超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative (シモツキ)
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人物紹介Ⅰ

本稿は本作に登場する人物(名有り)についての紹介、説明欄です。原作、ではなく本作の説明ですので、一部原作には無かった部分や変更された部分が存在する事もあります(但し身長体重スリーサイズに関しては原作遵守です。間違いがあった場合は指摘お願いします)。また、思い付きや皆様からの質問、指摘によって追記される事もあります。


イリゼ/オリジンハート

身長・160㎝/166㎝

体重・44㎏/47㎏

スリーサイズ

B82 W57 H83/B88 W59 H87

髪型・白に近い黄色のロング(左前髪のみ編んでいる)/白のハーフアップ

瞳の色・碧色/濃い黄色

 

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魔窟奥の部屋らしき場所でネプテューヌ達によって発見された、記憶喪失の少女。記憶喪失らしからぬネプテューヌとは対照的な普通の記憶喪失者であり、目覚めてから月日があまり経っていない頃は過去を気にする事や記憶の手がかり探しをする事が多かった。基本的に良識人で礼儀作法も心得てはいるが、記憶喪失故かそれとも生来か子供っぽい一面もあり、パーティー内の突っ込み担当の中でも特に余裕のなさそうな突っ込みをする事がしばしばある。

女神化するとスタイルが良くなる(女神化前はギリギリ兄弟の琴線に触れない)が、他の女神に比べると性格の変化が薄く、やや向こう見ずになる点と女神共通の好戦性以外はあまり変わらない。

武器は女神化前はバスタードソード、女神化後はバスタードソードベースの鍔にも刃を装備した長剣を使用する。武器の性質上片手持ちではノワール、両手持ちではネプテューヌに劣るが、その分片手剣と両手剣の中間の性能を持つ事と片手両手の持ち替えを利用する事によるトリッキーな戦法を得意としている。また、後述の出来事以降は圧縮したシェアエナジーを使った加速と武器精製及びその応用を戦法に加える様になった。

そんな彼女の正体は、紀元前に成立した国家『オデッセフィア』の女神(通称原初の女神)が産み出した自身の複製体(産まれる経緯の関係から、オリジナルと同等の力を有するまでには至らなかった)であり、記憶は失ったのではなく元々存在していなかった。それを知って以降は自暴自棄となったが、探し出してくれたネプテューヌと共に旅をした仲間との思い出により前を向くようになり、同時にその後もう一人の自分との対話を経て『大切な人と、大切な人の守りたいものを守る』という心情を掲げる様になった。更に言えば、その時を機に彼女はネプテューヌへ恋心らしきものを抱く様になった為、名実共に自身の正体を知った事は彼女の転機となった。

現在イリゼは借り受けたシェアクリスタルを使用した事とその後の無茶な戦闘の末女神化出来ない状態となったが、これは原初の女神が用意した回路から、女神化する為のスターターとなるシェアすら引き出せなくなっているだけであり、女神としての力を失った訳ではない。

上記にもある通り幼い面があり、思考に集中すると突然結論のみを口にしてしまう(そして恥をかく)癖がある。

 

 

ネプテューヌ/パープルハート

身長・146㎝/164㎝

体重・38㎏/48㎏

スリーサイズ

B73 W54 H76/B87 W58 H85

 

マジェコンヌの策略により下界に落ち、その衝撃で記憶を失ってしまった少女。その正体はプラネテューヌの守護女神。ゲームとプリンが大好き。記憶喪失とは思えない程元気で天真爛漫な性格をしており、良くも悪くもその性格と性格に由来する行動力からパーティーを動かしている。しかし根は優しく常識もある為に、ふとした時や予想外の弄りを受けた時、相手が真剣に悩んでいる時などにはその部分が露わとなる。また、突っ走り過ぎるが故に周りの気持ちに気付けない事が多く、ユニミテスに圧倒された時やノワールの涙を眼にした時はショックを受けていた(ユニミテスに関しては、その後の成長に繋がったとも言える)。

女神化するとパーティーメンバーの中で最も大きく変化し、心身共に落ち着いた大人の女性の様になる。…が、どこか抜けている点は変わらない。

武器は女神化前後で共に刀(太刀)を使用。武器の性質を心得ている為見た目に似合わない鋭い一撃を得意とし、特に女神化時は高い身体能力と武器の重量が技量に加算されて凄まじい切断力を誇る様になる。

記憶喪失だった為に最初はそもそも女神であるという事すら知らなかったが、他の女神との触れ合いや自国民と接する内に段々と守護女神としての自覚が芽生え、有事の際は全力を尽くす他、最低限且つ期限ギリギリではあるものの、平時でも職務を行う様になった。

前述の通り他者の気持ちに気付けない事のある彼女だが、大小様々な出来事からイリゼとノワールからの気持ちに薄々気付き始めている。だが本人としてもそれは複雑な心境である為、普段は気にしない様にしている。

……因みに、ブランやアイエフ程ではないものの、指摘されると不機嫌になる程度には彼女も発育の悪さを気にしている。

 

 

ノワール/ブラックハート

身長・158㎝/160㎝

体重・43㎏/45㎏

スリーサイズ

B83 W56 H82/B83 W57 H83

 

真面目で強気、でも見た目相応に少女らしい面も持つ、ラステイションの守護女神。四女神きっての良識人(次点はブラン)であり、基本は突っ込み側の立ち位置にいるが、向上心や競争心を拗らせているせいか誰かを弄る(からかう)話題の時は積極的にボケ側に回る。しかし高飛車ツンデレぼっち(ぼっちは半ば風評被害の模様)と弄られ易いキャラを悉く有している為、事あるごとに弄りの対象となっている。他の女神…というか基本誰にでも隠しているがコスプレ好きて、その手のイベントには敏感。また、前述の通り真面目な為職務も十二分にこなす上、沸点はやや低めなものの冷静な思考も持ち合わせている為に教会職員からの信頼は厚い。

女神化すると強気な部分や高飛車な部分が更に強くなり、女神界の戦闘狂ツートップをブランと共に誇っている。…が、ブラン同様に戦闘はあくまで手段であって目的ではない、という意識はきちんと持っている。

武器は女神化前は片手剣、女神化後は大剣(基本片手持ち)を使用。一撃一撃を重視するネプテューヌとは逆に速度と手数を重視しており、その関係上細剣を使う事もある。速度重視の戦法は大剣でも同様で、大剣でありながら技量と速度で引き斬りを可能としている。また、状況次第で重量を利用した叩きつけや腹を利用した防御も行う。

自他共に厳しく接し、良くも悪くも責任を追いがちな性格が人付き合いの障害となりがちだったが、色々な意味でネジの外れているパーティーメンバーとは良い関係を築く事に成功。特に自身へと積極的に構ってきた上期せずして支え合う間柄となったネプテューヌには友情以上の気持ちを抱き、ネプテューヌが負のシェアの柱へ突入しようとした時は、恥も外聞も無い様子を見せた。

上記の感情からイリゼとは争う関係(ネプテューヌがどちらかを選ぶ場合)にあるが、両者共に友情の方がより大切と意識している為、現状は『同志(ライバル)』という位置付けらしい。

 

 

ベール/グリーンハート

身長・163㎝/167㎝

体重・48㎏/49㎏

スリーサイズ

B93 W61 H87/B95 W61 H88

 

穏やかで物腰の柔らかいお姉様…と見せかけて実際はネプテューヌに負けず劣らずな駄目人間な、リーンボックスの守護女神。四女神の中でも特に趣味(サブカル全般、特にネトゲ)への入れ込みが強く、それによって周りが見えなくなる事もしばしば。ボケ突っ込み両方行うものの突っ込み側が足りてる場合は迷いなくボケに回り、空気を読まない(読めないでは無い)事も多い為、パーティー内でも困った人扱いされがちだが実際にはかなり冷静且つ大人であり、特に戦闘時にその傾向が強い。仕事に関してはあまり積極性は見せないが、私欲の為に全力で片付けたりそもそも最低限は行なったりする辺り、初めからやらないという選択肢は無いらしい。

女神化すると更にスタイルが良くなり、パーティーメンバーの追随を完全に許さなくなる。だが精神面では然程変わらない(雰囲気としてはおっとりからクールへと変貌する)上、スタイルもネプテューヌ程の変化では無い為に比較的変化の少ないとして見られる事が多い。

武器は女神化前後で共に槍(無論サイズは違う)を使用。ベールの使う槍は刺突の他斬撃や薙ぎ払いも可能であり、リーチを活かした戦法を基本としているが、ランスチャージの様な攻撃も時折行う。

自分(女神)と普通の人間は力も立場も背負うもの違うと周りの人に対して心の中で距離を取っていたが、そんな事(更に言えばそれ等の違い)関係無しに自分を思い、自分の為に身体を張ってくれたアイエフとチカを至極気に入っており、アイエフへは日常的に、チカへはさりげなく好意を示している。勿論他のメンバーにも感謝や友情の念を抱いているが、二人は明らかに別格。

守護女神四人のうちで唯一妹(女神候補生)がいない事を気にしている。この気持ちはアイエフやチカでは晴らせない模様。

 

 

ブラン/ホワイトハート

身長・144㎝/146㎝

体重・36㎏/37㎏

スリーサイズ

B71 W53 H75/B73 W53 H77

 

大人しく物静か、しかし怒ると途端に言動共に乱暴になるルウィーの守護女神。キレてる状態が本性…という訳ではなく、所謂二面性を持つ性格で、後述の女神化状態はともかく普段はキレないようにしたいと思っている模様。放っておくと文字通りの本の山を築いてしまう程の読書好きで、そのおかげか知識は豊富。また、その気持ちが転じて同人小説の執筆も行なっているが、あまり人気はない(ありきたりな要素を詰め込み過ぎている事が主な原因と推測される)。パーティー内ではボケ突っ込みの両方を行うが、性格的にやや突っ込み寄りで、仕事同様に周りの影響や趣味に没頭している状況下でなければ、基本的には真面目なタイプらしい。

女神化すると若干スタイルが向上するが、それでも守護女神中最低。前述のキレ状態がデフォルトとなっている事もあって戦闘にはかなり積極的だが、これは乱暴者のそれというよりは熱血漢や姉御肌のそれに近い。

武器は女神化前はハンマー、女神化後は戦斧を使用。女神化前は身長体重の関係で振り回される形となるが、殺しきれない遠心力や反動を利用した戦法が基本な為、見た目よりも隙がない。女神化前後で武器の性質が変わる女神ではあるが、本人の技量と重量を活かす術を熟知している為、叩き斬りがメインの戦斧も十分に使いこなしている。また、魔法の国の女神でありながらも何故か魔法適性が低い(知識は国中でもトップクラス)。

あまり普段の様子には見せないものの、自分一人では対処しきれない事も抱え込んでしまう傾向があったが、断っても聞き入れようとしないパーティーメンバーに出会う事でその悪い癖が軟化、同時にそれまでよりも普段から主張を口にする様になった。また、国民全体から性格については『キレ芸』と認識されているが、本人としては不服そのものの様子。

ベールを始めよく幼児体形を弄られる為、実はかなりストレスが溜まっている。同志である筈のネプテューヌも女神化すると大きく変わる為、彼女の存在は時折プラスどころかマイナスに作用する事もある。

 

 

ネプギア/パープルシスター

身長・154㎝/155㎝

体重・40㎏/41㎏

スリーサイズ

B78 W56 H80/B80 W56 H82

 

ユニミテス戦後、守護女神の妹を望む国民によって産み出されたプラネテューヌの女神候補生。姉とは対照的に控えめ且つ空気が読め、ボケよりも突っ込みをメインとする姉よりも姉っぽい子。どうやら機械オタクらしく、その方面での感性が一般人とズレている。ユニ同様に外見と産まれてからの月日の差が激しい為、一見内気で人見知りな様に見える。

女神化するとちょっぴりスタイルが向上するが、髪型が変わらない点も含めて最も女神化前後で変化が乏しい。ベールと違って雰囲気もあまり変わらない(全く変わらない訳ではない)為、女神の中では逆に浮いている。

武器は女神化前は光学剣(ビームソード)、女神化後はビームを刀身に纏わせる事が可能な光学銃剣M(マルチ).P(プル).B(ビーム).L(ランチャー)を使用。光学剣は軽量且つ高い切断(溶断)力を持つが叩き斬りが不可で、整備が実剣より難しい為、それを知識と技術で補える様努力中。女神化後は遠近両用武器の為かなり幅広い戦い方が出来るが、射撃では後述のX.M.B.に遅れを取り、銃器が搭載されている分純粋な剣より接近戦での取り回しに難があるなど器用貧乏になりがち。しかし経験は浅いながらも女神であるからか、器用に距離を変化させ、武器の性質を活かしながら戦っている。

所謂優等生タイプの少女だが姉への憧れが強く、普段はよくネプテューヌといる。ネプテューヌの駄目人間的部分にも寛容(時にはそれにすら憧れる)な辺り、常識的なレベルでのシスコンの疑いがある。

 

 

ユニ/ブラックシスター

身長・149㎝/148㎝

体重・39㎏/38㎏

スリーサイズ

B77 W55 H81/B75 W54 H80

 

ユニミテス戦後、守護女神の妹を望む国民によって産み出されたラステイションの女神候補生。国民の趣味嗜好か早速姉に影響を受けたのか姉と似た様な性格をしており、候補生の中では最も姉に近い。しかしやはり産まれたばかり故に姉程の積極性は無く(見せず)、ネプギアとも性格が似通っている印象が強い。因みに彼女も目上の相手には敬語を使うが、コンパやネプギアの様な素の性格からくるものというより、イリゼの様な礼儀作法からくるものな模様。あまり周知されていないが銃器オタクで、これもネプギア同様見た目にそぐわない。

女神化すると、他の女神とは逆にスタイルが悪くなる。本人はこれを気にしているものの、そもそも女神化した彼女の姿を殆どの人は知らない為、特に弄られてはいない。性格までも縮小…という事はなく、この点も姉同様に高圧的且つ好戦的となる。

武器は女神化前は各種ライフル、女神化後は多目的大型砲X(エスク).M(マルチ).B(ブラスター).を使用。銃器オタクなだけあって弾丸ごとの性質をよく理解している為、相手に合わせて切り替えている。X.P.B.は火薬式実銃液体炸薬式実銃電磁砲光学砲と銃器で行える事ならば大概可能な兵装で、軽い調整で狙撃も可能。但しその分扱いは難しく、長大故に取り回しもあまり良くない為ユニでも十全に扱うのは難しい。

自身も姉のノワールも身内への愛情表現が不器用な為にちょくちょくやり取りが上手くいかなくなる事がある。しかしそれがユニの向上心を育てる要因にもなっている他、時たまに愛情表現が成功すると普段のすれ違いの分互いに強い幸福感を得られている、という何とも皮肉な結果を産み出している。

 

 

ロム/ホワイトシスター

身長・132㎝/137㎝

体重・28㎏/29㎏

スリーサイズ

Bちょっとはある Wほそい Hほんのり

/Bとびだしてはいない Wほそい Hほんのり

 

ユニミテス戦後、守護女神の妹を望む国民によって産み出されたルウィーの女神候補生。ブラン以上に大人しく口数も少ないが、意外にも彼女がラムの姉。ラム同様他の候補生に比べると外見と産まれてからの月日の差が少ない為、言動は年相応に見える。また、引っ込み思案ではあるものの遊び(悪戯)好きで、ラムに引っ張られる形でよく走り回っている。流石にまだサブカルや妙な趣味にハマる事はないが、彼女(達)も女神である為、将来的にはその方向に進む可能性がある。

女神化するとスタイルは女神化したラムと同じであり、原型は留めているものの積極的になる。その上本人はあまり自覚ないものの、若干言動は冷たい雰囲気を纏う様になり、女神化前とは逆にラムより姉から遠くなる。

武器は女神化前後で共に杖(ロッド)を使用。女神化後のそれは強度の関係で打撃にも使えるが、基本的にはどちらも魔法の補助・強化用の装備であり魔法での戦闘がメインとなる。知識が少ない為攻撃魔法ばかりを行う(幼いながらも使う魔法はどれも強力)が、補助魔法や回復魔法への適性も高く、今後は後衛として広く立ち回れる事が期待される。

妹との関係は文句無し、姉とも悪戯し過ぎない限りは良好な為、他国より良い姉妹関係を築けている。これは他の候補生より子供である点が大きい。

 

 

ラム/ホワイトシスター

身長・132㎝/137㎝

体重・27㎏/29㎏

スリーサイズ

Bちょっとはある Wほそい Hほんのり

/Bとびだしてはいない Wほそい Hほんのり

 

ユニミテス戦後、守護女神の妹を望む国民によって産み出されたルウィーの女神候補生。ブランや双子の姉ののロムと違って活発で、ロムを引っ張る事が多い。ロムは少々大人し過ぎる為一番女神候補生の中では歳相応であり、同時に周りへ迷惑をかけやすい。その為性格の面だけで見ると彼女こそネプテューヌの妹らしく、ルウィーの女神三姉妹の中ではやや浮いてしまっている。…が、それはあくまで分かり易い性格の部分であって、基本的にはロムと意見が食い違う事がない為常日頃から一緒にいる。

女神化すると若干スタイルが変わりロムと並ぶ。性格に関しては元々個性だったハイテンションな部分が更に強調されるタイプなので、変化自体はあるもののそこまで大きい訳ではない。

武器は女神化前後で共に杖(ロッド)を使用。ロム同様魔法の補助・強化が主な目的であって、打撃は一応出来るの域を出ない。補助魔法や回復魔法の適性もあるがロムに比べると攻撃魔法が得意(知識が少ない今は然程差がない)で、攻撃型後衛としての素質が高い。

前述の通りいつもロムとは一緒で、二人で一人の印象が強い。それを表したかの様に女神としての名前は双子共に同じだが、片方だけではホワイトシスターではない、という事はない。

 

 

コンパ

身長・154㎝

体重・46㎏

スリーサイズ・B88 W57 H80

 

天界から落下したネプテューヌを見つけ、保護した事によりそれまでの生活が一変した少女。おっとりとした性格で、場を和ませる事に長けている。…が、同時にかなりの天然であり、無自覚なボケをよくしてしまいがち。他のメンバーに比べると荒事や非日常に不慣れだったが、パーティーメンバーと過ごすうちにそれ等への耐性を得た。元は落ちこぼれの医学生(学校はモンスター増加の影響で休学中)で自身も技術も低かったが、パーティーメンバーの励ましと度重なる経験によってそれ等を共に向上させ、戦闘中に周りを気を付けながら手当を行うという本物のナース以上の能力を身に付けた。また、かなり女子力が高く家事全般が得意。

武器は小槍並みの大きさを持つ注射器。中の液体は毒ではないものの生物の身体には悪影響があり、針とそれを使った戦法を得意としている。また、治療の知識と意思が元となった回復魔法とそれの発展型の攻撃魔法(攻撃魔法のレパートリーはほぼ無い)が可能であり、戦闘そのものよりもヒーラーとしての役目で真価を発揮する。

本人はあまり気にしていないがかなり胸の発育が良く、スタイル(胸)を気にしている面子からは羨望の目で見られている。

 

 

アイエフ

身長・150㎝

体重・39㎏

スリーサイズ・B74 W55 H77

 

魔窟でネプテューヌとぶつかった事をきっかけに、旅へと同行する事となった旅人。世界を旅した事による知識と性格からくる冷静さから、パーティーメンバーのブレーキ及び突っ込み役を請け負う事が多い。しかし同時に世話焼きな性格も兼ね備えている為、所謂姉御的な立場になる事もある。基本的には自身を見失わない彼女だが、ベールを熱烈に信仰してる為彼女が関わると(ベールから好意を示されると)骨抜きになってしまう。普段はあまり見せないものの厨二病を患っており、その面では周りから弄られる事もある。また、ネプテューヌやブランよりはマシなもののスタイルは決して良くなく、それを気にする事が多々ある。

武器は二振りのカタールを使用。身軽で俊敏な自身の身体能力を活かして機動力重視の戦法を得意とする。この戦い方はノワールや他の小型軽量武器持ちと近い為、共に動く事もある。その他上記の厨二病が原動力となった魔法も扱えるが、自己流魔法の例に漏れず燃費や使い勝手に難がある為、サブウェポンや切り札として扱う事が多い。

彼女は自身を『ゲイムギョウ界に咲く一陣の風』と呼んでいるが、これは誰かが彼女に対して付けた二つ名ではなく、所謂『自称』の可能性が高い。




本稿に全名有りを載せると各話よりかなり文量が多くなってしまう為、残りのキャラは人物紹介Ⅱに載せる事とします。


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人物紹介Ⅱ

本稿に記載されている内容の仕様は、基本的に人物紹介Ⅰと同様です。しかし身体情報が記載されていない人物(原初の女神以外)は情報を発見出来なかった為なので、知っている方は是非教えて下さい。


イストワール ※

身長・3億px

体重・鍵の欠片4個分

スリーサイズ

BCD5.25枚分 W3.5インチFD4個分

HSDカード27枚分

 

見た目もサイズも妖精らしい、語尾に絵文字の付くプラネテューヌの教祖。仕事に真面目で、仕事嫌いなネプテューヌに悩むのが最早日課レベルとなっている。赤子よりも身体が小さい為に一般の道具は使う事が出来ず、クッキー一枚やペットボトルの蓋一杯で満足してしまう為に食事のコスパは他の追随を許さない。マジェコンヌに封印される前から教祖であったが、彼女は元々千年以上生きている存在であり、その正体は自身の補佐と世界の記録の為にイリゼより先に原初の女神によって産み出された存在であり、イリゼとは形の上では姉妹に該当する。

武器は基本的に持たず(常に乗っている本が一応魔導書としての機能を持つ)、戦闘では魔法を使用。元々戦闘の為に産み出された訳ではない為戦闘能力はイリゼに劣るが、多彩な魔法と知識、そして妖精サイズの身体を活かす事で素早く味方を指揮しつつ敵を翻弄する。

ネプテューヌが姉らしくなく、時折調べるのに三日かかってしまうものの知識(記録)量は圧倒的である為に、彼女がネプギアに物事を教えている場面が教会でよく見られる。

 

 

神宮寺ケイ

身長・150㎝

体重・38㎏

スリーサイズ・B76 W56 H79

 

一見すると少年の様な、見た目も言動も中性的なラステイションの教祖。アヴニールが国を寡占した時には、スパイとしてアヴニールに入社していた。自他共に厳しく真面目という点ではノワールと似ているが、彼女以上に公私を混同しない(というか公が私を侵食している)ビジネスライクな性格で、利益の為に冷たい態度を取る事もある。…が、感情を軽んじている訳ではなく、女神であるノワールやユニを単なる仕事上の関係以上に大切にしている(他国に比べるとラステイションの女神と教祖からあまり上下関係を感じられないのは、それが要素の一つとなっている)。

武器は片手剣を使用。扱う剣はノワールと同系統だがノワール程の高速戦闘は行わず、刺突の頻度も低い。これは彼女が最前線に出る事による士気高揚より一歩下がった場所からの、全体を見回した指揮を優先させている為だが、ノワールから手ほどきを受けた事もあって技量は高い。

因みに、外見からは胸の膨らみを殆ど見受けられないが、それはさらしを巻いているからであり膨らみが無い訳ではない。

 

 

箱崎チカ

身長・160㎝

体重・43㎏

スリーサイズ・B88 W55 H82

 

ベールの事を『お姉様』と慕う、性格に似合わず病弱なリーンボックスの教祖。ベールと会話する時は彼女の口調を真似してしまう程好意を寄せており、同じくベールを慕う上にベールからよく愛でられているアイエフをやや敵視している(が、同時にある種の信頼もしている)。しかしベールが絡まない限りは多少態度が大きいだけの良識人であり、身体も日常生活に支障が出る程弱い訳ではない。イヴォワールとは親戚関係に辺り、亡くなった先代の教祖は彼女の母親であった。そして彼女が教祖となるまでは、ベールの付き人を行なっていた。

武器は槍を使用。これは付き人時代にベールから槍術を習った為であり、本人の愛もあって師のベールにも引けを取らない(身体能力や経験を考慮せず、あくまで槍術のみを見た場合)レベルに到達している。また、集団戦の場合は見よう見まねながらベールの様に指揮も行う。

彼女は病弱である事をアピールする事でベールの気を引こうとする事がある。だが、なまじベールが彼女の事をよく知っているが為にあまり通用しない。

 

 

西沢ミナ

身長・156㎝

体重・45㎏

スリーサイズ・B80 W57 H85

 

少々心配性でどこか母性的な、赤い眼鏡が特徴のルウィーの教祖。教祖やパーティーメンバー全体を通しても屈指の良識人…というか常識人であり、それ故に周りに振り回される事が多い。ルウィー教会をマジェコンヌが掌握していた際はフィナンシェ以上に教会内で暗躍しており、後の大規模戦闘時には教会の兵を指揮していた。本人は自身への評価が低いが、魔法使いとしてはルウィーどころかゲイムギョウ界全体でもトップクラスであり、補助・強化用の魔導具無しでも並みの魔法使いを凌駕する魔法や魔術を行使する。

武器は杖を使用。これは完全に補助・強化用で打撃武器としてはかなり低性能だが、その分魔導具としては高性能。上記の通り彼女は卓越した魔法適性を持ち、使用可能な魔法の幅も広い為に魔法で戦闘に参加しつつ、後衛である事を活かして同時に指揮を行う事を得意としている。

候補生のロムとラムが幼い事と、彼女の言動から醸し出される雰囲気から、この三人のやり取りはまるで親子の様に見えると教会内では密かに話題となっている。

 

 

MAGES.

 

冒険の途中にてパーティーメンバーと出会い、後に仲間となった別次元組の一人。ドゥクプェという飲み物が好み。芝居掛かった言動が特徴的で、パーティーメンバーからは厨二病と判断されている(アイエフもそうだが、魔法が使える事や世界観的な観点から見れば、厨二病でも何でもないとも言える)。研究者としての側面を持っている為基本冷静であり、魔法使いでありながらも同時に機械や科学的な発明に対する興味も持つ。自作の機械もそれなりにあり、個人製作の割に技術力は高いのだが、機能が独特的過ぎるのが玉に瑕。

武器は杖を使用。これも打撃武器として使う事を前提としていない魔導具だが、彼女はこれに科学技術を組み込んでおり、扱う魔術も魔法と科学の融合技術である場合が多い。その為従来の魔法とは一線を画しており、他者には真似できない固有の戦い方となっている。

かなり独特な雰囲気を纏う彼女だが、ブラン、ネプギア、アイエフと意外に趣味の合う人物が多く、稀に共同で何かを製作する事もある。

 

 

マーベラスAQL

 

冒険の途中にて戦闘中のパーティーメンバーと出会い、仲間となった別次元組の一人。愛称はマベちゃん。かなり胸の発育がよく、制服のサイズが合っていない事もあってかなり大きく見えがち。とある組織に所属する忍者であり、単純な戦闘の他偵察や尾行の様な隠密行動も得意。忍者というともすれば社会な日陰側に存在しそうな彼女だが、その性格は極めて明るく、パーティーにおけるムードメーカーとして立ち回る事もある。また、彼女の所属する組織は様々な目的から忍者の育成や派遣以外の事も行う為、組織所属者は多芸な人間が多いらしい。

武器は小太刀を使用。それと機敏な動きを活用した、忍者らしい高機動戦を得意とするが、小太刀以外にも手裏剣や煙玉、術を込めた巻物など多彩な道具を使う。それ以外にも腰に二振りの小太刀を持つが、それは故郷における仲間二人の形見であり、基本的に戦闘では使用しない。

彼女は太巻きが大の好物であり、自ら作る事もよくある。しかし何故か食べ方が特殊(淫靡)であり、周りの目を引いてしまう。

 

 

ファルコム

 

冒険の途中にてパーティーメンバーと出会い、後に仲間となった別次元組の一人。別次元組は皆訳あって旅をしていたが、彼女は元からの冒険者であり、少女の様な見た目ながらもそれなりの経験を積んでいる。だが、彼女は『冒険の為に船に乗ると毎回船が難破する』という洒落にならないジンクスを持っており、最低限の物以外は毎回失ってしまう(ので、冒険用に持ち歩く物は少ない)。皮肉にも、その難破経験が重なった事で危機察知能力やサバイバル能力が鍛えられており、どんな状況でもきちんと状況を把握し思考を巡らせる事が出来る様になっている。

武器は両手剣を使用。ネプテューヌの使う太刀とは違い、諸刃の剣である為刀剣としての外見はイリゼのバスタードソードの方が近い。基本的には叩き斬るタイプの武器だが、相手の性質を見極め、日頃から訓練を重ねた剣術で持って的確に斬り裂いていく戦法を得意としている。

現状では決して発育が良い方ではない彼女だが、別次元組の他のメンバーは何やら知っているらしく、全会一致で『将来有望だ』と述べている。

 

 

鉄拳

 

冒険の途中にてパーティーメンバーと出会い、後に仲間となった別次元組の一人。どこか気の弱そうな、おっとりとした口調が特徴的だが、元の布地が少ない上に破けているという奇抜な服装(しかもスタイルもパーティー内で良い方)と、モンスターと正面から文字通り殴り合える身体能力という、殆ど対極な性質を持ち合わせている。また、若干天然が入っている事と内面は比較的女の子らしい事から、微妙にコンパとはノリが合う。因みに、モンスターの他クマやマシンと戦った事もあるらしく、戦闘経験は中々豊富な模様。

武器はグローブを使用。一応金属部分もあるが手の保護が主な使用目的であり、腕や足での打撃が攻撃の基本となっている。上記の高い身体能力は勿論、後述の性癖から打たれ強さも常人の比ではない為、武器や魔法でもって戦う他のパーティーメンバーにも全く遅れを取らない。

過酷な特訓から精神を守る為、ある時彼女はマゾヒストに目覚めたらしい。…が、これは過酷な状況下のみでなのかそれとも常時そうなのかは謎。

 

 

ブロッコリー

 

冒険に出ようとするパーティーメンバーと出会い、後に仲間となった別次元組の一人。ネコミミ付きの帽子と虎柄の尻尾(飾り)、バランスボールっぽい何か(名称ゲマ)、そしてロムやラムよりも小さい身長という個性の塊。その個性は外見だけに留まらず、『にゅ』という語尾やちょくちょく発言の中に混じる毒と、全体的にアレなパーティーメンバーの中でも異彩を放っている。そんな個性的な彼女だが精神や思考はかなりまともで、思考回路にまで独特性が溢れていたりはしない(若干だが、空気を読まない発言をする傾向はある)。

武器は上記のゲマ。一応打撃武器として扱えるらしく、ゲマで敵を叩きつつ時折魔法も使う。武器にしてる為ゲマは唯の道具かと思いきや、よく見ると表情が変わっている為結局何なのかは謎。また、目からビームを放てるが、失敗するとビームの代わりにゲル状のものが放たれる。

ネプテューヌが彼女を『ぷち子』と呼び、『ブロッコリーだにゅ』と返すのが二人の間のお約束。因みに彼女の故郷では彼女のサイズが一般的らしい。

 

 

サイバーコネクトツー

 

冒険の途中にてパーティーメンバーと出会い、後に仲間となった別次元組の一人。イヌミミと尻尾を持つが、これは飾り。故郷はフコーカ(地名なのか次元名なのかは不明)という所。明確な理由がある訳ではないがノワールと息が合い(相手を立てる性格がノワールと相性が良いのかもしれない)、ノワールの相棒を自負していたネプテューヌを慌てさせた。ネプテューヌやベールの様な駄目人間レベルではないもののゲーム好きであり、そちらの技術も中々にある。見た目はやや独特であるものの至って良識人で、ボケよりも突っ込みに回る事の方が多い。

武器は二振りのダガーを使用。これを両方とも逆手持ちにするのが彼女の戦闘スタイルであり、持ち前の俊敏さと逆手持ちダガー二刀流という稀有な戦い方を活かす事で相手を圧倒する。因みに、彼女の使うダガーは動物の爪や牙を意識したデザインである事が多い。

別次元組は女神と対等の立場として接する事が多いが、彼女は始めノワールを様付けしていた。しかし後にノワールの『友達らしくない』という要望にて呼び方を変更した。

 

 

シアン

 

ラステイションに居を構える、工場『パッセ』の社長である少女。父親はサンジュの旧友であり、とある事故が原因で一線を退いていた。仕事柄が影響してか、ケイとはまた違った方向性の少年らしさを持つ。彼女本人は社長としての業務より技術者としての業務が好きらしく、元々企業としての規模が小さかった事もあってパッセの経営は好調ではなかった。しかしノワールやパーティーメンバーの協力で作り上げた『アルマッス』が博覧会で人気を集めた事で大きく変化し、同時に彼女自身もパッセの今後の為に経営に力を入れる様になった。

彼女にとってノワールは信仰対象だが、同時に友人にもなった為に一時期感情の板挟みにあった。…が、現在は『両方あって良いじゃないか』と楽観的に考えているらしい。

 

 

ガナッシュ

 

若くしてラステイションを寡占した大企業、『アヴニール』の役員となった男。誰に対しても礼儀正しく、職務にも真面目な好青年。だが、彼が信仰しているのはノワールではなくブランであり、そのブランも本人ではなく『理想の』ブラン、しかもその理想のブランの為なら如何なる悪事も苦としないという過激かつ狂信的な一面も持ち合わせていた(アヴニールに所属していたのもその為)。その狂信の果てが偽者への信仰と偽者からの使い捨てだったがブランに救われ、そこから真の信仰を見つける為教会の職員となった。…しかし相変わらず信仰心が暴走しがち。

実力主義のアヴニールで役員となれるだけあって技術者としても優秀で、汚染モンスターの侵攻時には文句を言いつつもパンツァーのレストアを行なった。

 

 

サンジュ

 

ノワール不在時にラステイションを寡占した大企業『アヴニール』を設立した同社の社長。積極的に話す事は多くない為、社長時は彼の意思をガナッシュが代弁する事が多かった。彼はアヴニールを設立する前は技術者であり、無人機開発に勤しんでいた。そんな彼だったが旧友であるシアンの父親の事故を目にした際、自分の作る無人機がもっと高性能であれは助けられたと責任を感じてしまい、それが実力主義で国や環境を省みないアヴニール設立のきっかけとなった。アヴニール解体後は一人の技術者に戻り、その後シアンの計らいで旧友と再会する事となった。

少々恰幅の良い体型をしているが、これは社長となって以降デスクワークや関係のある企業とのやり取りがメインとなった為であり、元々はもう少しスリムな体型だった。

 

 

イヴォワール

 

リーンボックスの教会に勤める、老齢の男性。基本的には温厚で誠実な性格だが、老いによって少々考えが凝り固まってしまい、それがネプテューヌ暗殺未遂へと繋がった。しかしこれは勘違いとベールへの信仰心が元となっていた為、真実を知って以降は恥を捨てて自ら謝罪を行なった。チカとは親戚関係であり、先代の教祖が亡くなってからチカが後を継ぐまでは教祖代行としての任に就いていた(チカが教祖となってからも職員からはチカに次ぐ立場として見られている)。経験豊富であり、老体ながら汚染モンスターと正面から戦って勝利するだけの実力を持つ。

主にネプテューヌとコンパの二人から名前をよく間違われており、間違われ方はマジェコンヌレベル。本人もそれには困っており、彼の頭を悩ませる一因となっている。

 

 

フィナンシェ

 

ルウィー教会にてブランの侍女を勤める少女。服装は侍女らしくメイド風。しかし侍女としての職務の他、ブランの雑務の手伝いやスパイ任務など、明らかに侍女の範疇を超えた仕事も行なっている。しかし仕事幅の割には良識人であり、イリゼ達と行動を共にする際には辟易とする場面が多い。また、彼女は非常識な言動に移る事こそないもののブランを強く信仰しており、彼女のスリーサイズどころかろくに他人に話した事もない自作の同人小説の内容まで網羅している。互いに良識的故の苦労人という事で、ミナとは気が合う。

前述の通りスパイ任務を行なっていた事はあるが非戦闘員であり、戦闘能力は殆どない。だが、環境が環境だけに戦場自体には慣れている。

 

 

兄弟

 

ルウィーのレジスタンスに所属していた二人の兄弟。キザな方が兄で優男気味なのが弟。恐らく兄弟というのは通称だが、名前を呼ばれた事は無い(そもそも名を知っている者が近くにいるかすら不明)。異常な程の巨乳至上主義であり、胸の豊かな女性の為に一切の躊躇い&節操無く尽くす。対して胸の慎ましやかな相手には徹底的に冷たい(どちらでもない女性には、多少無愛想ながらも普通に接する)。しかし義理や恩義を蔑ろにする様な事は無く、借りはきちんと返す模様。その他、フィナンシェの様に例外も一部存在する。ルウィー解放後はリーンボックスへと移った。

基本的に胸の豊かな相手以外には興味のない兄弟だが非戦闘員ではなく、汚染モンスターの侵攻の際に、最前線で主力の一端を担える程度には強い。

 

 

マジェコンヌ

 

ゲイムギョウ界破壊を計画し、何度もイリゼ達の前に立ちはだかった女性。毒々しい見た目をしており、お世辞にも良い性格をしているとは言えない。しかし名前間違えボケに対して突っ込んだり何とも言えない状況下では空気を読んだりする一面もある。そして傲慢ではあるものの戦士としては一流で、退く事が必要な際はそれを選択するだけの精神を持ち合わせている(捨て台詞は吐く)。彼女はコピー能力を有しており、元々は世界の為に先代の女神に協力する善人だった。悪人となってしまったのも、封印の為に犯罪神の力をコピーし精神を汚染されてしまった為。

武器は槍を使用。ベールやチカの扱う物に比べると刺突重視の形状をしており、槍による攻撃の他魔法も使用する。負のシェアの女神となった姿では武器が接近戦用のエネルギー刃による戦闘も可能な杖に変わり、その他羽根による全方位攻撃や、翼に内蔵された砲からの光弾砲撃も行う。

パーティーメンバーに倒された後に負のシェアの女神となり、その上で再び倒された事で正気へと戻った。その際自身の命を犠牲に負のシェアの柱を制御しようとしたがイリゼとネプテューヌに救われ、その際世界を見て回る旅に出る決意を心に決めた。

何度も何度も名前を(途中からは恐らくわざと)名前を間違えられており、間違った名前のレパートリーがかなりのものとなっている。

 

 

原初の女神(イリゼ/オリジンハート)

 

紀元前、滅亡寸前だった人類に『最強の守護者、究極の指導者』として望まれた信次元最古の女神であり、オデッセフィアの守護女神。複製体のイリゼとイストワールは彼女によって産み出された。凄まじい力を有しており、ゲイムギョウ界を一つの国として統治。更にそれによる高いシェア率でもって、国民を信じ人々による未来を期待するまでは人類の望み通りの女神で在り続けた。しかし、国民は知らなかったものの精神に大きな問題を抱えており、複製体のイリゼとイストワールは何となくではあるもののその面を感じていた。

魔窟の奥と精神世界で複製体のイリゼが会話をしたイリゼは、所謂記録の様な存在。イリゼ本人の行方は不明であり、生死すらも定かではない。

 

 

※本作におけるイストワールはRe;Berth1や神次元におけるイストワールであるのに対してこの身体情報はmk2やRe;Berth2のものである為、十中八九正しくありません。



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設定・用語集

本稿に載せる各種設定は、本作におけるものであり全てが原作でも通用する訳ではありません。但し、意図せず原作と相違してしまっている点がある可能性もあるので、気になった際はご指摘下さい。また、本稿は要望があればその都度追記、修正致します。



エネミーディスク

 

モンスターを発生させる事が出来るディスク。割れるとモンスターが発生しなくなる。見た目やサイズはCDやDVDと変わらない(デッキやプレーヤーにセットした場合どうなるかは謎)。主にダンジョン内で発見される事が多いが、一部の人が持っていた物を含めてそれは全てマジェコンヌが用意したものであり、元々あった訳ではない。しかしマジェコンヌが製作した訳でもない為、元々どこにあり、どの様に作られたのかは分かっていない。

ディスクごと発生するモンスターの種類や発生速度は別だが、現れるのはどれも既存のモンスターであり、ディスクから新種のモンスターが現れたという報告は無い。また、便宜的に『発生』と称してはいるが、ディスクがモンスターを生み出しているのか、それともどこかから転送しているのかは不明(上記の新種の件もある為、少なくとも全てのモンスターがディスクから生まれたという説は有力ではない)。

 

 

教会

 

女神に仕える者達が勤める、国の政治機関。司法権と立法権の二つを有しており(厳密に言えば、有しているのは女神)、職務の幅はかなり広い。四ヶ国がどれも似た様な政治体制を持っているのは元々四ヶ国が一つの国から分裂した為であり、そもそも教会もその元となった国の政治機関を模していると言える。

教会には守護女神戦争(ハード戦争)中に解体された軍の代わりに教会所属の部隊があり、有事の際は展開する。しかしこれは国全体の防衛が出来る程の規模ではなく、実質的な教会、ひいては女神の私兵状態となっている。

 

教祖

 

人としての教会のリーダーであり、同時に人としての最高権力者。教祖は代々世襲制で、当代が教祖を続けられない状態で且つ後継者が何らかの理由で教祖を継ぐには問題があるとされた場合は、教祖一族の分家から教祖代行が選ばれる。

形式の上では女神と教祖の間に明確な上下関係はないが、女神は人に望まれた存在である事もあり、両者が並ぶ場合は女神が優先される。その上女神に比べるとかなり行動に制約がある為、女神程公の場に出る事は少ない。

教祖と女神は立場上関係が深く、良好な仲となる事が多い。

 

 

シェア

 

狭義的には女神に対する人々の強い信仰心の事。しかし一般的、広義的には女神以外にもシェアエナジーを力とする存在への強い感情として扱われる事も多く、更には他者へ対する感情と拡大解釈される事もある。シェアエナジーはシェアが元となった高エネルギーであるが、あくまでシェアが変質した存在であって、シェアの上位存在ではない。あくまで他者への強い感情や思いがシェアとなる為、日常生活で抱く様な感情や自分自身への思いがシェアとなる事は基本的に無い。また、正の感情からくるものを善意のシェア、負の感情からくるものを悪意のシェア(負のシェア)と呼ぶが、それは便宜的なものでありシェアとしての性質には差がない。

シェアの本質は信次元ゲイムギョウ界における、ありとあらゆる存在を凌駕する奇跡そのものであり、シェアエナジーや女神はその奇跡の一端に該当する。女神はシェアの担い手、つまり奇跡の体現者であるが大半の女神が扱えたのはシェアの力の極一部であり、その時代を生きる全ての人からの信仰心を得る事でやっと十全に振るえる可能性が生じるとされる。……が、これもあくまで憶測であり、これ自体を『奇跡』が覆す事もあり得る。

 

 

シェアエナジー

 

シェアが変質した高エネルギー体。どの行程でシェアがシェアエナジーに変質するかは不明なものの、教会のシェアクリスタルへ貯蔵される前の段階で変質していると見られている。女神やそれに準じる存在にとっての原動力であり、その用途は幅広い。元々は実体を持たないが結晶化する事でシェアクリスタルとなる為、理論上は従来のエネルギーの様に使う事も可能。その場合従来のエネルギーとは比較にならない程の多様性とエネルギー効率を持つが、機械での制御はほぼ不可能で、人を介した場合は正負問わず心身に多大な影響(負荷)がかかる為に実用化されてはいない。

善意のシェアが元となったシェアエナジーは人の精神を安定させ、逆に悪意のシェアが元となったシェアエナジーは精神を歪ませる。しかし短時間に多量のシェアエナジーを浴びた場合は善意のシェアであっても悪影響を引き起こす。これはシェアエナジー、そしてシェアが元々人の感情であり、多くの人からの思いを向けられるのは如何なる人であっても精神(と、そこから発展する事による肉体への)負荷となる為。

 

 

シェアクリスタル

 

シェアエナジーの結晶体。シェアエナジーの貯蔵庫としての役目を持つ教会のシェアクリスタルと女神が精製する、携行及び保存用のシェアクリスタルの二つが存在する。

 

シェアクリスタル(教会)

各教会に専用の部屋を持つ、大型のシェアクリスタル。シェアエナジーはこのクリスタルへと貯蔵され、時間単位で女神ごと設定された量を女神へと配給される。また、このクリスタルは女神の加護とも言える力を発しており、災害によって被害を受ける事は滅多にない(ユニミテスによるプラネテューヌ教会への攻撃においてクリスタルに被害が無かったのもそれが大きい)。

女神一人につきクリスタル一つ、ではなく各国一つずつである為守護女神と候補生はクリスタルを共用している。

 

シェアクリスタル(携行)

女神が自身のシェアエナジーを濃縮させ、結晶化させた物質。教会のシェアクリスタルと違いこちらは名詞の追加がされていないが、元々は教会のものを模して作られたのが携行及び保存用のシェアクリスタルであり、こちらが先ではない。使用した瞬間内包されたシェアエナジー全てが女神の身体へと流れる(何らかの手段で女神以外が解放した場合は周囲に放出される)為、シェアエナジーの急速回復に使える。しかし精製自体に別途シェアエナジーを消費する上余程の勢いでシェアを消費する、或いは超長期戦を行わない限り女神がシェア不足に陥る事はない為、基本的に女神は緊急用の数個以外にストックする事はなく、携行する事もあまりない。

 

 

守護女神戦争(ハード戦争)

 

四ヶ国間で発生した、とある戦争の名称。事の発端はギョウカイ墓場の統治権の問題(これの発端は、犯罪神復活の兆候及び阻止)であり、そこから女神間、国家間での不満が表に出る事で長期的な戦争となった。

 

前期

最も激しい戦闘が行われた時期。女神は勿論各国の軍も展開し、互いに被害が大きくなるにつれ戦闘も大規模なものとなっていった。最終的には軍民問わず多数の死者を生む事となり、各国の国力も大幅に低下してしまった為に、国民同士での戦闘は禁止となり、各国軍も解体された。

 

中期

天界で女神同士での戦闘が行われた時期。最も長かったのがこの時期であり、その間に各国の女神が世代交代する事となった。また、この時期女神は国の守護と統治が疎かとなってしまった為に、各国のシェア率が低下した。

 

後期

マジェコンヌの策略とネプテューヌの事実上の脱落により、実質的な休戦状態となった時期。先代と違い女神は互いを敵としか認識していなかったが、最終的には友好関係を取り戻し、マジェコンヌとの戦いを経て終戦へと向かう流れとなった。

 

 

プロセッサユニット

 

女神が女神化時に纏う装備。ボディースーツを彷彿とさせる、身体のラインを強調する様な服装部分をベースに身体の各部の機械的なパーツと背部に独立した翼型ユニットによって構成される。一見服装部分は脆そうに見えるがシェアエナジーを編んで作られている為、見た目よりずっと耐久性は高い。しかし多くの女神はプロセッサに防御力よりも自身の動きを阻害しない柔軟性を求める為、鎧の様な硬さを持つ訳でもない。

女神ごとデザインが違うのは、それぞれが自身に最適な仕様(耐久性や被服箇所など様々な要素有り)になる様精製している為。逆に言えば、状況によって仕様変更する事は可能だが、プロセッサは見た目よりも精密な作りをしている為即応品は十中八九低性能な物となってしまう。

部分的に形成する事や脱ぐ事、脱いだ上で更に精製する事も可能。但し脱いだプロセッサは時間経過で消滅してしまうので、長持ちさせる為にはそれ相応のシェアエナジーを予め配給しておく必要がある。

因みに、プロセッサはどれも扇情的だが、これは所謂『そういうもの』であり、基本的に女神の性癖が反映されている訳ではない(強いて言えば、むしろ女神を望む人の側に問題がある可能性の方が高い)。

 

 

魔法

 

全ての生命が体内に持つ魔力を利用する事による、能力の一つ。魔術と呼ばれる事もある。かなり多種多様であり、性質の上では女神の力もこれに近い。魔法には知識と技術、適性が必要で、知識と技術は魔法発動までの行程に、適性は魔法が発動するか否かに関係する。つまり、魔法適性が低い人は知識や技術が完璧でも魔法が発動しない、或いは発動までの行程に見合わない性能となってしまうのであり、同時に逆もまたあり得る。

魔法は魔力の塊を撃ち出す、魔力を身の回りに集めるという様な事が最も容易であり、そこから魔力の性質変化(例・光弾→照射)や属性付加(例・無→炎)などを加える事で難度が上がっていく。理論上は目標ごと周辺を凍結させる、目標の内側(体内)に物体を発生させる、といった事も可能だが、魔法は『発生させる座標に物質がある場合(気体の場合は殆ど影響無し)』と『発生させる座標に魔力がある場合』に難度が跳ね上がる。つまり、前者は一つ目に、後者は一つ目二つ目両方に該当する為成功させる事はかなり難しい。

 

ルウィー式魔法

ルウィーで主に使われる魔法。ルウィーは魔法国家である為魔法が普及しており、戦闘魔法以外にも日常生活や仕事で活用出来る魔法も多い。良くも悪くも洗練されている魔法の為、効率が良く発展もさせ易いが、他種(特に我流魔法)に比べると想定を超え辛い。

最高位魔法の一つに、『対魔術式魔法』というものがある。これは文字通り魔法を無効化させる魔法だが、対象の魔法に対し『魔力量は同じ』且つ『性質は間逆』の魔力の塊をぶつける必要がある(=対象の魔法を完全に看破する必要がある)為、実戦で扱える者はルウィー全体でも片手で数える程しかいない。因みにこの魔法は知識と行程が成り立っていれば発動する、唯一『魔法適性』が必要無い魔法(その為厳密には魔法ではない)である。

 

リーンボックス式魔法

リーンボックスで主に使われる魔法。リーンボックスは科学技術が一般的な為、殆どが戦闘魔法となっている。ルウィーと技術交流をしている事もあり、ルウィーには一歩劣るものの洗練もされている。

 

我流魔法

上記二つに該当しない魔法の総称。MAGES.の科学との融合魔術やマーベラスAQLの忍法も信次元ではこれとなる。習得目的、習得経緯がそれぞれであり、多くは独学か偶然の産物の為奇想天外なものも多く、ルウィー式やリーンボックス式より読み辛い事もあるが、洗練性は欠ける為に燃費や使い勝手が悪い事が多い。

 

 

魔導具

 

杖や本、指輪などの形を持つ魔法関連の道具(武器)。大きく分けて魔法の補助・強化型と魔法内包型の二つがあり、製作には些か以上の魔法知識が必要となる。

 

補助・強化型

持ち主の魔力消費の軽減、魔法発動行程の簡略化、発動した魔法への補正などが目的とされるタイプ。多くの魔法使いが持っている。

 

魔法内包型

専用の行程を踏む事により、内包された魔法を発動させる事が出来るタイプ。主に魔法適性が低い者が扱う他、発動が難しく時間もかかる高度・大規模な魔法の付加をされる事もある。前者の場合、同じ魔法を扱える場合は直接発動した方がほんの僅かに速い。

 

女神

 

人々の思いによって産まれる存在。普通の人間を遥かに超える力を持ち、国の守護だけでなく統治も行う。女神は奇跡の体現者とも呼ばれ、実際何人もの女神が奇跡、或いはそれに近い事象を引き起こしてはいるが、奇跡を任意に引き起こせる女神はごく僅かと言われている。守護女神とは各国における女神の代表の事を指すが、女神が複数いない場合は女神=守護女神となる。女神候補生は守護女神を支えつつも女神を学ぶ存在であり、候補生というよりは若頭に近い。

女神は人々に望まれて産まれる、つまり人の理想が具現化した存在である(その為、女神をアイドルの様に崇める者も少なからず存在する)。故に心身共にある程度成長・完成した姿で生まれ、同時に大きな成長(変化)はしない(不老もその為)。だが逆に言えば人の理想が反映される性質上、多数の人が女神の変化を望んだ場合は女神が変化する事もあり得る。

女神の力の原動力はシェアエナジー。女神は最もシェアに適した存在であり、戦闘に使用するだけでなく、食事や睡眠の様な生命に必要な大半の事をシェアエナジーで賄う事が出来る。しかし当然その分シェアエナジーを消費してしまう為、後述の人としての姿を含め、普段は普通の人として振る舞う。

教会のシェアクリスタルから配給されるシェアエナジーは、クリスタルに触れてアクセスする事で調整可能。単位時間辺りの配給量を増やせば戦闘で大盤振る舞いし易くなるが、女神の身体に内包可能な量を超過してしまった分のシェアエナジーは霧散してしまう為に、女神は配給量に気を付けている。

戦闘時以外の様な、女神としての姿が必要ない状況では女神は人としての姿をとる。人としての姿は多くの面で女神としての姿に劣るがその分シェアエナジーを殆ど消費せず、身体的な負担も無くなるという利点がある。また、そもそも女神の本当の姿は女神としての姿であり、人としての姿は省エネルギー化の為の仮の姿とも呼べる。

教祖という女神との明確な上下関係が存在しないもう一つの国のリーダーが居る、女神自体が民意の反映された存在、という二つの要素はあるが、形式的に言えば女神の統治下の国は伝統的支配やカリスマ的支配に近い独裁国家であり、教祖を説得、或いは自身の個性(=国民の望んだ部分)を利用する事で如何なる身勝手も通す事が出来、究極的には国の完全私物化も可能。しかし女神は総じて愛国心を持つ上、民意に反する事を続ければ最終的には望まれなくなる(=女神としての振る舞いを保てなくなる)為、殆ど机上の空論とされている。

 

 

モンスター

 

ゲイムギョウ界に存在する生物。動植物に似た姿を持つ個体が多いが、鉱石や幻想上の生物、人工物などの姿を持つ個体も生息する。多くは人や動物を襲うが、それ以外に興味が移っている場合やそもそも近くに動物がいない場合はモンスターごとの行動を行う。強さは基本的に身体のサイズに比例(一部例外有り)しており、強力な力と縄張りを持つ個体はノンアクティブモンスターと呼ばれる。当然ノンアクティブモンスターは危険だが、通常のモンスターに比べ動物を襲う事はかなり少なく、被害件数は通常モンスターの方が多い。モンスターは食事や休息も取るが、死亡すると身体の大部分は消滅してしまう為、動植物とは全く違う種類の生物だと考えられている。

モンスターは多量の負のシェアを浴びると汚染化し、汚染モンスターとなる。汚染モンスターは凶暴になり力も増す為、通常モンスターよりも危険視されている。だが、良くも悪くも本能的な動きが多くなるので、場合によっては汚染化前より対処し易くなる事もある。



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機体解説

本稿は本作に登場した機動兵器に関する解説です。しかしキラーマシン系統以外は殆ど無く、各キラーマシンも共通部分が多く、何より本稿は一部を除いて読まずとも問題ないと言えます。あくまでロボ好きな作者の趣味で設定したものの解説ですので、読み飛ばしてもらっても構いません。他の解説同様、指摘や質問、要望があれば追記・修正致します。


キラーマシンシリーズ

 

キラーマシン

 

所属・アヴニール、ルウィー教会部隊、野良

設定開発・アヴニール

生産形態・量産型

主推進器・底部大型ホバーシステム

武装

大型重鋲槌×1

大型重戦斧×1

胸部重粒子砲(ビームブラスター)×1

機構装甲尾×1

 

アヴニールによって開発されたキラーマシンの初期型。高馬力重装甲でありながらホバーシステムにより高い機動性を誇り、近距離を中心とした高い戦闘能力を持つというコンセプトはキラーマシンの根幹であり、初期型の本機もそれを満たしている。そして、後期のキラーマシン及びパンツァーシリーズにも共通する事だが、無人機故にパイロット関連の費用やリソースを一切必要とせず、同時にパイロットの安全を無視した強引な機動も取れるという大きな利点を有する。初期型故の無駄の多さや後期型と比べた場合の各種性能の低さはあるが、その分コストは低い(あくまで相対的に)為、量産機として使い易いという意見も少なからずあった。

 

大型重鋲槌

右腕部に装備される棘付きハンマー。特殊機構の無い単純な武器で、運用方法も重くて硬い武器を高馬力で振り回す、という至ってシンプルなものとなっている。

大型重戦斧

左腕部に装備される片刃の戦斧。打撃と切断という違いはあるものの、こちらも鋲槌と同様の扱い方をする。しかし攻撃部位の関係で、若干こちらの方が扱い辛い。

胸部重粒子砲(ビームブラスター)

胸部に内蔵されている固定兵装。本機唯一の射撃兵装であり、最大の破壊力を誇る。しかし使用時には胸部装甲を展開し内部を露出させる必要がある、連射が利かず、射角も前方に限られているという弱点も多い。

機構装甲尾

下半身に該当する部分に装備される武装。分割装甲を採用している為可動範囲が広く、後方への攻撃にも使える他、質量移動による方向転換や姿勢制御にも使用される。

 

 

キラーマシンMK-Ⅱ

 

所属・アヴニール、ルウィー教会部隊、野良

設定開発・アヴニール

生産形態・量産型

主推進器・底部大型ホバーシステム

武装

大型重鋲槌×1

大型重戦斧×1

胸部重粒子砲(ビームブラスター)×1

機構装甲尾×1

特殊機構・試作型高エネルギーシールド発生装置

 

キラーマシンの後継機として開発された機体。キラーマシンの運用データを元に改良が加えられた事で基本性能が向上し、更に機体各部の最適化によってペイロードに余裕が出来た分、試作型の防御システムを導入している。しかし改良と言っても別格になる程の高性能化ではなく、防御システムも試作段階である為に、前身であるキラーマシンをある程度余裕を持って倒せた人(兵器)であれば、防御システムさえ突破出来れば勝ち目は十分ある、という程度に収まっている。だが逆に言えばキラーマシンに苦戦する相手ならかなりの数を相手にしても立ち回れるという事であり、相手が既存の兵器であれば遅れを取る事はまずない。

 

武装

どの武装もキラーマシンと同様。但し本体が性能向上、最適化がなされた事で運用し易く、真価を発揮し易くなっている。

試作型高エネルギーシールド発生装置

両肩部に装備された防御兵装。防御性能はかなりのものだが展開中は本機も攻撃が出来ず、およそ前面180度しか覆えないという欠点もあり、特に乱戦でその欠点が響く。

 

 

キラーマシンMK-Ⅲ

 

所属・アヴニール

設定開発・アヴニール

生産形態・少数生産型

主推進器・改良型底部大型ホバーシステム

武装

大型重鋲槌・二型×1

大型重戦斧・二型×1

機構装甲尾×1

 

キラーマシンシリーズ及びパンツァーシリーズのデータをフィードバックし開発された機体。それまでの機体に装備されていたエネルギー兵装をオミットし、その分のリソースを基本性能に注ぎ込んだ事によって大幅な高性能化を果たした。それに対応して推進システムや武装も更新されたが、本機の想定敵である守護女神に対しては相手の土俵(基礎能力を活かした正面戦闘)で戦う事となってしまう為、思う様な戦果を上げる事が出来なかった。本機も当初は量産される予定だったが、先行量産がなされた時点でアヴニールが解体されてしまった為に本格生産には至らなかった。

 

改良型底部大型ホバーシステム

キラーマシン共通の推進システムの改良型。元々キラーマシンのホバーシステムは最高速度と直進加速に優れたものだったが、本機のものは更にある程度の跳躍能力を付加されており、運用の幅を広げる一因となった。

大型重鋲槌・二型

機体の性能強化に合わせてアップデートされた武装。とは言っても運用方法は変わっていない為、重量と強度の向上だけに留まっている。

大型重戦斧・二型

鋲槌と同じくアップデートされた武装。槌や斧の達人の動きを再現するOSを搭載する案もあったが、大型機械(且つ無人機)では再現が中途半端にしかならず、むしろ戦闘能力低下に繋がると判断され搭載される事はなかった。

機構装甲尾

唯一変更のなかった武装。しかしそもそも本武装は本体の一部であり、本体強化がそのまま本武装の強化に繋がる為、Ⅱまでより柔軟性と可動速度が上がっている。

 

 

キラーマシンMK-ν

 

所属・アヴニール

設定開発・アヴニール

生産形態・試作型

主推進器・改良型底部大型ホバーシステム

武装

大型重鋲槌・二型×1

大型重戦斧・二型×1

胸部重粒子砲/拡散粒子砲(ビームブラスター/ビームショットカノン)×1

機構装甲尾×1

特殊機構・高エネルギーシールド発生装置

 

アヴニール社の最新鋭試作機。開発コンセプトは『Ⅲの基本性能を維持しながら改良されたエネルギー兵装を再度搭載する』というものであり、そのコンセプトを過不足なく達成している。その結果、本機はそれまでのキラーマシンシリーズの集大成とも言える機体となった。しかしその分コストは高騰している為、量産には向いていない。そもそも本機は実戦試験待ちの試作機であり、Ⅲ同様本格生産が始まる前にアヴニールが解体された関係でアヴニールでは数機しか開発されていない。だが、本機の完成度の高さはラステイション、プラネテューヌ双方で評価され、各国の新型機動兵器開発のデータ取りの為に改めて数機が生産された。余談だが、開発が間に合えば本機には遠隔操作兵装を搭載する案もあったらしい。

 

大型重鋲槌・二型、大型重戦斧・二型、機構装甲尾

Ⅲの物と同様の武装。

胸部重粒子砲/拡散粒子砲(ビームブラスター/ビームショットカノン)×1

新型のジェネレーターを採用し、エネルギー回路と砲身に見直しと改修のなされたビーム砲。出力と射程の強化の他、新たに拡散モードが搭載されている。これは射程こそ短くなるものの効果範囲が広く、高機動の敵への対応力が大きく向上している。

高エネルギーシールド発生装置

研究を重ね、正式採用へと至った防御兵装。最大の欠点だった範囲を改善し、全方位へと展開が可能となった為、数的不利な状況や乱戦でも使い易くなっている。但し、防御中は攻撃出来ないという点は変わっていない。

 

 

ハードブレイカー

 

所属・アヴニール

設定開発・アヴニール

生産形態・試作機

主推進器・改良型底部大型ホバーシステム

武装

大型重鋲槌・二型×1

大型重戦斧・二型×1

胸部重粒子砲/拡散粒子砲(ビームブラスター/ビームショットカノン)×1

機構装甲尾×1

特殊機構

高エネルギーシールド発生装置

対女神用女神化封印システム

 

マジェコンヌの開発した対女神用女神化封印システムを採用した、アヴニール社の試作機の一つ。しかし、本機の頭部から下は全てνと同じであり、頭部も封印システムを搭載したのみなので、実質的には封印システム搭載型キラーマシンMK-νである。その為性能や武装はνと変わらず、むしろ頭部のサイズはそのままにパーツを追加した為レーダーやセンサー用機材が割りを食い、索敵系の性能はやや低下している。だが、それまで敗北を重ねていた女神に対しては完全に優位に立てる機体であり、想定外の事態が重ならなければ女神一行に勝利していた可能性もある。また、本機は稼働実験や耐久テストの段階の機体である(=実戦試験段階に至っていない)為、ソフト面の安定性にも欠ける。

 

武装・特殊機構

νの物と同様。

対女神用女神化封印システム

頭部に搭載された、文字通りのシステム。効果範囲内のシェアエナジーの活動を乱す事で女神化を封印しているとされている。名称は対女神用だが、シェアエナジーを利用してる生物やシステムには例外無く効果を発揮するシステムである。但し、封印システムの想定を超えた規模のシェアエナジーや女神の場合は封印出来ない。

 

 

パンツァーシリーズ

 

所属・アヴニール、ルウィー教会部隊、野良

設計開発・アヴニール

生産形態・量産型

主推進器・無し(四脚による移動)

武装

高硬度伸縮型アーム×2

重粒子砲(ビームブラスター)×1

 

キラーマシンとは別系統の機動兵器。重戦車の延長線上に位置する機体の為キラーマシンに比べると機動力に大きく劣り、近接格闘能力もあまり高くは無いが装甲強度と遠距離火力は全く劣らない為、遠距離からの殴り合いや拠点防衛であればキラーマシンに引けを取らない。キラーマシンシリーズの台頭以降新型の開発は殆どされなかったが、これはアヴニールの研究開発のメインがキラーマシンシリーズに移ったから、というだけでなく、パンツァーシリーズがシンプル且つ完成度の高い機体故に、パーツ単位でのアップデートによる性能向上が容易だからという事もある。また、アヴニール社の大型機動兵器群の中では比較的安価で整備もし易いという点から、数を揃えるのに適しているともされている。

 

高硬度伸縮型アーム

機体両脇に装備されたアーム兼近接格闘兵装。稼働範囲はあまり広くないが、伸縮によるレンジの変化と高い強度により、当てる事が出来ればかなりの威力が期待出来る。

重粒子砲(ビームブラスター)

本体中央に内蔵されたエネルギー兵装。キラーマシンの物と同系列であり、威力はキラーマシンに若干劣るが連射性においては若干こちらが上回っている。

 

 

エミカル

 

所属・パッセ

設計開発・ラステイション工業団

生産形態・試作型

主推進器・脚部中型スラスター×2

武装

54㎜携行重機関砲×1

大型両刃重剣×1

特殊機構

脚部ローラー×2

追加装備用ハードポイント(多数)

 

パッセが主導し、ラステイションの中小企業が中心となって開発された試作型有人機動兵器。『完全な人型』をコンセプトとして開発された本機は元々、パッセの先代社長が考案したものだった。だが技術と資金不足で開発は停滞しており、パッセが科学技術博覧会で最優秀賞を受賞するまではとても実戦運用出来るレベルではなかった。しかし受賞を機に資金の問題が解決され、マジェコンヌの脅威に対抗する為の兵器が必要だと考えた中小企業が参加する事で大きく開発は進み、守護女神戦争(ハード戦争)末期に遂に数機の試作機がロールアウトするに至った。ただ、ツインアイではなくゴーグルアイを採用している事や腕部脚部の長さの比率が人と若干違う事などからも分かる通り、完全な人『型』であり人をそのままスケールアップした形状の機体ではない。本機はキラーマシンと比べると総合性能に劣り、問題点も数多い機体であったが、アヴニール社の機動兵器とは逆の(暴走の危険性の無い)有人機てあり、後継機は開発費用や時間に見合うだけの機体となると見込まれた為、後にラステイション国防軍の機動兵器の雛形として採用される事となった。

 

脚部中型スラスター

両脚部に搭載された推進器。ホバーシステムに比べると燃費が悪く操作が難しいが、跳躍を含めた立体的な機動力に長け、急加減速性能もホバーシステムより高い。

54㎜携行重機関砲

左右どちらかの腕で保持する携行火器。連射系兵装としては十分な威力と連射性を持ち、攻撃、迎撃、牽制と機関砲としての役目をどれも一通りこなせる性能を持つ。

大型両刃重剣

左右どちらかの腕で保持する近接格闘兵装。キラーマシンシリーズの戦斧より切断力が高く、軽量でもある為取り回しに長けるが、その分運用にはそれなりの技術が必要。

脚部ローラー

両足裏に内蔵されている移動用装備。スラスターによる移動より低燃費且つ操作が楽である為、長距離移動やエネルギー節約等、様々な場面で活用される。

追加装備用ハードポイント

機体各部に搭載されたアタッチメント。本機は試作機である事、人型故の拡張性の高さを存分に活かす事、外付け装備による性能変化等を理由として用意された。



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技(スキル)集

OIの技(スキル)集にて予告していたOA版、やっと投稿する事になりました。えぇ、OAとしては約一年振りの更新です。また何かあれば更に更新する事もあるのかもしれません。
OAにて登場した技を全て解説したつもりですが、もしかすると抜けている技があるかもしれません。なので、もし抜け落ちを発見した際には教えて頂けるとありがたいです。


イリゼ

 

天舞壱式・桜

高速の連撃によって自身の周囲を攻撃する技。素の能力に加えて遠心力や質量移動等の動きに作用する力を全て使う事で成り立たせる技で、状況によってはシェアエナジーの爆発も力に加算する。単純な攻撃技としては勿論牽制や全方位攻撃に対する迎撃にも使える汎用性の高い技だが、特定対象ではなく前後左右上下(下は空中時のみ)を狙う為に対単体攻撃としては無駄が多くなる。また、強引な軌道変更や急加減速を行う性質上腕への負担も小さくない。

(使い手から一言)「もう一人の私が編み出した天舞技法の一つ。ただのモンスター群なら技使うまでもないし、自然と迎撃やカウンターとしての運用が基本になるんだよね」

 

天舞弐式・椿

流れる様に敵の周囲を動きつつ攻撃を浴びせる技。基本相手に致命傷を与える目的の攻撃は最後のみで、それまでの攻撃は撹乱や体勢崩しが主な目的。その為複数回攻撃を当てる事を前提としており、巨大な敵や硬い敵には有効な一方素早い敵や脆い敵には非効率である場合が多い。因みに上記の壱式とこの技は決まった動きがあるのではなく一連の流れをまとめた表現であり、厳密に言えば技というより型という方が近い。

(使い手から一言)「もう一人の私が編み出した天舞技法の一つ。派手なだけが技じゃない、積み重ねも技足りうる…って事だよね、もう一人の私」

 

天舞陸式・皐月

圧縮シェアエナジーの爆発を翼と武器(の背)を中心に受ける事で加速し、強襲する技。翼は急接近時、武器は肉薄後の攻撃時に爆発を受ける。身体能力と爆発を合わせた速度は相当なものであり、サブカルチャーにおける居合いの様な運用が可能。上記の通り速度に長け、その速度が乗った攻撃も自然と高威力になる強力な技だが複数の爆発を纏めて身体に受ける為身体的負担も比較的大きく、相手と近過ぎると上手く攻撃に繋げられないという面も持つ。

(使い手から一言)「もう一人の私が編み出した天舞技法の一つ。シンプルに強い技と言えばこれ!…気を付けないと相手に激突したり武器が飛んでっちゃったりするけどね…」

 

フルティミックハーツ

ネプテューヌ、ノワール、ベール、ブランとの合体技。彼女等五人で放つ最高最大級の技で、ネプテューヌが斬り込み斬り裂き、ベールが面を制圧し、ブランが光芒で薙ぎ払い、ノワールが高速で剣を踊らせ、最後にイリゼが両断を行う。守護女神の四人は相手の状況によって攻撃回数や角度が若干変わる事もあるが、イリゼは全身全霊の一太刀を叩き込んで締めとする為変わる事はない(勿論イリゼが攻撃する前に敵が倒れた場合は別)。

(使い手から一言)「私達五人の絆で紡ぐ五人の切り札。この技には私達の…ううん、私達を信じてくれる皆の思いが込められてる、大切な技でもあるんだよ」

 

 

ネプテューヌ

 

デュアルアーツ

剣撃と蹴りを合わせた技。ジャンピングアーツという技から発展したもので、随所に洗練された部分が見受けられる。特筆する程高威力という訳ではないが、別の技の前後に放てる様な身体的負担や使用条件の緩さが売り。一応発展技ではあるが、ネプテューヌは感覚型である為この技に限らず入念な訓練の末に発展させた訳ではない。

(使い手から一言)「スタイリッシュさの増したジャンピングアーツだよ!使い易いし意外と役立つという、我ながら優秀な技なんだよね〜」

 

デュエルエッジ

全身の力を込めた横一線の斬撃を放つ技。ネプテューヌが扱う中でもかなりシンプルな技で、一見すれば単なる横斬りにしか見えない。しかし実際には両腕だけでなく全身の力を込め、更に手首や腰の捻りや足場の(ある場合は)踏み込み、女神化時ならば翼による姿勢制御など様々な点を意識した上で放つ高難度の技となっている。

(使い手から一言)「フルスイングの一撃、デュエルエッジ!ふふーん、真の実力者はこういうシンプルそうな技でも色んな技術を組み込んでいるのさ!」

 

32式エクスブレイド

シェアエナジーによって大剣を精製し、目標に向けて放つ技。大剣は精製時(用途や状況に合わせて)サイズを変える事が可能で、基本は遠隔範囲技として扱う。しかしこの技の真価は応用性の高さであり、足元に展開する事でジャンプ台として使用する事や他者の付加系の技と合わせてより強力な剣へ変貌させる事も可能。但し単発技として使う事が前提であり、ある程度の複数精製は出来ても乱射や広範囲制圧は難しい。

(使い手から一言)「空中に武器を出して射出するのは主人公のお決まりだよね。数で攻めるイリゼと質で圧倒するわたし、って感じかな」

 

ビクトリィースラッシュ

接近を仕掛け、すれ違いざまに二連袈裟懸けによってV字に斬り裂く技。前述のデュエルエッジ同様技術技量全てを注ぎ込む技であり、女神化時であればほぼ二度の袈裟懸けは同時と言っても過言ではない程の速度を持つ為、彼女が瞬間的に行う技の中では最高峰の威力を持つ。その分咄嗟に放つ事は不可能で、更に気分が最高レベルで高揚していなければベストの威力を出せない、つまりは名称通り『勝利』に繋がる状態でなければ放てないという条件を持つ。

(使い手から一言)「これが勝利を、未来を掴む為の一撃だよ!…あ、原作ユーザーさんは分かってると思うけど、『ビクトリィー』だからね?」

 

ネプテューンブレイク

ありとあらゆる剣撃を放つ、ネプテューヌの切り札とも呼べる技。刀の届く距離からの斬撃だけでなく、距離を詰めての攻撃や逆に攻撃の後距離を開ける様な技も組み込まれている。一撃一撃が軽くないものを立て続けに放つ大技の為基本的に対強敵でのみしか使われず、使う際にも決め手の技としての運用が多い。また決め手と言っても一撃の威力では上記のビクトリィースラッシュの様にこちらを上回る攻撃もあり、状況によって使い分けられている。

(使い手から一言)「敵もバランスもぶっ壊す、わたしのTHE・必殺技がこれ!これを喰らったらモンスターもロボットも木っ端微塵確定だもんね!」

 

ガーディアンフォース

ノワール、ベール、ブランとの合体技。ノワールとベールが敵を削り、ブランが追い詰めたところでネプテューヌがトドメを刺す事で完遂する。全員きっちりダメージを与えていくが後に控える者のいないネプテューヌは特に威力を期待されており、三人が役目を完璧に果たせば果たす程プレッシャーのかかる役割…ではあるが、ネプテューヌは良い意味でマイペース且つポジティブである事が功を奏し、プレッシャーを感じないどころかそれを力に変えている。

(使い手から一言)「どんなに相手が強くても、わたし達は挫けたりしない。これが守護女神の…ゲイムギョウ界を背負う女神の全力だよ!」

 

フルティミックハーツ

ノワール、ベール、ブラン、イリゼとの合体技。ネプテューヌは先陣を切り相手の狙いを挫く事が一番の目的で、ダメージの他に武器や技の破壊を狙う事もある。この技の際に彼女が見せた可能性は斬り裂く力で、対象の防御を崩すや妨害するではなく防御そのものを無力化するが如き斬撃を見せた。

(使い手から一言)「わたし達五人の絆の技だよ。楽しい事も苦しい事も一緒に経験してきたわたし達だからこそ出来る技だもん、これは誰にも真似出来ないだろうね」

 

 

ノワール

 

トルネードソード

剣にシェアエナジーで形成した刃を纏わせる技。この纏うシェアは文字通り竜巻の様な螺旋の力を内包しており、武器強化だけでなくその力を解放する事による攻撃も可能。シェアの刀身は放つ事も可能で、遠隔攻撃の際もそのものとシェアの解放とで二段構えの攻撃能力を有する。放つ場合は剣を振るって打ち出すのが基本となるが、一部解放によって螺旋を推進力とし飛ばす事も出来る(そうした場合、推進力とした分攻撃力はやや落ちる)。

(使い手から一言)「強化に追撃、遠隔攻撃に推進力…一つの技で色々出来るのがこの技の強みよ。何でも出来る優秀さは、使い手の私らしさがよく表れているわよね」

 

インフィニットスラッシュ

敵を打ち上げトルネードソードを併用した連撃を叩き込み、最後に蓄積させたシェアエナジーを爆発させる技。連続剣撃という意味ではネプテューンブレイクと似ているが、あちらは剣技重視、こちらは機動力やエナジー蓄積という追加攻撃重視という違いがある。威力は有無を言わせない程のものだがそれに見合うだけの身体的負担と集中力の磨耗もあり、最後に背を向けている事からも分かる通り決め手として使う事が前提となっている。

(使い手から一言)「持てる技を駆使して放つ、私の切り札の一つ。一撃一撃が強力な剣技を何連撃も打ち込んで、最後は爆発もさせるんだもの。これぞ正に必殺技ってものよ」

 

ガーディアンフォース

ネプテューヌ、ベール、ブランとの合体技。ノワールはベールと共に目にも留まらぬ連続攻撃を仕掛け、後の二人に繋げる。ガーディアンフォースというのは歴代の守護女神が全員で放つ技(守護女神が不仲の場合は別)で、代によって細かな部分や役割の違いはあるものの、全体としての流れは変わらず受け継がれ続けている。

(使い手から一言)「この技は、ある意味私達守護女神が和解出来た事の象徴よね。守護女神の…ゲイムギョウ界を背負う女神の誇りの力を受けてみなさい!」

 

フルティミックハーツ

ネプテューヌ、ベール、ブラン、イリゼとの合体技。ノワールは三人が攻撃を行った後の追撃とトドメの為の隙作りを目的としていて、超速度によって斬り込んでいく。この技の際に彼女が見せた可能性は一切無駄の無い滑らかな超速接近で、スピードは勿論迎撃を全て完璧に避けた点からもその力が見受けられる。

(使い手から一言)「私達五人の繋がりが生んだ技ね。守護女神として…いいえ、私達の大切な全ての人達の為への思いがこの技を形作っているわ」

 

 

ベール

 

シレットスピアー

空中に魔法陣を作り出し、そこから巨大な槍を放つ技。槍の突進力は高く、複数目標を纏めて貫く事も容易。振り回しが出来ない事を始め汎用性ではネプテューヌの32式エクスブレイドに劣るが、多くの遠隔攻撃と違い刃が通り過ぎた後も槍の柄が残る為に射線上の占領が可能で、相手の反撃を邪魔する事やそれを利用した連携が出来る。また普段はあまり行わないが、槍は一度にある程度の複数精製も行える。

(使い手から一言)「槍の長所はその貫く力。シンプルながらも侮れないその長所を最大限に活かしているのがこの技なのですわ」

 

スパイラルブレイク

槍による高速突進(ランスチャージ)を叩き込み、槍の投擲によって締めくくる技。(投擲も刺すという捉え方をすれば)刺突でのみ構成されている技で、ベールの技の中ではある意味比較的シンプル。しかしそれは最も良い攻撃を突き止めた結果のシンプルさであり、凶悪と言える程の強力さは他の女神の大技にも劣らない。最後の投擲は重力による加速、それまでの突進は自身の生み出す加速を速度と威力に乗せる為、一撃毎に適切な距離を取る必要がある。

(使い手から一言)「威力、速度、そして美しさの全てを兼ね備えているのがこの技ですわ。何がスパイラルなのかは…ふふっ、皆様のご想像にお任せしますわ」

 

ガーディアンフォース

ネプテューヌ、ノワール、ブランとの合体技。ベールはノワールと共に敵の左右に回り込み、剣と槍による連続攻撃を叩き込む。後に続く二人の為に相手の体勢崩しと致命傷ではなくダメージの蓄積を目的としており、特に同時に攻撃を行うノワールとは接近、攻撃、離脱の全てで息を合わせる事が必要。

(使い手から一言)「敵対していたわたくし達がこの技を使う事には、大きな意味がありますわね。守護女神の…ゲイムギョウ界を背負う女神の決意を見せて差し上げますわ!」

 

フルティミックハーツ

ネプテューヌ、ノワール、ブラン、イリゼとの合体技。ベールは射出した槍による面制圧と行い、それによって相手の反撃を挫きつつ攻撃を繋ぐ事を目的としている。この技の際に彼女が見せた可能性は生み出した槍が表しており、数十を優に超える数の槍を僅かな時間で精製し射出していく力は圧倒的そのもの。

(使い手から一言)「わたくし達五人の繋がりで編み出した技ですわ。思いを受け、思いを重ね合わせて戦うわたくし達だからこそ、この技を生み出せたのでしょう」

 

 

ブラン

 

テンツェリントロンペ

槌(戦斧)による高速での回転攻撃を行う技。駒の様に回りながら武器を振り回すという単純な技だが女神の力による回転は速度も威力も相当なもので、尚且つ並外れた三半規管の強靭さによって使用後も即別の行動に移れるという強さを持つ。ただこの技は遠心力を利用している分発動直後は後半と比べると威力が乗らず、技の最中に即別の行動に移る事が難しい(上記の説明はあくまで予定通りに終えられた場合の事)という短所も存在する。

(使い手から一言)「周囲に多段攻撃しながら移動も行う、状況によっては破格の強さを発揮する技よ。…あんまり技としての見栄えが良くないのは難点だけど…」

 

ゲフェーアリヒシュテルン

氷に近い性質の光弾を複数作り出し、槌(戦斧)によって打ち込む技。叩き出す事から光弾は拡散する傾向がある。光弾自体は魔法によって精製しており、系統としては攻撃魔法に該当する。魔法使いとしての適性が低いブランが魔法を攻撃に使う為に考案した技で、実際魔法使いとしての能力はそこまで要求されないが叩いた際には誤爆せず、敵や目標に当たった際には機能する仕様を作り出す上で多くの魔法知識や計算能力が必要となる。

(使い手から一言)「弾幕はパワーだぜ、ってな。……わたしにもっと魔法適性があれば、こんな力技で成り立たせる必要はないのに…」

 

ハードブレイク

槌(戦斧)による打撃(斬撃)、シェアエナジーを使った地盤隆起、槌(戦斧)投擲、シェアエナジーと魔力の複合攻撃を立て続けに行う技。一連の流れの中で多彩な攻撃を放つ事が特徴で、遠近物理魔法と攻撃毎の性質も違う為動きを読むだけでは対応仕し切れない。しかしその分現在行なっている攻撃に全力を出しながらも常に次の攻撃の事を考えなくてはならず、集中力の消費は相当なものとなる。また遠近を切り替える事から、位置取りの注意も必要。

(使い手から一言)「攻撃は相手に対応させずにぶつけられるのがベスト、だからこそこの技は多彩なのよ。…勿論、多彩にしなくてもわたしの技量なら大概は通用するけど」

 

ガーディアンフォース

ネプテューヌ、ノワール、ベールとの合体技。ブランは大きなダメージを与えつつ、ノワールとベールが崩した体勢を更に崩す繋ぎを務める。これは四人が一切のミスなく動く連携技だが彼女等が攻撃前に打ち合わせをする事はまずなく、無意識に三人の動きを読み取り、同時に信頼する事で連携を成り立たせている。

(使い手から一言)「全員がベストを尽くし、ベストを尽くしてくれると信じて動く。守護女神の…ゲイムギョウ界を背負う女神の覚悟を目に焼き付けやがれッ!」

 

フルティミックハーツ

ネプテューヌ、ノワール、ベール、イリゼとの合体技。ブランはシェアエナジーと魔力を織り交ぜたエネルギーの柱(ビーム)を放ち、敵とその周囲を薙ぎ払う事を目的とする。この技の際に彼女が見せた可能性はその光芒の在り様で、シェアエナジーを織り交ぜているとはいえ超威力の魔法攻撃を放つ姿は最早進化の域とも言える。

(使い手から一言)「わたし達五人の心を重ね合わせた技よ。思いをぶつけるんじゃない、思いを届ける為の技だからこそ…この技は強く、決して折れないわ」

 

 

ロム

 

アイスコフィン

氷塊を作り出して攻撃する魔法。ロムとラムのオリジナル魔法で、彼女等の得意とする魔法でもある。対象の足元に魔法陣を展開し、そこから氷塊を作り出してぶつけるのが本来の形だが魔法の性質上それ(個体が存在している座標に魔法を発生させる事)は難度が高いからか、空中で作り出して、そこから飛ばしてぶつけるという方法を取る事が多い。また氷塊は自由に形を変えられる為、相手によって鋭利化や大型化させる事もある。

(使い手から一言)「ラムちゃんとおそろいの魔法、だよ。おねえちゃんもミナちゃんも、この魔法はすごいってほめてくれるの…♪」

 

 

ラム

 

アイスコフィン

氷塊を作り出して攻撃する魔法。ラムとロムのオリジナル魔法で、彼女等の得意とする魔法でもある。一見ルウィー式の氷結魔法に近いがこちらは我流魔法で、その使い手である二人も半ば感覚的に使っている為発動行程においてどの様な違いがあるのか不明な点が多い(ロムとラムの成長につれて性能も変化しているが、これは魔法自体が変化しているのか使い手の技量向上によりそう見えているだけなのかが上記の理由で判別出来ていない)。

(使い手から一言)「ロムちゃんとおそろいの魔法なの。じつはコフィンってどういう意味か知らないけど…なんかかわいいひびきだからきっといい意味よね!」

 

 

コンパ

 

とーはいるぱんこ

空中へと展開した無数のエネルギー球による制圧攻撃と自ら放つ魔力による爆破を行う魔法。我流魔法の一種で、支援を得意とするコンパにとっては数少ない攻撃魔法でもある。発動の際の反動で転ぶ、放ったエネルギーがハートの意匠等あまり緊張感の感じられない魔法だがその威力は絶大で、並みのモンスターに放とうものなら完全に塵芥としてしまう程。但し我流魔法である事も手伝って魔力消費が凄まじく、おいそれとは使えない。

(使い手から一言)「わたしは攻撃があまり得意じゃないですけど、それでも皆の為に頑張るです!…それにしても、我ながら何か気になる技名です…」

 

 

アイエフ

 

魔界粧・轟炎

魔法陣より燃え盛る炎の柱を放つ魔法。上記のアイスコフィン同様対象の足元に魔方陣を展開して攻撃する事も可能。精度自体は高いが我流魔法という事で魔力消費の観点ではあまり優秀ではなく、連射する様な魔法ではない。思いや想像が高じて(転じて)力となる我流魔法だが、この技はそのお手本と言ってもよい程我流魔法らしい我流魔法で、長所(威力や汎用性)と短所(魔力消費の多さ)がはっきり分かれている面でもそれが表れている。

(使い手から一言)「私が旅の中で身に付けた、魔界の豪火を顕現させる技よ。…ちゅ、中二言うな!実際に魔法として成り立ってるんだから妄想じゃないでしょ!」

 

アポカリプスノヴァ

カタールによる連続遠隔斬撃と衝撃波によって攻撃する技。一応広義的には我流魔法に該当するが、アイエフの我流魔法の中では珍しく高威力単発型ではなく連発型。流れる様な動きでカタールを振るう事で素早く且つ勢いのある斬撃を放ち、目標を斬り裂いていくのが特徴的。前述の通り我流魔法の一種ではあるがこれまでのものとは違い、近接戦の技術や経験が反映されている為洗練度が他の我流魔法に比べかなり高い(それでも燃費はまだ悪い方)。

(使い手から一言)「私の持てる技術と能力を駆使した切り札、それがこれよ。大切なものを守る為なら、中二だろうが何だろうが使える物は全て使ってやろうじゃない!」

 

 

MAGES.

 

烈火の戦塵

十字に展開する炎によって攻撃する魔法。どの位置でも攻撃魔法として十分な火力を持つが、特に交差点は高火力。相手の足元からと手元からのどちらでも放てる系統で、更には追撃として火柱も精製出来る為、利便性が高い。これだけに限らずMAGES.の扱う魔法は殆どが我流魔法だが、彼女は独自に魔法を研究し、その中で技術として洗練されている国家魔法も学んでいるが故に我流魔法使いの中では比較的燃費に関して余裕がある。

(使い手から一言)「我が魔術が一つ、烈火の戦塵。闇の炎の中では如何なる存在もただでは済まない…って、何やらアイエフの炎魔法と被っている気がするな…」

 

神をも冒涜せし禁断の論理

目標の足元に魔法陣、その縁に四つの魔力球を展開し、そこから超出力の魔力奔流を叩き込む魔法。当然効果範囲は魔法陣内のみだが魔法陣はそこそこ広範囲展開も可能で、多少ながら魔法陣の外へも余波でダメージを与える事が出来る。魔力を注ぎ込めば注ぎ込む程高威力となる(一般的には魔力を注ぎ込み過ぎると魔法が機能不全になる事が多い)、威力向上が容易な魔法ではあるが、逆に言えば魔力依存な面が強いとも言える為魔力量には注意が必要。

(使い手から一言)「熾烈にして膨大なる魔力によって敵を飲み込み消し飛ばす魔法だ。ふっ…この魔法は完成度を増せば増す程、世界の法則は崩れていくだろう」

 

 

マーベラスAQL

 

秘伝忍法・乱れ咲き

形見である二本の小太刀を両手に構え、刀身に火遁を纏った状態で連撃を放つ技。剣術自体が相当な威力と速度を持っており、そこに火遁が加わる事でより高威力となる。更に纏っているのが炎である為に熱量による切断力向上も見込め、非常に斬り裂く事に力を発揮する技となっている。ただ火遁は気を付けなくては刀身を痛めてしまう危険性があり、その二本は形見という事で(精神的に)そう簡単には抜けないという部分も持つ。

(使い手から一言)「忍者としての剣術と忍法、それを高度に組み合わせた秘伝忍法だよ。忍ぶ者でも、時には乱れ咲く花の様に輝かなきゃ!」

 

 

ファルコム

 

ソルブレイカー

正面から対象へと斬り込み、連続斬り、回転斬り、すれ違いざまの一撃と立て続けに攻撃を打ち込む技。一撃一撃が重く、無駄の無い動きから次々と放つ為派手さは少なくとも技としての完成度は相当なもの。弱点や防御の合間を縫う連続斬り、遠心力の乗った斬撃を高速で何度も叩き込む回転斬り、トドメの高威力斬撃と構成も入念なものだが、それぞれの流れの切れ目では一瞬ながら近距離で隙を見せてしまうという欠点も存在する。

(使い手から一言)「あたしの使う八葉一刀流の究極奥義!真髄にして真価である斬撃は、生半可な事じゃ止めるどころか鈍らせる事すら出来ないよ!」

 

 

ブロッコリー

 

めからびーむ

文字通り目からビームを出す技。……だが実際に出てくるのはゲル状の物質で、射程距離も数十㎝から数m程度。本人曰く失敗した場合こうなるらしいが…実は技(正確には我流魔法)としての性質が大きく違い、こちらは攻撃魔法ではなくゲルが傷を癒す力を持つ治癒魔法となっている。失敗というより突然変異と言うべきこのビーム(ゲル)だが、ブロッコリーは本来のものとこれとを使い分ける事も出来る様で、結果的にこちらも一つの魔法として成り立っている。

(使い手から一言)「ゲルに抵抗がなければこれで回復するといいにゅ。因みに途中までは本当のビームと同じ行程だから、直前での切り替えにも対応しているんだにゅ」



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プロローグ 少女達の邂逅

バーチャフォレストの地下、魔窟。

およそ一般的な少女には似つかわしくないであろうこの場所に三人の少女の声が響く。

 

「ねぷぅ…ねーまだゴールまで着かないの?」

 

真ん中を歩く少女がぼやく。

短めの薄紫色の髪とそれより濃い紫色の眼を持つ、快活そうな少女の顔は憂鬱そうに歪んでいる。

 

「ねぷねぷはもう飽きちゃったですか?」

 

左隣の少女が声を返す。

ウェーブのかかったミルクティー色の髪と赤みの強い琥珀色の眼の少女は温厚そうな雰囲気でぼやく少女に微笑む。

 

「ゴールって何よゴールって…ゲームじゃないのよ?」

 

右隣の少女が突っ込み気味に嗜める。

リボンで茶色の髪の一部を結んだ緑色の眼の少女は二人よりも少し大人びた表情を浮かべる。

 

「へ?何言ってるのさ、あいちゃんにはプレイヤーの皆…あ、いや今回は読者の皆かな?…が見えないの?」

「またそんな事言って…側からだとイタい人にしか見えないわよ?」

「イタい人?やだなぁ、わたしはイタい人じゃなくて主j 「ねぷねぷは主人公さんなんですよね〜」 …こんぱ…そこはわたしに言わせてよ…」

 

ダンジョン内とは到底思えない緊張感もへったくれもない会話だが、地面に刺さっている所を発見されるという衝撃的な出会い方や不注意が原因で正面激突を起こすというベタ過ぎる出会い方をした彼女達では仕方ないのかもしれない。

当然、モンスターがその声に気付かない筈はなく、何度も彼女等に襲いかかるが…

 

「ぬら〜!」

「ていっ!」 「えーいっ!」 「遅いっ!」

「ぬ、ぬらぁ〜……」

 

返り討ちにされ、情けない断末魔をあげながら消滅するモンスター。三人は慣れた様子で各々の武器をしまい(三人の武器のうちでまともなものはカタールだけであり、他は修学旅行のお土産と思しき木刀とサイズのおかしい注射器である)、歩みを進める。

そんな珍妙な少女達一行だったが、別に暇を持て余して散歩に出掛けた訳でもなければ流浪の民という訳でもない。

 

「…にしても、さっきは驚いたわ。まさかねぷ子が変身するなんてね」

「わたしも最初に見た時はびっくりしたです」

「だよねー。当のわたしだって最初は驚いたし今も変身出来る理由が分かんないもん」

「不思議ですね…あ、行き止まりみたいです」

「そうね、じゃあちょっと戻りましょ」

 

暫く歩いた末に行き止まりにぶつかり、来た道を引き返す一行。またも紫色の髪の少女がぼやくと思いきや、少し開けた場所で足を止める。

 

「じゃあ今度はこっちの道を…って、どうしたのよねぷ子?」

「…ねぇこんぱ、あいちゃん…さっきあんな穴開いてたっけ?」

「え?…うーん…開いてなかったと思うです」

「そうね、あのサイズの穴なら見落とす訳ないし…あ、さっきねぷ子がここら辺で倒したモンスターがぶつかったんじゃないかしら?」

「そっか、わたしが吹っ飛ばした後砂煙で壁の方は見辛かったもんね」

 

さっきとは行き止まりに繋がる道に入る前、門番の様なモンスターと変身した少女が戦った時である。

少女達は興味本位で穴に近付く。

 

「道が繋がってるみたいです…行ってみるですか?」

「止めておいた方がいいんじゃない?この道の先がちゃんと歩ける様になってる保証はないわよ?」

「でもなんか舗装されてる感じしない?」

「言われてみると確かに…何かしらの理由で入り口が塞がっちゃっただけなのかしら?」

「それも行ってみれば分かるかもですね」

「うんうん、という訳で行ってみようよ、お宝があるかもしれないしさ」

 

会議…と言うよりも単なる話し合いの結果、穴の先へ進む少女達。道中でモンスターに出くわす事もなく順調に進んで行く。そして…

 

「わっ、なにここ…」

 

中央に柱の様な物が鎮座する部屋に出る少女達。どう見てもこの部屋は天然ではなく人工的な造りとなっている。

 

「ちょっとこれは予想外の展開ね…」

「不思議な所です…」

 

部屋を見回す二人を差し置いて紫色の髪の少女は柱の様な物に近付き、触れる。

 

「何だろうこれ…柱っぽいけど違うよね?」

「あ、ねぷ子いつの間に…って、何か光ってない…?」

「え、そんな訳…あった!?何で!?」

「わわわっ、光の線も出てきたです!?」

「ちょ、ねぷ子何したのよ!?」

「何もしてないよ!?こんぱどうにか出来ない!?」

「わ、わたしに言われても無理ですー!」

 

予想だにしない突然の出来事に動揺する少女達。その間にも光の線は柱状の物体を縫う様に広がっていき、それに比例する様に光の強さも増していく。そして光の線が端まで届いた瞬間、光は目を開けていられない程強くなり、部屋を白く染める。

 

数瞬後、光が収まると同時にゆっくりと目を開ける少女達。

 

『…え……?』

 

三人同時に声をあげる。それもその筈、少女達の視線の先には…

 

 

一人の少女が、眠る様に倒れていたからだった…。

 

 




手探りで始めた第一話(プロローグ?)を読んで下さり、ありがとうございます。
三人称視点、各キャラの名前が地の文で出ないなど特殊な点がいくつかありますがこの話が例外であり第二話(実質的な第一話)からは普通になると思います…多分。
至らぬ点も多いと思うので、皆様暖かく見守ったり指摘したりして下さい。


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第一話 もう一人の記憶喪失

前回書き忘れていましたが、時間軸としてプロローグはアイエフがパーティーに加入してから鍵の欠片&マジェコンヌが出てくる前の話です。


--------声が聞こえる。言葉の内容はよく分からないが、自分に対してかけられている言葉だという事は分かる。

--------揺れを感じる。どの様な形でなのかはよく分からないが、自分を動かし、移動させているのだという事は分かる。

 

 

----------------では、自分とは……誰?

 

 

 

 

「……っ…」

 

うっすらと開いた目に景色が入り込む。自分は寝た覚えがないんだからきっと何らかの理由で気絶した…んだと思う。意識を失う前の事を覚えてないから確信はないけど。

 

(……壁?)

 

目の前にある物は壁状なのだから壁だろう。少なくとも私の記憶の中では壁という名称だ。

だが、自分が横になっている事に気付いた私は考えを訂正する。目の前の物は壁ではなく天井だった。意識を失っていたんだから横になっているのは当然なのにそれに気付かなかった辺り、頭がまだはっきりしてないんだろう。

…そう、はっきりしてないのだ。決して元からアホだとかそういう訳ではない。そう信じたい。

 

「…あ、起きた?」

 

声をかけられる。声のした方を向くとそこには紫色の髪の少女がいた。

 

「やー良かったよ。ずっと意識失ったままじゃこっちも困っちゃうからね…あ、ちょっと待ってて」

「え…ちょ……」

 

言うだけ言って少女は部屋を出ていってしまった。普通状況説明とか体調確認とかするものなんじゃ…?

などと思っていたら先程出ていった少女が二人の少女を連れて戻ってきた。

 

「目が覚めたみたいで良かったですぅ。ちょっと失礼するですよ?」

(…え、何?なんで私は目にライトっぽいので光受けたり額触られたりしてるの!?)

「コンパ、いきなりそんな事したらびっくりさせちゃう…というかびっくりさせてるわよ?」

「え?あ…ごめんなさいです…」

 

茶色の髪の少女に注意されていきなり私を調べ始めた少女が手を止める。…良かった……。

 

「驚かせて悪いわね。大丈夫かしら?」

「は、はい…えと、あの…ここはどこで皆さんはどちら様でしょうか…」

「え…わたし達の事分からないの!?」

 

紫色の髪の少女が驚いた様な表情をする。え、嘘…もしかして知り合いだったの…?じゃあ、私はもしや……

 

「いや、普通に初対面でしょ」

 

……違った。寝起きの私にはあまりにも酷な嘘だったが、良心的な突っ込みのおかげで私の平静は保たれた。確実に茶髪の子は良い人だ。

 

「もう、あいちゃんここは乗ってよー」

「ねぷねぷ、びっくりさせちゃ駄目ですよ?」

「さっきいきなり診療して驚かせたこんぱがそれ言う…?」

「…あの…ですから、ここはどこで皆さんは一体…?」

 

今までの会話で三人のそれぞれの性格がなんとなく分かったけど、このままでは私の聞きたい事にいつまでも辿り着かない気がするので再び聞く。

 

「っと、悪かったわね…じゃあまず自己紹介からしましょうか。私はアイエフ、ゲイムギョウ界に咲く一陣の風とは私の事よ」

(……ゲイムギョウ界に咲く一陣の風?)

 

そんな職業もそんな役職も聞いた事がない。私が無知でないのであれば恐らく二つ名という奴だろう。…自称でない事を祈りたい。

 

「どうかした?」

「い、いえ…アイエフさん、ですね」

「じゃあ次はわたしがするです。わたしはコンパって言うです、これでも看護学生なんですよ?」

「看護学生…あ、だからさっき私に診療らしき事を…」

 

たった今コンパさんという人が謎の行為をする人ではなく医学知識に基づいた診療を行った学生なのだと判明した。不安要素が一つ減ってほっとした。

 

「それじゃ、最後はわたしの番だね」

「そ、そうですね…」

 

先程ねぷねぷと呼ばれた人が言う。多分愛称だと思うが…ちゃんと自己紹介してくれるのだろうか?

 

「わたしはネプテューヌ。今作での主人公だよ、宜しくね」

 

…なんて返答したら良いのだろうか。と、私が予想の斜め上の自己紹介に困惑しているとアイエフさんとコンパさんが補足をしてくれる。

 

「ねぷ子はこういうキャラなのよ、早めに慣れた方が良いと思うわよ」

「ねぷねぷは記憶喪失さんなので自分の事はよく知らないんです」

「記憶喪失…あ、だからこんなキャラに…」

「失礼だなぁ、元からこんなキャラだよ?多分」

 

…天然、という訳ではなさそう(どちらかと言えばコンパさんが天然の様に思える)だけど、ちょっとアレな子感が否めないのでアイエフさんの言う通り早めに慣れたい。

 

「ええと…ネプテューヌ…さんは愛称で呼んだ方が良いんですか?」

「ううん、そのままでもねぷねぷでもねぷ子でも呼びやすい様に呼んでくれればいいよ?もっと言えば敬語じゃなくてもいいしさ、でしょ?」

「そうね、私も構わないわ」

「はい、わたしもです」

「…皆さん……はい、分かりま…ううん、分かったよ」

…良い人達だ。まだ知って少ししか経っていないけど見も知らぬ私と気さくに話してくれる彼女達はきっとそうなんだと思う。

 

「じゃ、次はここはどこか、ね…」

「ここはわたしの借りてるアパートです」

「えと…ごめん、出来ればどこにあるアパートなのか教えてくれる…?」

「あ、ごめんなさいです…プラネテューヌにあるアパートですよ」

「…プラネテューヌ…?」

 

聞き覚えのない単語だった。場所について聞いたんだから恐らく国名や大陸名と言った地名だと思うけど…。

 

「…どうかしたですか?」

「…変な事聞くかもしれないけど…プラネテューヌって、地名?」

「地名というか国名だけど…まさか知らないの?」

 

コンパとアイエフの二人が顔を見合わせ、その後ネプテューヌを見る。それの意味するところは想像出来るが…その事実を認めたくない私は慌てて言葉を紡ぐ。

 

「そ、それより私も自己紹介しなきゃだよね?」

「そうだね、わたし達は君の事を全然知らないし」

 

ネプテューヌが話に乗ってくれる。さっきちょっとアレな子と思ったけどそれは訂正しておこう。

 

「それもそうね…じゃあまず名前を教えてくれる?」

「…え……?」

 

別に質問の意味が分からなかった訳じゃない。名前、つまり自分という一個人の固有名詞を聞かれているという事は分かるけど…

 

「…分からない、です?」

「う、ううん待って…えっと、私の名前は……」

 

ぼんやりとだが頭の中に単語が浮かぶ。それが自分を指す単語だという確信は無いけど、他に思い当たるものも無いのでその単語を口にする。

 

「……イリゼ…私の名前はイリゼ、です」

 

口にした瞬間、ただの単語でしかなかった『イリゼ』が自分の名前だと確信が持てた。そう、私はイリゼだ。

 

「そっか、じゃあこれからイリゼって呼ぶね」

 

返答をしてくれるネプテューヌ。だがコンパとアイエフは彼女達の中に生まれた推測の当否を確かめる為に次の質問をしてくる。

 

「イリゼ、貴女が意識を失う前の事は覚えてる?」

「それは……」

「お友達や家族の名前は分かるですか?」

「…………」

 

答えられない。分からないから。

口に出せない。思い出せないから。

コンパとアイエフに質問され、ネプテューヌという現在進行形での体験者を前に私は否応なしに理解させられる。

そう、あの嘘はある意味で真実だったのだ。

私はネプテューヌと恐らく同じ…コンパとアイエフ、そして私の推測通りの…

 

 

--------記憶喪失、だった…。

 

 

 

 

未知の感覚だった。

鼻腔をくすぐる芳醇な匂い。一回り大きさを変え、元より格段に硬くなったそれを自分の内側に入れる事には抵抗があったが、記憶喪失という事実を認識した直後の私には冷静な判断など出来ず、言われるがままにそれを受け入れてしまった。

私の中に入り込んだそれは落ち着く暇も無く私へ刺激を与えてくる。驚き動揺する私の心とは裏腹に、身体はそれが与える感覚を抗う事無く享受している。

こんなの知らない。それが私の奥へと入った頃には身体だけではなく心まで掌握され、いつしかそれを自ら求めていた。

 

「もっと…頂戴……」

 

嗚呼、言ってしまった。もう拒否など出来ない。だが、それで良いのかもしれない…私はそれを欲しているのだから…。

私がそれの虜となっている事に気付いた者は満足気な笑みを浮かべると共に、再び私の前へ…

 

 

「ふふっ、イリゼちゃんがプリンを気に入ってくれて良かったです」

「やっぱりこんぱの作るプリンは絶品だよね」

 

そうだ、プリンだった。私は今部屋を移動し三人と共にプリンを食べている訳だが…どうして私はプリンを一貫して『それ』なんて呼び、湾曲した表現をしながら食べていたんだろう…まあ、考えてもしょうがないので気にしない事としよう。

 

「うん、それよりごめんね。私の為に気を使わせちゃって…」

「謝る事なんてないわよ。気付かせたのは私とコンパな訳だし、そもそも記憶喪失なら落ち込むのも仕方ない事よ」

「いや、でもネプテューヌは記憶喪失だとは思えないレベルで元気だし…」

「それはむしろねぷ子が変なのよ…」

 

まあ、実際そうなんだろうとは思うけど…それでも気を使わせてしまっている様な気がしてならない。これは理屈じゃなくて感情的なものなんだから。

 

「…ネプテューヌはどうしてそんなに明るくいられるの?何か秘訣があったりするの?」

「え、別に無いけど?」

 

即答された。…な、無いの…?

 

「だって落ち込むも何も、何にも覚えてないのに何を落ち込めばいいのさ?それにまだ記憶が戻らないって決まった訳でもないし」

 

あっけらかんと答えるネプテューヌ。そう思う事が出来たら苦労しない…と言う口から出かかった反論を私は飲み込む。

確かにその通りだ。私の中に渦巻いている不安は漠然としたものであり、記憶を失った事への悲壮感も具体性のないぼんやりとした感覚。どっちも何となく辛い、何となく悲しいでしかないのだ。

それに気付いた瞬間、私の胸が少し軽くなった(精神的な意味だ。断じて物理的ではない、物理的に軽くなって堪るか)。まだ不安は残っているが一歩前進した気がする。

 

「…ネプテューヌ、ありがと」

「どう致しまして…って、わたし何かしたっけ?」

「ううん、全然」

「そっか…ってそれはそれで酷くない!?」

 

ネプテューヌから突っ込まれる。うん、やはり私は確実にさっきより元気になってる。

 

「イリゼちゃんちょっと元気出てきたですね」

「ええ、意外にもねぷ子の性格が功を奏したわね」

「あ、皆ちょっと質問良い?」

 

軽い雑談の後、私は気になっていた事を口にする。

 

「何です?」

「さっき私を見つけた場所については聞いたけど、どうして魔窟…だっけ?…にいたの?まさか観光じゃないよね?」

「あー、それはかくかくしかじかでね」

「……はい?」

 

全く意味が分からなかった。何故ならネプテューヌは説明ではなく文字通り『かくかくしかじか』と言ったのだ。活字では説明している様に見えるかもしれないけど…って私は誰に言ってるんだろ…。

 

「私としては旅の一環。ねぷ子とコンパはねぷ子の記憶の手がかり探し兼クエストだったらしいわ」

「へぇ…クエスト?」

「ギルドって所に来る依頼を受けるお仕事みたいなものです」

 

クエストにギルド…生きる以上仕事は必要だと思うし覚えておかないと。……よし。

 

「…ついてっちゃ、駄目かな?」

『え?』

「その、クエストとかダンジョンに…また行くんでしょ?」

「そりゃまあ、イリゼを運ぶ為に中断して戻った訳だしそうだけど…大丈夫なの?」

「大丈夫、ちゃんと身体は動くしそれに…皆には助けて貰ったからお返ししたいの」

「…そうね、その気持ちを無下にするのも気分が悪いし良いと思うわ」

「わたしもです、それにねぷねぷは駄目だったけどイリゼちゃんは途中で何か思い出すかもしれないです」

「うんうん、わたしもパーティーメンバーが増えればその分休める…じゃなくて安心出来るから大賛成だよ!」

「皆……」

 

若干アレな言葉も聞こえたけど皆快く了承してくれた。…記憶喪失になった事は不幸だけど、最初に会えたのがこの三人だった事は本当に幸運なんだと思う。

 

「…皆、私頑張る、コンパの言う通り記憶を取り戻す手がかりを見つけられるかもしれないし…何より皆に恩返ししたいから、頑張るよ!」

 

決まった…!と、私は自分の宣言に満足していざダンジョン……

 

「ええと…イリゼちゃん、ほっぺにプリン付いてるです…」

「…………」

 

…ではなく、恥ずかしさのあまり自分の寝ていた部屋のベットへ逃走したのだった…。

 




読んで下さりありがとうございます。連日投稿は大変ですね、次は少しペースが落ちるかもしれません…。
さて、次から原作ストーリーの流れに入り始める(と思う)ので、過度でない程度に期待して下さるとありがたいです。


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第二話 武器とディスクと高笑い

目の前には数多の武器、どれも振るえば人を傷付けるのに十分な威力を発揮するだろう。

持ち主無き武器の山を前にした時、私は……

 

 

「流石武具屋さん、色々あるね」

 

普通の感想を口にしていた。いや、まあ当然多少は気圧されたりもしたけれど武具屋に行くとなった時点で、ある程度は想像していたから極度の驚きはない。

 

「イリゼは武器とかに燃えるタイプ?」

「うーん…微妙…かな」

「じゃあ萌えるタイプ?」

「……?燃えるの同音異義語?」

「あー…うん、まさか記憶喪失にボケ殺しさせられるとはね…」

 

なんて雑談をしながら武器を見て回る私とネプテューヌ。

私は最初すぐにダンジョンに行くつもりだった(ほっぺのプリン?…ナンノコトカナ-?)けどその日はもう遅かった事と私は何の準備も無かった事から止めて、翌日である今日に行く事となったのだ。

 

「ところでこんぱとあいちゃんはどったの?」

「別の買い物みたいだよ。二人は武器の新調は必要ないみたいだし」

「そっか、つまり今は記憶喪失コンビで武器探しな訳だね」

「やけに説明口調だね…って言うか記憶喪失コンビって…」

 

迷子の危険性のあるコンビだった。二人が買い物終えてこっちに来るまで別のお店に行ったりしない様にしないと…。

武器を種類ごと見ていく私と両手持ちの刀剣類を中心に見ていくネプテューヌ。…うーん…。

 

「どうかしたの?万引きGメンならいないと思うよ?」

「取り敢えず万引きしようとしてる前提で聞くの止めてくれる…?…こう、何ていうか…これだ!って感じの武器が無くて…」

 

自分に合わない武器を選んだ結果モンスターにやられるのは御免なので合う武器を選びたいところだけど…中々見つからない。何となく刀剣類が良い気もするけど…。

 

「感覚で決めたら良いんじゃない?どの武器が合うかなんてこの場じゃ分からないしさ」

「確かにそうだけど…ネプテューヌは決めたの?」

 

そう、武器を買いに来たのは私だけじゃない。流石に木刀じゃ無理があると感じたネプテューヌも探していたのだ。

 

「うん、これとか…どうかな…?」

「これって…指輪?指輪って武器だっけ?」

「ううん…指輪だよ?…分からないの…?」

 

頬を赤らめ、上目遣いで私を見るネプテューヌ。それの意味するところはつまり……

 

「え……嘘ぉ!?嘘でしょ!?嘘だっ!」

「ひぐらしネタは微妙に古いですよ会長」

「いやネタでもなきゃ会長でもないんだけど…でもボケだったんだ、良かった…」

 

胸を撫で下ろす私。前の嘘といい今といいほんとネプテューヌのボケは縦横無尽過ぎる…。

 

「あはは、イリゼも結構良い反応するね。ねぷ子さん満足だよ」

「さいですか…あ、この剣何だろう…」

 

多少げんなりしながら武器に視線を戻した私の目に数本の刀剣が止まる。

 

「何って…片手剣じゃないの?」

「ううん、片手剣にしては柄も刀身も長いし重いよ?」

「あ、ほんとだ…でも両手剣でもなさそうだね…」

「双剣用でもなさそうだしレイピアや刀な訳もないし…あ、でも何か分かる気もする…えっと、確か……」

 

「バスタードソード、じゃなかったかしら?」

 

いきなり後ろから声をかけられる。だが声から察した私とネプテューヌが振り向いた先には予想通りアイエフとコンパがいた。

 

「二人共お待たせです。困った事は無かったですか?」

「大丈夫、無かったよ。…それであいちゃん今バスターソードって言ったよね、それってでっかい剣じゃないの?」

「バスターソードじゃなくてバスタードソードよ。片手剣としても両手剣としても使える剣で片手半剣なんて呼ばれたりもするわ」

 

アイエフが説明すると同時に私もバスタードソードについて思い出してくる。ただこれは記憶が戻ったと言うより単にど忘れしてただけな気もするけど…。

 

「へぇ、便利な剣があるんだね」

「…そうでもないと思うよ、主に重さの面で」

「どういう事です?」

「えっと、片手剣としては重いし、両手剣としては軽いの、分かる?」

「どっちとしても使える分どっちとしても中途半端、という事ね。最もそれも使い手次第でしょうけど」

 

旅人だからなのかアイエフは詳しかった。武器に詳しい女の子ってのもどうかと思う気がしないでもないけど…。

なんて思いながら持って構えたバスタードソードは意外としっくりきた。

 

「あら、結構様になってるじゃない」

「そう?…まあ確かに今までの中では一番良いかも…」

 

その後もいくつか武器を持ってみるもバスタードソード程のしっくり感は無かった。なので私は決心し…

 

「お買い上げ有難うございましたー」

 

先程持ったバスタードソードを購入。ネプテューヌは私が聞くよりも前に決めていたらしく、私とほぼ同じ理由であまり豊かではないらしいお財布と相談した結果、お手頃なお値段の刀(俗に言う『なまくら』の類いらしいが実質的には打撃武器である木刀よりはよっぽど斬れ味が良い模様)を買っていた。

 

「…訳ありとは言え出会って数日の友達に借金なんて…私悪い子になっちゃったよ…」

「気にしなくて良いですよ?イリゼちゃんが素手でダンジョン行くよりはずっとマシです」

「って言うかならわたしにもお金貸してくれたらもっといい武器買えたのに…」

「ねぷ子はクエストでのお金あるでしょ」

 

武具屋を出てギルドへ向かう道中での会話。これで買った物がクレープやアイスとかなら可愛げもあるけど、これかが実際には刀剣類なんだから恐ろしいものだよね…。

 

「そう言えば…コンパは武器変えなくて良いの?」

 

そう、コンパは注射器を護身用の武器代わりにしている。確かにサイズ的には武器にならない事もないけど…それで良いのだろうか?

 

「看護師の武器は注射器だから大丈夫です」

「いや看護師ってそもそも戦闘職じゃないよね…?」

 

出来れば看護師や医師にはモンスターよりも怪我や病気と戦って欲しいところだけど…まあそこはコンパの自由だよね。

 

なんて思っているうちにギルドに到着。三人の手伝いをしつつ借金返済をする為にクエストを受注しようと思ったけど…

 

「…多過ぎてどれ受注すれば良いか分からない…」

「え?普通に【章】ってやつ選べば良いじゃん」

「アレプレイヤーさん視点限定のマークじゃないの!?」

「さぁ…?」

「二人して変な会話してるんじゃないわよ、ほら」

 

何故か私まで窘められてしまった…不備のある突っ込みをした覚えはないんだけど…。

その後コンパとアイエフに勧めてもらったクエストを受注し、ギルドを出る私達。今度こそいざダンジョンへ!

 

「…で、魔窟ってどう行くの?やっぱ陸路?」

「え?普通にワールドマップからカーソル合わせてぽちっとすれば良いじゃん」

「だからそれはプレイヤーさん限定じゃないの!?」

 

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

魔窟に入った直後に襲ってきたシカベーターとか言うモンスターの攻撃をサイドステップで回避し、即座に袈裟懸けを叩き込む。攻撃を受けて消滅するシカベーター。ま、真剣でバッサリやられたらひとたまりもないよね。

 

「わぁ、イリゼちゃん凄いです〜」

「そう?皆も同じ位強いじゃん」

「初戦闘で同じ位戦えるから凄いのよ」

「そ、そっか…」

 

褒められるとは思ってなかったからつい照れる私。そっか、私って凄かったんだ…よーし、もっとモンスター倒して皆を助けよう!

 

「でも、油断と慢心は禁物よ?」

 

右手を振るってカタールを投擲するアイエフ。カタールは真っ直ぐ飛び…私の後方から攻撃を仕掛けようとしていたモンスターに突き刺さる。

 

「ほらね?」

「…はい、気を付けます…」

 

調子に乗った直後に落とされた。世界は優しいのか厳しいのかよく分からない…。

 

「…あれ?ねぷねぷはどこに行ったですか?」

「あー…ほら、ネプテューヌならあそこでしょうもない事してるよ…」

 

そう言って私が示した先には…

 

「ひゅーひゅー、熱いねぇお二人さん、モンスターを人って呼ぶかどうか知らないけどね」

 

やけに密着してるゴーストボーイとゴーストガールに野次を飛ばしているネプテューヌがいた。…何がしたいの……。

 

「仲良しなモンスターさんですね」

「コンパ、確かにそこも気にはなるけどそれはどうでも良い事よ…」

「ネプテューヌには定期的にボケないといけない縛りでもあるんじゃ…」

 

半ば呆れつつゴーストカップルを倒す私とアイエフ。今度は別の類いの野次をネプテューヌに飛ばされたけど当然スルーして奥へ進む。

 

「しかしこうも暗いと危ないね…」

「そうね、私もここら辺でねぷ子とぶつかった事で二人と出会った訳だし」

「そう言えばそうだったね、あ…」

「ねぷねぷ、どうかしたです?」

「ほら、二度ある事は三度あるって言うしまたあのでっかいモンスター出るんじゃ…」

 

そう言って見回すネプテューヌ。コンパとアイエフも用心してる様に見える。

 

「でっかいモンスター?何それ?」

「二回も襲ってきたモンスターさんです、見た目は…うーんと…」

「何て言うか…そうそうあれだよ、ゲルズゲー。ライフルじゃなくて剣っぽいの持ってたけどね」

「うわぁ…それは大変だったね…」

 

ゲテモノ系MAっぽいのに襲われたら確かにキツい。私ん見付ける前に倒してくれて良かった…。

そして更に私達は進む。幸い例のモンスターはほんとに倒されたみたいで出る事もなく、私の受注した討伐クエストも問題無く遂行する事ができた。そしてそろそろ最深部なんじゃないかなー何て思い始めた頃…

 

「ねぇねぇあいちゃん、なんかこんなの拾ったんだけどさ」

「これは…ディスク?ねぷ子、こんなのどこで拾ってきたのよ?」

「何かあっちの壁に飾ってあったよ?」

 

ネプテューヌが洞窟内には似つかわしくない物を見つけてくる。

 

「このディスクが壁に?…本当かしら…」

「ねぷっ!?酷いよあいちゃん…まさかこのわたしを疑うの!?」

「ねぷねぷを疑うなんて酷いですよあいちゃん」

「ま、まあまあ…でも確かに飾られてた何て変だよね。何でディスクなんか…」

 

少なくともディスクは自然と生えてくる物じゃない。そしてディスクは洞窟内で役に立つ物でもない。つまり、ディスクは普通こんな所には無い筈の物…。

と、私が真面目に考えてる間にも三人の会話は続いていた。『あいちょ』だとか『ラブちゃん』だとか聞こえてきてどうも集中出来ない…。

だが、そんな私の思考と三人の会話はディスクが突如光りだした事で強制終了される事となった。

 

「な、何で光ってるの!?何かいじったの!?」

「わたしは何もしてないよ!?って言うかちょっとデジャヴ!?」

「あいちゃん、何が起こってるんですか!?」

「分からない…分からないわ!まさかディスクが光るなんて…!」

 

完全にテンパる私達。でも状況は私が落ち着くまで待ってくれる筈もなく…

 

『モンスター!?』

「そんな…ディスクから出てきたって言うの!?」

 

慌てて武器を構える私達。あまりにも唐突な敵襲だったけどさほど強くない事が不幸中の幸いだった。

数度の攻防の末、私の放った一撃がモンスターを斬り裂く。それはネプテューヌ達も同じらしく被害と言える被害が出る事もなく殲滅出来た。

 

「び、びっくりしたぁ…。まさかモンスターがディスクから生まれるなんてね。それならそうと早く言ってよ…」

「だね…てか、ディスクから生まれたの?ディスクがモンスター転送装置って可能性は?」

「いや、それをわたしに聞かれても…」

「そうね…モンスターの出処が判明してない以上何とも……」

 

急に口をつぐみ、思考を巡らせるアイエフ。私達は顔を見合わせた後、ネプテューヌが代表で質問する。

 

「あいちゃん、急に黙ってどうしたの?」

「…このディスクが原因だったのね」

「原因?」

「ええ、生み出してるのか転送してるのかはまだ分からないけど少なくともこのディスクからモンスターが出てきたのは事実よ。そしてディスクは目立つ程大きくないし…普通はディスクからモンスターが出てくるなんて思わない。だから急に増えたモンスターの出処が分からなかったのよ」

「これは大発見です!」

 

凄い…まさかこんな形で発見されるなんて…!

私達が棚からぼたもち…程都合良くはなかったので災い転じて福となす、かな?…の出来事に喜んでいる時、その声は響き渡った。

 

 

「ハーッハッハッハッハッハ!!!」

 

そう、この今時敵キャラでもロクに言わないであろう、いっそ逆に清々しい程のベタな高笑いが響き渡ったのだ。




今回からはパロディネタが導入されているので、今後毎回後書きで解説をしようと思います。

・「〜〜嘘だっ!」「ひぐらしネタは微妙に古いですよ会長」
これは勿論ひぐらしの鳴く頃に…ではなく、ひぐらしネタのパロディのパロディネタ。元作品は生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録1の『駄弁る生徒会』回。

・バスターソード
FFに登場する武器であり、クラウド(ザックス)の代名詞とも言える両手剣。作中でイリゼが使うのはあくまでバスタ『ド』ーソード。

・ゲルズゲー
機動戦士ガンダムSEED DESTINYに登場する連合軍の拠点防衛用試作型MA。この機体も門番っぽい運用をする為見た目含め門番蟲とちょっと似ている。

以上が今回の解説です。但し私が無意識に使っているパロディネタがあるかもしれません…指摘して下されば追記で解説します。


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第三話 渦巻く脅威、力の覚醒

--------一瞬の出来事だった。振るわれる槍。迸る電撃。そのたった一撃で私達は吹き飛ばされ……

 

「ちょ、これどういう事!?このおばさん序盤のボスなのに強過ぎるよ!?バランスブレイカーだよ!」

「序盤ではあり得ないダメージ数値だったですぅ」

 

…ネプテューヌとコンパが気の抜ける様なメタ発言をしていた。貴女達実は割と余裕あるでしょ…。

そんな二人を尻目に私は身体を起こしながらこうなるまでの経緯を思い出す…。

 

 

 

 

「誰!?この時代遅れの笑い声は!」

 

突然響き渡った笑い声にちょっと失礼な評価をしつつネプテューヌが反応する。そのネプテューヌの言葉に対し、

 

「時代遅れは余計だ!…だが、人をおちょくる意地の悪さも相変わらずの様だな」

 

魔女の様な風貌の女性が反応しつつ現れる。体型は豊かで服装もある種妖艶とも言える物だけど…残念な事に総評では『ケバい』と言われそうな彼女には皆も似た様な感想を持ったらしく、何か関連のありそうなネプテューヌに問いを投げかける。

 

「もしかして、ねぷねぷの知り合いです?」

「まっさかー、流石のわたしでもこんな悪趣味なメイクのおばさんと知り合いな訳ないってー」

「それは良かったです。ちょっとだけねぷねぷの人付き合いを疑っちゃったです」

「そうね、いくらねぷ子とは言えあんな人と知り合いだったら私でもドン引きだわ」

「み、皆本人の前で言いたい放題だね…気持ちは分かるけど…」

「でしょ?そんな訳でおばさん誰?」

 

問いかけではなく最早例の女性への煽りだった。私も窘めたつもりが煽りに乗ってしまってた気がする。

 

「き、貴様等…私を好き勝手言いおって!四人まとめて葬ってやる!」

「あーあ。ねぷ子が余計な事言うから怒っちゃったじゃないの」

「わたしのせいなの!?」

 

 

 

 

…そして、今に至る。

 

「くっ…どうやら人は見かけによらないみたいね…」

「だね…って言うか、外見の時点で強者っぽかった気が…ネプテューヌが怒らせたせいでこうなるなんて…」

「だからわたしのせいじゃないよね!?皆も同罪だと思うんだけど!?」

「ふん、雑魚共が…今更何を言ったところでそれは負け犬の遠吠えにしか過ぎんわ」

 

見下すかの様な言葉を放つ謎の女性。悔しいけど言い返せない…。

 

「…だが、やはりガーディアンを倒し鍵の欠片を奪ったのは貴様だったか。返して貰うぞネプテューヌ」

「鍵の欠片…?」

 

聞き覚えのない単語に戸惑う私だったが、即座にネプテューヌが教えてくれようとする。

 

「あ、えっとそれはわたし達が探してる物でこの…」

「ふんっ!」

「なっ!?」

「わっ!?ど、どろぼー!それはわたしとこんぱが頑張って手に入れたんだぞー!返せー!」

「黙れ!」

 

奪われる鍵の欠片、ネプテューヌは抵抗するも力及ばず返り討ちにされてしまう。

 

「ねぷねぷ!」

「ねぷ子!」

「貴女…よくもネプテューヌを!そもそも一体全体何者で何なんですか!」

 

コンパとアイエフが駆け寄り、私が前に出る。

理不尽な暴力と横暴な態度。前者は私達にも非があるけど…少なくともここまでする必要は無い筈。にも関わらず暴力を振るった女性に沸々と怒りの感情が沸き上がる。

 

「どけ、貴様になぞ用はない」

「貴女に無くても私にはあります!このまま続けるつもりなら…私が相手になる!」

「…相手になる?ふっ、笑わせてくれるじゃないか……図に乗るなよ小娘がッ!」

「……ッ!?きゃあぁぁぁぁっ!」

 

一瞬で距離を詰める女性。辛うじてバスタードソードを掲げるも槍の一撃で防御を崩され、回し蹴りで吹き飛ばされる。

 

『……!イリゼっ!』

「…み…んな……」

 

壁に打ち付けられ、身体に激痛が走る。

全身が痛い。身体の反応が鈍い。地面に崩れ落ちながら私は……恐怖を、感じていた…。

 

 

 

 

イリゼが蹴られ、壁に打ち付けられる。それを見たわたしは反射的に跳ね起きた。

 

「ねぷ子、大丈夫なの…?」

「うん、それより二人はイリゼをお願い」

 

二人は顔を見合わせた後、すぐにイリゼの方に向かってくれる。それを見たわたしはおばさんの前に立つ。

 

「あの小娘の次はお前かネプテューヌ…反吐が出るようなお仲間ごっこだな」

「別におばさんに共感して貰いたくてしてる訳じゃないから良いもん、それよりおばさん…わたしはたいていの事は笑って見過ごすよ、でも…」

「でも何だというんだ?」

「どんな理由があっても…わたしは友達を傷付ける奴は許さない!」

 

自分の中で力の奔流を感じるのと同時に突進。そしてわたしの刀がおばさんの元に届く頃にはわたしは変身を遂げ、おばさんと斬り結んでいた。

 

「ちっ…はなから貴様に許してもらおうなんて思ってはいない!」

「なら尚更貴女を許す事はしないわ!」

 

横薙ぎ、刺突、逆袈裟。わたしの放つ攻撃は次々といなされるも、少なくともさっきと違って一方的にやられる様な事はない。まともな戦闘が出来るのなら…可能性はある!

 

「少しはやるな、最初からその姿でくれば小娘は無駄に傷付かず済んだものを…」

「貴女が一方的に攻撃してきたんでしょうが…!」

「貴様等も好き勝手言っていただろうが!…まあ、遅かれ早かれ攻撃はしていたがな」

 

そう言っておばさんは電撃を放ち、わたしはそれを回避する。電撃そのものを避けるのは容易だったけど…距離をあけられたわね…。

 

「回避の為に距離をあけたのは失策だなネプテューヌ。私は正々堂々戦う程甘くはない…必要なら人質も取るしその為に邪魔な相手がいれば殺すだけだ!」

 

そう言って横へ跳ぶおばさん。その先には……コンパとアイエフに介抱されているイリゼの姿。

 

「しまっ……!?」

 

即座に地を蹴り追いかけるも一瞬の遅れが絶望的な程の差を生み出し、現実という形でわたしに襲いかかってくる。

諦めるつもりは無い、だが現実は変わらない。そしてわたしが声をあげる前におばさんの槍は放たれ……

 

「ぐぁ……ッ!?」

 

放った槍ごとおばさんが弾き返される。

本来ならば槍は皆を貫き、その場に立っているのはおばさんだった筈。その現実が否定され、あり得ない事実が生み出された中心には、

 

 

 

 

 

 

「言った筈、相手をするのは…私だって」

 

水晶の様な翼と十字架の様な形状を持つ剣…そしてわたしとどこか似た雰囲気を持つ女性が立っていた。

 

 

 

 

ネプテューヌが変身するのを見た時、私の身体に何かが走るのを感じた。

ネプテューヌの変身した姿を見た時、私はそれを『知っている』と思った。

そしてネプテューヌを手助けする為に、襲いかかる敵から自分を介抱してくれているコンパとアイエフを助ける為には力が必要だと思った時…私は私自身今の今まで知らなかった私の力を解き放っていた。

 

「…もしかして…貴女、イリゼ…?」

 

ネプテューヌが驚いた様子で私を見る。多分コンパとアイエフも同じ様な顔をしてる筈。でもそれに答えるより先にすべき事がある。

 

「くっ…何だ!何なんだ貴様は!」

「私?私はイリゼ…貴女の敵よ!」

 

地を蹴り一気に接近、上段からの一撃を放つ。それに対し女性は槍の柄で防御するも…

 

「貰ったッ!」

 

状況を理解し側面から追撃を行ったネプテューヌへの対応が遅れ吹き飛ばされる。

 

「…ナイスタイミング」

「いつまでも驚いてる程わたしもアホじゃないわ、それより…まだ終わりじゃなさそうよ」

 

構え直し、鋭い視線を向けるネプテューヌ。その先にはさしてダメージを負った様子のない女性の姿。強さもだけど見た目からは思えないタフさに軽く辟易する。

 

「忌々しい…!何故貴様等は私の計画をこうも狂わせるのだ…!」

「貴女の因果応報よ」

「邪魔されたくないなら他所でやれば良いと思うけど?」

 

相手の言葉を一蹴し、攻撃を再開する私とネプテューヌ。二振りの長剣による連携攻撃で責め立てるも次第に状況が悪くなっていっている事に気付く。

私達が疲労している?否、私達も向こうもまだ余裕はある…だとすれば先程と変わっている点は一つ。

 

「…随分と派手な余興だったが、所詮は茶番だな」

 

そう、相手が動揺から持ち直した事。精神の状態がパフォーマンスに影響するとはまさにこの事だった。

 

「くっ……!」

「この…っ!」

 

力任せではない、技としての形を持った攻撃。的確なタイミングで放たれる魔法。それらが段々と精度を取り戻してきた事により私達は拮抗、或いは劣勢へと移っていく。

 

(……このままじゃジリ貧になり兼ねない…)

「隙ありだッ!」

 

私が思考に集中力を割いたその瞬間に女性は衝撃波を放つ。だが、衝撃波は私達を逸れて真上へ向かう。

好機…!そう私が思ったのもつかの間、次の瞬間には天井の一部が崩落してくる。

 

「……!?分断された…!?ネプテューヌ!」

「大丈夫よ!でも…ッ!」

 

落下した天井の一部が隔てた向こうからネプテューヌの切羽詰まった返答が聞こえる。女性はこの状況を作り上げる為にわざと衝撃波を上へ飛ばしたのだった。

障害物となっている瓦礫に一撃を与える。だが瓦礫は崩れるばかりで状況は好転しない。それに痺れを切らした私は強行突破を諦め、瓦礫を大きく迂回し皆の元へ。そして、私がそこで見たものは…

 

「えぇいです!ちょこまかと逃げ回りおってです!」

「敵の攻撃を無意味に受ける馬鹿がどこにいるってのよ!」

 

…明らかに口調…というか語尾の変化した女性とその女性の攻撃をちょこまか避け続けるネプテューヌだった。その軽く意味不明な状況に私は呆然とする。

 

「…どういう事?」

「…あ、イリゼ…!無事だった?」

「うん、で…この状況は一体…?」

「あいつはどういう原理か知らないけどコピー能力があるのよ。それでねぷ子の力をコピーしようとしたけどコンパが割って入った…後は分かるかしら?」

「勿論、で今はもう一度コピーを狙ってると…」

 

ネプテューヌの力をコピーする筈がコンパの力をコピーしてしまい、結果あの語尾になったと…。

 

「皆!今のあいつはコンパの力をコピーしたらせいでパワーダウンしてるわ、今がチャンスよ!」

「ち、バレたかですぅ!」

「そうと分かれば…」

「こっちのもの!」

 

私と踵を返したネプテューヌによる挟撃。先程までであれば対処されたであろうその攻撃も今の女性には捌ききれず大きく体勢を崩す。

 

「ぐっ…この…!」

「私達もいるのよ!」

「忘れないで欲しいです!」

 

槍をついて体勢を立て直そうとした瞬間にコンパとアイエフが追撃。この攻撃には対応すら出来ず手に持った鍵の欠片を手放してしまう。

 

「鍵の欠片は返してもらうわ」

「な…!?…おのれネプテューヌ…!」

 

女性よりも早く鍵の欠片を手にするネプテューヌ。これで完全に形成逆転となった。

 

「まだやる気なら相手になるけど、どうする?」

「少し優勢になっただけで調子に乗るな!」

「…それよりも一つ聞かせて頂戴。貴女はわたしを知っているの?」

「あぁ、知っているさ!貴様は知らなくとも、私は貴様をよーく知っているよ」

 

その言葉にネプテューヌは…私と同じ、記憶喪失の少女は反応する。

 

「なら、教えて。わたしが誰なのかを…」

「何を訳の分からない事を言っている。さては頭でもぶつけたか!」

「違うです!ねぷねぷは記憶喪失何です!だからお願いです、知っていたら教えて欲しいです!」

「記憶喪失?…クク…ハーッハッハッハ!まさか貴様が記憶喪失になっていたとはな…ならばまだ運命は私の味方の様だ!鍵の欠片は暫く預けておいてやろう、さらばだ!」

「待って!」

「私の名はマジェコンヌ!いつか貴様等を消す者の名を覚えておくが良い!ハーッハッハッハッハ!」

 

再び高笑いをした後、光と共に姿を消す女性。一瞬反撃に出るのかと思ったけど実際は逃げた様だった。

 

「…あのおばさん何者なの?ねぷ子を狙ってたみたいだけど…」

「分からないわ…こんな時こそいーすんと話せたら…」

「ねぷねぷ…」

「…いーすん?」

 

またも知らない単語が出てくる。文脈からして人だとは思うけど…。

 

「あ…イリゼちゃんはいーすんさんを知らなかったですね」

「待って、今はそれよりこれが先よ」

 

そう言ってアイエフは先程モンスターの出てきたディスクを見せる。

 

「確かにそれは何とかする必要があるね。…でも、どうやって?」

「取り敢えず…えい」

 

アイエフがディスクを割る。単純明快な手段だけどディスクがそれ以降光らなくなった事からして成功みたいだった。

 

「さて、と…じゃあ一旦ここを出ない?かなり疲れたし…色々確かめたい事もあるからね」

「そうね…ふぅ、疲れた〜」

 

そう言って変身を解くネプテューヌ。安堵の表情を浮かべているコンパとアイエフ。そんな三人の顔を見ながら私は……真横に倒れた。ばったーんと倒れてしまった。

 

「わぁぁ!い、イリゼちゃん!?」

「うぅ…何だか力が出ない……」

「うわ、イリゼが水や泥をかけられた某アンパンヒーローばりにへなへなになっちゃったよ…」

 

その後、再び皆に運ばれてダンジョンを出る私。初のクエスト&ダンジョン探索はあまりにも情けない形で幕を閉じたのだった…うぅぅ、恥ずかしい……。




本日のパロディ解説

・「〜〜わたしはたいていの事は笑って見過ごすよ、でも…」「どんな理由があっても…わたしは友達を傷付ける奴は許さない!」
ONE PIECEの第一話でのシャンクスの台詞。正確には『わたしはたいていの事は』の前にも台詞がありますが今回は省略させて頂いてます。

・某アンパンヒーロー
皆さんご存知それいけ!アンパンマンの主人公の事。当然ながらへなへなになっていた事を指してるのでありイリゼが似ている訳ではありません。


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第四話 目的を見据え彼女等は行く

「いや、あの、コンパ…これ包帯の巻き方合ってる…?」

「勿論ですよ〜」

 

コンパのアパートの部屋の一室。そこで私は半裸にひん剥かれ包帯と絆創膏漬けにされていた。…ほんとに合ってるの?リボン風の結び方してある包帯とかあるよ?

 

「うーん…エロいね、イリゼ」

「まじまじと見るのは止めて欲しいんだけど!?」

 

ネプテューヌが親指を突き立て、所謂サムズアップをしながら見てくる。一応ネプテューヌも怪我はしたものの壁に打ち付けられた私よりはずっと軽傷だったからか絆創膏だけで済んでいた。

 

「案外元気ねイリゼ、魔窟ではへなへなだったのに」

「そりゃそんな状況なら元気も出るよ!勿論悪い意味で…って痛い痛い!傷に食い込んでる気がする位痛いよコンパっ!?」

「ちょっと位痛いのは我慢するです!」

「あー…わたしも前にその経験したよ。あれは辛かった…」

 

そんなこんなでコンパの手当ては続き…

 

「はぁ、はぁ…死ぬかと思った…」

「お手当てで死ぬ訳ないです」

「いやあれはほんとに痛いんだって…」

 

手当てが終了した時には私は再びへなへなになっていた。手当てしてくれたのは嬉しいけど…荒療治ってこういう事なのかな…。

 

 

 

 

「さて、と…じゃあそろそろ本題に入って良いかしら?」

 

アイエフがそう切り出す。荒療治(?)から数十分後、四人で一息つく為にプリンを食べていた所だった。

 

「うん、やっぱ一人はガンナーがいた方が効率良く狩れるよね」

「…イリゼ、まずはこっちから質問して良い?」

「スルー!?あいちゃんスルーは酷いよ!」

 

華麗にボケをスルーして私に問いかけてきたアイエフにネプテューヌが抗議する。やっぱりボケキャラにとってボケスルーは辛いみたい。

 

「うん、魔窟での戦闘の時の事だよね?」

「ええ、単刀直入に言うわ…あの力は何?」

 

アイエフのその問いを聞いたネプテューヌとコンパも興味深そうな顔をして私を見つめる。

そう、あの時私は確かに『変身』していた。それは事実だし、私自身もその事について深く考えて一つの回答を見つけた。だからそれを口にする。

 

「……さぁ?」

『……さ、さぁ?』

 

怪訝な顔をする三人。まあ気持ちは分かるけど実際『さぁ?』としか言えないんだからしょうがない。

 

「ええっと…分からない、って事です?」

「うん、分からない」

「全然?」

「全然」

「ちっとも?」

「ちっとも」

『…えー……』

 

いやそんな反応しないでよ…と言いたい所だけどやっぱり気持ちは分かるから口へと運んだプリンと共に飲み込む。

 

「うーん…本人が分からないんじゃ話の進めようがないわね…」

「だね、取り敢えずイリゼは魔法少女だったって事にしとく?」

「いやそんなキュートでふりっふりの格好じゃなかったから…」

「じゃあ魔装少女?」

「だから私はラブリーでチャーミングだけど死を呼ぶ様な格好じゃなかったでしょ!?」

「格好と言えば…ねぷねぷに似てた気がするです」

 

そう言われてネプテューヌとアイエフがそう言えば確かに…みたいな顔して頷く。私としても同意だけど…その前に確認したい事がある。

 

「私も似てるとは思ったけど…ネプテューヌは変身についてちゃんと知ってるの?」

「ううん、何かいーすんがメガ身化とか言ってた気がするけど変身出来る事位しか知らないよ?だから知ってそうなおばさんに聞いたんだし」

 

そう言えばそうだった。じゃあ、あの人なら私の事も知ってるのかな…私とネプテューヌで反応が違った事は引っかかるけど…。

 

「じゃあ、も一つ質問。いーすんさんって?」

「わたし達に鍵の欠片を探してほしいって頼んできた人ですよ」

「こう、天の声みたいな…あ、プロローグからずっと出てる地の文じゃないよ?」

「凄くメタい補足ありがと…」

「次の鍵の欠片を見つけたらイリゼも分かると思うわ。見つける事で一時的に話せるみたいだし」

「そっか、その人は私の事知ってると良いけど…」

 

記憶と変身能力、謎の女性といーすんさん…って本名なのかな?愛称っぽいけど…、私にとって気になる事は多過ぎて頭がパンクしそうになる。特に前者二つはそのまんま私の事だから一刻も早く知りたい。

でもそれはこの場で分かる事でもないから話は次の話題へとシフトしていく。

 

「しかし…まさかモンスターがディスクから出てくるなんて思いもしなかったわ」

「ですね。けど、これでモンスターさんが出てくる事は無くなったです」

「他にあのディスク…のままだと言い辛いわね。一先ずエネミーディスクと呼ぶ事にしましょ…で、そのエネミーディスクが他になければの話だけどね」

「モンスターはゲイムギョウ界全体にいるんでしょ?なら氷山の一角の可能性も高いよね…更に言えばエネミーディスクはモンスターの転移装置でしかないかもだし」

「そんなぁ…」

 

しまった、コンパを落ち込ませちゃった…。

どうしようとアイエフの方を見るとアイエフもそれを気にしていたのがすぐにフォローを入れてくれる。

 

「落ち込まないでコンパ。どっちにしろモンスター発生の原因が分かった以上、今までよりは対策が立てられる様になった筈よ」

「そ、そうそうアイエフの言う通りだよ。それに一つは破壊出来たんだからモンスターの数は減少してる筈だし」

「…そう、ですね…ふふっ、二人共ありがとうです」

 

笑顔でお礼を言ってくれるコンパ。それを見て私とアイエフは安堵すると同時に、先程から会話に参加してないネプテューヌの方を見てみる。

 

「いやぁ、ほんと働いた後のプリンは格別だね!」

 

幸せそうな顔をしながらプリンを頬張るのに勤しんでいた。

 

『はぁ……』

「…ん?三人共ため息なんかついてどうしたの?」

「あんたねぇ…」

「まあまああいちゃん、変身すると凄く疲れるみたいですから大目に見てあげて欲しいです」

「同じく変身したイリゼはちゃんと話してたじゃない…まあ、コンパが言うなら今回だけは大目に見てあげるわ」

「私も疲れてると言えば疲れてるけどね。で、ええと…エネミーディスクもだけどあのおばさ…女性の方も気になるよね」

 

刃を交えたからこそ分かる。あの人はエネミーディスク以上に謎で、モンスター以上に危険な人だ。放っておくのは不味いと思う。

 

「ええ、ねぷ子の事を知ってるみたいだったし…何者かしら…」

「鍵の欠片を知っていたです。そして集めているようだったです」

「なら先を越されない為にも早く出発した方が良いかもしれないね」

「そうですね、すぐに出発するです」

 

…え、どこへ?もしや私が知らないうちにそういう計画は進んでたの?私知らないよ?

 

「ところで…あいちゃん、イリゼ。わたしとこんぱは鍵の欠片探しの旅に出るんだけど二人も一緒にどうかな?初めての旅だから皆がついてきてくれると心強いんだ」

「私は別に良いわよ?」

「わーい、やたー!」

「あいちゃん、本当に良いんですか?」

「特にプラネテューヌに留まらなきゃいけない理由もないしここまで巻き込まれて今更抜けるのもね…それに二人だけじゃ何かと危なっかしいもの、私が面倒見てあげるわ」

 

嬉々として喜ぶネプテューヌと同じく微笑むコンパ。続いて私にも同じ問いを向ける。

 

「じゃ、イリゼは?イリゼもどうかな?」

「うん、私も良いよ。私はそもそも留まる場所が無いし、皆の旅の中で私の記憶についても何か分かるかもしれないからね、それに…」

「それに?」

「前に言ったじゃん、皆に助けて貰ったお返ししたいって」

「あー…そう言えばそうだったね」

「え…忘れてたの……?」

 

正直ショックだった。私は本気で言ってたのに…もしかしてネプテューヌはほんとは冷たいのかな…?

 

「うん、だってイリゼとは友達でしょ?なら助けるのは当然だしいちいちその見返りなんか求めないよ?」

「……っ…!」

「助けた時点じゃ誰なのかも知らなかったけどね…でもねぷ子の言う通りよ、それに既に助けられてるし」

「イリゼちゃん、お返しって気持ちは嬉しいですけどそれよりイリゼちゃんに友達として来て欲しいです」

「…皆…ありがとう……」

 

不意打ちの様な皆の言葉で心が温かくなる様な感覚を覚える。その感覚を言葉にするならそれは勿論…幸せ、だ。

 

 

 

 

プラネテューヌの街中、その一角にてわたしは…迷子になっていた。うん、まあ記憶喪失だし仕方ないよね?

 

「はぁ、誰に聞こうかなぁ…あ」

「今日もぽかぽかあったかいにゅ」

「こんにちはー。ねね、ちょっとお話いいかな?」

 

ぬいぐるみみたいなのに乗っかったちっちゃな女の子発生。どうみてもモブキャラじゃないし同じ事しか言わないタイプのNPCでもないよね。

 

「何だにゅ?ブロッコリーに用かにゅ?」

「へぇ、ブロッコリーって言う名前なんだ。思わず『ぷちこ』って呼びたくなるね」

「ぷちこじゃないにゅ、ブロッコリーだにゅ」

「そんな細かい事気にしない気にしなーい」

「細かくないにゅ」

 

やっぱりちゃんと会話になった。わたしの目に狂いはなかったね。

 

「それでぷちこに訊きたいんだけど、プラネタワーってどうやって行けばいいのかな?恥ずかしながら待ち合わせの場所が分からなくって…」

「それなら、この道を真ーっ直ぐ行くにゅ。そうすると看板が出ている筈にゅ」

「おおっ!親切にありがとう!それじゃあね!」

 

真っ直ぐなんてシンプルで分かりやすいね、いやー旅に出る事になったねぷ子さん一行のメインのわたしが遅れちゃ話にならないし急がないと!

 

「……そう言えば、今の人何処かで会った様な気がするにゅ…」

「……そうだにゅ、ねぷ子にゅ!」

 

 

 

 

「おおーっ!何か大地が割れているよっ!?まさかこれが、古の戦いの傷跡!?きっと遥か昔に、ここで女神と邪神が互いを無数の剣で封印し合ったと言われている戦いがあったに違いないよ!」

「…何言ってんのあの子」

「さぁ……取り敢えず珍しい光景にテンション上がってるんだよ、気持ちは分からないでもないし」

「すみませんてす、ねぷねぷは少し記憶が抜け落ちちゃってるですから根気強く、付き合ってあげて欲しいです」

 

プラネテューヌの端、接岸場。私達は大陸移動に必要な渡航手続きを教会で済ませた後に来たのだった。

 

「ねぷねぷ、この辺りは接岸場と言って大陸と大陸の陸地が時々くっ付く場所なんです。別に1つの大陸が割れてる訳じゃないてすよ?」

「へーそうなんだ。でもまだ繋がってないよ?やっぱイヤッフー!とか言ってジャンプするの?」

「オーバーオールに赤い帽子でも被ればねぷ子なら渡れるかもね」

「何なら用意しよっか?可愛らしいロリっ娘さん」

「む、どうして教会のお兄さんの真似してるのさ」

 

ネプテューヌの言う通り、可愛らしいロリっ娘とは渡航手続きの為に寄った教会にいた職員さんの言った言葉だった。本人の前でそれを言った職員さんはある意味凄い。

 

「別にー。…しかしパープルハート…様?…に守護女神戦争(ハード戦争)かぁ…どっちも実感ないなぁ」

「だよねー。何せわたし達記憶喪失だし」

「イリゼはともかくねぷ子は女神様相手に失礼な事しちゃ駄目よ?」

「何でわたしだけ?」

「イリゼはそこら辺弁えてそうだからよ」

 

どうやらアイエフの中ではネプテューヌより私の方がしっかりしてると言う評価らしい。まあ、ネプテューヌには悪いけど当然だよね。

 

「…あ、大陸が近付いて来たですよ」

『おぉー!』

 

私とネプテューヌは近付く大陸同士に揃って声をあげる。初見ならきっと誰でもこんな反応するんじゃないかな、だってほんとに凄い光景だもん。

 

「じゃ、そろそろ移動になるわね。皆忘れ物はないかしら?渡ってから気付いても取りに行くのは大変よ?」

「だいじょーぶ、忘れ物は無いし宿題もやったし歯も磨いたよ?」

「それだとまた来週〜…になっちゃうんじゃないかなぁ…」

「あはは…あ、イリゼちゃんここに来るまでに傷が痛んだりしなかったですか?」

「あ、それは大丈夫だよ?…若干締め付けられてる感があるのは否めないけど」

 

そんな感じの雑談をしてるうちに二つの大陸は接触し、移動出来る様になった。私達と同じく大陸移動の為に来ていた人達が動き始める。

 

「よーし、それじゃあ皆誰が一番速く着けるか競争だよ!よーいどん!」

「ちょ、提案と同時にスタートなんてズルいわよねぷ子!」

「わわっ、待って欲しいですぅ!」

「あ、皆競争に乗るんだ…って思ってるうちに置いてかれた!?わ、私も負けないからね!」

 

そう言って走り出す私達。いざ、ラステイションへ!

 

 

「…ま、実際には移動シーンはカットで次わたし達に焦点が当たる時はもう到着してる、ってパターン何だろうけどね」

「だからメタ発言止めようよ!?」

 




本日のパロディ解説(原作未プレイの方の事を考慮し原作でのパロディも解説しております)

・ガンナーがいた方が効率良く狩れる
モンスターハンターにおける多人数プレイでのネタ。別に剣士オンリーでも問題ないのかもしれませんが、ガンナーも結構良いですよ?勿論持論ですが。

・魔装少女
これはゾンビですか?に登場する魔法少女っぽい能力者。作中でも言った通り変身イリゼはフリフリの衣装ではありませんし逆から読むと意味が分かる詠唱もしません。

・メガ身化
ポケモンシリーズの一つ、ポケットモンスターXとY、Zとそれ以降のネタ。文字が分からなかったとはいえ、どうして『めがみ』を『メガ身』と思ったのでしょう…。

・女神と邪神が互いを無数の剣で封印し合った
原作と同じ会社から発売されたフェアリーフェンサーエフのパロディ。原作からあるネタですが、同じ会社とはいえこんながっつりパロるとはびっくりです。

・イヤッフー、オーバーオールに赤い帽子
マリオシリーズの主人公、マリオの事です。原作からのネタな上今のご時世でこれを解説する必要は無い様な気がしないでもないネタですね。

・「〜〜宿題もやったし歯も磨いたよ?」「それだとまた来週〜…に〜〜」
ザ・ドリフターズのEDでのフレーズの一部。こちらも時々スペシャルとしてTVで放送されていますしメンバーの有名さ的にも解説は不要かもしれませんね。





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第五話 新たな大陸、新たな騒動

「久しいな、イストワール」

 

無人と思しき部屋に声が響く。その声は高圧的でありながらもどこか忌々しさを孕んでいた。

 

「…マジェコンヌ、何度来ても無駄です。私は貴女に協力するつもりなどありません」

「分かってるさ、貴様に訊きたいのはネプテューヌの事だ。」

「…まさかネプテューヌさんと会ったのですか?」

「やはりイストワール、貴様だったか。ネプテューヌに入れ知恵をしたのは」

「さて、何の事でしょうか。私は貴女に封じられている身…それは貴女が一番よく知っている筈です」

 

マジェコンヌは問い詰める様に、イストワールは飄々と言葉を紡いでいく。そこには友好的な雰囲気などは無く、強いて挙げるのであれば友好的とは対極な敵意だった。

 

「ふん、よくもまぁ白々しい嘘をつけるものだ。…まあいいだろう。所詮奴は記憶喪失、次で仕留めてやるさ…それよりもイストワール、貴様はイリゼ、と言う名の者を知っているか?」

「イリゼ……?」

 

沈黙するイストワール。その沈黙は黙秘ではなく、自分の記憶を探り…その上で『知らない』という結論に辿り着きつつあるように思えた。

 

「やはり貴様もそうか…突然変異か何かのまやかしか…まあいい、価値があるなら利用する、邪魔をするなら潰す…それだけだ」

 

悪意に満ちた笑みを浮かべるマジェコンヌ。イストワールはそれをどこか哀れにも思っていたが、当然それがマジェコンヌに伝わる事は無い。

 

「私の定めた女神の運命は変わらぬ。さぁ女神達よ、再び戦い合うのだ!ハーハッハッハ!!!」

 

 

 

 

見渡す限りの工場とそれに関連する建造物。風景と雰囲気を一度に表すとすれば正しく『重厚なる黒』。

そんな大陸、ラステイションに足を踏み入れた私達は…

 

『はぁ…はぁ…やっと着いた(です)……』

 

思い切り疲弊していた。調子に乗って本気で競争なんかするからである。特にコンパは疲労困憊状態…別にコンパの名前にかけたギャグじゃないよ?

 

「結構距離あったね…」

「まあ大陸移動したらすぐ街中、な訳ないものね…我ながら浅はかな事したわ…」

「もー、誰さ競争なんて言い出したのは!」

『いやそれ(ネプテューヌ、ねぷ子)でしょうが!』

「早くどこかで一休みしたいです…」

 

そんなこんな言いながら進む私達。そう言えば包帯解けてないかな…と不安になったけどコンパが強く締めてくれたおかげか全く解けていなかった。キツいの我慢した甲斐があったなぁ…。

 

「しかしまあ大分プラネテューヌとは感じが違うよね。こう、なんていうか…鋼鉄島ーって感じ?」

「確かにね、ここの女神様は重工業に力を入れてるのかな?」

「うーん…確かに女神様も力を入れてるとは思うけどあくまで文明は人が作るものだから女神様が、って言うより女神様と国民とを含めたラステイション全体が重工業に力を入れてるってのが正しいと思うわ」

 

ラステイション全体、か…確かにそうだよね。トップと国民と両方がいて国って成り立つものだし。

 

「そんな難しく捉えなくても良いと思うけどなぁ…こんぱはこの大陸どう思う?」

「工場とか煙突とかが目立っていて産業革命って感じがするです。でもわたしにはちょっとマニアックな感じかもですぅ」

「まぁ女の子が食いつきそうな感じではないかもね。私は割と好きだけど…それよりも一度教会に行きましょ」

 

アイエフの言葉にはーい、と答えて街中を進む私達。慣れない場所では旅人のアイエフが特に頼りになるね。

 

「…あ、そう言えばラステイションの教会は教会なの?」

「はい?そりゃ教会は教会でしょ」

「急に変な事言ってどうしたです?頭ぶつけたですか?」

「あーごめん、私の言い方悪かったね…ラステイションの教会はプラネテューヌの教会みたいに別の建物になってたりするの?って事」

 

暫く歩いた所で変に端折った質問をしたせいでコンパとアイエフから変に思われてしまった。アホの子認定されない様に今後気を付けないと…。

 

「あぁ、そういう事…普通に教会らしい建物になってるわ。そもそも教会が教会の形してないのはプラネテューヌだけだった筈だし」

「あいちゃん、じゃあその教会にはまだ着かないの?」

「…おかしいわね…。こっちの方向だと思ったんだけど…」

「もしかして迷ったとか?」

「んー…暫く来てなかったからなぁ。取り敢えず、誰か捕まえて訊いてみましょ」

 

と言う訳で一旦停止。周りを見回して教会の場所を知っていそうで且つ、訊き易そうな人を探す。

 

「うーん…中途半端に人がいると逆に誰に訊けば良いのか分からない…」

「じゃあ、あのいかにも冒険者って人はどうかな?あのー、そこの赤髪の人すいませーん」

 

そう言ってネプテューヌはすぐに赤髪サイドテールの女の子に話しかける。ネプテューヌの即決即断さは凄い。

 

「ん?あたしに何か用かな?」

「ブラックハート様って女神様に会いたいんだけど、どこに行けばいいか知ってたら教えて欲しいんだ」

「ブラックハート様…?あぁ、ノワール様の事か」

 

少女は一瞬不思議そうにするもすぐに私達が誰の事を言っているのか気付く。

 

「それなら、この道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がった所に教会があるよ」

「どうやら方向は合ってたみたいね。助かったわ」

「困った時はお互い様だからね」

「ここで会ったのも何かの縁だし、名前教えてよ。わたしはネプテューヌ!それでこっちがこんぱとあいちゃん、それにイリゼだよ」

「あたしはファルコム。駆け出しの冒険者なんだ」

 

名前を聞いて一瞬頭の中にキャプテンなファルコンさんが思い浮かぶけどすぐに間違いに気付く。この赤髪の子はファルコ『ム』さんだしどう見ても謎のヘルメットとグラサンをかけてるムキムキのあの人ではない。

 

「こっちで会ったのも何かの縁だし、もし困った事があったら声をかけてくれれば力になるよ」

「ほんと!やったね」

「…こっち?あれ?皆は前に会った事あるの?」

「無かったと思うです」

「あ、ううん気にしないで。それこそこっちの話だし」

「そう…とにかく助かったわ。それじゃ、私達は急いでるからこれで失礼するわね。また会いましょ」

「うん、またね」

 

教会の場所が分かった為ファルコムさんに別れを告げて歩き出す私達。一人目で場所が分かるなんて幸運だったなぁ…。

 

 

「…ふぅ。まさか、こっちの世界に来てすぐにネプテューヌさん達と出会うなんてちょっとびっくりしたかも。…でもイリゼって子はこっちの世界にしかいない子なのかな…?」

 

私達が去った後、私の疑問の答えとも思える言葉をファルコムさんが発していたけど、当然私達がその言葉を耳にする事は出来なかった。

 

 

 

 

「誰だ貴様等は。生憎ここは子供が遊びに来る様な場所ではない」

 

やっと辿り着いたラステイションの教会。そこで私達は教会の職員さんに門前払いされていた。

 

「ねぷねぷの記憶を取り戻すのにどうしても女神さんに聞きたい事があるです。お願いしますです」

「…あ!もしかして『誰だ貴様等は』って聞かれたって事は、名前さえ言えば会わせてくれたりするのかな?だったらわたしはネプテューヌ!で、こっちはこんぱとあいちゃんとイリゼ!」

「いや出席確認じゃないんだしそういう意味で聞かれたんじゃないと思うけど…」

「その通りだ。どんな事情があろうが関係ない、仕事の邪魔ださっさと出て行け」

 

案の定突っぱねられる。取り付く島もないとは正にこの事である。…なんて感心していられる程私達の心に余裕はない。ブラックハート様、又はノワール様に何かしら用事があるならともかくこんな断られ方をされて納得出来るわけないじゃん。

そして私と同じ考えだったらしいアイエフが口を開く。

 

「…教会って随分不親切なのね。女神様に仕える貴方達がそんなんじゃブラックハート様も大した事ないんじゃない?」

「何とでも言え。たかが女神をどう言われようが痛くも痒くもないわ」

「……皆、ここは一度戻りましょ。きっとこれ以上は時間の無駄よ」

「なんでさ!あいちゃんはここで諦めちゃっていいの!?諦めたらそこで試合終了だよ」

「…え?私達職員さんと試合中だったの?」

「いいからさっさと帰るわよ」

 

不満げなネプテューヌをなだめつつ教会を後にする。そして教会が見えない辺りまで来たところで今後の事を話し合うべく立ち止まる。

 

「あーもう!あったまくるなー!あの教会の人もだけど、あいちゃんもあいちゃんだよ!どうして引き下がっちゃうの!?」

「気付かなかったの?あの人、女神様に仕える身でありながら女神様を呼び捨てにしていたわ」

「確かに言われてみればあの人、女神さんを呼び捨てにしてたです。呼び捨てにするなんて絶対におかしいです」

 

そう、それは私も感じていた事だ。今まで会ってきた人達は謎の女性を除いて皆女神様、女神さんと呼んでいた。どう考えてもそれは不自然だった。

 

「どうして?実は超仲良しだからこそお互いを呼び捨ててるって可能性はないの?」

「それはないんじゃない?超仲良しならアイエフがブラックハート様を貶す様な事言った時怒る筈でしょ?」

「その通りよ。普通教会の職員さんはプラネテューヌみたいに女神様がその場にいなくても敬意を持って呼ばれるものなの」

「なのにここじゃ『たかが女神』扱い…絶対変だね」

 

おかしい。それが私達の出した結論だった。その後旅人であるアイエフが何か知らないかコンパと聞いてみるも成果なし。でもやっとネプテューヌが落ち着いてきた事で雰囲気はいつも通りになる。

 

「旅人キャラなのにいざという時に頼りないなー、あいちゃんはー」

「仕方ないじゃない…私はどの国にも均等に行ってる訳じゃないんだから」

「まぁまぁ安心して。だからってこんな事でノシする程ブラックなパーティーじゃないから!例えレベルが低くてもラスボスどころか次回作までずーっと一緒だよ!」

 

相変わらずのメタ発言をしながら謎のフォローをするネプテューヌ。さっきまで怒り心頭だった彼女はどこへやら、いつの間にか平常運転だった。

 

「…悪かったわね、頼りなくて。てか記憶喪失のアンタには言われたくないわよ!」

「あははははっ、ごめんごめん」

「…えーっと…じゃあ、これからどうするの?教会について調べる?」

「おっけー、じゃアンパンと牛乳買ってくるよ!」

「張り込みするですか?」

「いや張り込みしないから、張り込みした所で何か分かるとも思えないし大陸移動と慣れない土地で皆疲れてるでしょ?」

「大陸移動で疲れたのは皆で調子に乗ったのが原因の一端だけどね…」

 

反対意見は特に無し、という事で一旦この件は保留にして泊まる場所を探し始める。

 

「こういう時ってどういう所に泊まるのがベストなの?」

「特にベストとかはないと思うわ。強いて言えば懐を圧迫しない程度の所って位よ」

「いやそれより若い女の子四人でホテルとかって危なくない?エロゲ的展開は御免だよ?」

「そういう事言うとフラグになるから止めようよ…」

「イリゼちゃん、その突っ込みもフラグになり兼ねないです…」

 

そうこう言ってるうちに丁度良さそうなホテル(決して不純な類いではない、私達は悪い子じゃないもん)を発見しチェックイン。指定された部屋へ行き一息つく。

 

「ふぅ…今日はここでゆっくりするとして明日はどうするの?RPGの定番、街の人への聞き込みとかする?」

「RPGみたいに全員に聞いてたら何日かかるか分からないわよ…それよりクエストね」

「クエスト?まだまだお金は沢山あるんじゃなかった?…もしかしてあいちゃんわたし達に内緒でこっそり使い込んじゃったとか!?」

「別に路銀が心細くなった訳でもなければ、ねぷ子みたいにこっそりプリンを買い食いしてる訳でもないわ」

「ぎくっ!?バレてたの!?」

「バレてたの!?…も何もあからさまにいなくなった後やけに幸せそうにしながら戻って来る事多かったじゃん…」

「…もしかして、気付かないと思ってたの?」

「う、うん…まさかバレてたなんて…」

「ねぷねぷ、プリンの食べ過ぎはめっ、です!」

「あぅ、こんぱに怒られた…」

 

えらいショックを受けているネプテューヌだったけど、コンパの怒り方は怖いというかむしろ可愛かった。そんな二人のやり取りを苦笑しながら見た後話を戻す。

 

「じゃ、どういう目的でクエストするの?」

「思い出してみて。プラネテューヌではエネミーディスクがあった場所に鍵の欠片もあったのよ?ならラステイションでもその可能性があると思わない?」

「おおっ!確かに!さっきは頼りないとか言ったけど前言撤回だよー!正しく汚名挽回!流石はあいちゃん様です!」

「ねぷねぷ、それ色々間違ってるです…。そして、死亡フラグです…」

 

ネプテューヌの何だかよく分からない称賛に気が抜ける私達。でも明日の目的はちゃんと決まった、なんだかんだでちゃんと話が進むのがこのパーティーである。

そうして各々休息を取る私達。明日はいざエネミーディスクと鍵の欠片探しへ!

…と、その前に……

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ…後はうろ覚えだから普通に数えてっと…」

「何してるです?」

「お金のお勘定だよ。はい、これで借金返済終了だよね」

 

バスタードソードを買う為に借りたお金を皆に返す私。ずっと気になってた事だから済んで良かったぁ…。

 

「お疲れ様イリゼ。これでやっとたぬきちさんのお店使えるね!」

「いや私家の借金はしてないしどこぞの森の住人でもないよ!?」

 

…借金返済ですらボケにしてくるネプテューヌだった。




今回のパロディ解説

・鋼鉄島
ポケットモンスターダイヤモンド・パール・プラチナにて登場する島の一つ。名前的にはそれっぽいが実際の鋼鉄島は岩山でありラステイションと似てはいない。

・キャプテンなファルコン
F-ZEROシリーズの主人公、キャプテン・ファルコンの事。作中の地の文の通り名前がちょっと似ているだけであり、外見はほぼ180度違っている。

・諦めたらそこで試合終了だよ
SLAM DUNKに登場する安西先生の台詞。それに続く「安西先生…!!バスケがしたいです…」と共に多くの人が知る漫画の名台詞の一つとなっている。

・汚名挽回
汚名返上と名誉挽回が混じった結果生まれた誤用。意味的には一旦良くなった後再び悪くなる…という感じらしい。パロディと呼べるかは微妙です。

・流石はあいちゃん様です
魔法科高校の劣等生の代名詞とも言える台詞で元は「流石はお兄様です」。元ネタは略してさすおにになるのでアイエフの場合は略してさすあい、でしょう。

・たぬきちさんのお店
どうぶつの森シリーズで植物の種から家具まで幅広く扱うたぬきち系列のお店及びそこでのバイトイベントの事。断じてイリゼはローンで家を買ってません。


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第六話 アヴニールの猛威

「マスター、あの客にマティーニを…」

「ここはBARじゃなくて普通の食堂なんだが…」

 

カウンター席に座ったネプテューヌのボケ注文に青髪の少女、シアンは困った様な顔をする。少なくともこれはクエストの依頼者と受注者の会話ではない。

 

「あー…悪いわね、話逸らしちゃって」

「あ、あぁ…じゃあ改めて内容説明をさせて貰うよ」

 

ホテルに泊まった翌日、私達はとあるクエストを受けた。基本的にクエストはギルドが依頼者と受注者の仲介役になってくれるから直接会う必要はないんだけど、シアンさんは自分から説明したいという事で呼んでくれた。

 

「ええと、まずアンタ達は交易路の場所知ってるかい?」

「大丈夫、知ってるわ」

「なら話が早い、頼みたいのは交易路のモンスターの事なんだ」

「交易路のモンスターを倒してくれ、って事ですか?」

「そういう事さ。少し前まではモンスターなんていない安全な交易路だったんだが、最近モンスターが出る様になっちまってさ…そのせいでせっかく作った商品の流通が滞ってるんだ」

 

少し前まではモンスターが居なかったのに最近出る様になった、って事はつまり…

 

「もしかしてエネミーディスクのせいかもです…?」

「うん、タイミング的にもそうだと思うよ」

「ビンゴね。いいわ、その依頼確かに受けたわ」

「助かる。ただでさえアヴニールのせいでこっちは景気が悪いっていうのに、それにモンスターまで加わってたまったもんじゃなかったんだ」

 

シアンさんの言葉の中に聞き覚えのない単語が出てくる。でも私は何処かで聞いた覚えがあったのでアレかなぁ〜…と思っていたらこの単語はコンパは知らなかったのか質問をする。

 

「シアンさんシアンさん。そのアヴニールって何ですか?」

「え、確か地球の四つの経済圏の一つの…」

「それアヴニールじゃなくてアーブラウでしょ…」

 

私が代わりに説明してあげようと思ったらなんとアイエフに突っ込まれてしまった。まさかの私の勘違いだったのだ。

 

「えーと…つまりお前らはアヴニールを知らないのか?」

「はいです。ラステイションには今日来たばかりなので何も分からないんです」

「アヴニールって言うのは実質このラステイションを支配している大企業だ。家電から兵器までなんでも作ってて、その製品ラインナップの多さと低価格でほぼ市場を独占していると言っても過言じゃないんだ」

「そ、それはまた物凄い企業ですね…」

 

企業同士が競争する事を前提とした経済の上で幅広い商品を開発する企業は多くない。競争である以上それなりの物を幅広く揃えるよりも商品展開が乏しくても質の良い物を売り出した方が利益に繋がるからだ。にも関わらず幅広く揃えるという事はつまりアヴニールがそれだけ強い企業だと言う事になる。

 

「おかげでこっちの商品は種類も価格もアヴニールに負けて物は売れないし下請けさせてくれる訳でもないしで、今月に入ってから知り合いの工場も何件潰れた事か…」

「ひ、酷いです!どくせんきんしほーいはんです!」

「そもそもラステイションに独占禁止法あるのかな…でも仮に無いとしたら変だよね、市場の独占なんてされたら国も国民も困ると思うけど…」

「女神様に相談はしたの?こんな状況余程の事が無い限り女神様が放っておくなんて考えられないわ」

「町工場の仲間連中で何度も相談しようとはしたさ。けど、ブラックハート様の不在期間が長過ぎたんだ…」

 

シアンさんが今の教会の現状を語り始める。教会がアヴニールに乗っ取られた状態だという事、教会はシアンさん達国民にブラックハート様との対面をさせてくれない事、それらを語るシアンさんの顔は見るからに曇っていた。

 

「アヴニールは悪い会社なんだね。シアンも街の人も、それで困ってるんでしょ?」

「悪いなんてもんじゃない…バケモノみたいな会社さ!」

「…成る程。ラステイションはそういう事情を抱えていた訳ね。それなら昨日の教会での事も頷けるわ」

 

昨日教会で私達は教会の職員さんから愛想の無い態度を取られ、門前払いされていた。その時私達はおかしいと思ったけどそれも当然の事だった、教会が本来の状態じゃなかったのだから。

 

「教会がそんな状況じゃ、女神さんに会う事なんて出来そうにないですね」

「ならさ、ラステイションの女神様…えっと、ブラックバード様だっけ?その人の住んでる所に直接乗り込んで話を訊いて貰おうよ!わたし達も鍵の欠片の情報が手に入って、シアンもお願いを聞いて貰えてきっと二倍お得だよ」

「ブラックバード様じゃなくてブラックハート様な…」

 

ネプテューヌの案に対しコンパは同意の様な表情を見せるが、私とアイエフとシアンさんは同意しかねていた。

 

「それは止めといた方が良いんじゃない?直接って言っても場所が分からない以上手早く進める訳ないし」

「そう?やってみなきゃ分かんないよ?」

「今回は諦めときなさいねぷ子、下手に動いて失敗したら尚更ガードが堅くなるだけよ?そうなったら私達だけじゃなく、シアン達にも迷惑をかける事になるわ」

「そもそも今回の目的はクエスト、だしね」

「むー…まあ、そうだね」

 

一応の納得をしてくれたのかネプテューヌは乗り込む案を下げてくれる。

 

「じゃあ…とにかくモンスター退治を頼むよ。アヴニールの有無に関わらず交易路が使えないのは困るんだ」

「はい、任せて下さいです」

「おっけー、パパッと片付けてクリーンな交易路にしてあげるよ!」

「え、退治だけじゃなく清掃活動までするの?偉いね…」

 

相変わらずの会話をしながら食堂を出る私達。色々思う所は有るけど…まずはシアンさんからのクエストを達成しないとね。

 

 

 

 

「帰ったわ…って言っても、誰も迎えてくれる筈ないか」

 

教会の一室。外から戻り、所謂帰宅の挨拶をするも昔の様に温かく迎えてくれる声はない。帰ってくるのはよそよそしい、業務的な反応だけだった。

 

「女神様。公務以外の外出は困りますと何度も申している筈ですか」

「自分の時間位どこで何しようが私の勝手よ」

 

女神様。そう、私は女神ブラックハートでありノワール。自慢ではなく事実として私は信仰され、敬意を払われる対象『だった』。

 

「それとも何?私を教会に軟禁しようとでもしているのかしら、お飾りはお飾りらしく座ってろって言う訳?」

「……っ!そ、そういう訳ではありません。もし我々の目の届かぬ所で女神様の身に何かあっては…」

 

私の皮肉めいた言葉に動揺を見せる職員。

これが今の教会の現状だった。私のいない間にアヴニールに乗っ取られ、私は事実上の軟禁状態。でも、それを責める事は出来ない…理由はどうあれこれは守護女神戦争(ハード戦争)の為に下界の事をおざなりにしていた私の自業自得なんだから…。

 

「ふぅん…ま、そういう事にしておいてあげるわ。で、私が留守の間に何か変わった事はあった?」

「いえ、特に何も」

「…『特に』って事は何かしらあったみたいね」

「些細な事ですので、女神様のお耳に入れる程の内容は…」

「命令よ。いいから話しなさい」

 

私が問い詰めると職員はやっと話し始めた。何でも私に会いに来た人がいたらしい。個人的にちょっと嬉しかったけど職員の目の前という事もあり我慢し、話を続けさせる。

 

「ただの女の子が三人です。…確か、そのうちの一人の名前がネプチューヌだったかネプテューンとかそんな名前だった様な…」

「っ!?もしかしてそれってネプテューヌじゃない!?髪の毛が薄紫色で、左右に跳ねてツンツンしていなかった!?」

 

もし来たのがネプテューヌだとしたら…幸か不幸か、何れにせよ見逃せない情報ね…(因みにこの後も暫く職員はネプテューヌの名前を言い間違え続けていたけど流石に可哀想だから描写は飛ばしてあげる事にしたわ)。

 

「ごほん。そのネプ何とかという少女ですが、確かに見た目もそんな感じだった気がします。…お知り合いですか?」

「知り合いどころの関係じゃないわ。私を訪ねてわざわざラステイションに来るなんて、一体何が目的かしら…」

「会いに行かれるんですか?でしたら行くだけ無駄だと思いますよ?どうやらネプ何とかという少女は記憶喪失らしく手がかりになるものを得るために女神様に会いに来たと言っていました」

「記憶喪失ですって!?」

 

驚きの情報だった。記憶喪失…断定は出来ないけどあの時の戦いが原因の可能性はあるわね…。

 

「…ノワール様?」

(…記憶が戻ったネプテューヌと戦ったら私が勝てるかどうかは分からない…けど、記憶のないネプテューヌなら今の私でも勝てる筈。そして、記憶がなくても女神を倒したとなればラステイションでの私の権威を取り戻せるかもしれない…)

「あの、ノワール様…?」

「よし、そうと決まったら早速ネプテューヌを追いかけるわよ!」

「ノワール様!?どちらへ行かれるのですか!?」

 

現状打破の糸口が見えた私はすぐさま教会を後にする。職員が何か言ってたけど関係ないわ、今は女神として返り咲く事が最優先よ!

 

 

 

 

「…ねぇ、アイエフ」

「何かしら?」

「交易路ってこんな山道の事を指す言葉だっけ…?」

 

工場『パッセ』及びその隣の食堂から出て数刻後、私達は岩山気味の山道を歩いていた。本当にこんな所が交易路なのかな…。

 

「今までは徒歩以外の交通手段があったんじゃない?で、モンスターが出てきたせいでそれが使えなくなったとか」

「あー…ならモンスター退治しても交通手段を復活させる為に整備しなきゃいけないだろうし早急に退治しなきゃだね」

「はぁ…はぁ…あいちゃぁー…ん…イリゼぇー…待ってぇ……疲れたよぉ…」

 

最初こそ意気揚々と突っ走っていたネプテューヌだったけど、今はそれが裏目に出てへとへとになっている。山道で走ればそりゃそうなるよ…。

 

「ねぷ子、アンタねぇ…疲労度とかいうシステムだからステータスはないんじゃなかったの?」

「た、確かに言ったけどさぁ…思ってた以上に坂道が多いんだもん、卑怯だよぉ…」

「わたしも足の裏が痛くてもう一歩も歩けないですぅ…」

「あはは…まあ確かにちょっとキツいよね。アイエフ、二人がへばっちゃってるしちょっと休憩しない?」

「もう、二人共だらしないわね…まあいいわ、休憩しましょ」

「やっと休めるですぅ…」

 

腰を下ろすネプテューヌとコンパ。正直私も疲れてきたのであからさまにへろへろになってくれた二人に心の中で感謝する。

 

「そうだ!せっかくだし休憩ついでに皆でおやつ食べようよ!街を出る前にプリンを買っておいたんだよねー」

「いいわね…って言いたい所だけど、実は例のモンスターが出没するのってこの辺りなのよね」

「……え?」

 

プリンを取り出そうとしたまま固まるネプテューヌ。その視線の先には…

 

「…あ、あのぉー…あいちゃん?この明らかに今まで戦った事の無いようなモンスターってもしかして…」

「えぇ、シアンからの情報通りよ。そいつでまちがい無いわ」

「またまたぁ、そんな冗談に騙されるわたしじゃないぞ☆アニメじゃ無いんだからさぁ〜」

「…ネプテューヌ、本当の事だよ」

「モンスターさん…もう少し空気を読んで欲しいです、KYですぅ…」

「うぅ…せっかく美味しくプリンを食べれると思ったのにー!」

 

そう言いながら変身するネプテューヌ、珍しく戦闘に対しアクティブだった。

 

「仏のネプテューヌと言われたこのわたしも、今日ばかりは鬼になるわ!」

「いや沸点低っ!て言うかそんな呼ばれ方してたっけ!?」

「相変わらずねぷねぷは変身すると見た目だけじゃなく性格もまるっきし変わるですね」

「皆!雑談なんてしてないでさっさと倒すわよ!」

「はうぅ、わたしはまだへとへとなままなんですが…」

「ねぷ子もやる気満々の様だし、もう一頑張りしましょ」

「うん、じゃ…私も…!」

 

魔窟での感覚を思い出し変身する私。こちらが臨戦態勢に入ったのを感じたのか巨大な鳥型のモンスターが突進してくる。

 

「イリゼ、まずはわたし達であいつを地面に叩き落とすわよ!」

「了解っ!」

 

飛んで突進を回避すると同時に剣を振るう私とネプテューヌ。それに対しモンスターはそのまま突っ切る事で回避、暫く二人と一体による空中戦となる。

 

「あいちゃん、わたし達はどうするです…?」

「飛べない以上出来る事は限られるわね…」

 

下ではコンパとアイエフが見守っている。早めに叩き落したい所だけど…。

 

「くっ…鳥だけあって速い…!」

「一瞬でも動きが止まれば行ける筈…イリゼ、何か手はある?」

「ごめん、思いつかない…」

「なら、私に任せなさい!」

 

下からアイエフの声が響くと同時に一対のカタールがモンスターに向かって飛ぶ。残念ながらそのカタールはモンスターの一撃で弾かれたけど…その隙は、私達にとって絶好のチャンスだった。

 

「上ががら空きよ!」

「貰ったッ!」

 

それぞれの翼を広げ、一瞬でモンスターの上へと舞い上がる私達。それに気付いたモンスターが体を捻るが…もう遅い。同時に放たれた斬撃は正確にモンスターの体を捉え、ダメージを与えつつ地へ落とす。そして落ちた先には万全の体勢をしているコンパの姿。

 

「今よコンパ!」

「はいですっ!」

 

コンパの注射器の針がモンスターに刺さる。それを振り払おうとするモンスターだったが、次の瞬間動きが鈍る。注射器内の薬品がモンスターにとっては毒だったのだ。

 

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

動きの鈍ったモンスターにトドメと言わんばかりに私達が上空から斬り裂く。その攻撃を受けたモンスターは甲高い鳴き声をあげ……消滅した。

 

「…ふぅ。中々の強敵だったわね」

「でも、皆のおかげで楽勝だったです」

 

そう言って力を抜く私達。これでクエストは達成、交易路は再び使える様になった筈だ。

だが、それに喜んでいられるのは束の間だった。何故なら、強力な敵との戦いがすぐそばまで近付いていたのだから……。

 

 

「……?イリゼちゃん、何不穏なモノローグしてるですか?」

「雰囲気ぶち壊す様なメタ発言しないでよコンパ…」

 




今回のパロディ解説

・アーブラウ
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場する四大経済圏の一つ。字面だとちょっとしか似ていないが、声に出すと似ている…様な気がしないでもないですね。

・「〜〜アニメじゃ無いんだからさぁ〜」「…ネプテューヌ、本当の事だよ」
こちらは機動戦士ガンダムZZの主題歌「アニメじゃない〜夢を忘れた古い地球人よ〜」のワンフレーズ。アニメじゃない、本当の事でもない、これは小説投稿サイトです。


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第七話 激突・守護女神

「…そこの岩陰に誰かいるわ」

 

目的のモンスターを倒し、いざ帰ろうとしていた時。

コンパとアイエフが飛べる私達に帰路は空輸して貰おうと交渉…と言うか買収を仕掛けてきた時。

そんな他愛無い会話はアイエフの言葉とその場に隠れていたもう一人の人物によって打ち砕かれ、まだ安心の出来る段階では無いのだという事実を突き付けられた。

 

「よく気付いたわね、褒めてあげるわ」

 

そう言って岩陰から姿を現す女性。少なくとも通行者や迷子には見えない。その様な人達とは雰囲気が全く違う。

 

「久しぶりね、ネプテューヌ…最も、貴女な覚えていないかもしれないけどね!」

「あいちゃん、この人…!」

「…えぇ、その独特のコスチュームにその瞳…何となく変身したねぷ子やイリゼに似ていると思わない?私の勘が外れてなければ、きっと貴女達の事を何か知っている筈よ」

 

そう、彼女は変身した私やネプテューヌと似ていた。髪の毛や瞳の色こそ違えど明らかに似たものを感じる。そして変身状態の私達の姿は決して一般的ではない。

だからこそ可能性を感じる。私達と何か関係のある人物ではないのか、という可能性を…。

 

「えぇ、そっちのイリゼとか言う方はともかくネプテューヌの事ならよーく知ってるわよ」

「……!?本当なの!?なら教えて!私は一体何者なの!?」

「……っ…!」

 

銀髪の少女の言葉にネプテューヌは血相を変えて反応し、私は対象的に消沈する。『イリゼとか言う方はともかく』…即ち、私の事は知らないという事だ。なら、私の事を知っているのは一体誰…?

 

「あはははっ!ネプテューヌにお願いされるっていうのも悪くないわね!いいわ、教えてあげる!」

 

ネプテューヌの頼みに対し銀髪の少女は高圧的な態度で笑いながら返す。何というか…ハイテンションな人だ。

 

「本当!?」

「良かったですね、ねぷねぷ」

「…その代わり、一つ条件があるわ」

「条件?一体それは何?」

「勿論…私に勝負で勝てたらよ!」

「……ッ!?」

 

言い放つと同時に少女の手元に片刃の大剣が現れ、次の瞬間には斬りかかってくる。

半ば反射的に自身の獲物である大太刀を掲げるネプテューヌ、間合いに入るや否や大剣を振るう少女。大太刀と大剣のぶつかり合いで火花が散る。

 

「な…何のつもり!?わたしは貴女と戦うつもりはないわ!」

「自分について知りたいんでしょ?なら戦う理由があるじゃない!」

 

力を込め大剣を振り抜く少女。ネプテューヌは対抗せずに跳んで後退、着地と同時に構え直す。

 

「ふふっ…どうしたのよネプテューヌ、攻める気がないならまた私から----」

「はぁぁっ!」

「……っ!」

 

少女の挑発混じりの言葉を止めたのは、他でもない私の一太刀だった。寸前のところで大剣の腹を使い防御する少女。その顔は一瞬驚愕に染まるが、すぐに元の表情に戻る。

 

「一対一のつもりだったなら退くけど…どうする?」

「…へぇ…やっぱりアンタも只者じゃない訳ね。いいわ、これ位ハンデのうちよ!」

 

お互いに離れ仕切り直しの形となる私と少女。私の事を知らないというのは勿論ショックだった事に変わりはない…でも、変身中だったおかげかこの状況に際し気持ちを切り替え、目の前の戦いに集中する事が出来た。

 

「ネプテューヌ、イストワールさんとやらが記憶を治してくれるらしいとはいえこれが千載一遇のチャンスである事には変わりないでしょ、違う?」

「…そうね、ここからはわたしも全力でいかせて貰うわ」

 

顔を見合わせた後、再び少女に瞳を向ける私とネプテューヌ。少女を含めた三人の間に数秒の沈黙が訪れる。

 

「…誰も動かないですね…」

「動かないんじゃなくて動けないのよ、下手に動くのは隙に繋がるからね…」

 

私達を見守るコンパとアイエフ。彼女達も自分との力の差を感じているのか容易に動こうとしない。

そして、客観的には数秒の、私達にとってはその何倍にも感じる時間が経ち…なんの前触れも無くネプテューヌが動いた。

その逆に意表を突いた攻撃に少女は一瞬反応が遅れる…が、ネプテューヌの大太刀が届くより早く少女は思考力を取り戻し、紙一重で飛んで回避する。

 

「ち…モンスター程楽にはいかないわね…」

「当然よ、たかがモンスター如きと一緒にしないでくれるかしらッ!」

 

少女はただ回避した訳ではなかった。飛翔する事で間合いを自身が有利となる状態に調整し、ネプテューヌが次の行動に移る前に鋭い一撃を放つ。

一対一の勝負であればその攻撃は通用していただろう。…そう、一対一であれば。

 

「私を忘れないで貰える?…ネプテューヌ!」

「ち……ッ!」

「喰らいなさいッ!」

 

二人の間に滑る様に割り込んだ私は剣同士を打ち合わせる事でネプテューヌへの攻撃を妨害。更に少女がそれに歯嚙みした隙を突いてネプテューヌが蹴りを入れる。

蹴りを片手で受ける少女。ダメージとしては軽微、動きに影響の出る様なものでは決して無かったが、一撃与えたという事実は私達の士気が上がるのには十分だった。

 

「…前とは逆の立場ね…これで負けたのならまあ仕方ない、むしろ善戦出来た事を誇って良いでしょうね…」

「あら、勝ち目が無いとでも悟ったのかしら?」

「まさか、この状況で勝ってこそ私ってものよ!」

 

大剣の切っ先を私に向け、一気に距離を詰める少女。私は咄嗟に防御体勢に移るが、少女は私の動きを確認した瞬間大剣を横に振り抜きネプテューヌへ攻撃対象を移す。その流れる様な対象の意向を見た私は瞬時に最初から対象はネプテューヌだったのだと察した。

完全に攻撃体勢となっていたネプテューヌは対応しきれず、結果甘くなった防御に叩き込まれた一撃はネプテューヌを吹き飛ばす。

 

「ネプテューヌ!?」

「貴女によそ見してる余裕があるのかしら?」

 

吹き飛ばされたネプテューヌに一瞬意識を引かれてしまう。常人ではあれば文字通りの一瞬だが、少女にとっては私へ攻撃をする為の十分な時間だった。

繰り出される少女の回し蹴り。私はそれを両手を交差させる事で防御するも衝撃で痛みが走る。それでも何とか長剣を強く握り振るう事で少女の追撃を阻止、私もネプテューヌを気にして後退する。

 

「大丈夫?ネプテューヌ…」

「問題無いわ…でも、一筋縄じゃいかないわね…さっきのモンスターみたいに不意打ちが通用するとは思えないし…」

「勝ち目はある筈だよ、圧倒的な差ってレベルじゃ無い筈だしこっちは二人なんだから」

 

ネプテューヌは地面に落ちる直前で翼を使って急減速を行ったのか怪我は無く、継戦も可能な様子だった。

 

「まさかまだ終わりじゃないわよね?自分の事が知りたいんでしょ?」

「……っ…当然よ、この程度でやられる訳ないじゃない…」

 

相変わらずの高慢な態度に触発される様に立ち上がるネプテューヌ。それに対し無言で少女に瞳を向ける私。

返答をしなかった理由は二つ。一つは私に対しての言葉では無かったから、そしてもう一つは……

 

「…ネプテューヌ、一つ試したい事があるの…乗ってくれる?」

「…聞かせて頂戴」

 

 

 

 

空中で三振りの刀剣が交差し、その度に火花と金属音をあげる。私、ネプテューヌ、銀髪の少女による戦闘は佳境に入りつつあった。

 

『はぁぁぁぁっ!』

「その程度で…ッ!」

 

私とネプテューヌによる連続攻撃を時に防御し、時に躱す事で防ぎつつ、私達の連携が途切れた所で反撃に移る少女。彼女の獲物は一撃の重みに特化した叩き斬る武器である大剣だが、それを彼女は片手剣の様に華麗に扱い、時には引き斬る様な動きさえ見せていた。

幾度目かの攻防の末、私とネプテューヌの間の距離が開いた瞬間、少女が動いた。

 

「即興の連携にしてはやるじゃない、でも…相手が悪かったわねっ!」

「しまっ…!?」

 

連携と連携の間の無防備な隙、そこを突いた少女の攻撃にネプテューヌは辛うじて大太刀による防御を図ったが上段からの重い一撃を防ぎきる事など到底出来ず、風を受けた紙飛行機の様に軽々吹き飛ばされてしまう。

 

「あははははっ!やっぱり私の方が強かったわね!…さあ、次は貴女よ?」

「ねぷ子!」

「ねぷねぷ!」

「…………」

 

落下したネプテューヌに駆け寄るコンパとアイエフ。私も出来るならば行きたかったけど…状況が、目の前で嬉しそうに笑う少女が許してくれない。だからこそ、私は直ぐさま攻撃に移った。

横薙ぎ…と見せかけた中段からの無理矢理な逆袈裟。それを少女は大剣の腹で受け流すと同時に峰での打撃を放つ。眼前に迫る大剣の峰を身体を捻る事で回避する私。長剣と大剣を挟んで私と少女の視線が交錯する。

 

「無名としては貴女も強い方よ、褒めてあげるわ」

「それはどうも…ッ!」

 

一拍置いた後、互いに振るった剣がぶつかり合い、せめぎ合う形になる。

ここまでは想定内だった。自分の推測が間違っていなかった事に安堵しつつ、私は内側から湧き上がるある感情に気付く。私の感覚が正しければそれは…高揚感、だった。

 

「貴女は十分な強者よ、それはネプテューヌも同じ…だから満足して負けなさいッ!」

「そうは…させないッ!」

 

互いに距離を取り、次の瞬間には突進。そして両者が同時に全力の袈裟懸けを叩き込む。

響く金属音。痺れる両手。少女は勝ち誇った笑みを浮かべ…長剣が吹き飛んだ私に刃を向ける。

 

「ほら、やっぱり私の勝ちじゃない。最後に何か言いたいなら聞いてあげても良いわよ?」

「じゃあ…貴女に忠告させてもらっていい?」

「…忠告?」

「うん、忠告……」

 

怪訝な顔をする少女。そんな少女に対し私は…勝利宣言とも言える、その忠告を口にした。

 

 

「…後ろ、気を付けた方が良いんじゃない?」

「……ーーッ!?」

 

私の言葉の意味を瞬時に察し振り向く少女。だが、もう遅い。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

「…っ…きゃあぁぁぁぁぁぁッ!」

 

強烈な一撃を受け、真っ逆さまに落下する少女。完全に油断していた少女へ一撃を与えた彼女は自身の獲物を下げ、私に銀髪の少女とは別種の笑みを見せる。

 

「陽動ご苦労様、イリゼ」

「そっちこそご苦労様、ネプテューヌ」

 

 

 

 

「くっ…!助けがあるとは言え、この私が負けるなんて……やっぱり私の力が…うぅん…それだけは認めたくない…!」

 

少女の近くへ降り立つ私とネプテューヌ。少女は悔しそうに地面を見つめていた。

 

「さあ、約束よ。わたしの事を話してくれるわね」

「……ッ!たった一度私に膝をつかせた程度で勝った気にならないでよね!」

「確かにこっちの方が多勢に無勢だった事は認めるよ、でも勝ちは勝ちでしょ?」

「こんなの…こんなの認めないわっ!」

「……!?待って!」

 

地を蹴り飛翔する少女。そんな力はもう無いと思っていた私達は反応が遅れ、取り逃がしてしまう。

 

「二人共!追って!」

 

アイエフの指示が飛ぶ…が、私達はほぼ同時に変身が解けてしまう。これは恐らく…

 

「ごめんあいちゃん、さっきの戦いでエネルギー切れしたみたい。もう疲れてヘトヘトで無理…」

「そんな…イリゼもなの?」

「ご明察…正直これはかなり骨が折れたよ…」

「だったら走って追いかけるわよ!せっかく見つけたねぷ子の手がかりなんだから何が何でも捕まえるわよ!」

「えぇ!?まだ続くの!?」

「当たり前でしょ!このチャンス逃す気!?」

「捕まえたって話してくれそうにないじゃん、戦って無理ならもうデートしてデレさせる位しか無いよ…」

「もうそれで良いから追うわよ!」

『良いの!?』

 

アイエフの檄に背中を押され…というより背中を叩かれて追いかけ始める私達。飛んでる相手を陸路でどう捕まえるの…?

 

 

 

 

「捕まえたー!」

「のわああああぁぁ!?」

 

あいちゃんに急かされソニックばりのダッシュの結果、わたしネプテューヌは遂に捕まえたよ!えーっと、こんな時は…

 

「とったどー!!」

「な、何!?ちょ、ちょっと!いきなり何なの!?」

「洗い浚いぜーんぶ話してくれるまでぜーったい離さないよー…ってあれ?違う人だ」

 

捕まえたのは銀髪で変身した私やイリゼっぽい格好の子じゃなくて黒髪ツインテールの子だった。…あれぇ?

 

「えーっと、人を探してるんだけどこっちの方に飛んで来なかった?黒くてツヤツヤして空を飛ぶから目立つと思うんだけどさ」

「うぅ、何か嫌な例えね…それなら凄いスピードであっちの方向に飛んで行ったわよ?もう落ち着くのは無理なんじゃないかしら?」

「そっかぁ、せっかくの手がかりだったんだけどなー…逃したってなるとあいちゃんに怒られるんだろうなぁ…」

 

なんてわたしがぼやいているとツインテの子がわたしをじーっと見てた。…あ、そっか。この子には意味分かんない内容だもんね。

 

「なんかわたしの話ばっかりでごめんね。ところで貴女はどうしてこんな所に一人で…ってよく見たら傷だらけでボロボロだよ!?」

「…へっ?」

「うわぁ…ひっどい傷…きっとモンスターにやられたんだね。けど安心して!この辺りにいた悪いモンスターはこのわたしが倒したから!」

「…貴女達にやられたんだけどね」

 

これはどう考えてもモンスターのせいだよね。シアンとシアンの仲間の人達の為にモンスター退治をしたら別の女の子まで助けちゃうなんて流石ねぷ子さん!

 

「色々擦り剥いてたりするけど、骨とか折れてない?」

「擦り傷位だし、このくらい何て事ないわ」

「怪我や病気の素人判断は危険なんだよ?そうだ!お友達にその辺のプロフェッショナルがいるから観て貰おうよ!うん、絶対その方が良いって!」

「え?ちょっ…いや、その…本当にこの位大した事無いから…」

「だいじょーぶ!ホワイトな事に定評のあるパーティーだから、お金なんて取らないよ?」

「いやそういう事じゃなくて!」

 

やけに強情だなぁ…でもほっとく訳にもいかないよね。傷にばい菌とか入ったら大変だもん。

 

「こんぱー!こんぱどこー!こんぱのねぷねぷが呼んでるよー!こんぱカームヒアー!」

「そんな叫んだだけで都合良く来る訳が無いでしょ…」

「呼んだですか、ねぷねぷ?」

「嘘ぉ!?」

 

丁度良いタイミングで皆が追いついてくれた。ふっふーん、これも主人公スキルの一つだよね!

…あ、何か今回はここら辺で終わりみたいだよ?いやー今回も良く働いたよね、わたし。そろそろお休みくれないかなー?…って訳でしゅーりょー!

 

 

「…え、ネプテューヌまさかその子をデートしてデレさせるの…?」

「させないよ!?」

「何でそうなるのよ!?」

 

…うん、まさかイリゼが最後にボケを入れてくるとは思わなかったよ……。




今回のパロディ解説

・デートしてデレさせる
原作の扉を始めとして様々な所で登場するデート・ア・ライブの代名詞の一つ。これが後にネプ×ノワのきっかけとなるかどうかは皆さんのご想像にお任せしようと思います。

・ソニック
ソニックシリーズの主人公である青いハリネズミの擬人化キャラ。当然ネプテューヌの主観での『ソニックばり』であり、決してマッハで走っていた訳ではありません。

・とったどー
いきなり!黄金伝説で濱口さんが獲物を捕まえた時に叫ぶあの台詞。…というのは勿論事実ですが、濱口さんオリジナルではなく元ネタはアントニオ猪木さんらしいです。


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第八話 新たな仲間と鍋パーティー

「ラステイションよ!わたしは帰ってきたどー!」

 

ネプテューヌが某宇宙要塞の悪夢みたいな事を言いながら街中には入る。当然街中で大声をあげれば変な注目を受ける訳で……

 

「恥ずかしいから突然街中で叫ばないでくれる…?」

 

すかさずアイエフがネプテューヌを窘めていた。多分アイエフがスルーしてたら私が窘めていたと思う。

 

「いやーちょっと出かけてただけなのに、なんか懐かしさを感じちゃってさー」

「まぁ…結構色々あったもんね」

「でしょ?…あ、そうだ。ノワールはこの街に見覚えない?」

 

私の同意を得たネプテューヌは満足げな顔をした後振り返り…私達パーティーの新たな同行者、ノワールさんに声をかける。

黒髪をリボンで左右に括った、所謂ツインテールの少女、ノワールさん。モンスター退治及び銀髪の女性との戦闘の後出会った彼女は何でも記憶喪失らしく(まさかの三人目!記憶喪失はブームなのかな?)、家も分からないみたいだったから記憶が戻るまで私達に同行する事になった。

 

「別に何も思い出せないわ。そういう貴女の方はどうなの?」

「いやー、わたしもさっぱりなんだ。じゃあイリゼは?」

「うーん…やっぱ私も二人と同じで全くもって思い出せない…」

 

ラステイションもプラネテューヌも私の記憶を刺激してはくれなかった。ほんとに私はどこ出身なんだろう…。

 

「そうだ!試しに三人で一緒に何かに頭をぶつけてみようよ!わたしは豆腐の角で、ノワールはタンスの角、イリゼは笑う門ね!」

「嫌よ!なんで貴女が豆腐で私がタンスなのよ!」

「私に至ってはことわざだし同音異義語じゃん…」

「ほら、わたしの頭はとってもデリケートな感じでしょ?それに比べてノワールは石頭っぽいし、イリゼは…こういう類いでのネタ枠だから?」

「…なら、私が貴女の頭をカチンコチンに凍った豆腐の角で殴ってあげましょうか?」

「ねぷっ!?や、やだなぁノワール…ただの冗談なのに目がマジだよ…?」

 

見事にノワールさんの怒りを買ったネプテューヌがタジタジとしながら私に目で救いを求めてくる。もう、仕方ないなぁ…。

 

「ノワールさん、やる時は言って下さい。私がネプテューヌを捕まえておきます」

「裏切られた!?」

「あら、助かるわイリゼ。じゃあネプテューヌ、絹ごしと木綿のどっちがいいかしら?最後位貴女の好きな方を選ばせてあげるわよ?」

「いやいや冗談だし食べ物を鈍器にしちゃ駄目だってば!黙ってないであいちゃんとこんぱも助けてよー!」

 

今度はコンパとアイエフに助けを求めるネプテューヌ。変わり身が早いと言うかなんと言うか…。

 

「二人共早速ノワールさんと仲良しですね」

「それにしても、豆腐豆腐連呼されるとお腹が減ってくるわね」

「あ、あのー…こんぱもあいちゃんもわたしの言葉聞いてた?特に最後の方…」

「そうです!今夜はお豆腐を使ったお料理でノワールさんの歓迎会をしましょう」

「あ、それいいかも。歓迎会なら鍋にするのも良いわね」

「…うん、この場には味方がいないんだね……」

 

二人の見事なスルーを受けたネプテューヌはなんと言うか…しょげていた。

 

 

 

 

十数分後、パッセ&食堂に戻った私達は依頼者であるシアンさんに達成報告を行っていた。

 

「助かるよ、これで部品不足に悩まされる心配が無くなるってもんだ」

「部品不足…?あ、部品の流通もあの交易路を使ってたんですね」

「ああ、そうさ。…ところで一人増えてる気がするんだがその子は誰なんだ?」

「っと、そういえば紹介がまだだったわね。彼女はノワール、交易路で出会ったんだけどどうも記憶喪失みたいだから連れて来たの」

「そうなのか……って、あれ…?」

 

ノワールの顔を見て、アイエフの説明を聞いたシアンさんは最初こそ普通だったものの、少しずつ様子が変になってくる。…もしかして知り合いとか?

 

「シアンさん、どうしたです?」

「その子、どこかで見た事あるような…あ…あぁ、も、ももももしかして…女神のブラックハート様…!?」

「ギクッ!?」

「へ……!?」

「ノワールさんが、ブラックハート様です!?」

「な、なんだってー!…ありのまま今起こった事を話すぜ。『拾った記憶喪失の女の子が実は女神様だった。』何を言っているか分からねーと思うが以下略ー!」

 

シアンさんの目を白黒させながら発した言葉に三者三様の驚きを見せる私達(ネプテューヌだけは反応のベクトルが違うけど…)。確かにどことなく違和感のある子だとは思っていたけど…まさか女神だったなんて…!

当然こんな展開となれば私達全員の視線がノワールさんに集まり、それに対してノワールさんは慌てて言葉を発した。

 

「そ、そんな訳無いでしょ!私のこれは…そ、その…コスプレが趣味で、それで…ブラックハート様が好きだから、その……」

『…………』

(とっさとは言え、流石に記憶喪失でこれは無理があるわよね…)

 

ノワールさんの言葉に閉口する私とアイエフ。いくら何でもそれは…って私は思ったけど、ネプテューヌ達三人は私とは別意見らしく…

 

「あ、何だ。それでブラックハート様そっくりの格好をしてたんだな。あまりにもそっくりだったからてっきり本人だと思ったよ」

「残念ですぅ。ノワールさんが女神さんならシアンさんのお願いを聞いてもらえたかもしれないのに…」

「全く、ノワールったら人騒がせなんだからー」

 

その後、多少のやり取りがあったものの結局ノワールさんは女神様ではなく女神様に激似のコスプレイヤー、と言う結論に落ち着いた。…うーん……。

 

「けど普段から女神様のコスプレをしてるなんて、ノワールって意外と痛い趣味なんだね」

「ぶーっ!?い、痛いって言うな!これにはそれなりの事情があるんだからしょうがないでしょ!」

「…コスプレをしなきゃいけない事情…?」

「うっ…そうよ、これには深い事情があるのよ…」

「まあまあ、こんな所で騒ぐのは止めましょ。シアン、私達はもう帰るけど、他に用はないわね?」

「もう帰るのか?なら、飯でも食ってけよ。お礼にご馳走してやるよ」

 

話をまとめの方向に持っていくアイエフ。それに対しシアンさんは意外な提案をしてきた。

 

「え、良いんですか?」

「勿論さ、何せお前等のお陰で交易路がまた使える様になったんだからな」

「じゃあさじゃあさ、ここで歓迎会兼ねた鍋やらない?シアン、お鍋とお豆腐ある?」

「あるぞ、ここはれっきとした食堂だからな」

「じゃあ、せっかくだしお言葉に甘えるとしましょうか」

 

…と、言う訳でノワールさん歓迎会は急遽食堂で執り行う事になった。これは所謂…貸し切り鍋パーティー?

 

 

 

 

「はむはむはむ…おいしー!やっぱり鍋は具材に味が染み込むから良いよね!」

「はふぅ…身体の芯から暖まって美味しいです」

 

様々な具材を入れ、湯気を立てる鍋を私達は囲んでいた。シアンさんのお母さんが作ってくれた鍋はコンセプト(?)を意識しているのかやけに豆腐が多かったけどそれで味が偏る様な事はなく、二人の言う通り凄く美味しかった。

 

「凄く豪華な料理だけど、私までご馳走になって良いのかしら?」

「そんな細かい事気にしないで食ってくれよ。飯は皆で食った方が上手いんだからさ」

「そうよ、これは貴女の歓迎会なんだから遠慮しないで」

「…ありがと…じゃあ、ポン酢取ってもらって良い?」

 

ノワールさんはちょっと引け目を感じてたみたいだけど二人の言葉で食べる気になれた様子だった。そしてポン酢は私の近くだったので渡してあげる。

 

「あ…はい。ポン酢だけでいいですか?」

「…ええ、取り敢えずポン酢だけでいいけど…」

「…どうかしました?」

 

何故かポン酢を受け取ったノワールさんは考え込む様な表情をしていた。私はちゃんとポン酢渡したよね…?

 

「…イリゼ、貴女どういう意図で敬語使ってるの?」

「え?…単に出会って日の浅い人にタメ口で話すのは相手に悪いかと思ってですけど…」

「ふぅん…別にそれは貴女の勝手だけど、コンパみたいなタイプならともかく貴女の敬語は何か無理して使ってる感あるわよ?」

「あ、それはわたしも思ったな。何ていうか、必要以上に他人行儀と言うか…」

「そ、そうだったんですか…」

 

私としては相手を不快にさせない様にと思っての敬語だったけど、むしろ逆効果だったの…?

予想外の事実に困惑した私はネプテューヌ達に相談をかける。

 

「…敬語止めた方がいいのかな」

「無理に使う必要はないんじゃない?現にわたし達には使ってないしさ」

「相手が目上の人とかならともかくノワールやシアンに対しては普通に話した方が好印象かもね」

「わたしもそう思うです。…って言ってもわたしは常に敬語ですけどね」

「…そっか…じゃあ、これからは気を付ける事にするよ、ノワール、シアン」

「分かったわ」

「ああ、そうしてくれ」

 

…二人との間が少し縮んだ。そう感じた私だった。

 

 

 

 

「うげぇぇー…誰!?この料理にナス入れたの!万死に値するよ!」

 

鍋以外にも何種類か料理を用意して貰ったけど…それはわたしへのトラップだった!正にトラップカード、発動!って感じにわたしは嵌められたね。

 

「ねぷねぷ、もしかしてナスが嫌い何ですか?」

「嫌いってレベルじゃないよ!こんぱこそよくこんなにグニョグニョしたの食べれるね…そうだ!何か思い出すかもしれないしこのナスノワールにあげるー!先輩から後輩へのプレゼントだよ!」

 

咄嗟に思いついたアイデアを即実行するわたし。こういうのは勢いが大事だよね。

 

「え…いや要らないわよ」

「ねぷ子、子供じゃないんだし好き嫌い言わず全部食べなさい」

「いいからいいから、遠慮は無用だよっ!」

 

ナスをノワールの口に押し付けるわたし。ノワールはわたしの腕を掴んで抵抗してきた。むむむ…!

 

「ナスを拒否なんてどうしちゃったのさノワール…!」

「どうしたもこうしたもネプテューヌが押し付けてきただけでしょうが…!」

「このこのっ!」

「くっ…いいわ、ならこっちもやってやろうじゃない!」

 

ひらりとわたしのナスを回避したノワールはわたしのお皿を取り、ナスを手にしていた…って、まさか…!?

 

「カチンコチンの豆腐じゃなくてナスだけど…ネプテューヌにはこっちの方が効果的の様ね」

「ねぷっ!?ちょ、何する気!?」

「それは勿論…こうする気よ!」

 

ノワールがナスを押し付けてくる。じょ、冗談じゃないよ!ノワールはわたしを殺す気なの!?

 

「待ちなさいネプテューヌ!」

「わわわっ!イリゼー!ノワールが虐めてくるよー!」

 

イリゼの背に隠れる私。こういう時イリゼは助けてくれる筈だよね、うん。

 

「まあまあ取り敢えず落ち着いてネプテューヌ」

「イリゼ、ノワールが酷い事してくるの、助けてくれるよね…?」

「うん、勿論助けるよ」

「イリゼ……」

「……ノワールをね」

 

イリゼが私に手を回してくる…!そ、そんな…!

 

「ノワール、約束は果たすよ」

「ふふ、助かるわ…さあ年貢の納め時よネプテューヌ!」

「ぐぬぬ…!…分かったよ…」

「やっと観念したのね」

 

イリゼに捕まえられて逃げられないわたし。もうすぐ近くにまで迫っているノワール。確かに逃げるのは困難…でも、わたしは諦めないよ!思いついた最後の手段に掛ける…!

 

「ノワール、一旦お皿置いたら?ネプテューヌが暴れて落とすかもしれないし」

「それもそうね…」

「……ッ!隙有りぃぃぃぃぃぃ!」

「んな……っ!?」

「のわぁぁぁぁ!?」

 

二人が油断した一瞬にイリゼを押して二人を同時に転ばせる、これぞ逆転の一手!

わたしの狙い通り倒れる二人。いざわたしは逃走…と思ったけどイリゼに掴まれてたせいでわたしまで巻き込まれる。そして……

 

「痛た…って痛がってる場合じゃないや、早く逃げないと……」

「あぅっ…!」

「ひゃん…!」

「……へ…?」

 

下から聞こえる女の子らしい声。両手には柔らかく温かな感触。ゆっくりと下を見てみるとそこには…

 

わたしに押し倒され胸を揉まれる様な形となったノワールとイリゼがいた。

えーと…うん、多分これがラノベとかノベルゲーとかなら男の子歓喜の挿絵orCGが出てきてたんじゃないかな…。

 

「…何してくれてんのよネプテューヌ…!」

「取り敢えずどいてくれないかなぁ…?」

 

うん、二人見るからにご立腹だね!わたしこのままだとヤバいね!こ、こんな時こそ主人公らしい台詞言って乗り切らないと…こんな時は…!

 

「ゆ、豊かな胸をお持ちですね…?」

「……っ!」

 

わたしの台詞で顔を赤らめる二人。これは成功…な訳ないよね!って言うかこれじゃわたしセクハラじゃん!

もっと違う…シンプルに二人の気を鎮める言葉…思い付くのはこれしかない!ええいままよ!

 

「…ご馳走様でした」

『何が…ご馳走様なのよぉぉぉぉぉぉ!』

 

涙目の二人に左右からビンタされ、吹っ飛ばされるわたし。

…女の子のビンタって、痛いんだね……。

 




今回のパロディ解説

・ラステイションよ!わたしは帰ってきたどー!
機動戦士ガンダム0083 STARDUSTMEMORYでのジオンのエース、アナベル・ガドーの代表的な台詞のパロディ。別にネプテューヌは核を撃ち込んでなどはいません。

・ありのまま〜〜以下略ー!
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズのジャン=ピエール・ポルナレフの台詞。パロディとして割とポピュラーな類いなので知っている方も多いと思います。
・万死に値するよ!
機動戦士ガンダムOOのガンダムマイスター、ティエリア・アーデのパロディ。上のパロディと言いこれと言い今回のネプテューヌは何故か物騒な台詞が多いですね。

・トラップカード
遊戯王におけるカードの種類の一つで文字通り主に罠として使用するカード。一体誰がいつどんな考えのもと料理をトラップカードとするのでしょうか…?


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第九話 錯綜する思惑と疑問

「おぉー!これが試作刀アルマッス…!」

「これがって今知ったばかりだよな…まあ、いいけど」

 

鍋パーティー終了後、ネプテューヌはシアンに渡された刀を振り回していた。どう見ても女の子らしからぬ姿だったけど当のネプテューヌは割と機嫌が良かった。

 

「で、これをどうすればいいのかしら?」

「とにかくこの武器を使ってその感想をフィードバックしてくれればいい」

「なーんだ、今度は意外と簡単そうだね」

「これなら、他のお仕事と一緒に出来そうです」

 

試作武器のモニターを頼みたい。それがシアンからの新たな依頼であり、私達は鍋パーティーがひと段落したところで依頼された。…なんか流れで決まったけどネプテューヌがモニターでいいのかな…。

 

「じゃあ、明日はその武器を使って別のクエスト受ける?」

「…その件なんだけど、私に貴女達を手伝わせてくれないかしら?」

「ノワールさんが、わたし達のお手伝いです?」

「なになに、ノワールも一緒に戦ってくれんの?」

 

ノワールが意外な申し出をする。確かに人数が多いに越した事は無いしダンジョンにいた以上全く戦えないって事は無いと思うけど…。

 

「えぇ、ただ貴女達と一緒にいるのも気が引けるし…それに、意外と強いのよ、私」

「え…自分でそれ言う…?」

「必要以上の謙遜はしないだけよ」

「いやぁ、まさかこんな序盤で五人目が仲間になるなんて幸先調子が良いね!」

 

ネプテューヌの言う通り、旅に出て数日で仲間が増えるなんて本当に幸先良かった。…最も、旅に出る時点で四人いた訳だけどね。

 

「じゃ、あまり遅くまでいるのも悪いしそろそろ帰りましょうか」

「はいです。シアンさん、わたし達がしっかりモニターしてくるですよ」

「ああ、より良いものにする為には実戦でのデータが必要不可欠なんだ、頼んだぞ」

 

シアンに見送られながらパッセを出る私達。私達の目的の為、そしてシアン達の為にも頑張らなきゃね!

 

 

 

 

--------ホテルの一室。その誰もいない部屋へ入った私はおもむろに片手サイズのケースを取り出し…

 

「じゃじゃーん、買っちゃったー」

 

…鏡の前で赤縁の眼鏡をかけていた。パッセからの帰りがけ(私はこのホテルに泊まるのは初めてだけど)に買った眼鏡をかけた自分をまじまじと見る。

別に眼鏡コレクターという訳でも無ければ視力が落ちた訳でも無い。じゃあ何故かって?それは勿論…

 

「これさえあれば私の正体を怪しまれる事は無い筈だわ」

 

変装。シアンに会った時は危うくバレそうになったんだもの、何かしらの変装をしなきゃまともに動き回れないわよね。

 

「これなら完璧に正体を隠せそうね。しかし今まで眼鏡なんてかけた事無かったけど…我ながら意外と似合うじゃない」

 

鏡に映る自分の姿がかなり様になっている事に気を良くした私は色んな表情を浮かべてみる。

笑顔、キメ顔、照れ顔…うん、流石私なだけあってどんな表情でもかっこよく決まってるわね。

 

「ふふっ、目にも良いって聞くしデスクワークの時はかけてみようかしら。…そうだ、ネプテューヌにも見せてあげ……って、何普通に馴染み始めてるのよ私は!」

 

…自分で自分に突っ込みを入れてしまった。このしょうもない行動と今さっき自分の言った言葉に呆れる。

 

「はぁ…今のままじゃ駄目ね。敵であるネプテューヌと慣れ合うなんて……」

「ノワール!一緒にプリン食べよー!」

「ひゃうっ!?」

 

いきなり開かれる扉、部屋に響く声。こんな言動をするのはネプテューヌ一人しかいない。二人や三人もいてたまるもんですか。

 

「あれ?もしかして驚かせちゃった?ごめんごめん」

「…もしかして、今の聞いてない?」

「今の?今のって何?」

 

慌てて眼鏡を隠す私に対しネプテューヌはきょとんとした顔を見せる。…ネプテューヌがしらばっくれるなんて芸当出来る訳ないわよね、今は記憶喪失でもあるんだし。

 

「それなら気にしないで…ちょっと恥ずかしい独り言してただけだから」

「独り言?…なんだろう、ノワールのちょっと恥ずかしい独り言って…もしかして作詞作曲自分のオリジナルソングを歌ったりとか!?」

「ば、馬鹿な事言わないで!誰がそんな痛い事するもんですか!…それよりも私に用があったんじゃないの?」

 

ネプテューヌが更に追求してくる前に話を変える。…確かに眼鏡の事をバレたくないってのもあるけどネプテューヌの用事が気になるってのも事実だからね?

それに対しネプテューヌは私の手元にある物を出してくる。

 

「……何よ、これ」

「プリンだよ?とっても美味しいんだよ!」

「それは見れば分かるわ…これをどうしろってのよ?」

「えっとね、シアンからプリン貰ったから一緒に食べよ!」

 

ネプテューヌが急に来た事に少しとはいえ用心していた私はその肩透かしな誘いに拍子抜けする。…よりにもよってなんで私に…。

 

「嫌よ。貴女一人で食べれば良いじゃない」

「わたしはノワールと一緒に食・べ・た・い・な・?…なんちゃってー!」

「あのねぇ…私はこんな時間まで貴女に付き合ってあげる程お人好しじゃないの。私は出かけるから一人で食べなさい」

「…あれ?ノワールどっか行くの?」

「散歩よ、一人になりたいの」

 

そう言ってネプテューヌに背を向け、外へ向かう私。いくら能天気のネプテューヌでもこうもあしらわれたら諦めるでしょ。

 

 

 

 

「ネプテューヌ、美味しそうなお菓子買ったんだけど…って、あれ?」

 

ネプテューヌがいるであろう部屋に入った私を迎えてくれたのは返答ではなく、無人の部屋独特の雰囲気だった。

 

「おかしいなぁ…さっきネプテューヌの声聞こえたと思うんだけど…」

 

部屋を見回してみるもやはりネプテューヌは居ない。あれは私の聞き違いだったのかな…?

 

「…まあ、いないならしょうがないよね。じゃあコンパとアイエフ誘って…っと、あれは……」

 

部屋を出る為に向きを変えた拍子に窓の外にいた二人に目が止まる。一人はツンとした様子でどんどん歩いて行き、もう一人はちょっかいをかけながら後に続いている。

間違いなく、あれはネプテューヌとノワールだった。…でも、何であの二人が…?

 

「…買い物…ならノワールは一人で行きそうだしクエスト…ならこんな遅くに行く訳ないよね…」

 

暫く考えるも思い付かない私。そしていつの間にか二人の姿は消えていて、通りは散発的に人が通るだけになっていた。

 

「…考えてないで追っかければ良かったかも…チャンスは最大限に生かす、それが私の主義かもとか思ったけど違うのかな…まぁ良いや。後で聞こっと」

 

そう結論付け、コンパとアイエフと一緒にお菓子を食べようと私は部屋を出た。

…因みにその後私は買ったお菓子が案外高カロリーだった事にちょっとショックを受けたけど…それはまた別の話。

 

 

 

 

夜の街を二人の少女が進んでいく。一人はツンデレ疑惑のある新たなパーティーメンバー、ノワール。そしてもう一人は皆さんご存知…

 

「そう、このわたしネプテューヌ!」

「…どこに向かって喋ってんのよ」

 

ノワールが半眼で突っ込みを入れてくる。うんうん、あいちゃんの窘める様な突っ込みにもイリゼのハイテンション突っ込みにも被ってない良いチョイスだよね。

 

「…って言うか何で付いてくるのよ。言ったでしょ、一人になりたいって」

「いやぁ、記憶喪失のノワールが一人夜道を歩くとなると色々心配でさー。親心ってやつ?」

「誰が私の親よ!」

 

今度は鋭い突っ込みを入れてくれるノワール。流石だね!

と、そこに偶然シアンが通りかかる。

 

「相変わらず仲良いなお前等…でももう夜なんだしあまり騒ぎ過ぎるなよ?」

「う…ネプテューヌのせいで怒られちゃったじゃない!」

「あははー。ごめんねシアン、うちのノワールが騒いじゃって」

「誰がうちのノワールよ誰が!」

「…ほんと仲良いな」

 

苦笑しながらわたし達を見るシアン。対するノワールはわたしに今にも怒ってきそう。全くノワールは冗談が通じないなぁ…。

 

「ところでシアンはどうしてこんな所にいるの?」

「知り合いとの会合に行く途中さ。展覧会までに少しでも情報交換はしておきたいし、中小企業でもアヴニールにない技術を持っている所は多いからな」

「へぇ…流石工業都市だね」

「ああ、潰れた工場も協力してくれるみたいだからやれる事は全部やっておきたいんだ。お前等にも期待してるからな」

「うん、任せてよ!」

 

会合に行く為にわたし達と別れるシアン。こうも期待されてるんじゃ頑張らない訳にはいかないよね。

 

「…………」

「……?どったのノワール、急に黙っちゃって…もしかして電池切れ?」

「そんな訳ないでしょうが…帰るわよ、ネプテューヌ」

「え?お散歩はもう良いの?」

「ええ、それより明日はアヴニールの調査と武器のモニターっていう役目があるんだから遅くまで出歩いてる場合じゃないでしょ」

「それはそうだけど…」

 

急に様子が変わったノワールに付いていけないわたし。うーん…ノワールもシアン達の為に頑張ろうって思ったのかな?

 

「…ってちょっと待ってよ!置いてかないでってばー!」

 

 

 

 

 

「うー…ん。やっぱそう都合良くアヴニールの出展物が分かる筈無いかー」

「ま、そんなに順調に物事が進む訳無いわよね。幸い依頼がモンスターの討伐な訳だし、シアンの武器のテスト位はして帰りましょ」

 

翌日、私達はアヴニールのガナッシュさんとサンジュさんからプラント施設建設の為に邪魔なモンスターを視察に回ってる間に討伐して欲しい、と言うクエストを受けダンジョンに来ていた(何故かノワールは眼鏡をかけていた。確かに似合ってはいたけど…イメチェンなのかな?)。

 

「しかし大企業の依頼者って言うから見るからに偉い人感のある人が来るかと思ったらそれはサンジュさんだけだったよね」

「そうね、ガナッシュって方は秘書とか補佐とかなんじゃないかしら?」

「そっか、やっぱ二枚目重役が出てくるのは画面や本の中だけだよね」

「二枚目って…何?イリゼはああいうタイプが好みなの?」

「へ?…ち、違うよ!?私は客観的な評価をしただけであってそういう意味じゃないからね!?」

 

アイエフの突然の言葉に動揺する私。その私の反応が逆効果だったのか皆が揃ってニマニマとし始める。うぅ…とんだやぶ蛇だよ…。

 

「惚れるのは貴女の勝手だけどアヴニールに味方したりはしないでよ?」

「だから違うって!男の人に飢えてたりはしません!」

「じゃあ、女の子には?」

「いや何でそうなるの!?」

 

反論は無駄だと感じた私は走って皆と距離を開ける。流石に皆も私の気持ちを汲んでくれたのか、追いつく頃にはニマニマ顔はしていなかった。…何だかモンスターと出会う前に大分疲労した気がする…。

そして私達が改めて進み始めた所でとある問題に気付く。

 

「そう言えばどんなモンスターを倒せば良いんだっけ?」

「大型のモンスターみたいよ」

「他に何か特徴は?」

「無いわ、さっき貰った書類にはそれしか書いてなかったわ」

「貴女を責めるつもりは無いのだけど、この情報だけじゃ分からないわね…」

 

当然ながらモンスターは個体ごと大きさが違う。だからと言って大型のモンスターを片っ端から狩っていたらそれこそ日が暮れちゃうよね。

 

「そんな時は誰かに聞いてみるです」

「流石にそんなに都合よく誰かいる訳…」

「…ほぅ、まさかこんな所で見知った顔に出会うとはな」

「……都合よく人がいたね…」

 

私達に声をかけてきたのは魔法使いの様な服装と泣き黒子が特徴の青髪の少女だった。何かこの人からは独特な雰囲気を感じる…。

 

「…貴女、誰?」

「私の名か?…そうだな、ここでもMAGES.とでも名乗っておくとするか」

「MAGES?」

「MAGES.だ。それでは最後の.が抜けている」

「うー…ん、あまり発音上関係ない気がするけど…MAGES.だね、おっけーい!」

「何でネプテューヌは発音上変わらないのに言い分けられてるの…?」

 

私の疑問系突っ込みはなんのその、会話はどんどんと進展していく。

 

「ふっ、お前はあの時もそう言っていたな」

「ねぷ?もしかしてわたしを知っている人?」

「良かったですね、ねぷねぷ。やっと知り合いに会えたですよ」

「…その言い方だとまるでネプテューヌが記憶喪失の様だな」

「そのとーり!よく分かったね」

「私にかかればこの程度容易い事だ。しかし残念ながら私はお前達の力にはなれそうにない」

「…どういう事?」

「私はここではない世界から次元を超えて来たのだ。故に私の知っているネプテューヌはそこのネプテューヌではない」

「えっと、つまり…どういう事です?」

 

次元を超える…?俄かには信じがたい話だけど、MAGES.は冗談を言っている様には見えない。

 

「…MAGES.はここではない世界から来た、そういう事でしょ?」

「流石がアイエフだ。理解が早くて助かる」

「やっぱりね…じゃ、代わりに教えて欲しい事があるの。この付近にいる大型モンスターについて知らない?」

「モンスター、か…交換条件でなら教えてやろう」

 

交換条件。つまりMAGES.も何かこちらに要求をしてくるという事だ。一体何だろう…?

 

「何、簡単な事だ。ドュクプェの売っている場所を知りたい」

「え、ドクぺ?」

「違う、ドュクプェだ」

『……?』

 

顔を見合わせる私達。そんな私達の反応を見たMAGES.は驚いた様子で聞き直してくる。

 

「まさか…選ばれし者の知的飲料、デュクテュアープエッパーを知らないというのか!?」

「うん」

「……!もしもし私だ。どうやらこちらの世界のドュクプェも機関に抹消されたらしい」

 

急に謎の電話を始めるMAGES.。そんな彼女に私達は唖然とする。

そして数十秒後…

 

「くっ…こちらの世界にもドュクプェが存在しないとは…」

「…誰との電話かは知らないけど次はこっちの質問に答えてくれるかしら?」

「…あぁ…確か大型モンスターだったな。そいつならちょうどこの前で見かけたぞ。この辺りのモンスターとなら明らかに見た目が違う奴がな」

「本当です!?」

「ありがとう、助かったわ」

「気にするな、では私も急ぐのでな。失礼する」

 

そう言ってMAGES.は去っていく。…本当に何だったんだろう、あの人…。

 

「いやー…びっくりしたね」

「うん、まさかあんな人がいるなんて…」

「ドュクプェなんて初めて聞いたよ」

『そっち!?』

 

ネプテューヌの着眼点はとても特殊だった…。




今回のパロディ解説

・チャンスは最大限に生かす、それが私の主義
機動戦士ガンダムでのライバルキャラ、シャア・アズナブルの台詞のパロディ。ガンダム界では割と知られた台詞ですがガンダム界以外ではどれ位の知名度なのでしょうか。

・ドクぺ
炭酸飲料、ドクターペッパーの略称。一応ここに載せましたが…パロディとして扱うのであれば『ドュクプェ』の方かもしれません。実際どうなのでしょう?


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第十話 プリンが繋ぐ女神の絆

二振りの刃が戦場を疾駆する。

一振りは大太刀。常人では満足に振り回す事すら困難であろうそれは卓越した技術を持つ使い手により鋭くも繊細な軌道を描きながら敵を斬り裂いていく。

一振りは細剣寄りの片手剣。単発の威力や範囲こそ前者に劣るものの、軽さと取り回しの良さを最大限引き出した使い手により軽快に敵へ斬撃を繰り返す。

 

…つまり、何が言いたいかと言うと……

 

『はぁぁぁぁっ!』

 

女神化したネプテューヌとノワールがプリンと自尊心をかけてモンスター討伐勝負をしてるって事である。…滅茶苦茶やる気入ってるよ二人共…。

 

「二人共凄いですぅ」

「だね、しかしネプテューヌは当然としてノワールもあれだけ動けるとは…」

「伊達にネプテューヌと張り合ってた訳じゃなかった、って事ね」

 

二人が率先して…って言うか闘争心全開で討伐対象のモンスターと戦ってくれてるおかげで私達三人はゆっくり出来る。…五人で戦えばもっと安全かつ手早いんだろうけど二人の勝負の邪魔になりそうだから、ね。

 

「…ねぇイリゼ、ノワールの事どう思う?」

「え…どう思うって?」

「記憶喪失についてよ」

 

戦っている二人とコンパから少し離れた所に私を呼びつつアイエフは私に問いかけてきた。

記憶喪失。ノワールは私達に会った時そう言っていたし私達に同行している理由もそれに起因している事だった。…少なくとも、本人曰くは。

 

「…何か違和感ある、って言ったら変?」

「全然。変どころか私も同意見よ」

 

そう、ノワールの記憶喪失にはどうも違和感があった。具体的に言えば記憶喪失らしくない、記憶がない様には見えないという事。…勿論、私の主観だけど。

 

「ネプテューヌレベルの楽観さがある訳でもなければイリゼみたいに悩んでたり記憶を取り戻そうとしてる訳でもない。私は専門家じゃないからあくまでももしかしたら、だけど…」

 

アイエフは最後までは言わなかったけど、後に続く言葉は分かる。それを言わなかったのは既に私に伝わってると思ったのか、或いは…言いたくなかったのか。

 

「…じゃ、アイエフはどうする気?問い詰める?」

「どうもしないわ、聞く事でノワールを傷付けるかもしれないし…何より仲間を疑うのは良い気分がしないわ」

「へぇ、優しいじゃんアイエフ」

「うっさい…」

 

疑問もそれに対する選択も私とアイエフは同じだった。…と、その時ネプテューヌとノワールも佳境に入ったのかモンスターから距離を取った後、勢いをつけて突進する。

そして……

 

「ガルル…ウゥ……」

 

断末魔を上げながら消滅するモンスター。二人揃って剣を振り払うネプテューヌとノワール。クエスト達成である。

 

「ふぅ…思っていたより楽勝だったわね。ノワールも意外と強いじゃない」

「ま、当然よ。でも貴女も中々だったと思うわ」

 

互いに賞賛をし合う二人。このままならば仲の良い二人に見えただろうけど…

 

『まあでも、勝負は(わたし・私)の勝ちね』

 

…そうはいかないのが二人だった。もう見事なハモりである。

 

「…わたしの勝ちよ?」

「何言ってるのよ、とどめは私の方が早かったわ」

「いいえ、わたしの方がコンマ二桁早かったわ」

「はいはいストーップ。二人同時だったわ。だからこの勝負は引き分け、良い?」

 

互いに自分の方が先だと主張するネプテューヌとノワール。アイエフが仲裁に入るも二人の言い争いは止まらない。

 

「そんな筈ないわ!」

「そうよ!私がネプテューヌと互角な訳ないわ!」

「イリゼちゃん、イリゼちゃんはどっちが早かったか分かるです?」

「ううん、正直私も同時だったと思う。二人共同じ位置からとどめの攻撃をした訳じゃないから互角、ではないと思うけどね」

 

贔屓目無しに二人は同時に見えた。でもそれでは満足しないらしくどんどんヒートアップしていくネプテューヌとノワール。そしてアイエフは…キレた。

 

「あーもう!二人共しつこい!」

『ひぃ!?』

 

突然のアイエフの怒号に驚き、言い争いを止める二人。そこへすかさずコンパも声を発する。

 

「審判さんが引き分けって言ったら引き分けです」

「…コンパ、この勝負ってアイエフが審判だったの?」

「今それは重要じゃないです」

「あ…うん…」

「こほん、ちゃんと審判さんの言う事聞かないと二人のプリンを没収するですよ?」

『それだけは止めて!』

 

コンパの言葉に慌てて引き分けだと認める二人。

…何度もハモってる事と言い昨日の事と言いほんと仲良いなぁ二人は…。

 

 

 

 

「たっだいまー!シアン、武器のテスト終わったよー」

 

パッセに戻った私達は使用者であるネプテューヌを中心に試作刀アルマッスの感想をシアンに話した。当然ながら私達は専門のテスターじゃないから言えたのは批評ではなくただの感想だったけど、それでもシアンは満足そうだった。

 

「テストありがとな。それで…アヴニールの方はどうだった?」

「その話なんだけど、今回分かったのは新しい工場を建てようとしている事だけだったわ」

「あいつらまた工場を作るのか!?」

 

ノワールの言葉に過剰にも思える反応を見せるシアン。確かに大企業の工場が増えるのはシアン達中小企業にとってはありがたくないとは思うけど…。

 

「…そこまで驚く?…あれ?もしや企業が工場を新設するのって普通じゃない事なの?」

「いいえ、しょっちゅうはしないでしょうけど別に珍しい事でもないと思うわ」

「じゃあ、どういう事なの?」

「今ラステイションはアヴニールが次々と工場を建てるせいで自然破壊が深刻なんだ…あいつらのせいで一体いくつの森が伐採された事か…!」

「このままじゃラステイションが住みにくくなってしまうです…」

 

市場の独占に環境破壊…アヴニールは利益至上主義もいい所だった。企業が利益を追求するのは当然ではあるけど…。

 

「…どんな理由があってもアヴニールのやってる事は正しくないよね」

「…イリゼ?」

「ゲイムギョウ界で企業は国無しじゃやっていけない。ううん、企業だけじゃなくて色んな事がね。だから一部がそれを忘れて利己に走り過ぎちゃ駄目だし国はそれをちゃんと止めなきゃ駄目な筈だよ」

『…………』

「…って、あれ…?」

 

私の口から出た言葉は半ば無意識のうちのものだった。それを聞いた皆が目を丸くしている。

 

「え、えと…私何かおかしな事言った?」

「いや、おかしくは無いけど…何ていうか…」

「ちょっと女神様みたいだったです」

「へ?そ、そう?」

 

今度は私が目を丸くする番だった。私が女神様みたいだった?いやいや、偶然だよね。女神なら自分の大陸にいる筈だし。

…と、思った所でどことなく懐疑的な視線を感じた。視線の主は…

 

「……ノワール?どうかしたの?」

「…何でもないわ、ちょっと考え事をしていただけよ」

「そっか、じゃあ気のせいかな…」

「とにかく現状はあまり芳しくないし、もう一度アヴニールの仕事を受けてみましょ」

 

もう一度受けてみれば今度こそ出展する物が分かるかもしれない、という事でアイエフの言葉には全員が賛成だった。

 

「次こそ情報を得られると良いわね」

「でもってー、隙あらば秘密工作しちゃうもんねー」

「おいおい、あんまり過激なのはよしてくれよ?」

 

方針が決まった事もあり、その後暫く私達は他愛のない雑談に花を咲かせていた…ガールズトークだよガールズトーク。

 

 

 

 

「大分ラステイションの状況が分かってきたわね…」

 

ホテルの一室で私は今日の事について色々考えていた。ネプテューヌの事、仲間の事、そしてアヴニールの事…どれも私一人だったら分からなかったと思う。

 

「…解せないわね。国の発展の為に企業が力を付けるのは問題無いし、むしろ私が推奨したい位。…でも、いくら科学が発展してもそれによって自然破壊が過激になって人が住み辛くなってしまったら元も子もないわ」

 

政治も経営も知らない奴ならともかく、仮にもラステイションの経済を独占する程の大企業がそれを分からない筈が無い。そんな人間がトップじゃ大企業になんてなれないもの。

 

「…アヴニールはこのまま国を乗っ取って何をしようとしているのかしら…こんな状況じゃ守護女神戦争(ハード戦争)なんてやってる場合じゃないわね、それに…ちょっとむかつくけどネプテューヌもそんなに悪い奴じゃ無さそうだし…」

 

守護女神戦争(ハード戦争)の事と同時にネプテューヌ、そしてイリゼの事が頭に浮かぶ。

 

「…あの時私が戦ったのは四人。ネプテューヌ達も四人。ネプテューヌ含めて三人は同一人物なんだからあの長剣使いがイリゼである可能性は高い、けど…」

 

一目見れば分かる。あの時私が戦った女神は『二人』だった。でも、私はイリゼなんて言う女神は知らないしそもそも大陸が四つな以上女神の人数も四人でなきゃおかしいわ。

 

「…イリゼ、貴女は一体何も--------」

「ノワール!今度こそ一緒にプリン食べよー!」

「のわあぁぁぁぁぁ!?」

 

いきなり開かれる扉、部屋に響く声。もう完全にデジャビュだった。

 

「あれあれ?またまた驚かせちゃった?ごっめーん」

「もう、貴女って人は!どうしてノックしないのよ!?」

「最初からクライマックスだから?」

「何がどうしたらここでクライマックスになるのよ!」

 

お気楽さ全開のネプテューヌが入ってきた事で私の思考は吹き飛ばされてしまった。もう、ネプテューヌがいるといつもこうだわ…

 

「…って、いつもって言う程一緒にいた覚えは無いわよ!」

「え、何が?わたし以外に誰かいるの?」

「…こっちの事だから気にしないで…それで、今日は何の用よ?」

「うん、美味しそうなプリン買ったからノワールと一緒に食べようと思って」

 

思えば昨日は私が散歩に出たりシアンの言葉に感化されて戻ったりした結果一緒には食べていなかった。ネプテューヌはそれを気にしてたのかしら…。

 

「…ごめんなさい、今はちょっとそんな気分じゃないのよ」

「えぇぇー!?ノワールも!?」

「…も?」

「あいちゃんとこんぱに断られ、イリゼはお風呂、そしてノワールにも断られたわたしは一体誰とプリンを食べれば良いの!?」

「一人で食べれば良いじゃない」

 

昨日言ったのと同じ言葉をネプテューヌに述べる。まあこれ位で引き下がってはくれないわよね…と思っていたら案の定引き下がってはくれなかった。

 

「分かってないなーノワールは。プリンって言うのはね、一人で食べるより誰かと一緒に食べた方がずーーっと美味しいんだよ!」

「だとしても寝る前に甘いモノなんて嫌よ、太るもの。それにもう眠いし」

「そっかぁ…それなら仕方ないよね…」

 

しゅんとした表情になるネプテューヌ。別に私は意地悪で言った訳じゃないけど、それでもそんな態度をされると罪悪感を感じてしまう。

 

「はぁ…ノワールと一緒にプリン、食べたかったなぁ…」

「…………けど」

「ねぷ?」

「貴女がどうしても、って言うなら一緒に食べてあげてもいいけど?」

「ほんと!?」

「ええ、貴女がどうしても、って言うならね」

 

別に他意があった訳じゃない。あまりにもネプテューヌが残念そうな顔をしていたから仕方なく譲歩しただけ…ほんとなんだからね!

