの表情を見せる。

 

 

勝てる!!私がそう思った、瞬間。

 

 

「は、母上!」

 

 

この場で聞こえるはずがない声が聞こえた。

 

 

(何で、悠人がここにっ!?まさか、蔵から抜け出した!!?しまった!あの時、蔵の扉に封印処置をとっておけばよかった!!)

美帆は動揺した。何で、ここに悠人がいるのかと。

 

 

だが、この刹那の思考が戦いの命運を分けた。

 

 

「戦いの最中に考え事とは余裕ですねぇ!!」

「しまーっ!!」

 

 

私は慌てて、力を込めなおそうとするも全てが遅く、剣を上に弾かれた。

 

 

「死になさい。『焔獄斬』」

 

 

完全に無防備になった私にアヴァロンの斬撃が放たれた。

 

 

「敗けね・・・・」そう呟き、左切り上げからの斬撃が右脇腹から左肩までを薙いだ。

 

 

「最後は焦りましたが、私の勝ちです」

 

 

(雄護さん・・・、ごめんなさい。私、敗けちゃった。彼方がいなくなって、最初は悲しかったけど悠人が私たちの息子がその悲しみを埋めてくれたわ。私はここでおしまいだけど里のみんななら大丈夫だよね?

神凪、周郷、松上、姫咲、御鏡、斎藤、鷹宮、里の皆、ごめんなさいね・・・・。不甲斐ない、当主代理で。

悠人・・・・ごめんね。まだ、母親らしいことを何にもしていないのにいなくなる私を許してね・・・)

 

 

「悠人・・・・、ごめんね」

そう一言こぼし、私は倒れるのだった・・・・。

 

 

「母上~~~~~~~~っ!!!」

 

 

悠人の悲痛な声をききながら・・・・・・。

 

 

美帆side out




しまった!?調子に乗って書いていたら、すごい文字数に・・・(°°;)"((;°°)
だが反省はしない!悔いはないから(☆∀☆)

本当はこの話で原作キャラを出そうと思ったのですが今回、あまりに長すぎたので次回、出すことにします。

次回は主人公、覚醒します。

では次回、第三話~怒りと別れ~

感想、お待ちしています。


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第三話~怒りと別れ~

今回も長いかも(^_^;)


悠人は倒れた美帆の元まで走った。

 

 

「母上、母上っ!!」

悠人は傷に響かない程度に身体を揺すりながら身体の状態を診た。

 

 

(逆袈裟に切られた傷が不味い!幸い、重要臓器は傷ついていない。これならまだ止血は出来る筈!とりあえず、僕の血で出血を止めて、治癒符と治癒魔術で傷を塞がないと手遅れになる!)

 

 

悠人は先ずは美帆の着物の帯を緩めて傷口だけを外に晒す。次に浄化を傷口周りの血だけに使用して外に流れた血を綺麗にする。更に血液操作の魔術を使って、綺麗にした血液をまた身体の中に戻す。

次は水系統の魔術を使い、傷口周りを綺麗にする。次に自分の両手の平を短刀で浅く切り、自分の血を傷口に沿うように塗る。

最後に治癒符を傷口を覆うように貼って、治癒魔術を掛ける。普通の刀傷ならば、これで良くなる筈。

そう普通の傷ならば・・・・・。

 

 

「そ、そんな!?出血が止まらない!!?なんで?手順は完璧だった筈!?」

 

 

美帆の出血は悠人の血で抑えられてはいるが完全には止まらなかった。しかも、

「くっ!傷も塞がらないなんて、どうしてっ!?」

 

 

そう、何かが治癒魔術を阻害していて治癒魔術が傷口まで届かないのだ。

 

 

「まさか、これはっ!?」

 

 

悠人が原因に気づいた時、

「そうっ!!その傷は治らない!ははははははははっ!!!!」

 

 

アヴァロンはそう言い、狂ったように嗤うのだった・・・・・。

 

 

 

三者視点side out

 

 

 

アヴァロンside

 

 

私は不死鳥 美帆を切った後、直ぐに後ろに退いた。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ!」

 

 

息がしづらい、呼吸が苦しい!汗が止まらない、身体が震えている!!

私が勝ったはずなのに、この言いようのない気持ちはなんだ!?

まさか・・・これは、この感情は・・・!

 

 

「この私が恐怖したとでも言うのか・・・・・?」

あの時、あの朱金の瞳に!

 

 

(バ、バカな!?ありえない!!私が恐れただと!?たかが人間如きに!!!)

 

 

認めない!!認めるわけにはいかない!!!彼の地の王たる私が矮小なる人間なんかに、恐怖したなど断じて認めない!!!

そうだ!そんな存在は消してしまえば言い!無かったことにしてしまえばいい!

 

 

そう決め、前を向くと誰かが美帆の治療をしているではないか!

そして、よく見ると最優先捕獲対象の不死鳥 悠人ではないか。

 

 

(態々、向こうから来てくれるとは手間が省けますね。これで任務は完了ですね。しかし、彼は本当に5歳の子供か?あそこまで見事な治療方法は私ですら見たことがない)

アヴァロンは驚きながら、治療を見ていると。

 

 

「そ、そんな!?出血が止まらない!!?なんで?手順は完璧だった筈!?」

 

 

(そうだ、私が手を下さずともあの女は死ぬ。なんせ、閻神流の技を受けたのだから)

 

 

(そうだ!恐れる必要は無い。あの女は不死鳥 美帆はもう、助からなのだから!)

 

 

だから私は彼にこう言うのだ。

「そうっ!!その傷は治らない!ははははははははっ!!!!」

 

 

 

アヴァロンside out

 

 

 

悠人side

 

 

 

「傷が治らないとはどうゆうことだ!そして貴様は誰だ!」

 

 

僕は前方の男をいや、敵を睨んだ。

 

 

「ははははっ。子供にしては良い殺気を放ちますねぇ。まあ質問に答えましょう。傷が塞がらない理由は閻神流の技を受けたからですよ。そして私の名はアヴァロン」

 

 

「閻神流?聞かない、流派だな。それにアヴァロンだと!?なんでお前のような危険人物がここにいる!」

「何でここにいる、と言われましたら契約でここに来ました。契約内容は貴方の拉致と彼方の持っている『不死鳥』の強奪、後この里と関係者全ての抹殺です。それと貴方と母親は最優先で捕獲と抹殺しろと言われています」

 

 

敵はいや、アヴァロンはここを襲った理由を嬉々として語った。更に。

 

 

「閻神流は知らなくても仕方ありませんね。これは元々、流派など無く、私が古い文献を漁って、独自に作った物ですから。しかし、貴方の一族はこの技をよく知っている筈ですよ。古の時代からこの技を使う存在と戦っていたのですから」

 

 

(まさか・・・・。いや、そうじゃなければこの傷の原因は説明出来ない。くそっ!もう、存在していないのに、技術と技はまだ残っているとは)

 

 

「そうっ!闇の神と契約した闇の王たちですよ。古き時代から闇の神とこの世界の神々は争っていました。しかし、決着が着くことはなく膠着状態が数千年も続いた。業を煮やした闇の神は下界の人間から協力者を求めました。それが最初の闇の王、あの伝説の不死鳥 祐介の親友にして懐刀と呼ばれていた、神龍 裕也ですよ。彼は当時、まだ形が無かった力の形を作り、技としての基礎を作りました。そして、皮肉なことにこの技を実践レベルまで上げたのが一時期、闇側に離反し、2代目の闇の王になった不死鳥 祐介なのですよ」

 

 

奴は己が成したことのように嬉々として、狂気をその瞳に宿して語った。

 

 

「一族でも極秘の内容を良く知っているな。まあ、何処かから情報が漏れたんだろう」

「流石は幼くとも不死鳥一族の次期当主でいらっしゃる。不気味な位、冷静ですね。まあ、私はここでゆっくりと待ってますから悔いの無いようにお別れをすまして下さい」

 

 

僕は訝しんだ。何のことだと思ったが、その時

 

 

「ゆ、悠人・・・・・」

 

 

母上の声が聞こえたのだから。

 

 

「悠人・・。こ、ごほっ、ごほっ!こ、これから大切な事を話すわ。心して聞きなさい。不死鳥一族が背負っている宿命とその闇を、そして悠人に掛けていた封印を解くわ」

 

 

そう言い、母上は語った。不死鳥の意味と覚悟。一族が生涯、背負うことになる宿命。一族が過去に犯した罪。父上のこと。そして、僕のこと・・・。

 

 

「悠人が生まれて、直ぐにお告げが降りたの。それも、悠人が祐介様の生まれ変わりという、とんでもなく大きなお告げをね」

 

 

「かふっ・・・ふっ・・・ふっ・・・・!後は、封印だけね・・・」

 

 

母上は血が混じった咳を吐きながら、僕の額に手の平を当てた。

 

 

「不死鳥 美帆の名において紡ぐ。この者、不死鳥 悠人の枷を外し給え・・・・」

 

 

母上がそう唱えると頭の奥の方が軽くなった。まるで、忘れていたものを取り戻したような感覚だ。

 

 

「こ・・これで封印は解けたわ。祐介様の記憶や知識は数年で・・統合・・される・・・と思うわ。これで・・・肩の・・荷が・・・ふぅ・・・降りたわ」

「母上・・・・・・」

 

 

母上が話している間も血は流れ続けており、地面の血溜まりも止まることなく広がっていく。僕の年相応ではない、冷静な思考が告げている。もう、助からないと。

 

 

「母上、大丈夫だよ。千草おばあちゃんならこんな傷、直ぐに直しちゃうよ!」

 

 

それでも・・・どうやったって助からないと分かっていても・・・認められない・・・認めるわけにはいかない。

もう僕の顔は涙で、ぐちゃぐちゃだろう。やっぱり、どんなに大人びた性格をしてても、所詮は子供だと実感させられる。

 

 

「悠人・・・泣かないで、大丈夫だから。私は大丈夫」

 

 

そう言いながら、僕の頭を撫でてくれる。

 

 

「は・・・母・・・上・・・。死んじゃやだぁ、良い子にするから・・いっぱい勉強するから・・・だから、だから死なないでぇ・・・うっ・・・ひっく・・・・・・」

 

 

母上は泣きじゃくる、僕をあやしながら。

「悠人・・・・彼方は闇に堕ちてはダメよ・・・。怒りに・・呑まれず・・憎しみに・・・支配されず・・・決して・・自分を・・・見失わないこと・・・理性じゃなく・・・理屈でもなく・・・心で・・感じなさい・・・だから・・・悠人・・・約束して・・・必ず・・守ると・・なにものにも囚われないと、約束して悠人」

 

 

僕に言い聞かせながら、母上は頭を撫でていない方の右手の小指を持ち上げた。手を動かすことすら辛い筈なのに。

だから、僕は自分の右手の小指を母上の小指に絡めた。

 

 

「うん・・約束するよ・・母上。僕は・・怒りを呑みこみ・・憎しみを支配して・・ただ一つの自分を形作り・・理性も・・理屈も・・それら全てを心で感じ・・心で治める・・・。約束する・・・母上・・・僕は約束するよ。もう二度と過ちは犯さない」

そう言い、母上と指切りをする。

 

 

「悠人なら・・・出来る・・・いえ、悠人じゃないと・・出来ない。なぜなら、悠人は・・伝説の英雄<レジェンド・マスター>の生まれ変わりなんだから・・・・!」

 

 

そう言い、母上は僕が今まで見たことない、笑顔を浮かべる。

(母上でも、こんな笑顔をするんだ・・。でも・・何だろう?僕はこの笑顔を知っている?でも、どうして?)

