狩人様は神喰いに。 (zakuzaku)
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本編
狩人を終えて


ふと思いついた内容を書きたくなって書いてしまいました。

期待できる話になるかどうかは分かりませんが、頑張っていきます!


―――ものは言い様、という言葉がある。まさしくそれが俺に当てはまってしまったわけだ。狩りを続けることがいつかは俺の目的に重なる。その意味をやっと理解できた。

 

 

「□□□□□□ーーーーーーーッッッッ!!!」

 

 

不服か?そうだろうな、欲しい力が目の前にあるのにそれを得られないなんて、上位者のお前からしたら歯痒いに決まってるだろうな。

 

 

「#%コ*&ロ:*:/ス#&:*<#!!!!」

 

 

……ああ、今じゃ何となくお前らの言葉も分かるよ。白痴の蜘蛛と乳母の血を啜ったんだから当然か……まあ、既にどうでもいいことだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どの道、狩るのは変わらん」

 

 

 

 

その日を境に、獣狩りの夜は幕を閉じる。

そして、物語は幼年期へ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

どこだここ。それが最初の印象だ。

上位者である月の化け物を狩り、俺は確かにあいつの力をも奪った。そして、俺自身が上位者になる道を歩んだはずだ。なのにどうだろう。目の前に広がるのは、見たこともない景色。そして上位者へと進化すると思っていた体は人間の姿のまま。

 

 

「えーと……どういった状況だこれは」

 

 

目の前の景色というのは……端的に言えば「荒野」だった。何も存在しない大地がただ広がるだけ。俺の知っているヤーナムにこんな場所はなかった。

 

 

――全て、長い夜の夢だった。

 

ゲールマンの言った通りすべて夢だったのか?この荒れ果てた世界こそが、俺の戻るべき現実だったのか?いや、そんなはずはない。それを証拠づけるように、俺は武器を握りしめたままだ。レイテルパラッシュと銃槍、そしてシモンの弓剣までもが俺の倒れていた場所にあった。俺は確かに、あの悪夢の中で獣たちを屠ってきたのだ。本当に夢のはずが――

 

 

「グゥルルル……」

 

「!?」

 

 

聞き覚えのあるような唸り声が聞こえた。振り返ると、予想していた事実を半分ほど裏切ることとなった。

 

 

「獣……か?いや、それにしては――」

 

 

異形。いや、今までに見てきた獣でも異形なものは多かった。とすれば、目の前にいるのは上位者の類か。

 

 

「グゥアッ!!」

 

「……チィッ!」

 

 

考える時間を与えてはくれないようだ。それ(・ ・)は、俺に噛みつくように跳びかかってきた。素直に、それを受け入れる訳もなく反射的に避ける。改めて近場でそれ(・ ・)を凝視してみると、尾がまるで(オーガ)の顔面を描いたような模様をしていることに気づいた。やはり、上位者なのかと考えながらも、ひとまず攻勢に出てみることにする。

 

 

パァンッ!!

 

 

まずは遠距離から攻める。レイテルパラッシュを変形させ、銃を撃つ。弾丸は胴体に着弾したようだが、効果は薄いように見える。

 

 

「血の効果は薄いか……なら接撃の方で攻撃を……ッ!?」

 

 

俺は少し油断していたのかもしれない。とはいえ、自分の判断が間違いである事実に変わりはない。獣狩りを始めた当初から嫌というほど経験してきたはずなのに、今となって同じ過ちを繰り返すとは……。

 

 

―――どうして、敵が一体しかいないと思ったのか。

 

 

銃撃の発砲音を聴きつけたのか、同じ容姿をした獣どもが集まってきたのだ。しかも、俺の周囲を取り囲むかのようにしてだ。

 

 

「これはちょっとマズいな」

 

 

とにかく突破口を開かなければ確実に死が待っている。恐らく夢から解放されている今の状況では、狩人の夢に帰れるかどうかも分からない。そもそも、殺した月の化け物が夢を作り出している主だったと考えると、既に夢自体が消滅している可能性だってある。

 

 

「どの道、また夢を見ることはないと考えていい……ガスコイン神父やアイリーンのように、死んだらそこで終わりだ」

 

 

今まで出会った狩人たちを脳裏に浮かべる。各々の最期の瞬間は違えど、無念だったに違いない。だが、彼らは自分の生と全力で向き合い、決して投げ出さなかった。異端と言えど、俺だって狩人の端くれだ。ここで自分の命を投げ捨てるような真似をするつもりはない。

 

 

とにかく極力接近は避ける。攻撃を交わしつつ、何とか距離をとったら全速力で逃げる。そうしよう、いやそうすべきなのだろう。

 

 

「グゥルアァッ!!!」

 

そう思っているうちに近づいてきた一匹を斬りつけながら回避する。ダメージが入っているようには見えないが、傷を負わせることは可能なようだ。我ながら集団戦闘は苦手なものだが、とにかく逃げ腰だけはあの悪夢で培ってきた。まあ、それでも数え切れないほどの死を体験したが。なんて思いながらも斬りつけたときに顔に付いた返り血を舌で舐め取る。

 

 

「……!」

 

 

やはり俺は狩人なのだろう。

 

 

「ハハッ……最高に匂い立つじゃあないか」

 

 

こんな絶望的な状況でも、少量の血で不安など吹き飛んでしまうのだから本当に救い様が無い。正真正銘、血に酔った狩人のままだ。

 

 

「そうだよなぁ……例え死んだとしても――」

 

 

逃げるのは止めよう。獣を狩るのが俺の仕事のはずだろう。

 

 

再度敵が突っ込んでくるのが見える。だが避けはしない。

 

 

「ガァッ!!?ガ、ゲッ……」

 

「俺を喰いたいんだろう?どうした、腕の一本ぐらい噛み千切って見せろ」

 

 

他者からしたら気が狂ったようにしか見えないだろう。得物を自分の腕ごと(・ ・ ・ ・ ・ ・)化け物の口の中に突っ込むなんて。だが、己の中の血の意志が更なる血を求めているのだ。どんな強靭な理性でもこれには逆らえない。

 

 

「――さあ、そろそろ俺にもお前の血の味を教えてくれ」

 

 

刹那、化け物の体躯が宙を舞った。引き剥す要領で蹴り飛ばしたのだ。それを見届けることなく、自らの腕に鼻を押し付ける。

 

 

――堪らない。こんな衝動を駆り立てるほどの血の香りは初めてだ……。

 

 

眩暈を感じる。目の焦点がずれ、よろめく体を覚束ない脚が弱々しく支えた。

 

 

「もっとだ……もっと欲しい。俺に血を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺の意識は完全に途切れた。いや、意識というより躰から自我と理性という存在が完全に失われたと言ったほうがいいのか。どの道、この先俺が語れることは何も無い――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『荒ぶる神々』の『新たな神話』、そして……『血の意志』……」

 

 

黒装束を身に纏ったような女性が、話しかけてくる。その何かを祈るような姿にはどことなく既視感を覚える。そう、その姿はまるで――。

 

 

「その序章は、貴方から始めることにしましょう……」

 

 

あの夢の「人形」の様だった――。

 




頑張って続けます!


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狩人から神喰いへ

休みなのでついつい夜中まで書いてしまった……。
想像力が止まらない。


「……どういった状況だこれは?」

 

 

前にも同じことを言った気がする。というか言った。しかもごく最近……いや、もっと前にも言ったな。確かあれは、ヨセフカの診療所で目覚めたときだったか。

 

 

「で、なんでまた診察台みたいなやつの上で目を覚ましたんだか……」

 

「気を楽になさい」

 

「あ?」

 

 

どこからか声が聞こえた。というか反響したように聞こえる。そのためどこからの声かわからない。そう思い周りを見渡している俺を尻目に、その声は話を勝手に続けた。

 

 

「貴方は既に選ばれているのです。だから、何も不安がる必要はありませんよ」

 

 

……なんのことだか意味だかさっぱり分からない。ちょっと記憶を辿ってみるとしよう。たしか俺は荒野で目覚めて……。

 

 

「今から貴方には、対アラガミ討伐部隊「ゴッドイーター」の適合試験を受けて頂きます。さあ、右手を装置に置いてください」

 

 

何?右手?あぁ、はいはい。で、どこまで思い出した?あー……そうだ、俺は変な獣どもに襲われたんだったな。

 

 

 

「そう、それでいいのです。全て、身を任せなさい。貴方は既に……「荒ぶる神々」に選ばれているのだから……フフッ」

 

 

あぁ、そうか。あいつらと戦って、血をなめたら意識を失ったんだ。いや、あそこまで刺激の強い血は初めてだったな……。って、何故腕が固定されてる?

 

 

 

 

 

 

「貴方に祝福があらんことを……」

 

「ッッァアア!?」

 

 

その声を聴いた刹那、俺の腕に激痛が走った。

 

 

いでででででで!!!!??なんだコレ痛ぇ!!?今まで味わってきた痛みで3本目のへその緒、じゃなくて3本の指に入るほどに!!まるで発狂と劇毒がいっぺんに発症した3割増しぐらいにはヤバい。ってんなこと言ってる場合じゃ……ッッァアア!!つまで続くよこの痛みぃぃぃぃッッッッッ!!!!??

 

 

そんなこと思いながら、腕を抑える。だが決して声は出さない。昔の経験上痛みで叫びまくってたら周りから獣がさらに寄ってきてミンチよりひどい死に方をしたことがあった。それ以来俺は、決して声を出して痛がらないようにしているのだ。とはいえ、今回の痛みも中々にキツイ。流石に無言を貫くのは難しく、うめき声が少し漏れた。

 

 

「……静か、だな。あの痛みを経験して叫ばなかった者などいないと聞くが?」

 

「ええ……やはり、彼は少し『特別』のようね……フフッ」

 

 

そう話す二人組のことなどいざ知らず。俺は腕の痛みを抑えるために呼吸法と脳内計算すら始めていた。

 

 

4つ数える息を吸う、4つ数える息を吐く……1000-7=993、993-7=986……。

よし、だいぶ落ち着いてきた。なんとか凌いだらしい。とにかくこの上から降りよう。何されるか分かったもんじゃない。

 

 

そう思って、降りようとした瞬間。俺は無意識に手に持ってるそれを見て、数秒固まった。

 

 

「え……なんだ……コレ」

 

 

握られていたのは……大剣と言うべきか。身の丈にもなりそうな剣、ルドウイークの聖剣ほどはある。だが、形状が少し異質だ。柄の近くには細長い銃のようなものが付いており、今まで愛用してきたレイテルパラッシュや銃槍を彷彿とさせた。

 

 

「おめでとう。これであなたは神を喰らう者『ゴッドイーター』になりました」

 

God Eater(神を喰らう者)...?」

 

 

……いったいそれは何だ?いつの間にそんな大それたものになったんだ俺は?

 

 

「……すまないが、先ほどから話が読めない。俺はどうしてここにいる、アンタ連れてきたのか?」

 

 

とりあえず、得体のしれない声に問いかけてみることにした。それに対して、後ろの男は目を丸くした。

 

 

「ラケル博士……まさか同意を得ないで、彼に適合試験を施したのか?」

 

「フフッ……同意はしていたわ。彼の意志ではなく……彼の『血の意志』がそう望んだのよ。だから、私はそれに応えた……いけないかしら?」

 

「仮にそうだったとしても、彼は――」

 

「貴方は否定するかもしれないけど、どの道……あの状態ではオラクル細胞を投与しなければ死んでいたわ。命を救った代償が……ゴッドイーターとなることなら、寧ろ感謝されるべきだと思うのだけれど」

 

「……!」

 

 

男は呆れた。全くこの人は本当に自分の考えは曲げない。そして、狡猾でもある。ひどい言い方のようだが、現にそれを行動に示した。そして、今も――。

 

 

「……(都合のいい部分だけマイクをオンにしていたか)」

 

 

 

 

 

 

 

その会話の内、俺が聞こえた内容がこうだった。

 

 

「……『血の意志』がそう望んだのよ。私はそれに応えた……いけないかしら?」

 

「……何?」

 

「貴方は……あの状態ではオラクル細胞を投与しなければ死んでいたわ。命を救った代償が……ゴッドイーターとなることなら、寧ろ感謝されるべきだと思うのだけれど」

 

「……」

 

 

俺は黙ってその声が示す意味を脳内で模索した。断片的に理解できる言葉から意味を抽出し俺が理解しえたこと……それは「死にそうになってたところを声の主から治療を受け、一命をとりとめた」という事実。「オラクル細胞」……と言ったか。恐らく、俺の知る「血の医療」のような何かを体に入れる治療なのだろう。得体のしれないものが体に入れられるのは二度目だが、それで命が助かった手前文句は言えないだろう。

 

 

「相手がそんな恩人だったとは知らず、無礼を働いてしまった。申し訳ない」

 

 

とりあえず、謝罪はしておく。狩人にだって礼儀は存在する。アンナリーゼ女王に一度は使えた身だ。最低限の儀礼作法は心得ているつもりだ。

 

 

「フフッ……気にしなくていいのよ。私は、迷える貴方に道を示すためにいるのだから。不安に思うかもしれませんが……今は私の言葉を信じて、ゴッドイーターとしての役目を果たしなさい」

 

「……了解した。貴女の言葉を信じよう」

 

 

――死、目覚め、助言。

 

どうしようもない既視感に襲われる。ただ、経験則から言えることは、その声の主はこの世界で俺の助言者となる人物なのだろうということ。状況から見て彼女の指示に従って今後は動いた方が良さそうだ。そう決意を固め、俺は再度自分の持つ武器を振るう。

 

 

「まずは、体力の回復に努めなさい……貴方には……期待していますよ」

 

 

 

 

 

 

――この瞬間から、狩人「Adolphus Djanogly(アドルファス ジャノグリー)」は「神を喰らう者」……

 

 

 

 

 

 

ゴッドイーターとして、新たなる物語を歩むこととなった。

 

 

 




さて、今後どうなっていくんでしょうか……。
私もどうなるか楽しみです。


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夢と庭園

作品に共通点が多すぎる……。


全く驚いた。この世界の文明の発達には目を見開いてばかりだ。

 

 

「通貨を入れてボタンを押すだけで欲しいものが出る装置、絵が独りでに動く装置……医療教会なんて目じゃないほどの文明だな」

 

 

1人で勝手に呟いて、ため息を吐く。恐らく、ヤーナムの街がある時代より遥か未来に俺は来てしまったのだろう。そう思うと、今後何があるのかと気持ちが昂る半面、ついていけるのかという不安も生じる。俺は新しいものや変わったものに比較的興味が湧く方ではあるので大丈夫だとは思う。うん、そう思いたい。

 

 

「とにかく、受付嬢という人に会えと周りには言われたが……」

 

 

この建物には管理人というものが存在し、見学中ちらほら見かけた。何度か話しかけたのだが、少しよそよそしい感じだった。やはりどこの世界もよそ者毛嫌いされるもんなのかねぇ。

それはともかく、言われた通り受付嬢なる人物を探し建物内を歩き回ること数刻、ようやくその姿が見えた。

 

 

「すまない、周りの管理人たちから聞いたのだが……貴女が受付嬢か?」

 

「はい、お待ちしておりました。ジャノグリーさん、ですね?私はここ、フライアでオペレーターを勤めているフランと申します。貴方の事はラケル博士から伺っております」

 

 

どうやら間違いないようだ。早速聞きたいことを聞いてみるとする。

 

 

「あぁ、ありがとう。何分ここに来たばかりで勝手が分からなくて困っていたんだ。早速なんだが、俺は何をしたらいいの教えてもらえるだろうか?」

 

「ええ、それもオペレーターの務めですのでご安心ください。そうですね、とりあえずゴッドイーターの役割からお話いたしましょうか――」

 

 

それから数十分、彼女から様々な話を聞いた。特に驚いたのは、ゴッドイーターの話についてだ。俺の担うこととなった、ゴッドイーターという仕事は、どうやら外界にいる「アラガミ」という化け物を掃討することが目的らしい。ちなみに、アラガミという意味は「荒ぶる神々(Turbulent Gods)」の略称らしい。どう略したんだ。

 

 

やることは今までとほとんど変わらない……か。全く、運命とは不思議なものだ。

 

 

ひとまず一通りの説明を受け、最後に現在俺は待機中なので、この建物「フライア」を見て回ることを勧められた。

 

 

「なるほど、色々と教えてくれて助かった。感謝する。それと、前は言いづらいだろうからアドルで構わない」

 

「了解しました……クスッ」

 

「む……なにかおかしなことでも言ったか?」

 

「あっ、いえ、すみません。少し思っていた印象が違ったもので……」

 

 

どういうことだろうか。印象……といっても彼女と俺は初対面だし、印象付けれる事と言えば俺の容姿ぐらいだが……。

 

 

「その……貴方が発見された時の状況が凄まじかったと聞いていまして。もう少し怖いイメージだったのですけど、話してみたら割と温厚な方だったのがちょっと可笑しくて――」

 

「……凄まじい?」

 

 

一体どんな状況で見つかったんだ俺は。というかその話を聞いて、他の人間がよそよそしいのも合点が行った。なるほど、俺は怖がられていたんだな。よくよく思い返してみれば、迫害……というよりか畏怖という感じだった気もする。

 

 

「ひとつ聞きたいんだが、俺はどんな状況で発見されたんだ?何分、そのときの俺は意識がなくてな……教えてもらえると助かるんだが」

 

「申し訳ありません……そこまで詳しくは聞いてませんので私からは何とも……あ、そうだ」

 

 

思いついたように彼女、フランは話してくれた。

 

 

「ジュリウス隊長なら知っていると思います。貴方の第一発見者ですから、恐らく」

 

「ジュリウス隊長?」

 

「ああ、ご存じないですか?アドルさんが今後配属される部隊『ブラッド』の隊長をなさっている方ですよ。よく別フロアの『庭園』にいらっしゃいますからそこに行ってみてはどうですか?」

 

「うむ、なるほど」

 

 

ブラッド(blood)」……か。

本当に、数奇な巡り合わせだな。

 

 

その隊長より部隊名の方に意識が行ったのはともかく、次の目的地は決まった。とりあえず「庭園」とやらに行ってみることにする。改めて、フランに礼を言って俺はその場を去った。そして、庭園へと向かうべく足を運んだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、一体」

 

 

どういうことだ。その言葉は声になることはなく、喉元まで来て消えた。

 

地面全てが草花に彩られ、奥には大樹が……。

どこかで見たような光景……そう、まるであの場所(・ ・ ・ ・)の様じゃないか。白い花が揺れ……墓石で囲まれたあの場所を……。

 

 

「ここは、本当に――」

 

 

その言葉の続きは、思いもよらない場所から紡がれることとなる。

 

 

「ああ、本当に美しいよな」

 

「……?」

 

 

自分が言いたかったこととは違う内容。声の方向へと意識を飛ばすと、そこには絵に描いたような美少年がいた。

 

 

「……貴方が、ジュリウス隊長?」

 

 

俺は庭園に対する動揺が消えないままそう返した。思えば声は震えていたかもしれない。

 

 

「ああ、俺はジュリウス・ヴィスコンティ。フェンリル極致化技術開発局『ブラッド』の隊長を務めている。緊張しているようだが……あまり堅くならなくていい。これからよろしく頼む、アドルファス・ジャノグリー」

 

「あ、ああ、こちらこそよろしく。後、アドルでいい」

 

「うむ、分かった。立ち話も難だ、あそこに座るとしよう」

 

 

ジュリウスは大樹の下を指し、それに従って俺も移動した。少し頭の整理が付いたところで、俺は本来の目的を思い出した。

 

 

「ジュリウス隊長、ひとつ伺いたいんだが……」

 

「ん、なんだ?」

 

「その、フランさんから隊長が俺の第一発見者と聞いたんだが……発見時、俺はどんな状態だったんだ?」

 

 

その話をすると、ジュリウスは眉をひそめた。少し不思議そうな顔もしたが、正直に答えてくれた。

 

 

「……発見当時のアドルは、意識不明の重体だった。むしろ生きているのが不思議なくらいだった」

 

「……なるほど。他に変わったことは?」

 

 

やはり俺はあの後意識を失っていたようだ。だが、それだけでは周りの人間が持つイメージの説明が付かない。他にも何かあると確信を得つつ俺は、隊長に会話を続けるよう促した。

 

 

「ああ、かなり不可思議な点が一つある……」

 

「……それは?」

 

 

恐る恐る彼の言葉に耳を傾ける。少し険しい表情なのを見る限り、やはり何かしら起こっていたのだろう。

 

 

「アドルが意識不明で倒れていた現場には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……数にして10を超えるアラガミの死体が転がっていた」

 

 

 




書いててしっくりきすぎて逆に怖い。


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未知の食物

平日は流石にあまり時間取れないですね。
書き始めたばっかりですけど平日の更新はあまり期待しないでください。


「今日も訓練か……」

 

「まあ、新人ですから訓練を受けるのは当然かと」

 

 

そりゃそうだが、こうも毎日していると本当に神狩りするのはいつなのかと不安になる。そんなことを受付の前でフランと話しながらため息を吐いた。

 

 

「確かに訓練は重要だが……結局は実戦をしなければ得られないことの方が多いと思うんだがな」

 

「あら、言いますね。従軍経験でもお持ちで?」

 

「いや、そういった訳ではないんだが……」

 

 

狩人だった頃の話をしたところで、信じる人間は誰もいないだろう。まあ、元々「青ざめた血」を体に入れられて人の身ではなくなった俺だが、さらにオラクル細胞を入れられて人間とは程遠く離れた存在になってしまった。言ってしまえばほとんど人外だろう。だが実際はそうでもないらしい。

ゴッドイーターの適合試験のあの日から数日が過ぎた。明けない夜をずっと彷徨い続けた俺にとって、すぐさま次の日が来ることは少し違和感を感じたが、人間らしい生への喜びを噛みしめるいい機会となった。狩人として生きたことを恥じてはいない。だが、同じ人間としてここ「フライア」では自分を扱ってくれる。それは少しくすぐったいのだが同時に嬉しさも感じているのだ。

 

 

「まあ、何を言おうと拾われた命だ。不服はないさ」

 

「……話をはぐらかされた気もしますが?」

 

「おいおい、勘弁しろよ。俺の過去なんて、聞いても何もおもしろいことはないぞ?」

 

 

おもむろに手をフランに向ける。なんのことはない、ただ頭に手を置き、彼女を撫でた。

 

 

「なっ……ちょっ……」

 

「……って、ああ、すまんな。フランは若いからついついオペレーターだってことを忘れちまう」

 

 

こういった癖は直さなきゃだよなぁ。なんというかフライア見てなんとなく思ったが、年齢層が割と低い。21の俺が言うのもって話だけどな。なんて思いながらも手を頭から放す。どうも年下の扱いは慣れてなくて「あの子」基準になってしまうのは流石に頂けない。というか、フランの顔が赤い。そんなに怒らしただろうか。

 

 

「……次、やったら査問会に突き出しますよ?」

 

「ははは……それこそ勘弁だなぁ。悪い悪い」

 

 

今まで相手してきたのなんて獣か上位者、血生臭い狩人ぐらいで、女性と話す経験なんてアイリーンとアリアンナ、後ガスコイン神父の娘さんぐらい……自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 

他にも一応女性候補がいるのだが、悲しくなる一方なのでやめておく。そんなこんなしているとそろそろ任務の時間になり、俺はその場を離れた。今日も今日とて訓練訓練。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな……あれがゴッドイーターと呼ばれる所以か」

 

 

訓練を受け終え早々、俺は知ることの重要性について学んだ。俺は訓練において初めて捕食形態(プレデターフォーム)というものを使った。今までは使用武器の「神機」で近接の訓練や、銃撃の訓練などを行った。訓練の過程で神機の変形も学んだが、銃槍や弓剣など愛用してきた俺にとっては割と慣れ親しんだ感触だったのであまり思うこともなかった。だが、今回は別だ。捕食形態、あれはあれで血に酔う感覚とは別のものを感じる。どちらかと言えば……獣性に満ちた感覚に似ているかもしれない。とにかく、体の底から力が溢れてくるのを感じた。

 

 

「アラガミを喰らい、己が力に変える……狩人とは似て非なるものということか」

 

「狩人って何ー?」

 

「うおっ!?」

 

 

階段を下りてすぐの休憩所で俺は独り、物思いに耽っていた。耽りすぎたせいかいつの間に隣にいる女性の存在に気が付かなかった。

 

 

「……君は」

 

「あ、どうもー。ブラッドの新入生ー……じゃなくて新入りのナナっていいますー!えっと、あなたも新人さんですか?」

 

「あ、ああ、そうだが……」

 

 

きちんとした挨拶もしたい、がその前一つ言わせてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

――なんつーカッコしてんだ。

 

 

いや、この世界では割と普通なのかもしれない……でも、だとしてもだ。コレを服装として認めていいものだろうか。ぶっちゃけほぼ半裸じゃねぇか。

 

 

「そっかー!よかったー、やっぱり同じ待遇の人がいるっていうのは安心するよねぇ~」

 

 

いや、これからゴッドイーターやっていく上でこんな格好したやつと同期なのかと思うと不安しかないんだが。あれか、痴女か?それとも娼婦の類なのか?いや、この若さから考えるとこれも一つのファッションであると考えるのが妥当なのか……。

 

 

「ん?難しそうな顔してるねぇ~……あ!もしかして、年下に敬語使われないのは気にするタイプです?」

 

「い、いや、別にそういう訳じゃない。堅苦しいのは無しでいい」

 

 

少し挙動不審になりながらも、そう返す。結局のところ女性についてほとんど無知の俺が色々考えても仕方ないという結論に至り、この世界では「普通」ということにした。

 

 

「まあ、考え事も大事だけど、せっかくの休憩なんだからエネルギーを充填させないと~……ほらっ、これ上げるから!」

 

「...What's this(なんだコレは)?」

 

 

彼女、ナナから渡されたのは……なんというか、パンなのはわかる。だがパンの間に挟まっているものが分からない。一本の棒に大根とゆで卵……後は、なんだこれ?灰色の生々しい三角形の物体と、吸盤の付いた何か……そして、真ん中に穴の開いた黄金色の細長いもの……。本当に食い物、なのか?

 

 

「それは、お母さん直伝!ナナ特製のおでんパン!すっごく美味しいよ!」

 

「お、おでん……?」

 

 

そう言った刹那、おでんというらしいその物体の挟まったパンをナナは一瞬で平らげてみせた。それを見て一応本当に食べれるものだと認識する。

 

 

「うん!やっぱ任務前にはこれだね~!ささ、アドルもご賞味あれ!」

 

「う、うむ……」

 

 

今までは、獣の血で作られた丸薬やらよくわからん飲み薬を飲んできたんだ。普通に食えるとわかったものなら何を怖がる必要がある……ええい、ままよ!