 

「うわーい!ノワール大好きー!ノワールならきっと一緒に食べてくれるって信じてたよ!」

「ちょっとネプテューヌ!?いきなり抱きつかないで!」

「ごめんごめん、つい嬉しくてさ」

 

私の元に飛び込んで来るネプテューヌに慌てふためく私。私は昨日の事を思い出して嫌な汗をかきながらネプテューヌを引き剥がした後…何故か二人で外へ向かった。

 

 

 

 

「……綺麗な夜空ね」

「でしょー。昨日あの後一人で食べた時に偶然気付いたんだ」

 

一緒に外に出たわたしとノワールは、夜空のよく見える場所でプリンを食べ始めていた。んー、やっぱり美味しー。

 

「あ……その、この間はせっかく誘ってくれたのに断って、その…ごめんなさい」

「気にしないでよ、わたしが強引に誘ったのも悪いんだしさ。それに、今日こうやってノワールと一緒に食べられたから」

「全く、貴女って人は…」

 

ノワールはいつもの様にちょっと呆れた顔をする…けど、いつもよりちょっと温かい感じがあった。なんでかな?

 

「……ねぇ、ネプテューヌ。一つ聞いても良いかしら?」

「何?預金残高以外なら何でも良いよ?」

「それは聞かないわよ…もし、もしも貴女が女神だったとして、今のラステイションを見たらどう思う?大陸と守護女神戦争(ハード戦争)。貴女ならどっちを取る?」

 

ノワールの質問はある意味預金残高以上に以外な質問だった。何でそんな事聞くのかな…うーん…。

 

「わたし難しい事はよく分かんないけど…困ってる人がいたらまずは助けてあげたいかな?それで、えっと…ハード戦争だっけ?それが駄目だったとしてもわたしが女神様なら助けた人の笑顔があればそれはそれで満足だもん。あ、後おやつのプリンね」

「ネプテューヌ……貴女…」

「…って言うか、ノワールも同じでしょ?」

「え……?」

 

スプーンを持つ手が止まるノワール。今はわたしボケてないよね?珍しく真面目に言ってるよ?

 

「ノワールだって困ってる人を助けたいって思ったからわたし達やシアンを手伝ってくれてるんでしょ?違うの?」

「……っ!…ありがと…ネプテューヌ…」

「へ?なんか言った?」

「…何でもないわ。それはそうと貴女の卵プリンも美味しそうね。一口くれないかしら?」

「良いよ。じゃあノワールのチョコレートプリンも一口頂戴」

 

 

 

 

夜空の下で互いに顔を近付け、口に『それ』を受け入れた後幸せそうな顔をするネプテューヌとノワール。二人の間には隔てる壁など無く、ただその魅惑的な時間を享受し…

 

……二人を尾行していた私に思いっきり衝撃を与えていた。

 

(ど、どゆこと!?ネプテューヌはともかくノワールまでどうしちゃった訳!?)

「ね、ノワールもう一口頂戴」

「もう、仕方ないわね…はい、あーん」

「あむ!んー!ほんのりビターなチョコの絶妙な味わいがまさにまいうー!」

「ほら、私にももう一口頂戴。あーん」

「はーい、あーん」

「はむ。んー!こっちも甘くて美味しいわ」

(だから…どういう事なのぉぉぉぉぉぉ!?)

 

肩を寄せ合いながら笑顔でプリンを食べる二人に対し、私はどんどん混乱していく。まずい、一旦冷静にならないと…。

 

「すぅ…はぁ…。状況整理をすればどういう事か分かる筈。ええと…」

 

・ネプテューヌとノワールは仲良くプリンを食べてる。

・昨日も二人は外へ出かけていた。

・二人は結構息が合っている。

・しかも、二人は記憶喪失仲間。

・昨日ネプテューヌはノワール(と私)に過剰なスキンシップを行った。

…ふむふむ、ここから導き出される答えは…

 

(二人は桜でTrickな関係になっていた!)

 

……って、いやいやいやいやそんな訳ないよね…。はぁ、いくら何でもそんな事が…

 

「……あ」

「どったの?ノワール」

「いや、その……」

「……?どうしたのさ?嫌な事思い出したとか?」

「そ、そうじゃなくて…これ、間接キス…よね…」

「……あ」

「…………」

「…………」

 

頬をほんのり染めながら気まずそうに目を逸らす二人を見た私は、自分の阿呆な発想があながち間違ってないんじゃないか…と思う様になった。

 




今回のパロディ解説

・最初からクライマックス
仮面ライダー 電王のイマジン、モモタロスの代表的な台詞。本作とは状況こそ違いますが原作でも同じくネプテューヌがこのパロディネタを使っていましたね。

・まいうー
お笑いコンビ、ホンジャマカの石塚英彦さんと言えばこれ、と言える程の代表的台詞。元祖!でぶやという番組が大元ではなくそれよりも前の段階からあったらしいです。

・桜でTrick
百合要素の強めな日常系作品、桜Trickの事。イリゼは混乱気味だったので桜Trickを連想した、だけであり決してネプテューヌとノワールがキスしていた訳ではありません。


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第十一話 思惑は裏目となり、疑惑は混乱を呼ぶ

「おぉー!これが試作刀アルマッス…!」

「いや、これはアルマッス『改』なんだが…」

「知ってるよ、ちょっと読者の皆さんに『あれ?間違って九話開いちゃった?』…って言う体験をプレゼントしようと思ってさ」

「読者の皆さんをしょうもない罠にかけようとするの止めようよ…」

 

一夜明けた朝。今日もアヴニールのクエストを受けよう、と思って私達が外に出たのとほぼ同タイミングでシアンがやってきた。

 

「いきなりで悪いが、またお前らに武器のテストを頼まれて欲しいんだ」

「って事はパワーアップが終わったって事!?」

「昨日の今日なのに随分と早いわね」

「あぁ、お前らからのフィードバックを受けたら興奮しちまって、気付いたら朝だったんだ」

「朝だったって…夜通しで強化してたの?」

 

ちょっと照れながら説明をするシアンの目元にはうっすらながらクマが出来ていた。興奮、って言ってるし本人的には楽しかったんだろうけど…

 

「身体壊しかねないし徹夜は止めておいた方が良いと思うよ?」

「それは気を付けるよ…で、引き受けてくれるか?」

「ええ、良いわよ」

 

最初から私達はシアンに協力する気だったのですぐに新しい武器『試作刀アルマッス改』を受け取りギルドに向かう。

 

「ネプテューヌ、貴女がメインのテスターなんだから頑張りなさいよ?」

「勿論だよ、ノワールもサポート頼むね」

「えぇ、任せなさい」

「ノワールさんとねぷねぷ、何だかとっても仲良しです」

「…………」

「…イリゼ?どうしたの?」

 

仲が良い事は良い事。それは分かる、当然だもん。…『普通に』、仲が良いなら…。

 

「ねーイリゼ、どったの?」

「…ネプテューヌ、ノワール、世の中節度は大事だよ?」

『……?』

 

私の言いたい事が伝わらなかったのかきょとんとする二人。ふ、二人は常識ある筈だし大丈夫だよね…!

 

 

 

 

ラステイションの一角、廃工場。そこへ私達五人は依頼者、ガナッシュさんと共に向かった。

 

「…で、こんな廃工場で私達にどうしろって言うのよ?」

「はい、この施設は見ての通り廃工場ですが見た目以上に年数が経ってまして、もう廃棄されているんです」

 

まあそれはそうだよねと思う私。壁は錆びて茶色、所々穴すら空いているこんな工事がまだ使われている訳がない。どんなに貧乏な企業でも建て替えるか廃棄するかを選ぶ、そんなレベルの廃工場だった。

 

「それで、その要らなくなった施設で何をすれば良い訳?」

「実は施設を引き上げる際に一部の資材が取り残されたままになっているんです」

「じゃあその資材を取ってくれば良いの?今回は簡単そうだね」

「いえ、困った事にいつの間にかモンスターが住み着いてしまい回収が困難になってしまったんです」

「成る程、だからそこで私達の様な人材が必要になった訳ね」

 

人が寄り付かず、様々な物が置いてある廃工場はモンスターを含む野生生物には絶好の住処になってしまった、と言う話らしい。まあ…経営能力や開発能力と戦闘能力は別だもんね。

 

「…で、その回収しなきゃいけない資材って何なの?随分と重要な様だけど」

「とある鉱石、我が社では『ラステライト』と呼んでいる鉱石です」

 

何でもラステライトは1グラムでゲームを一万年も動かせる、常軌を逸した貴重な鉱石らしい。…え、それもうアヴニールどころかゲイムギョウ界全体のエネルギー問題解決出来るレベルなんじゃ…?

 

「…ねぇ、ラステイションにそんな鉱石あったかしら?そんな凄い鉱石なら知ってる筈だけど…」

「私も初耳よ、ラステライトなんて…」

「それは当然です、その鉱石は我が社がここ数年で発見し、独占の為公にはしていませんから」

「独占……」

 

私とアイエフ、それにノワールが目を合わせる。他国に秘匿にするならともかく自国にすらなんてほんとアヴニールは何を考えているんだろう…。

 

「さて、ではそろそろ始めて頂けますか?」

「あ、はい。取り敢えず中に入ろっか」

 

こんな廃工場前でいつまでも話していてもしょうがない、という事で正面から入る私達。

 

「わっ、中も相当ボロボロだね…」

「そうね、早いとこ終わらせて……」

 

全員が入り中を見回していたその時、後ろで鈍くも大きな音がする。何事かと振り向いた私達の目の前にあったのは…完全に閉じられた、廃工場の扉。

 

「な…っ!?なんでいきなり入口が閉じちゃうのよ!ちょっとガナッシュ、変な冗談は止めてくれる!?」

「いやぁすいません。手違いで閉まっちゃいました…と言うのではなく、こちらの都合で閉めさせてもらいました。貴女達にはこの中でモンスターの餌食になって貰います」

『……ッ!』

 

ガナッシュさんのいっそ慇懃無礼にも思える言葉を聞いて私達は瞬時に事態を察知する。

 

「騙したわね!貴方目的は何!?」

「ガナッシュ!図ったねガナッシュ!」

『今はパロディしてる場合じゃないでしょうが!』

「貴女達がパッセとか言う町工場の協力者である事は分かっています。大概、我が社の仕事を受けると見せかけ探りと妨害を入れる事が目的だったのでしょう?」

「あいちゃん全部バレバレだよ!?」

「まさか、ここまでバレているなんて…」

 

恐るべしアヴニール、恐るべしガナッシュ…なんて感心している場合じゃなかった。こっちの狙いがバレてる上にモンスターの住処と化した廃工場に閉じ込められるなんて…!

 

「我が社の勝利は間違いありませんが、何があるか分かりませんからね。障害の芽は早いうちに摘み取っておきたいのですよ、では時間が惜しいので私はここで」

「待ちなさい、ガナッシュ!…っく!」

 

アイエフが扉を叩いてみるも当然効果は無く、ガナッシュの足音も次第に聞こえなくなる。…冗談ではなく、本当に私達は閉じ込められてしまった。

 

「……ごめんなさい、こうなったのは私のせいだわ…私がアヴニールの仕事を受けようなんて言わなければこんな事には…」

「ノワール……」

 

勿論ノワールを責める気はないし、ノワールだけが悪いとも思わない。だけど、状況は私達に重くのしかかり、口を重くさせる。

…でも、彼女は…ネプテューヌは違った。

 

「もー!何皆で辛気臭い空気出してるのさ!そんなのわたし達らしくないよ?」

「ねぷねぷ…でも…」

「まだ出られないって決まった訳じゃないでしょ?諦めないで皆で出口を探そうよ」

「ネプテューヌ、貴女…」

 

能天気で楽観的、普段は明るいどころか軽くアホの子にも思える少女、ネプテューヌ。でも、そんなネプテューヌだからこそ私達が諦めそうになった時でも希望を捨てず、その明るい笑顔と声で私達を元気付けてくれる。それがネプテューヌだった。

 

「…そうね、ねぷ子の言う通りだわ。こんな広い工場なんだしきっとどこかに別の出口がある筈よ」

「ええ、誰があいつの思惑通り大人しく餌になってあげるもんですか」

 

ネプテューヌの言葉に士気を取り戻した私達は出口を探す為廃工場の奥へと進む。そう、私達はこんな所でやられる訳にはいかないんだから…!

 

 

 

 

「ここも閉まってる…というか鍵が壊れてて開けようがなさそうだよ」

「そう…そっちはどう?」

「こっちにも出口は見つからないです…」

 

閉じ込められてから数十分後、私達はちょくちょく襲ってくるモンスターを返り討ちにしながら出口を探していた。でも、見つかったか否かと聞かれたら…

 

「もー全然見つからないじゃん!どういう事さ!」

「どうもこうも罠なんだから当然でしょ、ほらごねてないで探すわよ」

 

元アヴニールの工場なだけあって中も広く、出口を見つけるのには相当時間がかかりそうだった。

 

(…って言うか何も出口を見つける必要は無いよね…ここは発想の転換をして……)

 

ふと、私の頭に案が浮かぶ。その案について意見を訊こうとアイエフに近付いた時…何故かアイエフは車両状の機械を見ながら考え事をしていた。

 

「…アイエフ?ちょっと聞いて欲しい事が--------」

「…頭を上げなさい、エクウス!」

「それエクウスだったの!?」

 

あまりにも意外な台詞に驚く私。アイエフの方も聞かれるとは思ってなかったのかビクッと肩を震わせる。

 

「ちょ、な、何聞いてるのよ!?」

「いや何ってアイエフが急に言いだしたじゃん!っていうかそれエクウスなの!?」

「うっ…い、言ってみたかっただけよ。悪い?」

「悪くは無いけど……」

 

…自己紹介の時からずっと気になっていたけど…もしかしてアイエフって厨二的な一面があるのかな…?

なんて思っていたら私達の大きめの声が気になったのか皆が集まってくる。

 

「あいちゃん、イリゼちゃん、どうかしたです?」

「どうもしてないから気にしないで…で、私に何の用だったの?」

「あ、うん…あのさ、扉を探すじゃなくて壁をぶち破るじゃ駄目?壁も老朽化してる筈だし変身した私とネプテューヌの二人がかりならいけないかな?」

「それ良いんじゃない?よーしじゃあ早速壊れそうな壁を…」

「それは止めておいた方が良いと思うわ」

 

提案した私と乗り気だったネプテューヌをノワールが制止し、隣のアイエフも頷いている。私達パーティーのクール担当は私の案に反対みたいだった。

 

「そうなの?というか私が変身出来る事教えてあったっけ?」

「そ、それは…そんな気がしただけよ。それで反対の理由としては壊れ過ぎる可能性があるからよ」

「壊れ過ぎる?」

「老朽化してるのは壁だけじゃ無いって事よ。周りの壁や支える力の減った天井まで一緒に壊れたら…」

「生き埋めになっちゃうね…」

 

残念ながら私の案はリスクが大き過ぎだった。…勝手にやらなくて良かった……。

 

「それに理由はもう一つあるわよ?」

「もう一つ?」

「ええ、そんな事したらモンスターが寄ってきちゃうでしょ?だって貴女とアイエフの会話ですら寄って来るんだもの」

「あー…って、へ…?」

 

振り向く私。ノワールの言う通り、私達の元へ工場らしく機械やデータ系っぽい複数のモンスターが近付いてきていた。

 

「もーあいちゃんもイリゼもモンスター呼び寄せないでよ」

『ごめんなさい…』

「あのモンスターさん達とは戦うです?」

「その方が良いと思うわ。逃げた先で別のモンスターに会って挟み討ちになるのは避けたいし」

 

言うが早いか片手剣を抜刀するノワール。後に続く様に私達も各々の武器を構えてモンスターとの戦闘に入った。

 

 

 

 

「はうぅ…モンスターさんが多過ぎますぅ…」

 

更にあれから数十分後、寄って来たモンスターを倒した私達はまだ出口を探していた。時間経過と多数のモンスターのせいで私達は疲労を余儀なくされていた…。

 

「アヴニールが私達を始末する為に用意した場所だし当然と言えば当然だけど…確かに異常よね…」

「でもどうやってこれだけの数を…こんなにたくさん用意するなんて一日二日じゃ無理よね?」

「それもそうね…」

 

一体一体は問題無くても私達の体力が無限じゃない以上、いつかはやられてしまう可能性がある。…体力と同じ様にモンスターも有限であってほしいよ…。

 

「あいちゃんあいちゃん、もしかしてこれのせいじゃない?」

「これって…エネミーディスクじゃない!何処にあったの!?」

「あっちの部屋で見つけたんだ、もしかしてお手柄ってやつ?なら褒めてくれても良いんだよ!」

「調子に乗らないの、でも良くやったわねぷ子」

 

ネプテューヌが手にしていたのは確かにエネミーディスクだった。それを見た私達はすぐさまここのモンスターの量の原因が分かったけど、ノワールだけは釈然としない表情を浮かべている。

 

「ねぇ、そのディスクがどうかしたの?」

「あ、これはエネミーディスク…仮称だけど…って言って、モンスター大量発生の原因になってるものなの」

「それって本当なの!?」

 

エネミーディスクについて分かっている事と何故知っているかをかいつまんで説明するとノワールは酷く驚いていた。まあ、私も初めて見た時は驚いたし当然だよね。

一方、ネプテューヌ達はエネミーディスクをどうするかについて話している。

 

「やっぱ前みたいにパリーンと割っちゃう?」

「そうね、どうせこのままじゃモンスターが出てきそうだしさっさと壊しましょ」

「うん!…………」

「ねぷねぷ?急に構えてどうしたです?」

「え、だって今のはモンスター出てくるフラグでしょ?」

「言われてみると確かに…なら期せずしてフラグブレイク成功ね」

 

アイエフの手によってパキリ、と折られるエネミーディスク。それはここのモンスターは打ち止めになった事を意味していた。

 

「ふぅ…エネミーディスクについて知ってて助かったね」

「あ…そう言えばエネミーディスクがここにあったなら鍵の欠片もここにあるんじゃない?ノワールこんなの知らない?」

「鍵の欠片?…知らないわね、なんなのよそれ」

「そっかぁ…鍵の欠片はいーすんの封印を解くのに必要なアイテムで、わたしは世界の為にそれを集めてるんだよね!」

「いーすん…?」

 

次々と知らない単語を耳にしたノワールは何時ぞやの私の様にきょとんとした顔をしている。…シンパシー感じるよね、記憶喪失仲間でもあるし。

 

「…いーすんさん、か…女神の私でも知らなかった事を知ってるなんて何者かしら…」

「ん?ノワールどうしたの?この状況にビビりすぎて精神崩壊とかしちゃったの?」

「そんな訳ないでしょ!そういう変な心配は止めてくれる!?」

「あははっ、ごめんごめん」

「うふふ、ノワールさんもすっかりねぷねぷと仲良しさんですねー」

 

いやあれを仲良いって言う?…と突っ込みたい所だったけど、昨日のアレを見てしまった私にはコンパと同じかそれ以上に仲良く見えてしまう。

 

「なぁっ!?私がネプテューヌと仲良しなんて変な冗談言わないでよ!?」

「ガーン!…うぅ、わたし的にはもうノワールとはお友達を超えて親友だと思ってたのに…あ!まさかそれ以上?」

「だ、だからそんな訳…」

「ノワールがそんな人だったなんて…気持ちは嬉しいけど、出会ったばかりだし世間体とかもあるし…でも、ノワールがどうしてもって言うならわたしはオールオッケーだよ!」

『ぶ……ッ!?』

 

ネプテューヌのトンデモネタに吹き出すノワール…と、私。これにはネプテューヌも予想外だったのか『え?』って顔をする…けど、そんな事を気にしている余裕は私にはない。

 

「ね、ネプテューヌ!早まっちゃ駄目だよ!出会ったばかりだし世間体もって自分で言ってるんだから簡単にそういう関係になっちゃ駄目っ!」

「え、いや、ちょ…冗談のつもりだったんだけど…」

「冗談?…遊び感覚でそんな関係になる気だったの!?」

「そっちじゃないよ!?イリゼどうしたの!?」

「はいはい、何だかよく分からないけど早く出口と鍵の欠片見つけましょ、そしたらホテルで好きにしていいから」

『ほ、ホテっ…(アイエフ、あいちゃん)…!?』

「……?何よ急に…って……ち、違うわよ!?変な意味じゃないからね!?」

 

場を収めるどころか新たな燃料を投下したアイエフ。これにはネプテューヌも軽くテンパりほんとに収集が付かなくなる。そして…

 

「……?」

 

そっち方面に疎いコンパだけがきょとんとしていた…。

 




今回のパロディ解説

・「ガナッシュ!図ったねガナッシュ!」
機動戦士ガンダムの登場キャラ、ガルマ・ザビの代表的な台詞。元ネタ的には死亡フラグとも取れますが、別にそんなつもりは毛頭無いので安心して下さい。

・「頭を上げなさい!エクウス!」
コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜に登場するマシン(奇X)、エクウスとその操縦者の人吉爾郎の台詞。キャラ的にアイエフが言いそう…な気のする台詞です。


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第十二話 女神の想い、二人の絆

廃工場に金属音が響く。だが、それは製品の加工音でも錬磨音でも無い。振り抜かれた刃が装甲とせめぎ合い、放たれた光芒が射線上の物質を吹き飛ばす。

既に廃棄された工場では少女達と重機の身体を持つモンスターとの戦闘が繰り広げられ、激しい音を奏でていた。

 

「ちっ…やっぱり硬いわね…!」

「ならまず戦闘能力奪うのが先決ね、イリゼ!」

「分かってる!」

 

左右に分かれて突撃する私とネプテューヌ。モンスターは対応して両腕に相当するアームからビームを放つ…が、変身した私達を撃つには挙動が遅過ぎた。

ネプテューヌの一撃を受け一瞬動きが鈍るモンスター。そこへ立て続けに放った私の横薙ぎが滑り込みモンスターの頭部とカメラアイを破壊する。

 

「■■ーー!?」

「たかがメインカメラじゃなかったみたいね」

「ちくっとするですよー!」

「喰らいなさいッ!」

 

見るからに動きの悪くなったモンスターに対し肉薄するコンパとアイエフ。いくら硬い装甲を持とうとも機動力を確保する為には関節部を開けなければならない。二人はその関節部へ注射針とカタールを叩き込んだ。

 

「貰ったわ!はぁぁぁぁっ!」

 

二人が狙ったのは脚部の関節。そこを破壊されたモンスターは移動もままならなくなり…ノワールの跳躍からの刺突を頭部欠損により露出した内部へ受け、完全に停止した。

 

「所詮はモンスター、全員でかかれば敵じゃないわ」

「今日もねぷねぷはかっこよかったですよ」

「ありがとうコンパ、でもコンパも結構良い動きしていたと思うわよ?」

 

モンスターを片付けた事で緊張を解く私達。でもまだ油断は出来ない、何故なら…

 

「まさか、もう一枚エネミーディスクがあるとはね」

「通りでモンスターが減らなかった訳だわ。ほら、ねぷ子割ってみたいんでしょ?」

「…いや、いいわ。変身したらテンションが下がって拘りも冷めちゃったもの」

「あ、そう…」

 

ネプテューヌは変身すると性格がガラリと変わる。元気一杯の快活少女から冷静沈着の女性へ、それは最早別人レベルだった(私の場合は多少テンション上がるだけ…だよね?)。

 

「じゃ、さっさと割っておきましょ」

「これで出口探し再開ですね」

「ネプテューヌ、私達も元の姿に戻る?」

「そうね、何時までもこの姿じゃ疲れるし」

 

ノワールがディスクを割り、改めて出口を探し始める私達。

…と思ったけど、何故か変身解除したネプテューヌは残念そうにしていた。

 

「…ネプテューヌどうかしたの?」

「いや、うん…ディスク割りたかったなぁ〜って…」

「はぁ!?」

 

さっきと言っている事が180度違うネプテューヌだった。気持ちは分からないでもないけど…えぇー……。

 

「あのねぇ…」

「だって変身前後で気分変わるんだからしょうがないじゃん。ノワールもそこ気を効かせてくれれば良かったのになー」

「知らないわよそんなの!誰がそんな気を効かせられるっていうのよ!」

「それが出来たらノワールはぼっちじゃなくなるかもよ?」

「誰がぼっちよ!?別に友達位沢山いるんだからね!」

 

今日何度目なのか分からない二人のやり取り。初見ならば喧嘩なのかと疑いたくなるそれも…

 

「ほんと仲良いわね貴女達」

「微笑ましいですぅ」

「これで出会って数日の関係なんだから凄いよね…」

 

二人の人となりを知っている私達からすれば日常的なものだった。

 

 

 

 

「久し振りの外だー!」

「やっぱりおひさまの下は暖かくて気持ち良いですねー」

 

またまたあれから数十分後、恐らく入ってから数時間だった末にやっと私達は出口を見つけて外に出る事が出来た。

 

「しかしまさかほんとに出口があるとはね…なんであそこだけ他の出口みたいに使用不能になってなかったのかな?」

「元々錆びてて開き辛かったから細工する必要が無いと判断されたんじゃない?」

「そういう事か…錆びててくれて助かったね」

「んー……」

 

ネプテューヌとコンパが雑談を、私とノワールが扉の事を話している間アイエフは妙に静かだった。

 

「…アイエフ、さっきからどうしたの?」

「うん、今更ながらちょっとガナッシュの狙いが気になって」

「狙いって邪魔になり兼ねない私達を始末する事なんじゃないの?」

「えぇ、それも勿論あると思うけど…エネミーディスクの件といい、何か他にも狙いがある気がするのよ」

「他の狙い、か…(私の正体に気付いている様な素振りだったし、きっと本当の狙いは私…後でネプテューヌ達にはラステイションのゴタゴタに巻き込んでしまった事を謝らなくっちゃ…)」

 

言われてみると確かにそうだった。どう考えてもエネミーディスクが市販されてる訳ないし、大企業とはいえそう簡単に入手出来るとも思えない…。

そうして私、アイエフ、ノワール(彼女だけは少し思考の方向性が違う様にも見えた)の三人が考えを巡らせている時、ずっと聞いていたネプテューヌが口を開いた。

 

「皆心配性だなー。皆深読みし過ぎだよ」

「そりゃ深読みなだけならありがたいけど…」

「無事出られたんだからそれで良いじゃん!今日はこの位にしてシアンの所でご飯にしちゃおーよー!」

「……っ!マズいわ、シアンも危ない!」

『……!』

 

ネプテューヌの口からシアンの名前が出てきた瞬間アイエフが反応し、一瞬遅れる形で私とノワールもそれに気付く。

 

「…どういう事です?」

「あいつが私達を閉じ込めた時に言っていた事を思い出して」

「ガナッシュさんがです?えーっと…」

「思い出せない人は第十一話を読んでね」

「ネプテューヌ、読者さんには優しいけど雰囲気的には最悪な台詞ありがと…」

「あいつは私達がシアンの協力者である事を知っていたのよ。ならシアンも私達同様に狙われる可能性があるわ」

「そ、それは大変です!」

「それじゃ急いで戻らないと!」

 

アイエフの説明でまだ危険が去った訳ではないと分かり、慌てる二人。そして私達が急いでパッセに行こうとした時…

 

「…ノワール、どしたの?早く行かないと…」

「……博覧会の為に私達だけじゃなく一般人のシアンも狙うなんてどういう神経してんのよあいつは!」

「の、ノワール…?」

「もうこればっかりは頭にきたわ…!ガナッシュもアヴニールも絶対許さない!私が修正してやるわ!」

「…ノワールがここにきてめちゃくちゃ怒ってる件」

「ノワールさん怖いですぅ…」

「そこ、ごちゃごちゃ言ってない!急いでシアンを助けに行くわよ!」

『はひぃっ!?』

 

怒号を飛ばし、我先にと走り出すノワール。私達はノワールの豹変ぶりに一瞬ぽかーんとしていたが、すぐに状況を思い出して後を追う。…いや、うん…勿論現状もアレだけどそれ以上にノワールが変貌し過ぎて反応に困るよ…。

 

 

 

 

一言で言えば、滅茶苦茶だった。家が、道路が、工場が破壊され、至る所で煙が上がっている。ラステイションの街へと戻ってきた私達が目にしたのはそんな光景だった。

 

「ガナッシュの奴、絶対に許さないんだから…!」

「ノワール、気持ちは分かるけど一旦落ち着いて…」

「お、お前ら来てくれたのか!?」

「シアン!?無事だったの!?」

 

私達と前に現れたのはシアンだった。無事だった事に私達は安堵したけど…当のシアンの顔は明るくない。

 

「何とかな…それよりここは危険だ、わたしは教会に行って女神様に助けを求めてくる。だから早く逃げろ!」

「…残念だけどそれは出来ないわ」

「だね、私達も初めて来た旅行者とかじゃないし」

「そうそう、わたし達はガナッシュに海よりも、コントローラーのモールドよりも深ーーい恨みがあるんだから」

 

それだけ伝えて再び走る私達。そう、私達はもう部外者じゃない。部外者じゃないなら…アヴニールを止める権利だってある!

 

 

 

 

「あーっはっはっは!いいぞキラーマシン!もっと壊せ!」

 

やっと発見したガナッシュ。彼は機動兵器らしき機体が街を蹂躙するのを見て満足そうに笑っていた。

 

「さあ、更に出力を上げるぞ。お前の性能を見せてやれ!」

「これ以上、貴方の好きにはさせないわ!」

 

声を上げる私。それを耳にしたガナッシュは振り向き、キラーマシンと呼ばれた機動兵器を破壊行動を一旦止めた。

 

「……おや?これはこれは懐かしい顔が…どうやら無事に抜け出せた様ですね」

「あんな雑魚モンスターで私達を倒せるとでも?随分お花畑な頭をしてるのね」

「まさか、あの程度で始末出来るとは思っていませんよ。けど、目的の足止めはできた様でなりよりです。お陰で新兵器のデモンストレーションを行えたのですから」

 

両手を広げ、さも誇らしげに破壊された街を見せるガナッシュ。そんな姿を見せられた私はより一層の怒りがこみ上げてくる。

 

「…絶対に許さないわ」

「ほぅ、では今の貴女に何が出来ると言うのです?かつての権威はアヴニールに奪われ、力も殆どない。それは御自身でも分かっている筈では?」

「……っ…」

「不在が長過ぎた御自身が悪いのですよ。結果この大陸で貴女を信仰している人はほぼいません。まぁこちらとしてはそのお陰で乗っ取れたので感謝はしていますがね」

 

…悔しいし、認めたくは無いけどガナッシュの言う事は事実だった。…けど、『全ての』事実、なんかじゃない。

 

「…で、だからなんなの?」

「何……?」

「権威や力が無い。それは事実よ?でもただ貴方への仕返しの為にここに立っていると思ったら大間違いね」

「なら、何のためだと言うんです?」

「私はね!こんな私でも、私を信じてくれている人達の為にここにいるのよ!」

 

ガナッシュへ啖呵を切りながら後ろを見る私。そこには私を信じていてくれる、私の友達が……

 

「ねぇ、そろそろ喋っていいかな?わたしシリアスで真面目な空気って苦手でさー」

「空気を読んでもう少しだけ静かにしてなさい」

「えー、もう限界だよー!わたしって喋ってないと死んじゃうタイプなのにー!」

「ねぷねぷ。静かにしないとおやつのプリン抜きですよ?」

「それは困る!うぅ、プリンの為に死んでも頑張らないと…」

「あ、あはは…緊張感無くてごめんね…」

 

……私の中で何かがキレる。

 

「何静かにする相談で騒いでるのよ!それじゃ元も子もないでしょうが!折角良い雰囲気だったのに…!」

「ねぷねぷ、プリンぼっしゅーとですぅ!」

「あぁ!?ぼっしゅーとされたー…」

 

…あれ?これってギャグパートだっけ?…って思う位グダグダな雰囲気だった。何で貴女達はそんなテンションしてるのよ…!

 

「いい加減にして!今CHAPTER:2で一番のクライマックスなのよ!」

「お友達とのお話はもう宜しいですか?これでも忙しい身でしてね」

「だったらすぐにそのガラクタをスクラップにしてあげるわ、覚悟しなさい」

「ねぷねぷ、イリゼちゃん、変身です」

「刮目せよー!」

「ガナッシュさん、貴方とアヴニールの悪行もここまでです!」

 

前に出て変身するネプテューヌとイリゼ。それを見たガナッシュは想定外とでも言いたげな顔をする。

 

「なっ!?その姿…何故こんな所に!?…貴女と言う人は、何故敵である筈のあの人と共にいるんです!?」

「言ったでしょ?信じてくれる人達の為にここにいるって。その為なら手段は選ばない……はぁぁぁぁっ!アクセス!」

 

高らかに声を上げ、変身を…『女神化』をする私。案の定私が女神化した事にネプテューヌ達は驚愕する。

 

「ノワール!?貴女、その姿は…!?

「細かい話は後!今はあの機動兵器を止めるのが先よ!」

 

言い放つと同時に地を蹴り宙へ舞う私。イリゼは勿論、ネプテューヌも変身した事で頭の回転が良くなったお陰か追求を後に回して私に続いてくれる。

さあアヴニール、女神の逆鱗に触れた事を後悔させてあげるわ!

 

 

 

 

戦いと言うものは往々にして荒々しくなるものだが、達人がそれを行なった場合、荒々しさよりも美しさや華麗さが勝るらしい。勿論絶対的な事では無いけど…少なくとも、私の目の前で舞う二人の少女は文字通り『華麗』だった。

 

「援護して頂戴ネプテューヌ!」

「ええ、突っ込みなさいノワール!」

 

短いやり取りだけで完璧な意思疎通を図り、キラーマシンと呼ばれた機動兵器を攻め立てるネプテューヌとノワール。キラーマシンの迎撃も相当なものだったが…その攻撃を悉くかい潜り、逆に次々と刃を叩き込む二人には通用していなかった。

 

「くっ…大誤算だ、何故ここにあの方が…!」

 

歯嚙みをしながらうめくガナッシュさん。彼は忌々しそうにしながら懐へと手を入れ、ディスクを取り出す。

ディスクが輝き、マシン型のモンスターが次々と出現。そのマシンモンスター群がキラーマシンに専念しているネプテューヌとノワールの背後を襲う様な動きを見せ、それを見たガナッシュさんが安堵と共に笑みを浮かべ…

 

…最前列のマシンモンスターが横一文字に両断された。

 

「な……っ!?」

「ディスクを置いて直ちに投降して下さい。さもなくば…」

 

私が獲物を、モンスターを一撃の元両断した長剣をガナッシュさんへ向ける。彼は再び忌々しげな表情を浮かべながら目標を私へ変更。モンスターが次々と襲いかかってくる。

 

(…ネプテューヌ、ノワール、貴女達の邪魔になるものは私に任せて頂戴。だから二人は…そいつを倒して!)

 

二人の連携に私は不要どころかむしろ邪魔にすらなる。直感的にそれを感じた私は二人の援護よりも別の障害を排除する事を優先する。

何故二人があんな連携が出来るのか、とかノワールの正体、とかは全く気にならなかった。

 

(仲間を…友達を信じて戦う。それが今の私に出来る最善の事だよね)

 

そして、二人とは違う場所で、違う目標を相手にしながらも二人と同じ意思を持つもう一人の少女が、刃を踊らせた。

 

 

 

 

わたしへ振るわれた大斧はわたしとキラーマシンの間に滑り込んだノワールの大剣により弾かれ、胴の空いたキラーマシンにわたしが一撃を与える。

わたしの突進を察知し防御態勢を取ったキラーマシンはわたしの突進と同時に側面に回ったノワールに対応出来ず、一撃を与えられる。

自分でも驚く程の連携を見せたわたし達はキラーマシンを圧倒していた。

 

「■■■■ーー!?」

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

「やぁぁぁぁぁぁっ!」

 

絶え間なく続くわたし達の攻撃に対し、次第に無茶苦茶な動きを始めるキラーマシン。武器が折れ、装甲がひしゃげ、AIが悲鳴を上げるキラーマシンにはどう見ても勝ち目

など無かった。

 

「ノワール、まだバテてないでしょうね?」

「当然よ、ネプテューヌこそまだいけるかしら?」

「勿論、なら…そろそろ決めるわよ」

「ええ、遅れるんじゃないわよ!」

 

互いに笑みを浮かべ、同時に飛翔するわたしとノワール。合図も無しに背中合わせになったわたし達は所謂ローリング・シザースの様な軌道を描きながらキラーマシンへ肉薄する。

 

「■■■■!!」

『遅いッ!』

 

真正面から突貫をかけたわたし達にビームを放つキラーマシン。そのビームが着弾する寸前に左右に分かれたわたし達は、ビーム照射中故に無防備となったキラーマシンへ一閃。キラーマシンの両腕部が肩口から斬り飛ばされる。

 

「これが、私達の…」

「信頼で結ばれた仲間の…」

 

無論わたし達の攻撃はまだ終わらない。ノワールはそこからバレルロールをかける事で自身と大剣を上方へ移動させ、頭部を叩き斬る。わたしは逆に大きくブレーキングをすると同時に身体を捻って身体の向きを調整し、キラーマシンのテール部分を斬り裂く。

最初は敵として出会った。喧嘩らしき事もした。時間の上で言えばたった数日の関係。…それでも、わたしは確信している。ノワールは--------

 

『----絆の力よッ!』

 

刹那程の時間差すらない、完全に同じタイミングでわたしは後方から、ノワールは前方から袈裟懸けをかける。

腕部、頭部、尾部を失い最早達磨状態だったキラーマシンは防御も回避もする事が出来ず、前後からX字に斬られて地へ沈む。

キラーマシンの停止を見届けた後、ゆっくりと近付き、どちらからともなく上げた手と手でハイタッチを行うわたしとノワール。そしてわたしは先程思った気持ちを改めて確信する。

 

--------ノワールは、わたしの大切な友達よ。




今回のパロディ解説

・「たかがメインカメラじゃなかったみたいね」
機動戦士ガンダムの主人公、アムロ・レイの名台詞の一つ。当たり前ですがたかがメインカメラと言えるのは彼の様なトップエースだけで普通はたかがではありません。

・修正してやるわ
機動戦士ガンダムZの主人公、カミーユ・ビダンの台詞の一部。激情型…と言う意味ではノワールとカミーユはちょっと似てますが、当然やる事は大分違いますね。

・モールド
型に樹脂や金属を流し込んで作った製品の総称…らしいです、無学な作者をお許し下さいませ。正直な所今まで以上にこれはパロディではない様な気がします。

・キラーマシン
ドラゴンクエストシリーズに登場するモンスターの事。ただネプテューヌシリーズのキラーマシンは原作キラーマシンを色々混ぜた見た目なので多分特殊なパロディです。


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第十三話 明かされる真実

「……ふっ…ははっ、あーはっはっはっは!」

 

ラステイションの街に乾いた笑い声が響く。新兵器のデモンストレーションという名目の破壊活動により蹂躙された街には国民の気配が無く、戦闘終了と同時に静まりかえったが故にその笑い声は響き渡っていた。

 

「…何がおかしいんですか」

 

キラーマシンはネプテューヌとノワールが破壊してくれた。マシン系モンスターは私が制圧してディスクも破壊した。そして笑い声を上げている彼、ガナッシュさんはさっきまでひどく狼狽していた。

…なのに、今は心底愉快そうに笑い声を上げている。それが私にとって気がかりでならなかった。

 

「あぁ、これは失礼致しましたね」

「質問に答えて頂けませんか?」

「いやはやまさかキラーマシンが破壊されるとは…これは完全に想定外でした。そのお仲間も含め、流石はノワール様ですね」

「ふん、あんたに賞賛されても全然嬉しくないわよ」

「まあ、そうでしょうね。しかしこんな形でデモンストレーションが終わってしまうとは…」

 

私の質問を半ば無視する形で話し始めるガナッシュさん。その態度はこの状況を理解してないんじゃないかと思う位普段のそれになっていた。

 

「終わったのがデモンストレーションだけだとでも思ってるの?……覚悟は良いでしょうね…」

 

大剣を片手で持ちながらゆっくりと私とガナッシュさんの方へと歩いてくるノワール。その顔は喜びに沸く勝者ではなく、怒りを灯した断罪者の様に見えた。

 

「覚悟、ですか…何をするおつもりで?」

「それが分からない程貴方は馬鹿じゃないでしょう、せめてもの情けとして何か言い残す位の時間はあげるわよ?」

「ここで私を殺した所でどうなると言うんです?教会は掌握され、市場も我が社が独占状態。今回の件に我が社が関わっている事を知る者は少なく、今の貴女に権威はない…ここで我が社が今回の事件の首謀者が貴女で私はその犠牲となった…と、情報を流したらどうなるでしょう?」

「……っ!」

 

歯嚙みをするノワール。正直腑に落ちない点は多いけど、それでも何を言っているかは分かる。

アヴニールは事実を都合の良い形に捻じ曲げられる。ガナッシュさんはそう言っていた。

 

「ですがご安心下さい。腐っても貴女はラステイションに欠かせない存在です。素直に従ってくれるのであれば貴女もお仲間さんも悪い様にはしませんよ」

「…わたし達も悪い様にはしないなんて随分な言い方ね、悪役が合うんじゃないかしら?」

「褒め言葉として受け取っておきますよ」

 

ネプテューヌの言葉も飄々と受け流すガナッシュさん。この場だけで言えば彼は絶望的な状況の筈なのに、ここにいる誰よりも余裕を持っていた。

 

「さぁノワール様、選んで頂けますか?この場でアヴニールの一部に過ぎない私に制裁を下して自分を破滅に追い込むか、我々に投降するか…聡明な貴女であればどちらを選ぶのが正しいのか分かりますよね?」

「……っ…私、は…」

 

ノワールの声は震え、目には燃える様な怒りが宿っている。…でも、どうしようもない、どうにもならない。それが誰よりも分かっているからこそノワールはその怒りを必死に飲み込み、ガナッシュさんの提示した選択に問いを…

 

 

「--------その問いに答える必要は無いよ、ノワール」

『……ーー!?』

 

不意に建物の影から発せられた言葉に全員が驚き、振り向く。そして、ノワールとガナッシュさんが同時にその声の主の名前らしき単語を口にする。

 

「ケイ!?貴女…どうして…!?」

「神宮寺さん…何故、ここに貴女が…?」

 

ショートカットに銀髪に中性的な顔立ちを持つ少女は神宮寺ケイ(…響き的にこうな筈)というらしい。彼女はこの状況に一切の物怖じをする事なく建物の影から離れ嘆息した。

 

「…ノワール、彼女は?」

「神宮寺ケイ、今はアヴニール側の人間であり……元、ラステイション教会の教祖よ」

『…教祖?』

「教会の職員の総括者であり実質的な国のNo.2の事よ…今更何よケイ」

 

ノワールの怒りと悲しみの混じった様な視線を受けたケイさんは特に気にする訳でもなく私達とガナッシュさんの間に来る。

 

「貴女がここに来るとは…いえ、それよりも先程の言葉はどういう意味です?」

「言葉通りの意味さ、ノワールはその質問に答える必要が無い。それだけの話だよ」

「…言い方を変えましょう、何故必要が無いのですか?」

 

互いに落ち着いた態度で話す二人。だが、会話の内容を推測する限りそれは穏便な世間話では無さそうだった。

 

「…ケイ、答えなさい。私もその理由が聞きたいわ」

「まあ、こういう事さ」

 

そう言ってケイさんが取り出したのは書類の束とUSB。私とネプテューヌには意味がさっぱり分からないものだったけど…ガナッシュさんはそれが持つ意味を理解出来たのか今まで浮かべていた余裕の表情が強張る。

 

「…まさか、それは……」

「ご明察、これはアヴニールが隠蔽している違法や非合法な事業及び表沙汰には出来ない情報の束さ」

「……っ!…何のつもりですか…!」

「何のつもり、とは不思議な事を聞くね。…教祖が自国と女神にとって不利益となる存在に従うとでも思うのかい?」

 

ノワールが息を飲むのを感じる。でも、それも当然の事…何故なら、ケイさんは教会に背を向けたのでは無く、むしろ教会と国の為に動いていたと分かったのだから。

 

「ケイ……」

「最初から我々側につくつもりはなかった訳ですか…しかし、その情報とて今のラステイションではデマの一つとして処理されてもおかしくない、力のある後ろ盾のない戯言の域を出ていない…違いますか?」

「違うね、君達アヴニールが思っている程国民はアヴニールを支持していないのさ」

「…ケイ、どういう事よそれ」

 

アヴニールは支持されていない。それはあまりにも意外な言葉だった。価格と品揃えで市場を独占しているアヴニールが支持されていない、なんてそれは軽い矛盾としか思えない。

 

「確かにアヴニールは一時期支持を得ていたね。けど、一度独占状態となれば国民は否応なしにアヴニールから買わざるを得なくなる。そしてアヴニールは独占状態に甘んじて自社最優先の事業を進め続けた。そんな現状でもまだアヴニールが圧倒的支持を得ていると思うのかい?」

「自社最優先の事業…?我々がいつそんな事を…」

「ここラステイションの女神が進める事業は国民と国の事を第一に考えた、国あっての工業だ。それも分からない君達がうちの女神を侮辱するなんて…不愉快極まりないな」

 

今までずっと淡々と言葉を紡いでいたケイさんの声音に一瞬、怒気が篭る。そしてそれを感じた私は直感した。

…あぁ、この人は本当にラステイションの女神様の信仰者なんだ、って。

 

「そして、一部ながらこの騒動はアヴニールが行ったという事とそれを女神様が鎮圧したという事を知っている者もいる。…ガナッシュ、まだノワールへの脅迫を続けるかい?」

「…さしずめ、その書類とデータを廃棄する代わりに要求を飲め、という事でしょうね…」

「話が早くて助かるよ。…僕が要求する事は一つ、アヴニールの教会からの全面退却さ」

「……最大限、働きかけてみる事を約束しますよ…」

 

背を向け去るガナッシュさん。ノワールはそれを追おうとするも…今追うのは必要な事じゃないと思ったのか姿勢を正し、ケイさんの方を向く。

 

「…ケイ…貴女、裏切ったんじゃなかったのね…その、ありが--------」

「ノワール、これは紛れも無く守護女神戦争(ハード戦争)ばかりに意識を傾けて国を二の次にしていた君の自己責任だ。ああは言ったけど君こそ女神の自覚が足りないんじゃないかい?」

「な……っ!?」

「全く…大陸統一しても国民がついてこなければ本末顛倒だと常々言っていた筈だよ?」

「そ、それは…って言うか、そういうケイだって…!」

「…だが、これは国どころか君に任された教会すら守りきれなかった僕にも責任はある…すまなかったね、ノワール」

「…いえ、貴女は良くやってくれたと思うわ…ケイが教祖で助かっていたもの、私こそ悪かったわ…」

 

言葉を交わし合う二人の少女。そこへ吹いた一陣の風は二人の銀髪を優しく揺らしていた。

 

 

 

 

「さぁノワール、洗いざらいに話してもらおーか!」

「何で取り調べ風なのよ…」

 

ケイさんと共に教会(驚く事にもうアヴニール派の職員さんはいなくなってた。ガナッシュさん仕事早っ!)へと移動した私達はノワールから色々と話を聞く事とした。…勿論、ノワールの状態について、ね。

 

「いやーちょっと雰囲気出したくてさー…で、ほんとにさっきの姿は何だったの?」

「変身したねぷねぷにそっくりだったです」

「まあまずはそれよね、さっきの会話で予想したかもしれないけど実は私ラステイションの女神なのよ」

『え!?』

「訳あって正体を隠してたのよ、悪かったわね…それと、貴女達のおかげでここまで取り戻す事が出来たわ、ありがとう」

 

ノワールの告白に目を丸くするネプテューヌとコンパをよそに彼女はさらっと話していく。…結構重要な秘密を話してる筈なのにノワール軽過ぎない…?

 

「ま、まさかノワールがラステイションの女神様だったなんて…」

「ねぷねぷが変身した時と同じ位びっくりですぅ」

「…ま、私は大分前から気付いていたけどね」

「嘘ぉ!?」

「…いや、ノワール…流石にこれは気付くから…」

「って事はイリゼもなの!?」

 

…どうやらノワールは完璧に隠せてたつもりらしかった。そりゃ確かに確証は持てなかったけど…ちょっとノワールって抜けてるところあるよね…。

 

「いきなりびっくりだよ…あ!ノワールはわたしの事知ってるんでしょ?お願い、教えて」

「んー、どうしようかしら…」

「まさかの焦らしプレイ!?ノワールぅ、勿体ぶらずに教えてよ〜」

 

擦り寄るネプテューヌ、それをあしらうノワールの顔はどこかまんざらでもなさそうな様子だった。

 

「どうせもう殆ど答えが出てる様なものなんだから教えてあげたら?」

「あいちゃんはもう分かってるですか?」

「えぇ、ノワールが変身した時にね」

「…え?って…うぇぇぇぇえぇぇっ!?ね、ねぷねぷがもしかして…もしかするです!?」

「ここまでくれば流石に分かるよね、情報マトリクスが四つ貯まった状態レベルだし」

「ちょ…何で皆分かるのさ!?アレ!?わたし一話か二話飛ばしちゃった!?」

 

一人だけ分からずテンパってるネプテューヌを眺める私。そんな私をアイエフは妙な顔で見ていた…何故?

そしてついにノワールがネプテューヌの正体を口にする。

 

「やれやれ、仕方ないわね…ネプテューヌ、貴女はプラネテューヌの女神パープルハートよ」

「……マジっすか?」

「マジっすよ?…って独特な返しさせるんじゃないわよ」

「マジなんだ……え、わたしで良いの…?」

「良いの?じゃなくて貴女が女神なのよ」

「あ…!だからねぷねぷは空から降ってきたんですね…」

「ええ、空から降ってきたり地面に刺さったり変身したりと人間らしくない点は多かったじゃない」

「いや、女神でも空から地面に突き刺さったら普通死ぬわよ…」

 

空から降って地面に突き刺さる。これは普通にギャグ漫画の域だよね、下手するとギャグ漫画ですら無事じゃ済まないレベルだし。

 

「…じゃ、次はイリゼの事ね」

「へ?私?」

「私?って…貴女、自分の事をよーく思い出してみなさい」

「……?…うーんと…」

 

私の事…1.記憶喪失、2.変身出来る、3.返信した姿はネプテューヌやノワールと似てる、4.遺跡で眠ってた、5.まあまあスタイルは良い方(自称)…って事位かな?……へ?

 

「え、いや…え!?マジなの!?」

「いや誰に何聞いてるのよ…取り敢えず落ち着きなさい」

「いやいや落ち着けないよ!ノワール、私は!?私はどうなの!?」

「あー…うん、隠す事でもないし正直に話すわ」

 

頭を軽くかきながらのノワールの言葉に私の期待は跳ね上がる。遂に…やっと、私の事について分かる日が…

 

「…知らないわ」

「……え?」

「知らないのよ、貴女の事は。私は守護女神全員の顔と本名を知ってるけど貴女の顔は今まで知らなかったしイリゼって名前も初耳だったわ」

「…そん、な……」

 

私の中で期待が音を立てて崩れさる。今までで一番可能性を感じた分、それが外れたと分かった時のショックは完全に私の予想を超えていた。

 

「イリゼ…」

「力になれなくて悪いわね…でも、その力は十中八九女神の力よ、だからどこかに貴女の事を知っている人がいると思うわ」

「ほんとに…?」

「ええ、誰にも知られていない女神なんてそもそも女神化出来ないもの」

「それこそイリゼの事はいーすんが知ってるんじゃない?知ってそうなキャラだしさ」

「知ってそうなキャラって…でも、まあ…そうだよね」

 

前の…って言ってもまだ数ヶ月も経ってないけど…私なら落ち込んでいたかもしれない。でも今の私なら、まだ希望が潰えた訳じゃない、可能性はまだ残ってるって思える。そう思えるのは、きっと…

 

「…イリゼちゃん、急に皆を眺め出してどうしたんです?」

「ううん、何でもないよ」

 

皆の…友達の、お陰なんだと心から思う。

 

「さて、と…取り敢えずこんな感じで良いかしら?」

「うん、教えてくれてありがとねノワール」

「良いわよ別に、それより貴女達はホテルに戻るの?」

「ええ、もう日も暮れちゃったからね」

「なら今日は教会に泊まっていくと良いわ、貴女達はここの恩人でもあるもの」

 

ノワールからのお誘いに私達は顔を見合わせた後、満場一致で頷く。ホテルも何かしらの被害を受けてるかもしれないし、そもそも断る理由も無いもんね。

 

「とか言って実はノワールが泊まって欲しいだけなんじゃないの?」

「ち、違うわよ!そういう方向に持って行かないでくれる!?」

「…素直になった方が楽だよ、ノワール…」

「だから…何で取り調べ風なのよっ!」

 

最早見慣れた光景となったネプテューヌとノワールのやり取りを苦笑いしながら眺める私達。

ノワールが女神ブラックハートであった事。ネプテューヌが女神パープルハートであった事。それを知っても私達の仲は全く変わらなかった。それが良い事なのかどうなのかは私には分からないけど……

 

「…これが、ずっと続いてくれたら良いな」

「全然良くないわよ!もうネプテューヌしつこい!」

「え?アカこうらみたい?照れるなぁ」

「そうは言ってないし褒めてもいないわよぉぉぉぉぉぉっ!」

 

今日も、私達パーティーはとっても賑やかだった。




今回のパロディ解説

・情報マトリクスが四つ貯まった状態
Fate/EXTRAでのシステムの一つ。四つ貯まった状態=相手(のサーヴァント)の真名が分かった状態なので既に正体がバレバレなノワールは正にその状態じゃないでしょうか。

・アカこうら
マリオカートシリーズのアイテム、アカこうらの事。SFにおけるマイクロミサイル級の追尾能力がある(気がする)アカこうらに苦しめられた方は皆様の中にもいるのでは?


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第十四話 それぞれの目的を見据えて

『第一回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inのわのわの家』

 

…翌日、ラステイションの教会で起床した私が広間に行くと意味の不明な会が開かれていた。

 

「誰がのわのわよ!って言うかここは教会であって私の家じゃないし妙な会を開かないでくれない!?」

「朝から突っ込み絶好調だねノワール…で、これは何?」

「見ての通りだけど?」

「見た限りじゃネプテューヌが手の込んだボケやってる様にしか見えないんだけど…」

「えー…じゃ、こほん…人は常に前を向いて歩くべきなのよ!」

「いやだからって碧陽学園の三十二代目会長さんっぽい事されても困るから!むしろ余計分かり辛いよっ!」

 

私の突っ込みも朝から絶好調だった。私とノワールにとってネプテューヌは元気の源なんじゃないのかな、悪い意味で…。

 

「むー、同じ女神同士通じると思ったんだけどなー」

「無茶言うんじゃないわよ…って言うかコンパとアイエフは?」

「ケイにここ使わせて貰う事伝えに行ってるよ」

「じゃあネプテューヌは許可取る前に始めちゃってる事にならない…?」

「その通りね、まあ許可貰ったから大丈夫なんだけど」

 

丁度良いタイミングでコンパとアイエフが戻ってくる…けど、謎のタイトルの書かれた板については知らなかったらしく『え?』って顔をしていた。…ネプテューヌ一人であれ用意したんだ…。

 

「じゃ、早速始めようか諸君」

「ねぷねぷ議長さんみたいですね」

「台詞だけは、ね。まあ文面はアレだけど意味は分かるでしょ?」

「ええ、でもこれ私も必要なの?」

「当たり前じゃん、ノワちゃんもねぷねぷ一行のメンバーでしょ?」

「だから変な呼び方するんじゃないわよ!…悪いけど、私は行けないわ」

 

私達の活躍とケイさんの潜入活動の甲斐あって教会は取り戻す事が出来たけど、まだアヴニールがラステイションでの最大の力を持ってる事には変わりなく、街や工場の修繕も数日じゃ終わらない。それが今の現状であり問題だとノワールは語った。そう言われちゃ連れ出す訳には行かないよね。

 

「せっかくノワールと友達になれたと思ったんだけどなぁ…」

「ねぷねぷ、我が儘言っちゃ駄目ですよ?それにまだ鍵の欠片も見つかってませんし、また来れば良いだけです」

「そうね、他の大陸に行った後にまた来ましょ」

「その時は喜んで歓迎するわ」

 

それでもネプテューヌはちょっと残念そうだったけど、ノワールがラステイションが落ち着いたら合流すると言うと納得した様で話は次へ進む。

 

「それじゃ、次の問題は次はどこへ行くかだけど…一度プラネテューヌに戻った方が良いと思うわ?」

「それは別に構わないけど…どうして?」

「私はともかく貴女達は長期の旅の用意なんてしてないでしょ?」

『あー…』

 

元々旅人だったアイエフとラステイションに残るノワールを除くと、このパーティーの面子は記憶喪失二人に看護学生一人、まあどう考えてもこの三人は準備不足感が否めなかった(って言うかその内一人が私なんだけどね)。

 

「わたしもそれで良いです、ねぷねぷも良いですか?」

「うん、と言うかわたしはプラネテューヌの女神らしいからね、ここは堂々と凱旋しよっかなー」

「凱旋って…戻るのは良いけどネプテューヌは女神である事は暫く隠した方が良いと思うわ、ラステイション程じゃないにしてもどの国も問題抱えてるらしいし」

「第一記憶喪失の女神が戻っても混乱するだけでしょうね」

「…私は?」

「イリゼは…多分女神だって言っても信じてもらえないんじゃない?女神である私ですら知らなかった訳だし」

 

なんとなくそれはそれで悲しい気がするけど…まあ嘘付き呼ばわりされたり夢見がちな子だと思われたりするよりは普通にマシなので私も隠す事を決めた。

 

「なら行く場所も決定です。あいちゃん、まだ話す事はあるですか?」

「そうね…あ、ノワールとイリゼについて一つあったわ」

『私?』

 

私とノワールとで顔を見合わせる。ネプテューヌ含めた三人ならともかく私とノワール二人についてってどういう事だろう…。

 

「ええ、身元を隠してた今まではともかく今はノワールが女神様だって分かった訳でしょ?だから…」

「あぁ…変に敬ったり様付けしたりとかはしないで頂戴。今まで通りの方が私も嬉しいわ」

「ちょっと緊張しますが、分かったです」

「じゃあイリゼは?まだ色々不明とはいえ恐らく女神様らしいし、どうする?」

「私も今まで通りで良いよ。そもそも現状記憶喪失だから女神様、って言われても違和感しかないし」

 

今まで対等の友達として接してきた相手に急に敬語を使われたり変に距離を取られたりはされたくない。ノワールもきっと同じ気持ちだから断ったんだよね。

 

「…あれ?わたしは?わたしも女神様だよ?」

「女神様も何もねぷ子は女神様らしさゼロじゃない」

「ねぷねぷはねぷねぷです」

「えぇー…まあ親しみ易いって捉えようかな…」

「それで良いんじゃない?…さて、話す事はそんなものかしらね」

「お馬鹿なタイトルの割にはまともな会だったわね」

 

ノワールの言う通り、私達パーティーでは珍しくまともに話が進んだ。…まともに話が進むのが珍しいのはちょっとどうかと思うけど…。

 

「いやーこうなるとそろそろこの章も終わりかぁ…」

「相変わらずメタ発言するねネプテューヌ…」

「だってそれがわたしだしさ。…あ、良い事思い付いた!」

「何を思い付いたんです?」

「ノワール、女神である事を隠す方が良いって言ったけど場合によっては明かしても良いでしょ?」

「そりゃまあ明かした方が良い場合があればね」

 

急なネプテューヌの発言に私は首を傾げる。ネプテューヌの言ってる内容からは何処となく真面目な物を感じるけど…まさかネプテューヌが真面目な話を…?

 

「じゃあさじゃあさ、悪代官や越後屋を追い詰めた後に、余の顔を忘れたかーって台詞と一緒にバラすのはいいよね?」

「じゃあわたしは紋所を持って『控えおろー』ってやるです」

「あ、それ良いよこんぱ!でもって『この御方を誰と心得る』ってあいちゃんかイリゼが続けたら完璧だね」

「…二人はこれからも苦労しそうね」

「大丈夫よ、問題無いわ…って言いたいところだけど…」

「正直、こっちの身が持つか不安だよね…」

 

戦闘終了後ならともかく、相手がまだ戦える状態にある時にそれやられるのは勘弁かなぁ…って思う私だった。

 

 

 

 

「ラステイションもこれで見納めかぁ…最初はプラネテューヌとのギャップに驚いたけど慣れた今となってはプラネテューヌとは違う魅力を感じるよね」

「あ、イリゼもこの良さが分かる様になったのね」

「わたしはやっぱりプラネテューヌの方が良いですね、勿論ラステイションが嫌いって訳じゃないですけど」

 

今後の方針が決まった私達はラステイションを出る前に少し散策する事にした。昨日の事件で大きな被害を受けた所もあるけど…早速復旧に取り掛かってる辺りは凄いよね。

 

「他の大陸はどんな感じなのかな…アイエフは知ってるんだっけ?」

「それなりには、ね。残りの二つの大陸は…まあプラネテューヌやラステイションとは違う方向性の国って感じよ」

「そうなんだ…ところでこれってただの散歩なの?」

「ううん、ホテルに置いてきた荷物を取りに行く目的もあるわよ」

「置いてっちゃうと困る物もあるですもんね」

 

そういえばそうだった。私は元々私物が殆ど無かったからあまり気にしてなかったけど、二人はそれなりに荷物あったもんね。

…と、私達が角を曲がった時、見覚えのある少女と遭遇する。

 

「お、お前ら丁度良い所に…」

「シアンさんです。シアンさんはもう工場大丈夫なんですか?」

「あまり芳しくはないかな…結構色々な所が壊されたし」

「そうなんだ…これからはどうするの?」

「普段の仕事をするにも博覧会に向けての武器改良をするにも工場が動かせなきゃ駄目だからな。当分は工場の修繕をしようと思ってる」

 

自分にとっての生命線である工場を破壊された事でシアンは大分参ってるみたいだったけど、心は折れてない様だった。それはきっと、もう街に今回の事件の収束に女神様が尽力したって話が流れてるからだと思う。

 

「となると私達も暫くはシアンから依頼は受けられないわね」

「出来る限り早めに元通りにするから博覧会が近くなったらまた頼むよ。…で、一応アルマッスを返してもらいたいんだが…ネプテューヌとノワールはどうしたんだ?」

「あの二人はどっか出掛けちゃったんだよね…後で返しに行くって事で良い?」

「そっか、ならわたしは戻るとするよ」

 

パッセへと戻るシアンを見送った後泊まっていたホテルへと向かう私達。

…しかし…またネプテューヌとノワールは二人で出かけて今度は何だろう…。

 

 

 

 

「わぁ…良い眺め……」

「でしょ?前にネプテューヌには夜空が綺麗に見える場所教えて貰ったからそのお返しよ」

 

ノワールに連れられたわたしは景色の良い高台に来ていた。ラステイションは観光の地って感じはしないけど…こうやって見ると眺めも悪くないよね。

 

「別にお返し何ていいのに。わたしはあの時ノワールと一緒にプリン食べられただけで満足だよ?」

「そういう所だけは謙虚よね…まあここに連れ出したのはお返しだけが目的じゃないわ」

「そうなの?…あ、まさか…わたしに告白を…?」

「な、なんでそうなるのよ!?前にも言ったけど貴女にそんな感情抱いてないんだからね!?」

 

顔を真っ赤にして怒るノワールは同じ女の子のわたしから見ても可愛かった。うんうん、やっぱりノワールのツンデレ具合は絶妙だよねー。

 

「もう、ノワールは素直じゃないなぁ。わたし達は昨日最終話でのスカル4とアンタレス1並みに息の合ったコンビネーション見せたじゃん」

「あの二人は別にそんな関係じゃないでしょうが…はぁ…ほんとネプテューヌと話してると調子が狂うわ…」

「そう言いつつもちょっと楽しそうに見えるよ?」

「…うっさい……」

 

わたしがノワールをいじるのは勿論ノワールの反応が良いから…ってのもあるけど、それ抜きでもノワールとのお喋りは楽しいからなんだよね。そこら辺ノワールはどうなのかな…。

 

「で、お返し以外の目的って何なの?」

「…ネプテューヌ、前に私とプリン食べた時にした質問覚えてる?」

「えっと…巻きますか?巻きませんか?って奴?」

「…………」

「ごめんなさい嘘です覚えてます」

 

ノワールがハイライトの消えた目をしながら片手剣を手に持ったのを見たわたしは即座に謝る。…ボケって引き際間違えると危ないよね…。

 

「大陸と守護女神戦争(ハード戦争)のどっちを取る、だっけ?」

「覚えてるなら最初からそれ言いなさいよ…今私がもう一度同じ質問をしたら、自分が女神だって分かった今もう一度質問されたら…貴女は、どう答える?」

 

正直わたしはシリアス展開や真面目な話は苦手だけど…流石に真剣な様子のノワールを茶化してまでそういう流れを潰そうだなんて思わない。だからわたしも真剣に…今のわたしの答えを口にする。

 

「…ちょっとだけ、前とは違う答えになるかな」

「え…それって、まさか…」

「ううん、守護女神戦争(ハード戦争)を取るなんて言わないよ?前も今も国…って言うかわたしを必要としてくれる人の方が大事って考えは変わらないし、これから先も同じだよ」

「じゃあ…違う答えって…?」

「前は守護女神戦争(ハード戦争)が駄目になっても良いって思ってたけど今はそんな事思ってないよ。だって…女神としての戦いを捨てちゃったら他の女神の皆と分かり合えるかもしれない機会が減っちゃうもん」

 

結果論かもしれないけど、今わたしとノワールがこうしていられるのも最初に戦ってたのが関係してると思う。熱血主人公になるつもりはないけど、時には戦う事も必要なんじゃないかな。

 

「……ふふっ」

「え?何で笑うのさノワール」

「だって、ちょっと予想外だったけどやっぱりネプテューヌらしい答えだったんだもの」

「そうかなぁ、わたしなりに考えて言ったんだよ?」

「分かってるわよ、でも貴女らしい事には変わりないわ」

 

わたしとしてはちょっと納得いかない返しだったけど…ノワールの満足そうな顔を見たらまあいいかな、って気持ちになった。うん、別にわたしらしいって言われて不愉快だった訳でもないもんね。

 

「…でも、覚えておきなさいネプテューヌ。女神はただの変身出来る人間じゃない、一国の長よ。女神には義務も責任もつきまとう…いくらネプテューヌでもそれ位は分かるでしょ?」

「流石にわたしでもそれ位は、ね。…でも、それを理由に困ってる人を見捨てたり自分の想いを諦めたりはしたくないかな」

「そうね、私も同感よ。…その、ありがとねネプテューヌ…」

 

急にお礼をしてくるノワールにわたしはきょとんとする。わたしお礼される様な事したっけ?

 

「貴女がいなければ私は今も一人でアヴニールに抵抗を…ううん、アヴニールに屈していたかもしれないわ。勿論私を助けてくれたのは貴女だけじゃないけど…きっかけはネプテューヌよ」

「や、やだなぁノワール、ノワールらしくないよそんな台詞…」

「たまには良いじゃない…それに貴女は女神として本当に大事な事を私に思い出させてくれたわ。ネプテューヌには感謝してもしきれない、だから…」

 

ノワールがわたしに近付いてくる。ノワールの言葉と雰囲気に飲まれたわたしは話を逸らしたり動いたりする事が出来ず、どんどん近付いてくるノワールの顔を見ていられなくてきゅっと目を瞑って……

 

 

「…なーんてね、貴女も可愛い顔するじゃない」

 

わたしのおでこに走る痛み。それはまごう事なき…デコピンだった。

 

「へ……?」

「何驚いた顔してるのよ、まさかキスされるとでも思った?」

「え、な…な訳ないじゃん!まっさかぁ、このネプテューヌがそんな罠に引っかかる訳…」

「…ネプテューヌ……」

「ねぷうぅぅぅぅうぅっ!?」

「あははははっ!やっぱり勘違いしてたんじゃない貴女!」

 

わたしの頬に手を添えてきたノワールに思わず飛び退いてしまった。うぅ…ノワールに手玉に取られるなんて…。

 

「止めてよねノワール!普段ツンツンのノワールがそういう事するとギャップ半端ないからね!?」

「はいはい…でも、もしもピンチになったり助けが必要になった時は私を頼って頂戴。たとえ何があろうと、ネプテューヌが戦ってる相手が誰であろうと私は誰よりも速く貴女を助けに行くわ」

「…じゃあ、もしまたノワールとプリン食べたいって言った時は?」

「そしたら…そうね、私お手製のプリンをご馳走してあげるわ」

「そっか…うん、じゃあ期待してるね」

 

わたしは変身…じゃなくて女神化だっけ?…したノワールと共闘した時、ノワールを大事な友達だと思った。その時は確信出来たのはわたしの気持ちだけだったけど…今は違う。ノワールも同じ気持ちなんだよね、きっと。

 

「あ…そろそろ予定の時間なんじゃない?」

「予定?」

「プラネテューヌと大陸が繋がる時間に間に合う様にラステイションを出るんでしょ?このままゆっくりしてたら置いてけぼりになるわよ?」

「あ…そうだった!じゃあ帰ろうノワール!」

「ちょ、急に引っ張るんじゃないわよ!」

 

ノワールの手をとって走り出すわたし。ノワールはちょっと文句を言ってきたけど…わたしが振り返った時は今まで見た中でも一番の笑顔を浮かべていた。

 

「また、一緒にプリン食べようね」

「ええ、約束よ」

 




今回のパロディ解説

・「〜〜人は常に前を向いて歩くべきなのよ!」、碧陽学園の三十二代目会長さん
生徒会の三振 碧陽学園生徒会議事録3での会長&会長の台詞の事。ネプテューヌと会長(桜野くりむ)は何処となくキャラクターが似ている気がするのは私だけでしょうか?

・悪代官、越後屋屋、余の顔を忘れたか、紋所、控えおろー、この御方を誰と心得る
長寿時代劇、水戸黄門シリーズの定番シーンの要素。細かい事を言うとネプテューヌは水戸光圀公ではなく江戸の徳川(将軍)家の立場ですが…まあパロディですしね。

・最終話でのスカル4とアンタレス1
マクロスF(TV版)の主人公早乙女アルトとライバルブレラ・スターン及び彼等のコールサインの事。作者はアルト×ブレラなんて欠片も思ってません、断定します。

・巻きますか?巻きませんか?
ローゼンメイデンシリーズの有名な台詞(と言うより文面?)。もし巻いたネプテューヌと巻かなかったネプテューヌがいたとしたら…どっちも同じでしょうね。


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第十五話 再び新たな大陸へ

ラステイションでの一連の出来事が終わり、私達がプラネテューヌのコンパ宅に戻ってから数日。私達は…

 

「ふかふかのベットとクッション、たくさんのゲーム、そして冷蔵庫の中のこんぱお手製プリン!やっぱりこんぱの部屋は最高落ち着くよね」

「なーに初っ端からダラけきってるのよ」

 

例の如くまったりしていた。RPGの勇者一行ならあるまじきまったり具合だと思うけど…まぁうちはねぷねぷ一行だもんね。

 

「何言ってるのさあいちゃん、わたし達はラステイションで滅茶苦茶働いたんだから少し位ダラけたって良いと思うんだよね」

「帰って来た当初からずっとそれ言ってるじゃない、少しは女神としての自覚を持ったら?」

 

そう、ネプテューヌの正体は女神パープルハート。だから現状ネプテューヌは自身の守護する土地に居る訳だけど…まあご覧の通りである。

 

「分かってないなぁあいちゃんは。女神に戻ったらこんぱの手作りプリン片手にぐーたら出来ないんだよ?だったら、いつぐーたらするのさ?今でしょ!」

「…こんなのがプラネテューヌの女神で良いのかしら…」

「ま、まあ記憶喪失のまま職務に戻るのも無理がある話だしノワールの言ってた事もあるし、ね?」

「それはそうだけど…イリゼも甘いわね」

「甘いって言うか情報不足とは言え私も似た様な立場だからって言うか…」

「ねぷねぷー、牛乳プリン出来たですよー」

「待ってましたー!牛乳プリン♪牛乳プリンー♪」

 

アイエフのお小言はコンパが追加のプリンを持って来た事で中断となった。

まあ、でも…流石にこのままぐーたらし続けるのもどうかとは思うんだよね。ここ周辺はともかくゲイムギョウ界全体では平和とは言えないし…私の事もまだ分かってないし。

 

「…とは言え、貴女の言う通り教会に戻ったらどうなるか分からないのも事実よね…」

「前に話した職員さんみたいな人ばかりなら大丈夫そうだけどね。ネプテューヌの事を可愛いロリっ子とか言ってたし」

「人前でそれ言えるのもそれはそれでどうかと思うけどね…さて、私は…っと」

 

嘆息した後アイエフはどういう訳だか九つもある携帯のうちの一つを取り出して開く。九つもあったらお金かかりそうだなぁとかどんだけ用途毎に分けてるのそれとか突っ込みたいけど…良いタイミングが見つからないんだよね。

 

「あいちゃん何やってるの?一人リバーシ?」

「何よその痛々しいリバーシは…ただ女神様のブログをチェックしていただけよ」

「女神様ってブログやってんの?やっぱノワールも?」

「……!記憶を失う前の私がブログやってなかった!?」

「あー…残念だけど私が知る限りブログをやってるのはリーンボックスの女神、グリーンハート様だけよ」

「……そっか…」

「…ごめんね、力になれなくて」

「あ…い、いや私こそシュンとしちゃってごめん…」

 

自分の記憶や正体に関係しそうな事があるとすぐに飛びついちゃう事と、勝手に期待したくせに期待が外れると落ち込む事…両方私の悪い癖だ。前より状況は進展してるのに…。

 

「…って、反省してる側からまた落ち込んでるじゃん私!それが駄目なんだって!もう、私ってほんと馬鹿!」

『…い、イリゼ(ちゃん)……?』

「あ……ごめん、今のは忘れて…」

 

反省大失敗。皆から可哀想な目で見られてしまった。…うぅ、恥ずかしい……。

 

「イリゼちゃん、お手当必要ですか?」

「いやほんと今のは忘れて…で、何だっけ?グリーンハート様のブログ?」

「ええ、ブログって言うか情報掲示板って感じだけどね」

「何行も改行を挟んだ痛々しい短文ポエムとか一行だけのトゥウィッターでやれ的な内容だったりする?」

「守護女神様がそんな厨二を拗らせた様なブログをやってる訳ないでしょ…」

「へぇー。どれどれ…」

 

ネプテューヌはアイエフの言葉を疑…った訳じゃなくて単純な興味から携帯を覗き込む。そしてそれに続く私。

 

「…だぶりゅーだぶりゅーだぶりゅーどっと…」

「そこ読んでどうするのよ…」

「あはは…私機械とかネットにはあんまり詳しくなくてさ…」

「『最近リーンボックスでもモンスターの出没率が高くなっております。国民の皆様もくれぐれも注意を…』」

 

質素過ぎず華美過ぎない装飾のブログには事務的な…良く言えば真っ当な文が載っていた。確かに国の指導者らしい文面だね。

 

「ほらね?グリーンハート様はねぷ子みたいなちゃらんぽらんとは違うのよ」

「うーん…あ、ちょっと待って!ここに何か隠しリンクがあるよ」

「何馬鹿な事言ってるのよ。そんなものある訳……あった」

「…コンパ、隠しリンクって皆設定するの?」

「わたしもあんまり詳しく無いですけど、設定する人はそんなに多くないと思うです」

 

と、いう事はつまりグリーンハート様は何かしらの意図があって通常のページとは別のページを作った…って訳だよね。…ちょっと雲行きが怪しくなってきたなぁ。

そして、こういう時のネプテューヌはとにかく行動が早い。

 

「早速入ってみようよ!えいっ♪」

「あ、ちょっとねぷ子!?」

 

ネプテューヌはアイエフの制止も聞かず…というかアイエフが止める前にリンクを押して隠しページを開いてしまう。そこには……

 

「『わたくしの隠しページにようこそ。ここはわたくしのプライベートな日記を書いていくページですわ』だって」

「ぐ、グリーンハート様のプライベート日記ですって…!?だ、駄目よねぷ子!女神様のプライベートを覗き見るなんていけないわ!」

「覗きも何もネットに上げてる時点でオープンな気が…っていうかアイエフ…?」

 

普段クールで私達パーティーの頼れるお姉さんポジションであるアイエフにはあるまじき動揺に私達は違和感を感じる。どうしたのかな…?

 

「そう言いつつもあいちゃん自分一人で見る気なんじゃないの?」

「わ、私がグリーンハート様のプライベートを独り占めする様な真似するとでも思ってるの!?」

「…ネプテューヌ、この露骨な反応どう思う…?」

「どう見ても怪しいよね…」

「そ、そそそんな訳無いわよ!」

『…………』

 

ここまで動揺されると逆に反応に困る。かと言って何も無かった事にするのも無理っぽいから私がどうしたものかと考えているとネプテューヌは読み上げ始めてしまった。

 

「『今週は新作のゲームを6本買いましたわ。あぁ、どんどん積みゲーが増えていきますわ…』」

「…え?」

「『待ちに待った【歴女に送る鬼畜眼鏡ツンデレセット】の配送日ですわ、早く届かないかしら…』」

「れ、歴女に送る鬼畜眼鏡ツンデレセット…?」

「これって確か乙メイトっていう乙女ゲーブランドから発売されている超高いセットだよね?」

 

その後もネプテューヌが読み上げていくけど、待てど暮らせど出てくるのはゲームやラノベと言ったサブカルチャー系のネタばかり。もう既に雲行きが怪しいどころか土砂降りレベルだった。

 

「わ、私の中のグリーンハート様の…イメージが……」

「…あいちゃんもしかして、理想と現実のギャップにやられちゃった…?」

「…そ、そうよ。これはきっと庶民アピールの為に教会の人が作ったページよ」

「それは無理があるんじゃ…そもそもこれ庶民てか重度のインドア派って感じだし…」

「くっ…わ、私のグリーンハート様がこんなにゲーマーな訳がないわ!」

 

あくまでアピール用ページだと豪語するアイエフと、止せばいいのに対抗してゲーマー認定するネプテューヌ。二人共引かないもんだから会話はヒートアップして…

 

「なら実際に行って確かめてみようよ!」

「望むところよ!さぁ早速行きましょ!」

「何だか凄い理由でリーンボックスに行く事になっちゃったですぅ…」

 

コンパの言う通り、ほんとに凄い理由で私達はリーンボックスに行く事となった…。

 

 

 

生い茂る草木とどこか気品の様なものを感じさせる建造物。風景と雰囲気を一度に表すとすれば正しく『雄大なる緑』。

そんな大陸、リーンボックスに足を踏み入れ教会へと着いた私達は…

 

「えーー!?会えないの!?」

 

残念ながらグリーンハート様に面会出来ずにいた。…言い争いといいこの流れといい、ラステイションでの出来事のデジャヴだなぁ…。

 

「申し訳ないの、お嬢さん。既に本日の面会時間は終わってしまったのだ」

「でもいるんでしょ?ここにいるあいちゃんが女神様が居るかどうかブログの投稿時間で調べてたんだもん!」

「ちょ、ねぷ子!?何もこんな所で言わなくてもいいでしょ!?い、いいから今日は諦めましょ!」

「そちらのお嬢さんはそこまで調べて下さっていたのか。グリーンハート様に仕える身としては嬉しい限りですな」

 

教会に入った私達を迎えてくれたのは職員のまとめ役(っぽく見える。私談)のイヴォワールさん。全く取り合ってくれなかったラステイションの職員さんよりよっぽど優しいけど、だからと言って会える訳じゃないっぽい。

 

「今日中は無理なんですか?少し位なら待ちますけど…」

「規則は規則なのです。それに既にグリーンハート様は次の仕事が入っていてな…」

「なら仕方ないですね」

「ほらね、急ぐ事じゃないし今日は観光でもして過ごしましょ」

「だね。ここは結構観光名所もあるみたいだし」

 

プラネテューヌやラステイションはそれぞれの方向性で『人工物>自然』って感じだったけど、リーンボックスは人工物と自然が上手い具合に共存していて、見て回るのも楽しそうなんだよね。

と、そこでネプテューヌがある質問を投げかける。

 

「あ、そうだイボ痔さん」

「い、イボ痔!?誰がイボ痔じゃ!」

「鍵の欠片ってアイテム知らない?こんな形をしてるんだけど…」

「ワシは切痔ではあってもイボ痔ではないわ!」

「切痔なんですか!?まさかのカミングアウト!」

「何か知っていればイボ爺さんも教えて欲しいです」

「話を聞けぃ!ていうか今度はイボ爺さん!?」

 

ネプテューヌとコンパというマイペースさん二人に翻弄され、謎のカミングアウトまでしてしまうイヴォワールさん。嗚呼、不憫だ…。

 

「この二人にいちいち突っ込んでいたらキリなんてないわよ…」

「そ、その様じゃな…」

「で、イボ何とかさんは鍵の欠片知ってるの?」

「イヴォワールさんね、失礼だから覚えるかあだ名付けるかしようね」

「いや、生まれてこの方七十年。その様な物は知らぬな…じゃが、グリーンハート様なら知っておるかもしれん。何せ何百年も生きていらっしゃるからな」

「何百年も!?って事はグリーンハート様ってBBむーむー…」

「おっとねぷ子そこまでよ。それ以上は駄目」

 

ネプテューヌの言葉を間一髪で止めるアイエフ。女の子(会ってないから子なのかどうかは謎)の年齢を言ったりご高齢扱いするのは異性は勿論同性でも禁句だよね。

 

「あいちゃん、イリゼちゃん、ねぷねぷが変な事言う前にさっさと帰った方が良いかもしれないです」

「その通りだね。ネプテューヌはデリカシーとか無いし…」

「それでは、また明日来るです」

「あぁ、待っておるよ」

 

ネプテューヌを半ば連行する形で出口へ向かう私達。とんとん拍子に…とはいかないものの、どうしようもなかったラステイションよりは大分マシな流れだね。

と思いきや、最後の最後でアイエフが知らない人にぶつかる。

 

「あ、ごめんなさい。怪我はありませんでしたか?」

「いえ、こちらこそ不注意を…」

「アイエフもそちらの方も大丈夫?」

「えぇ、私は大丈夫よ」

「こちらも大丈夫です、では…」

「皆ー!早く観光行こー!」

 

フードを被った見知らぬ女性は幸いにも怪我もしていなかった様ですぐに去ってしまう。そして、私達は先程の会話通り観光に行くのだった。

 

 

 

 

「…あれは…」

「おや、来客の方ですかな?今日は何様なご用件で?」

「はい。私はルウィーの宣教師、コンペルサシオンと申します」

「ほぅ…。それで、ルウィーの宣教師が教会に何用かな?」

 

アイエフとぶつかった女性、コンペルサシオンは職員イヴォワールを話を始める。そこに明るい雰囲気は無い。

 

「そう警戒なさらないで下さい。この度この教会に立ち寄らせて頂いたのはホワイトハート様の布教の為ではありません」

「では、宣教師が布教以外で何用かな?」

「この度はホワイトハート様の命により、ある情報をお持ち致しました」

「…他国の女神が情報だと?」

「はい、魔王崇拝についてです」

「…魔王崇拝、だと?」

 

魔王崇拝。それについて語り出すコンペルサシオンとそれを疑りながらも聞くイヴォワール。

…この二人の会話が、後の私達に大きな障害となる事をまだ誰も知らなかった…。

 

 

 

 

「…イリゼ、どこ見てんの?」

「あ、ごめんちょっと別サイドの地の文の最後に私の役目があったからそっちに…」

「そ、そう…イリゼはたまにわたしよりメタい発言するよね…」

「それより道調べよ。誰か知ってるかしら…」

 

私達は観光の為に隣町へ…行こうとしたところまではよかったけど、モンスターの影響で馬車が出せず、出てる馬車ももう時間切れらしかった。だからダンジョン経由で行く為に道を教えてくれる人を探してる真っ最中なんだよね。

 

「まあここはわたしに任せてよ。ねぇねぇ、ちょっと良いかな?」

「わたし?」

「うん。わたし達隣町に行きたいんだけど、行き方を教えてくれないかな?」

 

ネプテューヌには基本躊躇いってものがない。それが悪い方に機能する事も多いけど…こんな時はむしろ頼りになる。

 

「それなら…あ、この地図わたしには必要ないからあげるよ」

「良いの?わーい!ありがとー!」

「…………」

「…どうしま…どうかしたの?」

「じー……」

「そんなまじまじと見て…まさかわたしの顔に何か付いてる?」

「…もしかして、ネプテューヌさん?」

 

灰色の髪で妙に服がボロボロの少女はネプテューヌの顔を暫く見つめた後、ネプテューヌの名前を口にする。…つまり、知り合い?

 

「そうだけど…」

「やっぱり!うわぁ、会えて嬉しいよ!」

「あれ…?もしかしてわたしを知ってる人!?」

「うん、って言ってもわたしが知ってるのは別次元のネプテューヌさんなんだけどね」

「別次元…あ、MAGES.が言ってたのと同じ次元かな?」

「うん。あ、そう言えばまだ名前言ってなかったね。わたしは鉄拳、宜しくね」

「鉄拳…あ、私はイリゼです、こちらこそ宜しく」

「わたしも宜しくね」

 

鉄拳は奇抜な服装とは裏腹にほんわかした感じの人だった。人は見かけによらないとはよく言ったものだよ。

 

「…あ、ネプテューヌ、あんま話してるとコンパとアイエフ待たせる事にならない?」

「そうだった…じゃあわたし達そろそろ行くね、地図ありがと鉄拳ちゃん!」

「急に来て急に去ってごめんね」

「大丈夫だよ。またねネプテューヌさん、イリゼさん」

 

そうして二人の元へ急ぐ私とネプテューヌ。別次元、と言うのは相変わらず謎だけど…良い人で良かったな。

 

「……あ!」

「ど、どうしたのネプテューヌ?」

「これなんか終わり方が第九話と同じパターンっぽいよ!?もしかしてマンネリ化の前兆!?」

「そういう事気にしなくて良いから!大丈夫だから!…多分」

 

…メタ発言するのは私だけでもネプテューヌだけでも無く、私達両方でした……。




今回のパロディ解説

・「〜〜いつぐーたらするのさ?今でしょ!」
今や有名塾講師となった林修先生の代名詞と言える台詞。使い方としては合ってますが…内容的には林修先生が使った時とは全く逆のパターンですね。

・私ってほんと馬鹿
魔法少女まどか☆マギカの登場人物、美樹さやかの代名詞の一つ(本来は『あたしって、ほんとバカ』)。安心して下さい、イリゼは魔女化などしませんよ。

・トゥウィッター
大手SNSの一つ、Twitterの事。そもそもパロディと呼べるかは微妙ですし、これを読んでいる方々にこの解説は不要である可能性が高いですね。

・安心して下さい、イリゼは魔女化などしませんよ
芸能人、とにかく明るい安村さんのギャグの一つ。…えー、はい。まさか本編ではなく後書きでパロディやって更に解説するなんて私自身でも軽くびっくりです。


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第十六話 迷いなき信仰と悪意

宗教勧誘と訪問販売は本質的には同じだと思う。一個人が持っていける範囲での情報や物を使って、手八丁口八丁に対象者に勧めるという点において。

だからその勧誘者、販売者には高い技量が求められる。だって話を持ちかけられた側は別に宗教や商品に興味があって自ら訪ねてきた訳じゃないからね。

……と、何故私が開幕早々妙な独白をしているかと言うと…

 

「魔王様印のマグカップに魔王様シルエットの脂取り紙、魔王ユニミテストレカに魔王様シチュディスク。どれも非売品のレアグッズだよ?」

「ま、またえらく幅広い商品展開をしてるんですね…」

「これだけじゃないよ?今公式ショップではスタンプラリーも開催しててうんたらかんたら……」

『…………』

 

ダンジョンであった魔王信仰者のとにかく長い勧誘を受けていたからだった。いや、もう体感的には数十分は経ってるんじゃないかな…。

 

「……と、言う訳でどうかな?魅力的でしょ?」

『すぅ…くぅ…』

「寝てる!?」

「なーんてね。でもお兄さんの説明長過ぎてほんとに眠くなるレベルだったよ?」

「それは語り尽くせない程の魅力があるって事さ」

 

そう言う青年の顔は怪しい新興宗教の宣教師のそれではなく、毎日が充実してる人のものだった。でも、だからと言って『あ、これ良いなぁ』とは流石に思えない。

 

「そうかなぁ…そもそも何者なのさ?えっと、魔王…ユニ……?」

「ネプテューヌ、そこで切ると今度ノワールに会った時に殴られるよ?」

「そ、そうだね…えと、ユミニテス?」

「ユミニテスじゃなくてユニミテスだよ」

「バルサミコスさん、です?」

「バルサミコス!?全然合ってないよ!君わざとじゃないのそれ!?」

 

それは早計だよ青年さん、コンパの天然さを舐めちゃいけない。…なーんて思う位には私達に…魔王ユニミテス?…教は響いていなかった。

 

「取り敢えず話進めようよ…その魔王ユ○○テスさんは何者なんですか?」

「え、君それどうやって発音してるの…こほん、ユニミテス様は世界を笑いと感動に包んでくれる魔王様さ」

「映画の宣伝みたいな魔王ね…残念だけど入信する気は無いわ。他を当たって頂戴」

「まぁまぁそう言わずに、ほら缶バッチも付けるよ?」

「だから要らないっての!」

「ただより高いものは無いっておじいちゃんも言っていたです。だから返すです」

「僕からの気持ちだから受け取ってよ。それじゃ、僕は次の勧誘があるからこれで!」

 

青年は半ば押し付ける様な形で私達にグッズセットを渡した後すぐにダンジョンの奥の方へ行ってしまった。そっちに人いるかな…そして大丈夫かな…?

 

「…どうするのよ、これ」

「要らないとはいえここに捨てていく訳にはいかないし…」

「お持ち帰り決定、ですね…」

 

と、私達は若干げんなりしてるのに対し、ネプテューヌはどういう訳だかグッズセットをごそごそやっていた。

 

「おぉー!ユミニテスには全然興味ないけどグッズは結構良い感じだよ?」

「ユニミテスね…まあ、八百万の神とか言うし埃被らせとくよりは使った方が良いかもね」

「でしょ?特にこのディスクなんかプラネテューヌやラステイションで見つけたのと似た感じの……え?」

『え?』

「…光りだしたんだけど、どうしよう…」

『似た感じって言うかもろ同じ物じゃん!』

 

例のディスクと同じ輝きを見せる魔王様シチュディスク。それと同時に私達の袋の中のディスクも輝きを見せる。まあ、簡単に言えば…バトルパートである。

 

「騙したわね…!」

「ねぷねぷ、イリゼちゃん、変身です!」

「勿論!」

「あいあいさー!……うーん…」

「…ねぷねぷ?」

 

私とネプテューヌは威勢良く女神化を…と思いきや、何故かネプテューヌは腕を組んで考え込み始める。

 

「いやほら、ノワールは変身する時『アクセス!』って言ってたでしょ?やっぱ掛け声って良いなーと思って…」

「え…それ今考える事…?」

「今考える事だよ!フェアライズとかトランスとか良い感じじゃない?」

「うん、それ両方パートナーが必要な奴じゃん」

「そっかぁ…じゃあ何が良いかなぁ…」

「別に単語じゃなくても良いんじゃない?文になっててもそれはそれで…」

「良いから早く変身しなさいよ!」

 

自分にも関わる事なのでつい会議に参加してたらアイエフに怒られてしまった。流石に二人に戦闘を任せる訳にはいかないので私とネプテューヌは急いで決めて言い放つ。

 

「よーし、いくよイリゼ!」

「うん、せーのっ!」

 

「ねっぷねぷにしてやんよー!」

「パーティーメンバーを震撼させた力を今、ここに!」

 

 

 

 

「これで良かったのでしょうか…?」

「ええ、成功です。きっとユニミテス様も喜んでおられるでしょう」

「で、では約束通りこのスタンプカードにスタンプを!」

「はい、これで宜しいですね?」

 

ダンジョン奥地の一角にて会話をする二つの人影。一方はスタンプが埋まった事を子供の様に喜ぶ青年。もう一方はその青年と、青年から聞いた結果を前にどこか含みのある笑みを浮かべる女性。

 

「これで魔王様抱き枕が手に入る!…ところでコンペルサシオン様はこれからどちらへ?」

「私は再びリーンボックスへと向かいます」

 

特に深い意味は無かったのか、それを聞いた後その場を去る青年。その後ろ姿を見ながら女性は満足そうに呟く。

 

「…貴方のおかげでネプテューヌ達がモンスターを呼び出す証拠を作れたのですからね」

 

抱き枕を貰える権利を得た事で浮かれている青年は、自身が四人の少女を陥れる悪事に加担していた事を知る由も無い…。

 

 

 

 

「今度こそ面会出来ると良いんだけど…」

 

私達はダンジョンを越えた先の街で優雅なティータイム…という訳にはいかず、急いで元の街へ戻ってきた。流石にさっきの出来事をスルーする訳にはいかないし、更に…

 

「あいちゃん、さっきの話は本当です?」

「ええ、ユニミテスの使いを名乗る魔王信者が増えてるらしいのよ…でも、そんな魔王聞いた事ないわ」

「ていうかエネミーディスク配る宗教が流行る訳ないよねー」

 

とこの様にどんどんキナ臭くなって来たからである。そして数分後、

 

「やっほーイボ何とかさーん、また来たよー」

「またお邪魔しますです」

「おやおや、貴女方は確か先程の…」

 

私達は目的地である教会へと入った。ラステイションと違ってまともに機能してるならここに報告するのが最善だもんね。

 

「急用なんだけど良いかしら?」

「と、申しますと?」

「さっき魔王様信仰の人達に勧誘されて、モンスターが出てくるディスクを貰ったです」

「むむっ!?モンスターが出てくるディスクとな!?その話、詳しく聞かせてくれんか?」

「え、えぇ…ではまず経緯ですけど……」

 

予想外に食いついてくるイヴォワールさん。ただこれはむしろありがたい反応なので私達は早速説明を始める。そしてそれをイヴォワールさんは疑う事無く聞いてくれた。

 

「…とまあこんな感じよ。だからすぐにグリーンハート様に伝えて欲しいの」

「…確かに、ラステイションの様になる事だけは避けねばならぬな」

『…ラステイション(です?)』

「早速グリーンハート様に伝えさせてもらおう」

 

着々と話が進む中、私はコンパと顔を見合わせる。理由は簡単、私達の説明の中でラステイションなんて単語は一度も出なかったからだ。

しかしそれを訊く前に話は進んでしまう。

 

「お主達、良くぞこの事を伝えてくれた。褒美に今夜開催しれるパーティーに特別に招待しよう」

「おおっ!イボっち太っ腹!やっぱ美味しいものたくさん出るの?後々女神様も来る?」

「イボっち!?…こほん、保証は出来ませんがもしかしたら出席なさるかもしれませんな」

「本当!?」

「会えると良いですね、あいちゃん」

 

パーティーへの出席許可、女神様へ会える可能性の浮上。もうびっくりする位都合の良い事が重なって皆は上機嫌になるけど…私は反対にある人物を思い出す。

----ガナッシュさん。優しく丁寧な方だと思いきや、私達を嵌めた主犯格の人物。…もし、二度も同じ様な事が起きるとしたら?

 

「…リゼ…イリゼ、何ぼーっとしてるの?」

「へ?あ…ごめん、ちょっと考え事をね…」

「ふぅん…パーティーの時間までに宿を取りに行くんだってさ、ぼーっとしてないで着いてきてよ?」

「うん…あれ?アイエフは?」

 

ネプテューヌとコンパは出入り口に足を向けているのに対してアイエフは少し不思議そうな顔をしながら留まっている。…何故に?

 

「あいちゃんはイボ爺さんに話があるって言われたんです」

「アイエフ一人に?」

「えぇ、どういう訳だか私一人によ」

「そう…じゃ、先に行ってるね」

 

一人だけというのに一抹の不安は感じるけど…まあ、アイエフなら大丈夫だよね。

そう思った私は二人の後を着いて行き、宿を探しに行くのだった。

 

 

 

 

「…で、何よ話したい事って?」

 

ねぷ子達が教会を出たのを確認してから私はイヴォワールに問いかける。それに対しイヴォワールは今までよりも厳しい顔をしながら口を開く。

 

「その前に一つ。貴女はグリーンハート様を信仰しているものの、この国の者ではない…更に言えば、どの国にも所属していない根無し草である。違いますか?」

「…調べたのね」

「失礼ながら調べさせて頂きました」

 

国の主要機関である教会の力を持ってすれば私の情報を調べる事は困難じゃない。問題は、何故私の情報を調べたか…。そう思案を巡らせる私の頭に一つの噂が浮かぶ。

 

「…リーンボックス教会の長は自国民以外は他国の信者を一切認めないと聞くわ、それが貴方だったのね…私を異端者として始末する気?」

「本来ならばそうしていただろう。だが、今はこの奇妙な巡り合わせに感謝しましょう」

「…どういう意味?」

「貴女の連れにいる少女…ネプテューヌを始末して貰いたいのです」

「……っ!?」

 

イヴォワールの口から出た言葉は私の予想を大いに越えていた。ねぷ子を始末?…冗談じゃない。

 

「意味分かんないわよ!どうしてリーンボックスの教会がねぷ子を始末して欲しいなんて言うのよ!」

「あの者はグリーンハート様だけでなく、ゲイムギョウ界全体に災いをもたらす者。遅かれ早かれグリーンハート様が制裁を下すだろうが、私は女神様が御手を汚す事は出来る限りして欲しくない」

「…だから代わりに始末しろって言うの?」

「見事、彼女を亡き者に出来たなら貴女をリーンボックスの正式な一員として認めよう」

「…私が、リーンボックスに…?」

 

自分で選んだ生き方とは言え、自国が無いのは正直寂しい。そして、憧れのグリーンハート様の信仰者として認められると言うのは願っても無いチャンス。魅力を感じないと言えば嘘になる。

……でも、

 

「…だからって、ねぷ子を殺すなんて出来ないわ…!」

「なら、尚の事この毒薬を受け取るのです。この毒薬は邪なる者にのみ効果を発揮し、清き者には無害とされているのです」

「な、何よその妙に都合の良い毒薬は…」

「貴女があの者を清き者と信じるのであれば、堂々と飲ませれば良いだけの話です」

 

誰にでも効果のある毒薬でありながら、特定の者にのみ効果があると宣伝する事で対象を陥れる。…まるで魔女狩りみたいね、リーンボックスの雰囲気的には微妙に合うかもしれないけど。

 

「…もし、断ったら?」

「例え国民に不安を与えてしまおうが、邪なる者の疑いがある者は軍隊を使ってでも排除するだけじゃ」

 

…それはつまり、私に選択肢など無い、という事だった…。

 

 

 

 

「…わたくしと、お友達になって下さいな」

 

一見すれば、それは単なる仲良くなった相手からの言葉。それを言うのも返答するのも多少の気恥ずかしさこそあれど、決して特別でも何でも無い言葉。

…でも、もしそれが普通の相手じゃなかったなら?

 

「お、おおお友達!?わわわ私が女神様とですか!?」

 

美しくも愛らしさのある表情、女神の名に恥じぬ豊満なスタイル、聴く者を虜とする声…私の目の前にいるのは、紛れもなく女神グリーンハート様だった。

 

「…やはり、女神とそういった近しい関係になるのは抵抗があるのですね」

「いえいえいえいえ!むしろ光栄です!」

「では、今からわたくし達はお友達ですわ。宜しくね、あいちゃん」

「あ、あい…あいちゃん……!?」

 

憧れのグリーンハート様に愛称で呼ばれて、私の頭は沸騰しそうになる。

きっかけはたまたま間違えてグリーンハート様の部屋に入ってしまった事。普通ならすぐに出て終わりだけど…偶然に偶然が重なった結果…今、私はグリーンハート様とお友達となった……ちょっとマジで信じられないわ。

 

「お友達なのですから良いではないですか。なのであいちゃんもわたくしを『ベール』と呼んで下さいな」

「ベール…それがグリーンハート様の本名なんですね」

「えぇ。あ、でも親しみを込めてべるべるでもべるちゃんでも好きな様に呼んでも構いませんのよ?」

「あいちゃん…べるべる…はぅぅ……」

「あ、あいちゃん!?」

 

グリーンハート様とお友達になれて、更に愛称で呼び合う事を想像した私は緊張と興奮と幸福感に包まれ気絶してしまうのだった…。

 

 

 

 

「ふふっ、可愛かったですわあいちゃん…」

 

あれから数時間後。目を覚ましたあいちゃんとわたくしは色んなお話をし、最後にはメアド交換も行いましたわ…もうこれは紛れもなくお友達ですわね!

 

「…今より平和な時にあいちゃんと出会えていればもっとたくさんお話が出来たりゲームをやれたりしましたのに……いえ、むしろこれは…」

 

グリーンハートことわたくしベールは現状かなり大きな問題を抱えていますわ。それを人に話す訳にはいかず、これまでは一人で解決するしかないと思っていましたが…

 

「…あいちゃん。貴女なら、もしかして……」

 

もしかしたらあいちゃんを危険に合わせてしまうかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。それでも、わたくしは…彼女に、勝手なお願いをしてみようと決める。

 

「…わたくしに見せてくれたあの笑顔…信じてみますわ」

 




今回のパロディ解説

・バルサミコス
果実種の一つである『バルサミコ酢』の事。確かにユニミテスは初耳時には覚え辛いものですが…どれだけ天然ならばそれをバルサミコスと間違えるのでしょうか。

・フェアライズ
FFFことフェアリーフェンサーエフの所謂変身時の台詞。これはフェンサー、パートナー妖聖、フューリーの全てが揃わないと無理なので当然ネプテューヌは出来ません。

・トランス
ラクエン・ロジックでの所謂変身時の台詞。こちらも盟約を結んだ女神か人がいなければ無理です。…女神?…コンパかアイエフが盟約者になればいける可能性が…?

・ねっぷねぷにしてやんよ
ボーカロイド・初音ミクの『みっくみくにしてあげる』の変化バージョン。台詞としては可愛いものではありますが…ねっぷねぷとは一体…?

・パーティーメンバーを震撼させた力を今、ここに!
マクロスF最終話でのルカ・アンジェロー二の台詞。別に三機の無人機があり得ない機動でモンスター殲滅なんてしてないので安心して下さい。


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第十七話 謀略を覆す一筋の希望

「遅いねーあいちゃん」

 

適当な宿を取ってから数十分後、私達は三人で雑談をしながらアイエフを待っていた。

 

「寄り道ですかね?」

「案外グリーンハート様に会いたくてこっそり忍び込んでたりして…」

「…………」

 

取り敢えずアイエフの事だから迷子だとか変な人に絡まれてるとかは無いと思うからその心配は無い。…だから、そこは気になる所じゃない、そこは…。

 

「…イリゼ、あーん」

「へ?あーん……ぶふぅっ!?」

 

思考の迷宮に入りそうになっていた私の口元へ不意に運び込まれる何か。反射的にそれを口に入れた私は…口の中を襲う突然の辛味に目を白黒させる。

 

「辛ぁ!?な、何これ辛いんだけど!?」

「やっぱり?見るからに辛そうだもんねぇ」

「スラまんベスは辛かったんですね」

「私実験台扱い!?」

 

周りにこの二人しかいない場で普通に長考出来ると思った私が軽率だった。あぅぅ…舌がヒリヒリするよ……。

 

「それでイリゼは何考えてたのさ?」

「…考え事してたの分かったの?」

「一人静かにしてたらそう思うです」

「そういう事ね…どうもトントン拍子で話が進み過ぎてると思わない?」

 

教会に魔王信仰の事を話してからの展開はラステイションの時とは対称的に難なく進み過ぎてる気がする。勿論ラステイションが普通って訳ではないと思うけど…それにしても話が上手くいき過ぎるのは逆に怖い。

 

「うーん…そうかな?怪しい宗教の事教会に教えて、そしたらちゃんと聞いてくれて、ご褒美を用意してくれたってそんな変かな?」

「だって私達はイヴォワールさんと会ったばかりで、しかも話の内容は実際見た人じゃなきゃそう簡単には信じられないものなんだよ?なのにすんなり聞いてくれたししかもご褒美がパーティー招待なんて…」

「教会の人なんだから人を信じるようにしよう!って考えてるんじゃない?」

「まあ確かに疑い深い職員さんよりはあり得そうだけど…」

 

私達の相手をしてくれたイヴォワールさんは『優しいおじいさん』と言う感じで人を騙す様な人間には見えなかった。…けど、ガナッシュさんの前例もあるし…。

 

「えっと…イリゼちゃん、イボ爺さんはわたし達を騙してどうする気だと思うです?」

「……え?」

「あれ?わたし何か変な事言ったですか?」

「い、いやそんな事は無いけど…そうだよね、どうにかする気がなきゃ騙さないもんね…」

 

私は展開ばかりに意識が行っていて、予想通りだった場合の動機については一切考えてなかった。有り体に言ってしまえば、私は騙す事による利益があるのかどうか、あるとすればそれは何なのかを失念していた。

 

「…考え過ぎ、って事かなぁ…」

「そうなんじゃない?だって騙される理由無いじゃん」

「まあね…けど何かあるかもだし油断はしないでよ?」

『はーい』

「ただいまー」

 

二人が揃って返事をすると同時に入り口付近から聞こえてくる声。アイエフが帰って来て(って言ってもここはホテルだけど)私達パーティーは合流を果たしたのだった。

 

 

 

 

盛大に並べられた豪勢な料理。気品と高貴さを感じられる会場。その会場に物怖じせずそれぞれの時間を楽しむ招待客。リーンボックス教会の一角は、文字通り立食パーティーの場となっていた。

 

「美味しそうな料理がいっぱいですぅ」

「食べるよーピンクのあくま位食べちゃうよー!」

「あれは最早食べると言うか何でも飲み込むってレベルだよね…?」

「おやおや皆さん、楽しんでいますかな?」

 

私達の姿を見つけ、声をかけてくるイヴォワールさん。彼の表情は…やはり、人を騙す様な輩のそれには見えなかった。

 

「うん、あ…せっかくだからお勧めのお料理教えてくれないかな?こんなに多いと目移りしちゃってさー」

「はっはっは。でしたらこの『山越シェフ特製・トリュフとフォアグラのキャビア添え』はどうじゃ?」

『うわ、凄っ…!』

 

そう言ってイヴォワールさんが紹介してくれた料理は…何というか、凄かった。ほんとに凄い感じだった。

…逆に説明し辛い程凄かっただけであって私の語彙が貧相だとか食レポ下手だとかじゃないんだからね!?

 

「世界三大珍味を惜しげも無く使ったリーンボックス限定の超高級料理じゃ」

「流石リーンボックス!まさに高級食材の三位一体だね!」

「一体どうやって作ってるんです?」

「新鮮なトリュフとフォアグラの上に世界的に有名な山越シェフがキャビアを乗せ、更にもこみちシェフがオリーブオイルをかけた、化学調味料0の素材の味を活かした料理じゃ」

「…無駄に贅沢な料理ね…てか味付けがオリーブオイルだけって…」

「しかもよくよく考えたら名シェフ二人は実質キャビア上に乗せてオリーブオイルかけただけって言うね…」

 

ほんとに凄いのは事実っぽいんだけど…どうも調理工程に突っ込みを入れたくなる料理だった。

そうして私とアイエフが『何ていうか、ねぇ…』みたいなやり取りをしてる間にいち早くネプテューヌがお皿に載せる。

 

「じゃあ、早速この大きいのを頂きまーす」

「あ、じゃあ私も食べ--------」

「……ッ!ねぷ子、食べちゃ駄目っ!」

『……!?』

 

突然血相を変えて叫ぶアイエフに私とコンパはビクッとなる。……が、当のネプテューヌは余程料理に意識が行っていたのか口に入れてしまう。

 

「もぐもぐ…ごくん…おぉー!世界三大珍味とオリーブオイルの何とも言えないハーモニー!」

「…あ、あれ?大丈夫なの…?」

「大丈夫、って…?」

 

ネプテューヌの言葉に目を丸くするアイエフ。少なくともそれは狙っていた料理を取られた人の反応なんかじゃない。

 

「あ、いや…な、何でもないわ。気にしないで」

「なになに?あいちゃんも食べたいならはいどう--------」

『ネプテューヌ(ねぷねぷ・ねぷ子)!?』

 

てから滑り落ちるフォーク、落下し割れるお皿。

----そして、床へ倒れ込むネプテューヌ。それはどう見ても、ドッキリだとか躓いただけの様には…見えない。

 

「……っ…ぅ…」

「ねぷねぷ!急にどうしたです!?ねぷねぷ!?」

「…イボ何とか!貴方ね…ねぷ子に毒を盛ったのは!」

「毒……!?」

 

迂闊だった。動機が無いなら騙す訳がない…それは確かにその通り。…最も、それは本当に動機が無い場合でしかない。そんな単純な事を私は失念していた。

その事に後悔しながら顔を上げた私の先には…冷酷な表情を私達に向けるイヴォワールさんの姿。

 

「…これで彼女が邪の者と証明されましたな」

「邪の者って…あんなの誰が飲んでも猛毒に決まってるじゃない!」

「…待ってアイエフ、アイエフはこの件について何か知ってるの…?」

「……っ…それは…」

「者共、今すぐにこの邪の者四名を捕まえるのだ!此奴等はグリーンハート様に仇なすユニミテスの使いじゃ!」

『……ッ!?』

 

次々と会場になだれ込んできたリーンボックスの教会職員が私達を取り囲む。当然ながら、かごめかごめを始めようとかいう雰囲気など無い。

 

「ユニミテスの使い…!?一体何を…!」

「黙って我々に投降しろ!」

「い、痛いです!離して下さいです!」

「ちょ、痛いってば!お願い離してっ!」

「そのまま連行せよ。なぁに、お主達には暫く牢に入って--------」

「や、止め……止めろって言ってるで…しょうがッ!」

 

こんな一方的な容疑をかけられで黙っていられる私じゃない。女神化と同時に私を捕まえようとする職員を振り払い、同時にネプテューヌ達を掴む職員を蹴り飛ばす。

 

「な……ッ!?その姿は…!?」

「下がって頂けますか?そうで無ければこの場で両断するだけです」

 

私の姿に動揺し、数歩下がる職員達。そんな彼等に対して私は長剣を構える。

 

「…話は聞いていたとは言え…実際に見ると驚きを隠せないものですな……姿ばかりグリーンハート様に似ていて忌々しい…」

「…どういうつもりなのか説明して貰えますか?」

「教会が国、そしてゲイムギョウ界に仇なす者を排除しようとする事に説明が必要ですかな?」

「…ハナからその考えで呼んだって訳ですか…退いて下さい」

 

きちんとした説明を聞く事、誤解を解く事。それが穏便且つ早期の解決に繋がる事は勿論分かってる。でも、相手がまず話し合いをする気がなく、こちら側に余裕がある訳でも無いとなればそんな事は言っていられない。

 

「それは出来ぬ相談じゃ」

「…貴方達が私に勝てるとでも?」

「そちらこそ、この場を『全員で』切り抜けられるとでも?」

「……っ!」

 

イヴォワールさんが手を挙げると同時に各々武器を取り出す職員達。勿論普通の人が相手なら武器のあっても無くても負ける事はまず無い。…包囲されている状態で、意識を失ったネプテューヌと一般人よりは強くても武器持ちの複数人を同時に相手出来る程じゃないコンパとアイエフを守らなきゃいけない状態で無ければ。

 

「さて、どうしますかな?」

「イリゼ…」

「イリゼちゃん…」

「…………」

 

イヴォワールさんを睨み付けた後…長剣を構える腕を下ろし、女神化を解く私。それを見た職員さん達はすぐさま私を取り押さえにかかる。

 

「イリゼ…良いのよ?貴女は逃げても…」

「ううん。私一人逃げられたって…負い目しか残らないから」

 

再び捕らえられる私達。そして、イヴォワールさんの指示の元…私達は教会に拘束される事となった。

 

 

 

 

「…あいちゃん、あれから何時間位だったですか?」

 

コンパの質問にケータイで時間を確認して答える私。最初こそこれで連絡を…と思っていたけど、どういう訳だか(いや、場所的には当然ではあるけど)圏外になっていて全く連絡が取れない。

…私達は、リーンボックス教会の『牢』に閉じ込められていた。

 

「コンパ、ねぷ子の様子は?」

「暗くてよく分からないんですが…息も苦しそうで、体温もどんどん下がってるです。…このままじゃ…」

「…コンパにはどうにか出来ないの?」

「む、無理言わないで欲しいです…。簡単な診断やお薬の選択なら出来るですけど、毒の治療なんて…それに第一、こんな暗くて衛生も良くない場所じゃ…」

 

目に涙を浮かべながら話すコンパの返答を聞いてから私は無茶な事を言ってしまったと後悔する。こんな状況、こんな場所でまともに治療出来る人なんてまずいないのに…。

そして、私達の気分を沈ませる要因はもう一つある。

 

「…イリゼちゃんはどうなったんです…?」

「…分からないわ…イリゼだけ無罪放免、なんてなるとは思えないし別の所に閉じ込められてると思うけど…」

 

あの時、イリゼだけは別の場所に連れて行かれた。理由としてはイリゼの力が関係してるのだと思うけど…ねぷ子同様、排除したいならあの場で毒入り料理を食べさせるでしょうし、わざわざベッドの場所に連れて行く必要性が思い当たらない。

 

「ねぷねぷ…イリゼちゃん…ごめんなさいです…。わたし、二人が大変な状態だって分かってるのに…何もして…あげられないですぅ…」

「……っ…」

 

コンパの言葉に私は胸が締め付けられる様な感覚になる。コンパは何も悪くない、この状況で二人を助けるなんて無理もいい所の話。…本当に、悪いのは……

 

「…私のせいだ…私が、ベール様の事で浮かれて毒の事を忘れてしまってたから……ぐすっ…」

 

視界が歪み、頬に濡れた感覚が伝う。人前で泣くなんて普段の私なら何としても避けたい事だけど…辛くて、悲しくて、自分が許せなくて、涙が止まらない。

そして、私は無意識に助けを求める。

 

「お願い…誰か助けて…助けて、ベール様……」

 

自業自得で招いた災い何だから助けを求めるのはお門違いだし、誰も助けてくれる訳が無い。だから、私の願いは静かな牢の中で、私達以外の耳に触れる事もなく消え--------

 

「わたくしを呼びまして?あいちゃん」

「……ベール、様…?」

 

牢に響く声。その声の主は…こんな私にすら手を差し伸べ、私達を救ってくれようとする…敬愛するグリーンハート様その人だった。

 

 

 

 

「どうして私達が捕まってるって分かったんですか?」

 

あれから十数分後、ベール様に助けてもらった私達はベール様の部屋に来ていた。ねぷ子をベール様のベットに降ろし、コンパに軽くベール様の事を説明した後私はずっと気になっていた事を口にする。

 

「女神ですもの、パーティーの参加者を調べる事など容易ですわ」

「じゃあ、ベール様もパーティーに出るつもりだったんです?」

「えぇ、本来ならあの様な退屈なパーティーより積みゲー処理を優先する所でしたのだけど、あいちゃんがゲストで参加するとなれば話は別ですわ。それで、会いに行こうと思ったら…」

「そういう事ですか…。…あの、因みに最近ベール様が部屋に引き篭もっていたのは…」

「積みゲーを崩すのと、ネトゲが忙しかったからですわ」

「あいちゃん、リーンボックスの女神様ってやっぱり…」

 

そう、悔しいけどねぷ子の言う通りベール様は重度のサブカル…特にネトゲ…ユーザーだった。…ま、まあ私は親しみ易くて良いと思うけどね!…節度を持ってくれているのなら…。

 

「…取り敢えず、今回の件の詳しい事情と毒を盛られた彼女の事を話して貰えまして?」

「あ、はい勿論です」

 

コンパと二人でねぷ子の事と経緯を話す私達。ベール様は時々質問をするものの、基本的には黙って聞いてくれた。

 

「…まさかイヴォワールが…それに、ユニミテスの使いと言うのも気になりますわ…」

「これからどうするです…?」

「まずはこの子…ネプテューヌの解毒を優先しますわ、さっきよりも顔色が悪くなってる様ですし」

「どういう毒か分かりますか…?」

「ふふっ、勿論…ここにある通りですわ!」

 

自信満々でネットの匿名掲示板を私達に見せてくるベール様。……う、うぅん…。

 

「…思っていたより、何だか凄い人です…」

「な、何か今コンパさんとあいちゃんとの距離がグッと開いた様な気がしましたわ…気のせいかしら…?」

「き、気のせいですよ!実際毒についても解毒剤についても分かりましたし!…それで、あの…もう一つお願い出来ますか…?」

「えぇ、何ですの?」

 

解毒について一通り分かった所で私はイリゼの事を口に出す。解毒剤は最悪私達だけでも何とかなるけど、教会の中を探し回る必要のあるイリゼはベール様の力を借りなきゃどうにもならない。

 

「さっきも話した通り、イリゼだけは別の場所に連れて行かれちゃったんです…場所、分かりますか…?」

「残念ながら、分かりませんわ…でも、安心して下さいな」

「え…?…もしかして、また匿名掲示板です…?」

「流石にそれはネットで聞いても分かりませんわ…そうではなくて、わたくしが信用している付き人に捜索を頼むのですわ」

「分かりました、じゃあ早速解毒剤の素材収集に行くわよコンパ」

「はいです!」

 

解決の目処は立った。ならば後は行動あるのみよ…ごめんね二人共。だから待ってて頂戴、ねぷ子、イリゼ。

 

「…ぅ…あ…っ……」

「……!?ね、ねぷねぷどうしたです!?」

「そろ…そろ…ボケ、ない…と…キャラ…が……」

 

この時私とコンパは、ずっこける感覚を知ったのだった…ある意味流石よ、ねぷ子…。




今回のパロディ解説

・ピンクのあくま
星のカービィシリーズの主人公、カービィの異名(?)。きっとあの場にいたのがカービィなら料理はあっという間に無くなり、毒も別の料理食べて回復するのでしょう。

・山越シェフ
ネット上でのいたずら心により生まれた、名シェフ『川越シェフ』の派生版…らしいです。何でも他にも『谷越えシェフ』やら『海越シェフ』もいるとか…。

・もこみちシェフ
オリーブオイルで有名(?)な俳優、『速水もこみち』さんの事。実際に料理が趣味らしいですが、いくら何でもオリーブオイルかけるだけって事は無いでしょうね。


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第十八話 助ける為にすべき事

古来から政治と宗教は深い繋がりがある。信仰対象や教祖、或いは教えに多数の人が自身の意思で従うという形は、従わせる側がそっくりそのまま政治家に変える、又は政治家となる事で簡単に民衆から支持される政治を行えるからだ。

そして、戦争…と言うか軍事も宗教と深い繋がりがある。戦いは正義や正当性が無ければ兵の士気は上がらない上に、民衆からの賛同も得られない。そこで便利な正義、正当性となるのが…やはり、宗教だ。

だから、宗教が上手く機能すれば人々の幸福度は上がるし、逆に宗教が暴走か他者による悪用をされると……

 

「さて、考えは変わりませんかなイリゼさん。…いや、ユニミテスの化身、とお呼びしましょうか?」

 

…信仰対象を盲信し、信仰対象が望まぬ為政を行い、その為に事実を捻じ曲げ目的の為に無実の罪で人を公開処刑とも呼べる行いをしようとまで人を駆り立てるのだと…私は痛感した。

 

 

 

 

--------時間は数十分程遡る。

 

「さぁ、そちらへどうぞ」

 

私は所謂取り調べ室的な所へ連行され、優しさの欠片もない瞳をしたイヴォワールさんに奥側の椅子に座るよう支持される。

勿論それに従う私……である。いや、ほら…見てよこれ、私の手首。リーンボックスの雰囲気的にはアリかもしれないけど実際には時代錯誤もいいところの手枷嵌められてるんだよ?手錠ならともかく手枷じゃほんとに手動かせないよ…そして何より屈辱的だよ……。

 

「…私だけこんな場所に連れ込んで何するつもりですか」

「それは今からお話します、それと…くれぐれも暴れないで貰えますかな?まあ最もあの場で投降する事を選んだ貴女であれば心配ないかと思いますが…」

 

そう言いながら後から続いて入って来た軍人(警備員?)風の二人の男性に目配せをする。多分私が不審な行動をしたら即座に……って事だと思う。

 

「…………」

「沈黙は肯定と受け取らせて頂きます。さて、ではまず貴女は何者ですかな?」

「…自分でも分かっていません、変身については…ご想像にお任せします」

「つまり、説明する気がないと?」

「……!する気が無いんじゃなくて本当に……っ…!?」

 

自分の事だったせいかつい感情的に立ち上がりそうになった私は二人の軍人に押さえつけられる。当然手枷のせいで抵抗もままならない私はステンレス製の机の冷たさを思い知る事となった。

 

「…まあ良いでしょう。本題はそこではありませぬからな」

「…なら、何なんですか…」

「なぁに、少々頼み事を訊いて頂きたいだけです」

「頼み事…?」

「ええ、悪しき宗教の信仰者撲滅の為に…死んで貰いたいのです」

 

イヴォワールさんは罪悪感に苛まれた様な苦悶の表情も、悪意が表面に出てきたかの様な凄惨な表情も浮かべず…淡々と、私に告げてきた。後から思えば、それが自国と女神の為になると本気で思っていたからこそあれ程平然と言えていたんだと思う。

 

「な、何を言ってるんですか…何で私が死ぬ事で魔王信仰の撲滅になるんですか…!?」

「貴女の力を見て常人だと思う人はいません。もし貴女がユニミテスの化身とでも言えば信仰者は勿論それ以外の方も信じるでしょう…ここまで言えばお分かりですね?」

「…私をユニミテスの化身と誤解させた上で殺してユニミテスは死んだと思わせる気、ですか…」

 

我々の手で、民衆の前で亡き者にするからこそ意味があるのです、そうイヴォワールさんは言った。単純明快で理解もし易い理屈。…でも、納得出来る訳が無い。

 

「…公開処刑を私が望むとでも?」

「まさか、ですから貴女が素直に処刑されてくれればユニミテスの使者に拐かされた哀れな二人の安全と解放を約束しましょう」

「……っ!…ネプテューヌは…?」

「彼女は出来ませぬ。邪なる者を野放しにする訳にはいきませんからな」

「…………」

「…すぐに答えを出せとは言いません。良き回答をお待ちしますぞ」

 

そう言ってイヴォワールさんは出て行った。勿論、私の監視は解かないままで。

そして、そこから数十秒後…

 

「やーさっきはごめんね、えっと…リゼちゃん?」

「それは某喫茶店の店員だろうが」

「……え…?」

 

今まで硬い表情を貫いてきた二人の軍人風の人がいきなりフランクな雰囲気になって私に話しかけてきた。特に私の名前を間違えた方は180度位変わったんじゃないかな…。

 

「おっとこれは失礼。しかしイヴォワール様も酷な事を言うよねぇ」

「全くだ、どちらを選んでも大損の二択だものな」

「え…いや、あの…はい…?」

「ほんと可哀想だよ…イリゼちゃんだよね?…君は、あー心が痛む、そうだろう?」

「ああ、助けてやりたいさ」

「……!?」

 

あまりにも唐突な話の流れに私は目を見開く。リーンボックスは一枚岩じゃなかったの?と言う疑問と同時に状況打破出来るんじゃないかという希望が私の心の中に生まれる。

 

「ほ、本当…ですか…?」

「勿論さ、女の子の処刑なんて見ても気持ち良くない」

「そもそもそんな事の為にこの仕事に就いた覚えもないしな」

「じゃ、じゃあ……」

「…ただ、無償でって訳にもいかないよね?脱走がバレたら俺らの責任だし協力してたって知られると最早罪に問われちまう」

「……っ…」

 

この流れはさっきもあった。つまり、私に何か要求があるという事。…でも、彼の言う通りこの人達にとってもリスクの高い事な訳だし…私に出来る事なら…。

 

「そういう訳だ。イリゼちゃん、良いかい?」

「…私に出来る事ですよね…?…なら、分かりました…」

「やったね、んじゃ先俺で良い?」

「相変わらずお前は…ふん、途中で変わるんだぞ」

「え……先?途中で変わる…?」

 

意味の分からないやり取りに困惑する私。説明をしてくれるのかと私が待っている最中…二人は下卑た笑みを浮かべながら私へ近付いて来る。

 

「……ッ!?貴方達何を…きゃっ…!」

「あまり大きな声を出すな、外の誰かに聞かれたらここから出るのは不可能になるぞ」

「まぁまぁ落ち着いてよイリゼちゃん。別に暴行をしようって訳じゃないし君もこういう事に興味のある年頃でしょ?」

 

少々無骨な雰囲気の男に手枷ごと腕を拘束され、軽い調子の男が私の身体に指を這わせてくる。この段階になれば誰だって分かる。この男達は最初からこれが目的だったのだ。私の心の中の希望が音を立てて瓦解し始める。

 

「な、無いですっ!止めて下さ…い……っ!」

「ふぅん…じゃ、君はお仲間を見捨てるか処刑されるかの二択だね」

「……ッ!」

「お前それじゃイヴォワール様を非難出来ないな」

「あ、確かに。でもこんな可愛い娘を自由に犯れるチャンスがあるってのに紳士でいられる訳ないじゃん」

「ひ……っ!?」

 

服越しに伝わる感覚に否応無しに震える私の身体。男の指は次第に下へと伸び、腹部…そして私のスカートの中へと……

 

「失礼するわ」

『……ーーッ!?』

 

突然部屋の外からかけられた声と一拍置いてから開く扉。男二人は驚愕の表情を浮かべるもすぐさま私を椅子へと座らせ定位置へと戻る。何もされていない私ではあれば『早っ!?これがピンチの時の人のポテンシャル!?』なんて軽快に突っ込んでいたかもしれない。

 

「…何かありましたか?」

「い、いえ…しかし女神様の付き人である貴女が何故ここへ?」

「そんなのお姉…こほん、女神様からの指示に決まっているわ」

 

幸い(…幸い?)今さっきの事は知らないのか女神様の付き人と呼ばれた濃い緑髪の女性は普通に会話をした後、私を一瞥する。

 

「指示…ですか?」

「ええ、彼女を連れて来いと言う話よ」

「…私を……?」

「な……ッ!?そ、それは出来ません、それでは私達の職務が…」

「あら、女神様の指示より教祖代行の指示を優先するのかしら?」

「そ、それは…」

「そういう訳よ。イリゼさん、アタクシに着いて来て下さい」

「あ……は、はい…」

 

あれよあれよと言ううちに付き人さんに連れて行かれる私。正直、その時の私はもうどうしたら良いか分からずただ着いて行くだけだった。

 

 

 

 

「あの…どうしてベール様まで…?」

 

情報を頼りにダンジョンへと急行した私達だけど…何故か、女神であるベール様まで来ていた。

 

「がーん…酷いですわあいちゃん、わたくしと一緒にいるのが嫌なんですの…?」

「そ、そういう訳じゃないですよ!?え、えっと、その…」

「冗談ですわよ。焦ったあいちゃんも可愛いですわ」

「きゃ、きゃわいい!?」

 

私は自分の頬が熱くなるのを感じる。わ、私が可愛い?しかもそれをベール様が?…あふぅ……。

 

「ベールさん、あいちゃんがぽけーっとしちゃうからあんまり過度な事は言わないで欲しいです」

「ふふっ、そうですわね。でも元々四人パーティーだったものが二人パーティーになってはお二人も大変ではなくて?」

「そ、そういう事だったんですか…ありがとうございます、ベール様」

「けど、ベールさんまで来るとなるとねぷねぷが一人になってしまうです」

 

そう、私達の目的はねぷ子が盛られた毒用の解毒剤の素材確保。でもその為に寝込んでいるねぷ子を一人にしてしまうのは普通に本末転倒よね…。

 

「それなら心配はありませんわ、時間的にもうわたくしの付き人がイリゼさんを連れてわたくしの部屋に入っている筈ですもの」

「あの…前も言っていましたけどその付き人の方って…?」

「そうですわね…自分で言うのもアレではありますけど、わたくしに心酔している子ですので信頼出来ますわ」

「ならきっとあいちゃんみたいな人ですし大丈夫ですね」

「わ、私は心酔まではしてないわよ…」

 

若干の雑談を挟みながらも私達は進む。そして新たなパーティーメンバーであるベール様だけど…

 

「あいちゃん、コンパさん!」

『は、はいっ!』

 

手にする槍で巧みに間合いを取りつつモンスターを倒し、必要であれば無理せず私達に任せるというスタイルですぐに私達に馴染んでいた。…ノワールもだったけど、やっぱり女神様って戦闘に関しては他の追随を許さないわね…。

 

 

 

 

--------数十分後、私達はダンジョンの奥地にまで足を踏み入れていた。

 

「例のモンスターさんがいるのってこの辺なんです?」

「ええ、情報通りならそろそろ見つかると思いますわ」

「…そう言えば…ベールさんは他の女神様みたいに変身しないんですか?」

「変身?…あぁ、女神化の事ですわね」

「……!ベール様、私ベール様の女神化見てみたいです!」

 

女神様は基本的に式典の時には変身…じゃなくて女神化した状態で参加するから当然私も女神状態のベール様を見た事がある。…でも、間近で見る機会があると言うのならそれを逃すのはあまりにも惜しい。

 

「……困りましたわね…女神化は体力を使うのでいざという時にとっておいたのですが…あいちゃんがどうしても見たいと言うのなら『べるべる』か『べーちゃん』の愛称で呼んで下さいな」

「そ、そんな!?ベール様を愛称で呼ぶだなんて…」

「女神化した姿、見たいのでしょう?でしたらほら、恥ずかしがらずに呼んで下さいな」

 

期待する様な目をしながらベール様が私に言ってくる。…こ、これってお願いしてるのどっちだっけ…?

 

「……べ…」

「わくわく…」

「…べ、べる……」

「もう一息ですわあいちゃん」

「…あ、あのー…」

 

私が意を決してベール様を『べるべる』と呼ぼうとしている中コンパが口を挟む。…残念な様な一安心な様な微妙な心境だった。

 

「どうしましたのコンパさん。…あ、もしやコンパさんもわたくしを愛称で呼びたいんですの?」

「いえ、そうじゃなくて…二人のすぐ後ろの林からモンスターさんが…」

「…わたくし達の…」

「…後ろ…?」

 

ゆっくりと振り向いた私とベール様の前にいたのは…宙に浮く、カラフルな色をした鯨の様なモンスター。

 

「い、いつの間に!?」

「あいちゃんとベールさんが百合百合しいた間ですぅ…」

「な、ななな何言ってるのよコンパ!?わ、私は別にベール様と百合百合だなんて…!」

「照れてるあいちゃんは可愛いですわ…やはり普段の凛々しいあいちゃんとのギャップが…」

「……ベールさん」

「…こほん、敵を目の前に見とれている場合ではありませんわね。お二人共、このモンスターが探していたモンスターですわ」

「本当ですか!?なら…」

「えぇ、サクッと倒してお友達の元へ帰りますわよ」

 

そう言って槍を構えるベール様。コンパは勿論、私も冷静さを取り戻して抜刀する。そんな私達を見て戦闘態勢に入るモンスター。

 

「わたくしが前に出ますわ!あいちゃんはわたくしの援護、コンパさんは逆からの攻撃を!」

 

言うが早いかモンスターへ突進をかけるベール様。モンスターは巨体であるのが仇になったのか先制攻撃を受ける。

 

「ーーーー!」

「させないっ!」

「助かりますわあいちゃん!」

 

反撃とばかりにヒレを振ろうとしたモンスター、でもそれを許す私じゃない。ヒレが振り下ろされる前に根元へカタールの刃を滑り込ませる事でそれを阻止する。

そして、動きが止まったモンスターへとすぐさま注射針を刺すコンパ。最初はただ注射器を振り回すだけだったコンパも今となってはパーティーメンバーとして力不足の様子は全く無かった。

 

「畳み掛けますか、ベール様?」

「いいえ、このサイズのモンスター相手に無理に畳み掛けるのはむしろ危険ですわ…ですので…!」

 

槍を水平に構えて素早く三連突きを行い、反撃が来る前に後ろへ跳ぶベール様。所謂ヒットアンドアウェイでモンスターの注意を引きつつ着実にダメージを与えていた。

 

「ベールさん凄いです…」

「そうね、でもねぷ子の為に私達も負けてられないわ…!」

 

モンスターの注意が完全に私達から逸れた所で正確な一撃を与え、時には二人がかりでモンスターを翻弄してベール様の負担を減らす。派手さこそ無いものの、堅実さのある戦法のおかげでモンスターは段々と弱っていき…

 

「グ…グゥゥ……」

「後一息ですわね…わたくしがチャンスを作りますわ、お二人はトドメを」

「はい、任せて下さい」

「分かったです!」

 

モンスターのブレス攻撃を左右に分かれて避ける私達。そこで私とコンパより一足早く動いたベール様は一気に距離を詰め、下段からの突き上げでモンスターを仰け反らせる。

 

「今ですわ!」

『はぁぁぁぁっ!』

 

腹を見せたモンスターに肉薄し同時に突きを行う私とコンパ。防御もままならないモンスターはそれをもろに受け…沈む。----私達の勝利だ。

 

「やったです!」

「ええ、お疲れ様ですベール様…ベール様?」

 

ベール様に労いの言葉を送ろうとした私は言葉に詰まる。理由は簡単、ベール様が何かを掲げて空を見ていたからである。

 

「…あぁ、リーンボックスの国色的にリンクの真似でもしておこうかと思いまして」

「そ、そうですか…それは?」

「件の解毒剤用の素材ですわ」

 

いくらモンスターを倒せても目的の素材が手に入らなければ意味が無い。だからベール様がその素材を見せてくれた時、私とコンパは安堵のため息を吐く。

 

「さて、素材も手に入りましたし帰りましょうか」

「はいです、もうすぐですよねぷねぷ…」

 

そうして帰路につく私達。

もう少しだけ待ってて頂戴、ねぷ子。これをすぐに持ち帰って貴女を助けてあげるわ…!




今回のパロディ解説

・某喫茶店の店員
ご注文はうさぎですか?の登場キャラの一人、天々座 理世の事。これは彼女の通称『リゼ』とイリゼの名前が似ているからであり、見た目が似ている訳ではありません。

・リンク
ゼルダの伝説シリーズの主人公の事。正直ベールとリンクの共通点なんて髪の色とパーソナルカラー位ですが…誰でもアイテムゲットしたらあのポーズしたくなりますよね。


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第十九話 復活・合流、二人の女神

「こちらよ」

「は、はい……」

 

付き人さんに連れ出されて出た私は誘導に従って廊下を歩いていた。…因みに、鍵はイヴォワールさんが持ってるらしく手枷はそのままである。…正直結構辛い……。

 

「…あの…女神様はどうして私を?…あ、いやそれよりネプテューヌ達はどうなったんですか?無事何ですか!?」

「取り敢えず落ち着いて貰えるかしら?アタクシに一度に全部答えろと言うの?」

「あ…すいません、じゃあまず皆の事を…」

「貴女の同行者は牢に連れて行かれていたけどお姉…こほん、グリーンハート様が助け出してくれたわ」

「……っ!ほんとですか!?」

「疑わしいのならグリーンハート様のお部屋で待てばいいわ。元々そこへ案内するつもりだし」

 

ネプテューヌ達が無事で、助け出された。その言葉を聞けただけで私は優しい安堵感に包まれた。勿論またも嘘…という可能性もあったけど、確かめる方法を開示してる以上それは無い様に思えた。

 

「…良かった…皆無事なんですね……」

「無事、と言うといささか語弊があるわね」

「え…ど、どういう事ですか…?」

「貴女はパーティー会場での事を忘れたの?」

「あ……」

 

次々と事態が移り変わるせいで半ば忘れていたけど…ネプテューヌは毒を飲まされてたんだった…。じゃあ、このまま皆と落ち合って脱出するだけじゃ駄目なんだよね……。

 

「…容態はどうなんですか?」

「それは自分の目で見るのが一番早いわ、ここよ」

 

そう言って付き人さんが扉を開く(私は手枷のせいでそもそも開けられなかった)。そうして開かれた、やけに趣味色の強い部屋の中には……

 

「…あぅ…っ……」

 

…疲れを知らない子供の様ないつもの様子は欠片も無く、ベットで苦しそうに喘ぐ…ネプテューヌの姿があった。

 

「……ッ!ネプテューヌっ!」

「…っ…イリ…ゼ…げ、元気…?」

「それはこっちの台詞だよ!こんな弱々しくなって…」

 

体温が下がり冷たくなったネプテューヌの手を握る。勿論これで解毒になる訳なんか無いけど…握らずにはいられなかった。友達が苦しそうなのに無関心でいられる訳が無いよ。

 

「…解毒剤は無いんですか?」

「それを今グリーンハート様と貴女の仲間が取りに行っているわ、ええと…失礼しますわ」

 

私の問いに答えつつ彼女はPCを操作する。多分ネットで調べていたんだろうと推測した私はネプテューヌの手を握りながら首を回して液晶画面を見る。

…と、そこには……

 

『悲報、知人が猛毒に犯される』

『1.…という訳で毒について教えて下さいまし』

『2.またざっくりしたスレが建っているンゴねぇ』

『5.後半の犯されるという単語だけでこのスレを開いてしまったのは俺だけじゃない筈…』

『8.(・ω・`)らんらん毒の事知ってるよ〜』

『10. ≫8.の様な方を待っていましたわ!』

『15. ≫8. ファッ!?原住民ちゃんかと思ったら全然違う奴やんけ!』

 

「…ええっと…あの、その……」

「何か文句でも?」

「いや別に文句は無いですけど…」

 

会った事のないグリーンハート様のキャラがどんどん変な方向に進化していく。……ねらーさんなのかな…。

ただ問題の毒についてはきちんと説明してくれていたので私も一通りの理解が出来た。

 

「…そんな昔の毒薬をイヴォワールさんが……」

「昔だからこそ容易に解毒出来ないと思って選んだんでしょうね。……ほんとはアタクシがお姉様と行きたかったのに…」

「え、何か言いました?」

「何でもないわ」

 

…どういう訳だか『小声で言われたせいで何を言っているのか理解出来なかった』という主人公あるあるを経験してしまった。…これはネプテューヌの担当だよね…。

 

「…主人公さん、頑張って」

「…ところで貴女、それはどうする気?」

「それって…手枷ですか?…腕力だけで壊すのは流石に無理が…近くに岩か何かありませんか?」

「ある訳ないでしょう…」

「ですよね…どうしよう……」

 

正直この状態でも女神化して奇襲をかければ鍵を持っているイヴォワールさんを脅す位は出来ると思う。でも両手が使えない以上不慮の事態が起きたら対処出来ないし、何よりそんな事をしたらほんとに邪の者扱いされてしまう。皆の事もあるからそれは選べない選択肢だった。

 

「…まあ、追々何とかします」

「そう、くれぐれもグリーンハート様の邪魔になる様な事はしない様に。…特にグリーンハート様のハートをキャッチする様な事は…!」

「え、あ…はい……」

 

物凄い剣幕で私に釘を刺してくる付き人さん。…これが、この人も私達同様ちょっと変わってるんだと理解した瞬間だった。

 

 

 

 

--------重症の病人を見ているのは辛い。刻々と進行していく病、時間を追う毎に悪くなっていく表情、このまま下がり続けてしまうんじゃないかと思える体温。

…ネプテューヌは、今まさにその重症の病人の様子だった。

 

「…ネプテューヌ…きっともうすぐ皆が解毒薬持って来てくれるから…もう少し頑張って……」

 

握ったネプテューヌの手を見つめながら言う私。こんな時に思うのは場違いかもしれないけど、ネプテューヌの手はすべすべぷにぷにで触っていたくなる手だった。無邪気で、元気で、明るいネプテューヌを現した様な彼女の手。…そんなネプテューヌを失うのかもしれないと思うと、私はとてもじゃないけど耐えられなかった。

 

(コンパ…アイエフ…グリーンハート様。お願い、早く戻ってきて……)

 

私は祈る様に目を瞑り、心の中で願う。

勿論、これで何とかなるとは思ってない。…でも、これが功を奏したのか、或いは偶然か、はてまた…女神であるネプテューヌの手を握りながら祈ったからなのか…とにかく、私の願いは--------すぐに形となった。

 

『(ねぷねぷ・ねぷ子)、大丈夫(です)!?』

『……!コンパ!アイエフ!』

 

勢い良く扉が開かれ、コンパとアイエフが姿を現す。そしてその二人を追う形で部屋に入る金髪蒼眼の女性。彼女は、私は勿論変身したネプテューヌでも及ばない程の恵まれた体型をしていた。

 

「イリゼ!?…良かった…貴女も無事だったのね…」

「うん、グリーンハート様の付き人さんのおかげでね…それより解毒薬は?」

「素材がここにありますわ」

「なら一安心だよ…ええと、貴女は…?」

 

付き人さんの話を聞く限りコンパとアイエフに同行している人なんて一人しか思い当たらないけど…確証は無いのできちんと聞いてみる。

 

「わたくしはグリーンハートことベールですわ、貴女がイリゼさん…ですの?」

「はい、イリゼです…あ、二人共私の事は…」

「話しちゃったですけど…もしかして話さない方が良かったです?」

「ううん、問題無いよ」

「…ところでイリゼ、貴方何でそんな物付けてるのよ」

「これは…鍵が手に入らなくてね…」

 

部屋に入ってきた三人に奇異の目で見られた私は穴があったら入りたい気分だった。うぅ…ほんと手枷だと羞恥心煽られるから辛いよ……。

 

「…じゃあ、その女性は?」

「この人は私を助けてくれた……あ、そう言えば名前聞いてなかった…」

「えぇー……」

「彼女は先程わたくしが言った付き人ですわ。チカ、自己紹介を」

「はい。アタクシの名前は箱崎チカ、グリーンハート様の付き人であり…アタクシにとってグリーンハート様はお姉様なのですわ!」

『はい!?』

 

今までの若干冷めた様な雰囲気は何処へやら、付き人…チカさんはベールに飛び付いていた。それを困り顔をしながらも受け止めるベールとぽかんとする私達。…ある意味で急展開だった。

 

「お、お姉様って…姉妹なの…?」

「まあそう思いますわよね…姉妹ではありませんわ。単にチカがわたくしを慕ってくれていると言うだけの話ですもの」

「で、ですよね…女神様に妹がいるのかと思って驚きました…」

「ふふっ、心配せずともあいちゃんを放っておいたり何てしませんわ」

「そ、そういう訳では……」

 

ベールの返しに対し頬を染めるアイエフ。そのアイエフの反応は元より…『あいちゃんを放っておいたり何て』?

…二人の間柄は一体……。

 

「…くっ……」

「あら、チカどうかしまして?」

「な、何でもありませんわお姉様。それよりすべき事があったのでは?」

「っと、そうでしたわね。コンパさん、薬の調合をお願い出来まして?」

 

ベールの言葉に部屋の空気が変わる。いくら素材が手に入ったとしてもそれを薬にする事が出来なければ何の意味も無い。全員がそれを認知している為、自然と視線はコンパに集まる。……が、

 

「…あの、わたし薬剤師さんじゃないので調合は出来ないんです…」

「それは困りましたわね…わたくしやあいちゃん、チカは専門外ですし…」

「私も薬の調合はちょっと…仮に薬剤師だったとしても今は記憶喪失中だし…」

「そういう事だからお願い、コンパ。この中で知識があるのは貴女だけなのよ」

「けど……」

 

コンパの顔は曇ったままだった。確かに私達がコンパに任せようとしているのは多少無理のある事かもしれないけど…何か、単純に薬剤師じゃないからというだけで躊躇っている訳では無い様な気がする。

 

「ネプテューヌを救いたいんでしょう?」

「…それは勿論です。ねぷねぷを助けてあげたいです…でも、わたしじゃ無理なんです……」

「…どうして?何か理由があるの?」

「…今まで内緒にしていたんですけど、わたし…クラスでは落ちこぼれだったんです……」

 

そうしてコンパは自分の事を話し始めた。自分が勉強も実習も苦手だった事。何度も失敗して周りに迷惑をかけてしまった事。…だからこそ、調合をした薬をネプテューヌに飲ませる事が怖いという事。話している間のコンパはいつものほんわかした雰囲気が一切無く、正直私は…無理に頼むのは止めた方がいいのかも、と思ってしまった。

…でも、二人は違った。

 

「…なぁんだ、そんな事なの」

「何事かと思いましたけどそんな事でしたのね」

「……へ?」

「そ、そんな事って…二人共コンパの話聞いてたの?コンパにとっては薬の調合なんて凄く大変な--------」

「何もコンパ一人にねぷ子の命を背負わせるつもりは無いわ。そもそも私が招いた事態だし」

「そうですわ。わたくしもチカも可能な限り協力しますわ、良いですわよねチカ?」

「え?…えぇ、お姉様がしたいのであればアタクシも勿論協力しますわ」

「…と、言う事よイリゼ。貴女だって協力してくれるでしょ?」

「それは…そうに決まってるじゃん。ネプテューヌの為なんだから」

「皆……」

 

俯いていたコンパが顔を上げる。きっと今は看護学校での実習なんかと同じじゃないって分かったからだとも思う。

そして私も一つの事を知った。相手に同情し、庇う事だけが優しさじゃないという事を。

 

「だから、コンパは私達に指示とアドバイスを頂戴。…皆でねぷ子を救うわよ」

「……っ!…はいっ!」

 

そうして、私達はネプテューヌを救う為の解毒剤調合を始めたのだった。

 

 

 

 

「出来た、です…!」

 

コンパが手にしたのはTHE・お薬…って位薬っぽい薬。そう、私達は苦心の末に解毒剤を完成させた。

 

「コンパ、早速ネプテューヌに飲ませてあげて」

「はいです。ねぷねぷ、一気に飲むですよー」

「ん…んんっ……」

「…飲むのを嫌がってますわね」

「ま、まぁ相当な臭いですしね…」

 

口元に近付けられた解毒剤を首を振り、口を閉ざして拒否するネプテューヌ。でもここまできて諦める訳にはいかない。その思いはコンパもだったらしく…

 

「好き嫌いは駄目ですねぷねぷ!口を開けないと鼻から飲ませるですよ!」

「いやそれ好き嫌いとかそういうレベルじゃないんじゃ…」

「病人相手にそれはどうかと思うわ…体調崩してる時って大変なのよ?」

「チカはあまり身体強くないですものね」

 

ほんとに鼻に流し込もうとしていたコンパを私とチカさんで止める。…危うくネプテューヌの鼻腔が駄目になる所だったよ…。

 

「…ならば、口移しはどうでして?」

『く、口移し!?』

「えぇ、古来から姫の眠りを解くのは王子のキス。…まあこの場にいるのは女の子だけですがそれでもロマンチックではなくて?」

「ロマンチックですけど、それはちょっと…」

「口移し…お姉様の口移し……」

「…まぁ、かく言うわたくしは王子であっても二次元でなければお断りですけどね」

『…………』

 

何だか凄い下心が露わになったチカさんとさらっとリアルお断り発言をしたベールにドン引きする私達。ラステイションの女神と教祖はそれぞれ特徴的ではあったもののまともだったのに…何があったのリーンボックス……。

 

「さ、さて…真面目にネプテューヌに飲ませる方法考えよっか…」

「わたくしの意見不真面目扱いですの!?」

「うーん…そうです!ねぷねぷの大好きなプリンと一緒ならきっと飲んでくれるです!」

「成る程、プリンシェイクに解毒剤を入れるのね」

「違うです。解毒剤プリンを作るです!」

「それが通用するのは某幼女博士位じゃないかなぁ…」

 

私の突っ込みは意味を為さなかったのかほんとに解毒剤プリンを作り始めるコンパ。その発想に私達は唖然だよ…。

そして、コンパは速攻で作ったプリンとスプーンを手に再びネプテューヌの横に来る。

 

「さあ、ねぷねぷの大好きなプリンですよー。あーんするですー」

「ぅ…あー…ん……」

『口を開けた!?』

「あんなに嫌がってたのにこんなあっさり口を開けるなんて…どんだけプリン好きなのよねぷ子…」

「ヤック・デカルチャーですわ…」

 

一名程とある巨人の言語を使ってしまう位にネプテューヌの反応の変化には驚かされた。…ネプテューヌのプリン脳、恐るべし。

 

「もぐ…もぐ……」

「ねぷねぷ…身体の調子はどうです?早く目を開けるです」

「流石にそこまで即効性は無いでしょ、暫く様子を見ましょ」

「そうそう…あ、じゃあ取り敢えず私は使った道具の片付けを--------」

「ネプテューヌ、ふっかーつ!」

『えぇぇぇぇっ!?早ぁ!?』

 

恐らく食べてから一分経ったかどうかでネプテューヌは復活した。解毒剤プリン超有能、逆に不安になる位の即効性を秘めていた。…いや、ほんと即効性あり過ぎじゃない…?

 

「…ぅあ、ねぷねぷです…いつもの、ねぷねぷですぅ…」

「あー…ごめんねこんぱ、何か心配かけちゃって」

「何?お礼を言うのはコンパだけなの?」

「まっさかぁ、あいちゃんにもイリゼにもありがとうだよ!…皆の想い、伝わってたからね?」

「ネプテューヌ…もう、心配したんだからね…?」

 

いつもの雰囲気でお礼を言ってくれるネプテューヌに私達は心から安堵する。…やっぱ、ネプテューヌはこうでなくっちゃネプテューヌじゃないよね、うん。

 

「さぁ、復活した所だしここは一つ景気良くストーリーを進めるよ!わたしの活躍とくとご覧…あ…れ……?」

『ネプテューヌ!?』

「お、おかしいな…身体に力入んないや……」

「病み上がりにハイテンションで叫んだらそりゃそうなりますわよ貴女…」

 

再び倒れるネプテューヌ。慌てて駆け寄る私とコンパとアイエフ。そして呆れ気味のベールとチカさん。何というか、まあ…私達はいつもの私達に戻っていたのだった。

……いや、これがデフォルトってのもどうかと思うけど、ね。




今回のパロディ解説

・(・ω・`)らんらん、原住民
どちらもネット上での特定の人達を指す、所謂ネットスラング。内容から邪推してはなりません、ベールは別になんJ民では無いのです(あくまで私の主観ですが)。
(らんらんの絵文字は正確には違うのですが打てなかったので右の眉毛は省略させて頂きました)

・某幼女博士
日常、に登場するハカセの事。あの子の場合はプリンの上に粉薬ぶっかけただけの物を食べていましたが…まあ、似た様な物ではないでしょうか。

・ヤック・デカルチャー
マクロスシリーズに登場するゼントラーディ語の一つ。主にカルチャーショックを受けた時に使います。勿論作者はベール=メルトランなどとは考えていません。

また、前回の十八話にて付き人(チカ)の口調を私が間違えていたので彼女の台詞(主に語尾)を訂正させて頂きました。申し訳ありません。


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第二十話 真実は人の想いを動かす

「…いくよ、イリゼ?」

 

ゆっくりと私に近付いて来るネプテューヌ。彼女は根元から少しずつ反り返るソレの感触を確かめた後、私へと向ける。

普通の女の子であれはある筈のないソレを向けられている私は…身体の力を抜き、彼女へ向かいあった。

…勿論、怖くない、と言えば嘘になる。でも私は逃げ出そうとは思わなかった。これは私の為でもある事だし…何より、相手はネプテューヌだから。

だからこそ、私は拒否の言葉の代わりにこの言葉を口にする。

 

「優しくしてね……?」

 

その言葉にネプテューヌはゆっくりと頷いた後、今か今かと待ち構えているソレを持ち上げ……

 

 

私の手枷へと思い切り振り下ろした。振り下ろされた刀は手枷に刺さり、止まる。

 

「あーやっぱ駄目だったかぁ…」

「……あのさ、ネプテューヌ…ちょっと良い?」

「何?もっかいやってみる?」

「逆だよ!?見てよこれ!私の手首の上辺りに刃きてるじゃん!私手首と手首の間に振り下ろしてって言ったよね!?」

 

ネプテューヌが復活してから数十分後。ネプテューヌが少し休んだ事で体力が戻った(やはり常人より回復力が超高いね…)事で話は私の手枷の事となり、試しに破壊を試みた所であった。

 

「だから言ったじゃない、ネプテューヌに任せるのは不味いって」

「うん…破壊目的だったけど手枷破壊されなくて良かったと思ってるよ…」

「むー、失礼だなぁ…。あ、むしろこれを機に武器をヘヴィボウガンに変えて『隻腕のイリゼ』って名乗ってみるのは?」

「いやそれ自称するものじゃないし隻腕にする前提で話すのは止めてくれない…?」

「ふふっ、でも今度こそいつものねぷねぷです」

 

確かにネプテューヌはいつも通りに戻り、私達パーティーも元通りとなった。…だからって片腕斬り落とされちゃったらたまったもんじゃないけどね。

 

「そうね…でも、悪かったわねねぷ子。私が気を付けていれば守ってあげられたのに…」

「もう良いってあいちゃん。悪いのはあいちゃんじゃないし…普段のあいちゃんに戻ってくれなきゃ突っ込み手が足りなくなっちゃうでしょ?」

「突っ込み手って…」

「…すぐ調子に乗るんだから…でも、ありがと」

「…あ、それとベールとチカもありがとね」

「お気になさらなくで。あいちゃんの為ですもの。……ですが、女神としてもう少し気を付けるべきだとおもいますわよ?」

『……!』

 

ベールが付け加えた言葉によって、私達に衝撃が走る。理由は簡単、誰も話してない(と聞いた)情報『ネプテューヌ=女神』という事を知っていたからだ。

 

「…ベール様、どうしてそれを?」

「どうしても何も、最近まで刃を交えていた相手を知らない筈がありまして?」

『……っ!』

「……え?何この空気?…あ、もしや守護女神戦争(ハード戦争)でわたしとベールが対立してるから?」

「…もう少し雰囲気考えた発言してほしいですねぷねぷ…」

「そうは言ってもわたしって性格上どうしてもシリアス合わなくってさー…あ、必要なら女神化するよ?」

「ふふっ、噂通り…いえ、噂以上に面白い方なのですのね」

 

ネプテューヌの緊張感ゼロの発言とベールの笑みによってシリアスな雰囲気は崩れ去った。…ベールの顔にネプテューヌと一戦交えよう、と言った様子は見られない。

 

「安心して下さいな皆さん。わたくしにそんなつもりはありませんわ。…と言うか、元々わたくしは守護女神戦争(ハード戦争)に興味はありませんの」

「え…お姉様、そうだったんですか…?」

「えぇ、わたくし…いいえ、わたくし達はゲイムギョウ界の覇権の為の戦いを先代の女神達から引き継ぐ形で戦っていたのですが…わたくしは女神としての力をサブカルさえあれば覇権なんて興味はありませんわ」

 

ベールの語る言葉…特に先代の女神については凄く興味があったけど、それ以上に私達は共通してある感想を抱いた。それは勿論……

 

『…何(です)この凄いけど残念な人……』

「うつ…ま、まあ今のはそういう反応が来ると予想してましたわ…こほん、その点ネプテューヌはどうなんですの?」

 

どうなんですの?…とはつまり、ネプテューヌは戦うつもりがあるのか…と言う問いである。…まあ、ネプテューヌの現状を知らなきゃそれ聞くよね。

 

「んー…どうって言われてもよく分かんないんだよね、記憶喪失だし」

「…そうなんですの?」

「うん、名前しか分かんなかったし女神である事もノワールから教えてもらって初めて知ったんだ」

「ノワール…もしやラステイションのノワールですの?…という事は…」

「はい、最初はねぷねぷを嫌っていたみたいですが、今ではすっかり仲良しさんです」

「貴女、よくあの堅物のノワールと…」

 

そういうベールの顔は本当に驚いている様だった。そんなベールの様子を見る限り、ノワールがラステイションの非常事態故に気が立っていたとかネプテューヌを元々特に嫌ってたとかじゃなく、元からああいう性格だったのだと分かる。

 

「…あの、ベール。ネプテューヌの事を知ってたって事で一つ聞きたいんだけど…良い?」

「えぇ、わたくしも皆さんに話したい事がありますもの。…ですが、もう今日は遅いですし明日、また訪ねて下さります?」

「あ、けど私達教会にはユニミテスの使いとして…」

「そんな事ならお気になさらず。イリゼさんの手枷の事も含めてわたくしにお任せですわ」

 

ベールの言葉に私達は困惑していたが、ベールは任せろの一点張りなので釈然としないながらも教会を後にする。勿論向かうのはチェックイン済みのホテル。…手枷もユニミテスの件も何とかなればいいけど……。

 

 

 

 

「先日は本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁっ!」

 

…開口一番土下座をされた。夜が明け、ベールを信じて教会へと再び足を踏み入れた私達に対してのイヴォワールさんの反応がこれ。…え、えぇぇ……。

 

「いやいや…教会に入って早々これは流石のわたしもびっくりだよ…」

「…ご高齢の方がいきなり土下座するのって…もしや常識…?」

「そんな訳ないでしょ…これは一体……」

「あら、皆さん。お待ちしておりましたわ」

 

教会の奥から現れたのはベール。相変わらず土下座の体勢のままのイヴォワールさんに事情説明をして貰うのはなんかアレなので私達は変な汗をかきながらベールに説明を求める。

 

「えと、あの…これは…誤解が解けたって事で良いんですよね…?」

「ええ、これで安心して下さいな」

「今後この様な事は二度と起こさないとグリーンハート様に誓います!どうかご許しを!」

「べ、ベールさん…イヴォワールさんに何をしたです…?」

「あー…いや、これは… わたくし別に何もしていないというか、誤解を解いた時点でこうなったというか…」

 

頬をかきつつ説明するベールに私達は目を瞬かせる。誤解を解いただけでこの反応?…正直、意味が分からない。

 

「い、いやあのイヴォワールさん…?昨日貴方に何が…」

「…ワシは教会に勤める者となって以来--------」

「せ、説明の前に取り敢えず頭上げて貰えます…?…良いよね皆?」

「え、えぇ…構わないわ」

「わたしもです…流石にこれはちょっと…」

「ここまで来ると逆にこっちが軽く悪いみたいな気分になるもんね…」

 

被害者一行、満場一致でイヴォワールさんに頭を上げてもらう事に決定。…だって、これは普通にいたたまれないし直視出来ないもん。……あ。

 

「…アイエフ、ここで言うべきだったね」

「何をよ?」

「ほら、ラステイションの廃工場での…」

「いやこの人はロボットでもケンタウロス型でもないでしょ…」

「……話を続けても宜しいでしょうか…?」

「あ、はい余計な事言ってすいません」

 

私がふと思い出した事を言っている内に立ち上がったイヴォワールさん。…因みに私とアイエフの会話の意味が分からない人は第十一話を見てね…って、何ネプテューヌみたいな事考えてるんだろう…。

 

「…ワシは教会に勤める者となって以来、ずっとグリーンハート様とリーンボックスの為に邁進しておりました。それも義務的なものではなく、半ば生き甲斐として…」

「それは知っていますわ。そうでなくては分家とは言え教祖の直接的な家系でない貴方に教祖代行を頼む訳ありませんもの」

「ありがとうございます、グリーンハート様…国民以外信仰を認めなかったのも外部からの災いを少しでも食い止める為。…しかし、ワシも歳をとり考えが凝り固まってしまいましたのだな…。…身元の曖昧な者の言葉を鵜呑みにし、罪無き者を陥れ殺そうとし…あまつさえ、敬愛するグリーンハート様の意向に沿わぬ事を独断でしようとは…」

 

イヴォワールさんの話を私達は黙って聞いていた。それはイヴォワールさんが淀みなく話していたのもあるけど…一番の理由はやはり…肩を震わせ、罪の意識と自己嫌悪に苛まれたイヴォワールさんの言葉はとても真摯なものに聞こえたから。

 

「…申し訳ありません、皆様…。無論、この様な言葉だけで本当に許されるとは思っていませぬ。ですが、このワシの事はどう思おうとも、嫌いになろうとも構いませぬが…グリーンハート様とリーンボックスの事は嫌いにならないで下さい……」

「イヴォワール……」

「…ど、どうする…?」

「どうする、ね…ここはねぷ子とイリゼで決めて頂戴。一番の被害者は貴女達よ」

 

そう言われて私とネプテューヌは顔を見合わせる。流石のネプテューヌも真摯な様子の相手にふざけた事は言わないんだなと一安心しつつ、それぞれの意思を口にする。

 

「うーん…まあイボさんも悪気があった訳じゃないんでしょ?なら良いよ、わたしは心が広い主人公だからね!」

「正直、行為そのものは許したくはありません。でも…そこまでの信仰心と贖罪の念を持っている人であれば…許したいと思います」

「……っ!…ありがとう…ござい、ます…」

「…イヴォワール。やってしまった事はもうどうしようもありませんわ。…大事なのは、その後をいかにして過ごすかではなくて?」

「…はい……!」

 

絞り出す様に返答したイヴォワールさんは教会の奥へと歩いて行った。きっと、教祖代行としての仕事を…信用を取り戻す為の行動をするんだと思う。

 

「…お二人の…いいえ、皆さんの優しさに感謝しますわ」

「いいって別に、これが私達の本心だもん」

「そう言ってくれるとありがたいですわ。…さて、昨日言った通りお話ししたい事がありますの、わたくしの部屋に来て下さる?」

「あ、その前に手枷を…」

「あら、何の事でして?」

「えぇ!?ちょ…忘れられてた!?」

「ふふっ、冗談ですわ」

 

そう言いながらベールは鍵を取り出し、私の手枷を外してくれる。…ふぅ、やっと両手が自由に使えるよ…良かった。

その後、私達は言われた通りベールの部屋へ向かう。そして全員が部屋に入った後、ベールは真剣な表情で話を切り出した。

 

「…単刀直入に申しますと、わたくしの奪われてしまった女神の力を取り戻すのに協力して欲しいのですわ」

「女神の力を…?…それってどういう事ですか?」

「…あれはとあるゲームイベントの帰りでしたわ。会場で買ったグッズで両手が塞がり、一日中歩いた後で疲弊した状態を狙われたわたくしはなす術もなく、つぎにめを覚ました時には女神の力が無くなっていたんですの…」

「イベント帰りって足が棒みたいになって凄く眠いんだよね。そこを狙われちゃいくら女神でも太刀打ち出来ないよ」

 

ベールの言葉にうんうんと頷くネプテューヌ。私は『何て情けない奪われ方を…』と突っ込みたい所だったけど…合わない気がして突っ込みを飲み込んだ。

 

「女神の力を奪われるとどうなるです?」

「普通に歳をとったり、女神化が出来なくなったり…簡単に言えば普通の人間の様になってしまうのですわ」

「あ、だからベール様は今まで女神化しなかったんですね」

「えぇ、なのでわたくしが歳をとってこの美貌が衰える前に…そして余生を全うする事で後に発売されるゲームが遊べなくなる事を阻止する為に女神の力を取り戻さなくてはならないんですのよ!」

「…コンパ、イリゼ…これはどう突っ込めば良いのかしら…?」

『さ、さぁ……』

 

常々ネプテューヌを女神らしくないと言うアイエフも、そんな所が良いというコンパも、まぁまぁ記憶喪失だし…と擁護する私も今のベールの言葉には『ネプテューヌとどっこいどっこいじゃ…』と思わざるを得なかった…。

 

「そういう訳ですから、わたくしが永遠にゲームで遊ぶ為にもあいちゃん達にはその犯人を捕まえるのを手伝って欲しいんですの」

「分かりました、ねぷ子とイリゼを助けてくれた恩返しを含めて協力させて下さい」

「教会や国民の皆さんを不安がらせる訳には行かず、流石に話す事は出来なかったので助かりますわ…さて、確かイリゼさんもお話があるんでしたよね?」

「あ、うん。これは話すより見てもらった方が早いかな」

 

そう言って私は一歩下がり、女神化をする。…その瞬間、ベールが今までの穏やかな様子から一転、剣呑な雰囲気を放ち出す。

 

「……何者ですの、貴女…」

「お、落ち着いてベール。私に敵意は無いから…」

「そうだとしてもですわ。…まさか、それはわたくしから奪った力ではないでしょうね…?」

「ち、違うよ!?そもそも私記憶喪失だし…ええと、取り敢えず聞いて貰える…?」

 

ベールの反応からベールが私を知らなかった事が分かってしまったけど、何とかそれを表に出さない様にしつつ女神化を解除し、説明を…コンパとアイエフが話していなかった私の力について話す。その話をベールは興味深げに聞いていた。

 

「…にわかには信じがたい話、ですわね…」

「だよね…でも記憶喪失な以上こうとしか言えないから…信じてもらえる…?」

「まあ…あいちゃんが信じている相手ならば信じるに値しますわ。それに、騙している様には見えませんし」

「そっか…ありがとう、ベール」

「いえいえ、わたくしとしても女神の力奪還の為に力強い味方がいるのはありがたいですわ」

 

ベールが取り敢えず信じてくれた事で私はほっとする。

…と、同時に何かの鳴る音がする。これは……

 

「…電話?」

「だね、あいちゃん?」

「ううん、これはわたしの電話じゃないわ」

「あら、わたくしの様ですわね…はい、わたくしですわ」

 

そう言って電話に出るベール。誰からだろうと私達が小声で話をしていると、ベールの顔が再び真剣なものとなっていった。

 

「今から急いでそちらに参りますわ。貴女は足止めをお願いしますわね…ふぅ、正にナイスタイミングですわね…」

「ねぇねぇ、今の電話って何?大佐から?」

「わたくしはスネークではありません…チカからですわ。わたくしの力を奪った犯人が罠にかかったそうよ。詳しい話は道中お話しますわ…急いで向かいましょう」

 

言うが早いか部屋を出るベール。勿論私達も後に続く。その犯人ってのは只者じゃないと思うし…今回の件は私もきちんと恩返ししたいから、ね。

 

「この流れは…読者の皆ー!次回は戦闘会っぽいよー!」

「この状況でもボケるの!?そういうネタバレしなくて良いからね!?」

 




今回のパロディ解説

・ヘヴィボウガン、隻腕のイリゼ
モンスターハンターシリーズの武器及びそのノベライズ『魂を継ぐ者』の登場キャラ、クルトアイズの異名。…上段から腕斬られたらボウガンも持てないでしょうね。

・「このワシの事は〜嫌いにならないで下さい」
AKBの卒業生、前田敦子さんの総選挙時の台詞。個人的にこのシーンでパロディネタを使うのはどうかとも思いましたが…そういう所もネプテューヌシリーズですよね。

・大佐、スネーク
メタルギアシリーズの主人公の一人ソリッド・スネークとその上司、ロイ・キャンベルの事。ベールとチカとは関係性を始めとして共通点を見つける方が大変でしょう。


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第二十一話 再戦・マジェコンヌ

見晴らしの良い山道を走る五人の少女(え?幼女っぽい子と少女てか女性が居る?…黙秘権を行使します)。

勿論私達は体力作りを狙っている訳でもアニメのEDの撮影をしている訳でもない。ベールとチカさんが張っていた罠に掛かった謎の人物を捕まえる為である。

 

「ベール、罠ってこのダンジョンの中なの?」

「えぇ、出来るならば一刻も早く向かいたい所ですが…息の上がった状態で犯人とやり合うのは避けたいですわね…」

 

ベールの言う通り、ここまで急いで来た私達は息切れこそしていないものの、息が上がりつつあるのは明白だった。私達は状況確認したい事もあり即座にベールの意見に同意し、ペースを落とす。

 

「…それで、どうして犯人が分かったんですか?」

「それは簡単な事ですわ。イヴォワールにネプテューヌの抹殺を図った相手を訊いたところ、ルウィーの宣教師コンベルサシオンだと言っていましたの」

「コンベルサシオン…?」

「その名前に聞き覚えはありまして?」

「いえ、初めて聞く名前ですね…皆は?」

 

ベールの言葉に返答をしながら私達の方を向くアイエフに対し、私とコンパは首を横に振る。まぁ、そもそも私は記憶喪失だから知ってても知らなくても分かんないんだけどね。

 

「まぁそうよね…ねぷ子は?」

「ベルトコンベアーなら知ってるよ!」

「うん、それはもうどう考えても違うからね…」

「…あくまでわたくしの推測なのですが…恐らく、コンベルサシオンとわたくしを襲った犯人は同一人物の筈ですわ」

「どうして同じ人だって思ったんですか?」

「それはわたくしが超女神級の名探偵だから…ではなく、狙われたのがネプテューヌだけだったからですわ」

 

そう言って自身の推理を語り始めるベール。現在分かっている状況、イヴォワールさんから聞いた情報、そしてそこから推測される結論。ベールは趣味に走らない限りは頼れるお姉さんみたいな雰囲気を持っているおかげか、彼女の言葉にはとても説得力があった。

 

「コンベルサシオンは皆さんが来た時にまるで合わせたかの様に現れましたわね。そして彼女は魔王信仰について語っていながら実際に狙ったのはネプテューヌただ一人。だとすれば魔王信仰への警告は隠れ蓑の可能性が高く、ネプテューヌが狙われる理由として思い付くのは…」

『女神だから、(だね・ですね)』

 

ここまでくれば元々頭の回るアイエフは勿論刑事でも探偵でもない私でも分かる(ネプテューヌとコンパは私達の言葉を聞いてから『あー!』…みたいな反応してたけど…わ、分かってたよねきっと…)。

 

「えぇ。同じ女神であるわたくしも襲われた以上その線が濃厚だと思いますわ、女神を狙う人間や組織がたくさんいるとは思えませんし」

「えっと…じゃあ、そのコンベル何とかさんがねぷねぷとベールさんを狙った犯人何です?」

「いや、あくまでコンベルサシオンは実行犯であって主犯はルウィーの女神、ホワイトハート様かその側近辺りだと思うわ」

「おおっ!?何かよく分からないけど名推理キター!」

 

ベールとアイエフの説明にテンションを上げるネプテューヌ。その様子はとても被害者のそれとは見えなかったけど…戦いを前にしてテンション…というか士気が高まるのはむしろ好都合だった。

 

「…あれ?どうしてねぷねぷは命を狙われてベールさんは狙われなかったですか?」

「それは恐らくわたくしが守護女神戦争(ハード戦争)に興味が無いのを知って、生かしていても問題無いと考えたのだと思いますわ」

「…じゃあ、私が狙われなかったのは逆に全く情報が無かったから…とかかな?」

「可能性は高いわね。何せベール様やノワールだって知らなかったんだもの」

 

一通り説明を聞いた私達。そして罠を用意していたという場所はもうすぐそこまで近付いていたのだった。

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、この先はおばさん立ち入り禁止です」

「誰がおばさんだ誰が!」

「この場には貴女以外はいませんが?」

「貴様…消し炭にするぞ!?」

 

小山を抜けた更地に着いた私達の耳には言い争いらしき声が聞こえてきた。片方はチカさんの声、そしてもう一方の声の主は……

 

「そこまでよ、コンベルサシオン!」

「よくもわたしを殺そうとしたなー!絶対許さないんだからね!」

「ちっ…こいつは女神達が来るまでの時間稼ぎだったか…」

 

舌打ちをしながら私達の方を向くコンベルサシオンさん。その様子は教会ですれ違った時とは違い、敵意がありありと見えていた。

 

「チカ、ご苦労様でしたわ」

「いえ、お姉様の為ならこの位お安い御用ですわ」

「ふふっ、では後はわたくし達に任せて安全なところへ」

「はい、頑張って下さいお姉様」

「…さて、コンベルサシオンさんとやら…貴女にはネプテューヌを狙った罪の断罪とわたくしの力を返して貰います」

 

チカさんがその場を離れると同時に臨戦態勢に入る私達。普通の人間相手に五人がかりだったらあまりにも理不尽だけど…相手はネプテューヌとベールを嵌めた存在。油断する訳にはいかないよね。

 

「ほぉ、ただのオタク女神だと思っていたがそこまで調べたか」

「ゲーマーを舐めるな、という事ですわ。貴女の手口は先日発売の『闇夜にささやく〜探偵佐川総一郎』の犯人の手口と同じだっただけですけどね」

「へぇ、それは凄い…えぇ!?どんだけピンポイントな偶然なのそれ!?」

「まさしくゲーマー探偵ベール、って感じだね!」

「新ジャンルの名探偵さんの誕生です」

「く…どこのメーカーだか知らんが余計な物を作ってくれる!」

 

忌々しそうにゲームメーカーに毒づくコンベルサシオンさん。そして同時に彼女の身体から淡い光が放たれ始め…彼女の姿は全く違う者、魔窟で私達があった女性のそれとなる。

 

「あー!プラネテューヌであったおばさんだ!」

それが貴女の本当の姿…皆さん、彼女を知っているんですの?」

「はい、プラネテューヌでわたし達から鍵の欠片を奪おうとしてきた悪い人です。名前は…えっと……」

 

彼女の名前を忘れてしまったらしく言葉に詰まるコンパ。もう、仕方ないなぁ…教えてあげなきゃね。

 

「コンパ、マージェリンさんじゃないっけ?」

「え?マスタングじゃなかった?」

「あれ?マジェスティックプリンスじゃないの?」

「ど、どれが合ってるです…?」

「どれも間違いだッ!貴様等の頭はニワトリレベルか!」

 

え、えーと…あ、そうだマジェコンヌ!…さんに怒られてしまった私達。流石に今のは全面的に私達が悪いので心の中で謝りつつ改めてマジェコンヌさんを見据える。

 

「ふん…今回はあの時のようにはいかんぞ」

「そっちがその気ならこっちだって!いくよイリゼ!」

「うん!」

 

臨戦態勢に入ったマジェコンヌさんを見て同時に女神化する私とネプテューヌ。そして私達の女神化を合図に戦闘が始まる。

 

「はぁッ!」

『……っ!』

 

地を蹴り一気に距離を詰めると同時に槍を振るうマジェコンヌさん。私達は四散する事で回避し、女神化によって格段に身体能力が上がっている私とネプテューヌが即座に反撃を図る。それに対しマジェコンヌさんは回避行動に移る。

 

「皆!私とネプテューヌで陽動するから攻撃を!」

「それをさせるとでも?」

「悪いけどさせて貰うわ!」

 

私が仕掛け、反撃を図るマジェコンヌをネプテューヌが妨害。ネプテューヌと左右に分かれて挟撃。いつぞやのネプテューヌとノワール程ではないもののしっかりとした形の取れた連携によりマジェコンヌを封殺していく私達。マジェコンヌさんも数の上での劣勢さを感じさせない様な動きをするも…それは私達を上回りはしない。

 

「面倒な動きを…ならば二人まとめて…ッ!」

「貰いましたわッ!」

「ちぃッ!」

 

業を煮やし大振りの一撃を放とうとした瞬間、私とネプテューヌは空中に離脱しそれと同時にベールが肉薄、鋭い刺突を放つ。それを辛うじて柄で逸らすマジェコンヌ。

攻撃こそ失敗に終わったものの、目を見開いたマジェコンヌを見た私達はさらなる攻撃を仕掛ける。ベールが、コンパが、アイエフが私達の作る隙を正確に狙う事により、次第にマジェコンヌを追い詰めていった。

 

「喰らいなさいッ!」

「ぐっ……!…まさか、この私が追い込まれるとはな…」

「命までは取りませんわ。さぁ、大人しくわたくしの力を返して下さいまし」

「ほぅ、流石腐っても女神か…だが、私の本当の力を目の当たりにしていつまでも強がりを言えると思うな!」

 

跳躍し一度距離を取るマジェコンヌさん。状況から考えれば強がりを言っているのは彼女の方だと判断するのが普通だけど…マジェコンヌさんは強がりを言っている様な雰囲気では無かった。

 

「典型的な悪役の台詞ね…脅しなら通用しないわ!」

「脅しと思うなら思えばいいさ!だがな、この姿を見ても同じ事が言えると思うな!」

 

啖呵を切ると同時に宙へ浮くマジェコンヌさん。そして彼女は再び…否、先程とは似ても似つかぬ光を、私やネプテューヌにとっては馴染みのある光を放ち出す。そして、その光が収まった時、光の中心にいたのは……

 

「そ、その…姿は……!?」

「そうだ!貴様から奪った女神の力を使わせてもらったのだ!さぁ自らの力に滅ぼされるがいい!」

 

…私やネプテューヌ、ノワールの女神化した姿を彷彿とさせる、特異な瞳とユニットを纏ったマジェコンヌの姿だった。

 

 

 

 

強烈な槍の一撃が私達へと襲いかかる。それをネプテューヌと協力して止めるも、私達が反撃を放つ前に横薙ぎの様な蹴りが続き、私達は吹き飛ばされる。

…形勢は、完全に逆転していた。

 

「嘘でしょ…前にノワールと戦った時より私達は強くなってる筈なのに…」

「ラステイションの女神か…残念だったな、今の私は女神の力と私自身の力、その二つが融合した比類無き力なのだ!」

「きゃあぁぁぁぁッ!」

 

吹き飛ばされた私達の前へ一瞬で接近したマジェコンヌさんはネプテューヌへ上段からの一撃を叩き込む。辛うじてネプテューヌは大太刀で受けるも衝撃までは受け止めきれず再び吹き飛ばされる。

 

「この……ッ!」

「おっと、そう簡単にいくと思うなよ?」

「なら私達が…」

「させるものかッ!」

『ーーっ!?』

 

私の放った逆袈裟を刃で受け、更に側面から仕掛けようとしていたベール達へ電撃を放って返り討ちとするマジェコンヌさん。…私の中にあの時の…一撃で吹き飛ばされ、岩壁へ打ち付けられた時の恐怖が少しずつ浮かび上がってくる。

 

「さて、貴様には聞きたい事がある。何なんだ貴様は」

「そんなの…むしろ私が知りたい事ですよ…!」

「…しらばっくれている様子では無いな、なら良い。私の邪魔となるならば同じだ!」

「がぁ……っ!?」

 

逆袈裟を押し込もうとしていた私はマジェコンヌさんが前触れなく力を抜いた事で勢い余って前のめりになる。そこへ繰り出される柄での一撃。それを私が避けられる筈もなく肩口へ重い一撃が入る。幸い骨は折れなかったけど…力の差は歴然であった。

 

「イリゼ…!貴女、よくも…ぐぅっ!?」

「よくも、なんだネプテューヌ?ほぉら、いつもの減らず口を叩いてみろ!」

「……っ…」

「あぁ、無理だったか。それはすまない事をしたな…しかしこの姿にもそろそろ飽きてきたところだ。いよいよ貴様の力を貰うとしよう…どんな気分なのだろうな、自分の力に殺されるというのは」

 

首を絞め、ネプテューヌを持ち上げ嗤うマジェコンヌさん。彼女の手には魔窟でネプテューヌの力を奪おうとした時と同じ光が現れる。

…肩を庇いながら立ち上がる私。ネプテューヌの力を奪わせる訳にはいかない。だから、立ち上がる。

 

「待ち…なさい……!」

「何故貴様の言葉を聞く必要がある?…貴様は見ているが良い、ネプテューヌが力を奪われ…私にひれ伏す姿をな!」

 

私と二人の間は数メートル。マジェコンヌさんの手とネプテューヌの間は数十センチ。全力が出せる時ならいざ知らず、今の私にマジェコンヌさんよりも早く距離を詰める方法は無い。

…無理だった。ネプテューヌへと近付く手、それを見つめる事しか出来ない私。そして、私が失意を感じると同時にネプテューヌの力はマジェコンヌさんへと……

 

 

「そうは…させない……ッ!」

 

宙を踊る深緑の髪。マジェコンヌさんを押す腕。突然の攻撃を受けコピーを失敗、ネプテューヌを離してしまうマジェコンヌさん。

ネプテューヌを助け、マジェコンヌさんの野望を阻止した彼女は……ベールに言われた通りに逃げた筈のチカさんだった。

 

「貴様…まだいたのか…ッ!?」

「ふんっ、お姉様のピンチに駆けつけずしてお姉様の付き人なんて出来ないわ!」

「…あれは…光の玉……?」

 

マジェコンヌさんの女神化が解け、同時に彼女の身体から光の玉が抜け出すように出てくる。それに気付いたマジェコンヌさんは…気迫すら感じる程の憤怒の表情を浮かべていた。

 

「くっ…!貴様のせいでコピーはおろかせっかく手に入れた女神の力が……!」

「アイエフさん!それをお姉様へ!早く!」

「……っ!分かったわ!」

「この…クソがぁっ!」

「ぐふっ…アイエフさん…後は、頼むわ……」

「チカ……ッ!?」

 

状況をいち早く理解したアイエフが突出、自分の身も顧みずに光の玉を手に入れると同時にベールの元へ走る。その背ではマジェコンヌさんの攻撃を受け倒れるチカさん。今、戦況を覆す一手を進めているのは女神でも何でもない、普通の少女二人だった。

そして、それを見せられて何もしない私では、無い。

 

「させるものか…ッ!」

「私を忘れるな…マジェコンヌッ!」

「ちぃぃっ!」

 

アイエフを追おうとするマジェコンヌの前へ滑り込み、長剣を振るう私。その攻撃は有効打とはならなかったものの…時間を稼ぐには十分だった。

 

「ベール様、急いでこれを!」

「…えぇ…この感じ、懐かしいですわ……」

 

光の玉を受け取るベール。光の玉は流れる様にベールの身体へと入り…ベールが、女神化の光に包まれる。

 

 

「…チカとあいちゃんが身を挺して取り戻してくれたこの力、このチャンス…必ず無駄にはしませんわ!」

 

光の中より現れるベール。

本当の力を取り戻した女神、グリーンハート。

そして、戦いは第二ラウンドを迎える。

 




今回のパロディ解説

・超女神級の名探偵
ダンガンロンパシリーズの生徒の異名『超高校級の○○』のパロディ。ベールのキャラ的に合うのは名探偵ではなく…やはり超女神級のゲーマーですね。

・マジェスティックプリンス
銀河機攻隊 マジェスティックプリンスの事。原作でもマジェコンヌは名前を色々と間違われていますが、我ながらこれは無理のある間違いの様な気もします。


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第二十二話 逆転と進展

--------自分は、一人だと思っていた。尊敬される女神、信仰される対象、特別な…そして、周りとは一線を画す存在。それが自分なのだと思っていたし、今思えばサブカル…特にネトゲにはまった理由の一つがそれなのかもしれない(あくまで側面的なのですけどね)。

…でも今は違う。自分が一人だと『思い込んでいた』だけだった。会って数日の関係であるにも関わらず、自分の為に共に戦ってくれるネプテューヌ、コンパさん、イリゼさん…いえ、イリゼ。暴走こそしてしまったものの…否、暴走する程にまで自分の為になろうとしてくれたイヴォワール。そして……グリーンハートとしてのわたくし、ベールとしてのわたくしの両方を好いてくれるあいちゃんとチカ。そんな人達のお陰でわたくしは女神としての力を…そして、自分が一人ではない事を知る事が出来た。だから……

 

「もうこれ以上は貴女の好きにはさせませんわ。覚悟して下さいまし」

 

わたくしは、この力をわたくしの大切な人達の為に使いますわ。

 

 

 

 

「ち…力を奪うどころかむしろ奪い返されたか…何故こうも上手くいかんのだ…!」

 

力を失い、元の姿へと戻ったマジェコンヌ。力を取り戻し、女神化をしたベール。それは、圧倒的劣勢に追い込まれていた戦況を変える要素になるであろう事は明白だった。

 

「助かりましたわあいちゃん、イリゼ」

「い、いえ!それより女神の力を取り戻せて良かったですね」

「お安い御用だよ、女神の力をまたマジェコンヌに取られたらそれこそ積みだったし」

「そうですわね…ネプテューヌ、コンパさん大丈夫でして?」

「この位どうって事ない…とは言えないけど、まだやれるわ」

「ねぷねぷが頑張るなら…わたしも頑張るです…!」

 

ネプテューヌとコンパが立ち上がり、私達五人が揃い踏む。全員手負いの状態ではあったものの、ネプテューヌの言う通りまた戦える。勝機は、ある。

 

「ふん、死に損ない共が…!私の手が一つだけだと思うなよ!」

『……!エネミーディスク!?』

 

マジェコンヌが懐から取り出したのはエネミーディスク。雑魚をわらわらと呼び出すのは戦闘開始直後か後の無くなった敵キャラの悪あがきかが定番であり、今回の場合は後者に当たるけど…流石に楽観視は出来ない。数で上回るというアドバンテージが無くなってしまうからだ。

 

「また面倒な物を出されたわね…ベール、あれはモンスターを召喚する道具よ、細かい説明は…」

「えぇ、後回しでいいですわ」

「マジェコンヌとモンスター両方を相手にするのはキツいね…コンパ、アイエフ、モンスターの方はお願い出来る?」

 

モンスターを片付けるだけなら全員で動いた方が手っ取り早いし安全性もある。でも、モンスターと共にいるのはマジェコンヌ、彼女は安易に背を向けられる相手では…無い。

 

「構わないわ、マジェコンヌ相手じゃ分が悪いし」

「モンスターさん退治は任せるです」

「じゃ、行くわよ皆!」

 

ネプテューヌの言葉を合図に私、ネプテューヌ、ベールの女神三人が中央突破、そして慌てて私達の背を狙おうとするモンスター達の背を逆にコンパとアイエフが強襲する。これは五人という人数と女神のスピードがあったからこそ出来た戦法。ただ数を揃えただけのマジェコンヌには取れない戦法だった。

 

「さぁ、年貢の収め時ですわよッ!」

「貴様に収める年貢などあるか!」

 

一直線に突っ込む私達に対し電撃を放つマジェコンヌ。しかし常人ならば回避は困難な雷の槍も女神、それも三人相手に有効打とするには攻撃範囲が狭過ぎた。着弾よりも一瞬早く散開しそこから再び加速した私達はマジェコンヌへの肉薄に成功する。

 

「ちょこまかと鬱陶しい…!このッ!」

「させませんわよ?ネプテューヌ!イリゼ!」

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

遠距離での迎撃を諦めマジェコンヌは横薙ぎで一掃を図る。だが、いち早く接近したのは同じく槍使いであるベール。彼女は動きを正確に見定め、自身の槍を割り込ませる事で攻撃を阻止する。

攻撃の止まったマジェコンヌに対する私とネプテューヌの挟撃。間一髪マジェコンヌは後退する事で回避するが…それこそが私達の予想するところだった。そのまま交差する形で駆け抜け道を開ける私とネプテューヌ。そこへ地を蹴ったベールが突貫する。

 

「な……ッ!?」

「まずは…一撃ッ!」

「……ッ!……?…なんだ…この絶妙なチャンスに攻撃を外すとは貴様もまだまだ甘い--------」

「あら、本当にそう思うのでして?」

「…何を言って…んな……ッ!?」

 

すれ違う様にマジェコンヌの横を駆けるベール。自身にダメージが来なかった事でベールのミスだと判断したマジェコンヌだったが…左手を見て驚愕する。そこにあったのは割れたディスク。…ベールは最初からディスクの破壊が目的だったのであり、それは即ちモンスターの増援が打ち止めとなった事を意味していた。

 

「あいちゃん、コンパさん、大丈夫でして?」

「はい、このままなら倒しきれます!」

「貴様……ッ!」

「これでマジェコンヌに専念出来る…ねっ!」

 

無論、攻撃の手を休める私達ではない。戦闘において有利になる程敵の一手で動揺しやすくなるのが戦の定石ではあるものの、慎重になり過ぎると好機を逃しやすくなるのもまた事実。だからこそ大事なのは慎重かつ大胆に、だった。

 

「ぐぅぅ…!何故だ、何故こうもまた…ッ!」

「何故って?そんなの…この世に悪の栄えた試しはないってだけよ!」

「一気に攻め落とすよ、皆!」

 

光の尾を引きながら次々と攻撃を仕掛ける私達。それを辛うじてとはいえ捌くマジェコンヌの技量も大したものではあったが…それはギリギリ耐えている、の域を出るものではなかった。

上昇からの宙返りを行い、流星の様にマジェコンヌへと突進するネプテューヌ。それを察知したマジェコンヌは回避をするも、その回避先にいたのはベール。目を見開くマジェコンヌに対し放たれた鋭い刺突は掲げられた槍を吹き飛ばし、マジェコンヌ自身も後退させる。そして……

 

「チェックメイト、だね」

 

宙へ飛んだ槍に上段斬りを叩き込む私。持ち主を失った槍は当然なすすべもなく、空の彼方へ飛んでいった。

 

「こっちは終わったわね…」

「こっちもですよ」

 

コンパの声に反応して後ろを見ると、そこには二人と注射器とカタールで刺されて消滅していくモンスターの姿があった。あっちも無事終わった様である。

 

「まさか、ここまでやるとは…」

「月並みな言葉ですが、チカやあいちゃんのお陰ですわ」

 

槍を軽く振るい、アイエフとチカさんを一瞥した後声を発するベール。その言葉は優しく美しいものだったが…私、ネプテューヌ、コンパの三人は納得がいかない。

 

「…ベール、わたし達も戦ったんだけど?」

「ベールさん酷いですぅ」

「こう…何かちょっと残念な気持ちになるよね…」

「あ、いえその…今のは差別を考えていた訳ではなく、決して貴女達を無下にしている訳では…」

「冗談よ、無事に力が戻って良かったわね」

「…えぇ、改めてお礼を申し上げますわ」

 

笑みを浮かべ合うネプテューヌとベール。そして二人は再びマジェコンヌへ…私達とリーンボックスを陥れようとした宣教師へ鋭い視線を向ける。

 

「さて…洗いざらいに話してもらいましょうか、貴女のバックにいる存在を」

「ふん、やはり貴様等は生温いな」

「この状況下で何を……」

「悔しいがここは貴様等の勝ちとしてやろう、だが次は貴様等を倒す!さらばだっ!」

「逃げた!?」

 

暗い光を放つと同時に消え去るマジェコンヌ。いくら女神と言えど瞬間移動らしき事をした相手までは追う事が出来ない。…しかし、今回あの人何回身体から光放ったんだろう…。

 

「くっ、まさかあんな手があったとは…今度会った時には絶対に捉えてみせますわ…」

「そうね、でも今は一旦戻らない?わたしも皆もボロボロだわ」

「……っ!そうでしたわ、一刻も早くチカの治療をしなくては…!」

「あ!皆、ちょっと待つです!」

 

一息ついた事で思い出したのか、慌ててチカさんを抱えて飛翔しようとしたベールと私達を制止するコンパ。彼女の手には何かが握られていた。

 

「どうしたのコンパ、何か見つけた?」

「はいです、これってもしかして…」

「……!?これは…鍵の欠片!?どうしてここに!?」

 

コンパが手にしていたのは不思議な形の欠片。確かに前にネプテューヌに見せてもらった物と形が似ている。そして、全員がその鍵の欠片に注目した時…どこからか、声が聞こえた。

 

「--------それは、私が説明しましょう」

 

 

 

 

「マジェコンヌも鍵の欠片を集めていたのね…」

「ええ、今回はネプテューヌさん達に鍵の欠片を奪われる事を危惧して回収した帰りだったのだと思います」

 

いーすんことイストワールさんが私達に説明をしてくれる。最初は姿無き声に驚いた私、アイエフ、ベールだったけど…何度も女神化したりモンスターの出てくるディスクを見たりした私達はこういう超常的な事にもすぐ慣れる様になっていた。…それが良い事かどうかは別として。

 

「それと、皆さんに警告しなければなりません。マジェコンヌの力はあくまでコピーであり、他者の力を奪う事ではありません」

「…つまり、どういう事なの?」

「…わたくしの力は無事取り戻す事が出来ましたが、その力をコピーされている可能性がある…という事ではなくて?」

「その通りです。いずれ彼女はコピーしたベールさんの力を最適化し、完全に自分の物とするでしょう」

 

完全に最適化し、自分の物とする。それは裏を返せば先程の力は不完全な物だったという事である。あれ以上に強くなる可能性があると知った私達は、背に悪寒が走る様な感覚を感じた。

 

「ですから、くれぐれも彼女の力には気を付けて下さい」

「…あの、イストワールさん。一つお願い良いですか?」

「はい、なんでしょう?」

 

イストワールさんの話が終わった所で私はあるお願いをイストワールさんに頼み込む。その願いは勿論…

 

「記憶の復元、ですか…。分かりました、お任せ下さい」

「本当ですか!?…やった…やっと私の記憶の糸口が見えた…」

「良かったわね、イリゼ」

「…すみません、どうやら時間の様です。それでは皆さん、鍵の欠片をお願いします」

 

私が喜ぶのも束の間、鍵の欠片のエネルギーが切れてしまったのかイストワールさんの声が聞こえなくなる。彼女の言う通り、話せるのは一時的な物だった。

 

「声、聞こえなくなっちゃったですぅ」

「けど、色々と知る事が出来たわ」

「だね、私も自分の事が大きく前進したし」

「わたくしも二度とこの様な事にならない様気をつけませんと…さて、今度こそ戻りますわよ」

 

チカさんの身を案じいち早く動き出すベール、そしてそれに続く私達。満身創痍の私達は休める場所を求めて自然と足を速めていた。

 

 

 

 

ベットで寝ているチカさん。手当ての為に救急キットを開くコンパ。そして手当てを受ける私達。ダンジョンからリーンボックスの教会に戻ってから数十分が経過していた。

 

「その…コンパさん、チカは大丈夫なんでして?」

「はいです。暫くは激しい運動とかしちゃ駄目ですけど、命に別状は無いですよ」

「ベール様、何度もそれ聞いてますね…」

 

アイエフの言う通り、ベールは何度もチカさんの容態について聞いていた。数えてはいないから厳密な回数は分からないけど…まあ、アイエフがちょっと嫉妬する位には聞いていた。

 

「わたくしの為に怪我したとなれば心配になるに決まっていますわ。…いっそ灼爛殲鬼(カマエル)霊結晶(セフィラ)を飲ませれば…」

「ここら一帯が火の海になるよ!?そして箱崎シスター編が始まっちゃうよ!?」

「ベールのテンパりぶり半端ないね…」

 

チカさんを過保護な程心配するベールに苦笑を隠せない私達。最初チカさんにお姉様と言われて辟易としてたけど…仲が良いのは間違いないみたいだね。

…と、その時、

 

「……っ…ここは…?」

「……っ!チカ!」

「ひゃい!?」

「べ、ベール様!?」

 

目を覚ましたチカさんと、身体を起こしたチカさんを抱き締めるベール。そしてショックを受けるアイエフ。

なんと、三角関係らしき何かが完成していた。

 

「お、おおおお姉様これは一体…!?」

「身体が弱いのに無理をして…!心配かけさせるんじゃありませんわ…!」

「お姉様…あぅ……」

「……ねぇネプテューヌ、コンパ…私達どうすれば良いと思う?」

『さ、さぁ……』

 

本気で心配していたベールと卒倒しそうになっているチカさんの間に割り込む事は流石に出来ない。と、言う訳で私達は百合百合状態の二人ではなく…アイエフの方に話しかける事にした。

 

「えっと…その、元気出すですよあいちゃん」

「別に…私は元気ですよーだ…」

「あ、あいちゃんがいじけてる…」

「アイエフ、まだ挽回のチャンスはあるよきっと…」

 

何とかアイエフを慰めようとする私達だけど、アイエフが元気になる様子は無い。…となれば、元気にする方法は一つ!

 

「…アイエフ、ちょっとごめんね…ていやっ!」

「わっ!?」

「きゃっ!?」

 

私に背中を押されて前へつんのめるアイエフ。そしてその先にいるのは勿論ベール。私の行動に対しネプテューヌとコンパはサムズアップをしてくれる。やったね。

 

「な、何するのよイリゼ…あの、急にすいませんベール様…」

「あいちゃん…チカもあいちゃんもわたくしの為に頑張ってくれて嬉しかったですわ…」

「ベール様…」

「お姉様…」

 

ベールとチカさんの百合百合フィールドにアイエフが介入、トライアングル百合百合フィールドへと変化する。…って、トライアングル百合百合フィールドって何だろう…。

 

「さてと…あっちは多分暫く戻ってこないだろうしわたし達はどうする?」

「せっかくだしゆっくりしない?リーンボックスに来てからあんまり落ち着いていられる時間ってなかったし」

「そうだね、コンパープリンあるー?」

「ふふっ、そう言うと思って買っておいたですよー」

「流石コンパ!まさに心の友だよ!」

 

三人の様子を温かい目で見守りながらコンパの買ってきたプリンを食べる私達。

まだまだ問題は残っているものの、やっと騒動を解決させる事の出来た私達の間には、穏やかな時間が流れていたのであった…。

 

 

……因みに、その十分後位にイヴォワールさんが部屋に来てぽかーんとするという事があったんだけど…ま、まあこれは語らなくて良いよね、うん…。




今回のパロディ解説

灼爛殲鬼(カマエル)霊結晶(セフィラ)
デート・ア・ライブにおける精霊の天使と精霊化の元となった結晶の事。ある意味義姉妹と言えない事もない(多分)ベールとチカならではのパロディではないでしょうか。

・箱崎シスター
上記と同じくデート・ア・ライブのパロディであり、四巻のタイトル『五河シスター』の事。残念ながら『箱崎』には漢数字が入ってませんがご許し下さい。

・心の友
皆さんご存知ドラえもんシリーズのキャラ、ジャイアン(剛田 武)の代名詞の一つ。元ネタではだいたい言われた相手が困る事が多いですが、パロディなので困ってませんね。

ここ数話において、イリゼ達がまだ知らない筈のマジェコンヌの名を知っていたというミスを犯した事が発覚しましたので、第三話にマジェコンヌが名を名乗る台詞を追加しました。確認が足りていなかった事をお詫びします。


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第二十三話 女神の在り方

--------一騒動済んだ翌日。私達は何だかんだで訪れる事の出来ていなかった喫茶店へと来ていた。勿論、ベールも一緒にね。

 

「んー、このスコーン噂通り美味しいね」

「うんうん、あいちゃんの情報網様々だね」

「こういう時の為の情報網じゃないけど…まあ、自分なりの情報網作っておいて損は無いわよ」

 

得てして女の子はお茶会が好きだったりする。それはダンジョンへと入り、武器を振り回し、モンスターを倒すという普通の女の子の域を大分逸脱している私達も例外じゃない。…まあ、私達が行ってるのがお茶会と呼べるかどうかは微妙だけど…。

 

「それにしても、良い眺めですねぇ」

「こういうの景観が良い、って言うんだっけ?リーンボックスはこういう所に力入れてるの?」

「えぇ、元々リーンボックスは他国より自然が豊かでしたの。なので人の文明を発達させつつも環境を保全し、尚且つ食と観光の面で活かしているのですわ」

「へー、やっぱ女神なだけあってちゃんと考えてるんだね」

「ネプテューヌ…貴女も女神でしてよ…?」

 

嘆息するベール。あっけらかんとするネプテューヌ。当然ながらこの場にはコンパとアイエフというそれぞれの信仰者がいる訳だけど…二人がそれを気にしているのかどうかは読者の皆さんなら分かるよね。

 

「…あ、そうそう女神と言えばちょっと聞きたいんだけどさ、女神ってそんなほいほいと出かけて良いの?わたし的にはそっちの方が楽で良いけどさ」

「流石に音信不通になるのは駄目だと思いますが、普通に生活する分には良いと思いますわよ?第一護衛がいては何かあった時むしろ邪魔になりかねませんし」

「あぁ…女神化の為の一瞬さえあれば基本私達護衛要らずだもんね…じゃあ、仕事の方は?少ないって事はないでしょ?」

 

丁度良いタイミングだったので私は前々からの疑問を口にする。ベールは勿論、訳ありとは言え女神の座にいる事に変わりなかったノワールもそこまで仕事に追われてた様子がなかったのはどうも引っかかってたんだよね。

 

「ふふっ…イリゼ、良い質問ですわ」

「え?あ、うん…何かありがと…」

「女神の仕事は多岐に渡るので細かい説明は省きますが…結論から言うと仕事の量は調整出来るんですの」

「一番偉い人だからです?」

「えぇ、厳密にはもう一方のトップとして教祖がいますので全てを即決出来る訳ではありませんのですけどね」

 

ベール曰く、女神と教祖の関係は国によって違うらしい。幸いにも私達は既に二組の女神と教祖を見てきたのでここはすんなりと納得する事が出来た。

 

「…はっ!という事はまさか…上手く教祖さんを言いくるめれば仕事無しでも良いって事!?」

「ねぷ子あんた…ベール様、きっちりねぷ子に教えてあげて下さい」

「いえ、やろうと思えば出来ますのよ?」

「え……!?」

「まぁ、全く仕事もせずにシェア…つまりは支持率を維持出来るのであれば、ですけどね」

 

女神はシェアが無ければ女神でいられない(らしい)ので、結局は仕事ゼロにするのは厳しいという事らしい。それを聞いたネプテューヌは本当に残念そうにしていた。…ネプテューヌ……。

 

「ねぷ子、この際ベール様に女神について徹底的に教えてもらったら?」

「えー、せっかくのガールズトークなのに?」

「ねぷ子の口からガールズトークなんて言葉を聞くとは…」

「ねぷねぷも女の子ですからね」

 

そこから暫く私達は他愛ない、それこそ普通の女の子らしい時間を過ごした。過半数が女神だったり、短期間に複数の国を回ってたりと中々に特殊な私達でもこういう時間は過ごせるんだなぁ…と、ちょっとしみじみに感じてた私だけど…ムード&トラブルメーカーネプテューヌが今回もやらかしてくれた。

 

「お待たせしました〜」

「あ、はーい…って、え……?」

 

店員さんが運んで来たのは白いクリームと柔らかなスポンジ、それに赤くみずみずしい苺の乗った美味しそうなケーキ……の、ワンホール。しかも結構でっかい…。

 

「これ…誰が注文したの…?」

「わたしだよ?すっごく美味しそうでしょ?」

「いや、それには同意だけどさ…明らかに今いる人数分以上の量だよねこれ…」

「でもほら言うじゃん、デザートは別腹だって」

『えぇー……』

 

当たり前だけどデザートは別腹っていうのは例えだとか精神的なものであって、ほんとにデザート専用のお腹がある訳じゃない。…まあ、食べるけど。

 

「ふわふわで美味しいですぅ」

「こんぱのプリンも良いけどこのケーキも中々だよね」

「コンパさんのプリンですか…機会があればわたくしにも下さいな」

「勿論です。欲しい時は言って下さいね」

 

ホール状態のままフォークをぶっ刺して食べる訳にはいかないので五人分に切り分けて食べ始める私達。お店のメニューなだけあって味は満足いくものであり、そのおかげで最初こそ景気良く減っていったものの…

 

「……多くない…?」

『これ頼んだの(ネプテューヌ・ねぷ子)でしょうが!』

「ですよねー…美味しいのにお腹が要らないって言ってるよ…」

「こういう時は殿方がいてほしくなりますわね…」

 

何だか微妙にアレな気分となっていく私達。幸い少食な面子ではなかったのでゆっくりとだけど何とか量を減らしていき、やっとの思いで最終的には完食に成功した。…した、んだけどさ…

 

(ウエストが…来る前より明らかにキツい……)

 

喫茶店からの帰り道は女性全体の死活問題に悩まされる事となってしまった私達だった……。

 

 

 

 

『第二回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inべるべるの家』

 

教会に戻って数十分後、ベールの部屋にはなんだか見覚えのある看板が吊るされていた。

 

「…まさかラステイションからずっと持ってたの?」

「まっさかー、前のはノワールにプレゼントという形で置いてきたよ?」

「嫌なプレゼントねそれ…」

 

ラステイションでの会を知らないベールはきょとんとしていたけど、他四人は一度経験しているので前回よりもすんなりと会議(?)が始まった。

 

「ま、取り敢えずはプラネテューヌに戻りましょ。今のままルウィーに行くのは賢明じゃないし」

「え、そうなの?」

「ルウィーは所謂雪国、気温がリーンボックスとは全然違いますものね」

 

アイエフとベール曰く、ルウィーは殆ど一年中雪が積もっているらしい。そんな雪国であるルウィーに何の準備も無しに行くのは普通に避けたいという事で一旦プラネテューヌへ戻るという事に決定した。

 

「速攻で決まったですね」

「話が早いと楽だよね」

「そうね」

「ですわね」

「…………」

「…………」

「……え?」

 

あろう事かなまじすんなりと会議が進んでしまったばっかりに話が途切れてしまった。…ロクに脱線しないのも考えものだよね…。

そして、こういう時必ずボケてくれるネプテューヌと言えば……

 

「雪国かぁ…雪合戦と雪だるま作りのどっちかはやろっかなぁ…あ、かまくら作りもいいかも…」

 

宙を見ながらルウィーでやりたい事を口に出していた。その姿たるや、私達が一瞬揃ってほっこりしちゃう位ほんわかしていた…。

 

「え、ええっと…取り敢えず会議の方はどうする…?」

「簡単にだけど方針は決まったし閉会で良いんじゃない?…あ、ベール様は今後どうするんですか?」

「そうですわね…国内の魔王崇拝やエネミーディスクの取り締まりをしなければなりませんし、お仕事も溜まっているのであまり自由には動けない事は分かってますわ」

「じゃあベール様もノワールさんと一緒でついてくる事は出来ないですか?」

「今すぐプラネテューヌに行く、という事でしたら残念ながらそうですわね…」

 

先程ベールは仕事の量は調整出来るとは言っていたけど…今回はその調整で何とかなるレベルじゃなかったらしい。まあ、事態から考えたら当然だよね…。

 

「そうですか…その、お仕事頑張って下さいね…」

「ふふっ、心配せずともすぐに終わらせてあいちゃん達に合流しますわよ?」

「あ、い、いやそのそういう訳ではなくてですね?…勿論そっちの方が嬉しいですけど…」

「二人共仲良しさんですね〜」

 

いつの間にか脱線をしていた会議。ただ最低限決めるべき事は決めていたからかそのまま会議入るからなぁなぁで終わってしまった……うん、ある意味私達らしいよね…。

 

 

 

 

「さて、と…皆、支度は大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「モチのロンだよ!」

「これで良しっと…私も出来たよ」

 

ぐたぐた会議を行った翌日の昼下がり、私達は荷物を持ってリーンボックス教会を後にした。ほんとはもう少しリーンボックスの観光したりまったりしたかったけど…

 

「まさかこの数日でマジェコンヌが鍵の欠片手に入れてたりはしないよね?」

「流石にそれは無いでしょ。あのサイズじゃ目立たないしダンジョンだっていくつもあるもの」

「でもあんまりゆっくりしてたら取られちゃっていーすんさんとねぷねぷ達の記憶の復活が出来なくなっちゃうです」

 

ダンジョンでのマジェコンヌとイストワールさんの言葉が私達にゆっくりする事を(あんまり←これ重要だよ)許してくれなかった。まあ、大変と言えば大変だけど記憶を取り戻す為なら仕方ないよね。

 

「でもさー、そう考えるとわたし達が集めるのも凄い大変だよね。キーブレードで代用出来ないかな?」

「キーブレードを手に入れるのは鍵の欠片集める以上に難しい気がするんだけど…」

「ま、地道に探すしかないわよ。ヒントも何もないんだから」

 

そう言って歩みを進める私達。時に雑談をしながら、時にふらふらとお店に入ろうとするネプテューヌを引き止めながら歩いて行き、段々とリーンボックスの中心街から離れていく。

 

「また来たくなる場所だったですね」

「そうね、今度は旅の一環じゃなくて私用としてベール様に会いに行きたいわ…」

「そう言ってもらえると女神としても一個人としても嬉しいですわ」

「だってさ。ベールも喜んでるしまた……って…」

『えぇっ!?』

「あら、どうしたんですの?」

 

違和感なく会話に入ってきたのはまさかのベール。仕事、特に取り締まり関係の事が溜まっていると言っていた筈のベールだった。

 

「どうしたもこうしたも…昨日と言っている事違くない!?」

「そうでしたっけ?」

「え?だってベールすぐにプラネテューヌに行くのは無理だって…」

「あぁ、その事ですの…オタクの徹夜能力を舐めてもらっては困りますわ」

『え、えぇー……』

 

なんていうか、その…ベールは規格外だった…。良い意味でも、悪い意味でも……。

 

「まあ、国外で出来る仕事やチカやイヴォワールに任せられる仕事はやってませんので一日で全て片付けた訳ではありませんの」

「いやそれでも色々と無茶苦茶だよ…どうしてまたそんな急いで…」

「そんなの…あいちゃんと一緒に居たいからに決まってますわ!」

「ふぇぇ!?」

 

満面の笑みを浮かべながらアイエフを抱き締めるベール。ベールの背が高かった事と不意に抱き締められた事…そして何より、ベールが豊かな胸を持っていた事によりアイエフの顔はベールの胸に埋まっていた…あ、あんなの現実にあるんだ…。

 

「うわ、何あれ…ぱふぱふ……?」

「何だか凄いですぅ…」

「……ねぇネプテューヌ、何か私今すっごい劣等感感じてるんだけど…」

「あー、うん…その気持ち分かるよ…」

 

ベールの胸元を見て、その後視線を下に向ける。もう一度ベールを見て、また視線を下げる。……うぅ、女の子は胸が全てじゃないんだからねっ!

…と、私が圧倒的戦力差を目の当たりにしていた時、遠くから何やら声が聞こえてきた。

 

「……?この声…聞き覚えが…」

「誰かを呼んでる様な感じです」

「…わたくしでして?」

 

確かに耳を澄ませてみるとベールの名前を呼んでいる様に聞こえた。…と、同時に二人の人影が見えてくる。その姿は…

 

「…チカ?それにイヴォワールも…」

「はぁ、はぁ…やっと…追いつきましたな…」

「お、お姉様…何、を……!?」

「ただのスキンシップですわよ?…で、どうしたんですの?」

 

ただ見送りに来た訳じゃないと察したベールはアイエフを放し二人の方を向く。それに対して二人は息を整える為に数分休んだ後…単刀直入に切り出してきた。

 

「…ベール様。誠に勝手でございますが…本日を持って私イヴォワールは教祖代行を辞任させて頂きます」

「……!?…どういう…事、ですの…?」

「今回の件ではっきりと分かりました。私は既に教祖としての任を全うするだけの技量は無いと」

「な…っ!そ、そんな事急に言われましても…教祖の後任はどうする気ですの!?これではわたくしがあいちゃん達についていけないではありませんの!」

 

突然の事態に驚く私達。おおよそシリアスさの感じられない会話をしていた私達にとってイヴォワールさんの辞任宣言は正に急転直下の出来事だった。特に関係の深いベールにとっては衝撃だったらしく、見るからに動揺していた(若干しょうもない事も言っていた気もするけど…)。

 

「安心して下さい。きちんと後任は決めております」

「安心出来る訳ありませんわ!教祖という重要な任を任せるなど--------」

「…後任は、教祖の本家であり先代教祖の娘であるチカに任せようと思っています」

「チカに…?……なら安心出来ますわね」

「や、やっぱりそうですよね…まだ未熟なアタクシ程度では……へ?」

「何を驚いた顔をしてるんですの?」

 

今まで動揺しっぱなしだったものの、後任をチカさんが行うと聞いた瞬間落ち着きを取り戻したベール。そのあまりの急変ぶりに今度は逆にチカさんが動揺してしまっていた。

 

「え、だ、だって…アタクシはまだお姉様に迷惑ばかりかけている身で…」

「イヴォワールが勧めるのなら問題ありませんわ。それに貴女は付き人としてわたくしを見てきたでしょう?」

「そ、それは…本当に良いんですの…?」

 

動揺しながら、どこか不安そうにベールを見つめるチカさん。そんなチカさんに対しベールは…姉の様な、優しい笑みを浮かべながら言った。

 

「…チカ、わたくしがチカを付き人としたのは教祖の娘だからではなく、貴女を一番信用していたからですわ。貴女ならきっと教祖としてやっていけると信じていますわ。…わたくしの言葉は信じられませんの?」

「…ありがとうございます、お姉様……アタクシ…アタクシ箱崎チカは…教祖として、精一杯…頑張らせて頂きますわ…っ!」

「えぇ、期待していますわ。イヴォワールもチカのサポート、頼みましたわよ?」

「勿論です、リーンボックスはお任せ下さい」

 

感極まったのか、上擦った声を上げながらベールに抱き付くチカさん。そんなチカさんをベールは受け止め、頭を撫でながら二人にリーンボックスを任せると言った。

 

「…凄いね、ベールもリーンボックスも…」

「うん、わたしも女神として仕事するならあんな人達に手伝ってもらいたいな」

「…さて、お待たせしましたわね皆さん。行きましょうか」

「え…もう良いんですかベール様…」

「大丈夫ですわ、二人共信用に足る人物ですもの」

 

そう言って再び歩き出すベール。彼女は駄目人間みたいな部分もあって、おっとりしている様な雰囲気もあったけど…その後ろ姿は、その在り方は…紛れもなく、女神だった。




今回のパロディ解説

・良い質問ですわ
学べるニュースでお馴染みのジャーナリスト、池上彰さんの代名詞『良い質問ですね』の事。…実際にあの場に池上彰さんがいたら良い質問ですね、と言うのでしょうか…?

・キーブレード
KHシリーズの重要な要素の一つであり武器。作中で判断出来る様な描写は無いので断言は出来ませんが…キーブレードはまあまず粉々の欠片に出来る物ではないでしょう。

・ぱふぱふ
ドラクエことドラゴンクエストシリーズのネタ(?)の一つ。ベールなら普通に出来そうな感じではありますが…女の子に対してやるのはどうなんでしょうね…。


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第二十四話 束の間の休憩、再度の騒動

「あ、プリンはっけーん!」

「子供じゃないんだから関係無い物買おうとしないの」

 

プラネテューヌに戻って二日後。お日様が丁度一番高い位置に登った位の時間に、私とネプテューヌはスーパーに来ていた。因みに私は左手に買い物メモ、右手に買い物カゴというお使いスタイルである。

 

「えー、でもこんぱなら許してくれると思うよ?」

「ネプテューヌ、親しき中にも礼儀ありって知ってる?」

「下敷き長いな例によって?」

「そのボケは無理があるから…」

 

それなりに買う物の数があったからネプテューヌに着いてきて貰ったんだけど…これじゃむしろ余計大変そうかも……。

 

「むむ…何だかんだわたしに甘いイリゼならプリンも見逃してくれると思ったのに…」

「いやそりゃお使いのお金で関係無い物買おうとするのは見逃せないから…」

「ちぇっ…まあ良いや、買わずともこんぱが美味しいプリン作ってくれるし」

「ほんとコンパって優しいよね…さてと、頼まれた物はカゴに入れたしレジ行こっか」

「え、ロック?アイス?スチル?それともギガス?」

「誰も古代のポケモン捕まえに行くとは言ってないから…」

 

ネプテューヌのボケを適宜捌きつつレジへ向かう私。私もネプテューヌも記憶喪失と言う稀有なコンビだったけど勿論レジをスルーして帰ったりはしない。記憶は失っても常識は覚えてる自分の頭にちょっとだけ感心する。

 

「はいネプテューヌ、半分持って」

「はいはーい、よいしょっと」

 

レジを通って(当然お金も払って)買った物を袋に入れた後スーパーを出る私達。…しかし、そこである問題に対面する。

 

「…あれ、ここ右だっけ?」

「え?もう一つ先を右じゃなかった?」

「…………」

「…………」

『……これは困ったね…』

 

買い物に関する知識はあっても記憶に無い土地の道筋はある訳がない。そして、このプラネテューヌという国はなまじ発展してるだけあって大変道が分かり辛かった…。

 

「と、取り敢えず一ヶ所回ってみる?」

「それで迷っちゃったら一番不味いじゃん。こういう時はこんぱかあいちゃんに連絡を…」

「連絡手段無いから…うぅん、高層ビルが多くて目印になるものもないし…」

「もー!こんな国にしたのは誰なのさ!」

 

よほど余裕が無くなっていたのか、或いは自分が女神だとまだイマイチ実感してないからなのか、とにかくネプテューヌは思い切りブーメラン発言をしていた。

 

「まさか数少ない記憶で困らされる事になるなんて…」

「…あ、なら思い出せそうな事すれば良いんじゃない?」

「…と、言うと?」

「うーん…『思い…出した!』って言うとか記憶のロジックカードを探すとか?」

「……アーウン、ソーダネー…」

「わわっ、ごめん!ボケたのは謝るからもうこの子に相談するのは止めようみたいな顔しないで!イリゼにその反応されるのは流石にちょっとダメージでかいから!」

 

ネプテューヌの明るさに私は何度も助けられてるし、この性格こそがネプテューヌの長所でもあると思う。…でも、長所は同時に短所でもあるよね…。…って、え?

 

「…何その言い方。私だと特にダメージでかいの?」

「あー…えっとね、イリゼってわたしと同じ様に記憶喪失でしょ?それに同じ力も持ってるし、こんぱやあいちゃんとはまた別の形で優しいじゃん?だからわたし的にイリゼはわたしの理解者かなー…とか思ってたんだけど…違った?」

「……もう、この子は全く…大丈夫、その認識で間違ってないよ」

 

そんな言い方をされてしまったら怒る気も起きないし、しょうがないなぁ…って気持ちになる。いつでもどこでも打算なんてない、素直でまっすぐなネプテューヌだからこそ深みの出る言葉。記憶が無くてもネプテューヌは女神なんだなぁ…と、思った瞬間だった。

…因みに、この後五分足らずで道を思い出して何事も無く帰った私達だったりする。

 

 

 

 

「皆、いるかしら?」

 

皆でレースゲームをしていた時、唯一出かけていたアイエフが帰ってきた。帰ってきて早々に言ったその台詞と様子から、何かしらあったのだろうという事は推測出来る。

 

「あいちゃんどったの?」

「コンベルサシオンがルウィーに、しかも教会に入っていったらしいって言う情報を掴んだわ」

「少し出かけただけでそこまで情報を集めるとは…流石あいちゃんですわ」

「ありがとうございますベール様。でもこれはルウィーにいる私の仲間からの情報なだけですよ」

 

何でもアイエフは旅をする中で様々な人と関係を持ち、四ヶ国の全てから情報を仕入れる事が出来るらしい。リーンボックスの喫茶店の事といい今回の事といい、情報に関してアイエフはパーティーの要となっている。

 

「そうなると早速行った方が良いよね…皆、準備は?」

「リーンボックスから戻った後必要な物は予め用意しておいたから大丈夫です」

「わたくしもですわ。旅の準備は勿論、正体を隠す準備も…ほら、この通り」

 

そう言ってベールが身に付けたのは…赤い眼鏡。まるでキーアイテムかの様に眼鏡を取り出したベールに対し、私達は一瞬ぽかーんとなる。

 

「えっと、ベール様…それは…?」

「変装用の眼鏡ですわ。ルウィーで何があるかは分かりませんし、念には念を入れておくべきでしょう?」

「いやいや、眼鏡だけで正体を隠すのは難しいんじゃないかなぁ…」

「そんな事ありませんわ。ほら、よく見て下さいまし。眼鏡をかける事で普段とは印象が全然違う筈ですわ」

 

眼鏡をかけた状態で表情を変えたりウインクしたり眼鏡をくいっと上げたりするベール。正直、似合っているかどうかの二択なら迷わず似合っていると答えるところだけど…。

 

「…言われてみれば、普段のおっとりとした印象からちょっとインテリっぽく…違うベール様になった気が…」

「そう?わたしには同じに見えるんだけど」

「雰囲気はともかくベールはベールなんじゃ…」

「流石あいちゃん、違いがわかってますわね。ネプテューヌやイリゼとはわたくしへの愛が違いますわ」

『いやそこを比べられても…』

 

愛が違うとベールの姿も違って見えるらしかった。相変わらずあそこの二人の間は私達には辿り着けない気がする…。

 

「さて、眼鏡もいいですけどそろそろルウィーへと行きましょうか」

「そうですね、皆カイロとか持った?」

「うん、雪国なら必要不可欠だよね」

「ねーねーあいちゃん、ホットドリンクでも良い?」

「…実際に夜の砂漠や雪山等でも効果あるやつなら良いんじゃない…?」

 

半ば呆れつつも了承をするアイエフ。その後もボケたり妙な雰囲気になったりしながらも、やっと私達はコンパのアパートを出てルウィーへと向かうのだった。

 

 

 

 

見渡す限りの一面に広がる銀世界とそれを彩る独特の建造物。風景と雰囲気を一度に表すとすれば正しく『夢見る白』。

そんな大陸、ルウィーに足を踏み入れた私達、特によく知らなかった三人は…

 

「あ、あいぢゃん”…ざ、ざぶいですぅ…」

「わーい!雪だー!凄いよ皆、息が白くなるよ!」

「これが雪、なんだ…」

 

三者三様の反応をしていた。既に何度かルウィーに来た事があるらしいアイエフとベールはそんな私達を苦笑しながら見ていたけど…その時の私は雪をずっと見てたからそれに気づかなかった。

 

「はいはい。ほらコンパ、カイロよ」

「はふぅ…暖かいです…」

「ねぷ子は…必要無さそうね、イリゼは?」

「……へ?な、何か言った?」

「…もしかして貴女も遊びたいの?」

「え、それは…えと…うん…。…記憶を失う前はどうか分からないけど、今の私にとって雪は初めてのものだから…」

「あ、そっか…少し位なら待っててあげるわよ?」

「……!ありがとアイエフ!」

 

雪だるまを作り始めているネプテューヌの元に走って行って雪だるま作りに参加する私。それを残りの三人に温かい目で見られていた気がするけど…今の私には気にならない。

 

「ネプテューヌ、頭出来たよ!」

「よーしじゃあ胴体とくっ付けよー!」

「ふふっ、微笑ましい光景ですわね」

「あ、あのベール様…恥ずかしいんですけど…」

 

ここはルウィー郊外。そこには雪にはしゃぐ私とネプテューヌ、カイロの温かさにほっこりするコンパ、アイエフをカイロ代わりに抱き締めるベール、恥ずかしいと言いつつも離れようとはしないアイエフという何だか物凄いパーティーの姿があった。そして、それは日が暮れそうになって私達が慌て始めるまで続いたのだった。

 

 

 

 

「こんにちはー。ホワイトハート様居ますかー?」

 

ルウィー郊外から移動をして数刻後。遂に日が半分程地平線に沈んでしまった辺りで私達はルウィーの教会へと足を踏み入れた。

 

「…いきなりルウィーの教会に来て良かったのかしら」

「どうして?どこかに寄りたかったの?」

「コンベルサシオンがルウィー教会の者なら、ある意味ここは敵の本陣ですわ。そんな所にのこのこ入っても捕まったりしないのかしら…」

「…そう言われると今までのノリで教会に来たけど今は凄い逃げ出したい気分です…」

 

アイエフと同じく、私も途端に逃げ出したい気分となった。短期間に二度もリーンボックス教会での様な出来事には会いたくない。

そう思って私が一度出るかどうかを皆に聞こうとした時、以外と肝が座ってるのかコンパが口を開いた。

 

「けど、もう入ってしまったからにはしょうがないです。取り敢えずホワイトハート様に会って鍵の欠片とコンドルさんの事を聞くです」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か…。後コンパ、コンドルじゃなくてコンベルだからね」

「せめてラステイションみたいに冷淡な対応とかなだけなら良いけど----」

「ルウィー教会へようこそ。ホワイトハート様との面会をご希望ですか?」

 

私達が話をしていた所に声がかけられる。声の主は飴色の髪と茶色の瞳を持つ、メイド服っぽい服装の少女。…この人が教会の職員さん…?

 

「あ、はいです。ホワイトハート様に聞きたい事がたくさんあるです」

「そうなのですか。わたしはホワイトハート様の侍従をさせて頂いているフィナンシェと申します。外は寒かったですよね、お待ちの間に温かい物を用意しますよ」

「温かい物…湯たんぽとかですか?」

「…お茶のつもりでしたが…湯たんぽも持ってきますか…?」

「い、いやいいです、勘違いしてすいません…」

 

そしてお茶を貰ってから十数分後、私達はフィナンシェさんに誘導されて広い部屋へと入った。

 

「初めまして、ホワイトハート様。わたしネプテューヌ!で、こっちのが…」

「自己紹介はいいわ。貴女達の事ならよく知っているもの」

「あれ?もしかしてわたし達って有名人?」

「えぇ、そうよ……ユニミテスの使いとして、だけどね」

『……!?』

 

ホワイトハート様の声を合図に扉から部屋に突入してくる教会職員さんと武装した兵士。完全に悪い予想が的中、悪夢再びだった。

 

「こいつらがユニミテスの使い…?女子供じゃないか」

「見た目に騙されるな、ブラン様だってあの見た目であのギャップだからな…きっとこいつらも似た様なもんだろ」

「なら、容赦はいらないな…」

「…あの人達微妙にホワイトハート様貶してない…?」

 

あっという間に部屋に入り私達を包囲しようとする職員さんと兵士。…と、そこで一人の人物が一歩前に出る。ホワイトハート様と同じ女神、ベールだ。

 

「ブラン…貴女、正気ですの?」

「正気よ、この機会に貴女も始末してあげるわ」

「あらあら、せっかくの変装が見破られてしまいましたわね」

 

状況が状況だけにベールの変装について突っ込む余裕も無く、背を預け合う形を取る私達。投降するか、戦闘するか…選択に迫られる私達。

 

「流石にここで戦うのは得策じゃないわね…」

「でも後ろのドアにも人がいっぱいだよ!?」

「でしたら強行突破しかありませんわね。あいちゃん、わたくしに遠慮無さらず先陣を!」

「分かりました。皆、着いてきて!」

 

そう言って走り出すアイエフ。彼女が選んだのは投降でも戦闘でも無く、第三の選択肢…逃走。しかし、その逃走の為に走った先は…ステンドガラス。

 

「あいちゃん、そっちはステンドガラスですよ!?」

「あ、あいちゃん…まさか、まさかなの!?」

「そのまさかよ!」

『な……っ!?』

 

驚く私達をよそに腕を交差させて跳ぶアイエフ。そしてアイエフはそのまま…アクション映画の主人公さながらにガラスを突き破った。

 

「もうこうなりゃやけくそだー!」

「戦術的撤退やって奴だね…私も覚悟は決めたよ!」

「ま、待って下さいですー!」

「一度でいいからガラスを割って脱走してみたかったんですよね。それっ!」

 

わざわざ全員で別々のガラスを突き破って教会から脱出する私達。ルウィー教会と女神ホワイトハートとのファーストコンタクトは、最悪の形で幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

ブランの命を受け、逃げたイリゼ達を追う職員と兵士(一名彼女等と同様にガラスを突き破り、こっぴどく怒られていた者もいた)。職員と兵士が出て行った後に同じく部屋を後にするブラン。そして……

 

「…さて、わたしも追いかけましょうかね。彼等よりも先に追いつければ良いのですが…」

 

最後に残った一人の少女も小さく呟いた後、他の者とは違う意思と目的を胸に秘めて外へ向かうのだった。




今回のパロディ解説

・ロック、アイス、スチル、ギガス
ポケットモンスターシリーズのルビー、サファイアとダイアモンド、パールで初登場した通称『レジ系』のポケモン。勿論次の台詞のポケモンもこれの事です。

・『思い…出した!』
ライトノベル及びそれを原作としたアニメ、聖剣使いの禁呪詠唱における代名詞的な台詞。元は前世の記憶を思い出した時の台詞であり、記憶喪失は関係しません。

・記憶のロジックカード
アニメ、ラクエンロジックにおいて主人公、剣美親が一期最終決戦で失った物(記憶)。もしネプテューヌやイリゼがオーバートランスしていたのなら可能性はありますね。

・ホットドリンク
モンスターハンターシリーズにおける防寒アイテム。勿論これは現実にあるホットドリンクではありません、現実のやつは飲んでも雪国では防寒具を着るべきですね。


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第二十五話 その雪原を抜けて

雪原を走る五つの影。彼女等が娯楽で来ている訳でも運動の為に走っている訳でもない事は彼女等の慌て様と彼女等の服に付着する細かなステンドグラスの欠片を見れば一目瞭然だった。

 

「はぁ…はぁ…雪国なのに暑いよもー!」

「文句言う…余裕あるって凄いねネプテューヌ…」

「無駄口叩いてないで…出来る限り、距離を稼ぎますわよ…!」

 

当然ながら地面やアスファルトと違って雪原はスピードが出辛い上に体力の損耗も早くなる。更にそれが雪国に慣れない彼女達であれば尚更であり、それ故に暫く走ったにも関わらず安全と呼べる場所へはまだ辿り着いていなかった。

 

「うぅ…そろそろ…限界、ですぅ…」

「コンパ大丈夫?…このまま走ってたら全員体力尽きて動かなくなりそうね…皆、一旦休憩しない?」

 

コンパと今後の事を考慮して休憩を提案してくるアイエフ。それに対し私達は心臓と肺が休む事を真摯に求めていた事もあって即座に賛成し、少しずつスピードを落としていった。

 

「それでアイエフ、逃げるのは良いとしてその後はどうするつもり?」

「そうね…ベール様、この状態でルウィーを満足に動けると思いますか?」

「それは厳しいと思いますわ。この場で仮に逃げ切れたとしても監視を潜り抜け続けるのは至難の技ですもの」

「じゃあ…一度ルウィーから離れるのは?」

「うーん…接岸場に監視をつけていないとは思えないし、その間にマジェコンヌに先を越される可能性があるからあまり得策とは言えないわね」

 

比較的雪の少ない場所に移動し今後の手を話し合う私達。今までも狙われたり襲われたりはしたけど…流石に今回はそうなるまでに早過ぎるよ…。

 

「うーん…リーンボックスの時はベールが協力してくれたから何とかなったけどここの女神様は協力してくれそうにないよね…」

「ならば別の協力者を探すのが良さそうですわね」

「協力者、です?」

「えぇ、女神様は協力してくれなかったとしてもラステイションでのシアンみたいに協力してくれる人がいる可能性はあるわ」

 

無論、都合よく協力者が見つかるとは限らない。更に言えば協力者を探そうとした結果逆に追っ手に探し出される可能性もあり最高の策ではない。…でも、今の私達にとっては少なくとも最善の策である事は確かだった。

 

「そうと決まれば善は急げだね。取り敢えずは街に行って…」

「…残念ですが、そう簡単にはいかないみたいですわ」

『え?』

 

急に表情を引き締めたベールに私達は一瞬戸惑うも…どこからか聞こえてきた声を聞いてその表情の理由を理解する。…予想以上に追っ手の足は速かった。

 

「あぅ、もう見つかっちゃったですぅ…」

「さぁ、神妙にお縄につけ!」

「えぇー…寒いし縄って食い込んで痛そうだからわたし的には遠慮したいかなー。あ、手錠もここだと冷たそうだからそれもNGね」

「手枷は勘弁して下さい、もう手枷経験はしたくないんです…」

「な、何をこいつらは…」

 

ネプテューヌの相変わらずな能天気発言と私の割とマジな拒否反応を目の当たりにしたルウィーの教会職員さんは…若干引いていた。それもあって一瞬妙な雰囲気になっていたが…流石にそのままという訳にはいかず、職員さんが近付いて来る。

 

「何、やるっての?」

「貴様等の相手をするのは我々では無い!行けドラゴン!君に決めた!」

「エネミーディスク!?」

「…って事はエネミーディスクの出処はルウィーだった訳ね…」

「だったらこっちも本気を出すです!ねぷねぷ!」

「ラジャー!」

 

コンパの変身要請を受けたネプテューヌが女神化。リーンボックスと違いルウィーの職員にはネプテューヌの事が伝わってなかったのか女神化後のネプテューヌを見て職員さん達は動揺をする。

…が、ここで私達側にもちょっとした問題が走る。

 

「うずうず……」

「……ベール様…?」

「…じー……」

「…あ、あの…その期待のこもった眼差しは一体…」

「それは勿論あいちゃんが女神化命令をくれるのを待っているのですわ。さぁ、わたくしに指示を…」

「え、いや…今はふざけてる場合じゃ…」

「さぁ、あいちゃん」

「うっ…あー!もうヤケよ!ベール様お願いします!」

「その言葉を待っていましたわ!」

 

最早軽く見慣れたレベルのやりとりの末、アイエフの命に応じる形で女神化するベール。…え、これまさかベールが女神化する度やるとかじゃないよね?毎回これとか流石に尺の無駄っぽくなっちゃうよ?

