SAO 少女が見たクリアまでの道 (自家製イチゴ牛乳)
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第1話 始まりの街
電波時計を頼りに今の時間を0.1秒単位で確認していく。1秒だって遅れたりしないように瞳孔を限界まで開き、瞬きをする時間すら惜しいと思いながら時を待つ。あと10秒。あと9秒。刻々と時間が迫ってくる。こんなに1秒が長く感じたのは産まれて初めてだ。これから始まる楽しいゲームを夢想する。あと6秒。あと5秒。体が小さく震えた。でも私は知っている。それは今までの恐怖からくるものではなく、これからの戦いに対する武者震いである事を。あと2、1……
その数字が0になる瞬間に目を閉じ口を開き言い放つ。
「リンクスタート」
目を開けると、今までに見た事のない世界が広がっていた。石造りの街並みに、神殿の様な建物。日本では絶対に見る事の出来ないであろうその景色を噛みしめる様に眺める。
「……すごい」
思わず出た言葉に、自分が暫し放心していた事に気が付いた。もう暫く放心した様に景色を眺めていたが、ゲームに入る前に予定を立てていた事を思い出した。
「おっと、こうしてはいられない」
私はゲームを始める前に、一週間もの時間を掛けて立てた予定が合計7つある。その7つの予定の内の最初の目的を達成する為に、動きに迷いの無い人を探して話しかける。
「あの、武器屋って何処にありますか?」
話しかけた人は最初は口で説明しようとしていたが、入り組んだ場所にいい武器屋があるらしく最終的に一緒に行くことで落ち着いた。
「それじゃあ早速行こうか。俺の名前はディアベル。君の名前は?」
「A(エー)です。わざわざ連れて行ってくれるなんて、本当にありがとうございます」
自己紹介と共に小さくお辞儀をして、言葉で感謝を表した。
「いやいや、これぐらい普通の事だよ。それに、βテスターがビギナーを助けなかったら、きっと悪い噂が立つだろうからね。俺は自分を守る為にしているに過ぎないよ」
さらりとそんな事を告げるディアベルさん。そんな大人な態度に私は歓喜した。なんて良い人なんだろう。初めて会話した人がこの人で良かった。心の底からそう思えた。
そもそも人から好意を寄せられた事が数えられる程度しかない私は、基本的に全てを否定的に捉える癖がある。しかし、このディアベルさんは自らが助けなかった時のデメリットを上げる事で、私の申し訳ない気持ちを少しでも軽減させてくれるように努めていてくる。それが何より嬉しかった。
「本当にありがとうございます」
再度お礼を告げると、照れる様に頭を掻きながら……
「早く行こう。遅くなると人で溢れる可能性があるからな」
……と催促を促した。
その声に、はい、と答えると、少し早く歩くディアベルさんの後ろを大人しく付いて行った。
暫く歩くと目的の武器屋に辿り着いた。想像していたザ・武器屋って感じとは違い、食べ物とかが売られている露店の一角にひっそりとその武器屋はあった。どうしてこんな所に武器屋が、と思った私の気持ちを察したのかディアベルさんは……
「ここはβテスターの人しか、いや、βテスターの中でも知っている人は少ないお店でね。値段の割に良い性能の武器が揃っているんだ。ちなみに、ここにある理由は不明だ」
……と苦笑気味に紹介してくれた。
買う物は既に決まっていたので、迷う事なくその武器を探す。
「もう何を買うのか決めているのかい?」
武器を探している私の横でディアベルさんが尋ねてきた。
「はい、私は短剣を使おうと思っています。軽い武器だったら別に何でも良いんですけど、レイピアとかだと扱いにくそうで。色々考えた結果、状態異常とかで大きな隙を作れる短剣を使おうかなと」
そこで、目的の短剣を見つけた。ディアベルさんにアイテムの買い方、売り方を聞き、最初に初期装備の片手直剣を売って、新たに短剣を買った。
振り返り、ディアベルさんを真正面にしてお礼を述べる。
「武器屋まで案内してくれて本当にありがとうございました」
深く腰を曲げ、少しでもこの誠意が伝わればと思いながら声を上げる。
「どういたしまして。君さえ良ければフィールドに出て、経験値稼ぎついでにソードスキルの使い方とかも教えれるけど、どうする?」
少し控えめなお誘い。はい、と答えたい気持ちをグッと我慢して口を開く。
「これ以上ディアベルさんに迷惑を掛ける訳にはいきません。私は武器屋に案内して頂いただけで十分助かりましたから」
そう言うと、ディアベルさんは少し悩んだ様な素振りをしたが、私に意見を尊重してくれたのか……
「分かった。それじゃあ、また何か分からない事があったら声掛けてくれ」
……そう言って去っていった。
その背中を暫く眺めながら、私は思った。
きっとこのゲームは楽しいんだろうな、っと。
私は、脳内で「予定1、短剣を買う」に完了の判子を押した。
ディアベルさんと別れた私は、右手の人差し指と中指を揃えて上から下へ軽く下ろす。すると目の前に青色のホログラムが出てきて、幾つかの欄が現れた。あらかじめ説明書を読んでいた私は迷わずタッチし、操作をしていく。新しく買った短剣を装備し、スキルスロットに片手用短剣と投擲を入れる。これで「予定2、スキルを覚える」が完了した。
サクサクと予定通りに進む現状に少し満足をしながら私は、フィールドエリアに足を進めた。
フィールドエリアに出ると、ちらほらといる猪(フレイジー・ボア)が目に入った。
いきなり猪と戦うのも面白いかもしれないが、情報が無いと無駄な出費(ポーション)が増える可能性があるからまずは観察。適当に見渡すと丁度猪と戦っている2人組プレイヤーがいた。黒髪の美少年と、赤髪のやんちゃなお兄さん風の見た目をした2人だ。近すぎず遠すぎずの位置から観察していると、どうやら黒髪美少年の方がレイクチャーしているとすぐ分かった。身のこなしもだが、ソードスキル(きっと何かを投げた事から投擲スキルと予想)を簡単に発動してみせる黒髪に、赤髪はどうやるのかと聞いていたのだから簡単に予想は付いた。黒髪は口で説明しているのだが赤髪にはそれが伝わっていないらしく、猪から突進を食らっていた。
そこまで観察してみて分かった事が二つあった。まず、猪は突進しかせず、その速度は冷静になれば余裕で躱せるレベルだということ。次に、どうやらソードスキルとは一定のモーションを取る事で発動できるということだ。何度か練習をして、遂に赤髪がソードスキルを発動した姿を横目に近場にいる猪を探す。
近場の石を手にして黒髪がやっていたポーズを真似した。すると持っていた石が光り、腕が勝手に動き出した。腕は勢いよく振られ、石が猪目掛けて一直線に飛んでいく。そして、命中すると同時に猪のHPゲージが1割ほど削れた。
「これがソードスキル……」
私は初めてソードスキルを使った事に対して感動を覚えた。体を動かして初めて楽しいと感じた。その余韻を味わおうとしていると、さっき石を当てた猪がこっちに向かって走ってきた。
「せめて後1秒でもいいから待ってて欲しかったな」
短息をしながら少し大げさに横に避ける。猪は私を通り過ぎると方向転換する為に走るのを止めて此方に向き直した。そして再び突進をしようと足を動かす。
しかし、そうは問屋が卸さない。もし仮に問屋が卸したとしても、私は絶対に卸さない。
突進をしようと意気込んでいる猪に走って近づき短剣を振り下ろす。そして、距離を取る為にバックステップを踏む。今の一撃でHPがどれだけ削れたかを確認する。
「4割ぐらいか」
丁度半分ぐらいになった猪のHPをぼんやりと眺めながら呟く。この計算で行けば、あの猪はHPが満タンだとしても三回斬り刻むだけで倒す事が出来る。ゲームのチュートリアルの敵だとしたら妥当なレベルだろう。そう思いながら再度突進してきた猪をギリギリで回避し切り裂く。計算ではあと1/10残るとされていた猪のHPは計算と反して綺麗に0になった。
猪は幻想的なホログラムの破片をばら撒いて姿を消す。それと同時に、目の前に討伐をした猪のドロップアイテムや落としたコル(ゲーム内通貨)、経験値が書かれたホログラムが出現した。特にパッとした物は無く、すぐさまそれを消して、近場にいた猪に攻撃を開始した。
思いの外猪狩りは楽しく、暫く熱中しているとレベルアップのファンファーレが耳に流れた。そのレベルアップで手に入れたステータスポイントを俊敏に全て注ぎ込み再度猪狩りを開始する。そんな作業を2回ほど繰り返した頃、ホログラムに映し出された時計は17:30分を指していた。そろそろログアウトして食事しないと現実での体がお腹を空かすので、右手の人差し指と中指を揃えて上から下へ軽く振り下ろす。
「確かここにあったはず……」
説明書に書かれていた事を思い出しながら操作をする。しかし、そこにお目当のログアウトボタンは存在せず、少し首を傾げる。もしかして記憶違いだったのかと思い、他の所を探してみたけど一向にログアウトボタンは見つからない。
そんな状況に少し戸惑いを感じていると、どこか遠くから鐘の音が鳴り響いた。
突然体が不思議な光で包まれたかと思うと、今度は景色が変わった。先程までの猪がいるフィールドエリアではなく、どうやらゲーム開始時にいた始まりの街に強制転移されたみたいだ。周りにいる人たちも同じような人ばかりで、次々とここへ転移してくる人が増えていく。どこかで声が聞こえた。それは「ログアウトの件で謝罪するんじゃね」という声。大半の人がそう言っているし、私自身もそうだと思っていた為、然程驚きを感じない。「侘び何くれるのかな?」とか結構致命的なバクであるにも関わらず皆少し嬉しそうだった。そんな時、一人の男性が空へ指を指し声を上げた。
「お、おい。上に何か書かれてあるぞ」
私を含めた多くのプレイヤーは、その男が指す指の先にある物を見上げる。赤く書かれた文字。英単語であろうそれは、なんて書いてあるのか分からなかったが、自然と嫌な予感がした。
その予想は的中し、その後に待つ最悪の宣言に私は恐怖をした。
「ようこそ、私の世界へ……」
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第2話 深い森の奥で
走る。走る。走る。俊敏パラメータの限界を超る勢いで私はただひたすら走っていた。誰にも見つからない場所で、涙する為に。小さな体を目一杯に動かしながら……
現実世界にて、一人の少女がいた。僅か13歳になったばかりの少女は7年ほど前からイジメを受けていた。イジメの理由は何だっただろうか。覚えていないという事は本当に些細な事だったのだろう。しかし、それが原因でイジメは始まった。初めは分かりやすい仲間外れから、しかしそれは、先生の注意によって終わりを告げた。次は先生にバレないように悪口を言われた。気持ち悪いと罵られた。少女は嫌だったが我慢した。後からになって気付いた事だが、それはその現状に置いて最悪の選択肢だったと思う。事実、それが原因でイジメはエスカレートしていったのだから。段々と悪質になるそれは、年齢が上がるに連れより巧妙に、より陰湿に行われた。少女はそれを気にしないようにする事で自分に対するダメージを減らしていたが、でも完全に無視する事は出来ず、少しずつ、確実に少女の心を削っていった。
少女はイジメから逃げる為に画面の中の世界に興味を持った。最初は使い辛かったキーボードやインターネットだが、若さ故か、それらの飲み込み速度は非常に高く、1ヶ月も経たない内に慣れてしまった。それからと言うものの、画面越しに大人相手に会話する日々が続いた。それが影響したのか、少女の雰囲気は同年代が出すそれとは違い、どこか大人びたものになっていた。画面の中では常に敬語。到底子供とは思えない言葉で会話をする自分を、ガキだと特定出来る人は誰一人居なかった。
そんな時、少女の耳に一つのニュースが入った。VRMMORPG「ソードアート・オンライン」通称SAOのβテスター募集中。迷わず応募をしてみたが、結局当選しなかった。別に当たればラッキー程度で応募したので、特にショックは受けなかったが、それと同時にSAOをプレイしたい気持ちは膨れ上がった。気が付けばSAOの情報ばかりを集めている程に。
そんな私を見かねた父は、その後に発売された初回生成版のSAOと、それを起動する為のハード「ナーヴギア」を持って来てくれた。そして、それが地獄の始まりのだと知らずに私は被りリンクスタートの7文字を口にした。
私はきっと逃げたかったのだ。嫌な現実から、偽りの世界へと。
そして今に至る。茅場のデスゲーム宣言と同時に行われた体の現実化。偽りのアバターではなく、そこには正真正銘の自分自身の姿があった。たった、13歳の体がそこにあった。
バレないように、全力で人混みを走り抜けた。まだ誰も居ないフィールドに出ても、その速度を緩める事はなく、真っ直ぐに走って行った。そしてその果てに辿り着いたのは暗い、暗い森だった。暫く歩くと湖を見つけた。私はそのほとりで涙を流した。誰も居ない森に嗚咽する声が木霊した。
体何時間泣いたのだろう。視線を上げると、森の木々の隙間から木漏れ日が差していた。きっと泣く前は夜だったのだろう。一寸先すら見えなかった暗い森は、その面影を無くし、綺麗な自然との風景へと変わっていた。
時間と現在地を確認する為にステータスウィンドウを開く。時間は7:30。現在地が分かるマップを見てみると、始まりの街から一直線にマッピングされたその先端に私の現在地表すマークがあった。
取り敢えずこのまま此処に居ても良いが、下山して、レベル上げをする事を最優先にする。弱いと死んでしまうこの世界に置いて、ステータスは絶対の数値だから、早く上げないとダメなのだ。武器は幸い良いものを持っているし、暫くは問題無いだろう。防具は心許ないが、今までのステータスは全て俊敏に極ぶりなので少しでも重い物は装備出来ない。結局、今の姿でレベルを上げる以外に選択肢はなかった。
下山する最中、植物型のモンスターと遭遇した。一匹で行動していたそれは頭に綺麗な花を咲かせていて、倒すのを躊躇ってしまったが、折角の経験値を無駄にするのは勿体無いからと、距離を取りながらヒットアンドアウェイを繰り返してなんとか倒した。リトルペネントの胚珠をドロップしたそれは、私に経験値をくれて消滅した。
それから5分ほど下山を続けていると、山の麓まで降りる事が出来た。それからというものの、適当に散策していたら、道と思わしき物を発見し、それに沿って移動をすると、小さな町に着いた。道中で何度か敵とエンカウントをしたが、どれもヒットアンドアウェイを繰り返したら意外とすんなり倒せた。
町に入る為の門を潜る。視界の端っこに町の名前と思わしき「ホルンカ」の文字が浮かび上がった。
町は不気味な程に静まりかえっていた。それもそうだ。だって、このデスゲームが開始してからまだ1日しか経っていない。茅場の衝撃的な告白に心がボロボロになっている人が大半だ。その大半から逃れた勇敢なプレイヤー達も外に出たら死ぬリスクを負う事に恐怖し圏内に引きこもる。きっと、この状況を打破するには、有能な支配者でも、共通の敵でも無く、ただ時間が必要なのだろう。
取り敢えず、経験値を稼ぐ為に圏外に出たいところだが、それをする前にこの街でやりたい事がある。それは簡単な事だ。宿を取って、丸一日寝る。
消耗しきった体力は、プレイヤーのパラメータ的には何の問題も無いが、パラメータの外。つまり、精神的な体力は既に底に尽きかけていた。そんな状況で外に出てもきっといつか死ぬ。だったら1日だけでもいいから安全な場所で、一人、ベットの中で眠りたい。
そう思い、近場にあった宿の中に入る。
中にいた宿屋のNPCに話しかけ1日分だけ宿を取った。渡された鍵の番号を確認し、その部屋へ行こうとすると……
「え?」
素っ頓狂な声を上げた。
いるはずのいない物があった。否、者がいた。
私の声が聞こえたのか、その者はこちらを見つめて口を開く。
「もうここまで来たプレイヤーが俺以外にいたんだ」
その声は、意思を持っていた。確かな意思で口を動かしていた。それはNPCには再現できない繊細な表情の動き。脳の電気信号を直接受け取っているからこそ出来る動き。
