AUOのログイン (サボリ魔ー)
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お呼び出し

急に、です。


西暦2138年、DMMO–RPGという言葉がある。

一世を風靡したタイトル、ユグドラシル。

それは多く開発されたDMMO–RPGの中でも、珠玉の名作といっても過言ではない。

ただ、不朽の名作などと言われはしても、やはり、時という絶対概念にはかなわない。

それはユグドラシルの中でも、同じだった。

減る人口に廃れるギルド、様々なものが輝きを失ったように映える。

その中でも、悪のギルドとして絶対的なカリスマを誇り、全盛期は42人という少ない人数にもかかわらず、全ギルド中7位という偉業を成し遂げ、総勢1500人のプレイヤーを返り討ちにしたギルドである。

そうだ、悪は不滅ではなかったということなのだろうか、時は無慈悲に流れる。

 

 

 

 

「ーーふざけるな!」

 

金と紫で縁取られた、豪奢な漆黒のアカデミックガウンを羽織っている、むき出しの頭皮には皮も肉も付いておらず、後ろから黒い後光を放つ骸骨。

ぽっかりと空いた空虚な眼窩には赤黒い光が灯っているが、今は少しばかり揺れている。

化け物、そう呼ぶにふさわしい骸骨は、不自然に寂寥感をもった怒号とともに両手をテーブルに叩きつけていた。

 

「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!なんで皆そんなに簡単に棄てることが出来る!」

 

妙に人間らしさを感じさせる骸骨だ。

それもそうだ。彼は、異形種という種族を選択した1プレイヤーなのだから。

 

「……いや、違うか。簡単に棄てたんじゃないよな。現実と空想。どちらを取るかという選択肢を突きつけられただけだよな。仕方ないことだし、誰も裏切ってなんかいない。皆も苦渋の選択だったんだよな……」

 

その言葉にはどれほどの思いがこもっているのだろうか?

骸骨の見た目だ、こんな世界を作った神を恨んでいるのだろうか。

現に、彼の頭では呪いごとが天から降り注ぐように喧しく耳になっているようだ。

そんな中で、ふと顔を上げてギルド武器を見て思い直す。

 

そのギルド武器は一言で言うなら、神が創った、だ。

美しく、神話の武器を顕現させてような神秘性の結晶。

ただ、それを赤黒い光に焼き付けるように眺める骸骨には、そんな表面的な部分ではなく、その向こう、杖の根幹いや、杖に蓄積された仲間たちとの思い出を映していた。

楽しかったことも悲しかったことも、もうおしまいなんだ、と。

 

「ねえ、皆さん、一緒に行きませんか?」

 

何を思ったのだろうか、骸骨は杖にそう語りかけると、杖に恐る恐る手を伸ばし、自身の骨が触れるとビクッと一度手を離す。

その動きは初々しいカップル同士が手持ち無沙汰な距離を埋めるために腫れ物に触るかのように二人手を伸ばし合うようだった。

離した手を一度確認する骸骨は、自分に自信がないのだろう。どうしたものか、と悩み始める。

もしここに骸骨の言う皆さんがいるのなら、満場一致で、いい、と言うのだろうが、骸骨には自分の立場のせいで踏み切れずにいた。

そうして逡巡していると、ふと思い出す一言があった。

それは金ピカに光り輝く鎧を纏い何かと人間種を『雑種』と嘲る、人間種と変化の見られない異形種になった、傲岸不遜な英雄王が言い放った言葉。

 

「慢心せずして何が王か、か」

 

何故その言葉が思い至ったのかは骸骨にはわからない。

だけど骸骨は自身に、慢心という自信を持て、と言ってくれているように感じたのだろう、手に力を入れて再度、自分たちの軌跡、ギルド武器を見る。

先程と何ら変わりのない杖。だが、骸骨の眼窩の奥には屈託無く笑うギルドメンバーが映っていた。

骸骨は今度こそ握った。

 

「行きましょうか?皆さん」

 

ーーーーーーーーーー

 

「金田!お前、またミスしてるぞ!」

 

「す、すみません」

 

ここはオフィス。

大きくはなく、さりとて小さすぎるということもない。しかし、中堅というにはいささかに首を傾げる、そんな会社に俺、金田哲郎は勤めていた。

俺がこんな小規模の会社にいるのは、ひとえに俺のアニメ好きが祟ったものだ。

勉強をしていればもっと大きな会社に入れただろう、そんな言葉は耳にタコができるほど聞いたし自分でもそう思ってる。

ただ、あの頃は遥か昔のアニメの金ピカの生き様にひどく惚れ込んでいたのだ。

だから親戚にそんなことを言われても、

『間違えるな守銭奴。先を読む、という時点ですでに敗北だ

盤上において未来は読むものではない。俯瞰してみるものだ。正着は常に見えている。』

なんて偉そうなことを意味を碌に考えずに言ってしまっていた。

さすがのこれには誰も俺を助けてはくれなかった。当たり前だ、こんな馬鹿誰が助けてやるか、という話だ。…ただ、親戚の付き添いで来ていた従兄弟の小学生くらいの男の子は、カッケエエ!と言ってくれていた。

まあ子供に期待などしてないし、子供にたかるなんてクズの行為は、死んでもしたくないし、俺の今でも敬愛するAUOに顔向けできない。

そんなこんなで辛く長く険しい道のりを歩いてきた。

そんな俺だが、何も辛いことばかりではなかった。

家に帰り着くのが夜中の1時なんてのがある日々に、辛くないことなんかないのか、あるんだこれが。

それはユグドラシルというタイトルのゲームだった。

俺はそのゲームの自由度の高さを聞いて思った。

ーーこれなら、金ピカいや、AUOいや!…ギル様になれる…!

バカの俺がそこまで思い至った後の行動は速かった。

すぐに登録、キャラクターメイキング、ゲームのプレイと導かれるままに、という表現が似合うくらいに一心不乱にゲームに没頭していった。

その中の日々は楽しかった。ロールのプレイをギル様に寄せ過ぎたせいで、周囲からヘイトを集めることも多々あったが。

そんな中で仲間を見つけられた。俺のロール故に仲間を作ることは難しかったのだが、そのギルドは一人一人の欲望というのか信念というか、見ていて愉悦と断ずる事が出来た。

 

「そうか、皆のお陰であんなに楽しかったんだな…」

 

俺は今にしてようやくそう思えた。

憧れになりきれていたから、と思っていたが、それだけであんなには遊べなかっただろう。…ロールのせいで、リアルマネーで酒の大盤振る舞いなんてのもあったし。

自分にとって主に自分のロールのせいで泣きを見ることも多かったが、とても楽しかったいや、愉悦、と断じられる思い出だ。

 

「あれ?そういえば…」

 

家まで、まだあと20分ある。

ふと思い出したのはユグドラシルのサービス終了。

最近は仕事が忙しいなんてものじゃないくらい、本格的に過労死するくらいに仕事が多かった。もちろん休暇なんてなかった。

そんな状況のせいでユグドラシルへのログインは断絶していた。

それのせいで長らく情報が入らなかったのだが、なぜか社内の仕事中にパソコンをいじっていると見つけたユグドラシルのサービス終了。

確か今日で終了だった、と手についているデジタルの安い腕時計に目を落とすと、時刻は23時59分56秒。

もう間に合わないだろう、そう思って目を瞑ってため息をつく。

 

「え?AUOさん?」

 

視線を上げると凄まじいオーラを放つ骸骨がいた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「そうだ、楽しかったんだ……」

 

筆舌しがたいほどの絢爛さを魅せる一室、そこは玉座の間。

その中央には贅の限りを尽くし、神をも下さんとするように天高く高い背もたれがついた玉座があった。

そこには杖を持つ骸骨がいた。

この骸骨は予定を全てを終え、後は終了を待つのみだった。

だが内心は友との思い出のこの場所を失いたくない、という思い出溢れていた。

彼はその目は未だに先ほど読み上げたAUOの旗に固定されていた。

 

「ん?そういえば…AUOさんは…」

 

彼はその特殊な【種族】によって人間の容姿でありながら、人間種ではなかったのだが、彼が昔一度だけ、あるものを作ろうとして失敗したものがあった。それと同時にある呪文を教えてくれたことも。

あの当時は骸骨も黒歴史にしたい時期であってその呪文は一言一句間違うことなく覚えていた。

それは確か約束であったような気もした。

 

「これだよな…」

 

骸骨が取り出したのは聖杯。

なんというか聖杯、とりたてて特筆するところのない聖杯。

これもまた一興、とどこか浮いた心から聖杯を自分の目の前に置き、呪文を唱える。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーク」

 

時間がないがゆっくりとはっきりと骸骨は詠唱する。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度

ただ、満たされる刻を破却する

 

ーーーーーAnfang

 

ーーーーーー告げる

 

ーーーー告げる

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者

 

汝三大の言霊を纏う七天

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーー!」

 

いつの間にか現れた魔法陣と、それが発する閃光が唱えるほどに強くなる。

いつしかナザリック地下大墳墓は激しく揺れていた。

それでもなぜか骸骨はやめようとはしなかった。このゲーム自体の終わりがもう目前だからだろうか。ただひたすらに骸骨は詠唱をした。

 

「なっ!」

 

最後の1小節を読み上げると同時に閃光が爆ぜる。

骸骨はとっさに目を覆い隠すが、よくよく考えれば自分には効かないとそのまま閃光の中で立ち上る煙を眺めていた。

 

「え?」

 

光がやむと中の方も次第に見えてくる。

骸骨は驚愕を露にしながら呆然とし、晴れた煙の中に現れた人物に再度驚きを表し、名前を呼ぶ。

 

「え?AUOさん?」

 

目端に映る時刻は既に0時00分27秒。

ゲームの終了のはずの時間に、骸骨、モモンガと何故か裸の王様、AUOは再会した。




不定期です。期待しないでください。


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意外にも書き上げられました。なので注意点をば。
かなりギル様が美しく見えるかもしれません。注意しましょう。
モモンガ様がへっぽこに見えるかもしれません。注意しましょう。
ギル様とモモンガ様の発言は基本fateで聞いたことがあるやつです。注意しましょう。


 友

 

 目を開けると骸骨がいた。

 え、何?何これ?え、目を開けると骸骨って、ええ⁉︎

 俺はいきなりの展開についていけずに目を白黒させていると不意に後ろから声がかかる。

 

「モモンガ様!」

 

 ザシュ!

 え、今度は何⁉︎え、ちょっとぉ!

 俺は後ろを振り返るとなんと美女が…!

 とても美しい女性であるのだが、すごく目の闇が深い。

 何かを振り抜いた姿勢でいるのがすごく気になるが、それよりもここはどこだ?一体、ここはーー、

 俺はそこで視界の端に映る、血を吹き上げながら宙を舞う手に気がつく。

 そこでなぜか視界が少しばかり揺れる。

 揺らぐ視界にふと俯くと、腕がない。

 ん?もしかして、あれってーー、

 そこまで考えたところで痛みが湧いてくる。

 

「おのれーーーーおのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれ……‼︎!」

 

 何故だろうか、痛みが激しさを増すとともに分かったことが、あの女は俺を攻撃してきたということだった。

 いや、女ではない、雑種だ。

 俺にもよくわからないがそう考えると非常に腹立たしくなってくる。まるで自分が自分でないような感じだ。

 だがそれも雑種の攻撃に飛び込んだ骸骨の行動でなんとか収まった。いや、雑種に対する激情が収まったわけではないが、それ以上に懐かしさというか、骸骨を見て先に優先すべきことがあるような気がした。

 

「やめろ!アルベド!」

 

 骸骨はそう雑種には制止の声を上げるが、聞き覚えのあるワードは雑種の名前なのだろうか。いや、覚える必要などないし、認識する必要もない。雑種だからだ。

 雑種は骸骨の声に返答を返すが、渋っている。

 

「しかし、モモンガ様!そいつは人間です!」

 

「馬鹿者!この方はAUOさんだ!」

 

 懐かしい声に懐かしい名前。

 そういえばこっちに来た時も骸骨がAUOさんとーー、

 俺、我はそこで気がつき、しっかりと立とうとするがやはり手を失ったのは大きく、吹き出す血とともに自分の意識が削られるようだ。

 骸骨…いやモモンガ、友の名だ。

 モモンガはアルベドよりも我と思ったのか、こちらに向かってこようとするが、我のプライドだろうか、我は自分でも無意識のうちに言葉を発していた。

 

「AUOさん!」

 

「たわけ、死ぬつもりなどないわ…………‼︎

 踏み留まれ、友よ…!我がその場に戻るまでな‼︎」

 

 本当はこのような使い方ではないが、出たのがこれだ。今更取り消せもしないし、過去にも帰れないので自分で立ち上がる。

 辛い、しんどい、めっちゃ痛い、だけど、王だからって頭の中がうるさい。

 ギャンギャンうるさい頭の中に自身を叱咤しながら立ち上がり、のそのそといや、我はーー、

 うるせえよ!さっきからなんなの?我とか王ってよぉ!バカなの?死ぬの?本格的に死んじまうんだよぉぉぉ!