 

「へ、変身するものが二人もいるなんて聞いていないぞ!?」

「それが二人じゃないんですよね。じゃあ私も……」

「……?イリゼ、どうかしたの?」

「…私に女神化の命くれる人居ない…」

『あ……』

 

ここにきて私のカップリングが成立していない事の弊害が発生した。…いや、別に何も言われずとも女神化出来るしそっちの方が楽だよ?…楽だけどさ……。

 

「あー…その、必要ならわたしが言ってあげても…」

「いいよ別に…えいっ」

「ま、また一人変身を…!」

「というか何なんだこいつらの緊張感の無さは…」

 

物凄くごもっともな事を職員さんに言われる私達。これで私達と職員さんが友好的な間柄なら恐らく謝っていたけれど…モンスターで襲いかかろうとする相手に真摯に謝ろうとは思わない。

 

「私達は貴方達が思っている程弱くはありません…それでも、一戦交えますか?」

「ふっ…相手がどんな強さだろうと関係無い!俺は鍛え抜かれたモンスター達と共に生きてきた、そしてこれからもな!そんな俺達のスーパーパワーを受けてみるがいい!ウーッ!ハーッ!」

「…テンション高過ぎない?」

「ねぷ子、気持ちは分かるけど今は倒すのが先よ」

 

アイエフがそう言うと同時に炎のブレスを吐き出すドラゴン。しかし距離が開いていたが故に私達の元へ辿り着くまでは若干のタイムラグがあり、咄嗟に左右に跳んだ私達を捉える事は出来なかった。

 

「雪に足を取られて動き辛いですわね…!」

「なら飛翔あるのみ!」

 

翼を広げ足の取られる雪原から空中へ飛ぶ三人。それを見たドラゴンは大木の様な腕を振るって私達を叩き落しにかかるも…機動力において巨体のドラゴンと私達では雲泥の差があった。逆に私達が空を切るドラゴンの腕にそれぞれ一撃を与える。

 

「くっ…落ち着けドラゴン!俺達の力を見せるのはこれからだ!」

「悪いですけど力を見せる前に…」

「倒させて貰うわ!」

 

次の攻撃が来る前にドラゴンの背後に回り、流れのままに追撃すると同時に離脱。下から振るわれた尻尾も腕同様に虚しく空を切る。

その後もサイズ差と機動力を活かして翻弄する私達。が、ドラゴンも巨体なだけあって中々倒れる素振りを見せなかった。そこで一旦距離をとる私達。

 

「どうする?ちまちま攻撃してたらまだ結構かかるよ?」

「かといって重い一撃を喰らわせるのも容易にはいきそうにないわね…」

「…ならば、逆に攻撃を誘うのが良さそうですわね」

 

下降し低空飛行でドラゴンへ突っ込むベール。それに対しドラゴンはどっしりと構えて振り抜く様に腕を振るう。

降る雪を蹴散らしながらベールへと迫るドラゴンの腕。それをベールは槍を構え、正面から攻撃を受ける。一瞬止まるドラゴンの腕。しかし、元のパワーと運動エネルギーの乗ったその腕は女神と言えど容易に止める事が出来る筈もなく、バレーボールの様に飛ばされるベール。

…しかし、それがベールの狙いだった。

 

「今…ですわッ!」

「……!不味い、避けろドラゴン!」

「その巨体で俊敏に避けられる訳ないでしょ!」

 

ドラゴンの注意が完全にベールに向かい、ベールへと力の多くを向けたその瞬間にネプテューヌは動いていた。バレルロールを行いながら一気に距離を詰めるネプテューヌにドラゴンは対応しきれず、やっとの思いで前へ掲げた腕はネプテューヌの鋭い斬り上げにより斬り飛ばされ、返す刃を胴体に受けて大きくよろめく。

そして、ドラゴンの真上へと現れる一つの影。

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁッ!」

「グゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「…これぞ秘剣ドラゴン斬り…なんてね」

 

大上段に構えた長剣を自身のスピードに乗せて全力で振り抜く私。脳天から胴体までを一刀両断されたドラゴンは断末魔をあげモンスター特有の光を残しながら消滅する。

 

「何だと…!?お、おい!早く次のモンスターを--------」

「そうはいかないわ、コンパっ!」

「はいです!えいっ!」

 

ドラゴンがやられ、職員さんの一人が慌てた様にエネミーディスクを持つ熱血職員さんに指示を出す。だが完全に油断していた彼等は忍び寄っていたアイエフに気付かず、彼女の放った蹴りがディスクを弾き飛ばす。そしてそのディスクを受け取りすぐさま破壊するコンパ。…これで、職員さん達は戦闘不能同然となった。

 

「こんぱ、あいちゃん、ディスクの破壊助かるわ」

「最善の行動をしただけよ、それより増援が来る前に早く逃げましょ!」

 

体力温存の為女神化を解除し再び逃走する私達。後には取り逃した事を悔しがる多くの職員さんと、意気消沈している熱血職員さんが残っていた。

 

「燃え尽きたぜ…真っ白にな……」

「何をやりきったみたいな顔しているんだお前は…」

 

 

 

 

「…へくちっ」

「イリゼ、大丈夫?」

「う、うん…でもさっきの戦闘でかいた汗が引いて寒くなってきたかも…」

 

追っ手を返り討ちにしてから数十分後、私達は雪の積もる森の中を彷徨っていた。くしゃみをしたのは私一人だったけど…同じ様に動いたネプテューヌやベールも状態としては同じだよね…。

 

「しかし困りましたわね、こんな所に森があるとは…」

「逃げるのを優先し過ぎて適当に逃げたのは不味かったですね…日ももう落ちちゃったし…」

「早く休める場所見つけないと風邪引いちゃうです…」

 

追っ手を振り切れた事で一時は安心していたのが一転、若干の焦りを感じ始める。私達はテントもなければ寝袋も無いのでこんな所で野宿などする訳にはいかない。欲を言ってしまえば女の子だしお風呂に入ってさっぱりしたくもある。

 

「あのさ、飛んで街まで行くのはどうかな?こんぱとあいちゃんの二人なら運べるしさ」

「女神化した瞬間の光で見つかる可能性高いから駄目よ、それに女神化すると疲れるんでしょ?」

「万が一の事を考えると女神化は温存しておいた方が良いですわね…」

「なら、どうしたら……」

 

 

「困ってるみたいだね」

『ーー!?』

 

不意に近くの木の陰からかけられる声。咄嗟に抜剣しながらその木の陰に目を凝らした私達の先には犬の様な耳と尻尾を持った黄髪緑眼の少女がいた。

 

「…貴女は?」

「わたしはサイバーコネクトツー。ある人から君達の道案内を頼まれてきたんだ。だから構えた武器を収めて欲しいな」

「…貴女が追っ手の一人じゃない証拠は?」

「証拠、か…こればっかりは君達に信じてもらうしかないね」

「あいちゃん、ここはサイバーコネクトツーさんを信じるです。悪い人が堂々とわたし達の前に出てくる訳ないですよ」

「私もコンパに同感かな。さっきの戦闘でこんな危険な手を打ってくるとは思えないし…それにこのままじゃジリ貧なのは明白だし」

「うんうん、第一こんなもふもふな尻尾と耳生やしてる人が悪い人な訳ないよ!」

 

私とコンパが真面目に、ネプテューヌがかなり個性的にアイエフを説得しにかかる。勿論追っ手じゃない証拠は無かったけど逆に追っ手である証拠も無かったからかアイエフは私達の言葉に納得した様な顔をしていた。

 

「あははははっ!やっぱりネプテューヌさんは面白いなぁ…でも残念ながらこれは本物じゃないんだ。ごめんね」

「そうなの!?この手触りは本物だと思ったのに…」

「…あれ?ネプテューヌの名前をどうして…あ、もしや貴女は別の世界から…?」

「その言い方だと他の仲間にも会ってるみたいだね、話が早くて助かるよ」

 

私の予想通り、サイバーコネクトツーは別世界の住人らしい。そして私達はそういえば別世界の人とは何かを探してる時によく会うなぁ…なんて思いながら別世界とその住人について知らない様子のベールに説明する。

 

「…なら、貴女は敵じゃない訳ね。疑ってごめんなさい」

「気にしないで、それよりも今は早くこの場を離れないと」

 

そう言って歩き始めるサイバーコネクトツー。そしてそれに続く私達。そして私達が彼女の言うある人の所へ辿り着いたのはそれから数十分後だった…。

 

「ねーねーイリゼ、前から気になってる事があるんだけどさ、この際だし訊いて良い?」

「一体どの際なのかよく分かんないけど…何?」

「ちょくちょくイリゼのモノローグで数十分後とか数時間後とか出るけどアレほんとに時間計ってるの?」

「まさかの私のモノローグについての指摘!?…そういうとこ訊くのは止めようよ…」

 

…結構体力持っていかれてる状況であってもネプテューヌのネタ発言は全く鈍っていなかった。…普通の体力とは別でボケ用の体力をストックしてるのかな……。




今回のパロディ解説

・「〜〜ドラゴン、君に決めた!」「〜〜ウーッ!ハーッ!」
どちらもポケットモンスターシリーズのキャラの台詞の一つ。前者はアニメ版主人公サトシのもので後者はカントーの四天王の一人、シバの例の掛け声です。

・ドラゴン斬り
ドラゴンクエストシリーズでお馴染みの特技の一つ。勿論イリゼが行ったのは単なる大上段からの一撃であり、実際にドラゴン系に効果的だったりはしません。

・「燃え尽きたぜ、真っ白にな……」
有名ボクシング漫画、あしたのジョーの主人公矢吹丈の名台詞の一つ。上記のポケモンパロディといいこれといい随分とネタに走った職員がいたものですね。


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第二十六話 偽物・格差・大波乱

「サイバーコネクトツーちゃんは一緒に来ないの?」

 

森の中で不意に現れた案内人、サイバーコネクトツーに導かれて数十分後。私達は森を抜けて見晴らしの良い小高な丘へと到着していた。無論、周囲に追っ手と思われる人影は無い。

 

「うん。わたしはたまたま立ち寄った街で君達の道案内を頼まれただけだからね。それにまだ追っ手は探し回ってるだろうから帰るついでに少し撹乱でもしてくるよ」

「何から何まで悪いわね。それじゃ、気を付けて」

「君達もね!」

 

雪原を軽快に去っていくサイバーコネクトツー。一人で撹乱するのは少々危ない事だったが…彼女の後ろ姿を見て何となく大丈夫だと思った。少なくともあの動きは素人ではない。

 

「さて、と…ここで案内お終いって事はこの近くにサイバーコネクトツーに依頼した人がいる訳だよね?」

「だと思いますわ。姿が見えないと言うのは恐らく……」

 

 

「はい、職員や兵から身を隠していたからです」

 

聞き覚えのある声が私達にかけられる。声に反応して振り向いた私達の先にいたのはホワイトハート様の侍従と名乗っていた少女、フィナンシェさん。言うまでもなく…教会側の人間である。

 

「騙された……!?」

「…いくら女でも私達の邪魔をする様なら斬るわよ?」

「邪魔なんてそんな!その逆です!訳あってサイバーコネクトツーさんに協力してもらったのはわたしなんですから」

「俄かには信じられないわね…」

「時間がありません、着いて来て下さい。…もし、わたしが貴女達を騙す様な真似をした時は斬って頂いて構いませんから」

 

そう言って頭を下げるフィナンシェさん。普通の人やそれこそサイバーコネクトツーならこの時点で信じる私達だけど…流石に先程私達を倒そうとした組織の一員をほいほいと信じる訳にはいかない。

 

「って言ってるけどどうする?別にサイバーコネクトツーが騙してたとは思わないけど…」

「うーん…何だか訳ありっぽいしそこまで言うなら信じてあげようよ」

「ネプテューヌ、貴女……」

「そうです、疑う前に信じてあげるです」

「コンパさんまで…全く貴女達ときたらとんだお人好しですわね」

 

サイバーコネクトツーの時と同様あくまで信じるスタンスらしいネプテューヌとコンパ。ベールはその二人をお人好しと呼んだけれど…呆れている訳ではなく、むしろそういう反応を見れて良かったと思っているかの様な表情を浮かべていた。

 

「ですね…私も罠だとしたら私達が逃げてからの時間の割に準備が良すぎると思うけどどう?」

「だよね、こんな二度手間な罠用意するとは思えないし」

「ここは伏兵を置くには適してませんし、わたくしも状況の上では罠だと判断するのは早計だと思いますわ」

「皆さん…信じてくれてありがとうございます…。では、着いて来て下さい」

 

そう言って歩き出すフィナンシェさん。度重なる移動と思案で少々疲れ気味の私達だったけど、状況打破の為に着いて行くのだった。

 

 

 

 

「…ここまで来れば一安心ですね」

「やったです!遂に街にまで来れたです!」

 

規模こそ大きくないものの、人気のある街へと無事到着出来た私達。この段階になり私達は、ここに来るまでに追っ手に出会わなかった事、街には一般人らしき人も多くいた事からフィナンシェさんは騙している訳ではないとほぼ確信出来ていた。

 

「やー信じて良かったね」

「そうね。フィナンシェ、ここに私達を呼んだ人がいる訳?」

「はい、そこまで案内しますね」

「…まさか、この段階に来て女神が先回りしていた…何て事はありませんわよね?」

「えーっと…それは当たらずとも遠からずと言うか何というか……」

 

ベールの懸案に対し妙に歯切れの悪い返答をするフィナンシェさん。しかしそれについて私達が質問をしようとした丁度その時、赤髪の青年二人が話しかけてきた。

 

「やぁ、フィナンシェ。久しぶりだね」

「…ふむ、素敵なお嬢さんを二名も連れている様に見える。彼女等が以前君が言っていた例の?」

「はい。教会に追われていた所を何とかお連れする事が出来ました」

 

フィナンシェさんとの会話を聞く限り、知り合いだと思われる二人の青年。彼等はひとしきりフィナンシェさんと会話した後私達に会話を振ってきた。

 

「紹介が遅れたね。わたしの名前は…そうだな、兄とでも呼んでくれ。こちらは弟だ」

「兄さんと弟さんです?」

「勿論本当の名前ではないよ。コードネームの様なものさ、ねぇ兄者」

 

コードネームならコードネームで何故そっちを口にしたの…という突っ込みは一旦置いておき二人を観察する私。リーンボックスで騙されてルウィーでも追われたからか私は友好的に接してくる人をよく見る様になっていた。

…別に割と美形の二人だったからじゃないよ?彼氏募集とかしてないからね?

 

「あぁ。ところでそちらの眼鏡の似合うお嬢さん。貴女の名前を我らに教えて頂けないでしょうか?」

「あら、素直な方ですのね。わたくしはベールと申しますわ」

「ベール…何とも慈愛に満ちた豊満なる響き…是非、ベール様と呼ばせて下さい」

「では、ピンクの髪の貴女は何というのですか?」

「わたしです?わたしはコンパって言うです」

「コンパさん…まるで天使の様な豊かな響きの名だ…」

 

ベールとコンパの名前を聞いて感嘆の声を漏らす二人。…まあ、この時点でどう見ても普通の人じゃなかった。所謂ナンパ好きとかそういう類かな…。

 

「あ、私はイリゼって言います」

「イリゼ、か…まあ一応名前は覚えておこう」

「わたしネプテューヌ!」

「私はアイエフよ」

「フィナンシェよ、これからこの方々はあの方の所に案内するのだろう?ならば僕達も共に行こう、レディのエスコートをするのは紳士の役目だからね。さぁコンパさんこちらへ」

「ありがとうございますです」

「ベール様もご一緒に。この辺りは滑り易くなっているので気を付けて下さい」

「あら、お気遣いありがとうございますわ」

『…………』

 

主に付き従う臣下の如くコンパとベールに付き添う兄弟さん。そしてその場に残される私、ネプテューヌ、アイエフ。…何となく今、木枯らしが吹いた気がする。

 

「ねぇ、あいちゃん…」

「ねぷ子、貴女も気付いてたのね…」

「あの二人わたし達の事無視してるよね!?こんぱとベールだけ贔屓しちゃってさ!」

「何のつもりか分からないけど久しぶりにカチンと来たわ」

「うんうん、こんなあからさまな差別は不愉快だよ」

『イリゼは一応反応されてたでしょ!?』

「え、あ…何かごめんなさい…」

 

妙に気迫の篭った形相をしてきたネプテューヌとアイエフについ謝ってしまう私。…完全無視される訳でも無い、好待遇を受ける訳でも無い私はどうすれば良いの……。

 

「すいません。あの二人は胸の大きな女性しか眼中にない特殊な兄弟ですので…どうか気を悪くしないで下さい…」

「…何…だと…!?」

「ここに来て胸で差別!?何なのよこの大陸は!」

「…あー…うん、まあ…女の子の的なタイプの兄弟だね…」

『何ちょっと(わたし・私)達に優越感かんじてるの(さ・よ)イリゼ!』

「だからどうして私に当たるの!?ちょっと感じた事は謝るけどさ!」

 

またも二人に怒られてしまった私。あんまりにも理不尽な(気持ちは分かるけど)怒りに困り果てていた私だけど…二人も私に当たってもしょうがないという事であの兄弟の方へ視線を向ける。

 

「もー許せないよね!月に変わってお仕置きちゃうよ!」

「私が許可するわねぷ子、やっちゃいなさい」

「勿論だよ!……あ」

『……?』

 

女神化の瞬間何かに気付いたかの様な表情をするネプテューヌ。でも既に女神化しつつあったせいか女神の姿となり…どんな高感度センサーを付けてるのか兄弟が即座に寄ってきた。

 

「な……っ!?あのちんちくりんが居なくなった代わりにまたも豊かなお姉さんが現れただと!?」

「これがわたしの本当の姿よ」

「我ら兄弟、未熟故に見た目の豊かさしか見抜けなかった事をお許し下さい…あの、名はなんと…?」

「ネプテューヌよ」

「あぁ、何という甘美な響き…」

「まるで心が洗われる様な、女神の様な名だ…」

「…ってかおい!裏切るの!?」

 

そう、ネプテューヌもアイエフも一つ失念していた。ネプテューヌは女神化するとスタイルがガラリと変わる…つまり、あの兄弟好みのスタイルになるという事を。

…兄弟にもてはやされたネプテューヌはちょっと満足気だった。

 

「…そっか、その手があった……」

「イリゼ!?まさか貴女も女神化する気!?」

「ごめんなさいあいちゃん、これもわたしの姿だから…」

「ね…ね…ねぷ子の裏切り者ぉぉぉぉぉぉっ!」

 

刻一刻と暗さを増すルウィーの街には、アイエフの叫びが響き渡っていた…。

 

 

 

 

同じ国内、同じ雪の降る場でも自然のままになっている雪原や森と人の手によって舗装された街中では歩く時の疲労度が全く違う。だから逃げ回った後の私達にはありがたかったけど…道中での会話は色々な意味で気苦労のあるものだった。

 

「変わってしまったホワイトハート様に対するレジスタンス、ね…」

「はい、わたし達も国民の皆さんも変わってしまう前のホワイトハート様とルウィーが好きでしたから」

 

フィナンシェさんは当然の事として、巨乳大好き兄弟もこの事には憂いを感じているらしく、真面目にルウィーの現状について語ってくれた。

実質的な独裁政治による他国侵略を想定した軍事国家化。勿論軍事国家化自体は悪では無いし、他国侵略もあまり良い印象は無いけど政治の一環と捉える事も出来る。…それが、国民の同意の上であれば。

 

「だから、わたし達はかつてのルウィーを取り戻す為にレジスタンスを結成したんです」

「まさかルウィーがその様な状態になっていたとは…全く知りませんでしたわ…あいちゃんは知っていまして?」

「どうせ私は小さいですよーだ…別に好きで小さくしてる訳じゃないのに何だってのよ…うぅ……」

『(アイエフ・あいちゃん)……』

 

あの後もネプテューヌは女神化を解除せず、兄弟もアイエフを無視し続けた結果アイエフは完全にやさぐれていた。巨乳の方々は勿論、淡白ながら話しかければ一応反応して貰える私の励ましも今のアイエフには届かず、酷くなる一方だった…。

 

「思っていた以上に気にしてたのね、あいちゃん…」

「えーと…ほら、私とかどっち付かずの微妙なサイズだしアイエフは慎ましやか方が好きって人に人気出るよきっと!」

「イリゼ…それは暗に貴女は貧乳だと言い放ってるのと同義よ……」

「そ、それは確かに…ごめん……」

 

最早ネガティヴオーラっぽいものが出始めてるアイエフをどうする事も出来ない私達。…だから、自然と唯一アイエフを立ち直らせる可能性のある彼女…ベールに視線が集まる。

 

「…あいちゃん。いい加減にしないとわたくし、あいちゃんの事嫌いになってしまいますわよ?」

「……え…!?」

「クールで格好良くて、そしてたまに見せる可愛らしい面がわたくしの好きなあいちゃんでしたのに…今の腐った魚のような眼をしたやさぐれあいちゃんなんてわたくしのあいちゃんじゃありませんわ」

「私の情報によればルウィーが軍事国家に転換したのは数ヶ月前。何でもある日突然人が変わったみたいにホワイトハート様が過激な方になったらしいです」

 

キリッとした表情で情報を語るアイエフ。ベールの言葉は効果てきめんだった。…それはもう、劇薬の如く…。

 

「何という変わり身の早さなの…」

「ねぷ子もそろそろ元に戻ったら?長時間その姿でいると疲れるんでしょ?」

「それもそうね…」

「一体ホワイトハート様に何があったです?」

 

アイエフがいつも通り…というかいつも以上に元気になった事に安心した私達は再び動き出し…とある場所に到着する。

 

「それはわたしの口から説明するより、これから皆さんに会わせる方に聞いた方が早いと思いますよ、ではこちらに」

「ここは…?」

「…失礼します。こちらが先日ご説明した強力な助っ人の方々です」

「…今忙しいの、悪いけど帰ってもらって」

『えぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

フィナンシェさんに案内されて入った部屋では本の山の中で寝転がって本を読む一人の少女が居た。肩にかかるかどうか位の茶髪に深い蒼の瞳。その姿は見紛う事も無い…教会で出会ったホワイトハート様のものだった。

 

「な、なんでホワイトハート様がここに!?」

「ここはわたしの部屋よ。居て何か文句ある?」

「こちらに居られるのはレジスタンスのリーダーであり、ルウィーの女神であるホワイトハート様ことブラン様です」

「ブラン様!?何さ、そんな…何でっ!」

 

ネプテューヌは何故か某スーパーエースみたいな反応をしてたけど…驚いたのは私達も同じだった。わざわざ私達を呼ぶ位だから普通の人では無いと思っていたけど…いくら何でもこれは斜め上過ぎだよ……。

 

「五月蝿いわね…騒ぐなら外で騒いで」

「…何となくですが、状況が飲み込めてきましたわ。フィナンシェ、このブランが本物なんですわね」

「はい、その通りです」

「え…どういう事?」

「ベール一人だけ分かってずるーい」

 

一人納得した様な顔するベール。それに対しまだよく分かってない私達。…やっぱベールってちょっと探偵とかそういう系の才があるんじゃ…?

 

「ええっとですわね…わたくしより分かっている筈ですし、フィナンシェ後は説明して下さりまして?」

「いや、ここはベール様のために私が説明しましょう」

「コンパさんの為に僕も補足するよ」

「いや、あの…別にわたしが説明しても良いんですが…」

「しかしベール様と比べて相変わらずブラン様は……」

「…わたしが何?」

「いえ何でもありません!」

 

一瞬顔を暗くしたホワイトハート…もとい、ブランに慌てて謝る兄さん。…あれ?ブランには普通に話すんだ…。

 

「結論から説明すると、ブラン様はとある人物に力を奪われ、能力ごと偽物のブラン様に乗っ取られてしまったんです」

「コンパさん達が教会であったであろうブラン様は偽物。宣教師コンベルサシオンの化けた姿さ」

『コンベルサシオン!?』

 

弟さんが語ったのはその名は忘れもしないあの宣教師の名前だった。力を奪う、偽物、コンベルサシオン…兄弟の二人の言葉から私の中で情報のピースが繋がっていく。

 

「コンベルサシオンって…まさか……」

「うん、これはリーンボックスの時と同じだね…」

 

この瞬間に私達は…あのマジェコンヌの魔の手がリーンボックス同様…否、リーンボックス以上にルウィーに振り返っている事を理解したのだった…。




今回のパロディ解説

・…何…だと…!?
週刊少年ジャンプの看板作品の一つ、BLEACHの中で使われた台詞。…ただ、これはそこまで特異な言葉でも無いのでこの言葉単体でパロディと言うかは微妙です。

・月に変わってお仕置きしちゃうよ
魔法少女の先駆けとも言える名作、美少女戦士セーラームーンの主人公月野うさぎの代名詞。名前的にセーラーネプチューンならぬセーラーネプテューヌになれそうですね。

・『ブラン様!?何さ、そんな…何でっ!』
機動戦士ガンダムSEEDdestinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。別にブランは一度落とされたりはしてませんが…まあその位のショックだったという事でしょう。


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第二十七話 豹変と変貌と

世の中で力を持つものは何か。その曖昧な問いに適する回答は複数あるけれど…その中の一つは『情報』だと私は思う。どんなに権力や武力、財力があったとしてもそれを上手く運用する為には正確な情報は必要になるし、逆に言えば情報操作一つで他の力を封殺、或いは利用する事も出来てしまうから。

…私は、そんな事をここまでの旅の中で知った。そして、その情報の恐ろしさに直面している真っ最中であった。

 

「おおよそ現状と今に至るまでの経緯は分かりましたわ。ルウィーも中々不味い事態になっていたのですわね」

「そういう貴女達も大分ぶっ飛んだパーティーになっていると思うわ」

 

ブランとフィナンシェさん達からはルウィーで起こっている事を、私達はルウィーに来るまでの事とコンベルサシオンの正体について説明した。互いに俄かには信じがたい話だったけど…信じがたい経験も互いにしていたおかげかどちらもすんなりと飲み込む事が出来ていた。

 

「ぶっ飛んだ?やー照れるなぁ」

「褒めてないわ…しかし、貴女が記憶喪失とはね…」

「あの時ネプテューヌは天界から落ちてましたしあり得ない話では無いですわ」

「記憶喪失で済んでるのもそれはそれでおかしいんですけどね」

 

当然ながらベールとネプテューヌが正体を明かした時には少なからず衝撃が走った。…けど、おっとりした雰囲気のベールと天真爛漫なネプテューヌからは全く戦闘意思を感じられなかったからかブランは二人の言葉をそのまま信じ、女神同士の戦闘は避けられた。

 

「どうです、ブラン様?これ以上にない助っ人ですよね?」

「…確かに貴女の言う通りこれ以上ない助っ人ね」

「でしょ?いやーこれでもラステイションとリーンボックスでは色々活躍して----」

「けど、これはルウィーの問題よ。他国の女神に協力してもらうつもりはないわ」

 

帰って来たのは突き放す様な返答。様子と言葉から察するに私達を過小評価してる訳でも信用していない訳でもなく…言葉通り、自分とルウィー国民だけで解決したいみたいだった。

 

「…その、気を悪くさせるかもしれない質問だけど…私達の協力無しで解決出来るの?」

「出来る出来ない以前にルウィーの問題を他国の協力で解決するんじゃそれこそ…ルウィーの女神としての名折れよ」

「国の事より女神としての名が大切と言うんですの?」

「国の事を考えているからこそ女神の名を大切にしているつもりよ」

 

私の心配とベールの懸案にもブランは意を介さず、彼女の意見は変わらないままだった。

確かにブランの意見は間違っていない。でもそれがこの状況において最善の選択かと言えば……

--------そんな時だった。外…つまり街の方から瓦解音が響いたのは。

 

 

 

 

慌てて外へ出た私達を迎えたのは本物と寸分の違いも無い偽物のブランと護衛のルウィーの兵、そして…ラステイションで一度相見えた奴と同系統と思われる大型機。瓦解音を放ったのはその大型機と崩れ去った周囲の建物だという事は明白だった。

 

「とうとう姿を現したわね、偽物が…」

「その言葉、そっくりそのまま貴女に返すわ」

「相変わらず強がりだけは一人前ね」

 

対峙する本物と偽物。見た目は勿論言動も瓜二つ(言葉の内容は流石に違うけどね)であり、端から見ればまるで鏡に向かって話をしているようだった。

 

「…わたし達に背を向けてる方が本物のブランだよね?」

「そ、そうじゃない?…一瞬の内に入れ替わってたりしなければだけど…」

「他国の、しかもユニミテスの使いと手を組む時点で貴女が偽物なのは明白の事よ」

「それはこの人達がユニミテスの使いだという前提が正しい場合に成り立つ事柄ね」

「そうね…なら、力尽くで証明してあげるわ。行くのよキラーマシンMK-Ⅱ、見せしめにこの街もろとも皆殺しにしなさい」

 

キラーマシン。それはガナッシュさんがラステイションで操っていた機体と密接な関わりがある事を示していた。その事について私が口を開こうとした時…ブランの雰囲気が変わった。

 

「…街もろとも皆殺し、だと……?」

「ねぷ?ブラン…?」

「気を静めて会話してやりゃ調子に乗りやがって…わたしだけじゃ飽き足らず街も皆も皆殺しにするだと?ふざけんじゃねぇこのクズがッ!」

『ええぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

突然のブランの変化…どころか豹変に対し目を見張る私達。いきなりキレる事はノワールも一度あったけど…いくら何でもこれは予想外過ぎた。最早別人レベルだもん…。

 

「な、何!?もしやブラン女神化したの!?」

「で、でも見た目は変わってないですぅ…」

「も、もしかするとブランは普段は大人しいけど一度キレると爆発する人だったり…?」

「はい、それはもう鬼神の如く…」

「おい外野!ごちゃごちゃ五月蝿いんだよ!」

「…と、いった感じです…」

 

百聞は一見に如かずをこれでもかと言う位示していた瞬間だった。ほんとはブランにもフィナンシェさんにも色々と追求したい所だけど…そんな事してたらキラーマシンMK-Ⅱより先に木っ端微塵にされそうなので黙っておく私。

 

「こうも気性が激しい貴女のどこが本物なのかしらね…キラーマシンMK-Ⅱ、後は任せたわ」

「てめぇ逃げんのか!待ちやがれッ!」

「■■■■ーー!」

「…ふん、てめぇが代わりにやろうってのか。望むところだ!」

 

女神化する本物のブラン。そして対照的に涼しい顔をしてその場を去る偽物のブラン。そして行く手を阻む様にブランの前へ躍り出るキラーマシンMK-Ⅱ。ブランは勿論キラーマシンMK-Ⅱの方も臨戦態勢に入っている様子だった。

 

「あわや一触即発…って感じだね、どうする?」

「そんなの決まってるです、ねぷねぷ!」

「ベール様、お願いします!」

「あいあいさー!」

「任せて下さいな」

 

コンパとアイエフの命を受けて女神化するネプテューヌとベール。それはつまり私達がブランの…レジスタンス側の加勢に入るという事だった。そして……

 

「…また私には誰も言ってくれない……いいもん、言われなくって自発的にするもん…」

「おぉ!今までは反応に困る微妙な胸囲の女性だと思っていたが…まさか貴女も豊かな御方であったとは…」

「イリゼさん、だったね?その名前キチンと胸に刻み込もうか兄者」

「…ほんと手の平返し得意ですね貴方達……」

 

女神化前も後もモチベーションが下がる様な展開に直面して一人げんなりする私。…今日厄日だったのかな……。

 

「…何てめぇ等まで女神化してんだ、ルウィーの問題だって言っただろうが」

「えぇそうね、でも街の人達の安全もかかってるのよ?」

「自国他国に関わらず女神として危険に晒されている人々を見捨てるつもりはありませんわ」

「もっと言っちゃうと私達自身の危険でもあるからね、加勢しない理由は無いよ?」

「……ちっ、好きにしろ」

 

舌打ちをしながらも今までとは違い協力を断らないブラン。女神の力の基盤である国を奪われている状態で戦うのは不安があったのか、それとも単に私達を協力させない様にするのが困難だと思ったのか…どちらにせよ一歩前進したのは事実だった。

各々の武器を構え、キラーマシンMK-Ⅱに視線を向ける私達。対するキラーマシンは四対一である事を考慮しているのかその場に留まっていた。

 

「へっ、来ねぇんならこっちから…」

「待ちなさいなブラン」

「…何だよ」

「連携も取らずに四人で突っ込んではむしろ互いに邪魔をしかねませんわ。わたくし達はともかく貴女はわたくしとしか連携をとった事がないでしょう?」

「…確かにな、それにお前との連携も質が低かった覚えがある」

「同感ですわ。という訳で今回は二組に分かれる事を提案しますわ」

「二組、ね…了解っ!」

 

ベールの提案を了承した私達は二組…つまり、私とネプテューヌ、ベールとブランに分かれて左右からキラーマシンMK-Ⅱに迫る。それに対応する様に両腕の武器を振るうキラーマシン。

 

「遅いのよッ!」

「スクラップにしてやるぜッ!」

 

内側寄りの軌道を描いて接近した私とベールがキラーマシンMK-Ⅱの武器を弾き、ガラ空きとなった胴体にネプテューヌとブランが武器を叩きつける。しかしキラーマシンMK-Ⅱの装甲はその攻撃を受け止め弾き返す。それを見た私達は即座に距離を取る。

 

「流石にモンスターに比べると固ぇか…」

「攻撃を与え続ければ内部フレームを破壊出来るかもしれませんけど…時間がかかりそうですわね」

「あいつ…というかああいうタイプには関節部の破壊が有効よ」

「実際ラステイションではそうだったもんね」

 

軽く言葉を交わして再度突撃を仕掛ける私達。今度は四人という数の差と機動力を生かしキラーマシンMK-Ⅱの周りを飛び回る。そんな私達を何とか叩き落そうとするキラーマシンMK-Ⅱだったが…それに捕まる私達じゃない。

そして、機械ながら埒があかない事に耐えかねたのか大振りで武器を振るうキラーマシンMK-Ⅱ。当然ガードは甘くなり…私達には絶好のチャンスだった。

 

『貰った……ッ!』

「■■■■ーー!!」

『な……ッ!?』

 

鋭いターンで攻撃をすり抜け四人同時に頭部と腕部の接続部へ一撃を放つ私達。

……が、キラーマシンMK-Ⅱに届く直前に展開された淡い色のエネルギーの壁が私達の攻撃を防ぐ。

 

「これは…ピンポイントバリア…!?」

「いやピンポイントじゃないよね!?てかボケてる場合じゃないよネプテューヌ!」

 

エネルギーの壁の裏側から胸部装甲を開き、ラステイションのキラーマシンが装備していた物と同じタイプと思われる砲身が姿を現す。

瞬時にそれを見て離脱する私達。次の瞬間エネルギーの壁が消滅し、射線上を文字通り灼く必殺の光芒が放たれる。

 

「中々どうして侮れませんわね…」

「でもバリアもビームもそう易々とは使えないんじゃない?ほいほい使えるならもっと出してくる筈だし」

「なら今の攻め方はあいつにはされたくねぇ戦法だって事になるな、ビームが街に甚大な被害出す前にぶっ潰すぞ!」

 

その後もヒットアンドアウェイを繰り返す私達。けど、極力ビームを放たせない様に戦わなければいけない以上どうしても攻め手が甘くなり、決め手となる一撃を繰り出せない。

 

「じれったいわね…このッ!」

「■■■■!」

「またバリアかよ…!いい加減に…しやがれッ!」

「■■ーー!?」

 

またもエネルギーの壁を展開して刃を防ぐキラーマシンMK-Ⅱ。それにしびれを切らしたブランはそれを無視して戦斧を叩きつける。

果たしてその攻撃は…私達の予想を裏切り、キラーマシンMK-Ⅱの背部装甲へ直撃。戦斧と装甲のぶつかり合いで散る火花。

 

「ブラン…今貴女どうやって突破したんですの…?」

「いや、わたしは何もしてねぇ…だが一つ良い事が分かったぜ、あのバリアは後ろまでは覆えねぇタイプらしい」

「頭隠して尻隠さず、とはね…なら私達がバリア発動させるから二人は後ろを!」

 

アイコンタクトを交わし、一直線にキラーマシンMK-Ⅱへ向かう私とネプテューヌ。何度も攻防を繰り返す中でキラーマシンMK-Ⅱの行動にはある程度のパターンがある事が分かっていた。勿論、その中にはどの様な時にバリアを展開するかも入っている。

 

「ネプテューヌ!」

「任せてッ!」

 

下段の構えから長剣を振るい武器をかち上げる私。その瞬間に懐へと飛び込み刺突を繰り出すネプテューヌ。対するキラーマシンMK-Ⅱは想定通りバリアを展開する。そんなキラーマシンMK-Ⅱに忍び寄る緑と白の女神。

 

「まずはその頭…」

「潰させてもらうぜッ!」

 

頭部と胴体の接続部を穿つベールの刺突。傾いた頭部をしたたかに打つブランの横薙ぎ。そんな強力無比な連撃を受けたキラーマシンMK-Ⅱは当然耐えられる理由も無く、頭部はボールの様に吹き飛んでいく。

…そこからは一方的だった。

 

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

「■■!?ーー!!」

 

頭部を失ったキラーマシンMK-Ⅱは格段に動きが悪くなり、私達への攻撃はおろか防御すらままならなくなる。そしてそのキラーマシンMK-Ⅱへと次々と繰り出される私達の攻撃。みるみるうちにキラーマシンはパーツを失い原型の分からない姿へと変貌していく。

 

「これで…ラストッ!ブラン!」

「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇッ!」

 

半開きとなった胸部装甲を刎ね飛ばす私の一撃。内部が完全に露呈したキラーマシンMK-Ⅱはよろよろと後退を行うが…もう遅い。上段に構えたブランが最短距離でキラーマシンMK-Ⅱへ肉薄し、両断するかの様に戦斧を振り抜く。

内部を抉り取る戦斧。スパークを起こしながら崩れ落ち、完全に停止するキラーマシンMK-Ⅱ。決着は、着いた。

 

「はっ、ラステイション製だか何だか知らねぇがわたしの敵じゃ無かったな」

「わたし達の、の間違いじゃないかしら?」

「……わたし達の敵じゃ無かったな…」

 

ネプテューヌに指摘され、若干の間の後言い直すブラン。それを見て苦笑いする私とベール。私達の…街の危険が去った事で私達の間に穏やかな雰囲気が戻り始める。

 

「お疲れ様です、皆」

「うん、今日も良い仕事したよねー」

「フィナンシェ、貴女は引き続き教会内の動向…特に輸入兵器を探って頂戴」

「輸入兵器…バリアもだけど動きそのものもラステイションの時より良くなってたよね?」

「あ、イリゼも思った?名前的にも絶対強化されてるよね」

 

ラステイションで同型機と戦った事のある私達だからこそ分かるキラーマシンの変化。それと同時に今ラステイションで奮闘している筈のノワールの事が思い出される。

 

「……ノワールは大丈夫かな?」

「んー…大丈夫だよ、何たってノワールだからね」

「…妙に自信ありげね、ねぷ子」

「そう?まあ親友だもんね」

 

アイエフの言う通りネプテューヌは本当に自信ありげだった。そこまで思われてるノワールは幸せ者だよね、本人は否定するかもしれないけど。

 

「ノワール…貴女達ラステイションの女神とも交友があるのね」

「ブラン様…やはりわたしはこの方々に協力して貰った方が良いと思います。…どうですか?」

「……そうね、一考の余地はあると思うわ」

 

あの頑なだったブランは今の共闘が功を奏したのかやっと

前向きな意見を口にしてくれる。私達はそんなブランの反応に少しばかりホッとしながら元いた建物へ戻るのだった。

 

「…というか何話連続で夜パート続くんだろうね。宿屋泊まんなきゃ駄目なパターンだったりするのかな?」

「しーっ!読者の皆様が気付いちゃうからそういう事は口にしちゃ駄目っ!」

「その言葉は隠すどころか露呈に拍車をかけていると思うわ…」

 




今回のパロディ解説

・ピンポイントバリア
マクロスシリーズに登場する防御システムの一つ。作中でも指摘されてる通り本来は機体の一部を覆うバリアであり、作中のはむしろ全方位バリアの方が近いですね。

・宿屋
ドラゴンクエストシリーズや牧場物語シリーズなど様々な作品で採用されている泊まる(寝る)事で日が変わるシステム。…はい、我ながら大雑把なパロディだと思ってます。


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第二十八話 例え今までの敵だとしても

あれから数時間後。雪原を動き回り戦闘も行った私達は流石に徹夜をする余力など無かった為部屋を借りて一眠りする事にした。…まあ、ベールだけは余裕のある様子だったけど。

そして翌日……

 

「おー!これが噂のブランまんじゅうなの?」

「ブラン様の顔が描かれてるです」

「うちの特産品に好印象を持ってくれるのはありがたいけど…それが目的で集まったの…?」

「うちの二人がすいません…」

 

話の本題よりもお茶菓子に興味を示していたネプテューヌとコンパにブランは怪訝な顔をする。ちょっと…どころかかなりクセの強い私達パーティーと出会ったばかりの人が軒並みやる反応を、ブランもあやまたずしていた。

 

「あ、そうそう今からちょっと『第三回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inブランん家』をやろうと思って…」

「もう!?まだルウィーでの問題解決出来てないのにもう次行くの!?」

「うーん、やっぱイリゼの余裕の無さそうな突っ込みは良いね!…まあそれは冗談でほんとはこれについてだよ」

 

そう言ってネプテューヌが取り出したのは鍵の欠片。それを見た瞬間私達はネプテューヌの意図を理解する。

 

「それは…?」

「鍵の欠片だよ。これどっかで見なかった?」

「鍵の欠片…残念だけど見た事無いわ、そもそも名前も今初めて知ったもの」

「そっかぁ…やっぱり探し回らないと駄目かなぁ」

 

と言いつつもネプテューヌの顔はそこまで残念そうじゃ無かった。って事はネプテューヌはここで見つかればラッキー、位の気持ちで言ってたのかな?

 

「それは何に使う物なの?」

「どこかに封印されているイストワールって方を解放させる為だよ」

「それが貴女達の目的?」

「そだよ、でもってわたしとイリゼについて色々教えてもらうんだ」

「そう言えば二人は記憶喪失だったわね…」

 

思い出したかの様に口にするブラン。まあ、私はともかくネプテューヌの方はおおよそ記憶喪失らしくない言動をしてるから仕方ないよね…。

そして都合良く記憶喪失の話となったので私はブランに例の質問を投げかける。

 

「じゃあ私については何か知らない?ここの国民とか何かの関係者とか…」

「貴女について?…知らないと思うわ、少なくともわたしやネプテューヌ、ベールの様に女神化出来る人間の話は聞いた事無いわね」

「そう…ルウィーでも情報無しか……」

 

イストワールさんが私の記憶をなんとかしてくれると言ってくれたとはいえ、出来るものならば早めに知りたいし、私の知り合いがいるのなら会ってみたい。そう思って訊いてみたものの、やはり空振りだった。じゃあ、私の知り合いがいるとすれば調べてないプラネテューヌかな…。

 

「ブラン、今度はわたくしから話をしてもよろしくて?」

「何かしら?」

「昨夜話した通りわたくしもコンベルサシオン…いえ、マジェコンヌに力を奪われ、あいちゃん達とわたくしの国の教会職員は嵌められましたわ…貴女と同じ様に」

「ほんとに忌々しい奴ね…」

「同感ですわ。ブラン、貴女ならここまで言えば分かるのではなくて?」

「…これはもう女神同士で争っている場合じゃない、って事でしょう?…わたしもそう思うわ」

 

ブランの返答は私達へ協力的なものだった。同じ女神…争っていた相手であり同じ敵に貶められた相手でもあるベールだからこそ出来た説得は昨夜の共闘もあったおかげかブランから良い返答を受けられていた。

 

「そう言ってくれてありがたいですわ。そもそもわたくし達はお互いを知らな過ぎですわ、これもあいちゃん達と過ごす中で分かった事なのですけどね」

「確かにそうね…昨日まで貴女もネプテューヌも単なる敵としか認識していなかったもの」

「えぇ、だからこそわたくし達は一度四人で話すべきではないのかしら?」

「…それは、わたし達に出来るのかしら……」

 

ブランは暗に言っていた。今更、わたし達が和解出来る筈が無いと。守護女神戦争(ハード戦争)の事を詳しく知らない私でもずっと争っていた…殺し合っていた相手と和解するのが容易ではないと分かる。

…でも、女神には瑣末な問題だった。

 

「出来るんじゃない?現にわたしとノワールやベールは仲良くなれたしさ」

「それは貴女が記憶喪失だから…」

「きっかけさえあれば何とかなるんではなくて?…わたくしもブランも、ネプテューヌもノワールも人の望んだ存在、女神ですのよ?そのわたくし達がその程度の事も出来ないで人を導ける訳ないですわ」

「そーそー、ベールの言う通りだよ。って言うか女神とか人を導くとかそんな大仰な事考えなくたって良いじゃん。…友達作るのはそんなに難しくないよ」

「……っ…皆……」

 

そうしてブランは二人に…私達皆に言った、『ルウィーを助けてほしい、自分はどうなっても良いから』と。張り詰めていた想いが解放されたかの様に助けを求めるブラン。そんなブランに二人は答える。

 

「ええ、助けを求められたのなら応えない訳にはいきませんわ」

「うん、ルウィーもゲイムギョウ界もまるっと全部皆で救おうよ、ね?」

 

 

「…やっぱり、ねぷねぷもベール様も女神様ですね」

「そうね、ベール様は勿論だけど…ねぷ子もああいう所は素直に尊敬出来るわ」

「私達も頑張らなきゃだね、皆の為に」

 

女神は自分達だけじゃなく周りの人達にも勇気を与え、奮い立たせてくれる。そんな事を実感した瞬間だった。

 

 

 

 

「皆集まったわね?…情報を掴んだわ」

 

ブランと完全に和解出来た翌日、パーティーメンバーを集めたアイエフはそう切り出した。勿論それを静かに聞いてる様な私達ではなく、ネプテューヌを皮切りに各々話し始める。

 

「何々?美味しいプリンのお店でも見つけたの?」

「ルウィーのプリンならわたしも食べてみたいですぅ」

「いや、プリンじゃなくて別のお菓子の可能性もあるんじゃない?」

「わたくしとしてはプリンよりもルウィーのゲーム事情が気になる所ですわね…」

「あのねぇ……」

 

私達四人の怒涛の呑気発言にアイエフは額を押さえていた。…いや、ほら…分かってたよ?真面目な話だって。でもこういう時ボケに乗らないのも私達らしくないし…ね?

 

「あ、わたしは豆乳プリンで」

「ブラン様もいい加減にして下さい!…何なのこのメンバー…」

「ごめんごめん…で、情報って?タイミング的にやっぱ教会関連?」

「察してたなら最初から言ってよ…えぇ、どうやら今日ルウィーの教会は大量の兵器を輸入するつもりらしいわ」

「兵器!?しかも今日だと!?」

 

急に声を荒げたブランに私達は揃ってビクッとする。ルウィーの事だしそういう反応するのは分かるけど…このキャラに慣れるのは大変そうだなぁ…。

 

「ま、まぁまぁ落ち着いてブラン。今日って事はまだ急げば間に合うんじゃない?」

「…そうね。急に声を上げてごめんなさい。…で、取引先と場所は?」

「大量の兵器って言ってたしアナハイム・エレクトロニクスじゃない?」

「ルウィーがAEと関係持つわけないでしょ…取引先はアヴニール、場所はラステイションのアヴニール第二格納庫らしいです」

『アヴニール!?』

「ラステイションだと!?」

「いや今日は大声出すのが流行ってるんですの!?」

 

アヴニールという単語に私とネプテューヌとコンパ、ラステイションという単語にブランがそれぞれ反応し、三分の二が声を上げた事にベールが反応する。ベールの言う通りこの場では大声が流行ってる様だった。

 

「ちょ、ちょっと全員落ち着いてもらえる…?」

「落ち着いていられるか!これ以上あんなもんルウィーに入れられてたまるかよ!」

「…間に合うかは分かりませんが…取引があると分かった以上妨害を仕掛けるべきですわね」

「妨害なら任せて!昔から誰かの邪魔するのって得意なんだー」

「流石ねぷねぷです。きっと通信簿には授業中はもう少し静かにしましょうって書かれるタイプだったですね」

「コンパ、それ褒めるどころか思いっきりネプテューヌ貶してるんじゃ…」

 

自慢にならない自慢をするネプテューヌとそれを微妙な褒め方をするコンパのやり取りは最早パーティーのお約束となっていた。そんな二人のやり取りに辟易としつつも苦笑する私達。

 

「ま、まあとにかくベール様の言う通り妨害の為に急いでラステイションに行く必要がありますね」

「そうね、でもここを留守にする訳には…」

「あぁ、それなら任せて下さいまし。コンパさん、協力をお願いしてもよろしくて?」

「わたしです?」

 

ベールに呼ばれて何やら話し始める二人。その会話が終わった後二人は部屋を出て行く。何だろう…と思いながら私達が待つ事数分。二人が帰ってきた時、ベールの意図はすぐ分かった。

 

「ここの守護は我々兄弟にお任せあれ!愛しきベール様の為、たとえこの身が朽ち果てようとも死守しよう!」

「我が天使コンパさんの為なら僕は何だって出来る!兄弟の威厳にかけて帰るべき場所を守る事を約束するよ!」

『あー……』

「物凄く釈然としない留守番ね…」

「気が合いますね、ブラン様…私もです…」

 

留守番人は色仕掛け(コンパはそんなつもりないと思うけど)に引っかかった巨乳好き二人だった。確かにあの二人なら冗談抜きに死守しそうだし何でも出来そうだけど…ここに至るまでに出会った男の人が軒並み変態だったり悪人だったり人として極端だったりするのは何でかな……。

 

 

 

 

パーティーメンバーの過半数が何とも言えない気持ちを抱きながら移動する事数時間。私達は暫くぶりに産業国家、ラステイションへと足を踏み入れた。

 

「これがラステイション…噂には聞いていたけどここまで工場が多いとはね…」

「一目でリーンボックスやルウィーとは全く違う形で発展を遂げたと分かりますわね」

 

ラステイションに来た事が無いらしい女神二人は少なからず衝撃を受けていた。私も各国に行く度似た様な感覚を味わってるから二人の気持ちはよく分かる。

 

「ベールもブランもラステイション来た事無いの?」

「えぇ、わたくしは皆さんに同行するまではプラネテューヌしか行った事ありませんでしたわ」

「奇遇ね、わたしもプラネテューヌだけは行った事があったわ」

「え、プラネテューヌだけ?…別にプラネテューヌがゲイムギョウ界の中心とかじゃないよね?」

「それは年に二回の祭典の…いえ、何でもないわ」

 

ブランが何やら言いかけて口をつぐむ。祭典…ってつまりお祭りだよね?お祭りって隠す様なものだったっけ…?

 

「年に二回?夏祭りの他にあるです?」

「貴女達には無縁の祭典だろうから気にしなくていいわ」

「…ブラン、まさか貴女こちら側の……」

「…そう言うという事はベールも……」

 

どういう訳だかベールには通じたらしく、何やらこちら側だの何だの言っている。…本当に一体何の祭典なんだろう…。

 

「むー、気になるなー…あ、って言うかラステイションだしここはノワールに協力してもらわない?」

「そうね、国全体はともかく教会は取り戻せてた訳だしそれが良いと思うわ」

「うんうん、ノワールはぼっちだしきっと寂しがってると思うんだよね」

「あら、ノワールには友達がいないんですの?」

「あぁ、それはねぷ子が勝手に言ってるだけで…」

「いいや、わたしの勘はぼっちだって告げてるよ!」

 

何故か自信満々でノワールをぼっち扱いするネプテューヌ。私達を除いたとしてもシアンとはそれなりに仲良くしてた気がするんだけど…。

 

「その勘に根拠はあるの?」

「うん、だって教会をアヴニールに乗っ取られたりそれを一人で解決しようとする辺り友達どころか仲の良い人もいないって」

「…ふっ、確かにノワールの性格ならあり得るわね」

「真面目な性格ですから公私混同は避けて、その結果としてぼっちになってしまった可能性は十分にありますわね」

「ノワールさん、いない所で酷い言われようですぅ…」

 

ほんとにコンパの言う通り酷い言われようだった。女神三人組も流石に飽きたのか、或いは可哀想になってきたのか会話の内容はベールのかけている伊達眼鏡へとシフトする。

 

「…ところで、何故貴女は眼鏡をかけているの?」

「変装ですわ、変装。まだ対外的には守護女神戦争(ハード戦争)の最中だと思われている以上他国の女神とバレたら一大事ですもの」

「確かに、貴女の言う事は一理あるわね…少し待ってて」

 

そう言ってどこかへ行ってしまうブラン。…と、思いきやどこかの眼鏡屋で買ったと思われる眼鏡を持って戻ってくる。

 

「変装完了。…うん、これで完璧」

「だから眼鏡一つじゃ変装にならないって…どうして皆それだけで隠せてると思うのかなぁ…」

 

どうも伊達眼鏡に関しては一般的な感性を持っているらしいネプテューヌ。そんなネプテューヌが突っ込みを入れたところで私達はラステイションの教会に到着したのだった。

 

 

 

 

「颯爽登場!銀河美少女、ネプテューヌ!」

「のわあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

物凄い勢いで執務室の扉を開けるネプテューヌ。驚いて書類やペンを落っことすノワール。私達とノワールとの再会はとてもぶっ飛んだ形となった。

 

「な、何!?何事!?…え、ネプテューヌ!?」

「あれ?ノワール今のは気に入らなかった?じゃあ…待たせたなっ!」

「いや別に気に入らなかった訳じゃなくて…あ、何よ皆もいたのね…って人増えてない!?」

 

いきなりネプテューヌが驚かせたせいかノワールはかなりテンパっていた。取り敢えず話を進める為私が説明しようとした時…悪ノリ大好き女神三人組が動いた。

 

「うん、増えたよ?…って言うか分からないの?」

「ふふっ、分からないとは貴女も随分と平和ボケしたようですわね」

「今なら楽に落とせそうね」

「な……っ!まさか!?」

 

妙に格好良いポーズで伊達眼鏡を取るベールとブラン。対するノワールは二人の口振りと顔を見て正体に気付いたのか愕然とした表情を浮かべる。

 

「そうだよノワール!わたし三人は…えーっと…紫緑白同盟を組んだのさ!」

「ネーミングセンス悪っ!なんかのカードゲームのデッキ内容みたいだね!?」

「そ、そんな…どうして、どうしてよネプテューヌ!」

「わたし達は相容れない存在なんだよノワール…」

 

私の場にそぐわない突っ込みもなんのその、バトルものみたいな会話を続ける二人。女神独特の雰囲気に気圧されているのかコンパとアイエフも口を挟めないでいた。

 

「さあどうしますのノワール」

「争うよりも降伏した方が身の為よ」

「そんな…ネプテューヌ……信じてたのに……」

「…良い塩梅っぽいしそろそろネタばらしする?」

『そう(ですわね・ね)」

「よーし…ノワール驚いた?実は今のは全部冗だ--------」

「…良いわ…やってやろうじゃない……私を裏切った事後悔させてあげるんだから!アクセス!」

『えぇぇぇぇえぇぇっ!?』

 

女神化し大剣を振り上げるノワール。想定外の事態に先程のノワール並みにテンパる女神三人組。そしてこの茶番劇は自己防衛の為三人も女神化した事で逆に事態は悪化し、ケイさんをはじめとしたラステイションの教会職員さん達が何事かと駆けつけて来るまで続いたのだった……。

 




今回のパロディ解説

・アナハイム・エレクトロニクス(AE)
ガンダムシリーズの中の宇宙世紀シリーズで登場する軍需企業の名前。敵対しあっている陣営の両方へ兵器を売ってる辺り、アヴニールよりもタチの悪い企業かもですね。

・颯爽登場!銀河美少女、ネプテューヌ!
STARDRIVER 輝きのタクトの主人公、ツナシ・タクトの掛け声のパロディ。勿論ネプテューヌはあの場で変身した訳でもサイバディに乗った訳でもありません。

・待たせたなっ!
メタルギアシリーズの主人公の一人、ソリッド・スネークの台詞の一つ。正直これはスネークだからこそ格好が付く台詞な気がするのは私だけでしょうか?

・紫緑白同盟、どっかのカードゲームのデッキ
所謂TCG呼ばれるカードの大分けの一つの事。色で言い分けるTCGはいくつかありますが、私の知ってる中で紫緑白が出来るのは恐らくバトルスピリッツだけだと思います。


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第二十九話 揃う女神と狂信者

「…で、何か私に言う事があるんじゃないの?」

「えーと…良いお部屋だね…?」

「謝れって言ってんのよ!」

 

静かな事務の場から一転、戦場と成り果てた執務室は台風でも起きたのかという位滅茶苦茶になっていた。…まあ、一部屋の中で女神四人が動き回ったらこうなるのは当然である。

 

「……ごめんなさい」

「ほらベールとブランも!」

「申し訳ありませんわ…」

「悪かったわね……」

「ったく…貴女達のせいで教会内が騒ぎになっちゃったじゃない…」

「それはノワールが間に受けて女神化したから…」

「何か言ったかしら?」

「な、何でもないです…」

 

とても友達に向けるものとは思えない形相で聞き返すノワールにビビって縮みこまるネプテューヌ。普段してやられてるノワールが完全に優位に立っていた瞬間だった。

 

「…ベール、これでも話し合い出来ると思う?」

「いやこれはわたくし達がアレだったというか…過激な遊びが出来たという意味ではやはり話し合い位出来るかと…」

「冗談よ、しかしまあ…まさかここまでなるとは…」

「……ネプテューヌはともかく何でアンタ達まで仲良く話してるのよ、元々仲は悪い方だったわよね?」

 

訝しげな顔をしながらベールとブランを見るノワール。しかしそれは今の女神の、私達の関係を知らない彼女には無理もない話だった。

 

「んとね、わたしの主人公の魅力に惚れ込んだベールとブランがパーティーメンバー入りしたの!」

「イリゼ、アイエフ、説明してくれるかしら?」

「わたし今説明したのに!?」

「あ、じゃあまずはリーンボックスでの出来事からで良いかしら?」

「ええ、順を追って説明して頂戴」

「しかもスルー!?…クール系突っ込みコンビ酷い……」

 

確かに若干ネプテューヌが可哀想ではあったけど…はっきり言ってネプテューヌはスルーしてた方が説明は進むから不満たらたらのネプテューヌはコンパに任せて私とアイエフでこれまでの経緯を説明していく。

 

「…で、アイエフが兵器輸入の情報を掴んでラステイションに来たって訳。おおよそ理解出来た?」

「え、えぇ…出来たには出来たけど…」

「けど?」

「…貴女達行く先行く先で波乱万丈過ぎない…?」

『ですよねー…』

 

それは言われるでもなく自覚していた事ではあったものの、言われると正直苦笑を禁じえない。自分自身が特殊なネプテューヌや私はともかく普通の人である筈のコンパやアイエフまで同じ経験してるんだから凄いもんだよね…。

と、説明が一通り終わったところでブランが口を開く。

 

「…説明が終わったのなら一つ良いかしら?」

「何よ?」

「二人の説明で分かったと思うけど今ルウィーは不味い状態にあるわ。だから…全面的にとは言わないから、せめてこの場でだけでもわたし達に協力して頂戴」

「……へ?」

「…な、何よその反応は…」

「いや、その…ブラン、貴女敵だった相手に頭下げられる様な奴だったの…?」

「うっ…く、国の為だ、勘違いするなよ!?」

 

ブランの言葉に目を丸くするノワールと、その反応を見て慌てるブラン。どうもブランはネプテューヌやベールよりもノワールに近いらしく体裁や周りからの評価を大事にするタイプらしかった。

 

「はいはい…ま、アヴニールが絡んでるなら見過ごす訳にはいかないし協力は惜しまないわ」

「そ、そう…感謝するわ」

「って言うかノワール、何でアヴニールをそのまんまにしてるのさ?」

「好きで野放しにしてる訳じゃないわよ。教会は取り戻せたとはいえまだラステイションはアヴニールの影響力が強いし…何より今無理にアヴニールを潰したら自分の首を絞める事になるのよ」

『……?』

 

ネプテューヌとコンパは最初は普通に聞いていたものの、後半の話には首を傾げる。…あ、もしかして……。

 

「どうして首を絞める事になるです?」

「やっぱそこなんだ…今アヴニールが無くなったらラステイションの経済…というか産業の流れが大きく変わっちゃうからじゃない?」

「その通りよ。各企業や工場がアヴニールの関わっていた部分を補って元のラステイションに戻す事が出来ない状態で潰しても国の為にはならないもの」

「ふーん…女神ってそういう事も考えなきゃ何だ、大変なんだね」

『貴女も女神でしょう(が・に)…』

 

守護女神三人から突っ込みを受けるネプテューヌ。戦いの場だったりここぞという時には女神らしい姿も見せるけど…普段は女神らしさなんて欠片もないよね…。

 

「ではあまり協力は望めないんですの?」

「まあ、政治的経済的な方向ではね…でも私個人としては今すぐでも協力出来るわよ?」

「…って事はつまり?」

「パーティーへの再加入って事よ、良いでしょ?」

 

ノワールの言葉に私達は満場一致で合意する。ノワールが強い事は前にパーティーを組んでいた時に確認済みだし、現地での協力者がいる事は私達にとって大変ありがたかった。そして何より……

 

『これでボケと突っ込みの人数比が緩和される…』

「ほんと大変ね貴女達……」

 

私とアイエフの安堵の呟きに苦笑混じりの返答をするノワールだった。

 

 

 

 

ノワールの指揮の元執務室を元通りにした私達(主に原因三名が渋々ながら行っていた)はノワールに案内される形で取引場所であるアヴニール第二格納庫へと向かった。

 

「ここが取引場所ね…」

「ところでブラン、どうやって取引を邪魔する気ですの?」

「わたしが薙ぎ払ってやるわ、全て…」

「ち、力技全開だね……」

 

薙ぎ払う…つまりブランはぶっ壊すつもりらしかった。確かにここにきて作戦考え始めるのは時間が勿体無いしそれが一番手っ取り早いのは分かるけど…女神としてそれで良いのかな…。

 

「まあでもそれで良いのかもしれないわよ?取引物が残ってたんじゃまた取引されかねないし」

「アヴニールを潰す時の為の物的証拠として少しは残しておきたい所だけど…そんな悠長な事は言ってられない様子ね」

「じゃ、すぐ行こうよ。時間かかっちゃうかもだしさ」

 

周りに用心しながら格納庫へ入る私達。警備が手薄なのか或いは偶々取引に使う経路の扉だったのか、扉には鍵がかかっておらずすんなり入れた。

流石にノワールも内部までは知らなかったので格納庫内を歩き回る私達。

 

「全然人がいないです…」

「もしかしてここも前行った工場みたいに廃棄されてるとか?」

「それは無いんじゃない?壁も天井もしっかりしてるし」

「取引を内密に行う為に末端の人間は休みにさせてるとかでしょうね」

 

ぽてぽて、がちゃ、きょろきょろ、ばたん、ぽてぽて…

私達の行動を擬音で表現するとしたらこんな感じだった。正直ちょっと興味の湧く部屋もあったけど一刻を争う状態故に気にしてはいられず、とにかく取引現場を探す。

そんなこんなで十数分、元々あんまり無かった緊張感が完全に途切れそうになった頃……

 

「あ、ここじゃない!?」

 

毎回真っ先に入っては微妙な反応を返していたネプテューヌが今までとは違う声を上げた。そしてそれを聞いて次々と私達も入っていく。

 

「確かにここの様ね…」

「こうもキラーマシンが並んでるとちょっと落ち着かないね…」

「量産までしてたなんて…壊すんでしょ?一気にやっちゃうわよ」

 

ルウィーの治安がかかっている為本気のブランは勿論、ノワールもアヴニールにダメージを与える事には乗り気なのか腕を回してやる気を見せる。女神化すると苛烈な性格になる二人が率先してやってくれるなら楽かなぁ…と思った時、キラーマシンの陰から声が響いた。

 

「そうはさせませんよ、私達の大事な取引物ですからね」

『その声は…ガナッシュ(さん)!?』

 

不敵な笑みを浮かべながらキラーマシンの前に立つガナッシュさん。多数のキラーマシンがその場にある事で余裕を持っているのか、前回してやられた私達に対して気負いの様なものを持っている様子は無かった。

 

「どこから情報を掴んだのかは知りませんが、邪魔は止めて頂きたいですね」

「ふん、ラステイションにとって害のあるアヴニールの悪事を見過ごす訳ないでしょ」

「って言うかどうしてアヴニールがルウィーと取引するのさ?儲かるのは分かるけどルウィーが強くなったらラステイション国民としては困るんじゃない?」

 

ネプテューヌのもっとも且つまともな質問に普段のネプテューヌを知る私達は逆にきょとんとする。…が、当のネプテューヌは本当に気になっていたのか私達の反応には気付いていなかった。

 

「それで良いのですよネプテューヌさん。どうやら貴女達は大きな勘違いをしている様だ」

「勘違い?どゆ事?もしかして取引先はルウィーじゃなくて風の王国とか?」

「まさか。ラステイションに住んでいるからといって必ずしも誰もがブラックハート様を信仰してる訳では無いという事ですよ」

「まさか、それって…!」

「私の信仰する女神様はホワイトハート様ただ一人。ホワイトハート様の為ならラステイションなど何度でも滅ぼしてみせましょう」

 

ネプテューヌのボケを三文字で受け流し、彼の本心……否、本性を露わにするガナッシュさん。ブラックハートであるノワールの目の前で言う事に一切の躊躇いを見せない彼からはハッタリらしき雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

「まさかアンタがスパイだったなんて…」

「…あれ?これってチャンスじゃない?」

「どうしたですか、ねぷねぷ」

「だってガナッシュはホワイトハートの信者なんでしょ?って事は…」

「わたしが正体を明かせばそれで解決出来る、という訳ね」

 

ネプテューヌの意図を察したブランが言葉を続ける。

確かに良い案…というか絶好のチャンスだった。勿論異論は無く、ネプテューヌとブランは簡単な打ち合わせをした後一歩前へ出る。

 

「控えおろー控えおろー!この顔が目に入らぬかー!ここにおわす方をどなたと心得る!ここにおわすはルウィーの女神、ホワイトハート様であるぞ!」

「何……っ!?」

「たわけ者が!てめぇ、わたしの顔を見忘れたか!」

「な……ッ!?」

 

ネプテューヌが前にもラステイションで聞いた事のある様な台詞を言いながらブランを紹介し、それに合わせてブランが女神化する。若干芝居っぽさが強過ぎる気はするけど…インパクトは十分だった。

 

「ガナッシュとか言ったな、わたしの為に尽くしてくれているのはよく分かった。…だがな、それで他国やルウィーの皆に迷惑をかける事なんざわたしは望んじゃいねぇ。だから、取引を止めてくれないか?」

「…が…う……」

「……がう?」

「…がう……きさ…か…」

「何言ってやがるか分かんねぇよ、はっきり喋りやがれ…」

「貴様なんか…貴様なんか違う!貴様の様な奴がホワイトハート様であってたまるか!さては噂に聞く最近現れた偽物だな!?」

 

ガナッシュの事を案じ説得しようとしたブランに返されたのはガナッシュさんの怒声。今までの様子は何処へやら、女神化前後のネプテューヌ並みにあからさまな変貌だった。

 

「誰が偽物だ!本物はわたしでわたしを偽物扱いしてる方が偽物なんだよ!」

「そんな訳があるか!私の天使なホワイトハート様がそんな乱暴な言葉使いをする訳が無い!よって貴様が偽物だ!」

「あぁ!?」

「…たまにこういう妄信的な信者っているんですわよね」

「分かるわ。信仰してくれるのは嬉しいけど勝手に違う印象を持っておいて、それが違うと分かると途端に怒り出す奴って厄介なのよね…」

 

ブランとガナッシュさんの言い争い(?)を嘆息しながら眺めるノワールとベール。どうやらガナッシュさんみたいなタイプに困るのは女神あるあるらしい。

私達が対応に困り、結果として放置する形になったせいか二人の言い争いはどんどんとエスカレートしていく。

 

「そもそもわたしの口調なんざそれこそわたしの勝手だろうが!てかわたしの信者なのに知らなかったってどんだけ偏見の目でわたしを見ていたんだてめぇは!」

「偏見、ですって…?…今ので確信しました、やはり貴女はホワイトハート様では無い!ホワイトハート様は仕事にとても前向きで信者にも優しく例えいかなる時であっても慈愛の心を忘れないお方だ!この様な暴力的な人では無い!」

「うわぁ…真面目な堅物だと思ってたけどやっぱ人間好きなものを語る時ってキャラ変わるんだね…」

「わたしはちょっとドン引きですぅ…」

「理想って暴走すると怖いものなんだね…」

 

はっきり言って最早ガナッシュさんは手が付けられないレベルだった。理想のホワイトハートを語る時の輝く様な表情とブランを偽物だと言う憤怒の表情が代わる代わる出てきて意味の分からない事になっている。

 

「ここまで妄信的ですと説得は無理そうですわね…まさかブランの性格が仇になるとは…」

「悪かったな…」

「はぁ、はぁ…こほん、最後のお話は終わりましたか?」

「あ、キャラが戻った」

「生憎取引の時間が迫っていますので、手短に偽物共々貴女方を排除させてもらいますよ」

 

息を整えたガナッシュさんが手にした端末らしき物を操作すると同時にそれぞれの駆動音を響かせ、キラーマシンが動き始める。

 

「結局戦う事になっちゃったわね…まあ、ブラン様の言う通りどちらにせよ壊すつもりだったけど」

「私は野蛮な事は嫌いでしてね。このキラーマシンMK-Ⅲが相手をしてあげます」

「いや、それ直接か間接かの違いだけで野蛮な事には変わりないんじゃ…」

「そんな突っ込みしてる余裕はなさそうだぜイリゼ…」

 

キラーマシンMK-Ⅲと呼ばれた機体は複数いる事を意識してか周囲に散開し始める。…一体ずつ相手をする、って訳にはいかないんだね…。

 

「ねぷねぷ、女神化するです!」

「おっけーこんぱ!」

「ベール様、お願いします!」

「その期待、応えてみせますわ」

「あー…またこの流れだ…まあもう慣れたけどね…」

「この流れ?何の事かは分からないけど私達もさっさと女神化するわよ、アクセス!」

「それは分かってるよ…よしっ!」

 

それぞれの形で女神化し、五人で揃い踏む私達。自分達の事ながら結構壮観なんだろうなぁ…と思いつつも武器を構え、キラーマシンMK-Ⅲを見据える。

 

「流石にこれでは容易に勝つ事は難しそうですね…まあ、負けるとも思いませんが」

「勝手に言ってやがれ、前言通り薙ぎ払ってやるよ!」

「せっかくのチャンスだしアンタ達のせいで溜まったストレスを解消させて貰うわ!」

「…ネプテューヌ、ベール、二人が先行したら私達で援護しようか……」

「そうですわね…心強い事は心強いですけど…」

「一抹の不安を感じ得ない、わね」

 

今にも飛び出しそうな二人と、その二人を見る事でむしろ冷静となる三人。そしてネプテューヌが言い終わると同時に私達へ仕掛けてくるキラーマシンMK-Ⅲ。誰が見るまでもなくそれは…開戦の合図だった。

 




今回のパロディ解説

・「わたしが薙ぎ払ってやるわ、全て…」
機動戦士ガンダムSEEDdestinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。原作での状況とテンション的には人間状態より女神化状態の方が合いそうな台詞ですね。

・風の王国
マクロスΔに登場するメインの国の一つ。キラーマシンとリル・ドラケン、どちらも高性能無人機ですが…全く違う作品なだけあって見た目も全然違いますね。

・「控えおろー!〜〜であるぞ!」
水戸黄門シリーズで主に不届き者を成敗する時に使われる台詞。そしてこれは天丼ネタでもありますね、作中でも出た通り第十四話でも出たパロディなので。

・「たわけ者が!〜〜見忘れたか!」
暴れん坊将軍シリーズの主人公、徳川吉宗さんの台詞。ブランがこのネタを使ったという事は自分の性格について何かしら思う所があったのでしょうか…。

今後の本作についてのアンケートを近況報告に載せました。時間のある方はそちらも読み、返答をして下さるとありがたいです。


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第三十話 策と機械の交わる中で

格納庫内に響き渡る金属音。空を斬る刃の唸り。女神と無人機による攻防は苛烈を極めていた。

 

「そっち行ったよネプテューヌ!」

「挟撃するわよノワール!」

「言われなくてもそのつもりよッ!」

 

既に一機を行動不能にした私達は今までの対キラーマシン戦同様機動力と数的優位を活かした戦術で優勢に立っていた。更に言えば今回は大きければ大きい程行動が制限される屋内戦闘。無論油断ならない相手ではあったけど…十分に勝ち目のある戦いとなっていた。

 

「■■ーー!?」

「この機体はわたしとノワールで一気に倒すわ!その間は……」

「他の機体の迎撃、ですわね?」

「良いぜ、ならさっさとやっちまえ!」

 

流れる様な連携でキラーマシンMK-Ⅲを圧倒するネプテューヌとノワール。そんな二人に横槍を入れさせない為、私、ベール、ブランはわざと大振りな攻撃を他のキラーマシンMK-Ⅲに仕掛け、注意を二人から逸らす。私とネプテューヌが接点となる事でノワールとベール及びブランというまともな連携を取った事の無い組み合わせでも協力を可能としていた。

 

「にしても…私達と正面からやり合えるなんて無茶苦茶な性能だよ…!」

「高出力重装甲とは厄介なものですわね…!」

「けど所詮は厄介止まりだろ?どういう訳だか今回はビームもバリアも使ってこねぇし…なッ!」

 

キラーマシンMK-Ⅲのハンマー…所謂モーニングスターと呼ばれる武器に自身の長刀を打ち合わせて攻撃を阻止、そこから翼を広げ加速する事で一瞬ながらキラーマシンMK-Ⅲを押し切る。

勿論重く出力も高いキラーマシン系にこんな手を使った所で決定的な隙を作る事は出来ない。でも、今はこれで十分だった。何故なら……

 

『これで終わりよッ!』

 

後方から聞こえるネプテューヌとノワールの声と機械の崩れ落ちる音。そしてすぐさま私達に合流する二人。

状況はまた一歩、私達の勝利へと近付いていった。

 

 

 

 

「ふむ…運用に難のあるエネルギー兵装をオミットする事で浮いたリソースを基本性能に回したMK-Ⅲでしたが…女神相手では完全に相手の土俵で戦う事になってしまう訳ですか、少々失策でした」

 

最後のキラーマシンMK-Ⅲが私達の集中攻撃により瓦解したのを見たガナッシュさんは平坦な声音で呟いていた。それはまるで実験結果を見るかの様に。

 

「ふぅ…企業としては腐っていても技術はうちの経済を独占しただけはあるわね、まあまあ良かったわよ?」

「女神様直々に褒めて頂けるとは光栄ですね」

 

ノワールの皮肉混じりの評価に平然と返すガナッシュさん。少なくとも彼の顔に前回キラーマシンを倒した時の様な動揺は…無い。

 

「…ご自慢の兵器がやられたってのに随分と余裕そうだな」

「余裕?まさか、量産出来るとは言っても一機あたりのコストは馬鹿になりませんしこうも場が荒れてしまっては取引も円滑に進みませんからね。困ったものですよ」

「…まさか、まだ隠し玉があるんですか?」

「隠し玉?ふっ…まあ当たらずども遠からず、と言った所ですね」

 

ガナッシュさんが言い終わると同時に何処からか駆動音が響き、突然開かれたシャッターからゆっくりと新たなキラーマシンが姿を現す。

 

「わざわざ最初に展開したキラーマシンMK-Ⅲが全滅した後に出すとは…」

「わざわざ、ではありませんよ?こちらは開発したばかりの最新鋭試作機。本来ならばまだ実戦運用すべき機体では無いのですから」

「ふん、最新鋭試作機だか何だか知らねぇが…」

「たかだか一機で倒せると思わないでよねッ!」

 

言うが早いか地を蹴り一瞬で新型キラーマシンの前後に回り込み同時攻撃をかけるノワールとブラン。決して機動力は高くない新型キラーマシンはその二人の強襲を回避出来る筈も無く、前後から放たれた大剣と戦斧が装甲をしたたかに打ち付け……

 

 

…る事は無く、新型キラーマシンの展開したバリアに阻まれた。

 

『な……ッ!?』

「バリア!?でもあれって前にしか展開出来なかった筈じゃ…!?」

「前面にしか展開出来ない防御機構を新型であるキラーマシンMK-νでもそのままにしておく筈がないじゃないですか。それに、防御機構だけでもありませんよ?」

 

ガナッシュさんの言葉に反応するかの様に胸部装甲を開き、砲身を露出させるキラーマシンMK-ν。…だが、そこから放たれたのは線の攻撃である照射ビームでは無く面の制圧である拡散ビームだった。

直感、或いは多くの経験からなる反射からその攻撃が自身へと及ぶ事を一瞬前に察知したノワールとブランは一気に後退する事で拡散ビームの射程から逃れ、獲物を床に突き立てる事で急ブレーキをかける。

 

「今のを避けますか、やはり女神は侮れませんね」

「全面に展開出来るバリアに拡散ビーム…新型なだけあって厄介ですわね…」

「基本性能重視のMK-Ⅲが量産されてるって事は…あの機体、エネルギー兵装特化って訳でもなさそうだね…」

「でも、所詮は一機よ。全員でかかれば…」

「全員で、ですか…それが出来れば勝ち目はあるでしょうね」

 

にやりと笑うガナッシュさん。人柄はどうであれ、この状況でそんな事を言う理由は一つしかない。それは…

 

「それって…他にもまだ機体があるっていう訳!?」

「あるも何もここは我が社の格納庫。流石にキラーマシンMK-νはこの一機だけですが、量産機や前世代機ならばまだまだあるに決まっているじゃないですか」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ…」

「生憎、私は冗談が嫌いでしてね。証拠に今この格納庫にいる全兵器をここに集結させてあげましょう…さぁ、来るのです!」

『……っ!』

 

五人で背を向けあって武器を構える私達。そんな私達の額にはじっとりと汗が浮かぶ。そして、次の瞬間には扉やシャッターが開き次々とアヴニールの兵器が……

 

「…………あれ?」

「……来ない、わね…」

「な……馬鹿なっ!何故来ない!全機何時でも起動出来る様に調整をして--------」

「生憎だが、貴様の援軍は諦めてもらう」

「……!この声…まさか…!?」

 

集結する筈だった兵器の駆動音の代わりに聞こえてきたのは女性の声。ガナッシュさんを含む全員が視線を向けた先にいたのは…魔術師の様な風貌をした少々が立っていた。

 

「久しいな、ネプテューヌにイリゼ。…いや、今はパープルハートと言った方がいいか」

「MAGES.!?どうして貴女がここに!?」

「何、キナ臭くそれでいて物騒な噂を聞いたのでな。少々お節介を焼かせてもらっただけだ」

「ここに兵器が来ないのは貴様が原因か…」

「他に誰がいる、まあ…」

『MAGES.(さん)一人じゃない(です)けどね!』

 

MAGES.の後ろから現れたのはコンパとアイエフ。…え、あれ?二人はいつの間にこの場を離れていた訳…?

 

「悪いがそこのガラクタ以外はこの狂気の魔術師MAGES.と勇猛なる二人によって破壊させてもらった!」

「馬鹿な…あり得ん!多少差はあれど一機一機が女神とやり合える様なものを貴様等三人で壊滅させただと!?そんな事信じられるものか!」

「そう思うならそうなんだろう。お前の中ではな」

「一体、どうやって…」

 

動揺しながら問うガナッシュさんに対してMAGES.は一瞬『よくぞ聞いてくれた!』…みたいな反応を見せた後自信ありげにその手段を語り始める。

 

「何、起動前に私は魔法で、コンパとアイエフは武器で内部を傷付けた後、大量の水をかけただけだ。いかに防水処理をしていようともその防水処理部分を破壊されては意味も無かろう」

「起動前のただ置いてある状態なら傷付けるのも簡単だったです」

「で、それを知らないアンタは起動させた結果…内部の回路がショートしたって訳よ」

 

聞いてみれば簡単な話だった。無防備な所を狙って防御を剥がし、弱点を突く…そんな簡単で、だからこそ状況が味方しなければなし得ない手段。そしてそれが出来たのはひとえに…

 

「くっ…女神は陽動担当だったのか…」

「わたくし達にそのつもりは皆無でしたが…まあ、結果としてはそうなりますわね」

「さあ、残りは後一機。覚悟は出来ているな?」

「MAGES.…もしかして、一緒に戦ってくれるの?」

「当然だ。それに貴様が別人とはいえ、死なれてしまってはあいつが悲しんでしまうからな」

 

そう言ってMAGES.、コンパ、アイエフが私達の隣に来る。それに対し歯噛みをしながらも私達へキラーマシンMK-νを突撃させる。それに各々の武器を向けて真っ向から迎え撃つ私達。

----格納庫内での最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

「まさか…まさかキラーマシンMK-νまでもがやられるとは……」

 

バラバラに破壊され、比喩や皮肉ではなく文字通りガラクタとなるキラーマシンMK-ν。最後の戦いは呆気なく終わりを告げた。

 

「なんだ、普通に戦っても手応えが無いではないか」

「いや、これ八対一だし流石に多勢に無勢っていうか…某中将宜しく戦いは数だったって言うか…」

 

そう。別にキラーマシンMK-νが弱かった訳ではない。むしろ私達の感じた通りキラーマシンMK-νは今までのキラーマシン系統の中で最も強かった。…が、八対一、しかもその内五人は飛べて尚且つ正面からやり合える力を持っているという状況では攻撃も防御も満足に行える筈もなく、結果として性能をフルに使えないままキラーマシンMK-νはやられる事となった。

 

「それよりも…ありがとうMAGES.。貴女のおかげで助かったわ」

「気にするな、大した事ではない」

「MAGES.…って言ったな。わたしからも礼を言わせてくれ。おかげで取引を潰す事が出来た、ルウィーの女神として感謝するぜ」

「さあガナッシュ、貴方達の企みもここまでよ!」

 

大剣をガナッシュさんに向けるノワール。既にここには私達を倒す為の戦力はおろか、逃げる為の盾とする機体すらいない。どう考えてもこれはガナッシュさんが積んでいる状況だった。

 

「…ふ、ふふ……」

「ん?」

「…は、ははは…はははは、はははははははは!」

「何だこいつ…自慢の兵器が壊されて頭がおかしくなっちまったのか?」

「我が社自慢の兵器が全滅したのは想定外ですし、はっきり言ってかなりの痛手です。…が、この時間なら本来の目的は無事に果たせている筈です」

「という事は…別の狙いがあったと言うんですの!?」

「貴方達はまんまと偽の情報に騙されたのですよ」

 

私達が前にラステイションでキラーマシンを倒した後を再現するかの様に動揺から一転、余裕に満ちた表情となるガナッシュさん。そして今までのやり取りで私達は既に分かっている…彼が場を乗り切る為のハッタリを言うタイプではない事を。

 

「こんな大規模な事が…本来の目的じゃない……!?」

「私としてはこの場で貴女達を倒すつもりでしたからね。ですがそれはあくまで私の目的であり、アヴニール全体としては引き止めておく為の囮だったのですよ」

「じゃああの情報は嘘だったって言うの…?」

「優秀な情報網があるからこそ罠にかかるという事もあるのですよ」

「そんな…って、電話…?こんな時に一体誰よ…」

「アイエフさん、わたしですっ」

「フィナンシェ!?」

 

大変間の悪い電話をかけてきたのはルウィーにいるフィナンシェだった。何となく私の中に嫌な予感が渦巻き始める。

 

「大変なんです!アジトが教会に襲われ----きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「フィナンシェ!?ちょっと!?フィナンシェってば!」

「おい、フィナンシェがとうかしたのか…?」

「アジトが…教会に襲われてるみたい」

「何だと!?」

 

見事に的中する悪い予感。その全く嬉しくない予感的中を視線に乗せて睨んだ先にいたガナッシュさんは歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「くっくっく…そう言えば試運転ついでにレジスタンスのアジトをどうとか言っていましたね」

「呑気に話をしている場合じゃないわ。急いでルウィーに戻りましょう」

「そうした方が宜しいでしょうね、では私はこれで…」

『なぁっ!?』

 

懐から何かを取り出し、軽く放ると同時に背を向けるガナッシュさん。次の瞬間私達の視野いっぱいに広がる光。

完全に油断していた。今まで兵器やモンスターに戦闘を任せ、私達に本人は何も出来ないと思わせていたからこそ出来た一手。放たれた閃光弾の光が収まり、私達が目を開けられる様になった時にはもう彼の姿は無かった。

 

「逃げられたですぅ…」

「捕まれられなかったのは癪だが…今はルウィーに向かうのが先決だ」

「貴女も来てくれるの?」

「乗りかかった船だ。最後まで付き合うのが筋だろう」

 

思いがけない戦力増強に歓喜する私達。でも、ルウィーにいるレジスタンスの人達が襲われている以上ゆっくり喜んでいる訳にはいかない。

 

「ブラン、アジトの場所は分かる?」

「当然だ。コンパ達はとにかく急いで来てくれ、わたし達は飛んで一気に行く、良いな?」

「構わないわ、急いで行きましょ!」

「待ちなさい、本気で飛んで行くつもり?」

 

出入り口に向けて走り出そうとしていた私達に静止をかけたのはノワール。動き出そうとしていた所を止められた事もあって私達は出鼻を挫かれた気分になる。

 

「本気に決まってんだろ、わたしに味方してくれている人が襲われてるんだぞ!?」

「分かってるわ、だからこそ飛んで行くのはお勧めしないわ」

「…ノワール、それはどういう意味なの?」

「意味も何も…貴女達連戦での疲労を抱えた上でここからルウィーまで飛んだとして体力持つの?」

『……あ』

 

ノワールの言う事はごもっともだった。状況に翻弄されて冷静さを忘れていた私達は、危うくヘロヘロの状態で偽ブランと教会の人達を相手にする所だったとノワールに言われてやっと気付き、体力を回復させる為に女神化を解除する。

 

「貴女が冷静に判断してくれて助かりましたわ」

「私はそのレジスタンスの人達と会ってない分、逆に冷静になりやすかったってだけよ。でも無駄口叩いてる暇は無いわ、急ぎましょ」

「うん…って、ノワールも着いて来てくれるの?」

「当たり前でしょ、アヴニールが関わっている以上見過ごせないし…わ、私達仲間でしょ…?」

 

ネプテューヌを見ながら若干頬を染めるノワール。微妙に取っ付き辛い雰囲気を醸し出したノワールにベールが一言…

 

「ノワール…貴女はわたくしの同士かも知れませんわね…」

『…………』

『……?』

 

その言葉の意味が分かる私達は反応に困り、分からないノワールとMAGES.は首を傾げる。

そんな何とも言えない状況が十数秒程続いた後…

 

「…いやゆっくりしてる場合じゃねぇから!」

『です(わ)よねぇ!?』

 

ブランの自他両方に向けた突っ込みを聞いて現状を思い出した私達はルウィーへと走るのだった…。




今回のパロディ解説

・「お前が思うならそうなんだろう。お前の中ではな」
漫画、少女ファイトの登場キャラ、式島滋の台詞。ネット上を始め様々な場、様々な作品でネタとされている台詞なので皆さんの中にも知っている方はいるかと思います。

・某中将
機動戦士ガンダムに登場する、ドズル・ザビ中将の事。因みに、中将は戦いは数だよと言っただけであり別に物量戦を仕掛けたキャラという訳ではありません。


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第三十一話 打算無き仲間達

「やっとルウィーまで戻れた…」

 

あれから数時間後、格納庫から脱出した私達は体力を回復させつつも極力急ぎ、ルウィーへと辿り着いた。先頭を歩くブランは最初こそ余裕のない様子だったが、慌てたところで事態は好転しないと判断して平生を保つようにしていた。

 

「安心するのはまだ早いのではなくて?」

「分かってるわ、このまま着いて来て」

 

そう、私達はあくまでルウィーに着いただけであり、襲われているというアジトにはまだ到着していない。だからまだ一息ついている場合ではなかった。

 

「ねーブラン、まだ結構かかるの?近道とか無いの?」

「近道、ね…一つ思いついたものがあるわ」

「え、何々?」

 

ネプテューヌの言葉に顎に指を置いて数秒考えた後、言葉を返すブラン。そしてブランはその反応に興味津々のネプテューヌの後ろへ回り、手にしたハンマーを振りかぶって……

 

「って、ちょ、ちょっとブラン!?まさかそれでホームランバット的な事する気!?」

「天界から落ちても死ななかった貴女なら大丈夫よ」

「大丈夫じゃないよ!?主人公補正とギャグ補正あっても怪我位はしちゃうんだよ!?」

「怪我位で済むのも大分おかしいけどね…」

 

いつも思うけど、うちのパーティーには緊張感というものが無い。特にネプテューヌを筆頭とした女神の面子はそれが顕著で隙あらばボケを入れてくるレベルだった。…事態は急を要するんじゃなかったっけ……。

 

「ねぷねぷ、怪我してもわたしが治してあげるから安心するです」

「それは嬉しいけど出来ればまず怪我をしたくないかな…」

「ふざけてないでさっさと行くわよ、連絡があってから結構時間が経ってるんだから」

「…ブラン、レジスタンス側って戦力どれ位あるの?」

 

少し前から気になっていた事を口にする私。皆もそれを少なからず気にしていたのか雑談を止めてブランの方を見る。

 

「ゼロ…とは言わないけれど、はっきり言って頭数揃えたキラーマシンを相手に出来る程は無いわ」

「そっか…レジスタンスの人達守って、更に周りに被害が出そうならそこも防いで、その上でキラーマシンや偽物のブランを相手にするってなると…結構厳しいね…」

「おまけに慣れない私達にはキツいこの気候…まあでもやるしかないわよ、ブラン様直々の頼みなんだから」

「それに襲われてる人がいるならほっとく訳にもいかないしね」

 

緊張感が無い、とはさっき言ったけど…逆に言えば状況に左右されずモチベーションを維持出来るという事でもある。そしてそれは私達の強さの秘訣の一つだった。

 

 

 

 

レジスタンスのアジト。その名前だけを見ればたいそうな物だろうと誰もが思うが、実際には普通の建物と大差無い。レジスタンス自体が基本的に表立った行動が出来ない為、当然と言えば当然だが……。

そんなアジトの前で二つの勢力が相対していた。

 

「マジェコンヌ…どうして貴女がここに……」

「フィナンシェ、残念だよ。まさか貴様が裏切り者だったとはな」

 

方や多くの機動兵器と兵を従える女性、マジェコンヌ。方や僅かな勢力ながらも気丈に振る舞う少女、フィナンシェ。物量と精神の余裕が比例している二人だった。

 

「わたしが仕えるのはブラン様ただ一人。紛い物の貴女に仕える気などありません」

「大した忠誠心だ。…だが、今回はその忠誠心が仇となった様だな」

「……っ!?まさか…あの情報は貴女が!?」

「教会にスパイがいる事は分かっていた。だからこそそれを利用して偽の情報を流させてもらったのだ」

「そんな……」

 

マジェコンヌの語る事実に衝撃を受けるフィナンシェ。勿論スパイをしている事がバレる可能性は十分に意識していたが…彼女はそれを利用されるとは夢にも思っていなかった。つまり、この件に関しては完全にマジェコンヌが一枚上手だったのだ。

 

「貴様が裏切り者だったのは残念だよ。せめてレジスタンスの連中諸共一瞬で葬り去ってやろう」

「……っ…」

「ふっ……」

 

目を瞑るフィナンシェ。そんな彼女と対象的に不敵な笑みを浮かべ、前へと出る二人の男性。当然、状況に合わない行動に不信感を持ったマジェコンヌが二人へ視線を向ける。

 

「…何がおかしい」

「いや、少し追い詰めた位で勝利を確信している貴様がおかしくてな」

「何が言いたい…」

「マジェコンヌ、切り札は最後まで取っておくものだよ…」

「切り札だと…?」

 

兄弟の言葉に眉をひそめるマジェコンヌ。状況からすればデマカセと捉えるのが普通、しかし兄弟の余裕に満ちた様子はその言葉に不思議な重みを含ませていた。

…が、良くも悪くも自分の力を疑わないのがマジェコンヌだった。

 

「ふん、馬鹿馬鹿しい…切り札があるならば見せてみるがいい!この兵とラステイションから手に入れた鋼鉄の軍勢を倒せるものならな!」

「…いいのかい?兄者…」

「あぁ、この状況ならやむを得ん…マジェコンヌよ、我ら兄弟を貴様…いや、貴女様の仲間にしてほしい」

『…………はぁ!?』

 

そのあまりにも突飛な、そして想定外の要求にフィナンシェとマジェコンヌの両方が驚愕する。だがそれも無理のない話である、何故なら兄弟のそれは切り札でも何でもない単なる手のひら返しだったのだから。

 

「な、なな何を言っているんですかこの変態兄弟は!?」

「気でも狂ったか…?」

「強き者につく事こそ勝者の摂理さ」

「レジスタンスも悪くなかったが、こうも劣勢になってしまってはな…悪いが寝返らせてもらおう」

「それにブラン様より胸もある事だしね」

 

淡々と理由を語る兄弟にフィナンシェとマジェコンヌは唖然とする。確かに理屈は分かる…が、あまりにも打算的過ぎるのではないか、と。そしてフィナンシェは最後の言葉から一つの確信を持つ。…この兄弟、絶対胸目当てでしょう…!

 

「ふっ…ハーッハッハッハ!面白い連中だ!強き者に服従を誓うとは中々分かっているじゃないか。良いだろう、仲間にしてやるさ」

「ありがたきお言葉」

「例え好みが朽ちようと貴女の胸の為に…」

「ちょっとそこの変態兄弟正気ですか!?貴方達のブラン様への信仰心はどうしてしまったんですか!」

 

今までの緊迫した空気は何処へやら、ルウィーの兵は笑いをこぼしてしまう程に豹変した事態に耐えきれなくなったフィナンシェが口を挟む。彼女個人では立場上の関係が無ければ恐らく目すら合わせてくれないであろう兄弟に入れ込んでいる訳では無かったが…中々どうして彼等はそれなりに有能であり、何より今はそれこそ猫の手でも借りたい程に窮地だったからである。

…が、彼女の言葉への返答は彼等を知る全員が予想した通りのものだった。

 

「我等兄弟の信仰心は胸の大きさに比例する」

「よって、胸の薄い…いや、胸の無いブラン様への信仰心は無いに等しいのさ」

「……っ…貴方達……」

「同じ女として若干の同情を感じるレベルの辛辣さだな…さてフィナンシェ、貴様も女神に見切りをつけたらどうだ?」

「…お断りします」

 

輪をかけて悪化した劣勢にも屈せず、気丈にマジェコンヌに相対するフィナンシェ。対するマジェコンヌもその反応は予想の範疇だったのか然程気にもとめずに当初の目的達成への最後の指示を口にする。

 

「そうか…ならばアジト諸共散るが良い……やれ」

 

マジェコンヌの指示が出ると同時に兵の集団の中から前へと出る一人の女性。そして、その女性が攻撃開始の合図を出した時…街外れの辺境の地は、戦場へと姿を変えた。

 

 

 

 

「……どういう、事…?」

 

ブランの案内に従い、アジトへと急行した私達はその場に広がる戦場に呆然とする。

私達がフィナンシェさんからの連絡を受けてから少なくとも一時間は経っている以上、レジスタンスとマジェコンヌの率いる教会との本格的な戦闘が始まってしまっている可能性は十分に考慮していた。だからそれ自体は良い、私達を呆然とさせたのはそれでは無い。私達を呆然とさせていたのは……

 

「ちっ…薙ぎ払ってしまえキラーマシン!」

「無理に前に出る必要はありません、飽和攻撃を心がけて下さい!」

 

ルウィーの兵へと向けて武器を振るうキラーマシン。それに対して前衛である重装備の兵と後衛である魔法使いが連携して対抗していた。

--------そう、戦闘を繰り広げていたのは二つに分かれたと思われるルウィー教会陣同士だった。

 

「どーなってるのこれ!?え、もしや私達別次元のルウィーに来ちゃった?」

「そんな訳無いでしょ…ブラン様、どういう事か分かりますか?」

「…可能性はあるけど…でも、まさか……」

「ブラン様ーー!皆さーん!」

 

状況が飲み込めず狼狽える私達の元へかけられる声。その声に反応して目を向けた先には、こちらへと駆け寄ってくるフィナンシェさんの姿。

 

「フィナンシェ!?無事だったの!?」

「は、はい。皆さんもご無事でしたか?」

「こちらは問題ありませんわ、味方も増えた事ですし」

「それよりフィナンシェ、この状況は一体…?」

 

手早く互いの無事を確認した後に内戦とも見える戦闘について訊くブラン。それに対しフィナンシェさんは一から説明する方が良いと判断し、マジェコンヌが姿を現した所から説明を始めた。

 

「…そして、マジェコンヌが攻撃を指示した時に……ミナさんが反旗を翻しました」

「やっぱりこれはミナが動いた結果だったの…なら、かなり想定外だけど作戦成功ね」

「ミナ?ブラン、ミナさんって?」

「西沢ミナ、ルウィー教会の教祖であり…フィナンシェとは別の目的で教会側に潜入していたレジスタンスの中核人物の一人よ」

 

恐らく全員が思ったであろう疑問を代表でブランへと聞いた私。ブラン曰く、ミナさんは主に情報を掴む事が目的だったフィナンシェさんとは違い、ある目的の為にずっと教会側に潜入していた様だった。

 

「潜入…貴女の所の教祖もしてたのね」

「うちはラステイションとは違って最初からわたしとミナで立案した元の潜入だけどね」

「う、うっさいわよ!」

「ふむ…言い争いをしている余裕はないと思うぞ?」

 

口喧嘩を始めそうになっていたノワールとブランを制止する様に声を上げるMAGES.。彼女の目線の先には、高出力を活かして無理矢理包囲網を切り崩し始めたキラーマシンの姿。

 

「ルウィーの皆さん押されてるです…」

「私達女神でも手を焼く相手なんだから仕方ないよ、それよりここで傍観してる訳には行かないよね?」

「勿論よ。わたしに仕えてくれる大切な皆がルウィーの為に戦ってくれているんだもの…ここで呑気に傍観なんかしてられるかよッ!」

 

啖呵を切り、女神化と同時に飛翔するブラン。女神としての任を全うしようとする彼女に、私達も続く。

 

 

 

 

「まさかフィナンシェだけでなくミナまでもが裏切るとはな…良いだろう、ならばわたし自ら手を--------」

「出させるかよッ!」

「……ッ!?」

 

放たれた矢の様に空を舞ったブランがマジェコンヌを強襲。それをかろうじて回避するマジェコンヌ。二人の視線が交差する。

 

「ほぉ…まさか生きて帰って来れたとはな。つくづく運の良い奴だ」

「てめぇは中々に運が無いな、味方だと思ってた奴らが実は敵で、嵌めた筈の敵も減るどころか人数を増やして戻ってくるなんて同情するぜ」

「ふん、女神はどいつもこいつも減らず口が絶えないな」

 

互いに相手を煽るブランとマジェコンヌ。そのブランに並ぶ様に次々と降り立つ私達。マジェコンヌは私含めた女神全員が揃い踏みしている姿を見て忌々しそうな表情を浮かべる。

 

「…これは貴様の仕業かネプテューヌ」

「わたしは自分が正しいと思った事をしてきただけよ」

「正しい事?女神同士で馴れ合う事が正しいとは笑わせてくれる」

「笑いたいのなら笑えば良いわ。貴女がどう思おうが皆がわたしの大事な仲間であり友達である事は変わらないもの」

 

マジェコンヌの目を見据え、堂々と言い放つネプテューヌ。そのネプテューヌの言葉が余程気に入らなかったのか睨みつけるマジェコンヌ。少しずつ緊張が高まっていく。

 

「こいつがマジェコンヌ…確かにケバい見た目してるわね」

「スタイルはまあまあよろしい様ですけど、人間性が完全にそれを無駄にしてますわよね」

「黙れ女神共が!…そうだ、貴様等には私の新たな仲間を紹介していなかったな」

「仲間…?」

「さぁお前達、女神に何か言ってやるが良い!」

「ベール様、よくぞご無事で戻られましたな」

「おぉ、美しい胸を持つ女性が増えているよ兄者!」

『……は?』

 

相変わらずの調子で私達とマジェコンヌの間に出てきたのは兄弟の二人。その二人の様子に私達は勿論、呼んだ筈のマジェコンヌさえ目を瞬かせる。

 

「な……き、貴様等何のつもりだ!」

「マジェコンヌ、君こそ私達が本当に君についたと思っていたのかい?」

「表立った行動を避けてきたミナ君が出てきたという事はつまり、反旗を翻すつもりだという事。… ならば時間稼ぎと油断を誘うのが最善というだけの話だ」

「…って事は…お二人共あれは演技だったんですか…?」

 

私達に追いついたフィナンシェさんが驚きの声をあげる。会話の内容から推測する限り、兄弟の二人はマジェコンヌの側についていた(様に見せかけていた)らしい。

 

「そういう事さフィナンシェ」

「で、でも何で…貴方達は胸の大きな人にしか興味が無かった筈じゃ……」

「その通りだよフィナンシェ。でも、僕等兄弟だって長年国民として世話になった女神様への恩義位は感じているさ」

「我ら兄弟が欲望でしか動いていないと思ったら大間違いだ。…まぁ、余程の事が無い限り欲望最優先だがね」

 

妙に締まらない、でもどこか芯の感じられる言葉を紡ぐ兄弟。そんな二人を知る私達は彼等への評価をちょっとだけ上方修正し、改めてマジェコンヌに目を向ける。

 

「…らしいねマジェコンヌ。所詮力と利益、そして嘘でしか人を動かせない貴女じゃ本当の仲間なんか出来ないよ」

「本当の仲間…?…馬鹿馬鹿しい、そんな信用のならない関係性を持つ事など愚か者のする事だ」

「その結果孤立したら意味が無いでしょ…!」

「元々利用していただけの奴等なぞ最初から頭数には入れていない」

「…説得は無駄よイリゼ、言って分かる相手ならここまでの事はしないわ」

 

私とマジェコンヌのやり取りを打ち切らせるネプテューヌ。それを合図に全員が武器を構え、マジェコンヌを護衛する様に展開していた兵器も臨戦態勢へと移行する。

そして…

 

「一堂に集まったと言うだけで勝てると思うなよ女神共が!」

「てめぇこそ覚悟を決めるんだな!さぁ、お前の罪を数えやがれ!」

 

私達とマジェコンヌの、三度目の戦闘が始まる。




今回のパロディ解説

・ホームランバット
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズに登場するアイテムの一つ。普段ハンマーという重い鈍器を取り回しているブランならはゲーム通り吹っ飛ばす事も可能でしょう。

・「さぁ、お前の罪を数えやがれ!」
仮面ライダーWのキャッチコピーであり、二人の主人公の決め台詞の一つ。シリアスパートにパロディを入れるのは大変なのですが、ネタ次第ではしっくりくるんですね。


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第三十二話 激戦の果てに

物量と戦闘規模は比例する。それは同じ座標に複数の物質が両立することは不可能だから、という物理的な理由は勿論、数が増える事によって戦術や連携の範囲は広がり、一人一人の負担が減る事で個々人のポテンシャルを引き出し易くなるからだ。

--------故に、物量が一定以上を超えると戦闘は、戦争へと変貌する。

 

「マジェコンヌ!てめぇうちの国を軍事国家にして何する気だったんだよッ!」

「戦争をする目的以外で軍事国家を作るとでも思うか?」

「やっぱりかよ…戦争したきゃ一人でモンスターとやってやがれ!」

 

怒りを露わにしながら戦斧を振るうブラン。その気性とは裏腹に鋭く無駄の無い斧捌きをこれまた鋭い槍捌きでいなすマジェコンヌ。単純な能力だけならばマジェコンヌの方が一枚上手の様だったけど…ブランは降り積もった雪を時には目眩しに、時には障害物とする事で互角の勝負に持ち込んでいた。

勿論、私達もそれをただ傍観している訳ではない。

 

「ちっ、タンクタイプまでアヴニールは量産してたのね…」

「ですがこれは好都合。古来から中途半端に人型を意識したタンクなど取るに足らない存在ですわ」

「とはいえ…こうも数が多いと厄介ね、ほんとはこっち側についてくれた兵の人達の援護に回りたい所だけど…」

「急いては事を仕損ずる、だよネプテューヌ。今は目の前の敵を片付けないと」

 

マジェコンヌの護衛と予備兵力と思われる機動兵器を相手する私達。キラーマシン系と違ってバリアや範囲の広い近接格闘こそ行って来ないものの装甲強度は劣っておらず、何より数が多い。そして、ラステイションでの長時間戦闘以降休んでいない事も少なからずパフォーマンスに影響を与えていた。

 

「MAGES.!貴女の魔法で一掃するとか出来ない?」

「こやつらを一掃するとなると…かなり準備に時間がかかる上にルウィーの民への悪影響も馬鹿にならないだろうな」

「なら駄目ね…やっぱり時間かかってもタイマンで倒すしか…」

「……皆、だったら私に任せて」

 

長剣を下段に構え、兵器群へと突進をかける私。対する敵マシンは私の方へと両腕部を向け、大型機お得意のビームを私に照射……しようとする直前に私は逆袈裟懸けの要領で長剣を振るう。長剣とそれによる風に掬われる形で舞い上がる雪の束。

 

「イリゼ、何を……?」

「女神三人がかりなら力技で押し切れるでしょ?だから私が他の機体を撹乱するよ!コンパ達はネプテューヌ達の後詰めをお願い!」

「撹乱って…貴女一人でする気!?無茶よ!」

「逃げ回るだけなら大丈夫!」

 

ノワールの制止に手早く答えつつマシンの間を疾駆する。時に飛び上がり、時に振り切り、時に肉薄。機動力と運動性を活かした高機動戦という今までの対マシン戦で確立した戦法を駆使しで翻弄し続けた。

 

 

 

 

「一人でかっこいい事して…ノワール!ベール!イリゼが撹乱してくれてるうちにやるわよ!」

「言われなくても…ッ!」

「そのつもり、ですわッ!」

 

イリゼを追う機体の中で最も近い一機に急接近をかけるわたし達三人。それに気付いたタンクマシンは機体を反転、わたし達へ攻撃を仕掛けようとする…けど、甘い。

 

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

「まずは一撃ッ!」

 

マシンの迎撃より速く肉薄し、両腕部を弾くノワールの逆袈裟。攻撃を遮られたばかりでなく衝撃で体勢を崩したマシンへとベールが追い打ちの一撃。機体上部と下部を繋ぐ腰椎部を刺突されたマシンがスパークを起こす。

 

「■■ーー!」

「撃たせる訳…無いでしょッ!」

「こんぱ、あいちゃん、MAGES.!」

 

機体上部の可動を大きく制限されたタンクマシンは後退し、ビームでわたし達を薙ぎ払おうとするも、逆にその隙を突いたノワールの回転斬りによりカメラアイをしたたかに斬り裂かれ、必殺のビームも明後日の方向へと飛んでいく。

それを見たわたし達は即座に離れ、次の一機を狙う。理由は簡単。まだ撃破した訳じゃなかったけど、あれだけ損傷させればこんぱ達が確実に片付けてくれる筈だから。

戦闘能力を削ぐわたし達三人と、戦闘能力の落ちたマシンを完全に戦闘不能にするこんぱ達三人。イリゼの撹乱によって可能となった連携により、わたし達は着実に敵の数を減らしていった。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…まだまだ……ッ!」

 

私が撹乱の為に動き出してからおよそ十数分。ネプテューヌ達の連携攻撃によってマシンはかなりの数を減らしていったけど…それと同調するかの様に私の体力も削られていった。既にルウィーには入った時の寒さは消え、額には汗をかき始めている。

 

「■■■■!」

「当たらなければどうという事はない…けど、私の体力はどうという事あるよッ!」

 

少しでも気を抜けば手痛い一撃を喰らいかねない緊張感と疲労による余裕の消滅で私は精神的にかなり磨耗していたのか、自分でもよく分からない事を口走り始める私。対するタンクマシンは当然突っ込みをしてくれなどせず、淡々と私を狙う。

…そして、残りの機体数が三となった時、私の撹乱も突然を終わりを告げる。

 

「後三機なら…私も攻げ--------……ッ!?」

 

マシンの数を確認する為後ろを向いた一瞬。常人であれば一瞬で進める距離なんてたかが知れてるけど…今の私は女神化状態で且つ全力飛行中。故に一瞬でかなりの距離を進んでしまい…その一瞬が命取りとなる。

私の目の前に現れたのは鉄の塊。ネプテューヌ達が倒したと思われる…タンクマシンの残骸。咄嗟に長剣をそれに叩きつける事で激突は回避出来るも、力の反作用で私の身体はほぼ停止。そんな私を狙う残存タンクマシン。

 

「■■■■ーー!」

(不味い…やられる……っ!)

 

回避はおろか防御すら間に合わないと悟った私は絶体絶命の危機を前に目を瞑る。そして、マシンの無慈悲なビームが私の身体を……

 

「--------待たせたわね、イリゼ」

 

聞こえてきたのは私を貫くビームの発射音ではなく、雪へ重い物が落ちる様な音と凜とした声。目を開けた先にいたのは片腕を失ったタンクを追い立てるノワールとベール、そして私を守る様に大太刀を構えるネプテューヌ。

気付けば、タンクの数は二へ…そして一へとなっていた。

 

 

 

 

激突する戦斧と槍。ブランとマジェコンヌの戦闘は他の戦闘に比べれば規模は小さいものの、激しさは全くもって劣っていなかった。

そんな戦闘の最中に、私達は増援として介入する。

 

「少々手間取ったけど…貴女の護衛は全部倒させてもらったわ」

「…その様だな、所詮は機械か…」

 

悔しがる訳でもなく、不遜な態度をとる訳でもなく、ただ事実を確認するかの様にマジェコンヌは言った。その態度が逆に得体の知れない余裕を感じさせる。

 

「随分と冷静じゃねぇか、観念する気にでもなったか?」

「観念などするものか、まだ私には手があると言うだけさ!」

 

マジェコンヌが取り出したのはエネミーディスク。そう、彼女はどういう経緯なのかは謎だがエネミーディスクを有しており、それはつまりモンスターを呼び出せるという事だった。

私達が破壊するのを待つ筈もなく、輝きと同時にモンスターが出現し始める。

 

「あれは…!?な、何で…えーっと、マジザンス?…が持ってんのよ!?」

「モンスターが出てきてるだと…!?」

「誰がマジザンスだ!…そうか、リーンボックスではいなかった面子もちらほらといるのだったな」

 

私達程情報を有してなかったノワールとブランは少なからず驚きを見せるが、流石は守護女神か構えを崩す事はなく、きっちりとマジェコンヌとモンスターを見据えている。

 

「説明は後でしてもらうとして…再び二手に分かれた方が良さげだな」

「そうね、ねぷ子達はマジェコンヌをお願い。モンスターの方は私達で片付けるわ」

「モンスター位ならわたしだって倒せるです!」

「えぇ、なら任せるわ。それと…イリゼ、貴女もモンスター退治の方へ回って頂戴」

「うん……って、え?」

 

マジェコンヌと相対する気だった私はネプテューヌを一瞬理解出来ず、聞き返す。無論不満がある訳ではないけど…理由が分からない。

 

「貴女はさっきのでわたし達より疲労してるでしょ?だから無理しない方が良いわ」

「そ、そりゃ確かに疲労はしてるけど…大丈夫なの?」

「大丈夫も何もこっちはこっちで女神四人もいるのよ?それに大丈夫か、何で聞いたら二名程怒るんじゃない?」

『それは(私・わたし)の事(かしら・かよ)?』

「…確かにその通りだね…分かった、気遣いありがと」

 

ネプテューヌと頷き合い、それぞれの目標へと武器を構える私達。

…信頼出来る仲間がいるって、良いよね。

 

 

 

 

特性の違う武器を持ちながらも卓越した連携でマジェコンヌを圧倒する私達。この戦力差でも持ち堪えているマジェコンヌも大したものではあったけど…わたし達の優勢は揺るがなかった。

 

「ふん、せっかくの切り札もこれじゃ台無しだったわね!」

「てめぇに勝ち目はねぇ、さっさと観念しやがれッ!」

「ちぃっ!」

 

ノワールとブランによる同時攻撃を跳躍する事で回避するマジェコンヌ。そしてそこから反撃の電撃を放とうとするけど…そこへわたしが割り込み、更に下からベールが強襲する。

 

「ぐっ…流石は女神、このままでは勝てぬという事か…」

「あら、もしかしてほんとに観念する気?」

「あぁ、観念しよう…この力を上回る事が出来るものならな!」

『な……ッ!?』

 

一瞬淡く輝くマジェコンヌ。その光が収まった時には彼女の姿は無く…代わりに、女神化したブラン…ホワイトハートの姿をした女性が姿を現した。

 

「まさかとは思っていましたが…やはりブランの力も使える様になっていたんですのね…!」

「残念ながらこれは奴だけではなく…お前の力も合わさったものだッ!」

 

戦斧を構え、一気にベールに肉薄するマジェコンヌ。先程までとは段違いとなった速度にベールは辛うじて反応し防御するも、衝撃までは殺しきれず体勢を崩す。

 

「ちっ…勝手に人の姿も力もパクりやがって!」

「ノワール!ブラン!今のマジェコンヌはかなり強くなってる筈よ、油断しないで!」

「そんなの見れば分かるわよ!」

 

奪ったのがベールの力だけだった時もわたしには到底敵わない強さだった。…でも、前と違って負けるかもという予感はしない。それは前一度勝っているのもあるけれど、何より……

 

「いくら強い力を持っていても、彼女は一人よ!個々人では劣っているかもしれないけど…皆の力を合わせればきっと勝てるわ!」

「…皆の力、ですか…少々気恥ずかしい響きですけど、嫌いじゃありませんわ」

「そうね、そ、それに…私達は友だ--------」

「友達、だからな」

「私が言いかけてたんだから途中で奪うんじゃないわよ!」

「あぁ?ちょっと躊躇ってたノワールが悪いんだよ」

「…言った側から喧嘩しないでよ…やるわよ、皆」

 

若干のゴタゴタを宥めつつ、改めてマジェコンヌの方を向くわたし達。対するマジェコンヌは不愉快そうな顔を浮かべ、再度の攻撃を仕掛けてくる。

 

「何が友達だ!群れなければ私には敵わぬ者が生意気なッ!」

「ええ、そうよ。わたし達は一人じゃ敵わない…でも、友達と力を合わせるのも、合わせる事が出来るのも力よ!」

「ごちゃごちゃと屁理屈を…ッ!」

 

先陣を切って斬り込むわたし。わたしの攻撃はマジェコンヌに弾かれるも、わたしのすぐ後ろに着いてきたノワールが瞬時に攻撃。そこへベールとブランも滑り込んでマジェコンヌの退路を塞ぐ。

 

「……っ!邪魔…だぁぁぁぁぁぁッ!」

『……ッ!』

「ガードが…ガラ空きなのよッ!」

 

三方向から来るノワール達にマジェコンヌは力任せの回転攻撃。重量のある戦斧の一撃は三人を同時に弾く事が出来ていたけど…同時に防御不能な状態へと陥っていた。

そこへわたしの横薙ぎが飛ぶ。

 

「ぐぁぁッ!貴様…よくもッ!」

「わたし一人に意識を向けていて大丈夫なのかしら?」

「何……!?」

 

三人の中では一番マジェコンヌから距離があったおかげかブランはすぐに体勢を立て直し、後方から上段斬りを仕掛ける。それに直前で気付いたマジェコンヌは戦斧の柄を挟ませる事で防御。二人が競り合う形となる。

 

「ブラン、援護しますわ!」

「いいや、必要ねぇ!」

「必要無いだと?舐めてくれるじゃないか!」

「舐めてんのは…てめぇの方だろうがッ!」

 

互いに一度距離を取り、再度激突する二人。一人での力はマジェコンヌの方が上な以上、一対一はやるべきではない戦法の筈。そう思ってわたし達は援護をしようとするが…予想に反して、力で負けている筈のブランがマジェコンヌを圧倒する。

 

「ば、馬鹿なッ!何故だ、何故私の方がおされているんだ!?」

「何故って?簡単な話だろ…力任せで振ってるてめぇと長年戦斧使ってるわたしじゃ技量が違うってんだよッ!」

「ぐぅぅぅぅッ!」

 

戦斧の柄を短く持ったコンパクトな一撃。振った直後に遠心力を利用して即座に追撃。この二連撃によりマジェコンヌの構えを完全に崩し、更に遠心力を使って回し蹴りを行うブラン。そこには、力だけしかない者と本来の使い手との明確な差が現れていた。

そして、回し蹴りで吹き飛ばされた先には動きを察知したわたし達の姿。

 

「ま、まだだ…!まだこの程度では…ッ!」

「いいえ、貴女の終わりですわッ!」

『沈…めぇぇぇぇぇぇッ!』

 

わたし達の姿を視認し、何とか構えようとするマジェコンヌ。しかしその手の戦斧はベールの放った槍により弾かれる。唖然とするマジェコンヌ、そこへ一気に肉薄し、同時に刺突を叩き込むわたしとノワール。

わたし達二人の攻撃は無防備なマジェコンヌへと突き刺さり、彼女は雪原へと沈む。

それと時を同じくする様に、今まで聞こえていたモンスターの声が聞こえなくなり、完全に勝敗が決した。

 

 

 

 

「何故だ…何故勝てんのだ!女神二人の力を有した、この私がッ!」

 

モンスターを殲滅し、マジェコンヌの用意したエネミーディスクを破壊した時、そんな声が聞こえた。声の主はマジェコンヌ、その姿は既に元のものへと戻っていた。

 

「流石にタフね。あの攻撃を受けてまだ立っているなんて」

「なら奴が泣くまで…もとい、倒れるまで殴るのを止めなきゃいいだけの話だ。奪ったもん、全部返してもらうまでな!」

 

女神四人に囲まれるマジェコンヌ。思えば、魔窟で初めて戦ってから暫く経つけど、ここまでマジェコンヌを追い詰められたのは今回が初めてだった。

 

「返してもらう、だと?…いいだろう、この国は返してやる!だが、この力だけは貴様等に奪わせはせん!奪われてなるものかッ!」

「……!そいつまだ何かする気だよッ!皆トドメを--------」

「もう遅い!」

『きゃっ……!?』

 

強烈な閃光を放つマジェコンヌ。ラステイションでの一件のデジャヴとも思えるその光が収まった時にはマジェコンヌの姿はどこにも無かった。

 

「……目眩し…?」

「ちっ、マジェコンヌは逃げた様ね…」

「なら、私達の勝ちという事か」

「わたし達、勝てたんです…?」

「その様ですわ。ルウィーの兵の皆さんと戦っていたキラーマシンもあらかたやられたみたいですもの」

 

あまりにもあっけなく、そして大団円とは言えない終わり方に半ば拍子抜けとする私達。勿論味方にも多数の被害が…みたいな展開よりはよっぽど良いけど、何か釈然としないのも事実だった。

 

「くそっ、後一歩だったってのに…」

「けど、ルウィーからマジェコンヌを追い出す事は出来たわ。今はそれを喜びましょう」

「そう、だな…」

「…じゃ、もう女神化解除して良いよね?…ふぇぇ疲れた…」

 

長距離移動と連戦、そして十分以上の高機動で疲労がピークに達した私はいち早く女神化を解除。皆もそれに続く。

 

「イリゼ、大丈夫?」

「うん、結果的には正解だったけど…我ながら無茶な作戦だったよ…」

「ふふっ、イリゼさんはキャラに似合わず割と脳筋なんですわね」

「脳筋って言うか変に単純なんじゃない?」

「ちょ…ひ、酷くない……?」

 

疲れてる私にはあんまりにも酷い評価だった。しかもそんな私の反論に対し、皆は日曜夜の国民的番組のワンシーンの様に皆で笑っていた。その笑いは嘲笑などではなく、とても暖かいものではあったけど…うぅ、ほんとにあんまりだよこんなの……。




今回のパロディ解説

・中途半端に人型を意識したタンク
ガンダムシリーズに登場するガンタンクやザウート等のタンク系MSの事。しかし皆様勘違いしないで下さい、これらのMSも使い方次第で十分に活躍出来るのです。

・「当たらなければどうという事はない〜〜」
機動戦士ガンダムの主人公の宿敵、シャア・アズナブルの名台詞の一つ。言うのは簡単ですが、よく考えると回避し続けるという難しい事を言ってると分かりますね。

・「なら奴が泣くまで…もとい、奴が倒れるまで殴るのを止めなきゃいいだけの話だ。〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険第一部の主人公、ジョナサン・ジョースターの台詞の一つ。泣くまでにしても倒れるまでにしても中々恐ろしい事を言っていますね、これは。

・日曜夜の国民的番組
これはちびまる子ちゃん、又はサザエさんの事を指したパロディです。細かい部分は色々と違いますが、家族を中心とした日常系という意味では同軸の二作だと思います。


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第三十三話 賑やかさに包まれて

「おー!豪勢な料理と豪奢な部屋…何これ最後の晩餐?」

『初っ端から縁起悪っ!?』

 

マジェコンヌを追い出し、ルウィーの奪還に成功してからおよそ数時間後、私達は教会の皆さんがご好意でご飯を用意してくれたので遅めの夕食をとる事とした。

 

「しかしねぷ子が最後の晩餐なんて知ってるなんてね、ちょっと意外だったわ」

「だよね、多分元ネタ…というか作品の方は知らないんじゃない?」

「む…あいちゃんもイリゼも酷いなぁ、こんぱ何か言ってやってよ」

「二人共、ねぷねぷは頭が悪いんじゃなくておかしいだけだからそういう勝手な評価は駄目ですよ?」

「そうそうわたしは頭がおかしいだけ…ってそれが一番酷いよこんぱ!?」

 

私達パーティーのお約束芸の一つ、コンパのフォロー風追撃(本人は自覚無し)が炸裂、賑やかな笑いが部屋の中に溢れる。これが何よりも事件の収拾がついた事を示していた。

 

「貴女達は相変わらずね」

「まーね、ノワールも相変わらずツンデレぼっちなの?」

「相変わらずも何もツンデレでもぼっちでもないわよ!」

「実際の所不明なぼっちはともかくツンデレは確定ではなくて?」

「ツンツンじゃなくてツンデレ、だもんね」

「ええっと、あの…皆さん、お食事が冷めてしまうのですが……」

 

ご飯を前に冗談を言い合っていた私達にそう言ったのは教祖であり、今回の件の立役者の一人であるミナさん。この人はビジネスライク感の強かったケイさんやベール至上主義のチカさんに比べるとかなりまともな人だった。

 

「っとそうね…じゃあ頂くとしましょ」

「いや待て、せっかく一騒動済んだ後の夕食なのだ。ここは一つこの国の女神であるブランに音頭を取ってもらおうではないか」

「え、音頭を…?」

「良いんじゃない?私達女神全員が同じ食卓…食卓というには広過ぎだけども…を囲むのなんて初めてだし、何も言わずに食べ始めるのも芸がないと思うわ」

「同感ですわ、中々良い提案をするじゃありませんのMAGES.」

 

次々と賛成意見が並び、この場はブランが音頭を取る雰囲気へと移行。ブラン自身も別に嫌ではなかったらしく、自ら前に出て話し始める。

 

「こほん…この度は四ヶ国間での友好条約締結記念会にお集まり誠にありがとうございます」

『いやそれTHE ANIMATIONの話じゃない!?次元違う(よ・わよね)!?』

 

私達は予想の斜め上をいくパロディに思わず立ち上がる私達。こんな感じのネタをネプテューヌやベールは勿論、ノワールやブランすらたまにやるもんだから女神は困ったものだよ…。

 

「…イリゼ、今心の中でブーメラン投げてなかった?」

「……ナ.ナンノコトカナ-?」

『…………』

「うっ…ほ、ほらブラン続けて続けて!」

「…ルウィーの奪還までは長かったわ。それこそわたし一人じゃ今もまだマジェコンヌの手の中だったと断定出来る位にはね」

 

気遣いなのか単に真面目に話したかったのか、とにかくブランが続けてくれたので私への追求は潰えて皆がブランの話を聞く。……セーフ…。

 

「だから、わたしは皆に感謝しているわ。わたしに着いて来てくれたレジスタンスの皆、マジェコンヌから離反してくれた教会の皆、わたしの命と言うだけで何度も危険を冒してくれたフィナンシェとミナ…こんな良い人達に信仰されている事はわたしの誇りよ」

「当然ですよブラン様。わたしはブラン様が、ブラン様が統治してくれるルウィーが大好きなんですから」

「教祖として、長年ブラン様と共にいた身としてブラン様と国の危機を見過ごす訳にはいきませんよ」

 

ブランの言葉に真摯に返すフィナンシェさんとミナさん。ケイさんやチカさん、イヴォワールさんとはまた女神との関係性がどこか違う気はしたけど…互いに互いを信頼している事がとても伝わってきた。

 

「そして、ここにいる皆…わたしとは全く関係無い他国民だったり、或いはわたしと今まで戦ってきた敵だったり…そんなわたしを助ける義理も何もない筈なのにわたしと国の為に全力で戦ってくれて…わたしを友達だと言ってくれた皆…本当に、本当にありがとう…」

「お礼なんか良いよ、だってわたし達は友達だもん。でしょ?」

 

私達を代表するかの様に言葉を返したネプテューヌに続き、私達全員が頷く。全員が同じ思想を持っている訳ではない私達。でも、仲間を…友達を大事にしたいという思いは確認するまでもなく全員共通だよね。

 

「…そう、ね…じゃあ、音頭はこの位にしておくわ。皆、存分に食べて頂戴」

 

ブランの許可(?)が出た事で食べ始める私達。それは立食パーティーが似合いそうな場所には似つかわしくない賑やかな食事だったけど…主催者と客という堅苦しい関係性じゃない私達は、こっちの方が良いよね。

 

 

 

 

「ネプテューヌ…ちょっと良いかしら?」

 

食後の満腹感に包まれてちょっとうとうとしていたわたしに声をかけてきたのはノワールだった。ノワールからわたしに話しかけてくるなんて珍しいなぁ。

 

「なーに?フレンドリーに話せるご飯の時間が終わって寂しくなっちゃった?」

「だから私をぼっち扱いするの止めなさいよ!…今時間良いわよね?うとうとしてた位だし」

「時間?まあ別に大丈夫だけど…何?」

「何って…ほら、アレよアレ」

 

アレ、と何故か答えをはぐらかすノワール。うーん…真面目に考えても多分当たんないだろうしここは…

 

「うーん…あ、どうぶつの森の通信?確かにノワールだと相手見つけるの大変そうだもんね」

「違うわよ!っていうかオンライン通信すれば簡単に見つかるし!…約束覚えてない訳?」

「約束?…十年後の八月にまた会えるってやつ?」

「誰もそんな約束してないわよ!…覚えてないならしてあげないわよ?」

 

…と、ノワールが言ったので今度は真面目に考えるわたし。うぅん、ノワールと約束なんかしたかなぁ。ゲームの事とかプリンの事とかなら覚えてるのに…ん?プリン…?

 

「……あ!わたしがまた一緒にプリン食べたいって言ったらノワールがプリン作ってくれるって言ってたアレ?」

「そうに決まってるでしょ、もう…」

 

呆れた様な声を出すノワール。確かにわたしは最初にラステイションを訪れた時最後にそんな約束をしていた。…でもまさかわたしじゃなくてノワールが切り出してくるなんて…。

 

「もしかして…作ってくれるの?」

「作る気無いのにこの話すると思う?」

「って事はデザートとしてノワールのお手製プリン食べられるの?やったぁ!」

 

思いがけないプリンチャンスに喜びを露わにするわたし(活字だと伝わり辛いよね)。そんなわたしにその場にいた皆は奇異の視線を送るけど…そんなのを気にするわたしじゃない。

 

「ふふっ、ほんとプリンの事となると目の色が変わるわよね」

「わたしにとってプリンは親友の中の親友みたいなものだからね!」

「親友の中の親友を食べるのね貴女…」

「あはは…それでどこで作ってくれるの?」

「ここの厨房よ、利用許可はもう取ったわ」

 

流石ノワール仕事が早いね。…と、いう訳で厨房に移動するわたしとノワール。

厨房に着くとノワールは腕まくりする様な仕草をした後手を洗って冷蔵庫を開ける。

 

「さてと…うん、さっき確認した通り材料は一通りあるわね。ネプテューヌ、何プリンが良い?」

「んー…じゃあ、焼きプリンが良いなー」

「焼きプリンね、分かったわ」

 

牛乳や卵、ボウルやカップ等の必要な材料と道具を調理台に出していくノワール。そしてそれを見たわたしは勿論…

 

「〜〜♪」

「手伝う気は無いのね…まぁ良いわ、ネプテューヌだとむしろ失敗しそうだし」

「む、失礼だなぁ。ノワールを立てて敢えて何もしてないんだよ?」

「はいはい、そういう事にしておいてあげるわ」

 

そう言ってプリン作りを始めるノワール。適宜材料を混ぜ合わせ、器に入れてレンジやオーブンに入れていく姿を見ていたわたしは一つ気になる事が出来たからそれを口に出す。

 

「手際良いねノワール。もしかして練習したの?」

「当たり前よ、貴女に喜んで貰う為に何度も練習を…」

「へ?」

「あ…し、してないわよ!?してる訳無いじゃない!か、勘違いしてるんじゃないわよ!」

「へぇー、わたしに喜んで貰う為に何度も練習してくれたんだ、へぇー」

「五月蝿い五月蝿い!してないったらしてないのよッ!」

 

自分って言っておいて物凄く否定してくるノワール。正直ちょっと見てて面白くはあるけど…そんなに顔真っ赤にして怒る事かなぁ。

 

「別に隠さなくったって良いのに、わたしは練習してた事馬鹿にするつもりないし…むしろわたしの為に練習してくれたならわたしはすっごく嬉しいよ?」

「……っ!…うっさい、馬鹿……」

 

今度は打って変わってしおらしくなるノワール。…変なの、ノワールはわたし程単純じゃないのかな?…ってわたしも別に単純じゃないよ!

何だか話しかけ辛くなっちゃった事もあって暫く無言になるわたし。ノワールの方も同じみたいで厨房に静かな時間が訪れる。そうして十数分後…

 

「…凄いわね、ネプテューヌ」

「え?何が?」

 

オーブンで焼く作業に入り、手の空いたノワールが口を開く。流石にさっきまでのしおらしい様子は無くなってたけど…今度は真面目そうな雰囲気を纏っていた。

 

「ベールとブランの事よ。勿論ネプテューヌ一人の力じゃないと思うけど…私達守護女神四人が一緒に食事が出来る様になったのも貴女のおかげでしょ?」

「わたしとしてはそんなつもりは無かったんだけどね。困ってたから、力になってあげたかったから協力してあげただけだもん」

「そういう所が凄いのよ。女神だって嫌いな事や嫌な事はあるし、打算や確執だってあるわ。なのにネプテューヌはそういうものを踏み越えて…単に気付いていないだけかもしれないけど…私達全員と仲良くなったんだもの」

 

ノワールの言葉にどう反応すれば良いか困ったわたしは頬をかく。自分で頑張った自覚のある事を褒められたなら嬉しいけど…当然だと思ったからしただけの事を褒められてもなんて返せば良いか分かんないもん。

 

「…やっぱそれは記憶喪失のおかげじゃない?そのおかげでわたしは皆と初対面みたいに会えた訳だしさ」

「ううん、多分私が記憶喪失になってもここまでいい関係には出来なかったと思うわ。…だから、感謝してるのよネプテューヌ」

「や、やだなぁ。わたし達友達なんだから感謝なんて…」

守護女神戦争(ハード戦争)があのまま続いていたら私達は共倒れになるかマジェコンヌに嵌められて今よりずっと酷い状態になってた筈よ。…ネプテューヌ、貴女は実感ないと思うけど、今の時点でもう私達の…ゲイムギョウ界の危機を一度回避させたの。だから友達だろうと何だろうと女神としてきちんと頭を下げる必要が…」

 

ノワールの言葉を邪魔する様にピーッ、とオーブンが鳴る。いつの間にかそれなりに時間が経っていたのかオーブンのタイマーは0となっていた。

 

「あ……ほ、ほらノワール取り出して冷ますんでしょ?」

「そ、そうね…」

 

わたしにとっては良いタイミングで、ノワールにとっては悪いタイミングでオーブンが鳴ってくれたおかげで話が途切れ、そのままこの話はお流れになる。…グット、オーブン。

そして……

 

「わぁぁ…!」

「ふふん、私が作ったんだからこの位同然よ」

 

冷蔵庫で冷やされた焼きプリンは艶々とした姿になり、お腹いっぱいだった筈のわたしの食欲を唆る。やっぱデザートは別腹だよね。

 

「相変わらずのノワールの高飛車具合なんかどうでも良い位美味しそうだよ!凄いよノワール!」

「…それ褒めてるの?貶してるの?」

「勿論褒めてるんだよ!ね、食べて良い?」

「えぇ、 緩くならないうちに食べて頂戴」

「うん!頂きまーす!」

 

スプーンを持って早速食べ始めるわたし。口の中に広がる冷んやりとした甘さと滑らかさにわたしの頬は自然と緩む。

 

「んー!焼きプリン頼んで正解だったね!これはこんぱの作ってくれるプリンとは別の美味しさだよ」

「ありがと、そこまで喜んでくれたのなら私も作った甲斐があるわ」

「もーこれはあれだね、ノワールは良いお嫁さんになるよ?」

「ぶっ!?お、お嫁さん!?」

 

予想だにしてなかったのか目を白黒させるノワール。でも今度はボケだって事をすぐ理解出来たのか自分の焼きプリンを食べ始める。

 

「んっ、我ながら上手く出来たわね」

「でしょ?あ、ノワール一口食べる?」

「いや、これ両方焼きプリンなんだからどっち食べても変わらないでしょ…」

「そうだけどさ、前みたいに食べるのも楽しいじゃん。ほら、あーん」

「もう、仕方ないわね…あーん」

 

あーんしてくれたノワールに一口分食べさせてあげるとノワールは嬉しそうに笑みを溢す。やっぱりノワールもやりたかったんじゃん。

 

「ほらほら、今度はわたしの番だよ。あーん」

「分かってるわよ、あーん」

 

何だか本格的に楽しくなってきたわたし達は、互いに自分の焼きプリンを相手に食べさせ続けるというよく考えたらとても妙な食べ方を焼きプリンが無くなるまで続けてしまった。…でも、楽しかったから良いよね。

 

「ふぅ…ご馳走様。美味しかったよ」

「お粗末様、私も約束を果たせて良かったわ」

「やーご飯は美味しかったしデザートも食べられたし、おまけにノワールといちゃいちゃ出来たからわたしは満足だよ」

「い、いちゃいちゃって…そんなに私をからかいたい訳?」

「楽しかったのは事実でしょ?」

「それは、まあ…そうね、楽しかったわ」

 

笑顔を見せ合うわたしとノワール。そして気付けばもう遅い時間。楽しい時間は早く過ぎてしまう事、早く過ぎてしまうと思える程にノワールとの時間は楽しかったんだと改めて実感するわたしだった。

……また、ノワールと一緒に楽しくプリンを食べて、楽しく遊べたら良いな。

 

 

「さて、食べ終わったし片付けするわよ。手伝ってくれるわよね?」

「えー…やんなきゃ駄目?」

「やらなかったらもう作ってあげないわよ?」

「うっ、それは困る…」

 

ノワールに言われ、渋々片付けを手伝う私。…ノワールはプリン程は甘く無かったよ…なんて、ね。




今回のパロディ解説

・THE ANIMATION
原作のメディアミックスの一つ、所謂アニメ版の事。このパロディに対する突っ込みで次元違う、と言っていましたが別に今後本作と絡む事の伏線ではないですよ?…多分。

・どうぶつの森
どうぶつとのスローライフを楽しめるどうぶつの森シリーズの事。ノワールがどうぶつの森をやるかどうかはさておき、オフラインで通信するのってちょっと大変ですよね。

・「〜〜十年後の八月にまた会えるって奴?」
secret base 〜君がくれたもの〜、のワンフレーズのパロディ。この歌はしんみりとしつつも暖かさを感じる作品ですが…本作で使ってみたら大分雰囲気変わりました。


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第三十四話 そしてまた次の目的へ

『第三回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inぶらぶらの家』

 

事態収束から翌々日。案の定というか何というか…やはりルウィーでもこの看板を見る事となった。…毎回いつ誰が作ってるんだろうアレ……。

 

「これうち以外でもやってたのね」

「なんかうちのパーティーのお約束みたいだよ?三回目でお約束って言えるのかどうかは謎だけどね」

「そこ!私語は謹みなさーい!」

「私語も何も私的な場でしょこれは…」

 

よく分からない仕切りをするネプテューヌと半眼で突っ込みを返すノワール。一見いつも通りに見える二人だけど私の乙女部分が告げてる…この二人多分何かあったよ!何かは分かんないけどね!

 

「…で、これってつまりは文字通り活動方針を考えるってことで良いの?」

「うん、最低限決めとかないとうちのパーティーはずーっとネタ方面に走りきりになりかねないからね」

「それには同意ですがそうなる原因の筆頭は貴女ではなくて…?」

「ベール様も人の事は言えませんけどね…」

 

ノワールの言った通り形の上では会議だけど完全に私的な場なので自然と真面目な会話より世間話や冗談の方が多くなる考えよう会。更に今回は前回までと一つ大きな違いがあった。

 

「はいはいちゅーもーく!今後どうするかだけどさ…もう四大陸回っちゃったよね、どうしよう?」

「それを考える為に会を開いてるんじゃないの?」

「そうだけどさ、今までは次の大陸行こうって目的があって、そこから考えてたでしょ?」

「骨子となる部分が抜けている、という事だな」

「そうそうそれ、誰か何か良い案ない?」

 

ほぼ丸投げだった。あんまりにもふわっとした質問を出されるとその質問内容に関係無くとある現状が起こる。それは……

 

『…………』

「え…まさかの無言……?」

 

常にボケ狙いのネプテューヌと違って私達は適宜ボケるか真面目な事言うかを選択する(個人差はあるけどね)主義な以上、こうも質問がざっくりしてると反応に困ってしまう。

とはいえずっと無言だとほんとに話が進まないので私が口を開く。

 

「えーっと…取り敢えず確認なんだけど、ゲイムギョウ界って四大陸四ヶ国なんだよね?」

「えぇ、わたし達の統治する四ヶ国以外に国は存在しないわ」

「一応私達の庇護下に入ってない地域や人も居るには居るけどね、あくまで例外的なものだけど」

「じゃあ次行くとしたら一度行った国になるね」

 

正直今の私の質問と返答から出した答えは方針決定には殆ど役に立ちそうには無かったけど…話を動かす事には成功し、建設的な会話が後に続く。

 

「…あ、そう言えば鍵の欠片探しはどうするです?」

「鍵の欠片…ルウィーではまだ見つかってないとはいえ、手がかり無しで探してたらキリがないわね」

「リーンボックスみたいにマジェコンヌが先を越してる可能性が高いんじゃない?一時的とはいえ国を乗っ取る位の余裕があった訳だしさ」

「ではマジェコンヌを…と言いたいところですけどそちらもそちらで手がかりがありませんのよね…」

 

既に何度かマジェコンヌと相見えた私達だけど、そのどれもが偶然か別の件を追って行った先での遭遇かのどちらかであり、言ってしまえばこちらから動いて出会えた事は無かった。…何というか、歯がゆい。

 

「手がかり、か…ユニミテス教とやらを追ってゆけば良いのではないか?」

「と思って私もちょっと調べてみたんだけど…イマイチ組織の体をなしてないって言うかそれぞれがバラバラって言うか…とにかく有益な情報が手に入る前に途絶えちゃうのよ」

「じゃあ他にマジェコンヌと関わりがある人ってなると…」

「……あ、アヴニールは?」

『それ(だ・よ・です・ですわ)!』

 

皆が一斉に反応するもんだからちょっとビビる私。こう、何だろう…「異議あり!」とか「それは違うよ!」みたいな事言われた気分になっちゃったよ…。

 

「失念していたわ、ブランに扮したマジェコンヌが取引してたアヴニールが関係無い訳ないじゃない…」

「えっと、じゃあまたラステイションに行くです?」

「そうなるわね。ノワール、貴女もそれで良い?」

「勿論、ラステイションへの愛が無いとはいえうちの国所属の企業がこれ以上悪事に加担するのを見過ごす訳にはいかないわ」

「よーし、じゃあ次はラステイションに決定だね!」

 

序盤のグダグダ感や無言とは裏腹にてきぱきと話が進んでいった第三回考えよう会。…もしかして今回の会のMVPって私だったり?

 

 

 

 

「え…ブラン来ないの!?」

 

予想だにしなかった、という心情をそのまま声に乗せたかの様に驚くネプテューヌ。他の面子も多かれ少なかれ同様な表情をしていた。

活動方針を決めた翌日。自分でも驚く程にその事を言うのを躊躇っていたわたしがやっと口にしたのは皆が出発を決めた日だった。

 

「ごめんなさい…言おうとは思ってたけど、中々言い出せなくて…」

「それは別に怒ってないけど…どうして一緒に来ないの?どっかの死神様みたいに街から離れられないとかなの?」

「いやそれは無いでしょ、ブラン一回ラステイションに来てたじゃん…」

 

真面目に話そうとしている時にさらっとボケを入れてくるネプテューヌ、そんな彼女を少し前のわたしならば怒っていただろうけど…今はそんな事は無い(無論延々とボケを重ねてきた場合は別よ)。何故ならネプテューヌは恩人であり、友達だから…。

 

「事後処理、というやつよ。ノワールやベールなら分かってくれるんじゃないかしら?」

「そういう事ね…分かるわ、私もその為に一時はこのパーティー離れてた訳だし」

「わたくしはわたくし以外でも出来るものを全て任せて来ましたけど…それは強要するべきではありませんわよね」

 

国の守護者である女神は当然戦士としての側面もあるけど…同時に統治者でもある以上ただ戦って敵を倒していれば良い訳ではない。勿論それが嫌だという訳では無いけど…今のわたしにとっては枷となっているのも事実だった。

 

「それなら仕方ないね、国をほっぽり出す訳にはいかないと思うし…ネプテューヌも駄々こねちゃ駄目だよ?」

「いや駄々こねたりはしないから…ブランがどっかに行っちゃうと困る人だって居るって事位わたしだって分かってるよ?…来てくれないのは残念だけどさ……」

 

意外にも駄々こねると思っていたネプテューヌが素直に受け入れてくれた事に少しばかりわたしは驚く。…何も考えていない子だと思っていたけど、事情次第ではそれなりに考えるのね…。

 

「…ブラン、今ちょっと失礼な事考えていなかった?」

「……考えていないわ」

「その間は何さ…」

「とにかく、そういう事だから申し訳無いけどわたしは一緒に行けないわ。でもやるべき事が済んだら合流するからそれまで頑張って--------」

「ブラン様、それで良いんですか?」

 

不意にかけられた言葉がわたしの言葉を遮る。その声の主は…フィナンシェだった。そして、その隣に立つのはミナ。わたしが教会の中でも特に信頼する二人だった。

 

「二人共…どういう事?」

「そのままの意味ですよ、ついて行かなくても良いんですか?」

 

不可解な事を言う二人にわたしは首を傾げる。わたしの侍女であるフィナンシェも教祖であるミナも今のルウィーの状況を分かっていない筈がない。だからわたしが行こうとしたのを止める事はあってもその逆は無い筈なのにどうして…?

 

「ブラン様、本当は一緒に行きたいのでは?」

「それは…そうだとしてもわたしにはやらなきゃいけない仕事が…」

「それ位ならば私やフィナンシェさん、それに職員達で何とかなります。幸いマジェコンヌはブラン様の姿で乗っ取っていたおかげで女神不在という事態には陥っていませんでしたからね」

「でも…貴女達に丸投げする訳には…」

「ブラン様ならわたし達には出来ない事も出来ます。だからブラン様、ルウィーはわたし達に任せてゲイムギョウ界全体の為に行って下さい」

「ミナ…フィナンシェ……」

 

嗚呼、わたしは何と良い侍女と教祖を持ったものか。わたしの心情を慮り、その上で事後処理を引き受けてくれて且つゲイムギョウ界の為というわたしに行く口実を作ってくれた二人。この二人にはスパイという難度の高い役目もしてもらっていた。そんな二人が更にわたしの為を思ってくれてると思うと目頭が熱くなるのを感じる。

----女神としての務めの為残るか、二人の…そして職員の気持ちに応えて行くか。…そんなの、迷うまでもない。

 

「…前言撤回よ、わたしも一緒に行くわ」

「ブラン、良いの?」

『ブラン様…』

「自身を信仰してくれる人の思いを汲むのも女神の務めよ。…でも、何かあったらすぐに連絡する事だけは約束して、良い?」

「勿論です、ここはブラン様の国であり私達はブラン様の信者ですから」

 

そうして、わたし達は二人に見送られる形でルウィーを出る。

ありがとう、皆…わたしは女神として、皆の思いを受ける者として、ゲイムギョウ界の為に全力を尽くすと誓うわ。

 

 

 

 

「…随分大所帯になったものだよね」

 

前回と違って急を要する訳ではないという事で一度旅の拠点(?)としているコンパのアパートへと戻った私達。旅の始まりの時点では四人、最初期は二人だったらしいこのパーティーも今は八人。全員で同じ部屋にいると明らかに前よりも窮屈だった。

 

「このままだとパーティーではなくレイドになるかもしれませんわね」

「そこまでなったら一話の間でその場にいるのに一度も喋られない人とか出てくるかもね」

「メタい上に恐ろしい事言うんじゃないわよネプテューヌ…」

 

当然だけど人数が多くなるとその分一人一人にスポットが当たり辛くなる。それは確かに仕方のない事だけど…気を付けてますから!頑張って出来るだけ均等に当たる様にしてますから!…って、私は何考えてるんだろう…。

 

「こ、この話は止めにしよっか、ね?」

「そ、そうだね…えーっと、それでコンパのアパートに来たけど何かするの?」

「何か、って言うとまあ…特には無いわね。強いて言えば…」

「これ、ですね」

 

コンパが見せたのはルウィーのお土産。ルウィーだけに関わらず各国に行く度つい色々と買ってしまう私達は余ってしまった分のお土産をコンパのアパートに預けていた。まあ…来る度それも食べてるんだけどね。

 

「お土産と言えば、土産話という訳ではありませんがちょっとした話があるんですわよ?」

「話、ですか?」

「えぇ、あの兄弟がうちの国に移住する事を決定したらしいですわ」

『あー……』

 

何というか、とても納得の出来る話だった。ルウィーでの大規模戦の時は即座に状況を読んで自然に時間を稼ぐという地味に凄い事を行い、更に芯のある所を見せた二人だったけど…やっぱり、あの兄弟はあの兄弟だった。

 

「でも、ベールがいないのにリーンボックス行ってどうする気何だろう…」

「『ベール様の統治する国にいられるだけで我々は幸せそのもの!』とか言っていましたし満喫してるかと思いますわ」

「…欲求不満でチカに手を出してたりして…」

「あぁ、その心配はありませんわ。きっちりと二人には言い聞かせておきましたもの、チカに手を出したら…肉片一つ残しませんわよ、と」

 

笑顔で脅迫の言葉を言うベール。おっとりとした笑顔に穏やかな声…なのに何故か感じる本能的な恐怖に私達は凍りつく。ベール…貴女ほんとアイエフとチカさんの事となると人が変わるね……。

 

「そ、それはともかく…ラステイションに入る前に幾つか言っておきたい事があるんだけどいいかしら?」

「言っておきたい事、です?」

「前も言ったけどまだラステイションはアヴニールが幅を利かせているわ。勿論私や教会が見過ごしてる訳じゃないから前程老若無人には振る舞ってないけど…それでもたかが一企業と舐めてかかったりはしないで頂戴」

 

ノワールの言葉に頷く私達。ラステイションでは勿論、ルウィーでの騒動にも一枚噛んで厄介な敵となったアヴニールを軽んじようとは最初から思っていない。油断して足元をすくわれるのは嫌だからね。

 

「それともう一つ。もうすぐラステイションでは各工場、各企業が自社の製品を発表しあう総合博覧会があるから開発に集中してる工場が多いわ。だからふらっとどっか行って騒動起こさないように、良いわね?」

『はーい』

 

こちらも特に異論は無かったので全員で返事をする私達。工場と言えば…シアンもそれの為に開発してたんだよね、元気かなぁ…。

 

「ノワールよ、他に注意すべき点はあるのか?」

「いや、取り敢えずはこんな所よ。約一名を除いて最低限の常識はあるでしょうからね」

「え、約一名って誰?やっぱ記憶喪失のイリゼ?」

『…………』

「うっ…突っ込みの代わりに皆でだんまりってそれはないよ……」

 

ボケる人にとって一番辛いのは何も返されない事。そんな事をネプテューヌに実感させつつ接岸場へと向かう私達だった。

 

 

 

 

彼方にぼんやりと見えるラステイションの大陸、その間に広がる広大な空間。それが示す事は一つ。

 

「まさか次の接岸まで一時間以上あるだなんて…」

 

私達が接岸の時間を確認しなかったのが悪い、と言えばその通りだけど…接岸場に着いてからそんな事言われたってどうしようもない。仕方ないから街に戻って時間を潰すかどうかの話をしていた、そんな時にネプテューヌがとある提案をした。

 

「ねーねー、わたし達は飛べるんだしさ、こんぱ達を連れて飛んでいかない?」

「それは中々妙案ですわね、その場合あいちゃんはわたくしが優しく抱いていきますわ」

「相変わらず貴女は惚気てばっかりね…」

 

ベールの惚気はさておき、確かにそれは妙案だった。結構な距離を飛ぶ事になるからそれなりに疲れるとは思うけどここで一時間以上待つよりはよっぽど良い。皆もそう考えたらしくネプテューヌの案は即可決となった。

 

「…で、ネプテューヌがコンパを、ノワールがMAGES.を空輸…で良いのかな?…する事になったんだね」

「こんぱ、ムラサキねぷ子の航空便ことねぷねぷ航空を楽しんでよね!」

「はいです、憧れの空の旅ですぅ!」

「頼むぞ、助手よ」

「誰が助手よ誰が!」

「そして前言通りわたくしはあいちゃんを…さぁあいちゃん、わたくしに抱き付いて下さいまし」

「だ、抱き着くんですか!?」

 

三者三様…じゃなくて三組三様の様子を見せるネプテューヌ達。私とブランは担当する相手がいないから楽といえば楽なんだけど……。

 

「…ほんの少し残念ね」

「うん、同感だよ……」

 

まあ、残念がっていてても人が増える訳ではないのですぐに気を取り直し、女神化する私とブラン。ネプテューヌ達もそれに続く様に女神化し、飛べない三人を掴んだり抱っこしたりして空へ舞い上がる。

そうして元々奇妙だった私達パーティーはより一層奇妙に見える事をしながらラステイションへ向かうのだった。

 

 

「…あ、そう言えば第四話でもラステイションへ向かう形で終わったわね」

「キリが良いんだからそういうメタ視点での指摘はしなくて良いの!」




今回のパロディ解説

・異議あり!
逆転裁判シリーズの初代主人公、成歩堂龍一の代名詞とも言える台詞の事。その直後のパロディもそうですがここぞというタイミングで言われたら確かに驚きそうですね。

・それは違うよ!
ダンガンロンパシリーズの初代主人公、苗木誠の代名詞とも言える台詞の事。その直前のパロディと同様の形で使えそうですが…タイミングを計るのは大変そうですね。

・どっかの死神様
ソウルイーターに登場する、鬼神を封印している為デスシティから出られない死神様の事。女神と死神、どちらも神という意味では近いですが…共通点なんてそれ位ですね。


・ムラサキねぷ子の航空便
クロネコヤマトの宅急便のパロディ。クロネコヤマトさんと違ってムラサキねぷ子は個人経営(経営してませんが)なので色々と大変そうですね、単なるパロディネタですが。


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第三十五話 狂騒・強烈・協力

ラステイションの大地へと降り立つ五人の女神と三人の少女。五人の女神は一仕事終えた後の様なすっきりとした様子、それに対して三人の少女は……

 

「ぎもぢわるいですぅ…たかいところ怖いですぅ…目がぐるぐるするですぅ…」

「うぐっ…まさかあんな戦闘マニューバをするとは……」

「はぅぅ…ベール様……」

 

一人は目を回し、一人は表情を曇らせ、一人は惚気ていた。この三人を見れば分かる通り、私達…というか三人を運んだネプテューヌ、ノワール、ベールは大分ぶっ飛んだ飛び方をしていた。…韻を踏んだつもりはないよ?

 

「もう、二人共何やってんの…」

「せっかくの機会だし楽しんでもらおうと思ったんだけど…」

「だからってバレルロールに宙返り、そして極めつけにインメルマンダンスって酷過ぎだよ…」

「え、じゃあ帰りは変身と解除を組み合わせた『ねぷねぷスペシャル』をしようと思ったんだけど…駄目?」

「も、もう空は嫌ですぅ…歩いて帰るですぅ…」

 

話を聞く限りネプテューヌとノワールは善意…というか遊び心でアクロバット飛行をした様だけど…コンパとMAGES.にとっては絶叫体験にしかならなかった。…そりゃ女神が空戦レベルの動きしたら連れられてる人はたまったもんじゃないよね…。

そして、もう一組はと言えば……

 

「ふふっ、ハネムーン飛行は満足出来まして?」

「もう感無量ですベール様ぁ……」

「…なんでこの二人はここまでイチャつけるのかしら」

「恋は盲目、とはよく言ったものだよね…」

 

二人がイチャつく事自体は二人の自由とはいえ、ほっとくとここでずーっと仲睦まじくしていそうなので半眼で茶々を入れる私とブラン。…正直、とても取っ付きにくい。

 

「移動一つとってもろくに進まないな、このパーティーは…私も人の事を言える立場ではないが」

「そこをすんなり受け入れられる様になったらパーティーメンバーとして一人前だよ?」

「そんな一人前は御免被るわね…ここで話してるんじゃわざわざ飛んだ意味が無くなるし教会行きましょ」

「あ、待ってその前に一旦シアンのとこ行っちゃ駄目?」

『シアン?』

 

そう言えば…と言った感じの表情を見せる私達四人と聞き慣れない名詞に首を傾げるベール、ブラン、MAGES.。パッセの社長でありラステイションでの協力者となってくれたシアンの様子が気になるというネプテューヌの言葉は至極真っ当に思えた。

 

「私達がお世話になった町工場の社長だよ、持ちつ持たれつの関係だったけどね」

「そうね…別に良いんじゃないかしら?パッセの現状も気になるし」

「じゃあまずはシアンさんの所に行くです」

「ねぷねぷ航空利用する?」

「それはしないですぅ……」

 

全体的に締まりのない形でラステイションの街中へと足を運ぶ私達。お出掛けの度に余計な事を話したり本来の目的から脱線したりする私達のスタンスはやはりどこへ行っても変わらなかった。

 

 

 

 

「あいちゃん、エスコートお願いしますわ」

「本屋さんの案内ならわたしがするですよ」

「さて、ではドゥクプェを探すとしよう…」

「ノワール、ちょっと図書館行きたいんだけど案内してくれない?」

「え…あの……」

 

あいちゃんを連れてゲームショップへ行くベール、こんぱに案内されて本屋へ行くブラン、ドゥクプェを探しに行くMAGES.、ノワールに頼んで図書館へ行くイリゼ。そして、残される……わたし。

…おかしいよね?わたし主人公何だよ?むむ…せっかくだからちょっと観光してからパッセ行かない?…って提案には同意したけどこんなの聞いてないよ!…って言ってもしょうがないし…

 

「ちょ、ちょっと待って二人共!主人公たるわたしを一人ぼっちにしてどこ行く気!?」

「どこって…図書館だよ?」

「私もそう聞いているわ」

「いやそうじゃなくて…わたしも着いてっちゃ駄目?」

『駄目』

 

同時に即答するノワールとイリゼ。…え、酷くない?主人公とかネタとかそういうの抜きに即座に拒否とか流石のわたしも傷付くよ…?

 

「うぅ…もしかしてわたしって嫌われてる…?」

「そういう訳じゃないわよ、ただ…」

「絶対ネプテューヌは図書館じゃ静かに出来ないよね…」

「それは確かに…でもこのままじゃわたしほんとにぼっち何だよ、何かスイーツでも奢るから連れてってよー」

『…スイーツ?』

 

今まで拒否してた二人がスイーツと聞いて興味を示す。うんうん、個人差はあるけどやっぱスイーツって聞いて興味を示さない女の子はいないよね、わたしもプリン大好きだし。

 

「プリンでもケーキでも好きに奢るからさ、良いでしょ?」

「…本当に良いの?」

「この主人公ネプテューヌに二言は無い!ドヤァ」

「うーん…まあスイーツ奢ってくれるなら話は別だよね」

「そうね、着いてくる事を許してあげるわ」

「わーいっ!やったー!」

 

人目を気にせず喜ぶわたし。やー実に作戦成功、ノワールとイリゼの心を掴むのは案外簡単だったね!

…うん、何となくむしろわたしが良い様に扱われてる気がしないでもないけど違うよね、きっと。

 

 

 

 

「ふぅ…あんなにたくさんのスイーツ食べたのは久しぶりよ」

「私はもしかしたら初めてかも、やっぱ甘い物って良いよね」

「うぅ、わたしのお小遣いが…酷いよ二人共……」

 

ケーキを目一杯食べられて上機嫌の私とノワール。それに対してネプテューヌはお小遣いが吹き飛んだ事で絶賛落ち込み中。対照的な二人と一人の構図が完成していた。

 

「好きに奢るって言ったのは貴女でしょ?」

「でもほら、普通こういう場合って遠慮とかするものなんじゃ…」

「友達の間に遠慮なんて必要無いよ、きっと」

「金銭面での遠慮は必要だよ…これじゃもうゲームどころかプリンも満足に買えないじゃん……」

 

軽くなったお財布を見つめるネプテューヌ。その哀愁を感じる様子にこれは悪かったかなぁ…と思ったわけでとノワールはフォローを試みる。

 

「えっと…ほら、今度プリン買ってあげるから元気出して」

「そ、その通りよ、私も買ってあげるから」

「え、ほんと!?」

『立ち直り早っ!?』

「…なんて言うと思った?」

『ですよねー……』

 

流石にそこまで単純じゃなかったネプテューヌ。…と、思いきや…

 

「…でもプリンかぁ…よし、高級プリン二つで手を打とう!」

「あ、うん…良いんだ…」

「やっぱり単純なのね…」

「何か言った?」

『いえ何も』

 

単純なのかそうじゃないのか相変わらずよく分からないネプテューヌだった…。

と、そこで思ったより時間が経っていた事に気付く私達。あんまり遅くなるとシアンに迷惑になっちゃうから皆と合流してパッセへと向かう。

 

「そう言えばパッセはちゃんと元通りになったのかしら…」

「そこは安心して頂戴、きちんと工場として成り立つレベルに直ったわ」

「工場、か…興味をそそられるな」

「あれ、MAGES.ってそういうタイプなの?てっきり科学より魔法、的な人だと思ってたけど…」

「早計だなイリゼよ。我が魔術は魔法と科学の融合…謂わば技術系統の垣根を超えた新時代の技なのだ」

「そ、それはまた凄いね…」

 

大所帯故の賑やかな進行(?)をしながらパッセへと向かう私達。ノワールの言っている事を立証するかの様に私達が歩く工場街はキラーマシンにやられる以前の姿を取り戻していた。

そして……

 

『おぉーー!』

 

元のパッセの姿を知っていた私達は勿論、ベール達パッセを知らない面子も色めき立つ。

それもその筈、私達が目にしたパッセはよくある町工場的な雰囲気から最新鋭設備を揃えた企業の工場の様な荘厳さを醸し出していたからである。

 

「確かに元通り…と言うよりも前より立派になってるです…」

「シアンの精神が形になったかの様な雰囲気あるよね」

「ま、取り敢えず入りましょ」

 

ノワールを筆頭にパッセへと入る私達。外見同様内装も機械に詳しくない私達でも分かる程良い設備を揃えていて、最早別の工場かな?…と思う位だった。

 

「シアン、最近顔出せなくて悪かったわね」

「ん?あぁノワールか…問題無いさ、そっちもそっちで忙しいだろうし…って、おぉ!」

「やっほー!シアン久しぶりー」

「お久しぶりです、シアンさん」

「元気してた?」

「急な訪問だけど大丈夫?」

「勿論さ!そっちこそ元気そうで良かったよ」

 

私達の姿を見るや否や駆け寄ってくるシアン。そっちこそ、と言う言葉からも分かる通りシアンはとても元気そうだった。…まあ、やっぱり開発に熱を入れ過ぎるのは変わらないのか目元にくまが出来てたけど、ね。

 

「貴女がシアンなのね、宜しく」

「初めましてですわ」

「我が名はMAGES.!次元を超えし狂気の魔術師だ!」

「…おまけに個性的な面子も増えて随分な大所帯になってるな」

 

ラステイションを後にした以降のパーティーメンバーを見て苦笑いするシアン。ふとすると忘れがちになるけど…女神だとか別次元の住人だとかそういう事を抜きにしても私達のパーティーは物凄く個性的なんだよね…。

 

「それにしてもほんとに凄くなったねここ」

「だろう?…まあ、これもノワールの…いや、ブラックハート様のおかげだけどな」

「へぇ…あれ?ノワールはシアンに正体明かしたの?」

「えぇ、流石に隠すのもキツくなってきたしね」

 

シアン曰くノワールが正体を明かした時にはシアンは腰を抜かすレベルで驚いたらしかった。そして正体を知った上でノワールを呼び捨てにしているのはコンパやアイエフ達と同様ノワールからそう呼ぶ様言われたかららしく、その時シアンは信仰する女神様の言葉を聞くべきか信者として適切な接し方をするべきか相当悩んだと言っていた。

 

「あ、もしかしてノワールは重機の代わりとかしたの?」

「そんな事する訳ないでしょ…そもそも何もしてないわ」

「そう照れんなって、お前が公務をこなしつつも護衛役をかってくれたおかげで資材の調達が楽に出来たんだ。この辺の連中皆が感謝してるんだぜ?」

「たったそれだけの事よ、それに国民を助けるのは女神として当然だもの」

「と、いくら褒めてもこの調子なんだ…」

 

またも苦笑するシアン。対するノワールは飄々と…そして、よく見るとちょっと照れた様な表情をしていた。

…ほんと、こういう所はノワールらしいよね。

 

「私の話はもう良いわよ…それより開発は順調なの?」

「よく聞いてくれたな。博覧会用の武器なんだが確かに開発は進んでいる…が、今の素材じゃどうもフレームの強度が足りないんだ」

「また?何回目よ…それに前取ってきた素材だって入手には苦労したのよ?」

「それは十分分かってるって。けど、こればっかりは妥協出来ないんだ」

 

そういうシアンの顔は完全に職人のそれになっていた。素材入手にやや否定的なノワールもその事は分かっているのかはっきりと断る様な事はせず、ただ困った様な表情を浮かべている。

…と、そんな時に口を挟んだのはやはりネプテューヌだった。

 

「あれ、もしかしてシアンは絶賛お困りなうって感じ?」

「あぁ。前にお前達にモニターを頼んだアルマッスを覚えてるか?今はあれを更に発展させてるんだが、エネルギー技術の方にフレーム強度が追いついていなくてどうしても今以上の高度の素材が必要なんだ」

「なら、わたし達が取ってくるです」

「頼めるのか!?」

 

コンパの言葉を聞いて途端に目を輝かせるシアン。武器開発に進展が期待出来る事に目を輝かせる女の子、という大変稀有な状況に今度は私達が苦笑する番だった。

 

「他にする事もないから大丈夫よ。それに、私達としてはまだシアンとの協力関係は続いてるつもりよ」

「お前等……」

「それにモニターという形で開発に協力した身としては、完成まで見てみたい気持ちもあるからね。協力させてよ」

「ありがとな、お前等…なら頼む!今のわたしが出来る最高傑作を形にする為に協力してくれ!」

『勿論!』

 

シアンの頼みに全員で返す私達。そして、シアンから目的の素材の情報を聞いた私達は手早く準備を済ませた後、その素材があるというダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

目的の洞窟へ入ると即座に襲いかかってくるモンスター。普通の人であれば良くて一苦労、悪いと撤退を余儀なくされるモンスターの強襲だったけど……

 

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

幾度とない戦いを経験し、それを乗り越えてきた私達にとっては脅威でも何でもなく、せいぜい準備運動になった程度だった。モンスターが消滅する時の光を横目に見ながら私達は洞窟を進む。

 

「しかしびっくりだよね、素材…っていうか鉱物はモンスターから取ってくるなんて…もしや目的のモンスターってウラガンキンか何かなの?」

「それならばそれはそれで面白そうですけど違うみたいですわ」

「だよね、じゃあそのモンスターはどこら辺にいるの?」

「それはお約束通りこの洞窟の一番奥らしいわ」

 

このお約束、と言うのかゲームやアニメで言うお約束なのかゲイムギョウ界でのお約束なのかは分からない(或いは両方…?)けど、奥なら探しやすくて助かるね。

 

「お約束…そう言えばわたくしがこの前遊んだゲームはダンジョンの奥ではなく脇道にボスがいたせいで一時間位探し回る羽目になりましたの。そんな苦労現実でまでしたくはありませんわ」

「さ、流石ベール様。こんな時でもゲームが例えなんですね…」

「まさにゲーム脳ね…」

「おーい、モンスター出てこーい!」

 

雑談をしたり軽く呆れたりモンスターを呼んでみたり…緊張感も真面目さも無い私達だったけどモンスターが出てきたらきっちりと撃破し、道が分かれた時は一つずつ確認して…まあつまりは順調に探索を進めていた。

…でも世の中は…特に私達パーティーは何も予定外の事が無い予定調和な冒険が出来る訳もなく、現に今もとある出来事が近付いていたんだけど…それはまた、別のお話。

 

 

「…っていう幕引きって結構あるけどさ、大概それって語られないよね。まさかここでの出来事まるっと飛ばしちゃって次回はパッセから始まるとか?」

「いやいやいやいや…小粋な幕引きしたかっただけだから…」




今回のパロディ解説

・インメルマンダンス
マクロスΔの主人公、ハヤテ・インメルマンが行ったマニューバの通称。オーバーテクノロジー兵器で行う動きを普通の人に体験させるのはあまりにも酷な気がしますね。

・ねぷねぷスペシャル
機動戦士ガンダムOOのメインキャラの一人、グラハム・エーカーの行った変形マニューバの通称のパロディ。こちらも大変危険なので普通の人に体験させるのは駄目ですよね。

・「シアンの精神が形になったかの様だね」
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYのメインキャラ、アナベル・ガドーの台詞のパロディ。工場も工業製品…と捉えれば元ネタに近い…気がします。

・ウラガンキン
モンスターハンターシリーズに登場するモンスター。背中で鉱石が取れるモンスターなのですが…一体どんな身体の構造をしてたら背中に鉱石が生えるのでしょうね。


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第三十六話 当日に出来る事、当日までに出来る事

洞窟には浪漫がある…らしい。らしい、と言うのは女の子故か、それとも私個人の問題か…まあとにかく浪漫があると風の噂に聞いた事があった。

まあ…分からない事はない。お宝だとか、新たな発見だとかそういう要素と洞窟とは切っても切れない縁だからね。

……なーんて事を私が何故思い出したかと言うと…

 

『……台座?』

 

シアンの依頼で訪れた洞窟で発見した、明らかに自然に出来た物とは思えない構造物。見た目は皆が言う通り、台座の様な形をしていた。

 

「えぇ、私もそう思うわ。…でも変よね、まさかとは思うけどラステイションには台座型の岩ってあるの?」

「当然無いわ、と言うかどう見ても人工物よね」

「こんな洞窟に人工物…目的が気になるわね…」

「……うーん…」

 

私含めた皆が台座を観察しながら思考を巡らす中、コンパが唸り声を上げる。状況的には私達と同じくこの人工物が何故ここにあるのか、を考えているのだと判断しそうになるけど、コンパの唸り声は考えているというよりも…

 

「…もしかして、コンパはこれ見た事あるの?」

「見た事ある様な気がするです…ええっと、確かねぷねぷと一緒にいる時で、えっと…」

「ふむ、ネプテューヌは覚えていないのか?」

「全然全くちっとも覚えてないよ!」

「何を堂々と言ってるのよ…これじゃそのイストワールって人に記憶直して貰っても意味無いんじゃ--------」

「そ、それです!」

 

自信満々に情けない事を言うネプテューヌとそれに呆れながら返すノワールといういつもの光景に強い反応を示すコンパ。その顔は今までとは違う表情を宿していた。

 

「それ、って?」

「いーすんさんの事です!ねぷねぷと二人で見つけた最初の鍵の欠片が置いてあった物とこの台座とが似てるんです!」

「鍵の欠片の台座…?…って事は…」

 

もしやと思って台座を改めて観察する私達。観察対象は同じでも情報があるのと無いのとでは得られる結果も大きく変わる。その結果…

 

「…不自然な窪みがあるな」

「この形って…ネプテューヌ、ちょっと鍵の欠片貸して」

「うん、はいどうぞ」

「ありがと。……うん、やっぱりこの窪みは鍵の欠片がはまってた場所みたいだよ」

 

窪みに鍵の欠片を当ててみた私はそう述べる。正確な事を言うと窪みにすっぽりはまった訳じゃなかったけど、窪みの大きさや周りの模様が鍵の欠片にかなり近いものだったから私の見立ては間違ってない筈。

 

「…という事はここには鍵の欠片が『あった』様ですわね」

「けど、今はそれが無い。…やはりマジェコンヌが持ち去ったのかしら…」

「あいちゃん、いつ位に持ってかれたか分かる?」

「流石にそこまでは分からないわ。パッと見た感じ最近ではなさそうだけど…」

「そっかぁ…最近だったらマジェコンヌが来てる証拠になると思ったんだけどなー」

 

残念そうな声を上げるネプテューヌ。マジェコンヌのアジトや手がかりと言った情報を持たない私達にとってはマジェコンヌに繋がる要素はそれこそ喉から手が出る程欲しいものであったから気持ちは分かる。…けど、そこまで悲観する程でもない。

 

「いや、マジェコンヌがここに来てたってだけで有益な情報でしょ?ここに来てたって事はつまりマジェコンヌは四大陸全てに手を伸ばしてるって事なんだから」

「…あんまり嬉しくない情報ね。うちの国には来てないって情報ならありがたかったんだけど…」

「まあとにかく今は先を急ぎましょ。今回の目的はシアンに頼まれた素材の入手なんだし」

 

アイエフの言う通り、鍵の欠片とマジェコンヌについての情報は謂わば棚からぼた餅であり、本来の目的ではない。なので過ぎた事は仕方ない、の考えの元私達は先へ進むのだった。

 

 

 

 

洞窟の最奥で動く複数の影。…が、影という表現はあまり相応しくない様に思わざるを得ない。何故ならば…

 

「……結晶型モンスター…?」

 

身体に結晶の生えたモンスター、或いは体内で結晶を精製するモンスターなのだろうと思っていた私は目的のモンスターがほんのりと輝く結晶そのものだった事に少なからず驚きを覚える。横を見ると皆も私と似た様な顔をしている。どうやら皆も同じ事を思っていたらしい。

 

「あれが例のモンスターね…そう言えばルウィーでも似たタイプのモンスターがいた気がするわ」

「どうみても硬そうですわね…」

「相手が硬くたって数はこっちが上よ。まとめてかかればどうって事ないわ」

「そう言われると、まるで悪役の様でちょっと気が引けますわね…」

 

今まで基本フルメンバーで戦ってきたのに何を今更…って気はしなくもなかったけど、口に出されると確かに気が引けた。…ノワールって女神の中じゃかなりまともな方だけどたまに女神化する前から苛烈な事言うよね…。

 

「なら後は貴女に任せるわ」

「そういう事ならわたしもパース」

「ねぷねぷがパスするならわたしもパスです」

「え、ちょっと貴女達…?」

 

次々とパスの意思表明をしだすパーティーメンバー。ここから更にアイエフ、ベール、MAGES.とパス宣言をし、最後に私が残る。

分かってるよね?…という視線を送る皆とそんな事しないわよね?…という視線を送るノワール。…え、えぇー…。

 

「…あーうん…ノワールなら一人でも倒せるよ、大丈夫」

「そんな評価要らないわよ!まさか皆戦わない気!?」

「…とまぁ冗談はさておき、正直長引くのも面倒だから皆で一気にいくよー!」

『おー!』

「な、何なのよ貴女達は!?」

 

突っ込みに忙しそうなノワールを置いてモンスターへと駆ける私達。ちゃっちゃと片付ける為私含めた女神の面子は女神化(ノワールもワンテンポ遅れて女神化)し、先行して五人で強襲をかける。

 

「先手必勝!」

「すぐに終わらせるわ!」

「散りなさいッ!」

「貫いて差し上げますわ!」

「喰らいやがれッ!」

 

大型モンスターならばいざ知らず、ただ硬いだけのモンスターが女神五人の同時攻撃を受け止めきれる筈もなく、ゴムボールの様に吹っ飛んでいく。

そして、その先へ回り込むコンパ、アイエフ、MAGES.。

 

「えいですっ!」

「貰った!」

「闇の炎に抱かれて消えよッ!」

 

針と刃と炎の三重奏に自ら突っ込む形となったモンスター。最早オーバーキル気味だったが、倒す以上はわざわざ手加減をする必要はない。そして当然、八人がかりの攻撃を受けたモンスターと言えば…

 

『…………』

 

モンスターではなく単なる残骸と化していた。そしてモンスターが消滅した後に残ったのは多数の結晶。これこそ正にシアンに頼まれていた鉱物だった。

 

「やっぱノワールの言う通り皆でボコると楽勝だね」

「ちょっと、私そこまで酷く言ってないんだけど…」

「あれ、そうだっけ?でもノワールなら言いそうじゃん?」

「貴女ねぇ…前から思ってたけど私をちょっと舐めてない?あんまり馬鹿にすると生茄子を貴女の口にねじ込むわよ?」

「いやいやいやそれ冗談にならないから!馬鹿にしてないから止めて!」

 

妙に怖い笑顔を浮かべながらネプテューヌを追い詰めるノワールとあからさまにテンパるネプテューヌ。最早お約束を超えて日常の光景と化した二人のやり取りを、女神化を解除した私達は苦笑しながら眺める。

 

「ほんと相変わらずね、あの二人は…コンパ、鉱石は取れた?」

「はいです。この位あればきっとシアンさんも喜んでくれる筈です」

「なら依頼達成だな。モンスターが寄ってくる前に戻るとしようじゃないか」

 

回収した鉱石を分担して持ち、洞窟の出入り口へと向かう。途中何度かモンスターと遭遇したけど、やはり私達の敵ではなく、然程くろうすることもなく出入り口へと向かう事が出来た。

 

「ここまで来ればもうモンスターと会う事は無さそうだね。ふぅ、今日も疲れたなぁ」

「もう疲れたの?イリゼ体力無いんじゃない?」

「前までスタミナ考えず走った結果、息切れしちゃってたネプテューヌには言われたくないんだけど…」

 

 

 

 

「おおっ!これこれ!これを待っていたんだよ!」

 

パッセに戻り、回収してきた鉱石をシアンに見せると、私達が依頼を受けると言った時同様に彼女は目を輝かせて喜んだ。…生粋の技術者なんだね、シアンは。

 

「取り敢えずあるだけ持ってきたけど、これだけあれば十分かしら?」

「勿論さ、悪いが早速武器の改修に取り掛からせてもらうよ。今は時間が惜しいからな」

 

そう言って鉱石を手に工場の奥へと姿を消すシアン。…と、言う事はつまり私達は慣れない工場の中に残される訳で、武器開発や博覧会の事をそれなりに知ってて且つ私達が気軽に声をかけられる相手であるノワールに注目が集まる。

 

「そういえば、博覧会って何時なんです?」

「三日後よ」

「そうですか、三日後ですか…」

『…って、三日後!?』

 

予想以上に短かったタイムリミットに驚く私達。三日って…それじゃカップ麺位しか作れないじゃん!…って、それは三分だった……。

 

「三日後とは…改修は間に合うのだろうか…」

「それは大丈夫だと思うわ、シアンの技術者としての能力は本物だもの。…むしろ問題はアヴニールね」

「アヴニール…アヴニールも博覧会に参加するって事?」

「えぇ。…私の勘が正しければきっとアヴニールは博覧会で何かする筈よ」

 

腕を組み思考を巡らすノワール。アヴニールの裏の顔を知っている私達からすれば、それは絵空事ではなく十分に可能性を感じられる言葉だった。

 

「そうね…実際アヴニールはわたしに扮したマジェコンヌに兵器を譲渡していたんだもの。あり得ない話じゃないわ」

「成る程…となると、マジェコンヌも博覧会に現れるかもしれないという訳ですわね」

 

ネプテューヌを除く守護女神三人の推理によってアヴニールの策略とマジェコンヌの影が見えてくる。これもやはり推測の域を出ないけれど…確実な情報や証拠が無い以上、推測を立てて動くしかない。

 

「じゃあまたアヴニールの仕事受けてみる?」

「それは無理でしょ、私達はとっくにマークされてるでしょうし」

「なら博覧会の運営側に働きかけてみるとか?」

「いや、それはシアン達出展側が喜ばないと思うわ。理由があるとは言っても運営に干渉したんじゃ真っ当な博覧会とは言えなくなるもの」

 

博覧会は産業国家であるラステイションにとって重要なイベントであり、零細企業から大企業まで多種多様な企業がこのイベントの為に全力を尽くしているのだとノワールは言った。そうなると、確かにあまり強行な手は使えない。

 

「じゃあ、どうしたら良いです?」

「当日まで待つしかないと思うわ。アヴニールだって博覧会に出られなくなったら痛手でしょうし当日までは妨害工作なんかより開発に専念する筈よ」

「そっか…じゃ、各々当日に動けなくなる様な事せず数日間過ごすしかないね」

 

待つだけ、というのはかなり歯がゆいものだったけど、下手に動いてアヴニールに有利な状態にしちゃったら元も子もない。そう自分に言い聞かせて私達は数日を過ごす事とした。

 

 

 

 

広い会場に飾られている多種多様な武器と兵器。量産を想定していそうなシンプルな物からワンオフ、或いは少数生産しか考えていそうにない複雑な物、果ては何を考えてるの!?…と突っ込みたくなる様なトンデモ作品まで正に目白押しの博覧会に私達は圧倒される。

 

「ふふん、どうよラステイションの科学博覧会は。この規模にこの出展数、そしてこの技術力!ラステイションの科学力は世界一よ!」

「うわ、ノワールがすっごいハイテンションになってる…」

「まあ、女神として鼻高々なのだと思いますわ」

「テンションはさておき、気持ちは分からないでもないわ」

 

上機嫌なノワールにそれぞれの感想を抱きながら会場を歩く私達。まだ会の始まりまでは時間があるらしく、観客は勿論出展者も余裕のある表情を浮かべている。

 

「シアン、アルマッスの改修は間に合ったの?」

「あぁ、お前等の協力のおかげでわたしの出来る最高傑作を完成させる事が出来たぜ」

「シアンさん、頑張るのは良いですけどちゃんと寝なきゃ身体壊しちゃうですよ?」

「はは…博覧会が終わったらゆっくりと寝る事にするよ。さて、わたしは準備があるからまた後でな」

 

自分のブースへと向かうシアン。どんなに良い作品に仕上がっていたとしてもそれを飾り、人の目に触れる様に出来なければ何の意味も無いという事を分かっているシアンはまだまだ気の抜けない様子だった。

 

「…まるでコミケのサークル参加者ですわね」

「あ…どこかで見た事あったと思ったらそれね…」

「貴女達…そういう事じゃなくてもっと出展品に興味を示しなさいよ」

「助手よ、私は興味を示しているぞ」

「助手ゆーな!…でもやっぱり貴女は分かってくれるのね」

 

興味深げに出展品を見るMAGES.。あ、そう言えばMAGES.の魔術は科学技術との融合って言ってたしこういう事も守備範囲内なのかな。

 

「次は私も神次元…いや、超次元ガジェットで出展するのも良さそうだな」

「超次元ガジェット…?何よそれ?」

「ふふ、超次元ガジェットというのは私が作り出した発明品の事だ」

「へぇ、発明まで出来るなんて凄いじゃない。どんなのがあるの?」

 

今度はMAGES.の言葉にノワールが興味を示す。口ぶりから察するにシアンよりも更に小規模、完全な個人開発らしい。

 

「そうだな…入れた物を食べ物だろうが人間だろうが何でもゲル状にしてしまう電子レンジや室内マイクロウェーブ照射装置などなどだ」

「お願いだからそんな物騒な物出展しないで」

「なんだ、つまらん。アヴニールよりは平和的だと思うのだがな」

「だとしても普通に生活する上では物騒なの!」

「いや…普通に生活する上でだったら今回の出展品の九割が物騒なんじゃ…武器と兵器の博覧会だし……」

 

ラステイションの女神でありながら博覧会の根本を否定しかねないノワールの発言につい突っ込む私。

…と、その時会場の照明が暗くなる。

 

「な、何です?」

「これはまさか怪盗出現パターン!?」

「な訳ないでしょ…静かになさい、セレモニーが始まるわ」

 

ノワールに指示され黙り込む私達。周りもこれがセレモニー開始の合図である事を理解しているのか一斉に静かになり、会場が静寂に包まれる。

そして、完全に静かになった時、会場正面のステージに司会が現れ、私達とアヴニール、マジェコンヌの思惑…そして、出展したラステイションの技術者と企業の全員の努力と誇りをかけた博覧会が、始まる--------。




今回のパロディ解説

・「闇の炎に抱かれて消えよッ!」
中二病でも恋がしたい、の主人公富樫勇太の中二病時の台詞。…まあ、MAGES.は実際に炎出してるんですから中二病でも何でもない、単なる掛け声になるんですけどね。

・「〜〜ラステイションの科学力は世界一よ!」
ジョジョの奇妙な冒険第二部のキャラ、ルドル・フォン・シュトロハイム(少佐・大佐)の台詞のパロディ。自信家、という意味ではちょっとノワールも近いかもですね。


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第三十七話 騒乱の博覧会

「会場にお越しの皆様。本日はブラックハート様及び教会が主催する総合科学博覧会にお越し頂き、ありがとうございます」

 

ステージへ現れた司会者は見覚えがあった。それもその筈、その司会者はラステイション教会の教祖ケイさんその人だったから。

でもそれもさして意外じゃない。教会主催のイベントなら教祖さんが出てきてもおかしくはないからね。

 

「おー、ビジネスライク感のあるケイが司会やってるとそれっぽいね」

「ですね。…あれ?ブラックハート様と教会主催…?」

「でもブラックハートてかノワールはここに…って、あら?」

 

アイエフが横…つまり、ノワールがいた場所を見るもそこにはノワールの姿は無い。勿論ちょっと移動したとかではなく、少なくとも見回せる限りの距離には彼女はいなかった。それを不審に思い、探す事を提案しようとした時……

 

「ではまず主催者であり、ラステイションの女神でもあるブラックハート様から挨拶を頂きたいと思います」

 

ケイさんの声を合図にステージ中央にライトが当てられる。そしてそこへ現れたのは気品あるドレスを身に纏った女性…そう、女神ブラックハートこと女神化したノワールだった。

 

「会場の皆、今日は私と教会の主催する総合科学博覧会に来場、或いは出展してくれてありがとう。まずはその事をお礼させてもらうわ」

「ノワール、いつの間に…」

「イベントの規模からしてノワールも女神としての職務があるとは思っていましたが…まさか初っ端とは…」

 

私達パーティーはノワールが僅かな時間の間に移動し着替えていた事に、私達以外の人達は女神直々の登場にそれぞれ声を漏らし、にわかに会場が騒つく。しかし流石に皆状況を理解しているのかすぐに話し声は消え、元の静寂な会場へと戻る。そして、それを見計らったかの様にノワールが再度口を開き挨拶を再開する。

 

「…それと、私は皆に謝らなくちゃいけない事があるわ。国の為と勝手に思い込んで女神の本分を疎かにしていた事、それの影響で国内に混乱を招いた事、それらは全て私に責任があるわ。…ごめんなさい、皆」

『ノワール……』

 

殊勝な態度で謝罪を述べるノワールに私達は複雑な気持ちを抱く。勿論ノワールに責任が無いとは思わない。…でも、アヴニールやマジェコンヌが悪事を働き始めた事はアヴニールやマジェコンヌ自身の問題であってノワールが国に仇なす事をした訳じゃないし、その点に関してはむしろノワールも被害者と言える。

…でも、それは旅の中でその様な事を知った私達だからこそ分かる事であり、ラステイションの国民はそれを知る由もない。だから、この場において私達は黙るしかなく、ノワールも真摯に謝る事しか術は--------

 

「ブラックハート様、我々こそブラックハート様の理想に応えられず申し訳ありませんでした!」

「私達は誰も女神様が私達を見捨てたんじゃないかなんて考えていません!女神様はそんなお人ではありませんから!」

「それよりも俺達の努力、是非見て下さい女神様!」

「……っ…貴方達…」

 

会場の方々から上がる声。一人一人内容は違うものの、上がる声全てがノワールを非難するものではなく、温かく力強いものだった。

そう、出来事の真実や裏を知るまでもなくラステイションの国民はノワールを…女神を信頼し、国民としての意思を貫いていたのだった。勿論全ての国民がそうだという確証はない。…でも、少なくとも今この会場には確実にノワールを肯定している国民がいるのだった。

それを知ったノワールは一瞬ハッとした様な顔をするも、すぐに調子を取り戻し言葉を紡ぐ。

 

「…私は本当に良い国民を持ったわ。貴方達の国の女神になれて幸せよ…。……でも、だからこそ私は今のラステイションを立て直して、豊かで誇りある国に直していかなくちゃいけないわ。そして、その第一歩がこの博覧会よ。…皆、自分達の力と技術の粋である作品を私に…ここにいる皆に見せてあげて頂戴。私も楽しみにしているわ」

 

礼をし、幕内へと下がるノワール。その背中へと温かな拍手が送られる。これはセレモニー…というか開会式の最初に行う主催者挨拶であり、基本的に盛り上がる様なものではなかった筈だけど…今の挨拶はまるでそれが今回のメインであるかの様な賑わいを観客が見せる事となった。

 

「…あれアドリブだよね?…こんな大勢の前でその場に合った言葉に変えられるなんてやっぱ女神って凄いね…」

「慣れれば割と出来るものですわよ?」

「というか慣れなきゃ挨拶なんて上手く出来ないわ」

「…って事をさらっと言える辺り、経験が成せる技なのかな……」

 

守護女神の皆と違って私は女神化する事は出来ても大勢の前で話す経験は全く無かった(あったとしても覚えてないから一緒だよね)為に、素直に感心する。…もし私が記憶を取り戻したら、私もこういう事する機会が来るのかな?

 

「ブラックハート様、ありがとうございました。では次に運営委員長からの言葉です」

 

ノワールの挨拶が終わった事でセレモニーは次の行程へ進み、今度は見慣れない人がステージへと出てくる。

そしてそこから十数分。運営委員長の言葉、会場での注意事項、投票について等の堅苦しい行程が続き、ネプテューヌがあからさまに飽きた様子を見せ始めた所でセレモニーは一つの動きを見せた。

 

「…さて、ではここで武器、兵器の実演会を行います。今回は予め希望を取り、実演会に参加する事を表明した企業による実演会です。皆様、くれぐれも実演会中は騒ぎを起こす事のない様にお願いします」

「実演会?実演会って『いつもより多く回っていまーす』ってアレ?」

「それは大道芸だよね…シアンも希望したのかな?」

「えぇ、シアンというかパッセからも希望が来ていたわ」

「あ、やっぱり?…ってノワールいつの間に!?」

 

いつの間にか居なくなっていたノワール、今度はいつの間にか戻ってきていた。…この会場で次また居なくなったら神出鬼没のノワールって呼ぼうかな……。

と、思っているうちに早速始まる実演会。大規模イベントなだけあって確かにどの出展作品も素晴らしく(この場合強く、の方が良いのかな?)、日々モンスターやら何やらと戦っている身としては感心出来る物が誇張なしに多かった。

……が、やはりラステイションと言えど全て完璧という訳にはいかないらしく…

 

「見て下さいこれ。これ一本で肉野菜魚は勿論お菓子作りや郷土料理にも対応出来る優れもの。おまけにほら、どんなに切っても全然刃こぼれがしないんです!」

「…それは万能包丁では?」

「はい、万能包丁です!」

『……え?』

「今から三十分以内にお買い上げの方にはこちらの抗菌まな板も付いてきます!是非お買い上げを!」

『…………』

 

武器でも兵器でもなく調理器具を、しかもテレビショッピング風に紹介(販売)する人がいたり、

 

「武器がありましぇんっ!」

「…つまり、実演どころか出展も出来ないと?」

「あ、はいそうです…」

『…………』

 

開発が間に合わなかったのか持ってくるのを忘れたのか、とにかく何故自分の番になるまで…というかステージに上がるまで言わなかったのかよく分からない人がいたり、

 

「……随分大きなライフルですね」

「ええ、何せ十六メートル強ありますからね。これは量子反応によって対象を分解消滅させる最新型のビーム兵器、その名も重量子反応ビーム……」

『何堂々と他作品の兵器パクってんの!?』

 

会場から総突っ込みを受ける人までいた。それならいっそサイボーグ専用機まで用意すればまた反応は違ったかもしれない。そういう問題じゃないけど。

そんなこんなで数十分。会場が良い意味でも悪い意味でも温まった辺りで私達にとっての本命…パッセ代表、シアンの番がやってくる。

 

「では、次の方宜しくお願いします」

「は、はい……こちらがわたしの…こほん、パッセの出展する作品、『アルマッス』です」

 

出展者、観客共に平均年齢が高い中でステージに立つシアンは緊張を隠せない様子だったけど、まずは完成した武器を見せる事には成功する。

『アルマッス』。私達がシアンと共に作り上げた武器であり、パッセにとっての希望。その決して軽くはないものを背負った武器は、他者の出展した様々な武器や兵器にも引けを取らない雰囲気を放っていた。

 

「…では、早速実演を……」

「あ、何か出て来たです…あれは…竹?」

「その様だな。…斬るのか」

 

MAGES.の見立て通り、出て来た竹に対しアルマッスを構え、ゆっくりと深呼吸をするシアン。構え方こそ素人に毛の生えた程度のものだったけど、その目は真剣そのものだった。……別に武器としての真剣とやる気としての真剣をかけてる訳じゃないからね!?

 

「……ッ!はぁぁっ!」

 

急転直下の如く構えた状態から声を上げ、竹を袈裟懸けにするシアン。斜めに斬り裂かれ、切り口から上が床へと滑り落ちる竹。会場におぉ…という声が溢れる。

剣…というか刀で竹を斬るというのは魅せる為の演技としては珍しくなく、竹がスパっと斬れる様子からは楽々斬っている様に思われがちだが、それは正しくない。あれは刀の斬れ味だけでなく使用者の技量も必要であり、仮に同じ刀を使ったとしても素人では竹の半ばで止まってしまうか、最悪刀が折れてしまう。にも関わらず、少なくとも刀の使い手ではないシアンが一撃の元斬り落とせたのはつまり使い手の技量を完全にカバーしてしまうという規格外の斬れ味を有していたという事になる。知識のある者ならば、そんな名刀を見て感嘆の声を漏らさない訳がない。

 

「…この様に、高い出力を誇る光学実体複合の刀身と、出力や乱暴な振り方にも耐えるフレーム、そして使用者への負荷を減らす柄。これがアルマッスの持ち味です。……あ、ええと…以上です」

「はい、ありがとうございました。では次の…」

「いやー素晴らしい。高い性能を持ちながらも非力な者でも使う事が出来るとは正に名刀。同じ武器、兵器開発に携わる者として素直に賞賛を送ろうと思いますよ」

「……!ガナッシュ…!?」

 

シアンがステージから下がろうとした所で観客席から声が上がり、一人の青年がステージへと上がる。

慇懃無礼な言葉遣いとその裏に隠された悪意。最早見なくても分かる私達の敵、ガナッシュさんその人だった。

 

「…アヴニールの実演はパッセの次ではありませんし、彼女が下がりきるまではパッセの持ち時間となっています。…これらはルールとして実演希望の際に全員にご確認頂いた筈ですが?」

「えぇ、分かっておりますとも教祖様。ですがどうでしょう?我が社の兵器とパッセの武器によるエキシビションマッチというのは」

「ルールを理解しながらも守ろうとしない企業の提案を受ける道理はありません。これ以上言うのであれば運営判断として出展禁止を命じます」

「ふむ…それは困りますね。仕方ありません、今の話はなかった事に…」

「わたしはエキシビションマッチに賛成だよ!」

 

聞き覚えのある…というか毎日聞いている声が響き、ステージに第二の乱入者が現れる。…と、言うかネプテューヌだった。いや何してんのネプテューヌ!?

 

「おや、貴女が賛成してくれるとは…」

「正直ガナッシュの提案に賛成するのはすっごく嫌だけどね。でもこれはわたし達にとってありがたい展開何だよ!」

「何だよ!…じゃないでしょネプテューヌ…!取り敢えず引き下がらせないと…」

「いや…確かにこれはむしろ好都合よ。ネプテューヌが降りそうになったら引き留めて頂戴」

「え、ちょ…ノワール……!?」

 

そう言って再びどこかへ行ってしまうノワール。…一言言ってったから神出鬼没のノワールの名はあげられないかな。…じゃなくて、これをどうしろと…?

 

「あ、ありがたい展開って…わたしはそんな想定なんてしてないぞ…!?」

「大丈夫だよシアン、わたしもそんな想定してなかったもん…という訳でケイ、エキシビションマッチ良いでしょ?」

「どういう訳で良いと思ったんだ君は……」

 

二人の乱入者、しかも二人目はどこの誰だか分からない、でもどこかで見た事ある様な気もする少女という事で今日何度目か分からない騒めきを見せる会場。教祖であるケイさんも流石にこれには冷静さを保てなかったのか素が出てしまう。

 

「賛成してくれる事は感謝しますが…そこまで余裕のある様子を見せられるのは少々癪ですね」

「ふふん、巷じゃ余裕のねぷちゃんって呼ばれてるからね!」

「余裕のよっちゃんじゃないのか…いや、ネプテューヌだから当然っちゃ当然だろうけど…」

「ほんとに何なんだ君達は……最後通牒です、今すぐ下がらなければ二人共即刻退場を--------」

「エキシビションマッチはこのブラックハートが許可するわ」

『……!?』

 

ケイさんが最後通牒を突きつけかけた瞬間に再度女神姿でステージへと現れたノワール。ラステイションの女神であり主催者でもあるノワールのその言葉は正に鶴の一声であり、その瞬間に会場からの賛成を受ける形でパッセの武器とアヴニールの兵器によるエキシビションマッチ開催が決定となった。

 

 

 

 

『と、言う訳でエキシビションマッチをする事になった(よ・わ)』

『いやいやいやいや……』

 

部活の練習試合の相手を見つけてきたマネージャーみたいな感覚で私達に報告しにくるネプテューヌと女神化を解いたノワール。そんな二人に私達は当然ながら呆れ気味に返す。

 

「あまりにも強引過ぎますでしょうに…」

「非常識な行動に職権乱用…貴女達女神を何だと思ってるの…」

「でもアヴニールの兵器を壊す絶好のチャンス何だよ?」

「ネプテューヌの言う通りよ。それにここで私達…というかパッセのアルマッスの方が強いって示す事が出来ればアヴニールに大打撃を与える事が出来るもの」

「でもせめてシアンに合意を得てからすべきだったんじゃないの?」

『うっ……』

 

その事については自覚していたのか、痛い所を突かれたかの様に言葉に詰まる二人。…が、その二人に助け船を出したのは他でもないシアン自身だった。

 

「いや、この際構わないさ。確かにステージではいきなりで驚いたが別に悪い話じゃない…というか追加で実演の時間を貰えた様なものだからな。それに、技術者としてこんな事で困る程甘い仕事はしてないさ」

「シアン…まあ、シアンがそう言うなら良いとは思うけど…」

「となると…問題は誰がアルマッスの担い手となるかだろう」

「まあ、候補としては普段剣を使ってるねぷ子とイリゼ、それにノワールのうちの誰かじゃないかしら?」

 

アイエフの言葉により呼ばれた三人に視線が集まる。刀、バスタードソード、片手剣とそれぞれ獲物は違うもののどれも刀剣類である以上確かにアイエフの言葉は最もだと私も思う。

 

「あ、悪いけど私は出来ないわ。女神化しなくても前に出て戦ったらブラックハートだってバレちゃうし、そしたら女神が片方を贔屓してるって思われかねないもの」

「じゃあここは主人公であるわたしが…」

『ならイリゼ(ちゃん)しかない(です、わね、ですわね、な)』

「ちょ、何で!?こういうのってまず立候補制じゃない!?」

「だってネプテューヌじゃヘマしそうだもの。日頃の行いの違いよ」

「イリゼちゃん、頑張るです!」

「アルマッスを頼むぞ」

「え…あ、うん……」

 

と、いう訳でアルマッスを使いアヴニールの兵器とエキシビションマッチをする事となった私。

----『もし私が記憶を取り戻したら、私もこういう事する機会が来るのかな?』

数刻前思った事は、私が思っていたのとは半分程違う形で、私が思っていたのよりずっと早く実現する事となってしまった……。




今回のパロディ解説

・「武器はありましぇんっ!」
ドラマ、101回目のプロポーズの主人公星野達郎の有名な台詞のパロディ。「僕は死にましぇん」のつもりでしたが…活字だと凄く分かり辛いですね、すいません。

・「〜〜重量子反応ビーム…」
マクロスシリーズに登場する光学兵器、重量子反応ビーム砲の事。マクロスFをご存知の方ならばお分かりだとは思いますが、この文冒頭の十六メートル強も原作の通りです。

・サイボーグ専用機
マクロスFに登場する可変戦闘機、VF-27(ルシファー)の事。上記の重量子反応ビーム砲はこの機体の主兵装である為、上記とセットで一つのパロディとも言えますね。



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第三十八話 交錯する武器と兵器

戦闘はただ勝てば良い訳では無い。味方の被害を減らす、防衛対象をきちんと守り抜く、捕縛対象を逃さない、次の戦闘に繋がる戦力配備をする……それらの様々な要素が戦闘に関係する理由は一つ。戦闘は『目的』を果たす為の『手段』だからである。

そしてそれは武器の披露でも同じである。無傷で勝っても、それが圧勝だったとしても、その勝利に武器が関係してると思えなければ…つまり、その戦いの中で武器の強さを『魅せる』事が出来なければ意味が無い。

だから……

 

「エキシビションマッチ開始は十分後です。両者準備をお願いします」

 

そんな難しい戦いであるエキシビションマッチを任されてしまった私は正直かなり気が滅入っていた…。

とはいえ、引き受けてしまった以上やるしかないのでしっかりと使う事となった武器『アルマッス』の開発者、シアンの言葉を聞く。

 

「--------とまあ、こんな感じだ。くれぐれも最大出力モードは短時間使用にしてくれよ?」

「分かってる。それより問題は私一人で戦わなきゃいけない事なんだよね…」

 

アルマッスが一本しかなく、アヴニールが出す兵器も一機のみという話である以上こちらが複数人でかかる訳にはいかない。…女の子一人ででっかいマシンと戦うなんてどうかしてるよ…どうかしてる出来事は今までにもかなりあったけどさ……。

 

「お手当ならわたしがしてあげるから大丈夫です」

「お手当の間時間稼いでくれる人いないじゃん……」

「ならば私が時間稼ぎに最適な指揮をとろうではないか」

「だから時間稼ぎする人がいないんだって!ちょっ、私真面目に困ってるんだからね!?」

 

とんちんかんな申し出に突っ込みを入れつつ肩を落とす私。多分好意で言ってくれたんだろうけど状況に合っていないんじゃ意味がない。

 

「はぁ…せめて女神化出来れば良かったのに……」

「……女神化、しても大丈夫なんじゃないかしら?」

「え……?」

「わたし達守護女神は女神化状態を見られたら色々厄介だけど、幸い貴女は世間一般には知られてないわ。だから女神化する瞬間さえ見られなければ問題ない筈よ」

「う、うん…確かにその事実は嬉しいけど同時に悲しみが私の中を走ってったよ……」

 

私だけが女神化しても大丈夫な理由、それは私の知名度がほぼゼロだから!…こんな悲しい理由があるだろうか。

まあでも女神化出来るのはほんとにありがたい為、そこにちょっとホッとしつつアルマッスを手にする。

 

「かなり不安は残るけど…やれるだけの事はやってみるよ」

「えぇ、審査員の立場上一方的な応援は出来ないけど期待してるわ」

「頼むぞ、イリゼ」

「どーんとやってきちゃってよ!」

 

皆の声援を受けながらステージ裏へと周り、人が見ていない事を確認してから女神化する私。

手にするアルマッスは普段の長刀より短く、味方もいない不利な状況。……でも、この勝敗はパッセとアヴニール、そしてラステイションに大きく影響する以上尻込みなんてしていられないよね。

そう自分に言い聞かせ、私はステージへと向かった。

 

 

 

 

「ふむ…まさか女神の姿で現れるとは。彼女がイレギュラーな存在だという事を失念していました」

「何だそれは…勝てるんだろうな?」

「えぇ。キラーマシンタイプではないとは言えパンツァーも相当な性能ですし、何より中小企業の作った武器程度にやられる兵器など生産してませんからね」

 

ステージ裏、イリゼ達パッセサイドの面子がいる側とは逆側にあるアヴニールサイドには重役であるガナッシュ、社長であるサンジュ…そして、言葉巧みにアヴニールと協力体制を結んだマジェコンヌの姿があった。

彼等の目的は一つ。目の上のたんこぶであるパッセを公の場で叩き潰し、同時に博覧会で最優秀賞を受賞する事によって再度ラステイションの覇権を握る事だった。

…勿論、ガナッシュは実在しない仮想のホワイトハートの為に、マジェコンヌは女神を倒し更なる力を得る為にという独自の目的もあるのだが。

 

「…ところで、私が渡したシステムを積んだ機体はどうした。まさか用意してないんじゃないだろうな?」

「まだあれはテスト運用もしていない。技術者としてあれを運用するのは勧めんぞ」

「それに我々の想定では女神状態で出るとは思っていませんでしたからね。それは貴女も同じでは?」

「…ふん。ならそのパンツァーとやらできちんと勝つんだな」

 

彼等の間には友情も、信頼も、気遣いすらない。だがそれは利害の一致、利益の為の協力関係に過ぎない彼等にとっては仕方のない事だった……。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

「■■ーー!」

 

ぶつかり合う刃とアーム。その度に沸き立つ観客の声援。エキシビションマッチという建前がある事も手伝って戦闘は完全に見世物となっていた。

 

「流石に博覧会に出てくる機体だけあって一筋縄じゃいかないか…」

『■■■■!」

「……っ…会話に応じてくれる味方も敵もいないってのは案外悲しい…ねッ!」

 

敵であるマシン…通称『パンツァー』が接近しアームを振るう。その一撃を後ろへ跳躍する事で回避し、着地と同時に構え直す。

パンツァー…というかアヴニールもこれがただの戦闘ではなく、観客のいる会場で行うエキシビションマッチである事を十分に理解している(というかアヴニールから言い出した訳だしね)為か、周りへの被害が著しいビーム砲は使ってこない為攻撃への対応は普段より幾分か楽になっている。

……勿論、制約があるのは私もだけど。

 

(大型マシンは関節とかメインカメラとか狙うのが定石だけど…そんな戦法じゃパンツァーの欠点は見せる事が出来てもアルマッスの強さを見せる事は出来ない…)

「■ーー!」

「……だったら…取れる手は一つ…!」

 

距離があるのを確認した後、深呼吸をし心を落ち着ける。そして、アルマッスを握り直して走りつつ呟く。

 

「……『天舞弍式・椿』」

 

アーム、胴体、脚部に一撃ずつ流れる様に剣戟を放つ。当然それがパンツァーの装甲を破る事は無く、高い金属音を立てるだけに留まる。

…それで良い。反撃とばかりに体当たりをかけてくるパンツァーの攻撃を前方斜めに跳ぶ事で、すれ違う様に回避しながら更に一撃。今度はパンツァーの胴体側面装甲にうっすらと傷跡を残すも、やはりほぼ無意味に終わる。

私の攻撃にパンツァーのAIは不可解さを覚えたのか、距離を取ろうとする。--------それこそが、私の狙いだった。

 

「相手が生物なら今までの行程でダメージを蓄積出来たんだけどねッ!」

「ーー!?」

 

アルマッスの出力を上げ、ステージの床を蹴って一気に肉薄する私。先程よりも素早く、力を込めた剣戟を次々と放ち、パンツァーが反撃をする前に立ち位置を変えて次の連撃を叩き込む。アルマッスの高い性能も手伝ってみるみるうちにパンツァーの装甲に傷跡が増えていく。

 

「■■ーー!?」

「悪いけどッ!このままッ!決めさせてもらうよッ!」

 

床を踏みしめ、パンツァーの隙を突き、意識をパンツァーだけに集中させる。

背部装甲に逆袈裟を打ち込み、そのまま真上へ跳躍。全身の装甲に傷を受けたパンツァーは私が空中に跳んだ事を最大のチャンスだと判断しアームを掲げる。

--------それが、パンツァーの最後にして最大のミスだった。今まで余計な騒動を起こさぬ為に使わなかった翼を一瞬のみ展開し、全速力で下降。その勢いのまま装甲をしたたかに斬りつける。

 

「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

アルマッスの出力を最大まで上げ、下降時の一撃で出来た大きな傷へ全力でアルマッスを振るう。ビームを纏った刃と装甲の激突により激しいスパークが舞い上がる中、私はただ装甲を斬り裂く事だけに意識をつぎ込み、持てる力のままに振り抜く。

そして……

 

「はぁ…はぁ……」

「■■…■…………」

 

装甲ごと胴体を半ばまで斬り落とされ、バチバチと音を立てながらステージへと沈むパンツァー。アヴニール社製の新兵器を打ち倒した私…そして、その装甲を正面から斬り裂いたアルマッスは会場からの大きな拍手に包まれていた。

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

ステージに沈むパンツァーの姿を見て絶句するアヴニールサイドの三人。だがそれも無理からぬ事だった。元々計画では完封する予定だったのだから。

 

「おい…これはどういう事だ!?中小企業の作った武器程度にやられる兵器など生産していないと言ったではないか!」

「まさかあれだけの出力を持っているとは…使い手武器共に流石ですね…」

「何を呑気に絶賛しているんだ貴様は!?」

「そう耳元で怒鳴らないで下さい。自慢の兵器がやられたのです、悔しいのは私も一緒ですよ」

 

確かにガナッシュの顔には苦渋を飲まされたかの様な表情が浮かんでいた。だが、別にマジェコンヌは悔しさを共有したかった訳でも同情してほしかった訳でもない。

圧倒的な勝利。彼女が望んでいたのはただそれだけだった。

 

「……ええぃ!ならばアレを出せ!用意はしてあるんだろう?」

「ですからあれはまだテスト運用すら…」

「完成してあるなら十分だ!いいから出せ!」

「もしもの事があったらどうするつもりなのですか!」

「……いや、出すんだガナッシュ」

 

ガナッシュとマジェコンヌの言い争いに介入する第三の声。勿論それはここにいるもう一人の人物、サンジュのものだった。

サンジュの言葉を聞いたガナッシュは怪訝な様子で彼を見る。彼は今でこそ社長という立場にあるが元々は技術者であり、開発への熱意はガナッシュもよく知る所だった。そんなサンジュが技術者としてはあるまじき選択を勧めている。それがガナッシュにとって不可解だった。

 

「な、何を言っているのですか社長…」

「我が社の機械が人間に劣るなどあってはならん。それにこのままでは我が社がせっかく築き上げてきた評判や地位も落ちてしまう。教会が我々の手から離れてしまった以上、評判と地位まで失えばどうなるかは分かっているだろう」

「……っく!ならどうなっても知りませんよ!」

 

ヤケクソ気味に社長とクライアントの指示を遂行するガナッシュ。敬愛する女神様の為とはいえ、こんなギャンブルまがいの手を打つ事に納得をするなど彼には出来なかった…。

 

 

 

 

ステージ裏で女神化を解き、パーティーメンバーの元へ戻った私を待っていたのは温かな…そして、ちょっと乱暴な皆の歓迎だった。

 

「やったねイリゼ!これはもうネビュラ勲章ものだよ!」

「良くやったわ!これでアヴニールのシェアはガタ落ちよ!」

「やっとあの忌々しいアヴニールに痛手を負わせられたぜ!」

「うん、ってちょ…あの、痛いから皆で背中叩くの止めて…」

 

バシバシと叩かれて前かがみになる私。歓迎されるのは嬉しいけどこの体育会系のノリをされるのは正直ちょっと辛い。だって結構大変な戦いだったんだもん…。

 

「……本当にありがとなイリゼ。これならパッセの今後は明るいよ」

「シアン…ううん、私達だってアヴニールに一泡吹かせる良い機会だったしお礼はいいよ」

「いや、でもお前が勝ってくれなきゃむしろ大ピンチだった訳だし…」

「イリゼの言う通りよ。それに今後は技術者としてじゃなく、経営者として忙しくなるんでしょ?」

「……!…そうだ、そうだったな…」

 

アルマッスはパッセの開発した『商品』であってシアンの趣味でも自由研究でもない。それはつまり今後パッセには様々な依頼が来るという事であり、ノワールはそれを指していた。

 

「中小企業だからって気を抜いちゃ駄目よ?開発の依頼者はそういう事情を気にしてくれるとは限らないんだから」

「まあまあノワール。気持ちは分かりますが今は勝利を喜ぶのも良いじゃありませんの」

「ベール様の言う通りよ、第一まだ博覧会は終わってないんだし」

「…それは…確かにそうね」

 

ベールとアイエフに言われて佇まいを戻すノワール。それを見てノワールってほんと真面目だよねぇ…とネプテューヌと顔を見合わせる私。勝った後だからこその余裕が、その時私達を包んでいた。

 

「でもさ、何か思ってたよりあっさりしてて拍子抜けだよね」

「それつまり私がもっと苦戦するって思ってたって事?」

「あーいやそういう事じゃないんだけどさ…何ていうか、んー…」

「何度かリセットするつもりでボス戦に突入したら一度目で勝てちゃった、的な感じではなくて?」

「そーそれ!さっすがベール分かってるぅ!アイフルっ!」

「何で保険会社出てくるのよ…」

 

……上手い事ボケではぐらかした様子のネプテューヌだったけど、やっぱり彼女的には私は苦戦、或いは負けるんじゃないかと思ってたらしかった。何か悔しい。

 

「とにかくイリゼちゃんも無事で、シアンさんの武器も活躍して、アヴニールさんの兵器も倒せて大団円ですね」

「残念ながらこんぱ、こういう展開の時にはそう都合良くはいかないんだなー」

「え、そうなんですか?」

 

私の事を心配してくれてたらしいコンパ(ほんと良い娘だよ、うん)の言葉に茶々を入れるネプテューヌ。その言葉を間に受けてコンパが聞き返した時--------ステージ奥の壁が崩壊した。

 

『……ーー!?』

「ねぷぅ!?な、何事!?」

「わわっ!?ほんとにねぷねぷの言う通りになったです!?」

「え…まさかわたしのせい!?フラグ成立しちゃった!?」

 

突然の事態に動揺する私達。特にネプテューヌは自分が言った事がすぐに実現した為特に驚いていた。

同然ながら動揺したのは私達だけではなく、会場の観客や出展者も事態に慌てふためき、会場内が騒然とする。……が、それに気付いた私が何かしなくては、と思った時には既に動き出していた人達がいた。

 

「ケイ!避難の指示を全体に出して頂戴!」

「分かってる!避難誘導は頼んだ!」

「ノワール、わたしも手伝うわ」

「わたくしも協力致しますわ」

 

避難経路を伝え、混雑しない様全体に指示を出すケイさん。ノワールを中心に観客と出展者を落ち着かせながらも避難誘導をする三人の女神。国のリーダーである女神と教祖はこの緊急事態にあっても最優先すべき事を即座に判断し動いていた。

 

「凄い…流石女神と教祖……」

「イリゼよ、彼女等にほおけている場合ではないぞ」

「そうよ、この人数を三人で捌ける訳ないし私達も行くわよ!」

「う、うん!ほらネプテューヌとコンパも急いで……」

 

 

「ハーッハッハッハッハ!避難誘導も結構だがこいつの相手もしてもらおうか!」

 

忘れもしないその高笑い。もしかしたらいるかもしれないと推測していた人物の声が会場へと響き渡る。

そして、壁が崩壊した事で舞い上がった煙が収まった時、ステージにはその声の主である人物、マジェコンヌとキラーマシンらしくありながらも何か禍々しさを感じるマシンの姿があった。




今回のパロディ解説

・ネビュラ勲章
機動戦士ガンダムSEEDシリーズに登場するザフトの勲章の一つ。設定上二階級特進レベルの章らしいので、ネプテューヌの台詞は言い過ぎですね。…イリゼ死んでませんよ?

・「〜〜分かってるぅ!アイフルっ!」
株式会社アイフルのCMの一つのパロディ。流石にCMのワンフレーズを細かく解説出来る程私の頭は宜しくないので、すみませんが気になった方は自力で調べて下さい。


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第三十九話 未だ見えぬ終息点

煙の中から姿を現したマジェコンヌと大型マシン。彼女等の破壊行動そのものの登場によって会場の一部が崩壊、博覧会の続行は困難となってしまった。

 

「……っ!マジェコンヌ…何のつもり!?」

「なぁに、少し貴様等の手伝いをしてやろうと思ってな。こいつも倒せばその武器に一層箔が付くだろう?」

 

そう言って大型マシンを前進させるマジェコンヌ。確かに倒せば更に箔が付くかもしれない…が、観客も審査員も殆どが避難したこの場で倒したところでどこまで効果があるのだろうか。

 

「くっ…えぇと、ガチコング?…とやら!せっかくの博覧会に何てことしてくれたんだ!」

「マジェコンヌだ!ふん、私にとっては博覧会などどうでも良いのさ!」

「なっ…マジェコンヌさん!?我々はどうでも良くないのですが!?」

 

ステージ裏から慌てた様に姿を現すガナッシュ。彼…というかアヴニールにとっては当然博覧会は重要だったらしく、それとは180度逆の発言をしているマジェコンヌに対しあからさまに動揺していた。

 

「アヴニールの最大の敵が女神である以上博覧会などで人気取りするより女神を倒した方が早かろう」

「そういう問題ではないのです!そもそもこれで民意が離れたらそれこそアヴニールは…!」

「えぇい五月蝿い!何れにせよこうなっては女神を倒す事が最重要だろうが!」

 

マシンの後ろで論争らしき事を繰り広げるマジェコンヌとガナッシュ。どうやら仲違いの様だが…明らかに今までのアヴニール社製兵器とは違う雰囲気を纏う大型マシンを前にした状態では眺めてなどいられない。

 

「ちょっと相手方の状況が飲み込めないけど…今はあいつを止めるのが先決だね、皆!避難誘導は!?」

「大丈夫よ!もう全員会場から避難したわ!」

「よーし、だったらもう人目を気にする必要も無いし全員でやっちゃうよー!」

『……って、え?』

 

 

ネプテューヌの号令に呼応する様に女神化をしようとする守護四人。…しかし、次の瞬間に聞こえてきたのは女神化した四人の声ではなく、人の姿のままの四人の声だった。

 

「ねぷねぷ、どうして女神化しないです?」

「ベール様もどうしちゃったんですか?」

「どうしたもこうしたも…女神化出来ませんの……」

「おかしい、今までこんな事無かった筈なのに…」

「くく、やっと気付いたか女神共が…」

 

私達パーティーの間に広がる動揺に対し、マジェコンヌが全てを知っているかの様な声を上げる。

 

「……っは!まさかオバさん…賄賂!?執筆者さんに賄賂送ったの!?」

「誰が執筆者などに媚をへつらうものか!…心して聞け女神共。貴様等からコピーした力を解析し、女神化を封じるシステムを私は作り出したのさ!ハーッハッハッハ!」

「ほんとに賄賂送ってないと思う?」

「どうかしらね、あのオバさんならどんな手も使いそうだし」

「闇取引はめっ、ですよ」

「……って私の話を無視して何をまだ賄賂の話をしているんだ貴様等は!?」

 

一方的な優位を取れた事に気を良くし、高らかに笑っていたマジェコンヌだったが、ネプテューヌ達の相変わらずの緊張感の無さに気分を害され、一転して憤怒の表情を浮かべる。

 

「あーあ、何で怒らせてんのよ貴女達…」

「今は結構ピンチですのよ?」

「う…や、でも案外何とかなるんじゃない?何せわたしには主人公補正が…」

「■■■■」

『……へ?』

 

兵器特有の電子音が突然聞こえ、それに反応して音源の方を見るネプテューヌ達。そして、その先には…全員の方を向き、大口径のビームを今にも撃とうとしている大型マシンの姿。

 

「ちょ!?そ、それ喰らったら一発で塵になっちゃうんですけど!?」

「お、おいおい今からじゃもう退避出来ねぇぞ…!?」

「くっ、あの出力を防げるだけの魔術障壁を展開する時間も無いか…!」

「■■ーー!」

「え、ちょっ…待っ……!」

 

完全にパニック状態となったネプテューヌ達を大型マシンが待つ理由は無い。故に、砲撃の準備を整えた大型マシンは防御も回避も、それこそ神に祈る暇すら与えられなかったネプテューヌ達へ必殺の光芒を……

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

--------放つ直前にネプテューヌ達の輪の中から突出した一人の少女…イリゼによって攻撃を受け、体勢が崩れた事により大きく狙いを外れて誰もいない場所を灼くだけに留まる。

そして、その場にいる全員の視線が彼女へと集中する。勿論攻撃を阻止した事も理由の一端ではあったが、視線を集めた最たる理由は…彼女はマジェコンヌの言う女神化封印システムが起動している中でありながらも女神の姿を宿していたからであった。

 

 

 

 

「ば、馬鹿な…何故だ…何故貴様は女神化出来ているッ!?」

 

後方…ネプテューヌ達の前へと跳んで長剣を構え直す私に対し、狼狽した様子のマジェコンヌが強い口調で私に問いを投げかける。

…が、それに私は無言を返す。別に黙秘権を行使した訳じゃない。単に私自身もよく分からないからである。

 

「…皆、大丈夫?」

「えぇ、無事よ…。でも、何で貴女は……」

「私にも分からない、皆こそまさか出し惜しみとかじゃないよね?」

「いくら何でもこんな状況で出し惜しみなんてする訳ないでしょ」

 

ノワールの言う通り、出し惜しみをしていられる状態では無い。アヴニール社製の大型マシンなら一機でも大きな被害が出る事が間違いないし、更にはここにマジェコンヌがいる。全力を出す理由はあっても手を抜く理由などは無かった。

 

「…私が壁になるよ、だから皆は隙を突いて攻撃してくれる?」

「私が、って…一人で壁をする気…?」

「む、無茶ですよイリゼちゃん!」

「うん、でも普通の人間にあいつと力比べする方が無理でしょ?」

「…良いんですの?」

「勿論。だけどキツいのも事実だからきっちり攻撃頼むよ?」

 

そう言うと同時に地を蹴り大型マシンへと突撃。初見の相手に正面からぶつかるのは得策では無いけれど、皆に注意が向かない様にする為にはこうするしかない。最後に言った言葉は皆を納得させる事が主な理由だったけど…キツいというのは誇張無しの真実そのものだった。

 

「むむ、最近イリゼが主人公っぽい事する様になってきたなぁ…行くよ皆!」

「分かってるわよ!」

「ふふ、我々人にとってはいつも通りの戦いさ…!」

 

後ろからネプテューヌ達の声が聞こえる。幸い皆の士気は低くなく、物怖じしてる様子もない。決して芳しい状況とは言えないけど、取り敢えずの戦闘は可能な様でほっとする。

 

「■■!」

「……っとッ!」

 

大型マシンにぶつかる直前で踏み付ける様に床を蹴って急上昇。大型マシンの迎撃を回避しつつも真上を取る。

そしてそれと同時に左右へ走り込むネプテューヌ達。

 

『貰った…ッ!』

「ふん、甘いな……」

「■■■■ー!」

『……!?バリア!?』

 

ネプテューヌ達による左右からの挟撃をバリアで防御する大型マシン。しかもこのバリアも改良型らしく防御の穴が見当たらない。

必殺の矛である大口径照射ビームに強固な盾である全方位バリア、そしてこちらの戦力の核である女神化の封印システム。改めて私は敵の厄介さを痛感する。

 

「…だったら、バリアを展開する余裕を奪う!皆下がって!」

 

上昇しバリアが消えた瞬間に再度突撃をかける私。私一人の攻撃ならばバリアの必要は無いと判断したのか大型マシンは武器で攻撃を受け、そのまま私を振り飛ばそうとする。

それに対し身体を回転させる事で力を受け流し、同時に遠心力で加速して大型マシンの懐へと飛び込む。

 

「こ……のぉッ!」

「■■!?」

 

勢いのままに胸部装甲へ思い切り長剣を叩きつける私。無論装甲を一撃で破壊出来る筈もなく、私の攻撃そのものは失敗に終わる。…けど、私の狙いはダメージを与える事ではない。

ここぞとばかりに武器を振り上げる大型マシン。その後方には…並んで立つアイエフとMAGES.の姿。

 

「背中ががら空きだよッ!」

「『魔界粧・轟炎』ッ!」

「『烈火の戦塵』ッ!」

「■■■■ーー!?」

 

敢えて私が叫んだ事により反応し、一瞬動きが悪くなる大型マシン。だが、気付いた時にはもう遅い。

二人の放った炎の魔法が空気を焦がしながら大型マシンへ飛来。文字通りの業火が大型マシンを灼く。

……がここで一つ誤算が生じる。

 

「ここでもう一げ…--------」

「ーーーー!」

「がぁ……ッ!?」

 

装甲の隙間へ長剣を差し込もうと長剣を引く私へ、まるで体当たりをするかの様に突っ込んでくる大型マシン。二人の魔法の威力を完全に測り違えていた私は飛んできた大型マシンとモロにぶつかり数メートル程飛ばされる。

かなりしょうもないミスで一撃を喰らう私。だが、このミスはシャレにもネタにもならない。むしろ痛恨のミスだった。

 

「……っ…!?」

「■■!!」

「きゃああぁぁぁぁぁっ!?」

 

背部の装甲が焼け爛れ、内部機構を露出させながらも依然戦闘機動を取る大型マシン。その大型マシンが起き上がろうとする私に肉薄し武器を一閃。直撃を受けた私は壁へと吹き飛ばされる。

 

「ーーッ!イリゼッ!」

「ふははははっ!これがハードブレイカーの力だっ!」

「ち……ッ!イリゼの心配してる余裕はないわよネプテューヌ…!」

「■■ー!」

 

強烈な一撃を受けた事でハードブレイカーと呼ばれた大型マシンのAIが危険だと判断したのか、今までよりも苛烈な攻撃を仕掛けてくる。巨体故にその分隙が大きくなりはしたが、アヴニール社製機体の苛烈な攻撃を回避しながら攻撃出来る程の人間はまずいない。結果、防戦一方となり後退を余儀無くされるネプテューヌ達。

 

「これは…不味いわね……」

「まさかこの人数差で劣勢とは…敵ながら流石ですわね…!」

「褒めてる場合じゃないですよベール様!?」

「わわっ!?またビーム砲が動いてるですぅ!」

 

歪む視界を頭を振る事で無理矢理正し、壁を押して立ち上がる私。聞こえた声から砲撃を止めなきゃと翼に力を込めるが…そこでハードブレイカーの標的が私である事に気付く。そして同時に既に回避が間に合う様な状態では無い事を悟る。

 

「な……っ!?」

「■ーーーー!」

「イリゼっ!」

「……ッ!?」

 

悪足掻きにもならない事は分かっていながらも長剣を盾にしようとする私。そんな私の前にいつの間にか下がっていたネプテューヌが踊り出る。……私を、身を挺して庇う為に。

女神状態ですらないネプテューヌがビームの一撃を受けて無事でいられる筈はないし、ネプテューヌもそれが分からないとは思えない。それでも私を庇おうとしてくれたネプテューヌに私は戦闘中でありながらも心の中に複雑な気持ちを渦巻かせ、一瞬状況を忘れてしまう。

だが、ネプテューヌの行動も状況を変える要素になる事などは無く、照射されたビームが二人まとめて灰塵に……

 

「■ー■ー……?……」

『……え…?』

 

ビームを放つ直前の体勢を崩さぬまま、急に今まで聞こえていた電子音が途絶え、硬直するハードブレイカー。何が起きているのか全く分からない私達。言える事は、私もネプテューヌも無事だという事だけだった。

 

「………どういう、事?」

「さ、さぁ…もしやフェイズシフトダウンからの自爆シークエンス!?」

「あいつがTP装甲ならあり得るかもね…ってそうじゃなくて!」

 

一見機能停止しているとは言え、確証が無い以上油断する訳にはいかない。なので仕切り直す為にもネプテューヌと共に皆の元へ行き、何故止まっているのか一応聞こうとした時、止まっている理由はパーティーメンバーではなく敵サイドから聞こえてきた。

 

「な、何故急に止まるのだ!」

「だから言ったでは無いですか、まだテストもしていないと」

「テスト前だからといって止まるなど許されると思っているのか!せっかく奴等を葬るチャンスなのだぞ!?」

「そんな事を言われましても…それに先程の魔法で内部回路に異常をきたしたせい、という可能性もありますし現状では再起動は無理ですね」

 

…つまり、まだ万全の状態ではないハードブレイカーを強引に稼働させた結果、原因もはっきりしないままただ停止したという事実だけが明らかになっている、という事の様だった。準備やテストはきちんとやっておく事の重要性を身を以て感じられた瞬間だった。

 

「…ギリギリ助かったっぽい?」

「全く、ヒヤヒヤさせてくれたものですわね」

「流石わたし!タイミング的にも主人公補正バリバリだね!」

「ええぃ!動け!ハードブレイカー何故動かん!」

 

窮地を脱したと思って安堵の溜息を漏らす私達。それとは対照的にハードブレイカーを八つ当たりの様に叩くマジェコンヌ。それを皆で揃って半眼で眺めていた時、あろう事かハードブレイカーが再び電子音を響かせ始める。

 

『ええぇぇっ!?』

「さ、再起動した!?そんな無茶苦茶な…!」

「はーっはっはっは!所詮機械など叩けばどうとでもなるのだよ!」

「こらー!機械もゲーム機も乱暴に扱っちゃ駄目なんだぞー!」

「そんな事私が知った事か!」

 

うまく映らなくなったTVを直す様な感覚でハードブレイカーを再起動させたマジェコンヌとそれに慄然とする私達。ネプテューヌは何かズレた指摘をしていたけど…状況は全く好転などしていない。それでも逃げる訳にはいかない私達は各々の武器を握りしめ、ハードブレイカーに立ち向かおうとしたが…当のハードブレイカーは私達ではなく何故か壁を攻撃し始める。

 

「ど、どうしたのだ!まだ命令は出してないぞ!?それに攻撃するのは壁ではなくこいつ等だ!」

「■■■■!?!」

「これって、もしかして……」

「壊れて暴走している様ね」

 

武器を振り回し、どこからも攻撃されていないのにちょくちょくバリアを展開し、時折思い出したかの様にビームを放つ。暴走している事は火を見るよりも明らかだった。

 

「…これは今までとは違う意味で危険ですわね」

「えぇ、何とかしてあいつを止めないと」

「え、止めるの?取り敢えずわたし達を狙ってくる様子は無いし一旦アイテム補充とセーブの為にここ離脱しても…」

『いい訳(ないでしょ・ないです・ありませんわ・ないだろう)!』

「……はい、分かってます…」

 

一難去ってまた一難…というか難が新たな難に変貌し、今度はそれの対処に追われる事となる私達。大波乱の博覧会はまだ終息には遠いのだと改めて悟った私だった。




今回のパロディ解説

・「〜〜フェイズシフトダウンからの自爆シークエンス!?」
機動戦士ガンダムSEEDに登場するMS、イージスの最後の戦闘のワンシーン。必殺のビームを撃つ直前に止まる、という点をかけたパロディなのですがお分かりでしょうか?

・TP装甲
前述と同じく機動戦士ガンダムSEEDに登場する特殊装甲の一つ。ハードブレイカーの装甲の色が変わらないのは勿論TP装甲だからではなく通常装甲だからです。

・「〜〜動け!ハードブレイカー何故動かん!」
機動戦士ガンダムZの敵メインキャラ、パプテマス・シロッコの台詞のパロディ。原作では正確な理由は不明のままでしたが…まあこの場合は本文通り二択ですね。


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第四十話 それでも一応の安心を迎えて

知能は全く無いが力だけはある、というタイプは敵にしても味方にしても厄介らしい。知能が無い、という事は即ち行動がまるで読めないという事であり、どんな天才でも相手がどんな事をするかがそもそも予測不能であれば対処が出来ない、或いは対処出来ても予測出来る場合に比べて無駄が増えてしまうからである。

…まあ、だからと言って「じゃあほっといて喫茶店でも行こっか、ふっふ〜ん」とか言って喫茶店に行ったりする訳にはいかない。

 

「…って訳でいくよ皆!」

「おー!…っていやいや、流石に全力で暴走してるマシンに無策で突っ込むのは無理だって」

「だよね…」

 

改めて士気を上げる事が重要だと思った私は取り敢えず音頭を取ってみたがあえなく失敗。…いや、まあ最初の地の文は口にしてないし実際無策だったから仕方ないんだけどさ…女神化するとちょっとアホになるの私?違うよね?

 

「まあでも暴走してる分作戦を考える時間位はありそうね、ベール様達はまだ女神化出来ませんか?」

「えぇ、女神化についてはどうしようもありませんわ」

「今取れる手段を取るしかないわ。ガナッシュ、あいつを止める方法は無いの?」

「生憎、ホワイトハート様の偽物を語る輩と話す口は持ちあわせていない」

「だからわたしが本物だって言ってんだろ!この大変な時にふざけてんじゃねぇよ!」

 

取り合う気ゼロ&ブランを偽物扱い、のダブルアタックに一発でキレるブラン。まあ流石に今回の場合はキレる気持ちも十分に分かるので気が済むまで怒らせてあげたくはあるけど…その余裕は無い事を全員が理解している為話は進む。

 

「ガナッシュ、強制終了させる事は出来ないの?」

「先程から何度か試していますが外部からの信号を受け付けてくれません」

「ならば他の兵器で抑え込むのはどうだ?」

「他の兵器は先日貴方達に破壊されて殆ど残っていません」

「なんでわたし以外とは普通に喋ってんだよゴラァ!」

「熱心な信者さんも考えものですねぇ…」

 

なんと、身を守る為に敵を殲滅した結果その後の戦いで自分達の首を絞める事となった!…ほんと洒落にならない。更に言えばガナッシュさんがブランの怒りに次々と燃料投下するのも洒落にならない。…このままブランまで手がつけられなくなったらガナッシュさんに何とかしてもらおうかな。

 

「せめてわたくし達が女神化出来れば抑え込む事は出来ると思いますが…」

「なら、その装置を止めるか壊せば良いわ。お願い、ガナッシュ。協力して」

「……はぁ、分かりました…。けど、ハードブレイカーの頭部パーツに組み込まれているジャミング装置をどうやって止めるのですか?」

『……はぁ!?』

 

逆転の鍵を握る女神化封印システムはハードブレイカーの頭部パーツ内にあるらしかった。それを聞いて私はハードブレイカーの方へ視線を移す。そこにいたのは規則性も合理性も一切合切が無い暴走したマシンの姿。…これでどうしろと?