 

 

ザザッ・・・・・・・・

 

 

「美帆っ、美帆っ!!起きろ、起きてくれ!!!なんで、何で俺なんかを庇った!!!」

 

 

ザッ・・・ザザッ・・・・ザッ・・・・・・

 

 

「祐介・・・良かった・・・無事だったんだね・・・・。」

 

 

これは・・・記憶・・・・?僕の前世の・・・祐介様の記憶・・・・?

 

 

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

 

裕也が逝って、お前も俺を置いて逝くのか!美帆!!

「祐介・・・人間は弱い生き物なんだよ。一人では生きていけなくて、寂しがり屋で、怖がりで、泣き虫で、怒りっぽくて、彼らは力を恐れているの。力の形は何でも良いの、唯の純粋な力でも、権力でも、何でもね。彼らは臆病だから力がある人には先ず、その者の傘下に入るか、味方に引き込もうとするわ。もし・・どちらも出来なければ、彼らは攻撃するの。自分に従わない存在を、自分の味方のならない存在を」

そう言い、美帆は俺の頬を撫でる。

 

 

「だから・・・祐介・・・彼らを憎まないで・・・怒らないであげて。彼らは弱いわ。だからこそ、悪意ある存在から護らないといけないの。そんな、彼らを利用する闇から・・・祐介のような力ある存在は護らないといけない・・・・・」

 

 

「分かった・・・分かったから・・・・俺を置いて逝かないでくれ!!!友も逝き、愛する人まで逝ってしまったら、俺はどうすればいいんだ」

 

 

「大丈夫。大丈夫だよ。祐介ならきっと大丈夫。だって・・彼方は私の恋人なんだから」

そう言って美帆は笑った・・・。

 

 

 

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

 

 

 

そうか・・。僕がそうであったように、母上も・・。なら、僕がやることは1つだ。

(お願い・・届いて!祐介様・・聞こえますか?聞こえたら・・僕の願いを聞いて下さい・・・お願いします!!どうか・・・・!!)

 

 

僕は願った。今まで神様なんて信じたことは無いけど。今だけは叶えて欲しい!!

 

 

その時・・・・・・

(まさか・・・俺にまで声を届かせるとはな・・驚いた。しかも、無意識とはいえ、俺の存在に気づくとは恐れ入ったよ。悠人)

奇跡は起きた。

 

 

(祐介様・・?)

(おう。しかし悠人お前、運が良いな。後1年もしたら俺の人格はお前と統合していたからな。タイミングが良いと言うかなんと言うか、末恐ろしい後継者だよ。悠人)

 

 

祐介は溜息混じりにそう言った。

 

 

(とりあえず、俺が表に出ればいいんだな?)

(はい。そうなんですけど、出来ますか?)

(問題ない。この位は簡単だ。悠人、俺に続けて唱えろ)

(分かりました)

 

 

(我は唱える、古の言霊を)「我は唱える、古の言霊を」

 

 

いきなり、詠唱を始めた僕に母上は、

「え?悠人・・何を・・・?」

困惑した表情をした。

 

 

(我は夢幻を司る魔神なり)「我は夢幻を司る魔神なり」

 

(心の泉を開いて、光を掴む)「心の泉を開いて、光を掴む」

 

(心は鏡、魂は剣、体は勾玉なり)「心は鏡、魂は剣、体は勾玉なり」

 ア マ テ ラ ス ア マ テ ラ ス

(天照大神の鏡よ、今こそ我が命に答えよ)「天照大神の鏡よ、今こそ我が命に答えよ」

 

(陰陽鏡<ミラー・マインド>)「陰陽鏡<ミラー・マインド>」

 

 

 

悠人side out

 

 

 

 

祐介side

 

 

 

う・・・・、光を浴びるなんて、数十年振りだな。しかし何とか、成功したようだな。

 

 

(祐介様。成功したんですか?)

(成功だ。自分で身体を動かせないだろう?)

(あ、本当だ)

(じゃあ、ここからは悠人の望み通りに俺が話すな)

 

 

「こほっ・・ゆ・・悠人?いきなり、魔術を使うなんてどうしたの?」

美帆はまだ、俺だとは気づいていないようだな。

 

 

「こほん・・・久しぶりだな、美帆」

「え?美帆って!?ええっ!!」

 

 

おーー、おーー、いい感じに混乱しているな。

(祐介様って実は悪戯好き?)

 

 

「まあ、混乱するのも分かるが少し、落ち着け。美帆」

「こ、コラ!母親を呼び捨てにするんじゃありません!」

「とりあえず、治癒<リーラ>」

「こらー、スルーすんじゃ・・・・えっ!?」

 

 

美帆は驚いてるな。まあ、いきなり出血が止まれば驚くか。

だが美帆の身体はもう、手遅れだ。身体の8割近くが呪いに蝕まれている。

 

 

「美帆・・・これから話すことは全て、真実だ。心して聞いてくれ」

「えっと・・・うん」

「よしっ。先ずは俺は悠人ではない。不死鳥 祐介だ。今は悠人と人格を入れ替わってもらっている」

「その証拠はあるんですか?」

 

 

美帆が、疑わしそうに聞いてくる。

(まあ、疑って当然か)

 

 

「良いだろう。俺が祐介だという、その証拠を見せよう。お前の本当の名を当てよう・・。旧姓、田村 美帆・・お前の前世の名前だ」

 

 

 

祐介side out

 

 

 

 

美帆side

 

 

 

「良いだろう。俺が祐介だという、証拠を見せよう。お前の本当の名を当てよう・・。旧姓、田村 美帆・・お前の前世の名前だ」

 

 

え?何で!?何で、悠人が私の前世の名前を知っているの!?

 

 

「ざ、残念でした。私の旧姓は田村じゃありません。私の本当の旧姓は・・・」

「知っている。今世の旧姓は山里 美帆だろ?」

 

 

な・・何で、分かるの!?

「そりゃあ恋人だからな。その位、分かるさ」

「いきなり、心を読まないで下さい!」

 

 

一体、何なの!?この子、悠人じゃないの?じゃあ、一体誰なの?

「まだ戸惑っているみたいだが、もういい加減に気づいているのではないか?」

「そ・・それは・・。ほ・・本当に祐介なの?幻覚じゃないよね?」

 

 

「幻覚や夢でもなく本物だ。それでも、信じられないなら・・・・」

そう言い、顔を右手で覆い、退けるとそこには両眼を蒼眼にした悠人が私を見ていた。

 

 

「その瞳・・・まさか」

「神龍一族の蒼き眼、俺の力を継いだ悠人でもまだ瞳の完全開放は出来ない。仮に出来たとしても数分が限度だろう。神龍一族の力を完全に扱えるは現時点では俺だけだ。」

「ゆ・・祐介!」

そう言うと、私は祐介にゆっくりと抱きついた。

 

 

「美帆・・・・・」

祐介も私の背中に腕を回しくれた。(子供の身体だから完全には届かなかったが)

 

 

「美帆・・・再会していきなりだが、君の身体についてなんだが・・・・」

祐介が悲しそうに言っているが・・・・私は。

 

 

「分かってる・・・。私の身体がもう長く持たないことも・・・・」

「知っていたのか・・・・」

 

 

祐介は驚きながら、言ってくれた。

 

 

「うん・・・。いきなり、出血と痛覚が消えた時は驚いたけど、段々と自分の身体が何かに蝕まれていくので気がついたわ。ねぇ、祐介・・・そうでもしなければ、満足に身体を動かせないほど酷いのでしょう?私の身体は」

「その通りだ・・・。外傷は問題無いが身体の中が問題だった・・・。普通はこんなにも早く、闇の呪いが進行するのはありえない。推測だが美帆が斬られた時に切っ先が僅かに心臓を浅く切っていたのだと思う。幸いにも、脳に行くまえに呪いの進行を止められたが、もう身体は・・・・・」

 

 

祐介は悔しそうな顔でそう言った・・。

「祐介・・・気にすることはないよ。どのみち、斬られた時点でもう助からなかったのだから・・・・・」

 

 

「だが・・・君をまた、救えなかった!!もっと早い段階で悠人と入れ替われていたら、君を助けられた!助ける・・・ことが出来た・・・・・」

 

 

祐介は辛そうに・・後悔するように・・声をだす。

 

 

「それは祐介の・・・いいえ誰のせいでもないわ。ただ・・・私が未熟だっただけ・・・」

 

 

そう言って、私は微笑む。全て・・・許すかのように。

 

 

「何で君は・・・美帆はそんな顔が出来るんだ・・・笑えるんだ・・・。また、死ぬんだぞ?何で・・・何で、そんな満足そうな笑顔が浮かべられるんだ!」

 

 

「何で?それは簡単だよ」

私は祐介の眼前に右手の人差し指を掲げて見せて

 

 

       ~また、大好きな人に看取られて逝けるからだよ~

 

 

それを聞いた、祐介は・・・静かに・・・涙を流した・・・。

 

 

「全く・・・お前は今も昔も・・変わらないな。自分が死んでしまうというのに・・・・」

「ごめんね・・・こんな役回りをさせて」

 

 

「ふ・・まあ、良いさ。前と同じだ。だが・・・今回は前と違って・・・・」

 

 

         ~笑って、お前を看取れるからな・・・~

 

 

祐介は・・・悲しそうだけど、吹っ切ったかのような笑顔でそう言ったくれた。

その時・・・。

 

 

あれ・・・?おかしいな・・・なんで・・祐介の顔が曇って見えるんだろう?

