眩い光に瞼を照らされ目を覚ます。
『君は何を望む?その力を持って何を為す?決めろ、決めろ、決めろ。願わなければ消えて行け、飛沫のように消えて行け』
理解が、追いつかない。突然の事に困惑しながらも、謎の光が言うように
(望む・・・力・・・?良く分からないが何かを望まなければ自分はこのまま消えていくのか・・・)
「俺は魔法少女リリカルなのはに出てくるデバイスと膨大な魔力を望む!」
(お?)
自分以外の声がした方向を見てみると、少年が一人、少女が一人。先程のは声からして少年だろう。
『承知した、理解した。優秀なデバイスに膨大な魔力、さぁゆけ、旅たて、倖あることを願おう』
そうして少年は溶けるように消えていった。自分も願いを告げた先にああして消えていくのかと思うと。何とも言えない気持ちになってしまう。
「私はCCさくらのカードと杖を」
『承知した、理解した。だが、カードは自分で集めるしかないと告げておく。杖は従者に持たせよう』
「まぁ私はクロウでも無ければさくらでも無いしね、わかったわ」
続くように少女も溶けていき、残すは自分一人となった。だが、お陰で少しは考える時間が取れた。詰まる所何かしらの魔法の力を願えば言い訳だ。
『君が最後だ。願え、願え、何を望む?』
---だったら自分は・・・
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そんな記憶も大分昔の記憶である。あの時同じ空間にいた少年と少女は元気にしているだろうか。自分がそんな事を考えた所で意味が無いのかも知れないが同じ境遇の仲間であるし、少しぐらいは考えても良いだろう。
「とは言っても、同じ世界に生まれたかすら分かんないからなぁ・・・」
少年はリリカルなんちゃらの力を望んだことからその世界であろう、少女の方はCCさくらの世界だろう。でも、まぁ・・・
「自分が望んだ力と違う世界な訳だし、案外ひょっこりと顔を合わせる事になるかもなぁ・・・」
自分が望んだ世界では、こんな大樹は存在しなかったし、覚えている限りでは吸血鬼なんて存在もいなければ科学もここまで発展していなかった。
「魔法はちゃんと本物なのに、なんでだろ」
そう思いながら、掌に視線を向ける。自身の望んだ魔法がカチャカチャとパズルの様に組み合わさっていくのを確認しつつ、前を見る。
目の前に広がるのは夥しい程の人の波。声を荒げながら一直線にこちらを目指して進んでくる彼らの狙いは自分。何故こんな事になったのかと考えるが、どうせ答えは出ないと分かり切っているので諦めて迎え撃つ事にする。
「マテリアルパズル」
ぽつりと呟き、魔法を発動させる。
「おいで、
地面が隆起し、土で出来た強大な人形が複数生まれる。相手する存在はそれを見て少しだけ戸惑うような声を漏らすが、その隙を見逃す必要は無い。
「逃げるなら逃げていいよ、逃げることを恥だとは思わない。だけでそれでも向ってくるならこちらも相応の対応をさせてもらう」
そう告げると、一定数が逃げ去っていく。言ったばかりであるし当然逃がす。後ろから刺すような真似は一切しない。
「だから、向かってくるお前達は何も感じずに、死んでゆけ」
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場所は変わり、日本。
大して苦労するわけでも無く、あの集団は蹴散らした。お陰で向こうの世界では俺の賞金がまた上昇したと聞く。そろそろ自分の首を狙うのをやめてもらいたいところだが、元老院のアホ共は一向に撤回するつもりは無い様子。過去にも特に理由も無く賞金首になる例があるくらいだ、不老不死は指名手配される運命にあるのだろう。伊達にエヴァより長生きしてないし、賞金もとんでもない桁になりつつあるのは些細なことだ。
さて、何故自分が日本にいるのかを説明しておこうと思う。
無駄に長い間生きていると欲しい物や趣味などが薄れていってしまう、そんな中滅多に変わらないのが味覚だと自分は思っている。要するに日本に来た理由は和菓子の食べる事と、最近話題と言う喫茶店を目的に訪れたわけである。
場所は前世では聞いたことの無い場所である「海鳴」なる場所。転生なのか転移なのかは分からないが人智の及ばない現象を体験したので、今更知らない地名があった所で驚く事は無い。
何て事を思いながら海鳴の地を歩くこと数分。目的地である「翠屋」に辿り着いた。コンビニにて買ったタウン誌にランキング一位になっていたお店であり、当然それを見てしまったら行かないという選択肢を選べるわけもない。
ドアベルの軽快な音と共に店内に入るとすぐさま目に入る甘味の数々。洋菓子であるしスイーツと言うべきか?ともあれスイーツの匂いが喫茶店内に漂っており、それだけでその菓子に魅了されてしまう。