 

「何でそんな所に付いてんのよ!?貴方馬鹿なんじゃないの!?」

「下手にハードブレイカーと別々にするより組み込んでしまう方が逆に見つかり辛く破壊され辛いという逆転の発想ですが?」

「その結果がこの窮地でしょうが!」

 

 

確かにガナッシュさん(というかアヴニール?)の発想は実際に私達を困らせているのだから的を得ている。アヴニールまで困らせている点に関しては元も子もないけど。

 

「しかしとなるとどう破壊するか、ですわね…YF-19(エクスカリバー)のテストパイロットでも呼んでみます?」

「それかVB-06(ケーニッヒ・モンスター)のパイロットかしら…」

「うん、どっちも頭部を破壊した実績のある人だけど他作品ですよねぇ…?」

 

状況が分かっている筈にも関わらずボケをかますベールとブラン。女神は定期的にボケをしないといけないルールでもあるのだろうか、と私が思案を始めた時、ボケキャラの筆頭であるネプテューヌが真面目に意見を出した。

 

「頭を壊さなくてもさっきのマジェッチみたいに叩けば壊れてくれないかな?でもって暴走もピタッと止まるとわたし的には嬉しいかな」

「流石にそんな虫の良い話がある筈…」

「可能性としては十分あり得ます」

「ってあるのかいっ!」

 

予想外の展開が多過ぎて余裕を完全に失っていたのか漫才みたいな突っ込みをしだすノワール。ただ、今は逆転の一手が浮上した為そこはスルーして会議を進める。

 

「えぇ、あの装置はまだ試作の物を無理矢理頭部に組み込んでいますし、先程の戦闘で多少なりとも内部にダメージが入っていると思うので、もう一度強い衝撃を与えられれば…」

「暴走の方は?」

「そちらは未知数ですが、今の不安定な状態から見て可能性はゼロではないと思います」

 

「それなら、わたしに任せて!」

 

ガナッシュさんがもう一つの可能性を示唆した瞬間、後方から声が響く。そして、その声に反応して後ろを向くよりも早く私達の前へと現れる、腰に二本の小太刀を刺したオレンジ色の髪(とアホ毛)の少女。

 

「……ッ!?誰!?」

「……まさか…」

「説明は後々!MAGES.とそこの女神化してるお姉さん、協力して!」

「き、協力!?」

「うん!何でも良いからとにかく強い攻撃して!」

 

颯爽と現れた少女は私とMAGES.にざっくりとした指示だけ出してハードブレイカーへと突っ込む。勿論全く理解の出来ない指示ではあったけど…女神の本能か、或いは今までの経験からか理解しようと思考を巡らすよりも前に私の身体は動き出す。それはMAGES.も同じらしく、既に杖を前に掲げていた。

 

「……ッ!やぁぁぁぁぁぁ!」

「ふっ…魔術の衝撃、受けてみるが良い!」

「■■!!ーー?!」

 

飛翔し少女とは別ルートで突っ込む私と魔法陣を展開するMAGES.。そのまま私達は同時に攻撃を放つも、ハードブレイカーは暴走状態でも自己防衛システムは生きていたのかバリアを展開し、二方向からの攻撃を防ぐ。

その瞬間に跳躍し、ハードブレイカーのすぐ側まで接近する少女。

 

「ここまでくれば…」

「■■■!■??!」

「な……ッ!?危ない!」

 

少女が腰の二本とは別の小太刀を抜刀した瞬間に振るわれるハードブレイカーの武器。私は咄嗟に声を上げたがそれが間に合う筈もない。

武器の一閃により真っ二つになる少女の姿。私達がその事に愕然となりそうになった時…全員が目を見開く。空中からあえなく落下したのは少女の身体ではなく……丸太だった。

 

「忍法、変わり身の術!…ってね、てやーっ!」

「!?■■?!」

 

次の瞬間にはハードブレイカーの後ろに姿を現し、小太刀でハードブレイカーの頭部パーツをしたたかに斬りつける少女。その一撃も鋭さと正確さを持っており、ハードブレイカーの頭部パーツは一瞬で半壊していた。

 

「変わり身の、術…?」

「マベちゃん参上!」

「ここでまさかの助っ人キター!」

 

私と共に軽快な動きでハードブレイカーの側から離れる少女。私とMAGES.の協力ありきではあったとはいえ僅かな時間でハードブレイカーの頭部パーツを破壊した少女にパーティーメンバー全員が沸き立つ。

 

「ねぷちゃん、大丈夫だった?」

「あれ?もしかしてわたしのお知り合い?」

「んー…。わたしが一方的に知ってるだけだからちょっと違うかな。わたしはマーベラスAQL、マベちゃんって呼んでね」

「マベちゃんだね、宜しく!」

 

髪と同じくオレンジ色の瞳を持つマーベラスAQL、通称マベちゃんはMAGES.や鉄拳ちゃんと同様に別次元から来た存在らしかった。

彼女の活躍により半壊状態となったハードブレイカーの頭部パーツ。当然この事についてガナッシュさんに意見が求められる。

 

「ガナッシュさん、これでねぷねぷ達は女神化出来るですか?」

「どうでしょう、私としては封印システムは破壊出来たと思いますが…この場合は私よりれっきとした技術者であるシアンさんの方が正しく判断出来るのでは?」

「わ、わたしか?…うーん、女神様達の力を封印する程のシステムが単純な作りとは思えないし、あれだけ壊れていれば機能不全になっていてもおかしくないと思うぞ」

「なら私達も女神化出来るって判断して良いのね」

「でもまだ暴走状態は止まってないみたいよ」

 

相変わらず無茶苦茶な動きを続けるハードブレイカー。その暴走は頭部パーツ半壊により収まるどころかむしろ激しさを増している様にも見えた。

だが、今までよりも今は格段に勝機がある。何故なら…

 

「だったら力尽くで止めれば良いだけよ、行くわよ皆!」

 

掛け声を上げるノワール。女神化するネプテューヌ達守護女神。封印システムが機能しなくなった事により女神化出来た四人と私達、そしてハードブレイカーによる最終ラウンドが始まる。

 

 

 

 

五方向から流星の様に次々と攻撃を仕掛ける私達女神。対するハードブレイカーは暴走状態にあるおかげで通常時よりも行動が雑になっておりダメージが入り易く、暴走状態にあるせいで部位破壊に成功してもイマイチ動きが衰えなかった。

 

「ちっ、どんだけタフなんだよこいつは…!」

「タフって言ってもダメージは入ってる筈だしこのままいけば倒せる筈よ!」

「先の長い話ですわ…ねッ!」

 

獲物の性質上一直線の突進が得意なベールが突出。ハードブレイカーの迎撃が入る前に肉薄し叩き込んだ一撃は装甲の一部を跳ね飛ばし内部を露出させる。それを見た私は側面から追撃をかけようと接近するが…まるで先読みをしていたかの様なハードブレイカーの横薙ぎに阻まれる。

 

「……っ…また…!」

「ほんっと厄介ねあいつ、たまに先読みみたいな攻撃してくるしそうかと思えば明後日の方向は攻撃するし!あーもう!」

「暴走してる機械にキレたってしょうがないわよノワール…」

 

その後も暫く攻防が続く私達とハードブレイカー。状況が状況とはいえ女神五人がかりで時間のかかるレベルの性能を有している事には敵ながら感服する。これだけの技術のある大企業ならばノワールが迂闊に潰せない、と言うのもよく分かる話だった。

 

「いい加減…壊れろってんだよッ!」

「■ーーーー!」

「若干動きが鈍くなってきたんじゃない…?…はぁ、はぁ……」

「…イリゼ、大丈夫?」

「大丈夫…だけどベストパフォーマンスとは言えないかも…」

 

パンツァー戦からの実質的な連戦、そして私以外が女神化出来なかった事によるハードワークと途中のダメージが遂に祟ったのか息が上がる私。戦闘不能のレベルでは無いけど、皆に遅れてしまう感覚は確かにあった。

 

「イリゼは勿論だけどわたし達も少なからず消耗してるし、ここまできたら一気に決める方が良さそうね」

「何か手はあるんですの?」

「手なんて上等なものは無いわ、単純明快に一気に叩くだけよ。…皆、協力してくれるかしら?」

「確かにそれは単純明快だな…良いぜ、協力してやる」

 

アイコンタクトで意思疎通を図り、ネプテューヌが最高の攻撃を放てる様同時に突っ込むノワール、ベール、ブラン。ネプテューヌはそれを信じてその場へ着地、中段の構えを取りつつ深呼吸を行う。

 

「そろそろ…お終いの時間ですわッ!」

「ここまでご苦労なこったぜ…さっさと沈みやがれッ!」

「私達がわざわざ露払いしたんだから決めなさいよネプテューヌ!」

「勿論よッ!」

 

ベールとブランがハードブレイカーの両腕を武器ごと弾き、ノワールが胴体へ大剣を叩きつける事で隙を作る。そこへ地を蹴り突貫するネプテューヌ。ハードブレイカーは偶然か否か大出力ビーム砲を展開するが、もう遅い。

紫の矢となったネプテューヌは駆け抜ける様に一閃。更に高速で方向転換し再び一閃。横薙ぎ、袈裟懸け、刺突、幹竹割り……--------次々と放たれる強烈な斬撃にハードブレイカーは対応しきれず、瞬く間に深い傷が全身を覆う。

そして、ハードブレイカーの真上へと舞い上がるネプテューヌ。

 

「これで終わりよッ!『ネプテューンブレイク』!」

 

持てる全ての力を乗せて真下へと放たれた一撃はハードブレイカーを文字通り両断し、大太刀の刃を床へと沈める。

一瞬の沈黙の後、断末魔の様に電子音を鳴らしながら崩れるハードブレイカー。そう、私達の勝利--------

 

 

「ハーッハッハッハ!油断したな女神共が!」

 

マジェコンヌが、ノワールの女神の力をコピーした。

 

 

 

 

「あのガラクタもポンコツかと思ったが、女神を油断させる位には役に立った様だな。おかげでまた一人、女神の力をコピーする事が出来た」

 

勝ち誇った笑みを浮かべるマジェコンヌ。力をコピーされた瞬間の衝撃で膝を付くノワール。

マジェコンヌはこれを狙っていたのだった。ハードブレイカーが暴走して以降参戦しないばかりか声すら漏らさなかったのは、勝利直後という最も油断し易い瞬間を狙うためだったのだ。

 

「ノワール!大丈夫!?」

「え、えぇ…でも、私の力が……」

「卑怯だぞてめぇッ!」

「卑怯?笑わせるな、目的の為に最善の手を打つ事のどこが卑怯だというのだ」

 

悪意に満ちた笑みのマジェコンヌに対し、ノワールへ駆け寄ったネプテューヌを除く私達全員が武器を向ける。消耗した状態である事は否めなかったけど、マジェコンヌがそれを考慮してくれる筈がない。

 

「ノワールの力を奪った事…博覧会を滅茶苦茶にした事、タダで済むとは思わないでよね!」

「ふん、貴様等に温情をかけてもらうつもりは無い。…だがまあせっかく奪えて良い気分なのだ、ここは引いてやろうじゃないか」

「何を偉そうに…!」

「ネプテューヌ、貴様の力をすぐに奪ってやる。……それと貴様、イリゼと言ったな?」

 

マジェコンヌはネプテューヌを一瞥した後、私へと視線を向ける。てっきり私は「貴様の力も奪ってやろう」と言われると思った為、彼女が考えの読めない表情をしていた事に一瞬反応が遅れる。

 

「……何か?」

「…貴様は……誰だ?」

「……ーーッ!?」

 

私の核心へと迫る言葉を告げた後、前回同様消えるマジェコンヌ。皆が取り逃がした事に歯噛みをする中…私だけは、呆然としていた。

 

 

 

 

「……ゼ…イ…ゼ…イリゼってば!」

「……へ?」

 

私を呼ぶアイエフの声に意識を引き戻される私。幸い私が呆然としていたのは数分足らずだったらしく、皆はまだその場にいた。

 

「あんな奴の言葉なんか気にしなくて良いわよ」

「そ、そうだね…」

「戦いは終わったけど…会場が滅茶苦茶ですぅ…」

「博覧会を続けるのも難しそうだね…」

 

コンパとマベちゃんの言う通り、敵は何とか出来たけど博覧会はもうどう考えても継続不能だった。皆がそれに対し落ち込む中…ある意味意外な人物が声を上げる。

 

「なーに落ち込んでるのよ。怪我人を出さずに済んだんだからその位安いものよ」

「ノワール…」

「それに、私の力は奪われちゃったけど、まだ貴女とイリゼの力は無事なんだからそれを守れば良いわ」

 

今回の事で一番落ち込んでると思われたノワールが発したのは誰よりも前向きな言葉だった。彼女の女神としての心の強さ、そしてまだ絶望する様な状況ではないという事実が私達を明るくさせる。

 

「そう…ですわね。過ぎた事をいつまでも悔やんでいるより、次の事を考えませんと」

「イストワールさえ先に解放すればマジェコンヌを止める事が出来る筈だしな」

「けど、その前にこのイベントをどうにかしなくちゃ」

 

残念ながら私達…特に守護女神の皆は戦いの事だけ考えていれば良い訳ではない。政治の事、経済の事、軍事の事…その他様々な事まで気を使わなければならないのだった。

 

「博覧会の後処理にアヴニールの責任問題、そして今後の方針…はぁ、疲れてるのにやる事いっぱいで最悪……」

 

ため息をつくノワールは本当に大変そうだったが、同時にやっと戦いが終わった事に安心している様にも見えた。見回せば、パーティーメンバー全員が同じ様な顔をしている。

ノワールの力が奪われた事、そして私の事…終わり良ければすべて良し、と言える様な状況では無かったけど……皆の顔を見ているうちに取り敢えずは終わった事を喜ぼうかな、と思えた私だった。




今回のパロディ解説

YF-19(エクスカリバー)のテストパイロット
マクロスプラスの主人公、イサム・アルヴァ・ダイソンの事。単騎で超時空要塞の弾幕を突破して頭部(艦橋)を破壊したのだからとんでもないパイロットですよね。

VB-06(ケーニッヒ・モンスター)のパイロット
マクロスFの登場キャラ、カナリア・ベルシュタインの事。味方がいたとは言え、バトル級へ強行着艦し艦橋を吹き飛ばしたのだからこちらも凄いパイロットですね。


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第四十一話 休息と新たなる目標

--------身体を伝う滑らかな指。…いや、『這う』という表現の方が適切なのかもしれない。他人の身体でありながら一切の躊躇いもなく蹂躙していくその感覚に私は抗えないでいた。

その腕が、指が身体を這い、得も言えぬ快楽となって私の中を駆け抜ける。頭ではそれに抵抗しようとするも身体は頭での判断を受け付けずにその快感を享受し、逆に頭すらも蕩けさせようと感覚をそのままに伝えてくる。

 

「あっ…ふぁ、ぁ……」

 

固く閉じていた筈の口から漏れ出る嬌声。その艶やかな響きは私を…そして、この甘くも容赦の無い快楽に私を溺れさせようとしている主を高揚させ、更なる刺激を私へと叩きつける。

最早暴力的としか形容の出来ないその甘美な悦楽に思考は瞬く間に掌握され、再び私の口を開かせる。

 

「お願い…もっと欲しいの…だから、最後までして……」

 

己の意思なのかそうでないのか、快楽によって混濁した意識の中ではもう判別すら出来なかったが、ただこれだけは思い出す。…これは、自分が望んだ事なのだったと。

私が全身を駆け巡る快感の虜となった事に気付いたその少女は満足そうに口元に笑みを浮かべ、巧みな指使いで一層私を溺れさせる。

遂に頭も…心も溶かされた私は思考を止め、ただひたすらに快楽を享受する。そしてそれが頂点へと達した時私は…

 

 

「はぅぅ…効くわぁ…凄いじゃないネプテューヌ……」

「でしょー?わたし自身意外だったけどこれはマッサージ師の適正あるのかもね」

 

素直にネプテューヌに賞賛を送っていた。無論本職のマッサージ師には数段劣る(と、思う。実際にしてもらった事はないから分からないけど)ものの、素人の割には上手なものだった。

博覧会が終了してからおよそ一週間。その間ずっと働き詰めだった私の疲労はピークへと達しており、やっと一息つける段階となった時にネプテューヌがマッサージの提案をしてきたのでそれを受け、今に至る訳である。

…今思えばネプテューヌの提案をほいほい受け入れるのは危険行為だったけど…今回はその懸念を良い意味で裏切ってくれたわね。

…と、そこで周りが妙な雰囲気になっている事に気付く。

 

「……どうかしたの?」

「いや、どうかしたもなにも…」

 

私の言葉にイリゼが頬をかきながら返答する…が、どうも歯切れが悪い。彼女一人がそうなら単に調子が悪いのだと結論付ける所だが…全員が似た様な反応だからそれは違うらしい。…ほんとに何なのかしら……。

 

「あ、ノワール、今度は足の方もしてあげよっか?」

「良いの?じゃ、お願いしようかしら」

「おっけー、じゃあニーハイも脱いじゃってよ」

「えぇ…って、脱ぐの?…というか、ニーハイ『も』…?」

 

ネプテューヌの言葉に違和感を感じる私。『も』というのは基本的にその直前の事柄以外にも該当するものがある場合に使う言葉であり、ネプテューヌが誤用していない限りは私はニーハイ以外にも何か脱いでいるという事になる。

……首を回して身体を確認する。大々的に露出したお腹とおへそ。付け根近くまで露わとなった脚。人目につく形となった腕。そしていつもより外部から見て肌色成分を増している胸……

 

「…って、何脱がしてんのよ変態がぁぁぁぁぁぁッ!」

「ねぷうぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

寝そべった状態から身体を捻って放ったアッパーカットはクリティカルヒット、ネプテューヌ(変態)を吹っ飛ばす事に成功したのだった。

 

 

 

 

「ネプテューヌ、大丈夫?」

「痛た…うぅ、美少女に理不尽な暴力を振るわれるのも主人公の宿命何だね……」

「うっ…わ、悪かったわねネプテューヌ……」

 

ネプテューヌが一撃でKOされてから数分後。即座に服を着直してネプテューヌに追撃をかけようとしていたノワールに状況説明をやっとし終わった所でネプテューヌが復活したのだった。…うん、何このラブコメ的展開。

 

「全くもー、確かに脱ぐ事提案したのはわたしだけど…それ聞いてノワールが自分から脱いだんじゃん!」

「だから悪かったって言ってるでしょ…って言うか自分で脱ぐって何考えてんのよ私…」

「疲労がピークに達すると判断力が極端に落ちるんだね…私も気を付けないと…」

 

良くも悪くも真面目でしっかりしているノワールですら過労状態になるとこうなってしまうのだ。女神化出来る事と記憶が無い事を除けば普通(…え?その時点で異常?……女の子に不思議はつきものだよ、うん)な私だったらどうなるか予想出来たものじゃない。適度なお休みはしっかり入れないと…。

…と、そこで妙な会話が聞こえてくる。

 

「しかし委員長タイプのノワールがあそこまでなるとは…マッサージも中々恐ろしいですわね。…………」

「ですね。……あの、ベール様…?」

「…あいちゃん、肩凝ってません?疲れは溜まってません?今ならわたくしがマッサージしてあげますわ…」

「め、目が怖いんですけどベール様!?」

「ふふっ、良いではありませんの良いではありませんのー!」

「いや、ちょっ、ベール様……あーれー!?」

 

……うん、何も聞こえなかった。何だか物凄い展開になりそうな気がするしある意味気にはなるけど私は何も聞いてないし聞こえてないんだ。

…と、保身の為に自身を騙しつつ他の面子の会話に混ざる私。

 

「まあでもラステイションでの出来事も一件落着だし良かったよね」

「うんうん、わたしとしても皆に協力出来てよかったよ」

「しかし貴様もこちらに来ているとはな…」

 

顔を見合わせるマベちゃんとMAGES.。何でもこの二人は同じ次元からここにやって来たらしく、その次元でも共闘関係だったと教えてくれた。ハードブレイカー戦で私だけじゃなくMAGES.にも声をかけたのはそれが理由らしい。

 

「二人共同じ次元から来た…これは更に同じ境遇の子がパーティーに加入する可能性ありだね!」

「案外あり得るかもね、別次元から来た人なら他にも何人か会ってるし」

「皆さんがパーティーメンバーになったら凄い大所帯になる気がするですね…」

「…ところで、アヴニールはどうなったの?」

 

ブランの言葉に雑談を止め、答えてくれるであろう相手のノワールへと注目する。アヴニールの今後…それは私達にとってかなり気になるものであり、同時に少なからず影響を与えかねない事でもあった。

そんな私達の反応を見たノワールは特にふざける事もなく、真面目に答える。

 

「アヴニールはちょっと強引だったけど国営企業に変えて、役員を全員一新させたわ。解体するのも手だったけど技術力には私も一目置いてたし、そっちの方がラステイションの発展に活かせるって思ってるわ」

「シアン達中小企業への影響は?」

「そこも考えてあるわ。取り敢えず今までの独占状態にはさせないし、途中までしか出来なかったとはいえ博覧会のおかげで中小企業のシェアも少しは回復してる筈よ」

 

ノワールの言葉を聞く限りは今後の心配は必要なさそうだった。特にアヴニールにしてやられていたブランも安心そうな顔をしている。

 

「…あ、じゃあガナッシュさんと…サンジュさん、だっけ?…はどうなったの?他の役員さんと同じ扱いって訳にはいかないよね?」

「まあ、ね…ガナッシュの方は行方不明よ、多分ルウィーに帰ったんじゃないかしら?」

「ルウィーでわたしへの誤解が解けると良いけど…」

「どうかしらね、で次はサンジュだけど…」

「それはわたしが説明するぜ」

 

そういって現れたのはシアン。博覧会前に言っていた通りきちんとお休みを取っていたのか、彼女の目元のくまは殆ど消えていた。

 

「シアンが?」

「あぁ、サンジュは今うちで働いてるからな」

「へぇー…って…」

『……え?』

 

私は一瞬飲み込みかけた後、皆と揃って反応をする。アヴニールの社長が中小企業であるパッセで働いている…え、何それパッセってアヴニールの天下り先だったの?…って、社長が天下りっておかしいか…っていやいやそこじゃないから私!

 

「シアンのとこで!?なんでなんで?…はっ!まさかこれはパッセのアヴニール化フラグ!?」

「それは洒落にならないから止めてくれよ…サンジュはわたしの親父の友人だったんだ」

「お父さんのお友達、です?」

「そうだ、まぁ…当の親父は大分前に事故で技術者じゃいられなくなっちゃったんだけどな」

 

シアンは語る。元々シアンのお父さんとサンジュさんは同僚だった事。サンジュさんは無人機開発、シアンのお父さんは有人機開発と系統は違ったが共に競い合う中だった事。そしてある時同時にテストをしていた所で事故が起こりシアンのお父さんは大怪我を追ってしまい、サンジュさんの開発していた無人機はその段階では性能が低く、助けられなかった事。それ以降サンジュさんは責任を感じて強い無人機の開発に執着する様になった事。

全てを語り終えた後のシアンは懐かしそうな、そしてどこか複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「責任って…話聞く限りサンジュに責任なんてないわよね?なのにどうして…」

「責任、ってか悔しかったみたいなんだよ、友人を助けられなかった自分と自分の開発した無人機が」

「サンジュさんも色々あったんだね…あれ、じゃあシアンが今パッセの社長やってるのって…」

「あーいや、確かに親父の事もあるけど元々わたしは工業に興味があったからな、早かれ遅かれパッセの社長にはなってたさ」

 

人にはある所に辿り着くまでに色々な経緯があって、中には辿り着いた先と経緯が端から見たら結び付かない様な人もいる。そんな当たり前で、なのについつい忘れてしまう事をシアンの話で再認識する私達。先程までえらいピンクな空気を醸し出していたアイエフとベールも会話に参加してくる。

 

「ならばパッセで働く中でシアンさんのお父上と仲が良かった頃の様子に戻ると良いですわね」

「だね…って、マッサージは止めたの?」

「えぇ、満足しましたもの」

「はきゅぅぅ……」

「う、うん…ベールは白式の使い手か何かなの…?」

 

アイエフとベールは何でマッサージだけで言語能力失いかけてるのとか何でマッサージした側が満足してるのとか色々突っ込み所のある二人と化していた。ほんとこの二人が(物理的にも)絡むと毎回とんでもない状態になるなぁ…。

 

「…っと、それはそうと今日はお前等に渡したいものがあってきたんだ。これ、もしかしてお前等が探していたものじゃないか?」

「あ、鍵の欠片だ!シアン、これどうしたの?」

「鍵の欠片?」

「いーすんさんって人の封印を解く為にわたし達が探している物ですよ」

 

毎度おなじみ、新加入メンバーに鍵の欠片やイストワールさんについて説明するくだりが今回も発生する。…あ、もし閲覧して下さってる皆さんの中に知らない方がいたら鍵の欠片が出てくる話見て下さいね。……って…あ、あれ?今私は誰に何を……?

 

「お前等がぶっ壊したハードブレイカーを解体してる時に出てきたんだよ。どうもこいつを動力源にしてたみたいなんだ」

「どうりでどこを探してもない訳ね…」

「うぅ…ん……でもどうして動力源なんかに使われていたのかしら…」

「あ、アイエフ復活してる…」

「やはりマジェコンヌがわたくし達を倒す為にアヴニールに?」

 

ベールの言った意見は確かにあり得る。マジェコンヌにとって強力な味方…じゃなくて、ただの利害の一致なのかな…であるアヴニールに渡すのは何もおかしい所はない。

でも、それは考え過ぎだったらしく、すぐにシアンの否定が入る。

 

「いや、これはマジェコンヌじゃなくてガナッシュが見つけたらしいぞ。調べると凄いエネルギーを持っていたから動力源にしたんだとさ」

「瓢箪から駒だったという訳ね」

「にしてもまさか兵器の動力源にもなるとは…今構想中の新ガジェットに組み込みたいものだ」

「別の用途で使うんだから止めなさいよ…」

 

意外な形で手に入る三つ目の鍵の欠片。っていうかガナッシュさんが見つけたって事はあの人ダンジョンに行ってたの?…無人機と共にとはいえ毎回私達の前に現れてたし実は結構アクティブな人なのかな…。

 

「さて、渡す物は渡したし、わたしはそろそろ帰るよ」

「えー…もっとゆっくりしてきなよー」

「悪いな、今まで休みとってた上に注文も増えてるからそろそろ仕事しないと不味いんだ。その代わり今度ゆっくり飯でも食おうぜ」

「それならシアンとこの食堂が良いな!」

「…うちで良いのか?もっと美味い所なんて沢山あるぞ?」

「いいのいいの!わたしはシアンとこの食堂のご飯が食べたいんだからさ」

 

ネプテューヌの言葉に同意する様に頷く私達。別にシアンの所の食堂の料理が美味しくない何て事はないし…何より良い意味でお店らしくない温かな雰囲気を私達は気に入っていた。

 

「嬉しい事言ってくれるじゃないか…なら、お前の茄子嫌いが治る位美味い茄子を用意しとくよ」

「え!?…そ、それはわたし的には遠慮したいかなぁ……」

「冗談だよ冗談。それじゃ、またな!」

 

ネプテューヌの反応に笑いつつも軽快に出て行くシアン。彼女も彼女でまだ色々と大変そうだけど…今までの努力がやっと実を結んだ事もあってとても幸せそうだった。…何だか私達まで嬉しくなるね。

 

「経緯はともあれ、これで三つ目ね」

「て事は、恒例のいーすんタイムだね!いでよいーすーん!カームヒアー!」

「…はい、皆さん三つ目め回収お疲れ様です」

『この人が、イストワール…』

 

今までイストワールさんとの会話の機会が無かった面々が驚き混じりの声を上げる。やはり実体が無いのに声だけ聞こえる、という状況に慣れてる人はおらず、女神も魔術師も忍者も驚いていた。

 

「けど、いーすんごめんね。マジェコンヌにノワールの力をコピーされちゃったよ」

「そうですか、ノワールさんの力までもが…。…まあ、過ぎた事は仕方ありません、ネプテューヌさんの力が奪われる前に一刻も早く四つ目の鍵の欠片を見つけ、私の封印を解いて下さい」

「えぇ、ルウィーの鍵の欠片はフィナンシェとミナを中心に探してくれてる筈だからもう少し待って頂戴」

 

そう、ルウィーで私達は鍵の欠片を見つけられなかった。…けどまあ、フィナンシェさんもミナさんもしっかりした人だからそっちは大丈夫かな。

 

「分かりました。では先に私の封印場所について教えておきます」

「どこどこ?もしかしてみたまのとう?」

「私は別に悪さをしたせいで封印された訳ではありません…私が封印されている場所はプラネテューヌです」

『プラネテューヌ?』

 

てっきり女神の統治の外にでも封印されているのかと思っていた私。どうやら皆もそうだったらしく全員で揃って復唱してしまう。

 

「プラネテューヌのどこなんですの?」

「申し訳ありません、詳しい場所までは…」

「なら、一旦プラネテューヌに行きましょ」

「そうね、コンパの部屋を拠点にした方が効率的だわ」

「はい、皆さんお願いします」

 

私達が今までと同様一度コンパのアパートへ向かう事を決定した辺りでまた時間が来たらしく、イストワールさんの声が遠くなり聞こえなくなってしまう。限定された時間の中で必要な事を話すのは難しいよね。

 

「よーし、そうと決まれば早速準備してコンパのアパートへGOだね!」

「わたしは行くの初めてだからちょっと楽しみだなぁ」

「別に面白い所のあるアパートじゃないですけどね」

 

雑談を交えながらも各々準備をし、およそ一時間後にはラステイションの教会を出る私達。イストワールさんの封印されている場所を探すという今までよりも重要な目的があるからか、皆の様子もこれまで以上に真剣なものに……

 

「ふふーん、プラネテューヌは言わばわたしのホームグラウンド!主人公らしさもバリバリになる筈だよね!」

「ホームグラウンド?何も女神としての記憶ないくせに?」

「そもそも貴女の主人公らしさはいささか尖り過ぎですわ」

「ほんとにどうして貴女が主人公なのかしら…」

 

…ならないよね!だって私達だもんねっ!……はぁ…。




今回のパロディ解説

・白式
IS〈インフィニットストラトス〉の主人公織斑一夏の使用するISの名称。織斑一夏もマッサージが得意らしいですが…ベールはどんなマッサージをしたんでしょうか…。

・「〜〜いーすーん!カームヒアー!」
無敵鋼人ダイターン3で主人公、破嵐万丈がダイターン3を呼び出す時の掛け声のパロディ。偏りのある私と違いほんと原作は多種多様なパロディネタを扱ってますね。

・みたまのとう
ポケットモンスター ダイアモンド・パール・プラチナで出る場所…というかオブジェクトの事。かなめいしで封印されるイストワールというのはちょっと想像出来ませんね。


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第四十二話 騒ぎ続きの情報収集

「…イリゼ君、捜査の基本は足何だよ」

「そ、そう……」

 

どこから用意したのかよく分からない、くたびれた茶色のコートを着たネプテューヌと、それに辟易する私。「え、何この展開?」って思う人が多いと思うけど残念ながら私には説明出来ません。だって私も何この展開状態だもん。

 

「あの、ネプテューヌちょっと…」

「警部と呼びなさい警部補君!」

「警部!?そして私警部補だったの!?」

 

どうやらネプテューヌは警部、私は警部補らしかった。いやそれが分かったからと言って何かが進展する訳じゃないんだけどね、むしろ謎が増えてすらいるし。

 

「むー、ノリ悪いなぁイリゼはー」

「開始直後にねぷねぷワールド全開にされてノれる人はほぼ居ないと思うんだけど…」

「そーかな?えへへ…」

「褒めてないから……」

 

プラネテューヌの一角で漫才まがいのやり取りをする私達。…正直、ちょっとだけ面白くはあったけどこれで時間を潰してしまうのは勿体無いという気持ちの方が強かった為、私はあくまでノらないスタンスを貫く。

 

「…で、結局何なの?まさかこのネタの為だけにここまで来たんじゃ無いよね?」

「流石のわたしもそこまでしないよ。っていうかこのタイミングで捜査って言ったら一つしかないでしょ?」

「え?…プリンの美味しいお店探し…?」

「タイミング関係ないじゃんそれ…いーすんの封印されてる場所探しだよ場所探し」

 

やっと目的を言ってくれたネプテューヌに納得する私。私達は元々イストワールさんがプラネテューヌのどこかに封印されているという話を本人から聞いてやってきたのだから確かにそれは真っ当な目的だった。

 

「へぇ、ネプテューヌもこういう事はしっかりやるんだね。…いや、ネタ挟んだ辺りしっかりと言えるかどうかは微妙だけど…」

「そりゃそうじゃん。だってわたしとイリゼの記憶がかかってる訳だしアチャコンヌにもそろそろ先手打たないと不味そうだし」

「アチャ…あ、マジェコンヌか……」

 

ネプテューヌは珍しく真面目に考えている様子だったので茶化さずに聞く私。基本ちゃらんぽらんなネプテューヌだけど、そんな彼女もほんとに大事な事はきちんと考える子だという事はこれまでの経験でよく分かっていた。…って言うかマジェコンヌの名前間違えネタって当人が居ないと一瞬分からないんだね……。

 

「そういう訳だから協力してもらおうか警部補のイリゼ君!」

「だから警部補じゃないから!…けど、協力するのは勿論構わないよ。他人事じゃないし」

「やった!…ふぅ、他の皆はそれぞれ忙しそうだったから助かったぁ…」

「暗に私を暇人扱いするのは止めてくれないかなぁ…」

 

……と、いう訳で私とネプテューヌによるイストワールさん捜査が始まったのだった。

 

 

 

 

「お買い物中の皆さーん!いーすん知らないっすかー!」

 

モニュメントっぽい石像の台に乗って叫ぶわたし。当然そんな事をすればお買い物中の皆さんは勿論、お店の人や散歩中の人だって声の主であるわたしを注目する。でもそれが目的だったから何の問題も無いんだよねー。

 

「いーすんを探してまーす!いーすんの情報をくれた人には褒賞としてこんぱ特製のプリンを!皆さん是非情報提供お願いしまーす!」

「か、勝手に確約作っちゃ駄目でしょ…」

 

おずおずとわたしに突っ込みを入れてくる今のわたしの相棒、イリゼ。イリゼはたくさんの人に注目される事に慣れてないのかさっきからずっともじもじしていた。

 

「いーのいーの、こんぱにはプリン作ってくれる様にお願いしておいたもん」

「そ、そうなんだ…」

「っていうかそれよりもイリゼも声出してよ、ほらほら」

「わ、私も!?こんな大衆の面前で!?」

 

ぶんぶんと首を振って嫌がるイリゼ。…うん?なんか今の台詞はびみょーにわたしをdisってる気がするけど…まあ良いや、とにかくわたしの声が枯れる前にイリゼにも言ってもらわないと!

 

「イリゼ協力するって言ったじゃん」

「だってこんな方法で情報収集するとは思ってなかったもん!ネプテューヌこそこれで有益な情報入ってくると思ってんの!?」

「思ってるよ!何せここはプラネテューヌだからね!」

「そのプラネテューヌへの高評価はどこからきてるの!?記憶喪失だよね!?」

 

どういう訳だか面白い言い争いに発展するわたし達。普段よりイリゼのハイテンション突っ込みが多いのは人前で興奮してるのかな?もう、イリゼったら変態さんだなぁ。

 

「誰が変態よ誰が!人前で恥ずかしくて冷静さ失ってるの!」

「うおぅ、まさか地の文を読んでくるとは…流石だね!」

「そこ褒められても嬉しく無いからッ!」

「ぷっ…あははははっ!君等面白いね!」

「漫才かしら?おばちゃんそういうの好きよ」

『……へ…?』

 

聞こえてくる笑い声と声援に目を丸くするわたしとイリゼ。いつの間にかわたし達を中心にちょっとした人だまりが出来ていた。それこそ路上漫才をやっているかの様に。

 

「いいぞーもっとやれー!」

「あの二人可愛いなぁ、何かのユニット?」

「……あのちっちゃい方の子、どこかで見た気が…」

「わぁ、何か凄い事になってる…」

「ネプテューヌのせいだよね!?も、もう行くよ!」

「えーまだ情報が…って、わわっ!?」

 

顔を真っ赤にして立ち去ろうとするイリゼ。そのイリゼに腕を引っ張られるわたしだけど…自ら動いていたイリゼはともかく動かされる形となったわたしはいきなり動いた事で足がもつれ、更にそれが丁度台の上から降りる所だったから持ち堪える事が出来ず転んでしまう。勿論、イリゼを巻き込んで。

 

「ねぷぅっ!?」

「なぁ……!?」

 

--------ちゅ。

転んだ事による鈍い衝撃。視界が一瞬で変化する奇妙な感覚。…そして、唇に触れる柔らかな感触。

けど、それにわたしが気付いたのはわたしが身体を起こし、半ば下敷きとしてしまったイリゼの顔を見てからだった。

 

「痛た…まさかこのわたしがこんなショボいコケ方するなんて…イリゼは大丈夫?」

「な…なな……っ!?」

「…イリゼ……?」

「……〜〜っ!!」

「ねぷぷぅ!?」

 

顔どころか耳まで真っ赤に染めたイリゼに突き飛ばされるわたし。訳が分からず呆然とするわたしの前でイリゼは物凄い勢いで走り去ってしまう。…え、えぇー……。

 

「……どゆ事…?」

「あらぁ、お盛んねぇお嬢ちゃん」

『ご馳走様でしたっ!』

「……え”?」

 

何だかやけににまにましてる周囲の人の反応に冷や汗をかくわたし。同時にわたしの唇に触れた柔らかな感触、そして紅潮したイリゼの頬が濡れていた事を思い出す。

……じゃあ、わたしはまさか…。

 

 

 

 

『第128回、いーすんはどこだ会議』

 

例の出来事から数日後、私達パーティーの拠点となったコンパのアパートのリビングに謎の看板が貼り付けてあった。……あれかな、今後の活動を考えよう会の後釜かな?

 

「128回って…127回もどこでやったのよ」

「その突っ込みが欲しかったんだよあいちゃん、やっぱりうちのパーティーの突っ込み陣は期待に応えてくれるね」

「そりゃどうも、まあ取り敢えず各自で集めた情報の報告会って事で良いのかしら?」

「そそ、そういう事。だから皆報告お願いね」

 

お願いね、って…ネプテューヌもその『皆』の一人なんだから報告する筈何だけどなぁ…、という突っ込みをパーティーメンバーの半数以上が思い浮かべる。その心の声が通じたのか、或いは単なる偶然か、とにかくネプテューヌは言葉を続けた。

 

「あ、因みにわたしは何にもなっしんぐー!」

「何堂々と言ってんのよ…まあ、そうだと思ったけどね」

「わたしも何も見つけられなかったです」

「右に同じく私も。…っていうかその途中でアレなアクシデントに遭いさえしたし……」

 

私の言葉に「うっ……」とあからさまにバツの悪そうな顔をするネプテューヌ。…全くもう、後もうちょっとズレてたら私とネプテューヌの仲は今まで通りにはいかなくなるところだったんだからね?

ネプテューヌから始まった情報無し報告は次々と続き、最後にアイエフが残る形となる。旅人であり独自の情報網も有している彼女ならば何かしら掴んでいるかもしれない、と皆が期待を込めた視線をアイエフに送るが…

 

「私もオトメちゃん達に協力してもらって探しているけど…残念ながら完全にお手上げ状態よ」

「…オトメちゃん?」

「私の知り合いよ、まあ気にしないで」

「全然駄目かぁ…こんな時もう一度いーすんとお話出来ればもう少しヒント貰えるかもしれないのに…」

「…ならばわたしの出番ね」

 

ネプテューヌのぼやきに反応したのはブラン。その妙に自信に満ちた表情と声音に皆が注目する。…何だろう、ブランはさっき情報無しって言ってたのに……。

 

「出番?何か会話をする手段があるというのか?」

「えぇ、これよ」

『これって……鍵の欠片!?』

 

ブランが私達に見せたのは鍵の欠片。それはイストワールさんの封印を解く鍵であり、同時に一時的に会話をする為の道具でもあり、何より見つかっていなかった筈のルウィーの物だった。

 

「ブランどうやってそれを!?もしかして投影魔術!?」

「何!?ブランよ、まさか投影魔術が使えるのか…?」

「そんな訳ないでしょうが…昨日フィナンシェが届けてくれたのよ、やっぱり皆に任せて正解だったわ」

 

ふふん、と誇らしげにブランは語っていた。これは記憶がきちんとある女神に共通する事だけど、教会の人を初めとした国民について話す時はえらく自信ありげ且つ誇らしげになる。…でも、別にこれは不満でも嫌味でもない。むしろ国民を大事にしている事が伝わって好印象を抱きすらするからね。

 

「おー!じゃあじゃあいーすんとお話出来るよね!やーナイスタイミングだよルウィーの人達!」

「もっと褒めてくれて良いわよ」

「褒めてたら話進まないじゃないですの。ルウィーの方を褒めるのは後でするとして、今はイストワールさんと話す方を優先させた方が良いと思いますわ」

「それもそうだね。じゃあ…いーすん、出てこいやぁ!」

 

妙にゴツい掛け声でイストワールさんを呼ぶネプテューヌ。…前も思ったけどわざわざ掛け声発さなきゃ駄目なのかな?いや要らないよね?

 

「--------遂に最後の鍵の欠片を見つけたのですね皆さん」

「見つけたのは優秀なルウィーの国民よ」

「ブランさん、そんなに国民の事褒めたいんだ…流石は女神様、なのかな…?」

「気持ちは分からないでもないけど…時間が限られてるんだからさっさと本題に入りましょ」

 

と、いう訳で我がパーティーお馴染みの話脱線を早々に切り上げて本題に移行する。

 

「いーすん、いーすんの封印されてる場所ってやっぱり詳しくは分かんないの?」

「その事ですか…すいません、なにぶん封印されてる身で身の回りの事はいまいち分からないんです」

 

イストワールさんの返答にあぁ…と納得する私達。拘束だとか軟禁ならばともかく、封印という表現をしている以上普通の状態にあるとは思えない。そんな状態で詳しく話せというのも無理がある話だった。

 

「そうですか…でもこれじゃいーすんさんを見つけられないです…」

「申し訳ありません…せめて私の手がかりを鍵の欠片以外にも残せたら良かったのですが……」

「手がかり……あ、今思ったんだけどプラネテューヌの教会に協力は頼めないのかしら?それこそルウィーで鍵の欠片探してたみたいに」

『……あ』

 

イストワールさんを含めた全員が『忘れてた…』みたいな反応をする。灯台下暗し…とは少し違うけど、教会(というか国)の長である女神がパーティーメンバーとして共に行動しているせいで逆に教会を忘れていた節があった私達だった。

 

「そうですわね、確かにプラネテューヌの事ならばプラネテューヌの教会に頼るのが一番ですわ」

「いやーまさか今まで気付かなかったとはね…」

「…いや、貴女は気付きなさい……」

「教会、ですか…。そこならば何かしら情報があるかもしれませんね。では、お願いします」

 

ネプテューヌがブランからのごもっともな突っ込みを受け、いつもの様にイストワールさんの声が聞こえなくなった所でお開きとなり、情報収集の為に教会へと向かうのだった。

 

 

 

 

門前払いされたり毒盛られて拘束されたり襲われて追われる身になったりと教会に行く度何かと嫌なイベントに遭遇していた私達だったけど、プラネテューヌの教会だけはその様な事は無かった。強いて言えば教会の職員の方がフランク過ぎて逆に不安になった位である。

その為、二回目の訪問となった今回も然程気兼ねせずに行く事が出来た。

 

「こんにちはー」

「おおっ!誰かと思えば何時ぞやのロリっ娘じゃないか!」

「お久しぶりー。一回しか会ってないのに覚えてくれてたんだね」

「当たり前だよ、君の様なロリっ娘は大陸の宝だからね!」

「いやぁー、そこまで言われると照れるなぁ」

 

半ば予想していた通りのテンションで迎えてくれる教会の職員さん。対するネプテューヌも滅茶苦茶歓迎されてるせいかご機嫌な様子だった。

……因みにそんな二人に対し、

 

「あんなオープンなロリコンがいるとは驚きですわ…」

「思い切りロリ扱いされてる事はいいのかしら…」

「というか全く女神って気付かれてないわね…両方どうなってんのよ…」

 

女神三人はこんな感じの反応をしていた。結構三人共的を得ている…というか皆が思っていた事をそれぞれ言ってくれたからか私含め他のメンバーは頷きを返す。

 

「それで、今日はどんな様かなネなんとかさん」

「…き、気のせいかな?わたしの名前の原型が無くなってる気が……」

「そのうち『ネさん』になりそうね…」

「わたし達、プラネテューヌにあるダンジョンについてお話が聞きたいんです」

「誰にも知られていない様な、超珍しい超レアな、クエスト開始時にランダムで行けるかもしれない感じのダンジョン知らない?」

 

うちのパーティーでもやっていけそうなレベルの職員さんに話を合わせてると全然先へ進めそうにないのですぐに本題を話し始める私達。職員さんも私達が真剣な話をしているのだと察してくれたのか思案してくれる。

 

「ふぅむ、それはまた難しい質問だね…」

「例えば、教会が管理していて公表されていない所とか、凄く昔に封鎖されている所とかこの際なんでも良いわ」

「それなら、私も先輩の上司の兄弟の旦那の弟の後輩の友人から聞いた話なのだが…」

「……兄弟の旦那?」

 

何だか物凄く遠い人から聞いたらしい話(しかも途中妙な関係有り)を始める教会職員さん。…何でそんな人が秘匿レベルのダンジョン知ってるんだろ…。

 

「昔々…それはもう凄い昔、先代の女神様達の時代に…」

「それよりも兄弟の旦那ってどういう事ですの!?是非そこを詳しく教えて下さいまし!さぁ早く!」

「いやそこまで食い付く事!?確かにちょっと気にはなったけどさ!」

「気にはなった…?ふふっ、イリゼもこちら側だったんですのね」

「そういう意味の気にはなったじゃないから!ちょっと何言ってるのか分からないよ!?」

 

目を輝かせるベールを何とか抑え込む私。皆はちょっと離れて本題を進めようとしている。わ、私一人に押し付ける気!?

 

「…こほん、その時代に女神様達が修行したと言われているダンジョンがプラネテューヌにあるらしいんだ」

「おおっ!なにそれ、なんかすっごくそれっぽいね!じゃあそれはどこにあるの?」

「あくまで伝承でしか伝わってないから、誰もどこにそのダンジョンがあったかなんて知らないんだよ…」

「そっかぁ…せっかく手がかりを見つけたと思ったんだけどなぁ」

 

私がベールを落ち着かせている間に何やら重要そうな情報が職員さんの口から発せられる。確かにそこならばイストワールさんが封印されていそうな気はするね。

 

「でも手がかりゼロではないわ。その伝承を紐解けば分かるかもしれないもの」

「そう言えば、女神さん達はその時代の事は何か知らないんですか?」

「私達もその時代の事はよく分からないのよ。先代やそれより前の女神の事は資料としては教会に残ってると思うけど…」

「女神は一般的な家庭や宗派などとは違いますものね…」

 

先代の女神様、というワードが出てきたにも関わらずノワール達がピンとしない様な顔をしていたのはそういう理由があったからだった。…女神ってのも単純なものじゃないんだね……。

 

「さて…可愛いロリっ娘の助けなんだ、改めて私も調べ直してみるよ。暫くしたらまた来てくれないか?」

「うん、分かった。それじゃ教会のお兄さん、宜しくね!」

 

有益な情報を教えてくれた職員さんにそれぞれお礼を言って教会を出る私達。決定的…とは言えないけど、ほぼ情報ゼロだったさっきに比べればかなりの進歩と言えた。

 

「…にしても、結局ネプテューヌが女神だって気付かなかったね」

「あ、そう言えば確かに…何でだろ?」

「こっちにいる間もずっと女神状態で過ごしてたとかじゃない?国民にとっては女神の姿の方が見覚えあると思うし」

「それはさておき…こっちでも調べてみましょ、いつマジェコンヌがまた動くか分からないんだから」

 

アイエフの言葉に頷く私達。女神三人の力をコピーしたマジェコンヌは脅威そのものだし、また搦め手を使ってくる可能性もある。だからこれは時間との勝負でもあった。

…よし、私も改めて調査頑張らなきゃ!

 

 

「にしても今回のイリゼはハイテンションで突っ込んでばっかだったね」

「えぇ、元気が有り余ってるのかもしれませんわね」

「って…誰のせいで突っ込んでると思ってるのかなぁ誰の!」




今回のパロディ解説

・アチャコ
漫才師であり俳優でもあった花菱アチャコさんの事。かなり前に亡くなった方なのでご存知の方は是非あまりいないのではないでしょうか?私も偶々知ってただけです。

・投影魔術
Fateシリーズに登場する魔術のひとつで、所謂物質の具現化能力の事。物理のイメージのあるブランですが、魔法の国の女神ですしもしかしたら使えるかもしれませんね。

・「〜〜出てこいやぁ!」
元プロレスラーであり、タレントや俳優も行っている高田延彦さんの代表的な台詞。本来なら漢感のある台詞ですが、ネプテューヌが言ったらきっと可愛くなるでしょう。

・クエスト開始時にランダムで行けるかもしれない
モンスターハンターシリーズで主に上位以降のクエストで出てくる秘境の事。時々思うのですが、基本一方通行の秘境へハンターはどうやってまず入ったのでしょうか?


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第四十三話 一歩一歩進んでいく

本、テレビ、ネット…今のご時世情報を手に入れる手段は色々とあるけど、なんだかんだで一番良いのは人に聞く事、だと私は思う。他の手段は基本的に知りたい事柄に最も近い回答を探す形になる性質上、自分の求めていた事に完璧に合致するものが得られるとは限らない上、知りたい対象に対する最低限の知識が無ければそもそも調べられないという事もあり得る。

だが、人に聞いた場合は違う。知りたい事柄に対し相手がその場で考えて回答を出してくれる為より自分が満足出来る答えを得られやすい上にほぼ無知でも聞く事が出来る(勿論人と話す訳だからマナーは必要だけど)からだ。

無論、これは私の主観だし欠点(相手の都合に左右される、前述の通りある程度のマナーが必要)もある訳だから一概に人に聞く事が良いとは言えないけど、とにかく有益な手段の一つである事は事実だと思う。そして、それは私以外の皆も多かれ少なかれそう思っていたから……

 

「…って訳で、街中で聞き込みをしてみましょ」

 

女神の修行の場となっていたダンジョンについての情報収集を人に聞いて…つまり、街中で聞き込みをするという形で行う事となった。

 

「うぅー…こういう地味なの苦手なんだよなぁ…」

「だからって派手にした結果漫才になっちゃった事もう忘れたのかなぁ?」

「で、ですよねー…」

「根気強く頑張るですよ、ねぷねぷ」

 

各々の意気込みはともかく聞き込みを開始する私達。人海戦術…という訳では無いけどパーティーメンバーが九人もいるおかげで短時間に多くの人、多くの地域で聞く事が出来、かなり効率の良い聞き込みとなっていた。

…ただ、それはあくまで効率の話で……

 

「全っ然有力な情報手に入らないね…」

「そう簡単に見つかるとは思ってなかったけど、まさかここまでとは…」

「世の中都合良くはいかない、という事か…」

「…ところで、女神の皆は?」

 

一度集まって軽い報告会をした後、ふとした疑問をマベちゃんが述べる。彼女の言う通りノワール、ベール、ブランの三人は何故かこの場に集まっていなかった。

 

「三人なら情報のありそうな場所に行くって言ってたよ」

「情報のありそうな場所、です?」

「うん、どこ行くかは聞いてないけどきっと羽川さんの所とかじゃない?」

「いやそれだと旅の一環で次元超えてる事になるから羽川さん……」

 

今いる場所を集合場所としている為移動する訳にはいかず、仕方ないので他愛もない会話を始める私達。その雑談が適度に盛り上がってきた辺りで件の三人が帰ってくる。

 

「お待たせ、何か情報あった?」

「残念ながら全く…。そっちは?」

「図書館で調べたけど、全然駄目ね。お伽話位しかなかったわ」

「わたくしもネットでスレ立てしたりして情報を集めましたけど、それらしき情報はありませんでしたわ」

「私も伝承学で有名な教授とかに話を訊いてみたけど、ダンジョンの詳しい場所は分からなかったわ」

 

どうやら三人も収穫無しだったらしく、全員で揃って嘆息を漏らす。確かにそう都合よくはいかないだろうとは思っていたけど、ここまで情報が無いと気落ちもせざるを得ない。…というか、冒頭で人に訊くのが一番って出したのに普通に図書館とかネット使われたら私が古い人間みたいじゃん!

 

「うぅん…どうする?もうここは職員さんに期待して待つ?」

「あの人に期待しないって訳じゃないけど、待つのはあまり得策じゃないと思うわ。それで情報無しだったら待ってた時間が無駄になるし」

「じゃあ、次はどうやって探すですか?」

「……あ、なら良い案があるよ?」

 

…と、言いながら樹の枝らしきものを取り出すネプテューヌ。一瞬満場一致で『……は?』という雰囲気になるも、このタイミングで出したのだから何かあるのだろうと思って質問をする。

 

「これって樹の枝…だよね?これが何なの?」

「これを倒して、倒れた先に進むの!きっとわたし達を導いてくれる筈!何故なら、わたしは主人公だから!」

「何その凄く古典的な方法…」

 

ネプテューヌの言葉に再び微妙な雰囲気になる私達。樹の枝の使い方も結果の根拠もふわっとし過ぎているにも関わらず自信満々のネプテューヌはイタいを通り越して逆に可愛さすら見せていた(私の主観です)。

…が、そこに意外にも援護が入る。

 

「…けど、手がかりがない以上それに頼ってみるのもありね。案外、思わぬ発見があるかもしれないわ」

「流石ブラン!冒険の浪漫が分かってるね!」

「あ、ネプテューヌは冒険の浪漫で言ってたんだ…」

 

浪漫と言うとそれっぽく聞こえてしまうから困ったものである。まぁ、それは別として実際ブランの言う事は最もだし、アイエフの言う通り、待ってた結果その間の時間が無駄になる可能性もあるからか皆も賛同し始める。

 

「まぁ、ブランがそう言うなら試してみましょ」

「そうですわね。ここで立ち話してても何も得られませんしわたくしもブランに賛成ですわ」

「…あれ?わたしの扱いなんか悪くない?」

「日頃の行いのせいね」

 

容赦のない突っ込みを浴びせられるネプテューヌ。…まぁ、突っ込みについては大いに同意だけどね。

ネプテューヌは自身の扱いと突っ込みに不満たらたらの様子を見せるも、反論するより樹の枝作戦で成果を上げて評価を上げてやろうと思ったのか樹の枝を地面に立て、手を離す。そして、その樹の枝が倒れた先は……

 

「…郊外の森を指してるわね」

「けど、あっちには森林公園と地下の洞窟がある位よ?例のダンジョンなんてあるかしら…」

「…ねぇあいちゃん。せっかくだしさ、行ってみようよ。案外身近な所に隠されてるかもしれないし、一から探してみるのもありだと思うな」

「…それもそうね……ねぷ子にしては珍しい事言うじゃない」

 

少々驚いた様な顔を見せるアイエフ。前にも少し思ったけど、ネプテューヌはボケに走りさえしなければ割とまともなのかもしれない。しょっちゅうボケに走るからその一面ははぐれメタル並みに出現率低いけどね。

 

「でしょ?…って、それちょっと酷くない…?」

「貴女の場合は日頃の言動のせいでしょ」

「うっ…あいちゃーん、ぼっちのノワールがいじめるー」

「だから…誰がぼっちよ、誰が!」

 

またも容赦のない突っ込み(内容は妥当)を浴びせられるも、今度は論点のズレた反撃をするネプテューヌ。勿論これは特別な理由があるとかじゃなく単にノワールの方が弄りやすいだけ、って事なんだろうけど。

 

「たまにはまともな事を言うと思ったら、すぐこれなんだから…」

「アイエフよ、ネプテューヌがまともで居続ける事などどだい無理な話だろう」

「だよね、そういうのネプテューヌさんのキャラじゃないし」

「異次元組はよく分かってるのね…ま、最初のダンジョン行くとしましょうか」

 

という訳で最初のダンジョンである森林公園へと向かう私達。ダメで元々、という考えではあるけど出来れば何かしら発見があるといいな、と思う私だった。

 

 

 

 

あれからおよそ数十分後、ダンジョンとしては難度が低い事もあって和気藹々としながら森林公園を進んでいった私達は大穴…つまり、ネプテューヌが突き刺さっていた場所に到着した。

 

「ここが例の…?」

「うん。ここでコンパに拾ってもらったんだ。で、記憶の手がかりを探して初めてきたダンジョンもここで、そこにある大穴はわたしが突き刺さって出来た穴なんだ」

「あの時はいきなりだったのでびっくりしたですよ。けど、ねぷねぷとの良い思い出です」

「わたしにとっても大事な思い出だよ!…でも、我ながらよく天空から落っこちて刺さったにも関わらず生きてたよねぇ……って、あれ?」

 

苦笑混じりのネプテューヌの言葉を聞いた途端、バツの悪そうな顔を見せる守護女神三人。笑うでもなく突っ込むでもないその反応にネプテューヌは勿論、私達も怪訝な顔をする。

 

「え、っと…どうかしたの?もしやわたし何か嫌な事言っちゃった?」

「嫌な事って言うか、ほら…ネプテューヌが落ちたのって私達が貴女を守護女神戦争(ハード戦争)から脱落させようとしたからだし…」

「あの時は何も感じませんでしたけど…今となっては罪悪感に苛まれますわね…」

「…本当に、貴女には悪い事をしたわ……」

「…なぁんだ、そんな事?もー、わたしが気にしてないんだから皆も気にしなくていいんだって。っていうか落ちたおかげで皆と出会えて友達になれたんだからむしろ良いこと尽くめだったんだよ?」

 

にぱぁ、と笑顔を見せながら返すネプテューヌに救われたかの様な表情を見せた後、それぞれの笑顔を返すノワール、ベール、ブラン。

…ネプテューヌが言った事は結果論で、偶々運が良かっただけだ。そう切り捨ててしまう事も出来るし、正直ネプテューヌは甘いのかもしれない。…でも、誰もそんな事は言わない。だって…

 

「…誰も幸せにならない論より、ネプテューヌの言葉の方が優しくて強いもんね…」

「ねぷ?イリゼ、何か言った?」

「ううん、私の中でネプテューヌの株が急上昇してるだけだよ」

「そうなの?よく分かんないけどやったね!」

 

若干恥ずかしかったので本音を隠しつつ、でも嘘ではない事を言って話を逸らす私。その内容が褒めるものだった為、予想通りはしゃぐネプテューヌ。

…と、その時どこかで聞いた声が響く。

 

「あれ?もしかしてネプテューヌさん達?」

「お、サイバーコネクトツーじゃん!久しぶりー!何してんの?」

「うん、ちょっとやる事が…って、MAGES.にマベちゃん?」

「やっぱりサイバーコネクトツーも来てたんだね」

「元気そうで何よりだな」

 

別次元組の二人と顔を見合わせるサイバーコネクトツー。三人の顔は多少の個人差はあれど、全員驚いた様な…そして懐かしそうな様子を見せる。…あれ、って事はつまり…

 

「…もしや、サイバーコネクトツーも二人と同じ次元から?」

「そういう事さ。まぁ、とある次元で仲間だった事があるってだけで別に皆同じ所出身って訳じゃないけどね」

「…という事はつまり、ここと貴女達が一緒にいた所以外にも次元はあるの?」

「あぁ、正確な数こそ分からないが私達が知る次元以外にも多くの次元があるだろうな」

 

さらっと衝撃の事実を口にするMAGES.。ただ、異常も非日常もお友達の私達でも流石に次元云々は実感が無かったおかげで変にテンパったり動揺したりせずに済む。まあ勿論驚いてない訳じゃないけどね。

 

「…ところで、サイバーコネクトツーさんはさっき何を言いかけたんですか?」

「あ…こほん、最近この辺りに不審者が出没するらしいから見回りをしてるんだ」

「不審者かぁ…わたし達なら簡単に撃退出来ると思うけど、一応気をつけないとだね」

「そういうネプテューヌさん達はどうしてこんな所に?」

 

至極真っ当な質問を投げかけてくるサイバーコネクトツー。私達はその質問はどのタイミングかでされるだろうと薄々思っていたので、ここに至る経緯を掻い摘んで説明する。

 

「隠しダンジョンに女神様の伝承かぁ…ごめん、今回は力になれそうにないや。けど、怪しいダンジョンならこの下の洞窟なんて凄く怪しそうだよね」

「この下の洞窟です?」

「ゲームでも、洞窟ダンジョンには昔から隠し通路や仕掛けが沢山あるからね」

「確かに、洞窟にある大穴に飛び込むと、別世界が広がっていたというゲームもありますし…可能性は高そうですわね」

 

相変わらず情報不足の私達にとってはどんな手がかり、どんな発想でもありがたい。…と、言う訳でサイバーコネクトツーにお礼を言って別れた後、目の前の洞窟…つまり、魔窟へと入る私達。

そして、そこからまた数十分後…

 

「うーん、一通り回ってみたけど特に何もないね…」

「ねーマベちゃん、忍者ってゲームだと盗賊と近い扱いだしスキルで何か見つけられたりしない?」

「わたしにそんなスキルは無いよネプちゃん…」

 

ネプテューヌのそれは明らかに無茶振りだったけど、気持ちは分からないでもない。初めて行くダンジョンならともかく、既に来た事のあるダンジョンをただうろうろするのは予想以上に暇になる作業だった。

そして鍵の欠片があったらしい所に辿り着いた時、それまで黙っていたノワールが口を開く。

 

「…ねぇアイエフ。プラネテューヌの鍵の欠片はここにあったのよね?」

「えぇ、そうよ」

「……そう」

「…どうかしたの?」

 

我等がパーティーのクール&ビューティー組、アイエフとノワールが何やら話し始める(キレ要素や厨二要素が無ければブランやMAGES.も入れそうなんだけどなぁ…)。この二人は割と常識人だし何か見落としてる要素を発見出来るかもしれない。

 

「んー…気のせいだと良いんだけど、何か引っかかるのよ」

「隠し通路の事?」

「えぇ、けど具体的に何がどう引っかかってるのか全然分からなくて…」

「あるある。そういうのって歯痒くて気持ち悪いのよね」

 

ノワールの感覚にアイエフが理解を示し、揃って苦笑をする。あぁ残念、二人から何か発見出来そうな雰囲気が消えてしまった。全くそんな雰囲気を出せてない私が言える立場じゃないけどさ。

…とか思ってた所に聞こえてくるネプテューヌの声。

 

「…あれ?」

「どうかしたのネプテューヌ。そっちは行き止まりよ」

「ねぇ、皆なんかこの先変じゃない?行き止まりなのに風が吹いてるよ?」

「なんですって!?」

 

ネプテューヌの発見に皆がその壁へと集まる。一見何の変哲もない壁、しかし近付くと確かに風が吹いているのを感じる。

 

「もしかして……」

「……!?ブランさんが壁の中に消えたです!?」

「この壁…よく見ると魔法で出来た幻影ですわ」

「この先に道が続いているわ。多分、わたし達が探しているダンジョンじゃないかしら」

 

ひょこっ、と壁から顔だけを出すブラン。端から見るとシュール且つホラーという奇妙な状況ではあったけど、今の私達にとってはそんな事より隠し通路を発見した事の方が大きく、若干の興奮を言葉に帯びさせながら会話を続ける。

 

「まさか、こんな所に隠されてるなんて…気付かなかったわ」

「ねぷねぷ、お手柄です!」

「いやぁ、それ程でもー。これも主人公たる幸運って奴?…あ、ご褒美はバケツプリンが良いな!」

「こら、調子乗らないの。…けど、今回はその位のご褒美も有りね」

「やたー!夢のバケツプリンだー!やっぱ言ってみるもんだねぇ」

 

大喜びのネプテューヌと、それを温かい目で見つつも次々と壁の先の通路へと入っていく私達。ブランの言う通り、壁の先にはここまでとは明らかに別物と思われる場所が広がっていた。

 

「これは一気に可能性が見えてきたね…」

「だね。…っていうかこんぱ、あいちゃん、何かあの時の事思い出すよね」

「あの時の事?」

「ほら、イリゼを見つけた時もこんな感じだったじゃん」

『あー……』

 

自分の名前が出てきた事で目をぱちくりさせる私の前で頷き合うコンパとアイエフ。勿論、私もその当事者…というか中心人物ではあったけど、その時はずっと意識がないままだったからいまいち実感が湧かなかった。

…そういう意味では、私はネプテューヌ達女神以上に特殊な存在なのかもしれない。記憶もなく、私の事を知っている人もいないから私は特殊なのかそうじゃないのか…そもそも、私は何なのかすら分からにゃ……

 

にゃにしてふのにぇぷひゅーぬ(何してるのネプテューヌ)……」

「何か物凄く暗い顔してからだけど?」

「…ぷへっ…だ、だからって頬引っ張んなくても良いじゃん…」

「暗い顔してたって何にも楽しくないし何も変わんないよ?何考えてたのかは分かんないけど、せっかく皆でいるんだし楽しくいこうよ」

 

私の頬を引っ張っていた手を離し、今度は私の手を引っ張って皆と合流させようとしてくれるネプテューヌ。

……やっぱり、優しくて強いねネプテューヌ…。

 

「……ありがとね、ネプテューヌ」

「ねぷ?」

「何でもないよ、今日は戦闘無かったのに活躍多かったね。よっ、流石主人公!」

「でしょでしょ?ふふーん、この調子でいーすんも見つけちゃうよー!」

 

堂々と歩くネプテューヌに勇気付けられる私。そう、暗い顔してたって楽しくも、何か進んだりもしないのだ。ならば空元気でも明るくした方が良いのかもしれない。

ネプテューヌはそこまで考えていなかったのかもしれないけど、彼女の言葉で少しだけ元気を貰えた私だった。




今回のパロディ解説

・羽川さん
化物語シリーズのヒロインの一人、羽川翼の事。何でも知っている(気がする)彼女なら、場所そのものは教えてくれなくとも、大きなヒントはくれそうですね。

・はぐれメタル
ドラゴンクエストシリーズに出るメタル系モンスターの一つ。メタル系も色々といますが、最も発見し辛いのはどれでしょうね?勿論作品ごと出現確率は違うでしょうけど。

・「〜〜洞窟にある大穴に飛び込むと、別世界が広がっていたというゲーム〜〜」
ドラゴンクエストⅢ及びそれに登場するギアガの大穴の事。このパロディ内容ならば他にも該当する作品はありそうですね。もしお暇なら教えて頂けるとありがたいです。


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第四十四話 そして選ぶ選択肢

少しずつ変化する通路。最初は魔窟同様の洞窟らしき壁と地面だったものが進むにつれて近代的に…というより、電脳的になってゆく。

当然、こんな電脳的な空間が自然に発生する訳がない。ゲイムギョウ界でもあり得ない事は勿論あるのだ。そして、その非現実的な展開はそこを歩く少女達を否応なく緊張させ……

 

「おぉー!埃っぽい洞窟からこんなサイバーな所に出るなんて…正に革命!君のハートにレボリューションだよ!」

「なんで貴女はそんなにテンション高いのよ…」

「ほら、アレだよ。子供はこういう所来るとはしゃぐでしょ?それと同じ感じだよきっと」

『あー……』

 

なかった。もうびっくりする程いつも通りだった。…いや、だって私達だよ?良くも悪くもぶっ飛び過ぎてる事に定評のある私達がそんな事で緊張する筈ないじゃん。

…とはいえ、能天気なメンバーばかりではないので多少はまともな会話も挟まれる。

 

「しかしここは誰が作ったのでしょうか…」

「先代の女神の修行場な位だし、先代の女神達じゃないかしら?」

「修行の為にわざわざこんな場所を、ですの?」

「わたしに聞かないで、今ある情報から推測しただけだもの」

 

ベールの疑問は最も…というか、全員が抱いていたものだった。洞窟から電脳空間もどきのダンジョンに移り変わったら誰だって疑問に思う。これには何か理由があるんじゃないか、原因があるんじゃないかと思考を巡らせてしまうのも無理がない話である。

 

「んー…あ、それもいーすんに聞けば良いんじゃない?いーすんなら知ってそうな感じするし」

「そうですね、元々いーすんさんを探しに来た訳ですし」

「して、件のイストワールは何処にいるのやら…」

「そもそもどんな形で封印されてるのかな、それ次第で見つける難度も違うんじゃない?」

 

封印されたイストワールさんを見つける為、ちょくちょく周りを見回す私達。壁が蛍光的な分先程までいた魔窟よりは明るかったが、マベちゃんの言う通り探す対象の具体的な形が分からない為捜索は難航していた。

…と、そこで私達は広間の様な開けた場所に出る。

 

「ここがこのダンジョンの最奥部かしら…」

「ならここにいーすんがいるのがセオリーだよね。おーい、いーすーん!」

「いや、封印されてるんだから声を返せる筈が……」

「待っていたぞネプテューヌ!随分遅かったではないか」

 

私の突っ込みを遮る様に奥から響いてくる声。幾度となく聞いたその声の主が誰なのかなど、最早顔を見て確認する必要はない。そう、彼女の名は……

 

「ま…マタドガス!?」

「誰がマタドガスだ!毎回毎回覚えるどころかどんどん離れていってるではないか!馬鹿か、馬鹿なのか貴様は!」

「いやぁ、だってこれってもうお約束じゃーん。けど、なんだかんだ言いつつ突っ込んでくれるマジェっちは好きだぞ!なんちゃってー!」

 

ピリッとした空気が一瞬で崩壊し、謎の漫才的雰囲気が私達とマジェコンヌの間に流れる。その立役者は勿論ネプテューヌ。…うん、なんかここまで来ると逆にちょっとマジェコンヌに同情しちゃうよね。ほんのちょっとだけど。

 

「シリアス展開になると思いきや、コミカル展開に変えるとは流石だな。お前には空気の破壊者(シリアスブレイカー)の二つ名を与えよう」

「楽しい雰囲気に場を変えるのも才能だね」

「ふふ、ねぷねぷは場だけじゃなくて皆も楽しくさせてくれるですよ?」

「ま、それがねぷ子の取り柄だものね」

 

シリアスパートに入りかけていた状況を一撃でギャグパートに路線変更させたネプテューヌについて、ついわいわいと話し始める。完全に雰囲気に飲まれて状況を忘れていた私達だった。

 

「貴様等…私を無視するなぁぁぁぁ!」

「……こほん…貴女がいるという事は、どうやらここにイストワールが封印されていると見て間違いなさそうですわね」

「ふん…その通りだ、鍵の欠片を揃えた貴様等ならきっと辿り着くと思って待っていたぞ」

「…そっか、何か引っかかると思っていたら、そういう事だったのね」

 

時と場合次第では大人っぽい言動をするベールの言葉によって再び緊張した雰囲気が戻る。そして、ベールとマジェコンヌのやり取りを聞く中で合点がいった様な顔をするノワール。

 

「…ノワール、どういう事?」

「簡単な事だったのよ、鍵の欠片を揃えた私達がここに来る事なんて分かりきった事だったんだわ」

「……!いけない!ねぷ子、イリゼ、あんた達は逃げて!」

「逃げる?せっかく誘い込んだのだ、ゆっくりしていけ」

「ねぷっ!?いつの間にか後ろにモンスターが!?」

 

驚愕の声を上げるネプテューヌ。そしてその声に反応して振り向いた私達の先にいたのは多数のモンスター。ノワールが言った通り、マジェコンヌは偶々ここにいたのではなく、鍵の欠片を揃えた私達はイストワールさんを解放しに来るだろうと予め準備をしていたのだった。

 

「嵌められた…!?」

「面倒な事してくれるわね…でも、モンスターだろうが何だろうが倒せば良いだけよ!」

「はっ!どんなモンスターを出そうが今回もぶっ飛ばしてやるぜ!」

「だと、良いのですが…」

 

罠にかかったという事実に一瞬狼狽えるも、次の瞬間には女神化をし、各々の武器を構える私達。敵が既に臨戦態勢なのであればこちらも戦闘出来る状況にならざるを得ないのが世の常であり、今回もそうだった。

 

「いい?ねぷ子、イリゼ、無理はしないで。あいつの狙いはあんた達なんだから」

「えぇ、分かったわ」

「了解、気を付けるよ」

「ネプちゃん達には指一本触れさせないよ?」

 

マジェコンヌの目的はまだコピーしていない女神の…つまり、私とネプテューヌの力のコピー。だからこそ彼女に安易に背を向ける事もモンスターに集中する事も出来ないのが私とネプテューヌだった。…思う様には戦えない、って訳ね…。

 

「…クックックッ…ハーッハッハッハッ!良いだろう!貴様等がどこまで足掻けるか見せてもらおうじゃないか!」

 

マジェコンヌの声を号砲とするかの様に一斉に襲いかかってくるモンスター。自由に動ける三人の女神を中心に迎撃を始める私達。

イストワールさんの封印と私とネプテューヌの力を賭けた攻防戦が、幕を上げる。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…っく、どんだけ数多い訳…!?」

 

あれから十数分…いや、数十分かもしれない時間が過ぎた。個々の戦闘能力と連携で勝る私達は最初こそモンスター群を圧倒し、瞬く間に数を減らしていったが…一向に減らないモンスターの増援に次第に巻き返され、今となっては逆に劣勢となっていた。

 

「随分と大変そうじゃないか、さっきの威勢はどうした女神共よ」

「モンスターに任せてただ見てるだけのあんたが言うんじゃないわよッ!」

 

目の前のモンスターを大剣で両断しつつもマジェコンヌの挑発に食ってかかるノワール。が、彼女の表情に余裕は見られない。…余裕の無い状態でも挑発に毎回反応する辺り、ある意味凄いのかもしれない。

 

「はぅぅ…このままじゃ体力が持たないですぅ…」

「確かに何か手を打たないとジリ貧は免れないな…!」

「手、ね…この状況を打開出来る手があるとすればそれは……」

 

挟撃を図るモンスターに対し片方を大太刀で受け、その背を狙った二体目へ逆に後ろ蹴りを放って返り討ちにするネプテューヌ。二体のモンスターをあしらった彼女の鋭い視線の先にいるのはマジェコンヌ。その視線一つで私達はネプテューヌの考えを察する。

 

「そういう事ね…でも、ネプちゃんが近付くのは……」

「えぇ、私とイリゼは下手に接近出来ないわ。だからノワール、ベール、ブラン…頼んでも良い?」

「へっ、そんなの答えるまでもねぇだろ?」

「皆さんはわたくし達へ邪魔が入らない様にして下いまし」

「勿論。それ位なら問題なく出来るから…ねッ!」

 

短い会話で意思疎通を図った私達は気を見計らいながらも少しずつ固まっていく。敵の数は未だ多く、親玉であるマジェコンヌは私達一人一人ではどうにもならない程の力を有している。そんな状況で私達が一発逆転を成すには何よりもタイミングが重要だった。

 

「イリゼ、わたしに合わせて頂戴。一気に道を切り開くわよ」

「任せて、しかし主人公二人がそろって露払いやる事になるとはねぇ」

「何ねぷ子みたいな事言ってるのよイリゼ…」

「ふふっ、イリゼも言う様になったじゃない…じゃあ、いくわよッ!」

 

交錯する私とネプテューヌの視線。次の瞬間には私達は地を蹴り、私達とマジェコンヌを隔てるモンスターの壁を穿つべく肉薄する。

 

『……ーー!?』

「喰らいなさいッ!『32式エクスブレイド』!」

「散れッ!『天舞壱式・桜』!」

 

ネプテューヌの力によって顕現するシェアエナジーの大剣。その剣はネプテューヌが手を振るうと同時に放たれ、文字通りモンスターの壁に穴を開ける。そしてその穴へと踏み込む私。全方位へ次々と振るわれる長剣によって、穴を埋めようと動いたモンスターは咲き誇り、その後風に吹かれて散る桜の様に一気に斬り裂かれていく。

モンスター消滅時の光に彩られた花道を駆ける三人の女神。彼女等を追おうとするモンスターはその後ろを走るコンパ達四人に討ち払われる。

一瞬でも遅れれば瓦解する危うい連携。だが、今まで仲間として戦い、友達として笑い合った私達はそれを容易にこなせるまでに成長していた。

 

「な……ッ!?」

「もらったわマジェコンヌッ!」

「決めさせて頂きますわッ!」

「てめぇも年貢の納め時だなッ!」

 

マジェコンヌの正面と側面、その三面へ同時に攻撃が放たれる。それに対するマジェコンヌも流石と言うべきか、殆ど反射的に後ろへと跳ぶ…が、全速力の女神の一撃をその程度で回避出来る筈も無い。

興奮と緊張の影響からか、目の前の光景がスローモーションに見える。そのゆっくりとした世界の中で三人の獲物がマジェコンヌを貫き裂こうとする刹那--------

……爆発が、起こった。

 

 

 

 

立ち上がる煙、その煙に穴を開けるかの様に吹き飛んでくるノワール、ベール、ブラン。三人は…否、私の隣にいたネプテューヌを含めた守護女神四人は女神の姿から人の姿へと戻っていた。

 

「え、ど、どゆ事!?」

「それに、今の爆発は一体…?」

「----残念だったなぁ、女神共よ」

『ーーっ!』

 

煙の中から姿を現すマジェコンヌ。三人の攻撃は辛うじて届いていたのか、致命傷とは言わずとも大きな傷を与えていた。だが、それだけである。マジェコンヌは、健在だった。

そして、マジェコンヌに付き従う様に現れる大きな影。その正体は……博覧会で相見えた『ハードブレイカー』を彷彿とさせる大型マシンだった。

 

「そんな…何でその機体がまだあるのよ!?アヴニールは確かに私が解体した筈なのに!」

「ハードブレイカーの予備機とやらを解体前に手に入れていただけさ。残念ながら私は技術者じゃない分性能も女神封印システムも多少落ちてはいるが…どうやら十分だった様だな」

「だからわたし達の女神化が解けたのね…」

「ふん、イリゼの女神化は相変わらず解けていないがな。しかし今のは冷や汗を禁じえなかったぞ、油断せずこいつを用意しておいて正解だったな」

 

してやった、と言わんばかりの表情を浮かべるマジェコンヌ。対する私達は勝利目前まで進んでいた分余計に強い衝撃を受け、動きを止めてしまう。…それは、この場において最悪の悪手だった。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁ!?』

「……ッ!皆…!」

「ハーッハッハッハッ!全体としての戦力が大幅に低下した貴様等ではモンスターすらどうにもならないだろうなぁ!」

 

足を止めた私達へ一斉に襲いかかるモンスター。守護女神の四人が女神化状態で戦っても劣勢を強いられていた相手を私以外は女神化不能の状態で凌ぎ切れる筈がない。幸い固まっていたおかげで各個撃破される様な事こそ無かったものの、全滅するのは火を見るよりも明らかだった。

 

「……っ…イリゼ!ネプテューヌを連れて逃げて!」

「アイエフ!?何を言って…」

「マジェコンヌの目的は貴女達よ、それは分かってるでしょ!?」

「でも…皆を置いてくなんて出来ないよ!」

「美しい友情劇だな…だが、もし貴様等二人が逃げればここにいる連中はどうなる?まさかモンスターを殲滅出来るとでも思っているのか?」

 

そう、現状はマジェコンヌが圧倒的優位であり、私達全員が無事に逃げられる可能性は限りなくゼロに近い。だが、私達二人だけならまだ可能性はあり、尚且つマジェコンヌの目的を阻止出来る。…つまり、皆を見捨てるのが賢明…そんな最悪の状況に私とネプテューヌは直面していた。

 

「さて…ここで一つで取り引きをしようじゃないか。貴様等の力を差し出せば、こいつらの命は助けてやろう」

「わたし達の、力と交換…?」

「そうだ、悪い条件じゃないだろう?だがネプテューヌ、貴様等の力はコピーではなく差し出してもらおうか」

「そんな事をしたらねぷねぷが女神さんじゃなくなってしまうです!」

「ネプテューヌには何度も苦汁を飲まされてきたのだからな。力そのものを頂く!」

 

マジェコンヌは私達には…特にネプテューヌに対し悪魔の取り引きを持ちかける。確かにマジェコンヌの目的が達成され、しかもネプテューヌは力を失うという多大なデメリットがあるのは事実だが…それでも、私は彼女の言う通り悪くない条件だと思ってしまった。『こいつらの命は助けてやろう』。記憶も無く、自分を知る人もいない私にとって皆という存在はその最低の取り引きに応じるかどうか思案しようと思えるまでに大切で、かけがえのないものだった。

そして、その想いはネプテューヌも同じなのだと、彼女の表情を見て気付く。

 

「ねぷねぷ、イリゼちゃん、逃げて下さいです!」

「こんな取り引き応じる必要無いわ!早く逃げて!」

「狂気の魔術師はこんな事で命が惜しくなる程ヤワではない。いいから行け!」

「誰かを守る事こそ忍の役目、だから逃げて!」

 

声が聞こえる。女神だから、ではなく友達として私達の身を案じ、そして自分の命よりも私達の事を想ってくれる皆の声が。

 

「てめぇ等の力まで奪われたらこの世界は終わりなんだ!構わず逃げろ!」

「わたくし達も、貴女達も女神ですのよ?…ならば、何を一番大切にしなければいけないから分かっているでしょう!」

「皆貴女達の為に覚悟を決めてるのよ!いつまで迷ってるの!」

 

声が聞こえる。私達の為に、そして国…世界の為にはなから自分の命を助ける相手の勘定に入れていない誇り高き皆の声が。

 

『…………』

「揃いも揃って自らの命を捨てるか…理解出来ないな」

 

ネプテューヌと顔を見合わせる。言葉は交わさない。何故ならそんな事をしなくても、互いが何を思っているかなんて容易に想像する事が出来たから。

そして、二人で答える。

 

「……分かったよ、皆…イリゼも良いよね?」

「うん、ネプテューヌこそ良いの?」

「勿論だよ。…ううん、ほんとは最初から迷うまでも無かった筈だよね」

「答えは決まった様だな。さぁ、聞かせてもらおうか」

 

 

「…マジェコンヌ。私達の力を貴女にあげる」

「だから、皆を助けてあげて」

 

私達は選ぶべきではない選択肢を…私達にとって一番大切なものを救う選択肢を、選んだ。




今回のパロディ解説

・「〜〜君のハートにレボリューション〜〜」
お笑い芸人、ゴー☆ジャスさんのネタの一つ。最近話題のこの人は前にとブレイクした再ブレイク芸人ですよね。…あ、勿論ゴー☆ジャスさんを貶してる訳ではないですよ?

・マタドガス
ポケットモンスターシリーズに登場するポケモンの内の一つ(一匹?)。ここまでくるとほんとに誰だか分からなくなりますね、マジェコンヌさんごめんなさい。


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第四十五話 まるでパンドラの箱を開いたかの様に

目的の為に犠牲を払う。より多くの人を救う為に少数を見捨てる。

命の価値に絶対的な基準は無いし、出来るのならば誰も傷付かずに目的を果たし、全員を救う様にしたい。きっとそれは多くの人が思う事だし、だからこそその思いを抱いた上で何かを捨てるという判断が出来る人は強い精神を持つ、間違いなく凄い人間だと思う。

--------でも、全ての人がその判断を出来る訳じゃないし、大義の為に何かを捨てる判断はある意味では正しいのかもしれないけど、絶対的な正義だとは思えない。だから、私は----私達は--------

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ネプテューヌの力が、女神の力がマジェコンヌに奪われる。…いや、違う。その力は私達が自ら選んでマジェコンヌに渡したものだった。……私達を想ってくれる、皆の為に。

 

「ネプテューヌ…」

「わたしの…わたし達の女神の力で皆が助かるんだったら、安い取り引き…だよね…」

「ねぷねぷ……」

「ねぷ子……」

 

力を奪われた衝撃で膝から崩れ落ちるネプテューヌと、それを支える私。それでも彼女は笑っていた。強がりでも何でもなく、女神の力と引き換えに皆を助けられるなら安いものだと心からネプテューヌは思っていたから。

 

「ハーッハッハッハッ!やっと…やっと四人の女神の力を全て手に入れたぞ!!ハーッハッハッハハッハッハッハッハッ!!これで私は女神を凌駕する存在に…いや、森羅万象全てを超越する真の神になったのだぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

相手を思いやり合う私達とは対照的に、誰も思いやらず、誰にも思いやられていない存在、マジェコンヌが高らかに、そして喜びと狂気の混じった笑い声を上げる。その笑い声は、超常的存在と状況が入り混じるこの場において、最も異質なものだった。

 

「マジェコンヌ…貴女は一体……」

「あぁ…そう言えばまだ貴様がいたな。くく、正体は未だ不明だが貴様も女神の力を持つ存在。その力をも手に入れたとしたら一体どれだけの強さになるのだろうな…」

「…私も抵抗はしないよ。だから私の力をコピーした後は皆を助けて」

「助ける?つくづくおめでたい頭をしているな、あんな約束誰が守るものか」

『……ーーッ!?』

 

マジェコンヌの言葉に私達二人は愕然とする。約束が守られない、それはつまり……

 

「皆を…全員を殺すつもりなのッ!?」

「約束したじゃん!わたし達の力をあげる代わりに皆を助けてくれるって!嘘つき!!」

「何とでも言え。所詮は弱者…負け犬の遠吠えにしか聞こえん!」

「……ッ!マジェコンヌぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

マジェコンヌの言葉に弾かれたかの様に私は地を蹴る。確かにマジェコンヌを信用しきっていた訳ではない。でも…皆の命程ではないとはいえ、大切なものである女神の力を渡した事を完全に蔑ろにしたマジェコンヌの態度に、皆が殺されるという事象に耐えて静かにしているなんて私には出来なかった。

構えもへったくれもない突進からの刺突。だがそれでも虚をついた一撃はマジェコンヌを正確に捉え--------

 

「そんな攻撃で…やれると思うなッ!」

「がは……ッ!?」

 

私の目の前にいたマジェコンヌの姿がぶれる。次の瞬間、私を襲う上からの衝撃。その正体は……

 

「…嘘…でしょ……?」

「残念ながら事実だ。ふっ、良かったじゃないかイリゼ。何せこの私の完全なる力を真っ先に体感する事が出来たのだからな!」

 

あの瞬間、確かに私はマジェコンヌよりも先に動き、実質油断していたマジェコンヌは反応が一瞬遅れた筈だった。にも関わらず私が攻撃を受けたという事はつまり、およそ二手分の差を覆し、逆に私を圧倒出来るだけの力をマジェコンヌが有しているという事だった。

今までにも感じたマジェコンヌとの力の差。だが、ここまで顕著且つ絶望的なのはこれが初めてだった。

 

「さて、では貴様の力も…いや、その前にまず冥土の土産に面白い余興を見せてやろう」

「余興…一体、何のつもり……?」

「そう勘ぐるな、手にした絶対的な力を試したい気分とこの私を相手に今まで善戦してきた貴様等へささやかな手向けをしてやろうという考えが合致しただけだ。…これを見ろ。この本こそ貴様等の探すイストワールが封印された姿だ」

「それが、いーすん……」

 

マジェコンヌが華美でない程度の装飾がされた、気品ある本を取り出す。もし、マジェコンヌが真実を述べているとするならば…遂に、私達は私達を導いた謎の人物、イストワールさんを発見した事となる。無論、そのイストワールさんは未だマジェコンヌの手中の中ではあるが。

 

「おいイストワール。聞こえているのだろう?やっと、私は真の女神となったのだ」

「マジェコンヌ…貴女という人は……」

「見ろ!…と、言っても今の貴様にはこの女神共が這いつくばった無様な姿は見えないのだったな。いい眺めなのに残念だよ!」

『……っ…』

 

マジェコンヌの言葉に歯噛みをするしかない私達。彼女の言う通り倒れている私とネプテューヌは勿論、他の皆もモンスターに包囲されている事により反撃の術を失っていた。

 

「…さてイストワール、お前の力…いや、お前の記録を使わせてもらおう」

「私の…記録…?……まさか…っ!」

「あぁそうさ!女神共から奪った力を人々の畏怖、そして史書イストワールの記録を使い、メガミキラーを媒体として私は魔王を召喚する!!」

 

一瞬マジェコンヌが何を言っているのか分からなかった。だが、イストワールさんが封印されている本と逆の手に集まる禍々しくもどこか惹かれる様な力の輝きに私達は本能的に『あれは不味い』と感じた。

そして……

 

「悪夢は再来する。さぁ、控えろ女神共--------魔王の、凱旋だ」

「■■■■■■■■!!!」

 

巨大な、醜悪な、邪悪な魔王(化け物)が----顕現した。

 

 

 

 

「魔、王…あれが……?」

「そんな、嘘でしょ…ユニミテスって女神様達を陥れる為にあいつが広めた架空の魔王じゃなかったの!?」

「その通りだ、だが…架空だろうと人々が想像し、畏怖した以上そこには信仰心が…シェアが生まれる。それと女神の力、そして記録を元に想像したのさ!」

「■■■■ー!!!」

 

魔王ユニミテスは言葉では形容し難い声…もっと言えば雄叫びをあげる。マジェコンヌの話が嘘か誠か、嘘ならばどこまでが嘘なのかは定かでは無かったが、とにかく目の前に魔王が現れた事だけは事実だった。

 

「何よその馬鹿げた話は!」

「そうですわ、きっと何かトリックがあるに違いませんわよ」

「こんな事、信じられるかってんだよ…」

「女神共がこれを否定するか…はっ!確かに馬鹿げているな!物理法則を超えた奇跡そのものであるシェアを、そのシェアを力とする、言わば奇跡の体現者である女神が自身の力と共に否定するとはな!」

『……ーーッ!?』

 

マジェコンヌの言葉に私達…特に女神としての記憶のある三人が驚愕する。確かに、全くもって荒唐無稽な夢物語とは思えない。それでも…女神が、奇跡の体現者……?

 

「まぁ、人によって想像する姿の違う架空の魔王に形を与える最大の一手となったのは、他でもないイストワールの記録だがな。あぁ、イストワールならば魔王への対策も分かるかもしれないぞ?…最も、この状況では無駄だがなぁ!」

 

私達を圧倒し、念願の力を手に入れ、魔王創生すら成した事で気分が高揚しているのか、いつになくマジェコンヌは饒舌になっている。普段ならはそこへ茶々を入れる私達も今回ばかりは驚きが多過ぎて言葉を紡げない。

…だが、そこで動いた者がいた。

 

「…そうです…いーすんさんはねぷねぷやイリゼちゃんの記憶を戻せる位の力があるんです。だったら…」

「…コンパ?」

「こそこそ…こそこそ…ですぅ……」

 

魔王に圧倒されたのは私達だけではなかった。その禍々しい覇気にモンスターも…いや、魔王と同じく人々に恐れられるモンスターだからこそ私達以上に魔王に釘付けとなっていた。そしてコンパはそれを利用したのだった。

 

「余興の締めくくりは魔王ユニミテスによる、女神の殺戮ショー…っと、危ない危ない。危うく更なる力を手に入れるチャンスを捨てる所だったよ」

「く……ッ!」

「安心しろ、貴様の力はコピーだけに済ませてやる。良かったな、魔王相手に悪足掻きが出来るぞ」

「こそこそ…気付かれない様に気を付けるです……」

 

私の頭を押さえつけるマジェコンヌ。マジェコンヌの注意が私に向き、魔王が指示がないせいか攻撃に移らない状況で起死回生の一手を打つ為にただ一人で動いていた。

コンパが隠密行動をとる中、私達はただ一つの事を思っていた。ただ一つ……

 

((聞こえてる!思いっきり聞こえてるぅぅぅぅぅぅ!!))

 

突っ込みだった。頭を押さえつけられている中ちらりと目だけを動かしマジェコンヌの顔を見た所、彼女もどうしたらいいか分からない、と言った顔をしていた。いやコンパこそこそって擬音だから!口で言ったってバレるだけでしょうが!どうするのこの状況!?敵であるマジェコンヌですら多分『こ、これは気付かない振りするべきなのか…?』みたいな事考えてるよ!?

 

「……っ!ええぃ!とにかく今は貴様の力を頂くぞ!正体不明の貴様の力、私が明かし我が力としてやろう!」

「……っ!」

 

妙な迷いを振り払い、私を掴む手にコピー時特有の闇色の輝きを纏わせる。絶望的な状況だけに遂に年貢の納め時か、とそれに私がどこか達観した様な思いを浮かべ、コピーによる衝撃を想像して目を瞑った瞬間……

 

『……ーーッ!?』

 

私の身体は床に押さえつけられ、マジェコンヌの身体は宙へと舞っていた。マジェコンヌが跳んだ訳ではない。誰かが攻撃を仕掛けた訳でもない。だが、コピーをしようとした瞬間磁石の同極同士が反発するかの様な、まるでコピーの力を拒絶するかの様な『何か』が働いた。

 

「……!今ですっ!」

「コンパさん……っ!」

 

私から吹き飛ばされた衝撃で本を落とすマジェコンヌ。その本をコンパが走り込み、ヘッドスライディングばりの勢いで飛び込む。

息を飲む私達。立ち上がったコンパの手には…本。

 

「いーすんさん、ゲットですぅ!」

「……っ!MAGES.、強化お願いッ!」

「強化…そういう事か!」

 

コンパが本を手に入れたのを見るや否や広間の中心へと走り、床に向けて何かを叩きつけるマベちゃん。そしてその何かが床に着いた瞬間衝撃で破裂、周囲へ煙を振りまき始める。

そう、彼女が叩きつけたのは視界を奪う煙玉だった。更にそこへMAGES.が魔術を付加。煙に一瞬魔方陣が浮かび、次の瞬間には煙の勢いと量が格段に増す。

 

「な……ッ!?目眩しだと!?」

「皆!出口に向かって走って!」

「イリゼ!ねぷ子を頼んだわよッ!」

「……っ!行くよネプテューヌ!」

 

先程の衝撃のダメージが残る身体を無理矢理跳ね起こし、未だ脱力状態から抜けられていないネプテューヌを抱えて出口へと飛ぶ。それに対してマジェコンヌは全方位へと広がる煙玉を挟んで奥側にいた為私達をかなり捕捉し辛く、また私同様の衝撃と先の戦闘による怪我が痛むのが影響しているのか、即座に追いつかれる様子は無かった。

…そう、マジェコンヌは。

 

『キシャアァァァァァァッ!』

「も、モンスターさん達は迷わず襲ってきたですぅ!?」

「くっ…知性が低い分感覚気管が強いって奴なの!?」

「…ここはわたくし達に任せて下さいまし」

 

パーティーの集団の中から守護女神三人が突出。私達の行く手を阻む様に広がるモンスターの輪に接近し……女神化する。

マジェコンヌはシェアと女神の力、そしてイストワールさんの記録を使い、私を除く女神の力を封じていた『メガミキラー』を媒体にユニミテスを召喚していた。それは逆に言えばメガミキラーが消滅…つまり、女神化を封じる力がこの場から無くなっていたという事だった。

 

『邪魔を…するなぁぁぁぁぁぁッ!』

 

ベールが一点集中の突撃でモンスターの輪の一角を破壊、そこへノワールとブランが飛び込んで左右から斬り崩していく。

私とネプテューヌが行った連携の再現の様な攻撃で開かれた突破口。そこへ私達が次々と駆ける。

 

「殿は私達に任せなさい!皆は早くダンジョンの外まで走って!」

「了解!しっかり捕まっててよ!」

「う、うん……!」

 

動けないネプテューヌを抱えた私が高速で離脱し、その後を追う様にコンパ達が走る。ノワール達女神三人は散発的に攻撃を放ってモンスターの追撃を阻止する。

全員が体力の限り走り、飛ぶ。後となってはどこをどう進んだのかいまいち思い出せない程の極限状態で駆け続け…

 

「はぁ…はぁ……」

「も、もう…走れない、ですぅ……」

「ふ、ふふ…魔術師にも、体力は必要…という事か…」

「でも、何とか…マジェコンヌもモンスターも振り切れた様だぜ…」

 

夕焼けに染まる空、いつの間にか見えなくなったダンジョンの入り口。私達は、逃げ切れていた。

 

「二人共、大丈夫ですか…?」

「うん…皆ごめんね、こんな事になっちゃって…」

「こんな事って…ねぷ子もイリゼも私達の事を想ってマジェコンヌに力を渡そうとしたんでしょ?…なら怒れやしないわよ」

「あいちゃん…」

「…皆さん、まずは落ち着ける所まで移動してはどうですか?色々と話す事はあると思いますが、ここでは別のモンスターに襲われる可能性がありますし」

 

イストワールさんが鍵の欠片を使った通信ではなく、そのままの声で私達に話しかけてくる。その意見は至極全うであった為、私達は疲れた身体を動かし、コンパのアパートへと向かう。

イストワールさんは救出する事が出来た。でも、引き換えにネプテューヌの女神の力は奪われ、マジェコンヌのより一層の強敵化と誰も予想だにしなかった魔王の顕現という最悪の事態も招いてしまった。互いに当初の目的は果たせた形になったとはいえ、今後起こりうる事態はあまりにも危険且つ脅威になる事を薄々感じていた私達は複雑な心境で帰路につくのだった。

 

 

 

 

「…逃げられたか……」

 

煙の晴れた広間に佇む一人の女性。身体は傷付き、敵にも逃げられた彼女だったが、念願の力と圧倒的戦力を手中に収められた事もあり、然程不機嫌そうではなかった。

だが、彼女には懸念事項もあった。

 

「イストワールが奪われなければ磐石だったのだろうな…それに、イリゼ…奴は本当に何者なんだ……」

 

イリゼの力のコピーに失敗したのは力の不発でも無ければ偶然でもない。それはもっと単純明解であり、だからこそ彼女が認めたくない理由……

 

「奴の力は私の…四女神の力を有した私の力ですら到底及ばない程の高位のものだとでもいうのか…?」

 

コピーの力の持ち主であり、何度もその力を使ってきた彼女だからこそ分かる事実。しかし、彼女がそれを素直に認められる訳がない。現に彼女はイリゼの不意打ちを軽くあしらい、力の差を見せつけたのだから。

 

「そうだ…私は強い。イリゼよりも、他の女神よりも…この次元に存在する誰よりも!ふん、たかがコピーを防がれただけじゃないか!奴もイストワールも女神も今の私には恐れるに足りん!ゲイムギョウ界諸共まとめて葬ってやるわ!ハーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

--------マジェコンヌは高らかに笑い、魔王とモンスターを従えその場を去る。

そして彼女は向かう。負の感情と闇の存在が跋扈し、ゲイムギョウ界において行き場を失ったものが辿り着く『墓場』へと。

 




今回のパロディ解説

・「そんな攻撃で…やれると思うなッ!」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞。原作ではVPSで弾いたとはいえクスィフィアスⅢを喰らっていたので本作とな状況が違いますね。

・「〜〜さぁ、控えろ女神共。魔王の--------凱旋だ」
デート・ア・ライブの登場キャラ、アイザック・レイ・ペラム・ウェストコットの台詞の一部。無論マジェコンヌが作中で召喚した魔王は反転した精霊じゃありませんよ?

・「いーすんさん、ゲットですぅ!」
アニメ版ポケットモンスターの主人公、サトシの決め台詞のパロディ。…ですが、正直パロディと言うには元の台詞と被る部分が少ないので結構微妙かもしれません。


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第四十六話 記録者の解放

疲労困憊、九死に一生、命からがら…とにかく、ギリギリの所で命拾いした私達が向かった先は勿論パーティーの拠点であるコンパのアパート。そこへ辿り着いた時、私達は既に限界を超えていた疲労と緊張の糸が切れた事により、半ば倒れこむ様に一斉に入ろうとするという少々滑稽な集団と化していた。…人間限界突破すると色々気にならなくなるんだね…。

 

「やっと着いたぁ…冷たいプリン…」

「プリンって…水じゃないのかよ……」

「わたしも、もう一歩も動けないですぅ…」

 

一番最初に口を開いたのはネプテューヌ。途中まで私が抱えていたとはいえ、女神の力を奪われた上に騙されたという精神的負担、そして逃走劇という形で私達同様に疲労していた。彼女の言葉に突っ込むアイエフも同意するコンパもその声には気力が感じられない。

 

「流石の私も、もう駄目だと思ったわ…」

「ほんと、今回はマベちゃんの奇策とMAGES.の支援に助けられましたわ…」

「貴女、いつもあんなの持っているの…?」

「忍としてどんな事が起きても対応出来る様にはしてるんです。…まぁ、今回は大きな隙が出来たからこそ成功したんですけどね」

 

マベちゃんの言葉により皆の視線が私に集まる。彼女の言った大きな隙とは即ち、私の女神の力をコピーしようとしたマジェコンヌが吹き飛ばされた事だった。私は何かした覚えはなく、マジェコンヌがわざと吹っ飛んだなんて事もあり得ない。だからこそあの瞬間の出来事は不可解だった。

 

「…あの、分かってると思うけどあれの説明求められても応えられないからね?」

「やはりか…まあ、あれが私達にとっての追い風であった以上、急を要する案件でもないだろう」

「それよりも問題はねぷ子の力が奪われた事と魔王の事ね」

 

全員が発していたぐでーっとした空気はアイエフの言葉で霧散…とまでは言わないものの、ある程度薄れる。今までも正面からやり合うのは危険だったマジェコンヌが更に力を付け、尚且つ魔王という強大な戦力を得た事は正にゲイムギョウ界の危機と言って差し支えないレベルとなっていた。

 

「まさかネプテューヌもイリゼもあそこまで聞き分けのない子だったなんて…」

「結果的にコピーされなかったとはいえ、イリゼの力までマジェコンヌが得ていたら本当に一貫の終わりでしたわね」

「二人揃って駄女神ね…」

「うぅ、何この言われよう…」

「女神の皆さんは厳しいね…」

 

三人の辛口コメントに揃ってしょぼーんとする私とネプテューヌ。ただ、コメントの割に三人共声音が刺々しくなかったのは私達なりの想いを理解してくれているから……だと、思いたい。

と、そこで喋る本…もとい、封印状態のイストワールさんが口を開く。

 

「あの…お疲れの所申し訳ありませんが、事が事なので一刻も早く私の封印を解いて欲しいのですが……」

「あ、そうそういーすんもいるんだった。忘れててごめんね」

「そうです!こっちにはいーすんさんがいるです!いーすんさんなら何とかしてくれる筈です!」

「…あまり過度な期待はしないで下さいね?勿論打てる手は全て打つつもりですが…」

「えー、じゃあ某三姉妹作品位の期待をしておくね」

 

姿形は見えないものの、コンパの畳み掛ける様な期待に若干困った様な様子を見せる(声音から判断してるから聞こえさせる、の方が良いかな?)イストワールさん。ネプテューヌの発言はともかく、期待されないのは複雑だけど期待され過ぎるのもそれはそれで辛いよね…。

 

「それじゃ早速…っていーすん、封印てどうやって解くの?」

「ユダシステム、リリース!…とか言えば良いんじゃない?」

「精神を不安定にさせて霊力を逆流させれば良いのでは?」

「コマンド種族のクリーチャーを出せば良い筈よ」

『…………』

 

三連続でボケを言い放つ女神三人に私達は辟易とする。ネプテューヌが普通の事を言ったタイミングでこうもボケるって…やっぱ女神は定期的にボケないといけないルールでもあるのかな…。

 

「…こほん、封印を解く方法ですが…」

「あ、ボケ無視するんですね…」

「当たり前です。…ネプテューヌさん、鍵の欠片は持っていますか?」

「うん、全部持ってるよ」

「では、その鍵の欠片を組み合わせてみて下さい。鍵の欠片を組み合わせる事で一つの鍵になる筈です」

 

鍵の欠片…というからには鍵に関係してるんだろうなぁ…とは思っていたけど、関係するどころか完全に文字通りの物だった事に若干驚く私。けど、持ち主のネプテューヌはそこまで意外ではなかったらしく早速鍵の欠片を取り出す。

 

「って事はその組み合わせた鍵を本に付いてる鍵穴に入れて外せば良いんだね!」

「立体パズルみたいです」

「えーと…これがこうで…こっちがこうでしょ?んと…あー…」

 

四つの鍵の欠片をテーブルに並べ、組み合わせ始めるネプテューヌ。しかし鍵の欠片は案外複雑且つ上下表裏が不明だった為か中々一つにならず、嵌めてみては外し、外しては組み直す、という作業を唸りながら繰り返している。

 

「…えっと、これはこっちではないか?」

「あ、じゃあこのパーツはこっちじゃない?」

「じゃあ、このパーツは?」

「向きを逆さにすれば、ここに入る筈」

 

中々進展しないネプテューヌの作業にしびれを切らした様にMAGES.、マベちゃん、ノワール、ブランが次々と手を出し、ネプテューヌの代わりに鍵を組み合わせていく。三人寄れば文殊の知恵なんて言葉がある事からも分かる通り、人数が増えた事で進展速度は格段に上昇していた。

 

「段々鍵らしい形になってきたね、残りは後一つ?」

「えぇ、これが最後のパーツよ」

「ではあいちゃん、最後は二人の共同作業ですわ」

「べ、べべべベール様と共同作業ぉ!?」

「あら、何を照れていますの?相変わらずあいちゃんは可愛らしいですわね。…はい、完成ですわ」

 

顔を真っ赤にするアイエフと共にわざわざ二人で最後のパーツを嵌めるベール。…もうこの二人は入籍しちゃえば良いんじゃないかな、チカさんと一悶着ありそうだけど。

 

「うぅ…わたしが作ろうと思ってたのにー…むー…」

「ごめんなさい、じれったくてつい…」

「じゃあ、ねぷねぷはいーすんさんを解放する係です。はい、鍵ですよ」

「ありがとうこんぱ!やっぱり持つべきものはこんぱだよね!」

『…ちょろい(わ)ねネプテューヌ……』

 

ほんわか笑顔で鍵を渡してくるコンパにころっと態度を変えるネプテューヌ。それを見て皆で苦笑する中私とノワールだけは突っ込みを入れた。…そういえばノワールとは偶に気が合うなぁ…。

 

「それじゃ、開けるよいーすん!」

「はい、お願いします」

 

無駄に振り上げる行程を挟んだ後、本の鍵穴に完成した鍵を差し込み回すネプテューヌ。その鍵が約180度程回った辺りでかちゃり、と音が鳴り、次の瞬間には本を閉じた状態にしていた留め具が外れる。

そして……

 

「…お初にお目にかかります。わたしがいーすんこと…イストワールですヽ(^ー° )v」

「…って、なんか期待してたのと違ーーう!!」

 

真のイストワールさんとのファーストコンタクトは、ネプテューヌの突っ込みで幕を開けたのだった。

 

 

 

 

「ふぅ…やっぱり自由に動けるのは気分が良いですね(^-^)」

「何か前より軽くなってるし台詞に顔文字付けてキャラ付けしてるしやっぱなんか違う…」

 

イストワールさん解放から数分後、凝った身体をほぐすかの様にストレッチらしき運動をしているイストワールさんに対し、ネプテューヌはまだぶつぶつと突っ込みを入れていた。…けど、まあ気持ちは分からないでもない。何故なら本から解放された、クリーム色の髪に薄い青の瞳を持つイストワールさんはまるで、妖精の様な小さく幼い見た目をしていたのだから。

 

「いーすんさん、ちっちゃくて可愛いですぅ!」

「イストワール、復活してすぐで悪いんだけど、マジェコンヌとあの魔王ユニミテスをどうにかしてくれない?ついでにねぷ子の女神の力も」

「…あれ?聞き違いかな…今、わたしがついでだった様な…」

 

珍しく順応が遅いネプテューヌを差し置いて本題に入る私達。あの高慢なマジェコンヌに封印され、解放の為の鍵も隠蔽される程の存在であるイストワールさんならば一発で全て解決、とはいかずとも何とかしてくれるかもしれない…と私達が思うのもある意味当然だった。…だが、

 

「申し訳ありませんが、わたしにそのお願いを叶える事は出来ませんm(_ _)m」

「困るわ、わたし達は貴女の力が頼りで復活させたのだから」

「マジェコンヌに封印されていた以上、全く何も出来ないという訳ではないのではなくて?」

「そう、ですね…。では、お話しましょう。わたしには、貴女達に話さなければいけない事がたくさんあるんです( ̄^ ̄)」

 

佇まいを正し、真剣な表情を浮かべるイストワールさん。それを見て私達も各々座り、しっかりと話を聞ける様にする。何を話すかは分からないものの、彼女の話は重要なものだろうというのを自然に感じられる事が出来ていた。

 

「…とはいえ、全て話すと物凄い時間がかかりますし正直わたしが知っている事全てが教えなければいけない事柄、という事もないと思います。…どこから話せばいいんでしょう?(・・?)」

「え、いやそれを聞かれても…ならこっちから質問する形にする?」

「はい!じゃあわたしが質問するです!いーすんさんは何者なんですか?」

「いきなり直球な質問ね…」

 

律儀に手を挙げた後に質問を投げかけるコンパ。ブランはそれを直球、と言っていたけどイストワールさんはある程度その質問を予測していたのか頷いた後話し始める。

 

「はい。…皆さん、マジェコンヌが魔王を顕現させた時、わたしの何を利用すると言っていたか覚えていますか?(・◇・)」

「えーっと…確かいーすんの記憶をじゃないっけ?」

「え?違うよネプテューヌ、記憶じゃなくて記録…あれ、記録?」

「記録で合っていますよイリゼさん。わたしは元々、大昔にとある人物に補佐と世界の記録者としての役目を与えられて生まれた、人工的な生命体なんです(・ω・)」

『人工的な…生命体…?』

 

イストワールさんの言葉を訊き返す私とネプテューヌ。これまでの経緯や見た目から女神同様普通に生まれた存在ではないだろう、と思ってはいたけどこれは正直意外だった。

…が、どういう訳だか不思議そうな顔を見せたのは私達二人だけで、他の皆は何故か「あー」…みたいな表情をしていた。

 

「…あれ?何この反応…人工的な生命体って普通にいるんだっけ?」

「いるっていうか…あ、イリゼは記憶喪失だから分からなくても当然か」

「わたしも分からないよー!」

「はいはい…私達女神も人工的な生命体なのよ。もっと正確に言えば『人々に望まれた事で誕生した』存在だけどね」

「へぇ…じゃあわたしもなの!?」

 

イストワールさんの出生を聞く流れで女神誕生の秘密まで知ってしまった私達。ネプテューヌはあからさまに驚いていたけど私はぐっと堪える。…だってここで驚いたら今のネプテューヌ同様に微妙に温かい目で見られちゃうじゃん…。

 

「…えと、お話を続けても良いですか?(^_^;)」

「あ、どうぞお願いしますイストワールさん」

「こほん…わたしはその方が表舞台から姿を消しても記録者としての役目、そして時代が移り変わる中で新たに得た仕事をこなしながら長い時を過ごしてきました。そして、今から少し前にマジェコンヌに封印されてしまったという事です(u_u)」

「そうだったんですのね…では次に、マジェコンヌが何者なのか教えて頂けまして?」

 

イストワールさんの話が一区切りついた所で今度はベールが質問をする。私的には大昔、がいつなのかとかその人物は誰なのかとか気になる点はあったけど、マジェコンヌの事に比べれば些細な事なので口をつぐむ。

 

「マジェコンヌが何者なのかは結構濃い話になるので心して聞いて下さいね

(・ω・)ゞ」

「濃い話なの?」

「はい、何せマジェコンヌが今の様な存在になってしまった事は守護女神戦争(ハード戦争)勃発と同じ原因ですから(´・_・`)」

『……ーー!?』

 

その言葉に全員が息を飲む。四女神が互いに互いを敵視し、争い合う事となった原因がマジェコンヌの事と関係しているという事実は誰も予想しておらず、正に青天の霹靂そのものだった。

 

守護女神戦争(ハード戦争)と原因が同じってどういう事よ!?守護女神戦争(ハード戦争)はゲイムギョウ界統一の為に女神が争っていた事を言うのよ?それのどこにマジェコンヌとの関係が…」

「そう思うのも無理はありません。…ですが、変に感じた事はありませんでしたか?ノワールさん達はいつから守護女神戦争(ハード戦争)が始まったか知っていますよね?(・・?)」

「えぇ、確か先代の女神達が統治していた時代の末期だった筈よ」

「そうです。では、そこで一つ妙な事が…もっと言えば矛盾があると思いませんか?{(-_-)}」

「矛盾……あっ!言われてみれば確かに変よ、だって先代がそんなに仲悪かったならイストワールがいたあのダンジョンで揃って修行なんてしない筈だもの」

 

ノワールの発見に私達もはっとする。彼女の言う通り仲が悪いなら同じ場所で修行する訳がない。修行の場なら事故で攻撃してしまった、という言い訳も立つし更に言えば不意をついて致命傷を与えられる可能性も十分にある。…私ならそんな場で修行したくはないね。

 

「じゃあもしかして先代の女神様達が修行したダンジョン、って言うのはガセネタなの?」

「いえ、戦争勃発時期もダンジョンが修行の場として使われていたという伝承も正しいものですよ(・ω・)」

「でもそれじゃ矛盾したままじゃないの?」

 

マベちゃんの疑問もアイエフの指摘も至極当然なものだった。勿論、仲が悪いけど同じ場所で修行したのだ、と結論付けてしまう事も出来なくはないけど現実的ではない。

…けど、矛盾させずに両方を成り立たせる事が出来ない訳ではない。例えば……

 

「…元々先代の人達は一緒に修行する位には仲が良くて、でも何かがあって仲が悪くなり守護女神戦争(ハード戦争)に至ったとかはない?」

「ご明察ですイリゼさん。先代の…というかここ数代の四女神は今のネプテューヌさん達の様に仲が良く、ゲイムギョウ界の覇権争いなど元々考えてはいませんでした

(・Д・)」

「では、その先代の時代に関係性が壊れる出来事があったという事か?」

 

段々と話が核心に近付いている様な感じがする。それは皆も同じなのか今まで以上に真剣な様子を見せ、イストワールさんの次の言葉を待つ。

そしてイストワールさんは告げた。

 

「--------犯罪神とギョウカイ墓場。守護女神戦争(ハード戦争)勃発原因とマジェコンヌが堕ちた原因は共にそれです(-_-)」

 

瞬間、その二つの単語の意味を知る皆が凍りついたのを私は感じた。




今回のパロディ解説

・某三姉妹作品
日常系作品、みなみけの事。過度な期待はしないで下さい、とは言いますが旅の目的の一つであり謎の人物だったイストワールに期待するなというのも無理な話です。

・ユダシステム、リリース
マクロスFの登場キャラ、ルカ・アンジェロー二が三機のゴーストのリミッターを解除する時に放った台詞の一部。このネタは前にも出てきています、何話か分かりますか?

・「精神を不安定にさせて霊力を逆流〜〜」
デート・ア・ライブにおける、封印状態の精霊の力を解放する手段の事。…ですが、主人公サイドは封印が目的なのでこの手段を取る事自体が基本あり得なかったりします。

・コマンド種族、クリーチャー
TCGの一つ、デュエルマスターズにおけるとある種族の総称とカードの種類の事。無論イストワールさんは裏面を見せたカードを重ねて封印されている訳ではありません。


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第四十七話 戦いの裏側にあったもの

「犯罪神とギョウカイ墓場が関係してるってどういう事だよ…!?」

 

愕然とした表情を浮かべながら質問を投げかけるブラン。…いや、彼女だけではない。この場にいる者は皆似た様な表情を浮かべ、衝撃の事実を語った相手…イストワールさんを食い入る様に見つめている。

……私とネプテューヌを除いて。

 

「…犯罪神?ギョウカイ墓場?」

「どっちも明らかにダークな感じだよね…今までにそんな言葉聞いた事あったっけ…?」

「えと…ちょっと待って、プロローグから第四十六話までさらっと見直すから」

「いやそんな回りくどく且つメタい事はしなくていいから…」

 

緊迫した雰囲気をぶち壊す様な発言をするのは正直忍びなかったけど、言わないと犯罪神とギョウカイ墓場について分からないまま説明が続きそうだったので口を挟む私とネプテューヌ。…記憶喪失なんだもん、仕方ないじゃん…。

 

「…まずはその二つの説明からしましょうか。お二人は勿論ですが、コンパさん達一般人やMAGES.さん達別次元の方は女神の皆さんより限られた事しか知らないでしょうし(ー ー;)」

「そう言ってくれると助かります…犯罪『神』っていう辺り、女神と関係あるんですか?」

「女神同様シェア…犯罪神の場合はユニミテス同様負のシェアですが…を力にしているという点では同じですが、生まれや目的は全く別ですよ(・ω・)」

 

イストワールさんが気を使ってそれぞれの説明をし始めてくれる。そして彼女の言う通り説明を聞く中で「へぇー」って顔をするコンパ達。…女神しかしっかり知らないって事はマイナーな存在なのかな?

 

「女神は人々を守護し、文明の繁栄を願う存在だとすれば犯罪神は人々を堕落させ、文明の衰退を願う存在。まぁ、有り体に言ってしまえば女神の対極という事ですね

( ̄▽ ̄)」

「名前からして悪そうだもんね。じゃあギョウカイ墓場ってのは何?お墓なの?」

「お墓…確かに尽き果てたものの行き着く先、という意味では近いかもしれませんね。ですがギョウカイ墓場の成り立ちや本質は説明しようとするとキリがないので取り敢えずはモンスターと負のシェアが蔓延る忌むべき場所だと覚えておいて下さい

( ̄^ ̄)ゞ」

「ゲームやアニメでいう魔界とか地獄みたいな感じらしいわ、人から聞いた話だけど」

 

アイエフの補足で何となく外見を想像出来た私。確かに今聞いた事が全て正しいのなら皆が穏やかならぬ表情を浮かべるのも分かる。けど、私はその説明を聞く中で一つの疑問を感じる。

 

「…ギョウカイ墓場って今も実在するの?」

「えぇ、ギョウカイ墓場は四大陸から見ておおよそ同じ距離…つまり、ゲイムギョウ界の中心部分にあるわ」

「そっか…じゃあ何でそこを放置してるの?聞く限りじゃ物凄く物騒だよね?」

「それは私がこれから説明する話の中で分かる事ですよ、イリゼさん( ̄▽ ̄)」

「という事は、ここからが守護女神戦争(ハード戦争)勃発とマジェコンヌ誕生…でいいんでして?…の原因の話なんですのね」

 

ベールの言葉に頷くイストワールさん。数分前と違って話を聞く上で必要不可欠な知識を得た私は今度こそ万全の体制で彼女の話に挑む。

 

「…先代の四女神が統治する時代の末期、モンスターはギョウカイ墓場から四大陸へと侵攻する様になりました。侵攻と言っても組織立ったものではありませんでしたけどね(。-_-。)」

「そうなの…じゃあ、それを不審に思った先代達がギョウカイ墓場に調査に行ったら犯罪神がいた…とかかしら?」

「先代方が最初に行った段階ではまだ復活『しかけ』でしたが…まぁ、そういう事です( ̄^ ̄)」

 

イストワールさんは犯罪神の復活とモンスターの侵攻についてどう関係してるのかは言ってくれなかったのでここで一つ推理をする私。

ええ、と…犯罪神は負のシェアを力にする人に仇なす存在で、モンスターは…よく分かんないけどやっぱり人に仇なす存在。そして人に仇なすって事はそれによって負のシェアが生まれる事が普通にある。と、いう事は…

 

「…互いに影響を与える存在、って事かな?」

『……はい?』

「あ……な、何でもないです、はい…」

 

つい結論だけを口に出してしまったせいで皆から変な目で見られる私。…あぅぅ、前にもこれで恥かいたのにまたやっちゃった…私の馬鹿ぁ……。

 

「イリゼはたまに抜けてるっていうか天然入るわよね、女神様達に対抗してるの?」

「ち、違うよ!?カルテット漫才出来そうな皆と一緒にしないでよね!」

『カルテット漫才!?』

「テンパると微妙に酷い事言うのも相変わらずね…」

「あのー…続きいいでしょうか…

(−_−;)」

 

私の天然発言(天然には言葉返せなかったよ…)とおかしな反論のせいで大いに脱線する説明会。普段の雑談ならともかく、今回は100%私が悪かったので私のごめんなさいを経て説明が再開される。

 

「こほん…幸運というか早めに動いた事が幸いして完全復活前に発見する事の出来た先代方は、復活前に対処しようとしました。そこで使われたのが…( ̄▽ ̄)」

「わたし達が今日行ったダンジョンだった、という事ですね?」

「ふむ、早期発見は大切なんだね」

「うんうん、ビートさんの医学番組でも言ってるもんね」

 

イストワールさんの言葉を引き継ぐ形でマベちゃんが私達の知る情報と説明とを繋げる(若干名ズレた感想を抱いていたけど安定のスルー)。繋がったから何かが変わる、とかいう訳ではなかったけど、それでも知る情報と繋がる事でぐっと説明が実感のあるものとなった。

 

「そして、ギョウカイ墓場のモンスターでも難なく返り討ちにし、想定される犯罪神の戦闘能力にも十分対応出来ると思われるだけの力を得た先代方ですが…ここで一つ問題がありました(´・_・`)」

「問題、とな?」

「その段階で用意していた再封印手段を実行する為には犯罪神の力を正確に把握する必要があったんです(・ω・)」

 

いざ再封印に!…と意気込んでいた所でその問題に気付いた先代さん達は自分達の事ながらえらく拍子抜けしたらしい。…因みにその事についてネプテューヌ達四女神が「抜けてるなぁ」とか「緊張感に欠けるわね…」とか色々言ってたけど…先代さん達もネプテューヌ達には言われたくないんじゃないかなぁ…。

 

「当然先代方…というか教会を始めとした協力者達は困り果てました。ただ見るだけで正確に把握出来る訳はありませんし、それが出来る様な観測装置は開発に時間がかかり過ぎるという半ば積んだ状態だったのです(>_<)」

「でも今は封印された状態にある。という事はつまり解決策があったんでしょう?」

「はい。何とかする方法を探す中でその噂を聞いたある人物が教会を訪ねてきたのです。…その方は、他者の力をコピーする事の出来る能力を有していました(。-_-。)」

 

『他者の力をコピーする事の出来る人物』。その一言を聞いた瞬間、その場にいる全員が同じ人を思い浮かべた。そんな力を有している人なんて私達は一人しか想像付かないし、その人であればイストワールさんが最初に言った言葉とも合致する。そう、その人物とは…

 

『……マジェコンヌ…?』

「そういう事です。先代方に守られながら復活前の犯罪神の元へと行ったマジェコンヌはその力をコピーし、力の全貌を先代方に伝えました。そして、その情報を元に再封印を施した結果、無事犯罪神の復活は阻止出来たという訳ですo(^▽^)o」

「ちょ、ちょっと待ってよいーすん。マジェコンヌが犯罪神の再封印に協力するなんて…そんなのゴクオー君でも言わないよ?」

「…あり得ない、と皆さんは思うでしょうが…昔のマジェコンヌは良識的な善人だったんですよ?f^_^;)」

 

あのマジェコンヌが昔は良識的な善人だった?いやいやそんな馬鹿な…え、なにその顔…まさかほんとなの!?

…とまあ、イストワールさんの(ある意味での)爆弾発言を聞いた皆の反応はこんな感じだった。もし、もしもイストワールさんの言う事が真実で、元々のマジェコンヌがそんな性格の人だったなら……

 

『いくら何でも変わり過ぎ(でしょう、です、ですわ)!」

「あ、あはは…で、でもこれはマジェコンヌ自身の問題ではないんですよ?犯罪神という負の感情の塊の様な存在の力をコピーし身に宿した結果、精神を汚染されてしまった訳ですから…(¬_¬)」

「それなら一応納得はいくかな…」

「というかよく考えたら元からアレだけ歪んでるなんてそっちの方があり得ない気が…」

 

唸りながらも納得を示すネプテューヌと頬をかきながら言葉を返す私。マジェコンヌの話はこれまでの話とはかなり別の意味で私達に考えさせるものがあった。…もうちょっとまともな性格だったら素直に飲み込めたのに……。

 

「…犯罪神とギョウカイ墓場、それにマジェコンヌに関するエピソードは分かりましたわ。では、守護女神戦争(ハード戦争)勃発原因は何ですの?今までの説明の中には無かった様に思えますが…」

守護女神戦争(ハード戦争)勃発原因は今からお話します。先程復活は阻止出来たと言いましたが、永遠に封印が機能し続けるとは断定出来ず、またギョウカイ墓場自体が放っておくには危険な土地。その点を考慮した先代方はギョウカイ墓場も統治下に置こうと考える様になりました( ´▽`)」

「災いの芽は早いうちに摘む、って奴だね。流石は先代の女神様達!」

「確かにその判断は悪くないわね。でも……」

『誰がギョウカイ墓場を統治下におく(の、んですの)?』

 

ノワール、ベール、ブランの女神三人と、偶然か否か私が同時に声を上げる。誰がギョウカイ墓場…つまり土地を管理するか、それは私…そして恐らく三人にとっても素朴な疑問ではなく、重要な案件の様に感じられた。

 

「誰って…そりゃ先代の四人の内の誰かじゃないの?」

「それは分かってるわよ…ギョウカイ墓場何ていう厄介極まりない場所でも土地は土地、仮に今私が統治したらラステイションの、ネプテューヌが統治したらプラネテューヌの勢力が拡大するって事よ」

「それが何か問題なの?」

「それが何か問題なの?…って…ネプテューヌは記憶関係無しに女神に向いてないんじゃないかしら…」

「よくそれでここまで国を栄えさせられましたわね…」

 

ネプテューヌの質問…普通の人間ならばともかく、国の指導者が抱くにはあまりに初歩的な疑問に呆れ果てる女神三人。…とはいえ記憶喪失のせいという可能性もゼロじゃない…気がする…のでフォローを入れる。

 

「土地が増えるって事はそれだけで影響力…国力とも言えるかな?…が増すんだよ。で、国の重役はそれを無視しちゃいけない立場にあるんだよ」

「おまけに土地の性質上、手に入れた所で領地としての利益はなく、更に四分割も難しいというとにかく問題山積みだったんです;^_^A」

「…という事は、先代の四女神様達は国としての利益不利益、世界全体としての利益不利益、そして国と国の関係の面での問題まで念頭に入れて考えなければいけなかった…って訳ね」

「最初は四ヶ国の負担を平等にしようとしていましたが、それはどうしても上手くいかず、その内に少しずつ先代方の関係も険悪となり…最終的には『四ヶ国に分かれているから解決しない。誰かが四ヶ国全てを統治すれば全て解決だろう』という、今までの体制を根本から覆す結論に辿り着いてしまったんです(-_-)」

 

全てを語り終えたイストワールさんはふぅ、と息をつく。対する私達は閉口し、それぞれ思った事、考えるべきと感じた事を頭の中で巡らせていた。

…悲しいよ、こんなのは。善意で協力していたマジェコンヌが精神を黒く染められて、国民と世界の為に問題を解決しようとした先代の人達が争い合う事になるなんて…。

--------私は、ただそれが切なかった。

 

 

 

 

「はふぅ…飲み物を飲むのも久しぶりです( ̄▽ ̄)」

 

イストワールさんの説明が終わってから十数分後、各々の思考に一旦の区切りを付けた私達はコンパの淹れてくれたお茶で一息付いていた。ほんとコンパは気が効く子だよね(因みにイストワールさんはペットボトルの蓋をコップ代わりにして飲んでた。ちょっと可愛い)。

 

「いーすんさん、過去のお話はさっきので最後ですか?」

「そうですよ、細かい所が気になった人は後で質問に来て下さいね( ̄^ ̄)」

「了解よ。じゃあ…次はユニミテスを倒す方法を教えて頂戴」

 

アイエフの言葉で皆がまた真剣な様子になる。過去にあった出来事も重要な話ではあったけど、重要度に関しては過去の話よりも現在進行形で起こっている問題の方が明らかに上だった。

 

「方法は簡単です。ユニミテスもシェアを力の源としている以上、人々が『魔王なんていない』と思う様になれば存在の力が弱まります。そうなれば、ユニミテスは弱体化し消滅する筈です(*^^*)」

「確かにその方法なら倒せそうね」

 

物理的に倒すのではなく、力の源を無くして無力化してしまえ。イストワールさんが述べた手段は言い換えればそうであり、同じ要領で力の強さを左右されている女神が身近にいる事もあって、すんなりと理解する事が出来た。…だけど、それには問題もあった。

 

「でも、どうやって人々に『魔王はいない』って思わせるですか?」

「向こうはユニミテスの使いを使って長い時間をかけて偽りを広げた。それに、既にユニミテスが存在している以上、嘘を嘘だと言っても信じるかしら?」

「うーん…けどさ、それしか方法がないなら駄目でもやってみようよ!駄目だったら次を考えれば良いだけでしょ?」

 

取り敢えずやってみて、駄目なら次を考える。その言葉は手段について具体的な事を何か言っていた訳ではないし、ネプテューヌ自身も本当に何も考えずただ思った事を口にしただけだと思う。…でも、言葉は内容の有無だけじゃない。

 

「…そうね。こればっかりはネプテューヌの言う通りだわ」

「嘘を嘘だと見抜けなければネット掲示板は使うのが難しいと言いますし…こういうのは、日頃ネット掲示板を使っているわたくしの専門分野ですわ」

「わたしもやれるだけやってみるわ」

 

例えただの言葉でも、思いのこもった言葉なら人を動かす事が出来る。言った人も、言われた人も思いを力とする女神だから、とかではなく…互いに相手を友達だと思っていたからこそ、その言葉は成り立っていた。

 

「ふふっ、皆さんは先代方と同じ様に…いえ、それ以上に仲が良いですね(^∇^)」

「でしょー?これもわたしの努力の賜物だよね〜」

『それはない(わね、ですわ)』

「おおぅ…さ、流石女神同士なだけあって三人共息ぴったりだね…」

 

三人の鋭い突っ込みに気圧されるネプテューヌ。そんな彼女の姿に笑いが溢れる。

そしてもう夜も遅く、全員疲れているという事で今日の所はお開きとなる会議(だよね…?)。相変わらず状況は最悪で、様々な事実を知った事で少なからず重い雰囲気となっていた私達だったけど、皆となら何とかなるんじゃないかな…と思う私だった。




今回のパロディ解説

・ビートさんの医学番組
教養バラエティ番組、みんなの家庭の医学の事。放っておくと、大変な事になりますよ…という台詞は皆さんの中にも聞き覚えのある人が多いのではないでしょうか?

・ゴクオー君
ウソツキ!ゴクオーくんの主人公、初代閻魔大王の事。コロコロ連載作品には珍しい推理モノで嘘をよく吐く主人公ですが…本作の様な嘘は原作では(殆ど)吐いてませんね。

・「嘘を嘘だと見抜けなければネット掲示板は使うのが難しい〜〜」
2ちゃんねるの開発者、西村博之さんの台詞のパロディ。本作での使われ方は微妙にずれてる様な気もしますが…ベールのパロディとしてはかなりマッチしてるかと思います。


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第四十八話 Alternative Origin

「ふぁ、ぁ…んっ……」

 

大盛り…どころか特盛りてんこ盛りだった日の翌日。疲れていた分ぐっすり寝られたおかげか、すっきりした目覚めで朝を迎える事が出来た。

 

「皆は……まだ寝てるみたいだね」

 

伸びをした後周りを見回した私の目に映ったのは思い思いの場所で寝るパーティーメンバーの皆の姿。流石に一人一部屋が出来る程部屋数がなかったので、ならばいっそという事もあり全員でリビングに寝る事としていた。…コンパの名誉の為に補足しておくけど、決してコンパが貧乏で狭いアパートに住んでる訳じゃないからね?私達全員に個室振り分けるのが出来る住まいなんて豪邸位だからね?

 

「…ふふっ、普段ぶっ飛んでる皆も寝てる時は普通の女の子だよね」

「…ねぷぅ…三食プリンに昼寝とゲーム…これぞリア充……」

「…すぅ…全国一斉コスプレ大会…女神としてこれを発案するわ……」

「…んぅ…あいちゃんとチカとネトゲでオールナイト…ふふふふふ……」

「…くぅ…読書と執筆に没頭して死ぬなら…それも本望よ……」

 

……前言撤回、守護女神は寝てる時でもぶっ飛んでいた。ある意味予想通りのネプテューヌとベールはともかく、ノワールやブランまでこれだから救いようがない。ここまでくると逆にもう天晴れだよね…。

 

「……あれ?」

 

飲み物でも取りに行こうかな、と立ち上がった時、視界の端に浮遊する本が映る。昨日までの私なら「えぇぇ!?」と驚いてたかもしれないけど、その浮遊する本の正体を知っている今は違う。

 

「お早いですね、イストワールさん」

「……!?…あ、おはようございますイリゼ、さん…( ̄O ̄;)」

「……?」

 

私の挨拶にえらい驚くイストワールさん。本人だけでなく、どういう訳か本までビクッとしていた。…うーん…あ、後ろから声かけちゃったからかな…?

 

「…イリゼさんこそ早いですね(´・Д・)」

「偶々ですよ。…そういえば、一つ気になっていた事があるんですけど…」

「気になっていた事、ですか?(・・?)」

「はい、その…イストワールさんが座ってるその本もイストワールさんの一部何ですか…?」

 

イストワールさんは解放されて以降ずっと本の上いて、移動する時は本を空飛ぶ絨毯の様にしていた。別に知っておかなきゃ困る事では無いけど…気になっちゃったものは仕方ないよね。

 

「あ、その事ですか…そうですよ。封印に使われていたのも留め具であって本そのものではないですし( ´ ▽ ` )」

「やっぱりそうなんですね、ありがとうございます」

「因みにですが、本から降りる事も出来ますよ?(^o^)」

 

そう言ってイストワールさんは本から降り、机にちょこんと座る(自立浮遊は出来ないのか、その時本も机に着地していた)。…なんか可愛い。

そしてそのまま二人で雑談…というか互いに質問と回答を繰り返す事十数分。私達の声が大きかった…訳ではなく、単に朝早い時間から普段起きる時間になった事で皆ものそのそと起きだす。

さぁ、今日も一日頑張るよっ!

 

 

 

 

「……って、地の文で意気込んでいたのにどうして私はケーキを食べてるの…?」

 

フォークを片手に呟く私。目の前には甘く柔らかいショートケーキ。

勿論、ケーキに不満がある訳じゃない…というか世の中に数多いる女の子同様甘いものが好きな私にとってショートケーキは満足いくものだったし、仮にケーキが嫌いだったとしてもそれならそれで食べなければ良いだけの話。私が問題にしていたのはまったりとケーキを食べている状況にだった。

 

「それはですねイリゼちゃん、今はユニミテスはいないってどうやったら思ってくれるかの話し合いをしてるからですよ」

「昨日ネプテューヌはやるだけやってみる、という旨の言葉で皆を説得していたが…だからといって具体策が不要だという訳にはいかないだろう」

「だね、街中で考えもなくただ『ユニミテスは架空の存在なんだー!』って叫んでもそれを信じてくれる人は中々いないと思うよ」

 

私のぼやきにコンパが反応し、MAGES.とマベちゃんが補足をしてくれる。

そう、私達は別におやつの時間を満喫していた訳ではなく、対ユニミテス会議の真っ最中だった。…ううん、真っ最中だった『筈』と言うのが適切だね。だって……

 

「ちょっ、ネプテューヌ何私のケーキの苺取ってんのよ!?」

「そこに苺があるからだよ!」

「スポンジと生クリームは互いに互いを引き立て、支え合う存在。ふふっ、まるでわたくしとあいちゃんの様ですわね」

「べ、ベール様と引き立て合って支え合うなんてめめめ滅相もないですっ!」

「騒がしいわね…あむあむ……」

 

現状フルメンバーの内の半数が本来の主旨とは関係ない事柄に夢中になっていた。これじゃ会議じゃなくてほんとにおやつの時間にしか見えない。しかも私の言葉に返答をしてくれた三人も単に聞こえたから返しただけらしく、それぞれ会話に参加するなりケーキを味わうなりして好きな様に時間を活用していた。…くっ、斯くなる上はこの人しかいない!

 

「イストワールさん!この状況を良しとするんですか!?」

「いや良くはありませんが…これまでの数十分で真面目に考えれば良い案が浮かぶ、という訳ではない事が判明しましたし息抜きという事でここは一つ…(⌒-⌒; )」

「それはそうですけど…むむ、これじゃ私が一人で空回りしてるだけみたいに…」

「え、みたいも何も…実際に空回りしてるよ?」

『うんうん』

「がーん!してるの!?って言うか何故ここで満場一致!?」

 

偶にうちのパーティーは妙な悪ノリをしてくる。普段はネプテューヌが餌食になるんだけど…今回は一人真面目モードを維持していた私が対象になっていた。……これが同調圧力って奴なの…?

 

「ふふっ、イリゼのそのビビットな反応嫌いじゃありませんわ」

「そんな評価要らないよ…」

「貴女の反応期待してノった事はともかく、一旦時間をおく事でそれまで見つけられなかった解決方法を発見出来る様になる事もあるものよ」

「あ、わざとやったの認めたね」

 

色々釈然とはしなかったけど、ブラン、そしてイストワールさんの言う事には一理あった。計算や迷路クイズで行き詰まったら一度最初からやり直してみると良い、というのと発想としては同じ何だと思う。…ただ、一つ言いたい事があるとすれば…

 

「…皆その考え方を免罪符にしてるだけじゃないでしょうね…?」

『…………』

「……はぁ…」

 

わいわいと賑やかだった皆が一斉に黙る。とても分かりやすかった。

 

「まあ良いけどさ…そのキャラを公の場でもぶちまけた結果シェア率ダウンとかしない様にね……」

「職務の時までふざける訳ないでしょ、だいたい私は単に苺取られただけであって--------」

「ノワールストップ。…イリゼ、今何て言った?」

「え?な、何か私失礼な事言っちゃった…?」

「おぉ!古今東西様々な物語で出てくる展開キター!」

「ねぷねぷ、お話の邪魔になる様な事言っちゃ駄目ですよ」

 

ノワールの言葉を遮る形で私に発せられた、問い詰めるかの様な質問(と、ネプテューヌの小ネタとコンパの窘め発言)。その声の主はベールと百合百合していた筈のアイエフだった。その突然の言葉と語調に私は動揺してしまう。

 

「そうじゃないわ、だからもう一度言って頂戴」

「う、うん…えと、そのキャラを公の場でぶちまけてシェア率ダウンしない様に…みたいな感じだったよね?」

「…イストワール、魔王はいないって思わせるのはユニミテスを存在させているシェアの力を失わせる為の手段であってそれ自体が目的な訳じゃないわよね?」

「あ、はい。アイエフさんの言う通りいないと思わせるのがあくまで一番手っ取り早い、というだけですけど…(・・;)」

 

アイエフの言葉に怪訝な顔をするイストワールさん。対するアイエフはイストワールさんの返答を受けた後、数秒の思考時間を経て口元に笑みを見せる。

 

「あいちゃん、何か思い付いたんですの?」

「えぇ…考えてみれば凄く簡単な話だったんです、ただ私達はユニミテスを特別視し過ぎていただけなんですよ」

「…アイエフよ、つまりどういう事なのだ?」

「信仰の方向性や立場は違うけど、魔王も女神様もシェアを力にしてる事には変わりないでしょ?…って事は、魔王もシェア率の競争相手と捉える事は出来るんじゃない?」

 

私達の後ろが突如暗くなり、そこに雷が落ちる!…というのは勿論冗談だけど、そんな感じのエフェクトが出てきそうな位の衝撃が私達の間を走る。

確かにアイエフの言う通り、凄く簡単な話であり、ユニミテスを特別視し過ぎていただけだった。人は日々生まれるものだけどそれでも無限にいる訳ではない。ならば、各女神がシェア率を上げれば相対的にユニミテスのシェア率は下がる筈。アイエフが言っていたのはそういう事だった。

 

「流石あいちゃん!やっぱあいちゃんは一味違うね!」

「正に逆転の発想、伊達に世界を旅してきた訳じゃないのね」

「私達女神がそれに気付かなくてどうすんのよ、って感じでもあるけど…それはともかく助かったわ」

「妙案を思い付くなんて偉いですわあいちゃん、ぎゅーってしてあげますわ」

「い、いやそれ程でも…ってベール様!?ぎゅーはちょくちょくされてる…じゃなくてそこまでしなくて良いですから!こんな皆に注目されてる中でなんて…あぅ……」

 

四女神にベタ褒めされた上にベールに抱き着かれるアイエフ。特に最後のベールのスキンシップがクリティカルだったらしく顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。その姿が何とも愛らしく、全員でそのアイエフを数分程愛でていた私達。それもあってか、結果としてアイエフは平常心を取り戻すまでおよそ十分位かかっていた。

 

「うぅ…まさかこんな展開になるなんて…」

「あはは…でもやっぱりネプちゃん達パーティーは面白いよね」

「ねぷねぷといると時間も忘れちゃうです」

「それがネプテューヌさんの魅力かもしれませんね。……あ(・□・;)」

 

我がパーティーのムードメーカーであり一応リーダーっぽい立場にいるネプテューヌ。そんなネプテューヌの明るさを魅力、と形容したイストワールさんは何か思い出したかの様な表情を浮かべる。

 

「いーすんどしたの?」

「あの、別の話を優先させていたせいでネプテューヌさんとイリゼさんとの約束を忘れていた事を思い出して…~_~;」

「……っ!」

「約束?わたし達っていーすんと約束なんてしたっけ?」

「したっけ?…って、ネプテューヌまさか忘れたの?……え、まさか記憶喪失だけに、ってネタじゃないよね?」

 

きょとんとした顔をするネプテューヌに私はちょっと驚く。

記憶の復元。それはイストワールさんが私とネプテューヌに用意してくれた報酬の様なものであり、過去の事が一切分からない私にとっては凄く凄く重要な約束だった。

 

「そう言われればそんな約束してたね、ごめんごめんすっかり忘れてたよ」

「そ、そうなんですか…(ー ー;)」

「イストワール、せっかくだから聞きたいのだけど、記憶喪失を治すなんて先進医療でも難しい事を貴女はどうやって行うつもりなの?」

 

ふとした様子でイストワールさんに疑問を投げかけるブラン。その言葉を聞いて私は「あ、言われてみると確かに…」と思った。そもそも記憶は形ある訳でもデータ化されている訳でもないんだから、それを治すなんて方法がまず思い付かないもん。…ぶっ叩くとか民間療法は別としてね。

 

「そういえば話していませんでしたね。私は昨日言った通り世界の記録者として全ての事柄を記録しています。そして記憶の修復方法とは…修復させる対象に関する情報を対象に送るんです( ^_^)/~~~」

『情報を送る……?』

「はい。すると自分に関する情報を受けた事で脳が刺激され、脳の奥底に残る情報と送られた情報を元に記憶が復元される…という事なんです( ^ω^ )」

「ふぅん…連想みたいなものなの?」

「その解釈で合ってますよノワールさん。外傷や精神的ショックでの記憶喪失ならこれで治る筈ですo(^_-)O」

 

情報を送る方法についてはいまいちよく分からないままだったけど、とにかく素朴な疑問が一つ解決した。ググれカス、なんて言葉が世の中にはあるけどそんな冷たい事は言わないこのパーティー、これからも続けていきたいね。

 

「お二人さえ良ければ今すぐにでも記憶の修復を行いますよ?(^.^)」

「あー、それパス。やっぱあの約束なし」

「じゃあ私も同じく……って、へ?」

 

てっきりネプテューヌは「うん、早速お願いね!」とか言うと思っていた私。そのせいでベタな反応を見せてしまう。

 

「どうしてですか、ねぷねぷ。せっかくいーすんさんが治してくれるですよ?」

「そうよ、その為に今まで頑張ってきたんじゃない」

「んー…確かにそうなんだけど、取り戻しちゃ駄目な気がするんだ」

 

頬に指を当てて答えるネプテューヌ。一瞬何を馬鹿な事を…と思ったけど、ネプテューヌの目を見てその考えは消える。口調こそいつも通りなものの、瞳は真剣そのものだった。

 

「どうしてよ?」

「だって、わたしがこうやってノワール達とお友達になれたのは皆が憎いっていう記憶がなかったからだと思うんだ。…だから、記憶を取り戻しても今まで通り皆と付き合えるか不安なんだよね…」

「…確かに、ネプテューヌのおかげで今わたし達はここにいる」

「バラバラだったわたくし達をネプテューヌが結び付けたと言っても過言ではありませんわね」

「そういう事。せっかく一致団結したのにここでわたしが輪を乱す訳にはいかないよ」

 

ちょっとだけ複雑そうにしながら考えを口にするネプテューヌ。ネプテューヌとしては珍しく理屈の通った考えだった事もあり、ベールとブランはすぐに納得する。…でも、ノワールは違った。

 

「…ネプテューヌ、貴女の本心はどうなの?さっきから聞いていれば私達の事ばかりじゃない。貴女はそれで良いの?」

「ありがと、ノワール。気遣ってくれて。…けど、わたしの本心も変わらないよ。せっかく仲良くなったノワール達とは楽しい思い出ばかりなのに、今更憎み合ってた戦いだけの記憶なんて要らないよ」

「…全く、貴女らしいわね」

 

どこか呆れた様な、それでいて安心した様な表情を見せるノワール。そんなノワールににこっと笑顔を返すネプテューヌ。……本当に、仲良いね二人は…。

 

「そういう事だからいーすん、せっかく治してくれようとしてたのにごめんね」

「いいですよ、ネプテューヌさんが自らそれを選んだんですから(^_^)」

「そっか。…えと、何か一人で考え変えちゃってごめんねイリゼ。イリゼは記憶治してもらうでしょ?」

「……っ…それは…」

 

ネプテューヌの言葉に口ごもってしまう私。誰が見ても分かる位に私は記憶を修復して欲しい、とは言い辛い雰囲気がこの場には出来ていた。これが記憶の事以外なら恐らく場に合わせていたと思う。…記憶の事以外、なら。

 

「…ごめんね、私はやっぱり記憶を取り戻したい。私は私の名前と力の事しか分からないもん。どこで生まれて、誰が知り合いで、どんな夢を持ってどんな生き方をしてたのか…ううん、私が誰なのかすら分からないのは…凄く、嫌なんだ……」

「イリゼ…だ、だよね!うんそりゃそうだよ、わたしはノワール達やいーすんみたいにわたしを知ってる人がいたから出来た選択だし、イリゼは記憶を取り戻すべきだよ!」

「…うん…だから、イストワールさんお願いします」

「……分かりました。…では、付いてきて下さい(-_-)」

 

そう言って隣の部屋へと移動するイストワールさんとそれに着いて行く私。部屋を出る際、ちらっと見えたイストワールさんの顔は…何故だか、複雑そうだった。

 

 

 

 

--------不思議な感覚だった。勿論記憶は取り戻したいし、別に不安がある訳ではない。だから、この感覚はきっと…失った記憶というある意味での未知の領域に触れようとしているから感じているのだと思う。

 

「…あの、イストワールさん。部屋移動したのは一体…」

「……イリゼさん、先程私はどの様な場合なら記憶を修復出来るか、覚えてますか?{(-_-)}」

「え……?…外傷や精神的ショックなら、でしたよね…?」

 

予想してたのとは違う言葉に戸惑う私。イストワールさんは関係ない雑談を意味もなく入れてくる人ではない。つまり、この話も何かしら意味があるという事であり…それが、私の中に一抹の不安を呼び寄せる。

 

「そうです、そしてそれは言い換えれば…私にも治せない場合があるんです( ̄ー ̄)」

「……ーーッ!」

 

直接言われた訳ではない。でも、ここまで言われれば誰でも何を言いたいのかは分かる。理解したくなくても、反論したくても…一度分かってしまえば、そこが覆る事はない。

 

「……私の記憶は取り戻せないんですね…」

「…そうじゃ、ありません(¬_¬)」

「いや、良いんです無理にフォローしなくても。…そう、ですよね…世の中絶対なんてそうそうありませんし、私こそ無茶なお願いしちゃってすいませ--------」

「違うんです。記憶の修復が出来ない訳では…記憶を治せない訳じゃないんです」

 

イストワールさんの台詞から顔文字が消える。普段の私ならそれが何故なのか気にしていた所だけど…今の私にはそんな事は気にならなかった。

記憶の修復が出来ない訳じゃない?記憶を治せない訳じゃない?…どう考えてもついさっきの言葉と食い違っている。意味が分からない。治せない訳じゃないならすぐにイストワールさんが治してくれない理由が、イストワールさんがそんな回りくどい言い方をする事が。

 

「イリゼさん、そもそも治すとは何でしょう?」

「な、何でしょう…って…そんなの、壊れたものを元通りにする事じゃ…」

「えぇ、私もそう思います。…では、治すのに一番必要なのは何でしょう?」

「……治す方、法…?」

「それも必要ですね。ですが、もっと必要なものが…根本的なものがあります」

「…何を言いたいんですか…治すのに必要な、根本的なもの…なん、て……」

 

目的の見えない問いに応えようとして…イストワールさんが考えている事を理解しようとして…気付く。

……いや、違う。そんな訳がない。だって私の身体は既に成長していて、記憶こそないものの知識はきちんとあって、何より名前という自分自身を表す一番の要素を覚えていて。だから、そんな訳はない。そんな訳は…

 

「…………治すべき…もの…」

「…そういう事です、イリゼさん。…貴女は記憶を失ったのではなく…最初から、記憶が『無かった』んです」

 

嗚呼、そうか、そうだったのか。

私の心とは乖離する様に開かれた口から紡がれた言葉。その言葉を受けて事実を伝える世界の記録者。そして…その事実を認識する、私。

それならば辻褄が合う。如何に私の情報を私の脳に送ったとしても、脳に残る記憶が無ければ復元しようがないのも当然の話。

だが、それはつまり…私の追い求めていたものは、私がずっと欲していた記憶は存在しないという事だ。認めたくない、認められる訳がない。…でも、頭はそれを認識し、あろう事かそういうものだと納得させようとしてくる。おかしい、私の事なのに私の中で考えが食い違う。そんな馬鹿な、何で、どうして……。

視界が歪む、まるで私が追いかけてきたものを潰すかの様に視界が……

 

「もう一つ、伝えなければならない事があります。…イリゼさんの、正体です」

「…ぁ…ぇ……?」

 

分からない。最早世界の記録者が何を言っているのか、何を喋っているのかすら分からない。なのに、私の耳はその言葉を聞き逃さぬよう研ぎ澄まされ、脳は理解しようとフル稼働する。

意識があるのか無いのか分からない、ただ何故か記録者の言葉だけがクリアに聞こえる中で……世界の記録者は、告げる。

 

 

「イリゼさん。…いえ、イリゼ様。貴女は私の創造主であり、紀元前に存在したゲイムギョウ界最古にして最大規模の国、『オデッセフィア』の守護者--------『原初の女神』によって生み出された、原初の女神の複製体なのです」

 

原初の女神の複製体。その言葉が私の耳に届き、脳がその意味を理解した瞬間--------私の意識は、途絶えた。




今回のパロディ解説

・「そこに苺があるからだよ!」
登山家、ジョージ・マロリーさんの名言のパロディ。割と汎用性の高い文ですし、皆さんの中にも「そこに○○があるから」という言葉を聞いた事ある方も多いと思います。

・ググれカス
ググレカスとは古代ローマ帝国の元老院議員さんの事。…え?そっちで使ってたのかって?…その通り、私は質問に対するネットスラングの一つの方をパロりました、はい。


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第四十九話 私には何もなくて

--------紀元前、女神も国も存在しなかったゲイムギョウ界は、人にとって過酷な世界だった。それでも一応の繁栄はしていたが人々は数々の問題を抱えていた。まず、人々は十分な科学技術を有していなかった。厳しい環境で生き抜く事は勿論、平穏な土地でも上下水道の整備や医療研究が殆ど進んでいなかった為に普通に暮らしているだけでも命の危機があった。次に、人々は安定した食料調達の術を確立しておらず、道徳教育という言葉も無かった為に争いが絶えず、戦争も多々起きていた。そして何よりも、モンスターの数が後世よりも多く、活動範囲も広かった事で世界各地で人の血が流れていた。

故に人々は嘆いていた。何故ここまで辛い日々を送らなければならないのか、何故こうも身近に死があるのか、何故…ただ生きる事すら満足に出来ないのか、と。

そんな嘆きはいつしか願いへと、祈りへと変わっていた。『自分達を救い、安心と更なる繁栄、そして何より平和で幸福な生活を与えて欲しい』

無論、本気でそれを願っていた者は少なく、大半の人間は叶わぬ夢、或いは妄想の様にただそれを思い浮かべていただけだったが……世界は、その願いに応え、奇跡を…奇跡の体現者を人々へと与えた。それが--------原初の女神だった。

 

 

 

 

原初の女神は人々にとって絶対の守護者であり、最高の指導者であり、正に救世主だった。有象無象のモンスターは彼女を傷付ける事はおろか触れる事すら叶わず、周辺地域一帯を支配する超弩級モンスターですら彼女の前では敗北し消滅する他無かった。

それと同時に原初の女神はバラバラだった人々をまとめ、四大陸全てを一つの国とした。勿論全ての人間が賛成する訳では無かったが、彼女の力、彼女の作る国に加入する事による利益、そして女神の慈愛に触れて反対者は次々と意思を変えていった。

何よりも、原初の女神は人の事を第一に考えていた。如何なる要求、相談であっても真摯に受け止め、人の為となるならば一切の苦労を…否、彼女にとってそれは生きがいであり苦労でも何でもなかった。

原初の女神が世界に現れて以降、人の文明は大いに発展した。暮らしは安定し、生きるだけで精一杯だった人々は学問や芸術、運動や娯楽に興じる事が出来る様になり、老若男女全てが平等に暮らせる時代が到来。人々は原初の女神の加護と指導の元、かつての人々が夢見た理想郷を長い間築き続けていた。

--------だが、ある時…とある出来事をきっかけに原初の女神は今のままで良いのか、と考える様になった。自身が人に尽くし、人を繁栄させ続ける事に不満を持った訳ではない。前述の通り原初の女神にとってそれは生きがいであり、自分の存在理由とまで思っていた。だからこそ…思った。このまま救世主が存在し続ける事が人々の為になるのかと。子がいつかは親元を離れ自立する様に、人々…国民も自分の庇護下から自立し自分達の力だけで生きていく方が真の意味で人々の為になるのかもしれない。

原初の女神は悩んだ。護り続けるべきか、人々の力に期待するか。守護者としては前者を、指導者としては後者を選ぶべきだと考える原初の女神の選択を後押ししたのは…他でもない、人の姿だった。

『人の強さ、未来に期待し世界の表舞台から姿を消す』。それが原初の女神の選択だった。だが何もせず国の主の座から去った訳ではない。自身が国と共に創生した世界の記録者と四大陸の有力者一族に今後を託し、国民に自身の想いを込めた言葉を送り、女神としての力を解放しゲイムギョウ界全体に人の為の加護をかけた。そして最後に…彼女は、もし再び人の力ではどうにもならない危機が人々を襲った際に自分の代わりに人を守る盾に、悪を討つ剣になる存在として自分自身の『複製体』を生み出し、大陸の一角に眠らせる事とした。残念ながら女神の力を持ってしても自身と完全に同格の存在を生み出す事は出来ず、自身の複製体とはいえ生まれる前から使命を与えられた生命を創生する事には思う所もあったが、救世主としての生き方しか知らない自分でも受け入れてくれた世界ならばきっと複製体の自分でも大丈夫だろうと期待していた。

願いに応え、ただ一心に救い導いてきた人々を…自分の愛した人間から離れる事には少なからず不安も感じていたが…人を『信じる』事に決めていた原初の女神に迷いはなかった。人々の未来の希望を、幸せを、笑顔を胸中に思い浮かべながら彼女は長い眠りについた--------。

 

 

 

 

それは鮮明な夢だった。紀元前の人々と、人々を救った原初の女神の物語。その夢は原初の女神が眠りにつく所で終わりを迎え、その瞬間に夢へと落ちていた私の意識は現実へと引き戻された。

 

「…………」

「……おはよう、ございます…」

 

瞼を開いた私の目の前にいたのは、私の顔を心配そうに覗き込む妖精の様に小さな少女。----イストワール。世界の記録者であり……私と同様に原初の女神によって生み出された存在。

 

「……原初の女神の…本物の私の夢を見ました…」

「はい、それは私がイリゼ様に送った情報の一部です」

「そう、ですか…」

 

そう言われて私はイストワールさんの言った記憶修復方法を思い出す。どう情報を送るのかはともかく、記憶修復云々は受信側の問題なのだから送る事自体は誰が相手でも、どんな内容でも可能なのはある意味当然の話であった。それと同時に私は情報を受けても何も思い出さない事を認識する。それはイストワールさんの言う通り、やはり私には過去の記憶がそもそも無かった事の何よりの裏付けだった。

 

「…げ、元気を出して下さいイリゼ様、やっぱりもっと順を追って少しずつやるべきでした。すいません!m(_ _)m」

「私から聞いた事ですからイストワールさんのせいじゃないですよ…それに、順を追っても事実は変わりませんし…」

「イリゼ様……」

「…少し、外歩いてきますね…」

 

部屋の扉を開け、廊下を通って外へと向かう。勿論目的がある訳でもなければ出歩く事が日課な訳でもない、何の意義もない行動。…ただ、今は誰とも話したくなかった。

 

 

 

 

久しぶりにわたし視点パート!最近W主人公制の割にイリゼ視点ばっかりだったし活躍も初期に比べて少なめだったからね、ここらで一つ巻き返しちゃうよー!

 

「よーし!」

「わぁぁ!?何してるですか!?」

「主人公らしさその一!華麗な太刀捌き!」

「何が!?と、とにかく部屋の中で太刀振り回すの止めなさいよねぷ子!」

 

せっかく意気込んで太刀を振り回してたのにこんぱとあいちゃんに止められてしまった。むむ…まあいいもん。まだ案はあるし正直これは流石に止められると思ってたもんね。

 

「んーと…あいちゃんとブランは駄目だとして…」

「駄目?何がよ?」

「ちょっと悩むけど…よし。こんぱ、ベール、マベちゃん、ちょっとそこ並んで〜」

「おい待てどういう基準で選びやがったんだネプテューヌ」

 

きょとんとする三人に参列に並ぶ様に指示するわたし。途中若干名から刺々しい視線を感じたけど…わたしの場合下手に何か言うと余計怒られそうだから敢えてスルー(展開によってはブーメランになっちゃうからね、悲しい事に)。

 

「ネプちゃん、並んだよ?」

「ありがとー。じゃあ…主人公らしさその二!サービスカット配給!」

『はい!?』

「問答無用だよ!せーの…す「止めなさいよ馬鹿」ぐへぇっ!?」

 

勢いよく飛び込もうとした瞬間、ノワールにパーカーワンピのフードを掴まれて首が締まるわたし。更に勢いがついてた事もあって頭を軸にする感じで思いっきりコケて尻もちをついてしまう。

 

「いったぁ…何するのさノワール!」

「いやそれはあんたでしょ…」

「何しようとしてたのネプちゃん…」

「うぅ…ハーレム王宜しく『好きです超好きです云々〜』って言いながらルパンダイブで主人公らしさを表現しようとしたのに…」

「色々言いたい事はありますけど…普通にサイテーですわ…」

「それは主人公降格への道にはなっても主人公らしさを表す事にはならないと思うぞ」

 

大バッシングだった。特に最後のはわたしにとって由々しき事態だった。しゅ、主人公降格って…ないよね!?このわたしに限ってそんな事ないよね!?

しかもここで更なる事態が発覚する。

 

「……っていうかネプテューヌ、主人公云々はともかく…サービスカット配給は出来てるみたいよ?」

「へ……?」

「下よ下、見えてるわよ?」

「見えてるって何……ーーっ!?」

 

ノワールに言われた通り下を見るわたし。見えたのはさっきの衝撃で捲れたパーカーワンピと白と水色の縞々。

……うん下着だね!わたしの縞パンだね!……うぅぅ…。

 

「…ねぷねぷ、顔真っ赤ですよ?」

「ネプテューヌも羞恥で顔を染める事があるのね…」

「うぅ…わ、わたしだってこんなつもりでやったんじゃないもん!」

「そして可愛い反応…ネプテューヌも女の子ですわね」

「〜〜ッ!?…み、皆の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!」

『えぇー……』

 

恥ずかしいところへの容赦ない追求に耐えきれなくなって逃げ出すわたし。この日、わたしは目指す主人公のタイプはしっかり考えないといけない事を痛感するのだった。

 

 

 

 

「…帰ってこないねーイリゼ」

 

数時間後、日が暮れて外が暗くなってもイリゼは帰って来なかった。イリゼの事だから迷子になってるとか何かに夢中になって時間を忘れてるとかじゃないと思うけど…だからこそ、余計に不安になる。

 

「そうね…イストワール、貴女はどこへ行ったか知らない?」

「すいません、どこへ行くかは聞いてません…(¬_¬)」

「それだと尚更不安ですわね…そもそも何故急に外へ?」

「…記憶の事、だと思うわ」

 

顎に手を当てながらブランが呟く。確かに出かける直前にイリゼはいーすんに記憶の修復を行ってもらっていた。記憶を取り戻した事で何かショックを受けて何処かへ行ってしまった…と考えれば納得がいく。

 

「どうなのよイストワール、話聞く限りじゃ貴女もイリゼの記憶や過去に関連した事は分かるんでしょ?」

「っていうか結局イリゼって誰なの?」

「…その通りです。ですがネプテューヌさんの質問には答えられません。色々複雑な事ですし…何より、イリゼさ…んがいない場で勝手に話すのは…(ーー;)」

「それもそうだね…どうする?もう少し待ってみる?」

 

どこか負い目を感じているかの様な表情を見せるいーすん。その顔を見てわたし達はあまり宜しくない事態なんじゃないか…と薄々思う様になる。

 

「…ううん、探しに行こうよ。もし何か危ない事になってたら不味いし、帰って来ないって事はイリゼは今辛いんだと思うんだ。だから…」

「そうだな、この人数ならば待つより探す方が早いだろう」

「じゃあ全員で探すですか?」

「いや、イリゼが帰ってくるかもしれないし一人は待ってた方が良いわ。残るのは…ここはコンパが家主だしコンパ頼めるかしら?」

「分かったです。ならあいちゃん達、イリゼちゃんをお願いしますです」

 

こんぱの言葉に頷き、玄関へと向かうわたし達。そんなわたし達の背にいーすんが声をかける。

 

「あまり期待は出来ませんが、わたしも記録者としてイリゼさんの行き先を調べてみます。…皆さん、わたしからもお願いします」

「あれ?いーすん絵文字は?…まあいいや、二人共大丈夫!ねぷ子にお任せ、だよ!」

 

アパートに残る二人にサムズアップするわたし。二人に頼まれなくても一生懸命探すつもりだよ、だって…イリゼは大切な仲間で大事な友達だもんね。

 

 

 

 

気付いた時には街から離れ、郊外へと出ていた。…いや、街から出る時にはその事に気付いていた気もする。ただイストワールさんに言われた事が私の頭の中をぐるぐると回ってそれ以外の事が頭に残らなかっただけかもしれない。

 

「…私には何も無かったんだ…記憶も、過去も、家族も、過去も……」

 

記憶を修復してもらおうとしていた時にも確かに不安はあったし、もし記憶を失う前の私が悪人だったらどうしよう…と少なからず思ってもいた。でも、私は善人でも悪人でもなく…『無』だった。…こんなの…悪人だったよりも辛いよ……。

目的もなく歩いた末、草原へと辿り着く。日中は爽やかな雰囲気のここも、夜のとばりが降りた後は冷たく寂しかった。

 

「…ある意味、私は生まれたばっかりだったんだよね…。…過去の私知ってる人に会ってみたかったのに…皆に過去の私の事を話したかったのに……」

 

自分の事を知る人が全くいない訳ではない。イストワールさん。彼女は私にこの事実を伝えた人物であり、私の生い立ちを知っている人物でもあったけど…

 

「イストワールさんが知ってるのは…私じゃなくて、本物のイリゼ、何だよ…ね……」

 

私は原初の女神の代わりの存在。原初の女神が用意した、万が一の備え。私が夢の中で見た彼女はそんな冷徹な存在じゃなかったし、これは見方、考え方の問題だって事も分かってる。……でも、

 

「…事実は、事実だよ……」

 

そう呟くと同時に、胸中だけでは抑えられなくなった切なさが上がってきて、一筋の涙が……

 

「……ーーッ!?」

 

真横へと跳ぶ私。次の瞬間、それまで私のいた場所に紫の何かが飛来。手にした獲物で地面を抉る。

何かが飛来するのを見た訳では無い。攻撃を回避出来たのはひとえに女神の、或いは戦士としての本能が働いたからだった。

 

「何事、なの……?」

「…………」

「な……ッ!?」

 

バスタードソードを手にして砂煙に包まれた敵を警戒する私。十数秒の沈黙の後、砂煙が晴れる事で私に奇襲を仕掛けた相手の姿が露わになる。そして、その姿は……

 

「ネプ、テューヌ……?」

「…………」

 

紫の髪と瞳。特徴的なユニット。見るからに長大な大太刀。それは、見紛う筈もない女神化したネプテューヌの姿だった。

だが、それと同時に私は二つの疑問を持つ。一つは私へ攻撃してきた事、そしてもう一つは…女神化出来ている事。ネプテューヌは昨日マジェコンヌに力を奪われており、今は女神化出来ない筈だった。

 

「…………」

「……っ…戦えって言いたいの…?」

「…………」

 

一切喋る事なく再度の攻撃を仕掛けてくるネプテューヌ。それに対し私は女神化し回避、空中で長剣を構える。

二つの疑問から、私は恐らくこのネプテューヌは偽物だろうと予想を立てた。そうでなければ二つの疑問…特に後者が解決しないし、現実問題として私は今までにも女神の偽物を見ている。だから自分の為にも偽物だと考えるのが妥当だった。

 

「何が目的なんですか…何故ネプテューヌの姿を!」

「…………」

「答える気がない訳…?」

 

急降下と同時に仕掛けた上段斬りを偽ネプテューヌは大太刀で流し、反撃とばかりに手刀を振るってくる。身体を捻ってそれを回避し横薙ぎをする私。そのまま暫くその場を離れない接近戦を繰り広げる。

 

「何で…こんな時に…っ!」

「…………」

「貴女は何なんですか…私をどうして狙うんですか…!」

「…………」

「……っ…!」

 

偽ネプテューヌは本物程の実力は有していないのか、ネプテューヌに比べて動きの節々に甘さを感じる。…が、精神を磨耗しこんな状況でありながらも戦闘に集中出来ない今の私にとっては十分脅威だった。

私は下段から、偽ネプテューヌは上段から獲物を振るって斬り結ぶ。一瞬のせめぎ合いの後、力任せに私を飛ばしにかかる偽ネプテューヌ。普段の私ならば受け流せた筈のその攻撃も対応出来ず、私は飛ばされ地面を転がる。そんな私を感情の無い瞳で見つめる『本物ではない』ネプテューヌ。

 

「……何で…何でよ…」

「…………」

「私と貴女は初対面じゃん…私は貴女に攻撃される理由がないじゃん……」

 

対話をしようと思った訳ではない。どうしても相手の真意を聞き出したかった訳でもない。ただ、限界だった私はその時…何かが、切れていた。

 

「ねぇ何で…答えてよ…何でよッ!」

「……っ!」

「どうして攻撃するの、貴女は何がしたいの、私はそれに何の関係があるの……何で何で何でッ!」

 

地を蹴り偽ネプテューヌに斬りかかる私。この攻撃は構えもへったくれもないものだったけど、それが逆に意表をつけたのか優勢となる私。でも、私はそんな事関係無しにただただ感情の奔流に身を任せ長剣を振るっていた。

 

「何の理由もないよね!だって私には何もないんだもん!過去も!家族も!友達も!自分自身すら!」

「…………」

「あはっ、私も貴女と同じ偽物だよ!本物の私に作られた空っぽの偽物!複製体!だから私は貴女に攻撃される理由も道理もないよ!何にもない私には!…なのに…何でッ!何で何で何で何で何で何で何で何で…何でッ!」

 

私の猛攻に対し、散発的に放たれる剣撃が私の身体を傷付ける。一度は首のすぐ側に刺突が飛び、あわや即死という危機にすら陥る。それでも私は止まらない。最早太刀筋すら安定しない攻撃を放ち続け、私の中に渦巻く負の感情を偽ネプテューヌへとぶつける。もし、その姿を誰かが見たらきっとこう思っただろう。『狂人』だと。

 

「はーっ…はーっ……」

 

襲われてから数分、もしくは数十分後…体力の限界まで長剣を振るい続けた私は膝をつき、長剣を地面へと刺していた。

戦っていた筈の偽ネプテューヌの姿はいつの間にかどこにもない。死体がなく、そもそも身体を芯で捉えた感覚もなかった事から恐らく偽物はいなくなっていた。

感情を吐露し、思うがままに長剣を振るい続けた私。でも、気持ちが晴れる事も踏ん切りがつく事もなく、それまでと同じかそれ以上に心は冷たく暗く沈んでいった。

 

「…何で…何でなの……」

 

私の心を表すかの様にとめどなく流れる涙は、私の頬と膝をつく地面を…濡らしていた。




今回のパロディ解説

・ハーレム王、『好きです超好きです云々〜』
生徒会の一存 壁用学園生徒会議事録の主人公杉崎鍵の事と彼の台詞の一部。言うまでもありませんが、本作のネプテューヌは別に彼の様なキャラになる可能性はありません。

・ルパンダイブ
ルパン三世シリーズ主人公のアルセーヌ・ルパン三世の特徴的な飛び込み方の事。比較的胸の豊かな三人を並べてルパンダイブ…えぇ、そういう事ですよはい。

・ねぷ子にお任せ
長寿情報番組、アッコにおまかせ!のパロディ。和田アキ子さんなら確かに物凄く頼りになりそうですが、ネプテューヌの場合は…まぁ、正直微妙ですよね。


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第五十話 それでも友達でいたいから

「イリゼー!おーい!君の銀河はもう輝いてるのー?」

 

大通りを歩きつつ、首を左右に振りつつ声を上げる。こんぱのアパートを出てからおよそ数十分。わたし達は手分けしてイリゼを探し回っていた。

 

「突っ込みが帰ってこない…ここら辺には居ないのかなぁ…」

 

夜になって外に出ている人は少なくなっていると言えど、中心街なだけあってまだそれなりの人数が外に出ていた。むむ、モブキャラがいるからわたし達メインキャラが輝くとはいえ…こういう状況なんだからもうちょっと外に出てる人数は何とかならないのかなぁ!

 

「っていうか…手がかりなく探すのは普通に無理があるよ…」

 

威勢良くアパートを出てきた以上すぐに帰る訳にはいかないし、イリゼをほっとくつもりも全くない。…けど、ノーヒントで一国の中から一人を探せっていうのも無茶でしょ…。

 

「……あれ、良く考えたらプラネテューヌのどこかにいるとは限らなくない!?」

 

嫌な事実に気付いてしまった。更に言うと急に大声(しかも一人)を出したせいで何人かの人に変な目で見られてしまった。後者はともかく、前者はかなり困った事である。あーあ、色繋がりで隠者の紫(ハーミット・パープル)とか使えないかなぁ…。

 

「うぅ、ゲイムギョウ界全体から探すとか流石にムリゲーだよ…せめていーすんの時みたいに場所絞れれば良いのに……って、ん?」

 

項垂れてボヤくわたし…だったけど、自分の言葉に何か引っかかる様なものを感じる。女神の皆やあいちゃんならすぐその引っかかりの正体に気付けるんだろうけど、わたしだからなぁ…仕方ない、可能性のあるワードを一つずつ上げてみるかな。

えーと…ゲイムギョウ界…はまず無いし、ムリゲー…も違う気がするし…いーすんは…あ、これだ!

 

「いーすんだよいーすん!…で、いーすんが何なの?」

 

当然わたし一人だった為、自問自答みたいな感じになってしまう。引っかかっていたものは分かったけど、イリゼの場所は依然として分からない。…でも他のヒントも無いし、ここは一つ連想してみようかな。

いーすんと言えば…ちっちゃい!…けどだから何だって話だよね。じゃあ…絵文字?…もこれには関係無いし…世界の記録者、だっけ?…も違う様な感じだし…後は封印されてた事だけど…お、何かこれは近い気がする!

 

「いーすんが封印されてた場所…魔窟の奥……あれ、魔窟って…」

 

いーすんが封印されてたのは魔窟から繋がるダンジョンだった。そして、魔窟にはそことは別に隠しエリアがあった。そこまで思い出してやっとわたしは一つの可能性に思い当たる。

封印と魔窟、そしてイリゼ…確たる証拠は無かったけどやっと思い当たった一つの手がかりにわたしは期待を込め、走り出す。頼むからそこに居てよ、イリゼ…!

 

 

 

 

「……意識がある状態でここに来たのは初めて、か…」

 

偽ネプテューヌとの戦闘の疲れが残る身体を引きずる様にして私は魔窟の隠し部屋…私が封印されていた場所に来ていた。これといって理由は無い。ただ、心の向くままに歩いてきた先がここだった。

 

「…ここに来たからってどうなるっていうの……」

 

全面石で出来た部屋にあるのは、幾何学的な紋様の描かれた柱だけ。ネプテューヌとコンパ、アイエフが来た時は私が現れる直前にこの紋様が輝いていたらしいけど、今はその面影は無い。

 

「…ねぇ、原初の女神さん。貴女は凄い人ですよ、一人でゲイムギョウ界全てを守護して、国民を導いて、最後には国民を信じて…とても、私には真似出来ないや…」

 

ぽつりぽつりと語り始める私。勿論この場に原初の女神が居る訳もなく、誰かが声を返してくれる訳でもない。

 

「私はイストワールさんに送ってもらった情報の上でしか貴女を知らないから、きっと実際にはもっと凄い人なんだと思います。私より強くて、私より優しくて、私より勇気のある人。……なのに、何でここにいるのは私なんですか…?」

 

自己否定の句を述べた瞬間、心が締め付けられる様な感覚を覚える。過去に、記憶への期待に否定された私にとって最後の牙城である自分自身。その自分にまで否定された事がきっとこの感覚を生み出しているのだと思う。

それと同時に、自分の事を冷静且つ的確に客観視している自分がいる事に気付く。……そっか、私はもう私自身が『誰』なのか分かんないのか…あはは…。

 

「貴女が…貴女自身が今の場所に居たら良いじゃないですか…私を生み出せる程の力があるならそれ位出来るでしょう?なのに、何で貴女じゃなくて私なんですか…何で私を生み出したんですか……」

 

キリキリと痛む私の心。自己否定がこんなに辛いなんて知らなかった。…でも、もうどうでも良い。この痛みも、この辛さも、今ここにいる私も…全部、『作りもの』で『紛いもの』なんだから。だから……

 

「…(複製体)なんて…生み出さないで欲しかった--------」

 

 

「--------そんな事、言わないでよイリゼ」

 

声が、聞こえた。

そこに居たのは、薄紫色の髪と紫色の瞳を持つ少女。共にゲイムギョウ界を旅してきた仲間。…私の封印を解いた三人の内の、一人。

 

「……っ…」

「…やっぱここに居たんだね、探すの大変だったんだよ?」

 

反射的に一歩下がる。理由は二つ。一つは誰とも会いたく無かったからで、もう一つはつい先程偽物のネプテューヌに襲われたから。でも、今ここへ姿を現したネプテューヌは女神化しておらず、普通に言葉を口にしている。私の見る限りでは、こちらは本物のネプテューヌの様だった。

 

「…そ、そっか…よくここが分かったね…」

「うん、わたしだって頭捻って考える事は出来るからね」

 

私のすぐ側まで来るネプテューヌ。私の事など知る由も無い彼女はいつも通りの様子で私に話しかけてくる。そんなネプテューヌに対し、私は咄嗟に今の自分を見られたくないと思った。

 

「…頭を?……ネプテューヌが?」

「え、何その間…もしやわたしを馬鹿にしてる?」

「冗談だよ、私がネプテューヌを馬鹿になんてする訳ないじゃん」

「いや、時々馬鹿にされてる気がするんだけど…まぁいっか、それよりさ…」

 

必死に心の辛さを隠し、いつも通りの様子を装う私。ネプテューヌが単純な事もあってか、何事も無かったかの様にいつもの雑談を……

 

「…嘘、吐くのは止めてよ」

「……っ!?」

「いつも通りを装ってるのバレバレだもん。そりゃわたしも嘘吐いたりするし嘘が駄目、とは言えないけどさ…イリゼ、今すっごく辛そうだよ?」

 

バレていた。ネプテューヌは実は鋭かったのかもしれない。或いは、私の笑顔がぎこちなく、声が乾いていたのかもしれない。いずれにせよ、私の演技をネプテューヌは見抜いていた。

 

「…そんな、事……」

「ごめんね、今回は話したくないなら話さなくても良いけどさ…なんて言わないよ?だって、さっきイリゼは生まれなきゃ良かったみたいな事言ってたでしょ?」

「…どこまで訊いてたの…?」

「最後の方だけだよ、イリゼがどれだけ喋ってたかは知らないけどさ」

 

ネプテューヌは心配そうな、でも強い意志を持った様子を見せる。そう、ネプテューヌはこんな時に限ってふざけてくれない。私は、いつもの雑談で話を逸らして欲しいのに…私の事なんて語りたくないのに……。

 

「…………」

「話してよ、イリゼ。話してくれなきゃ分からないし、生まれなきゃ良かったなんて言ってほしくないもん」

「そんなの…ネプテューヌには関係ないじゃん…」

「あるよ、だってわたし達友達でしょ?友達ならほっとけないし同じ記憶喪失仲間でもあるじゃん…あ、イリゼは記憶取り戻したから違うのか…でも同じ悩みを持ってた仲間な事は変わりないしさ」

 

私の顔を覗き込みながら手を握ってくるネプテューヌ。多分、ネプテューヌはただただ純粋に私の為を思って言ってくれているんだと思う。けど、そんなネプテューヌの想いは…自分が紛いもので、自分には何もないと思っていた私には--------絶望の淵に沈む私を嘲笑う様にしか感じられなかった。

 

「…………でよ…」

「え……?」

「ネプテューヌが…よりにもよってネプテューヌが知った様な口聞かないでよッ!」

「……ッ!?」

 

そしてまた、私はやり場を無くした感情を爆発させる。

 

 

 

 

わたしは、イリゼの為を思って語りかけていた。辛そうにしている友達を見過ごす事なんて出来ないから、イリゼの為にもほっとくべきじゃないから…そう思っていたわたしは…そう思っていたからこそわたしは最初、イリゼの気持ちに気付いてあげられなかった。

 

「私は空っぽなの!記憶喪失じゃなくて最初から何も無かったの!私は唯一無二の存在として望まれたネプテューヌと違って、原初の女神が保険で作っておいた万が一の備えなの!それも知らないで…勝手な事言わないでよネプテューヌ!」

 

暗く沈んだ様な雰囲気から一転、今までに見た事もない様な荒々しさを見せるイリゼ。…でも、その頬には涙が伝っていた。瞳からは大粒の涙が溢れていた。

 

「ネプテューヌは自分の事を知っている人が何人もいたじゃん!プラネテューヌの守護女神っていう自分だけの場所があったじゃん!たくさんの信仰者さんだっているじゃん!そんなネプテューヌが私と一緒?記憶喪失仲間?ふざけないで…ふざけないでよッ!」

「そ、そんなつもりじゃ…」

「私は誰でもない!何でもないんだよ!イストワールさんですら情報としての私しか知らなかったんだよ!私は使命以外何一つ無いまま生み出されて、ずーっと眠っていた存在!だから…私には…何もないんだよぉ……」

 

力尽きたかの様に膝をつき、涙に濡れた顔を両手で覆うイリゼ。わたしはイリゼをこんな追い詰める為に言った訳じゃなかった。話を聞いて、ちょっとでも楽にしてあげようと思っていただけだった。よく考えもせずに言ったせいでイリゼを苦しめてしまい、自己嫌悪に陥るわたし。わたし以外だったら、もう少しイリゼも楽だったのかな…。

 

「…ごめん、イリゼ……」

「もう…帰ってよ…お願いだから……」

 

イリゼは消え去りそうな声でわたしを拒絶する。その懇願する様な様子は、あまりにも痛々しくて、そうしてしまったのが自分のせいだと考えると凄く辛くて、イリゼの言う通りこの場から姿を消したくなった。

胸の前で手を握りながらイリゼに背を向けるわたし。そして、イリゼの想いを汲み取ってその場から離れ……

 

 

--------それで、良いの?

 

わたしの中のもう一人のわたしが、そう声を上げた。

 

----良いんだよ、これで。

 

イリゼに背を向けさせたわたしがそう返す。だって、これがイリゼの為だから。イリゼの、望みだから。

 

----本物にそう思っているの?貴女は、それでイリゼが救われると思っているのかしら?

----そうだよ、だってイリゼがそう言ったんだもん。わたしはイリゼの気持ちを見抜けなかった。そんなわたし何だから、言葉通りに受け取るしかないじゃん。

 

相手も自分だからか、普段なら言わない様な弱気な発言をするわたし。そんなわたしを、もう一人のわたしは…イリゼを放っておこうと思ってしまったわたしと違って、投げ出したりなんてしなかった。

 

----そうね。そうかもしれないわ。…でも、貴女はイリゼの真意を見抜けないんでしょ?なのに言葉だけで判断しようとしているの?それに、わたしが言ってるのはイリゼの事じゃないわ。

----……じゃあ、誰の事なのさ…。

----貴女の事よ。イリゼがどうこうじゃないわ。…貴女は、イリゼとの関係を、友達との絆をこんな所で終わらせたいの?

----それは…そんなの、嫌だよ。絶対嫌。…でも、イリゼをこれ以上傷付けたくないよ……。

----なら尚更ここで背を向けちゃ駄目よ。今までわたしはどんな事にも全力で、真っ直ぐ向かってきた、そうでしょ?…自分の強さを、見失うんじゃないわよネプテューヌ。

 

そうだ。わたしはずっと自分の想いのまま、信じた道を進んできた。たくさんの友達が出来たのも、憎み合ってた女神の皆と分かり合えたのもそのおかげだった。……うん、わたしの言う通りだよ。

 

----……ありがと、パープルハート。

----気にしなくて良いわ、わたしも含めて一人の人間だし、わたしだってイリゼを失いたくはないもの。だから…頑張りなさい。

 

わたしは振り向く。イリゼの為じゃなく、自分の為に。例えこれがエゴでも、わたしの気持ちの押し付けでも良い。だって…わたしは、イリゼを救いたいんだから。

 

「……帰らないよ、イリゼ。わたしは、イリゼの友達だから」

「……っ…!…だから…ネプテューヌが知った様な口--------」

「そうだよ!わたしはイリゼの生い立ちなんか知らないもん!原初の女神なんて今初めて聞いたもん!だからイリゼの過去なんて何にも分かんないよ!わたしが知ってるのは…わたしの仲間の、友達のイリゼの事だけだもん!」

 

もしかしたら余計イリゼを追い詰めてしまうかもしれない。後からもっと良い方法があったと思うかもしれない。けど、今ここで背を向けたら確実に後悔する。それだけは、絶対に嫌だった。

 

「友達なんて…軽々しく言わないでよ!私とネプテューヌとはこんなにも違うのに……」

「違うからって何さ!違っても友達位なったって良いじゃん!わたしはイリゼと友達でいたいよ、イリゼは違うの?」

「それ、は……」

「それにイリゼには何にもない、なんて事ないよ。わたしはイリゼが優しい事も、真面目だけどふざけるのも好きだって事も、皆アレな女神の中で一番女の子らしい事も、わたし達皆を大事にしてる事も全部知ってるもん。…ううん、わたしだけじゃない。こんぱも、あいちゃんも、ノワールもベールもブランもMAGES.もマベちゃんもいーすんも、教祖の皆や旅の中で助けてくれた皆だってその事は分かってるよ。…だから、イリゼは何にもなくないし、空っぽでもないんだよ」

 

イリゼが手を顔から離す。涙でぐちゃぐちゃで、目が真っ赤なイリゼの顔。そんな顔を見て、わたしはやっと気付く。イリゼはわたしを拒絶なんてしてなかった、最初からずっとわたしに助けを求めていたんだって。…それに気付けないんじゃ、わたしもまだまだだな……。

 

「でも…私、は…過去が無くて…記憶も、皆に話せる事も無くて……」

「大丈夫だよ。そんな事でわたしはイリゼを突き放したりしないし、皆だって気にせずイリゼと接してくれるよ」

「ネプ、テューヌ…」

 

ぽたぽたと涙を床に落としながらイリゼはわたしを見つめてくる。わたしはそんなイリゼをしっかりと見つめ返す。

 

「…ほんとに…?空っぽの私でも…紛いものの私でも…良いの……?」

「わたしにとってイリゼは紛いものじゃなくて本物だよ。一緒に旅をして、一緒に戦って、一緒に笑いあったのはわたしの目の前に居るイリゼだもん。…イリゼ、どうしても自分に何もないって思うなら、空っぽだって思うなら、わたしがイリゼにとっての特別になってあげる。イリゼの思う空の場所はわたしが埋めてあげる。…イリゼはわたしの…わたし達の大切な友達だよ、だから一緒に帰ろうよ」

 

イリゼを胸元に抱き寄せる。これでわたしの気持ちがきちんと全部伝わったかどうかは分からない。これで正しかったのかどうかも分からない。それでも、わたしの想いは全部伝える事が出来た。後はイリゼの強さを信じるだけ、だよね。

 

「…ぁ…うぁ…あり…がとう…ネプテューヌ…ぐすっ……」

 

嗚咽を漏らしながら、絞り出す様に声を上げるイリゼ。そんなイリゼの様子を見て、わたしはイリゼの頭を撫でる。他意があった訳じゃない。ただ、イリゼにこうしてあげたかっただけ。そしてそれを受けたイリゼはわたしの背中に手を回し、ぎゅっとわたしに抱き付く。体格の問題で、わたしが抱っこされている様な形になっていたけれど、それはこの際どうでもよかった。わたしの想いが通じたのなら、イリゼの心を救う事が出来たのなら、わたしは満足だった。

 

「…帰ろう、イリゼ。皆の所に」

 

そんなわたしの言葉に帰ってきたのは、たった一言。でもその言葉にはイリゼの想いが全部詰まっている事を、やっとわたしの知っているイリゼが戻ってきた事をわたしは感じた。

 

 

--------うん。




今回のパロディ解説

・「〜〜君の銀河はもう輝いているのー?」
STARDRIVER 輝きのタクトの主人公、ツナシ・タクトの台詞の一つのパロディ。状況的に大分アレな感じですが、説明通り突っ込みがあるか無いかで判別してるのです。

隠者の紫(ハーミット・パープル)
ジョジョの奇妙な冒険第三部以降に登場するスタンドの一つ。原作でもこのスタンドは使い手が二人いる設定なので、もしかしたらネプテューヌも…何て事ないですよね。


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第五十一話 大事な居場所

--------それは、暖かく優しい光だった。絶望の淵に落ち、全てを投げ出しそうになっていた私を救い上げ、癒す様に包み込んでくれた一筋の光。そしてその光は照らしてくれた。自分を見失い、暗がりへと目を向けていた私には見えていなかった私の居場所を。

『自分は自分』『君は君だ』そんな言葉がある。一見すれば中身のない、ただただ綺麗なだけの陳腐な言葉にも見えるそれは、本当は真理でありそれを一言で表している言葉なのだ。例えどんな経緯があっても、或いは何も経緯が無かったとしても自分は自分であり、他人になる事はない。他人に近付く事は出来る。他人を演じる事も出来る。だが、それもやはり近付いている『自分』や演じている『自分』であって、いつ如何なる時も自分である事が変わったりなどする訳がないのだ。だから、何を知ろうと、何も無かろうと、何かの代わりであろうと、絶望する必要はない。そんな事では自分という存在が揺らぐ事などなく、存在し続ける限りは周りへ影響を与え、周りから影響を受け、確固たる一人であり続けるのだから。

--------やっと、私は歩み出せる。記憶と過去を求めて彷徨う『誰か』ではなく、原初の女神に世界の守護の為生み出された『複製体』でもなく、ただ一人の『イリゼ』として。

 

 

 

 

「たっだいまー!」

「ご迷惑をおかけしましたっ!」

 

コンパのアパートの玄関に響く二つの声。夜だというのにテンション高い方はネプテューヌで、開口一番謝ってるのは私だった。……何このコンビ…。

 

「まさかねぷ子が見つけてくるとは…やるわねねぷ子」

「イリゼちゃんお帰りなさいです。何も言わずこんな夜まで出かけちゃ駄目ですよ?」

「あ、うん…ほんとごめんね、騒がせちゃって…」

「全く…反省してる様だから良いけど、今後はない様にしなさいよ?」

 

ネプテューヌ(と、捜索対象だった私)が一番戻るのが遅かったらしく、アパート内にはパーティーメンバー全員がいた。まぁ、ダンジョンにまで足を運んだネプテューヌが一番時間かかるのは当然だよね。

 

「ねぇネプちゃん、イリゼちゃんは何処にいたの?」

「んとね、魔窟の…何て言うんだろ、隠しエリア?的な所だよ」

「あぁ、私達がイリゼと初めて会った…というか発見したあそこね」

「隠しダンジョンと言い隠しエリアと言い魔窟は裏要素多いのね…」

「……あの、イリゼ様…(u_u)」

 

私を発見するまでの経緯と発見した場所について話し始める私達。…と、そこでおずおずとイストワールさんが私に声をかけてきた。…まるで、上司に謝罪をしに来たかの様に。

 

「…イストワールさん、私にきちんと真実を伝えて下さってありがとうございました」

「……っ…!…怒っては、いないんですか…?」

「勿論ですよ。イストワールさんは私の頼みを叶えただけです、非なんてありませんよ」

「…ありがとうございます、イリゼ様…」

 

私の言葉を聞いたイストワールさんは最初ハッとした様な顔をした後、どこか安心した様な表情を浮かべていた。怒られずに済んで安心しているのか、私が元気を取り戻して安心しているのか…確証はないけど、きっと後者だよね、イストワールさん。

 

「…先程から気になっていたんだけど、イストワールってイリゼを様付けしてたっけ?」

「それに昨日までに比べ敬っている様に見えますわね」

「…あれ、イストワールさんは私の事話してないんですか?」

「あ、はい…勝手に話すのはイリゼ様に悪いかと思いまして…(´Д` )」

「それは…そう、ですね。私自身もまだ知って一日経ってませんし」

 

ノワールとベールから私への態度の差異…平たく言えば私だけ扱いが違う事を指摘されるイストワールさん。それについては私も思う所があったし、何より私の正体についてはきちんと皆に知っていてほしいという思いもあったので私は口を開く。

 

「…えと、さ…少し皆に話しておきたい事があるんだけど…良いかな?」

「ふむ、流れからして…記憶の事なのだろう?」

「そう、私の記憶と過去の事。…どこから話せば良いかな…」

「第四十八話と第四十九話読めば良いんじゃない?」

「言うと思ったよ話数ネタ!久しぶりだね!…全くもう、ネプテューヌったら……」

 

いきなり話の腰を折られて辟易とする私。…けど、次の瞬間私はネプテューヌの表情がいつもと少し違う事…普段ボケた時の愉快そうな様子の中に、ほんのりと私を気遣う様なものが含まれていた事に気付く。…そっか、ネプテューヌは私が気負いしない様わざとボケてくれたんだ…ありがとね、ネプテューヌ。

 

「…何で貴女はちょっと嬉しそうな顔してネプテューヌ見つめてるのよ」

「へ?あ…こ、こほん…ええと、まず私の記憶の事なんだけど…」

 

そうして私は話し始める。記憶がそもそも無かった事、自分が原初の女神の複製体である事、その事で精神的に追い詰められて今日の騒動を起こしてしまった事を。また、説明の中で私より色々と知っているイストワールさんが、オデッセフィアの事を中心に適宜補足を入れてくれた。

きちんと説明出来ていたかどうかは分からない。私にとっては人生初の身の上話であり、その身の上も経験や思い出としてではなく、知識として『覚えた』に過ぎない。だから私は終始知り合いの身の上話をしている様な感覚だった。

そして、数十分後……

 

「……で、何百年何千年と眠っていた私をネプテューヌ達が起こして私の…人生?…が、始まったんだよ。…こんなものかな、イストワールさん」

「良いと思います、歴史学ならともかくイリゼ様の身の上話というならそれで十分ですよ( ̄^ ̄)ゞ」

 

話し終えた私はふぅ、とため息を漏らす。緊張していたのもあったけど、それ以上に長時間喋ると言うのは意外と疲れるものだった。…そう考えると、話す事が仕事である教職員の人や芸能人の人ってやっぱり凄いなぁ。

 

「むむ、魔窟の奥でイリゼを見つけた時もそれっぽい事言ってたけど…まさかイリゼの正体が原初の精霊だったなんて…」

「いや原初の『女神』だから、それだと紀元前じゃなくて三十年前になっちゃうから…後私は複製体の方だし…」

「…原初の女神、か…何か琴線に触れる響きだ…」

「気が合うわねMAGES.、私も同じ事思っていたわ」

「あそう、それは良かったね…」

 

MAGES.とアイエフがちょっと目を輝かせていた。想定済みだったネプテューヌのボケはともかく、そんな厨二心をくすぐられた何ていう感想を言われてもどう反応したら良いか分からない。

 

「貴女はわたし達と同じかわたし達以上に特異な存在なのかもしれないと思っていたとはいえ…流石にこれは予想外だったわ。女神が女神を生み出すなんて…」

「予想外だったのは私もだよ。こう、何ていうのかな…瓢箪から駒どころかペガシス105Fが出てきた感じ?」

「例えがアレなのはともかく驚きはよく伝わってきましたわ…」

「イリゼ様自身も何も知らない状態でしたからね。驚くのも無理はありません(-_-)」

 

やっぱり皆も私が普通の人間では無いどころかかなり特殊な存在なんだろうと思っていたらしく、ブランの言葉に何人かがうんうんと頷いていた。

 

「それにしても凄いね、原初の女神様って。ネプちゃん達も同じ事出来る?」

「そりゃー勿論……流石に主人公補正があっても無理かなぁ…」

「話聞く限りじゃ文字通り人知を超えているものね。…にしても、一人でゲイムギョウ界を守るなんてどんだけ強かったのよ原初の女神」

「そうですね…今のネプテューヌさん達が四人がかりで…あ、ネプテューヌさんも女神化出来るとしますよ?…戦っても完敗すると思います( ̄ー ̄)」

『え……』

 

さらっとかなり凄い事を言ってのけるイストワールさん。それを聞いた皆…特に女神の四人は目をぱちくりとさせる。まぁそりゃ女神四人で完敗って言われちゃ驚くよね…。

 

「…原初の女神は初見殺しとかですの?」

「いえ、初見殺しの技もあるとは思いますけど、それを抜きにしても完敗するでしょう( ̄▽ ̄)」

「原初の女神さん凄過ぎですぅ…」

「そんなに強いなら今のマジェコンヌも倒せるんじゃ…」

「贔屓目無しに勝てると思いますよ?(・・?)」

『…………』

 

速報、私の創造主さんは手のつけられないレベルとなった敵ボスすら普通に勝てる強さだった。…うん、何とも言えない気持ちになるよね。そりゃ生い立ちと使命的にはそれ位の強さが無きゃ駄目なんだろうけどさ…。

 

「…あれ?そう言えばイリゼってそんな強かったっけ?わたし達と同じ位だったよね?」

「確かにイリゼは今聞いた原初の女神と同格の力を有している様には見えませんわね…あ、別に貶している訳ではありませんわよ?貴女の力が弱いと言おうものなら壮絶なブーメランになってしまいますしね」

「それは私も気になってたり…イストワールさん、これにも何か理由があるんですか?」

「ありますよ。何千何億の人に究極の救世主として望まれたイリゼ様と、そのイリゼ様一人が守護者として望んだもう一人のイリゼ様では力に大きな開きが生まれてしまうんです。それに、シェア率100%故に底知れない量のシェアエナジーを有していたイリゼ様と違い、ここにいるイリゼ様はイリゼ様の残したシェアエナジーでやりくりしてる様なものですからね(。-_-。)」

「え…っと、つまりどゆ事?」

「皆さんの知るイリゼ様はラケルタビームサーベルとピクウス以外の全武装を封印し、PS装甲にかける電圧を落としてバッテリー駆動式に変えたフリーダムの様なものです(・ω・)」

 

二人の私を区別せず『イリゼ様』と呼んでいた事を始めとして若干難しかったイストワールさんの説明。それが珍しくパロディを織り交ぜた事で格段に分かり易くなっていた。…いや、元ネタが分からなきゃ分かり易いも何も無いけどさ…。

 

「残したシェアでやりくり…だからイリゼは女神としての認知度が無くても女神化出来たのね」

「ちょっと羨ましいですわ…」

「女神として羨むのはどうなのベール…」

「あ、じゃあわたしは?わたしもシェア率とか考えず生活してるけど力奪われるまでは問題無く女神化出来てたよ?」

「ネプテューヌは記憶喪失になる前のシェアでやりくりしてるんでしょ、イリゼと違って現守護女神なんだから信仰者がいる限りはシェアエナジーの配給はされる訳だし」

 

皆に私について話す事で新たに自分自身の力について知らされる。自分一人ならまず疑問として思い付かなかったであろう事実や事象。偶然にもそれに気付く事が出来た私だった。

 

「っと、そう言えば皆に伝えておかなきゃいけない事があったんだっけ」

「伝えておかなきゃいけない事?まだイリゼちゃんの事で何かあるの?」

「ううん、私の記憶や過去とは無関係。関係あるとすればそれはネプテューヌかな?」

「え、わたし?」

「うん。私は数時間前、女神化したネプテューヌと会って一戦交えた。…それが何を意味してるか分かる?」

 

私の言葉に部屋の雰囲気が一変する。勿論この中に実はネプテューヌが力を保持したままで、私を奇襲したと考えている人はいない。その上でこのピリッとした雰囲気が部屋の中を包んでいるという事はつまり、皆も私と同様の考えに至っていたという事だった。

 

「イリゼ、その偽物のネプテューヌはどれ位の強さだったの?」

「そうだね…私も冷静じゃなかったから正確には分からないけど、女神化したネプテューヌより数段は劣っていたかな。流石にそこらのモンスターよりはよっぽど強いけど」

「ふむ…となるとマジェコンヌがネプテューヌに変身していた訳ではない様ですわね」

「でもマジェコンヌ以外に女神の偽物を作るなんて芸当が出来る奴がいるかしら?」

 

ブラン、ベール、ノワールを中心に偽ネプテューヌの正体についての推理が始まる。…が、それは数分で詰まってしまう。何故なら…

 

「女神化したねぷ子よりやや弱い、ってだけじゃ情報が少な過ぎるわね…マジェコンヌの仕業だって考えればそれっぽくはなるけど」

「そうだね、ネプちゃんの偽物に悪事を働かせてシェア率を落とせばその分ユニミテス信仰者が増える可能性あるし」

「とはいえ、確固たる証拠がない以上安易に結論付けるのは賢い選択とは言えないな」

「何れにせよ調査が必要ですね。いつまた現れるか分かりませんし、皆さんも気を付けて下さいね(>_<)」

 

と、言う事で偽ネプテューヌの件は取り敢えず保留となる。先入観は視野を狭めちゃうし急いては事を仕損ずる、という言葉もある以上保留がベターな選択だよね。

 

「さてと…じゃあ私の話はこんな所、かな。皆だいたい分かってくれた?」

「色々と興味深い話が聞けた、感謝するぞイリゼよ」

「ありがと、じゃあこの話はこんな所でお開きに…」

「イリゼちゃん、わたし達に話してくれてありがとうございますです」

「ちゃんと話してくれて良かったし安心したわ」

「…え……?」

 

良い頃合いかな、と思って話を閉めようとした所で私に意外な言葉を送ってくれるコンパとアイエフ。更にそれに目を瞬かせる私に対し、皆は優しく微笑んでくれている。そして、極めつけのネプテューヌの言葉。

 

「ね、言った通りだったでしょ?イリゼはわたし達の大事な友達だって」

「……っ…!」

「だからこれからもイリゼは自信を持って…って、ちょ…な、何で泣くのイリゼ!?」

「え、あ、あれ…?何でだろ……」

「何イリゼ泣かせてるのよネプテューヌ」

「イリゼちゃん、大丈夫ですか?」

 

今日何度目か分からない涙が私の頬を伝う。…けど、今は辛い訳でも苦しい訳でもなく、むしろ心が温かくなる様な…そんな気持ちだった。受け入れてくれるかどうか不安だった私を、何の気兼ねもなく受け入れてくれた皆への感謝でいっぱいだった。だから、これはきっと…

 

「ごめんね…ぐすっ…でも、これは…嬉し涙だから…」

『友達泣かせるなんて、サイテー』

「まさかの完全アウェー!?いやこれわたしが最後の一押ししただけで涙の原因は皆にもあるよね!?っていうかそもそも嬉し涙だから悪くないよね!?」

「ふふっ…ネプテューヌ、サイテー」

「イリゼまで乗るの!?うぅぅ…不幸だぁぁぁぁぁぁ!」

 

私達の理不尽な悪ノリに嘆きの叫びを上げるネプテューヌ。狙った通りの展開になった事でくすくすと笑いを漏らす私達。

温かくて優しい皆のいる場所。いつの間にか手に入れていて、それが普通になっていたからこそ気付けなかった、大事な世界。それが、私の目の前に広がっていた。誰かが無理している訳でも、仕方なくその場にいる訳でもない、皆が楽しいと…ここに居たいと思える場所が。

私は、やっと気付いた。--------あぁ、ここは私の居場所なんだ、って。




今回のパロディ解説

・原初の精霊
デート・ア・ライブにおける重要な立ち位置の存在。何を隠そう、原初の女神という名はこれの響きの良さに感化されて考えたのです。だから何だという話ですけどね。

・ペガシス105F
メタルファイト ベイブレードに登場するベイであり実在するホビーの事。因みに瓢箪から駒の駒は独楽ではなく馬の事であり、ペガシスは羽の生えた馬…はい、掛けました。

・ラケルタビームサーベル、ピクウス、PS装甲、フリーダム
機動戦士ガンダムSEEDに登場する武装、装甲、機体の事。作中でも言いましたがSEEDを知らないと全然分からない例え話となっています。知らない方、申し訳ありません。

・「〜〜不幸だぁぁぁぁぁぁ!」
とある魔術の禁書目録主人公、上条当麻の口癖(不幸)のパロディ。…ですが、パロディ部分は『締めに不幸と言っている』というだけなので、あまりパロディ感ないですね。


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第五十二話 別れていても心は一つ

『第四回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えようの会inこんぱの家』

 

イリゼちゃん家出事件…まぁつまり私が騒動起こした日の翌日。これまでにも何度か見た例の看板がコンパのアパートのリビングに貼ってあった。…流石にもう、突っ込まない。

 

「わぁ、遂にわたしの家が会場に選ばれたです!」

「そうだよこんぱ!今まで看板に書かれた人は皆女神…つまり今のこんぱは女神と同格なんだよ!」

「そ、そんな…わたし何かが同格なんて恐れ多いですぅ」

「…朝から元気だね、二人は……」

 

きゃっきゃとはしゃいでいるのはネプテューヌとコンパ。普段ネプテューヌはノワールと仲良いと言われがち(ノワールは否定してるけどね)だけど、普通にコンパとも仲良いよね。…私もたまにはネプテューヌとはしゃいでみたいなぁ……。

 

「あ、イリゼちゃんおはようございますです。お怪我の方は大丈夫ですか?」

「うん、ご覧の通り大丈夫」

「ご覧の通りって…身体の色んな所に包帯とか絆創膏とか貼ってあるイリゼのどこが大丈夫なのさ…」

「あはは…でもほんとに大丈夫だよ?コンパの手当ても上手だったしね」

 

昨日、寝る前に私は偽ネプテューヌとの戦闘の怪我をコンパに手当てしてもらっていた。最初は傷を悪化させているんじゃないかと疑う位はちゃめちゃな手当てをしていたコンパも、我がパーティー唯一の医療系担当という事で何度も手当ての経験をしたおかげか技術が格段に向上していた。旅は人を成長させるって言うけどまさにその通りだね。ちょっと違う様な気もするけど。

 

「…で、またこの会やるの?」

「うん、プラネテューヌじゃまだやってなかったからね」

「そんな問題…?」

「良いじゃん別に。まぁほんとはわたしの家…てか、教会?…でやりたかったんだけどね」

「動機はともかく活動方針を決めておくのは良いと思いますよ( ̄▽ ̄)」

 

と、ネプテューヌの意見に賛成を示したのはイストワールさん。因みにイストワールさんは別の部屋からこの部屋へ移動してきた訳だけど…一体どうやってその身体で人間サイズの扉を開けたんだろう…。

 

「おー!まさかいーすんがわたしに賛成してくれるとは意外だったよ」

「状況が状況ですからね(u_u)」

「あ、それじゃわたしは皆を呼んでくるです」

 

状況が状況、と言うのは恐らく対ユニミテスの為に各女神がシェアを今以上に獲得する必要がある事、そして偽ネプテューヌが現れたという事だと思う。それに、パーティーメンバーが多くなっている点でも全体での会議は必要なのかもしれない。

 

「…わたしの家、と言えば…ネプテューヌは一度教会に戻った方が良いんじゃない?悠長にしてたら偽ネプテューヌに乗っ取られるかもよ?」

「いえ、女神化出来ない上に記憶喪失なネプテューヌさんが今戻っても信じて貰えるか微妙では?(ー ー;)」

「あ…それもそうですね…」

「えーと…じゃあわたしはどうしたら良いの?」

「取り敢えず保留…てか、女神の力を何とかするべきなんじゃない?」

 

本物あっても周りにそれを納得して貰えなければ偽物になるし、偽物でも周りを納得させられれば本物になる。それをこれまでの出来事でよく理解していた私はイストワールさんの言葉を聞いてすぐに引き下がった。…まぁ、実際問題あの全く喋らない偽ネプテューヌも本物とは思われない可能性あるもんね。

と、思っていた所で皆がやってきて会議が始まる。

 

「会議って言ったってそこまで話す事ある?今まで通り女神としての活動しつつ偽ネプテューヌが現れたら叩きのめせば良いだけでしょ?」

「そうね。前者はわたし達女神にとっては普通の事だし偽者も本物より弱いなら叩きのめす事も十分可能な筈よ」

「あのー…偽者とはいえわたしなんだからもうちょっと優しい言い方して欲しいんだけど…」

「はい、その通りです。ですが今回は全員で各大陸を…という訳にはいきませんよ?( ̄^ ̄)」

 

イストワールさんの言葉に首を傾げる私達。イストワールさんはその反応も予想していたのかすぐに理由を説明してくれる。

 

「シェア獲得と言っても今回の場合皆さんがシェア率を上げる事で相対的に『ユニミテスの信仰者を減らす』事が目的ですからね。全員で各大陸を回ってしまっては非効率な上に女神同士でのシェア争いになってしまう可能性があります(-_-)」

「言われてみれば確かにそうですわね…他国でシェアを上げようとなど普段はしませんから気が付きませんでしたわ」

「ねー、わたしはどうしたら良いかな?わたし女神化出来ないし女神として信仰してもらえるか自信ないんだけど…」

「別に女神として信仰される必要はないんじゃないかな?」

「その通りだ。女神が、ではなく魔王以外が信仰されれば良いのだからな」

 

今回は今までよりも余裕のない状況だからかしっかりと会議が進んでいく。…実際は会議というか確認会なんだけどね。

 

「じゃあ、わたし達はどうするです?」

「そうね…数人ずつ女神様に着いてく?ねぷ子も女神様側に含めると各大陸1〜2人になるけど」

「うん、さっきから皆ちょっと酷くない?わたしならエグいイジりしてもOK的な風潮作ろうとしてるんだったら流石に泣くからね?」

「ネプテューヌ、皆わざと言ってる訳じゃないよ、多分…きっと…恐らく…maybe…」

「どんだけ自信ないのさ!?そう言われると逆にわざとなんじゃないかって思えちゃうからね!?」

 

ネプテューヌをフォローしようとした筈が追撃する形になってしまった。…いや、だってネプテューヌだもん。皆が悪意を持って言ってる訳じゃないって事は自信を持って言えるけどわざとではないかと言われると…ちょっと、ね。

 

「じゃ、誰がどの大陸行くかもこの場ですぐ決めちゃいましょ。私は別に一人でも大丈夫だけどね」

「あはは、ノワールその発言はぼっちに慣れてるって捉えても良いのかな?」

「…プラネテューヌのシェアも根こそぎ奪ってあげようかしら…」

「わぁぁごめん!冗談だから冗談だからっ!」

「わたくしは勿論あいちゃんに着いてきてほしいですわ。……あいちゃん?」

「…え?あ…すいませんベール様、ちょっと考え事をしていまして…」

 

ノワールをネプテューヌがイジり、ベールがアイエフに絡むといういつも通りの光景は、アイエフの反応が遅れる事で崩れる。ベールとは相思相愛のアイエフがベールの声を聞き逃しかけるなんて珍しい事が起きたという事はつまり…

 

「…何か、懸念事項があるんですの?」

「懸念事項というか…何故、偽女神『だけ』が活動してるのでしょうか?」

「……?偽女神…てか偽ネプテューヌが活動してるのは恐らく女神側のシェアを落とす為、ってのが有力だったよね?だけ、って言うのはどういう事?」

「私がマジェコンヌなら偽女神を使うと同時にユニミテスで偽女神を倒してユニミテスの信仰者を増やそうとするわ。…マジェコンヌがそれを思い付かないと思う?」

 

アイエフの言葉に全員がハッとした様な顔をする。確かにアイエフの言う通り、マジェコンヌが何もせずにいるとは思えない。色々アレな人ではあったけど、少なくとも彼女は頭の回らない脳筋ではない。

 

「でも…今のところわたしの偽者しか出てきてないしマジェりんの情報も無いよね?…もしかして全部考え過ぎで、偽物のわたしもメタモンが変身してただけなんじゃ…」

「いや私の見た偽者は目が点になってはいなかったんだけど…」

「それにイリゼが偽者を見たのは昨日の夜、まだ貴女以外の女神が発見されてないだけの可能性が高いわ」

「どっちにしろマジェコンヌの動きを探る必要があるみたいだね…」

「ですがユニミテスを従えたマジェコンヌに普通の人間が接近するのは危険極まりませんわ。それこそわたくし達女神でないと…」

 

新たな問題に各々の思考を巡らせる私達。全員でいけば何とかなるかもしれないけど、今はシェア獲得も急がなければならないし、対偽女神も考えなくてはいけない。

はてはてどうしたものか…と、最善策を探ろうとした時…チャイムらしき音が響いた。

 

「…客人か?」

「はいはい、いますよー」

 

居留守を使う理由も必要もなかった為、家主であるコンパが玄関へと向かう。そして、コンパが部屋から出てから十数秒後、扉の開く音が聞こえ……

 

「急いで避難して下さい!今すぐに!」

 

明らかに切羽詰まった様子の男性…もっと言えば何度か聞いた覚えのある人の声が聞こえてきた。

 

「ひ、避難?急にどうしたです?」

「何々ー?デストロイが実践運用され始めたとか?」

「パープルハート様がプラネテューヌに戻ってきたんだ!」

『……!?』

 

何事かと思いぞろぞろと玄関へ向かう私達。予想通り、声の主はプラネテューヌの教会の職員さんだったけど…彼の言った言葉は完全に予想外だった。

ネプテューヌがここにいる以上、パープルハートが戻ってきている筈がない。…という事はつまり、

 

「…戻ったのはねぷ子の偽物、ね……」

「偽物…?」

「何でもないわ。それよりそれと避難がどう関係あるの?」

「理由は分からない、だから結論を言おう。何故かパープルハート様が地下プラントを破壊しようとしているのだ」

 

職員さんの言葉に全員が一瞬黙り込む。女神が破壊行動と言うだけで大問題と捉えられるのに、その対象が地下プラントとなれば本当に洒落にならない。もうシェア獲得とかそういうレベルではなくなってしまう。

 

「教会での総力を決して阻止しようとしているが、正直止められるとは思えない。だからもしもの時の為に急いでシェルターに避難してくれ!」

「これはこれはご丁寧にありがとうございますです」

「これも教会で働く者の務めさ。…くっ、せめて教祖様がいればもう少しマシだったのに…」

「そう言えば…プラネテューヌの教祖さんには一度も会ってないね」

 

ケイさん、チカさん、ミナさんと各国に行く度教祖さんには会えていたけどプラネテューヌではまだ一度も会えていない。プラネテューヌの教会は私達に友好的だったから避けられてるって訳じゃないと思うけど…。

 

「そう言えばそうだね。ねぇ、プラネテューヌの教祖っていないの?」

「かなり前から行方不明らしいんだ。真面目な教祖様らしかったから職務放棄ではないと思うけど…」

「どんな方なんですか?」

「小さくて羽が生えていて語尾に絵文字のつく、いつも本に乗っている方さ」

『……え?』

 

職員さんの言葉を聞いた私達は全員声がハモる。小さくて羽が生えていて語尾に絵文字のつく、いつも本に乗っている方…そんな特徴的な人がいれば忘れる筈がない。……と、言うか…

 

「あのー…職員さん、教祖さんって…もしやこの方ですか?」

「あぁ、正にそんな感じの…って、教祖様!?」

「…お、お勤めご苦労様です……

( ;´Д`)」

『やっぱり!?』

 

 

 

 

「…と、言う訳でわたしはプラネテューヌの教祖も行っていました(¬_¬)」

 

衝撃の事実が発覚してから数分後、近隣への避難勧告がまだある職員さんには取り敢えずそちらを優先してもらい、私達はリビングへと戻っていた。

 

「…何故今まで黙っていたの?」

「それは…話すタイミングが無かったというか…話す余裕が出来た時にはもう今更言う?…的な状態になってしまっていたというか…~_~;」

「…つまり、何か深い事情があったという訳ではないと言うのか?」

「そういう事です…すいませんでした…

m(_ _)m」

 

申し訳無さそうに謝るイストワールさん。ただ、隠していた事で私達に不利益があった訳ではない為責める人はいなかった。

 

「しっかしいーすんがプラネテューヌの教祖だったなんてねー。…あれ、って事はいーすんも記憶喪失になる前のわたしと面識あったの?」

「ありましたよ、ネプテューヌさんが混乱してしまう事を避ける為言いませんでしたが(。-_-。)」

「ネプテューヌなら混乱するとは思えませんけど、ね」

「…さて、話が逸れてしまった原因であるわたしが言うのはどうなのかと思いますが…今重要なのは偽者への対応です

o(`ω´ )o」

 

どうなのか、という点も含めイストワールさんの言う事はその通りだった。はっきり言ってもう悠長に構えている場合ではない。

 

「これはすぐに対応しなきゃだね、女神の皆はどうするの?」

「流石にこれは行くしかないでしょ、地下プラント破壊されたらプラネテューヌは甚大な被害を受けるし…って、誰よこんな忙しい時に…」

「あら?わたくしの携帯にも電話が…」

「わたしも…。はい、もしもし」

「お、これは…定番のパターンかな?嫌な予感がビンビンするなー…ってあれ?何かデジャヴ?」

 

殆ど同じタイミングでノワール、ベール、ブランの携帯端末が鳴る。…激しく関係無いけど、そういえば私携帯端末持ってなかったなぁ…。

と、私がどうでもいい事を考えていると…三人が同時に声を上げた。

 

『何ですって!?』

「…皆、何かあったの?」

「ラステイションにも私の偽者が現れたみたい」

「リーンボックスにもわたくしの偽者が現れましたわ」

「奇遇ね、性懲りもなくルウィーにも現れたわ」

「ほら、やっぱり!」

 

予想…というか嫌な予感が的中した事で何やら得意気なネプテューヌ。対する私達は冷や汗を額に浮かべる。一難去らずにまた一難、ただでさえ困った状況が更に悪化してしまっていた。

 

「…これは、全員で地下プラント防衛に向かう訳にはいきませんわね…」

「悪いけど地下プラントは任せるわ」

「勿論だよ、皆にだって大切な国や国民がいるもんね」

「…だが、マジェコンヌとユニミテスは良いのか?奴の仕業なら勿論、奴の仕業でなくともこれに乗じて動く可能性はあるだろう」

 

そう、その問題もまだ解決していなかった。もしこの状況で更にマジェコンヌとユニミテスに参戦されたら本当にどうしようもなくなる。…が、だからと言ってそちらに女神が向かってはシェア獲得と偽女神の対応が出来なくなり、女神でない面子が向かうのは自殺にも等しい。あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たず…そんな詰みかけた状態。

…けど、詰みかけただけで完全に詰んだ訳ではない。女神に匹敵する力を有しながらも国を持たない存在がここにいる。

 

「……私が行く」

「……クイーン・フロンティアを止めに?」

「違うよ!?確かに状況的には似て…ないよ!?そこはかとなく似てるかなー、位だよね!?」

「…イリゼ、貴女一人で行くつもりなの?」

「うん、プラネテューヌにも人数割かなきゃいけない以上マジェコンヌとユニミテス相手に大人数で行く訳にはいかないでしょ?」

「ですが、イリゼ様…ヽ(´o`;」

 

皆が不安そうな顔で私を見ている。その気持ちは分かる。マジェコンヌもユニミテスも女神一人でやり合える程弱い相手ではない。実際に私はマジェコンヌに不意打ちをした結果軽く返り討ちに遭っているし、私が皆の立場ならきっと同じ顔をしていたと思う。…でも、だからといって止める訳にはいかない。

 

「分かってます。でも、誰かがやらなきゃ他の皆が頑張っても無駄になっちゃうし、この中じゃ私が最適でしょ?」

「で、でも一人じゃ危ないよ!無茶だって!」

「そうです、危険過ぎるです!」

「大丈夫だよ。私、皆が大好きだもん。皆と居られるここが本当に大事だもん。だからこの居場所を守りたいし、皆の役に立ちたい。…それに、死ぬ気もないよ?だって死んだらここには戻ってこられないからね」

『イリゼ……』

 

私はただ本心を言っただけだった。策がある訳でも作戦を立てた訳でもない。だからもし私達が利害関係で集まっただけの集団なら簡単に却下されていたと思う。…でも、私達は違う。

 

「…貴女は常識人に見えて時々無茶しようとする。困ったものよ」

「ですが、見方を変えれば心強くもありますわ」

「そう言うんなら、自分の言った事をきちんと全部果たすのよ?」

「…任せたよ、イリゼ」

 

少しだけ困り顔をしながらも、皆は私を信じてくれる。ならば、私がそんな皆に対してしてあげられる事は…してあげたい事はただ一つ。その信じる気持ちに応えて、絶対に死なない事。戻ってまた皆と笑い合う事。ただそれだけだ。

 

「…良いですよね、イストワールさん」

「……はい、それがイリゼ様の意思ならば、わたしはその意思を尊重します」

「なら、私達女神はそれぞれ一人で自国へ向かうって事で良いわね」

「構わないわ。偽者なんかに負けるつもりはない」

「では、プラネテューヌ以外は決定ですわね」

 

次々と担当が決まり、残りはプラネテューヌだけとなる。順当にいけばネプテューヌがプラネテューヌの担当になるけど…そのネプテューヌは力を奪われ、女神化が出来ないでいる。

 

「ネプテューヌさんは全力が出せない訳ですし、その分他の方より戦い辛くなると思います。なので今回ネプテューヌさんは残った方が良いかもしれません(ー ー;)」

「えーっ!?まさかのここで戦力外通告!?主人公にあるまじき扱いだよ!?」

「ならば、プラネテューヌは私達に任せてもらおうか」

「そうだね。今までネプちゃん達が頑張ってきた分、今度はわたし達が頑張る番だよね!」

 

顔を見合わせ頷くMAGES.とマベちゃん。二人も当然人間な訳だけど…彼女等は普通の人間でもない。二人が連携し、尚且つ得意分野を活かせるならば劣化版である偽ネプテューヌ相手にやり合えると私は確信していた。

 

「あの、わたしとあいちゃんも地下プラントに行った方が良いですか?」

「うーん、来てくれれば心強いけど…女神の皆に着いて行ってくれても良いよ」

「ネプテューヌを見張っている、と言うのも手だな」

「そういう事だから私達は先に行ってるわ。じゃあね」

 

そう言って単独の決まった皆は荷物をまとめ、十数分後にはアパートを去る。今までずっと共に旅をしてきたメンバーが離れてしまうのはちょっと寂しかったけど…切羽詰まった状況な以上致し方無いし、別に今生の別れという訳でもない。…それに、私も単独行動をする訳だしね。

 

「イリゼももうすぐ行くの?」

「そうしたい所だけど…少ししておきたい事があるし、行くのはもうちょっと後かな」

「うぅ…なんか置いていかれた気分だよー!でもって物凄い疎外感!」

「…じゃ、どうするの?皆が帰ってくるまで待ってるつもり?」

「まさか、女神化出来ないからって燻ってる様なわたしじゃないって事はよく知ってるでしょ?」

 

と、やる気満々の様子を見せるネプテューヌ。ネプテューヌが動くのを止めていたイストワールさんは、そんな姿を苦笑しながらも止めずにいた。きっと、こう言うんだろうと最初から予測していたんだと思う。

 

「ふふっ、それでこそねぷ子よ」

「ならねぷねぷの偽者も、他の女神さんの偽者も、みーんな倒しちゃうです!」

「…あ、あの…こんぱ?無駄にハードル上がってない?それともわたしの聞き違いかな?」

「ふぁいとです!ねぷねぷ!」

「諦めなさい、ねぷ子」

 

そう二人に言われて渋々…でも、少し笑みを浮かべて頷くネプテューヌ。その目はいつもの様に元気さと強い意志がこもっていた。

 

「じゃ、そういう訳だからいーすんお留守番お願いね」

「だと思っていましたよ。けど、くれぐれも気を付けて下さい( ̄^ ̄)ゞ」

「はーい。…それじゃ、わたし達は先に行くけど、お互い頑張ろうねイリゼ!」

「うん!三人共頑張って!」

 

そうして三人も荷物をまとめ、それぞれの手助けをする為にこの場を後にする。

今まで全員で行動し、全員で問題を解決してきた私達がバラバラに戦う事に全く不安を感じない訳じゃない。けど、私達はお互いを信じる事が出来る。心の繋がりは物理的に何かを起こす事じゃ無いけど、心の支えにはなるし、心の繋がりが明日を見せてくれる事もある。だからこそそれを知っている私は…私達は互いを信じ、自分の出来る事に全身全霊を尽くす。…だって、それが友達だもんね。

 

 

「さーて、イリゼとわたしが別行動で且つわたしは色んな所へ向かうって事は、暫くはわたしの主人公属性を如何なく発揮出来るという事!燃えてきたよー!」

 

…良い感じに終われそうだったのに聞こえてしまったネプテューヌの声。私はそれを……聞かなかった事にするのだった…。




今回のパロディ解説

・メタモン
ポケットモンスターシリーズに登場するポケモンの一種。作中で言った通りメタモンが変身した場合目が点になる(=目だけは元のまま)なので、意外とバレそうですよね。

・デストロイ
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場する大型MSの事。デストロイに強襲されてはどこの国でも被害甚大でしょうね。…因みに、デストロイは大型『MS』だったりします。

・クイーン・フロンティア
劇場版 マクロスF 恋離飛翔〜サヨナラノツバサ〜に出るバジュラクイーンとバトルフロンティアの融合体の事。女神ならあの弾幕突破出来るでしょうか?…微妙ですね。


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第五十三話 その想いを胸に

「ん、こんなところかな…」

 

旅の中で少しずつ増やし、大陸を移動する度広げたりしまったりしていた荷物を一つにまとめる。マジェコンヌの動向を探り、必要ならばシェアの獲得と偽女神の対処の為に各大陸へと向かった皆がその目的を達成するまで時間稼ぎをしなければいけない以上、日帰りで戻って来れる筈はないし、時間稼ぎを完遂してここへ戻ってきた後も何かしらの理由でゆっくり出来ない可能性がある。だからこそ、私は今それに備えて荷物をまとめているのであった。…え、普段持っているシーンあった?四次元ポケットでも使ってるのかって?…そういう所は秘密だゾ。

 

「…お一人で大丈夫ですか?>_<」

「はい、別に倒す事が目的じゃないですからね。というか、今更ですけど…マジェコンヌとユニミテスは今どこにいるのか分かります?」

 

やるべき事自体に焦点を当て過ぎていた私…というか私達はその相手がいる場所の事を完全に忘れていた。…まぁ、他の事は元々場所探る必要なかったりしたし、マジェコンヌの方もこちらから出向いて戦いとなったというパターンがなかったから思考から抜けてしまった…ってのもあるんだけどね。

 

「断言は出来ませんが、十中八九ギョウカイ墓場だと思います(・ω・)」

「ギョウカイ墓場…って、先日イストワールさんが説明した場所ですよね?確か、ゲイムギョウ界の中心付近の…」

「そうです。あそこならば姿を隠すのに最適ですし、負のシェアが充満していますからね(-_-)」

「そうなんですか…なら、空路で行こうかな」

 

イストワールさんの話を聞いて私は脳内でギョウカイ墓場までのシュミレートを始める。ほんとはその後もシュミレートしたい所だけど…ギョウカイ墓場内部の作りを知らない以上それは出来ない。

 

「…もう、行かれるんですか?(´・Д・)」」

「いえ、行く前にちょっと寄っておきたい場所…というか会っておきたい人?…がいるのでそちらを片付けてからですよ」

「そうですか。ではもし行く前に何かあればすぐお伝えしますね( ̄^ ̄)ゞ」

「お願いします。…それと、一つ良いですか?」

 

私に恭しく接してくるイストワールさん。そんな彼女に私は一つ要望を…頼み事をしようと思う。

 

「何ですか?(・・?)」

「…イリゼ様、じゃなくて今まで通り他の皆と同じ様に接してくれませんか?」

「え?ですが、イリゼ様はわたしの創造主でありわたしが敬意を払うべき…」

「それは私じゃなくて…原初の女神じゃないですか。私はイストワールさんの言うイリゼ様、ではなくその複製体ですから…」

「……!」

 

私の言葉を聞いたイストワールさんはハッとした様な顔をした後、バツの悪そうな様子を見せた。…でも、それはイストワールさんの勘違いだ、私が言いたいのはそういう事じゃない。

 

「私は複製体のイリゼです。…でも、同時に皆と友達になって一緒に旅をした、守護女神でも、ましてや原初の女神でもないイリゼでもあるんです。そして私は今そんな自分を肯定したいって思ってるんです。だから…イストワールさんも私を今ここにいるイリゼとして接してくれませんか?」

「イリゼ様…そう、ですね…はい。イリゼ様…ではなくイリゼさんがそうしてほしいならその意思を尊重します(⌒▽⌒)」

「ありがとうございます、イストワールさん。…というか、私もイストワールさんも同じ人から生み出された訳ですし、ある意味では姉妹かもしれませんよ?」

「大分恣意的な解釈をすればそうかもしれませんが…では、姉らしく振舞ってみましょうか?(^人^)」

「あはは、冗談ですよ冗談」

 

頬の端をちょっと緩ませながら顔を見合わせる私とイストワールさん。大仕事の前に思っていた事を一つ解決出来たのは勿論、気負いのない雑談が出来た事は私の精神にとってとてもありがたかった。たったこれだけの事でも、余裕が生まれるんだから、ね。

 

「さて、と…それじゃ少し出かけてきますね。遅くても数時間で戻ってくるつもりなのでお留守番お願いします」

「はい、きちんと目的を果たせると良いですねイリゼさん」

 

ひらひらと手を振ってアパートを後にする。そして私は目的の場所へ…とある人物と話をする為に歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

石で造られた、質素ながらもどこか威風を感じる石室。その部屋の中央に鎮座するのは幾何学的な紋様の描かれた、石像の様な柱。

--------私は、私が眠りについていた場所へと再び来ていた。

 

「久し振り…じゃないね。前回来たの昨日だし」

 

柱の周りをゆっくりと歩いて回りながらそう呟く。当然ここに私以外の人間(私は女神だけど)はおらず、返答が返ってくる訳もない。所謂、独り言というやつである。…まぁ、私としてはある人に話しかけてるつもりなんだけどね。

 

「しかし落ち着いた状態で来てみると…何だろう、どことなく懐かしさを感じられるよ…」

 

私はここに入り浸っていた訳でもなければここを宿としていた訳でもない。それでも私がここに懐かしさを感じるのは、ひとえに私の生い立ちが関係しているんだと思う。

そして、暫く他愛のない事を呟いた後…私は本題に、本当に話したかった事を口にする。

 

「……ごめんなさい。やっぱり私…貴女の様な女神にはなれないと思います」

 

人の為に全てを尽くし、その一心だけで歩み続ける。そんな原初の女神の在り方を知った時、私は少なからずそれを凄いと思った。素直に尊敬の念を抱いた。でも、それと同時に私はもう一つの思いを抱いていた。…きっと、自分にはそれ程の意思も覚悟も無く、持つ事も出来ないだろうと。

 

「…私は弱いです。出来ない事も、分からない事もたくさんありますし、今も未来も誰かに支えてもらえなきゃ生きてゆけないと思います。だから…ごめんなさい、私は貴女の思った様な存在には…貴女の代わりには、なれません」

 

原初の女神が…私の創造主であり、私の元となった人がこんな私をどう思うかは分からない。もしかしたら、失望しているのかもしれない。…けど、それでも自分を見つめ、自分の在り方を決めた今の私はそれをここで伝えておきたかった。私なりの決意表明として、原初の女神ではない一人の存在として生きてゆく事の一歩として。

 

「……だけど、私にも守りたい物があります。私の側にいてくれた人、私を助けてくれた人、私に優しくしてくれた人、私と同じ思いを持つ人。皆私の大事な人達です。だから…」

 

言葉に確固とした意志を乗せ、紋様の走る柱に触れながら私は告げる。

 

「私は、私の周りの大事な人を…大事な人が守りたい世界を守ります。それが、私の…もう一人の原初の女神としての、決意です」

 

柱をしっかりと見据えて言い切る私。この場に私が語りかけていた対象である原初の女神はいないけど、自分自身に言い聞かせる事は出来たし、女神やシェア、魔法やモンスターが実在するゲイムギョウ界ならばもしかしたらこの言葉も伝わっているかもしれない。そう思えるだけで十分だった。

そして私は手を離し、反転して出口へと足を向ける。一刻を争う事態…ではないけれど時間を無駄に出来る程余裕がある訳ではない今は、目的が済んだなら早々に戻るのが最適な筈。そう思った私は最後に一度振り返り、柱を目に収めてからその場を後にしようとして…ある事に気付く。

 

「…あれ?」

 

明るい。無論洞窟から繋がる場所な以上外に比べればかなり暗いのは事実だけど、それでも私がここに来た時よりは明らかに明るかった。暗さに目が慣れたとか、精神状態が関係してだとかそういうレベルではない、言ってみればどこかに光源が発生したかの様な明るさ…その光は、私の後ろからきていた。

 

「……っ…柱が、光ってる…!?」

 

振り向いた私の目に入ったのは紋様に光を灯した柱の姿。これはどう見ても何かが起こっていた。それと同時に思い出す。私が現れたのも今と同じく、ネプテューヌが柱に触れて紋様が輝いてからだった。

そして……

 

 

「--------君の覚悟、しかと聞かせてもらった」

 

強さと威厳…そして、とても馴染み深さを感じさせる声が…柱から、響いた。

 

 

 

 

その声は幻聴ではなかった。更に言えば私にだけ聞こえる様なものでもなく、確実に、明らかに音として発せられた声だった。…女神化した私と、寸分違わぬ声だった。

 

「なっ…え……?」

「…初めまして、だ。最も、私にとっては久し振りなのだがね」

 

驚き動揺する私を他所にその声は話し始める。何がどうなって発生しているのか分からない謎の声…ただ、声が聞こえたその瞬間から声の主が誰なのかだけははっきりと理解出来ていた。

 

「や…いや、あの…ええと……」

「まずは君に謝らなければならないな。私は…」

「ちょっ、ちょっと待ってくれませんか!?お、落ち着く為の時間を下さい!」

「あ、あぁ…申し訳ない、私がいささか無配慮だったか…」

 

完全に冷静さを失っていた私と普通に続けようとする声。当然先にストップをかけたのは私だった。対する柱からの声は、そんな私の反応にすまなそうな声音で返してくる。どうやら声の主は傍若無人な人ではない様だった。

 

「い、いえ…それよりも、謝る…ですか?」

「そうだ。私は人の為、人の未来の為に君を生み出した。その事は一切間違ってはいないと認識しているし、最善の選択だったとも思っている」

「はい、知っています。…イストワールさんに聞きましたから」

「イストワール?…だから君は私の事を知っていたのか…ふふ、彼女も元気なのだな」

 

イストワールさんの名前を聞いた声の主は、その声に若干の喜びを籠らせる。…これ聞いたらイストワールさんも喜ぶんじゃないかな。

 

「…こほん。だから私は君を生み出した事は正しかったと思っている。…だが、君に重い責務を持たせてしまった事、君の生き方に制限を与えてしまった事だけは心残りだった。…私が人の力を信じる前ならば、それも思わなかっただろうが、ね」

「それは……?」

「いつか分かる日が来る。…だが、安心したよ。君は私が与えてしまった重荷を背負い、その上で前を向いて歩んでいる。…君を生み出して、君に後を託して良かった」

「……っ…そんな事、無いですよ…聞きましたよね?私は貴女の様には…」

「私は大切な人々を、人々が守りたいと思った生活や未来、幸せを守った。…規模は確かに違うかもしれないが、君の周りの大事な人を、大事な人が守りたい世界を守るというのと志は全く同じであろう?少なくとも、私はそう思っている」

 

その声はとても優しく、誇らしげだった。そんな声をかけられた私は感銘と…心の底から湧き上がる嬉しさを感じる。偉大な存在である声の主に自分と同じだと言われたからかもしれない、もしかしたら私の決意を非難されるかも…という心配が不要になったからかもしれない。…けど、多分きっとそんな小難しい事ではなく単に、自分と声の主に繋がりを感じられたから、なのだと思う。

 

「…ありがとう、ございます……」

「礼は不要だ、私が述べたい事を口にしただけなのだからな。…君はやる事があるのだろう?」

「はい。私の守りたいものの為に、やるべき事があります」

「ならばここに長く引き止める訳にはいかぬか、本当はもう少し話したかった所だが…せめて、言葉を送らせてもらえるかな?」

「…勿論、ですよ」

 

私より上の立場な筈の声の主が私に許可を求めてくる。…この人は、もしかしたら下手に出る人なのかもしれない。そんな彼女は、一拍置いた後…私に言葉をかける。

 

「君は君の思う様に生き、思う様に進んでくれれば良い。君の正義は私が保証する。君は私の誇りであり、私の期待そのものだ。時には迷う事もあるだろう、だがその時は自分を…守りたいものを、信じるのだ。それが君の道標となってくれる。だから、イリゼ()……が、頑張って…下、さい…っ!」

 

私への想いが込められた言葉。そしてその言葉と同時に紋様から光の帯が伸びて私を包む。その言葉は、何よりも私の心を打ち、私の背中を押してくれた。だから、私は返す。私へ声をかけてくれた相手に…原初の女神、イリゼに応える。

 

「はい、頑張ります。…だから見守っててね、イリゼ()

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー…って、へ?」

 

もう一人の私…原初の女神との対話を終え、コンパのアパートへと戻った私を迎えてくれたのは意外な人達だった。

 

「あ、お帰りなさいイリゼさん(・ω・)ノ」

「目的は済んだのかい?」

「あまりアタクシ達を待たせないで欲しいわ」

「これでこちらも目的を果たせますね」

 

ケイさん、チカさん、ミナさん。イストワールさんは勿論だけど、各国の教祖さん達まで部屋の中に居た。当然、私は教祖さん達が来るなんて聞いていない。…えーっと…

 

「教祖だョ!全員集合…とかですか?」

「いや何言ってるのよ貴女…」

「私達がコメディ番組をしたら確実にカオスなものになりますね…」

 

チカさんは呆れ気味に、ミナさんは苦笑いしながら私の疑問に答えてくれる。…いや、勿論本気でそう思ってた訳じゃないよ?

