役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜 (トマホーク)
しおりを挟む

本編
悪夢のような現実


ついこの間まで私はミリタリーとアニメが好きな普通のサラリーマン(25歳・独身)でした。

 

……何故“でした”という過去形になっているのかと言いますと。

 

映画館で嵌まりに嵌まったガルパンの劇場版を鑑賞中(10回目)に意識を失い、気が付けば赤ん坊になっていたからです。

 

どうしてこうなった?

 

エンドロールが終わった次の瞬間に眠りに落ちるように意識を失って、気が付いたら赤ん坊。

 

なんの冗談なんでしょうか?事実は小説よりも奇なりとは言いますが奇が過ぎます。

 

まぁとにかく。

 

確かな事は私がというサラリーマンから辻廉太という名の男の子に生まれ変わったという事実と私が生まれた世界には戦車道という武芸が存在した事です。

 

そう。つまり……私はガルパンの世界に転生してしまったようです。

 

正直言ってワクワクが止まりません。

 

生で原作キャラを見る事が出来る上に、あまつさえ彼女にする事が出来るかもしれない。

 

しかも、自分の頑張り次第ではハーレムを築く事さえも出来るかもしれない。

 

――と、傲慢な考えを抱いたのがいけなかったのでしょうか。

 

私に定められた運命は残酷なモノでした。

 

まず第1に少なく見積もっても原作開始まで数十年の時間がありました。

 

自分のいる年代を理解したのは私が15歳の時。

 

あまりに早く行動を開始して親に化け物扱いをされないように擬態を徐々に解き始めた頃です。

 

戦車道が女性の武芸という風潮に満ち満ちていた当時、男の私が戦車道に興味を示すのも憚られたため、こっそりとビデオに録画した戦車道大会の映像を深夜親に隠れて見ていたら……西住“しほ”さんが……黒森峰女学園の隊長として八面六臂のご活躍をされておりました。

 

この時点で私は全てを悟りました。

 

原作開始時点で私……おじさんじゃん……高校の原作キャラに手を出したら一発アウトじゃん……青少年保護育成条例違反じゃん……と。

 

いえ、そもそもその前に前の人生で25歳・独身(童貞)だった私には彼女を作るスキルなんて無かったです。

 

ハーレム?女の子に囲まれたら緊張で硬直してしまう私には無理です。

 

そうして現実の苛酷さを思い知り、うちひしがれていた私に追い討ちを掛けるように突き付けられた更なる現実。

 

それは『辻廉太』という人物に転生しているという事。

 

辻廉太――……この名を聞いて分かる人(ガルパンおじさん)は分かるでしょう。

 

そう。あの役(悪)人です。

 

七三分けの髪型と黒いセルフレームのメガネにスーツ。

 

そんな典型的なお役人姿でガルパンに登場し大洗女子学園――学園艦を廃艦に追い込もうとした張本人。

 

ガルパン唯一の悪役と言ってもいい人物です。

 

つまり原作キャラ達とムフフなフラグなど立てれる訳が無かったんです。

 

……神様は私をどうしたいのでしょう。

 

ガルパンが好きな私をガルパン世界に放り込んだのに、原作キャラに試練(絶望)を与える配役を任せるなんて。

 

何ですか?私が何かしたんですか?神様に対して何かしたんですか?

 

畜生めぇぇぇぇぇぇーーー!!!!

 

こうなったら自棄です!!役人なんかになってたまるもんですか!!

 

私はひっそりとみぽりんの活躍を眺めるんです!!

 

大洗のⅣ号戦車や38(t)戦車、駆逐戦車ヘッツァー、Ⅲ号突撃砲F型、八九式中戦車甲型、M3中戦車LEE、B1 bis、三式中戦車、ポルシェティーガーの獅子奮迅の戦いを応援するんです!!

 

聖グロリアーナ女学院やサンダース大学付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、黒森峰女学園、そしてエキシビションマッチや大学強化チームとの戦いを固唾を飲んで見守るんです!!

 

……等と、あらぶった時期もありました。

 

結論から言いましょう。世界の修正力はハンパなかったです。

 

ワンチャンあるかもと、しほさんに手を出そうとすれば死がちらつく事件事故に遭い。

 

更には大学を卒業したら大洗にある中小企業に入社する予定だったのが、世界の修正力で文部科学省に入る事になってました(試験に行った記憶が無いのに、試験を受けた記憶があるというホラー)

 

しかも、ご丁寧に文部科学省学園艦教育局。

 

ふ、ふふっ、ふふふふふふ……いいでしょう……どうあっても私に悪役をやれというのでしょう?

 

辻廉太として原作通りに事を運べというのでしょう?

 

えぇ、やってやりましょう。

 

やってやりますよ。

 

ですが、ただで悪役をやるとは思わない事です。

 

原作通りに話を進めはしても、全身全霊を賭けて彼女達を支援してやります!!

 

見ていなさい、神様!!

 

彼女達は私が守ってみせます!!

 

……さて。それじゃあまずは原作開始前の大洗女子学園がⅣ号戦車以外を――それこそ原作で活躍する戦車達を含めて全部売却してしまったという難案件をどうしましょうか。

 

…………神様、原作通りに物語を進ませるんじゃなかったんですか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗躍

やりました。

 

えぇ、やりましたとも。

 

やってやりましたとも。

 

公文書偽造スレスレの手段ですよ。

 

だってしょうがないじゃないですか、学園艦教育局に残されている記録によると大洗にはⅣ号戦車しか残っていないのですから。

 

このままだと原作が開始出来ない。

 

というか、みほちゃん達が戦車道を始められない。

 

仮に始まったとしてもⅣ号戦車だけで戦えってどんな無理ゲー。

 

だから、私の一存で文科省の倉庫に眠っていた戦車達を勝手に原作通りの場所に隠しました。

 

数年掛かりで予備パーツ一式と共に。

 

これで自動車部の皆さんが少しでも楽になることでしょう。

 

あぁ、そうそう。役職上の都合で西住しほさんと島田流の島田千代さん。

 

お役所関係のつながりで蝶野亜美さんとお知り合いになれました。

 

下心を抱かなければ接近しても大丈夫みたいです。

 

最もしほさんにはティーガーIで轢かれそうになった上にしほさんの勘違いが原因で頬を張られ、千代さんと蝶野さんには頭からお茶をぶっかけられましたがね。

 

なんでしょう。

 

原作キャラと関わると不幸な出来事ばっかり起こるんですけど。

 

これは遠回しに原作キャラとはムフフな関係になれないという暗示ですかね。

 

ガッデムッ!!

 

まぁ、そんな感じで学園艦教育局にいる私はあれやこれやと原作のために働いています。

 

父親が文部科学省のお偉いさんなため、まだヒラなのに色んな人から接待とかされてもう次期局長とか言われたりしますけど。

 

そのお陰で前世とは隔絶したお仕事環境です。

 

……裏では業者との癒着が酷くて目を背けたくなるような惨状が広がっていますけど。

 

 

 

何故でしょう。

 

完全に趣……いやいや、真面目に仕事の役に立てばと各学園艦に遊……ゴホン。各学園艦の視察を行って、そのついでに戦車道を観まくっていただけなのに気が付いたら昇進して遂に局長になりました。

 

端から見たら各学園艦に訪れて現地調査(意味深)をしている私が勤勉に見えたんですかね?

 

あと地味に文部科学省の倉庫に眠っていた戦車達(大洗に隠した以外の戦車達)を趣味で清掃・整備していたのが評価されていました。

 

何でも人の見ていない所まで頑張る好青年。というのが私の評価だそうです。

 

まぁ、何だっていいですが。

 

肝心の学園艦の視察では原作キャラ達のまだ幼い姿が見れて楽しかったです。

 

ちなみに……カチューシャ君は小中学生の頃から原作のカチューシャ君でした(笑)

 

ついでに言うとしほさんや千代さんとお知り合いになっていたお陰でまほちゃんやみほちゃん、愛里寿君とかは彼女達がロリータな頃からお知り合いになっています。

 

彼女達と初めて顔を合わせた時には気持ち悪いぐらいに弛みそうになる顔を堪えるので必死でしたよ。

 

役人仕事で鍛えられた微笑みスキルで耐えきりましたが。

 

他にも原作で大学選抜チームの中隊長を務めるメグミ君、アズミ君、ルミ君の三姉妹とお知り合いになりました。

 

……なんかすっごい慕われていますけど。

 

何かしましたかね?記憶にないですけど。

 

まぁ、何はともあれそろそろ原作開始です。

 

というか、黒森峰の10連覇を賭けた戦いが今始まろうとしています。

 

さて、そろそろ本格的に動きますか。




次話を書くとしたら、劇場版の後日談OVAを見てテンションが天元突破してからになります。

時間ないので
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

理想のために

更新が空くと言ったな。

あれは嘘だ。

……いや、まぁ、書く暇が無かったのは事実なんですが、思っていたよりも高評価を頂いたのが嬉しくて書いちゃいました。
(´∀`)

お昼休みの時間を潰して。
(ご飯食べてない(T-T))

そんな訳で、作りが荒いのはご愛敬という事でお許しを。


『黒森峰女学園のフラッグ車、行動不能!!よってプラウダ高校の勝利!!』

 

……さて。原作通りの展開となった事でプラウダが黒森峰に勝利し、黒森峰が10連覇を逃しました。

 

ここからようやく本格的に私が原作に介入するのですが……。

 

その前に1つ言って良いですか?

 

しほさん、超怖ぇえッ!!

 

今現在大会関係者用の観覧席にいるのですが、みほちゃんの行動を見ていたしほさんが修羅みたいなドス黒いオーラを放っております。

 

ヤバイです……怒気で空間歪んでます……。

 

しかも、しほさんの背後にスタンドみたいなティーガーIが現れて主砲をブンブンと振り回しています。

 

この人スタンド使いなんですかね?

 

そんな感じだから周りの人も何て声を掛けたらいいか悩んで――あ、この人達声を掛ける気ないです。

 

みんな腰が引けていますし、そっぽ向いて知らん顔してます。触らぬ神に祟り無しみたいな感じで。

 

まぁ、しょうがないですよね。近付いたらどこからともなく日本刀を取り出して斬り掛かってきそうな空気を漂わせていますし。

 

無表情なのが、また怖いッ!!

 

しかし、うわぁ……こんな状況でしほさんに声を掛けなきゃいけないなんて……地獄ですね。

 

原作への介入を目論む私の気概がゴリゴリと削られてゆく……。

 

ですが致し方ありません。

 

原作キャラという要素を抜きにしても、ちっちゃい頃から見守ってきた姪のような存在を見捨てる訳にもいきませんし。

 

この後どうなるか分かっているだけになおさら。

 

はぁ……覚悟を決めますかね。

 

「い、いやぁ〜今回は本当に残念でしたね」

 

……駄目ですね。

 

覚悟を決めたクセに声が震えてしまっています。

 

「……」

 

あ、しほさんが無言のままこっち向い――死ぬ。

 

殺される。

 

しほさんの眼光で死ねる。

 

そんな鬼のような恐ろしい目で見ないで下さい。お願いです。

 

「……今回はお恥ずかしい所をお見せしてしまいました。西住流の教えに反するあの子の身勝――」

 

「しかしながら、やはり西住師範の娘さんなだけはあります。仲間の危機に我が身を省みず助けに向かうとは。献身的で全くもって素晴らしいとしか言いようがありません。そうでしょう?皆様方」

 

「そうですな」

 

「えぇ、本当に。素晴らしい教育をなされていますわ。さすが西住流」

 

「ッ、……ありがとうございます」

 

フハハハッ!!言わせませんよ!!

 

根回しは既に万全!!

 

学園艦教育局長である私や教育関係の重鎮共から、みほちゃんの行動を称賛されれば表立って彼女を責める訳にも行きませんよねぇ。

 

そして、これで終わりだと思わない事です。

 

何だかんだと理由を付けてみほちゃん宛にドでかい賞状を送り付けてやりますよ。

 

加えて新聞社にも圧力を掛けてみほちゃんの行動を賛美する記事を書かせてやります。

 

あんまりやり過ぎると原作が破綻してしまいますから、こんな事しか出来ませんが……これでみほちゃんに対する風当たりは史実よりマシになるでしょう。

 

権力万歳。

 

「では、私は先に失礼させて頂きます」

 

しほさんがご退場。

 

ふぅ。とまぁ……こんな感じでとりあえず原作介入の第一段階は完了ですかね。

 

「(謀りましたね?)」

 

しほさん、しほさん。

 

すれ違い様に耳元でボソッと呟くのは止めてもらえませんかね?

 

……ちょっとチビりました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏話

オリキャラ出るよ。

作りが荒いのはご愛敬!!

……メインの作品書かなきゃ(滝汗)


むぅ……。

 

原作通りに話が進んでくれないともちろん困るのですが……やっぱりいい気分ではありませんね。

 

本日、みほちゃんが黒森峰女学園から大洗女子学園に転校しました。

 

黒森峰に忍ばせていた密偵によれば、私の謀略の成果か生徒間での軋轢はそれほど見受けられないとのことでしたが……。

 

という事はつまり、しほさんに叱責されて落ち込んでいるという事です。

 

まぁ、しほさんの立場的にも性格的にも叱責が免れないのは分かっていましたけど。

 

なので、みほちゃんに少しでも元気になってもらおうと応援メッセージを綴ったメールを送っておきました。

 

それで返信を待っていたらこんなメールが届きました。

 

[from.常夫]

みほが……みほが家出を……僕はどうしたらいいんだ。

 

野郎からのメールはどうでもいいんですけど……。

 

とりあえず返信しときましょうか。

 

[from.廉太]

犬と一緒に探しに行けば?

 

[from.常夫]

真面目に聞いてくれ!!娘の一大事なんだぞ!!

 

うわ……3秒で返信してきました。

 

[from.廉太]

分かってるよ、この大バカ者め。

というか、家出のレベルじゃないよね?

出奔レベルだよね(笑)

 

[from.常夫]

あああああああああああああッ!!!!!!

僕はどうしたらいいんだ!!!!

というか何故みほは父親の僕に一言も相談してくれなかったんだ!!!!

 

[from.廉太]

嫌われているんじゃない?

ざまぁww

 

[from.廉太]

あ、ちなみにみほちゃんね。

私には色々相談してくれてました。

 

[from.常夫]

は?

何で?

 

[from.廉太]

これが信頼の差というものか……。

悲しいけど現実なのよね、これ。

 

[from.常夫]

あああああああああああああッッ!!!!

みほおおおおおおおおおッッ!!

何故なんだーーーー!!

何故父さんに言ってくれないんだーーーー!!!!

 

[from.廉太]

だから、お前が頼りにならないからだろ?

ちなみにみほちゃんがしほさんに叱責されていた時、お前はどこに居たんだよ?

 

[from.常夫]

……地下牢。

しほさんに閉じ込められてた。

 

[from.廉太]

役立たずが、ペッ。

 

[from.常夫]

しょうがないだろーー!!

僕がしほさんに勝てる訳ないんだからさーー!!

僕だってさ、みほの為に動きたかったよ!!

けどさ、両手両足を縛られて地下牢に放り込まれたらどうしようもないじゃないか!!

 

[from.廉太]

役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず。

 

[from.廉太]

あ、そうそう。

みほちゃんの希望を聞いて転校先の学園をピックアップしたり、転校手続きのあれやこれやをやってあげたらみほちゃんすっごく喜んでた(笑)

 

[from.常夫]

え?

ピックアップした学園?

なにそれ?

 

[from.廉太]

みほちゃんの転校を手助けしたのはこの私だ(ドヤァ)

 

[from.常夫]

貴様かぁーーーー!!みほをたぶらかしたのはーーーー!!!!

くぁwせdrftgyふじこlp!!!!

 

……常夫がバグってしまったようなので暫く放っておきましょう。

 

しかし彼とは長い付き合いなので、ついつい弄り過ぎてしまいますね。

 

戦車道を通して知り合ったミリオタ仲間で気心を知っているからでしょうか。

 

あぁ、そう言えば常夫としほさんをくっ付けたのも私でしたね。

 

しほさんが常夫に一目惚れしたのを知った私が原作の為に2人をくっ付けようと頑張って。

 

2人の結婚を反対していた西住かほさん(西住流戦車道の家元であり、しほさんのお母さん・みほちゃんのお祖母さん)の説得をやることになり。

 

何故か、かほさんに西住流戦車道の教えを叩き込まれ。

 

そして私が西住流戦車道を体得すると、しほさんと常夫の結婚が許されたという。

 

……改めて思い返すと……なんなんですかね、これ。

 

まぁ、こんな事があったからこそ西住家とはかなり親しい付き合いをさせて頂いていますけど。

 

あと、何気にかほさんに気に入られました。

 

それらが唯一の戦果?と言えるのでしょうかね。

 

あ、みほちゃんからのメールが来ました。

 

[from.みほ]

メール、ありがとうございます。

色々と助けて頂いたのに、気にも掛けて頂いて。

これからは心機一転、大洗で頑張ってみます。

 

……本当に出来た子ですねぇ。




神よ、私に時間を下さい……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作への道筋

しれっと投稿(;´д`)


あぁ……遂にやって来てしまいました。

 

大洗女子学園に、引いては角谷杏ちゃん達に廃校を伝える時が。

 

戦車道の世界大会開催のため(本音は世界大会を開催する事で発生する利益のため)に経営が厳しくなりつつある大洗女子学園を潰して必要な資金や資材を確保しようとする上の考えも分からなくはないですが……。

 

何故、上の人達は廃校の手続きを裏で勝手に進めてしまっているんですかね?

 

学園艦教育局長という役職の私にも話を通さずに。

 

いきなり廃校の決定を伝える書類が回ってきた時には思わず椅子からひっくり返りましたよ。

 

えぇ、そうなんです。

 

この時点で文部科学省は大洗女子学園を廃校にする事を既に決定しております。

 

つまりですね、原作で私が大洗女子学園を執拗に廃校にしようとしていたのにはそういう裏があったんですよ。

 

もう廃校手続きやら学園艦解体を専門とする業者(癒着でベッタベタ)への依頼やらの関係で大洗女子学園を廃校にしないと実質的な責任者――私が廃校を決めた訳でもないのに知らぬ間に私が発起人という事にされていますし、功罪……主に罪の部分だけ私が背負わねばなりません――である私の首がブッツリ飛ぶんですよね。

 

逆に大洗女子学園を上手く廃校にすれば、一気にかなりの昇進が出来るという状態。

 

そりゃあ原作の私が色々と無茶をやる訳です。

 

……はぁぁ、気が重い。

 

まぁ、しょうがないですね。

 

これも原作のため(運命)だと思って私の役割を果たしますか。

 

「失礼します、局長。彼女達をお連れしました」

 

「通して下さい」

 

あぁ、ちなみに今部屋の外から声を掛けてくれたのは高島レミ君。

 

ポニーテールの髪型にリボンを付けている若い女性です。

 

原作では戦車道大会の副審を務めている女性なのですが……何がどうなったのか私の部下になっています。

 

非常に有能で部下としては最高なのですが……なんというか……頭が固くて、いらんことしいなんですよね。

 

とまぁ、余談はさておき。

 

ここへ何故呼ばれたのかを理解していない杏ちゃんや小山柚子ちゃん、河嶋桃ちゃんに大洗女子学園が廃校になる旨を通達しますか。

 

「廃校!?」

 

「学園艦は維持費も運営費もかかりますので、全体数を見直し統廃合する事に決定しました。特に成果の無い学校から廃止します」

 

うごぉ……クールフェイスを保つので必死です。

 

そして胃が痛い。

 

「つまり私達の学校が無くなるということですか!?」

 

「納得出来ない!!」

 

「今納得出来なかったとしても今年度中に納得して頂ければこちらとしては結構です」

 

我ながら酷い奴ですね。

 

「じゃあ、来年度には……」

 

「はい」

 

まぁ、なんやかんやあって廃校にはならないんですけどね。

 

というか、させません。

 

「急すぎるッ!!」

 

「大洗女子学園は近年生徒数も減少していますし、目立った活動もありません。昔は戦車道が盛んだったようですが……」

 

さぁ、杏ちゃんよ。

 

このセリフに食い付くのです。

 

「ほぁ……じゃあ、戦車道やろっか」

 

「「えぇっ!?」」

 

「戦車道をですか!?」

 

「まさか、優勝校を廃校にはしないよねぇ〜」

 

かかった!!

 

「万が一そのような事があれば、廃校の件は一考の余地があります。まぁ、無理な話でしょうが」

 

「それはやってみないと分からないんじゃないかなぁ?とりあえずウチは戦車道やるから。そう言う事で、じゃ。行くよ、2人――」

 

「少しお待ちを。――戦車道をやるというのであればこちらの書類をどうぞ」

 

「……なにこれ?」

 

「戦車道を行う事で発生する助成金等の事が記された書類とそれらを申請する書類です。これは貴女方の役に立つでしょう」

 

おーい、何でそんな親切を?見たいな怪訝な顔で私を見ないでくれませんかね。

 

「ん、そういう事ならありがたく頂いとくよ。じゃあ、そういう事で〜」

 

「えぇ、影ながら応援していますよ」

 

だから、そんな顔で見ないで。

 

……あぁ、さっきまでとギャップが有りすぎて困惑しているんですね。

 

いいじゃないですか、頑張ろうとする高校生を応援したって。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏工作

さて、杏ちゃん達も帰った事ですし。

 

彼女達の為に根回しでもしますか。

 

となれば電話、電話。

 

「――もしもし?文部科学省学園艦教育局長の辻廉太と申しますが、そちらの教導団戦車教導隊に所属している蝶野亜美1等陸尉にお取り継ぎ願えませでしょうか?はい、はい、そうです。お願い致します」

 

ふぅ……いつも思う事なんですが、自分の役職名が長いと電話を掛けたり受けたりする時が大変です。

 

『もしもし?蝶野ですが』

 

「あ、お久し振りです。蝶野1尉。いきなり電話をお掛けしてすみません」

 

『いえ、構いません。それで私に何のご用でしょうか?』

 

「はい、実は蝶野1尉に折り入ってお願いがありまして」

 

『お願い……ですか?』

 

「えぇ、実は大洗女子学園において近く戦車道が復活する事になりまして……恐らくは後程大洗女子学園から戦車道の教官派遣の要請がそちらに行くと思うのですが……その際、蝶野1尉に教官をしていただけたらなと思いまして」

 

『そういう事でしたら構いませんよ。しかし……私の本職は教官ではありませんが、宜しいんですか?』

 

「えぇ、構いません。私の個人的な考えで大洗の子供達を蝶野1尉に見ていただきたいと考えているだけですので」

 

『まぁ。ずいぶんと私の事をかっていただいているようで嬉しいですわ』

 

「えぇ、それはもう。一番頼りにしていますから」

 

うーん……かっているというよりは原作のためなんですがね。

 

それは言わぬが仏でしょうか?

 

いや、まぁ……アニメだとかなりの破天荒かつ、おおざっぱキャラな彼女でしたけどアニメの公式ノベライズでだと生徒に個別指導を行っている補足描写とかがありましたし。

 

実際はしっかりしている方なので、教官としても問題は無いんですけど。

 

ふぅ……それにしても本来ならこんな風に私が根回しをしなくても杏ちゃんが蝶野1尉を教官として招くんでしょうけど、この世界……私という異物のせいかたまに原作から解離する所があるんですよね。厄介な事に。

 

だからこうして極力原作通りに進むように根回しをしておかないといけないという。

 

前世で読んでいたガルパンの二次創作の主人公達のように臨機応変に対応出来たらいいんですが、私には特別な能力とか無いですし……立場が立場なので万が一の時に表だって動けないですし。

 

『そ、そんな……一番信頼しているだなんて、ご冗談が上手なんですから。でも……冗談だとしても辻局長に言われると嬉しくて照れてしまいますわ』

 

……ぬ?

 

え、私さっき何か言いました!?

 

無意識だったんですけど!?

 

ちょ、タンマ!!何て言ったんです!?

 

「あ……えっ、その……すみません、私さっき何て――」

 

『そう言えば少し気になったのですが。辻局長は大洗の子達に指導をなさらないのですか?辻局長は西住流家元の西住かほさんから師範代の位を授けられていたはずでしたよね?』

 

チクショウ!!聞き返しそびれた!!

 

そして私の黒歴史というか思い出したくない記憶をほじくり返さないで!!

 

「い、いえ、少し訳ありで……私が指導する事は出来ないんですよ」

 

『そうなんですか……――あ、すみません。上官から呼び出しが』

 

「あ、はい」

 

またやってしまった……。

 

無意識の内に何か言ってしまう癖があるんですよね、私。

 

『先程の件は了解しましたので連絡が来次第、私が対応させて頂きます』

 

「え、えぇ。では、お願い――」

 

『あの!!それと最後に!!』

 

「はい!?な、なんでしょうか?」

 

『よろしければ今度、お食事でもご一緒にいかがですか?』

 

「……アッハイ、ゼヒトモ」

 

断れないですよね!?

 

頼みを聞いてもらっておいて、相手の頼みだけ断るとか出来ないですよね!?

 

あんな美人と2人っきりで食事とか天国を通り越して地獄だから断りたいのに!!

 

それに彼女と2人でいると不幸な事ばっかり起こるから!!

 

何故だ!!私には下心なんか無いのに!!

 

『では、また。お食事の件楽しみにしていますね』

 

……根回しだけのつもりがエライ事になってしまいました。

 

「んふふ〜♪」

 

「あれ、蝶野1尉ご機嫌ですね。何か良いことあったんですか?」

 

「んふ。えぇ、私のアタックを避けまくっていた的(男)を、ようやく撃破までもっていけそうなの」

 

「あぁ、例の……少し前から撃破率が120パーセントじゃなくなったって嘆いていましたよね」

 

「そう。だからもう逃がすつもりは無いわ。必ず撃破してやるんだから」

 

「アハハッ、手加減してあげてくださいね」

 

「もちろん(全力で行くわ)よ」




主人公、逃げてぇえぇぇぇ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身内に潜む伏兵

思い付きで始めた2000文字に満たぬ1発ネタの作品が、ほぼ隔日更新の1万文字オーバーの連載作品になるとは誰が予想していただろうか
(;´д`)

……実はもうそろそろ打ち切ろうと考えていたんですが。

継続を望んでくれている方々がいらっしゃる様なので、完結まで頑張る事にしました。
(´∀`)

モチベーションが上がる感想もかなり頂いていますし。

という訳で今後とも宜しくお願いします。
m(__)m


ヤバいです。ヤバすぎます。

 

断りきれずにOKしてしまいましたが、蝶野1尉と2人で食事とかどうすればいいんでしょうか。

 

……うん。蝶野1尉には申し訳ないですけど、適当な理由をつけて丁重にお断りさせて頂きますかね。

 

そうすると……お詫びの品として上物の日本酒辺りを準備しておかねば。

 

「局長、お茶です」

 

「ありがとうございます」

 

はぁ……お茶おいし。

 

さて、後もうお一方に根回しの電話をしておかないといけませんね。

 

「……局長、つかぬことをお聞きしますが。先程の電話のお相手は女性ですか?」

 

「えぇ、ちょっとした知り合いの――って、え?高島君?」

 

何でそんなに不機嫌なオーラを漂わせているんですか?

 

私が何かしました?

 

お茶のお礼は言いましたよね?

 

……あ。もしや、あれですか。

 

「お知り合い……具体的にはどういったご関係で?」

 

「ご関係と言われても……仕事と戦車道の関係で知り合った人ですが」

 

「そうですか、失礼しました。ずいぶんと親しいご様子でしたので、つい気になってしまいました」

 

「いえ、別に構いませんけど」

 

そうでした、そうでした。

 

すっかり忘れていましたが高島君は私が女性の方と電話をしていると何故か不機嫌になるんでした。

 

まぁ、電話の相手(女性)の色々なお誘いを断るためにお詫びの品を手配する前準備をしてもらっていますからね。

 

それが面倒なんでしょう。

 

でも、前準備(お詫びの品の選定)を高島君にしてもらわないと何を送ればいいのか分からないんですよね。

 

私には物選びのセンスがないので。

 

その点、蝶野1尉はお酒好きなのでお詫びの品を迷う事が無くて助かります。

 

「局長、もう1つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、構いませんよ。何ですか?」

 

「既に廃校となる事が決定している大洗女子学園の生徒に期待を持たせるような事を言ったり、役に立つ書類を渡したり、あまつさえ戦車道の教官を裏で手配したりしているようですが、それは何故なのですか?確約した訳では無いとは言え、もし彼女達が戦車道の大会で優勝してしまい世論を味方に付けて廃校撤回の履行を求めて来た場合、局長のお立場が危うくなってしまうと思うのですが」

 

「その点でしたら大丈夫でしょう。戦車道は素人が頑張って何とかなるような軽々しい武芸ではありませんから」

 

ま、それでも優勝しちゃうんですけどね。

 

大洗、引いてはみほちゃん達は。

 

「だから大丈夫だと?」

 

「大丈夫とは言い切れませんよ。彼女達の想いが本物であれば万に1つの可能性はあります」

 

「でしたらなおさら何故、彼女達を裏から助けるような真似を?助ければ助けただけ局長のお立場が危うくなってしまうだけでは?」

 

「まぁ、私も教育者の端くれですからね。子供達が頑張ろうとしている姿を見たらついつい応援してあげたくなるんですよ」

 

「しかし……それでは最悪の場合、局長が……」

 

「えぇ、私の首が飛ぶでしょうね。でもそれでいいじゃないですか。そうなったとしたらつまり彼女達の努力と熱意の勝利。彼女達が成長したという事。教育者としては喜ぶべき事に相違無いのですから」

 

とは言ったものの。

 

なんにせよ1回は約束を反故にしないといけないんですよね。

 

劇場版のために。

 

はぁ……何が悲しくて大洗の子達を悲しみのどん底に突き落とさねばいけないんでしょうか。

 

あ〜気が重い。

 

……いっそのこと大洗が戦車道大会に優勝した時点で私の首を賭けて廃校を撤回してやりましょうかね。

 

あ、ダメです。

 

そんな事したら世界の修正力が来ます。

 

それにみほちゃんの更なる成長の機会やら、その他諸々の出来事を潰してしまいます。

 

はぁ……つまり結局の所、私はどうしたって悪役を果たさねばならないんですよね。

 

あ〜どうしましょう。

 

この先話が進んで行った時に、もしもみほちゃんにおじさんなんか大っ嫌いなんて言われでもしたら。

 

立ち直れません。軽く死ねます。

 

「――いけません!!」

 

ぬおっ!?た、高島君!?

 

いきなり大声を上げたりしてどうしたんですか!?

 

「あんな目立った実績もない学園のために局長を失う訳には!!」

 

高島君、高島君。

 

1回落ち着きましょう。

 

お願いだから1回落ち着きましょう。

 

「この先の教育界を背負っていかれる局長をこんな所で失う訳にはいかないんです!!」

 

え?……ちょっと待って。

 

とんでもない過大評価されとるぅー!!

 

「数少ない休日も各学園艦の視察に当てて学園艦における教育の充実を図ったり!!」

 

……高島君、それ休日です。

 

完全に趣味で学園艦を見て回っているんです。

 

ちょっとぐらいは仕事もやってますけど基本的には休日です。

 

「マイナーになりつつある戦車道を盛り上げようと、文科省の倉庫に眠っていた戦車達を有志に貸し出して有志に指導までつけた上に、ボロボロになって返って来た戦車を業務時間外に1人で修理、整備したり!!」

 

それも趣味です……半分。

 

いやぁ……当然の事ながら私には自動車部の皆さんみたいな卓越した技術が無いので1両直すのに軽く1〜2ヶ月ぐらい掛かるんですよね。

 

それがまた大変で大変で。

 

よく両手が血豆だらけになったり、全身が筋肉痛になったりしてます。

 

「そんな風に全力で教育に向き合っている局長を失う訳にはいかないんです!!」

 

なんか高島君の中でだとヤバい位にいい人になってますね、私。

 

「それに……それにこのままじゃ局長が報われません!!生徒のために手を尽くしているのに生徒から恨まれるなんて!!」

 

「高島君……」

 

やめてー!!

 

そんな実はいい人なのに無理矢理悪役を演じている人みたいな持ち上げ方はやめてー!!

 

自分で言うのもなんですけど、中身は結構ゲスいんですから!!

 

「……私、決めました!!局長には申し訳ないですけど大洗女子学園は私が廃校にしてみせます!!」

 

……ストーップ!!ナニ言ってんの高島君!?

 

「絶対に局長をこんな事で失ったりはしませんから!!」

 

「た、高島君!?ちょ、どこへ!?」

 

え、は?高島君がどっか行っちゃいました。

 

……何これ、部下が敵になったんですけど。

 

どうしましょう、これ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪漢

突然ですが。

 

私は今大洗女子学園の学園艦に乗り込んでいます。

 

具体的には大洗女子学園の戦車倉庫――アニメでもよく登場した赤レンガ倉庫が一望出来る山の中です。

 

――おっ、始まった!!

 

うひょぉぉおぉぉぉぉッ!!最高だぜぇえぇぇぇぇッ!!

 

みほちゃん達がずぶ濡れになりながら戦車を洗っています!!

 

あ〜美少女達が無垢な笑顔を浮かべながら戦車を洗っていますね〜。

 

水に濡れて肌にピッタリくっついているけしからん体操着や、浮き出た体のラインが私の心を浄化していく〜。

 

ッ!!うぉおぉぉぉぉぉぉッ!!きたきたきたきたぁあッ!!

 

小山柚子ちゃんの白ビキニ姿!!

 

ヤバイです、ヤバイですよ、あれは!!

 

高校生の体つきじゃないですよ、あのダイナマイトボディ!!

 

制服姿の時から分かっていましたがビキニ姿だと余計に胸の躍動感が増しています!!

 

誠に残念ながら写真は撮れないのでこの光景は心のフィルムに焼き付けておきましょう!!

 

ふぅ……今日は最高の日となりましたね。心の洗濯もバッチリです。

 

さて、それではみほちゃん達も帰りましたし私も帰りますか。

 

この後は学園長に手配してもらった宿で一夜を過ごして、明日の大洗女子学園戦車道チームの始動を見届けてから自宅に戻りましょう。

 

あっ、ここにせんしゃ倶楽部がありますね。

 

秋山優花里ちゃんの提案でここにみほちゃん達が後で来るんですよね〜――って、今の時間的に私がここに居たら不味いんじゃ……。

 

「あれ?そこに居るのは……もしかして辻のおじさん?」

 

言ってるそばからみほちゃん来たー!?

 

不味い、不味いぞ。

 

非常に不味いぞ。

 

ここで私とみほちゃんが出会うという描写は原作には無かった!!

 

これまでかなりの原作介入をしているからもう手遅れかも知れないとは言え、ここで私がみほちゃんと会ってしまうのは何だか不味い気がする!!

 

となれば……三十六計逃げるに如かず!!

 

幸い背を向けていたから顔は見られていないはず。

 

だからわざわざ追ってくる事は無いでしょう。

 

では、さらばです。みほちゃん!!

 

「えっ!?お、おじさん!?何で逃げるんですか!?待ってください!!」

 

「ちょ、ちょっとみぽりん!?どこ行くのよ!!」

 

「みほさん!?」

 

「西住殿!!待ってください!!」

 

うぉい!?何故に追って来るんですかみほちゃん!!

 

「待って……待ってください!!おじさん!!」

 

うぉおぉ……愛おしいみほちゃんの頼みに体が勝手に従ってしまう!!

 

っていうか、バレてます?

 

私って事、バレてます?

 

い、いや、そんなはずはない!!

 

絶対に顔は見られていないんです!!

 

だから、みほちゃんもまだ私という確証を得ていないはずです!!

 

つまり、ここからのリカバリーも可能なはずなんです!!

 

しかし、このままでは……このままでは!!

 

クッ、しょうがない。こうなれば最終手段です。

 

あの角を曲がって……何とかしましょう!!

 

……何とかってどうすればいいんですかね?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外の遭遇

日刊ランキングに入ってるだと!?
((((;゜Д゜)))

嬉しかったので、投稿。
(´∀`)

そして、明日も投稿。

ありがとうございます!!
m(__)m


マズイ!!

 

みほちゃんを振り切る手段が何も思い付かない!!

 

えぇい!!ままよ!!

 

とりあえずクルッと華麗なターンを決めて、この曲がり角を曲がった先で物陰に隠れ――あっ、詰みました。

 

逃げ込んだ先が細い袋小路って、そんなのありですか!?

 

隠れる場所すら無い!!

 

引き返そうにも曲がり角の手前でら息を切らしたみほちゃんが立ち止まっていますし。

 

万事休す!!斯くなる上は……ッ!!

 

「――はぁ、はぁ……何で、何で逃げるの……?人違い?でも、私がおじさんの事を見間違う訳……」

 

「や、やっと追い付いた……もう、どうしたのみぽりん?いきなり走り出したりして」

 

「そうですよ、みほさん」

 

「うぅ〜西住殿〜せんしゃ倶楽部がそんなに嫌だったんですかぁ〜?」

 

「ち、違うの優花里さん。さっき知り合いの人が居て……」

 

「知り合いの人って……みほの前を走っていたスーツ姿の人?」

 

「……うん」

 

「でも、みほさんのお知り合いの方なら何故逃げてしまわれたのでしょうか?」

 

「人違いだったのでは?」

 

「そんなはずは……」

 

「でもさ……もう逃げ切られちゃったんだし、みほの知り合いだったかどうかは確認のしようがないんじゃない?」

 

「あら?沙織さん。そこの曲がり角の先は確か行き止まりでしたわよ?」

 

「え?じゃあ、この先にまだみぽりんの知り合いの人いるの?」

 

「おぉ!!でしたら、とりあえず捕まえてから逃げた理由を聞いてみればいいのでは?」

 

「そうだよ、そうしなよ。みぽりん!!」

 

「う、うん」

 

ドナドナ〜♪

 

「お、おじさ――あれ?」

 

「どうしたの?みぽりん?って――うぇ……」

 

「何なんですか、あれ?」

 

「へ、変質者であります!!」

 

「頭に紙袋を被って体育座りで変な歌歌ってるよ!?あれ、本当にみほの知り合い!?」

 

「た、多分……」

 

ドナドナ〜♪

 

「絶対違うって、みほ!!あれはただのおかしな人だって!!」

 

「わたくしも……そう思います」

 

「西住殿、あれに声を掛けるのはかなり危険ですよ?」

 

「そ、そうだよね?ごめんね、みんな。人違いだったみたい」

 

「謝らなくていいから早く行こ!!何か怖いよ、あの人!!」

 

「あの……わたくしは警察に電話した方が良いと思うのですけど……」

 

「五十鈴殿、下手に関わるのも危険ですよ」

 

「それもそうですね……それでは、早く立ち去りましょうか」

 

「逃げるであります!!」

 

……。

 

……行きましたね。

 

……何でしょう。

 

危機を回避するためとは言え、心にぽっかりと大きな穴が空いたような気がします。

 

そして、人として大切な何かを失った気がします。

 

ハハッ、ハハハッ、何だか疲れました。

 

今日はすぐに寝ましょう。

 

帰ってすぐに寝ましょう。

 

泥のように寝ましょう。

 

「おい」

 

ふぁ!?こ、この声はまさか!?

 

「やっぱり……こんな所で何をしているんだ廉太さんは。というか何で紙袋を頭に被っているんだ?」

 

おぅ……やっぱり……。

 

後のあんこうチームが1人、冷泉麻子ちゃんとエンカウントしてしまいました。

 

一難去って、また一難です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅

大丈夫。まだ慌てるような状況ではありません。

 

紙袋のお陰で私の正体がバレたということは無いはず。

 

何故か断定口調でしたけど大丈夫なはず。

 

このまま口八丁で誤魔化――

 

「廉太さんがそんな格好をしているのを他の人に見られたら私まで恥ずかしい思いをするんだ。早く脱げ」

 

あ、止めて!!無理やり取らないで!?

 

……取られました。

 

揉み合いで小柄な女子高生に負ける私って……。

 

「ひ、久しぶりですね。麻子ちゃん」

 

こうなったら何でもない風を装いましょう。

 

そうでもしないと羞恥心で死ねます。

 

……でも何で私って事がバレたんでしょうかね?

 

「全く、こっちに来る時には連絡しろと言っておいたのに。私にだって準備というものがあるんだぞ」

 

うん。ちょっと待とうか、麻子ちゃん。

 

おもむろに私の手首を掴んでどこへ行くつもりだい?

 

「ちょ、ちょっと待ってくませんか、麻子ちゃん。私をどこに連れて行くつもりなんですか?」

 

え?もしかして警察?

 

え?もしかして変質者として突き出されてしまうんですか?私?

 

「愚問だな。私の家に決まっている。廉太さんが来てくれればお母さんも喜ぶ」

 

「そ、そのお気持ちは嬉しいのですが……」

 

良かった……警察では無いようです。

 

しかし、私は今傷心中。

 

何もかもを忘れるために部屋で大人しく眠りたいのですが……。

 

「来てくれないのか?」

 

そんな捨てられた子犬みたいな目で私を見ないで!!

 

はぁ……断れないじゃないですか。

 

「……では、少しだけお邪魔します」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

全く、ずいぶんとなつかれましたね。麻子ちゃんにも。

 

彼女との付き合いは偶然と奇跡が重なって、原作では彼女が小学生の時に交通事故で亡くなっていた両親を助けてからでしたね。

 

両親と言ってもお母さんだけですが。

 

よくいるようなヒーローみたいにお父さんも助けられればよかったのですが……私にはそこまでの力はありませんでした。

 

それにダンプカーに引かれそうになっていたご両親を突き飛ばしたため、私も交通事故に巻き込まれ死の縁をさ迷いましたし。

 

まぁ……原作介入が過ぎる気もしますが――そんなモノ麻子ちゃんが悲しむ事に比べたら屁でもないです!!

 

私は女の子の涙なんぞ見たくもないんです!!

 

見たいのは花が咲いたような笑顔なんですから!!

 

「……?どうしたんだ、廉太さん?」

 

「あぁ、いえ。何でもありませんよ。さぁ、行きましょう」

 

「ッ!?い、いきなり頭を撫でるな!!」

 

ハッハッハッ、頭を撫でてあげたら顔を赤くして照れていますよ。

 

うぶですねぇ〜可愛いですねぇ〜。

 

「私だってもう大人――ッ……」

 

あれ?手首を引かれているのが少し歩きにくいので手を繋いだら俯いてしまいました。

 

何ででしょう?

 

それにしても……私には兄妹が居ないのですが、もしも妹がいたらこんな感じなんですかね。

 

あっ…………犬のフン踏んだ。

 

何故でしょう。やっぱり原作キャラと一緒にいると不幸な目に合います。

 

神様の嫌がらせなんでしょうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束は守りましょう

はぁ……やれやれ。昨日は色々ありました。

 

みほちゃんに追い掛けられて心に傷を負ったり、麻子ちゃんに連行されたり。

 

そうそう。

 

昨日は結局、夜遅くまで麻子ちゃんの家にお邪魔してしまいました。

 

私が帰ろうとすると麻子ちゃんが無言で私の袖を掴んで帰してくれなかったので。

 

まぁ、可愛い妹分の我が儘ですからね。

 

麻子ちゃんの気が済むまで付き合ってあげましたけど。

 

でも、その際に麻子ちゃんのお母さんから「まるで兄妹みたいね」と言われ麻子ちゃんが躍起になって否定していたのは何故だったんでしょうか?

 

……あぁ、そうですか。

 

流石にこんなおじさんと兄妹扱いされるのは嫌だったんでしょう。

 

彼女も多感な時期ですし。

 

しかし、麻子ちゃんに夜遅くまで捕まっていたので寝不足で眠いです。

 

麻子ちゃんもしきりにあくびをしていましたし。

 

それが原作に悪影響を及ぼさないかどうか心配だったのですが。

 

大丈夫みたいですね。

 

昨日と同じ場所から見ている限りでは無事にあんこうチームに合流出来たようです。

 

おっ、ちょうど今一年生チームのM3中戦車が行動不能になってあんこうチームが勝ちました。

 

とりあえず今の所は目立った異常は無いみたいですね。

 

順調に原作通り話が進んでいます。

 

それではそろそろ学園長に挨拶をして帰りますか。

 

 

 

ふぅ。挨拶に行ったら学園長にめちゃくちゃお礼を言われてしまいました。

 

以前の根回しの電話の際に、しばらくの間は高級な車に乗って学園に来ない方がいいと、それとなく教えて蝶野1尉が行った10式戦車のLAPES(ライプス・低高度パラシュート抽出システム)アタックで学園長の車が破壊されるのを防いだために。

 

あれを見過ごすのも可哀想ですからね。

 

まぁ、その代わりに学園長が乗ってきていた軽自動車はぺっちゃんこになってしまっていましたけど。

 

さて、挨拶も済みましたし帰りま――

 

「あら?辻局長じゃありませんか!!こんな所でお会いするなんて奇遇ですね!!」

 

オーマイゴッド!!

 

蝶野1尉とエンカウントしてしまいました!!

 

「ど、どうも。こうして直接お会いするのは、お久しぶりですね。蝶野1尉」

 

「えぇ、お久しぶりです。今日はどういったご用でこちらに――あっ!!分かりました。大洗の子達が気になって、こちらにいらしたんですね?」

 

「え、えぇ、まぁ。それで……どうでした?彼女達は」

 

「みんな筋がいい子ばかりでしたよ。そうそう特に西住師範のお嬢様がいたチームなんて、他のチームを悉く撃破していましたし」

 

「そうですか。でしたら良かった」

 

「フフフッ。辻局長は本当に教育熱心な方なんですね。お忙しいでしょうに影から彼女達を見守っているだなんて」

 

「ア、アハハハッ……」

 

……言えない。様子見がてらに心の洗濯に来ていただなんて言えない。

 

「所で……この後のご予定は空いていたりしますか?空いているのであれば、ご一緒にお食事でも……」

 

そう来ますよね。やっぱりそう来ますよね。

 

この流れは想定していましたよ。

 

だからこそ!!私は言いましょう!!NOッと!!

 

「えぇ。特に何もありませんし、私でよければ喜んでお相手を務めさせて頂きます。お約束もしていましたしね」

 

「ありがとうございます!!それでは学園長に挨拶をしてきますので、申し訳ありませんが少しだけ待っていてもらえませんか?」

 

「分かりました。では、ここでお待ちしています」

 

「お願いします。すぐに戻ってきますから」

 

……どうしてこう私はヘタレなのでしょう。

 

まぁ、しょうがないですけどね。

 

電話口ならまだしも面と向かって断る度胸なんか私にある訳がないのですから。

 

はぁ、それにしても……どうしましょう!?

 

女性のエスコートのやり方は仕事で覚えましたけどプライベートとなると……ッ!!

 

神よ、ヘタレな私に何故こんな試練をお与えになるのですか!!神よ!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談

とりあえず……疲れました。

 

蝶野1尉との食事は本当に大変でしたよ。

 

学園長に挨拶を済ませて戻って来た蝶野1尉と落ち合った時には、まだ時間が早かったので学園艦の観光スポットや穴場スポットに案内してから行きつけのお店に案内して……。

 

あ、その際に「この店に誰かを連れて来るのは初めてなんです。蝶野1尉だから教えたんですよ」と言ったら蝶野1尉がやけに喜んでいましたけど……何故でしょう?

 

それにお店に着いてからお酒を交えつつ楽しく(緊張しっぱなしで)食事をしている途中途中で、蝶野1尉が「何だか熱くなってきました」と言って上着を脱だり「本当に今日は熱いですね」と言ってシャツのボタンを大胆に開いたり「辻局長とのお食事がこんなに楽しいだなんて。今日は何だか帰りたくない気分になってきました」と意味ありげに上目遣いを送ってきていましたが……。

 

あれは何かのサインだったんでしょうか?

 

まぁ、とにかく。

 

そんな感じで食事をしていたのですが、蝶野1尉が凄い勢いでお酒を勧めてくるので勧められるままに飲んでいたら何故か蝶野1尉が先に酔い潰れてしまいまして。

 

なので食事は終わりにして、べろんべろんの状態の蝶野1尉を介抱しつつビジネスホテルを目指していたら。

 

「うっ!?」という呻き声の後、蝶野1尉が私の体にべちゃべちゃべちゃべっとモザイクの処理が必要なモノを……。

 

まぁ、俗に言うリバースですね。タップリと私の体に浴びせてくれました。

 

その後はリバースした事で酔いが覚めたのか、我に返り泣き出してしまった蝶野1尉を慰めつつビジネスホテルまで送り届け私は全身モザイクまみれで部屋に帰りました。

 

……やっぱり、原作キャラと一緒に居ると不幸な目に。

 

まぁ、あんな美人と2人で食事が出来たんですからプラマイゼロ――いや、総合的にはプラスなんですけどね。

 

ん?高島君から電話です。

 

「もしもし……え?聖グロリアーナ女学院のダージリン君からお茶会の招待状が届いた?分かりました。ありがとうございます。え?いやいや、そんな事は……節度ある行動をって、私は普段から節度ある行動を心がけていますが。え?何でそんな事を知って――え、えぇ、ホテルには泊まっていません。はい。本当です。嘘じゃないです。はい、はい。では……」

 

……何か、私が蝶野1尉をビジネスホテルに連れていった事を高島君が知ってました。

 

……どうやって知り得たんでしょうか?

 

あれ?高島君の妹さんがサンダース大学付属高校に通っているなんていう事を私は何故今思い出したんでしょう?