どうしてこんなにも胸が苦しいの・・・痛いの・・・・?

あ・・そうか・・。私、泣いているんだ・・・悲しんでいるんだ・・・・。

 

 

「そっか・・・私・・祐介とまだ、生きていたいんだね・・・。一緒の居たいんだ・・・」

 

 

あれ?なんか、祐介「珍しい物でも見た」ような顔をしている・・。失礼ね。私だって、人並みに泣いたり、悲しんだりするわよ。

 

 

「全く・・やっと泣いてくれたな・・・。美帆はいつも悟ったように、自然に感情を隠してしまうからな。その感情を引っ張り出すのは一苦労だったよ」

「そ・・そうなの?し・・・知らなかったな・・・・」

 

 

私は・・涙腺が決壊したかのように泣いた・・・。

これまで泣けなかった分まで泣いた・・・。

悲しいけど嬉しいという矛盾を抱えながら・・・・・・・。

 

 

 

「落ち着いたか・・・?」

祐介が私の髪を撫でながら聞いてきた。は、恥ずかしい・・・///

 

 

「あ・・ありがとう。祐介・・・」

「この位、別に良いさ」

 

 

そうやって、お互いに静かに笑い合っていると・・・。

私の身体からゆっくりと力が抜けていった・・・。

 

 

「祐介・・もうお別れみたい・・・」

「そうか・・・・」

「随分、あっさりしているね・・・」

「そうでもないさ・・・。これでも叫びたいほど、悲しんでいるよ・・・」

 

 

その時・・私の頭の中になにかが降りてきた。

「祐介・・もう、あまり時間は無いけど今、私の中に『託』が降りてきたから伝えるね。」

 

 

私がいきなり、そう言うと祐介は驚いていたがしっかりと頷いてくれた。

 

 

 

汝が道、決して平坦ではないことを知れ

 

強き刀と出会い、汝は家族を得る

           ライバル

硬き刀と出会いし時、汝は強敵を得る

 

奇天烈なウサギと出会う時、汝は将来、その者の子供を得る

 

脆き刀と出会う時、汝は最初の親友を得る

 

これから語る道は汝と結ばれる者たち也

 

蒼き雫、猛き龍、優しき風、臆病な兎、茨の姉妹

 

この者たち、等しく心に闇を抱える存在也

 

そして、先の未来で汝が戦う闇に気をつけろ

 

その者、高き巨人也・・・・・

 

 

 

「なるほど・・・それが今世の『託か』」

「うん・・祐介の・・いえ、悠人の託ね」

「しかし、我が後継者も大変だな。確実に厄介な未来だな」

「そうね・・・・ん・・」

 

 

何だろう・・凄く・・眠くなって・・きた・・・。

 

 

「眠いのか・・・?」

「うん・・・」

 

 

でも・・最後に・・・・。

 

 

「悠人・・・」

「なんだ・・・?」

「最後にキスをして・・・」

「唐突だな・・・・」

「ダメ・・・?」

「いや・・俺も言おうと思っていたところだ・・・」

「じゃあ・・・?」

 

 

そう言い、祐介は私の方に顔を近づけて来て・・・・。

私の唇と祐介の唇が重なった・・・・・。

 

 

数秒、重ねた後・・・ゆっくりと離れた・・・。

 

 

「心残りは・・?」

「多分、もう無いかな・・・」

「まだあるなら遠慮なく言っていいんだぞ・・・・」

 

 

「じゃあ、膝枕して髪を撫でて・・・」

「わかった」

 

祐介は私に膝枕をして、髪を撫でてくれた・・・。

 

 

「ゆう・・すけ・・・は・・暖かい・・・ね・・」

「そうか・・・?」

「う・・ん・・・あ・・たた・・かい・・よ・・・」

 

 

いつの間にか、日が出ていた・・まだ少し・・雲があるけど・・。

 

 

「祐・・・介・・あり・・・がとう・・・」

「・・・・・・・」

 

 

「こ・・ん・・な・・穏やかな・・・気持ち・・・で・・逝かせて・・・くれて・・」

「美帆は湿っぽいのは嫌いだもんな・・・・」

 

 

段々、瞼が重くなってきた・・もうお別れだね・・祐介・・・。

 

 

「さようなら・・・だね・・」

「それは違うぞ・・美帆」

「え・・・・?」

「おやすみだよ・・美帆」

 

 

祐介は穏やかな顔をして言った・・・。そうだね・・祐介。最後まで湿っぽいのは無しだね。

私は最後の力で・・・・・。

 

 

「ありがとうね。祐介・・」

「いいさ・・・」

「祐介・・・大好き、愛してる・・・」

「俺も・・愛してる・・美帆」

 

 

彼方の顔を目に焼き付けて眠ろう・・・

 

 

「祐介・・・」

「ん・・・・」

「風が気持ちいいね・・・」

「そうだな・・・・」

 

 

穏やかな風が辺りに吹く・・・・。

 

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

 

お互いに無言・・もう余計な言葉はいらないみたいに・・・・・。

 

 

「祐介・・・」

「何だ・・・・?」

 

 

「おやすみなさい・・・・・・」

「ああ・・おやすみ。美帆・・・・」

 

 

私は眼を閉じる・・・頬に風を感じる・・だけど音が徐々に遠のいていく・・・・。

 

 

もう・・眼も開ける力も無い・・・ただ・・最後まで・・想うのは祐介と悠人ことだけ・・。

 

 

私の最愛の人であり、息子・・・彼方に逢えて良かった・・・・。

 

 

悠人・・・この先・・彼方の未来は決して楽なものじゃないけど頑張れ・・・。

 

 

お母さんは応援しているからね・・・。

 

 

「悠人・・・祐介・・・おやすみなさい・・・・」

 

 

 

 

美帆side out

 

 

 

「悠人・・・祐介・・・おやすみなさい・・・・」

 

 

そう言い、美帆は静かに眠りについた。

 

 

「お疲れ様・・・美帆」

 

 

そう言って、祐介は美帆を労う・・・。

それと同時に美帆の身体に憑いている呪いを破壊した。

 

 

だが・・・・その空気を破るかのように。

 

 

「フフッ。ハハハ、ハァ~~~~~ハハハハハハハッ!!!!!!」

アヴァロンは声を張り上げた。闇の呪いを破壊したのは気づいていないようだ。

 

 

「はぁ~~~~~。お別れはどうやら、済んだみたいですね。しかし、甘甘な三文芝居には退屈でしたよ。好きだの愛だの、下らない。そんな、邪魔にしかならない物より戦いの方が何よりも必要でしょうに」

アヴァロンは態とらしく、大げさに溜息を吐く・・・・。

 

 

「全く、少しは面白いかと思って待っていたのですが何も面白くも無かったですね・・・」

「あんな、下らないことなら取っとと殺しとけば良かったですね。」

「そもそも・・・・「黙れよ・・・」はい?」

 

 

祐介は美帆を静かに横たえると、顔を俯けながら小さくだがはっきりと言った。

「黙れと言ったんだよ・・クズが・・・・」

 

 

「ふ・・口の利き方がなっていないガキですねぇ。依頼人から貴方を殺すなと言われていますが、痛めつけるなとは言われていませんからねぇ。連れて行く前に少し躾けが必要、みたいですねぇ」

そう言い、手に魔力を込める。

 

 

「ふふ・・・躾けか・・・そうだな・・・・この俺自ら貴様を躾けてやるよ」

「貴方は何を言って・・・・」

 

 

アヴァロンの言葉が終わらない内に立ち上がり、右腕を上げて

「潰れろ!」

何かを握り潰すように右手を握り締めた。

 

 

その瞬間・・・。

「ぎゃ――――!!!」

アヴァロンの左腕は唐突に潰れた。

 

 

「ぐはっ!な、何ですか!?これは!!」

アヴァロンは左肩辺りを押さえながら混乱した。

 

 

「何をそんなに慌てているのか・・・。ちょっと、お前の左腕がある空間に干渉して握り潰しただけだぞ?そんなに驚くようなことじゃない」

「な――――っ!!!」

 

 

アヴァロンは絶句した・・・。

祐介は何とも簡単そうに言っているがアヴァロンには分かる。それがどんなに難しいことか。

空間に干渉するだけでも難しいのに、遠隔操作で空間に干渉、更にはアヴァロンの腕だけを空間ごと押し潰したのだから。極めつけには、特定の空間のみにしか影響を与えないという超高等技術。

 

 

「貴様は限界まで痛ぶって殺そうと思ったが止めた・・・・圧倒的な実力差というものを分からせてから殺すことにした」

「く・・この程度で調子に乗ってもらっては困りますねぇ・・。私が子供の貴方に劣っているとでも?」

「ふ・・まだ、実力差が分からないとは・・。やはり、2流だな・・。それと・・いつまでも頭が高いぞ・・下郎が・・『平伏せ』」

 

 

祐介がそう言った瞬間、アヴァロンはいきなり膝を着いた。

 

 

「な・・何だ!これは・・この重圧感は・・まさか・・?」

「これもちょっとした小技だ・・。言霊の応用で脳に直接、言霊をぶつけて強制的に命令しただけだからな・・・」

「これが、ただの小技だと?巫山戯ないで欲しいですねぇ。貴方が使った技はどれも高等技術でしたよ。ただの子供が使えるはずがない」

 

 

アヴァロンは目に憎悪を込めながら祐介に問うた・・・。

 

 

「ふ・・まだ、思い出せないのか?まあ・・もう100年以上も前だしな。覚えていなくても仕方ないか・・・」

 

 

祐介はそう言いながら、アヴァロンの前まで歩いて来た。

 

 

「俺の名は不死鳥 祐介。100年以上前に貴様を倒した者だ」

「な・・・っ!」

 

 

アヴァロンは思い出した。忘れもしない。115年前の私の初陣の時・・・。

初めて敗北した、男であり、人生初の屈辱を味あわされた憎き敵。

 

 

「思い出しました・・・。突然、戦場に現れて敵味方問わずなぎ倒した非常識な男ですか」

「久しぶりだな・・。小僧・・・。そして・・・さようならだ!」

 

 

たった一歩でアヴァロンの懐に潜り込んだ祐介は・・・。

「無限流体術 奥義『金剛剣・突』」

 

 

アヴァロンの心臓に貫手を繰り出し、心臓を掴むと・・・・。

「砕!!」

躊躇わずに握りつぶした・・・・。

 

 

(何が・・どうなっている・・?)