そう、目の前にいた者はプレイヤーだった。
オリ主の簡単なキャラ設定。
年齢 13歳(もともとは10歳にする予定でした)
身長 145cm
体型 普通
胸囲 A(Aの中でも大きめ)
髪型 黒髪セミロング
武器 短剣
※最新は毎週土曜日に行います。話にストックが出来ると時々不定期に最新する可能性がありますが、今のところその兆しは見えません。
文字数は1話につき3000字を目安に書いています。
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第3話 ホルンカでの出会い
そんなことより戦闘シーン書くの難しいです
まさかゲーム開始から1日目で次の街に辿り着いた猛者がいるとは予想外だった。パッと見た感じだと私と同じ中学生だろうか。少し女々しい感じがする黒髪の男は、やはり、予想外だったと言わんばかりの表情をしていた。
「……」
「……」
時間にすれば僅か3秒ばかりの静寂。
その静寂を打ち破ったのは女々しい感じの黒髪だった。
「俺はキリト。こんなに早く次の街に辿り着いたって事は、君もβテスターか?」
"君も"その単語が表しているのは、目の前にいるキリトと名乗る黒髪がβテスターだという事。
つまり、私の知らない知識を使って、有利にこのゲームを進める事が出来る1000人の内の一人。
このSAOがデスゲームになる前だと特に羨ましいとか思持っていなかったし、むしろディアベルさんに武器屋を教えて貰った時など軽く利用しよう程度に思っていた。
しかし、今は事情が違う。ミスをすれば死ぬ可能性が一気に高まるこの状況で、少しでも多くの情報を持っている事は生存率に大きな影響を与える。そう思うと、羨ましいどころか、恨めしいとさえ感じてしまう自分がいた。
「残念ながら私はこのサービスが始まってから参加した初心者(ニュービー)よ」
それは、やはり恨みからだろうか。どこか投げ捨てる様に、適当に言った。
すると、キリトの予想外だった言わんばかりの表情が、今度は驚きで埋め尽くされた表情に変わった。
「初心者(ニュービー)がこんなにも早くホルンカに辿り着いたのか。それは凄い」
純粋な賞賛。普通の人ならまだ始まりの街にいるだろう。βテスターだって、こんなにも早く行動を移そうと思う人も少ない。そんな状況で、女子中学生である私がここに辿り着いた。それも一人で。自分で言うのも何だが、凄くない訳がない。
そんな凄い私にキリトは興味津々な感じで一つの提案をしてきた。
「君、見たところ一人みたいだけど、宿の外にpt(パーティ)の人がいるのかい?もし良けれな俺とptを組まないかい?君に興味が湧いた」
ptのお誘い。きっとニュービーなのに、1日目にしてこの街ホルンカに辿り着いた私の戦闘力を知りたいのだろう。私としても、このキルトと名乗るβテスターとptを組めるのは非常に得だ。命に関わる情報から、役に立つ情報まで様々な事を教えて貰える機会が
「ptは組んでいないが、今日は一睡もしてなくてね。流石に眠い。今日はゆっくりと宿で寝る予定なんだ。明日でも間に合うなら、また誘ってください」
そう言い残して、その場をあとにした。
NPCから貰った鍵を使って部屋を開ける。
ギシギシと音が鳴る床の上には、簡素なベットと丸いテーブル、椅子の三つがところ狭しと置かれていた。決して良いとは言えないその部屋だが、寝る分には十分だ。
私は、簡素なベットの上に横になってそっと目を閉じた。
「おやすみなさい」
目が覚めた。時間は……
「5時……か」
寝ぼけ眼を擦りながらベットから出る。
昨日までとは違い、どこかスッキリとした朝。今いる場所がデスゲームの中とは思えない程、その心は穏やかだった。
今日はやる事が多い。まずは純粋なレベル上げ。流石に2日目となると、思い切ってフィールドに出るプレイヤーもチラホラといるだろう。この街の周辺の狩場を独占出来るのはきっと今日が最後だろう。だから今日は本気で頑張らないといけない。
早速宿を出て、アイテムを買うついでに街を散策。今後使いそうになる施設の場所を覚える。
今あるコル(ゲーム内通貨)はそう多くない。一番安いポーションを2つ買って、フィールドへ。
キリトと名乗る黒髪の女顔がフィールドに出ている可能性を考慮して、街の入り口から見える場所で狩りを始めた。
取り敢えず、近場にいた狼型のモンスターに目標を定める。
近場の石を拾い、投擲スキルのシングルシュートを発動。
「ハッ‼︎」
手に持っていた石は、狼へ一直線に飛んでいきhit。HPを数ドット削り、戦闘は始まった。
狼は此方を向くと同時に走り出し、嚙みつこうと口を開ける。私はその攻撃を大きく回避してやり過ごす。
猪とは違い、明らかに高い攻撃力を秘めたそれは、大きく回避したにも関わらず恐怖を感じさせた。すれ違いざまに見たその狼の瞳には私を殺す殺意に満ちていた。ただのデータであるはずなのに、どこか既視感を感じる瞳。
私をイジメる時の同級生と同じ瞳。
嫌な記憶がフラッシュバックした。
朝学校に行くと、クスクスと私を笑う声が聞こえた。給食は、いつも最後なって「お前が置けよ」「やだよ、あいつきもいし」などと言って中々配られなかった。休み時間なのに、休まらない心。
足が震える。もしあの攻撃を食らったどれだけ死に近くのだろうか。そう考えると、今度は短剣を持った右手まで震え始めた。
私が恐怖を感じている中そんな事は関係ないと言わんばりに、狼は再度嚙みつき攻撃を行ってくる。
恐怖で足が竦みそうになるが、なんとか奮い立たせて回避。無様にも転んでしまったが、その感触が少しだけ冷静さを取り戻させてくれた。そして、覚悟を決めてくれた。
「私は生きる。絶対に、生きて帰るの‼︎だから……」
だから……逃げる訳にはいかない。あの時のように自分を殺させない。
そう言い聞かせ、狼と相対する。
狼は私の気持ちの変化を感じ取ったのか、少し警戒気味に私を見る。
私はただ動かず、相手が攻撃してくるのを待つ。
動かない私に、痺れを切らした狼は駆け出した。先程見た2回の走りよりも早く嚙みつこうとしてくる。
ギリギリまで耐える。動きたい衝動を寸前まで我慢する。
一歩、一歩と駆ける狼が今まさに攻撃をしようと飛び跳ねた瞬間、少し体を斜め前に動かし、手に持っていた短剣を振るった。
元々HPの少ない敵だったのだろうか、その体力は4割5分ほどしか残っていなかった。
投擲のダメージはほぼ皆無だったから単純計算で5割5分も削った事になる。
このまま攻撃をするとあと一撃で倒せる計算だ。
私は狼の方に向いた。狼は小さく唸り声をあげていたが、次こそ当てると言わんばかりの瞳でもう一度駆け出した。
さっきと同じ方法をとって再び切りつける。0になると思ってた体力は数ドット残していた。
適当に落ちていた石を使ってシングルシュートを発動する。狼のHPはピタリと0になって止まった。
脳内にレベルアップのファンファーレが鳴り響く。それと同時に大量の脱力感が私の体を襲った。それに逆らう事は出来ず、思わず地べたに座る。
一粒の涙が頬を伝った。
「怖い」
そんな呟きが口から溢れた。
次同じ敵と遭遇した時私は立ち向かえるだろうか。そんな事を思ってしまう。
昨日はホルンカにくる道中で何度か戦闘を行ったが、こんな事はなかった。それは火事場の馬鹿力というやつだったのだろう。脳が極度に興奮状態になる事で、冷静さを無くし、脳に異常な状態を齎すそれは、本来なら感じるはずの恐怖を感じさせなくしていた。だからきっと戦えた。戦えていた。
しかし、一度眠ってしまう事でそれはリセットされ、平常運転に変わった。昨日まで感じなかった恐怖を、私は感じた理由は恐らくそんなところ。
だから、戦闘中に冷静になれたのは奇跡だった。
奇跡は何度も起こらないから奇跡と言う。ご都合主義で起きるのはきっと今回が最後だろう。
そんな風に思考をしていると、後ろから聞いた事のある声が聞こえた。
「ナイスファイト。君、戦闘センスあるね」
振り向くと、黒髪の女顔が。
「いつから見てたの……」
……キリト……
ドスのきいた低い声で問いかけた。
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第4話 ソードスキル
私のドスのきいた声を聞いたキリトは両手をブンブンと振り、必死に説得を試みようとしていた。
「いや、街に入ろうとしたら君を見つけて、武器を持っている様だったし戦うのかなって思って観察していたら……
|
1分後
|
……つまり俺は別に君の泣き顔を見ようと思って見たわけじゃないっていうか、むしろ……」
まだ言い訳をしようとしているキリトを一瞥し一言。
「そんな言い訳をする前に何か言うべき事があるんじゃないの」
「ごめんなさい‼︎」
キリトはそのステータスを極限に生かして頭を下げた。
頭を下げた速度が速かったのか、小さな風が私の前髪を小さく靡かせた。
誠意の伝わる何て綺麗な謝罪だろう。
でも私はそれだけじゃ満足しない。私は知っていたから。謝罪の意味なんて本当は何も無いことを。
過去に私を苛めた奴らは先生にバレると謝罪の言葉を言わされていた。「ごめんなさい、2度としません」なんて言葉を申し訳なさそうに言っていた。しかし、それでイジメが終わった事など一度だってなかった。口で言葉を発するだけなら赤ちゃんでも出来る。そんな事で許せる程私は優しくなかった。
だから私はこんな言葉を座右の銘にしたのだろう。
「謝罪はいらない。言葉で示すより、行動で示せ」
キツめの言葉。しかし、それでもキリトはホッとした顔をした。
「分かった。何か知りたい事や、俺が助けれる事があれば何でもいい。好きに使ってくれ」
キリトの言った事を要約すると……
「一回分の首輪か。悪く無い」
ニヒルと悪い笑みを浮かべる。私から嫌な雰囲気を感じ取ったのか、キリトは少し身構えている。
この首輪を、一体どう使ってやろうか。そんな事を考えていると、ふと、思い出した事があった。それが、一回分の首輪に相当する価値がある物と思った私は口を開いた。
「ソードスキルを教えて欲しい」
それを聞いたキリトも口を開いた。愕然と。
「ソードスキルの使い方は規定のモーションを起こすだけ。後はシステムが勝手に体を動かしてくれるから、それに逆らわず、大人しく身を任せる。ソードスキル使用後には必ず技後硬直があるが、その長さは使うソードスキルによって変わる。一般的には強力なソードスキルになればなるほど技後硬直は長くなると言われている。一部例外があるかもだけど」
キリトはそこまで言い終えると、私の持つ短剣に目を向けた。
「短剣の初期ソードスキルはスラッシュ。単純な切りつけ攻撃で、普通の攻撃と大差は無い。少しだけ威力を上げてくれるが、本当に少しだけだ。あまり強くは無いが、その分使い勝手は良い。技後硬直は0に近くて、その後の行動を邪魔させない点から、対人戦闘……つまりプレヤー同士のバトルとかでよく使われるソードスキルだ。確か構えは……」
そう言ってキリトは構えをとる。それはソードスキルを発動させるのに必要な規定のモーションなのだろう。
私はキリトを真似て構えをとった。武器を持っている手を少し上に上げただけの構えは、規定のモーションの範疇に入っていたのか武器が光った。システムが自動で腕を振り下ろした短剣は、今までに見たことの無い程綺麗な線を描いた。
「これであってる?」
念のためにキリトに確認をする。
キリトはまさか一発目で成功させるとは思っていなかったのか、少し驚きの表情を見せたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「それであってるよ」
暫くそのままソードスキルの練習をした。時には何も無いところに、時にはモンスターに。
最初は怖かった狼だが、倒していくに連れ段々と恐怖心は薄れていった。
きっと、私はこの世界で最後まで生きていける。そんな予感がした。
日が暮れる頃、私のレベルは7になっていた。キリトに簡単な自己紹介と共に一緒にパーティを組んで貰ったから狩りの効率はとてもよかった。
レベル5の時に増えた新たなスキルスロットに隠密を入れてその日はキリトと共に宿に戻って寝た。
宿の窓から見える茜色の夕日は、とても電子世界とは思えない程美しかった。
次の日。
キリトと朝から待ち合わせをしていた私は、温いベットから名残惜しそうに出る。時計を見るとまだ約束の時間まであと30分もあった。
「昨日レべリングした時に結構なコルを稼いだから適当に消費アイテムでも買うか」
私は部屋を出て買い物に行こうとした時、隣でガチャッと音がした。見てみるとキリトが部屋から出ようと半開きの扉のドアノブを手にしていた。
目があった。
「ストーカー?」
「違う」
キリトは私の無垢な質問に図星を突かれたのか、やけに反応が早かった。
「買い物だよ。昨日結構なコルが入ったからな。適当に消耗品でも買おうかと。とわ言っても、ポーションぐらいしか買うものはないけど」
そう言ってキリトは苦笑いをした。
「奇遇ね。私もポーションを買おうとしてたの。一緒に行く?」
「おう‼︎」
早速私とキリトは宿を出てポーションを売っているお店を目指した。
「それにしても、昨日はAが短剣のソードスキルを使えないと知った時は驚いたよ。投擲のシングルシュートを使っている所を見てたから、とっくに使えるものだと思ってた」
キリトはそう言った。
昨日私がソードスキルを教えて欲しいと言った時に驚いていたのはそれが理由だったのか。
「シングルシュートはSAOがデスゲームになる前に、使っているプレイヤーを偶々見てね。その人の動きを真似したら簡単に使えたわ」
そう簡単に説明をすると、キリトは納得をしたように頷いた。
「何でシングルシュートなんて序盤じゃ誰も使わないソードスキルを使えていたのか合点がいったよ。ずっと不思議に思ってたんだ」
序盤じゃ誰も使わないって……
このゲームの中で唯一の遠距離攻撃なのに、どうして人気が無いんだろう。
私は思った疑問をそのままキリトとに聞いてみる事にした。
「投擲って、そんなに人気無いの?」
その質問にキリトは優しく答えてくれた。
「あんまり火力が出ないからね。敵を倒すゲームであるSAOではあまり優先度が高くないんだ。特に、ゲーム開始時は2つしかスキルスロットがないからね。1つはメイン武器のスキル。そしてもう1つは、ステータス上昇系のスキルや、索敵などが好まれるんだ」
なるほど。私は素直に感心した。
そうこうしていると、ポーションを売っているお店に到着した。
私はそこでポーションを2つ、キリトは3つ買った。
そのままフィールドに出てレべリングをしようとしたら、すでにチラホラとプレイヤーがいた。
「もう此処は独占出来ないな」
キリトが悔しそうに呟いた。
チラリとキリトが私を見る。その目は嫌な過去を思い出している様だった。
キリトにそんな目をして欲しく無い。そう思うと自然と言葉が出た。
「私が強かったらキリトと一緒に次の街に行けるのにね。もし、キリト一人だけで行けるなら早く行きなよ。私に遠慮はしなくていいから」
私は出来る限り暗い雰囲気を出さずに言った。
「いや、そんな事は……もう誰かを置いて行きたく無いんだ」
もう……か。きっとキリトは既にプレイヤーを始まりの街に置いて来ている。だから、それが負い目となっているのだろう。
私は優しくキリトの手を握った。
「君にはこのゲームを攻略出来るだけの力がある。だから、私なんかに構ってなくて、早くこのゲームをクリアに導いて」
そう言うと、キリトは静かに頷いた。
少し話し合いをした結果、キリトは次の街に、私は暫く此処でレべリングする事にした。
キリトが行く次の街は、この第1層の迷宮が近くにある所らしい。
私はすぐに追いつくと約束をして、キリトとさようならをした。
このゲームが開始してからまだ4日目。
まだこのゲームは始まったばかりだった。
次回は一か月後の話になります。
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第5話 攻略会議