「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりですか?それともお持ち帰りでしょうか?」
どれにするべきか悩んでいる所、店主であろう女性に声を掛けられた。
「席が空いているのであれば店内で食べていきたい。それと出来るなら店主のお勧めを見繕って欲しい」
「でしたらカウンター席でもよろしいでしょうか?そちらなら直ぐにご案内する事が出来ます。お勧めとなるとメニューに本日のお勧めメニューとしてコーヒーとケーキのセットがあります。そちらでよろしいですか?」
「ありがとう、一先ずそのセットを頼む。それとケーキは一つでは足りないだろうしあと五、六個見繕って来てもらえるとありがたい」
「かしこまりました、では席に着いてお待ちください」
その声に従い、カウンターの空いている席に陣を取りまだかまだかと商品が届くのを待つ。
待っている間に店内の様子をぐるりと見渡してみる。古すぎず新しすぎずの地域密着型の喫茶店だろうか。奥様方がテーブル席で談笑を繰り広げているのが見え、隣では店員である男性と楽しそうに会話に興じる年配の男性の姿がある。
「お待たせしました、こちら先にコーヒーと本日のお勧めのレアチーズケーキとなっています」
「ありがとう」
「他のケーキですが、お客様がこちらのケーキが無くなり次第お持ちいたしますので」
単純に考えて皿の置き場が無くなるからなんだろうけど、何だか久し振りに優しさに触れた気分に慣れて心が温かくなる。
持って来てくれた店員が去っていくのを見送り、待ってましたと言わんばかりにケーキにフォークを突き刺す。そして一口。
(うん、美味い・・・)
口に含んだ瞬間広がるチーズの柔らかな酸味と、ブルーベリーの甘味が口内を満たす。噛んでみれば生地であるタルトの部分がほろりと崩れ、そのタルトの甘味もチーズに合わさり
(うん、あんま深く考えても僕の語彙力だと無理だ。素直に美味しい物は美味しいって感想で十分)
自身は評論家であるわけでも無いし、美味しいものが食べられればいいのだ。
それからしばらく、運ばれてくるケーキを楽しんでいるとドアベルが鳴った。また誰か人が来たのだろう、自身には関係無い事ではあるがなるべく早めに食べて席を空けるよしよう。そう考え残っているケーキを食べようとした時、世界が変わった。
体を通り抜けるような何かが店の中に広がり、気が付けば自分と一人の女性以外誰も姿が見えなくなっていた。
「で、わざわざ結界まで貼ったということは僕に用事があるんだろ?」
「話が早いわ。貴方の持つロストロギアを私に寄越しなさい、そうすれば手荒な真似はしないわ」
そう言って女性は何か杖らしき物をこちらに向けてきた。女性の内包する魔力から鑑みるにここで争うような真似をすれば最悪の結果として結界を破り店内に被害を残す可能性もある。
「マザー」
だからこそ、魔法を行使する。
空間湾曲魔法であるマザー。それは文字通り空間を湾曲させ、別に空間と繋げる事により移動を可能とする魔法である。例えばこうして
「な!?」
先程の結界に埋め尽くされた喫茶店から、以前賊を蹴散らした大樹が見える森の中に移動した。点と点を繋ぐだけの簡単な魔法であるが、それだけの単純な魔法であるが故に効果は凄まじい。
「ここなら周りの被害は後で知った人が何とかしてくれる。で、用件は何?あんま穏便に済むような話じゃなさそうだけど」
「貴方が持っているロストロギアを私に寄越しなさい。それさえあれば私の悲願は達成されるのよ!」
目の前の女性が叫ぶが理解が追いつかない。そもそもロストロギアなんてものを僕は所持していないし、行き成りそんな事を言われても困る。
どうしたものかと悩んでいると、女性の周囲に光の玉が数個浮かび、そこから魔力を帯びた何かが射出された。恐らくは自分が知っている物とは違う形態の魔法。
「手荒な真似をしないとか言う割に行き成り実力行使ね。野蛮だ事」
「煩い!私は、何としてもアリシアを!」
彼女に成し遂げたい悲願があるのかもしれないが、だからと言って簡単にやられてやるつもりもない。自身は魔法を行使する事なく、展開された光球から射出された魔法の角度、そして速度から計算し、自分に当たらない場所に体を動かす。
「落ち着かないと僕は話を聞くことも出来ないんだけどね、女性に手を挙げるのはあまり好きじゃないけど少し落ち着いてもらうね」
そう告げると同時に、こちらも魔法を行使する
「マテリアルパズル」
思い浮かぶは光の塊、光を集め自身の力に変える極上の力
「アデルバ」
さて、彼女は止まってくれるかな?
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