アスモディ・ストーリー (Asmody Story) (メレク)
しおりを挟む

プロローグ
二つのプロローグ


prologueⅠ

 

 

 

 

雪が降っていた。

 

 

 

 

 

頭から生えている二本の角が特徴的な少女は、眠たげな顔をしたまま目を覚まして大きく背伸びをした。

 

そして、外の景色...窓から見える雪模様を覗いて、はぁ...と、ため息を吐く。

 

「あーあ...またやっちゃったんだ......」

 

ぽつりと、そんな言葉を呟き、今度は家の中を見回した。

 

机にはパンと、スープがおいてあった。すでに夕食の時は過ぎているのだろう。スープも湯気はたっておらず、覚めきっているように見える。

 

その隣に立てかけてあるのは自分が愛用している杖。

 

(...今は眠いし、気づかなかったことにすればいいよね?)

 

一食抜いても大丈夫だろうと特に気にすることなく、お気に入りの自分の角を触り、もう一度布団をかぶる。

 

 

 

 

 

最後に、

 

「次こそは、打てるようにしなきゃ......」

 

そして、彼女の眠気は急激に訪れ、その意識は先の見えない雪景色に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

prologueⅡ

 

 

 

雪が降っていた。

 

 

 

 

 

今この季節、日常から言えば異常気象であり、周りの人々は皆驚いていたが、彼女にとっては好都合だった。

 

(まさか、雪まで降ってくれるとはな...天の恵みってやつかな?)

 

彼女はにやけながらも油断することなく走り続け、森に入る。周りは暗闇しかないが特に動じることもない。

 

(今頃あっちは大慌てだろうな...してやったりだ。)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

そのまま走り続けること数時間。彼女は暗闇の森の中にある洞窟を見つけた。

 

(今日はラッキーな日だな。ま、疲れたしここらで野宿するか。)

 

中に入ると、真っ暗で何も見えない。フクロウの鳴く声がさらに不気味さを漂わせていた。少女は黙って頭や体についた雪を払ってから火炎魔法を手にのせるように出すと、奥にいた熊と目があった。

 

 

「あ......」

 

 

グルル...とこちらをじっと見つめる熊。三メートル程の巨体は目付きが怖いものとなっている。おそらく、こちらが縄張りを荒らしに来た侵入者と思われているのだろう。

 

「やっべーよな。これ」

 

少女は火を消しながら外に出る。雪で寒い上に走りづらかったがお構いなしに逃げる。しかし、熊はそのあとを四つの足を

使って全力で追ってきている。

 

「なんでだよ!お前の洞窟からは出たんだし追って来なくてもいいだろうが!...って、言葉分からないですよねー」

 

「もう走りたくねー!」と、彼女は叫んで文句を言いながら逃げ続けた。

 

 

 

 

 

彼女はまだ、眠れそうにない。

 




初めまして。メレクです。

今回色々あってハーメルン様でこの作品を投稿することになりました。

まだやり方も全然わからず(実際、これ送られてるであろう時もドキドキしてます笑)、至らない点も多いすし、まだ大まかなプロットしか決めてない作品ですが...頑張っていくので、誤字、感想、質問、アドバイス等々、ぜひお願いします。

次回の投稿は、遅くて一週間以内にしますので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一章『シオン』
我が家の事情と世界の事情


一話目が無事投稿できて安心していたメレクです。
この調子で少しずつ書いていきたいと思います。

5月21日/改稿しました。ただ、ホントに気づくか気づかないかそのくらいなのであしからずです。


かわいい。

 

すべてがかわいい。

 

寝てる姿がかわいい。

 

窓から光が照らされ、自慢げに伸ばしていた薄紫の髪に反射しているのなんかキューティクル。

 

ボ~っとした目をしながらうとうとしてるのを見れば、神が丁寧に創造したであろうことは確定的。

 

「うわー...もう8時か......」

 

時計を見て寝過ごしたことを確認。そのまま落ち込むのもかわいい。

 

そして、急いだ様子で着替えを始めようとするのもかわいい。

 

(もうあれだねかわいすぎるよね天使だねコノシュンカンヲマッテタンダー!って感じだよね!あぁっ!)