ちなみに最後の独自設定……今後の話の展開上、かなり重要な設定だったりします。
(´∀`)











※盗聴少女と高島君の間柄は、あくまでも独自設定ですので。

念のため。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖グロリアーナ

ダー様登場


はー。やっぱり聖グロリアーナ女学院のある学園艦は大きいですね。

 

さて、予定も空いていたのでダージリン君からのお茶会のお誘いに乗って、こうして聖グロにやって来た訳ですが。

 

彼女とは学園艦巡りをしていた時にちょっと色々あったので、会うとなると少しだけ気後れしてしまいます。

 

彼女は何かと私を過大評価する癖?がありますし。

 

はぁ……せめて面倒な事にならないといいのですが。

 

ま、なるようになりますか。

 

「――それでダージリン君。今日のお茶会を開いた本当の目的をそろそろ教えて頂きたいのですが。ただのお喋りの為だけに私を招いた訳ではないのでしょう?」

 

「あら。殿方があまり女性を急かしたりするものではありませんわよ」

 

「……」

 

いやいやいや、ダージリン君。

 

もうお茶会が始まってから3時間が過ぎてるんですけど。

 

お腹が紅茶でタプンタプンなんですけど。

 

同席しているオレンジペコ君やアッサム君も若干呆れているような顔をしてますけど。

 

「……まぁ宜しいですわ。今日、辻局長をお招きしたのは他でもありません。我が校の戦車道チームにおける保有戦車の問題を解決するために幾つかお願いしたい事がありますの」

 

「お願い?なんでしょう」

 

「男性でありながら戦車道にも明るく、各学園艦の内情にもお詳しい辻局長でしたらご存知かと思いますけれど……我が校は英国との提携校であり、卒業生の方々から多くの支援を頂いています。そのため財政的には裕福ですが保守的な考えが強く、イギリス製戦車以外の購入は消極的……いえ、皆無となっていますわ」

 

「あぁ、その事ですか。確か戦車道OGの方々による3会派――マチルダ会・チャーチル会・クルセーダー会が存在していてイギリス製以外の戦車を購入する事に否を唱えているとか。そして、マチルダ会の方々の強い反対でイギリス製であるにも関わらずコメット巡航戦車やセンチュリオンなどの導入が遅れているというのはお聞きしています。それが何か?」

 

「それが問題なのですわ。OGの方々のお気持ちも分かりますが、このままではいつまで経っても我が校が戦車道大会で優勝することが出来ません。そこで……我が校の戦車道OGと深い繋がりのある辻局長にOGの方々を説き伏せて頂きたいのです。辻局長でしたら可能でしょう?いえ、恐らく辻局長にしか出来ませんわ」

 

うわ〜また厄介な話を……確かに仕事の関係もあって聖グロのOGの方々とは今もよく連絡を取ったりしていますが……。

 

なにぶん気品が高いというか、プライドが高いというか……そんな方々ばかりなので、出来ればお相手したくないのですがね。

 

最も……相手方からはしょっちゅう連絡が来ますが。

 

「買い被りすぎですよ。私にそこまでの力はありません」

 

「ご謙遜を……辻局長がお声を上げれば国すらを動かす事が出来ますのに。事実、前大会の決勝で発生した事故――III号戦車が川へ転落し黒森峰女学園が10連覇を逃したあの一件の後、辻局長が行動を起こして下さったからこそ、戦車道における安全基準の大幅な引き上げと見直しが行われ、また非常事の際に素早く救助隊が駆け付けられるような体制が作られたのではありませんか」

 

あぁ、そんな事もやりましたね。

 

全ての責任は我々大人にあるとしてみほちゃんの行動を正当化し、みほちゃんへ向けられる悪意を少しでも逸らそうと大々的に。

 

「その事でしたら、私が凄いのではなく。私にお力を貸して下さった方々が凄いのですよ」

 

「しかし、辻局長が動かなければ誰も動かなかったですわ」

 

「そんな事はありませんよ。私が動かなくても誰かがやった事です」

 

「……それではそういう事にしておきましょう」

 

何でダージリン君は若干不満げなんでしょうか?

 

口を尖らせてむーって顔してます。

 

可愛いとしか思いませんよ?




仕事が早く終わって余裕があれば、夜にもう1話更新します
(´∀`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お茶会

さて。不満気なダージリン君を眺めているのも楽しいですが、そろそろ話を先に進めましょうか。

 

「それで……頼みというのはそれだけですか?」

 

「いえ、最後にあと1つ。辻局長にわたくし達の指導をお願いしたいのです」

 

「指導?何故私に?私はただの役人ですよ?」

 

「あら、フフフッ。またまたご謙遜を。今から20年ほど前にとある戦車で当時存在した戦車道チームを全て“単身”で破り、西住流の新たな伝説を築いたのは他でもない貴方ではありませんか」

 

「……何の事でしょうか?あの一件でしたら犯人が西住流としか分かっていないはず。……それにあの時使われた戦車は戦車道における規定を無視していたのですから伝説とは言えないでしょう」

 

な、何故……何故ダージリン君が、あの一件の真実を知っているんですか!?

 

違うんです!!

 

あれはしほさんと常夫の結婚を認める最終試験としてかほさんに無理やり各学園艦の戦車道チームと戦わさせられただけなんですよ!!

 

それに世間では常勝不敗とか言われてますけど、実際はそんな華々しいものじゃなくてルールガン無視の強い戦車を使った卑怯な戦いだったんです!!

 

というか、失敗したらしほさんに潰すって言われてたから頑張るしかなかったんです!!

 

しほさんは脅し文句が殺すとかそんな可愛らしいモノじゃなくて、潰すとか裂くとか具体的な殺害方法を提示してくるから余計に怖いんですよ!!

 

あの人マジでやりかねないんですから!!

 

「では……そういう事にしておきましょうか。でも指導はお願い致しますね。以前拝見させて頂いたあの卓越した指揮能力や射撃術、操縦術をまた学びたいので」

 

卓越した指揮能力って……いたって普通の能力しか無いんですけど……。

 

「あぁ、もちろんただでとは言いませんわ。OGの方々を説き伏せて頂き指導の話を受けて下さるのであれば……この写真をお渡し致しましょう」

 

「写真?……こ、この写真は!?」

 

つい先日蝶野1尉をビジネスホテルに運び込んでいる時のモノじゃないですか!?

 

誰が撮ったんですか、こんな写真!?

 

「フフフッ。聖グロリアーナ女学院が誇る情報処理学部第六課――通称GI6の部長であるグリーンがたまたま撮ったモノですの。すこし遠目ですから精度が悪いですけれど、これは間違いなく辻局長ですわよね?」

 

グリーン?……公式ファンブックの『月刊戦車道』の小説に登場するあのキャラクターですか!?

 

何て余計な事を!!っていうか、たまたまってあり得ないでしょう!!

 

何ですか、私は見張られてるんですか!?

 

「辻局長もこの写真がうっかり流出してしまって、痛くもない腹を探られるのはお嫌でしょう?」

 

「……えぇ、困りますね」

 

ゲロまみれの私の姿が公開されるのはどうでもいいですが、蝶野1尉に風評被害が行くのは防がないといけませんね。

 

「でしょう。フフッ、泥酔した女性……しかも恋人でもない方とホテルへと消えていく。取り方によってはとんでもないスキャンダルに――」

 

「ん?スキャンダル?あぁ、彼女とでしたら(仕事と戦車道で)親しいお付き合いをさせて頂いていますから、その点は大丈夫だと思いますよ」

 

うおっ!?

 

ティーカップが床に落ちて割れてしまいました。

 

だれが落とし――って、ダージリン君?

 

「ダージリン様!?」

 

「だ、大丈夫、ダージリン!?」

 

「し、した、親しい……お、お、お付き合いッ!?どういうことですの!?この写真の方はまさか恋人なのですか!?そんな事は聞いていませんわよ!!」

 

えーと。ダージリン君は何をそんなに慌てているんでしょうか?

 

というか、蝶野1尉と私が恋人として付き合える訳がないじゃないですか。

 

「恋人……?ハハハッ、私がこんな美人の方とお付き合い出来る訳がないでしょう」

 

「え?でも、今……いえ、何でもありませんわ。違うのであればいいです。コホン。私とした事がお見苦しい姿をお見せしてしまいましたわ。ごめん遊ばせ」

 

「……?あ、そうそう。こんな交渉染みた事をしなくても一言お願いをしてくれればOGの方々には話をしますよ。指導の方は仕事の関係で厳しいかもしれませんが」

 

「……宜しいのですか?こう言ってはなんですけれど……OGの方々は気難しい人が多いですわよ」

 

「えぇ。まぁ、何とかしましょう。何せ他でもないダージリン君の頼みなのですからね。頑張りますよ」

 

子供の頼みを聞いてあげるのが大人の役目でもあるのですから。

 

「……」

 

あれ?なんかダージリン君が真っ赤になってるんですけど。

 

「落ちましたね」

 

「私のデータによると95パーセントだった傾慕率が100パーセントになったわ」

 

ペコ君とアッサム君が私とダージリン君を見ながら小声で何かを言ってますが……何なんでしょうか。

 

「……卑怯ですわ……そんな事を言われたらわたくし……っ、失礼。電話が。はい。わたくしですわ。えぇ、はい。――大洗女子学園?戦車道を復活されたんですの?おめでとうございます。……結構ですわ。受けた勝負は逃げませんの。ではご機嫌よう」

 

うん?あぁ、原作にあった大洗女子学園からの練習試合の申し込みの電話ですか。

 

「失礼しました。大洗女子学園から練習試合の申し込みの電話でしたわ」

 

「ほぅ……練習試合ですか」

 

この練習試合に負けた罰ゲームでみほちゃん達はあんこう踊りをする事になるんですよね。

 

……マイカメラの準備しとかないと(ゲス顔)

 

「えぇ、もしよろしければ辻局長もご覧に来てくださいませ。かつて辻局長ご教授頂いたその成果をお見せ致しますわ」

 

「分かりました。是非とも見させて頂きますよ。……あぁ、楽しみです」

 

みほちゃんVSダージリン君。

 

ようやくあの戦いが生で見れます。

 

「フフッ、辻局長は本当に戦車道がお好きなのですわね」

 

「えぇ、好きですよ。戦車道。――それにダージリン君のパンツァージャケット姿が好きなんですよね、私。あの凛々しくて気品溢れる姿が何とも――おっと、もうこんな時間ですか。すみませんが次の予定があるのでここで失礼させていただきますね。ではまた」

 

「……」

 

「ご機嫌よう」

 

「ご機嫌よう」

 

あれ?……うーん。

 

なんか頭の中の考えをポロっと口走ってしまったような気がしないでもないですが……。

 

まぁ、何も言われなかったのですから大丈夫でしょう。

 

さて、帰りますか。

 

「……」

 

「辻局長、帰ってしまわれましたね」

 

「そうですわね。最後にとんでもない置き土産を残して……」

 

「どうしましょう……“これ”」

 

「しばらくしたら元に戻るのでは?」

 

「それもそうですね。戻るまでそっとしておきましょうか」

 

「えぇ」

 

「それにしても……辻局長もあんなセリフを無自覚で言うのですからタチが悪いです」

 

「あの方の毒牙に掛かった乙女がどれ程いるのでしょうか?」

 

「さぁ?はっきり言えるのは、ダージリン様が最早手遅れだという事だけです」

 

「そうですわね」

 

「「はぁ……」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習試合の後

頂いた感想を読ませてもらっていると、主人公が使っていた戦車が何なのか気になっている方が多かったので、活動報告の方に答えを書かせて頂きました。

主人公VS○○みたいな戦闘シーンを書くとしたら登場します。
(´∀`)



……今さっき大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院による練習試合が原作通りに進んで終了した所なんですが。

 

この状況は一体どういう事なんでしょうか?

 

「つ、辻局長!!宜しければそのカメラでわたくしを好きなだけ撮って頂いてかまいませんわよ!!」

 

試合後にあんこう踊りをするみほちゃん達を激写しようとカメラを準備していたらパンツァージャケットを着たダージリン君に拉致されて変な倉庫の中に連れ込まれたんですけど。

 

というか、マスクと帽子で変装していた私をどうやって見つけたんでしょう?

 

……やっぱり私GI6に見張られてたりします?

 

「ダ、ダージリン君?一体これはどういう……」

 

「辻局長」

 

「……何ですか、ペコ君」

 

「何も言わずに写真を撮ってあげて下さい」

 

「ダージリン様のために」

 

ペコ君。それにアッサム君。

 

何で君達はそんな悟ったような顔をしているんですか?

 

「はぁ……まぁ、撮らせてくれるというのであれば撮りますが……いいんですか?」

 

「か、構いませんわ!!辻局長の気が済むまで撮って下さいませ!!」

 

何だかよく分かりませんが……撮らせてくれるというのであれば思う存分撮りましょう(ゲス顔)

 

「それでは私達は外で待っていますから、終わったら声を掛けて下さいね」

 

「はい。分かりました」

 

……ふぅ。大満足。

 

「……辻局長?」

 

「……なんでしょう?」

 

「写真を撮っていただけなんですよね?」

 

「はい」

 

「では何故ダージリン様の腰が抜けているんですか?」

 

「……。何故でしょう?」

 

「……」

 

「……」

 

いや〜ハッハッハッ。

 

ダージリン君を撮りまくっていたらついつい調子に乗ってしまい、欲望の赴くまま過激なポーズを要求してしまったせいで、ダージリン君が羞恥心で腰を抜かしてしまいましたよ。

 

……やり過ぎました。

 

「……まぁ、喜んでますけどね。ダージリン様」

 

「何か言いましたか、ペコ君」

 

「いえ、何も」

 

だって可愛いんですもん。ダージリン君。

 

しょうがないですよね。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「それでは私達はそろそろおいとまさせて頂きますわ」

 

「そうですか。気をつけて帰って下さいね」

 

アッサム君に肩を支えられてダージリン君が倉庫を出ていきました。

 

っていうかダージリン君本当に大丈夫なんでしょうか?

 

足がガクガクしてますし息が上がってましたけど?

 

まぁ、ペコ君とアッサム君が居るのですから大丈夫ですよね。

 

……しかし、うーん。しょうがないですか。

 

「ちょっと待ってください、ペコ君」

 

「はい?なんでしょう」

 

「このカメラ預かっておいてくれませんか」

 

「……何故ですか?」

 

「仮にも教育の立場にある者が女子高生の写真を大量に所持しているのは不味いでしょう」

 

「……確かに」

 

渡したくないんですよ!?本当は渡したくないんですよ!?

 

でも万が一こんな写真を大量に持っていると他人に知られたら社会的に死ねます!!

 

「ではカメラは私が預かっておきますね」

 

「お願いします」

 

「では、ご機嫌よう」

 

さて。最後まで残っていたペコ君も帰って行きましたね。

 

私も帰りますか。あっ……みほちゃん達のあんこう踊りの写真撮るの忘れてました。

 

時間的にもう終わってますよ。トホホ……。

 

……まぁ、ダージリン君のベストショットを記念に1枚だけ携帯の画像フォルダに隠してあるのでよしとしますか。

 

1枚ぐらいならね。記念にね。セーフですよね。

 

「――失礼ですが、携帯を拝見させて下さいまし」

 

「はい」

 

めっちゃ怖い顔で睨んでくる女の子にダージリン君のベストショットを消されました。

 

……多分、あれがGI6のグリーンって子です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後輩

伏線的な閑話です。



うーん。ここは昔とあんまり変わってませんね。昔のままです。

 

さて、私は今日とある野暮用でアンツィオ高校へ来ているのですが……。

 

実を言うとアンツィオ高校って私の母校だったりするんですよね、昔は共学だったので。

 

私がアンツィオ高校に通っていたと人に話すとこんな性格と風貌(七三メガネ)ですからよく驚かれますが。

 

まぁ、そんな私の過去話はさておき。あの子はどこにいるんでしょうか?

 

ちょっと人に訊ねてみましょう。

 

「ちょっと君。少し聞きたい事が――」

 

「うん?なんすか?って、お菓子のおやっさんじゃないっすか!!久し振りっすね!!」

 

近くにいた子にあの子の居場所を聞こうとしたらペパロニ君でした。

 

通りで見覚えのある後ろ姿だと。

 

それはそうといつもお菓子の差し入れをしているからって、お菓子のおやっさんっていうパブロフの犬的な覚え方は酷くないですかね?

 

いや、まぁ、別にいいんですけどね。

 

「今日は何の用なんで?」

 

「安斎君――アンチョビ君に少しお話がありまして。あぁ、それとこれ……いつもの差し入れです」

 

「おぉっ!!やった!!流石お菓子のおやっさん!!いつも気が利きますね!!あ、そうそう。ドゥーチェならカルパッチョと一緒に古い部室の片付けしてましたよ。案内しましょっか?」

 

「では、お願い出来ますか?」

 

「了解っす!!」

 

それにしても……うん。ペパロニ君はいつ見ても陽気で快活ですね。

 

流石アンツィオ高校の校風を最も体現していると評されるだけはあります。

 

アホの子なのが欠点ですけど。

 

「おーい。姐さん?」

 

「うえっ!?汚いな、もう!!何でここはこんなに汚いんだ!!」

 

「しょうがないですよ、ドゥーチェ。こっちの旧部室棟の部屋はもう何年も使われていないんですから」

 

ペパロニ君に案内されてアンチョビ君の所にやって来ましたが、アンチョビ君はカルパッチョ君と一緒になって掃除に勤しんでいます。

 

しかし、ここは懐かしいですね。

 

旧部室棟――その中でも私が戦車道をやっていた時に使っていた部屋は。

 

アンツィオ高校の伝統であるノリと勢いの陽気な校風のお陰で男の身でも戦車道を出来たんですよね。

 

まぁ、流石に大会とかには出ていないですけど。

 

しかし、アンツィオ高校で戦車道をやっていて原作で言う所のナポリターンの技術を取得していた事が以後の役に立ちました。

 

主にかほさんの無茶振り(全戦車道チームを倒せ)とかで。

 

何せ私が使う戦車は少し独特なタイプのモノでしたから。

 

「姐ーさん!!アンチョビ姐さーん!!」

 

「うるさいぞ!!ペパロニ!!こっちは今忙しいんだ、後にしろ!!全く……先輩が来るまでに片付けないといけないってのに……」

 

「でも、姐さん……」

 

「よし、カルパッチョ。この段ボールを奥に運ぶぞ」

 

「分かりました」

 

うーん。何だかアンチョビ君は忙しそうですね。

 

掃除に掛かりっきりになっているために背後から声を掛けているペパロニ君の言葉に適当な返しをしてますし。

 

うん。これ以上ペパロニ君が怒られるのも可哀想ですし今日の所は帰りますか。

 

アンチョビ君への話……というか、渡すモノはペパロニ君に渡してもらえばいいですしね。

 

「ペパロニ君、もういいですよ。何だかアンチョビ君達は忙しそうですし」

 

「でも……いいんすか?」

 

「えぇ。まぁ、話と言っても以前からお願いされていたP40重戦車の納品日とオマケで付けておいた予備パーツの事だけですから。詳しい事はこれに書いてあるので安斎君に渡して頂ければ大丈夫です」

 

「うっす。了解っす。じゃあ、後で渡しときますね」

 

「では、お願いします」

 

さて、帰りますか。

 

「さいなら〜」

 

「ん?ペパロニ、お前誰と喋っていたんだ?」

 

「誰って……お菓子のおやっさんですけど」

 

「お菓子のおやっさん?…………おい、それってまさか先輩の事じゃないだろうな?」

 

「どうしたんすか?ドゥーチェ、そんなに冷や汗流して」

 

「いいから答えろ!!」

 

「? その先輩ってのがいつもお菓子の差し入れを持ってきてくれているおやっさんの事なら、そうですけど」

 

「こ、このバカ!!何で先輩が来た事を教えないんだ!!」

 

「だって言おうとしたらドゥーチェが後にしろって……」

 

「うぐっ……はぁ……もういい。先輩は何か言ってたか?」

 

「これを渡しておいてくれって。あ、そうそう!!またお菓子の差し入れくれたんすよ!!」

 

「お菓子の事は後だ!!その書類を寄越せ!!」

 

「うっす。どうぞ」

 

「えっと何々?……P40重戦車の納品日が戦車道大会の2回戦の前になる事と……なんだこの予備パーツの量……オマケってレベルじゃないぞ……はぁ、先輩にはまた頭が上がらなくなった……」




メインで書いているオリジナル作品の総合評価(大体3年モノ)よりも、こっちの総合評価(大体3週間モノ)の方が高くなった……
((((;゜Д゜)))

ガルパン人気ってスゲェ(呆然)

なんか、劇場版の興行収入が18億円突破したとか聞きますし。

やっぱ、ガルパン最高。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大問題の序章

『サンダース大学付属高校のフラッグ車、行動不能!!よって大洗女子学園の勝利!!』

 

おぉ〜みほちゃん達が無事に1回戦を突破しました。

 

しかし、やはり戦車道大会ですね。見応えがありました。

 

原作で描かれていた戦闘を生で見れた事もあって感慨もひとしおです。

 

しかし、アンツィオ高校を訪問した後から仕事やらなんやらが立て込んで大変でした。

 

戦車道プロリーグ設置委員会の役員候補をピックアップしたり戦車道大会誘致に向けた事前準備をしたり、知波単学園の西絹代君に助言を乞われたり。

 

……それにこのあと発生する麻子ちゃんのお婆ちゃん問題の対策の準備とかでてんてこ舞いでした。

 

しかも、そんな時に限って親がそろそろ身を固めろとか言って見合い話を持ってきますし。

 

それで……その見合い話がまた大変でして。

 

誰とは言いませんよ?ただね。相手が13歳の女の子って……それは犯罪でしょうよ!!

 

何が――この話は先方から頂いた。ですか!!

 

断って下さいよ!!打診された時点で断って下さいよ!!

 

何で受けちゃうんですか!!

 

未成年だけど16歳だから結婚出来るよ。とか、そんなレベルの話じゃないじゃないですか!!

 

そんな子と見合いしろとか正気ですか!?

 

というか、いくつ年が離れてると思っているんですか!?

 

しかも――これは相手のお嬢さんが言い出した事なんだ。って……。

 

言い訳が苦し過ぎますよ!!どこの世界に三十路後半に入ったおっさんに13歳の女の子が見合いを申し込むんですか!!

 

嘘をつくならもう少し考えて下さいよ!!バレバレですよ!!

 

あと言うに事欠いて――大丈夫、相手のお嬢さんは女子大生だから。とか。

 

あぁ、じゃあ大丈夫ですね。女子大生だったら問題無いですね。

 

……じゃないんですよ!!大有りなんですよ!!13歳の女子大生ですよ!?!そっちの方が犯罪くさいですよ!!

 

はぁ……あの人、娘には甘かったはずなんですけどね……なのでこんな政略結婚みたいな事はしないはずなんですけど。

 

誰の差し金やら。

 

「辻局長!!やりました!!私、やりましたよ!!」

 

「ど、どうしたんです?高島君」

 

ナニコレ。さっきから姿が見えなかった高島君が戻ってくるなり狂喜乱舞しているんですけど。

 

何か良いことでもあったんですかね。

 

この前から色々と動き回っていた事と関係がありそうな気もしますが……。

 

「大洗女子学園の戦車道チームに在籍している者が行った違法行為の決定的な証拠を掴んだんです!!」

 

「違法行為の決定的な証拠?」

 

何をバカな。あんないい子達が違法行為なんかするわけがありません。

 

「これをご覧下さい!!これがあればもう大洗女子学園は戦車道大会で優勝する事はありません!!辻局長のお立場が危うくなる可能性すら潰えたのです!!」

 

「何を言っているんですか、高島君。そんな――」

 

あ、ヤバイ。これ……本当に大洗女子学園……優勝出来ません。

 

というか……失格にされてしまいます。

 

え?冗談抜きでヤバイんですけど……。




大洗女子学園戦車道チームに迫る危機。

果たして、高島君が掴んだ違法行為の決定的な証拠とは何なのか。

次回、高島君が本領?を発揮。

お楽しみに〜
(´∀`)ノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

事件

※高島君は悪人ではありません。


うーむ。これは本格的に不味い状況ですね。

 

このままでは物語が原作通りに進まなくなります。

 

いえ、原作崩壊と言った方が正しいでしょうか。

 

……何とかせねば。

 

「失礼します」

 

「どうぞ、入ってください」

 

さて、私と高島君の元にやって来たのは角谷杏ちゃんと秋山優花里ちゃんの2人。

 

ちなみに現在の場所はサンダース大学付属高校の戦車道チームが設置していた天幕をお借りしています。

 

「さて、お二人は角谷杏さんと秋山優花里さんでお間違いないですね?」

 

「はい」

 

「は、はい……」

 

何故呼び出されたのかが分かっていない2人に対し、高島君が悪人のような顔で確認を取っています。

 

っていうか、何だか愉しそうですね。高島君。

 

私は胃が痛いというのに。

 

「早速ですが、秋山さん。貴女……本大会前にサンダース大学付属高校の校舎に忍び込んだそうですね?」

 

「はうっ!?」

 

「あちゃ〜……これは不味いねぇ……」

 

「どうなんですか!!ハッキリ言いなさい!!」

 

「えっと!?あの……その……ッ!?」

 

高島君が……後ろ暗い行為を指摘されて困っている優花里ちゃんを嬉々として問い詰めています。

 

「誤魔化そうとしたって無駄ですよ!!貴女がサンダースの校舎に忍び込んだという事実は妹のアリサから聞いて証拠を取ってあるんですから!!」

 

今回の件を引き起こした元凶は君ですか、アリサ君。

 

「うっ……し、しかしながら!!試合前の偵察行為は承認されているはずです!!」

 

「それは法律に違反しない範囲での事でしょう!!貴女が行った行為は明らに不法侵入!!正確には刑法13章第130条に規定されている住居等侵入罪に該当します!!」

 

「あうぅ」

 

優花里ちゃんの精一杯の反論にバカめと言わんばかりの表情で正論を叩き付ける高島君。

 

……鬼ですね。

 

「これがどういう事か……お分かりですね?」

 

この違法行為が表沙汰になれば大洗女子学園戦車道チームは失格。

 

代わりにサンダースが一回戦突破という事になるでしょう。

 

けれど私の予想が正しければサンダースへの不法侵入の一件で大洗を失格にするのは無理でしょうね。

 

「ちょっと待ったー!!その子は不法侵入なんかしていません!!」

 

ほら。サンダースの戦車道チームの隊長であるケイ君がアリサ君を連れて乱入して来てくれました。

 

ま、彼女達の乱入を期待してわざわざここを借りたんですけどね。

 

「私が彼女を我が校に招いたんです!!決して不法侵入なんかじゃない!!」

 

「ケイ殿ッ!!」

 

優花里ちゃんがキラキラした目で救世主のケイ君を見詰めていますが……安心するのはまだ早いですよ。

 

「……アリサ?どういう事?」

 

「ね、姉さん……ごめんなさい。全部私の勘違いだったのよ」

 

高島君の問い詰めるような鋭い視線にたじろぐ盗聴少女。もといアリサ君。

 

「……勘違いだった?なら今一度確認致しますが、ケイさんは秋山さんをサンダースに招いた。という事で宜しいのですね?わざわざ対戦相手に手の内を見せるために」

 

「えぇ、そうよ。大洗とウチでだと投入可能な車両数の差で戦力差が開きすぎているからね。だから少しでもフェアな戦いをするために彼女を招いたの」

 

「……そうですか」

 

ふぅ……これで校舎に対する不法侵入の件で大洗を失格にする事は出来なくなりました。

 

明らかに後付けとは言え、ケイ君が招いたと言えば不法侵入は無かった事になるのですから。

 

だから、これにてこの話はお仕舞い――となれば良かったんですけどね。

 

うちの高島君は何せ有能なんです。

 

世界の修正力と親の威光を借りて棚ぼた的にこのポストに座った私とは違ってね。

 

彼女は己の力だけで数多の苦難を乗り越え、若くして学園艦教育局の副局長まで登り詰めて来た真のエリート。

 

そんな彼女が簡単に揉み消せる程度の事で“違法行為の決定的な証拠を掴んだ”なんて言うはずが無いんですよね。

 

「勘違いだったら仕方ないですね」

 

「「「「へ?」」」」

 

杏ちゃんや優花里ちゃん、ケイ君、アリサ君が高島君の予想外の反応に戸惑っています。

 

悔しがるとでも思っていたんでしょうか。

 

「でしたら、秋山さん。貴女が犯したもう1つの違法行為についてお話しましょうか」

 

「へ?な、何でありますか?」

 

「貴女……サ◯クルKサ◯クスの輸送船に不法侵入してますよね?」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

これでもかと口角を吊り上げてニンマリと勝ち誇った笑みを浮かべる高島君……怖ッ!!

 

さて、ここからが私の力の見せ所です。

 

覚悟を決めましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作がため

※繰り返しますが、高島君は悪人ではありません。


「さて、何か仰りたい事はありますか?秋山さん」

 

「……」

 

「フフッ、ある訳が無いですよね。貴女は“招かれた”サンダース大学付属高校に行くためにサ◯クルKサ◯クスの輸送船に不法侵入を行った。これは紛れもない事実なのですから」

 

「ぁ……ぅ」

 

“招かれた”の部分で意地悪くケイ君をちらりと見た高島君が視線を戻すとカタカタと震えている優花里ちゃんに対し追及の手を強めています。

 

「証拠は有るのか!!と喚いてみますか?残念。船に設置されていた監視カメラの映像に貴女の顔がハッキリと映っていましたよ。それとも今度もまた……招かれたのですか?」

 

「あぁ……ぁ……」

 

まるで探偵のように証拠を並べ、時には挑発のような言葉を交えながら高島君がジワジワと優花里ちゃんを追い詰めていっています。

 

この絶体絶命の状況に杏ちゃんは腰に手を当てながら天を仰ぎ、ケイ君は悔しげに瞑目し、アリサ君は居心地が悪そうに俯いています。

 

「さて、言いたい事も無いようですし……これで私の話は(貴女達は)終わりです」

 

「あぁッ!!」

 

死刑宣告を満面の笑みで告げた高島君の傍ら。

 

みほちゃんの助けになればと思い、行った自分の行為で仲間(チーム)の未来を潰してしまったという罪悪感に苛まれ、瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる優花里ちゃん。

 

そして、このお通夜のような空気の中、大洗女子学園は廃校が決定……――しません。

 

はい、私がさせません。

 

それに以前言ったように私は女の子の涙が見たくないんです。

 

「高島君」

 

「はい、何でしょう。局長」

 

こちらに振り返るなり褒めて褒めてと言わんばかりの満面の笑みを見せる高島君。

 

本来であれば私の事を考えて行動してくれた彼女を褒め労って上げたいのですが……。

 

今回はそういう訳にはいかないんですよね。

 

それに本当に申し訳無いですけど、ここからは私のターンです。ずっとね。

 

「学生の中には気弱な子もいるのです。その様に一方的な話の進め方では萎縮してしまって本当の事を言い出せなくなってしまいますよ」

 

「それは……どういう……」

 

「先程大洗女子学園とサ◯クルKサ◯クスに問い合わせてみました。そうしたら……彼女、秋山さんは不法侵入をした訳ではないそうです」

 

「「「「!?」」」」

 

「そ、それはどういう事ですか!?局長!?」

 

私の言葉に皆一様に驚いていますが、やはり高島君のリアクションが一番大きいですね。

 

ま、当然でしょう。自分が自信をもって集めた確固たる証拠が今まさに覆されようとしているのですから。

 

「実際はサ◯クルKサ◯クスへの短期職場体験だったそうです。つまり秋山さんは職場体験の休憩時間にサンダースを訪れていたのです」

 

「そ、そんなバカな!?私が確認した時にはそんな事……」

 

あぁ、我ながら苦しい設定ですね。

 

でも、もう根回ししちゃったからこれが事実になってるんですよね〜。ハッハッハッ。

 

……あー大変でした。親交のあるサ◯クルKサ◯クスの上の方に電話口で頭を下げまくって優花里ちゃんの行為を許してもらって、大洗の学園長に短期職場体験の書類をでっち上げてもらって。

 

本当に……顔が広くて助かりました。

 

ま、サ◯クルKサ◯クスの上の方――サンダースのOGの方には今度酒の席に付き合う事を確約させられてしまいましたけど……これで優花里ちゃん、引いては大洗の子達が助かるなら安いもんです。

 

「この話は事務方の手違いで関係各所に連絡が回っていなかったそうです。なので高島君が確認した時に出てこなかったようですね」

 

あ、不味い……不謹慎ですけど高島君を出し抜けた達成感でクールフェイスが崩れてニヤって笑っちゃっいました。

 

「局長……貴方はどうしてそこまで……ッ」

 

あー……今の笑いで高島君に大体の事がバレてしまったようです。

 

不味いですね、後でフォロー入れとかないと。

 

「ま、とにかくそういう事です」

 

「ッ、分かりました……秋山さん……この度は私の勘違いで失礼な事を申し上げてしまい、誠に申し訳ありませんでした。お詫び申し上げます」

 

「い、いえ……私は大丈夫ですから」

 

あらら、勝手に進む話に付いていけずに優花里ちゃんが一番混乱してますね。

 

そこはまがりなりにも堂々としていて欲しいのですが。

 

「それでは……お先に失礼します」

 

……何か、悔しさを滲ませて外に出ていった高島君の鬱憤の矛先が私では無く大洗の子達に向いているような気がしているのは私だけなのでしょうか?




ちょっと突っ込み所が多いお話になってしまいました。

後に大幅な修正をするかもしれません
m(__)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後始末

ご都合主義、満載(;´д`)


さてと。何とか事態の収拾に成功した事ですし後始末をしましょうか。

 

「ゴホン。すみませんが私はこちらの2人に少し話があるのでケイ君とアリサ君は席を外してもらえますか?」

 

「オッケー。じゃ、外に出てるわね」

 

「分かりました」

 

この先の話はケイ君とアリサ君に聞かれると不味いんですよね。

 

「さて、秋山さん」

 

「は、はい!!」

 

「今回は貴女方の事情を考慮し特別に取り成しましたが……次は無いと思って下さいね?」

 

「は、はひ……」

 

ゴゴゴッという擬音が付いてそうな役人オーラ全開で凄んだら優花里ちゃんも理解してくれたようです。

 

「あと、サ◯クルKサ◯クスの会社には謝罪に行くこと。本来であれば許されない事なのですから。その時は私も同行しますからね」

 

「は、はい。本当に申し訳ありませんでした」

 

しょんぼりと項垂れながら深々と頭を下げ深い反省の色を見せる優花里ちゃん。

 

「最後に1つ。もし今後偵察に出たいのであれば……」

 

「あれば?」

 

「このメールアドレスに連絡を。行きと帰りの足ぐらいなら準備しますので。あぁ、くれぐれも偵察の際には法律を守るように」

 

「え?あ、はい……ありがとうございます」

 

優花里ちゃんは確かアンツィオ高校へも潜入しますから、こうやって先に手を打っておかないと今度こそ高島君に確実な証拠を掴まれてチェックメイトをかけられてしまいかねません。

 

「あの……ちょっと聞きたいんですけど、いいですか?」

 

「何ですか?角谷君」

 

優花里ちゃんが私のメールアドレスを携帯に登録している隙を見計らって杏ちゃんが声を掛けてきました。

 

まぁ、当然ですよね。今回の一件で私に問い質したい事なんて沢山あるでしょうし。

 

「何で“こんなマネ”を?」

 

「さぁ?何ででしょうかね」

 

「……」

 

「……」

 

とはいえ、何も答えてはあげませんけどね。ボロが出たら嫌ですし。

 

深読みされて原作を逸脱するような事をされても困りますし。

 

「あ、あの……」

 

私と杏ちゃんが互いの腹の底を探りあうように視線をぶつけ合っていると、優花里ちゃんがおずおずと声を掛けて来ました。

 

どうしたんでしょうか?

 

「このメールアドレスは本当に貴方の物でありますか?」

 

「えぇ、そうですが?」

 

変な事を聞きますね、優花里ちゃんは。

 

この場面で他人のメールアドレスを渡す筈が無いじゃないですか。

 

って、何でそんなに顔を輝かせて――

 

「では!!貴方が『苦労人』さんでありますかッ!?私です!!私が『戦車大好きっ娘』です!!」

 

……ちょっと待ってぇえぇぇ!!何ですか、そのご都合主義!!

 

インターネットで知り合って戦車談義やら雑談やらを直接メールでやり取りするようになった相手が何で優花里ちゃんなんですか!!

 

偶然にも程があるでしょう!!って!!優花里ちゃん!?私に抱き付いちゃダメです!!

 

ほら!!杏ちゃんが弱味を握ったぜ。みたいな顔でニヤニヤ笑っていますから!!

 

「『苦労人』さんとは一度直接会ってみたかったんです!!それが、こんな偶然に出会えるなんて!!それに自分を助けて頂いて――っ!?し、し、しつ、失礼しました!!」

 

「秋山ちゃん!?あぁ、もう!!」

 

「……」

 

何なんでしょうか一体……抱き付いて来たかと思えば顔を真っ赤にして逃げて行ってしまったんですけど、優花里ちゃん。

 

杏ちゃんも優花里ちゃんを追って出て行ってしまいましたし。

 

これは新手のイジメか何かなのでしょうか?




ヒロインを増やし過ぎた気がしないでもない
(;´д`)

……まぁ、そう言いつつもまだ増えるんですが(爆)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ご褒美は無い

……はぁ。唐突に1人っきりになってしまいましたが、とりあえずこれで一件落着ですかね。

 

あー疲れた。少し休みましょう。

 

ちょうどいい具合にこの天幕の中にはベンチが置いてありますし。

 

「失礼しまーす。あ、いたいた」

 

「……何だ、ケイ君ですか」

 

「む、何だとは失礼ね。疲れているだろうからジュースを持ってきて上げたのに」

 

「これは失礼しました」

 

良いですね、炭酸のジュース。疲れている体にはありがたいです。

 

「フフン、気が利く私に感謝してよね」

 

「えぇ、感謝して有り難く頂戴しますよ。はぁ……」

 

「あらら、本格的に疲れてるみたいね。大丈夫?」

 

「えぇ、まぁ……」

 

何せ原作崩壊の危機でしたからね。気を張っていたせいで精神的に疲れましたよ。

 

「ふーん。疲れてるんだ。なら……そうね。膝枕してあげよっか?」

 

「ハハハッ、昔は“気弱”だったケイ君も随分と変わりましたね。そんな大胆な事を言うようになるなんて」

 

「むっ、誰のせいよ、誰の」

 

うーん。懐かしい。

 

私が学園艦巡りをしていた時に図らずも偶然にケイ君とは知り合ったんですよね。

 

あの頃のケイ君(中1)は臆病というか人見知りというか。

 

とにかく、今のようなフレンドリーな性格では無かったんですよ。

 

なので当時はまさか彼女がケイ君だとは思わず(当時の彼女は髪がかなり短くて、しかも雰囲気が全然違っていたんです)色々と相談に乗ったりしていたら……いつの間にか今みたいな性格になっていたんですよね。

 

あれ……私のせい?

 

「さて、誰でしょうね」

 

「もう、そうやってまたはぐらかす!!……ま、いいわ。よいしょっと……はい、膝枕」

 

え?本気で膝枕してくれるの?

 

ショートパンツと白ニーソの間にあるあの絶対領域で?あのムチムチで艶かしいフトモモで?

 

「……」

 

「どうしたの?ほら、カモン」

 

「……」

 

「あれ?膝枕は嫌だった?」

 

……ゴクリ。いやいや、そこはね、うん。

 

大人として越えてはいけない一線がありますし、断りますよ。もちろん。

 

ケイ君もからかっているだけでしょうし、本気ではないと思いますから。

 

それに私は分別のある大人ですから。えぇ。

 

「いえ、お願いします!!(ケイ君、そういう事は好きな相手にでもしてあげなさい)」

 

……口が本音を漏らしてるぅー!!本音と建前が逆ぅう!!

 

このままでは変態扱いされて社会的に抹殺されかねません!!

 

ど、どうしたら!?

 

「アハハハッ、そこまで喜ばれるとは思わなかったわ。はい、どうぞ」

 

……変態扱いされなかっただと?

 

こ、これは神様が私にもたらしたご褒美に違いない!!

 

そうだ、これはご褒美なんだ!!

 

あの理想郷(アルカディア)にI Can Flyしてもいいんだ!!

 

ならば、いざ行かん!!理想郷(アルカディア)へ!!

 

「失礼します、隊長。ちょっと――」

 

「くぁwせdrftgyふじこlpッ!?」

 

「あ、あれ……もしかして、お話中でしたか?」

 

あ、危ない……間一髪。

 

もう少しでアリサ君にいい年したおっさんが膝枕されて喜んでいる姿を見られてしまう所でした。

 

驚きのあまり思わず気を付けの体勢になってしまいましたし、このままの流れで外にでますか。

 

「いえいえ、ちょうど終わった所でしたから構いませんよ。ケイ君、ジュースご馳走さまでした。今度会った時にでもお礼をしますね。では、また」

 

はぁ……フトモモ……残念です。

 

「さようならー。それで、あの隊長――」

 

「……」

 

「あ、あの……隊長?」

 

「なに?アリサ」

 

「何か……怒ってます?」

 

「怒ってる?アハハハッ、怒ってなんかないわよ。何でそんな事聞くの?」

 

「いえ、隊長……顔は笑ってますけど……その……目が、笑ってないですよ?」

 

「……」

 

「……」

 

「……ねぇ、アリサ」

 

「は、はい。何でしょうか」

 

「反省室、行こっか」

 

「ヒィ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強敵

※ご注意※

この話からとあるキャラが登場するのですが、彼女にはヤンデレ属性が追加されています。

可能な限り原作の性格に似せていくつもりですが、どうしても違和感が出てくる箇所があると思いますので、予めご了承下さい
m(__)m


ケイ君のフトモモ……本当に残念でした……。

 

ん?メールが入ってますね。高島君から……何々?

 

……ふむ。なんか長々と色んな事が書かれていますが、要約すると先に帰っていて下さい。というメールですね。

 

私と顔が合わせずらいのでしょうか?別に高島君が悪い訳では無いのですが……。

 

まぁ、とにかく。了解の意とさっきの件についてのフォローの言葉を添えて……送信。

 

これでよし。さて、帰りますか。

 

うん?空を飛んでいるあれは……おぉ、珍しい。

 

第二次世界大戦でドイツ軍が開発したヘリのFa223ですね。

 

って、ちょっと待って下さい!?……ということはッ!!

 

不味い。さっきまでのゴタゴタのせいで麻子ちゃんのお婆ちゃん問題の事すっかり忘れてました!!

 

……いや、まぁ覚えていたとしてもここで私が出来る事はほとんど無いんですけどね。

 

何せここで私がでしゃばるとまほちゃんが麻子ちゃんにFa223を貸し、みほちゃんにお礼を言われるという原作の流れを破壊してしまいますし。

 

だからせめてやれる事をやっておこうと、事前に病院の方へ手は回してありますけど。

 

何にせよ、麻子ちゃんのお婆ちゃんの無事を祈るばかりです。

 

「廉太……さん?」

 

はぅ!?こ、この声は……ま、まさか!?

 

「やっぱり。お久し振りです。廉太さん」

 

「え、えぇ。久し振りですね。まほちゃん」

 

ま、まほちゃんと遭遇してしまいましたよ……。

 

き、気まずい。……2年前に色々とあったから気まずい。

 

しかも2年前からなるべく顔を会わさないようにしていたから余計に気まずい。

 

「こんな所で何をしているのですか?」

 

「いや、まぁ、少し色々とありまして。と言ってももう帰る所なんですが」

 

「そうですか。ちょうど私も帰る所なんです。良ければ途中まで一緒に帰りませんか?」

 

あれ?まほちゃんはエリカ君の帰りを待たなくていいんでしょうか?

 

原作ではそこらへんの事をやっていなかったのでどうなのか分かりませんが。

 

「……そ、そうですね。一緒に帰りましょうか」

 

「ありがとうございます。では、行きましょうか。積もる話もありますし」

 

そんな意味深な事を言わないでまほちゃん。

 

あの“一件”を思い出してしまいますから。

 

それでおじさんチビりそうになりますから。

 

「「……」」

 

さて、という訳で……まほちゃんと一緒に帰っている最中です。

 

ちなみに今、船に乗っています。

 

……で、何でまほちゃんは私の横に肩先が触れ合うぐらいピッタリとくっついて座っているのでしょうか?

 

ガラガラですよ?この船。

 

ついでに言うとボックス席だから、対面にも座る所はあるんですよ?

 

そして何故に私は壁とまほちゃんに挟まれて逃げ場を失っているんです?

 

前にある机と後ろの背もたれで前後にも動けないですし。

 

……ピンチです。

 

誰か助け――おぉ!!タイミングよくメールが来ました!!

 

ありがたい!!これで少しでも凌げます!!

 

さて、私の救世主は誰ですかね?仕事関係なら電話をしないといけないという口実で、ここから逃げる事が出来るのですが――……あろうことか[from.常夫]……はぁ……役立たずからでした。

 

テンションがた落ちです。




本作品の更新を楽しみにして頂いている方々には大変申し訳ありませんが、仕事上の都合により明日13日の更新はお休みさせて頂きます
m(__)m

14日は更新出来ると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

衝撃的な事実

[from.常夫]

君は知ってるかい?

いや、知らないだろうね。

なんと!!みほが大洗に転校してからも戦車道を続けていたんだよ!!

しかも、戦車道大会に出場してあのサンダースに勝ったんだ!!

どうだ凄いだろ!!

 

イラッとする文面で……なんという周回遅れな情報を。

 

まぁ、常夫はしほさんに軟禁生活を強いられていますからね。

 

こんな古い情報をドヤ顔で送ってくるのもしょうがないですけど。

 

……でも、軟禁生活なのにどうやってこの事を知ったんでしょうか?

 

「……メールですか?」

 

私が携帯の画面に気を取られていたら、不満気な表情を浮かべたまほちゃんが更に擦り寄って来ました。

 

というか最早ベッタリと抱き付かれているんですけど!?

 

クソッ!!常夫のメールのせいで状況が悪化しました!!

 

余計な事しやがって!!

 

「えぇ、君のお父さんからです」

 

「お父様から?あぁ、でしたら内容はみほの事ではないですか?」

 

「そうですよ。よく分かりましたね?」

 

「船に乗る前に私がお父様にメールを送りましたから」

 

あぁ、それで。あ、また常夫からメールです。

 

[from.常夫]

それに僕がこの事をどうやって知ったと思う?

クククッ、聞いて驚くな?

なんとまほにメールで教えてもらったんだ!!

1年ぶりのメールだよ!!

 

……哀れな。どれだけ家庭内のヒエラルキーが低いんですか。

 

ん?またメールです。

 

[from.常夫]

グスン。

小さい頃は……お父様、お父様って僕に構ってくれたのに(泣)

最近はメールもくれなかったんだ。まほ。

……みほはもう1年半も送ってくれないけど。

 

んー。ヒエラルキーが低いというより、ただ単に居ない人扱いされているんでしょうか?

 

……よし。哀れな常夫に良いものを送ってあげましょう(ゲス顔)

 

「まほちゃん。ちょっといいですか?」

 

「なんでしょう?」

 

「君と一緒に写真を撮りたいんです。お願いしてもいいですか」

 

「……」

 

なんか、まほちゃんが無言でブンブンと首を縦に振ってます。

 

さて、まほちゃんの了解も得られましたし。

 

常夫に最高のプレゼントを送ってあげましょうか。

 

「じゃあ、撮りますよ」

 

「はい。あ、廉太さん」

 

「何ですか?」

 

「左手は、私の腰に回して下さい。あともっとくっついたほうが……」

 

「……」

 

不味い……常夫を元気付ける(笑)ためとは言え、よくよく考えたら私とんでもない事を言ってますし、思いっきり自分から地雷を踏んでます。

 

え、えぇい、ままよ!!ここで引いたら全てが無駄になってしまいます!!

 

前進あるのみ!!パシャリとな。

 

……ふむ。なんか予想以上に親しげな写真が撮れてしまいましたが、まぁいいでしょう。

 

この画像を常夫に送って……っと。

 

[from.廉太]

まほちゃんなら私の横にいるよ(笑)

 

なんて返してきますかね――って、もう来た。

 

[from.常夫]

貴様ァアアアアアアッ!!

みほだけでは飽きたらず、まほにまで手を出すつもりかァアアアアアッ!!

許さん、許さんぞォオオオッ!!

 

ハハハッ、役立たずが悔しがっていますね。

 

愉快、愉快。

 

まぁ何気に自分にもダメージがあった気がしないでもないですが、いいでしょう。

 

ん?また常夫からメールが来ましたね。

 

……何々?

 

[from.常夫]

ていうか廉太って2年前にまほの求婚断ってたよね?

あれ?断ったのに付き合ってるの?

実は付き合ってるの?

 

……常夫を凹まそうとしたら、超強力なカウンターパンチが私に飛んできた件について。




今後の展開をどうするか、思案中
(・ω・;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昔話

さて。何から話せばよいのやら。

 

とりあえず簡単に話を纏めますと……まほちゃんの16歳の誕生日をお祝いしに西住家に行った時にまほちゃんから結婚を前提にしたお付き合いを申し込まれたんですよね。

 

何故か。

 

私には思い当たる節が無いので、まほちゃんが何故そんな事をいきなり言い出したのかは未だに分かりませんが……。

 

唯一関係がありそうな事も……時間がある時はいつも戦車道の練習に付き合ったり、しほさんに叱られて落ち込んでいた所を慰めたり、家の事で相談に乗ったり、西住流という看板を背負わねばならない重圧を少しでも軽く出来るように色々な場所に連れて行ったり……ぐらいしかないですし。

 

まぁ、とにかく。あの時は本当に大変でしたよ(遠い目)

 

西住家のドン――かほさんは賛成に回りますし。

 

てっきり反対すると思っていたしほさんも条件付き賛成に回りますし。

 

反対に回ったのが賛否権を持たない常夫だけという状況でしたから。

 

ちなみにみほちゃんはこの事を知りません。

 

みほちゃんが寝た後、夜中にあった話ですから。

 

そして結果は当然――丁重にお断りしました。

 

いや、もちろん。まほちゃんから婚約の話を持ち掛けられた時は死ぬほど嬉しかったんですが。

 

思わず大声で、はい!!って言いそうになるぐらい。

 

でもですね、原作の事がありますし。原作の事を抜きにしても年齢差がありすぎますし。

 

お受けする事は出来ませんでした。

 

まほちゃんもきっと身近にいた私(異性)に抱いた親愛を恋心と勘違いしただけでしょうから。

 

それにですね。あの時のまほちゃんはちょっと怖かったんですよね。

 

……何故か手元にMG34機関銃を置いていたので(震え声)

 

しかも、ベルトリンクで繋がれた実弾が給弾口から垂れている奴を。

 

実弾装填済みのMG34機関銃なんて、何に使うつもりだったんですかねぇ?

 

というか、MG34機関銃は明らかにティーガーIから持ち出してきた奴ですよね。

 

かほさーん。

 

しほさーん。

 

貴女達の娘(お孫)さんが、凄く恐ろしい事を実行しようとしていますよ!?

 

有無を言わさず首を縦に振らそうとしてますよ!?

 

え?これが西住流交渉術だって?

 

当時そんな事を言われた私は震えながら黙るしかありませんでした。

 

「廉太さん」

 

げに恐ろしき西住一族。

 

いや、流石西住流の本家というべきでしょうか。

 

あんな交渉術があるなんて……交渉じゃなくて脅迫ですけどね、アレは。

 

「廉太さん」

 

「え、あ、何でしょう。まほちゃん」

 

「この写真はなんですか?」

 

私が過去の回想に浸っている間にまほちゃんが私の携帯の画像フォルダを検閲してました。

 

いつの間に取られたんです!?

 

というか、まほちゃん。人の携帯は勝手に覗いちゃいけませんよ?

 

そして、暗い瞳で私を見詰めながらプラウダ高校のカチューシャ君を肩車している写真を突き付けないでください。

 

お願いです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヤンデレ強し

「廉太さん。この写真はなんですか?」

 

「そ、その写真はですね……」

 

「廉太さん。この写真はなんですか?」

 

まほちゃん、そんなにリピートしなくても聞こえていますよ。

 

そしてリピートする度に残り僅かな距離を徐々に詰めてくるのは勘弁して下さい。

 

うれ――ゴホン。怖いですから。

 

というか、何故に私は浮気がバレた旦那ばりにまほちゃんから追及を受けているのでしょうか?

 

まほちゃんが言う写真の中に居る私はカチューシャ君を肩車している事はしていますけど、ノンナ君やプラウダ高校の戦車道チームの他の子達も写っているただの集合写真なので別段目くじらを立てる要素も無いはずなのですが。

 

「ゴホン。その写真は前回の戦車道大会でプラウダ高校が優勝した時に――イタタタッ!?」

 

「前回の戦車道大会?プラウダ?優勝した時?」

 

ま、まほちゃん!?手、手ッ!!

 

君の手が私の手首を握り潰しかけています!!

 

ミシミシ言ってますから!!