一瞬で懐に入られ、手の動きすら捉えられずに心臓を潰された・・・・。

 

 

(強くなったつもりだったのですが、未だ足元にすら及ばないとは・・・)

 

 

あの日、敗北してから血の滲むような努力が一瞬で砕かれた・・・・。

圧倒的すら生ぬるい次元の違う強さを見せつけられた・・・。

 

 

(全く・・・こうまで実力差があると恨む気にもなりませんね・・・)

どこか清々しい気持ちになりながら、アヴァロンは前を見た。

 

 

(やはり・・私が心臓を砕かれた程度では死なないことは見抜かれていましたか・・)

そこには『不死鳥』を鞘に入れたまま構えた、祐介がいた。

 

 

「では、さらばだ、アヴァロン。無限流 奥義『神速剣』」

 

 

(任務失敗ですね・・・)

身体に何かがまとわりつく様な、感触を感じながら・・私の意識は闇の落ちた・・・。

 

 

「ふん・・・それなりの努力はしてきたようだが、敵の実力を瞬時に見抜くことが出来なかった時点で貴様の敗けだ・・・・」

祐介はアヴァロンの返り血を拭おうともせず、後方を睨んだ。

 

 

敵はアヴァロンがあっけなく殺されたことに呆然としているようだ。

そんな敵を見て祐介は溜息をこぼしながら言う。

 

 

「敵を前にして、ぼーーっとしているとは随分と余裕だ・・諸君。いや、150年前に滅ぼされた元・闇の組織『ダーク・オリオン』の残党と言った方がいいかな?」

 

 

祐介の言葉に敵、ダーク・オリオンの人間たちは戦慄した・・。

この部隊を任されていた、鎌足に至っては恐怖に顔を引き攣らせていた。

 

 

「何故って、顔をしているな?それはな・・・俺が生前の頃に組織の中枢を滅ぼした時に当時の生き残った幹部の奴らと交渉してな。{今後一切、闇に手を出さず、我ら一族にも無干渉を貫くこと}と誓わせたんだがな・・・。どうやら・・俺は甘かったらしい・・・」

そう言い、祐介は『不死鳥』を引き抜いた。

 

 

「所詮、クズはクズ、悪は悪だということが良く分かった。だから・・・二度とこんなことが出来ないように跡形もなく消してやる」

 

 

祐介は『不死鳥』を自然体で構える、次の瞬間・・・祐介の姿が前触れもなく消えた・・。

鎌足は驚いたが直ぐに冷静になった。義昌と同じ、原理だと思ったからだ。

そう思った時、鎌足たちの前から一陣の風が駆け抜けていった・・・・。

鎌足たちは風を手で押さえながら、気配を探った。すると・・・・。

 

 

「もう、貴様らは終わりだ・・・・・」

鎌足たちの背後から祐介の声が聞こえた・・・・。

 

 

「どういうことですかな・・・?」

「言葉通りだ・・・」

 

 

祐介はそう言い、『不死鳥』を鞘に納める。

チンッ!

その瞬間、鎌足を含めた全員の首が飛んだ。

 

 

祐介は後ろを振り向くと・・・・。

「言ったろ?終わりだと・・・・」

 

 

「さてと、後はこの里にいる残りとこいつらに命令を下した、クズを消すか」

 

 

いつの間にか、空はまた雲に覆われ、風が吹いてきた。

雷鳴も鳴り響き、いよいよ雨も降ってきた。

 

 

「さて・・消えろ。クズども・・・・」

 

 

「古の盟約に従い、我に従え、雷の神。空を覆う、雷雲よ。我が行く手を阻む、敵を駆逐せよ。<滅亡の雷>」

 

 

祐介が勢いよく手を振り下ろすと、里全体に神鳴りが落ちた・・・・・。

 

 

 

三者視点side out

 

 

 

??? side

 

 

 

私は今、車を使って不死鳥の里に向かっている。

勿論、今日招いているお客様を迎えに行ってだ。

 

 

「しかし、折角の休日なのに態々来て頂いてすみません、千冬さん」

「いや、休日にやるとしたら剣の鍛錬位しか無かったので私としては助かる。徹さん」

 

 

「そう言って頂けると、こちらとしても助かります。それに美帆様や悠人様も喜びますから」

「一夏も連れて来られれば良かったんだが、友達と約束があるみたいだから、行けないことを残念そうにしていた」

 

 

「はははっ。悠人様も同年代の友達が出来て嬉しそうにしていましたよ。ところで、束嬢が今日来ないのは研究か何かですか?」

「ああ。束の奴はどうしても外せない用事があるみたいで、行けないのを残念がっていたな」

「なるほど。しかし、私としても残念です。同じ、研究者としてなかなか為になることが多いものですから」

 

 

唐突に雨が降ってきた。

 

 

「雨が降りそうとは思いましたが、やはり降ってきましたか。少し、急ぎましょう」

「そうだな。雨も強くなっているようだし」

 

 

私はアクセルを強く踏み込んだ。

それに何か、嫌な予感がしますね・・。何でしょう?この胸騒ぎは・・・。

雨だけではなく、雷鳴も鳴り始めましたか・・・。これは近くに落ちそうですね。

 

 

「千冬さん。少し揺れますのでしっかり、捕まって下さい」

「わかった」

 

 

その時、一際強く空が光ったと思ったら無数の雷が大地に落ちた・・・。

ガガーーーーーンンッ!!!!

 

 

雷が落ちた瞬間、地面が冗談なく揺れた。

「・・・・・・っ!」

「く・・・・・っ」

 

 

嫌な予感がますます強くなった。しかも、私の予想が当たればこれは・・・・!

 

 

「千冬さん。胸騒ぎがしますので最高速度で急ぎます」

「ああ。私も嫌な予感がするから急いでくれ」

 

 

そうお互いに言って、私は車の速度を更に上げた・・・。

 

 

 

徹side out

 

 

 

「<滅亡の雷>」

 

 

~里の周辺~

 

 

「く・・・敵の数が多すぎる・・。ここまでか・・・」

ドドーーーーーンンッ!!!!

 

 

「「「「「ギャーーーーーー!!!」」」」」

 

 

「何だ?いきなり、雷が降ってきて敵が消された・・・・・」

 

 

~ヨーロッパ某所~

 

 

「ははは!!今頃、不死鳥一族は御終いだろう。高い報酬も支払って、あのアヴァロンも雇ったのだからな」

「不死鳥 祐介が居ない今、何を恐れることか」

「奴も今頃、地獄で後悔しているのではないかね?」

「違いない・・・・・」

「「「「フフ、ハハハハハハハッ!!!!」」」」

ドガーーーーーーン!!!!

 

 

「な、何だ?」

「何が起こった?」

「も、申し上げます。ただ今・・外で・・・」

ガガーーーーーーーーン!!!!!!

 

 

「「「「ギャーーーーーーーーーーー!!!!!」」」」

 

 

「これで全部、終わりだ」

 

 

俺は全ての敵の気配が消えるのを確認すると美帆の元まで戻った。

 

 

(終わったの?祐介様?)

 

 

「ああ。これで完全に終わった。もう、組織の欠片も無いだろうよ・・・」

美帆の頭を膝の上に乗せながら、祐介は答えた。

 

 

(ごめんなさい・・祐介様。僕たちの世代の問題なのに祐介様の手を借りてしまって)

「俺はただ・・自分のツケの後始末をしただけだ。礼を言われる程のことではない。」

 

 

(でも・・・・)

「俺が手伝えるのは今回だけだしな・・・。知っているだろう?俺は本来、もうここには居ない存在だ」

 

 

(そう・・ですね・・)

「これからのことは今を生きている、お前たちが決めなくてはならない」

 

 

(はい・・・・)

「まあ・・お前は・・・悠人は俺の後継者だからな。今が弱いと思うなら努力して強くなれ」

 

 

(はい!!!)

「お・・そろそろ、俺も眠る。流石に次はないだろうから、今日でお別れだ」

 

 

(祐介様・・今回のことも、母上のこともありがとうございました!)

「いいさ・・俺も前世での後悔を帳消しに出来たからな。プラマイ・ゼロだ」

 

 

(それでも・・ありがとうございます。)

「ふ・・まったく・・真面目な奴だ・・・」

 

 

(これが性分ですから・・・・)

「そうか・・・悠人・・・またな・・・・・」

 

 

そう言って、祐介様は僕の中に消えていった・・・。

 

 

「母上・・僕が祐介様の生まれ変わりだって聞いた時は驚いたけど、母上も美帆様の生まれ変わりだとわかった時はもっと驚いたよ」

 

 

僕は母上の身体だけ、雨で濡れないように魔術をかけて空を見上げた・・・・。

 

 

ザァーーーーーーーーーーーー。

 

 

「母上・・・世界は悲しいね・・・なんでこんなにも憎しみと悲しみが多いのだろう・・・・」

 

 

自分を濡らす雨を見上げながら・・。

 

 

「まるで・・世界が・・泣いているようだね・・・・・」

そう思っていると・・。

 

 

「悠人様!!ご無事ですか!?」

 

 

その声がする方に顔を向けると・・・。

 

 

「悠人様!!」

「悠人!!」

 

 

焦った表情をしながら走ってくる。御鏡と千冬さんがいた・・・。

 

 

 

三者視点side out

 

 

 

千冬side

 

 

さっきの大きな雷が落ちた後から徹さんの様子がおかしい・・・・。

今も私に聞こえない声でどこかと連絡を取っている・・・。

やっぱり・・嫌な予感がする・・・。

一体、何が起こったのだ!