 俺の内心の叫びは誰にも届かない。

 だがいつの間にか不敵な笑みを浮かべて我、いや俺はモモンガ…さんの前に立っていた。

 

「久しいな、友よ。今、帰還したぞ」

 

「ええ…AUOさん、お久しぶりですね。それとお帰りなさい」

 

 俺は自然と笑みが浮かぶのを自分でも感じながら、倒れーー、倒れない。

 えー、楽にしてよ…。まだ俺に痛い目みせるの?もうやめて!

 俺は無意識に出る言葉はロールに沿っていて、俺が意識的に出したい言葉は痛みで出てはくれない。

 そんなことを思っていると雑種、いやアルベドが頭を下げるよりも深く、土下座よりもさらに落ちた謝罪をした。

 それは単純に目の前の床を破砕したのだ。

 

「申し訳ございません!AUO様!人間だと思っーー、」

 

「要らん。雑種の言い訳など聞きたくもない。故に問う。

 貴様が少しでも満足の答えを出せばこのまま貴様の全てを許そう。だがくだらぬ答えを返せば貴様も、貴様に付き合った我もそれまでの器。代償として貴様の首をもらう。覚悟して答えるがいい。最後に問おう。我にとって、貴様はいかなるものなのか。」

 

 息を飲む音がした。もちろん発生源はわかっている。

 だが俺にそんな余裕はない。意識が朦朧としているというのもあるのだが。

 どうして俺は腕を切り飛ばされた分際で、こんな大きく出るの?

 それどころかモモンガさんがいたから、なんとかここまで抑え切れたけど、本当は『雑種』とか言って自分自身で攻撃の方法がわからないくせにアルベドを殺そうとしていた。

 ここまで来てやっとわかったよ…俺って相当めんどくさいロールだったんだなぁ。

 そんなしみじみ感じたことをまとめていると、アルベドの声がする。

 

「わ、私は、も、モモンガ様を筆頭とするギルド、アインズ・ウール・ゴウンの所有物でございます…」

 

「ふむ…それで…いいのだな?」

 

 俺は恐怖に顔を真っ青にしているアルベドを見て、朦朧として間延びした言葉で確認する。

 何故か背中が痛い。もしかしてあの骸骨、スキル発動してねえ?オーラかなんか出してんだろ、これ。

 そんなモモンガさんの雰囲気も感じ取ったのか、アルベドは震えだし今にも自害しそうなほどに絶望にあてられた顔をしていた。

 こんな切迫した状況で悪いが少しばかりこのままキープしてもらおう、ちょっと痛みで頭が回らない。

 そんな俺の考えでこの最悪の空気で20,30秒と時が経つ。

 アルベドは既に処刑間近、いや精神が崩壊してるなありゃ。

 モモンガさんがさらに強くしてくる。

 痛いよ!骸骨!俺が死ぬ!

 急かされているような、俺が答えなければモモンガさんが辞めない気がしたのでようやく口を開けて答えを言う。

 

「よかろう…。貴様の命は既に我のものだ」

 

「AUO様‼︎寛容な

 

 骸骨からの攻撃がなくなった。無意識なんだろうけど、痛いですわ、モモンガさん。

 そんなことを考えながらアルベドを見ると顔を赤くしている。

 ああ、俺は裸の変態さんじゃん。え、じゃあそれ考えると俺は裸でモモンガさんに、『たわけ、死ぬつもり〜、』とか言ってたの?ないわ〜、いくらAUOそっくり作ったからって、裸で死んだらそれこそ、大恥じゃん。

 俺は無意識のうちにアルベドのことを煩わしく思ったのだろうか。不思議なことを口にしていた。

 

「照れるのも無理はない。

 我が裸身はこの世で最高水準のダイヤに勝る」

 

 この後は、『それが生娘なら尚の事だろうよ』と続くのだが、ビッチにそれはあり得ません!

 しかし、本当にヤバい視界が、あ、真っ暗になってきた。

 あー、やっと楽になれるー。

 俺は倒れるように天を仰ぐが、

 

「AUOさん、アルベドを許してくれてありがとうございます」

 

 骸骨!お前、俺に恨みでもあんのかよ!確かに任せっきりでログインしなかったくせに、ログインしてきたと思ったらいきなり階層守護者総括を処断とかマジで舐めてるけど!

 て、待て。俺はログインしてないぞ。なんでここにいるんだ?

 いやだいたい時間がーー、

 視線を腕時計をはめていた右手に向けるが腕がない。

 

「モモンガー、回復ー、我の腕がないぞー、モモンガー。」

 

 アルベドに聞こえないように声を小さくしながら、目を細めて今にも天に召されそうな顔をして言う。

 モモンガさんは慌てた様子であたふたとしながらもいつか聞いたことのある言葉を言ってくる。

 

「何をぼそぼそ囁いているのです? さては末期の祈りですかな?」

 

 あんた、ここでキャスターやらなくていいんだよ…!確かに遊んだけども!昔はやったけども!

 あんたは痛みがねえからわからねえかもしれないけど、よく見て!あそこ、俺の手!グロいよ!18禁!俺の体!裸!18禁!

 なんでこの骸骨、そんな優しそうな顔で言うんだよ…!俺は遊んでるんじゃねえよ…!

 あ、あ、ヤバい、ヤバい。

 

「神ごときが我を見下すか…!」

 

 あ、やっぱり頭が回ってない。どうやったら、『本当に天国逝っちゃいそう』がそう変換されんだよ。

 しかしモモンガさん…!気づいてくれ!天邪鬼な俺のロールなんだぁ!

 モモンガさんは少し戸惑った顔をした後、にっこりと微笑んだと思ったら今度は、

 

「我が主よ!あなたは神か!あなたこそ神か!よくぞ…よくぞ私の前にお姿をお見せになってくださいました!」

 

 あんた、アレンジ入れたキャスターしなくていいんだよ!神とか見えねえだろ!あんたは死の支配者!神の反逆者!ちったあ考えろ!

 脳みそねえから無理なのかな…。

 !待てよ!俺がそれとなく仄めかせばいいんじゃないか!

 

「イヤですね。こういう血生臭い人間関係は」

 

 血生臭いってワードで気付いてくれ!お願いだ!

 

「AUOさん、それはキャスターのセリフですよ」

 

「あ、ああ」

 

 オワタ。

 

「モモンガ様!AUO様の処置を早急に行いませんと!」

 

 お、おお!雑種じゃなかった、アルベドでかした!

 ごめんよ!さっきあんな怖い目に合わせて。

 しかし、今更だがアルベドが喋るのも異常ではないか?

 ともかく!モモンガさーーん!

 

「それもそうだな、アルベド」

 

 モモンガさんはにこやかにアルベドに同意を示す。

 あ、ちょっと私嫌な予感しかしません。

 

「立てるかい?」

 

 ばっかやろおおおお!お前、それはあれの振りだろ!子供じゃねえんだよ!俺は!

 ならば俺は反撃だ!

 

「痴れ者が……。天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるかッ」

 

 どうだ⁉︎これで、俺が立つわけがない理論が完成した。

 いや、抱きかかえられてる時点でおかしいんですけどね。

 モモンガさんはさすがのこれには難色を示している。

 いや、だからさ!そういう振りをしっかりやってくれるのは嬉しいけど、諦めて周りを見ようよ。

 

「さあ坊や、あそこの扉から外に出られる。

 周りを見ないで、前だけを見て、自分の足で歩くんだ。

 ーーひとりで、行けるね?」

 

 結局やるのかよ‼︎

 あんたってやつは!本当に良い奴だよ!良い奴すぎて涙出てきた。あれ拭えない?あ、そっかもう右手ないじゃん。

 

「うわ!AUOさん!その傷!えらく生々しいですよ!大丈夫なんですか⁉︎」

 

 やっとか!大丈夫じゃねえからこうなってんだろ!お前の目は節穴かよ!…節穴だわ。

 

「AUOさん…今更ですけど、裸ですね。裸って運営に通報されるんじゃないですか?」

 

 そこも大事だけど!もっと全体を見てよ!

 ここで追い打ちだ。なんか今パッと思い浮かんだ。

 

「……恐ろしき罰よ。我ですら背筋が凍ったわ」

 

「モモンガ様!早急に治療を!」

 

 もっと言ったれ、アルベド!

 ていうか君はもうちょっと、声を張り上げていいーー、ああ、俺の所有物になったってことはあんまりうるさくしちゃいけないわけだ。そうだった、そうだった。やっぱり自分で自分の墓穴を掘ってるわけだ。

 いや、ここで往生際が悪いのがAUO!生きてやる!だから、モモンガ様助けて!

 

「………」

 

 目を時計に合わせるために顔を上げたりなどの仕草をしているうちに固まっているモモンガ様。ようやく気がついたらしい。

 呆然としている。あはは、あんたは俺の死神か。

 

「!アルベド!至急ペストーニャをここに呼べ!」

 

「畏まりました!」

 

 モモンガ様ようやく始動。ここまでで俺はいったいどれくらいの血を失っただろうか?

 アルベドが出て行く音がした。

 うんうん、行動が速いのはいいことだ。

 俺が感心しているとモモンガさんは俺に声を掛けてくる。かなり後悔しているような声音だ。

 

「AUOさん!すみません!俺のせいでAUOさんを苦しませてしまいました。…俺はギルマス失格ですね…。ギルメンを苦しませるような奴がギルマスなんて…!俺のギルマスとしての時間は無駄だったんですね……」

 

 すみませんの後に急にエフェクトが入ったように声音が軽くなった。どういうことだ?…ここが現実というのは、この痛みでガチで痛いほど身にしみている。

 だけど、ひとつ。

 

「無駄じゃないさ。

 価値はある。唯一の価値があるのだ。

 我はここに宣言する。

 この世において、我の友はただ一人。

 ならばこそーーーその価値は未来永劫、変わりはしない」

 

 スカした言葉だと思うよ。だけど、この言葉には俺がギル様に惚れ込んだ万感の思いが込められている。

 わかってくれるかな?いや、モモンガさんが自信を持ち直してくれるならそれだけでもいい。

 ははは、しんみりしちゃったな。でもまあ感覚的にわかる、俺とモモンガさんとのライン。ゲーム時代から【サーヴァント】というクラスに必要だったマスター。俺は自律行動のスキルが高かったから動き回れてたが、ある日見つけた愉悦の日々の中心にいた人物。

 …そうだな、この言葉が一番か。

 俺はモモンガさんの支えを払い、自分の足でしっかりとこのナザリック地下大墳墓に立つ。

 

「え、AUO、さん?」

 

 俺はモモンガさんの疑惑の声に応えず、面と向かって立ち自分の真紅の双眸でモモンガさんの皮膚も肉もない顔を見て、問いかける。

 

「問おう。貴方が私のマスターか」

 

 貴方と問うのも私と名乗るのも馬鹿馬鹿しい。

 だけど大切なことだ。異世界でどうなるかはわからない。

 強敵に出会って死ぬかもしれないし、異形種とはいえ寿命ができたかもしれない。

 その懸念が杞憂だったとして、一度死んだ死の支配者であるモモンガさんと半神である俺は無為な時、それも膨大な時間を過ごすこととなるだろう。

 そんな時に友がいれば辛くはないだろう。

 

「ははは、何言ってるんですか。俺は確かにAUOさんのマスターですけど。それよりも未来永劫の友ですよ」

 

 うん、マスターとサーヴァントなんて関係、肩がこるだけだしね。モモンガさんならそう答えてくれると思ってた。

 そんなモモンガさんだから、俺から贈る言葉がある。

 

「共に生き、共に語らい、共に戦う。それは人でも道具でもない。それを友と言うのだ、モモンガ」

 

 おっと、もう無理みたいだわ。おやすみ、モモンガさん。




ギル様死んでません。
呼び出した時の呪文は遠坂時臣と同じなのでステータスやらスキルもある程度は準拠しますが、少々こちらで色々弄ったりします。
宝具はwikiで出てくるのは使うと思います。


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輝くもの

やっぱりギル様が綺麗に見える。


 輝くもの

 

 目を開けるとそこは金ぴかだった。

 あ、ちっと眩しい!なんでこんなに光ってんだよ!

