移動式カフェ「チャリオティア」の愉快なお客達 (長財布)
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「チャリオティア」にようこそ

映画と4DXを見て完全に影響されてしまいましたwww
ガルパンはいいぞ


店には色々な客がやってくる。当たり前のことではあるが俺の一番の楽しみだったりする。

 

お客さんと他愛もない事を話しながら自慢の菓子や紅茶を出して笑顔で帰ってもらう。店を開いてよかったと心の底から思う。

 

「チャリオティア」、俺の店はいつの間にかそう呼ばれるようになっていた。車の後ろに小さなトレーラーを引いて来る姿が御者(Chariot)に見えたからだそうだ。

 

それに同名の駆逐戦車も存在する。さすがは戦車道強豪校の聖グロリアーナ女学院と言ったところか・・・

 

移動式のカフェと言えばフォルクスワーゲンのサンババスとかシトロエンのHバンがメジャーだろう。しかし俺の車は違う。

 

厳つくて大きな車体、南アフリカのパラマウントグループ、「マローダー」だ。

 

見た目は完全に装甲車にしか見えないが兵員を輸送するための後部格納庫の床下を下げキッチンを載せたのだ。更にアクティブサスペンションに換装して車高を下げられるようにした。

 

下校時間を告げる鐘の音が聞こえる。そろそろだな・・・

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

一人の女子生徒が校門から猛ダッシュで此方に走ってきた。

 

ダンッ!

 

中に飛び込んできそうな勢いでカウンターに手をつく。

 

「一番乗りですわ!」

 

「ローズヒップ、店が壊れるからやめてくれ・・・」

 

ローズヒップ、自称聖グロ一の俊足。皆がそう呼んでいるから俺も呼んでいるだけで本名ではない。

 

聖グロリアーナ女学院の戦車道をやっている人達は皆ソウルネームというかなんというか・・・とにかく紅茶に関する名称で呼び合っているようだ。

 

「冗談はやめてくださいまし、戦車で撃たれても大丈夫そうな車ですのに」

 

「少しは落ち着けって事だよ。ルクリリから聞いたぞ、単騎でマチルダの中に突っ込んで集中砲火を浴びてたそうじゃないか」

 

ローズヒップは「うっ・・・」と声を漏らした。触れられたくない所だったんだろうな・・・

 

「わ、私の計算ではマチルダの側面に1発入れて帰ってくる予定だったんですの。運が悪かっただけですわ!」

 

やれやれだな・・・

 

「こんな言葉を知ってるか?運がいい人も運が悪い人もいない。運がいいと思う人と、運が悪いと思う人がいるだけだ。」

 

「そんな隊長みたいなことを・・・」

 

この様子からすると隊長にこってり絞られたようだな。

 

「一佐、スコーンとアールグレイティーをお願いします」

 

「私はセイロンティーで」

 

「マカロンはあるかしら?この前食べた時とても美味しかったわ」

 

ぞろぞろと聖グロの生徒がやってきた。

 

女子は甘いモノが好き、万国共通だよな。特に戦車道はかなりのハードワーク、それを履修している生徒はかなり疲れている。

 

そこでこのお店、「チャリオティア」ですよ。

 

「はいよ、スコーンにアールグレイ、セイロンにマカロンな。あとニルギリ、一佐はやめてくれ」

 

「え~、だって一佐は一佐じゃん」

 

ここ数ヶ月彼女達から一佐、一佐と呼ばれている。やめろと言っても聞きやしない。

 

 

 

 

 

俺はもう一佐じゃないんだよなぁ・・・

 




あんなゴテゴテした車とどうやってカフェに?なんて質問はなしの方向で・・・

あの世界はなんでもありなんです!