 

「何故廉太さんが彼女達と写真を撮る必要があったんですか?しかも、あの時に」

 

「答えます、答えますから。ね?」

 

答える前に私の手首を解放して下さい!!

 

潰れます!!ブチって潰れますから!!

 

「あ……すみません。つい」

 

「い、いえ、いいんですよ」

 

はぁ……助かった。

 

ようやく我に返ったまほちゃんがシュンとしつつ、手の力を緩めてくれました。

 

本当に潰されるかと思いましたよ。

 

しかし……“つい”で私の手首は潰されかけたんですか。

 

「それで廉太さん。どういう訳があって彼女達と写真を?しかも、こんなに親しげな様子で」

 

「いや、まぁ、大人の事情というモノが色々とありましてね」

 

「大人の事情。……大人の事情で彼女を、カチューシャを肩に乗せるのですか?廉太さん」

 

き、気のせいかな?段々とまほちゃんの瞳の光が消えていっている気が……。

 

「その点については……その、カチューシャ君に頼まれましてね」

 

「……頼まれた?」

 

「えぇ」

 

カチューシャ君の言い分だと私の肩は乗り心地がいいそうなんですよね。

 

それで会うたびに毎回肩車をせがまれるんです。

 

「では、他意は無いのですね?」

 

「他意?」

 

「いえ、分からないのであれば(ロリコンでなければ)いいんです」

 

「はぁ」

 

なんか……まほちゃんの言葉に含みがあったような気がしないでも無いですが……。

 

まぁ、気のせいでしょう。

 

「あ、廉太さん。船が港に着いた様です。降りましょうか」

 

「えぇ、そうしましょう」

 

ふぅ……何とかこの船旅を無事に終える事が出来たようです。

 

後は下船してまほちゃんとここでお別れするだけですね。

 

「では、まほちゃん。私はここで」

 

「えぇ。さよう――……あ、廉太さん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「廉太さんが私を受け入れてくれるまで、あと“2年”ですからね」

 

えーと?

 

これは、まさか……婚約の話を断った時にやけに食い下がってくるまほちゃんを納得させるために言った方便の事を言っているんですかね?

 

二十歳になった時にまほちゃんの考えが変わっていなければ結婚の話を検討するという。

 

……なんか検討=確定になっている気がするのは気のせいだと思いたいのですが。

 

「まほちゃん。あの条件の事をまだ覚えていたのですか?私は言ったはずですよ。世間には私などよりももっといい人が、君に相応しい人がいると」

 

「……撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れなし。鉄の掟、鋼の心、それが西住流。廉太さんもご存知のはずです」

 

「えぇ」

 

「でしたら西住流は何があっても前へ進む流派。強きこと、勝つことを尊ぶのが伝統であることも」

 

「えぇ」

 

「西住流に逃げるという道はありません。そして、私の気持ちが変る事もありません。それが私の答えです。必ずや貴方を撃破してみせます」

 

「……」

 

「では、また」

 

……え?ええッ!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

葛藤

さて。大洗女子学園対アンツィオ高校の試合がたった今始まりました。

 

……うん。始まりましたが先日のまほちゃんの一件が頭の中をグルグルと駆け巡っているために集中して試合を見る事が出来ません。

 

はぁ……私はどうすればいいのでしょうか。というか、何故に私なのでしょう。

 

好いてくれているのは嬉しいんですが、相手が私という謎。

 

西住流の心得や掟まで引用した宣戦布告(告白)だったという事は本気なんでしょうけど……。

 

本気故に困ります。恋愛経験皆無な私にどう対処しろと。

 

……ハハハッ。もう笑うしかない……うん。

 

この問題は2年後の私に任せましょう。2年後の私が何とかするでしょう。多分。

 

あ、そうそう。そう言えば……まほちゃん繋がりで1つ大変?な事があったんでした。

 

つい先日、黒森峰女学園対知波単学園の試合が行われ原作通りに知波単が敗れたのですが、知波単が最後の最後で隠し玉を使って黒森峰のティーガーIIとヤークトパンターを仕留めてました(棒)

 

原作だと高地に陣取った黒森峰に一方的にボコボコにされて終わっていたはずの知波単が。

 

はぁ……完全に「我々が負けるのは分かっています。ですが、格上相手にどうにか一矢報いたいのです。何か良い策はありませんか」と試合の数日前に西絹代君に電話で助言を乞われて、ついついしてしまった助言――イリサン谷の戦いを調べてみるといい――が原因です。

 

何せ私の助言を元に車体前方に爆雷2個を搭載した95式軽戦車と97式中戦車を試合に投入して、体当たり攻撃でティーガーIIとヤークトパンターを撃破したのですからね、西君は。

 

試合後に「一矢報いた上に派手に散る事が出来ました。ありがとうございます!!」と頭を下げられましたが……散ったら駄目でしょう!!

 

あとこれは余談ですが、帰る前にまほちゃんと会って(若干会いずらいので会わずに帰ろうとしていたら捕まりました)いたら、撃破されたティーガーIIに乗っていたエリカ君に物陰へ連れていかれ詰め寄られてしまいました。

 

どうも西君が私の助言でティーガーIIとヤークトパンターの撃破に成功した事を知ったらしく。

 

隊長の不利になるようなマネをするんじゃないわよ!!と。

 

彼女との付き合いも大概長いですが、忠犬具合に微塵も衰えが無いです。

 

流石、隊長(まほちゃん)大好きっ娘。百合ですね(確信)

 

ちなみに……凄く怖かったのが「隊長がアンタとツーショットの写真を携帯の待ち受けにして、ホクホク顔でよく笑っているんだけど……あれ、ナニ?」とハイライトの消えた目で詰問されました。

 

私が直ぐにまほちゃんの秘蔵写真をエリカ君に提供していなければ……今頃“事故死”もありえたかもしれません(ガクブル)

 

なんか……エリカ君が段々黒くなっていっている気が……。

 

忠犬って、怖いです。あっ、忠犬で思い出しました。

 

もう1人、忠犬で怖い子が居たんでした。彼女も――

 

『アンツィオ高校のフラッグ車、行動不能!!よって大洗女子学園の勝利!!』

 

あれ、回想に浸っている間に勝負が決まってしまいましたね。

 

まぁ、原作通りの試合展開だったので特筆する事も無かったですけど。

 

……では後輩達の奮闘を労いに行きますか。

 

もちろん、みほちゃん達が帰ってからですけど。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苦労人はほくそ笑む

あ、そういえばこの前の試合で大破したアンツィオのP40重戦車の修理の手配をしてあげとかないと。

 

試合後に会った安斎君――アンチョビ君は何も言っていなかったですけど、きっと今ごろ修理費の捻出に頭を抱えているでしょうし。

 

「局長、こちらの書類にサインをお願いします」

 

「はい」

 

っと、それも大事ですが仕事を早く片付けないといけませんね。

 

今こなしている仕事をキッチリ片付けておかないと大洗とプラウダの準決勝戦を見に行けなくなってしまいますから。

 

……にしても忙しいです。

 

「それと、こちらの書類の確認を」

 

「…………下から三行目の誤字と左上の数値に不備があるので、修正してから各部署へ送っておいて下さい」

 

「分かりました。あと学園艦の解体をする際に出るスクラップの件で◯×業者が打ち合わせをしたいと」

 

「えぇ、分かりました。後で電話をして話をつけておきます」

 

はぁ……本当に忙しい。

 

以前にも触れましたが、私が本当の発起人では無いのに書類上では発起人兼責任者にされているため、私が責任を持って大洗の廃校と学園艦の廃艦手続きを進めていかないといけないという理不尽さ。

 

ふとした瞬間に書類を破り捨ててしまいたくなります。

 

これが私の役目(運命)とはいえ、なかなか精神的に厳しいモノがありますね。

 

何せ可愛い姪っ子分を苦しめる原因をせっせと作っているんですから。

 

まぁ、最終的にはみほちゃん達にとってプラスになるからと思って頑張っていますが……。

 

「局長、お茶を淹れてきました。一息入れられてはどうですか?」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

有難い事に高島君はいつもちょうどいいタイミングで気を使ってくれますね。

 

おや?茶柱が立ってます。

 

この先、何か良いことでもあるんでしょうか?

 

ふぅ……それにしても高島君が淹れてくれるお茶はいつもおいしいです。

 

「……」

 

「高島君?どうかしましたか?浮かない顔をしていますけど」

 

何か高島君がどんよりとしています。

 

この前フォローを入れるために2人で行ったお酒の席以降は、機嫌も良かったのに何故でしょう?

 

「……局長。もう準決勝ですよ?このままの勢いで大洗が決勝にまで進むような事になれば、いよいよ後が無くなってきます」

 

あぁ、その事を気にしていたのですか。

 

「そうですね。もう準決勝ですね――いやぁ〜楽しみです。私も彼女達がまさかここまで来るとは思ってもみませんでしたよ。これがあるから戦車道は面白い。彼女達の健闘にはますます期待が出来ますね」

 

本当は確信していましたけど(棒)

 

「何を他人事のように呑気な事をおっしゃっているのですか!!このまま本当に大洗が優勝でもしてしまったら色々と問題が!!」

 

「分かっています。けれどプラウダを破る事が出来たとしても決勝で待っているのはあの黒森峰か聖グロリアーナという強豪校。大洗が勝てる可能性はかなり低いでしょう。つまり高島君が危惧しているような事にはなりませんよ」

 

なるんですけどね、実際。

 

「そうはおっしゃいますが!!……はぁ、局長はもう少しご自分のお立場の事を心配して下さい。局長が廃校撤回の件を検討すると大洗の生徒に言った事がどこからか漏れて、局長の足を引っ張ろうとしている低脳な輩共が工作を行っているという噂もあるんですから」

 

「そんな噂が……まぁ、所詮は噂ですから放っておいて大丈夫ですよ」

 

うん。まぁ、その噂は本当なんですけどね。そして撤回の件を漏らしたのは私自身です。

 

よく嫌がらせをしてくる派閥からどうせ妨害があると思って意図的に漏らしました。

 

そうするときっと彼らは私を窮地に追い込むために大洗を優勝させようと動いてくれますから。

 

そして事実彼らは私の思惑通りに大洗への支援を行っていますし。

 

フフフッ……計画通り。愚か者共よ、せいぜい私の手のひらの上で踊るがいい!!ハーハッハッ!!

 

「放ってって……はぁ……やはり、ここは私がしっかりしないといけませんね」

 

「? 何か言いましたか?高島君」

 

「いえ、何も」

 

「そうですか。とにかく我々が今出来る事は仕事をこなしつつ、彼女達をただ見守る事です。そして、結果がどうあれ各々の責任を果たすことです」

 

「……分かりました」

 

さてと。高島君の目に何かの決意が宿っている事が気になりますが。

 

とりあえずキリのいい所まで仕事を片付けてから大洗とプラウダの試合を見に行きましょうか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

舞台裏

感想で頂いたネタを元に、原作キャラの視点を試験的に書いて見ました。

なので、今回は役人ではなく。
※角谷杏視点です※


杏side

 

んーお次はいよいよ去年の優勝校であるプラウダとの試合かぁ。

 

今までもそうだったけど、ウチとプラウダだと輪を掛けて戦力差が厳しいんだよねぇ……。

 

でも、戦力差があるからと言って諦める訳にはいかないし。

 

何が何でも優勝してウチの高校を守らないと。

 

それに、あの七三メガネの鼻を明かしてやらないとね。

 

そういや秋山ちゃん達が見つけてくれた戦車はどうなってるかな?

 

息抜きがてらにちょっと様子でも見てくるか。

 

「お邪魔するよーって……」

 

「あ、会長。ちょっといいですか?」

 

「どったの?ナカジマちゃん。それに自動車部のみんなも」

 

何でみんなして首捻ってるんだろ?

 

「いえ、それが……今回見つかったB1 bisもそうなんですけど、今まで見つかった戦車達が少しおかしいんですよ。あと色々と」

 

「おかしいって何が?」

 

この戦車もパッと見おかしな所なんてないけど。

 

それに今までの戦車もおかしな所なんて無かったはずなんだけどなぁ……。

 

「何か長期間放置する事を前提に……というか、有り体に言えば今まで見つかった戦車が全車モスボールされているんです」

 

「モスボール?」

 

「あぁ、モスボールっていうのは……簡単に言うと将来的に使用するかもしれない兵器(戦車)に劣化を防ぐ加工を施し保管しておくことです。まぁ、うちの場合は保管じゃなくて放置されてましたけど」

 

「へぇ〜」

 

「それと角谷会長。他にも使い古されてはいますが工業高校や企業にしか無いような工作機械が幾つかあります」

 

「あと、真っ先に売られているはずの戦車の補修パーツが何故か山ほどあるんですけど、その補修パーツの製造年代がバラバラで――いや、バラバラなのはまだいいんですけど、おかしな事に大洗が戦車道を止めた後に製造されたはずのパーツまで混ざってます。つまり大洗の戦車道が廃れてから使用用途が無い補修パーツがここに来てます」

 

「ふーん……そりゃおかしいね。でもいいじゃん。別にあって困るもんでもないんだし」

 

「それはそうなんですけど……スズキやホシノが言ったように、工作機械があったり補修パーツが沢山あったりしているっていうことは、まるで誰かが大洗の戦車道が復活する事を見越して準備していたような感じがして……」

 

「ハハハッ、まさかぁ〜気にしすぎだって」

 

私達だって廃校の危機が無かったら戦車道なんて始めなかったのに、復活を見越してあらかじめ準備しておくなんて無理だって。

 

それこそ未来予知でも出来ない限りさ。

 

「そうなのかなぁ……」

 

「……そんなに気になる?」

 

「えぇ、それはまぁ」

 

「分かった。なら一応調べてみるよ。その代わり戦車のレストア頑張ってよ?」

 

自動車部のみんなには頑張ってもらってるし、ちょっと本格的に調べてみようか。

 

……そういや大洗が廃校になるって学園長に伝えた時、学園長変な事言ってたっけ。

 

『彼の言った通りになったな』って。

 

あと『そうか彼女は……それにアレはこの為の準備か』って。

 

『彼』と『彼女』と『アレ』って……なんだろう。

 

「はい、それはもちろん」

 

「じゃ、頼んだよ」

 

うーん。何か“匂う”なぁ。

 

よし。調べるのは小山と河嶋にも手伝ってもらおっと。

 

「はーい。……さてと。整備とレストア頑張りますか。ツチヤ、車庫の奥に置いてあったB1 bisのエンジン持ってきて」

 

「分っかりました。――あ、そうだ部長。ここで見つけたこの焼け焦げた納品書の事、会長に言わなくてよかったんですか?」

 

「あ、忘れてた。……まぁ、後で渡しておけばいいんじゃない?その紙に辛うじて残っている名前の人は男の人っぽいから多分関係ないとは思うけど」

 

「それもそうですね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラウダ高校

ちょっとテンポが悪いですが、プラウダ戦は5話編成(多分)でお送りします。
(;´д`)

後半3話が暗躍系のお話です。


へっくゅん!!ズズッ……誰かに噂でもされていたんですかね。

 

それにしても大洗女子学園とプラウダ高校の準決勝を観に来たのは良いですが、とにかく寒いです。

 

まぁ、ストーブが置かれた天幕――関係者用の観覧席にいるので少しはマシなのですが。

 

「失礼するわ。――あら?誰かと思えば同志局長じゃない。久しぶりね」

 

「お久し振りです。辻局長」

 

おや?カチューシャ君とノンナ君が観覧席にやって来ました。

 

選手である彼女達がここに何か用があるのでしょうか?

 

今のところ私と高島君しかいないのですが。

 

しかし……ノンナ君が居るという事はやはり、またあの“茶番”をしないといけないんでしょうね。

 

トホホ……。

 

「お久し振りです。ノンナ君。してカチューシャ君の声がしたと思ったのですがカチューシャ君はいずこに?」

 

「むっ!!失礼ね!!カチューシャはここに居るわよ!!ここよ!!」

 

「はて。声はするのですが……」

 

「ムキー!!ここだって言ってるでしょ!!いっつもいっつも会うたびにこんな事して!!粛清するわよ!!」

 

プンスカと怒りながらカチューシャ君が両手を振り上げ、ここに居るぞと私にアピールしていますが……まだこの茶番は続けないといけないんですよね。とある人物の指示で。

 

「ふむ。やはり声は聞こえるのですが姿が見えませんね」

 

「こ、このッ……!!うぅ……ノンナ!!局長が私を苛める〜!!」

 

「よしよし。大丈夫ですよ、カチューシャ。全く酷い人ですね。辻局長は」

 

……いやいや、酷い人ですねって。この茶番をやらせてるのは貴女でしょ?ノンナ君。

 

私にこの茶番をさせて今のように泣き付いて来たカチューシャ君をあやしたいからって。

 

「ゴホン。申し訳ありません、カチューシャ君。冗談が過ぎました」

 

「うぅ、辻局長なんて嫌いよ!!」

 

うぐっ!?こ、心に言葉の刃が……。

 

「あらあら。カチューシャ、ダメですよ。そんな事を言っては」

 

「いいのよ、局長が悪いんだから!!それにもう局長なんて嫌いだし!!」

 

「そうですか。嫌いなのですか……しかし、カチューシャ。(辻局長が試合を見に来ていると知って)わざわざここに行きたいと言い出したのは誰でしたか?」

 

「し、知らないわよ!!私は別に辻局長に会うためにここに来た訳じゃないんだから!!」

 

「でも、試合前に辻局長に会っておきたかったんですよね?」

 

「う……ノ、ノンナも嫌い!!」

 

「あらあら。私も嫌われてしまいました」

 

私のフォローをしてくれるのかと思いきや……すっごく楽しそうな顔でノンナ君がカチューシャ君を弄くっています。

 

「困りました。カチューシャに嫌われるなんて」

 

「フーンだ」

 

「悲しいです」

 

「フ、フーンだ」

 

「嫌われてしまっては、もう子守唄を歌ってあげる事が出来ません」

 

「……ぅ」

 

「それにカチューシャの側にいることも……」

 

「しょ、しょうがないわね!!カチューシャは心がシベリア平原のように広いから特別に許してあげるわ!!」

 

「ありがとうございます。カチューシャ」

 

「あ、あのーカチューシャ君?その……私も許して頂けると……」

 

「フーンだ。私に意地悪ばかりする局長なんて許してあげない!!――でも、そうね。私の言うことを幾つか聞いてくれるんだったら特別に許してあげるわ」

 

「えぇ、分かりました」

 

「くふふ……何を頼むか今から考えておかないとね。楽しみ〜♪」

 

ふぅ、とりあえずいつもと同じような流れでカチューシャ君には許してもらえましたが……ノンナ君のやり遂げた顔が少し怖い。

 

あ……そう言えばカチューシャ君達と一緒に居るときは天災的な意味での不幸な目に合いませんね。

 

まぁ、その代わりに人災的な意味での不幸な目には合うのですが。




明日も更新予定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

期待

「――横から失礼します。少しお話をよろしいでしょうか、カチューシャさん、ノンナさん」

 

うん?今まで沈黙を守っていた高島君が2人に声を掛けていますが、どうしたのでしょうか?

 

「えぇ、いい――よいしょっと」

 

「ッ!?」

 

イタタタッ!?カ、カチューシャ君!?

 

無理やり私の体によじ登るのは止めてくれませんか!?

 

「えぇ、いいわよ。何かしら?」

 

あのー……カチューシャ君?何故に私の肩の上に乗ってから高島君に返事を返すんですか?

 

もしやアレですか?ただ単に見下ろされたくないとかの理由ですか?

 

もしそうなのであればいつものようにノンナ君の肩に乗ってあげてくれませんかね?

 

いや、カチューシャ君が重たいから嫌だとかじゃないんですよ?

 

本音を言えばカチューシャ君のスベスベのフトモモが顔の横にきているので嬉し――ゴホン。

 

ただね、カチューシャ君の事を愛してやまない人がね……私の腰辺りにゴリッと硬いモノを押し付けているんですよ。

 

これって……モデルガンですよね?まさか、実銃じゃないですよね?

 

……実銃じゃないと言い切れない所が一番怖いんですけど。

 

「『そこは私の場所です。いくら辻局長と言えど赦しませんよ?』」

 

あとね、銃口を私の腰にゴリゴリと押し込みながら私にだけ聞こえるような小声でロシア語を話して警告を発しているんですよ。

 

……何気に命の危険です。

 

というか、カチューシャ君が自分で登ったのに私にどうしろというのか。

 

無理やり降ろそうとすると意固地になって余計に降りなくなるのはノンナ君も知っているはずなのに。

 

「お二人のご活躍を影ながら応援させて頂きます。是非ともこの試合、頑張って下さい!!」

 

あのー……高島君?カチューシャ君が私の肩によじ登った事はスルーなんですか?

 

あぁ……スルーなんですね。うん、ダメですね。

 

色々と無茶苦茶な事をやらかす私の近くに長く居すぎたせいで高島君の常識人的なレベルが落ちてしまっています。

 

そのせいで最早大抵の事には驚かず適応する力を身に付けてしまっていますね。

 

「そ、そう……。ま、あんな弱小チームなんてこのカチューシャ様にかかれば一捻りよ!!軽く一蹴してやるわ!!」

 

高島君がやけに意気込んでエールを送るもんだからカチューシャ君が若干引いてますよ。

 

まぁ、すぐに有頂天になって意気揚々と勝利宣言をするあたりカチューシャ君らしいですが。

 

「えぇ、その意気です。大洗など捻り潰してください。なんとしても、完膚なきまでに」

 

……高島君。なんか、応援している言葉の裏に私怨のようなモノが混じっていませんか?

 

「――カチューシャ、そろそろ時間です」

 

「分かったわ。よいしょっと……じゃ、またね同志局長。私達の2連覇を楽しみにしていて頂戴」

 

私の肩から降りたカチューシャ君が自信満々の笑みを浮かべながらノンナ君の肩に乗って帰って行きました。

 

しかし……結局、彼女達はここに何をしに来たんでしょうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いの最中

私生活にようやく若干の余裕が出来てきた……気がする。
(;´д`)

後書きにオマケがあります。



さてさて。

 

現在、大洗とプラウダによる試合が原作通りの展開を辿り、待ち伏せていたプラウダに包囲され集中砲火を浴びた大洗が何とか廃教会?に逃げ込んで籠城に成功した所なのですが。

 

「このまま……このままッ!!」

 

……横で試合を観戦している高島君が少し怖い。

 

まぁ、大洗の負けを望む高島君の立場的にはまたとない展開ですからね。

 

このままの勢いでプラウダに勝って欲しいと思うのは当然でしょう。

 

それにしても……やはりというか、天候が悪化してきましたね。

 

雪が本格的に吹雪いています。

 

『観客の皆様にお知らせ致します。ただいま、試合を続行するか協議しております。繰り返します――』

 

「なっ!?ここで中断などされてしまっては折角の好機が台無し――ゴホン。……すみません、局長。状況を聞きにちょっと行ってきますね!!」

 

あらら……アナウンスを聞いた高島君が天幕を飛び出して行ってしまいました。

 

大会本部にこのまま試合を続けるように言いに行ったんですかね?

 

しかし、昨年のみほちゃんの件以降、安全管理には神経を尖らせるように私が根回しをしていますから関係者とはいえ外部の人間である高島君が何かを言っても取り合ってもらえないはずなんですが。

 

……まぁ、少ししたら戻ってくるでしょう。

 

っと、なら今のうちに電話をしておきましょうか。

 

鬼の居ぬ間になんとやらです。

 

「――もしもし、私です。そちらの準備はどうなっていますか?……そうですか。それは重畳。では彼女達の元へ運んで下さい。……問題ありません。既に手を回して大会本部の許可は取ってありますから。あぁ、それとくれぐれも私の名前は出さないようにお願いしますよ。……え?あぁ、いいんです。プラウダ側にも届けて下さい。カチューシャ君達にはあまり必要とされないでしょうが、後からこの支援物資の差で試合が左右された等と外野からいちゃもんをつけられては厄介ですからね。……えぇ、では頼みましたよ」

 

ふぅ……これでよし。

 

原作通りならみほちゃん達は空腹と寒さで士気が落ちているはずですからね。

 

私が準備した食料と暖房器具で少しでも元気になってくれれば言うことはありません。

 

大洗side

 

「西住殿、こっちの鉄板ナポリタンも美味しいでありますよ!!一口いかがです?」

 

「ありがとう、優花里さん。……本当だ。美味しい」

 

「でしょう?アンツィオ高校に潜入した時に食べたのと同じぐらい美味しいであります」

 

「そうなんだ。――あれ?」

 

「……うーん」

 

「どうしたんですか、会長?」

 

「あぁ、西住ちゃん。いやね……誰がコレを差し入れてくれたのかって考えてたんだ」

 

「あぁ、そう言えば運んできてくれた人は送り主の事を言っていませんでしたね。一方的に私達に渡すだけ渡してすぐに帰ってしまいましたし」

 

「そうなんだよねぇ〜送り主にお礼を言いたかったから誰なのか聞き出そうとしたんだけど、頑なに教えてくれなかったし……本当に誰が差し入れてくれたのやら、この暖房器具とイタリア料理の山……」

 

「謎ですね……」

 

「――西住。空腹と寒さが無くなった今のうちに皆の士気をもっと高めておけ。隊長だろ」

 

「は、はい」




諸事情により、ボツにしたifルート。


――……えぇ、では頼みましたよ」

ふぅ……これでよし。

原作通りならみほちゃん達は空腹と寒さで士気が落ちているはずですからね。

私が準備した食料と暖房器具で少しでも元気になってくれれば、言うことはありません。

うん?電話が……非通知?誰でしょうか?

「はい、もしもし」

『……』

「もしもし?」

『……おじさん?』

………………ッ!?

み、み、み、み、み、み、み、み、みほちゃんッ!?

何故、私の電話番号を――って、自分から教えたんだった!!

不味いぞ!!

このタイミングでの電話は本当に不味い!!

だって、時系列的にみほちゃんが廃校の事実を杏ちゃんから知らされた後だから!!

『あの……私達の学校が無くなるって、本当なんですか?』

ほら、来た!!

「い、いや、その……」

ど、どうしよう!?

なんて答えたらいいんだ!?

『どうして無くなるんですか?』

「わ、私も廃校にはしたくないのですが、お、大人の事情というものがありまして……」

ぐぉおおおーーーーッ!!

みほちゃんの悲しそうな声が心に突き刺さるッ!!

『どうにかならないんですか?おじさんが大洗をオススメしてくれたお陰でようやく私の居場所と私の戦車道を見つける事が出来たんです!!だから!!グスッ、お願いです!!大洗を廃校にしないで下さい!!』

グスッ?

みほちゃんが泣いている?

“泣いている”だと?

「――分かりました。何とかしましょう」

『えっ?おじさ――』

ハハッ、ハハハハハ……。

私は何をしていたんだ……。

あの子に涙を流させるなんて……。

――うぁおおおおおッ!!

文部科学省がなんぼのもんじゃい!!

廃校なんてやらせはせんぞぉおおおお!!





もう1つオマケ。


うん?電話が……非通知?誰でしょうか?

「はい、もしもし」

『おじさん?』

「ッ!?」

『私達の学校が無くなるって、本当なんですか?』

「そ、それは……」

『嘘ですよね?』

「え?」

『廃校なんて嘘ですよね?』

「み、みほちゃん?」

『廃校にはならないですよね?』

「……」

『ならないですよね?』

「……ぁ」

『“ならない”ですよね?』

「ア、ハイ。ナラナイデス」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏側

本当なら少し更新が空く予定だったのですが、ガルパンの劇場版の再上映決定or家の近くにある映画館での上映が決定した事が嬉しくて、急遽書きました。

元々は予定していなかった話なので、前話の裏話的な内容となっています。

※ちなみにアンチョビ視点です。


アンチョビside

 

「……どうしたらいいんだ……」

 

うぅ……頭が痛い。

 

納車の時に先輩がオマケで大量の補修パーツをくれたから物はあるけど、ウチにはP40の修理が出来る奴なんていないし。

 

となると修理業者に頼むしかないわけだが、そうなると修理費用を調達しないといけないんだよな。

 

でも、CV33とかの燃料費ですらカツカツなのにどうすれば……。

 

こうなったらまた強襲戦車競技(タンカスロン)で稼ぐ――だぁああ!!ダメだ!!だから燃料費も無いんだって!!

 

はぁ〜……恥を忍んで先輩に修理費用もお願いするしかないのか?

 

……いや待てよ。確か先輩P40も直した事があるって前に言ってたな。

 

先輩に頼んで直し――はぁ……結局先輩に頼るしかないのか……カルパッチョとペパロニも巻き込んで先輩に――いやいや、ダメだ。

 

これ以上先輩に頼りない所を見せる訳にはいかん。

 

今までずっと助けてもらっていたんだし、これぐらい自分達でなんとかしないと。

 

うん、しょうがない。

 

いつものように屋台で地道に稼ぐか。

 

修理費を稼げるのがいつになるか分からんが。

 

「はぁ……そういやペパロニの奴、この大変な時にどこへ行ったんだ?朝から探しているのに見当たらないぞ」

 

「あぁ……疲れたぁ〜クタクタだぁ〜」

 

「あっ!?居た!!ペパロニ!!お前今日1日どこに居たんだ!?ずっと探していたんだぞ!!」

 

「え?あれ?今日は用事があるってアンチョビ姐さんに言ってなかったですっけ?」

 

「何も聞いていないが?」

 

「あちゃ〜すいません。言ったつもりだったんすけど……実は今日お菓子のおやっさんに頼まれて屋台の出張サービスをしてたんすよ」

 

「先輩に頼まれてだと?それに屋台の出張サービス?」

 

「そうっす。と言っても屋台形式でお客さんに直接料理を提供するんじゃなくて、天幕の中で言われた通りに料理を作っていただけなんすけどね。あ、そうそう……何か出張サービスの代金とか言って諸経費とかバイト代以外にも貰ったんで、これドゥーチェに渡しとくっす。ウチの活動資金にしましょうよ」

 

「なに?いいのか――……おい、ペパロニ。この分厚い封筒は何だ……」

 

「えっ?お菓子のおやっさんに貰った封筒っすけど、どうかしたんすか?」

 

「はぁ……お前に聞いたのが間違いだった。何でもない気にするな」

 

「? そうっすか。じゃ、ウチはこれで」

 

「あぁ、じゃあな。……何なんだこの封筒。うわっ……明らかに出張サービスの代金とかの枠を越えているぞ。それに何だこの紙は……先輩からの手紙!?何々?――P40の修理の手配をしておきました。熊本にいる修理工に修理を頼んでおいたので以前渡しておいた補修パーツと一緒にこの住所にP40を送って下さい――うぅ……全部バレてるし、また先輩の世話になってしまった……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着をよそに

『プラウダ高校のフラッグ車、行動不能!!よって大洗女子学園の勝利!!』

 

さて。これでみほちゃん達の決勝戦進出が決定した訳ですが。

 

いや〜しかし。みほちゃん達とカチューシャ君達の戦いぶりは素晴らしかったですね。

 

試合展開を知っている私ですら思わず息を飲む戦いでしたよ。

 

「……局長」

 

「うん?どうかしましたか、高島君?」

 

「どうかしましたか、じゃありません!!というか満ち満ちた顔で嬉しそうに拍手している場合じゃないんですよ!?次はもう決勝戦なんですから!!本当に後が無いんですよ!?」

 

「……そうですね。次は決勝戦ですね。いや〜楽しみです」

 

と、慌てふためく高島君をよそに。口ではお気楽な事を言いつつも実際の所はあまり安穏としていられないんですよね……。

 

もう少ししたら約束を反故にしないといけないという事もあって。

 

あぁ、気が重い。

 

「た、楽しみですって……あぁ、もう!!こうなったら私が動くしか……。局長!!お先に失礼します!!」

 

「え?た、高島君!?」

 

……えーと。何故だか高島君が凄い早さで先に帰ってしまいました。

 

というか、なんか目をギラつかせて……やる気?に満ちていましたがどうしたのでしょうかね?

 

まぁ、帰ってから聞けばいいですか。

 

――あ、そういえば……まほちゃんと一緒にしほさんがこの試合を見に来ているんでした。

 

カチューシャ君達の労を労いに行く前に挨拶をしに行きましょうか。

 

仮にも原作と同じようにプロリーグ設置委員会の委員長役をお願いしている訳ですし。

 

「――あんなものは邪道。決勝戦では王者の戦いを見せてやりなさい」

 

「西住流の名に懸けて、必ず叩き潰します」

 

あ、居ました。

 

ちょうど原作にあったしほさんとまほちゃんのやり取りが終わった所のようです。

 

今なら声を掛けても良さそうですね。

 

「先生、先生ではありませんか。お久し振りです」

 

「……チッ!!」

 

し、舌打ち!?

 

ただ単に声を掛けただけなのに睨まれた上に舌打ちまでされましたよ!?

 

何かしましたか、私!?

 

「せ、先生?」

 

「私に何かご用ですか?」

 

き、機嫌が悪いのでしょうかね?非常に気が立っておられるご様子。

 

とりあえず手短に話を終わらせて撤退しましょう。

 

……今まさに、にじり寄って来ているまほちゃんに捕まらないためにも。

 

「いえ、その……ご挨拶とプロリーグ設置委員会の件で」

 

「あぁ、あの件の事でしたら近日中にお返事致します」

 

「そうですか。では、良いお返事を心からお待ちしております。――……それにしても、あのみほちゃんがここまでやるとは思ってもみませんでしたね」

 

「ここまでやるとは、ですって?」

 

「ぁ……」

 

やってしまいました。ついポロリと余計な事を……。

 

お陰で完全にしほさんに火がついてしまっています。

 

それに加えて話し方が私的な時のそれになっていますし……不味いですね。

 

 

「白々しい事を言わないでちょうだい。みほが再び戦車道を始めたのは貴方の差し金でしょう。全く……余計な事をしてくれたわね。これで西住流の名に傷が付いたらどうするつもりなの?」

 

「な、なんの事でしょうか?私にはさっぱり」

 

私はみほちゃんに戦車道をやるようになんて言っていませんよ。

 

本当ですよ?ただみほちゃんが大洗に行けば再び戦車道をやることを知っていたので事前に環境を整えたりはしましたけど。

 

あとは色々な“偶然”が重なっただけなんですから。

 

「とぼける気?戦車道が嫌になって逃げ出したあの娘がわざわざ転校先で戦車道をするなんて誰かが裏で糸を引いていない限りありえないのよ」

 

「そう言われましても……」

 

「あくまで白を切るつもりなの?……まぁ、いいわ。貴方の事だから調べても何も出てこないでしょうし(この男は肝心な所で抜けている所があるから……そうね、蝶野一尉辺りを突っつけば何か出てきそうね)どのみち決勝戦ではまほが西住流の戦いであの子の邪道を叩き潰すのだから」

 

……ふーむ。実際は親バカなのに戦車道の事となると西住流の師範としての自分を出し過ぎてしまう不器用なしほさんの為に少し手を打っておきましょうかね。

 

「さて、それはどうでしょうか?」

 

「……なんですって?」

 

「風の噂によるとみほちゃんは大洗で得難い仲間達を得て、自らが思う戦車道を見つけようと今までになく頑張っているそうですから。――これは優しすぎるあの子の成長を妨げていた西住流という枷から解き放たれたお陰ですかね」

 

くそ生意気にメガネをクイッと上げてから、しほさんが絶対に食い付くような餌を垂らしましたが……食い付いてくれるかな?

 

「そう。西住流の枷から解き放たれたお陰……」

 

く、食い付きました!!けど、怖いぃ!!

 

怒髪天を衝く勢いで怒っているはずなのに無表情で平坦な声なのが余計に怖い!!

 

「それで?まさか貴方はまほとみほが戦ったら、みほが勝つとでも言うのかしら?」

 

「さすがに断言は出来ません。しかしながら今のあの子……いや、大洗の子達であれば勝つ可能性は十分にあります」

 

シリアスっぽい会話の途中に何なんですが……。

 

あの……まほちゃん?そんなに悲しそうな顔をされると心が痛いです(というか、いつの間にかまほちゃんに腕を握られている)

 

いや、私がいけないんですけれどもね。

 

というか可愛い姪っ子分達が戦わないといけないこの状況も結構辛い。

 

まぁ、原因の8割ぐらい(直接的・間接的含む)は私のせいだという。

 

……鬱ですよ。

 

「そんな大言壮語を吐くなんて後で後悔するわよ」

 

「さて、どうでしょうか?――何なら賭けてみますか?私が負けたならしほさんの言う事をなんでもお聞きますよ」

 

「そう。なんでも……ねぇ……」

 

し、しほさん?そんな獲物を前にした肉食獣のような笑みは浮かべちゃダメですよ?

 

「いいでしょう。受けて立つわ――フフフッ……楽しみね」

 

……あ、不味い。

 

この人、凄く悪い事考えてますよ!!

 

「その代わり、私が勝ったらしほさんは……そうですね。みほちゃんと話し合いをしてもらいますからね?あの子の言い分や気持ちを頭ごなしに否定するでなく、しっかりと受け止めながら」

 

「ッ!?あ、貴方ッ!!何を――」

 

「何ですか?まさか西住流の師範ともあろうお方が前言を撤回すると?」

 

「クッ、貴方……最初からそれが狙いで……」

 

「さて、なんのことやら」

 

クククッ、あのしほさんに一杯食わせてやりましたよ!!

 

「……まぁ、いいわ。決勝戦ではまほが勝つのだから。――せいぜい首を洗って待っていなさい!!」

 

……あれ?しほさんが首を洗って待っていなさい!!とか言うと私がリアルに首チョンパされる未来しか見えないんですが。

 

わ、私の勘違いだと思いたいです。

 

「まほ、帰るわよ」

 

「はい、お母様」

 

しっかりとしほさんに返事を返す割には……私の腕から手を離さないんですね、まほちゃん。

 

……うん?何ですか?屈め?

 

「私が勝ったら私の言う事も何でも聞いてもらいますからね。では」

 

……何でそう言うことを耳元で恥ずかしそうに囁きますかねぇ……思わずドキッとしてしまい――ヤバい……万が一原作通りに進まなかったら……人生の墓場行き?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後悔

探せば探すほど突っ込み所のあるお話になってしまいましたが……今後の話の展開を考えるとこうするしかなかったので、広いお心でスルーして頂けるとありがたいです。
(;´д`)


ちなみに、もろにリボンの武者の設定が入っています。

(´・ω・`)?
じゃあ、リボンの武者までやるの?

(´-`)
プロットはあるけど多分やらない。

((((;゜Д゜)))


『――来年も大洗でみんなと戦車道をやりたいから……だから、絶対に優勝してみせます!!』

 

「……そうですか。影ながら応援していますよ、みほちゃん。ではそろそろ切りますね。お休みなさい」

 

『ぁ、はい……お休みなさい』

 

ふぅ……心が痛いです。

 

大洗とプラウダの準決勝戦が終わったその日の夜。

 

やはりというか、みほちゃん、麻子ちゃん、優花里ちゃんの3人からそれぞれ電話が掛かって来ました……。

 

電話の内容は当然戦車道大会で優勝しないと大洗が廃校になるという件について。

 

みほちゃんには廃校をどうにか回避出来ないかと懇願され、麻子ちゃんには本当に廃校になるしかないのかと事実確認をされ、優花里ちゃんには廃校にしないでほしいと泣き付かれました。

 

この時点で全ての事を吐いて楽になってしまいたかったのですが……そういう訳にもいかないので、この一連の件は公務の一環で私個人の力ではどうする事も出来ない。しかし、みほちゃん達が大会で優勝し実績を築いてくれれば何とか出来るかもしれない。というような事を伝えた所。

 

皆、大洗の廃校を回避するべく闘志を燃やしていました。

 

私の言葉通りに自分達が勝てば大洗が救われると信じて。

 

……けれど私は最悪の形で彼女達の信頼を裏切り、熱意を踏みにじり、頑張りをぶち壊さないといけないという。

 

あぁ、なんてクソッタレな役なんでしょう。

 

はぁ……せめてもの償いとしてみほちゃん達のためにより一層滅私奉公(細かい意味合いは違いますが)に励みますか。

 

「――では、これで決まりという事で。他に何かありますか?」

 

「すみません、少しだけよろしいでしょうか?」

 

さて。大洗と黒森峰の決勝戦が明日に迫まる中、私は何をしているかというと。

 

大洗の廃校に向けた(させませんが)実務者会議をしております。

 

お相手は陸にある中学・高校を管轄している教育局長さん。

 

会議の内容は廃校になる(させません)大洗の生徒の振り分け先の学校の選定及び協議です。

 

「……またあの話ですか。これまで何度も言いましたがここまで計画が進んでしまった以上、途中で取り止める事は無理です。“そんな事”は貴方もよくご存知のはず」

 

これまでの会議で毎回廃校撤回の協力要請をしているせいか、話の内容を言う前に陸の教育局長さんに断られてしまいました。

 

「えぇ、“身をもって”承知しています。しかし、私の所とそちらの部署の連名でこの代案を上申出来れば一縷の望みが――」

 

「はぁ……貴方の状況はよ〜く聞き及んでいます。知らぬ間に責任者にされて望まぬ仕事をやらされている点などには同情しますが、貴方と共に危ない橋を渡る訳にはいきません。ご理解下さい」

 

チッ、やっぱりダメですか。

 

まぁ、陸の教育局長さんの立場ならそう言うでしょうけど。

 

誰だって危ない橋は渡りたくないですからね。

 

「……そうですか」

 

「ところで一度聞いてみたかったのですが、戦車道のプロリーグの設立やその後の世界大会誘致に向けた現状の動きは戦車道を盛り上げようとしていた貴方にとって長年待ち望んでいた悲願だったのでは?それなのに何故、大洗という目立った実績も無い学校のために全てを無に帰するような事をするんですか?代案があるとは言え、大洗の廃校を撤回すればプロリーグの設立や世界大会誘致にも少なからず影響が出てくるというのに」

 

「確かに……プロリーグや世界大会誘致が現実のモノとなれば戦車道は往年の活気を取り戻す事が出来るでしょう。そして、それは私が待ち望んでいたモノに相違ありません。しかし!!だからと言ってそのために犠牲が――悲しまねばならない生徒達がいることを看過する事は私には出来ません」

 

「……貴方はまだBC高校と自由学園の統合計画の事を悔やんでいるのですか?」

 

「さて……どうでしょうかね」

 

悔やんでいる……いや、引き摺っているんでしょうね、私は。

 

彼女達を救えなかった事を……だからこそ。何がなんでもみほちゃん達は救ってみせます。

 

「……自らに課せられた職務を完璧にこなす一方で、大洗の廃校を撤回しようと貴方が裏で各方面に働き掛けているのは知っています。その上で忠告しておきます。手段はなんであれ大洗の廃校を撤回した場合、貴方がここまで積み上げてきたキャリアは確実に無くなりますよ?それでもいいのですか?」

 

「その点については全て承知の上でやっていますから大丈夫ですよ。それに……キャリアが無くなろうが正直言ってどうでもいいんです。全ては生徒のためになるかどうか」

 

最早この立場に何の未練も無い私にはキャリアなどどうでもいいですからね。

 

それに正直に言うと後の事は手を打ってありますからどうとでもなるんです。

 

「……ここまで噂通りの人だとは」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ、何も。廃校撤回の件ではお力になれませんが、他の事で何かあれば喜んでお力になりますよ。では、これで失礼します」

 

ふぅ……やはりダメでしたか。まぁ、元より期待はしていませんでしたけど。

 

恐らく世界の修正力が働いている事でしょうし。

 

しかし、修正力が働いているからと言ってただ座して待つわけにもいきませんからね。

 

足掻けるだけ足掻きましょう。あの子達のために。




何故、電話の部分をカットしたァア!!と言われそうな気がするので、ちょっとだけ書いときます。(ここをしっかり書いて本編に入れると、後々の展開で齟齬が出てくる可能性が高かったのでカットになりました)



みほの場合。
『――廉太さん。大洗が廃校になるっていうのは本当なんですか?』

「残念ながら」

『……そんな……だったら、廃校を回避する方法は無いんですか?』

「今の現状だと私にはどうにもできません。しかし……みほちゃん達が戦車道の大会で優勝してくれれば、あるいは」

『私達が優勝したら廃校は無くなるんですね?』

「…………えぇ」

『分かりました。私は来年も大洗でみんなと戦車道をやりたいから……だから、絶対に優勝してみせます!!』


麻子の場合。
『本当に大洗は廃校になるしか無いのか?』

「えぇ、これまでの実績や生徒の減少傾向を鑑みると廃校は免れません」

『だが、私達が大会で勝てば廉太さんが何とかしてくれるんだろう?』

「…………えぇ」

『分かった。絶対に優勝してみせる』


優花里の場合。
『大洗が廃校になるなんて嫌であります!!私はもっと西住殿と一緒に戦車道がやりたいであります!!』

「そう言われても……残念ながら、私にはどうする事も出来ません」

『うぅ〜……分かりました。しかし、我々が大会で優勝さえすれば廃校は撤回されるのでありますよね?』

「…………えぇ」

『だったら絶対に優勝してみせるであります!!』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劇場版に向けて

とうとう始まりました。

 

大洗女子学園対黒森峰女学園という運命の一戦、歴史に刻まれる第63回戦車道全国高校生大会の決勝戦が。

 

……本当なら生で試合を見るつもりだったのですが、残念ながら予想外の事態が発生したために私は直接見る事が出来なくなってしまいました。

 

予想外の事態――準決勝の結果を見て危機感を抱いた高島君が上を丸め込み、万が一に備えて劇場版であったように大洗の廃校時期を早めてしまったので。

 

あぁ……頭が痛い。

 

私が自発的に廃校時期を早める事をしない代わりに修正力を受けた上が廃校時期を早めろと言ってくるのだろうと勝手に考えて、その対策をしていたら高島君が廃校時期を早めてしまうという。

 

予想外にも程があります。

 

というかこれでみほちゃん達が負ける事があれば我々は彼女達に対して凄まじく酷い仕打ちをしなければいけないというね。

 

全く、とんだキラーパスですよ。

 

まぁ、そんな訳で……今現在、私は大洗の廃校時期を早める書類を製作している傍ら、テレビで試合の様子を見ています。

 

ちなみに。

 

『勝手な事をして本当に申し訳ありません。しかし全ては局長の事を思えばこそなのです。それに……ここで局長を失う事があれば他の学園艦の生徒達はどうなるのです?上の連中が私利私欲のために無理のある統合や廃校を推進する中で否を唱え、当事者の生徒達が納得出来る形で事を収められるのは貴方だけなんです。貴方が居なくなってしまったら本当に歯止めが効かなくなってしまいます。ですから……今回の件、大洗は残念ですが犠牲になってもらいます』

 

と高島君から謝罪と説得を受けましたが、ここでも私に対する過大評価が……。

 

はぁ……何にせよこれで劇場版に進むのは確定となりました。

 

……どんな顔をしてみほちゃん達に廃校になる+時期が早くなったと告げに行けばいいのやら。

 

『――黒森峰女学園のフラッグ車、行動不能!!よって大洗女子学園の勝利!!』

 

歴史的快挙を遂げた大洗の偉業にテレビ画面の向こうが大いに沸き立っています。

 

しかし、試合の途中途中に気になったのですが黒森峰の砲撃が原作よりも激しかったような気が。

 

やはりまほちゃんの気合いの入れ具合の違いによるものなので――え?

 

そんなのってアリですか?

 

……え〜最後の最後でまほちゃんの執念を見せ付けられたような形になりました。

 

大洗の勝利が決定した直後、Ⅳ号戦車の白旗が上がるというハプニング?が発生。

 

あぁ、本当に危なかったです。

 

あと少し勝利宣言が遅れていたら引き分けという結末もあり得たかもしれません。恐るべし、まほちゃんの執念。

 

しかし……なんですね。画面の向こう側と違ってこちら側ではお通夜のような空気が漂っています。

 

「そ、そんな……バカな……黒森峰が負け……た?あの戦力差で……?」

 

まぁ、その空気を出しているのは主に高島君なんですが。

 

うん?電話が……って、まさか!?みほちゃんからですか!?

 

ほっ……良かった。違う番号です。しかし、これはまた厄介な相手から電話が来ましたね……。

 

「はい、もしもし」

 

『あぁ、辻君かね。ワシだ、牟田だ。君にちょっと確認したい事があってな』

 

確証が無いために断言は出来ませんが、今回の件を裏で主導したであろう人物――文部科学大臣の牟田正志議員から直々の電話……嫌な予感がビンビンにします。

 

「はい、何でしょうか?」

 

『“君が”主導してやっている大洗の廃校についてなのだが……進捗はどうだね。順調に進んでいるのかね?』

 

よくもまぁ、抜け抜けと……。

 

分かりきっていた事ですが牟田大臣の言葉からして、大洗の廃校で何か問題があれば私に全責任を擦り付ける気マンマンですね。

 

で、成功した時は私に昇進という餌を与えておいて自分は苦労せずにありつけた美味しい利権を貪るつもり……と。

 

「ご安心下さい。その件でしたら順調に進んでおります」

 

忌々しい事に今はまだ社会人として例えやりたくない仕事だろうとやらないといけませんからね。

 

文句の付けようがない程度にはこなしています。

 

『そうか、それは良かった。実は何やら良からぬ噂を聞いたんでな。何でも君がこの計画を頓挫させようとしているとか。所詮は取るに足らん噂だったか。ガハハハッ』

 

「アハハハッ……」

 

なるほど釘刺しの電話ですか。

 

『ワシとしては有能な君達を失いたくはないのでな。噂とはいえ少し心配だったのだよ』

 

うん?君達?あれ?

 

「あの、大臣?君達というのは……」

 

『うん?あぁ、君と君の所の副局長の女性だよ。君は責任者だから当然だが、副局長の彼女の進言で計画を繰り上げたのだから、それが失敗した場合にはもちろん彼女にも責任を取ってもらわねばなるまい。おっと、そろそろ次の予定があるのでな失礼するよ。では』

 

「……」

 

これはやられましたね……。

 

私が現状で意図的に廃校を阻止すれば責任問題が高島君にまで及んで彼女を巻き添えにしてしまいます。

 

はぁ……結局は原作通りの役回りを行わないといけないんですね。

 

となれば書類に少し手を加えて発案者を高島君に、そして実行責任者を私にするしかありません。

 

後は根回しをして高島君の責任の部分を私に被せてしまえば何とか……。

 

ふぅ。仕事がまた増えてしまいましたね。残念ながらしばらくは激務が続きそうです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗雲

この話(※みほ視点)から2〜3話、大会終了後〜エキシビションマッチの間のお話をやって、劇場版に突入したいと思います。

……まほとクラーラで1話ずつやろうと思っていたら、三姉妹やら13歳の女子大生やらに尺を全部持っていかれたという
(;´д`)


みほside

 

……はぁ、ようやく学園に着いた。

 

学園艦に住んでいる人達の出迎えが凄くて学園に辿り着くまでにいつもの3倍ぐらい時間が掛かっちゃったから、もうヘトヘト。

 

あ、そうだ。試合が終わって直ぐの時は繋がらなかったけど、今なら繋がるかな?

 

「……」

 

『お掛けになった電話――』

 

「……また繋がらない……どうして?」

 

いつもなら3コール以内には絶対に出てくれたのに。仕事が忙しいのかな?