キリトとさようならをしてから1ヶ月程たった現在。第1層はまだ攻略されていなかった。
私はキリトに少しでも追いつこうとして、レべリングを頑張り、最前線で戦って行けるだけの実力を手にした。
レベルは13。レベル10を超えた時に増えたスキルスロットに索敵を入れ、ソロでも比較的安全に狩りを出来るだけの土台は揃っていた。
戦い方は隠密を使った奇襲から始まり、俊敏を存分に使ったヒットアンドアウェイで何とかやっている。攻撃は弱点攻撃時に発生するクリティカルを狙って、低い攻撃力を誤魔化している。
因みに、クリティカルの存在を知ったのには訳がある。今までに度々ダメージの計算が合わなかった事があったと思うが、それがクリティカルの効果らしい。削り切れるはずのHPが残っていたり、逆に削り切れないはずのHPが削り切れたりしたのはそう言う事だ。
クリティカルの効果は大きく2つある。
1つはダメージ増加。単純計算で1.5倍になる。
2つ目は奇襲時にクリティカルが発生すると相手を怯み状態にする事。
1つ目は説明しなくてもいいが、2つ目は意外と便利だったりする。
例えばこんな風に……
目の前にいるコボルトと呼ばれる人型モンスター。幸いこちらの存在に気が付いていない。
息を潜めて隠密を発動させる。
1ヶ月もの間使い続けた隠密はかなりの熟練度で、今現在だと私がトップだと言い切れる程になっている。
そんな隠密を発動した私はコボルトなんかに見つかる訳もなく、呑気に歩いているコボルトの背後を取って弱点である首を切りつけた。
「グギャ⁈」
突然の奇襲に驚いたのか大きな声を上げるコボルト。しかし、その体は現在怯んでいる最中だ。思う様に動かない体である敵に対し、再び短剣で弱点を斬りつける。
二、三度斬りつけたところでコボルトが怯みから解放され、攻撃姿勢をとる。私はそれを視認すると、再び隠密を発動した。
コボルトの視界から私が消える。その事に戸惑うコボルトに遠距離から黒い片手直剣を投げつける。
投擲スキルの1つ。シュートだ。
効果はシングルシュートと違い、投擲用以外の様々な物を投げれる点だ。
投げつけた剣はコボルトの弱点である喉に刺さる。隠密を発動していた為、先ほどの攻撃は奇襲攻撃の扱い。そして、奇襲攻撃がクリティカルになると怯みが発生する。
発生した怯みの最中に再び手に持った短剣で再度弱点を切りつける。
HPが残り1割程まで減ったコボルトに、短剣ソードスキル、スラッシュを浴びせるとその1割は呆気なく無くなった。
戦闘時間15秒。それが私の戦闘スタイルだった。
先ほどの投げつけた剣、アニール・ブレードを回収して、私は次の敵を探しに動き始めた。
「それにしても、まさか2日目に手に入れたリトルペネントの胚珠が、こんな強い装備になるとはね」
私は手に持っているアニール・ブレードを見てそう呟いた。
説明していなかったが、シュートは様々な物を投げれる代わりに、ダメージにマイナス補正がかかる。
そのマイナス補正を入れても高ダメージを与える事が出来るのは間違いなくこのアニール・ブレードが強いからだ。
「おっと、また雑魚が湧いたか」
私は索敵に引っかかった雑魚を倒す為に動き始めた。
「ふぅ〜」
私は一人で自らの肩を揉みながら帰路についていた。
ゲームの中では体が凝るなんて現象は発生しないはずだが、そこは気分の問題だ。この年で肩を揉んで気持ちがいいと思うのは少し変な気がするが、現実世界でも同じ様な事をよくしていた。
「時々親にしてもらっていた事もあったっけ」
1ヶ月経った現在でも第一層攻略どころか、ボスの部屋さえ発見されていないという現状。一体いつになったら帰れるのだろうか。
きっと、私を心配してくれている両親に思いを馳せた。
街の喧騒はすぐそこにある。この調子で歩けば3分も掛からない。
今日はいつもより多くコボルトを狩れたから、懐が温かい。贅沢をして、少し値段のする投擲用アイテムを沢山買おう。
贅沢が出来る。その事実が私の歩みを少しだけ早めた。
街に入ると、ピロンとメールを受信した。
「誰だろ?」
そう言ってみたものの、私なんかにメールを送るなんて酔狂な事をする人は2人しか心当たりがない。
早速メールを開き送り主を確認してみると、アルゴと書かれていた。
キリトの紹介で知り合った情報屋のアルゴ。彼女のくれる情報はそのどれもが正確で、使える物が多い。しかし、お金に対して少々がめつい面がある。
しかし、アルゴからいきなりメールを送ってくるのは珍しい。基本、金を払って知りたい情報をお教えてもらうのが情報屋とその利用者の関係だ。
だから、情報屋の方からいきなりメールが送られてくるのは本当に稀なのだ。
不思議に思いながらメールの本文に目を通すと、どうして彼女からメールが来たのか理由が分かった。
『明日の正午、トールバーナの中央広場にて攻略会議がある。会議だけでもいいから参加してみてくれ』
余談だが、私にメールを送ってくるもう1人の人はキリトだったりする。
次の日
アルゴさんに言われた通り私はトールバーナの中央広場に正午丁度に訪れた。
既に集まった人は多い事から、このSAOをクリアしようと思う人が多い事が伺える。
勿論私もその中の1人……ではなかった。
私は街の中だというのにフードを被り、隠密を発動させ、誰にも見つからないように柱の陰に隠れている。
アルゴに言われた通り、会議に参加するだけ。絶対にボス攻略なんてしない。
そんな事を心に誓っていると広場の中心に、青い髪をした男がたった。
「はーい。それじゃあそろそろ始めさせていただきます。今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺はディアベル」
……へ?
「気持ち的にナイトやってます」
今この人は自分の事をディアベルと名乗った。
ディアベルと言えば私は1人しかその名前を知らない。ゲームスタート時に武器屋に案内してもらった人だ。
「そっか、生きてたんだ」
自分に優しくしてくれた人が生きていた。それだけでホッとした。
そんな私の気持ちなんか知らないディアベルさんは、さっさと話を進めていく。
まずは6人ptを組ませて、出来たptの強さや適性を見極め、作戦を立てていく。
作戦を作る時は、アルゴが無料配布した本が役に立っていた。
勿論私は、その全てに参加していない。ずっと柱の陰に隠れている。
一度トラブルが発生したりもしたが、概ね順調と言った感じで話し合いが進んでいく。
最終打ち合わせが終わり、ディアベルさんの「明日は朝10時集合してくれ」という言葉で第1層攻略会議は終了した。
別にボスを倒しに行くつもりは無いが、見学ぐらいなら文句も言われないだろう。そう自分に言い訳をしつつ、明日は9時から迷宮の入り口辺りでレべリングをしようと予定を付けた。
今回の攻略は会議を見ていた感じだと問題無く終わりそうだ。私なんかより強いキリトや、人を纏めるのが上手いディアベルさん、戦闘には参加していないが、このゲームに置いて最も大切な情報の提供をアルゴさん。皆、形は違えどそれぞれの分野で協力しあっているのだ。
不安な要素なんて何1つない。
でもどうしてだろうか、アルゴさんが無料配布した本の最後に書かれた一文に嫌な感じがしまうのは……
私はその一文に目を落とす。
『このデータはβテストを元に作られています』
怯みについて詳細を。怯みとは、奇襲攻撃時にクリティカルが発生すると発動する一種の状態異常だ。敵のレべルや、プレイヤーのステータスなどで多少変わる事はあるが、時間にして約1,5〜3秒程、体を自由に動かせなくなる。
奇襲攻撃とは、攻撃する時敵がプレイヤーを認識していなかった時に発生する特殊攻撃の一種。
シュートのマイナス補正については、本来のダメージの5分の1。
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第6話 1層攻略
9時頃、予定通り迷宮の入り口にてレべリングをしていた。
次から次へと湧くコボルトを瞬殺して行く。
しかし、貰える経験値の少なさから、第1層でのレベルアップは既に諦めている。
ドロップするアイテムも既に大量に持っている物ばかりで、レアドロップでさえも幾つかストックがあるのが現状だ。
それでも、アイテムは売ればコルになる。経験値だって0じゃないから、ずっとやり続けたらレベルが上がる。
そう言い聞かせて、私はひたすらにコボルトを狩っていく。
暫くそんな事をしていると、近くに大量の索敵反応が現れた。
明らかに量がおかしいそれは、モンスターではなくプレイヤーだろう。
「40人を超えるプレイヤー御一行って事は、ついに来たね」
私はアイテムボックスから鼠色のフード付きマントを取り出し隠密を発動した。
この鼠色のフード付きマントは、レアドロップで手に入れたものだ。レアドロップと言っても、特別レアって訳でもない普通のアイテムだが、このマントには特殊な効果が追加されている。
隠密+10。その名の通り隠密の熟練度に+10をしてくれる。
たかが+10、されど+10。この差は意外とデカイものだったりする。
しかもこのマントは装飾品扱いで、下に防具を着ていても装備できる優れ物なのだ。
そんな便利なマントを羽織り、フードを目深に被り、プレイヤー御一行が通り過ぎるのを待つ。勿論、通り過ぎた後はこっそりと後をつける予定だ。
ガヤガヤと、ここが迷宮区とは思えない程の賑やかさで私の前を通り過ぎるプレイヤー達。その中にキリトがいた事が少し驚きだが、当初の予定通り後をついて行った。
結構歩いた先には大きな扉があった。
近づいていくに連れ皆の緊張が増していくのが分かる。
その緊張に圧倒された者たちの声は段々と小さくなっていき、扉の目の前に着く頃にはとうとう誰も喋らなくなった。
そんな中、先頭の男、ディアベルが青い髪を靡かせながら声を上げた。
「俺から言うことはたった1つだ。勝とうぜ」
その声に周囲にいた人は「オーー‼︎」と歓声を上げる。士気は上々。これなら一人も死なずに勝てる‼︎その場にいたプレイヤーはそう思った。
視点、キリト
ディアベルが指揮を取るボス戦は意外と順調に進んでいった。事前情報があったのが大きかったのか、ボスが使う技に対して的確に動けている。
そんな中、ボスのHPが赤く染まった時、初めて想定外の事が起きた。
事前情報では曲刀タルワールと言われていた武器が、曲刀とは違う、刀に変わっていたのだ。
そんな事は知らないと言わんばかりにディアベルは指揮をとる。いや、指揮と呼べるかどうか分からない、そんな命令を出した。
「俺が前に出る‼︎お前らは下がれ‼︎」
武器の違いに気が付いている人は誰一人いない。
必死に声を上げる。
しかし、俺の声を無視してディアベルはボスの前に出た。もしかしたら聞こえてないだけかもしれないが、ディアベルと目が合った事を考えるとその線は薄いだろう。
何故?と思うより先にボスの刀が光り、ソードスキルが発動した。
俺以外に見たことのないソードスキルが、事前情報になかった新たな技に対応出来ずにディアベルは真正面からその攻撃を食らう。
ディアベルのHPが一気に減った。この調子だとあと一撃も耐えれない。
再びボスの刀が光る。その光は、まるでディアベルに引き寄せられるように動いていく。
誰もがディアベルの死を予感した時、一線の光が通り過ぎた。
その光はボスの弱点、喉に的中し、ノックバックを発生させた。
その光に追随する様に小さな影が通り過ぎる。
鼠色のマントの所為でよく見えないが、明らかに手練れなそのプレイヤーは、フロアボスの弱点を的確に短剣で攻撃する。
ノックバックが切れて、ボスが攻撃しようと武器を構えると、突然そのプレイヤーの姿が消えた。
そして何処からともなく一線の光がボスの喉に的中。
そして、再び姿を現したそのプレイヤーは先ほどのと同じ様にボスのHPを削る。
そんな光景が一体何分続いただろうか。一瞬にも思えたその蹂躙は、すぐに幕を下ろした。
ボスの討伐によって
視点、A
先頭のディアベルが扉を開け中に入る。それに続いて他のプレイヤー達も中に入っていく。
私もその波に混じりボス部屋へ足を踏み入れた。
ボス部屋に入ったからといって、別に戦う訳でもなく、扉のすぐ横にもたれかかって観戦をする事にした。
ボスの動きを念入りに観察する。攻撃範囲から攻撃速度、使うソードスキルの全てを把握した頃、ボスのHPが赤く染まった。
途端、ボスが今までに持っていた武器を捨て、刀と思わしき武器を手にする。
武器が変わったところで、再度観察をしようと目を凝らしていると、先頭にいた青い髪の男ディアベルがボスの前に一人で躍り出た。
それを見たキリトが何やら叫んでいる。きっと、想定外の事が起きたのだろう。
「後ろへ飛べ、ディアベル‼︎」
ボスの武器が光り、ソードスキルが発動した。
そのソードスキルはディアベルさんに直撃。しかも、さらに続け様に再度ソードスキルを使おうとしている。
「流石にそれはまずいって‼︎」
私はすぐさまアニール・ブレードをオブジェクト化し、シュートを放つ。
それと同時に私も駆け出した。
私の放ったそれは寸分違わず弱点である喉に命中。その際に発生したノックバックを利用して今度は手に持った武器で斬りつける。
弱点に命中していく攻撃達は、目に見えてボスのHPを削っていく。
あとは、普段コボルトを狩っている時の様に隠密を発動して、アニール・ブレードが手元にないから、腰に付けた投擲用アイテム(贅沢して買った少し高いやつ)をシングルシュートを手にとって投げる。
雑魚戦と対して変わらない光景。そんな光景は、やはり雑魚戦と対して変わらないほどの時間で幕を下ろした。
バン‼︎と言う音ともに幻想的なホログラムが視界を埋め尽くす。コボルトを倒した時とは比になら無いほどの量に圧倒され、思わず声が漏れた。
「キレイ……」
その光景に呆気を取られていると、レベルアップのファンファーレが鳴った。その回数は一回や二回なんてものじゃなく、合計して5回にも及んだ。
本来レイド(48人)全員に均等に配っても十分な量を貰えるはずの経験を独り占めしているのだ。それぐらいの量になって当然だ。
他にも確認したい事があったが、今はこの状況をなんとかする以外に選択肢は無かった。
目線を上げ、周囲を見渡すと私を憎悪の目で見てくるプレイヤーが大量にいた。
そりゃそうだ、自分たちの獲物を横取りされたんだ。呪殺したくなるのも頷ける。
幸いフードを被っているので顔バレまではしていないだろう。
チラリとキリトとディアベルを見た。
2人とも驚いた顔をしているが、他の者達と違って感謝をしている様な目で私を見ている。
そんな瞳で私を見てくれている人が1人でもいたのなら、私はきっと良い事をしたのだろう。
私は隠密を発動させ、その場を退避した。
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第7話 25層にて
私は誰もいない迷宮を駆け回り、マッピングをしていく。
時々遭遇するモンスター達を自慢の俊敏で置き去りにして、それでも追いかけてくるモンスターは、これまた自慢の隠密を使った暗殺で屠っていく。
第25層が解放されてからまだ5時間も経っていない現在、この迷宮区は正真正銘私1人しかいない楽園と化していた。
三時間ほど掛けて、マッピングの1割を終わらせた頃、この迷宮区最初の安全地帯に辿り着いた。
安全地帯とは、モンスターが出現しない、また、モンスターが侵入出来ない文字通りの安全地帯。迷宮区には基本これが5、6個あり、プレイヤー達はこの安全地帯でご飯を食べたり荷物の整理をする。
私もプレイヤー達の例に漏れず、NPCが作った中では格別美味しいご飯を床に並べた。
「いただきます」
そう言って、おかずの1つを箸でつまみ口に運ぶ。
やはりここのご飯は美味しい。
何度も食べた味だが、美味しい物は何度食べても美味しいものだな感心してしまう。
5分もしない内にご飯は空になり、私のお腹が満たされる。
その満足感が暫く動きたくなくなる無気力症候群を発症させそうになるが、マッピングの事を考えると自然と体が動いた。