 

 俺は体を起こし見回すと、西洋の造りで最高級のホテルでも見れないであろう細部までこだわり抜いた部屋ではあった。部屋であると、それも細部の極限まで造り込まれた部屋だと直感が告げている。

 机がある。椅子がある。クローゼットがある。宝箱がある。シャンデリアが吊るされてある。弾けもしないピアノが大きく存在感を放っている。温度を考えれば普通設置しないであろうワインセラーがある。極め付けには無駄に神秘性を漂わせ、今は体を起こしているのに、伽をするというためにあると自身の情欲がふつふつと湧き上がってくる嫌な感じのキングサイズのベッドがある。

 これらの中でもすでにおかしいところは山のようにある。ただ、これらは揃えてあるのが現実的でないというだけで何もおかしなことではない。おかしいのは色だ。

 この部屋の全て、もちろん壁も、天井も、床も、全てが金一色なのだ。俺の直感ではこれら全ての金色に輝くのは金のようだと教えてくれている。それも純金だとか。

 あれ?どうしてここまで詳細にわかるんだ?ワインセラーには入ってるワインは一本数百万は下らないとか、でかい金のピアノは10億円は優に越すとか。

 俺の直感が告げるには、黄金律のスキルだとか。直感もまたスキルだとか。

 

 しかし、目が痛い。馬鹿か?起きた時にこんな嫌がらせってなんだよ。もうちょっとこんな金のかかる手じゃなくて頭捻った嫌がらせ考えろよ。

 そう思って右手で目元を抑えようとするが、なかなか目元まで来ない。というよりも感覚がない。

 どういうこったい?

 俺は手が動いているのは布団の動きで確認できているのに意思通りに動かせていない手を見る。

 

「なん……だ……と……!」

 

 腕がありません。肘からの接合部が取れてなくなった壊れた人形のように俺の肘から先は生えていなかった。

 肉が塞がってはいるので痛みはないし、神経が繋がっているのも感じる。ただ、昨日まであったものがないというのに違和感が拭えないのも確かだ。

 ん?手がない、直感に黄金律、金ぴかの趣味の悪い部屋、性欲を呼び寄せるベッド、この部屋の造り。

 俺の直感が告げている。ここは異世界。それもナザリックごと転移した。

 そう考えると、王のクラスで手に入った直感B、いやサーヴァントになってからランク上がったから直感Aだな。戦闘でなくても上手く俺を導いてくれている。素晴らしくいいスキルだ。

 ユグドラシル時代は何かと戦闘の最中でログとして視界に映ってくるから邪魔でしかなかったけど。

 昔を思い出して、今の方が使い勝手のいいスキルに少しばかりの苛立ちを覚えていると、コンコンと強すぎることなくかといって聞こえないこともなく自然と耳に入ってくる絶妙な力量でのノック音が聞こえた。

 俺の直感が告げている。これはナーベラル・ガンマだと

 

「AUO様、御身のお部屋への入室の許可を頂けますか」

 

 なんでそんなに固いんだよ。

 それよりも直感が名前まで教えてくれたのはいいのだが、もう名前を忘れてしまった。なんというか、そう体が本能的に覚える価値もないと言っているようで、名前に関する記憶はモモンガさんと俺が作ったNPC以外しか出てこなくて、他にもいるメンバーの名前はいくら反芻しても出てこない。いや覚えてはいるのだが、名を出すことはないと直感が告げている。

 これはあれか。『そもそも我に友など滅多にいるものか。いたとしても忘れていよう。もう口にすることはできぬのだからな』というやつか。

 それよりも問題は名前が出ないからといって、雑種しか呼称が浮かばないのは頂けない。

 脳内会議でいうなら、俺だけがナーベラルと呼ぶ派。他、90人が雑種派。それにあぶれた9人がもっと酷い名前をつけようとしている。とんでもない脳みそだ。

 今も回答を躊躇っているのは、雑種、下女、女の三つしか呼び方が決まってないから。語彙が少ない英雄王も可愛いよね。

 …どうにもならない。何が嫌で友が作ったNPCを雑種とか呼びしか浮かばないのやら。

 もういいや。

 

「許す。入れ」

 

「失礼します」

 

 ああ、呼ばないという手があったのか。

 入ってきたナーベラルはとても美しかった。眠りこける前を思い出した俺には既に今が現実であることも理解している。だからこそ現実となった今、目に映るナーベラル・ガンマという女性はとても現実とは思えないほど美しかった。それでも、雑種、下女、女しか呼称が浮かばない金ぴかクオリティー。

 元々を言えばこのナザリックには人間なんて存在しない。だから、ナーベラル・ガンマの性別を女性と言い切るのは無理がある。かといって、もしナーベラル・ガンマが人間の女性だったとして、呼び方は確実に雑種確定だ。もはや他の故障なんて思い浮かばないだろう。

 ナーベラル・ガンマは入ってくると金金にも度が過ぎるこの部屋に目を細めることもなく、流麗なお辞儀をしてみせる。

 なかなか堂に入った動作なのだが、この悪趣味の部屋を見て、眉一つ動かさないで俺に礼儀を見せてくれることが俺、金田哲郎の本質的に嬉しい。ギル様だったら一笑にふすだろうけどね。

 

「モモンガ様より言伝を預かっておりますので、私のような雑種の言葉ではありますがお耳を貸してはくださいますか?」

 

 いきなりではあるが跪いて、進言するという表現が正しいと思われるような見事な遜り方を見せる。

 急なことではあるがモモンガさんがそうするように言ったのだろう。いや、モモンガさんって若干天然入ってるからね、もしかしてあの傲慢を凝縮させたようなロールが俺の素だと思ってるのかな?だとしたら、あの人気を付けたほうがいいな。その内、大きなポカしそうだ。…モモンガさんってポカって言葉が似合うよね。

 俺が中々答えないのを訝しく思ったナーベラル・ガンマが『AUO様?お聞き頂けましたか?』と口を開こうとするのを、直感が察知したのでそれよりも先に肯定の意を示す。

 

「聞こう。それが友の言ならば、たとえ雑種の口から語られたとしても決して無下にはせん」

 

「はっ、お聞き頂き嬉しくーー、」

 

「だが、虚偽であったなら、切り捨てる」

 

 俺は威圧を放つというよりも、種族スキルの神性とクラススキルのカリスマA+を使ってナーベラル・ガンマが俺に逆らうという愚が如何なることかを体に染み込ませる。

 ナーベラル・ガンマは体を震わせているが、俺のクラススキルの観察眼Aから伝わる情報では半魅了状態といったところのようだ。

 ナザリックに所属していることで被創造物として、俺たちギルメンに対する敬意は天変地異が起きたとしても変わらないくらいに不動のものだということは部屋に入ってきたときに直感でわかっていたが、俺のスキル、カリスマA+にあてられたナーベラル・ガンマはよもや何をしようと俺の障害になることはない。例え、アルベドに俺の身辺警護を命じられたとして、俺が要らんと言えばアルベドにだって直訴するだろう。組織としての規律よりも、自分の王の言葉のほうが今のナーベラルには重いのだ。それくらいに異常を見せている。ただ、半魅了なのでステータス異常ではない。むしろ異常ではなく、俺に仕えること以上の幸せはないと思っていることだろう。これでは精神支配みたいだな。

 …一つ言わせてもらいたいことがある。カリスマA+ってのはユグドラシル時代ではな、指揮を執ったパーティーのステータスの向上とか、NPCに対する好感度の振れ幅が好意的に大きく傾くとかの能力だったわけ。だけどな、NPCの好感度っていまいち伝わってこなかったの。

 こっちがどんな世界かはわからないんだけど、こういった機能がこっちで初めてわかるっていうのは、どうなんだろう。

 俺のスキルって結構ダメスキルが多かったんだと認識したよ。

 

「それで?モモンガの言とはなんだ?」

 

「はっ、英雄王様。モモンガ様より、『AUOさん、そこで待っててもらえますか?ナーベラルが入室を求めた5分後には行けると思いますので』でございます」

 

「そうか。ならば待とうではないか」

 

 俺はナーベラル・ガンマからモモンガさんの言葉を聞くが、この子、俺のこと英雄王って言ったよね?やっぱりやり過ぎたか?

 ちなみに先程から俺が上からものを言っているのは、直感もあるが、ギル様としてのロールが下からはもちろん、対等に話すのも好かんと叫んでるからだ。

 しかし、俺がスキルを使えたのはどうやってだ?まあ、直感でわかったんだけど。

 アイテムボックスは使えないのか?使えないとなったら、はっきり言って俺はカスだ。ユグドラシル時代にアイテムボックスの中の多くの神器級(ゴッズ)を用いて物量で押し切った俺の戦法が使えないとなるともはや雑魚なんて話ではない。偉ぶるだけのゴミでしかない。それは困る。

 そんな俺の思いを知ってか知らずか直感がまた告げてくれる。

 

「フッ」

 

 いかんいかん、笑みがこぼれてしまった。

 俺の宝物庫は健在のようだ。取り出し方もわかる。

 となればまずはあれだな。

 そう考えた俺は虚空に手を伸ばし、取り出したい物を思い浮かべながら手を引き抜く。

 取り出したものは、触れてはならないという人類の禁忌として封印されていたかのような固い蓋に閉じられた一本の瓶だった。ただその中身は虹色に輝く幻想性を遺憾なく放っていた。

 取り出した自身でも息を飲む。

 

「英雄王様。御身の神聖なる玉手でお弄びになられているその液体はなんでしょうか?」

 

 ただの質問なのに、さっきの質問の中と違いモモンガさんの名前がないというだけですごく腹が立ってきた。

 だからか、ナーベラル・ガンマ、いや雑種に怒りをぶつける。

 

「雑種ごときが我に問いを投げるか!」

 

「も、申し訳ございません!」

 

 一度怒鳴ると落ち着いたが、まあ大人気ない。

 ただまあ、やはりナーベラル・ガンマが英雄王様と読んでいる件について。

 しっかし、俺を絶対に裏切らないって確証ができたのはいいけど、ナーベラル・ガンマが敬いすぎて使ってる言葉がよくわからない。

 それも問題だけど、これまた俺の王のクラススキルの叡智Aがナーベラルが伝えたいことを俺にも分かるように教えてくれるから何の問題もない。

 ただ、ナーベラル・ガンマに少しばかり意地の悪いことを言ってしまった。俺の本能的なところが勝手に言ってくるんだよな。

 

「いい。我は今機嫌がいい。許そう。我は寛容だからな」

 

 どの口が言うんだ。…俺の口だ。

 しかし、その言葉に涙目でナーベラルは顔を上げて俺に感激の極みとばかりに褒め称えてくる。

 

「英雄王様!寛容な処遇、ありがたく思います!流石は我らナザリックの皆が仰ぐ王の中の王でございます」

 

「フッ、貴様らの心中など最初から分かっている」

 

 最初っていつだよ。自分が発した言葉に自分でも突っ込みながら会話しなきゃならないのはとても疲れる。

 さっさと話を進めよう。

 

「これはな、エリクサーという我が持つにふさわしい霊薬だ。これに比べれば我の宝物庫にあるもの以外の他の霊薬、秘薬などゴミに等しい」

 

 あー、勢い余って言っちゃったけど、ナザリックで作るポーションもいいよ。いい仕事してるよ!飲んだことなんてないけど。

 ナーベラル・ガンマはやはり感激の顔をやめないが、先ほどの俺の言葉を聞いていたからだろう、称賛はしてこないが、その雰囲気だけでも、俺のことを敬虔なクリスチャンが神を敬うなんて比にならないくらいに俺を敬っているのが伝わってくる。むしろ気色悪い。

 ナーベラル・ガンマは美人なのだ。先ほどもいったが途轍もない美人なのだ。ただ、俺の本能に訴えかける何かがない。

 直感は胸だという。それも、もっと小さくと。いや、AUOって全部母音なんだから、巨乳好きかと思ってたのに。

 金ぴかの部屋で傲慢な男と、狂信者の超絶美人に、ヤバそうな薬。全くいい状況ではないがここで話を進めておかないと、モモンガさんが来た時に更にややこしくなる。

 なので俺はエリクサーの頑丈な封を外し、一気に嚥下する。

 うおおおおおお!

 

「英雄王様!お口が!お口が!」

 

 わかってる!

 なんとエリクサーを飲むと光を吐き出すというか、口から放射してしまうらしい。

 虹色の光が俺の口から放出される。それは無理もない。このエリクサー、美味いのだ。それも途方もなく。

 すっきりとしたの喉腰に、甘さを基調として、まさしく虹のように味を変えるのだ。時に泡立つ激しさの中に内包された弾ける酸味の炭酸。時に芳醇な香りと味わいを口の中でまるで舞踏会のように鮮やかに繰り広げるワイン。時に苦味を感じさせながらも奥の深い、それでいてもう一杯と引き寄せる、これこそ王の好む味とばかりの茶。時にフルーツ一個一個を200パーセント還元したのではないかと疑うほどに濃縮されたフルーツジュース。

 様々な味がするが一つ惜しい。それは乳酸菌だ。あの体に平和な飲み物を混ぜればさらに美味かったことだろう。それを思うと途端に悔しくなる。

 そんな中でも気に入ったのは茶だ。俺の本能というかギル様的思考曰く、『苦味とは我にとって悪意そのものだが、とうに昔に背負った様々な呪いや誘惑、邪気に怨嗟。全ての呪いを我が飲み干したという絶対さを改めて確認できる』だそうで。

 お、お?