 

「あれ?みぽりんどうしたの?優勝したのに暗い顔なんかしちゃって」

 

「ぁ……沙織さん。ううん、何でもないの。大丈夫」

 

「もう!!そんな落ち込んだ様子で大丈夫って言っても説得力ないよ?何か困ってるんだったら相談に乗るから言ってみ?」

 

……沙織さんに心配掛けちゃった。

 

けど、そんなに落ち込んでたのかな?私。

 

「その……大したことじゃないんだけど……実はね、ちょっと電話が繋がらなくて……」

 

「電話?……ハッ!!繋がらなくてそこまで落ち込むという事は、まさか彼氏!?」

 

「ち、違うよ!?彼氏とかじゃないから!!」

 

あの人は……おじさんは現状だと彼氏とかじゃなくて、私が一方的な想いを抱いているだけというか。

 

それにおじさんは私の事を子供扱いしかしてくれなくて、そういう対象として見てくれていないみたいだし。

 

けど、あの“約束”があるからまだチャンスは……って、何考えているんだろ私。

 

「……へー。相手が男の人って所は否定しないんだ」

 

「も、もう!!沙織さん!!」

 

「アハハッ、ごめん、ごめん。でもみぽりんも電話が繋がらないんだ……ここらへんの電波の調子が悪いのかなぁ?」

 

「え?沙織さんも誰かに電話が繋がらないの?」

 

「あぁ、私じゃなくて麻子がね。さっきからお父さん代わりの――って、こう言うと怒るんだった。……麻子が小さい頃から親しくしている男の人と電話が繋がらないってボヤいてたの。いつもなら絶対に出てくれるのにって。それで今少し拗ねちゃってて。麻子ってばその男の人にぞっこんだから」

 

「そうなんだ……」

 

「あとね、ゆかりんも何か電話が繋がらないって言って自分の無線機とかモールス信号機とかで何かしてたよ。……ちなみに私の予想だと多分ゆかりんの相手も男の人だよ!!」

 

「そ、そうなんだ……優花里さんも繋がらないんだ……」

 

優花里さんの電話の相手の事を予想している沙織さんが少し怖い。

 

こういう話好きだもんね、沙織さん。

 

けど……無線機とモールス信号って相手の人は自衛隊の人なのかな?

 

……そう言えばおじさんも無線機とかモールス信号機を持ってたっけ。

 

「うん。……でもみんないいなぁ。今みたいに何か嬉しい事があったら、それを共有してくれるような男の人がいるなんて。――そうそう。ここだけの話麻子ってね、電話の相手の人の所で働きたいから小さい頃からずっと勉強を頑張っているんだよ。凄いよね?」

 

「へぇ〜そうなんだ」

 

そう言えば冷泉さんちょっと前に言ってたっけ。

 

あの人と一緒に働くためにも頑張らないといけないって。

 

「まぁ、肝心の相手が年上過ぎるような気がしないでもないけどさ。でも文部科学省の偉い人らしいから優良物件なのかな?はぁ、写真とか見せてって言っても絶対に見せてくれないし……どんな人なんだろ辻廉太さんって」

 

「え?」

 

今おじさんの名前が聞こえたような。

 

気のせいだよね?

 

「うん?どうしたのみぽりん?」

 

「沙織さん。今何て言ったの?」

 

「え、えっと……どんな人なんだろ辻廉太さんって………………な、何か怒ってる?みぽりん」

 

「え?怒ってないよ……それで文部科学省の辻廉太さんであってる?」

 

「う、うん。そう聞いてるよ?」

 

「……そうなんだ……」

 

フフッ、フフフッ。

 

おじさんに聞きたい事が出来ちゃったなぁ……。

 

早く電話に出てくれないかなぁ……。




ちょっと更新が空きます。

メインの方(以前、感想で頂いたのですが私は書籍化とかしてないですよ(泣))の執筆が遅れ気味なのとDVDやファンブックを堪能するため。
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

策士、現わる

一週間後ぐらいに投稿する予定だったのですが、知らぬ間にお気に入り登録が5000以上(皆々様、本当にありがとうございますm(__)m)というトンでもない事になっていたので、急遽投稿。

その嬉しさからか……数行でさっと終わらせる予定のモノが……膨らみに膨らんで、こんな事に
(;´д`)


はぁ……ようやく家に帰れます。

 

大会の結末が原作と少し違っていたり大臣からの電話があったりと、いろいろあったせいで今日は疲れました。

 

明日からは高島君を巻き添えにしないために書類の修正と根回しに奔走しないといけないですし。

 

エキシビションマッチが行われるまでそれほど時間があるわけでもありませんから。

 

それにしても……マナーモードにしてあるプライベート用の携帯のバイブが止まらないんですが。

 

さっき恐る恐るチラッと見たら……みほちゃん、麻子ちゃん、優花里ちゃんからの電話・メールの着信が山のように入ってました。

 

出たい(返信したい)のは山々なんですが、今のタイミング的に電話に出る訳にはいかないんですよね。

 

3人には申し訳ないですけど、エキシビションマッチが終わるまで待ってもらうしかありません。

 

まぁ……エキシビションマッチが終わったら終わったで、また出れないんですけれども。

 

しかし、みほちゃんからの電話の回数がやけに多いですね。

 

何かあったんでしょうか?

 

って……あれ?私の家の前に誰か居ますね。誰でしょう?

 

こう言っては何ですが、私は郊外の更に奥の方に住んでいますから訪ねて来る人なんか滅多にいないはずなんですけど。

 

何か大荷物を持って――って、まさか……あれはまほちゃん!?何故私の家の前に!?

 

「あっ……廉太さん。こんばんは」

 

こんばんは。じゃないよまほちゃん!?

 

「ど、どうしたんですか?まほちゃん。こんな所へ……それにその大荷物は……?」

 

「その……実は廉太さんにお願いがあるんです」

 

「お願い?」

 

「はい。しばらくの間、廉太さんの家に泊めてくれませんか?」

 

「……」

 

は?今、何と?

 

「廉太さんも知っているとは思いますが、今日の決勝戦で私達の黒森峰はみほ達の大洗に負け優勝を逃しました。ですから……私は熊本に帰れないんです。お母様に会わせる顔が……」

 

あ、あぁ……そういう事でしたか。

 

「だ、大丈夫ですよ!!試合の様子はテレビで見ていましたが、まほちゃんの戦い振りに落ち度など全くなかったのですから。しほさんも今日の試合で怒る事はありませんよ」

 

「しかし……西住流は勝つ事が全て。負けた私に居場所は……ですからほとぼりが冷めるまで泊めてくれませんか?」

 

「そ、そう言われましても」

 

「ダメ……ですか?」

 

うぅ……そんな捨てられた子犬のような目で見つめられると……はぁ。

 

断れないじゃないですか。全く、しょうがありませんね。

 

可愛い姪っ子分の頼みとあらば致し方ありません。

 

私は家の横にあるガレージで寝ればいいですし、少しの間――……あれ?ちょっと待った。

 

まほちゃんは黒森峰の学園艦で生活していますから、今すぐ実家に帰る必要は無いですよね?

 

「まほちゃん?」

 

「……何でしょう?」

 

「君は学園艦の寮で暮らしていますから帰る場所はありますよね?」

 

それにいざとなれば東京に住んでいる私の所では無く、熊本に実家があるエリカ君の所に行けばいいんですから。

 

あの子ならまほちゃんが泊めて欲しいと言えば、大喜びしてまほちゃんを部屋に招き入れるでしょうし。

 

「……チッ」

 

舌打ち!?やっぱり計画的な行動でしたね!!危ない危ない。

 

情にほだされて家に上げていたら、きっとそのまま居付くつもりでしたよこの子。

 

やはりしほさんの子供ですね。恐ろしい。

 

「まほちゃん。送りますから学園艦の寮に帰りなさい」

 

「廉太さん。それは無理です」

 

「へ?」

 

「学園艦行きの終船はもう出ています」

 

「うっ!?じゃ、じゃあ、空から――」

 

「今日の天気予報によると1時間後には天候が急激に悪化し、台風並の暴風雨になるそうです。ですから今からではもうヘリや航空機は使えません」

 

「……」

 

その満面の笑み……謀りましたね!?この子、全部計算してから来てますよ!!

 

常夫をモノにしようとしていた時のしほさん並みですよ!!

 

「だから廉太さん。泊めてくれますよね?」

 

「ホ、ホテルを用意してそこに送りま――」

 

「今廉太さん以外の人に会うと悲鳴を上げてしまうかもしれません」

 

鬼ですか、君は!!そんな事されたら捕まりますよ、私!!

 

……全く。こうなってしまったらまほちゃんは引くことをしないですからね。

 

私が妥協するしかありません。

 

「……しほさんに連絡してOKが出たのなら一晩だけ泊まってもらって構いません」

 

えっと、しほさんの電話番号は……。

 

「あぁ、お母様に電話をしても無駄だと思いますよ」

 

無駄?何で――……って繋がらない……?

 

あ!!あの人、あの賭けの事を言われたく無くて居留守使ってますね!?

 

子供ですか、あの人は!!

 

……しょうがない。常夫にメールでこの事を知らせておきますか。

 

「……1日だけですよ?」

 

「分かりました」

 

はぁ……完敗です。というかアグレッシブに攻めて来るのはいいんですけど。

 

これでもし私が捕まったら元も子も無いと思うんですが。

 

……恋する乙女は盲目で強しという事ですかね。




カットするつもりのお泊まりの様子は……どうしよう……。

番外編で完結後にでもやりましょうかね。
(´∀`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘夜

全くの予想外。

でもまぁ、書いてしまったので投稿。

早く劇場版に突入せねば(汗)


「ではどうぞ。男の独り暮らしなので少し散らかっていますけど」

 

「失礼します」

 

……ん?まほちゃんを家に招き入れる時に向こうで何かが光ったような?

 

私の気のせいですかね?

 

それにしても……やれやれです。結局こうなりましたか。

 

というか、まほちゃんがうちに泊まるなんていつ以来の事でしょう。

 

確か……常夫としほさんが結婚記念日に2人で夢の国へデートに行きたいというので、まほちゃんとみほちゃんを預かったんですから……小学校以来?

 

「って、まほちゃん。そこは私の私室だから入ってはダメですよ?」

 

「いえ、チェックを」

 

何のですか!?何のチェックをするんですか!?

 

「リビングはこっちです」

 

「……チッ」

 

うーん。目を離すと色んな意味で危ないかもしれませんね。

 

……後で部屋の鍵を掛けときましょう。

 

「所でまほちゃん。もう夕飯は食べましたか?」

 

「いえ、まだです」

 

「じゃあ、何か作りますからテレビでも見ながらちょっと待っていて下さい」

 

「あ、手伝います」

 

「そうですか?では、キッチンに入ってすぐの所にエプロンが――」

 

「エプロンなら持ってきました」

 

「……」

 

何故にエプロン持参?あれ?なし崩し的にここで暮らすつもりですか?

 

……よくよく見たらでかいスーツケースがパンパンですし。不味くないですかね?

 

「っと、電話が。ちょっと待っていて下さいね」

 

「分かりました」

 

家の固定電話が鳴るなんて珍しいで――常夫からですか。

 

あっ、携帯を確認したら常夫からの着信だらけになってます。

 

出たら面倒な事になりそうですし…………無視しときますか。

 

うん?電話が鳴り止ん――FAXが来ましたね。何々?

 

乱筆過ぎてほとんど読めないですけど……貴様を殺す?

 

うーん。このまま常夫を放置しておくと危ない気がするので、まほちゃんに電話を入れてもらっておきますか。

 

まほちゃんから電話があれば常夫も少しは落ち着くでしょうし。

 

上手くいけばまほちゃんからの電話が嬉しくて、この事を忘れてくれるかもしれません。

 

「まほちゃん、常夫に――あれ?居ない」

 

何処に行ったんでしょうか?って、まさか!!

 

「まほちゃん!?」

 

「……すいません。トイレを借りようと」

 

「……そこは私の寝室ですけど?」

 

「間違えました」

 

「……」

 

油断も隙もないですね。

 

「さて、食事もお風呂も終わりましたし。そろそろ寝ましょうか」

 

……どちらも無事に終わったとは言えませんけど。

 

「そうですね」

 

「では、まほちゃんは2階の寝室を使って下さい」

 

「分かりました。――どこへ行くんですか?廉太さん」

 

「え?あぁ、私はガレージの方で寝るんですよ」

 

流石にね。同じ屋根の下で寝るのはアウトです。

 

というか、同じ屋根の下だと私が安心して眠れないんですよ。

 

「……」

 

まほちゃん。そんな不満気な顔をしてもダメです。

 

上目遣いも効きません。

 

「ご自分の寝室は使わないのですか?」

 

「えぇ、間違いがあってからでは遅いので」

 

「……」

 

うん?何故にそこで嬉しそうに微笑むんですか?

 

別に変な事を言ったつもりは――不味い。

 

間違いがあってからではなんて言ったら、その可能性があると言っているも同然に!!

 

「そ、それじゃあ、お休みなさい」

 

戦術的撤退!!

 

「ぁ……お休みなさい」

 

はぁ……やれやれ。食事中にアーンを強要されたり私がお風呂に入っている時に乱入しようとしてきたり。

 

疲れましたよ、全く。

 

「ガレージで寝るのも久し振りですね」

 

「Strv.103にⅢ号突撃砲、T-34-76、ヘッツァー、ティーガーII、パンター……以前よりかなり増えましたね」

 

「えぇ、前はStrv.103だけでしたからね。Ⅲ号突撃砲やT-34-76、ヘッツァーはクラーラ君のお父さんの協力の元、埋まっていた所を掘り出してレストアしました。ティーガーIIはベルギーでお酒好きのお爺さんからコニャック1本で譲り受け、パンターはドイツのお爺さんが地下室に隠していたモノを――って!?」

 

まほちゃんなんで付いてきてるの!?

 

「ま、まほちゃん?」

 

「なんですか?」

 

なんですか?じゃないですよ。

 

「君の寝る場所はあっちです」

 

「……昔のように一緒に寝てはダメですか?」

 

「ダメです」

 

「……チッ」

 

はぁ……渋々戻ってくれましたが……。

 

このまま素直に引き下がるまほちゃんじゃないですからね。警戒しておかねば。

 

……果たして私は明日の朝日を無事に拝めるのでしょうか?




オマケ。

「フフッ、フフフッ……やりましたわ。これでダージリン様も目を覚まして下さるはず。早く聖グロに戻って報告しないと」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ロシアからの留学生

さて、夜の西住流の始まり――

嘘です。

クラーラの回です
(;´д`)


……時間的にそろそろですかね?肝心の飛行機は既に到着していますし。

 

「『おじさま!!』」

 

おっと、噂をすればです。

 

到着ロビーから一際可愛らしい子が――クラーラ君が出てきました。

 

「『お久し振りです、クラーラ。元気にしていましたか?』」

 

「『はい、おじさま。フフッ、おじさまも元気そうで安心しました』」

 

……ふむ。最後に見た時はもっと小さかったんですが。

 

こんなに大きくなって。時間が経つのは早いですね。

 

まぁ、私が野暮用でロシアに行ってクラーラ君のお父さんと知り合い、クラーラ君を紹介されたのが7年前か8年前ですから。

 

当然と言えば当然でしょうか。

 

「『さてと。立ち話もなんですから行きましょうか。話は道中にでも』」

 

「『分かりました。でも、おじさまと沢山お話したい事があるんです。プラウダ高校に着くまでに全部話せるかどうか……』」

 

「『ハハハッ。時間はたっぷりありますから、心配しなくても大丈夫ですよ。さぁ行きましょう』」

 

「『はい』」

 

さて、プラウダ高校へ向けて出発です。

 

「『――彼女の事は頼みましたよ。カチューシャ君、ノンナ君』」

 

「……」

 

「『お任せ下さい。辻局長』」

 

「『クラーラも皆と仲良くするように』」

 

「『もちろんです。おじさま』」

 

「『では、私はこれで』」

 

「――もうっ!!みんなしてロシア語で話すんじゃないわよ!!日本語で喋りなさいよ!!」

 

「『はい?』」

 

ふぅ。ロシアから単身で遥々来日したクラーラ君をプラウダ高校――カチューシャ君とノンナ君の元へ無事に送り届ける事が出来ました。

 

それでは役目を果たしましたし仕事場に戻りましょうか。

 

それにしても戦車道大会が終わってからというもの忙しくて大変です(まほちゃんの一件もありましたし)

 

やることが沢山ありすぎて把握するだけでも精一杯というね。

 

とは言え書類の修正は既に完璧。後は各方面への根回しと知り合いの記者に時が来たら大洗びいきの記事を書いてもらう依頼だけです。

 

……まぁ、その各方面への働きかけが一番大変なのですが。

 

とにかく。これだけ事前に根回しをしておけば、私が大洗の廃校を撤回したとしても高島君に責任が行くことは無い……はずです。

 

ただ、問題があるとすれば……高島君へ責任問題が波及するのを防いだため、結果的に私が原作通りの役回りをする事になってしまった事でしょうか。

 

つまり世間的には私が大洗を廃校にしようとしているという感じに。

 

世界の修正力って怖いですねぇ……。

 

最も、みほちゃん達の為ならどんな汚名だろうが何だろうがバッチ来いなんですがね。




本当はもっとクラーラに話をさせる予定だったのですが、如何せんクラーラのキャラ(話し方等)が掴みきれなかったためかなり駆け足での通過となりました(汗)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

滅私

オリ大学が出てきます
(;´д`)


「局長、これが最後の書類です」

 

「……そうですか」

 

この書類にハンコを押してしまえば大洗の廃校手続きが全て完了し、みほちゃん達を悲しみのドン底に突き落とす事になります。

 

……順当に話が進めば後で撤回すると分かっているとは言え、そうそう簡単に押せるモノではありませんね。

 

しかし、悲しいかな。これもお仕事ですから個人的な理由で押したくないと言って押さない訳にもいきません。

 

「……」

 

うーむ。とは言え手が動きません。

 

「局長?どうかされましたか?眉間に皺が寄っていますけど」

 

「……いえ、何でもないです」

 

はぁ……押してしまいました。案の定凄まじい罪悪感が……。

 

「お疲れ様でした。それで局長?」

 

「うん?どうかしましたか、高島君」

 

「これで大洗の廃校手続きが全て完了した訳ですが、大洗にはいつ通知を?」

 

……そうでした。みほちゃん達に廃校になるという事を改めて言わないといけないんでした。

 

しかし、約束破りの裏切り者がどの面下げて行けばいいのやら。

 

……本音を言えば電話や書面での通知で済ませたいのですが、それだと原作(劇場版)から解離してしまいますし。

 

何よりケジメは付けないといけませんからね。私が行かねば。

 

「……来週、大洗や聖グロ、プラウダ、知波単といった各高校の戦車道チームが大洗の地に集まり、優勝記念のエキシビションマッチを行う事になっていますので、その際に私が現地に赴き直接通知を行います」

 

「承知致しました。その様に手配しておきます。――……最後まで廃校に抵抗しそうなあの娘達の対策として、退艦は通知を行った翌日という事にしておきましょうか。後は……万が一、抵抗するならば学園艦の住人達の再就職先の斡旋は無し。これでいきましょう」

 

……高島君がまた腹黒い事を言っていますね。

 

というか、最早高島君が原作における私の代わりを果たしていますね。

 

これが修正力というものですか……(棒)

 

「さて、私は用事があるので先に失礼させてもらいますよ」

 

「あっ、はい。お疲れ様でした」

 

それでは意識を切り替えまして、やらねばならない事をこなしていきましょう。

 

一先ず知途社(ちとしゃ)大学に急がねば。

 

それにしても……全く、千代さんも無茶を言ってくれます。

 

よりによってこのタイミングで飛び級して大学に進学した愛里寿君が大学の娘達と上手くやっているかどうか見てきて欲しいだなんて。

 

この件が万が一にもしほさんの耳に入ると西住流の人間が島田流の者と親しくするな!!と言った感じにネチネチと嫌みを言われるのですがね。

 

それに劇場版に影響を及ぼすような可能性がある行動はなるべく控えたいのですが。

 

……まぁ、断るor行かないという選択肢は毛頭無いですけど。

 

何故ならば千代さんが既に愛里寿君に私が行くと伝えてしまっているので。

 

加えて「貴方が来てくれると知って喜んでいたのに、来てくれないと知ったらあの子……悲しむでしょうね……」と脅しにも似た言葉を千代さんから頂きましたから。

 

「あらら」

 

さて。知途社大学に、もっと詳しく言えば知途社大学の戦車道演習場にある審判部本部に到着した訳ですが……。

 

うん。悲惨な状態ですね。現在、知途社大学戦車道チーム対大学選抜チームの練習試合が行われているのですが……知途社大学側の残存戦車がチハ1輌に対し大学選抜チームはM4シャーマンが28輌。

 

恐らくは30対30の殲滅戦形式の試合だったはずなので、知途社大学側は2輌しかシャーマンを食えていない事に。

 

まぁ、知途社大学は知波単学園の流れを汲む大学ですからね。

 

大方、開幕直後に無謀な突撃を敢行して大学選抜チームに鴨撃ちにされたのでしょう。

 

練度は高いのに戦術がお粗末なのは勿体ないですね。

 

おっ、最後の1輌となったチハが動きます。

 

……あぁ、やられてしまいました。試合終了です。

 

では、愛里寿君に会いに行きましょうか。




恐らくあと1話か2話やった後に劇場版へ突入出来るかと思います。

なお、次回の更新は2週間ぐらい先になる予定です。
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

華の女子大学生達

予定を少し前倒して投稿。

ちょっとこちらの執筆時間が取れていないため、今後は週1ぐらいの更新ペースでやっていくつもりです(;´д`)


ふむ。知途社大学との練習試合を終えて整備エリアに帰って来た大学選抜チームの様子を物影からこっそり見ているのですが……やはりチーム内にわだかまりがあるようです。

 

特に愛里寿君とチームメイト間に。

 

まぁ、愛里寿君もあまり社交的な方ではないですし、年齢差などもありますからね。

 

しょうがないと言えばしょうがないです。

 

出来ることであるならば今すぐにでも彼女達の間を取り持つ助けをしてあげたいのですけれど、劇場版を控えたこのタイミングでするわけにもいきませんし。悩ましい事です。

 

……さて、観察は十分しましたし。愛里寿君の元へ行きますか。

 

「あの場合アズミはもう少し早く右翼へ展開するべきだったな。メグミはいいタイミングでアズミの支援態勢に入れていたが、前に出すぎだ。あれではルミとの相互支援が――おじさま!!」

 

「え!?」

 

「た、隊長!?」

 

「どうしたんですか!?」

 

「オグッ!?」

 

私の姿を視界に捉えた途端、愛里寿君が満面の笑みを浮かべてすっ飛んで来ました。

 

鳩尾にいいのが……グフッ……。

 

「ちゃんと来てくれたんですね!!」

 

私の胸に頬擦りしていますが……まるで子犬ですね。

 

「え、えぇ……」

 

「最近どうして顔を見せてくれなかったんですか?」

 

「あ、いや、少し仕事が立て込んでいましてね」

 

仕事があったのは本当の事ですが……しかし……言えません。

 

劇場版に変な影響が出ないように若干避けていたなんて言えません……。

 

あと“あの話”の事もあって。

 

「仕事?あぁ、大洗の廃校の件。いろいろと大変だった様ですね。っと、それよりおじさま。この後時間はありますか?よければまたボコミュージアムに連れて行って欲しいのですが。それに“あの話”を断った理由を教え――」

 

不味いッ!?

 

「驚いた。コーチの前だとそんな顔を見せるのか」

 

「フフッ、コーチの前だと隊長も女の子なんですね」

 

「私達の前だと、あまり笑ってくれないのに」

 

「お前達……」

 

ふぅ……ナイスタイミングでアズミ君、メグミ君、ルミ君の三姉妹がやって来てくれました。

 

というか、いつの間にか大学選抜チームの子達に周りを包囲されていますね。

 

しかし……学園艦巡りをしていたせいでこの場にいる全員が顔見知りという。

 

「お久し振りですね。アズミ君、メグミ君、ルミ君。それに皆も元気そうで何より」

 

「「「「はーい。元気でーす!!」」」」

 

「コーチもお変わりなく」

 

「しかし、前はちょくちょく顔を見せてくれたのに今回はずいぶんと間が空きましたね」

 

「という訳でコーチ。宜しければこの後皆で食事でも如何です?」

 

アズミ君、食事のお誘いは嬉しいのですが色気を出しながら私にしなだれかかるのは止めてくれませんか。

 

完全に分かってやっているんでしょうけど……君のナイスバディががががが――メグミ君とルミ君も便乗して近寄って来なくていいから!!

 

前後左右を取り囲まないで!!

 

「……ムッ」

 

「うっ!?」

 

イタァイッ!!愛里寿君!?

 

踏んでます!!踏んでますよ!!

 

っ!?君の踵で私のつま先をグリグリしちゃダメですッ!!

 

「コーチ?どうかしました?」

 

「い、いえ……何でもないですよ。食事ですか、いいですね。今度社会人チームとの試合を行う予定だとも聞いていますし。壮行会を兼ねて盛大にやりますか。……もちろん私持ちで」

 

「「「「やったー!!」」」」

 

「あーあ。またそんな事言っちゃて。懐が寒くなっても知りませんよ?」

 

「それは学生のルミ君が心配する事ではありません。気にせず楽しむように」

 

「……まだ学生扱いか」

 

「……お互いに道のりは遠いわね」

 

「うん?何か言いましたか?ルミ君、メグミ君」

 

「「いえ、何も」」

 

さて。皆が浮かれる中1人拗ねているお嬢様のフォローをしておきますか。

 

「ボコミュージアムならまた今度連れて行ってあげますからね」

 

「2人だけで?」

 

「……2人だけで。だから今日は皆で楽しみましょう」

 

「分かりました」

 

……何だか大変な約束をしてしまったような気がしないでもないですが。

 

全て気のせいという事にしておきましょう。




お知らせ。

秘夜の後書きにフラッシュの正体を追加しておきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

劇場版

ようやく劇場版にまで漕ぎ着けました。
(´∀`)

というか、劇場版前だけで43話も書いたのか……。


とうとうこの日がやってきましたか。

 

ザ・エキシビションマッチ!!つまりは劇場版開始!!

 

胸が高鳴り――ません。残念な事に。

 

何故なら私はこれから大洗の廃校が決定した事を学園艦の住人の方々に説明しにいかなければいけないので。

 

あぁ……気が重い。かつて経験した学園艦の廃校における住人説明会の様相を思い出しただけで胃がキリキリします。

 

……ん?あれは。

 

「すいません、高島君。車を止めて下さい」

 

「え、あ、はい。……どうかされましたか?」

 

「いえ、ちょっと。すみませんがここで5分ほど待っていてくれませんか?」

 

「分かりました」

 

偶然にもちょっと話をしておかなければいけない人物を見つけたので少しだけ寄り道をしましょう。

 

「あ……局長さん。こんにちは」

 

「こんにちは、アキ君。……エキシビションマッチの参加を断ったそうですね?」

 

「参加すればいいってもんじゃないからね」

 

ミカ君は相変わらずの調子ですね。ま、それはさておき本題に入りましょうか。

 

「そうですか。君達の活躍を見たかったのですが。あ、そうそう。時にミカ君?」

 

「なんだい?」

 

「最近、何やらティーガーIIを手に入れたとか」

 

「あぁ、そうだね。チームのみんなが喜んで乗り回しているよ」

 

「ちなみに、そのティーガーIIはどうやって手に入れたんですか?」

 

「……風に乗ってやって来たのさ」

 

ポロロンじゃないですよ、ミカ君。

 

総重量が約70トンもある物体が風に乗る訳が無いじゃないですか。

 

「ほぅ……風に乗って。そうですか、そうですか。では……私の家のガレージからちょうどティーガーIIが消えている事について何か知っていることは?」

 

「……」

 

「ちょ、ちょっとミカ?あのティーガーIIは鹵獲したとか言ってたけど……まさか……」

 

ミカ君。君、表面上は飄々としてますが額から汗が大量に流れ落ちていますよ?

 

……多少の後ろめたさはあるようですね。

 

「アキ、局長。大事なのはどこにあるかじゃない。戦車が戦車として使われているかどうかだよ」

 

「はぁ……」

 

はい、有罪(ギルティ)開き直ればいいってもんじゃないんですがね。

 

「もう!!ミカー!!“また”局長さんの所から勝手に借りてきたのっ!?」

 

一言言ってくれれば貸すのに何故にこの子は勝手に持っていくのでしょうかね。ついでに燃料とかも。

 

ちなみに今までにもⅢ号突撃砲やT-34-76を持ってかれています。

 

なので現在私の家にあるⅢ号突撃砲とT-34-76は初代ではなく2代目の車両達です。

 

「アキ、違うよ。借りたんじゃない。あれは鹵獲したのさ」

 

遂に堂々と盗みました宣言が……。

 

「尚更ダメじゃないの!!」

 

「鹵獲――」

 

「それがダメだって言ってるの!!局長さんには色々と助けてもらっているのに何度もこんな事して!!」

 

「確かに。局長には色々と助けてもらっているね。でも、これからは私達が局長を助けるかもしれないだろう?」

 

「助け合いが大事だって言いたいの?」

 

「そうだね」

 

「助ける当てはあるの?」

 

「……時が来れば風が教えてくれるさ」

 

「当ても無いのに局長さんの家から戦車を持ってきちゃダメでしょ!!」

 

やれやれ。ミカ君もアキ君の説教で懲りてくれればいいのですが。

 

……前科がありすぎて期待はこれっぽっちも出来ませんけどね。

 

「全く……ミカ君?これから事前に話を通して下さいね」

 

「善処するよ」

 

「もう、ミカ!!すいません、局長さん」

 

何だかミカ君の行動に振り回されているアキ君が可哀想になってきましたね。

 

ふむ。そろそろ時間もきていますし、ここらへんで話を切り上げますか。

 

「まぁ、最早いつもの事ですからね。慣れましたよ。ハハッ」

 

「ほら、言っただろアキ。局長は許してくれるって」

 

「ミカ?」

 

こんなドスの効いた声がアキ君から出るんですか……怖い。

 

「……」

 

都合が悪くなるとミカ君はポロロンで逃げますね。

 

「さて、そろそろ行かなくては」

 

「あ、そうなんですか?本当にごめんなさい。ティーガーIIは今度返しに――」

 

「いや、あれはそのまま君達で使ってもらって構いません」

 

「え?でも……前もそう言ってⅢ号突撃砲やT-34-76を寄贈してもらったのに」

 

「私の家にあっても飾られているのが関の山ですからね。君達に使ってもらった方がティーガーIIも喜ぶでしょう」

 

それにあのティーガーIIは元々どこかの戦車道チームにあげるつもりでしたし。

 

「本当にいいんですか?」

 

「えぇ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。本当にありがとうございます」

 

「いえいえ。あぁ、それとミカ君」

 

「なんだい?」

 

「戦車の事は良いとしても、冷蔵庫の中身を全部持っていった事については後で説教です」

 

「……」

 

だからポロロンじゃないですよ。

 

はぁ……さてと。説明会に行きますか。




やはり劇場版で初めて登場したキャラクターを書くのは難しい。

ちなみに、ニコニコ動画に上がっていた試聴版を聞いてクラーラがヤバイキャラだという事は理解しました。((((;゜Д゜)))


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブレイカー高島

この話から、原作と少し異なる流れでストーリーが進んでいくので(大筋は変わりませんが)ちょっと粗が目立つかもしれません。
(;´д`)


はぁ……学園艦の廃校についての住人説明会はやはり慣れる物ではありません。

 

まぁ、後の事が保証されているとは言え仕事も家も失う事になる住人の方々の立場からしたらあの反応は普通なんですけどね。

 

しかし……今回の説明会はこれ以上ないぐらいにヤバかったです。

 

何しろ廃校撤回を匂わせ条件を満たしたと思ったら……廃校決定&廃校時期繰り上げ&突然の通知&明日退艦しろ……これでキレないはずがない。

 

特に廃校撤回を目指して戦っていた生徒――戦車道を選択していた子達の父兄(学園艦在住)のキレ具合と言ったらそれはもう……。

 

ちなみにその中でも優花里ちゃんのお父さんが一番怖かったです。

 

いや、他の方達のように怒鳴ってきた訳では無いのですが……。

 

あの風貌が……ヤザを連想させて……無言でずっと睨まれているのがキツかったです。

 

というか、本来の私はこれをどうやって乗り越えたのでしょうかね?

 

権力でごり押し?うーん。私には無理ですね。

 

「……申し訳ありませんでした。局長」

 

「いきなりどうしたんです?高島君」

 

「その……本当だったら私が説明会で矢面に立たなければいけなかったのに結局……局長に大変な所だけを押し付けてしまって……」

 

あぁ、その事でしたか。高島君にはまだあの罵詈雑言の嵐は厳しいでしょうからね。

 

どのみち私がやるつもりでしたし気にしなくていいのに。

 

「気にしなくていいんですよ。さ、次に行きましょう」

 

「……はい」

 

さぁて、ここからが私にとっての本番です。心は持つかな?

 

「今……何と?」

 

「ですから、8月31日付けで大洗の廃校が決定しました。また廃校に基づき学園艦は解体となります」

 

エキシビションマッチの後、温泉に入っていた杏ちゃんを呼び出し高島君と共に大洗の廃校が決定した事を伝えていますが……住人説明会で受けた罵詈雑言の嵐よりも彼女の愕然としている表情の方が心が痛みます。

 

「それは……どういうことですか?我々は貴方の言葉通りに戦車道大会で優勝したはずです。大会で優勝すれば廃校は撤回――」

 

「あれは確約ではありませんし、ましてや正式に取り決めた訳でもありません。加えて言えば、あれは存続を検討しても良いという意味です」

 

我ながらこのよく回る口を叩き潰したくなりますね。

 

しかし、廃校撤回を現実のモノにするため己に課せられた役目は果たさねば。

 

それが例え悪役であろうと。

 

「そん…な……」

 

「何か質問は?」

 

「……ありません」

 

何故杏ちゃんにこんな失意に満ちた表情をさせねばいけないんでしょうか。

 

はぁ……心が痛い。しかし、これでまだ始まったばかりとか……胃に穴が空きそうです。

 

「そうですか。では廃校が完了するまではこちらの指示に従って行動を」

 

「分かり……ました」

 

あぁ、チクショウ!!こんな憔悴しきった杏ちゃんなんか見ていられません。

 

しかし、諸悪の根源(手先?)である私が彼女にしてあげられる事は何もないという。

 

歯痒いにも程がありますよ。

 

「……」

 

……さて、所変わって大洗女子学園の正門前にやって来ました。

 

あぁ、原作通りにみほちゃん達が居ます。

 

帰りたい……でも帰れない……。

 

はぁ、心底嫌ですが……“役人”をやりますか。

 

「そういう事を言ってる場合じゃないよー!!」

 

「君達、勝手に入っては困るよ」

 

背後にいる私の声で一斉に振り向いた子達が私と高島君を見て怪訝な表情を浮かべて(みほちゃん、麻子ちゃん、優花里ちゃんの3人を除く)います。

 

「え?おじさ――」

 

「あ、あの!!私達はここの生徒です」

 

みほちゃんが私に声を掛けようとしましたが桃ちゃんの言葉に遮られてしまいました。

 

これが修正力……!!

 

「もう君達は生徒ではない」

 

「廉――」

 

「それは――」

 

「どういうことですか!?」

 

今度は麻子ちゃんと優花里ちゃんが私の言葉の意味を問い質そうとしたのでしょうが、そど子ちゃんの言葉に遮られてしまっています。

 

「君から説明しておきたまえ」

 

修正力って凄い……。

 

さて、役目を終えた私は原作通りにさっさと退場しましょうか。

 

みほちゃん達に捕まる前に。

 

しかし……この後のやり取りで私はみほちゃん達の信用を完全に失い嫌われる事になるのでしょうね……あぁ、鬱です。

 

「……」

 

「畏まりました」

 

……え?ちょっと待って下さい。

 

杏ちゃんが無言なのはいいんですけど、何で高島君が返事するんですか?

 

え?何で私の後に着いて来ないんですか?

 

いやいやいや、この場に来る時に高島君が自然に同行していたから若干あれ?って思っていましたけど……。

 

まさかのイレギュラー発生?いや、この程度のイレギュラーならリカバリーは可能なはず!!

 

私が高島君に声を掛けて連れ帰ればいいだけの話――……あ、ダメです。

 

チラッと振り返ったら高島君がやる気に満ち満ちています。

 

これはあれです。先の説明会での失態を挽回しようと意気込んでいる感じです。

 

仮に私が帰りますよ。とか声を掛けたとしても私にお任せ下さい。とか言われて連れ帰れないヤツです。

 

ま、まぁ、廃校になったと説明するだけですから大丈夫でしょう。

 

いざとなれば修正力が働くでしょうし。大丈夫、大丈夫。

 

「おじさん!!ちょっと待って下さい!!」

 

「廉太さん!!」

 

「待って欲しいであります、廉太さん!!」

 

「貴女達!!どこへ行くつもりですか!?今から話す事は貴女達にとって重要な話なんですよ。――あっ、こら!!どうして局長を追いかけようとするんですか!!私の話を聞きなさい!!」

 

「会長!!一体どういう事なんですか、会長!!」

 

「会長!!」

 

大丈夫と言ったそばから何やら背後がカオスな事になってるぅ!!

 

しかし、ここで私が足を止めると余計にカオスになってしまう!!

 

それに今みほちゃん達に捕まってしまえば全てを話してしまう気がしてなりません。

 

そんな事になったら廃校撤回にどんな悪影響が出てくるか……。

 

ここは黙って撤退した方がマシですね。という訳で撤退です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

察し

※高島君視点です。


高島side

 

全く……私が大事な話をすると言っているのに、この3人ときたら。

 

どうして局長を追い掛けようとしたのでしょうか?

 

……まぁ、いいです。さっさと話をして私も引き上げましょう。

 

「大洗女子学園は8月31日付けで廃校が決定しました」

 

「「「「えぇっ!?」」」」

 

「なお、廃校に基づき学園艦は解体されますのでそのつもりで」

 

「そんな……戦車道大会で優勝したら廃校は免れるって……」

 

「……あれは……確約では無かったそうだ」

 

そんな恨みがましい視線をこちらに向けないで欲しいですね。

 

そもそも局長が仰ったのは『一考の余地があります』という言葉。

 

考える余地があると言っただけなのに確約だと勝手に勘違いしていたのはそちらの落ち度でしょうに。

 

最も……局長は本当に廃校を撤回するべく動いていたようですが。

 

ご自分の地位を捨てる勢いで。全く、あの方はご自分の事を省みないから困ります。

 

「なにぃ!?」

 

「存続を検討しても良いという意味で正式に取り決めた訳では無いそうだ」

 

「そんな……」

 

「それにしても急過ぎます!!」

 

「そうですぅ〜廃校にしろ、元々は3月末のはずじゃ〜」

 

「検討した結果、3月末では遅いという結論に至ったそうだ」

 

「何で繰り上がるんですかぁ〜」

 

貴女達が余計な事(優勝)をしたからですよ。

 

大人しくしていれば、最後の学校生活を楽しめたというのに。

 

「じゃあ、私達の戦いは何だったんですか?学校が無くならないために頑張ったのに……」

 

「……納得出来ーん!!我々は抵抗するぅ〜」

 

「何をする気!?」

 

「学校に立て籠るぅ〜」

 

よくもまぁ、私がいる前でそんな事を……。

 

バカなのか……肝が座っているのか……恐らくは前者ですね。

 

「残念だが、本当に廃校なんだ!!……我々が抵抗すれば、艦内にいる一般の人達の再就職は斡旋しない。全員解雇にすると言われた」

 

「……酷すぎるぅ〜……」

 

酷すぎる?雇用契約の書類に突然の解雇もあり得ると明記されているのだから、こちらに落ち度はありません。

 

……まぁ、全員解雇の話は所詮ブラフですけどね。

 

実効力を付けようとしたら局長にお叱りを受けて出来ませんでしたから。

 

「みんな静かに。今は落ち着いて指示に従ってくれ」

 

「会長は……それでいいんですか?」

 

「……」

 

この片眼鏡の子は中々、酷な事を聞きますね。

 

私がいる前で反意を翻せばどうなるか分かっていないのでしょうか?

 

しかし、この生徒会長……何かやってくれそうな気がしますね。

 

廃校完了までは警戒しておきましょう。念のため。

 

「あ、あの……戦車はどうなるんですか?」

 

「全て文部科学省学園艦教育局長の預かりとなります」

 

局長の預かりになるとは言え……戦車も早めに取り上げておきましょうか。

 

この後、回収車両の手配をすれば明日の退艦と同時に回収出来るでしょうし。

 

……いくらなんでも今夜中に戦車を持ち逃げされる事は無いと思いますから大丈夫でしょう。

 

「戦車まで取り――……戦車とまでお別れしないといけないんですか!?」

 

「そんな……」

 

「……すまない」

 

さて、事情の説明は終わりましたし局長の所へ戻りましょうか。

 

「あ、あの最後にお聞きしてもいいでしょうか?」

 

「何でしょう?」

 

この子は……確か隊長の西住という子だったはず。

 

「学園艦の管理を行っているのは学園艦教育局でしたよね?」

 

「えぇ、そうです。我々の部署が管理しています」

 

「でしたら……大洗の廃校を決めたのは学園艦教育局長さんなんですか?」

 

「それは……――」

 

……ここでそれを肯定するのは局長の想いを知っている私には厳しいですね。

 

結局の所、局長の続投を願った私と利権に目が眩んだ上層部のせいで大洗の廃校は決まったのですから。

 

しかし、ここで局長がこの子達の為に上層部の命令を無視して廃校撤回に向け裏で動いていたなどと言って、万が一それが上に伝われば……局長のお立場が危なくなる。

 

それは何としても回避せねば。ですがここで肯定して……あれだけ廃校撤回に向け行動を起こしていた局長が悪者扱いをされるのも気が引けます。

 

何と返事を返したらいいものか。

 

「………………大洗の廃校は――」

 

「あ、もう大丈夫です。分かりましたから」

 

「え?そ、そうですか?」

 

「はい。ありがとうございました」

 

返答に困っていたので助かりましたが……私の長い沈黙で何が分かったというのでしょうか?

 

うん?この子……笑ってる?この状況で何故――……いや、この子だけじゃない。

 

他の子達が廃校が決まった事で悲しんでいるのに、この3人……最初の時に局長を追い掛けようとした3人だけは小さく笑っている。

 

どういうことでしょうか?




ヤンデレは全部お見通し。
((((;゜Д゜)))

さて、伏線を張りましたが……気が付く方はいるかな?

……結果的にまた、野暮だろ。と突っ込まれそうな気もしますが
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

信頼は揺らぐ事なく

加速する役人の勘違い。

ダー様最高。

高島君による原作ブレイク。

そんな感じのお話。


あ。もう夜ですか……。

 

後ろ髪を引かれながらも高島君を残しみほちゃん達の元から撤退した後、大洗の学園艦にあるホテルに戻ってから魂が抜け落ちたみたいにボーッと外の様子を眺めていたらもうこんな時間です。

 

いい加減しっかりせねば。

 

えーと、確か……少し前に高島君がみほちゃん達に廃校になるという説明をした結果の報告に来てくれたんでしたね。

 

その報告を聞いた限りでは深刻なイレギュラーが発生していなかったようなのでいいとして。

 

……はぁ、これでみほちゃん達に嫌われてしまいました。

 

こうなる事は最初から分かっていて覚悟していたとは言え……実際に嫌われるとなるとやはり落ち込みますね……。

 

しかし、私が嫌われる事でみほちゃん達が救われるというのであれば、いくらでも嫌われてみせましょう!!

 

……と言いつつも、ショックなのはショックなのでふて寝しま――電話です。

 

うわっ……何ですか、これ。

 

知らない内にみほちゃんや麻子ちゃん、優花里ちゃん、ダージリン君、アンチョビ君、カチューシャ君、まほちゃん、蝶野一尉、他多数からの着信履歴が凄い事に……。

 

え、えーと。それでとりあえず今の電話の相手は……ダージリン君ですか。

 

恐らく大洗の廃校が決定した事を知って掛けてきた抗議の電話でしょうね。

 

はぁ……本音を言えば出たくないです。

 

だって約束を破るなんて見損なった的な事を言われるのでしょうし。

 

ですが、今現在掛かってきている電話に気が付いてしまった以上、無視する訳にもいきません。

 

「……はい、もしもし?」

 

『もしもし?良かった。ようやく繋がりましたわ』

 

「申し訳ない。少し立て込んでいまして……」

 

『大洗の廃校の件……ですわね』

 

「……えぇ」

 

やはり大洗の廃校の件での電話でしたか。

 

さぁ、残り僅かな私のHPはダージリン君の言葉の刃に耐える事が出来るのでしょうか!?

 

『心中お察し致しますわ』

 

……あ、あれ?何だか予想と違う言葉がダージリン君から出てきました。

 

私の予想だと裏切り者!!とかろくでなし!!とか見損ないましたわ!!とかの罵詈雑言が飛んでくるはずだったのですが。

 

「あ、あの……ダージリン君?君は何か勘違いしていませんか?」

 

『あら?何をでしょう』

 

「いえ、大洗の廃校を決定し実行しているのは私ですよ?みほちゃん達にその言葉を言うのなら未だしも、私に心中お察しするというのは……おかしくないですか?」

 

『フフッ……局長はずいぶんと嘘が下手なのですわね』

 

「へ?」

 

『貴方が大洗の廃校を決定し実行している……そんな訳がありませんわ』

 

「しかし、実際に……」

 

『それは表向きの事ですわよね?』

 

「……」

 

『もう一度言わさせて頂きますけれど、貴方が大洗を廃校にするなどあり得ませんわ』

 

「……何故、そう言い切れるんですか?」

 

『わたくしが知る“貴方”だからこそですわ。他の方なら分かりませんけれど……貴方が大洗を廃校にする事は絶対にあり得ません。それは自信を持って断言させて頂きますわよ』

 

「……」

 

なんか……すごく信頼されてます?私?あ、不味い。顔が熱いです。

 

『それに……これまでの局長のご活躍の事を考えれば簡単な事ですわ。戦車道を愛し学生達の為に親身になって動いて下さる局長が、このような非道な決定を下すはずがないと』

 

「……」

 

『いろいろと事情がおありだとは思いますけれど……どうか、みほさん達を助けて下さいまし。そして……あまり無茶を為さらないように。私が言いたかったのはそれだけですわ。では……ごきげんよう』

 

うーん。物の見事に裏事情を見抜かれてるみたいですね。

 

しかし……私は何て単純なんでしょう。

 

ダージリン君に応援されて、こんなにも元気が出てくるなんて。

 

「局長!!大変です!!」

 

「ど、どうしたんですか高島君!?」

 

うおっ!?ダージリン君との電話を切った瞬間、高島君が血相を変えて私の部屋に飛び込んで来ました。

 

「いいから私に付いて来て下さい!!」

 

「え!?え!?一体どこへ!?」

 

……あれよあれよという間に高島君に腕を掴まれてホテルから連れ出され、レンタカーに乗せられたのですが。

 

これからどこへ行こうというのでしょうか?

 

「高島君。一体どうしたというのですか?」

 

「私の勘が当たりました。あの生徒会長が何かやらかすのでは無いかと思って、ここら辺の無線電波を傍受していたら!!」

 

それ……犯罪じゃないんですかね?うん?聞くだけだったらセーフでしたっけ?

 

というか、何故そんなモノ(無線を傍受する機械)を高島君は持っているんですか?

 

「いたら?」

 

「サンダース大学付属高校に連絡を取っていたいたんです!!」

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「内容までは詳しく聞き取れませんでしたが、恐らく――」

 

ん?おぉ、あの機影はC-5Mスーパーギャラクシー。

 

という事は、原作通りにケイ君が戦車を引き取りに来てくれたんですね。

 

「――戦車を持ち逃げするつもりです!!」

 

……うん?マズイ!?杏ちゃん達がケイ君に戦車を渡そうとしている事が高島君にバレてる!!

 

というか、この車の行き先って大洗女子学園ですか!?

 

え!?あの友情に満ちた感動的なシーンに乱入して阻止するつもりなんですか!?

 

イヤだぁ!!そんな事をしたらみほちゃん達にますます嫌われてしまいます!!

 

ここで下ろしてぇッ!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

口裏

後々の伏線というか、理由付けのためのお話。


なんという事でしょう……高島君に連れられ大洗女子学園に来てしまいました。

 

しかも、ケイ君達が乗るC-5Mスーパーギャラクシーが学園の敷地に着陸したタイミングで。

 

こんな展開は原作に無かったはずなのに……とんだイレギュラーです。

 

まぁ私という異物がいて、これまでに色々とやらかしている以上、いつかこんな場面が来るだろうと覚悟はしていましたが。

 

ま、頼れる同志(修正力)が何とかしてくれるでしょう。

 

「良かった!!間に合いました!!戦車はまだあります!!」

 

いやいや高島君。私的には間に合って欲しく無かったです。

 

というか、ここでみほちゃん達と改めて顔を会わせないといけないとは。

 

私にはみほちゃん達に会わせる顔が無いというのに。

 

……あ、そうだ。みほちゃん達に嫌い宣言されても大丈夫なように心の準備をしておかないと不味いかもしれないです。

 

さもなければ嫌いと言われた瞬間に卒倒する可能性が……。

 

「さぁ、みんな!!ハリーアップ!!」

 

「ハリーアップじゃない!!貴女達は何をしているんですか!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「ありゃりゃ……こりゃ不味いねぇ〜」

 

「シット!!」

 

「げッ!?何で姉さん達がここに!?」

 

高島君の声が響いた瞬間、皆の視線が一瞬でこちらに。

 

みんな凍り付いた表情を浮かべて――……あぁ、ダメです。

 

みほちゃん達3人が居る方向が怖くて見れません。

 

「これは一体どういうことですか!?角谷さん!!」

 

「あ〜その……これは何と言うか……」

 

流石の杏ちゃんもこの場に私達が来るのは予想外だったようですね。

 

そのせいでどんな言い訳をしようか迷いまくっています。

 

「この戦車達は全て回収すると通達してあるはずですが?まさか、局長――」

 

高島君!?そのセリフの先は言っちゃダメな奴ですから!!いろいろバレてしまいますから!!

