ご注文はシスコンですか? (ほにゃー)
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一羽 到着して逸れる

「うわ~、可愛い街!」

 

「ココア(ねえ)、あまりはしゃがないで」

 

僕の名前は保登テイ。

 

今年から中学二年になります。

 

そして、目の前でそわそわしながら街を見渡しているのが僕の姉、保登ココアです。

 

「ココア姉は今年から高校生なんだし、もっと落ち着きを持って行動してよ。まったく、これだからココア姉は心配で、目が離せられない」

 

ココア姉は今年からこの街の高校に通うことになった。

 

だが、家から通うのは無理なのでこの街のある人の家で下宿することにしたらしい。

 

そして、僕はそんなココア姉が心配だから一緒に来た。

 

通っていた中学も転校し、この街の中学校への転入手続も済ませ、今年からこの街で中学二年を迎える。

 

ココア姉はいつもフラフラしていなくなるから、僕が見張ってないといけない。

 

全く、しょうがない姉だよ。

 

僕は下を向き、溜息を吐きながら言う。

 

「とにかく、速く下宿先の香風さんちを見付けよう。急がないと日が暮れちゃう」

 

そう言い、前を歩くココア姉の方を見ながら呼び掛ける。

 

だが、そこにはココア姉はおらず、白い一匹の兎がいた。

 

「……………あれ?」

 

ココア姉がいなくなった!?

 

あの僅かな間に何処に行ったんだ!?

 

辺りをきょろきょろしながらココア姉の姿を探す。

 

だが、見当たらない。

 

どこに行ったんだ、ココア姉!?

 

僕は街を走り、ココア姉を探し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、春からこの街の学校に弟と一緒に通うことになったの」

 

ココアはテイの事を忘れ、目の前に現れた兎を追い掛けてるうちに、ラビットハウスと言う喫茶店に着いた。

 

兎が沢山いる喫茶店だと思ったら、実際は兎はおらず、ショックを受けた。

 

その後、コーヒーを三杯頼み、店のマスコットであるアンゴラウサギのティッピーを撫でていると、当初の目的を思い出し、店員である少女に尋ねた。

 

「でも、下宿先探してたら迷子になっちゃって。道を聞くついでに休憩しようと思って。香風さんちって知ってる?この辺りのはずなんだけど」

 

「あ、香風はうちです」

 

「凄い!これは偶然を通り越して運命だよ!」

 

ココアは少女の手を取り喜びを表現する。

 

「私はここのマスターの孫のチノです」

 

「私はココアだよ!保登ココア!そしてこっちが私のカワイイ弟の保登テイ!」

 

そう言ってココアは自分の後ろを振り向く。

 

だが、そこにテイはいなかった。

 

「…………あれ?」

 

そして、ココアは重大なことに気付いた。

 

「テイとはぐれちゃった!?」

 

(なんて騒がしい人………)

 

チノがココアに抱いた最初の感情はそれだった。

 



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二羽 喫茶店での出会い

「どうしよう!?テイがいないよー!」

 

ココアはテイがいないことに慌て泣きだした。

 

「お、落ち着いてください!」

 

「ちょっと私探して来る!」

 

そう言ってココアは店を出ようとする。

 

「待って下さい!」

 

チノはそんなココアの腕を掴んで止める。

 

「離して!テイがきっと私を待ってるんだよ!」

 

「いいからちょっと落ち着いてください!」

 

「でも!」

 

「まず確認させてください!そのテイさんは、下宿する家を知ってますか?」

 

「うん。名前だけは」

 

「もう一つ。ココアさん、ここまでの地図はどうしました?」

 

「テイが持ってるよ」

 

それを聞き、チノは僅かに息を吐く。

 

「ではココアさんは此処に居てください。私が探しに行きますので」

 

「でも!」

 

「入れ違いになったら大変ですし。それに、何があってもバイトの人がもうすぐ来るので大丈夫です」

 

そう言ってチノはティッピーをココアに預けたままチノは扉を開けて外へ出る。

 

そして、出た瞬間、チノは誰かとぶつかり尻もちをつく。

 

「あうっ!」

 

「あ、ごめん!」

 

チノが見上げるとそこにはココアに似た面影を持った少年が一人いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、暫くココア姉を探したけど、見つからず仕方ないから僕だけ先に下宿先の香風さんちへと向かった。

 

「ラビットハウス?喫茶店かな」

 

どうやら香風さんちは喫茶店みたいだ。

 

「ココア姉、来てるといいんだけど」

 

そう思い、扉を開けようとした瞬間、水色のロングヘアの少女が飛び出してきた。

 

その子は僕にぶつかるとそのまま地面に倒れてしまった。

 

「あ、ごめん!」

 

急いで謝り、手を差し出す。

 

「大丈夫?怪我はしてない?」

 

「あ……はい、大丈夫です」

 

その子は手を取らず、立ち上がって服に着いた埃を払う。

 

「えっと、ここって香風さんのお宅であってますか?」

 

何を話せばいいのか分からずそう尋ねる。

 

「はい、そうですけど………貴方がテイさんですか?」

 

「もしかして、ココア姉いるの?」

 

「はい。数分前ぐらいに」

 

よかった。

 

どうやらココア姉も目的地には着いてたみたいだ。

 

「取り敢えず、中にどうぞ」

 

その子の後に続いて、中に入る。

 

「テイ!!」

 

中に入るとココア姉が涙目で抱き付いて来る。

 

「良かったよおおおお!もう二度と会えないかと思って……!」

 

「大げさだよ。ココア姉」

 

ココア姉を剥がし、その子の方を向く。

 

「知ってると思うけど、僕は保登テイ。ココア姉の弟で今年中学二年になるよ。よろしく」

 

「香風チノです。ここの喫茶店のマスターの孫です。同じく今年で中学二年になります」

 

同い年だったんだ。

 

てっきり小学五、六年ぐらいかと思った。

 

「それと、学校側からの方針で下宿させていただく代わりに、その家でご奉仕しないといけないの」

 

「そうですか………ですが、家事は私一人でできますし、店も問題無いですからなにもしなくて結構です」

 

「いきなりイラナイ子宣言されちゃった!」

 

ココア姉は一々リアクションが大げさだな。

 

まぁ、それがココア姉の良い所でもあるんだけどね。

 

「取り敢えず、マスターさんに挨拶したいんだけど」

 

「祖父は去年に……」

 

「あっ………そっか、今はチノちゃん一人で切り盛りしてるんだね」

 

「いえ、父もいますし、バイトの子が」

 

「私を姉だと思って何でも言って!」

 

そう言うとココア姉はチノさんを抱きしめた。

 

「だから、お姉ちゃんって呼んで」

 

そっちが本音なんじゃ…………

 

「じゃあ、ココアさん」

 

「お姉ちゃんって呼んで!」

 

「ココアさん」

 

「お姉ちゃんって呼んで!」

 

「ココアさん、早速働いてください」

 

「任しといて」

 

「あ、チノさん。僕も良かったら手伝うよ。力仕事とかなら割と得意だし」

 

「……そうですね。では、テイさんもお願いします。それと私の事はチノでいいです」

 

「そっか。分かったよ、チノ」

 

最初に会った時、差し出した手を無視されたから嫌われてるのかと思ったが、そうでもないみたいだ。

 

良かった。

 

そう思ったら気が抜けて思わず笑顔になった。

 

するとチノは急に後ろを向き出した。

 

「こ、更衣室に案内するんで来てください!」

 

そう言うとチノはスタスタと奥の通路へと歩いて行く。

 

どうしたんだろ?