 

「英雄王様の玉手が…!お戻りになられた!おめでとうございます!英雄王様!」

 

 よいしょも辛いものだと思うが俺に賞賛の声として、声を聞かせられるのが嬉しいみたい。少しでも自分の印象を俺に残せるのが嬉しいみたい。こんなクールビューティーな顔して可愛いね。

 それよりは俺の腕がまた生えてきたことだが、こうなることは予想していた。だから飲んだわけだが、エリクサーがあそこまで美味いとは思いもよらなかった。

 そこで扉をノックする音がする。

 

「モモンガです。入ってもいいですか?AUOさん」

 

「ああ、入っていいぞ。友よ」

 

 なんとモモンガさんに対しての直感は作用しないようだ。多分骸骨だからだろうが。

 ナーベラル・ガンマは跪いた姿勢のままだ。うむうむ、よきかなよきかな。本能の方の反応もかなり良い。ここで何も言わずモモンガさんが入ってきたからと立ち上がっていれば、俺の本能が『地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て表を上げる?』とか言って処断する気だっただろう。我がことながら恐ろしい限りである。

 モモンガさんが「失礼します」と入ってきたので、俺はナーベラル・ガンマに「友の前だ。雑種いや、我の雑種よ、退出しろ。」と言う。

 

「感激の極みです!王の中の王よ!」

 

 ナーベラル・ガンマは今までにない喜色を顔に二度と剥がれないんじゃないかというくらいにべったり貼りつけて俺に礼をして、モモンガさんにはすれ違いざまに俺よりは幾分か軽めのお辞儀をして部屋から出て行く。もちろん、部屋を出て行くときも礼を、ドアを閉めるときに音は立てず、去っていく足音も聞こえない。

 それをモモンガさんはかなり驚いた顔で見ていた。そして一言。

 

「…そのうちサリンでも使う気ですか?」

 

 使いません。確かに人間なんて雑種だけどさ。そんな高尚なものは使いません!エアで一撃です!

 

「フッ、雑種が作ったものなど高が知れている。王たる我は宝物庫に入っているもので雑種の駆逐など簡単に済む」

 

「ここは人間がどれくらい強いかわからない異世界ですよ?それに俺たちはまだこっちに来て1日もたっていませんから、右も左も分からないんですから」

 

 それもそうですけど。

 しかしこの金ぴかの部屋を見てモモンガさんも何も言ってこないというのはやはり見慣れているのだろうか?もしかして全員の部屋の家具の位置まで覚えているとかはないよな?すごく切なくなる。

 自分以外誰もいない部屋を一部屋一部屋、回ってメンバーをいないか探すモモンガさん。メンバーは次々といなくなっていく。…ちょっとやばい、死んだ世界戦線、思い出した。

 そう考えると俺の心の中には余計に申し訳なさが湧いてくる。そうだな、自分では『友の名を呼ぶことはないのだから』とは言うけれど、俺はそれをモモンガさんにも強いていたのか。

 

 もし、ユグドラシル時代に一回ひょっこり出てきたとしても、多分モモンガさんはリアルのことのほうが大切と言ってくれただろう。そんな人だから俺たちはモモンガさんをギルマスにした。

 だけど俺にはもう一つ、俺のロールとしての思いは、モモンガさんは大きな理想を持っているといっても過言ではない思いを持っていたことをわかっていた。それは良くも悪くもリアルでは受け入れられないことだった。

 

 そう、モモンガさんにはリアルよりもこの俺たちとの思い出の詰まったナザリックが大切だった。その思いは神を嫌うロールの俺としては、神からもらった生を放棄しているようでその様は道化とも愉悦ともとれた。だからこそ、モモンガさんにはマスターをやってもらってどう足掻くのか見ていた。

 結果は予想以上だった。自分の時間が許す限りにログインしていること、このナザリックを理解できない力で維持していることがアルベドと相対した時にわかった。理解できない力はリアルマネーのことだろう。

 そんなモモンガさんとだからの愉悦だ。この人のナザリックにかける情熱はわかりたくてもわからないくらいに熱い。

 ならば、友として俺も支えねばなるまい。

 

「AUOさん!腕が治ったんですね!」

 

「如何して治ったか訊かないのか?」

 

「いいですよ。英雄王様のことだから、俺たちの想像の埒外のことをやってのけたんでしょう?」

 

 表情はわからない骸骨のくせに、ここまで伝わってくる安堵と歓喜。やっぱり俺の、いや俺たちのマスターがモモンガさんで良かった。

 

「モモンガ、これからどうするのだ?」

 

 訊くべきではないだろう。俺はギルガメッシュだ。誰の意見も耳を貸さず我を通す男だ。

 …だけど、友の言葉ならいいだろう。

 

「AUOさん。友なんですから、一緒に考えましょう」

 

 こんな金ぴかに光る無機質な輝きを放つ部屋に埋もれることのない、暖かい輝き。

 ああ、ギルガメッシュ、いや俺が欲しがるのも無理はないものだな。

 願わくば、失いたくはないものだ。




自分の文章力では伝えるのが難しいところが多々あります。心理描写なんか特に難しいです。あとは遅筆というのが致命的なんです。
私の見解
モモンガ様のステータスだけ

筋力D+
耐久B+
敏捷C
魔力EX
幸運B
宝具A++

スキルは書くのがめんどくさいです。
幸運って上手い具合に閃いたりしてるの見ると運が良いなって思うんですけど、やまいことのガチャの話でそれほど運は良くないんじゃないかって思うんですけど、どうですかね。
魔力は言わずもがなです。
宝具は神器級程度ではBです。ワールドアイテムの所持とギルド武器の装備でようやくといったところです。
他のはステータスに目を通しながら、こんな感じかなって風にあたりを決めて書きました。
比較として

シャルティア
筋力A
耐久B
敏捷B
魔力B
幸運C
宝具B-
ですかね
これだと3巻のモモンガ様の勝利はマジで凄いですね。


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過去の罪

話がまとまっていない気がします。
一人称がめんどくさいので気をつけてください。
アウラが好きな人は注意してください。彼女一回喋っておしまいですから。
ギル様の宝具は基本ヤヴァイです。


 過去の罪

 

 モモンガさんとの話は大きく言えば、出来ることと出来ないことの確認だった。

 モモンガさんもすでにここが異世界ということには気づいているので、セバスをナザリック周辺の調査に出したり、アルベドに階層守護者に連絡を取らせ、階層守護者に階層ごとに異変がないかを領域守護者達とも確認させたりしたんだと。

 そん時にゃ、俺の裸見て18禁の解除がなされてんのを知ってるくせに、知らんふりというか確認のためにアルベドと乳繰りあったんだって。あの骸骨の人払いが上手いと思ったね。

 

 そのあと、モモンガさんは自分の足で宝物殿に出向き、自身が作ったNPCとの会話でSAN値をガリガリと持って行かれたらしい。色々と黒い歴史の辞典のようなモモンガさんのNPCは強烈だ。

 モモンガさんがあのムンクの叫びみたいなのを作成してたあの時期は確かに俺たちはみんなおかしかった。俺なんか人間種は雑種と言い散らしたり、合法犯罪していたことで一時期ユグドラシルの中で指名手配されたこともあった。

 それはさておき他にも、GMコールはそもそもつながるとは思っていなかったので駄目元でやってみて、結果はだめ。だいたいこんな状況にまでしておいてGMに繋がって、謝罪をされても許さんがな。〈伝言(メッセージ)〉は繋がるらしい。ダンディーな声との通話はなかなかに良かったとか。あの骸骨は自分の声をいっぺん確認したほうがいい。ダンディーなんて子供の癇癪に感じるくらいに威厳に満ちた声だ。そんな声でアルベドの乳揉んだって報告はやめて欲しかった。さすがの俺といえど笑ってしまった。モモンガさんからはそれくらいだった。

 あ、柔らかかったんだって、貧乳派の俺に言ってきたよ。

 

 俺からはスキルの使用とアイテムボックスの使用の確認と俺自身に性欲は存在することを。性欲が存在するといったときのモモンガさんの乱れようは半端じゃなかった。それはもう怒髪天を突くどころか、神を奈落に引きずり落とすなんて勢いを感じさせられた。まあ、俺が雑種と交わる気はないと言うと嬉しいような悲しいようなという感じだった。童貞臭が骨の隙間からムンムンと放出されているモモンガさんのことだから、イケメンのAUOに嫉妬したんだろうけど、よく考えればわかることだが、誰がこんな慢心王に靡くというのか考えて欲しい。いや、教えて欲しいし、どうにかして欲しい。

 そうそう、俺の本質、いわば金田哲朗はもはや頭の中だけというのが強く、モモンガさんと自分が作ったNPC、ギルメン以外は全て雑種としか思えないと言うと、モモンガさんも人間を見てみなければわからないが、多分虫程度にしか感じないだろうと自分で言っていた。ただ、その時の声音はユグドラシル時代から常々人間種は雑種と言ってきた俺だったから、安堵しているようでもあった。恐らくは、たっち・みーさんとかであったら酷く言い淀んでいたであろうことがひしひしと伝わってきた。

 

 そんなこんなで笑いあり涙あり、・・・いや涙はねえわ。

 とりあえずは二人の秘密会議は終わったわけだが、これからアンフィテアトルムに来て欲しいとのことだ。階層守護者からの報告と俺の帰還の報告だとかで。

 

 階層守護者……ああ、貧乳、虫、チビ助二人、メガネ、執事、ビッチか。

 メガネは仲がいい…と思う。俺の振る舞いはたっち・みーさんにはあまり受けが良くなかったから、必然的にウルベルトさんと話してたんだが、あの人の悪役の品格というのはなかなかにいい話であった。そうだな、話の中に出た品格をオールクリアした道化もそこまで一貫すれば見事、俺も雑種と言わず、道化と呼ぶくらいには気に入ったことではないだろうか?

 

 逆に執事はどうなんだろう?あんまし記憶にないし。さっきも言ったけどウルベルトさんとは話す。だからといってたっち・みーさんと話さないわけではなかったし、一遍たっち・みーさんをセイバーが何ちゃらと言って、ガチで勝負したこともあったけど。…結果?ああ、俺の圧勝。たっち・みーさんの強さは認めてたから慢心なく臨んだよ。

 

 それは一旦置いておこう。貧乳に関しては仲が良い方だと思う。ペロロンチーノは愉悦の極みのような男であったしね。しかも、貧乳好きときた!いや、あいつに限ればエロけりゃ結構なんでもありだったけど。

 でも問題があった。大きな問題だった。実に簡単なことではあるのだが、二人ともアーチャークラスであったこと。もっと言えば、二人ともピカピカしていたこと。果ては、二人とも浮いていたこと。

 いや、別に俺の能力じゃなくて、天翔る王の御座(ヴィマーナ)の効果だったんだよ。調子こいてあれこれ能力つけてたら殲滅兵器になってた。あれはギルド武器と張るんじゃないかってくらいに凶悪になってしまった。古い文献掘り当てて調べてみたら、光学迷彩にステルス機能、通信傍受、レーザー光線に生物兵器と果ては数十もの迎撃兵器。やりすぎるということはユグドラシルに存在しなかったし、俺には黄金律AとコレクターEXがあったからね。もうバンバンくっつけてた。…言うまでもなく、るし☆ふぁーとの共同開発デス。

 話が大きく逸れたが、そんな似通った点の多い俺たちだった…ただまあ、あいつの武器の名前があれだから、あいつのクラスはアーチャーではなかった。だが、俺の態度が他のプレイヤーに対してとギルメンに対してとの差が月とスッポン、いや鼻くそと燕の巣くらいに違ったから、結構話はしていた。つまりはシャルティアの胸は大きく俺の理想が詰まっているのだ!