 

「全く……困りましたね」

 

「――局長?」

 

ふぅ……危ない危ない。修正力が何とかしてくれると楽観視していたら、私が大洗に戦車を隠したという事を高島君にバラされかけました。

 

これ以上、高島君に何か余計な言われる前に私が話を進めないと。

 

「「「「……ッ」」」」

 

というか……私が喋っただけでみんなしてそんなにビクッとしなくても。

 

いや、まぁ……しょうがないんですけどね。

 

さて、舌先三寸で高島君をだまくらかしながら、どうにかケイ君達に戦車を持っていってもらいましょうか。

 

「ケイ君。確かに戦車の運搬はお願いしましたけど、何も今夜でなくともよかったんですよ?」

 

「「「「へ?」」」」

 

「……え?きょ、局長?」

 

「え、あ……あぁ!!そうだったけ?ごめーん。勘違いしちゃった。アハハハッ」

 

よし。私の思惑を理解してくれたケイ君が、こちらの話に合わせてくれました。

 

これで第1関門突破です。

 

「あの局長?一体どういう事ですか?」

 

「いや、実はですね。近辺の運送業者がどこも手一杯だったのでケイ君達に戦車の運搬を依頼していたんですよ。しかし、それは明日の話のはずだったのですが」

 

まぁ、もちろん戦車の運搬を頼んだなんて嘘ですけどね。

 

「私が勘違いして今日来ちゃったんです」

 

よしよし、ケイ君もバッチリ話を合わせてくれています。

 

「確かに私が回収車両の手配をしようとした時、どの業者も手が空いていないと言われましたが。……では、彼女達が来る事は元々予定されていたという事ですか?」

 

回収車両の手配って……私の知らない所でそんな事をしようとしていたんですか?高島君。

 

油断も隙もないですね。

 

「えぇ、予定通りと言えば予定通りです。しかし……まぁ、まさかケイ君達が今日来るとは思っても見なかったので、高島君が私を連れ出した際にこの話が出来なかったんですが」

 

「そうだったのですか。……うん?ではこちらからサンダースに発信された無線は何だったのですか?角谷さん」

 

「え?あ……それは……えー」

 

マズイ!!まだこの状況を飲み込めていない杏ちゃんが話に巻き込まれてしまった!!

 

「あぁ、それならアンジー……えっと角谷さんが戦車の受け渡し場所を教えてくれたんです。ね、角谷さん?」

 

「そ、そうそう」

 

「……そうでしたか」

 

ケイ君のアシストで何とか危機を回避出来ました。

 

しかし……うーん。幾つか無茶な設定があるせいで高島君が怪しんでいますね。

 

ま、このまま行けば何とかなりそうですけど。

 

さて、後はケイ君に指示を出しておかねば。

 

「ところでケイ君。この前教えてくれたスーパーギャラクシーの後部ハッチの不調はどうですか?」

 

「へ?……あぁ!!まだちょっと直りきっていないみたいなの」

 

「そうですか。でしたら飛行の際には注意して下さいね。“くれぐれも飛行中に後部ハッチから戦車を落としてしまうような事”がないように」

 

「ッ!!そうね。気をつけておくわ♪」

 

ケイ君、ウィンクした後にそのニヤニヤした顔は止めて下さい。高島君にバレてしまいますから。

 

「最も緊急時には戦車の放棄もやむ無しですけど。万が一の時は自分達の事を最優先に考えて下さいね、責任は私が取りますから。それとあと、戦車を文科省に届けてもらうのは明日の夕方でお願いします。飛行経路は――」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!後部ハッチの不調っていうのは何の話ですか?私達はキッチリ整備をして安全な運行を――」

 

おおぅ……!?アリサ君が言わんとしている事は分かりますが、今はタイミングが悪い!!

 

「ナオミ」

 

「イエス、マム」

 

「ムガッ!?ムガム!!ムー!!」

 

セーフ。姉同様余計な事をしようと(言おうと)したアリサ君がナオミ君に口を塞がれ連れて行かれました。危ない危ない。

 

「……?」

 

不味い、高島君が凄く訝しげな表情を浮かべています。

 

さっさと撤退した方が良さそうですね。

 

「じゃあ、ケイ君。後は頼みましたよ」

 

「オッケー、後は任せて頂戴。ばっちりやっておくわ」

 

「では高島君。帰りましょうか」

 

「……はい」

 

ふぅ……何とかなりましたね。

 

しかし、最後までみほちゃん達の方を見る事が出来ませんでした。

 

まぁ、恐らく睨まれていたのでしょうけど……やっぱり姪っ子分達に嫌われるのは堪えますね。




お知らせ。

本作品をお気に入り登録していただいた方が6000人を越えた記念&感謝の意を込めて、明日お茶会の続編を更新致します。
(´∀`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無垢なる信頼は美しく

お待たせ致しました。
m(__)m


今回は前話の裏側?的なお話です。

※角谷杏視点です。


杏side

 

……帰ってくれたみたいだね。しっかし、どうしてあの人は私達を庇うようなマネしたんだろ?

 

部下に嘘までついて。けど……現場を見られちゃった以上はこれで戦車達とお別れかな。

 

せっかく紛失顛末書まで作ったのに……悔しいなぁ。

 

「ヘイ、アンジー。何暗い顔してるの。早く戦車を積み込むわよ」

 

「あぁ、分かってるよ。でも……これでお別れなんだし、ちょっとだけ待ってくんないかな。もし処分でもされちゃったらもう会う事も出来ないからさ」

 

「お別れ?処分?何言ってるの、アンジー?」

 

「え?いや、だって……」

 

現場を見られちゃったんだから、もう戦車は文科省に運ぶしかないじゃん。

 

私達の所に戦車を届けたらケイ達が怒られちゃうんだし、運搬中に戦車を紛失したって。

 

そこまでケイ達に面倒をかける訳にもいかないしさ。

 

「何か勘違いしているみたいだけど安心して。この戦車達は貴女達の所に届けてあげるから」

 

「いやいや、そんな事したらケイ達が――」

 

「大丈夫よ、アンジー。ノープログレムだから」

 

「ケイ?」

 

「だって、レンタが全部お膳立てしてくれているんだし」

 

「は?何それ?」

 

レンタって……あの局長さんの事だよね?あの局長さんがお膳立てしてくれたってどういう事?

 

「気付いてないみたいね。ほら、よく思い出して。『くれぐれも飛行中に後部ハッチから戦車を落としてしまうような事がないように』ってレンタが言ってたでしょ?」

 

「……言ってたね」

 

スーパーギャラクシーの後部ハッチの不調がなんとかって、言った後にそんな事を言ってたような気もするけど。

 

それが何かこの話に関係あるの?

 

「実はね、後部ハッチの不調なんて嘘なの」

 

「へ?」

 

「だから、あれは運搬中に後部ハッチが故障して戦車を無くしたという事にしつつ、実際はアンジー達の所へ届けろっていう意味なのよ」

 

「いや、そんな訳が……」

 

あの局長さんだよ?私達の学園を廃校にした人がそんな事する訳ないじゃん。

 

「うーん。ま、レンタの事を知らないアンジーならそんな反応よね〜」

 

「ちょい待ち。例えそうだったとしても、私達に戦車を届けたら結局ケイ達が怒られるんじゃ……」

 

「大丈夫ですよ。会長」

 

「西住ちゃん?」

 

……何で西住ちゃんは嬉しそうにしてるんだろ。

 

すっごい笑顔。というか、こんな西住ちゃん初めて見たよ。

 

「おじさんが言ってたじゃないですか。『責任は私が取りますから』って。あれはケイさん達が私達に戦車を届けても(運搬中に戦車を無くしても)咎められないようにしてくれるっていう、そのままの意味です」

 

「あ、やっぱりミホも気が付いていたのね」

 

「はい」

 

「……えっと、つまりあの局長さんは自分が責任を負うから戦車を私達に届けろって言ったって事?」

 

そんなバカな……。

 

「イエスッ!!」

 

「……なんで?」

 

「なんでって……レンタだからよ」

 

「おじさんだからです」

 

あの人だからって……説明になってないよ。ケイ、西住ちゃん。

 

「でもさ、あの局長さんが大洗を廃校にしたんだよ?なのに、わざわざ問題になりそうなこんな事する?」

 

ケイや西住ちゃんが言っている事が正しいとしたら、あの局長さんの行動の説明がつかないんだよね。

 

やってる事が両極端すぎて。というか、自分の昇進の為に大洗を廃校にしたっていうもっぱらの噂がある人だし……。

 

それに事実、最近昇進が決定したらしいしさ。

 

まぁ、情けのつもりなのかもしれないけど。

 

「あ、その事なんですけど……」

 

「なに、西住ちゃん?」

 

「元々そんな気はしてはいたんですけど今回の事でハッキリ分かりました。立場上……大洗を廃校にしたのはおじさんかもしれませんけど、それを計画したのはおじさんじゃないと思うんです」

 

「あ、私もそう思う。大体戦車道大好きなあのレンタが戦車道大会で優勝した大洗を潰すはずがないもの(それになんたってミホがここにいるんだし)」

 

「西住ちゃん、どういう事?」

 

「大洗の廃校をおじさんが伝えに来た時、私達に直接説明をしてくれた女性に私が確認を取ったじゃないですか?おじさんが廃校にしたのか?って」

 

「あぁ、そう言えば聞いてたね、西住ちゃん」

 

あの時は何でそんな事を聞くんだろって思ってたけど。

 

「その時、あの女性……返答にだいぶ迷っていたので……恐らく即答出来ない理由があったはずなんです」

 

「即答出来ない理由?例えば?」

 

「例えば――」

 

「例えば、実はレンタが大洗の廃校の撤回をしようとしていたとか」

 

「……いやいやいや、それは無いよ。ケイ。だって、そんな事したら自分の首が絞まるだけじゃん」

 

さすがにあり得ないって。

 

「あら、どうかしら。レンタは以前にも似た事してたから。それに堅そうに見えるけどレンタって結構、アクティブなのよ?」

 

「おじさん、昔から無茶する人でしたから」

 

「……」

 

2人が正しいとしても……堅物が服着たような、あの人が仕事に私情を挟むとは私には思えないんだよねぇ〜……。

 

けど、あの人をよく知っているらしいケイと西住ちゃんが言うんだから事実なのかな?

 

いや、でもあの局長さんがわざわざ廃校の時期を早めたっていうんだから……やっぱり西住ちゃんやケイが言うような人じゃないと思うんだよね……。

 

「よ、よく分かんないけど、西住ちゃんとケイはあの局長さんと仲いいみたいだね」

 

「はい。だって、おじさんは私の家族ですから」

 

……何かケイに対して当て付けみたいな感じでそれ言ってない?西住ちゃん。

 

さっきケイと局長さんが喋っていた時に膨れっ面だったけど、それが関係してる?

 

「へぇ〜……“家族”ね。ミホも言うわね」

 

あれ?西住ちゃんとケイの雰囲気がおかしくなってきた?

 

「? 私何かおかしな事言いました?」

 

「別に〜。でも、中学の頃から一緒に戦車道に励んできた私も親密度なら負けてないと思うんだけどなぁ〜」

 

なんか……2人の間で火花が散ってる……ヤバい雰囲気だね。

 

「……なら、家族ぐるみの付き合いをしている私も廉太さんと家族という事になるな」

 

「でしたら、私も廉太さんとは……えと、その……マブダチであります!!」

 

あれ……冷泉ちゃんと秋山ちゃんまで参戦してきた。

 

「「「マブダチ……」」」

 

「酷いであります!!何でみなさん鼻で笑うんでありますか!?」

 

……何か、近くにいると巻き込まれそうだし、今の内にみんなに指示だしとこっと。




出来るだけ早く次話を投稿する予定ですが、仕事の状況次第ではまたちょっと空くかもしれません
(;´д`)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩み

これでよし。

 

ほぼ無人となった大洗の学園艦が出港したのを遠くから見届けた後、文科省に戻り様々な書類処理や各部署への連絡に追われていましたがようやく一息つけます。

 

遅い夕飯でも食べてきますかね。

 

あ、ケイ君からメールが来てます。えーと?何々……ミッションコンプリートですか。

 

ふむ。無事にみほちゃん達の元へ戦車を送り届けてくれたみたいですね。

 

なら残すは事の後始末のみですか。

 

と言っても必要な書類は作成してありますし、なおかつ手も回してありますから後始末自体はほぼ終わっていますけどね。

 

しかし、万が一にもケイ君達が不利益を被る事がないように念には念を入れておきましょうか。

 

「局長!!大変です!!機体の異常により運搬中の戦車が海上で放棄されたとの連絡が!!」

 

……とりあえず今は偽の報告を受けて慌てている高島君を宥める事にしましょう。

 

「ふぅ、良かった。待ち合わせの時間には十分間に合いますね」

 

あ〜本当にもう。千代さんは無茶を言ってくれます。

 

大洗の件が一先ずの決着を見てから数日しか経っていないのに愛里寿君をボコミュージアムに連れていけだなんて。

 

いや、まぁ……愛里寿君とボコミュージアムに行くのは嫌じゃないんですがね。

 

あんな可愛い姪っ子分と一緒に居るのは心が安らぎますし。

 

それに唯一の懸念事項だった“あの話”の真相も分かりましたし。

 

……やっぱりね、おかしいと思ったら千代さんが裏で糸を引いてました。

 

あの話が持ち上がる以前に2回程、私が愛里寿君との約束をすっぽかした(急な仕事で)事が原因だったらしいのですが……。

 

結婚したらいつでもボコミュージアムに連れて行ってもらえると千代さんが愛里寿君に吹き込んだそうです。

 

それを受け純真無垢な愛里寿君は、結婚=いつでも遊べる仲という誤解をし、あの話に繋がったという顛末だったそうで。

 

その事について千代さんに詰め寄ったら「恋愛に年齢は関係ないのよ」とか「数年後を楽しみにね」とか、よく分からない話で煙に巻かれてしまいました。

 

全く、千代さんには困ったモノです。

 

っと、そうこうしている間に待ち合わせ場所に到着しましたが……愛里寿君は何処に?

 

あ、居ました。

 

「おじさま!!」

 

うーん、花が咲いたような笑みを浮かべて駆け寄って来る姿が本当に愛らしい。

 

「お待たせしてしまいましたね。申し訳ない」

 

予定より早く来たのですが、愛里寿君の方が早かったみたいですね。

 

「いえ、私も今着いた所です」

 

「そうでしたか」

 

……そうは言っても。愛里寿君、額に若干汗が滲んでいますよ?

 

うーん。愛里寿君に気を使わせてしまうとはやはり私はまだまだですね。

 

「あ、そうそう。くろがね工業との試合お疲れさまでした。素晴らしい戦いぶりでしたよ」

 

「ありがとうございます。でも、まだおじさまのようには……だから、また一緒に練習してくれますか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

「良かった」

 

あぁ〜可愛いですねぇえ〜。

 

不安げな表情+上目遣いからの笑顔は反則です。

 

これを食らって首を横に振れる人なんて居るのでしょうかね?

 

「さ、それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

「はい!!」

 

さて、ボコミュージアムに向け出発。




昨日届いた『皆さんお疲れ様でした本』の内容を読んで、プロットの変更と修正を行っているので、またちょっと空くかもです。
(;´д`)

……上手くいけば来週中に投稿する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

修羅場へと到る道

「おじさま!!おじさま!!次はボコのショーを見に行きましょう!!」

 

「はいはい。あぁ、愛里寿君。そんなに急ぐと危ないですよ」

 

ボコミュージアムに到着してからというものハイテンションな愛里寿君に手を引かれながら、館内をグルグルとエンドレスで回っています。

 

もう何回も何回も休憩無しで色々なアトラクションに乗りまくっているため疲労感がハンパないです。

 

ふぅ。私の体がかなり鈍っている事を差し引いたとしても……若いっていいですね(遠い目)

 

うん?電話です……高島君から?これは困りましたね。

 

私の携帯に掛けてきているなら後で掛け直すのですが、仕事用の携帯に掛けてきている以上今出ないといけません。

 

「愛里寿君、申し訳ない。仕事の電話が入ったので少し外しますね」

 

「……分かりました。先に見に行っています」

 

そんなにしょんぼりしないで下さい。すぐに戻ってきますから。

 

「もしもし?」

 

『もしもし、高島ですが休日の所申し訳ありません。今よろしいでしょうか?』

 

「えぇ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」

 

『実は……旧大洗女子学園の生徒会長の角谷さんから先ほど電話がありまして、局長にどうしても会って話したい事があるという事でして……』

 

杏ちゃんから面会の要請?……あぁ、原作であった抗議ですね。

 

『何でしたら、私が対応しておきますが』

 

「いえ、大丈夫です。明日の正午を開けますので、角谷さんにもそう伝えておいて下さい」

 

『よろしいのですか?明日の正午は上から呼び出しを受けていたと思いましたが』

 

「問題ありません。少しぐらいは融通が効きますから」

 

上から呼び出し――私の昇進に纏わる雑事なんかよりも杏ちゃんの方が優先です。

 

それにどうせ昇進は無くなるのですし。

 

『承知致しました。その様に伝えておきます。それと局長、×工業の――』

 

まだあるんですか!?で、電話が切れない……。

 

「しまった……電話がかなり長引いてしまいましたね」

 

すぐに戻る予定でしたが……この分だとショーは既に終わってしまっていますし、早く愛里寿君と合流せねば。

 

こっちからだとこの正面玄関の前を通った方が早い――って……あ、あれ?

 

あれあれあれあれ?

 

駐車場に停まっているあの戦車って……もしかしなくても……みほちゃん達のⅣ号戦車!?

 

不味いッ!?すっかり忘れていましたが、みほちゃん達もボコミュージアムに来るんでした!!

 

あわわわわ……現状でみほちゃん達と顔を会わしたりした日には……ゴクリ。

 

どうにかこのまま顔を会わさずに逃げないと。

 

「おじさま?」

 

「っ!?あ、愛里寿君でしたか……」

 

みほちゃん達に見付かったかと思って心臓が止まりそうでしたよ。

 

「どうかしたのですか?顔色が悪いですけど」

 

「い、いえ。大丈夫ですよ」

 

大丈夫と言いつつも流れ出る冷や汗が止まらないです。

 

……うん?愛里寿君が激レアのボコのぬいぐるみを持っていますね。

 

という事は既に愛里寿君はみほちゃん達と遭遇した後という事ですか。

 

だったらここで私がみほちゃん達と遭遇しなければ全てが丸く収まります。

 

よし。ちょうどお昼の時間ですし食事のためと言ってここを離れましょうか。

 

「ところで、愛里寿君。そろそろお昼を食べに行きましょうか」

 

「分かりました」

 

「何か食べたい物はありますか?」

 

「目玉焼きハンバーグが食べたいです!!」

 

「そうですか、なら目玉焼きハンバーグを食べに行きましょう」

 

「やった」

 

ふむ。手を差し出されたので思わず握りましたが相変わらずちっちゃい手ですね。

 

さ、このままボコミュージアムを出れば原作通りに――

 

「――それにしても、西住殿はよくここを知っていましたね」

 

「うん。ボコが好きだって言ったらおじさんが調べてくれて、小さい頃によく連れて来てくれてたの。ほら、あんな風に手を繋いで一緒に――え?おじさん?」

 

…………終わっ……た。




次回、みほ達と遭遇してしまった役人はどうなるのか!?

(次回の題名の予定が『修羅場』だけれど)果たして無事に生還出来るのか!?

お楽しみに〜
(´∀`)ノシ





……8月から連続――おっとこの先は言えない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

修羅場

……自分でハードルを上げすぎた感が半端ない(;´д`)



そして、ちょっと補足とお詫びを。
m(__)m

補足については頂いた感想を読んでいて気が付いた事なのですが……。

前話で役人がみほと遭遇した際、みほを含めあんこうチームは全員居ます。

『駐車場に停まっているあの戦車って……もしかしなくても……みほちゃん達のⅣ号戦車!?』というセリフであんこうチームの皆がいるという事を現したつもりだったのですが……描写不足で申し訳ないです(後々セリフ等の描写を増やしておきます)。


次に前話の後書きで連続更新を匂わせましたが、30日にちょっと仕事の方で大変な事(人事系)がありまして……(;´д`)

当初の予定よりも連続更新の期間が短くなります(滝汗)

とりあえずストック分の2話は予定通り順次投稿しますが、それ以降は未定(作者の頑張り次第)という事で、どうかご了承をm(__)m


あと一歩、あと一歩でボコミュージアムから出れる所だったのに……ッ!!

 

ここでみほちゃん達とエンカウントするなんて。

 

まさに絶体絶命のピンチ。どうやってこの場を切り抜ければいいんでしょうか。

 

「フフ、フフフ、おじさん?」

 

ヒィ!?み、みほちゃんからまるでしほさんのような威圧感が噴き出しています!!

 

「おじさんに会ったら色々と聞きたい事やお話したい事があったんですけど、まず最初にどうしても聞かなきゃいけない事が出来ちゃいました」

 

凄い笑顔です。思わず見惚れてしまう程の凄い笑顔ですけど目が……目が全く笑っていません。

 

あぁ……やっぱり大洗の廃校の件で怒っていますよね。

 

理由はどうあれ対外的には私が廃校の時期を早め強引に廃校を実施した事になっていますから当然ですよね。

 

そして、どう言い繕おうと私がみほちゃん達を裏切ったのは事実なんですし。

 

……それにしても聞きたい事が“出来ちゃいました”とは一体?

 

「その子とはどんな関係なんですか?」

 

……あ、あれ?予想と全く違う質問が来ました。

 

「そうだな。私も廉太さんとその子の間柄が聞きたい」

 

「私も是非お聞きしたいであります」

 

うっ。みほちゃんの対応だけでも苦慮しているというのに、麻子ちゃんと優花里ちゃんまで便乗してきました。

 

それに2人からも言い様のない威圧感が。

 

あぁ、やっぱりみんな怒ってます……。

 

「すごっ……初めて見た。これが生修羅場」

 

「沙織さん、駄目ですよ。そんなに楽しそうにしては。こっちで静かに見させて頂きましょう」

 

何か、2人だけ……婚活戦士と大食い華道さんだけがコソコソと愉しそうに喋っているのが気になりますね。

 

「ねぇ、おじさん。黙ってちゃ分からないよ?」

 

「廉太さん。正直に答えた方が身のためだぞ」

 

「廉太殿。私は廉太殿の事を信じているでありますよ」

 

うおっと!?他の事に気を取られている場合ではありませんでした!!

 

黒い笑みを浮かべた3人がジリジリと距離を詰めて来ています!!

 

ど、どうすれば!?このままでは……ッ!!

 

「おじさまをいじめないで!!」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

あ、愛里寿君!?何故、私を庇うようにみほちゃん達の前に!?

 

「おじさまは西住流なんかには、貴女達なんかには渡さない!!」

 

「……?えーと。おじさんと貴女がどんな関係か知らないけど……ごめんね?ボコは譲ってあげたけど、おじさんは譲ってあげれないの」

 

「渡さないとはずいぶんな言い様だな。その言い様だと廉太さんが、まるでお前のモノのように聞こえるぞ?」

 

「冷泉殿の言う通りであります。廉太殿はまだ誰のモノでも無いはずです」

 

……あれ?何か、いつの間にか話が私の所有権?の争いになってません?

 

それに何故みほちゃん達と愛里寿君が火花を散らしているんです?

 

「――話を元に戻しますけど、おじさん?この子とはどんな関係なんですか?早く答えてくれないと日が暮れちゃいますよ?他にも色々……廃校の事だっておじさんの口から聞かないといけないのに」

 

ッ、遂にみほちゃんが愛里寿君を隔てて目の前に。

 

不味い。頭の中がパニックで何を言ったら正解で何を言ったらハズレなのかが分からないんですが!!

 

「ッ、おじさまの苦労も知らないくせに!!」

 

って、愛里寿君!?私の手を引っ張ってどこへ!?

 

「あ、おじさん!?」

 

「逃げたであります!!」

 

「追うぞ!!」

 

「これが略奪愛!?」

 

「あらあら」

 

後ろは後ろでカオスなんですが!!というか、みほちゃん達が追って来――

 

「やぁ、みんな。おいらはボコって言うん――グヘッ」

 

あ、みほちゃん達がボコの着ぐるみとぶつかりました。

 

……クマ(ボコ)は犠牲になったのです。

 

「もう!!おじさんが逃げちゃう!!」

 

「この……邪魔なクマだ!!」

 

「あ、もう車に乗ってしまっています!!」

 

……愛里寿君に手を引かれ急かされるまま車に乗り込みましたが。

 

果たしてこのまま逃げていいんでしょうか?

 

このまま逃げると後々大変な事になるような気がするんですが。

 

しかし、ここで逃げずに捕まってしまうと後々の流れに多大なる影響が出てしまう可能性が……。

 

「おじさま、急いで!!早く!!」

 

「え?」

 

何で愛里寿君はそんなに血相を変えて――

 

「エンジン始動!!砲塔旋回急いで!!沙織さん!!射角が取れたらタイヤを撃って!!」

 

「射角が取れたらって、3時方向にあの人達いるのに撃てないよ、みぽりん!!」

 

「逃がさないぞ、廉太さん!!」

 

「装填完了であります!!」

 

「あらあら」

 

……殺られるッ!?

 

えぇい仕方がないです!!考えるのは後!!後退的前進!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

包囲網は着々と

※お知らせ。

今回の話の流れはいつもと違い2人の視点で構成しています。

役人視点の後、日本戦車道連盟の理事長である児玉七郎視点に切り替わりますので(当初の予定には無かったのですが、希望があったので入れてみました)ご了承を。


そしてもう一つお知らせ。

もっと前に言えよ。と言われるかも知れませんが……今後の展開的に劇場版を見ていないと話の流れが分からなくなるかもしれません。(視点や場面の切り替えが多いため)
[壁]ω・)スマヌ

なるべく分かるようには書いていきますが、見て頂いた方がより分かるかと。
(;´д`)


……昨日は本当に大変でした。

 

みほちゃん達を振り切って逃げた後、愛里寿君はずっと不機嫌ですし。

 

携帯の着信は夜まで鳴り止まないですし。

 

正直あの対応で良かったのか悩む所ですが、下手に何かを言って原作の流れに悪影響を与えるよりはマシでしたかね。

 

「局長、角谷さんがお越しになりました」

 

「そうですか。では通して下さい」

 

さてと。また“役人”に徹しなければ。

 

「……失礼します」

 

杏ちゃんが入室しました。

 

「今日はどういったご用件でしょうか?」

 

「もちろん、大洗の廃校についてです」

 

「廃校の件は既に決定しているんです」

 

順調に行けばもうすぐ撤回されますけどね。

 

しかし……近々待ち受けているしほさん来襲が怖いです。何か滅茶苦茶な事を言ってきそうで。

 

「ですが、優勝すれば廃校は免れるという約束をしたはずです」

 

「口約束は約束では無いでしょう」

 

「判例では口約束も約束と認められています。民法91条97条等に記されています」

 

「よく調べたようですが……こちらとしても可能な限り善処したんです。ご理解下さい」

 

「……分かりました」

 

ふぅ……杏ちゃんが退室。原作通りに話が進んで何よりです。

 

……まぁ、原作通りに進めば進む程、私は嫌われるんですがね。

 

児玉side

 

「文科省が一旦決定した事は、我々にもそう簡単には覆せないしなぁ……」

 

というより、裏で色々と動いていた彼でさえ覆せなかった事を我々が覆すのは事実上不可能なんじゃないのかなぁ。

 

まぁ、この一件は全て自分に任せてくれとあの彼が言っていたのだから、悪いようにはならんと思うが。

 

しかし……話を上手く進めるためとは言え、何も悪役をかって出なくてもいいのに。

 

相変わらず彼は不器用だなぁ。

 

「向こうの面子が立たないという事ですか」

 

「そういう事になるかなぁ」

 

「面子という事であれば、優勝するほど力のある学校をみすみす廃校にしてはそれこそ戦車道連盟の面子が立ちません」

 

「そうは言ってもなぁ……今回の一件を蒸し返すと文科省は彼を出してくるだろうし……正直な所、彼と事を構えるのだけは避けたいんだよ」

 

教育界は元より政界や財界との繋がりまであるらしいからなぁ、彼は。

 

それに各学園艦のOG達や戦車道の各流派との太いパイプがあるし。

 

敵対なんてしたら連盟そのものが潰されてしまいかねんよ。

 

最も彼はこちら側の人間だから対立したとしてもそれは表向きだけの事で心配するような事はないのだが。

 

「しかし、そんな事を言っていては!!」

 

「蝶野君も連盟の強化委員会の1人なんだから知っているだろう?彼がどれだけ戦車道連盟、引いては戦車道の発展に寄与してきたか。最近の出来事だけでも安全基準の大幅な引き上げ、加えて戦車道をより安全に運営するために必要な技術開発への国家予算投入を認めさせた大元も彼だし、諸外国の有能な選手を多数引き抜いてきて日本戦車道の活性化にまで貢献している。そんな彼と事は構えられんよ」

 

個人的な事を言えばワシが戦車道連盟の理事長に就任出来たのも彼のお陰だしなぁ。

 

彼が全国の戦車道チームを倒すという偉業を成し遂げたお陰で戦車道における男の地位が向上し、結果としてワシが理事長に就任出来たんだし。

 

彼が偉業を成し遂げる前なら男のワシが連盟の理事長を務めるなんて事は考えられなかった事だからなぁ。

 

「それは分かっています。ですが理事長。今回ばかりは辻局長と事を構えることになったとしても致し方ありません。それに何より今回の一件は戦車道に力を入れるという国の方針とも矛盾します」

 

「……うぅん……」

 

そもそも文科省内で戦車道に力を入れるという方針を打ち出して、それを国の方針にまで押し上げたのが彼だしなぁ。

 

というか、あれ?何か蝶野君……怒ってないかい?

 

あぁ、もしかして……蝶野君は彼に事情を説明してもらってないのかな?

 

……あり得る。彼は自分に責が及ぶ事には無頓着だが、自分の身の回りや他の人に責が及ぶ事を嫌うからなぁ……。

 

大方、今回も全部1人で抱え込むつもりだろう。

 

「私達は優勝すれば廃校が撤回されると信じて戦ったんです。信じた道が実は最初から無かったと言われ引き下がる訳にはいきません」

 

「しかし、今文科省は2年後に開催される世界大会の事で頭が一杯だからなぁ。誘致するためにプロリーグを発足させようとしているぐらいだから、取り付く島が無いよ」

 

まぁ、世界大会の誘致やプロリーグの発足は彼の願いでもあるだろうしなぁ。

 

「プロリーグ……それですね」

 

「ここは超信地旋回でいきましょう♪」

 

「へ?」

 

何か嫌な予感が。彼がまた苦労するハメになるんじゃなかろうか……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会談

「どうぞ、お座り下さい。高島君、皆様にお茶を」

 

「か、かしこまりました」

 

さて。鬼を――ゴホン。しほさんを味方に付けた杏ちゃんが蝶野一尉や児玉理事長と共にやって来た訳ですが。

 

うーん。やっぱりしほさん恐ッ!!

 

表向きには黒森峰が大洗を叩き潰せなくなるという最もらしい理由を付けつつも、本音的には可愛い娘を助けるべく気合いを入れているご様子。

 

隠しきれぬ威圧感が溢れ出ておいでです……。

 

私はもう慣れてしまっているので大丈夫ですが、この場にどうしても同席すると言っていた高島君がしほさんの威圧感で完全に萎縮してしまっていますね。

 

しほさんが会う約束を申し込んで来た時には、私が全員説き伏せて見せます!!と豪語していたのに……あの意気込みは何処へ行ったのか。

 

まぁ、相手が鬼――ゲフンゲフン。しほさんですからね、しょうがないですけど。

 

「早速ですが、本題に入らせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「はい」

 

「まず、話の大前提として若手の育成なくしてプロ選手の育成はなし得ません。にも関わらず、文科省は確たる実績を残した大洗女子学園を廃校にすると仰っています。ですから、将来有望な若手の芽を摘むこのような愚行が罷り通る現状ではプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」

 

全く。しほさんは相変わらず痛い所を容赦なく突いてきますね。

 

代わりとなる人が居ないだけに、この時点でこちら(文科省)が取れる選択肢は一気に絞られてしまいましたよ。

 

……私が取る選択肢は元より1つだけですけど。

 

「それは……どうか考え直して頂けないでしょうか。今年度中にプロリーグを設立しないと戦車道大会の誘致が出来なくなってしまうのは先生もご存知のはず」

 

「それは貴方方の都合です。それにそもそも優勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは?」

 

「う、それは……その……」

 

しほさんの言っていることが正論なだけに反論のしようがありませんね。

 

まぁ、この状況は予定通りの事なので反論出来なくとも何ら問題はないのですが。

 

さて、そろそろ頃合いですかね。話を締めに掛かりましょう。

 

「そして何より私が言いたいのは、貴方がもっとしっかりしていたのならこの様な事態にはならなかったのではないのか。ということです」

 

……不味い。非常に不味い。

 

話の矛先が私個人に向いてしまいました。

 

「い、いやぁ〜その事につきましては耳が痛い限りです。ハハ――」

 

「……」

 

「ハ…ハハ……ゴホン」

 

笑って誤魔化そうとしたら思いっきり睨まれました。

 

……あれ?しほさんが私は知っているぞって顔してます。

 

まさか。

 

「はぁ……1人で全て背負おうとして失敗していては元も子も無いと思うのだけど」

 

あぁ。ダメですね、これ。全部バレちゃってるヤツです。

 

話し方を私的なモノに変えたのが、その証拠です。

 

参りましたね……少々予定を変更せねば。

 

「いや、あの……まだ失敗した訳では無いのですが」

 

「この状況でまだそんな事を言うつもりなのかしら?」

 

 

「その……何といいましょうか。全てを丸く収めるためには遠回りをする必要がありまして」

 

回りくどいやり方ですが原作の流れに従うのが一番確実ですからね。

 

「では、最終的にどう決着をつけるつもりなの?」

 

「それについては先生のお力添えを頂けたらと考えております」

 

最終的にはこうして外部――しほさんからの圧力が無いと腰の重い上が動いてくれないんですよ。

 

「そう……私の。つまり私が“こうして”ここに来る事も折り込み済みだったと」

 

「えぇ。“大人”が始めた問題を“大人”が片付けるために必要な理由、もしくは通過儀礼と言いましょうか。なにぶんお役所ですから面倒でも手続きを踏まねば動かせるモノも動かせないのです。ですから……先生には大変ご面倒をお掛けしますが、何卒お願い致します」

 

えーと。私の目論見を理解してくれたようですし、これで何とかなりましたかね?

 

しかし、今の会話を高島君と蝶野一尉に聞かれたのは痛いですね。

 

知り得ている情報が多い2人だけに、どちらも薄々理解してるような――あ、ダメです。

 

蝶野一尉にはバレましたよ、これ。だって滅茶苦茶キラキラしてる視線を送って来てますもの。

 

……後々が怖いです。

 

まぁ、肝心の杏ちゃんにはバレてないのでいいですけ――バレてないよね?

 

首を捻ってるんだからバレてないよね?

 

「……あまり褒められた事ではないわね。“全てが”丸く収まる訳ではないようだし。もっとやりようが――」

 

「まぁまぁ、彼にも事情や立場というものがあるのですから、あまり責めては……」

 

理事長。事情を知る貴方がフォローに回ってくれるのはありがたいんですけど……。

 

貴方でしょ、私が裏で動いていたのをしほさんにバラしたのは。

 

……今さら目を逸らしても遅いですよ。

 

「あ、あの!!横から失礼かとは思いますが、大洗女子学園は運に助けられてまぐれで優勝した学校です。それを将来有望というのは些か大袈裟かと」

 

そして、高島君。機を逃さずに私のフォローをしてくれるのはいいんですけど。

 

フォローがフォローになってないですよ!!そのセリフはしほさんを刺激するだけです!!

 

……あぁ、しほさんが麦茶を一気飲みしています。

 

「戦車道にまぐれなし!!」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

しほさんがコップを机に叩き付けるという事を知っていた私までビクッとしましたよ。

 

「あるのは実力のみ。どうしたら認めて頂けますか?」

 

計らずも原作通りに進みましたね。良かった良かった。

 

「……まぁ、彼女達が大学強化選手に勝ちでもしたら――」

 

「分かりました!!では大学強化選手に勝ったら廃校を撤回してもらえますね?」

 

「えぇ!?(棒)」

 

私から言質を取った杏ちゃんが嬉しそうな顔で『せいやくしょ』を手にしていますが。

 

裏面もやっぱり真っ白……。

 

これはやはりこっちで準備しておいた書類を出さないといけませんね。

 

「今、ここで覚え書きを交わして下さい。噂では口約束は約束では無いようですからねぇ〜」

 

さてはて。ようやくここまで漕ぎ着けましたか。あと少し……ですね。




さて、ストック分が切れました。
(;´д`)

シフト表には勝てなかったよ……。

という訳で、また2週間刻みぐらいの投稿ペースになると思われます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

家元の建前と本音

※西住しほ視点です。



しほside

 

思えばここに来るのも久し振りね。

 

「家元襲名、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。既にお聞きかとは思いますが、ここは是非大学強化チームの責任者である島田流家元に直接ご了承を頂きたいと思いまして、お邪魔させて頂いた次第です」

 

「ご丁寧にどうも。しかし、事情が事情とは言え、試合を行う以上こちらも手加減は致しません。宜しいですね?」

 

「構いません」

 

見方よっては西住流と島田流の流派間の戦いのようになってしまったけれど、致し方無いわね。

 

これで何か問題が起きたら諸悪の根源に責任を取ってもらいましょう。

 

「では、私はこれで」

 

「あら、もう帰るの?もう少しゆっくりして行けばいいのに。お茶でも飲みながら昔の様にお話しない?」

 

貴女は建前を捨てるのが早すぎるわよ。

 

「……まだ色々とやることがあるのよ」

 

「そうなの?なら手短に1つだけ聞いてもいいかしら?……辻さんを西住流の師範代から下ろしたという噂は本当なの?」

 

貴女はまた口にしずらい話題を選んだわね。

 

というか、まだまほやみほにも言ってない……公に公表していない話なのにどこから聞き付けたのかしら。

 

「……えぇ、本当よ」

 

「またどうして?辻さんは貴女と貴女の娘達――まほちゃんとみほちゃんの恩人のはずでしょ?まほちゃんが2年連続で優勝を逃した時や“あの大会”でのみほちゃんの行動を分家筋や門人達が責め立てようとした時に、立場上動けない貴女に変わって彼が2人の事を守ったのだし。そんな彼を何故」

 

「まほの事はともかく。あの時のみほの行動は西住流として咎められて然るべきものよ」

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

貴女のその全部分かっているという顔は甚だ不本意なのだけど。

 

「ゴホン、話を元に戻すけど……確かにあの人がまほとみほを守ったのは事実よ。けど、そのせいであの人は西住流の中での立場を完全に失ったのよ。まぁ、元々男の身であるが故に保守的な者達からは嫌われてはいたけど」

 

あの大会でのみほの行動を蔑む発言を繰り返していた者達相手に大激怒して口論を引き起こし、会議を滅茶苦茶にしてくれたのよね。

 

まほの時も同様に。

 

そして、その結果どちらの件もうやむやに……全く2人に向けられるはずだった悪意を意図的に自身へ向けることで、事態の沈静化を図るなんて悪手は止めて欲しいわね。

 

やるならもっと上手くやってもらわないと。

 

「そう……やはりどこもお家問題となると大変なのね」

 

貴女がそんな顔するなんて珍しいわね。何かあったのかしら。

 

「そして、今回私が家元を襲名するにあたってあの人の排斥の声が上がったのよ」

 

「それで分家筋や門人達の圧力に負けて師範代の地位を剥奪したの?」

 

「バカを言わないで。私はそこまで愚かじゃないわ。剥奪しろと言ってきたのは本人よ」

 

「?」

 

「私が分家筋や門人達の対応に頭を悩ませているのを見抜いて、更にはお母様の代の門人達が私を認めていない問題を解消するために自分から師範代の地位を返上してきたのよ。表向きには私が剥奪したという事にすれば諸事の問題が片付くと余計な言葉を付け加えてね」

 

いらぬ気ばかりを回すのだから。

 

まぁ、お陰で家元襲名がトントン拍子に進んだのも事実。

 

でも、あの男の手のひらで事が進んでいるような気がして不愉快ね。

 

「フフフ、辻さんらしいわね」

 

「フン、こちらとしては困ったものよ」

 

「あら……持て余しているようなら是非ともウチに欲しいのだけど」

 

「残念だったわね。色々としでかしてくれる問題児でも他所にくれてやる訳にはいかないのよ。それに師範代の地位が無くなったと言っても西住流の門下である事に代わりはないのだから」

 

あれでも若い門下生を中心に人気があるし。

 

と言うか、そもそもお母様のお気に入りなのだから他の流派に渡すなんて無理よ。

 

それに何より……あの男を他所に渡したりしたら、まほが何をしでかすか……。

 

「あらあら」

 

だから、その顔は止めなさい。

 

「それにしても今回の件、辻さんはどう片を付けるのかしらね」

 

「さぁ?何か企んでいる様子だったから、上手くやるでしょう」

 

「でも、廃校はもう覆らないのに」

 

「……それはウチの娘が貴女の娘に負けると言っているのかしら」

 

「あら、そう聞こえなかった?」

 

「……」

 

売られた喧嘩は買うわよ。

 

「フフッ、そんな恐い顔しないで。冗談よ。でも、万が一、億が一私の娘が負け廃校が撤回された場合……文科省内での辻さんの立場が不味い事になるわよね。下手をすれば責任を取らされてクビよ?」

 

「……自分の逃げ道ぐらい用意してるはずよ」

 

いくらなんでもそこまでのバカではないでしょう。

 

……嫌な予感がするのはきっと気のせいね。




役人(いくらなんでもそこまでのバカ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去

※愛里寿視点です。

劇場版をご覧になって頂いてない方だと、どんな場面なのかが分かりにくいです。
(;´д`)

またBC自由学園の事が中心のお話になっていますが……極論を言いますと、この話は愛里寿に最後のセリフを言わせたかっただけです(汗)


愛里寿side

 

『徹底的に叩きのめしなさい。西住流よりも島田流の方が優れているという事を証明するために』

 

「……試合の件は承知しました。私もお願いしたい事が」

 

おじさまがこの前の(ボコミュージアムの)埋め合わせをしてくれる日と試合が被るなんて……。

 

おじさまが言っていたように日時をもう少し先にずらしておけばよかった。

 

『お願い?』

 

「私が勝ったらボコミュージアムのスポンサーになって欲しいんだけど。このままでは多分廃館になっちゃうの」

 

でも、お母様にスポンサーになってもらうようにお願いするには絶好のチャンス。

 

おじさまとの思い出がたくさん詰まっているボコミュージアムを失わないためにも、この機会を逃す手は無い。

 

それに……私が西住流に勝てばおじさまは私の事をもっと気にかけてくれるはず。

 

『しょうがないわね』

 

「お母様、ありがとう。……それと1つ聞きたい事が」

 

『何かしら?』

 

「万が一私達が負け大洗の廃校が撤回された場合、おじさまはどの様な不利益を被るのですか?」

 

『……藪から棒にどうしたの?』

 

「いえ、ただ……おじさまが過去に今回と似たケース――BC高校と自由学園の統廃合に携わった際に大変な目に合ったとアズミから聞いたので気になったんです」

 

負けるつもりは毛頭無いけれど、万が一の場合のリスクは把握しておかないと。

 

おじさまが関係する事だから尚更。

 

『…………そう。知ってしまっているのなら仕方ないわね。じゃあ貴女の質問に答える前に、まずはあの件の事から説明しましょうか』

 

「お願いします」

 

アズミはおじさまに口止めされているからって肝心な所を教えてくれなかったけど、あの様子からして一大事が起きていたはず。

 

『あの一件はね、辻さんが統廃合に反対するBC高校と自由学園の生徒達に味方して計画そのものを廃案にしようとしたの』

 

「生徒達に味方?……具体的には何をしたの?」

 

『今回のように戦車道の試合を設けてBC高校と自由学園の両校に統廃合を阻止するチャンスを作ったのよ。それも相当な無茶をして。だけれど……残念な事に結果は失敗。連合を組んで格上のチームに挑んだ生徒達はチャンスを生かせず敗北し統廃合は実行されたわ。……でも、怪我の功名とでも言うのかしらね。BC高校と自由学園の生徒達が同じ目的のためにお互いの力を合わせて戦った事で、双方が意気投合したの。そのお陰で統合計画が実行されても両校の間には軋轢が生まれる事なく順調に統合が進んだわ。……まぁ、それも辻さんの思惑通りの事だったのかもしれないけど』

 

「しかし、お母様。統廃合が行われBC自由学園となったBC高校と自由学園の生徒や住人は学園艦の右舷と左舷に別れて暮らしていると聞きましたが」

 

私の知っている事が正しければ、双方に溝があるという事では?

 

『それはお互いを尊重しての事よ。それまで両校で培われてきた伝統や校風を失わぬようにという配慮。それを一番表しているのが彼の高校の戦車道チームね。書類上はBC自由学園という1つの戦車道チームでも、実際はBC高校と自由学園の伝統を踏襲している2人の隊長とその仲間達で構成されている2つで1つの特殊なチームこれは貴女も知っているでしょう?』

 

「はい」

 

高校生との試合はしたことがないけれど、大学選抜チームの中にアズミを初めとしたBC自由学園のOGが何人かいるから特異なチームだという事は少しだけ聞いた事はある。

 

『話が少し逸れてしまったわね。ゴホン……そうして結果的には上手く統廃合は進んだのだけれど、上層部の意向であった統廃合に異議を唱えた辻さんの立場が悪くなってしまったの』

 

「それで……おじさまはどうなったのですか?」

 

『一時はクビがあり得たのだけど、当時の佐藤大臣が事を取り成してくれたお陰で何とかなったの。……でも今はもう佐藤大臣は居ないわ』

 

「では……」

 

『えぇ、貴女の質問の答え……貴女が試合に負けた場合、辻さんはクビになる可能性が高いわ』

 

「そんな」

 

『でも、それは貴女が負けた場合の話。相手の隊長より経験も実力も貴女の方が上なのだから心配する必要は無いわ』

 

「……はい」

 

この試合、何が何でも勝たないと。

 

『あぁ、それから貴女が試合に勝ったら島田流へ来てもらうという約束を辻さん本人に取り付けたわ』

 

「本当ッ!?」

 

今までいくらお願いしても聞いてくれなかったのにどうして!?

 

いや、今までの事はもういい。

 

重要なのは私が試合に勝ったらおじさまがウチに来るという事実だけ。

 

『えぇ、本当よ。だから頑張るのよ。試合に勝って辻さんを助けて上げて。それが貴女のためにもなるから』

 

「分かりました!!お母様、ありがとう!!」

 

おじさまが島田流に……フフッ。

 

「大丈夫、私が助けてあげるからね。おじさま」




愛里寿のやる気が天元突破。

さてはて、肝心の試合はどうなってしまうのか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これまでの行いは今に

えーと……しほさん達が帰ってから慌てふためく高島君を宥めつつ、上への事情説明や試合の手配、各方面への根回しをした後、大学選抜チーム――愛里寿君達に試合の説明をしに来たのですが。

 

「……フフッ」

 

「――という訳で、大学選抜チームの君達には大洗女子学園の戦車道チームと試合をして頂く事になりました。詳細はこちらの資料に書いてあるので、各自で目を通しておいて下さい」

 

どうにも……愛里寿君の様子がおかしいです。

 

今も幸悦とした表情を浮かべて1人で嬉しそうに笑っていますし。

 

何かあったんでしょうか?

 

「隊長……お母様からの電話があった後から、ずっとあんな感じなんです」

 

「コーチが来たら直ると思ったんですけど」

 

「見ての通り直らないんです。何か知りませんか?」

 

そう言われましてもね……アズミ君、メグミ君、ルミ君。

 

私には思い当たる節が……あ。もしかして、あれですか?

 

試合に勝ったら千代さんがボコミュージアムのスポンサーになるという約束。

 

うん、これですね。

 

愛里寿君はみほちゃんに負けず劣らずボコが好きですから、試合に勝てばボコを助ける事が出来ると喜んでいるんでしょう。

 

「残念ながら、心当たりは無いですね」

 

「「「そうですか……」」」

 

理由は分かりましたが愛里寿君と千代さんしか知らないはずの電話(会話)の内容を私が口にするのは不味いので、ここは知らないフリ知らないフリ。

 

しかし、千代さんと言えば。

 

つい数時間前に試合の話を通した時、愛里寿君が試合に勝ったら私が島田流に移籍?するという約束をさせられてしまって困りましたよ。

 

まぁ、約束しないと試合は受けないと突っぱねられたので仕方なく約束の事を誰にも口外しないという条件を付けてOKしましたけど。

 

……この話が西住流に漏れたら本当に不味いです。

 

「あのー……コーチ。ちょっといいですか?さっき配られたこの資料だと試合の中身が8対30の数の差に加えてT28重戦車を投入、更についさっき認可されたばかりのカール自走臼砲を使用しての殲滅戦ルールになってるんですけど、これは酷くないですか」

 

「そうですよー。これじゃあまるで私達が弱い者イジメしているみたいですー」

 

「この状況ならハンデをあげるぐらいなのに、逆にこっちがハンデをもらうなんて納得出来ません!!」

 

「相手は高校生なんですよ?」

 

うっ。選抜チームの子達から不満や抗議が……。

 

まぁ、やっぱりそこにはツッコミを入れますよね。

 

「……少々込み入った事情がありまして、残念ながらこの条件は変更する事が出来ないのです」

 

上からは絶対勝つように、そして勝つためならば手段を選ぶなと言われているので情けを掛けたと取られるような事が出来ないんですよ。

 

しかし……高島君が作成した――この原作通りの条件を通す点においては好都合でした。

 

「「「「えぇー」」」」

 

「大人の都合に君達を巻き込んでしまって申し訳ない」

 

「別にコーチが謝らなくても」

 

「……ま、しょうがないか。他ならぬコーチの頼みだし」

 

「やってあげますよー」

 

「しょうがないな〜」

 

「ありがとうございます」

 

大人の都合に巻き込んでしまった彼女達には試合が終わったらお詫びをしないといけませんね。

 

「で、コーチ♪今回は一体何を企んでいるんですか?」

 

ギクッ。

 

「アズミ君……企むとは一体何の話ですか?」

 

「またまた〜私達の時だって散々必死に動いてくれたのに、今回だけ何もしないなんて嘘は通用しませんよ?」

 

ギクギクッ。

 

「君達の場合と今回の場合は状況が違いますよ。何せ今回は他ならぬ私が大洗を廃校に――」

 

「今回だって表向きは廃校を推進していても、裏では色々と動いているんですよね?」

 

何故に断定なんです!?そして不味です。

 

ここで下手に誤魔化すとボロがでてしまう可能性が。

 

……とぼけましょうか。

 

「な、何の事だか私にはさっぱり」

 

「もう、コーチはまたそうやって1人で全部やるつもりなんですか?一言言ってくれれば私達は何だって協力しますよ?他ならぬコーチの為なんですしぃ〜」

 

アズミ君。私にしなだれかかるようにピッタリとくっついて、上目遣いをしながら胸の辺りを人差し指でグリグリするのは止めなさい。

 

「さて、何の事やら。私はただ自分の仕事を全うしているだけです」

 

「ふーん。ならそう言う事にしといてあげます」

 

良かった、離れてくれました。しかし……何故でしょう。

 

何故、皆の私を見る目が生温かいモノになっているでしょうか。

 

「……でも、このままやったら本当に私達が勝っちゃいますよ?いいんですか?(大洗の子達は可哀想だけど)」

 

「私達も流石にわざと負けてあげる訳には……(負けたらコーチの立場が無くなってしまうし)」

 

確かに“このまま”ならね。

 

でも、そうはならないので大丈夫です――とは口が裂けても言えない。

 

「構いませんよ、ルミ君、メグミ君。君達は何も気にする事なく試合に打ち込んで下さい。ま、強いて言うなら……」

 

「言うなら?」

 

「彼女“達”は強いですから気をつけてくださいね」

 

「「「……」」」

 

ふぅ。下手な事を言って必要以上のやる気を出されるのも困りますし。

 

かと言って、みほちゃん達に同情してわざと負けられるのも困りますから……。

 

言葉のさじ加減がすごく難しいんですけど、これくらいなら大丈夫でしょう。

 

「さて、それでは私はこれで失礼しますね」

 

この足でちょっと暗躍してきますかね。

 

「「「「お疲れ様でしたー」」」」

 

「……ねぇ。ルミ、メグミ」

 

「うん?」

 

「なに?アズミ」

 

「今までコーチが“強い”っていうストレートな表現を使った事ってあった?」

 

「……無いな」

 

「……無いわね」

 

「そうよね。……これは私達も本腰入れないとダメかもしれないわよ」




役人のやる事やる事が裏目に(爆)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

改竄

※西住みほ視点です。


お気に入りが7000を突破した!?(吐血)

本当にありがとうございます。
m(__)m

というか、何気に文字数も10万文字に到達してる……(;´д`)

とまぁ、私的な話はさておき。

活動報告の方でも書きましたが……ガルパンの続編『最終章』の制作が決定!!