 

「では、どの様なご用事で?」

「僕達はそれぞれノワール達に頼まれて君にこれを渡しに来たのさ」

 

そう言ってケイさんは私に数個の結晶を見せる。それに続く様に各々結晶を見せてくれる教祖さん達。

紫、黒、緑、白の四色の結晶。私はその結晶を見たのは初めてだったけど、その結晶は女神にとても深く関わる物だったからか瞬時にどういうものなのか理解が及ぶ。

 

「これって…シェアエナジーの結晶体、ですか…?」

「はい、シェアエナジーを凝縮させ、エネルギー状態から固体へと変えた物…これは『シェアクリスタル』と呼ばれるものです( ̄^ ̄)」

「シェアクリスタル…え、それを私に?」

 

シェアエナジーといえば女神の力の源であり、女神にとっては大切なものの筈。ましてや今はそれぞれが戦いに臨む以上、軽々しく他人に与えられる様な物だとは到底思えなかった。そんな私の疑問に、教祖さん達はそれぞれ答えてくれる。

 

「わたし達は貴女と共に戦えないからせめてこれを、という事らしいですよ」

「君の事は聞いたよ。これがあればある程度は本来の力に近付けるんじゃないのかい?」

「マジェコンヌと魔王とやら相手に一人で戦うなら、これはあって困らないでしょう?」

「ネプテューヌさんは女神の力を失ってしまいましたが、シェアは残っていました。気にせず使ってくれとの事です( ̄▽ ̄)」

「皆……」

 

自分の知らない所で自分の為に何かをしてもらえた、という事に私は胸が温かくなるのを感じる。私の為にしてくれた皆の優しさを噛み締めながら、私はシェアクリスタルを受け取る。

 

「…皆に伝えておいて下さい。ありがとう、皆の思いは絶対に無駄にしないって」

「分かりました。ですが無理は禁物ですよ?(。-_-。)」

「僕達も君には期待している。この期待に応えてくれる事を願うよ」

「お姉様のご好意なんだから、ありがたく使いなさいよ?」

「ブラン様達も頑張っています。…なので、お願いしますね」

 

教祖さん達四人の言葉に頷き、ギョウカイ墓場へと向かう事を伝えてから私はシェアクリスタルを含む必要な物を持って、外へと出る。

友達が、今までに関わった人達が、そして…原初の女神までもが私の背中を押してくれる。ちょっぴりそれにプレッシャーも感じるけれど、それよりもずっと感謝と幸福感が私を満たしていた。

私への期待に応えたい。この大切な日々をこれからも続けたい。皆を、守りたい。その想いを、意志を胸に私は女神化し、飛翔する。目指すはギョウカイ墓場、強大な敵となったマジェコンヌと魔王ユニミテス。…でも、恐怖はない。だって…

 

「私には…皆がついてるからね」

 

そうして私は空へと舞い上がり、ゲイムギョウ界中心部へと向かい…皆の為の戦いに臨むのだった。




今回のパロディ解説

・四次元ポケット
ドラえもんシリーズに登場するひみつ道具の一つ。本作や原作に関わらず、明らかに持てない量や大きさの荷物を持ち歩いてる作品は多いですか…突っ込むのは野暮ですね。

・教祖だョ!全員集合
コメディ番組、8時だョ!全員集合のパロディ。作中でも突っ込まれていますが、ゲイムギョウ界の教祖でコントをやったら…さぞシュールなものになるでしょうね。


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第五十四話 それぞれの開戦

ふと、思った事がある。わたし、こんぱ、あいちゃんの三人がわたし達パーティーの初期メンバーだとか最初の面子だとかと認識されているけど…実際はそんな事はない。だって、最初にダンジョン行った時はわたしとこんぱの二人だったし、あいちゃんが加入してからそこまで経たないうちにイリゼも加入したんだからね。だからその考えでいけばわたしとこんぱの二人か三人にイリゼを加えた四人が初期メンバーになる筈なんだけど…。

まぁ、ぶっちゃけ原作とそのシリーズの影響なんだけどさ、メタ発言何のそののわたしでも流石にこれをメタ理由だけで片付けるのはどうかと思うんだよね。…だからって何かする訳じゃないけどねっ!

 

「ふぅ…やっぱ地の文も担当出来ると良いよね。地の文担当ってこれぞ主人公!って感じするし」

「どこの誰に対して話してるのよ…」

「ねぷねぷはいっつもそういう発言するですね…」

「これがねぷねぷスタイルだもん。メタ発言もしなきゃボケもしないわたしなんてエロ発言しない某生徒会副会長みたいなものだよ」

 

雑談を交えながら歩くわたし達。何ヶ所も回らなきゃいけないし状況が状況だから走った方が良いんじゃないのかな?とも思ってたけど、あいちゃんの「いつどこで偽女神と会うか分からない以上下手に走って体力使うのは避けた方が良いわ」という発言の元走らず、でものんびりとはせず移動していた。

 

「ところでねぷねぷ、まずはどこから行くですか?」

「んー、取り敢えずゲーセン?」

「どこから行くですか?」

「あ、う、うん…えと、どこから行ったら良いんだろう…」

 

わたしのボケにこんぱは突っ込むでも怒るでもなく、ただただ同じ質問を繰り返してきた。…ぎゃ、逆にそういう反応が一番怖いよこんぱ……。

 

「一応聞くけど…どこか先に回りたい所はある?」

「ううん、どこからでも良いよ?」

「ならプラネテューヌからにしましょ。他国行った後戻ってまた他国行って…じゃ二度手間だし今からなら早い段階で二人に合流出来る筈よ」

 

 

二人、というのは勿論プラネテューヌ担当のMAGES.とマベちゃんの事。そして同時にわたしは気付く。イリゼが言うにはわたしの偽者はわたしよりは弱いらしいけど…それでもイリゼと『戦闘』出来るレベルだった以上女神以外が戦うのは危ないよね。うん、これはあいちゃんの言う通りまずはプラネテューヌだね!…まぁ、あの二人なら何とかなりそうな気もしないでもないけど…。

 

「おっけー、わたしもそれに賛成だよ」

「あいちゃんとねぷねぷがそういうならわたしも賛成するです」

「なら早速…と、言いたい所だけど、二人共地下プラントの行き方知ってる?」

『知らない(よ・です)』

「ま、そうよね…というかよく考えたら地下プラントへの行き道が一般開放されてる訳ないわよね。どうしたものかしら…」

 

腕を組んで考え始めるあいちゃん。こんぱはプラネテューヌ国民だからか時折あいちゃんに意見を言っている。そしてわたしは…

 

「ストーリーダンジョンだしワールドマップでカーソル合わせてぽちっとすれば良いんじゃない?」

「職員の話じゃもう地下プラント行ってるらしいから後をつける事は出来ないのよね…」

「あいちゃんの知り合いに詳しい人はいないですか?」

「…ボケ担当にとって一番辛いのは無反応だよね……」

 

何だかわたしの周りで木枯らしが吹いた気がした。うぅ、ちょっと前まではメンバーが三倍以上いたから真面目な話の最中誰かしら突っ込んでくれたのに今じゃこの扱いだよ…割とマジで早く解決して皆と合流しないと…。

 

「私の知り合い…うーん……」

「…あ、それならいーすんに訊けば良いんじゃない?世界の記録者?らしいし、プラネテューヌの教祖でもあるんでしょ?なら知ってるんじゃないかな?」

「確かに…よく思いついてくれたわねぷ子、ちょっと待ってて」

「ねぷねぷは時々鋭い事言ってくれるですね」

「えへへ、わたしはやれば出来る子だからね!」

 

と、言う訳でいーすんに連絡を取るあいちゃん。…あれ、いーすんって電話持ってるのかな?いーすんサイズの電話とかってないよね?帰ったら訊いてみよーっと。

 

「じゃ、宜しく頼むわ。…ねぷ子、コンパ、教会へ行くわよ」

「教会?」

「えぇ、イストワールが教会に話をつけて案内役用意してくれるらしいわ」

「いーすんさん、流石教祖さんですぅ」

 

三人という少数だからこそ変に話が脱線せず進む。脱線しまくりも面白いけど、こうやってしっかり話が進むのも主人公としては安心感あるね。

…とか思いながら教会へと向かうわたしとこんぱ、あいちゃんだった。

 

 

 

 

「わたし、参上!」

 

バーン!と正面の扉を開いて教会へと入るわたし。そんなわたしの後を追う形で入ってくるこんぱとあいちゃん。やっぱりインパクトある登場っていいよね。

 

「やぁ君達。イストワール様から話は聞いているよ」

「なら話が早いわ、早速案内して頂戴」

「勿論。…と、言いたい所だけど…本当に逃げなくて良いのかい?」

 

心配そうにわたし達を見てくる教会のおにーさん。ま、そりゃおにーさんから見ればわたし達は何か色々やってるっぽいだけの女の子三人だもんね。

 

「だいじょーぶ!というか、バトル要素のある作品のメインキャラが戦闘能力ゼロだと思う?」

「それは、まぁ…でも時々ゼロの子もいるしそこのおっとりしてそうな子なんて見るからに非戦闘員…」

「わたしも戦えるです!」

「何その注射器!?…ま、まぁ分かったよ」

 

こんぱが引っ張り出した注射器に驚く職員のおにーさん。まぁそれは驚くよね、突っ込みどころが濃縮されてるし。…それはともかく、いーすんに指示されてた事もあって職員のおにーさんはそれ以上言う事なく案内を始めてくれる。

 

「あれ?そう言えば、職員さんは地下プラントに向かわなかったんですか?」

「ああ、私は戦える様な強さじゃないしパープルハート様を直接止める事だけがやるべき事でもないからね」

「じゃあ、つまり職員のおにーさんはお留守番担当だったって事?」

「お、お留守番って…まぁそんな感じだけど…」

 

そう話しつつわたし達は街中から郊外へと出て、普段は行かない方面へと進む。そうして数十分後……

 

「…着いたよ、ここが地下プラントの入り口さ」

 

案内の元わたし達が辿り着いた場所。そこは所謂岩山だった。その一角に整備されたっぽい様子の入り口があり、そこの前にわたし達は立っている。

 

「これは中々手強い敵の出てきそうな場所だね…」

「よく分かったね、ここは場所が場所だけに国の設備があるにも関わらずモンスターが現れるんだ。勿論柵やら壁やらでモンスターが設備を壊さない様にしてはいるけど、道中モンスターと鉢合わせになる事は覚悟した方が良いよ」

「つまりいつも通りって訳ね」

 

あいちゃんの言葉に「だよね〜」みたいな感じに頷くわたしとこんぱ。…今更だけど、わたし達ってかなり普通の女の子からかけ離れてるよね。わたしの場合は女神だったから最初から普通じゃなかった訳だけどさ。

 

「ねーねー、職員のおにーさんも一緒に来るの?」

「勿論だよ。そこまで複雑じゃないとはいえ、決して一本道でもないからね。案内役を頼まれた以上最後まで案内しきるのが礼儀さ」

「へー、しっかりしてるんだね」

「はは、それに可愛いろりっ娘の為ならたとえ火のなか水の中!」

「草の中とか森の中とかは?」

「それは有名アニメのOPですよねぷねぷ」

 

とか何とか言いながら岩山の入り口を通るわたし達。すると早速…

 

「うぅ、なんか急に暑くなってきたんだけど…」

「この岩山まだ活動してるのね、多分この先はもっと暑いわよ」

「えー、なら冷えピタとか持ってくれば良かったなー」

 

女神でも暑いものは暑いし寒いものは寒いんだよねー。それに暑いと汗かいてべとべとになっちゃうしテンション下がっちゃうよ。これは早く偽者のわたしを倒さないと…。

 

「ほんとに暑くなってきたです……わぁ!?」

「ん?どしたのこんぱ?」

「溶岩です!わたし溶岩を実際に見たの初めてです…」

「あ、ほんとだ…落ちたら熱そうだなぁ」

「熱いで済む訳ないでしょ…こっちで合ってる?」

「合っているよ、そして次はそこの二手に分かれてる道を左だよ」

 

溶岩にちょっと驚きながら進むわたし達。言われた通り確かにモンスターも出てきたし、環境が環境だからか雑魚敵の割には強かったけど…ゲイムギョウ界を股に掛ける冒険をしてきたわたし達の相手じゃないんだよね。

そんなこんなで左に曲がった時……

 

「…………」

『…あ……』

 

艶のある紫の髪と赤みがかかった瞳、そして大仰な大太刀を持って特殊過ぎる装いをしている女性に出会った。

いや、うん…まぁ、何ていうか……わたしだよね!?女神化した時のわたしだよねこれ!?目の色ちょっと違うけどほぼわたしだよこれ!

 

「ぱ、パープルハート様!?」

「冗談でしょ…何でねぷ子の偽者がこんな所にいるのよ…」

「メーちゃんとマベちゃんはどこです!?やられちゃったですか!?」

「あの二人がすぐにやられるとは思えないんだけど…それよりも今はまずどう切り抜けるかよね」

 

どう見ても臨戦態勢に入っている偽者のわたしに対し各々武器を取り出して構えるわたし達。かなり予想外の展開だけど出会っちゃった以上戦わないとだよね…!

 

「…………」

「あ、あのパープルハート様…何故この様な事を……」

「……!下がってなさい!やられるわよ!?」

「さ、下がっていろって…理由はどうあれパープルハート様なんだ!敬愛する相手なんだ!だからきっとこれも何か理由が--------」

「…………」

 

わたし達よりも前に出て説得…というか話し合いをしようとした職員のおにーさん。けど、その言葉は偽者のわたしが地を蹴り高速で職員のおにーさんに接近した事で途切れる。

驚きで尻餅をつく職員のおにーさん。無表情のまま大太刀

を振り上げる偽者のわたし。……そこまで見えた所で…ううん、偽者のわたしが職員のおにーさんに接近した時点でもうわたしは動いていた。

二人の間に躍り出て太刀を掲げる。次の瞬間わたしと偽者の太刀がぶつかり合い、強い衝撃がわたしの腕に襲いかかる。

 

「……っ…え……?」

「…ありがとね、職員のおにーさん。だけど下がってて」

「だ、だが……」

「大丈夫、パープルハート様はいつでも皆の味方だか…らっ!」

 

再度の攻撃をかける偽者のわたしに対し、わたしはその大太刀に自分の太刀を打ち合わせる事で再び防ぐ。やっぱり強い衝撃が腕にきたけど…今度はわたしもぶつけた分さっきよりはあっちも衝撃きてる筈…!

 

「こんぱ!あいちゃん!職員のおにーさんを安全な所に避難させてあげて!」

「ねぷねぷはどうするですか!?」

「二人が戻るまで時間稼ぐよ!こういうのは相手も自分だからこそ動きが読める、ってパターンだし!」

「それねぷ子の希望的観測でしょ!…コンパ、急いで避難させるわよ…!」

 

二人が職員のおにーさんを避難させるのを一瞬見た後偽者のわたしに向き直り、今度はわたしから攻撃をかける。こういう場合女神化したわたしなら相手の動きを見極めようとするから…それを逆手にとって猫騙し!これなら意表を突ける筈…!

 

「…………」

「ってえぇぇ!?何で!?何で驚かな…ねぷぅ!?」

 

全く驚かないばかりか大太刀で横薙ぎしてくる偽者のわたし。それにわたしは辛うじて反応して防御したけど…能力の差で吹っ飛ばされてしまう。

慌てて立て直そうとするわたし。淡々と連続攻撃を仕掛けてくる偽者のわたし。ただでさえ不利な状況が更に不利になり、段々と死が近付いてきている様な感覚を覚える。

 

「あ、あれ…これ不味くない…?」

「…………」

「……っ…!さっきは格好良く言っちゃったけど…一人で戦うとか無理ゲーだよぉ!」

 

 

「……なら、手伝ってあげようか?ネプテューヌさん」

 

不意に後ろから聞こえた女の子の声。その瞬間飛び退く偽者のわたし。次の瞬間、偽者のわたしがいた所に両手剣が振り下ろされる。その使い手は…勿論、今さっきの声の女の子。

 

「もしかして…ファルコム!?」

「うん、久し振りだねネプテューヌさん」

「ナイスタイミング!渡りに船とは正にこの事だよ!…けど、どうしてここに?」

「女神様が地下プラントを破壊しようとしているって話を聞いて、おかしいと思ってきてみたんだ。ネプテューヌさんが二人いるって事は…あっちは偽者だよね?なんか雰囲気変だし」

 

そう言ってファルコムは新手の登場に警戒してるっぽい偽者のわたしを指差す。…わたしの方が偽者判定されなくて良かった…。

 

「うん、一緒に戦ってくれる?」

「勿論。偽者とはいえネプテューヌさんと戦うのはちょっと気が引けるけどね」

「見た目に騙されちゃ駄目よ。見た目はそっくりでも中身は別物なんだから、手加減なんて無用よ」

「ちょっ、あいちゃん!?」

「お待たせですねぷねぷ!」

 

わたしの左右へあいちゃん、そしてこんぱが走ってくる。二人が戻ってきたって事は職員のおにーさんの安全が確保出来たって事だし戦力強化もありがたいけど…今の言い方はちょっと……。

 

「あの、あいちゃん…あいちゃんはもう少し躊躇ってもいいと思うんだけどなぁ…」

「何言ってんのよ。合法的にストレス解消出来るいいチャンス…あ、やっぱ今の無しで」

「ねぷっ!?今、合法的とかストレス解消とか言ったよ!?」

「細かい事気にしないの!それより今は偽者を何とかする方が先でしょ」

 

物凄く強引に話を切り上げるあいちゃん。そ、そりゃ確かに今は偽者を何とかする方が大切だけどさ…後で追求させてもらうからね!

 

 

 

 

「…さて、そろそろ私も動くとしよう」

 

ギョウカイ墓場最奥でマジェコンヌが声を上げる。前回の戦闘で負った怪我も大分状態が良くなり、新たに得た力にも慣れた彼女は、作戦を次の段階へ移行させようとしていた。

偽女神を各国へ放ったのは勿論彼女。偽女神が暴れる事で女神のシェアが落ちるのは勿論、その偽女神を自分達が倒せば更にシェアを移動させる事が可能であり、仮に偽女神がやられたとしても対処の為に女神が四手に分かれてくれれば各個撃破が容易になるという、どう転がっても自身に利益となる作戦をマジェコンヌは立て、実行していたのだった。

その隣に佇むのは現実と化した仮想の魔王、ユニミテス。マジェコンヌの支配下にあるユニミテスは彼女にとっての強力な武器であり、作戦においても重要な存在だった。

 

「まずはプラネテューヌだな。憎きネプテューヌの前で魔王の猛威を振るい、文字通りどん底へと落としてやろうじゃないか!ハーッハッハッハ!

「■■■■ーー!」

 

高笑いを上げるマジェコンヌ。形容し難い唸り声を上げるユニミテス。その姿は正に魔女と魔王だった。

 

「さぁ行くぞユニミテス!プラネテューヌを落とし、我が悲願への更なる一歩を--------」

 

 

「--------そうは、させないよ?」

 

天空から何かが高速で飛来する。寸前でそれに気付いたマジェコンヌは紙一重でそれを回避するも、ユニミテスはその巨体故に回避が出来ず、飛来したそれが深々と突き刺さる。

予想だにしなかった事態に…否、攻撃に唖然とするマジェコンヌ。そんなマジェコンヌとユニミテスの前に降り立つ一つの人影。それは、純白の様な髪と濃い黄色の瞳を持ち、水晶の様な翼を有する女神の姿だった。

 

 

 

 

呆気に取られるマジェコンヌと私の攻撃で呻くユニミテスの前へと降り立つ。初撃で二人共沈める事が出来れば御の字だったけど…流石にそこまでは上手くいかない。むしろ不意打ちが成功しただけでも喜ばしかった。

 

「…ふん、何かと思えば貴様か…」

「貴女の思う様にはさせない。皆が偽女神を倒すまでここに居てもらうよ?」

 

そう言って私は長刀の切っ先をマジェコンヌへと向ける。それを見たマジェコンヌは一瞬驚いた様な表情を浮かべた後…笑い始める。

 

「ふっ…何を言い出すかと思えば…ここに居てもらうだと?前回不意を突いたにも関わらず軽く返り討ちにされた貴様が出来るとでも思っているのか?随分と面白い事を言うじゃないかイリゼ!」

「そう、私が。…試してみる?」

「あぁ試してみろ、何なら片手を使わないというハンデもくれてやるぞ?それならばひょっとしたら貴様でも擦り傷位は--------」

 

私を嘲笑うかの様な言葉を発していたマジェコンヌが急に口をつぐむ。理由は簡単、私が一気にマジェコンヌへと肉薄し、剣先でマジェコンヌの頬に擦り傷をつけながら駆け抜けたから。

剣先についた血を振り払い、反転してマジェコンヌの方を向く私。対するマジェコンヌの顔には先程までの余裕はなく、代わりに敵意が現れていた。

 

「貴様…何だ、今の力は…!」

「何って…私の、本当の私の力だよ。勿論…これもねッ!」

 

私の左に太刀と槍、右に片手剣と槌が現れ、その後方で不可視の何かが爆発すると同時に高速でマジェコンヌへと放たれる。

私がもう一人の私…原初の女神と言葉を交わした時、最後に私は光に包まれ、その瞬間に私の脳裏に幾つかの事が浮かんだ。原初の女神の…私ならではの力、私ならではの戦い方。それが私の脳裏に浮かんだ事であり、これも先程の一撃もその一つだった。

マジェコンヌは手元に槍を顕現させ、魔法との同時迎撃で四つの武器を全て叩き落として私を睨み付ける。

 

「何なのだ…何なのだ貴様は!その力は何だというのだッ!」

 

怒気の籠るマジェコンヌの声。そんなマジェコンヌに私は答える。私の決意を胸に、原初の女神を思い浮かべながら。

 

「私を誰だと思っている!始祖にして原典、守護者にして救世主であった原初の女神の生み出したもう一つの原初!もう一つの守護者!覚えておくが良い--------我が名はイリゼ!愛すべき友の為に、守るべき世界の為に貴様と相対する存在だ!」

 

そして、私とマジェコンヌ、ユニミテスによる熾烈な戦いが幕を開ける。




今回のパロディ解説

・某生徒会副会長
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録シリーズの主人公、杉崎鍵の事。エロ(ハーレム)発言しない彼もメタ&ボケ発言しないネプテューヌもきっと誰も望んでいませんよね。

・「わたし、参上!」
仮面ライダー 電王に登場するイマジンの一人、モモタロスの決め台詞のパロディ。言うまでもないと思いますが、ネプテューヌ達は電車で教会に行った訳ではありません。

・「〜〜たとえ火の中水の中!」「草の中とか森の中は?」
ポケットモンスターシリーズのアニメの初代OP、めざせポケモンマスターのフレーズのパロディ。この時点で切ると、前者二つより後者二つがかなり楽に見えますね。

・「私を誰だと思っている!〜〜」
天元突破グレンラガンの主人公、シモンやその兄貴であるカミナ等の決め台詞の一部のパロディ。この台詞を言った時のイリゼは結構な螺旋力を生み出しているかもですね。


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第五十五話 敵も味方も増えてゆく

灼熱の溶岩に照らされるいくつもの影。その影が響かせる音は……正しく、戦闘のそれであった。

 

「やぁぁぁぁぁぁッ!」

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

「…………」

 

左右から偽者のわたしを狙うわたしと颯爽と登場した少女、ファルコム。対して偽者のわたしは真っ直ぐ前に跳ぶ事でわたしとファルコムの攻撃から逃れる。……が、

 

「そう来ると思ったわ!コンパ!」

「任せるです!」

 

跳んだ先へ走り込んで強襲、偽者のわたしと斬り結ぶあいちゃん。更にそこへこんぱが横から飛び込んで注射器で刺突、偽者のわたしは身体を捻りつつ大きく跳んでわたし達から距離を取る。

 

「あー惜しい、後一歩だよこんぱ!」

「相手は偽者何だし思いっきりやっちゃっても大丈夫よ?」

「それわたしの台詞!わたし以外が言うべき事じゃないからね!?」

「あはは、やっぱりネプテューヌさんのパーティーは良い意味で緊張感が薄いよね」

 

わたしとファルコムが積極的に接近しての攻防…所謂前衛を行い、こんぱとあいちゃんが二段構えの遊撃を行う。数秒で考えたインスタント作戦だけど…案外上手くいくもんだね。

 

「このままなら何とか勝てそうですね」

「うん、定番RPG宜しくちょっとずつ削っていこー!」

「それはあんまりお勧め出来ないかなぁ…」

「え?どして?」

「二人がかりとはいえ貴女達は偽ねぷ子と正面から打ち合ってるのよ?負担は結構なものでしょうが」

「それに遊撃の二人も早い上に飛べる奴が相手じゃかなり集中力がいるからね、長期戦になったらこっちが先にバテちゃうと思うよ」

 

真剣そのものの表情を浮かべているあいちゃんとファルコム。…そう言われると確かにそうかも。さっきはそのまま回避してくれたけど、偽者のわたしと斬り結ぶと結構衝撃あるしこんぱとあいちゃんは偽者のわたし含めた三人の動きを見て素早く動かなきゃだもんね。やっぱ慎重キャラとか経験豊富キャラいると助かるなぁ。

 

「じゃあ短期決戦の方が…おわっ!?…良いの…ッ!?」

「可能なら、ねッ!」

 

いつの間にか距離を詰めていた偽者のわたし。その攻撃を慌ててわたしが防御して、ファルコムが反撃を仕掛ける…けど、偽者のわたしは人間離れした(偽者とはいえ女神だから当然何だけどね)力でわたしを押しきって反撃に対応。その後も深追いしないヒットアンドアウェイを続ける。

 

「な、中々攻撃が入らないですぅ…」

「むむ、せーせーどーどー勝負しろー!」

「いやそれ言ったら四人で一人にかかってる私達の方が全然正々堂々としてないから…」

「正々堂々、ね…」

「……?ファルコム?」

 

いつもの様に敵を前にしながらボケと突っ込みの混じる会話をするわたし達。…と、思いきや新メンバーであるファルコムが何やら思案中みたいな様子を見せる。これは…もしや突破口発見しちゃったパターンかな?

 

「ファルコム、貴女何か良いアイデアでも思い付いたの?」

「アイデアって言うか何ていうか…ネプテューヌさん、ネプテューヌさんにはフィニッシャーになってもらってあたし一人で前衛やりたいんだけど良いかな?」

「え?そりゃわたしは良いけど…一人で大丈夫?わたしの偽者なだけあって強いよ?」

「分かってる、けど多分このまま続けても『優勢だけど手詰まり』って状態からは抜けられない気がするんだ」

 

ファルコムの言う事は頭脳労働担当じゃないわたしでも分かる。今は誰も怪我してないし何度も惜しい所まではいってるけど、ダメージを与えられてる訳じゃないし、さっきあいちゃんとファルコムが言った通り長期戦になったらわたし達が不利になっちゃうもんね。

偽者のわたしが仕掛けてこない様、散発的に牽制を行いつつ会話が進む。

 

「理由は分かったわ、それで具体的な方針は?」

「あたしが偽ネプテューヌさんとやり合って何とか隙を作るからコンパさんとアイエフさんはその隙を広げてほしい。ネプテューヌさんなら一度のチャンスで致命傷を与えられる攻撃が出来る筈だから、それが出来る位の隙にね」

「隙を広げる、ですか…分かったです」

「因みに何で貴女じゃなくてねぷ子がフィニッシャーなのよ?貴女もそれなりに腕が立つ様に見えたけど?」

「えっと…それはその、同じ刀剣類を使う者としてサシの勝負がしてみたくて……」

 

ちょっと照れつつ頬をかくファルコムにわたし達は苦笑する。まぁ、見るからにアクティブな娘って感じだもんねファルコムは。

 

「よーし、それじゃ決まった事だし早速作戦決行だよ!」

「えぇ、あんたがフィニッシャーなんだから変な所で出しゃ張るんじゃないわよ?」

「ねぷねぷの出番は作ってあげるですから待ってて下さいです」

「うん、期待してるよ。ふぁいとー!」

 

わたしの声援に反応する様に偽者のわたしに走り込む三人。対する偽者のわたしは姿勢を低くして突進をかけたけど…それを正面からファルコムが受け止め、斬り結ぶ。

 

「…………」

「……っ…心構えはしてたけど…やっぱり攻撃が重いね…これは受け方に気を付けないと…」

 

力による押し合いになる前にバックステップで下がり、仕切り直すファルコム。偽者のわたしは大太刀のリーチを活かして即座に追撃するけど…ファルコムは剣を斜めに掲げて大太刀を滑らせ、更にそこから攻撃に転じる。…あれって擦り上げ技って奴?

 

「…って、ゆっくり観戦してる場合じゃないんだっけ…」

 

太刀を握り直すわたし。その間にもファルコムと偽者のわたしの攻防が続く。

斬り結び、受け流し、振り払う。そんな一進一退の均衡を崩したのは…偽者のわたしだった。

 

「くっ…思ったより反応が速い…ッ!」

「……っ!」

「な……ッ!?」

 

互いに刃を打ち合った事でファルコムと偽者のわたしが同時に仰け反る形となる。ファルコムはそこで何とか踏ん張って再度の攻撃にかかろうとするけど…それよりも偽者のわたしは早かった。バランスが崩れている事を逆に利用しファルコムにサマーソルトキックを叩き込む。

 

「あぐ……ッ!」

『ファルコム(さん)!?』

「……ッ!もう見てられな--------」

「…もらったよ、偽ネプテューヌさん」

 

大太刀を上段に構えてファルコムを両断しようとする偽者のわたし。わたし達は咄嗟に駆け寄ろうとするけど…そこで聞こえたのは、ファルコムの笑みを含んでいるかの様な声。

一閃。ファルコムの手元から剣戟が放たれ、偽者のわたしの腹部を裂く。決してその一撃は致命傷ではなく、偽者のわたしからすれば十分継戦可能な程度の被害。…でも、『隙』としては十分どころか十二分のものだった。

 

「皆!スイッチ!」

「ねぷねぷ、覚悟ですッ!」

「日頃の鬱憤、晴らさせてもらうわッ!」

 

わたし的に何だか物凄く納得のいかない声を発しながら追撃をかけるこんぱとあいちゃん。偽者のわたしは迎撃やまともな回避が間に合わないと悟ったのかひっくり返るかの様に後転。岩の地面に身体をぶつけつつ下がるという無理矢理な事をしてでも、確実にダメージとなる二人の攻撃を避けようという思惑があったんだと思う。流石わたし、判断力もあるね!…だけど、やっぱり偽者より本物のわたしの方が強いかな。だって…

 

「そう来ると思ってわたしが走り込んでたんだもんね!」

「……っ…!?」

「わたしは各次元に一人で十分だよ!『クリティカルエッジ』ッ!」

 

目を見開く偽者のわたし。そこへわたしから放たれる怒涛の四連撃。斬り裂き斬り上げ斬り落とすその連打は確実に偽者のわたしを捉え、最後の一太刀が振り抜かれた瞬間、偽者のわたしは地面に仰向けに倒れて…モンスター同様に消滅した。

 

 

 

 

「ふぅ、何とか倒せたね…」

 

偽者のわたしが消滅し、モンスターが寄ってきていない事を確認した後やっとわたし達は一息つく事が出来た。うぅ、戦闘中は気付かなかったけど物凄く汗かいてるじゃん…ベタベタして気持ち悪い……。

 

「偽者とはいえやっぱり自分と戦うって変な気分ー」

「そう?わたしは戦いやすかったけど?」

「あいちゃん活き活きしてたですね…」

「さっきも鬱憤晴らすとか言ってたよね…あいちゃんの鬼!悪魔!冥界住人!」

「あ、こんな所にねぷ子の偽者発見!」

「ねぷっ!?ちょ、あいちゃん止めて!武器の先っちょでツンツンするの地味に痛いんだってば!」

 

カタールを刺してくる(勿論軽くだよ?ブスッとやられたら突っ込みじゃ済まないし)あいちゃんと逃げるわたし。いや…今回はわたし悪くないよね?割と正当性あるよね?

とか思っていたらファルコムが笑い出す。

 

「あははははっ!ほんとネプテューヌさんは相変わらずだなー」

「痛た…って事は別次元のわたしもこんな感じなの?」

「うん、そうだよ。多分どの次元でもそうなんじゃないかな?」

「しかし…先行った二人はどうしたのかしら…」

「ここに来るまで一度も会わなかったですね…」

 

二人、というのはMAGES.とマベちゃんの事。二人共他のゲーム会社の擬人化キャラだしうちと仲悪くならない様悪い扱いはされないと思うんだけ…げふんげふん、これ以上これ掘り下げたら二次創作でもお偉いさんに怒られそうだから止めとこーっと。

 

「…嫌な予感がするね、先を急ごうよ」

「そうね、じゃあ早速…」

「待つです、その前にやる事があるです」

 

先を進もうとする二人を止めるこんぱ。普段周りに合わせるタイプのこんぱがこんな事を言うのは珍しい為、何だろう…とわたし達がこんぱに注目。するとこんぱはファルコムに近付き……

 

「むむむ……」

「えっと…な、何?」

 

ジロジロとファルコムを眺め始めた。…え、どゆ事?これどういう状況?

 

「ど、どしたのこんぱ?何かあった?」

「やっぱりさっき偽ねぷねぷに蹴られた所が痣になってるです」

「え?あ…大丈夫だよ、これ位時々あるし」

「駄目です。今は何ともなくても後で悪くなってくる事もあるです」

「うっ…じゃ、じゃあこのダンジョンから出たら見てくれる?」

「分かりましたです」

 

一体何事かと思ったら、単なる問診だった。拍子抜けっていうかある意味予想外っていうか…まぁそりゃナースさんからすれば結構大切な事かもしれないけどさ。…そう言えば今までボス級を倒した後に続けて探索するって事あんまり無かったし、だからこそこんぱも心配したのかなぁ。

 

「えーと…じゃ、改めて進む?」

「そうだね。…あ、そう言えば職員のおにーさんは?案内担当置いてっちゃって大丈夫かな?」

「大丈夫じゃない?安全地帯に連れてった後ここから先は任せて、って言ったし帰ってる筈よ」

「そっか、じゃあここからは自力で進むしかないね」

 

行き止まりとかモンスターハウスとかに入っちゃったら面倒だけど…だからって職員のおにーさんをまた危険な目に合わせるのも気が進まないもんね。それに自力で道探るのも主人公パーティーっぽいし、MAGES.とマベちゃんの為にもここは一つ頑張っちゃうよー!

 

 

 

 

「……とか思ってたけどやっぱこれ無理無理無理無理ぃぃぃぃっ!」

 

偽者のわたしを倒してから十数分後、先に行った筈の二人を探して奥へと進んだわたし達は全力疾走していた。え、何故って?そりゃ勿論……

 

「何人もの偽者のわたしに追いかけられてるからだよぉぉぉぉぉぉっ!」

「誰に言ってんのよ誰にッ!」

「読んでくれてる画面の前の皆にだよ!…あ、アイテムはっけーん!何かなぁ…」

「アイテム回収してる場合でもないよネプテューヌさん!?」

 

一人ならともかく何人も偽者のわたしがいたら流石にどうしようもない。さっき倒した偽者のわたしに比べると弱いっぽいけど…それを数で補ってるんじゃ難度変わらないじゃん!もっと言えば補って余りある状態じゃん!…ジェリーの気持ちがちょっと分かったよ……。

と、そこで岩で反響してるっぽい声が聞こえてくる。

 

「……にこの数を相手にするのはそろそろ限界かな…」

「だが、何が何でもこの先に進ませる訳にはいかん」

「分かってるって、その為にここに来たんだから」

「頼もしいな。お前とならこの状況を乗り越えられる気がするよ」

「うん、わたしも」

 

明らかに聞き覚えがある声。その声は今わたし達の走っている場所の先から来ているのか少しずつはっきり聞こえる様になってくる。会話内容的に向こうも戦闘中っぽいけど…この状況じゃ合流する他ないよね!

 

「MAGES.ぅぅぅぅ!マベちゃぁぁぁぁん!ヘルプミーッ!」

「えぇぇ!?ね、ネプちゃん…と皆!?」

「味方が増えた事を喜ぶべきか、敵が増えた事に嘆くべきか…」

 

走り抜けた先にいたのは予想通りMAGES.とマベちゃん、偽者のわたし達。そして…何だか不用意に触ったらヤバそうな機械だった。…それはともかく、ひとまず合流するわたし達。

 

「はぁ、はぁ…もー!なんで暑いのに全力疾走しなきゃなのさ!」

「そんな事言ってもしょうがないよネプちゃん…あれ、ファルコムちゃん?」

「二人共久しぶり。もしかして…と思っていたけど、やっぱりネプテューヌさん達に協力してたんだね」

「その場の手助けの筈がいつの間にかレギュラーになっていた訳さ。…まぁ、つまりはいつも通りという訳だ」

 

MAGES.の言葉に苦笑するマベちゃんとファルコム。…一緒にいた時もいつの間にかパーティー入りしてたのかな?

 

「悪いけど再開を喜んでる時間はなさそうよ?」

「そうだね…これだけの人数がいるし、取り敢えず一人ずつ倒す?わたし達が二人で戦ってた奴と皆が戦ってた奴が同じタイプなら何とか相手出来る筈だし」

「分かりましたです。……って、あれ?」

「こんぱ、今度はどうしたの?」

「さっきよりねぷねぷの人数が増えてる気がするです…」

『……え?』

 

とんでもない事をこんぱが言い出す。もしそれが本当だったらほんとに冗談にならないけど…さ、流石にそんな事ないでしょ。暑いしちょっと疲れてるから見間違えただけだよ、うん。

 

「…た、確かに増えてる……」

「これは困ったね…」

「あいちゃんとファルコムまで言うの!?ぜ、絶対そんな事ないって!わたし達を追いかけて来たのは六人、MAGES.とマベちゃんが戦ってたのが三人だよ?そして今わたし達の前にいるのは十人!ほら、やっぱり増えて……るぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

増えてた。九人じゃなくて十人になってた。目を擦っても深呼吸しても十人だった。多分セーブ&ロードしても十人だと思う。…で、でもまだ一人増えただけだよね!

 

「……あ、また一人増えたです」

「何で!?まさかの増殖パターンなの!?」

「その様ね、恐らくどれかが本体なんだと思うけど…どれが本体か全く分からないわ…」

「となるとやはり各個撃破するしかないが…今後も増えるとなると骨が折れるどころではないぞ?」

「でもやるしかないね、あたしはただやられるなんて嫌だし」

「それに、わたし達が戦わないとプラントが壊されちゃうからね」

 

やっぱりここにあったのは例の地下プラントだった。という事はつまり、やられたら勿論アウト、逃げるのは困難、でも倒すのも難しいっていう超ハードモードに突入してる訳だね!もうねぷ子さんさっき偽者のわたしを倒したところからやり直したいよ!

 

「はぁ…こうなったら覚悟決めるしかないね、皆帰ったら遊びに行こうね!」

「ネプテューヌよ、それは死亡フラグだ…」

「それに他の大陸にも手助けに行くんだからその余裕はないわよ」

「冗談冗談、ちょっと場を和ませたかっただけだよ」

 

太刀を軽く振って構えるわたし。それを合図にしたかの様にこんぱ達も、偽者のわたし達も各々の武器(偽者のわたしは皆大太刀だけどね)を構え、臨戦態勢に入る。そして、次の瞬間…激突。わたし達と偽者のわたし達による集団戦闘が始まる。

 

 

さてと…イリゼ視点ならここで終わる所だけど、わたし視点だからまだ終わらないんだよね!ふふーん、今回は思い付きで次回予告しちゃうよ!えーっと…

『プラネテューヌでの戦闘も遂に大詰め。ネプテューヌ達は連携で戦力差を補うも、断続的に増える偽ネプテューヌに少しずつ追い詰められていく!そんな時、ネプテューヌ達の元に現れた意外な援軍とは!?次回超次次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative、タイトルは…普段先に公開したりはしてないから秘密!』…という訳で、お楽しみに!




今回のパロディ解説

・スイッチ
ソードアート・オンラインシリーズに登場する劇中ゲームのシステムの一つ。当然ソードスキルのない本作ではスイッチも存在しない為、単なる連続攻撃となっています。

・モンスターハウス
ローグライクゲームや不思議のダンジョン等に登場するモンスターの巣的な場所。原作を知っている方は分かると思いますが、原作にモンスターハウスは存在しません。

・ジェリー
トムとジェリーシリーズの主人公の一人(一匹)、ジェリー・マウスの事。説明は不要でしょう、追われるネプテューヌはよく追われてる彼の事を連想したのです。


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第五十六話 本物の女神

「ファルコム、後ろ後ろ!」

「そういうねぷねぷも危ないです!」

 

四方八方から放たれる剣戟に互いにフォローし合う事で辛うじて対応するわたし達とプラネテューヌ担当パーティー。十人以上に及ぶ偽者のわたし達との開戦からおよそ十数分、もしかしたらそれ以上経っていた。

 

「一向に減らないね、偽者のネプちゃん達…」

「こっちが倒すペースより増えるペースの方が多いからでしょうね…何で増える上に一人一人が雑魚じゃないのよ…」

「そりゃ偽者でもわたしだもん」

「何を誇らしげに…その所為で劣勢なのだぞ…」

「というか、雑談してる余裕はないよ…っ!」

 

あいちゃんの言う通り、偽者のわたしはそこらのモンスターより強いから倒すのに時間がかかるしいつの間にか増えるせいで全く状況が良くならない。むむ、何で戦えば戦う程不利になってるのさ!そんなのバジュラだけで十分だよ!

 

『…………』

「っていうか同じ顔の人が十何人も一斉に襲ってきたら普通にホラーだよ!しかもわたしの顔だし!」

「もうこれストレス解消とか言える次元じゃないわよ…」

「ダンジョン出たらちょっとお話しようかあいちゃん!」

「ねぷねぷがいっぱい過ぎて…ねぷねぷねぷねぷですぅ…」

『ちょっ……(こんぱ・コンパ・コンパさん)!?』

 

うちのパーティーの生命線の一つ、ヒーラーのこんぱが壊れかけてた。…と思ったら割と嬉しそうな顔してた。こんぱ…わたしを好き好んでくれるのはほんとに嬉しいけどこの状況でそれはちょっとアレだよ……。

 

「これは…色んな意味で思ったより不味い戦況だね…」

「忍者としては逃げるという選択肢を推したいけど…プラントあるし無理だよねぇ…」

「…こんな時こそ主人公の特権『ピンチの時に都合良く覚醒』に頼るしかないね……」

「頼るってねぷ子、あんた覚醒なんて出来るの?」

「うん、何せ守護女神のわたしにはネクストフォームという次の段階の力が……」

『それ結構後の作品ですよねぇ!?』

 

真面目な事言ったりボケたり突っ込んだりするわたし達。…活字だから全然分かんないと思うけど、これ偽者のわたしと激戦繰り広げながら言ってるんだからね?わたしとかボケてる最中に鼻先斬られそうになってたし。

スピードに定評のあるあいちゃんとマベちゃんが撹乱して、孤立した偽者のわたしをわたしとファルコムで強襲、こんぱとMAGES.が適宜援護するっていう作戦そのものは多分間違ってないと思うんだけど…さっきも言った通り倒す速度より増える速度の方が早いんだよね。ゲームで言うと『パーティーの出せる総火力<敵の自動回復スキルの一度の回復量』みたいな感じ?…偽者のわたしの人数には多分制限がないから実際にはそれより不利なんだけどさ。

 

「ま、まぁボケは置いといて…誰か逆転する手段思い付かない?」

「残念だが思い付かない、今回は状況も条件も悪過ぎる…」

「い、今更ですけど…話し合いは無理ですか…?」

「いや話し合いも何もずーっとだんまりじゃん偽者のわたし…」

 

無言で無表情の偽者のわたしが話し合い…というかまず話をしてくれるかどうか怪し過ぎる。わたしは勿論出来ないけど心理戦や権謀術数にも反応しそうにないし、本当に厄介な敵だよね…。

…と、ここまではまだ何とか持ち堪えてきたわたし達だったけど、連戦の疲れと数の差で段々と押され始めていく。

 

「わ…わわっ!?」

「こんぱ大丈夫!?…くっ……!」

「いよいよ余裕が無くなってきたわね…これは覚悟しなきゃかも…」

 

コンビネーションを成り立たせるだけの余裕が無くなってしまい、一箇所に固まるわたし達。こうしていれば防御だけは楽だけど…このままじゃ状況は悪くなる一方だよね…。…はぁ、あんまやりたくないけど仕方ないか……。

 

「……皆、わたしが囮になるよ」

「ねぷ子……?」

「わたしの偽者な訳だしこの中じゃわたしが一番狙われ易いと思うんだ。だからわたしが引きつけてる間に皆は勝てる手段を用意して」

「ちょ、ちょっと待ってよネプちゃん、囮って…偽者全員を相手にするつもり?」

「勿論。というか数人だけ引きつける方法なんて思い付かないしね」

 

そういう事を言いたいんじゃない。そんな表情をマベちゃんは浮かべていた。…ううん、マベちゃんだけじゃなくて皆がそんな顔をしてた。…そうだよね、わたしだって皆が同じ様な事言ったら多分同じ顔をするし、わたしの場合自己犠牲の前科…って言っちゃうと悪いみたいだけど…があるもんね。……でも、

 

「…わたし記憶喪失のままだし難しい事も分かんないし、何より責任ある立場なんて面倒くさいけどさ…それでも、こうして旅してきた中でちょっとずつ自分が女神だって自覚を持ち始めたんだ。だから、こういう時はわたしが一番頑張らなきゃ駄目なんだよ」

「む、無理しちゃ駄目ですよねぷねぷ!」

「ネプテューヌさん…ネプテューヌさんはそれで良いの?」

「女神とて人だ。そんな選択をしなければいけない道理はないだろう」

「ありがとね、気にしてくれて。でも大丈夫、女神だからってのも勿論あるけど…一番の理由はわたしがそうしたいからだもん!小難しい理由なんて二の次だよ!」

 

視線を皆から偽者のわたし達へと移す。…啖呵切ったとはいえ、やっぱり一人で囮なんて怖いからね。決心が揺るがないうちに行動に移さないと。

そう思ったわたしは偽者のわたし達へと向かって走り出--------

 

 

「やはり彼女こそ私達の女神、パープルハート様だ!女神様をお守りしろっ!」

 

響き渡る声。偽者のわたし達の後ろから放たれた光芒。全く別の方向からの攻撃に散開する偽者のわたし達。

--------わたし達と偽者のわたし達との激突に新たな風を吹き込ませたのは、紫の目立つ装束を纏った者達。そう、プラネテューヌの教会職員達だった。

 

 

 

 

増援とか援軍ってラノベでも漫画でも現れると大概来た側有利になるよね。そりゃ戦力が増えるんだから当然といえば当然だしより状況が悪くなるならそもそも来ないだろう、って話だけどさ。…けど、この有利になるってのは単に戦力が増えるから、だけじゃなくて味方には安心感が、敵には危機感が芽生えるからというのもあると思うんだ。……なーんて当たり前の事をわたしが思ったのは、勿論それを実感する機会があったからなんだよね。

 

「小型化された……」

「光学兵器……」

 

突然現れた職員の人達はそれぞれの武器で偽者のわたし達を牽制しながらわたし達の元へとやってくる。…因みに今感銘を受けてたのはあいちゃんとMAGES.。ほんとこの二人はこういうの好きだよねぇ…わたしもちょっとだけ分かるけどさ。

 

「お待たせ致しましたパープルハート様!」

「ご無事ですかネプテューヌ様!」

「遅くなって悪いね可愛いろりっ娘…ではなく、遅くなって申し訳ありません女神様!」

「え、あ、ええっと…ちょ、ちょっとタンマ!」

 

わたし達に合流するや否や、わたしを取り囲んで一斉に話しかけてくる職員の人達。確かに教会も総力をあげてどうのこうのって話を聞いた様な気はするけど…こ、これどういう状況?っていうかわたし聖徳太子じゃないからいっぺんに言われても困るよ…。

 

「…………我等もご協力しますパープルハート様!」

「…………貴女には擦り傷一つさせませんよネプテューヌ様!」

「ちょっとタンマって文字通りの意味じゃないよ!?仮にそうだったとしてももうちょっと待とうよ!」

「ねぷねぷが普通の突っ込みしてるです…」

 

こんぱが変な所に食いついてくる。…いやそれはわたしも思ったけどね!自分への理不尽なボケには突っ込む事のあるわたしだけどそうじゃないボケまで突っ込むのはわたしの管轄じゃないし。恐るべしだよ職員の人達。…わたしの国の教会職員って考えると納得出来そうな気もするけど。

 

「話進まないわね…取り敢えず、貴方達は味方と思っていいのかしら?」

「勿論。パープルハート様とそのお仲間であれば我々が味方しない理由ばありませんから」

「それは心強いね。これならあたし達も十分に戦えるし」

 

職員の人達は合計で凡そ二十人、対して偽者のわたしは現在十五人。わたし達も含めれば十人以上こっちが有利になっていた。…そういえば、複数人で一人(一体)と戦ったり数に対して連携で応戦したりは今までよくあったけど、数に数で対応するのは初めてかも…。

 

「では女神様!私達の指揮を!」

「え…し、指揮?って言うかさっきの言い直しといいもしや職員のおにーさん!?」

「あ、気付いてくれました?…女神様が戦っているのに私達教会職員が安全地帯でゆっくり出来る訳ないじゃないですか」

「いやそれより…お前今おにーさんって呼ばれていたか!?ネプテューヌ様におにーさんなどと…何と羨ましい!…じゃなかった、何とおこがましい!」

『そうだそうだ!羨ま…おこがましいぞ!』

「えー…何この状況……」

 

職員のおにーさんが他の職員の人達に責められていた。何か内容的にわたしの呼び方が発端っぽいけど…これは自意識過剰とかじゃなくて普通にわたしの事好き過ぎない…?

 

「ねぷ子、これさっさと指示出さないと余計面倒な状況になると思うわよ」

「だよねぇ…うーん、単純な指示でも良いのかな?」

「良いんじゃないかな?職員な訳だしネプちゃんの考えを察してくれるよ」

「そっか、じゃあ…職員の皆はわたし達の援護をお願い!…これは皆と上手く連携出来るか不安だからだけど、良いかな…?」

『勿論ですとも!』

 

ついさっきまで言い争い(?)をしていた職員の皆が一斉に動き出す。…鶴の一声ってこんな感じの事言うのかなぁ。

 

「ネプテューヌ、我等も動こうではないか」

「っとそうだね、行くよー皆!」

 

援護させといてわたし達が何もしない訳にはいかない…っていうか何もしないんじゃ援護の意味がないから偽者のわたし達へ突撃する。さっきまでとは違って目の前の一人に集中出来る分、格段に戦い易くなっていた。

 

「物量差さえ無ければ偽者のネプテューヌさん程度…!」

「余裕…じゃないけど何とかなるですぅ!」

 

職員の皆の援護を受けながら偽者のわたしへと攻撃をかけるわたし達。偽者のわたし達はそれに最初数人で動く事で対応しようとしてたけど…あいちゃんとMAGES.の魔法、それに職員の皆の使うビーム兵器の飽和攻撃を受けて堪らず分散、そこをわたしを始めとする前衛メンバーに叩かれて次々とダメージを受けていた。そして当然、限界を超えるダメージを受けた偽者のわたしは消滅していく。

…けど、有利なまま終われないんだなーこれが。

 

「残り十人を切った!いけます、いけますよネプテューヌ様!」

「我等の力を見たか偽者…うおっ!?」

「…………」

 

偽者のわたし達の最後方にいた一人が飛翔、職員の皆へと強襲をかける。結構距離があったおかげか職員の皆は一人が武器を斬られた以外の被害は受けなかったけど…その動きはちょくちょく増えてた偽者のわたしのそれじゃなかった。

 

「この動き…ネプテューヌさん、今の偽者はさっきの…!」

「うん、もしかしてあれが親玉だったりするのかな?」

「多分そうね、急いであいつの対応するわよ!」

 

反転して親玉らしき偽者のわたしへと接近するわたし、こんぱ、あいちゃん。他の偽者のわたし達はそれを邪魔しようとするけど、MAGES.、マベちゃん、ファルコムが押し留めてくれる。

 

「す、すいませんパープルハート様…」

「気にしないで!それより皆は援護の続行お願い!皆はわたしが守るから!」

「ねぷねぷ、今の言葉格好良いです!」

「ふふーん、有言実行しちゃうからねー!」

 

追撃をしようとしていた偽者のわたしへわたしが飛び蹴り。これ自体は軽々避けられちゃったけど、追撃の阻止は成功。更にこんぱとあいちゃんが連続攻撃を仕掛けて職員の皆から距離を取らせる。

 

「…………」

「リーダー同士、正面から勝負だよ!」

「いつからあんたがリーダーになったのよ…ま、良いけど」

「ねぷねぷ、ふぁいとです!」

 

わたしと攻撃対象を切り替えた偽者のわたしが斬り結ぶ。そしてその瞬間にわたしの腕にかかった負荷で確信する。やっぱこの偽者のわたしは最初に戦った奴と同じ位強い…!

 

「こういう時ってネプちゃんは女神らしいよね」

「同感だ、普段が普段だけにな」

「あたし達も負けない様にしないと…ねッ!」

 

ちらりと後ろを見るとMAGES.達が偽者のわたし達を食い止めている。さっすが別次元組、安定して強いよね。

前の戦闘で力押しが無理だと分かっているわたしは偽者のわたしの力を利用して後ろへ跳躍、追って攻撃をしてくる偽者のわたしに対し回転斬りで応戦する。単純な力で負けてるなら別の力も合わせれば良い、ってね。

 

「手助けするわよねぷ子!」

「わたしもです!」

 

弾かれたかの様に互いに後ろに跳ぶわたしと偽者のわたし。そこへこんぱとあいちゃんが走って追撃をかける。更に偽者のわたし達へ飛ぶ職員の皆の射撃。

 

「こういう状況だとさ、負ける気がしないよね」

「あら、言うじゃないねぷ子」

「そう?…やっぱ仲間と一緒に戦えるのはほんとに心強いよッ!」

 

代わる代わる攻撃を仕掛けていたこんぱとあいちゃんが横へと跳ぶ。それに合わせてわたしが突進をかける。これには偽者のわたしも対応が遅れて堪らず交代。そこへ連続攻撃をかける事でほんの少しずつだけどダメージを与えていく。

 

(このままなら…きっと……今っ!)

「……っ!?」

「これが本物と偽者との差だよッ!『デュアルアーツ』ッ!」

 

壁際へと追い込んだ所で足を前に出し、踏ん張って攻撃を中断。その突然の行動に偽者のわたしは即座に反応し、わたしに反撃をかけようとする。…けど、それはわたしの予想通りなんだよね。

わたしと偽者のわたしの間へと撃ち込まれる射撃。勿論打ち合わせした訳じゃない。けど、わたしが信じた通り職員の皆は絶好のタイミングで援護射撃をしてくれた。わたしと違ってそんな事を予想なんてしょうがない偽者のわたしは、突然目の前へ放たれた攻撃に歯噛みするかの様な表情を見せて立ち止まる。そこへわたしは斬撃と打撃の連打を叩き込んで怯ませる。

 

「それに今のわたしはここまで偽者をたくさん作られてちょっと怒ってもいるんだ。だから…今のわたしは、阿修羅すらも凌駕する存在なんだよッ!『デュエルエッジ』ッ!」

 

跳躍し、手を伸ばすわたし。その先にあるのは偽者のわたしが手放してしまった大太刀。それを掴み、全力を込めて横一文字に一閃。その一撃は偽者のわたしの胴体をしっかりと捉えて斬り裂く。

…全力の一撃を放ったわたしが着地すると同時に偽者のわたしは倒れ、消滅していく。

 

「ふっ…こちらもこれで終焉としようではないか!『神をも冒涜せし禁断の理論』…!」

「うん、覚悟するんだね偽者のネプちゃん達!『秘伝忍法・乱れ咲き』!」

「この世界はネプテューヌさん達が…あたし達が守る!『ソルブレイカー!』ッ!」

 

親玉がやられたのが原因か全員一斉に狼狽える偽者のわたし達。それを見逃さなかった異次元組の三人は同時に最大の攻撃を放つ。魔力光、炎、そして斬撃。苛烈にして華麗な三重奏をモロに喰らった偽者のわたし達は耐えられる筈もなく、親玉同様に消滅していく。

偽者のわたし達が消滅していく中、静まり返るわたし達。そして、最後の一人が消滅した時--------歓声が、勝利を喜ぶ歓声が上がった。




今回のパロディ解説

・「ファルコム、後ろ後ろ!」
8時だョ!全員集合の中でのネタ…というか観客の野次(?)のパロディ。戦闘中にこのネタいれると妙にシュールな気もしますが、言った本人は真面目なつもりです…多分。

・バジュラ
マクロスFrontierに登場する超時空生命体の事。やられた個体はその情報を群れ全体にフィードバックするのがバジュラなので、作中での状況とは結構違いますね。

・ネクストフォーム
超次元ゲイムネプテューヌVⅡで登場した守護女神四人の新たな力の事。あくまでメタ発言としてネプテューヌが言っただけで、本作中ではネクストフォームは登場しません。

・「〜〜今のわたしは、阿修羅すらも凌駕する存在なんだよッ!〜〜」
機動戦士ガンダムOOの敵メインキャラの一人、グラハム・エーカーの名台詞の一つ。このネタは発見だけでなく、場面自体も少しパロってみました。どうでしょうか?


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第五十七話 守護女神として

「道を開けい!女神様の凱旋じゃあ!」

 

プラネテューヌ教会に響き渡る声。その声の主は勿論、プラネテューヌの女神であるわたし。地下プラントの防衛と偽者のわたしの討伐を果たしたわたし達は無事戻ってきたのだった。

…と、ここまでは特に注目する点もないし、この後わたしの台詞について突っ込みが入ったり苦笑いが発生したりすればいつも通りの展開何だけど…今回は違った。

 

「遂にパープルハート様がお帰りになったぞ!」

「ネプテューヌ様、この度はお疲れ様でした!」

「女神様、まだ帰還を知らぬ者にもお達しを!」

 

バーン!と扉を開けてわたしが叫んだ直後、初対面の人が着いてくるのは困難だと巷で噂のわたしのテンションに同調する職員の皆。わたし自身はいつものノリで言っただけだし、実際わたし一人がハイテンションで叫んでるだけならボケで済むんだけど…まぁ、れっきとした職員が揃ってこんな事言いだしたら…軽い騒ぎになるよねぇ。

 

「め、女神様が戻ったって!?」

「あ…た、確かにそう言われるとあの少女には見覚えが!」

「となると地下プラントを破壊しようとしたパープルハート様は一体…」

「……何か面倒な事になっちゃったなぁ」

『その発端がそれ言う(です・か)!?』

 

パーティーメンバーから総突っ込みを受けるわたし。た、確かにわたしのボケが原因であるけどさ…こんなの予想出来る訳無いじゃん!だってわたし記憶喪失のままだよ!?職員の皆のキャラとかよく知らないよ!

 

「これはそう簡単に収集つきそうにないね…ネプテューヌさん、号令かけてみたらどう?」

「号令?うーん…遊びの音頭取るのは得意だけどこういう号令かけた事ないしなぁ…」

「でもこのままじゃ色々面倒でしょうが…」

「な、何なんですかこの騒ぎはー!o(`ω´ )o」

「この特徴的な台詞は…いーすん!?」

 

教会の奥から現れたのは何といーすん。それを見た職員の皆は邪魔にならない様に(浮いて移動してるからそもそもあんま邪魔にならない気もするけどね)移動し、その流れで若干静かになる。おぉ、いーすん凄い…。

 

「ネプテューヌさん達とプラネテューヌ担当の方々が居るという事は、地下プラント防衛と偽者のネプテューヌさん退治は成功したんですね(^ ^)」

「はいです。職員の皆さんが協力してくれたおかげです」

「そうでしたか。ではやはり腕の立つ者を向かわせて正解でしたね( ̄∀ ̄)」

「いーすんが指示したの?…って、あ…そう言えばいーすんってプラネテューヌの教祖だったね」

 

いーすんと話しながら職員のおにーさんが避難指示をしに来た時の事を思い出すわたし。いやーわたしが実は女神だったってのも結構インパクトあったけど、いーすんが教祖だったってのも負けず劣らずインパクトあったよね。…って、あれ?何か忘れてる気が……

 

「…あの、いーすんさん…お留守番はどうなったです…?」

「あ!それだよこんぱ!いーすんまさかお留守番ボイコットしちゃったの!?」

「してませんよ…こんぱさんに渡された鍵できちんと戸締まりしてからここに来たんです(´・ω・)」

「戸締まりって…その身体じゃ大変そうね」

「えぇ、鍵をかけるのは一苦労でした…(;´д`)」

 

頑張ればポケットに入っちゃいそうな位ちっちゃいいーすんにとって鍵閉めは大変だったらしい。いーすんが鍵相手に奮闘してるシーン見たかったなぁ…。

 

「まぁそれはともかく、一体何について騒いでいたんですか?(・・?)」

「ちっちっち、騒いでたんじゃなくて讃えてたんだよ。約二十人の眷獣ならぬ眷人を従えるわたしをね!」

「いつからお前は真祖になったのだ…」

「あはは…じゃあわたしが代わりに説明を…」

 

MAGES.に突っ込まれてるわたしの代わりに説明をしてくれるマベちゃん。その間にこんぱとあいちゃんがいーすんについてファルコムに教えていた。やー皆もう説明には慣れたものだねぇ。

 

「……で、ネプちゃんのボケに皆さんが乗っちゃってこうなった訳です」

「そういう事ですか…ネプテューヌさんはともかく職員は皆れっきとした大人だというのに…(ーー;)」

「まーまーここは女神のわたしに免じて一つ許してあげてよ」

「騒ぎの原因がそれを言いますか…まぁ今回は大目に見るとします。これはネプテューヌさん…というか信仰している女神様が国を破壊しようとしていると思って内心不安だった事の反動という側面もあると思いますし、今まで不在だったわたしも偉そうに出来る立場ではありませんから( ̄^ ̄)」

 

仕方ない、って感じの表情を見せるいーすん。いーすんが今言ったけど、今までここは女神どころか教祖もいなかったんだよね。わたしもいーすんも訳ありだったとはいえ、職員の皆には大変な思いさせちゃってたんだろうなぁ…。

 

「そう言えば、遂にねぷねぷはわたし達以外に女神様だって事を教えたですね」

「教えたって言うかバレちゃった、って感じだけどね」

「しかしほんとよくねぷ子が本物だって分かったわよね。こんなちゃらんぽらんな子なのに」

「それはきっとねぷねぷが女神様らしく職員さんを助けてあげたからですよ」

「何だかんだネプテューヌさんは女神化する前でもある種のカリスマ性みたいなものもってるしね」

「そう言われるとちょっと照れ臭いね…」

 

こんぱとファルコムも言葉を聞いて頬をかくわたし。カリスマ性なんて言われてもわたしは単に自分の心に忠実なだけだし、職員のおにーさんを助けたのも助けなきゃ、って思っただけだからそうやって狙ってない所を褒められると何かむず痒いんだよね。

 

「記憶がなくとも女神としての有り様を持ち続けているのは良い事ですよ。…ですが、分かっていますかネプテューヌさん(´-ω-`)」

「分かってるって何を?」

「正体が周りへ知られた、という事はつまり今までとは同じ立ち振る舞いが出来なくなる事もあり得る、という事です(-_-)」

 

いーすんの言葉を聞いてそう言えば、と思うわたし。前にノワールにはそれっぽい事を注意されてたし、実際女神の皆はたまに『女神として』行動していた事があった。

 

「うーん…まぁでもこれってもうどうしようもないよね?」

「それはそうだろう。経緯はどうあれ知られてしまった以上それは変わらない事実だ」

「だったらそこ後悔しても意味ないよね。っていうかそもそもあんま後悔してないし」

 

そう、わたしは別に後悔してなんかいない。自分が女神だとバレたくないからって職員のおにーさんを助けなかったり、囮になろうとしなかったりしたら、そっちの方がわたしは後悔すると思うし。第一、話数的にもそろそろバラしても良い時期かなーとか思ってたもんね。

 

「なら良いですが…教会や国民の前では女神らしい行動をするんですよ?(^_^;)」

「いーすんさん、ねぷねぷにそれは無理な相談ですよ」

「えぇ、ねぷ子には無理よね」

「二人共わたしの事なんだから勝手に言わないでよ…内容はその通りだけどさ」

「ですよね…まあ、昔のネプテューヌさんも記憶以外はあんまり変わらないので実際にはそれで構わないんですけどね( ̄∇ ̄)」

 

しれっとちょっとびっくりな事を言ういーすん。…我ながら記憶失う前とあんまり性格が変わらないのはちょっとどうかと思うよ…どんだけわたしの性格は精神に根付いてるのさ…。

 

「あ、じゃあネプテューヌさん。ネプテューヌさん今から教会の人達に色々説明するの?」

「え、今?」

「うん、だってほら」

 

ファルコムの言葉に反応して振り返るわたし。するとそこには…

 

『……!』

「ねぷっ!?なんか思いっきり注目されてる!?」

「あはは…他の国と違ってネプちゃんはずーっと国に戻ってないって思われてたからだろうね…」

「どうせ今後もゆっくりする訳にはいかないんだ、ここできちんと説明した方が良いだろうな」

「んー…じゃ、そうしようかな」

 

きょろきょろと教会の中を見回してから、皆が見易そうな場所に移動するわたし。わたしがそこへ向かうと同時に…えっと、モーゼの海だっけ?…の様に左右に分かれる職員の皆。これにはわたし達パーティーメンバーも苦笑いだね。

そして、立ち止まった後わたしは反転して教会の皆の方を向く。

 

「こほん…さぁ皆集まって!ちびねぷ子ちゃんが始まるよー!」

『……は、はい?』

「あ…ご、ごめん今の無しで!って言うか忘れて!」

 

スベった。完全にスベった。

…うん、流石に今のはボケるタイミングを計り間違えたとしか言い様がないね…。閲覧してる皆もこれには触れないでよ?…いや、うんほんと触れないで下さい……。

 

「ネプテューヌさん、今回ばかりは真面目に話してみては…?(ーー;)」

「ま、真面目に話したらもうそれわたしじゃないよ!…こうもスベるなら最初の一言位は真面目に言った方が良かったかもってちょっと思ったけどさ…」

「めげちゃ駄目ですよ、ねぷねぷ」

「こんぱ…だよね、じゃあ気を取り直して…さぁ皆さんご静聴!皆大好きネプテューヌの知られざる冒険と今に至るまでの経緯、聞き逃しちゃ駄目だよ!」

 

やっぱりわたしに真面目な話なんて似合わない。実際MAGES.に空気の破壊者(シリアスブレイカー)なんて二つ名を貰っちゃう位だもんね。だからわたしはいつものテンションで、ちょくちょくボケを挟みながらわたしに何があって、何をしてきたかを教会の皆に話す。普段通りに、でもわたしなりに真剣にわたしの話を。その間、職員の皆も真面目にわたしの話を聞いてくれていたのだった。

 

 

 

 

大勢の人の前で話すのって緊張するよね。……え?君は緊張なんて知らない子でしょ、って?そう思った人は今すぐその認識を改めるんだね!なーんかわたしの事勘違いしてる人が多いけどさ、わたしだって物凄く強い敵と戦う時は怖いし何人もの前で話す時は緊張するんだからね?そう感じる気持ちよりやる気とか元々のハイテンションとか関係ない楽しい事とかへの気持ちの方がずっと強いから殆ど気にならないだけだもんね。だからそこんとこ間違えてた人はちゃーんと認識を改めてよね!…勿論本作におけるわたしは、だけどさ。

…なんでこんな話してるんだっけ?ええと…あーそうそう!職員の皆に話する中でちょっと緊張を感じたからだったよ。つい今さっき全部話終わったんだよね。

 

「あー疲れた…長話って大変だね」

「お疲れ様ねぷ子。結構ちゃんと話せてたわね」

「当たり前じゃん、ボケるとこはボケて締めるとこはたまに締めるのがわたしだもん」

「たまにって…本当にその通りだから逆に突っ込み辛いわね…」

 

一旦さっきまでいた場所を離れたわたしはパーティーメンバーの所へ行く。注目されっぱなし、話しっぱなしだと結構疲れるんだよね。

…因みに、職員の皆はというと……

 

「記憶喪失だったなんて…大変でしたね女神様!」

「敵対していた他国の女神様と友達になるなんて流石!」

「パープルハート様を信じて職員を続けていて良かった…」

 

なんか感銘を受けていた。うーん…ダンジョンにいる時から思ったけど、うちの職員ってかなり多感だよね。別に感動話したつもりはなかったんだけどなぁ…ま、いっか。

 

「ネプちゃんは大人気だったみたいだね、四女神の中じゃ一番カリスマ的指導者だったのかな?」

「わたしがカリスマ?照れるなぁ…ま、それ程でもあるけどね!」

「…カリスマ的指導者、というより実務能力が欠落しているのを辛うじてカリスマ性で補っていただけかもしれんな」

「た、確かに他の女神様より勢いとノリで大事な事決めちゃいそうだもんね…」

「皆さんネプテューヌさんの事をよく分かってますね…ほんとにその通りでしたよ…( ;´Д`)」

 

なんか皆が過去のわたしをdisったりそれにうんうんと頷いてる様な感じがするけど気にしなーい、だってわたしはカリスマ的指導者だもんね!

よーし、せっかくの機会だしここは一つ女神らしい事するよー!

 

「職員の皆ー!今ならわたしが直々に相談とか悩み事とかに乗ってあげるよ、何かある人ー!」

「うちの女神様がいつも注意してるのにまるで聞いてくれないのですが…(¬_¬)」

「……な、何かある人ー」

 

勢いのまま即興企画を始めたらいきなりいーすんに鋭い一撃を喰らうわたし。い、いーすんって何だかんだ抜かりがないっていうか油断ならないよね…。

いーすんの言った事を真面目に何とかしようとしたら色んな意味で大変だからスルーするわたし。すると今度はわたしの思惑通り、職員の皆から矢継ぎ早に声が上がる。

 

「はい!最近書類仕事の効率が落ちてしまったのですがどうすれば宜しいでしょうか!」

「書類仕事を最初からやらなきゃ効率なんて関係なくなるよ!次!」

「中々お金を貯蓄出来ないんですが何か良い手はありませんか!」

「そしたらわたしに預ければ良いんだよ!ちゃんと倍にして返してあげるから、ね!はい次!」

「主人公の片割れがちゃんとキャラの立った主人公になってるか不安です!どうしましょう!」

「そんなの知らないよ!自分で考えなさい!後君は職員さんじゃないんだから即刻退場!次々!」

「今後も可愛いろりっ娘って呼んで良いでしょうか!」

「それはわたしより他の職員さんと要相談だね!…ふぅ、流石わたし、良い仕事したなぁ。という訳でこの企画お終い!好評なら第二回もやるから楽しみにしててね!」

『…………』

 

次々と飛ぶ相談を怪盗ラパン…じゃなくて快刀乱麻を断つ感じに解決していったわたしは袖で額の汗を拭く様な動作をする。なんかこの場にいた全員がげんなりした様な表情見せてたけど…何でだろうね?

 

「…ねぷ子、少しは実務能力も身につけないといつか後悔するかもしれないわよ…」

「そうなの?」

「やっぱり分かってないわね…それはともかく、あんたこの後はどうするつもり?

「どうするって…そりゃ他の大陸にもお手伝いに……あ」

 

言っている途中であいちゃんの言いたい事を理解するわたし。今わたしが他国に行くって事はつまり、またわたしが…パープルハートがプラネテューヌから離れる事になる。今までならそもそもわたしが女神だって認識されてなかったから問題なかったけど、皆が知った以上さらっとまた離れる訳にはいかないよね…いーすんが言ってたのって、こういう事かな…。

 

「…やっぱ、もう少しここに女神として残った方が良いかな?」

「そう、ですね…ネプテューヌさんが不在だった間の分の職務の埋め合わせも必要ですし(´・ω・`)」

「職務かぁ、気が重いなぁ…でも仕方ないか。そういう訳だからごめんね、わたしはお手伝い行けないや」

 

自分からちゃんと話した以上、『それじゃ後宜しく!じゃねー』とはいかない…っていうか、いくらわたしでも流石にそれはいけないって分かる。それに、ノワール達も女神としての仕事しろって言うだろうからね。

パーティーメンバーの皆もそれは分かっているのか、特に異論もなく頷いてくれる。…けど、意外な所から声が上がった。

 

「…他国に行ってもらっても構いませんよ、パープルハート様」

「……え、良いの?」

「…と言う事は、やはり本心では行きたかったのですね」

「あ、いやまぁ…それはそうだけどさ、ほんとに良いの?別にわたしに遠慮とかしなくたっていいんだよ?」

 

声を上げたのは職員の皆。わたしとしてはてっきり残る事に大賛成だと思ったんだけど…。

 

「遠慮なんかしてませんよ、我々はただネプテューヌ様の思う様に進んでほしいと思ってるだけです」

「そうですよ女神様。というか、ここで他国の手助けにいかないなんてそれこそ女神様らしくありません!」

「今はイストワール様も戻ってきましたし、今までは私達だけで何とか教会を動かしていたんです。パープルハート様が我々の信仰するパープルハート様のままだって分かった今なら、パープルハート様が戻ってくるまで何とかする位余裕ですよ!」

「そ、っか…ありがとね、皆……」

 

過去のわたしはともかく、今のわたしにとって職員の皆は殆どがちょっと前に会ったばかりの人で、軽んじるつもりはないけど友達とかお世話になった人と同格には考えられない。…でも、それでもわたしを信じてわたしを肯定してくれる人達の言葉って凄く嬉しいものだね…。

 

「…じゃ、やっぱりわたしはお手伝いに行かせてもらうね。皆、わたしが戻るまでプラネテューヌを頼むよ!」

『はいっ!』

「良い女神じゃない、ねぷ子…それじゃ、早速行くとしましょ。他国の状況が分からない以上ゆっくりする訳にはいかないわ」

「その事なのだが…私達はプラネテューヌに残ろうと思う」

 

職員の皆との意思疎通も出来て、いざ出発!…と思ったところでMAGES.が残る、と言った。言葉のニュアンス的にマベちゃんとファルコムもっぽいけど…どうしてだろ?

 

「メーちゃん、何か理由があるですか?」

「念には念を、と言う奴だ」

「ネプちゃんの偽者は一人じゃなかった以上、まだどこかに潜伏してるかもしれないからね」

「あたし達三人なら偽者一人二人位だったら対処出来るし、ネプテューヌさん達は気にせず行って」

「そういう事なんだね…うん、なら三人も気を付けてね」

 

三人の言う事はごもっともだったから反論する事なく頷くわたし達。それに三人なら任せても安心だからね。

そうしてわたし達三人は別の大陸に、MAGES.達三人はプラネテューヌ防衛の為に別れる。結構疲れたしいつもなら行くのは明日になってからにしたい、って思うわたしだけど…今は職員の皆が、MAGES.達が頑張ろうとしてるし、ノワール達守護女神の皆が、イリゼがそれぞれの場所で頑張ってるんだから、普段みたいにだらだらしようとは思わない。それに、だらだらするなら今じゃなくて、四大陸全部解決してから皆でだらだらしたいからね。

だからわたしはこんぱとあいちゃんと一緒に教会を出る。わたし達の目的はまだまだ完遂してないんだから、ね。




今回のパロディ解説

・眷獣、真相
ストライク・ザ・ブラッドに登場する吸血鬼の王とその吸血鬼の従える魔物の事。吸血鬼ネプテューヌ…原作では絶対にあり得ない展開ですが、悪くない様な気がしますね。

・「〜〜さぁ皆集まって!ちびねぷ子ちゃんが始まるよ!」
国民的アニメ、ちびまる子ちゃんのOPが流れる前に流れる台詞のパロディ。どれだけネプテューヌのキャラを知ってる人達でも、作中の様な事になる事もきっとあります。

・怪盗ラパン
ご注文はうさぎですか?の作中で流れているらしいアニメ及びその主人公の事。怪盗ラパンを断つ…えぇはい、間違えたままだと全く違う意味になってしまいますね。


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第五十八話 惑いと動揺・百合の花

RPGって一度行った街にはもうストーリー上は行く必要の無くなるパターンと複数回ストーリーに絡むパターンとがあるよね。まぁ中にはストーリーに関係しない街が登場する作品とか、街が一つしか登場しない作品とかもあるからあくまで大分けだけどさ。

別にわたしはどっちの方が良い、なんて話をするつもりはないし、どっちも良い所がある事は分かってるよ?…まぁでも、前者も後者も…というかどの場合においても大切なのは街とイベント云々じゃなくて物語そのものの面白さだよね。…って訳で、手抜きせずやるんだよ作者さん!

 

「これで良し、っと」

「何が良し、何です?」

「地の文だよ地の文。上手い事今回の切り出しをしつつ作者さんが手抜きしない様しつつわたしらしいボケにもするという高等テクニックを見事完遂したんだよ、流石わたし!」

「よく分かんないですけど凄いですねぷねぷ!」

「相変わらず突っ込みどころ満載の会話ね…」

 

よく分かってないのに褒めてくれるこんぱと呆れつつもしっかり突っ込みを入れてくれるあいちゃんと褒められた&突っ込みを貰えた事でちょっと気分が良くなってるわたし。今はプラネテューヌの街中から出て他国へと向かう道中、特に何も起こらないしモンスターが襲ってきたりもしないからわたし達はいつも通りに雑談をしながら歩いていた。…まぁ、何かあっても大概それはそれで雑談してるけどね。

 

「それはともかくさ、幸先良いと思わない?最初の一日でプラネテューヌの問題クリアして次向かってるんだよ?」

「確かにそれはそうね。目的の国への移動の時間が省けた分を差し引いても良いペースだと思うわ」

「この調子ならすぐまた皆で集まれそうですね」

 

こんぱの言葉にうんうんと頷くわたし。そして同時に自分の顔が思っていた以上にほころんでいた事に気付く。…もしやわたしって自分で思ってる以上に皆といるのが好きだったり?だとしたら…ちょっとだけ気恥ずかしいけど悪い気はしないかな。

 

「さ、それじゃその為にも早く次の大陸に行きましょ」

「だね。あいちゃん次は誰を手伝いに行くの?」

「誰って…ねぷ子が決めてたんじゃないの?」

「え?」

「え?」

 

おぉーっと、まさかタイミングでのプチハプニング発生だよ。普通こういうのは出る前に決めるべきなのに…もー!これじゃ幸先悪いじゃん!

 

「もー!こういう事は出る前に決めなきゃ駄目だよあいちゃん!」

「いやねぷ子が決める前に教会出てずんずん進んで行ったからでしょうが!あれ見たら誰だって行き先決めてると思うわよ…」

「うっ…それはほら、女神として率先して進む必要があるかなー、とか…」

「あはは…まぁでもあまり進まない内に気付けて良かったです」

 

と、言う訳で道の真ん中…は誰が来たら邪魔だから道の端っこに集まって急遽会議を始めるわたし達。ラステイションへ行くべきか、リーンボックスへ行くべきか、はてまたルウィーへ行くべきか、それが問題だよ。

 

「この場合どこが一番急いで手助けに行く方が良いか、ってのが基準になるけど…特にキツいっていう情報がない以上何とも言えないわね」

「わたしと違って女神化出来る皆なら偽者の一人や二人位普通に倒せちゃいそうだもんね」

「じゃあどうするです?また前みたいに棒を倒して決めるです?」

「今使えそうな棒は無いかなぁ…」

 

すぐに話が行き詰まってしまうわたし達。うーん…今までは元々行き先や目的が決まってたか、決まってなくても選ぶ決め手となる要素があったりしたからあんまり悩む事なく進めたけど、今回はそういう事が無いから困るんだよねぇ。『誰か何か意見出して下さーい』とか『夕飯何食べたい?』とかと同じで『え、いやそう言われると何でも良いっていうか、逆に提案し辛いっていうか…』みたいな感じのアレだよね、アレ。

 

「そうなると…もうこれは行くべき所、じゃなくて行きたい所を選ぶしかないね」

「そう言われてもそれはそれでちょっと困るです…」

「大丈夫大丈夫、少なくともあいちゃんは行きたい所あるでしょ?」

「な、何でそこで私に降るのよ!」

 

ちょっと頬を赤らめるあいちゃん。まぁつまりはそういう事だけど…ほんとあいちゃんはこの事、というか例の人が絡むと分かり易いなぁ。

 

「何でって…そりゃあ、ねぇ?」

「何がねぇ?よ…ならそういうねぷ子はどうなのよ!ラステイション行きたかったりするんじゃないの?」

「それは、まぁ…行きたいっちゃ行きたいけど、すぐ行くよりちょっと期間開けた方がノワールは良い反応してくれそうじゃん?というかじゃああいちゃんは行きたい所ないの?」

「そ、それは…その……ぐっ…ねぷ子のくせに上手い回避するなんて…」

 

悔しそうな様子のあいちゃん。でもこれは仕方ないんだよ、偽者のわたし関連であいちゃんはわたしのメンタルに多段攻撃を仕掛けてきたんだから…いわば女神の天罰だよね。だからってあんま言い過ぎるのは酷いしこの位にするけど。

 

「まぁまぁあいちゃん、もう変に追求したりしないからさ、ここは一つ観念してよ。どっちにしろどこかへは行かなきゃいけないんだからさ」

「わ、分かったわよ…うぅ、覚えてなさいよ…」

「はいはい。こんぱ、慰めてあげて」

「もうしてるですよ〜」

 

いつの間にかこんぱがあいちゃんの背中をさすってた。ほんとこんぱは気が利くし優しいよねぇ、絶対良いお嫁さんになるよ。…あ、でもお嫁さんに行っちゃったらプリン作ってくれたりしないよね…じゃあこんぱはお嫁さんにあげたりはしません!

 

「ねぷねぷー?表情がころころ変わってるですよー?」

「あー、何でもないよこんぱ。それじゃ今度こそ行こっか」

 

あいちゃんの回復を見計らってわたしは決定した行き先…リーンボックスへと向かう。リーンボックスがどういう状況なのか、ベールは困ってるのかどうか、そういう事は分かんないけど…ま、何も無ければ楽だし、何かあれば頑張るだけだよね。

 

 

 

 

「教会前とうちゃーく!」

 

あれから…えっと、時間見てないから正直分かんないけど、多分一時間以上は経ってるんじゃないかな?

わたし達は大陸を移動してリーンボックスの教会まで来ていた。そういえば、他の大陸は色々あって複数回訪れたけど、リーンボックスは一度しか来てなかったね。

 

「あれ?いつもみたいに扉を勢いよく開けて中に入ったりしないですか?」

「あー…ほら、さっきやった時は結構面倒な事態になっちゃったしまたああなるのはちょっと御免かなぁって…」

「ここにはまだねぷ子が女神だって情報は来てないだろうから大丈夫よ」

「そう?じゃあ改めて…お邪魔しまーす!」

 

壊さない程度に、でもインパクトがある感じに扉を開けるわたし。別に普通に開けたって良いんだけど、やっぱ何度もやってる以上続けたいのが人の性だよね。わたし女神だけど。

 

「お邪魔するわ」

「お邪魔するです〜」

「おや、皆様久しぶりですな」

 

わたしに続いて入ってくるこんぱとあいちゃん。そしてわたし達を迎えてくれたのは前に来た時同様イボ…イボ…ええと、何だっけ…まぁ取り敢えず言ってみよっかな。

 

「久しぶりーイボ治療さん」

「イボ治療!?…何故イボ以降を覚えてくれないんじゃ…というかそもそもイボではなくイヴォなのじゃが…」

「悪いわねイヴォワール。ねぷ子は悪気があるんじゃなくて覚えられないだけだから分かってあげて頂戴」

「それ遠回しにわたしを馬鹿にしてない…?」

「はは…それで、どの様なご用事ですかな?それともやはりグリーンハート様にお会いに?」

 

わたしとあいちゃんのやりとりに苦笑した後話を進めてくれるイヴォ痔…じゃなかった、ええと…まあ良いや。この人の名前は出来るだけ早めに覚えるとして、話に乗って進めるとしようかな。

 

「そうだよ、ベールって今いる?」

「部屋におりますぞ。お呼びしますかな?」

「自分達で行くから大丈夫ですよ」

「では儂はお茶菓子でも用意するとしますぞ」

「今度は毒入れたりしないよね?」

「当たり前じゃよ。敬愛するグリーンハート様の為にももうあの様な事は絶対にせぬ」

 

冗談半分で言ったわたしに対し、思った以上に真剣な様子で返してくれるイヴォ爺(仮)。…うーん、これなら安心出来るしその点についてはありがたいけど、これボケ殺しになってるんだよね…。

そんなこんなでイヴォ爺と別れ、ベールの部屋へ行くわたし達。

 

「えっと、ここを真っ直ぐだっけ?」

「ここは左でその奥よ」

「流石あいちゃん、ベールの事よく分かってるぅ!」

「う、うっさい…」

 

あいちゃんをちょいと弄りつつ進むわたし。あいちゃんの言う通り、左に曲がって真っ直ぐ行ったら他より豪華な扉が見えてくる。

 

「着いたですね。それじゃノックして…」

「駄目だよこんぱ!ノックしたらハプニング発生フラグが折れちゃうじゃん!」

「何でハプニング求めてるのよ…全く、ベール様に迷惑かけるんじゃないの。ベール様、お手伝いに来ました」

 

ハプニング発生フラグをへし折る様にノックをして部屋に入るあいちゃん。こんぱは勿論、わたしも仕方ないので普通に入る。

 

「まぁ、あいちゃん。わたくしの為に来てくれるなんて、とっても嬉しいですわ」

「い、いえ、ベール様の為ならこの位…」

「おーい、わたしとこんぱも居るよー?」

「分かってますわネプテューヌ、コンパさん」

 

部屋へと入ると、丁度ベールがPCを操作している最中だった。やっぱネトゲかなー…と思って液晶画面を覗くと、そこにはたくさんの文字と日付や時間の書かれた列。これは…

 

「…2ちゃんねる?」

「えぇ、先程立てたスレの確認ですわ」

「な、何でスレ立てなんてしてんの…?」

 

ベールのキャラ的に真面目に偽者探しを!…何て事しないのは分かってたけど…スレ立てって…ベールってかなりわたしとどっこいどっこい何じゃ……。

 

「何でも何も、偽者の情報収集に決まってますわ」

「あのー…それなら教会のページとかベール様の個人ブログとかで訊いた方が良いと思うですけど…」

「それならば真面目な職員がもうしていますわ。その上でこの様な場所でも情報を集め、多方向から情報を吟味するんですのよ」

「そういう事ですか…流石ベール様!しっかりしつつも柔軟な対応ですね!」

「単に自分の好きな分野でやりたかっただけだと思うのはわたしだけかなぁ……」

 

わたしの呟きが刺さる筈もなく、自慢気に胸を張るベールとキラキラした目でベールを見つめるあいちゃん。…これはわたしが突っ込み役をしなきゃいけなくなる気がする…うぅ、こうなるならイリゼにも着いて来てもらうべきだったよ…。

 

「じゃあ、成果はあったですか?」

「ちらほらと出て来てはいますけど…現段階ではまだ情報不足と言わざるを得ませんわ。取り敢えず明日までは待つ方が良さそうですわ」

「じゃあその間どうすんの?外出て人に訊く?」

「どうしても、と言うならそれでも良いですけど…今日は休んだらどうですの?」

 

そう言ってベールは窓の外を指差す。そこには暗い空とお星様。…あー…そう言えばリーンボックス着いた時点でもう日が暮れてたんだった…。

割と早めに済んだとはいえ、プラネテューヌで結構消費した事もあってわたし達はベールの言う通り、今日は休む事にした。わたしは別に休むのが嫌いな訳じゃない…というか出来るならば出来る限り休んでいたいのがわたしの本心だから、ここで休むのは別に良い。……別に良いんだけどさぁ…

 

「はふぅ…やはりあいちゃんを抱っこしていると落ち着きますわ」

「わ、私は落ち着けませんよベール様ぁ!」

「良いではありませんの、それとも…あいちゃんはわたくしに抱っこされるのは嫌ですの?」

「そ、そんな事ある訳ないじゃないですか!……あ…」

「ふふっ、ならば相思相愛ですわね。ぎゅー」

 

ベットの上であいちゃんを膝の上に乗っけて、後ろから抱き締めるベール。恥ずかしがりながらも凄く嬉しそうにしているあいちゃん。もう甘々だった。チョコレートに蜂蜜とガムシロップをかけて砂糖をまぶした位甘々だった。

 

「何で毎回毎回二人はそんなに百合百合出来るのさ…」

「それはわたくしとあいちゃんが一億と二千年前から愛し合ってる関係だからですわ」

「…何だろう、今はちょっとパーティーメンバーに男の人が欲しくなったよ……」

「あら、ネプテューヌは思春期なんですの?」

「そういう事じゃないよ!?今の流れからはどう考えてもそうはならないでしょうが!」

 

案の定突っ込み役となってしまったわたし。むむ、こうなればこんぱを頼るしかない!

 

「こんぱ!あの百合百合フィールド何とかして!そうじゃなきゃわたし達多分胸やけしちゃうよ!」

「わ、わたしに言われても…うーん……」

「どう?何か良い案浮かびそう?」

「うぅん……あ!良い事思い付いたです!」

 

ぱぁっ、と顔を輝かせてにっこり笑うこんぱ。これは何かとっても良い案が浮かんだ様子。普段はほんわか発言とかテンパりとかで霞みがちだけど、こんぱは結構常識人だしこういう時は頼りになるよね。うんうん、こんぱを頼って正解だったよ!

と、そう思っているわたしに対し、こんぱは手招きをしてくる。その手招きに応じるわたし。すると…

 

「よいしょっ、と…」

「え?いや、あのこんぱ…どうしてわたしを膝の上に乗せてるのかな…?」

「ぎゅーっ、ですっ」

「こ、こんぱ!?わたしの言葉聞いてる!?」

 

後ろから抱き締められるわたし。お尻にはこんぱのぷにぷにな太ももの、首筋と後頭部にはふわふわむにむにな胸の感触が伝わってくる…ってそうじゃないよ!ど、どういう事!?こんぱは何を考えてるの!?

 

「あらあら、そっちも仲良しですわね」

「な、何してるのよ二人共…」

「ふふっ、目には目を、歯には歯を、百合百合には百合百合を、です♪」

「とんでもない発想に辿り着いてた!?」

 

ベール&あいちゃんと同じ状態になれば良い、というのがこんぱの発想の様だった。うん、確かに向こうと同じ状態になれば気にはならなくなるけど…それはわたしの思ってた解決じゃないよ!…こんぱの天然さ半端ない……。

 

「ねぷねぷはちっちゃくて可愛いですぅ。ちょっと小鳥遊さんの気持ちが分かったです〜」

「そっちの道に目覚めちゃ駄目だよ!?絶対駄目だからね!?」

「絶対、を言ったら逆の事をしろの合図だとか言いますわね」

「押すなよ!?ネタでもないよ!?あーもう!何とかしてよあいちゃん!」

「はきゅうぅぅ…ベール様、暖かいですぅ……」

「あいちゃぁぁぁぁん!あいちゃん頼むから戻ってきてぇぇぇぇぇぇっ!」

 

ベールの部屋にわたしの絶叫がこだまする。嬉しそうにわたしを抱き締めるこんぱ、抱き締められて蕩けている(勿論物理的じゃないよ)あいちゃん、そしていつも通り手のつけられないベール。三人にとっては楽しい時間かもしれないけど、わたしにとっては阿鼻叫喚状態。しかもそれがその後も暫く続くのだった。うぅぅ…誰か、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!




今回のパロディ解説

・ラステイションに行くべきか〜〜それが問題だよ。
名作、ハムレット内での名台詞の一つ。今まで多種多様なパロディネタをしてきましたが、まさかウィリアム・シェイクスピア氏の作品からするとは自分でも驚きです。

・「〜〜一億と二千年前から愛し合ってる〜〜」
創聖のアクエリオンシリーズ及び同名の主題歌のフレーズのパロディ。勿論ネタであり、アイエフとベールにそんな過去があったりはしないので期待はしないで下さいね。

・小鳥遊さん
WORKING!!の主人公、小鳥遊宗太の事。基本ブランがいるせいであまりスポットが当たる事はありませんが、ネプテューヌも普通にちっちゃくて可愛いロリっ娘ですよね。

・押すなよ!ネタ
ダチョウ倶楽部の鉄板ネタの一つの事。作中で言った通り絶対と言ったらそうしろ、という合図らしいですね。…と、割と知ってそうな豆知識をパロディにしてみました。


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第五十九話 探索と再会

リーンボックスは四大陸の中で一番過ごし易い、っていう話をどっかで聞いたけど、わたしはそれが割と合ってると思う。理由はいくつかあるけど…やっぱりまずは環境。プラネテューヌより自然が身近で、ラステイションよりも綺麗で、ルウィー程厳しくもない。それがリーンボックスの売りらしいし、現にリーンボックスで迎える朝は気持ちの良いものであったけど…

 

「うぅぅ…昨日は酷い目にあった……」

 

わたしの起床後の第一声は、こんな感じだった。いや、だってねぇ…寝る前の数時間が大分アレだったし……。

 

「わたくしは楽しかったですわよ?あいちゃんといちゃいちゃ出来たのは勿論ですけど、貴女とコンパさんの絡みも見ていて中々微笑ましかったですし」

「…ベールってある意味ノワールやブランよりもずっと厄介だよね」

「一筋縄ではいかないのが大人の女性というものですわ」

「わたしからすれば大人なのか子供なのかよく分からないのがベール何だけどなぁ…」

 

わたしとベールは女神の中じゃゲーム大好き不真面目組として気が合うし、別に仲悪かったりはしないけど、時々こうなるんだよね。うーん…ベールもわたしと同じ引っ掻き回す側だからかな?今回の場合はわたしじゃなくて誰だったとしても精神持ってかれる気がするけど。

 

『ふぁぁ……』

「あちらの二人は眠そうですわね」

「そりゃそうだよ…片方は普段やらないような事長時間やってた訳だし、もう片方はベールに一晩中ホールドされてた訳だし」

 

あちらの二人、とはこんぱとあいちゃんの事。ここまで…というか前話を読んでくれた人ならどっちがどっちなのかは分かると思うから説明は割愛!ついでにしれっと前話の宣伝もしちゃったね!

 

「では、眠気覚ましに紅茶は如何かしら?」

「紅茶?眠気覚ましと言えばコーヒーじゃないの?」

「眠気覚ましに一役買うカフェインは紅茶や緑茶にも入っているんですのよ?」

「あ、じゃあ頂きます…」

「わたしも欲しいです…」

 

と、いう事でベールに淹れてもらった紅茶を飲むわたし達(わたしも眠くはなかったけど貰った)。わたしは普段紅茶なんて飲むタイプじゃないけど…そんなわたしでも分かる位ベールの淹れてくれた紅茶は美味しかった。淹れ方も何か優雅さを感じられたし、ベールは紅茶には凝ってるのかな?

 

「ふぅ…ありがとうございますベール様、ちょっと目が覚めた気がします」

「今度美味しい淹れ方を教えてほしいです」

「ふふ、いつでも教えて差し上げますわ」

 

紅茶が少し熱めだった事もあって、段々と目が覚めてくるこんぱとあいちゃん。その後暫く雑談をした所で、わたしはある事を思い出す。

 

「…あ、そう言えばさベール。昨日やってた情報収集は進展あった?」

「あぁ、そういえばそうでしたわね。少し待って下さいまし」

 

そう言ってベールはPCを操作、慣れた手つきで例のサイト画面を開く。

 

「…結構たくさん情報が載ってるですね」

「えぇ、ですが現段階では些か信憑性に欠けますわね…何件か偽者ではなく本物のわたくしの情報もありますし」

「じゃあどうするんですか?もう少し待ってみます?」

「いえ、その為に他の職員にも調べさせていたんですもの。わたくしの予想ではそろそろ…」

 

と言いつつベールは部屋の扉の方を向く…と、その瞬間トントン、という音が扉からし、続けてチカの声が聞こえてくる。…え、まさかわたくしの予想ってこれ?タイミング良過ぎない?

 

「お姉様、偽者の情報を纏めて書類に致しましたわ」

「ご苦労様、チカ。偽者のわたくしによる被害の報告はありまして?」

「いいえ、今の所はありませんわ。…しかしお姉様の姿を無許可で借り、お姉様に仇なすとは何と不届きな…見つけたらアタクシの手で制裁を加えたいものですわ…!」

「あ、相変わらずこっちはこっちでベールLOVEだね…」

 

ベールの事をお姉様と呼んだりベールといる時はベールと同じ口調になったりする辺り、あいちゃんに負けず劣らず…というかあいちゃんと違って羞恥心がない辺り、こっちの方が凄いのかも…良い意味でなのか悪い意味でなのかはチカの尊厳と私の身の為に伏せておくけどね。

書類を受け取ったベールはペラペラと捲って読んだ後、書類とPCの画面を交互に見始める。その顔はさっきまでの穏やかな様子が少し身を潜めて、その分真剣な様子が表れていた。

 

「お姉様、どうですか…?」

「…これならある程度場所を絞り込めそうですわ。勿論、絶対居るではなく居る可能性が比較的高い、止まりですけど」

「それでも十分だよ。リーンボックスを片っ端から探してたら何日かかるか分かんないし」

「ま、そうですわね」

 

わたしの言葉に頷いた後、ベールは書類の中にあったリーンボックス領の地図にペンで三つの丸を描く。流石にこの流れでこの丸の意味が分からない人はこの場にはいない。この丸は勿論……

 

「ここにベールさんの偽者がいるですか?」

「そういう事ですわ。先程言った通り絶対ではありませんけど…ネトゲのゲリラボス位には出てくる見込みがありますわ」

「確率が高いのか低いのか分かり辛いですよそれは…」

「分かりましたわ。では早速教会の者を…」

「いえ、貴女含め職員はここで通常業務をしていて下さいまし」

 

すぐに部屋を出ようとしていたチカを止めたのはベール。それに対しチカは怪訝な表情を浮かべる。まぁそりゃそうだよね、今の所目立った被害はないとはいえ、非常事態が起こってるのに通常業務を…なんて言われたら、わたしでも頭の上にはてなマーク浮かべちゃうもん。

ベールも理由を言う必要がある事は分かっていたのか、チカやわたしが疑問を口にする前に答えてくれる。

 

「まず、何度も言う通りこの三ヶ所は比較的可能性が高い、と言うだけであって居ると断定出来ない以上、教会の者まで動かしてここを薄くするのは得策ではありませんわ」

「確かにそれはそうですね、複数箇所で発見されてるって事はその場にずっと留まってる訳じゃない訳ですし」

「それに教会が動くというのは国民の不安を煽りますわ。噂は侮れないもの、既にちらほらとわたくしの偽者の事が風の噂で流れてる中教会が動いたらどうなるか、貴女ならば分かるでしょう?」

「そう、ですわね…。危うく軽はずみな指示を出してしまう所でした、申し訳ありませんお姉様…」

「構いませんわ、チカが教祖としては新人である事は十分に分かっていますもの」

 

流石にベールも女神、と言った所かかなりしっかりとした説明をしてくれた。いやー、ちょっとこれはわたしには無理かなぁ、記憶喪失のまんまだしさ。

 

「じゃあさベール、その三ヶ所にはわたし達だけで行く?」

「えぇ、というかネプテューヌ。さも当然の様に『わたし』達と言ってましたけど、女神化出来ない状態でも大丈夫ですの?」

「もっちろんだよ。実際プラネテューヌで偽者のわたし倒してきた訳だし」

「ならば戦力として数えられますわね。相手は偽者とはいえわたくし、あいちゃんもコンパさんも油断大敵ですわ」

 

そしてわたし達は教会の人に用意してもらった朝食(一応ベールに毒味してもらったよ)を食べた後、三つの場所を確認して外へ出る。

 

「偽者のベールと戦うのは二度目だよね。一回目は偽者というかマジェちゃんが化けた姿だったけどさ」

「あの時よりわたし達は強くなってるです。だから今回は前より戦える筈です」

「士気は十分ですわね。…しかし、あいちゃんは一体どこへ…?」

「あいちゃんならチカさんに呼ばれてたですよ」

 

わたし達が外に出る数分前、あいちゃんはチカに呼ばれて…というか、肩を掴まれてどこかへ行ってしまった。ま、まぁあの二人ってなると内容は予想出来るけどね。…あいちゃん無事戻ってくるかなぁ…。

なんて考えていたら、丁度あいちゃんが戻ってくる。

 

「待たせたわね、皆」

「大丈夫ですわ。それより何の御用でしたの?」

「え?いや、まぁ…わざわざベール様が気にする事ではないですよ、いやほんとに」

「そう、ですの?」

「あいちゃん、今回はしっかり戦わないとチカがテレポートしてくるかもね。キャラや口調的に某レベル4さんっぽいし」

「止めなさいよねぷ子、ほんとに来たらどうすんのよ…」

 

妙に察しの悪いベールと何ともいえない表情を浮かべるあいちゃん。こんぱは元々こういう事に疎い事もあって現状一番分かってるのはわたしっぽかった。分かったからってだから何だ、って話だけどね。

まぁ、そんなこんなで目的の三ヶ所へと向かうわたし達だった。

 

 

 

 

「あ、見て見て!子猫見つけたよ子猫!」

「ねぷねぷ、子猫さんを追いかけてどっか行っちゃ駄目ですよ?」

 

リーンボックスの教会を後にしてから数時間後、わたし達は木々が左右に並ぶ道…林道って言うのかな?…を歩いていた?…あぁ、もう子猫見えなくなっちゃった……。

 

「ベール様、次の目的地まで後どれ位何ですか?」

「後五分もあれば着く筈ですわ、実際に歩いて調べた訳ではないのですけどね」

「次こそベールの偽者居るといいな〜」

 

わたし達は既に一ヶ所…三ヶ所の中で教会に一番近いダンジョンへと訪れていた。…けど、そこは空振りだったんだよねぇ。二ヶ所目へ向かってる事から分かると思うけどさ。

 

「そういえば、ベールさんは偽者さんをまだ見かけてないですか?」

「見かけてませんわ。見かけてたらその時点で倒しますもの」

「…実は本物のベールは別の場所にいて、ここにいるベールの方が偽者だったりして……」

「あら、よく分かりましたわねネプテューヌ。では覚悟するのですわ」

「ちょっ!?槍の先っちょでツンツンするの止めて!地味に痛いしこれプラネテューヌであいちゃんにもやられたネタだから!」

 

突っ込みの代わりに結構酷い仕打ちが帰ってきた。…ベールは怒ってるって訳じゃないっぽいし、ギャグが通じない訳でもない…どころかむしろノってくれてるからそれは嬉しいけど…ちょっとこれは悪ノリにしてもキツいって…。

 

「ふふ、やはりわたくしとあいちゃんは相性が良いんですのね。まぁそれはともかく、偽者ではありませんので安心して下さいまし」

「わ、分かってるよ…うぅ、こんぱ手当てしてー」

「この位なら…痛いの痛いの飛んでけ〜、です」

「いやそれは手当てでも何でも…ってあれ、何だかほんとに痛くなくなってきた様な……」

 

どう見てもこんぱが医療キットを使った様にも、治癒魔法を使った様にも見えない。なのに痛みが引くって…も、もしやこんぱは精霊とか天使なの!?こんぱちゃんマジ天使なの!?

 

「単純なネプテューヌとほんわか雰囲気のコンパさんだと相乗効果であんな事が起きるんですのね…」

「ある意味羨ましいですよ、ほんとにある意味で…」

「ほぇ?何の話をしてるですか?」

「何でもないわ、それより目的地へ…って、あら?」

 

雑談を終わらせて先を進もうとしたあいちゃんがいきなり止まる。これは確実に何かあったパターンだね。…なんて思ってたわたしも前を見た瞬間同じく止まる。理由は簡単、道の反対側から一人の少女が歩いてきたからだった。

郊外、特にダンジョンへの道で一人の人と会う事は少ない。ダンジョンに用がある人でも基本は複数人で行くし、そもそも大体の人はダンジョンに用事なんてないもんね。だからこういう所に一人でいるのは複雑な事情があるか、わたし達みたいに一人でもそれなりに戦えるかのどっちかだけど…今回の場合は後者かな。だって見るからに格闘技が得意そうな見た目だもん。

 

「おーい、鉄拳ちゃーん!」

「あ、ネプテューヌさん!」

「知り合いですの?」

「うん、前にリーンボックスに来た時に地図くれた良い子だよ」

 

灰色の髪に激戦を繰り広げた後の様な服。わたしの思った通り向こうから来ていたのは鉄拳ちゃんだった。

 

「こんな所で会うなんて久し振りだね。またお仕事?」

「うん、そうだよ。鉄拳ちゃんこそこんな所で何してるの?」

「えっとね、この辺りで女神化したベールさんに似ている人が徘徊してるって噂を聞いて確かめにきたんだ」

 

意外にも鉄拳ちゃんの目的はわたし達と同じだった。…あれ、でも確かファルコムも偽者のわたしの情報を得て地下プラントに来てたんだよね…もしかして鉄拳ちゃんやファルコムと同じ様に動いてる人は他にもいるのかな?

 

「なら目的は一致してるね。それで偽者のベールは見つかった?」

「ううん、残念だけど見つからなかったんだ…それでだけど、そういうって事はネプテューヌさん達も探してるんだよね?ならわたしも一緒に行って良いかな?一人だと寂しくて…」

「全然オッケーだよ!鉄拳ちゃん見るからに強そうだし、それはこっちが嬉しい位だもん」

「そうですわね。ネプテューヌが女神化出来ない以上、戦力が増えるのはありがたいですわ」

 

わたしとベールは勿論、こんぱとあいちゃんも鉄拳ちゃんの加入に文句は無いという事ですぐに加入が決定する。鉄拳ちゃんは見た目的に戦闘関連はともかく、それ以外なら常識人だと思うしこのパーティーでのわたしの負担減るよね、きっと。

 

「それじゃ、前とは面子が違うみたいだしこっちのベールさん達はわたしの事知らないだろうから改めて自己紹介するね。わたしは鉄拳、宜しくね」

「わたしはこんぱっていうです、こっちこそ宜しくです」

「こっちの、って事は貴女も別次元組なのね。なら知ってるかもしれないけど私はアイエフよ」

「ご存知の様ですがわたくしはベールですわ、超未来戦士さん」

「それは鉄拳は鉄拳でも芸人さんの方だよぉ!」

「冗談ですわ、というかコンパさんに近いほんわかとした雰囲気の割にいい突っ込みしますわね…」

 

初対面の人にアレなボケをかましたベールはさておき、わたしを除くパーティーメンバーと鉄拳ちゃんとの自己紹介が終わる。こんな場所じゃゆっくり話も出来ないし、目的が済んだ訳でもないから探索を再開したい所だけど…

 

「見つからなかった、って事はこの先にも偽者のベールは居ないんだよね?じゃあ、三つ目の所行く?」

「そうなるわね。ゲームじゃあるまいし、同行メンバー次第で出てくるかどうか決まるなんて事があるとは思えないわ」

「あいちゃん、本作はともかく原作は普通にゲームだよ?」

「あのねぇ…まさか本気で言ってる?」

「まさか。三つ目の場所も案内お願いね、ベール」

 

と、いう訳で道を引き返し、最後の目的地へと向かうわたし達。鉄拳ちゃんの加入という、見逃したらかなり後悔しそうなイベントを取りこぼさなかった事は嬉しいけど、本来の目的である偽者のベールは未だ見つかってないんだよね。次も見つからなかったら捜索は大分難しくなるし、作品のテンポの為にも見つかってほしいなぁ…。

 

 

「……あ」

「どうしたのよねぷ子」

「いや、ほら…今までぽよんとぺたんの割合が中間の人がいた事もあって5:5かぺたんの方が多いかだったのに、今回鉄拳ちゃんが加入した事で遂にぽよんの方が多く……」

「…嫌な事に気付いちゃったわね……」

「うん、嫌な事に気付いちゃったよ……」

 

鉄拳ちゃんが加入した後の十数分間、こんぱ、ベール、鉄拳ちゃんには分からない悩みで肩を落とすわたしとあいちゃんだった…。…め、女神化すればぽよん側だもん!今は出来ないけどいつか力を取り戻してどっちの側にも立てる様になるんだもんねっ!




今回のパロディ解説

・某レベル4
とある魔術の禁書目録及びその系列作品に登場するキャラ、白井黒子の事。作中で言った通り両者は見た目こそ違いますが、お姉様云々や口調等似ている点が多いですね。

・こんぱちゃんマジ天使
AngelBeats!!に登場する天使こと立華葵の可愛さを示す言葉のパロディ。因みに、原作でもとあるネズミが言いますが別にネプテューヌがそれを意識したのではないです。

・超未来戦士
お笑い芸人、鉄拳さんの事(事情)。名前が似てる、とかではなく完全に同じ字なので、多くの原作ユーザーはこの方を一度は連想したのではないでしょうか?


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第六十話 槍は敵を、変態は心を穿つ

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

……え、いきなりなんだこれはって?遂にネタが切れて意味の不明な事をし始めたのかって?ノンノン、流石にそんな事はないよ。だってわたし達は単に黙ってるだけだからね。じゃあ、どうして開幕早々黙ってるのかって?んもう、せっかちさんだなぁ。そんなの訊かれなくたって説明するって。えーっとまずだね…

 

「前のお話のおおよそ一時間か二時間後かな。三つ目の目的地に着いたわたし達は偽者のベールを探す為にダンジョン内を…」

『メタ発言してないで黙りなさい(ですわ)』

 

あいちゃんとベールに左右からギロリと睨まれるわたし。うぅ、折角閲覧者の皆に説明しようと思ったのに…。…まぁいっか、必要なら地の文って手段があるし。

それはさておき…今わたし達は木と茂みを隠れ蓑にして、ある場所へ視線を送りながら黙っている。勿論これには理由がある。それは……

 

「さぁベール様、そろそろ行くとしましょうか」

「ご案内は僕達兄弟にお任せあれ」

「執事喫茶、楽シミデスワ」

 

女神化したベールと寸分違わぬ見た目の女性…つまり、偽者のベールがルウィーでの一件以降リーンボックスに移住したらしい例の兄弟にエスコートされている姿を発見したからだった。

 

「ええっと、あの…あそこの二人は一体…」

『変態(だよ・よ・ですわ)』

「そ、そうなんだ…あはは……」

 

わたしとあいちゃんとベールの即答に乾いた笑い声を漏らす鉄拳ちゃん。あの兄弟からすればわたし達の反応は取り付く島もないものだけど…仕方ないよね、自業自得だもん。

 

「それはともかく、どうしてあいつらが偽者のベール様と一緒に…?」

「さしずめ誘蛾灯に誘われた虫の様なものでしょう」

「ベールが遠回しに自分に魅力がある事を自分から言ったのは置いとくとして…ほんと何とかならないのあの二人…」

「えーっと…助けに行かなくて良いんですか…?」

 

優しいこんぱは変態二人の事も心配してあげている。まぁ、こんぱの場合二人の変態さをいまいち理解してないだけの可能性もあるけど…。

勿論、わたしもあいちゃんもベールも二人を見捨てようとは思っていない。流石に死んでしまえと思うレベルで嫌ってる訳じゃないし、仮にそのレベルだとしても見捨てたら女神の、主人公の名折れだからね。じゃあ、何故すぐ助けに行かないのかだけど…それは簡単。だって……

 

「…あれ助ける必要ある……?」

「無いと思いますわ」

「無いでしょうね」

「無さそう、かなぁ…」

「だよねぇ…」

 

あの兄弟滅茶苦茶清々しそうな顔で偽者のベールのエスコートしてるもん!今私達は名誉ある仕事をしているのだ、みたいな雰囲気だもん!…あれって助けなきゃ不味い状況なの…?

 

「やはりベール様は美しい。この麗しさたるや、まさに女神のものと言えよう」

「同感だよ兄さん、僕等の目は狂っていなかったね」

「…………」

「…ベール様?」

「…偽者程度にかどわかされるとは、貴方達もまだまだですわね」

『……え?』

 

一体全体どういうつもりなのか、ベールが自ら姿を現して兄弟と偽者のベールの前に立ちはだかる。…え、まさか…嫉妬!?普段スタイルの関係で褒められる事が多いせいでこういう時抑えが効かないタイプなの!?

 

「なっ……ベール、様…!?」

「な、何故…どうしてベール様が二人も…」

「どうしても何も、そちらが偽者だというだけですわ」

『……!?』

 

目を見開く兄弟。あ、マジで偽者だって気付いてなかったんだ……。

 

「ちょっとベール、何一人で出てってるのさ…」

「流石にあれは見ていられませんでしたわ。まさか偽者に自身の信者が奪われる事がここまで不愉快とは…」

「ま、まぁいずれ出る必要はあったしいい機会になったんじゃないかな…?」

 

もう既に隠れててもしょうがない状態になった為、ぞろぞろと出てくるわたし達。鉄拳ちゃんのいう通りではあるけど…何か釈然としないのは何だろう……。

 

「盗ミ見盗ミ聞キトハ、イイ趣味デスワネ」

「え、そ、そうですか…?」

「いやこんぱ、これ褒められてないからね?」

「そっちこそ、ベール様に化けるなんていい度胸じゃない」

「そうですわ、わたくしに化ける辺りセンスがあるのは認めますが、それは即ちわたくしの怒りを買うという事ですもの」

 

ベール本人とベール大好きなあいちゃんは特にご立腹な様子(なんかベールはちょっと自画自賛してた気もするけど)。対する偽者のベールもこの状況で安全に離脱する事は叶わないと思ったのか、視線を鋭くさせつつ臨戦態勢に……

 

「ど、どういう事だい兄さん。こんな事があり得るというのかい…?」

「分からん、ただ一つ言える事は…どちらも本物のベール様だという事だ…」

「はぁ?何言ってんのよ、だからそっちのベール様は偽者だって…」

『そんな訳があるかッ!』

 

普段テンションの上下が少ない兄弟の突然の怒号、それにわたし達は一瞬呆気にとられる。確かに外見は本物も偽者も全く違いがないから見ただけじゃどっちがどっちなのか分からなくなるのはまだ理解出来るけど…だからといって『両方本物』という結論に辿りつくのは理解出来ない。更に言えばあの兄弟はマジェコンヌが化けた偽者のブランを見た事があるんだからこういう現象を認識出来ないとも思えないし…この二人は何を考えてるの…?

 

「…貴方達、まさかわたくしが二人存在すると思っているんですの?」

「我々も信じられません。ですが、そうとしか思えないのです」

「ど、どうしてそう思うんです…?」

「コンパさんの為なら喜んで説明するよ。…と、言っても説明する程複雑な事でもないけどね」

 

にこやかな様子でこんぱに語りかける兄弟の弟の方。…ほんとこの兄弟はベールが、じゃなくて巨乳なら誰でも好きってのがどうしようもないよね。昨今のハーレム系主人公だってここまで節操ないキャラはあんまりいないよ。…どっかの副会長さんとかポーンの悪魔さんみたいに違う意味で全然節操ない主人公はいるけどさ…。

 

「説明する程複雑な事でもないって事は、すぐに分かる事なの?」

「む、そちらのお嬢さんも中々豊かな胸をお持ちで…後でお名前を聞かせていただけますかな?」

「いいから早く話しなさいな。いい加減怒りますわよ?」

「失礼しましたベール様。僕達がどちらも本物だと思う理由はただ一つ。それは……」

『それは……?』

『どちらのベール様も、本物のベール様と寸分違わぬ胸をお持ちだからです!』

 

 

『……は?』

 

兄弟が謎の気迫と共に言い放った言葉にわたし達が言葉を返せたのはおおよそ十秒位経ってからだった。え、えーっと…どっちも本物のベールと寸分違わぬ胸を持ってる?……うん、ちょっと何言ってるか分かんないっす。

 

「…わたくしとした事がどうやら聞き違いをしたようですわ。お二人共、もう一度言ってくれまして?」

『どちらのベール様も、本物のベール様と寸分違わぬ胸をお持ちだからです!』

「……マジですのね…」

「ほんと胸しか見てないのねあんた達は……」

 

げんなりするわたし達。うん、わたしも聞き違いだと思いたかったよ…普段馬鹿扱いされてるわたしでも分かる位馬鹿過ぎる発言だもんね…。

けど、その発言すら実は序章だった。二人の変態さは、それどころではなかったのだ。

 

「我等にとってそれは褒め言葉さ。サイズは勿論、ハリやツヤ、形状までも網羅している我々にとってはな」

「え、ちょっ…今なんと……」

「それだけじゃないよ。柔らかさや触れた時の弾力、そして暖かさだって分かっているんだからね」

「な、ななな何を言ってるんですの貴方達は!?ま、まさか触れたんですの!?わたくしの知らぬ間に胸に触れたんですの!?」

「まさか…胸の事であれば見れば全て分かる、それが我等なのだッ!」

「ひ……っ!?な、何なんですの貴方達はぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

もう最悪だった。最悪で最悪な最悪だった。わたし達は完全にドン引きだったし、対象となっていたベールは青ざめた顔であいちゃんの背に隠れていた。心なしかだけど偽者のベールすら引いていた気がする。…正直、帰ってここでの出来事は忘れたい……。

 

「…ふむ、一体この雰囲気は何だろうか」

「僕達の言葉に感銘を受けているんじゃないかな?」

「…もう二人は帰って下さいまし…ほんとに、お願いしますわ…」

「…執事喫茶案内ハ今度デイイデスワ……」

「それは残念だ…しかし二人のベール様の命とあれば我々が異を唱える理由はない」

「そういう訳で失礼するねコンパさん。そっちの子も今度はしっかり名前を聞かせてもらうよ」

 

飄々とした様子でこの場を去る兄弟。後に残ったわたし達は皆げんなりを超えて軽くげっそり状態。そこから一番ダメージを受けているベールを立ち直らせ、本来の目的に軌道修正するまで十数分がかかったのだった…。

 

 

 

 

「皆様、ご迷惑をおかけしましたわ…」

 

心が満身創痍状態だったベールを介抱し、何とかいつも通りにまで持ってきたわたし達。因みにその間偽者のベールは逃げる訳でも攻撃をしかける訳でもなく、ただその場で待っていた。…ベールに同情してたのかな、或いは偽者の方も変態の言葉でダメージ受けてたのかな…。

 

「と、とんでもない人達だったね…」

「よく分かんないですけど、なんか恐ろしいものを感じたです…」

「もうこの事には触れないであげましょ、誰も得しないわ…」

「うん、それより偽者のベールだよ偽者のベール」

 

それなりに戦いを重ねてきたおかげか、皆はわたしの言葉一つで意識を戦闘へと切り替える。偽者のベールの方もそんなわたし達の様子を感じ取って手元に槍を顕現させる。

 

「こほん…色々と予定外の事はありましたが、わたくし達の目的をそろそろ完遂させて頂きますわ」

「ナラバ全力ヲ持ッテ抵抗サセテ頂マスワ」

「抵抗?ふふっ、出来るものならやってみ……きゃぁっ!?」

「油断、シナイデ下サイマシ」

 

一瞬。ベールが言い切る前の一瞬で偽者のベールは距離を詰めて仕掛けてきた。辛うじてベールはそれを自身の槍で防いだけど、人間状態でそれを受け止めきる事が出来る筈もなく吹っ飛ばされる。

 

「……ッ!ベール様!」

「ほんと油断しちゃ駄目だよベール!」

 

再度突撃をかけようとする偽者のベールの前にわたしとあいちゃんが躍り出て、同時にこんぱがベールの元へ走る。この偽者のベールが偽者のわたしと同じタイプなら本物よりは弱い筈。流石にわたしとあいちゃんだけで倒せるとは思えないけど、ベールが女神化して復帰するまでの時間が稼げれば十分だからね。

 

「くっ、偽者に先手を取られるとは…ですがもう好きにはさせませんわ…!」

「ソレハ、ドウカシラ?」

『……っ!』

 

わたしとあいちゃんの同時攻撃の瞬間、偽者のベールは薄く笑みを浮かべ…飛翔する事で回避、そのまま一直線にベールへ突貫する。地下プラントは天井があったからこそ偽者のわたしがとってこなかった、飛べる者の常套手段を先に偽者のわたしと戦っていたからこそ失念していた。

槍を掲げ一気にベールへと接近する偽者のベール。そのまま偽者のベールはわたし達の迎撃を一切受ける事なくベールの元まで……

 

「その槍、見切りました…ッ!」

「ナ……ッ!?」

「鉄拳ちゃん!?」

 

偽者のベールの槍が届く直前、両者の間に割って入ったのは鉄拳ちゃん。そしてそのまま鉄拳ちゃんは真剣白刃取りが如く刃の腹を掴み、地面を踏みしめて……留めきる。

 

「ワタクシノ一撃ヲ…受ケ止メタ…!?」

「重い一撃だけど…クマの十連コンボに比べればまだまだ〜」

「助かりましたわ、鉄拳ちゃん!」

 

鉄拳ちゃんが受け止め、偽者のベールが動揺している一瞬の間を見逃すベールじゃない。立ち上がると同時に女神化し、鋭いターンで偽者のベールの背後へと回って槍での一撃を叩き込む。…が、偽者のベールもそれだけでやられる程やわではなく、身体を捻る事でベールの一撃を回避しつつ力任せに槍を振るう事で鉄拳ちゃんの手を離させる。

 

「きゃっ……」

「む、無理しちゃ駄目ですよ鉄拳ちゃん」

「ありがとねコンパさん…」

「これでお互い全力で戦える状態ですわね。貴女が望むのであれば一対一で戦ってあげても宜しくてよ?」

「丁重ニ断ラセテ頂キマスワ。元々全員倒スツモリデスモノ」

 

互いに自身の獲物である槍を構え、相対する本物のベールと偽者のベール。両者一瞬の沈黙を迎えた後、再度激突する。

 

「はぁぁぁぁッ!」

「ヤァァァァッ!」

 

刺突、横薙ぎ、突き上げ、振り下ろし。次々と技が放たれ、その度に槍がぶつかり合い火花を散らす。槍という間合いを開ける事で真価を発揮する武器同士の戦いは刀剣とはまた別の激しさを放っていた。

 

「偽者とはいえ流石はわたくし、中々良い槍さばきですわ」

「貴女コソ、隙ノナイ動キデスワネ」

「ふふっ、でも貴女はわたくしには絶対に勝てませんわ」

「…ワタクシノ力ガ足リナイト言イタインデスノ?」

「確かにそれもありますわ。ですが、それ以上に貴女には…信頼出来る味方と言うものが足りませんのよッ!」

 

言い放つと同時に跳躍するベール。その直後、ベールの背後からあいちゃんが姿を現し、カタールによる刺突をかける。その予想外の動きに偽者のベールは反応が遅れ、槍の柄で正面から受け止めざるを得なくなる。そしてそこへ打ち込まれるベールの上段斬り。あいちゃんの強襲に対応するので手一杯だった偽者のベールにそれを防ぐ術はなく、彼女は肩口に受けて近くの木にまで吹っ飛ばされた。

 

「あいちゃんならわたくしの意図を分かっていてくれていると信じていましたわ」

「期待に応えられて光栄です、ベール様」

「グッ…マダ、デスワ…仲間ナラ、コチラニモ…!」

 

視線を交わすベールとあいちゃん。その二人に吹き飛ばされた偽者のベールは歯噛みをしながらも立ち上がり、手にした物を…エネミーディスクを掲げる。

 

「あれは…エネミーディスクです…!?」

「って事はやっぱり偽者とマジェコンヌとは関係がある訳ね…来るわよ皆!」

 

エネミーディスクが輝き、次の瞬間ぞろぞろとモンスターが湧き出始める。けど、それに怖気付くわたし達じゃない(鉄拳ちゃんだけは驚いてたけど…まぁエネミーディスクの事知らないなら当然だよね)。

 

「数デ不利ナラ、ソノ数ヲ埋メルダケ…!」

「信頼の置けぬ、ただ目的が同じだけの存在でどうにかなるという考えがいけないというのに…皆さん、ここはまずモンスター達を--------」

「仲間っていうのは連携するだけじゃなくて、時には勝利の為に分かれて戦うものでもある。そうでしょベール?」

「…えぇ、ならばモンスターは任せましたわッ!」

 

モンスターが今のわたし達の中で一番強力であるベールを狙おうと広がり出したその時には、もうわたし達がモンスターへと攻撃を始めていた。雑魚の相手をして本命の敵の相手は味方に任せる…ってのは主人公であるわたしの柄じゃないけど…たまにはこういう役回りも悪くないかもね。

 

「ベール様、援護は任せて下さい!」

「勿論、あいちゃんの援護に恥じない活躍を見せてあげますわ!」

「二度モ同ジ手ガ通用スルト思ウナ…!」

「同じ手で攻める訳…ないでしょうが!」

 

ベールが攻め立て、注意がベールに向いたところであいちゃんが仕掛け、注意があいちゃんに向けばベールが、両方に対応しようとすれば二人同時に畳み掛けるという単純ながらも強力な連携でベールとあいちゃんは確実に偽者のベールを追い詰めていった。

無論、わたし達もそれを眺めているだけじゃない。不用意に近づいて来るモンスターはわたしが返り討ちにし、ベール達を狙おうと離れるモンスターは鉄拳ちゃんが粉砕し、モンスターが束になってわたし達を倒そうとすればコンパが注射器とその中の薬品で背後から崩していく。偽者のベール程の力がある訳ではなく、ましてや連携なんてまともにとれやしないモンスターはわたし達にとっては完全に取るに足らない敵だった。

 

「貴女に勝ち目はありませんわ、潔く諦めなさい」

「オ断リデスワ…例エ貴女ニ敵ワズトモ…グゥゥッ…モウ一人ヲ、取リ押サエ…レバッ!」

「……っ!?あいちゃんッ!」

「貰ッタ……ッ!」

 

数度の攻防の末、ベールの下段からの刺突が偽者のベールを捉えて脇腹を裂く。…が、偽者のベールの執念も凄まじく、ダメージを与えた事で一瞬攻撃が止んだ隙に地を蹴ってあいちゃんへと肉薄する。

恐らく、あの時のベールはあいちゃんを捕まえる事で逆転の一手としようとしたんだと思う。確かに実力はあっても人の域を超えていないあいちゃんなら偽者のベールには敵わないし、その手を取られたらわたし達が手を出せなくなるというのも合っている。けど、偽者のベールは一つだけ誤算があった。それは……

 

「ベール様の動きなら…私にはお見通しなのよッ!」

「……ーーッ!?」

 

偽者のベールが放った槍はあいちゃんの身体を貫く事はなく、虚しく宙を穿つ。あいちゃんは、偽者のベールの槍を紙一重で躱していたのだった。そして同時にあいちゃんは蹴り付け、攻撃を外した偽者のベールの態勢を完全に崩す。

偽者のベールが止まった事を確認したあいちゃんは即座に後ろへと跳ぶ。その視線の先には、ベールの…あいちゃんが最も信頼する人の姿。

 

「やはり、貴女はわたくしの最高のパートナーですわあいちゃん。--------『スパイラルブレイク』ッ!」

 

翼を広げ、全力をかけたベールの連撃。それは一撃一撃が必殺の威力を持ち、まさに嵐の様な怒涛の勢いで偽者のベールに叩き込まれる。ベールは正面から、横から、上から、下からと槍を打ち込み、その末に天空へと舞い上がる。そして放たれる槍の投擲。それはベールの力と重力とが相まって流星の如き存在となり、最早防御すらままならない偽者のベールの身体を貫き穿つ。

槍の凄まじい勢いは地面にも大きな衝撃を与え、砂煙を引き起こす。それを見ながらベールはゆっくりと下降、その間砂煙は少しずつ晴れていき、ベールが降り立つと同時に晴れ渡る。砂煙が晴れ、顕となった地面。そこにはひび割れた大地と地面に深々と刺さった槍。ただそれだけが残っていた。

 

「…こちらは、終わりましたわ」

「こちらも、の間違いじゃないかな?」

 

ベールの言葉に、わたしは太刀を振るいながら答える。その先にあったのはエネミーディスク。いかに特殊な力を持っているとしても、所詮はディスクでしかないそれはわたしの太刀の刃によって真っ二つとなり、その効力を失う。それは即ち、モンスターの殲滅も完了したという事だった。

 

「ふぅ…些か厄介でしたが、無事倒せましたわね」

「お疲れ〜、しかしやるじゃん鉄拳ちゃん。まさか偽者のベールのランスチャージ?を受け止めるなんてさ」

「力比べなら得意だからね。それに、全身に負荷がかかったからちょっと気持ち良かったかも…」

「き、気持ち良かったっていうの…?」

「ど、どういう事です…?」

「あ、あはは…もしかして鉄拳ちゃんって…」

 

最後の最後で微妙な雰囲気になるわたし達。しかもその原因である鉄拳ちゃんがきょとんとしていたり、ナースだからかこんぱがそれをわたし達とは違う意味で受け取って心配していたりと、強敵戦終了直後とは思えない状況となっていた。…けどまぁ、これも無事に勝てたからこそ、だよね。

そうしてリーンボックスでの偽者戦は、わたし達の完全勝利で幕を閉じたのだった……。

 

 

……え、数話前と終わり方が似てる?えーっと…うん、まぁ…それは心の中にしまっておこうよ、ね?




今回のパロディ解説

・どっかの副会長さん
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録シリーズ主人公、杉崎鍵の事。まぁ、彼が節操ないのは当然といえば当然です。何せ最初からハーレム狙いのある意味凄い人ですからね。

・ポーンの悪魔さん
ハイスクールD×Dの主人公、兵藤一誠の事。上記の杉崎鍵同様に、この主人公も最初からハーレム狙いなので節操なくて当然です。節操あるハーレムというのも変ですしね。

・ちょっと何言ってるか分かんないっす
芸人コンビ、サンドウィッチマンのボケ担当、富澤たけしさんの定番ネタのパロディ。コント上では何でだよと返されるネタですが、今作中では真っ当な反応でしょう。


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第六十一話 恋色模様は複雑怪奇

偽者のベールと偽者が用意したモンスターを倒してから数十分後。わたし達は目的を達成したという事で教会に戻ってゆっくりと休息を……取っていなかった。普通にまだダンジョン内にいた。

 

「奴は、ベールはどこだぁ!出て来い偽ベール!出ないと傷…はないから多分何かが…疼くだろうがぁっ!」

「そんな言い方されて出てくる人なんていませんわよ…」

 

プラネテューヌに現れた偽者のわたしは一人じゃなかったんだから、偽者のベールも一人だけとは限らない。偽者とモンスターを倒した後にあいちゃんが言った言葉によってわたし達は再度偽者のベール探しをする事になっていた。…いや、あいちゃんの言う通りだし後々後悔するのも嫌だから探す事自体は嫌じゃないけどさ…前回の終わり方的に今回はゆっくり休めるかな〜と思ってた所にこれだから、ふざけてないとテンション下がっちゃうんだよねぇ…。

 

「全然見つからないですね…」

「うーん、じゃあここは一つ餌で釣ってみる?」

『餌?』

「うん、あいちゃんかネトゲを目に付きやすい所に配置しておけば偽者のベールがふらふら〜っと来そうでしょ?」

「色々言いたい事はあるけど取り敢えず…何私を餌にしようとしてんのよ!」

 

予想通りわたしに突っ込みをいれてくるあいちゃん。確かにあいちゃんを餌として上げたのは冗談だけど…相手が相手なだけに、ほんとに餌として機能しそうでもあるよねぇ…。

 

「あはは、ごめんごめん。けど真面目な話探し回るんじゃ大変じゃない?偽者のベールが複数いるとも限らないし」

「…割とまともな事言うわね…でも探せる時に探しておいて損はないでしょ?」

「えーっと…ちょっと思った事があるんだけど、良いかな…?」

「鉄拳ちゃんどったの?」

「うん、多分だけど近くに偽者のベールさんがいたならさっきの戦闘の音を聞きつけてこっちに加勢してたんじゃないかな…」

『あ……』

 

鉄拳ちゃんの言葉にはっとするわたし達。さっきの戦闘は別にサイレント仕様だった訳じゃないし、特に最後のベールの一撃は遠くからでも分かる位強烈なものだったんだから近くにいるなら気付かない筈がない。なのに現れないという事はつまり……

 

「じゃあ、ここに偽者のベールさんは居ないって事です?」

「そういう事。あくまでわたしの予想何だけどね」

「何か意図があって身を隠している偽者がいる、という可能性もなきにしもあらずではありますけど…それを言い出したらきりがありませんものね」

「となると再度…というか少し時間を置いてから情報収集し直す方が良さそうね」

 

鉄拳ちゃんの一言で探索を打ち切る方向に急転換、これぞまさに逆転の一手だね。…え、違う?…まぁいいや。

目的だった偽者のベールは倒し、新たな目的である他の偽者探しも一旦終了という事で、ここにいる理由がなくなったわたし達は今度こそ教会へと戻る事となる。ふぅ、今回は殆ど雑魚しか相手してないけどその前後で結構歩き回ったし、教会に戻ったら甘いもの食べたいなぁ〜。

 

 

 

 

女神というのは人々から慕われ、尊敬される存在であり、同時にそれは女神が女神である為に必要不可欠な要素。故にどんな形であれ信仰されるのは女神にとってありがたく、信仰してくれる人達は出来る限り大切にすべきではあるんですけど…

 

「貴様等…グリーンハート様を何だと思っておるのだ!」

「落ち着いてくれ給えご老体。我々はベール様を軽んじるつもりなど毛頭ない、いやあの様な豊満な胸をお持ちの女性を軽んじられるものか」

「そう、僕達にとって胸のある女性とはそれ即ち僕等の主君。自分で言う事ではないけど僕達程ベール様を敬っている人はそうそういないだろうね」

「つまりはどちらも胸目的だと言う事じゃろうがっ!」

 

一体何がどうしたのか、わたくし達が教会へと戻るとイヴォワールと兄弟が言い争いしていましたわ。しかも聞く限りでは言い争いの論点はわたくしの模様。…何だか頭が痛くなりそうな気がしますわ…。

 

「えーっと…ベール、何か争ってるみたいだけど止めなくていいの?」

「わたくしには見えませんし聞こえませんわ。それよりもわたくしの部屋でティータイムとしようじゃありませんの」

「うんそれさらっとあの言い争いから目を背けてるよね?物理的にも比喩的にも」

 

と、極力気にしない様にしているわたくしにその事について振ってくるのはネプテューヌ。おかげでノータッチでやり過ごす事も出来ず、話題を振られた事で否が応にも言い争いの内容が聞こえてきてしまう。

 

「だってあれはどう考えても関わったら面倒な雰囲気ですもの…」

「それについてはかなり同感だけどさ、ほっといたらほっといたで面倒な事になりそうじゃない?」

「私もそう思いますよベール様。何かもう今の時点で両者言い争いの中でベール様を褒めちぎってますし」

「色んな意味で物凄く恥ずかしいのでそれは言わないで下さいまし…」

 

多かれ少なかれつい自画自賛をしてしまうわたくしやネプテューヌ達女神でも、あからさまに誉めまくられたら気恥ずかしさを禁じ得ない。しかもそれが時折見当外れな賞賛になっているとなれば尚更である。

 

「ベールさん、ここは女神様としてバシッと言ってくるです」

「…何をですの…?」

「それは…えーっと……」

「いやそこは考えてから言わないと駄目でしょコンパ…」

「それはともかく…ベールさん、スルーにしても関わるにしても早く決めた方が良いんじゃないかな?ここにいてもどんどん恥ずかしくなるだけだと思うし」

「そうですわね…はぁ、うちの者にも困ったものですわ…」

 

ため息を吐きつつ渦中の三人の方へ向かうわたくし。この場限りで考えればスルーしたい所ですけど…これが元となって変な噂が流れるのも嫌ですし、何より教会に師事するもの(一方は微妙な立ち位置ですけど)の争いを女神が見過ごすというのもあまり良くありませんものね。苦渋の決断、というものですわ。

 

「一般人も来る教会の大広間で何を騒いでいるんですの貴方達は…」

「む…グリーンハート様、お帰りでしたか」

「という事は、もしや我等といたもう一方のベール様は…」

「倒したに決まっていますわ。貴方達の見解はどうあれ、偽者である事に変わりはありませんもの」

 

兄弟の兄の言葉に淡々と言葉を返すと、それに愕然とする兄弟。…ほんとにこの二人は何なんですの…彼等の思考回路は胸を中心に回っているとでも言うんですの…?

 

「嗚呼…ならせめて、もう一方のベール様のご冥福を祈ろう…」

「だから偽者だと言っているでしょうに…」

「全くですな。グリーンハート様は唯一無二であるからこそ意味があるのじゃ。ただ多ければ、大きければという問題ではないわ」

「そういう事ですわ。流石にイヴォワールは分かってますのね」

「当然でございます。もしグリーンハート様が増えようものなら…余計仕事が増してしまうであろうが……」

「い、イヴォワール…?」

 

何か今、イヴォワールの本音らしきものが垣間見えた気がした。…き、気のせいですわよね。一瞬厄介な部下に困り果てる老人の様な顔をしていたとかわたくしの目の錯覚ですわよね、えぇ。

 

「…こほん、とにかくくだらない言い争いは止める事、宜しくて?」

「そうですな…以後気をつけるとしますぞ」

「お言葉ですがベール様、これは我々にとってくだらない事では…」

「よ・ろ・し・く・て・?」

『……はい』

 

イヴォワールはすんなりと、兄弟は渋々とという違いこそあったものの、何とか双方の矛を収めさせる事に成功。イヴォワールに偽者のわたくしについての情報収集を続行する様指示を出し、あいちゃん達の元へ戻る。

 

「お疲れ様です、ベール様」

「やー、中々良い仲裁だったんじゃない?わたしとしてはもうちょい波乱がある事を期待してたんだけどさ」

「なら自分で争いを探しにいけば良いじゃありませんの、その間わたくし達はスイーツでも食べているとしますけどね」

「じょ、冗談だよベール。わたしもそっちの方が良いなー…」

「ネプテューヌさんって時々自分のボケで自分の首絞めちゃうよね…」

 

と、言う訳で何だか戦闘とは違う意味で披露したわたくしは休息と糖分を求めて自室へと向かうのだった…。

 

 

 

 

「さぁ、遂に…遂にこの時間がやってきましたわ!」

 

あれから数時間後、良い子ならもう寝る時間にわたくしの部屋に響く一つの声。無論声の主はわたくしですわ。

 

「て、テンション高いですねベール様…」

「ふふっ、わたくしはあいちゃんが側にいるとテンションにブーストがかかるんですのよ?」

「そ、そうですか…ところでベール様、一つ質問良いですか?」

「えぇ、何ですの?」

「教会に戻って以降ロクに偽者探しをしてませんけど良いんですか?」

 

一体どんな質問をしてくれるのかと内心わくわくしていたわたくしの心とは裏腹に、あいちゃんがしてきたのは真面目な質問だった。…まぁ、真面目なあいちゃんも好きなので問題ないのですけどね。

 

「あいちゃん…せっかくわたくしと二人きりなのにそんな質問とは…わたくしと偽者のわたくし、どっちが大切なんですの!?」

「えぇ!?な、何でそんな事になるんですか!?」

「冗談ですわ。で、探さなくて良いのかと言われればまぁ良くはありませんけど…こういう場合情報を受け付ける場を作って後は入ってくるのを待つだけで良いのですわ。あいちゃんならばその理由は分かるのではなくて?」

「……探し回るだけで見つかるならもう情報がきている。そして向こうが女神を陥れる事が目的ならいつかは確実に動くから結局情報が入る…って感じですか?」

「流石あいちゃん、ばっちりですわ」

 

過不足ない、正に我が意を得たりの答えをして下さるあいちゃん。やはり自分の思っている事がきちんと相手に伝わっているというのは気分が良いですわね。しかもその内容が単純な事ではないとなれば尚更ですわ。さて、そんなあいちゃんにはご褒美に……

 

「〜〜♪」

「あ、あのベール様…なにを…?」

「ご褒美になでなでをしているんですわ」

「そ、そうではなく…というかベール様の方が楽しんでいるんじゃ…」

「可愛いあいちゃんを撫でているんですもの、楽しいに決まっていますわ」

「か、可愛いなんて…あぅ……」

 

撫でているうちにほんのりと頬を染めるあいちゃん。このノワール程ではないツンデレがあいちゃんの元々のクールさと相まって何とも言えない可愛さに…あぁもうたまりませんわ……。

…あ、因みに五人で一つの部屋に寝るのは流石にちょっと狭いという事でネプテューヌ、コンパさん、鉄拳ちゃんは隣の部屋にいますわ。…えぇ、勿論人の割り振りはわたくしの意見でしてよ。

 

「さてそれではあいちゃん、ゆっくりと夜を楽しもうじゃありませんの」

「よ、夜を楽しむ…ですか…?」

「えぇ、あんな事やこんな事を…ふふっ、例えば……」

 

あいちゃんの頭を撫でていた手の腹を離し、指は側頭部から頬、そして顎の裏へと滑らせる。そのまま指先であいちゃんの顔をあげさせ、同時に顔を近付ける。その一連の動作は自分でも賞賛出来る程優美で妖しいものであった。

わたくしの指が伝い、顔が近付いた事で一層顔を赤らめるあいちゃん。互いの吐息が頬を撫で、今までとは何か違う雰囲気がわたくし達を包み込む。薄い笑いを浮かべるわたくし。目を潤ませるあいちゃん。そして……

 

「……スマブラ、とかですわ」

「…………」

「…あら?…あいちゃん?」

「……って、スマブラかいッ!」

「いや反応遅過ぎですわ!」

 

…まぁ、この有様ですわ。わたくしは妙に溜め過ぎて、あいちゃんはあいちゃんで雰囲気に飲まれて反応が遅れてこの有様ですわ。しかもあいちゃん敬語が抜けてましたわね…そこまで飲まれるとは予想外でしたわよ…。

 

「…何か、すいません……」

「いえ、良いんですのよ…ネプテューヌの様に上手くはいきませんわね…」

「ねぷ子はボケの申し子ですからね…」

 

またも変に疲れてしまったわたくしと、このやり取りでわたくし以上に疲れてしまった様子のあいちゃんが揃って脱力しつつ、苦笑を浮かべる。…因みにこの時隣の部屋からくしゃみの様な音が聞こえてきた。……まぁ、ネプテューヌでしょうね。

 

「さてと、それじゃどうします?」

「どうって…スマブラですか?」

「別にそれ以外でも良いですわよ?どうもわたくしをネトゲとBLゲーにしか興味がない女性だと勘違いしている方がいるみたいですけど、普通にそれ以外のゲームもしますもの」

「えーっと…じゃ、特にこれをやりたい、というのもありませんしスマブラで」

「…あ、一応言っておきますけどこれスマイルブランちゃんの略称じゃありませんわよ?」

「そりゃそうですよ…誰が間違えるんですかそれ…」

 

気の抜けた雑談をしつつゲームを用意していくわたくし。…自分で言っておいて何ですけど、スマイルブランちゃんって物凄く違和感を感じる言葉ですわね…。

そして数分後、何はともあれ準備が出来た所で…

 

「それじゃ、電源を--------」

「ちょっとお待ちになって下さいましお姉様!」

 

…何故かチカがバーン!と扉を開けて部屋の中へと入ってきた。あいちゃんはその突然の出来事に、わたくしはそれに加えて普段チカがやらない様な無作法な方法で入ってきた事に二重に驚く。

 

「な、何ですのチカ…」

「それはこっちの台詞ですわ!何なんですのさっきの妖艶な雰囲気は!」

『見てた(の・んですの)!?』

「いいえ、外に雰囲気が漏れてましたわ」

『漏れてた!?』

 

衝撃の事実に再度驚かされるわたくしとあいちゃん。確かにゲイムギョウ界は何でもありな風潮がありますけど、まさか雰囲気が漏れるなんて事態があるとは…防音ならぬ某雰囲気設備が必要ですわね…。

 

「…酷いですわお姉様。今までは実の姉の様にアタクシを気にかけて、愛でていてくれたというのに…」

「え、いや確かに貴女を気にかけてはいましたけど愛でていたつもりは…」

「それで、貴女も貴女よ!今日も旅の間もずっとお姉様と一緒にいたくせにまだお姉様を独占するつもりなの!?」

「ど、独占!?朝も思ったけどちょっと私の事誤解してない!?」

 

情緒を軽く心配する位わたくしとあいちゃんで態度が違うチカ及びチカの発言に再々度面食らうわたくしとあいちゃん。登場以降チカはずっとぶっ飛んでいた。…普段のわたくしなら身体の弱いチカがここまで元気(?)なのに少なからず安心していたかもしれませんけど…この状況では安心とかしていられませんわね…。

 

「全く…頑張ってお姉様の偽者の状況を探している間にお二人がこれじゃやってられないわよ…」

「えぇと…つまりチカは何を言いたいんですの…?」

「そんなの…アタクシの口から言わせないで下さいまし!」

「えぇー……」

 

些か以上に理不尽な要求に辟易とするわたくし。ラブコメでたまに見るこの系統の台詞をわたくしが言われる日が来るとは…。

 

「…ちょっと、それは一方的過ぎるんじゃない?気持ちは…まぁ分かるけど…」

「一方的にお姉様を掻っ攫っていった貴女に言われたくはないわ」

「だから私の事誤解してるわよね!?か、掻っ攫ったって…私は貴女の中でどんなキャラになってるのよ!?」

 

…辟易としている間に何故かあいちゃんとチカが言い争いを始めていた。しかもやはり内容はわたくし関連。どうして日に二度も同じ展開になるんですの…。

…なんて嘆いていても仕方ありませんわね。それにイヴォワールと兄弟ならともかく、大好きなあいちゃんと可愛いチカの言い争いとなればほおっておく訳にもいきませんし、ここはわたくしが率先して止めるとしましょう。

 

「あいちゃん、チカ、喧嘩はいけませんわ。まずはお互い一旦深呼吸を…」

『ある意味この言い争いの原因である(ベール様・お姉様)がそれ言います(の)!?』

「わたくしが原因なんですの!?」

「…いや、この際むしろアタクシ達ではなくお姉様に直接決めてもらうべきですわね。お姉様、アタクシとアイエフ、どっちがお姉様の一番なんですの!?」

「ちょっ、そういう問題じゃないでしょうが!?…わ、私ですよねベール様…?」

「え、えぇーっと…その……」

 

妙に凄い剣幕で見てくるチカと、興味無い様な顔しつつちらちらと見てくるあいちゃん。そして、二人に挟まれる形となるわたくし。これは…まさかの修羅場的展開ですわ!

ふふっ、わたくしも罪な女ですわね…。

…なんて喜んでいられる訳ないでしょうが!

 

「お姉様!」

「べ、ベール様!」

「うぅぅ…だ、誰か助けて下さいまし……」

 

楽しい夜になる筈が一転、追い詰められる夜となったわたくしだった……。昨日のネプテューヌ同様助けを求めたのは、偶然か否か…は、どうでもいいのでほんと誰かこれを乗り切る手段をご教授して下さいまし……。




今回のパロディ解説

・「奴は〜〜疼くだろうがぁっ!」
機動戦士ガンダムSEEDの敵メインキャラの一人、イザーク・ジュールの印象深い台詞の一つ。勿論別にネプテューヌは偽ベールに傷付けられた事なんてないですよ。

・スマブラ
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズの事。ベールとアイエフでスマブラやったらどうなるんでしょうね?まぁ両方熱くなるんだろうなぁ、とは思いますけど…。


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第六十二話 今すべき事、その後すべき事

「おはよーございます、昨日百合百合組のイベントの為に隣の部屋にいる羽目となったネプテューヌです」

 

声を潜め、足音を消し、ひっそりと侵入する。これぞ、早朝バズーカの秘技!

と、言う訳でわたしは今ベールの部屋の前に居るよー。あ、察しの良い人はもう分かってると思うけど勿論さっきの台詞は小声だよ、この時点でバレちゃったら何の面白味もないからね。

 

「さて、鍵は…開いてるね」

 

音を立てない様ゆっくりと扉を開け、手にしたバズーカをぶつけない様に気を付けながら部屋の中へ入るわたし。…え、どこでバズーカなんて調達したのかって?そんな突っ込みはナンセンスだよ、そういう事ばっかり気にしてる人はわたしの手でねぷねぷにしちゃうゾ♪

 

「ふっふっふ…普段クールなあいちゃんと大人なベールの寝顔を見れるチャンス、これは見逃せないね」

 

まぁぶっちゃけた話をするとわたしは二人(というかパーティーメンバー全員の、だけど)の寝顔を見る機会がそれなりにあるしわたし自身はそこまで寝顔が気になる訳じゃないけど…早朝バズーカとなると話は別だもんね。しかも今回潜入するのはあいちゃんとベールが二人きりの部屋。これは正直見ものだよ、うん。

 

「時間OK、バズーカOK、わたしのテンションOK、となれば後は起こすだけ…!」

 

部屋の暗さに目が慣れてきた事をバズーカを見る事で確認したわたしは部屋の奥…つまり、ベットの方に進む。

薄ぼんやりと見えるベット上には毛布を被った複数人の人影。ふっ…ほんと二人は仲良し…というかラブラブだねぇ。そんな二人への早朝バズーカなんてこんな面白いものはないね!…あ、サディステックな意味じゃなくてドッキリ的な意味だよ?

そして、ベットの真横についたわたしは深呼吸の後バズーカを構え、声を上げる。

 

「すぅ、はぁ……お熱い二人にモーニングコールだよ!はいどっかー…ん……?」

 

大声と共に引き金を引こうとしたわたしは、途中で違和感を感じて指を止める。え、えーっと…ちょ、ちょっと待ってね。一回情報を整理して違和感の正体を突き止めるから。

薄暗い部屋の中、ベットの上に見える人影は三つ。いち、にー、さん…ひーふーみー、ワンツースリー…うん、やっぱり三つ。でも、わたしの記憶が正しいならここにいる筈の人はあいちゃんとベールの二人。

…はい、たった今誰かが潜り込んでいた事が判明しました。

 

「こ、こんな大胆な事する人いたっけ…?」

 

早朝バズーカをやってる場合じゃなくなったわたしはバズーカを下ろし、誰が潜り込んでいるのか思案を始める。えっと、まずこんぱと鉄拳ちゃんはわたしが部屋出る時まだ寝てたから無いし、ノワールとかMAGES.とかはそもそもリーンボックスにいないからあり得ないよね。で、普通にやり兼ねない奴と言えば兄弟が思い付くけど…それだったら人影は四つになる筈だからそれもないし…となるとまさかイボさん?…い、いやいや流石にそれはないよね、亀仙人じゃあるまいし…。

 

「そうなると残ったのは一人…いや、まぁある意味妥当な感じはするけどさ…」

 

第三の人影の正体を思い浮かべたわたし。とは言え確認してみないとすっきりしないし、万が一ヤバい人がいたなら対処しなくちゃならないから優しく、且つ素早く三人を覆っている毛布を引っぺがす。

 

「すぅ……」

「くぅ……」

「んぅ……」

 

毛布という隔たりが無くなった事で聞こえてくる三つの寝息。その主はあいちゃんとベール…そして、チカだった。

 

「え…えぇぇ……」

 

それと同時に漏れた、この困り果てた様な声の主はわたし。…いや、別にチカが居た事は別にいいよ?普通に予想通りだったし。だから、問題はそこじゃなくて……あいちゃんとチカが左右からベールに抱き着きながら寝てた事なんだよねぇ……。

 

「…両手に花じゃん…しかも花が花持ってるし…これなんてエロゲ……」

 

しかもよく見たらベールもベールで二人を抱き寄せていた。おまけに三人共凄い幸せそうな寝顔だった。

数分後、廊下にはバズーカを引きずりつつ部屋から出てくるわたしの姿が。…だって、あれもう色々と触れちゃ不味い気がするもん…ネタにならないとか仕返しされるとかそういう次元じゃなくて、なんだかよく分からないけどそっとしておかなきゃ不味そうな何かを感じるもん……。

そうしてわたしは、何とも言えない複雑な気持ちを抱えながら隣の部屋の自身の寝床へと戻るのであった…。

 

 

 

 

「ふぅむ…昨日の戦闘以降で偽者のわたくしらしき情報は上がってませんわね…」

 

おはよう、というには遅い様な、こんにちは、というには早い様な…そんな微妙な時間にわたし達は、ベールの部屋に集まっていた。ベールの呟きからも分かる通り、偽者のベールの事についてが目的だったりする。

 

「じゃあ、偽者のベールさんはわたし達が倒した一人だけだったって事です?」

「その線が濃厚になってきましたわね…チカ、そちらに何か情報は来ていまして?」

「いえ、こっちにも全く情報は来ていませんわ」

 

私的な方法で情報収集をしていたベールとは逆に公的な方法で情報収集をしていたチカ(というか教会)にも情報は入っていない、となると尚更偽者のベールは一人だった、という可能性が高くなる。わたし達としてもそっちの方が楽だよね。

 

「ネプテューヌさん、ネプテューヌさん達はプラネテューヌでもう別の偽者と戦ったんだよね?」

「うん、偽者のわたしを二十人前後倒したかなぁ」

「け、結構たくさん倒したね…その偽者は更に別の人に変身したりした?」

「え?…うーん、わたしの見てた限りはしてなかったけど…どうして?」

「女神様の姿となれるならそれ以外の姿にもなれるかもしれない。そしてそれが可能なら偽者のベール様が身を隠す手段として変身を使っているというのもあり得る、って事じゃない?」

「そうそうそういう事だよ〜」

 

確かに偽者のベールが別の誰かに変身しているかもしれない、って事は分かる。だってそもそも『偽者』だもんね。けど、それって…

 

「リーンボックスにいる人全員が偽者かもしれない、って事でしょ?…は、果てしなくない……?」

「流石に全員調べるのは無理に近いですわね…調べてる最中にまた姿変えられたらいたちごっこですし」

「じゃ、じゃあどうするんです?」

「…例え姿を隠蔽しているとしても、何か悪事を働けばそれ相応に情報が入りますわ。後手に回ってしまうのは癪ですけど、今は腰を据えて待つのが最善ですわね。第一偽者の能力にしても人数にしてもあくまで『かもしれない』ですし」

 

えーっと…なんか長く言ってたけど、つまりは情報待ち、って事だよね?んもう、ベールもわざわざ難しく言わずに簡単に言ってくれればいいのに…。

 

「単純でアホそうなのに女神をやっていけるのなんてネプテューヌ位ですわよ?」

「ねぷっ!?心読まれた!?っていうか何それdisってない!?」

「ちゃらんぽらんなのは否定出来ないでしょ…と、いう事はもう暫くベール様はリーンボックスから動けないんですか?」

「そうですわね、今後のマジェコンヌ対策も練らなくてはいけませんし最低でも数日は動けませんわ」

 

ベールの返答を聞いたあいちゃんはほんの僅かだけど残念そうな顔をしていた。いやー、あれは付き合いが長いわたしじゃなきゃ気付かないレベルだね、うん。

 

「大丈夫だよあいちゃん、どうしてもベールと一緒にいたいならパパッと他も片付ければいい話だし」

「べ、別に一緒にいたいとは言ってないでしょうが!…それに、状況が状況なんだからノワールもブラン様もしっかり手助けするわよ」

「そう?じゃ、わたし達は他も手助けしたいし一緒に情報待つ事は出来ないけど、良いかなベール?」

「えぇ、待つのは別に大変な事じゃありませんし貴女達はそちらを優先させて下さいまし」

「それじゃわたしはリーンボックスに残るよぉ。もし偽者のベールさんが現れた時ベールさんが全部相手するってなったら負担が大きいし」

「それは助かりますわ、鉄拳ちゃん」

 

プラネテューヌの時と同じ様に残るメンバーと他の大陸へ行くメンバーとで別れるわたし達。…って言っても他の大陸へ行くメンバーはここに来るまでと同様わたしとこんぱ、あいちゃんの三人だけどね。

 

「ベール様、何かあったらすぐに連絡して下さいね。駆けつけますから」

「ふふっ、心配には及びませんわあいちゃん。これでも女神ですもの」

「そうよ、それにもし仮に何かあってもアタクシがいるから貴女の出番はないわ」

「くっ…そういうならきちんとベール様の補佐しなさいよね」

「そんなの言われなくても分かってるわよ」

「あ、あのー…わたしも残るんだけど……」

 

何だか昨日よりあいちゃんとチカの関係は険悪になっていた。そしてそれを見てげんなりとしているベール。…朝方侵入した時は良好な関係っぽく見えたけどこれは意外と大変そうだなぁ…ちょっと同情するよベール…。

 

「あ、あはは…じゃあ、もう行くですかねぷねぷ?」

「うーん…ま、そだね。次はラステイションとルウィーのどっちの方がいいかな?」

「そうね…あ、でも確かねぷ子ラステイションは後の方が良いって言ってなかった?その方がノワールが良い反応してくれそうって理由で」

「す、凄い動機だねそれは…」

 

あいちゃんに言われてわたしは数日前の自分の台詞を思い出す。そういやそうだったね、我ながら確かに凄い理由だとは思うけど…ノワールの場合焦らしたら凄く良い反応してくれそうじゃん?…って、わたしそんなSなキャラだっけ?わたしは某神次元の女神と同じくプラネテューヌの女神だけど全然違うキャラだよね?

 

「私もそう思うわ…けど特にラステイションを優先した方がいい理由もないし、次はルウィーで良いんじゃないかしら?」

「ならルウィーで決定ですね。…あ、カイロの用意しなきゃです…」

「あー、前は用意せず行ってこんぱ凄い寒そうだったもんね」

「その時ネプテューヌは雪にはしゃいで寒さ忘れてましたわね」

 

パーティーで初めてルウィーに行った時の事を思い出して懐かしむわたし達。…けど、よく考えたらそれからまだ数ヶ月も経ってないんだよね。なのに結構前に感じるのはそれより前もそれより後も濃い日々が続いているからかな?

そして、ベールの好意で教会にあったカイロをいくつか貰ったわたし達はルウィーへと向かう準備…要は持ってきていた荷物を纏める作業に入る。

 

「こうやって荷物纏めてるとさ、何だか夜逃げの気分になるよねぇ」

「いやならないでしょ」

「ならないですね」

「だよねぇ…」

 

……え、この山なし谷なしオチなしのしょうもない会話は何だって?…考えてみなよ、いくらボケの申し子であるわたし、安定の天然を誇るこんぱ、突っ込みに定評のあるあいちゃんの三人組だったとしても四六時中面白トークしてる訳ないじゃん。流石にそれは身が持たないよ。

と、言う訳でわたし達もこういう何の意味も無さそうな会話をしてるんだよー、というワンシーンでした。原作ゲームを始めとして大概の媒体では描写されないわたし達の一面を見られる本作はお得だね!

 

「ねぷねぷ、準備出来たですか?」

「…あ、ごめんちょっと地の文で閲覧してる皆に話しかけてたからまだ終わってないや」

「メタなボケする前にきちんと本編の方に力入れなさいよ…」

 

あいちゃんに呆れられちゃったわたしは、今度はきっちりと荷物を纏めて教会を出られる状態になる。

 

「よし、それじゃ行こっか二人共」

「一番準備が遅かったねぷ子がそれ言うんじゃないわよ…」

「マイペースですねぇねぷねぷは」

「前の次元でもネプテューヌさんはマイペースだったなぁ

…」

 

外に出た所であいちゃんに突っ込まれ、更にこんぱと鉄拳ちゃんにマイペース認定されるわたし。…てか、今ちょっと思ったけどこんぱと鉄拳ちゃんってどっちもほんわかした感じだし気が合いそうだよね。趣味とか特技とかは真逆っぽい気がするけどさ。

 

「皆さん、心配はしてませんけど気を付けて行くんですのよ?」

「分かってるよベール、ベールこそしっかりね」

「それじゃ、行ってきますベール様」

 

早ければ数日、遅くても数週間でまた合流出来ると踏んでいる事もあって前よりは簡素な挨拶で済ますわたし達。ま、友達の家から帰る時にわざわざ大仰な挨拶しないのと同じだよね。

そうしてリーンボックスを後にするわたし達。次はルウィー、ここまで調子良く行ってるんだからこのペースを保って進まなきゃね!

 

 

 

 

皆、接岸場の設定覚えてる?四大陸はそれぞれが近付いたり離れたりしてるから最も近付いた時しか陸路で行けなくて、その時大陸と大陸を繋ぐ役目を果たすのが接岸場なんだけど…序盤以降殆ど大陸移動時に接岸場の描写無かったし、名前もろくに出てこなかったから忘れてる人も多いんじゃないかな?

で、何で急にその話をしたかって言うと、それは勿論……

 

「大陸接近の時間を確認せずに行ったせいで、立ち往生しちゃってるからなんだよねぇ…」

 

せっかくテンション上がる感じに教会出たのにそれが全部無駄だよもう…。ってか、次も頑張らなきゃとか全力でやらなきゃねとか言うと毎回こういう出鼻を挫く展開になってない?

 

「後二十分位みたいですよねぷねぷ」

「二十分かぁ…長い様な短い様な微妙な時間だよね」

「二十分じゃ時間潰す為にどっか行く訳にもいかないし、素直に待ってましょ」

 

そういうあいちゃんは携帯ゲームをしていた。むむ…わたしが無一文で地面に刺さってた関係上まだ携帯持ててないのにズルいやズルいや!…と、思ってた所貸してくれたので素直にゲームをしていたわたしだった。

 

「…単純ね、ねぷ子…」

「いーの、それよりちょっと気になった事あるんだけど訊いてもいい?」

「気になった事、です?」

「うん、どう考えても今のゲイムギョウ界の技術なら飛行機とか作れるよね?なのに何で飛行機…っていうか大陸移動用の空路が無いの?」

 

空路ならわざわざこうやって大陸が近付くのを待つ必要は無いし、それ以外にも色々と便利だよね?技術力が足りない様には思えないし、何でなんだろ…。

 

「えっとですねねぷねぷ、それは空にもモンスターさんがいるからです」

「モンスター?…あ、そういえばねぷねぷ航空やった時何度かモンスターが近付いて来たね」

「そうです。だからモンスターが増えて以来空港は殆ど休業状態なんですよ」

 

飛行機は無いんじゃなくて動かせない、という事をこんぱは教えてくれた。まぁそりゃモンスターに襲われて墜落、とか洒落にならないしなら陸路で行くよね。

 

「もう一つ理由があるわよねぷ子」

「え、もう一つ?」

「えぇ、普通に生活してる分には気付かない…というか出来る限り一般社会には影響が出ない様にしてるみたいだけど、現状ではまだ守護女神戦争(ハード戦争)が継続中で、大陸間での移動には多少制限がかかってるのよ」

「…わたし達がもういがみ合ってないのに?」

守護女神戦争(ハード戦争)初期はほんとに戦争の形になってて、そこで出来たものがまだ撤回されてないって訳よ」

「そうなんだ…早くマジェコンヌをやっつけて、そっちにも片をつけなきゃ何だね」

 

いーすんが言うには戦争の原因はわたし達今の女神には無いらしいし、今のわたしに戦争中の記憶はないけど、それでも女神として責任は感じるし、普通に暮らしてる人の為にも早くそれは何とかしたい。それがわたしの紛れもない本心だった。そして、その会話が終わる頃にはリーンボックスとルウィーの大陸は繋がりかけていて、もうすぐ渡れる、という状態になっていた。




今回のパロディ解説

・亀仙人
DRAGON BALLシリーズに登場する、主人公達の師匠の一人である亀仙人の事。男の欲を忘れていないご老人と言えば彼が思い付きましたが、皆さんはどうですか?

・それなんてエロゲ
ネットスラングの一つのパロディであり、とてもよく似た人物の名前が元となったネタ。状況的にギャルゲやキャラゲでもあり得る展開ですが…そこは問題じゃないですね。

・某神次元の女神
神次元のプラネテューヌの女神、アイリスハートことプルルートの事。前のネクストフォームネタ同様あくまでネタであり、ネプテューヌが既に知ってる訳じゃないですよ。


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第六十三話 強行!真偽判断

厄介な敵って何だと思う?とにかく能力値が高い敵とか、スキルが対処不能の敵とか、或いは恐竜マスクさんみたいに何戦も勝ち抜かないといけない敵とか、まぁ色々あると思うんだ。でもね、わたしはついさっきこういうのとは別系統だけど、物凄く厄介な敵ってのを一つ知ったんだ。それはね……

 

「わたしが本物よ」

「何を言っているの。わたしが本物よ」

 

味方と全くもって見分けがつかない、判断のしようがない敵何だよね。……あの、マジでどっちが本物でどっちが偽者か分からないんですけど…。

 

 

 

 

--------時間はおよそ数十分程、わたし達がルウィーへと入り、街付近にまで移動してきた所まで遡る。

 

「必殺!雪玉ストライークっ!」

「雑魚相手とはいえふざけてるんじゃないわよねぷ子!」

「ねぷねぷ、雪合戦したいなら後でしてあげるですから真面目にやるです!」

 

道中遭遇したモンスターとの戦闘中、わたしがモンスターへ雪玉を投げた所こんぱとあいちゃんに突っ込まれてしまう。…まぁ、今回は妥当っていうか当たり前だよねぇ。

と、いう事でおふざけは止めて太刀を握り、モンスターへ突進するわたし。これまでの旅の中で個々の力も連携も鍛えられてきたおかげで瞬殺、とはいかなかったものの、ものの数分で片付ける事が出来た。

 

「ふぅ…良い運動にはなったかな」

「冷たかった脚がちょっと楽になったですね」

「これが突発的に起きた吹雪の中で、且つ多数のモンスターに襲われてたとしたらこんな事は言ってられないけどね」

「ふ、フラグになったら不味いしそういう事言うの止めよ…?」

 

ざくざくと音を立てながら雪の上を歩き、さっきまで通っていた道へと戻るわたし達。いくら余裕で倒せる相手でも、流石に道の上から離れずに戦うなんて縛りプレイはしたくないからね。

道に戻ってからは手の中でカイロを転がしつつ、雑談しつつ歩くわたし達。そこからは特にモンスターに会う事もなく、十数分後にはルウィーの中心街へと入る事が出来た。

 

「そういえば、前回ルウィーに来た時は中々に大変だったよねぇ」

「前は慌ただしくルウィーを出た後ラステイションでドンパチやって、その後ろくに休む間も無くルウィーに戻って大規模戦闘…っていうハードワークだったものね」

 

マジェマジェとアヴニールが手を組んでいるのを知らなかった事もあり、本当にあの時は大変だった。そう考えると、アヴニールはもうラステイション教会の管理下になって、コンヌっちはイリゼが足止めしてる今ってかなり楽な状態なんだよね。前者はともかく後者は恐らく今もイリゼは戦ってる訳だからのんびりしてる訳にはいかないけど。

 

「ねぷねぷ、まずはブランさんに会いに行くですか?」

「そだね。密かにブランの偽者を倒してびっくりさせるのも面白いかもしれないけど、それは難易度高いし」

「ならさっさと教会行きましょ。ルウィーの教会は確かこっち…って、あれ?」

 

言葉を途中で途切れさせ、代わりにクエスチョンマークの浮かびそうな声を上げるあいちゃん。何だろうと思ってあいちゃんの向いていた方に顔を向けるわたしとこんぱ。するとそこには、あからさまに不自然な程の人だかりが出来ていた。

 

「大道芸でもやってるのかしら…」

「バトルランキングじゃない?」

「いや誰も中心に向かって物投げてないでしょ…」

「ここからだと何をしているのか分からないです…」

 

道を塞いでしまう程の人だかりに興味を抱く事を禁じ得ないわたし達。人だかりの規模や野次馬の様子から見るに中心で何かが起こってるのは恐らく間違いないけど、やっぱり人だかりの外からじゃ詳しい事が分からない。…となれば、やる事は一つだね。

 

「んしょ、んしょ…」

「ほ、ほんとにこの中を進むですか…?」

「そうだよ?これもう確実にイベント発生してるじゃん」

「こういう中進むのはちょっと得意なのよね。よっと」

「あぅぅ…ひ、引っかかって中々進めないですぅ…」

『……そりゃ(わたし・私)達にはない大きなもの持ってるもんね…』

 

肘で打ったり足を踏んづけたりしないようにしつつ、人だかりの中を進むわたし達。途中はぐれかけたりわたしとあいちゃんが軽く凹んだりと微妙に困難にぶつかりつつも突き進み、やっと…って程じゃないけど少し以上に頑張った結果、人だかりの内側にまで到達する。

そして、人だかりを突破した事で一安心していたわたし達を待っていたのは……二人のブランだった。

 

 

 

 

「そして冒頭のシーンに戻るのだ!」

「な、何がどうなってるです?」

 

人だかりを抜けたわたし達を待っていたのは二人のブラン…って、これは説明する必要ないよね。だってちょっと上見ればそれ書いてあるし。

二人のブランは片方が所謂そっくりさん、とかいうレベルではなく、本当に瓜二つ。見た目は勿論声音や仕草、口調までもが鏡に写したかのように同じだった。

 

「…あ、ネプテューヌさん達来てくれたんですね」

「フィナンシェさんこんにちはです。ブランさんが二人いますけど、これはどういう事ですか?」

「はい。皆さんも知っていると思いますが、あの二人のブラン様のうち片方はブラン様の姿をした偽者です」

 

予想通り、片方のブランは偽者(あ、勿論わたしやベールの時と同じくって意味ね。両方本物とかあの兄弟じゃあるまいし)だった。まぁ、ここ数話の流れ的に当たり前っちゃ当たり前だけどね。

 

「やっぱそうなのね。…でも、なんでブラン様の偽者は女神化状態じゃないのかしら」

「そういえば、ねぷねぷとベールさんの時はずっと女神様の姿をしていたですね」

「始めは偽者も女神化した時の姿をしていましたよ?ですが、ブラン様と戦っている最中に不利と悟ったらしく、その姿をブラン様のものに変えたんです」

「……?そんな事したらそれこそ一巻の終わりじゃないの?もし女神化を解除する事でパワーダウンするなら余計不利になっちゃうじゃん」

「そりゃ周りに人がいない場合でしょ。想像してみなさいねぷ子、見分けのつかない二人のブラン様が戦ってる最中に片方が女神化を解除して、周りにいる国民に助けを求めたらどうなるかしら?」

「んーと…あ、そっか…」

 

あいちゃんの言った通りの状況を想像する事で、わたしは何故女神化を解除する事で危機を回避出来るのかを理解する。見分けがつかない、って事がミソ何だよね。わたしだって同じ状況だったら『助けを求めてるのはもしかしたら本物のブランかもしれない。もし本物だったら取り返しのつかない事になる…』って思っちゃうもん。偽者のブランは頭良い手を使うね、かなり卑怯だけど。

 

「…あの、ところでフィナンシェさんには本物のブランさんの見分けはついているんですか?」

「勿論です。ブラン様の侍従の名は伊達じゃありませんから。ずばり、本物は左のブラン様です!…………多分」

「…今、小声で多分て言ったわよね」

 

フィナンシェの小声を聞き逃さなかったあいちゃんが容赦のない突っ込みを浴びせる。…全然重要じゃないけどさ、活字媒体だと小声で言ってるかどうかって凄く分かり辛いよね。小声も何もそもそも音も吹き出しもないもん。

 

「うっ…言っておきますけど、最初は分かっていたんですよ!…けど、お二人が激しく戦えば戦う程目で追いきれなくなって…」

「分からなくなってしまったんですね」

「…恥ずかしながら」

「…うん?それってつまり見分けてるんじゃなくて、どっちが本物か分かってた段階の情報を頼りにしてただけなんじゃ…」

 

つい思った事を言ってしまうわたし。その言葉を聞いて精神的ダメージを受けるフィナンシェ。…うん、今のはもしかすると言わなくていい事だったかも…ごめんねフィナンシェ…。

 

「ま、それはそれとして困ったわね。どっちが本物か分からないと何も出来ないわ」

「うーん、どうやって本物を見分ければいいんだろう…」

 

当てずっぽうで片方に攻撃しちゃえ、なんて流石に出来ないし、当事者達で解決するのを待つんじゃ時間がかかり過ぎる…というかわたし達が来た意味ないからそれも駄目。と、結局は見分けるしかないんだけどその方法が思いつかないっていう完全な手詰まり状態にあった。

と、その時聞き覚えのある声がわたしの耳に届く。

 

「ねぷ子発見にゅ」

「ほぇ?この声は…あ!ぷちこ!」

「久しぶりにゅ、後ブロッコリーにゅ」

「久しぶりー、元気してた?」

「ぼちぼちにゅ。ところで、ねぷ子は何をしているんだにゅ?」

 

わたしやブランの様なロリメンバーとは格の違うちびっ子、ブロッコリー。わたしに声をかけてきたのは彼女だった。…このサイズだと人だかりを突破するのも楽なんだろうなぁ。

特に隠す必要もないし、現状すぐ打てる手がある訳でもないからすぐに状況を話すわたし達。それに対してぷちこは時々毒のある返しをしてきたものの、すぐに理解してくれた。

 

「事情は分かったにゅ。そういう時は、心の目で見ると良いにゅ」

「心の目?…心の目…じー……」

「…分かったですか?」

「駄目ー、全然分からないよ」

 

心の目で本物と偽者を判別してみようとするも、全く成果の上がらないわたし。…いや、よく考えたらそもそもわたしは心の目を会得してないし使う方法も知らないんだから見える訳ないじゃん…それ以前に心の目で分かるのかって問題もあるけどさ…。

 

「駄目駄目だにゅ。なら、奥の手を使うにゅ」

「奥の手です?」

「『本物はどっち!?ルウィーの女神様一問一答くいず』にゅ!」

「クイズ、ですか?」

 

ババーン、とタイトルが出てきそうな感じで言うぷちこ。なんか予め考えてた感じのあるタイトルだけど…まあいっか。

 

「本物しか知らない筈の質問をする、これが本物偽者を判別する定番にゅ」

「あ、言われてみると確かに定番かも…」

「ナイスアイディアだよぷちこ!じゃあ…ブラーン!カモンカモーン!」

『……何?』

 

単純だけどかなり有力な案をぷちこが出してくれた事で湧き立つわたし達。別にわざわざ話し合って問題を決める必要もない、という事で二人を呼び寄せて早速開始する。

 

「よーし、じゃあ第一問!ブランのスリーサイズはいくつ?」

「な……っ!?そ、そんなのこんな人前で答えられる訳ないじゃない…」

「わたしは言えるわ。上からで良い?」

「言うのかよ!?お前はエナストリア皇国の皇女か!」

「…こほん、上から--------」

「はい、ここで自主規制入りまーす♪」

 

片方のブランは即座に嫌がり、もう片方のブランは淡々と答え始める。…え、自主規制って何だって?あのねぇ…乙女のスリーサイズをそう簡単に教えられる訳ないじゃん、まぁ公式サイトやら情報サイトやら見れば普通に分かるんだけどね!…ほんとは見て欲しくないけどね、恥ずかしいから……。

 

「----が、わたしのスリーサイズよ」

「ほ、ほんとに言うなんて…何を考えているの貴女は…」

「ほうほう、ブランのスリーサイズはそうだったのかぁ。…良かった、わたしの方が少し大きかったよ……」

「いや知らないなら問題にするんじゃねぇよ!つか、今何を安心してたんだよネプテューヌ!」

「そ、それには反論出来ないや…でもきちんと解答出来た方のブランが一歩有利かな?」

「そんな馬鹿な…」

 

ブランの言う通り問題のチョイスがアレだったっぽいけど、それはそれで問題として成り立っていた(気がする)からセーフだよね?…と、いう事で第二問へと移行する。

 

「じゃあ、第二問はわたしからです。ブラン様が二年前の夏のイベント用に書いた同人小説のタイトルは何でしょう!」

「ど、どうして貴女がそれを知ってるの…」

「ブラン様の事は何でも知ってますよ?侍従ですから」

「簡単過ぎるわ。『終焉と新生の輪廻〜魔王と勇者の邂逅録〜』」

「ちょっ……!?」

「正解です!」

 

またも解答を嫌がるブランと即答するブラン。…ただまぁこれは解答出来たか否か、合ってるか否かより解答の内容が気になるよねぇ…。

 

「痛いタイトルだにゅ」

「そう?私は結構良いと思うわ」

「あー、あいちゃんはどっちかっていうとブランとかMAGES.側の人間だもんね」

「二問連続…これは右側にいるブラン様が優勢ですね」

 

ぷちこの『痛い』という言葉が刺さったのか、小さな呻き声を上げる左側のブラン。対して二連続解答した方のブランは涼しい顔。そしてわたし達は更に問題を投げかける。

 

「では続けてわたしが問題を…第三問!三年前にブラン様が新人ラノベ大賞に送った小説の内容は!?」

「お、お願い…それだけは止めて…」

「それも簡単。異界の王子の生まれ変わりであり、人間に生まれながらも一個師団を一瞬で壊滅させる……」

「あ、あぁ…あぁぁぁぁ……」

 

やはり何の躊躇いもなく答える右側のブランと、魂を抜かれているかの様な声を漏らす左側のブラン。因みにもう分かってる人も多いと思うけど、やっぱり物凄く厨二がかった内容だったよ。聞いてるこっちまでもが恥ずかしくなるレベルのね。

 

「えーっと…はい、正解です」

「当然の結果ね」

「忘れようと…無かった事にしようと思ってたのに……」

「ええと…ブランさん、元気出すです…」

 

何か微妙な空気になるわたし達。わたしの出した第一問目とは別の意味でアレだったねこれは…。

 

「さーて、それじゃどんどんいこうかフィナンシェ!」

「う…も、もう止めて…わたしのライフはもうゼロ……」

「ふふっ、まだまだ思い付きますよ。では第五問……」

「……っ…だああああぁぁぁぁッ!!もう止めろって言ってんだろうがテメぇ等ッ!」

『はいっ!?』

 

ブランがキレた。もう思いっきり、文字通りブチギレていた。その気迫たるや、普段弄ってるわたしやブランのキレを見慣れているであろうフィナンシェすら声が裏返る程だった。

 

「さっきから好き勝手問題出しやがって…んな恥ずかしくて答えられねぇ様な問題に素直に答えられる訳ねぇだろうが!本気で見分ける気あんのか!?」

『うっ…それはその……』

「ボロを出したわね、偽者」

「んだとぉ!?」

「本物の女神がこんなに口が悪い訳ないわ。よって、貴女が偽者よ」

「……ッ!テメェ嵌めやがったな…!」

 

キレたブランの気迫と本気で見分ける気があるのか、というある意味図星だった指摘にまごつくわたし達。その間に二人のブランの間で動きが起こる。それは、右側のブランが左側のブランを追い詰めるという状況となっていた。

--------だが、そこで真偽の対決は思わぬ展開となる。

 

「これで分かったでしょう?皆、奴こそが偽者----」

「いや、違う!本物は左のブラン様だ!」

「あぁ、あのキレ芸こそ正真正銘ブラン様の証!そうだよ、何か物足りないと思っていたらキレ芸だったんだ!」

「え…き、キレ芸……?」

「ま、待って皆…わたしだってそれ位…お、お前ら!たかがキレ芸だけで偽者を選んではいけないわ…いけないぜ!」

 

今までずっとだんまりだったルウィーの国民の皆が、次々と左側のブランを本物だと言い始める。確かにそう言われるとそうだよね。キレ芸も勿論だけど、普段大人しいだけで感情に乏しい訳じゃないブランがあそこまで淡々と答えるってのも、それはそれでおかしいし。

 

「正直今のはブラン様っぽくないわね…無理して真似してる、って感じだし」

「キレが悪いにゅ。よってお前、偽者にゅ!」

「姿形や記憶はコピー出来ても、魂に刻み込まれたキレ芸だけはコピー出来なかったみたいだね」

「良かったですねブラン様。本物だって証明出来て」

 

各種質問への拒否とキレ芸によって、逆に本物認定を受けるブラン。それと同時にテンションが上がったのかキレ芸コールを始める国民の皆。そしてそれとは対照的に歯噛みをする右側の…もとい、偽者のブラン。

--------が、ここで再び展開は大きく変化を見せる。

 

「……が…ったってんだ…」

「……?ブラン様…?」

「何が…良かったってんだよテメェ等ッ!」

「え!?い、いやあのブラン…?一体どうしちゃったの…?」

「どうしたもこうしたもあるか!散々人をおちょくって、隠したかった事も次々とバラされて、挙句こっちは本気で怒ってんのにキレ芸だと?…テメェ等、そんなに人を馬鹿にするのが面白いのかよ?」

 

ゆらゆらと不気味に揺れながら言葉を紡ぐブラン。そんな彼女にわたし達は後ずさる。

 

「そ、そんなつもりでは…というかバラしたのは偽者…」

「だったらこっちだってもう容赦しねぇ…覚悟しやがれテメぇ等ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

『えっ、ちょっ…ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

咆哮を上げ、女神化するブラン。次の瞬間、ブランの戦斧によって地面に形成されるクレーター。そしてそれを見て青ざめるわたし達。そこから先は、一切の容赦なく攻撃を仕掛けてくるブランと文字通り死に物狂いでブランから逃げるわたし達とルウィー国民による、まさに命がけの追いかけっことなっていた。

作品が増えるにつれてぶっ飛んだキャラと色々ヤバいキャラが出てきた事もあって(元々そういう風潮もあったけど)ブランの怒ると怖い、っていう設定はキレキャラっていうネタになりつつあったけど…あの風潮絶対間違ってるよ、皆もその風潮に踊らされちゃ駄目だよ。だって…ブチギレたブランは普通に怖かったもん……。




今回のパロディ解説

・恐竜マスク
ぼくらはカセキホリダーに登場する、恐竜っぽいマスクを常に被っているホリダーの事。知っているかどうか微妙ですが、彼のマスクを得る為の五連戦は本当に大変でした。

・バトルランキング
リトルバスターズシリーズにおけるミニゲームの一つ、バトルランキングの事。もし二人のブランがこの方法で争っていたとしたら…完全にギャグになりますね、はい。

・エナストリア皇国の皇女
レガリア The three Sacred StarSに登場する国及びその皇女、ユインシエル・アステリアの事。多くの人がいる前でスリーサイズをいうのは偽ブランと彼女位でしょう。

・「〜〜もう止めて…わたしのライフはもうゼロ〜〜」
遊戯王 デュエルモンスターズの中に出てくる有名な台詞のパロディ。原作同様、ここでのブランはもう完全にオーバーキル状態でした。ブラン好きの皆様ごめんなさい。


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第六十四話 狂信が故の裏切り

普段大人しい人がキレると怖い、普段キレキャラ扱いされてる人がマジギレすると洒落にならない、その二つを国単位で痛感した日の翌日。わたし達はやっと気を納めてくれたブランと共に教会にいた。

 

「…一面の銀世界、澄んだ空気、活気ある国民!やールウィーも中々見所あるよね!」

「あからさまね、ご機嫌取りなんかしなくていいわ」

「だ、だよね……」

 

気を納めてくれた、とはいえ流石のわたしも昨日の今日で普通に話すのはちょっとキツいかな〜…と思って最初はちょっと媚び諂ってみたけど…うん、完全に失敗だったね。これはいつも通りに話した方が良さそうだね。

 

「全く…限度というものを知ってほしいわ」

「え、それをブランが言う?」

「何か文句でも?」

「いえ一切ありません」

 

口調も態度もいつも通り。…いや、ほんとにいつも通りだし実際ブラン自身も言葉の裏に怒気を孕ませてる訳じゃないんだろうけどさ、やっぱ昨日の今日だからねぇ…こりゃ早めに話変えないと……。

と、そこで運の良い事に別の部屋に行っていたこんぱ達がやってくる。

 

「お待たせです…ってあれ?ねぷねぷ早いですね」

「ヒーローは遅れてやってくるものだからね!」

「それは全く逆の意味だにゅ」

「ねぷ子の場合は遅れる原因が寝坊とかでしょうね」

 

ぞろぞろとやってくるパーティーメンバーとぷちこ。この三人はそこまでブランの怒りを買っていた訳じゃなかったからかわたしに比べるとかなり自然な態度だった。

 

「さて、これで全員集まった様ね」

「全員ってのがパーティーの事ならそうだね」

「えぇそれよ。貴女達を呼んだのは今わたしの偽者への対処がどれだけ進んでいるかを知っておいてもらう為よ」

 

各国に現れたわたし達女神の偽者を倒す為に各大陸ごと別れてから数日。ゲームと違って主人公であるわたし達がいない間にも当然時は流れる訳で、ブラン…というかルウィー教会はベールとリーンボックス教会同様に情報収集をしていたらしい(ベールみたいに個人的な手段では調べてなかったっぽいけどね)。

 

「話す、という事は成果があったんですか?」

「その通りよ。偽者の情報収集は勿論、偽者が何もしない何て事は無いと思って国内の警備も強めたわ。皮肉なものだけど、マジェコンヌがルウィーを軍事国家にしようとしたお陰で予算や兵には余裕があったし」

「怪我の功名、といった所かにゅ」

「…そして、その結果首都付近で偽者の発見に成功。それを聞いたわたしが急行して即座に開戦、そのまま進んで…」

「昨日の二人のブランさんの言い合い、という状態になったんですね」

 

こんぱの言葉に頷きつつ、言うべき事は言った、という感じの表情を浮かべるブラン。因みにこの説明の間、わたしは殆ど口を挟まなかった。何せボケどころのない真っ当な説明だったからね。

 

「そうなると、昨日の段階で取り逃がしてしまったのは痛手だにゅ。きっと次からは警備があるものと思って動くにゅ」

「分かってるわ。…けど、認めたくないものね。自分自身の若さ故の過ちというものを」

「過ちを機に病む事はないよ。ただ認めて、次の糧にすれば良いんだから。それが女神の特権だよ」

「真面目に話してるのかふざけてるだけなのか分かり辛いやりとりね…」

 

互いに言葉を述べた後、にやっと笑い合うわたしとブランを見て苦笑するあいちゃん。真面目に話してるのかふざけてるだけなのかって言われたらそりゃまぁ…ふざけてるだけだよね。女神と女神による即興女神コントって奴だよ多分。

 

「それはともかく、実際何か次の手はあるのかにゅ?」

「あるかないかと言われると…ないわ」

「それじゃあ、情報収集するです?」

「そのつもりよ。一応偽者のわたしが飛んで行った方角に探索をしてもらってるけど…ざっくり過ぎるから成果は期待出来ないわ」

「駄目だなーブランは。もっと反省しなきゃだね」

「さっきと言ってる事違う上にネプテューヌにだけは言われたくないわ…」

 

そういう訳でリーンボックスの時と同様、有力な情報が入るまで待つ事となるわたし達。流石に世の中そこまで都合良くは出来ていないのかその日は殆ど情報が入らず、いつどこに偽者のブランが現れるか分からない以上下手にどこかへ行く事も出来なくて、微妙に落ち着かない一日を過ごす事となった。

そして、そんな一日を過ごした翌日に…事態は動く。

 

 

 

 

「…よくのこのこ面を出せたもんだな。何のつもりだよ?」

 

わたしは別に状況に合わせて口調を変えている訳ではない。単に精神状態が理性>感情となっているか理性<感情となっているかで変化しているだけ(言うまでもないと思うけど、女神化している時はまた別よ)。故に、今わたしが品のない言葉を発しているのはそれだけ不愉快な気分になっていたからであり、その原因は……

 

「それは勿論、敬愛するホワイトハート様の力となるためですよ」

 

忌々しい、ガナッシュその人だった。

ネプテューヌ達に状況を話した日の翌日。相手が相手なだけに不用意に動けないわたしは時間を無駄にしない為に雑務を片付けようとしていた。そんな時に教会に来訪したのが例のガナッシュだった。

…一応言っておくけど、ガナッシュはアヴニールの社員の事よ。いきなりこの話だけ読んでる人はほぼいないと思うから無駄になると思うけど…。

 

「ふん、どの口がそれを言うのやら…」

「物凄い嫌われようにゅ、あんた何したにゅ?」

「それは話すと長くなるからわたしが説明しよう!こほん…かくかくうまうまだよ!」

「それを言うならかくかくしかじかにゅ…でも分かったにゅ」

「今ので伝わったの!?…ねぷ子のネタに対応しつつ理解するとは……」

 

何やらパーティーメンバーが五月蝿いけど、全くもって関係ない話で盛り上がってる訳でもない様な為特に何も言わないわたし。今回はネタ発言漫才発言はあっちに任せるとしようかしら…。

 

「心を入れ替えた、という訳ですよ。それに流石に私も故郷を破壊されてしまうのは気分の良いものではありませんし」

「…その言葉だけで信用しろ、とでも?」

「アヴニールがラステイションの教会管理の下におかれた以上、私にはもう何も出来ませんよ。…まぁ、こればっかりは信じてくれるのを期待するしかありません」

「ねーねー、さっき力になる為って言ってたけど具体的には何する気なの?まさかパーティーメンバー入り?初の男性パーティーメンバー?」

 

あくまでガナッシュの言葉に否定的なわたしに対し、何を思ったのかネプテューヌは一歩進めた質問を投げかける。…ネプテューヌは信用するつもりなのかしら…彼女の場合単に興味本位で訊いただけ、って可能性の方が高いけど。

 

「パーティーメンバー入りではありませんよ、恐らく私はそちらのナースさんより非力ですから」

「わたしよりですか?わたしはでっかい注射器振り回したり戦闘中に手早く応急処置したりねぷねぷ達女神様やあいちゃん達戦闘経験の多い人の援護したりする程度ですよ?」

「…一般人枠だったこんぱも今やわたし達に劣らないぶっ飛びキャラになりつつあるね……」

「朱に交われば赤くなる、って訳ね…じゃなくて、何する気なのかって話でしょ?」

「そうでしたね。私に出来るお力添えはただ一つ、ホワイトハート様の偽者の潜伏場所を伝える事だけです」

『……!』

 

一般人だった(らしい)コンパの変化にパーティーメンバー全員が苦笑し、若干緩い雰囲気になったところで虚を突くかの様にガナッシュの口から放たれた言葉に、わたし達は驚きを露わにする。

 

「偽者の潜伏場所…?…どうして貴方がそれを知っているの…」

「偶然飛行中の偽者のホワイトハート様を見つけ、後を追ってみた所で発見したというだけですよ」

「普通の人間が飛んでる相手を追えるとは思えないにゅ、怪しいにゅ」

「あぁ、貴女とは初対面ですものね。しかし他の皆様なら可能性を感じるのでは?…ホワイトハート様の為にラステイションを本気で潰そうと思っていた私ですよ?」

「そう言われると確かに執念で追いかけられそうかも…」

「謎の説得力があるです……」

 

微妙に自虐感のある台詞でわたし達に一考させるガナッシュ。そんなわたし達を見てブロッコリー…よね?ネプテューヌはぷちこって呼んでいたけど…は怪訝な表情を浮かべていた。…まぁ、ガナッシュについては実際に本性を目にしない限りは理解出来ないのも仕方ない事ね…。

 

「そういう訳で、もしホワイトハート様が私を信用してくれるのであれば私はそれをお話します。潜伏場所と言っても拠点を築いている訳ではない様なので、あまり遅くなると場所を移される可能性がありますよ?」

「……タイミング、内容、そして選択を急かす様な発言…どうも胡散臭いわね」

「そうですね、話が出来過ぎな気がします」

「んー…でもさ、ここは信じてみるのもアリじゃない?」

 

罠であれば勿論行くのは危険だし、例え罠でなくともこの状況下で不用意に教会から離れるのは得策ではない。何でも鵜呑みにするのではなく、情報の取捨選択こそが重要…と思っていたところでネプテューヌが肯定的な意見を述べる。…ほんとにわたし達の意見を聞いた上での『でも』なのかしら…。

 

「流石ネプテューヌ様、信じて頂けるんですね」

「でしょ?あ、何ならわたしの信者になる?」

「それは結構、ホワイトハート様以外を信仰する気はないので」

「あそう…まぁとにかく信じてみても良いんじゃないかな?」

 

ちっ、ここでガナッシュがネプテューヌに鞍替えしてくれれば良いものを…。……こほん。

勧誘を即座に拒否られるネプテューヌ。けど最初から冗談として言っていたのか然程ショックを受けた様子もなく、再度同じ旨の意見を述べる。

 

「…本気?私達は一回騙されて閉じ込められたのよ?」

「うん、それは分かってるしわたしもガナッシュがほんとに改心してるかどうか怪しいなぁとは思ってるよ。…けど、今は手詰まり状態である事も事実でしょ?」

「手詰まりだからこそ慎重になるのも大事よ。急いては事を仕損じるという言葉もあるわ」

 

ネプテューヌの言う事も分かる。実際偽者のわたしの情報は喉から手が出る程欲しいし、もしガナッシュの情報が真実ならわたし達は絶好のチャンスを失う事になる。だけど、罠だった場合かなりの痛手となるのは目に見えている。失敗は成功のもと、とは言うけどそれはあくまで失敗が痛手にならない、或いは後に十分回復出来る程度である事が前提にあってこその言葉であって何でもかんでもチャレンジするのが正しい、という訳ではない。

……けど、次のネプテューヌの言葉でわたしはある重要な事を思い出す事となる。

 

「----わたし達がこっちで時間かけていればかけている程、イリゼが長く戦わなきゃいけなくなるよね?…わたしはイリゼの為にも、出来る限り早めに片付けたいな」

「それは……そうね、いつまでも待ってる訳にはいかないのも事実だったわね…」

「だよね?だからそこも加味して考えてほしいなー」

「……分かったわ。ガナッシュ、話しなさい」

 

わたしの言葉に満足気な顔を浮かべ、頷いた後に場所を話し始めるガナッシュ。勿論ガナッシュを信じた訳ではない。あくまでネプテューヌの言葉、そして今も戦ってくれている筈のイリゼを少しでも助ける為にガナッシュを信用するという選択をしただけよ、勘違いしないで頂戴。

…って、わたしは誰に何を言い訳してるのかしら…これはノワールの専売特許ね……。

 

 

 

 

「いや、確かに流れ的にその可能性はあったしそういう展開は原作にもあるけどさ…よりにもよってモンスターの跋扈してる場所に潜伏するって何なのさ…」

 

ブランがガナッシュの協力を認めてから数時間後、わたし達は偽者のブランがいるというダンジョンに来ていた。因みに、信用に欠けるという事でガナッシュにも同行してもらっていた。…プラネテューヌでの職員のおにーさんの時といい、最近男の人が同行する事多くなったなぁ。

 

「ダンジョンなら探しに来る人もいないだろうって踏んだんじゃない?」

「敢えて女神化を解除する様な奴ならそれ位思い付いてもおかしくないにゅ」

「ガナッシュ、ダンジョンの中まで入って偽者の姿を確認したの?」

「いえ、先程も言いましたが私は非力ですからね。しかし中に入る所は見たので間違いはないかと」

 

道中のモンスターを倒しつつ、リーンボックスの時と同様に偽者を探しながら進むわたし達。偽者のブランがわたし達に気付いて逃走を図る、それか奇襲を仕掛けてくる可能性がある、という事で普段より慎重に進む事となっていた。

 

「…ところでさ、ぷちこに一つ訊いておきたい事があるんだけど良い?」

「急に何だにゅ」

「その面白いバランスボールみたいなのは何?」

 

道中、中々偽者のブランが見つからなくて手持ち無沙汰になったわたしはぷちこが常に持ち歩いている、黄色い玉の様な物について質問する。…あ、どんな感じなのか知りたい人は原作やるなりネットで調べるなりしてね。もしぷちことボールっぽいのを挿し絵として書いてくれる親切な人がいるなら是非頼むけどね。

 

「これかにゅ?これはゲマだにゅ」

「ゲマ?主人公を人質にとったあいつ?」

「そっちじゃないにゅ、ねぷ子の目は節穴かにゅ」

「酷いなぁ…で、それは何に使うの?クッション?」

 

ぷちこは時々、それこそバランスボールみたいにそのゲマに乗っかっていた。ぷちこの様子を見る限りバランスボールみたいに安定して乗るのが大変って訳じゃなさそうだけどね。

 

「色々な事に使えるにゅ。ここに持って来てる事からも分かる通り、武器にもなるんだにゅ」

「へぇ、強いの?ちょっとガナッシュに使ってみてよ」

「分かったにゅ、ぶっ飛ばしてやるにゅ」

「な、なんで私で試す事になるんですか!そしてブロッコリーさんも何故そんなやる気満々なんですか!?」

「一時的とはいえわたし達に同行するんだから、こういうネタにも対応しなきゃ駄目なんだよガナッシュ」

「そんな無茶な……」

 

わたし達のノリに着いていけない様子のガナッシュはげんなりしていた。んー、あの兄弟は勿論職員のおにーさんやイボおじいちゃんも個性立ってるしギャグパートにも対応出来るんだからガナッシュも名有りとしてこの位は出来なきゃほんと駄目だよね、うん。

 

「ねぷねぷは誰に対してもキャラがぶれないですね」

「自由奔放もここまでくるといっそ天晴よね」

「あれ、わたし褒められてる?やったね」

「物は言いよう…いや、多分どんな言い方してもポジティブに受け取りそうね、ネプテューヌは」

 

バランスボールっぽいのについて訊いてた筈がいつの間にかわたしが褒められる展開になっている(ブランが何か水を差す様な事言ってたけど…まぁいっか)けど、それがわたし達脱線しまくりパーティーにとっては割りと普通な事だから特に気にせず先へ進む。それがわたし達クオリティーだもんね。

…と、そこで広間の様な所に出る。

 

「ここは…このダンジョンの最奥の様ね」

「ここに来るまでにブランさんの偽者には会わなかったですね」

「ガナッシュ、これはどういう事かしら?」

「お、お待ち下さい。絶対にここにいる筈なんですよ」

 

ブランの問い詰めに対し、狼狽えながらも広間の中心へと向かうガナッシュ。そして彼は丁度真ん中の辺りまで進んだところで立ち止まる。

 

「なら、どうして偽者のわたしがいないのか説明出来るわよね?」

「……えぇ、そうですね。説明しましょう…何故ホワイトハート様の偽者がいないのか、それは…」

「それは?」

「--------私が、ホワイトハート様の命で貴女方をここへ誘い込んだからですよ」

『な……ッ!?』

 

ゆっくりと振り向くガナッシュ、その顔には悪意の籠った笑みが浮かんでいた。

そして次の瞬間、岩陰から次々と姿を現わすモンスター。モンスター達は一直線にわたし達の元へと突進してくる。

その段階に至るまでに、もう私達は気付いていた。これがブランやあいちゃんの危惧した通り、罠であった事。わたし達が嵌められたという事に。けど、モンスターはわたしが反省するのを待ってはくれない。故に、わたし達は落ち着く間もガナッシュを糾弾する間もなく戦闘へと移行していくのだった…。




今回のパロディ解説

・「〜〜認めたくないものね。自分自身の若さ故の過ちというものを」
機動戦士ガンダムに登場するライバルキャラ、シャア・アズナブルの名台詞のパロディ。下記のパロディと合わせてお楽しみ頂ければ幸いかな、と思っております。

・「過ちを機に〜〜特権だよ」
機動戦士ガンダムUCに登場するラスボス、フル・フロンタルの名台詞のパロディ。上記のパロディと元ネタ含めてのネタとなっておりますので、合わせてお楽しみ(以下略。

・主人公を人質にとったあいつ
ドラゴンクエストⅤに登場する敵幹部クラスのモンスター、ゲマの事。名前こそ同じですが、見た目も中身も全くもって違うので、普通に考えれば間違えませんよね。


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第六十五話 予想届かぬ起死回生

どんな人でも『裏切り』という行為をされれば、多かれ少なかれショックを受けると思うんだ。それは裏切られた事で不利益を被るとか、裏切りそのものに驚くとかも勿論あるけど、何よりも『信じた』気持ちを『裏切られる』事が心を傷付けるから、悲しい気持ちになるからショックなんだと思うんだよ。だから…

 

「やっぱりかよ…やっぱり、最初からわたし達の味方になる気はなかったってのかよガナッシュ!!」

 

自らへと襲いかかるモンスターを斬り伏せ、打ち払い、吹き飛ばしながら吠えるブランの気持ちは、本当によく分かった。もしわたしが女神化出来たなら、もっと余裕があった状態ならわたしも声を上げていたかもしれない。

ガナッシュの案内でダンジョンへ向かったわたし達を待っていたのは多種多様なモンスターの群勢。単一の種族じゃない事からも、それが自然に出来た群れじゃなくて人為的に用意されたものだという事が明らかだった。

 

「偽者のブランは探してたけど…モンスターはお呼びじゃないよ!」

「こうなったのもねぷ子が信じてみるのもアリだなんて言うからでしょ!」

「言いっこしてる場合じゃないですぅ!」

 

伏兵として現れたモンスターはわたし達を囲う様にして襲いかかってくる。流石にモンスターが陣形を組んで戦術的に動いてる…って訳じゃなくて、単にわたし達を囲われる形になる場所へガナッシュが誘導しただけだと思うけど、それでもやっぱり包囲されてる事には変わりない。…ちょっとこれ、予想外にプレッシャー大きいよ…!

 

「くそがっ…そんなにわたしが憎いってのかよてめぇはッ!」

「まさか、別に貴女が憎いという訳ではありませんよ。ただ単に貴女達の言う偽者が私にとっては本物にして至高のホワイトハート様だという事です」

「……っ…てめぇまだそんな勝手な幻想を…!」

「少し落ち着くにゅ、あいつをどうするにしてもまずモンスター何とかしなきゃ始まらないにゅ!」

 

次々と仕掛けてくるモンスターを無視してガナッシュに強襲しようとしていたブランをぷちこが抑える(言葉でだよ?物理的には無理だと思うよ?)。この適切な判断力がどっかに飛んで行きかけている状況においてガナッシュと因縁が無く、この次元のわたし達とはパーティーを組んだばかりという立場のぷちこの冷静さは本当にありがたかった。

 

「…悪ぃ、少し頭に血が登っちまってた…この場を手早く片付ける算段はあるのか?」

「今の所はねぷ子とブランがモンスターに特攻かける位しかないにゅ」

『それは御免だよ!』

「だと思ったにゅ。でも真面目な話、手早くって事に拘らなければ何とかなると思うにゅ」

 

ブランの問いに応答しながらゲマでモンスターを引っ叩くぷちこ。…ほんとに武器として使ってるよ…ちょっとゲマの顔が痛そうになってない…?

…それはともかく、確かにぷちこの言う通り焦らず一体一体倒していけば何とかなりそうでもあった。包囲されてるから油断は一切出来ないし、普通に同じ数のモンスターを倒すよりもずっと体力消耗しそうだけどね。

と、そこであいちゃんが思う所があったのかふと口を開く。

 

「…何とかなりそう…って、何か変じゃない…?」

「な、何が変なんです…?」

「何とかなりそうな事よ、ガナッシュやブラン様の偽者ならこの程度の数で私達を倒せるなんて判断をする?」

「……っ!って事はつまりこいつらは前座で--------」

 

 

「わたしが本命、と言う事よ」

 

荒々しさの感じられない、淡々とした声が響く。そして次の瞬間、真上から一直線にブランに向けて何かが襲いかかる。その何かとは…言うまでもなく、偽者のブランだった。

 

「ぐっ……国民を謀ったりモンスターでわたし達を消耗させようとしたり随分と姑息な手を使ってくるじゃねぇか…ッ!」

「生き延びる事と敵を倒す事、それらにおいて最善の策を選んでいるだけよ」

 

直上から奇襲を仕掛けた偽者のブランの一撃を、ブランは戦斧の柄で受ける事で何とか防御。ブランが一昨日一対一でも優位に立てたという話からわたしやベールの偽者同様、ブランの偽者も本物と比べると少し弱いみたいだったけど…不意打ちだった事と速度を乗せた攻撃だった事が基礎能力の差を埋め、互角の状態となっていた。

 

「てめぇの言葉はいちいち癪に触るんだよ…!」

「こうして改めて見ると、やはり落ち着いた口調こそがホワイトハート様に相応しいですね。粗暴な貴女など、真のホワイトハート様には値しない」

「てめぇの言葉はもっと癪に触るんだよッ!すっこんでやがれッ!」

「うわ怖っ…っていうか挑発に乗っちゃ駄目だってブラン!」

 

ギロリとガナッシュを睨み付けたブランは力尽くで無理矢理偽者のブランを押し返し、隙を突こうとしていたモンスターを戦斧で文字通り両断する。…けど、押し返しも両断も普段より明らかに精細さに欠けていた。相手がモンスターだけならそれでも何とかなりそうだけど、雑魚モンスターよりはよっぽど強い偽者相手だとそこを狙われてしまう可能性は十分にあり、キレてるブランを見る事で相対的に冷静になれたわたしには不安で仕方なかった。

 

「何とも面倒な状況にゅ…ねぷ子、こうなればやる事は一つにゅ!」

「うん!ブランに長州小力さんのネタをやってもらう事だよね!」

「そんな訳あるかにゅ!火に油を注ぐ結果になるだけだにゅ!……はぁ、ねぷ子に振ったブロッコリーが間違ってたにゅ…」

 

深いため息を吐くぷちこと苦笑するわたし。…え、さっきの地の文での真面目さはどこ行ったのかって?やだなぁ、このわたしが会話でも地の文でも真面目だったらキャラ崩壊じゃん。両方真面目な時が絶対無いとは言わないけどここでそうはならないって、もう六十話以上付き合ってくれてる皆なら分かってるでしょ?

とはいえ流石にふざけていられない状況だって事はきちんと分かってるわたしは太刀を構え直しつつ、きちんとぷちこの言葉に返す。

 

「これ以上不味い状況になる前にブランの援護をする、でしょ?」

「分かってるなら最初から言えにゅ…」

「ねぷねぷはいっつもふざけてるですけど、実はあんまり頭悪くないかもですね」

「馬鹿と天才は紙一重、って事かしらね…ねぷ子が天才だとは思わないけど」

 

キレてて判断力とか冷静さとかが低下しているブラン。けどキレていようがいまいが基礎能力自体は変化する訳ないし、勢いだけならむしろ普段より上がっている。だからこそわたし達は多少危険でも勢いのあるブランに加勢する方が確実、というのがぷちこの言いたかった事であり、わたしが理解した事だった。

 

「と、言う訳で撃ち漏らしはわたし達が倒すよブラン!」

「ブランさんは存分に戦って下さいです!」

「言われなくても…はなからそのつもりだッ!」

 

戦斧での攻撃だけでなく、殴打や蹴り技まで駆使して攻め続けるブラン。その度に数体のモンスターが弾かれ、或いは回避する為に逃げて偽者のブランとモンスター群から離れる形になる。わたし達が狙ったのはそんなモンスターだった。

今のわたし達の力(まぁつまりは四人がかり)なら、集団から離れた一体二体のモンスターならものの数秒で片付ける事が出来る。その結果、包囲されていたせいで上手く攻められなかったさっきと比べ、格段に撃破効率が上がっていた。

 

「くっ…思っていたより厄介な連携ね……ガナッシュ、アレを使いなさい」

「えぇ、分かっておりますともホワイトハート様」

「あれは…エネミーディスク!まだ持ってたのね…!」

「エネミーディスク…何だかよく分からないけど壊した方が良さそうだと言う事は伝わってくるにゅ」

 

形勢が逆転しかけている事を感じ取った偽者のブランは後ろで控えていたガナッシュに声をかける。それに対しガナッシュはいつかの様に懐に手を入れ、そこからエネミーディスクを取り出す。それはつまり、せっかく減らしたモンスターの数がまた増えてしまうという事だった。…ほんとさ、エネミーディスクってズルくない…?

 

「あんな物私が……んなっ!?」

「させはしないわ、貴女達同様味方の重要性は理解しているつもりだもの」

「はッ!モンスターが味方とは随分と寂しい奴だなお前は!」

「好きに言えばいいわ。その間もこちらが有利になるだけの話なのだから」

 

偽者のブランの言う通り、少しずつだけど確実に増えていくモンスター。偽者のブランとガナッシュが多少余裕が無くなっていた事で煽りが減ったおかげかブランはある程度冷静になっていたけど、キレてても極端な戦力低下はしないのと同様に冷静だからと言ってそれだけで突破口になる訳でもなかった。

 

「こ、こうなれば…ちょっとタンマ!作戦会議するからちょっと待ってくんない!?」

「作戦会議ね…まさか待つとでも?」

「ま、だよねぇ…誰か良い案ある?」

 

偽者のブランとモンスターとの挟撃を凌ぎながら質問を投げかけるわたし。そうしている間にもモンスターは数を増やしている。普段ならともかく、この状況では明らかに倒す速度よりも増える速度の方が上だった。さっきまでの包囲されてた状況といい、今の倒しても倒しても数が減らない状況といい、何でもこうも今回の戦闘はメンタルにダメージ与えてくるのさ!偽者のブランはそういう方針で戦ってるの!?

 

「流石にそんな都合良く良い案は浮かんだり…」

「ならブロッコリーの切り札を使うにゅ」

「したです!?」

「『目からビーム』。ブロッコリーの必殺技にゅ」

「え、指ビーム?」

「ねぷ子は一度耳鼻科に行くべきだにゅ」

 

ぐだくだな会話はともかく、ぷちこが自信ありげに技の名前を述べた事でにわかに湧き立つわたし達。目からビームなんて安直過ぎる気はするけど…まぁ捻れば良いってもんじゃないからね、技名って。

 

「目からビーム…?…気を付けなさいガナッシュ、本当に強力な技の可能性があるわ」

「気を付けたところで無駄にゅ、ブロッコリーのビームは破壊力抜群にゅ」

「なら、撃たれる前に貴女を--------」

「余所見とは余裕綽々じゃねぇか…てめぇの相手はこのわたしだってんだよッ!」

 

身体を捻りモンスターの間をすり抜ける事でぷちこの目の前へと躍り出る偽者のブラン。しかし、偽者のブランが攻撃を仕掛けるより早く本物のブランが小型のモンスターごと飛び蹴りで偽者のブランを跳ね飛ばす。その瞬間、ほんの一瞬だけどぷちことガナッシュの間には何もない状態が出来上がる。

 

「……っ…しまっ…!?」

「やっちゃえぷちこっ!」

「喰らうがいいにゅ!必殺……『めからびーむ』!」

「……ッ!」

 

咄嗟に避けようとするガナッシュ。しかしもう遅い。ガナッシュが動き出そうとしている時には既にぷちこは地面を踏みしめ、目の周囲に輝きを纏わせていた。わたし達はエネミーディスクを破壊してほしいという期待を、偽者のブランとガナッシュはビームが外れてほしいという期待を込めてぷちこを見つめる。そんな中、ぷちこの目が一層眩い光を放ち、その目から--------

 

『…………はい?』

 

----何だかよく分からない、ゲル状の液体っぽいのが出てきた。そして一メートル前後で勢いが無くなって地面に落ちた。…偽者のブランやガナッシュ含め、全員して唖然だった。

 

「……え、っと…あの…ぷちこ、これは一体…?」

「あー…失敗だったにゅ」

『失敗するとこうなる(の・です・のかよ)!?』

 

目からビームは失敗すると目からゲル状の何か、になるらしい。もうあり得ない程に意外な事実だった。……ぷちこ…見た目といいキャラといいどんだけ捻りまくってるのさ…。

--------が、それがまさかの展開を、起死回生のきっかけとなる。

 

「そりゃ無いぜブロッコリー…だが、これは好機だ!絶好のなッ!『テンツェリントロンペ』ッ!」

「な……っ…ぐぁぁぁぁっ!?」

「……ッ!今よ皆!」

「あ、あいあいさー!」

「はいですっ!」

 

そう、ぷちこの超絶変化球に唖然としていたのはわたし達だけではない。つい直前までぷちこの邪魔をしようとしていた偽者のブランですら呆気に取られ、この状況下で誰よりも早く正気を取り戻したブランは自身の力、戦斧の重量、そして遠心力をも利用した強烈な回転斬りを敢行。反応の遅れた偽者のブランを弾き飛ばしその勢いのまま周辺のモンスターも悉く消滅させていく。更に、そのブランの様子を見て動くあいちゃんとあいちゃんに声をかけられる事で反射的に動き出すわたしとこんぱ。自陣のトップが吹き飛ばされ、その上一気に複数体が倒された事で動揺が広がったモンスターは、それと対照的に一気に攻勢モードとなったわたし達に対応出来ず瞬く間にやられていく。

ぷちこの失敗版目からビームから数分後、凄まじい勢いで駆逐されたモンスターは戦場から完全に姿を消していた。

 

「ぐ…ぅぅ……」

「そんな…全滅…?たった数分で、数十体のモンスターがか…!?あの状況から…あんなふざけた展開からホワイトハート様もモンスターもやられたというのですか…!?」

「残念ながらその通りだ、残念だったなガナッシュ」

「あぐ……ッ!」

 

愕然としているガナッシュへと肉薄し、エネミーディスクを蹴り飛ばすブラン。蹴りそのものはガナッシュには当たっていなかったものの、ディスク経由で衝撃が来たのか腕を押さえて数歩下がる。

蹴られた時点で欠け、壁にぶつかった事で完全に割れるエネミーディスク。もう、勝利は決まったも同然に見えた。

 

「…これで終わりだな。覚悟しろよガナッシュ」

「ぐっ…認めない、私は認めない…この信仰心を捨ててなるものですか!貴女の言葉など知った事ではない!誰が何と言おうが私のホワイトハート様は優しく穏やかな方であり、今貴女方と戦っていた方こそが私にとって本物のホワイトハート様だ!」

「……そうかよ、だったらもうわたしがお前に言う事は何もねぇよ。わたしとしちゃ忌々しい限りだが、そこまで思われてるなら偽者のわたしも報われるだろうな。…だが、それとこれとは別として、てめぇにはきっちりと落とし前を--------」

 

 

「余所見とは余裕綽々じゃねぇか…さっきの言葉、今そっくりそのまま返させて貰うわ」

『……ーー!?』

 

壁際から響く声。地を蹴るような独特の音。それらはある事を…まだ偽者のブランは戦えるという事を現していた。確かに、偽者のブランが他の偽者の女神と同じ様な形で消滅するのを誰かが見た訳じゃないし、恐らくだけどブランもあれだけで倒しきれたとは思っていなかったと思う。けど、それでもここまで早く復帰してくる事はわたし達の誰もが予想しなかった事であり、先程とは逆に、わたし達は完全に不意を突かれる事となってしまった。わたし達が反応するよりも前にブランとガナッシュに肉薄する偽者のブラン。その瞬間、ブランは苦渋に、ガナッシュは喜びに満ちた表情を浮かべる。そして……

 

 

「……形勢、再逆転よ」

「ホワイトハート、様……?」

 

偽者のブランは、ガナッシュに…自身の味方である筈のガナッシュを後ろから取り押さえ、戦斧を喉元へ宛てがえていた--------。




今回のパロディ解説

・長州小力
プロレスラーである長州力さんのモノマネ芸人である、長州小力こと久保田和輝さんの事。作中では彼のネタを明言していませんが、流石にこれは分かりますよね。

・指ビーム
健全ロボ ダイミダラーに登場する主人公機、ダイミダラーの切り札の事。当然ながらブロッコリーはHi-ERo粒子を使える訳ないので、彼女がこれを使う事はあり得ません。

・「〜〜全滅…?〜〜モンスターがか…!?」
機動戦士ガンダムに登場する敵キャラの一人、コンスコン少将の代名詞とも言える台詞のパロディ。状況としては色々違いますが、ガナッシュはそれ位驚いていた訳です。


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第六十六話 女神が望むもの、護るべきもの

圧倒的劣勢の中で偽者のブランがとった行動。それをわたしは一瞬理解が出来なかった。

自分から注意が逸れている瞬間に、一発逆転をかけて奇襲を仕掛けるというなら分かる。誰だって思い付く、普通の事だからね。それか、仕掛けるのではなく逃げるというならそれも分かる。誰だって命は大切だし、逃げて生き延びる事が出来ればいつか勝つチャンスが生まれるからね。或いは、相手の一人を人質に取る…というのも分かる。ちょっと難しいけどわたし達全員を倒すよりは可能性があるからね。……でも、偽者のブランはそのどれも選ばなかった。…ううん、正確には人質を取るって選択肢を選んだ。けど--------

 

「彼は人質よ。下手な真似をすれば命の保証はしないわ」

 

偽者のブランが選んだ人質は…他でもない、味方のガナッシュだった。味方を人質にするなんていう予想だにしない展開に、わたし達は一瞬言葉を失う。そして、これを予想していなかったのはガナッシュも同様らしく、信じられないと言いたげな表情を浮かべている。

 

「ホワイトハート様…これは…何の、つもりなんですか…?」

「言ったでしょう?最善の策を選んでいるだけと」

「……っ…これが、最善の策…」

「えぇ、現にこれで相手は動けなくなっている。それは紛れも無い事実よ」

 

ガナッシュを連れてわたし達から距離を取りつつ、いっそ冷たい程に淡々とした言葉を発する偽者のブラン。対するわたし達は動けずにいた。勿論、わたし達はCファンネルの使い手ばりに不殺を誓ってる訳でもなければガナッシュをかけがえのない存在だと思ってる訳でもない。特に後者はほんとにあり得ない。けど、出来る限りは人に死んでほしくないし悪を倒す為ならどんな犠牲も問わない、なんて発想もない。だからこそ偽者のブランのとった手段は効果的だったんだけど…わたし達が動けずにいたのはそれだけじゃない。

 

「…何考えてんだよ…てめぇにとっちゃガナッシュは味方だろうが!」

「そうよ、味方だからこそ貴女達より人質にし易いと思ったし実際にそうだったわ」

「わたしが言ってんのはそういう事じゃねぇよッ!」

「そうだよ!仲間にそんな事したらハブられてぼっちになるだけなんだからね!」

 

始めにブランが、続いてわたしが熱の籠らない雰囲気を纏う偽者のブランに怒号をあげる。…わたしが言った後、パーティーメンバーから『何故そんなズレた表現を…』みたいな視線を感じたけどそれは無視。緊迫した場面でおふざけなんて言語道断……あたっ!?誰!?ブーメラン投げたの誰!?

 

「…ネプテューヌ…お前も大変だな、こんな時までボケなくちゃいけなくてよ」

「え、いや…別に無理してボケてる訳じゃなくて好きでボケてるだけだから大丈夫だよ…?ってわたしアレな事で同情されてない…?」

「…はぁ……こほん、とにかくガナッシュから手を離しやがれ。仮にも女神の偽者を語るってんなら仲間を、信仰してくれる相手を人質になんざしてんじゃねぇよ…!」

「断るわ。…そもそも、貴女達は立場を理解しているの?」

 

ガナッシュの喉元に宛てがえた戦斧を持つ手に力を込める偽者のブラン。その動作に顔を引きつらせるガナッシュ。

 

「……要求は何だ…」

「そうね…わたしの目的は一つではないけど、差し当たっては貴女の命よ」

「…だろうな…ふん、数日前わたしとサシで勝負した奴とは思えねぇ変貌だな…」

「なっ……ブラン様!?」

 

首を横に降った後、戦斧を消して一歩ずつ偽者のブランとガナッシュの方へと歩くブラン。その動作は、言うまでもなく偽者のブランの要求を飲むという事だった。

 

「…不本意だが、わたしはあいつの様に冷徹にはなれないからな…」

「…ブラン、それで良いの…?」

「あぁ、おい偽者。わたしがこうするんだから、きちんとそっちも約束は守るんだろうな?」

「えぇ、その位は約束するわ」

 

偽者のブランの持つ戦斧が届く範囲にまで入るブラン。当然、わたし達はその選択に納得した訳じゃなかったけど、相手が人質を取っている以上下手な事は出来ないし…状況は色々違うとはいえ、前に一度似た様な事をしたわたしは今のブランを止めるに止められなかった。

交錯する二人のブランの瞳。そして、その内の片方…本物のブランは目線を偽者のブランからガナッシュへと移す。

 

「……てめぇの勝ちだ、ガナッシュ」

「…………」

「喜べよ、形はどうあれお前の信仰する女神が…お前にとってのホワイトハートが勝ったんだ、良かったじゃねぇか」

「それ、は……」

 

ブランの言葉に返答が出来ないでいるガナッシュ。彼の表情には『こんな形での決着は望んでいない』という思いが現れていた。

その二人のやり取りを見ていた偽者のブランは、ガナッシュに目を光らせつつも自身の戦斧を振るう為に掲げる。

 

「これで終わりね。目的の為にすべき事、捨てるべきものを図り損ねたのが貴女の敗因よ」

「てめぇみたいになる位なら、それこそ死んだ方がマシだ。てめぇには分からねぇだろうがな」

「その通り、わたしには分からないわ。貴女のその愚行が--------」

 

 

「もうおやめ下さいっ!」

 

偽者のブランが戦斧を振り下ろす直前、偽者のブランの拘束が解けている事に気付いたガナッシュが動く。両腕を広げ、攻撃を止めるかの様に。そして、彼が背にしていたのは……本物の、ブランだった。

 

「な……っ!?」

「…ガナッシュ、これはどういう事?」

「ホワイトハート様こそどうなされたんですか!貴女はこんな卑劣な方法を取るお方ではない筈です!穏やかで、平和主義で、慈愛に溢れた美しき女神、それがホワイトハート様でしょう!違いますか!?」

「いや違ぇよ…わたしは聖母か何かかよ……」

 

いつかの様に熱弁を振るうガナッシュ。そんなガナッシュにわたし達は呆れ、ブランは半眼で突っ込みを返す。…が、当のガナッシュはそんな事は気にも留めない様子で一心に偽者のブランを見つめる。

 

「……貴方の言いたい事はよく伝わったわ」

「……!…それは良かった…不遜な態度、申し訳ございませんでしたホワイトハート様。ではここは一度引き、再度偽者達を…」

「わたしに従えないというならここで敵もろとも散りなさい。もう貴方は不要よ」

「え……?」

 

偽者のブランは最初、ガナッシュの言葉を理解したかの様な返答を述べた。…が、次に述べた言葉はガナッシュを斬り捨てる様なものだった。その瞬間、ガナッシュもわたし達も気付く。彼女はガナッシュの論に納得をした訳ではなく、ほんとに単に理解しただけだったという事を。

そして、偽者のブランは戦斧を振るう。元々の目的であるブランと、彼女にとっての離反者であるガナッシュを両断する為に。戦斧は、振るわれ--------

 

 

「……てめぇ今、何をしようとした…?」

 

その戦斧は、ブランによって…静かでありながら、これまでに見たどの時よりも強い怒りを孕んだブランの手によって--------押し留められた。

 

 

 

 

「何をしようとしたって、聞いてんだろうが……」

 

自身に、そしてわたしの前に立つガナッシュに対して振るわれた戦斧の柄を、わたしは片手で掴む。振り上げられた戦斧が振り下ろされるまでの一瞬の間にガナッシュの前へと回り、目視するのも難しい程の速度の戦斧を止める。そんな女神でも早々出来ない様な芸当をわたしが出来たのは、ひとえに心の奥底から湧き上がる怒りが原動力となったからだった。

 

「……っ…そんな…!?」

「おいガナッシュ、下がってろ…」

「え…あ……」

「下がってろ、今のわたしは周りに配慮出来る程冷静じゃねぇんだよ」

 

ブランの言葉に我に帰ったガナッシュは、ブランの言う通りその場から離れる。その間もわたしと偽者との押し合いは続き、戦斧は宙で小刻みに震える。

 

「てめぇの思想も行動原理もてめぇの勝手だし、そこにとやかく言うつもりは無かった。…けど、もうそうは言っていられねぇな…」

「いいから…離しなさい…ッ!」

「…わたしの勝手で悪ぃが、ここはわたしにやらせてくれねぇか?その結果どうなってもわたしが責任を負う、だからやらせてくれ」

「…と言ってるけど、どうするにゅ?」

「んー…わたしも正直あいつには一撃喰らわせてやりたい所だけど…うん、ここはブランに譲るよ。だからブラン、全力で叩き潰しちゃって」

「…恩に着るぜ」

 

後ろから聞こえてくるのはネプテューヌの声。その声、言葉の裏に今のわたしと同じ怒りが含まれてる事を感じながら、わたしは偽者の戦斧を掴む手を離す。勿論掴んだまま仕掛けた方が楽ではある…が、今は正面から、偽者の全力を打ち破った上で倒したかった。女神として、わたしはそうしなきゃならねぇんだよ…。

 

「来いよ、一対一ならてめぇにも少しは勝機があるだろ?」

「言われなくとも…そうするつもりよ…!」

 

自由となった戦斧を手に早速仕掛けてくる偽者。それをわたしは再度顕現させた自身の戦斧で打ち払う。

横薙ぎ、斬り上げ、振り下ろし。わたしの偽者だけあって繊細ながらも重い一撃を次々と放ってくる。…だが、そのどれもがわたしの迎撃により当たる事なく失敗となる。

 

「そんなもんかよ、それでわたしの名を語るなんて片腹痛いんだよ」

「五月蝿い…わたしは、貴女の様な甘い奴には負けないわ…!」

 

臆す事なく仕掛け続ける偽者。その攻撃全てを弾き続けるわたし。そして、しびれを切らした偽者がわたしの顔へと放った拳をわたしは左の手の平で受け止める。

 

「……ッ!」

「…甘い、か…確かにわたしは甘いかもしれねぇな…だがな、甘いのが…優しいのが女神ってもんなんだよッ!」

「がぁっ……ッ!?」

 

戦斧を宙に放り、反撃とばかりに偽者に拳を叩き込む。そこからは、完全に攻守交代だった。自由落下で手元へと落ちてきた戦斧を握り、吹き飛んだ偽者へとわたしは追撃をかける。

 

「てめぇは言ったな、目的の為にすべき事、捨てるべきものを図り損ねたのがわたしの敗因だと。ならてめぇの目的は何だ、てめぇが捨てるべきだと思ったものは何だ?」

「ぐっ…目的は勝利…捨てるべきものは目的の邪魔になるもの全て…それは絶対の真理----」

「そんな奴に人は着いてこねぇんだよッ!そんな冷徹な奴が!誰の事も大切にしねぇ奴が!自分を信じてくれる奴すら道具としか思ってねぇ奴が!女神の名を語ってんじゃねぇよッ!」

 

体勢を立て直せていない所へ袈裟懸け。怯んだ所へ回し蹴り。辛うじて防御体勢を取った所へ大上段斬り。言葉を、怒りを乗せたわたしの連撃は立て続けに偽者の身体を襲い、それ等全てが有効打となり偽者の体力を奪っていく。

そして……

 

「う…ぐっ……」

「終わりだ偽者。最後に何か言い残す事があるなら聞いてやるよ」

「舐めてくれた、ものね…なら、言わせて…もらうわ…」

「…………」

「やはり、貴女は…………甘ちゃんよ…!」

 

膝をつき、息も絶え絶えだった偽者。しかし、わたしが彼女の言葉を聞こうとしたその瞬間に地を蹴り、ネプテューヌ達へ襲いかからんとする。

偽者のわたしはまだ諦めていなかった。一矢報いるつもりだったのか、先と同様に人質を取ってこの場を乗り切ろうとするつもりだったのか、目的は定かではなかったがそれがネプテューヌ達にとって意表を突かれる行動であった事には違いなかった。……そう、ネプテューヌ達にとっては。

 

「--------残念だったな、てめぇの行動はお見通し何だよ」

「……ーーッ!?」

「……『ハードブレイク』ッ!」

 

偽者がネプテューヌ達を手にかけるよりも早く、わたしは偽者の目の前へと降り立ち、わたしの全身全霊をかけた戦斧と体術の乱舞を叩き込む。容赦なく、躊躇なく、寸分の油断もなく。振るった戦斧が、撃ち込んだ衝撃波が、投合した戦斧が偽者を完全に捉えていく。そして、わたしは宙に舞う。戦斧を上段に構え、目線の先に偽者の姿を捉え、全力を持って彼女へと突進する。

 

「……わたしに勝ちたきゃ、誰かを大事にする事を覚えてからにしやがれ」

 

女神としての想いを、心情を乗せた一撃は何者にも阻まれる事なく偽者の身体を両断し、わたしが言葉を締めくくる頃には偽者の姿は消滅していた。

 

 

 

 

「お疲れ様、ブラン」

 

偽者の消滅を見届け、安心した様に女神化を解除したブランへと最初に声をかけたのはわたしだった。ふぅ、と息を漏らすブランの周りにわたし達は駆け寄る。

 

「えぇ、勝負に綾をつけなかった事感謝するわ」

「ブランさん凄かったですぅ」

「だね、何ていうかIDヒースクリフを使ってたって感じ?」

「かなり風格ありましたよ、ブラン様」

「あそこでわざわざ一対一をするのは賢明じゃないにゅ。でも終わり良ければ全て良しだにゅ」

 

中々厄介だった敵を倒せた、しかも倒すまでの経緯が中々ドラマチックだったという事でいつも以上に盛り上がるわたし達。ブランもその中心人物であり、やっと倒せたからかいつもよりも表情が緩んでいた。

 

「しかし意外だったわ、まさかネプテューヌがあの場でブラン様に譲るなんて」

「同感だにゅ。あんな主人公が戦いそうな展開ならねぷ子はしゃしゃり出ると思ってたにゅ」

「いやいや、あそこでわたしが出たら雰囲気台無しじゃん。シリアスな展開はともかく、熱くなりそうな展開はわたし壊したくないし」

「そういえば、あの時のねぷねぷとブランさんはちょっといつもと違う気がしたです」

「あー…そりゃそうだよ、だって…」

『信仰してくれる人を大切にしない奴が女神を名乗るなんて、凄く気分が悪い(もん、もの)』

 

示し合わせた訳でもないのに、完璧に(語尾は違ったけど、ね)ハモるわたしとブラン。そんなわたし達二人にこんぱ達は目を丸くする。…そんなに不思議な事かなぁ、ノワールやベール、それにイリゼだって同じ様に言うと思うんだけどなぁ。

 

「ま、それはともかく目的を達成したんだからさっさと帰るにゅ」

「うんうん、長時間外にいて寒くなっちゃったし暖かいもの買って帰りたいなー」

「そうね、でも最後に一つ片付ける事があるわ。……でしょう、ガナッシュ」

「……っ…」

 

穏やかだった表情を引き締め、ひっそりとその場から去ろうとしていたガナッシュへ声をかけるブラン。ガナッシュはまさか気付かれているとは思っていなかったのか、ビクッと肩を震わせて立ち止まる。

 

「あ、ガナッシュが居るの忘れてた…さぁて、この落とし前、どうつけてくれるんだあぁん?」

「ねぷねぷがヤクザさんみたいになってるです…」

「ねぷ子のボケはほっとくとして…どうしますかブラン様?取り敢えず捕まえます?」

「……ふっ、私も年貢の納め時という事ですか…もう抵抗はしませんよ、煮るなり焼くなり好きにして下さい」

 

自嘲する様に笑い、両手を上げて降参のポーズを取るガナッシュ。そんなガナッシュにブランは近付き、彼の正面に回った後…告げる。

 

「……ガナッシュ、うちの教会で働くつもりはないかしら?」

「……へ…?」

「どうせ今は仕事もないんでしょう?貴方にとって悪い話じゃない筈よ」

「ちょ、ちょっと待ってブラン!え、本気!?」

「勿論本気よ。一度はラステイションで天下を取りかけたアヴニールの上級役員ならうちでも十分働けるわ」

「いやそうじゃなくて…マジすか……」

 

ブランの言葉はあまりにも予想の斜め上過ぎた。わたし達を…ブランを何度も騙した相手を自分の統治する国の教会職員にするって…もうお人好しとかのレベルじゃないよ…。

 

「…正気ですか?私がもう貴女を嵌める事はないという確信があるとでも?」

「無ければ貴方を職員になんてしようとは思わないわ」

「…何を持って、確信を持ったのですか……」

「貴方の敬愛する存在を想う気持ちは本物よ。それがどんなに身勝手であろうと、暴走してようとその点は変わりないわ。…わたしは貴方の信仰心を評価しているのよ」

 

ブランは表情を緩め、嘘偽りを感じられない言葉を紡ぐ。それはまるで、ガナッシュに手を差し伸べているかの様に。

 

「それに、貴方はわたしの偽者を身を呈して止めようとした。信じる者の為に、命を危険に晒した。…ガナッシュ、貴方はきっと優しい人よ。少し、想いが強過ぎるきらいがあるけど。…だから、そんな貴方に信仰されていた事だけは、偽者を羨ましく思うわ」

「…随分と、私を評価しているのですね。全く…知った様な口を聞かないで下さい、そう言われたからと言って粗暴で短気な貴女を信仰する様になるとでも?」

「…そう、それは残念だわ。それじゃ…皆、待たせて悪かったわ、教会へ戻り--------」

「……ですが、先程の貴女はほんの少しですが…私の愛する女神様の様に見えました。…ホワイトハート様」

 

ダンジョンの出入り口へと向かおうとしていたブランの背にかけられた言葉。それを聞いたブランは…優しく、暖かな笑みを浮かべていた。




今回のパロディ解説

・Cファンネル
機動戦士ガンダムAGEに登場する四代目主人公機、ガンダムAGE-FXの主兵装の一つの事。主人公のキオ・アスノはこれを中心に最後まで不殺だったのだから凄いものです。

・IDヒースクリフ
ソードアート・オンラインシリーズのフェアリー・ダンス編終盤に登場するIDの事。今回のブランはパロディ元のキリトとオベイロンの戦闘ばりに圧倒していたのです。


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第六十七話 書庫のひと時、三度目の出発

『おぉー……!』

 

ルウィー教会の一角に感嘆の声が上がる。声を上げたのはブランを除くわたし達パーティーメンバーで、その理由は勿論想像を超える事柄があったから。

 

「どれでも好きに読んでくれて構わないわ。丁寧に扱ってくれるのなら、ね」

 

わたし達が見たのは部屋中の本棚と、そこへ所狭しと並べられた本の山。そう、わたし達はルウィー教会の書庫に来ていたのだった。

偽者のブランを倒し、ダンジョンから帰ってからおよそ数時間後。先頭の後で疲れてるし、でも寝るにはまだ早いし、皆で遊べるパーティー系ゲームは昨日時間を潰す為に色々やったし…と完全に手持ち無沙汰だったわたし達はブランに呼ばれ、何だろ〜とか思いながら書庫へと入った所で今に至ったりする。

 

「やー、読書好きなブランの事だから教会にも沢山本があると思ったけど…まさかここまでとはね」

「レジスタンスのアジトにも沢山本がありましたけど…それとは比べものにならないレベルですね」

「図書館みたいですぅ」

「お言葉に甘えて早速読ませてもらうにゅ」

 

本、と一口に言っても小説や漫画、絵本や写真集と色々な種類があるし、更に言えば小説だって純文学と大衆文学(ここら辺はあんまり詳しくないんだけどね)、児童書にライトノベルと様々なジャンルがある。わたしは最初、ノワール程じゃないけどお堅いブランの事だから俗的な奴はないかなぁ…とか思ってたけど実際にはジャンル問わず多種多様な本があり、わたし達の興味を惹くには十分なものだった。流石に本が並べてあるのを見るだけで楽しめる程の本マニアではないわたし達は、普通に興味を持った本を手に取って読み始める。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……っていやいやいやいや!ちょ、皆ストーップ!読書止めて止めて!」

 

全員が読み始めてから数分後。皆からすれば唐突にわたしがドクターストップならぬヴィーナスストップをかける。…いや、だって…ねぇ……。

 

「…何?読書中は邪魔されたくないんだけど…」

「あ、それはごめん…ってそうじゃなくて!いや何皆黙って読んでるの!?」

「はぁ?騒ぎながら読書してたら確実に頭おかしいでしょ」

「それはそうだけどそうじゃなくて!これ本編の最中だから!第六十七話に掲載されるシーンだからね!?皆黙って本読んでたら話にならないでしょうが!」

「言いたい事はともかくその発言はメタ過ぎるにゅ…」

 

状況とわたしの言わんとしてる事を皆が全く理解していなかった為普段のイリゼやノワール、あいちゃんばりの突っ込みをする事となるわたし。因みにメタ発言マシマシにしたのは勿論ボケとして成り立たせる為、ただ突っ込むだけじゃわたしらしくないからね。…ってだからそうじゃなくて…こほん、ここは一つ閲覧者さんへ配慮の出来る主人公として見本を見せないと。

 

「それじゃ…ねーねーブラン、この書庫って魔法の本とか魔術書とかもあるの?」

「当然あるわ、魔法の国だもの。…まぁ、貴女の思ってる様なものではないと思うけど」

「え?じゃあ囁告篇帙(ラジエル)とか『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」』とかは無いの?」

「天使や宝具が保管されている訳ないでしょうが…」

「そっかぁ…あ、ならじゅ「十万三千冊の魔道書があったりもしないわ」ねぷっ!?読まれた!?」

 

当たり障りのない普通の質問から始まってボケと突っ込みとパロディの織り交ぜられたネタ大盛りトークを繰り広げるわたしとブラン。うんうん、やっぱこれ位はやんなきゃだよね!