 

 

思い切って噛り付いた。その味と言うのは……。

 

 

「……美味い」

 

 

想像以上に美味だった。今までは食わずとも生きられた体だった。というか、今もそうなのだろう。そのせいで食には疎かった俺は久方ぶりに触れる食という行為にかなりの感動を覚えた。

 

 

「でしょ~!まだいっぱいあるから、どんどん食べてよ!」

 

 

そう言われ、安心して更に口へと運ぶ。なんというか、おでんに付着している液体がパンに染み込んでいてそれが更なる食欲をそそる。不安に思っていた灰色の物体や吸盤の付いた物体も形容しがたい独特の味や触感を持っており、口の中で広がる新感覚に舌鼓を打った。そして、既に二つも平らげたことに気付いたのは自分の口を手拭いで拭き終えた後だった。

 

 

「……すまない。美味くてつい手が止まらなかった」

 

「ううん、謝らなくてもいいっていいって~!あんなに美味しそうに食べてくれた人はあなたが初めてだよ!えっとー……」

 

「ん、ああ、自己紹介が遅れたな。俺はアドルファス、アドルでいい」

 

「うん!今後ともよろしくね、アドル!」

 

 

今日知り合った俺の同僚は、にこやかに笑うのだった――。

 

 




GE2のキャラたちがおでんパンにつっこんでもおでん自体に何も突っ込まないのんですよねぇ。(公式コミックより)
2074年にはおでんは世界中に広まっていたのだろうか。謎ですねぇ。


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狩人故の過ち

凄まじい眠気を感じる。いや、俺自身の自業自得なんだが。訓練中、あんな事(・ ・ ・ ・)しなければこんなことには……。

 

 

俺、ブラッド訓練生ことアドルファスは自室のベッドで伸びていた。狩人になって以来、睡眠の概念のなかった俺にとって睡魔は軽く状態異常の類いと変わらない。

そもそもなぜこんな状況に陥っているのかと言えば、訓練中にやらかした出来事に起因する。そのやらかしたことによりジュリウスにめちゃくちゃ問いただされ、数時間説明(言い訳)をしていたのだ。その後なんとか誤魔化したというか、有耶無耶にしたというか……ともかく、ジュリウスは諦めてはくれたようだ。

 

 

 

 

 

 

本当にあんな事さえしなければ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数時間前~

 

 

 

「――それでは、今回は今までの訓練で行ってきたことを、状況によって判断し、使い分け、出現するダミーアラガミを倒してもらう」

 

 

鋼鉄の壁が取り囲む訓練場で聞きなれた声が響いた。ジュリウスの声だ。

 

 

要はまとめか。目の前のアラガミを効率よく狩り倒せばいいんだろう。まあ、獣狩りの集団戦とあまり変わらんだろう。

 

 

「それでは始める。訓練開始!」

 

 

声と共に訓練用ダミーアラガミが出現する。オウガテイル種とナイトホロウ種のダミーのようだ。ちなみに訓練以外にも座学も受けたので、多少アラガミの種類についても知っている。

 

 

「……ふぅ」

 

 

まあ、いつも通りやるだけだ。俺は無言のままアラガミたちを見据えた。

 

 

「……!」

 

 

後ろのナイトホロウが目から何かを撃ち出した。それはゆっくりと弧を描き、こちらに向かってくる。

 

 

――ナイトホロウは目からオラクルを発射する攻撃の他に攻撃手段が無く、耐久度も低いため討伐は容易。学んだ情報によれば、優先的にあいつを倒してしまったほうがいいのだろう。手前のオウガテイルは……適当にあしらうとするか。

 

 

次々と撃ちだされるオラクルを、軽いステップで回避しつつオウガテイルへ右翼側から肉薄する。自分の距離ではないと思ったのか、オウガテイルは距離をとるようにサイドステップを踏むようにして離れた。

 

 

「だろうと思ったよ」

 

 

ダミーアラガミと言えど、多少は危機感知能力を持っている。避けるだろうと最初から踏んで近づいたまでだ。

 

 

「本命は……」

 

 

すでに邪魔者はいなくなったナイトホロウまでの道を悠遊と駆け抜け、ショートブレードを突き立てる。情報通りその装甲はやはり脆く、容易に刃が通る。4、5回の突きで体を痙攣させ動かなくなった。刹那、背後に違和感――。

 

 

「所詮は獣か……」

 

 

「ガァッ!!?」

 

 

吹き飛ぶ影をゆっくりと確認しながらそう言った。銃形態へと変形させた神機を肩に乗せ、そのままトリガーを引いたのだ。誤算だったのは思いの外銃声が大きかったこと。おかげで耳が痛い。二度とやらん。

 

 

オウガテイルにとって不幸だったのが、ほとんど零距離で受けた銃撃はショットガンによるものだったこと。発射した弾丸全てを体で受け、簡単には動けそうにない。

 

 

「仕上げだ」

 

 

俺は振り向き、とどめを刺すべく倒れるオウガテイルの元へと疾走した。オウガテイルの元へと迎撃されることなくたどり着き、俺は腕を振り上げた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ズブゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 

俺、ジュリウス・ヴィスコンティは人生の中でも指折りの驚愕を感じていた。現在、モニタールームで部下であるアドルファス・ジャノグリーの訓練を監視している。そのアドルファス・・・アドルが起こした行動に驚愕と懐疑の感情が一度に起こった。彼がアラガミをダウンさせ、とどめを刺そうと接近し近づいたまではよかった。だが、問題は次の行動だ。とどめを刺そうと突き出したのは神機ではなく―――。

 

 

「素手……だと?」

 

 

そう、突き出されたのは彼自身の腕だった。ゴッドイーターと言えど身体能力には限界がある。そんなことをすればオラクル細胞によって生成された強固な皮膚で自分の腕を痛めるだけだろう。だが、ありえないことにアドルの腕はダミーアラガミの胴体にしっかりと突き刺さっていた。

 

 

「一体どうなんているんだ彼の体は……」

 

 

俺は、訓練場にいるアドルに対してそう投げかけた。だがアドルの更なる行動が、俺の驚愕をより大きなものへと変える事となる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……どうしたものか」

 

 

率直に今の感想を述べよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

困った。

 

 

うむ、これ以上に適格の言葉は存在しないだろう。アラガミにとどめを刺そうと思ったのだが、あろうことか癖で「内臓攻撃」しようとしてしまった。流石に、ジュリウスも驚いて唖然としているのか、何も言ってこない。どうするんだ、これ。

 

 

「……まあ、中途半端はいかんな」

 

 

今まで通り、やってきたことをやろう。俺はそう思い、突っ込んだ腕を動かし、オウガテイルの体内をまさぐった。

 

 

「グ……ゲェッ」

 

 

苦痛の声を上げながら、必死に体を動かすオウガテイル。

 

 

「おい、動くな。探しづらいだろ」

 

 

そう言いながら、神機を体に突き刺して動きを止めた。周りから見たら、俺は相当えげつないことをしているのだろう。とはいえ、アラガミの体内構造など知るわけもないので、中々急所になる内臓を見つけることが出来ない。

 

 

「ん~……おっ」

 

 

いままでとは格段に違う感触のものが触れたのを感じた。刹那、俺はそいつを鷲掴み、思いっきり周囲のものを引き千切りながら腕を引き抜いた。

 

 

「そぉい!」

 

 

言わずもがな鮮血が飛び散り、俺の服を赤く染める。普通の人間なら嫌がるものだが、俺は平気だった。寧ろ――。

 

 

「へぇ……アラガミは獣どもよりも景気よく出血するな。こりゃあいい」

 

 

凄まじい血しぶきに若干……いやかなり興奮していた。だが、今は人が見ている。持てる理性を振り絞り血飛沫から目を背けた。本当はもっと見ていたいのだが……。

 

 

「とはいえ……復活する前に早く喰らわねば」

 

 

そう思いつつ、神機を縦にする。そして、柄からオラクル細胞を解放させ、捕食形態へと移行させた。座学で学んだことによればアラガミはコアを摘出しなければ何度でも復活し、そのまま生き続けるらしい。それを防ぐためにも、コアの回収、また破壊は絶対だそうだ。

 

 

何度でも復活と聞くと「隠し街ヤハグル」を思い出す。特殊な鐘を鳴らす女たちにより敵が何度でも蘇るのは鬱陶しい限りだった。

 

 

などと思いながら、捕食形態で動かなくなったオウガテイルを咀嚼し続ける……が、なぜか神機がコアを摘出しない。通常なら数秒、長くても10秒程度で完了するはずだが、神機は咀嚼を続けるばかりだ。「訓練用ダミーアラガミだからコアがないのか」とも考え始めた。そのとき――。

 

 

「ん?あれは……」

 

 

とあるものが目に入った。それは、内臓攻撃時に引き抜いた「モノ」。引き抜いた直後、確認せずその辺に放ったのを憶えている。

 

 

それを見つめて数秒後、俺は事のすべてを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Oh...You were in my side all along...(ずっとそばにあったのかよ……)

 

 

 




本当はロミオ出したかったんですけど、思いがけず二分割。
次回にご期待ください。



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若年の先輩神喰い

めっちゃ更新遅れてすみません。

早くもスランプ到来に加えて、DARK SOULSⅢ発売が重なり、原稿に手がつかない状態でした。

スランプはともかくDARK SOULSは一周目クリアしたので、今後は今回ほど更新が遅れることはないと思います。


「アドル……この後、少し話がしたい。休憩の後、庭園まで来てくれ」

 

 

だと思った。そりゃこうなるわ。

 

 

俺は溜息をついた。まあ、自業自得だ。普通の人からしたら「内臓攻撃」なんて、悍ましい行為そのものだろう。実際にヤーナムの人間からもそれで「気持ちが悪い」とか「人でなし」とか色々迫害されたことがある。

 

 

「とはいえ、なんて説明したものか……」

 

 

冷静になって考えてみれば、あの時は内臓攻撃だけでなく神機で串刺しにして内臓を抉っていた。いよいよ本当に化け物扱いされてもおかしくない。フランとかに知られたらまた、距離を置かれるのかねぇ。

 

 

そう思いながら、ロビーの椅子で頭を抱えていた時の事であった。

 

 

「また考え事ー?」

 

「ん?」

 

 

顔を上げると、ナナがいた。訓練帰りだろうか、少し汗の香りがする。一応注意しておくが俺は変態じゃない。あのガスコイン神父だって盲目を物ともせずに、自分の嗅覚のみで狩りを行っていた。それを見習って、匂いにも気を配っているだけだ。いや、本当に。

 

 

「あぁ、ちょっとな。ナナは訓練帰りか?」

 

「うん、そうだよー……ってなんか口調が重たいね。考え事っていうか悩み事って感じ?」

 

「あー……まあ、そうだな」

 

 

なんか、ナナに会うときはいつも考え込んでる気がするな。タイミングがいいのか悪いのか……どっちにしろあまり「内臓攻撃」の件については触れられたくない。話題を変えるか。

 

 

「悩みがあるなら聞くよー?聞いて何かできるかは分かんないけどさ、1人で抱え込むよりはずっと楽になるはずだから!」

 

 

話題を変えられる隙なんてなかった。せっかくの善意を無下にする訳にもいかんしな……良心が痛むが煙に巻かせてもらうか。

 

 

「まあ、その、訓練でちょっと……失敗したんだ」

 

「あー、なるほどねー」

 

 

うむ、間違ったことは言ってない。失敗というか過ちに近いが、意味は大体一緒だ。細かいことは気にしない気にしない。

 

 

「まあ、あたしたちまだ新人だし、そんなに気負うことないんじゃない?失敗してなんぼだよー」

 

「……そういうものか」

 

 

失敗から人々は学んできた、確かにそうかもしれない。現に俺だって「死」という失敗を何度も経験して、最後の戦いまで進んでこれたのだ。それに比べたら、今回の事なんて本当に小さな出来事に過ぎない……そう考えると何とかなる気がしてくる。

 

 

「……少し気が楽になった、ありがとうナナ」

 

「気にすることないない~。私たち同期なんだから、助け合わないとね!」

 

 

煙に巻くつもりが本当に元気付けられてしまった。感謝の気持ちと同時に下心ありありで話してしまったことにものすごい負い目を感じる。機会があったら正直にはなそう、そうしよう。

 

 

心の中で自己完結し、苦笑を浮かべたときだった。

 

 

「あれ?見ない顔だね、君ら」

 

「ん?」

 

 

顔をあげると、そこにはまだ幼さが残る少年が立っていた。歳は15、6といったところだろうか。特徴的な帽子をかぶり、碧色の瞳をした彼は不思議そうな顔でこちらを見ていた。そして、ふと腕に目をやると自分と同じ黒い腕輪をしていることに気づいた。

 

 

「君も、ブラッドの隊員なのか」

 

「君もって……あっ、もしかして噂の新人さん!?」

 

 

新人さんって事は前からブラッドにいる子なのか?なるほど、先輩ということであればフラットな態度も頷ける。

 

 

「えぇ、そう……なりますね。これからよろしくお願いします、先輩」

 

「よろしくお願いしますー!」

 

 

横で元気よくナナが続いた。一方「先輩」の方は目を輝かせながら「先輩……なんかいい響き……!」と感動していた。なんというか、初々しい。

 

 

「よし、俺はロミオってんだ。先輩が何でも教えてやるから、何でも聞いてくれ!あ、それとブラッドは甘くないぞ、覚悟しておけよ」

 

「おぉ~先輩っぽい」

 

 

先輩っぽいじゃなくて先輩だからな、ナナ。その言い方だと今まで先輩に見えてなかったみたいに聞こえるから止めなさい……まあ、俺も最初はそう見えなかったが。

 

 

「ふっふーん、そうだろー。あ、それと全然タメ語で構わないぜ。先輩は寛大だからな!」

 

 

……当の本人気付いてないのかよ。

 

 

色々ツッコミたいが今は流そう。ロミオ君も質問されることを期待してるようだし、ちょっと話を聞かせてもらおうか。

 

 

「じゃあ、ひとつ質問いいか?ロミオ君」

 

「おう、ええと名前は……」

 

「アドルファス・ジャノグリー。アドルでいい」

 

「アドルか!オッケーオッケー、それで何が聞きたいんだ?」

 

 

俺は前々から疑問に思っていたことを聞くことにした。

 

 

「『血の意志』とは何か……それについて教えて欲しい」

 

 

あのとき、ゴッドイーターの適合試験とやらのときの声が言っていた。俺自身の血の意志がそうなることを望んだのだと。ならば問いたい、この世界における血の意志とは何だ?狩人にとってそれは、己が身体を器として蓄積し、己の力とするもの。全ての獣や狩人、上位者からでさえ得られるそれは云わば魂の様なものである。それがゴッドイーターになることを望んだ……というのはつまり、俺の魂がそう望んだということになる。そうだったとしてその真意が俺にはわからない。そもそも、この解釈はヤーナムにおける血の意志とこの世界の血の意志の意味が同じである前提を踏まえた上での考察だ。確証に至るものが何もない。だからこそ、知りたいのだ。「血の意志」の本当の意味について……。

 

 

「お、おおぅ……いい質問だね……」

 

 

……うむ、ダメそうだな。完全に目が泳いでいる。

 

 

聞く人を間違えたことを確信し、俺は目を瞑った。質問の答えを半ば諦めて他の質問を考えてたときだった。

 

 

「血の意志っていうのは……えーっと、そうだ!ラケル博士が言ってたんだけど、血の力に目覚めるために必要な何からしいぜ!」

 

 

その「何か」を知りたいんだがそれは……まあ、いいか。どうやらラケルという人物が知っているらしいことは分かった。恐らく、あの声の主と同一人物だろう。

 

 

「あのー、ロミオ先輩。血の力っていうのはー?」

 

 

横からナナが質問した。確かに気になることではある。それに対するロミオの応答はというと――。

 

 

「あー、血の力っていうのは、俺たちブラッドが秘めてる力でな……そう!血の力に目覚めると必殺技が使えるんだ!」

 

「必殺技?」

 

「あぁ!ウチの隊長なんてすごいんだぜ?どんなアラガミもズバーン!ドカーン!って倒しちまうんだからな」

 

 

ほう……ジュリウス隊長はそんなに強かったのか。なるほど、初対面に感じた他の人間との雰囲気の違いは間違いじゃなかったようだ。あのときは動揺していたのもあって、思い違いかと思っていたのだが・・・。

 

 

「へぇ〜、すご~い!じゃあ、ロミオ先輩の必殺技はどんな感じなの?」

 

「ば、ばっかお前・・・必殺技ってのは簡単に手に入るもんじゃないんだよ……」

 

 

……使えないんだな。

彼の言う通り習得が容易ではないのか、それとも彼が未熟なのかは分からないが、とにかくブラッドには後々必要になってくるものなのだろう。

 

 

「そうだ!今みたいな質問はラケル博士にどんどん聞けばいいと思うな、それじゃ俺はちょっと用事があるから!」

 

 

すっと立ち上がってあっという間にエレベーターの中へと姿を消したロミオ君。うむ、見事な逃げ足。狩人に成り立ての頃、勝てないと思った戦いはよく尻尾巻いて逃げたもんだ。「(いろんな意味で)死にそうになったら逃げる」、彼のとった行動は何も間違いじゃない。

 

 

そう勝手に納得して、うんうんと首を縦に降る。一方ナナは「なんかまずいこと聞いちゃったかなぁ~」と頬を掻いていた。まあとにかく、今日は色々分かったことがある。今度、彼の言っていたラケル博士という人物に会うとしよう。この世界の「血」の意味を少しは理解できるはずだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはそうと、何か忘れてる気がするな。うーむ、なんだったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アドル、遅いな」

 

 

 

 

 

 

この後めちゃくちゃ問い詰められた。

 




最後テキトーすぎ。

スランプ抜けるまでご勘弁ください。



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実地訓練

遅くならないと申し上げた手前ですが、結局遅くなってしまいすみません。




私はフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ。フェンリル極致化技術開発局、フライアのオペレーターを務めています。数週間ほど前、このフライアに一人のゴッドイーターが配属されました。

 

 

「これは……うーむ、また間違えたのか?」

 

 

そう、先ほどからターミナルの操作に四苦八苦している彼です。彼、アドルファス・ジャノグリーは特殊部隊「ブラッド」に配属される大型新人なのです。

入隊当初、彼の周りには「悪い噂」が憑いて廻り、此処の人間から避けられていました。事実、私も出来ればあまり近寄りたくはないとは思っていた一人です。……まあ、仕事柄それは不可能なので業務以外は不関与を貫こうと決めました。

 

 

ですが、私の彼へ抱く印象は最初の会話で一変することになったのです。業務の説明などを行っている途中、彼は私が話している間は聞き手に徹し、きちんと話し終わった後で質疑をしてきました。さらに一通りの説明の後、律儀にお礼まで言ったのです。そして、何より……彼は会話の途中笑顔を見せました。微笑むような優しい表情、そんな表情を見せる人が、私には決して悪い人だとは思えなかった。

 

 

「ぬぅ……フラン、すまないがまた手伝ってもらえないかー?」

 

 

そう言いながら、あの日と同じ表情のまま彼はこちらに呼びかける。少し困ったような表情も顔に出ていましたけど、逆にそれが私の中で「悪い噂」をより彼から遠ざけました。

 

 

「……マニュアルを渡したはずですよ?何が分からないんですか」

 

「いやぁ、この指南書は専門用語が多くてな……もう少し嚙み砕いて説明が書いてあればわかるんだが……」

 

 

なんて、言いながら頬を掻く様子は私たちと何も変わらない人間らしさを引き立てる。やはり、あんな噂は出鱈目なんでしょう。

 

 

 

 

そう、彼が「化け物」なんてもののはずがない。

 

 

「なるほどなぁ、そうやって操作すればいいのか。いやぁ助かったよ、フラン」

 

「今度からは、自分で操作してくださいね?私も暇ではないんですから」

 

「すまない。でも、本当に助かった。ジュリウス隊長が特別な訓練をするらしく、一応持ち物整理したかったんだ」

 

 

特別な訓練……?私は何も聞かされていませんが、そんなものがあったんですか。とにかく、彼が心置きなく訓練を受けられるというのなら私もこれで責務を果たせたのでしょう。訓練のために、出撃ゲートに向かうアドルさんを見送り、通常業務へ戻るためにまた受付へと戻るとしましょう。確かこの後は誰かの任務のオペレーターをすることになっているはず。

 

そう思いながら受付へと戻り、改めて業務確認するため端末を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そこで、私は自分の目を疑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジュリウス隊長、新人二人を同行させるとは聞かされておりませんが?」

 

「すまない、だがあの二人ならその実力を兼ね備えていると判断した」

 

 

少し怒り気味の声がジュリウスの耳に入るが、すでに予測していたかのように即答する。

 

 

「仰ることは承りました、今後は二度とこんなことはないように―――」

 

「……」

 

 

勝手に同行させたのは事実なため、説教は全て聞こうと沈黙する。

 

 

「……せめて、私には一言ください」

 

「!」

 

 

少し気落ちしたような声が無線に入る。そのとき、ジュリウスは自分を嗤った。ゴッドイーターとして何が一番大切か。それが現場とオペレーターとの間にも無関係ではないことを今更気付かされた。新人に説こうとした矢先、これでは説得力が皆無ではないか。

 

 

「あぁ、約束する」

 

「――では、一人も欠けることのないように。御武運を」

 

 

無線が切れる音と同時に、今度は違った音が聞こえてくる。

音の方向へと振り向きながら、独り思い、呟いた。

 

 

「来たか……」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

「フェンリル極致化技術開発局、ブラッド所属第二期候補生二名到着いたしました」

 

 

手先をまっすぐに伸ばし、額の傍まで持ってくる。この世界において目上の者に対して行う作法で「敬礼」というらしい。少し前に、俺が身に着けてきた様々な礼儀の作法についてナナに聞いてみたが、どうやらあるにはあるらしいが少し古臭いものと、見たこともない作法があったらしい。考えてみれば「交信」などという、上位者どもと慣れ合おうとするやつらが使う挨拶など知られてなくて当然か。だが、この世界でもアラガミを本物の神などにたとえ崇拝する狂信的な者たちが存在するらしい。やはり、どこの世界でもそういった輩が蔓延るのはめずらしくないのだな……。まあ、それはともかくだ。今日は特別な訓練と聞いて、この黎明の亡都に参上したわけだが。

 

 

「ようこそ、ブラッドへ。隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。早速だが……今より、実地訓練を始める」

 

「……えっ?」

 

 

驚くナナを尻目に歩き出すジュリウス。そして、遠目に見える何かを指さした。

 

 

「見ろ……アレが、人類を災い。駆逐すべき天敵……アラガミだ。手段は問わない、完膚なきまでにアラガミを叩きのめせ。いいな?」

 

 

いいなって……いきなりそう言われてもな。要は訓練とは名ばかりの「実戦」ってことだろう。準備はしてきたが、予告もなしにこれとは……なかなかにスパルタというべきか。

 

 

「えっ、あっ……あのっ、これって……実戦ですか!?」

 

 

いつも陽気なナナの声に珍しく元気がない。まあ、突然実戦すると言われたら誰でもそうなるか。

 

 

「本物の戦場でやってこその、実地訓練だ。お前たちが実力を発揮できさえすれば問題になる相手じゃない、いいな?」

 

 

その「実力を発揮する」ってのが一番難し―――ッ!?

 

 

「下がれ!」

 

「え、わっ!?」

 

 

そう叫んで、ナナの服を後ろから引っ張った。刹那、「ガッ」という何かと何かをぶつけた様な音がこだます。

 

 

「いてて……あ、アドルどうし、た……の……」

 

 

困惑はすぐに恐怖へと変わる。聞こえるか分からないほどのかすれた声が、ナナから漏れた。

 

 

「……フッ」

 

 

不敵に笑うジュリウス。見れば彼の腕に何かがぶら下がっている。

 

 

「せぇあッ!!」

 

 

刹那、その何かが赤い液体をまき散らしながら吹き飛んだ。それがアラガミであったことに気づくまでに、そう時間はかからなかった・・・ナナ以外は。突然の出来事に見た光景を頭で理解しようと必死の様で、地面にへたり込んでしまっている。

 

 

「……大丈夫か、ナナ?」

 

「え……あ、うん」

 

 

そう言って俺は手を差し出した。やれやれ、新人相手にやってくれるものだ……。

その思いはアラガミに対するものではなく、ジュリウスに向けたものだ。彼のとった行動を見る限り、アラガミが不意打ちすることを予測していなければあんな事はできない。つまり表向きでは激励の言葉を送ったが、今の行動は油断するなという警句の体現なのだろう。

 

 

「……新人相手になかなか容赦ないな」

 

 

少しばかりの不満を口にした。多少の怒気も含める。言い換えるなら「舐めてんのか」といったところだ。

 

 

「……少々やりすぎたようだ、すまなかったな」

 

 

俺の意図をくみ取ったかのように、ジュリウスは謝罪した。その言葉に嘘はない、と信じたい。まあ、この律儀な隊長の事だ。信じても問題は無いだろう。

 

 

「だが、忘れないでほしい。古来から人間は巨大な敵と対峙し、常にそれを退けてきた。鋭い牙も、強靭な爪も持たない人類がなぜ勝利したのか」

 

 

再び語り出すジュリウス。

 

 

「共闘し、連携し、助け合う戦略と戦術……人という群れを一つにする、強い意志の力。意志こそが俺たち、人間に与えられた最大の武器なんだ。それを忘れるな」

 

「強い意志……」

 

 

ナナがつぶやく。そして唇をきゅっと締めた。その行動の示す意味が今の俺には分からない。ただ、戦う意志を固めたことだけは分かる――。

 

 

 

 

 

それに対して、俺の心は少し揺れていた。俺は、獣という強大な敵と対峙し、それを退けてきた。ジュリウスの言う通りひとつの確固たる「意志」に突き動かされるように。それは、人を助けたいと思う心でも、獣を忌み嫌う心でもない。ただ、血を欲する「俺ではない何か」の意志。青ざめた空の支配者が、俺の中から血を欲せとずっと語り掛け、それに従ってきた。今もそれは俺の中に残り、消えていない。そんな俺が、ジュリウスの言う「人類」と同属であるのだろうか。

 

 

 

「時間だ、行くぞ――」

 

 

俺の疑問に答える者はいない。もっとも、この場ではなく、この世界には応えられる者などいない。そう告げるように、斬りつけられたアラガミが小さく嘶いた気がした。

 

 

 

 

 




戦闘はまた次回です。タイトル詐欺ですみません。


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意志と力と

今回は戦闘と言ったな……。


あれは嘘だ(スンマセン








「貴様に、狩りと闘いの違いが分かるか?」

 

 

昔、そう問われたことがあった。当時の俺は狩人としては未熟であるがために、分からないのだと思った。だが、狩人としての経験を積めば積むほどその意味は分からなくなっていた。現に、目の前で駆逐されるアラガミを見つめるがこれが狩りなのか、あるいは闘いなのかは分からない。ただ言えることは1つ。

 

 

「――どの道、狩らねば死ぬ」

 

 

そう言い捨て、神機を振るう。目の前のオウガテイル目掛けて突進する。刹那、その躰は加速し、オウガテイルに風穴をあけた。チャージグライド、という技らしい。チャージスピアに装備している加速装置を起動させることによって、任意のタイミングで凄まじい速度で躰ごと突進する突きを繰り出すことが可能らしい。どういった機構になっているか気になり、指南書もいくつか読んでは見たのだが、どうやら俺の知識では叶わぬ夢らしい。

 

 

「これで最後か……」

 

 

アラガミとの対峙は訓練である程度慣れているのもあり、スムーズに任務は進んだ。力を持つアラガミとはいえ、どうやら獣よりは厄介ではないらしい。人間が獣化し、ほんの少しでも知性があった場合、姑息な罠を張ることが多い。まあ、完全に獣化した場合、何も考えず人を喰らおうと襲い掛かるのだが。言ってしまえば、アラガミは後者にかなり近いものがある。というより、アラガミの方が本当の獣らしいというべきだろう。戦ってみたところ、自己回復のために逃走し、捕食を行うという光景が何度か見れた。真っ先に自分の命を優先し、逃げ出すのは生物全てに備わっている基礎的な本能だ。ヤーナムの獣たちは、自分の命よりも血を求める。生物たるその大前提が欠如している獣たちは、生き物とは言えない。

 

 

「……こいつらの方が、狂った獣どもよりよっぽどマシだろう」

 

 

――獣ども……そして、俺も含めて……な

 

 

「流石だ、アドル」

 

「お疲れー」

 

 

思考は遮られ、声に意識が向く。

 

 

「……ジュリウス、ナナ」

 

「訓練のときも思ったが、お前は飲み込みが早いな」

 

 

飲みこみが早いというより、適応が早いといった方が正しいのかもしれない。目の前の事実を真摯に受け入れ、出来るだけ客観的な答えを出す。あの悪夢の中では、そうしなければ狂ってしまうだろう。人の心を捨て、ただ眼前の獣を狩る。そのために出てしまった犠牲は仕方ない。自分さえ生き残れば、それでいいのだと。故に今回の実地訓練でも一人で行動することが多々あった。今後は味方の動きにも注意せねば。

 

 

「いや、正直まだまだだろう。何度か、連携を失敗してしまったからな……」

 

「むぅ~、それを言ったら私が惨めだよ?ほとんど、私がハンマーに振り回されたときに連携が崩れたんだからさ」

 

「そうだったのか?てっきり囮になっているのかと思ったんだが」

 

「それはそれで、ひどい皮肉に聞こえるんですけど隊長!?」

 

 

ガーッとジュリウスに抗議するナナ。それに対するジュリウスの反応を見る限り、本当に囮だと思ってたらしい。結構茶目っ気があるというか、端的に言えば天然なのだろう。ちなみに俺がジュリウスに対して敬語を使わなくなったのは「戦闘中に余計なことは極力考えなくていい」という彼の言葉である。まあ、俺の方が確かに年上なのもあり、不自然だったためすぐにそうさせてもらった。ナナも少しの抵抗はあったが、すぐに以前よりフラットな敬語へと口調が変わっていった。

 

 

「……ともあれ、二人ともよくやった。実地訓練はこれで――」

 

 

終了かと思い、ほっと息を漏らした時だった。

 

 

「――周囲にアラガミ反応!近いです!」

 

 

耳元から声が聞こえてきた。それは今のところ俺が色々と世話になっているオペレーター、フランのものだった。不思議な技術のひとつで、「無線」というらしい。線などの繋がりも無く、声などを自分の位置よりはるか遠くまで伝えることが可能なものらしい。確かにその通りで、小さな子機を耳の近くに装備し、そこから声が聞こえてくる。その小さな子機が、どうやら声を受信しているらしい。戦闘中も彼女の声を聴きながら、順次それに従って動いていたのだが、おかげでアラガミのいる位置、現在の状況を速やかに理解し、迅速な対処が行えた。連携が崩れても、すぐさま立て直せたのも彼女の指示のおかげだろう。俺からしてみれば、神秘の類なのではないかと思ってしまう技術だがそうではないらしい。