 

 

里の近くまで来た時、徹さんは車を止めた。

何故、里まで行かないんだ・・・?

その時、私の予感は確信レベルまで上がった・・・。

 

 

「千冬さん・・すみませんがここで少し待っていて下さい」

「それは何故だ?」

 

 

徹さんは僅かに躊躇したが、答えてくれた。

 

 

「さっきまで里が敵の襲撃を受けていたようです。さっきの大きな雷の後、急に敵がいなくなったようですが、まだ残党がいるかもしれませんので千冬さんはここで待機して下さい」

「徹さんはどうするのだ?」

 

 

「私は行方が分からなくなっている、悠人様の捜索です。幸い、敵の捜索部隊の人手は足りているみたいなのでこちらは私が担当することになりました」

「宛はあるのか?」

 

 

「はい。どうやら先程から美帆様と義昌殿の部隊と連絡が取れないらしく、もしかすると戦闘中或いは何かあった可能性がある事と、敵の狙いが悠人様の身柄ならその場にいるのかもしれませんので」

「な・・・悠人が狙いとはどうゆう事ですか?悠人に何かあったのですか?」

 

 

私は徹さんに詰め寄った。

悠人が何かされているのではないかと思うと心配だった。

 

 

「落ち着いて下さい。こちらも現状ではどうなっているのか分からないのです。だから、今は迅速に動くことが重要です。なので先ずはこれから美帆様の部隊の連絡が途絶えた地点に行き、そこを中心に辺りを捜索する予定です。なので千冬さんにはここで待機していてほしいのです」

「いや、私も行こう。私とて剣の腕には自信がある。それに人手は多い方が良いのではないか?」

 

 

私はそう、徹さんに言うと少し考えていたが、頷いてくれた。

 

 

「分かりました。実際、人手はいくらあっても足りませんから此方としてはありがたいです。しかし良いのですか?此方の問題ですので無理に手伝ってもらわなくてもいいのですが」

「私は悠人や美帆さんを弟や母親のように思っている。家族を助けるのに理由は要らないだろ?」

 

 

「どうやら、無粋な真似をしてしまったようですね。分かりました。そういう事なら直ぐに行きましょう」

「ああ!」

 

 

私と徹さんは夫々の得物を持つと、森の中を里に向けと走った。

 

 

「徹さん、探す場所は里の何処ですか?」

「里の中央にある、すこし開けた広場です。通信が途絶えたのがその地点なので、そこから探します」

「分かった」

 

 

そう言って、私たちは森を駆け抜けていった・・・・。

 

 

 

暫く走ると、遠目にだが広場が見えてきた。

 

 

「徹さん。見えてきました」

「ええ。急ぎますよ」

 

 

近づくにつれて周り状態が分かってきた。広場は酷い状態だった。植えてあった木は吹き飛び、遊具は壊れ、近くに家屋は壊れていたり、この雨の中でも燃えていたりした。

その酷い状態の広場の中央の人影が見えた。あれは――。

 

 

「悠人様!!ご無事ですか!?」

 

 

徹さんが大声を出す。

悠人は俯いていた顔をゆっくりと上げた。

私は猛烈に嫌な予感を感じながら駆けた。

 

 

「悠人様!!」

「悠人!!」

 

 

私たちが声を掛けると、悠人は此方に顔を向けた。

その顔を見た時、私の頭の中は一瞬、真っ白になった。

隣を見れば、徹さんも「まさかっ!」という顔をしている。

 

 

悠人は・・・何処か途方に暮れたように、悲しいのか怒りたいのか泣きたいのか分からない顔していた・・・・・・。

 

 

私たちは悠人の元に着くとそこには悠人の膝の上に横になっている、美帆さんがいた。

その表情を見ると穏やかな顔で眠るように横になっていた。

だがなぜか、違和感がこれは――?

 

 

「悠人様、美帆様!お怪我はありませんか!?」

 

 

徹さんは悠人たちに声をかけた。

そして私は違和感の正体に気づいた。気づいてしまった。

だって――、

 

 

「御鏡・・・母上・・・母上が・・・・」

 

 

美帆さんの胸の鼓動は――、

 

 

「死んじゃった・・・・・」

 

 

止まっていたのだから・・・・・。

 

 

 

千冬side out

 

 

 

千冬たちが無言でいると・・・、

「御鏡・・・母上を英霊の泉に運ぶのを手伝って・・・」

悠人は御鏡のそう言った・・・。

御鏡は一瞬、硬直したが直ぐに元に戻り、悠人に返事をした・・。

 

 

「分かりました。その命、謹んでお受けします」

 

 

千冬も手伝って美穂を御鏡の背中に乗せた。

その際に美帆の身体に触った時、千冬は疑問に思った。

何で、身体が冷たくないのだろう?と・・・・。

間違いなく、呼吸も止まっているし、心臓も動いていない。

それなのに何故?

そう疑問に思ったがとりあえず今は美帆を運ぶのが優先、なので疑問は後回しにした。

 

 

それから千冬たちは美帆を運びながら、森の奥まで来た・・。

そこには、大きな湖が広がっていた・・・。

 

 

「ここは・・・・」

「英霊の泉・・・代々、不死鳥一族の当主とその妻たちが眠る・・私たち一族の者に取って神聖な場所です」

 

 

「そして、僕の父上もまた・・ここに眠っています」

「そうか・・悠人の一族は皆ここに眠っているのか?」

 

 

「いいえ・・この泉に眠っているのは不死鳥一族の直系だけです。私や他の分家は普通のお墓ですよ」

「そして、唯一人の例外を除いて歴代の当主と妻たちはこの泉で眠っています」

 

 

千冬はその一人の人物が気になった。

 

 

「その例外の人物とは?」

「不死鳥一族31代目当主 不死鳥 祐介。この泉には彼の肉体は眠っていますが、魂は何処にも無いのです」

 

 

「魂が無い?」

千冬は疑問に思った。聞く限り、当主と妻たちの肉体と魂は例外なく泉に眠っているのに、不死鳥 祐介の魂だけが泉に無い。それはどうしてかと。

 

 

「彼はどうやったのかは分かりませんが、この泉に眠る際に魂だけを輪廻の輪に送ったようなのです」

 

 

御鏡は泉の前にまで歩きながら。

「当時の長老たちも驚いたみたいでね。祐介様の魂を捜索するために世界中を探したみたいだよ」

そう言った・・。

 

 

「だが、見つからなかった・・・そうだろう?」

「はい・・。その後、10年間は探したようですが何処にも探知出来なかっため・・諦めたそうです」

 

 

「そして・・・今世でやっと、魂が見つかったのです」

「不死鳥 祐介の魂は誰に宿った?」

 

 

悠人は自分に指を差して、言った。

「僕です。不死鳥 祐介の魂は次期当主の僕に宿ったのです」

 

 

「悠人に魂が宿ったと?」

「はい・・僕こそが祐介様の魂を継承した、不死鳥一族34代目次期当主 不死鳥 悠人です」

 

 

そして、遂に泉に着いた。

悠人は右手を泉に向けた。すると・・・・。

 

 

「これは・・・・」

 

 

泉の表面が輝きはじめた。

 

 

「行きましょう・・」

そう言って、悠人は泉に足を踏み込む。

 

 

「な・・これは・・・・」

悠人の足は水の中に落ちることなく、泉の表面に立った。

 

 

「大丈夫ですよ。千冬さん・・儀式が終わる時まで泉の表面には足場が出来るのです」

「そ、そうか・・・」

 

 

そう言い、悠人たちは泉の中心まで歩いて行く。

 

 

「着きました。ここが儀式の中心であり、歴代の当主と妻が眠る聖地です」

 

 

中心に着いた後、先ずは美帆を背中から降ろし寝かせた。

悠人は御鏡の方に向き直ると。

 

 

「御鏡 徹・・・次期当主として命じる。この場に分家を含めた、全ての一族を集めろ。後は怪我人も全員だ」

「御意!」

 

 

「悠人・・これから何をするんだ?」

「さっきも言いましたが、魂を見送る儀式ですよ・・・唯、それを一族全員で執り行うだけです」

 

 

「いつもは全員ではないのか?」

「はい・・普通は直系と分家の長、儀式を管理する巫女たちだけで執り行うのが習わしでしたから・・今回、行う儀式が不死鳥一族の歴史上、最大規模になるかと」

 

 

30分後・・・・・。

「悠人様!一族全員この場に集めました。さあ、悠人様・・始まりの宣誓を」

 

ミナ

「皆の者、宣誓の前に聞いてくれ。此度の戦いで我が母、不死鳥 美帆が無くなった・・。母を殺めた敵は闇の剣技を使う者だった・・・・」

 

 

悠人がそう言った後、周りからは「美帆様が!?」「そんな・・」「俺たちに力が無かったから。」など声が上がった。

 

 

「その者が使う剣技は我らとっては因縁のある者の剣技だ・・・闇の王たちが使っていた技法・・・敵の者は閻神流などと言っていたが・・・おそらく、古い文献を読み独自に会得したのだろう・・・」

周りからは「また、闇の者か・・」「また、15年前のような悲劇が・・」と声がした。

 

 

「そうまたしても、闇の者が来た。15年前のように・・・。我らの大切な者を奪っていった!」

 

 

「今回、敵の目的は私とこの一族の秘宝である『不死鳥』だった。私の母は私を護る為に命を落とした。その時、その場にいた私は神に奇跡を願った。母を・・里の皆を助けてくれと・・そして、願いは届いた。神ではなく、ある人物に・・その名は不死鳥 祐介。我が魂に宿っているもの者也」

 

 

「彼が全ての災厄を薙ぎ払ってくれた・・・だが代償は大きすぎた・・・。だが我らは悲しみに暮れることは許されない!今まで一族の使命の下に死んでいった同志たちの為に我らは立ち止まれないのだ!!」

 

 

「だが今この時だけは共に悲しもう、泣こう!私はここに宣誓する。魂の眠りの儀式をここに執り行うことを宣誓する!!!」

 

 

悠人は皆に向かって宣誓した・・・・。

 

 

それから・・儀式は滞りなく進んだ。巫女たちが美帆の体を清めて、儀式用の着物を着せたこと・・・・。

巫女たちが神楽を舞っているなか祭主である悠人が祝詞を読み・・・。

全員が一人ずつ美帆の前に行き別れの言葉を言った・・・。

そして・・とうとう美帆を泉に入水させる段取りになった・・・・。

 