 

「およそ書庫には似つかわしくない会話だにゅ…」

「いーのいーの、けど流石ブラン!わたしの意図を完全に理解してたね!やっぱ無印でのわたしのカップリング枠なだけあるよ!」

「…わたしはそれにどう反応したら良いのかしら……」

「…ごめん、正直わたしも分かんない……」

 

ちょっとエッジの効いたネタをぶっこんでみた結果、何とも言えない雰囲気になってしまった。…うん、普段狙ってボケやってる人なら分かると思うんだけどさ、ボケも実は結構頭使うんだよね。つまらない事言ったら当然滑るし多少面白くても反応に困る様な事言っちゃってたらその後の会話が上手く繋がらなくなっちゃうし。

 

「ねぷ子が言った理由はともかく…女神様って皆そういうネタ関係での察しとかノリ良いわよね」

「ですね。ねぷねぷ達女神様が二人以上いるとほんとに賑やかになるです」

「そりゃそうだよ、ぶっ飛んでてお笑い要素がある事は女神の必須事項だからね」

「そんな必須事項始めて聞いたのだけど…」

「いやでも実際真面目で清純できちんと敬語も使う、正統派ヒロインみたいな女神なんていないっしょ?」

 

記憶喪失だしわたし含めても女神は五人しか知らないけど、まぁ今わたしが言った事はほぼ合ってるよねきっと。…って、うん?今『酷いよお姉ちゃん……』って聞こえた気が……。

 

「…それでねぷ子、ねぷ子が言いたかったのはこういう会話をしろ、って事かにゅ?」

「そういう事。と、いう訳で読書中もこういう会話を続けるという事で一つどうよ?」

『こんな会話しながらの読書は無理だと思う(です・わ・にゅ)』

「…ですよねー……」

 

うん、分かってたよ…我ながらこのレベルの会話となると読書の片手間に、とはいかないだろうって…。

雑談がひと段落ついた事もあり、読書or本探しを再開してしまうパーティーメンバー。それに対しわたしがうむむ、と頭を悩ませていると…

 

「…うーん…ブランさん、ここって司書さんはいないですか?」

「ここは図書館じゃなくてあくまで書庫だから…お目当ての本が見つからないの?」

「はいです。名前しか分からないので探すに探せないんです」

「そう…ならその名前を教えて頂戴。全てではないけどおおよそならここの本を把握しているから、タイトルを教えてくれれば分かるかも知れないわ」

 

何やらこんぱは気になる本があるのか、ブランにその旨を伝えていた。んー…確かに無言よりはマシだけどさ、タイトル言ってブランがその本探して云々〜…じゃネタにならないよねぇ。やっぱりここはわたしがもう一度ネタ振りをして……

 

「えっと、全部は覚えてないですけどそれでも良いですか?」

「えぇ、とにかく言ってみて頂戴」

「じゃあ、ええと…終焉と新生の……」

「ぶ……ッ!?」

 

こんぱがタイトルを言い始めた瞬間、吹き出してむせるブラン。そしてご飯を食べていた訳でも誰かから攻撃を受けた訳でもないブランが突然むせた事で興味を引かれたわたし達……って、あれ?そのタイトルってどこかで聞いた気が…あ!

 

「それ確かブランが昔書いたっていう同人小説だよね!あるの!?」

「あ、ある訳ないでしょうが!っていうか置いてたまるか!」

「あ、ないんですか…ちょっとだけ気になったので読んでみたかったけど、残念です…」

「え…読んでみたかったの……?」

「…少し嬉しそうな顔したね、ブラン」

 

ここでも一問一答の時も言うのを頑なに嫌がっていたブランだったけど、どうやら興味を持ってくれるのは嬉しいらしかった。…まぁ、本に限らず何かしら作品を作ったら人に見てもらいたい、使ってみてもらいたいって思うのは人の常だよね。わたしもブランも女神だけど。

 

「しかし、天使も宝具も同人小説もないってなるとじゃあ何がここにあるのさ?」

「悉くありふれてない本を言うからでしょうが…それ以外ならだいたいあるからそれで我慢なさい…」

「ならゲームの攻略本はあるのかにゅ?」

「あるわ、右端の棚の下の段よ」

「あるのかにゅ…攻略本のある書庫って何だにゅ…」

 

ぷちこの大変ごもっともな突っ込みに対して何故かふふん、と自慢気に笑みを浮かべるブラン。偏りなく何でも揃えてるって事言いたいのかなぁ…。

 

「では、太古の神話全集とか世界の名武器ガイドとかもありますか?」

「あるわ…って、また随分と貴女の趣味の分かる質問ね…」

「じゃあ、医学の本はあるですか?これからの為にももっとナースとしての知識を蓄えておきたいんです」

「勿論あるわ。コンパは勤勉なのね」

「ふむふむ、だったらエロ本ある?」

「それもあ……え?」

 

わたしの発言により突如固まる書庫内の雰囲気。…あ、やばこれはまたネタミスった!?

 

「や、ち、違うよ!?これは所謂三番オチって奴を狙ったのであってエロ本に興味がある訳じゃないからね!?」

「……本当に?」

「本当だよ!?そんな疑いの目をわたしに向けないで!そして皆もしれっと距離を取らないで!」

『…趣味は自由(ですよね・よ・にゅ)』

「だから……お願いだから勘違いしないでぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

白い目で見られ、恥ずかしさに耐えられなくなったわたしは熱くなった顔を手で多いながら絶叫する。…うぅぅ…こんな経験もうこりごりだよぉ……。

そうこうしているうちに夜も更け、そろそろ寝ようかという話をしだすわたし達。その時さっきの発言のせいでわたしだけ別室で…というちょっとエグい話になったのは作中では描写しない、わたし達だけの秘密だったりする。…って、地の文で言ったら思いっきりバレちゃうじゃん……。

 

 

 

 

偽者のブラン討伐の翌日、わたし達はブラン討伐の前日…つまり一昨日と同じ様にブランの部屋に集まっていた。…あ、別にわたし昨夜はハブられてないよ?弄りはするけど虐めはしない、それがわたし達だからね。

 

「ブラン様、全員揃いましたよ」

「その様ね。じゃあ…まずは昨日の戦闘はお疲れ様、ひとまずわたしの偽者の件は何とかなったわ」

「ふっふーん、これが主人公の実力って奴だよ!」

「…妙に粋がってるねぷ子はともかく、偽者に跋扈されちゃこっちも困るからこの位当然だにゅ」

 

相変わらずの毒を吐きつつブランの言葉に返答するぷちこ。…あのさ、ぷちこだけじゃなくうちのパーティーってわたしの主人公発言とか調子乗った発言とかに対して悉く雑な扱いするよね。今度全員で集まった時苦情言おうかな…雑に扱われる気もするけど。

 

「私達も元々協力する為に来たんですからお礼は不要ですよ。それよりも…ねぷ子の時は偽者が複数いました、ルウィーではどうなんですか?」

「複数?…もう少し詳しく教えてくれる?」

 

あいちゃんの報告を聞いたブランは少し表情を引き締める。ま、そりゃそうだよね。各章のラストボス的な立ち位置の奴倒したと思ったらそいつと同じ奴が他にもいるかもよ、って話されたんだもん。

という訳で、ブランとブラン同様にプラネテューヌとリーンボックスでの事を知らないぷちこにわたし達は説明する。

 

「--------で、ねぷねぷの偽者はいっぱいいて、ベールさんの偽者は一人だけだったです」

「いない根拠はないのでベール様の偽者は今も捜索が続けられていると思いますけどね」

「そうだったのね…ベール同様、わたしもわたしの偽者が複数発見されたという報告は受けていないわ。けど…」

「こっちもいないという根拠は無い、という事かにゅ?」

 

ブランの言葉を引き継ぐぷちことぷちこの言葉に頷くブラン。…この二人ってちょっとクールとは離れたキャラや要素持ってるから忘れがちだけど、基本は結構冷静で頭の働くタイプだよね。その上でギャグパートにもしっかり対応出来てわたし達パーティーの中でも無個性化してないんだから偉いもんだよ、うん。

 

「まーそういう訳でもしかしたらまだ偽者のブランがどっかにいるかもしれないんだけどさ、どうする?わたし達で探してみる?」

「…念には念を、という事で積極的に探すのも悪くはないと思うわ。けど、どうやらわたしの偽者は考えなしに動くタイプではない様だし、そもそも捜索にそれなりの数を割いてるから今更わたし達が探し始めても効果は薄いんじゃないかしら」

「ガナッシュとか言う奴には聞いてみたのかにゅ?」

「ガナッシュね…少し待ってて」

 

そう言ってブランは部屋から出る。そこから数分後、戻ってきたブランは皆が予想していた通りガナッシュ、そしてミナとフィナンシェを連れて戻ってきた。

 

「お邪魔しますね」

「ブラン様へのご協力、ありがとうございました」

「はいはーい、ってあれ?ガナッシュ何それ?」

「はい?……あぁ、これは見ての通りですよ」

 

わたしが気になったのはガナッシュの首からぶら下がっているもの。最初は学校の先生とかお役所の職員さんとかが首から下げてる名札っぽいあれかなぁ…と思ったけど、よく見たらそこにはガナッシュの名前じゃなくて『研修中』という三文字が書いてあった。…正式に教会で働く事にしたんだ…。

 

「どうしてフィナンシェさんとミナさんも呼んだんですか?」

「ここで決めた事をわざわざ二人の所へ行って伝えるより、この場で一緒に話した方が手っ取り早いと思ったからよ」

「あ、そういう事だったんですか…えっと、ブラン様の偽者が他にも潜伏しているのか、って話ですよね?」

 

状況を確認したのはフィナンシェ。それが分かってるって事は、ブランは呼んでからここに来るまでにさらっと説明したのかな?

 

「そういう事よ。一応聞きたいんだけど、偽者のブラン様の情報は昨日以降無いの?」

「ないですね。まだ警備体制は解いていないので主要な場所に現れていないという事だけは断定出来ます」

「ガナッシュさんは偽者のブランさんが二人以上いるって話聞いたりしましたですか?」

「いえ、その様な話は聞いていませんし、ホワイトハート様の偽者が複数いるかもしれないというのもつい先程知ったばかりです」

「となると、ベールの所と同じである可能性が高くなってきたわね」

 

ベールの所と同じ、という事はつまり偽者は複数人ではない、という事。まぁ勿論あいちゃんが言った通り隠れてるだけかもしれないけど…かも、とかもし、とかを言い出すときりがないもんね。それに急がば回れ…じゃなくて案ずるより産むが易し、って言葉もあるし。

 

「それでは、どうしますかブラン様?」

「取り敢えずは現状維持ね。もし仮に隠れていて、その上でそう簡単には見つからなかったとしてもこうして警備を続けているだけで偽者の動きを制限する事が出来るわ」

「そっか、じゃあわたし達の協力は?」

「してくれるならありがたいけど、別に無くても構わないわ。…それに、貴女達はまだ手助けの途中なんでしょ?」

 

さっきの説明でわたし達がどこへ行き、何をしてきたかを知ったからかブランはわたし達がする事…ラステイションへ行ってノワールの手助けをしようと思っている事を察してくれていた。

 

「うん、そうだよ。…やっぱブランは着いてこられない?」

「えぇ、偽者がいた場合戦わなきゃいけないし、ユニミテスのシェアを落とす為にも今のうちにもう少しシェア率を上げておかなければならないもの。…悪いわね」

「いーよ別に、それだって大事な事だし、そもそもブランが謝らなきゃいけない理由なんてないもん。…あ、じゃあぷちこは?ぷちこはどうする?」

「だからブロッコリーだにゅ。…ブロッコリーも残らせてもらうにゅ、偽者が複数同時に現れたり別の敵と協力した場合はきっと一人じゃ大変になるにゅ」

「それもそうね…助かるわ、ブロッコリー」

 

話し合いの末、リーンボックスの時と同様にわたしとこんぱ、あいちゃんの三人だけで行く事が決定した所で会議はお開きとなる。

そしてそれから約一時間後、わたし達は荷物を纏めて教会の外へと出た。

 

「短い間だったですけど、お世話になりましたです」

「そっちもそっちで大変でしょうけど頑張って頂戴ね」

「はい。それでは皆さん、ラステイションでも頑張って下さいね」

「本当に偽者のブラン様退治のご協力、ありがとうございました」

「ホワイトハート様の事はお気になさらず、私にお任せ下さい」

 

ルウィーの教会の面子はどうにも真面目な人が多い。だからフィナンシェ、ミナ、ガナッシュの挨拶は物凄いまとも感があった。…普通まともなのはそれこそ普通な筈なのに、それが珍しく感じるって我ながら周りの環境ヤバいね…。

 

「それじゃ、そろそろ行くね」

「ばいばいにゅー」

「うんばいばい…って流石にそれは軽過ぎるよぷちこ!?」

「ジョークにゅ、こっちはブロッコリー達に任せてくれて大丈夫にゅ」

「もし何かあれば連絡するけど…それよりも貴女達はラステイションでの手助けに尽力して。それと、無理は禁物よ」

 

教会職員の三人の後に続いて挨拶してくれたぷちことブランの挨拶を受けながらラステイションへと歩き出すわたし達。…ルウィーも、リーンボックスも、ラステイションも何だかんだ毎回真面目な目的の上で来てたし、今度来る時はただ単に遊びの為に来てみたいと思う。だから、そのちっちゃな…でもきっと大事な願いを叶える為にも、ラステイションでのお手伝い…そしてその先にあるユニミテスやマジェ山さんとの戦いも頑張らなきゃだね!




今回のパロディ解説

囁告篇帙(ラジエル)
デート・ア・ライブに登場する精霊の一人、本条二亜の天使の事。これは書き込んだり任意で情報更新されるので通常の本媒体ではないですが…そこは別にいいですよね。

・『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)
Fate/ZEROに登場するキャスターことジル・ド・レェの持つ宝具の事。大容量魔力炉と呼ばれるこの宝具があれば、ブランもルウィーの女神らしく魔法が使えるでしょう。

・十万三千冊の本
とある魔術の禁書目録(インデックス)に登場する、インデックスの覚えている魔道書の総数のパロディ。そんなにたくさん本があるなら、それは正に図書館ですね。


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第六十八話 作戦、推測、おびき寄せ

「うぅぅ〜〜ん…どうしよっかなぁ……」

 

のどかな草原に溢れる少女の声。その声は悩ましげであり、同時にどこか期待を孕んでいた。悩ましげと期待というまるで方向性の違う二つの要素が同時に存在するものなのか、と問われれば答えは勿論YES。そもそもの話悩む、というのは別にマイナスの事とは限らない。例えてみれば夕飯に好きな食べ物Aと同じく好きな食べ物Bのどちらを食べるか考えている時、それもまた悩んでいるという事なのだから。

……なーんて、うだうだと長ったるい地の文だけど、短くまとめちゃえばわたし達はラステイションに来たよー、って事なんだよね。はい第六十八話始まり始まり〜。

 

「ねぷねぷ、それだと地の文の大半が必要なかったって事になっちゃうですよ?」

「あ、確かに…ってさも当たり前かの様に地の文を認識してるんだねこんぱ…」

「二人して何早速メタ発言してんのよ…てか、ねぷ子最近メタ発言多くない?」

 

雪国であるルウィーからラステイションへ移動した事で気温を高くなり、それのおかげで出発時よりも口数が増えたわたし達。…まぁ、別に寒きゃ寒いで結局色々話してるから寒さは関係ないかもしれないけどね。

 

「それはアレだよ、主人公の片割れが離脱した事でわたしにスポットが当たり易くなって、それによってわたしの個性がより前面に出て来てるんだよ」

「メタ発言増えた理由をメタ発言で説明って…まあいいや、それより何を悩んでたのよ?」

「え?そりゃ勿論ノワールに会ったら何言って弄るかだよ?」

「弄る事は確定なんですね…」

 

偽者の対処とシェア率向上の為にパーティーメンバーが別れてから凡そ一週間…って、ありゃ?意外とあんまり経ってないんだね。もっと経ってる気がしたよ。…まぁそれはともかく、その間にわたし達は三つの大陸で偽者を倒し、残りはラステイションのみとなっていた。そしてラステイションはノワールの担当の大陸であり、ラステイションが一番最後となったのもノワールが理由だった。そう、一番最後にした時最も良い感じの反応をしてくれそうなノワールだからだよ!ツンデレぼっちなノワールならそれなりの期間が空いた上でわたし達が来ればさぞ嬉しがる筈!だからこそそんなノワールをどう弄るかがミソなんだよね。

 

「いきなり抱き付いてすりすりしようかなぁ…それとも上手い事ノワールを乗せて甘えさせようかなぁ…いや、敢えて冷たくしてみるのも面白そうかも……」

「ねぷねぷが何だか企み顔になってるです…」

「ほんとノワール好きよねねぷ子…」

「そりゃ勿論だよ。だってあんなに弄りがいがある上にノリも良くて良い属性持ち合わせてる子なんてそうそういないもんね!」

 

自分でも分かる位笑顔で話すわたし。それを見たこんぱとあいちゃんは何故か苦笑いしていた。

 

「…まぁ、とにかくさっさとラステイションに行きましょうか。こんな所で騒いでた結果モンスターが寄ってきちゃった、とかごめんだし」

「…あ、モンスターと共に登場ってのも良いかも…」

「迷惑かけるのはめっ、です!」

「あぅ、怒られた…分かったよ、普通に向かうよ…」

 

こんぱに可愛く怒られちゃったらもう従う以外の余地はない。それに弄りとか抜きにここまで来たらノワールに会いたい気持ちも段々大きくなってくるし、あいちゃんの言った事も含めてここでうだうだしてる時間は無意味だよね。

と、いう訳で道草食ったり雑談で足を止めたりせずにラステイションの街へと向かっていたわたし達だったんだけど…

 

「…ねーあいちゃん、どうして騒いでなかったのにモンスターが寄ってきちゃったの?」

「それは単なる偶然だから…」

「ぱっぱと倒してノワールさんに会いに行くですよ」

 

数体(数機?)のマシン系モンスターと相対する事となるわたし達。…どう見ても人工的に作られたっぽいモンスターが何の説明も無しに出てくるのって今作に限らず色んな作品であるけどさ、これってかなり変だよね。戦闘マシンを造ってる組織がある(うちでいうアヴニールとかね)とか、古代兵器の残存機とか、知性あるモンスターや敵の重役が造り出してとか説明になる要素がある作品もあるけど…ま、深く突っ込むのはご法度だよね。重要なのは楽しめるかどうかだし。

とか考えながらわたしは抜刀し、一番近くのモンスターへと仕掛ける。ルウィーの街へと向かっていた時と同様に数の差があんまりなくて、且つ個々の戦闘能力じゃわたし達の方が数段上だった事もあり、然程苦労する事なくモンスターの殲滅に成功し、戦闘開始から十分足らずで一息つける様になった。

 

「ブレイクオーバー!って事で戦闘しゅーりょー」

「こうやって余裕でモンスターさんを倒せる様になると、自分の成長を感じるですね」

「こんぱもねぷ子も旅に出たばかりの時に比べて大分体力ついてきたものね。…ナースの戦闘能力が向上するってのはどうなのかと思うけど」

「ふふっ、わたしは戦えるナースさんを目指すです。…って、あれ?」

 

武器をしまい、さぁ今度こそ街へ…と思っていた所でこんぱが何かに気付いた様な声を上げる。

 

「どしたの?モンスターに何か盗まれた?」

「違うです、向こうから何かが近付いて来てるです」

「向こう?…って、げ…あれちょっと面倒なモンスターじゃない…」

 

こんぱが指差した方向を見たあいちゃんは、分かり易く嫌そうな声を漏らす。こんぱの言う通り、遠くから来ているのはわたし達が今さっきまで戦っていたモンスターよりふた回り程大きいモンスター。ごく一部を除いて、基本的にモンスターは大きい程強いからあのモンスターが楽々倒せるレベルじゃない事は明白だった。

 

「どうするです?隠れるですか?」

「いや、倒しましょ。どうやら手負いの様だし後々つけられても困るわ」

「はいはーい、じゃ…援護は任せたよ!」

 

再度抜刀し、こちらへと走りこんでくるモンスターを迎え撃つ為に走るわたし。わたしが前衛として突っ込み、あいちゃんが援護と撹乱を担当し、こんぱがわたし達の取りこぼしを確実に倒していく。何度も戦う中で少しずつ洗練させてきたわたし達の担当と戦法は単純ながらもそれなりに効果的で、単純だからこそ相手を選ばず使う事が出来ていた。

双方が接近する事で一気に距離が縮まるわたしとモンスター。刃が届くまで残り数メートルの所でわたしは少し高めの脇構えを取り、地を蹴って肉薄する。

わたしとモンスターが接触する寸前、両者の視線が交錯する。次の瞬間--------わたしの太刀は、宙を斬る。

 

「……え…?」

 

一瞬前まで、確かにモンスターはわたしの目の前にいた。でも、その一瞬後にはモンスターの姿が消え、放たれた太刀は目標を捉える事なく空振りする。

そして、更にその次の瞬間、その理由が判明する。

 

「あははははっ!私に勝てないって事は判断出来た様だけど、私から逃げる事すら叶わないって事は分からなかった様ね!」

「……え、ノワール…?」

「……え、ネプテューヌ…?」

 

上空から聞こえてくるのは高く、過剰な程の自信を感じられる声。わたし達にとってはとても聞き覚えのある声。

わたしが道中着々と練っていたわたしの案は全て水泡に帰し、わたしもこんぱもあいちゃんも…そして、ノワールすらも予想しなかった形で、わたし達とノワールは再会を果たす事となったのだった…。

 

 

 

 

「むー……」

「だから何でそんなに不満気なのよ貴女は…」

 

わたし達とノワールが想定外の再会を果たしてからだいたい一時間後、わたし達は揃ってラステイションの教会に来ていた。

 

「だって、せっかくノワールとの再会だったのに…」

「…ネプテューヌ貴女…私と会えるのをそんなに楽しみにしてくれてたの…?えと…そ、その…私もネプテューヌと会えるのを楽しみに--------」

「これじゃノワールを弄る事が出来ないじゃん!ノワールを慌てさせたり困らせたり赤面させたり出来ないじゃん!」

「ってそれが目的かいッ!」

 

顔を真っ赤にして怒るノワール。おぉ!これは期せずしてノワール弄りに成功したっぽいよ!ねぷちゃんやったね!

 

「この光景見るのも久しぶりね、ノワールは元気だった?」

「ったく…えぇ勿論元気だったわ。そっちは…聞くまでもないわね」

「はいです。沢山の偽者のねぷねぷに追いかけ回されたり、ベールさん好きの人達の騒動に困らされたり、ねぷねぷとフィナンシェさんとルウィー国民の人達のとばっちりでぶっ飛ばされそうになったりしたですけど今日も元気です」

「な、中々ハードな経験してたのね…」

 

こんぱの発言に汗を垂らすノワール。…こうして考えると、結構わたし達ってぶっ飛んだ体験を立て続けにしてたんだね…これじゃわたし達がトンデモ集団になる訳だよ…。

 

「あ、それでさノワール、ノワールの偽者はどうなったの?もしかして出来る女神のノワールさんの事だからもう倒しちゃった?」

「何よその妙に引っかかる言い方は…残念だけどまだ見つけてないわ」

「えぇ!?あの何時ぞやの人気投票ナンバー1の超絶出来る女神のノワールさんなのに!?既に見つけて一対一で優勢に立ってたブランに名実共にナンバー1の座を譲ったとでも言うの!?」

「貴女私に喧嘩売ってんの!?っていうかそういうネプテューヌは普段主人公主人公言ってる癖に二度も私より下だったじゃない!」

「うぐっ…ま、まさかこんな反撃を食らうなんて……」

 

ここぞとばかりに弄りまくってた筈が酷い切り返しを受けるわたし。えーっと…皆も人を弄る時は同じネタで返されない様にしようね、その場合何も言い返せなくなるから。今のわたしみたいになるから…ほんと、気を付けようね…。

 

「自業自得よ。…で、私からも聞きたいんだけど、もしかしてもう私の偽者以外は倒し終わったの?コンパとネプテューヌの言葉からはそう察せるんだけど」

「その通りよ。ねぷ子の偽者は複数体いたからベール様とブラン様はまだ隠れてる偽者がいないか調べてる所だけどね」

「複数体?よく女神化無しで複数体倒せたわね」

「一人一人は女神化したわたしより大分弱かったからね。…けど、勝てたのはやっぱ皆が協力してくれたおかげかな」

「へぇ…貴女も大分女神らしい顔する様になったじゃない」

 

ノワールがわたしの顔を見て少し感心した様な言葉をかけてくる。んー…ノワール以外にも時々わたしを女神らしいって言ってくれる人いるけど、やっぱりわたしには実感ないんだよね。プラネテューヌでの偽者との戦闘辺りから多少自覚はする様になったけどさ、あくまでわたしは女神だから、とかそれが役目だから、とかじゃなくてわたしがそうしたいからそうしてるってだけだもん。だから自分がやりたくてしてる事について褒められたりするのは違和感があるんだよね。……って、何か前に似た様な事思った気がするなぁ…。

 

「…あ、ところでノワールはあんな所で何してたの?職務放棄?」

「そんな訳ないでしょうが…治安維持を兼ねたおびき寄せ作戦よおびき寄せ作戦」

「おびき寄せ作戦って…偽者のノワールさんをですか?」

「そうよ、中々良い作戦だと思わない?」

 

そう言って自信ありげな様子を見せるノワール。対するわたしは揃って『?』って顔をする。いや、だって良いも何もろくに説明ないもん。更に言えばこれまでの偽者の動き的には全くおびき寄せにならない気がするもん。

 

「…ごめん、もうちょっと詳しく教えてくれない?」

「詳しくも何も、そんな複雑な作戦じゃないわよ?だって単に相手が偽者の私だって事を利用してるだけだもの」

「偽者のノワールさんだと、ノワールさんがモンスター退治してる所におびき寄せられるんですか?」

「えぇ、だって私の偽者なのよ?だったら姑息な事はせず、正々堂々真っ向から戦って勝利を掴もうとするに決まってるじゃない」

『…あー……』

 

 

説明、というには確かに単純過ぎるそれを聞いたわたし達は揃って何とも言えない様な顔をする。確かに偽者のベールは本物と似た様な趣味嗜好をしてたけど…ノワールは別にそれを聞いた訳じゃないよね?しかもそれってつまりノワールが自分を姑息な事はせず正々堂々真っ向から戦うタイプだって自負してるって事だよね?…ノワールって趣味方面で暴走する事は少ないけど、やっぱりそういう所はわたし達と同じ女神だよねぇ…。

因みに、説明を言い終わったノワールは腕を組んでドヤ顔をしていた。…こういうのって普通ちょっとウザかったり嫌味だったりするけど、ノワールの場合他の要素のおかげで一周回って逆に可愛いよね、変な意味じゃなくて。

 

「……何よ、その反応は」

「別に何でもないよ?だよね二人共?」

『うんうん』

「いや明らかに何か感心以外の感情抱いてるわよねそれ…まぁ良いわ、この作戦を続けていればいずれ分かる事だし」

「じゃ、もしおびき寄せ作戦中に全然違う所に偽者のノワールが現れたらどうするの?」

「そしたら私が間違ってたって反省するわよ?当たり前じゃない」

 

わたしの思っていた意図とは微妙に違う回答をしてくるノワール。うーん…まぁいっか、ノワールが反省してる所は見てみたいし。…え?それは取らぬ狸の皮算用じゃないのかって?やだなぁ…これはもう明らかに違う所に現れるフラグ立ってるじゃん?

 

「あの、ノワールさん。それじゃ偽者の情報は集めてないですか?」

「いや、情報はきちんと集めてるわよ?偽者がいそうな場所で戦ってた方がおびき寄せやすいし」

「おびき寄せ前提なのね…なら私達はどうする?その作戦だと私達は特にする事ないわよね」

「あ、ほんとだ…うーん、ノワールとは別行動するとか?」

「それだとノワールと合流した意味ないでしょ…」

「なら、ノワールに同行してノワールの護衛兼ストッパー役をしてくれないかな?」

 

わたし達がどうするか悩んでいた所に後ろから声がかけられる。その声の主は勿論ラステイション教会教祖のケイ。…そう言えばシアンといいケイといい、ラステイションにはボーイッシュキャラが多いね。今の話には全く関係ないけどさ。

 

「護衛兼ストッパーって…ケイ、貴女私が一人だと危ないって言いたい訳?」

「君は自分の力を過信し過ぎる傾向があるからね、万が一の時が不安なんだよ」

「さっすが教祖、ノワールの事よく分かってるね。…けどノワールが独断先行しちゃったらわたし達追えないよ?」

「それは気にしなくて大丈夫さ。同行者が女神ならともかく、君達ならノワールは守らなきゃと思って冷静でいられるだろうからね」

 

偽者のブランに比べると大分温かみがある…けどやっぱり淡々とした声音で話すケイと、それを聞いて言い返せないでいる(前半はその通りだったから、後半は否定する必要がないからかな)ノワール。そしてわたし達は特に他の案がなかった事とケイの言葉に納得出来た事から護衛兼ストッパーを務める、という事で決定する。

 

「よーしそれじゃあ護衛とストッパー頑張るよー!矛盾騎士(ランスロット)位守っちゃうからねー!」

「…それ私が使い手って前提?」

「ううん、わたしが使い手って前提」

「それじゃ絶対私守ってくれないじゃないの!…って、いやそもそも貴女に守られなくたって私は大丈夫何だからね!」

「ノワールがいると突っ込み役が分担出来て楽で良いわ…さて、私達はそれを引き受けた訳だけど…ノワール、早速またおびき寄せ作戦するの?」

「そうしたい所だけど…雑務が残ってるから今日は止めておくわ。おびき寄せにかかりっきりになったから別の仕事は出来なかった、なんてのは嫌だし」

 

仕事に真面目なノワールの意向によって次の行動は明日、という事になるわたし達。護衛兼ストッパーはノワールの作戦ありきという事で当然わたし達はフリー状態になる。これまで偽者との戦いは負ける事なく済ませてきたけど何度かヒヤヒヤする事はあったし、偽者のノワールがどんな手を使ってくるか分からないんだから、明日の為に今日はゆっくり休まなきゃだね。

--------因みに……

 

「さて、と…偽者が現れたら雑務に時間割けなくなるし、やれるうちにやっておかないと…」

「だね。あ、ノワールお茶貰うよ?」

「えぇ、そこのポットから好きに淹れて頂戴……って、何で貴女がここにいるのよ!?」

「え、それは…ノワールを弄って遊ぶ為に決まってるじゃん!」

「邪魔しないで欲しいんだけど!?」

 

休む前に、ひとしきりノワールを弄って遊ぶわたしだった。




今回のパロディ解説

・ブレイクオーバー
ダンボール戦機におけるLBX同士の対決での、決着パターンの一つの事。審判(?)ではなく戦っていたネプテューヌがそれを言っていますが…まぁ、あくまでパロディですし。

矛盾騎士(ランスロット)
Re(アールイー):バカは世界を救えるかに登場するヒロインの一人、間宮薫の使う力の事。使い手しか守ってくれないこの能力で他人を守るのは本当に難しい事なのです。


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第六十九話 感情は常に右往左往

よく、『やろうと思っていた所でやれ、と言われるとやる気が無くなる』って言うわよね。確かにやろうと思っていた所で言われたら余計なお世話だ、って思うでしょうし相手にその気がなくても自分のやる気を否定された気分になる訳だから、これは詭弁じゃなくて実際にある事だと思うわ。…まぁ、私はやるべき事はいつも真っ先にこなしてるから誰かにやれと言われる事なんてないけどね。

けど、私はそんな事よりも『やろうと思っている事を邪魔される』方がやる気が無くなると思うのよね。当然と言えば当然だけど、ほんとこれやる気が無くなるしイラっともするのよ。……で、実際にやろうと思っていた雑務をネプテューヌに邪魔された私はどうしたかって言うと……

 

「さぁ皆、私の偽者おびき寄せ作戦開始するわよ!」

「うぅ…お仕事やだ…もう書類見たくない……」

 

教会のエントランスには意気揚々と意気込む私と、それとは対照的に未だかつて見た事ない程に意気消沈しているネプテューヌの姿。えぇそう、賢明な閲覧者さん達なら薄々予想がついているかもしれないけど、昨日雑務をおふざけの為に邪魔された私は報復としてネプテューヌにこれでもかって程仕事を手伝わせたわ。その結果がこれよ。

 

「うわぁ…ここまで覇気のないねぷ子は初めて見たかも…」

「普段のねぷねぷの面影が全くないですぅ…」

「自業自得よ自業自得、いっそお灸を据えてやったと言ってもいいかもね」

「…ノワールは絶好調ね……」

 

私の言葉に活字にしたら言葉の後に(汗)が付きそうな語感(いやこれも活字だろうって?…言いたい事は伝わるでしょ?)返答をするアイエフ。確かに今日の私は調子良いわね、これはネプテューヌを徹底的に懲らしめる事が出来たからかもしれないわ。…もしかして私ってSっ気あるのかしら…。

 

「雑談はこの位にしてとにかく行きましょ。今日こそ偽者を倒してやるんだから」

「そう都合良く出てくるとは思わないけど…ま、有力情報が無いなら動くのも有りよね」

 

普段話をしっちゃかめっちゃかにするネプテューヌが静かな事もあり、珍しく順調に話が進む私達パーティー。…イリゼも離脱してるし、ここは一つ私が主人公を務めてあげるのも良いかもしれないわね。

 

「待って下さいです、まだねぷねぷのキャラが治ってないです」

「大丈夫よ、たかがNEETメンタルがやられただけだし」

「判子やだ…進行表怖い…ぐすっ、おにーちゃぁん……」

「…これ見ても、ほんとに大丈夫だと思うですか?」

「……前言撤回、これはちょっと不味いわね…」

 

代わりに主人公を…なんて言っていられる状況じゃなかった。架空のおにーちゃんに助けを求めるレベルだった。ネプテューヌ…貴女どれだけ雑務嫌いなのよ…記憶喪失である事を考慮すると、初めての雑務がブラック企業級だった、って感覚だったのかもしれないけど…。……あ、勘違いしないでよ?今回は特別大量の雑務をネプテューヌにやらせたってだけであって、教会は基本クリーンでホワイトな職場だからね?

 

「しかしこうもしょげてるねぷ子を手早く立ち直らせる方法なんてあるのかしら…」

「ネプテューヌの事だし、取り敢えず謝れば何とかなるわよ。…こほん、昨日は色々と雑務押し付けてごめんなさい。私が悪かったわ」

「雑務…?嫌ぁ…雑務いやぁ…!」

「ちょっ、逆効果じゃないのよノワール!」

「し、仕方ないじゃないこんなの初めてなんだから!…コンパ、何か良い手はない…?」

「……一つあるです。ねぷねぷを立ち直らせる方法…それは、褒めてあげる事です」

 

雰囲気を出したかったのか、少し溜めてから言葉を発するコンパ。それに対する私とアイエフはノリ半分、真面目さ半分ではっとした様な表情を浮かべる。

所謂高慢、というタイプではないもののネプテューヌ…というか女神は全員多かれ少なかれ自信家であり、褒められればつい調子に乗ってしまいがち。特にネプテューヌは元の純粋さとおめでたさから褒められるとすぐ天狗になっちゃう…今ノワールも似た様なものじゃん、って思ったでしょ!?うっさい!……ので、褒めるのは立ち直らせるのにも有効である可能性は確かにある。…勿論、ネプテューヌの喜ぶ褒め言葉ならだけどね。

 

「褒める、ね…こういう形でネプテューヌを褒める事になるのは釈然としないんだけど…他の案じゃ駄目…?」

「ノワールが原因なんだから諦めなさい。で、肝心の褒め文句は…まぁ何だかんだねぷ子も良い所はあるし、何とかなるわよね」

「それじゃ、わたしが最初に言うですからノワールさんもちゃんと言うですよ?」

 

私は納得しきれていないにも関わらず、褒めるという事で決定してしまった。…いや、そりゃこれなら手っ取り早いし難しい事でもないってのは分かるわよ?けど、だからってちゃらんぽらんなネプテューヌを褒める…しかも場合によってはべた褒めする必要もありそうな事、二つ返事で了承出来る訳ないじゃない…。

と、私がごちゃごちゃと考えているうちにネプテューヌ立ち直らせ作戦は始まってしまう。

 

「ねぷねぷ、ねぷねぷはいつも格好良くて元気一杯で凄いです!それにわたしの作ったお菓子を美味しそうに食べてくれる優しい女神さんです!」

「……格好良い…凄い…優しい…」

「えーっと…流石に女神なだけあってここぞという時は頼りになるわよね。しかもアホそうに見えて時々鋭いし、ほんとやる時はやる、って奴よねぷ子は」

「頼りになる…鋭い…やる時はやる…」

「……ほ、ほんとに言わなきゃ…?もうそれなりに褒めてるしもう十分よね、うん…」

「…ノワールは褒めてくれないの…?やっぱりノワールはわたしの事ただの駄目な子って思ってるの…?」

 

どうにかしてお茶を濁そうとした私の元に寄ってきて、私の顔を見上げるネプテューヌ。うっ…何でこんなにしおらしくなって小動物みたいに上目遣いをしてくるのよ…ちょっと可愛いって思っちゃったじゃない…!

私がネプテューヌの行動にドギマギ…もとい、狼狽えている所へコンパとアイエフからの『ほら、話進まないんだから早く言いなさい』的視線が浴びせられる。前門の虎後門の狼ならぬ前門のネプテューヌ、後門のコンパ&アイエフだった。……分かったわよ…やるわよやればいいんでしょ!

 

「い、一回しか言わないからちゃんと聞きなさいよ!?…その…ふ、普段はおちゃらけてるけど実は凄く友達思いで、記憶を失っていても女神としての心意気を持ち続けていた貴女を…私は友達として誇りに思うわ!」

 

生来の性格と普段やり慣れない『他人を本気で褒める』という行為をよりにもよってネプテューヌにしたせいか、自分の頰が熱くなるのを感じる私。そんな中、私の言葉を聞いたネプテューヌは……

 

「…………」

「…あ、あれ…?私ちゃんと褒めたわよね…?」

「…………」

「……もしかして、今のじゃ嫌だった…?私、貴女の事ちゃんと褒められな--------」

「ねぷぅぅぅぅぅぅっ!復活(リ・ボーン)!」

「えぇぇぇぇぇぇっ!?反応遅くないッ!?」

 

両手を大きく広げ、文字通りお腹から出しているかの様な大声と共に復活を果たすネプテューヌ(あ、別に下着姿になってたりはしないわよ?)。目には完全に生気が戻り、いつも通り…どころか、いつも以上の元気さに溢れていた。

 

「いやー、まさか皆がそこまでわたしを尊敬してたなんて初めて知ったよ。ま、これぞ主人公って奴?」

「さっきまでとはえらい違いね…」

「ふふーん、ここまで言われたなら活躍の一つでも見せてあげなきゃ女神の名が廃るってもんだよね!よーし行くよ皆ー!」

「あはは…テンションはとにかく、元気になってくれて良かったです」

 

やる気たっぷりの様子で肩を回しながら、先陣を切って歩き出すネプテューヌ。そんな彼女に対し、私達三人は苦笑を浮かべながら、同じ感想を抱くのだった。

 

「…ネプテューヌは単純ね」

「ねぷ子は単純よね」

「ねぷねぷは単純です…」

 

 

 

 

「ねーノワール、今回もまた工場が舞台なの?」

 

教会を出てからおよそ一時間後、わたし達はおびき寄せ作戦の決行場所としてノワールが選んだ廃工場前にやって来ていた。もう工場にクエストやら何やらで入るのは三回目の何だよね。一回目はアヴニール…というかガナッシュに騙されて、二回目はアヴニールの兵器輸入を阻止する為…と思いきや実はアヴニールに騙されて…って、二回ともわたし達アヴニールに嵌められる形で工場に来てるじゃん…まさか今回もアヴニールが裏に…?…なーんてね、アヴニールは解体されたしガナッシュはルウィーの教会で働く事になったからあり得ないよ、うん。

 

「そういえば確かに『また』だわね。他の場所の方が良かった?」

「ううん、単に思った事言っただけだからここで大丈夫だよ」

「そ、なら良いわ。さてと…それじゃあ入る前に作戦の確認といきましょ」

 

そう言ってノワールは改めておびき寄せ作戦の概要を説明し始める。わたしとしては一度聞いたしそんなに複雑な作戦じゃないから要らないかなぁ…とも思ったけど、わざわざ水を差す程でもないと思って黙って聞く。

…と、そこでこんぱがちょっとした疑問をノワールに投げかけた。

 

「あ、ノワールさん。前から気になってた事訊いても良いですか?」

「えぇ良いわよ、何が訊きたいの?」

「工場が郊外にある理由です。どうしてモンスターに襲われるかもしれない場所に工場を建ててるんですか?」

「あ、言われてみると確かに…どうしてノワール?」

 

工場をモンスターに襲われたら洒落にならないし、襲われても大丈夫な様に防衛設備を用意したり護衛を雇ったりしたら当然その分お金がかかる。それ等二つは工場を街中に建てれば気にする必要の無くなる問題なのに、何故わざわざこんな場所に建ててしまうのか。その疑問を晴らしてもらう為にわたしとこんぱはノワールを見つめる。

 

「んー…まぁ理由は色々あるわよ?街中より土地代が安く済むとか、鉱山や油田から直接資源を運んでる場合は運送費があまりかからないとか、騒音問題対策をする必要がないとか、武器や兵器の工場の場合生産した物をすぐテスト出来るとか…」

「お金がかからなくて、周りも気にする必要がないって事ですか?」

「そういう事よ。後はまあ…私や教会の目を盗んで何かをしたい、って場合の時も稀にあるわ」

「え…それって放置してて良いの…?」

「仕方ないのよ。一社一社調べてたらきりが無いし、そもそも民間企業に過剰に干渉するのは基本避けるべきだもの」

「そうなんだ…そこら辺大変そうだね」

「貴女だって女神なんだからこれ位覚えておきなさいよね」

 

ノワールの説明に『ほぇー…』みたいな反応をするわたしとこんぱ。色んな所に行って色んな事してると色々知る機会があるから自然と様々な知識が身につくよね。机に向かって教科書とノートを相手ににらめっこするだけが勉強じゃないんだよ、うん。

 

「二人の疑問も晴れた様だしそろそろ入る?」

「そうね、見ての通りの廃工場だから中に入ったら気を付けて進むのよ?」

「はいはーい、それじゃあまずは扉開けよっか」

 

教会を出る前に皆がわたしを物凄く高評価してるって分かった(その前に何やら話し合ってた気がするけど…気にしなくて良いよね)わたしは意気揚々と出入り口であろう横開きの扉の前に立ち、扉を開ける為に引っ張る。

 

「んしょ、っと…ちょっと錆び付いてるせいで結構重い……」

「ねぷねぷ、お手伝い必要ですか?」

「ううん、だいじょー……ぶっ!」

 

一度力を抜いた後地面を踏みしめ、体重をかけながら一気に引っ張るわたし。するとその甲斐あってか、ガタガタと音を立てながら人二人が同時に通れる位にまで扉が開く。ふぅ、ここで開かなかったら思いっきり出鼻を挫かれちゃうからね。ちゃんと開いて良かったよ。

 

「これでよしっと…さ、ではではレッツゴー!」

「あ、ちょっとネプテューヌ、人はともかくモンスターはいるかもしれないから慎重に進みなさいよ?」

「そんなの言われなくたって分かって……ねぷっ!?」

 

廃工場は窓があり、天井や所々無くなっていたおかげか真っ暗ではなかったけど、それでも入り口付近は暗くなっていたせいで中にあるものに気付かずぶつかってしまうわたし。うぅ、まさかノワールに忠告された直後にぶつかるなんて情けない……って、ん?

 

「…柔らかかった……」

「柔らかかった?急に何を言いだすのよネプテューヌ」

「いや、わたしがぶつかったものがだよ。もしかして…人?」

 

さっきとは違い、しっかりと前を見直してぶつかったもの…否、ぶつかった人が一体誰なのか見極めようとするわたし。すると段々とぶつかってしまった相手の姿が見えてくる。

身長はだいたい160センチ前後、凛々しそうな顔に外から差す光を反射している銀色の髪、そしてサイバー感溢れる服装。それがわたしがぶつかってしまった人の外見だった。……あれ?これって…なーんだ、そういう事だったんだね。わたしがぶつかったのは…

 

「ノワールじゃん。もー、ノワールこそぶつからない様に気を付けてよ」

「…………」

「まぁいいや、さっさと進もうよ。っていうかなんで女神化してるの?」

「え?ねぷ子あんた何言ってんのよ?」

「何って、ノワールと話してるだけだよ?あ、もしかしてわたしが邪魔で姿見えない?」

「いや、そうじゃなくて……ノワールなら、ここに居るわよ?」

 

あいちゃんの言葉が聞こえた瞬間、まずわたしはあいちゃんの言っている意味が分からなかった。ノワールならここにいる、というのはつまりノワールがまだ廃工場には入っていないという意味だと思う。でもわたしの前には間違いなく女神化した姿のノワールがいる。その場合普通に考えたらわたしが幻覚を見ているかあいちゃんが嘘を吐いているかの二択だけど…どっちも状況的に信憑性がない。

……と、そこまで考えたところでわたしはもう一つの可能性を、今回の目的を思い出す。それは前者二つよりもずっと可能性が高く、最も納得のいくパターン。そう……

 

「偽者のノワー…ねぷぅぅぅぅ!?」

「わわっ!?だ、大丈夫ですかねぷねぷ!?」

「やっぱ勘違いしてた訳ね…遂に現れたわね偽者!」

 

わたしが言いきる前に大剣を構え、わたしに向かって振るってくる偽者のノワール。ギリギリの所でわたしは後ろに跳んで攻撃を回避するも今度は後ろにいたこんぱにぶつかってしまう。…あ、こんぱのふわふわな胸が頭に…ってそうじゃないそうじゃない!偽者の眼前でラッキースケベ描写とかしてる場合じゃないよ!

 

「まさかこんないきなり現れるなんて…」

「むむ、古今東西ゲームのボスといえばダンジョンの奥にいるのが相場って決まってるのに何なのさこの急展開!」

「探す手間が省けたんだからむしろ好都合じゃない。偽物が本物に敵わないなんて道理はないっていうけど、私に限っては例外だって教えてあげるわ!アクセス!」

「……っ…」

 

わたし達が『護衛』兼ストッパーだという事も忘れてわたしの前に立ち、女神化をするノワール。対する偽者のノワールは単に不利だと思ったのか、それとも何か算段があるのか地を蹴って飛び上がり、空中で反転すると同時に飛んで逃走を始める。

 

「ちっ…追うわよ皆!それぞれ全力で走って頂戴!」

「ノワールは飛んで追わないの!?」

「私の偽者が複数いる可能性があるんだから貴女達を放置して先行出来る訳ないでしょうが!」

「そ、そっか…了解だよノワール!」

 

わたしは偽者のノワールを追ってノワールも飛んで行っちゃうんじゃ…と思っていたけど、予想に反して冷静な判断をしているノワール。ケイがわたし達がいればノワールは冷静でいられるって言ってたけど確かにその通りだったね。

偽者のノワールを追って走るわたし達。屋内であるおかげか偽者のノワールはすぐに見えなくなる様な事はなかった。…けど、それも最初のうちだけで、数十秒程経った辺りで走りでの追跡が困難な程の距離が開いてしまう。

 

「はぁ、はぁ…もう見えなくなっちゃったですぅ…」

「まだここから出てはいないでしょうけど…こうなると探し直す必要があるわね…」

「その様ね…私の偽者の癖に逃げるなんて……」

 

もう追うのは無理と判断した時点で体力温存の為、走るのを止めるわたし達。せっかくのチャンスを逃しちゃったのはちょっと残念だけど…発見出来た時点で幸運だし、即座に倒せれば…なんてのは流石に欲張り過ぎかもだね。

息を整えつつも歩くわたし達。わたし達三人と違ってまだ殆ど消費してない(というか女神状態だから限界値が高い)ノワールはわたし達に余裕が生まれるまでは特に気を付けた方が良いと考えて、女神化状態のまま少しだけ先を歩き、分かれ道に当たる度に注意深く視線を巡らせている。そして、わたし達が偽者のノワールを見失ってから三つめの分かれ道に差し掛かった時……

 

「ふぅ…ある程度息が整ってきたわね」

「そう?ならそろそろ私も女神化を解こうかし--------」

 

 

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「……ーーッ!?」

 

通路の陰となっている位置から放たれる一閃。それに寸前で反応し、何とか自身の大剣の腹で攻撃を受けるノワール。突然の出来事に息を飲むわたし達。そして--------ノワールが防御した事で動きが止められた一閃…否、ノワールへと攻撃を仕掛けたその人は……ルウィーでわたし達を助けてくれた、サイバーコネクトツーちゃんだった。




今回のパロディ解説

・「大丈夫よ、たかがNEETメンタルがやられただけだし」
機動戦士ガンダムの主人公、アムロ・レイの名台詞のパロディ。元ネタは格好良さと言葉の裏から滲む緊迫感を感じられますが…このパロディだと凄くシュールですね。

復活(リ・ボーン)
家庭教師(かてきょー)ヒットマンリボーンの主人公、沢田綱吉の初期代名詞の一つ。ネプテューヌは別に額に火が灯ったり半裸になったりはしてません、悪しからず。

・「〜〜偽物が本物に敵わないなんて道理はない〜〜」
Fateシリーズ主人公、衛宮志郎の名台詞の一つのパロディ。…ですが、元ネタと違ってノワールは本物サイドの視点です。別にノワールは英雄王キャラじゃないですよ?


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第七十話 揺らぐ立ち位置、募る不安

「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

廃工場内に謝罪の声が響く。その声の主はサイバーコネクトツーちゃん。ルウィーでわたし達を助けてくれた活発な少女の顔は、普段のそれとは対極的に罪の意識がありありと浮かんでいた。

 

「頭を上げて頂戴。状況が状況なんだから仕方ないわよ」

 

それに答えるのはつい先程サイバーコネクトツーちゃんから奇襲を受けた相手、ノワール。幸いノワールはギリギリのところで防御が間に合ったおかげで怪我をする事もなく、女神化を解いた状態でぺこぺこと頭を下げるサイバーコネクトツーちゃんの対応をしていた。

 

「いやー、でもほんとさっきはびっくりしたよねぇ。ノワールの偽者を追ってた筈がサイバーコネクトツーちゃんに襲われる事になるなんて」

「ほんとに面目ない…一度冷静になって確かめるべきだったよ…」

「だから私は無傷なんだから気にしなくて良いって。それより…ええと、サイバーコネクトツー?…はどうしてここに?まさかここを宿代わりにしてる訳じゃないわよね?」

「流石にそれは…わたしが来たのはケイさんに話を聞いたからなんです」

 

逃げた偽者のノワールを探す為に廃工場内を進みつつ話すわたし達。人違い(って言えるのかな?)だったとはいえ、一度奇襲を受けたという事もあって慎重さ重視の進行となっていた。…会話の内容的には慎重もへったくれもないけど…まぁ、普段は大道芸並みの賑わしさを誇るわたし達からすれば十分慎重なんだよ、いやマジで。

 

「ケイさん?サイバーコネクトツーさんは教会に行ってたんですか?」

「うん、女神様の偽者の噂を聞いたんだけど、闇雲に探すよりは教会に行って詳しい話を聞いた方が良いと思ってね。それで教会でネプテューヌさん達がここへ向かったって教えてもらったから来たんだ」

「へぇ、よくケイからすんなり聞けたわね。貴女ケイとは初対面でしょ?」

「あー…すんなりとはいかなかったよ。教えてもらえたのも何とかわたしがネプテューヌさん達と知り合いだって事を分かってもらえたからだし」

「普段仲間として接してるせいで認識がズレつつあるけど、本来女神様って国のトップだし簡単に教えてもらえないのも当然っちゃ当然なのよね…」

 

と、そんな話をする中でわたしは最初にラステイションの教会に行った時の事を思い出す。あの時はアヴニール社員が教会を占領していた事もあって完全に門前払いされていた。あそこまで酷い扱いされたのってラステイション位だよね。その点リーンボックスは友好的に接してくれた…と思いきや毒殺されかけて、ルウィーも友好的に接してくれた…と思ったのは最初だけで雪原の中を逃走する羽目になって…って……

 

「わたし達毎回ロクな扱いされてなかった!?」

「うわっ!?な、何いきなり叫んでるのよ!?」

「…サイバーコネクトツーちゃん、君の気持ちはよく分かるよ…」

「え?あ、うんありがとう…?」

 

過去の自分の経験とサイバーコネクトツーちゃんとを重ね合わせて同情するわたし。そんなわたしに話しかけられたサイバーコネクトツーちゃんは勿論、こんぱとあいちゃんまでも苦笑を漏らす。いや、実際には笑い事じゃなかったんだけどね、特に二番目と三番目は。

と、そこでわたし達は倉庫らしき広めの部屋に出る。

 

「ここは…動き回るには十分な広さね」

「ノワールストップ!それ以上進んじゃ駄目っ!」

「……!?」

 

わたしの言葉を耳にするやいなや、倉庫へと踏み出しかけていた足を引っ込めると同時に、器用に逆の足で床を蹴って後ろへ跳ぶノワール。わたしの言葉をそれだけ思う受け止めてくれたのか、目は既に戦闘の時のそれになっていた。

 

「ネプテューヌ、敵がいたの?それとも罠を見つけた?」

「え?別にどっちでもないよ?」

「え?…じゃあ何で私を止めたのよ?」

「や、だって今まで何度も広間に出たら敵出現、のパターン味わって来たじゃん。それに入った瞬間廊下との接続部に石の壁が出来てハッと驚く羽目になるかもしれないし」

「あんたねぇ…まぁでも確かに伏兵を置くには良さそうな場所ではあるわね」

 

倉庫内には所々コンテナが置いてあってそれが障害物の様になっている。あれならば戦闘中に壁とするのは勿論、ある程度のサイズのものなら入り口にいるわたし達から隠すのも容易に見える。偽者のノワールがここに来たかどうかは謎だけど、もし待ち伏せする気ならばここは絶好の場所だった。

 

「じゃ、どうする?ここは保留にするってのも手だと思うわよ?」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言うけどね。相手が相手だし多少の危険は侵さないと進めないよ」

「どっちも一理あるです…ノワールさん、どうします?」

「そうね…じゃ、貴女達はここで待ってて、私が確かめるわ」

 

口元に薄く笑みを浮かべるノワール。一体ノワールは何をするつもりなんだろう…とわたし達がノワールを見つめていると、彼女はその場で女神化し……倉庫の中へと突進する。

 

「な……っ!?ノワールさん!?」

「まさかの単騎突撃!?こんな障害私一人で十分よアピール!?」

「そんな訳ないでしょうが!敵や罠が用意されてるならこうすれば姿を現わすと踏んだのよ!」

 

低空飛行で倉庫内を飛ぶノワール。女神がかなりの速度で飛ぶもんだから当然数秒もしないうちにノワールはコンテナに正面衝突しそうになるけど…捻り込む様な鋭い機動でコンテナを回避。その後もスピードを殆ど落とす事なく縦横無尽に倉庫内を駆け巡る。

 

「ノワールさん凄いスピードです…」

「速い上に機敏な動きよね。ああいうのを高機動って言うのかしら」

「しっかしノワールも中々身体張るよね、ゴキブリホイホイ的な罠があったらどうする気なんだろう?」

「いやそんな罠は流石に無いと思うよ…」

 

ノワールが床のすれすれを、壁を沿う様に、天井に張り付いているかの様に動き回る事数分。ノワールは少しすっきりした様な顔をしてわたし達の所へ戻ってきた。

 

「敵もいなかったし何か仕掛けられている様子もなかったわよ」

「ちょっと気分良さそうですね、ノワール様」

「えぇ、だってこんな無茶な機動が出来るのなんて女神の中でも私位でしょ?それを改めて実感出来たんだから気分良いわよ」

「わー、ノワールが高慢モードになってるー」

「揺るがない自信の表れ、と言ってほしいわね」

 

ふふん、と自慢気に胸を揺らすノワール。…何あれ、わたしとあいちゃん、それにサイバーコネクトツーちゃんへ対してわざとやってんの?…と思ったらサイバーコネクトツーちゃんは然程気にしてなかった。…わたしとあいちゃんに比べればあるからなのかなぁ…。

 

「ま、せっかくノワールが調べてくれたんだからさっさと進みましょ」

「そうですね、ノワールさんの偽者がどこか行っちゃう前に見つけるです」

 

そう、別にわたし達はここに素材採集に来た訳でも探検に来た訳でもない。仮にここを無傷で出られたとしても偽者のノワールを逃してしまっては完全に無意味、それどころか偽者のノワールが今よりも用心してしまう可能性がある以上何としてもここで倒しておきたいというのがわたし達の考えだった。

 

「しっかしこんな良い場所使わないなんて偽者のノワールは何考えてるんだろうね、もしかしてビビりさんなのかな?」

「失礼ね、私の偽者なんだからそんな訳ないでしょうが。…けど、ほんとにどこ行っちゃったのかしら…まさか本当に逃げた……?」

「絶望禁止ですよ、ノワール様。まだ似た様な場所があるかもしれませんしもう少し探して--------」

 

サイバーコネクトツーちゃんが言いかけた瞬間、倉庫の壁の一角が爆発、元々強度が落ちていた事もあって破壊された壁の破片が四方八方へと吹き飛んでくる。そして、次の瞬間--------

 

「■■■■ーー!」

「敵……ッ!?」

 

開いた穴から姿を現したのはもう生産されていない筈の『キラーマシン』。キラーマシンは壁破砕時の煙を突っ切る様に高速でわたし達の…ノワールの元へと肉薄し、その両腕で保持する長大な武器を振るってくる。

無論、先程もっと近い距離から放たれたサイバーコネクトツーちゃんの一撃をも防いだノワールがそれをみすみす受ける筈がない。左からの一撃を飛び上がる事で避け、続けて放たれた右からの一撃は自身の大剣をキラーマシンの武器の側面と打ち合わせる事で軌道を逸らして回避する。常人のそれを大きく超える女神の動体視力、しかも相手は既に幾度となく刃を交えたキラーマシン。今のノワールにとってキラーマシンは奇襲をされたとしてもやられる筈のない攻撃だった。……そう、キラーマシン『の』奇襲は。

 

「…………」

「……っ…偽者…!?」

 

ノワールがキラーマシンへ反撃を叩き込もうとした瞬間、ノワールの前へと現れる一つの影。キラーマシンの背から躍り出たその影は、わたし達の探していた偽者のノワールその人だった。

きちんと相対した状態ならノワールが偽者に遅れをとるとは思えない。けど、今はまさにキラーマシンへと攻撃をしようと大剣を振り上げていた状態。そんな状態からではまともな防御をする事が出来る筈もなく、攻撃そのものは防げても床へと跳ね飛ばされてしまう。

そしてそこへ、偽者のノワールが降り立つ。

 

「……ッ…しまっ…」

「……シネ」

「ノワール様、危ないッ!」

 

ノワールが体勢を立て直すよりも早く、偽者のノワールが大剣の切っ先をノワールへと向け、刺突する。キラーマシンがこの倉庫へ姿を現してからたったの数秒も経たぬうちにあれよあれよと動く戦況にわたし達は追いつく事が出来ず、わたし達とノワールとの間には一瞬で埋めるには遠過ぎる距離が開いてしまう。

……けど、サイバーコネクトツーちゃんは動いた。否、もう動いていた。疾風の様に距離を詰めたサイバーコネクトツーちゃんは自身の双短剣を交差させ、ノワールと偽者との間に躍り出ると同時に刺突を防御する。きちんと床を踏み締めていなかった事もあってサイバーコネクトツーちゃんはノワール同様跳ね飛ばされる…が、それでもノワールへの攻撃を阻止する事には成功していた。

 

「サイバーコネクトツー!?大丈夫!?」

「痛た…はい、そちらこそ大丈夫ですか?」

「えぇ、貴女のおかげで助かったわ」

「チッ……」

 

立ち上がると同時に大剣を振るい、偽者を下がらせるノワール。すぐさま起き上がったサイバーコネクトツーちゃんは勿論、わたし達もキラーマシンを視界の端に捉える様にしながらノワールの元へと走る。

 

「お二人共怪我はないですか?」

「大丈夫、荒事には慣れてるからね」

「私もよ。しかしまさかキラーマシンが出てくるなんて…アヴニールが解体される前に隠蔽していたのかしら…」

 

例えパチモンでもキラーマシンの様な大型且つ一般人が対処するのは困難なレベルの無人機を個人や小規模の組織が開発出来る筈はない。偽者とキラーマシンを見据えるノワールの言葉にはそんなニュアンスが含まれていた。

 

「アヴニール解体、というのはよく知りませんが…今は敵を倒すのが先決ですノワール様!」

「そうね、援護してくれるかしらサイバーコネクトツー?」

「勿論です、行きますよ!」

「あ、ちょっ……」

 

頷き合い、左右に分かれて偽者のノワールとキラーマシンに突撃をかけるノワールとサイバーコネクトツー。

 

「私達も見物してる訳にはいかないわね、後に続きましょ」

「わわわ、どうしよどうしよ…」

「…ねぷねぷ?何かあったんですか?」

「何かも何もないよ!なんか完全にわたしが主人公っぽくなくなっちゃったよ!?しかもノワールの相棒ポジまで奪われちゃったよ!?」

「何言ってんのよあんた…」

 

慌てるわたしに半眼で返すあいちゃん。あいちゃんは事の重大さが分かってないよ…わたしが主人公じゃなくなる上にノワールの相棒ポジまで奪われるなんてそれはある種のアイデンティティクライシスだよ!?作品のコンセプトの関係でその両方を手に入れてた秘書官君はともかく、わたしとイリゼのW主人公作品でそれが起きるなんて由々しき事態だよ!

 

「ねぷねぷ、よく分からないですけどここで活躍すれば主人公の方は何とかなるんじゃないですか?」

「あ、確かに…ノワール!サイバーコネクトツーちゃん!キラーマシンは任せて!って訳で手伝ってねこんぱ!あいちゃん!」

「あ、こら勝手に割り振り決めるんじゃないわよ!…って言っても今更ね…」

「ねぷねぷに普通は通用しないですから、ね」

 

太刀を抜刀し、一直線にキラーマシンへと走るわたし。わたしの言葉を受けたノワールとサイバーコネクトツーちゃんはキラーマシンへの攻撃を止め、偽者のノワールとの戦闘に専念する。…どうしてキラーマシンの方を狙ったのかって?いや、だって偽物と戦うのは本物、って相場が決まっているじゃん。そういう事も配慮出来てこそ主人公だもんね。

 

「■■ーー!」

「今回は女神化無しで戦う訳だけど…今は活躍しない訳にはいかないんだから!倒させてもらうよ!」

 

接近するわたしへと振るわれる武器。それを斜め前に動く事で回避しつつも距離を縮めたわたしは、お返しとばかりに太刀を関節部へと走らせる。これが決まればわたしとしては御の字だけど…残念ながら今は非女神化状態。そう簡単にダメージを与えられる筈もなく、太刀の刃は身体を動かしたキラーマシンの装甲によって弾かれてしまう。

 

「そう言えば私達はキラーマシンと真っ向から戦うのはほぼ無かったわね…コンパ、油断しちゃ駄目よ?」

「分かってるです、わたしだって沢山戦ってきたですから油断なんてしないです」

 

キラーマシンの反撃が来る前に後方へ跳んだわたしと入れ替わる形でキラーマシンへ仕掛けるこんぱとあいちゃん。サイズの大きいキラーマシンはわたしへ攻撃しようと動いていたせいで二人の接近を阻む事が出来ず、腰椎部関節に攻撃を受けてしまう。…が、次の瞬間二人へキラーマシンの装甲尾が迫る。

 

「くっ……思ったより深く入らなかった…!」

「女神さん達のとパワーの差を感じるですぅ…」

「あっちも大変そうね…今よ!」

「はいっ!」

 

装甲尾をしゃがむ事で回避するこんぱとあいちゃん。そんな中ノワールとサイバーコネクトツーちゃんは連携して偽者のノワールを攻め立てる。----そう、それはわたしとノワールがキラーマシンを初めて倒した時の様に。

 

「…むむ…元はと言えばこのキラーマシンがいたからじゃん!もうわたしは怒ったよ!このこのこのッ!」

「数と小回りじゃこっちが上なんだから無理に攻める必要は無いわよねぷ子!」

「分かってるよ!でもなんか…なんかもやもやするの!それはこのキラーマシンのせいだもん!」

 

別にサイバーコネクトツーちゃんが嫌いな訳じゃない。わたし達を手助けしてくれてる訳だし、何となくだけどサイバーコネクトツーちゃんもゲーム好きな気がするんだから嫌う理由がない。そして主人公っぽくなるのもちょっと焦りはするけど、イリゼを筆頭にわたし以外が主人公らしい事してたのは今までもあったから正直そこまで耐えられない事じゃない。第一、主人公降板した訳じゃないからね。……でも、何故かもやもやする。ノワールがわたし以外と抜群のコンビネーションを決めているのを見るともやもやする。そしてその理由がわたしにはよく分からないのも、凄く嫌な気分だった。

 

「ねぷ子あんた…はぁ、危なっかしくてしょうがないわね…」

「ふふっ、そう言ってねぷねぷを援護しようとしてるあいちゃんは優しいですね」

「い、いいでしょ別に…っていうか、それはコンパもでしょ?」

「はい、その通りです」

 

無人機は人と違って相手の勢いだとか覇気だとかに左右される事がない。それ故にわたしの猛攻にも気圧される事無くキラーマシンはわたしを振り払い、今度こそわたしに一撃与えようと武器を振り上げる。しかしこんぱとあいちゃんの側面からの攻撃によってわたしを倒す事は叶わず、一度立て直す方が良いと判断したのか素早く後ろへと下がる。

 

「やっぱり固いわね、女神様並みの物理攻撃が出来る訳ないし関節部に魔法撃ち込もうかしら…」

「ねぷねぷ、わたし達もいるんですから一人で突進しちゃ駄目です」

「べ、別に突進してなんか…とにかくわたしは今あのキラーマシンに怒って…あぅっ!?」

 

言葉を言い切る前にわたしの頭に衝撃が走る。一瞬キラーマシンの遠距離攻撃かと思ったけどそれにしては威力が低過ぎる。わたしの頭に衝撃を与えたのは、こんぱとあいちゃんのチョップだった(こんぱの方はダメージがあるかどうかも微妙な程優しかったけど)。うぅ、どうしてこんなタイミングで…しかもこんぱまで……。

 

「今のねぷねぷはねぷねぷらしくないですよ?」

「ねぷ子が何にもやもやしてるかは知らないけど…普段自分より周りを大事にするならこう言う時こそ私達との連携を大事にしなさいよ」

「え…あ、えと……」

「ここ来る前に私達はねぷ子を褒めたでしょ?理由はともかく言った内容は本心なんだから、もっとシャキッとなさい」

「あっちが気になるならぱぱっとキラーマシンさんを倒しちゃうですよ!」

「二人共……うん、そうだね。ありがとこんぱ、ありがとあいちゃん」

 

心が落ち着いていくのを感じる。二人の言葉は不愉快さで荒れていたわたしの頭の、心の安定剤となってくれた。キラーマシンへの怒りが無くなった訳じゃないし、もやもやした気持ちが消えた訳でもない。けど、そんな面白くもない気持ちの為に、わたしにとって大事な友達であるこんぱとあいちゃんの優しさを、わたしへの気持ちを無下にする方がわたしにとってはよっぽど嫌だった。

深呼吸をして太刀を構え直す。わたしが見据えるのは再度の攻防を仕掛けようとしているキラーマシン。こんぱの言う通り、どうしてももやもやするならぱぱっとキラーマシンを倒してノワールとサイバーコネクトツーちゃんの元へ向かえば良い。そうして気を引き締め直したわたしは、こんぱとあいちゃんと共に、キラーマシンへと走った。




今回のパロディ解説

・「〜〜入った瞬間廊下との接続部に石の壁が出来てハッと驚く〜〜」
ゼルダの伝説シリーズにおけるダンジョンでのシーンの事。基本本作でも広間ではよく戦闘になるので、ここでのネプテューヌの認識は割と間違ってはいませんね。

・秘書官君
超女神信仰 激神ブラックハートのプレイヤーキャラ(?)である秘書官の事。言うまでもないとは思いますが、本作の舞台はゲイムシジョウ界ではありませんよ?


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第七十一話 信頼と真剣と

同じ一つの倉庫内で繰り広げられる、二つの戦い。

一つは偽者のノワールを討つべく刃を振るう、ノワールとサイバーコネクトツーちゃんの戦い。圧倒、とまでは言わないにしても偽者よりも強い力を持つノワールと、そのノワールに着いていける程度には技量を有するサイバーコネクトツーちゃんが連携する事により優勢を保っていた。

一つはアヴニールの横暴により生み出された兵器の生き残りを撃破すべく駆けるこんぱとあいちゃん、そしてわたしの戦い。こちらは得手不得手が全く異なるが故に一方的な戦況とはならず、一進一退の攻防が続いていた。

 

「こんぱ!あいちゃん!三方向から攻めるよ!」

「了解です!」

「言い出しっぺが遅れるんじゃないわよ!」

 

正面からはわたしが、右からはこんぱが、左からはあいちゃんがキラーマシンへと走り込む。対するキラーマシンは両腕の武器を広げ、真っ向からわたし達を迎撃する体勢を取っている。

普段なら正面からの殴り合いはわたしの担当だけど、今のわたしは女神化出来ない上に相手は人の身で殴り合えば十中八九ただじゃ済まないキラーマシン。そこでわたし達はいつもと戦法を変え、今までの対大型兵器戦で培ってきた知識と経験を活用する事としていた。

 

「一撃一撃が重くても……」

「当たらなければどうという事はないのよッ!」

 

わたし達三人を一度に屠ろうと外側から内側へと武器を横薙ぎにするキラーマシン。けど、三人同時に狙えば当然ながら攻撃は大振りになるし、そうなれば反応出来ないわたし達じゃない。わたしとこんぱは予備動作が見えた時点で足を横向きで前に出して急制動、そしてわたし達の中で機動力が頭一つ抜き出ているあいちゃん(勿論わたしが女神化したらその限りじゃないよ?)は逆に加速し、武器が当たる直前に走り幅跳びの様に跳躍して回避と肉薄を同時に行う。

 

「■■ー!」

「あら、攻撃すると思った?残念、本命は…」

『わたし達(だよ・です)!』

 

カタールの届く距離まで接近したあいちゃん。この距離では武器による迎撃は無理だと判断したキラーマシンは体当たりで跳ね飛ばそうとする…けど、そこであいちゃんは攻撃はせず、キラーマシンの胸部装甲を蹴ってバック宙。体当たりの勢いを利用する事で一気に距離を取る。

そして、あいちゃんと入れ違いになるかの様に接近をかけるわたしとこんぱ。あいちゃんが派手な動きをしてくれたおかげでキラーマシンに警戒される事なく一気に距離を縮められたわたし達は、すれ違いざまに同時に関節部へ一撃を叩き込む。

 

「こんぱ、今ので致命傷与えられたと思う?」

「さっきと同じ位浅かったと思うです」

「そっか、次来るよ!」

 

攻撃の後、キラーマシンの反撃から逃れる為に即座に離れるわたしとこんぱ。原作みたいにターン制だったり攻撃がヒットするかどうかが運次第だったら楽だけど、現実はそうじゃないんだよね…!

距離を取りつつ合流するわたし達三人と同じ手を食らうのは御免なのかわたし達の動きを見定めている(気がする)キラーマシン。

 

「普段ねぷ子達が関節をバッサリ斬り落としてたから知らなかったけど…結構関節部も頑丈なのね…」

「んー、多分このキラーマシンは比較的関節が頑丈なタイプなんじゃないかな?今と女神化してる時とじゃ微妙に感覚が違うから確信はないけどさ」

「どっちにしても、このままじゃ中々倒せないですね…」

「向こうと違って私達の体力に限界がある以上長期戦は…っとッ!」

 

攻めあぐね、何か作戦を建てようとわたし達が話し合い始めた瞬間に仕掛けてくるキラーマシン。幸い目は離していなかったおかげで三人同時にお陀仏になるという最悪の展開こそ回避出来たものの、ろくに作戦を建てる事も出来ないままわたし達は分散させられてしまう。

無論、わたし達は固まって動くつもりはないし、実際さっきまでもわたし達はそれぞれが別方向から攻めていた。けど、その戦法だと少しずつ削る事は出来ても削りきる前にわたし達の体力が切れてしまう可能性が高い上に、当然ながら長期戦になればなる程どこかでわたし達が攻撃を受けてしまう可能性も高くなる。そして、もし攻撃を受ければわたし達側のアドバンテージである数の優勢を失う事となる。詰まる所、わたし達は一気に削る手段を早急に見出し実行しなければならなかった。

 

「ねぷ子!貴女の技の中にかなりの大剣を顕現させる奴あったわよね、あれ関節に撃ち込める?」

「無理!関節そんな広くないし止まってる目標じゃないもん!」

「やっぱそうなのね…じゃあ、こんぱ!貴女攻撃魔法使える?」

「は、はい!あいちゃんやメーちゃん程じゃないですけど少しなら出来るです!」

 

三方向から時間差で攻めつつ、あいちゃん主導で作戦立案を進めるわたし達。もしここでダメージを与えるのが目的なら同時に攻める所だけど、その場合キラーマシンは防御しきる事を諦めて誰か一人を倒そうとしてくるかもしれないし、その戦法を取った所でろくにダメージを与える事が出来ないのは数度の攻防でもう判明している。だったらわざとギリギリ対応出来る程度に時間差をつける事で防御に専念させて、その間に話し合いを進めるって方が有益だよね。

 

「OK。ならねぷ子、ちょっとだけ無茶してもらっていい?」

「勿論!どんな事でもどんとこいだよ!なにせわたしは不可能を可能にする女だからね!」

「それ微妙に死亡フラグ感が…まぁ良いや、だったら私達が準備出来るまでキラーマシンを相手してて頂戴!」

 

具体的な指示は出さず、ただ『キラーマシンの相手してて』とだけ言ってこんぱの元に走るあいちゃん。だけど、別にわたしはそれで困ったりはしない。あいちゃんは必要な説明を忘れる程うっかりさんじゃないし、仮に物凄く細かい説明されたりしてもわたしじゃ逆に混乱しちゃうからね。多分それを踏まえてあいちゃんは簡素な指示だけだして動き出したんじゃないかな。

あいちゃんがこんぱに合流しようとするのを見たキラーマシンは二人の元へ接近。そうはさせまいとわたしが二人とキラーマシンの間の空間に滑り込む。

 

「■■■■!」

「せーせーどーどー勝負だよッ!」

 

キラーマシンが突撃しながら振るった右腕の武器に太刀を打ち合わせ……ると見せかけてわたしから見て左に側転。更にそこから振るわれた武器に向かって捻りを加えた回転斬り。攻撃をした事により僅かながら崩れていた体勢に遠心力で重さと速度が増した一太刀が入る事でグラつくキラーマシン。と、そこでわたしは追撃せずに後方に跳ぶ。

 

「女神化してなくてもわたしは主人公!無人機なんかに遅れは取らないんだよね!」

「■■…■■ー!」

 

太刀の切っ先をキラーマシンに向けながら声を上げるわたし。それに対してキラーマシンは二人よりもわたしの方が優先的に倒した方が良いと判断したのか(ひょっとしたらわたしに負けるかー!って気持ちが芽生えたのかも…なーんてね)、駆動音を響かせながら高速で突進をしてくる。

 

「これはちょっと無理かな…ッ!」

 

今までの攻撃に繋げる回避ではなくそれ単体で完結する回避行動に出るわたし。小回りや柔軟な動きに難のあるキラーマシンは至近距離なら女神化せずとも十分対応は出来るけど、中長距離からスピード上げての攻撃…所謂チャージ的な形で仕掛けられたら、とてもじゃないけど迎撃やカウンターなんて出来ない。こんぱ達が準備完了するまで引きつけ続ける為にもこれが最善の選択だった。

そして、次の瞬間…

 

「ねぷねぷ!こっちはもういけるです!」

「あ、もう良いの?よーしそれじゃ二人共デカいの任せ--------」

「■■■■ーーーー!!」

『……ーーッ!(ねぷねぷ・ねぷ子)っ!』

 

一瞬前までわたしがいた場所を駆け抜けていくキラーマシン。それと同時にこんぱから合図が送られてくる。意気揚々と引きつけ役を引き受けたとはいえ、一対一だと女神状態でも手のかかる相手を女神化していない姿で戦っていた訳だから内心おっかなびっくりだったわたしはつい二人の方へ顔を向けて…つまり、キラーマシンから目を逸らしてしまう。二人の方を見ていたのは数秒にも満たない僅かな時間。だが、その間にキラーマシンは胸部装甲を稼働させ、キラーマシン系列の最大の矛、胸部ビーム砲を展開させる。

わたしがそれを目視した時には既に光を放ち始めていたビーム砲。わたしが発射までに出来るであろう事はせいぜいワンアクションで、ワンアクションでは走ろうが跳ぼうが攻撃範囲から逃れられる筈がない。

そして、キラーマシンから放たれる大出力のビーム。強烈な閃光を発しながら駆け抜けた光芒は床や射線上のコンテナを溶解させながら進み、倉庫の壁へと突き刺さる。無論、これ程までの威力を持つ一撃を生身の人間が耐えられる訳は……無い。

 

 

 

 

「ほらほらッ!私の姿をしてるならこの程度で押されてるんじゃないわよッ!」

 

自身の偽者へと手に馴染んだ大剣を振り回す私。サイズも重量も普通の女性には到底振り回せる訳のないこの大剣も、私にとっては身体の一部の様に取り扱う事が出来る。それは、私にとって少なからず気分の良いものであり私が戦闘において高揚感を抱く理由の一つだった。

 

「……ッ…」

「ノワール様、油断は禁物ですよ!」

「油断?まさか、仮にも私と同じ見た目の敵なんだから手を抜く訳ないでしょ!」

 

私の声音から調子に乗っているのではないかと心配したのか、サイバーコネクトツーが忠告をしてくる。それに対し、偽者への攻撃の手を休める事なく返答する私。そう、今の敵は他でもない私の偽者。この状況で手を抜ける訳がないわよね。

二対一という状況であり、イリゼの言っていた通り偽者は私やネプテューヌ達(今のネプテューヌは女神化出来ないけど)に比べると些か劣っている。だから、キラーマシン担当のネプテューヌ達より速く片付けて助けに入ろうと思っていたんだけど……

 

「……!」

「ちっ、ちょこまかと逃げ回って…!」

 

横薙ぎを跳躍する事で回避した偽者の私は、その勢いのまま後方へと跳び距離を開ける。それを見て自分でも分かる位に不満感を露わにする私。

防御する事、回避する事は悪手じゃないし、ましてや恥ずべき事でもないわ。むしろ、防御や回避を蔑ろにする事こそが悪手であって、その点において私の偽者はよく分かっていると言えるわ。攻撃は最大の防御である様に、防御もまた最大の攻撃。えぇ、認めてあげようじゃない。…けど、それはあくまで戦闘の意思があり、防御・回避の先に攻撃がある場合であって、それがない場合は……ただの逃げ腰よ。

 

「…サイバーコネクトツー、まだまだ私は加速出来るわ。貴女はついて来れる?」

「…愚問ですよ、ノワール様」

「ふふっ、頼りになる返事ね。なら…畳み掛けるわよッ!」

 

隣からの力強い返事に笑みを浮かべ、距離を取った偽者の私へ再度接近をかける私。迎撃の為に繰り出された大剣を正面から打ち払い、偽者が次の行動を起こす余裕を与えずにサマーソルトキックを放つ。対する偽者の私は咄嗟に腕を交差させる事で私の攻撃を凌ぐけど…私『達』の攻撃がこれだけで終わる筈がない。

 

「後ろがガラ空きだよッ!」

「ク……ッ!」

「良いタイミングよサイバーコネクトツー!」

 

一瞬の攻防の間に偽者の後ろへと回り込んだサイバーコネクトツーが、二振りある自身の短剣で十字に斬りかかる。惜しくもその攻撃は偽者の私が翼を広げ飛翔した事で空振りに終わるも私達は落胆しない。今のは偽者に大きなプレッシャーを与える事には十分なっていた筈だし、そもそも今の攻撃の狙いはダメージを与える事ではなく、偽者の私を空中へと舞い上がらせる事だったのだから。

 

「さっきは縦横無尽に動いたけど、やっぱりコンテナがあると十分には動けないのよね。貴女もそう思うでしょ?」

「…………」

「相変わらず殆ど喋らないのね…いいわ。だったら、言葉じゃなくて直接貴女の身体に教えてあげるからッ!」

 

床を蹴り、偽者を追う様に飛翔する私。天井も壁もある以上野外に比べればやはり動きに制限がかかるけど、それでもコンテナが邪魔にならない分機動の幅は大きく広がる。それは、私にとって大きなアドバンテージだった。

下方からの一閃。即座に離れて側面へ回り、続きの一閃。その勢いのまま螺旋を描いて上昇し、真上から叩き込むかの様な一閃。正に怒涛と言える程の急加減速と旋回、上昇下降を複雑に織り交ぜた空中連撃に偽者の私は対応しきれず防戦一方となる。勿論、空中に上がる前から偽者の私は防戦中心であり、先程までと極端に動きが変わった訳ではない。けど、自ら選んで防戦を行うのと選択肢がなく防戦をせざるを得ないのとでは天と地程の差があった。

連撃に次ぐ連撃は次第に偽者の私の体勢を崩していき、遂には私の肉薄を完全に許してしまう程となる。ニィ、と口元に笑いを浮かべる私と目を見開く偽者の私。次の瞬間には私の回し蹴りを受けた偽者の私が床へと落下する。

やっと生まれた一気に押し切るチャンス。しかし、そのチャンスは奇しくももう一つの戦いによって生じた強烈な光にやって阻まれる。

 

「び、ビーム!?」

「やっぱあいつも装備してたのね…射線上に入っていなくて良かったわ…」

 

自分達へ向かってきた訳ではないものの、強烈な光を放つものが目視出来る範囲に現れれば否が応でも気を取られてしまう。そして、私とサイバーコネクトツーがもう一度仕掛けようとした所でコンパとアイエフの只ならぬ声が倉庫に響く。……ったく、何下手打ってるのよネプテューヌ…。

 

「サイバーコネクトツー、この流れが切れないうちにもう一度ダメージを与えるわよ」

「え…の、ノワール様……?」

「何ぼさっとしてるのよ、今は戦闘中よ?」

「……っ…何言ってるんですか…ネプテューヌさんがやられちゃったんですよ!?ノワール様は何も感じないんですか!?」

 

信じられないものを見るかの様な目で私を見るサイバーコネクトツー。彼女の言いたい事は分かる。状況と、コンパとアイエフの絶叫を聞けば誰だってこう思う。『ネプテューヌはキラーマシンのビームにやられて死んでしまった』と。…と、そこまで私は考えた所でため息を吐き、偽者の私を視界に捉えながら言葉を発する。

 

「…まさか、ほんとにネプテューヌがやられたと思ってるの?」

「え……?…それは…」

「ネプテューヌは破天荒で無茶苦茶で常識無視のどうしようもない子よ。でも、ネプテューヌ程強い信念を、諦めない精神を持っている奴なんてそうそういないわ。だから安心しなさい--------」

 

私は知っている。ネプテューヌの良い所も、悪い所も、強い所も、駄目な所も。だから確信を持って言える。自信を持って断言出来る。ネプテューヌは……

 

 

「--------こんな所で、やられる訳がないわ」

 

その瞬間、サイバーコネクトツーとコンパ、アイエフが死んでしまったと思っていた相手が、私が生きている事を何の疑いもなく信じていた相手が--------ネプテューヌが、空中に姿を現し、キラーマシンのメインカメラへ太刀を突き刺しながら同機の上へと降り立つ。その姿に歓喜するコンパとアイエフ。安堵のため息を漏らすサイバーコネクトツー。そして私は……自分でも気付かぬうちに、とても楽しげな笑顔を浮かべていた。




今回のパロディ解説

・「当たらなければどうと言う事はない〜〜」
機動戦士ガンダムに登場するライバルキャラ、シャア・アズナブルの名台詞の一つ。これは当然といえば当然ですが、実力者でなければ成り立たせられない事柄ですね。

・「〜〜不可能を可能にする女〜〜」
機動戦士ガンダムSEEDのメインキャラ、ムウ・ラ・フラガまたはリトルバスターズのメインキャラ、井ノ原真人の名台詞のパロディ。どちらもそのキャラらしい台詞ですね。


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第七十二話 決着、そして次の戦いへ

敵はおろか味方の虚すら突いた一撃。メインカメラという、性質上装甲に覆われる事のない場所へと放たれた太刀は、重力による加速に後押しされた事もあって根元まで突き刺さり、キラーマシンの頭部に穴を開けるに至っていた。

そう、それは絶体絶命のピンチから一転、圧倒的なまでのチャンスを手にした瞬間だった。

 

「こんぱッ!あいちゃんッ!」

 

太刀を頭部から引き抜きながらわたしは叫ぶ。今の一撃はキラーマシンにとって重大なダメージではあるものの、致命傷を受けた訳でもなければ行動不能に陥る訳でもない。むしろ視界を奪われたキラーマシンは闇雲に攻撃を始める可能性すらあり、決して余裕がある状況ではなく、ましてや惚けている場合でもなかった。

 

「……っ…やるわよコンパ!」

「は、はいですっ!」

 

わたしの言葉で正気に戻ったこんぱとあいちゃんがキラーマシンに向かって走る。それを見たわたしは少しでも二人に攻撃がいかない様キラーマシンの後頭部を蹴りながら背後の床へと飛び降りる。案の定、わたしを追う様に振り向くキラーマシン。

 

「トドメは…任せたよッ!」

「任されたわ!喰らいなさいッ!『ラ・デルフェス』ッ!」

「このチャンス、絶対に無駄にしないです!『コンパ・ラブ・ハート』っ!」

 

目を合わせ、一気にキラーマシンの側面にそれぞれ回り込むこんぱとあいちゃん。そして、こんぱは注射器を、あいちゃんは右手を掲げて同時に魔法を解き放つ。

ゼロ距離から放たれた二つの魔法は、防御はおろか二人を認識する事すらままならないキラーマシンの腰椎部関節から…否、その周囲の装甲を溶かしながら入り込み、縦横無尽に駆け巡る。各部関節から漏れる魔力光、内側から弾き飛ばされる装甲、機体内部を食い破り倉庫内へ姿を現す二人の魔法。そして……

 

「■■…■ー…ー……」

 

激しい金属音を立て、床へと倒れるキラーマシン。電子音とスパークもものの数秒でぱったりと消え……偽者の女神が従える無人の機動兵器は、物言わぬ鉄塊となった。

 

 

 

 

「私達が急いで倒す必要はなかったみたいね…それじゃ、こっちもそろそろ終わりとしましょ、偽者さん」

 

私と同じ容姿で私を睨んでくる偽者の私に大剣の切っ先を向ける。先程の打撃で偽者の動きが僅かながら悪くなった事と私がサイバーコネクトツーの動きや戦闘面での特徴を理解した事で彼女との連携の質が上がった(サイバーコネクトツーの方は別次元の私と面識があったからか、最初からある程度私の動きを分かっていてくれたわ)事で更に私達は優勢となり、勝利目前と言える段階にまで来ていた。

 

「…マダダ……」

「まだ?そのまだってのは勝つ事を諦めてないって意味かしら?そうならその闘志は認めてあげるわよ?」

「……ッ…!」

「な……っ!?」

 

口元をほんの少し緩め、偽者へと向けていた大剣を肩に引っ掛ける私。敵が直ぐ近くにいる時にすべきでは無い動きをしたのは別に大剣を持つ手が疲れたから肩で支えようと思った訳ではない。これは偽者にアクションを(出来るならば私への攻撃を)取らせる為の誘発行為。それを見た偽者の私は一瞬の沈黙の末……反転し、倉庫の出入り口へと突進する。攻め入れるチャンスに攻撃とは間逆の選択を下した偽者の私に驚愕し、次の瞬間には追おうとするサイバーコネクトツー。そんな彼女に対し私は、

 

「予想通りね…私としては当たって欲しくなかったけど」

 

手で、彼女を制止させる。当然、サイバーコネクトツーにとって不可解な行動を取った私に、彼女は怪訝な表情を浮かべて理由の説明を求めてくる。

 

「…何か、策があるんですか?」

「いや無いわよ?」

「ですよね、ノワール様の策なら…って無いの!?あ…無いんですか!?」

「あぁ、無いってのは策を弄するまでも無いって事よ。それと…ここからは、私に任せて頂戴ッ!」

 

床を蹴り、偽者の後を追う私。もしここが草原や空の様に障害物が殆ど無い場所なら追い付くまでに結構な時間がかかっていたかもしれない。けど、幸いにもここはコンテナという障害物がある倉庫内。しかも偽者の私はコンテナや壁に衝突しない様カーブ時には若干ながらスピードを落としている。慎重なのは良い事だし、安全を考慮するのは必要な事ね、でも……

 

「--------そんなんじゃ、私から逃げ切る事は出来ないわよ?」

「クッ……」

 

偽者が出入り口にたどり着く寸前、彼女の後方から刃が走る。そのままでは確実に喰らうと察知した偽者の私は横へ回避。再び私と偽者とが対峙する。

 

「よくもまぁ逃げるわね。貴女特性『にげあし』でも持ってるんじゃない?」

「…………」

「…観念する気は無いって顔してるわね…けど、もう逃す気はないわよ?」

 

言うが早いか私が接近、偽者もこの状況では逃げようもないと判断したのか自身の大剣を構えて迎え撃つ。そして数度の攻防。互いが振るう大剣同士の激突で火花が散り、腕に重い衝撃が走る。

 

「……ジャマヲ…スルナッ!」

「邪魔?はっ、何が邪魔をするなよ…私達女神の邪魔をしてるのはあんた達でしょうがッ!」

 

力尽くで押し切ろうとする偽者の圧力に、真っ向からぶつかる私。ここにおいては力を抜いて避け、相手が体勢を崩したところを攻撃するという選択肢も勿論あった。けど、今は、この相手には…逃げる事を定石としている偽者の私相手には例え戦法であろうと逃げる選択はしたくなかった。

 

「逃げるのは結構、隠れるのも構わないわ。逃げずに戦えなんて身勝手な言葉、自分に対して以外に使うべきじゃないもの」

「コ、ノ……ッ!」

「……けど、あんたは私の姿をしてるんでしょうが…私の偽者として振舞ってるなら、情けない戦い方してんじゃないわよッ!」

 

床を踏みしめ、翼を広げ、身体全体でもって大剣を押し返す。私の言葉に思うところがあったのか、それともここで退いても私の追撃がある事を予測したのか偽者の私も負けじと力を込めてくる。そうなると押し合いの勝敗を分けるのは基礎スペックの差。つまり…

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

「グァッ……ッ!」

 

大剣を振り抜いたのは本物である私。更にそこから大剣の重量と押し合いの力の余波でもって一回転。一瞬でもって威力の乗った次の一撃を放つ。対する偽者は腐っても私の偽者、辛うじて大剣の腹で防御をするも、体勢の崩れた状態で勢いの乗った私の一太刀を防ぎきれる訳もない。

跳ね飛ばされる偽者の私。私は大剣を腰に構え、追撃すべく追いかける。

交錯する視線。私が見た偽者の瞳は未だ死んでおらず、闘志を浮かべて大剣の切っ先を私に向けようとしていた。ふん、そのしぶとさだけは認めてあげても良いわね。

 

「……ッ!シズメッ!」

 

後ろに腕を引き、私へ向かい真っ直ぐに刺突を放つ偽者の私。もし腕を引いた時点で回避行動を取っていればほぼ確実にその一撃は避けられていた。けど、私はその選択を破棄して接近を続ける。恐怖を感じ、避けた方が良い、避けようと頭と心に訴えかけてくる身体を覚悟でもって押さえ込み、必殺の意思を込めて大剣を振り上げる。

私と偽者の持つ大剣の側面同士が接触し、金切り声の様な激しい音を立てながら擦れ合う。偽者の私の刃が触れ、私の髪が数本宙へと舞う中……私の持つ大剣は、偽者の身体へと届く。

 

「女神ブラックハートの奥義、見せてあげるわッ!『インフィニット・スラッシュ』ッ!」

 

腰構えからの一撃で偽者の私を打ち上げ、そこから飛翔と共に全身全霊の連撃を叩き込む。偽者を斬ると同時に駆け抜け、すぐ様反転し次の一撃を放つ。相手が対応しようとするよりも速く、一切の躊躇を持たずに大剣を振り抜く。

全方位からの連撃を受け、力なく宙を浮く偽者の私。私は大剣にシェアエナジーの刃を纏わせ、一閃の元偽者の私を斬り裂く。

 

「--------女神の真似事をしたいなら、女神の誇りを…国民の期待に応える覚悟を持って戦いに臨む精神を手に入れてから出直してきなさい」

 

私の偽者に背を向け、私は床へと降り立つ。そして片手を掲げ、フィンガースナップ。その瞬間、偽者を斬る瞬間に偽者の身体へと留まらせておいたシェアエナジーが爆発を引き起こし、満身創痍の偽者の身体を灼く。シェアエナジーによる炸裂が収まり倉庫内に静けさが戻った時……偽者の私の姿は--------消えていた。

 

 

 

 

「ねぷねぷーーっ!」

「わわっ、こんぱ!?」

 

ノワールとサイバーコネクトツーちゃんが偽者のノワールを倒して倉庫内での戦闘が終了した瞬間、わたしにこんぱが抱き付いてきた。背丈とスタイルの関係で顔がこんぱの豊かな胸に埋もれかけるわたし。…も、物凄く柔らかいです……。

 

「ねぷねぷ、ねぷねぷぅ…」

「はふぅ……じゃなかった、こんぱどしたの?」

 

こんぱの胸はベールやマベちゃんみたいなワイシャツを着たらボタンがはちきれちゃいそうなレベルではなかったおかげで取り敢えず話せるものの、やっぱりちょっと息苦しいのでボケずに理由を聞こうとするわたし。

 

「どうしたもこうしたもないです!すっごく心配したですよ!?」

「心配?…あ、わたしがビームでやられちゃったって思ったの?」

「はいです…ねぷねぷがミンチより酷い状態になっちゃったんじゃないかって思って、わたし…わたし……」

「う、うん。心配してくれたのは嬉しいけどそれは連想すると寒気がするから言わないで欲しかったかな…」

 

あぁはなりたくないなぁと冷や汗をかくわたし。と、そこでやっとこんぱもわたしがちょっと苦しい状態にあると分かってくれたのか、わたしから離れてくれるこんぱ。…ちょっと残念な気もするけど…わたしはエロ少年とかじゃないからね?うん。

 

「全く、ヒヤヒヤさせるんじゃないわよねぷ子」

「あれ、もしやあいちゃんも心配してくれたの?だったらあいちゃんも抱き着いてくれて構わないよ?あいちゃんなら息苦しくないだろうし」

「ちょっと、それどういう意味よ!っていうかそれねぷ子が言える訳!?」

「わたしは女神化すればスタイル良くなるもーん」

「でも今は女神化出来ないんでしょうが」

 

わたしがあいちゃんにちょっかいを出していた所で女神化を解いたノワールとサイバーコネクトツーちゃんが合流する。

 

「ネプテューヌさんが無事で何よりだよ、友達がいなくなるのは悲しいからね」

「サイバーコネクトツーちゃんも心配してくれてありがと。ノワールは何かないの?」

「無いわよ、別に心配する理由もないし」

「ちょっ!?それ酷くない!?ノワールは分かんないかもしれないけど結構ピンチではあったんだよ!?」

「あはは、大丈夫だよネプテューヌさん。ノワール様が心配する理由もない、って言ったのはネプテューヌさんをどうでもいいと思ってる訳じゃないし」

「……?どゆ事?」

 

サイバーコネクトツーちゃんの言葉に首を傾げるわたし。そんなわたしに対しサイバーコネクトツーちゃんは説明してくれ…ようとした瞬間、何故か顔を赤くしたノワールに止められる。

 

「さ、サイバーコネクトツー!あれは言わなくて良いから!」

「え、でもネプテューヌさん勘違いしてますし…」

「それで良いのよそれで!ね!」

「へぇ…これは何かあると見た、サイバーコネクトツーちゃん話して話してー」

「絶対話しちゃ駄目よ!あんな事……のわぁっ!?」

「さぁサイバーコネクトツーちゃん!今だよ!」

 

ノワールに横から抱き着いてノワールの邪魔をするわたし。それを見たサイバーコネクトツーちゃんは苦笑した後ノワールに謝る様なジェスチャーをし、わたしに伝えるべく口を開く。

 

「えっと、ネプテューヌさんは強い信念と諦めない精神を持っている、だからやられる訳がない…だったかな?…って言ってノワール様の偽者から一瞬も目を離さなかったんだ。ノワール様からあんなに信頼されてるなんて凄いね、ネプテューヌさん」

「へぇー…わたしをそんなに信頼しててくれたんだノワール…」

「う、うっさい!あんたは某ゾンビ魔装少女位タフだって思っただけよ!」

「もー照れ隠しにパロネタするなんてノワールは恥ずかしがり屋さんだなぁ〜」

 

顔を一層赤くしたノワールの頬をつつくわたし。多分だけどわたしは今凄くにやにやしてるんじゃないかなぁ…でも仕方ないよね、ツンデレノワールがデレて且つ可愛い反応してるんだもん。

 

「私がいつデレたって言うのよ!?」

「おぉ!遂にノワールはわたしの地の文まで読める様になるとは…これはもうゴールイン直前だね!」

「す、すすする訳ないでしょ馬鹿っ!あんまふざけてるとあんたも私の偽者みたいな末路を辿らせるわよ!?」

「それは勘弁…あ、サイバーコネクトツーちゃんを怒らないでね、わたしが訊いたんだから」

「そういう配慮が出来るなら私にも配慮しなさいよ……」

 

引き際を見誤ると脅しじゃなくて本当に物理的な反撃を喰らい兼ねないのでそそくさとノワールから離れるわたし。ノワールはさっきまでとは一転し、ツーンとした態度をしながら腕を組む。うーん、今日もノワールのツンデレ具合は絶妙だねぇ。

 

「しかしそれにしてもねぷ子あんた、あの時はどうやって避けたのよ?逃げる余裕あったの?」

「ううん。正直あの瞬間は咄嗟の閃きがなきゃヤバかったね」

「咄嗟の閃き?」

「うん、まぁ口で言うより実際にやった方が分かりやすいかな。ノワール、ここにあるコンテナって壊しちゃっても良いよね?」

「…コンテナ?…まぁ、放置された廃工場だし別に良いけど…」

「なら良かった。じゃああのコンテナ見てて。…よっと」

 

ノワールの了承を得たわたしは倉庫内のコンテナを一つ指差し、皆の視線をそのコンテナに集める。そして皆がコンテナを見つめる中、わたしは手を上へ向けて掲げ……突如、コンテナが空中へと吹き飛ぶ。

 

『……っ!?』

「どう?中々凄いでしょ?」

「ど、どうなってるです?ねぷねぷはエスパー伊東さんだったですか?」

「うんそれ物凄く身体が柔らかい人だからね?超能力者じゃないからね?…まぁコンテナの下を見てよ」

「コンテナの下って……あ」

 

コンテナの下、つまり底面部を凝視する皆。するとそこには刀身を半ばまでコンテナに埋めた、青に近い水色を放つ大きな剣の姿。さて、閲覧者の皆は何か分かるかな?原作ユーザーならもう分かったんじゃないかな?

 

「あれは、ねぷ子がイリゼと連携した時に使った……」

「そうそれ、『32式エクスブレイド』だよ、ビームに焼かれる直前に足元で発動してコンテナみたいに飛んだんだ。ブレイドの方は途中でビームに焼かれちゃってすぐなくなっちゃったんだけどね」

 

打ち出したブレイドを足場にする事で一気にビームの効果範囲から離脱する。それがあの瞬間にわたしが閃いた手段だった。…あ、因みに刃部分は斬れ味落として平べったい棒に近い状態にしたよ?そうじゃなきゃわたしが一刀両断されちゃうからね。

 

「へぇ…ネプテューヌにしては中々妙案じゃない。これは中々凄いと思うわ」

「でしょでしょ?攻撃技を回避に使う、これぞ逆転の発想だよ」

「じゃあ、あの後ネプテューヌさんが姿を現わすまでちょっと時間がかかってたのはどうして?まさかタイミング見計らってたとか?」

「あー…うん、それはね……」

 

サイバーコネクトツーちゃんの質問に頬をかきつつ、天井のある一ヶ所を指すわたし。わたしの指差す先にある天井には人型の…もっと言えばわたし型の穴が開いていて、そこから空の様子が見えていた。

 

「……天井を突き抜けちゃったです?」

「うん…初めての試みだったし打ち出す速度の調整をする時間も無かったから闇雲にやってみたら、物凄い勢いで吹っ飛んじゃってね…」

「それで外に出ちゃったから戻ってくるのに時間がかかった訳ね…」

「よくピンピンしてるわねネプテューヌ…普通なら死ぬどころか身体がバラバラになるわよ?」

「あはは…ほんとに身体がバラバラになるかと思ったよ…」

 

既に老朽化が進んでいた廃工場の天井とはいえ、かなりの勢いでぶつかれば凄く痛い。地面に斜めに刺さってた件といい今の件といい、わたし主人公で女神じゃなかったら普通に死んでるよね絶対……。

 

「まぁ何はともあれ全員無事で偽者を倒せたんだから完全勝利ね」

「そうね、後は偽者が複数体いるかどうかだけど…今日教会を出る前にベールとブランに連絡したら特に見つかってないって言うしネプテューヌの偽者だけが特殊だったんだと思うわ」

「それは良かったです。それじゃ、教会に戻るですか?」

「えぇ、もうここに用はないしさっさと帰りましょ」

「それじゃわたしも同行させてもらいますね」

 

そう言って出入り口へと向かい始めるノワール。勿論わたし達も後に続く。

 

「んー、今回もよく動いたなぁ。ちょっと予想外の形だったけど活躍も出来たしノワールがわたしの事信頼してるって分かったし大満足だよ」

「だ、だからあれは……もう、覚えておきなさいよね…」

「ノワールの照れ顔は言われなくても覚えておくよ?あ、それと教会戻ったら美味しいもの食べたいなー」

「はいはい…っとそうだ、食事休憩位は好きにすれば良いけど、その後貴女達はサイバーコネクトツーと一緒にプラネテューヌに行きなさい」

 

何かを思い出したかの様にノワールは足を止め、後に続くわたし達の方を振り返る。ノワールの言葉の内容を含め、何だろうと思うわたし達。そこで代表してわたしが質問をかける。

 

「プラネテューヌに?どうして?っていうかその口ぶりだとノワールは別行動っぽいけど…」

「その通り、取り敢えず一旦は私も教会まで戻るけど、その後すぐベールとブランの二人と合流してやる事があるわ」

「やる事?」

 

中々核心に辿り着かない答え方に、再度質問を投げかけるわたし。それにノワールは特にはぐらかすつもりもなかったのか今度こそ、ノワールの真意を----告げる。

 

「えぇ、大事な事よ。……私達が女神としての本分を果たせる様、たった一人でマジェコンヌとユニミテスの足止めをしてくれている、私達の仲間の救出っていう大事な事を、ね」




今回のパロディ解説

・特性「にげあし」
ポケットモンスターシリーズにおけるポケモンの特性の一つ。もし偽者のノワールはにげあしの特性を持っていたら撤退成功する筈ですね。野生との戦闘とするならですが。

・ミンチより酷い
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争での台詞の一つのパロディ。同じビームにやる攻撃ですが、生身とMSごしという差があるので恐らくそうはならないでしょう。

・エスパー伊東
お笑い芸人、エスパー伊東こと伊東満寿男さんの事。もしネプテューヌが鞄の中に入る芸をしたら……うーん、正直恐ろしいですね。あくまで私個人の感想ですが。


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第七十三話 それぞれの戦いの終結

--------しのぎを削り合う刃。空を裂く電撃と爆発。煮え滾る溶岩の流動。唸りを上げる魔女と魔王、そして女神。

--------あれからどの位が経ったのだろうか。数日か、数週間か…数時間だとか、数ヶ月だとかではないと思う。ただ、時計はおろか時間の経過が分かるものが殆どない場所では一体どれだけ過ぎたのか…何日もの間戦い続けているのかがまるで分からなかった。

 

「はぁ…はぁ…全く、タフ過ぎるでしょうが……」

「そういう貴様も十分過ぎる程タフじゃないか、もう一人の原初とやら」

 

目へと入りそうになる額の汗を手の甲で拭い、少しでも息を整えようと努めながら長剣を構え直す。私が見据える先にいるのは、私に比べ余裕そうなマジェコンヌとそもそも疲労を感じるのかどうかすら怪しいユニミテス。マジェコンヌは私同様に生きている存在であり、ユニミテスも活動エネルギーを自己生成している訳ではない以上、最初よりも損耗している筈ではあるものの、それ以上に私が疲労を重ねている為状況は劣勢の一途を辿るばかりだった。

 

「■■■■ーー!」

「……ッ!」

 

光弾を放ちながら突進をしてくるユニミテス。それを私は長剣で斬り払いながらも地を蹴り、接近してくるユニミテスを真っ向から斬り裂こうとするも…即座に側面から放たれたマジェコンヌの電撃への対応を余儀なくされ、ユニミテスを返り討ちにする事に失敗する。

 

「しかし、貴様も悪手を打ったものだな。その力を持って仲間と共に来ていたのであればもう少し戦えただろうに。それとも、力を得て慢心したか?」

「それを貴女には言われたくない…」

「ふっ、確かにその通りだ。…最初のうちだけはなッ!」

 

一気に距離を詰めてくるマジェコンヌ。咄嗟に私は跳躍する事で回避し、下降と同時に上段から斬り込むも槍の柄で受けられる。一瞬の押し合いと、次の瞬間マジェコンヌの槍の先端から放たれる魔弾。それを体を捻りつつ後ろに飛ぶ事で回避する私。だが、私の飛んだ先に待っていたのは今にも光弾を放たんとするユニミテスの姿だった。

 

「な……ッ!?」

「■■ーー!」

 

私がそれを目視したのとほぼ同時に私へと撃ち込まれる光弾の束。数発ならともかく、まとめて放たれてしまっては全てを斬り払える訳がない。

眼前に迫る闇色の光弾。それらが私の身体を喰らおうとする刹那--------水晶を加工して作り上げたかの様な剣が複数私の周囲から射出され、光弾と撃ち合う形となって相殺する。…否、それだけではない。射出した内の一本は光弾を貫くだけに留まらず光弾の射手であるユニミテスの下まで飛び浅くではあるがユニミテスを斬りつける。剣によって光弾が全て爆散した事を認識する私。その私の手の中で、結晶体からエネルギー体へと姿を変える最後のシェアクリスタル。

 

(これで最後、か…そろそろ覚悟を決めなきゃかな……)

 

開戦当初、私は私を生み出した私との対話で得た力で持って優勢に立っていた。だが、武器精製は一度に数えきれない程の量を作れる程のレベルではない。不可視の爆発による加速は、加速した瞬間はマジェコンヌにすら捉えられない程の加速力を有するものの、私への負担が大きいせいで連続した加速は出来ず、結果分かっていれば対応出来るに落ち着いてしまっている。そして、この二つの力の応用である武器の射出も弾頭の数が限られるのであればちょっと強い遠隔攻撃の域を出ない。何より、これらの力は全てシェアエナジーを変質させる事で…つまり、シェアエナジーを消費して使っている為に、少しずつではあるものの確実に私のシェアと皆から貰ったクリスタルの量を減らしていく事となり、今ではその底が見えてきてすらあった。

元々この力は本来の原初の女神…私よりも強靭な身体を持ち、私どころか四女神が束になっても敵わない程の圧倒的なシェアを有していた彼女だからこそ真価を発揮出来たのであり、それの無い私は言わば燃料も車体も乗用車でありながらエンジンだけF1仕様となっているに等しかった(この次元にF1があるのかって?…パロディとメタ発言が横行する世界観なんですよ?)。

 

「しぶとい奴め…いい加減諦めたらどうだ?潔く諦めるのであれば一思いに殺してやる事もやぶさかではないぞ?」

「…命だけは助けてやる、ならまだしもそれに応じるとでも?第一一度取引を反故にしてるでしょうが」

「はっ、それもそうか…だがならどうする?まさかこの段になってもまだ勝てると思ってると言うんじゃないだろうな?」

 

余裕綽々と言った様な態度のマジェコンヌ。勿論それには少なからず傲慢さも含まれているんだろうけど…傲慢になるだけの根拠はある。女神四人の力を手に入れたマジェコンヌに強大な力を持ち、且つ今まさにその力の一端を利用して私が斬りつけた場所を治癒しているユニミテス。対する私は手詰まり状態で、彼女は知らないだろうけどジリ貧状態。どう考えても私に勝ち目は無かった。

……もし、ここにいるのが私ではなくもう一人の私なら、きっとこの状況下でも勝つ事が出来ただろう。私より強く、私より崇高な精神を持ち、私よりも多くの人に望まれたもう一人の私。……でも、ここにいるのはもう一人の私じゃなくて、複製体である私。皆に出会って、皆と冒険して、皆と笑い合った、他でもない私。だから……

 

「…あまり舐めないで貰おう。如何に強き力を得ようと、人々の想像に形を与えようと、この次元の存在である限り、私を…原初の女神を超える事など絶対にありえはしない。その時代を生きる全ての人に望まれ、全ての人の為に舞う原初の女神に…諦観の念など存在しない!」

 

これは、私なりの虚勢。死ぬかもしれないという恐怖を外に出さない為の、怯えで戦えなくなる事を避ける為の言葉。

これは、私なりの希望。今はまだ遠い尊敬する存在に少しでも近付く為の、あの人と同じ様に大切なものを守り抜く為の想い。

 

(皆は皆の戦いをしているんだよね…だったら、私も私の戦いを続けなきゃ。私はネプテューヌの…皆の、友達だもん)

 

私は戦う。皆の守りたい人々を、世界を一緒に守る為に。また皆との日々で、皆と笑い合う為に。

 

 

 

 

ギョウカイ墓場の危険度は、ゲイムギョウ界の中でもかなり高い方に位置する。大概の土地よりも強力なモンスターが生息する事はおろか、入るだけでも体力を奪われる、マグマと岩石、そして廃棄物の山という劣悪な環境。故にここに人は寄り付かず、仮に来たとしても慎重且つゆっくりと進むのが定石だが……

 

「わらわらと出てきて…邪魔なのよッ!」

「てめぇ等に用はねぇんだよ、どきやがれッ!」

「全く、急ぐ時のモンスター程不快なものはありませんわッ!」

 

--------物凄い勢いでギョウカイ墓場を突き進んでいる者達が居た。というか、私達だった。

如何に質の高いモンスター群、人にとっては最悪な環境でも女神三人の進軍を止める事は敵わない。昔と違って個々が強いだけじゃなく、今はきちんと『連携』が出来てるんだもの、当然よね。

 

「しかし暑い所だな…雪国出身としては勘弁してほしいぜ…」

「確かに嫌な場所ですわね。しかしブランはまだ楽な方では?わたくしやノワールと違って胸が蒸れないでしょう?」

「何で私を混ぜるのよ…まぁ、蒸れるってのは分かるけど」

「あぁ?そんな蒸れるのが嫌なら二人まとめてその脂肪削ぎ落としてやろうか?」

「あら、一戦交える気?やれるものならやってみなさいよ、やれるなら…ね」

 

進軍を止める事は敵わない、とは言っても動けばそれだけ疲労するし目的完遂の前に強敵と戦う可能性も高い以上適度に緩急をつける必要がある。と、いう事で寄ってきたモンスターを殲滅後は速度を落として、会話混じりに先へと進む私達。…別に仲悪い訳じゃないわよ?甘ったるい関係なんて好きじゃないし、それなりの交友があるからこそ軽口も叩き合えるってものよ。

 

「こんな場所で味方同士が戦ってどうするんですの…少し落ち着きなさいな」

『事の発端が言うんじゃ(ないわよ・ねぇよ)』

「よく睨み合ってた次の瞬間にハモれますわね…」

 

ほら見てみなさい、絶妙なタイミングでのベールの手の平返しとそれに同時に反応する私達が仲悪いと思う?……まぁ、世間一般での仲良いとは違うと思うけど、少し前まで憎み合い殺し合ってた私達がベタベタするのはどだい無理な話。だったらそういう私達なりの付き合い方をした方が潔いってものよ、交友の形は一つじゃないし。っていうかそもそもこの私が誰かとベタベタなんてする訳……

 

「……してたぁぁぁぁ…ネプテューヌとがっつりしてたぁぁぁぁ……」

「…急にどうしたんだお前は……」

「よく分かりませんけど、触れないであげるのも優しさですわ」

「そうだな…」

「そんなフォロー要らないから…っと、これは……」

 

ギョウカイ墓場の大分奥…恐らく最深部近くまで来た所で、側から見たら何もないのに止まった私。けど、ベールもブランもそれに何か疑問を持つ事もなく…というか、私と同時に歩み(低空飛行中だったけど)を止める。

女神は往々にして『シェア』を感じ取る事が出来る。シェアに内包される感情やシェア率にして何パーセントか、みたいな具体的なレベルではないものの、シェアの大まかな方向性は分かるし、自身へのシェアに溢れてる場所なら何となく気分が良く、逆に全くシェアが存在しない場所では違和感を感じ、負のシェアが充満してる場所だとそこはかとなく不快感を覚える様になる。私、そして恐らくベールもブランもそのシェアを感じ取ったからこそ立ち止まったのであり、私達が感じたシェアは明らかに三番目だった。

 

「入った時点で感じてはいましたけど…ここは一層濃密ですわね」

「となるとこの先が最深部か…」

 

最深部は私達が向かっていた目的地であり、推測が正しいのであればマジェコンヌとユニミテス……そして、イリゼが戦っているであろう場所。ゲームで言えばイベントが発生するパターンで、同時に十中八九戦闘が予測される状況だった。

 

「ここからはもう一瞬の油断も出来ないわね。…ぼうけんのしょを書かないと…」

「おう、わたしもレポートを書くとするか」

「でしたらわたくしはプロデューサーデータをば…」

「…………」

「…………」

「…………」

 

物凄く微妙な雰囲気になってしまった。誰かが突っ込み役をしてくれるだろうと思って自国の作品ネタに走ってしまった結果がこれだった。ネプテューヌと違ってボケも突っ込みも両方適度に行う私達だからこそ陥ってしまった痛恨のミス。誰に言われるまでもなく各自で反省をする私達。

 

「…よ、よし!さっさとイリゼを助けてやらねぇとだな!」

「え、えぇ!わたくし達の為に戦ってくれてるんですもの、ゆっくりしてる場合ではありませんわ!」

「そ、そうね!国民も仲間も大事にしてこそ女神ってものよ!」

 

戦いを前にして鼓舞し合う私達。…え、誤魔化してないかって?ちょっと冷や汗かいてないかって?そんなの気のせいよ気のせい、私達は大真面目なんだから。……いや、ほんとここからは真面目にやるつもりっていうか真剣にイリゼ救出をするから勘弁して頂戴…。

そうして本当に意識を切り替えた私達は、たった一人で強大な二つの敵を相手してくれているイリゼの為に最深部へと突入したのだった。

 

 

 

 

--------戦い、飛び、舞い続けていた私も今は地に落ち、岩と岩盤へ身体を預けていた。全身の至る所から血が流れ、自身の身に感じ続けていた力も今となっては僅かに感じる程度。最早戦う事はおろか、満足に動けすらしなかった。

 

「よく頑張ったじゃないか、あぁよく頑張った。何ら恥じる事はない、貴様がここで負けようと誰も非難はしないさ」

 

私の喉元にマジェコンヌが槍を突きつける。しかし彼女の声は普段よりも刺々しさがない。…が、その声音は優しさでも慈悲でもなく、上がれる筈のない滝を登り続けた結果力尽きようとしている鯉を哀れむかの様なものだった。

 

「…別に…体裁を気にして戦っていた訳じゃないし、貴女に哀れんでもらうつもりもない……」

「ふん、だから貴様が哀れに見えるのだ。傷付き、倒れ、満身創痍になりながらも戦い続け、その結果敵にろくに傷も付けられぬまま仲間とは離れた場所でたった一人死ぬ貴様は誰が見ても哀れさ」

「……死ぬ?…私がいつ死ぬなんて言った…?」

 

口元にうっすらと笑みを浮かべ、私のすぐ側に落ちていた長剣を握って振るう。勿論力尽きかけている私が長剣を満足に振るえる訳もなく、いともあっさりと槍で弾かれてしまう。私の行動を受けて、ニヤリと笑うマジェコンヌ。

 

「はっ、しぶとさもここまで来ると大したものだな。私が聖人ならばその精神を高く評価していただろうよ」

「…私は死ぬ訳にはいかない…帰って来るって、約束したんだから……!」

「なら貴様は最後まで戦い抜いたと女神共に伝えてやろう。貴様等は好きだろう?心の中で生き続ける、とやらが」

 

マジェコンヌが槍を持つ腕を引き、私の顔に狙いを定める。わざわざ首元に突きつけていた槍を引いたのはきっと私へ確実にトドメを刺す為。

私は身体の中に残る力を必死にかき集めて長剣を握る。ここで死ぬ訳にはいかないから。ここで死んだら足止めの役目を果たせないし、何よりまた皆と笑い合う事が出来ない。そんなのは嫌だ。私は、まだ死なない。死ねない。死にたくない。--------だからッ!

 

「散れ!女神イリゼッ!」

「……ッ…あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 

『イリゼぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

最後の力を振り絞り、声を上げた私。そんな私に届いたのは冷たい槍の刃ではなく……強く、気力の籠もった三つの声だった。

瞬時に飛び退くマジェコンヌ。次の瞬間、三人の女神が駆け抜ける。

 

「ち……ッ!後一歩というタイミングで……ッ!」

「なら私達にとっては最高のタイミングねッ!『トルネードソード』ッ!」

「大丈夫か、イリゼ?」

「…みん、な……」

 

私の前に降り立つと同時に地を蹴りマジェコンヌを追撃するノワール。私を守る様に前に立つベールとブラン。その時私は…三人が、まるで救世主の様に思えた。

 

「■■…■ーー!」

「今は貴方に用はありませんわッ!『シレットスピアー』ッ!」

「ちょっと荒い飛び方になるが我慢しろよ…!」

 

ノワールがシェアを纏わせた大剣でマジェコンヌを打ち払うと同時にベールが大槍を顕現させて射出。それを大きく後ろに跳ぶ事で回避するユニミテス。その時、私とマジェコンヌ、そしてユニミテスの間には大きな開きがあった。そこを見逃さずに私を掴んで飛翔するブラン。

 

「…皆…偽者は…皆の国は……?」

「偽者を倒し、それまで以上にシェアを手に入れたからこそここに来たんですわ」

「それもこれもお前のおかげだ、ありがとなイリゼ」

「貴女は少し休みなさい。…絶対に私達が皆の所まで連れ帰ってあげるわ」

 

もう用はないとばかりにマジェコンヌとユニミテスから離れ、私を連れて飛ぶブランに追随するノワールとベール。彼女達の言葉は暖かく、その表情は優しげだった。

嗚呼、頑張って良かった。皆の役に立つ事が出来た。この戦いは、無駄じゃなかった。その感慨深さがじんわりと私の心を包んでいく。

 

「……っ…侮るなよ女神共!貴様等を逃がすとでも思っているのかッ!」

「あんたこそ私達を侮ってんじゃないわよッ!」

「強くなるのが貴女だけだと思っているのであればそれは大間違いですわッ!」

「悪ぃが、この戦いは…わたし達の勝ちだッ!『ゲフェーアリヒシュテルン』ッ!」

 

一瞬、私は浮遊感を感じる。理由は簡単、ブランが私を宙に放っていたからだった。は?ちょっ…はい!?……と反応しようとするも、実際に口を開く前にノワールとベールにキャッチされて言うタイミングを逃す私。私を放ったブランは氷の属性を付加した光弾を多数精製、それを自身の戦斧で持って打ち出す。

高速で飛ぶ多数の光弾。だが、それ等は全てマジェコンヌにもユニミテスにも当たる事なく進む。それを見て鼻を鳴らすマジェコンヌ。そして彼女は追撃しようとして…気付く。周囲に蒸気が充満し、それがまるで煙幕の様になっている事を。

 

「……ッ!?まさか…狙いは溶岩だっただと!?」

 

そう、ブランは初めから光弾で攻撃するつもりなどなく、溶岩に打ち込む事で蒸気を発生させ、姿を隠す事だった。

即座に槍を振るい、魔法によって蒸気を無理矢理晴らすマジェコンヌ。しかし強者同士の戦いは一手のミスが、一瞬の遅れが致命的な結果に繋がるのであり、今回もそうだった。

晴れた蒸気の先に見えるは遠く離れ点の様になった四人の女神。悔しさのあまり叫びをあげるマジェコンヌ。

--------こうして、私のたった一人の戦いは…大事なものを守る為の戦いは、幕を閉じた----。




今回のパロディ解説

・ぼうけんのしょ
ドラゴンクエストシリーズにおけるセーブデータの事。ドラクエは任天堂ハードでも何作か出ていますが…まぁ、ソニーハードからも出ていると言う事で、どうでしょう?

・レポート
ポケットモンスターシリーズにおけるセーブデータの事。こちらはほぼ任天堂ハード作品だけなので今回の三ネタの中では最も忠実(?)なパロディになっていると思います。

・プロデューサーデータ
アイドルマスターシリーズにおけるセーブデータの一種の事。上記の二つとは些か方向性の違うデータですが…各ハードの代表作ネタという点が重要なんです、はい。


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第七十四話 日常への帰還

--------私の戦いは何かを生み出したのか。何かを良くしたのか。……答えは否。私の戦いは何も生み出さず、何も良くなどしていない。傷付き、疲労し、心身共に追い詰められた。それだけではない。私が戦った事で…つまり、マジェコンヌの邪魔をした事で、マジェコンヌの目的は進行が遅れ、無駄な消費をする事となった。…戦いは、常に何かを犠牲とする事となる。

なら、私の戦いに意義はなかったのか。……それも否。確かに私の戦いそのものは犠牲ばかりなのかもしれない。しかし、戦う事で私は仲間の『時間』を確保する事が出来た。偽者を倒す為の、シェアを向上させる為の時間。本来ならばマジェコンヌが仕掛ける事で潰れてしまう筈だった時間。それを守ったのは他でもない、私の戦いだった。

戦いという事象には犠牲ばかりが付きまとう。だが、戦いという手段、或いは目的は何かを得る事が、守る事が出来るかもしれない。そしてそれこそが……守る為の戦いなんだと思う。

 

 

 

 

「……っ…」

 

靄がかかっているかの様にボーッとする頭。そんな頭にゆっくりとスイッチが入る様にして、私は目を覚ました。

前にも一度同じ様な事があった。その時私が目覚めたのはコンパのアパートの一室だったけど…どうやら今は違う。見た事の無い…事もない様な気のする天井と同じく見た事ある様な無い様な壁。私が寝ていたのは床ではなくベット。……と、そこまで状況を整理した所で馴染みの無い物を私が身に纏っている事に気付く。

 

「これって…病院服に、点滴……?」

 

上下一体となった、濃いめの水色らしき色の服に、チューブ経由で液体の入ったパックと繋がり私の腕に刺さっている針。身体の至る所に巻いてある包帯も含めてTHE・病人スタイルだった。…今思ったけどこれ明らかに一度半裸以上にはされてるよね?勿論意識の無い時に……き、気にしない方が良いかな…?

 

「…マジェコンヌ及びユニミテスと戦ってて…ノワール達が助けに来て…それから……」

 

身体を起こし、私が意識を失うまでの事を思い出していく。一人だから頭の中で考えるだけでも良いんだけど…声に出した方が思考し易い時ってあるんだよね。声に出す事で、更にそれを自分で聞く事で頭の中の煩雑な情報群からピックアップされるからかな?

 

「……そうだ、プラネテューヌの建造物が見えた辺りで気絶しちゃったんだ…」

 

厳密に言うとそれよりも前に意識が朦朧として来ていたから、その時三人の内の誰に運んでもらっていたのかは覚えていない。それでも、思い出せた事柄と私の周辺情報からここが恐らくプラネテューヌの医療機関である事が予想出来た。…そして、同時に少しホッとした。今度は、ちゃんと記憶も思い出も覚えていたから。

 

「…ナースコールってないのかな……」

 

自分の背後である壁側に目を向ける私。別に体調が悪くなった訳でも、ましてや白衣の天使とやらをお目にかかりたい訳でもない。今私は動いても大丈夫なのか、それを聞きたいからだった。体感では大丈夫な気もするけど医者でもない私がそれを判断するのはあまり宜しくないし、部屋から出るとなると点滴の棒…イルリガートルって言うんだっけ?…を押していくから針を引き抜くかしなくちゃいけないし…と、いう感じに色々と問題があるので、ならば私が動くのではなく誰かに来てもらえば良いという逆転の発想の結果ナースコールに辿り着いたのだった。

……が、残念な事にナースコールは見当たらない。うぅん、残念…。

 

「…待っていれば誰か来るかな…。…………ライトにコール!」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!ネプテューヌ参上!」

「嘘ぉ!?来た!?っていうかネプテューヌはリアガードだったの!?」

 

何となく某TCGの真似をした瞬間、勢いよくぶち開けられる扉。例の如く元気一杯に登場するネプテューヌ。当然私はそれに面食らっていた。

 

「あ…イリゼが起きてる!?もしや今のわたしの声がモーニングコールに!?」

「いやなってないなってない…確かに目は覚めそうだけどこんな状態なんだからもう少し優しく起こして欲しいなぁ…」

「あはは、さっきのハイテンション突っ込みといいイリゼは絶好調みたいだね。安心したよ」

「それはどうも…」

 

笑いながらベットの近くに椅子を持ってきて座るネプテューヌ。そんな彼女の顔を私はまじまじと見る。ギョウカイ墓場から離脱する中でノワール達から聞いた所、私がマジェコンヌやユニミテスと戦っていたのは予想通り一ヶ月にも満たない時間だったらしい。…でも、その間ずっとギリギリの戦いを続けていた身としてはもっと戦っていた様な気がするし、目の前のネプテューヌも、私を助けに来てくれた三人の顔も酷く懐かしい様に思えた。

女神だと言うのに、それを良い意味でも悪い意味でも感じさせない幼い顔と同じく小さな体躯。同じ様な体型のブランと違ってネプテューヌは雰囲気すら子供のそれだったりするからほんとにただの少女にしか見えない。なのにそう簡単には折れない強い精神と優しさを持ち、無茶苦茶ながらも皆を引っ張っていく力と自暴自棄になってた私を救ってくれた温かさを兼ね備える、強い人。私の、大切な……

 

「…え、えーっと…イリゼ?そんな見つめられると恥ずかしいんだけど……」

「え?あ…ご、ごめん!な、何でもないから、何でもないからね?」

「う、うん…大丈夫?頭とか特に」

「大丈夫…って言うかその言い方だと何か別の意味に聞こえるんだけど…」

 

若干熱を持った頬を極力気にしない様にしつつ、努めて普通の会話をしようとする私。ネプテューヌの方も私の身を案じてくれたのか、それとも単に普通のボケをしたくなったのかは謎だけどそれに乗ってくれる。なので頬の熱が引き、冷静さを取り戻すまで他愛の無い雑談をした後、私は当初の目的を果たす為に質問を投げかける。

 

「…ところでさ、ネプテューヌ。お医者さんかナースさん知らない?」

「え、イリゼは白衣の天使さんに会いたいの?」

「違うよ!地の文で一回否定した事を再度持ってこなくていいよ!」

「イリゼもメタ発言が板についてきたねぇ…何か用があるの?」

「うん、私ここから動いても良いのかなーって」

「あー、それなら良いんじゃない?こんぱが『怪我は多いけど、どれも普通の怪我だから大丈夫みたいです』って言ってたし」

 

ネプテューヌの診断なら全然当てにならないけど、経験を積んだ看護学生であるこんぱの診断なら信頼出来る。なら、取り敢えず出るのは良いんだね。

 

「じゃあさ、点滴については何か言ってた?」

「点滴?んーと…確か、爾郎血清とか何とか…」

「それ超人に滅茶苦茶効果ある奴じゃん!何でそれ私に投与してんの!?」

「……って言うのは冗談で、ただの栄養剤らしいよ?」

「だ、だよね…よく考えたらこの液体赤くないしそりゃそうだよね…」

 

病みあがり(病気じゃないけど)で驚かされまくってげんなりしている私と、反応を見て面白そうにしているネプテューヌ。正直容赦無いなぁ…とは思うけど、このふざけた会話が懐かしく愉快だと思うのも事実。私の口元は自然と緩んでいた。……やっぱり、ネプテューヌといると楽しいな。

 

「さて、と…それじゃ起きるとしようかな。皆にも早く会いたいし」

「おぉ!じゃあ立ち上がりざまに点滴ブチッ、ってやる?」

「え、いややらないよ?」

 

慎重に点滴の針を抜く私。それを見ているネプテューヌはちょっと残念そうだった。…や、だってブチッってやって痛かったり刺してる部分の傷が酷くなったりしたら嫌じゃん…万が一針が途中で折れて腕の中に埋まっちゃったら洒落にならないし…。

 

「ちぇっ…アニメでよくあるシーン見たかったのに…」

「えー…じゃあ、仕方ないなぁ…」

「え、やってくれるの?もっかい刺してやってくれるの?」

「ううん、ネプテューヌを殴り倒して昏睡状態にしようと…」

「わたしがブチッってやる側なの!?っていうか怖っ!イリゼ発想怖いよ!?」

「はいはい、良いから行くよネプテューヌ」

 

拳を上げた私を見て後退るネプテューヌを尻目に扉へと向かう私。別に本気で殴り倒そうとは思ってなかったけど…まぁ、一方的にボケかまされ続けるのも癪だからね。後適度にボケ突っ込みを交代しないとお互い身がもたないし。

 

「たまーにイリゼはエグいボケしてくるよね…」

「だってネプテューヌ相手だと生半可なボケじゃ通用しないし」

「うっ、まさかわたし側の問題にされるとは…」

「残念だったね〜…ってあれ?ここって…プラネテューヌの教会?」

 

部屋から出て廊下を歩いてる途中、部屋の中同様壁も天井も何となく見覚えがあった事でやっと私はここがどこなのか気付く。他の国の教会と違って出入り口と大広間しか見た事が無かったから気付くのが遅れたけど…ここはプラネテューヌ教会だったんだ…。

 

「あれ、イリゼ気付いてなかったの?」

「そりゃついさっきまでずっと寝てた訳だし…」

「それもそっか…じゃ、そこの部屋にイリゼの荷物置いてあるし一回そこで着替えてきなよ。病院服よりは私服の方がイリゼも良いでしょ?」

 

そう言いながらネプテューヌは数ある部屋の一室を指差す。私としても着慣れない服よりは私服の方が良いし、着替えたくない訳でもなかったのでネプテューヌの指示通りに部屋に入り、私服へと着替えるのだった。

……因みに、まだ塞がっていない傷も多かった為に着替えの間身体中が痛かったりした。

 

 

 

 

「--------という訳で、イリゼが復活したよっ!イェーイっ!」

「イエェェェェェイっ!」

「高っ!テンション高っ!」

 

どういう訳だか、皆が盛り上がっていた。着替えてから数分後、ネプテューヌに案内されて少し広めの部屋に入った瞬間これだった。…いまいち状況が読めない。

 

「はいじゃあイリゼ!復活を祝して何か一言!」

「何か一言!?いや、私こんな会聞いてないんですけど!?」

「そりゃそうだよ、伝える機会なんて無かったし」

「うんだろうね!なら何故アドリブを強要するのかな!?」

 

相変わらず私の突っ込みは絶好調だった。さっき懐かしく愉快だ、なんて言ったけど流石にここまでされると普通にキツい。暫くマジェコンヌとユニミテスという雑談も漫才的トークも成り立つ訳がない相手としか話してないんだからネプテューヌにはそこを配慮してほしいものだった。

 

「落ち着きなさいイリゼ。あまり騒ぐのはみっともないわ」

「そ、そうだね…とはならないよ!?この状況下で冷静になれるキャラじゃないし!」

「ふふっ、それだけ元気ならば心配は無用そうですわね」

「そこはむしろ心配してくれないかなぁ!?私激戦の末に気絶した身なんだよ!?」

「仕方ないわね…言葉一緒に考えてあげるから前向きに検討しなさい」

「何故話を進めようとするの!?というか女神四人して何!?もう一度私を気絶させようとでもしてるの!?」

 

ぜぇぜぇと息をあげながら女神四人を睨む私。対する四人は何だか楽しそうだった。…き、鬼畜女神共め…!

 

「もう、イリゼちゃんはまだ完治してないですから、あんまり無理させちゃ駄目ですよ?」

「うぅ、コンパ…ネタとか抜きにコンパが天使に見えるよ…」

「ふふっ、皆さんの相手はわたしがするですから、イリゼちゃんは落ち着いて…その後、言葉考えると良いですよ」

「天使だと思ったら堕天使だったぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

力尽きて近くの机に突っ伏す私。そんな私を見つめる皆はとても温かな雰囲気を纏っていた。…私今までこの雰囲気が大好きだったけど、今回だけは大嫌いだよ……。

 

「はいはい、見てて面白いけど流石にそろそろイリゼが参っちゃうからイリゼ弄りは止めなさい」

『はーい』

「アイエフの言葉には素直に従うんだ…何この扱いの差…」

「うわぁ…そろそろっていうか既に参ってるね…」

「ある意味ここに運ばれてきた時よりやつれてる気がするにゅ」

 

ひとしきり満足したのか、アイエフの言う通りに私弄りを止めるネプテューヌ達。すると今度は私達が旅の途中で出会ったメンバー…所謂異次元組が各々口を開く。……あれ?

 

「…ええ、と…何か私がギョウカイ墓場に行く前より大分人が増えてる気がするんだけど…」

「えぇ、皆さんはわたくし達が各国で動く中で協力してくれたのですわ」

「乗りかかった船だからね。その場でだけ助けてお終い、なんてつもりはないよ。…あたしが乗りかかった船、って言うと色々アレだけど…」

 

ベールとファルコムの言葉でざっくりとは理解出来たものの、それぞれの国での出来事を知らない以上いまいち腑に落ちない。と、いう事で各国での事を説明してもらう私。…あ、閲覧者の皆様は前の話をそれぞれ見て下さいね。……って何ネプテューヌみたいな事言ってるんだろう…。

 

「----そうだったんだ…皆も大変だったんだね」

「そりゃそうよ。でも貴女程じゃないわ」

「あそこまで満身創痍になる事もそうそうないからな。イリゼも中々根性があるではないか」

「根性っていうかまぁ…退く訳にはいかなかったからね」

 

そう、私は退く訳にはいかなかった。退いたら皆の守りたい国や人を守れなくなるし、もう一人の私から遠ざかってしまうし、何より今みたいに皆と話す事が出来なくなる。どれも私は嫌だったから、本当に退く訳にはいかなかった。…実際、それが正解だったしね。

 

「まぁ何にせよイリゼちゃんが無事で良かったよ。出来るならばわたし達も女神様の三人と一緒に行きたかったけど…」

「ノワール様達みたいに飛べる訳でも高速で動ける訳でもないから足手まといになっちゃうんだよね…」

「気にする事はないわ。女神には女神の出来る事があるし、貴女達には貴女達の出来る事がある。適材適所という事よ」

「そうそう、それに私はここに戻って来られたんだから問題ないよ」

 

気持ちだけでもありがたい、という言葉は相手を気遣ったり遠回しに遠慮したりする時に使われる事が多いけど…この時の私はそういう考えなしに、文字通りにありがたいと思った。こうやって心配してくれてたり想ってくれてたりしたなら頑張って戦った甲斐があるもん。

……と、私がセンチメンタルな気分になりかけていた時、ネプテューヌの口から唸りの様な声が聞こえてくる。

 

「むー…これは由々しき問題かもしれない…」

「ねぷねぷ、どうしたですか?」

「どうしたって…皆は今この場に発生してる大問題に気付かないの?」

「大問題、って何よねぷ子」

「大問題、それは……人数が多過ぎてろくに自分のパートが回って来ない事だよ!」

『それは確かに!』

 

ネプテューヌの言葉に全員が頷き同意を示す。物凄くメタい話ではあるけどこれはもう同意するしかなかった。各国とギョウカイ墓場に分かれる前の時点で十人近くいたのに今では更に増えて、普通に十人を超えていた。これじゃあ中々発言する機会がないし、自分が会話の中心になっているならともかく回によっては一言言えるかどうかのレベルになる可能性すらあり得る。これは割とマジで由々しき問題だった。

 

「どうするのさこれ!このペースだといつかはどっかの四十八人アイドル並みに人増えちゃうよ!?」

「いやそこまでは増えないでしょ…それに、問題なのは分かるけど私達にはどうしようもないわよ。まさかネプテューヌ、貴女せっかく協力してくれてる皆に帰れって言うつもり?」

「そんなつもりは無いよ?無いから困ってるんじゃん」

「となると…アレしかないわ」

「アレ?」

 

何か厳かな感じに声を発するブラン。そんな彼女に私達が注目すると…ブランは満を陣するかの様に……言った。

 

「……作者の技量に期待する事。わたし達が出来るのはそれだけよ」

『あー……』

「…………」

「…………」

「……会話、続かなくなるわね…」

『ですよねー…』

 

とてもとても微妙な雰囲気に包まれる私達。…うん、メタ発言やパロディネタの時点で寒くなり易いんだから、作者云々とか言うのは諸刃の剣だよね…と、とにかく今は雰囲気変えないと!

 

「な、何はともあれ私の為に皆が集まっていてくれたなんて凄く嬉しかったよ、皆ありがとね!」

『……?』

「…え、いやあの…何その反応……」

「イリゼ、貴女こそ何を言ってるんですの?」

「何かネプテューヌが振ってきたから皆でノったけど…別に私達は貴女が復活した事を知って集まった訳じゃないわよ?」

「え…えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

雰囲気を変えるつもりが思い切りショックを受ける私。いや確かによくよく思い返してみれば皆が私の復活を知るタイミングなんて無かったし当たり前だけどさ…最初のあれ見たらそうだと思うじゃん!あれが即興だったとか皆ノリ良過ぎじゃない!?

 

「うぅ、酷い…私の勘違いと言えばそれまでだけどこれは酷い……」

「……まぁ、イリゼのおかげでわたし達が動けた訳だし、祝ってあげよっか」

「なら、わたしは何かお菓子作ってくるです」

「あ、じゃあ私も手伝うわ」

「なら私も…ってこれはどんどん作る人が増えるパターンね、いっそ料理出来るメンバー全員で色々作ってみる?」

「それは良いアイデアね。だったら部下に美味しそうな名前の人が多い女神として、腕を振るうとするわ」

 

ネプテューヌの言葉で湧き立つ皆。それなりに料理が出来るらしい面子が教会の厨房へと向かう。

私が言ってから動き出した、って言うと聞こえが悪いけど…相手の心情を察するなんて難しい事だし、そもそも私が勘違いしていただけの事。それなのに皆はすぐに祝ってくれようとしてくれるのが、私にとっては本当に嬉しかった。…だから、こんな皆との毎日を守りたかったんだよね。

 

「…ほんと、ありがとね皆」

「んー…料理担当じゃないわたし達もなにかしたいよね」

「皆……」

「そうだなぁ…あ、じゃあさっきの続きといこう!よーし皆、ボケてボケてボケまくるよー!」

『おーーっ!』

「いやそれは勘弁して欲しいんだけど!?」

 

賑やかで、無茶苦茶で、どうしようもない日常。優しくて、温かくて、楽しい毎日。私の守りたかった…帰って来たかった私の居場所が……そこには、広がっていた。




今回のパロディ解説

・コール、リアガード
TCGである、カードファイト!ヴァンガードの用語の一種。分かっているとは思いますが、別にイリゼはヴァンガードのカードを持ち歩いていた訳ではないですよ?

・呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン
ハクション大魔王のメインキャラ、ハクション大魔王の登場時の台詞のパロディ。割と色んな所で使われるパロディなので、知ってる方も多いかと思います。

・爾郎血清
コンクリート・レボルティオの主人公、人吉爾郎の血から作られた血清の事。作中でも地味に活躍したアイテムですが、もし女神に投与したら一体どうなるんでしょうね。

・どっかの四十八人アイドル
AKBやSKE等の各アイドルグループのパロディ。そういえば原作のアンソロジーの一つにそんな感じのグループが出来る話がありましたが…それとは無関係ですよ。


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第七十五話 戦いに抱く気持ち

『第五回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inねぷねぷの家』

 

私がお菓子作り担当以外のメンバーと談笑…と言う名のボケ突っ込み合戦(ほんとに私一人が突っ込みだった。声が枯れるかと思った)を何とか乗り切って、ふと壁の一角を見たら例の看板が用意されていた。……いつの間に!?

 

「え、あの、えと…あれは……?」

「あー、やっぱ気になる?…やっぱりわたし視点の文章だしパロも含めて『あたしンち』の方が良かったかなぁ…」

「いやそこはどうでも良いんだけど…まぁ、突っ込むのも野暮か…」

 

正直私が納得出来る様なまともな返答が返ってくるとは思えないし、そもそもネプテューヌの方もちゃんと説明出来ない可能性がある。そう考えるとわざわざ聞いておかなきゃいけない事でもないし、ボケな以上追求をするのはほんとに『野暮』だと思う私だった。

と、私がお約束ネタに対して妙に落ち着いた感想を抱いた所で、廊下から鼻腔をくすぐる良い匂いが漂ってくる。

 

「……この匂いはもしや…」

「お待たせしましたです〜」

「女神謹製のお菓子、とくと味わって頂戴」

『おぉー!』

 

多種多様なお菓子を運んでくる、コンパを筆頭とする料理担当組とそのお菓子に色めき立つ私達。コンパの料理の腕は周知の上だし、それと関係なしにも匂いと見た目からお菓子が美味しいであろう事は十分に予想出来た。

 

「ふぅ、作ると言うのも時には良いものね…」

「では、料理担当に感謝しつつ頂くとしようか」

「女神様が作ってくれたお菓子…あたし的にはちょっと恐れ多いかも…」

「ならブロッコリーがファルコムの分も貰うにゅ」

「そ、そうは言ってないよ!?」

「ふふっ、調子に乗って作り過ぎてしまいましたし慌てずとも大丈夫ですわよ」

 

わいわいと賑やかに早速食べ始める私達。面子が面子なだけあって賑やかに話す内容は大分アレだったけど、お菓子の減る勢いは世間一般の女の子集団に引けを取らないレベルだった。…揃いも揃って頭もスペックも色々非常識な私達だけど、お菓子を前にしたら普通の女の子に成らざるを得ないんだよ。お菓子には魔力があるんだもん。

 

「しかしイリゼ、貴女復活したばかりの所にぱくぱくとお菓子食べて大丈夫なの?」

「うん、何ともないし空腹感があったからむしろ助かってるよ。…というかアイエフ、お菓子云々より突っ込みさせられ続ける方が身体に悪いと思わない…?」

「あー…天然のコンパはともかく、ねぷ子達は確信犯だものね…倒れたら四人に看病してもらったら?」

「それは嫌かな、四人に看病されたら体調悪化する事間違いなしだし」

『何気ない会話の中でdisられた!?』

 

何だかネプテューヌ達がえらく心外そうな顔をしていたけどこれは仕方ない。一人だけならともかく、守護女神四人が揃ったらまともな看病が出来る訳がないもん。私含めて女神はおふざけと騒動の呪縛から逃れられない…というか自ら絡まりに行ってるし。

 

「ところでネプちゃん、活動方針云々って書いてあるけどこれイリゼちゃんの復活お祝いじゃなかったの?」

「あ、うん。お祝い兼考えよう会だよ」

「えぇー…私の復活祝い単体じゃないんだ…良いけどさ」

「えっと…活動方針ってそのままの意味?それとも何かの比喩だったりするのかな…?」

 

おずおずと手を上げて質問をしてくる鉄拳ちゃん。あ、そう言えば…と思って見回すと彼女の他にマベちゃん、ファルコム、ブロッコリー、サイバーコネクトツーも少し疑問の残る様な表情を浮かべている。

そう、MAGES.以外の別次元組にとってこの会は初めてであり、いきなりどん、と出されても困るのは当然の話だった。…初回から参加してるメンバーですら若干困るんだから初参加のメンバーがすぐ順応出来る訳ないよね。

という訳で簡単に説明をした後、お菓子を摘みつつ考えよう会が開始される。

 

「まぁ…当面の目標はユニミテス討伐よね。弱体化はしてるでしょうけど捨て置ける相手でもないし」

「ユニミテスか…イリゼよ、魔王と戦う中で何か感じる事はあったか?」

「感じる事…うーん、感じる事って言われても、正面からの殴り合いじゃ確実にこっちが先にバテるって事位しかないかな。冷静に分析出来る程余裕があった訳でもないし」

 

と言いつつも私はギョウカイ墓場での戦闘を思い出し、分かる範囲でユニミテスの特徴を口にする。ユニミテスの強みは基礎スペックの高さと遠近問わない攻撃手段、そして巨体と回復能力によるタフさだった。特に三つ目が厄介(前二つだけならキラーマシンを始めとする大型無人機と同じ要領で戦える気がする)で、回復能力はそれ自体強力な上に、回復能力があるが故にダメージを与えても前二つが衰えない、という状況を生み出す要因となっていた。

 

「へぇ…よくそんな相手と、しかもマジェコンヌと同時に戦えたね…」

「原初の女神の複製体を舐めちゃいけないよ?…ってのはおいといて…まあ、皆がシェアクリスタルを私にくれたのが大きかったかな。あれのおかげでかなり無理が効いたし」

「貴女の苦労に比べれば安いものよ。しかしタフさ、ね……ふむ…」

「…ブランさん、もしかして張り合おうとしてるですか?」

「……た、対策を立てましょ、対策を」

 

図星の様だった。コンパに指摘され、ビクッと肩を揺らしつつ誤魔化すブランを半眼で見る私達。そりゃ確かにブランもタフさには定評があるけどさ…。

…なんて思いつつも、対策を立てる事は実際必要不可欠なので話を進める私達。

 

「んー…やっぱ魔王だし勇者御一行に任せたら良いんじゃない?ロトとかさ」

「いきなり他力本願な上に全然違う世界の人じゃん…ここはねぷねぷ御一行で倒そうよ…」

「ではこれまでに複数の魔王をキスで正気に戻させた五河さんにご協力を頼むのは…」

「確かに原作のイラストレーターは同じだけど他力本願な上に五河さんも別世界の人間でしょうが、てかアレにキスとかトラウマものよ…」

「ならば、お客様相談センターで働いている…」

『他力本願な上に別世界の住人だって言ってんでしょうが!?』

 

女神三人による三連パロディに対し同時に突っ込む私とノワール。…もう、どうして女神はこうなのかなぁ……いや、いちいち突っ込むのも責任の一端ではあるしそういう意味では私やノワールも三人と五十歩百歩だけどさ…。

しかもそれを追撃する様に、

 

「お笑い脳の女神メンバーはおいといてこっちで作戦立てるにゅ」

「ええと、回復能力はシェアエナジーが元になってるんだっけ…?」

「そうらしい。一応我々の行動でシェア率は低下しているようだが…」

「となるとガス欠を狙うのは厳しいね。こういう相手は回復が出来ない程の大ダメージを与えて倒すのが相場かな」

「でも簡単にダメージを与えられる様な相手じゃなかったと思うです」

 

非女神組はかなり真面目に会議を進めていた。流石にベストな作戦を思い付く段階にまでは至っていない様だったけどお笑い脳(ブロッコリー談)の私達とは大違い。私達の立つ瀬が無かった。

 

「…わたくし達も真面目に考えましょうか…」

「そうね…我ながらこれじゃ女神の名折れだわ…」

 

元々会議する気はあった私とノワールは勿論、ベールとブランも良心の呵責ならぬ女神の呵責に苛まれたのか反省した様な表情を浮かべる。そしてネプテューヌもボケを続け無かった辺り、多少なりともちゃんと会議しようと思ったんだと思う。

そうして私達はやっとこさ全員が真面目な気持ちになり、まともな会議を進める事となった。

 

 

 

 

「--------という訳で、ユニミテスは女神メンバーが足止めしてその間に全員でフルボッコにするという事に決定しましたー!」

 

どこから持ってきたのか分からない木槌で同じくどこから持ってきたのか分からない木の板を叩きつつ、ネプテューヌが会議の結論を述べる。

私達が真面目に会議を始めてからおよそ数十分、いまいち捻りのない感じではありながらも、取り敢えず私達は対ユニミテス作戦を立てられたのだった。

 

「フルボッコって…ねぷ子、なんかそれだと私達がユニミテスを虐めるみたいになるんだけど…」

「虐めるみたいって言うか実際ほぼ集団リンチじゃん。ユニミテス一体に対して十人以上で襲いかかる訳だし」

「気が引ける様な事言うんじゃないわよ…」

 

けろっとした態度で言うネプテューヌに私達はげんなりとする。…いや、まぁ敵が一体なのに対し主人公側は複数、ってパターンは古今東西色んな作品である構図だし気にしない限りは気にならない事だけどさ…指摘されると意識せざるを得ないよねぇこれ…。

 

「ま、相手はそもそも普通の生命体じゃないんだし良いのよこれは。私的な決闘ならともかく、女神として出し惜しみなんてする訳にはいかないし」

「ユニミテス倒しても女神四人の力をコピーしたマジェコンヌがいるからね。私の体感じゃマジェコンヌの方もユニミテスに負けず劣らず強いよ?」

「そういえばイリゼちゃんはその状態のマジェコンヌと二回戦ったんだったね」

「二回共負けてるけどね、一回目は完敗だったし」

 

魔窟の奥で戦った時は不意打ちをしたにも関わらず軽くあしらわれ、ギョウカイ墓場で戦った時は善戦(自分で言うのもどうかと思うけど)するも敗北、という形だった私だからこそ、マジェコンヌの強さはここにいる誰よりも分かっている。だから、もし誰かがマジェコンヌの強さを見誤る様な事があればしっかりと訂正をしようと思っている。

 

「さて、そうなると次考えなくてはならない事は…」

「そのユニミテスといつどこで戦うか、だね」

 

作戦についてはもう話す必要はないと判断したのか、MAGES.とファルコムが話を次の段階へ進める。……が、問題提起に対して黙り込んでしまう私達。理由は簡単、

 

「いつどこで、って言われても…」

「いつどこでなら一番良いのかよく分からないですぅ…」

「というか決めた所で相手はそれに乗ってくるのかにゅ?」

 

提起された問題に具体的な意見を述べる以前の所に別の問題があったからだった。これが友達と遊ぶ約束だとか買い物に行く予定とかなら、それこそ空いてる時間だとか目的に一番適した所だとかの様に容易に決める事が出来る。けど、なまじ重要な案件なせいで逆に選択肢が広く(大概の予定よりは優先させるべきだし、まともに戦えるのならどこでも良いからね)なってしまい、決めるに決められない状態となっていた。

 

「出来るならば早めにカタをつけたい所だけど…」

「こちらも出来るだけ準備したいですもんね。かといって時間をかけ過ぎるとマジェコンヌが何するか分からないし…」

「んー…ならここは一つ、いーすんに相談してみる?」

「あ…そういえばまだイストワールさんには会ってないや…」

 

目が覚めて以降立て続けに色々あったせいですっかりイストワールさんの事を忘れていた私。特殊な間柄だけに多少過剰な位イストワールさんは私を心配していたんだし、早めに目が覚めた事を伝えないといけないよね…。

相談するにも私の復活を伝えるにも来てもらわなきゃ始まらない、という事でイストワールさんを呼びに行くネプテューヌ。その間に私は少し前から気になっていた事を口にする。

 

「…ところでどうしてコンパのアパートじゃなくて教会なの?人数的な問題?」

「それもあるにはあるけど、一番の理由は遂にねぷ子が教会職員に女神だって認識されたからよ」

「え、そうなの?」

「はいです。ねぷねぷの偽者を倒す中で教会職員さん達と一緒に戦ったんです」

「そうだったんだ…ルウィーでのガナッシュさんの件と言い、私の知らない間に色々進んだんだねぇ…」

 

私が世界の中心じゃない以上、私の知らない所で何かが起きるのは当然だし、逆に私しか知らない所で何かが進む事もある。でも、それは分かってても惜しいなぁと思ってしまうのが人の常。…衝撃的なイベントは人づてじゃなくて自分で見たいものだよね。

 

「お待たせー、いーすん連れてきたよ〜」

「イリゼさん、まだ寝ていなくて大丈夫ですか?(・ω・`)」

「大丈夫、この通りぴんぴんしてるよ」

「この通りと言っても身体の色んな箇所に包帯巻いてあるけどね」

「ノワール、その台詞は余計だよ…」

 

本にちょこんと座ったいつものスタイルで部屋に来たイストワールさんは、私の周りをふわふわと飛んで私を心配する。それに対して努めて安心させる様に言葉を返す私。…うーん、心配を解いてあげる筈が更に心配させちゃってるかな…。

 

「いーすんさん、イリゼちゃんはしっかり手当てしてもらってあるから大丈夫ですよ」

「それは助かります…それで、相談というのはユニミテスの件ですか?(・・?)」

「えぇ、上手く奴をおびき出す手とかあるかしら?」

「そう、ですね…三日待ってくれれば調べられますよ?( ̄∀ ̄)」

『三日……』

 

イストワールさんの提示した条件に考え込む私達。三日は決して短い時間ではない。けど、然程長い時間でもない。出来る限り急ぎたい所ではあるけど、三日ならまだ早い様な気もする。何とも言えない微妙な時間、三日。私達はしばし言葉に詰まってしまった。

 

「…う、うん…取り敢えずイストワールさんに頼もうよ!で、その間に私達も考える。もうそれでいいでしょ?」

「そう、ね…えぇ、よく考えたらイストワールに頼む間何も出来ない訳じゃないんだからそうすれば良いだけよね」

「では、出来る範囲で急いで調べる事としますね( ̄^ ̄)ゞ」

「うん、任せたよいーすん!」

 

一先ずはイストワールさんに任せ、その間にも考えると言う事で決着がつく二つ目の問題。……え、何も決まってないじゃないかって?…気付いてはいけない事に気付いてしまった様だね…スルーを推奨するよ!主に私達の為に!

 

「しかし…対ユニミテスの件を詰めてくると段々緊張感が出てくるわね…」

「わたし、ちょっぴり怖いです…」

「そうですね。今のマジェコンヌもユニミテスも強大な敵。皆さんは覚悟を…今までとは違う覚悟を決めなくてはならないと思います」

 

絵文字が消える位真剣な様子で言うイストワールさん。今までとは違う覚悟、それはつまり戦う覚悟、傷付く覚悟だけでなく--------命も懸ける覚悟という事。そしてその意味が分からない私達ではない。

暗くなる…とまでは言わないにしても、温かだった空気が何となく沈んでしまったかの様な雰囲気が私達を包み始める。……けど、これまでの様に、いつもの様にそんな空気を壊してくれる存在が、ここにはいた。

 

「もー、皆何重苦しい雰囲気にしようとしてるのさ。だいじょーぶ!だってわたし達だよ?わたし達何だよ?だったらもう、負ける可能性なんてゼロに決まってるじゃん」

 

具体性も何もない、あっけらかんとしたネプテューヌの言葉。だけど、いや…だからこそ、その言葉は私達の光となってくれる。

 

「相変わらずねぷ子はねぷ子だにゅ。でも、そういうのも嫌いじゃないにゅ」

「ふっ、ここまで懐かしい顔が揃ったのだ。確かに心配は不要だな」

「うん!世界の平和も、命懸けで取りに行くんだから!」

「何だか今回も巻き込まれちゃったけど…こういう冒険も良いよね」

「だねぇ〜、わたしワクワクしてきたよ」

「ネプテューヌさんにそこまで言われるとちょっと照れるね」

 

ネプテューヌの言葉にそれぞれの反応を示す別次元組の皆。皆にとってここは故郷ではなくあくまで旅先。だから命を懸けてまで戦う必要はないのに、この次元の為に全力を尽くそうとしてくれている。…だったら、私達も負けていられないよね。

 

「こうなったらもう、女神の強さと誇りをユニミテスにぶつけるしかないわね」

「そうですわね。守るべき国と、大切な国民の為に」

「戦って、戦い抜いて勝つ。選択肢はそれ一択のみね」

「わたしも、わたしも頑張るです!」

「ここで退いたらゲイムギョウ界に咲く一陣の風の名折れ、死力を尽くす必要があるわね」

「この戦いに女神も人も次元も関係ない。…皆、やるよ!」

 

強い意志を秘めた瞳を交わし合い、頷き合う私達。この時私は思った。--------絶対に、負けたりなんかしないって。

 

「よーしっ!それじゃあ皆頑張るよーっ!」

『おーーっ!』

 

ネプテューヌの音頭に合わせる私達。その後、全員がほぼ同時に『…って、まだ戦いになるのはもう少し先じゃん』と気付いて笑いを零す私達。自分達の事ながらしょうもな過ぎて逆に笑えてしまう。

 

 

--------そんな時だった。凄まじい衝撃が走り、一瞬にしてプラネテューヌの教会が半壊したのは。




今回のパロディ解説

・あたしンち
有名日常系作品、あたしンちの事。別にネプテューヌは立花家の人間でも一人称が『あたし』でもないですが、まぁあくまでパロディネタというだけですから、はい。

・ロト
ドラゴンクエストシリーズにおいて、主にⅠ〜Ⅲのテーマの一つであった一族の事。いくら魔の者と戦いまくるロトの一族でも別次元は流石に管轄外でしょうね。

・五河さん
デート・ア・ライブの主人公、五河士道の事。ユニミテスが攻略対象ならさしずめ『ユニミテスラグナロク』とかでしょうか?…アレにキスさせるのは本当に酷過ぎですね。

・「〜〜お客様相談センターで働いている〜〜」
はたらく魔王さまのヒロインの一人、遊佐恵美ことエミリア・ユスティーナの事。彼女は一度次元移動してるのでこんな展開にも慣れている…かもしれませんね。


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第七十六話 蘇る女神の翼

衝撃、爆音、そして悲鳴。穏やかな、普段通りの時間が流れていたプラネテューヌ教会は、女神達の活躍によりほんの少し平和へと傾いていた平穏は、一瞬にして崩れ去る。そしてそれは--------私達と魔王ユニミテスとの、決戦の幕開けを意味していたのだった。

 

 

 

 

「な、何事!?明らかにこれ普通に起こるレベルの事態じゃないよね!?」

 

地震かと思う程の大きな揺れと衝撃に騒然とする私達。つい一瞬前まで私達を包んでいた雰囲気は消し飛び、一転して殺伐とした空気が漂っていた。

 

「こんなのどう考えても自然現象じゃないでしょうが!とにかくまず状況確認するわよ!」

「えぇ、皆さん周りには十分気を付けるのですわよ!」

「くそ、最高に意地の悪いタイミングだな…!」

 

いち早く状況を飲み込んだネプテューヌ以外の守護女神三人が走って部屋を出る。そしてそれに一瞬遅れる形で後を追う私達。一体何が起こったのか、これが事故なのか故意なのか、どれ程の被害が発生しているのか。それ等をきちんと把握しない限りはどうする事も出来ないし、把握する為には一刻も早く動く必要があった。

正確な位置こそ分からないものの、衝撃から察するに何かが起こった場所は恐らく近く。ならとにかく動けば何かしら分かる筈。そう思って廊下へと出た私達だったけど……現実は、私達の想定を一枚も二枚も超えていた。

 

『え……?』

 

一瞬、出る場所を間違えたのかと思った。実は廊下へ繋がる扉の他に野外に繋がる扉があり、間違えてそちらを開いたのかと、一瞬思った。けど、違う。そんな扉は無いし、仮にあったとしてもパーティーメンバー全員が間違いに気付かないなんて事はあり得ない。

なら何故そう思ったのか。それは地面や草木…教会の外に広がる風景が見えていたから。壁や屋根や床がある事で見えない筈のものが、直接見えていたから。

--------そう。教会は、荘厳な装いを持つプラネテューヌの中心施設は、文字通り半壊していた。

 

「嘘、でしょ……?」

「酷い…何でこんな事に…」

「……っ…!」

 

想像を絶する光景に再度動揺する私達。そんな中、先程の三人の様に一足早く次の段階へ思考を移したネプテューヌが勢いよく首を振り、周りを見回す。その瞬間聞こえてくる、高圧さに満ちた笑い声。

 

「ハーッハッハッハ!ハーッハッハッハッハ!!」

「この声…やっぱりマジェコンヌが……ッ!」

「まさかこんなにも早く向こうから来るとはね…行くわよ皆!」

「ま、待つです!職員さんの皆が…!」

 

マジェコンヌの高笑いに触発される様に駆け出そうとする私達。だが、そこへコンパがストップをかける。その声は、私達全員が足を止めて振り返るには十分な切羽詰まったものだった。

 

「……!職員のおにーさん達大丈夫!?」

「うぐっ…あ、あぁ…ネプテューヌ様…」

「情けない姿を…見せてしまい、申し訳ありません……」

「酷い傷だな…イストワールよ、早く運ばねばすぐにここは死体の山となるぞ」

「分かっています。皆さん、職員を運ぶのを手伝って貰えますか?」

 

コンパに声をかけられて、改めて見る事でやっと私達は気付く。偶々私達がいた部屋の周りに私達以外が居なかっただけで、よく考えればそれは当然の事だった。教会はマジェコンヌ(と恐らく一緒にいるであろうユニミテス)の攻撃によって甚大な被害を受け、その教会には職員さんを始め元々多くの人が勤めている。ならば、その人達が無事でいる筈がない。

背筋が凍りつく様な感覚を覚えながらも何とか冷静さを保ち、私達はイストワールさんの指示に沿う形で、職員さん達を治療の受けられる場所へと運ぼうとする。……たった一人を除いて。

 

「……ごめんいーすん、皆の事は任せても良いかな…?」

「え…い、良いかと言われれば駄目ではありませんが…ネプテューヌさん…?」

「女神としてはここで冷静になって、優先しなきゃいけない事を考え直すべきなんだろうね…でもさ…」

 

一度言葉を切るネプテューヌ。普段のネプテューヌからは考えられない程静かで落ち着いた声音に私達は怪訝な表情を浮かべる。…だが、次の瞬間私達はネプテューヌの激情を見る。

 

「わたしは…女神化も出来なくなっちゃったわたしでも女神様だって信じてくれた皆をこんな方法で傷付けられて…それで黙ってなんていられないよッ!狂った魔女モドキだとか気持ち悪いエセ魔王だとかに傷付けられるのが我慢出来ないんだよッ!」

 

そう言い放ち、マジェコンヌの高笑いの響いてきた方へと走るネプテューヌ。そんなネプテューヌに私達は一瞬呆気に取られた。

ネプテューヌは基本マイペースでどちらか言えば相手を怒らせる側の人間だからあまり怒る事は無いし、怒ったとしても素の性格(キャラ?)が強烈過ぎてそれに引っ張られてるのか、いまいちキレてる感がないというのが私達の印象だった。そのネプテューヌが今声を荒げ、弄りでも面白味がある訳でもない単なる罵倒を叩きつけた。震え上がる様な怒号でも恐怖を抱く様な静かな怒りでもない、ただの怒り。ただの感情の爆発。だからこそ、それは何よりも私達の予想を超える言動だった。

 

「…ネプテューヌ……」

「……ったく、人に守護女神戦争(ハード戦争)より困ってる人を助けたい、なんて言うなら自分は憎しみに囚われるんじゃないわよ。…それも国民愛があるからこそだとは思うけど…」

「無茶無策無謀とは嫌な三拍子を揃えましたわねネプテューヌ…わたくし達も急がねばなりませんわ」

「イストワール、瓦礫を退かす迄は手伝うけどそこから先はネプテューヌの後を追うわ。…ネプテューヌを犬死にさせる訳にゃいかねぇからな」

 

言うや否や女神化し、今にも倒れそうな瓦礫を中心に退かして道を作るノワール達。女神三人もいれば瓦礫撤去は十分、という事で私は女神化せずに皆と共に職員さん達を瓦礫周辺から運び出す。

 

「あたし達がすぐ病院に連れて行くからしっかりして!」

「ゲマに乗せてやるから楽な姿勢をするにゅ」

「救急隊を呼びましたが状況が状況ですぐには来れない様です。なので重傷の方からお願いします」

「イストワール様、我々もお手伝いします」

「同僚を見捨てる訳にはいかないですからね」

 

幸いにも怪我を免れた、或いは医療機関へ行く必要のない程度の軽傷で済んだ職員さん達も合流し、出来る限り揺らさない様にしながら重傷の職員さん達を連れて行く。

 

「それでは頼みましたわよ」

「はい、ベール様達もお気を付けて」

「よし…皆、さっき言った通りユニミテスに力押しは通用しないって事忘れない様に、良い?」

「そりゃ良いけど…貴女まさか一緒に来るつもり?」

「一緒に行くつもりだけど…え、駄目なの?」

 

女神化五秒前、みたいな気分でいた私はノワールの言葉に冷や水をかけられた様な気持ちになる。いやいやまさか…と思って女神三人の顔を見てみると、三人共真面目な顔をしていた。……ハブですか?私ハブられてるんですか?

 

「いやハブってる訳じゃねぇよ…」

「地の文読まれた!?…理由位は話してくれるよね?」

「いや地の文というか顔に出てましたのですわ…こほん、相手が油断ならない強敵だからですわ」

「分かってるよ、私はその強敵と何日も戦い続けていたんだから。奴は全力でかからないと倒せないし、だったら万全じゃなくても女神化出来る私も……」

「全力でかからないと倒せない敵だからよ。確かにイリゼは万全じゃなくても戦えるでしょうね。…でも、万が一という可能性もあるし、多少戦力ダウンしても不安要素は極力減らしたいの。それは分かるでしょ?」

「それは……」

 

現実はゲームじゃない以上やり直す事は出来ないし、この戦いは雑魚モンスター討伐のクエストと違って一つの誤算がリカバリー不能な程の損害をもたらす可能性が十分にある。リスクを恐れず挑戦する事、多少をリスクを負ってでも利益を望む事は大切だけど、それはリスク管理がしっかりしている場合やリスクを犯してでも望むべきものがある場合という、言わば例外、イレギュラーなパターンであって基本的にはリスクは出来る限り減らした方が良い。国の指導者であり、リスクが常に付き纏う、戦いや経済の事をよく知る女神三人にそう判断された以上、私は反論するに反論出来なかった。…そりゃ、ネプテューヌは心配だけどさ、この戦いが重要なのは分かってるし、ノワール達も私の大事な仲間で友達なんだから、私のよく考えもしない判断で危険を犯させる訳にはいかないよ。

 

「…ネプテューヌを、頼んだよ」

「えぇ、任されましたわ」

「こっちもまた何かあるかもしれねぇ、そん時は任せるぞ」

「ユニミテスは私達が…このゲイムギョウ界の守護者、女神が倒すわ!」

 

国を、国民を守る為の翼を広げ、ゲイムギョウ界に仇なす魔王を討つべく飛翔する三人の女神。私はその背中を願いを込めて見送った後、職員さん達の搬送の為走った。

 

 

 

 

「聞こえるか!腐りきった平和に浸かる蛆虫共!私の名はマジェコンヌ!今日より女神に代わり、このゲイムギョウ界を統べる絶対なる神である!」

 

プラネテューヌの中心街に響き渡る声。何かしらの魔法が作用しているのかその声は国中へと伝わり、多くのプラネテューヌ国民が彼女へと注目していた。

だが、国民が注目していたのはその声だけが原因ではない。

 

「お、おい。女神様に変わって支配するってどういう事だ!?」

「それに…あいつの後ろにいる化け物は一体何だ!?」

「無知な貴様等に教えてやろう。これこそ、ゲイムギョウ界に終焉の鐘を鳴らす魔王ユニミテスだ!」

「■■■■ーーーー!!」

「あ、あれが…ユニミテス……」

 

現実味の無い、しかしふざけているとも思えない様な言葉を言い放つマジェコンヌと、マジェコンヌの言葉に呼応する様に唸り声を上げる異形の存在、ユニミテス。両者共に異常な程のプレッシャーを放っており、それは人々を恐れさせるには十分過ぎる程であった。

 

「……っ…お、お前等なんか誰が望むものか!第一、世界に終焉なんて出来る訳ないだろう!」

「出来る訳ない、か…確かに貴様等愚民には分からぬだろうな。……力を見せてやれ、ユニミテス」

「■■ーー!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ユニミテスが胴体と思われる場所にある巨大な口を開く。その物々しい雰囲気に人々が口を見つめる中、口の中へ黒い光が収束し……ユニミテスから見て正面に位置していたビルが貫かれる。一瞬の静寂の後、音を立てて崩壊するビル。それと同時に阿鼻叫喚へと包まれる人々。それを見てマジェコンヌは、嗤う。

 

「ひぃぃ…!こ、殺される……」

「た、助けてくれ…パープルハート様…」

「幾ら願おうがパープルハートが貴様等の前に姿を現す事は無い!何故なら、そのパープルハートの力は私が奪い、力を奪われた奴は魔王に恐れをなして逃げ去ったのだからなッ!」

「う、嘘だ!あのパープルハート様が逃げ去ったりなんてする筈がない!」

「そうよ!デタラメよ!」

 

嘲笑するかの様なマジェコンヌの言葉に、一部の人々が反論の声を上げる。彼等にとって信仰対象である女神、パープルハートは正に尊敬し、憧れる存在であるが故にその愚弄が許せなかったのだった。

しかしマジェコンヌは人々を下々の元と見ているからか、まるで意に介していないかの様に返す。

 

「ふん、愚か者共が。この場に姿を現していないのがその証拠だと分からんのか」

「……っ…それは…」

「まさか…パープルハート様が…っ!」

 

先程とは対象的に言い返す事の出来ない人々。冷静に考えれば姿を現さない理由も思い付いたであろう人々も、自身が、国が存続の危機に晒されているとなれば短絡的な思考に囚われてしまうのも無理の無い話。そんな人々の様子を見て満足気な笑みを浮かべたマジェコンヌは再度の攻撃を、ゲイムギョウ界を自身の望む形へ作り変える為の大きな一撃をユニミテスに放たせるべく指示を--------

 

 

「マジェコンヌゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウッ!!」

 

一人の少女が、牙を剥いた。

 

 

 

 

「よくも…よくもわたしの信者を、わたしを信じてくれた人達をッ!!」

 

つい数日前のキラーマシン戦と同じ様に、『32式エクスブレイド』をカタパルト代わりとする事で一気にマジェコンヌへと肉薄したわたしはマジェコンヌへと太刀を振るう。今までにもマジェコンヌに対しては何の躊躇いも無く仕掛けていたけど、今回はそれだけではない。わたしは、わたしが記憶にある中では初めてと思える程の強い憎悪を、殺意を持って刃を振るっていた。

 

「ほぅ…よく逃げずに再び私の前に現れたものだな、ネプテューヌ!」

「五月蝿い!正々堂々としたタイプじゃないとは知ってたけど、あんな事するなんて…お前みたいな屑は死んでも治らないよッ!」

「随分と口が悪くなったな…やれ、ユニミテス」

「■■■■!」

 

マジェコンヌの防御を力尽くで破ろうと力を込めるわたし。そんなわたしに一瞬影がかかり、その瞬間わたしの直感が逃げろと叫ぶ。殆ど本能的にその感覚に応じて跳んだ瞬間、わたしがいた場所をユニミテスの一撃が抉る。

 

「……ッ!何が、何が魔王さ…お前は…お前はわたしが倒す!今日、ここでッ!」

 

わたしがここへ来る途中見えたビルの倒壊と黒い光。それを見た瞬間わたしは理解した。教会へ攻撃を仕掛けたのもユニミテスだと。そのユニミテスが今目の前にいる。そう思った瞬間、わたしの身体はわたしでさえ制御が出来なかった。

地を蹴り、一気にユニミテスに接近したわたしは跳躍し、ユニミテスの顔と思われる部位を全力で持って斬り裂く。

わたしの一撃はユニミテスの顔を深々と裂き、それを見てわたしは僅かに口元を歪ませる。

……けど、わたしの勢いが続いたのはそこまでだった。

 

「■■……■ーー!」

「な……っ…え……!?」

「■■■■ーー!!」

「がぁ……ッ!?」

 

顔を裂かれたにも関わらず、悲鳴や苦悶とは違う唸りを上げるユニミテス。そのままユニミテスは腕を振るい、空中にいて回避の出来ないわたしを思うがままに吹き飛ばす。咄嗟に太刀を掲げて身体に直撃するのは避けられたわたしだけど、万に一つもその攻撃を受け止めきれる筈はなく、バットで打たれたボールの様に近くの建物へ激突する。

身体が砕け散るかの様な衝撃で視界が歪み、呼吸も出来なくなる。全身を激痛が襲い、わたしが激突した事で一部が壊れた建物の中で崩れ落ちる。

そしてわたしは感じた--------どうしようもない程の、絶望を。

 

 

 

 

薄っすらと見える視界には、いつの間にか来たらしいノワール達三人とマジェコンヌ、ユニミテスによる激しい戦いが映る。ゲイムギョウ界の未来をかけた、プラネテューヌで繰り広げられる戦い。……でも、わたしはその中にいなかった。プラネテューヌの守護女神であり、ゲイムギョウ界の平和の守護者であるパープルハートは瓦礫の中で埋もれかけていた。段々と意識が無くなりそうになる中で、わたしの想いは沈んでいく。

 

(……力のないわたしじゃ、何も守れない…力だけでも、思いだけでも駄目なのに…わたしは、足りていない…)

 

いつもならこの位、簡単に気を持ち直せる筈なのに、今はまるで出来なかった。何故出来ないのか。身体がボロボロだから?…違う、そんな程度で折れるわたしじゃない。女神化出来ないから?…違う、それもあるけどそれだけじゃ折れない。なら、一体何なのだろうか。

その時、わたしの無鉄砲な言動のせいで何度も友達を大変な目に合わせてしまった事を、パープルハートが来ない事で挫けそうになっている国民を、わたしが助ける事よりもマジェコンヌとユニミテスを倒す事を優先してしまった職員のおにーさん達を思い出す。

 

(……あぁ、そっか…)

 

わたしは愚かだった。主人公だの女神だのと言って調子に乗ってるくせに、周りをろくに省みる事も出来ず、ただ身勝手に振舞っていただけだった。そしてその身勝手が通用したのはひとえに力があり、運も味方してくれただけだった。だから、力を失って、運も味方してくれなくなった今は誰一人守る事も出来ず、女神の務めも果たせぬまま倒れようとしている。

……けど、それが妥当なのかもしれない。悪い人には天罰が下る。そんな事は子供でも知っていて、好き勝手に進み続けていたわたしが情けなく、失意のままに終わるとしたらそれは正にその通りなのだ。

出来るならば皆に謝りたいけれど、それすらも許されないのかわたしの意識は遠のいていく。そうしてわたしは後悔と罪悪感を心に渦巻かせたまま、ゆっくりと眼を--------

 

「馬鹿言うんじゃないわよ!ネプテューヌは…女神は一人でも信じる人がいる限り、守りたいものがある限り死んだりなんてしないわ!」

「女神は義務だからではなく、自分の思いから国を、国民を守るものなのですわ!そしてその点において、ネプテューヌがわたくし達に劣る事など、万に一つもありませんわ!」

「てめぇがどう思おうが関係ねぇ!ネプテューヌは、パープルハートはここに来る!わたし達はそう信じているんだよ!」

 

ドクン、と自分の鼓動が聞こえた。ノワールの、ベールの、ブランの声が聞こえたその時、ほんのりとわたしの身体が熱を帯びるのを感じた。沢山迷惑をかけた筈の、何度も困らせた筈の三人がわたしを信じて、わたしを望んでくれている。

 

「そうだ…そうだよ!俺達のパープルハート様が来ない筈ないだろ!」

「そう、よね…私達パープルハート様の信者がパープルハートを信じなくてどうするのよ!」

「あぁ!きっとパープルハート様は来てくれる!信じようぜ、女神様を!」

「うん!もし必要なら、さっきの女の子みたいにわたし達も戦おう!」

 

また、鼓動が聞こえた。怯えていた筈の人達の声が聞こえた瞬間、わたしの身体の熱が段々熱くなるのを感じた。記憶喪失だったとはいえ、散々ほっておいた人達が、わたしが守れないと諦めかけていた人達がわたしを待ってくれている。

 

「……っ…」

 

今、教会で職員のおにーさん達を助けようとしてくれている筈の皆の顔を思い出す。皆はわたしを本気で拒絶していただろうか。皆がわたしへ向ける表情は、何かを隠すかの様に曇っていた事があっただろうか。

わたしがお世話になった人達の顔が、わたしが共に戦った人達の顔が、わたしが守りたいと思った人達の顔が、わたしの大切な友達の顔が浮かぶ。その顔は…皆は、笑顔だった。わたしの大好きな、わたしの大事な皆の笑顔。それを思い出した瞬間、わたしの心に勇気が灯る。

腕に、足に、指先にまで力を込めて身体を起こす。皆の事を思い出す度に増していった熱はわたしの力となって、ゆっくりとだけどわたしの身体を動かしていく。

 

「……ごめんね、皆…」

 

わたしの口から謝罪の言葉が漏れる。でも、これは失意と罪悪感からくる言葉じゃない。諦めそうになっていた事の、わたしが皆を信じていなかった事への謝罪。

わたしには反省しなきゃいけない事が沢山ある。後悔の中で気付いた事は紛れも無い事実。でも、それでも皆はわたしを認めて、わたしを信じてくれた。だったら、わたしはわたし自身を否定なんてしちゃいけない。それは、わたしだけじゃなく、皆の想いすらも否定するって事だから。そして、わたしは立ち上がると同時にもう一言口にする。

 

「……ありがとう、皆」

 

その言葉を口にした瞬間、身体が軽くなるのを感じた。まだ全身が痛いけど、気を抜いたら倒れちゃいそうだけど、それでも歩ける、走れる、もう一度前へと進む事が出来る。今のわたしには、それだけでも十分だった。

思い出した皆の笑顔に背中を押される様にわたしは駆ける。女神として、友達として、ネプテューヌとして戦う為に。

そしてわたしは跳ぶ。わたしの願うわたしを、皆の望むわたしを、わたしが守りたいもの全てを守る為の力を宿したわたしの姿を思い描いて--------翔ぶ。

 

 

「……お待たせ、皆。女神パープルハートは…国民と友達を守る為に、わたしの大切なものを壊そうとする魔女と魔王を倒す為に……わたしは戻ってきたわ!」




今回のパロディ解説

・「〜〜お前はわたしが倒す!今日、ここでッ!」
機動戦士ガンダムSEED Destiny主人公、シン・アスカの名台詞の一つ。元ネタでも本作中でも憎悪を込めて言い放った言葉、それ故にかなり印象に残るかと思います。

・「〜〜力だけでも、思いだけでも駄目なのに〜〜」
機動戦士ガンダムSEED主人公、キラ・ヤマトの名台詞の一部のパロディ。上記のパロディといい、今回は中々元ネタでの状況と合った形でのパロディが出来た気がします。


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第七十七話 決戦、女神VS魔王

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

鋭い軌道を描きながらプラネテューヌの街を疾駆する三人の女神。ベールとブランが線対称の様に綺麗な連携で持ってユニミテスを翻弄し、ユニミテスが二人の動く先へ予測攻撃を仕掛けようとした瞬間にもう一人の女神…私が肉薄し、抉る様な一太刀を浴びせる。

雄叫びを上げ、すぐに私へと反撃しようとするユニミテス。私がそれを見越して後ろへ跳ぶ中、ユニミテスの傷は回復していく。

 

「ちっ、真芯で捉えても駄目な訳ね…」

「やっぱ一撃にかけるんじゃいたちごっこっぽいな…」

「かといって全員で攻撃し続けるのも少々難度が高いですわ…ねッ!」

 

一度一ヶ所に集まった私達へ襲いかかる電撃の槍。放った主は勿論マジェコンヌ。散開する事で回避した私達へマジェコンヌは電撃による攻撃を続け、そこへ更に回復しきったユニミテスが合流し、電撃と光弾による二重奏を作り上げる。

独断専行する形となったネプテューヌを追ってマジェコンヌとユニミテスがいるであろう場所へと急行した私達。私達としては一度ネプテューヌを落ち着かせてから戦いに臨むつもりだったけど、どういう訳かネプテューヌは不在で、尚且つ悠長にしていられる状況でも無かった為にそのまま戦闘へと突入していた。当初の計画よりも大幅に参戦人数が減り、対して相手側は一人増え(ユニミテスとマジェコンヌが別々に動くとは限らない、とは思ってたけどね)、挙句戦場はプラネテューヌの中心街。最悪とは言わないでも、些か以上に好ましくない状況だった。

 

「ってかネプテューヌはどこ行ったんだよ!?」

「そんなのこっちが聞きたいですわよ!」

「■■ー!■ーー!」

「五月蝿い!ったく、喋れないなら黙ってなさいよ!」

 

マジェコンヌとユニミテスによる弾幕が途切れた瞬間に身を翻し、再度ユニミテスに突撃をかける私達。今回の目標でないマジェコンヌは極力無視して肉薄する。…色々ほっぽり出してどこ行ってるのよネプテューヌは…。

 

「ふっ…知りたいか女神共。ネプテューヌがどうなったかを」

「…何ですって?」

「どうなったか知りたいか、と言っているんだ」

「って事はここに一度は来てる、って訳だな?」

 

三次元機動で以ってユニミテスの攻撃範囲から逃れ、次の攻撃の機会を探る私達。そんな私達へ投げかけられるマジェコンヌの言葉。これが本当に何か知っているのか、それとも私達の気を散らす為の策なのか、その判別はつかないものの内容が内容だけについ反応してしまう。

 

「あぁ来たさ、女神化も出来ないくせに生意気に一人で突っ込んで来たぞ。イリゼも大概愚かだとは思ったが、まさかそれを上回る愚行を犯す者が居るとはなぁ」

「■■■■!」

「結果は…言うまでも無かろう。ゴム毬の様に吹き飛ばされて行方知れず、今では別の天界の住人だろう!嗚呼悲しいなぁ女神共よ!ハーッハッハッハッ!」

 

最高のタイミングで明かそうと温めておいた秘密を遂に口にしたかの様な、嬉々とした高笑いを上げるマジェコンヌ。マジェコンヌとしては忌々しい女神…特に私が対峙する前からずっとおちょくってたネプテューヌを始末出来て、尚且つそれを私達へ精神的ダメージを与える策の一つとして扱う事が出来たのならば確かに彼女としては嬉しいんでしょうね。……けど、

 

「とにかく隙を突いて攻撃しましょ、戦う中で弱点を…なんてしてる余裕ないわ」

「……何…?」

「そうですわね。なるべく街への被害も減らしたい所ですけど…」

「今回は二の次にするしかねぇな。取り敢えず人は全力で守る様にしようぜ」

「……っ!?ちょ、ちょっと待て貴様等…正気か!?」

 

私は一切それに動じない。むしろそんな私達にマジェコンヌが動揺していた。

 

「正気?てめぇに正気かどうか心配される程落ちぶれちゃいねぇよ」

「ならば私の話を聞いていなかったとでも言うのか!?」

「聞いてたわよ、その上で今に至るんだけど?」

「…貴様等…ふん、そうか貴様等やっと緩い友達ごっこを止めたのか。あぁそれなら合点が行く、仲間だ友達だという甘い事を信じたまま死んだ劣等者にならずに済んで良かったじゃないか」

 

意に介さない私達の言動を、私達が冷徹になったのだろうと勘違いするマジェコンヌ。…キラーマシンの件と言い、私は演技派なのかしらね。

とはいえ、例え勘違いでも冷徹認定されるのは不愉快であり、もう一つ見過ごせない、酷い過小評価をマジェコンヌが下しているのは紛れも無い事実。そんなマジェコンヌに対して私達は嘆息の後に降り立ち、言う。

 

「…貴女は二つ程勘違いをしていますわね」

「勘違い、だと…?」

「よく聞きやがれマジェコンヌ。わたし達はてめぇの言う緩い友達ごっこを止めた訳じゃねぇよ。そもそも軽い気持ちで友達になれる程、わたし達は因縁の無い間柄だった訳でも無いしな」

「ならば何故奴の…ネプテューヌの死に動じない!それこそが友達ごっこを止めた事実だろうが!」

「ネプテューヌの死に動じない、ね……」

 

理解出来ない、と言わんばかりに怒号を上げるマジェコンヌ。始めはマジェコンヌの勘違いに呆れていた私達だけど、こうも心外な判断をされるのは流石に我慢ならない。だから、私達は言い放つ。

 

「馬鹿言うんじゃないわよ!ネプテューヌは…女神は一人でも信じる人がいる限り、守りたいものがある限り死んだりなんてしないわ!」

「女神は義務だからではなく、自分の思いから国を、国民を守るものなのですわ!そしてその点において、ネプテューヌがわたくし達に劣る事など、万に一つもありませんわ!」

「てめぇがどう思おうが関係ねぇ!ネプテューヌは、パープルハートはここに来る!わたし達はそう信じているんだよ!」

 

叩きつける様な私達の言葉に珍しく面食らった様子を見せるマジェコンヌ。そしてこの時、私達に触発されたかの様に、マジェコンヌは勿論私達も想定していなかった者達からの声が上がる。

 

「そうだ…そうだよ!俺達のパープルハート様が来ない筈ないだろ!」

「そう、よね…私達パープルハート様の信者がパープルハート様を信じなくてどうするのよ!」

「あぁ!きっとパープルハート様は来てくれる!信じようぜ、女神様を!」

「うん!もし必要なら、さっきの女の子みたいにわたし達も戦おう!」

「……こいつら逃げてなかったのかよ…そりゃ数人位は残ってるかもしれねぇとは思ってたが……」

「やはり、女神としてネプテューヌは劣ってなどいませんでしたわね」

 

つい先程まで怯えていた様に見えたプラネテューヌ国民が…ネプテューヌの信者が今や打って変わってネプテューヌを信じ、彼女を望む言葉を口にしている。流石に瓦礫や建物の影からは出てきてはいないものの、この状況下でここに留まる事は相当の度胸、或いはネプテューヌへの盲信が必要であり、いずれにせよ私達はそんなネプテューヌの信者達へ驚きと、ある種の安堵を感じていた。

自由奔放で、無鉄砲で、始終周りを引っ掻き回すネプテューヌ。そんなネプテューヌにはしょっちゅうフラストレーションを感じさせられるし、女神らしくないと思う事が何度も…というか女神らしいと思う事の方が少なかった。……でも、無茶苦茶だからこそネプテューヌは普通なら諦めてしまう事、妥協してしまう事でも強引に突き進んでその普通を覆し、女神である私達ですら惹きつける力へと変えていった。そしてそれは、紛れもなく女神としての資質であり、ネプテューヌの魅力でもあった。

ネプテューヌの信者達の言葉を聞き、苦笑しつつも湧き立つ私達。……だが、一人だけこの状況が…ネプテューヌを信じて疑わない私達と信者を許容出来ない者がいた。

 

「……ふ……るな…」

「はぁ?」

「ふざけるなッ!見てもいない貴様等女神が!私の足元にも及ばない愚民共が!ふざけた事を抜かすなッ!」

「見苦しいですわよマジェコンヌ、貴女も女神がどんな存在なのかは熟知しているでしょう?」

「黙れッ!ならばその希望…魔王によって絶望へと堕としてやろうじゃないかッ!」

『……ーーッ!?』

 

まるで龍の逆鱗に触れたかの様に怒りを露わにするマジェコンヌ。信頼や友情を認められないマジェコンヌの姿に私達はほんの少し哀れさを感じる……が、次の瞬間、事態は急変する。

ギロリとネプテューヌの信者達が身を隠している方へと視線を向けるマジェコンヌ。その視線の意図するものに私達が気付いた時にはもう遅い。マジェコンヌの意思に呼応する様に視線の先へと身体を向けたユニミテスは自身の周囲に闇色の光弾を生み出し、私達が防衛に入る前に放つ。

今まで私達へと放ったものより些か小さな光弾の束。威力や制圧力は劣っているそれも、崩れかけの瓦礫でしか身を守っていない一般人を狩るのには十分過ぎるものであり、それを一般人、それも反応の遅れた者達が避けられる筈もない。無慈悲な光弾は、女神を信じた者達へと迫る。

 

「ハーッハッハッハッハッ!ネプテューヌよ、貴様が本当にこいつ等の言う様な女神だというのなら国民共を守ってみろ!ハーッハッハッハ!ハーッハッハッ--------」

 

国民へと飛ぶ光弾。口元を歪ませ、狂った様に嗤いを上げるマジェコンヌ。そして光弾がネプテューヌの信者の命を奪わんとする刹那--------紫の光芒が光弾に飛来する。

巻き起こる爆発、立ち昇る煙。私達に分かる事はただ一つ。その爆発が本来の目標であるネプテューヌの信者ではなく、着弾の直前に飛来した『何か』との激突によって発生したものだという事のみ。そして私達、マジェコンヌ、ネプテューヌの信者の全員がその煙を見つめる中--------声が響く。

 

「……お待たせ、皆。女神パープルハートは…国民と友達を守る為に、わたしの大切なものを壊そうとする魔女と魔王を倒す為に……わたしは戻ってきたわ!」

 

力強さと優しさ、決意と覚悟の籠った、凛とした声が響き渡る。そして裂く様に内側から吹き渡る風によって晴れた煙の中から現れる、プラネテューヌの女神の姿。

その瞬間、プラネテューヌの国民が…歓喜に包まれる。

 

 

 

 

「全く…いつも貴女は遅いのよ、ネプテューヌ」

 

わたしの元へと駆け寄ってくる国民を宥め、出来る限り安全な所へ逃げるよう指示しつつもノワール達の元へと合流するわたし。そのわたしへと最初に声をかけたノワールは怒っている様な、でもどこか嬉しげな、そんな不思議な表情を浮かべていた。

 

「遅いって…わたしは皆よりも早く来ていたのよ?」

「来ていた?……まさかどこかへ隠れていたんですの?」

「いいえ、ちょっとあそこで死にかけていたわ」

 

怪訝な顔をしつつ疑問を口にするベールに対し、わたしは簡単に説明する。つい先程わたしが激突し、一部が崩壊した建物を指差しながら。

 

「…まさかお前、あそこに吹っ飛んでたのか?」

「えぇそうよ」

「もしや、女神化してない状態で?」

「えぇそうよ」

『……ほんとどうなってる(のよ・んですの・んだよ)ネプテューヌの身体は…』

「ふふっ…それより勝手な行動してごめんなさい、もっと冷静になるべきだったわ」

 

もしわたしが冷静だったらもっと事が上手く進んだ…とは限らないけど、無謀且つ皆に多大な迷惑をかける行動をしてしまったというのは純然たる事実。自身を顧みた事もあってそれを反省し、皆に頭を下げるわたし。

数秒後、顔を上げたわたしを待っていたのは…目を丸くした三人だった。

 

「え、いや、ちょっ…ど、どうしたんだよネプテューヌ…」

「……?どうもこうも、反省したから謝ってるだけよ?」

「あ、貴女そんなキャラでしたっけ…?」

「失礼ね、わたしだって反省はするし悪いと思ったら謝るわよ」

「…まさか…こいつはネプテューヌの偽者なんじゃ……」

「前回ラストの格好良い流れから復活したわたしを偽者扱い!?皆わたしを何だと思ってるのよ!?」

 

せっかくヒーローチックな復活&登場を出来たのだからここは一つクールビューティーでいこう、と思っていた矢先にこれだった。まぁ普段のわたしがわたしだからこっちも非がないとは思わないけど…幾ら何でもこれはあんまりじゃないかしら……。

と、そこはかとなくゆるゆるとした雰囲気が広がり始めた時、その雰囲気を破る様に電撃が迸る。

 

「……っ…随分と乱暴な方法で水を差すわね…」

「こんな場で和気藹々と雑談し始める貴様等が悪いんだろうが!」

「それは……ちょっと言い返せないわね…貴女が真っ当な突っ込みしたら微妙な雰囲気になるでしょうが…」

「そ、それはすまない…って、だから和気藹々と雑談をしようとするなと言ってるだろうが!いやそもそも…何故だ!何故貴様は女神化出来ているのだ!」

 

手に持つ槍の切っ先をわたしに向け、睨みつけながらわたしを問い詰めるマジェコンヌ。わたしはつい先程妙な扱いを受けた事もあり、今度は一拍置いた後満を辞して返答を述べる。

 

「--------無理を通して道理を蹴っ飛ばしたからよ」

「いや流石にそれは説明になってねぇよ…それについてはわたし達だって気になってんだ、ちゃんと説明してくれ」

 

マジェコンヌではなくブランに突っ込まれるわたし。わたしとしてはマジェコンヌに突っ込みを入れられるつもりだったから若干拍子抜けだったけど…まぁマジェコンヌがわたし達並みのギャグ要員になるのはそれはそれでアレだし、これが妥当かもしれないわね。

 

「説明、ね…正直に言った方が良い?」

「あぁ、正直に言ってくれ」

「……分からないわ」

「……は?」

「だから分からないのよ、気付いたら力が湧いてきたって言うか何て言うか…」

 

頬をかきながら言葉を返すわたし。文字通り、何故わたしが女神化出来たのかは本当に分からなかった。ただ、それでは話が進まないので取り敢えず皆の声が聞こえて、わたしの心に勇気が浮かび上がると同時に身体に熱が走った事を口にすると……

 

「……まさか…」

「ベール?貴女まさか理由が分かったの?」

「ネプテューヌ本人ですら分からなかったのに?」

「えぇまぁ一応…あくまで可能性ですわよ?」

「それで構わねぇよ、教えてくれ」

 

推理中の探偵や警部の様に顎に指を当てるベールに視線を集めるわたし達。この場で理由を判明させて置いた方が良い、と判断したのか、それとも単に興味を惹かれたのかマジェコンヌも攻撃の手を休め、わたし達の方を見ている。その中で、ベールは口を開く。

 

「…まず、皆はマジェコンヌが前にシェアは物理法則を超えた奇跡そのもの、と言っていたのを覚えていまして?」

「えぇ…確かにいーすんを手に言っていたわね」

「そしてイリゼはもう一人の…原初の女神と呼ばれていた、オデッセフィアの女神によって『作り出された』女神だと言う事も覚えてまして?」

「そりゃ勿論…って、まさか……」

「そのまさかですわ。恐らくネプテューヌは新たな力に目覚めた訳でも、ましてや女神の力が戻ってきた訳でもなく……人々が望む、新たなパープルハートとして生まれ変わったのですわ」

 

ベールの言葉に息を飲む。わたしが…生まれ変わった……?

 

「いや、そんなまさか…そんな事あり得るってのか…?」

「他に理由を思い付きまして?それに、わたくしにはもう一つこの仮説を押す理由がありますわ」

「もう一つ……?」

「えぇ、それは……こう言う事ですわッ!」

 

ベールが一度言葉を切り…次の瞬間ブランに向かって至近距離からの刺突をかける。わたしとノワール、そしてマジェコンヌまでもが唖然とする中ブランは咄嗟に戦斧を引き上げ、柄でもって辛うじて槍の軌道を逸らす。

 

「……ッ…ベールてめぇ何のつもりだよッ!」

「手荒な手段を用いた事は謝罪しますわ。…そして、その上で質問しますわ。ブラン、天界で戦っていた頃のわたくしがここまで速い一撃を放てると思いまして?天界で戦っていた頃の貴女が今の至近距離からの一撃を逸らす事が出来ると思いまして?」

「…どっちも出来ねぇだろうな……つまりこう言う事だろ?シェアには力がある、だからわたし達が天界で戦っていた時間に比べれば下界での戦いはずっと短いにも関わらず飛躍的に強くなったんだ…って」

「…それは分かったわ。でも…わたしは女神の力を失っていたのよ?そのわたしがここに残った一部の信者の想いだけで女神に生まれ変われるって言うの?」

「あぁそれならば…あれを見て下さいまし」

「あれって……え、テレビ局?」

 

ベールの示した先にいたのはカメラやマイク、ペンとルーズリーフ等携えた人達。その姿はどう見てもテレビ局員、そして各種マスメディアの記者だった。個人的な事を言えば彼等も安全な場所にいてくれた方が安心出来るのだけど…今回はむしろ感謝しなきゃの様ね。あの人達のおかげでこの戦いが『全国に』伝わったんだから。

 

「…最初に言いましたけど、あくまでもこれは仮説ですわよ?」

「仮説でも説得力があるならそれで十分よ、どうせ間違ってたら後でイストワール辺りが教えてくれるでしょうし」

「それよりも今やるべき事は…」

「今度こそユニミテスを倒す事、ね」

 

ユニミテスに、マジェコンヌに改めて向き直るわたし達。ベールの説明を聞いていた様子のマジェコンヌは憎々しげな表情を浮かべ、呪詛の様に言葉を紡いでくる。

 

「シェアの力で生まれ変わった?信仰の力で飛躍的に強くなった?…クソがッ!あぁそれはあり得るな!だが…長い時間をかけ、入念な準備をし、その末にやっと私は女神の力を得、魔王を創造出来たのだぞ!なのに何故貴様等は行き当たりばったりの末に同じ境地へと辿り着けるのだ!こんな事認められるかッ!」

「……だったら、はっきりさせましょ。どちらがより強い思いを抱いているのか、どちらが本当に強いのかを」

 

怒号を上げ、わたし達へ肌に感じる程の悪意を向けるマジェコンヌと、マジェコンヌの意思を反映させているかの様に咆哮を上げるユニミテス。そんな両者へわたし達はそれぞれの武器を構え、己の志と誇りを持って対峙する。

わたしの側に立つのは信頼のおける仲間。わたし達に力をくれるのは大切な国民。ならば、もう負ける気はしなかった。

そして、わたし達とマジェコンヌ、ユニミテスの戦いは最後の佳境を迎える--------。




今回のパロディ解説

・「〜〜いつも貴女は遅いのよ〜〜」
イナズマイレブンシリーズの初代主人公、円堂守の名台詞の一つのパロディ。キャラ的にはむしろネプテューヌがノワールに言いそうですが…逆もまた有りでしょう。

・「〜〜無理を通して道理を蹴っ飛ばしたからよ」
天元突破グレンラガンにおける主人公の兄貴、カミナの名台詞の一つのパロディ。性格はかなり違いますが、この台詞においてはネプテューヌもカミナもぴったりですね。


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第七十八話 激戦の果てに

「よいしょっ、と……」

 

教会から凡そ数百メートル程離れた病院。他の場所の例に漏れずマジェコンヌとユニミテスの襲来により動揺の広がりつつあったこの場所は、国の中心機関である教会の職員が次々と運ばれてきた事によって更なる騒ぎを見せていた。

 

「うぐっ…申し訳ない、ね……」

「お気になさらないで下さい、それに職員さんが悪いんじゃないんですから」

 

職員さんを病院へと運ぶ担当と瓦礫を撤去して安全を確保する担当に分かれ、重傷の職員さん達を運び始めてからはや数往復。最初は二重の騒動によってまともな対応の出来ていなかった病院側だったけど…流石にそこは医療のプロ、二往復目には受け入れ準備が完了しており、運んだ職員さんをすぐに任せる事が出来る様になっていた。

 

「瓦礫担当に比べれば軽いとは思うけど…やっぱ大人の男ってなると重いわね…」

「力抜けてる分余計にそう感じるよね…さて、まだ運べてない職員さんがいるし急がないと」

「…あれって、ネプテューヌさん達が行った方だよね…」

 

教会へと戻ろうとした所でサイバーコネクトツーがある一方向を指差す。そこからは煙が立ち昇っており、そこで起きているのは只事ではない事が火を見るよりも明らかだった。

 

「……大丈夫かな、ネプテューヌ達…」

「後を追った三人は勿論、女神化出来ないねぷ子もそう簡単に死ぬ様な奴じゃないにゅ。だから心配は不要だにゅ」

「まぁねぷ子はブラン様とは別ベクトルでタフだもんね、所謂ギャグ補正って奴かしら」

「…ギャグ補正ってシリアスパートの時ってかかるんだっけ…?」

「……さぁ…」

 

少し遠い目をしながら返答をするアイエフに私は冷や汗をかく。いや、そりゃ根拠も無しに返答するのは無責任なんだろうけどさ…ここはかかるわよ、とか大丈夫でしょ、とか言ってよ…不安が取り除かれるどころか加速しちゃうって……。

 

「……では、行ってみてはどうですか?(´・ω・)」

「……え?」

 

そう声をかけてきたのはイストワールさん。イストワールさんはサイズの関係で職員さんも瓦礫も全く運べない為、専ら病院の人とのやり取りを担当していた。そのイストワールさんの言葉に私は目を丸くした(…気がする。鏡無しに自分で自分の顔を見る事は出来ないからね)。

私は一度、ノワール達がネプテューヌの後を追おうとした時に一緒に行こうとした。けどその時はマジェコンヌとユニミテスという強敵相手に怪我が治りきっていない、不安要素の残る私は連れていけない、という判断をされたし、私もその判断が妥当だと思ったから素直に引き下がったのだった。…イストワールさんもそれを知ってる筈なのに何故……。

 

「勿論イリゼさんが止められた事は知っていますし、その判断が間違っているとも思っていませんよ?…ですが、貴女は女神です( ˘ω˘ )」

「……つまり?」

「合理的な思考を経た上で感情を優先するのも有りだという事です。人の思いを力にし、想いを叶える女神が感情を軽視なんて本末転倒ですから」

「感情を優先するのも有り、か…」

 

別に感情を軽視していた訳ではないし、イストワールさんが言った事が私にとって衝撃的だった訳でもない。けど、自分の中で考える事と外部から言われる事では内容が同じでも感じるものは違う。これはその典型だった。

 

「その通りだにゅ、暴走しない限りは理詰めな女神より感情に実直な女神の方が好感が持てるにゅ」

「うんうん、それに不安要素を完全にゼロにする事は殆ど無理だからね。そこら辺はイリゼさんの判断次第だよ」

「と、皆さんも言っていますよイリゼさん。勿論行く事でノワールさん達の懸念が当たる結果を招く可能性もありますから、行かないという選択も有りです( ̄^ ̄)」

「選ぶのはあくまで貴女よ、どうするのよイリゼ?」

 

それぞれの観点から皆が私に声をかけてくれる。それはあくまで一意見であり、これは学校のテストじゃないから確実にどちらかが正解でどちらかが間違い、という訳でもない。……だからこそ、私は皆の、私自身の考えを踏まえて、選択を下す。

 

「…職員さんを助けるのは、私が抜けても大丈夫かな?」

「心配要りませんよ、つい先程救急隊が教会の方へ向かったのでそちらは十分人手が足りていますd( ̄  ̄)」

「なら良かったです。……私はやって後悔するのも嫌だしやらないで後悔するのも嫌。だから…」

「だから?」

「……後悔しない方を、選ぶよ。…行ってきます」

 

後悔するかどうかは行動、過程に対する結果だから今どちらが後悔しないで済むのかは分からない。けど、だったら感情の求める方を選び、その上で後悔しなくて済む様に私が頑張れば良い。……なーんて考えは楽観的だしそういう考えをしている人程足元を掬われ易い様な気もするけど、私だって女神何だからこの位の事はちょちょいのちょーい…とはいかずとも、何とか出来る位にはなりたい。

そうして私は女神化し、そんな子供じみた…でも私にとっては真剣そのものの願いを翼に込め、戦場へと飛翔した。

 

 

 

 

紫の閃光が斬り裂く。黒の迅雷が抉る。緑の流星が穿つ。白の魔弾が削り取る。そして--------それを受けても尚、悪意の魔王は戦い続ける。

 

「何なのよ全く…三十年寝ていた刑事だってここまで不死身じゃないわよ…ッ!」

「こうも回復が速いと自分達のやってる事が全部無駄に思えてきます…わねッ!」

 

光弾による弾幕を突破したノワールが正面からの斬撃を仕掛ける…と見せかけて直前で急上昇。巨大な腕で持って返り討ちにしようとしたユニミテスの攻撃は宙を切り、それによって出来た小さな隙を突く様にわたしとベールが突撃。辛うじて反応が間に合ったユニミテスは被害を減らそうと防御態勢を取り……その結果、完全にノーマークとなった背をブランが強襲し、大きな傷を与える。

速度もタイミングもほぼ完璧と思える程の連携で与えた一撃。だが、その傷もユニミテスにとっては許容範囲であり、ものの数秒で回復してしまう。

ユニミテスの治癒能力を甘く見ていた訳ではない。けど、治癒能力はわたし達の予想を遥かに超えていた。そしてもう一つ……

 

「あぁ無駄さ!どうせ貴様等にユニミテスを倒す事など出来ん!仮に四人がかりでユニミテスを上回ろうが、こちらには私もいるのだからな!」

「私もいるって…てめぇは相変わらず傲慢だなッ!」

「はぁ?だったらこっちには私が…」

「ノワールそこ争う所じゃないわよ!?」

 

わたし達四人の力をコピー(わたしの力は完全に奪われたけど)した事で飛躍的に向上した能力で持ってわたし達の連携を崩そうとしてくるマジェコンヌ。もし先程の攻防において敵がユニミテス一体のみであったなら、わたしとベールは防御の上から攻撃を叩きつける事で多少はダメージを与えられていた筈だし、ノワールも上空からブランに続いて仕掛ける事が出来た。しかしながらマジェコンヌがいる為に、わたし達は攻撃の成否に関わらず一撃離脱の戦法を取らざるを得なくなり、ユニミテスの治癒速度を超える攻撃が出来ずにいた。…普段散々馬鹿にしてるし今後も馬鹿にするでしょうけど…この強さだけは認めざるを得ないわね……。

 

「…いっその事、ユニミテスを後回しにしてマジェコンヌを狙ってみるか?」

「無理でしょうね、回復されるとはいえ攻撃自体は当たるユニミテスと違ってマジェコンヌは攻撃を当てる事すら難しいわ」

「それに単純な攻撃力と攻撃範囲ならばマジェコンヌよりユニミテスの方が上、わたくし達以外に注意が向いた場合は……」

「…プラネテューヌの女神として、それは絶対避けたいわね」

「だよな…とはいえこのままだとユニミテスのシェアエナジーが切れるより先にわたし達の集中力かスタミナが切れるぜ?」

 

マジェコンヌの攻撃を凌ぎ切り、マジェコンヌとユニミテスから十数メートル程離れた所で集合するわたし達。対するマジェコンヌ達はわたし達が決め手を持っていない分有利である事、しかしながら何か一つでもあればこの戦況が逆転する可能性もある事の両方を理解しているのか無理に攻める事はせず、わたし達の出方を伺っている。

 

「……だったら、わたしがマジェコンヌを引き付けるのはどう?三人がかりでなら或いは…」

「…それは些か以上に無理があるという話ですわ」

「数分なら今のマジェコンヌでもきっと止められるわよ、第一今よりキツい状態でイリゼは持ち堪えたんだからわたしだって……」

「イリゼの場合は多分、時間稼ぎに有効な手札が何枚もあったのよ。それに…ここは周りの被害を気にしなくていいギョウカイ墓場とは違うわ」

「……それは、そうね…」

「おまけに三人がかりでもユニミテスを倒し切れるかどうかは怪しいからな。四人がかりなら何とか可能性はある、って所だろ」

 

この戦闘においてわたし達が中々勝てずに…もっと言えば若干ながら劣勢に立っているのはひとえに『状況が悪い』という事だった。先制攻撃というアドバンテージを取られ、更にそれによってわたし達はロクな準備も無しに戦闘する事になり、おまけに戦闘には全員参加する事が出来ず、何より戦場がわたしの国の街中であった。勿論最後の要素のおかげでわたしが女神の力を取り戻す…もとい、女神に生まれ変わる事が出来たのだけど…総合的に見ればこの状況は不利に働いているとしか言いようがない。

……けど、泣き言を言っていたってしょうがないわね。

 

「…ねぇブラン、さっき貴女ユニミテスのシェアエナジーより先にわたし達の集中力かスタミナが切れるって言ったわよね?」

「ん?あぁ、言ったな」

「……集中力が切れたとか、スタミナが持たなかったとか、それは確かに勝てない理由にはなるでしょうけど…皆、負けたとしてそれで納得出来る?」

『出来(ないわ・ませんわ・ねぇな)』

「そうよね。…じゃあ、もう選択肢は一つじゃない?」

 

そう言って皆に苦笑気味の顔を見せるわたし。すると皆もわたしの顔を見て同じ様に苦笑をし、各々武器を構え直す。それはもう空元気、或いは一種のヤケだった。長期休暇の最終日、溜まりに溜まった課題に対して、どう考えても一日では終わらないと分かっていても何とか終わらせようとするのと同じ、諦める訳にはいかないから自身を奮い立たせ、同時にそんな自分と同じ状態にある仲間を自嘲しているのだった。

だけど、そんな空元気とヤケが何かを生み出すかもしれない。もしかしたら、諦めずに頑張って良かったと思える様になるかもしれない。何より、諦めたら絶対に後悔すると分かっている。だから、わたしは心の中で今一度言おうと思う。

--------もう、選択肢は一つじゃない?

 

 

 

 

ネプテューヌ達とユニミテス、マジェコンヌが戦っている一角がギリギリ見える距離にあるビルの屋上に私はいた。何となく『戦闘をただ静観する、敵か第三勢力の強キャラ』みたいな雰囲気を醸し出したくなったけど、ふざけてる場合ではないので邪念を振り払ってその戦闘を見つめる。

 

「…私が即座に参戦すればある程度は持ち直せるかもしれない、けど……」

 

私が離れた場所で観察に徹している理由は二つ。一つはネプテューヌが女神化しているのを見て驚いたから。圧倒的不利、って様子じゃないみたいだし僅かな時間を惜しんで動揺したまま参戦するよりは、落ち着いた状態で参戦した方が安全だからね。そして、もう一つの理由は…勝つ為、だった。

戦況を見る限り、ネプテューヌ達四人でも一見すれば互角に見える位にはやり合えている。けど、それはあくまで素人視点での話。それなりとはいえ戦いを経験した人や、戦いを前提に生み出された私の様な存在ならこの戦況にある感想を抱くと思う。『恐らく一人増えても多少有利になるだけだし、一人抜けても多少不利になるだけだろう』という感想を。

これはやはりユニミテスの異様な治癒能力の高さが関係している。私…というか女神なら、大概の相手には防御や回避をされなければ致命傷を与えられるし、大概の相手と正面からやり合う事が出来る。けど、ユニミテスはその両方が通用しないから私が参戦しても即勝利、とはいかないし、マジェコンヌもマジェコンヌで価値を焦らない(マジェコンヌは不遜で傲慢だけど、ああ見えて戦況を見極める目も冷静に判断する頭も持ち合わせているから油断ならないんだよね)から恐らく一人抜けても即全滅、という事もありえないと思う。

そして、一度戦場に姿を現してしまったらもう後戻りは出来ない。だからこそ、私は若干の優劣を動かすのではなく、戦闘の決め手となれる手段を探していた。

 

「……やっぱり、マジェコンヌを何とかするのが一番かな」

 

現状ではネプテューヌ達の攻撃がユニミテスの治癒能力を超えられていないけど、それはマジェコンヌの迎撃があるのが大きい様に見える。故にマジェコンヌを引き離す事が出来れば四人がマジェコンヌを押し切る可能性は充分にありうる。だから、今私が皆に出来る最高の援護といえば--------。

 

 

 

 

「……っ…そろそろ…決着したいものね…」

 

光弾と電撃を避け、突進を躱し、刺突を弾き、一撃を与え、即座に離脱する。何度も何度もそれを繰り返した結果、わたし達は強烈な要素が一つあれば勝てる事、そして始めは感じなかった疲労が今ではあからさまに感じる様になってきた事を認識する様になっていた。

 

「ふん、相変わらずのしぶとさだな女神共」

「しぶといのはそっちのユニミテスの方でしょうが…!」

 

仕切り直し以外では全力で仕掛け続ける必要のあるわたし達と違って、ユニミテスのフォローをするだけで何とかなるマジェコンヌは未だ余裕の表情を浮かべている。それでいて油断している様子を見せないからこそ厄介であり、同時に少なからずわたし達を焦らせる要因となっていた。

 

「ジリ貧になる事は分かってましたけど…分かっててもキツいものはキツいですわね…」

「だな…だが、退く訳にはいかねぇよ」

「ここで引いたら女神の名折れだものね」

「えぇ、まだ勝てないって決まった訳じゃないわ。それにまだわたし達はやれるわ」

 

そう言ってまたわたし達は飛ぶ。そもそもわたし達に退くなんていう選択肢は無いし、仮にあったとしても選ぶ気なんて毛頭ないんだから。…でも、それはわたし達の考え、理想の話。現実はジリ貧状態だし、このままいけばそのうち集中力もスタミナも切れて一気に瓦解する事が目に見えている。

だけど、まだ終わってはいない。わたし達四人が連携し、全力で持ってユニミテスにぶつかればきっと勝てるとわたし達全員が分かっている。だから、わたし達には後一手が必要だった。強烈な、強力な一手が--------

 

 

「--------『天舞陸式・皐月』ッ!」

 

その瞬間、一陣の光芒とも思える程の一閃がマジェコンヌへと突き刺さった。辛うじてマジェコンヌはその一閃に反応し、槍で持って防御を行うも……接触の瞬間、更に速度を増した一閃に押し切られ、一閃諸共瓦礫の中へと吹き飛んでいく。

 

「いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

『……ーーッ!』

 

一閃とマジェコンヌが瓦礫へとぶつかり轟音を立てた瞬間、わたし達四人は同時に地を蹴り飛翔した。願ってもいない、千載一遇のチャンス。魔王を討つ、最高のチャンス。例えそのチャンスがどれだけ特異であっても、それを逃すわたし達じゃない。

 

「これで決めるわよッ!」

「私の…私達の手で持って沈めてやるわッ!」

「さぁ、レクイエムを奏でて差し上げますわッ!」

「喰らい…やがれッ!」

『『ガーディアンフォース』ッ!』

 

ユニミテスは迫り来るわたし達を打ち払おうと腕を振るう。それをわたしとノワールが受け流し、同時にベールとブランがユニミテスの両腕に鋭い一撃を放つ。更に腕の圧力が緩んだ瞬間に反撃と言わんばかりに手を斬り裂くわたしとノワール。その瞬間、ユニミテスの動きが一瞬止まる。そしてそこからは、わたし達の怒涛の連撃が始まった。

上から、横から、下から、前から、後ろから。斬撃が、刺突が、打撃が。単発攻撃が、連続攻撃が。四条の光となったわたし達がユニミテスの全身を引き裂き、貫き、消滅させていく。

ノワールとベールが一瞬攻撃を緩める。わたしとブランが離れる。次の瞬間、ノワールとベールが織り成す剣と槍の嵐がユニミテスを襲う。わたし達ですら捉えきるのが容易でない圧倒的なる乱撃。

更にブランが空を駆け、上空からユニミテスへ向けて突貫する。全速力を、全体重を、そして重力をも載せた戦斧の一撃が、頭上から足元まで切断するかの様に叩き込まれる。

そして、三人の攻撃によってプレッシャーも圧巻さも失われたユニミテスの正面に、全身全霊をかけて肉薄したわたしがいた。国民が、わたしが大切だと思う人達が背中を押してくれて、一閃が…イリゼが最大最高のチャンスを与えてくれて、ノワールとベールとブランが共に戦ってくれた。だから、わたしはその皆に感謝をしながら…その皆を害そうとする魔王を討つ意思を胸に--------大太刀を振り抜く。

わたしが大太刀を振り抜き、大太刀に斬られた空気が音を鳴らし--------戦場は、静寂に包まれた。




今回のパロディ解説

・ちょちょいのちょーい
マクロス30 銀河を繋ぐ歌声のヒロイン、アイシャ・ブランシェットと彼女に影響された(と思われる)主人公リオン・榊の台詞。…まぁ、割と誰でも言いそうな台詞ですけどね。

・三十年寝ていた刑事
THE LAST COP主人公、京極浩介の事。まぁユニミテスと普通の人間とを比べるのは幾ら何でも無理がありますね。…普通の人間と呼べるのか微妙ではありますが。

・「〜〜レクイエムを奏でて差し上げますわッ!」
機動戦士ガンダムSEED Destiny登場キャラ、ロート・ジブリールの名台詞の一つのパロディ。言うまでもありませんが、別にベールは戦略兵器を使った訳ではありません。


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第七十九話 人の思いに消えゆく魔王

嵐の前の静けさ、という言葉がある。大きな事件や衝撃的な出来事の前に訪れる、静か過ぎる程に静かな、不気味な静寂の事をいう(実際の嵐の前は静かじゃない事もあるけど)諺だけど、静けさが訪れるのは嵐が来る前だけなのだろうか。……いや、そんな事はない。嵐が来る前に静寂が訪れる事があるのと同様に、嵐が過ぎた後…もっと言えば、嵐が過ぎた瞬間に訪れる静寂も--------ある。

 

 

 

 

戦場は、静寂に包まれていた。女神も、魔王も、両者の戦いを固唾を飲んで見守る人々も、全てが静まり返った街の一部と化していた。そしてそれは、主戦場から少しだけ離れた場所にいる二人も例外ではない。

私の持てる全力で、私の出せる最大推力での居合いを受け、そのまま私諸共瓦礫の中へと突っ込んだマジェコンヌは目を見開いていた。何故彼女が目を見開いているのか。私が意表を突いたから?…否、確かに多少なりとも驚かす事は出来ただろうし、それを狙って強襲をしたのだから驚くのは想定通りといえば想定通りだけど、この程度でいつまでも驚いている程マジェコンヌは柔な相手ではない。ならば何がその要因となったのか。

マジェコンヌの見る先には彼女の僕である魔王ユニミテス、そしてネプテューヌがいる。一糸乱れぬ全力の連携でもってユニミテスの全身を斬り裂いた、ネプテューヌ達がいる。今までどんなに傷付けようと即座に回復していた筈のユニミテスは、その傷口を開いたままでいる。そして、マジェコンヌが瞳に意思を灯し、何か言おうと口を開いた瞬間--------

 

「■■■■■■■■■■ーーーー!!?!?」

 

ユニミテスの、空気を揺らす様な断末魔が響いた。

 

 

 

 

ユニミテスの断末魔を背中に受けながら、わたしは残心を解く。ユニミテスが死んだ事を確認した訳ではないし、異様な程の治癒能力を持つユニミテスが本当に物理的に殺せるのかどうかも正直怪しいと言えば怪しい。けど、わたしには分かっていた。これが断末魔である事が。ユニミテスが死んだという事が。

 

「…馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁぁああッ!!」

「……っ!」

 

ユニミテスの断末魔に匹敵するかの様な怒号が響き渡り、次の瞬間わたしに向かって何かが飛んでくる。それがマジェコンヌの元から飛来した事を認識したわたしは反射的に大太刀で横薙ぎにしようとした…けど、振るう直前に飛んできたものが何か理解し、大太刀を手放して明後日の方向へと投げ飛ばす。そしてわたしとぶつかる……イリゼ。

 

「…痛た…イリゼ、大丈夫?」

「う、うん…ありがとネプテューヌ…」

 

ボールみたいな小さなものならともかく、今のわたしと対して背の変わらないイリゼがいきなり飛んできたらその場で受け止められる訳がなく、イリゼをキャッチしたまま一メートル程飛んで尻餅をついてしまう。……ちょっと痛かったけど今までわたしは何度かイリゼにセクハラしちゃってるし、今回は何もなくて良かったわ。…サービスシーン?こっちは真面目に戦ってるんだから狙って出来る訳ないでしょ?というかわたしは別にセクハラしたい訳じゃないし、そもそもわたしとイリゼは同性……

 

「あ、あの…ネプテューヌ?受け止めてくれたのはありがたいんだけど…私はいつまで抱っこされてなきゃいけないのかな…?」

「あ……」

 

慌ててイリゼを掴む手を離し、イリゼの後を追って立つ。…メタ視点を意識し過ぎて本来の視点を見失うなんて何やってるのかしらねわたし……。

 

「何やってんのよあんた達は…気を抜くのはまだ速いわよ?」

「べ、別にふざけてる訳じゃないわよ…」

「はいはい、何にせよまだ戦いは終わってないわ」

 

呆れた様な表情を暫し浮かべた後、つい先程までイリゼがいたであろう場所へと鋭い視線を向けるノワール。そう、この戦いの最大目標であるユニミテスは無事倒せた(と思われる)けど、敵がいなくなった訳ではない。そして、この場に残る敵…マジェコンヌは、総合的な意味では間違いなくユニミテス以上に油断ならない敵であった。

 

「…何故だ、まだシェアエナジーが残っているというのに何故力技で倒されるんだユニミテス…!」

「あんだけやってもまだシェアエナジー残ってたのかよあいつ…」

「イリゼが相手をしていてくれたから良かったものの…もし偽者討伐の為各国に分散していた時に襲われたらと思うと……ゾッとしますわね」

「えぇ、でももうユニミテスはいない。…後は貴女だけよ、マジェコンヌ」

 

五人で並び、揃ってマジェコンヌへとわたし達は武器を構える。最初は女神化も出来ないわたし一人で始めた、劣勢の戦いは、今となっては完全にわたし達の優勢となっていた。

そして、そんなわたし達とは対極に追い詰められたマジェコンヌ。しかし彼女は慌てるでも嘆くでもなく、ただぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「…ちょっと、私達が構えてるんだからあんたもぼさっとしてんじゃないわよ」

「五月蝿い!クソッ…こんな事があり得るかッ!貴様等一体どんな卑怯な手を使ったんだッ!」

「貴女に卑怯とは言われたくないよ。ネプテューヌ達は正真正銘実力で持って倒した、それが分からない程愚かじゃないでしょう?」

「実力で持って倒した?はっ、貴様等の様な愚民に信仰されなければ戦う事すら満足に出来ない出来損ない共が実力で倒しただと?つまらない冗談は……いや、待て…」

「…マジェコンヌ?」

「……そうか、そういう事か…フッ…ハハ、ハーッハッハッハッ!!」

 

何かに気付いた様な様子を見せた後、突如笑い出すマジェコンヌ。現実を受け入れられずにいるのか、劣勢に耐えかねて狂ったのか…何れにせよ全く持って理解の出来ない、不気味な笑い声が街中をこだまする。

 

「何が面白いんですの…!?」

「面白くなどあるか!あぁ不快だ、不快でしょうがないさ!ユニミテスが貴様等に敗れた、納得の出来る理由を見つけてしまったんだからなぁ!」

「納得の出来る理由…?マジェコンヌ、貴女はわたし達が実力以外で倒したって言いたいの?」

「いいや、残念ながら貴様等がユニミテスを倒したのは間違いなく実力さ。貴様等の…『女神としての』力だろうな」

 

髪の毛をかき上げ、瞳に憎しみを籠らせながらも口元を歪ませるマジェコンヌ。彼女は間違いなく劣勢であるというのに、わたし達は彼女から何か恐ろしいものを感じていた。

 

「随分と含みのある言い方を…女神としての力?何を言いたいのマジェコンヌ」

「何、簡単な話さ。ユニミテスは完全にシェアのみで構成された空想の実現体。それ故にユニミテスへの感情、シェアによってその在り様は大きく左右される。そしてそれは生死すら例外ではない」

「そんな事は言われなくても知ってるってんだよ、シェアのポテンシャルもついさっき確認したからな」

「あぁ、ユニミテス程依存してはいない貴様等女神ですらあそこまでの奇跡を引き起こしたのだ。そしてその様な貴様等に息つく間もなく全身を斬り刻まれたんだ、それを中継でもって多くの人間が見たのならば……」

「『魔王ユニミテスは女神によって倒された』と人々が思い、それがユニミテスへ『死』を与えた、って事ね…」

 

マジェコンヌの言葉を引き継ぐ形でノワールが結論を述べる。

マジェコンヌとノワールの言う通りならば確かにわたし達も納得出来るし、『魔王ユニミテスは女神によって倒された』と思わせたのはわたし達なのだから間接的にはわたし達の実力とも言える。……けど、その場合一つ不可解な点が残る。

 

「…だったら、何なのよその態度は。少なくともその理由において、貴女が余裕を持てるとは思えないんだけど?」

「ふん、相変わらずおめでたい頭をしているなネプテューヌ。確かに貴様等はユニミテスを倒した。だが、それで貴様等は安心出来るとでも言うのか?」

「はぁ?ユニミテスを倒しても第二、第三の魔王が出てくるとでも言いたいのかよ?」

「第二、第三の魔王か…それも面白いかもしれないな」

「面白い?例えまたユニミテスが現れたとしても、また私達が……って、あれ?…いやでも…まさか……」

「やっと気付いたか。あぁその通り、貴様等は実力で倒したがそれは『多数の人々が見ている』という状況下だったからこそ勝てたに過ぎないのさ!ハーッハッハッハッ!」

 

再び笑い声を上げるマジェコンヌ。最悪に近い状況下での戦闘だと思っていたこの戦いがその実、ユニミテスを打破する最高に近い状況下での戦闘だったという事実は少なからずわたし達を驚愕させ、同時に僅かながらの焦りを感じさせた。

 

「…ふん、だったら…ここであんたを倒せばそれで済む話でしょ。違う?」

「違わないな。だが良いのか?勝ったとはいえ貴様等は消耗した身、対する私は未だ全力が出せる状態だ。戦った結果貴様等が勝とうが負けようが、このままここで戦えば戦闘の余波で更に多くの人が死ぬだろうな」

「ちっ…てめぇ……」

「貴様等が追撃しないと言うのならば素直に引き下がってやろう。ここでもう一戦するよりそちらの方が互いに特だと思わないか?」

「…確かに、マジェコンヌの言う事には理がありますわね…どうしますの?」

「……追撃しないでおこうよ、多くの犠牲を出した勝利なんて喜ばしい事じゃないし…私達の力の上限はまだまだこんなものじゃない、そうでしょ?」

 

イリゼがわたし達の方を向き、言う。ここがプラネテューヌ…わたしの守護する国であるからか、ノワール達はわたしに判断を委ねる様にわたしを見つめる。

未来のリスクを回避する為に、今リスクを払うか。今のリスクを回避する為に、未来へリスクを発生させるか。……そんなもの、迷うまでもないわね。

 

「……さっさと退きなさい、貴女の為に散らしていい様な国民は一人もいないわ」

「女神らしい判断だな。ならば悠々と退かせてもらうとしよう。…だが、図に乗るなよ女神共。貴様等は世界の終焉までに僅かな余裕を生んだに過ぎないのだからな!ハーッハッハッハッ!ハーッハッハッハッハッハッ!!」

 

自身が劣勢であった事を一切感じさせない高笑いを響かせながら、その場を消え去るマジェコンヌ。そして、数秒の沈黙を経た次の瞬間、わたし達は歓声に包まれる。

五人の女神の共闘、魔王の討伐、そしてわたしの復活(これは国民の皆はよく知らないけど)。それら全てを目にして歓声をあげた国民に駆け寄られる中、わたし達は安堵の笑みを浮かべ…わたし達と魔王ユニミテスとの決戦に終止符を打ったのだった。

 

 

 

 

「止めて!ショッカー…じゃなくてわたしの愉快な仲間達!ぶっとばすぞー!」

 

あれから数時間後、戦場となった街中に残っていた国民及び駆けつけた記者達を何とかなだめてその場を離れたわたし達は、あいちゃんからの連絡に従って教会…ではなくコンパのアパートに来ていた。そこでわたしは勝利のプリンを…といこうとしていた筈なのに、何故かノワールベールブランの三人に取り押さえられていた。

 

「五月蝿いわよネプテューヌ、いい加減観念しなさい」

「むむむ…わたし達友達だよね!?もうわたし達は争わなくて良いんだよ!なのに…なのにどうしてッ!」

「気付いちゃったのよ…このままネプテューヌが強くなっていったら、いつか私とラステイションの障害になるって。…ごめんなさい、ネプテューヌ……」

「……ッ!わたし達はリトルバスターズ位の仲良しだって信じてたのに…信じてたのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「…しょうもない寸劇ですわね」

「全くもって同感よ、ベール…」

 

ベールとブランが半眼で眺める中、それを気にせずわたしとノワールはおふざけ寸劇を続ける。いやほら、教会に攻撃を受けて以降殆どずっと肩に力の入る展開になりっぱなしだったしさー。

 

「…で、何でわたしは捕まってるの?流石にノワールの言ってる事はボケだと思うけどさ、ちゃんと説明してくれなきゃわたしだってちょっとは不愉快に思うよ?」

「何でって…貴女コンパの話聞いてなかったの?」

「え?……あー…そういえば何か言われた気がする…」

 

激戦で疲れてたのとプリンが食べたかったのとで集中力が散漫になってたから今の今まで忘れてたけど、確かに何か説明されてたっけ…?

 

「ネプテューヌ…コンパは貴女の事いつも気遣ってくれているんだから、話位ちゃんと聞いてあげるべきよ」

「そうだよね…ノワールの言葉ならともかく、こんぱの言葉は絶対蔑ろにしちゃいけないよね」

「私の言葉ならともかくってどういう事よ…!」

「で、こんぱは何て言ってたの?」

「イリゼの後にネプテューヌの手当てもするという事、ネプテューヌが逃げるかもしれないからわたくし達に捕まえておいてほしいという事の二つですわ」

 

ベールに言われてわたしはあぁ、と納得する。女神化してからは特に攻撃を受けなかったから皆も忘れてるかもしれないけど、わたし一回女神化前に重い一撃受けて建物にぶつかってるんだよねぇ。わたし以外だったら即死なんじゃないかな。

 

「そっかぁ…でもさ、お手当て必要かな?だってわたしだよ?主人公補正バリバリかかってるわたしだよ?流石に無傷、とはいかないだろうけど多分絆創膏ちょちょいと貼っとけば大丈夫……」

「結構酷いですわよ、貴女の背中」

「……え?」

「あ、確かに…ちょっとこれは直視出来ないわね……」

「R-18指定が必要かもしれないわ」

「ちょ、ちょっと…マジで!?わたしの背中そんな酷い有り様になってるの!?」

 

三人に言われて、わたしは額から嫌な汗が垂れるのを感じる。勿論わたしの首は百八十度も回ったりはしないし、三人に取り押えられてるからどこかへ確認しにいく事も出来ない。……ま、まさか今殆ど痛みを感じないのって傷が浅いんじゃなくて、痛覚が死んじゃう程酷い怪我をしてるから--------

 

「とほほ、まさか傷が開いちゃうとは…ネプテューヌ交代だよー……って、ネプテューヌは全然怪我してないね、良いなぁ…」

「……マジで?」

「うん、マジ」

「……ちょぉっとお話しようか皆」

『ミッション終了、離脱する!』

「逃げた!?」

 

わたしが笑顔で…もうほんと笑顔で、イリゼ曰く『これは寧ろ逆に怖い』らしい程の笑顔で三人に言った瞬間、ノワール達三人はあっという間に逃げ去ってしまう。…わたしが言うのもアレだけどさ、これって女神としてどうなんだろうね。

 

「……何やってたの?」

「頭おかしい女神さん達に迷惑かけられてたの」

「頭おかしいって…それネプテューヌが言う?」

「ネプテューヌが言う?…ってイリゼこそ言える?」

「む、言うねぇネプテューヌ」

「あはは、それはイリゼもでしょ?」

 

にぃ、と二人で悪戯っぽい笑みを浮かべ合うわたしとイリゼ。イリゼはわたしと違ってそれなりに怪我をした…のではなく、ギョウカイ墓場での戦闘の傷が完治してない状態で戦ったせいか、教会にいた時よりも身体に巻いてある包帯や貼ってある絆創膏の数が増えていた。

 

「……身体、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、まぁコンパからは怒られちゃったけどね」

「そりゃそうだよ、怪我したまま戦いに出て傷開かせるなんて危険極まりないじゃん」

「まさかネプテューヌにまで言われるとは…突っ走ってたネプテューヌもどっこいどっこいでしょ?」

「う、まぁそれはそうだけど…じゃあ、お互い言いっこなしって事でこれは一つ…」

「だね、私もネプテューヌも後で皆に揃って叱られそうだけど」

 

イリゼは言葉を発して、わたしはイリゼの言葉を聞いて、今度は溜め息を二人揃って吐く。そして、揃った事に対して苦笑し合うわたし達。色々あったし、まだ全部解決した訳じゃないけど、無事強敵を倒してまた戻ってこられた。そんな安心感に包まれているからか、わたし達はこんぱが来るまでの間、とても穏やかな気分で雑談をしていたのだった。

 

 

……因みにその後、わたしの手当てにこんぱが沁みる薬を使用したが為にこんぱの予想通り、逃げようとするわたしの姿があったりもした。




今回のパロディ解説

・「〜〜ユニミテスを倒しても第二、第三の魔王が〜〜」
クロノ・トリガーの主要キャラクターの一人である、魔王ことジャキの台詞のパロディ。完全に個人的な感想ですが、この台詞はある種の負け惜しみではないでしょうか。

・「止めて!ショッカー…じゃなくてわたしの愉快な仲間達!ぶっとばすぞー!」
とんねるずのみなさんのおかげです、のコーナーで登場した仮面ノリダーにおける、木梨猛の名台詞のパロディ。パロディネタのパロディというのも一興ですよね。

・リトルバスターズ
ゲーム及びメディアミックス作品であるリトルバスターズシリーズの事。ジャンルとしてはギャル(エロ)ゲですが、この作品はかなり友情要素も多いですよね。


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第八十話 反省する主人公達

『第一回、主人公大反省会』

 

「薬品が滲みる!」とか「湿布変な匂いする!」とか騒ぐネプテューヌとそんなの御構い無しに手当てを進めるコンパを苦笑しつつも眺める事十数分。手当てが終わったという事で二人と一緒にリビングへ移動したところ……見覚えがありそうでない看板が用意されてあった。

 

「主人公大反省会って…何ともまあ気乗りしない事を…」

「だよねぇ…っていうかまず反省する前提って何なのさ?」

「うんうん…って、え?あれネプテューヌが用意したんじゃないの?」

「え、違うよ?」

 

ふるふると首を横に振って、私の言葉に否定を示すネプテューヌ。今までこの系統の看板(タイトルは大分違うけど)はネプテューヌが用意、或いはその指示を出してたらしいから今回もそうなのだろう、と思っていた私はその反応に少し驚く。じゃあ、誰なんだろう…と思ってネプテューヌと一緒に隣にいるコンパに目をやるけど、彼女もネプテューヌと同じ様に首を横に振る。

 

「…一応聞くけど、イリゼでもないんだよね?」

「いやそりゃそうでしょ、私若年性認知症とか患ってないし。……女神に若年性も何もあるのかは謎だけど」

「やっぱそうだよね…だったら、誰が……」

「そんなの、私達に決まってるでしょ?」

 

と、その声と共に扉が開かれ、声の主であるノワール及び女神を筆頭にパーティーメンバーがぞろぞろと入ってくる。

 

「…ノワール達が?私達の為に?」

「貴女達の為、というか私達の為よ。主人公二人が揃って駄目駄目だとこっちも困るし」

「うん、さらっとわたし達二人をdisったね…」

「因果応報よ。…しかしここに全員集まる事となると……」

「さ、流石に手狭ですね…」

 

家主を気にしたのか途中で切られた言葉を、家主であるコンパが続ける。前回パーティーメンバーがここに集まった時から更に人が増え、もうどう考えても定員オーバー状態だった。…前回同様コンパの名誉の為に補足しておくけど、これはコンパの借りてるアパートが狭い訳じゃないからね?十人以上が集まるとかもう一軒家のリビングでも狭さを感じるレベルだからね?