 

これは余談だが、驚いたことにフライアの設備等のほとんどが「電気」を動力源に動いているのだ。照明などはすべて「電球」とよばれる電気を使用したものだったり、俺が使っているターミナルなども動力源は電気なのだという。ヤーナムにおいては、トニトルスや雷光ヤスリなどの攻撃手段として雷の力を・・・つまり電気を使用することはあったが、何かの原動力として利用するなど俺には想像もつかなかった。

 

 

「種別は?」

 

「オウガテイルと思われます」

 

 

―――閑話休題。

とりあえず、今は実地訓練に専念しよう。ジュリウスが出現したアラガミをどうするか、改めて指示を待つ。

 

 

「よし、迎撃するぞ」

 

「……了解」

 

「おー!」

 

 

各々が承諾の意を声に表す。反応は数十メートルほど移動した場所からのようで、数にして3つだという。そんなに数が多くなくてよかったと俺は胸を撫でおろした。すぐさま、目標地点へと向かい臨戦態勢へと移行した。

 

 

「いたぞ」

 

 

フランの指示通り、そこには群れたオウガテイルが3匹ほど固まって動いていた。

 

 

「囲んで一気に一網打尽、それとも一体ずつおびき出して分断させるか?」

 

 

現実的な案を二つ上げる。奇襲と各個撃破、どちらも基本的な戦術。俺は今まで数による暴力を受けてきた側なので、前者の効果を痛いほど知っている。まあ、現状こちらも3人なので効果が出るかどうかに確証は持てないが。それに比べ、後者は時間はかかるが常時こちらに有利な状況で戦える。が、確実に一匹のみをおびき出せる方法はないため、成功する可能性は五分五分といったところだ。さて、この隊長はどちらを選ぶのか。それとも――。

 

 

「いや、いい機会だ。お前たちが目覚めるべき『血の力』をここで見せておこう。ついて来るんだ」

 

「『血の力』……?」

 

 

彼なりの案がある、ということらしい。ジュリウスは言い放つとそのままアラガミの下へと歩みを進めた。それはもう隠れる様子なんてひとつも見せず堂々と。当然アラガミたちも気付かない訳がない。

 

 

「ちょ、ちょっと隊長!?」

 

 

無防備な体をさらけ出しながら近づくジュリウスに驚くナナ。今のところ、アラガミたちに動きはないが、それでも危険なのには変わりはない。慌てて、ジュリウスに駆け寄ろうと走り出した。

 

 

「……はぁっ!」

 

 

ジュリウスが動いた。ただ、それは特に何をするという訳でもなく、ただ武器を振るうように構えただけだった。だが、その場に劇的な変化が起きた。

 

 

「これは……」

 

「力が、みなぎる……!」

 

 

躰が火照る。熱く、ただひたすらに内側から力がみなぎるのを感じた。どこかでこの感覚を得たのを覚えている。そう、それはまるで神機解放(バーストモード)そのものであった。

 

 

「今から、ブラッドアーツを目標に対して放つ。少し離れていろ」

 

「ブラッドアーツ?」

 

「戦況を覆す大いなる力……戦いの中でどこまでも進化する、刻まれた血の為せる業――」

 

 

そこまで聞き終えて、ジュリウスが再度構える。これもまた見覚えがあった。

鴉を象徴するような黒衣、まるで一国の騎士のような佇まい、刀身を滴る真紅の血……。

 

 

俺にとっては忌まわしき『奴』を彷彿とさせる、抜刀の構え――。

 

 

「せぇぁッ!!」

 

 

一瞬、ジュリウスが消えた。今までの場所に彼の姿は無く、気付けばアラガミの後方で神機に付いた血を払っていた。

 

 

「!?」

 

 

それを確認した刹那、アラガミが力なく地に伏せる。

 

 

「今のは……?」

 

 

見れば、アラガミたちの体には無数の刀傷が残っていた。そして、今の一瞬で彼がアラガミを屠ったことをようやく理解した。

 

 

「これが、ブラッドアーツだ」

 

 

その事実に上乗せするように、ジュリウスがこちらに向き直りながら言う。確かに、凄まじい業だ。それはもう彼がいれば並大抵のアラガミは殲滅できるのではと思えるほどに。

 

 

「俺たちブラッドに宿る『血の力』、そして『ブラッドアーツ』……これをどう伸ばし、どう生かしていくかは全て、お前たちの『意志』次第だ」

 

「俺たちの意志……『血の意志』」

 

「ああ、『血の意志』はお前たちの意志にも結び付く。それを憶えておいてくれ、いいな?」

 

 

血の成せる御業を披露され、その威力を知った俺とナナは、ただただ頷くことしかできなかった。彼の言うように、『血の意志』がその力を左右する。それが事実なら、俺自身のものではない『異物』が混じった俺の『血の意志』は、果たして『俺の意志』に忠実に従ってくれるのだろうか。

 

 

 

一縷の不安を抱きながら、俺は神機を強く握ることしかできなかった。




まさかの任務中の戦闘を大幅カット。

まあ、訓練中にオウガテイルとナイトホロウとの戦闘描写はあったですし、今回の任務対象で新規なのはドレットパイクのみ。

どの道小型で、一番弱いアラガミでしたので多少は、ね?


というわけでして今後、戦闘描写は中型や大型のアラガミ、イベントシーンとかでは書きますが、小型はカットしていく方針で行きます。

ストーリーの進行もだいぶ遅いのでご了承ください。


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葦原ユノ

話が進まない(切実)


2の内容終わるまでには何話になっていることやら
一寸先は闇ですね、ホント。


「……? やはりよくわからんな」

 

相も変わらず、端末の操作には苦労する。フランに教わり、ある程度の操作……と言ってもアイテムの引き出しと神機の整備申請ぐらいしかできないが、それでも最初よりはこなせるようになってきている。

 

 

「データベースは――」

 

 

今、操作している目的はデーターベースの閲覧のためである。今は自分に不足な知識を取り入れ、この環境に順応していくことが第一だ。そう考え、すでに一ヶ月ほどの時間がたっている。が、まだ足りない。俺が最も知るべき情報を得ていないのだ。

 

 

「……やはり、無いか」

 

 

溜息を吐き、ターミナルの電源を切る。ここには俺の欲する情報はかなり少なく、正直困り果ていた。

 

 

「『狩人』『獣狩り』『ヤーナム』……これら全てのワードに関わるような記述はゼロ……」

 

 

別にあの場所に思い入れや帰りたいというような気持ちはない。ただ、何かしらの自分が存在したという証拠が欲しかった。この世界で生きる俺は、一体何者で、どんな立ち位置にいるのか。本当に異世界の人間なのか、それともこの世界の辺境で生きていた人間なのか。

 

 

「やはり、俺は異世界の人間と考えたほうがいいのか?」

 

 

何とも言えないが、今はそう位置づけるしかない。だが、この世界での俺はあくまで神を喰らう者、ゴッドイーターとしてのアドルファス・ジャノグリー。戦場に私情を持ち込んで誰かを死なすわけにもいかない。ブラッドで行動するときは、アラガミを殺すことだけを考えるようにしよう。人と話すときは、そうだな……出来るだけ詮索されないような振る舞いを心がけるか。

 

 

「はぁ……しかし、面倒なもんだなぁ」

 

 

考え込むのをやめ、自室のベッドに倒れこむ。人との関わり合いなんて「とりあえず獣化したら、狩ればいい」程度に考えていたものだから、人と話すのは基本的に疲れるのだ。今後とも命を預け合う関係になる以上、ぞんざいに扱う訳にもいかず、どうにか嫌われない程度には関係性を保っていきたい。

 

 

「……?」

 

 

そこまで考えて俺はある疑問が浮かんだ。いや、疑問というより違和感を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、俺は他人のことをいたわっている……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

フライア・ロビー。

私、香月ナナはロミオ先輩と談話をしていた。実地訓練から数日後、アドルだけじゃなくロミオ先輩とも任務に行くことが増えた。今はその戦闘中でのお互いの動きとか癖とかの確認中。

 

 

「だからさー、お前とアドルは突っ込みすぎなんだよー」

 

 

ぶっちゃけ話していてロミオ先輩はかな~り臆病だと思う。だって、神機は銃形態の使用率がダントツだし、アイテムは湯水のようにバンバン使うだもん。正直、オウガテイル相手にホールドトラップ使ったときは流石に「ないわ~……」と口に出た。

 

 

「そうは言うけど、それは先輩がー……あ、アドル~!」

 

 

階段から降りてくる人影に手を振る。そこにはちょっと老け顔の同期が歩いていた。

 

 

「誰が老け顔だ、誰が」

 

「あれ?声に出てた?」

 

 

舌を出して誤魔化してみる。それに対して、やれやれとアドルはおっきなため息をついた。やっぱりどこかおっさん臭いよ、アドルは。本人は20代って言ってるけどね。

 

 

「で、どうかしたのか?二人で話し込んでいたようだが」

 

「あ、そうそう。ロミオ先輩がねー、私とアドルは突っ込みすぎなんだってさー」

 

「だって事実だろ!それにアドルに至っては一人でどっか行っちゃうしさぁ」

 

 

それはまあわかる。実地訓練のときもふらふらーってどっか行っちゃってはぐれたオウガテイルとか狩ってた……らしい。というのも、私も初陣だったしハンマーに振り回されてた記憶意外あまり覚えてないんだよねー……。

 

 

「いやまあ、悪いとは思ってるんだがな?如何せん集団での戦いは不馴れでな」

 

「まだ私たち新人だし、戦い自体あまり慣れてないからさー。そこは先輩の度量で許してよー」

 

「いや、新人だったら、普通もっとこう……警戒しながら戦うだろ?」

 

 

そうかなぁ……そもそも私は遠目から獲物を狙うの苦手みたいだし、ロミオ先輩が自主的に後方に回るからガンガン突っ込んでいいと思うんだよねぇ。アドルはアドルで気が付かないところで露払いしてくれてるみたいだし、案外バランスとれてるチームなんじゃないかな。

 

 

「それに、アラガミだってバカじゃないんだからさ。集団戦は控えた方がいいって絶対」

 

「えー、それは先輩がビビりすぎなんじゃないの~?」

 

 

流石にチキン過ぎる言動に呆れて、ちょっとした煽りをいれてみる。追撃と言わんばかりにジト目で下から見上げるよう這い寄った。

 

 

「うわっ、ちょ、ナナ近いって!」

 

 

あれ?なんか先輩顔が赤い?はっはーん、これが世に云う「顔真っ赤」ってやつかね。てか、先輩めっちゃ引いていくんだけど、なんで?

 

 

 

 

 

―――ドンッ!

 

「きゃっ」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

何かの衝突音とともに、小さな悲鳴がロビーに響いた。ナナが煽って、近付きすぎたのが原因でロミオが仰け反り、後ろにいる誰かにぶつかったようだ。

 

 

「あっ、すみません、ってうわっ!?」

 

 

ぶつかった張本人であるロミオが被害者であろう人物に謝罪をする。が、どうしたのかまた驚いて仰け反っていた。何をやっているんだと声をかけようとしたとき、近場から怒声が飛んできた。

 

 

「まったく貴様らは……!」

 

 

見れば少し……いや、かなり太った男が立っていた。その顔には見覚えがあり、記憶を辿ったところどうやらデータベースを閲覧したときに人事の欄で見かけた気がする。

 

 

「ユノさん、本当にすみませんねぇ」

 

「あ、いえ……私は気にしてません」

 

 

ふむ、清々しいほどの対応差だ。なるほど、こいつ……いや、この方がフライアの責任者を担っているグレム局長か。で、もう一人の少女の方は……。

 

 

「ふふ、あまりロビーでは、はしゃがない様にね。他のお客様にご迷惑でしょ」

 

 

と、思っていたのだが、また初めて見る方が来たものだな。白く、丈の長いコートのようなものを羽織った女性だ。髪は赤く、化粧は今まで見てきた女性の中では濃いほうだ。アリアンナ辺りもこんな感じだった気もする。

 

 

「はーい、すみませーん」

 

 

そんなことを考えている内にナナが謝罪を済ませていた。流石になにもしない訳にもいかず、俺も頭を下げた。それを見ると局長は少女のご機嫌を取りながら歩いていってしまった。赤髪の女性もそれに続いたようだ。

 

 

「あ~あ、怒られちゃったねー」

 

「俺は巻き添え食らったんだが……」

 

「あ、あははー、ごめんごめん……ってあれ?どうしたのロミオ先輩?」

 

 

ナナが首をかしげて問いかけた。見れば確かに呆けたような顔をしているロミオの姿があった。

 

 

「バッカお前……あれ、ユノ!」

 

 

変な片言になっているが、先程の少女のことを言っていることは分かる。だが、彼女がどうしたというのだろうか。

 

 

「ユノ?知ってるー?」

 

「いや、知らないな」

 

「嘘だろお前ら……ユノ、ユノ葦原!超歌うまいんだぜ!?有名人!」

 

 

歌が上手い。すると、彼女はDiVA(歌姫)ということか。なるほど、有名人であるのならグレム局長があそこまで胡麻を擂るのも頷ける。コネはいくらあっても困らないだろうしな。

 

 

「彼女が有名人なのは分かったが……一体ここに何の用がある?彼女もフライアやフェンリルの関係者だったいするのか?」

 

「いや、公開プロフィールにはそんなことは書いてなかったけど……ハッ、まままさか、フライアで慰問コンサートしに来てくれたのか!?」

 

「えー……ロミオ先輩そんなとこもチェックしてるの?」

 

 

若干引き気味にナナがそう問いかけると「ばっ、ちげーよ!たまたま知ってただけだ!」と反論する。論点のズレに呆れてため息をついた。今日だけで何回ため息をつけばいいというのだ。そう思いながら口論する二人を尻目に、エレベーター前に行った3人に目をやった。

 

すると、3人の内一人と目があった。

 

 

「あ……」

 

 

DiVA(歌姫)―――ユノという少女は軽く会釈し、こちらを見つめてきた。それに対して、俺も一応会釈する。

 

 

「だーかーらー!俺は純粋に彼女の歌が好きなだけで、不純な気持ちなんてものは一切―――」

 

「あーもー、わかりましたからー。ベツニキニシテナイデスー」

 

「片言じゃねーか!目を反らすなぁー!!」

 

 

……後ろの口論がヒートアップしているらしい。流石にうるさくなってきた。

 

 

「おいおい、お前らさっき注意されたばっかりだろう?ちょっとは静かに―――」

 

 

振り向いて注意する。それでも収まる気配はないので、ロミオをなだめつつ他の場所に移動させることにした。困った先輩殿もいたものだ。

 

 

 

 

また、その様子を眺めていた少女が笑みを漏らしたことは誰も知らない。

 




ここまで、ジュリウス、フラン、ナナ視点を書いてきましたが、ダントツでナナ視点が書きやすかったです。

流石現代っ子。


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不器用な仲裁

前回遅かった分、今回は早めの投稿、且つ割と長めです。

概要通り、人間模様はガンガン書いていきますよー。


人間、聞かれたくないことの1つや2つあるものだ。そこには必ず後ろめたい「何か」が存在している。斯く言う俺も人には話しづらい過去があるが、それはさておきだ。一つだけ愚痴を言わせてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで俺が喧嘩の仲裁人をしなくてはならんのだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を遡ること数十分前。ブラッドに新たなメンバーが加入した。それも熟練のジュリウスに次ぐ熟練の使い手らしい。これだけ聞けば、めでたいことかもしれない。問題はここからだ。どうやら、ロミオとその新メンバーが揉めたというのだ。しかもロミオは殴られたとのこと。揉め事の内容を聞くに、どうやらロミオがかなり質問攻めした……らしい。俺はただ殴られた一部始終しか見ていないので、本当の原因はよくわかっていない。だが、ロミオが殴られたのは事実であり、このままだと任務に支障をきたす可能性を考えたジュリウスがフォローするよう俺に頼み込んだのだ。喧嘩の仲裁の経験なんてない俺は断ろうとした。まあ、いきなり断るのも悪いから一応人選の理由を聞いてみたところ―――。

 

 

「あまりこういったことは不慣れでな。フランやブラッド隊の皆とすぐに打ち解けたお前なら適任だと判断した」

 

 

間違っていない。間違ってはないが少し待ってくれ。そもそも、会った人間ほとんどから襲われる人生を送ってきた俺の方がどう考えても不慣れなんだが……。

 

……一応、断ってナナに頼んでほしいと言った。が、しかし彼はこう続けたのだ。

 

 

「これは男同士の問題だからな……ナナには少々荷が重いだろう」

 

 

……そういうものだろうか?如何せん人間関係に疎い俺はその場で納得してしまった。冷静に今考えてみれば、本当にそうなのかという疑問しか湧いてこない。とにかく、そのまま押し切られて承諾してしまった俺は、その新メンバーを探している。探すと言っても、どこに行ったかは見当はついているのだがな。

 

 

 

 

 

 

―――ピンポーン

 

 

 

 

エレベーターが止まり、俺はそのまま庭園へと降りた。するとやはり新メンバーである『彼』はそこにいた。

 

 

「ん?アンタは……」

 

 

あっちも気づいたようだ。さて、どう声を掛けたものか。とりあえず自己紹介しておこう。

 

 

「初めまして。ブラッド隊所属、アドルファス・ジャノグリーだ」

 

「ブラッドのメンバー……なるほど、俺の処分を伝えに来たか」

 

 

処分?ああ、そういえばロミオを殴った後、ジュリウスに「除隊でも懲罰房行きでも勝手にしてくれ」と言っていたな。言葉が自棄になっている気がしたが、あれは本当に本心なのだろうか。

 

 

「そうだな、非情に残念だが……」

 

「……」

 

 

黙ってこちらを見る彼の眼は、なんというか迷いが見受けられた。何を考えているかよくわからないが、俺はここに付くまでに考えた最善策を実行するまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ガッ!!

 

 

「ぐぁ!?」

 

 

庭園に鈍い音が響き、遅れてドサッという何かが地に落ちるような音がこだます。その理由は至ってシンプル。

 

 

「……ッてめぇ!何しやがる!!」

 

 

ものすごい形相でこちらを睨み付ける彼。まあ、当然だろう。訳も分からずぶん殴られたら(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、そりゃ誰だって怒る。

 

そんな怒る彼を見て、俺はこう続けた。

 

 

「そうだな、そう思うだろう。どうして殴られたと思う?」

 

「はぁ!?なに訳の分からない事言って―――」

 

「そう、それだ」

 

 

俺は吹き飛んだ彼に近づきながら、更に続ける。

 

 

「悪気もなく、ただ少し質問しただけ。そうしただけなのに殴られた。それがあの時ロミオが抱いた感情だ」

 

「なっ……」

 

「これでロミオの気持ちが分かっただろう……とはいえ関係ない俺があなたを殴るのも筋違いというものだ」

 

 

そう言って俺は後ろで手を組み、脚を肩幅まで開いて目を閉じた。

 

 

「……何してんだお前?」

 

「今のお詫びに、一発殴ってもらって構わない」

 

「は?」

 

「心配するな、やり返すつもりはない。思う存分殴ってくれ」

 

 

これが俺の最善策だ。俺の知っていることはロミオの気持ちだけで、殴った側の彼については何も知らない。なら、ロミオの気持ちを知ってもらい、なおかつ彼のヘイトを俺へと向ける。そして、彼の苛立ちを俺で発散させれば彼の気も静まって一件落着だろう。

さて、そろそろ殴られるために歯を食いしばろう。相手は普通の人間とはいえゴッドイーターだ。ほとんど人間じゃない俺の体でも、本気で殴られたら少々響くだろう。そうだ、腹を殴られるのも考慮して腹筋にも力を入れて……さあ、どこからでもかかってくるがいい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

いつまでたっても殴ってこないので目を開けた。すると困惑した表情で彼が立ち尽くしていた。

 

 

「どうした?殴らないのか?」

 

「いや、その……1つ、聞いてもいいか?」

 

「……?」

 

 

殴られた頬をさすりながら、彼は聞いてきた。

 

 

「俺の処分は、結局何だったんだ?」

 

 

……ああ、そう言えば言ってなかったな。最善策のイメージをずっと崩さないよう、話していたからすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「無論、あなたとロミオの復縁だが?」

 

 

そう言うと、彼は深いため息を吐いた。それだけでなく、彼は唐突に声を押し殺すように笑い出した。

 

 

「……お前さん、とんでもなく不器用な人間だな」

 

「?」

 

 

どういうことだろうか。いや、というか何故殴らない?これでは場が収まらないだろう。

 

混乱する俺を見ながら、彼は苦笑を続ける。数秒後、彼は再度口を開いた。

 

 

「別に、ロミオとの件は気にしていない……というより、寧ろ申し訳ないと思っていたんだ。だから、除隊になるなら一度ブラッド隊には謝罪しようと思って処分を聞いたんだが……」

 

 

そこまで言って、彼は俺をちらりと見る。

 

 

「そしたら、突然ぶん殴られて、それがロミオの気持ちだと言われた。確かにこりゃ相手からしたら意味不明だな。身を持って分かったよ」

 

 

……ん?……つまり、つまりだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は反省している人間を思いっきりぶん殴ったということか?

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ない!」

 

 

俺はすぐさま跪き、首を垂れた。彼が既に反省している可能性を全く持って考慮していなかった。これでは本当に殴られなければ場が収まらん。いや、一発殴られる程度では足りないだろう。

 

 

「本当に申し訳ない、何発でも殴られよう」

 

「おいおい、頭を上げてくれよ」

 

「うむ、分かった。不届き者の顔を思う存分やってくれ」

 

「いや、違う違う。別に殴るつもりなんてないさ」

 

「しかし、それでは……」

 

 

むしろ俺の気が済まない、そう訴えるように彼の顔を見る。一歩も引かない俺を見て、彼は再度ため息を吐いた。

 

 

「分かった、そこまで言うならやってやろう。目を瞑って、歯ぁ食いしばりな」

 

「! 相分かった」

 

 

うむ、これで汚名は返上できる。俺はゆっくりと目を瞑り、彼の拳を待った。

 

 

「行くぞ―――」

 

 

俺は誠意の証として歯は食いしばらず、極力脱力した。さあ、何度でも殴るがいい……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ピンッ、ビシッ

 

 

「ぃだッ!……って、え?」

 

 

頭、鼻、頬、顎、腹、鎖骨……あらゆる激痛を伴う場所を殴られること想像した。だが、俺の痛覚が痛みを感じ取った場所は……額だった。どれだけ力を抜いても関係なく、硬い骨と皮のみが存在する部分。しかも、そこで感じた痛みの面積はごく僅かで、さらに言えば、ものすごく微小な力だった。察するに、親指と人差し指で円を作り、人差し指を弾いて額に当てた……つまり―――

 

 

「で、デコピン……?」

 

 

今後、これほど拍子抜けした声はなかなか出ないだろう。恐らく、マヌケな面をさらしているであろう俺に、彼は帽子を深くかぶりながら口を開いた。

 

 

「誰も『殴る』なんて言ってないからな。ついでに言えばお前はそれを承諾した。これでお互いスッキリしただろう」

 

「なっ……」

 

「そもそも、ここでアンタをボコボコにしたら、それこそ間違いなく懲罰房行きだろう?非がないのに罰を受けるのは流石にごめんだぜ」

 

 

……確かに、ここで問題を起こせば逆に彼の印象を落とすことになる。それに、殴られることに関しては「俺の自己満足」でしかない。うむ、彼がそれでいいというのなら、俺もそれに従おう。

 

 

「分かった。だが、本当にすまなかった。これだけはもう一度言わせて欲しい」

 

「元々アンタも善意でやったことなんだろ?事の発端は結局俺なんだから、気にしないでくれよ」

 

 

何と心の広い人なのだろうか……そう感動しながら、俺は目を瞑る。それを見て彼は「大袈裟な奴だな」と笑うが、実際ここまで寛容な人はそうはいない。あちらの世界では、人形ぐらいしか相当する者はいないだろう。だが、彼女の寛容さは、全てを受け入れろという呪いにも近い命令に逆らえなかったためであり、ただの人間がここまでの非礼を許すなど、俺の中では信じがたい事実だった。

 

 

「とにかくだ、アンタも俺も同じチームとして活動していくんだ。変に気を使い合って、戦闘中危険な目にあっても困るだけだし、これからは普通に『仲間』としてやっていこうぜ。おっと、そう言えばちゃんとした自己紹介がまだだったな―――」

 

 

彼は帽子を上げて俺と目を合わせた。

 

 

「俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい。グラスゴー支部からの転属だ。これからよろしく頼む」

 

「ああ、俺もアドルでいい。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 

俺と彼……ギルは握手を交わす。その後、ロミオとの件はきっちりと方を付けることを約束し、庭園を後にするのだった。

 




ギルさんがめっちゃ良い人になってしまった。いや、原作も良い人なんですけどね。
まあ、一応ブラッド隊では最年長だし、大人っていうことでご理解ください。


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極東の騎士

今更ながら、お気に入りが50越していることに驚きを隠せません。
先週UAもそれなりにあるし……こんな作品でも皆さん読んでいただけて光栄です。



「フフ、緊張するのも無理はない……だが、安心したまえ!この僕が来たからには、心配は完全に無用だッ!」

 

 

……なんだこいつは。

 

唐突に話しかけられて、第一印象がそれだった。いや、恐らくここに来たばかりの俺であれば歓迎したかもしれん。そう思えるほど目の前の『彼』はなんというか……ややこしい奴だった。

 

 

「おっと、失礼した。僕はエミール……栄えある、極東支部『第一部隊』所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!」

 

 

……そうか。うん、そうなのか。

いや、これ以外に何と言えばいいのかわからん。とりあえず、任務帰りで隣にいるギルを見た。案の定、彼も「なんだこいつ」といった顔をしている。

 

 

「……そうか、よろしくな」

 

 

沈黙を裂くように、ギルはそれだけ言った。それに便乗して俺も『狩人の一礼』をしてみせた。するとどうだろうか、エミールの目が光り、こちらを凝視してきた……なんだか嫌な予感がする。

 

 

「その趣きのある一礼……ハッ!?君はもしかして騎士なのか!?」

 

 

よく分からんが、面倒な狙いを付けられた気がするぞ。余計逃げづらくなっちまったな。でも待てよ……彼の言う『騎士』というのも気になる。確かに俺は昔、女王アンナリーゼと契約を交わし、カインハーストの一族となった。が、フライアに来て以来、彼らが身に着けるカインの装備や騎士装束は一度たりとも着たことはない。周りから変な注意を引きたくはないからな。

だが、彼はそれでも俺を騎士だと言った。その理由が気になる。

 

 

「俺は騎士ではないが……何故そう思う?」

 

「何故って……決まっているじゃないか!君がさっきした『一礼』は昔ながらの騎士の一礼だッ!」

 

 

何?あれが騎士の一礼だというのか。うーむ、彼の目を見る限り嘘はついているようには見えんしな……。この世界では「狩人の一礼」は「騎士の一礼」となるのか。今後、変な誤解を生まないためにも覚えておこう。

だがしかし、今はその誤解が現在進行形で起きている。早く解かないければ彼の事だ、余計ややこしくなるに違いない。

 

 

「あんな一礼を騎士がする訳ないだろう。本物の騎士ならきちんと『拝謁』するはずだ」

 

「何ッ?では、騎士のする『拝謁』とは一体どのような……?」

 

「いや、普通こうだろう?」

 

 

そう言って、俺は目の前で『簡易拝謁』してみせる。すると、さらに彼の目の輝きが増した。そして同時に険しい表情をする。

 

 

「なるほど……。やはり、僕は騎士としてはまだまだ未熟ッ!騎士が礼儀である挨拶の知識すらないとはッ……!!やはり、君は本物の騎士だったのかッ!!」

 

「いやだから俺は騎士じゃ―――」

 

「フライアに来てよかった……僕は騎士として……いや、本物の騎士となるためにより一層励まなければいけないことが分かった……」

 

「……おーい」

 

 

だめだ、完全に聞こえていない。人の話を聞かないタイプの人間だ。もうすでに半ば諦めてため息を吐いた。ギルも「なんだか大変そうだな」と憐みの目でこちらを見てくる。そう思うのなら助けてくれ。

 

 

「君ッ!どうか、名前を教えてはくれないか!!」

 

「え、ああ……アドルファス・ジャノグリー。アドルでいい」

 

 

名前を聞かれ、いつも通りの自己紹介をする。すると、鋭く「君はッ?」とギルにも間髪入れず聞く。話を聞かない割には変なところで律儀な奴だな。

 

 