 

そう思いながら僕とココア姉はチノの後に続いて奥へと入る。

 



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三羽 バイトとの出会い

「じゃあ、これに着替えてください」

 

チノに制服を渡され、更衣室に入る。

 

更衣室と言っても、今後僕が寝泊まりする部屋なんだけど………

 

僕の制服はバーテンダーの様な制服だった。

 

ちょっと袖が長いけど、折ればいいか。

 

袖を少し折って、鏡で姿を確認し、部屋を出る。

 

一階に降りると、ココア姉とチノ以外に、ツインテールの女性がいた。

 

「テイ!この制服どうかな?似合う?」

 

ココア姉は目の前で一回転して僕に制服を見せて来る。

 

「うん。似合ってるよ、ココア姉」

 

「わーい!ありがと!」

 

そう言って僕を抱きしめる。

 

もう中学二年にもなるんだし、そろそろ止めてほしいんだけど…………

 

「えっと、ココア。そいつは誰なんだ?」

 

すると、ツインテールの人は僕を見るなり、そう言って来た。

 

「初めまして、ココア姉の弟の保登テイと言います。今日からココア姉と一緒にここでお世話になるのでそのお手伝いを。よろしくお願いします」

 

ココア姉を離して、頭を下げる。

 

「ココアの弟か。私は天々座理世だ。苗字は呼びにくいし、リゼでいいぞ。よろしくな」

 

そう言ってリゼさんは僕の頭を撫でて来た。

 

「あの……これは……」

 

「あ、ああ!すまない。嫌だったか?」

 

リゼさんは慌てて、腕を引っ込め、謝ってくる。

 

「いえ、大丈夫です。ちょっと驚いただけなんで」

 

「そうか。私は一人っ子だから、姉弟ってのに憧れているんだ。もし、弟がいたらこんなのかなって」

 

そう言うリゼさんは何処か寂しそうだった。

 

少し悩んだが、僕はリゼさんを見上げ言う。

 

「……リゼお姉ちゃん?」

 

するとリゼさんは雷にでも撃たれたような表情になり、チノは目を見開いていた。

 

「す、すみません!リゼさんがなんか寂しそうに見えて!」

 

あたふたしながら言い訳をしてると、リゼさんは一瞬ポカーンとし、急に笑い出した。

 

「ありがとな。気を遣ってくれて」

 

そう言ってまた僕の頭を撫でる。

 

なんだろう、リゼさんの撫で方は凄く安心する。

 

目を細め、気持ちよさそうにしてると―――――――

 

「テイのお姉ちゃんは私だよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ココア姉が涙目で僕を抱きしめて来る。

 

「リゼちゃんに、テイは渡さないからね!」

 

ココア姉を剥がして、顔を見る。

 

「ココア姉、大丈夫だよ。僕のお姉ちゃんはココア姉だけだし、勝手にどっか行ったりしないから」

 

「本当?」

 

「本当だよ」

 

慰めるように頭を撫でるとココア姉は嬉しそうに笑い、僕に頬擦りするように抱き付く。

 

「テイ~♪」

 

「よしよし」

 

「あの………いい加減仕事してください、特にテイさん」

 

え?なんで僕だけ名指し?

 

てか、なんで不機嫌なの?

 



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四羽 姉弟の特技

「では、リゼさん。先輩として色々教えてあげてください」

 

「きょ、教官ということだな!」

 

チノにそう言われ、リゼさんは嬉しそうに言う。

 

「よろしくねリゼちゃん!」

 

「お願いします、リゼさん」

 

「上司に口を聞くときは、言葉の最後にサーを付けろ!」

 

「お、落ち着いてサー!」

 

ココア姉も落ち着いたほうがいいと思う。

 

その後、僕とココア姉が連れてかれたのは倉庫だった。

 

「このコーヒー豆の入った袋をキッチンまで運ぶぞ」

 

「う、うん」

 

「はい」

 

リゼさんは軽々と大きな袋を持ち、肩で担ぐ。

 

凄いなぁ………

 

試しに一つ持ってみたけど、結構重くて持ち上がらない。

 

「う、う~ん!重いよ、コレ!普通の女の子には無理だよ!ねぇ、リゼちゃん」

 

するとリゼさんは持っていた袋を急に下ろした。

 

「そ、そうだな!女の子には無理だな!」

 

「小さい袋の奴を運ぼうか」

 

そう言ってココア姉は小さい袋を持つが、それでも重いみたいだった。

 

リゼさんは小さい袋を四つぐらいもち上げてた。

 

それ、多分大きい袋一つ分と重さ変わらないと思うんだけど………………

 

「小さいのでも結構重いね。一つ持つのはやっとだよ」

 

「あ、ああ!そうだな!」

 

するとリゼさんはまた袋を下ろして、小さいのを一つだけ持った。

 

取り敢えず、僕は小さいのを両手に一つずつ持った。

 

キッチン移動し、お客さんが来るまでの間、いろんな仕事を教えてもらった。

 

「ココア、テイ。メニューを覚えとけよ」

 

そう言って僕たちにメニュー表を見せて来る。

 

メニューにはコーヒーの種類から軽食と言った物まで色々ある。

 

「コーヒーの種類が多くて難しいね」

 

「そうか?私は一目で暗記したぞ」

 

「凄い!」

 

「訓練してるからな。チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄当てられるし」

 

凄いなぁ……

 

同い年なのに、チノの方が大人っぽく見える。

 

「ミルクと砂糖は必須だ」

 

そう言うとチノは恥ずかしそうに持っていたノートで口元を隠した。

 

安心したと同時に、その姿がとてもかわいく思えた。

 

「いいなー、チノちゃんもリゼちゃんも。私も何か特技あったらなぁ……」

 

「僕も特技が欲しい」

 

「ん、チノちゃん何してるの?」

 

「春休みの宿題です。空いた時間にこっそりやってます」

 

「へぇ……。あ、その答えは128で、その隣は367だよ」

 

出た。

 

ココア姉の暗算。

 

ココア姉はああ見えて、理数系の科目が物凄く得意だ。

 

僕もよく数学の宿題とか手伝ってもらっていた。

 

「ココア、430円のブレンドコーヒーを29杯頼むといくらになる?」

 

「12470円だよ」

 

やはり一瞬で答えるココア姉。

 

「私も何か特技あったらなー」

 

「いや、それは十分に特技だろ」

 

「リゼさん、ココア姉はああいう人だから」

 

でも、やっぱり羨ましいよ。

 

姉弟の中で、僕はこれと言った特技は無い。

 

「はぁ~、僕も特技が欲しいな………」

 

「あっ!」

 

その時、僕の背後でココア姉が水を拭いていたコーヒーカップを落としてしまった。

 

僕は、カップが床に落ちる前にリゼさんの方を向いたまま、後ろに半歩程下がり、手を後ろに伸ばしてキャッチする。

 

「ココア姉。食器を洗う時は落とさないように気を付けてっていつも言ってるじゃん」

 

「ごめんね。ありがとうね、テイ」

 

カップをココア姉に渡し、溜息を吐く。

 

「なぁ、テイ」

 

するとリゼさんが何処から出したのかボールを三つ取り出し、僕に投げて来た。

 

それを素早く片手で三つキャッチする。

 

「リゼさん、これは?」

 

「………いや、何でもない。ちょっと確認をな」

 

そう言ってボールを回収し、しまう。

 

「はぁ~、僕も特技があったらなぁ…………」

 

(いや、今のは特技だろ………)

 

(今のテイさん………ちょっとかっこよかったです………)

 

(やっぱテイは凄いなぁ~。流石は私の自慢の弟!)

 



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五羽 ラテアート

暫く四人で話してると、お客さんがやって来た。

 

「いらっしゃいませ!」

 

ココア姉は元気よくそう言う。

 

「あら?新人さん」

 

「はい!今日からここで働かせてもらってるココアと言います!」

 

「よろしくね。キリマンジェロお願い」

 

「はい!」

 

お客さんに対応するココアを見て、リゼさんが感心したように言う。

 

「ちゃんと接客できてるじゃないか」

 

「はい。心配ないみたいですね」

 

「やったぁ!私、ちゃんと注文取れたよ!キリマンジェロ、お願いしまーす!」

 

はしゃぐココア姉を見てると、何故か僕までやる気が出て来る。

 

よし!次のお客さんは、僕が対応するぞ!