こんなに嬉しい事は無いですね。

ガルパンの続編の制作が決定!!するなんて。

大事な事なので2回言いました。(笑)

あぁ、公開が待ち遠しい(´∀`)

……うん?

続編の制作が決定したという事は……この作品……終われなくなっちゃったんじゃ?(;´д`)


みほside

 

「無理な戦いという事は分かっている。だが、必ず勝って皆で大洗に、学園艦に帰ろう!!」

 

「「「「おおぉぉ〜〜ッ!!」」」」

 

……会長が取り付けてくれた大学選抜チームとの試合。

 

これに勝てば廃校が本当に撤回されるって事でみんな喜んでいるけど。

 

「……話が上手すぎるな」

 

「西住殿、やはり……これは廉太殿が……」

 

「……うん」

 

麻子さんや優花里さんの言う通り、話が出来すぎている気がする。

 

やっぱりおじさんは私達のために……そうじゃなきゃわざわざ試合を設けるなんて事はしないよね。

 

「それじゃあ、ちょっと車長の人は集まって。今後の話するからさ」

 

「「「「はーい」」」」

 

「……」

 

そうだ、おじさんと言えば……。この前はせっかくお話が出来るチャンスだったのに。

 

いくら廃校撤回の為に裏で動いているっていう隠し事があるからって何も言わずに逃げちゃうなんて酷いよ。

 

……それに、おじさんと一緒に居た子は一体誰だったんだろう?

 

「みぽりん、会長が呼んでるよ?何か車長の皆に話があるんだって」

 

「え?あ、うん、分かった。行ってくるね」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

いけない。今は試合の事を考えなくちゃ。おじさんがくれたチャンスをモノにするために。

 

けど……やっぱりあの子の事が気になる。

 

「社会人を破ったチーム!?」

 

「いくらなんでも無理ですよー!!」

 

「無理は承知だよー」

 

「西住、どう思う!?」

 

「……」

 

仲が“凄く”良さそうに見えたけど。手まで繋いで。まさか……違うよね?

 

おじさん、私との約束を破ったりしてないよね?

 

「に、西住?どうした?お前が握ってるペン折れてるぞ?」

 

「え、あ。すみません。何でもないです。えと……この選抜チームの隊長……どこかで見た気が……あっ!!」

 

この子……おじさんと一緒に居た子だよね……。

 

良かった。あの子、おじさんの隠し子とかじゃ無かったんだ。

 

「天才少女って言われてるらしいな。飛び級したとか」

 

「島田流家元の娘なんだよね……」

 

……へぇー島田流の。メールでお祖母ちゃんに教えてあげないと♪

 

「つまりこの試合は島田流対西住流の対決でもあるんだなぁ」

 

「で、相手は何輌出してくるんですか?」

 

「……30輌」

 

戦車道大会の決勝戦の時よりも戦力差があるんだよね。

 

しかも、相手の人達は各大学から選ばれた優秀な人ばかり。

 

もっと言えば、一時期おじさんが教官を勤めていたチームの人達。

 

車輌数の前に技量の差でも大変……。

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

「もうダメだ!!西住からも勝つのは無理だと伝えてくれ!!局長と仲がいいんだろ!?お前が言えば少しくらい譲歩してくれるはずだ!!」

 

「多分……私が言ったとしても意味は無いと思います。おじさんは戦車道に厳しい人ですから」

 

それに戦車道が好きなおじさんの事だから、この試合の事を純粋に楽しみにしてそうだし。

 

「そんな……なら、どうやって勝てと言うんだ」

 

「確かに今の状況では勝てません。ですが……会長がこの条件を取り付けるのも、おじさんがこの試合を成立させるのも大変だったと思うんです」

 

「「「「?」」」」

 

……あれだけおじさんの事を教えたのに、みんなまだおじさんの事を誤解してる。

 

でも、きっと最後には分かってくれるよね。

 

「普通は無理でも戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです。困難な道ですが、勝てる手を考えましょう」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

とにかくちょっとでもいいから勝機を見いださないと。

 

「――今回の試合は殲滅戦ルールで行って頂きます」

 

……嘘。道案内をしてくれたおじさんの部下の人が児玉理事長さんを連れて戻って来たと思ったら……試合が殲滅戦ルール……そんな。

 

「殲滅戦って何だったっけ?」

 

「相手の車輌を全部やっつけた方が勝つんだよ」

 

「そうなんだ〜」

 

「あ、あの!!30輌に対して8輌で、その上突然殲滅戦というのは……」

 

フラッグ戦だったとしても厳しいのに殲滅戦……。

 

「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本になっていますから、それに合わせるのは当然です」

 

「こちらの高島さんが言った様に、もう大会準備は殲滅戦で進めてるんだって」

 

「辞退するなら早めに申し出るように。以上です」

 

どうしよう……。




殲滅戦ルールの適用の事を役人が言いに来なかった理由は次回(明日)、明らかになります(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

牟田大臣の落ち目

果たして、役人が来なかった理由とは。

ちなみに今回は暗躍回……と言うか最後の布石の為のお話でもあります。
(´∀`)


「――はい、もしもし。高島ですが。……分かりました。局長、旧大洗女子学園の生徒達が到着したそうです」

 

「そうですか。なら高島君、彼女達の案内を頼めますか?」

 

「承知しました」

 

さてと。みほちゃん達が試合会場となるこのフィールドに到着したので、いよいよ明日試合が始まるのですが……。

 

その前に1つ、私には大仕事があるんですよね。

 

みほちゃん達に残酷な知らせ(殲滅戦ルールの適用)を伝えなければいけないという大仕事が。

 

はぁ……気が重い。

 

しかし、原作の流れを守るためとは言え今行ったら確実に捕まってしまって原作の流れから離れてしまう未来しか見えないんですけど。

 

どうしたものでしょうかね。

 

……うん?人が悩んでいる時に厄介な人物が電話を掛けてきましたね。

 

「もしもし」

 

『ワシだ』

 

一声で分かります。ザ、不機嫌。

 

『全く、この大変な時に余計な面倒事を起こしてくれたものだよ』

 

「誠に申し訳ありません」

 

そうですよね。貴方にとっては、牟田大臣にとっては大変な時ですよね。

 

国民の税金で芸者遊びをしていた事を某週刊誌にスクープされてしまったんですから。

 

しかし……匿名の情報提供者とは一体誰なんでしょうね?(ゲス顔)

 

『この件は厄介な事に世間の感心を少なからず集めてしまっているせいで揉み消す事も出来ん。失敗は許されんよ、君』

 

「承知しております」

 

大洗戦車道チームと大学選抜チームの廃校撤回を賭けたこの試合の事を“何故か”大手の新聞社がこぞって取り上げましたからね。

 

そのお陰で世論も動き始めていますし。

 

この状況ではもう“絶対に”揉み消す事は出来ませんよね。

 

しかし何故、新聞社が皆この事を取り上げたんでしょうか?(すっとぼけ)

 

『君だって今まで積み上げてきたキャリアをこんな細事で失いたくはないだろう?』

 

……ほぅ。みほちゃん達を、生徒達を悲しませる事が細事ですか。そうですか、そうですか。

 

ではこの後、愛人の件も週刊誌――いや、マスコミの方にリークしてしまいましょうね。

 

「……今回の件には全身全霊を傾けて望んでいます。どうか、ご安心を」

 

『ふむ。他ならぬ君がそこまで言うなら大丈夫なんだろうが、万が一の場合は覚悟しておきたまえ』

 

「はい。では失礼します」

 

ハハハッ。これで釘を刺したつもりなんでしょうけども。

 

言われなくとも覚悟なんてとっくの昔に決めてます。それこそ“私”になった時からね。

 

「ふぅ……」

 

「只今戻り――すみません、電話中でしたか」

 

「いや、大丈夫ですよ。ちょうど終わった所でしたし」

 

「なら良かったです」

 

さて、案内を終えた高島君が戻って来た事ですし……――みほちゃん達に更に嫌われに行きますか!!(やけくそ)

 

「さて、それじゃあちょっと私は大洗の生徒達に殲滅戦ルールの適用の話をしてきますね」

 

「あぁ、それでしたら先程児玉理事長と共に説明しておきました」

 

「へ?」

 

なん……ですと?もう……高島君が……言っちゃった?

 

「え?伝えてはダメでしたでしょうか?」

 

「あ、いやいや。いいんです。ありがとうございます」

 

うーん。これ以上みほちゃん達に嫌われずに済んだ事を喜ぶ気持ちと、少しとは言え原作の流れが変わってしまった事に対する不安感と、高島君に嫌われ役をさせてしまった罪悪感で……何か釈然としませんね。

 

まぁ……本来私に来るべきだったヘイトは後で情報操作をして私に戻しておくとして。

 

過ぎてしまった事はしょうがないですね。受け入れましょう。

 

それに原作の流れについても、この程度の改変なら大丈夫でしょう。

 

うん、きっと大丈夫。明日で全てが終わるんですし。

 

明日、イレギュラーが起きない限り大丈夫でしょう。




『明日、イレギュラーが起きない限り大丈夫でしょう』

盛大なフラグを立てる役人
(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

企み

※ダージリン視点です。

なお、試合開始までに何話か挟みます。
(´∀`)


ダージリンside

 

『――今のところ変更はありません。明日の試合は予定通り執り行われるものかと』

 

「そう。ありがとう、グリーン。貴女はそのまま監視と情報収集を続けてちょうだい」

 

『ハッ、了解しました』

 

さてと。予定通りという事は私達の出番になるわね。

 

「ペコ」

 

「はい、ダージリン様。何でしょう?」

 

「例の計画を実行に移すから皆に連絡を取る用意をお願い」

 

「分かりました」

 

事前に話を通してあるから大丈夫だとは思うけれど。

 

皆、準備の方は大丈夫かしら?

 

「用意出来ました。いつでもどうぞ」

 

「ゴホン。秋の日の ヴィオロンのため息の ひたぶるに 身に染みて うら悲し 北の地にて 飲み交わすべし」

 

無線や電話では無くモールス信号。しかも暗号文。

 

これならば副局長――アリサのお姉さんの1枚上手を行けた……かしら?

 

……半々と言った所ね。

 

あの方は自分の行動が辻局長の思いに反する事を理解しつつも辻局長の事を第1に考えて行動している強敵だから常に細心の注意を払っておかないと。

 

「打電終わりました」

 

「ありがとう、ペコ」

 

これで打てる手は全て打ったわ。後は明日の試合に備えるだけね。

 

「あの……ダージリン様?」

 

「何かしら、ペコ」

 

「今更ですが……良かったんですか?辻局長にお伺いも立てず勝手に動いてしまって」

 

「いいこと、ペコ。言われずとも殿方の考えを汲み取って先に動いて差し上げるのが淑女の務めなのよ」

 

「はぁ」

 

それが分からないなんてペコもまだまだね。

 

最も実際は……辻局長のお立場的に今回の一件はあくまでも私達が独自に動いたという事にしておかなければいけないからお伺いを立てたくても立てれないのだけれど。

 

「それにそもそもあの方は私達の動きなんて既に把握しているはず。その上で何も仰らないのだから、私達のこの行動は間違っていないという事よ」

 

「それもそうですね」

 

まぁ、あの方ならば私達の行動や思惑なんてお見通しでしょうから心配する必要は無いわね。

 

フフッ、全てがあの方の手のひらの上で動いているかと思うと恐ろしくもあり、また頼もしくもあるわね。

 

「それにしても……残念なのは辻局長が手配して下さったコメット巡航戦車やセンチュリオン、それにあの“戦車”を試合で使えない事ね」

 

せっかくの機会だから使いたかったのだけれど。

 

「届いてから日が浅いですから、しょうがないですよ」

 

「私のデータによると戦力化には後3ヶ月ほど掛かります。ちなみに今回の試合に無理やり投入した場合、戦力として活躍出来る確率は3割を下回るかと」

 

「分かっているわ、アッサム。でもまさか……お願いしてから3日で導入の許可が下りるなんて思ってもみなかったわね」

 

「そうですね。私ももっと時間が掛かるものだと思っていました」

 

流石は辻局長ですわ。

 

3日という短い時間で、あのOGの方々を説き伏せた上に……車輌の手配、そして車輌そのものだけでは無く車輌のサポート態勢まで整えて下さるなんて。

 

明日の試合ではみほさん達を助けるためにも、そして辻局長に恩を返すためにもより一層頑張らないといけないわね。

 

それに何より……辻局長にみっともない姿をお見せする訳にもいかないし。

 

となれば、大学選抜の方々には私達の活躍の犠牲となって辛苦を味わって頂きましょうか。

 

「さて、そろそろ休みましょうか。明日の試合では頼んだわよ。ペコ、アッサム、ルクリリ、ローズヒップ」

 

「精一杯頑張ります」

 

「分かっているわ」

 

「畏まりました」

 

「もちろんでございますわ!!ダージリン様!!」




本来なら、この回は会長が役人の所に行って色々な証拠を突きつけての追及タイム(事前バレ)だったのですが、後々の辻褄が合わなくなったため事前バレは無くなりました(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試合に集う者達

※アンチョビ視点です。

なお、急遽作った話なので作りが荒いです(;´д`)


アンチョビside

 

……まだか?まだなのか!?

 

ダージリンの奴、いつになったら連絡を寄越すんだ。

 

早くしてくれないと肝心な時に間に合わないぞ。

 

……このまま前戦車道大会の決勝の時みたいに気が付いていたら終わってたみたいなオチにならないだろうな。

 

「アンチョビ姐さーん!!」

 

「ドゥーチェ!!」

 

「どうした?ペパロニ、カルパッチョ」

 

「何か聖グロのダージリンがモールス信号で堅苦しい文を送って来たっす」

 

「“お茶会”のお誘いです。ドゥーチェ」

 

「来たかッ!?」

 

やっとか……結構ギリギリのタイミングだぞ。

 

「どうしたんすか?姐さん。そんなにお茶会が楽しみだったんすか?あぁ、それと連絡と同時に大洗の制服も届いたんすけど……これは何なんすか?仮装してお茶会をやるんすか?」

 

この前事情を説明してやったのに……もう忘れたのか、ペパロニの奴。

 

「……この前説明しておいただろ。お茶会ってのは集まれっていう符丁で、廃校撤回を賭けて大学選抜チームとの試合をやる事になった大洗の奴らを私達が助っ人として助けに行くんだ!!分かったかペパロニ」

 

「あぁ!!そう言えば、そんな事言ってましたねぇ」

 

言ってましたねぇ。って……なんて呑気な事を。

 

まぁいい。急いで出立しないと間に合わん。

 

「カルパッチョ!!P40の準備は出来てるか?」

 

「はい、ドゥーチェ」

 

「フッフッフッ、このP40でウチが弱くない――じゃなかった。強いって事を皆に教えてやる」

 

前大会ではあんまり良いところを見せられなかったが、今回は派手に暴れてやるぞ!!

 

「それにしても良かったですね、ドゥーチェ。P40が予定より早く直って」

 

「あぁ、本当だな。先輩からの連絡だと後1週間は掛かるって話だったが……」

 

「修理を担当してくれた方に事情を説明したら、大急ぎで仕上げてこっちに送って下さいましたからね」

 

「まぁ、修理してくれていた人がみほのお父さんだったからな。というか、送り先を見た時にまさかなとは思っていたが、本当にみほのお父さんだったとは」

 

……しかし、よく先輩は修理の依頼をみほのお父さんに頼んだな。

 

噂じゃ腕はピカ一だけど絶対に黒森峰の車両しか整備しないって話だったのに。

 

流石は先輩という事か?

 

「……うーん。盛り上がっている所悪いんすけど、アンチョビ姐さん。1ついいすっか?」

 

「どうした、ペパロニ?」

 

「ウチにはタンケッテを運ぶ用のSpa38トラックしか無いんすよ?P40を出すとなると、ここから試合会場まで長距離を自走して行くしかないっす。けど、そんな事したら試合が始まる前にP40の足回りがガタガタになっちまって使い物にならないと思うんすけど」

 

「「……」」

 

なんてこったーッ!!そうだ、ウチにはまともな戦車運搬車が無いんだった。

 

いつもは先輩にお願いして車両を借りてたから運搬車の事をすっかり忘れてたぞ。

 

うぅ〜でもまさか、その事をペパロニに指摘されるなんて!!

 

「どうするんすか?ドゥーチェ。鉄道輸送って手もありますけど、この時間じゃ手配出来ないっすよ?あ、それ以前に輸送費の問題もあるっす。いや〜貧乏って悲しいっすね。アハハハッ」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

ペパロニめ、まるで他人事のように……ッ!!

 

だが、ペパロニの言う通りだ。どうする!?

 

「またおやっさんに頼みます?」

 

「ダメだ!!今回ばかりは先輩に頼れん!!」

 

「えぇ〜素直におやっさんを頼りましょうよ〜」

 

「だから、ダメだって言っているだろう!!というか、表向きは先輩が大洗を潰そうとしているんだぞ!?そんな状況で大洗を助けようとしているウチらに先輩が手を貸せる訳ないだろ!!」

 

こいつは本当に人の話を聞いてないな!!

 

「あぁ、そういやそうでしたね。しっかし、おやっさんもこんな面倒なマネせずにパパッと助けちゃえばいいのに。変な所でトロくさいんすから」

 

「先輩にも事情があるんだろう。というか、ペパロニ。BC自由学園の奴等の前で先輩の事をトロくさいとかそれは言うなよ?あいつら先輩の事となると人が変わるからな」

 

「あーそういやそうでしたね。肝に銘じておくっす。それに姐さんにも嫌われたくないですし」

 

「……?どういう意味だ?」

 

「えー、分かってるくせに〜」

 

「……おい、何だそのニヤニヤした意味深な笑いは!!」

 

「いやいや、ドゥーチェも恋する乙女なんだなぁ〜と」

 

「はぁ!?別に私は先輩の――」

 

「誰もおやっさんが相手だとは言ってないっすよ〜」

 

ぐぬぬ……クソ!!ペパロニにからかわれるなんて一生の不覚だ!!

 

「で、話を戻しますけど結局どうするんすか?」

 

どうするたって……方法は1つしか無いだろ。

 

「……カルパッチョ」

 

「はい」

 

「タンケッテを大至急、Spa38に乗せろ」

 

「分かりました」

 

はぁ……せっかく先輩にP40を直してもらったのに。

 

くそう!!こうなったらタンケッテで皆があっと驚くような活躍をしてやる!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

命日

ようやく……試合“当日”です。
(;´д`)

PS,試験的にタイトルをちょっと弄りました。


……うん。戦車道日和の実にいい朝です。

 

さて、いよいよ運命の日がやって来た訳ですが。

 

長きに渡る私の使命も今日を持って終わりになるかと思うと……中々に感慨深いモノがありますね。

 

いやぁ〜しかし……長かった。

 

これまで本当に……本当に色々な事がありました。良いも悪いも含めて。

 

……あれ?何だかもうこれまでの出来事が走馬灯のように脳裏を駆け巡っているんですが……。

 

いやいや、ちょっと早いです。

 

走馬灯が駆け巡るのは全てが無事に終わってからでないと。

 

今ここで気を抜いたが為に最後の最後で全部オシャカみたいな展開になったら洒落にならないですし。

 

最後の一瞬まで気を引き締めておかないといけません。

 

それに……学園艦教育局長としても最後の日ですからね。ビシッと決めなければ。

 

さて……ふむふむ。ダージリン君達は順調にこちらへ向かって移動中と。

 

目下、問題は起きていませんね。

 

では……とりあえず食堂に行って朝食を食べましょう。

 

「……あ、局長。おはようございます」

 

「おはようございます」

 

あれ?食堂に来たらちょうど高島君と一緒になったのですが。

 

高島君、やけに眠そうですね。目の下にクマも出来ていますし。

 

まさか……寝ていないのでしょうか?

 

「高島君、大丈夫ですか?凄く眠そうですけど」

 

「え、あ、すみません。昨日はちょっと……嫌な胸騒ぎがしたので夜通し無線や通信回線を監視していまして」

 

「……」

 

不味いです。原作通りにダージリン君(正確にはオレンジペコ君が打電)がモールス信号で各高校の戦車道チームに連絡を取ってくれていたから良かったものの……。

 

無線や通常の通信回線を使用して連絡を取っていたら、高島君の妨害があり得たかもしれないという。

 

……まぁ、仮にモールス信号を傍受されていても内容が暗号化されているので差ほど心配する必要は無かったでしょうが。

 

「このまま無事に今日の試合が終わってくれればいいのですが」

 

「そ、そうですね」

 

しかし……げに恐ろしきは高島君の執念と行動ですね。

 

ですが、それを成す根底にあるのが私の為という……。

 

全く、これ程までに慕ってもらえるとは上司冥利につきますね。

 

「そう言えばまだお聞きしていませんでしたが、本日の――この後のご予定はどうされるのですか?」

 

「予定ですか?とりあえずは……関係者の皆様や試合運営にご助力頂いている方々に挨拶を――」

 

「あ!!辻局長じゃありませんか!!お隣よろしいですか!?」

 

「え、あ、えぇ、構いませんよ。どうぞ」

 

「では、失礼しますね」

 

「……」

 

本日の試合で主審を務めて頂く蝶野一尉がホクホク顔で私の隣に座った途端……対面の席に座っている高島君が苦虫を噛み潰したような顔に。何故です?

 

「ウフフ、早起きはしてみるものですね。まさかこんな三文の徳があるなんて」

 

蝶野一尉……何か良いことでもあったんですかね?

 

あ、もしかしてプリンですか?朝食で出された北海道プリンが嬉しかったのでしょうか?

 

甘い物が好きですからね、蝶野一尉は。まぁ、お酒の方がもっと好きみたいですけど。

 

「……局長。先の続きをお願いします」

 

うっ。機嫌良さげな蝶野一尉と対照的に高島君の機嫌が悪くなっています……。

 

うーん。寝不足のせいもあるんでしょうが。

 

最大の理由は……やっぱり蝶野一尉なんでしょうね。

 

高島君はどうも蝶野一尉とウマが合わないみたいですから。

 

ウチの部署に居る噂好きの娘によると、2人には互いに譲れない何かがあって、それがお互いの関係を悪くしていると言っていましたが。

 

この2人がそこまで固執するモノとは一体何なんでしょうか?

 

「あぁ、すみません。とりあえず試合が始まる昼過ぎまでは挨拶周りをするつもりです」

 

「畏まりました。では、私もお供させて――」

 

「それでしたら辻局長。この後、私達の宿舎へいらして下さませんか?本試合の戦車回収班のサポートとして来ている施設中隊に随行している蝶野一佐が、是非とも辻局長にお会いしたいと仰っていましたから♪」

 

うん。色々と言いたい事がありますけど。

 

まず……蝶野一佐って、蝶野一尉のお父さんですよね?強面で有名な。

 

何で蝶野一尉のお父さんが面識の無い私と会いたがるんですか?

 

……あれ、変ですね。何か背筋が凍り始めたんですけど。

 

「ッ!?……ちょっと良いですか?今は私と局長が喋っているんです。貴女は後にしてくれませんか?」

 

「あら、失礼しました。副局長さんが居ることに気が付きませんでしたので」

 

何か……2人の間にバチバチと火花が散っている気が。

 

私の気のせい……ではないですよね?

 

それに何だか凄く重苦しい雰囲気が漂い出したんですが。

 

って、皆さん!?一斉に席を立って私達から離れないで!!

 

まだ食べ終わっていない人もいるでしょう!!

 

というか、私も連れていってお願い!!

 

あ、児玉理事長!!ちょうど良いところに――って、ちょっと!?

 

目を逸らして知らん顔しないで下さい!!今、目が合ったでしょうに!!

 

ほら、諦めてこっちに来て――おいぃいい!!愛想笑いして逃げないでぇええー!!

 

だ、誰か!!誰か私を助けて!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

家元達とヘタレ達

はぁ……朝一番からとんだ目に合いました。

 

高島君と蝶野一尉には板挟みにされますし、初めてお会いした蝶野一佐とも“色々”とありましたし。

 

……初っぱなからこれだと後々が思いやられますが、人生は塞翁が馬。

 

次はきっと良い事があるはずです。それに期待しましょう。

 

「――では、車輌監査スタッフの皆様。本日はよろしくお願い致します」

 

さて。予定していた挨拶回りはここで最後ですね。

 

後は審判部本部に行って試合が始まるのを待つだけ――

 

「許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん」

 

――という訳にもいきませんか。

 

うーん。本音を言えば呪詛の念を垂れ流しにしているこの人物をスルーしたいのですけれど。

 

それをすると後が厄介ですね。致し方ありません。

 

「高島君、私はちょっとあの人と個人的な話があるので先に審判部本部へ行っておいてもらえますか」

 

「はぁ……それは構いませんが。しかし、大丈夫なんですか?あの人、目が血走っていますしブツブツと独り言を」

 

「大丈夫です。いつもあんな風なので」

 

「そ、そう……なんですか。分かりました。では先に審判部本部へ行っていますね」

 

「えぇ、お願いします」

 

説明の手間を省いたら高島君の中でヤツに対する盛大な誤解が生まれてしまったような気がしますが……まぁ、いいでしょう。

 

「こうして直接顔を会わせるのは久し振り……ですね」

 

「あぁ、そうだな。死ね」

 

ふむ。これまでのおふざけのせいで随分とお怒りのご様子。

 

……さっきまで美人の整備士と楽しげに会話していたんですがね。

 

全く、感情の振れ幅が大きいヤツですよ。

 

「お義父さん、機嫌を――」

 

「誰がお義父さんだー!!」

 

ハッハッハッ、やっぱり常夫はからかいがいがありますね。

 

「元気そうで何より」

 

「そっちこそ。……それで?今回は何をするつもりなんだ?裏方の僕まで引っ張り出して。前みたいな無茶は勘弁して欲しいんだが」

 

おや、さっそく本題に切り込んでくるなんて珍しい。いつもならもう少しふざけ合うのですが。

 

まぁ、今はあまり時間が無いので助かりますけど。

 

「いや、今回はただ単に親切心から呼んだだけです。2人が高校に入ってから2人の試合を生で見たことないんでしょう?」

 

「お前……ウゥッ!!」

 

いや、泣くことは無いでしょうに。

 

……まぁ、常夫の置かれている状況からしてみればそれもしょうがないですか。合掌。

 

「あら、ずいぶんと賑やかね」

 

「何のお話なのかしら?」

 

ッ、どうして家元コンビがここに!?到着するのはまだ後の筈。

 

……あ、分かりました。

 

2人とも自分の子供の晴れ姿を一瞬たりとも見逃すまいと早めに来ましたね?

 

全く、親バ――不味い。凄く睨まれてます。

 

この人達はエスパーか何かなんでしょうかね?怖い怖い。

 

「いえいえ、男同士の他愛のない会話ですから先生方のお耳に入れるような話では」

 

「そう」

 

「残念ですわ」

 

「まぁ、強いて言うのであれば常夫が整備士の女性にデレデレしていたという話です」

 

あらら、ついうっかり口が滑ってバラしてしまいました(棒)

 

「ふぁッ!?き、貴様!?」

 

「……あなた?」

 

おぉう。しほさんの髪の毛が逆立っています。……何か、目も赤く光っている気が。

 

「ち、違うんだ!!しほ!!これは――」

 

「あっちでお話しましょうか?」

 

「は、はい!!」

 

あぁ……常夫がしほさんに連行されてしまいました。

 

いつ見ても心踊る光景ですね。他人の修羅場は蜜の味〜。

 

「ウフフ。本当に仲睦まじいですわね、あのお二人は」

 

「えぇ、全く。羨ましい限りです」

 

何だかんだ言ってあの2人は仲がいいですからね。

 

話があると言っても大方イチャイチャしてるだけでしょう。

 

「あらあら。でしたら……うん、やはり……そうですわね」

 

うん?千代さんが何か企んでいる……?

 

嫌な予感しかしないんですが。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何でも無いですわ。それでは私はこれで」

 

行ってしまわれました。

 

うーん。千代さんが何かを企むと、それは大体ろくでもない事なんですよね……。

 

今回は一体何を企んだのやら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒幕

今回はちょっと話の流れが駆け足気味です(;´д`)



さて。みんな居なくなりましたし、私もそろそろ審判部本部に行きましょうか。

 

……しかし自分で仕組んでおいてなんですが、試合を見に来る方がすごく多いですね。って、あの人は!?

 

「せ、先生!?いらしていたんですか!?」

 

「あら、見つかってしまったわ」

 

何故ここにかほさんがお越しになっているんですか!?

 

来るなんて一言も聞いて無いですよ!?

 

「申し訳ありません!!まさかお越しになられるとは思いもよりませんでしたので、お迎えもお出迎えも出来ず大変失礼を致しました」

 

「いいのよ、今回はお忍びで来ているのだし。気にしないでちょうだい」

 

「は、はぁ……」

 

お忍び……ですか?それはそれで困るのですが。

 

それに気にするなと言われても無理です。

 

「あ、そうそう。貴方にはお礼を言わなくちゃね」

 

「は、お礼と言いますと?」

 

「フフフッ、私の願いを叶えてくれたじゃないの」

 

「いえ、その件でしたらお礼などと恐れ多い」

 

「そう言う訳にもいかないわ。往年の賑わいを失い徐々に衰退の道を歩んでいた戦車道を盛り上げる。そんな無理難題な私の願いを貴方はしっかり叶えてくれたんだもの。中立高校の戦車道連盟加盟や各高校で戦車道を授業や部活動として再び取り入れようとしている動きは貴方のお陰。それに今回の試合だってそうよ。廃校という切っ掛けがあったにしろ、こんなに心沸き踊る試合を開催してくれるなんて」

 

いや、まぁ……結果として盛り上がっては来ていますが、それは廃校を回避するべくみほちゃん達が必死に頑張って戦車道大会で優勝した事に起因するものでありまして。

 

仮に私の成果だったとしても、この現状は私の目的を達成する為の副次的産物で、お礼を言われるような事では無いのですよ。

 

……それにしても、さすが生粋の戦車道マニア。

 

家元の座をしほさんに譲って隠居された今も試合狂(バトルジャンキー)な性格は相変わらずのようで。

 

一応……貴女のお孫さんの窮地なんですがね。それでもやっぱり戦車道第一ですか。

 

いい意味でも悪い意味でも、かほさんらしいと言えばかほさんらしいですけど。

 

「しかしながら、先生の多大なるご支援がなければそれらも叶いませんでしたし」

 

私がこれまで色々と動けた背景にはかほさんの存在が大きいですからね。あと資金援助等々。

 

「はぁ……貴方はいつまで経っても自分の自己評価が低いままね。謙遜も良いけれど、度が過ぎると嫌味になってしまうわよ」

 

「はぁ」

 

謙遜と言われましても……事実を言っているだけなんですけど。

 

「所で……話は変わるのだけど。どっちを選ぶか決めたの?」

 

「選ぶ……ですか?」

 

何の事でしょうか?

 

「えぇ、そうよ。まほとみほ。どちらを嫁にするのか。まぁ、嫁と言っても貴方に西住家へ婿入りしてもらう事になるのだけれど」

 

「……」

 

え?ちょっと待って下さい。まほちゃんとみほちゃんのどちらを嫁にするのか。とか聞こえたんですけど?

 

私の聞き間違いですよね?

 

「ちょっと、私の話を聞いているの?まほとみほのどちらと結婚するのかと聞いているのだけど」

 

 

聞き間違いじゃなかった……だと。

 

「いやいやいや……先生、それは――」

 

「待った。いくら貴方でもこの期に及んではぐらかすのはナシよ。まほはちゃんとした形で好意を伝えているのだし。みほだってあの約束の事があるでしょう」

 

うっ!?……それを言われてしまうとぐぅの音も出ません。

 

しかし、かほさん。その凄く愉しそうな顔は何なんですか?

 

何か……私が困っているのを見て楽しんでません?

 

「そ、それはそうですが……。まほちゃんは別としても、みほちゃんとの約束は彼女が幼い時に交わしたものですし、それに何より今回の一件で私はみほちゃんに嫌われてしまっていますから」

 

「……。(とんでもない勘違いをしているわね。というか、みほに今回の事を隠し通せている思っていたなんて)言い訳は結構。で、まほとみほのどちらを選ぶの」

 

今度は心底呆れた顔をされていますが……どうしたんでしょう?

 

「前向きに検討させて頂き、可及的速やかに結論をお出し出来ますよう善処致します」

 

可及的速やかに……いつとは言ってないですからね、これでしばらく時間が稼げます。

 

「またそうやってうやむやにする。そうだ、決められないのなら2人共でもいいわよ」

 

「ふぁ!?」

 

何を言っているんですか、この人は!?

 

「あ、それともなに。他に好きな人がいるのかしら?貴方の周りには魅力的な娘がたくさん集まっているから、例えそうだったとしてもしょうがないけれど」

 

確かに、魅力的な人が多いというのは事実ですね。

 

しかし……その魅力的な人の多くが手を出したらアウト!!な人物なんですがそれは。

 

「い、いえ、そう言う訳でも……」

 

「そうなの?まぁ、何はともあれこの試合が終わったら貴方は暇になるでしょう?その辺りでハッキリしてもらうわよ」

 

「……バレていましたか」

 

ご慧眼、お見逸れ致しました。かほさんにはやはり敵いませんね。

 

「逆に私にバレていないとでも?あれだけやってれば嫌でも気付くわ。全く、自分の首で事を収めようだなんて」

 

「しかし、事を上手く収めるにはこれが――」

 

「例えそれが一番上手く事を収める方法でも貴方が割を食っていたら元も子もないでしょうに。貴方は本っっ当にウチの孫や学生達に甘いんだから」

 

そう言われましても……確実で安全な方法があるなら誰でもそれを選びませんかね?

 

ま、それはさておき。私が割を食って事が収まるなら安いものです。

 

「大事なのは未来ある学生の前途を守る事ですから、私の事はいいんです。どうとでもなりますから」

 

「貴方らしいわね。――あらいけない。もうすぐ試合ね、早く行かないと席が無くなっちゃうわ」

 

「それでしたら、関係者用の観覧席をご用意させて頂きますが」

 

「結構よ。貴方は試合後の自分の心配でもしてなさい。じゃあね」

 

……まるで嵐のように過ぎ去っていきましたね。はぁーやれやれ。




次回、ようやく試合開始(意味深)の予定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ、決戦の時

ふぅ。色々とありましたが何はともあれいよいよ待ちに待った試合が始まります。

 

……ッ。あぁ、不味い。

 

前世ではスクリーンに映っていたあの試合が今世では生で、それも特等席で見られるかと思うと興奮のあまり手が震えて来ました。

 

『両チームの代表者は前へ!!』

 

さぁ!!主審である蝶野一尉の指示でみほちゃんと愛里寿君が前に進み出て行きます!!

 

うぉおおおおッ!!み な ぎ っ て き たーーッ!!

 

「少し……よろしいですかな」

 

「どうかしましたか、児玉理事長?」

 

私の隣にいる高島君の事を頻りに気にしながら児玉理事長が小声で声を掛けてきましたけど……どうしたんでしょうか?

 

「あまりそのようにご自分を責める必要はないかと。いえ、理由はまだ言えないのですが……」

 

うん?児玉理事長……何か勘違いされてないですか?私はただ興奮で手を震わせているだけなんですが。

 

いや、そんな……ワシは分かってますから。みたいな優しげな目をされても困ります。

 

っと、そんな事より試合が始まりますね。

 

『ではこれより大洗女子学園対大学選抜チームの試合を行います。礼!!』

 

『よろしくお願い――』

 

『待ったぁあああーー!!』

 

キィィタァァアアアーー!!

 

まほちゃん率いる黒森峰女学園のティーガーI×1、 ティーガーII×1、パンターG型×2の計4輌!!

 

「なっ!?部外者が何故入ってきているのですか!!」

 

おぉう。高島君が早速大洗の助っ人にやって来たまほちゃん達の存在に噛み付いています。

 

「オホン、高島さん。その事についてなのですが彼女達は部外者では無いのです。短期転校の手続きを踏んで今現在は大洗の生徒となっていますから」

 

「短期転校ッ!?」

 

「えぇ、短期転校です」

 

児玉理事長の説明に高島君が唖然としていますが……手続き自体は正式な物ですからね。

 

引っくり返すのは不可能ですよ。

 

……いや、児玉理事長?そんなドヤ顔されても反応に困ります。

 

というか、貴方がドヤ顔するのはちょっと違うのでは?

 

それにそもそも私はこの事態を知っていましたからね?

 

「で、ですが!!短期転校で彼女達が大洗の生徒になったとしても黒森峰が所有しているはずの戦車まで持ってくるなんて反則です!!」

 

「みな私物なんじゃないですか?私物がダメってルールありましたっけ?」

 

「無いですね」

 

「そんな!?卑怯です!!――というか局長が何故擁護側に回っているのですかッ!!」

 

「ハッハッハッ」

 

「笑い事ではありません!!」

 

さてさて。高島君が怒っている間にも続々と来てくれていますよ。

 

ケイ君率いるサンダース大学付属高校の75mm砲搭載型のM4シャーマン×1、76mm砲搭載型のM4A1シャーマン×1、そしてシャーマン・ファイアフライ×1の計3輌!!

 

続いてカチューシャ君率いるプラウダ高校のT-34/85×2、KV-2×1、IS-2×1の計4輌!!

 

そしてそして!!

 

ダージリン君率いる聖グロリアーナ女学院のチャーチル歩兵戦車×1、マチルダ歩兵戦車×1、クルセイダー巡航戦車×1の計3輌!!

 

『大洗諸君、ノリと勢いとパスタの国からドゥーチェ参戦だ!!恐れ入れ!!』

 

更にアンチョビ君率いるアンツィオ高校のCV33カルロヴェローチェ1輌!!

 

『カバさんチームのタカちゃ〜ん、来たわよ〜』

 

僅か1輌。それも豆戦車ですが、我が母校の数的主力は伊達ではありません。

 

『こんにちは、みなさん。継続高校から転校して来ました』

 

更に更に、ミカ君率いる継続高校のBT-42が1輌!!

 

『お待たせしました!!昨日の敵は今日の盟友、勇敢なる鉄獅子22輌推参であります!!』

 

そして最後のトリを飾るのは!!

 

西君率いる知波単学園の九七式中戦車(旧砲塔)チハ×3、九七式中戦車(新砲塔)チハ×2、九五式軽戦車ハ号×1の計6輌!!

 

……いや、まぁ、実際には西君が勘違いして22輌という大所帯で来てますけどね。

 

『増援は私達全部で22輌だって言ったでしょ、貴女の所は6輌』

 

『すみません、心得違いをしておりました!!16輌は待機!!』

 

さてさて。ダージリン君の指摘を受けて知波単学園の16輌が待機に入ったので、これできっかり計22輌の増援が到着しましたね。

 

それにしてもこの一連のシーンは燃えますね〜。

 

……しかし、あの稜線の向こう側にいる戦車の群れは何なんでしょうね?

 

まさかみんないざという場合に備えて出せる車輌全部で来てたりします?

 

……何でそんなにみんな気合いが入っているんでしょうか。

 

それに西君。味を占めたのかは知りませんが爆雷装備は駄目ですからね。

 

後で外すように伝えておかないと。

 

「局長!!試合直前での選手増員はルール違反じゃないんですか!?」

 

「少なくともルール違反ではないかと」

 

「そうですな。異議を唱えられるのは相手チームだけですから」

 

「ぐぬぬ」

 

私と児玉理事長に言いくるめられた高島君が悔しげに唸っています。

 

高島君には申し訳ないですが、ここは譲れないですからね。諦めてもらう他ありません。

 

………あれ?おかしいですね。一向に試合が始まりませ――うん?蝶野一尉から電話?

 

どうしたんでしょうか?

 

「もしもし。どうかしましたか、蝶野一尉」

 

『そ、それが……島田選手が試合直前での選手増員に異議を申し立てると言っていまして』

 

……何ですとーッ!?




〜お知らせ〜

私としても大変不本意なのですが、いろいろな事が重なった結果……ちょっと長めに更新が開くと思われます。
(;´д`)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暫時

本当なら11月まで更新がずれ込む予定だったのですが、今日がみほの誕生日という事でしたので便乗?更新です。
(;´д`)


ルミside

 

……驚いた。

 

「このまま何事も無く試合が始まるとは思っていなかったけど」

 

「まさか強豪校が揃いも揃って助っ人にやって来るなんて」

 

「さしずめ高校選抜チームと言った所かしら。フフッ、昔を思い出すわね」

 

にしても……コーチの教え子が多い。

 

それにコーチの愛弟子と噂されているあの西住姉妹が揃っちゃったし。

 

この試合……ちょっとばかり苦戦するかも知れないな。

 

「けど、この展開は私達に取っても好都合。少なくとも車輌の数は互角になったんだし」

 

「えぇ、そうね。これで私達も」

 

「何の気兼ね無く本気が出せるわ」

 

という事で全力で相手をしてあげよう。

 

しっかし、流石はコーチ。こんな熱い展開を用意されたら誰も断れないって。

 

「……蝶野審判長。宜しいでしょうか?」

 

あれ?愛里寿隊長どうしたんだろ。審判長に声掛けてるけど。

 

「はい、何でしょう?」

 

「大洗チームの試合開始直前の選手増員に異議を申し立てます」

 

え゛?

 

役人side

 

何故です?何故、愛里寿君がまほちゃん達の試合参加に異議を申し立てるんです?

 

原作では『我々は構いません。受けて立ちます。試合を始めて下さい』と軽く流していたはずなのに……。

 

どうしてこうなったんです?一体何が原因なんです!?

 

一体……一体何でこんなイレギュラーが起きたんですかー!!

 

「――長」

 

「……」

 

「局長!!」

 

「はっ!?」

 

いけません。予想外過ぎる事態についついポルナレフ状態に陥ってしまっていました。

 

しっかりせねば。

 

「どうかされたのですか?電話に出られてから呆然とされていましたが……」

 

「いやいや、何でもないですよ。何でも。ハハッ」

 

「はぁ……ならいいのですが」

 

ふぅ。とりあえずは誤魔化せましたが……とにもかくにもこの状況を高島君に気取られないようにしなければなりません。

 

気取られたが最後。高島君は鬼の首を取ったように嬉々としてまほちゃん達を追い出しに掛かるでしょうから。

 

……となると。この場にて電話口越しに愛里寿君を説得して今の流れを原作通りの流れに修正しないといけませんね。

 

本当なら直接顔を会わせて説得を行いたい所ですが……このタイミングで私がこの場を離れようものなら何かと目敏い高島君が状況を察知してしまうでしょうし。

 

難儀なものです。まぁ、とにかく愛里寿君と話をしなければ。

 

……愛里寿君との会話を高島君に聞かれないよう少し離れておきましょう。

 

「蝶野一尉。申し訳ないのですが愛里寿君に電話を代わってもらえますか?」

 

『分かりました』

 

さぁて、ここからが正念場です。

 

「……もしもし、愛里寿君?」

 

『はい。何でしょう、おじさま』

 

「大洗の選手増員に異議を申し立てたと聞きましたが……」

 

しかし……よくよく考えてみると愛里寿君が異議を申し立てた理由とは何なんでしょう?

 

『はい、その通りです。……ダメでしたか?この試合を速攻で片付ければボコミュージアムの閉館時間にギリギリ間に合うので、おじさまと一緒に行きたかったのですが』

 

理由ってそれですか!?今日のボコミュージアム行きを諦めてなかったんですか!?

 

……いや、逆にボコミュージアムに行きたいという理由だけで選手増員に異議を申し立てているのであれば説得は容易いはず!!

 

これは好都合かもしれません!!

 

「あ、愛里寿君?例え試合がすぐに終わったとしても30輌もの戦車の撤収には時間が掛かりますから、今日のボコミュージアム行きはちょっと厳しいと思うのですが……」

 

『はい。ですからアズミ達にはこの後すぐに撤収準備に入ってもらおうと』

 

「……?」

 

この後すぐにとは……どういう事です?

 

『たった8輌しかいない現状の大洗のチーム程度であれば私のセンチュリオンだけで蹴散らせますから。それにそうした方が島田流の凄さを世間にアピール出来きますし、数の差の事でおじさまが誤解を受けずに済むかと思って』

 

え?チームじゃなくて単騎で挑むつもりだったんですか?え?何それ、怖い。

 

そして、それは無理ですよ。と言えない所が一番怖い!!

 

というか千代さんの期待に応えつつ私の事まで考えてくれているのは嬉しいのですが、それをされたら完全に原作が崩壊してしまうぅッ!!

 

せ、説得……絶対に説得せねば!!

 

「あ、愛里寿君。勝手な事を言って申し訳ないのですが大洗の選手増員を認めてあげてくれませんか?」

 

『どうしてですか?』

 

「その……このような事態は完全に予想外(大嘘)なのですが、よくよく考えてみると願ってもないチャンスなのです」

 

『チャンス……ですか?』

 

「えぇ、愛里寿君の大学選抜チーム。そして図らずも高校選抜チームのような形になった大洗チームとの試合。これを行う事で本日来ている外国の報道機関を通し日本戦車道の技量の高さを世界に見せ付けると同時に優秀な人材がいるという事を盛大にアピールする事が出来ますから、上手く行けば世界大会誘致に大きな弾みがつきます」

 

咄嗟に思い付いたそれらしい理由ですけど……これでどうにか納得してくれないでしょうか。

 

『分かりました。そういう事でしたら異議を取り下げます』

 

「ありがとうございます。こちらの勝手で何度も振り回してしまい申し訳ない」

 

良かった。愛里寿君から是の答えが出ました。

 

しかし、怖いぐらいにすんなりと話が――

 

『いえ、構いません。ところで話は変わるのですが……おじさまはこの試合どちらを応援するつもりなのですか?』

 

――終わって無かった(絶望)

 

今一番聞かれたくない質問が、よりにもよって愛里寿君の口から出て来てしまいましたよ!!

 

「そ、それは……もちろん」

 

『もちろん?』

 

こ、ここはどちらも応援しているという本心を言いたい所ですが……立場上それは言えません!!

 

というか、愛里寿君は何故こんな質問を?

 

「愛里寿君……ですよ?」

 

『ありがとうございます。おじさま。……フフッ、だそうです』

 

ちょっと待ったぁああ!!だそうですって、誰に言ったんですか!?

 

まさか……みほちゃんに!?違いますよね、愛里寿君!?

 

通話モードをスピーカーにして今の会話をみほちゃんに聞かせていたとかじゃないですよね!?

 

って、電話切られてる!?

 

あわわ……何だか大変な事になってしまった気が……。




やってやる〜やってやる〜やーってやるぞ〜邪魔なアイツ(恋敵)をボコボコに〜♪

これが執筆中に頭を過ったんですが……割りとシャレになってない(汗)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

燃える若獅子達

最初は無かったのですが、作戦会議の様子もあった方がいいかと思って付け足しました。

なお、どうとでも取れるように全体的に曖昧な表現にしてあります。


アンチョビside

 

作戦会議をやるって言うから集まったのに。何なんだ、この状況は。

 

「フフフッ……」

 

みほは恐ろしげな笑いを漏らしているし。

 

……目が笑ってないぞ。

 

「……」

 

まほは無言で黒いオーラを放っているし。

 

……ただただ怖いんだが。

 

「レンタも意地悪な事を言うわよねー。ね、そう思うでしょ?ナオミ、アリサ」

 

ケイはこの場に居ないチームメイトに声を掛けてるし。

 

……大丈夫か?

 

「如何なる時も優雅……」

 

ダージリンは壊れてるし。

 

……紅茶を飲もうとしてもそのティーカップは空だぞ。

 

「あのバカメガネは!!何であっちの応援してるのよ!!私達の応援をしなさいよ!!」

 

逸見は怒りながらブツブツ言ってるし。

 

……ツンデレか?

 

「局長がカチューシャの事応援してない……」

 

カチューシャは落ち込んでるし。

 

……こんな弱々しい姿は初めて見たぞ。

 

「(カチューシャを悲しませた罪は万死に値します)」

 

ノンナは殺気を放ちながらロシア語で何か言ってるし。

 

……おい、待て。ここで撃鉄を起こすな。

 

「……」

 

継続の隊長は我関せずでカンテレ弄ってるし。

 

……よく見たら手が震えているな。

 

はぁ……集まっている各校の隊長と副隊長が揃いも揃ってこのザマなんて。

 

ま、やっぱりあれだな。みほとまほが聞いた――先輩が島田愛里寿を応援しているって言った事が皆ショックなんだな。

 

……先輩も複雑な立場に立たされているんだから私達の応援なんか出来ない事は承知の上だろうに。

 

しかし、この場にいる奴でまともな状態なのは私と杏と河嶋と西だけか。困ったもんだ。

 

「アンチョビ殿。1つ宜しいでしょうか?」

 

「何だ?西」

 

「ウィッグが逆立っておりますが、どうかされたのですか?」

 

「地毛だ!!」

 

「おぉ、そうでしたか。それは失礼いたしました」

 

全く……この状況でよくそんな事を聞けたな。

 

「えっと……西住ちゃん?そろそろ作戦会議始めないと時間無くなっちゃうよ?」

 

お、杏がようやく事態の収拾に動いたか。

 

「……っ、そうですね。では、まず部隊の編成を――」

 

やっと作戦会議が始まった。他のみんなも我に返ったようだし、これで何とかなるな。

 

「――ゴリゴリ作戦開始します!!」

 

「「「「オォー!!」」」」

 

3方向から力押しで積極的に敵戦力を削っていく作戦か。

 

しかし……さっきとは打って変わってみんなのやる気が凄いぞ。

 

目が爛々と輝いているというか……獲物を狙う獣みたいな目をしているんだが。

 

……会議の最後にダージリンが余計な事言うから。先輩も大変だな。

 

役人side

 

大洗の選手増員に対して愛里寿君が異議を申し立てるというイレギュラーを乗り越えられたのはいいんですが。

 

気掛かりな事が1つ。

 

電話口越しに愛里寿君を応援すると言った事をみほちゃんに聞かれてしまった可能性があるんですよね……。

 

「ただいま戻りました」

 

あ、蝶野一尉が審判部本部に戻って来ました。確認するのが怖いですけど事の真相を聞いてみましょう。

 

「あの……少しよろしいですか、蝶野一尉」

 

「はい、何でしょう?」

 

「つかぬことをお聞きしますが、先程の電話ってスピーカーモードだったり……します?」

 

「……最後の方は」

 

「という事は……つまり私が言った事は聞こえていたんですね?」

 

「……はい」

 

「や、やはりですか」

 

オーマイガー……危惧していた事が現実のモノに。

 

これはますますみほちゃんに嫌われてしまいましたね。

 

「えぇ。私とみほ選手、まほ選手には……その、辻局長が島田選手を応援すると言っていたのが聞こえていました」

 

え!?まほちゃんも聞いていたんですか!?