「2人とも、今後少しの間ではあるがこのフライアで世話になることになる……僕のような未熟な奴が言うのもおこがましいが、遠慮せず任務に誘ってくれッ!」

 

「あ、あぁ……よろしく頼む」

 

「うむ、共に歩もうではないか、騎士の道をッ!!」

 

 

そう言って、彼は拳を高く突き上げ、こちらに振り返りながら歩いて行った。全く、嵐のようなやつだったな。

 

 

「ややこしい奴が来たな……」

 

 

ギルがそう呟くのを聞き、「だよなぁ……」と独り言にも近い返事を返した。ちなみにこの数秒後、階段の方で「「おわぁぁぁッッ!!?」」とエミールとロミオらしき悲鳴と、何かがもみくちゃになりながら転がるような音がロビーに響いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんだこいつは?」

 

 

ギルはそう言いながら、神機を構える。うむ、ついさっきもそんなこと思ったのは気のせいではないはず。俺たちの目の前には巨大な口を開け、威嚇するアラガミの姿があった。

 

 

「あー……えっとだな、フラン?ドレッドパイクの掃討が任務のはずだよな?」

 

「はい。ですが、言ったはずですよ?任務に行く前に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極東支部のゴッドイーターとの連携を図るため、アドルさん、ギルバートさん、エミールさんで任務を行って欲しいとのことです」

 

「ダメだったか……」

 

 

受付のカウンターに肘をついたまま、首を落とした。出来る限りエミールをスルーしようと思っていたのだが、まさか、もう固定で人員が組まれているとはな……。

 

 

「……それで、今回の目標は?」

 

「ドレッドパイクの群れの掃討ですね。危険性は低いと思われます」

 

「なるほど、じゃあ、さっさと片づけてくるとするか」

 

 

思い立ったが吉日。面倒ごとはすぐに解決だ。早速二人に招集をかけるとしよう、そうしよう。

 

 

「ですが、付近で荷電性のものと思われるアラガミ反応があるらしいので、十分に警戒して……って、あら?」

 

 

資料に目を通し終え顔を上げると、目の前には誰もいなかった。ただ、目の前の書類には「Adolphus Djanogly」とかなり癖のある筆記体でサインがされていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど、それは俺が悪かった。うむ、人間誰でもミスはするものだな」

 

「誤魔化すな……はぁ、今度から気を付けろよ」

 

「……面目ない」

 

 

同行したのがギルで良かった。ロミオやナナだったら罵詈雑言……とまでは行かずとも「ふざけるな」ぐらいは言われただろう。なぜってそりゃ――

 

 

「中型アラガミか……戦うのは初めてか?」

 

「……まあな」

 

 

目の前のアラガミは今までとは比べ物にならないほど巨大だからだ。しかも、辺りに何やら電撃をまき散らしている。黒獣を彷彿とさせるそれは今にも襲い掛かる勢いだ。

 

 

「お喋りは終わりだ。とっとと片づけるぞ」

 

「了解」

 

 

神機を構える2人。ところで、憶えているだろうか。この任務において、アラガミ乱入以外で少々特殊な事例。もう一人の神機使いがいるという事実を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇の眷属め、この僕が相手だぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラガミの後方から雄たけびを上げ、突っ込んでくる影が一つ。

 

 

「喰らえッ!!エミールスペシャルウルトラ―――」

 

 

その影が何かを言い切るより少し早く、目の前のアラガミが動いた。一瞬、肌にビリッといった感触があったのを認識した瞬間、目の前でその影が吹っ飛ぶのが見えた。

 

 

「なにやってんだお前……」

 

 

アラガミの電撃を受け、躰を痙攣させながら影……もといエミールが俺たちの目の前まで吹っ飛んできた。まともに電撃を喰らった割には「き、騎士道が通じない……」などと呻いている。見かけによらずかなりタフなやつだな。これなら命に別状はないだろう。

 

 

「さて、こいつ(エミール)こいつ(アラガミ)……どうしたものか」

 

 

 

 

 

 

緊張感の欠片も無い中、俺にとって初の中型アラガミ戦は幕を開けるのだった。

 




凄くどうでもいいことなんですけど、この小説の世界観は完全にGE2の一番最初のCMですね。
顔とかリアルすぎてめちゃくちゃ笑った記憶があります。

ですが今思えば、語り手が英語なことや、無駄に壮大なところとかがフロムっぽくてすごくマッチしてる気がするんですよ。(なんのこっちゃ



あ、それだけです、はい。



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餓爬鰐狩り~前編~

やはり日曜ぐらいしかゆっくり書ける日がない。

なんとか一週間以内投稿は続けていきたいですね。



「あんた……生きているのが不思議なくらいだねぇ」

 

 

俺は数えられない程の死の経験をしてきた。それはもう多種多様に残虐な死に様を。だが、それでも自我を失うことなく狩りを続けてきた。特段打たれ強くも、精神が強かったわけでもないのになぜ――。

 

 

「しっかりするんだよ、もう誰も人間じゃない。信じれるのは――」

 

 

……そうか、彼女の言うとおりだ。あの世界の住人にもう、人など存在しなかったのだ。たとえ、自我があったとしてもだ。結局皆、血を求めていたのだ。血に酔い、血に狂い、血に生きる……。俺を含めた全てが血を求めさ迷う――

 

 

「自分だけさね……」

 

 

獣……だったというわけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

「……ぁ?」

 

 

自分ですら聞き取れるかわからない程の小さな声が喉に響いた。どうやら倒れているようで、鉛の空が視界を覆っていた。俺は体を起こすために腕に力を入れる。

 

 

「目を覚ましたか……」

 

「……ギルか?状況が……一体どういう――」

 

 

起き上がって、目を閉じる。少しだが、まだ意識が混濁しているらしい。多少の頭痛と眩暈がする。

 

 

「今は輸送ヘリの中だ。お前、唐突にぶっ倒れたんだぞ、思い出したか?」

 

「あぁ、そうか――」

 

 

言われてみれば、そうだった気がする。そうだ、最初から思い出すとしよう。俺はエミールとギルで任務に出て、新たな中型アラガミと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せぇあッ!!」

 

 

中型アラガミ「ウコンバサラ」の引き起こす落雷を潜り抜け、肉薄する。更に二度三度チャージスピアで突きを繰り返し、宙返りで距離をとった。

 

 

「おらぁッ!!」

 

 

刹那、その真下を何かが通り抜けていく。それはウコンバサラに接触した瞬間その動きを止めた。見れば神機がウコンバサラの脇腹に突き刺さっている。それを引き抜き銃形態へと変形、さらに追い打ちをかけるようにバックしながらバレットを傷口に撃ち込んだ。

 

 

「流石だな」

 

「そっちこそ、新人って聞く割りにはなかなかやるじゃねーか」

 

 

互いに不敵な笑みを浮かべながら、拳を打ち合わせる。俺ともう一人の神機使い、ギルは初の中型アラガミと対峙し、善戦していた。とはいってもギルは初めてではないだろうし、とりあえず俺は彼が戦いやすい状況を作り出すことを優先していた。その判断は間違いではないようで現にギルは大技であるチャージグライドを何度もウコンバサラに直撃させていた。

 

 

「流石に奴さんも満身創痍って感じだな……っと、やっぱりな」

 

 

彼がそう言った直後、ウコンバサラは後ずさりをするように、俺たちから距離をとっていた。流石にこれ以上は危険と判断したのか、今の奴に攻めっ気は感じられない。

 

 

「恐らく、このまま逃走……あわよくば捕食をしようという魂胆か」

 

「だろうな。目を離すなよ?このまま一気に仕留める!」

 

 

意気込むギルに俺は頷く。目を離さず、じっくりと相手の動きを見ながら攻寄る。徐々にウコンバサラに退路はなくなり、いよいよ壁際にまで追い詰めた。だが、気を緩めることは許されない。袋の鼠ほど何を仕出かすか――。

 

 

「ガァァァァッ!!!」

 

「来るぞ!」

 

 

痺れを切らしたかのように動いたのはウコンバサラ。大口を開け、滑るように突進を強行してくる。当然避けないわけがない……が、それでは追い詰めた奴を逃がしてしまうことになる。

 

 

「そう来るのであれば――」

 

 

一気に加速するように、地面を蹴った。そして、突進してくる奴に向かって真正面に自身も突っ込む。一瞬で奴と俺の距離は縮まり、奴の大顎が鼻先に触れそうなほど肉薄した。刹那、俺は再度地面を蹴った。

 

 

「――ここだ」

 

 

空中に前転するよう飛び出し、持っていた神機を思い切りウコンバサラに突き立てる。刃は元々破壊されていたタービンと呼ばれる部分に深々と突き刺さり、俺は縦になったポールを握りしめ、足を奴の背中に付けた。そして背中の痛みに悶えながら突進するウコンバサラを無視しながら、神機を突き刺したまま銃形態へと移行する。

 

 

 

 

 

ズガガガガガガガッッッ!!!!!

 

 

 

無慈悲に散弾銃を連射する。弾丸は全て傷口へと吸い込まれ、血しぶきを上げた。その血を全身に被り、俺は再度認識する。あぁ、やはり血はどんな美酒にも勝るのだと。血を全身に浴びた愉悦に浸り、口元の血を拭うように舐め取る。致命傷を負った奴は当然の如く、スピードを殺しきれずそのまま反対方向の壁へと激突した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

「全く、戦闘技術に関しては器用なもんだ」

 

 

俺、ギルバートは呆れるように呟いた。先ほど自分が行った攻撃が一瞬で真似られたのだ。流石に驚きを隠せない。グラスゴー支部である程度他の神機使いとの交流もあったが、あいつみたいに優秀な新人は見たことが無い。俺だって多少のキャリアはあるんだ。あいつが俺に合わせて立ち回っていることぐらい気づいているさ。

 

 

「とはいえ、眺めてばっかりにもいかないな」

 

 

再度神機を振るい、アドルの元へと駆け寄ろうとする。奴は既に虫の息、もう一度二人で畳みかければケリが着く。勝負は決したも同然だ。

 

 

「……なっ」

 

 

だが、俺は気づいてしまった。いや、気づいて幸いだったというべきか。アドルのした行動、アラガミを倒すという観点からすれば何も間違っていない。だが、この任務において、もう一つ果たさなければならないことがある。

 

 

「奴が激突した高台の上には――」

 

 

戦闘不能になったメンバーの護衛……。奴を仕留めようと逸る気持ちで薄れていたもうひとつの目標。

 

 

「エミールの奴がッ……!!」

 

 

ウコンバサラが激突した衝撃で、高台から落ちるエミールの姿を眺めながら、俺は自分たちの失態に毒づく。見れば体勢を立て直し、よろめきながらも立ち上がるウコンバサラの姿があった。そして、運悪く奴の目の前にエミールが落ちる。奴にとっては餌が目の前に振ってきたことも同然、捕食しない訳がない。この距離だと走っても間に合わないのは目に見えている。一体どうすれば……。

 

走りながら思考を凝らすも、時は残酷に過ぎるだけ。俺をあざ笑うかのように、ウコンバサラは大口を開けた。そして今、仲間のすべてがアラガミに奪われる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バクッ

 

 

 

 

都合よく奇跡が起きるはずもなく、ただ乾いた音が鉄塔の森に木霊すのだった。




前編終了。

後編をお楽しみに!


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餓爬鰐狩り~中編~

前編後編だけで終わると思っていたんですが、なんと中編に。

あ、今回はみんな大好きあの人が出てきますよ。というか私が出したかっただけです、はい。


僕は、エミール・フォン・シュトラスブルク。栄えある極東支部第一部隊所属のゴッドイーターだ。だが、どうしてだろう。常に戦場に赴き、騎士として闇の眷属たちを屠るのが僕の務めのはずなのに。

 

 

「エミール」

 

 

僕を呼ぶ声……おぉ!?き、君は――。

 

 

「久しぶりだね、エミール……ん?どうしたんだい、まさかこの華麗な僕を忘れてしまったのかい?」

 

 

忘れるはずがない……ッ!我が盟友にして、好敵手。極東で最も華麗に戦ったと言われる神機使い。

 

 

「そう、エリック・デア=フォーゲルヴァイデだよ」

 

 

おぉ、久方ぶりだな我が盟友ッ!2年、いや3年ぶりといったところだろうか!?

ん?でも待てよ?君は確か、戦場で名誉の死を飾り、殉職したはずでは?

 

 

「そうみたいだね。けど、こうして会えたんだ。今はそのことを喜び合おうじゃないか」

 

 

……うむ、そうだな。今は再会を祝うとしよう。だが、もうひとつ聞きたいのだが、ここは一体どこだ?僕はさっきまでアラガミと戦っていたのだが……。

 

 

「アラガミ?そうか、君も神機使いになったんだね……ははっ、もしかして僕のためかい?」

 

 

うーむまあ、半分正解と言うべきだろう。君がゴッドイーターになると言ったそのときから僕も密かにゴッドイーターになろうと思っていたんだ。そして、君の殉職を聞いて、君の妹エリナまで神機使いになると言い出した。僕は君の「妹を頼む」という約束を果たすこと、そしてライバルである君を超えるために僕は決意を固め、神機使いになったんだ!

 

 

「そうか、エリナが……でも、きっと華麗に戦っているのだろう?なんたってこの華麗な僕の妹だからね」

 

 

ああ、君に近づこうと日々精進している。僕はそんな彼女を見守りながらも、必ずや君を超えるゴッドイーターになるために騎士道を磨いている。

むむっ、そうだ。その騎士道を磨くためにも少しの間特殊部隊と行動を共にすることになったんだ。先ほどまでその任務中でアラガミと対峙していたのだが……そういえばここはどこなんだ?僕は鉄塔の森にいたはず……。

 

 

「そうだね、君には戻らなくてはならない場所がある。君のことを待っている仲間がいるんだろう?なら、こんなところにいる場合じゃないね」

 

 

ん?どうしたのだ、エリック。何か言った……ッ!?どわぁぁぁッッッ!!!?足元が突然抜けてッ!?落ちるッ落ちていくーーーーーーッッ!!!!

 

 

「さらばだ、我が盟友。会えてうれしかったよ・・・君は必ず、あの世界で生き延びてくれ――」

 

 

脳内に友の最期の言葉が響いた。そして、僕は深い深い闇の中へと落下していった――。

 

 

 

 

 

――ガッ!

 

 

「へぶッ!?」

 

 

顔面に突如、痛みが伴った。いったい何が起きたというのだ。そう思いながら、頭を横に振る。そして状況判断のために目を開けた。

 

 

「……へ?」

 

 

視界に広がるのは赤く染まった何か。ところどころに鋭い何かが生え、いまにも自分に触れそうだ。それが何かの口であることを認識したときには、すでにそれは閉じてしまう直前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バクッ

 

 

喰われた。僕は喰われたのか。アラガミに、戦うべき敵と対峙し、負けたのか……。くッ、盟友との約束も守れず、騎士として十分な戦いもできずに、不甲斐ないばかりだ。あれ、でも待てよ?なぜ、僕には意識があるのだ?

 

恐る恐る目を開ける。すると衝撃の光景が目の前に広がっていた――。

 

 

「き、君は……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛みに慣れたことはない。だが、耐えることにはある程度慣れた。だからこうして、今も無理できる。

 

 

「無事か?」

 

 

どうにか喋れる程度の痛みだ。一方問いかけた相手は唖然としている。それが普通の反応なのだろうが、今はそれすらも許す時間が無いに等しい。左手が喰い千切られる(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のも時間の問題なのだ。

 

 

「早く退け。長くはもたない」

 

「だが、アドル殿……それでは君が」

 

「問題ない。アンタが退きさえすれば、何とかできる」

 

 

そう言われ、あたふたと立ち上がりエミールが後退する。よし、これでこいつが暴れても何ら問題ない。

 

 

「――その汚ねぇ口を離しやがれッ!!」

 

 

後方から怒気を含んだ声が響く。刹那、首元に深々とチャージスピアが突き刺さった。どうやらギルがチャージグライドで一気に加速してきたようだ。

 

 

「ぅらあッッ!!」

 

 

そしてそのまま、ウコンバサラを蹴り飛ばす。流石に蓄積されたダメージで強靭が無くなっているのか、前足をくの字に曲げそのまま体勢を崩した。その衝撃で噛みつきが緩くなったこと見逃さず、俺は自分の手を引き抜き、後退した。

 

 

「割と持っていかれたか」

 

 

自分の左手は元の状態からとはかけ離れ、言うなればぐちゃぐちゃの状態だった。皮膚は乖離し、骨が若干露出する形になっている。流石にこの状態のままでいたら失血してしまう。

 

 

「……試してみるか」

 

 

左腕の上腕二頭筋辺りを布で縛り、軽い止血を施す。そしてそのままウコンバサラの元へと走った。

 

 

「ふんッ!」

 

 

やることは至ってシンプル。神機を捕食形態へと移行させ、ただ喰らった。問題はここからだ。そのまま意識を左手へと集中させた。するとどうだろう―――

 

 

「おー案外やれるもんだな」

 

 

徐々に、とは言うが目に見える速さで右手が修復していく。俺が試したこと、それは神機解放時の身体能力向上を左手の自己治癒に当ててみたのだ。そんなことが可能なのかと聞かれれば、実際ただ出来てしまったとしか言えない。だが、俺の体はほとんど人間の要素がない。むしろ、上位者の力の方が濃いのだ。それならば、自己治癒程度ならできるだろうと確証はなかったが試してみたまでである。現に左手はみるみる修復され、既に骨の露出はなくなっていた。

 

 

「おい!」

 

 

そこにギルが駆け寄ってくる。その表情は険しく、怒っているようにも見えた。当たり前か、ヘマをやらかしたんだからな。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「え?」

 

「っておいおい、結構やばいな。骨とかは……」

 

 

何故俺を心配してくれるのだ?もとはと言えば俺が追撃をしなければエミールも危険に晒されず、被害が出ることも無かったというのに。

 

 

「まったく……お前さんは他人の事を考えると自分の事は頭から無くなっちまう、だから今回の事も全部俺が悪いんだとか考えてるんだろう?」

 

「む、実際そうだろう?」

 

「バカ、あんときは俺だって完全にエミールの事を忘れてたし、結局はお前が追撃するか俺がするかのどっちかだった。結果的にお前が攻撃して被害を被ったってだけのことだろ」

 

 

うむ、そういうものだろうか。やはり分からない。いや、正確には忘れてしまったのだろう。昔は俺にも人間らしい思考があったはずだ。だが狩りを続ける中で俺の人間性は薄れて行ったのだろう。そうか、心はまだ人間の心を保てていると思っただが……やはり俺は心身ともに化け物らしい。

 

 

「とにかくだ。さっさと瀕死のアイツからコアを抜くととしよう」

 

「……相分かった」

 

 

そうだ、人の心などもう俺には関係のないことだ。俺は人間としてでもなく、狩人としてでもなく、一人の神喰いとして生きていく。あいつらを殺せればそれでいい。

 

 

「ん?なんだ――」

 

 

違和感、というべきか。ウコンバサラを見ると先ほどまでとは何かが違う。外見や動きなどは全く持って同じ……だが、説明のつかない違和感がそこにはあった。

 

 

「おいどうした、とっとと止めを……なッ!?」

 

 

一瞬だった。先ほどまで数十メートル先にいたはずのウコンバサラが消えたのだ。そしてそれは、今や俺たちの真上にいる。

 

 

「チィッ!」

 

 

ほとんど反射神経での反応。ギルの腕を掴み、思い切り後方へと跳躍した。着地と共にすぐさま視線をウコンバサラへと向ける。訝し気にこちらを睨み付け、先ほどのまでの衰弱は見る影もない。

 

 

「一体どうなってやがる……」

 

「!」

 

 

そのとき、俺は気づいた。奴の目が赤く、変色していることに。

 

 

「まさか」

 

 

俺は自身の左手を凝視した。信じたくはないがさらに厄介なことになったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の血で……『獣化』したのか?」

 

 

 

心の内で浮かび上がった1つの仮説を、俺は知らず知らずのうちに声に出していた。

 




時は回帰し、再度獣狩りの刻が迫る――。



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餓爬鰐狩り~後編~

今週は忙しかったので更新が遅くなってしまいました。
申し訳ないです。


――適合試験。

 

アラガミの細胞である『オラクル』を体に取り込み、成功すればゴッドイーター……神を喰らう者となれるというものだ。また、それは純粋な『人間』をやめる境界線を意味する。定期的に偏食因子を投与しなければ、体の中のオラクル細胞が自身の喰らい始め、最終的には完全なアラガミと成り果てるのだと言われている。

 

はてさて、俺は今こそ神喰いを生業にしているが、元はと言えば狩人。では問おう、俺はどのようにして狩人という存在に成り得たのだろうか……。ああ、そうだ。青ざめた血を投与され、自身の内に潜む『獣』との対峙し、打ち勝つことが出来たからだ。だが、その『獣』に負け、飲まれたが最後。自我の喪失と伴い、体は徐々に人のものではなくなり続け、獣と化してしまうと言われている。

 

 

では、再度問おう。

 

 

 

――『神喰い』と『狩人』……一体何が違うというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

「グアアアアァァァッッッ!!!!」

 

 

死にかけだったはずの奴は一体どうしてこうも活性化したのだろうか。俺、ギルバート・マクレインは右隣にいる負傷した仲間に腕を掴まれたまま、ただ唖然としていた。

 

 

「……血で……化したのか?」

 

 

その仲間は何かを言っているようだが、いまひとつ聞き取ることが出来ない。だが、今は悠長に聞いている場合ではない。

 

 

「どうなってやがる……ッ」

 

 

口でそう毒づいて、立ち上がる。とにかく、何が起こっているかは後回しにしてウコンバサラ(こいつ)を排除しなくては―――。

 

「ギル……下がっててくれ」

 

「は?」

 

 

予期せぬ言葉に無意識的にぶっきらぼうな返答が口から漏れた。いや、当たり前だろう。現状、俺が唯一ほとんど被弾していないというのにあいつは……アドルは俺に下がれと言ったのだ。

 

 

「こいつは俺が蒔いた種だ。俺自身で片を付ける」

 

 

何を言っているんだ?こいつが活性化した原因が自分であると、アドルの奴はそう言いたいのか?一体どういう――。

 

 

「何を言っているんだ!?君は怪我をしているじゃないかッ!僕たちに任せて君は腕を安静にしていたまえッ!!」

 

 

後方から駆け足の音と共に悲鳴にも似た懇願が聞こえてくる。見れば、そこにはエミールが立っていた。

 

 

「エミール……俺の心配はしなくていい。俺はただ責任を取りたいだけだ。君たちを巻き込むつもりはない」

 

「いいやッ!それはできない相談だッ!君が何の責任を取りたいのかは分からない……だが、今この場で誰よりも責任を取るべき人間はこの僕だッ!!」

 

「はぁ!?お前も何言って――」

 

 

アドルの話を聞かないまま走り出すエミール。走りながらもあいつは話をつづけた。

 

 

「身勝手に敵へと突撃しそのまま返り討ちにされ、そしてさらには気絶していたところを身を挺して守られた……これ以上、君たちに迷惑をかけることは許されないッ!!」

 

「バカ!だからってまた無闇に突撃したらッ……!」

 

「安心したまえッ!!」

 

 

そう話している間にエミールとウコンバサラの距離は数メートルのところまで迫っていた。迫りくる敵を目の前にして何もしないわけもなく、ウコンバサラも動いた。短い手足を目いっぱい屈伸させ、大口を開ける。

 

 

「エミールッ!!」

 

 

このままでは迎撃態勢をとっているウコンバサラがエミールを飲みこむのが早いだろう。

 

 

「騎士道ぉぉぉぉッッ!!!」

 

 

咆哮のような声を上げウコンバサラと激突――。と思った刹那、直進していた筈のエミールの姿が消えた。いや、正確には躰の輪郭がぶれた様な感覚を残し、その場から姿を消した。

 

 

「どこに……ッ!?」

 

 

目の前から人影が突如消えたことに、ウコンバサラ(やつ)を含んだこの場にいる全員が困惑する。だが、何が起こったかは直ぐに理解することになる。

 

 

「うぉおおおお!!!」

 

 

数秒前に消えた咆哮が上空から聞こえてくる。いや、降ってきた(・ ・ ・ ・ ・)と言った方が正しいか。その勢いは止まることを知らず、ハンマーのブースターを点火しているのか、より一層の加速を見せた。そして―――

 

 

ドゴォォォォン!!!!

 

 

 

 

 

 

凄まじい爆音と振動が響き、衝撃の余波が肌を荒く撫でた。俺たちが呆気に取られている中、震源の中心地から人影が現れる。

 

 

「やったぞ……やったんだ……騎士道の勝利だぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

勝利の雄たけびを上げる騎士が一人、そこにいた。その姿を見た途端、肩の力が抜けていくのを感じた。なんというか、呆気なかった。思い返してみれば、そもそも瀕死だったはずのウコンバサラが突然活性化したのはどうしてだ?状況が落ち着く中、沸々と疑問が浮上してくる……とにかくだ、このままここに留まる理由はない。とっととフライアへと戻るとしよう。

 

 

「終いだ、とっとと帰還するぞ」

 

「おぉ、戦友たちよ!僕の勇姿を見ていてくれたか!?僕は……僕は勝ったんだッ!!」

 

 

雄たけびを上げていたエミールへと近づく。かなり興奮して普段以上に落ち着きがないが、それ以外は特に問題は無いようだ。

 

 

「分かったから帰るぞ。早いとこ、アドルの傷も診てもらわないとな……おい、アドル?」

 

 

先ほどまで隣いたはずのアドルに声を掛けるが返答はない。見れば、当の本人は顔面のつぶれたウコンバサラの目の前に立っていた。それを見て、重要なことを思い出す。

 

 

「そうか……コアの回収がまだだったか」

 

 

コアの回収、アラガミの核であるコアを摘出しなければ、アラガミは決して死ぬことはない。どんな深手を負ったとしても数日で完治してしまうのだ。だから、すぐにでもコアをアラガミ本体から引き剥す必要がある。そんなことも忘れているとは。自分より神機使いになって日が浅いはずのアドルが覚えていたというのに、まったく俺は……。ため息を吐きながら、コアを回収しようと神機を構えるアドルを眺めた。捕食形態へと移行した神機が、ウコンバサラの躰を貪り始める。

 

 

「……ん?おい何やって――」

 

 

嫌に時間がかかる。初めてのアラガミだからどの辺にコアがあるか分かっていないのだろうか。だが、そんな考えはすぐさま消えることになる。

 

 

 

 

 

「な……お、おいアドル!?何してるんだ、お前!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルが呼びかけてくるが、俺は無視して捕食を続けた。コアは既に回収している。だが、まだ捕食を止める訳にはいかない。俺の血を含んだオラクル細胞が霧散し、新たなアラガミを形成した場合、今回のように何が起こるかわからない。ならばできるだけ、ここで回収するのが得策なはずだ。とは云え、この異様な光景に彼らもただ黙って見ているだけという訳に行かないだろう――。

 

 

「おい、聞いてんのか!!」

 

 

流石に耐えられなくなったのか、ギルが左腕を掴んできた。まあ、そろそろ捕食も終える。少し適当に誤魔化すとしよう。

 

 

「いや、今回みたいな相手は初めてだったからな……全て回収してしまおうと思ったのだが」

 

「は、はぁ?」

 

 

何を言っているんだこいつは……といった風な目でこちらを見つめてくるが、今はそれでいい。現にそれが時間稼ぎとなり、既に最期の咀嚼を終え、神機はウコンバサラの全てを喰らった。

 

 

「ったく、お前といいエミールといい……とにかくだ、早くフライアに戻るぞ。フラン、回収のヘリを頼む」

 

『――ザザッ、了解しました。そちらに向かわせるよう連絡します』

 

 

通信機からフランの声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

 

 

少し、違和感を覚えた。その声はいつも通り、淡々としていて流暢なものだ。だがなぜだろう、耳元で聞いているはずの声が遠くから聞こえる様な……そんな違和感が耳に残った。

 

 

「……今日は散々……だったな」

 

 

フランの声だけではない。周囲の物音すべてが遠ざかっていく。聴覚に何か異常が来したのだろうか、いや、違う。これは恐らく意識自体が――。

 

 

「ア……ドル……」

 

 

ギルの声であろうものが耳に響く。だが朦朧とした意識が聞き取れたのは自分の名前までだった。俺は消えゆく意識に逆らえず、その場に伏した――。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ、お戻りなられたのですね」

 

 

透き通るような白い両手が包み込んでくる。冷たいはずなのにどこか暖かさえ感じる。ああ、この手は幾度となく触れたものだ。何時如何なる時も、この白い手が自分を迎えてくれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お帰りなさい、狩人様」

 

 

 

 