 

そう意気込んだ瞬間、店の扉が開き、また女性のお客さんが入って来る。

 

「いらっちゃ―――」

 

……………噛んじゃった。

 

「いらっしゃいませ…………」

 

「えっと………新人さんかな?」

 

「……はい。今日からここで働かせてもらってるテイと言います」

 

「そう……頑張ってね。ブルーマウンテン、お願いできるかしら」

 

「はい。お席でお待ちください」

 

そう言い、三人の所に戻る。

 

「チノ……ブルーマウンテンお願い………」

 

「その……なんだ……テイはよく頑張ったぞ。噛んだ位気にするな」

 

「偉いですよ、テイさん」

 

リゼさんとチノの慰めが心にしみる…………

 

「大丈夫!噛んでもテイは可愛いから!」

 

ココア姉………全然フォローになってないよ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、暫くせわしく動き回りながら仕事をこなす。

 

お客さんが全員帰ると、ココア姉が口を開く。

 

「ねぇねぇ、チノちゃん。この喫茶店、ラビットハウスって名前でしょ。ウサ耳付けないの?」

 

「そんなの付けたら違う店になってしまいます」

 

「リゼちゃんとかウサ耳似合いそうだよね」

 

「そんなもん付けるか…………………露出が高過ぎるだろ!」

 

「ウサ耳の話だよ!?」

 

一体何を想像したんだろう。

 

ウサ耳か……………

 

試しにこっそり手でウサ耳のような形を取り頭に持ってくる。

 

「…………ぴょん………なんちゃって」

 

一人で呟き、軽く苦笑する。

 

(テイ………男がする行動じゃないぞ………可愛いけど………)

 

(テイさん………可愛いです………)

 

(可愛いよテイ!可愛い可愛い可愛い可愛い!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リゼさん。それはなんですか?」

 

リゼさんがコーヒーにミルクを注ぎながら何かをやっているので手元を覗き込みながら尋ねる。

 

「これか?これはラテアートだ。カフェラテにミルクの泡で絵を描いてるんだ。うちの喫茶店では、サービスでやってるんだ」

 

「うわぁ……綺麗……」

 

思わず口からそう言葉が漏れた。

 

「リゼさんってとても器用ですね。凄いです」

 

「大したことじゃないよ」

 

リゼさんはそう言うけど、僕からしてみれば十分に凄い。

 

なんていうか、リゼさんってかっこいいな……………

 

「そうだ。テイもやってみるか?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんだ」

 

「あ!私もやりたい!」

 

するとココア姉が会話に割り込んでくる。

 

「お!ココアもやるか?」

 

「もちろん!これでも絵で金賞貰ったことあるんだよ」

 

「町内会の小学校低学年の部と言うのは無しな」

 

「うっ……」

 

ちなみにその絵、今だに実家に残ってます。

 

額縁に入れて……………………

 

「まぁ、手本としてはこんな感じだ」

 

そう言ってリゼさんは素早く、ラテアートを三杯作る。

 

「うわぁ、凄いよ!リゼちゃんって絵上手いんだね!ねぇ、もう一つ作って!」

 

「仕方ないなぁ。よく見てろよ」

 

そう言うとリゼさんはまるで曲芸の様な動きでコーヒーにミルクを淹れ、そして、マドラーを使い、泡で絵を描いていく。

 

「出来た!」

 

出来たのは戦車だった。

 

しっかり模様が描かれ、砲塔からは煙が立ち上ってる絵だ。

 

「凄い!」

 

「そんな上手くないって!」

 

「いや……上手って言うか………人間技じゃないよ…………」

 

よく小さな面で、これだけの絵が描けるなぁ……………

 

「よし、私たちもやるよ!」

 

「うん」

 

「頑張れよ」

 

僕とココア姉は一緒に並び絵を描いていく。

 

取り敢えず簡単な感じでやるつもりで六芒星を描いてみた。

 

意外と六芒星は簡単に描けたので、その周りに小さく適当に英語の様な文字も描いていく。

 

「出来た」

 

「どれどれ?」

 

リゼさんが僕の手元を覗き込むと、へーっと言った。

 

「はじめてにしては上出来じゃないか。この調子で練習していけばもっと凄いのが描けるぞ」

 

「ありがとうございます。もっと頑張ります」

 

「ああ、その意気だぞ」

 

そう言ってリゼさんはまた頭を撫でて来る。

 

まぁ、いやじゃないけど……………

 

「あうっ………イメージ通りに描けない…………」

 

そう言うココア姉のコーヒーにはウサギのようなものが描かれていた。

 

それを見てリゼさんはフルフルと震え出した。

 

「笑われてる!?」

 

(可愛い………!!)

 

「笑うなんて酷いよぉ………ねぇ、チノちゃんも描いてみてよ」

 

「私もですか?」

 

ココア姉に言われて、チノもラテアートを始める。

 

「できました」

 

チノの書いたラテアートはなんか芸術ぽかった。

 

「チノちゃんも仲間!」

 

「仲間?」

 

ココア姉はチノの絵を下手な絵だと思い込み、仲間だと言い出す。

 

「違うぞ、ココア。こういう絵は私たちのと一緒にしちゃ………」

 

「リゼさん言うだけ無駄です。今のココア姉には何を言っても無駄でしかないですから」

 

そう言いながらチノの手を取りはしゃいでるココア姉を見る。

 

全く、本当にしょうがない人だ。

 



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六羽 一日の終わり

「リゼさん、お疲れ様でした」

 

「ああ、じゃあな」

 

「バイバーイ!」

 

今日の仕事が終わり、リゼさんは服を着替えて帰って行った。

 

「今日の夕食はシチューにしましょう」

 

チノはそう言ってエプロンを付けて料理を始める。

 

「チノ、何か手伝おうか?」

 

「いえ、一人で大丈夫です」

 

そう言ってチノは料理を始める。

 

頼ってくれてもいいのに……………

 

そう思ってるとココア姉がケータイの画面をチノに見せる。

 

「チノちゃん!これ見て!」

 

そこにはココア姉が練習で作ったラテアートの写真があった。

 

「これは…………私達?」

 

チノの言う通り、そこにはチノとリゼさん、そしてココア姉と僕をデフォルメさせたような似顔絵が描かれたラテアートがあった。

 

「そうだよ!さっきこっそり作ってたの!」

 

その写真にチノは嬉しそうな表情になる。

 

その時、部屋に一人の男性が入って来た。

 

「何者?」

 

「こちら父です」

 

てことは、今のラビットハウスのマスターさんか。

 

「君がココア君とテイ君だね。この家も賑やかになるなぁ。今日からよろしく」

 

「お、お、お世話になります!」

 

「よろしくお願いします」

 

ココア姉と一緒に頭を下げて言う。

 

「こちらこそ、チノをよろしく」

 

そう言ってチノのお父さんが頭を下げると、チノの頭に居たティッピーがぴょんとチノのお父さんの頭に乗る。

 

「じゃあ」

 

そして、ティッピーを頭に乗せたまま部屋を出て行く。

 

「お父さんは一緒に食べないの?」

 

「ラビットハウスは夜になるとバーになるんです。父はそのマスターです」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

なんかバーのマスターってかっこいいな…………

 

「なんか裏世界の情報とか提供しそうでカッコいいね!」

 

「…………なんの話ですか?」

 

ココア姉って偶に凄い変なこと言うからなぁー

 

まぁ、それがココア姉らしいからいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろかな?」

 

ココア姉が鍋の中を見ながら言う。

 

「もうすぐです」

 

「えへへ……こうしてると姉妹みたいだね」

 

「姉妹………ココアお姉ちゃん……ですね」

 

「う……うおおおおおお!」

 

チノにお姉ちゃんと呼ばれて、物凄く喜んでる。

 

そうしてるうちにシチューが完成した。

 

ココア姉はもう一度お姉ちゃんと呼んでほしいのか、チノに色々胡麻をすりながらお姉ちゃんと呼んでもらおうとしていた。

 

ちなみにシチューは毎日食べてもいいぐらいにとても美味しかった。

 

その後、チノはお風呂に入りに行き、そして、ココア姉はそこに乱入していった。

 

ココア姉に誘われたけど、いくらなんでも同い年で中学生の男女を一緒に風呂に入れさせようとしないでよ。

 

二人が上がるまでの間、僕は自室で窓から夜空を眺めていた。

 

星空がとても綺麗だ。

 

一年の時の部活合宿で、夜中にこっそり友達と合宿所を抜け出してみた夜空と同じぐらいに綺麗だった。

 

そう言えば、皆は元気かな?