 

「まぁでも仕方ないよね、教会は崩れかけたままだからそこであたし達が集まる訳にもいかないし」

「あれでは修繕も一苦労であろうな…」

「人手が必要ならわたし達も手伝いたいけど…技術のないわたし達じゃむしろ邪魔だよね」

「まあ、教会の件については死者が出なかっただけマシと思った方が良いわ」

「うんうん、誰も死なずに済んだんだから結果オーライだよ」

 

そう、幸運な事に教会職員の死者は一人も出ていなかった。当然重傷者は結構いるし、何人かは生死の境を越えかけていたらしいけど、それでも現実として教会への攻撃及び教会の半壊による死者はゼロであり、その事実は私達…特にネプテューヌを安心させていた。

……が、反省する側(らしい)二人のうちの一人であるネプテューヌが話したせいか皆が趣旨を思い出し、反省会へと話が戻ってしまう。

 

「何が結果オーライよ。貴女達二人にはきっちり反省してもらうんだからね?」

「えーっと、あの…ネプテューヌはともかく私も?そりゃ、私は自分が非の打ち所がない女神だとは思ってないけど、ネプテューヌと同列にされる程反省しなきゃいけない点ある…?」

「今回反省してもらうのは普段の言動とは別ベクトル、という事ですわよ?『主人公』としての反省会ですもの」

「あ、そういう…ならまぁ大人しく従おうかな。拒否権無さそうだし」

「そっか、じゃあ頑張ってねイリゼ」

「いや一緒に頑張ろうかネプテューヌ…」

 

しれっと逃げようとするネプテューヌの服の袖を掴む私。だって主人公大反省会だもんね、普段主人公主人公言ってるネプテューヌは逃げるどころか率先して参加しなきゃ駄目な会だもんね。

 

「うぅ、わたし過去は振り返らない主義なのにぃ…」

「女神の中じゃねぷ子が一番振り返るべきだと思うにゅ」

「先に進む為に振り返る事が必要になる事もあるし、振り返る事もしようよネプテューヌさん…」

「そういうものなのかなぁ…まぁ、たまにはいっか…」

 

案の定唸るネプテューヌ。けど、意外な事に意外と早くネプテューヌは文句を言うのを止め、私と同様に素直に反省をする姿勢を見せる。…ネプテューヌ的に何か思うところがあったのかな?

 

「じゃ、大反省会始めるわよ。ネプテューヌとイリゼ、どっちからがいい?」

「イリゼがいいと思う!」

「ねぷ子あんた…そう言ってるけどイリゼは?」

「構わないよ?どっちが先でも然程変わらないし」

「分かったわ。それじゃ…イリゼの反省すべき点はこれよ!」

 

ババン!…という擬音が入りそうな感じの身振りでノワールが示した先には、『やたらと単独で無理し過ぎ』と書かれたホワイトボードがあった。……いつの間に用意したの、とかただでさえ手狭なのに何故少なからず場所取る物を…とか気になる所はあったけど、立場的に突っ込むのは自分の為になりそうにないので突っ込みたい気持ちを飲み込む私。

 

「と、言う訳で早速反省して下さいまし」

「あ、えと…いくつか腑に落ちない点があるんですけど…」

「…一応聞いてあげるわ」

「こほん…まず大前提としてさ、私そんなに無理してたっけ?」

 

勿論反省してほしい点があるなら極力反省するつもりだけど、思い当たる節がない事や納得の出来ない事まで反省しろと言われたら流石にそれは素直にうん、とは言えない。

そう思って異を唱えた私だったけど……

 

「無理してるわよね?」

「無理してますわ」

「無理してるわ」

「無理してるよねぇ」

「……マジですか…」

 

女神四人に速攻無理してたと言われてしまった。…ネタかな?と一瞬思ったけど、ネタっぽい雰囲気もない。

 

「ルウィーでの戦闘やギョウカイ墓場での時間稼ぎがその最たる例ですわ」

「さっきのマジェコンヌ強襲もそうよね」

「え…ちょ、ちょっと待ってよ、確かにそれ等は私が一人でハイリスクな事したけどさ、結構合理的な選択だったよね?それに時間稼ぎについては皆の了承受けてたじゃん!」

「取り敢えず、無理した事は認めるのね?」

「それは…まぁ認めるけどさ、それについて反省しろって言われるのは納得出来ないっていうか…そもそも、皆だって多かれ少なかれ似た様な事するよね?」

 

ノワール達の言う事自体はその通りだと思う。けど、同じく無理する事のある皆…特に女神の面子に言われる事ではないし、他に有効な案が無かったから選んだ訳で…少なくとも、私は間違ってるとは思ってない。

 

「確かにわたし達も時折無理はするわ。だけどそれは基本自国や国民の事が関係した時で、そう何度も何度も無理を重ねたりはしないわ」

「ぐっ…だったらネプテューヌは?ネプテューヌは私に負けず劣らずだよね?」

『(ネプテューヌ・ねぷねぷ・ねぷ子・ネプちゃん・ネプテューヌさん)は言っても無駄だから』

「…あー……」

「それはおかしくない!?イリゼの反応含めてそれは何か違うよね!?え、何皆実はわたしの事嫌いなの!?」

 

満場一致の返答によりその点については即座に納得する私。何だかネプテューヌがぎゃーぎゃー言っているけど今は私のターンなのでスルー。

 

「まぁ、じゃあそこについてはいいよ」

「良くないよ!?撤回を要求するよ!?」

「……で、さ…合理性についてはどうなの?ルウィーの時もさっきの戦闘も私がああいう手を取った結果勝利に繋がった訳だし、時間稼ぎに至っては誰かがせざるを得ない状況で、尚且つそれに最適だったのが私だった訳でしょ?違う?」

「…まぁ、合理性って観点ではイリゼちゃんの言う通り、かな」

 

私の言葉にマベちゃんが同意し、更に皆も同じ、或いは近い意見なのか頷いたり反論の無さそうな表情を浮かべる。……私の考えに納得してくれるのはありがたいけど、急にそれまでと反応が真逆になるとそれはそれで落ち着かないのは如何したものかな……。

 

「…合理性は大事。そこに反論はないわ、わたしもそう思うし戦いの場においてそれは重要な要素よ」

「それが分かってるなら、私に非は……」

「ですが、終わり良ければ全て良し、とはいきませんわよね?」

「……ベールがそれ言う…?」

「イリゼ、話逸らすのは駄目よ。…ベール様への突っ込みは分かるけど」

「ま、まぁベールの言う通り、貴女少し結果論で語ってないかしら?」

 

腕を組むノワールとベールに対し、私は言葉に詰まる。意識こそしていなかったものの、言われてみると確かに私の言葉の裏には『結果正解だったから良いじゃないか』という考えが含まれている様に思えた。そして私は結果が良ければ過程や動機がどうであっても構わない、なんて思想ではない。……これが痛いところを突かれる、って奴かな…。

 

「……じゃあ、さ…あそこで私は囮や時間稼ぎ役にならない方が良かったの?」

『それはない(わね・ですわ・わ)』

「そっか……はい?」

 

三人の言葉を聞き、多少違和感は残りながらも何とか納得してみよう……と、思いきや三人の口から出たのは私の予想とは全く逆の言葉。これには流石に私も拍子抜けしてしまう。

 

「…もしや私をからかってる?」

「そうじゃない、わたし達は真面目に言っているわ」

「真面目に言ってるなら尚更訳が分からないんだけど…」

「ま、今のやりとりだとそう思うのも仕方ないわね…私達が反省してほしいのは行動や選択じゃなくて考え方の方よ」

「……考え、方?」

 

言いたい事は分かる。行動や選択に至るためにはそれの根拠となる考えが必要だからね。…けど、こういう場合考え方も行動や選択と同列なんじゃ…?

 

「えぇ考え方。分かり易く言えば……それを選択された側の気持ちになってほしい、という事ですわ」

「…選択された側の気持ち……」

「そう、一見大変なのは一人無理する側の様に思えるし、実際大変なのは事実よ。…でも、ある意味でそれは無理をした人の犠牲の上に立っているとも言えるわ」

「……っ…それは…」

「無論、イリゼは死んでいないし少々恣意的な表現ではあるわ。…けど、その犠牲というものに近い思いをわたし達はする事になるの。……それに、単純に仲間が無理を続けると心配になるものなのよ」

「心配ってのは合理性に欠ける、感情の面での事だけど…私達の気持ちも分かってほしいのよ」

 

思ってもみなかった。私が一人で無理や無茶をする事で皆がどう思うのかを。そして私は気付く。合理性だからこそ、なまじ筋が通っていたからこそ、私に無理してほしくない、私の事が心配だという皆の感情からの言葉を封殺していたのだという事を。……まだ、私は友達や仲間ってものをちゃんと分かっていないのかもしれない。

 

「…ごめんね、皆」

「分かってくれれば良いのよ。それに、ベールやノワールはああ言ったけど、わたしは貴女が間違っていたとは思ってないし、感謝もしてるわ」

「ちょ、ブラン!?何貴女さらっと自分の株上げようとしてるのよ!?」

「そうですわ!…はっ、だからあの時貴女はイリゼに賛同気味の台詞を……ブラン、恐ろしい子!」

「ふっ…貴女達とは違うのよ、貴女達とは」

 

 

何だかよく分からない言い争いを始める、ノワール達女神三人。…何で私の中での株について争ってるんだろう、っていうか当初の目的忘れてないかなぁこの女神達は…。

 

「…すいませーん、私はどうすれば良いのでしょうかー…」

「あ…う、うん。とにかく今までとは別の視点でも周りの事を考える事よ、良い?」

「うん、以後気を付ける事にするよ」

「そうして下さいな。そしてわたくしが言った事は全て貴女を思っての事、というのも理解しておいてくれるとなお良いですわ」

「だから何で貴女達は自分の株上げようとしてるのよ!?だったら私も…優しい貴女ならちゃんと反省して今後に繋げてくれると信じてるわ」

「他人に指摘した直後に言うんだ…えーっと、三人共気持ちはよく伝わってるから安心して…」

 

私の中での株を上げてどうするつもりなんだろう…と思いつつもほっとくと面倒そうなのでそれっぽい事を言って三人を宥める。……これはひょっとしてハーレムルートのフラグかな?だとしたらこんな癖の強い面子を囲うのは身が持たない…もとい、私には勿体無い程のメンバーだし遠慮するけどね。

 

「さて、次はねぷ子の番だにゅ」

「ネプテューヌさんは…ノワール様達に色々言われそうだよね」

「反省すべき点を上げて言ったらキリがなさそうだものな」

「うぇぇ〜…どんどん気が滅入っちゃうしさっさと終わらせてね…」

「なら言い訳せず聞く事ですわね」

「きっちり反省しなさいよ。こほん、ネプテューヌの反省すべき点は……これよ!」

 

またもババン!という擬音が出てきそうな動作と共にノワールがホワイトボードを指し示す。…ノワールはそれ担当なのかな…。

それはともかく、指し示されたホワイトボード(ボードが回転するタイプらしく、指し示されるのと共に裏表が変わった)には『女神のくせに直情的だ』と書かれていた。…微妙にネタに走っちゃうこのパーティーメンバー、嫌いじゃないよ。

 

「直情的かぁ…うん、これは良くないね、反省するしかないよ!よーし反省!…はい反省したよ!もう終わりで良いよね!」

『駄目ですが?』

「ですよねー…」

 

私含む全員からの突っ込みを受けて引き下がるネプテューヌ。いやそりゃ駄目に決まってるでしょう…。

 

「これについては…説明するまでもないわね」

「うーん…わたしが直情的なのは認めるよ?けどわたしに理性的で冷静なんて似合うと思う?そんなのツンデレじゃないノワール、エセ上品じゃないベール、キレないブラン、いつでも性格良いイリゼみたいなものじゃ「誰がツンデレよ!」「エセ上品!?エセ上品と言いまして!?」「誰がキレ芸だ誰が!」「え、私時折性格悪いっけ!?」…ええっと…取り敢えず落ち着こうよ、わたしも今のは反省するからさ」

 

私含む四人でネプテューヌに問い詰める。対するネプテューヌは予想外だったのかタジタジな様子で私達を落ち着かせようとしてくる。全く、私が時折性格悪いなんて失礼しちゃうよね。たまーに酷い事言ったり思ったりしてた気もするけどさ。

 

「今のはねぷねぷが悪いと思うです…」

「すいませんでした…でもわたしの言いたい事は分かるでしょ?わたしと言えば自分の思いのままに!…ってキャラだし、職員のおにーさん達の反応を見る限り記憶を失う前のわたしもこんな感じだったんでしょ?だったらそこ反省するのは良いのかなぁ…」

「意外と考えているのね…ほんとにそう思ってる?」

「二割位思ってるよ?」

「八割言い訳って…まあ良いわ。だったら聞くけど…貴女真っ先にマジェコンヌとユニミテスの元へ向かったのが適切だったと思ってるの?」

「…………」

 

そうノワールが言った瞬間、いつものちゃらんぽらんな雰囲気だったネプテューヌの表情が変わる。

 

「それにマジェコンヌに力を明け渡した時もそうだったし、聞いた話じゃ自分の偽者との戦闘の時もそうだったんでしょ?」

「というか、貴女復活時に反省した様な事言ってましたわよね?あれは嘘でして?」

「……うぅん、やっぱそこ突かれちゃうかぁ…ま、そうだよねぇ…」

「…ネプテューヌ?」

「んー…個人的には柄じゃないし自己完結させようと思ってたけど、こうなったら言おうかな」

 

ネプテューヌらしくない、どこか思慮深さのある表情を浮かべている彼女に私達はぽかんとする。それこそネプテューヌのキャラでない反応をされたのだから仕方ない…というか、既に反省していたと…?

 

「…はっきり言うね、わたしも自分のそういう所にはちょっと反省してたんだ。今までは何とかなってきたけど、やっぱりわたしの向こう見ずな行動のせいで皆に迷惑かけてきちゃったと思うし、女神として直情的過ぎるのも良くないと思うんだ。わたし馬鹿だからさ、少し自分を顧みればすぐ分かる事なのに、ギリギリの所になるまで全然気付けなかった。…だから、ほんとに今までごめんね」

『…………』

「…でもさ、図々しいかもしれないけど、このままでいさせてくれないかな?勿論不味いと思った時には皆遠慮せず言ってくれて構わないし、言われたらわたしも良く考えて、改めて選択する様にするよ。だけどさっきも言ったけど、直情的…っていうか感情に素直なのがわたしだと思うし、わたし自身で言うのもアレだけど、こんなわたしだからこそやれる事、出来る事があると思うんだ。…だから、お願いします」

 

深々と頭を下げるネプテューヌ。そんなネプテューヌに私達は呆気に取られる。ネプテューヌがそんな深く考えていたなんて知らなかったし、そもそもネプテューヌがそんな事を考えるとも思っていなかった。普段考えそうにないネプテューヌが、普通の人なら考えない程深く考えていた事に私達は驚き……同時に、ネプテューヌがこの事をそれだけ真剣に考えていたのだとよく知った。

 

「ネプテューヌ…貴女……」

「……駄目、かな?」

 

少しだけ心配そうに聞くネプテューヌ。そんな彼女に、私達は…優しく、返す。

 

「…良いに決まってるでしょ。そこまで言われたら、駄目とは言えないわ」

「そうも考えていたのなら、わたくし達としては十分ですわ」

「嘘ではないかどうかの問題はあるけど…この様子なら、心配はなさそうね」

「私は、そんなネプテューヌを応援するよ」

「皆……うんっ!」

 

ぱぁぁ!と表情を明るくさせるネプテューヌとそれに微笑む私達。結果としては少し反省らしくはなかったけど…ネプテューヌの為にも、私達の為にもなったしだったらそれで良いよね。

 

「と、言う訳で反省会はお終いですわ。皆さんお疲れ様」

「偶にはこういう事も必要だと思うし、疲れてもいないから大丈夫だよぉ」

「んー…反省する側だったし私は少し疲れたかな。時間稼ぎからこっち、ちゃんと休む事も無かったし…」

「イストワール曰く、すぐにマジェコンヌが動くとは思えないらしいから、貴女はゆっくり休むと良いわ」

「あ、じゃあわたしも休もうかな〜」

「…ネプテューヌは休めないわよ?」

 

私に乗る様に言ったネプテューヌの言葉をノワールが即座に否定する。それにきょとんとするネプテューヌ、淡々と説明を始めるノワール。

 

「教会を始めとして色んな所が被害受けてるし、貴女は女神としては不在期間が特に長かったでしょ?それ等の処理やら挨拶回りやらでネプテューヌがゆっくり出来る訳ないじゃない」

「……拒否権は?」

「ついさっき不味いと思った時は遠慮せず言って、そうしたら改めて考える、って言ったのは誰かしら?」

「うっ……」

「まぁ、私達も女神としてそれぞれやる事あるし貴女も頑張りなさい」

「……はーい…」

 

とてもとても億劫そうな声音で返事をするネプテューヌに今度は苦笑をする私達。そうしてどこか気の抜けた…でも、私達にとってはきっとプラスとなった主人公大反省会は、幕引きとなったのだった……。




今回のパロディ解説

・「〜〜ブラン、恐ろしい子!」
ガラスの仮面の登場キャラ、月影千草の代表的な台詞のパロディ。かなり色々な所で使われる、パロディの代表例の一つみたいなものですし、知ってる方も多いと思います。

・「〜〜貴女達とは違うのよ、貴女達とは」
機動戦士ガンダムの敵キャラの一人、ランバ・ラルの名台詞の一つのパロディ。原作とは対照的に、きっと静かにこの台詞をブランは言っているのでしょうね。

・主人公のくせに直情的だ
ゲームである勇者のくせになまいきだ、のパロディ。しかしよく考えてみると直情的な主人公は多い気が…そう考えると、主人公としての反省点としては微妙ですね。


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第八十一話 両手に咲くは熾烈の華

わたしは今、かつて無い程の窮地に立たされていた。強大な敵が現れた?----違う、敵ならば倒すなり退けるなりすれば良いから、ある意味ではむしろ楽だったりする。なら、政治的な問題が起きた?----それも違う。確かにそれだったらわたし的に面倒だし厄介でもあるけど、なんだかんだで乗り切れちゃうのがわたしだからかつて無い程の窮地にはならない(といっても記憶飛んでるから、記憶にある政治経験なんて僅かだけどね)。

だったら、何がそこまでわたしを追い詰めているのか。それは……

 

「ネプテューヌ、私のプリンあげるよ。あーん」

「ほら、私のプリンあげるわネプテューヌ、あーん」

「え…っと、あの……」

『あーん!』

 

二人同時にわたしにプリンをくれる親切な友達……否、左右からプリンでもってわたしを追い詰める、双極の女神その人達だった--------。

 

 

 

 

プラネテューヌの街中での戦闘、そしてユニミテス討滅から一週間。ノワールの言う通り、あの後わたしを待っていたのは女神としての職務、公務の山だった。ありがたい事に書類仕事やわたし以外でも構わない仕事はいーすんや早速復帰してくれた職員のおにーさん達が手伝ってくれたけど、わたし直筆じゃないと不味い書類の作成とか企業の視察、それに今回の出来事の被害者のお見舞いとかは任せる訳にもいかなかったから、文字通りの働き詰めだった。しかもわたし女神だから労働基準法が適応されないらしいんだよ?月の残業が100時間超えてもお構いなし、しかもそもそも残業代なんか出ないんだよ?……まぁ、お見舞いだけはそこまで嫌じゃなかったけどね。入院中の職員のおにーさん達とゲームしたりもしたし。

と、いう訳で激動の一週間を何とか乗り切ったわたし。やっといーすんからお休みを貰えたわたしはさぁ皆と遊ぼう!…と意気込んでこんぱのアパートに来たんだけど……

 

「ブランとアイエフと少しやりたい事がある故席を外させてもらおう」

「ベール様とファルコムと一緒にネトゲの予定が…ごめんねネプテューヌさん」

「コンパさんのお買い物にブロッコリーちゃんと付き合うんだ、行ってくるね〜」

 

まるで示し合わせたかの様に次々と出ていく(ネトゲ組は…ネカフェかなぁ…)我がパーティーメンバー。対するわたしは色々予想外過ぎて「あ、え…う、うん…」みたいな、面白味も何にもない反応しか出来ずに廊下に立ち尽くす。……偶にわたし嫌われてる!?…みたいな事言うけどさ、まさかほんとにわたし嫌われてるとかじゃないよね…?七十六話でわたしが見た光はわたしの幻覚じゃないよね?

 

「……プリン、貰おっかな…」

 

何だか心の中に木枯らしが吹く様な感覚を味わいながらキッチンのあるリビングへと向かうわたし。パーティーメンバーは寂しい事言うけど…プリンは温かい〜……なんて、ね…。

 

「プリンさーん、君の虜のネプテューヌがやってきたよー…っと、あら?」

「あ、ネプテューヌ…お仕事は?」

「ネプテューヌ…貴女まさか仕事ほっぽり出してきたんじゃないでしょうね?」

「違うよ、お仕事はちゃんとやってきたって…」

 

リビングルームに入ったわたしが見つけたのはイリゼとノワールの姿。二人は何かを話していたのか、テーブルに湯呑みを置いて向かい合う形で座っていた。

 

「それはお疲れ様、もうゆっくり出来るの?」

「んー、まぁ取り敢えずはね。二人は何話してたの?格好良いおじ様の話?」

「私達は某同人ゲーム制作部のイラスト担当じゃないんだけど…女神の仕事の話よ。女神の普段の仕事について興味があるって言ってたから教えてあげてたのよ」

「げっ、仕事の話…?」

「うん。この時代に私の国はないけど、一応私も女神だからね」

「そ、そう……」

 

とんだ藪蛇だった。やっとの事でお仕事を終えてこんぱのアパートに来たのに、やっと始まった雑談の内容はまさかのお仕事の事だった。…というか、何でこの二人は休みにまでお仕事の事考えようなんて思えるのさ!真面目系キャラの座を盤石にでもしたいの!?

 

「…ネプテューヌも参加する?何ならしっかりレクチャーしてあげても良いわよ?」

「わ、わたしはプリン食べるからいいよ!お仕事の話はお二人でどうぞ!」

「言うと思った…冗談だから安心しなさい、第一もう話は終わりかけてたし」

「仕事で体力を持ってかれてるんだから止めてよ…さーてプリンプリン〜…って、あれ?」

 

明らかにわたしがお仕事を苦手にしているのを分かってて言ってるノワールに軽く弄られつつも、一先ず気を取り直して冷蔵庫前へと向かうわたし。そしてうきうき気分で冷蔵庫を開けたところで…わたしは手を止める。

こんぱの性格が現れている様な、清潔さのある冷蔵庫の中。……しかし、そこに…プリンの姿は、無かった--------。

 

「…あ、コンパは食材が切れたからって鉄拳ちゃんとブロッコリー連れて買い物に行ったし、プリンは無いと思うよ?」

「それは先に言ってよぉぉおぉぉぉぉ……」

 

期待を正面から撃ち壊す言葉を前に、膝から崩れ落ちるわたし。酷い、酷過ぎる…こんなのあんまりだよぉ……。

 

「やっと、やっと仕事を終わらせて皆と遊ぼうと思ったら皆出かけちゃうし…愛しのプリンはわたしを待ってくれてないし…うっ、うぅぅ……」

 

床に手をついた状態で嘆くわたし。あまりに残酷な現実にわたしの目からは大粒の涙…は流石に出なかったけど、普通に泣きたい気分だった。悲しみと、開けっ放しの冷蔵庫前から来る冷気でわたしは冷たくなっていく。

 

「…ネプテューヌ…あんなに休みを楽しみにしてたなんて……」

「まぁ…普段が普段だし、余程大変だったんでしょうね…」

「うーん……」

「はぁ……」

 

悲しみに打ちひしがれるわたしを他所に、何やらイリゼとノワールは話している。主人公オブ主人公、小さなお友達から大きなお友達まで幅広い人気を誇る、皆大好きネプテューヌさんがこんなに泣きたい気分でいるにも関わらず、和気藹々とガールズトークなんかしていた。そしてそれはわたしの心にクリティカルヒットだった。……うぅ…ほんのちょっぴり、二人なら慰めてくれると思ってたのに…二人とは本当に仲良い友達になれたと思ったのに…いいもん。だったらもうグレてやる--------

 

『…もう、仕方ない(なぁ・わね)…ネプテューヌ、私が一緒にプリン食べに行ってあげる(よ・わ)』

「……え?」

「……え?」

「……え?」

『…………え?』

 

その瞬間、わたし、イリゼ、ノワール…そして最後には三人同時の都合四連続「え?」が発生したのだった。

 

 

 

 

そして、今に至る。何故だか前門の虎、後門の狼にも似た威圧感のある今に、至る。

 

「あ…ノワール、私があげるからノワールはあげなくても大丈夫だよ?」

「いや、イリゼこそ無理にあげなくても良いのよ?ネプテューヌには私があげるから」

「いやいや、私があげるって」

「いやいやいや、私があげるわよ」

「……へぇ…」

「…ふぅん……」

 

プリンを載せたスプーンを片手に視線を交わらせるイリゼとノワール。一見すればいつも通りの二人。だけどそれなり以上に付き合いのあるわたしには分かる。二人の瞳の奥に灯る光は、明らかに戦闘時のそれだった。

 

「…ちょ、ちょっと良いかな二人共……」

『なぁに?ネプテューヌ』

「う、うん…わたし二人から貰う必要あるかな…?」

 

既に若干気圧されていながらも、何とかこの状況を変えようと声を上げるわたしに対し、二人は笑顔で同時に答えてくる。その笑顔が、わたしにとってはむしろ余計に怖かった。

ここで一つ閲覧者の皆の為に補足しておくと、まずわたし達は喫茶店に来てそれぞれプリンを…具体的に言うと、イリゼはチョコプリン、ノワールはカスタードプリン、そしてわたしはこの喫茶店で取り扱ってるプリン全種を楽しめるオールスタープリンとか言う奴を頼んでいた。…うん、大体の人は気付いたと思うけど、わざわざ二人から貰わなくてもわたしの所にチョコ味もカスタード味もあるんだよね、オールスタープリンだから。…なのに何でこの二人はこうもわたしにくれようとするのかな……。

 

「え?……あるよねぇ、ノワール?」

「えぇあるわ、ありまくりよ。だから…」

『あーん!』

「……おぉう…」

 

二人プリン載せスプーンを突きつけられるわたし。もうスプーンが凶器か何かにしか見えなかった。そしてこの二人は剣呑な雰囲気を出しているくせに妙に連携が取れていた。…って、そんな事はどうでもいいんだよどうでも!こ、こういう場合は多少非情だったとしてもどちらかを選ぶ方が良いよね…?

 

「よ…よーし!決めたッ!……チョコプリン、一口頂だ……」

「…え……?」

「あ…い、いややっぱカスタードプリンを……」

「……っ…!?」

「…やっぱり、何でもないです……」

 

がっくしと肩を落としながら引き下がるわたし。…だ、だってしょうがないじゃん!イリゼもノワールも選ばないと狼狽した様な顔した後凄くしゅんとした表情浮かべるんだよ!?わたしあんな顔されたら選べないよ!ちょ、昨今のヒロイン一人だけを選ぶ主人公さんに応援呼びたいレベル何ですけど!?

と、わたしが心の中で動揺している内に……

 

「ちょっとイリゼ、ネプテューヌが困ってるじゃない」

「そうだね、という訳でノワールは引いてくれない?」

「そうねぇ…私が引いても良いけど、ここはイリゼが引いた方が丸く収まるんじゃない?」

「そうかなぁ…私はノワールが引く方が適切だと思うよ?」

「…………」

「…………」

 

……うん、何でたった十数秒で輪をかけて剣呑になってるのかなぁ!ここにきて二人共犬猿の仲キャラにでもなるつもり!?…なんてわたしが心の中で突っ込みを入れても意味はなく、かといって口に出したら余計面倒な事になりかねない。もうほんとに厄介な状況だった。

くっ…だったらもうわたしの十八番、ボケ倒しで乗り切るしかないよ!

 

「しまった!プリンを食べる時の作法忘れてた!」

「いや今までそんな作法行ってなかったよね?」

「あ、録画したアニメ見ないと…」

「録画してあるなら急がなくたっていいじゃない」

「え…青蘭島に新たな異変が!?」

「コラボ第三弾のお知らせは出てないよネプテューヌ」

「実はわたし…プリン、嫌いなんだよね…」

「だったら貴女が注文したのは何なのよ」

「流石突っ込み担当二人だね!突っ込みの競合も起きない辺り手慣れたものだね!うわぁぁぁぁんっ!」

 

半ば叫びながらテーブルに突っ伏すわたし。突っ込みがあってこそボケが生きるのであり、わたしのボケについてきてくれる事は本当にありがたいんだけど、今回だけは着いてきてほしくなかったよ…。

……って、テーブル?……あ。

 

「…このテーブル大きめだしさ、わたしに食べさせようとすると結構腕疲れちゃうんじゃない?」

『……それは、確かに…』

「でしょでしょ?だから無理に食べさせ様としなくていいって!ね?」

 

怪我の功名…とは少し違うけど、とにかく突っ伏す事でテーブルのサイズを再認識した事で突破口を見つけるわたし。正直長時間腕を伸ばし続けでもしない限りそこまで疲れそうじゃないけど…ここは畳み掛けて勢いで何とかするのがベストだよね!

……と思って更に言葉を紡ぐわたしだったけど、それが裏目に出てしまう。

 

「やー残念だなぁ。二人がくれるなんて凄い嬉しいけど、二人を疲れさせちゃったら悪いもんね」

「…ほんとに?貰えたら嬉しい?」

「うんうん嬉しい嬉しい超嬉しい。だけどこの場じゃそうはいかないし仕方ないから諦め……」

「……だったら、こうすれば良いよね?」

「……あっ…」

 

すたっ、ぽてぽて、すたっ。イリゼが隣にやって来ました。そう、わたしが座ってるのは長ソファだったから普通に隣に座れるのです!…残念アピールし過ぎたぁぁぁぁ……。

そして何故か、わたしよりも先にノワールが反応する。

 

「い、イリゼ…何やってるのよ貴女!?」

「何って…何か駄目だった?」

「そ、それは…駄目ではないけど…」

「でしょ?ほら、ネプテューヌあーん」

「あ、いやその…」

「……っ!…ま、待ちなさいよイリゼ!だったら私は…こうよ!」

 

すたっ、しゅばっ、すたっ。ノワールが隣にやって来ま--------むにっ。隣に来たノワールがわたしの腕を引っ張り、二の腕に胸を当ててきました。

…………。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「ほ、ほら…あー、ん…」

「あーん、じゃないよ!?の、ノワール!?」

「ノワールこそ何考えてるの!?私の事言えないよそれ!」

「う、うっさい!同性だからセーフよ!悔しかったらイリゼもやれば良いじゃない!」

「い、いやだねノワールさん、そういう問題じゃ……い、イリゼ!?」

 

追記、イリゼも腕を引っ張り二の腕に胸を当ててきました。おおぅ、ファンタスティック…ってそうじゃなくて!

 

「何故ここでイリゼまでやるの!?な、何!?対抗心!?対抗心燃やしてるの!?」

「そんな事はどうでも良いの!ほらプリンだよプリン!」

「だからプリンは私があげるって言ってるでしょ!ね、こっち向いてネプテューヌ!」

「いやいやいやいや!落ち着こうよ二人共!最早ボケの域超えて普通に頭おかしいよ!?」

 

左右からの圧力(物理的なのも含めてね)にテンパるわたし。もうプリンとかそういうレベルじゃなかった。

……と、突っ込みしつつ冷静になろうとしたのがむしろ不味かった。なまじ状況を整理しようとしたせいで、わたしの両腕から頭へと、2×2の甘い魅力が伝わってくる。

ノワールは主張し過ぎず、でも人並み以上に出るとこは出ている、文字通りの優等生スタイル。わたしの腕は細い事もあって、ノワールの柔らかく温かな両胸に完全に挟まれてしまっている。わたしは何だかドギマギし始める。

イリゼはノワールより少し小さい、でも決して貧相ではない、正に無駄も不足もないスタイル。わたしの腕は細い事もあって、イリゼのハリと弾力のある両胸が完全にフィットしてしまった。わたしは頬が熱くなるのを感じる。

なんかもう…いっぱいいっぱいだった。普段わたしはそういう事をあんまり気にしないタイプだから忘れがちだけど、二人は(というか驚く事にパーティー全員が)結構な美少女だったりする事も相まって、わたしの頭は状況に対処する事を忘れ、「あ、そういえば前にも似た様な事あったなぁ」とか「もしや二人が食べてほしいのはそういうプリンなのかなぁ?」とか自分でも理解に苦しむ思考をし始める。そして極め付けは……

 

「…お願い、私のプリン…食べて…?」

「私のプリンじゃ…嫌…?」

 

やはり恥ずかしさは感じているのか頬を染め、常識がある分わたしや周りが気になるのか声が上擦り、わたしとは違う意味でいっぱいいっぱいになってるのか目に涙を浮かべているイリゼとノワール。その様子は二人に気のある人が…否、どこの誰が見ても『相手を切に求める、恋する乙女』にしか見えなかった。

流石にもう、わたしも抑えが効かなくなる。

 

「ふ…ふふふ……」

「…ネプテューヌ……?」

「いいよ、貰ってあげる…あーんっ!」

「え…りょ、両方同時…?」

 

口を大きく開けて、チョコプリンもカスタードプリンもいっぺんに口にするわたし。そんなわたしの行動に二人は目を丸くしたけど、もう関係ない。同性なのに抑え効かなくなるのってどうなのさとか、それ相対的に自分のスタイルが悲しくならない?とかの思考が介在する余地もなく、わたしは二人とは別軸で暴走し始める。

 

「ね、一口だけ?もうくれないの?」

「え…う、ううん。ネプテューヌが欲しいならもっとあげるよ?」

「やったぁ!じゃあノワールは?ノワールもくれる?」

「そ、そりゃ勿論よ。あげるに決まってるじゃない」

「わーい!あ、じゃあさじゃあさ、わたしのオールスタープリンも二人に食べさせてほしいな。二人でわたしに食べさせてっ」

 

自分の両腕を身体の方へ引っ張る事で、イリゼとノワールをわたしに密着させる。突然のわたしの行動に、目を白黒させつつも一層頬を染めるイリゼとノワール。その二人の反応が、理性の機能不全状態に陥っているわたしを更に刺激してわたしの暴走を加速させる。

 

「ふ、二人で…?」

「…ど、どうするイリゼ…?」

「…こう言われたら、二人で交互にあげるしかない…よね…?」

「そ、そうね…分かったわ、ネプテューヌ…」

「ほんと?わぁい!二人共大好きっ!」

『……っ!』

 

こうしてわたし達は、三人で注文したプリン全部がなくなるまで端から見れば緩くない百合バカップル三人組そのものという、完全にカオスな時間を過ごしたのだった……。

……因みに、プリンを食べ終わった後に冷静になったわたし達は、自主的にお店とその時いたお客さん達に頭を下げた。女神三人が一般人に揃って謝るという、ある意味では冷静になる前以上にカオスな状況が生まれていたりもした。

 

 

 

 

「何やってるのかしらね、私達は…」

 

喫茶店からコンパのアパートへと戻ってから十数分後、プリンでお腹がいっぱいになってぐてーっとしているネプテューヌに気付かれない様に私とノワールは外の空き地へと出ていた。……数十分前までやってた事がやってた事だけに、ちょっと気まずい…。

 

「返す言葉もないよ…冷静さを見失う、って怖いね…」

「ほんとそうね…でも、まさか貴女がそこまで行動的だったとは思わなかったわ」

「ノワールこそ女神化してるのかって思う程大胆だったじゃん。…いや、ひょっとしたら女神化時以上かも…」

「…それを否定しきれないのが心にグサっとくるわね……」

『……はぁ…』

 

大きな、大きなため息を二人で吐く。心にもない事をしてしまった…という訳ではないけど、今日は色々とアレ…そう、アレだった。…具体的に言うのは辛いんで、勘弁して下さい……。

そして数十秒の沈黙の後、ノワールがぽつりと言う。

 

「…ねぇイリゼ。確かに今日は雰囲気とか勢いとか対抗心とか、色々加速させる要因はあったけど…それだけじゃ、あそこまではならないわよね」

「…そうだね。それに、そもそもの話として加速させる要素が生まれる為の『きっかけ』は確実にあると思うよ」

「……じゃあ、聞かせて頂戴。イリゼ、貴女は……ネプテューヌを、どう思ってるの?」

 

静かに、でもはっきりと聞こえる声でノワールが言う。二人で外に出た時点でこういう話になる様な気はしていたし、ノワールが言わなければ私が言っていたかもしれない。

ネプテューヌをどう思っているか。質問としてはかなり漠然としているけど…ノワールの質問の真意は、私には伝わっている。だからこそ…私は、偽りのない本心を口にする。

 

「…よく、分からないの。大事な友達だと思ってるし、大切な仲間でもある。…でも、それだけじゃない。きっと私にとってはそれ以上の存在。……だけど、それが一体何なのかは…正直、自分でも分からない」

「そう…ごめんなさいね、変な事訊いて」

「いいよ別に。それに…ノワールも同じ気持ちでしょ?」

「……今の貴女には、嘘も誤魔化しも効きそうにないわね。イリゼにだけ言わせるのもアンフェアだし…そうよ。確証はないけど、きっと私の抱いてる気持ちはイリゼと同じだわ」

 

ノワールの回答を聞いた瞬間、私は不思議な気持ちだった。少しだけ胸の苦しくなる様な、でも心がすっきりする様な、不思議な気持ち。ただ一つ言える事は…お互いに、この気持ちは知って良かった、という思い。

 

「…私もノワールも、今後も色々と苦労しそうだね」

「同感よ。全く…ネプテューヌには振り回されるって分かってるのに、どうしてこう想っちゃうのかしら」

「ふふっ、そう想わせるのがネプテューヌ何だよ、きっと」

「…それも同感、ね」

 

いつか私達は、この想いのせいで衝突する事になるかもしれない。でも、だからってこの気持ちを捨てる気になんてなれないし、もしかしたら私もノワールも納得出来る形になれるかもしれない。だから、私達は今まで通り、友達であり仲間であるイリゼとノワールでいたいと思う。

 

「これからも、宜しくねノワール」

「えぇ、こっちこそ宜しく頼むわイリゼ」

 

そうして私達は苦笑交じりの微笑みを浮かべて、固い握手を交わした。




今回のパロディ解説

・パーティーメンバーは寂しい事言うけど…プリンは温かい〜
ニトリNウォームのCMのパロディ。小説アニメ漫画にドラマ、二次三次と色々パロディをしてきた訳ですが、CMのパロディというのは我ながら中々斬新ではないでしょうか?

・某同人ゲーム制作部のイラスト担当
ステラのまほうの主人公、本田珠輝の事。年上好きキャラというのは結構いますが、彼女の様におじ様(しかもかなり渋い)が好きなキャラはかなり珍しいですよね。

・青蘭島
アンジュ・ヴィエルジュシリーズに登場する島の名前の事。メディアミックスの一つであるアプリ版でコラボしていましたし、ネタではなく本当に知っているのかも…?

・緩くない百合
ゆるゆりシリーズのパロディ。ゆるゆりは実際日常ものですが、本作はギャグ戦闘パロディetc…もの(?)なので、実際は色々違いますね、まぁ当然ですが。


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第八十二話 誕生、女神候補生

夜。多かれ少なかれ、どの国どの地域でも、日中よりも静かとなる時間帯。多くの人が休息を取り、その日の疲れを癒すのと同時に次の日への英気を養うひととき。そんな夜に--------

 

『えぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇっ!!?』

 

----全く異なる三つの場所で、三つの絶叫が…同時に響いた。

 

 

 

 

「えと…貴女が、わたしのお姉ちゃん…ですか?」

 

ユニミテスを討伐し、山の様な仕事を片付け、イリゼとノワールとのトンデモデート(…デート?…まあいいや)を終えてから更に数日。残念ながら毎日の様にくるお仕事をサボったり誤魔化したり嫌々やったりする日々をこなしていた夜に、それは…否、その娘は現れた。

 

「ねぷっ!?い、いーすんいきなり女の子が現れたよ!?この可愛い娘誰!?もしかして新キャラ!?」

 

いーすんに連れられて入った教会のシェアクリスタルの間。そこに現れたのが、わたしと似た色のちょっと跳ねたロングヘアーとわたしと似た色の瞳を持つ、わたしと似た容姿の女の子だった。……え?シェアクリスタルの間って何だって?アニメ版で出てきたあれだよ?…何、それじゃ分からない?非視聴者にも配慮してくれ?もー、しょうがないなぁ…こほん。

教会にはシェアクリスタルの間と呼ばれる部屋がある。その名の通り中央にシェアクリスタルが鎮座している場所であり、そのシェアクリスタルは女神が国民から得たシェアエナジーを貯蔵し、女神へと配給する、謂わば中継地点の役目を果たしているものだった(女神が精製するシェアクリスタルは単なるシェアエナジーの結晶体であり、教会のものとは別。…というのはいーすん談)。…因みに教会のシェアクリスタルはシェアエナジーによる加護を纏っている為、ユニミテスの攻撃による崩壊を逃れる事が出来たらしい(これもいーすん談)。

…こんなんでどーかな?これでも分からなかったら作者さんにでも聞いてね、ねぷねぷとの約束だよ?

 

「…ぽけー……」

「あのー…ネプテューヌさん?(・_・;」

「……あ、ごめんねいーすん。ちょっと閲覧者さんとお話してたもんで…」

「そ、そうですか…ネプテューヌさん。彼女の名前はネプギアさんといって、ネプテューヌさんの妹になります(・ω・)」

「初めまして。わたし、ネプギア、って言います。…えと、宜しくお願いします」

「へぇ、わたしの妹なんだぁ…」

 

いーすんに紹介される形で女の子…ええと、ネプギアちゃん?…がわたしに自己紹介をしてくる。この娘わたしの妹だったんだね。…という事はわたしはお姉ちゃんだったのかな?やったねねぷちゃん、家族が増えたよ!…って、これはちょっと雰囲気に合わないかー……って、

 

「えぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

わたしは超弩級クラスの絶叫を響かせる。いーすんもネプギアちゃんもわたしの絶叫にびっくりしてるけど、今のわたしに二人を気遣う余裕はない。

 

「ど、どうしよういーすん!わたしに妹がいたんだよ!?衝撃の事実発覚だよ!?」

「落ち着いて下さいネプテューヌさん、わたしが伝えたんですからわたしは知ってて当然です(ー ー;)」

「あ…そ、そっか…で、どういう事なの…?」

「はい。実は、シェアの力により新たな女神が誕生したんです(´・ω・`)」

「…えっと、もうちょっと説明してもらえる…?」

「では…まず、女神とはどの様な形で生まれるか覚えていますか?…あ、イリゼさんは例外として考えて下さいね?( ̄^ ̄)」

「女神?んーと…沢山の人に望まれる、だっけ?」

 

何となく聞いた事があるなぁ…と思いながらわたしはいーすんの質問に答える。シェアは奇跡、シェアエナジーはその奇跡がエネルギー体となったもの、そして女神はその体現者…だったかな?

 

「その通りです。先の戦いでネプテューヌさんは女神として生まれ変わった訳ですが、シェアの力はそれだけでは留まらなかったんです(`・ω・´)」

「じゃあ、その時のシェアによってネプギアちゃんが生まれたって事?」

「いえ、勿論その時のシェアも関わっていますが、一番はむしろその後ですね( ̄ー ̄ )」

「その後…?」

「…ネプテューヌさんの他にも、こんな女神がプラネテューヌにいてほしい。それが、ネプギアさんが生まれた最大の思いです(・ω・)」

 

いーすんの難しい言葉に、わたしはきょとんと…は、流石にしなかった。いや、わたしだってこの位分かるよ?だって変だもんね、ユニミテスとの戦いの時はまだネプギアちゃんが存在してないんだから、その段階で生まれる訳ないもん。どこかの段階でそれこそ『わたし以外にも女神がほしい』って望まれなきゃだよね。……ん?…あれ、これってまさか…

 

「…もしや、わたしクビ!?わたし皆に要らない子認定されちゃったの!?」

「あぁいえ、そういう事ではありませんよ?ネプギアさんはネプテューヌさんの代わりではなく、ネプテューヌさんの家族や仲間として望まれた、女神『候補生』ですからd( ̄  ̄)」

「え…そうなの?」

「そうですよ。これは恐らく、ネプテューヌさんが女神の皆さんと力を合わせて戦った事が国民の願いに影響したんだと思います( ̄∀ ̄)」

「そうなんだ…良かったぁ、ちょっと冷や汗かいちゃったよもー」

 

ほっと胸を撫で下ろすわたし。ユニミテス戦から今に至るまでの流れでわたしクビだったら流石に立ち直れないからね。

 

「あ、あの…わたし、まだ生まれたばかりで何も分からないんですけど、精一杯頑張るので宜しくお願いします」

「うん!勿論だよ!…いやぁ、わたしもとうとうお姉ちゃんかぁ。照れるなぁ」

 

ぺこりと頭を下げるネプギアちゃんを安心させる様に胸を張るわたし。まさかわたしがお姉ちゃんになるなんて思ってもいなかったから、これはまさに瓢箪から駒だよ。ふふん、今のわたしに姉キャラも追加されるなんて朗報だよね。

 

「……しかし、ネプテューヌさんよりネプギアさんの方がお姉さんみたいですね(。-∀-)」

「え…ちょ、酷くない!?確かにわたしより背も高いしぱっと見しっかりしてそうだけど、本人の前で言う!?」

「すいません、つい口に出てしまって…(¬_¬)」

「ついなの!?がーん!」

「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。わたしはお姉ちゃんの事、お姉ちゃんだって思ってるから!」

「うぅ、ネプギアぁ……って、これじゃほんとにわたしの方が妹みたいじゃん!」

 

何だかノリ突っ込みみたいな事をしてしまうわたし。いーすんはそれを苦笑いしていた。あ、危ない…危うく会って数分で姉妹の関係性が逆になるところだったよ…むむ、恐るべしネプギアちゃん…!

 

「…お姉ちゃんとしてやっていけそうですか?(⌒-⌒; )」

「うっ…だ、大丈夫!正直わたしも今はアレな気がするけど…これからお姉ちゃんらしくなるもん!」

「その意気ですよネプテューヌさん。では、ネプギアさんの事を宜しくお願いしますね( ̄^ ̄)ゞ」

「はーい。それじゃネプギアちゃん!いや、ネプギア!」

「え、な、何お姉ちゃん…?」

 

ネプギアの肩をがしっと掴むわたしと、それに驚くネプギア。うーん…こうして見ると、やっぱり生まれたばかりなだけあって自信とか、わたしの妹らしさとかが薄いね。そういう所も色々わたしが頑張らなきゃかな?

 

「えとね、わたしもお姉ちゃんになったばかりだし、記憶喪失だからネプギアのお姉ちゃんをちゃんとやれるか不安だけどさ、わたしも頑張るよ!だから一緒に頑張ろうね、ネプギア!」

「お姉ちゃん……うんっ!」

 

ぎゅっと手を握り合うわたしとネプギア。

これが、わたしとネプギアの出会いだったんだ。

 

 

 

 

「あ、あの…初めまして。アタシ、ユニって言います」

 

ある夜、趣味のコスプレ衣装製さ…もとい、服の仕立てをしている途中にケイに呼ばれた私。彼女がどうでもいい事で私を呼ぶ様な事はないと知っていた私は素直に着いて行き…その先、シェアクリスタルの間で彼女に出会ったわ。

 

「私はノワール。ラステイションの女神よ…って、そんな事言わなくても知ってるわよね。…で、ケイ。この子は一体誰なの?迷子?」

「いいや、ユニは君の妹さ」

「へぇ、私の妹…とうとう私もお姉ちゃんかぁ…って、えぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

私はユニに自己紹介を返した後、ケイの言葉を飲み込……めずに、思いっきり絶叫した。余裕も威厳もへったくれもない、女神らしからぬ絶叫。…し、仕方ないじゃない、女神だって驚く時は驚くのよ。…人間だもの。

 

「ノワール…気持ちは分かるが、一度落ち着いてくれるかい?」

「い、言われなくても分かってるわ…ていうか、何で貴女は驚いてないのよ…」

「僕は君程一つの事柄で一喜一憂したりしない、というだけさ」

「……ねぇユニ、私が来るまでで何かケイが変じゃなかった?」

「え?…あ、そう言えばお姉ちゃんを呼びに行く時に、確か何もない所で転んでたよ…?」

「……へぇ…」

「…悪かった。謝るからその嘲笑する様な表情は止めてくれ……」

 

ユニに暴露され、私が「一つの事柄で一喜一憂しないってのは一体誰の事なのかしらねぇ?」みたいな表情を浮かべると、ケイは恥ずかしそうに顔を背ける。やはりケイも実際には驚いているらしかった。…恥ずかしそうにするケイは中々悪くないわね、今はそれよりユニの方が気になるから追求はしないけど。

 

「はいはい。それでケイ、これはどういう事?幾ら何でもこの状況で察しろ、なんて言われても無理よ?」

「分かってる。…けど、正直僕もきちんと説明出来るか怪しいものだよ、何せ僕もつい先程イストワールに聞いたばかりだからね」

「それでも構わないわ、貴女の理解してる範囲で教えて頂戴」

「あぁ、まず彼女…ユニは正真正銘、ノワールの妹だ」

 

そう言ってケイは説明を始める。彼女が何者なのか、どうやって生まれたのか、今はどういう状態なのか。それ等はどれも私にとっては驚きで、話を聞くだけで結構疲れたわ。……あ、説明の内容はプラネテューヌ編と似た様なものよ?細かい違いはあるけど、基本は同じ経緯で生まれたんだからね。

 

「--------と、いう訳さ。もう少し詳しく知りたければイストワールに聞いてくれ」

「了解よ。…しかし、この娘が私の妹ね…」

「え、えと…うん……」

「…うん、私の妹なだけあって将来有望そうな見た目してるわ」

「……君も相変わらずだね」

 

私より少し背が低く、髪型もツーサイドアップだからそっくりそのまま私、って感じはしないけれど、確かにユニは私の妹らしい見た目をしていた。……私の言葉をケイが冷ややかに受け止めていたけど…まぁケイは元々斜に構える傾向があるし、これもその一つよね。

 

「……いいわ、私が一人前の女神にしっかりと育ててあげるわ」

「ほ、ほんと?じゃあ…」

「いい?私は妹だからって甘やかしたりはしないから、覚悟してなさいよ?」

「え、えと…あの…その…」

「…ノワール、何をしているんだ君は…ユニはまだ生まれたばかりなのに、いきなり怖がらせてどうするつもりなんだい?」

「え?……あ…」

 

ケイに指摘され、そしてユニの顔を見て…気付く。私の態度は自主的に弟子になる事を望んだ、それなりの歳の人間にするべきものであり、どう考えても生まれたばかりでまだ何も分からない少女にするべきものではなかった。…これはユニの教育をする前に、私自身の勉強が必要そうね……。

 

「ア、アタシ……」

「ごめんなさい、ユニ。ちょっと驚かせちゃったわね。今のはあくまで仕事の上での話だから安心して。普段は優しく面倒みてあげるから、遠慮なく甘えてきなさい」

「…うん!宜しく、お姉ちゃん」

「宜しくね、ユニ。きっと私は貴女にとって誇れる様なお姉ちゃんになれるから、期待してなさいよ?」

 

私が表情を緩めてユニの頭を軽く撫でると、彼女は嬉しそうに頷いてくる。……因みに、

 

「…はぅ……」

「お、お姉ちゃん…?」

「くっ…私の妹がこんなに可愛い訳が…あるわね!」

「お姉ちゃん!?」

 

不覚にもそんなユニの様子に軽く萌えてしまったのは、この場にいた三人の秘密だったりする。

これが、私とユニの出会いだったの。

 

 

 

 

「いっえーい!大当たりー!」

「痛そう……」

 

ある日の夜。書庫でどの本を読もうかとうろうろしているわたしを呼んだのはミナ。今日の仕事はもう終えたし、渋々ながら部屋で山を作っていた本はきちんと片付けたのだから、呼ばれる事柄なんてあったかしら…と思いながら彼女に着いてシェアクリスタルの間に入ったわたしは……本をぶつけられた。

 

「痛ぁ!?…おいミナ、これはまさかお前の仕業か…?」

「ち、違いますよブラン様!それにラム様も本を投げてはいけません!本は読む物ですからね?」

「…子供?」

 

本をぶつけられた瞬間は気付かなかったけど、シェアクリスタルの間にはぱっと見同一人物に見える二人の少女がいた。快活そうな方の子はストレートのロングヘアー、大人しそうな方の子はショートヘアーという違いはあるものの、その点がなければ判別が難しそうであった。

 

「すいません、ブラン様。ラム様がご迷惑をおかけしてしまって…」

「……別に。子供のする事だから、今回は我慢してあげる」

 

申し訳なさそうに謝るミナに対し、わたしは落ち着いて答える。ミナがわざわざ謝るなんて…教祖としては申し分ないけど、それなり以上の立場なんだからもう少し堂々としても良いのに…。……許す前の間は何だ、って?そんなの上記の事を考えていたに決まってるでしょう?怒りを鎮めるまでに時間がかかったとかではないわ。えぇ、断じて違うわ。

 

「…それで、この娘達は何?わたしを呼んだのもこの娘達が関係しているの?」

「はい。彼女達は、ロム様とラム様。ブラン様の妹です」

「…………」

「…あの、ブラン様?」

「ちょっと待って、わたしに妹がいたか思い出すから…」

 

顎に指を当てて記憶を探るわたし。妹である以上、姉に該当する(らしい)わたしが知らない可能性は極めて低いし、こんな重要な事を忘れる筈がない。…わたしがネプテューヌと同様に記憶喪失だった場合は別だけど。

 

「あ、いえ。元々いたのではなく生まれたばかりなんです」

「そうなの?…じゃあ、わたしが思い出せないのは……」

「ええ、当然の事ですよ」

「なら良かったわ。…………。……えぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

安心してからおよそ十秒。淡々と沈黙を貫くわたしをミナとロム、ラムの三人が不思議そうにわたしの顔を見つめだした辺りでわたしは絶叫した。人間あまりにも驚くと反応がやけに遅れるものなのね。わたしは女神だけど。

 

『ひぃっ!?』

「い、いやまてちょっと待て。流石にそれは意味が分からねぇよ、どういう事だミナ」

「は、はい。イストワールさんに受けた説明をしますから落ち着いて下さいブラン様。お二人が怯えてます…」

「……そ、そうね、落ち着くよう努力するわ…」

 

落ち着け、というのは些か無理のある話だけど、説明の最中ずっと二人を怯えさせるのは忍びないし説明に支障が出かねない。と、言う事で深呼吸をした後ミナの説明を聞くわたし。……あぁ、当然説明の描写はないわ。だって、プラネテューヌ編でやったものと同じ様な説明されても退屈なだけでしょう?まぁ、ゲームにおける二週目の会話スキップシステムみたいなものよ。それか、キング・クリムゾン的なものと捉えてもらっても構わないわ。

 

「…以上が私の聞いた説明です。お分かり頂けましたか?」

「えぇ、大丈夫よ。…けど、どうして双子なのかしら…」

「それは私も分かりません。国民の皆さんが双子を望んだのか、何かシェアに異常があったのか、それとも単なる偶然か…」

「…一応訊くけど、貴女達は何か知ってる?」

「ううん…知らない…」

「分かんなーい」

 

案の定、二人から納得のいく回答は返ってこない。…まぁ、わたしよりも幼い見た目でしっかりした回答されたらそれはそれで戸惑うし、ある意味安心ね。

 

「こほん。ともあれ、彼女達がブラン様の妹なのは変わりませんし、見ての通りまだまだ子供ですが、可愛がってあげて下さい」

「勿論よ。女神として、姉としてちゃんと世話してあげるわ」

「はい。ですが、甘やかしてはいけませんよ?教育は始めが肝心ですから」

 

ミナの言葉に頷くわたし。元々の雰囲気もあって、ミナの言葉はまるで母親の様であった。…別にミナが老けているとかではないわ、勘違いしないで頂戴。

 

「…ところで、一つ質問良いかしら?」

「…しつもん……?」

「そうよ。ロムとラム、一体どっちが姉なの?やっぱりラム?」

「ううん、わたしじゃなくてロムちゃんがおねえちゃんよ?」

「そうなの?…意外だわ…」

 

わたしの予想に反して、大人しそうなロムが姉で快活なラムが妹らしかった。…姉が元気で妹が静か、というのが定番の様に思っていたけど、世の中そういう関係ばかりではない、という事ね。……姉なんだから、この二人を間違えない様にしないと…。

 

「さてロム様ラム様、お姉さんにきちんと挨拶してはどうですか?」

「挨拶、ね…二人の事は取り敢えず分かったし、その必要は……」

「あいさつ…よ、よろしく…おねえちゃん…!」

「よろしくね、おねえちゃん!」

「こちらこそ宜しくね、ロム、ラム。…そうだ、お菓子食べたい?ほしいなら沢山用意して…」

「ブラン様……」

 

どうやらわたしは気を付けないとロムとラムを甘やかしかねない様だった。…ち、小さい子が目をキラキラさせながら挨拶してきたら甘やかしても仕方ないじゃない……と、言いたい所だけどそれで正当化したら二人の為にならないし、気を付けないと……。

 

「こ、こほん…これから貴女達には女神の事、ルウィーの事、そしてわたしや皆の事をいっぱい教えてあげるわ。…これから姉妹として、仲良くしましょ。ロム、ラム」

「うん…っ!」

「うんっ!」

 

わたしの側に寄ってきたロムとラムを軽く抱き締めると、二人はぱぁぁと顔を輝かせて笑顔を浮かべる。それにつられて微笑むわたし。

これが、わたしとロム、ラムとの出会いだったわ。

 

 

 

 

こうして生まれた四人の女神。まだ何も知らない、幼き四人の女神。そんな彼女達がただ守られるだけの妹から、姉達と共に戦う仲間へと成長するのは--------もう少し、先の話である。




今回のパロディ解説

・やったねねぷちゃん!家族が増えるよ
コロちゃんに登場するキャラ、たえちゃんの台詞のパロディ。ネプテューヌも地の文で言っていますが、この台詞はかなり鬱な展開での言葉なので使い方が真逆ですね。

・「〜〜私の妹がこんなに可愛い訳が〜〜」
俺の妹がこんなに可愛い訳がない、のパロディ。ノワールがこんな事言うのか?…とも思いますが、まぁ彼女も時々ぶっ飛んだ事言いますし、きっとあり得ます。

・キング・クリムゾン
ジョジョの奇妙な冒険第5部に登場する、黒幕ディアボロのスタンドの事。…別に作中でそんな大層な事が起きた訳ではなく、単に描写していないだけですからね?


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第八十三話 新たな関係、狂化の汚染

「えと…わたしはネプギア、です…宜しくお願いします…」

「アタシはユニって言います。…こ、これからお世話になります…」

「わたし、ロム…えっと…がんばる…?」

「わたしはラムよ、ちゃんとおぼえてよね!」

 

ぺこりと頭を下げる四人の少女。自己紹介を受けてぱちぱちと拍手をする私達。プラネテューヌ、ラステイション、そしてルウィーで彼女達が生まれたその日から数日後に、ここリーンボックスでパーティー全体での挨拶がなされる事となった。そして、これは同時に彼女達…女神候補生が互いに会う初めての機会でもあった。

 

「ネプギアに、ユニに、ロムちゃんにラムちゃん…うん、こちらこそこれから宜しくね」

「皆お姉さん達に似てるですぅ」

「女神候補生…って事は、ねぷ子達と同列じゃないものの女神って訳ね」

 

生まれたばかりの女神の妹、という要素は当然私達の興味を引き、すぐにまるで転校生の周りに集まる同級生の如くネプギア達の周囲に集まる。……が、まだどの事にも慣れないネプギア達にそれは少々刺激が強過ぎたのか怯えてしまい、それぞれの姉に注意される形で即座に私達は離れる事になる。…何だか皆で浜辺の波の物真似をしたかの様な感じになっていた。

 

「もー皆大人なんだからちょっとは落ち着こうよ」

「そうそう、ユニ達がびっくりしちゃったじゃない」

「ロムとラムは特に小さいんだから皆も気を付けて頂戴」

 

妹達の前に立つ様にして腕を組むネプテューヌ、ノワール、ブラン。この三人は早速お姉ちゃんをしていた。…約一名、妹より色んな意味でちっこい姉がいたけどそれは触れないでおく。

 

「女神候補生、か…」

「うん?サイバーコネクトツーどうかしたの?」

「あぁうん、わたし達が前揃ってた次元でも候補生さん達には会ってたんだ」

「…という事は、候補生もこの次元だけにしかいない存在って訳じゃないの?」

「そうなると思うよぉ」

「まぁ、私達が揃ってた次元と言っても、途中で一度次元移動があったのだがな」

 

私の質問に答えた事を皮切りに、別次元トークに花を咲かせ始める別次元組。彼女達の話を聞く限りでは、候補生がいる次元といない次元があり、いる次元もここも同じ生まれ方ではないパターンがあるらしかった。…まぁ、世の中選択の連続だし、その選択の積み重ねが結果な以上、同じ様な次元は多くても全く同一な次元なんて普通に考えばあり得ないよね。……普通に考えたらそもそも別次元なんて存在しないだろう、とかいう夢のない意見は無しだよ?

 

「…ものの数分で話題がわたし達の妹から離れたわね」

「むぅ、せっかくのネプギアの紹介会なのに…ネプギアももっと自らアピールしてかなきゃ駄目だよ」

「えぇ!?で、でもわたしまだ皆さんの事あんまり知らないし…」

「だからこそ積極的に動くんだよ!ボケが攻め、突っ込みが守りと言われる某学園と同じでこのパーティーもボケまくればすぐ皆の中心になれるんだから!」

「いやネプテューヌみたいなのが二人になるとこっちが困るから変な教育するのは止めて頂戴…」

「…お姉ちゃんの言う通りのキャラなんだ、ネプテューヌさんって……」

 

更にパーティーメンバーが増えた(…ネプテューヌ達はネプギア達を今後の旅や戦いに参加させるつもりあるのかな?)事でいよいよもって大所帯となり、あっちこっちで話が展開する状況となる。異次元組でもなければ姉組でもない私は若干所在ない気分になってしまったので、一先ず同じ立ち位置であるコンパとアイエフの隣にでも行こう…と、思っているところで気付く。とある人物が、話に加わらないどころか、この会が始まってからまだ一度も言葉を発していない事に。

 

「……えーっと、その…ベール…?」

「…………」

「……大丈夫?」

「…大丈夫……な訳ありませんじゃないですのぉぉぉぉぉぉっ!」

「えぇぇっ!?ちょ、ベール!?」

 

今にも泣き出しそうな様子で掴んでくるベール。普段とはまるで違うその様子に面食らう私。急転直下のこの事態に、わいわいと話していた他のメンバーも注目してくる。

 

「何だにゅ、事件かにゅ?」

「い、いや事件というか何というか…」

「…おねえちゃん、あの人泣かしたの…?」

「そうなの?いーけないだ、いけないだ!…あれ?イケメンだー、だっけ?」

「違うよ!?泣かしてないしイケメン云々は芸人さんのネタだよ!?」

 

ロムちゃんとラムちゃんにベールを泣かしたのだと勘違いされてしまう私。しかもそのせいで皆から白い目で見られてしまう。くっ…小さい子の影響力、恐るべし…!

 

「イリゼ、何があったのかは知らないけど泣かすのは良くないよ?」

「ネプテューヌまで!?だから違うんだって!てか、まだベール泣いてない!泣きそうだけど泣いてないから!」

「泣きそうだけど泣いてない…?…貴女、結構ギリギリのラインで責めるのね…」

「ちょっと今私を高度なサディスト扱いしたの誰!?」

「…うぅぅ……」

「……!そうだベール、ベールからも言ってあげてよ、私はただ話しかけただけ……きゃあぁぁっ!?」

 

がばっ!と、いきなり抱き締められる私。既に濡れ衣を着せられてる上に変な評価までされ始めていて落ち着ける状況じゃなかった私は、それで更にテンパってしまう。…何これ、もうクッションじゃん…最高級クッションじゃん…とか一瞬思ったけど、もうそれどころではない。

……そして、もう一人テンパる人物がいた。

 

「ちょっ、べ、ベール様!?ななな何やってるんですか!?」

「……むぅ…わたくしの想定よりやや大きいですわ…」

「想定って何!?ベールと比べたら私なんて貧相なものだよ!?…って誰が貧相だ誰が!」

「ちょっと待ちなさいイリゼ、貴女が貧相ならわたし達の立場はどうなると言うの…!」

「…わたし『達』?もしやわたしも入ってる?……まぁイリゼの発言に異を唱えたい気持ちは分かるけど…」

「いや各々自由に言い過ぎじゃない!?」

 

ベールの奇行により発生したプチ騒動は妙な広がりを見せ、ノワールが騒ぐ全員へ突っ込みを入れるまで続いたのだった。…因みにこの間、妹組四人はぽかーんとしていた。まぁそれが普通の反応だよね、女神の妹だしすぐにこの雰囲気に順応するんだろうけど。

よく分からないながらも落胆によって少々落ち着いてくれたベール(何故落胆してるんだろう…)が私を離してくれた為に私とアイエフも落ち着き、ネプテューヌとブランも妹の前、という事で冷静さをすぐ取り戻した結果、やっとまともに会話が出来る状況となる。

 

「謎の騒ぎだったね…それで、ベールさんは何があったの?あたし達でよければ話聞くよ?」

「感謝しますわ…ですが、これは相談に乗ってもらっても絶対に解決しない事なんですの…」

「それでもさ、話すだけで楽になるかもしれないじゃん。話すだけ話してみてよ、話せる所まででいいからさ」

「…分かりましたわ。こほん…わたくしがここまで切ない思いをしていた理由、それは……」

 

いつになく真剣な様子のベール。そんな彼女が狙ったかの様に一拍を置いた為、私達はつられて唾を飲み込む。そして、一瞬にして雰囲気が完成した中、ベールが重々しくその思いを…口にする。

 

「--------わたくしにだけ、妹が出来なかったのですわ」

『…………』

「……あら?皆さん…?」

『…………え?』

「え?」

 

たっぷり間を取り、満を辞して私達が言った言葉は『え?』だった。…いやそりゃそうでしょうが!

 

「えぇと、皆…多分皆同じ気持ちだろうから、代表して私がベール様に言っていいかしら?」

『勿論』

「え、な、なんですの…?」

「あのですねベール様、私が言うのも失礼かもしれませんが、言わせて頂きますね。……そんな事かよッ!?」

「そんな事!?」

 

アイエフの突っ込みにショックを受けるベール。ベール的には結構なダメージっぽかったけど、アイエフの言う通り皆が同じ気持ちだったから誰もフォローせず、代わりにうんうんと頷く。…が、これで終了というのは流石に可哀想過ぎるので、ベールからすれば重要な問題なんだろうと各々自分を納得させて話を進める。

 

「一応確認なんだけど…つまりはネプちゃん達が羨ましいって事?」

「まぁ、そうですわね…何故、何故わたくしだけ……」

「そりゃ、ベールの元ネタハードの制作会社が携帯機発売してないからむぐぐ…」

「ノワール、それはその通りだけどこの場においては禁句だよ」

「あ、メタ発言大好きなネプテューヌがメタ発言封じを…それはともかく、妹ってなると私達にはどうしようもないね…」

「でしょう?……はぁ…」

 

深いため息をつくベール。その様子は本当に切なそうだけど、いくら私達でも妹を用意する事は出来ない。…いや、ほら…ベールにご両親がいるならまだやりようはあるけどさ…って私は何アレな事考えてるんだろう…。……あ…い、今の無しで!地の文だって忘れてたから考えちゃっただけで…って別に普段からこんな事考えてる訳じゃないよ!?……あぅぅ…。

 

「…おーい、イリゼー?何赤くなってるのー?」

「……あ、ごめん…ちょっとね…」

「あ、そうなの…んと、じゃあさっきイリゼを抱き締めたのは…イリゼを妹にしようとしたって事?」

「えぇ、よく考えたらイリゼも妹がいませんでしたし…もうこの際多少大きくても構いませんわ。イリゼ、私の妹に…」

「ごめん、それは無理かな」

 

再びショックを受けるベール。今度は最初と違って間違いなく私のせいではあるんだけど…ちょっとこれは要求の方が無茶苦茶だからね、これについては拒否権位あるでしょ。…というか、

 

「確かに私に妹はいないけどさ、関係性的な意味でならイストワールさんが私の姉に当たるんだよね」

「そんな…つまりイリゼはもうこれ以上姉は要らないと言うんですの…?」

「あーいやそうじゃなくて…って言うかさ、私達友達だよね?友達が急に妹になったとして、ベール的にそれで良いの?」

「…そう言われると確かに良くありませんわね…少々思考が安直でしたわ」

 

私の言葉が効いたのか、一気に冷静になっていくベールとそれに安心する私達。このままほっとくと私以外も毒牙にかけられかねない状況だった為、私以外はほんとに安心していた。

 

「…あのさ、ベールにはあいちゃんもチカもいるじゃん。二人じゃ不満なの?」

「……ネプテューヌ、貴女何言ってるんですの?」

「へ?何って…何か変だった?」

「変も何も…では逆に訊きますけど、貴女はネプギアちゃんがいれば彼氏は要らないと?」

『……ーー!?』

「え、か、彼氏…?」

 

ベールの口から発せられたのは年頃の女の子ならそこまで不自然ではない、けど私達としてはほぼネタにしないその言葉。けど、それはある意味仕方ない事でもあった。私達パーティーに男の人はいないし、今までそれなりに話した男の人は揃いも揃って癖のある人達ばかりだったからね(私達の方も負けず劣らず癖が強い気もするけど…)。

けど、私にとって…否、私ともう一人にとってその言葉は大いに慌てる事柄だった。

 

(ちょ、ちょっとこれ不味くない!?どうしようノワール!)

(知らないわよ!第一ネプテューヌに…す、好きな男の人なんている訳ないでしょ!)

(でもさ…割とネプテューヌって男の人にもフレンドリーじゃん。だからひょっとするとどこかで誰かに惚れてたり…)

(そ、そそそんな訳ないでしょ!不安を煽らないで頂戴!)

 

普段は出来もしない、出来たとしても簡素な意思疎通程度な筈のアイコンタクトを完璧に使いこなして会話を交わす私とノワール。ことそっち方面において私とノワールは妙に息ぴったりだった。

アイコンタクトの後、びくびくしながらネプテューヌを見つめる私とノワール。するとネプテューヌは、何とも言えなそうな顔をしてこう答えた。

 

「えっと…うーんと、その……」

『…………』

「…正直言うと、わたしは好きな男の人っていないから要らないかと言われると微妙かな…。…まぁでもベールの言う事はよく分かったよ」

『…良かったぁ……』

「へ?…どったの二人共」

『いいや、何でもない』

 

自分でも『あれ?打ち合わせしたんだっけ?』と思う程の連携でネプテューヌに答える私とノワール。ネプテューヌの方もそこまで気になる事では無かったのか、ふーんといった感じの反応だけ見せて追求してくる事はなかった。

と、そこで部屋の扉がノックされる。

 

「ベール様、イストワールさんがいらっしゃいましたわ」

「イストワールが?では入ってもらって下さいまし」

「こんにちは皆さん、ユニさんとロムさんラムさんは初めましてですね(*・ω・)ノ」

「あ、は、初めまして…妖精…?」

「かわいい…」

「何でういてるの…?」

 

見た目だけならば他の追随を許さないイストワールさんの登場に、ネプギアを除く妹組の三人が三者三様の反応を見せる。特にロムちゃんラムちゃんは興味津々で、ブランに止められなかったら本やら羽やらを引っ張りそうだった。

 

「いーすんさんこんにちは。…ここに来るのは大変だったんじゃ…?」

「あ、そうだよね。いーすん歩幅…浮いてるから飛び幅?…小さいから中々着けなかったんじゃないの?」

「いえ、職員に運んでもらったので大変ではありませんでしたよ(^人^)」

「それはそれで大変そうですね、いーすんさんも職員さんも…」

 

イストワールさんの返答に苦笑するコンパ。確かにイストワールさんが職員さんに運ばれてるシーンは互いに大変そうだし、そこはかとなくシュールであった。

 

「で、イストワール。貴女は何をしに来たの?ロムラム達への挨拶かしら?」

「いえ、それも一応はありますが…一番の目的は、皆さんへの依頼ですね( ̄^ ̄)」

「依頼、かにゅ?」

「はい。まずご確認ですが、皆さんは『汚染モンスター』というものを知っていますか?」

『汚染モンスター?』

 

イストワールさんの質問に、記憶喪失で基本こういう質問にはだいたいクエスチョンマークを浮かべる私とネプテューヌ、そしてネプギア達妹組が首を傾げる。それを見たイストワールさんは、私達がこういう反応をするんだろうと予測していたのかすぐに説明を始めてくれる。

 

「汚染モンスター、というのはその名の通り汚染されたモンスターの事です

(・ω・`)」

「汚染…公害とかによるものですか?」

「いえ、モンスターを汚染する原因、それは負のシェアです(´-ω-`)」

「…負のシェア……」

 

負のシェア。私達(私はちょっと例外的だけど)が国民や信者から信仰される事で得るシェアとは対極であり、同時に表裏一体でもあるシェアエナジー。かの魔王ユニミテスの原動力となっていた力。それが関係するのだから緩い話な訳がないし、負のシェアについてよく知る私とネプテューヌは自然と真剣さが増していた。

 

「そして、汚染されたモンスターは凶暴になり、モンスターとしての脅威度も増します。ネプテューヌさん達も一度は会った事あるのでは?汚染モンスターは共通して、体表が濃い紫…それこそ汚染されたかの様な闇色になるんですが…(-.-)」

「そう言われると…一度か二度は会ったかも。その時は多分グラフィック流用の色替えモンスターだと思っちゃったかな」

 

真面目な顔でメタ発言を発するネプテューヌだけど、ネプテューヌのメタ発言は日常茶飯事だし、正直私もそんな感じに思ってた可能性があるからスルーし、話を進める。

 

「…すると、イストワールさんの依頼というのはその汚染モンスター退治ですか?」

「その通りです、イリゼさん。モンスターに負のシェアが蓄積する事で汚染化する訳ですが、負のシェアは正のシェア同様人がいる限り生まれ続けるものなので、大前提として汚染モンスターを撲滅する事は出来ません。……最も、皆さんを含む全人類をこのゲイムギョウ界から殲滅すれば、話は別ですけどね」

「…いーすん、それは…」

「分かってます、わたしもそんな事は考えていません。…こほん、シェアの性質上汚染モンスターが消える事は絶対にありませんが、同時に普通であれば急増する事もないんです」

「…なのに、今はその汚染モンスターが増加していると?」

 

私の言葉に頷くイストワールさん。更に彼女は話を続ける。

 

「その原因としてはマジェコンヌの起こした一連の報道によって人々が負の感情を抱き易くなったからだと思うのですが…恐らく、その上でマジェコンヌが自然に任せるのではなく故意にモンスターを汚染化させているのだと思われます」

「またマジェコンヌ?はぁ、ほんとマジェの人は仕方ないなぁ…あのさ、汚染モンスターって言ってみれば悪霊に取り憑かれてる様なものだよね?」

「え?まぁ当たらずとも遠からず…ですかね(~_~」

「そっか、じゃあ効率良く倒す為には装神少女化すれば良いのかな?」

「女神が神を纏ってどうするんですか…そんな事せずとも、普通に倒せますよ

( ̄▽ ̄)」

 

そう言った後、イストワールさんは討伐お願いしますと私達に頭を下げる。それに対する私達の反応は…勿論YES。モンスター退治なら今までにもしてきたし、ここにきて急に断る理由がないからね。それに、凶暴化したモンスターならほっとくのは自分の為にもなりそうにないし。

 

「こちらでもマジェコンヌを探しますので、皆さんはあまり無理せず特に対処した方が良いと思う汚染モンスターをお願いしますねm(_ _)m」

「うん、それじゃわたし達も何か手がかりを見つけたら連絡しますね」

「…あ、いーすん。ネプギア達はどうしよう?流石に危ないかな?」

「そうですね…それは姉の皆さんに任せます。危険だと判断して置いていくのも良いですし、経験として見学をさせるのも有りだと思いますd( ̄  ̄)」

 

そう言われ、まず姉三人で、続いてそれぞれの妹へ目を移すネプテューヌ達三人。そして三人の出した結論は…まぁ、ここでわざわざ語ったりはしないよね、だって姉妹間の問題だし。気になる人は…今後の話を待てば良いんじゃないかな?描写されるかどうかは分からないけどね。

そうして汚染モンスター討伐をする事となった私達。その時私達は知らなかった…多少の驚きはあったものの、そこまでとんでもない事が起きる討伐戦は、特に起こらなかった事を--------。




今回のパロディ解説

・某学園
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録シリーズの舞台である、碧陽学園の事。ベールが落ち込んでいなければ、攻めと守りの所で何か反応していたかもしれませんね。

・「〜〜いーけないだ、いけないだ!…あれ?イケメンだー、だっけ?」
お笑い芸人、狩野英さんの持ちネタの一つの事。これをパロディとして使える機会あるのかなぁ…と思うネタの一つですが、案外使う機会ありましたね。

・装神少女化
装神少女まといに登場する変身能力の事。○○少女というのは今までにも色々とありましたが、神を纏うというのは新しいですね。…○○少女としては、ですよ?


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第八十四話 活躍(?)する妹達

「--------と、言う訳で絶対にMAGES.とブロッコリーから離れない事。良い?」

 

雪原へと向かう道中、つい最近出来たばかりの双子の妹に注意を述べる白の女神……というか、わたし。それを聞く双子の妹…ロムとラムはあからさまに面倒そうな表情を浮かべていた。

 

「むー…それ、何回もきいた…」

「そんなにわたし達がしんよー出来ないっていうの?」

「信用出来ないというか何というか…」

「……あ…ゆきうさぎ…!」

「ほんとだ!つかまえようよロムちゃん!」

「……だから不安なのよ…はぁ…」

 

ため息を漏らすわたしと、それを知らずに雪兎を追いかけようとするロムラム(勿論わたしは肩を掴んで止める)。今回の同行者であるMAGES.とブロッコリーはそんなわたし達姉妹の様子に苦笑していた。

汚染モンスター討伐の依頼を受けた翌日。わたし達パーティーは数人ずつに分かれて早速遂行する事とした。

 

「姉というのも大変そうだな」

「本当に連れて来て良かったのかにゅ?」

「…幼くても女神、早めに色々知っておいて損はないし余裕のある内に教えておきたい事もあるのよ。……それとは別に、何かアドバイスはない…?」

「残念ながら、無い」

「妹分ならともかく、実妹についてのアドバイスは持ち合わせてないにゅ」

 

ゆっくりと首を横に振る二人、肩を落とすわたし。…妹二人は可愛いし、大事な家族だとは思ってるけど…何故プラネテューヌやラステイションより明らかに低年齢且つ二人なのかしら…二段階位難易度が高い気がするわ……。

 

「…こほん、とにかく二人にはきっちり言い聞かせたけど万が一の事もあるから、悪いけど二人の事を頼むわ」

「任せろにゅ」

「お守りは慣れないが…文字通り守る事位は完遂しよう」

 

片やどこまで本当でどこまで厨二なのか分からない魔術師、片やロムラムより小さい毒舌少女というコンビではあるけど、仲間として友人としては十分どころか十二分に信頼出来る二人である事もまた事実。…こう批評してるわたしも世間一般からすれば負けず劣らずズレてるのでしょうね、と思いながらわたし達は雪原へと向かうのだった。

 

 

 

 

夢見る白、と言われるだけあってルウィーにはどこもかしこも白が多い。まぁそれは雪が殆ど一年中積もっているからで、捻くれた考え方をすれば夢見るじゃなくて雪降る白なのだけど…その白と雪が大いに役立つ事は多々ある。例えば……雪原を移動する、モンスターを見つける時に。

 

「早速、発見ね…」

 

雪原を浮遊する三体のモンスター。確か名前は『アイスゴーレム』。名前通り氷の身体を持つ、中途半端に人を模した様な見た目のモンスターなのだけど…その内の一体は青みがかった透明(いまいちアイスゴーレムの向こう側は透けていない)ではなく、暗く輝く闇色をしていた。

 

「ふっ…まるでフォールドクォーツだな」

「あのサイズならかなり希少だにゅ」

「ふぉーるどくぉーつ…?」

「きしょー…なの…?」

「そこは食いつかなくていいから…三体ならわたし一人で十分ね」

 

二人の事を任せるとMAGES.とブロッコリーに目で合図した後、わたしは地を蹴りつつ女神化。こちらの存在に気付いていないという絶好のチャンスを活かして一気に接近し、無防備なアイスゴーレムの内の一体を一撃で沈める。

 

「まず一体、っと…ほらよッ!」

 

仲間が一瞬にしてやられた事に気付き、即座に戦闘態勢に入る汚染含めた二体のアイスゴーレム。それを確認したわたしは足元を蹴って雪を巻き上げつつ飛翔、相手の視界を制限しつつ再度の攻撃態勢に入る。

 

『ーー!』

 

ぱっと見どこに目があるのか、そもそも目があるのか分からないアイスゴーレムでも巻き上がる雪は効果あったらしく、一瞬動きを止める。この系統のモンスターは硬く、一瞬の隙で仕留めるのは容易ではない。……が、それはあくまで普通の人の話。女神にとっては一瞬あればそれで良かった。

一気に急降下し戦斧で右腕を破砕。その勢いが収まるのを待たずに両脚で雪の大地を踏みしめ、女神の身体の頑丈さを頼りに思い切りスイング。氷の割れる様な音を響かせながら二体目のアイスゴーレムも消滅する。

そしてその瞬間、わたしの側面から氷の塊が飛び込んでくる。

 

「……っ…やっぱ汚染状態だとパワーも上がってるな…」

 

飛び込んできた汚染アイスゴーレムの右ストレートを戦斧の柄で防御。幸い足場を踏みしめていたおかげで体勢が崩れる事こそ無かったものの、このままいっぺんに汚染アイスゴーレムも倒してしまおうと考えていたわたしは攻め手を変える事を余儀なくされる。

数秒の硬直の末、互いに離れるわたしと汚染アイスゴーレム。汚染アイスゴーレムは離れながらも衝撃波らしきものを飛ばしてくる。

 

「ふん…甘いんだよッ!」

 

衝撃波が放たれると寸前で察知したわたしは戦斧の投擲。空中で両者がぶつかり合い、衝撃波は打ち消されて戦斧は軌道が逸れる。

それを確認した汚染アイスゴーレムは再度衝撃波の体勢に入る…が、それはわたしの予想通りであり、同時に手遅れであった。

 

「砕けやがれッ!」

 

汚染アイスゴーレムの眼前へと現れるわたし。わたしは戦斧を投擲すると同時にそれを追う様に自身も接近をしかけていた。汚染アイスゴーレムは咄嗟に防御をしようとするも、ろくに関節も無さそうな身体で女神の動きに追いつける筈もない。わたしの打撃が次々と胴体に叩き込まれ、その度に氷の破片が宙に舞う。そして、トドメとばかりにわたしが放った回し蹴りが汚染アイスゴーレムの胴体を貫き…決着となる。

 

「ふぅ…まず一体目、討伐完了だな」

 

ひらひらと軽く手を振った後、飛んでいった戦斧を回収するわたし。…と、そこへロムとラムが走ってくる。

その時わたしは若干ながら焦った。勿論今いたモンスターは殲滅したものの、戦闘音を聞きつけて別のモンスターが姿を現す可能性は十分にあり、幾ら女神化していると言っても奇襲を受けたら、しかもそれが自分から離れたロムとラムへ向けられたものだったら迎撃出来るか確証がない。

無知故に危険な事をしてしまうのは仕方のない事だけど、だからと言って放置していい訳ではない。だからわたしは寄ってきた二人を叱ろうと口を開き……

 

「おねえちゃん、すごい…!」

「すごいすごい!見ててすっごいドキドキした!」

「……え?」

 

--------かけた口からは、説教ではなく驚きの言葉が漏れる。そしてその後もきゃっきゃと興奮した様子でわたしに話しかけてくる二人に、ついわたしは笑みをこぼしてしまう。勿論、教育としてはきちんと叱るべきだとは思うけど…二人が生まれたばかりなのと同様わたしも姉になったばかりであり、しかも幼い二人が羨望の眼差しで見てくるとなったらこれはもう叱るに叱れない。……というか、何だか軽く胸を張りたくなる気分だった。

 

「…申し訳ない、二人のすばしっこさを見誤った…」

「子供と言えど女神だという事を忘れてたにゅ…」

「あぁ、気にすんな。これはこいつらの責任だからな。ロムラム、次はわたしが呼ぶまで来るなよ?」

『はーい』

「さて、んじゃ次行くとするか…」

 

一体倒しただけで済む筈がなく、雪原だけでももう数体はいるだろうと踏んだわたしは女神化を解除し、再度探し始める。

 

「…っとそうだ…ロム、ラム。貴女達はどうやって戦うの?」

「え…?…魔法、だよ…?」

「そうそう、あ…見せてあげようよロムちゃん!」

「うん、見せてあげる…」

「…今?…え、いやちょっと待って、今敵はいな----」

『『アイスコフィン』!』

 

ロムは右手を、ラムは左手を掲げて二人同時に声を上げる。その瞬間、空中に現れ飛来する二つの氷塊。それは魔法の国ルウィーでも魔法使いや魔術師として名乗るには十分な技であり、それを生まれたばかりの二人が出来るという事には素直に感嘆の声を漏らしたかった。……氷塊の飛来先が、わたしでなければ。

 

「……不用意に人に向けて攻撃魔法を放つんじゃ、ねぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 

 

 

工業が盛んな国、ラステイションではそれが影響してかマシン系モンスターが多く出現する。けど、それはあくまで他国と比べた場合であって、別にマシン系以外が出現しないという訳ではなく、その系統以外のモンスターも普通に出現する。例えば…側頭部と腰回りの花を除けばちょっと変わった少女にも見える植物系モンスター、『アルラウネ』の様に。

 

「良い?ユニ、汚染モンスターっていうのは必ずしも元のモンスターと同じ動きをするとは限らないわ。そういう時はまずどうするべきか分かる?」

「え、と…元のモンスターと違う動きをするかどうか、するならどこが違うのかを見極める…?」

「正解よ。強さっていうのは自分個人で完結するものじゃないの、覚えておきなさい」

 

私の質問に答えられた事に安心しているユニの肩を軽く叩きつつ、女神(というか戦う者)として必要な事を教えていく私。そんな私達の様子を、同行者であるサイバーコネクトツーとファルコムは苦笑しながら眺めていた。

 

「…私何かおかしな事言ってた?」

「あ、いや…ちょっとノワール様が教師みたいだなぁって思って…」

「教師?私が?」

「まぁ、元々のキャラもあるのかもね」

 

二人の言葉に目をぱちくりさせる私(私だけ敬語なのには違和感があったから、出来る範囲でサイバーコネクトツーには敬語抜きで話してくれるよう頼んだ)。言われてみれば…まぁ、ちょっとはそれっぽかったかもね。

汚染モンスター討伐の為に渓谷に来た私達は既に何度か汚染モンスターを倒し、先程の様に特筆する事があればユニに教えていた。そして今、私達は遠目に二体の汚染アルラウネを捕捉していた。

 

「じゃあ、あの二体も倒してくるわ。戦闘の余波がここまで来る事はないと思うけど…何かあればユニを頼むわね」

「うん、任せてよ」

「あたし達がきっちり守るから大丈夫」

「あ……そ、その…アタシも…」

「何?さっきの事で何か質問があるの?」

「そ、そうじゃなくて…ううん、やっぱり何でもない…」

 

言いかけて止めてしまったユニ。ユニの言いたかった事は気になるけど、聞いてるうちに汚染アルラウネ二体が逃げてしまったら手間がかかるから、私は追求せずに女神化。一直線に二体へと突っ込んで先制攻撃を仕掛ける。

 

『……ーー!?』

 

偶然か、それとも察知能力が高いのか私の奇襲にギリギリで気付いて避ける二体の汚染アルラウネ。それでも私の速さには反応しきれず、片方の汚染アルラウネは腰の花の花弁の一枚を散らす事になったけど…流石にそれでやられる程モンスターも軟弱ではない。二体の汚染アルラウネは敵意をむき出しにして私を睨み、私は両方を視界に捉える為に数歩下がって対峙する。

 

「さーて、先に倒されたいのはどっちかしら?」

 

大剣を緩く構え、笑みを浮かべて挑発を仕掛ける。モンスターに人の言葉が通じるとは思ってないけど雰囲気なら感じ取れるでしょうし、実際花弁を斬られた方の汚染アルラウネはすぐさま飛び込んでくる(斬られて頭にきてるだけかもしれないけどね)。

手負いの汚染アルラウネの突進を横に交わし、握り直した大剣で横薙ぎ。それを手負い汚染アルラウネは跳躍して回避し、そのまま飛び蹴りしてくるけど…私は大剣の腹で受け、一気に真横へ振るう事で地面へと叩きつける。そのタイミングで突っ込んでくるもう一体の汚染アルラウネ。

 

「連携…と呼ぶにはお粗末なものねッ!」

 

地面に叩きつけた手負いをもう一体の汚染アルラウネへと蹴り飛ばし、追い打ちと迎撃を同時に行う私。更にそこで大剣を、身体の横で水平に構えて刺突をかけ、ぶつかってまごついている二体を同時に串刺しにしようとする……が、後ろの一体は思ったより立て直しが速く、突き刺し消滅させる事が出来たのは手負いの汚染アルラウネだけに留まる。……けど、これで後一体ね。

 

「さぁ、次は貴方よ!」

 

距離を取ろうとする汚染アルラウネに接近し、私は次々と剣戟を放つ。汚染アルラウネの方は防御に徹しているからか致命傷こそ負わないでいるものの、一撃ごとに花や草の一部が散っていく。そして、連撃の末遂に防御が間に合わなくなる汚染アルラウネ。それを私が見逃す筈もなく、上段に構えた大剣の一撃で葬り去--------

 

「フニャアァァッ!」

(な……ッ!このタイミングで…ッ!?)

 

渓谷にまばらに生えた草の影から姿を見せる、猫なのか何なのかよく分からない平べったいモンスター。その瞬間、私は二つの選択を迫られた。

一つはこのまま攻撃を敢行する選択肢。これならほぼ確実に汚染アルラウネを倒せるけど、次の瞬間にそのモンスターから攻撃を受ける可能性もある。

もう一つは攻撃を中断してその場を離れる選択肢。これなら攻撃を受ける心配はなくなるけど、汚染アルラウネを改めて追い詰めなくてはいけなくなる。

この二択ならどうするか。…考えるまでもなく、選ぶのは後者。戦場において命取りとなるのは思慮の浅い行動、そして功を焦る事(……まともな者から死んでいくとも言うけど、まぁそれはまた別問題)。それらの判断を刹那の間に下した私は後退として……次の瞬間、発砲音と銃弾が空を切る音を聞く。

 

「……っ!はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

重心が後ろに下がっていた身体を、翼を広げる事で無理矢理正してそのまま一閃。当初の狙い通り汚染アルラウネを両断する。そして大剣を素早く引き戻して一回転。遠心力を込めた一太刀で猫風モンスター…否、銃弾を叩き込まれて仰け反っているモンスターを一撃で消滅させる。

 

「……ピンチもチャンスも瞬間的なもの、ってところかしらね…」

 

大剣を軽く振って降ろし、次なるモンスターがいない事を確認した後に女神化を解除して一息つく私。

だけど、私には一つ、そのままにはしておけない事があった。

 

「……さっきの射撃、やったのはユニよね?」

 

ユニ達の元に戻った私はまず最初にそう言う。『誰?』ではなくユニを名指ししたのは、単純にユニがライフルを携えていたから。更に言えば、サイバーコネクトツーもファルコムも火器は使わないからね。

 

「あ…う、うん!アタシでも少しは……」

「…どうして撃ったの?」

「…え……?」

「何故撃ったの、ユニ。私は援護してなんて言ってないし、援護する気なら交戦開始する前に言ってくれなきゃ困るわ。援護射撃があるって知らなきゃ射線に入って私が撃たれる可能性もあるじゃない」

 

腕を組み、ユニを問い詰める様な…というか、問い詰める。サイバーコネクトツーとファルコムは思う所があるのか私を止めようとしてくるけど…私はこの訊き方を止めるつもりは毛頭ない。

 

「あ…それは、その……」

「…………」

「……あ、アタシも…お姉ちゃんの妹として、出来る事があるならそれをしたいと思って……ごめん、なさい…」

 

俯き、私に謝るユニ。そんなユニの様子に私は--------驚いた。

 

「……えっと…なんで謝るのよ?」

「……へ?だ、だってお姉ちゃんの邪魔、しちゃったから…」

「邪魔って…確かに驚いたけど、邪魔どころかむしろ助かったわよ?」

「そう、なの…?…じゃあ、問い詰めてきたのは……」

「動機を聞きたかったのよ?例え相手が敵や害あるものだったとしても、何かを傷付けるならそれ相応の動機がなきゃ相手に失礼だもの。…それに、私の妹として頑張ってくれたなら私は嬉しいに決まってるじゃない」

「お姉、ちゃん…」

 

どうやら勘違いしていたらしいユニを安心させる為、優しく頭を撫でる私。するとユニはホッとした様な表情を浮かべた後、えへへと笑いを溢す。元々の目的は汚染モンスター討伐とユニに色々教える事だったけど、この笑顔を見た瞬間私は『あ、もう満足かも』とか思ってしまった。

 

「…この姉妹は、中々大変そうだね」

「うん、わたしもそう思う。…けど、これも含めて『らしい』よね」

 

私がユニを撫でている間、二人はまた苦笑をしていた。……しかし、どうしてこうも勘違いしたのかしらね…。

 

 

 

 

「よーしネプギア、習うより慣れろだよ!」

「え…えぇっ!?」

 

汚染モンスター討伐とネプギアのモンスター討伐体験の為にプラネテューヌに戻ったわたし達は、翌日の朝早速それを開始していた。…え?こういう事に熱心なわたしは珍しいって?ふっ、わたしだって理由があればやる気を出すのさ!そう!

 

「ネプギアにモンスター討伐をさせてみようと思った時とかね!」

「どこ向いて誰に対して話してるの!?」

「あーそっか、ネプギアはまだ知らないもんね。何を隠そうわたし達は物語の中の一キャラなのです!」

「知ってるよ!?知ってる上でメタ発言し過ぎだから突っ込み入れたんだよ!?」

 

わーきゃーと立て続けに突っ込みを入れてくるネプギア。うーん、わたしやこのパーティーに慣れると自然と出来なくなる初々しい突っ込み、良いね!…あ、でもこの系の突っ込みは今でも時々イリゼがやってるか…。

 

「ねぷ子、楽しいのは分かるけどこのペースだとすぐネプギアがバテちゃうわよ?」

「それにそろそろペースダウンしないとギアちゃんが本格的にねぷねぷをアレな子だと勘違いしかねないです」

「あーそれもそうだね。じゃあ一旦落ち着こうかネプギア」

「わたしはボケの連打が始まるまで落ち着いていたよ…」

 

げんなりしているネプギアと、わたし達を苦笑しながら見ているこんぱとあいちゃん。はい、今日もわたしは絶好調です。

 

「で、ねぷ子。さっき貴女ネプギアにモンスター討伐させるって言ってたけど…もうここらの汚染モンスターはひと通り倒したわよね?」

「うん。だからわたしが倒してもらおうと思ってるのは普通のモンスターだよ?」

「え、そうなの?」

「そりゃそうだよ、初めての戦いの相手が汚染モンスターって…それはわたしでも流石に無理だって」

 

どうやらあいちゃん…というか皆わたしの言葉を勘違いしていたみたいなのできちんと訂正しておくわたし。

あいちゃんの言う通り、ここら一帯で見つけた汚染モンスターは全て女神化したわたしが倒したからもう今回のここでの目的は半分達成していた。……いやー、群像劇状態だと最初からじゃなくて途中からになるからわたし達からすると楽なんだよね〜…なんちゃって、実際にはちゃんと倒してきたよ?

 

「…えと、ほんとにわたしはモンスター討伐しなきゃ駄目?」

「うん、どうしても嫌なら強要はしないけど、わたしは人に教えるのはきっとへたっぴだしこっちの方が良いかなって」

「…どうしても嫌、って訳じゃないけど…やっぱりちょっと不安だよ…」

「大丈夫大丈夫、倒してもらうのはあいつだもん」

 

ネプギアを安心させる様ににこやかな笑顔で話しつつ、ある方向を指差すわたし。わたしの指差す先には……

 

「ぬら〜」

 

青い雫型の身体に犬耳と犬鼻&口を持ったモンスター、『スライヌ』がいた。そう、原作プレイヤーならきっと誰もが知ってる有名モンスター、スライヌだよ。

 

「……強く、ない…?」

「いやいや、だってあの見た目だよ?某名作ゲームの初代作における最弱モンスターとして出てきて以来多くの作品で雑魚ポジションを得ている例のモンスターのパロディモンスターだよ?」

「で、でも作品によってはそれなりの強さだったりするし…」

「大丈夫。お姉ちゃんを、信じて」

「お姉ちゃん……うん。分かった」

 

こくんと頷くネプギア。そしてネプギアは持ってきたビームソードを出力して(わたしよりプラネテューヌの女神っぽい武器だよねぇ)、スライヌを刺激しない様にゆっくり近付く。…うーん、お姉ちゃんを信じての一言で意見が変わっちゃう辺り、お姉ちゃんとしては嬉しい反面ちょっと不安でもあるよネプギア。

 

「攻撃が当たる位置までいったら一気にだよ、ネプギア」

「うん。攻撃が当たる位置までいったら一気に、攻撃が当たる位置までいったら一気に……」

「ぬぅら〜〜」

 

気付いていないのか油断しているのか、理由は不明だけど一切臨戦態勢に入らないスライヌ。わたしなら「よっしゃ」と思って走り込んじゃうけど、ネプギアは慎重派なのかスピードを上げずに少しずつ距離を詰めて……

 

「……っ!えぇぇぇぇいっ!」

「ぬらぁっ!?」

 

大上段から縦に一撃。元々然程強くないのに加えて無防備だった為にネプギアの一撃はクリティカルヒットとなり、一瞬にして勝負がついてしまう。

倒せた事に安堵し、同時に喜びの声を上げるネプギア。その一部始終を見ていたわたしは……

 

「えぇー……」

「やったよお姉ちゃん!わたし出来たよ!…って、お姉ちゃん…?」

「いや、うん…倒せたのは良かったんだけどさ、思った以上に決着が早くて、ね…」

 

わたしとしては一波乱あるかな〜場合によっては姉として助けてあげようかな〜とか思ってたものの、蓋を開けてみれば波乱どころか波一つ立たない戦いだった。……まぁ、ネプギアが無事だから良いけどさ。

 

「ふふっ、ギアちゃんの初戦闘は白星になったですね」

「これは景気の良い経験になったんじゃない?」

「だね。よーしそれじゃあネプギア!この調子で他の汚染モンスター討伐もやってくれてもいいかなー?」

「いいとも〜!…って、無理だよ!?無理だからね!?」

 

こうして、ネプギアの初戦闘経験は明るく賑やかな形で幕引きとなり--------わたしの代わりに汚染モンスター討伐に向かうのだった……。

 

「だから無理だって!無茶振りされても無理なものは無理だからねっ!?」

 




今回のパロディ解説

・フォールドクォーツ
マクロスシリーズに登場する特殊鉱石の事。作中でも触れましたがもしゴーレム系モンスタークラスのサイズのフォールドクォーツなら…相当な価値があるでしょうね。

・まともな者から死んでいく
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ登場キャラ、昭弘・アルトランドの名台詞の一つのパロディ。もしこれが正しいのなら、本作のパーティーから死者は出ませんね。

・「〜〜某名作ゲーム〜〜モンスターだよ」
ドラゴンクエスト(Ⅰ)及びシリーズ、そして代表的モンスターの一つ、スライムの事。本作の原作には色々なパロディモンスターが出ますが、この系統が最も多いですね。

・「〜〜いいかなー?」「いいとも〜!〜〜」
平日お昼に放送していた代名詞的番組、笑っていいとも!における有名なやりとりのパロディ。いいかなー?と聞かれたらいいとも〜!と答えてしまうのは仕方ありませんね。


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第八十五話 次なる戦いに向けて

汚染モンスター討伐は順調に進んだ。通常よりも凶暴で凶悪な汚染モンスターは確かに捨て置けない存在ではあるものの、こと私達にかけてはむしろ好都合な状態でもあったのだ。

具体的に述べるとすれば、第一に汚染モンスターは心身共に異常な状態である為か、どこかに隠れる事や本格的な根城を作る事をしない。つまり、草木をかき分けての捜索をする必要が殆どなく、もっと言えば目撃報告のあった郊外やダンジョンを歩き回ればまず遭遇可能であるという事を意味していた。第二に、汚染モンスターは通常より強いと言っても別次元レベルの強さになる訳ではない。ざっくり言えばRPGにおける普通の雑魚モンスターがやや強い雑魚モンスターになった位の差しかない為に、油断しなければ安定して討伐出来るという事を意味していた。

以上の点から言っても汚染モンスターは前にネプテューヌ達が担当した偽女神討伐より数段楽であり、各国で問題が発生する事もなく討伐を進めていた。そして、そんな日々が一週間程続いたある日、

 

「では皆さん、それぞれ途中報告をお願いしますm(_ _)m」

「はいはーい。プラネテューヌは順調だよ、ネプギアもチュートリアル戦闘っぽいのを完遂出来たしね」

「ラステイションも順調よ、ユニも教えを吸収して成長してるし良い機会だわ」

「右に同じくルウィーも順調よ。それに、ロムとラムの才能を早期に発見する事が出来てありがたいわ」

「三者同様リーンボックスも順調ですわ、まぁ…わたくしは妹の事で報告など出来ませんのだけどね……」

 

私達は、ルウィー教会にて汚染モンスター討伐の状況報告会を行なっていた。報告を聞く限り、どの国も汚染モンスターの数を減らせている様なので、それぞれに私達は安堵をする。…因みに、今回ルウィー教会を会場にしたのは、

・プラネテューヌ教会…半壊を受けて現在工事中

・ラステイション教会…地味に何度か集まった覚えがある

・ルウィー教会…パーティーで集まったのは大分前

・リーンボックス教会…前回の集会場

…という理由かららしい。正直私としてはどこでも良い(絶賛工事中のプラネテューヌ教会は別)様な気がしたけど、こういうちょっとした事でも気を付ける事が長期的に仲良くする為に重要、だとか作者が○○贔屓、○○アンチという妙な噂を立てられない様にどの国も出来るだけ均等にした方が良い、だとか色々と意見が出てきたので、それに従って今に至っていたりする。

 

「では各国増援や会議は必要なし、という事ですね?( ̄^ ̄)」

「少なくとも現段階ではそうなるわ」

「はい。それでは次ですが…イリゼさんはどうですか?(・・?)」

「イリゼちゃんは確か、単独で特殊な汚染モンスターの対応をしてたんだよね?」

「うん、所謂遊撃担当ってやつかな?報告としては……ネプテューヌ達と同じく特に問題無しです」

 

イストワールさんの言葉と鉄拳ちゃんの質問に同時に答える私。私は報告を受けつつも基本的に自ら探しに動く各国担当とは違い、各国担当及び一般人やギルドから報告のあった、汚染状態なのかどうか微妙なモンスターや普通の汚染モンスターとは違う行動を取る例外的な汚染モンスターの調査と討伐を行なっていた。この役目に私が抜擢されたのは女神故に高い戦闘能力と広範囲への展開能力があって、且つネプテューヌ達と違って国を持たない分立場的にも精神的にも動き易いから、というものだった。…まぁ、ぶっちゃけマジェコンヌとユニミテス相手に時間稼ぎした時と似た様な理由だね。

 

「大変じゃなかった?単純に考えたら担当範囲が私達の四倍以上よね?」

「いや、そんなに大変じゃなかったよ?確かに担当範囲は広いけど、案外報告が少なくて一日一度あったかどうかレベルだったもん」

「え、じゃあ楽だったの?」

「んー…楽だったか苦労したかと言われたら…楽だった、かな?」

 

楽だった、と言う返答を聞いて羨ましさと不満感とが同棲してる感じの表情を浮かべるネプテューヌ、私はそれに苦笑を返す。厳密に言うと少々大変…というか焦る出来事もあったし各国を飛び回る関係上地味に疲れたりもしたんだけど…まぁ、これはわざわざ言う必要もないし総合的に見れば楽だったのは事実だからね。

 

「じゃあ、討伐の方は全体的に問題ないって事ね。…ねぷ子に同行した結果、討伐よりねぷ子の姉としての言動には多数の問題が発見されたけど…」

「あれはネプギアに変な気負いや緊張を与えない為の演技だもーん」

「その場合ねぷ子は常にその演技をしてるって事になるんだけど…」

「ネプテューヌさん個人の問題はともかく、討伐が上手くいっている様で安心しました。次は、わたしからの報告ですね

(・ω・)」

 

そう言って佇まいを正すイストワールさんに私達の視線が集まる。イストワールさんからの報告と言えば思い当たるのは一つしかない。『マジェコンヌの行方の捜索』それがイストワールさんの行なっていた事だった。

皆が注目する中、イストワールさんはこほん、と述べ始める。

 

「えー…結果から言えば、まだマジェコンヌの行方は分かっていません(ー ー;)」

「…つまり、報告出来る事は無いって事ですの?」

「いえ、そうではありません。詳しく説明すると、わたしはこの次元のほぼ全域を探し、その結果見つける事は出来ませんでした。しかし、ほぼ全域には居なかったという事実から、消去法で可能性は発見しましたd( ̄  ̄)」

「…可能性、です?」

「えぇ、マジェコンヌがいるとすればそれは…天界、或いは別次元です( ・∇・)」

 

イストワールさんが示した二つの可能性。それを聞いた私は瞬時に、「あれ?不味いんじゃない?」と思った。そこで周りを見渡すと、皆も同じ事を考えていたのか似た様な表情を浮かべていたので、アイコンタクトの後私がその不安を口にする。

 

「…別次元って…それはもう捜索困難では…?」

「そうですね、しかし別次元というのははっきり言ってかなり確率が低いんです

(。-_-。)」

「え、そうなんですか?」

「まず前提として、次元なんてそうそう超えられるものじゃありませんからね。皆さんの中で今すぐ次元を超えられる、という方はいますか?( ˘ω˘ )」

 

その問いかけに対し、無理だと返す者や口を閉ざす者、首を横に振る者等反応はまちまちだったけど、回答としては全員『NO』だった。それを確認したイストワールさんは言葉を続ける。

 

「ですよね。別次元組の皆さんですら無理だというのですから、幾らマジェコンヌとはいえそう簡単に超えられる訳がないんです。それに、あのマジェコンヌがわたし達の手出し出来ない場所に逃げるなんて事すると思います?( ̄▽ ̄;)」

「それは…ないだろうねぇ。だって地味にノリ良くて大物なのか小物なのかよく分かんないのがマジェ座衛門だし」

「と、いう訳で別次元というのはまあまずないと言って差し支えありません。なのでその線も消えるので…」

「残った天界が有力、って事ね」

 

イストワールさんの言葉を引き継ぐ形で締めの部分を言うノワール。当然話の内容も天界についてのものへとシフトする。

 

「天界かぁ…ネプちゃん、天界ってどんな所なの?」

「んっとねー…あ、ごめんわたし天界の事覚えてないや」

「そうだった…こっちこそごめんね」

「天界の説明ならわたし達がするわ」

「と、言っても説明する程何かある訳ではないのですけどね」

 

ベールの感想気味の言葉に同意する様に頷くノワールとブラン。そのまま三人は私達へ説明を始める。

天界はのどかな自然に溢れているものの、下界と比較すればただただ広いだけで面白味に欠けるという事。虹が実体を持っていたり岩が浮かんでいたりと物理法則が所々通じていないという事。外に出て見上げても天界の底が見えない様に、天界、下界という呼び名は便宜的なものであって、単純な上下関係になっている訳ではないという事。天界をまるで知らない私は勿論皆も天界を、一般的に想像する『天国』的なものだと思っていた為に、天界の真実は私達を少なからず驚かせた。

 

「…とまぁ説明はこんな感じね、何か分かり辛い所はあったかしら?」

「単純な上下関係じゃないって所以外は無いかな。位置関係については…次元の差的な感じ?所謂三次元と四次元みたいな」

「そこは正直わたくし達もよく分かりませんの。ですが恐らくその認識で良いのでは?わたくしとしては上の世界と下の世界、夢の世界と現実の世界の様に捉えた方が楽だと思いますけど」

「その捉え方はサブカルの予備知識が必要じゃないかなぁ…じゃあもう一つ質問。その天界にはどうやって行くの?」

 

と、私が問いかけると、それを既に考えていたらしい数名はうんうんと頷き、そこに気付いていなかったらしい数名はあー、と声を上げる。

もし下界と天界が物理的に繋がっているなら飛ぶなりなんなりで向かう事が出来るけど、そうでないなら何か特殊な手を使わなければならない。……フォールドディメンショナルレゾナンスシステムでも使うのかな?

 

「天界には女神の力と教会のシェアクリスタルを利用すれば行けるわ」

「感覚的なものだから、多分記憶喪失のネプテューヌでも使えるんじゃないかしら」

「へー、教会のシェアクリスタル無しじゃ行けないの?」

「教会のシェアクリスタルは転移の座標固定と補助を行うだけなので原理上は出来ると思いますよ。その場合難易度が物凄く上がって消費もかなり増えると思いますが

( ̄ー ̄)」

「あ、じゃあ教会のシェアクリスタル使おっと」

「では、天界へと向かう日程ですが……

(´・ω・`)」

 

当然ながらじゃあ今すぐ行こう、となる訳はなく、現段階での汚染モンスターの討伐率や通常業務との兼ね合いも考えて全員で話し合う私達。勿論マジェコンヌが何をするか分からない以上早めに動く方が良いんだけど…皆、特に女神はそうはいかない。……私は汚染モンスターは受動的に行う形だったし通常業務もないから今すぐ以外ならいつでも大丈夫なんだけどね。

そして話し合いの結果、天界への突入は十日後となる。

 

「報告も決める事も済みましたし、今回はこの辺でお開きとしましょうか。わたしはすぐ戻りますが…ネプテューヌさんはどうしますか?(・・?)」

「わたしはまだここにいるよ、ネプギア達もまだ帰って来てないからね」

 

今回の話に妹四人はそこまで必要ではないという事と、ネプギアとユニにとっては初めてのルウィーという事で、フィナンシェさんに連れられる形で四人はルウィー探索に行っていた。…妹四人は姉四人に比べてまだ仲良くはなれてないっぽかったけど…大丈夫かなぁ……。

……っと、そうだ。

 

「イストワールさん、帰る前にちょっと良いですか?時間がないのであれば後日でいいですけど…」

「それは構いませんよ?何かあったんですか?( ̄∇ ̄)」

「まぁ…そうですね」

 

そう言うとイストワールさんはちょいちょいと手招きしつつ先に部屋を出る。それに私が着いていこうとすると、ネプテューヌ達はいってらっしゃーいみたいな雰囲気のまま部屋の中に留まる。……本当にありがたいよね、こういうのは。

そしてそのまま私とイストワールさんは近くの空き部屋へと入る。

 

「…さて、何があったんですか?(・ω・)」

「えぇと、ですね…これはどこから話したらいいかな…」

 

そう言って私は話し始める。私が汚染モンスター討伐の最中に起こった、想定外の出来事を……。

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

 

私を喰らわんとする牙をすり抜け、すれ違いざまに一太刀浴びせる私。その一撃は深々と相手の胴を斬り裂くも、敵はまだ倒れる様子を見せない。

 

「もしかしたらとは思っていたけど…まさかノンアクティブモンスターが汚染化するとはね…」

 

跳んで汚染モンスター『汚染エレメントドラゴン』から距離を取る私。積極的に動き回り獲物や敵を襲う、通常のモンスターと違い、大型である場合が多く、自身のテリトリーから積極的に出る事こそ少ないものの通常のモンスターとは比べ物にならない程の力を誇る、『ノンアクティブモンスター』。これまでノンアクティブモンスターが汚染化したという話はほぼ無かったらしく、私としてもノンアクティブモンスターが輪をかけて厄介になるのは御免なので誤報である事を願いながら向かったんだけど…実際には正しい情報だった。

 

「……っと…!」

 

雄叫びを上げながら跳躍し、巨木の様な腕の先の爪で私へ斬りかかってくる汚染エレメントドラゴン。それを私はバックステップで回避しつつ腕へ反撃をかけるも、汚染エレメントドラゴンは翼をはためかせる事で身体を起こし、紙一重で私の攻撃を回避する。

汚染モンスターは簡単に言えば暴走状態だけど、その凶暴さの中には呼び起こされた本能も混じっているのか反応速度や生存本能は元と同じかそれ以上になっている。これが通常モンスターならそこまで気にならない程度のものだけど…元が厄介なノンアクティブモンスターなら別。はっきり言って力押しでは倒しきれないレベルとなっていた。

 

「これならもう一人か二人居た方が助かったかな…!」

 

次の攻撃に移ろうとする汚染エレメントドラゴンの腹部に軽く刺突をかけ、更にそこから斬り上げる事で追撃。その勢いのまま後退する事で攻撃範囲から逃れて長刀を構え直す。

確かに、ノンアクティブモンスターの汚染化はかなり厄介だけど、勝機が全くない訳ではない。私もそれなりに戦闘を重ねてきたし、色々な敵と戦ってきた。そして何より、つい最近戦ったユニミテスは目の前の汚染エレメントドラゴンよりもよっぽど強かった。無論単純比較は出来ないけど…今の私には、余裕も勝つ為の算段もあった。

 

「出来れば最小限の消費で勝ちたかったんだけど…ねッ!」

 

汚染エレメントドラゴンと数度の攻防の末、飛翔する事で十数メートル程離れる私。単純なスピードでは私に敵わないと既に分かっている汚染エレメントドラゴンは僅かに仰け反り、必殺の火炎ブレスを放とうとする。その瞬間が…私の狙い目だった。

 

「まず…一撃ッ!」

 

一気に下降し、それと同時に汚染エレメントドラゴンの胸部へ飛び蹴りを叩き込む私。無防備な所への飛び蹴りは汚染エレメントドラゴンを呻かせる事に成功、汚染エレメントドラゴンは反射的に右腕で私を跳ね飛ばそうとする。……けど、それも私は想定済み。長刀の背(私の長刀は両刃だからあくまでこの瞬間においての)に沿わせる形で圧縮したシェアを展開、それを爆発させる事で長刀にブーストをかける。そうして放った一撃は汚染エレメントドラゴンの腕を弾き返し、その瞬間に私がバスタードソードを精製し片手で腕へと突き刺す事で汚染エレメントドラゴンの動きを止める。

 

「これで--------沈めるッ!」

 

息つく間を与えず私は飛翔。空中でバク宙をかけて勢いをつけると同時に今度は翼へシェアブーストをかけ一瞬で肉薄する。

既に長刀は振り上げており、汚染エレメントドラゴンの頭部は目の前にある。戦いの度に感じる高揚感に頬を緩ませながら私は長刀を振り抜き……

 

「--------え…?」

 

着地する私。私の持つ剣は一直線に汚染エレメントドラゴンの頭を両断し、汚染エレメントドラゴンは断末魔の様な声を上げながら倒れ、そのまま消滅した。間違いなく私の勝利であり、討伐完了でもある。ただ一つ、おかしな点があったとすれば…それは、私の目の前の振り抜かれた剣が--------女神化した時の長刀ではなく、普段使っているバスタードソードになっていた事だった。

 

 

 

 

「……で、変に思って自分の身体を見てみたら…いつの間にか、女神化が解けていたんです」

 

と、締めくくる私。それを聞いていたイストワールさんは途中から目を閉じ、私が説明を終えるとそれに反応する様にゆっくりと目を開いた。

 

「…今の説明、何か間違えていたりはしませんか?( ̄  ̄)」

「はい、無いです。…何か、分かりましたか…?」

「そう、ですね…はい。思い当たるものが、一つあります」

 

こくり、と私の質問に頷くイストワールさん。イストワールさんは基本ボケたりしない人だし私の真剣さが伝わってる様なので、私は黙って次の言葉を待つ。

 

「……結論から言いますね。イリゼさん、あくまで恐らくですが…貴女は今、イリゼ様の残したシェアエナジーを上手く引き出せない状態になっています」

「上手く…引き出せない、状態……?」

 

その言葉に、私はごくりと唾を飲み込む。前にも一度、この様にイストワールさんと話した事があった。その時私はかつてないショックを受けたし、あの時の会話は今も私の脳裏に焼き付いているから、それを思い出して私は背中に嫌な汗をかく。

 

「まず、イリゼさんの使うシェアはイリゼ様が残したものなんです。詳しい事は知りませんが、イリゼさんが未来で問題なく動ける様多量のシェアを残し、その時々で適切な量のシェアがイリゼさんに流れる様な仕組みを作っていたとわたしは記録しています」

「多量のシェアを?…私は今までシェアが有り余ってる様に感じた事は無かったんですけどそれは…」

「それはおかしくありませんよ。だから適切な量、なんです。…ですが、イリゼさんの真価を発揮する為にはそれだけでは些か足りませんよね?武装精製も、爆発によるブーストも消費が激しいんですから」

「…そうです。だからそれを知ったネプテューヌ達が私にシェアクリスタルをくれて……もしかして、これが何か関係してるんですか?」

「その通りです。これも恐らくですが、イリゼ様は消費の激しいスタイルを使う程の敵は現れない、現れても多少使うだけで済むだろうと予測したのだと思います。しかし実際にはその予測は外れ、多量のシェア消費を賄う為にイリゼさんが使ったのは…イリゼ様が用意したもの以外の、シェアエナジーです」

 

自分の事ながら理解に若干の時間を要する私。……多少知ったつもりだったけど、まだ私は自分の事よく分かってなかったんだ…。

 

「……ネプテューヌ達のシェアは、私に取って有害だった…って事ですか…?」

「有害とまでは言いませんが…異物であったのは事実ですね。異物が大量に入ってしまった結果、イリゼ様が用意した本来のシェア配給システムに異常が発生した…という事だと思います」

「…そういう、事ですか……あの、その上で更に質問があります」

「…………」

「……私は、これからも女神化を…この力でもって、皆と戦えますか?」

 

あの後不審に思った私は女神化を試みた結果、問題なく出来たし違和感もなかった。…けど、異常が発生しているのならその影響が全くないなんてそんな事があるとは思えない。ひょっとしたら、私は……

 

「…戦えますよ。長時間戦闘や、瞬間的に多量のシェアを消費した場合はその時の様に女神化が解けてしまう可能性がありますが…何度もそんな事が起きない限りは、戦えなくなるなんて事はありません」

 

私の不安を感じ取ったのか、単に不安が顔に出ていたのか…とにかく私の不安を理解してくれていたイストワールさんは、私を安心させる様な優しい声音で言葉を返してくれる。その言葉に、私は……心から安堵していた。

 

「…良かった……」

「…安心、出来ましたか?」

「はい。まだ、私は皆と戦いたい…皆の力になりたいんです」

「別に戦うだけが皆さんの力になる事だとは思いませんよ?自画自賛になってしまいますが、現にわたしは戦闘以外で力となっている訳ですし( ̄▽ ̄;)」

「分かってます。……でも、私も『女神』ですから」

 

そう返すとイストワールさんは微笑みを浮かべ、また何かあったらその時は力になると言ってくれた。それが私とイストワールさんの創造主である原初の女神への敬意からなのか、私との友情からなのかは分からないけど、その言葉は本当に心強かった。

無理を、無茶を続ければ女神化出来なくなるかもしれない。私はこの力を大事に思ってるし、はっきり言えば失うのは恐ろしい。……けど、必要に迫られたら例え次女神化したらもう出来なくなるとしても、きっと私は女神化すると思うし、その時は怖じけずに女神化したいと思う。だって、女神化は…もう一人の私がくれたこの力は……私の大事なもの、無くしたくないものを守る為の力だから。




今回のパロディ解説

・上の世界と下の世界
ドラゴンクエストⅢの舞台となる、二つの世界の事。この場合は一応物理的に繋がってますが…塞がり方やその後の物語を見るに、単純な上下関係ではなさそうですね。

・夢の世界と現実の世界
ドラゴンクエストⅥの舞台となる、二つの世界の事。こちらは二つの世界の設定がかなり複雑な上、そもそも繋がっているという表現自体適切かどうか微妙ですね。

・フォールドディメンショナルレゾナンスシステム
マクロスシリーズに登場する特殊システムの事。これは次元は次元でも次元『断続』突破の為のシステムなので、仮にこれがあっても天界へ行けるかどうかは怪しいです。

一月二日、活動報告を更新(?)しました。気が向いた方は読んで頂けるとありがたいです。


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第八十六話 終焉を呼ぶ闇色の柱

あれから一週間経った。女神の皆は汚染モンスター討伐(発生より討伐の方が速いペースだったのが日に日に汚染モンスター発生報告は減っていった)を続けながらも天界へと向かう準備を進め、コンパ達はそれぞれで女神の皆の手伝いを行なっていた。

そうして各自が天界へ向かう日の為にやる事をやる中、私は……

 

「……うん、これは見逃そうかな」

 

森の中で、数匹で群れて楽しそう(あくまで私の主観だけど)にしているモンスターを背にしてその場を去る私。どう見ても今見つけたモンスターは汚染化していない…つまり誤報であり、街からもかなり離れたダンジョンだった為に危険性は低いと判断して見逃す事にした。…モンスターが相手でも、むやみやたらに殺すのは気分の良いものじゃないからね。

私は報告会の前と変わらず遊撃中心の汚染モンスター討伐を行なっており、恐らくパーティーメンバーの中で最も報告会前後で変化の少なかった人だと思う。…まぁ、全く変化がない訳じゃないけどね。例えば、

 

「…長めのお散歩とでも考えようかな、モンスターに襲われる可能性あるからまったりは出来ないけど」

 

ダンジョンから街へと戻る時、女神化せず最後まで徒歩で帰る様になった。理由は…勿論、先日の女神化解除とそれについてのイストワールさんの回答があったから。皆の為なら力を失うのもいとわない、って意思は変わらないけど、出来るならば失いたくないし、失うにしてもこんなろくに描写もされない様なところで失うのはあまりに惜し過ぎる。……とはいえ出し惜しみして大怪我負ったら本末転倒だし、場所や状況によっては女神化して移動したりもするけどね。

 

「…女神化、か……」

 

仲間の力を借り、私とその力を用意してくれたもう一人の私に後押しされて戦いに望んだ結果、その力に不備が発生するなんてあまりにも皮肉過ぎる。シェアクリスタル無しで向かったら生き延びるのは絶望的だから力を失うだけで済むのはむしろマシな方と考える事も出来るけど…。

 

「……失いたく、ないな…」

 

自分に過去が無い事、創られた存在だったって事には一応自分の中で納得いく形に持っていけたし、偶然や運も関係してるとはいえそのおかげで今の私と皆との生活がある訳だから今更思い悩む事ではない。……けど、女神化…というか女神の力は私に取って唯一の『最初から持っていた』ものであり、今の私がある大きな要因でもあるから、力を失うのは嫌だし…怖い。だけど、それを皆や私の守りたいものと天秤にかけるのは何か違う気がするというか、記憶が戻ると思っていたとはいえ、ネプテューヌと一緒に力を開け渡そうとしてたあの時の私より利己的になってる様な気がするとか……

 

「…あーもう!止めだ止めだ!…うん、なるべく失わずに済む様にする、でいいじゃない…はぁ……」

 

額に手を当ててため息を吐く私。答えの出せない様な事を一人で考えた挙句自ら気を滅入らせる…前から思ってはいるものの、中々治せない私の悪い癖だった。

 

「……こういう時は…あれしかない、ね」

 

一度こうなってしまうと中々気分を切り替えられない私。けど、どうしようもない訳でもない。だから私はそのどうにかする手段の一つを実行する為、極力能天気な事を考えつつ街へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

「あ、開いてる…ただいま〜」

 

扉が開く事を確認した私は扉を開けて中へ…コンパの借りているアパートの部屋へと入る。実は中に鍵の持ち主がいる訳ではなく、泥棒によってこじ開けられただけだった…という可能性は、考え出したらキリが無いので思考から追い出し、玄関と廊下を通ってリビングルームへ行く。

 

「お帰りなさいです〜」

「討伐帰り?お疲れ〜」

「あ、ネプテューヌ…という事は、こっちも討伐帰り?」

「そうよ、今日もねぷ子がふざけてて大変だったわ」

「ま、まぁちゃんと討伐はしたので大目に見てあげて下さいアイエフさん…」

 

私を迎えてくれたのは四人の顔触れ、所謂汚染モンスター討伐プラネテューヌ組だった。最悪留守かもなぁ…と思いながらここへ来た私としては少々意外であり…喜ばしかった。

 

「やーこの面子で集まるのは久しぶり…って程じゃないから、ちょっと振り?」

「いや、この面子で集まるのは初めてじゃない?そうでしょ?イリゼ、ネプギア」

「そうだね、私とネプギアは今までフルメンバーで集まった時しか一緒に居なかったし」

「そういえばそうですね…ええと、改めて宜しくお願いします」

「…ほんと、どっちが姉だか分からない姉妹だよねぇ」

 

そういうとネプテューヌはむ〜、とちょっと不満気な表情を浮かべるも、特に反論したりはしない。…言われない様に頑張ってるのかただ単に言われ慣れただけなのか…うーん、まあネプテューヌだし恐らく後者だよね。

 

「…あれ?イリゼちゃん、右手に持ってるのは何です?」

「あぁこれ?何だと思う?」

「魔装錬器かしら?」

「私魔装少女じゃないんですけど!?」

「じゃあ、ソウルジェム?」

「魔法少女でもありません!っていうかこれどう見ても紙の箱だよね!?宝石には見えないよねぇ!?」

 

なんて事ない至って普通の質問にすらパロディボケをかましてくるからうちのパーティーは困る。しかも基本は突っ込み担当のメンバーですら隙あらばボケに回るものだから油断ならない。……私も時折ボケるから人の事言えないけど。

 

「…えと、もしかして…ケーキの箱ですか?」

「あぁ、ネプギアは良い子だね…そうケーキの箱、じゃーん」

『おぉー…!』

 

リビングのテーブルに箱を置き、取っ手とか蓋になってる部分とかを組み外して中を見せる。そこに入っていたのはショートケーキやチョコケーキ等の色鮮やかな五つのケーキで、それを見た皆は途端に色めき立つ。

そう、私の『こういう時』の『あれ』とは甘いものだった。いやほら、だって甘いもの食べたら幸せな気分になるでしょ?お手軽な気分転換の方法としては最適だよ。

 

「もしかしてわたし達にもくれるの?やったー!」

「いやまだ何も返答してないじゃん…そのつもりだけどさ」

「ありがとうですぅ。あ、じゃあ紅茶淹れますね」

「…これ、お菓子屋のケーキよね?高くなかった?」

「高いか安いかで言えば高いけど…汚染モンスター討伐のついでにクエストも受けてたからね、これ位なら懐に響きはしないよ」

 

皆はそさくさとお茶やお皿を用意し、テーブルの上を片付ける。その様子たるや、水を得た魚の類義諺として『ケーキを得た女の子』というものを作りたくなるレベルだった。

 

「さて、準備も出来た様だし…皆さん召し上がれ。私が作った訳じゃないけどね」

『頂きまーす』

 

各々好きなケーキを取り、フォークで一口運ぶ私達。私達の口の中にケーキの甘さと柔らかさが広がり、自然と頬が緩んでしまう。はふぅ…炬燵には人を惹きつけ話さない魔力があるって言うけど、女の子にとってはケーキもそれと同様の魔力がある様に思えるなぁ…。

 

「んー、これぞまさに至福!」

「だね、あ…お姉ちゃんちょっとこっち向いて」

「ほぇ?どしたのネプギア?」

「ほっぺにクリーム付いてるよ、ほら」

「あ…ありがとねネプギア、あむっ」

「わっ…お、お姉ちゃん!?」

 

ケーキを頬張るネプテューヌ。そして彼女の頬に生クリームが付いてるのをいち早く気付いたネプギアが、指で生クリームをすくってネプテューヌに見せる。

おてんばな姉としっかり者の妹、というネプテューヌとネプギアの関係性を表しているかの様な微笑ましい光景に、私達三人はほっこりしていた…そんな中だった。ネプテューヌが生クリームをネプギアの指ごと咥えたのは。

 

「んー?」

「んー?じゃないよ!?」

「じゃあ、んんー?」

「そういう問題じゃないからね!?」

 

姉の突然の過剰なスキンシップに目を白黒させるネプギア。ネプテューヌの事だから別に下心は無いだろうし、実際生クリームを舐めとった後は口を離していたけど…ネプギアからすればいきなり姉に指を舐められた訳で、まだ他の面子程ネプテューヌの事を知らないネプギアには、ネプテューヌの真意を知る由もない。

そして、私といえば……

 

「な…ななな……っ!?」

「ねぷ子あんた……って、イリゼ?」

「イリゼちゃん?どうしたですか?」

「……あ…な、何でもない…」

 

ネプギアと同じ位目を白黒させていた。……まさかこんな伏兵がいたなんて…くっ、妹属性恐るべし…!

 

「うぅ、驚かせないでよお姉ちゃん…」

「あれ、今のって食べて良いよアピールじゃなかったの?」

「違うよ!?……早くお姉ちゃんのキャラに慣れないと体力持たないかも…」

「…残念だけどネプギア、私達常識派突っ込み組は慣れたとしてもいつも体力の危機に晒されるんだよ…」

「そ、そうなんですか…」

 

ネプテューヌ達の『……常識派?』って言いたげな視線をスルーしてネプギアに現実を伝える私。この言葉には文字通りの意味の他にも少しばかり別の意味を持たせたつもりだったけど…ネプギアには文字通りの意味しか伝わってない様だった。……やっぱこれはノワール位にしか伝わらないかな…。

 

「なんか妙な空気になったわね…」

「あはは…そういえば、イリゼちゃんはわたし達がいるかもと思って五人分買ったんですか?」

「あ…うん、そうだよ。ケーキは日持ちしないし、誰もいなかった場合不味いなぁとも思ってたけど」

「へぇ…あれ、いーすんは?いーすんもいるかも…とは思わなかったの?」

「イストワールさんがいたら私の分を少し分けるつもりだったよ?だってイストワールさんは、ケーキ一切れどころか私達の一口か二口分しか食べられないでしょ?」

 

そう言って私は一口分をフォークで切り分け、刺して持ち上げる事で皆に見せる。吹けば飛ぶ…程では無いにしても、吹けば転びそうなサイズのイストワールさんは当然食べる量も少なく、私達の一口分がケーキ一切れかそれ以上に該当してしまう。物凄く食費がかかりそうにない存在、それがイストワールさんだった。

 

「それもそっか…ふぅ、ご馳走様〜」

「ねぷねぷ、もう少ししたら今度はお仕事の時間になるですよ?」

「えぇー……はぁ、記憶が無くて前どうやって仕事こなしてたか分からないんだからもっと仕事量少なくしてくれても良いのに…」

「自分で記憶取り戻さないって選択したんだから自業自得よ。書類仕事については私達が手伝える事も限られてるし、諦めて仕事しなさ--------……っ…!?」

「え……地震…?」

 

他愛ない会話に戻り、何となくガールズトークっぽい雰囲気になりつつあった最中……揺れが、発生した。乗り物に乗っておらず、台風や竜巻が発生している訳でも近くで激戦が繰り広げられてる訳でもない状態で明らかな揺れを感じるとすればそれは地震しかない。慌ててテーブルの下に隠れる程ではなく、でも全員が感じる程度には揺れて、瞬時に私達の雰囲気がガラリと変わる。

--------が、私達を驚かせたのはそれだけではなかった。

 

「……何、あれ…」

 

窓の外へと目を向けていたネプテューヌが、ぽつりとそんな声を漏らす。そのネプテューヌらしくない、唖然としているかの様な声音につられて私達が目を向けた先には……

 

 

禍々しい『何か』を感じる、闇色に輝く巨大なエネルギー体の柱がゲイムギョウ界の空を貫いていた--------。

 

 

 

 

突然現れた、正体不明の闇の柱。それに呼応する様に発生した地震。それを見、感じた人々はそれに動揺しない筈もなく、崩壊を免れた区画にて、出来る範囲で教会としての機能を維持させていたプラネテューヌ教会も例外ではなかった。

闇の柱出現と地震の発生から約数十分後。私達は、プラネテューヌ教会に急行していた。

 

「いーすん!今どうなってるの!?教会の皆とか他国行ってる皆とかは無事!?これからまだ何か起きる!?」

「お、落ち着いて下さいネプテューヌさん、そんないっぺんに言われてもちゃんとは答えられません!(>_<)」

「あ……ご、ごめん。…じゃあ、一つずつなら答えられる?」

「…はい、答えられますし聞かれなくても言うつもりでしたので、一旦皆さんは座って下さい」

 

イストワールさんを吹っ飛ばしそうな勢いで質問を畳み掛けたネプテューヌは、イストワールさんの言葉に冷静さを取り戻し、近くの椅子に腰を下ろす。それに続く様に私達も座ると、早速イストワールさんが説明を始めた。

 

「一番答え易いのは…皆さんの安否の事ですね。うちの職員も他国の皆さんも無事ですよ。まあ、探せば地震で転んで膝を擦りむいた、とか位は出てきそうですが…

( ̄▽ ̄;)」

「そっか…まぁそりゃそうだよね、よく考えたらあの弱めの地震以外、すぐに実害ありそうな事は起きてないし」

「…で、次に何が起こっているかですが……単刀直入に言いましょう。今現在、引き寄せ合っているかの様に四大陸が一斉に動き出しています」

 

元々ふざける事の殆どないイストワールさんだけど、今回はいつになく真剣な様子だった。言葉の内容は勿論、そんな彼女の様子を見て私達は、それがただ事ではないと察したけど、私達に比べると知識もイストワールさんの人柄も知らないネプギアは不思議そうな表情を浮かべている。…最近までの私やネプテューヌも、こんな感じだったのかな…。

 

「あの…確か大陸って、普段も近付いたり離れたりしてるんですよね?それとは違うんですか?」

「えっとですねギアちゃん。それはその通り何ですけど、四大陸が一斉に近付くなんて事は滅多にないんです」

「滅多に、であって前例がない訳じゃないけど…このタイミングで起こるなんて、偶然とは思えないわよね」

「そういう事ですか…じゃあ地震もその影響ですか?」

「そうだと思うよ。急に大陸の動きが変わったからだろうね」

 

ネプギアの疑問にそれぞれで答える私達。……因みにその間、ネプテューヌは「ほぇー…そうなんだ」とか言ってたけど…触れない事にする。

 

「そしてもう一つ。あの巨大なエネルギー柱ですが…あれは十中八九、負のシェアによるものでしょう。イリゼさんとネプテューヌさん、ネプギアさんは何か感じませんでしたか?」

「あ、感じましたよ。あれはユニミテスとか汚染モンスターと同じものを感じます」

「では負のシェアで間違いありませんね。詳しい原理は説明すると長くなるのですが…大陸移動はあのエネルギー柱によるものです」

 

あの柱自体がとんでもなく禍々しさを感じる上、それが天変地異クラスの事態を起こすとなればもう明らかに冗談で済む話ではない。イストワールさんの話を聞く私達の顔も、尚一層真剣なものへと変わっていく。

 

「…もし、このまま大陸が近付いていったら、どうなるんですか…?」

「……四大陸が激突し、未曾有の大災害となるでしょう。いったいどれだけの生命が散るか、分かったものではありません」

「じゃ、じゃあどうすれば良いのさ!?たかが大陸一つ、女神の力で押し返してやる!パープルハートの名は、伊達じゃない!とか言えば良いの!?」

「こんな時までボケないで下さい…止めるには、あのエネルギー柱を発生させ、制御しているであろう存在を倒すのが一番良いと思います」

「……その、制御しているであろう存在ってのは誰?」

「…こんな事をするのは、マジェコンヌ以外考えられません」

 

ごくり、と唾を飲み込む私達。イストワールさんの説明を聞く前から…もっと言えば、闇色の柱を見た時点で私達は恐らくマジェコンヌが原因だろうと踏んでいた。…けど、今度は私の頭に一つの疑問が浮かぶ。

 

「…マジェコンヌにそこまでのシェアがありますか?確かにユニミテスを含めた様々な方法で負のシェアを集めていた事は分かってますが、それでもあんな巨大な負のシェアの柱を作るなんて……」

「無理でしょうね。ですから、あれはマジェコンヌの有するシェアのみで起こしている訳ではないと思われます。あの柱がある位置には、何がありますか?」

「何、って……まさか、ギョウカイ墓場!?」

「そうです。自身の持つシェアをスターターにする事で、ギョウカイ墓場の膨大な負のシェアを利用したのでしょう」

 

ギョウカイ墓場には、本当にあり得ない程の負のシェアが存在している。そんなギョウカイ墓場の負のシェアを利用しているのなら、天を貫く程巨大なシェアの柱を形成するのも不可能ではないと思えるけど…今度は女神四人の力を有しているとはいえ、そのシェアの柱を制御しているマジェコンヌの能力、精神力が末恐ろしく感じられる。…改めて思う。その在り様はどうあれ、マジェコンヌはとても普通の人間の枠に収まる様な存在ではないと。

 

「……倒しに行こう、皆」

「…まだ元の予定日は先です。万全を期す為に、予定日まで待つというのも手ですよ?」

「分かってる。でもさ、マジェコンヌなら更に何かしてくるかもしれないし、何より皆不安になってる筈だよ。…だから、危険だとしても、もし皆が予定日まで待つとしてもわたしは行くよ」

「…それは勇猛、じゃなくて無謀ってものだよネプテューヌ。……だから、私も着いて行くよ」

「わたしもです。ねぷねぷだけ行かせるなんて、そんな危ない事させられないです」

「一人で行くより、一人でも戦力は多い方が良いでしょ?…私も行くわ」

「皆……」

 

ネプテューヌの前に立ち、一人一人意思を告げる私とコンパとアイエフ。それを見たネプテューヌは一瞬驚いた様な顔をし…その後、本当に嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「…皆さんならそう言うと思ってました。…ですがネプテューヌさん、国民の為を思うなら混乱した状態の国民をほっとく訳には行かないのでは?(´・ω・`)」

「あ……え、えーっと、それは…」

「……明日の朝までは待ち、その間に然るべき事をして下さいネプテューヌさん。そうすれば、全員一斉に天界へ向かう事が出来ます」

「え……それって…」

 

目を瞬かせるネプテューヌに対し、イストワールさんは頷く。それぞれの国に今はいる皆も、行けるのならネプテューヌ同様今すぐにでも行くつもりだったのだった。

 

「…分かった、明日の朝まで待つよ。それと、明日の朝までに出来る限りの事はしたいから、皆手伝ってくれる?」

「うん。勿論だよ、ネプテューヌ」

「よーし、それじゃあ…頑張るよ皆!ゲイムギョウ界の為に、ゲイムギョウ界で生きる人達の為に……わたし達の、未来の為にっ!」

 

ネプテューヌの言葉に、全員が頷く。その時のネプテューヌは…凛々しく気高い言動を振るう彼女は、紛れもなく守護女神・パープルハートだった。




今回のパロディ解説

・魔装錬器、魔装少女
これはゾンビですか?に登場する用語の事。ケーキの箱型の魔装錬器を手に、イリゼは魔装少女に!…うーん、一発ネタとしては面白そうですが、これ絶対書き辛いですね。

・ソウルジェム、魔法少女
魔法少女まどか☆マギカに登場する用語の事。ケーキの箱型ソウルジェムを手に、イリゼは魔法少女に!…上記のネタ以上に書き辛そうですね、多分私は書かないでしょう。

・「〜〜たかが大陸一つ、女神の力で押し返してやる!パープルハートの名は、伊達じゃない!〜〜」
機動戦士ガンダム 逆襲のシャアの主人公、アムロ・レイの名台詞の一つのパロディ。プロセッサユニットにサイコフレームが組み込まれていたら…まぁ、無いですけどね。


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第八十七話 決戦の朝

私達の前で堂々と見栄を切ったネプテューヌは本物だった。まず国民に向けて会見を開き、その中でネプテューヌなりの言葉を発する事で国民を安心させ、その後は限られた時間の中で出来る限りの保険策と準備を進めた。

普段のネプテューヌからは想像出来ない程の真面目さと要領の良さ、仕事の正確さは私達を開口させるのには充分過ぎるものだった。…いや、今までにも似た様な事はあった。ネプテューヌは怠惰で基本駄目人間(というか女神)だけど、それはあくまで平時、普段の様子であって一度スイッチが入ればその様子は一変する。無論、記憶喪失故の知識不足や得手不得手の関係で全ての事を一人でこなした訳ではなく、私達や職員の人達の協力があっての事だったけど、そのネプテューヌ独自の魅力と率先して動く姿が私達に協力をしようと思わせたと言っても過言ではなかった。

そして、日は変わり、翌日の朝となる--------。

 

 

 

 

「えぇっ!?ちょっ、それ本当なの!?」

 

プラネテューヌ教会の廊下にネプテューヌの声が響く。別にマスオさんのモノマネをしている訳ではない、というかモノマネで時間を無駄にしている場合ではない。だから、ふざけているのではなく単純にネプテューヌは驚いているのだった。

 

「は、はい!例の柱を中心とする様に汚染モンスターの発生数が格段に上昇したという通達がギルドから送られてきました!現在確認を急いでいますが、恐らく誤報ではないと思われます!」

「あーもう最悪のタイミングだよ!…いや、最悪のタイミングっていうか……」

「…起こるべくして起きた事、なのかも?イストワールさん、これも負のシェアの柱の影響ですか?」

「そうでしょうね…汚染モンスターの増加は想定していましたが、昨日の今日でもうとは……」

「せっかく数を減らしたのに、また増えちゃうなんて…」

 

然るべき手を打った上で仮眠をとった私達(ただのモンスターならともかく、マジェコンヌが相手の場合は少しでもコンディションを良くしておきたいからね)が、いざ天界へ!…とシェアクリスタルの間に向かっていた所で起きた(言われた)のがこれだった。仕方ないといえば仕方ないけど、こうも狙ったかの様に出鼻を挫かれると何ともやるせない気持ちになる。

 

「…ねぷ子、どうする?ほっとく訳にはいかないわよ?」

「汚染モンスターさんは早めに倒さないと後々大変ですぅ」

「けど、そっちに時間かける訳にもいかないし…他の国から何かきてる?」

「いえ、今の所はまだ…」

「そっか…うん、こんぱ、あいちゃん、皆にTV電話しようって連絡入れてもらえる?天界行くなら天界、汚染モンスター討伐なら討伐できちんと話し合っておかなきゃ勘違いが起こりかねないし」

「あ、えぇ…分かったわ、ちょっと待ってて頂戴」

 

ネプテューヌの指示を受けたコンパとアイエフがすぐに携帯を出し、手分けして各国へ連絡を取る(私とネプギアが頼まれなかったのは、単に携帯を持ってないからと思われる)。ちゃらんぽらんなネプテューヌには似つかわしくない適切な指示だけど、これを昨日から何度も見てる私達は若干違和感を感じる程度でもう驚いたりはしない。

 

「それと…職員のおにーさん、汚染モンスターの情報は進展があったらその都度教えてくれないかな?」

「勿論です!ネプチュー…ネプトゥー…こほん、女神様の仰せとあれば汚染モンスターの一歩一声に関する事まで全てお伝えしますとも!」

「そ、そこまで細かくなくても良いんだけど…後ここにもわたしの名前上手く言えない人いたよ……」

 

コンパとアイエフが連絡を取っている間に職員さんにも指示を出すネプテューヌ。激しくどうでも良い事だけど、珍しく真面目な台詞と突っ込みをネプテューヌが担当していた会話だった。…今私がボケたら良い突っ込みしてくれるかな?気になるだけで実践はしないけど。

 

「…お姉ちゃん、わたしも何かした方が良いかな…?」

「んー…いや、いいよ。何か役頼んでネプギアが席外した所でTV電話が始まったりしたら可哀想だし」

「そっか…」

「一応私も訊いてみようかな…ネプテューヌ、じゃあ私は?」

「あ、イリゼには買い出しを頼もうかな」

「うん……って頼むの!?え、TV電話は!?私はそれに必要ないと!?」

 

若干手持ち無沙汰だった為にネプギアと同じ質問をしてみたら、なんと用事を頼まれてしまった。あまりの驚きに、目を白黒させながらノリ突っ込みをしてしまう私。するとネプテューヌは冗談冗談と言いながら普段の子供っぽい笑みを浮かべていた。くっ…やはりネプテューヌはネプテューヌか…!

 

「ねぷねぷ、ラステイションとルウィーに連絡出来たですよ」

「リーンボックスも準備が出来次第大丈夫だって言ってるわ」

「二人共ありがと。いーすん、TV電話に使えそうな部屋ある?」

「使えそうな部屋ですか…まぁ、普通の部屋なら大概大丈夫では?( ̄ー ̄)」

「それもそっか…じゃ、狭っ苦しい部屋以外にしよう」

 

と、いう訳で適当な部屋へと入る私達。早速TV電話をセッティングし始め……

 

「ここかな?それともここかな?」

「あのー…ネプテューヌさん、どうしてわたしの頭や肩を撫でたり揉んだりするのでしょうか……(~_~;)」

「え?いーすんにTV電話機能があるんじゃないの?こう、目がプロジェクターみたいになっててピカーって」

「そんな機能ありませんよ!?ネプテューヌさんはわたしを何だと思ってるんですか!?Σ(゚д゚lll)」

「おかしいなぁ…VやRe;berth3では神次元のいーすんと繋がってTV電話っぽい事してたのに…」

「それとこれとは話が別です!というか、百歩譲ってそんな機能があったとしても、身体の一部がスイッチになってたりはしませんからね!( *`ω´)」

 

ぷんすか、と怒りを露わにするイストワールさんに、ネプテューヌは頬をかきながら謝罪を述べる。…どうもそろそろ真面目モードは活動限界らしかった。ひょっとすると描写されないシーンから描写されるシーンに移ったからかもしれないけど。

 

「……ネプテューヌはほっておいて、私達でセッティングしようか」

「あ、もう終わりましたよ?」

「速いね、アイエフ辺りがやったの?」

「ううん、やったのはネプギアよ?」

「え、ネプギア?……得意だったの…?」

「得意というか何というか…実はわたし、機械全般が好きなんです」

 

いつの間にか準備されていた機材に驚く私(一応言っておくけど、携帯に内蔵されてる様なTV電話じゃないからね?あれならそりゃ簡単に準備出来るよ)。因みにこれは、今の所おどおどしてたり周りから知識を吸収したりと受け身の行動が多かったネプギア(女神候補生)の、初の能動的且つ個性的な一面が垣間見えた瞬間だった。

 

「おぉー!流石ネプギア、わたしの妹だけあって役に立つね!」

「ネプテューヌの妹なだけあるのかどうかは別として、機械に詳しい人がいるのは何かと助かるかもね」

「そ、そんな褒められる程の事じゃ…でも、嬉しいです…えへへ……」

「ギアちゃん、照れてるですね」

「ふふ、成長してる様で何よりです。さて、お二人の話ではまだ他国が準備出来てない様ですし、繋がるまで少し待ちましょうか( ̄∇ ̄)」

 

イストワールさんの言葉に頷き、椅子やらソファやらに腰掛ける私達。そしてTV電話が繋がる…つまり、四ヶ国全てが準備完了するのは、意外と早くてそれから五分もしないうちだった。

 

 

 

 

『第六回、今後のねぷねぷ一行の活動方針を考えよう会inオンライン』

 

TV電話が繋がり、それぞれと国にいる面子と自分達の顔が映し出された時、私達のいる部屋の壁にはいつもの看板が貼ってあった。……って、

 

「えぇぇぇぇっ!?いつの間に!?ネプテューヌ用意なんてしてなかったよね!?いつ誰があれ用意したの!?」

「やー、inオンラインは若干語感悪かったかなぁ…」

「そんな事訊いてないよ!?確かに気になるといえば気になるけど、そこはどうでもいいよ!?」

 

凄い勢いで首を振って、部屋の壁と画面とを交互に見比べる私。前々から「妙に準備速いなぁ、ほんとにネプテューヌが用意してるのかなぁ」とは思ってたけど、今回はその比ではなかった。…ぷ、プラネテューヌ七不思議の一つとかじゃないよねこれ……。

 

「…相変わらず元記憶喪失コンビは仲良いわね」

「何度突っ込みを重ねてもやれやれ型突っ込み一辺倒にならない、ある意味凄いですわね」

「最早これは芸風なんじゃないかしら…」

「他人事感溢れるコメントありがとう…皆の国は大丈夫?」

 

対岸の火事かの様な台詞に半眼で返す私。ふん、この流れでハイテンション突っ込みを返す程私は芸人脳じゃないもんね。……突っ込み返してる時点で全く芸人脳が無い訳でもない気はするけど…。

…が、私が突っ込みと同時に会話を進めたからか、女神の皆は今度は真剣な表情を浮かべて返答をする。

 

「大丈夫よ、うちでも結構な数の報告が上がったけど、まだ都市部からは離れてるもの。皆もそうじゃない?」

「それより問題はどう対応するか、ね」

「あ、一つ訊いておきたいのですけど、もし仮にまた汚染モンスター討伐を行なった場合、その後汚染モンスターの数はどうなりますの?」

「一時的には減るでしょうが…すぐにまた増えだすでしょう。あの柱がある限り、汚染モンスター急増が収まる事はありませんから(-_-)」

 

ベールの質問への回答は、私達にとってはありがたくない内容だった。すぐにまた増えだすのであれば、当初の予定の様に一度討伐出来るだけ討伐してから天界へ向かう、という手段が取れなくなってしまう。そしてそれはつまり、どう策を取っても下界に不安を残した状態で天界へ向かわざるを得ないという事だった。

 

「…なら、汚染モンスターを叩く担当と、天界へ行ってマジェコンヌを叩く担当の二つに分かれるしかないにゅ」

「そうだな。脅威度に関してはマジェコンヌの方が上だが…四ヶ国全てを守るとなるとそちらにもそれなりの人数が必要だろう」

「……あ、あの…ギルド、でしたっけ?…に、協力を頼むのはどうですか…?」

 

おずおずと挙手しつつ提案を口にするユニ。内容の有用性はともかく、ギルドというのは誰も考えていない発想だった為、しばし思考を巡らせる私達(ネプギアはどうしよう…みたいな表情だったし、ロムちゃんラムちゃんはきょとんとしてたから厳密には全員じゃないけどね)。

 

「ギルドかぁ…良い案だとは思うけど、問題はギルド側で集められるのは、ネプちゃん達女神やわたし達とは違って普通の域を超えない人達、って事じゃないかな?」

「そうね、汚染モンスターと正面からやり合える人は多くないし、場合によっては連戦にもなるだろうから戦える人はかなり限られてくるわ」

「そ、そっか……」

「まぁまぁ、気を落とす事ではありませんわよユニちゃん。積極的討伐は無理でも、街に一定以上戦える人がそれなりに待機していてくれれば、万が一の時に対応出来ますもの。万が一の備えがあるのとないのとでは安心感が段違いですわ」

「…ちょっとベール、ユニの案を評価するのは構わないけど、まさかユニの姉の座を奪おうとしてるんじゃないでしょうね?」

「ふふっ、それはどうでしょう?」

 

胸を揺らして余裕のある笑みを浮かべるベールと、フォローの役を取られてしまったからかむっとした表情を見せるノワール。両者の反応に事の発端であるユニはおろおろとし始める。…なんというか、あまり微笑ましくない光景だった。

 

「の、ノワール様落ち着いて…」

「ベールさんも思わせぶりな態度は駄目だと思うよぉ…」

「それもそうですわね。別にかっさらう気はありませんので安心して下さいな。……現状では」

「なら良…くないわよ!なんで最後に不安を煽る様な事言うのよ!?」

 

サイバーコネクトツーと鉄拳ちゃんの仲裁でノワールとベールのユニ争奪戦(?)は収束…しなかった。…が、これに付き合ってたらいつ終わるか謎なので放っておいて話を進める私達。

 

「うーん、何人何人で分けるのが最適なのかな?」

「どちらかを一人だけ…って言うのは確実にアウトだって事しか分からないかな…」

「最低でも各国一人以上、じゃないかな?あたし達…というかどんな人でも一度に複数の戦場で戦える訳ないし」

「マジェコンヌの方にも結構な戦力が必要よ。現状わたし達四人の力を得てる訳だから、コピー及び強奪された時点の女神四人分の戦力が最低ラインかしら…」

 

マジェコンヌの強さと想定される汚染モンスターの数を念頭に熟考する私達。マジェコンヌの方へ割く戦力を見誤ればマジェコンヌ担当メンバー全滅の危険性があるし、汚染モンスターの方へ割く戦力を見誤れば数多くの怪我人や死者が出る可能性もある。そして、そもそもの話として今いるメンバーで両方何とか出来るという確信がある訳でもない。その上でどちらにどれだけの戦力を割くか。

答えのない、仮にあったとしてもここではそれを証明しようのない問題に、真剣かつ真摯に思考を巡らせる私達。そして…一つの答えを、打ち出す。

 

「…あたし達が、汚染モンスターを担当するよ」

 

そう、ファルコムが口にする。…否、ファルコムだけではない。本来ならそれこそ他人事である筈の、別次元から来た皆が、それぞれの言葉を述べていく。

 

「単純な戦闘能力なら、ネプテューヌ達女神の方が上だからな」

「わたし達なら大丈夫、汚染モンスター位やっつけちゃうよ!」

「うんうん、ネプちゃん達程じゃないけど、わたしも強いんだからね」

「心配はしていないけど、ねぷ子達も油断は禁物だにゅ」

「下界はわたし達が守るから、皆はマジェコンヌをお願い!」

 

それは、頼もしい、頼もしい仲間達の言葉だった。具体的な根拠がある訳でもなければ、皆を過大評価してる訳でもない。だけど、私は…私達は、こう思った。--------皆に任せておけば、下界は大丈夫だ、と。

 

「…コンパさん、アイエフさんはどうしますか?」

「わたしですか?わたしは…わたしは、ねぷねぷに着いていくです。この旅はわたしとねぷねぷで始まった旅です。だから最後まで着いていきたいんです」

「こんぱ…あいちゃんは?わたしは別に強要しないけど…どうする?」

「…私も着いていくに決まってるじゃない。ねぷ子達だけじゃ重要な所でミスしかねないし…この次元に住む者として、この戦いの行方は最後まで自分の目で見届けたいわ」

「……なら、決定だね」

 

こくん、と頷き合う私達。別次元組の皆とコンパ、アイエフは勿論。彼女達の言葉を誰も否定しなかった事により、誰がマジェコンヌを討ち、誰が汚染モンスターから下界を守るかが決まった。

 

「…皆が任せてくれたんだから、私達は全身全霊で持ってマジェコンヌを倒すよ。だから、期待していて」

「心配なんてしなくて良いわ。女神として、仲間として…絶対勝ってくるから」

「まだわたくしはやりたい事…皆様とやりたい事があるんですの。だから負けたりなんてしませんわ」

「下界の事は頼むわね。決して楽な事ではないと思うけど…貴女達の強さはわたし達女神全員が認めているわ」

「全部終わったら皆でまた遊ぼうね!任せたよ、皆。それと…任せて、皆!」

 

これ以上の言葉は必要ない。私達は何から何まで言わなきゃ伝わらない様な薄い関係ではないし、もしまだ何か言いたいのであれば、それは終わってから改めて言えばいいだけの話。世の中何があるかは分からないし、確定している事なんて滅多にない。……けど、誰もその『もしも』なんて心配していなかった。だって……

 

 

私達は、私達を……皆を、信じているから。




今回のパロディ解説

・マスオさん
サザエさんに登場するメインキャラの一人、フグ田マスオの事。「(えぇっ・えー)!?」はアニメ(漫画)が元ネタのパロディにおける超有名クラスのネタですよね。

・V、Re;berth3
本作の原作であるRe;berthシリーズの三作品名とそのリメイク前の作品の事。はい、例の如く単なるパロディであってメインの物語に関わる情報とかではありませんよ。


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第八十八話 いざ、天界へ

「ここが、シェアクリスタルの間……」

「何だかよく分からないけど…凄いわね…」

 

感嘆の息を漏らすコンパとアイエフ。言葉にこそ出さないものの、この瞬間私も二人と同じ気持ちを抱いていた。

私達が訪れたのはプラネテューヌ教会のシェアクリスタルの間。女神でも教会職員でもないコンパとアイエフは勿論、女神であってもプラネテューヌの女神ではない私にとってもシェアクリスタルの間は始めて来る場所であり、この場の雰囲気に感銘を受けていた。

そう、雰囲気。単に幻想的…というだけでなく、実際に(といってもあくまで感覚として、だけど)『力』が空間に満ち溢れていた。

 

「何だか力がみなぎってくる気がするです…!」

「それはこの空間にあるシェアのおかげですよ。ここには負のシェアと対極の存在である、正のシェア、善意のシェアが充満していますから(´∀`)」

「シェアってその場にあるだけでそんな効果を持つものなの?知らなかったわ」

「シェア…というかシェアエナジーは感情や想いが元になってますからね、人の精神に影響し易いんです。でも、ここまで顕著になるのはここやギョウカイ墓場の様な、シェアが高密度になっている場所だけですよ(。・ω・。)」

「そうなんですか…そう言えば、私の眠っていた場所もほんの少しここに似た雰囲気があったけど…あそこも同じなんですか?」

「そうですね。イリゼさんとイリゼさんの眠りやシェア配給の維持の為にはかなりの量のシェアエナジーが必要な筈ですし、結果としてここに近い環境になっていたんだと思います( ̄^ ̄)」

 

すっかり解説・説明役が板に付いてきたイストワールさんの説明をふむふむと聞く私達。……いや、板に付いたって言っても元々説明担当になる事が多かったのかもしれないけど。世界の記録者でもある訳だし。

彼女の説明で私は魔窟の奥の一室を思い出した、と言ったけど…本当はそこだけでなく、ギョウカイ墓場も思い浮かべていた。ねっとりと絡みつく様な、底の無い沼へ沈められる様な、内で眠らせておく筈だった負の感情をかき立てられる様な、そんな黒く暗い何かに満ち足りている場所、ギョウカイ墓場。対極の存在とはいえ、本質的な意味ではこの場所もギョウカイ墓場も変わらないという事、そして私達女神の力も結局は悪意のシェアと表裏一体であるという事を考えると……ゾッとする。

 

「えっと…いーすん、天界に向かうにはわたしの力が必要って話だけど…どうやってやれば良いのかな?」

「あ、はい。基本はシェアクリスタルに意識を集中させつつ転移場所を強く思い浮かべる事で出来るのですが…ネプテューヌさんの場合それは出来ませんよね…

(ーー;)」

「うん、なんたって記憶喪失だからね!」

 

腰に手を当てて胸を張るネプテューヌ。見た目はちんちくりんだし言動も基本子供なせいでネプテューヌが胸を張ると、なんかもう一周回って微笑ましい。…しかし、自ら記憶を取り戻す機会を蹴ったネプテューヌは、単純な記憶喪失のカテゴリに該当するのかな……。

 

「何を誇らしげに…ではネプテューヌさん、疲労的な意味で大変な方法と、苦痛的な意味で大変な方法のどっちがいいですか?(・・?)」

「娯楽的な意味で楽な方かな」

「……選択権をネプギアさんに移譲しましょう(¬_¬)」

「えぇっ!?わたしの事なのに!?」

「ネプテューヌさんの事なのにふざけるからです。自業自得ですよ( ˘ω˘ )」

「そんなぁ……ネプギア、ネプギアは酷い選択なんかしないよね…?」

 

先程までとは打って変わってしゅんとするネプテューヌ。…私、コンパ、アイエフはそのやり取りを見て、「イストワールさんもネプテューヌの扱いが上手くなってきたなぁ」とか「そろそろ話進めてくれないかなぁ」とか思っていたのは言うまでもない。

 

「うぅん…じゃあ、疲労的な意味で大変な方を…」

「…その理由は?」

「え?それは…お姉ちゃんが痛い思いとか苦しい思いとかするのは、わたしも嫌だから、だよ?」

「ネプギア…もー、ほんとネプギアはいい妹なんだから〜♪」

「ふふ、だってお姉ちゃんの妹だもん」

 

ころころ変わるネプテューヌの表情、今度のネプテューヌは向日葵の様な笑みを浮かべていた。相変わらずぱっと見ネプギアの方が姉に見える光景だけど、さっきの胸を張っていたネプテューヌ以上に微笑ましい上、見ていてこっちも癒されそうなのでしばし姉妹のじゃれ合いを眺める私達。

……の、つもりだったけど…

 

「すりすり〜♪」

「ひゃんっ…お、お姉ちゃんくっ付き過ぎ……」

「……とうっ!」

「うわぁっ!?な、何するのさイリゼ!」

「何って…あんまのんびりしてると下界担当メンバーからももう行ってるであろう他国の天界担当メンバーからもブーイング受けるよ?」

「あ……う、うんそうだね…」

 

半眼で二人を無理矢理引き剥がす私。あの説明は建前とかではなく、本当に本心からの言葉だった。…流石にネプギアに嫉妬したりはしないって…姉妹愛だろうし、多分。

 

「…えと、いーすん方法の伝授をお願いします…」

「えぇ、お教えしましょう。…とは言っても、やる事自体は簡単ですけどね」

「え、そうなの?」

「そうなんです。元々シェアクリスタルには固定した座標が記録されてるので、とにかくネプテューヌさんはシェアクリスタルに意識を集中し、転移の門を開く事を考えて下さい。…あ、女神状態の方がやり易いと思いますよ(^^)」

「へぇ、それじゃあ…やってみるわ」

 

ネプテューヌは女神化した後にシェアクリスタルの前に立ち、まるで力を供給するかの様に両手を前に出して目を瞑る。

原理こそいまいち分からないものの、これが超常的且つかなり集中力が必要とされるものなのだろうと察した私達は口を閉じ、ネプテューヌも意識をシェアクリスタルへと向けた事でシェアクリスタルの間は静寂に包まれる。

 

「……いーすん、これで合ってるのかしら…?」

「どうでしょう、ネプテューヌさんの頭の中までは分からないので…合っていればそろそろ変化が起きる筈ですよ(・ω・`)」

「変化なんて……ーーっ…!?」

 

訝しげな声音で喋っていたネプテューヌが突然口を閉ざす。そしてその瞬間、シェアクリスタルとネプテューヌの手の間に紫色の、空間の歪みの様なものが発生する。

 

「何…この情報のカオスは……ッ!?」

「落ち着いて下さいネプテューヌさん。それはネプテューヌさんを害するものではなく、シェアの…ネプテューヌさんの力の一端です。自分自身の制御下にあるもの、そう捉えて続けて下さい( ̄^ ̄)ゞ」

「わ、分かったわ……」

 

イストワールさんの助言を受け、意識の集中を続けるネプテューヌ。最初は単なる靄でしか無かった紫色の歪みも、段々と色が濃くなり幅が広がっていく。

そして……ネプテューヌが、手を降ろす。

 

「…ねぷねぷ?どうかしたですか?」

「完成よ。そうよね、いーすん?」

「完成ですよ、よく分かりましたね(^-^)」

「そりゃ、わたしの制御下にあるものだもの」

 

少しばかり頬を緩ませ、再び胸を張るネプテューヌ。先程とは違い、スタイルも声音も大人のそれである事も相まって、今度は大変さまになっていた。

 

「さて、思ったより時間かかっちゃったしさっさと行きましょ」

「そうね。いーすん、もうわたしは女神化解除しても大丈夫なのかしら?」

「はい、暫くは開きっぱなしになるので大丈夫ですよ(・ω・)ノ」

「そう?じゃ…行こっか、皆」

 

女神化を解除するネプテューヌ。それを見た私達も各々荷物を持って、転移門の前に立ち……振り返る。

 

「それじゃ、行ってくるわ」

「頑張ってくるです」

「期待しててよね!」

「下界の事は、お願いします」

「…気を付けて、下さいね」

 

こくり、とイストワールさんの言葉に私達は頷く。そして、転移門に足を踏みいれようとした所で……下界で待つ、もう一人の少女が声を上げる。

 

「ま、待って!……お姉ちゃん…」

「ん?どしたのネプギア」

「…その、あの……」

 

ネプテューヌの前まで来たものの、両手の人差し指を触れ合わせて俯くネプギア。何かフォローが必要かな…と、思った私だけど、それは止めた。だって…そのネプギアの様子を見つめるネプテューヌの顔は、お姉ちゃんのものだったから。

 

「……わ、わたしまだいっぱいお姉ちゃんに教えてもらいたい事あるんだ。だ、だから…」

「…うん。ちゃんと帰って来るから大丈夫。……わたしがいない間、プラネテューヌは任せたよ?」

「わ、わたしが……?」

「だいじょーぶ!ネプギアはわたしの妹なんだからやれるって!……行ってくるね、ネプギア」

「……うん」

 

ぽんぽん、とネプギアを安心させる様に頭を撫でる様に叩くネプテューヌ。そして、私達は転移門へと足を踏み入れ、天界へと向かうのだった。--------行ってきます。

 

 

 

 

「…わたしも着いて行きたい、と言わなくても良かったのですか?( ̄^ ̄)」

 

お姉ちゃん達が転移門へ入った後、ぽつりとそんな事をいーすんさんが言った。この場にいるのは…わたしだけ。更に言えばいーすんさんの問いに該当しそうなのもわたししかいない。

 

「……良いんです、わたしが行っても足手まといにしかならないし、お姉ちゃんを困らせちゃうだけですから」

 

見抜かれていた。本音を言えば着いて行きたかったし、いーすんさんの言う通り、そう言いたかった。けど、もしそう言ったら……きっと、お姉ちゃんはわたしを連れて行ってしまうし、もし天界に…お姉ちゃん達の言う、マジェコンヌさんとの戦いになったらお姉ちゃんはわたしを守る為に無理を強いられる事になってしまう。わたしはそれが一番嫌だった。役に立たないだけなら良い、だけど邪魔になる事は…わたしがいるせいでお姉ちゃんやお姉ちゃん達が大変な目にあったり、怪我をしたりするのだけは本当に嫌だった。

 

「…それに、こうやって自分から言えばお姉ちゃんはわたしに言いたくない事を言わなくて済みますから」

「…お優しいですね、ネプギアさんは」

「だって、お姉ちゃんの妹ですから」

「そうでしたね、ネプテューヌさんの妹であれば納得です^_−☆」

 

いーすんさんと二人、笑い合う。ああ見えて、お姉ちゃんはよく周りの事を見ていた。見た上でふざけて、動き回って…皆に信頼と安心を与えていた。……まぁ、相手の事を全部感じ取れるタイプではないからちょくちょく誰かを怒らせたり、怒られたりしてるんだけど…。

 

「…いーすんさん、わたしに出来る事ってありますか?」

「ネプギアさんに、ですか?(・ω・)」

「はい、ちっちゃい事でも良いから、皆の為に何かしたいんです。…おまけに、お姉ちゃんにプラネテューヌを任されちゃいましたし」

「…本当にネプギアさんはお優しいですね。…では、色々としてもらいましょうか(^ν^)」

「はい!わたし、頑張りますっ!」

 

わたしはまだゲイムギョウ界の事をよく知らないし、お姉ちゃんやイリゼさん達女神の皆さんは勿論、コンパさんやアイエフさん達にも及ばない程弱いし、まだまだ皆の上に立てる様な女神にもなれていない。

…それでも、皆の為に頑張りたいという気持ちだけはお姉ちゃんや皆さんにも負けないつもりだったし、まだまだ未熟なわたしは一歩ずつ進んでいくしかないって事も分かっていた。だから、一日でも早くお姉ちゃん達に追いつける様に…立派な女神になれる様に…頑張るね、お姉ちゃん。

 

「…って、あれ?何だかお姉ちゃんが死んだみたいになっちゃった!?」

「誰に対して言ってるんですか……もうネプテューヌさん達に毒され始めましたね…

(ー ー;)」

 

 

 

 

転移門を抜けた先、そこにはのどかな自然が広がっていた。文字通り人の手の加えられていない、けど草木が雑多に生えている訳でもない、そんな環境が私達の眼前に広がっていた。

 

「おぉー!何か、走り回りたくなる場所だね」

「気持ちは分からないでもないけど…止めてよ?ここ物凄い高度っぽいし」

 

私達が転移門から出た場所は数十平方メートル位の広さの浮き岩(というか、まるで細切れにされた大地の一片の様な土地)の上だった。前にノワール達から説明を受けた通りの場所であり、周辺には同じ様な浮き岩とそれらを繋げる虹の橋が架かっていたけど…それよりも私の目を引いたのは、浮き岩の端から覗ける、下の光景だった。

下にも幾重の浮き岩と虹の橋、そして雲らしきものがあったけど…地面は、所謂底面と呼べるものは見えなかった。地面が見えない程高い位置なのか…或いは、そもそも地面なんて存在しないのか。何れにせよ、落ちたら洒落にならない事は明白だった。

 

「…ヒヤッとするわね」

「高所恐怖症じゃなくても怖くなるですぅ…」

「怖いと言えば虹の橋もちゃんと渡れるか怖いよね。…私の場合は最悪落ちても女神化すれば飛べるけど……ってネプテューヌ!?」

 

私達が三人で「怖いねー、ねー怖いねー」(多少着色がなされています)とTHE・普通トークを繰り広げている間、ネプテューヌは……虹の橋の上でぴょこぴょこ跳んでいた。ノワール達曰く、見た目よりずっと橋は頑丈らしいけど…それでもやはり、薄っすら下が透けて見える様な虹の橋の上で飛び跳ねられたらこっちが気が気でない。

と、いう訳で慌ててネプテューヌを回収する私達。

 

「ぶー、マリオカートのレインボーロードみたいで面白かったのにー…」

「見てて怖いのよ、あんただと特に…記憶を失う前に一度落ちたんでしょうが……」

「あ、そうだったね。でもその時の事覚えてないから落ちたっていう実感がないんだなー、これが」

「落ち着けないからもう止めてほしいです……」

「はーい…って、ん?」

 

あからさまに残念そうにするネプテューヌと、はぁ…とため息を吐く私達。念を押してもう一度注意をしておこうかな…と、思った所で急にネプテューヌがきょろきょろと周りを見回し始める。最初はその理由が分からなかった私達だったけど…すぐにその理由は分かった。

 

「…声?…どこからか聞こえてきてるよね…」

「イリゼちゃんもですか?じゃあ、空耳ではないみたいですね」

「…というか、こんなの前にも無かった?確か……」

「……えますか…返……下さい…しです、イストワールです」

『やっぱり(イストワール・いーすん)(さん)!?』

 

その声は間違いなく、イストワールさんのものだった。声音がイストワールさんと同じな上、この様な芸当が出来るのはイストワールさん位しか思いつかない。そして、その声自身がイストワールと名乗っていたのが何よりの証拠だった。

 

「はい、イストワールです。やっと安定してきましたね( ̄  ̄)」

「急にどうしたの?いーすん。っていうか、それ今も出来るの?」

「封印された状態でも出来る事が、封印されていない状態で出来なくなると思いますか?(・Д・)」

「あ、それもそっか…じゃあ、何かあったの?」

「何もありませんよ。ですが、何かあった時下界との連絡手段があった方が良いと思いませんか?(^o^)」

「それなら携帯で…って、圏外なのねここ。直接行ける場所じゃない訳だし当然か…」

 

万が一連絡をしたい時、この連絡手段を私達が知らず戸惑ったり上手く繋がらなかったりしたらどうしようもない、という事で連絡可能である事の連絡兼テストとして連絡してきたらしかった。

 

「……あの、いーすんさん…ならまずわたし達が行く前に教えてくれても良かったんじゃ…」

「それは……すいません、わたしのおっちょこちょいです……(><)」

「いーすんもそんな事あるんだ…わたし達から連絡したい場合はどうすれば良いの?」

「その場合はネプテューヌさんが、シェアを連絡手段にするイメージを持ちながら念じて下さい。ちゃんと念じれば繋がる筈ですからd( ̄  ̄)」

「そっか、了解。じゃあそろそろノワール達と合流するね」

「出来るだけ急いで下さい。…場所は覚えてますよね?( ・∇・)」

 

質問というよりも確認に近い形の声音で言うイストワールさん。それに対し、私達は若干一名を除いてその問いに正しく返答を返す。その若干一名というのが誰かというのは…ここまで付き合ってきてくれた閲覧者の皆なら、言わなくても分かるよね。

 

「…よ、よーし!それじゃあ集合場所に行こうか皆!」

「はいはい…あ、ネプテューヌ先頭にしてあげよっか?」

「うっ…え、遠慮しておこうかな〜…」

「でしょうね…恐らく私達が一番遅れちゃってるだろうし、早く行こうか」

 

案の定のネプテューヌの反応を心の中で若干楽しみつつ、いつも通り横並びに歩き出す私達。全員揃って全く知らない土地という事で、少しばかり慎重な歩みではあったけど…同時に、四大陸全てに行った事でもう無いかな、と思っていた次なる冒険を、またやれた事に嬉しさも感じながら歩く私達だった。

 

 

「…激しくどうでも良いかもだけどさ、今回の話って然程重要なシーンがあった訳でもないのに実質一時間分あるかどうか程度しか進んでないよね」

「全部余計!一言どころかその台詞全部余計だよ!?」

 

……そして、オチのネタを言うネプテューヌと、それに突っ込む私で話を締めくくるパターンが久しぶりに出てきた瞬間でもあった…。




今回のパロディ解説

・「何…この情報のカオスは……ッ!?」
劇場版マクロスフロンティア 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜登場の電子貴族(サイバーノーブル)の台詞のパロディ。別にシェアが光の舞をしていた訳ではないですよ?

・「〜〜わたし、頑張りますっ!」
アイドルマスター シンデレラガールズシリーズに登場するキャラの一人、島村卯月の口癖のパロディ。ネプギアなら、この台詞かなりしっくりくる気がしますよね。

・マリオカート、レインボーロード
マリオシリーズの一つ、マリオカートシリーズとそれに登場するコースの事。カートのコースに出来る程の長さはありませんので、あそこでねぷ子カートは不可能ですね。


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第八十九話 合流、そして捜索

出発前…つまり、TV電話を行なっている時、予め私達は天界での集合場所を決めていた。と、言うのも転移場所が国ごとに違っていて、その転移場所同士も割と離れてる為に集合場所を指定しておかないと合流もままならない…というから何だけど、これが意外と厄介だった。

まず第一に、私達は誰も天界の地理について知らなかった。今まではアイエフを始めとして目的の国やその周辺地理について知っている人が最低一人は居たし、仮にパーティー内では情報不足だったとしても、取り敢えず国(街)の中心へ向かうなり道中で人に聞くなり地図を利用するなりと打てる手が意外とたくさんあった。…が、天界は国でも街でもなければ住人がいる訳でもなく、残念ながら地図も存在していない。一応イストワールさんに訊くという手はあるけど…この場ではなく下界にいるイストワールさんに、念話(…で、良いのかな?)という声及び音でしか情報の交換が出来ない手段で訊いている以上、伝えられる情報も受け取る情報もかなり限られてきてしまう。だから、私達は出発前に聞いていた道筋と道中イストワールさんから訊いた限定的な情報を頼りに…つまり、若干の不安を抱きながら歩む事となっていた。

そして、第二に……

 

「こんなギリギリの位置に逃げないでよ、こんなギリギリの位置にッ!」

 

ひょこひょこと土地の端へと逃げるモンスター。恐怖を感じていないのか、落下しても平気なのか、ひょっとしたら飛べるのか(どう見ても陸上モンスターだけど)…とにかく危なっかしい場所に逃げられるのは勘弁してほしいと思いつつ、逃走先へ回り込んで正面から叩き斬る私。

決して戦い易いとは言えない足場での戦闘。それがもう一つの厄介な点だった。戦い辛い、心臓に悪い、どんどん集合が遅れてしまうという三重苦に頭を悩ませる私達。ノンアクティブモンスターが姿を現さない事だけがせめてもの救いだった。

 

「なんでこんな所でまでモンスターに邪魔されなきゃならないのよ…!」

「同感よ。今のねぷ子なら蹴り飛ばして落下させれば楽なんじゃない?」

「…そうね、片っ端から蹴り落としてやろうかしら…」

「ふ、二人共悪い顔してるです……」

 

大太刀とカタールを振るいながら、何やら普通に倒すより酷そうな手段を思案するネプテューヌとアイエフ。底の見えない下へと落っことそうなんて中々エグい。モンスターの方もそれを察知したのか二人を警戒する様に動く。

…と、その瞬間私に視線を向け、小さく頷くネプテューヌ。……そういう事ね。

 

「コンパ!挟撃かけるよ!」

「……!はいですっ!」

 

素早く残存モンスターの方へ向き直り、地を蹴ってモンスターに接近する私とコンパ。人でもモンスターでも突然複数の方向から来る敵に対応するのは難しく、更にそれが注意を怠っていた敵からのものであれば更に対応は難しくなる。

『はぁぁぁぁぁぁッ!』

 

私はバスタードソードを、コンパは注射器を刺突の形で構えて突貫。正面のモンスターを貫きつつ交差する様に一気に駆け抜ける。

私とコンパのダブルチャージ。駆け抜けた結果私達はモンスターに背を向ける体勢になり、当然モンスターはそこを狙ってくるけど…フリー状態のネプテューヌとアイエフがそれを許す筈がない。私とコンパの背を狙うモンスターの背後から強襲し、正にミイラ取りがミイラになる結果をモンスターに突き付ける。

四人での連携で一度に数を減らす事となったモンスター。そうなってしまえば、後はやや環境が悪いだけの掃討戦だった。

 

「ふぅ、時間のロスではあったけど…後々マジェコンヌと戦う事を考えると、良い運動にはなったかもね」

「出来れば合流後の方が良かったけど…モンスターに『時間改めて来てくれない?』って言ったってしょうがないもんね」

 

周囲に残存モンスターがいない事を確認した後に一息つく私達。普段なら息を整える為にもう少し休んでいく所だけど…今回はそうはいかない。

 

「うーん、この調子でまたモンスターが出てきたらやだなぁ。具体的には、二十五歩ごとに出てくるとか」

「それは原作であって原作じゃないから安心なさい。さ、行きましょ」

「さっきいーすんさんは後半分位、って言ってたですから頑張るですよ」

「はーい……あ、そうだイリゼ。ちょっと質問良い?」

「ん?なーに?」

 

荷物を持ち直して歩みを再開する私達。と、そこで何の気なしに私に問いかけを行うネプテューヌ。何だろう…と思いつつも、彼女につられる形で私も何の気なしに回答の構えを取る。

 

「あのさ、どうして今女神化しなかったの?」

「え……?」

「……?イリゼ?」

 

きょとんとした表情を浮かべるネプテューヌ。それもその筈、私はその問いを聞いた瞬間、唐突に足を止めていた。

完全に失念していた。女神化せずに戦う選択肢を選んだ時点でこの様な質問は来る可能性があると心構えをしていたのに、一息ついた事と、ネプテューヌは他愛ない…というかしょうもない話題ばかり振る傾向がある為に私は油断してしまい、考えておいた言い訳と態度を表に出せなかった。

 

「…ええ、と…その、シェアを温存しておこうかなって…」

「シェアを温存?」

「うん…えっと、知ってたっけ?私が皆とは違って信仰者がいないからシェアが有限なんだって」

「あー、それは前にいーすんから聞いたよ。…まぁあの数ならわたしも女神化しなくても良いかもなーとは思ったし、イリゼからすれば妥当な判断かもね。うん、納得したよ」

「そっか、それは良かった」

 

何とか立て直し、努めて自然な態度で言葉のキャッチボールを行う私。ネプテューヌの方も私の説明に妙な点を感じられなかったからか、割とすぐに納得してくれる。

別に嘘をついていた訳ではない。今後の戦闘…つまり対マジェコンヌでどれだけシェアを必要とするか分からない以上、節約出来る所では節約したいし、シェアが有限というのも嘘偽りの無い事実。

……けど、私は力を失うかもしれない、という事を隠したままでいた。嘘はついていないけど、同時に女神化しなかった理由を部分的にしか話していなかった。話さなきゃいけない事ではないし、皆に心配かけたくないとか負担を感じさせたくないとかという理由だってある。だけど、それでも……立ち止まっていた数歩分、先を歩く三人の背を見ていると、ほんのちょっぴり後ろめたいものが私の胸中に渦巻いていた……。

 

 

 

 

『遅いんだけど?』

 

モンスターとの戦闘から数十分後。道中再びモンスターと一戦交え(と言ってもまさかの一体だけ出現のパターンだったけどね)、やっと集合場所へと辿り着いた私達を迎えたのは…ご立腹の様子で腕を組む、ノワールとブランだった。

 

「えーっと…これには色々と事情が…」

「事情は正座してから言いなさい」

「うん、それじゃ……正座!?土の上で!?ノワールそんなサディストキャラだっけ!?」

「冗談よ。まぁ憂さ晴らしに正座してほしいって気持ちがほんのちょっぴりあるのは否定しないけど」

「……皆、正直且つ低姿勢で事情を話そうか」

『そ、そう(だね・ね)…』

 

冷や汗をかきながら意思疎通を図る私達。そこからは正直に、多少私達の首を絞める可能性もある事まで含めて全部話し、二人の判断を仰いだ。……因みに、ベールはちょっと離れた所で何かの本を読んでいた。男の人が表紙だったし、青春ものかな?

 

「…で、最終的には寄り道もせずにここまで来た訳です、はい」

「そう…色々思う事はあるけど、一つだけ言わせてもらうわ」

『…………』

「…時間の無駄遣い、多過ぎない?」

『…返す言葉もございません……』

 

シェアクリスタルの間で散々話してたり天界来てからもちょくちょく本筋とは関係ない事してたのは紛れも無い事実だから、本当に返す言葉がない。更に言えば言葉を返しても状況が好転する気配もないので、私達はひたすらお叱りを我慢する覚悟を決め……ようとした所で思わぬ所から援護が入る。

 

「まぁまぁ良いじゃありませんの。わたくし達と違って、ネプテューヌ達は天界に来るのが初めて、或いはそれに準じる状態なんですもの。わたくし達と同列で考えるべきではありませんわ」

 

ぱたん、と本を閉じて私達の元へやってくるベール。私達は自分達に味方してくれるベールに心の中で感謝を伝え、逆にノワールとブランはベールを自分達側だと思っていたのか「え?」って顔をする。

こういう時、本当にベールは頼りになる。普段はネプテューヌ同様ボケる割合の多いキャラで、ネプテューヌとはまた別ベクトルでぶっ飛んでる…というかこちらの理解を超えてくる厄介な人だけど、大人っぽい見た目とふざけてない時の雰囲気に見合うだけの精神も持ち合わせていて、私やアイエフ、ノワールと言った常識組(と、自負してる人達)が機能しなくなった際はきちんとストッパー役を務めてくれる。

そんなベールに対し、感謝の念に続けてある種の信頼を寄せようとする私達だったけど……

 

「--------それよりも、こんな落下の危険が付きまとう場所は怖かったでしょうあいちゃん。さ、ここからはわたくしが抱っこしていってあげますわ」

「あ、はい、ありがとうございま…ベール様!?」

「ふふっ、遠慮は無用ですわ」

「い、いや遠慮ではなくて恥ずかしいんですって!こんな皆の前で…しかもお姫様抱っこ!?」

「…まーたこれだよ……」

 

言うが早いかアイエフに駆け寄り、アイエフが目を白黒させてる内に抱き上げてしまうベール。数週間ぶりのお約束にネプテューヌがげんなりした様な呟きを口にし、私達もそれに無言の同意を示す。

…しかし、クール系でそこはかとなく姉御肌を持つアイエフが趣味に走りさえしなければ見た目も口調も姫、或いは貴族の令嬢っぽいベールにお姫様抱っこされているというのは大変シュールである。

 

「この二人の関係性は相変わらずね…」

「はは…べる×あい、って言うんだっけ?こういうの」

「イリゼ…貴女も段々とわたし達側に染まってきたわね…」

 

こんなの見せられた後じゃもう言う気も起きないわ…とため息を吐きながらお小言を中断するノワールとブラン。……まさか、これを狙ってベールはアイエフを!?…と思ってベールの顔を見ると、完全に彼女に萌えている彼氏や妹に萌えているシスコンと同系統の表情を浮かべていた。…偶然かな…いや、でもベールの場合偶然かな、って思わせる所まで考えてる可能性あるし……まぁ、どっちにしろwin-winだからいっか。

 

「……えと、なんか百合ップル復活のワンシーンで方向性見失ってるけど…取り敢えず合流だね、うん」

「そ、そうね。…さて、それじゃあ少し休憩したら本丸を叩きに行くわよ」

「そうね。下界担当の皆の為にも早めにカタをつけたいわ」

「…あの、その事なんですけど……」

「ほぇ?こんぱどったの?」

 

不思議そうな…と言うより、疑問が残っている様な顔をしているコンパにネプテューヌが返す。この状況で、何か気になる事があったのかな?

 

「ええと、わたし達は今からマジェコンヌさんを倒しに行くんですよね?」

「そうだよ。所謂最終章だね」

「……そのマジェコンヌさんは、天界のどこに居るですか?」

『…………あ』

 

コンパの言葉に私達は固まる。公衆の面前(人数少ないけど)で何やってんだって位イチャついてるベールとアイエフまでも固まる。

 

「……あっち…とか…?」

「何を根拠に言ってるのよネプテューヌ…」

「で、ではドラゴンレーダーならぬマジェコンレーダーで…」

「そんなものは無いしマジェコンは二作目に出てくる物よ…」

「そ、そうだ。飛んで私達が上空から探すのはどう…?」

「上も下も果てしないですぅ…」

 

全員、顔を見合わせる。その目は、その表情はこう語っていた。『あれ?ヤバくね?これひょっとしたら見つかるまで滅茶苦茶時間かかっちゃうパターンじゃね?』…と。

 

「……あ!そうだいーすん!いーすんに訊くのはどう!?」

「そ、それだよネプテューヌ!実際イストワールさんはマジェコンヌを探してた訳だもんね!」

「イストワール、ね…ここからどうやって訊くの?」

「ふふん、このわたしに抜かりなしだよ!届け、わたしの思い!コネクティブいーすん!」

 

両手を胸の前で握り締めた後、無駄に格好良い動きで空へと右手を掲げるネプテューヌ。突然のネプテューヌのアクションに、「……は?」みたいな反応を見せるノワールとベールとブラン。何か違うアクションとパロディはともかく、やろうとしている事は分かっている私とコンパとアイエフは、苦笑をしながらそれを見守る。

そして数秒後……

 

「…………」

「……何がしたかったのよ」

「あ、あれ?おかしいな…も、もう一回!届け、わたしの以下略!」

『…………』

「……やっぱり何も起きないじゃない」

「なんで!?わたしの思いが足りないって言うの!?わたし言われた通りにやって……」

「…あ、呼びました?(´・∀・`)」

「遅おぉぉぉぉぉぉいっ!いーすん遅いよ!?」

 

ネプテューヌ、絶叫!イストワールさんは困惑している!

…取り敢えず、私はイストワールさんへの状況説明をしつつネプテューヌをなだめる事にした。会話再開に漕ぎ着けるまで、数分かかった。

 

「す、すいませんネプテューヌさん。わたしから皆さんに話しかける事は何度もありましたが、ネプテューヌさんからわたしに話しかけるのは初だった為か若干通信不良でしたm(_ _)m」

「んもう、危うくわたしが頭おかしい子扱いされる所だったんだよ?」

「……?何言ってるのよネプテューヌ。私がそんな事で頭おかしい子扱いすると思ってるの?」

「の、ノワール…わたしノワールがそんなにわたしを信じてたなんて知らなかったよ。ありがとうノワー……」

「あ、違う違う、私はとっくにネプテューヌを頭おかしい子だと思ってるって意味よ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

ネプテューヌ、号泣!ノワールはしてやったぜ、みたいな顔をしている!

……また会話再開まで数分かかってしまった。ノワールは私達が遅れた事を怒れる様な立場じゃないんじゃ…。

 

「ネプテューヌは私が預かるから皆は訊いておいて…」

「えぇ。…貴女も大変ね、イリゼ……」

「同情ありがとブラン…ほーらネプテューヌ、こっちで私と遊ぼうねー」

「うん……」

 

絶叫したり号泣したりでへろへろなネプテューヌを連れて皆から離れる私。……しゅーんとしてるネプテューヌは小動物みたいでちょっと可愛いなぁ…とか思っちゃったけど、まあそれは関係のない話。

 

「イストワール、貴女マジェコンヌの場所が分かりまして?」

「あ、その事ですか…すいません、まだ分かってません…(u_u)」

「そんな…じゃあどうすれば良いですか?」

「そう、ですね…漠然とした考えで申し訳ありませんが、手がかりを探すのはどうでしょう(´-ω-`)」

「手がかり…と言っても、ここは広い上に情報収集する手段が限られ過ぎてて、難易度高過ぎないかしら?殆ど本人を探すのと変わりないんじゃないかしら」

「確かにノワールさんの言う事も一理ありますね。しかし、世界を壊す事を目的としているマジェコンヌが何もせずじっとしてるとは思えませんし、現在の天界で異変が起きるとすれば、それは十中八九マジェコンヌの仕業です。なので、注意深く周りを観察、考察すれば手がかりが見つかるのではないでしょうか( ̄^ ̄)」

 

自身の思考を巡らせ、私達に提案をするイストワールさん。この通信(?)はネプテューヌとイストワールさんで行なっているからか、話から離れた私とネプテューヌにもよく聞こえていた。

先に断っていた通り、今回の提案はざっくりとしてると言うか、かなり確実性に欠けている。けど、天界が下界と直接繋がってる訳ではない以上、簡単に調べられないんだろう、と皆思っていたらしく、特に不平不満は出ていなかった。

 

「出来ればすぐにマジェコンヌの所へ行きたかったところだけど…分かったわ。そっちも何か情報を掴んだらねぷ子経由で教えて頂戴」

「はい、マジェコンヌの方ももう皆さんの事を察知している可能性がありますから、用心して下さいね(`_´)ゞ」

「了解よ。早速探し始めましょ」

「……あー…その前にちょっとやらなきゃいけない事があるっぽいよ」

「うん、一先ず皆武器を構えようか…」

 

皆の会話に水を差す様な形で口を開く私とネプテューヌ。私達…特に私の言葉の中に穏やかでない単語が入っていたからか、訝しげな目で皆が見る、私達の視線の先には…私達の存在を見つけたからか、わらわらと集まってくるモンスター。

そして、ここに来るまでに数度モンスターと戦闘を行なった私達はまたか…とややがっくりしつつ、別行動だった女神の三人は幸先が悪い…と言いたげな表情を浮かべながら各々抜刀。マジェコンヌの手がかり探しの障害となるであろう、モンスター群の掃討に取り掛かるのだった。




今回のパロディ解説

・二十五歩ごとに出てくる
本作の原作のリメイク前の作品、超次元ゲイムネプテューヌにおけるエンカウントシステムの事。現実基準で考えると、物凄いエンカウント率ですよね、これ。

・ドラゴンレーダー
DRAGON BALLに登場する、ドラゴンボールを探す為の機材の事。原作の次回作ではかなりマジェコンが普及してるらしいので、至る所で反応しそうですね。

・マジェコン
本作の原作の続編である超次次元ゲイムネプテューヌ Re;Berth2及びそのリメイク前作品に登場する違法ゲームの事。本作からすればこれは未来のゲームですね。

・「〜〜コネクティブいーすん!」
バディ・コンプレックスにおけるカップリングシステム起動の為の合言葉のパロディ。無論ネプテューヌもイストワールもヴァリアンサーパイロットだったりはしません。


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第九十話 過去と今と

「これでお終い、っと」

 

バスタードソードを片手で持って少々大雑把に振るう。然程強くはない…ぶっちゃけた表現をしちゃえば、所謂雑魚敵に該当するモンスターでも、ここまで煩雑な攻撃ではかすり傷を与える事も出来ず、モンスターは大きく後ろへ跳ぶ。……が、その着地地点にはベールとブランの姿。二人の姿に着地寸前で気付いたモンスターは慌てて防御体勢をとるけど…陽動の為に雑な攻撃をしていた私と違って、致命傷を与える事を目的とした二人の攻撃は正確無比であり、防御の上からモンスターを貫き叩き潰す。

小さな呻き声を上げて消滅するモンスター。それはまるで戦闘終了の合図だった。

 

「いやーやっぱり人数多いと楽だねぇ」

「そうね、おかげで女神化せずに済んだわ」

 

各々武器を納めて集まる私達。マジェコンヌの手がかりを探そうと決めた直後にモンスターが寄って来てしまったのは些か幸先が悪かったけど、簡単に片付けられたという点ではむしろ幸先が良かった。

 

「けど、モンスターに遭遇すると手がかり捜索が進まないわね。なるべく見つからない様にしたい所だけど…」

「天界は見晴らしの良さに定評がありますものね…実際には定評が出来上がる程天界を知る人物は多くないのですけど」

 

ベールの言う通り、遮蔽物が少なく天候も良い(雲の上っぽいから天候も何もない気がするけど)天界は大変見晴らしが良さそうで、それなりに距離があっても簡単に見つかりそうな環境だった。…まぁ、その分私達もモンスターを補足し易いんだけどね。

 

「…となると、あんまり目立たない様にしながら探すしかないね。大丈夫だよ、私達はなんだかんだで手がかりほぼゼロのイストワールさんの居場所を突き止めた実績があるし」

「あれは棚ぼたの面も強かった気がするけど…そうね。ここは私にとっては新天地だし、旅人としてのスキルを活用して探すわ」

「皆で協力すれば、きっと何か見つかるですよ」

 

天界についてあまり知らないが故に楽観的な思考の出来る私達非守護女神三人。私達同様天界を知らない(厳密には覚えてない)ネプテューヌは勿論、ノワール達も私達の様子からあまり懸念ばかりしていても仕方ない、と思ったのか次々と同意を示してくれる。

そういう訳で捜索を始める私達。そんな私達が手を止めたのは、それから一時間と少し程経ってからだった。

 

 

 

 

「…ここって……」

 

自分達の立つ浮き岩の上を一通り探しては虹の橋を渡り、次の浮き岩の上を一通り探し、また虹の橋を渡ってを繰り返すわたし達。それが何度か続いた後、虹の橋を渡った所で不意にノワールが何かを思い出したかの様に足を止めた。

 

「ノワール、どうしたの?何か忘れ物?」

「あ、いや…そうじゃなくて…」

「……?」

 

気まずそうな表情を浮かべているノワール。しかも、後を追うかの様にベールとブランもノワールと同じ様な反応と表情をし始める。なんだろう…はっ、まさかここにはシェアエナジーを乱れさせるフィールドが!?

…と、思ったけどイリゼは何ともなさそうな感じをしているし、同じくわたしも何かを思い出したり切なくなったりはしていない。

 

「…ノワールもベールもブランも、何かあったの?」

「何かあった、というかなんというか…」

「少なくとも、面白い事ではないわ…」

 

どうも話したくなさそうな雰囲気を纏う三人。決して悩んでるって訳ではない様だし、普段なら言いたくないなら無理に言わなくても良いよ、と言おうかと考えるわたしだけど…わたしは、一歩踏み込んで質問を続ける。

思えば、ここでわたしが退かなかったのは、深層心理でこの先ノワール達が話してくれる事柄を感じていたのかもしれない。

 

「……出来る限りで良いからさ、話してくれないかな?」

「…気になるの?」

「そうだよ。それに、皆も話した方がすっきりするかもしれないよ?」

「…ネプテューヌにとってはあまり気分の良い話じゃないわよ?それでも聞きたい?」

「…うん」

 

こくり、とノワールの問いに首肯するわたし。するとノワールはベールとブランの三人でアイコンタクトらしき事をして意思疎通(話すかどうかについてかな?)を図り、その後決してかの様にわたしに向き直る。

そして、イリゼとこんぱとあいちゃんが不思議そうにわたし達を見つめる中、ノワールは口を開く。

 

 

「……ここ、なのよ」

「…ここ、って……?」

「……守護女神戦争(ハード戦争)の最中、私とベールとブランが結託してネプテューヌを脱落させた場所…それが、ここなのよ」

「……っ…!?」

 

気分の良い話じゃない、と言われていたから多少なりとも心構えはしていたし、身も蓋もない事を言ってしまえば、その時の記憶のない今のわたしにとっては何となく他人事の様に聞こえたのも事実。

けど、流石に「そっかぁ…」で済ませられる事では、無かった。今は友達だと思ってる三人が、わたしを倒そうと…殺そうとして、結託した場所。わたしが…元々のわたしが、記憶を『奪われた』場所。

 

「…結託、というには些か以上に粗末な連携ではあったけど…」

「それでも、全員が敵という状態から、『ネプテューヌが敵、敵の敵は味方』という考え方に変化していたのは事実ですわ……」

「……ごめんなさい、ネプテューヌ」

 

ノワールが、後を追う様にベールとブランもわたしに頭を下げてくる。この話は前にもしたし、少なくともわたしは掘り返すつもりはなかった。…ほんとに、他人事の感じしかしないからね。だって、覚えてないんだもん。

それでも三人が改めて謝罪をしてくるのは、きっとまだ罪悪感が残っているから。この場所に来た事でそれを刺激されたから。……その事を、『覚えてる』から。

だから、わたしは……

 

「もー、だから気にしなくて良いんだって。もう過ぎた話、皆も過去の事をうじうじ悩むのは好きじゃないでしょ?」

「それは、そうだけど…」

「でしょ?だからわたしが言わない限りはノワール達も心の底に鍵でもかけてしまっておけば良いんだよ。第一、わたしはこんな話よりゲームとかお洒落の話の方が好きだし」

「ネプテューヌ……貴女、お洒落の話なんて滅多にしないでしょ…」

「あはは、バレた?まぁバレるよね〜…って話とかの方が好きなの。分かってくれた?」

 

いつもの様に、何ならいつも以上に能天気な顔をして、軽い調子で言葉を返すわたし。真剣な様子で話してる三人には真剣な様子で返す方が良いのかもしれないけど…それはもう過去の事だし、きっと三人は許されたいと思っている訳じゃないんだから、一番良いのはこの事を見えない所へ置いておく事。忘れるんじゃなくて、しまっておく事。

大切なのは、目を逸らさない事じゃなくて、笑顔になる事だよね。

 

「…そういう所、少しだけ羨ましいわ…女神として、人として…」

「そう?ブランもわたしの立場なら同じ答えを出すと思うよ?だってほら、あのガナッシュを職員に迎え入れちゃう位だし」

「あ、あれは…また別の話よ…」

「…あまり、謙遜しなくても宜しいんですのよ?記憶の有無があるとはいえ、ネプテューヌは女神同士で仲良くしようと自ら動き、わたくし達はそれに乗る事はあっても自ら動く事はなかった。そうでしょう?」

「んー、まぁそれは間違いないけど…でもさ、ベールはわたしを助けてくれたじゃん。やる気が無くなりつつあったらしいけどさ、わたしと違って敵だって思ってるのにわたしを助けてくれたのはどうなの?それってわたしより優しいのかもしれないよ?」

「…全く、ネプテューヌには勝てませんわね……」

 

ブランはちょっと照れた様な表情を浮かべて、ベールは言葉とは裏腹に穏やかに微笑む。それを見たわたしは浮き石の端まで歩いて下を眺める。

 

「…しっかし、ここって下界と直で繋がってる訳じゃないんだよね?しかもどんなに目を凝らしても底が見えない……何だか自分が本当に生きてるのか不安になってきた…」

「…案外、もう死んでるか瀕死なんじゃない?ほら、走馬灯ってやつよ」

「む、失礼な!世の中には結構な割合で、危険な筈なのに大気圏外という世界から大気圏内という世界に突入して生還するパイロットが登場するシリーズもあるんだよ!」

「ならむしろ良いじゃない…下界に転移出来て良かったわね、ひょっとしたら永遠に落ち続ける事になったかもしれないし」

「何でノワールはこうもわたしに毒吐くかなぁ……えいっ!」

「のわぁぁっ!?な、なな何するのよ!?馬鹿じゃないの!?」

 

ついさっきまでの引け目を感じていた様子はどこへやら、隣に来たノワールは普段の不遜な態度に戻っている。そんなノワールの顔を見たわたしは……ノワールの背中を押してみた。

わたしがいたのは浮き石の端、その隣に来た訳だから当然ノワールも端っこにいる。そこで押したらどうなるかは…まぁ分かるよねぇ。

とはいえ全力で突き飛ばした訳じゃないから、ちょっとよろけるだけで済むノワール。目に見えて焦りながら烈火の如く怒るノワールに……わたしは笑顔のまま、告げる。

 

「やだなぁ、ノワール。--------人を落としておいて、まさか自分はされないとでも思ってたの?それが正しいかどうかはともかく…仮にわたしが落としたとしても、ノワールにも、ベールにも、ブランにも、わたしを非難する権利なんて無いよ?」

 

----空気が、凍りついた。三人は、酷く狼狽した様子を見せ、イリゼ達はわたしの言葉に驚きを隠せないでいる。

……まあ…こうなるよ、ね…。

 

「……と、思うのですがどうでしょうイリゼ氏」

「へ……?わ、私?てか、イリゼ氏…?」

「そうイリゼ氏。主人公というより単なる語り部っぽいグランプリ入賞者のイリゼ氏、回答をどうぞ」

「え、えーっと…それはその通りだけどそこには妥当性はあっても正当性はない気が…って何そのグランプリ!?しかも優勝じゃなくて入賞!?ネプテューヌ喧嘩売ってんの!?」

「てへぺろ☆」

「宜しい。ならばこれは突っ込みではなく制裁だよ!」

 

ごんっ!と、わたしの頭に衝撃が走る。ギャグ漫画では時々あるけど実際にやる人はあんまりいない暴力(お仕置き?)の一つ、げんこつだった。

想定していたものよりちょっと強めの一撃を受けて頭を押さえるわたしに対し、そのげんこつの主であるイリゼはふん、と鼻を鳴らしながら顔を背けて腕を組む。なんだかんだで子供っぽい一面を持つイリゼの子供っぽくない反応に、わたしが場違いな感銘を受けていると…

 

「じょ、冗談…だったの……?」

「うん?本気で思っている人がこんなしょうもない会話すると思う?」

「な、何よそれ…もう、驚かせないでよね…」

「ふふん、わたしのボケは常識とか前例とかに囚われたりなんてしないんだよ?」

 

頭を押さえつつ(ひょっとしたら涙目にもなってたかも)、不敵な笑みでノワールに返すわたし。それを見たノワール達はわたしが本気で落としてやろうと思っているのではなく、イリゼとのやり取りの為のキツめの前置きだと判断したのか安堵の表情を浮かべる。

更に、運が良いのか悪いのか、

 

「…わっ、またモンスターさんです!」

「え、また!?…はぁ、少しはモンスターにも遠慮ってものを知ってほしいよ…」

 

こんぱがモンスターを発見。ノワール達に比べればショックの少なかったイリゼとこんぱ、あいちゃんは勿論、ノワール達も即座に意識を戦闘する時のそれに移す事ですぐに臨戦態勢となる。

 

「ほんとですわね…ここは一つ、こちらから打って出るのも良いのでは?」

「うん、じゃあ私が先鋒を務めるよ」

 

言うが早いかバスタードソードを顕現させ、モンスターの元へと走るイリゼ。そこに機動力と手数の多さに自信を持つあいちゃんとノワールが後に続き、後詰めの形でわたし含めた全員が駆ける。

そして、戦闘は…ものの数秒で終わってしまった。だって……

 

「…うん、たった一匹に七人で攻め込むのは明らかにオーバーキルだったね」

「そうね、わたしとコンパに至っては攻撃する必要すら無かったわ…」

「…イリゼ一人でも十分だった気がしますわ…」

「あはは…私自身そう思うよ…」

 

あまりにも呆気なく戦闘が終わってしまい、何とも言えない気持ちになるわたし達。…主人公サイドが実質的な集団リンチをするのは色々どうなんだろうね、やっちゃった後だけど……。

 

「…ま、まぁ無傷で済んだんだから良いじゃない。それより本来の目的を再開しましょ。…良いわよね?ネプテューヌ…」

「そりゃ勿論。早く見つけて早くマジェンダ倒して早く帰ろ?」

「そうですね。じゃあ、移動した事ですしここの探索を……」

「--------待って」

 

こんぱの言葉を遮るあいちゃん。急にどうしたんだろう、と思ってわたし達が見ると、あいちゃんは顎に指を当てて何かを思い出してる様な顔をしていた。

 

「…あいちゃん、何か気になる事があったんですの?」

「えぇ、はい…ねぇねぷ子、コンパ、イリゼ。私達は天界に来てからもう何度もモンスターと戦ってるけど、そのモンスターがどっちから来たか覚えてる?」

「え?んーと、確か最初は…あっち?」

「その次は…あっちから来てた様な気がするです」

「その次…は皆と合流してからだったよね。その時は……あれ?その前二回とだいたい同じ方向…?」

「やっぱりそうよね?で、その三回と今は…全部、同じ方向よ」

 

指を離すあいちゃん。まさか、と思ってわたし達がノワール達の方を見ると、今度は三人が思考を巡らせているかの様な様子だった。

 

「…昔から天界にはモンスターがいたけど…前は違う方向からも来ていたわよね?」

「えぇ…そもそも、わたし達が守護女神戦争(ハード戦争)をしていた時、こんなにちょくちょくモンスターが出現する様な事あった…?」

「いえ、無かった筈ですわ。こうも一日に何度も出現する様なら、守護女神戦争(ハード戦争)がモンスターによって邪魔される筈ですもの」

「…という事は、つまり……」

「モンスターが来る方向に、何かあるって事…?」

 

わたしの言葉に皆が頷く。皆の目には、思いもしなかった形での手がかりに沸き立つ気持ちが浮かんでいた。多分、わたしの目も同じ感じじゃないかな?

 

「そうと分かれば、善は急げです」

「この推測が正しいなら、少しずつモンスターとの遭遇率が上がる筈よ。皆、油断しないで」

 

今度はノワールの言葉に頷く皆。皆はモンスターが来る方向へ進める虹の橋へと向かう。それを見たわたしは少しだけ待って……イリゼの服を引っ張った。

 

「…ねぇ、イリゼ」

「何?…また殴ってほしいとか?」

「ち、違うよ……その、さっきはごめんね?」

「謝る位なら最初から気を付けなさい…。…はぁ、予め言ってくれれば私も心構えをしたのに……」

「あ、やっぱ察してくれてたんだね?イリゼに期待して良かったぁ…」

 

ほっと胸を撫で下ろすわたし。

イリゼの察していた通り、あの時イリゼに無茶苦茶な振りをしたのはただボケたかったのではなく、イリゼとのやり取りで空気を変えたかったからだった。そしてその結果は大成功、イリゼはわたしの思った通り…というか思った以上にわたしの狙いに乗ってくれて、しかもタイミング良くモンスターが現れてくれたおかげで完全にわたしが凍りつかせた雰囲気は取っ払われた。

 

「無謀な期待だよそれは…」

「そうかな?まぁそうかもね。…それとさ、あの時のわたしをどう思った?言葉の内容じゃなくて、ね」

「そう、だね……何割なの?」

「何割って?」

「分かってるでしょ、私の言いたい事。……あの言葉には、何割憎しみが込められていたの?」

 

そう言って、イリゼは私の目を見つめる。怒りでも喜びでもない、ただ一心に真剣な目。そんな目をされたら、嘘は吐けないなぁ…と思いつつ、わたしもイリゼの瞳を見つめて、返す。

 

「…0割だよ。わたしとしては、欠片も皆を恨んでたりなんかしないもん。ただ、なんて言うか…わたしの身体に残る、わたし自身も覚えていないわたしの記憶がそう言わせた、って感じかな?…実はさ、わたしもよく分からないんだ」

「そっか…うん、分かったよ。それより、ちゃんと感謝してよね?全く、ネプテューヌはいつもこうなんだから」

「ほんとありがとね、物凄く感謝してるよ。やっぱり、イリゼはわたしの理解者だったよ」

「ま、ね。私も同じ位理解者だと思ってるよ、ネプテューヌ」

 

ふふっ、と笑うイリゼ。わたしの言葉はあやふやで、普通なら突っ込んだ質問の一つでもされそうなところだけど、イリゼは何も追求せずに、ただ理解してくれた。思えば、魔窟での戦闘を皮切りに、戦闘中でも日常でもイリゼは何度も何度も助けてくれたり協力してくれたりした。

だから、そんなイリゼを、わたしは心から信頼していた。今みたいに、本来なら予め言っておかなければ上手くいかない様な事柄でも、イリゼなら…って思える位には、イリゼを信頼していた。そして、その信頼が間違っていなかったと分かった時、理解者だという言葉でイリゼが笑ってくれた時、不思議とわたしは心がぽかぽかするのを感じた。--------この気持ちは、なんなのかな?




今回のパロディ解説

・「〜〜結構な割合で〜〜するシリーズ〜〜」
機動戦士ガンダムを元とする、ガンダムシリーズの事。作品ごとに危険度は違いますが、大概半ば自殺行為ですし、ひょっとしたらネプテューヌの落下より危険かもですね。

・てへぺろ☆
声優、日笠陽子さんの持ちネタのパロディ。これをされるとつい許してしまう…らしいですが、本作での状況同様、いつもいつも許される訳ではないのが世の常ですね。

・「宜しい〜〜制裁だよ!」
Fate/Zeroの登場キャラ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの名台詞のパロディ。元ネタとは逆に言った側が一撃喰らわせてます、まぁ再現が目的ではないですから。


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第九十一話 繋がる偶然

歩く、歩く、ちょっと立ち止まる、歩く、歩く、ちょっとふざけてみる、歩く、歩く、歩く……。

モンスターのやってくる方向…所謂、発生源or集合地を見つける為に道を辿り始めて数時間。道中の私達は、こんな感じだった。

まぁ、何せ条件が悪い。辿ると言っても道しるべがある訳でも無ければ各方角道が一本ずつのみ、という訳でも無い以上、女神化して一気にショートカット…は出来ないし、仮に辿った先に何かあったとしてもそれが一目で分かるものとは限らない以上、あまり注意力散漫状態になる訳にもいかない。

それに、下界と違って天界は歩けど歩けど景色が殆ど変わらない…いや、全域を回った訳じゃないから私の主観だけどね?…だから、風景を見て楽しむ事も出来ない。…ノワールベールブランに至っては、慣れた光景だしね。

つまり、地味な上に面白い事もなく、気を紛らわせるにしてもあんまり意識が逸れたりしたらそれはそれで困るという、私達賑やか集団には大変向いていない状況だった。

 

「ねーイリゼ、わたし暇だよぉ……」

「私もだよ…でも手がかり見逃したら不味いし、黙ってようね?」

「うぅ…わたしこういうの苦手なのに……」

「貴女でなくてもこの状況は楽しくないわ…」

 

何ともまぁつまらなさそうな声を上げたのはブラン。平常時ならばパーティー随一の静かさを誇り、本人も静かな方が良いという(と言いつつうちのパーティーでやっていけてる辺り、賑やかなのが嫌いという訳でもないらしい)彼女ですらこう言うんだから、賑やかさの申し子と言っても過言じゃないネプテューヌの気持ちは推して知るべし……なんて、凝ってるんだかそうじゃないんだかよく分からない地の文になってしまう程、かくいう私も暇を持て余していた。

 

「…じゃ、ここらで少し休憩する?何事も適度な休憩を入れた方が効率が良くなるし」

「…なんて全体を見て判断したみたいな事言いつつも、実際はノワールも休みたいだけだったり?」

「それは、まぁ…なきにしもあらずよ」

「じゃあ、これを使うです」

 

そう言ってコンパが取り出したのは大きなレジャーシート。誰も数時間で事が済むとは思ってなかったから、各々必要だと思った物を持参してきたんだけど…全員が座れる様なレジャーシートを用意してきたのはコンパだけだった。

気の利くコンパに羨望の視線を向ける私達。…これが、女子力って奴なのかな…?

 

「こうして皆で座ると、何だかピクニックみたいね」

「そうね。気候も良いし、今度ユニを連れて来てあげようかしら…」

「あらノワール、それは弱めの死亡フラグでして?」

「な訳ないでしょ、こんなゆるゆるした空気で死亡フラグなんて建てたくないわよ」

「というか、その程度の発言なら触れなきゃフラグ成立すらしないんじゃ…?」

 

休憩、という事で張りつめていた雰囲気が解け、アイエフの言う通りピクニックみたいな空気になる私達。もしこれがマジェコンヌ撃破の為の侵攻ではなく、それこそピクニックだったらどれ程良かったものか。…まぁ、マジェコンヌ倒してもう一度来れば良い、んだけどさ。

 

「…しかし、思った以上に細い手がかりの様ね…」

「…すいません、私もここまで面倒な形になるとは思ってなくて…」

「責めている訳じゃないわ、そもそも貴女が気付いてくれなければウォーリーを探せとは比べ物にならない位高難度の捜索になっていたと思うし」

「現段階でもウォーリーを探せより何倍も大変ですけどね…」

「うーん…ここは一つ、息抜きに遊ばない?別に皆疲れてる訳じゃないでしょ?」

 

そういうネプテューヌに対し、私達は「また妙な事言いだしたよこの子…」みたいな目を向ける。勿論、ネプテューヌの言う通り肉体的に疲れてる訳ではないけど…だからって遊ぼうとは思わない。ネプテューヌの口振りから察するに身体を動かす遊びの事らしいけど、それはもう小休憩中にやる事の域を超えている気がする。

 

「ねぷねぷ、ここに来た目的忘れちゃったですか?」

「まっさかぁ、覚えてるよ?でも精神的に疲れてる時って、身体動かした方がリフレッシュし易いとも言うでしょ?」

「…本当にそれ目的で提案したんですの?」

「ううん、長時間黙々と歩いてたせいでフラストレーションが溜まりまくりだからだよ!」

「…イリゼ、またちょっとネプテューヌを預かってくれないかしら…」

「いや今のネプテューヌを預かるのは勘弁……」

 

今日の朝までの真面目ネプテューヌがもう懐かしく感じる程、天界に来てからのネプテューヌは普段通りだった。……もしかしたら、ひょっとしたらだけど、私達がマジェコンヌとの戦い…それも決戦になるかもしれないからこそ、私達が過度に緊張しなくてすむ様わざと普段通りに振舞っているのかもしれない。本当に、微かな可能性だけど。

一先ずネプテューヌを除く全員でアイコンタクトをとり、どうするかを決める私達。その結果、『頭ごなしに否定するよりは、やんわりと反論を重ねてネプテューヌ自身に考えを変えてもらうか、適度に遊んで満足させるかの方が何かと楽』という結論に辿り着いた。……完全にネプテューヌへの扱いが、手のかかる子に対応する、姉や母のそれになっているのは誰も触れない。

 

「はぁ…じゃあねぷ子、貴女何がしたいのよ?」

「TCGかな」

「TCG!?ここ外なのに!?身体殆ど動かさないのに!?TCGを都合良く全員が持ってる訳ないのに!?」

「あいちゃん、わたくし持ってますわよ?デュエルステューデンツというレアカードゲームですけど」

「いえそういう問題では…なんで持ってるんですか!?え、それ販売されてたんですか!?」

「おーいアイエフー、話脱線してるよー」

 

話を進めようとしていた筈が、突っ込みをする中で逆に脱線し始めてしまったアイエフにゆるゆると突っ込みを入れる私。そんな中ベールは何を勘違いしたのか、「あ、この場合UNLIMITED VSと言うべきでしたわね…」とか言いながら一人反省していた。…いやステマしろって意味じゃないよ!?

 

「こ、こほん。とにかくTCGは駄目。建前だったとはいえねぷ子の論調とは食い違ってるし、風でカード飛ばされたら回収出来るか怪しいわよ?」

「それは確かに…うーん……」

「ネプテューヌ、どうしてもTCGやりたいなら今度私が相手してあげるから、今日は我慢して捜索の方に……」

「あ、じゃあビーチバレーは?」

『ここビーチじゃない(わ)よ!?』

 

ついさっきまで突っ込みを担当していたアイエフだけでなく、私と援護射撃を行なっていたノワールまでもが同時に突っ込みを入れてしまった。

…わざわざ三人で突っ込む必要はない?むしろ突っ込むからボケ側が調子に乗るんだ?…分かってるよそんな事。でもね…ネプテューヌを筆頭とするトンデモメンバーによる、日々の雑談と言う名の調教を受け続けた私達突っ込み組は、もう連続で放たれるボケを我慢し続ける事が出来ない身体になってた…もうボケなしじゃ生きられないの!

……という冗談はさておき(全くもって事実無根、という訳でもないけど)、突っ込んじゃった以上無視する訳にもいかないので会話を続ける私達。

 

「…あのねねぷ子、ビーチバレーはビーチとか砂浜でやるものよ?」

「そこはほら、全員で地面に攻撃撃ちまくって地形変えるとかで」

「ビーチバレーする前に疲労困憊になるでしょうが!」

「むぅ、じゃあいいよ普通のバレーで…」

「うん、無茶な要求を出した上でそれを部分的に取り下げる事で妥協した様に見せかけつつ、実際には当初の目的を不足なく達成させようとするという地味に高度な事を画策するのは止めようか」

 

あくまで当初の目的を果たそうと三人がかりで説得を試みる私達。しかしコンパ達は何やってるんだろう…と思ったら、コンパベールブランの三人は誰かが持ってきたのであろうクッキーを手にまったりしていた。……ネプテューヌの説得という無理難題を完全に押し付けられていた。

そして数分後……

 

「…じゃ、バレーボールはどこにあるのよ……」

「ふふん…ノワール、このわたしが忘れると思ったの?」

 

すっ、とバレーボールを取り出すネプテューヌ。一体彼女は何を想定してバレーボールなんか持ってきたのだろうか。十中八九こういう展開の時の為だと思うけど。

 

「…どうする?これもう乗ってあげた方が良い流れだよね?」

「そうね…まぁ球技って反射神経や周囲の確認も必要だからそこら辺の能力動かしておくって意味でやりましょうか…」

「ベール様達呼んでくるわ…」

『……はぁ…』

 

三人、大きな溜め息を吐く。私達突っ込み組の苦労はどこへ行っても尽きなそうだった。

 

 

 

 

「えーいっ!」

「それっ!」

「ふ……っ!」

「アターックっ!」

『アタック!?』

 

あれから十数分後。なんだかんだでバレーをする事になった私達は早速行なっていた。とはいえ、バレーをするには人数が足りないし、ネットを始めとする各種道具もないから、本格的なバレーではなくあくまでパスを繋ぐだけの、文字通り『お遊び』だったけど、プレイヤーが軒並み人外クラスor人外クラスに肩を並べる面々だったからか結構動きの激しいものになっていた。……約一名、趣旨を理解していないのかネタなのか、アタックをかけていた人もいたけど。

 

「段々と真剣なスポーツの練習か訓練の様になってきましたわね」

「軽くやるだけのつもりだったのに…思った以上に熱入れちゃったわ…」

 

アタックによってパスが途切れた事もあり、気を緩めて苦笑を浮かべる私達。先程ネプテューヌは、建前としてリフレッシュと言っていたけど…恐らくネプテューヌの想定していた以上に私達はリフレッシュ出来ていた。発案者のネプテューヌは満足気だし、私達も私達で結構得るものがあった訳だから、多少なりとも時間を消費した甲斐があった気がするね。

 

「いーのいーの、遊びもスポーツも戦いも、熱入れちゃ駄目なんて事ないんだからさ」

「ま、そうね…ネプテューヌにしては良い事言うじゃない」

「でしょ?じゃあもう一回いってみよー!」

「まだやるのね…良いけど」

 

さらっと続行宣言をするネプテューヌと、それに対して素直な感想を述べるブラン。私達は適当に決めた自分の位置に移動し、浮き岩の端近くに立ってボールを持つネプテューヌの動きを待つ。

 

「それじゃあいくよー、せーのっ!」

「ぴぃぃっ!」

「ほぇ?」

「ぴいっ、ぴいっ!」

『……え?』

 

サーブの要領でボールを軽く上へ放るネプテューヌ。その瞬間、高い鳴き声が聞こえ、ネプテューヌの頭上からボールが消える。

空を切るネプテューヌの手。予想外の出来事に私達がきょとんとしていると、再度高い鳴き声が聞こえてくる。それにつられてその鳴き声の方へ目を向けると……頭にちょこんと王冠を乗せた、立方体の鳥(ひよこ?)っぽいモンスターがいた。

 

「…え、えーっと……」

「…ど、どうするです…?」

「倒す…?」

「いや、でも襲ってくる気配無いし…」

「というか……」

((可愛い……))

 

シンクロする私達の心の声。モンスターとしては比較的凶暴そうには見えない見た目に加えて、つぶらな瞳をキラキラさせながら身体や脚でボールを転がすその姿は、とてもとても愛くるしかった。

スライヌとかアルラウネとか、今までにも割と可愛いなぁ…と思えるモンスターはいたけど……まさか可愛いモンスターにボールを持たせると可愛さがこんなに増すなんて!

パーティーメンバーが全員女の子だった事もあり、ついほんわかな空気のまま眺めてしまう私達。

だが、モンスターによってもたらされた癒し空間は、同じくモンスターによって終止符を打たれてしまう。

 

「ぴぃ〜……ぴ?」

『……?』

「ぴぴっ!ぴ〜っ!」

 

何故か動きを止めるモンスター。それを不思議に思った私達が見つめていると…突然モンスターは向きを変え、ちっちゃい羽をパタパタさせながら跳んで(飛んではいない)どこかへ行ってしまう。

ボールよりも興味を引く物を見つけたのか、何か目的があったのを思い出したのか…とにかく最後まで私達に敵意を示す事もなく、ボールを残して去ってしまったモンスターに、私達は何とも言えない気持ちになる。

 

「…突然やってきて自由に振る舞った挙句、すぐに飽きてどこかへ行ってしまう……何だかネプテューヌみたいだったわね」

「え、わたしあんな感じなの?」

「あんな感じよ?…しかし、これだけの人数がいたのに誰もモンスターに気付かないなんて…」

「えぇ、これは些かバレーに熱中し過ぎの様でしたわね…」

「もー、わたしの真後ろから来たんだからわたしには見えないし、皆気を付けてよー」

「そうだね…ここがモンスターの出てくる場所なんだって意識は、常に持っておか…ない…と……」

 

段々と声が尻窄みになっていく私。それを怪訝に思った皆が私に話しかけようとしてくるけど…それを私は手で制し、返答の代わりに思考を巡らせる。

何かが引っかかる。何かがおかしい気がする。

モンスターが遊んでいたから?…違う。確かにモンスターは人や動物を襲うけど、戦闘マシンではないんだから遊ぶ事があってもおかしくない。

誰もモンスターに気付かなかったから?……それも違う。気付かなかったのは妙だけど、私が気になっているのはそこではなく、むしろ気になっている事柄が原因で誰も気付かなかった様な気がする。

そう、だからそれよりも前。モンスターが……

 

「……皆、さっきの位置に一度戻ってもらえる?」

「…さっきの位置、ですか?」

「うん、モンスターがボールを取る直前の場所、覚えてるよね?」

「それは、まぁ…」

 

私の言葉にやや不思議がりながらも首肯し、言われた通りに移動するアイエフ。皆もそれに続き、各々さっきいた位置に立つ事でモンスターが現れる直前の状況が再現される。

そして、その状態で改めて状況を見回す事で……私は気付く。何が引っかかり、何がおかしく感じられていたのかを。

 

「……これは、ひょっとするとひょっとするのかもしれないね…」

「イリゼ、貴女は何を……あれ…?」

「…もしかして、イリゼが言いたかったのはこれなの?」

「そういう事、まだ推測の域を超えてはいないけどね」

 

ブランが真っ先に私の『気になっていた事』に気付き、それを追う様にノワールアイエフベールコンパと続いて、最後はネプテューヌだけになる。

けど、それは仕方ないのかもしれない。だって…ネプテューヌは、気付けない位置にいるんだから。

 

「え、え、どういう事?わたしを差し置いて何か進んでない…?」

「大丈夫大丈夫、ちゃんと説明してあげるから」

「じゃあ早速お願いします探偵さん!」

「…大分前は警察、前回は謎のグランプリ入賞者で今回は探偵なのね…こほん。百聞は一見にしかず、後ろを見てごらんネプテューヌ」

「後ろ?後ろって…ここ端っこだから何にもないよ?あるのは綺麗な景色だけ……あ!」

 

くるりと後ろを向いて見回すネプテューヌ。最初こそ私の言わんとしている事が分からずにいた様だけど…目に見えるものを口にした事で遂に気付いたのか、途端に声を大きくして…叫ぶ。

 

「何にもないじゃん!あのモンスター飛べないのに、何もないところからやって来たんじゃん!何これ!?」

「ご明察。変だよね、これって」

「エネミーディスクは…なさそうね。だとすれば…」

「可能性は一つ、だね」

 

ネプテューヌの背後、今となっては正面にある空間の近くへと集まる私達。それを追う様に、私も足元の小石を拾ってそこへと駆け寄る。私は決して頭脳明晰でもなければ知識が豊富という訳でもないから、恐らく今の私と同じ事を考えている人はいるだろうけど…皆、「これはイリゼの手柄だ」と言わんばかりに集まって以降は私を見つめるだけに留まっている。……何かちょっと誇らしかった。

ボールに触れていた以上モンスターが幻影だった、という事はあり得ないし、あの身体で浮き岩の側面に張り付いていたとも思えない。ならば…あのモンスターは、『陸路でここへ来た』という事になる。

そんな事があり得るのか。…可能性はゼロじゃない。実際、私達は一度、魔窟で同じ様なものを体験している。

その時の事を思い出しつつ、手にした小石を放り投げる私。小石は山なりの軌道を描いて飛び、浮き岩の外に出た瞬間--------消える。

 

「……ビンゴ」

 

にいっ、と口角を上げる私。私の、私達の予想した通り、そこにあったのは本物の景色ではなく、本物の景色と見間違う程に精巧な偽物の景色を映し出す、謎の幻影だった。

 

「どうりで見つからなかった訳ね…あのモンスターには感謝しなくちゃ」

「うん、もし『起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている』って出たら絶対仲間にしてあげよっと」

「…早速、入ってみるですか?」

「そうね、どうなってるか分からないしまずは一度確認しないと」

「なら、まずは…わたしが見てくるぜ」

 

そう言ったのはブラン。更に彼女は言い切る前に女神化をし、浮遊しながら幻影の前へと移動する。

 

「……?そこ通ったら即戦闘になる可能性考えてるの?」

「考えてみろネプテューヌ。浮き岩は全部本物って事は、多分幻影の先にあるのは虹の橋だ。…この状態で、どこに虹の橋があるか分かるか?」

「あ、そっか…虹の橋の無い所に入っちゃって真っ逆さま、なんて嫌だもんね」

「そういう事だ、似た様な事があった魔窟と違って顔だけ突っ込んでみるってのも難しいからな。…確認したらすぐ戻る、待っててくれ」

 

自身の言葉に私達が頷くのを確認した後、翼を動かして幻影へと入り込むブラン。すると小石同様にブランが姿を消し、まるで最初から居なかったかの様になる。

本当にブランが消えてしまった訳ではないとは分かっていても、やはりどこか落ち着かない私達。そしてそのまま十数秒が過ぎ、虹の橋の確認だけにしては遅い様な…と不安を感じ始めた瞬間に、入った場所より約1メートル程ずれた所から、ブランが姿を現わす。

 

「……ここに虹の橋があるわ。然程細くはないから、普通に歩けば落ちずに進める筈よ…」

『……ブラン(さん・様)?』

 

姿を現わしたブランは女神化を解き、目印代わりになる為か横に逸れずに真っ直ぐ数歩前に出る。

……が、私達はそれよりも気になる事があった。ブランの様子、表情が…端的に言えば、曇っていた。

 

「…気にしないで、とは言わないわ。それよりも、入ってみて頂戴。そうすれば分かると思うから」

「…分かりましたわ。行きますわよ、皆」

 

ブランの言葉を受け、追求はせずに幻影へと向かう私達。道があると分かっていても、目の前に広がっているのが空である以上一抹の恐怖をどうしても感じてしまう。…けど、怖がる姿を見せるのは恥ずかしいし、何より最悪落ちても女神化すれば大丈夫だからと自分に言い聞かせ、幻影へと足を踏み入れる私。

そして--------

 

「これ、は……」

 

私は、幻影を抜けた先の場所で唖然とする。

私が感じたのは、纏わりつく様な、重く不愉快な空気。私が目にしたのは、何かに汚染されているかの様に僅かに暗い色となった景色。

その上で、私は再びそれを目の当たりにする。下界で見たものと同じ、禍々しき闇色の柱を--------。




今回のパロディ解説

・ウォーリーを探せ
元はイギリスで出版された絵本の事。ウォーリー探しはページごと、シリーズごとに難易度が違いますが…この段階でのネプテューヌ達よりは楽でしょう。

・デュエルスチューデンツ
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録シリーズに登場する、カードゲームの事。これは作品内のみのカードゲームなので、実在はしない筈…ですよね?TCG化してませんよね?

・UNLIMITED VS
上記と違い、実際に発売されているTCGの事。このカードゲーム内にはネプテューヌシリーズもあります。…ステマじゃないですよ?ほんとですからね?