今更ながらですが、書いていて少し違和感があるなと最近思っていたのですが、戦闘中一度もフランの通信がないことに気づきました。

今後はきちんと入れていきたいですね……すみません。


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夢への目覚め

たっはー……やっと書き上げた……

今週も忙しくなりそうなので、更新はまた来週とかになりそうですね~




眼を開けた先に待っていたもの、それは『夢』だった。そう形容するべきだろうか。いや、正確には……。

 

 

「……戻ってきたのか」

 

 

吐いた溜息は何に対するものなのかは分からない。だが、今の心境を形容する言葉すらも見つからない。故にそうせずにはいられなかったのだ。刹那、自分のものではない声が後ろから響く。

 

 

「お帰りなさい、狩人様」

 

 

懐かしい声……と言っても離れていたのは数週間程度だが、聴き慣れたフレーズと共に呼びかけられた。

 

 

「……人形か」

 

 

そこには自分よりも背の高い人間……否、人形が佇んでいた。まあ、予測通りではあったがな。どうやらここは正真正銘の『狩人の夢』らしい。

 

 

「すまなかった」

 

「……?どういうことでしょうか?」

 

 

俺は人形に詫びた。謝られた当人は意味が分からないようで、首を傾げる。

 

 

「知っているとは思うが……俺は君の主人であるゲールマンを殺した」

 

 

俺はあの世界に飛ばされる以前に、狩人の夢の主……いや、正確には『管理者』であるゲールマンを殺した。

あの時、俺は彼の介錯を断り、まだ狩人として成したいことがあると彼に伝えた。だが、彼がそれを許すことはなかった。当たり前だ、その時点で俺は彼にとって『用済み』であり、これ以上ヤーナムに看過させる意味がなかったからだ。彼の目的は『赤子』の力を手に入れた狩人、すなわち俺が得た力を月の魔物へと献上することだった。故に、俺がこれ以上生きながらえる必要性もないため、強引にも俺を殺そうとしてきたというわけだ。しかし……。

 

 

「正当防衛でやむを得なかったこともある……だが、理解してほしい。俺はこれ以上夢に囚われる彼を見たくなかった」

 

 

俺は知ってしまったのだ。彼がどんなに酷く、残酷で、悲しい過去を背負って生きているのかを。ルドウイーク、マリア、ローレンス……彼は掛け替えのない存在全てを失った。だが、その苦しみから逃れることは青ざめた血が許さない。無限地獄とも言えるであろう苦しみから彼を解放するためには、これしか方法がなかったのだ。

 

 

「狩人様、私はあなたを恨んだりはしません。寧ろ、ゲールマン様をこの夢から解放して頂いたことには感謝しています」

 

 

その言葉に感情というものは感じられない。人形は表情を変えずに続ける。

 

 

「私には……何もできませんでした。あの方が感じている苦痛も、悲しみも、何一つ手助けすることはできませんでした……。ですが、狩人様のおかげであの方は、本当の意味での安らぎを得ることができたのです。恨む理由など、私にはありません」

 

「……ありがとう」

 

 

一瞬、彼女の口元が微笑んだ気がした。だが、それは彼女が深々と頭を下げたことにより定かではないものとなった。だが、彼女が俺を恨んでいないことが分かり、少しだけ心が軽くなった。その安心感からか、戻ってきた当初の疑問を思い出した。

 

 

「ところで、聞きたいんだが……なぜ、この空間は未だ存在している?それと、俺はここに戻るまでの間どこに行っていたんだ?」

 

 

俺の疑問、それは二つある。一つ目としては、そもそも俺はゲールマンを夢から解放した後、月の魔物を倒した。ここが奴が創り出していた空間なのであれば、形を保っていられるはずがない。だが、現にここにこうして残っている。それが第一の疑問。二つ目、それは先ほどまでいたはずのアラガミが存在する世界の事だ。今はこうして狩人の夢にいるが、あの世界がただの『夢』であったとは思えない。

 

 

「ここはもう、狩人様の知る『狩人の夢』ではありません」

 

「……?どういうことだ?」

 

 

今度は俺が首を傾げる番だった。俺は黙って人形の話に耳を傾けた。

 

 

「狩人様が月の神を屠り……月の力を手に入れた時、確かにここは一度崩壊しました。ですが狩人様はご自身が崩壊に巻き込まれない様、ご自身を別の場所へと転移なさられたのではないかと思われます。そして、その後転移なさったその場所から、長い年月をかけこの空間を創ることに力を注ぎ……空間の修復が終えたことを見越して帰還なされたのだと、私は思っています」

 

 

突拍子のない話だ。理解はできるが納得がいかない。話によれば無意識にこの空間を作り出したとのことだが、。

 

 

「長い年月……それはつまりどのくらいの時間だ?」

 

「恐らく……100年以上かと思われます」

 

「100年……」

 

 

言葉を失う、だがそれならば全ての事に説明がついてしまうのも事実だ。あの世界の技術力、食やその他の文化……全てが先進的で、人が生み出したとは思えないような代物ばかりだった。が、しかし、雨垂れが長い年月をかけて岩を穿つように、人類が地道な努力の果て得たのがあの未来だというなら合点がいく。

 

 

「では、その間俺は……」

 

「記憶がないのでしたら、恐らく身を隠してお休みになられていたのではないでしょうか。狩人様は既に上位の方となられましたが、その神にも等しいお力をまだご自身の意志通りには扱えるわけではないのでしょう……。ですが、ご自身の安全を確保するためには無意識的に使役できるのではないかと思います」

 

 

人形の話は俺にとって突拍子がなく信じ難いものであったが、全て納得のいく範疇であり、俺は事実として話を受け入れていた。数百年もの間、意識のないまま身を隠すなど不可能とも思えたが、実際俺は『姿なきオドン』の従者であるアメンドーズの力を得ている。それを考えれば自身の姿を消し、数百年隠れることも可能だろう。

 

 

「じゃあ、今の俺の体はどうなっている……?あの世界から消えたということか?」

 

 

従来通り、夢に戻っているのであれば俺はあの世界から消えていることになる。そもそも、だ。狩りを全うし、上位者にまで成り果てた俺は今後何をすれば良いのか。あの世界に……現在(いま)の現実世界でどう生きていけばいいのだろうか……。

 

 

「いいえ……今この場所にいるのは、狩人様の意識だけです」

 

「何……?」

 

「恐らく、これも無意識の内なのでしょう。あちらの現実に実体をを残し、狩人様は狩人様の意識だけをここにご帰還なされたようです。なぜかと聞かれると……また推察になりますが、狩人様自身がその方が都合がよいと判断なさったのでしょう」

 

 

無意識で色々しすぎだろう俺の体よ。だが、少し安心した。確かにその方があちらでは都合がいい。突然、消えたとなれば大騒ぎになるだろう……。あれ――?

 

 

「どうして……大騒ぎになると都合が悪いんだ?」

 

 

先ほど自分で思ったばかりだろう、これからどう生きていけば分からないと。なのにどうして、俺はあの世界で都合の悪いことをしたくないと思うのだろうか。もっとも俺のような化け物が世界に看過する方が危険なことだというのに。

 

 

「……そうすることで、きっと狩人様が成すべきことがあると……狩人様ご自身が分かっているのでしょう」

 

「無意識の内にか?」

 

 

無言で頷く人形。やれやれ、俺の『意志』は定まっていないというのに、俺の『意識』は勝手に動いているようだ。結局、狩人のころと何一つ変わらない。自嘲気味な笑みを口元に浮かべ、頭を掻く。だがまあ、やることは大体分かった。俺は結局のところ(アラガミ)を屠る『狩人』(ゴッドイーター)となるらしい。

 

 

「……分かった。今後も、あの世界で生きようと思う。明確な目的はまだないが……今は、道なりに進むのみだ」

 

「分かりました。狩人様がそう仰るのなら、私はそれに従います。」

 

「あぁ、色々助かった。用があればまた戻る」

 

「はい、ではこちらに――」

 

 

人形が歩き出し、俺はそれについて行く。少し歩くと見慣れた場所に付いた。

それは俺とゲールマンが死闘を繰り広げた場所であり、すべてが終わった場所――。

 

 

「大樹の下に、墓石があります。そこから現実とこの空間を行き来できるようになっています。今後はいつでも戻れると思いますので、いつでもお帰り下さい」

 

「うむ、相分かった」

 

 

言われるがまま大樹の元へと向かう。そして墓石に手を伸ばそうとする。

 

 

「……ん?」

 

 

ふと、隣を見ると手前の墓石より一回り大きな墓石が立っていた。そこには――

 

 

 

 

 

 

             ルドウイーク

 

             ゲールマン

 

              マリア

                  

             ローレンス   

 

          ---安らかにここに眠る---

 

 

 

 

「はは……」

 

 

自分が勝手に作り出したものなのは分かっている。だが、それでも『救われた』のだと感じた。エゴでもいい、彼らが静かな安らぎを得られるのであれば……。

 

 

「……あの、狩人様」

 

 

唐突に呼ばれて、振り向いた。そこにはいつも通りの佇まいをした人形がいた。しかし――

 

 

「――少し、お変りになりましたね」

 

 

彼女は、微笑んでいた。枷など何処にも無い、自由な表情で。声もどことなく温かさを感じる。そうか、簪を渡した時に君が感じたという温かさはこのような感覚だったのだな。

 

 

「……ああ、君もな」

 

 

それだけ言って、墓石に手を触れた。視界が揺らぐような感覚に思わず目を瞑る。数秒と経たずして、意識が光の中へと飲みこまれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい、狩人様。貴方の目覚めが、有義なものでありますように――」

 

 

 

その言葉を聞き終えた刹那、俺は再度『現実世界(悪夢)』へと目覚めるのだった――。

 

 




※注釈※

狩人の夢は月の魔物が空間を作り出したときに、ゲールマンの意識に強く残っているものを具現化したもの。
よって、狩人の古工房を模して創れられ、副産物として具現化した人形は結果的に狩人の助けを担う者となった。

そして、今回創られた夢もそれと同じ原理であり、アドルの意識の中で強く残っているものをベースに創られた結果、大樹の墓場と人形が生成された。


といった風な、私なりの考察のもとに話を進めています。


ただでさえ正確な情報が少ないゲームですので、時折自分の考察を織り交ぜることもあります。その点はどうか、ご了承ください。



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安全第一

有言実行……やはり一週間となってしまいましたか。

できれば明日にもう一話分ぐらい投稿したいですね。
そんな元気が残っていればの話ですが(白目


「今回はコンゴウの撃破が目標となります。ウコンバサラと同様、中型種(・ ・ ・)ですので決して侮ることのないよう。なお、今回は二匹(・ ・)確認されていますので決して(・ ・ ・)警戒を怠らないでください」

 

「あ、ああ。肝に銘じよう」

 

 

日頃から丁寧な口調で物事を説明してくれるフランだが、今回は一段と抑揚をつけて説明してくれる。うむ、やはりあの時の事を根に持っているのだろうか……。

 

 

「では、1人も欠けることの無いよう……後、くれぐれも(・ ・ ・ ・ ・)戦闘中は無線を切ることの無いように。それではご武運を」

 

 

うむ、持っているなこれは。俺、アドルファス・ジャノグリーは受付前で遠目から見ても分かるほどに肩を落とした。とは言え、身から出た錆だ。俺自身が彼女を怒らせてしまったのだから仕様がない。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

狩人の夢から目覚めた後、俺はギルの助けを借りヘリへと運ばれたことを知った。そして、そのままフライアへと帰還し、ミッション終了の報告のため受付へと向かった。

 

 

 

問題はここで発覚した。

 

ミッション終了報告時、受付でフランからあることを問われた。それは「最初に行った通信以降、無線が途絶えたがなにかあったのか」というものである。確かに思い返してみれば、戦闘中フランの声を聞いた憶えがない。疑問に思い、すぐさま付けている無線をフランに手渡してみると……無線がミュートスイッチというものがオンになっていたらしい。

 

 

「何考えてるんですかッ!!もしこれが単独でのミッションだったら大惨事だったかもしれないんですよ!?」

 

「……め、面目ない」

 

「いいですか、今後このようなことは絶対に起こさないで下さい!!分かりましたか!?」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

普段クールでどんなことにも冷静に対応してくれたフランだが、今回の件については物凄い剣幕で叱られた。当然と言えば当然か……オペレーターとしての業務を全う出来なくしたようなものだからな。すべて俺が悪いのだ。彼女の怒りは全て受け止めるのが俺に与えられた義務というもの。彼女の気の済むまでどんな塩対応でも受けようではないか!

 

 

「絶対また勘違いしてるだろ、お前」

 

「む?何か言ったかギル」

 

「いや、もういいわ……」

 

 

小声で何か言った気がしたが、気にする必要はないらしい。とにかくだ、彼女の怒りを一身に受けるのもそうだが、それに加え俺自身が彼女に誠意を見せることも必要だろう。うむ、次の任務は彼女が満足の行くような働きをするとしよう。

 

 

「なになに~?アドル、フランちゃん怒らせたの~?」

 

「ああ、少しな」

 

 

ナナの言うことは間違っていない。間違っていないが、皆まで言われると結構心に来るものがある。彼女にも他意は無く、ただの事実確認のつもりなのだろうが……もっと、こう、少しでいいからオブラートに包んでほしかったりもする。せっかく意を決した心が僅かに揺らいだぞ。

 

 

「準備は整ったか?そろそろ出発の時間だ」

 

 

出撃ゲートの方からジュリウス声が響く。とにかく、今日は極力彼女の迷惑にならない様動くとしよう。となればまず第一に1人での行動は厳禁だろう。それに加え危険とみられる行動全般を控えるとなれば、遠距離からの攻撃が主流となるはず……つまり、Oアンプルは必須ということだな、うむ。

 

 

「ねえ、ギル。今日のアドルなんか変じゃない?」

 

「まあ、ある意味任務に支障はないから気にするな。むしろ今回は戦いやすくなるはずだ」

 

「え、どういうこと?」

 

 

事情を知っているギルは言葉がを濁しながら、そそくさとゲートに向かう。首を傾げながらも、ナナもそれに続いた。2人がいなくなったことにようやく俺も気づき、後を追いかける。ロビーには再び静寂が訪れ、フランが端末を扱う音だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんごめん~、いやーゆうべユノの音楽聞いてたら遅くなっちゃってさぁ……ってあれ?みんなどこ行った?」

 

 

 

 

――遅刻者に、情け無し。後々分かったことだが、この事態を見越してフランがもう一台輸送車両を用意していたらしい。それを聞いた俺は彼女の手際の良さに、改めて感服するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃあ!!」

 

「うらぁ!!」

 

 

翡翠を思わせるような美しい大地に重低音が響く。土煙が舞い、二つの影がそれを切り裂くように現れた。

 

 

「やったぁ!」

 

「もたもたすんな!アドルの射線に入ってるぞ!」

 

「わっとと、ごめんなさーい!」

 

 

攻撃が決まったことに嬉々とするナナにロミオが叱咤を飛ばす。周りを気遣いながら戦えることは悪くないことだ。だが、それは自分の身を守れる人間がすることが前提で――

 

 

「って、ロミオ先輩!前、前!!」

 

「な、うわぁぁッッ!!?」

 

 

退路として選択した先に立ちふさがる巨影。それの隆々と発達した上半身が空を覆った。突然のことに固まるロミオ。当然だ、唐突に不測の事態が起きた時に、最適な行動を出来る者などそうそういない。だからこそ、足りなくなった場所を補い合う『仲間』がいる。

 

 

 

 

 

――ッッシュン

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

固まったままのロミオが素っ頓狂な声を上げる。立ちふさがったはずの巨影がなぜか後ろに倒れこんだのだ。そして、そのままもがく様に脚をばたつかせ始めた。

 

 

「ギル、ロミオを頼む」

 

「ったく、張りきって突っ込んでこのザマか」

 

 

悪態をつきながらも走り出す姿は決して嫌そうではない。何方かと言えば世話を焼く兄……といったところだろうか。そんな彼の背中を眺めながら俺は少し笑った。ついこの前までは仲違いしていた二人だったが、気が付けばまるで年の離れた兄弟の様だ。

 

 

「おら、早く立て。一匹目が態勢立て直しちまうだろ」

 

「う、うるせーな!ちょっとコケただけだっつーの!」

 

「ほらほら、二人とも早くー!」

 

 

そんな会話をしながら後退してくる3人を確認して、俺は撃ち切った狙撃銃(スナイパーライフル)再装填(リロード)した。先ほどロミオの前に立ちはだかった巨影……討伐目標である「コンゴウ」の目にくれてやった銃弾でどうやら最後の弾倉となったらしい。というか、使い始めた当初から驚いていたのだが、こんな長距離でも射程内という銃が存在するとは……しかも一撃一撃が通常の銃とは比べ物にならないほど重い。やはり人間の技術力は侮れんな。

 

 

「あっ、一匹逃げた!」

 

 

ほんの少しの間感傷に浸っていると、撤退してきたナナが声を上げた。見ればナナたちが攻撃していたコンゴウが逃走を図っていた。

 

 

「む、捕食で回復されると厄介だな。アドル、お前は奴をエミールと共に追撃してくれ」

 

「任されたッ!前の任務の借りもある……共に行こう、アドル殿ッ!!」

 

 

ジュリウスの指示に応答し、エミールが先行した。確かに弱っている今なら二人で仕留めきれる。もう一匹はあの3人でもジュリウスがいれば的確な指示の下で戦えるだろう。俺は頷き、すぐさまエミールの後を追う。また勝手に突っ込まれて被弾されても困るからな。

 

 

「行くぞぉぉぉぉッッ!!騎士道の名の下にぃぃぃぃぃッッッ!!!!!」

 

 

相も変わらず騒がしい奴だが、悪い奴でもないのも確かだ。さて、仕事を終わらせるために、俺もひとつ気張って行くとしよう―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……フランに怒られない範囲で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

グゥルルル……。

 

 

戦いを傍観するようにその獣は、ただ鎮座していた。獲物の一部が群れから離れ、孤立する瞬間を待ちながら――。

 

 

 

 

――覚醒の刻が、迫る。

 

 



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血の覚醒

こんなに時間を空けてしまう申し訳ないです。
お詫びという訳ではありませんが、今回は少し長めです。


「クソ……ッ」

 

 

戦闘中に理不尽、と感じることはあるだろうか俺はある時を境にそんな言葉は戦いの中では存在しないと思うようになった。理由は至極単純、俺が戦っていて気付いたからだ。自分に今後起こるであろう事態を幅広く予測していれば大抵のことは「ああ、やはりそうか」と納得できるということに。いつからか俺は狩りの最中で細心の注意を払いつつも、死んでしまったら仕方がない……という矛盾でしかない前提の下に狩りをしてきた。だがここはその矛盾が罷り通る世界(ヤーナム)ではない。故に――

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、理不尽を抱いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

~半刻程前~

 

 

 

「……お前はずいぶんとと獣臭いな」

 

 

神機から滴る血がさらに腕へと伝う。その血を舌で……受け止めると理性が保てなくなる可能性があるため、衣服の袖で拭い香りを探った。感想は言葉の通り、ねっとりとした重みを連想させる血の香りが初めに嗅覚を刺激し、次に獣の唾液のような臭味が鼻孔を突く。嫌いではないのだが、香りからして獣の色が濃すぎるだろうな。悪酔いしたいときにはこいつの血を頂きたいものだ。

 

 

「それはともかく、エミールは何処にいったのだろう」

 

 

戦闘中、動きが不調だったエミールだが、余りにも神機の反応が鈍いと言っていた。単なる言い訳……というわけでもなく、神機の一撃一撃を重そうに振るう彼の姿を見て、とりあえず俺はジュリウス隊長に指示を仰いだ。すると、

 

 

「分かった。こちらの人員をそちらに一人向かわせる。エミールは一旦こちらに退避させ、その間アドルは時間を稼いでくれ」

 

 

と言われたので、瀕死のコンゴウの攻撃を躱しつつ、大振りの攻撃を外した時だけ攻めに転じるという慎重な戦いをしてきた。そうしている間に、エミールと同じハンマー使いのナナが到着。そこからは彼女のサポートに回り、ただ銃の引き金を引き続けた。近接、遠距離ともに一撃必殺を名目に置いた武器による連携を前、瀕死の状態であるコンゴウは成す術もなく力尽きた。その後、ジュリウスに再度連絡しあちらもそろそろ肩が付くという報告を受けた。この時点でほとんど我々の勝利は決まったようなもの、合流して残りを倒せば万事解決……のはずだったんだが。

 

 

「エミールがこちらに到着していないが、そっちにはいないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……No kidding(冗談だろ)?

 

 

まあ、とにかくだ。このまま頭を抱えていても仕方がない。ナナには先にジュリウス達と合流し、俺はコアの回収が終わった後、エミールを捜索しに行くことを伝えた。そして今、現在に至る。

 

 

「あー、フラン?エミールが何処に行ったか分からないか?」

 

『――ザザッ、話は伺っています。現在、付近に神機のビーコン反応があるか確認しています』

 

 

通信でフランが応答した。声に怒気は含んでいないようだ。まあ、彼女だってオペレーターという仕事のプロ、流石に私情は挟むはずがないのだろう。そう思い、俺はそっと一人胸を撫でおろした。やはり何かと関係を保つということの方がよっぽど狩りよりも神経を使うな。

 

 

『あっ、ありました。場所は……C区画のようです』

 

「なぜ、というかどうやって行ったんだ」

 

 

経路が分からん。現在地は昔、何かの書物庫だったであろう面影を見せるD区画。C区画に行くためには開けたA区画を一度経由しなければ行くのは不可能なはずだ。そもそも、A区画ではジュリウス達が未だコンゴウと戦闘中。そこを通ったと言うのなら気付かないはずがない。

 

 

「?」

 

 

思考の最中、ふと視界に入った光景が目に留まった。書物庫から出てからの一本道……奥には崖の行き止まりがある。故に左にしか経路はなく、そこからA区画に出ざるを得ない――。

 

 

「――あ」

 

 

あるじゃないか、もう一つ経路が。そう思いながらその崖まで駆け寄り、そのまま右の壁を眺めた。そして視線を下に向け、あるもの(・ ・ ・ ・)を探しながら歩く。数分としない内に、そのあるものは見つかった。

 

 

「……Holy sh◯t」

 

 

内心まさかと思いながら探していたが、本当に見つかるとは。通常、人が通るべきではない、つまり足場が不安定な場所。云わば、侵入不能エリア(獣道)を、彼は突っ切って行ったらしい。証拠と言わんばかりに、そこには彼が跳躍した時に出来たであろう足形がくっきりと地面に刻まれていた。

 

 

『極東支部はどの支部よりも激戦区と聞いています。周りにあるモノや場所はどんなものでも有効活用できる術をそこで身に着けた……とか?』

 

「……」

 

 

最期が疑問形になってフォローしきれていない……まあ、とにかく納得はしていないが理解はした。ウコンバサラに止めを刺した時も、彼は凄まじい跳躍力を我々に見せた……つまり、俺の推測は正しかったようだ。うむ、それが分かればもう何も考える必要はない。彼をC区画までに迎えに行くまでだ。そう自分に言い聞かせているように聴こえるのもきっと気のせいなのだろう。

 

 

『では、私はあちらのサポートに戻ります。必要でしたら、また連絡ください』

 

「了解、助かった」

 

『……あの』

 

 

会話が終了したと思い、子機に手を伸ばした時だった。フランが何か言った気がした。

 

 

「ん?どうかしたか」

 

『あ、その……いえ、すみません。何でもありません』

 

 

少し口ごもったような声が聞こえたが、どういうことだろうか。それを問い返すときには既に、無線は切れていた。気にはなるが……とりあえず今はエミールの捜索をするとしよう。そう決め、俺はそのままA区画まで歩みを進めた。そんなに距離もなく数秒で着き、辺りを見回す。

 

 

「ジュリウス達は……いないのか。C区画に移動でもしたのか?」

 

 

C区画に向かうルートは2つあり、一方俺がいた崖付近でも見えるのだが、もう一方は完全な一本道。そちら側から移動したのかもしれん。なら、おのずとあちらのチームでエミールが発見されるはず――。

 

 

「――!?」

 

 

違和感。ザラッとしたような感覚が肌を撫でた……いや違う。これはもっと内側からなにかが呼応したような――。

 

 

「うおわぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 

悲鳴。その事に意識が行き自分の受けた感覚を忘れる……ことはなかった。寧ろその悲鳴がこちらに近づくとともにその感覚は強くなっていく。

 

 

「なぜだ!なぜ神機が動かないッ!?」

 

「エミールか……?」

 

「むむ!?アドル殿か!逃げてくれ、奴が来rどわぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 

突如俺の眼前までエミールが吹き飛んで来る。反射的に片腕で受け止め、地面へと下ろした。背後から強い一撃を受けたようだが、吐血や体に変形などは無い。内蔵や骨に異常は無いようだな。ただ気絶しているだけらしい。

 

 

「グゥルルル」

 

 

低い唸り声。明らかな敵意を相貌に宿した獣がそこにいた。今まで狩ってきたアラガミ共とは格が違うことは一目見れば解る。だがそれ以上に他のアラガミに無い何かを感じた。

 

 

「次はお前だといったところか――」

 

 

神機を構え直し、戦闘体制へと移行するべく腰を落とした。普段なら先手を取るべく懐へと飛び込むのだが、今はそうもいかない。下手に手を出せば、倒れているエミールにも被害が及び兼ねない。とはいえ、このまま睨み合っていても――

 

 

 

 

フュッ

 

 

眼前に何かが現れた。耳が風切り音を認識する以前に視覚が反応していた。そう錯覚するほどの速さ。咄嗟に腕をクロスさせ、体への致命傷を避ける。そのはずが、思った以上に重い一撃が腕へと圧し掛かった。故にエミールと同様後方へ大きく飛ぶ形となった。

 

 

「ぐぅッ……!」

 

 

何とか受け身を取り、立膝の状態になる。再度状況を確認するために、奴がいた場所へと視線を向けた。

 

 

「なんだ……奴の腕は……!?」

 

 

俺を吹き飛ばしたその腕は、鎧のような……云わば篭手(ガントレット)を思わせる形状をしていた。それだけではない。その腕の切れ目のような隙間からは絶え間なく炎が噴き出している。奴が異常な速さで間合いを詰めてきたことと何か関係があるというのだろうか。とにかく、俺一人で対処できるかは定かではない。一旦退いて態勢を建て――。

 

 

「グゥルル……ウオオォォォー――ン!!」

 

「……ッ!?」

 

 

脚が、おぼつかない。体全身が熱い。奴が吠えたと同時に体が燃やされている様な感覚が襲った。そのことに気を取られている間に奴の追撃が来る。

 

 

「ガァッ!!」

 

「ぐッ……があッ……!」

 

 

神機のシールドを展開し、追撃を抑える。しかしそんな状態が長く続くはずもなく、再度体が宙を舞った。

 

 

「か、はッ……!!」

 

 

背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が全て押し出される。一瞬の間意識は朦朧とし、眩暈が襲った。一方的にただ嬲られるだけで反撃することが出来ない。このとき初めて、俺は本物の死を悟った。眩暈と共に併発した頭痛が強くなり、より意識が遠退いていく。数秒後、下半身に何か重いものを感じた。奴が俺を押さえつけていることを理解するのは混濁とした意識の中でも容易だった。目と鼻の先までに奴の気配を感じる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……Get away from(邪魔だ) me.」

 

 

 

 

 

霞む視界を無理やりこじ開けるように目を見開き、腕に力を籠める。発した言葉は俺の意志によるものではない……いや、『理性のある俺の意志』と言うべきか。

 

 

「ガァッ!?」

 

 

気付けば神機が獣の腕に突き刺さっていた。驚愕、なのかどうかは知ったことではない。だが、明らかにその獣は退いた。

 

 

「貴様か……俺の『内側』を掻き回しているのは?」

 

 

ゆっくりと、しかし着実にその獣に歩み寄る。互いに一進一退を繰り返すが、それも長くは続かない。獣のすぐ後ろに壁が迫る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「返してもらうぞ」

 

 

――ズァッ!!

 

 

 

 

周囲に血の雨が降り注ぎ、大地が揺れた。獣が反応する間もなく神機を引き抜いた。

 

 

「ウオオォォォッッ!!!」

 

 

引き抜いたと同時に逆袈裟切りへと移行する。

 

 

 

その瞬間、神機が碧い光に包まれた。光の勢いは膨張し、それは巨大な剣を形成していく。聖なる碧き光を纏い、暗き闇を照らす月光の剣――。

 

 

「ッッァァアアア!!」

 

 

剣を振り切った刹那、碧い斬撃が剣から放たれる。光は獣の顔面を焼き付けるようにして消えていった。獣は勢いに耐え切れず、後方へ吹き飛んだようだが……どうやら、致命傷にはなっていないらしい。それに比べて俺は、今の一撃を放ったせいか全身に力が入らない。

 

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

 

一矢報いた……が、状況に変わりはない。依然として体の熱は引かず、血が沸騰しているような感覚だけが残っている。一体何なのだ、この感覚は……。

 

 

「Huh...It's all over for up with me now(万事休すかといったところか)...」

 

 

ゆっくりと立ち上がる獣を見て毒づく。片目に切り傷を負わせたが、効いているようには見えない。せめて傷を負わせたのが両目であったらまだ望みはあったかもしれないが……。そんなこと思っているうちに目の前にその獣が迫る――。

 

 

 

 

 

 

――ドォンッ!!