 

何も言わずに転校しちゃったし、きっと怒ってるだろうな…………

 

特にアイツは滅茶苦茶怒り狂ってると思う。

 

どうして、アイツは僕のやる事に一々起こるんだろう……………

 

「あの………テイさん」

 

チノの声が扉の向こう側から聞こえる。

 

「チノ?どうぞー」

 

そう言うと、チノがパジャマ姿で入って来る。

 

「お風呂空いたので、どうぞ」

 

「うん、ありがとう」

 

「………あの、どうかしましたか?」

 

「え?」

 

「なんか、寂しそうな顔をしてたので………」

 

表情に出てたか………

 

「ちょっと友達の事を思い出してさ。殆ど何も言わずに転校しちゃったからね」

 

「そうでしたか………」

 

「でも、後悔はしてないよ。ココア姉一人じゃ心配だし、それにこの街はこの街で楽しい。来てよかったよ」

 

僕は笑顔でそう言った。

 

「そうですか」

 

するとチノも笑顔でそう言ってくれた。

 

この街は本当に良い所だよ………………………



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七羽 転校と新たな出会い

目覚ましの鳴る音に起こされ、ベッドから起きる。

 

机の上の目覚ましを止め、欠伸を一つして、昨日の夜、クローゼットに掛けた制服を見る。

 

今日から新学期。

 

そして、僕の転校日でもある。

 

僕が通う中学の制服は青色の制服で所々に白のラインが入った物だ。

 

うん、前の中学より制服がかっこいい。

 

そんな事を思いながら、制服に着替えて一階に降りる。

 

キッチン兼食卓では既にチノが制服の上からエプロンを付けて朝食を作っていた。

 

「チノ、おはよう」

 

「あ、テイさん。おは………」

 

チノは其処で言葉を止め、何故か僕の方をぽーっと見つめて来る。

 

「チノ?どうしたの?」

 

「あ!す、すみません。なんでもないです…………えっと、制服とても似合ってます」

 

「ありがとう。チノも良く似合ってるよ」

 

そう言うと、チノは下を俯いて朝食作りを再開した。

 

「おはよー!」

 

その時、ココア姉も高校の制服に着替えて、現れる。

 

「テイ!どうかな?この制服!」

 

「うん。良く似合ってるよ、ココア姉」

 

「ありがとう!テイも良く似合ってるよ!かっこいいよ!」

 

そう言ってココア姉が抱きしめて来る。

 

制服が皺になるからなるべき止めてほしい…………

 

「ココアさん!朝ご飯が出来たんで、並べるの手伝ってください!」

 

チノが若干怒り気味に言う。

 

ちょっと騒がしかったかな?

 

そう思いながら朝食を運ぶのを手伝い、タカヒロさんも現れ、四人で朝食にする。

 

朝食を食べ終えると、後片付けをし、学校へ向かう準備をする。

 

「いってきまーす!」

 

ココア姉が元気に、見送ってくれるタカヒロさんとティッピーに言う。

 

「「行ってきます」」

 

僕とチノもタカヒロさんとティッピーに言う。

 

「ああ、行ってらっしゃい。気を付けて」

 

三人で並びながら街を歩く。

 

それにしても、本当に綺麗な街だな………

 

「チノちゃんとテイの学校、こっちの方向なんだ」

 

「方向なんです」

 

「じゃあ、これからは途中まで一緒に」

 

「行けるね」

 

そう言うとココア姉は嬉しそうに笑う。

 

「あ、テイさん。私たちはこっちです」

 

「あ、うん。じゃあ、ココア姉。行ってきます」

 

チノの後を追い、隣に並ぶ。

 

「友達二人と待ち合わせしてるので、その二人も一緒ですけど………」

 

「構わないよ。チノの友達なら仲良くなれそうだよ」

 

話しながら歩いてるとチノと同じ制服を着た女の子が二人見えた。

 

「あ!おはよー、チノー!」

 

「おはよー」

 

「おはようございます」

 

三人が挨拶をした後、二人の女の子を僕に気付く。

 

すると

 

「ち、チノが男を連れて来た!」

 

「ふぇ!?」

 

そう反応した。

 

「ウチに下宿しているテイさんです」

 

「チノの家で下宿させてもらってる保登テイです。今日から二人と同じ中学に通うからよろしく」

 

挨拶をすると二人は驚いた様な表情をしたが、すぐに笑顔に切り替わった。

 

「私は条河マヤだ!よろしくな、テイ!」

 

「私は奈津メグミだよ。メグって呼んでね、テイ君」

 

「ああ、よろしくマヤにメグ」

 

「じゃあ、張り切ってレッツゴー!」

 

元気にそう言うマヤに続く形で僕たちは中学校を目指した。

 

中学校に着くと、僕は転校生だから職員室へと向かわないといけないから校門で三人と別れた。

 

「じゃ、僕は職員室に行くから」

 

「職員室の場所、分かりますか?」

 

「うん。転校の手続きで来た時に覚えたから。じゃあ、三人共また後で」

 

「同じクラスになれるといいね」

 

「じゃあな、テイ!」

 

三人はそのまま校舎に入り、姿をけし、僕は職員室へ向かった。

 

職員室に向かった後は、担任になる先生に連れられ始業式に出席し、その後で教室に案内された。

 

先生がクラスメイトに転校生が来ることを告げられた後、中に入る。

 

教卓の前に立ち、挨拶をする。

 

教室を見渡すとチノとマヤ、メグの三人を見付けた

 

三人に向かって僕は笑顔を向け、教室に居る全員に挨拶をする。

 

「保登テイです。今日からこの中学に通うことになりました。よろしくお願いします」



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八羽 パン作り

入学式兼始業式の後は休み時間になり、学級活動の時間だ。

 

やっぱりと言うか、休み時間になると、僕の周りにはクラスメイトが集まって来た。

 

何処の街に居たのか、何処に住んでいるのか、何か部活はしてたか等々、色々聞かれた。

 

学級活動は明日からの予定と、学校側からの案内などで済み、お昼前には全部が終わった。

 

「今日は人気だったな、テイ」

 

チノとマヤ、メグの三人と一緒に帰ってると、マヤがそう言ってくる。

 

「単純に転校生ってのが珍しいだけだよ。明日になれば興味が減って、一週間も経てば興味なんて無くなるよ」

 

「なんか珍獣が来日した様な感じですね」

 

「私知ってる!エリマキトカゲとかだよね!」

 

メグの話は何処かズレてる気がする。

 

でも、珍獣か。

 

言い得て妙だな。

 

そう考えていると、今朝、二人と出会った所に着き、ここで僕とチノ、マヤとメグの二組に分かれる。

 

「じゃあな、チノ!テイ!」

 

「また明日~」

 

二人に手を振り、僕とチノは家に向かう。

 

「今日はお疲れさまでした」

 

「転校生とか小学校の時、一回だけ見たことあるけど、まさか自分が転校生になるとは思わなかったよ」

 

そんなことを話しながら、店の扉を開ける。

 

「あ!おかえり~!」

 

店の中ではココア姉が制服で店の掃除をしていた。

 

高校生はもう入学式は終わったのかな?