・起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている
ドラゴンクエストシリーズにおいて、倒したモンスターが仲間になる時に発生するテキストの事。ネプテューヌシリーズにはそんな仕様がないので、あり得ませんけどね。


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第九十二話 流れる決戦

天界と下界の繋がり方は、中々に複雑なものだと聞いた。天界がありながら下界が日照不足にならなかったり、天界と下界間の移動方法がワープな時点で物理的に繋がっている訳ではない事は十分理解していたけど…どうやら完全に別の次元、という訳でもなく、条件や状況次第では物理的な形で移動する事も可能らしかった。

思い返してみると確かにそれはそうだと思う。だって現にネプテューヌは、『天界から』『下界へ』落っこちてきたんだから。ネプテューヌが女神である以上、落下中にワープを行なったという可能性もあるけど…無意識下なら勿論、意識があった状態だったとしても、攻撃を受けて落下していた最中に完璧なワープが出来る訳がない。もしそれが出来るなら、ワープより体勢を立て直す事を考えるし、離脱を考えていたのなら地面に斜めにずっぽり、なんて頭のおかしい状態になったりはしない。

イストワールさん曰く、天界と下界の境界は眠りにつく直前の時の意識の様に曖昧で、どっちつかずのものらしい。その説明自体が若干曖昧で、ネプテューヌの件を踏まえてもまだ私は『天界と下界は別次元』という認識の方が強かったんだけど……あの時、あれを…負のシェアの柱を天界で目にした瞬間、別次元という認識は私の頭の中から吹き飛んだ。それ程までに、空を貫き地を穿たんとするあの柱は、何処までも何処までも届いていたのだった。

 

 

 

 

「--------やはり、早急に倒す必要がある様ですね(・ω・)」

 

私達の説明を聞いたイストワールさんは、そう結論付ける。

幻影に隠された天界の一角を発見した私達は、その後一時間程探索した後に幻影の壁の外へ出て、最初の集合場所へと戻っていた。

理由は、幾つかある。

 

「だよねー、うん。…あれは洒落が全く効かないレベルだよ」

 

普段通りの笑いを浮かべた後、笑みを消して代わりに真剣な表情をするネプテューヌ。

まず一つ目は、イストワールさん及び下界へ連絡を取る事。幻影の壁の先の一角…便宜的に『裏天界』と名付けた場所ではイストワールさんへの連絡が出来なかった。これは裏天界には悪意のシェアが蔓延っているが故に、善意のシェアを媒体とするネプテューヌとイストワールさんの連絡が阻害されてしまうからで、仮に出来たとしても比較的モンスターとの遭遇率が高い場所ではネプテューヌが集中出来ない…と、いう以上の理由から、連絡を阻害されずモンスターとも遭遇し辛い(=裏天界及びその周囲から離れている)最初の集合場所が選ばれたのだった。

 

「元々常識の通じるものでは無いと思っていたけど…まさか、下界と天界の境界を超えて聳えているとは…」

「あれにはヒヤッとしたわね…下界の方はどう?何か問題起きてない?」

「大丈夫ですよ。…とは言っても、汚染モンスターの目撃情報は増える一方なので、平穏無事ではありませんが……(¬_¬)」

「…私達が戻らなきゃ不味い…とかはありませんか?」

「いえ、現段階では各国のギルドで編成された、有志の方達による部隊で迎撃出来ているので心配は無用ですよ。報酬と支給品の為に予算を投じた甲斐があるというものです( ̄∀ ̄)」

「部隊?…そっか、それなら人数辺りの戦力の強化が出来るものね」

 

連絡を取ったのは単純に裏天界の事を伝えるだけでなく、裏天界を目にした事で不安感を煽られた私達が、下界の状況を聞きたいからでもあった。…けど、これは杞憂だったみたいだね。

ギルド経由でギルド利用者に協力を仰ぐ、というのはTV電話の時に出た案だし、世界全体の危機とはいえ『無償で協力しろ、これは政府からの指示だからな』…なーんて権力濫用も甚だしい御触れなんて出せない以上、各国の予算を投じるともいうのも当然の事だったけど…部隊を編成したというのは初耳だった。でも、それも現場の判断としては何も間違っていない。個人ではどうしても生まれてしまう弱点を複数人なら補えるし、バラバラに動くよりは少しでも組織を作った方が情報伝達の効率も上がる。つまりはTV電話の段階で上がっていた問題点がある程度解消されているという事であり、これは私達を安心させてくれた。……因みに、「ふふん、やはり私の妹の意見は正しかったわね!」と、妙にご機嫌な人がいたけど…水を差しても良い事はなさそうなので放っておく。

 

「なので、こちらの事は心配無用です。そちらこそ、何か問題はありませんか?(・・?)」

「問題、というか何というか…あいちゃん、コンパさん、もう体調は大丈夫でして?」

「あ、はい。ご覧の通りもう大丈夫です」

「わたしもです。心配をかけちゃってごめんなさいです」

「それは仕方ないよ、というかあれで体調崩さない方が問題だし」

「そうですね。負のシェアが充満している場所で体調を崩さないのは、イリゼさん達女神の様にシェアエナジーに適応した身体を持った人間か、マジェコンヌの様に心身共に負のシェアに汚染されきった人間位ですから(´-ω-`)」

 

二つ目は、体調を崩したコンパとアイエフを回復させる為だった。裏天界に負のシェアが充満していたのは、恐らく幻影が壁の役割を果たしている為に、闇色の柱から発せられた負のシェアの密度が高まったからだと思われる。

ギョウカイ墓場に比べれば大分希薄なものの、充満しているというのは事実。私達女神は「嫌な感じだなぁ…」位にしか感じなかったけど、シェア関連においては普通の人間であるコンパとアイエフは入ってから数十分程した所で体調不良を訴えてきた。

 

「…やっぱさ、二人はここで待ってた方が良いんじゃない?勿論二人が居てくれた方が心強いのは確かだけど、あそこにいるのは二人も辛いでしょ?」

「…ここまで来て、ただ待ってるだけの方が辛い…って、言ったら?」

「まぁ、そう言うよねぇ…こんぱは?こんぱはどう?」

「わたしもただ待ってるだけなんて嫌です。きっとこれは我が儘何ですけど…それでも嫌なんです」

 

ネプテューヌの言葉を拒否するアイエフとコンパ。コンパの言う通り、体調が悪くなるのを分かってて行くのは合理性に欠ける判断だけど…人は合理性や正当性だけで動けるものではないし、それが分からない程私達は理屈人間ではない。…というか、女神がそういう『感情』の部分を考慮しなくなったらお終いだもんね。

 

「…いーすん、何か良い方法はないかな?二人はここまで着いて来てくれた訳だし、二人の気持ちも大事にしたいんだ」

「ふふっ、そういうと思ってました。無効化は無理ですが、悪影響を多少緩和する程度で良ければありますよ?(^ ^)」

「あるの?さっすがいーすん、それで方法は?」

「スキンシップです(´・ω・`)」

『……スキンシップ?』

 

事も無げに言ってのけるイストワールさんに、ぽかーんとしてしまう私達。……イストワールさんそんなキャラだっけ…?

 

「え、ええっと…イストワール、貴女の言うスキンシップって、世間一般で言うスキンシップの事…?」

「世間一般以外の使い方をする場合があるのかは知りませんが…はい、そのスキンシップです( ´ ▽ ` )」

「……さっぱり意味が分からないわ、わたし達が悪いのかしら…」

「い、いや今までの事から考えても、イストワールさんは説明もちゃんとしてくれるって!…ですよね?イストワールさん…」

「そのつもりですよ。理由としては単純です。スキンシップ…まぁ要はシェアに適応している女神と直接的に繋がる事で、女神本人程ではないものの、シェアに対する適応力が増す…謂わば、一時的に女神が防護フィールドになってくれるんです。厳密に言えば、この表現は少々語弊があるんですけどね^_^;」

 

防護フィールド。どこがどう語弊があるのかは分からなかったけど、確かに分かり易い表現だった。とはいえ、まだまだ不明瞭な点があったからか、アイエフが質問を口にする。

 

「…その、スキンシップって言うのは…手を握るとか肩に触るとかでも良いの?」

「触れる事が条件なので、最悪髪の毛と髪の毛が接触するだけでも効果はありますよ?髪の毛と髪の毛では効果は微々たるものですが…(-_-)」

「ほぅ…では、抱き締めたり膝に乗せたりするとより良いと?」

 

何やらアイエフに視線を送りながら確認を取るベール。そんなベールに、うわこの人絶対私利私欲が混じってるよ…とか、別にベールがアイエフを担当しなきゃいけない理由はないよね…とか私達が思っていた所で…イストワールさんがかなりぶっ飛んだ事を述べる。

 

「そうなりますね…というか、口に出すのは憚れますが…より良いを求めた場合、キスやそれ以上の行為の方が適任だったりします……(>_<)」

「そ、それって……」

「…負のシェアが充満する場所で、敵である筈の相手には目もくれずキス以上の行為に耽る女神…堕ちているわね、これは……」

 

赤面し、互いに目を逸らし合う私達。きっと、イストワールさんとブランの言葉で妄そ…想像してしまったのだろう。…恥を忍んで言えば、私はしちゃったし……い、いやこれはもう想像しろって誘導された様なものだし!不可抗力だもんね!?

……こ、こほん。

 

「一時的に、って事は一度やればOK…って訳ではないんですよね?」

『……一度やれば…?』

「そ、そこに食い付かないでよそこに!」

「イリゼさんも年頃ですからね、仕方ありません( ̄▽ ̄)」

「イストワールさんまで!?…う、うがぁぁぁぁぁぁっ!」

「うわわっ!?ちょ、危ないから武器振り回さないでよ!?」

 

揃ってニマニマとした表情を皆にされた私。悪気は無いんだろうけど、イストワールさんの言葉は援護どころか追い討ちとなってしまい、それで耐えきれなくなった私はバスタードソードをぶんぶんと振りながら走り回る。仮にこれで誰かが怪我をしたとしても、私は一切の責任を負いません。負うものか…!

 

「ふーっ、ふーっ…!」

「い、イリゼが威嚇してる猫みたいになってる……えーと、皆せーの」

『ごめんなさい』

 

ニマニマした表情の後は、全員で頭を下げての謝罪だった。…ふんだ、私じゃなかったらこの位じゃ許してないんだからね!

 

「…あの、イリゼさん…ご質問の続きをどうぞ…(・_・;」

「私は最初からそのつもりでしたよ…!……一時的なら、何度か触れ直さなきゃいけないって事ですか?」

「は、はい…そうなります。どの位の頻度かは何とも言えないので、コンパさんとアイエフさんは心身に違和感を感じたらすぐ伝えて下さいね( ̄^ ̄)ゞ」

 

若干気圧された様子のイストワールさんが言うと、コンパとアイエフが頷く。この点に関しては、イストワールさんは勿論私達にも二人が負のシェアの悪影響を受け始めているかどうかを判断し辛いのがネックだった。もし、戦闘中に加護が切れて、しかも戦闘中だからって理由で二人がそれを隠して我慢したら…そう、私は不安になる。

けど、それを察したのか…

 

「ちょっとでも何かあればすぐ伝えるから大丈夫です」

「えぇ、それにこっちから触っても効果はある様だし、何かあったらその時はこっちで上手くやるわ」

 

二人が変に気を使わなくても良い、といった旨の言葉を口にする。その言葉こそ、私達に気を使っているのかもしれないけど…じゃあ、それより良い方法があるのかと言われればそれは勿論ない訳で、だったら二人の言葉を信じようと思う私達だった。

 

「さて…連絡する事、確認する事は済んだし、軽食を取ってもう一度裏天界に向かいましょ」

「そうですわね。裏天界の負のシェアの密度が増えればこちらは不利になる一方、善は急げですわ」

「……あの、皆さん。大丈夫なのですか?(・・;)」

「……?何か問題があるのかしら?」

 

今度こそマジェコンヌを、と意気込む私達へイストワールさんがかけたのは、心配の言葉。一体何が大丈夫なのですか、なのか分からない私達は、きょとんとした顔をする。

 

「問題というか何というか…いや大丈夫というならそれでも良いんですけど…(ーー;)」

「だから何が?わたし達何か見落としてたりするの?」

「……今、夜更けですよ?(~_~;)」

『……はい?』

 

空を見上げる私達。そこには青い空と白い雲(雲は私達の下にもあるけど)。……うぅん?

 

「いーすんさん、まだお空はお昼みたいですよ?」

「あぁ…天界にはですね、夜がないんです。もっと正確に言えば、一日中昼間の様な天候をしているのが天界なんです」

『あ……』

 

イストワールさんの言葉を受けて、ノワールベールブランの三人が思い出したかの様な声を出す。さらにそれを受けてアイエフが携帯を取り出し、時間を確認し…はっとする。イストワールさんの言葉は間違っていないようだった。

 

「そう言えばそうだった…守護女神戦争(ハード戦争)の最中は気にも留めてなかったから忘れてたけど、ここには夜の帳は降りないんだったわね…」

「えっと、つまり…今行くと、寝不足状態でマジェるんと戦う事になるの?」

「そうなるわ、一応わたし達女神はシェアエナジーで何とかなるけど…コンパとアイエフは別だし、わたし達に取っても無駄な消費になるわ」

「懸念要素を残して急ぐか、時間を遅らせて万全の状態を作るか、だね。私は後者を推すよ」

 

ブランの言う通り、私達女神はシェアエナジーを消費する事で何とかなるし、人の身体はよく出来てるもので、戦闘となれば眠気なんか感じなくなる。けど、シェアエナジーにしても睡眠不足にしても、何かが欠けた状態で勝てる程マジェコンヌは楽な相手ではない。…それに、私個人としては出来る限りシェアを消費するのは避けたいから、ね…。

 

「わたしもイリゼちゃんに賛成です。睡眠不足は身体に良くないです」

「わたくしもですわ。シェアで何とかなるとはいえ、寝ないでいるのは違和感を感じてしまいますわ」

「これはむしろ前者派を聞いた方が良さそうね。あ、私はどっちでも良いわよ?後者の方が賢明だとは思うけど」

 

前者派がいるか訊くノワールの言葉に言葉を返す者はいない。要は、全員がここで睡眠をとった方がいいと判断していた。

 

「皆さん、寝坊しては駄目ですよ?(・ω・)」

「この場でそんな阿呆な事はしませんから大丈夫ですよ…」

「あ、不安ならいーすんがモーニングコールしてくれてもいいよ?」

「しませんよ…では、また何かあればご連絡をd(^_^o)」

 

その言葉を最後に連絡が切れ、イストワールさんの声が聞こえなくなる。……これさ、ネプテューヌとイストワールさん間の連絡に私達が参加させてもらってるだけだから、本当に切れたのかただ黙ってるだけなのかの判別がし辛いんだよね。だから何だという話だけど。

 

「さて、それじゃ軽食の代わりに仮眠の準備をしましょ。ねぷ子、あんた寝巻き忘れたとか言わないわよね?」

「わたしはキャンピングカプセル持ってきたから大丈夫!」

「いつからねぷ子はネプえもんになったのよ…」

「ふふっ、あ…わたしこんなの持ってきたですよ」

「あら、調理セットですの?これはキャンプみたいになりそうですわね」

 

ごそごそと野外用調理道具を取り出すコンパ。コンパ曰く、温かいご飯の方が元気になれるかららしい。それについては一切の反論が無かったので、全員で手伝って手早く料理を行い、それを私達は食べた。美味しかった。

 

「やー、まさかここまで来て遂に野宿をする事になるとはねぇ。…あ、好きな子の話でもしてみる?」

「修学旅行か!…一応、対マジェコンヌの作戦でも立てとく?」

「それは無用でしょ、私達と変わらないサイズの相手に複数でかかるんだから細々とした作戦はむしろ邪魔になるし…個々人の戦法は、お互いもう分かってるでしょ?」

「もしモンスターをけしかけてきたら私とコンパに任せて頂戴。露払い位はやってやるわ」

「怪我をしたらわたしにお任せです。医療用顕現装置(メディカル・リアライザ)にも負けないお手当てをしてあげるです」

「ふふっ、頼もしいですわね。あいちゃんも、コンパさんも」

 

ベールの言う通り、コンパもアイエフも本当に頼もしかった。勿論、女神の私達に比べれば単純な戦闘能力は大きく劣る。けど、そういう事ではない。信頼出来る、何かを任せられる、そう思えるからこそ二人は頼もしかった。……私は、皆から見て二人の様に頼もしい存在、なのかな…。

そうして(下界基準で)夜が更け、今日一日の疲労も相まって寝入る私達。そしてそれは、決戦前最後の休息だった--------。




今回のパロディ解説

・キャンピングカプセル
ドラえもんシリーズに登場する、ひみつ道具の一つ。一泊するだけならともかく、仮眠の為だけにあんなホテルクラスのものを用意するのは流石に過剰ですね。

医療用顕現装置(メディカル・リアライザ)
デート・ア・ライブに登場する特殊装置の一つの事。切れた四肢や大怪我ですら数日もあれば完治させるレベルの手当てをコンパが出来たとしたら、それは大したものです。


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第九十三話 決意を抱いて

「ぎゅーっ」

「ぎゅー、ですわ」

 

裏天界にて、ネプテューヌがコンパの、ベールがアイエフの手を握る。側から見れば仲良しさん達のワンシーンだし、実際仲が良い(後者は仲が良いの域なのか微妙だけど)からこの解釈は間違ってはいないんだけど…別に友情を確かめたい訳でも、ましてやその友情を私とノワールとブランに見せつけたい訳でもない。

 

「わ、凄いです…嫌な感じが急に減ったです…!」

「これが加護…やっぱり凄いのね、女神様って…」

 

驚きと感嘆の混じった声を上げるコンパとアイエフ。二人に対する『対負のシェア防護付加』は滞りなく成功した様だった。…無論、これは一時的なものだから暫くしたらまたしなければいけないし、女神の私達ですら完璧な防護を見に宿している訳でもないのだから、それより劣るであろう二人への加護は絶対に過信してはならない。

下界の事を含め、あまり悠長にはしていられないというのが今の私達だった。

 

「さてと、今から裏天界を進む訳だけど…目指す先はあれで良いわよね?」

「えぇ、あそこに何もないとは到底思えないし…」

「巨大な建造物の中か周辺にいるのがラスボスってものだからね!」

 

ノワールが指差したのは闇色の柱。巨大な負のシェアの塊。柱、と言っても何か支えていたり人為的に作られたりした物ではなく、単に柱っぽいから柱と呼んでるだけで、ネプテューヌの表現は間違っていたけど…わざわざ指摘する程の事でもないし、それよりも「言われてみるとそうだなぁ…」という感想の方が大きかった為、誰も突っ込む事なくその場を済ませていた。

闇色の柱を目指して進む私達。途中何度かモンスターに遭遇したけど…こんな場所でもやはりモンスターはモンスター、連携して戦う事で難なく倒していく。

そうして数十分後、近付くにつれ大きさを増す(勿論遠近感の関係でね)闇色の柱がいよいよ眼前となる辺りで私は一度立ち止まり、真剣そのものの顔で皆に声をかける。

 

「皆、油断は禁物だよ?マジェコンヌが柱の前で座してるとは限らないし、伏兵がいる可能性だってあるんだから」

「伏兵、ね…考えてみると、マジェコンヌって某滝口さんばりに殆ど自分一人で暗躍してましたよね、ベール様」

「そう言われるとそうですわね。アヴニールやルウィー教会の兵はあくまで数を用意する為、謂わば下っ端的存在…」

「わたしの国の教会職員を馬鹿にする気?」

「そ、そこに食い付くんですの…?ええと…指示を受けて動く側の存在…なら良くて…?」

 

予想外過ぎる所に食い付かれたベールは困惑と狼狽の混じった様な表現を浮かべ、数秒の思考の後に別の表現をブランに提示する。するとブランは無表情のまま、こくんと頷くだけの返答を見せる。…え、それだけ!?わざわざ訂正を要求したのにその後の反応はそれだけなの!?

…と、私だけではなくベールもそう思っていたらしく、一瞬ぽかんとしていた。

 

「…こ、こほん…指示を受ける側こそそれなりに用意していたものの、側近やら参謀やら同志やらはいませんし」

「そう考えるとマジェちゃんって一人で色々出来る有能だったのかな?ノワールと同じでぼっちだった事だけは確定だけど」

「事実一人で私達と立ち回ってる訳だからそうなのかも…って誰がぼっちよ!あんなのと一緒にするんじゃないわよ!」

「え……あ、ごめん…ノワールがそこまでのぼっちだとは思わなくて…」

「そっちじゃないんだけど!?私のぼっちレベルを過小評価された事に突っ込み入れたんじゃないんだけど!?」

 

自然な流れで真面目な会話をノワール弄りにシフトするネプテューヌ。ノワールもノワールで割と良い感じの突っ込みをするもんだから、つい私達もそれを見入ってしまい、状況には不釣り合いな賑やかな場となってしまう。

…とはいえ『一人』、か……。

 

「…イリゼちゃん?」

「…あ、何でもないよ?ちょっとセンチメンタルな気分になってただけだから」

「友達のいないノワールに同情して?」

「だから!私はぼっちじゃないって言ってるでしょうが!マジェコンヌの前に貴女を叩っ斬るわよ!?」

 

ふと感じたちょっとした思いも、このパーティーにいると有耶無耶になってしまう。…けど、これで良いのかもしれない。負のシェアによって悪影響を受けるのは身体だけではない。心までも少しずつ蝕まれてしまうこの空間では、ともすれば心に負荷をかけてしまう緊張状態よりも、多少なりとも砕けた雰囲気の方が結果的に身を守る事になるのだから。

そういう考えと、「いやでもそろそろ行こうよ、ここまできたらもうギャグパートは最低限で十分だって」という考えが同時に浮かんでいた私は、一先ず先に進む事を提案しようと改めて口を開きかけた所で--------視界の端で、何かが光った。

 

『……ーーッ!?』

 

全力で地を蹴り、その場から散開する私達。次の瞬間、強烈な電撃が駆け抜け、一瞬前まで私達がいた場所を抉る。

私を含む女神五人は着地と同時に女神化し、七人全員が電撃の飛来元へと視線を走らせる。

敵が見えて、攻撃が来るのが分かって避けた訳ではない。光が見えた瞬間、幾度となく戦闘と死線を乗り越えた事で手に入れた直感でもって反射的に回避した私達は、どの位置から、誰が放ったのかをきちんと視認する必要があった。

 

「皆、無事?こんぱとあいちゃんも怪我はない?」

「えぇ、大丈夫よ。けどまさか、このタイミングで攻撃を受けるとは…」

「こんな事をするのは…いや、この場所にいる奴なんて、最初から一人しかいないわね」

 

あくまで目はいるであろう電撃の射手に向けながら、私達は即座に思考を戦闘の時のそれに切り替える。

そう、ここにおいて私達に奇襲を仕掛けてくるのはノワールのいう女性か、モンスターしかいない。そして、ここに来るまでに戦ったモンスターはどれも今さっきの様な電撃攻撃は放たなかった。つまり、私達へ仕掛けてきた奴というのは……

 

「遅かったじゃないか。…いや、よく怖気付かずに来たものだ、と言うべきか?」

 

特徴的な黒衣に身を包んだ、数々の争いと騒動の根源たる人物、私達が討つべき最後の敵、マジェコンヌその人だった。

 

 

 

 

互いに武器を向け合う私達とマジェコンヌ。だが、緊張からか、下手に動く事自体が下策だと分かっているからか、或いは…一種の感慨からか。誰も、その場を動かなかった。

数十秒の静寂。それを最初に破ったのは…マジェコンヌだった。

 

「…貴様等は忌々しい、見ているだけで反吐が出る。貴様等さえいなければもっと早く私は全て終わらせられたものを……」

 

マジェコンヌの言葉には誰も返さない。それはマジェコンヌの言葉が寸分の隙もない正論だったからでも、言葉を返す価値もないと思ったからでもない。----ただ、不思議なものを感じた。下劣な言葉の内容に反して、声音から感じる悪意は驚く程少なく……それこそ、何かを語っているかの様な雰囲気だった。

 

「……だが、それも仕方のない事だ。この世界は…否、私達の知りうる多くの世界は何千年も前から女神によって守護され、女神は平和を脅かそうとする者が現れる度、死力を尽くして戦ってきた。それが分かっておいて、一度はその側に加担しておきながら、自らが世界を崩壊へと導こうとする時に女神に邪魔をするなと言うのは、些か以上に都合の良い話と言うものだ。そうだろう?女神達よ」

「…何が、言いたいのよ」

 

半ば痺れを切らした様子でネプテューヌが結論を急がせる。今、目の前にいるマジェコンヌは明らかに今までとは様子が違った。恐らく何かの意図があってそうしているのだろうけど…その意図が分からない。今のマジェコンヌからは、それを見極められない。

そんな私達の様子に気付いてか、マジェコンヌは薄い笑いを顔に貼り付け、普段のマジェコンヌからは想像出来ない程の穏やかな声で--------提案する。

 

「……私の敵となるのを、止めてくれないか?もし、止めてくれるのであれば、私は貴様等の、そしてここにはいない貴様等の仲間の安全と平和を約束しよう。貴様等の好きな所に城でも建てるといい、私はそこを絶対に攻撃しない。…我が同志となれ、女神達よ」

『な……ッ!?』

 

予想を遥かに超えたマジェコンヌの提案に、絶句し目を剥く私達。

あり得ない、と思った。あれだけ私達を、女神を憎むマジェコンヌが、女神と争うのを止め、一部ながらも破壊に例外を作ろうと言う。--------どの口がそれを言うんだ、そう思った。何度も私達を襲い、騙し、殺そうとしたマジェコンヌの言葉を、一体どうして信用出来るというのか。

いや、そもそも…その言葉は、大前提として一つ間違っている。それは……

 

「どうだ、悪くない話だろう?何か不満があるなら言うといい、出来る限り私は譲歩するつもり……」

『お断り(よ・ですわ・だ)ッ!』

 

四女神が、マジェコンヌの言葉を遮る。そう、ネプテューヌ達が、そんな提案を受け入れる筈が…思案する筈が、無い。

 

「冗談じゃないわ。何が譲歩する、よ。そんな世界の半分をやろうみたいな最初からわたし達にとってロクな提案でもないのに、よくぬけぬけと言えるわね」

「女神が世界の危機に命懸けで立ち向かうって分かってるんでしょう?…私達を甘く見るんじゃないわよ、その提案こそ反吐が出るわ」

「仮にその提案を受け入れたとして、国は、国民はどうなるんでして?…いえ、聞くまでもありませんわね。それが、わたくし達の回答ですわ」

「此の期に及んでしょうもねぇ提案してんじゃねぇよ。わたし達はてめぇを倒してゲイムギョウ界を守る、それだけの話だ」

 

きっぱりと、真っ向から提案を撥ね付けるネプテューヌ達。寸分の狂いもない、澄み切った四人の瞳には強い強い意思が灯っている。そんな彼女等を、そんな取って付けた様な提案で丸め込める訳がない。

そんな四人の隣に立つコンパとアイエフも、ネプテューヌ達と同じ瞳をしている。それは自分の生まれ故郷がある、とか思い入れがある、とかいう人の視点の、守られる側の立場から来るものでは、決して無い。ネプテューヌ達の仲間として、友達として、同じものを大切に思う者として、共に戦おうとする現れだった。

--------やっぱり、皆は良い人達だ。強く、優しく、温かい。だから…私は、私の思いを確かめ、曖昧にしていた覚悟を決める為に……長剣を、降ろす。

 

 

「--------確かに、悪くない話だね」

 

 

 

 

イリゼは、わたし達女神とは少しだけ違うと思っていた。別に、イリゼが女神として劣ってるとか、わたし達守護女神の輪から外してやりたいとか、そういう事じゃ、無い。ただ、何かが違う様な気がしていた。

きっとそれは、今に至るまで、今のわたし達に至るまでの経緯が関係しているんだと思う。そういう意味では、記憶を失って一度は女神の力すら失ったわたしもノワール達とはちょっと違うんだけど…それでもやっぱり、ノワール達と同じ所にベースがあって、そこからちょっぴりはみ出しちゃっただけのわたしと、そもそもベースの時点でわたしとは全然違うイリゼとは同列に語れないし、多分語っちゃいけないんだと思う。

だけど、思いは同じだと思っていた。わたしは人の心が読めるタイプじゃないし、むしろその逆…相手の事を理解しきれず、結果自己中になっちゃう時もある位だけど…それでも、皆で世界を…ゲイムギョウ界とそこに住む人達を守ろうって思いだけは皆と同じだと思っていた。

だから……イリゼが、わたし達じゃなくてマジェコンヌの言葉に賛同したのには凄く驚いたし…悲しかった。

 

「イリゼ…今、なんて……?」

「悪くない話だね、って言ったんだよ?…少なくとも、私はそう思う」

「そう思うって…何言ってるのよあんた!言うに事欠いて、悪くない?……ふざけた事言ってんじゃないわよ…ッ!」

 

イリゼに摑みかかるノワール。わたし達は慌ててノワールを止めるけど…言葉に詰まる。だって、気持ちとしてはわたし達もノワールと同じだったし、わたし達も絶対に掴みかかったりしなかった、なんて言えないから。

真意を求める様にわたし達はイリゼを見つめる。自嘲的な笑みを浮かべる、イリゼ。

 

「…私さ、皆との生活が好きなんだ。皆といられる事が、皆と遊べる事が。『原初の女神の複製体』っていう、役目しか無かった私に色々なものをくれたのは、皆だったから」

「だから…だから何だよ!?それとこれとは話が別----」

「私が守りたいのは、皆なんだよ。世界も人もどうだっていい…なんて微塵も思ってないよ?でも…あくまで、私が一番に守りたいのは皆だから」

 

その目は、イリゼの瞳は澄んでいた。マジェコンヌに恐怖を抱いて保身に走った訳でも、負のシェアに当てられて心が歪んだ訳でもない、イリゼの本心の宿った瞳。そんな瞳を見たわたし達は、一瞬反論が出来なかった。その間にも、イリゼは続ける。

 

「それに…怖いんだ。皆が傷付く事が、皆を失う事が…力を、無くす事が。大切なものを、大事なものを危険に晒してまで戦う事って…そんなに、正しいのかな」

 

情けないってのは、分かってるんだけどね。…そう、イリゼは最後に付け加えた。

力を無くす、というのは分からない。何を指しているのか、何故そうなるのか。…分からないけど、イリゼの思いはひしひしと伝わってきた。そして、その思いはきっと…間違っては、いない。

 

「…それで、良いんですの?確かにマジェコンヌは強いですわ。わたくし達が無事に勝てる保証なんて無いと思える位には。…ですが、マジェコンヌの言葉に乗って…多くの人や人が築き上げてきたものを見捨てて、それで貴女は満足出来るんですの?」

「満足は出来ないだろうね、きっと見捨てたら後悔するし罪悪感にも苛まれると思う。……けど、だからってそれが私の大切なものを危険に晒すのに納得出来る程の、理由にはならないよ」

「…今まで、何度も無茶して、危険を冒してきたじゃない…なのになんで、今になってそう言うのよ……」

「今までとは、状況も敵の強さも違うんだよ。前も大丈夫だったから今度も大丈夫、っていうのは精神的な支えにはなるかもしれないけど、同時に何の根拠もない、単なる楽観視に過ぎないんだよ」

「じゃ、じゃあ…イリゼちゃんは、もうわたし達とは一緒に居てくれないんですか…?」

「それは……難しい所だね。私は一緒にいたい、だけど一緒に居たいが為に自分の心に嘘を吐くのは嫌だから」

 

ベールの言葉も、あいちゃんの言葉も、こんぱの言葉もイリゼの思いを変えるには至らない。それ程までに、イリゼの意思は固かった。多分、その場で取り繕って考えた様な言葉でイリゼを考え直させるのは…無理なんだと思う。

じゃあ、どうするか。諦めるか、無理なんだと思っていても言葉をかけ続けるか…敵とみなして刃を向けるか。…•そんなの、決まっている。

 

「……それで、良いと思うわ。イリゼがそう決めたなら、それがイリゼの心からの思いなら、わたし達がとやかく言う事じゃないもの」

「はぁ!?ネプテューヌ、あんたまで何言ってるのよ!?世界の危機なのよ!?なのに……」

「分かってる、分かってるわノワール。…だから、わたしに任せて頂戴」

 

手を横に出し、背中ごしにノワールに伝える。わたしとしては、ここからもう少しノワールとの言い合いになるかも…と覚悟していたけど、ノワールはふん、と鼻を鳴らしただけでそれ以上言う事は無かった。…信頼、してくれてるのね。

 

「もし、貴女がこのまま刃を収めるとしても、このまま敵対しないでいるとしてもわたしはそれを非難しないわ。だって、イリゼはわたし達と違って守らなきゃいけない人や国民がある訳じゃないもの。そんなイリゼに戦いを強要する方が、よっぽど間違っているわ。それに…例えイリゼがどんな選択をしたとしても、わたしがイリゼの友達である事は変わらないもの」

「…ありがとね、ネプテューヌ」

 

イリゼが返した言葉は、たった一言だった。そして、イリゼは自嘲気味の、影のある笑みを浮かべたまま私を見つめてくる。

彼女は分かってくれていた。わたしがまだ全てを言い切った訳ではない事を。その事に「やっぱりイリゼはイリゼだった」と安心感を覚えたわたしは、わたしの思いを紡ぐ。

 

「……だから、これはお願いよ。反論でも、説得でもない、ただのお願い。嫌なら断ってくれて良いし、わたし達に気を使う必要なんか無いわ」

「…………」

「…わたし達に、力を貸して頂戴。わたし達が相手にするのは、凄く強い相手なの。わたし達が守りたいのは、わたし達だけで守るにはあまりにも大き過ぎるものなの。…約束するわ、わたし達はイリゼの前からいなくなったりしないし、貴女が守りたいと思うものがあるなら、わたし達もそれを守るわ。…だから、お願い。わたし達の守りたいものを…一緒に、守って」

 

目を見て思いを伝え、深々と頭を下げる。もしもこのお願いが聞き入られなかったとしたらわたしに出来る事はもう何も無いし、それを事実として受け止めなければならない。…だけど、わたしは確信していた。相変わらずの、きっと相手はこう思っていて、こうしてくれるだろうと勝手に考える、自己中な気持ちである事は分かっていたけど…それでも尚、わたしは確信を抱いていた。

わたしは顔を上げる。すると、そこには……

 

「勿論だよ。…ううん、違うかな。……私に、力を貸させて、皆」

 

--------咲き誇る、イリゼの笑顔があった。

 

 

 

 

「私は皆が大好き。私は皆を守りたい。…その言葉に嘘はないけど、それだけじゃないんだ。私が守りたいのは皆だけじゃない、皆が守りたいものも私にとっては守りたいものだから」

 

澄んだ瞳には、いつの間にかある意思が灯っていた。それはわたしが、わたし達が宿していたのと同じ輝き。守る為に戦う事を決意した、強く温かな光。

 

「な、何だよそれ…つまり、最初からマジェコンヌの提案に乗る気なんて無かったって事か…?」

「そういう事。ごめんね皆、こんな事して。でも、私が皆に言った事は全部事実で、それがどうしても心に引っかかってたから…それに決着をつける為にやってたんだって事を理解してくれると、嬉しいかな」

 

わたしは、わたし達は何も言わずに、頷く。何も言う必要はない。その言葉を聞いただけで、わたし達には全部伝わっていたし、イリゼにもわたし達の思いが伝わっていると思えたから。

故に、口を開いたのはわたし達の誰でもなかった。

 

「ふ、ふふっ…はは、ハーッハッハッハ!アーハッハッハッハッ!応じてくれれば儲けもの程度の感覚で提案をしてみたが、まさかこんな展開になるとはな!予想外だったが…やはり女神は潰さねばならない、女神を討たねば私の野望は永遠に完遂には至らない!感謝しようじゃないかイリゼ、貴様のおかげで私こそ我が決意を再確認する事が出来たッ!」

 

それまでとは打って変わって刺々しい、彼女らしい嗤いを上げるマジェコンヌ。それに対し、イリゼは…この次元の、もう一人の女神は凛々しく言い放つ。

 

「私は貴女を…貴様を討つ!貴様を討ち、全員揃って自らの居場所へと帰る!己が命を投げ打つつもりも、誰かを犠牲にするつもりも毛頭無い!笑いたければ笑え、私は笑われようと、それが如何に困難な事であろうと…その思いを貫き、未来を掴む!それが私の…私達の、覚悟だ!」

 

イリゼは、わたし達とは少し違うのかもしれない。そしてその違いが、いつかは思いの違いにもなり、わたし達が今のままのわたし達では居られなくなる理由になる事もあるかもしれない。

--------それでも、そうだとしても…この瞬間は、今わたし達が抱いている思いと、イリゼの抱いている思いは、紛れもなく同じであり……ただ偏に、わたしはその事が----嬉しかった。




今回のパロディ解説

・某滝口さん
声優、滝口順平の事。何でも彼は『カウボーイGメン』という作品の吹き替えにおいて、たった一人で全ての役をこなしたらしいです。これはもう、凄いとしか言えませんね。

・「〜〜我が同志となれ、女神達よ」
機動戦士ガンダムに登場するライバルキャラ、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。提案の内容的に、同志と言うのは正直微妙なラインかもしれません。

・「〜〜世界の半分をやろう〜〜」
ドラゴンクエスト(Ⅰ)のラスボス、りゅうおうの代名詞的な台詞のパロディ。半分はくれませんし、そもそもマジェコンヌの目的は世界の破壊なので、やや的外れかもです。


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第九十四話 最終決戦

少しずつ暗さを増す裏天界に、刃が舞う。縦に、横に、左に、右に。

ゆっくりと負のシェアが満ちてゆく裏天界に、戦士が踊る。奥へ、手前へ、地へ、空へ。

激しくはあるが煩雑ではない、熾烈ではあるが泥沼ではない、そんな攻防が繰り広げられていた。

 

「ノワール!ブラン!」

「指示は無用よッ!」

「ネプテューヌ、タイミング見逃すなよ!」

「イリゼ、わたくし達は追撃を!」

「了解、挟み込むよ!」

 

同時に放たれる衝撃波と電撃。どちらも高い破壊力と範囲を持つ攻撃ではあるものの…文字通り斬り込んだノワールとブランが正面から薙ぎ払い、相殺。次の瞬間二人の後ろから飛び出したネプテューヌが最短距離でマジェコンヌに肉薄し、下段からの逆袈裟を放つ。

が、マジェコンヌもそれでやられる程柔な相手ではない。下がるでも左右に避けるでもなく、敢えて前進する事でネプテューヌの攻撃タイミングをズラした彼女は、更に槍を遠心力の乗らない大太刀の根元に打ち込む事でネプテューヌの攻撃を完全に挫き、逆に手首の捻りで矛先を上げた槍で反撃する。

一瞬ながら武器を押さえられ、スピードも乗っていた為に回避もままならないネプテューヌ。しかし彼女は身体を逸らし、力を抜いて慣性に身を任せる事で槍を回避しつつマジェコンヌの横をすり抜ける。

避けられたと見るや否や即座に次の攻撃を仕掛けようとするマジェコンヌ。それを阻止したのが私とベールの挟撃だった。

 

「追撃をする筈が…」

「ネプテューヌへの攻撃の迎撃になってしまいましたわね…!」

「ちぃっ…おいネプテューヌ!曲がりなりにも主人公ならば、仲間を下がらせ一対一で戦ったらどうだ!」

「…それは確かに…皆、下がって。原作ゲームの最終決戦宜しくわたしが一人で…」

「何口車に乗ってんのよ、主人公云々って言ったってスーパー戦隊やRPGの主人公は一人のボス相手に仲間と戦ってるでしょうが」

「そ、そうだったわね…」

 

先とは逆にマジェコンヌは大きく後退する回避行動を取った為に、私とベールの攻撃はマジェコンヌの帽子を僅かに斬るだけに留まる。

そしてマジェコンヌとネプテューヌ(と、突っ込みとしてノワール)による謎のやり取り。側から見れば何をふざけて…と思えるそれも、私達刃を交えている者なら分かる。ネプテューヌはともかく、マジェコンヌの方はふざけてる訳でも煽っている訳でもなく、本気で一対一へ持ち込みたいのだと。

 

「また距離を取ってきたね…」

「正面からぶつかったらわたし達に勝てないって分かってるんだろ、ったく…同じ戦力のモンスターならもう勝負は終わってるだろうによ……」

 

マジェコンヌは相変わらず一人。対する私達はメインとして私達女神五人に、支援のコンパとアイエフを含めた計七人。どんなに強くとも、圧倒的な量の前には敵わない…とは限らないのが世の中だけど、敵の数が多ければ多い程厄介なのは事実だし、大前提として一対一なら簡単に倒せる…と言える程私達女神とマジェコンヌとで実力差がある訳でもない。有り体に言って、マジェコンヌは量において大きく劣り、質においてもせいぜい一枚か二枚、状態次第では互角になってしまう程度でしか上回れていないという、かなり厳しい状況にあった。

だからこそマジェコンヌは近距離での攻防を数手に押さえて囲まれるのを避け、あの手この手で私達の分断を図ってきた。キラーマシン系統やユニミテスならもっと単純且つ安易な手を打ってくれるのに…と歯噛みする私達。

 

「ふん…主人公云々以前に、一人ではロクに戦えもしない癖に大した態度……」

『はぁ?…いいじゃ(ない・ねぇか)、だったら(私・わたし)が一対一で倒してやる(わ・よ)!』

「二人まとめて釣られてどうするんですの…」

「奴に余裕を持たせたらその内本当に術中にはまりかねないわね…攻勢に出るわよ、皆」

 

攻勢に出る。それは私達の戦いの流れを大きく変えさせる合図だった。

悠長に戦っている場合ではないとはいえ、総合戦力ではこちらが上回っているし、堅実に戦闘を進めれば私達側に戦況が傾くのは明白。だから功を焦って無理に攻める様な事を避けていたんだけど…女神化して気分が高揚している事もあり、マジェコンヌの揺さぶりは結構私達に効いていた。

だからこその攻勢。今まで敢えて半ば放棄していたイニシアチブを、私達は行使する。

 

「一気に決めてやるわッ!」

「やれるものならなぁッ!」

 

とんっ、と軽く地を蹴って前へ出たノワールは空中で牙突…じゃなくてその逆、右片手一本突きの構えを取り…爆発的に加速。一気に距離を詰めて眼前へと迫る。

対するマジェコンヌは、ネプテューヌの時程余裕が無かったからか前進はせず、その場で槍を引いてノワールの突進に合わせる。……が、激突の直前、ノワールがスピードを落とさぬまま無理矢理急浮上。目標を失ったマジェコンヌの槍は前へと投げ出される形となる。

 

「な……ッ!?」

「……ッ…残念だけど…一気に決めるのは、私じゃないわ」

 

表情を歪めるノワールとマジェコンヌ。ノワールが歪めたのは無茶な機動で身体に負荷がかかったから。そしてマジェコンヌが歪めたのは…ランスチャージの様に槍を構え、マジェコンヌへと突貫を仕掛けたベールの姿を捉えたから。

攻撃が空振りするという事はつまり、目標に当たる事で消える筈だった分の力が行き場を失い、それに振られて体勢が崩れるという事。常人の武道の試合ですら隙となってしまうそれは、常人の域を超えた存在同士の戦いでは破滅的なミスとなる。

だが、マジェコンヌはそれで終わる様な普通の超人ではない。回避不能と見るや否や槍の先端から電撃を放ち、回避ではなく迎撃を図る。咄嗟に出した為か、電撃は威力も範囲も先のものより劣っていたが、それでもベールにダメージを与えるには十分な出力。たまらずベールは突撃を中止し横へ逸れる。……薄い笑みを浮かべながら。

 

「…ふふっ、決めるのはわたくしでもなくてよ?」

「二重のブラフだと……ッ!?」

「二重で済めば良いけど…ねッ!」

 

電撃を飛び越える様に跳躍し、大上段から斬りかかるネプテューヌ。更にワンテンポ遅れる形で私が接近し、側面から仕掛ける様に動く。

私の長剣もネプテューヌの大太刀も…というか、女神の武器はすべからく自身の身の丈並みに長大で、身体一つ分動いた程度では避けられない。前方と側面はネプテューヌの攻撃範囲で、後退してもその瞬間に私の攻撃が飛ぶ。そんな状況でマジェコンヌが回避先に選べる場所といえば、上空のみだった。

真上へと飛び上がるマジェコンヌ。そちらへしか逃げられない状況を作った私は当然その動きも予想の範囲内であり、ネプテューヌの大太刀の腹を踏み台にさせてもらう事で極力勢いを殺さないままマジェコンヌに追いすがる。

交錯する視線。長大と槍がぶつかり合う。

 

「ぐっ…ぬぅ……ッ!」

「降参する気はある?あるなら私達も必要以上に貴女を痛めつけたりは……」

「ーーっ!その慢心が…命取りだッ!」

 

開戦前とは逆の立場で提案をする私。同時にその意思を表明するかの様にほんの僅かに力を抜く。その瞬間、マジェコンヌから返ってきたのは提案の返答ではなく、提案そのものの否定だった。

それと同時に全力で槍を振り抜くマジェコンヌ。女神四人分の力を得ており、尚且つ恐らく負のシェアの力すら利用している彼女の女神以上の基本スペックと、私が力を抜いた事とが相まって、振り抜いた槍は私を弾き飛ばすだけの力となる。

長大を片手で持ち、落下しながら体勢を立て直す私。対してマジェコンヌはやっと連携が途切れ、敵が体勢を崩しているという絶好の好機を無駄にしまいと即座に槍を構え、私への刺突を敢行する。

チャンスが一瞬にしてピンチとなったかの様な状況。でも私は焦ってはいなかった。だって…端から弾かれるつもりで力を抜いたんだから。

 

「慢心する程…貴女を見縊ったつもりはないッ!」

「そして悪いな…今更降参なんざさせる気もねぇんだよッ!」

 

長大から離した片手に現れたのは、私が精製した戦斧。着地の寸前に私の手から投げられたそれは、ブランの手に渡った瞬間にマジェコンヌへと投擲される。

即席品という事もあり、ブランの戦斧に比べて切れ味も強度も劣るその戦斧。それでもブランによって勢いを込められたそれは、攻撃体勢へ入っていて防御もままならないマジェコンヌの腹部を裂くには十分な代物だった。

そして、そこからが怒涛の攻撃の始まりだった。ダメージを負った相手を複数人で攻撃し続けるというのは少々残酷で、女神としてはあまり褒められた戦い方ではなかったのかもしれない。けど、私達に躊躇いは無かった。手加減だとか、相手を尊重するだとかは相手の態度や相手のしてきた事とを天秤にかけた上でするものであり、どんな相手であろうと正々堂々戦えというものではない。勿論、それを踏まえた上で正々堂々戦う人は尊敬に値するし、私達は女神としてそれを目指すべきかもしれないけど…マジェコンヌは、今すぐそれを実行出来る様な相手とは対極の、全身全霊でもって、打てる手を全て打つべき強敵に違いなかった。

 

 

 

 

「--------貴女の負けよ、マジェコンヌ」

 

大太刀の切っ先をマジェコンヌへと向けるネプテューヌ。その先に立つマジェコンヌは、満身創痍そのものだった。身体の至る所に傷が開き、衣類は血に染まり、常に彼女が纏っていた威風も覇気も消え去っていた。ただ、その顔は…憤怒と憎悪に彩られたその形相だけは、一切の衰えを見せる事も無く、むしろこれまでにない程濃くなっていた。

 

「黙れ…ッ!図に乗るなよ女神共が……ッ!」

 

ギロリと私達を睨み付けるマジェコンヌ。そのかつてない程に強烈な視線に、コンパとアイエフは勿論歴戦の女神ですら一瞬肩を震わせる。絶体絶命の状況にありながら、命乞いどころかむしろ未だ戦闘続行の意思を見せる彼女は、いっそ敵ながら天晴れだった。

 

「図に乗ってるつもりはないわ、それとも貴女にはまだ奥の手があるとでも?」

「五月蝿い…ッ!私はこの世界を…憎きこの世界を、不愉快なこの世界を、私の思いの害となるこの世界を壊すッ!潰すッ!消滅させるッ!邪魔をするな、女神共がぁぁぁぁぁぁああッ!」

「そう…だったらもう、わたし達のする事は一つ。……やるわよ、皆」

 

ネプテューヌの言葉に、私達は頷く。そして、一番槍の如くノワールが突出する。

 

「あんたの野望も願いも知った事じゃないわ。ただ私は、ラステイションを無茶苦茶にしてくれた借りを返すだけよ!」

「は……っ!アヴニールが好き勝手振舞う間、おどおどと指を咥えて見ているしかなかった、非力な女神が言う様になったものだな!」

「…何?それで挑発してるつもりなの?」

 

斬り結ぶノワールとマジェコンヌ。先程はマジェコンヌの挑発に乗りかけてしまった彼女だったけど、今はそれを不敵な笑みを浮かべたまま真っ向から跳ね返す。

きっと、それは国の事だから…ノワールの大切な、ラステイションの事についてだったからだろう。

 

「確かに私はちょっと要領が悪かったり、不器用な感じがあるのは自分でも分かってるわ。それでもね、シアン達国民の為に良い国にしようって、ケイ達教会の職員がうちの職員として誇れる様にって、一生懸命頑張ったのは本当。そして、それはこれからも続けていくつもりよ。だって…私はラステイションの女神、皆の思いを受けて戦う女神なんだから!」

 

斬り結びの最中に突然一歩下がり、マジェコンヌをつんのめりさせるノワール。更にノワールはマジェコンヌに息つく間もなく再度接近し、斬りつける。

痛みに呻くマジェコンヌを尻目に、彼女から離れるノワール。

 

「次は私ですわ?…さて、わたくしからは一言お礼を言わせて頂きましょうか」

「ふん!女神の力を失った事がバレるのが怖くて、一人閉じこもっていた臆病者が…ッ!」

「確かに貴女の言う通り、わたくしは臆病者だったかもしれませんわ」

 

マジェコンヌから距離を取るノワールと入れ替わる様に接近するベール。ベールが次々と放つ槍の連撃を、マジェコンヌは辛うじて防いでいく。

 

「…ですが、そのおかげであいちゃん達に出会う事が出来たのです。彼女達はわたくしを、女神グリーンハートとしてではなく、ベールという一人の女の子として慕ってくれた。その出会いのおかげでわたくしは自信を持って外に出る事が出来たのです。そして出た先に待っていたのは、わたくしが女神としての務めを半ば放棄していたにも関わらず、わたくしを待っていてくれたチカやイヴォワール達職員の皆と国民…ですから、大切な友人との出会いをくれ、信頼する職員との関係を思い出させてくれた貴女にお礼を…その上で、それを奪わせない為にも、ここで討たせて頂きますわッ!」

「ぐぅぅ…それが、貴様の戦う理由だというのか…よくも、そんなくだらない理由でここまで来れるものだ…」

 

連続攻撃の末に生まれた、ほんの僅かな防御の隙を突いて槍をねじ込むベール。その一撃を受けたマジェコンヌはよろつき、数歩後ろへ後退する。

その姿を見て跳躍するベール。

 

「孤独なお前には、どうやら仲間の良さが分からないみたいだな」

「誰が孤独だと…?ルウィーを奪われ、信者に偽者と罵られ、教会を追い出されたのはどこの誰だったかな…!」

「そうだな。それは間違いなく事実だ」

 

まるで一連の流れかの様に、ベールに変わって躍り出るブラン。腰溜めにした戦斧を振り抜き、何とか槍を掲げたマジェコンヌの防御体勢を打ち砕く。

 

「けどな、フィナンシェはわたしをずっと信じてくれていた。ミナはわたしの為に、敵の本拠地とも言える教会にずっと残ってくれた。兄弟は変態だが、あいつらなりに手を貸してくれた。職員も、国民も騙されていただけで、てめぇに鞍替えした訳じゃねぇ!こんなに、こんなに多くの人がわたしを信じてくれているんだ!命を懸けて戦うのに、これ以上の理由はねぇんだよッ!」

 

地を踏みしめ、振り上げた戦斧を振り下ろすブラン。重い一撃をしたたかに受けたマジェコンヌは息を詰まらせ、攻撃の勢いに耐えきれずにたたらを踏む。

マジェコンヌを一瞥したブランは、即座に下がる。

 

「…私は貴女に何かを奪われた訳でも、壊された訳でもない。だから、私が抱く気持ちは皆とは違うよ」

「だから、何だと言うのだ…貴様は過去も昔も持たぬ存在だ、違うか…?」

「その通りだよ。でも、過去や昔は無くても今は、未来はある」

 

真っ正面からマジェコンヌへと飛び込む私。愛用の長剣を握り直し、悪足掻きが如く振られたマジェコンヌの槍を、紙一重で回避する。

 

「私が貴女に抱く気持ちは同情。貴女は本来私達と同じ様に、大切な人や大切なものの為に強大な存在に立ち向かい、戦った存在でしょう?なのに貴女はその末に闇に、悪意に飲まれてしまった。だからこそ、私は貴女を倒す!貴女が野望を、元の貴女の夢とは対極の願いを叶えてしまう前に、貴女を倒してそれを止める!止めて…私自身の願いも叶えるッ!」

 

マジェコンヌの姿を完全に捉えた私は、全力で持って長剣を振り抜く。私から放たれた長剣の一太刀は槍ごとマジェコンヌをしたたかに斬り、手から槍を跳ね飛ばす。

私は少しだけ、少しだけ憐憫の視線をマジェコンヌへ送った後に距離を開ける。

 

「友も仲間もいない貴女には、皆の言う事は分からないかしら?」

「あぁ、分からんさ…分かりたくもないな…」

「それは悲しい事ね。昔のわたしはどうだったか知らないけど、今はこんぱやあいちゃん、女神の皆、別次元から来た皆、いーすん達教祖の皆、協力してくれた他国の皆や職員や国民の皆。そんなたくさんの人達と、これからも楽しくやっていきたいからここにいるのよ。楽しくなかったり、友達がいなくちゃ、そこまで頑張ろうとは思わないわ」

 

真っ直ぐに、一直線にマジェコンヌへと近付くネプテューヌ。彼女の素早い一撃によって腕での防御すら崩されたマジェコンヌに、ネプテューヌは鋭い視線を向ける。

 

「大義もない、気楽な考えだと思うかしら?えぇ、わたしもそう思うわ。…でも、他人が見てどうとかは関係ないわ。誰かといて楽しいとか、ずっと一緒に居たいって凄く大切だと思うもの。だから、わたしはマジェの助を…いいえ、マジェコンヌを倒して、皆で見るって決めているのよ!ゲイムギョウ界のハッピーエンドをね!『ビクトリィースラッシュ』ッ!」

 

高く、高く大太刀を振り上げたネプテューヌ。そして彼女は放つ。V字に斬り裂くその技を。勝利の名を冠する、乾坤一擲の大技を。

そして、放ち終わったネプテューヌが大太刀を降ろすと同時に…マジェコンヌは、倒れた。

 

 

--------だが、

 

「まだ、だ…まだ、私は…終わらん……!」

 

ボロボロになりながら、血反吐を吐きながら立ち上がるマジェコンヌ。もう勝機などある筈もなく、それどころか致命傷を受け、死の淵に立っているにも関わらず…マジェコンヌは、立ち上がる。

 

「…何が、そこまで貴女を駆り立てるんですの…?」

「お前はもう、十分に…十二分に戦っただろ…お前の強さはわたし達全員が分かってるんだ、なのに何で……」

「言っただろう、野望の為だと…馬鹿め、命を懸けて戦っていたのが自分達だけだと思っていたのか……」

 

よろよろと、気力を絞り出す様に一歩一歩、負のシェアの柱へ向かって歩くマジェコンヌ。その時私達は、間違いなく彼女へ畏怖の念を抱いていた。…もし、彼女が善性を持った女神ならば、さぞ高尚な存在だったのだろうと思う。

 

「ネプテューヌよ…貴様は先程、まだ奥の手があるのかと訊いたな…」

「え、えぇ訊いたわ…けど、それが何……?」

「…見せてやろうじゃないか…私の最後の…文字通りの、奥の手をなぁ……ッ!」

「……!?あいつ何かする気よ、ねぷ子!」

「は、早く止めるですねぷねぷ!」

「もう遅い!これが、これこそが私の最後の切り札だ…ッ!」

 

私達が止める間もなく、負のシェアの柱へと身を投げ出すマジェコンヌ。切り札という言葉、そして負のシェアの柱へ触れるという行為から私達はそれがハッタリでも何でもなく、本気で起死回生を狙っているのだと感じ取り、気を引き締める。

…否、引き締めようとした。だが、引き締めなかった。何故なら…

 

「な…に……ッ!?何故だ…何故私の力とならないシェアエナジーよ…私の力は…女神四人の力は制御するに十分な筈…なのに何故、何故……ぐ…何だ、これは…私に、流れ込んできて…ぁ…がぁぁぁぁああぁぁああ!!ああああああああああああァッ!?」

 

負のシェアの柱から闇色の波動が放たれる。それと同時に、まるで沼に落ちたかの様にマジェコンヌの身体は柱へと沈み始め、マジェコンヌはこの世のものとは思えない絶叫を上げる。

戦慄する私達。その間にもマジェコンヌは沈み続け…私達の硬直が解ける頃には、彼女は完全に柱に飲み込まれてしまった。

 

「……どういう…事なのよ…」

「分からない…でも、マジェコンヌの気配はもう消えてるよ、ね…?」

「じゃあ…わたし達、勝ったの…?」

 

突然の事態に戸惑う私達。勝てたのなら嬉しいし、誰も死んだりしなかったから万々歳ではあるけど…あまりにも想定外の事態過ぎて、私達の頭は追いついていなかった。それに、飲み込まれたマジェコンヌを助けようとは微塵も思わないけど…何度も私達と戦いを繰り広げ、私達を追い詰め、世界を震撼させ…果てには私達にも負けない覚悟と意思を見せたマジェコンヌの最後があんなもの、というのは正直憐れだった。

だが、とにかく戦いは終わった。私達の勝利で、戦いは終わった。

 

「…取り敢えずは、下界に戻る…いや、連絡を取るのが最優先ですわね」

「だな、場合によっちゃ急いで戻って汚染モンスター戦に参加してやらねぇと…」

「マジェコンヌが本当に死んだのか、いーすんに確認もしてもらいたいものね。一先ず連絡の出来る所まで移動しましょ。その後やるべき事を一つずつ片付けて……」

 

--------その時だった。負のシェアの柱から、再び波動が放たれたのは。『何か』の鼓動が響いたのは。

そしてそれは……まだ、戦いが終わっていない事を意味していた。




今回のパロディ解説

・原作ゲームの最終決戦
本作の原作である、超次次元ゲイムネプテューヌ Re;Berth1における、トゥルーエンドルートの最終決戦の事。本作の最終決戦は…さて、どうなるでしょう?

・牙突の構え
るろうに剣心シリーズに登場する、刀の構えの一つ。作中でも触れている通り、本来これは左手で刀を持つ構えなので、右手且つ大剣を持つノワールの構えは違いますね。

・最後の切り札
大乱闘スマッシュブラザーズシリーズにおける、大技の事。このワード自体は特殊でもなく、状況的にも自然なので、分かり辛いパロディになってしまった気がします。


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第九十五話 悪意のシェアの女神

「今、何か聞こえた…よね……?」

 

ゆっくりと、私達は振り返る。振り返り、負のシェアの柱へ…マジェコンヌを飲み込んだそれへと向き直る。

依然としてその場に鎮座する負のシェアの柱。だが、何の変哲もないなどあり得ないという事を、冷えつく私の背筋が伝えてきていた。

 

「まだ、マジェコンヌが生きてるって言うの…?」

「そんな馬鹿な…マジェコンヌの気配は無いし、何よりネプテューヌの一撃は確実に致命傷になってた筈よ」

「じゃあ、別の敵がいるとかですか…?」

「マジェコンヌの味方ならもっと早い段階で姿を現わす筈ですし、マジェコンヌとは仲が良くない…或いは漁夫の利を狙う第三勢力ならば、わたくし達が油断していたついさっきに仕掛けてくる筈ですわ」

「なら、一体何なのかしら…」

 

何かがいる事は分かっている。けど、それが何で何処にいるのかが分からない以上打つ手が無いし、それ以前にモヤモヤとして仕方がない。

何かしらの情報を得ようと周囲に目を走らせる私達。そんな中、ブランが声を漏らす。

 

「……ちょっと待て。…おかしくないか…?」

「おかしい?ブラン、おかしいって何が?」

「…イリゼ、道中で柱はマジェコンヌが制御してるって言ったよな?」

「え?…うん、イストワールさんはそう推測してたけど…ブランは柱の何が気になってるの?」

「あの柱だよ。イストワールの話じゃあれを制御してるのはマジェコンヌなんだろ?だったらマジェコンヌが死んだ今、消えるなり崩れるなりする筈じゃねぇか…なのに何で、柱は微塵も影響を受けてねぇんだよ…」

 

そうだ、その通りだった。負のシェアの柱は元からそこにあった訳ではなく、マジェコンヌ自身の集めた負のシェアとギョウカイ墓場の負のシェアを合わせ、それをマジェコンヌが制御する事で成り立っていた存在。ならば今負のシェアの柱は制御を失った状態になっている筈で、何かしらの変化が起きていなければ話が合わない。

 

「…だったら、やっぱりマジェコンヌは……」

 

再度、マジェコンヌの生存を疑うネプテューヌ。だけど、私達は…そして声音から察する限り、ネプテューヌ自身も分かっている。あれだけの怪我で、生きていられる筈がないと。

となれば、可能性は二つ。マジェコンヌは死んだという推測が間違っているか、マジェコンヌが制御していたという推測が間違っているか。

だが、それを考え様とした時…二度目の、鼓動が聞こえた。

 

「やっぱり、あの柱から聞こえてくるです…」

「とにかく、一度あれを調べなきゃいけないわね。どっちにしろほっとく訳にはいかないし、もし何か起きてるなら早めに対処しないと--------」

 

負のシェアの柱へと近付くネプテューヌ。…が、柱の一部が大きく揺らいだ瞬間、彼女は私達の所まで一足飛びで後退し、即座に大太刀を構える。いや…それだけではなかった。ノワール達も、私すらいつの間にか柱に向けて武器を構えていた。

今までにも咄嗟に武器を構えた事、反射的に武器を向けた事はあった。けど、自分でも気付かぬ間に武器を構えていたのは初めてだった。そして、自らが武器を構えている事に気付いた瞬間、それが何故なのかも何となく理解する。

これは、生存本能や度重なる戦闘で得た条件反射によるものではなく、女神としての…善意のシェアの使い手としての反応だという事を。

だとすれば、こんな反応が起きる相手がどんな存在なのかは大方予想が付く。

そして、私達女神全員が自身の反応に気付いた時…負のシェアの柱の揺らぎから、『悪意のシェアの使い手』が--------顕現した。

 

 

 

 

禍々しき、闇色の柱から姿を現したそれは、ゆっくりと翼を広げた。無機的な、それでいてどこか私達の翼と近しいものを感じる、柱にも劣らぬ闇色の翼を。

そして、それは口を開く。

 

「--------素晴らしいな、シェアの力というものは」

 

それの口から発せられたのは、ある種の満足感と充実感を感じさせる様な…そんな声だった。

その声に対し、ネプテューヌが返す。

 

「……生きていたのね、マジェコンヌ」

 

そう、その姿は正しくマジェコンヌだった。しかしつい数分前の彼女とはまるで違う。傷一つ無い身体、汚れ一つ無い服、そして血の気の戻った顔。先程までの様子は見る影も無く、むしろ戦闘開始前よりも輪をかけて万全、と言わんばかりの姿だった。

…否、それだけではない。

 

「…コンパ、アイエフ。今更逃げてとは言わないから、二人が許容出来るギリギリの位置まで後退して」

「え?それって…」

「ここからの戦闘にお二人を守れる様な余裕は無い、という事ですわ」

 

私の額に冷や汗が垂れる。今のマジェコンヌから感じる覇気は、それまでのマジェコンヌよりも、ユニミテスよりも、私達がこれまでに戦ったどの相手よりも激しく、強大なものだった。それこそ、出来るならば即撤退したい程の。

 

「…それが、てめぇの奥の手って訳かよ」

「あぁ、そういう事だ。最も、先程の事態も今のこの姿も、私の予想外のものだがな」

「一応訊くけど、まだ悪事を働こうと思ってる?それとも改心した?馬鹿は死ななきゃ直らないって言うし、さっき一度死んだ様なものでしょ?」

「愚問だな。死んだ程度で私の野望が潰えるものか」

 

焦燥を内に隠し、飄々とマジェコンヌを煽るノワール。対するマジェコンヌも、焦りや憎悪を剥き出しにせず冷静に返す。

 

「なら、もう一度倒すしか無いわね。あの柱の中で一体何があったのかは知らないけど、例え何があろうとわたし達のする事は一つよ」

「ふん、相変わらず無駄に勇猛だな貴様等は。安心するが良い、もう私に貴様等をいたぶるつもりもじわじわと殺すつもりもない。ただ私の中に溢れる力への高揚感と目的を最優先にする思考、そしてここまで私を追い詰めた事への敬意で持って楽に殺してやる」

「殺す前提とは…そっちこそ相変わらずおめでたいわねッ!」

 

地を蹴るネプテューヌ。敵の力が未知数の場合、敵が本領発揮する前に倒すか力を見極めてから倒すかの二択であり、どちらも一長一短ではあるけど…ネプテューヌは前者を選んだらしい。

翼を広げ、勢いのまま一気に距離を詰めるネプテューヌ。だが、ネプテューヌの大太刀がマジェコンヌを捉える前に、マジェコンヌが新たに手にした杖から発せられた電撃がネプテューヌに襲いかかる。

 

「な……ッ!?」

「疾うに分かっているとは思うが、言っておこうか。……私が先程までの私と同じだと思うなよ?」

「あぐっ……!」

 

ネプテューヌに襲いかかったのは、同じ相手が放ったとは思えない程密度も速度も増した雷の束。直撃の寸前でネプテューヌは身体を捻り、辛うじて避けるものの、その間の一瞬で接近したマジェコンヌに蹴り飛ばされて私達の元へと落ちてくる。

……が、それを見て呆然とする程私達も愚かではない。ネプテューヌを受け止める為に残ったブランを除いた、私達三人は即座に散開し、左右と上方から同時に仕掛ける。

 

「確かに前より強い様ですわね…ならば!」

「こっちもそう思って立ち向かうまでよ!」

「ふん…甘いわッ!」

「……っ…!」

 

それぞれ最短距離…ではなく微妙に弧を描く事で判断を遅れさせようとした私達……だったけど、マジェコンヌは最小限の動きだけで私達三人の位置を捉えると、周囲に三つの紋章を展開。そこから大口径のビームを放ってくる。

多少ズラした程度では回避しきれないレベルの攻撃を、三人へ同時に撃ち込んで来るとは思ってなかった私達。攻撃を諦めて回避行動を取るけど…ここまでは想定内。攻撃が成功するに越した事はないけど、失敗なら失敗で想定していた次の攻撃に入れば良いだけの話。

 

「それは…こっちの台詞だよッ!」

「悪いけど、数の差を利用させてもらうわッ!」

 

空中で体勢を立て直し、即座に再度の突撃をかける私達。それと同時に、ブランとブランに受け止めてもらっていたネプテューヌも私達に合わせて突進する。

五方向からの、完全同時攻撃。先の三人同時攻撃と違い、今度は私が死角に入っているから一瞬で位置を確認して迎撃、なんて芸当が出来る訳がない。だから少なくとも一撃は与えられる筈。そう、私達は思っていた。……突撃をかけ始めた瞬間までは。

 

「--------数の差?それこそ、こっちの台詞だな」

『……ーーッ!?』

 

攻撃が当たる直前、マジェコンヌの周囲に複数の光芒が降り注ぐ。それに目を剥いたのは私達。光芒はマジェコンヌの周囲に降り注いだもののマジェコンヌには一条たりとも当たる事なく、むしろ私達の攻撃からマジェコンヌを守る為に撃ち込まれたかの様な軌道だった。

それぞれが大きく旋回する事で光芒に激突するのを避ける私達。マジェコンヌには伏兵がいたのかと思って走らせた視線の先には……刃を彷彿とさせる、鋭い羽根の束。

 

「まさか、これって……」

『オールレンジ兵装…!?』

 

再び目を剥く私達。ちらりとマジェコンヌの方へ視線を移すと、確かにそれまで翼にあった筈の羽根の約八割が消えており、あれがマジェコンヌの射出したものであるという裏付けとなった。

 

「悪いが…これの操作は些か難しいんだ。一撃であの世に送れない可能性もある故、予め謝っておこう」

「謝る位なら…初めから使うんじゃないわよ…ッ!」

「くっ…ストフリか救世魔王(サタン)を相手にしてる気分ですわ…ッ!」

 

マジェコンヌが口元を歪ませると同時に、それまで空中で停止していた羽根が鋭い軌道を描きながら私達の周囲に再展開し、次々とビームを放ってくる。それを見て、歯噛みしながら回避に専念する私達。

羽根の総数は十を超えているとはいえ、それが同じ数のモンスターなら面倒、だとか油断ならない、程度にしかならない。それぞれが独立した意思を持っているなら完璧な連携は難しいし、それぞれが別の個体の意思を完全には読みきれない以上、フレンドリーファイアを防ぐ為にどれか一体に近付けば攻撃は緩くなる。

けど、それが全て遠隔操作端末だった場合は違う。射出した全ての端末を使いこなす技量が使用者にあるならば完璧な連携も取れるし、使用者がミスしない限りは端末同士による事故も起きる筈もなく、もっと言ってしまえば数機を犠牲にして敵を討つ、と言った様な個々が独立した生物ならばそうそう取れない手段も容易に打ててしまう。だから遠隔操作端末は厄介極まりないし、雰囲気にそぐわないベールのボケにも誰も突っ込まなかった。…というか、ほんとにスーパーコーディネーターや反転精霊を相手にしている気分だった。

 

「これじゃ、攻撃もままならない…!このッ!」

 

次々と迫るビームを紙一重で回避し、反撃とばかりにその瞬間、視界に捉えている羽根全てへ精製したナイフを射出する。…が、私はガンナーでない上に標的は小さく、更にバレル無しの射撃故に一本もナイフは当たる事なく、攻撃に使ったシェア全てが無駄になってしまう。

そんな中、ベールとブランが動いた。

 

「ちっ…ベール!一瞬で良い、わたし達とマジェコンヌの間に空白を作ってくれ!」

「……っ!無理は禁物ですわよ!」

 

正面から襲いくるビームを槍で斬り払い、自身の前から放つ形で『シレットスピアー』を使うベール。シェアによって編まれた槍は一直線に伸び、射線上のビームを穿ちながらマジェコンヌへと迫る。そして次の瞬間、マジェコンヌが巨大な槍を打ち払おうとした瞬間にその槍は消滅する。

せっかく発動したのに直撃寸前で消えてしまった槍に対し、マジェコンヌはおろか、私達ですら疑問を覚える。だが、ベール自身と、ベールに提案を持ちかけたブランは違う。彼女は捻り込む様な動きでビームを掻い潜るとベールの前へ滑り込み、そのまま前へ…『シレットスピアー』によってビームが一掃された道を駆ける。

それに気付いたマジェコンヌは羽根を再展開して迎撃しようとするも、もう遅い。放たれたビームはブランが一瞬前にいた位置を貫くに留まり、ギリギリ間に合った一条もブランはプロセッサユニットの籠手部分で弾いてマジェコンヌへ肉薄する。

 

「こうやって近付けば…てめぇもそう簡単に撃てねぇだろッ!」

「乱暴な口調の癖して頭を使うじゃないか…だが、私が接近戦能力を犠牲にしているとでも思ったか?」

「……!?…そう、思ってたよ…クソがッ!」

 

振り出された戦斧の一撃を、杖の先から発振した刃で受け止めるマジェコンヌ。誤射をしても端末が一機減るだけの端末同士とは違う、誤射が即敗北に繋がりかねない状況に持ち込んだブラン。けど、マジェコンヌの言う通りブランも私も一つ勘違いをしていた。マジェコンヌは接近戦能力が低下しているだろう、と。それは武器が槍から杖に変わっており、遠隔攻撃がかなり強力になったのだから、きっとそうなのだろうという短絡的な思考からくる勘違いで、マジェコンヌによってブランが弾かれる前に、それに気付くべきだったと私達は後悔した。

再び私達を襲うビームの乱舞。しかも一度突破された事で警戒心を強めたのかマジェコンヌ自身も電撃や光弾を放ち始め、何とか凌いでいた状況が更に悪化する。

少しずつ、少しずつ追い詰められていく私達。側面から迫り来る光弾を回避は難しいと瞬時に判断し、長剣で斬り払うも、その瞬間死角から放たれた二条のビームが私の左肩口と右脚のふくらはぎを掠める。それ自体は不幸中の幸いというべきか、皮膚と表面近くの肉が焼かれるだけで済んだけど…痛みに一瞬動きが鈍った事は最悪の二次被害だった。

やられる、そう思って目を瞑りそうになった私。しかし追撃が来る事はなく、私達の周囲を疾駆していた羽根は翼へと戻っていく。

 

「…どういう、事……?」

「多分、充電切れよ。あの羽根が、私達の想像する遠隔操作端末なら、だけど」

「ふっ、その通りだノワール。負のシェアの女神と言えど、全てが思い通りになる訳ではないからな」

「……待ちなさい、今…なんて言ったの…?」

「うん?…あぁ、そうか。説明をしていなかったなぁ…」

 

見回せば、皆私と同じ様に体の何ヶ所かに攻撃を受け、プロセッサを血で濡らしている。それも勿論心配ではあるけど…それよりも、今マジェコンヌの言った言葉が私達に衝撃を与えていた。今、マジェコンヌは『負のシェアの女神』…そう言わなかった……?

 

「ハッタリ…では、無さそうですわね…」

「何、簡単な話だ。シェアエナジーを力に変える存在を女神と言うならば、今の私も女神に違いないだろう?」

「……じゃあ、貴女は負のシェアの柱の中で負のシェアを使いこなす力を得たって事?」

「そういう事だ。ネプテューヌが善意のシェアの奇跡によって女神に生まれ変わったのと同様に、私も悪意のシェアの奇跡によって女神の力を…コピーによる、『力』の部分だけではない、正真正銘の女神となったのだ。……そうだ、納得し易くなる様に見せてやろうじゃないか」

 

そう言ってマジェコンヌは手を掲げる。すると、マジェコンヌが現れた時よりも大きな揺らぎが柱に発生し……次の瞬間、柱から発せられる負のシェアエナジーの量が突如増大する。

 

「ーー!?こ、これって…こんぱ!あいちゃん!大丈夫!?」

「だ、大丈夫…です…」

「今はまだ、大丈夫よ…」

「おいおいネプテューヌよ、心配するのは二人だけで良いのか?」

「…え?貴女、何を言って……まさか!?」

「そうさ、負のシェアの放出量が増えたのはここだけではない。これから下界では爆発的に汚染モンスターの数が増え、段々と人々にも影響が出てくるだろう」

 

もう何度目か分からない驚きに包まれる私達。それと同時に、私達の胸中に大きな不安が押し寄せてくる。イストワールさんは現段階では大丈夫と言っていたけど、裏を返せばそれは状況が悪化したら不味いという事。そして今、マジェコンヌはその状況を一気に悪くさせる手を投じてきたのだった。

 

「さぁ焦るが良い女神共。焦って判断力が鈍れば万々歳だ」

「……っ!誰が、誰が貴女の口車になんか…!」

「ほぅ?ならばもう一つ手を打つとしよう」

 

再び手を振るうマジェコンヌ。今度は負のシェアの柱の一角から小さな球体が分離し、その場に浮遊をしながら少しずつ大きくなっていく。

 

「…焦らせる事が目的なら、それが何なのか説明してくれるんでしょうね?」

「勿論だ。これは攻撃さ、ここから下界に大きなクレーターを一つ作る為のね」

「はぁ?そんな小さな球一つでクレーター?そもそもここと下界は直接繋がってなんか…」

「シェアは超える事が出来る、そうだろう?」

 

笑みを浮かべながらノワールの言葉を遮るマジェコンヌ。その一言で、私達は理解した。そして、理解した次の瞬間には動き出していた。

 

「そんな事…させるかよッ!」

「天界と下界の境界を無理やり超えるだけのシェアを瞬時には溜められない筈、ならばその間に倒すだけですわッ!」

 

弾丸の様にマジェコンヌへと突進する私。羽根はまだ再射出出来ないのか、今まで然程動かなかったマジェコンヌも動き出す。

やはり、というべきか、マジェコンヌは本人の速度もそれまでより増していた。接近戦能力の件を踏まえてそれを予想していた私達は呆気に取られる事こそなかったものの、それでも速いものは速い。全く追随出来ないというレベルではないのが幸いで、何とかマジェコンヌの遠隔攻撃を避けながら接近する事は出来るものの…一人二人が攻撃した程度では、マジェコンヌは打ち倒せない。何人かが火力支援をする、動きを予測して先回りをする、わざと下手を打ってマジェコンヌを誘き寄せるなどと色々な手を取ってみるも全てマジェコンヌには通用せず、ただ時間だけが過ぎていく。そして時間が過ぎるという事は即ち、負のシェアの散布と球体のチャージが進んでしまうという事だった。

次第に焦り始める私達。マジェコンヌの口車に乗るつもりはないし、焦っている自覚もある。けれど、攻撃を当てる事も叶わず、劣勢になっていく一方で、しかも時間を追うごとに下界の危機は大きくなるという実情はあまりにも私達には重く、とても冷静にはなれなかった。

 

「はぁ…はぁ…早く、何とかしなきゃいけないのに…!」

「…ネプテューヌ、それに皆もちょっと聞いて」

 

側にいたネプテューヌを出来る限り落ち着かせつつ、皆に声をかける私達。わざわざ自らが攻める事をしなくても、一秒ごとに私達が劣勢になっていく事が分かっているマジェコンヌは私達が攻撃の手を緩めたのを見てその場に止まる。…その油断が、命取りになるとも知らずに。

 

「…良い作戦でも思い付いたんですの?」

「そうじゃなきゃ、皆を呼んだりしないよ。皆、今一番何とかしなきゃ不味いのはどれだと思う?」

「どれって…そりゃあの球体でしょうね。まぁマジェコンヌを倒せるのが一番ではあるけど」

「だよね?ならさ…別にマジェコンヌを狙う必要はないよね?」

 

私は最後まで言った訳ではない。けど、これだけで私の意図を理解した皆は即座に飛び、別々の方向からマジェコンヌへと迫る。そしてそれに少し遅れる形で向かう私。

マジェコンヌは光弾で私達を散らし、電撃で進路を塞ぎ、衝撃波で追い払う。仮に全てを突破し、マジェコンヌの動きに追い付いたとしてもマジェコンヌに軽くあしらわれてしまう。それは今回も同じで、タイミングを見計らった事で迎撃を上手くすり抜けた私も最終的には弾き飛ばされてしまう。

くるくると回りながら飛んでいく私。けど、これで良い。これで何の問題もない。だって……私が飛ばされた先にあるのは、例の球体なのだから。

翼を広げて姿勢制御を行う私。目の前には、いつの間にか私の数倍の大きさとなった球体。圧縮したシェアを溜めているのか、近寄るだけで球体が圧倒的なエネルギーを有しているのが分かる。これを一撃で斬り裂くのは難しいかもしれない。けど、チャージ中のエネルギーは不安定なものであり、少しダメージを与えるだけでも十分な効果があると私は踏んでいた。

大きく長剣を振り上げる私。

 

「私が作戦を伝えるだけの時間を与えたのが仇となったね、マジェコンヌ!」

「しまっ……!?」

 

動揺したかの様な声を上げるマジェコンヌ。けど、気付いた時にはもう遅い。私の振り下ろした長剣は、マジェコンヌが私へ攻撃をするよりも先に球体を捉え--------

 

 

「……とでも言うと思ったか?」

 

ビームが、私の目の前を駆け抜けた。

 

「なっ…え……?」

「悪くはない作戦だった。惜しむべきは…充電スピードを見誤った事だな」

 

後ろから聞こえてくるマジェコンヌの声。そして私の視界の端に漂うのは、今し方私へビームを放った羽根。

読まれていた。読みが甘かった。--------失敗した。その事実に私は呆然としてしまいそうになり…頭を振って武器を構え直す。

そう、確かに失敗はしてしまった。だが、まだ撃たれた訳ではない。こんなチャンスがもう一度あるかは怪しいけれど、時間が残る限りは全力で止める為に奮闘を……

 

 

そう思った瞬間、私の身体は衝撃波で吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、思わず目を瞑ってしまう。そして次に私が目を開けた時、私の目に映っていたのは……あの大きさから更に、何倍にも膨れ上がった負のシェアの球体だった。

同時に、私は気付いてしまう。それが、境界を超えて下界へダメージを与える程のエネルギーに達した事の合図だと。

 

「…これ一つで人類を滅亡させる事など到底不可能だが…それでも、数千数万の人を死滅させ、数十万数百万の人を恐怖させるには十分だろう。--------吹き飛べ、愚かな人類よ」

 

そして、収束した負のシェアの光芒は放たれる。マジェコンヌの声を合図に、目を灼く程の光芒が、下界へと向かって放たれる。それを私達は…ただ、見ている事しか出来なかった……。




今回のパロディ解説

・ストフリ、スーパーコーディネーター
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場する主人公機の一つ及び用語。女神VSストフリ…結構ガンダムシリーズとのクロスオーバー多いですし探せば普通にありそうですね。

救世魔王(サタン)、反転精霊
デート・ア・ライブに登場する天使及び用語の事。ネプテューヌシリーズとデートとはイラストレーターを始め繋がりが割とあるので、女神VS精霊も探せばありそうですね。


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第九十六話 共に守り、共に戦う

汚染モンスターの侵攻が、突如苛烈となった。

言葉にすればたった一文、説明するとしても然程時間のかからない、簡単な状況変化。

--------だが、人々にとっては…特に、汚染モンスターの侵攻を食い止めていた者達からすればそれは…考え得るべき最悪の事態だった。

 

「第一防衛ライン、突破されました!」

「ストーム小隊被害多数、死者こそいないものの戦闘続行は不可能との事!」

「スカル小隊、敵の一群の撃破に成功!友軍の援護に回るとの事です!」

「医療班急いで!もう応急処置では間に合いません!」

 

次々と聞こえるオペレーターの声。その全てを出来る限りで聞き入れたわたし…イストワールは、口元に手を当てていた。……あ、流石のわたしでも地の文にまで絵文字を使ったりはしませんよ?

しかし、何故こんな軍の司令部みたいな状態になっているのか……それは簡単。ギルドも教会もそうしたかったからだ。簡単に言えば、悪ノリだった。

とはいえそのノリも案外役に立つ。戦ってくれている各チームの名前さえ覚えればだいたいは理解出来るし、なんちゃって軍隊風でも元にしてるもののおかげか効率良く情報の受信送信が出来ている。だから問題は…時間を追うごとに悪化していく戦況だった。

 

「……確認されている死者数は?」

「現段階ではゼロです。…ですが……」

 

…このままいけば、時間に比例する形で死者が出る。それがオペレーター担当である教会職員の一人が、言いかけて止めた事だった。

勿論、死者無く終わらせるのはほぼ不可能だと分かっていたし、わたし以上に郊外で戦っている人達は分かっている筈。…けど、分かっているからといって何も感じずに済む、なんて事は、無い。

そしてそれは士気の低下に直結するのであり、士気の低下は被害の増加に直結する。だから、わたしはそれを少しでも食い止めようと指示を出しかけて…遮られる。まだ幼く…しかし思いだけは姉にも負けぬ、その候補生に。

 

「あ、あの!こんな事言っても意味はないのかもしれませんけど…それでも、頑張って、って伝えて下さい!わ、わたしも…わたしも出ますから!」

 

指示としては下の下、それこそ彼女…ネプギアさんの言う通り、伝えても伝えなくても殆ど変わらない、そんな言葉。しかし、ネプギアさんがそう言った瞬間、その場の雰囲気が変わった。

その半分はネプギアさんの…女神の持つ、天性のカリスマ性に依るもの。そしてもう半分は……

 

「ね、ネプギアさん!?本気ですか!?」

「ネプギア様、今郊外は大変危険なんですよ!?」

「もしネプギア様に何かあったら、我々はネプテューヌ様に合わせる顔が…いやそれ以前にネプギア様に何かあった時点で大問題です!」

 

わたしも出る、というとんでもない言葉のせいだった。女神化こそ問題無く出来るものの、彼女はまだ戦闘に関する知識も経験も少なく、次々と汚染モンスターが迫り来る戦場に出すのは不安以外の何物でも無い。

そう思って、止めようとするわたしと職員。…が、そんなわたし達に対し、ネプギアさんはちょっと遠慮がちな表情を見せながらも、はっきりと言い返す。

 

「分かってます。でも…お姉ちゃん、なら…女神パープルハートなら、安全な所で眺めてるだけ、なんて事はしません。わたしは、そんなお姉ちゃんの妹で、まだ候補生だけど、お姉ちゃんと同じ女神です!だから…お願いします、わたしを信じて下さい…!」

 

言い切り、頭を下げるネプギアさん。シェアクリスタルの間で女神としての鱗片を見たわたしはともかく、職員の皆さんはネプギアさんのおろおろしている部分ばかりを知っていたせいか、呆気にとられる。そして数秒後、彼等はわたしに判断を任せると言うかの様な視線をわたしに向けてくる。……全く、皆さんは甘いですね…ネプテューヌさんにも、ネプギアさんにも。

はぁ、とため息を吐き…わたしは決定を下す。

 

「…分かりました。ネプギアさん、わたしと共に第一防衛ラインの再構築に向かいましょう」

「……!はいっ!…って、え?…いーすんさんも出るんですか…?」

「えぇ、勿論。こう見えてわたし、普通の人よりはずっと強いんですよ?(`・ω・´)」

 

職員にはわたしが前線で指示を出すと伝え、目を瞬かせるネプギアさんを先導する様に郊外へと向かう。

わたしとネプギアさんが参戦しても…もし仮に、ネプテューヌさんが参戦したとしても、すぐに戦況が変わる程楽な戦いではない。…だけど、わたしとネプギアさんの…特に、ネプギアさんの参戦はわたし達にとって良い影響となる。そんな気がする、わたしでした。

 

(ネプテューヌさん、皆さん。そちらも頑張って下さい。こちらは、わたしと皆さん…そして、ネプギアさんに任せてくれて大丈夫ですから(⌒▽⌒))

 

そしてそんな中、空に小さな闇色の輝きが現れたのだった。

 

 

 

 

最悪の事態となった時、諦めてしまう者は一定数いる。しかし、その者達は愚かな訳でも弱い訳でもない。ただ、無理だと思ってしまった、その思いが思考を寡占してしまったというだけであり、それは全ての者に起き得る事態なのだから。

だが、どんな事態でも誰かしらは諦めてしまうのと同様に…どんな事態においても、誰かしらは…諦めずに、戦っている。

 

「キリが無いな…とにかく街中に入れさえしなければ良い、間違っても捨て駒になろうとはするな!」

 

牙を剥き出しにして飛びかかってくる汚染モンスターを突き、地面へと叩きつけながら教祖である僕は指示を飛ばす。本来ならもう少し的確な指示を出すべきなのかもしれないけど…即席の防衛部隊な以上、具体的な動きは個々人や各隊に任せた方が良いだろうね。

そんな中、有志の一人の悲鳴が聞こえてくる。

 

「ぐあぁぁっ…!…だ、誰か……」

「グギャアァァァァッ!」

「……っ!しまっ……」

 

助けよう、と思った時にはもう遅い。ノワール達女神の様に動けるならともかく、人の域を超えてはいない僕に離れた所にいる、襲われかけの人間を守るだけの力は無い。

……そう、女神ではない、僕には。

 

「…大丈夫、アタシの射程圏内にいる人は…誰一人死なせたりはしないわ!」

 

インカムから聞こえてくるのはユニの…女神化した彼女の声。その声の示す通り、ユニは長距離狙撃によって敵を散らし、味方を援護し、確実に汚染モンスターを撃ち抜いていた。彼女のおかげで僕達はどれだけ心に余裕が生まれた事か…。

……が、僕はそこで「とはいえ…」と考える。ユニはこちら側の要になってくれる位活躍しているし、有志も教会職員もそれぞれの形で奮戦してくれている。だが、それでもこちら側が押され始めているのは事実であり、ユニも戦域全てを『同時に』援護出来る訳ではない。故に、このままでは戦線が瓦解すると僕が判断し、防衛ラインの後退を指示しようとした。

……そんな時だった。聞き慣れない駆動音が聞こえ、人の数倍以上もある人型の機動兵器が姿を現したのは。

 

「…あれは……?」

 

巨大な剣と機関砲でもって、正面から汚染モンスターと激突する複数の機動兵器に、つい二度見してしまう僕。皆も僕と同じ感想を抱いたのか、インカムからも周りからも驚きの声が聞こえてくる。

そして、その困惑に答えを出してくれたのも…インカムの先だった。

 

「ケイ!あの機動兵器はシアンさんの開発した物らしいわ!」

「シアン…?…博覧会でノワールといた彼女の事かい?」

「わたし達の、です!親父が設計し、サンジュが無人機で得た技術を組み込んで、わたし達技術者が合同で開発した、わたし達の…いいや、ラステイションの技術者魂が形になった機体…それが、エミカルです!」

「そ、そうなのか…何はともあれ、心強い味方だよ」

 

興奮気味に説明するシアンの声を聞きながら、僕は戦況を見つめ直す。彼女の言う機体、エミカルはそれ自体の戦闘能力もさる事ながら、全体の士気を大きく上げる事に貢献している。早い話が、巨大人型ロボットという存在が人々を『燃え』させているのである。

だから、僕は出そうとしていた指示を改める。

 

「全部隊、エミカルを主軸に戦線を立て直してくれ!心配は要らない、僕達には力強い仲間と…女神様が、ついている!」

 

そして片手剣を握り直し、先陣を切る形で僕は走る。最前線に指揮官が出るのは本来なら下策なのかもしれない。けど、真の指導者である女神はこうして誰よりも雄々しく戦うのであり…僕は、その女神を一番側で支え、協力する教祖なのだから。

 

(ノワール、君の妹も国民も君の期待以上に頑張り、力を尽くして国を守っているんだ。だから…君には、ブラックハートには世界を任せたよ)

 

そしてそんな中、小さな闇色の輝きは少しずつ大きくなるのだった。

 

 

 

 

どんな最悪の事態だったとしても、諦めずに戦う者はいる。それは無茶なのかもしれない。無謀なのかもしれない。だが、間違ってもそれは『無駄』になったりはしない。諦めずに戦う者の姿はいつしか勇姿となり、勇姿は人に戦う気力を与えてくれる。

一人の勇姿によって一人、また一人と戦う者が増えていく。それこそが…人なのだろう。

 

「ふっ、全くもって劣勢だな弟よ」

「そうだね兄さん。元ネタの機体が欲しいところだよ」

 

などとあまり明るくない冗談を言い合うのはお姉様に釣られる形で(釣ったというか、勝手に食いついてきただけらしいけど)リーンボックスへとやって来た兄弟。普段はアタクシにとって疎ましい限りの二人だけど…中々どうして、これが強い。少なくとも、普通の人間レベルではなかった。

 

「全隊、フォーメーションをBからDに移行!こんな状況になってしまっては攻勢に出るデメリットがデカ過ぎるわ!」

 

自分の元へと来る情報を頭に入れ、その場その場で最適な指示を出しつつ、自身も戦闘に参加(勿論アタクシの戦闘スタイルはお姉様直伝よ)するという事は、まだまだ教祖としては新米であるアタクシにとって予想以上の負担だった。

それでも、教祖としての責任感、他国の教祖と並び立ちたいという気持ち、そしてお姉様愛で何とか持ち堪えていたアタクシだけど…裏を返せばそれで手一杯だったのであり、手一杯だったが故に…高速で飛ぶ一体の汚染モンスターに、防衛線を突破されてしまう。

 

「あのモンスター…速い……ッ!」

「不味い…今指揮所の直掩に回れる人は!?」

 

半ば訊く様な形の指示をしてしまうアタクシ。しかもタイミングの悪い事に、たった今陣形を組み替えていた最中だった為に即応出来る者がおらず、汚染モンスターと指揮所の間は完全な空白となってしまっている。

……いや、違う。たった一人、その空白を埋めるものが現れる。

 

「そろそろ引退の時かと思っておったが…まだまだ退く訳にはいかんという事ですな」

 

すっ、と汚染モンスターの進路上に立つのは元教祖代行であるイヴォワール。…が、それを見た多くのものは安心ではなくむしろ不安を拡大させる。それもその筈、イヴォワールは誰から見ても老人であり、実際時折腰が痛い等の身体の不調を訴えていたのだから。

だからこそ、次の瞬間彼等は驚愕する。

 

「キィィィィィィッ!」

「……ふんッ!」

 

繰り出される肘鉄、地面へと激突する汚染モンスター。更に起き上がろうとする汚染モンスターに対し、彼は鋭い膝蹴りで持って汚染モンスターを沈める。

一撃で汚染モンスターを止め、続く一撃で汚染モンスターを撃破。ご老体と思っていた存在がこんな力を秘めていたとは、一体誰が予想出来ただろうか。実際、彼とは親戚関係に当たるアタクシでもここまで動けるとは予想していなかった。…ほんとにまだまだ現役としていけるじゃないのよ……。

 

「…焦りは禁物ですぞ、教祖殿」

「分かってるわよ…後普通に呼んでくれていいから」

「む、そうか。…本当に分かっておるのか?チカよ」

「……仕方ないでしょ、こんな状況じゃ焦るっての…」

 

見た目に合わない軽快な動きでアタクシの元へやってくるイヴォワール。彼は更に一体の汚染モンスターを倒すと髭を撫で…諭すかの様な声音でアタクシに告げる。

 

「…グリーンハート様なら、どうしておったかの」

「……ーーっ!」

 

アドバイスとしてはあまりに漠然とした、その言葉。でも、アタクシには分かる。ずっとお姉様を側で見てきた、アタクシには。

こういう時、お姉様はいつも余裕を持った笑みを浮かべる。余裕が無い状態でも、お姉様はその笑みを浮かべる。それは何故か。…そんなのは簡単、

 

「…上に立つ者が余裕を見せれば皆は安心し、逆に狼狽えれば皆は不安に駆られる。……そうですわよね、お姉様」

 

大きく深呼吸をし、手に馴染んだ槍を握り直す。勿論、それだけでお姉様と同じ余裕を見せられる訳ではないけれど、自分の中のスイッチを切り替える位の役目は果たしてくれる。それに、深呼吸のおかげで少し頭が冷静になり、共に戦っているのが誰なのか、という事を思い出す。

 

「…ここはお姉様…グリーンハート様が帰る場所、そして貴方達は同じ者を信仰する同志。ならば…グリーンハート様の為に、大切な国の為に戦うまでよ!皆、違うかしら?」

 

アタクシの指示…というか演説に返ってきたのは戦う者達の猛々しい声。その声を聞いてアタクシは味方の頼り強さと、お姉様が如何に凄い存在なのかという事を改めて知る。

 

(…こちらは何も心配要りませんわ、お姉様。だって、皆お姉様の信者なのですから。…だから、世界は頼みましたわ、お姉様)

 

そしてそんな中、闇色の輝きは何かに影響を受けたかの様に僅かに揺らいだ。

 

 

 

 

人が一人で成せる事など高が知れている。女神であっても、女神の根底であり同時に真価である奇跡の力を自在に操れないのであれば、やはり人と同様に限界にぶつかってしまう。

だが、人と人とが力を合わせたのであればその限りではない。協力し、助け合い、同じ目標に向かって手を取り合う。それが人を、女神をも前へと進ませてきたのであり…それこそが、人と女神の大きな力なのかもしれない。

 

「やぁぁぁぁ……!」

「えぇぇぇぇいっ!」

 

空を疾駆する二人の少女。一見すれば幼い子供そのものである二人も、女神化をするとその雰囲気は変わる。女神化前と同じく天真爛漫な…それでいて、どこか大人の風貌を見せる彼女達は、幼いながらも女神としての素養をその身で表していた。

だが、だからといって彼女等が最前線で飛び回るのをただ眺める事など出来ないのが保護者であり…わたしミナの頭を悩ませる要因だった。

 

「あ、あのミナ様。やはり、お二人には後退を…せめて援護を付けてあげた方が…」

「分かってます、わたしも同意見です。…ですが、それを許してくれないのが今の状況です」

 

心配そうに二人…ロム様とラム様を見つめるフィナンシェさんに首を振るわたし。彼女の言う事は全くもって間違っていないし、そもそもロム様もラム様も前衛ではなく後衛が本来のポジションなのだから、戦術的にも間違っている。

しかし、現在二人は前衛状態でありながらもかなりの活躍をしており、更にはその勇姿が共に戦う者達を大きく勇気付けている。現状で被害を最小限に食い止められているのは紛れもなく二人の大盤振る舞いのおかげである以上、不用意に下げる訳にはいかず、二人へ回せる人材もいない…というか二人だけで戦えているからこその戦線である事は、火を見るよりも明らかだった。

 

「だったら、せめてわたしが…」

「貴女が行ってどうなるんです?貴女が全く戦えないとは言いませんが…お二人は今、『自由に』戦っているんですよ?」

「…分かってます、分かってますけど……」

 

二人はまだ陣形やら作戦やら火力支援やらを理解出来る程の知識を持っている訳ではない。その上やんちゃ盛りな時期(女神に時期も何もない気はしますけどね)である事も相まって、指示をしたところでその通りに動いてくれる見込みは薄い。それどころか、援護に来た人を置いてけぼりにしてしまう可能性すらあり得る。

つまり、二人を援護出来るのはそれなり以上の戦闘能力と状況判断力を持ち、尚且つ手の空いている者に限られてしまう。そしてそんな人と言えば……

 

「…ミナ様は、行けないのですか?」

「……ここにだって、防衛網を抜けた汚染モンスターが来るんですよ?」

 

そう言いつつもわたしは手を振り、今まさに接近してくる汚染モンスターの一体を魔法による光弾で迎撃する。

詰まる所、打つ手がないのだ。勿論ここを放棄すれば援護は出来るけど…そんな事をしてしまっては指揮がまともに出来なくなる。そうなれば、戦況の大幅悪化は免れない。

我ながら、酷な立場だと思う。女神の様な力が無いにも関わらず、女神に準じる任をこなさなければならないのだから。それでも、今取るべき判断を、指揮をしようと心を鬼にしたわたしは……

 

「…それでは、ホワイトハート様に怒られてしまいますよ?」

 

後ろから聞こえたその言葉に、出す筈だった指示を遮られた。そして次の瞬間、後方から伸びた光芒が複数の汚染モンスターをまとめて焼き払う。

声に、光芒に驚いたわたしとフィナンシェさん、それにわたし達の周囲にいた職員が振り向くと…そこには、ジャケットを脱ぎ袖を捲り、腕に油汚れを付けたガナッシュさんが元アヴニール製と思われる機体と共に立っていた。

 

「な……っ!?そ、それは…」

「少しでも戦力になればと、先の大規模戦闘の後教会で回収していた機体をレストアしたのです。全く、技術屋が少な過ぎたせいで私まで作業に参加する羽目になりましたよ」

「そ、それは…安全なんですか…?」

「えぇ、そもそもマシンに危険も安全もありません。それを決定付けるのは使い手ですからね」

 

そう言って更に機体へ命令を送るガナッシュさん。その機体はルウィーに住む者にとっては決して良い思い出の無い物ではあるけれど…ここにおいては、貴重な戦力に違いなかった。

ガナッシュさんは、更に続ける。

 

「行って下さいミナ様。貴女はロム様ラム様の実質的な保護者でしょう?」

「…ここを、任せても宜しいのですか?」

「宜しいからそう言っているのです。貴女が信じるホワイトハート様を信じる私を信じて下さい。それに、ここにいるのは私だけではありませんよ?」

「そう…でしたね。…では、皆さん…ここを頼みます」

 

頷いてくれる皆に頭を下げ、わたしは邪魔となる汚染モンスターを蹴散らしながら二人の元へと向かう。

自分が先程まで考えていた判断が間違っているとは思わない。だが、自分は味方の数というものを計り間違えていた様だった。そして、戦闘は未だ優勢とは言えないものの…希望が潰えてなどは決して無い、という事もしっかりと実感出来た。

 

(大丈夫ですブラン様、ルウィーはわたし達がきっちりと守り抜きますから。…ですからブラン様も、負けたりなんてしないで下さいね)

 

そしてそんな中、揺らぎを見せた闇色の輝きは…ゆっくりと拡散し、消えていった。

 

 

 

 

射線上の全てを灼き、無に帰さんとする闇色の光芒。だが、それは防がれた。…否、その表現は正しくない。闇色の光芒は僅かに影響を受け、一部が拡散したに過ぎないのだから。…それでも、私達には分かった。それが下界へと届く前に、どんなものかも分からない境界に寄って阻まれたという事を。マジェコンヌの唖然とする顔が、それの裏付けにもなっていた。

そして、その光芒へと影響を与えたのは……

 

「わたし達にだって、やれる事はあるんです…だから、わたし達はやれる事を全力でやるんです!」

「女神の力もあんたの力も元は私達人間の思いなんでしょ?だったら、人を舐めるんじゃないわよ!」

 

コンパとアイエフの…ここまで私達に着いてきてくれた、二人の切り札によるものだった。二人が叩き込んだ光芒と斬撃の束は負のシェアの光芒に正面から激突し…下界へと降る筈だった死の光から下界と人々を守ったのだった。

その二人の様子を見たマジェコンヌは、驚きの後に素直に賞賛するかの様な表情を浮かべた。実際、その行為とその結果については評価していたのだろう。そして、彼女は二人に襲いかかった。必殺の技を邪魔され、失敗へと追い込まれたのだからそれは当然の事。

だが、それは成功しない。……私達が、それを許す訳がない。

 

「ちぃ…次から次へと、滅びの運命を受け入れられない者が邪魔立てするとは……」

「もう、こんな無茶するなんて…でも、二人共凄いわ。やっぱり二人に着いてきてもらって正解ね」

「やるじゃない二人共。貴女達はモンスターより、マジェコンヌより凄いわ。私が保証してあげる」

「あいちゃんもコンパさんも流石ですわ。友としても、女神としてもわたくしは誇りに思いますわ」

「危険だって分かってて、無茶だって分かっててもやるとはな…女神ながら、二人を見習いたいぜ」

「最高の援護だよ、ありがとう二人共。…二人の頑張りの為にも、私達は絶対勝つって約束するよ」

 

五人でマジェコンヌを追い払い、二人の前に並び立つ私達。

私達は私達だけで戦っている訳じゃない。コンパもアイエフも、異次元組の皆も、妹さん達の皆も、各教会の皆も、各国の皆も……皆が戦ってくれている。それぞれの場所で、それぞれの戦いを繰り広げている。だからこそ、私達は負ける訳にはいかないし…私達は、私達だけなんかじゃ、絶対に無い。

 

「…今一度言うよ、マジェコンヌ。…私達は、貴女を……倒すッ!」

 

そう、まだ戦いは終わっていない。




今回のパロディ解説

・スカル小隊
マクロスシリーズに登場する、伝統的な部隊名の事。勿論本作のスカル小隊は偶然、或いは名前を借りているだけであってバルキリーを運用していたりはしません。

・「〜〜ラステイションの技術者魂が、形になった〜〜」
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYに登場するライバルキャラ、アナベル・ガトーの名台詞の一つのパロディ。別にシアン達はMAを作った訳ではありませんよ?

・元ネタの機体
機動戦士ガンダムXに登場する、シャギア・フロストとオルバ・フロストの乗る各機体の事。これは兄弟自体元ネタがあるので、兄弟はパロディそのものと言えますね。

・「〜〜貴女が信じるホワイトハート様を信じる私を信じて下さい〜〜」
天元突破グレンラガンに登場する主人公の兄貴分、カミナの名台詞の一つのパロディ。○○が信じる云々は色々パターンがあるので、どれが元かは皆様のご想像次第です。


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第九十七話 全ての心を込めて

戦闘で一体何が一番大切なのか。個々の質、全体としての物量、組織としての連携、入念周到な準備、適切且つ柔軟な戦術、戦うに足るだけの大義……大切なものは数多くあるし、どれが一番重要か、なんて決まってはいない。強いて言えば、それぞれが一番大切だと思ったものが一番重要なんだと思う。

でも、私は…だからこそ、私は--------心が一番大切だと思う。別に精神論や根性論を支持する訳ではないし、強い思いが力になる…と言いたい訳でもない。…女神として、後者の存在は否定しないけど。

心は、戦いの中で人を人たらしめる。心の無い人は、人と同じ構成で、人と同じ様に動き、人と同じ様に死ぬだけの、人の様に見える『物』でしかない。人によっては心が無くとも人は人、と言うのかもしれないし、あくまで私の持論なのだから、誰かがそう思うのは何も間違っていない。…けど、心の無い人は、自分自身を人だと思うのだろうか。心があるからこそ戦いに意思が、利益が、善悪が生まれるのではないだろうか。

これは難しい話じゃない。だって、皆心があって、心があるから何かを思って、何かを思うから何かをするんだから。戦闘だけじゃなく、森羅万象全てで心は必要になる。

だから……心と心のぶつかり合いは、戦いそのものだ。

 

 

 

 

「いつまでも翻弄されるばかりの私達では…無いッ!」

 

マジェコンヌの翼が織り成す、四方八方からのビームの網を掻い潜る私達。指の先、足の先、自身の翼の羽根一枚一枚に至るまで意識を集中させる事によってビームを紙一重で避け、僅かに開いた隙間を縫ってマジェコンヌへと突き進む。

私達は段々と、マジェコンヌの放つ弾幕に対応出来る様になってきていた。…否、それだけではない。現に私達はもう何度もマジェコンヌへと追い縋り、接近戦を仕掛けていた。

私達とマジェコンヌとの差は幾つかあるけど、その中に『情報』というものがあった。マジェコンヌは今の私の姿を知っているけど、私達はそうじゃない。私達は今のマジェコンヌの戦術パターンを知らないけど、マジェコンヌはそうじゃない。相手の事を知っていれば相手に適した戦い方を選べるし、相手の限界が分かっていれば精神的な余裕が生まれる。早い話が相手より多く情報を持っていれば、それこそ某月の聖杯戦争位有利になる訳だ。

だが、情報は戦闘の中でも集める事が出来る。そして一方だけ情報を有している場合、情報が集まれば集まる程アドバンテージは薄くなる。未だ私達は押されているけど、それでもある程度今のマジェコンヌの情報を得た事によって、一方的な戦いから劣勢ながらもまともな戦いにまで引き戻す事が出来ていた。

 

「…とはいえ劣勢は劣勢。もう一つか二つ戦力差を埋めるだけの要素が欲しいわね…!」

「最終決戦の場ですら地の文を読んでくるとは…初志貫徹だねネプテューヌ…!」

 

ビームの網を潜り抜ける中、距離の縮まった私とネプテューヌは言葉を交わす。些か内容はしょうもなかったけど…問題はそこじゃない。ここまで本作に付き合ってきてくれた人達なら分かる通り、突っ込む事はあっても今更メタ発言に対して細かく問い詰めたりはしない。

視線を混じらせ、タイミングを合わせた私は前進。当然網に自ら突っ込む形になるし、私を狙える位置にいる羽根は私の退路を塞ごうとビームの追撃をかけてくる。一瞬にして網から檻へと変貌する、闇色の光芒の束。

それを確認した私は……長剣を振るう。

 

「『天舞壱式・桜』ッ!」

 

素早く、鋭く長剣による乱舞を周囲へ放つ私。剣線に捕らえられたビームは次々と斬り払われ、弾かれ拡散した光芒が幻想的な吹雪の様に私の周囲を彩る。そして次の瞬間、私と入れ替わる様に躍り出たのはネプテューヌ。彼女は私の一瞬前まで居た場所…つまり、ビームの網の破けた場所で『32式エクスブレイド』を発動し、マジェコンヌへ向けて射出する。

私が邪魔となるビームを処理し、開けた空間を使ってネプテューヌが仕掛ける。これは先にベールとブランが行なった連携を参考に、遠隔攻撃からの近接格闘という手順を逆にした応用技だった。

ビームを斬り裂きながらマジェコンヌへと爆進するエクスブレイド。今度こそ…という願いをかけた私達の連携だったけど…マジェコンヌへと届く直前、彼女が杖から放った、羽根よりも数倍の出力と口径を持ったビームにより相殺され、失敗に終わってしまう。

それを見て歯噛みをする私達。その瞬間、ノワールが声を上げた。

 

「もう一度よ!ネプテューヌ、もう一度放ちなさいッ!」

「もう一度!?でも、普通に撃ったところで…」

「ノワールに策有りだよ、ネプテューヌ!」

 

再度前進し、数秒前と同じ様に壱式でもって周囲のビームを弾く私。ノワールがどんな意図を持っているのかは分からなかったけど…この状況において迷うのは得策ではない。そして攻撃担当だったネプテューヌと違い、取り敢えず攻撃を阻むビームを処理するという自分の役目は果たせていた私の方が、彼女よりも意識の切り替えが素早く済んでいた。

 

「何を考えているかは知らんが…させるものかッ!」

「いいや…」

「させてもらいますわッ!」

 

私とネプテューヌへと火力が集中したのを見たベールとブラン。二人は大きく旋回する事で網の外へと脱出し、必要最低限の動きだけで手にした槍と戦斧をマジェコンヌへと投擲する。

勿論渾身の一撃ならともかく出の速さ重視で行った攻撃が成功する筈もなく、槍と戦斧はマジェコンヌが杖から出力した刃で簡単に弾き返されてしまう。けど、ネプテューヌが意識を切り替え、その上でブレイドを撃つには十分な余裕だった。

一度目を再現する様に飛ぶブレイド。マジェコンヌも一度目同様相殺をしようと杖を掲げるが……それよりも前に、黒の流星が駆け抜ける。

 

『な……ッ!?』

「……っ…『トルネードソード』ッ!」

 

少し前のブランの様に、ブレイドの通った後へ滑り込むノワール。紋章から柄が伸び続ける『シレットスピアー』と違い、ビームが入り込めない時間が少ないにも関わらずブレイドの後を無理矢理追った事で数条のビームがノワールの身体を撃つものの、ノワールは止まる事無く飛び続け、ブレイドとマジェコンヌが衝突する寸前にブレイドへと追い付き…触れる。

そして激突するエクスブレイドとマジェコンヌの光芒。先程と同じ様に、高エネルギー同士の激突により爆発が生まれ…次の瞬間、煙を突っ切る様に現れたエクスブレイドがマジェコンヌへと襲いかかる。

ギリギリで反応するマジェコンヌ。そのおかげで胴体が真っ二つになる事こそ無かったものの、同時に回避もしきれず脇腹を裂かれる。そしてそれは、今まで無傷だったマジェコンヌへ通った、初のダメージでもあった。

 

「ぐぅぅ…相殺、しきれなかっただと…?……貴様の仕業か、ノワール…」

「えぇ、勿論。さしずめ、擬似リアクティブアーマーってところかしら?」

 

傷口から滴れる血をまるで気にする事無く笑みを浮かべるノワール。そう、彼女はブレイドに触れた時に、自身のシェアエナジーをブレイドの刀身に纏わせていた。

恐らくは本来自分の大剣に纏わせる技であろう『トルネードソード』。それをブレイドに纏わせ、更にビームと激突する瞬間に『自ら』爆発させる事でビームを相殺し返し、内側のブレイドを守っていたのだった。

気付けば空中を舞っていた羽根も翼へと戻っている。途絶えた弾幕に傷を負ったマジェコンヌ。それ即ち、私達にとっての好機だった。

 

「さぁ、いくわよ皆…!」

 

今度は自身の大剣にシェアエナジーを纏わせ突撃するノワール。対するマジェコンヌは飛ぶ事で回避し、追撃は許さないとばかりに杖と空に展開した紋章からビームを叩き込む。するとそのタイミングでブランが両者の間に割って入って手を掲げ…ビームを『打ち消す』。

 

「な…に……ッ!?」

「はっ…魔法の国の女神を、舐めるんじゃねぇッ!」

 

そのままマジェコンヌへと飛びかかるブラン。戦斧は未回収だった為にリーチの問題で軽くあしらわれてしまったものの、ビームの打ち消しは彼女を明らかに狼狽させていた。然程魔法には長けていない…というか、魔法の学習をしていない私には一体どういう原理で魔法が起こるのかはよく分からなかったけど(ルウィー出身じゃないコンパやアイエフも一応魔法が使えるから、学習云々じゃないのかもしれない)、魔法を防御するだとか相殺するだとかの力比べではなく、魔法そのものを打ち消すのがどれだけ高難度なのかという事はよく分かる。マジェコンヌはきっと私以上に魔法を知り、打ち消しの高度さが分かっているからこそ、あからさまに狼狽したのだろう。

そして、その様子を見た私とネプテューヌは同時に突っ込む。ネプテューヌとノワールが女神として初めて共闘した時の様なシザースを描きながら肉薄し…これまたあの時の様に左右に分かれる。

ただ一つ、あの時と違うとすれば……

 

「後ろが…ガラ空きですわッ!」

 

実際に攻撃を行うのが、私達ではなく後ろから迫っていたベールだという事。狼狽した所にさも大仰な攻撃を仕掛ける…と見せかけた陽動を行い、背後への注意を怠らせる。それは遠隔操作端末があるとはいえ、結局は一人であるマジェコンヌには出来ない、複数の思考を織り交ぜた連携だった。

ベールの攻撃も通った事を確認した私達はマジェコンヌから距離を取る。出来るならばマジェコンヌに体勢を立て直す隙を与えず仕掛け続けたいところだったけど…それは出来ない。何故なら……

 

「あー…不味い、ちょっと血が流れ過ぎたかも…」

「大丈夫よノワール、わたしもさっきから足に違和感あるもの」

「それのどこが大丈夫何ですの…?」

 

動き回り、攻撃し続けられる程の余裕が私達には無くなっていたからだった。オールレンジ攻撃は勿論、本体からの攻撃も中々強力で、致命傷こそないものの私達はかなりの怪我を負っていた。かくいう私も……

 

「…なぁイリゼ、ちょっと確認良いか?」

「…確認?」

「あ、それならわたしも…というか皆思ってるんじゃないかしら?」

 

皆が私へと視線を集めてくる。マジェコンヌが仕掛けてこないのは、多分私達にとって一番厄介な羽根のチャージに集中する為。私達も私達で息を整えられるし、これは互いに利のある状況になっていた。

 

「…何でも答えるよ、何が聞きたいの?」

「さっき言ってた事よ。このまま戦えば、勝つにしろ負けるにしろ、もっと怪我を負う事になるわ。……イリゼはそれで、後悔しない?」

 

私は戦闘前、皆に言っていた。皆が死ぬのも、傷付くのも嫌だと。あの時は皆の思いに…ネプテューヌの『お願い』に応える為、マジェコンヌと戦うと宣言したけど…別に私自身が意見を曲げた訳ではない。そして、死ぬのはともかく傷付くのはどう戦っても避けられない事は、私もよく分かっていた。

私はゆっくりと息を吐き、今の私の気持ちを…口にする。

 

「後悔はするよ。もっと良い手があったんじゃないかって終わってから考えもすると思う。…けど、今は…後悔をしてでも、皆と戦いたい、皆とゲイムギョウ界を守りたいと思ってる。これは、断じて妥協した訳じゃないよ」

「そう…なら、良かったわ」

「うん。だからまぁ…怪我に関しては、マリンフォード頂上決戦における白ひげ位ならOK!」

『…それ致死量の怪我じゃ……?』

 

威勢の良い事を言おうとしたつもりが、四女神全員に突っ込まれてしまった。というかこんなクライマックスも良いところの戦闘でパロってしまった。……これが私本人の責任ではなく、長らくこのパーティーにいたせいだと思いたい。

自爆とはいえ話の腰を折られた私はこほん、と咳払いをして続ける。

 

「怪我については…うん、致死量にさえならなければ良いよ。…でも、死ぬのは許さないから。もし命を犠牲にでもしようものなら、それが絶好のチャンスでも私は止める。殴ってでも止めるから。それは、誰が何と言おうと譲らない」

「名誉の戦死を許さないとは…優しいを超えてただの我が儘ですわね」

「守護女神として、自分の命を最優先にするのはどうなんだろうな」

「…でもまぁ、良いんじゃない?ぶっちゃけた話私は…というか皆、死にたくはないでしょうし」

「なら、イリゼの我が儘に付き合わない理由は無いわね。…それに、わたしの願う最高のハッピーエンドも、イリゼの我が儘と大差無いし」

 

にぃ、と子供っぽい笑顔を浮かべる皆。皆が行き過ぎた自己犠牲の精神を持ち合わせていなかった事に、私は心から安心する。

…でも、本当は、この言葉は皆に向けていた訳じゃない。半分は確かに皆に向けていたけど…もう半分は、自分自身に向けてだった。

少しずつ、長剣が…身体が重くなっていく様な感覚がある。最初これは怪我のせいだと思ってたけど…違う。何故分かるのか…までは説明出来ないけど、これは例のシェア配給の問題だと気付いていた。だからこそ、皆に今一度死んじゃ駄目だと伝える事で、戦闘中に女神化を切らせる様な下手を打たない様、暗に自分にも言い聞かせていた。私もノワールの言う通り死にたくはないし…皆に、私の犠牲の上での世界なんていう重荷は、絶対に背負わせたくないから。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……っ…!」

 

息を切らし、汗を落とし、それでも尚全力でもってぶつかる。何度も何度も激突し、その度互いに血を流し合った私達の戦いは…佳境へと、移っていた。

 

「くっ…どういう事だ…どうなっているのだ、貴様等は……」

 

軌道を読まれ始めた事と、疲労により動きに精細さが欠けた事とが重なって三分の一程数の減った羽根を自分の周りに展開したマジェコンヌは言う。悪意のシェアの化身とも言える存在になったせいか、全体的に感情が希薄になった様な印象のあった彼女だったけど…今は、余裕を失った様子が表情にありありと出ていた。

でも、それは私達も同じ。少しでも油断すれば、僅かにでも勝ちを…思いを諦めようものなら簡単にやられてしまう。最早この場に優勢も劣勢もない。マジェコンヌも含め私達は、互いにギリギリの所で踏み止まっている状況だった。

だからこそ、ここから最後の攻防が始まる。

 

「どうもこうも…私達も倒れる訳にはいかないって事だよ…!」

「だとしてもだ!貴様等がシェアの本質を…奇跡の力を自在に操れるなら分かる、だが貴様等はその段階にまで到達してはいないだろう!そんな貴様等が…ただの女神でしかない貴様等が、何故…!」

「そんなの……繋がる心が、わたし達の力だからよッ!」

 

地面を踏み締め、翼を大きく広げてネプテューヌが飛ぶ。マジェコンヌも杖を掲げ、刃を出力して正面から迎え撃つ。

 

「繋がる心?ふん、それが答えになるものか…!例えそうだとしても、ただシェアの量が増えるだけ……」

「シェアも信仰も関係ない!繋がる事自体が…思いを通わせ、力を合わせる事自体が力に、強さになるのよ!その力があるからわたし達は戦える、戦い続けられる!」

 

斬り結ぶネプテューヌとマジェコンヌ。一瞬のせめぎ合いの後、淡い紫色の光を帯びたネプテューヌの大太刀は刃もろとも杖を両断する。ネプテューヌの言う通りだ。女神の力の元はシェアだとか、思われれば思われる程シェアエナジーの量は増えるだとか、そういう問題ではない。一緒に居たい、共に頑張りたい、その人の様になりたい、守りたい、笑い合いたい、愛したい…未来を、共に描きたい。そういう気持ちが、私達の…人の原動力になる。どんなに辛い時でも、どんな逆境でも、諦めない勇気になる。思いと思いは混ざり合い、他の人へと繋がり、それが新たな思いに、絆になる。そしてそれが…私達に、力をくれる。

 

「何が…何が思いだ!人は何かを恐れ、見下し、軽蔑し、憎む!それが人だ!それが世界の理だ!」

「えぇ、悪意の感情が人にないとは言いませんわ。ですが…それに負けないだけの善意の感情が、善意そのものも同時に持ち合わせているのも人なのですわッ!」

 

羽根の一斉掃射をネプテューヌに敢行しようとするマジェコンヌ。しかし羽根を操作するよりも先にベールが紋章を展開。そこから現れた巨大な槍は緑の粒子となり、無数の槍へと姿を変えて次々と羽根を刺し貫く。

力のままにマジェコンヌを押し飛ばすネプテューヌ。マジェコンヌも負けじと空中で姿勢を立て直し、両翼から二条の闇色の光芒を放つ。

 

「如何に善意があろうと、悪意が消える事など無い!現に私が、ギョウカイ墓場が、負のシェアが存在する!貴様等が自らの考えを正しいと言うのなら、これを否定してみろ!」

「否定なんかするかよ、善意も悪意もあるのが人間だ。だからこそ、世が荒れる事もあるし人自身が生み出した悪意で傷付く事もある…だが、それを正し平和にするのもやっぱり人なんだよ!わたし達が守る、世界なんだよッ!」

 

一条の、されどマジェコンヌのものより数倍強い輝きを持つ白の光芒が闇色の光芒と激突する。その主であるブランが、両手で持つ戦斧に力を込めた瞬間白の光芒は更に勢いを増し、闇色の光芒を文字通り塗り潰す。

 

「ならば、何故貴様等が戦う!世を荒らすのも正すのも人だと言うなら、貴様等は何なのだ!貴様等は人では無かろうに!所詮は思いという曖昧なものから生まれただけの存在だろうに!」

「だから何だってのよ!思いから生まれたからこそ、皆に思われているからこそ私達は戦うのよ!今あんたと戦ってるのは私達だけじゃない、私達を思う人全てとよ!」

 

マジェコンヌの翼が可変し、そこから次々と光弾が放たれる。それまでマジェコンヌが一度も見せなかった、謂わば隠し技。だが、ノワールはその光弾の雨の中を猛進する。黒の軌跡を残す姿はまさに縦横無尽、華麗とも言える程の動きで突破し、マジェコンヌの両翼を根元から斬り落とす。

 

「黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!貴様等が何と言おうと、私の野望は…願いの果てにこの身が闇へと染まったあの日からの思いは、紛れもなく真実だ!貴様等の言うものとは対極の、悪意そのものだッ!自分達の思いを貫くと言うのならば…私を倒してみせろッ!」

「……そのつもりだよ、マジェコンヌ」

 

私はマジェコンヌを見据える。マジェコンヌは両手を広げ、闇色の柱から負のシェアを己が身へと収束させる。

マジェコンヌの言葉は、どこか彼女の奥から響く叫びの様にも聞こえた。彼女は、きっとこの一連の出来事の…何年も前から続く出来事の、一番最初の被害者なのかもしれない。だからと言ってマジェコンヌの悪行が許される訳ではないし、マジェコンヌのしてきた事が何か変わる訳でもない。…それでも、被害者なのかもしれないという事もまた、何があろうと変わらない。

だから、私はマジェコンヌを討つ。私の思いも、皆の思いも、マジェコンヌの思いも込めて、マジェコンヌを討つ。

 

「これが、私達の…私達が今まで出会ってきた人の、触れ合ってきた人の、未来を望む全ての人の…思いの一撃だッ!」

 

私はそれまでずっと溜め続けていた、全身と周囲に充填し続けていたシェアエナジーを全て解放する。既にシェア配給がギリギリの状態であるにも関わらず、引っ張り出せるだけのシェアエナジー全てを引き出して操ろうなんて真似は、もしこの力を大事だと思っているならするべきではないという事は分かっている。イストワールさんがいたならば、きっとすぐにでも止めにくると思う。でも、こうしなければいけないと思った。皆の思いに応えたいならば、応えようと思うならば、未熟な私はこれ位の事をしなきゃ…全身全霊、全ての力を一撃に込める位の事をしなければならないと、そう感じた。もう、覚悟は出来ている。

解放されたシェアが私の身体を包み、光の翼と帯となる。その光の衣を纏い、私は駆ける。

 

「ーーーーっ!『フルティミックハーツ』ッ!」

 

一閃。振り抜かれた長剣はマジェコンヌを断ち斬り、私の纏う善意のシェアがマジェコンヌの纏う悪意のシェアを吹き飛ばし--------戦いは、決着した。




今回のパロディ解説

・マリンフォード頂上決戦、白ひげ
ONE PIECEにおける出来事の名前とキャラの事。白ひげの死因は致死量の怪我+元々身体が弱ってたから、ですが…弱ってなくてもあれだけ怪我すれば普通死にますよね。

・「〜〜繋がる心が、わたし達の力だからよッ!」
キングダムハーツシリーズの主人公の一人、ソラとヴェントゥスの名台詞の一つのパロディ。女神はほんとに繋がる心が力になる訳ですから、ある意味ぴったりですね。


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第九十八話 絶対に帰ってくるから

ゆっくりと、宙へと溶けて消えてゆく光が二つ。

一つは、悪意のシェアの光。善意を信じ、善意の為に戦い抜いた果てに全てを失い、闇へと身を落とした者の光。彼女のその力は、光と共に消えてゆく。

一つは、善意のシェアの光。人々を信じ、人々の未来を夢見た女性が作り出した、何も持たない少女が唯一有していた力の光。優しき世界によって様々なものを手に入れた彼女のその力も、もうすぐ消えようとしていた。

 

 

 

 

全てを終えたと思った時、勝利の高揚感や世界を救えたという安心感よりも、ただただ安息感の方が強かった。いつの間にか女神化は解けていたけど…体感として、まだ女神化出来ない段階にまで至った訳でもない気がする。身体はボロボロ、下界も無被害では済んでいないだろうけど、それでも十分大団円……

 

「良い一撃だったわ、イリゼ!」

「ラストアタックを譲ってやった甲斐があったぜ!」

「何やらボーナスドロップがありそうな位迷いの無い一刀でしたわね」

「私達現代守護女神以外がトドメ、って言うのはちょっとアレだけど…まぁ良いわ。…あ、貴女も女神ではあるし」

「や、ちょっ…リンチだから!女神化してない相手に女神化状態の四人で肩やら背中やら叩くのは最早リンチだからぁ!」

 

何時ぞやのエキシビションマッチの様な…ダメージ的にはそれ以上の激しい歓迎をされてしまった。しかも全員血だらけ怪我だらけなので…これがまたエグい。ゾンビ映画のワンシーンみたい並みにエグかった。

 

「お疲れ様、皆」

「これまでで一番格好良かったですっ!」

「こんぱ、あいちゃん…勝てたのはわたし達だけの力じゃない。二人が居てくれたおかげよ」

「そうね。二人が居なかった場合、下界に甚大な被害が出ていたのは確実だもの」

「二人…というか、ほんとに全員居たからの勝利だよ。…という訳で守護女神四人は並ぼうか、叩いてあげるから」

「…イリゼ、ここに来てS要素を見せた所で、あからさまなテコ入れにしか見えませんわよ?」

「違うよ!調子乗ってリンチ紛いの事してきた人達への正当な反撃だよ!」

「いやその場でやんなきゃ反撃ではねぇだろ…」

 

途中からいつも通りの…くだらなさとしょうもなさに定評のある談笑を始める私達。裏天界(マジェコンヌが倒れた訳だしあの幻影は消えているのかも)に充満する負のシェアも、ほんの僅かずつだけど薄くなっていく様な気配がある。それでやっと緊張の糸が切れた私達は肩の力が抜けた様に雑談を楽しみ、数分後貧血やら何やらでふらっとし始め、それを見て慌てたコンパと苦笑をするアイエフが応急手当ての準備を……

 

 

「……ぐ、ふっ…まさか…あの私すらを、倒してしまう…とは、な…」

 

その声に、倒れた筈の彼女の声に、終わった筈の戦いに--------戦慄した。

 

 

 

 

「そんな…まだ、生きてるって言うの……!?」

 

悲鳴じみたネプテューヌの声。けど、それも無理のない話。私達は全力で、それこそ倒すと同時にこっちも倒れちゃっても構わない位の気持ちで戦い、やっとの事でマジェコンヌを倒した。この状態でもモンスター一体二体位なら何とかなるけれど…もし、まだマジェコンヌが戦えるとしたら、それはもう絶望的でしかない。

それでも武器を持つ私達。だが、皆に先程までの覇気は無く、私含め気力で何とか持ち堪えてるといった状態だった。

だからこそ、マジェコンヌの次の言葉は私達にとって最も意外だった。

 

「…ありがとう、私を倒してくれて…私を、止めてくれて……」

 

今までにもマジェコンヌが私達に礼を告げてきた事はあった。けど、それはいつも私達を嘲笑うかの様な言葉で、私達としても「あそう、そりゃ良かったですね」みたいな思いしか抱かなかった。

それに対して、今のマジェコンヌの言葉はどうだろうか。勿論声はマジェコンヌのもので、倒れたマジェコンヌの口から発せられたものだった。でも、マジェコンヌであってマジェコンヌでない様な、そんな不思議な声だった。

 

「それは、その…ど、どう致しましてで良いのかしら、あいちゃん…」

「わ、私に訊かないでよ。流石の私も本気で殺そうとした相手にお礼を言われる機会なんてないわよ…まさかイリゼ、貴女クランク二尉倒したんじゃないでしょうね…?」

「そ、そんなトンデモ展開になった覚えは無いよ…」

「ふ……戸惑わせてしまったな…イストワールから聞いてはいないか?…私が、元からあの様な存在だった訳ではない、という事を…」

「…え…じゃあ、てめぇはまさか……」

 

マジェコンヌのその言葉に、私達全員が息を飲む。マジェコンヌの悪業の原因であり、そして守護女神戦争(ハード戦争)の発端でもあった犯罪神。その犯罪神の再封印に一躍買った存在がいた。それこそ、

 

「…そう、私は『本来の』マジェコンヌだ…」

 

マジェコンヌ、その人だった。

考えてみれば、納得出来ない事もない。単に覆われたというだけでなく、汚染され歪んでしまったとはいえ、マジェコンヌの性格は負のシェアという外的要因で変わってしまったもの。ならば瀕死の状態となり、負のシェアも身体から抜けきってしまえば元の性格が蘇る事が無いとは思えない。……勿論、それでも私達は驚いていたけれど。

 

「……では、もう敵意は無いという事でして?」

「そういう事になる…というか、今の私はスライヌ一体倒せるかどうかも怪しい状態だ…仮に敵意があっても、勝ち目は万に一つもない、な……」

「なら、一先ずは安心ね。とんだぬか喜びしちゃったかと思ったわ」

「…いいや、まだ安心とは言えんさ…」

 

今度は眉をひそめる私達。マジェコンヌは力を失い、正気にも戻ったのだからもう敵も危機も去った筈。一体まだ何があるのだろうか。

 

「…わたし達の怪我だと、下界に戻るまでに出くわすモンスターも脅威になり兼ねない、って事か?」

「そうではない…うぐっ……」

「わわっ!?そ、そんな大怪我で立とうとしちゃ駄目ですよ!?」

 

ゆっくりと立ち上がるマジェコンヌ。その様子を見たコンパは心配して彼女に制止をかける。…が、マジェコンヌはそれを手で制して負のシェアの柱へと近付く。

 

「私もあまり余裕がないからな、単刀直入に言おう…。……これは、私が倒れたとて消えたりはしない」

『な……ッ!?』

「厳密に言えば、すぐに消える訳ではない…という事だ…。私の制御を失ったこれはゆっくりと自壊するが…それまでに、膨大な量の負のシェアがここにも下界にも散布されるだろう…」

 

ノワールはついさっき、とんだぬか喜びしたかと思ったと言った。その時私は心の中で同意したけど…ここにきてまさか本当にぬか喜びになるとは夢にも思っていなかった。

地味に苦労して裏天界を見つけ、やっとの事でマジェコンヌを倒したのに、まだ世界の危機は去っていない?

 

「……そんな馬鹿な話が、あるって言うの…!?」

「残念だが…それが事実だ…。むしろ、制御を失っただけで即座に消滅した方が不自然とも言えるな…」

「だったら、どうしろってのよ!?教えるだけ教えて、対処法はありませんなんて言わせないわよ!」

「勿論だ、対処法はある…」

 

負のシェアの柱のすぐ側まで来た所で、マジェコンヌは足を止める。

 

「な、なら良かったわ。それで、その方法ってのは何?わたし達に出来る事なら何でもするわ」

「いや、その必要はない…。つまる所、制御を失ったのが原因なのだから、もう一度制御し直せばいい訳だ…」

「制御…ですが、制御していたのは貴女でしょう?ならば、再度の制御など……」

「…そう、私がもう一度制御すれば…それで良い」

 

そう言ってマジェコンヌは、負のシェアの柱に触れる。その瞬間、この場での一度目の戦闘後同様に波動が柱から発せられるも、既に痛覚が麻痺してしまっているのかマジェコンヌはその時の様な大きな苦悶の声はあげない。

それでも、私達は不安になる。負のシェアの柱の再度の制御なんて…いや、それ以前にあの柱に触れた時点で、無事で済むとは思えない。

 

「それをして、あんたは大丈夫なの?また負のシェアに飲み込まれて敵に、なんて冗談じゃないわよ?」

「大丈夫さ、もう私は敵とはならん…このまま、柱と共に消えるだけさ…」

「消える…って、まさか死ぬつもり!?」

「それ以外に何があると言うのだ。…負のシェアに飲み込まれていたとは言え、私がした事は許される事ではない…ならば、この位当然の報いさ…」

 

マジェコンヌのその言葉に、あまりにも淡々とした…まるで、事実を述べているだけの様な平坦な声音に、私達は一瞬言葉を失う。言葉の是非だとかではなく、自分の事…しかも命がかかっていると言うのに、他人事の様に語るマジェコンヌの心境こそが、私達にとって想像を絶するものだった。

 

「……っ…お前はそれで良いのかよ…?」

「良いからこう言っているのだ。…それに、他の方法を探している間にも負のシェアの散布は増える。…身を賭してまで守った世界が闇に染まるなど、私も嫌だからな…」

「そういう事ではありませんわ。世界が、ではなく貴女自身がそれで良いのかと聞いているんですわ」

「私自身、か……」

 

マジェコンヌの方から、息を吐き出す様な音が聞こえる。そして、彼女は少しだけ悲しげな声で言う。

 

「…私が闇に堕ちてから、随分と時が経った。一体何人の友が今も生き、今も私を友と呼んでくれるのだろうな。闇に堕ち、全てを捨てた私が生き残ったとして…何が、私の元に残っていてくれるのだろうな…」

 

私達は、何も言えなかった。言葉なら思い浮かぶ。きっとそういう人もいる、何も残ってないとは限らない…そんな言葉なら、幾らでも思い付く。

けど、違う。ただ言葉を並べた所で思いが通じる訳がない。それに、何よりも私にとって、今のマジェコンヌの有り様は……

 

「…最後に会えたのが、君達で良かった。一度は世界を守る側だった身として、未来を託すのが君達ならば安心出来る。本当に済まなかったな。……だから、私は…過去の記憶を抱いて、眠るとするよ…」

「……っ!マジェコンヌっ!」

 

バスタードソードを投げ捨て、私は走る。でも、私がマジェコンヌに触れるより前に、彼女は…きっと、悲哀に満ちた顔をしているであろうマジェコンヌは負のシェアの柱へと沈み--------消えた。

 

 

 

 

私達は、静まり返っていた。マジェコンヌの言う通り、彼女が負のシェアの柱へ入った瞬間から、ゆっくりとだけど目に見えて柱の様子が変わっていった。……マジェコンヌの、犠牲によって。

 

「…どうするですか…?」

「どう、って…悔しいけど、マジェコンヌの判断は妥当よ。考えるにしたってその間にも負のシェアは散布されるし、そもそもこんな馬鹿みたいなサイズのシェアの塊の制御方法なんて、他にあるかどうかも怪しいもの」

「だな。それが正気に戻ったマジェコンヌの犠牲によるものっつーのは喜べねぇが…あいつに何も声をかけてやれなかったわたし達がどうこう出来る事でも無いのかも、な…」

「…後味の悪い終わり方になりますわね」

 

ぽつりぽつりとコンパに言葉を返すノワール達。何となくだけど、三人の言葉の裏には女神としての不甲斐なさが隠れている様に思えた。

別に、三人が冷たいとは思わない。だけど、私は……だからこそ、国を持たない私は、言う。

 

「…私は、認めないよ」

 

女神化する私。女神化した瞬間、身体に鉛でも括り付けられたかの様な重さがあったけど…良かった、まだ女神化は出来る。

そのまま数歩前に出て、柱に手を当てる私。手が触れた瞬間、まるで拒絶されたかの様に手は弾かれる。

 

「い、イリゼ?諦めないって…どうするつもりよ?」

「どうもこうも、後を追うだけだよ」

「後って…その柱に突っ込むつもり!?そりゃ、貴女達女神なら私達よりは身体が強いけど…それでも無茶よ!」

「そんな事は無いよ。今ので分かったけど、善意のシェアと悪意のシェアは対極の存在なだけあって反発し合うんだよ。だから、入り込むのは難しいけど…逆に言えば、反発する力にさえ耐えられれば……!」

 

柱を見据えた私は、長剣を振り上げて一撃。それにより柱に生まれた切り口へと両手を突っ込み、引き戸を開く様に両側へと切り口を広げる。突っ込んだ腕には四方八方から…しかし割と予想通りの衝撃が走るも、ものの十数秒で人一人が入り込めそうな『入り口』が完成する。

 

「反発するからそう簡単には負のシェアには飲まれないと?確かにその理屈は分かりますわ…でも、わたくし達がそれを黙って見てるとでも思って?」

「見れば分かるだろ、柱は少しずつだが消滅…ギョウカイ墓場に戻るだけかもしれねぇが…してるんだ。それまでに出られなきゃ、お前もどうなるかは分からないんだぞ?」

「そうよイリゼ。私達は最初からマジェコンヌを殺すつもりでいた、そうでしょう?…酷い話だってのは分かってるわ、でも…自分の守るもの、大事にしなきゃいけない事を見極められなきゃ、今回は何とかなってもいつかは何かを失う事になるわよ。……危うくラステイションを失いかけた私の様にね」

 

皆が口々に私を止めてくる。皆の言う事は最もで、特にノワールの言葉には重みがあった。いつも思うけど、自分を心配してくれている人の言葉は凄く優しく、その言葉に甘えてしまいたくなる。……でも、私は止める訳にはいかない。だって、マジェコンヌは…あの人は……

 

「…私と同じだから」

「……同じ…?」

「うん。全てを失ったマジェコンヌと、最初から何もなかった私。失ったからこそ過去を求めるマジェコンヌと、何も無かったからこそ過去を求めた私。色々違う所はあるけどさ、過去が思いの多くを占めているって意味じゃ今のマジェコンヌも少し前の私も同じだもん。…だから、私はマジェコンヌを助けるよ。私は誰よりもマジェコンヌの気持ちの分かる人を、よく知ってるから」

 

そう言いながら私は、自分でも少し悪い事をしたなと思う。私にとっての過去の様に、人には触れて欲しくない事、他人がどうこう出来る訳じゃない事があって、相手の事を思っている人程それは声をかけられなくなる。

だから、私は自分自身の過去を出汁にして、私を思ってくれてる皆の気持ちを利用して、皆を黙らせた。…きっと、帰ってきたら怒られちゃうよね。

 

「…ごめんね、皆。でも、私は私自身の犠牲も認めないって気持ちは変わらない。だから、絶対帰ってくる」

 

そして、私はマジェコンヌの後を追う様に負のシェアの柱へと身を投じた。

 

 

 

 

イリゼが自分とマジェコンヌとを重ね合わせた時、わたしは無理にでも止めるべきだったと自分を責めた。あの時のわたしは、場違いにも少し嬉しさを感じていた。だって、魔窟の奥で見た、あの時イリゼと今のイリゼとは違うって、今を…わたし達との今を大切にしてくれているって分かったから。

だけど、そのせいでイリゼを行かせてしまった。一人で行かせてしまった。…ならば、わたしがすべきなのはただ一つ。

 

「……皆、皆は先に戻ってて。わたしはイリゼを助けに----」

「そう言うと思ったわよ。…行かせる訳ないでしょ」

 

柱へと走ろうとしたわたしの腕を掴むノワール。それは、一度冷静にさせようなんていう生易しいものではなく、絶対に行かせないという、強く厳しいものだった。

 

「…大丈夫よ、わたしは主人公。女神を守る女神のネプテューヌ……」

「そういうのはいいのよ。私は、貴女を行かせたりはしないわ」

「……っ…そりゃ、マジェコンヌの時はわたしだって迷ったわ。でも、イリゼまで行ったとなれば話は別よ、そうでしょう?」

「そうね、全然違うわ。…それでも、私は貴女を行かせたりしない」

 

いつになく強情な様子を見せるノワール。今までにもノワールと意見が食い違う事はよくあったけど、今回は何か違う気がする。皆もわたしと同じ違和感を抱いたのか、怪訝な様子でノワールを見つめる。

 

「…ノワール、貴女自分の言ってる事が分かってるの?」

「分かってるわよ。ネプテューヌこそ、自分がやろうとしてる事の無謀さを、分かってる訳?」

「分かってる…ううん、分かってるからこそ、わたしは行かなきゃいけないわ。イリゼ一人に無理させる訳にはいかないもの」

「…貴女、好きじゃない。『信じる』って。…私達と待つって発想は無いの?信じて待つって手もあるのが分からない?」

「……っ…!?」

 

ノワールのその言葉を聞いた瞬間、わたしはノワールの手を無理矢理振り解いた。

今、ノワールはなんと言った?信じるのが好きなら、信じて待て?……違う。それは…違う!

 

「ふざけないでよノワール…信じるって言葉を保身の為の道具にするんじゃないわよ!信じて待つって手もあるのは分かるわ、でも保身の為に待つ気は無いし、そんな事に信じるって言葉を使う気もさらさらないわ!……ノワールはそんな事言う人じゃないと思ったのに…失望したわ」

「……っ…」

「…貴女がイリゼをどう思ってるかは知らないし、どう思うかはノワールの勝手よ。…でも、それをわたしに押し付けないで。わたしにとってイリゼは大事な、大切な友達なんだから」

 

吐き捨てる様に言って、ノワールに背を向けるわたし。正直自分でも少し感情的になり過ぎだとは思ったけど、イリゼの事を思うと冷静ではいられなかった。…もし、ここでわたしが少しでも冷静さを取り戻していたら、この時点でノワールの気持ちを汲めたのかもしれないのに。

 

「…誰に止められようと、わたしは行くわ。皆、待つ辛さってのもあるとは分かってるけど…それでも、待ってて頂戴」

「……そんなに、イリゼが大事なの…?」

 

そう言って、イリゼと同じ方法で負のシェアの柱へ突入しようとするわたし。

そんな時だった。ノワールの声音が違う事が…さっきまでの、冷静さを失っていたわたしには気持ちの分からなかった声とは違う、何かとても大切な思いが込められている様な声が聞こえてきた。

 

「…ノワール……?」

「そんなに、そんなにイリゼが大切?私よりも大切だって言うの?」

「な、何を言って……ーーっ!?」

「私がイリゼをどう思っているか?…私だって大切な友達だと思ってるわよ。でも…それ以上に貴女を、それ以上に特別な思いを、ネプテューヌに抱いてるのよ!だからすぐ無茶しようとする、向こう見ずな貴女が心配で心配でしょうがなくて、このまま行かせた結果として貴女を失ってしまうのが怖くて、だから止めてるのよ!友達が大切だとか、主人公だとか言うなら…私の気持ち位分かりなさいよ、馬鹿ぁっ!」

 

ノワールらしからぬ声音と言葉に不審感を持ったわたしは振り向いて…唖然とする。だって、ノワールは泣いていたから。あの強くて気丈なノワールが、瞳に大粒の涙を溜めていたから。

 

「の、ノワール…貴女、それって……」

「ねぇネプテューヌ、貴女にとって私は何?私は貴女の友達じゃないの?」

「そ、そんな訳ないじゃない!ノワールだってわたしの大切な友達よ!」

「なら残ってよ!私の事大切な友達だと思ってくれてるなら…残ってよ……」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにしたノワールはわたしの胸元に顔を埋めてくる。わたしはそれにすぐ声を返す事も、慌てる事も…ましてや弄ったりからかったり出来よう筈もなく、暫し呆然としてしまう。そしてその後、激しい後悔に襲われる。

嗚呼、なんてわたしは馬鹿なのか。わたしは周りの人の気持ちを考えずに動いてしまう事があるって、ユニミテス戦の時に思ったのに。あれから、きちんと反省した筈なのに。なのに、わたしはノワールを泣かせてしまった。こんなにもわたしの事を思ってくれていたノワールの気持ちに気付かず、涙を流させてしまった。

--------なら、わたしはきちんとノワールに言葉を返さなければいけない。拙くても、ちゃんとわたしの気持ちを伝えなきゃいけない。そうでなければ、わたしはただのクズ女神でしかなくなる。

 

「……ごめんなさい、ノワール。貴女の気持ちに気付かなくて…貴女の気持ちを、分かってあげられなくて」

「…………」

「貴女の気持ちは、本当に嬉しいわ。だってわたしはノワールが大好きだもの。…でも、やっぱりノワールの言う事は……聞けないわ」

 

ノワールの返答はない。ただ、嗚咽と鼻をすする音が聞こえてくるだけ。…それがわたしの言葉をちゃんと聞いてくれてるからだと信じて、わたしは続ける。

 

「言ったでしょ?わたしは皆で最高のハッピーエンドを見るって。ノワールも、イリゼも…誰か一人でも欠けたら、それは出来なくなっちゃうもの。だからわたしは皆で見る為に、全てを尽くす。…それだけは、譲れないわ」

「……やっぱり…そう言うのね…」

「えぇ。…それに、わたしはここでイリゼを助けに行かなかったら、もう貴女の隣には立てない。大切な仲間を、友達を助けに行かないわたしなんか、ノワールの隣に立つ資格なんか無いわ。…貴女の隣にこれからも立つ為にも、わたしを行かせて、ノワール」

 

そう言ってから、ノワールを強く抱き締めるわたし。そしてわたしがノワールの背から手を離した時、ノワールもわたしから離れてくれた。その時のノワールの顔は、まだ真っ赤で、涙と鼻水に濡れていたけど、手の甲で目元を拭った次の瞬間には…いつも通りの、凛々しく格好良い、わたしの大好きなノワールの笑みが浮かんでいた。

 

「全く…ほんと、ネプテューヌはわたしの言う事を聞いてくれないのね」

「そうね。でも、ノワールの言う事をよく聞くわたしも嫌でしょ?」

「そりゃ勿論。……なら、絶対帰ってきなさいよ?もし帰ってこなかったら…その時は絶交なんだからね!」

「ノワールと絶交する位なら、それこそ死んだ方がマシね。…絶対帰ってくるわ」

 

そう言うとノワールはこくんと頷いて、わたしを送り出す様に肩を叩いてくれる。

目線を少しあげると、そこには皆の姿。その瞳には、わたしへの応援の気持ちが…わたしの背中を押す気持ちが溢れていた。

 

「頑張れよネプテューヌ。お前の言うハッピーエンド、わたしも期待してるんだからな?」

「ふふっ、期待してて頂戴。それ以上のハッピーエンドを見せてあげるから」

「全部終わったら、皆で打ち上げをしようと思ってるんですの。…音頭は、任せましたわよ?」

「任せなさい。わたしが音頭を取るんだから、過去最高の打ち上げになるわよ?」

「ねぷねぷ」

「ねぷ子」

 

 

『行ってらっしゃい(です)』

 

本当に、わたしは良い友達を持った。…だから、帰ってこなきゃいけないわね、絶対に。

 

「えぇ、皆…行ってきます」




今回のパロディ解説

・ボーナスドロップ
ソードアート・オンラインシリーズにおける、ラストアタックボーナスの事。残念ながら本作も原作もLAシステムは無いので、ラストアタックの意味は特に無いです。

・クランク二尉
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場する、敵サイドのキャラの事。もし倒したのが二尉ならば、本作は終盤どころか序盤も序盤、最序盤になってしまいますね。

・女神を守る女神
コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜の主人公、人吉爾郎の名台詞の一つのパロディ。基本どの女神も別の女神を守ろうとすると思いますが…そういうのは不粋ですね。


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第九十九話 全ての思い、その果てに

暗い、暗い、闇色の道。自分が道を通っているのか…いや、それ以前に前へ進んでいるのかすら分からない世界で、感覚だけを頼りに突き進む。天界に足を踏み入れた時には、まさかこんな展開(駄洒落じゃないよ)になるとは、思いもしなかった。

 

「柱の内側がこうなってたとは…」

 

より負のシェアの力が強い所へ行けばマジェコンヌを見つけられる筈、と思って暫く進んだ私。中は特殊な空間になっているのか、外観よりもずっと広かった。

柱の中は広大で、同時に負のシェアに満ち溢れている。推測通り私のシェアと負のシェアが反発してるからか即座に侵食される様な事は無かったけど…身体に影響が出るのは時間の問題の様に感じる。今の私の女神の力が万全ではない事を含めて、とにかく早く探し出したかった。

 

「…これで実はシェア濃度の薄い所にいました、とかなら洒落にならないや…」

 

この上なく精神衛生上悪そうな場所で少しでも気を紛らわせる為、わざわざ独り言をする私。同時に頭の中でポジティブな事を考えているうちに、ここへ突入する直前の事が脳裏に浮かぶ。

今までにも私は言葉や状況を利用して、自分の意見を無理矢理通した事が何度かあった。厳密に言えば無理矢理通したというよりも、『そういう事なら、まぁ…』『仕方ない、こちらが頑張ればイリゼも楽になるだろうし…』みたいな消極的納得や、それっぽい追加条件と引き換えの同意のパターンが多いけれど…今回はそれ等とは違う。今回私は納得させた訳でも同意させた訳でもなく、瞬間的な『封殺』をしてしまった。きっと皆はそれに怒りはしないだろうけど、同時に良い気持ちも抱いていないと思う。

そう考えると、私は自分で自分の首を絞めている様な気がする。私の中で多くの事を占めているのは友達や仲間の存在。なのに今回行なっているのは、境遇の部分で共感や同情が出来るとはいえ、友達でも仲間でもないマジェコンヌの為に、私を大事にしてくれる皆の気持ちを利用してしまった。それは、本当に正しい判断だったのだろうか。ノワールの言う通り、大事なものの見極めを謝れば何かを失う事になるのかもしれない。だったら、マジェコンヌを助ける事なんかよりも、私にとって最も大切な、皆の元へ戻る方が--------

 

「……っ…!?今、私何を……」

 

頭を振るい、今し方考えていた事を振り払う私。私は今、明らかにマジェコンヌの救出を止めようとしていた。実際に引き返した訳じゃなかったけど、そういう思考をし始めていた。あれだけ助けようと思い、皆に悪い事までしてここへ来たのに、マジェコンヌを諦めようとしてしまっていた。

これが私の心変わりなら良い。いや、良い事ではないけど、私は私自身が思ってる程意志の強い人間でも他人の事を思える人間でもなかったというだけで済む。…でも、もしこれが私の心変わりではなく、負のシェアによる精神汚染の影響だったとしたら……

 

「…早く、見つけ出さないと……」

 

ふぅ、と息を吐いて気持ちを切り替え、汚染になんか負けるものかと心の中で自分を鼓舞した私は、速度を上げて突き進むのだった。

 

 

 

 

どれ程進んだ頃だろうか。突然、私の全身にかかる圧力の様なものが消え、周囲の雰囲気が変わった。ただ、何だろうか…五感ですぐ分かる様な悪影響は極端に少なくなったものの、それ等とは違う、凝縮された何かが集まっている様な感じがこの場にはあった。

 

「…誰かは追ってくるだろうと思っていたが、よもや君とはな…」

 

突如聞こえた声にはっとして見回す私。見回した先には案の定、マジェコンヌが居た。…マジェコンヌ以外だったら色々とびっくり過ぎる。

彼女が居たのはこの空間の中心…と言ってもこの空間の外と完全に隔絶されてる訳じゃなさそうだけど…で、朧げに揺らめく『何か』の前に立っていた。

 

「…身体は、大丈夫なの?」

「あぁ。お前も分かっているとは思うが、ここはここの外とは違うからな。さしずめ、台風の目と言ったところだ」

「台風の目…だとしても、今のマジェコンヌは普通の人…コピー能力はあるんだろうけど…なんじゃ?」

「いいや?お前達に倒され力の大部分は失ったが、お前を除く四人の女神の力と昔得た犯罪神の力、それぞれの力の残滓の様なものは残っている。戦闘に使えるレベルではないが、多少のシェア耐性位は有しているのさ」

 

そういうマジェコンヌの顔は、無理をしている様には見えなかった。シェア耐性云々以前に私がバッサリやっちゃった訳だから助け出した後は即医療機関に運ぶべきだろうけど、一先ず負のシェアに汚染されて倒れたりまた堕ちたりする様な事は無さそうで安心する私。…けど、まだ一先ず安心でしかない。負のシェアの柱をどうにかしない限りは完全に安心とは言えない。

 

「……それは?」

「この柱のコアだ。シェアエナジーではなく、シェアそのものと言うべきものさ」

 

私がマジェコンヌに問いたのは『何か』について。色がある様な無い様な、視認出来る様な出来ない様な、そもそも存在している様なしていない様な…そんな曖昧な存在。それをマジェコンヌはシェアそのものと言った。シェアエナジーはシェアによって生まれた、或いは変化したエネルギー。つまり、シェアそのものと言うのは……

 

「……思い、って事?」

「そういう事だ。だが、それを言うなら先に『シェアそのものって言うのは』を付けた方が良いと思うぞ?」

「うっ……」

 

少々頬が熱くなるのを感じる私。結論部分だけを口にしてしまうこの癖はもう何度目だろうか。毎回恥をかくんだから、いい加減私も学んでくれないかなぁ!

……こほん。

 

「そ、それは気を付けるとして……なら、それさえなんとかすればマジェコンヌはこの柱と運命を共にしなくても済むんだよね?」

「無茶を言うな、これはなんとかするだのしないだののレベルでは無いんだぞ?」

「…運命を共にしなくても済む事自体は否定しないんだね?」

 

その言葉に返答は無い。けど、これは質問ではなく確認であり、確認に返答が無い場合は基本的に同意と取っても問題は無い。少なくとも、この場でマジェコンヌが否定を隠す必要があるとは思えない。

だとすれば、後はもう善は急げの精神で動くのがそれこそ最善。マジェコンヌは勿論私もゆっくりしていられる余裕は無いのだから。

 

「こういう方法は脳筋っぽいからあんまりしたくはないけど……」

「脳筋?急にどうした?」

「こっちの話……やぁぁぁぁッ!」

 

長剣を顕現、両手で持って振りかぶる。幾らシェアそのものでも真っ二つになれば無事では済まない筈。一撃で出来るかどうかは謎だけど、それについてはやってみなければ分からない。

そう考えた私は目標を見据え、真上からの上段斬りを叩き込--------

 

「……あれ?」

 

すかっ。そんな音が聞こえた様な気がした。

私の一太刀は明らかにコアの中心、人であれば正中線がありそうな位置を斬り裂いた……のに、コアには何の影響も無く、私の手にも物を斬った時の感覚が無かった。

…と、いう事は……

 

「…マジェコンヌ、もしかしてこれ……実体、無い……?」

「…気付いてなかったのか?」

 

今更?みたいな顔で返答をするマジェコンヌ。……そうですよ、気付いてなかったんですよ、固形では無いだろうと思ってたけどこんなホログラムを斬る様な感じになるとは思ってなかったんですよ…。

と、正直に言うのは流石に恥ずかし過ぎた為、これは心の中にしまい、努めて澄まし顔をしながら会話を続ける。

 

「……マジェコンヌはこれをどう制御してるの?」

「どう、と言われても困る。自分でも分からない訳では無いが、感覚的なものだからな…」

「私達で言う女神化みたいなものか…ん?女神…?」

 

ふと、私の頭に一つの仮説が浮かぶ。女神というのは信仰という形でシェアを集め、シェアが変化したエネルギーであるシェアエナジーを力とする存在。でも、これはあくまで国を統治し、善意のシェアを使う存在を主にそう呼ぶというだけであって、魔王ユニミテスや先程のマジェコンヌ、それに犯罪神もシェアに関する能力としては女神と変わらない。

そして、善意のシェアと悪意のシェアは真逆の立ち位置にあるけれど、結局の所どちらも『思い』である事には変わりない。善意のシェアの使い手と悪意のシェアの使い手、善意のシェアと悪意のシェアが共にプラスとマイナス、右と左の様に対極でありながら最も近しい存在である、表裏一体の関係だとすれば……私が機能面でコアに干渉出来る可能性は、ある。

 

「私は正規の女神じゃないけど…そこはもう一人の私が上手く作ってくれてるであろう事を祈るしかないかな…」

「今度は何の話だ、イリゼ」

「…マジェコンヌ、私がこれの制御を代わるよ。そして、その上で柱を消滅させる…!」

「な……ッ!?ま、待てイリゼ……!」

 

そう言いながらコアへと手を伸ばす私。さっき長剣で触れた時にはすり抜けてしまったけど、あれは思いという非実体…というかそもそも概念的なものに物理的な干渉をしようとしてしまったから。でも、今度は違う。幾ら女神でも全ての思い、全てのシェアが見えて触れる訳じゃないけど、これの様に朧げながらちゃんと見えて、しっかりと『存在』しているものであれば、女神に触られない道理は無い。

そう思って触れようとする私を、途端に慌てた様な声でマジェコンヌが止めようとする。……が、驚いていた分制止が一拍遅れ、止め様とする声が私の耳に届くのと同時に私の手の指先がコアに触れ憎い辛い許さないあいつなんかが悲しい不愉快だ殺してやる無念だふざけるなどっか行けクズのくせに酷いもう嫌だ怖い不細工が何であり得ない消えろ醜い辛辣だ死んでしまえこんな奴が勝手にしろゴミの分際で低脳が分かりたくもない馬鹿が恐い調子に乗るな無能野郎妬ましいあの人ばっかり失敗しろ恐ろしい犯したい--------

 

「っぁぁああああああああああああああっ!!?」

 

弾かれる様に跳び退き、頭を掻き毟りながら私は倒れ込む。

あぁ、駄目だ…吐き気がする、反吐が出る。--------こんなものが、人の抱く感情だって言うの…?

 

「……だから、待てと言ったんだ…」

 

ぽつりとマジェコンヌが呟く。そして、同時に理解する。何故マジェコンヌがコアを何とかする事で柱を消滅させるのではなく、柱と運命を共にしてでも制御だけに留めようとしていたのかを。……こんなもの、人が耐えられるレベルではない。

 

「…はぁ…はぁ……反転、するかと思った……」

「この世全ての悪の様なものだからな、これは。……大丈夫か?」

「人間不信になる人の気持ちがよく分かったけど…大丈夫…」

 

横たわった状態で息を整えてから立ち上がる私。立ち上がりながら見たコアは、先程とまるで変わらない様子をしていた。私は触れただけ、しかもたった一瞬なのだから影響が無いのは当然と言えば当然だけど…ほんの少し、私は絶望しそうだった。

 

「…そりゃ、こんなのに飲み込まれたら人も世界も壊したくなるよね。一人一人がこのレベルの悪意を生み出してる訳じゃなくて、思いを持つ全ての生命の悪意の集合体だって事はよく分かってても…醜悪過ぎてどうしようもない」

「……分かっただろう?コアを何とかなど不可能なんだ。…早く戻れ、この柱の中では何が起こるか分からない」

 

そういうマジェコンヌはまた悲しげな声をしていた。それが、女神でもどうしようもないと改めて分かった事で完全に希望を失ったからなのか、曲がりなりにも女神である私が、人の悪意に対し吐き捨てる様な感想を口にしたからなのか…何れにせよ、マジェコンヌはここに残るつもりだった。もし上手く私を丸め込めたとしたら、制御の役を代わってもらえるのにそれをせず、私達と世界の為に自ら犠牲者となろうとしていた。

……だったら、私はほっとく訳にはいかない。

 

「…ねぇ、マジェコンヌ。この柱を何とかしたら、その後貴女はどうしたい?」

「…何を言っているんだお前は」

「ここで死ぬんだからその後も何もあるか、って?…そうかもしれないね。でも、そうだとしても、考える事位は出来るでしょう?」

「…考えて、それで何になると言うんだ」

「…………」

 

乗り気ではないマジェコンヌ。そんな彼女を私はただ見つめる。すると数秒後、私の思いが伝わった…というよりも、単に観念した様子で口を開く。

 

「…世界を、見て回りたい。私は元々この世界が好きで、この世界と周りの皆を守ろうと思って先代の女神達に協力したんだ。だから、一度は守り、一度は壊そうとしてしまったこの世界を…もう一度、直接自分の目で見たい」

「……マジェコンヌは崇高で…良い、人だね。…だったらやっぱり、マジェコンヌには生き残ってもらわなくちゃ」

 

再び、私はコアの前へと足を運ぶ。今度は私が触れるよりも前にマジェコンヌが止める様声をかけてきたけど…それに私は首を横に降る。

 

「もう一人の私…本物のイリゼが生まれた時代はさ、今よりずっと荒んでたせいで、物凄く負の感情が多かったらしいんだ。でも、もう一人の私はそれこそ全てを賭けて人を守り、繁栄させる事で後の時代の基盤となる国を作ったんだ。……同じイリゼなんだから、私にだってやれない道理は無いよ」

「…お前と原初の女神とやらは、全く同一という訳じゃないだろう。それに、状況も違う…私の為に無理をするな」

「無理じゃない。私は私が思ったからしているだけだから。それに……女神の前に、奇跡の体現者の前に、不可能は存在しない!」

 

私はもう一人の私を自分に重ねる様に啖呵を切った後、両手でコアに触れる。

瞬間、私の中へ流れ込んでくる負の感情の奔流。それを感じた瞬間にはもう脳が焼き切れそうになり、抑えきれない程の悪意が私を飲み込んでいく。

憎い、憎い、世界が…全ての人が憎い。こんなにも醜く、こんなにも浅ましく、こんなにも不愉快で、こんなにも下劣な人の為に、目障りなだけの他人の為に戦うなんて馬鹿げている。そんな人間を守ろうとする女神に至っては最早憐れ、あまりにも愚かしくて、早く殺してやる事こそ正しい様に感じる。私がこう感じるのも世界の生み出した悪意の結果。故に私は被害者であり、私には全ての人を裁く権利がある。

嗚呼そうだ、破壊は救済だ。本当の正義を、真の正義を貫くのであれば、人も物も世界も、全てを抹消し無へと還元するべきだ。

 

 

--------でも、

 

「それでも…それでも私は、世界が…皆が、大好きだからっ!」

 

本当は、ちょっぴり不安だった。こんな膨大な悪意を相手にマジェコンヌを助け、無事に帰れるか不安だった。完全下位互換でしかない私が、もう一人の私と同じ事が出来るか不安だった。

だけど、諦められないから。諦めたくないから。

負の感情によって全てが憎く、全てが悪に感じたけど…それでも尚、私が今まで会った人、お世話になった相手、旅をしてきた場所全てが愛おしくて、恋しくて、無くしたくない、私の宝物だった。上手く説明は出来ないけど、そういう思いが私の中から溢れていた。

こう思えたのは、女神の根底にある『思いの写し鏡』としての性質のおかげかもしれない。もう一人の私の、未来、そして私への祈りのおかげかもしれない。大好きな全てが私に与えてくれた、大切な思いのおかげかもしれない。どれかは分からなかったけど、今はどうでも良かった。私の思いが、負の感情の奔流を押し留め、受け止めている…それは、紛れも無い事実だから。

 

「絶望しなくても良いんだよ。負の感情に頼らなくても良いんだよ。貴方達にも…誰にでも、何にでも、大切なものが…大切にしてくれる何かが、あるんだから…」

 

コアを、負の感情を両手で抱き寄せ、胸元で抱き締める。ただ私は私の思いを伝えたかった。この思いを感じた事で、負の感情が…それを抱いた人が、ほんの少しでも勇気を、希望を持ってくれればそれ以上に嬉しい事は無かった。

私は願う。全ての人が、心に善意を持ってくれる事を。この世界が…次元全部が、幸せを手にしてくれる事を。

--------いつしか、コアは消えていた。

 

 

 

 

負のシェアの柱が動きを止めた。それはネプテューヌとイリゼを待つ私達を歓喜させた。

負のシェアが崩壊を始めた。それはネプテューヌとイリゼ、そしてマジェコンヌを待つ私達を動揺させた。

 

「……っ…何してるのよネプテューヌ達は…」

 

つい貧乏ゆすりをしてしまう私。待つ、というのはいつももどかしいものだけど…今程もどかしく、慌てそうになる事はこれまでもこれからも無いと思う。……多分。少なくとも、本作中は。

 

「あらあら、まるで夫の帰りを待つ妻の様ですわね」

「はぁっ!?だ、誰がネプテューヌの妻よ!妙な事言わないでよねッ!」

「いやベールはネプテューヌの妻とは言ってねぇだろ…」

 

余裕の無いところにきたどキツいネタのせいで、酷い墓穴を掘ってしまう私。…指摘したブランを含め、後で殴っておかないと……。

色々際どいやり取りをする中、コンパとアイエフは誰が見ても分かるレベルで心配そうだった。最悪柱に突入出来る私達と違うのが、大きな要因かもしれない。

 

「もし、もしねぷねぷとイリゼちゃんが帰って来なかったら…」

「そ、そういう事言うんじゃないわよコンパ。…こっちまで、余計不安になるじゃない…」

「あいちゃん……」

 

更に不安げになってしまう二人。何か声をかけてあげようかと思った私だけど…その瞬間、柱の崩壊が加速する。

 

「……!おいおい、これは冗談抜きにヤバいぞ…」

「せめて、わたくし達にも何か出来る事があれば…」

「それが、待つ事でしょ。突入したって合流出来るかは分からないし、普通の柱と違って補強なんか……」

 

出来ない。そう言おうとしたところで私は止まる。

本当に?本当に補強出来ない?……いいや、そんな事はない筈。突入した時は柱に干渉する事で突入口を作ったんだから、触れない筈がない。

そして、私は……シェアのプロフェッショナルに他ならない。

ベールとブランに視線を送る私。二人も私の言いかけの言葉で同じ事を思い付いたのか、その場で頷く。三方に別れ、柱へと近付く私達。

 

「…何をする気なんですか……?」

「二人がマジェコンヌを連れて戻ってくるまでの時間稼ぎですわ」

「時間稼ぎ…どうやってです…?」

「わたし達が外側から掴んで、この柱のシェアを押し留めるんだよ。どれだけ効果があるかは分からねぇが…やってみる価値はあるぜ」

 

三人同時に柱へと手を突っ込み、爪を立てる様に掴む私達。地面を踏み締め、歯を食いしばって私達を弾こうとする力へと対抗する。

 

「やっぱり、ただ待つのは性に合わないわね…私達の力で、二人が戻ってこれる様にしてやるわ!」

 

女神は友達の為に、大事な人の為に力を振るう時が一番強い。そう信じて私は、私達は柱の崩壊に対抗した。

 

 

 

 

「終わ、ったぁ……」

 

ぺたんとその場に座り込む私。ここまで精神をすり減らしたのは初めてだった。精神的疲労がオーバーロードして身体的疲労にまでなっていたけど、そんなのは気にならなかった。だって、今の私には分かっているから。コアを失った柱は一気に崩壊し、消滅すると。

 

「…まさか、本当に何とかしてしまうとは……」

「私も驚きだよ…正直、第二のマジェコンヌになる可能性も十分あったし…」

「とんだ博打打ちだな、それは…」

 

呆れた様な顔をするマジェコンヌ。頬をかきながら苦笑を浮かべる私。マジェコンヌはぱっと見呆れ顔だったけど…私の目には、どこか安堵している様にも見えた。

 

「……これで、世界を見て回れるね、マジェコンヌ」

「…そう、だな……ふっ、諦めていた私すら助け出してしまうとは。凄い女神だな、お前は」

「それは勿論。だって私は…原初の女神・イリゼの複製体、もう一人の原初、オリジンハートだから」

 

にっ、と自慢げな笑顔を見せた後、立ち上がる私。連戦の上度重なる驚き、そしてこの場での精神的疲労と完全に私は疲労困憊だったけど、ここでまったりしていたら柱の崩壊に巻き込まれてしまう。せっかくここまでやったのに、最後の最後で脱出失敗なんて洒落にもならない。

 

「脱出するよマジェコンヌ。…今のマジェコンヌって女神より速く飛べる?」

「いや、絶対に無理だ」

「そっか…OK。完全消滅までの時間的に全力で飛ばないと不味そうだから、ちょっと手荒な飛行になるよ?」

「構わないさ、死ぬのに比べれば安いものだ」

 

コアに触れていたからか、私は柱の崩壊速度が大体分かっていた。脱出経路については空間が空間だけに『ここを通るのが最短!』みたいなものは分からなかったけど、行きとは逆に負のシェアの薄い方へと向かえば脱出出来るだろうと踏んでいた。

一度深呼吸をし、翼に力を込める私。さぁ、帰ろう。皆の待つ外へ…私の、居場所へ--------

 

 

「……え…?」

 

翼の感覚が無くなった。翼だけじゃない。身体を包むプロセッサの感覚も無くなり、見える景色が僅かながら変化した。

この感覚は前にもあった。そう、これは……

 

「女神化が…解けた……?」

 

汚染モンスター討伐と同じ……いや、違う。あの時とは違う…何かが、抜け落ちてしまった様な感覚。

そして、私は気付く。私が私である上で重要な、決定的なものが失われてしまった事を。

 

「…イリゼ……?」

「……ごめんなさい、マジェコンヌ…脱出は、もう無理かも…」

「無理……?」

「あは、は…私、もう…女神化、出来ないんだ……」

 

乾いた笑いを零す私。考えてみれば、当然だ。既に女神化が危ぶまれている中何度も戦い、惜しみなくシェアを引き出し、挙句こんな無茶をしたんだから、力を失うのも仕方のない話。計算が甘かった…楽観視し過ぎていた、私の自業自得。

そう、頭では分かっていた。……頭では。

 

「…やっと…全部終わったのに…助け出せたのに…後、ちょっとだけもってくれればそれで良かったのに…どうして、今……っ!」

 

今度は膝から崩れ落ちる様に座り込む私。辛くて、あまりにも悔しくて、思いがそのまま口から溢れる。

私に起きた事態を察してくれたのか、肩に手を置いてくれるマジェコンヌ。そこで私ははっとする。マジェコンヌに、酷い事をしてしまったと。

 

「…ごめん、本当にごめんなさいマジェコンヌ…」

「…どうして謝る」

「だって、私はぬか喜びさせちゃったから…一度希望を抱かせた後、それを私自身で打ち砕いちゃったから…」

「その事か…気にするな。確かにぬか喜びにはなったが…お前が来てくれなければ、制御をしていた私の魂は死後も負のシェアに囚われていただろう。普通に死ねる様にしてくれただけでもありがたいさ」

 

マジェコンヌの言葉は、私を慰める為に思いもしない事を言っている様には思えなかった。でも、それで私の気持ちが晴れる様な事はない。マジェコンヌを助けられなかったのは変わらぬ事実だし、何よりも…私は皆の元へ帰れなくなってしまったのだから。

 

「……っ…ごめん、皆…ごめん……」

「謝る事は無い、お前は最後まで立派だった。少なくとも、お前に非は一切無いと私は断言しよう」

「そう、かもしれないけど…そうじゃ、なくて…私は…皆の、所に…帰りたいよ……っ!」

 

視界が歪む。頬を涙が伝い、ぽろぽろと落ちる。このままもう二度と皆には会えないと思うと、お別れすら言えずに終わると思うと、寂しくて悲しくてたまらなくなる。

嫌だ。こんな最後は嫌だ。ちゃんと帰るって言ったのに、最後に言った言葉が嘘になるなんて嫌だ。もっと、もっと皆と遊びたい。どこかへ行きたい。笑い合いたい。もっと……

 

「もっと、一緒に居たいよ…居たいよぉっ……」

 

 

「--------なら、一緒に帰りましょ、イリゼ」

 

彼女は、私の前に現れた。いつか、私が絶望したあの時の様に。そして、私自身は覚えてないけれど、私がこの時代で目覚めるきっかけとなった、あの時の様に。彼女は……ネプテューヌは、私に手を差し伸べてくれた。




今回のパロディ解説

・反転
デート・ア・ライブに登場する、精霊がもう一つの姿になる現象の事。別に女神は反転なんかしません。というかそもそも女神は女神の姿が本当の姿なのですから。

・この世全ての悪
Fateシリーズに登場するサーヴァントの名前や用語のパロディ。「〜の様な」と言っている通り、作中のコアはそれっぽいだけであり、実際には全ての悪ではありません。

・私には全ての人を裁く権利がある
機動戦士ガンダムSEEDの敵メインキャラ、ラウ・ル・クルーゼの名台詞の一つのパロディ。元ネタも本作中でも本人がそう思ってるだけで、そんな権利は多分ありません。


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第百話(最終話) 私達の居場所

禍々しき闇色の柱が、負のシェアの柱が崩壊、消滅していく。天界で、四大陸で、中心部付近で…ゲイムギョウ界全土で見られるそれは、どこか幻想的で…そして、激しい戦闘の終わりを告げるものだった。

 

 

 

 

「皆〜生きてる〜…?」

 

どさっ、という音と共にファルコムが声を上げる。スカートではないとはいえ、両足を前に大きく投げ出して座る姿は女の子としてどうなのだろう、という感想を禁じ得ないものだったが…それも仕方のない話。それは姿こそ違えど皆一様にしてぐったりとしている事からも言える事だった。

 

「へとへとだけど…生きてるよぉ〜」

「こんな激しい戦闘をしたのは初めて…では無いけど、かなり久しぶりだよ…」

 

ファルコムの言葉に対し、鉄拳とサイバーコネクトツーが真っ先に返答をし、他の面子も似た様な反応を返す。

ネプテューヌ達に道中出会い仲間となった彼女達…通称別次元組のメンバーが請け負っていたのは、ギョウカイ墓場から続々と現れる汚染モンスターの撃破…所謂最初の防衛ライン構築だった。時間が経つにつれギョウカイ墓場以外に生息するモンスターも汚染化していったが、それでも一番の発生源はここであり、即ち下界においては最も危険度の高い戦線であった。

 

「流石に死ぬかと思ったな。過去にメールを送り、戦局を少しでも良くするべきだったか…?」

「それが出来るならマジでやってくれにゅ。これは相当な見返りを求めてもバチが当たらないレベルだにゅ」

「あはは、ネプテューヌちゃん達四女神様は国のトップだし、報酬には期待出来るんじゃない?」

 

息が整ってきたのか、普段通りの雑談を始める彼女達。本丸を叩くネプテューヌ達や突破される事が即、街や一般国民の被害へと繋がる各国での戦線に比べると、責任という意味での負担は軽かった彼女達だが、戦闘自体はまともな休息も取れずに戦い続けるというとんでもなく過酷なもの。それを死者ゼロで切り抜け、戦闘終了後すぐに雑談が出来る彼女達は、ネプテューヌ達女神とは別の意味で人の域を大きく超えていた。

 

「ネプテューヌさん達、か…天界に行った皆は大丈夫かな?」

「きっと大丈夫だよ。女神の皆はあたし達よりも強い訳だし」

「それに、汚染モンスターの発生が止まり柱も消えつつあるのが無事に勝った事の証明だろう」

「うんうん。それじゃあ、わたし達も戻ってお出迎えの準備しなきゃだね」

「やっと戦闘が終了したばかりというのに、皆元気な事だにゅ」

「わたしとしては、一番ちっちゃいブロッコリーちゃんが疲労の面でわたし達と然程変わらないのが驚きだけどね……」

 

鉄拳の言葉に『あー』と同意を示すメンバー達。それに軽く憤慨の様子を見せるブロッコリー。その後彼女達は立ち、その場を後にする。

それぞれの理由で、それぞれの旅をする彼女達。ぶっ飛んだ事態も、命懸けの戦闘も彼女達にとっては日常に過ぎない。そして、今日の様に皆で仲良く帰る事もまた、彼女達の日常だった。

 

 

 

 

いーすんさんが魔法で足止めした汚染モンスターに肉薄。迎撃を受ける前に素早く刺突しそのまま一気に斬り裂く事で両断するわたし。汚染モンスターは呻き声を上げながら消滅する。そしてそれきり、戦闘の音や汚染モンスターの唸り声は聞こえてこなかった。

 

「…これって、もしかして……」

「はい、終わったみたいですね(・ω・`)」

 

ずっとわたしと近くの人の援護をしていてくれたいーすんさんが空を見上げている。それにつられて見た先には、どんどんと消えていく負のシェアの柱があった。

 

「じゃあ…お姉ちゃん達が勝ったって事ですよね?そうですよね!?」

「そ、そうなりますね。…初めての戦闘は、どうでしたか?(・・?)」

「それは…大変でした。でも、皆さんがいてくれたから勝てましたっ!」

 

いーすんさんの言葉に、素直に返すわたし。細かい事を言うと初めての戦闘ではないけど…別にいいよね。相手に気付かれる事もなく一撃で終わったアレを戦闘って呼んでいいのか微妙だし。

するといーすんさんはちょっと微笑みながら、こう言ってきた。

 

「ふふっ。それは、一緒に戦った皆さんに言うべきだと思いますよ(⌒▽⌒)」

 

そう言われたわたしは、周りを見回す。そこに居るのは、国を守ろうと、お姉ちゃんの頼みに応えようと戦ってくれた数々の人達。皆ボロボロで、中には大事な仲間を失ってしまった人がいるのかもしれない。

だけど…だからこそ、いーすんさんの言う通りだと思った。全員が大団円を迎えられる訳じゃないのかもしれないけど、女神としてわたしは、お悔やみよりも先に勝利を、笑顔を皆に見せなきゃいけないんだと思う。…お姉ちゃんは、いつもこうやって考えていたのかな。

 

「…え、えっと……」

「ネプギアさん、多分ここだと聞こえる人は極一部だと思いますよ?(^_^;)」

「あ…そ、そうですね…」

 

頬をかきながらわたしは飛翔。出来るだけ多くの人が見える様な位置に飛んでから深呼吸。何人かがわたしの姿に気付く中、わたしは再度大きく息を吸って…声を上げる。

 

「あ、あのっ!汚染モンスターが襲ってこなくなったのは、お姉ちゃん達が勝ったからだと思います!それで…ここでの勝利は、皆さんのおかげです!皆さんの勝利です!だから、えっと……あ、ありがとうございましたっ!」

 

空中で頭を下げるわたし。すると数秒後どこかから、「こっちからはお尻しか見えないよー!」と言う声が聞こえ、それで二重に恥ずかしくなったわたしは慌てて色んな方向へ頭を下げ始める。

せっかくの言葉は所々詰まっちゃったし、その後は笑いも溢れた事もあって本当に恥ずかしい思いをしたわたし。でも、疲れ切った様子の皆さんが笑顔になってくれた事は良かったし、わたしへの声の中で「やっぱり姉妹だけあってネプテューヌ様と似てますね」という声があったのは凄く嬉しかった。

お姉ちゃん、わたしも国民の皆さんも頑張ったよ。ちゃんとお姉ちゃん達の帰ってくる場所守ったよ。だから、安心して帰って来てね。

 

 

 

 

負のシェアの柱の崩壊は、喜ばしい筈だった。いや、実際かなり喜ばしい。国の危機が去った事に喜べない様じゃ女神失格だもの。

でも、私は…私達はまだ素直に喜べない。だって、私達の戦いはまだ終わってないんだから。

 

「ぐっ…うぅ…お二人は、まだなんですの…?」

「くそっ…速くしてくれねぇと、手が焼き切れかねねぇ…!」

 

額からは脂汗が垂れ、マジェコンヌとの戦闘で負った傷は身体全体への負荷で再度血を流し始め、突っ込んでいる前腕どころか二の腕のプロセッサまでもが、負のシェアとの反発作用で消滅しつつある。それでも、柱の崩壊は止まらない。女神三人がかりとはいえ、この膨大な量のシェアエナジーを外部から押さえきれるなんて端から思ってはいなかったけど、分かっていても焦る気持ちは止められなかった。

それに、問題はそれだけじゃない。

 

「あぁっ、もう!もう一難は一難去った後に来なさいよ!」

「モンスターさんにも空気を読んでほしいですぅ!」

 

先の二度の戦闘と柱の崩壊は余程影響力があったのか、断続的にモンスターが襲ってくる様になってしまった。対応は柱で手一杯な私達に変わってコンパとアイエフがやってくれているけど…私達が三方に分かれてしまったせいで二人は走り回らなくてはならなくなり、実質モンスター退治とシャトルランを同時にやっている様な形になってしまっていた。訳ありとはいえ、三人の女神が二人の人間に守られるというのは情けなくてしょうがない。

 

「迷惑、かけるわね……!」

「ノワールさん達も頑張っているんだから、これ位当然ですっ!」

「それより、柱の崩壊を少しでも遅らせて頂戴!」

「えぇ、分かってるわ…ベール、ブラン、まだバテてないでしょうね?」

「はっ、聞くまでもねぇよ。例えこの腕がぺっきり折れようとも、二人がマジェコンヌを連れて戻ってくるまで耐えてやるぜ!」

「ここでわたくし達が止めてしまっては、戻ってくると言った二人の言葉が嘘になってしまいますわ。だから、二人の為にもまだ諦めませんわ…!」

 

唯一幸いである事を挙げるとすれば、それは全員の思いが一つになっている事だった。ネプテューヌは心が繋がる事自体が力になる、と言っていたけどそれは本当にその通りで、どんなにギリギリの状態だったとしても私達は持ち堪える事が出来ていた。

けど、それがいつまでも続く訳ではない。私達も二人も体力が無限にある訳じゃないし、私達が出来るのはあくまで崩壊を遅らせるだけだから、いつかは完全に崩壊して消滅してしまう。奇跡が起きれば話は別で、シェアは奇跡の力ではあるけれど…奇跡を自在に操れる程の技量はまだ誰も持っていないから、それをアテにする事も出来ない。

 

(だから…さっさと戻って来なさいよ…!)

 

段々と痺れる様な感覚になっていく手に力を込める。満身創痍の身体にはキツい負荷だけど、この負荷を感じられている間はまだタイムリミットではないという事。故にネプテューヌ達が戻ってくる前にこの感覚が無くなる事が一番怖かった。

でも、不安ではあったけど…同時に、大丈夫だとも思えた。これもきっと…いや、これこそが心の繋がりの、真の力なのだろう。私は皆を信じてるから。皆も私を信じてくれているから。この思いがある限り、きっと大丈夫。

そして、遂にその時が来る。待ち焦がれていた瞬間が。信じていた瞬間が。ネプテューヌが、イリゼと共にマジェコンヌを連れて帰ってくる瞬間が--------

 

『…………え?』

 

その瞬間、私は……ネプテューヌに、激突された。

 

 

 

 

右手でイリゼ、左手でマジェコンヌを抱えながら快適とは程遠い道のりを切り抜けるのは、相当な疲労をするものだった。

だからこそ、柱の中から脱出した時…皆のいる場所に戻れた時は、本当に本当に嬉しかった。

 

「……っ…何とか、帰ってこれ----」

「ねぷねぷっ!」

「ねぷ子っ!」

「きゃあっ!?」

 

外へ出られた事に安堵し、二人を降ろした瞬間にこんぱとあいちゃんに抱き付かれる。気が抜けていた事とくたくただった事が噛み合ってつい、わたしは悲鳴を上げてしまった。

一瞬の空白の後、「随分と可愛い声が……」みたいな顔をするこんぱとあいちゃん。途端にわたしは恥ずかしくなった。

 

「う、うぅ……」

「ねぷねぷ顔赤くなってるですぅ」

「女神化しててもたまにねぷ子は可愛らしくなるわよね」

「も、もう!二人共止めて頂戴!」

 

ちょっと離れて両側からわたしの頬をつついてくる二人。ぜ、前話では格好良い主人公的登場をしたのに次の話でこの扱いなんてあんまりよ!っていうかわたし女神よ!?

と、言おうとしたわたしを遮ったのはベールとブランだった。

 

「ネプテューヌはほんとにいつも元気ですわね…」

「わたし達に少し分けてほしい位だぜ…」

「ベール、ブラン…どうしたのよ、その格好は…」

「誰の為にこうなったと思ってやがる…」

「というか、それは貴女もではなくて?」

 

そう言われて自分の身体を見るわたし。…半裸だった。具体的に言うと、プロセッサが7〜8割消えていた。コスチュームブレイク状態だった。……男の人がパーティーメンバーにいなくて本当に良かった…。

努めて気にしない様にしながら、皆にも首から下はあまり見ない様にしてもらいながら、突入してからの話を聞くわたし。

 

「そうだったの…皆ありがとう。皆が居なかったらわたし達は帰って来られなかったわ」

「ねぷねぷ達の為ならお安い御用です」

「だな、それにネプテューヌ達が帰って来ないよりはずっとマシだ」

「そう言ってくれるとありがたいわ。…ところで、ノワールは…?」

 

先程から気になっていた事を口にするわたし。話の中ではノワールも出てきたし、何よりわたしが脱出した瞬間、わたしはノワールの姿を目にしていた。なのにノワールの姿が無いってのはどういう事かしら…。

と、思ったその時、

 

「いい加減…気付きなさいよ馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

真下から怒鳴り声が聞こえた。まさかと思って下を見たら…ノワールが居た。

 

「あ、ノワール…もしやセルフで三作目やアニメ版のネタを披露してくれたの?」

「な訳ないでしょうが!なんで私がここにいるか分かってるの!?」

「なんでノワールがわたしの下にいるか…?……まさかローアングルから肌色成分が増えたわたしを眺めたかったの!?」

「ぶっとばすわよ!?」

 

突入前が突入前なせいでちょっと気恥ずかしかった事と連続で弄られていた事があって、ついボケをかましてしまうわたし。…さっきからついが多いわね、わたし。

とはいえこのままボケているとほんとにぶっとばされ兼ねないのでノワールから離れ…ると見せかけて、軽く踏んでつついてみたりするわたし。ノワールがキレるギリギリを見計ろうとしていると……

 

「ふっ…はははははっ!お前達は正しく世界を救った勇者だというのに…その風格は全くないな。…だが、楽しそうで何よりだ」

「…マジェコンヌ……」

 

わたしの隣でずっと黙っていたマジェコンヌが、もう耐えられないと言わんばかりに笑い始めた(それに驚いている間にわたしは無理矢理ノワールに降ろされた)。初めはそれに呆気にとられるわたし達だったけど…彼女につられる様にわたし達も笑みを溢した。

その時、ノワール達が崩壊を抑えていた柱が中程から大きく折れ、あっという間に消えていった。あれだけ巨体を誇った柱にしてはえらく呆気ない終わり方だったけど…それまでノワール達が強引に柱の原型を留めさせていたのだと考えれば、それも無理の無い話だった。

 

「…まさか、本当にマジェコンヌまでも救って戻ってくるとは…脱帽ですわ」

「それは私もだ。改めて感謝を言おう、ネプテューヌ」

「わたしはイリゼの後を追っただけよ。だからそれはイリゼに言ってあげて」

「っとそうだ、イリゼよイリゼ。どうしたのよイリゼは」

 

あいちゃんがそう言ってイリゼを…ついさっきまでノワールが倒れてた隣で横になっているイリゼの方を見る。わたしやマジェコンヌと違い、一言も喋らないイリゼ。その様子を皆が心配するのは目に見えていたので、わたしは先んじて説明を行う。

 

「大丈夫、イリゼは寝てるだけよ。柱の中で、さっきの戦闘にも負けず劣らずの事してたみたいだから」

「あぁ、彼女は…いや、詳しい事はイリゼが起きてから直接本人に訊いてほしい。彼女にまつわる事を、私がべらべらと喋る訳にはいかないからな」

 

少しだけ節目になるマジェコンヌ。それがどの様な意味を含んでいるのかはよく分からなかったけど…マジェコンヌの言う事はその通りだし、わたし達自身まったりゆったり出来る程身体的にも精神的にも余裕は無かった。…わたしの場合は見た目的にも。

 

「じゃ、まずは下界に帰ろうぜ。国の事も気になるしな」

「そうですね。ここじゃ皆さんのお手当てもまともに出来ないです」

「イリゼもここじゃなくてちゃんとした所に寝かせてあげたいものね。それじゃ下界に……あ、あれ…?」

「ネプテューヌ?どうしたんです…あ、あら…?」

 

ぱたり、とその場に倒れてしまうわたし。それを心配したベールも、ノワールもブランも次々と倒れ、最後にはマジェコンヌも倒れてしまう。それと同時に女神化も解け、それに動揺するわたし達。

 

「え、え?どういう事よこれって…まさか負のシェアが何かを…?」

「いいや、違うだろうな。これは単に……」

「大怪我だからでしょ!あんだけ戦って、あんなに無茶したら倒れるに決まってるわよ!コンパ、ここで出来る限りの手当てしないと下界に帰れないわよこれは」

「そ、そうですね…皆さん傷が見える様に横になって下さいです」

「そう言われても…疲れもあって動く事もままならないわ…」

「なら仕方ない…転がしますからちょっと我慢して下さいね」

 

イリゼとマジェコンヌ含め、総勢六人が転がされる。女神と一連の戦いの黒幕が(一応)普通の人間二人に転がされるというのはとんでもなくシュールで、皆でそろって苦笑いをしてしまった。そして、わたし達が下界へと帰る事が出来たのは、それから数時間経ってからの事だった。……凱旋の時まで締まりがないわたし達って、一体何なのかしら…。

 

 

 

 

白とも黄色ともつかない、広い広い光の空間。いつの間にか、私は一人でそこにいた。…いや、違う。私一人ではない。

 

「…よく頑張ってくれた、イリゼ()

 

朧げだった目の前の人影が、その声と共にはっきりと見える様になる。女神化した時の私と瓜二つの…でも、どこか違う様な雰囲気を纏う女性。その姿を、その声を見紛う筈がない。彼女は……

 

「…久しぶり、ですね。イリゼ()

 

原初の女神・イリゼ。複製体の私ではない、本物の私。同時に私の産みの親でもある…数少ない、私が目覚める前からの私の関係者。その彼女が、今は私の目の前にいた。

 

「…前も思ったが、不思議な事をするものだな、君は」

「不思議な事…ですか?」

「その敬語だ。君も私も同じ存在。自分自身に敬語というのも変ではないだろうか?」

「そう言われると確かに…じゃあ、敬語じゃない方が良いかな?」

「するかしないかは君の自由だが、敬語でない方が自然ではあると思うな」

 

そう言いつつも、もう一人の私はまるで親の様な微笑みを私に投げかけていた。その表情を見るだけで私はもう一人の私との繋がりを感じられて嬉しかったけど…自分自身に親の様な顔するのも不自然なんじゃないのかな、という疑問が頭から離れなかった。

それと同時に私は一つの事を思い出す。私は確か、柱の中でネプテューヌの姿を見た後、気が抜けてそのまま気を失ってしまった筈。なのに周りにはネプテューヌもマジェコンヌもおらず、代わりにもう一人の私と自分の知らない場所にいる。…って、あれ?じゃあまさか……

 

「私死んだの!?やっぱ結局死んだの!?」

「落ち着けもう一人の私。確かに君は気を失ってはいるが、まだ死んではいない。それは私が保障しよう」

「そ、そうなんだ…良かった、これで死んでたら更にショック死する所だったよ……」

 

ほっとして胸を撫で下ろす私。だとすれば、今私は夢の世界かそれに近い世界にいるのかな?だとすればもう一人の私が居るのも納得出来るけど。

 

「…やはり、君に託して正解だった。私は未来を信じて、良かった…」

「…私一人の力では無いよ。それに…私はもう、女神の力は失っちゃったから」

「それでも、君は自分の大切なものを守る事が出来た。それに、負のシェアに…負の思いに希望を見せる事が出来た。…私はそんな君を、誇りに思うよ」

イリゼ()

 

優しい人だ、と思った。まだもう一人の私とは数度しか話した事はないけれど、彼女が優しい事は確信出来た。いっそ狂っているとも思える程、優しい人。それがきっと、本物のオリジンハートなんだと思う。そして、私こそもう一人の私がそんな人である事を、誇りに思う。

 

「……君はまだ女神だ。例え今は女神化は出来ずとも、君は女神だ」

「……どういう、事?」

「言葉通りの意味だ。…さて、そろそろ私は行くとしよう」

 

そう言うと同時に、光の空間が少しずつ消え始める。きっと、この空間が完全に消えた時、私は目が醒めるのだと思う。それは別に嫌じゃなかったけど…一つだけ、どうしても訊きたい事があったから、一歩近付いて声をかける。

 

「待って。…もし、私が…貴女と一緒に行きたい、って言ったらどうする?」

「……勿論、喜んで受け入れるさ。君は私自身であり、同時に私の大切な家族だ。君が来てくれるのなら、私も嬉しい。…だが、君には帰る場所があるのだろう?」

「……うん。皆の居る場所、そこが私の帰る場所だから」

 

安心した様に私が笑みを浮かべると、もう一人の私も同じ様な笑みを浮かべた。

私へと近付き、優しく私を抱き締めてくれるもう一人の私。

 

「…私はいつでも君を見守っている。もし私に会いたくなれば、その時はまたあの場所に来ると良い」

「分かった。これからも頑張るよ、期待しててね」

「あぁ。では、また…ばいばいイリゼ()

「うん。またね、イリゼ()

 

最後に女神化を解き、私に笑顔を見せて消えるもう一人のイリゼ。その顔に笑顔を返した後、私もその空間と共に消える。消えて、そして帰る。--------皆の待つ、私の居場所へ。

 

 

 

 

--------声が聞こえる。言葉の内容はよく分からないが、自分に対してかけられている言葉だという事は分かる。

--------揺れを感じる。どの様な形でなのかはよく分からないが、自分を動かし、移動させているのだという事は分かる。

 

 

----------------では、自分とは……誰?

 

 

----------------いつか、そう思った事があった。でも、今は違う。たくさんの事を知り、多くのものを得た今の私は、自信を持って言える。--------私は、イリゼだ。

 

うっすらと開いた目に移ったのは、皆の姿。私の大切な、私の大好きな、皆の姿。

私はきっと、これからもこの皆と…そして、いつか出会う新たな友と、共に歩むのだと思う。時には大変な事も、辛い事もあるだろう。でも、私は確信している。私の未来には……絶対に、皆と笑い合う姿があると。

はっきりと私に聞こえる声で、私が起きた事に気付いた一人が言った。それに続く様に、皆が私にそう言った。だから、私は言葉を返す。帰って来た居場所で言うべき、最初の言葉を。

そして、私は……もう一人の原初の女神は、原初の女神が産み出した可能性は、歩み続ける。

 

 

--------お帰り。

 

--------ただいま。




今回のパロディ解説

・「〜〜過去にメールを送り〜〜」
シュタインズゲートに登場するガジェットの一つの機能であり、重要な要素の事。さて、どこの段階で何を伝えるのが、一番未来をよく出来るのでしょうね。

・「〜〜例えこの腕がぺっきり折れようとも〜〜」
デュエルマスターズシリーズの二代目主人公、切札勝太の名台詞の一つのパロディ。別に柱から切り札を引き出せる訳ではありません。当然柱はデッキではないですよ。

・コスチュームブレイク
原作のスピンオフの一つ、超次元アクション ネプテューヌUにおける要素の一つ。挿絵があれば、女神全員が肌色成分増し増しのシーンだったでしょう。…見たいなぁ。

・三作目、アニメ版
原作シリーズ及びそのアニメ版であるV、Re:Berth3、THE ANIMATIONの事。えぇはい、ノワールがネプテューヌに潰されるのはお約束ですね。やれて良かったです。


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エピローグ 少女達の明日

「皆ーー!盛り上がってるかなーーっ?」

 

プラネテューヌの教会…否、元は教会があった土地に建設されつつある、とある建物の一角に響くネプテューヌの声。大広間にて発せられたその声は、建物の工事が一時中止されている事もあって部屋中に届いていた。

…いや、ネプテューヌの声が響いていたのはほんの一瞬だった。何故なら……

 

『いぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇぇいっっ!!』

 

その部屋に居た面子全員が、これでもかという程の声量で言葉を返したからだった。幼女からご老体まで、まさに老若男女が集まった、端から見たら一体何の集まりなのかいまいちよく分からない集団が、アイドルのコンサートに来たファンばりに声を張り上げていた。

まさか自分の叫びを超えてくるとは思っていなかったのか、驚いた様な顔をするネプテューヌ。その後彼女は満足そうな表情を浮かべ、ゆっくりとメンバーを眺めた後……

 

「…別次元組とかはともかく、皆それぞれ国の重要な人物だったり人を取りまとめる立場なんだから、もう少し自分の身を弁えた反応するべきなんじゃないかなぁ」

『感じ悪っ!っていうか(ネプテューヌ・ねぷねぷ・ねぷ子・お姉ちゃん)(さん・ちゃん・様)には言われたくない(わ・ですわ・ですよ)!』

 

最悪の事を言っていた。これにはもう大ブーイングである。しかしネプテューヌも流石にこれは本気ではなかったらしく、「あははっ、冗談じょーだん。ノリの良い皆は大好きだよ!」とすぐに訂正をした。

 

「じゃ、改めて…今日は一連の騒動解決&一作目ゴールの打ち上げパーティー!ベールの推薦通り音頭はわたしが取らせてもらうよーっ!」

『いぇぇぇぇいっ!でも後半メタいっ!』

「それにしてもよくこんなに人集まれたよね!名有りはほぼ全員参加じゃない?」

『何せ最後のお祭り回ですからねっ!』

「皆キャラ崩壊レベルのハイテンションとメタ発言だね!でも良いよ、せっかくのパーティー、楽しまなくちゃ意味無いもん!」

 

某サンシャインさんばりに騒ぐ私達。我ながら頭おかしいんじゃないかとも思うけど…ネプテューヌの言う通り、せっかくのパーティーで仏頂面してるのなんてつまんないし、ぎゅうぎゅう詰めのスケジュールでこそ無かったとはいえ、それぞれ命懸けだったり多くの人の生活を左右する選択を強いられていたりと心的疲労が積み重なった末の今なんだから、多少後で恥ずかしくなり兼ねない位のテンションになるのも仕方のない話だった。…それに、私個人としてもこういう馬鹿騒ぎ、嫌いじゃないからね。

 

「さぁって、こういう場合今までを振り返ったりもするんだろうけど…会場のボルテージもマックスだしそういうのは飛ばしちゃうよ!これぞねぷねぷスタイル!」

 

音頭、というかただの盛り上げ役状態のネプテューヌ。そして彼女はパーティー開幕の宣言を口にする。

 

「よーし、それじゃ『皆お疲れ様!最後はぱーっと打ち上げしようよパーティー』開始だよーっ!勿論お金は全部ノワール持ち!皆じゃんじゃん食べて飲んでねーっ!」

「そんなの言われなくて…はぁぁっ!?そんなの聞いてないんですけど!?ちょっ、ふざけんじゃ…」

『いぃえぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!』

「いえーい、じゃないわよ!っていうかケイとシアン!なに貴女達まで喜んでんのよ!?」

『……ノリで?』

「ノリで?…じゃ、なぁぁぁぁぁぁいっ!」

 

響き渡るノワールの絶叫。かくして、『皆お疲れ様〜〜パーティー』は幕を上げたのだった。……勿論、ノワール以外もお金を出して。

 

 

 

 

「しかし……開催までに結構時間かかっちゃったね」

 

カン、とグラスを当て合って乾杯をする姉女神組&コンパとアイエフ。私達同様何人かで集まる者、誰が用意したのか謎のカラオケセットで歌い出す者、用意して貰った料理の山(何人かは自分の好きな料理を作って山に加えてたけどね)にアタックする者…という様に、皆それぞれ好きな様にパーティーを楽しんでいた。…因みに私達がグラスに淹れたのはアルコールじゃないよ?年齢の概念が無いっぽい私達女神は飲んでも大丈夫そうだけど…見た目的にはアウトだし。

 

「そうですわね。わたくしとしては、終わった次の日かその次の日辺りにやる気でしたけど…」

「怪我の治療やら事後処理でパーティーどころじゃなかったものね。怪我の方は、完治したのもつい数日前だったし…」

 

ベールとブランが苦笑をしながら私に同意をする。私達がマジェコンヌに勝利し、負のシェアの柱が消えてから既に数週間が経っていた。ブランはさらっと言ったけどどっちも大変で、特に守護女神の四人は包帯や湿布を貼った状態で書類と格闘したり国内を駆け回っていたりした。その間、私は『最高戦力として最前線で戦いながらも最高指導者としての職務もこなさなきゃならないなんて大変だなぁ…』と見ているばかり。…だって私の国も国民もいないもん、戦闘はともかく職務の方まで深く関わったらむしろ問題だもん。

 

「でもさ、これでやっとゆっくり出来るじゃん?これだけ頑張ったんだし、たっぷり休んでもバチは当たらないよね?」

「…ネプテューヌ、一応訊くけど…それ本気で言ってる?」

「うん、そうだけど…何かあったっけ?」

「何かって…守護女神戦争(ハード戦争)終戦宣言と四ヶ国の友好条約及び同盟締結式が来週あるの忘れてるんじゃないわよ」

「……そうだった…」

 

げんなりとするネプテューヌ。事後処理において、最も割合を占めていたのがこれらの準備だった。実際これは今後の各国においてかなり大きな影響を持つ訳だから手を抜けないのも当然の話。

…だけど、記憶喪失のままである事が大きいのか…それとも別の理由があるのか、とにかくネプテューヌは他の三人に比べると乗り気じゃなかった。

 

「うぅ……イリゼ、わたしの代わりにお仕事してよ、お願いっ!」

「いやいやいや…私はオデッセフィアの女神だから。というか式典は女神化状態で出るものでしょ?」

「あ…ごめん、イリゼ…」

「ううん、いいよ別に。自分なりに納得はしてるからさ」

 

極力自然な笑みを浮かべて、自分の発言を気にするネプテューヌをフォローする私。あれから何度も試してみたけど…やっぱり、私は女神化出来なくなっていた。

 

「…納得出来るってだけでも、結構凄いわね」

「私もそう思うわ。私にとってこの力は命の次の次位に大事だもの」

「女神の力の恩恵は以外と多いですものね。特に不老は大きいですわ」

「え、何これもしや私の評価上がってる?後、多分私まだ不老だよ?」

「…そうなの?」

「うん。イストワールさんの説明ともう一人の私の言葉から推測するに、今の私は女神化に回せる程のシェアが手に入らなくなっちゃった状態っぽいからね。…それよりさ、今はパーティーを楽しまない?」

 

女神の力の件は納得しているとはいえ、あまり掘り起こされたくないのもまた事実。それに久しぶりに皆でわいわい出来る機会なのに小難しい話をするのも嫌だなぁ…と思った私は話を逸らす。すると皆も特に変な顔をする事もなく同意を示してくれる。…やっぱ皆も、私と同じ気持ちなのかな。

 

「…そうだね。それじゃ何する何する?ゲートボール?」

「何がどうしてゲートボールが出てくるのよ…」

「えー…あ、じゃあTCG?前やってくれるって言ったよね?」

「まさかこのタイミングで天界での会話を回収してくるとは…今度はほんとに何も持ってませんわよ?」

「むむ…だったらプリン早食い競争は?コンパ、プリンあるよね?」

「はいです。そう言うと思ってたくさん作ってきたです」

「流石コンパ、用意が良い…ってほんとに持ってきたの!?……ほんとに流石コンパだよ…」

 

ネプテューヌが会話を回して私達がそれに突っ込んだり、便乗したり、主導権を奪ったり…そんないつもの通りの会話を私達は繰り広げる。時々コンパのプリンを食べたり、他の集団にちょっかいをかけたりと、私達は大賑わいだった。そして私は、私の帰ってきたい場所が、また笑い合いたいと思った人達との日々が変わりなく、こんなに楽しく流れていく事が本当に嬉しかった。

 

 

 

 

「この度はご苦労様です、皆さんm(_ _)m」

 

自分専用の、ちっちゃな食器に精進料理もびっくりな程慎ましい量の食べ物を載せて移動するわたし。わたしが向かった先は、教祖の三人が集まっている場だった。

 

「あぁ、お互いお疲れ様、イストワール」

「お疲れというか、この後も国家間での仕事があるけどね…」

「仕方ないですよ、チカさん。それに平和になった故の仕事と考えれば、ありがたいものです」

 

別にわたし達教祖は特別仲が良い訳ではない。悪い訳でもないけれど、女神に比べるとフットワークが重いが為にあまり会う機会がなく、そういう意味では良いも悪いもなかった。そんなわたし達が自然と集まったのは…少なからず、わたし達も浮かれていたからかもしれませんね。

 

「さて、せっかく教祖が集まったのだから、情報交換でも…と、来るまでは思っていたけど…どういう訳か、この場に来たらその気が失せてしまったよ」

「あ、わたしもです。しかし珍しいですね、ケイさんはビジネスライクさに定評があるのに…」

「会場の雰囲気に当てられたのかもしれませんね。せっかくの機会ですし、たまには息抜きも良いと思いますよ( ̄∀ ̄)」

「しかし…こっちもこっちで中々突飛な面子よね」

 

と、何となく皆思っていたものの口に出せなかった事を、教祖歴が一番短かったからかチカさんが述べる。確かに、妖精っぽい人工生命体のわたし、見た目どころか言動まで男性に寄ってる(男性は男性でも美少年風)ケイさん、ベールさんの前とそれ以外でキャラの変わる、性格に反して病弱なチカさん、そしてわたし達や女神の皆さんと普段接しているにも関わらず、悪影響を全く受けていそうにないミナさんと、わたし達教祖も中々に個性的だった。ゲイムギョウ界は、変な集団ばっかりである。

 

「…ブラン様達の様に、わたし達で旅をしたら中々ネタになるかもしれませんね」

「いや、まぁ…ネタにはなるかもしれないけど…」

「ネプテューヌさん達とは違う意味で一筋縄ではいかない旅になる気がします…(^_^;)」

「僕達は、あくまで同じ立場の人間として、適度な関係でいるのが一番良い気がするね…」

「で、ですよねー…あはは…」

 

乾いた笑い声を口にするミナさん。前述の通り、わたし達は仲が悪い訳では無いんですけど…なんていうんでしょうね?同僚以上友達未満というか何というか…。

 

「…と、とにかく乾杯しましょ、なんか変な空気になっちゃったし…」

「そ、そうですね。…あ、あまり強くやらないで下さいね?(´・ω・`)」

「あぁ…普通の感覚でやったらイストワールさんは跳ね飛ばされ兼ねませんしね」

「ある意味君が一番突飛だよ…じゃあ、乾杯」

 

そうして乾杯を交わすわたし達教祖組。何といったら良いのかよく分からない関係性だし、快活に話が進む事も無いだろうとは思うけれど…この関係も、そんなに悪くはないと思うわたしでした。

 

 

 

 

「消えない鎖〜その手で壊して〜♪」

 

字幕と伴奏に合わせて歌い出すマベちゃんことマーベラスAQL。ドュクプェやらステーキやら太巻きやらを手にそれを聞く(たまに合いの手を打つ)別次元組のメンバー。彼女達は現在、カラオケセット周辺に陣取っていた。

 

「しかし、ステーキまで出るとは思ってなかったにゅ。来て正解だったにゅ」

「案外誰かの持ち込みなのかもしれないよ?あたしの食べてる太巻きもそうっぽいし」

「ステーキを持ち込んでも冷めちゃうと思うよ…?」

 

どちらかと言うと会話そのものより、食事やカラオケを楽しむ彼女達。…が、それもその筈、女神や教祖達と違い基本的にフリーだった彼女等はパーティー開催前に積もる話はあらかた終えてしまったからだった。

 

「でも、カラオケなんて久しぶりだなぁ…わたし何歌おう…」

「私は刻司ル十二ノ盟約でも歌おうか…」

 

食事ばかりに没頭するのも味気ない…という事でカラオケセット周辺を陣取っている彼女達。彼女達が歌う歌はどうも何か含みのある様な気がしているが…誰もそれは突っ込まない。色々な意味で面倒な事にならないよう、パロディは深く掘り下げ過ぎない。それがゲイムギョウ界人の共通認識だった。

と、そこで歌い終わったマーベラスAQLがマイクを下ろす。

 

「ふぅ、楽しかった。……あ、そう言えば皆はこれからどうするの?」

「歌うつもりだが?」

「そ、そんな数十秒後のことじゃなくて…やっぱり、どっかの次元に行くの?」

 

彼女のその問いは、皆が気になっていた事だった。ネプテューヌ達と違い、故郷の次元も目的も違う彼女等は、ずっと同じ次元で過ごすという事が今まで無かった。目的があって自ら去った事は勿論、無関係だった騒動に巻き込まれて次元移動する事もあった彼女達は、そもそもこうして先の事を語り合う事自体殆ど無かった。

 

「うーん…わたしは、もう少しここにいるかなぁ。今まで行ったゲイムギョウ界とこことは、少し違うみたいだし」

「わたしもだよ。この次元特有のゲームがあったらやりたいから」

「あたしは…冒険に出る為の資金集め直さなきゃだから、あたしもそうなるね。…まぁ、どうせ次も船が難破して無一文になっちゃうと思うけど…」

「そっか、皆そうなんだね。…これって、偶然かな?」

「…いや、それはどうなのだろうな」

 

意味深な発言をするMAGES.。アイエフ同様普段から時々そんな感じの発言をする彼女だったけど…今回は皆、その言葉に賛同するかの様な表情をしていた。

なまじ様々な次元、様々な騒動を経験してきた彼女達は、何となく思っていた。きっとまた、この次元で何かが起こると。

 

「…何かあった時、ねぷ子達だけじゃ不安だにゅ」

「ふふっ、ブロッコリーちゃんは毒舌の割に人の世話するよね」

「世話じゃないにゅ。ほんとに女神とその仲間達だけじゃ洒落にならない展開になり兼ねないだけだにゅ」

「…確かにな。他の女神も時折危なっかしい所を見せる」

「まぁ、それを言ったらあたし達もだけどね」

「だよね。結構ネプテューヌさん達に助けられてるし」

「うんうん。だから次何かあった時は、その時も協力してあげたいよね」

 

各々言う事は違ったが、結局は鉄拳の言う通りだった。更に言えば、イリゼと同じ様に彼女達もネプテューヌ達との旅や協力が好きだからこそ、ここに残るのだった。

彼女達の予想は、正しい。だが…いや、だからこそ、彼女達は平和である今を大切に、その平和な日々を謳歌するのだった。

……因みに、この十数分後ネプテューヌ達が合流し、急遽カラオケバトルとなったのだが…それはまた別の話。

 

 

 

 

会場の一角、BARの様なセットが置かれた場所で一人飲みをする男がいる。彼の名はサンジュ。彼は、自分はこの場に何故呼ばれたのだろうかと疑問に思っていた。

 

「…これを飲んだら、帰るとしようか…」

 

カラン、と氷の入ったグラスを傾け一口煽るサンジュ。そんな彼に声をかけたのは、意外な人物だった。

 

「…隣、良いか?」

「……っ!?お前は…」

 

目を見開くサンジュ。彼の横に来たのはシアンの父親だった。元々は友人であり、とある事故をきっかけに疎遠となってしまったサンジュとシアンの父親。彼等の再開は、実に十数年振りであった。

 

「…どうして、ここに…」

「シアンに呼ばれたんだよ。…ありがとな、うちの娘に協力してくれて」

「……っ…礼を言われる筋合いはない…昔、お前を助けられなかった私には…」

 

ゆっくりと首を横に降るサンジュ。しかしシアンの父親はそれを見て笑い出す。

 

「…何がおかしいんだ」

「何がも何も…あれはお前のせいじゃないっての。俺の想定不足、俺のミスだ。お前は昔からそういう所あるよな」

「…五月蝿い、第一人が気にしてる事を簡単に笑うな」

「だから気にする必要は無いんだよ。当事者の俺がそういうんだから、間違ってる訳あるか」

「お前……」

「…だから飲もうぜ、久しぶりによ」

 

そう言ってグラスを持ち上げるシアンの父親。サンジュはそれを見て、躊躇し、俯き…ゆっくりと息を吐いた後、自身のグラスを持ち上げた。

そして打ち合わされる二つのグラス。二人が今より少し若かった、あの時の様に。

 

「……良かったな、親父。良かったな、サンジュ…」

 

それを見つめるのはシアン。幼きいつかに見た様な、尊敬する二人の技術者のその様子を、やっとまた見る事が出来たと、彼女は心から安堵していた。

 

 

 

 

「はぁ、ここまで理解のない人が世の中にいるとはね…」

「あぁ、同じ男としてそれこそ理解出来ない」

「それはこちらの台詞ですね。私も貴方達を理解出来ませんよ」

 

何やら言い争う三人の男。それを眺める一人の少女。男達の目は真剣だった。信じるものを口にする、漢の目であった。

対して少女の目は半顔だった。少女は呆れた声で、もう何度目か分からないその言葉を口にする。

 

「…何を思って皆さんは巨乳と貧乳のどっちが良いかを真昼間から激論してるんですか……」

 

アホらしいと思いながらもその場を離れないフィナンシェ。別に激論の行く末が気になる訳ではない。単にほっとくと暴走してブランやベールに迷惑がかかり兼ねないと思っているからだった。

 

「激論もするさ!巨乳とは人類至高にして至宝の存在!男なら誰しもこれを夢見るというもの!」

「はっ、何のご冗談を。貧乳、いや慎ましき胸とは即ち、女性の奥ゆかしさや思慮深さを物語る存在。貧乳はステータスなのですよ」

「それは女性を見て胸を見ず、だよ。全体ばかりを気にしては、個々の美しさが分からなくなってしまわないかな?」

「何ですかその木を見て森を見ずみたいな言葉は…一点ばかりを気にして全体を蔑ろにする方が視野が狭いと思いますがね」

 

これがもうずっと続いているのである。この様な場でそんな話をしている貴方達が一番視野が狭いんじゃないでしょうか、とフィナンシェは突っ込みたい気持ちに駆られたが、そんな事をしても意味が無いのは明白。むしろ論争を加速させればパーティー終了まで一応無害なんじゃないかと思い始めたフィナンシェは、最後に一言言って去ろうとする。

 

「…いや、もう妥協点探せば良いじゃないですか。それじゃわたしはこれで……」

「……待てフィナンシェ。今、妥協点と言ったか?」

「え?…まぁ、言いましたけど…」

「妥協点、か…その発想は無かった…」

「…何を言っているんだい兄さん。僕達と彼の間に妥協点なんて…いや、まさか…」

「妥協も何も、相反する意見が折衷出来る訳…が……」

 

何かに気付いた様な様子を見せる兄弟とガナッシュ。いまいちよく分からずきょとんとするフィナンシェを他所に、彼等は三人同時に呟く。

 

『…女神化前は貧乳、女神化後は巨乳…彼女は盲点だった……』

「…………はぁぁぁぁっ!?」

 

信じられないものを見たかの様な反応をするフィナンシェ。男三人は、満足のいく結果を導きだせたと言わんばかりに握手を交わす。

そして次の瞬間、真に迷惑をかけられ兼ねないのはネプテューヌだと気付いたフィナンシェは彼女の元へと走るのであった。

……最も、ガナッシュは貧乳であれば誰でも良いという訳ではなく、兄弟も普段は女神化していない事の多いネプテューヌに見向きをする訳がなかった為、ネプテューヌが迷惑を被る事はほぼ無かったりする。

 

 

 

 

わたしは今、後悔している。発想そのものは悪くなかったと思うけど、あまりにも無策過ぎた。そのせいで……

 

『…………』

 

四人もいるのに誰一人喋らないという、大変気の重い空間が出来上がってしまった。

十数分過去へと戻れるのなら、『…せっかくだし、わたし達妹組で何か話そうよ』…と、言ったあの時のわたしに注意をしてあげたい。

そもそもの話、わたし達は面識自体がほぼ無かった。一度顔を合わせた程度の相手と仲良く喋るのは流石に無理がある。わたし達のお姉ちゃんみたいに人付き合いが豊富ならともかく、今のわたし達にそこまでの社交性はない。うぅ、今更お姉ちゃんを呼ぶ事も出来ないし…どうしよう…。

 

『…………』

 

やっぱり誰も話さないわたし達。…でも、このままじゃほんとにいつまでも話せない気がするし…ここは提案をしたわたしがきっかけとなる言葉を言うべきだよね。こういう時は、趣味の話がベター、かな。よ、よーし……!

 

「さ、最近飾りたくなる様な基盤見つけたんだ!」

「た、対物ライフルの破壊力って魅力的よね!」

「え、えほん…好き、なの……」

「く、クッキーっておいしいわよね!」

 

 

『……え?』

 

全員で目をぱちくりさせるわたし達。一体どんな偶然なのか、まさかの四人同時発言だった。そしてその後始まる、話題の譲り合い。しかもこの譲り合いも譲り合いで結構被ってしまい、まともな話へと入ったのはそれから数分後だった(わたしの話題とユニちゃんの話題はそれぞれ自分にしか分からないせいで全く使えませんでした。…残念)。

やっとの事で話を始めるわたし達。でも、すぐ話題が尽きてしまったり、それぞれ知識不足なせいか会話が盛り上がらず、結局お姉ちゃん達が合流してくれるまで楽しい会話というものはいまいち出来なかった。

わたし達妹組が仲良くなるまでは……もう暫く、かかるのかもしれない。

 

 

 

 

「随分と、時間がかかってしまいましたな」

 

不意に後ろから声をかけられるマジェコンヌ。サンジュ同様何故呼ばれたのか分からなかった彼女へと声をかけたのは、イヴォワールだった。

 

「お前は、確かリーンボックスの…時間とは?」

「勿論、守護女神戦争(ハード戦争)終結にじゃよ」

「…申し訳無い、私が弱かったばかりに……」

「責めるつもりはありませんぞ。貴女の勇姿は、よく知っておりますからな」

「よく、知っている…?」

「見た目通り私は長生きですからな。…貴女が、先代と共に犯罪神の封印に当たったという話は、若造の頃の私にとっては心踊る冒険談と同義でしたぞ」

 

彼の言葉に、マジェコンヌは目を見開く。もしかしたら自分が汚染させる前から生きている人がいるかもしれないとは思っていたが、まさかこんな近くにいるとは夢にも思っていなかった。

そんなマジェコンヌの驚きを他所に、イヴォワールは楽しげに話す女神達に目をやる。

 

「…マジェコンヌさん。グリーンハート様達が…皆様がいつまでも平和でいられると思いますかな?」

「……それはないだろう。いつかはまた戦いとなる。それも恐らく、一度ではないだろう…」

「やはり、ですか…」

 

マジェコンヌも、イヴォワールも…そして世界の記録者であるイストワールも分かっていた。女神の人生は戦いの人生。一時の平和はあったとしても、恒久の平和を得る事は決してなく、命尽きるその時まで戦いからは逃れられないという事を。今は幸せそうに笑い合う彼女達も、いつかはその手を人の血で染める事もあり得るという事を。

 

「……支えたいですな、女神様達を…」

「そう、だな。…私達の出来る事を、やれる限り…」

 

だから彼女等は祈る。少しでもこの平和が続く事を。少しでも、皆が笑っていられる事を。

 

 

 

 

記念写真を誰かが撮ろうと言った。中々のメンバーが揃ってるという事もあり、それにはすぐ全員が賛成し…案の定ぎゃーぎゃー五月蝿い写真撮影となった。

 

「よっし、本作ラストシーン、終了のポーズ、びしっ!」

「最後の最後までパロディ!?」

「ちょっ、ちょっと近い…近いですって!」

「これ写る?撮ったら見切れてたとかないよね?」

 

写真一つでも時間がかかってしまう、ふざけてしまう彼女達。でも、それが彼女達の日常だった。

 

 

信次元・ゲイムギョウ界。思いが力に、感情が形に、夢が未来に姿を変える世界。争いも、戦いも、謀略もあるけれど…それでも、そこでは今日も様々な人間が、色々な日々を…楽しく暮らしている。




今回のパロディ解説

・「消えない鎖〜その手で壊して〜♪」
閃乱カグラのアニメ版OP、Break your worldの歌い出しのパロディ。何故マベちゃんがこの歌を歌っていたのかは…まぁ、見た目を知ってる方ならすぐ分かりますね。

・「刻司ル十二ノ盟約」
シュタインズゲートのアニメ版EDの事。こちらも原作プレイヤーや、本作におけるこれまでのMAGES.の言動を覚えている人であれば歌おうとする理由が分かると思います。

・貧乳はステータス
SHUFFLE!やらき☆すたに登場する名(迷)台詞のパロディ。…まぁ実際ステータスですよね。私は他の魅力に合う胸を持っているのが一番良いと思いますがねっ!

・「〜〜本作ラストシーン〜〜びしっ!」
生徒会の一存 碧陽学園生徒会議事録及びそのアニメ版のヒロインの一人、桜野くりむの台詞のパロディ。本作のパロディは生徒会で始まり生徒会で終わりました、満足です。


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あとがき

初めましての方は初めまして、感想やら誤字報告やら近況報告やらでやり取りした方はお久しぶり、どうもシモツキです。

えー…はい、まぁ取り敢えず皆さん落ち着いて下さい。『何だよ、エピローグのその先のストーリーがあるのかと思ったらあとがきかよ』とか思ってるかもしれませんが、一先ず落ち着きましょう。というか、本編の後にあとがきがあるのは至極当然の事じゃないですか。…と、いう訳で今回は私のあとがきに付き合ってもらおうと思います。……あ、もう既に感じているかもしれませんが、ちょくちょく文庫本のあとがきかと突っ込みたくなる様な表現をします。…だってやってみたかったんだもの。

 

さて、前書き(あとがきの前書き…?)はこの位にして、あとがきのメインに入ろうと思います。あとがきのメインってなんだ、あとがきってそもそもサブ的な立ち位置だろう…とも思いますが、まぁ良いのです。

最初は…書き終えた感想ですかね。えー…こほん。

 

むずっ!物語書くのむずぃ!超むずぃ!めっさ疲れた!

 

…って感じですかね。多分これは他のハーメルン内作家さん…どころか本職の方も思ってるんじゃないでしょうか。小説は文書が書ければ一応形になるので、他の創作物より特殊な技術が要らないから楽…なんて言う方もいますが、逆に言えば文章だけで全て表現しなければいけないが故の難しさもあると思うのです。……いや別に楽しくなかった訳じゃないですよ?自分の想像を形にして、しかもそれを単なる妄想ではなく曲がりなりにも『作品』として公開してきた事は本当に楽しかったですし、やって良かったと思っています。…そもそも趣味の範囲、利益も責任も無い事ですからね。私個人としては無利益二次創作だろうが作り始めて公開もしてるのであれば、生み出した作品自体や応援して下さってる(=応援したいと思わせた)方々への責任を感じるべきだと考えていますが、それはまた別の話。詰まる所、創作のマイナス面よりプラス面の方がずっと大きかったから最後までやった訳です。という訳で感想は以上、感想は言い出すとキリがないですからね。

 

ここからは本編関連の話をしましょうか。…あ、一応言っておきますが、当然これ以降は暫くネタバレとなる要素が多岐に登場するので、まだ本編を見ていない方は本編を見るかある程度飛ばすかをお勧めします。まとめて公開された訳でもないネット小説をあとがきから読む人がいるかどうかは謎ですが。

まずは、ダブル主人公の一角であり現状唯一の名有りオリキャラ、イリゼの事ですね。彼女の産まれるまでの経緯を話しましょうか。…こほん、

 

--------彼女が産まれたのは紀元前。オデッセフィアの女神であったもう一人のイリゼが……

 

と、言うのは『作中での』イリゼの産まれですね。数十文字程無駄使いをしてしまいました、ごめんなさい。

それでは改めて…実は、元々イリゼはこことは別の場所(他の小説投稿サイトではないですよ)で産まれたキャラなのです。しかも、そっちは複製体ではなくオリジナルの方のイリゼです。なのでそっちのイリゼの設定を参考…というか流用して産まれたのが主人公のイリゼという訳です。

こんな感じで産まれたイリゼですが、正直『全体的に薄いキャラだなぁ』と言うのが作者としての感想です。もう一人の主人公であるネプテューヌが個性の塊であり、本作が処女作と言う事で無難な性格にまとめたのですが、もう少し個性強くしても良かった様な気がします。

続きまして既存メインキャラ達の説明を。当然既存なので大きな変化は与えず、どちらかと言えば再現に努めていた感じですね。ですが、プラネテューヌ内でのユニミテス戦におけるネプテューヌやネプテューヌが負のシェアの柱に突入する前のノワールなど、時折独自色を入れました。それについては、各キャラに私の思い描く一面を付加させたという感じですね。ただ、キャラ崩壊させるのは私の性に合わないので、あくまであり得そうな域に留めておきました。…と、留まってますよね?

思い描く一面、というとシアンやフィナンシェの様な名有りサブキャラ達もそれなりに付加させたと思います。これは特に男性キャラですね。全体的に原作での『憎めないし根っからの悪人ではないけどしょうもない、アレな人達』から、『しょうもないしアレだけど、根は善人の様だし稀に見せ場もある人達』へと変化したと思います。味のあるサブキャラになってると感じてくれたら幸いです。

次は文章、表現関連といきましょうか。これは…正直反省点だと思っています。多くの方が気付いていると思いますが、前半と後半で大きく作風が変わってしまいました。具体的に言うと、原作からの台詞流用が多く地の文が短めの前半と原作台詞があまりなく、地の文がやけに多い後半という形ですが…これは駄目ですよね。狙ってやったなれともかく、書いてるうちにそうなってしまったのですから駄目駄目です。本当にごめんなさい。…で、こうなってしまった原因(言い訳にもなりますが)として大きいのは、先に上げた原作からの台詞流用だと思います。原作プレイヤーの方はご存知の通り、原作のイベントパートは基本的に地の文のない、会話のみで進む形となっています。その背景や立ち絵、効果音だけでは表現しきれない部分を会話で説明している、地の文を必要としない原作会話をほぼそのまま流用した為に、地の文が少ない構成になっていたのだと思います。……え、だから何だって?…そ、そりゃ他の作者さんへのアドバイスですよ。まさかただただ反省を漏らしてただけな訳ないじゃないですか、やだなぁ。

……ごほん。要は前半は私以外の人による表現が混じっていたという事であり、元来私は地の文を多めにするタイプ(の様)です。これの理由は簡単で、私が色々と説明したい性格だからです。お分かりの通り後半の地の文には無駄…ではないと思いますが、無くても物語としては困らないものが割とあります。それプラス独自の会話(=地の文がある事前提の台詞)の結果、後半は地の文の比率が高くなった訳です。小説は、ギャグ要素がメインの場合は会話が多く、ミステリーやバトル要素がメインの場合は地の文が多い傾向がある(私の偏見も多少有り?)ので、私は後者向きという事になるかもしれませんね。…二次創作をたった一作品作っただけで判断出来るのかはかなり怪しいですが。

 

あぁ、そういえばもう一つ本作を作り終えての感想…というか、驚いた事があります。作り終えてというか、第九十九話辺りからですが……寂しい、って感じる様になりました。まだ終わらせたくない、って思う様になりました。自分で作った作品なのに、本作が最初で最後の作品なんて事はないのに、それでも『最終回』を迎える事が辛くなりました。

……やっぱり、好きなものが終わってしまうのは残念ですよね。

 

それで。だからと言って、ではないですが…

 

続編、作ります。制作決定です。

 

はい皆さん喜んでー、感想欄でも多少触れはしましたが、正式に制作決定の文字が出たのはここが初めてですよー。

…おっと、次に貴方達はこう言う!『あ、やっぱりね』と。ふふーん、読者の皆さんの考えている事なんて、私には全てお見通しなんですからね!

……などという冗談は置いといて、実際皆さんやっぱりと思ったのではないですか?上記の通り続編については感想欄でも触れてますし、本作中でも原作の二作目(Re:Berth2)に繋がる様に一部設定や登場キャラ変更をしてたんですから。…あ、ここで一つ言っておくと、最初から本作は単発では終わらせないつもりでしたが、執筆開始直後と後半とでは二作目との繋げ方を少々変更しているので、本作の序盤部分には中〜終盤との矛盾点があるかもしれません。

なんと、本作は最後まで読んだ後、あるかもしれない矛盾点を探すという目的で再度最初から読む事が出来ます。ゲームにおける二周目的感覚をネット小説で味わえるなんてお得ですね。更に矛盾点があった場合、それを指摘してくれれば私もすぐ矛盾点の解消が出来る上、設定や描写の齟齬を発生させてしまった事を上手い事誤魔化せるので、一石二鳥どころか一石三鳥です。やったね。

さてさてでは、ここでその続編のタイトル公開といきましょうか!はいではご注目!続編のタイトル、それは……

 

『超次元ゲイムネプテューヌ Origins Interlude(仮)』

 

です。……あ、最後の(仮)は正式決定ではない、という意味で付けているのであり、(仮)まで含めてタイトルという訳ではありません。それと、『Re;Berth2』がタイトルに組み込まれていない事とInterludeの意味から分かる通り、これは本作とRe;Berth2編との間の物語で、本作の後日談でありRe;Berth2編の前日談という位置付けとなっています。

何故、Re;Berth2編ではなく中間の物語をやるのかというと、一つは本作で思ったよりラブコメやサブイベントが出来なかったからです。ラノベ、特にラブコメ要素のある作品をそれなりに読んでる方は分かると思いますが、本編の中にやりたい事全てを入れるのはかなり難しいのです。勿論最低限のラブコメやサブイベントは本編に入っていますが、入れ過ぎるとストーリーの進行が遅くなってしまいますし、主人公がいない場でのイベントは描写し辛い(群像劇スタイルなら別)為、それらを消化する番外編を作るかライトノベル雑誌的なのに掲載(その後、数話分をまとめる&一部書き下ろしして単行本に)する場合が多いです。なので、作品としてはそういう立ち位置になると思います。……本編連載中に同時進行でやるのがベストだったんですけどね、ほんとは。

もう一つは、違和感が出来るだけ少ない形で二作品を繋げる為です。本作中でも上手く繋がるよう工夫しましたが、そもそも原作であるRe;Berth1とRe;berth2は繋がりのない別次元という設定なので、全く違和感無く二作を繋げる事はほぼ無理だと思います。それでも少しでもその違和感を減らしたいと思い、二作を繋げるパイプ的な存在としてOrigins Interludeを執筆する予定となった訳です。後はまぁ、ちゃんと政治してる女神を描写したいとか、掘り下げが出来なかったメーカーキャラ達の個性を発揮させたいとか、そんな感じの思いもあったりします。作風としては、ギャグパートは会話多め地の文少なめ、真面目パートは地の文多め(会話はその時々で変化)という複合型っぽい感じになるでしょうか。もしこんな展開を見てみたい、このキャラが本編後何してるか気になる、という場合はリクエストしてくれれば出来る範囲で書きますので、どんどんリクエストして下さい。…あ、コラボも受け付け中ですよ。本編終了後だとイリゼが女神化不能なので、少々打ち合わせが必要になりますが。

 

そんな次回作ですが、平常運転が売り(?)のシモツキさんの本領発揮と言わんばかりに、今まで通り今週の木曜から開始!……とは、残念ながらいきません。でも別に暫くお休みをするとか、全く別の作品を作る(構想はあるので、別作品を作る可能性は低いですがゼロではありません)とかではないです。

じゃあ何をするのかって?皆さん、少し本作を見返して見て下さい。従来の二次創作にはあるものが無いと思いませんか?そう、キャラ紹介です!更に言えば設定解説なんかも無かったりします!いやーこれは不味いですね、設定を考えたり設定を見たりするのが大好きな私としては由々しき事態です。

という訳で、もう少し本作は話数が増えます。設定解説はともかくキャラ紹介があとがきの後ってかなり無茶苦茶な気もしますが、今更言っても後の祭り。次回以降は気を付けようと心に刻みつつ、書いていこうと思います。…キャラ紹介には既存キャラも載せますよ?原作をあまり知らない人もこれを見れば大丈夫!無論キャラ紹介に載せるのは本作における説明であり、原作での事を知りたいのであれば原作をプレイするなりwikiを見るなりした方が良いですけどね。

それと、設定や用語についてよく分からない部分があるのであれば感想欄なりメールなりで教えて下さい。それについてはきっちり設定解説に載せようと思います。元々原作は詳しい設定が公開されてなかったり細かい所が設定されてなかったりしますし、そこに私が独自解釈を入れた部分も結構ありますからね。そしてやはりこちらも本作における設定解説です。原作に通用しない点や矛盾してる点も存在する可能性があります(敢えて設定変更したのではなく、単に私が原作での設定を知らなかっただけのパターンもあるかもしれません。そこはご容赦下さい)。

 

うーん、作品関連で話す事はこれ位でしょうか。…結構あとがき書くの楽しいですね。某あとがき作家さん並みにしょっちゅうこっちゅう長いあとがきを書く事になるのは辛そうですが、たまに書く分には普通に楽しいと思います。…ぶっちゃけた話、変に縛りが無い分本編より書きやすかったかもしれません。次のあとがきが楽しみです。

後は…本職の作家さん宜しく、日常出会った事を話すのも一興ですが、そんなに面白いネタもありませんし、余ったページを埋めるというノルマが無い以上、わざわざする必要もないですね。という訳でそろそろまとめに入っても良いのですが…その前に、私の作る作品全体での思想…なんて大層なものではないので、こういう作品にしたいなぁと思ってる事を語りましょうか。

まず、私はオリキャラや他作品キャラ(本作にはいませんでしたが)が活躍し過ぎる事を避けています。これは私のページにおける『原作を尊重する』と同じ意味で、早い話がメアリー・スー状態にしたくない訳です。クロスオーバーはまさに夢の共演だと思いますし、IFも面白いからこそ作られるのでしょう。しかし前提としてそれ等は基本二次創作で、それはつまり一次創作(原作)があるという事です。そして本来は一次創作内だけで回っていた筈のところに存在しない、謂わば異物であるキャラが登場して活躍し過ぎるのは、ある意味で原作を蔑ろにしている様に思えるんです。だから、私の作品に登場するオリキャラやネプテューヌシリーズ以外のキャラは皆、原作キャラにちょくちょく助けられたり時には敵に負けたり、或いはそもそも活躍の機会が限られてたりする事になります。原作愛あってこその二次創作ですもんね。

それともう一つ。私はハッピーエンドが大好きです。最近は『慈悲なんてない、非情で残酷な世界で泥を啜り、全てを犠牲にしながらも血生臭く生き残る』なんて物語が半ばご都合主義へのアンチテーゼの様に有名になったりしていますが、私はあまりそれを好みません(駄目、とは言いません。私の好き嫌いですから)。多少ご都合主義でも、皆幸せで終わるハッピーエンドの方が好きです。だってそうじゃないですか。自分の作品というのは自分の自由に創れる世界で、その世界の住人は皆自分で産み出した存在です。ならば、どうにか出来る範囲の人全てを幸せにしてあげたいと私は思います。せっかく自由に動かせる世界なら、現実よりも楽しく幸せな日々を過ごさせてあげたいじゃないですか。ネプテューヌシリーズを原作にしたのは、その思いに合いやすかったというのが理由の一つだったりしますし、先に上げた男性サブキャラが特にその影響を受けていた様な気がします。勿論、悪い事をすれば何かしら報いを受ける可能性は高いですし、悪い事をしてなくても辛い目に合うかもしれません。それでも、どんな敵キャラ、悪キャラでも一つ位は良い面を付加させるつもりで書いてますし、最終的にはいつもハッピーエンドになる様ストーリーを進めています。偽りかもしれませんが、薄っぺらいのかもしれませんが…私の創る世界の中で位は、皆幸せでいてほしいんです。

……ちょっと真面目な話しちゃいましたね。陽気で頭おかしめのシモツキさんらしくなかったかもです。まぁこの事は本作は勿論、今後の作品全てにまつわる、私の作品の根幹的なものなので、今後読む時も『シモツキの作品だから、これも甘ちゃん世界なんだろうなぁ…』とでも思っていて下さい。その上で、『…まぁ、それも悪くはないのかもね』なんて思ってくれたら嬉しいです。

 

大分色々と書きましたし、あんまり長くやり過ぎると飽きられそうですからそろそろ締めに入りましょうか。最初の方でも書きましたが、本作は楽しく書く事が出来ました。特にパロディが顕著で、第二話以降一度も休む事なく出来たのはやはり楽しさ故だと思います。休む事なく、というと週二ペースの更新を最後まで続けられましたね。これについては自分を褒めてあげたいです。定期更新お疲れ様、私!……なんてね。

それでは、最後は謝辞を。まずは原作の製作者(製作チーム)とハーメルンの運営陣さん。貴方達がいなければこの作品は生まれなかったでしょう。形としては本作の産みの親は私ですか、同時に貴方達も本作の産みの親です。

続いて誤字報告して下さった方やアンケートに答えて下さった方にも感謝です。貴方達のおかげで本作の質は上がっていると思います。貴方達もまた、本作における製作サイドなのですよ。

更にお気に入り登録して下さった方達や感想を書いて下さった方達。他者に評価されたくて本作を書いた訳ではありませんが、実際に好評価を受けると嬉しいものですね。皆さんによって私のモチベーションはかなり上がりました。

最後に、こうして見て下さった皆様全てに感謝を述べて、あとがきとさせて頂きます。本当に、ありがとうございました。

そしてもし今後も私の作品を期待し読んで下さるのなら、私は皆さんの為にも頑張りますので、応援宜しくお願いします。また作品で、あとがきで皆さんと会える事を楽しみにしています。

 

では……願わくば、皆様にささやかながらも温かな幸せがあらん事を。




今回のパロディ解説

・おっと、次に貴方達はこう言う!
ジョジョの奇妙な冒険第二部、戦闘潮流主人公、ジョセフ・ジョースターの名台詞の一つのパロディ。えぇ、例えあとがきだったとしてもパロディはしますとも。

・某あとがき作家
ライトノベル作家、葵せきなさんの事。まぁこの方以外にもあとがきが特徴的な作家さんはいますので、皆さんの思い浮かべた作家さんのパロディだと思って下さい。


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