 

「これから、美帆様を入水させます。皆様、御神酒が入った杯を掲げて下さい」

今回の儀式のまとめ役の巫女は皆にそう言った。

 

 

「では当主、お願いします」

全員が杯を掲げるのを確認してから、巫女は悠人にお願いした・・。

 

 

悠人の力でゆっくりと美帆は宙に上げられた。泉の中心、入水させる場所までゆっくりと持っていく・・・。

「母上・・たったの5年ちょっとだけど今までありがとう・・・」

 

 

泉の真上まで来たところで・・・。

「これより、入水させます」

巫女が軽く頷くと悠人も頷き返した。

 

 

悠人は慎重にゆっくりと入水させる。

皆、泣いていた。徹も怪我をした義昌も千冬も全員、泣いていた。

仲間として友として家族として・・・それぞれ理由は異なれど皆、泣いていた。

だけど、悠人は泣けなかった・・・いや、泣かなかった。幼いながらもこれから、一族を率いて者として泣くことは出来なかった・・・・。

 

 

ゆっくりと足が、腰が浸かっていった・・。肩まで浸かったところで、

「母上・・・お疲れ様・・・・おやすみなさい・・・・・・」

そして、美帆は泉の中で眠りに着いた・・・・。

 

 

「皆、御神酒を飲んで下さい」

巫女がそう言って・・全員が御神酒を飲んだ・・・・。

 

 

儀式は終わった。

巫女たちが儀式の後片付けをしている横で怪我人を含めた一族の者たちはこれからの指示を待っていた。

悠人が全ての指示を巫女に言い終わると皆の前に歩いてきた。

悠人が皆の前に着いた時、千冬を除く、全員が跪いた。

皆を代表して、徹が言った。

 

 

「我らが王にして主よ。我らに命をお与え下さい。我ら一同、彼方に生涯忠誠を誓う身なれば・・・・」

そして全員、顔を上げて悠人を見た。夫々、色は違うが皆、覚悟を秘めた瞳をしていた。

 

 

「皆の思い、しかと受け取った。私も未熟だが精一杯、やっていくつもりだ。」

「ではこれから皆に、命を与える。謹んで受けよ。先ず、怪我人は大人しく治療と療養に専念せよ。怪我が治ってからは里の復興に尽力せよ。救護班は怪我人の治療と同じく里の復興だ。神凪、周郷、姫咲は外に散っている、一族の元へ出向いて今回の件を説明しておいてくれ。斎藤、松上は今回の襲撃に関する事の情報を全て洗い出せ。鷹宮は暫く、里の周りを警戒せよ。御鏡は当主を除く皆は奴らの入国を手引きした組織と関係者は全て、消せ。 これで以上だ。皆の働きに期待する」

 

 

「「「「「「「御意!!」」」」」」」

 

 

皆が夫々、自らの命を果たすための散って行った後、この場に残ったのは悠人、千冬、徹だけだった・・。

 

 

「悠人様、お勤めご苦労様です」

悠人の隣に立ちながら徹は悠人を労った。

 

 

「うん・・流石に疲れたよ・・・」

悠人はそう言って、少し苦笑した。

 

 

「ふ・・・しかし、悠人。私は初めて見たが公の場はいつも、あのような感じなのか?」

「え・・と、はい。大体、あんな感じです」

「ふふっ、そうか・・・・」

 

 

そう言い、この場に沈黙が降りる・・・・。

 

 

千冬は悠人の歳不相応の横顔を見つめながら思った・・・。

(悠人はこんな世界で生きてきたのか・・・。まだ子供だというのに・・・)

 

 

「悠人は・・強いな・・・・」

「強くなんてないですよ・・・僕は・・弱い・・・・」

「何故だ・・・・?」

「力が幾ら強くても・・心が弱い・・・弱いままなんですよ!今回の襲撃を解決したのも僕じゃない!!祐介様が解決してくれた!僕が弱いから!無力だから!」

 

 

悠人はそう言って叫んだ。

その顔はまるで泣きたいのに泣くのを我慢して、全部自分一人で抱え込もうとしている、そんな顔だった・・・・。

千冬はさっきから感じていた違和感がなんのか分かった・・。

達観しすぎているのだ・・・いくら、考えや中身が大人に見えても・・・心と身体はまだ子供・・・無理に背伸びをすれば、それだけ心に負担が掛かる・・・このままだと危険だと・・千冬はそう思った・・・・。

だから・・・・。

 

 

気がついたら、千冬は悠人を抱きしめていた・・・・・。

「え・・・・・・?」

「悠人・・・・泣きたいときは泣け・・・・」

 

 

「でも・・ぼくは・・・!」

「一族の次期当主だとか英雄の魂を継いだ存在だとかはどうでもいい・・・・私が見ているのは、そんな肩書きを抜いたお前自身だ!」

 

 

「・・・・っ!・・でも・・・でもぉ・・・・」

「どんなに大人振っても、お前はまだ子供だ・・・。笑いたいときに笑い、泣きたいときに泣けば良いんだ・・・・だから、泣け・・・今はいっぱい泣け!私の胸を貸してやる。だから、遠慮せずに泣け」

 

 

「あ・・・あ・・・」

 

 

悠人の目から――。

 

 

「う・・・あ・・・」

 

 

一筋の涙が――。

 

 

「うっく・・・ひっく・・・・」

 

 

溢れた・・・・・。

 

 

「・・・・っ!うああああああああああんっ!!」

 

 

「母上ぇ・・何でいなくなったの・・・ひっく・・・・何で死んじゃったの・・・・?」

 

 

「母上・・と行きたい・・場所が・・あった・・・うっ・・・のに・・・ふっ・・・・」

 

 

「お話・・・したい・・・ひっ・・・ことが・・あった・・・うぇ・・・のに・・・・」

 

 

「どうして・・・うっ・・・・?どう・・して・・っ・・・なのぉ・・・何で・・・・」

 

 

悠人は泣いた。

心のままに。

感情のままに。

全ての悲しみを吐き出すように。

一生分の涙を出し切るかのように泣き叫んだ。

 

 

「母上ぇ・・・・母上ぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

千冬に抱かれながら、天にいる母に届けとばかりに・・悠人は泣いた・・・・。

 

 

 

 

「すみません・・・千冬さん・・・」

「悠人、この場合はすみなせんではなく『ありがとう』だ・・・」

 

 

「えっと・・・ありがとう・・・・」

「そうだ・・・それでいい・・・やっと、素直になったな。」

 

 

「ねぇ・・・千冬さん・・・」

「何だ・・・?」

 

 

「何でここまでしてくれるの・・・?僕は他人なのに・・・・」

「寂しいことをいうな・・・私は悠人のこと家族だと思っているぞ・・・・」

 

 

「家族・・・そう言えば・・・僕・・・母上を亡くなってしまったから・・・天涯孤独になっちゃった・・・・・」

 

 

千冬は「しまった!」と思った。折角、良い雰囲気だったのにと・・・。

だが直ぐに閃いた。

 

 

「ならば・・悠人・・・私の弟にならないか・・・?」

「え・・・・?千冬さんの弟・・・・?」

 

 

「ああ・・・私は悠人ことを本当の弟のように思っているからな。ならばいっそ、仮初ではなくて本当の家族になってしまおうとな」

「え・・・でも・・・」

 

 

「それは名案ですね」

 

 

「「わあーーーーーーーーーーーーー!!」」

 

 

いきなり、声を掛けられたから二人は大声を出した・・・・。

 

 

「失礼ですね。私、少し傷つきましたよ・・・・・・」

「ご、ごめん。御鏡・・いきなりだったから・・・・・」

 

 

「全く・・・徹さんはイタズラが過ぎます」

「はははっ。すみません、ついついやってしまって。それより、さっき千冬さんが提案した案ですが採用です」

 

 

「え?ええっ!!?」

「いえ・・・前から思っていた事ですから。いずれはちゃんと継いでもらいますが、今はまだ早すぎます。それに美帆様が亡くなってしまって益々、我々は悠人様に構えないのです。なので、千冬さんのところに預ければ万事解決です。信用出来ますし、何より外の事を学べます」

 

 

「まあ、確かにそうだけど・・・でも他の皆が何て言うか・・・・」

「大丈夫です。他の分家も今、継ぐことには反対しています。だから、問題無しです」

 

 

「では・・・・!」

「はい。悠人様をお願いします。」

 

 

「ちょ・・・ちょっと・・・」

「任せて下さい」

 

 

「人の話を聞けーーーーーーーー!」

悠人の声が空高く、響いた・・・。

 

 

「はははっ。すみません、悠人様。少々、盛り上がってしまいました。」

「ですが真面目な話、今ここにいては危険です。敵を撃退したとはいえ、何時また敵が来るか分かりませんから」

 

 

「そうだな・・・悠人は未だに狙われているから、里から離すのは正しいな」

「ええ。だからこそ悠人様を千冬さんのところに預けたいのです」

 

 

千冬と徹は話を詰めていく。

「悠人はどうだ?私が姉では嫌か?」

 

 

「え・・・嫌じゃないよ・・。寧ろ、嬉しいかな・・・・・・」

「ならば問題無いな」

 

 

「そうですね。早速、書類を作らないと。一夏君がまだ小学校に上がっていないので比較的、工作は楽です。とりあえず、悠人様が年上ですから一夏君の兄という事で良いですか?」

「ああ。それで構わない」

 

 

「えっと・・・こんな大事なことをあっさり決めていいのかな?」

悠人の呟きは話に集中している二人には聞こえないのだった・・・。

 

 

「悠人・・・これからは家族として、私の弟としてよろしく」

「うん・・・よろしくお願いします・・千冬さ・・・・千冬姉さん・・・・」

この時、千冬の胸に何かが突き刺さった。

 

 

「・・・・・・・・っ!!」

「千冬姉さん・・・何で泣いているの?」

悠人は首を傾げた・・・。

 

 

 

それから1時間後・・・・・。

悠人の荷物の準備が出来たので出発することになった。

 

 

「二人とも準備は良いですか?」

 

 

「大丈夫だよ、御鏡」

「私も大丈夫だ」

「分かりました。では出発します。」

 

 

徹は車を発進させた・・。

 

 

「千冬姉さん、都会ってどんなところ?」

「都会か? 都会はな・・・・」

 

 

 

遂に動き出した運命。

大きな宿命を背負った少年。

この先に待ち受ける運命とは何か?