 

 

「なッ……」

 

「離れろぉぉぉッッ!!」

 

 

目の前に爆炎が広がり、突然の事に咄嗟に目を瞑った。

 

 

「一斉集中砲火だ!引き金を引き続けろッ!!」

 

 

聴き慣れた声が響き、轟音と共にさらに爆炎が広がった。目を開けるとそこには――。

 

 

「へへっ、コンゴウの時の借りは返したぜ」

 

「アドルは下がってて、ここは私たちが引き受けるから!」

 

「ウコンバサラの時といい、無茶しすぎだバカ。少しは俺らの事も信用しろ」

 

「お前たち……」

 

 

どうして、という言葉に籠めるには多すぎるほどの疑問が頭を渦巻く。確かに、こいつが出たときすぐさま他のメンバーにも報告しようとした。だが、不確定要素が強すぎると思った俺はあえて連絡しなかったのに、なぜこうも全員集結してしまったのか。

 

 

「どうして、なんて野暮なことは聞くなよ?初めて会った時も言っただろ。変な気遣いは無し、俺たちは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――仲間だろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間……というものは、主に数が2以上の同属が群れを成し、同一の目的を達成するために提携する関係を指す言葉だ。自分の身を危険に晒してまで、俺を助ける意味など彼らには無いはず。だのに、彼らは現に俺を助けに来た……一体、何故――。

 

 

 

 

混乱が脳を支配する中、俺はただ茫然と眼前に広がる爆炎と3人の姿を、ただ眺めることしかできなかった。

 

 

 



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出迎え

今回は少し短めです。


「血の力が覚醒した……?」

 

 

ベッドの上で俺はただ鸚鵡返しをしていた。目の前には見慣れた面子が並び、全員俺と向き合っていた。

 

 

「あぁ、お前を病室が病室に運び、ラケル先生に報告したところ、血の覚醒であるということが分かった」

 

「でも、あの時にはもう、そうなんじゃないかと思ったんだけどね~」

 

 

淡々と話すジュリウスと笑みを見せながら話すナナ。ジュリウスの方はともかく、ナナのそれはどういうことだろうか。あの時……俺があの白いアラガミに苦戦を強いられているときには分かっていたということなのだろうか。

 

 

「ちょうどコンゴウを倒した時だった。以前からジュリウスが使っている『統制』の力と似たような感覚を感じてな」

 

「そうそう!なんかこう、全身の血がぶわぁーーってなる感じだろ?」

 

「なるほどな……それで俺の身に何かあったと思ってこちらに来たわけか」

 

 

血の力か。自覚はなかったが、どうやら目覚めていたらしい。原因があるとすれば、やはりあの白い獣だろうか。とにかく、怪我も比較的軽傷で済んだようで結果的には良かったのだと思いたい。

 

 

「それもあるが……まあ、どちらかと言えば彼女のおかげだな」

 

「彼女?」

 

「恍けんなよ、フランに決まってるだろうが」

 

「あぁ……なるほど」

 

 

彼女が迅速に対処してくれたのか。それなら納得だ。だが待ってほしい、無線もしていないのにどうして分かったのだろうか。いや、以前より疑問にも思っていたのだが、無線中によく「バイタルが危険」と言われることがある。いや、どうして分かる?最初聞いたときはフランはもしや上位者なのかと疑ったが……まあ、結局はこの時代の技術的な何かなのだろうな。

 

 

「いや~、帰ってきたはびっくりしたよな。あんな光景(・ ・ ・ ・ ・)を拝むことになるなんてさ~」

 

「まったくだよ~。アドルも隅に置けないね~」

 

「あ?」

 

 

人の感情などが分からない俺でも流石に煽られていることぐらい分かる。確かに帰ってきたときはあんな事(・ ・ ・ ・)があったが、酷い誤解だ――

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「痛むか?」

 

 

ジュリウスが俺を見てそう問いかける。対して俺は無言で首を横に振ることでその問いに応えた。そんな様子の俺にジュリウスが「大丈夫そうだな」と小さく笑いながら呟く。

 

 

「ホントに大丈夫ー?鎖骨折れてたんでしょ?」

 

 

ナナが割と心配そうに俺の顔を覗き込んだ。そんなに心配しなくても問題ない。上位者とオラクル細胞の自己治癒能力は凄まじいらしく、実際もうほとんど治りかけている。なんてことは正直に言えるはずもないので、俺は手で制して「大丈夫だ」とだけ言った。

 

俺たちブラッド隊はフライアまでの家路についていた。あの白い獣に襲われ軽傷を負った俺とメンバーは輸送車に揺られ、残り僅かな帰路を辿っていた。現にフライアがすぐそこまで見えている。

 

 

「とにかく、着いたら医務室に行って傷の手当てをしてもらえ。報告書はこっちで適当にまとめておく」

 

「すまない、助かる」

 

 

そう言ってくれるギルに感謝する。彼が言っていたように、今後遠慮することは無しに決めたのだ。正直、仲間ということだけが理由で俺を助けたことにまだ納得はしていないのだが……そのことを考える時間はほとんどなく、もう出撃ゲートの目の前まで来た。

 

 

「よし、車を降りるぞ。ロミオ、アドルの神機を頼む」

 

「へいへい、りょーかいっと」

 

「では、僕はアドル殿に肩を貸すとしよう!」

 

 

神機を持つロミオを横目に、俺はエミールに肩を貸される。至れり尽くせりなのは非常に有り難いのだが、それと同時にかなり罪悪感も湧いてくる。ほとんどもう治ってしまった自分の患部を眺めながら俺はため息を吐いた。エミールも気遣っているのか、かなり慎重な歩幅で歩いている。

 

 

「頑張ってくれ、もう少しでロビーだ」

 

「いや、肩を貸されるほどでは――」

 

「何を言うんだ友よ!それでは僕の気持ちが収まらないんだッ!またしても……またしても君に怪我をッ……!!」

 

 

……ああ、また自分の世界に入ってしまったのか。この状態になったら声が届かなくなることはもう知っている。それを踏まえて俺は諦めて肩を貸されることにした。

エミールの懺悔を耳元で聞かされながらロビーに踏み入る。そして、そのままエレベーターに乗って医務室へと降りる――。

 

 

「アドルさんッ!」

 

「む?」

 

 

……はずだったのだが、予想外の事が起きた。聴き慣れた声がした方向を見ると、1つの人影がこちらに走ってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――ドンッ!!

 

「だから僕は誠意を持っtごはぁッ!!?」

 

「……What?(は?)

 

 

何が起こったのだろうか。一瞬理解が出来なかった。とりあえず、エミールが吹っ飛んだことは分かる。そして花の様な香しい匂いがしたと思った刹那、腹周りに温かく、なにやら柔らかい感触が広がった。目線を落とすとそこには……。

 

 

「大丈夫ですか!?あぁ、良かった……本当に……」

 

「フラン……か?」

 

 

目元を真っ赤にしたフライアのオペレーターが俺の腰に手を回し、体を密着させていた。色々と言いたいことはあるが、予想外の事態に俺は思考が半ば停止し立ち尽くした。

 

 

「すみません……私、ずっと謝りたくて……謝れないままあなたが死んでしまったらと思ったら……」

 

「は?」

 

 

話が読めない。謝る?何についてだ?彼女に対して嫌悪を抱くような行為はされた覚えがない。と、とにかくだ。俺は今重症を負っている『という』状態なので、このままでは周りの不信感を煽ってしまう。とりあえず離して貰いたいのだが……。

 

 

「ヒューヒュー!お熱いね、二人とも!」

 

「ほほ~、アドルとフランちゃんってそーゆー……」

 

「ふむ」

 

「仲がいいな」

 

 

何言ってんだコイツら。だがしかし、思っていたよりずっと違う反応を示しているようだが、誤解を受けているのは明らかだ。様々な反応を示すブラッドの面々を背に、俺は体を密着させているフランの肩に手を置き、とりあえず少しだけ離れるよう力を入れた。

 

 

「別に俺はフランの事を嫌いになったりはしていないが……とりあえず、離れたほうがいいんじゃないか?人目を引いているぞ」

 

「え……あっ、す、すみま……せん……」

 

 

唐突にしどろもどろになりながら、俺の体から離れるフラン。体の怪我の事には誰も触れてこないのを見ると、どうやら勘付かれていないようだ。変な視線を受けているのは別として。

 

 

「フラン、話したいことがあるのは解るが後にしてほしい。これからアドルを医務室に連れて行かなければならないんだ」

 

 

ジュリウスがそう言いながら歩み寄る。それに対してフランは「……了解しました」と顔を伏せながら答え、スタスタと受付まで戻って行った。結局、何だったというのだ……。

 

 

「ここで立ち止まっていては邪魔になるだろう。移動するぞ」

 

「あ、ああ……」

 

 

吹っ飛んだエミールの代わりに今度はジュリウスが肩を貸した。ただでさえ、あの獣の事やギルの言ったことで考える余裕などないというのに、無慈悲にも疑問が次から次へと生まれる……今日は眠れる気がしないな。そんなことを考えながら俺はそのままエレベーターへと歩みを進めるのであった。

 

 

 

吹っ飛んだエミールはというと、ロミオとギルに起こされ、とりあえず自室に帰らせたらしい。実は今回の任務が終えたら極東に帰る予定だったらしく、俺が怪我の療養中、あの一際響く声はいつの間にかフライアから消えていた。

 

 




この物語のヒロインは……一体誰だッ!(白目)



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博士姉妹

気が付けばお気に入り登録数が100件超えてました。ありがとうございます。

というか、皆さんフランのこと好きなんですね……あの話だけで一気に10件以上もお気に入り増えてたんですが……。


エレベーターに良い記憶はない。理由は単純、その行き先が決して望ましい場所であったことがほとんどないからだ。聖堂街上層といい、悪夢の辺境といい、誰が好き好んであんな場所に行くだろうか。そんなことを思いながらも現在、俺はエレベーターに乗っている。

 

 

「ラケル博士……か」

 

 

皆口々に言う。あの人がいなかったら今の「ブラッド」は無かったと。現に俺だって命を救ってもらった身だ、感謝はしている。だが……身も蓋もない言い方にはなるが、かなり胡散臭い。何せ今日が初対面、警戒もするのは当然なのだが……。他の皆は元から面識があるようで、すでに顔見知りらしいが俺は今まで一度も会ったことは無い。定期のメディカルチェックで声を何度か聞いているが、どのような容姿をしているのかは知らないのだ。

 

 

「……考えすぎだといいが」

 

 

エレベーターに乗っているという先入観だけで、俺は何を考えているんだ。きっと、最近面倒なことが続いたから思考がネガティブになっているのだろう。そんなことでは任務にも支障来すだろうし、深く勘ぐるのは止めることにした。

 

そもそも、彼女に会いに行く目的としては先日覚醒したという「血の力」について『助言』を貰いに行くためである。さして大したことではないので、そんな気を張る必要もないはずだ。

 

 

「着いたか」

 

 

扉が開かれ、視界が広がる。だが、そこには人影があった。

 

 

「あら……」

 

「む……」

 

 

赤い髪に濃いめの化粧、そしてラフに着込んだ白衣。確か以前、グレム局長と同伴していた――。

 

 

「こんにちは、ここに来るってことはラケルに用かしら?」

 

「うむ、貴女は確か……」

 

 

レア・クラディウスだったか。俺が今から面会しに行くラケル博士の姉であるという話だが……。

 

 

「私の事を知ってるのね。ふふっ、光栄だわ。私もあなたの噂はいろんな所から兼ね兼ね……ね」

 

 

ずいぶんと含む様な言い方するものだ。とはいえ、格好からしてラケル博士と同じ研究者なのだろう。だとすれば俺が発見された時の状況や、我々ブラッドのメディカルチェック結果なども知られていてもおかしくない。こちらと相手の情報量を比べると圧倒的に俺が知らないことの方が多く、詮索し合うには分が悪すぎる。

 

 

「お互い時間も惜しいでしょうし、今は挨拶だけにしましょう。今後機会があったときにゆっくりお願いするわ」

 

「……了解した」

 

 

得も言えない空気のまま立ち去ろうとするレア博士。なんというか、剥き出しではないにしろ僅かばかりの敵意を感じた。理由は分からないが、気にはかけていた方がいいだろう。そう思い、ラケル博士の研究室へと歩みを進めようと、足を踏み出した――。

 

 

「ああ、1ついいかしら」

 

 

一歩踏み出して、静止する。一体何を言うのかと身構えてしまうが、焦らずゆっくりと振り返った。

 

 

「近々、ブラッドに新しい隊員が増えるわ。顔を合わせたときは、よろしくお願いするわね」

 

 

硬い表情であろう俺と引き換え、柔和な表情なまま彼女はそう言い放った。それに対して何か言う前に、エレベーターの扉が閉まり、口を開いたまま俺は立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

「新しい隊員か……」

 

 

ギルの時の件もある。良い……とは言い難いものを思い出す。また、他の奴らと一悶着無ければいいんだが。そう思いながらも、俺は頭をぼりぼりと掻きながら再び歩みを進めることにした。そして、一分と経たないうちにラケル博士の研究室前に到着した。

 

 

「失礼、フェンリル極致化技術局ブラッド所属、アドルファス・ジャノグリー到着しました」

 

「――どうぞ、入りなさい」

 

 

透き通った声が扉の奥から響く。自分が吸い込まれそうな感覚さえするその声に従い、扉を開いた。

 

 

「……何?」

 

「久しぶりですね……アドル。いえ、あなたにとっては初めましてと言うべきかしら?」

 

 

――そこに佇むのは、一匹の蝶。観る者全てを引き込んでしまうような黒い蝶がいた。結局嫌な予感は当たってしまった。いや、今はそんなことはどうでもいい。後悔に似た様な感覚が全身を掻ける中、その蝶は俺の目の前まで近づいてきた。

 

 

「あらあら、どうしたのかしら。そんなに堅くなることは無いのよ?」

 

「……」

 

 

目の前の蝶……ラケル博士は俺に微笑みかける。真っ先に目が行くのは彼女の足元だ。

 

 

「失礼を承知で聞くが、貴女の脚というのは……」

 

「昔、怪我をした時から動かないのです。別に珍しい事ではないのですよ」

 

「……そうか」

 

 

答えることに躊躇は見られなかった。彼女は今、俺の前に座っている(・ ・ ・ ・ ・)。歩いて来て座ったのではない、座ったまま移動してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

――そう、彼女は『車椅子』に腰かけている。

 

 

「立ち話も疲れるでしょう。そこにお掛けなさい」

 

 

指をさす方向にはソファがあった。それに対して無言で頷いて、俺は静かに腰を下ろした。

 

 

「さて……ついに『血の力』に目覚めましたね。ジュリウスに次いで、あなたが2人目です。おめでとう」

 

 

ゆっくりとした口調で告げられる祝いの言葉に、俺は小さく首を垂れた。この光景……ついつい『彼』と会った時と重ねてしまう。

 

 

「一番聞きたいことは……そうね、あの白いアラガミについてかしら?」

 

「奴を知っているのか」

 

 

以前ターミナルのデータベースを閲覧したときには、あんなアラガミは記載されていなかった。ということは、最近になって発見されたものなのだろうか。

 

 

「貴方が撃退したアラガミ……『マルドゥーク』は暫定的に『感応種』と、呼ばれています」

 

「感応種?」

 

 

聴き慣れない単語に首を傾げる。ラケル博士はそのまま続けた。

 

 

「『感応種』と呼ばれるアラガミは、強い『感応現象』によって他のアラガミを支配しようとすることが分かっています。オラクル細胞を持つ神機も、云わばアラガミの一種……エミールさんの神機が動かなくなったのもそのためです」

 

「……すまないが、『感応現象』とは何かを教えてもらえるだろうか?」

 

 

奴が……マルドゥークが神機を含むアラガミを支配することは分かった。だが、そんなことをやってのけるほどの『感応現象』とは一体何に対して感応するのだろうか。

 

 

「そうですね……。『感応現象』は文字通り、オラクル細胞同士が互いに影響を与え合う現象全般のことを指します。具体的に何が起こるかは様々ですが一つ上げるとするなら、神機使い同士が互いの体に触れたときに、その人物の『感情』や『記憶』が視覚的に、あるいは感覚的に体感できるという事例がいくつかありますね」

 

「ふむ」

 

「そして、言ってしまえば……貴方が覚醒した『血の力』も『感応現象』の一種なのですよ」

 

「なるほど」

 

 

なんとなくだが、話が見えてきた。つまり、俺たちブラッドの『血の力』というのはマルドゥークを始めとする、『感応種』への対抗策というところか。通常の神機使いでは強い『感応現象』により神機が動かなくなるが、俺たちブラッドはそれを凌駕する『感応現象』を以て神機を動かしているというわけだ。

 

 

「分かってもらえて何よりだわ。これで『血の力』については一通り話しました。何か、他に聞きたいことはあるかしら?」

 

「……1つだけある」

 

 

俺は前々から気になっていたことを打ち明けることにした。

 

 

「貴女は以前『血の力』とは別に……『血の意志』について話していた。それについては教えてくれないだろうか」

 

 

俺が神機使い、ゴッドイーターとしてこの地に立った時から気になっていた。彼女は最初、俺がゴッドイーターになったのは俺の中の『血の意志』がそう望んだからだと言った。彼女の言う『血の意志』とは何なのか……俺はそれを知りたい。

 

 

「貴方には素質があった……。『血の意志』が望んだというのは、血の力の適正があったという意味で……あまり深い意味は無いわ」

 

「……そうか」

 

 

俺はこのとき、少しだけ安心していた。もし、彼女の言う『血の意志』が俺の知っているものだったとしたら、今後は少なからず彼女を注視していかなければならない。故に、俺は自分の当てが外れて胸を撫でおろしたのだ。

 

 

「今日は多くの助言をして頂き、感謝する。自分はこれで失礼させてもらう」

 

「そうですか。こちらこそ、貴方とお話しできて嬉しかったわ……あぁ、そういえば、嬉しいことは続くものですね。またブラッドに、新しい家族が増えることになりました」

 

 

彼女は思いついたようにそう言った。そのことはここに来る前、レア博士から聞いている。

 

 

「『感応種』と戦える貴方たちブラッドは、間違いなく人類の希望となるでしょう……その日まで、家族皆で、仲良く……フフッ」

 

「相分かった、失礼する」

 

 

それだけ言い残し、俺は研究室を後にした。そして、廊下に立ち、暫し歩いたところで立ち止まる。

 

 

眷属(家族)か――」

 

 

彼女の言う『家族』とは、俺がアンナリーゼと交わしたものとほとんど変わらないものなのだろう。生まれも、育ちも違う……だが、同じ『血』を分け合った『家族』。それを、あの車椅子の助言者はとても嬉しそうに言った。

 

 

「彼女は……今もどこかで生きているのだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴公……また、戻りたまえよ。カインハーストの名誉があらんことを――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嗚呼、結局は戻らずじまいか」

 

 

考えてみれば、あの方は異端者である俺を受け入れてくれた数少ない人間の一人だった。血の穢れを捧げ、彼女を満足させることに奔走した時期もあった。あの時の俺は、少なからず何か『救い』が欲しかったのだ。暴言を吐かれ、常に何かしらに命を狙われ、安息の地はどこにもない。あの時(・ ・ ・)を境に感情というものを捨てたと思っていたが、荒んだ心は自然と慈愛を求めていたのだ。

 

 

「……」

 

 

――思いに耽り、少し経って俺はゆっくりと歩みを進めた。アンナリーゼ女王を忘れることは無い。ただ、今は新しい『ブラッド』という眷属の中で俺は生きている。ならば、今後はブラッドに忠を尽くしていくことが、俺のすべきことだろう。

 

 

「今日は……皆と食事を摂るか」

 

 

長い廊下で独り呟いて、俺は高層フロア後にした――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ、貴方は特別なのよ……自分でも、分かっているのでしょう?」

 

 

独りでいるには広すぎる部屋に声が響く。その声は嬉しそうに、それでいて嘲笑するように続けた。

 

 

「でも、貴方にはあげられないわ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)……そう――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『月』はもう、『私たち』のものなのだから……フフフッ」

 

 

 

 

 

 




先日GE2RBプレイしていて、ミッション終わりの無線中に


フラン「あれー?カルビちゃんまた脱走したのー?……って、あぁっ!!すみません……」


こんな台詞あったんですね。知らないことばかりです


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副隊長任命


タイトルでネタバレしてる感が半端ではないですね。
ですが、これ以外何も思いつかなくてですね……




「――人形。俺はどうしたらいい」

 

「はい?」

 

 

大樹の下で俺は一つの墓を眺めながら問いかけた。質問の意図が分からない、と言いたげな様子で人形は首を傾げる。確かに、今の発言では言葉が足りなかったな。

 

 

「いやな。こうして俺はまるで普通の人間のように日々を過ごしている訳だが……本当にそれでいいのだろうかと思ってな」

 

 

以前、人形は俺が無意識的に一つの目的を持って行動していると言ったが、今一つそれが実感できるような事件は未だ起こっていない。俺の体に何かしらの変化がなかった訳ではないが、それも俺の目的に繋がるものなのかも分からない。

 

 

「そうですね……私には何とも」

 

「……ま、だろうな」

 

 

端から期待していなかったように言い捨て、俺は苦笑した。別に何も答えなかった人形に呆れたわけではない。ただ、人形に答えを求めるほど生きる目的を探すために躍起になっている自分が、酷く滑稽に見えたからだ。本来、生物とは死ぬために生きているに過ぎない。生きるという『過程』を経て死という『結果』に至るのだ。その過程がどんなものであっても死という一つの結果にたどり着くのだ。それを知っていながら何を焦る必要があるだろうか。

 

 

「変なことを聞いた、忘れてくれ」

 

 

そう言って立ち上がり、その隣の墓に手を置いて『夢』から離れようとした。

 

 

「狩人様。私には、分かりません」

 

 

人形は目を伏せて話し出す。その表情は悲しいそうなものだった。

 

 

「私は……生きてもいなければ、死んでもいません。そんな私から見れば、生物が皆、『生』というものにしがみついている様子が疑問でしかありません。その先には必ず死が待っているというのに……狩人様、今度は私に教えてくださいませんか?」

 

 

目を開き、その双眸が俺を捉えた。感情を捨ててしまったような義眼にはもう一人の俺が映りこむ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故、人は『死』を恐れるのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日付で、極致化技術開発局所属となりました。シエル・アランソンと申します」

 

 

透き通ったような声が部屋に響く。だが、その言葉遣いは非常に堅苦しいものであった。

 

 

「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設『マグノリア=コンパス』にて、ラケル先生の薫陶を賜りました。基本、戦闘術に特化した教育を受けてまいりましたので今後は戦術、戦略の研究に勤しみたいと思います」

 

 

目の前の少女は、一息にそれを言い切った。それを後方で眺めていたジュリウスが穏やかな笑い声を漏らし、しばしの沈黙が流れる。

 

 

「……以上、です」

 

 

耐え切れなくなったかのように、少女俯いてそう付け加えた。それを見ていた俺の隣にはナナ、ロミオ、ギルのブラッド隊メンバーが全員いたのだが、唖然としたように少女を眺めて続けている。ナナとロミオに至っては2人して口が開いたままだ。

 

 

「シエル、そんなに固くならなくていいのよ。ようこそ、ブラッドへ――」

 

 

助け舟なのだろうか。この方が考えていることはよく分からないが、とにかく沈黙は途切れた。聞けば、目の前の……シエルと名乗る少女がブラッドの最後のメンバーらしい。

 

 

「これからブラッドは、戦術面における連携を重視していく。その命令系統を一本化するために、副隊長を任命する。ブラッドを取りまとめていく役割を担ってもらいたい」

 

 

ジュリウスがラケル博士に促され、話題を変えた。副隊長を決定するということだが……いや、まさかな――。

 

 

「アドル……お前が適任だと判断した」

 

 

そんな馬鹿な。いや、別に嫌なわけではない。ただ、俺はそんなことを仰せつかるほどの実力は無いはずだ。味方との連携なんて、独りで戦ってきた俺にとって素人も同然。それに他の皆が納得する訳――。

 

 

「わー、副隊長ー!よろしくねー!」

 

「ま、順当だろ。ナナはあれだし、ロミオは頼りないしな」

 

「……おいおい」

 

 

何故か思ったよりも歓迎されている。確かに『血の力』には真っ先に目覚めたのは俺だが、それでも足りないものは他に数えられないほどあるだろう?メンバーとのコミュニケーション等に至っては最低限しかない俺に、指揮系統を任せていいはずがない。

 

 

「うるさいよ!お前の方がよっぽどあり得ないよ!」

 

 

バカにされたことに対してロミオが噛みつく。それに対して、ギルはやれやれと言いたげにそちらに向き直った。

 

 

「前にも言ったが、お前は敵と距離開け過ぎだ。そのくせ被弾率が高いってのはどういうことだ」

 

「イノシシバカに言われたくないね!だいたい、皆の射線の邪魔になってるの気づいてないの?」

 

「あ?皆って誰だよ」

 

「……まーた、始まった」

 

 

どうして、喧嘩が始まっているんだ。

間に挟まれたナナが呆れて、ため息をついている。まったくこんな所でまで何をやってるんだ……。

 

そう思いながら、俺は無言で二人の元へと歩いて行く。そして――

 

 

 

 

……ガッ!