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かつての同僚

「今日の試合惜しかったですわね・・・」

 

「マチルダの配置が悪かったと思うんです。もう少し防御を意識した陣形になさらないと」

 

「クルセイダー隊の前衛も何とかならないかしらね、特にローズヒップ車の挙動が不規則すぎて間違って撃ってしまいそうですの」

 

夕暮れ、「チャリオティア」が一番忙しくなってくる時間帯だ。戦車道を履修している生徒の殆どが練習後、この店に集まってくる。

 

それに聖グロはお嬢様学校だ。少々高めの値段に設定してもどんどん頼んでくれる。

 

・・・まぁ使っている材料もそれなりの質であるから利益は雀の涙ほどしかないのだが。

 

「スコーンとアールグレイおまちどうさん」

 

「どうもありがとう、とても良い香りね」

 

「そりゃどうも・・・」

 

俺は紅茶とケーキスタンドをテーブルに置いた。店の食器類は偶然にも聖グロリアーナにも卸している店と同じだった。どうりで聖グロの生徒に人気な訳だ・・・

 

「一佐、紅茶のおかわりいただけるかしら?」

 

「わかった、少し待っていてくれ。だから一佐はやめろって・・・」

 

アイツが一佐一佐言うから他のやつまで俺のことを一佐って呼んで・・・もしかしてアイツがそう言わせてるんじゃないだろうな?

 

聖グロの戦車道生徒は1時間ほど優雅なティータイムを堪能した後各々の帰路に就いていった。

 

校門前広場はすっかり人が居なくなってしまった。テーブルや椅子などをトレーラーに積み込んでいく。

 

「今日はアイツ来てなかったな・・・」

 

まぁ色々と忙しいんだろうな。全国大会も終わった訳だし、事後処理に追われているのかもしれない。

 

「まだ開いているかしら?」

 

「いらっしゃい・・・って、なんだお前か」

 

広場にはODカラーの装輪装甲車、NBC偵察車が停まっていた。

 

中から顔を出して手を振っていたのはかつての同僚、蝶野亜美、今は一等陸尉だった筈だ。

 

「なんだはないんじゃない?せっかくお客として来てあげたのに・・・」

 

「あー、はいはい。此方にどうぞ」

 

まだ片付けていなかったテーブルに蝶野を案内した。

 

「ご注文は?」

 

「任せるわ」

 

「はい、じゃぁ売れ残ったケーキと紅茶でいいな?」

 

「もっとマシな言い方はないの?」

 

蝶野とは自衛隊学校の時に同じだった。

 

後期教育で男女が一緒になった時の顔合わせでは大雑把な物言いからおっさんっぽいな~とか思っていた。

 

しかし一緒に活動していく内に芯が硬く面倒見の良い性格だと分かり、班内のお姉さん的ポジションだった。

 

今は戦車道の教官で連盟の強化委員になったという。機甲科志望だったもんな・・・

 

「ほれ、冷めないうちの飲めよ」

 

テーブルに紅茶とケーキを置いて片付けに戻ろうと思ったら蝶野に外を掴まれた。

 

「どうせこの後予定もないんでしょ?ちょっと座りなさいよ」

 

「お、おう・・・」

 

テーブルに上げていた椅子を1つ取って蝶野の向かいに座った。

 

紅茶を飲む蝶野の姿はとても上品だった。10式の砲塔の上とかにあぐらかいて座ってたりしてたのになぁ

 

「貴方が除隊して2年かしら?」

 

「正確には1年と9ヶ月だな」

 

「時が経つのは早いものね・・・」

 

「ババァみてぇな事言ってんじゃねぇよ。まだそんなこと言う年でもないだろ?」

 

つい数日前まで戦車道の全国大会が行われていた。連盟の人間である彼女はてんてこ舞いだっただろう。

 

聖グロは準決勝で敗退。その後の試合も見物に行く生徒が何人かいたため、俺も出店としてついて回っていたのだ。

 

「ほんと忙しいと時間が経過するのがとても早く感じるの。大会は終わったけど近々エキシビションが予定されているわ。それに世界大会の誘致もあるし、まだまだゆっくりできそうにないわね」

 

「それはご愁傷様だな・・・」

 

俺達は他愛もない世間話を交わしていると気づけば彼女のカップはからになっていた。

 

「もう一杯いるか?」

 

「いえ、もう良いわ。そろそろ帰らないと飛行機が間に合わないしこの艦も出港するでしょう?」

 

「そうだな・・・」

 

俺は空いた食器を片付けようと手を伸ばす。

 

「あっ・・・」

 

伸ばした手は空を切ってしまった。

 