また、美帆の『託』の意味とは・・・。

 

 

 

IS<インフィニット・ストラトス>~不死鳥の羽ばたき~

序章 完

 

 

 

 

 




は~~~~~~っ。
やっと終わった。原作キャラも出せたし。
でも、やっぱこの回で終わらたいからって一気に詰めたのは失敗だったな。
反省(^_^;)
いやしかし、20000文字超えはやり過ぎたかな?
まあ、過ぎたことは気にしないことにしよう。
後は閑話を数話入れたら一章に入りますので次の投稿をゆっくり待ってやって下さい。
感想をお待ちしております。


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閑話~出会い~

時間が掛かったけど投稿。


この話は第三話の直ぐ後のことである。

 

 

 

 

「わあ・・・っ!」

「どうだ、悠人。ここが、これから私たちと一緒に住む街は?悠人が言う、都会に比べると若干見劣りするかもしれないが。」

 

 

長い山道を通り、長いトンネルを抜けるとそこには大きな街が広がっていた。

 

 

「そんなことないよ、千冬姉さん。今まで里から出たことが無かったから話で聞くだけだったけど、実際に見た街は話で聞くよりすごく大きいよ。」

悠人、目をキラキラさせながら、千冬に答えた。

 

 

「そうか。この街の暮らしに慣れてきたら、一夏と一緒に東京に連れて行ってやるから楽しみにしていろ。」

「本当っ!?やったーーー!楽しみだなぁ。」

悠人はそれほど、楽しみなのか歳相応にはしゃぐ。

 

 

「いやはや、生まれた時から悠人様に仕えて来ましたが、こんなに歳相応にはしゃぐ姿を見たのは初めてですよ。」

「そうなのか?里にも同年代の子供はいるのだろう?」

「そうなのですが、当主の息子の肩書きがある所為で友達はおろか気軽に話しかける者もいなくて、義昌殿は例外で気軽に話かけてはくれますが歳が離れ過ぎていますから友達と言うより孫と祖父のような関係です。なので里には友達と呼べるような人はいません。」

「そうなのか・・・。悪いことを聞いてしまったな。」

バックミラーで悠人の様子を伺いながら、千冬は申し訳なさそうに言った。

幸い、悠人は窓の外に夢中で此方の話には気づいていない。

 

 

「いいえ、千冬さんになら構いません。寧ろ、もっと悠人様のことを知っていってあげて下さい。悠人様に対して対等に接してくれた人は母親である、美帆様を除いて千冬さんと一夏君だけですから。」

徹は真剣な顔で千冬に言った。

 

 

「はい、任せて下さい。しかし、悠人を里から出して本当に大丈夫だったのか?いくら敵の襲撃がもう無いとはいえ、些か無防備過ぎると思うんだが。」

「それなら大丈夫です。今回の襲撃を手引きした者と一族を裏切った一部の者の後始末は終わっています。それに今回の襲撃で美帆様も亡くなってしまい、一族の直系は悠人様だけです。しかし悠人様は次期当主とはいえまだ、5歳です。いきなり一族を纏めろと言っても無理があります。そこで分家の長である私と他の分家の当主たちと話し合った結果、15歳になりましたら第34代目当主を襲名してもらいます。それまでは悠人様の自由にさせることにしました。ですが当主を継いだ後も悠人様が望むのでしたら里の外で暮らしても構わないことにしました。」

「随分と悠人の意思を尊重しすぎた話だな。しかし、徹さんたち一族の人はそれで良いのか?当主が里に不在でも。」

千冬はそう聞きながら少し疑問に思った。悠人に譲歩し過ぎなのではないかと。

 

 

「そこに関しても問題はありません。そもそも不死鳥一族の使命は世界の守護者です。当主を含めた一族の者は常に世界の争いごとに目を光らせていないといけません。よって里にいないことの方が多いのです。それに悠人様には自由に生きていて欲しいですから。特に自分の生涯の伴侶は自由に決めさせたいですから。」

「なるほど。確か、不死鳥一族は側室制度を未だに取っていると美帆さんから聞いたが、そこはどうなのだ?」

一族の人間はちゃんと悠人のことを考えているのだなと思いながら、千冬は聞いた。

 

 

「そうですね、不死鳥一族は国からも一夫多妻を取ることを認められています。まあ不死鳥一族は昔からよく狙われる一族でしたから後継は多くいた方が血は絶えることはないですから。」

「悠人はどう選択するだろうな。」

「まあ、普通の人なら嬉しいことですね。なんせ、政府公認でハーレムを作っても構わないと言っている様なものですからね。」

千冬と徹は苦笑しながら後部座席にいる悠人を見た。

 

 

「まあ将来、悠人が女誑しにならない事を祈ろう。」

「私としてもそう願いたいです。」

 

 

そうこう話している内に街の中に入り、千冬と一夏が住んでいる家まで後少しとなった。

 

 

「千冬さん。書類上、悠人様は千冬さんの弟で一夏君の兄ということになります。戸籍とその他、書類もその様に作りました。明日には届きますのでちゃんと目を通しておいて下さい。」

「ああ、分かった。」

 

 

そう話が終わったらタイミング良く、家に到着した。

 

「では着きました。後のことは任せましたよ?悠人様、千冬さんはこれから悠人様のお姉さんになるのですから、ちゃんと言うことを聞くのですよ?」

「分かった。御鏡も里の方、頑張ってね。」

悠人は徹の言うことに頷き、徹にも励ましの言葉をおくった。

 

 

「任せておけ。徹さんも無理しない様にな。」

千冬がそう返すと徹も頷き、悠人が降りるのを確認したら車を走らせて行った。

 

 

「じゃあ家に入るぞ、悠人。」

「うん。」

車を見送った後、二人は家に入って行った・・・。

 

 

「ただいま。一夏、今戻ったぞ。」

「お邪魔しま~す。」

それぞれ互いに口にするが千冬が目ざとく悠人の言葉を訂正した。

 

 

「悠人、ここはもう今日からお前の家でもあるんだ。だから、お邪魔しますでは無いぞ。」

「そうだね・・・千冬姉さん。」

悠人は自分の失言に気付き、言い直した。

 

 

「ただいま、姉さん。」

ああ、おかえり。悠人。」

 

 

 

「ちゆ姉、おかえり。」

その後、直ぐに一夏がリビングの方からやって来た。

そこで一夏は悠人に気付き。

 

 

「お、悠人じゃん。ひさしぶりだな。」

「ああ、久しぶりだ。一夏。」

お互いに久しぶりの挨拶を交わた。

 

 

「一夏、突然だが今日から悠人が私たちの家族になった。生まれた年は悠人の方が早いから一夏の兄になる。詳しい話は夜にするから、取り敢えず悠人をリビングまで連れて行ってくれ。私は着替えてから向かう。」

そう言い、千冬は自身の部屋がある二階に行った。

 

 

「いきなり、ゴメンな。一夏。」

「いや、大丈夫だ。悠人・・・って今日からオレの兄になるのか。じゃあ・・悠人兄だな。」

突然、押しかけたことを悠人は謝るが、一夏は全く気にしていない様に接した。

 

 

 

「あらためて、これからよろしくな。悠人兄!」

 

 

その一夏の笑顔に悠人も笑顔で返しながら

 

 

「ああ。これからよろしく頼む。一夏!」

 

 

 

 

この時、本来交わることの無かった3つの運命が交わり。

全く、新しい道を作った。

次に交わる運命はなんなのか・・・・。

その未来は直ぐそこまで近づいている・・・・・。

 




今回は悠人の出番は少ないです。
そして、やっと一夏を出せました。

閑話は後2話出す予定です。
それが終われば、一章を投稿出来ます。
ではまた、次回に。

感想をお待ちしてます。


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閑話~天災と再会~

久しぶりの投稿です。


 

こんにちは、不死鳥 悠人です。あらから早いもので1年が経ちました。

最初は里の外の生活は初めてなので、戸惑いましたが漸く慣れてきました。

秋には約束していた、東京に連れて行ってもらいました。いやー、すごかったです。見渡す限り人だらけでしたから。

それと小学校にも入学しました。勿論、一夏の兄としてね。あ、ちゃんと戸籍にも兄と明記されていますよ?

でも流石、御鏡です。仕事は完璧ですね。

それと友達も出来ました。まあ、名前は前から知っていたけど会う機会が無かったからな。

名前は『篠ノ之 箒』束さんの妹です。

初めて会ったのは千冬姉さんが通っている道場に僕と一夏も入門する時だった。

 

 

 

 

 

僕たちは今、千冬姉さんと一緒にこれから入門する道場まで歩いている。

 

 

「一夏、悠人。これから行く、篠ノ之神社では礼儀正しくしているんだぞ」

「あれ?千冬姉、道場に行くんじゃないのか?」

 

 

「いや、神社の中に道場があるのだ。私は小学の頃からそこに通っている」

「道理で強いはずだよ、千冬姉さん。義昌とだって打ち合えるんだから」

 

 

そう言って1年前に見た、義昌と千冬姉さんの試合を思い出して溜息をこぼした。

 

 

「あれは義昌さんが手加減してくれたから互角の試合に見えただけだ。本来のあの人の力だったら、私は足元にも及ばないぞ」

「嘘!千冬姉でも勝てないのかよ」

 

 

他愛ない話をしながら、歩いていると目的地の篠ノ之神社が見えた。

 

 

 

 

千冬姉さんは道場の師範と家族に挨拶をしてから来るらしく、僕たちは先に道場に上がることにした。

道場の中は不死鳥の里にある道場と同じ位に立派な物だった。

 

 

感心しながら一夏と一緒に周りを見ていると、既に誰かが道場にいるようだった。

 

 

「あれ?もう、誰かいるな?」

「そうだね。まだ早い時間だから、ここの家族の人かな?」

 

 

道場の中央では竹刀で素振りをしている、女の子がいた。

まだ幼いながらも綺麗な素振りだった。ひと振り毎にちゃんと気を張っているのが分かる。

僕たちはその子に近づきながら声を掛けた。

 