 

そ、そう言えば確かに原作では2人一緒にあの場に居た気が……。

 

これは思っていた以上に大変な事になりました。

 

あ……それにまほちゃんやみほちゃん経由でこの事がしほさんに伝わったらどうしましょう。

 

説教レベルじゃ済まないんですけど。折檻される可能性が……。

 

「ちなみに……その後のまほさんとみほさんの様子はどうでした?」

 

「それは……その何と言いましょうか。えーと……やる気……を出していました……よ?」

 

蝶野一尉がこれ程言葉を選ぶとは……やる気という単語が意味深過ぎて怖いです。

 

「そう……ですか」

 

「き、気を落とさないで下さい。辻局長のお立場ではあの様に言うしか無いのですし、彼女達も辻局長のお立場の事を理解さえすれば分かってくれるはずです」

 

あぁ、蝶野一尉の励ましが心に響きます。

 

「局長、試合開始10分前です」

 

「分かりました」

 

ふぅ。落ち込んでいる暇はありませんね。

 

あ、ちょうど両チームがスタート地点への移動を始めたようです。

 

双眼鏡で大洗チームの方を覗いてみましょう。

 

「……ふむ」

 

「合同の練習なんてしていないはずなのに……やけに綺麗な隊列を組んでいますね。とても急造チームとは思えません」

 

「フフッ、辻局長のご指導の賜物ですわ」

 

「何故貴女が自慢気なんです?」

 

「何か問題でも?」

 

「ま、まぁまぁ。お二方」

 

あのー私を挟んで火花を散らすのは止めてくれませんかね?高島君、蝶野一尉。

 

そして、児玉理事長。仲介に入ってくれるのはありがたいんですけど離れ過ぎじゃないですか?

 

そんな部屋の隅っこからでは……まぁいいです。

 

それにしてもみほちゃん達……みんな笑顔というか。

 

何か……嗤ってないですか?

 

あれ?こっちを見――

 

……みほちゃんと目が合いました。ぐ、偶然ですよね?

 

ここからみほちゃん達がいる場所までは2〜3キロ程度距離があるんですし、偶然ですよね?

 

あそこから私が見ているなんて分かる訳が……。

 

ッ!?

 

「局長?どうかされましたか?」

 

「……な、何でもないです」

 

みんな(私と関わりのある子達)がこっちをガン見しているんですが。

 

何これ、怖い。




次回、暗躍回の模様。

お楽しみに〜(´∀`)ノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

布石

お待たせ致しました。
m(__)m

リアルの方で色々あったり、話の構成に迷っていたりしたせいで予定よりかなり遅れましたが、とにもかくにも更新です(´∀`)

……暗躍回のつもりですが、言うほど暗躍させれなかったのが心残りです。




愛理寿side

 

あ……試合開始の合図。

 

『始まりましたね。それで……どうします、隊長?』

 

『高校生とは言え相手はかなりの戦力を有しています。それに技量の面でも中々侮れないかと』

 

この試合……おじさまの期待と応援を無駄にするわけには行かないけど、あまりに一方的な試合展開だとおじさまの目論見を邪魔してしまうから……正攻法で少し様子を見てみよう。

 

「分かっている。だからまずはプラウダと黒森峰の重戦車を潰す。アズミとルミの中隊は私と共に広く長い一列横隊を形成してゆっくり前進。側面からの強襲に注意しろ。偵察車は敵と遭遇しても攻撃をするな。各車前進」

 

とりあえずプラウダと黒森峰の重戦車さえ潰してしまえば後はこちらの思い通りに出来るはず。

 

それに……おじさまが私を応援すると言ってくれた時に黒森峰の隊長が冷静さを欠いていたから、攻めるなら今。

 

『こちらルミ、了解』

 

『アズミ、了解しました。前進開始』

 

『メグミ、中隊を変進させます』

 

「……接触は早くて20分後」

 

この試合に勝っておじさまは私が、島田流がもらう。

 

役人side

 

さて。何はともあれ遂に運命の試合が始まった訳ですが……両チームが接触するまで20分ぐらいありますし、今のうちに色々と確認しておきましょうか。

 

えーと。まずはテレビの方から。……ふむふむ、こちらは予定通りですね。

 

タイムリーな問題なだけあって、どのニュース番組も大洗の話題で持ちきりです。

 

あ、それに私がリークした牟田大臣の愛人問題が今まさに速報で報道され始めました。

 

うーん。とても愉快な状況になっていますね(ゲス顔)

 

まぁ、牟田大臣の事はどうでもいいとして。

 

お次はネットの掲示板の方を見てみましょうか。

 

……うーむ。こちらも予定通りと言えば予定通りですね。

 

事前に色々と煽っておいたお陰で私と牟田大臣の誹謗中傷で溢れ返っています。

 

これだけ善悪の構図をハッキリさせておく事が出来れば上々でしょう。

 

……しかし気になる事が1つ。

 

キジカクシとクラレットというハンドルネームのお二人が恐ろしいほど私の事を賛美・擁護しているんですけど。

 

これはどういう事なんでしょうか?

 

それによくよく見てみると他にも私の事を擁護している勢力が居るような感じが……この方達は一体?

 

「――流石は大学選抜チーム。序盤から圧倒的ですね。3つに分けた隊の内、左翼の隊では足止めを行い右翼の隊では戦線の突破を敢行。そしてあの車輌での奇襲攻撃で大洗チームが混乱している間に後方へと回り込んでいた右翼の隊と本隊で高地に陣取った大洗の中央集団を挟撃した後、追撃戦を開始。これら一連の展開でチハ2輌とパンター2輌、そしてプラウダ勢4輌の内T-34-85、IS-2、KV-2の3輌を撃破しながら被害はパーシング3輌のみ。フフッ、大洗チームも必死に抵抗しているようですが最早大勢は決しましたね」

 

「いや、まだまだ始まったばかりですよ。試合は、戦車道はここからが本番です」

 

えー試合が始まり少し経ちましたが……現時点では高島君が言ったように原作通りの流れで進んでいます。

 

ですが……両チームの砲撃(攻防)が激しくなっているのは元より、大学選抜チームの右翼を担当していたアズミ君が原作通りに知波単勢を蹴散らして戦線を突破しようとした際、ケイ君のガードに阻まれて1度は突破を失敗していたり。

 

メグミ君の追撃からカチューシャ君を守るために反転したクラーラ君があの車輌の砲撃で撃破される寸前にパーシングを1輌撃破していたりと。

 

大筋は変わっていないのですが途中途中原作と違う展開があったりしているため、表面上は余裕ぶっていますが内心冷や汗が止まりません。

 

……どうしてこうなったんです?

 

「しかし局長。いくら奇策を得意とする大洗チームでもここから今の流れを変えるのは困難なのでは?」

 

戦力比で考えるならば高島君の言い分が正しいのですが……――あっと、今まさにこの流れを変えてしまうどんぐり小隊が編成されました。

 

「普通ならそうですね。しかし彼女達は今まで幾つもの困難を乗り越えて来たという実績がありますから……それこそ試合が終わってみないと分かりません」

 

「そうは仰いますが……今回ばかりはもう大洗チームも打つ手が無い様ですよ?何せヘッツァーや八九式、CV33、BT-42の4輌であの様に破れかぶれの突撃を行った挙げ句、あっさり撃退されていますし」

 

……まぁ、確かに端から見ればあの突撃は破れかぶれの様に見えますけど、しかし侮る事なかれです。

 

あの4輌が、BT-42が、ミカ君がこの試合の流れを変えてしまうのですから。

 

おっと、アンチョビ君達がカール自走臼砲を見つけたようです。

 

「あれを直前になって認可させたのは、この試合のためだったんですな!?」

 

「言い――」

 

「児玉理事長。言い掛かりは止めて頂けませんか?」

 

……高島君にセリフを取られてしまいました。

 

「しかし、オープントップなのに戦車と認めていいんですか?」

 

「それは考え方次第かと」

 

考え方次第というより……元々認可待ちの車輌でしたからね。

 

それに……っと、ミカ君達が動き出しました。

 

一先ずミカ君達の大活躍を見させて頂きますか。




次回、試合終了。

修羅場へのカウントダウンが始まります(笑)


ちなみに作中に登場したキジカクシとクラレットはアスパラガスとボルドーの事です(;´д`)


キジカクシ(アスパラガスの和名)

クラレット(ボルドー地方で生産されている赤ワイン)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試合の果てに

『――大洗女子学園の勝利ッ!!』

 

……遂に決着がつきましたか。

 

いやはやこの世に生を受け40幾余年。私の全てを賭けて待ち望んだこの時、この瞬間。

 

終わってみると……案外あっさりしていますね。

 

もっとこう感動したり感慨深い気持ちになったり達成感を味わったりするのかと思っていましたけど、そんな事も無かったです。

 

……まぁ、結果こそ原作と同じになったものの、試合途中の展開が原作とかなり違っていたという事が影響しているんでしょう。

 

何せパーシング3輌を相手に大立ち回りをやってみせたミカ君達のBT-42の損傷が軽微でカール戦直後までは自走可能(最終的には本隊と合流する直前にエンジントラブルでリタイアしましたが)だったり。

 

遊園地跡の南門に居た囮のパーシング3輌をまほちゃんが瞬殺していたり。

 

カチューシャ君がパーシングを原作時より1輌多い4輌撃破(狙っていたのかは不明ですが、撃破したパーシング4輌の内2輌はノンナ君とニーナ君達を撃破したパーシングでした)していたり。

 

ミフネ作戦の場面で観覧車先輩が突っ込んで来た際、アズミ君達の混乱が軽度で突破口が不完全にしか開かなかったためにエリカ君が突撃して突破口を開いていたり。

 

ナオミ君の援護を受けてT28を撃破したダージリン君が橋の下からの脱出に成功してメグミ君と激闘を繰り広げたり。

 

アンチョビ君がジェットコースターのレール上でチャーフィーに挟まれた際、前方の車輌を体当たりでレール外に突き落として撃破したり。

 

ルクリリ君がアズミ君達の合流を阻止するべくカチューシャ君の言葉通りに体当たりを本当に敢行したり。

 

知波単勢――西君達やカバさんチーム、ウサギさんチームの活躍が原作よりも少なかったり。

 

ルミ君がカチューシャ君に撃破されずに最終決戦に参加していたり。

 

そして何と言っても一番最後の攻防。

 

まほちゃんとみほちゃんの空砲ブーストアタックの際、愛里寿君の反撃がⅣ号戦車の右側の転輪と履帯を破壊した所までは原作通りでしたが、その砲弾が直進してまほちゃんのティーガーⅠの履帯を破壊したり。

 

最も履帯が切れただけで戦線復帰が可能だったので残存車輌として認められましたが……1つ間違っていれば引き分けでの試合終了となっていました。

 

と、まぁ……他にももっと語りきれないぐらい色々ありましたけど……とりあえずはそんな感じで原作?何それ美味しいの?状態でしたからね。

 

試合を観ていた最中は良い意味でも悪い意味でも常にハラハラドキドキでしたよ。

 

お陰で試合が終わったのに椅子から動く事が出来ません。

 

安堵のあまり腰が抜けたみたいです。

 

「そん…な……」

 

「いやぁはっはっ!!」

 

「っし!!」

 

ちなみに私は腰が抜けましたが他の方々――高島君は床に膝を付いて愕然としていて、児玉理事長は跳び跳ねながら喜んでいて、蝶野一尉はマイクを片手に小さくガッツポーズを決めています。

 

立場故の違いですね。

 

おっと電話が。

 

「もしもし。……えぇ、はい。分かっています。今回の失態は全て私の責任です。はい。もちろん、はい。責任を取って局長の職を辞職させて頂きます」

 

うーん。リークした愛人の件が報道された事で荒れに荒れていますね、牟田大臣。

 

電話口の向こうで罵詈雑言をわめき散らしながら絶叫してます。

 

ま、大臣の置かれている状況を考えれば妥当な反応ですかね。

 

「きょ、局長!?」

 

「なっ!?」

 

「そんな……」

 

あらら、高島君達に話の内容がバレてしまったようです。

 

と言っても遅かれ早かれバレるので構いませんけど。

 

しかし……皆面白いぐらいに驚いていますね。

 

「え?はぁ……文科省内の不正が世間に漏洩した。証拠付きで。そうなんですか。え?……と言われてましても私には何の事かさっぱりなのですが」

 

大変な事になってますねー(棒)

 

さて、これで私が居なくなった後……少なくとも5年10年の間は大洗も安泰でしょう。

 

何しろ漏洩した不正の件がダメ押しとなって牟田大臣の罷免は確実で政治家としてもジ・エンド。そして文科省は世間の顔色を伺わないといけない状態に陥りましたから。

 

この状態で大洗、引いては他の学園艦の廃艦を強行出来る程の胆力は今の文科省には無いでしょうし。

 

いえ、それどころか世間の反感を逸らすために私に全ての責任を押し付けた後、廃艦反対の立場を表明する可能性もあります。

 

まぁ、そうなってくれれば文科省は今後大洗や他の学園艦の廃校云々を自分から言い出せなくなりますから、望むところなのですが。

 

……あれ?いつの間にか電話が切れてます。

 

「局長?い、今の電話は……」

 

おやおや。そんな捨てられた子犬のような目をしていてもらっては困りますよ、高島君。

 

これからは君に頑張ってもらわねばいけないんですから。

 

「えぇ。事前に取り決めた通り今回の責任を取って文科省を辞める事になりました」

 

「ッ、何故ですか……何故そんな風に平然としていられるんですか!!局長が今まで身を粉にして築き上げてきたモノが全て――」

 

「君が居るからです」

 

「――え?」

 

「私が居なくなったとしても安心して後の事を全て任せられる高島君が居るからこそ、私は平気なんです」

 

「……」

 

えっと……高島君?

 

これ以上ないぐらいに君の顔が真っ赤なんですけど大丈夫ですか?

 

私、何か変な事を言いましたかね?

 

「それに……私にもよく分かりませんが、今現在文科省内の不正が漏洩したとかで文科省は大騒ぎらしいです。なのでどのみち上の役職に就いていた大半の者は首切りですよ。まぁ、都合の良いことにこれで省内の風通しも良くなるでしょうし、次の局長である高島君には期待していますよ」

 

「ッ!?局長、貴方はまさか……初めからこれを……腐敗した上層部を一掃するために身を挺して……」

 

おや、今回の一件に乗じて文科省内の掃除をした事に高島君が気が付いてしまったようです。

 

しかし、私が自己犠牲の精神で害悪共の掃除を実行したと思っているのか、高島君のキラキラとした真っ直ぐな視線が痛いです。

 

「辻君……君は……」

 

「辻局長……」

 

って、高島君の勘違いの影響を受けて蝶野一尉や児玉理事長まで何か勘違いをしたのか尊敬の眼差しを向けてくるせいで……余計に居たたまれないんですが。

 

これはもう私情で動いてましたとか言えませんね、絶対。

 

「と、とにかく。これからは学園艦教育局長として学生達を助けて上げて下さい」

 

「はい!!今後は局長の志しを目標として誠心誠意努力し局長のご期待に応えてみせます!!」

 

「えぇ、その意気です」

 

ふぅ、上手い具合に高島君を焚き付ける事に成功した訳ですし、後はかほさんやしほさん、千代さんにご挨拶してから帰りますかね。




ふと思い付いたオマケです。

……元ネタは史実です。
(;´д`)

牟田side

「ワシが何故こんな目に合わねばならんのだ!!こんな所で、こんな形で!!議員としての身分を失うハメに!!」

元はと言えばあの無能な男が――

「大臣」

「何だ!!」

「秘書の身で差し出がましいかとは思いますが、こちらをどうぞ」
「なんだこれは」

「辞任用のスピーチ原稿になります」

「!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勅命

ちょっとやっつけ気味で書き上げた69話が案の定不評だったので、これは不味いと訂正に勤しんでいたら……。

ドツボにハマって話の進め方が分からなくなり、更新が空いてしまいました(爆)

今年中には完結させたかったなぁ……。

ちなみに本話はいつもの倍――量的には2話分あります。


さて。それではしほさん達の所へ――っと、その前に。

 

これまで色々とお世話になった蝶野一尉と児玉理事長にもお礼を言わなければ。

 

「ゴホン。……蝶野一尉、児玉理事長。長い間お世話になりました」

 

「いえ、そんな。お世話だなんて大袈裟な……でも、辻局長のお役に立てていたと言って頂けるなら光栄ですわ」

 

「いやいや。ワシの方こそ辻君の世話になっていたよ。しかし、辻君が居なくなってしまうとなると寂しくなるなぁ」

 

「……本当に……」

 

「ハハハッ、お二人にそう言って頂けると今まで頑張ってきた甲斐がありましたよ」

 

何か……蝶野一尉がしょんぼりしているんですけど、どうしたんでしょう?

 

「あぁ、そうだ。辻君。もしよかったら今度、君の慰労会を開いて――」

 

「是非ともそうしましょう!!あ、私ちょうどいいお店を知っていますから手配しておきますね!!」

 

あれ?急に元気になりました。

 

蝶野一尉に一体何が起きて……うん?酔わせて、上の階、介抱、事実とかブツブツと呟いておられますが……何の事でしょうか?

 

「局長。後の事がありますから、そろそろ文科省へ戻りませんと」

 

いや、あの、高島君?

 

突然グイグイと私の腕を引っ張ってどうしたんです?

 

まるでこの場から早く離れたがっているみたいですけど。

 

「えぇ、それはそうなのですが……私はご迷惑をお掛けしてしまった西住流家元と島田流家元にお話があるので後から行きますね。高島君は先に戻っていて下さい」

 

「……分かりました」

 

そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫ですよ、高島君。

 

何も取って食われたりする訳では無いのですから。

 

……多分。

 

しかし、それはそうとあのお二人は何処に居られるんでしょうか?

 

原作では観客席に居たようですけど。

 

「あの辻局長。家元達の元へ行かれるのであればそこまでご案内させて頂きますが」

 

蝶野一尉から何とも有難いご提案が。

 

ここはお願いしましょうか。

 

……しかし、高島君は何で蝶野一尉を睨んでいるんです?

 

「では……お願い出来ますか?蝶野一尉」

 

「はい。こちらです」

 

さてさて、しほさんと千代さんは私がクビになったと知ったらどんな反応をするんでしょうかね。

 

ちょっと楽しみです。

 

「――おや?」

 

「噂をすれば……」

 

「あ、これはこれはご無沙汰しております」

 

案内役を務めてくれている蝶野一尉と雑談しながらしほさんと千代さんの元へ向かっていた所、常夫とかほさんの旦那さんである西住栄治さんと遭遇しました。

 

観客席近くのこんな所で2人は何を喋っていたんでしょうか?

 

「常夫君から色々聞いたよ。君も大変だな」

 

あぁ、話の種は私の裏事情だったようですね。

 

「いえ、これは私の役目ですから」

 

「そうか、もう覚悟を決めているのか。……これから大変だとは思うが頑張りなさい」

 

「? はい。ありがとうございます」

 

……何だか私と栄治さんの会話が噛み合っていないような。

 

気のせいでしょうか?

 

「僕としては甚だ不本意で大変複雑な心境ではあるが、そこまでの覚悟を決めたのならもう何も言うまい……頑張れよ」

 

うん?常夫の言葉も何だか違和感がありますね。

 

「西住の女は1度喰らい付いたら離れないからなぁ」

 

「えぇ、何があろうとも。それにこいつの場合は2倍ですから」

 

「え?……あ、あの、お二人は何の話を?」

 

喰らい付いたらって、それに2倍って何です?

 

「……想像を絶するな」

 

「ちなみにこいつは他の子達にも無自覚で粉をかけてたりします」

 

「それは……可哀想に」

 

「あの、私の話を……」

 

いや、だから粉をかけてたりとかって何の話なんですか!?

 

そんな風に憐憫に満ちた視線を送られても何の事か分からないんですけど。

 

「まぁ、とにかく頑張れよ」

 

「我々は見ている事しか出来んからな。ではまた」

 

え、ちょ……行ってしまわれた。

 

結局、常夫と栄治さんは何の事を言っていたんでしょうかね?

 

「辻局長?」

 

「え、あぁ、すみません。行きましょうか」

 

謎だけが残ってしまいましたが、とりあえずしほさんと千代さんの元へ行きましょう。

 

「次からは蟠りの無い試合をさせて頂きたいですね」

 

「全く」

 

うっ。蟠りの有る試合をさせてしまった身としては凄く声が掛けづらいタイミングでお二人の元へやって来てしまいました。

 

しかし、ここで逃げる訳にはいきません。

 

「えー……ゴホン。この度は先生方に大変ご迷惑をお掛け致しまして誠に申し訳ありませんでした!!」

 

「あらあら。こちらへいらしていたんですか辻局長?今のは言葉の綾ですからお気になさらないで下さいね?」

 

「頭を上げて頂戴。もう終わった事をどうこう言うつもりは無いわ」

 

「ありがとうございます」

 

ふぅ……お優しいお二人で良かったです。

 

「それよりも……みほ達が勝ったのだし今度こそ廃校は撤回されるんでしょうね?」

 

「それは勿論です」

 

そのために今まで幾多の根回しと準備を行い、裏で動いていたんですから。

 

「そう」

 

「フフッ、良かったわね。しほちゃん」

 

「しほちゃんは止めなさい。もうちゃん付けするような歳では無いのだから」

 

「フフフッ」

 

お二人は相変わらず仲が良いですねぇ……。

 

まぁ、戦車道が絡むと家の事もあって殺伐とした関係になったりもしますけど。

 

「……ところで廃校の撤回が決まった事でプロリーグの設置や世界大会誘致への影響は大丈夫なのかしら?」

 

「あぁ、それに関しましては既に手を打ってありますから大丈夫です。それに万が一問題があったとしても私の後を引き継ぐ高島君がしっかりやってくれますからご安心を」

 

「後を……引き継ぐ?」

 

「えぇ、今回の件で私はクビになりましたので。所謂トカゲの尻尾切りというヤツです」

 

「……」

 

「まぁ……それは……」

 

いや、しほさん?そんな底抜けのバカを見るような目で私を見ないで頂けますか?

 

そして千代さんは何かを企むのを止めて下さい。

 

「はぁ……ここまでバカだったとは」

 

あ、普通にバカって言われました。

 

「アハハッ。耳が痛い限りです。しかし……以前にも言わせて頂きましたが、この一件は大人が始めた問題です。大人が責任をもって収めるべきだとは思いませんか?」

 

「責任って、貴方……まさか最初からそのつもりで!?」

 

「はて、何の事でしょうか?」

 

「……もう呆れて言葉も無いわ」

 

「フフッ、何とも辻局長らしいじゃないですか。私は好きですよ」

 

まぁ、もっと上手くやればクビの回避は出来たでしょうけど……。

 

最大限にイレギュラーを排除し、今後の布石を磐石なモノとするには今の形での幕引きが一番いいですからね。

 

「それで?貴方はこれからどうするつもりなの」

 

あ、そう言えば終わった後の事を考えていませんでしたね。

 

はて……どうしましょう?

 

幸いにして残りの人生を細々と送るぐらいの貯蓄がありますし、ちょっとばかり早い隠居生活でもいいのですが。

 

しかし、この歳で今後働かないというのもアレですね。

 

うーん。そうなると……教員免許がありますし、どこかで教師でもやりましょうかね。

 

いや、常夫みたいに整備士という選択肢も……戦車道のパーツショップを開くのもありですね。

 

あぁ、でも……働くにしろ働かないにしろ、その前に旅行とか行きたいです。

 

「そうですね……とりあえず旅行――」

 

「何をバカな事を言っているの。貴方にはこれからやる事があるでしょう」

 

ファ!?かほさんがいきなり現れました。

 

「……お母様」

 

「ご隠居、お久し振りです」

 

「えぇ、お久し振り。それはそうと島田流家元。貴女そこに居る私のオモチャ――ゴホン。優秀な人材に色々とちょっかいを掛けているみたいね」

 

今、確実に私の事をオモチャって言いましたよね?

 

「あら心外ですわ。ちょっかいでは無く真剣に引き抜こうとしているだけです」

 

「……そう。まぁいいわ。それよりも貴方」

 

ギクッ。かほさんの矛先が私に……。

 

「な、何でしょう」

 

「頑張ったまほやみほに事情の説明をせず、労いの言葉も掛けずにこの場を立ち去ろうというつもりじゃあ……無いわよね?」

 

ヒィ!!バレてる!?

 

「そ、そそ、その様な事はありません!!」

 

「そう。なら貴方の口から今回の件の全容を全て説明しておきなさい。この後すぐに」

 

……えぇ、自分から全てバラせと言うんですか?

 

それはちょっと違う気が。

 

他の方が実は……みたいな感じで言うのならともかく自分から実は君達の事を裏から支援していたんですよ。と言うのはちょっと。

 

「何?これ以上、まほやみほを悲しませるつもり?というか、もう全部バレているのだから誰が言っても同じよ」

 

「いえ、滅相も――え、バレて?」

 

どういう事……です?

 

「あら?まだ隠し通せていると思っていたの?はぁ……呆れた。貴方と親しい子達はもう全員事情を理解しているわよ」

 

「……」

 

かほさんのお言葉が事実であるとすれば……今までバレないようにと最善を尽くしていた私の頑張りは一体何だったのか……。

 

「そんな顔をしてないで早く行ってきなさい。そうそうそれと……私に黙って他の流派への移籍を賭けていた件に付いて少し話があるから……状況が落ち着いたら家に来るように」

 

……あ、終わった。




さて、次回。

皆様お待ちかね、修羅場です(愉悦)

役人は果たしてどうなってしまうのでしょうか!?

お楽しみに(´∀`)ノシ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わりの始まり

お待たせ致しました。
m(__)m

ようやくの更新……なのですが、年末年始に執筆時間が取れなかった事や予想以上に文字数が増えてしまったために前回の後書きで予告した修羅場は次回に持ち越しとなります。(;´д`)

本当に申し訳ありません。

今回は修羅場に至るまでの導入部分(導入部分なのに2話分の量が……)だけとなっております。


はぁ……大洗チームと大学選抜チームのみんなが勢揃いし、互いの健闘を称え合っている中に諸悪の根源が入って行かねばならないなんて。

 

……場違い感がハンパないんですけど。あぁ、帰りたい。

 

しかし、かほさんのお言葉に逆らうという選択肢は後が怖すぎて選べませんから腹を括るしかありません。

 

「ゴホン。いやはや、参りまし――」

 

「ッ、おじさん!!」

 

「ぐへッ!?」

 

うごぉ……意を決して声を掛けた途端にみほちゃんが飛び付いて来ました。

 

しかも、原作で杏ちゃんがみほちゃんに飛び付いたのと同じような飛び付き方で。

 

咄嗟に抱き止めましたが、お陰で腰が……。

 

「私やりました!!試合に勝ちましたよ!!」

 

「……よく頑張りましたね。おめでとう、みほちゃん。さて、とりあえず私から降りてくれますか?いつまでもこうして抱き止めているのは些か問題が」

 

「あ、ごめんなさい」

 

ふぅ。素直に降りてくれて助かりました。

 

このままダージリン君達の射殺すような刺々しい視線に晒されているのはあまりに居たたまれないですからね。

 

しかし……降りてくれたのはいいんですけど、みほちゃんが右手を掴んで離してくれないんですが。

 

そして、いつの間にか左手をまほちゃんに握られていますし、スーツの裾を麻子ちゃんがちゃっかり掴んでいます。

 

更に言えば……何か周りをみんなに取り囲まれています。

 

何なんでしょうかね、この状況は。うん?愛里寿君が私の前に来ました。

 

「おじさま……ごめんなさい。負けてしまいました」

 

「え?いやいや愛里寿君が謝る必要なんて全くありませんよ」

 

「でも、私が負けたせいでおじさまが大変な目に……」

 

あらら、やけにしょんぼりしていると思ったら。

 

私の事まで気にしてくれていたんですか。本当に優しい子ですね、愛里寿君は。

 

「私の事でしたら気にしなくて大丈夫ですから。それよりみほちゃん達と試合をしてみてどうでした?」

 

「えっと、すごく楽しかったです」

 

「それは良かった」

 

ふむ。やはりこの試合は愛里寿君にとってもいい経験となりましたか。重畳重畳。

 

「はいはい、ちょーっとごめんね〜。念のために確認しておきたいんですけど、今度こそ廃校は無くなったんですよね?局長さん」

 

おや、今度は杏ちゃんがやって来ました。

 

しかし、その勝ち誇ったような不敵な笑みが似合い過ぎですよ。杏ちゃん。

 

「えぇ。大洗の廃校は間違いなく撤回です」

 

「「「「やったー!!」」」」

 

ふむふむ。みんな喜んでいますね。

 

「あ、じゃあ……これでもうおじさんが大洗を廃校にしようとしているフリなんてしなくていいんですよね?」

 

フリってみほちゃん……いやはやかほさんが言っていた様に本当に裏事情がバレているようで。

 

まぁ、よくよく考えてみればダージリン君という前例もありましたしね。

 

……では、かほさんに言われている事ですし素直に白状してしまいましょうか。

 

「えぇ、まぁ……そうですね」

 

「良かった」

 

「え゛!?本当に西住ちゃんが言っていた通りだったんだ……」

 

私がみほちゃんの言葉を肯定した事が余程信じられなかったのか、杏ちゃんが目を見開いて驚いてます。

 

他の大洗の子達もざわついていますね。

 

「会長、だから言ったじゃないですか。おじさんは私達の味方だって」

 

「ごめんごめん、やっぱり事情が事情だからさ色眼鏡で見ちゃってて。あ、そうだ。そういう事ならこれはやっぱり……ねぇねぇ局長さんに1つ聞きたい事があるんだけど、この紙に見覚えはない?」

 

「いや、見覚えはありませんけど……何なんですか、その半分焼け焦げた紙は?」

 

ずいぶんと唐突な質問ですね。

 

しかし、杏ちゃんは何故こんな紙を大事そうに持っているんでしょうか?

 

「実はこれウチの学園艦の戦車庫に落ちてたのをレオポンチームが庫内の掃除をしてた時に見付けてくれてね」

 

「……」

 

うん?大洗の戦車庫で見付けた?……ちょ、ちょっと待って下さい。

 

え、いや、でも、そんなまさか。証拠はあの時全て焼却――あ。

 

確かあの時、強風が庫内に吹き込んで来たせいで焼却途中の紙が何枚か飛んでしまった事があったような。

 

しかし、飛んでしまった紙は全て回収したはず。

 

ですが仮に見落としがあって、それが杏ちゃんの手に渡ったのだとすれば……マズイ。

 

これはかなりマズイです。

 

「紙自体は戦車道で使われる備品とか消耗品とかの納品書なんだけど、よくよく見たら大洗の戦車道が廃止された後の日付が書かれてるし妙だなーって思って、ここにギリギリ残ってる名前の人の事を調べたら……」

 

「…………」

 

わ、私の名前が残っていたとかいうオチじゃないですよね?

 

もしそうだったとしたら芋づる式に過去の暗躍がバレてしまって大変な事に!!

 

「せんしゃ倶楽部の本店の店長さん――浅井さんに辿り着いたから話を聞きに行ったんだよね。そしたら大洗の戦車道が廃止された後に色々と品物を卸した事は認めたんだけど……口が固くてねー。卸した理由とか肝心の発注者の事はついぞ教えてくれなかったんだ」

 

「そ、そうですか」

 

助かりました。私のサイン(名前)の部分は燃えてくれたようですね。

 

それに協力してもらった浅井さんに固く口止めをしておいたのが功を奏しました。

 

「で、ここからが本題。単刀直入に聞くけど……この発注者って局長さんだよね?だってこんな事出来るのは局長さんぐらいしかいないんだし」

 

「いやいや、私ではありませんよ。何を言っているんですか、全く」

 

真実を確かめようと杏ちゃんが踏み込んだ質問をしてきましたが、彼女が確固たる証拠を得ていない以上は知らぬ存ぜぬで押し通して誤魔化してしまいましょう。

 

「ふーん。違うんだ……あれ?局長さんの足、震えてるけど大丈夫?」

 

「はッ!?……あれ?」

 

なんと言う事でしょう。まんまと杏ちゃんの鎌をかけに引っ掛かってしまいました。

 

……そのしてやったりな笑いは止めてくれませんかね。

 

「ま、あくまでも局長さんが違うって言うならそれでいいけどさ。あ、そうそう。さっき知ったんだけどプラウダとの試合の時は色々と差し入れありがとね」

 

差し入れの黒幕が私だったという事が杏ちゃんにバレている!?何故バレたんで――原因が分かりました。

 

恐らくは今現在干し芋パスタに舌鼓を打っているペパロニ君ですね。

 

杏ちゃんもさっき知ったとか言っていましたし。

 

……ペパロニ君にも口止めしたんですけどね(遠い目)

 

「あ、あれは試合を中断するか否かの判断を待つ間に君達やカチューシャ君達が体力等を消耗しないようにという配慮であり他意はありません」

 

「またまた照れちゃって。あ、そうだ。もう1つ聞きたい事が――」

 

まだ追及するつもりですか!?もう止めて!!役人のライフはもうゼロです!!

 

というか、私が差し入れを手配したと知ったみほちゃんとか麻子ちゃんとか優花里ちゃんとかがスッゴい嬉しそうな顔して今にも飛び掛かって来そうなんですけど!?

 

「と、ところで杏君。君の言葉には1つ間違いがありますよ」

 

このままだと非常にマズイので少々強引にでも話題を変えてしまいましょう。

 

「……間違いって?」

 

ふぅ、良かった。話題のすり替えに乗ってくれました。

 

しかし、そんなに警戒しなくても。ここからの大どんでん返しは無いんですから。

 

……というか万が一そんな事があったら私が困ります。

 

「今の私は局長ではなく“元”局長ですので。まぁ、平たく言えば文科省をクビになりました」

 

「は?」

 

「え?嘘……」

 

「廉太さんが……クビ?」

 

「おじさま……やっぱり……」

 

「「「ッ!?」」」

 

「「「「……」」」」

 

あれ?話題を強引に変えたのはいいんですけど、今度は場の空気が妙な事になってしまいました。

 

……これは話題の選択を間違えましたかね?




次回の更新は今月末か来月上旬を予定しております。

以下、次回予告。

「自分の心にいつまでも嘘をついている事に意味があるとは思えない」

覚醒するミカ。

「お前達の所は資金や人材が豊富だろ!?先輩は私にくれたっていいじゃないか!!」

駄々漏れるアンチョビの本音。

『こちらパンター1号車。やりました!!』

活躍する小梅(パンター)

「逃げちゃだめですよ、おじさん」

そして、役人に迫るみほ。

役人の明日はどうなる!?


そんな感じです(;´д`)
(変更はあるかも……)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂宴

お待たせ致しました。

遂に(元)役人の最期の時が始まります。
(´∀`)

※ご注意※

最期という事で色々と設定を詰め込み、加えてご都合主義全開となっております。

なので温かい目で見ていただけると助かります。


仕事をクビになったと自虐的な話題で話の転換を図ったのはいいんですが、場の空気が凍り付いてしまいました。

 

愛里寿君は今にも泣きそうになってますし、アズミ君達はムンクの叫び状態になってますし。

 

みほちゃん達も驚いていたり顔面蒼白になっていたりしていますし。

 

うーん……これは完全に話題の選択を間違えてしまいましたね。

 

「えっと……クビっていうのは、もしかしなくても今回の件のせいで?」

 

「えぇ、まぁ多少の語弊はありますが概ねその通りです」

 

「……っ」

 

あれ?いやいや、杏ちゃん?

 

君がそんな風に思い詰める必要は無いんですよ?

 

そしてダージリン君?君の顔色が真っ青を通り越して土色になってますけど大丈夫ですか?

 

「えーと、杏君?君が私のクビを気にしてくれているのだとしたらその必要は一切ありませんよ」

 

「そうは言ってもね〜。鼻を明かしてやりたいとか見返してやりたいとかは思っていたけど、いざクビになったって聞いちゃうとね〜(実際は大恩人だった訳なんだし)」

 

「……全く。君は色々と背負い過ぎです。今回の一件は君達が努力した結果として母校の存続を勝ち取ったのですから堂々と胸を張ればいいんです。私がクビになったのはただ単に大人として教育者として上に立つ者として、それらの立場が果たすべき役割を――当然の責任を負ったに過ぎないのですからお気になさらず」

 

「……そっか。ありがとね」

 

そうそう。杏ちゃんはそうやってニカッと笑っているのが一番ですよ。

 

ダージリン君も顔色が良くなった様で安心しました。

 

……しかし、顔色が良くなったかと思えばダージリン君はどこに電話を掛けているんです?報復をとか物騒な言葉を口にしていましたけど。

 

「あの、それじゃあ……おじさんはこれからどうするんですか?」

 

「えぇっとですね……とりあえずは何も決まっていません」

 

かほさんのお呼びだし以外は。

 

「あーそれならさ、ウチの学園で働かない?」

 

「っ!!そうですよ、おじさん!!是非大洗に来て下さい!!」

 

「それはいいな」

 

「私も大賛成です!!」

 

えーと。杏ちゃんの実にありがたい提案にみほちゃんや麻子ちゃん、優花里ちゃんが諸手を振って賛同していますが……。

 

「残念ながら、それはいろいろと問題が」

 

何せ表向きには私が大洗の廃校を推進していた事になっていますからね。

 

そんな私が大洗で暮らすのは無理でしょう。

 

「そんな……でも、本当の事を言えばみんなきっと分かってくれるはずです!!それに今回の件でおじさんがクビになったというのなら私が……私がその責任を取ります!!」

 

「え?」

 

その責任って……どんな責任ですか?というか、みほちゃんは何故そんなに真っ赤になっているんです?

 

「みほ、あまり廉太さんを困らせるんじゃない。それにそもそも廉太さんは西住流の師範代なんだから熊本に戻って来てもらうか黒森峰に来てもらうんだ。……いや、それよりもこの紙にサインを――」

 

「えっと……ちょっと訳ありで言えなかったのですが、私はもう西住流の師範代では無いので熊本の西住流本家で指導をしたり黒森峰で戦車道のコーチをしたりする事は無いかと」

 

何しろ第62回戦車道大会でみほちゃんが人命救助を優先した件や第63回戦車道大会でまほちゃんが2年連続で優勝を逃した件で愚かにも2人を糾弾しようとしていた人達を黙らせるのに、そしてしほさんの家元就任の件を上手く収めるために師範代の立場を使い潰してしまいましたから。

 

「……」

 

「た、隊長!?大丈夫ですか!?」

 

って、あれ?

 

何かの用紙を握り締めたまほちゃんがこの世の終わりのような顔をしています。

 

「じゃあ、私がおじさまの責任を取りますから島田流に来て下さい」

 

あのー……愛里寿君?目を輝かせながらそんなにグイグイと詰め寄って来られると困るのですが。

 

それに私の責任を取るって何ですか?後、さっきまでは泣きそうだったのにみほちゃんの発言の直後にハッとした顔をしてからニヤリと笑って、そして今は何故に赤面してるんです?

 

君に一体何が……。

 

「お誘いはありがたいのですが……現状で私が島田流を含めた他の流派に行くのは少々問題がありまして」

 

「そんな……」

 

千代さんとの交渉の一手段として致し方なく使った移籍云々はともかく、ここで愛里寿君の言葉に頷いてしまった場合……まず間違いなくかほさんとしほさんに殺されてしまいます(ガクブル)

 

「でしたら是非、我が聖グロリアーナ女学院に来て下さいませ!!我が学院は特定の流派を持っていませんわ!!」

 

「ちょっとちょっと、そういう事ならウチのサンダースでいいんじゃない?」

 

「残念だったなお前達、先輩は古巣であるアンツィオに戻って来てもらうんだ!!」

 

「何を勝手な事を言ってるのよ、アンチョビ。同志辻はプラウダに来る事が決まっているんだから!!ね、ノンナ、クラーラ」

 

「……はい」

 

「またおじさまとご一緒に戦車道が出来るなんて光栄です。あ……『ロシアの母校に私と共に戻って頂くという手も』」

 

「何でノンナは不服そうなの?というか、クラーラ!!最後まで日本語で喋りなさいよ!!」

 

うん?何か……ダージリン君の勧誘を皮切りにみんなが揉め始めたんですけど。

 

「あの宜しいでしょうか。ここは間をとって我が知波単学園に来て頂くというのはどうでしょう?」

 

「コーチ!!私達のコーチに是非とも復帰を!!」

 

「そうですよ!!皆でまた一緒に戦車道をやりましょうよ!!」

 

「それがきっと一番ですよ!!」

 

西君やアズミ君達まで勧誘合戦に参加を……。

 

「このままだとおじさんが他所に取られちゃいますから、取り急ぎおじさんが大洗に住めるようにして下さい、会長。イイデスヨネ?」

 

「そ、そう言われてもね。西住ちゃん……ちょ、顔近いよ!?」

 

「潔白が証明出来るまでは――出来てからもですけど、おじさんには私の家で過ごしてもらいます。そうすれば何も問題はありません」

 

「……そういう事なら私の家の方がいいんじゃないか?ウチはお母さんと2人だけだから部屋が空いているし」

 

「あのー私の家も部屋が空いてますよ?」

 

後ろの方ではみほちゃんと麻子ちゃんと優花里ちゃんが何やら杏ちゃんに詰め寄ってますし。

 

「廉太さんが……帰って来ない……」

 

「だ、大丈夫ですよ、隊長!!あのバカは私が引き摺ってでも黒森峰に連行しますから!!」

 

「そもそも今回の件は私が主導したのですから、責任を取る意味でも辻局長――いえ……れ、廉太さんは我が聖グロリアーナが貰いますわ」

 

「だーかーらー!!それじゃあアンフェアでしょ!!ここはきちんとフェアに決めるの!!」

 

「フェアと言うなら、お前達の所は資金や人材が豊富だろ!?先輩は私にくれたっていいじゃないか!!」

 

「……あーあ。アンチョビ姐さんの本音が駄々漏れっす」

 

「確かに……アンツィオにじゃなくて私にって言ってますね、ドゥーチェ」

 

「だから貴女達!!同志辻はウチに来るんだって言ってるでしょ!!」

 

「『出来ればおじさまと一緒にカチューシャ様も私の母校に来て――』」

 

「『消されたいですか?クラーラ』」

 

「我が知波単学園の伝統である突撃を更に強化するため、辻さんには是非とも我が学園に来て頂きたいのです!!」

 

「流派の問題があるなら……おじさまには一先ずコーチに復帰してもらって……それから問題を片付けて島田流の師範になってもらった後、私と一緒に島田流を守ってもらおう」

 

「……このままだとコーチが隊長に持って行かれるような」

 

「た、隊長!!ここは一先ず私達のコーチに復帰してもらう事だけを考えましょう!!」

 

「後の事は後で考えましょう、ね?ね?」

 

うーん、実にカオスな状況ですね。

 

しかし、みんなが三々五々に……しかも一斉に喋るものですから声が被っていて何を言っているのかよく分かりません。

 

……って、あれ?何故ここに君が?

 

原作同様既に帰ったはずでは?

 

え?いいから黙ってこっちに来い?

 

何を――え、いや、ちょっと!?何で私の体を縛るんですか!?

 

イタタッ!?そんな手荒に引き摺らないで下さい!!というか、どこに連れて行くつもりですか!?

 

「と、とにかく。ウチへ来るのかどうかも含めて本人の……辻さんの意見を尊重しないとさ。ね?西住ちゃん」

 

「おじさんも私の家なら不満は無いと思います。いえ、絶対に無いです」

 

「そ、そうかもしれないけど一応ね?ね?(無表情で迫って来る西住ちゃん怖すぎ……)」

 

「……分かりました。あの、皆さん。ここはおじさんの意見を――あれ?おじさん?」

 

「廉太さんが居ないぞ?」

 

「廉太殿〜?おかしいですね。どこへ行ってしまったんでしょう?」

 

……私が居なくなった事にみんなが気が付き始めた様ですね。

 

「おい、先輩が消えたぞ!?」

 

「あ、ドゥーチェ!!あれ!!」

 

「なっ!?継続高校の奴等が先輩を拉致ってるぞ!!」

 

速攻でミカ君の蛮行がバレました。

 

しかし、問答無用で簀巻きにした私を引き摺った挙げ句、荷物みたいにBT-42の砲塔内に放り込むのは酷くないですか?ミカ君。

 

それに急発進したお陰で体のあちこちをぶつけたんですが。

 

……ところで原作よりも損傷が少なかったとは言え、いつの間にBT-42を修理した――しまった。常夫です。

 

撃破され回収された車輌は順次修理するように頼んでおいたんでした。

 

「追うぞ!!エリカ!!」

 

「はい!!あのバカは私達のモノです!!」

 

「ここで抜け駆けするなんて……中々やりますわね、ミカさん」

 

「感心してないでさっさと追うわよ、ダージリン」

 

「えぇ、もちろんですわ」

 

「KV-1だけじゃ飽き足らず、同志辻まで盗むつもり!?そんな事はこのカチューシャが許さないわよ!!」

 

「ちょうどいい機会です。彼女達に少し灸を据えて上げましょう。行きますよ、クラーラ」

 

「はい、おじさまは渡しません!!」

 

「辻さんを奪還せねば!!爆雷装備の待機車輌は直ちに突撃するんだ!!」

 

「例え相手がお従姉ちゃんでもおじさまは渡さない!!」

 

「早く予備の車輌で追わないと!!」

 

「このままじゃ逃げられちゃうわ!!」

 

「逃がすもんですか!!」

 

って、別の事を考えている間に鬼の形相を浮かべたみんなが追って来てるんですけど!?

 

「フフッ、もう遅いのさ」

 

何か……凄い余裕ですね、ミカ君。

 

「あ、あのーミカ君?そろそろ私の拘束を解いてはくれませんか?というか何故に私を誘拐したんです?」

 

あの混沌とした場所から連れ出してくれたのは正直言って助かりましたが、この後の事を考えると……恐怖しかないんですよね。

 

なのでミカ君には是非とも逃げ切ってほしいところなのですが……まぁ、無理でしょうね。

 

追っ手の面子が面子ですから。

 

「自分の心にいつまでも嘘をついている事に意味があるとは思えない。大切なのは自分に正直でいることさ」

 

「……?」

 

ミカ君はまたよく分からない事を。

 

うん?……あの、こう言っては失礼なのですが私を見るミカ君の瞳が何かドス黒く濁っているような気するんですけど。

 

「ミカ?辻さんに伝わってないよ。って!?ミ、ミカ!!大変だよ!!後ろ後ろ!!」

 

「何だいアキ。そんなに慌てて――ミッコ、早く逃げようか」

 

「了解ッ!!天下のクリスティー式舐めんなよー!!」

 

「ふごっ!?」

 

履帯をパージしてスピードアップしたのはいいんですが、頭をぶつけました。

 

……こんなギミックまで付けろとは常夫に言って無いのですが。

 

しかし、まぁ……これで逃げ切れる可能性が――いや、あー……みんなが万が一に備えて準備していた予備車輌まで出てきました。ワラワラと。

 

って、ケイ君は何輌持ち出して来たんです!?

 

まさかサンダースの全車輌を投入したんじゃ……。

 

しかし、黒森峰やプラウダ、聖グロ、知波単も負けていませんね。

 

お陰で辺り一面見渡す限りの戦車戦車戦車。

 

加えて予備車輌が無いみほちゃん達やアンチョビ君達が移動用の装甲車とかで追っかけて来ている始末ですし。

 

何か大変な事になって……っと、もう撃ってきました!!

 

「みんな、後は任せたよ」

 

『『『了解!!』』』

 

おっと!?ここで継続高校の戦車道チームの車輌が登場!!

 

私が寄贈したティーガーⅡも居ますし、これは希望が持て――あ、あれ?

 

『こちら第1小隊、全車戦闘不能!!』

 

『第2小隊も同じく!!』

 

『第3小隊、やられた!!ミカ、この数は無理だって!!』

 

速攻で撃破されてるんですけど!?

 

これはもう――ほげっ!?

 

「イタタ……」

 

「残念……ここまでの様だね」

 

うぅ……エンジン部分と転輪部分に砲弾を食らったようです。

 

奇しくも原作同様の状態で白旗が上がってBT-42は行動不能になってしまいました。

 

『こちらパンター1号車、エンジン部分に命中弾!!やりました!!』

 

『パンター2号車、転輪部分を破壊!!仕留めました!!』

 

試合で見せ場が無かった小梅君と直下君がここで活躍するとは……予想外にも程があります。

 

しかし、この状況は好都合ですね。

 

撃破された際の衝撃で私を拘束していた縄が外れた上に、ミカ君達が操縦席付近で団子状態になって動けなくなっていますから、今のうちに逃げてしまいましょう。

 

「よいしょっと……あ」

 

「「「「……」」」」

 

ハッチを開けたらみほちゃん達が勢揃いしてるんですけど。

 

しかも、怖いくらいに無表情で……後、みんなの目がミカ君同様ドス黒く濁ってます。

 

「……おじさん?」

 

「な、何ですか?みほちゃん」

 

「私から逃げるなんて酷いじゃないですか」

 

「い、いえ、別に逃げた訳では……」

 

不味い……みほちゃんからかほさんやしほさん並みのオーラが吹き出しています。

 

それに何故か他のみんなからも……。

 

「そうですか。まぁ詳しい事は後でじっくりと聞かせてもらうとして。さぁ、私達の家に行きましょう」

 

「……私“達”?」

 

「はい。私達です。おじさんと私が2人で暮らす家です」

 

何か満面の笑みを浮かべながらみほちゃんが凄い事を言い出したんですけど!?

 

「え?いや……あのー……」

 

「帰りますよ、おじさん」

 

言葉を濁していたら、腕をガシッと掴まれ――アダダダッ!?

 

みほちゃんの握力強すぎません!?

 

「もうこうなったら実力行使だ。私しか見れないようになってもらう」

 

「べ、別に私はあんたの事が気になるとかじゃなくて……た、隊長のためなんだからね!!」

 

「もう離しませんわ」

 

「私も引き下がるつもりはないからねー。覚悟しなさいよ、レンタ」

 

「私だって負けないぞ!!」

 

「ちょっと貴女達!!手を離しなさいよ!!」

 

「全てはカチューシャ様のために!!」

 

「おじさま、お父様は私の背中を押してくれていますからご心配なく。ちなみに孫の顔が早く見たいそうです」

 

「みなさんには申し訳ないですが、辻さんは我が学園に!!」

 

「おじさまは誰にも渡さない!!」

 

「ここまで来てコーチを諦めるなんてあり得ないのよ!!」

 

「貴女達とは年季が違うのよ、年季が!!」

 

「コーチを後輩になんか譲ってたまるもんか!!」

 

「諦める、それは人生にとって不必要な事さ」

 

って、みほちゃん以外のみんなも掴み掛かって来たんですけど!?