 偽物とか言うんじゃない。

 

 虫はどうなんですかね?あの寒いの…俺としては武士というところは非常に好意が持てる。ただ、虫なんだよなぁ。

 俺は虫が嫌いというわけではなく、大元を見れば人間種を雑種と言ってきた俺だ。そんな俺が虫を見たら?評価は変わらないかそれ以下でしかない。生理的に受け付けないとかではなく、なんというか本能的に雑種なのだ。

 そんなわけで俺が虫に好かれているかどうかはよくはわからない。

 

 チビ助二人は、俺の作ったNPCが六階層に入ることも相まってよく目に掛けてやっていた。まあ、女装と男装をしているのは殊更に意味がわからなかったが。…ぶくぶく茶釜さんが怖くて何も言えなかったんだよ。うん、あれはあれだ。黒化したんだよ。そういうことにしといてくれ。本当に酷かったんだ。

 

 ビッチは…いいよ。うん、すごくいい。初めてのお披露目の時に『豊満な女は好みではなかったが、あそこまでいくと蒐集家の血が騒ぐ。何にせよ、頂点を極めるのは良いことだ!』とか言ってみんなに引かれたこともあるくらいにいい胸だ。どうか?と訊かれたら、すぐにお断りするがな。

 ともかくは皆悪い印象はないと思うのだが、傍若無人の振る舞いが目立っていたことだから、怖がってるかもしれないけど。

 

「そろそろか…」

 

 俺はもう少しで時間になりそうなので、悪趣味なベッドから立ち上がり服を着る。無論いつもの金ぴか鎧だ。

 

 俺は自分の独自で三つの世界級(ワールド)アイテムを所持している。

 俺が所持している理由は、三つのうち二つが、俺が持たねば使えないクズだからだ。二つの内二個ともがそもそも担い手の俺以外には装備不可になる。それどころか、暴走の可能性すら孕んでいる凶悪なアイテムだった。後々、調べた結果、サーヴァントのクラスになると同時に強制的にならねばならない種族、英霊で一番最初に得る能力が真名なのだ。その真名は、授かった俺はギルガメッシュだった。恐らくは、ギルガメッシュの真名を得たものだけが使えるように設定していたのだと思われる。

 ただ、俺以外にサーヴァントのクラスをとった人間がいるというのは聞いたことがない。まあ、サーヴァントのクラスとるのはかなり厳しいからなぁ。

 

 で、問題はその二つを抜いたもう一つ、アイテムの名を王律鍵バヴ=イルという剣のような鍵で、これの能力は幾つかある内の一つが対象者のアイテムボックスの中にある、名前を知っているアイテムを取り出すという能力なのだが、これが俺のスキルとは相性が良かった。だから、どんな奴からでも世界級のアイテム以外なら基本盗みたい放題。引きずり出しまくって、気がついたらお尋ね者。気がついたらアイテムボックスは神器級まみれ。だから、俺の所有する神器級アイテムは百を優に越す。特に2ch連合には世話になった。

 あー、今考えると討伐隊のやつらの多くが『AUOを血祭りにあげろ‼︎』とか『打ち首だあ!駄王を縛りあげろ!』とかこれが理由だったのかな?でもさ、使えない奴も結構あったから一回もアイテムボックスから出てないのもあるんだぜ?これぞまさしくお蔵入り!

 笑わんか!王たる我のじょーくだぞ!

 

 そういうこともあって、基本的な装備は神器級となる俺。あ、言っとくけど黄金律使って金もバンバン手に入れてたからね。金にあかせて作ったり、譲ってもらった装備の数もたくさんある。うん、成金って皆に叩かれてた。

 つまり言いたいのは金ぴか鎧は威厳を見せるためじゃなくて仕方なくつけてるってことかな。あ、やっぱしジャージで行こうかな?

 

 

「そのような些事は捨て置くか」

 

 俺は面倒くさくなったのでジャージ選択を切って捨てて、悪趣味なこの部屋から出る。何が悪趣味かって全部なんだけど、これが一番良いって心どこかで思ってる俺がいることだ。

 思わず溜息を吐きながらも、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに渡される指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを指にはめて転移をする。

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは転移阻害のかかったナザリック内部で一部を除き大抵の場所に転移できる能力がある。

 直感が飛んでも問題ないというので問題はないだろう。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 一瞬にして視界は闇へと閉ざされ、解放されたと思えば薄暗い一本通路に飛んでいた。じめじめとしていて癪にさわるが、今は転移の成功に喜びを表すべきだろう。

 視界の奥には巨大な格子戸が落ちており、隙間からは白色光にも似た人工的な明かりが入り込んでいる。俺は白色光という安価な感じにもまた眉をひそめるが、そもそもそんなことはユグドラシル時代から変わっていないのに、ここまで沸点が低くなったのは、ひとえに俺がギル様の本能を受け入れ出したからだろう。こういったことに直面すると非常に難儀なものだ。

 通路は薄暗くあって真っ暗ではない。それは壁に掛けられた松明が照らしているからこそなのだが、この俺をそんなチンケなもので照らすなど!という感じにこれまた苛立ってくる。

 ここで立ち止まっていると一生イライラしっぱなしな気もするので、進むことにする。

 

 格子戸の向こうから香る匂いは、よくか悪くか俺の気には全く召さなかったようでまたまた腹が立つのだが、これはもうどうしようもない問題であるような気がしてならない。俺がAUOはこれでいいとユグドラシル時代は思っていたが、感覚も本能も思考回路も重なった今は変えたい。並々ならぬ思いで作ったアバターだが、ここまでくると言うことを聞かないと言い換えてもいい。今では一心同体というか俺自身なので体を捨てることはできない。せめて、唯我独尊なんてやめてほしい。

 

 俺は自身の感性という最大の問題を前に内心辟易しながらも進む。格子戸は近づくと開く、自動ドアと同じ仕様なので、普通に国を確認すると少しばかり荒んだ心も落ち着きを取り戻してきた。ギル様って意外とご機嫌とりが簡単なのだろうか?…ありえないな。

 どうしようもないことはさておき、格子戸をくぐり抜けると目に映ったのは円形闘技場(コロッセウム)。幾重にも重なる客席の威容は圧巻である。

 大きさは直径188メートル、短径156メートルの楕円形で、高さは48メートル。ローマ帝政期に造られたものと同じらしい。らしいというのは、何を作るかという会議があったときに、俺は反対したのだ。『我の所属するギルドがチンケな雑種の真似事など』って。もちろん、俺も大人だから自分に何の替えの意見もなく反論したりはしない。自分の意見はあったが、皆には素気無く却下された。ウルク、作るのは楽しそうと思ったんだけどなぁ。

 

 円の中心では後ろ姿に見覚えのあるローブ。部屋を出る前に見た骸骨君ではないか。声をかけようと思って歩き出し、それは憚られた。

 

「ひっ!金ぴか!」

 

 少年の声が聞こえた。見れば客席に近い闘技場の縁の方で一人のチビがこっちを見て震えていた。しかし、金ぴかは俺なのだろうが、俺に対する態度がそれとはなかなか笑わせてくれる。

 きっと今の俺は眉を寄せ、恐ろしい威圧を放っていたことだろう。チビ、いや雑種は怖気付き後ろに一歩引く。

 

「AUOさん!何をしてるんですか!」

 

 モモンガさんも気づいたのだろう。俺がちびっこを虐めているように見えたのだろうか?だったら勘違いも甚だしい。俺は単純に俺の前で頭を垂れ跪くことなく呆然と立ち尽くし、雑種の分も弁えぬような雑言を言い放った雑種を斬ろうかな、いやすり潰すか?と考えていたにすぎない。

 モモンガさんの前で話していた雑sh、いやチビ2は恐れ慄いた表情で唇を震わせている。直感が告げるのは俺に対して恐怖しているのではなく、俺の名前を聞いたことによって引き出された昔の記憶が関係しているらしい。それももうトラウマレベルに。何かしたか?と思いきや人間種には雑種と言ってきては、亜人種も変わらず雑種。というよりもギルメンと俺の作ったNPC、こちらに優遇してくれていた商人など、俺が認めたやつ以外は基本雑種だった。それのせいか?と適当にあたりをつけてモモンガさんと話をする。

 

「モモンガよ!臣下の躾はしっかりとしておくべきだ!あまり甘やかすとそのうち噛みつかれるぞ!」

 

「あ、はい」

 

 俺は放っていた威圧を霧散させ、モモンガに近づいて話をする。モモンガさんは意外と物分かりがいい。単純に押しに弱いとも言えるが。

 しかし、先程から尋常ではない汗を吹き出し、歯をガチガチと鳴らして震えているこのチビは何がしたいのだ?俺が帰ってきたのが嬉しいのか?愛いやつよ。

 

「AUOさん。意外と早く来ましたね。AUOさんのことだから、『時間などに縛られる我ではないわ!』とか言って来そうにないと少し心配してたんですよ」

 

「そうだな。時間などに縛られるなど、雑種と同じ扱いは可能な限り控えてほしいが。モモンガよ、とりあえず、そこで震えている雑s、…チビは何だ?」

 

 モモンガさんは俺が雑種といいかけるのを見て、目でやめろと訴えかけてきたので止めたが、モモンガさんは後ろを振り返って、見た目男装をした雑種の姿を見て驚愕のあまりあたふたしている。何が起こってるかって?

 そりゃあもう、

 

「やめてください!ぶくぶく茶釜様!やめてください!やめて!やめて‼︎やめて‼︎やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて」

 

「アウラ!どうした!何があったのだ!アウラ!ーーマーレ!こっちに来い!治癒の魔法と精神を安定させる魔法ーー、」

 

「モモンガ様!精神を安定させる魔法は……」

 

「くそ!」

 

 アウラの異様な変容にモモンガさんは飛び上がったように急いで対応を始めるが、異常をきたしているとみられる精神をどうにかする魔法なんてなく、雑種が事もあろうに首を横に振るとモモンガさんは舌打ちをして、口悪く吐き捨てる。

 俺としては言いたいことが一つある。

 

「雑種、どけ」

 

「え、でも…」

 

「口答えするとはいい度胸だが、貴様はモモンガになんと言われた?『精神を安定させる魔法を使え』と言われたのではないか?貴様も王の臣下なら王の要求の一つくらい無理でも無茶でも無謀でもやってみんか!」

 

 あまりにも見るに耐えなかったので俺が変われと言うが、雑種は変わろうとはしない。命じられた自分の使命を果たそうとするのはいいことだが、やってやれないことなどないということを全く理解していない。俺はカリスマA+を放ちながら、雑種、モモンガの雑種に命じる。

 

「貴様もモモンガに仕える者であればやれ。出来る出来ないなどは知るか」

 

「あ、あ、あ、あ…」

 

 モモンガの雑種は唇を大きく震わせ目を回している。

 やがて目の焦点が合ってくると、俺を見て狂気的な笑みを浮かべたと思ったら、

 

「英雄王様、使命を遂行させていただきます」

 

「うむ、良きに計らえ」

 

 モモンガさんは何がどうなってんのという雰囲気を出しながらこちらを見ている。一応こちらからすることはもうないので、モモンガさんとのおしゃべりに興じようかと思い、モモンガさんに話しかける。

 

「モモンガよ、魔法は試したのか?」

 

「…い、いえ。まだですが……」

 

 モモンガさんは今の一部始終を目の前で見ていて呆然としているのか、俺との会話が釈然としていない。

 そんな中で意を決したのか雰囲気を支配者のそれと同じ風格を見せながら俺に語りかけてくる。

 

「魔法はいいんですけど、アウラの症状に心当たりはないですか?…もしこれが敵襲なのだとしたら……!」

 

 ーー俺はこの世界の生物を全滅させます。

 

 言ってはいないが、その言葉が聞こえたように頭の中で山彦のように繰り返す。

 雑種の駆逐とはあまり俺を差し置いてやって欲しくはないものだが、友との殲滅戦もまた一興、と口元がニヤついているのを自覚する。

 しっかし、雑種の症状ねえ……、俺を見て震えるってことは俺が関係あるんだろうし、さっきは雑種が茶釜さんの名前を……!

 

「モ、モモンガよ!」

 

「わかりましたか?AUOさん」

 

「う、うむ……」

 

 これはまずい。非常にまずい。確かにあれは俺たちでさえ恐ろしかった出来事だ。アウラに記憶があったとしたら最悪だろう。

 モモンガさんもあの事件には実は関与している。言ってもいいものかと少し不安になる。モモンガさんはあの事件で二番目の被害者と言ってもいい。俺は逆に容疑者に入る部類だ。

 

「AUOさんのその顔、言い淀み……!まさか……‼︎」

 

 モモンガさんは自力で推理したようだ。モモンガさんでさえも出した答えに震えている。

 

「ああ、思っている通りだ。恐らく、いや確実に聖杯戦争だろう」

 

 モモンガさんは怯えている。かくいう俺もあの事件は心の大きな傷を残した。アウラなんて間近で見ていたので最悪だったろうし、俺が調子に乗りすぎたこともあって精神崩壊もやむなしと言えるかもしれない。

 俺たちは出した答えがあまりにも悲惨だったので何も言えなくなってしまう。

 

「モモンガよ。このことは忘れた方がいい」

 

「ええ、そうですね」

 

 必死に振り絞って出した答えはそれだけだった。

 しかし、運良くモモンガの雑種が見事に精神を安定させる魔法を発動させたのか、見たこともない眩い閃光が目を焼く。

 だが、その前に…

 

「モモンガよ、記憶を操って我を引鉄にあの忌々しい記憶を引き出せないようにしてくれ」

 

「まだ魔法は……、いえ、アウラのためですからやってみましょう」

 

 そう言うとモモンガさんは手から光を生み出す。モモンガの雑種の光が青に対して、モモンガさんの生み出した光は白。言っては悪いが可愛い。カルシウムでも光に混ぜたのだろうか?