私は第1層以降ボス攻略に関わっていない。そして、これからも関わるつもりもない。
第1層の攻略が全プレイヤーに行き渡るのと同時に、私の悪評は響き渡った。
『瀕死のボスを横取りした悪質プレイヤー』
それが世間様が私に対する認識だ。
私としてはディアベルさんを助けただけだが、横取りをした事実があるので反論し辛い。
フロアボスのラストアタックボーナスは強力な装備品だ。第1層のボスのラストアタックボーナスであるコートオブミッドナイトは15層まで現役で使えたと言えばその強さが十分伝わるだろう。
それ程強力な装備は滅多にドロップせず、ドロップをしたとしても、やはりフロアボスの様にこのゲームに一体しか存在しない強力なユニークモンスターなどからしかドロップしない。
私はそんな装備が欲しい訳だが、私がフロアボス戦に参加しようとすると、悪評などの影響で世間様の目が痛くなる。
だから参加していないと言うより、参加出来ない訳だが、それだと強力な装備品を手に入れる機会が減ってしまう。
装備品が弱いまま次の層へ行くのは自殺行為だ。それが最前線となれば尚更そういった事には気をつけないといけない。
それ故に、誰よりも早く迷路区をマッピングし、その階層にある宝箱の多くを頂戴させて頂く事で私は現在の強さ、最前線で戦っていけるだけの強さを保つ事方法を取っている。
つまり私にとって新たな階層が解放された日は、私が一番頑張らない日であり、少しの時間さえも無駄に出来ないのだ。
それにマップデータは高く売れる。アルゴに渡せばそこそこの値段で買い取ってくれるので一石二鳥。
私が頑張らない理由は何1つ無く、寧ろ得する事ばかりなので私は迷宮区を駆け巡っていく。
25層が解放されてから24時間が経とうした頃、私はボスの部屋を見つけた。
今までの層と変わらず大きな扉。この扉の向こうで繰り広げられるであろう死闘は、悪評を持つ私にとっては程遠い場所にあった。
「はぁ」
小さくため息を漏らし、まだマッピングしていない場所を埋める為、再び迷宮区を駆け巡った。
それから6時間程した後、全てマッピングされたマップを眺めて一息ついた。
見つけた宝箱は112個。そのうち開封した宝箱は28個。
どうして全て開封しないかと言われたら、これ以上悪評が広がるのが嫌だからだ。
宝箱には限りがある。一部復活する宝箱もあるが、その数は本当に少ないし、中から出るのは消耗品ばかりだ。
そんな宝箱を全て開封してしまうと、当然悪い噂が流れる。
攻略するのが遅いと言ってしまったらそれまでだが、それでも、宝箱を目当てに頑張っている人達もいる。だから、プレイヤー同士の間では見つけた宝箱の内4分の1を開封するのが良いとされているのだ。
私は誰よりも早くマッピングを終わらせるから、特にそのようなルールは守らないといけない。
「さあ、今回も頑張った事だし早く宿を取って寝よ」
そう呟いて帰路についた。
街に戻ると真っ先にアルゴに連絡してマップデータを渡す約束をする。その時ついでに良い宿の情報を教えてもらい、早速その宿に足を運ぶ。
結果としては、毎度ながら良い部屋を紹介してくれるアルゴに感謝をしながら荷物整理をする事になった。
適度に広い部屋にはフカフカのベッド、宿の下には美味しい料理屋さん、窓の外には綺麗な夜景。
そんな素晴らしい宿であるにも関わらず値段は少し安めで、街の門からも近い。
文句の付け所のない宿に感服しながら今日の戦利品を確認していく。
特に特出するアイテムこそ無いが、売ればどれも高値になるであろうアイテム群は私の心を癒していくれた。
現在私が使っている装備品達はどれも優秀なので、そう簡単にそれらを越すアイテムが出現されたら困るんだけどね。と、内心舌を出して笑う。
やる事をやった私は、フカフカのベッドに横たわり40時間ぶりの睡眠をとった。
一週間後
私がアルゴに渡したマップデータのお陰で、攻略組のプレイヤー達はサクサクと攻略を進めていった。
レベルも十分な程上げて万全を期して挑んだボス戦。
そこではディアベルを中心としたプレイヤー達が何度も調査してボスの攻撃パターンを割り出し、アルゴのような情報屋が様々なNPCから聞き込みをしてボスの弱点を洗い出しにも関わらず、初の犠牲者を出した。
その事が瞬く間にプレイヤー達に広がり、不安が不安を呼ぶ最悪のスパイラルが構築されそうとしている。
そんな状況の中、呑気に美味しいご飯を食べている私に一通のメールが届いた。
それはアルゴからのメール。たった二文しかないメールだった。
『明後日朝10時、第25層攻略会議が大神殿にて行われる。出来れば攻略に参加してほしい』
オリジナル設定ですが、ディアベルさんは聖竜連合と軍の二つを一緒にした感じのギルドを作っています。シンカーさんや、キバオウ達も所属している。という設定でお願いします。
ちなみに、アニメでは軍が大打撃を受けた、と言われていますが、ディアベルさんが指揮をとっていた為被害は少な目です。という設定でお願いします。
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第8話 二度目の攻略会議
アルゴから攻略会議に関するメールを貰ってから2日がたった。
アルゴは私がボス攻略に積極的じゃ無い理由を知っている。それ故に「ボス攻略に参加して欲しい」なんて言うメールを送られてきて驚いた。
いや、きっと現在進行で私は驚いている。
ずっと悪評を恐れていた。SAO最初にして最大の悪評は、私のボスの横取りだ。あれから時間が経った今でさえも時々プレイヤー同士の会話の話題に上がる程に私の悪評は根が深い。
幸い顔も名前も知られていない私は隠れる事でその悪評から発生する被害を避ける事が出来ていた。
しかし、攻略組の一部の人。第一層の攻略に参加した人達は違う。私の戦い方を知っている。独特過ぎる私の戦い方は、一目目にしただけで直ぐに思い出せる程個性的なのだ。
もし仮にボス攻略に参加して顔も名前も知られたら、私は隠れる場所を失い、暴言の嵐に巻き込まれるだろう。
それが何より怖かった。
でも、いつまでもそんな事に怯えていないで、自分自身の悪評と対峙していかないといけないと、私は成長できない。
レベルばっかり上がっても、心は子供のままで。自分のこの精神にこのステータスはあまりに不釣り合いだった。
だから、私はそろそろ一歩を踏み出さないといけない。
自分自身に胸を張れるように。
そんな気持ちが自然と私を大神殿まで運ばせた。
私が大神殿に入ると、ザワザワと小さな騒ぎが起きる。
私を値踏みするような目で誰もが私を見た。
あまり慣れない視線に緊張しながらも声出す。
「私の名前はA。情報屋アルゴからお話を受けて此処に来た」
そうして第25層、攻略会議が始まった。
第25層を実際に体験した攻略組達を中心に会議は進められていった。
前回の反省点などを上げる時に涙を流す者もいたが、皆が歯を食いしばって真剣に会議していった。
そんな調子で進んでいった攻略会議が最大の難点にぶち当たるのは割とすぐだった。
「タンクが少ない」
そう呟いたディアベルさん。
前回の攻略で真っ先に犠牲となったのはタンクの人達だったらしい。
今回の敵は強力な攻撃を繰り出すパワー系のボスで、通常のボスよりタンクを増やしたい欲しいところなのだが、増やすどころか前回の攻略で減ってしまっている。
アルゴの紹介という事で戦力視されているが、私はアタッカーなので、どう頑張ってもタンクの代わりにはなれない。
そんな行き詰まった状況下で、大神殿の扉が開いた。
「遅れてすまない。私は血盟騎士団団長のヒースクリフという者だ。タンクが足りないなら、うちのギルドから出させよう」
突然現れた男にその場にいた人全員が戸惑いの声を上げた。
その声の中で最も多かったのは、戦力になるかどうかの話だ。
私はアルゴの紹介だから問題なかったが、突然現れた名前も聞いた事ないようなギルドの名前も聞いた事ないプレイヤー。
不安になるのも当然だ。
しかし、そんな次の瞬間。大神殿の中にいたプレイヤーの中の1人が声を上げた。
「団長遅いです」
その声に周囲にいた人たちが驚く。きっと攻略組の中でも有数のプレイヤーだったのだろう。そんなプレイヤーが団長と呼んだ人は、間違う事なくヒースクリフと名乗った男であり、その行為自体がヒースクリフが戦力になる事を指していた。
「いや、すまないね、アスナくん。思いのほか準備に手間取ってね」
こうして、攻略会議の流れは大きく変わり始めた。
ヒースクリフを交えた攻略会議はスムーズに進行していった。足りない人員はヒースクリフ率いる血盟騎士団のメンバーが引き受けてくれるからだ。
次の攻略に参加する血盟騎士団のメンバー達のステータスを最低限確認させてもらうと、その全員が十分な程のステータスを持っていた。
会議が終わる頃、私の存在価値は完全に無くなっていた。
会議が終わり、私は宿へ帰った。
明日は朝9時に街の門前集合らしいので、私は今から装備を整えて始める。
「投擲用アイテム(麻痺)よし、投擲用アイテム(貫通)よし、投擲用アイテム(攻撃)よし。投擲用武器(麻痺)よし、投擲用武器(貫通槍)よし、投擲用武器(高火力剣)よし、投擲……」
合計20種を超える投擲用アイテム類を1つずつ確認にしていく。
気がつけば投擲用アイテム類をしか目にしていないようだが、私は紙装甲なのでダメージを食らう事自体が御法度。つまりダメージを食らう事を前提としたポーションの類を持ち歩く必要性がない。
だから、同じ消耗品である投擲用アイテムばかりに目がいってしまう。
最後に自らが身につけている装備類だが、どれも異常なしのオールグリーン。
自らに出来る最大の準備をして、私はベットに転がった。
「明日、犠牲者がいないといいな」
そんな風に柄でもない言葉を呟き瞼を閉じた。
翌日9時、待ち合わせ場所
予定時間ぴったりに私は待ち合わせ場所に着いた。
既に私以外の人は集まっていたらしく、私の登場を確認すると「もっと早く来いよ」「おせーよ」「なんでこんな奴が攻略組なんだよ」などと言いたい放題の模様。
私は同じ遊撃部隊のptメンバーでもあるキリトを探し、その方へと足を進めた。
近づいて行く足音に気がついたのか、キリトが私の方を見た。
「おはよう。遅かったじゃないか」
そう言って笑うキリト。
私はそれに対して、少し不貞腐れ気味に言葉を返した。
「キリトも皆と同じ事を言うんだね」
「俺が皆と同じ事って何?」
私の返した言葉の意味が分からなかったのか、首を傾げるキリト。
「遅いって、時間通りじゃないか。私は1秒だって遅れてないぞ」
そこで初めて意味が分かったのか、キリトは苦笑いを浮かべて説明をしてくれた。
「此処にいる人はだいたい10分前には集合をしている。遅くても5分前には間に合うようにしているんだ。だから、時間通りに来たんじゃ遅く感じてしまう。それに、相対性理論って言うのかな。極度に緊張をしている中、誰も口を開かずただ5分待つのは想像以上に長く感じてしまうんだ」
そう説明されると成る程と思える自分がいたが、それでも私の不満は解消されない。
「でも、だからと言って私悪い事何にもしてないのに……」
そう言った直後、この攻略の指揮をとるディアベルが大きな声を上げた。
「約束の時間になったから、これからボスの部屋まで行こうと思う。全員揃っているのを先程確認したが、もう一度だけ確認してみてくれ。他にもアイテムの忘れ物があったら直ぐに取りに行って欲しい。まだ時間に余裕はあるから、行くなら今のうちだぞ」
そう言い終えるとディアベルは私達全員を見渡して、問題ないと判断したディアベルは「それでは移動を始める」と言って前進をし始めた。
私達は、ディアベルの後を静かに追った。
一歩、また一歩と足を進める度に、緊張が増していく。
これから倒しに行くのは、初の犠牲者を出した強敵。
果たして、私達に倒せるのだろうか。そんな不安を感じていていながらも今更引き返せない現状に、私はただ焦りを感じるばかりだった。
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第9話 クォーターボス 1
ボスの扉まで辿り着いた私は、緊張の顔でただ立っていた。
ディアベルはこの攻略に関わる全ての事に、最終チェックを入れていき、ついさっき、その最後チェックが終了した。
「たった今、全ての最終チェックが終了した。これからこの扉を開けようと思う」
そこでディアベルは大きく深呼吸をした。
「全員覚悟は良いか‼︎」
大きな声がその場を支配する。しかし、それを聞いた皆は、ディアベルに負けぬように大きな声を上げた。
「「「「「おう‼︎」」」」」
その声を確認したディアベルは満足そうな顔をして扉を開けた。
「それでは、突撃‼︎」
こうして第25層、後にクォーターボスと呼ばれる最悪の戦闘は始まったのだった。
一回目の情報だとボスのHPが半分を切ると同時に攻撃力が一気に上がったらしい。
それまでは順調に進んでいった攻略も、上昇した攻撃力の高さにタンクが耐えきれず、戦況が一気に崩れ、撤退を余儀なくされたとディアベルは涙ながらに言っていた。
それ程の火力を持った敵。しかも、体力を半分切った後に更にもう一段階は確実に強化されると予想された敵の姿は一体どんなものなんだろうと思っていたが、今目の前にしている姿を見ると、なるほど、そう納得せざるを得なかった。
全長3メートルを超える筋肉質の図体には重々しい金属製の鎖巻かれており、その手には石を丸ごと切り抜いた様な巨大なハンマーが握られている。
目線を上に上げると、殺意を孕んだ赤黒い瞳に、白い吐息を吐く口。
狂戦士(バーサーカー)と言うべきその姿に、私は戦慄した。
「二度目のボス戦にはハードル高すぎだよアルゴ」
乾いた笑みをして、もう一度ボスを見る。
本当にSAOはクリア可能なのだろうか、心の底からそう思った。
ボス部屋に入ると同時に、ヒースクリフを中心としたタンク隊がタゲを取る為、攻撃を仕掛けた。
次々と剣がボスに命中していくが、ボスのHPは少ししか削れていない。
本来ならもう少し削って欲しいところだったが、ボスが振り下ろしたハンマーによって攻撃は中断された。
その攻撃を盾で守るタンク隊の1人。確かに盾で守ったにも関わらずその人のHPは目に見えて減少した。
「嘘⁉︎まだ一度も強化されていないのに⁉︎」
思わず声を上げる私。
通常タンクは、高い筋力値を活かして大きな盾と鎧を装備する。レベルが高さに伴い、筋力値も高く育成されている攻略組が装備するそれらの装備は、そこら辺のプレイヤーが装備しているのとは比べ物にならない程良い装備のはずだ。
それなのに、目に見えてHPが減った。
今回二度目のボス攻略になる私にも分かる。これは明らかに異常な光景だ。
それを前にしたにも関わらず、果敢に攻撃を繰り返すタンク隊。
明確な隙が出来ないまま、私達遊撃部隊は、ただディアベルの指示を待っていた。
ボスがソードスキルを発動させようと構えを取る。その構えを見たヒースクリフは、その攻撃を防ぐべく1人でボスの前に踊り出た。
ボスが乱暴に武器を振り下ろしす。ソードスキルであるその振り下ろしは、最初の一撃とは比べ物にならない程の火力を持っていた。
その攻撃を盾で去なすヒースクリフ。
直接攻撃を受けていないからか、ダメージは微々たるものだたった。
その事に感嘆する間も無くディアベルの指示が出る。
「遊撃部隊攻撃開始‼︎」
ボスが使用したのはソードスキル。ソードスキルの後には必ず技後硬直が発生する。
それは明確な隙であり、隙であるならば攻撃しない理由がない。
こうして初のお仕事を全うすべく、ボスに接近し、強力なソードスキルをお見舞いする。
タンク隊の攻撃とは違い、今度はちゃんとボスのHPが減った。
本来ならもう一度ソードスキルを使用したい所だが、安全第一を命令されている以上、私は大人しく引き下る他に選択肢は無かった。
隣を見るとキリトも少し物足りない顔をしている。きっと私と同じ心情なのだろう。
タンク隊の後ろに下がって再びボスのHPを確認する。
思ったより削れているHPに、これは勝てるかも、と思っていた私は、10分もしない内に地獄を見るのだった。