 

「うげッ」

 

「痛って!?」

 

 

火花を散らしていがみ合う二人の顔に後ろから力を入れる。すると見事に互いの額が音を立てて衝突した。

 

 

「お前ら、喧嘩なら外でやれ。ついでに言うが、ロミオ。お前は何かとギルに突っかかるのやめろ。そしてギル、お前はいちいちひと言が多い」

 

「いって~……だって今はこいつがー」

 

「ッ……事実を言ったまでだ」

 

 

自分の額をさすりながら、こちらを睨む二人だがそんなことは関係ない。問答無用で俺は続けた。

 

 

「文句は後から全部聞いてやる。だが、今は状況を見ろ。分かったか」

 

 

それだけ言って、元いた位置へと戻った。二人はというと、渋々だが黙りこくって前を向き直した。さて、本題の戻ろうか。俺は副隊長になどふさわしくない――。

 

 

「――チームも上手くまとめてくれているようだ。やはり、お前が適任だな」

 

「……は?」

 

 

上手くまとめている?今のが?こんな対応はその場しのぎもいいところだ。俺じゃなくても出来るはず……いやもっとあるいは上手く――。

 

 

「誰に言われなくてもチームを統率し、正しく導いてくれるのはお前以外にいないだろう。どうか、よろしく頼む」

 

「う、むぅ……」

 

 

……そういうものだろうか。生返事で俺が決めあぐねていると、右から腕を引かれた。

 

 

「お願いだよアドルー……二人を止められるのアドルだけなんだからさー」

 

 

困ったような顔をしたナナが、小声でそう言ってきた。見れば二人はそっぽを向き合って、顰めた顔を崩さないままだ。ああ……もう勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……了解した」

 

 

折れた。だが、仕方ないだろう。あんな顔で懇願されては、断りにくいこと極まりない。それに対してジュリウスは「ああ、信頼しているぞ」と労うような言葉をかけてくる。面倒ごとを一気に押し付けられて気もするが……後の祭りだ、嘆いていても始まらない。

 

 

「今後はシエルとブラッドのコンセンサスを重ねるように、お前らもそれくらいにしておけ」

 

 

ジュリウスが2人をそう一喝すると、顰めた面がばつが悪そうな顔に変わった。やはり、隊長の威厳というものは凄まじいな。

 

 

「副隊長、改めてよろしくお願いいたします」

 

 

俺が感心していると横から声を掛けられた。見れば先の少女、シエルがすぐ隣にいた。

 

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。アドルファスだ。アドルでいい」

 

「分かりました。では後程お願いいたします、アドル副隊長(・ ・ ・)。」

 

 

そう言い残して、彼女はジュリウスと共に研究室を去って行った。隙の無いその後ろ姿は、まるで主人を守る番犬の様だった。ナナを含め、あんな年端もいかない少女が戦場に出る時代とは……そういった面ではあのヤーナムよりは厳しい世界なのだろうな。

 

 

「副隊長、か」

 

 

俺は小さくそう呟いた後、残ったブラッドメンバーに解散を告げ、シエル達の後を追うのだった。





ふと、思い立ったのですが、主人公の容姿などは決めたほうがいいのでしょうか。

ゲームと同様、キャラクリをするのはプレイヤーであって、読者の方々が自由に各々の狩人像を浮かべて頂ければそれでいいと思っていたのですが……。




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食い違い

遅くなってすみません。今週は忙しかったので手が付けられませんでした。
来週も場合によってはきついかもしれませんので、そのときはすみません。




※日を置きながら書いていたので内容がちぐはぐかもしれません。


――『フライア』

 

我々ブラッドの拠点であり、フェンリル極致化技術開発局そのものでもある移動支部。そこではアラガミに関する多種多様な研究が行われており、その設備たるやフェンリル本部に勝るとも劣らないという。また、研究設備のみが充実しているわけはなく、我々ブラッドが快適に生活、訓練を行えるような施設も整えられている。現に今、俺たちはその設備を使用している。

 

 

「20分経過しました。このまま続けましょう」

 

 

良く言えば『流暢』、悪く言えば『機械的』な声が響いた。それを聞いて、俺はなんの考えもなくそれに従った。

 

 

「あ、アドル……ちょい、スピード緩めて……」

 

「脇腹痛ってぇ……もう限界……」

 

 

振り向かなくとも消衰が解るほどの、荒い息遣いが聞こえる。そうは言うが、そうしてしまったら訓練の意味がないだろう。そう思いながらも後ろを振り向けば、ナナとロミオ、そして新しいブラッドメンバーであるシエルが一列に並んで走っている。

 

 

「まだ後10分残っています。指定したノルマはきちんとこなしてください」

 

「け、けどさ……もう足が動かないよ……」

 

「3人の身体能力を考慮したうえでのトレーニングメニューですので理論上は可能です。後は精神力の問題ですから、『やりきれる』という強い意志をもって走ってください」

 

「最後は根性論かよ……ハァッ、ハァッ」

 

 

無慈悲な言葉が2人に投げかけられる。現在、俺たちは「持久走」を行っているのだが、俺とシエル以外の2人はもう疲労困憊しているようだ。

 

 

「……まあ、とにかくだ。後10分走り終えたら休憩とするか」

 

 

現在、訓練開始から数時間経つが一度も休憩をはさんでいない。長時間訓練で体を酷使して任務に支障を起こされても面倒だ。ゴッドイーターと言えど人の身、限界点は存在するのだから休息も必要だろう。

 

 

「そうですね、適度な休憩も大事です。後で一分間ほど取りましょう」

 

「いッ!?」

 

 

ロミオが絶句する。一分間で出来ることなど息を整える程度だろう。俺の言った『休憩』は、一度体を休ませる意味だったのだが彼女にはそれが分からなかったようだ。まだ訓練を続けるつもりらしい。

 

 

「さあ、残り5分です。気を緩めず行きましょう」

 

「」

 

 

結局、この後訓練は延々と続いた。俺としては『体』が『体』のため疲れはしないが、ひどく退屈な時間が続いたことに違いは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一度引きましょう。その方が現実的です」

 

「いいや、こっちが優勢なんだ。今畳み掛けなきゃチャンスを逃すぞ」

 

 

何故こうなった。内心頭を抱えつつも、目の前の現実を受け入れようとする。訓練が終わり、現在鉄塔の森にてギルとシエルを引き連れ任務中なのだが……ギルの時も面倒なことになったが、今回は規模が違う。この前の訓練の時といい、ブラッドメンバー全員がシエルと何かしらの『食い違い』を起こしている。喧嘩沙汰……というほどではないが、場の空気が重くなっていることは間違いない。

 

 

『――ザザッ、ここは副隊長の判断に任せる。どちらの意見をとっても構わない、自分の考えた案でもいい』

 

 

埒が明かないと思ったのかジュリウスが助け舟を出した。それに従うように、二人も判断を乞うような目でこちらに向き直った。

 

 

「……まあ、なんだ。とりあえず焦って仕留める必要はない。ただ戦闘中は相手を圧倒し続ける状況を作り出すことを考えろ。手段は問わない。だが1対多数の状況だけは絶対に避けろ、いいな?」

 

 

色々喋ったが、要は集団で行動しろという意味だ。チームの連携が取れない以上、数の優位で押し切るしかない。実戦で培ってきた『勘』を判断材料に戦うギルと訓練で学んだことを実戦でそのまま生かそうとするシエル……スタイルが全く持って正反対な二人がお互いの意見を譲らないのだ。なら、その他の判断は各自に任せ、俺が2人をカバーできる範囲で遊撃するしかないだろう。

 

 

「つまり追撃でいいってことか?」

 

「ギル、お前は追撃で奴らを圧倒できる確信があるか?」

 

「いや、確信って程のものはないが……」

 

 

さっきも言ったが、彼の判断材料は経験に元付いた……云わば『勘』だ。全てに確証があるわけではない。故に皆を納得させるほどの説得力はない。

 

 

「では、一度後退ということでよろしいでしょうか?」

 

「退いても構わん。だがそれで次の戦闘は現在ほどの優位性を作れると断言できるか?」

 

「……断言はできませんが、恐らくは可能です」

 

 

彼女の最期の言葉に普段の力強さは無く、少しだけ言葉に揺れがあった。どれだけ良い仮説を立ててもそれを実証したことが無ければ、自信を持って判断することはできない。実戦経験の少なさが彼女の言葉に迷いを生んだのだろう。

 

 

「まあ、死なければ何をしても構わない。結局のところ、終わった後でなきゃ何が良くて何が悪いなんてのは分からないからな……」

 

 

それだけ言って、俺は神機を担いで歩き始めた。

 

 

「せっかく人数がいるんだ、集団行動は厳守。それ以外は個人の好きにしろ」

 

 

残念ながらこれ以上は何を言ったらいいかわからん。集団での戦いはゴッドイーターになって初めて経験した身、この場で的確な指示を出せるほどの余裕は俺にはない。

 

 

「おい、結局追撃かよ」

 

「話し合いで時間は取った……言ってしまえば、どっちつかずだな。だがまあ――」

 

 

頭を掻きながら歩みを続けた。後ろの方でギルの溜息をするのが聞こえたことから、いつもの様に肩をすくめているのだろう。

 

 

「ガァァァァァ!!!」

 

「……追撃の必要もないみたいだがな」

 

 

その咆哮と共にオウガテイルの群れが俺たちを包囲する。お仲間も引き連れてきたようで、数が増えている。とは云えだ、やることいつもと変わらんがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Todays, I also joins the hunt(今日も今日とて狩り日和だ)...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

派手にやりすぎた。反省?そんなものは通り越して猛省している。

 

いや、十中八九あいつ(ヤクシャ)の血の所為だな。なんというか、人間の血に酷く似ていたのだ。それで思った以上に気分が高揚してしまい、気付かず内にアラガミの解体ショーを披露してしまったわけだが……まあ、見ていて楽しいものではなかったのは確実だ。

 

 

「そもそも、どうして上位者になっても血を求めるのだろうか……」

 

 

それが月の支配者の行動原理だったのだろうか。いや違うな。支配し相手を『蹂躙』し続けることが快感なのだろう。血への執着は単なる癖のようなもので、血=甘美であると体が勝手に感じるらしい。とりあえず、俺に必要なのは走り込みなどではなく、人前では理性を保つ訓練だな――。

 

 

 

 

 

――ピンポーン

 

 

「む?」

 

 

ふと部屋の呼び鈴が鳴った。俺の部屋に尋ねてくるのはロミオかナナぐらいだが、どちらだろうか。いやどちらだとしても……話の内容は目に見えて明白だ。おそらくシエルの事だろう。

 

 

「何方様だろうか――」

 

 

扉をスイッチで開いた瞬間、言葉が詰まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アドル副隊長……少し、お時間を頂けますか?」

 

 

 

 

 

人間よりアラガミの方が好きになりそうな気がしてきた。

 

 

 






いい締め方を知りたい(切実)


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手合わせ

お久しぶりです

最近忙しくて執筆不足が否めないですね
出来るだけ早く書けるよう善処します



――キィン

 

生活感の無い部屋に鋭利な音が響いた。今までやって来たことだけあって淀みは無い。というより本来ならこんなことしなくてもいいはずだが。

 

 

「さて、仕上げだ」

 

 

今まで握っていたそれに力を込める。するとどうだろうか、ほんの一瞬だけ光が包んだ気がした。全く便利なもんだな。試しに振るってみれば、懐かしき感覚が体を震わせる。

 

 

「ノコギリ鉈……握るのは最初の狩り以来だが、問題ないみたいだな」

 

 

無数の武器が散乱としている部屋にその呟きは響いた。現在俺は武器の調整を行っている。神機使いになって以来使っていないため壊れるようなことは決して無いだろう。

 

 

「今から使うとなれば話は別だ」

 

 

獣狩りを始める訳ではない。ただ、一人の少女の願い聞くだけのこと。以前にも少女の願いを聞いたこともあった。約束とは程遠い結末を迎えたが――。

 

 

「……ハッ、罪滅ぼしのつもりか?」

 

 

ふと口に出た自問に嘲笑で返し、再び武器を拾い上げる。休日だというのに物騒な格好で出歩くのは少々遺憾だが、見咎められぬよう注意を払って演習場まで行くしかあるまい。そう考えながら俺は久方ぶりに狩人のコートを羽織った。

 

 

「さて、上手く指導できるものか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――私は、ただ戦略を練っていました。

 

 

演習場にただ一人佇み、様々な動きを思案しましたが……やはりこれと言って彼に対抗できる方法は浮かんでは来ませんね。

 

私、シエル・アランソンは現在、人を待っているところです。人、というのは私が所属するブラッドの副隊長、アドルファス・ジャノグリーこと、アドル副隊長。彼は戦闘に長け、入隊してから短期間で血の力に目覚めたという話でしたが、彼がどんな人物であるのか未だ分かりません。あの優秀なジュリウス隊長の人選ですから、文句はないのですが……どうも要領を得ません。なので今回は彼を知るために、一つ手合わせをお願いしました。対人戦の経験が彼にあるかは知りませんが、その時の状況の判断や手法から見えない性格を探ることは可能なはずです。とはいえ――。

 

 

「迷惑……だったでしょうか」

 

 

私は余り人付き合いに経験が多くありません。もしかしたら、彼から見ればかなり迷惑だったのではないでしょうか。今後ブラッドで仕事をしていくうえで人間関係というものは重要だとは思いますが……やはり、唐突に部屋に訪れるようなことは控えたほうがよかったのでは――。

 

 

「待たせたな」

 

 

ふと、声が聞こえた方向を確認。見れば、彼が立っていました。

 

 

「いえ、時間通りです。問題ありません」

 

 

私はそう返すと、彼は「そうか」とだけ言って腕を組んだ。彼の格好は何というか、その、かなり特徴的でした。現代では物珍しいデザインをしたコートを羽織り、口元をマスクの様なもので覆い、表情を伺えるのは目元のみ。やはり、読めない人です。

 

 

「もう始めるか?」

 

「そうですね、早い方がいいでしょう」

 

 

やはり、急いでるのかもしれません。こちらの都合で付き合わせてしまっているのもありますから、手早く済ませたいですね。

 

 

「一つ聞きたいんだが……ルールは特にないんだな?」

 

「ええ、基本的に降参するか、どう見ても一方が敗北と判断されるような状況になるまで続行、ということにしましょう」

 

 

ルール確認ですか。前々から思っていましたが、律儀な方――。

 

 

「分かった、では行かせてもらうぞ」

 

「え――」

 

 

刹那、視界が暗転した。それを何かが目の前を覆っていることを意識半ば本能半ばで理解し、咄嗟に地面を蹴る。だが、どうしてそうなったのかを理解するまでには及ばない。

 

 

「……ッ!」

 

 

思わず顔をしかめてしまう、思考の回復も終わり改めて状況を理解する。

 

 

「中々、良い動きをする」

 

 

満更でもない顔で彼はそう言った。いきなり殴りかかってきてあの態度ですか。普段の会話の様子からしておとなしい人かと思っていましたが、そうでもないみたいですね。

 

 

「おいおいそんな顔するなよ……始めるって言ってそっちも了承したじゃあないか、ええ?」

 

 

手を広げ、肩をすくめて見せた。まるで自分に非がないと主張するように。その行動ひとつひとつがどこか癇に障る。

 

 

「ええ……そう、ですね。別に異論はありません」

 

 

とは言ったものの、不意打ち紛いの強襲をかけてきた相手に良い印象を持てるはずもありません。やはり、数週間で副隊長の座に立った人間。多少なりには狡猾さも必要ということですか。

 

 

「そうか、それじゃ――」

 

「ッ……!?」

 

 

動きを見せる彼に対して身構える。が、その行動も無意味なものとなる。

 

 

「……それは、どういうつもりですか?」

 

 

意味不明です。そう続けたかったが、形式上相手は上司。踏み止まって口を接ぐみました。ですが、本当に訳が分かりません。

 

 

「何がだ?」

 

「……言葉通りの意味です。どうして座っているのかと聞いています」

 

 

語気が強くなってしまっていることに気付かずにそう言った。彼は見ての通り……ただ、座りました。そこから何をすることもなく、ただ座しているのみ。

 

 

「おいおい、今は戦闘中だぜ?自分の行動の真意を話す馬鹿がいるか。それとも何か、本当はお喋りがしたかったのか?」

 

「なっ――」

 

 

少し、勘違いをしていたみたいです。ブラッドのメンバーからは人望が厚く、ジュリウス隊長曰く「あいつがいると痒い所に手が届く」と評価されているようですが……今確信しました。この人はそんな人間じゃない。理由は分かりませんが……少なくとも、私を馬鹿にしているのは間違いありません。

 

 

「そうですか。あなたがそういうスタンスならこちらも遠慮はしません!」

 

 

反撃開始。接近するために地面を蹴る。先手は打たれましたが、劣勢になった訳ではありません。寧ろあんな体勢をとり、彼は自ら劣勢になりました。手早く終わらせてしまうのが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迂闊だな」

 

 

 

 

 

 

「ッッ!?」

 

 

一直線に突進していた体躯を無理やり押し止め、殺しきれない勢いをそのまま横っ飛びに利用する。体が左にそれたと思った刹那、ヒュンと甲高いような音が耳元を過ぎて行った。

 

 

「ッ貴方は――!!」

 

 

蔑むとか、馬鹿にするとかもはやそんな次元じゃない。彼は……

 

 

「どうした?武器の使用禁止とは一言も聞いていない。先に指定しなかったお前の落ち度だ」

 

 

私を殺しに来ている。座った彼を見つめたまま、そう心中で悟った。いくらなんでもおかし過ぎる。私は演習場の高台の影まで走り、身を隠した。

 

 

「故に銃を使おうが、どうしようと俺の勝手だ」

 

 

そう続ける彼は嗤っていた。まるで獲物を見つけた狩人の如く、猟奇的にも目を爛々とさせながら。

 

 

「どうして……」

 

 

今まで命のやり取りはしてきましたが、こんなにも死を身近に感じたのは初めてのことでした。思考は恐怖と緊張感に圧迫されほぼ停止状態。動悸は治まらず、呼吸も荒い。けれど、五感は普段の数倍は鋭さを増している。彼の吐く息が10m以上離れているこの位置からでも聞こえ、それは明確に私の元へと近づいてくる――。

 

 

What are you still doing there?(いつまでそうしているつもりだ?)

 

 

ガシャリ、とまるで金属を擦り合わせた様な音が響いた。嫌な予感が胸を駆け巡る最中、私は恐る恐る影から顔を覗かせる――。

 

 

You wanted to fight first(戦いを望んだのはお前だ)...Well, you must continue this fight.(  自分の責務を果たせ  )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Come on(さあ・・・)...Enough of this terrible dream...don't you?(お前にこの悪夢を終わらせられるか?)

 

 

 



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死に化粧

更新が遅いのは、スランプ気味なときなので、お察しください。


――俺はひとりの少女に頼まれた。

 

内容は手合わせ……大方、俺の人物像を測りかねての策といったところか。別に断っても構わなかったが、妙な詮索を続けさせるのも面倒だ。とりあえず、その頼みは了承して、先方の望み通り手合わせを開始することにした。だがな、訓練なんて生温いことをするつもりなんて毛頭ない。俺ができるのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――本当の殺し合いだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

「とにかく、何か手立てを……!」

 

 

状況を無理やり吞みこもうと思考を再開させる。どうにか彼を倒さなければ殺されることは必至。とはいえ、簡単に倒せそうにもありません。同じゴッドイーター同士、他と比べて長期間対人訓練を積んできた私が彼に体術で劣るとも思えませんが……とにかく、戦力差を埋めるには―――

 

 

「武装解除……及び、武装奪取……」

 

 

自分に言い聞かせるように小声でそう呟く。今現在、自身の生命を脅かしているのはあの凶器。もう一度目でそれを確認するために顔を覗かせる。

 

彼が持っているそれは異様な得物でした。ノコギリを思わせる様な刃が持ち手と密接していて、リーチはそこまでではないですね。ですが、あんなもので斬りつけられたら普通の傷では済みまないでしょう……。とにかく、最初はあの武器を何とかするところから。

 

そう思い、私は息をひそめる。高台の影はそこまで広くはないが、身をかがめたまま奥へと移動した。そして、彼が近づくのを待った。

 

 

「いつまで隠れて……む?」

 

 

そう言って、影を覗き込むアドル副隊長。だが、そこに私の姿は既に無い。なぜなら――

 

 

「シッ!」

 

 

私は跳躍する。高台の上から飛び降り、彼の頭上へと急降下した。誰にでも思いつきそうな不意打ち……ですが、効果がないわけでは――!

 

 

「詰めが甘い」

 

「ぐッ!?」

 

 

彼に肩車する形で組みつき、寝技をかける算段は大きく外れる。少し彼の位置がずれたと錯覚した刹那、私は首を掴まれ、体が空中で静止した。

 

 

「影も自身の一部だ、間抜け」

 

「ぐ……ぅ……!」

 

 

そう言うと、掴んでいる手の握力がじりじりと強さを増す。このままでは絞め殺される――

 

 

「舐め、ないで……くださいッ!!」

 

 

私は彼の腕に足を巻き付けるようにし、力を入れた。一見意味のない行為に見えるが、その効果は割とすぐに出た。

 

 

「ぬっ」

 

 

そう言うと、しっかり伸ばしていたはずの彼の腕がカクンと曲がり、体勢が崩れる。私は彼の間接に力を込めたのだ。どんなに腕力が強くても、関節に力を入れるのは難しい。彼の握力が弱まったことを感じると、即座にその手を引き離した。が、距離はとりません。遠距離でも戦える彼の優勢を崩したんです、ここで引き下がるわけにはいきません。次は武器――!

 

 

「ハァッ!!」

 

 

もう片方の腕から武器を叩き落とすべく回し蹴りを見舞う。だが、それは不発に終わる。なんと、あの崩れた状態からさらに崩れるように姿勢を低くし、地面を転がって蹴りを回避。

 

 

「ッ……!まだ……!!」

 

 

開いた距離を再度詰め、顔面に向かって拳を突き出す。流石に避けるように頭を後ろに引くが、私の拳はまだ伸びる。やっとまともな一撃が入ることを確信した――。

 

 

「ぬんッ!!」

 

「なッ……」

 

 

入ると確信した拳は確かに彼の額に一撃を与えた。だが、それは私に反発する衝撃として帰ってくるだけとなった。私の拳に対して彼は頭突きで返したのだ。

 

 

腕が……!?

 

 

その衝撃は凄まじく、一瞬手首から感覚が消えたほどだ。腕を使う攻撃の基本として、腕を伸びきらせることは無い。当たり前だ、伸びきった状態でカウンターなんて貰えば関節を痛め、最悪肩が外れる。当然、私はCQBの基本を叩き込まれているため、そんなことはしない。が、それでも尚この衝撃。相当な勢いで頭突きしてきたのが分かる。

 

 

「今のは悪くない……が、少々欲張ったようだ」

 

 

額から血を流しながら悠長に喋る様は、いささか気味が悪いです。ですが、そんなこと考えている時間などありません。早く、次の策を練って行動に移さなければ格好の的。幸い、まだ彼は態勢を立て直していません。少し、一か八かになりますが……。

 

 

「!」

 

 

私は再度、彼へと突撃する。今度こそ、致命的な一撃を与えるため、片足に重心を置き、もう片足を彼の肩目掛けて一気に振り抜いた。避ける仕草を見せないことから、受けるつもりなのは明白。

 

 

――ガッ

 

 

鈍い音と共に、黒い物体が宙に浮いた。

 

 

「ほう」

 

 

振り抜いた脚は、彼の体とは別のソレを捉えていた。元より本丸はこちらでしたが、上手くいったようですね――。

 

 

「囮か」

 

 

私は内心ほくそ笑んだ。思い切った突撃は陽動、一撃を入れるためではなく武器を狙うためのもの。これで、武装は銃のみ。さらに言えば、まだそれは構えられていない。今までにない好機――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

You're like Idiot(まるで白痴だな)...」

 

 

 

 

え、何……?

 

 

 

 

 

そう思ったときには、世界が廻っていた。刹那、後頭部に衝撃が走る。何が起こったのかわからない。状況を理解しようとするがそんな活力が残されているはずもない。まるで、濁流の中に放り込まれたようなそんな感覚。そしてもうひとつ、私が感じることを許されたのは意識が遠退く感覚。瞼が重くなり、視界が揺れ、目の前の憧憬が霞み始めた。理解はしているつもりだった。意識を失えば私に残された道はただ一つ、明確な死のみ。だが脳が理解していてもその躰に抗う術はない……。

 

 

Don't worry(安心しろ)... You have only a little sleep.(少し眠るだけだ)...」

 

 

語り掛けるような声が、脳に響いた。眩む視界に現れるのは、黒い影。それは私に触れ、頬を何かで濡らした。鉄のようでいて、生々しい香り……血が、私の頬を染めているのだろう。やがて血を塗るような手つきは首元へ伸び始めそれが何を意味するのかは、薄れゆく意識の中でも容易に理解できた。

 

 

「……死に、たく……な――」

 

 

それが口に出た言葉なのか、または心の叫びだったのか。それすらも、もう判断できない。どちらにせよ届かぬ祈りであることに変わりは無く、その言葉を最後に――。

 

 

 

――私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 



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忠告

かなり遅くなってしまいましたが、24話目の投稿です。
遅くなった分、少しだけ長めです。





『悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。だれかが、一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい。求めるものには与えなさい。あなたから借りようとする者に、背を向けてはならない。』

 

―――マタイによる福音書5章。

 

 

詰まる所、殴られたからと言って、自分も殴り返してしまったら暴力を振るった相手と同レベルになってしまう。よって、自分の清らかさを保つためにはおおらかな心で受け止めるべきと言うところか……。

 

 

「……お気楽なことだな」

 

 

キリスト、という先導者は随分平和な世界で生まれ育ったようだな。最終的には、自ら十字架に磔られ、自分の生命を神に捧げ、人々の罪を贖い、罪の赦しを彼らに与えたと言われている。

 

 

Hares may pull dead lions by the beard(死人に口無しってな)...」

 

 

死んでから伝わるのが当人の真意ではなく、第三者のエゴイズムに沿った虚偽であったとしても、それを知る者はどこにもいない。だが、大衆のほとんどがその虚偽を信じる。理由は至極単純、他の誰かが創ったものを信じるのは大いに楽なのだ。従っていれば、のうのうと楽に生きることができる。だが、それのどこがいいのか俺には全く分からん。他人の意志に左右される人生などまっぴら御免だ。俺は自分の見たこと、聞いたこと、感じたことしか信じない。そうしてこそ、『俺』という存在価値が構築されていく。客観的な事実を得ないで誰かに従って生きるなど奴隷と変わらん。だが、皮肉なことに――。

 

 

「『死』こそ最も確実な信用を得られる手段……」

 

 

キリストという先導者がしたことは間違いではない。人間の中ではかなり利口だったのだろう。だが、人を信じすぎた。故に後々現れた狡猾な愚者共に好き勝手されたのだろう。信じる者は必ず救われると言っていたが……彼の言う『救い』とは一体何なんだろうか。他者から与えてくれる心の安泰……俺の認識ではそう定義されている。彼が信じた全人類にもたらすことのできる『救い』とは―――。

 

 

「……ぁ……?」

 

 

それは俺が発した言葉ではない。俺はやれやれと首を振りながら、手元の本を閉じ椅子をその声の方向へと体を向けた。

 

 

「ここは、いったい――」

 

 

状況が理解できていないか。まあ、無理もない。意識を失っていたのだから当然だろう。

 

 

「ようやくお目覚めか。調子はどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――シエル・アランソン」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「あなたは……!?」

 

 

顔から血の気を失うのが分かる。当然だ、自分を殺そうとした人間が悪びれる様子もなく目の前に座っているのだから。

 

 

「何をし……ッえ!?」

 

 

立ち上がろうと脚に力を込めた瞬間、後頭部に鈍い痛みが走った。目眩も併発し、バランスが取れず手をつこうとした。

 

 

「あ――」

 

 

あると思った場所に地は無く、そのまま体が沈む。早い話が手を踏み外した。

 

 

「おっとと……」

 

 

直後、体が静止する。背中を何者かによって支えられている感覚。

 

 

「ッ!?は、離して下さい!」

 

「おー、随分と嫌われたもんだ」

 

 

すぐさまベッドへと体を戻し、支える腕を振り払って体勢を整える。とは言っても、相変わらず頭痛は止まず、反撃と言えるほどのことはできない。すぐさま距離を取りたいが、見る限りここはフライアの病室内。まずすべきことは――。

 

 

「……状況の説明を求めます」

 

「ほう、案外冷静じゃないか」

 

 

ニヤリと笑う様はあの時の戦闘のように何を企んでいるか分からず不気味だ。

 

 

「何のことはない、気絶した君を俺が病室へ運んだ。それだけのことだ」

 

「納得いきません。なぜ私を殺さなかったのですか?」

 

「殺す、だ?そんなことをして俺に何の得がある?貴重な隊員を削り、他の人間から不信感を買う。デメリットしか無いように思えるが」

 

 

飄々と語る彼は嘘をついているようには見えない。彼の言う道理は酷く正しい。では本当に殺す気はなかったと?否、あのとき自身が受けた殺気は本物だ。気まぐれ……とでも言うつもりだろうか。だとすれば、尚更納得ができない。

 

 

「……一つ、これは忠告だ」

 

 

彼の目の色が少しだけ変わった……様な気がした。同時に声色もさっきより少しばかり低い。どうして命のやり取りをした相手の意見が聞けようか。そう言い聞かせる内心とは裏腹に、体は自分の肩が少しだけ強張るのを感じながら、その言葉に耳を傾ける。

 

 

「目で見える情報というのは常に限定的なもので本質が現れることはほとんどない。思考を巡らせ、模索し、真実を暴くことだ」

 

「何を、言って……?」

 

「……さてな、それは自分で考えるんだ。これは忠告であって命令じゃない。俺の指図なんて受けたくないと思うなら無視しても構わん。だが、忠告はしたからな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Come with me if you want to live.(殺されても文句は言うなよ)

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

病室前の廊下に人影はなく、聞こえるのは自身の足音だけ。薬の臭いも相まってあの『病室棟』を思い出す。もっとも、

頭が肥大化した被験者なんて胸糞悪いものはここにはいないが。

 

 

「いや……どの道同じなのかもな」

 

 

ふと右腕に取り付けられた腕輪をまじまじと見つめながら、そう口に出した。得体の知れない化け物の一部を体内に取り込み、同じくその化け物の埋め込まれた武器をコントロールする。一体どれ程の犠牲を払ってこの手法に辿り着いたんだろうか。そう思うと俺は無意識に口元が歪め、嘲るような微笑みを浮かべる。誰に対してというわけではない。ただ、如何に文明が発展しようと、いつまで経っても人間の本質的な部分は変わっていないことに呆れたのだ。

 

 

「で、何用だ?」

 

 

振り向く先には一人の女性が立っている。表情を伺うに少々不機嫌そうにみえる。

 

 

「……いいえ、特に用があるわけではないわ」

 

 

腕を組んだまま壁に寄りかかり、それとなく白衣の隙間から血色の良い生足をチラつかせる。妖艶というべき、そんな雰囲気が彼女、レア・クラディウスを包んでいた。

 

 

「盗み聞き、ましてや尾行までされるとは……余程の物好きに好かれたらしい」

 

「あら、じゃあ随分前から気付いていたのかしら?」

 

 

案外あっさりと認めるあたり、後ろめたい理由はないらしい。ただの好奇心か。では、何故こうも敵意のような視線を向けるのか。

 

 

「お気に入りが怪我させられてご立腹か?」

 

「!」

 

 

図星らしい。まあ、そうだろうとは思っていた。以前話した時にシエルがブラッドに所属することを真っ先に報告したのも彼女だった。周りと打ち解けていなかったシエルの現状を見る限り、何かと気にかけているのだろう。

 

 

「なぜ、彼女にあんな事したのか……説明してもらえる?」

 

「そんな義務が俺にあるとは思えないのだが」

 

「いいえ、あるわね。私とラケルにはブラッドのバイタル情報を常に把握するという職務が与えられているの。副隊長のあなたから隊員が負傷した報告を受ける権利は大いにあるわ」

 

 

筋は通せと言わんばかりに饒舌な彼女。なるほど。あくまで聞くまで退かないらしい。適当に誤魔化すとしよう。

 

 

「訓練していたら加減ができずに怪我をさせた……ただそれだけのことだ」

 

「故意ではない……と?」

 

「ただでさえ少ない戦力を削ってなんになる?俺はむしろ、あの訓練で彼女に必要なものを与えたと思っているがね」

 

「必要なもの?」

 

 

それだけ言って歩みを進める。これ以上は蛇足というものだ。だが、踏み出そうとした脚はもう一人の脚によって阻まれる。

 

 

「まだ、質問は終わってないわ」

 

「話すことはもう無い。これ以上は無駄だ」

 

「いいえ……その『必要なもの』が何なのかについてまだ聞いていない」

 

 

しつこい奴だ。女というのは何故こうも執念深いのか。これではまるで獲物を追いかける獣と変わらないじゃないか。

 

 

「立場が解っていないようね。私がその気になればあなたに関する情報の一つや二つ簡単にひけらかせるのよ?」

 

 

揺すりときたか。いやはや、女狐という表現がよく似合う。まあ、脅す度胸はあっても――

 

 

 

 

脅される覚悟はないみたいだがな。

 

 

 

「ほう?気が変わった」

 

「え?ちょっと――」

 

 

彼女に詰め寄り、ジリジリと壁際へと追い詰める。そしておもむろにあげた腕を――。

 

 

 

―――ドンッ!!