 

ミカ君も何か車内から足を掴んで――だ、誰か!!

 

助けてぇええー!!

 

「うわー。すっごい争奪戦」

 

「フフッ、皆さんとっても愉しそうです」

 

「いや、華?あれは楽しいとかそんなレベルの話じゃないと思うんだけど。……って、麻子は行かなくていいの?」

 

「今行っても無駄な体力を使うだけだ。もう少し様子を見てから行く」

 

アダダッ!!不味い!!車外に引き摺り出されてしまいました!!

このままでは――ヒィ!!

 

ちょ、ちょっと待って下さ――イヤァー!?

 

「ふーん。それもそっか。麻子が今行ったら他の人達に気圧されて輪に入ろうにも入れずにおたおたしているゆかりんみたいになっちゃうもんね。あ、そうだ。ねぇねぇ、麻子。前からちょっと聞いてみたかったんだけどさ、あの人のどこを好きになったの?」

 

「何だ藪から棒に」

 

あ、頭が取れる〜!!腕が千切れる〜!!股が裂ける〜!!四方八方から引っ張るのは止めて下さいぃ!!

 

「だってさ〜みぽりんやみんながあんな風に血眼になって取り合うぐらいの人だけど正直冴えない顔だし」

 

「……普段から恋だのモテ術だの言っている割りには沙織は人を見る目がないな」

 

うごぉおお!!このままでは八つ裂きにされるぅ!!

 

「え〜そんな事無いよー。あの人の人が良いのは分かってるし」

 

「違う、そういう意味じゃない」

 

「へ?」

 

ッ!?ちょ!?誰ですか!?シャツの第2ボタンを引き千切ったのは!!

 

学生服じゃないんですから――あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!全部引き千切られたぁ!!

 

「少し待ってろ」

 

「ちょ、ちょっと麻子!?」

 

ま、麻子ちゃん!!助けに来てくれたんですか!?

 

「た、助け……」

 

「廉太さん、ちょっと失礼するぞ」

 

「え?」

 

麻子ちゃんにメガネを取られ――不味い!!

 

「っ!?……詐欺じゃん!!」

 

「あらあら。皆さんが奪い合いをするのも頷けますね」

 

「「「「あーッ!?」」」」

 

ぬぉー!?メガネが!!メガネがー!!一刻も早くメガネを掛けないと不味い事に!!

 

「どうだ沙織。廉太さんは性格もいいし顔もいいんだぞ」

 

「ま、麻子ちゃん!?メガネを早く返してくれませんか!?」

 

麻子ちゃんは何を自慢気に話してるんですか!?というか、早くメガネを!!全てが手遅れになる前――アダッ!?

 

……何でみんな一斉に手を離したんです?お陰でいきなり地面に落ちたんですが。

 

「ほら」

 

あ、どうも。

 

ふぅ、メガネが無事に戻ってきました。

 

「ねぇ、クラーラ?」

 

「はい。何でしょう?」

 

「どうしてノンナは突然しゃがみこんで両手で顔を隠しているのかしら。それに耳が真っ赤になってるわ」

 

「フフッ、さぁ?どうしてでしょう」

 

あれ?……もしかしてもう手遅れですか?

 

「うわ〜そんなのありか〜……辻さんが実はあの人って……確かに名前は聞いて無かったけどさ〜……学園長め……」

 

「ど、どうしたんですか、会長!?」

 

「大丈夫ですか!?顔が真っ赤ですよ!?」

 

手遅れのようです。

 

「あの人の事、何か知っているんですか?キャプテン」

 

「うん。まぁ、直接じゃないけど……私の先輩達がよく喋ってて、かなりお世話になったって言ってた人」

 

「へぇ〜」

 

「キャプテンの先輩達が」

 

はぁ……素顔だと私(役人)という事がバレないので学園艦で色々と動く際に彼女達と会う事があっても大丈夫な変装として重宝していたのですが。

 

「……なぁ、エルヴィン」

 

「あぁ。これは驚いた」

 

「大家さんぜよ」

 

「世界とは存外に狭いモノだな」

 

それが仇となりました。

 

「そんな……ただ単に同姓同名の人だと思っていたのに……」

 

「あー。憧れの人だったか?頑張れよ、そど子」

 

「ファイトだよ、そど子」

 

まぁ、まさかこんな所で私の素顔を見られてしまう事になろうとは思ってもいませんでしたから。

 

「ずっと黙ってたなんて学園長も人が悪いなー」

 

「ちょくちょくレースをやっていた人が……まさかの人物だったな」

 

「あちゃーこれは倍率凄いよ、ツチヤ」

 

「せ、先輩!?何言ってるんですか!?」

 

致し方ありませんね。

 

しかし……実はこの場にいる全員と間接的だったり直接的だったりの接点があるなんて言えません。

 

「ねぇ、おじさん?」

 

「は、はい!!」

 

「色々と聞きたい事が出来ましたし……ちょっとお話ししましょうか?」

 

「……はい」

 

目が……笑ってないです。

 




まずは本作品にお付き合い頂いた読者の皆様方にお礼申し上げます。

本当にありがとうございました。
m(__)m

本話にて本作品は一先ず完結とさせて頂きます。

と言いつつも……まだまだ続くんですけどね(笑)更新速度が落ちるだけで。

何しろ秘密のお茶会がまだ途中ですので(※なお秘密のお茶会は全て書き直させて頂き、時系列をアニメ終了後から劇場版終了後に変更させて頂きます。二度手間を省くため。つまり火種が増えます)
最後に……ガルパンはいいぞ。
(^ω^)b


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去編
求婚騒動 前編


まほの誕生日という事もあり、予定外の急遽投稿です。

そして最近の状況を鑑み誠に勝手ながら、『新章 役人争奪戦(物理)』は新たに外伝として新規投稿させて頂きます。(;´д`)

投稿すればするだけ不評なので……モチベーションの維持が……。
(;´д`)

こちらの役人転生はこれから過去に時間が無くて飛ばしてしまった閑話や番外編のお茶会の更新のみになります。

ご了承下さい。m(__)m



はぁ……月日が経つのは本当に早いですねぇ……。

 

「まほちゃんがもう16歳ですか……」

 

「早いよなぁ」

 

本日はまほちゃんの16歳の誕生日をお祝いするべく西住家へお邪魔しています。

 

最も盛大に開かれた誕生日会自体は既に終わっているため、今は西住家の縁側で常夫と2人でお酒を飲み交わしているのですが。

 

「ついこの間までランドセルを背負っていたと思っていたんですけど」

 

「いつの間にか高校生だもんなぁ……」

 

本当にあっという間でした……というかあと2年程で原作が始まるなんて信じられません。

 

「しかし、まほちゃんは年々可愛く……いや、美人になっていきますね。今後が楽しみです」

 

「……手は出すなよ?」

 

「手なんか出しませんよ」

 

禍々しい殺気を垂れ流しながらそんなジト目で睨まなくても大丈夫です。

 

それにそもそもこんなおっさんをまほちゃんが相手にする訳が無いでしょうに。

 

「あ、そういえば……」

 

うん?常夫が深刻な顔して何やらポツリと。

 

「どうも……まほに好きな人が出来たらしい」

 

「……本当に?」

 

「父親としては非常に複雑で信じたくはないが本当らしい」

 

「……ちなみにその情報元は?」

 

「いや、その……この前まほがしほと喋っているのを偶然にもつい聞いてしまってだな」

 

よりにもよって盗み聞きですか。

 

これがバレたらまた避けられますよ?今でも空気扱いされているのに。

 

しかし……あのまほちゃんに好きな人ですか。

 

叔父に近いポジションにいるせいか私も何か複雑な気持ちですね。

 

「で、だ。何とそのまほの好きな人が近々ウチに来る……らしい」

 

「らしい?」

 

「肝心な所がよく聞こえなかった」

 

チッ、役立たずめ。

 

「で?父親としてどうするんです?」

 

「それが問題なんだ。彼氏とかだったらぶん殴ってやる所なんだが……まだ付き合ってもいない他所様のお子さんを殴る訳にもいかないだろ?」

 

「そりゃあ……まぁ……そうですね」

 

というか……彼氏とかだったら殴るのは確定なんですか。

 

この調子だとまほちゃんが誰かと交際したり、その先の結婚となった時に大変な事になりますね。

 

……まぁ、常夫の気持ちも分からなくは無いですが。

 

「だから、とりあえずは様子見なんだが……」

 

「はいはい。分かってますよ。可愛い姪っ子分の幸せのためです。そのための協力ならいくらでもしますよ」

 

「頼んだぞ、相棒。ボコボコにしてやろうな」

 

……え?相手の身辺調査とかの意味で言ったんですけど。

 

そんな満面の笑みで一緒にボコボコにしてやろうな。とか言われても困るんですけど。

 

「はいはい。それじゃあまほちゃんの幸せを願って」

 

「乾杯」

 

ふぅ。しかし結構飲みましたね。

 

……時間的にもちょうどいい頃合いですし、そろそろ御暇させて頂きましょうか。

 

「――廉太さん。お父様。少し宜しいでしょうか?」

 

うん?腰を上げようとしたら何やら緊張した面持ちのまほちゃんが私達の所にやって来ました。

 

「どうした、まほ?」

 

「お2人に大事なお話があります」

 

「「……?」」

 

大事な話?一体何でしょうか?とりあえずまほちゃんに付いて行きましょう。

 

「……」

 

「……」

 

「「「……」」」

 

さて。まほちゃんの案内で西住家の一室に通されたのですが。

 

何故にかほさんと栄治さんとしほさんが真剣な顔で横並びに座っていらっしゃるのでしょうか?

 

ただただ怖いんですけど。

 

と言うかね、部屋に一歩足を踏み入れた瞬間から背筋がゾワゾワしますし鳥肌がブワッと立ってるんですよ。

 

何か本能がここから今すぐ逃げろと警告しているみたいなね。

 

本音を言えば本能に従いたいんですけど。まぁ、逃げるのは……無理ですよね。うん。

 

「そこに座って頂戴。……あなたはこっちよ」

 

「アッ、ハイ」

 

この不穏な状況に常夫が気を使って私の隣に座ろうとしてくれていたのですが、しほさんの鶴の一声であっさりと身を翻してしまいました。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

沈黙が痛いです。何なんでしょうね、この状況は。

 

時間的にもう寝ているであろうみほちゃんを除いた西住家勢が机を挟んだ向こうに横1列で並び、その対面に私がポツンと座って……何ですか、私はこれから断罪でもされるんですか?

 

私は知らぬ間に西住家に対して何かしてしまったのでしょうか?




次話は明日のお昼に更新する予定です。(;´д`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

求婚騒動 後編

うぅ……相変わらず沈黙が続いています。胃が痛い。

 

本当にこれから一体何が始まるんでしょうか。

 

「まほ。黙っていては話が進まないわよ」

 

「……はい」

 

おや?痺れを切らしたしほさんに促されたまほちゃんが何やら紙を取り出し――って、へ?

 

「単刀直入に言わせてもらいます。廉太さん、私と結婚して下さい」

 

「……」

 

けっこん?ケッコン?KEKKON?結婚!?

 

くぁwせdrftgyふじこlp!?

 

「け、け、けけ、結婚!?何を言っているんだまほ!!お父さんは許さ――」

 

「あなたは黙っていて」

 

「はい!!」

 

じょ、状況が飲み込めないんですが……いや、結婚?まほちゃんが私に?

 

何で?どうして?

 

「……」

 

「あぁ、もう。焦れったいわね。いつまでも間抜けな顔でポカンと口を開けていないで返事をしたらどうなの」

 

「いや、その……えー……えぇ?」

 

か、かほさん?ちょっと、ちょっと待ってもらえませんかね。まだ頭の中の整理がつかないんですよ。

 

うーん。まほちゃんが私に結婚の申し込みを……はぁ、うん。うん?……うん。

 

よし。大体の整理がつきました。……とりあえずタチの悪いドッキリという事では無い様です。

 

「はぁ……しょうがないわね。このままじゃ話が進まないから勝手に話を先に進めるけど、私と栄治さんはこの件に関して賛成よ。しほは――」

 

えぇ……かほさんと栄治さんが賛成って……8割方決定事項じゃないですか。

 

「私はまほが成人して落ち着いてからの結婚であれば賛成よ。理由としては今のまほはまだ若すぎるし、これから戦車道の選手としてますます伸びて行く時期だから今は戦車道に集中して経験を積んで欲しいの。それに大学への進学や海外での活躍も視野に入れて欲しいわね」

 

いや、まぁ……しほさんのおっしゃる事はごもっともですけど。

 

何か……私とまほちゃんが結婚するのは既に決定しているという体で話していません?

 

「反対!!反対!!大反対!!反対!!反対!!大反――」

 

「菊代」

 

「グフッ!?」

 

……1人で手を叩きながら反対コールをしていたバカ(常夫)が、かほさんの一言で襖をピシャッと開いて部屋に入って来た菊代さんのボディーブローを喰らって沈黙しました。

 

ドスッという重い音がしていましたけど、菊代さんの手は大丈夫ですかね?

 

あ、口から泡を吹いて気絶している常夫が菊代さんに引き摺られていきました。

 

……実の父親なのにまるで親の仇を見るような凄く冷たい目でまほちゃんが常夫の事を見送ってます。

 

しほさんも眉間を押さえていますね。

 

これは後で折檻コースですよ。ハハハッ。

 

「さて、話を元に戻すわよ。まほに返事をしてあげて頂戴」

 

人の事を笑っている余裕なんて無かったです。

 

うっ!?まほちゃん、そんな期待の眼差しを向けられると……決心が鈍ってしまうんですが。

 

はぁ……“役人”でなければオッサンでなければ……返すも返すも残念です。

 

「申し出自体は大変嬉しいのですが……その……今回のお話は辞退させて頂きたく……」

 

ヒィ!?断ると言った瞬間にかほさんとしほさんが、あぁン?みたいな恐ろしいガンを飛ばして来たんですけど!?

 

孫バカと親バカが怖い!!

 

「……理由を聞いても良いですか?」

 

あぁ、まほちゃん。そんな風にシュンとされると罪悪感が――あれ?まほちゃん?手元で何をガチャガチャしているんで……え?

 

何かまほちゃんの隣にMG34機関銃が置いてあるんですけど。

 

何故そんなモノがここにあるんです?

 

というか、まほちゃんは何故MG34の給弾カバーを開いたんですか?

 

「分かりました。……正直に言って、まほちゃんの申し出は本当に嬉しいです」

 

「だったら……!!」

 

「しかし、まず年齢差という問題があります」

 

「年齢差なんて私は気にしません!!」

 

いやいやいや、まほちゃん。何でMG34の給弾口にベルトリンクで繋がった一連射分ぐらいの弾を嵌めて給弾カバーを閉めるんですか?

 

何で弾を装填するんですか?

 

「まほちゃんが気にしなくても世間の人間は気にするんです。何しろ面白可笑しく叩ける格好のゴシップネタになりますから。それにまほちゃんは既に将来有望な選手として名も顔も売れています。にも関わらず私のような中年との婚約もしくは結婚が世間にバレれば君の選手生命が危うくなってしまいます」

 

「世間なんて関係ありません!!」

 

ヒィー!!まほちゃんがMG34のコッキングレバーを引いたんですけど!!

 

何で撃てる状態にしたんですか!?

 

「最後に……私はまだ学園艦教育局長という今の立場を失う訳にはいかないんです」

 

現時点で私が局長でなくなったら今後の流れ(原作)が崩壊していまいますからね。

 

「立場を……失う?」

 

「仮にも教育の職に就く者が未成年者、それも16歳の少女と結婚や婚約となれば……」

 

「「「……」」」

 

うん。私が言わんとする事を皆理解してくれたみたいですね。

 

「アハハハッ!!そうね、そこまでは考えていなかったわ。アハハハッ!!すぐに結婚なんてしたらロリコン局長って呼ばれちゃうわね、アハハハッ!!今でも口さがない人達はロリコンって呼んでるのにね!!アハハハッ!!」

 

かほさん、笑いすぎです。

 

「なら、婚約を!!」

 

「私も人間です。婚約をしてしまったら私は絶対にまほちゃんを特別扱いしてしまいます。それは教育者としてあってはならない事なんです」

 

「そんな……」

 

「はぁ……相変わらず頭と考え方が固いわね。もう黒森峰じゃ散々噂になっているんだから手遅れなのに。ま、いいわ。まほ、これだけ言っても折れないのだから貴女の負けよ。諦めなさい」

 

え、ちょっ、黒森峰での噂って何ですか!?

 

「しかし、お祖母様!!私は……わた……し……は……」

 

「「「……」」」

 

止めてー!!揃いも揃って、あーあ……泣かしちゃった。みたいな責める目で私を見ないで下さいよ!!

 

「ヒック……うぅ……」

 

「あぁ、もう!!分かりました!!分かりましたよ!!」

 

「良かったわね、まほ。婚約はしてくれるそうよ」

 

「本当ですか、廉太さん!!」

 

「ちょ、え!?」

 

「何よ、その顔。撤回しようたってそうはいかないわよ。言質は取ったんだし。ちなみに録音もしてあるから」

 

違います!!そうじゃないんですよ!!というか、何で着物の袖からボイスレコーダーなんか出てくるんですか!?何で録音してるんですか!?

 

それにまほちゃん!?今君の手から目薬が零れ落ちたんですけど!?

 

「そうじゃないです、そうじゃないです!!まほちゃんが二十歳になっても意志が変わっていなければ改めてお話を伺わせて頂きますという事を言いたくてですね!!その意味での分かりましたです!!」

 

「この後に及んで……臆病というか慎重というか。ま、とりあえずこれが落とし所かしらね」

 

「……MG34の脅しに屈しなかった所はスルーですか、先生」

 

「あら、何を言っているの。これはれっきとした西住流交渉術よ」

 

「……」

 

いやいや、さっきのはただの脅迫ですよ。

 

「フフッ。二十歳までは待ちます。でも二十歳になったら容赦はしません」

 

というか、いつの間にかまほちゃんが私の腕に抱き付いて恐ろしげな事を言っているのですが。

 

……大変な事になりましたよ、これは。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誕生日動乱 前編

ガルパン最終章第1話公開という事で更新です(´∀`)

ヒヤッホォォォウ!!待ちかねたぜぇぇぇぇ!!

さてさて、最終章はどのような内容になっているのでしょうか!!

そして役人はどうなっているんでしょうか、色々と気になる所です!!












と、まぁハイテンションな文面を書きましたが、作者はちょっと色々あって鬱病になりまして、しばらくガルパン関係の執筆は難しいと思われます。

そのため更新がかなり遅れます。何卒ご了承下さいm(__)m


はぁ……まほちゃんに結婚を申し込まれるという大事件が起きてから早3ヶ月。

 

あの日以降、会うたび会うたび以前にも増してグイグイ迫って来るので、あれやこれやと理由を作って可能な限りまほちゃんと距離を置いるのですが。

 

今日はどうしても西住家に行かなければいけない用件があるため、覚悟を決めて今現在向かっている所です。

 

ちなみにどうしても西住家に行かなければいけない用件とは、みほちゃんの誕生日のお祝いだったりします。

 

「8時……うーん。予定より少し遅れてしまいましたか」

 

しかし、覚悟を決めたとは言え出来る事ならばまほちゃんのホームグラウンドでまほちゃんと接触するのは避けたい所。

 

2ヶ月前に西住家でばったり会った際には……大変恐ろしい目に合いましたし(遠い目)

 

とりあえずプレゼントをみほちゃんに渡してお祝いしたらサッと帰り(逃げ)ますか。

 

個人的な問題(まほちゃん)は抜きにしても明日の朝一に文科省で会議があるので早めに帰らないといけませんしね。

 

さて、それでは行きますか。

 

「……?」

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ、何でもないです」

 

菊代さんに案内されて西住家の廊下を歩いていますが、やけに家の中が静かですね。

 

危惧していたまほちゃんとの遭遇も起きていませんし。

 

「ところで辻様」

 

「はい」

 

「本日はお時間の方はありますでしょうか」

 

「え?あ……いえ、明日の朝一で会議があるので帰りの事を考えるとそれほどお邪魔するつもりはありませんが……」

 

「そうですか。……お嬢様、辻様がお越し下さいました」

 

はて?会議があるから早く帰らないといけないと言ったら菊代さんが残念そうな顔をしていました。

 

菊代さんの立場からしたら余計な客はさっさと帰って欲しいはずなんですが。

 

「――おじさん!!来てくれたんだ!!」

 

「うぐっ……え、えぇ、もちろんです。何しろみほちゃんの誕生日なのですから」

 

「えへへ……嬉しい」

 

菊代さんに案内された部屋の中から飛び出して来たみほちゃんのタックルが鳩尾にダイレクトに入りました……痛い。

 

「そして、はい。これが誕生日プレゼントです」

 

「あ、達磨ボコだ!!しかも限定版!!これ凄くレアなんだよ!?おじさんありがとう!!」

 

我ながら両手両足が根元からもげている猟奇的なボコのぬいぐるみを贈るのはどうかと思ったのですが……みほちゃんが喜んでいるので結果オーライですね。

 

「喜んでもらえたようで良かったです」

 

「大事にするね!!あ、そうだ。おじさんもうご飯は食べた?食べて無いなら一緒に――」

 

「あぁ、すみません。明日の朝一で会議がありまして、すぐに東京へ戻らないといけないんです」

 

「……そう……なんだ」

 

あ、あれ?すぐに帰ると言ったらみほちゃんの落ち込み具合が半端無いんですけど。

 

……何かおかしいですね。

 

いや、まさかとは思いますが。

 

「ところで、みほちゃん。他の皆さんは?」

 

「えっと、その……お母さんとお姉ちゃんは戦車道連盟の会合に呼ばれたとかで東京に行ってて。お父さんは黒森峰で故障車が大量に出たから急遽その修理に出掛けちゃってて……お祖母ちゃんとお祖父ちゃんは3日前から老人会の旅行に行ってるの。誕生日会に来てくれてた友達のみんなは少し前に帰っちゃった」

 

「……」

 

こ、言葉が出ません。あろうことかみほちゃんが誕生日に1人ぼっちになってしまっているなんて!!

 

「で、でもね!!お祖母ちゃんとお祖父ちゃんはもう少ししたら帰って来る予定だし、お母さんもお姉ちゃんもお父さんも今日中には帰ってくるって言ってたから大丈夫。それに菊代さんも居てくれてるから……」

 

そんな風に無理やり作った寂しさ溢れる笑顔で大丈夫と言われましても……はぁ。これは放っておけません。

 

「……ちょっと失礼します」

 

「あ……うん」

 

「――もしもし、私です。どうしても外せない用件が出来たので明日の会議には少し遅れると上に伝えておいて下さい。えぇ、えぇ、そうです。……構いませんよ、どうせ開く事が目的の会議のための会議ですから少しぐらい遅れても大丈夫です。……心象が悪くなる?その程度の事なら問題ありませんよ。それよりもこっちの用件の方が重要なんです。えぇ、そうです。……どんな用件?それはその……大事な用件ですよ、高島君。え、いや、そのね、あ、電池が!!電池が切れます!!あ、不味い!!あ〜!!……ふぅ」

 

用事が出来たからと会議に遅刻する旨を高島君に伝えてもらおうとしたら、私的な理由で遅刻する事を見抜かれてしまいました。

 

最後は無理矢理切ってしまいましたが……東京に帰るのが怖いですね。ハハハッ。

 

「お、おじさん?会議は……」

 

あらら……今の会話をみほちゃんに聞かれてしまっていましたか。

 

もうこうなったらごり押しです。

 

「……いや、実はですね。明日の会議の時間が変更になったので今日は時間が空いてしまいまして。お邪魔でなければみほちゃんの誕生日を祝うために暫くここに居させて頂きたいのですが、構いませんか?

 

「……うん、うん」

 

西住家への滞在の許可を求めたら目尻を僅かに濡らしたみほちゃんが飛び付いて来て私のお腹に顔をグリグリ押し付けています。

 

「ありがとうね、おじさん」

 

抱き付いた状態のまま顔を上げたみほちゃんにお礼を言われました。

 

ふむ。やっぱりみほちゃんは笑っているのが一番です。

 

 

 

あの……菊代さんが襖の影でニッコリ笑ってるんですけど。

 

いつからそこに居たんですか?

 

怖い。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誕生日動乱 後編

役人転生自費出版のご報告。

画像タグ
【挿絵表示】


役人転生が一応一区切りついていたので記念に本にしてみました
(´∀`)

大変だった……色々と。

まぁ、これで生きた証しというか20代で打ち込んだ事の記念が出来たのでよしとしましょう。


ちなみにメルカリで販売予定でございます(素人の編集なのでちょっと見辛い所があったりしますが)。

また、秘夜の続編にあたる二人だけの夜と朝チュンという書き下ろしの話もありますので良かったら買ってね(笑)

感想と高評価お待ちしております。


……何ですか、これ。

 

西住家に滞在する事が確定した直後、襖の影でニッコリ笑っていた菊代さんがニコニコと笑みを浮かべながら出てきたかと思えば、あれよあれよという間にお風呂場へと案内され、そしてお風呂から上がって菊代さんに案内された部屋に入ったら、敷かれた布団の上にボコの人形を抱いて赤面してるみほちゃんが居るんですけど。

 

「……」

 

「おじさん……一緒に寝よ?」

 

「いやいやいや、ちょっと待って下さい。みほちゃん」

 

「……ダメ?」

 

「ダメといいますか、男女七歳にして席を同じうせず。ともいいますし。そもそも――」

 

「お姉ちゃんとは一緒に寝てたのに?」

 

何故それを!?

 

いや、そもそもあれはまほちゃんが無理矢理に押し入って来ただけで決して私が許可した訳では無くてですね!!

 

「お姉ちゃんとは一緒に寝てたのに私は駄目なんだ」

 

っ、そんな泣きそうな顔で見ないで!?

 

わ、私はどうすれば!?

 

「グスン」

 

あぁ、もう分かりましたよ!!

 

「……一緒に寝るだけですからね」

 

「うん!!」

 

結局、押し切られてしまいました。

 

まぁ、これ以上状況が悪化する事もないでしょうから色々と諦めましょう。

 

それに今日はみほちゃんの誕生日ですから、特別によしとしますか。

 

「おやすみなさい、みほちゃん」

 

「おやすみなさい、おじさん」

 

……しれっと腕に抱き付いて来てるんですけど。

 

こんな所を皆さんに見られたらどうなる事か。

 

せめてみほちゃんが寝付くまでは帰って来ませんように。

 

「――みほが1人になってしまうから、貴方は家に居て下さいと頼んだはずでしょう!!」

 

早速帰って来たんですけど!?

 

身動きが取れないのにどうすれば!?

 

このままでは大変な事に!!

 

「し、仕方ないじゃないか……黒森峰で模擬戦をやっていた車輌が全部ボロボロになっちゃったんだから。早く直さないと毎年恒例の学年別対抗試合に間に合わないだろ?」

 

「みほー?どこに居るんだ?」

 

「あんなに高速が混むなんて……困ったものだわ」

 

「みほが拗ねていないといいが……」

 

何でこのタイミングでみんな帰ってくるんですかね!!

 

というか、早くなんとかしないと!!

 

「み、みほちゃん、皆さんが帰って来ましたから起きましょうか」

 

「いや」

 

ノオォー!!頬を膨らませて拗ねておられる!!

 

今の状態を見られたら大変な――うん?ドサッ?後ろで何かが落ちたような音が……。

 

「「「「「……」」」」」

 

「みんなお帰り」

 

「……お、お邪魔しています」

 

見られた。

 

「あらあらまぁまぁ。みほも中々やるわね」

 

「これはこれは。若い者の邪魔をしてしまったのう」

 

「はぁ……」

 

「……切断用のノコギリはどこにしまってあったかな?」

 

「いいなぁ」

 

西住家勢揃い。

 

ハハハッ、私は一体どうなるんでしょうか……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
乙女達の秘密のお茶会 パート1


「――そうそう。そう言えば少し気になっていたのですけれど……皆さんはどうして辻局長の事を好きになったんですの?何か特別な事がおありになって?」

 

第63回戦車道全国高校生大会が大洗女子学園の優勝という波乱に満ちた形で幕を下ろしてから少しして大洗、聖グロ、サンダース、アンツィオ、プラウダ、黒森峰といった各校の戦車道における主要人が集まったお茶会(親睦会)の最中、ダージリンの一言からそれは始まった。

 

「ふぇ!?」

 

「ダ、ダージリン!!お前はいきなり何を言い出しているんだ!!」

 

「ふん。また下らない事を……」

 

ダージリンの爆弾発言ともとれる言葉にみほがボフンと一瞬で顔を真っ赤にし、同じく顔を赤くしたアンチョビが椅子から立ち上がってダージリンに食って掛かる。

 

加えてまほの側に座るエリカがダージリンの突拍子も無い発言に眉をひそめていた。

 

「いえ、せっかくこうしてあの方と所縁の多い――有り体に言えば想いを寄せている方が多く集まっているのですから、聞いてみたくなって(最も1人の殿方を奪い合うライバル同士でもあるわけですけれど)」

 

「だからって、そんな急に……な、なぁ……やめておかないか?」

 

「私はアンチョビに賛成だ。ここで大っぴらにするような話でもないだろう」

 

「あら、もうあの方を想っている人の事はバレバレなのだから、よろしいのではなくて?別に隠すような事ではないですし。それに喋れと強制するつもりもありませんわ」

 

渋るアンチョビにまほが賛同するが、ダージリンはにこやかな笑顔で話を続ける。

 

「アハハハッ、面白そうじゃない!!良いわね、そういうガールズトークをするのも。私は賛成よ」

 

アンチョビとまほが反対意見を述べる一方でケイがダージリンに賛同したために、場の流れが一気に妖しい雰囲気を帯び始める。

 

「……ねぇ、ノンナ。ダージリン達は何の事を言っているの?」

 

「カチューシャ、貴女には早すぎる(関係ない)話ですから気にしなくていいんですよ」

 

「そう」

 

もっとも一部、色恋沙汰に疎すぎて(とある人物の教育により)場の流れを理解出来ていない者もいたが。

 

「では最初に言い出しっぺであるわたくしからお話しましょうか」

 

「おいおい、本当にするのかぁ?」

 

「あら、アンチョビはこういうお話はお嫌い?」

 

「嫌いじゃないけどさ……ま、強制じゃないならいいか」

 

「ゴホン。では、改めて」

 

ただの聞き役に徹しているだけで嵐が過ぎ去るのであれば、よしとしたアンツィオ勢。

 

そして、アンツィオ勢と同様にプラウダ勢や黒森峰勢は傍観者の立場を取り、大洗勢は態度を決めかね、サンダース勢のみが聖グロ勢に追随の姿勢を見せる中、親睦会からとある人物に対する想いの暴露大会へと変貌したお茶会の新たな幕が開く。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乙女達の秘密のお茶会 パート2

「わたくしが辻局長に想いを寄せる事になった切っ掛け……それはズバリ!!あの方が戦車道をやっている時のお姿ですわ!!」

 

暴露大会の先陣を切ったダージリンが声高らかに堂々と言い放った。

 

「「「「おぉ〜」」」」

 

頬を赤らめながら興味津々で話に聞き入る乙女達の小さなどよめきが巻き起こる中、ダージリンは優雅な振る舞いで紅茶を口に運び喉を潤した後、再び口を開く。

 

「わたくしと辻局長の出会いは、わたくしの1つ上……当時2年生でありながら既に我が校の戦車道チームの隊長であらせられたアールグレイ様があの方を臨時講師として招いた時の事ですの。そして、その時に見せて頂いたアールグレイ様と辻局長の模擬戦――5対1という数的不利があるにも関わらず、またあのアールグレイ様を相手にしているというのに圧倒的なまでの強さで勝って見せた辻局長に憧れを抱き、そして親交を深める内にお優しい性格や誠実な人柄に引かれ恋が始まったのですわ」

 

まだまだ話し足りない、もっと語る事はある。

 

そんな空気をバンバンに漂わせながらも、ダージリンは皆の反応を伺うべく話を区切った。

 

「へぇ〜そうなんだ。でも、レンタの事を好きになる人って大体戦車道関連からの繋がりが多いわよね。そう言った意味ではダージリンの場合は王道的とも言えるんじゃない?」

 

「あら?その言い方だとケイは違うのかしら」

 

腕を組み、うんうんと頷いてから口を開いたケイにダージリンが質問を投げ掛ける。

 

「あ〜私の場合は……そうね。一目惚れみたいな感じかな?」

 

「「「「おぉ〜ッ!?」」」」

 

新たなる火種の投入に暴露大会のボルテージが一段と上がり、興味心を大いにくすぐられた乙女達の視線がケイへと集まる。

 

「そう言えば私もたかしに一目惚れだったなぁ……」

 

皆の視線を集めるケイの隣で、過去を懐かしむ様にボソリと声を漏らした少女が居たことに誰も気付かなかったのは幸か不幸か。

 

「一目惚れ……興味深いですわね。では、お次はケイに話してもらいましょうか」

 

「いいわよ〜。そうね……ちょっと長くなるけど最初から。中学の時の話になるんだけど、当時の私はスッゴい引っ込み思案でね。性格も暗くて今とは真逆のタイプだったの。で、そんな私の前に現れたのが……」

 

「辻局長という訳ですわね」

 

「イエス。みんなも知っているとは思うけどレンタは学園艦の視察とかを頻繁にしているじゃない?」

 

「確かに」

 

「アンツィオにもよく来てくれてるな」

 

「ウチもよ」

 

ケイの問い掛けに対し、まほやアンチョビ、カチューシャが相づちを打ち他の者達も静かに頷く。

 

「それでレンタがウチの学園艦を視察していた時に戦車道のイベントが偶然開かれていて、ちょうどいいからって特別ゲストみたいな形でレンタが参加させられていたの。ちなみに私も戦車道に興味があったからそのイベントに1人で参加していたんだけど……簡単なレクリエーションをやるから2人1組を作れって言われちゃってね。周りは友達と来てるからどんどんペアを作っちゃうし……1人で参加していた私は大慌て。引っ込み思案が災いして誰にも声を掛けられないし」

 

「ちなみにですけど、その時の辻局長のご様子は?」

 

「うーん。確か……色んな生徒に一緒に組もうって言い寄られていたわね。ま、以前からレンタは有名人だったから」

 

「学園艦は違えど、やはり辻局長の人気は同じですのね」

 

ダージリンの質問に小首を傾げながら答えたケイは自分の話を再開する。

 

「それでね、誰とも組めないし帰ろうかと思っていたら、他の人達を誘いを全部断ったレンタが何故か私に組もうって言ってくれたのよ。まぁたぶん1人ぼっちの私を見かねたんだと思うんだけど」

 

「局長らしいですわね」

 

「ホントね。で、一緒にレクリエーションをやる事になって色々と2人で頑張っている内に思ったの。あぁ、この人は私を見てくれるって」

 

「どういう事ですの?」

 

「当時の私はスッゴい地味で暗〜い性格だったから“私”を気にする人なんか居なかったのよ。そんな中でレンタだけが私の事を気に掛けてくれたから、こんな私でも気にしてくれる人がいるんだって分かったの。それにレクリエーションの途中でも何度か他の娘に一緒にやろうって声を掛けられたりしていたけど、それを断ってずっと私の側に居てくれたり。それが無性に嬉しくてね。レクリエーションが終わる頃にはすっかり好きになっちゃってたのよ」

 

「そうでしたの」

 

「ちなみにレンタに振り向いてもらおうと色々と頑張っていたら、今の性格になってたわ」

 

どこぞの唐変木との馴れ初めを語り終えたケイは最後にニンマリと笑ってから口を閉ざした。

 

「ケイの貴重なお話が色々と聞けて良かったですわ。……さて“お次“に行く前にちょっと話が逸れるのですけれど、皆さんは辻局長にまつわるあの噂をご存知?」

 

話を終えたケイに賛辞の言葉を送ったダージリンは、思い出したようにとある話題を口にした。

 

「「「「噂?」」」」

 

ダージリンの問い掛けに幾人かが首を傾げる中、この場に居合わせた大多数の者には思い当たる節があった。

 

「あぁ、あれでしょ?レンタの愛車であるStrv.103の車長席に座られてもらった人がレンタの奥さんになれるっていう。車長席に座らせてもらった人が1人も居ないからそんな噂が流れているらしいけど……巷ではそれなりに有名な噂よね?」

 

「本来ならあの戦車は3名の乗員が必要だけど、先輩は1人で操縦から戦闘までこなしているからな。まぁ、元々1人でも運用は出来る仕様にはなっているけどさ」

 

「廉太さんが1人であの戦車を運用しているからこそ生まれた噂だな。言うなれば車の助手席やバイクの後部座席に彼女や妻しか乗せたくないというような話の類いから派生した噂だ」

 

ダージリンが口にした噂の存在を知らず首を傾げる者達にケイやアンチョビ、まほが説明するように言った。

 

「……ッ!?」

 

直後、噂の事を知らなかったとある少女は驚きに目を見開いた後、体をプルプルと震わせながら茹で蛸のように真っ赤になった顔を伏せる。

 

「どうした?み――」

 

「えぇ、そうですわ。」

 

その事を不信に思った彼女の姉が声を掛けようとするが、ダージリンの話が始まったため言葉を遮られてしまう。

 

「わたくしも以前試しにお願いしてみたのですけれど、有耶無耶にされてしまいましたわ」

 

「あれ?でも、その噂って何かもう1つ無かったか?」

 

残念そうに首を横に降るダージリンを横目にアンチョビが思案顔で言った。

 

「あぁ、将来有望な選手だったらStrv.103の後部にある通信手の席に座らせてもらえるってヤツでしょ?もちろんカチューシャは座らせてもらった事があるわよ!!」

 

「あら、そちらでしたらわたくしもありますわ」

 

「私も〜」

 

「私もあるな」

 

「私もだな」

 

「あの……私も」

 

「ぐぬぬ……」

 

ドヤ顔で自身の優位性を強調しようとしたカチューシャだったが、この場に居たほぼ全員が経験済みという返答に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ黙り込む。

 

「それで話を元に戻しますけれど、この中で車長席に座らせて頂いた方はいらっしゃるのかしら?」

 

「私は無いわ」

 

「私もだ」

 

「フン。カチューシャだって無いわよ」

 

ダージリンの視線を受けた者が順番に答えていく。

 

「では、まほさんやみほさんは?」

 

「いや、よくよく考えてみたら私も無いな(廉太さんの膝の上ならあるが)」

 

「そうですか。生まれた時からのお付き合いがあるとお聞きしたまほさんやみほさんなら座った事があるかと思ったのだけれど……となるとあの噂は本当なのかしら?」

 

「みほ、お前はどうだ?」

 

「……」

 

「……みほ?」

 

「ひゃい!?」

 

「どうかしました?みほさん」

 

「な、何でもないです!!ワタシモ、スワッタコトハ、ナイデス。ホントウデス」

 

「「「「……」」」」

 

明らかに様子がおかしいみほに、鋭い視線が幾つも突き刺さる。

 

「……この話は後でじっくりと伺う事に致しましょうか。じっくりと」

 

「はぅ!?」

 

みほの小さな悲鳴を聞きながら確実に荒れるであろう話題を後回しにすることを決めたダージリンは、アンチョビに意味ありげな視線を送る。

 

「……え?ちょっと待て、何でこっちを見てるんだ、ダージリン」

 

「いえ、私から始まりケイとくればお次は……ねぇ?」

 

「そうね、座っている順番的に……ねぇ?」

 

「き、汚いぞ!!お前ら!!さっきは強制しないとか言ってただろ!!」

 

悪どい笑みを浮かべたダージリンとケイの言葉にアンチョビが抗議する。

 

「えぇ、強制はしませんわよ。ただ場の空気とか流れという物が……ねぇ?」

 

「クッ……くっそ〜!!嵌められた!!」

 

暴露大会という鉄火場からは誰も逃れられない定めだという事が確定した瞬間であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乙女達の秘密のお茶会 パート3

お気に入り登録の数が1万人という大台を達成出来たので更新致しました(´∀`)

なお、乙女達の秘密のお茶会は書き直す予定でしたが、人数的な問題でこのまま話を進める事にしましたのでご了承下さい。


「全く、なんて悪どい奴等なんだ。だが、まぁいい。ノってやろうじゃないか」

 

ダージリンの策略にまんまとハマってしまったアンチョビはガックリと肩を落とした後、開き直って腕を組み胸を張った。

 

「ではお願いしますわ。フフ、アンチョビからはどんなお話が聞けるのかしら。楽しみですわ」

 

「いや、というかな……まず、あー……最初に言っておくが、その、私は別に先輩の事が……す、す、す、好きとかじゃないからな!!偉大な先輩として慕っているだけなんだからな!!勘違いするなよ!!」

 

「「はいはい」」

 

「何なんだその投げやりな反応はー!!」

 

ニマニマと口元を緩めながら温かい目で見てくるダージリンとケイの2人にアンチョビはウガー!!と喚く。

 

「アンチョビ、いい加減に落ち着け」

 

「……何だかんだ言ってお前も乗り気じゃないか」

 

自分と同じ立場であったはずだが、いつの間にやら暴露大会を楽しんでいるまほから落ち着くように諭されたアンチョビは肩を落としながら呆れた様にそう呟いた。

 

「全く。ゴホン。え〜まず私の場合はだな。先輩との出会いはスカウトの人にスカウトされてアンツィオ高校に来た時だ。で、その時から先輩には色々とサポートしてもらっていたんだ」

 

諦めを多分に含みながらもアンチョビは頬を赤らめながらボソボソと語り出す。

 

「それでそれで?」

 

真っ赤な顔を隠すように俯き、突き出した人差し指を胸の前でグリグリと突き合わせながら語り出したアンチョビにケイが発破を掛ける。

 

「初めは戸惑った学校のノリにはどうしたらいいかとか、秘伝のパスタの作り方とか、色々と親身に教えてもらっているうちに……何だ、その……いいなぁって」

 

「いつの間にか惚れていたパターンですわね」

 

「何気にこのパターンが一番多いんじゃない?」

 

「だから惚れているとかじゃない!!私にとって先輩は――」

 

恥じらいから無駄な足掻きをするアンチョビをスルーしつつダージリンとケイは口元を手で隠しながらコソコソとどこかの唐変木の事を頭に思い浮かべる。

 

「――敬愛の対象だ!!」

 

「あらあら、愛しているなんて熱いお言葉ですこと」

 

「ウガー!!わざと言っているだろダージリン!!」

 

「さて。アンチョビからも素敵なお話が聞けた事ですし、お次は――まほさんですわね」

 

アンチョビをからかいつつ一瞬だけカチューシャに顔を向けたダージリンだったが、美味しそうにお茶菓子を頬張るカチューシャの姿とその隣で我が子を守る獅子のような表情を浮かべるノンナの存在を前にターゲットを変更するのであった。




役人転生の書籍化について。

ちょっとしたアンケートを。
※こちらのアンケートのご回答は活動報告の方でお願いします。


さて、本題ですが。

書籍化した役人転生をまだ欲しいと言って下さる方はいらっしゃいますでしょうか?

正直な所、赤字がかなり膨らんでいる事や、販売についての如何にもご意見を頂いているので増刷はしない方向ですが(書籍化が素人編集で問題ありというのもありますが(汗))

まだ欲しい方がいらっしゃる場合、手元に残っている2〜3冊を販売する予定です(売る場合は早い者勝ちなので悪しからず)

誰も居ない場合は残りの2〜3冊は友人にでも配ります。(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乙女達の秘密のお茶会 パート4

「うん?私の番か」

 

ノンナという存在によって順番を飛ばされたカチューシャはさておき。

 

ダージリンの指名を受けてまほは少し悩んだように首を傾げた。

 

「私の場合というか……みほもだとは思うが、私達は生まれた頃から廉太さんと接していたからな。いつ好きになったかなんて覚えていない。なぁ、みほ」

 

「ふぇ!?う、うん、まぁ……」

 

突然まほに話を振られたみほは少し困惑しつつ赤く染まった顔を縦に振る。

 

「ではアンチョビと同じく、いつの間にか好きになっていたという事ですのね?」

 

「あぁ」

 

ダージリンの確認にまほは頷きつつそう言った。

 

「ふむ。答えがアンチョビと同じと言うのも少し味気ないですわね。では質問を変えましょうか。まほさんとみほさんは廉太さんのどこを好きになったんですの?」

 

「どこを……か。強いて言えばあの人の戦車道に対するひた向きな姿勢に惚れたのかも知れないな」

 

「わ、私は優しくて気さくな所……だと思います」

 

ダージリンの問い掛けにまほは顎に手を当てて考え込むようにそう言い、みほは膝の上に揃えた拳を握りしめながら顔を赤くして答えた。

 

「そうですの。お二人とも素晴らしいお答えでしたわ。それでは――」

 

全員の回答を得て満足したダージリンがお茶会を締め括ろうとした時であった。

 

「まぁ、廉太さんはもう私のモノだがな」

 

何気なく漏らしたまほの一言がお茶会に火種をもたらす事となった。

「「「「……」」」」

 

ピキリと空気が凍った音がした。

 

「……まほさん?それはどういう意味ですの?」

 

勝ち誇った顔で紅茶を口にしているまほに対し、額に青筋を浮かばせたダージリンが問い掛けた。

 

「なに、言葉通りの意味だ」

 

あまり人に見せた事の無いニヤニヤとした笑みを見せ、勝者然としているまほに皆がカチンとする。

 

「お言葉ですけれど、それはどうかしら?」

 

「ダージリンの言う通りよ、まほ」

 

ゆらりと席から立ち上がり、まほの元に集ったダージリンとケイがまほの顔を威圧するように覗き込む。

 

「先輩がお前のモノだという証拠でもあるのか?」

 

「フフフッ」

 

訝かしむ視線を投げ掛けて来るアンチョビの問い掛けにまほは答える事なく微笑むだけであった。

 

だが、すぐに胸元をゴソゴソと漁ったまほは皆の前へ、この紋所が目に入らぬかとばかりにあるモノを差し出した。

 

「なっ!?」

 

「ホワイ!?」

 

「なに!?」

 

「ねぇ、ノンナ。あの茶色の紙ってなに?」

 

「カチューシャはまだ知らなくていいんですよ」

 

「そう?ならいいわ」

 

「お姉ちゃん、いつのまに……ズルイ!!」

 

まほが差し出したモノ――それは印鑑が捺されてこそいないものの廉太直筆のサインがなされた婚姻届けであった。

 

「な、なんて事ですの……」

 

「ヘイ、まほ!!どうやってそれを手に入れたの!?」

 

「偽造だ、偽造!!」

 

衝撃のブツを前にダージリンは崩れ落ち、ケイはまほをブンブンを揺すり、アンチョビは偽造だと声を張る。

 

「フフフッ」

 

しかし、そこにある婚姻届けには皆の見慣れた文字があるのが事実。

 

故にまほは勝ち誇っていた。

 

ただ、妹から衝撃の発言があるまでは。

 

「わ、私だって!!おじさんの戦車の車長席に座らせてもらったことあるもん!!」

 

「「「「……」」」」

 

新たな火種が生まれた瞬間であった。

 




お知らせ。

前回の後書きで役人転生の再販の如何をお聞きした所、思った以上に欲しいと言って下さる方々が多かったので、初版でご指摘を受けた問題を出来る限り直したモノを17冊限定で販売する事に致しました。

なお初版と違うのは文字の大きさの変更や、それに伴うページ数の増加、ページの表記形式、表紙の厚さ、等々です(収録内容は本編の「悪夢のような現実」から「狂宴」までです。あとは書き下ろし作品の「二人だけの夜」と「朝チュン」が増えているだけです)

また見やすさを出来る限り追求しましたが、印刷の仕方によって相変わらず見辛い所もございますのでご了承を。

詳しい事が知りたい方は活動報告の方でお願い致します。


ちなみにメルカリで、値段は1300円で販売致します。

また一冊一冊自分で梱包をしてコンビニ発送をしているため販売速度はゆっくりですのでご了承を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お泊まりパーリィー 1

ガールズ&パンツァー最終章、第3話の劇場上映記念の更新です。

そのため役人転生系列の作品が3作品同時更新となっています。


ちなみにこの話は2017年に完成し、その存在を忘れられていたものとなっています。作者が忘れていただけでもしかしたらどこかの後書きなどに投稿してあったりするかも知れませんが、その時はお許しを。

話の時系列的には劇場版の終了直後です。


ふぅ。あれから……大洗女子学園の廃校撤回(私のクビ)から2週間が経ちましたが……業務の引き継ぎやらお世話になった方々へのお礼参りやら凄まじい数の来客の対応やらでもうクタクタです。

 

この2週間が役人人生の中で一番忙しかったのは間違いないでしょう。

 

まぁ、高島君が必死になって頑張ってくれたり、家に帰る暇も無いぐらい馬車馬の如く働いていたお陰で明日と明後日は家でゆっくり休めるんですけど。

 

「……あれ?鍵が空いてます」

 

久しぶりに我が家に帰って来たんですけども……ちょっと待って下さい。家の鍵を閉め忘れていたんでしょうか私は?

 

いやいやいや、そんなはずは無いです。戸締まりはちゃんと確認してから家を出ましたし。

 

まさか泥棒(ミカ君)?いや、でも……何となくですがそれも違うような気がしますね。

 

……まぁ、とにかく中に入ってみましょうか。

 

っと、その前に……よし。万が一泥棒だったらこのレンチを投げ付けてやりましょう。

 

――ガチャリ。

 

中から人の気配がします。誰かが居るようです。

 

「――あ、おじさん。お帰りなさい」

 

――バタン。

 

……私は疲れ過ぎているようですね。みほちゃんが制服+白エプロン姿で私を出迎えてくれるなんて幻覚を見てしまうぐらいに。

 

レンチを捨てて……とりあえず深呼吸、深呼吸。

 

さぁ、これで大丈夫です。行きましょう。

 

――ガチャリ。

 

「どうしたんだ、西住さん?」

 

「あ、麻子さん。おじさんが中に入って来ないの。あっ、おじ――」

 

――バタン。

 

……増えてるぅぅうッ!?

 

何でですか!?何で制服+花柄エプロン姿の麻子ちゃんの幻覚まで見えてくるんですか!!

 

歳ですか!?歳のせいですか!?

 

っ、よし!!頬が赤くなるぐらい顔をひっぱたいたので、これでもう大丈夫でしょう。

 

――ガチャリ。

 

「西住殿、冷泉殿。どうしたのでありますか?廉太殿が帰って来たのではないのですか?」

 

「うん。そうなんだけど……」

 

「廉太さんがドアを開けるだけ開けて中に入って来ない。あ――」

 

――バタン。

 

……また増えてるぅぅうッ!!

 

今度は制服+迷彩柄エプロン姿の優花里ちゃんまで出てきましたよ!?

 

一体どうなっているんですか!?

 

――ガチャリ。

 

あ。

 

――ガシッ!!

 

……あ。

 

「お帰りなさい。おじさん」

 

「お帰り、廉太さん」

 

「お帰りなさいであります。廉太殿」

 

ハハッ……ここに至って認めるしかないのでしょうね。

 

満面の笑みを浮かべながら私の腕をガッチリと掴んでいるみほちゃん達が幻覚などでは無いという事を……。

 

ハハッ、どうしてこうなったんでしょうか。




では、最終章4話で(可能なら)またお会いしましょうノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。