今の戦況はというと、ヒースクリフを中心とした血盟騎士団のタンクがタゲを常に取ってくれている為、私達遊撃部隊は比較的安全に攻撃をする事が出来ていた。
特に危ない場面もなく、順調に進んでいく攻略に、前回の攻略で犠牲者が出た事が嘘にさえ思えてきた頃、ボスの姿が豹変した。
筋肉質のその図体は、赤く染まり、ところどころ血管が浮かび上がっていく。白い吐息の量は倍増し、赤黒い瞳には幾つかの深紅の線が走っていた。HPが半分を切ったのだ。
ボスがソードスキルを発動した。何度も見た同じ構えであるにも関わらず、不穏な空気を漂らせらそのソードスキルに、その場にいる皆が目を見開いた。
その対象となったタンク隊の1人はそのソードスキルを完全に去なす事が出来ていた。
今までならきっと気にする必要もないダメージだったであろう。しかし、去なしたプレイヤーのHPを確認してみると……
「……3割も削れている」
その現実を受けいるのに、私は時間をかけ過ぎたらしく、既にボスの技後硬直は終了していた。
他の遊撃部隊の面々も私と同じように、信じられないものを見た表情で固まっている。
唯一動けたのはキリトだけだった。
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第10話 クォーターボス 2
あれから2分もしない内にボスのHPは3割程にまで量を減らした。
理由は単純明快。このボスは攻撃力上昇に伴い、防御力が低下していたのだ。
おまけに浮き出た血管が弱点で、他の弱点(首筋、眼球)とは違い攻撃しやすい位置にも多数血管が浮き出ている。これによりタンク隊でも効率よくダメージを稼げていた。
ソードスキルの後の技後硬直を狙った遊撃部隊の一斉攻撃も、弱点の増加によって一回あたりのダメージ量を多く増やしていた。
このまま討伐出来れば文句は無かったのだが、このゲームはそう簡単にクリアさせてくれる程、甘く無かった。
ボスが見たことの無い構えを取る。
完全初見のソードスキルはタンク隊が守るのがセオリーだが、この敵に限ってそんな危ない事は出来ない。
私は念のため隠密を発動し、いつでも弱点に投擲を行えれるように準備をした。
「さぁ、いつ来る?」
瞬きすらせず、目に力を入れる。一瞬だって目を離さないと思いを込めて。
しかし、次の瞬間、私は自分が1少女である事を思い知らされる。現実が嘲笑うかのように、最悪の現実を突きつけた。
突如、視界からボスが消えた。
慌てて顔を動かすと、ボスは直ぐに見つかった。それも、異様な光景で。
タンク隊の後ろに隠れていた軽装のプレイヤーが宙を舞う。先ほどまでそのプレイヤーが居たと思わしき場所の目の前にはボスが、ハンマーを持っていない方の手を前に突き出す形で固まっていた。
無手の攻撃。それも固まっている事からソードスキルと仮定すると……
「体術⁉︎」
それは、このゲーム初めて敵が体術スキルを使用した瞬間だった。
体術とは、初動のモーションが最小限に、一気に拳や蹴りで攻撃を行うスキの少ないスキルの一つだ。その火力は完全ステータス依存になる為、低レベルの人が使用しても大したダメージにならない。でも、武器を落とした時や、破壊された時の緊急攻撃手段として取得する人が多い。
そんな体術だが、使用する相手が悪すぎた。
先ほど説明した通り、このスキルは完全ステータス依存だ。つまり、プレイヤーが使う体術と、フロアボスが使う体術には、圧倒的な威力の差が生まれる。
未だ技後硬直で動けないボス。その長さから使用したソードスキルの強力さが分かる。
視界の隅で何かがポリゴンになった。
手に力が入る。持っていた投擲アイテムも半分に折れてポリゴンになる。
「許さない」
溢れる呟き。瞳に映るのは、今まで見続けた人型の敵の共通弱点である首筋と……
ボスがこちら側を向いた。隠密で隠れている為、目が合う事は決して無い。
私は新しく手に取った現在見つかっている中で最高峰の火力を持つ投擲アイテムを容赦なく叩きつけるように眼球に投げつけた。
ボスの巨体が大きく仰け反る。
隙だらけのボスに、一瞬で接近し、足にある浮き上がった血管を斬りつける。
一回、二回、三回、四回……
私が血管をを斬りつけて6回目の頃、ボスが怯みから復活した。
ボスが私を蹴り飛ばそうと足で攻撃を行う。
「危ない‼︎」
悲鳴のようなキリトの声。
戦闘中に喋れる程余裕が無い私は、キリトに向かって小さく微笑んだ。
ボスの足が私に当たる刹那。私は隠密と軽業を瞬時に使ってその攻撃を回避。
通常ならありえない動きを、当たり前のように使いこなす。
手応えの無い事に違和感を感じているボスに、私に蹴りをしていない方の軸足にある血管を軽くなぞる。
片足を上げた無理な体勢からの怯み。
それは、その巨体を転ばすには十分過ぎた。
無様に転けるボスを私は口を三日月のように湾曲させた笑みで見下ろす。
「……殺す」
その言葉と同時に眼球に短剣を突き刺す。
ボスの悲鳴がフロア全体に鳴り響く。本来ならこうなる筈のない存在として作られたボスに、私はもう一度短剣を突き刺した。
ゴリゴリと削れるHP。
ボスが動きそうになると隠密を発動し、弱点を攻撃する。怯みによって、いつまでも寝そべったままのボス。
そんなボスは立ち上がれたのは、そのHPが1割を切り赤く染まった時だった。
ボスのHPが赤くなった瞬間、ボスはスーパーアーマー(無敵)状態になり、その太い喉から、フロア全体に響き渡る咆哮をした。
赤かった体には血管が更に浮き上がり、一部流血している場所もあった。
瞳は、瞳孔までもを紅に染め上げ、腕に持っていたハンマーには持っている部分を中心に幾つか罅が入っている。
ボスが私を見下ろす。
その目には、殺してやる、と言わんばかりの殺意。
私が隠密を発動し、その視線を切った瞬間に再び戦いは始まった。
ボスは突然走りながらフロア全体を攻撃し始めた。プレイヤーがいる場所も、そうでない場所も同じように武器を振るう。
それは私に対する対策。このボスはそうする事で見えない私に攻撃を与えようとしている。しかし、それは下策だ。
所詮はAI。見えない敵に対する手段が余りに雑過ぎる。もしかしたら、バーサーカー状態では思考回路が麻痺し、考える事が出来ないだけかもしれないが、どっちにしても下策は下策。
私は被害が出る前に勝負を賭けた。
「こっちに来い‼︎デカ物‼︎」
盛大にあげる声。それにより隠密スキルが解除された。
ボスは私の姿を見るなり、一直線に走ってくる。
余りの迫力に目を閉じたくなるが、それを我慢し、時を見計らう。
あと10m、あと7m、
ボスの口端が吊りあがり、今にも殺してやると言わんばかりの獰猛な笑みが視界に入る。
あと3m……
ボスが乱暴に武器を持ちあげる。
あと2m……
持ち上げた武器が、力任せに振るわれた。
「今‼︎」
ボスとの距離があと1.5m、振るわれた武器が当たる瞬間、私は足を蹴って全身した。姿勢を低くし武器の下を潜り抜け、足の間を通り過ぎる。後方でなる衝撃音を無視して、軽業を使って高くバク転。
そのバク転の着地地点は、武器を振るった時に前屈みなったボスの背中。
後ろを振り向き、未だ前屈みになっているボスのガラ空きの首筋に、私は全力を込めて短剣でその首を刈った。
耳にきこえるのは大きな爆発音。それと同時に視界を埋め尽くす無数のポリゴン。
私は自由落下による浮遊感を感じた。
目の前に表示されるホログラムには『you get a last attack』の文字が。
そしてその下には「憤怒の化身」と書かれたアイテム名が表示されていた。
新たに入手したアイテムについて考察したい気持ちを抑え、空に浮いている体を一度捻り、綺麗に着地を決めた。
そして私は、私を取り巻く周囲の反応が変な事に気が付いた。
それもそうだ。隠密なんてスキルを使ってボスを圧倒するなんて、そんな話は一つしか存在しない。
「あの戦い方って……」
一部の人が大きく驚いている表情をしている。
それ以外の人は、頭に「?」を浮かべて、その人達から事情説明を求めるように話しかける。
キリトが近づいてきた。
「君が、第一層。ボスのラストアタックだけでなく、経験値やコル。その戦闘で得られる全てを奪った犯人だったんだね」
その声に連鎖するように沢山の話し声が上がった。
ザワザワと、勝利を祝うムードではない状況。
私はキリトの言葉を頷く事で肯定を表現した。
すると、遠くから人が青い髪をした人がやってきた。
「……ディアベルさん」
私が第一層で助けた張本人。
この人までもが私を酷く言うのだろうか。そう思うと、体が震えた。
ディアベルさんが静かに口を開いて……
「あの時はありがとう‼︎おかげで助かった‼︎」
綺麗なお辞儀をした。
突然の事に、静まる攻略組の面々。
ディアベルさんは、第一層からずっとボス攻略をしている事で有名だ。
だから、誰もがディアベルが私を責める状況を予測していたのだ。
しかし、現実は全くの逆。寧ろ感謝の言葉を述べている現状に頭がついていかないらしい。
キリトを見る。その表情は、やっぱりねと、キリトの内心を雄弁に語っていた。
暫くして、第一層でした私の行為は悪くない事が証明された。
以外と第一層攻略メンバーが多くいた事が幸いし、キリトやディアベルさん。エギルさんやアスナさんまでもがその状況を説明してくれたので、以外と簡単に受け入れられた。
最後にディアベルさんから「これからもボス戦に参加して欲しい」と言われて、第25層は、第一回攻略時に二人、そして今回の攻略で一人、合わせて3人の犠牲者を出して、今、クリアをした。
ラストアタックボーナス
憤怒の化身(投擲用アイテム、短剣)
二つの特性を兼ね備えた武器。投擲用アイテムでもありながら短剣でもある特殊武器。
投擲スキルでこの武器を使用すると、投擲の熟練度によってダメージに補正がかかる。
このゲーム最強の投擲アイテムである。
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第11話 第28層 キリト
あれから私はレべリングをして遂に40lvを超えた。
新たに増えたスキルスロットには暗視を入れて、私は真夜中のレべリングを楽しんでいる。
どうして真夜中にレべリングを行っているのかというと、リソースの争奪戦を避ける為だ。
リソースの争奪戦とは、例えばAと言うフィールドに10分間で7匹の敵が湧いたとする。それらの敵は一体探すのに1分、見つけてから倒すまでに2分掛かるとした場合、単純計算で一体倒すのに掛かる時間は3分。10分で倒せる数は三体になる。
そんなフィールドAに二人のプレイヤーが狩りをしに行くとすると、10分で倒せる数は6体。10分で7体湧くフィールドだからリソースの争奪戦は発生しない。
しかし、フィールドAに三人のプレイヤーが狩りしに行くと、10分で倒せる数は9体。
10分で7体しか湧かないのに、倒せる数は9体。
そうすると、三人のプレイヤーの間には、リソースの争奪、つまり湧いた敵を奪い合う状況が発生してしまう。
これは大きくレべリングを阻害してしまう為、攻略組面々は、常にリソースの争奪戦にならない様に気を付けながら狩場と時間を決めている。
因みに、一番人気なのはお昼頃の迷宮区。
一番人気が無いのは、夜の9時〜朝の5時の6時間。この時間帯だと、迷宮区もフィールドも全てが貸し切り状態になる。
元々敵一体に掛かる戦闘時間が極端に短い私が昼頃にレべリングを行うと、リソースの争奪戦が勃発してしまう可能性が高い。
だから、こんな真夜中にレべリングをしている訳だが……
「それにしても、こうもハッキリ見えてしまっては真夜中って感じがしないね」
レベル40になった時に取得した暗視スキルの凄さに思わず感嘆の声を上げる。
戦闘とは全く関係無いスキルだが、レべリングの効率を考えると便利と言わざるを得ないだろう。
湧いた敵全てを遠慮無く狩っていく。
どんどん溜まっていく経験値やコル、アイテムにホクホクした顔をしながら、次の獲物を探す。
気が付けば地平線の彼方から、太陽が昇り始めていた。
「今日はこれぐらいにしよ」
私はマップを見ながら帰路に着くと、大きくあくびをした。
「もう眠いし、さっさとアイテム換金して寝よ」
未だ就寝中と思われるエギル起こす為の方法を考えながら更にもう一つ大きなあくびをした。
ジリジリジリ。頭の中に大きな音が鳴り響く。
その音で私は今日も目を覚ました。
指を動かし、空中にホログラムを出現させる。その中にある時計を確認すると……
「……もう7時か」
夜だった。
私は素早く戦闘の準備をすると、さっそく真っ暗なフィールドへと足を運んだ。
その途中、様々なプレイヤーとすれ違う。疲れ切った表情をしている重戦士や、ニコニコと嬉しそうな顔をしている軽装備のプレイヤー。
数を数えればきりが無いだろうそのプレイヤー達は、皆街へと入っていく。
そんな中で、一人だけ……私だけがフィールドへと向かっていた。
多少の場違い感は感じてしまうが、そんなものは気にしないと言わんばかりに普通に道を歩いていく。
ふと、私と同じ方向へ足を進めている人を見つけた。
キリトだ。
「お久しぶりキリト。こんな時間にどうしたの?」
近寄って話しかけると、キリトはぎこちない笑みを浮かべて声を返した。
「レべリング。最近忙しくて夜しか時間が取れないんだ」
忙しい。そう言ってる割にはどこか明るいキリトの顔。
「何か良い事あったの?」
私のストレートな質問に少し驚きながらも、キリトは説明をしてくれた。
「今ギルドに入ってるんだ。月夜の黒猫団っていう攻略組を目指しているギルドでね。少し下の層で危なっかしいプレイをしていたから助けて、それで知り合った。そしてその夜、一緒にご飯を誘われて、ついでにギルドにも加入したんだ」
そう言うキリトの表情は嬉しそうだった。
「それからは、一緒にレべリングをしたり、迷宮区を攻略したりと楽しくやってる。お陰でレべリングをする時間が無くて、こうして夜にフィールドに向かっている訳だけど、俺はあのアットホームの様な感じが気に入ったみたいで、辞めようにも辞められないんだ」
キリトは自分の居場所を見つけた。その事が羨ましく感じてしまう。
「そう言うAこそ、どうしてこんな時間にフィールドへ?」
今度はキリトが私に質問をした。
「この時間帯はモンスターを独占出来るからね。それに暗視スキルも取ったから、昼と同じ様にレべリング出来るし」
スキルを取った、の部分からキリトは私のレベルに気がついたのか、私に対して対抗意識を燃やしている。
「ついにAもレべル40か。追い抜かれない様に頑張らないと‼︎」
勝手に対抗意識を燃やされても困るので、私はキリトに現実を見せてあげる。
「私のレベルは42よ」
そのことを言うと、キリトは一目散にフィールドへ駆け出し、レべリングを開始するのだった。
キリトの後を追うようにフィールドへ出ると、既にフィールドにはモンスターが一杯いて、その中の一体とキリトが先頭を繰り広げている最中だった。
キリトを横目に、私も戦う前の簡単な準備運動をし、早速モンスターへと短剣を振るった。
深夜2時頃
キリトが私の近くまで寄って来た。
「俺はそろそろ帰るけど、Aは何時までレべリングするんだ?」
「私は日が昇って、他のプレイヤー達が来るまでレべリングをするわ」
私は簡単にそう言うと、キリトは「程々にしとけよ」と言い残して街へと戻った。
それから暫くレべリングをしていると、レベルアップを知らせるファンファーレが鳴った。
顔を上げると丁度太陽が顔を出し始めている。
何度見てもゲームとは思えないその光景に、今日は戦う気が失せたと言い訳をして、体を休ませながら見入ってしまう。
私はいつか本物も日の出を拝めるのだろうか。そんな風に感傷に耽ってしまう。
私は25層以降のフロアボス戦にも参加させて貰っているが、視覚以外の器官でプレイヤーを見るける事で隠密を無力化するボスや、怯みそのものが無効化されるボスが続いている。
そんな敵を前にすると、私はちょっと強いだけの短剣使いに過ぎない。これから先、そう言ったボスはドンドン増えていくだろう。そうなると、私は生き残れるのか不安になった。