 

 俺の馬鹿な思考とは裏腹に、白い光はフヨフヨとゆっくりと、だがしっかりと雑種の額の前まで進むとすっと入っていく。

 白い光が入った後に、雑種の百会(ひゃくえ)から黒い光が出てきて弾け飛ぶ。もしかして記憶を取り出して破壊したのだろうか?…いや、直感があの記憶が消えたわけではないといっている。消えたのはあくまで関係者をトリガーとしたトラウマ。だから俺を見てもあの事件を思い出すことはないだろうが、何かしらの物質、……聖杯やらの話をきっかけまたショック症状が起きることはあるということだ。仕方ない事でもある。あれは俺の罪の形でもあるのだから。

 

「英雄王様。ご使命遂行しました」

 

 横にいるモモンガさんは先程の魔法がよほど魔力を食ったのか、少し酔ったらしい。今は横になっているが、意外と可愛い。

 そんなモモンガさんを観察していると、バケツをひっくり返したのかと訊きたくなるような、大量の汗をかいたモモンガの雑種はおぼつかない足取りで俺の前まで来て、頭を垂れ跪いてそう報告してくる。

 しかし、

 

「下郎が」

 

 俺はモモンガの雑種に剣を向ける。

 俺の能力、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)によって一瞬で俺の手元に現れた剣を、モモンガの雑種の首に剣の刃を当てる。

 剣の名前は原罪(メロダック)。神器級にあたり、【選定の剣】の原点であり、勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の源流。効果は推して知るべし、だが今は関係がないので置いておくとして。

 モモンガの雑種は使命を遂行したのに剣を向けられることに困惑しているようだが、『王は間違っていない、僕のどこかがいけなかったんだ』と考えているのが顔や雰囲気から察せる。

 恐怖政治のようだ。王が怖くて不満を唱えることができず、自身の有り様に疑問を抱く、これこそまさしく雑種なのだが、王である我の考えなど、いかなモモンガの雑種といえど理解できるわけがないと判断し、告げる。

 

「貴様の王は誰だ?」

 

 モモンガの雑種は答えない。だが、もう答えは出ているようだ。

 俺はモモンガさんをモモンガの雑種に聞こえないように蹴って起こす。

 

「仕える王は二人もいらん。貴様が心に決めた王に身命を賭せ」

 

「「はっ!」」

 

 モモンガさんは何が何だかわからないという雰囲気を出しているが、俺としては寝てた骸骨がいきなり起きるっていうのもおかしいし、だいたい骸骨は眠らないだろう。

 モモンガさんの目を覚まして体を起こす声とモモンガの雑種の俺の言葉への応答の声が重なったのを聞いて、予行練習かよと言いたくなったが、二人とも真面目にやっているのであまり不用意なことは言えない。

 

「モモンガ様!ご使命を遂行しました!」

 

「……そ、そうか。よくやったぞ」

 

 モモンガさん、あんた適当か。あんた始めの方寝ぼけてた?いやついていけずに困惑していたのか。ただ、もうちょい言葉を選んで欲しかった。

 モモンガの雑種はモモンガさんの賞賛に一言「ありがたき幸せ」と返すと立ち上がり一度モモンガさんに礼をして雑種の隣に行き、モモンガの雑種もまた眠りにつく。

 余程疲れていたんだろう。倒れこむように眠ってしまった。それを見たモモンガさんが余計に当惑するが説明しなくてもある程度はわかるだろう。

 しかし、それよりも

 

「モモンガ。いつまで女座りをしているのだ?」

 

「え?あ、はっ!」

 

 モモンガさんってこういうところ、可愛いよね。

 モモンガさんが急ぎ立ち上がるのを見ながら、俺は聖杯のことを考えていた。




ステータスだけ

アウラ
筋力B
耐久B
敏捷A
魔力C
幸運B
宝具C

マーレ
筋力B
耐久B
敏捷B
魔力A
幸運B
宝具C+

聖杯の話ですが、一見すごく真面目に見えますが、発端はギル様と、仲が良かった二人です。
次回の始まりでは若干この事件の回想を入れます。


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アインズ・ウール・ゴウン万歳

今回もまた話がまとまっていない気がします。
AUO様のセリフが矛盾するのは仕方のないことだと思ってください。
前回、あとがきで書いたように、最初に聖杯戦争の事件の始まりに触れます。


 アインズ・ウール・ゴウン万歳

 

「あ、AUOさん」

 

「ん?」

 

 そう言って俺に話しかけてきたのは鳥。いや、鳥獣の王を体現したかの威容であった。

 とはいえ、こいつの本質は鳥であったほうがマシではないのかというところにあるのだが、今回は俺の興味もそそった。

 

「ペロロンチーノか。どうしたのだ?」

 

「いや〜、レトロエロゲ、探してたらFate/staynightってのを見つけてですねー。これの金ピカ王。AUOさん、これを模してそのアバター作ったんですよね?」

 

 こいつのエロにかける情熱は底知れない。俺がこのロールをしていても、こいつの意思の固さときたら尊敬してしまうほどだった。

 そんな奴が俺のアバターがどこから来たのかを知ったらしい。かなり古いものだが知っている奴は知っていると思っていたのだが、尋ねられたのはこいつが初めてだ。意外にも知られていないというのに、大きな優越感と若干の苛立ちを覚える。

 ただ、こいつは少し間違えている。

 

「ペロロンチーノ。これはstaynightではなく、zeroのを真似ているのだ」

 

 究極的にはどっちでもいいのだが、気分的にstaynightの方がどちらかといえばギル様が無様。なのでできることなら、zeroに訂正していただきたい。

 

「あー、そうそう。zeroといえばランサーの武器の名前が俺の武器の名前と一緒だったんですよね」

 

「む、そういえば、貴様の武器はゲイ・ボウであったか。待てよ……そもそもなのだが、聖杯については知っておるか?」

 

「えっと、あのー、あれですよね。…そうそう!AUOさんが一回作って失敗したって言って、モモンガさんに渡したやつ!」

 

「戯け、作中でも出たであろうに」

 

 こいつはエロにしか頓着しないのか。やべえやつじゃねえか。しかし待てよ、聖杯は作中屈指の重要ワードなのに、どうしてそれよりもランサーを覚えているんだ?

 俺は顔色が変化しないままに話す鳥の気持ち悪さに、少しばかり表情の動きがわかればいいのだがと悔やみながら訊ねる。

 

「どうして貴様がランサーという男の名前を覚えているんだ?」

 

「それはあの泣きぼくろに魅了の呪いが掛かってるってことなんですけどね。すげええ!欲しいいいいいいいいい!って思いましてね」

 

 いきなり、目の前で魂の慟哭のような声を上げるのはやめて欲しい。

 それにしてもこいつはエロゲーイズマイライフを自称した男だ。だいたい口では欲しいと思っても、もはや現実の女では立たないんじゃないか?

 

「それで話を戻すが、聖杯というのは願望機なのだが、全ての悪を取り込んでいて不完全なものであるのだ。それがーー、」

 

「ペロロンチーノ、さっきの叫び声は何だ?」

 

「あ、ウルベルトさん、すみません」

 

「………AUOさんとペロロンチーノは何をしていたのだ?」

 

 俺の話の途中で入ってきたのはウルベルトさんで、ウルベルトさんはさっきのペロロンチーノの叫び声を聞きつけてきたらしいのだが、ヤギの顔でいきなり現れると、二刀流で討伐したくなるし、どこぞのデスゲームを彷彿とさせるのであまり精神的にいいものではない。

 そんなウルベルトさんも俺とペロロンチーノが一緒にいるのを見て若干の考え事をした後にわからなかったのか聞いてきた。考え事ってもしかして俺とペロロンチーノがエロゲトークで盛り上がってたとか考えてたんじゃないよな?そんな9割当たりじゃないか、と突っ込みたくなるような質問を頭の中だけにとどめておき、今話していた内容を話す。

 

「聖杯という願望機には、この世の全ての悪が入っていてという話をしていたのだ」

 

 ウルベルトさんの目が光った気がするほどにその話に反応を示した。

 

 これが聖杯戦争の一歩目。

 

 ーーーーーーーーーー

 

「ーーさん!AUOさん!」

 

「う、うむ」

 

 どうやら考えごとをしている内にモモンガさんに心配をかけたようだ。

 今は俺の顔の前で凶悪な顔を近づけて、骨の指で俺の方を持って揺すっていた。

 気持ち悪い。とりあえず、先に気持ち悪い顔をどかしてもらいたい。

 

「モモンガ、すまない。少しボーッとしていたようだ」

 

「いえ、AUOさんが上の空になるときは大抵決まって聖杯が絡んでいますから。しかし、ここでまたあれを思い出すことになるとは……」

 

 全くもってその通り。

 引き続き話をしようとしたところで、言葉遣いがアレだが若々しく可愛らしい声での歓喜に満ちた声が聞こえてきたのでこの会話は打ち止めとなる。

 

「あー!ギル様でありんす!」

 

 声がした方を向くと同時に影のようなものがあった場所から一人の少女が駆け抜けてきた。

 次の瞬間には目の前で頭を垂れ跪いた姿勢で本心がありありと伝わってくる声音で俺の帰還を喜んでくれる。

 

「ギル様!ご帰還ありがとうございます!」

 

 目の前で俺に忠誠を見せる少女はシャルティアといい、ペロロンチーノの作成したNPCである。

 このギルガメッシュをして、唸らせるなかなかの容姿を持ち、自分でも気に入っているので特別にギル様呼びを許可していたのだが、この様子では取り消しにしたほうがいいかもしれない。

 何故なら、

 

「おい、雑種。貴様、俺が贋作が嫌っているのを知っての狼藉か?」

 

 そうだ。俺の夢がいっぱいに詰め込んであった胸を、なんとこいつは勝手に偽物にしているのだ。仮にそれがペロロンチーノの設定だとしても!許容できぬ!

 そうは言うが、マーレの時とは違い剣も出さず、ただただ起こっているよと主張するだけ。なんでだろうなぁ、やっぱり自分の夢も詰まっていたシャルティアが可愛いのかな?

 

「ま、誠に申し訳ございません、ギル様!すぐに外させて頂きますので、少々お待ちください」

 

「よかろう。以後、気をつけるのだぞ」

 

 シャルティアが外したのを見て、俺も怒りがすっと引いていく。というよりもむしろ、気分が少し良いくらいだ。

 モモンガさんが信じられないという顔をしているのになんか言いたいところであるが、少しシャルティアにはお願いがあるのでモモンガさんのことは見なかったことにする。

 

「我の臣下よ。貴様にはこの二人の介抱を命じる」

 

 今度はあり得ないという顔をするモモンガさん。骸骨なのになんでこんなにあんたは分かりやすいんだよ。ポーカーフェイスの意味を辞書で引いてみろ。

 シャルティアは俺のお願いを聞いて眉をひそめる。創造主である方々の前で介抱されるような無様を見せたのは誰か、といったところだろう。

 え?命令だったでしょって?いやほらギル様はツンデレだからね、命令っていうお願いなの。

 

「ギル様。御身の前で無様を晒す輩とはどんな奴でありんすか?」

 

「それはあそこでスヤスヤと仲睦まじく寝ている二人だ」

 

 そう言って雑種とモモンガの雑種が二人で寝ているところに視線を這わせると、一瞬、モモンガさんがこれは本当に現実か!という顔をしているのが見えた。後で一回お話をしたほうがいいかな、あの骸骨と。

 シャルティアは俺が見ているものを視界に捉えると驚き、心配そうな顔をして俺、というか顔芸を披露するだけで、半分空気になっているモモンガさんの二人に訊ねてくる。

 

「何があったんでありんすか?」

 

 モモンガさんは少し気まずそうな雰囲気を出す。それをシャルティアは感じ取ったのか、俺に確認を取るように顔を向けるが俺は顔色を変えずにケロっと言って見せる。

 

「うむ、少しばかり我との記憶が壮絶の一言に過ぎたようで、我を見た瞬間に狂ったように倒れてしまったのだ」

 

 その発言が意外だったのか、モモンガさんはまじか、こいつという顔で俺を見てくる。お前は何?骸骨百面相にでもなるのか?