 

「ただいまです」

 

「ココア姉、ただいま」

 

僕はおかえりの抱擁をしてくるココア姉の顔を見て尋ねる。

 

「ココア姉、高校はどうだった?」

 

するとココア姉は固まり、そっぽを向いた。

 

「この街って可愛い建物が多くて素敵だよね!」

 

「あ、うん。そうだね……」

 

「……ココアさん、高校はどうでしたか?」

 

「まるで童話の中の街みたいだよね!」

 

「………」

 

「………」

 

露骨に高校の事を話そうとしないココア姉に、僕とチノは顔を見合わせ、一緒に尋ねる。

 

「「高校の方はどうだった(でした)?」」

 

「聞かないで!」

 

どうやら入学式の日を間違えたみたいだ。

 

本当は明日だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チノちゃん、お店に大きなオーブンとかってないかな?」

 

翌日、学校が終わり、店の手伝いをしてるとココア姉がチノにそう尋ねた。

 

「大きいオーブンですか?それならありますよ。昔、お爺ちゃんが調子に乗って買ったのが」

 

「本当!?今度のお休みの時、皆で看板メニュー開発しない?」

 

「ココア姉、もしかしてパン作るの?」

 

コーヒーカップを洗いながらココア姉を見る。

 

「うん!今日、学校帰りにパン屋さんでパン見たら、作りたくなっちゃった!」

 

「パンか……そう言えば最近作ってないね」

 

「パン作るんですか?」

 

チノがそう聞いて来た。

 

「うん。うち、実家がパン屋なんだ。店の手伝いとかで作ったりするよ」

 

「焼きたてパン、すっごく美味しいんだ!」

 

「話ばっかしないで仕事しろよー」

 

リゼさんがココア姉の後ろを通りながら、そう言うと、リゼさんの方からお腹が鳴る音が聞こえる。

 

リゼさんは顔を真っ赤にしていた。

 

「……リゼさん、焼き立てのパンは凄く美味しいですよ」

 

「そ、そうだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休みの日。

 

皆で“ラビットハウス”の看板メニューとなるパンを作ることになり、僕とチノ、ココア姉にリゼさん、そして、ココア姉の友達がキッチンに集まった。

 

「同じクラスの友達の千夜ちゃんだよ!」

 

「今日はよろしくね」

 

「で、チノちゃんとリゼちゃんに、私の弟のテイ!」

 

「よろしくです」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「あら?そのワンちゃんは?」

 

千夜さんが、チノの頭の上に居るティッピーを見てそう言う。

 

「犬じゃありません。ティッピーです」

 

「この子はただの毛玉じゃないんだよ!フワフワ感が最高なんだ!」

 

「まぁ、癒しのアイドル毛玉ちゃんね!」

 

(誰かアンゴラウサギだってツッコめよ………)

 

一しきりティッピーと戯れると、パン作りを開始する。

 

「みんなパン作りをなめちゃいけないよ!少しのミスが完成度を左右する戦いなんだよ!」

 

ココア姉が麺棒を手に熱く語る。

 

「ココアが珍しく燃えている……!このオーラ、まるで歴戦の戦士のようだ……!今日はお前に教官を任せた!よろしく頼む!」

 

「サーイエッサー!」

 

「私も仲間に!」

 

「暑苦しいです」

 

「いいから始めようよ」

 

「それじゃあ各自パンに入れたい材料提出ー!」

 

「イエッサー!」

 

「サ、サー!」

 

「暑苦しい……です」

 

それぞれ自宅から持ってきたパンに入れる材料を取り出す。

 

「私は新規開拓に焼きそばパンならぬ焼きうどんパン作よ」

 

「私は自家製の小豆と梅と海苔を持ってきたわ」

 

「冷蔵庫にいくらと鮭と納豆とごま昆布がありました」

 

「私はイチゴジャムとマーマレードと……ってこれってパン作りだよな?」

 

「ご飯が欲しくなるラインナップですね」

 

ちなみに僕が持参したのはチョコチップだ。

 

「じゃあまず、強力粉とドライイーストを混ぜてー」

 

「ドライイーストってパンをふっくらさせるんですよね?」

 

「よく知ってるねぇ。チノちゃん偉い偉い!乾燥した酵母菌なんだよ?」

 

「こ、攻歩菌!?」

 

酵母菌の名前を聞いた瞬間、なぜかチノは青ざめ震えだす。

 

「そ、そんな危険なものを入れるくらないならパサパサパンで我慢します!」

 

チノは、一体何を想像したんだろう?

 

生地の材料を全部入れると後は一気に材料を捏ね、生地を作る。

 

「パンをこねるのってすごく力がいるんですね」

 

「腕が……もう動かない……」

 

「千夜さん、あまり無理しないでください。パン生地を捏ねる作業って本当に力が居るんで、無理すると筋肉痛になるんで」

 

「リゼさんは………平気ですよね」

 

「なぜ決めつけた?」

 

決めつけた理由は何となく察しが付くけど、絶対に言わないでおこう。

 

リゼさんが傷付きそうだし。

 

「で、ココアさんは……!?」

 

チノがココア姉の方へと振り向くと、ココア姉の周りには先程よりもメラメラと炎が燃え上がっていた。

 

久々のパン作りで張り切ってるな~

 

「このときのパンがもちもちしててすごくかわいいんだよ!!」

 

「すごい愛です」

 

その後、なんとか生地は完成し、それを一時間程寝かせる。

 

生地を1時間程寝かせた後、形を作っていく。

 

クロワッサンや渦巻き型や団子型などなどいろんなものを作っていく。

 

「チノちゃんはどんな形にするの?」

 

「おじいちゃんです。小さな頃から遊んでもらっていたので……」

 

「おじいちゃん子だったのね」

 

「コーヒーをいれる姿はとても尊敬していました」

 

「みんなー、そろそろオーブン入れるよー」

 

「……ではこれからおじいちゃんを焼きます」

 

さらっと怖いこと言ったな………………

 

オープンに生地を入れてからと言う物、チノはずっとオーブンの中を眺めていた。

 

「チノちゃんはさっきからオーブンに張り付きっぱなしだねー」

 

「パンを見ててそんなに楽しいか?」

 

「はい。どんどん大きくなってきてます。あっおじいちゃんがココアさんと千夜さんに抜かされました!」

 

「おじいちゃんもガンバレー!」

 

「リゼさんだけ出遅れています。もっと頑張ってください」

 

「私に言うなよ」

 

どう頑張ればいいんだろう……………

 

そう思ってると、ココア姉がコーヒーを千夜に持ってくる。

 

「千夜ちゃんにおもてなしのラテアートだよ!」

 

「まぁ!すてき!」

 

「今日のは会心の出来なんだ」

 

「味わっていただくわね」

 

千夜さんはココア姉の作ったコーヒーを飲もうとするが、

 

「あっ!あぁー……傑作が……」

 

ココア姉の言葉に凄く飲みにくそうにしてた。

 

それから暫くすると、パンが焼き上がり、オーブンから取り出す。

 

「みんな焼けたよー!さっそく食べよー♪」

 

それぞれ自分の作ったパンを一口食べる。

 

「……!美味しい!」

 

「いけますね」

 

「これは納得のいく味だ」

 

「これなら看板メニューに出来るよ!この焼きうどんパン!」

 

「この梅干しパン!」

 

「このいくらパン!」

 

「このチョコチップパン!」

 

「テイのはともかく、どれも食欲はそそらないぞ……」

 

本人たちは喜んでるし、味自体は問題なんだと思う。

 

商品に出来るかは別として……………

 

「そう言えば、ココア姉。まだ他に焼いてたけど、アレは何?」

 

「実はね…………ジャーン!ティッピーパン!」

 

そう言ってココア姉が出したのはティッピーの形をしたパンだった。

 

「「「おぉーー!」」」

 

「看板メニューはこれで決定だな」

 

「食べてみましょう」

 

「もちもちしてる……」

 

「えへへー美味しく出来てるといいんだけど」

 

一口食べてみると、中にはイチゴジャムが入っていた。

 

「中身はイチゴジャムか」

 

「うん!リゼちゃんが持ってきたイチゴジャムを入れてみたの!」

 

「これも美味しいわ♪」

 

うん、美味しい。

 

見た目のよく出来てるし、看板兎であるティッピーの名前が付いてるし、看板メニューには申し分ないと思う。

 

ただ…………イチゴジャムの所為でとてもエグイパンになってるけど……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、テイさん」

 

「ん?何?」

 

千夜さんとリゼさんが帰り、三人で後かダ付けをしてるとチノか声を掛けて来た。

 

振り返ると、チノは恥ずかしそうに手に何かを持っていた。

 

「これ、テイさんに上げます」

 

「パン?」

 

「はい、一つだけ別に作ってまして、よかったらテイさんに味を見てもらおうと」

 

差し出されたのは見た目は普通のパンだ。

 

一体何パンだろう?