最悪の場合、フィールドモンスターにさえも勝てない何て事態が発生してしまうかもしれない。
そう思うと、自然と短剣を持った手がモンスターの方へと伸びていった。
「今は強くなって、どんな状況でも勝てる様にならないと」
顔を出したばかりの太陽を背に、再びレべリングを開始した。
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第12話 月夜の黒猫団とその末路
太陽が完全に昇ってから、暫くたった頃。フィールドには自分以外のプレイヤーがポツポツ来始めたので帰る事にした。
時計を確認すると6時30分。
「エギル起きてるかな?」
数分後……
「嬢ちゃんはいつも朝早いな。おじさんはちと辛いよ」
エギルは起きていたが、とても眠そうにしていた。
しかし、私が「アイテムの買取価格は安めにしてもいいから」と告げると、エギルはクールに「しょうがねいな」と言って、口の綻びを必死に隠した。
最終的に大分安く買い取られたが、アルゴ情報によると、エギルの儲けの殆どは下層で頑張っているプレイヤー達の為に使われているらしいので嫌な感じはしない。
また来るよ、と告げると足早に宿を目指した。
宿の目の前に誰かがいる。それに気が付いた時には既に時遅し。其処にいた人、アルゴは私を見つけるなり一瞬で距離を詰めてきた。
「話がある」
そう一言言うと、ついて来いと言わんばかりに私に背を向け歩き出す。
アルゴには普段からお世話に成っているので、わざわざ直接会って話をしに来てくれたこの状況で、それを断る何て行為はあまりしたくない。
私は大きな欠伸を一つした後、アルゴの小さな背中をトボトボといった調子の足取りで追いかけるのだった。
「キリトが最近ギルドに所属したらしい」
レストランの席に着くなりアルゴは口を開いた。
内容は、今日、キリト本人から聞いた事ばかりで正直退屈だったが、幾つか聞いた事の無い事を知った。
私は、アルゴの口から出てきた言葉の中で最も最悪な単語を並べ復唱した。
「キリトは月夜の黒猫団に自分が攻略組であることを隠していて、レベルアップの協力としてパワーレべリングをしている……か」
これは想像以上に面倒くさい事になっているかもしれない。私の直感がそう告げていた。
特にパワーレべリングの部分が最悪だった。
このゲームはHPが0になれば死ぬ。パワーレべリングによって急激に強くなった黒猫団は、きっと心に慢心が産まれ、本来ならキリトがいないと勝てないバトルも、自分達だけで何とか出来る。なんて根拠の無い自信が出てきても不思議では無いし、そうなると、効率が良いからと上の階層で戦闘を繰り返し、いずれ取り返しの付かない事に、なんて事になる可能性もある。
そんな状況にならない様にキリトがストッパーになれば文句無いのだが、キリトは自分の正体を隠している。恐らくだが、本来のレベルより大分した下の数字を言っている筈だ。
流石に黒猫団のメンバーよりも少し高めに設定してあるだろうが、その発言力は攻略組のものよりも大分効果が低くなる。いざ止めようという時に、キリトの声が黒猫団に届かないなんて事態は何としても避けたいところだが、このままだと、いずれトラップに引っかかってキリト以外全滅なんて事も0%ではないだろう。
今言った事は現状起こりうる最悪の状況を適当に挙げただけだが、デスゲームであるこのSAOは常にそう言った最悪の状況を想定して行動をしないと命が幾つあっても足りない。
私でも思い付くことだ、アルゴがその発想に至らない方がおかしい。つまり今回の話は……
「オレっちからお前依頼を頼みたい」
そう言って、決して安くない額を私の目の前に置くアルゴ。
……キリトが取り返しの付かない事になる前に注意してくれ、と言った感じだろうか。
私は知り合いが悲しむ姿は見たく無いし、それに死者は出来る限り少なくしたい。
だから私はアルゴの目を見てこう返答をした。
「分かった。適当に暇を見つけたらキリトと黒猫団に注意しとくよ」
そう言うとアルゴは、何を言っているだ、と首を傾げた。
「お前に頼みたいのは、キリトと黒猫団を取り敢えず一週間程度護衛して欲しいんだヨ。影としてナ」
あの後アルゴから更に深く話を聞いてみると、アルゴは少し前に一度注意したらしいという事実が発覚した。それと同時に、その注意は黒猫団の慢心を前にすると意味が無かったとも発覚し、これは一度死にかけた方がお灸の代わりになって丁度いいんじゃ無いかと思い至ったらしい。
そこでお鉢が回ってきたのが私、という訳だ。
言われてみれば、注意だけならアルゴがすれば済む話だ。しかし、私に頼まなければダメな事、それも、そこそこの大金を積んでまでする依頼となれば、影として護衛して欲しい。なんて依頼が来ても不思議ではない。
結局依頼を受ける事にした私は、今からキリトの元へ隠密を使った護衛をする事になった。
私の安らかな睡眠はまだ遠いらしい。
護衛1日目
キリトの索敵のお陰で特に不安を感じる要素も無かったが、黒猫団のメンバーは、レベルと比例せずプレイヤースキルはダメダメだった。パワーレべリングの悪いことろが全面的に出てきたようなPTで、それでいて黒猫団のメンバーは自分が強くなっていると勘違いしているから手に負えない。
完全にキリトにおんぶに抱っこ状態だった。
護衛2日目
黒猫団メンバーのレベルが1上がった。これで今より少し強いエリアでも比較的安全にレべリングを出来るレベル帯になった。
明日から狩場を変えるらしい。
護衛3日目
新しく変えた狩場でも、はやりキリトにおんぶに抱っこ状態だった。キリトが攻撃を引き受けて、キリトがスキを作って、100%安全と言っても過言ではない状況の時だけ黒猫団のメンバーが攻撃していた。
レベルは上がらなかったが、大量の経験値とコルを前に黒猫団のメンバー全員の顔は笑顔だった。
護衛4日目
今日も今日とて影として護衛をしている訳だが、今日は黒猫団の面々の様子が少し変だ。みんな不自然なぐらい笑顔を浮かべている。
その事が気になったので、隠密を発動したまま黒猫団に近づく。話を聞く限り、今日、これから黒猫団のリーダーがギルドホームを買いに行くらしい。初めてのギルドホーム、それが楽しみでない筈がない。
しかし、楽しみで気が狂ったのか、黒猫団の1人が突然声を上げた。
「リーダーがギルドホームを買う間、俺たちは少し上の階層で金でも稼ごうぜ‼︎」
信じられない。いや、信じたくない。それが正直な私の感想だった。
昨日レべリングしていた場所ですらキリト無しでは死んでいたかもしれないぐらい弱い奴らが、調子に乗って昨日より強い場所に行こうとほざき始めたのだ。
しかも、そんなセリフを言った人は何故か笑顔で、その周囲にいた人もその言葉に賛同している。
キリトは「やめた方が……」と言っていたが、攻略組と認識されていない以上、はやり発言力は小さかった。
結局数の力によってキリトの意見は却下され、いつもより強い場所で金を稼ぐ事になった。
私は次に起こるであろう問題にため息を小さく吐くのだった。
案の定、黒猫団の面々は宝箱型のトラップに引っかかった。
即死系トラップでは無かったのが幸いし、死者は0名だが、そのトラップは今ままで見たことない様な悪質なトラップだった。密室空間に大量の敵、しかも結晶の使用不可。
はっきり言おう。私が参戦しなかったらキリト以外の人は死んでいた。これは絶対に言いれる。
犠牲者は誰一人でなかったが、黒猫団のメンバーには大きな心の傷が付いた。それが今回の出来事の末路だった。
早速アルゴに今日起こった事実をありのまま伝えると、短く「キリトを助けてくれてありがとう」と返信が来た。
あの後直ぐにキリトと話をしたが、これからギルド会議なるものをするとの事だったので、これ以上は私が関わるべき問題ではないだろう。
暫くして、キリトからメールがあった。
月夜の黒猫団は今までと変わらず攻略組を目指す。しかし、その中に小柄な女性サチさんは含まれておらず、もう一度、一からPTの編成や連携、プレイヤースキルなどを鍛えていく事にした。
そんなメールを見た私は、キリトに返信する際に一つの疑問をぶつけた。
キリトはどうするの?
そのメールの返信は「俺はソロに戻ったよ。でも、あいつらとはまたPTを組めたらいいと思ってる。それも出来ればボス戦でな」どこか吹っ切れた様なさっぱりとした物だった。
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第13話 閑話 Aの1日
私の1日は夜7時から始まる。のだが、今日はその限りではなかった。
朝7時の太陽を全身で浴び、大きく体を伸ばす。
今日は待ちに待ったクリスマス。12月25日はここ、SAOでも盛大に祝われていた。
右を見ても、左を見てもクリスマス一色に染め上げられた街並みは、GM茅場の手助けもあってか、現実ではあり得ない程豪華に装飾されている。
一歩街へと踏み出せば、朝から酒を飲む大人や、恋人同士の男女が仲良く手を繋いで歩いている人が沢山いた。
生産系プレイヤーは、この機会を逃すまいと路上に大きな風呂敷を広げて、様々なアイテムを売っている。こんなアイテム何に使うの?と思っていたアイテム達もクリスマス景気によって財布が軽いお調子者のプレイヤー達が次々と買っていくので、案外儲けている様に見えた。
こんな日に戦う人なんて居ないだろうと思うだろうが、中には今から戦闘にいく準備をしているプレイヤーもチラホラと見える。
噂によると、蘇生アイテムをドロップするボスが大きなモミの木下に出現するらしいとの事なので、恐らくはそれが目当てだろう。
天涯孤独であるソロプレイヤーには必要ないアイテムなので、私はこんな日にフィールドへ出るプレイヤー達に素直にエールを送った。
街を歩き周り、何か良い物はないかと探し回る。
すると、良い物が手に入るクエストがクリスマス限定で実施されると聞いたので早速参加する事にした。
「サンタの袋には何が詰まっている?」そんな名前をしたクエストの内容は至って単純で、宝探しゲーム。
各階層の主街地の何処かにあるサンタの袋を見つけ出し、その中にあるアイテムをプレゼントするという、いかにもクリスマスをしているクエストは、朝9時にプレイヤー全員に送られた、クエストの内容が書かれたメッセージの受信と共に突如始まった。
右を見ても左を見てもクリスマスをしていた街並みは一変し、プレイヤー全員が血眼になって袋を探す異様な光景になった。
周りが異様な光景にもなったにも関わらず、笑顔で立っているNPCが少し気持ち悪い。
しかし、そうも言ってる暇は無いらしく、私も街の隅から隅までサンタの袋を探す事にした。
取り敢えず、人気の無さそうな階層から探そうと、転移門で移動してみるが、考えている事は同じなのか、普段ならあり得ない程どの階層も賑わっている。
「これじゃ意味がないかな?」
結局元の階層に戻り、地道にサンタの袋を探す事に。
視界を常に下に向け、なるべく早く、だけど見落としがないように動いていく。
現実は非情な事に全くと言って良い程見つからない袋。
別にもたもたしているつもりは無いが、気が付けば、どの階層も袋を見つけ終えていた。
しかし、神は私を見放さなかった。
曰く、第30層の主街地にあるサンタの袋は、堂々と置かれているにも関わらず、未だに誰も取れていないらしい。
なんでも、難関アスレチックの先にそれはあるらしく、そのアスレチックの攻略を握るのは俊敏力であるというらしい。
私は緩む口元を制しながら、転移門で第30層の名前を告げた。
第30層では、自分のプレイヤースキルに自信がある人たとが次々とアスレチックに挑んでいた。
しかし、既に攻略は不可能ではないかと噂が立っており、その場を後にする人も沢山いた。
通りすがりのおじさんが、「嬢ちゃんにはクリア出来ん。諦めたほうがいい」と諭してくれたが、私は小さく例を言うとアスレチックのある場所へ目指した。
妙に大きな人だかり、きっとその肉壁の先にアスレチックはあるのだろうと予想とし、顔を覗かせてみた。
アスレチックの内容をみる。
10m程の間隔を開けた一直線上の線。その両端にはそれぞれ赤いボタンと、中にサンタの袋が置かれている透明な箱があった。その透明な箱は、
一度そのゲームを見てみると、ゲームの仕組みが直ぐに分かった。
ルールは至って単純。ボタンを押すと透明な箱が一定時間消え、中にあるサンタの袋を取る事が出来る。
しかし、箱が消える時間はほんの僅かで、10mを一瞬で走りきらないと入手出来ない仕組みになっている。
10mという距離は、走り始めてから加速する前に到着してしまう程短い。
つまり出だし、スタートダッシュに全ての技術を要求されるのだ。俊敏は、スタートダッシュにも補正は掛かるが、その本来の力は加速する事にこそある。つまり、このゲームにおいて俊敏は大した役割を担わない。
瞬発力こそが、このゲームをクリアする鍵になるのだ。
「あの!次、私がやってみてもいいですか‼︎」
大きな声で、周囲に問いかける。
大半の人は既に一度挑戦して、諦めているのか、思いの外簡単に次の挑戦枠を獲得した。
一ゲームあたりの時間が短いため、深呼吸をする間もなく私の番になった。
ボタンに手を置き、集中する。瞳を閉じると、周囲の音が聞こえなくなるのを感じた。
息を整え、指の腹でそっとボタンを押すと同時に、足に全力を込めて地面を蹴る。すると、体が少し浮き、一気に加速いていくのが体に当たる風で感じる事が出来た。
初動は完璧に出来た。陸から離れた足が、再び陸に着いた時、私の持てる俊敏力を遺憾なく発揮し1歩2歩と足を運ぶ。3歩目を踏み出す頃には既に目の前に袋がある。目を限界まで開き腕を伸ばす。
手に感じる柔らかな感触。それは言うまでもなく布の感触だった。
「嘘だろ?」「あんな嬢ちゃんが……」「何者だよ。普通じゃない」
そんな呟きがそこらかしこで聞こえた。
しかし、そんなのお構いなしに、私は声を上げた。
「私、クリアしました‼︎」
そんな私の態度が気に入ったのか、気が付けば周囲にに人が集まり、胴上げをされていた。
目の前に表示されるハラスメントコードに、苦笑いをしながら、されるがままにその状況を受け入れた。
今日は楽しかった。そう心から言えた1日だった。
あれから暫くして、寝とまりに使っている宿に帰った私は、さっそくサンタの袋の中を覗いてみた。
「追加効果の開花」と命名されているオーブ状のアイテムが一つあった。
効果を見てみると、私は目を丸くした。
----選択した武器に追加効果を付与する。付与される効果は、武器によって決まる。----
追加効果の付与。それは武器の強化を意味する言葉だ。レア度の高い武器に稀に追加効果が付いている事がある為、追加効果自体は特別珍しい訳じゃない。しかし、このアイテムは異常だ。
そもそも、追加効果が付与されるような武器は、総じて元の性能が高くない。例えば攻撃力が低かったり、耐久値が低かったりと、必ず欠点と言える何かを抱えている。しかし、それを補う程の追加効果を持つ武器を見つけた場合は、元の性能など気にならない程強力な武器になる。
一重に片手剣と言っても、プレイヤーによって色んな武器を装備しているのがこの追加効果に理由があるからなのだ。
この追加効果が無ければ、今頃攻略組の武器は扱う武器種によって統一されているであろう。
余談だが、キリトは追加効果がない代わりに、元の性能が異常に高い武器を好んでいる。(後に入手するエリシュデータなどがそれに当てはまる)
私は強い武器であれば特に拘りはないので、入手したなかで最も強い武器を装備しているが、簡単な話、キリトが好むような追加効果なしで十分強い武器に、追加効果を付与したら一体どうなるか。付与される効果にもよるが、弱くなるなんて事はない以上、確実に強力な武器が完成する。
これは無駄遣いが出来ないレアアイテムを入手してしまったと、嬉しながらも短息してしまうのだった。
しかし、そんな浮ついた気持ちも束の間。私は一気に現実に戻された。
アイテムの確認ついでに開いたスキル一覧。そこには見た事のない文字があった。