 

「ひっ!?」

 

 

壁に思い切り叩きつけた。さて、少し気になることも口走っていたようなので、そこだけ探りを入れることにする。

 

 

「何、俺も貴女に興味が湧いた。少し喋って貰おう」

 

「え、えぇ?何を……?」

 

 

困惑する彼女に囁きかけるように問う。万が一、周りの誰か聞こえては面倒だからな。質問は至ってシンプル、俺自身についてだ。

 

 

「バイタル情報を把握していると言ったな……どれ程俺の体について知っている?」

 

「か、カラダ……?」

 

 

酷く動揺しているようだな。鼓動が早く、頬も紅潮している。時間も限られているしな。しかし、なかなか話す様子がないな。本当に知らないのか、あるいは――。

 

 

 

 

 

 

「――間抜け」

 

「え」

 

 

呆けた顔をする彼女を横目に廊下を駆けた。刹那、目の前の扉が勢いよく開く。

 

 

「あ、ああ!?ちょっ――」

 

「面倒ごとは御免だ。ただまあ、自分の責務と隊員の命は保証する」

 

 

それだけ言い残し、開いた扉の中に駆け込んだ。そして、すかさず壁のスイッチを押す。数秒のラグタイムの後、扉は閉まり始める。まあ、要はエレベーターに逃げ込んだだけなのだが。

 

 

Have a nice day(それではご機嫌よう...)..."Miss"(『お嬢さん』).」

 

 

扉が完全に閉まり、お互いの姿が見えなくなったの確認すると、自然にため息が出た。やれやれ、せっかくの休日だというのに「子守り」と「説教」とはな。新米副隊長には荷が重すぎることばかりだ。まあ、それもまた人間らしくて一興というもの……いや、そもそも夢に帰って満を期すのを待っていればいいものを、この状況を少なからず楽しんでいる今の俺に「人間らしい」なんてあったもんじゃないな。人にも上位者にも成り切れない俺はさしずめ「失敗作たち」と同属なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

――ピンポーン

 

 

 

目的の階に着いたことをエレベーターが告げた。そこで改めて思考を止め、何を考えているのだろうかと苦笑する。目の前のロビーには相変わらず機械的な音が微かに響き、何人かの職員が会話しながら、あるいは眉間にしわを寄せ物思いに耽りながら歩いている。変わらない光景に妙な安心感を覚えながら、俺は歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その足取りが悲観していた心とは裏腹に軽やかに見えたのはきっと気のせいなのだろう。

 

 

 

 

 

 




一度、自分で全話読み返してまじまじと感じたのですが……




語彙力ぇ……





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戸惑い

久しぶりの本編です。
番外編やら書いているうちにお気に入り総数が250件突破していました。
ブラボ自体がニッチな作品なのでここまで読んでくれる方がいるとは思いませんでした。


――朝だ。目覚めというものは斯くも素晴らしい。ゲールマンの介錯に身を委ねていたら、このような朝を迎えられていたのだろうか。

 

などと、感傷に浸っている暇はない。フェンリルは案外人使いが荒いらしく、朝食を摂って数分後には任務が控えている。休暇は存外少ない。2週間以上任務が続くこともざらである。俺自身、簡単には疲労困憊しない自信はある。が、しかし他のブラッドの面々のこともある。ロミオやナナには結構辛いのではないだろうか。

 

 

「心にもない労いとは如何なものか……」

 

 

くつくつと悪どい嘲笑を漏らす。それはやること成すこと全部が自分以外優先になってきている自身にか、はたまたそんな自身を信じる他者へのものか。あり得ないことを嘯くのなら、属に言う「人間性」が回復しているとでもいうのか。そこまで考えて思い至る。そもそも――。

 

 

「『人間』の俺は……どんな奴だったか」

 

 

……いかん。感傷に浸っている暇はないとさっき自分で言い聞かせたばかりだろう。下らないことを考えている暇があるならさっさと身支度を済ませ、ロビーに行くべきだ。自身にそう言い聞かせ、壁に掛けてあったコートを着込んだ後、部屋を出る。

 

 

「……あ」

 

 

俺の声ではない。それは目の前の人物からのものだ。

 

 

「よう、よく眠れたか?」

 

「ッ……おはようございます」

 

 

無意識にそう言ってしまったが皮肉過ぎただろうか。目の前の人物、シエルは隠すつもりのない敵意を視線に乗せてぶつけてきた。以前より隙の無い立ち振る舞いではあったが、今はその比ではない。明らかに彼女を纏う雰囲気が違う。手を出そうものならすぐにでも噛み付く……出会った当初の番犬はその姿をさながら孤立した野犬の様に変貌させていた。簡素な挨拶を終え暫しの沈黙の後、彼女は俺の前を通り過ぎてエレベーターに乗り込む。俺も同伴しようと思ったがそうもいかない様だった。何故なら――。

 

 

「仲間に向ける殺気じゃないな……結構結構」

 

 

背を向けているのに一歩近づけば悪寒が走る。自身が人並み以上に殺気に敏感なのもあるが、それにしてもこれは……まあ、粗方狙い通りだから別に構わない。今は存分に俺を敵視し、周りを疑えばいい。その心が彼女自身を守ることに変わりは無いのだから。

 

 

「シエル、俺はお前を"信用"しているぞ」

 

 

その言葉の真意は、『今の』彼女に伝わることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「うぇ~……感応種かぁ。やっば、緊張してきた」

 

 

私こと香月ナナは食べ物の消化は早いと自負してるけど、緊張の飲み込みは無理なんだよねー……と勝手に自己分析して緊張を解そうと試みたり。

 

数分前、新しい任務が私たちに追加された。なんでも、前にアドルのことをボコボコにしたアラガミと同じ種類のアラガミが討伐対象らしい。流石にアレと同じ強さのアラガミではないらしいけど、普通のアラガミじゃあり得ない攻撃とか行動とかしてくるって話は聞いている。そんな話を聞かされてから数分後、輸送トラックの車内で勝てるのかなーと心配してる今に至る。

 

 

「緊張するのも分かる。が、今の俺たちなら勝てない相手じゃない。俺だけじゃなく、ラケル先生やフライアのみんながお前たちの実力を知っている。だから、心配するな」

 

 

ジュリウス隊長、安心させようとしてくれてるのは分かるけどさ。逆に言えば、失敗したらみんなをガッカリさせちゃうっていう意味にもなるよね。むぅ、緊張してるときってやっぱり何処かでマイナスのイメージを持っちゃう。アドルとシエルちゃんはどうなんだろ。

 

 

「……ん?どうした、ナナ。腹でも減ったか?」

 

「なんでそーなるの!?」

 

 

ジュリウス隊長は普通に緊張していることに気付いたのに、この御仁はどうしてそんな発想になるのかね!?

 

 

「なんだ、違うのか。今回は任務前におでんパンを食べていなかったようだったから、てっきり腹が減ったのかと思ったんだが」

 

 

あー……確かに食べてなかったけども、私だって一応女子なんだからいつも腹が減ってる奴みたいな認識はちょっと傷つくよ?でも、確かに嫌な気持ちになった時とかはいつもおでんパンを食べてた。そんなことも忘れるぐらい緊張してたんだ。

 

そう思い、いつも持ってる袋からおでんパンを取り出しほおばる。口の中に少し甘いパンと塩分控えめの出汁の味が広がると同時に、いつもの感覚が強張る体を包んだような気がした。少しするとその感覚は日常に帰って来たような安心感に変わり、知らず知らずのうちに私の緊張を取り払ってくれた。

 

 

「うむ、やはりナナは食事の時が一番生き生きとしているな」

 

「それ褒めてる?」

 

「食事を率先して摂ろうとする姿勢は美徳に決まっているだろう」

 

「……アドルって難しい表現使うよねー」

 

 

なんかもうなんで緊張してるのか分かんなくなっちゃったよ。そもそも、新しいアラガミなんていつも戦ってるし、みんなで全部乗り越えてきた。変に意識してるのは私だけだったみたいだね。アドルもジュリウスもシエルちゃんもみんな戦い慣れしてるメンバーだし、勝てるに決まってるよ、うん。

 

 

「あ、そういえばシエルちゃん。私いつもショットガンばかり使ってるけど、今回はシエルちゃんと同じスナイパーに変えてみたんだよー。アドバイスとか貰えるとうれしいな!」

 

「へっ?……あ、ああ。はい、分かりました」

 

 

あれ、なんか反応が上の空?もしかしてシエルちゃんも緊張してるのかな……はっ、実は私の射撃が余りにも酷過ぎて改善のしようが無いとか!?

 

 

「大丈夫!私、射撃の間合いとか考えるの苦手だけど、近づくアラガミは吹っ飛ばして遠距離で狙えるようにするから!」

 

「そこまで近づかれたのならその場で止めを刺したほうがいいのでは……?」

 

 

あ、それもそっか。確かにわざわざ吹っ飛ばす必要性なかったね。でも、遠くからの射撃って難しいよ。細かい動きとかあまり得意じゃないし、待つのも性に合わないしさ。

 

 

「まあ、そこは臨機応変にってことで……とにかく今日もよろしくね!」

 

 

私はおもむろに彼女の手の甲に手を重ねる――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

「え――」

 

 

何の変哲もない、私としては挨拶のような行為。けどシエルちゃんは重ねた手を払うようにして一気にひっこめた。今までされたことの無い反応に私は茫然としてしまう。

 

 

「えっと……ごめんね?なんかその、嫌だった?」

 

「あ、いえ!違うん……です。その、少し驚いただけで」

 

「んー……?」

 

 

よく分からない。けれど決して良い反応でないのはわかる。自分で嫌だったかと聞いたけど、そういうモノじゃない気がする。うまく言えないけど、シエルちゃんは、少し痛々しいようにみえた。

 

 

「そろそろ現地入りする。各自神機の準備を怠るな」

 

 

遮るようにジュリウス隊長の声が響いた。再度シエルちゃんに目を向けるとずっと下を向いて、思いつめたような表情をしていた。できることならもう一度話しておきたかったけれど隊長の命令もあり、私は神機ケースを用意するため輸送トラックの後方へと移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 

 

 

自分でも非常に馬鹿らしいと思う。どうして、こんなにも怯えているのか。彼女は同じ部隊の仲間なのに。

 

 

……『仲間』って、なんでしょうか。

 

 

私には友人と呼べるような人間はいない。ラケル先生やレア博士のような尊敬に値する、いわば家族のような人はいる。でも……そんな人たちでさえ、アドル副隊長を信頼している。ジュリウス隊長も、ナナもロミオもギルも……みんなが彼を慕っている。だが、副隊長自身が周囲を信頼しているとは限らない。

 

 

 

『――目で見える情報というのは常に限定的なもので本質が現れることはほとんどない。思考を巡らせ、模索し、真実を暴くことだ』

 

 

 

その言葉があの日からずっと頭の片隅に渦巻いている。ここ数日、彼の言う『真実』とは何なのかと考えてはみた。が、依然としてその答えは見つからないまま今日を迎えてしまった。それに彼はこの言葉を『忠告』と言ったのだ。そして最後に――。

 

 

『Come with me if you want to live......』

 

 

直訳すれば『生きたいのなら私について来い』という意味。要は前言の忠告を素直に受け入れろということなのだろう。馬鹿馬鹿しい、自分を殺そうとした人間の言葉を素直に受けとれる訳がない。

 

 

「おいナナ、服におでんの出汁のシミが……」

 

「え?あ、ホントだー。でもこれからいっぱい汚れるんだから一緒でしょー」

 

 

他愛もない会話を平然とするその姿は偽りのもの。仮面の下に潜んでいるのは獰猛な獣……いや、狩人と言うべきか。隙を見せたが最後、躊躇なき凶刃に命を落とすだろう。警戒を怠ってはならない。心を許してはならない。戯言に耳を貸してはいけない。そう思わなければならない。そうでなくてはならないはずなのに――。

 

 

 

 

……どうして、こんなにも心が揺れているのでしょうか?

 

 

 

『まもなく戦闘エリアに到着します。皆さんご武運を――』

 

 

普段通りの通信が無慈悲に時の流れを告げる。当然その事実に逆らうことはできず、感情の整理が付かないまま、私は戦いへと赴くしかなった。




GOD EATER ONLINEが配信されましたねー。実を言うとそれを理由にGESSを執筆しているユーザーたちでコラボ企画が立ち上げられまして、参加させて頂くことになりました。問題は―――



内容全然何も考えていないんですよね




・・・何書くかなぁ(遠い目)


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〇手記を読む
神秘から得た仮説


始めて見ました、番外資料的な何かです。

今後、本編に出てこないであろう情報の提示・・・もとい、この世界についての補完説明をしたいと思ったところ、アドルのレポート形式で説明すれば雰囲気を壊さなくて済むと考え、執筆に至った次第です。

まあ、閲覧しなければ本編の理解に影響が出る・・・ということはないので「そうなのかー」ぐらいの気持ちで見て頂ければ幸いです。


 

―――実地訓練帰還後、自室にて作成

 

 

 

この世界に来てからというものの、不明な点が多すぎる。よって、明らかになった事実をまとめ、考察した内容を記していくことにする。

 

 

まず、一つ目は「神秘」についてだ。この世界では「神秘」の力が存在しないらしい。さらに、この世界の人類歴史はなんと一万年以上も前から続いているという事実もあり、そのころから今まで、神秘というものが存在しないことを考えると、人間に作り出せないものによる事象はこの世には一切存在しないことがわかる。

 

 

そのことから考えるに、俺のなかで二つの仮説が立てられた。神秘が存在しない・・・ということが真実ならば、この世界には上位者が存在しないことが確定するのだ。元々、神秘は上位者どもの不可思議な力の末端であり、多少なり人間が手を加え、人間が実用可能な段階までに至った代物の事だ。狩人もそれらの力を使い、狩りに役立てることも多々ある。それらが存在しないということは大元である上位者自体の存在の否定が成り立つ。上位者の存在しない世界。これが一つ目の仮説だ。

 

 

だが、ここでひとつの「不確定要素」がもう一つの仮説を促した。そう、この世界を半ば支配し、人類だけでなくこの世界の万物全てを飲みこもうとする者・・・「アラガミ」の存在だ。数十年前までは人類がこの世界の主導権を握り、繁栄を促進させてきたのだが、突如現れたアラガミによりこの世界の全てを覆された。数年もたたないうちに世界人口は半数を切り、今や100分の1にも満たないという。そんな絶対的な力を持つアラガミを前に、人類は一つの対抗策を得た。それが、俺たちゴッドイーターだ。自らにアラガミの細胞「オラクル細胞」を投与し、人を超越した身体能力と、オラクルから作られた対アラガミ兵器「神機」を駆使して、アラガミから身を守る。何が言いたいのか、つまりそれはこの世界において、アラガミが上位者なのではないかということだ。数万年の歴史を持つ人類でも、アラガミについてわかることは僅かだ。どこから現れ、どういった理由で捕食を行っているのかわかっていない。まるで上位者ではないか。もっとも、上位者共は支配するという明確な理由で動いているが、アラガミは捕食する動機が定かではなく、知性があるかも怪しいところだ。

 

 

なお、上記の内容は全て仮説であり、俺の主観でしかない事実だ。これらの確証を得るためにはより多くの情報が今後必要となってくるだろう。今後とも他者に悟られない様、慎重に調査していかなければならない。

 

 

もし俺の正体が何者かにばれたその時は―――

 

 

 

 

 

 

・・・その者を『消す』ことも考えなければならないだろう。

 

 

 





今後も、ちょっとずつ書いていこうと思います。
たまに、ネタ要素を含んだレポートも書くかもしれません。



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4周目の狩人

お久しぶりです。最近忙しくてまともに小説書けてません。
ですが流石にこれ以上放置していると、そのまま書く気起き無いまんまだと思います。

なので引っ張り出してきました。

暗い世界観ぶち壊しの第1話初期案。
内容はGE要素ゼロのただのブラボなので、本編とは全く以て無関係。
もはやスピンオフでも何でもない、ただの没作品となっております。

それでも読んでもいいという方はどうぞ。


―――ものは言い様、という言葉がある。まさしくそれが俺に当てはまってしまったわけだ。狩りを続けることがいつかは俺の目的に重なる。その意味をやっと理解できた。

 

 

「□□□□□□ーーーーーーーッッッッ!!!」

 

 

不服か?そうだろうな、欲しい力が目の前にあるのにそれを得られないなんて、上位者のお前からしたら歯痒いに決まってるだろうな。

 

 

「#%コ*&ロ:*:/ス#&:*<#!!!!」

 

 

・・・ああ、今じゃ何となくお前らの言葉も分かるよ。白痴の蜘蛛と乳母の血を啜ったんだから当然か・・・・・まあ、既にどうでもいいことだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・どの道、狩るのは変わらん」

 

 

 

 

その日を境に、獣狩りの夜は幕を閉じる。

そして、物語は幼年期へ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・で、結局こうなるのか」

 

 

嘆息混じりに俺は目を開けた。視界に広がるのは薄暗い天井。いい加減にしてもらいたいものだ。

ここはヨセフカの診療所。無知で無害な医者の診療所・・・今のは少し酷い言い方だったな。ともかく、ここで俺はよくわからん血を輸血されて、獣を狩り、血の意志を啜る狩人になった。

 

 

「俺が上位者になろうとしても駄目か・・・」

 

 

現在俺は不可解なことに巻き込まれている。いや、既にずっと前から現在まで巻き込まれていると言った方が正しい。さっき言った通り、俺は狩人になった。そしてある人間から指南を受け、獣狩りを全うし、獣狩りの夜から解放された。まあ、この解放については色々意味があるんだが・・・とりあえず今はそのままの意味で受け取ってもらっていい。それで獣狩りの夜を解放されて・・・再度ここで目を覚ましたんだ。意味がわからなくて混乱すると思うが、簡単に言えばタイムループしたのだ。輸血されて目を覚ましたこの瞬間まで。当然最初は長い夢だったのだと思った。しかしどうだろう、多少力は衰えど、獣を狩る動作の全てがしっかりと体に刻み込まれていた。夢で体に染みこんだ血生臭さも残っており、「全てが夢」で片づけることなど出来ない。

 

 

「何か原因があるんだろうなぁ・・・何がダメなんだろう」

 

 

1度目はゲールマンに夢から解放され、2度目はゲールマンを殺し、3度目は元凶である月の魔物をぶち殺した。ついでに、古狩人たちの尻拭いもしたというおまけ付きで。俺が宇宙の頂点に君臨するために化け物になるとかいうぶっ飛びENDだったけど、それでも足りないらしい。結局のところまたここに戻ってきたのがその証拠だ。

 

 

「・・・ま、ここでうじうじ考えてても仕方ないよな」

 

 

診療台から腰を上げ、きしむ床に着地する。毎度思うが、なんでこの診療所は所々整備されてないんだ?床抜けそうでハラハラする。

 

そんなどうでもいいことを考えながら、俺はヨセフカの診療所を後にした。途中の獣?慈悲の刃でステルスキルしてやったよ。元は人間だからね、できるだけ苦痛は少なくして殺すのが俺のモットー。痛みも感じぬまま死ねるんだから多少はマシなはず・・・だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ハワーイハワーイ!」」」

 

「うるせぇ」

 

 

燃やされてたまるか。俺は持ってた仕込み杖を変形させてぶん回す。なんやかんやでこれが複数相手するとき一番楽だ。ヤーナム市街にいる大抵の市民はこれで片が付く。そんなこんなでヤーナム市街で俺が最初に死にまくった場所、通称「焚き火エリア」をなんなく突破。その後、少し進んだ場所にてあるものを使う。

 

 

チリンチリーン・・・

 

 

空気が揺らめき、何もなかった場所に物体が現れる。それが何なのか俺は知っている。

 

 

「・・・どうも、神父さん」

 

「貴様が・・・夢の主か?」

 

「そうっすよ」

 

「ふん・・・」

 

 

やっぱ苦手だわこの人。そもそも獣狩りをしているやつらにまともな人間がほとんどいないのが問題な気がする。

俺が使ったのは「古狩人の鐘」だ。これを使うと、俺の世界線・・・正しくは夢の中に他世界の狩人を引き込むことが出来る。どういう原理かは知らないが。

 

 

「・・・で、何用だ。見たところ狩人のようだが・・・獣狩りの手伝いをしろというのか?」

 

「・・・まあ、そうです。よろしくお願いします」

 

「よかろう。だが、言っておく。貴様が我を忘れ、獣と化したとき・・・その時は容赦なく狩らせてもらう」

 

「はぁ、了解です」

 

 

そのまま言葉を返してやりたい。この教会の狩人、ガスコイン神父は俺の世界にも存在する狩人だ。だが、恐らくもう獣化が始まっているころだろう。外見はそこまで変わっていないにしても、獣を狩るうちに血に飢え、人と獣の区別がつかないレベルまでに至り、獣と化し、俺に狩られたのが彼の最期だった。血を恐れる心を決して忘れてはいけない。血に酔うことがあっても、飲んでも吞まれるな。吞まれたが最後、永遠に血を求め彷徨う獣と化す。まあ、要は酒と一緒ってことだ。「匂い立つ血の酒」なんてものが出来て、市外に出回っていること自体が間違いだ。

 

 

「何をしている。早く案内しろ、どいつを狩ればいい?」

 

「・・・・・こっちです」

 

 

会話を中断し、移動を始める。階段を上り、大橋の上に到着する。犬二匹を適当に処理した後、そのまままっすぐに橋を進む。

 

 

「恐らく、あなたはこの先の獣を狩り終えれば、元の世界に帰れるでしょう。死なないでくださいよ?」

 

「ふん・・・抜かせ。見るからに新人のような貴様に遅れをとるほど、このガスコインは弱者ではない」

 

 

感覚と知識と体質は上位者を狩った化け物ですけどね。自分で言うのもなんだけどさ。そんなこんなで俺と神父は途中で立ち止まる。奴が姿を現す―――。

 

 

「どうしてこうも・・・聖職者ってのはおぞましい変貌を遂げるんだろうねぇ」

 

「ふん、こいつは・・・なかなかの獲物じゃあないか」

 

 

化け物を前ににんまりと笑みを見せるガスコイン神父。

危うい。すでに血に飢えている者の笑み。そんな彼をさしおき、突貫する。

 

 

「足元がお留守だ、聖職者さんよ」

 

 

思い切り持っている仕込み杖を右膝に突き刺す。それに対して甲高い雄たけびを上げて異常に肥大化した左腕を振り回す獣。だがどうだろう、そこに残るのは深々と突き刺さった仕込み杖のみで誰の姿もない。

 

 

「遅い」

 

 

獣がこちらの場所を把握したのは、俺は既に後ろから左膝を「千景」で斬りつけた後だった。膝カックンの要領で膝をつくように体勢を崩す獣。いきなり大きな隙ができる。言い忘れてたけど、最期に身に着けていた装備と、所持品はループで目覚めたときにも持っているのだ。ついでに体質も最期のまま。どうなってんだ本当に。

 

 

「―――少しは、やるようだ」

 

 

瞬間、獣の頭上にとてつもない衝撃が走る。神父が変形させた長斧で思い切り叩き付けたのだ。

あれめっちゃ痛い(体験談)。

 

 

「ぬぅあ!!」

 

 

そして斧を刺しっぱなしにした上で、伏せている脳天に追い打ちをかける。我々狩人が獣に対して最高レベルのダメージを与える技、内臓攻撃。文字通り相手の体内に手を突っ込み、内臓を引き裂くがごとく傷口を広げながら引き抜く。うん、これはエグイ。

さて、そんなことをされてもよろよろと立ち上がる獣。さらに一鳴きすると、凶暴性を増してこちらに突っ込んでくる。

 

 

「・・・所詮獣だな、本当に」

 

 

突っ込んでくる獣に対して、動かず、持っている愛銃(エヴェリン)で照準を定め、引き金を引く。弾丸は獣の眼球を抉りぬくように貫通する。途端に視界を奪われた獣は、俺の右脇をかすめるように通り過ぎ、倒れこむように体勢を崩した。俺の血質なめんな。

 

 

「クハハッ・・・血まみれのその鼻じゃあ匂いも分かるまい」

 

 

愉快そうに獣を見つめる神父。そして立ち上がろうとする獣に対して突進する。彼の獲物であるハルバードは変形により短くなり、地面にこすりつけるようにしながらさらに加速する。

 

 

「ぅるぁぁッッ!!!」

 

 

アッパーカットのようなカチ上げがまたも頭部を捉える。致命傷の傷口からは噴水の如く血が吹き出し、教会の神父の服を赤黒く染めた。それでもまだ立ち上がろうともがく獣。このまま放置してもいずれは息絶えるだろうが、獣と相対した狩人に「慈悲」の二文字はない。

 

 

「これで終わりだ―――」

 

 

自分の血を大量に鞘に流し込み、刃を納刀。これでもかと言うほどに血を吸わせる。そして―――。

 

 

「―――抜刀」

 

 

紅緋の弧を描くが如く、剣戟が毛深い胴体へと刻まれる。それを境に獣は二度三度ほど大きく痙攣したのち、動かなくなった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、お疲れ様です、神父」

 

「・・・貴様、一つ聞くぞ」

 

 

聞くぞということで、拒否権はないようですな。まあ、聞かれましょう。

 

 

「その身のこなし・・・素人ではないんだな・・・?」

 

「あー・・・」

 

 

まあ、そりゃそうなるか。普通ならあんな化け物目の前にして、体が動くわけないもんな。当然の疑問だ。

 

 

「・・・獣狩りをする前は普通の狩人兼漁師やってたんで、ある程度は慣れてるんですよ。銃の心得も一応あるし」

 

「・・・それにしてもだ。あんな巨体の化け物を見たことは無いだろう。貴様はそれを見るやいなや突進していったではないか。それをどう説明するつもりだ」

 

「海には結構デカい奴いますよ?白鯨なんてさっきのやつの5倍はありますからね」

 

「・・・なるほどな」

 

 

ふう、なんとか納得してもらえたようだ。まあ、全部ホラですがなにか?

そんなことを言っているうちに、ガスコイン神父の体が淡い光を帯びて薄くなっていく。どうやら別れの時のようだ。

 

 

「それでは、ガスコインさん。また機会があったらお会いしましょう」

 

「・・・貴様が獣になっていたら会うかもしれんな」

 

 

素直じゃないんだからもー。なんて思っているうちに徐々に光りに包まれていくガスコイン。帽子を深くかぶり直した仕草を最後にとうとう見えなくなった。

 

 

「・・・よっし、やること決めた。とりあえず―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――全員、助けてみるとするか」

 

 

なんやかんやで、4周目の滑り出しは順調に始まったようだ。





戦闘が中二臭い・・・あ、本編と変わらなかったわ(白目)

結局は血質技術ガン上げの千景抜刀エヴェパンマンが対人最強の今作品。
そんな中、私はゲール爺さんの鎌振り回していました。なんというネタ勢。


だってしょーがないじゃない、かっこいいんだもの。


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