 

「ありがとう、チノ。頂くよ」

 

パンを受け取り一口齧る。

 

「あの………どうですか?」

 

チノが不安と期待、半々と言った感じに聞いて来る。

 

「………チノ、このパンって」

 

「はい。沢庵パンです!冷蔵庫に余っていたので作ってみました!」

 

はっきり言うと、あまり美味しくない。

 

だけど、チノのこんな顔を見ると……………

 

「うん。美味しいよ」

 

そう言うと、チノは嬉しそうな表情をする。

 

僕はその笑顔に見つめられながら、沢庵パンを食べた。

 

少し気持ち悪くなったがそこは男のプライドと根性で堪えた。



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九羽 甘兎庵

今回は少し甘めに作ってみました。

チノちゃんが可愛くなってればいいと思います。


パン作りから数日後、今日、僕とチノ、ココア姉とリゼさんの四人で千夜さんの家の喫茶店へと向かっている。

 

パン作りのお礼と言う事で招待された。

 

「どんなとこか楽しみだね〜!」

 

「なんて名前の喫茶店ですか?」

 

「えっと、確か甘兎だったかな?」

 

「甘兎とな!?」

 

するとチノの方から例の腹話術の声が聞こえる。

 

「チノ、知ってるの?」

 

「おじいちゃんの時代に張り合っていたと聞きます」

 

「つまりライバル店だったってことか」

 

「みたいです。詳しくはよく知らないですが」

 

「お、ここじゃないのか?」

 

チノと話してるといつの間にか店に着いていた。

 

「看板だけやたり渋い。面白い店だな!」

 

「オレ、うさぎ、あまい?」

 

「甘兎庵な……」

 

「後、(おれ)じゃなく(いおり)だからね、ココア姉」

 

看板は庵兎甘と書いて、右から読む和風の書き方がされてる。

 

看板も木で出来ていて、風情を感じる。

 

「「「「こんにちはー!」」」」

 

ドアを開くとカランカランと鈴の音で迎えられる。

 

「あら、みんな!いらっしゃい♪」

 

緑色で縞模様がついた着物姿の千夜さんが出迎えてくれた。

 

「あっ初めて会った時もその服だったね!制服だったんだ!」

 

「あれはお仕事でようかんをお得意様に配った帰りだったの」

 

「あのようかんおいしくて3本いけちゃったよー」

 

「3本丸ごと食ったのか!?」

 

「あれ、結構な量だったと思うんだけど……」

 

「チノ、羊羹三本って普通食べれるよね?」

 

「それが出来るのはテイさんとココアさんだけです。私の知る限りでは」

 

羊羹の三本位行けると思うけどな。

 

ちなみに僕は甘い物が大好きだ。

 

「あ、兎だ!」

 

すると、ココア姉がお店の真ん中に置かれてる円形テーブルの上に乗っているうさぎを見つける。

 

「看板うさぎのあんこよ」

 

「置物かと思ったぞ」

 

リゼさんの言う通り、あんこはピクリとも動かず、まるで銅像のように唯無心で何処かを見ていた。

 

「本当にうさぎなのか?」

 

「あんこはよっぽどのことがないと動かないのよね」

 

その時、チノが兎に近づいた瞬間、あんこは行き成りチノに飛び掛かった。

 

僕は咄嗟に手を伸ばし、倒れそうになったチノを支える。

 

今の体勢はチノが僕の体に寄り掛かってるようになっている。

 

「チノ、大丈夫?」

 

「びっくりしました………テイさん、ありがとうございます」

 

チノは少し赤くなりながらお礼を言ってくる。

 

「チノちゃん!?大丈夫!?怪我してない!?」

 

ココア姉が慌て気味にチノに聞く。

 

「大丈夫です。テイさんが助けてくれたので」

 

「良かった!流石テイ!我が弟よ!」

 

ココア姉はそう言って僕を撫でて来る。

 

一方、あんこは逃げたティッピーを見せの中で追いかけ回し、とうとう二匹は外へと飛び出していった。

 

「縄張り意識が働いたのか?」

 

「いいえ、あれは恋よ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「恥ずかしがり屋だと思ってたのに、これは本気ね」

 

一目惚れって奴か。

 

てか…………

 

「ティッピーってメスだったんだ」

 

「てっきりオスだと思ってたよ」

 

「ティッピーはメスですよ…………中身は別ですが………」

 

最後にチノが何かを言ったがよく聞こえなかった。

 

千夜さん曰く、あんこはその内戻って来るから大丈夫とのことだし、ティッピーもチノ曰くその内戻って来るとのことで、僕たちは席に着く。

 

席順は僕とココア姉、僕の向かい側にチノが座り、チノの隣がリゼさんだ。

 

「私も抹茶でラテアートを作ってみたんだけど、どうかしら?」

 

「わっどんなの!?」

 

「ココアちゃんたちみたいにかわいいのは描けないんだけど。北斎様に憧れていて……」

 

出されたのはまさかの浮世絵だった。

 

結構うまい………

 

「浮世絵!?」

 

「俳句をたしなんでいて……」

 

今度は『ココアちゃんどうして今日はおさげやきん? 千夜』という文字が描かれているラテアートを出された。

 

「風流だ!!」

 

季語がないっとツッコもうかと思ったが、言わずにそのまま流した。

 

「はい、お品書きよ」

 

やっとお品書きを出され、開くとそこには色んなメニューが書かれてた。

 

『煌めく三宝珠』とか『雪原の赤宝石』とか………

 

「何だ、この漫画の必殺技みたいなメニューは……」

 

メニューの名前にリゼさんは困惑し、チノもその隣で、首を傾げる。

 

大丈夫、僕も良く分からない

 

「わー抹茶パフェもいいしクリームあんみつも白玉ぜんざいも捨てがたいなぁ!」

 

「わかるのか!?」

 

流石はココア姉…………

 

「じゃあ私『黄金の鯱スペシャル』で!」

 

「よく分からないけど『海に映る月と星々』で」

 

「『花の都三つ子の宝石』でお願いします」

 

「僕はココア姉と同じで」

 

「はい。ちょっと待っててね」

 

千夜さんはそう言い残し、厨房の方へと行く。

 

「和服ってお淑やかな感じがしていいね~」

 

「…………」

 

ココア姉がそう言う中、リゼさんはずっと千夜さんの方を見ていた

 

「着てみたいんですか?」

 

「いやっ!そういうわけじゃ……!」

 

「リゼさんなら似合いそうですね」

 

「そ、そうか?」

 

「うん!すっごくカッコいいと思うよ!」

 

…………ココア姉は一体何を想像したんだろう。

 

「テイさん。私も和服、似合うと思いますか?」

 

チノにそう聞かれた。

 

チノの和服か姿か……………

 

チノの髪と同じ水色で兎模様の浴衣、髪は後ろで一つに纏める……

 

「うん、似会うと思うよ」

 

想像してみたけど、結構似合っている。

 

「そ、そうですか………見てみたいですか?」

 

「う~ん……そうだね。機会があったら見て見たいかも」

 

「……そうですか」

 

そう言ってチノは下を俯いた。

 

どうしたんだろう?