 シャルティアはなぜか首を縦に振り、納得というような顔もしているので、俺が幼女にて手を出したとでも思っているのだろうか?だとしたら酷い誤解だ。俺は貧乳がいいのであって、幼女が好きとは言っておらん。

 しかし、シャルティアは自身も寵愛を頂けると勘ぐったのか、いやらしい笑みを浮かべて、でかしたわ!チビ助!と小声で呟いていた。

 俺はどうしようもないなと思い、もう後は適当にする。

 

「わかったらさっさと動け」

 

「了解しました」

 

 シャルティアは雑種たちの介抱をらんらんとご機嫌の様子でしている。

 それを見ていると、今度は順番を待っていたのように大きな虫が現れた。

 

「モモンガ、お前にあいつの対応を一任したい」

 

「え?コキュートスのですか?」

 

「ああ、我は寒いのは好かんでな」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 モモンガが了承したのを見ると、転移してきたときに俺が出た格子戸のところまで歩いて行き、薄暗い通路に佇む一人の男に声をかける。

 

「久しいな、デミウルゴス」

 

「ご帰還を心よりお待ちしていました、ギルガメッシュ様」

 

 俺は気に入っている目下の者にはギルガメッシュの名前を教えそれぞれに合った呼ばせ方をしている。

 その点、このデミウルゴスはウルベルトさんの作成したNPCであり、能力もなかなか芸に富んでおり、さらに悪役の品格を体現したような男だ。階層守護者では一番気に入っている。

 デミウルゴスは声を掛けると、一度跪いて臣下の礼を見せるが、俺が手を振るとすぐにやめて立ち上がる。世辞はいらんということだ。

 

「ときにデミウルゴスよ、貴様はすでにこの事態のことを把握しているか?」

 

「いえ、ただギルガメッシュ様がご帰還なさったとは訊きました」

 

 やはりデミウルゴスでも、まだ掌握は出来ていないか。

 目の前でもありありと感じる悪のカルマ。なかなかなものだと思う。悪としての格の高さは王に比肩しうるかもしれない。

 そんなことに口角が上がるのを感じるが、自分の感情もコントロール出来ないようでは笑われてしまうので、これからしようとしていることの愉悦の感情を内にとどめ、話しかける。

 

「デミウルゴス、貴様には先に言っておくが、おそらく貴様は智謀としてモモンガに頼られるだろう。しかし、それは全て嘘だ。モモンガは全て見据えた上で行動している。それは王たる我をも差し置いた叡智で、だ」

 

「それは!」

 

 デミウルゴスは素晴らしいリアクションをとってくれる。なかなか面白いがモモンガさんのこれからも面白そうだから、どっちもどっちというかは、将来性を考えるならモモンガさんだな。

 

「いいか、デミウルゴス。貴様の最高の知能をして推し量れぬのがモモンガだ。だからこそモモンガは貴様によく問うて来るだろう、お前はわからないのかと。つまるところは、貴様は多くモモンガに試されるだろう、ということだ」

 

 デミウルゴスはその内容を頭の中で反芻した後、これからのパターンを頭でシミュレーションするようにウンウンと唸っている。

 しかし、ここで止まっていても進まないので、デミウルゴスに声を掛けて歩き出す。

 

「デミウルゴス、そう気負わんでもモモンガは寛容な男だ。少しの間違いなら合格点をもらえるさ」

 

「そうですね。ご忠告ありがとうございます、ギルガメッシュ様」

 

「うむ、では我に付き従え、デミウルゴス」

 

 薄暗い通路を歩きながら揺れるろうそくの火は俺の心のようだ。俺はこれからを思ってゆらりと笑う。

 

 格子戸を抜けるとすでに八割が揃っていた。

 雑種ども、いや気分がいいからチビ助二人と呼ぼうか。

 チビ助二人、シャルティア、虫、アルベド、執事と後は、難解な言葉を用いてくるちっこい天使と、湖に潜むでっかいゴーレムがいないだけだ。

 虫とアルベドは俺の姿を見ると顔を強張らせる。

 しかし、俺はそんなことは割とどうでもいい。

 

「モモンガ、もう始めていいのではないか?」

 

 そこから始まった忠誠の儀だかなんだか。

 特に言うことはないのだが、モモンガさんの評価が凄まじいこと。凄まじいこと。ここがモモンガさんのいいところでもあるんだろうな、と思いながら見ていたが、急にモモンガさんは俺に対してふってきた。

 

「では、AUOさんはお前たちにとってどのような存在だ?」

 

 シャルティアは優雅に微笑み、

 

「王の中の王です」

 

 コキュートスは力強い眼差しで、

 

「絶対強者ニシテコノ世ノ全テヲ掌握セシ方カト」

 

 アウラは少しの畏怖を顔ににじませ、

 

「全生物が頭を垂れる偉大なお方です」

 

 マーレは恐ろしく狂気的な笑みを浮かべて、

 

「最高の王です」

 

 デミウルゴスは不敵に笑い、

 

「王です」

 

 セバスは迫力のある声音で、

 

「至高の方々の中でも高潔にして崇高な方です」

 

 アルベドは幻想を見ているんじゃないかと訊きたくなるようなトロンとした表情で、

 

「英雄王様、その一言に尽きる方です」

 

 モモンガさんはえ?それでいいの?という顔をこちらに向けてくるが、俺にして見せれば飾りに飾った言葉など要らん。ただ一言で良い、我の臣下として我をどう思っておるかなど。

 

「皆よ、聞け」

 

 我はさっきまでモモンガさんの絶望のオーラに当てられていた跪くものにカリスマA+を放ちながら、

 

「我は王だ。

 王たる我と共に歩んでいけるとは思うでないぞ。

 貴様らは所詮、王たる我の後ろで生き死にを繰り返す雑種でしかない。

 だがその命、我のために捧げるというのであれば、

 夢を見ることを許そう。

 我の後ろをついてくることを許そう。

 貴様らが力を振るうことを許そう。

 貴様らが如何なものをなそうと、我の名の下において許そう。

 

 

 ーーーゆえに問おう、貴様らは我を王とし、臣下となるか?」

 

 この問題は少し意地が悪いが、ここにいる階層守護者なら、この答えをきっと出してくれる。

 

「お戯れを」

 

 デミウルゴスがそう言い、眼鏡をかちゃりと掛け直す。

 それに同意するように、シャルティアとアルベド、アウラ、マーレは頷き、セバスは悟ったかのように顔を引き締め、コキュートスはすでにわかっていたのだろう、瞠目したままで動かない。

 こうして皆は一斉に答える。

 

「「「我らはアインズ・ウール・ゴウンのために!」」」

 

「「「至高の方々の臣下として!」」」

 

「「「この命をとして全身全霊を持って使命を果たすことを誓います」」」

 

「うむ、我と友の思い出のこの地の守護、貴様らに任せるぞ」

 

 俺は最高に機嫌が良い。もしここで誰か一人でも俺の臣下になるとかぬかしていたら、皆まとめて俺の所持する世界級(ワールド)アイテムの天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)で叩き切っていた。俺の臣下になるからと俺の友を疎かにするような輩はいらん、ということだ。

 デミウルゴスなんて、お戯れをとかカッコつけちゃって。

 とりあえずは俺はこれでいいんだが、モモンガさんのアホ面は今すぐにでも叩きなおしたい。あの骸骨がこの雰囲気ぶち壊しにでもしたら、あいつも叩き切ってやる。

 俺は満足しながら踵を返し、さっさとこの場を去る。一応モモンガさんにも声をかけておく。

 

「モモンガよ、聞いたであろう。我ではなく、我らの臣下であるこやつらに、もはや言葉は要らぬ。

 後で、我はモモンガの部屋に行こう。こやつらを信用して、我らは酒でも交わさぬか?」

 

「え、ええ!そうしましょうか」

 

 モモンガも嬉しいのであろう、自分のギルドを思ってくれていることを大きく満足しているようで、俺の言葉に対する反応ときたら子供のようだ。

 俺たちは同じタイミングで転移をする。なぜかはわからないが全く同じタイミングだった。

 …まあ、これも友の良さということにしておこう。

 

 ーーーーー三人称ーーーーー

 

 至高の方々と呼ばれる金ぴか鎧の人間風自称王と、アホな雰囲気をバリバリにはなっていた骸骨支配者が消えた空間で、守護者達は皆、動かずにただずっと跪いて瞠目していた。

 

 全員が同じタイミングで目を開き、立ち上がる。

 一番最初に言葉を発したのはセバスであった。

 

「デミウルゴス、あなたはどうしてAUO様を王としか思っていないのですか?」

 

 その言葉には少し怒りが混じっていた。

 だが、それを察知した上でデミウルゴスがなんでもないように言い放った。

 

「あの方には要らないのだよ。あの方の観察眼は凄まじいものでね、こちらの一言にどれだけの思いが詰まっているのかを察知するんだ。それこそ一言喋っただけで、頭の中を洗われているようにね」

 

 デミウルゴスは本心でそう思っているのであるが、AUOの本質、金田哲郎の意識ではそんなことはできない。本能、ギルガメッシュのままであればそれこそ分ったであろうが、これは些かに過大評価が過ぎる。

 しかし、それに同意するようにコキュートスが、

 

「マサシクソノトオリダ。何ヲ口ニシタトコロデアノ方ハ本心カドウカ見通シタコトダロウ」

 

 コキュートスがこれまた過大評価。

 しかし、セバスにはそこまではわからない。いや、わからないのが普通なのだ。わかる奴など狂信か精神異常かのどちらかだ。

 しかし、腐肉の塊、ヴァンパイアのシャルティアも言葉を重ねる。

 

「あの方は、神でさえもできないこと片手でやってのけるお方でありんす。わらわたち臣下の頭の中で考えていることくらい容易く読み取っていることでありんしょう」

 

 王としての威厳、というよりもロールでやってきたことがここで災いしたのか、異常な過大評価をいただくAUO様。

 その言葉に興奮するようにアウラとマーレが、

 

「あんたみたいなやつに同意するの癪だけど全くだよ。それにあの方の前にいるとあたしがどれだけちっぽけな存在か思い知らされるよ」

 

「お姉ちゃん、それは当たり前だよ。英雄王様と僕たちじゃ次元が違うからね」

 

 アウラは気が弱いマーレが、あたしにここまで断言して見せるということに、どれだけの尊敬を持っているのか訊きたいが、アウラは昔の事件のせいで、AUOが怖くてあまり近づきたくはないのだ。しかし、その感情も気づいた上であたしも臣下にしてくれているのだとしたら、素晴らしく寛大な方ではないか。

 アウラの頭の中では思考誘導をされているかのように、そう考えるようになってしまっていた。本人がただそこまでわかっているわけではないのだ、とは考えずに。

 アルベドはAUOの評価を聞きながら、上機嫌で立ち上がり、

 

「だけど、それだけじゃないわ!私たちにはそんな至高の方が御二方もいらっしゃるのよ!」

 

 アルベドはモモンガ様も忘れてはいけないと言うが、それに待った、をかけるものがいた。

 

「アルベド、少し待ちたまえ」

 

 デミウルゴスだ。

 デミウルゴスは一度眼鏡を拭き直す。

 そして終わったところで言葉を紡ぐ。

 その言葉に守護者は騒然となる。

 

「モモンガ様の叡智はAUO様をもってしても計り知れないらしいんだよ」

 

 この言葉を受けた守護者達は皆一様に何も言えなくなる。

 頭の中を読む以上だと!となれば、未来を読めるのか!

 そういった思いがグルグルと回り加速する。

 

「AUO様が言うには、モモンガ様は例え私たちが失敗しても、それを一手で最善の一手に変えられるくらいのお方らしい」

 

 なんだと!つまりはモモンガ様はこのナザリックが危機に陥ってもたった一手で危機を乗り切り、それでいてその危機を消滅させるのか!

 皆がそんなありえないことを考える。もちろんここまでになるとはAUOも思っていない。

 さらに思い出したマーレが追い打ちをかける。

 

「そう言えば、AUO様は『やってやれないことなどない!』って言ってました」

 

 なんだと!AUO様がそうであるならモモンガ様は、やらなくても出来てるのか!

 やらなくても出来てるってなんだ、そんなツッコミはこの中にいて誰もしない。この場にいる皆が至高の方々なら可能だと考えているのだ。

 ここでアウラは昔の苦々しい思い出を掘り返しながらも言う。

 

「昔、AUO様が願いを叶える願望機、聖杯をウルベルト様と作ったとか聞いたことがあるよ」

 

 なんだって!願いを叶える、まさに神の領域じゃないか!いや、そんなメンバーを束ねていたモモンガ様は、願わなくても望んだことができるんじゃないのか!

 ここまでくると本当に狂信である。更にこの話は、シャルティアとデミウルゴスも知っていたために、より信憑性を増す。

 最後に皆が思い出す、口には出していないがこの場の全員が一斉に一緒のことを思い出したのだ。

 

 ーーーAUO様って神も雑種って言ってたよね?