それを見て蝶野は哀しげな表情を見せる。

 

「やっぱり・・・まだ片目の生活に慣れていないのね?」

 

「あぁ、明るいと大丈夫なんだがこうも薄暗いと見難くてな・・・」

 

そう、俺の右目は光を捉えない。義眼なのだ。

 

陸上自衛隊の第2師団に所属していたがある事故をきっかけに除隊、今に至るのだ。

 



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不幸な事故

『Y12地点でマチルダ1両走行不能、回収班は至急向かわれたし』

 

「こちら回収3班、5分で到着します」

 

無線を置くとすぐさま11式装軌車回収車に乗り込む。

 

『一佐、正面の森を突っ切って行きますか?』

 

「いや、少し遠回りになるが迂回してくれ、戦闘を妨害する訳にはいかない」

 

『了解です』

 

その日俺は北海道の釧路市に位置する戦車道開催フィールドで行動不能になった戦車の回収作業を行っていた。

 

通常このような仕事は日本戦車道連盟が認めたフィールド内のオフィシャルが行う。

 

しかし拡張された広大なフィールドをカバーすることが不可能であったため、装備の補充が完了するまでの間、陸上自衛隊の北部方面隊が不足分を補う形となっていた。

 

11式装軌車回収車の後ろに73式特大型セミトレーラが続く。

 

「マチルダ発見、これより回収作業に入ります」

 

通常ならトレーラーのウィンチを使って荷台に載せ、そのまま運搬すれば完了なのだがマチルダは湿原の窪地に嵌ってしまい身動きが取れなくなっていた。

 

回収車73式特大型セミトレーラーの荷台に乗っていた隊員がマチルダの後ろにワイヤーを通して行く。

 

「怪我は無いですか?」

 

キューポラから中を覗くと乗員が一人意識を失っていた。

 

「車長が意識不明です。被弾した時に頭を打ったんだと思います」

 

他の3人の乗員は先に降車してもらい代わりに俺が中に入る。中は薄暗く床にはティーカップと紅茶が散乱していた。

 

金髪の少女の肩を軽く叩いてみる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うっ・・・ん・・・」

 

微かなうめき声が聞こえた。出血はしているが命に別状はない様子だ。

 

「えっと・・・貴方は?」

 

「陸上自衛隊です」

 

俺は少女の頭に包帯を巻く。そしてこれから脱出する旨の無線を送った。

 

「立てますか?」

 

「えぇ・・・大丈夫です」

 

先に俺がキューポラから外に出て中に手を伸ばす。少女は俺の手をしっかりと握った。

 

エンジンブロックの上に出るとマチルダの車体はしっかりと装軌車回収車に繋がっていた。あとは引っ張り上げるだけだ。

 

「谷垣、この子を降ろすから手伝ってくれ」

 

「了解です。さぁ、こっちに来てください」

 

地面に降りた彼女は少しふらついたのもの自力で歩くことが出来ていた。

 

自分も降りようと車体に手をついた瞬間――――

 

パァン!

 

近くで何かが破裂したかと思った直後、右目に激痛が走った。

 

「一佐、大丈夫ですか!?一佐!」

 

そのまま地面に落ちてしまった俺は隊員たちに抱えられマチルダから離れた所へ運ばれる。

 

自分の右目のあたりを手で触ってみると真っ赤な血が付いていた。

 

「本部に連絡!それと救護車呼んでこい!残りは消火急げ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから後のことはよく覚えていない。目が覚めたら自衛隊病院のベッドの上だった。

 

後から聞いた話だがあの時マチルダの外部燃料タンクが破裂し、その破片が俺の顔面に直撃したらしい。

 

ヘルメットやベストを着用していたため急所などは無事だったらしいが右目は損傷が激しく手の施しようが無かったという。

 

数カ月後俺は自衛隊を除隊した。

 

蝶野から俺が助けた少女は検査の為数日入院していたが怪我も完治し、戦車道に復帰したという。

 

電話口で俺は「よかったな・・・」と呟いた。

 

しかし何もよくなかった。

 

 

 

 

 

彼女の心に出来た傷は2年経っても塞がってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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