 

「なあ、お前ここに通っている奴か?」

「………そうだが。お前たちこそ誰だ?」

 

 

その子は此方をチラッと見ながら素振りを止めずに聞いてきた。

 

 

「今日からここに入門する。織斑 一夏だ」

「同じく、織斑 悠人だ」

 

 

二人で名乗ると、その子は素振りを止めて此方に向き直った。

 

 

「そうか。私は篠ノ之 箒だ。ここの道場の娘だ」

「おう!よろしくな。篠ノ之」

「此方こそ、よろしく。篠ノ之さん」

 

 

「箒で良い。私の家族は皆、篠ノ之だからそれだと呼びづらいだろう」

「分かった。じゃあ、箒。俺も一夏で良いぞ」

「僕も悠人で良いよ。箒」

 

 

お互いに紹介し合って握手をする。

 

 

「ところで箒って束さんに聞いた通りだな」

「姉さんを知っているのか?」

「ああ。束さんが里に遊びに来てくれた時に聞いていてな。聞いた通りの特徴だから、少し驚いた」

 

 

いや、まさか。外見もだけど雰囲気も同じだとは。

てっきり、束さんは適当に言っているのかと思ったよ。

 

 

「姉さんは何て言っていたんだ?」

「えっと、凛々しくて格好良く侍みたいな子だと聞いた」

 

 

僕は束さんが言っていたことと同じ事を言った。

そうしたら箒は・・・。

 

 

「姉さん………………」

と頭を抱えていた。

まあ、箒は女の子だから男の子みたいな紹介をされたから恥ずかしかったんだろう。

 

 

「まあ先ずは、模擬戦でもするか?」

「ああ、それは良いが。大丈夫か?」

「僕は物心つく前から剣を握っていたから大丈夫。一夏、今回は見学ね」

「まあ、まだ俺は素人だからな」

 

 

と言って、一夏は後ろに下がった。

 

 

「得物は竹刀。形式は防具無しの実践形式で」

「………わかった」

「じゃあ、一夏は審判を頼む」

 

 

僕が一夏に頼むと一夏は頷いて、僕たちが向かい合っている中間まで来て、手を上げた。

僕と箒は礼をして三歩、歩き互いに抜刀し、そんきょをして剣先を向け合った。

一瞬の静寂・・・・・。

 

 

「始め!!」

 

 

それを合図に僕と箒はお互いに踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

一試合終わった後・・・。

 

 

「ふう。悠人は強いな。私の剣戟が一度も当たらないとは」

「いや、箒も強いよ。結構、ヒヤッとする時もあったから」

 

 

「ほい。悠人兄と箒」

そう言って、一夏は僕と箒にスポーツドリンクを渡してくれた。

 

 

「さんきゅ、一夏」

「うむ、礼をいう」

 

 

「しかし、悠人兄が強いのは知っていたけど箒も強いな」

「一夏も筋は良い筈だから今から始めても2年位真面目に鍛錬すれば強くなれるぞ」

「まあ、一夏の実力を見るのは次の稽古の時だ」

 

 

そう互いに話合っていると。

 

 

「ゆーーーーーーくーーーーーん!!!!」

地響きと共に何かがこっちに向かって来る気配がした。

 

 

「んっ?」

何だ?気になって振り返ってみると、そこには丸い物体が視界を覆っていた。

 

 

「んーーーーーーーーーーっ!!!!久しぶりだね!!元気だった?私は勿論、元気だよ!はぁーーーーーー!!ゆーくんのこの感触!久しぶりだぁ!」

「んんーーーーっ!!(何だーーっ!!)んふっ、ふんぇ、んふぅふぅん!?(この声は束さん!?)」

 

 

何だ!!突然、何かに抱きしめられたと思ったらすごく大きくて柔らかいものに包み込まれた。

あれ?しかも、足が地面に着いていない!?持ち上げられた!!

 

 

「すーーーーーーーーっ!!運動後のゆーくんの香りも最高だねぇ!普段の匂いも好きだけど、ゆーくんの汗の匂いも束さんは大好きだよーーーーーっ!!ふふふっ。今だけ、私の独占ーーーーーーっ!」

「んんーーーーーーっ!!(息がーー!!)んんっ!んんぅ!(だ、誰か!)」

 

 

だ、駄目だ!!全然、身動きが取れない。な、何とかしないと窒息死する!

何とか脱出しようと試みるが・・・・。

 

 

「あんっ//もう、そんなに私の胸の中にいたいの?ゆーくんはおマセさんだなぁ。だけど、ゆーくんだったら全然構わないよ////」

 

 

違ーーーーうっ!!ああ、やばい・・・。そろそろ限界・・・。

 

 

「ちょっ!!た、束さん!流石にまずいです!悠人兄の動きが段々と弱々しくなってる!」

 

 

ああ・・・なんか、目の前にお花畑が見えるよ・・・・。

父上、母上。待っていて下さい。今、僕も逝きます!

 

 

や、ヤバイ!?何か、悠人兄の霊魂が一瞬見えた気がする・・・・。

このままだと、胸で窒息死なんていうことに!身内が新聞の一面を飾るのは勘弁!!

 

 

ん・・・・?束さんの後ろに見えるのは・・・。

 

 

「はぁーーーー!「おい」今まで会えなかった分「おい!」までゆーくん分の補給・・・」

 

 

ガシッ!!!

 

 

「束………私は聞いているのかと質問しているのだが?」

 

 

グギギギギギギギギッ!!!!!

 

 

ああ、あれは千冬姉の十八番のアイアンクローだ・・・。

うわーーっ。束さんを完全に持ち上げているよ・・・。

でも悠人兄をまだ抱き締めている束さんもある意味すごい・・・。

あ、悠人兄が小刻みに痙攣している・・・。流石にまずいんじゃ・・・・。

 

 

「いい加減に離さんか。束!」

「ぐぬぬぬぬ・・・・ちーちゃんのアイアンクローは相変わずだねっ」

 

 

束は何とか、脱出した。その際に悠人が落ちたが千冬が受け止めたので大丈夫だった。

 

 

「ぷはぁ!!はぁーー、はぁーー。し、死ぬかと思った・・・」

「大丈夫か?悠人」

 

 

「う、うん。何とかね・・・・」

「ごめんねぇ。ゆーくん。久しぶりだったからいつもより熱いハグをしちゃったよ」

 

 

流石に申し訳なかったのか、素直に謝る束。

 

 

「全く・・・お前はいつも過激だぞ。束・・・・・」

「えへへ。私のこの、ゆーくんへの愛が少し溢れすぎたよ」

 

 

てへへっと舌を出して苦笑する束を見て、一夏は。

 

 

「あ、あれで少しなのか・・・・」

と呆れていた・・・。

 

 

数分後・・・・・。

 

 

「あ、そーだ。ちーちゃん!ゆーくんを借りて良い?」

「それは本人に聞け………」

 

 

何事も無かったかの様に振舞う束。果たしてこいつに反省の二文字はあるのか・・・。

 

 

「千冬姉さんがまだここにいるなら大丈夫だけど………」

「私も少し、鍛錬をするから束のところに行っても良いぞ。悠人」

「うん、わかった。束さん。シャワーを浴びてきますんで、それから行きます」

 

 

そう言って、僕はシャワー室がある方向に行こうとするが・・・・。

 

 

「そう言えば・・ゆーくんってちーちゃんの弟になったんだよね?」

「うん……そうだけど………」

「じゃあ、束さんの弟でもあるわけだ!」

 

 

そう言って、束は「うん。うん」と頷いた。

 

 

「え……………?」

「じゃあ……私の事もお姉ちゃんって読んでみて?」

 

 

そう言って、束さんは嬉しそうに聞いてきた。

 

 

「はぁ………。相変わらず、束は悠人の事になると人が変わるな。あの溺愛振りは流石に度が過ぎると思うのだが……」

「あははは………。それだけ悠人兄が大切なんじゃないかな……?」

「悠人の事を話している時もすごかったが悠人が目の前にいる時はもっとすごいな。あんな、姉さんを見たのは初めてだ」

 

 

そんな風に三人が話していると。

 

 

「えっと……束姉(たばねえ)?」

「うん。ゆーくん!」

 

束さ……束姉は僕を持ち上げてその場をクルクル回り始めた。

 

 

「んふふーー!今日は嬉しい事ばかりだよ。あ、ゆーくん。どうせ私の部屋に来るんだからシャワーじゃなくてお風呂が良いね。私もまだお風呂に入ってないから一緒に入ろうか//////」

「いえ、流石に一人でも………」

 

 

「う~~~~ん。恥ずかしがらなくても良いんだよ。ゆーくんはまだ子供なんだからいっぱい私に甘えても良いんだよ?と言うわけでレッツ・ゴー!」

「ちょっと束姉~~~~~…………」

 

 

ドップラー効果を残しながら束は悠人を連れて行った……。

 

 

「私の勘だがいずれ悠人は束に喰われるかもしれないな(性的な意味で)………」

「「あははは……………」」

 

 

 

 

その後、僕は束姉と一緒にお風呂に入った………。ええ、全身を洗われましたよ。

だって、断ろうとしたら束姉………泣きそうになるんだもん。断れないよ。

 

 

 

 

で今は束姉の部屋にいる。

束姉の用事は多分、研究絡みだと思う………。

里に束姉が来た時も似たようなことで手伝った事があるし。

 

 

「ゆーくん。ぬくぬく……」

「束姉、今度はどの研究を手伝えば良いの?」

 

 

僕は現在、束姉の膝の上に座っている。そして束姉が後ろから抱きしめてくる。

 

 

「あ、そうだった。今回は~~~これの開発を手伝って欲しいんだぁ」

 

 

そう言って、束姉は何かの設計図を見せてきた。

 

 

「これは、ロボット?それとも、強化スーツ?」

「お~~~~流石はゆーくん。半分正解だよ。これは、宇宙区間での活動を想定して開発したマルチ・フォーム・スーツ」

 

 

―その名も─

 

 

「IS―通称、インフィニット・ストラトス─」

 




遂に束も出せました。
ただ、この小説での束は原作に比べると比較的に丸くなっています。
まあ、後は閑話は一話を出すのみ。

次回、投稿もなるべく急ぎますのでごゆるりとお待ちください。

感想をお待ちします。


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