「……ッ‼︎」
驚愕と共に私は毛穴という毛穴から脂汗が出てくるのが分かった。限界まで開かれた瞳孔には常に大量の光が入って来ているにも関わらず、不思議と視界は真っ暗で何にも見えない。そんな世界の中で、私は、その体を震わせた。
追加効果が付いている武器として、クォーターボスのラストアタックで入手した『憤怒の化身』などが該当します。憤怒の化身の場合、投擲の熟練度によって威力が上がる、という部分が追加効果です。
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第14話 私の罪
あれは確か最前線が13層で、私がまだ、朝起きて夜寝る生活を送っていた頃、いつもの様にレべリングをしていた時にそれは起こった。
沈みそうになっている太陽を見た私はレべリングをやめて街に帰る事にした。
この辺りは夜になると強力なモンスターが出現する場所として有名で、既にそれを知らなかったプレイヤー数名が死亡したとアルゴから聞いた事がある。
アルゴ曰く、私が頑張れば勝てない敵では無いらしいが、絶対に安全と言い切れない以上挑むのは危険だ。ただの興味で死ぬなんてバカな真似はしたくない。
だから、完全に日が暮れる前に帰ろうと足を進めていると、後方から声が聞こえた。
疳高く、耳に突き刺さる様な奇声。平常時では誰もあげない様な声……悲鳴は、誰かの助けを求めている様に聞こえた。
「この時間帯から、強敵が出現するなんて聞いてないよ」
流石に無視する訳にもいかず、慌てて声の方へと駆けて行く。
スキルの索敵を発動すると、何かがいる事を現す点が2つ、それも半分重なっている感じで表記されていた。
それが表している事は……
「戦闘はもう始まっている」
私は腰に付けている投擲アイテムを右手に取ると、更に足を速めた。
アルゴからの情報によると、そのモンスターは鎧を着た人型のパワー系モンスターらしく、弱点は体全体。しかし、着ている鎧が全身をくまなく覆い隠しているので、弱点に対しての攻撃は難しいらしい。ダメージを与えていくと鎧が壊れていく仕組みだと聞いてはいるが、初撃を弱点に叩き込みたい私にとっては相性が悪いとしか言いようがない。
しかし、私の速さを持ってすれば攻撃を避ける事ぐらいは口笛を吹きながらだって出来る。倒すのは面倒でも、逃げるのは簡単な筈だから、私がするべきは時間稼ぎ。ヘイトを稼ぎ、常にタゲを取っていたら特に苦もなくプレイヤーの方は戦線離脱出来るだろう。
そう思っていた時、目の前に二つの影が見えてきた。
まず目に入ったのは女性のプレイヤー。この人がさっきの悲鳴をあげたのだろう。酷く怯えている顔には、涙の跡がある。
視界を横にずらし、もう一つの影を主を見る。
「え?」
素っ頓狂な声が漏れた。
目に映ったのは口を三日月の様に湾曲させ、怯えている女性プレイヤーを下卑た視線で鑑賞している一人の男だった。手に持っている短剣を指先で器用に遊び、頭の上にはオレンジ色のカーソルと、一ミリだって削れていないHPバー。時々聞こえる笑い声は心の底から嫌悪を覚えた。常人ではない。明らかにレッド(犯罪者)だ。
男性プレイヤーは、その手に持った短剣で、少しづつ女性のHPを削っていく。そこに殺意なんてものはなく、ただ楽しんでいるだけの様子に、私は恐怖した。
女性の顔が酷くなるに連れ、男性の顔は歪んでいく。
その光景を前にして私が出来たのは、竦む足をそのままに、ただ立ち尽くす事だけだった。
やがて、女性のHPが残り僅かになったところで、男性は短剣を持ったその手を大きく振り上げて……
「it's showtime‼︎」
……振り下ろした。
それは今までとは違い、反応を楽しむだけの攻撃では無い。女性の命を刈り取る為の攻撃だ。
「ッ⁉︎」
視界が霞んだ。
それが目眩からなるものでは無く、自分が高速で動いたからと気が付く頃には既に一つの首が空を舞っていた。
鮮やかな弧を描いて落ちたその首は、先ほどまで下卑た笑いをしていた男の首。
首を無くした男の体はだらし無く倒れ、女性の体にのしかかる。
「キャ⁉︎」
女性が驚きの声を上げる。その声に反応したかのように、首の無いオレンジプレイヤーの体はポリゴンとなって霧散した。
ポリゴンとなった拍子に、女性が尻もちを付く。
きっと、死の恐怖から解放された反動なのだろう。女性は動けないでいた。
私は彼女に側に寄った。
「あの、大丈夫ですか?」
そう言って手を差し伸べる。
しかし、私が望んでいた反応とは裏腹に女性は退きながら悲鳴を上げた。
「いや‼︎来ないで‼︎」
明らかな拒絶行為。どうして彼女は私の手を受け取らないのだろう。その事を不思議に感じた。
でも、その答えは直ぐに分かった。いや、分かってしまった。
「ひ、人殺し……‼︎」
女性は絞り出すような声でそう言った。
そう言われて私は初めて気が付いた事実。
そっか、私……
……人を殺したんだ
どうして彼女が未だ震えているのか。
どうして私の手を受け取らなかったのか。
その全ての理由が其処にあったのだと理解する頃には、私は後方に向かって走っていた。
私が走った後には、静かに地面を濡らした涙の跡のみが残った。
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第15話 ユニークスキル
「これは、明らかにゲームバランスを壊しかねないスキルなんですけど……」
私は、スキル一覧の中に突如現れたスキルについて詳しく知る為に、早速フィールドへと足を運んだ。
そこまでは良かった。そこまでは……
「雑魚とは言え、最前線の敵を一撃とか引くわ」
無残にポリゴンへと変化したモンスターを眺めながら、私は小さく声を漏らした。
明らかに破格と言えるスキル性能。それも、私の為に作ったかのように、私の戦闘スタイルにピッタリとハマっていた。
私がした事はいつもの様に隠密を発動してから、急所に一撃をお見舞いしただけ。武器の性能的にも、ステータス的にも、たったそれだけで最前線の敵を倒すなんて事は不可能だ。
しかし、その不可能が今目の前で起きてしまった。
「やっぱ、これって特殊なスキルなのかな」
もう一度スキル一覧を見る。
見慣れたスキルの中で一際異彩を放つそのスキルをタップした。
『暗殺術』
・奇襲ダメージ2倍
・急所ダメージを1.5倍から2倍への変更
・状態異常攻撃の蓄積速度1.5倍
・投擲ダメージ2倍
・隠密、投擲スキルの熟練度上昇(暗殺術のスキル熟練度によって上昇値の変更あり)
・人、亜人に対するダメージ2倍
何度見ても頭が痛くなりそうなスキル詳細。しかも、これにプラスしてソードスキル「アサシネイト」と言うダメージ倍率が追加されるソードスキルまであると言うのだから、全くもって意味が分からない。
こんなスキルを作った茅場も意味不明だが、何よりこんなスキルが自分に追加された事が意味不明だ。あげれるものなら誰にあげたいと言うのが本音だが、もし、このスキルが悪用されるようなら自分持っていた方がまだ安心だ。という考えもある。
でも、結局のところ、このスキルを習得したのは私だから、私に出来る事は、このスキルを大人しく有効活用する事だけだ。
「……はぁ」
ため息を一つ付き、もっとこのスキルについて実践で確かめれる事を確かめる為に、再び敵を探しに行く。
30分もしない内にそのフィールドにはモンスターの影が消えていた。
私とアルゴ以外は誰もいない喫茶店。二人が座るテーブル席には二つの水入りカップが置いてある。
「なぁアルゴ、私はどうすればいいと思う?」
「オレッチに聞かれても困るんだがナ」
結局、自分一人では抱えきれずアルゴにゲロってみたところ、実に面倒くさそうな顔をして困られた。
「でも、その手のスキルは未だ前例がないから、暫く隠しておくんだナ」
アルゴの口から出た至極真当な言葉に、私はため息で返事をした。
「オイ、何だそのため息ハ?」
「私、こんなスキルを簡単に公開する様な馬鹿に見えるの?」
自慢じゃないが、目立たない様に立ち振る舞うのは、私の数少ない特技の一つだ。時々、怒り狂って理性のタガを外しまう事もあるが、別に今はそんな状況ではない。
「Aちゃんがそんな馬鹿な事をするとは思っていないが、念のためだよ」
そう言ってアルゴは水を少し口に含んだ。
今は念のための事なんかいいから、実用的な案を下さい。そんな心の声が通じたのか、アルゴは神妙な顔をして真面目なトーンで提案をしてきた。
「キー坊に相談してみるのも悪くないかもナ」
さっきとは打って変わって、誰かに公開する事を推奨し始めたアルゴ。しかし、キリトなら誰かに言いふらしたりしないだろうと私自身も思っている為、不思議と悪くない案だと思った。
そして何より……
「私にこんなスキルが出現したぐらいだから、キリトにもこの手のスキルが出現してもおかしくない……か」
まさか私がここまで考えつくとは思っていなかったのか、アルゴの顔には驚きの表情が張り付いていた。
そんな表情も束の間で、瞬きをした瞬間にはアルゴは平常運転に戻っていた。
「まぁ、そう言う事ダ。キー坊なら何かしら役に立つだろうし、相談しても損する事は無いと思うゾ」
そう言ってアルゴは席を立った。
「何処に行くの?」
私はアルゴを引き止めるが、彼女は私の方を見ずに店の出口を目指す。
「オレッチは仕事があるんでな、これ以上Aちゃんに時間は使ってやれないんだヨ」
そう言い残してアルゴは店を出た。
私は早速キリトに相談する為にメールを送った。
キリトに相談すると、どうやらキリトにも私と同じ様なスキルが、私とほぼ同時に見つかったのが確認できた。
キリトのスキルは「二刀流」と言うらしい。2本の剣を高速で振り回す。純粋で、それでいて強い。実にキリトらしいスキルだった。
私と同じ境遇を持つキリトに今後どうするかを聞いてみたら、やはり私やアルゴと同じ意見で、暫く隠すと言っていた。
私が持つ「暗殺術」に、キリトが手に入れた「二刀流」。あと幾つこの手のスキルが存在するのだろう。今はまだ分からないが、それでも、そこまで多くは無い事だけは直感で分かる。
そして、このスキル達はこのゲームにとって重要な要素である事も、何となくだが理解出来た。
私が「暗殺術」を見つけてから1ヶ月後、第50層のボス戦にて、ヒースクリフが「神聖剣」を使いボスを圧倒した。
そして、ヒースクリフの持つ「神聖剣」をプレイヤー達はユニークスキルと呼んだ。
本来なら強いプレイヤーが増えたと喜ぶべき場面であるはずなのに、私は何故かモヤモヤした気持ちを抱えていた。
自分の強さの優位性が消えつつあるからか?違う。
私は見たのだ。神聖剣を発動する前にヒースクリフが笑っていたのを。その笑いは、どこか挑発めいていて、まるで私やキリトに対して「君たちのユニークスキルは何かな」と問いかけている様に感じた。
でも、それは恐らく勘違いだ。ヒースクリフはユニークスキルが二つ以上存在する事を知らないし、もし仮に二つ以上あると仮説を立てていたとしても、私やキリトがユニークスキルを持っている事について知る術が無い。
そう分かっている筈なのに、私はヒースクリフに対して恐怖した。もしかしたら彼は、私達プレイヤー側とは別の存在なのかもしれないと、そう思った。
ユニークスキルはあと一つ出す予定です。誰が取得するかは出てからのお楽しみです。
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16話 暗き森の悪夢 1
『61層の"暗き森"にて、攻略組のptを含めた合計7名が死んでいる事が分かった。明日、Aちゃんにその調査に行ってもらいたい。Aちゃんなら一人でも問題ないと思うが、もう一人、オレッチの方で強力な人員を確保してある。とりあえず、明日の夜8時に暗き森の入り口に来てくれ』
突然届いたそのメールは、私の事情を無視した内容だった。
「……めんどくさいな」
そう呟いてはみたものの、私にはこの頼みを断る術を知らない。
オレッチ、その一人称が表しているのはこのメールの差出人。すなわち、アルゴである。
故に断れない。いや、断るのは簡単に出来る。しかし、その後に何をされるか分からない以上、やはり断るべきではないのだろう。
「それにしても、攻略組ptを殺した化物を私一人でも問題無いと言い切るって、アルゴは私の事を過大評価しすぎだよ」
確かに私は、暗殺術という皆には無いスキルを持っている。しかし、それだけで生き残れる程この世界は甘くは無い。
部屋の窓から見上げた空には燦々と輝く太陽があった。
それを尻目に私は布団に潜る。
明日もこの太陽を拝めますようにと、今日も私は密かに願った。
夜7:00
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。
脳内に鳴るアラーム音は、昨日と同じで無機質なものだった。
「ふわぁぁぁ……もう7時か」
今日はアルゴの頼み(拒否権は実質無し)を遂行するために少し早めに宿を出ないと行けない。
いつもなら後30分はグダグダとしているところを、たったの10分に短縮し宿を出る。
朝ごはんを適当な屋台で買って、目的地まで歩きながら次々と食していく。
丁度食べ終わる頃、私は暗き森の入り口に立っていた。
「あら、予定時間より早く来るなんて意外だわ」
そう言ったのは白を基調とした防具を見に纏い、手には細く長いレイピアと呼ばれる武器。一般のプレイヤーからは閃光と呼ばれ尊敬され、また、攻略組からは攻略の鬼と呼ばれ畏怖を念を抱かれている、この世界では知らない人は誰一人いない超大者プレイヤー。
「アルゴの言っていた強力な人員って……」
その呟きに彼女は答えた。
「私、血盟騎士団副団長アスナが今回の助っ人よ」
私は夜空を見上げる。キラキラ光る星々に、この巡り合わせを恨んだ。
暗き森に入る前に私はアスナに幾つか質問をした。今回の敵はどんな敵か。どうすると出現するのか。そもそも何で攻略組が負けたのか。っていうか、何で私が攻略組を殺した化物と戦わないといけないのか。それら全てを尋ねると、アスナは私に対してこう言うのだった。
「アルゴさんから何も聞いてないの?」
私はその問いに堂々と頷いた。
するとアスナは、歩きながら説明を始める。
「今回の敵に関しては何も分からないのが現状ね。アルゴさんを中心とした情報屋達に周囲のNPCやクエストの類を大凡全て当たってみたけど、情報が全く無し。出現条件も同様に分からず、今回は本当の意味で手探りなの。でも、アルゴさんの見立てだとHPはそう高く無いらしいから、Aが適任だろうって言ってた」
確かにHPが低い敵は私にとって絶好のカモである。でも、流石に事前情報無しで行けと言われると別である。
そもそも私の戦闘は、奇襲攻撃からクリティカルで敵を怯ませ、怯んでいる敵に更に追い討ちをかける様にソードスキルを発動させる。怯みが終わる頃に隠密を発動させ、奇襲攻撃からクリティカルで……以下ループ
つまり、第一条件として敵の弱点を知っておく必要がある。
そこらにいるもんスターの類は弱点を予測しやすいが、ボスモンスターは特別で、如何にも弱点な部位がそうでなかったり、逆にそこは絶対弱点じゃ無いと思っていた部位が弱点であったりと、とにかく予想が出来ない。
っていうより……
「もしも敵のHPが多かったらどうするだ……」
もしもアルゴの予想が外れてHPの多い敵に遭遇したらどうするのだろう。HPが少なければ、弱点は分からなくても暗殺術のダメージ倍率(奇襲ダメージx2)のみでゴリ推せるかもしれないが、もしそうでなかった場合、私が不利な戦いをするのは自明の理。逃げる程度は出来るだろうが、死にかけるなんてごめんだ。
「私もアルゴさんと同じで、敵のHPは大して多く無いと思うわ」
内心愚痴を零していると、隣にいたアスナが口を開いた。
「今の最前線は70層。そして此処は最前線から9も階層が低い。幾らこの階層最強の敵が出現したとしても攻略組のプレイヤー、しかもPTを組んでいる人達が死ぬなんて普通じゃありえない」
その意見には賛成だ。しかし、現に攻略組のPTが死んでいる。だったら何故攻略組のPTは死んだ?
