ハリー・ポッターと、永遠(とわ)の叡智と奇跡の少女 (風鈴)
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プロローグ
プロローグ
「『プロテゴ、守れ』」
ロウェナは杖を振るって盾を創り出す。それは魔法で出来た半透明で不確かな盾では無く、碧い大理石の様な、しかしとてつもなく軽い盾だ。自分の身長程もあるその盾を持ち、光閃を防ぎながらもう一度杖を振る。
「『グレイシアス・グラディウス、氷の剣よ』」
自身の創作呪文を使う。杖先から碧い魔力光線が現れ、一メートルの長さで収束し、固まる。杖の持ち手部分は
殆どの光閃を盾で受け、跳ね返したり受け流したりし、死の呪文や闇の魔術は氷の剣で斬り、消滅させる。
果てしなく続くこの戦い。しかし、終わりは来るのだ。
ロウェナは頭に乗っているティアラの恩恵を受け、異常な程の知恵を、更にパワーアップさせて考える。そして——。
辺りは碧に染まった。
ロウェナ・レイブンクロー。それはホグワーツ魔法魔術学校の創設者の一人の名前であるが、別の人物の名前でもある。
碧い瞳に金色の毛先がカールした肩までの髪。中性的で整った顔立ち。年齢の割に高くもなく低くもない背。
ホグワーツ創設者、ロウェナ・レイブンクローの子孫であり生まれ変わりである永遠の少女。使命を持って生まれた奇跡の少女。
新たなロウェナ・レイブンクローであった。
そして、この物語の主人公でもある。
「ロウェナ、大丈夫!?今温かい物を用意するわ。ヘプシー、彼女を!」
「わかってるよ、お母さん!」
ヘプシバ・ハッフルパフがロウェナに駆け寄り、支えながら家に導き入れる。ロウェナを毛布で包み、ふかふかなソファーに横たえた所でヘプシバの母、ヘルガがスープを持って現れる。
「ヘルガ、ありがとう……自分で飲めるわ。大丈夫」
ロウェナはヘルガからカップを受け取り、スープを啜る。
先程の戦闘は、十一歳の身体であるロウェナにはかなり辛いものであった。しかし、必要なこと。前世ロウェナのティアラを穢されるとなっては、今世ロウェナが黙っている筈が無い。
そして、ロウェナの身が心配ながらも見送る事しか出来ない、創設者ヘルガ・ハッフルパフの生まれ変わり、ヘルガは黙って娘のヘプシバと一緒に見送ったのだ。
「でも、ティアラは守れたわ。恩恵は一応受けてみたけど、やっぱりあまり意味は無いわね」
ティアラにたくさんの保護魔法を掛けながら、ロウェナはハッフルパフ母娘に話す。それに対し、母娘は苦笑い。
「そう思えるのは貴女だけだと思うよ、ロウェナ。誰だって欲しがるに決まってるよ」
「あらヘプシー、貴女もこれが欲しいの?」
「私は無くて大丈夫だよ」
「ほら、要らないんじゃない」
「私はね」
雪が降りしきる中、三人は楽しく語り合う。
平和が長くは続かないことを知っていながら。ロウェナが傷付くのを知っていながら。優しさ溢れるハッフルパフの母娘は、彼女が少しでも癒えるよう願いながら少しばかりの平和を堪能した。
時は流れた。
あれから数十年の時を経て、ロウェナの元に一つの封筒が届いた。
それを見たヘプシバは声を上げる。
「お母さん、ロウェナ!ホグワーツの入学許可証が届いたよ!」
ヘルガはエプロンで手を拭きながら現れた。
「本当?じゃあ誓いの魔法は上手くいったのね。でも、何故貴女は去年から行っているのにロウェナは今年なのかしら」
「何か理由があるんだよ。ロウェナは?」
「今はお使いに行って貰ってるわ。隣村のご老人が亡くなりかけていて。苦しくなく逝きたいから、ロウェナの力を貸して欲しいって」
「ロウェナは本当に慕われているね」
「ええ。ヘプシー、畑まで行って食べれそうなものを採ってきてちょうだい。ロウェナが帰ってきたら昼食よ」
「はい、お母さん」
ヘプシバが畑で野菜を採っている最中にロウェナは帰って来た。ヘプシバを手伝い、二人で帰路につく。
ロウェナはいつも通り無口で、ロウェナの気分を察したヘプシバは入学許可証の事だけを話して口を噤んだ。
ロウェナは何か考え事をしているようで、ネックレスを弄っている。
そのネックレスは、ロウェナがティアラに変身術を掛けて変化させたもの。いつも頭に乗せていては敵の目を引くだけなので、一瞬それとはわからないものにしたのだ。
家に帰り、三人は使命をもう一度確認し合った。
一人は涙を流し、一人は心配し、一人は碧い瞳に強い意志の色を見せながら。
——平和の終わりを悟った。
今、物語が始まった。
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賢者の石