 

「なぁ、ココア。テイはその……ああやって女を無意識に口説くのか?」

 

「ううん、テイはただ自分の思ったことを素直に言ってるだけだよ」

 

「それは質が悪いな」

 

ココア姉とリゼさんが何か小声で話してるけど、良く聞こえなかった。

 

「お待ちどうさまー」

 

そこで、千夜さんが注文したメニューを持ってきた。

 

「リゼちゃんは海に映る月と星々ね」

 

「白玉栗ぜんざいだったのか」

 

「チノちゃんは花の都三つ子の宝石ね」

 

「あんみつにお団子がささってます!」

 

「ココアちゃんとテイくんは黄金の鯱スペシャルね」

 

用意されたのは抹茶パフェにたい焼きが乗せられたものだった。

 

鯱=たい焼きってかなり無理がある気がする。

 

でも、おいしそうだしいっか。

 

スプーンで一口掬い口に入れる。

 

うん、抹茶の風味が美味しく感じる甘さ。

 

「あんこは栗羊羹ね」

 

 

いつの間にか戻って来ていたあんこの前に栗羊羹が置かれるが、栗羊羹に目を向けず、ココア姉の鯱スペシャルをじーっと見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「こっちのを食べたいんでしょうか?」

 

「しょうがないな~ちょっとだけだよ。そのかわり後でもふもふさせてね?」

 

ココア姉がパフェを掬い、あんこに向けると、あんこは一目散にココア姉のパフェに走り、食べ出した。

 

「本体まっしぐら!?」

 

千夜さんにあんこは止められるも、ココア姉のパフェは半分ぐらい減っていた。

 

「私のパフェが……」

 

ココア姉が涙目に半分減ったパフェを見つめる。

 

「ココア姉、僕の分けてあげるから」

 

「いいの?ありがとう!」

 

ココア姉の器にパフェを分けてあげると、ココア姉は嬉しそうにする。

 

「ありがとう、テイ!はい、お返しに……あ~ん!」

 

そう言ってスプーンにパフェを一口掬って僕の方に向ける。

 

「あーん……うん、美味しい。じゃ、ココア姉にもお返し」

 

「わーい!あーん……う~ん!甘くて美味しい!」

 

ココア姉が喜んでるし、さっきの出来事は完全に忘れてるな。

 

そう思い、自分のパフェを食べようとすると、チノがこっちを見てるのに気付いた。

 

もしかしてこっちの食べたいのかな?

 

「チノ、もしかしてこっちのも食べたい?」

 

「い、いえ!そんなこと………はい」

 

「じゃ、どーぞ」

 

そう言い、スプーンにパフェを掬い、チノに向ける。

 

「あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

チノは顔を真っ赤にして恐る恐る口にする。

 

「どう?」

 

「と、とても美味しいです……私のもどうぞ」

 

そう言ってチノも団子を差し出して来る。

 

「あ~ん……うん、美味しい。ありがとう」

 

「い、いえ……ただのお礼ですから」

 

その後は、各自自分の注文した物を食べ、今は食後のお茶を飲んでる。

 

「本当に美味しかった」

 

お茶を飲み、そう呟く

 

「うちもこのくらいやらないとダメですね」

 

「それならラビットハウスさんとコラボなんてどうかしら?きっと盛り上がると思うの。コーヒーあんみつとか」

 

コーヒーあんみつか……美味しそうだけど…どうなんだろう?

 

「タオルやトートバッグなんてどうかな?」

 

「私はマグカップが欲しいです」

 

((ん……?料理の方じゃなくて?))

 

コラボってそう言う物だっけ?

 

そう思ったが、取り敢えずここでも言わず、流した。

 

「所でチノちゃん、あんこには触らないの?」

 

「チノはティッピー以外の動物が懐かないらしい」

 

そうなんだ。

 

ティッピーをいつも頭の上に乗せてるからてっきり、動物に懐かれるんだと思ってたけど違うのか。

 

すると、チノが何かを決意したかのように立ち上がり、あんこに近づく。

 

あんこは無反応。

 

恐る恐る手を伸ばし耳に触れる。

 

あんこは無反応。

 

今度は背中を触る。

 

無反応。

 

そのまま抱き上げ、抱きしめる。

 

あんこは無反応。

 

そして、とうとうあんこを頭の上に乗せた。

 

「すごい……!もうこんなに仲良く……!」

 

「頭に乗せなきゃ気がすまないのか?」

 

チノはやりきった表情で満足そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の下宿先が千夜ちゃんの家だったらここでお手伝いさせてもらってたんだろうなー」

 

唐突にココア姉がそう言う。

 

「今からでも来てくれていいのよ。従業員は常時募集中だもね」

 

「それいいな」

 

「同じ喫茶店ですし、すぐに慣れますね」

 

「ココア姉、遊びに来るからね」

 

「じゃあ部屋は空けておくから早速荷物をまとめて来てね」

 

「誰か止めてよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千夜ちゃんまたね~」

 

あの後、ココア姉を慰め、店を出た僕達は帰路についていた。

 

「昔はこのお店とライバルだったんだよね?」

 

「今はそんな事関係ないですけどね」

 

「私たちもお客さんに満足してもらえるように頑張らなきゃね」

 

確かに頑張らないとな………さっきから気になってたんだけど……。

 

「チノ、何時まであんこを頭に乗せとくの?」

 

「えっ………あれ?」

 

「あれ、あんこ!?」

 

「いつのまに!?」

 

気付いてなかったんだ……

 



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十羽 マグカップ

ある日の休日。

 

今日も朝からラビットハウスの開店の為の準備を始める。

 

まぁ、準備と言っても掃除は終わって後は開店時間を待つだけだ。

 

まだ時間もあるので、僕とココア姉はチノの淹れてくれたコーヒーを飲む。

 

ミルクに角砂糖二つを入れ、かき混ぜてから一口飲む。

 

「うん、美味しい」

 

自然と口からそう出る。

 

「だよね!私もチノちゃんに淹れてもらってからハマっちゃって!なんでかな?」

 

「ココアさんのはただのカフェイン中毒です。テイさんはまだ味の違いが分かる分マシですが」

 

チノはそう言って自分のコーヒーを飲む。

 

「お前ら、そろそろ開店だぞ」

 

リゼさんがカウンターから声を掛けて来る。

 

「はーい!」

 

ココア姉が立ち上がり、飲み終えたカップを流し台へと持っていく。

 

「そう言えば、ラビットハウスのカップってシンプルだよね」

 

「シンプルイズベストです」

 

チノはそう言ってテーブルを拭く。

 

「でも、もっといろんなのがあれば皆楽しいと思うよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「この前面白いカップ見つけたんだ。今度買いに行かない?」

 

「へぇ、どんな?」

 

「えっとね、ロウソクがあって、いい匂いがして…」

 

ココア姉、多分それアロマキャンドルだよ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で、今日の学校が終わった後、ココア姉とリゼさんと合流し、僕たちは店へと向かった。

 

 

「わー!かわいいカップがいっぱいー!」

 

ココア姉ははしゃぎ、店の中を歩きだす。

 

「あんまはしゃぐなー」

 

「あうっ!?」

 

リゼさんが言った傍からココア姉はよそ見をし、棚にぶつかる。

 

倒れそうになったココア姉をリゼさんが受け止め、落ちる写真立てをチノが受け止め、僕は落ちかけたカップを二つ片手で支え、落ちるカップ三つをもう片手で持ち手に指を引っ掛ける様にして、受け止めた。

 

流石ココア姉、予想を裏切らない……

 

「あはは……ごめんね……」

 

ココア姉は苦笑いをしながら謝る。

 

すると、チノの持っていた写真立ての写真に気付く。

 

その写真はカップに小さい兎が入っている写真だ。

 

猫鍋ならぬ兎カップかな?

 

「カワイイ!ティッピーでもやれば人気出るんじゃないかな?」

 

「いや、流石にティッピーが入れるカップはないだろ」

 

「ありましたよ」

 

あるの?