「でも、もしも敵が攻撃力だけに特化したボスモンスターだったら、その"ありえない"が"ありえる"になっても不思議な話じゃない」
攻撃力特化のモンスター。その言葉に25層のフロアボスの姿が浮かび上がった。
あれは、最初から攻撃力が高かったが、最後らへんは防御力やHP、弱点箇所を増やすなどと言ったデメリットを幾つも作り、そしてそのデメリットに釣り合うだけのメリット得ていた。そのメリットとは、つまり攻撃力。
今回、攻略組のPTを殺したモンスターも、25層のフロアボスと同等に攻撃力以外の全てのパラメーターを犠牲にして、超火力を有していたなら。そう考えると、なるほど、それが妥当な気がしてきた。
私とアスナは、そこら中にいる攻撃をしてこない蝶型のモンスターを僅かな経験値に変えていきながら森を進んでいく。
大分進んだはずなのに、変化らしい変化は一向に訪れない。そして、新たに蝶を1匹倒すと、私は遠くに誰かの姿を見た。私はやっと次のステップに進めたのだと心の底から喜んだ。
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17話 暗き森の悪夢 2
『暗き森』そう呼ばれているのは61層の中にある巨大な森である。そこは鬱蒼とした木々が、昼夜関係なく空からの光を拒む。常に暗く、暗視スキルか光る道具(松明など)を所持していないと、直ぐに迷子になってしまう程に暗い森。出てくる敵は61層とは思えない程弱く、しかし、経験値効率は異様に高い。結構な頻度で出てくる無害な蝶のモンスターは隠密系のスキルを持っているのか、普通のプレイヤーには見つけられないが、私程度の暗視と投擲があれば、楽に見つけられ、その辺の石ころを当てるだけで倒せる。それなのに経験値は61層の通常モンスターと同等の経験値が貰える。そのため私はこの狩場を一時期愛用していた。
しかし、この暗き森という絶好の狩場は、人気が無い。
理由は単純で、マップと索敵が機能しないのだ。
マップは帰るのに必須と言える機能だし、索敵は身の安全を守る為に誰もが取るスキル。その二つが使えない事は多くの危険を生む。しかも、光る道具を持っていたら、その光に集まる虫のモンスターが、圧倒的な数でプレイヤーを貪り喰らう。故に、一度死んだら本当に死んでしまうこのSAOの世界で、この狩場は暗視スキルを持つプレイヤー以外に人気が出なかった。
隣にいるアスナは、3日前からこの日の為に暗視スキルを取得し、少しだけ熟練度を上げている。故に、遠くまでは見えなくても戦闘ぐらいは出来る程度には視界が見えている。でも、その程度ンプ暗視だと出来るのは戦闘ぐらいで、暗き森からは抜け出せないだろう。
そして、遠くに出現した何かは、一体なんなのか。NPCかのか、モンスターなのか、それともプレイヤーなのか。普段なら索敵を使うだけで直ぐに分かるのに暗き森では機能しないため、一度近くにいって確かめないといけない。
アスナ程度の暗視の熟練度じゃ見えないのか、そのまま進むアスナを右手を伸ばして制止させる。そして、小さな声で見たものをそのまま伝えた。
「前方に何かいる。私の暗視でも薄っすら見える程度だからもう少し近付かないとモンスターかNPCか分からない」
「それじゃあどうする?元の道引き返す?」
私もそうしたいのだが、引き返すのはアルゴの依頼である調査が出来ない。私は決意したかのように首を横に振った。
「いや、あれがプレイヤーの死因になっている可能性が高いから念のため隠密を使って確認してみる」
その後、幾つかのパターンを想定し話し合いをした。最終的にヤバくなったら転移結晶を使って撤退する事で話し合いを終わられせると、私は隠密を発動させ例の陰に近づいて行った。
結論からいうとその影はただのNPCだった。しかし、普通のNPCではなく、頭の上に「?」マークを出していた。つまり、そのNPCに話しかけるとクエストが開始される。
一旦アスナの元へ戻り報告を行う。
「居たのはNPC。それもクエスト発生型の」
そういうと、アスナは顔に少しの不安を見せながら「行きましょう」と言った。
あのNPCに話しかけて発生するクエストは十中八九攻略組を殺したクエストだ。恐らく出てくるのは一騎当千級のイレギュラーな攻撃特化のモンスター。
万が一の可能性でモンスターの群れという可能性もあるが、それは可能性として考慮するにはあまりに低すぎる。最前線のモンスターの群れならまだしも、今更61層のモンスターの群れ如きに攻略組のptが手こずる筈がない。
私とアスナはNPCへと近づいていく。そして、そのNPCが目の前に来た時、意を決してそのNPCに話しかけた。
「あの、どうかしましたか?」
その声に反応するようにNPCの頭の上にあった「?」が「!」に変わった。
『私は道に迷ってしまった旅人だ。出来る事ならこの森ので出口まで案内してくれないかい?』
目の前に表示される <Yes> <No> の二つのボタン。私は迷わず<Yes>を押した。
あれから暫くして……
正直に言おう。今、私は困惑している。
3人揃えば文殊の知恵という。きっと今いるメンバーに相談したらその困惑はスッキリするのではないかと思いアスナに聞いてみる。
「なぁ、アスナ。これってどういう事だと思う」
すると、此方をチラリと見たアスナが「はぁ」と嘆息してから返事をした。
「私に聞かないでよ」
冷たいアスナの対応に私も嘆息を漏らす。
ちなみに、文殊の知恵に必要な人数である3人はは私とアスナ、そして……
「本当に何のクエストなんだろう?」
後ろを向くと、NPCがついてきている。これで3人。果たして文殊の知恵は何処へ行ったのだろう。
それにしれも、このクエストは唯の道案内なのか。どうにも不安が拭えない。
そんな中でNPCが喋り始めたのは、ただ歩くだけの時間にイライラし始めた頃だった。
「そういえば、お二人さんは、ここの森にいる蝶は殺しましたか?」
突然喋り始めたNPCに私とアスナは目を丸くさせた。
本来NPCは決まった言葉しか喋らない。故に、この様な会話をするような言葉は発さないのだ。だからこれは異例の事態。このクエストが特別なクエストである事が証明された瞬間だ。
アスナと目を合わせる。アスナは小さく頷く事で、この質問に対して私が答えていい事を示してくれる。私は慎重に言葉を選び、NPCの問いに答えた。
「そうですね。そこまで多くはありませんが、見つけた奴は殺しています」
そう答えると、NPCは少し驚いた様に目を見開いた。
「いやはや、冗談のつもりで言ったつもりでなのですが、そうですか……蝶を見つけれる程の夜目を持っているのは羨ましい限りですな」
そう言って愉快そうに笑うNPC。しかし、次の瞬間、NPCは困った顔をした。
「しかし、殺してしまったのですか……」
その態度からは、何かを恐れている様な、そんな畏怖の観念が感じとれる。そんな態度に不安が込み上がる。
「えっと、もしかして殺してはいけなかったのですか?」
私の質問。普通のNPCなら返答はないだろう。だって、そういう風にプログラムされていないから。だから、NPCに質問するなんて事は馬鹿か、暇人のする事であるというのがSAOプレイヤーの総意である。勿論私もそう思っている。しかし、このNPCなら答えてくれる。不思議と私はそう確信していた。私たちに質問したこのNPCなら。そして、私の予想通りに返事がくる。
「いや、ここら辺にある伝承で、蝶を殺し過ぎると蝶の親玉が襲いに来ると言われているのですよ」
蝶の親玉。普段ならは鼻で笑っていただろう。あの程度の蝶がいくら強化されても私の敵ではないと。
しかし、きっと伝承である蝶の親玉こそが攻略組のptさえも殺したモンスターなのだろうと思う。
暫くその蝶の事に関して質問したが対した情報は得られなかった。そして、時が来たのかNPCは私達の方を向いて礼を言う。
「ここから先は道が分かるので、ここら辺で十分です。本当にありがとうございました。細やかな礼ですが……」
〈10万コルをゲットしました〉
私達の目の前に得た報酬が表示されるとNPCは闇の向こうへと消えていった。
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18話 暗き森の悪夢3
NPCが去ると私達はその背中を追う様に森の出口を目指した。
出口を目指してから僅か3分程だろうか。背後から何かの目線を感じた。後ろを向いて敵が居ないか確認してみるも、そこには何もいなかった。
体を前に向けようとした時にアスナの体が目に入る。白を基調とした装備品の類には所々赤が散りばめられ、どこか品を感じさせる。
そして、その背中には一つの暗闇が揺らめいていた。
「アスナ‼︎背中に何かいる‼︎」
そう警告すると同時に私は持っていた愛剣をソードスキルで投げつける。奇襲でもクリティカルでもない攻撃は倍率無しで相手のHPを削った。
少し遅れて私の声にアスナが反応する。木と背中合わせにして背後からの奇襲を防ぐ形でレイピアを構えるアスナ。
完璧な判断だ。どこから敵がやってくるか分からない以上、背後からの奇襲をさせないように何かに背中を預ける行為は最適の判断だと言えるだろう。
しかし、アスナには揺らめく暗闇すら見えていないのか、それはアスナの目の前まで接近しているのに反応出来ていない。
私は腰に付けているナイフ状の投擲武器を手に取り、アスナの元まで駆け抜ける。
そして一線。投擲武器をそのまま武器として振るう。その攻撃を暗闇はスルリと躱し、私たちと距離をとる様に後ろの闇へと消えていった。
「アスナ、さっき何かがいたの見えた?」
その問いにアスナは首を横に振る。
「見るどころか、気配すら感じなかったわ」
その返事に、思わず舌打ちをしてしまう。
アスナを守りながら見えない相手に戦う。そんな事が私に出来るのか。そんな自問に対する自答は、考えるまでもなく"出来ない"だ。
だったら逃げるかと考えてみたが、こんな暗闇の中を、幾ら暗視の熟練度が高いとはいえ、マップ機能なしで、しかも、あの暗闇から逃げつつ出口を目指すというのは至難の技だ。当然、私にはそん芸当出来る筈もない。
八方塞がり。絶対絶命。そんな言葉が頭を過る。
ふと、目の前の暗闇が揺らめいた。
私は慌ててそれに向かって武器を振る。しかし、やはりというべきか、その暗闇はスルリと回避して背景の闇に紛れる。
そんな戦い方をする敵に対して私は不敵に笑った。
「まるで私の戦い方じゃないか」
気配を消し、奇襲をする。そして、攻撃される前に逃げ、また気配を消して奇襲。最高のヒットアンドアウェイ。それは本来なら自分が仕掛ける筈の戦法だ。しかし、今は立場が逆で、私はその戦法で確実に追い詰められている。
「…………」
私は誰よりもその戦法を使ってきた。真正面から戦うなんて危ない行動は極力避けてきた。だから分かった。
きっと、この暗闇は弱いのだ。
強者はいつだって正面から戦う。戦えるだけの能力を持っている。でも、私と同じでこの暗闇は弱い。だから、どこまでも卑怯に戦う。安全に、確実に、気配を消して、ばれないように、敵の急所を攻撃する。
私と何もかもが似ている敵。だから、その戦法の利点は、他の誰よりも知っている。そして、その弱点も……
「ねぇ、アスナ。これから迷惑を掛けるけど、許してくれるかな?」
私の問いに、アスナは笑って答えた。
「この状況で死なないなら、喜べる自信あるわよ」
「……そっか。ありがとう」
私は急いでアイテムを取り出す。そのアイテムは、爛々と燃え盛る炎を先端に宿した棒。松明だ。
炎が辺りを照らすと、周囲に1匹の蝶が現れた。その蝶は、今まで見た蝶のどれよりも大きく、黒く、しかし、今まで見た蝶と変わらず弱々しかった。
蝶が慌てて後ろの暗闇に逃げようとする。それを阻止する為に、私は手に持っている松明を投げつけた。
炎が蝶に近づき、気配を消させまいと赤い光を周囲に撒き散らす。
蝶は慌てて別の方向へ逃げようと動くが、既に勝負は決していた。
「アサシネイト」
それはユニークスキル暗殺術にある、たった一つのソードスキル。
アホみたいにダメージ倍率を引き上げるそのソードスキルは、無慈悲に蝶のHPを削り切った。
私の目の前にホログラムが表示される。
《ドロップアイテム 烏揚羽》
非常にやり切った感はあるが、私たちの戦いはこれからだったりする。
この暗き森で光を使う事は、大量のモンスターに襲われる意味を示しているのだから。
「さて、アスナ。どんどん倒していくよ」
私は一瞬で松明を回収すると、さっそく出てき始めた虫型モンスターに短剣を振るった。
なぜだろう。アスナの表情が蝶の親玉に襲われた時以上に悲痛な表情を浮かべている。……気がした。
30分後、あれから無限に湧くかと思われた虫の集団をなんとか狩り尽くした私とアスナは帰路についていた。
「そういえば、あの大きな蝶から何かドロップしなかったの?」
本来なら、こういったアイテム関連の詮索はマナー違反になる行為なのだが、さっき迷惑を掛けた詫びも兼ねて正直に答える。
「まだ見てないけど、烏揚羽って武器をドロップした」
そう言いながら烏揚羽を手元に出す。
黒い刀身は短く真っ直ぐ鞘から伸び、軽さを重視しているのか、刃の薄さはまるで蝶の羽のよう。柄にはアクセントとして青色のラインが幾つかあり、それはカラスアゲハの模様を彷彿とさせた。
美しい。武器にここまで心奪われたのは始めてだ。
私は放心しながら、武器の性能を見た。しかし、結果は可もなく不可もなくと言った微妙な性能。決して弱いわけではないが、今私が愛用している短剣と比べると一回り劣る性能だ。
でも、不思議な事に、私はその性能がこの武器の全てとは思えなかった。
私はサンタの袋に入っていたオーブ状のアイテム『追加効果の開花』をオブジェクト化し、烏揚羽を対象にして発動させる。
オーブは砕けたかと思うと、すぐポリゴンとなり霧散する。烏揚羽の方には目に見える変化は無いらしい。
もう一度、武器の性能を開き、新たに追加された文字を見る。
『追加効果 奇襲ダメージ4倍』
その一文に、私は目を見開いた。
「私からはその武器の性能見えてないけど、反応を見た感じ、強かったみたいね」
「ああ、これは強い。最強と言っても過言ではないかもしれないレベルで強い」
多分この武器はキリトの持つエリシュデータに匹敵する強さだ。
「そ、なら良かった」
そう言ってアスナは空を見上げる。そして、「あ」と声を漏らすと、ニヤニヤしながら私に近づいて来た。
「忘れてたんだけど、蝶を倒した時にAちゃんが言ったソードスキル名って、未だに聞いた事ない奴だったな〜」
「うぐっ」
もしかして、私がユニークスキルの保有者ってバレたのか。
「そっか、Aちゃんもユニークスキル持ってるんだ」
アスナの表情は既に確信をしている人の顔だった。
「って、Aちゃん"も"って事は、アスナも持ってるの?」
私の発言に、今度はアスナが「うぐっ」と声を漏らした。
おまけ
「そういえば、何で松明なんてアイテム持ってたの?あそこじゃ明かりは厳禁でしょ?」
「あー、それはね。一瞬だけ松明で明かりを灯すと、弱い癖に経験値が多い雑魚が2、3体だけ集まってくるの。それを利用してレベリングをするとアホみたいに経験値効率いいから、今回特に収穫がなかったらせめて経験値だけでも回収してから帰ろうと思っててね。まだ時間あるし、今からやろっか?」
「え、ちょっと待って‼︎私もう疲れてるのに‼︎」
この後めちゃくちゃレベリングした。
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