組分け
ロウェナはホグワーツ特急に乗っていた。
ホグワーツ創設時にはこのような列車は無く、姿眩ましでの送迎だったのだが、時代も変わったものだ。——いつの時代だかの魔法大臣が、マグルの列車を無断で永久に拝借したことには目を瞑るとして。
ロウェナはティアラ——今はネックレスだが——の力を借りて、考え事の整理を始めた。念のため、一年生の予習は全てしたのだが、まだ記憶の整理が出来ていないのだ。
その時、コンパートメントの扉がノックされる。
「どなたかしら?」
ロウェナが声を掛けると、扉の向こうから栗毛の少女が顔を出した。
「他のコンパートメントが一杯で……。相席良いかしら?」
「構わないわ」
「ありがとう。私はハーマイオニー・グレンジャーよ」
「私はロウェナ・レイブンクロー」
ロウェナが名乗ると、ハーマイオニーは怪訝そうな顔をする。
「ロウェナ・レイブンクロー……?ホグワーツの創設者の一人ってこと?いえ、彼女は若い頃病死している筈だわ。子孫なの?」
「ええ、そうよ。グレンジャーには是非ともレイブンクローに入って欲しいわ」
「どうして?」
「貴女が聡明だというのは、一目でわかるもの」
前世は自ら組分けしていたためか、ロウェナには人を見分ける眼がある。ロウェナが想像するに、彼女が入るのはレイブンクローかグリフィンドール。叡智か勇気だ。
「褒められているのよね?あ、ありがとう」
「どういたしまして」
他愛のない話を続けているうちにホグズミード駅に着いた。
ロウェナはグレンジャーと共に列車を降り、森番ハグリッドに続いて道を歩く。
湖をボートで渡り、マクゴナガル教授にホール脇の小部屋に案内された。
ロウェナはグレンジャーの陰に隠れてゴーストに見つからないようにした。ゴーストの中には、前世ロウェナの娘、ヘレナがいる可能性がある。また、前世ロウェナと知り合いで、ヘレナを殺した血みどろ男爵も。
しばらくし、マクゴナガル教授が戻って来て新入生を大広間に案内した。
アボットから組分けが始まり、先程知り合ったグレンジャーがグリフィンドールに組分けされ、『生き残った男の子』ハリー・ポッターもグリフィンドール。そして、ロウェナの番が来た。
「レイブンクロー・ロウェナ」
まさかの創設者と同じ名前に、大広間はどよめく。ロウェナは、椅子に置かれた組分け帽子を見つめた。帽子は恭しくお辞儀をする。
「ロウェナ・レイブンクローよ、貴女は私の生みの親。私に貴女の寮を決める権限はございません」
「知っている」
ロウェナは、その鈴のような声で答えた。囁き声に大広間中が耳を傾ける。かの校長、ダンブルドアでさえ驚いた顔をし、息を飲んで見ている。
「私は前世でお前を創った。此処を創った。その上で、生まれ変わりであり子孫である私が聞く。私の寮は?」
「レイブンクロー寮です」
ロウェナは満足そうに頷くと、レイブンクロー寮のテーブルに向かって歩き出した。その姿を此処に居る全ての人々が凝視していた。誰もが羨む美貌、血筋、賢さ、そして魂を持っていると思われる少女が、威厳でも無く、権威でも無く、もっと誇り高い何かを醸し出している。レイブンクロー寮の者なら揃って言うだろう。「それは叡智だ」と。人が生きる上で一番重要視するもの、『賢さ』の象徴が、今組分けされた。
一番最初に、ダンブルドア校長が我に返った。一人の少女の組分けに拍手を送る。大広間では次々に我に返る者が増え、次第に拍手喝采となった。
校長の挨拶が終わり、宴会が始まった。ロウェナは、ヘルガ達と一緒だった頃とは全く違う料理に戸惑ったが、同級生に薦められるままに色々な料理を口にした。
ローストビーフをロウェナの皿に乗せながらパドマ・パチルが話し掛ける。
「ロウェナ……って呼んでいい?ロウェナはもう魔法が使えるの?」
「使えるわよ。あまり使わないけど。私にはただ本を読んでいる方が性に合ってるわ」
「そうなの。私なんて、姉のパーバティと一緒にお父さんの書斎でこっそり本を読み漁ったりした事しかないわ」
「それもいいと思うわよ。知識を求めることに罪は無い。禁書の棚を作る方がおかしいわ」
パチルは呆れたように笑った。創設者は少しばかり変人だったのかもしれない。
ダンブルドア校長の諸注意——「四階の右側の廊下に入ってはいけない」など——を聞き流し、パチルと共にレイブンクロー寮へ向かう。ロウェナは自らノッカーの問いに答え、寮へ入った。
久しぶりのホグワーツ。使命さえ無ければ楽しめただろう。
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