 

 そうだ!そうだとしたら、AUO様はなんだ?神の王か?いや、雑種の王ではないだろう。しかし、そのAUO様を越すというモモンガ様は一体……‼︎

 

 皆が戦慄した。

 

 かくしてアインズ・ウール・ゴウンはAUOの愉悦のために盛大な勘違いを迎えることとなった。




勘違いは原作からなのでタグにはしないです。ただ、守護者の反応が一々勘ぐって、リアクションがオーバーになるだけです。
はい、AUOさんの二つ目の世界級アイテムは予想通りだったでしょうか?
最後のアイテムはあれです。名前が似ているやつですがあれですね。偽物嫌いのくせに偽物持ってるってことです。

ステータスだけ。

コキュートス
筋力A
耐久B
敏捷B
魔力C
幸運B
宝具B-

デミウルゴス
筋力C
耐久B
敏捷B
魔力B
幸運A
宝具C

こんな感じです

逆にオバロ風のAUOのステータスは
 基本ステータス   スキル慢心発動中
HP     80   →50
MP     90   →60
物理攻撃  60   →30
物理防御 60   →30
素早さ 60   →30
魔法攻撃 70   →40
魔法防御 70   →40
総合耐性 90   →60
特殊 100over →100over

こんなに高いのもサーヴァントのクラスによるところが大きいですが、基本的には弱体化のスキル慢心が常にかかっているのでステは軒並み30減少しています。デミウルゴスのステでやっても、特殊無しならAUO様は敗北します。スキルと意識のミックスアップですね!


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騎士がこれとは…

話が若干繋がらないかもしれないですが、あまり気にしないでいただけると助かります。
しかし今思い至りましたが、最強キャラって一人旅にするとか考えないとオーバーロードの二次小説は難しいですね。
今回は三人称です。三人称の方が良いようでしたら、今後も三人称でいこうかと思うのですがね
最後に今回は短めです。


 騎士がこれとは…

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが【王の酒】というものだ」

 

 部屋の一室でジャージ姿の男が骸骨に向かって喋っていた。

 手には自身の用意したワインを注ぎながら。

 

「AUOさん。俺は食べ物とか飲み物をとると骸骨の隙間から抜けちゃうんですよ」

 

「ふん、つまらんな」

 

 男はそんな乾いた反応をする骸骨にこれまた乾いた反応を返す。

 骸骨は一生懸命、鏡を操作している

 

「おっ、祭ですかね?」

 

 骸骨は自分が写っているはずの鏡を見て言うが、これはマジックアイテムで、自分の顔ではなく周囲の地形などを調べられるアイテムなのだ。

 男はワインを楽しみながら、その鏡の中を見て睨んだと思ったら、骸骨が次の場面を鏡に映すと同時に消える。

 

 ーーーーーーーー

 

 駆け抜ける銀閃に音は無く、風も置き去り、五感で捉えられるのは月の光を反射した刀身の煌めき。

 そしてその銀閃の正体は刀。装飾は一切なく、禍々しさも流麗さもない。闇夜に紛れては月の光を反射して煌めいた光だけが唯一の装飾といえるだろうか。

 刀が向かう先には鉄の塊。いや、鉄の塊は動いている。ならば、生物なのだろう。鉄の塊は命を乞うている。ならば、動物なのだろう。

 鉄の塊は命を乞うが、それを見ている男にはそんなものに価値はない。

 

「雑種」

 

 鉄の塊には許される道理などなかったのだ。命を乞うた時には、宙を翔ける一筋の銀閃があり、背を向けて逃げ出した時には、鉄の塊は壊れたマリオネットのように崩れ落ちていた。

 男はその双眸に何を映しているのだろうか?その紅蓮の虹彩は憤怒のようとも、情熱のようともとれる輝きを放っていた。

 …いや、男を知るものであれば、その目には何も写っていないと答えるだろう。

 男は、夜の帳も落ちたこの刻に、真昼の如き燦然と輝く黄金の鎧を見に纏い、それに負けない金色の髪を夜風に靡かせ、太陽のごとき赤い双眸は自身の放った一本の真剣に向けられていた。

 男の偉容は、まさしく王としか形容できず、一目見れば目を離さぬその容貌も、王として当たり前であるかのように受ける。

 男が手を真剣に翳すと、その真剣は宙に浮き、次いで高速で男の身元まで飛び帰り、男の肩の上で滑空する。

 真剣は空間に波打たせたかと思うと、今度は何も空間に引き摺り込まれていくかのように、その刀身を消していく。

 その場には恒星のように輝く鎧を纏った男が圧倒的な存在感を示しているだけで、後には何も残ってはいない。

 僅かばかりの静謐も、男が視線を歪む空間に向けると霧散する。

 

「AUOさん、終わりましたか?」

 

 現れた者は、この場に王として現界していた男、AUOに声をかける。

 声をかけるからには生物なのではあろう。しかし、漆黒を封じ込めたかのようなローブをその偉丈夫に纏い、怪異という例えが様になりそうな仮面を顔に貼り付け、絶大な威風をこの場に撒き散らすこの生物には、他の生きとし生けるものものとは一線を画すものがあった。

 故に、AUOは口元を緩めその者の言葉に返答する。

 

「モモンガか。雑種の掃討は完了した」

 

「そうですか。

 アルベド、死の騎士(デス・ナイト)の首尾はどうだ?」

 

 偉丈夫、モモンガと呼ばれた男は、後ろに控える全身鎧に身を包んだ者、アルベドに声をかける。

 アルベドはモモンガの言葉に一歩前に出て、報告する。

 

「アインズ様、この村を襲っていた騎士どもの殲滅、鎮圧は完了したようです」

 

 モモンガは本来、アルベドに聞かなくても思念でわかるはずなのだが、うっかりアルベドに問いを投げかけている。

 アルベドはモモンガが試しているのだと思い、しっかりと感知をした上で間断なく答える。

 しかし、この言葉を受けて、AUOは眉をひそめモモンガに尋ねる。

 

「モモンガよ、アインズとは改名をしたのか?」

 

「え、ええ。悪かったでしょうか?駄目だと言うのなら戻しますけど」

 

 そのモモンガ、いやアインズの言葉にAUOは間髪も入れずに少し頬を緩めながら自分の考えを言う。

 

「慢心せずして何が王か、だ。貴様も王になることを望んだのだ。誰に何を言われようとも気にする必要はないのだ」

 

「AUOさん……」

 

 アインズはAUOのその一言は単に自分の意見に肯定的な意見であると考えた。

 しかし、この場にいるAUO、アルベドの両名はそんなわけではなく、守護者達が忠誠を誓ったアインズ・ウール・ゴウンになるといったアインズに感心しているのだった。

 その喜びも束の間、アインズはこれからの方針を決定する。

 

「では、死の騎士(デス・ナイト)が鎮圧した場所に行きましょう。多分、そこにこの村の人間も集まっているでしょうから」

 

「はっ!」

 

 その言葉にAUOが頷き、アルベドがアインズの言葉に同意を示すと、アインズは魔法の名前を唱える。

 

「〈飛行(フライ)〉」

 

 アインズは重力を無視したかのように浮き上がり、それに次ぐようにアルベドも飛行する。

 それを見ていたAUOは手をかざし、先程の真剣の時と同じく空間に波を発生させる。

 空間の水面から姿を現したのは、黄金とエメラルドで作られた黄金帆船。大きく開かれた飛行船の翼の周りには、光球が浮かび、そのどれもが確かなエネルギーを感じさせ、あたかも星の意思であるかのような光輝。絢爛たるはまさしく之。

 現れた輝舟の名は、ヴィマーナ。一言で言うなら、戦略兵器。水銀を燃料とする周りの光球によって太陽エネルギーを発生させ駆動するが、水銀の用意などは必要ないので、言い換えれば永久機関の殲滅兵器である。

 しかし、今回の用途は飛行であるので、AUOはヴィマーナに飛び乗り、ゆっくりと飛行しモモンガの横で滑空する。

 

「では行こうではないか、モモンガ」

 

 かなり速い速度で宙を駆り、鎮圧の完了したところに飛ぶ。

 

 数秒でAUOたちも目視できる所まで来たのだが、地上にいるものたちは皆同じ姿勢で平伏している。

 アインズは直立して動かない死の騎士(デス・ナイト)の側にいる、肩で息をしている動くことすらままならない生き残りの騎士の数を数える。数にして4。

 

「AUOさん、生き残りの数が多いですね。どうしましょうか?殺しますか?」

 

「雑種ごときに手を汚すのは吐き気がするが、あやつらの蛮行は裁かねば、同じようにつけ上がる雑種が出てきてはかなわん。」

 

「AUO様の手は煩わせません。私が雑種の首をはねましょう」

 

 悪辣な会話をしているがここにいる者たちは、既に人間などという下等な存在のことは、自分たちの利から捨てている。

 しかし、アインズは一応この世界の知識を得たいと思っているので、村人の心象が悪くならないように配慮する。

 

「アルベドよ、私があいつらを一時的に逃がすから、お前はあいつらが見えなくなったところで切り捨てろ。可能な限り、生き残らせるやつに周りの連中が死んだことを悟らせるな」

 

 ーーー帰ってみたら、一緒に逃げていた奴らが消えている。一生のトラウマだろうなぁ。

 

「はっ!」

 

 ーーーアインズ様、つまりあれですね!あのいつかAUO様が仰っていた国土錬成陣!つまり、この辺の国を使って賢者の石をつくるんですね!

 

 アルベドはアインズの言葉を、どう持っていけばそうなるのか訪ねたくなるような曲解をして聞き取っていた。

 それに国土錬成陣はそんなものではないのに、殺せばなんとかなるという考えはアルベドの余程の狂乱ぶり故だろう。

 アルベドは元から漆黒の全身鎧だったので、そのまま闇に紛れるように消えていった。まあ、AUOの乗るヴィマーナの光で一人がどこかに去っていくのを、きっかりと村人に目撃されていたが。

 

 AUOとモモンガの二人は着陸すると同時に願ってもいない歓迎を受ける。

 

「神よ…!」

「我らを救いたもうた、神よ!感謝します!」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「うわあああああ!ありがどおおおお!」

 

 神と讃えるのが多いのだが、なんとも分からないといった表情をするAUOとなんじゃこりゃと驚くモモンガ。

 しかし、AUOは我慢ならなかった。

 

「うるさいぞ!雑種が!我を神などと一緒にするでないわ!」

 

 AUOがそう言うとピタリと讃える声は止み、呆然としている騎士たちは急に取り繕うように跪く。

 それを見たアインズは自己紹介をする。

 

「はじめまして、諸君。私はアインズ・ウール・ゴウンという」

 

 それには誰もが唖然としている。

 

「騎士たち諸君には生きて帰ってもらう。そして諸君の上、飼い主に伝えろ」

 

 アインズは騎士の一人の元まで足を使わずに、ふわふわと移動する。

 その姿は神と敬った存在にしてみたら至極当然で、これが神!と村の人々は思っていた。

 それからは騎士の兜を剥いで、仮面越しではあるがアインズは目を合わせた。

 

「この辺りで騒ぐな。騒ぐような時は最後、消滅するまで貴様らの悪夢は終わらない」

 

 ーーー本当に止めとかないと、AUOさんがブチ切れちゃうぞ?

 

 騎士は震える体で何度も首を縦に降る。

 それを見ながら、AUOは蔑みの目で眺めながら、少しばかり笑っていた。

 

「行け。貴様らの反応が楽しみだ」

 

 ーーーさあ、誰が生き残るかな?

 

 騎士たちは転がるように必死に逃げていく。

 AUOはモモンガの様子を見ながら考えていた。

 

 ーーーモモンガさん、あんたいつの間にそんなクズになったんだ?

 

 元はと言えばAUOが騎士の間引きに賛成しなければよかったのに見事な手のひら返しである。

 モモンガは死の騎士(デス・ナイト)と何かを念話した後に、村人に向き直る。

 

「さて、君達はもう安全だ。安心してほしい」

 

「神よ!感謝します…!」

 

 モモンガはこんな反応しかしてくれない村人に若干の憤りを感じながら、話を進めようと言葉を続ける。

 

「この村が襲われていたのが見えたのでね。助けに来たのだ」

 

「雑種ふぜいを助けることもなかったがな」

 

 ーーーあんたは何言っての?AUOさん、ここでそんなこと言ったら話が進まないじゃないですか!

 

 モモンガはこの言葉を帳消しにしたいが出来ないことと、この人のことだから、どうせ何かを言ってもまたこういう風に口を挟んでくるだろうと思い、次の一手を打つ。

 

「ここに来る前に姉妹を見つけてね。連れてくるから、後で話し合いの場を設けてもらってもいいかな?」

 

 逃げの一手だった。




時間が夜になっているのはカッコつけたかったからです。
マーレとデミウルゴスとのちょいちょいがなかったのは、忠誠の儀の直後だったからと考えてください。


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