 

チノが指さした先には一体何に使うのか分からないほど大きなカップがあった。

 

チノが両手で抱えても若干重そうにしてる大きさだ。

 

試しにティッピーをカップに入れる。

 

「……なんか、思ったのと違う」

 

「……ご飯に見えるな」

 

カップの模様も合わさって、今のティッピーはどんぶりに盛られたご飯にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これなんていいかも……」

 

「あ……」

 

暫く見てると、ココア姉の手が誰かの手と触れ合った。

 

「こんなシチュエーション漫画で見たことあります」

 

「よく恋愛に発展するよな」

 

「ココア姉が恋!?」

 

ココア姉が恋と聞き、色んな想像が頭を過る。

 

「………駄目だよココア姉!そんなの早過ぎる!ましてや同じ女の子の恋人なんて!?」

 

「テイさん!?どうしたんですか!?」

 

急に取り乱した僕にチノが驚く。

 

「ココア姉が女の子の恋人を………僕は認めない……相手が男であっても認めない………ココア姉を誑かす男は皆僕がこの手で…………」

 

「まずいな。テイの奴、色々想像し過ぎて頭がオーバーヒートしてる………」

 

「大丈夫だよ、テイ!お姉ちゃんは結婚なんかしないから!ずっとテイと一緒だよ!」

 

ココア姉はそう言い、僕を抱きしめる。

 

「あれ?僕は何を………?」

 

「リゼさんもしかしてテイさんって……」

 

「ああ、恐らくだがココアと対を成す存在、シスコンだ……」

 

「テイさんがシスコンだなんて………」

 

チノとリゼさんがこそこそ何か話している。

 

何を話してるんだ?

 

てか、ココア姉はなんで僕を抱きしめてるの?

 

「あれ?てかシャロじゃないか」

 

「り、リゼ先輩!?」

 

リゼさんは相手の女性が誰か知ってる人らしく声を上げる。

 

「知合いですか?」

 

「高校の後輩だ。ココアと同い年」

 

「え?リゼちゃんて年上だったの?」

 

「今更!?」

 

「シャロは何か買ったのか?」

 

「いえっ!わ、私は見てるだけで十分なので」

 

「見てるだけ?」

 

「はい!この白くすべらかなフォルム…はぁ〜……」

 

そう言ってその人はカップを指でなぞりながら自分の世界にトリップする。

 

「それは変わった趣味ですなー」

 

ココア姉も同じだと思うよ。

 

「取り敢えず紹介するよ。高校の後輩のシャロだ」

 

「桐間シャロです」

 

「シャロ、こっちは私のバイト先の仲間の」

 

「香風チノです」

 

「保登ココアだよ!で、こっちが私のカワイイ弟の!」

 

「保登テイです」

 

ココア姉に抱きしめられたまま、シャロさんに自己紹介をする。

 

「ところで、御二人は学年が違うのに、どうやって知り合ったんですか?」

 

チノがシャロさんに尋ねると、シャロさんは答えてくれた。

 

「わ、私が暴漢に襲われそうになった所を助けてくれたの」

 

リゼさんが暴漢に襲われそうになっているシャロさんを助ける…………

 

「流石リゼさん、かっこいいですね」

 

「違うぞ、テイ!私はそんなことしてない!本当は」

 

リゼさんの話によると学校の帰り道、シャロさんの前に不良野良兎が居座り、通れなく、そこを通り掛かったリゼさんが追い払ってくれたのがきっかけらしい。

 

「うっうさぎが怖くてわっ悪い!?」

 

悪くないと思うけど。

 

人の苦手な物なんて千差万別だし…………

 

その後は、シャロさんも交え、五人でカップを見て回る。

 

「このティーカップなんてどう?香りがよく広がるの」

 

「カップにも色々あるんですね」

 

「こっちは取っ手のさわり心地が工夫されてるのよ」

 

「なるほどなー」

 

「詳しいんだな」

 

「上品な紅茶を飲むにはティーカップにもこだわらなきゃです!」

 

カップにもこだわるとはなかなか通だな。

 

「うちもコーヒーカップには丈夫で良いものを使ってます」

 

「私のお茶碗は実家から持って来たこだわりの一品だよ」

 

「何張り合ってるんだ」

 

「僕のこだわりのマグカップは、引っ越す時、割れました」

 

「テイ、何故それを今言った……?」

 

なんとなく、流れに乗るべきだと思ったけど、こだわりのマグカップが割れたのは事実だし…………取り敢えず言っておこうと思っただけです。

 

「でもうちの店コーヒーが主だからカップもコーヒー用じゃないとな」

 

「えっ!そうなんですか!?リゼ先輩のバイト先行ってみたかったのに……」

 

本気で残念そうだ。

 

「コーヒー苦手なんですか?」

 

「に、苦いのが嫌いなわけじゃないわよ!た、ただ……」

 

「ただ?」

 

「カフェインを摂りすぎると異常なテンションになるみたいなの。自分じゃよく分からないんだけど」

 

「コーヒー酔い!?」

 

そういう体質の人もいるんだ………

 

「ねぇ、あのカップおしゃれだよ!みんなどうかな?と思ったら高い!」

 

ココア姉が見ていたカップの値段は五万と書いてあった。

 

カップなのに凄く高い…………

 

「アンティーク物はそのくらいするわよ」

 

「あれ、これ……昔、的にして撃ち抜いたやつじゃん」

 

「「「「!?」」」」

 

リゼさんの言葉に、僕たちは驚く。

 

撃ち抜いたにも驚きだが、五万のカップを躊躇いも無く的代わりにするって………

 

そう言えば、リゼさんのお父さんって軍人って言ってたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チノとココア姉は二人でカップ見てるし、リゼさんはシャロさんと話をしてる。

 

暇だな………そうだ。

 

マグカップでも買おう。

 

お気に入りのは捨てちゃったし、この機会に新しいのを買おう。

 

そう考え、僕もカップを見始める。

 

う~ん、良いのが無いな…………

 

「テイさん、何を探してるんですか?」

 

マグカップを探してるとチノが近づいて来る。

 

「チノ。新しいマグカップを買おうと思ってたんだけど、いいのがなくて………」

 

「マグカップですか?………あ!アレなんかどうです?」

 

そう言ってチノが指を差したのは、白いマグカップで側面に兎のイラストの描かれた物だった。

 

あ、これいいかも………

 

直感的にそう感じ、手に取る。

 

取っ手を持つと、まるで昔からずっと使ってる様な感じで手にしっかりと張り付く感じがある。

 

これにしよう。

 

「チノ、このカップすごくいいよ。ありがとう」

 

「いえ、どういたしまして」

 

チノにお礼を言い、レジに持っていく。

 

「お客様、こちらの商品、こちらのマグカップとセットの物になりますが」

 

そう言って店員さんが同じ白いマグカップに今度は黒い兎のイラストが描かれたマグカップを出す。

 

セットか………流石にマグカップは二つもいらないし………別のにするかな…………

 

そう思った時、ふとチノの顔が思い浮かんだ。

 

そうだ、チノが選んでくれたんだし、お礼ってことでチノにプレゼントしよう。

 

「構いません。二つ貰います」

 

「はい。では、こちら1500円になります」

 

財布からお金を出し、商品を貰う。

 

「テイさん、マグカップは買えましたか?」

 

「うん。いいのが買えたよ。はい、チノ」

 

袋からもう片方のマグカップを出し、チノに差し出す。

 

「……これは?」

 

「あのマグカップ、セットの商品だったんだ。チノに上げる」

 

「え?そんなの、悪いですよ……」

 

「選んでくれたお礼。はい」

 

無理矢理渡すような感じでチノにマグカップを押し付ける。

 

「えっと………ありがとうございます」

 

チノはそう言い、マグカップを大切そうに受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

マグカップを見つめてにこにこしてるチノの姿をティッピーとタカヒロが目撃した。



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