 

そして、 女神が服の端をもって上に上げていく。思わずそれを目を見開いて凝視する。

 

やがて完全に服を捲る______手が、ピタリと止まった。

 

 

 

 

 

「何してるの?お父さん」

 

 

 

 

 

こっちと目を合わせた彼女から放たれる、母親譲りの冷たい目線は、男にとって恐怖でしかなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「おはよ~」

「はい。おはようユノちゃん」

 

着替えを済ませ、リビングに来た私はお母さん、フィルフィ・アインツに挨拶する。よくある我が家の決まりで、この日課を欠かすことは片手で数える程度しかない。

 

お母さんはフライパンのハンバーグをお皿に盛っていた。

 

「さ、じゃあご飯にしましょうか!ユノちゃんも座って座って!」

 

いつも明るいお母さんが作ったご飯は、こっちまで明るい気持ちになる気がして、私はとっても大好きだった。

 

朝御飯は昨日確認したときには部屋に置いてあって、今朝になって消えていたパンと冷えたスープではなく、サラダに熱々のスープに私の好きなハンバーグとイチゴという、普段なら絶対朝から並んでいないようなメニューばかり。思わず顔を勢いよくお母さんに向ける。

 

「これどうしたの!?いつもより凄いじゃん!」

「ユーノへのお祝いだよ。昨日新しい魔法を打てるようになったんだから」

「うっ......」

 

そう言ってくるのはお母さんの隣に座るお父さん。さっき私の着替えを覗き見していた人で、名前はアイオス・アインツ。

 

「あんなのじゃ覚えてないのと一緒でしょ」

「でも出来たんだから頑張ったじゃない。そんな落ち込まないで。ね?」

「そうだぞ!頑張ったことにかわりはないんだからな!」

 

確かに私は昨日、新しい魔法を打てるようになった。でもそれも不完全でどうしようもない______と考えて、私は一つ見逃していた所があった。

 

「それよりお父さん!さっきの覗きはなんなの!誤魔化そうとしないでちゃんと言いなさい!!」

 

お父さんはついさっき、私の部屋を覗いてた。ドアの隙間から変態みたいな目で。

 

「あれは覗きなんかじゃないぞ。元々ユーノを起こしに行こうと...」

「あら~?ユノちゃんの寝顔を長く見たいからハンバーグ焼くのもう少し後にしてくれって言ったの誰だったかしらね~おまけに寝顔じゃなくて着替えだったなんて...」

「フィ、フィルフィ。それは...」

「お母さんナイス!」

「いいのよ~」

「さて...この人をどう処理しよう「ご飯食べよう!な!な!?」...むぅ」

 

まぁ、実際お腹も空いてたし、目の前にハンバーグを置かれてあまり我慢ができないのも事実だった。

 

「ほら!いただきます!」

「「......」」

「いただきます!!」

「「......いただきます」」

 

さらに言えばお父さんも鬼気迫る感じだったので、私はしぶしぶ朝御飯を食べ始める。お母さんはそれを見て、いつものようにニコニコしていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

今は朝御飯を食べ終わり、紅茶を飲んで一息つく。

 

とってもおいしかったけど、そのあと聞いたお父さんの言い訳はひどいものだった。本人曰く、「休日くらい娘のかわいい寝顔見たっていいじゃない......」 とのことで。

 

お父さんであるアイオス・アインツの仕事は、この村『シオン』の村長の補佐をすること。最近忙しいらしく、私が寝たあと帰って来ることが多い。

理由は、この村が旧魔の村の1つとしてどうするか決めなければならないから。

 

そもそもこの世界には、いくつかの種族がいる。代表的なのだと、エルフやオークなどがある。

 

そのなかでも近年(といっても300年くらい前だけど)目立っているのは、私たち旧魔と、新魔の関係。

 

新魔っていうのは、文字通り新しい魔族、私たち旧魔より後に出来たらしい人々のこと。

 

いつその存在が発覚したかは不明。歴史として出てくるのは300年近く前。 元々は、私たち旧魔しかいなかったらしい。旧魔の派生、と言えばいいだろうか。

 

その差は、旧魔は一人一人能力が違う特殊な固有魔法を使えるかわりに、炎、氷などの基本的な魔法はあまり使えないという特化型なのに対し、新魔は基本、固有魔法を持たないものの、大抵なんでも上手くこなすバランス型であること。

 

そして、旧魔にとって魔法を使うための魔力の塊である大きな角が小さく、その代わり体全体に魔力を巡らせているなど、様々だった。

 

この二つの種族は、今あまり良い関係ではないらしい。らしいというのは、ここ『シオン』が旧魔の田舎町で、私も全然見たことないから。

 

原因は、御先祖様の時代まで遡る。

 

なんでも、魔法が使えることでちやほやされていた旧魔が、急に現れた新魔が大体の魔法をそつなくこなせることから他の種族から引っ張りだこになり、今まで必要とされてた御先祖様たちも「我々は必要なくなったのか!」と怒っちゃった______らしい。それが元となり、一時期新魔側につく人が多く、この300年という歴史で、昔からある旧魔とほぼ同じ力を得ている。

 

でも、どちらの種族でもこの話の肯定派の人もいれば否定派の人もいて、今では同じ種族でも住んでる地域によって、相手の土地から離れようとする人達や、戦争一歩手前の人たち、逆に仲良くしようと同じ町で暮らすなど様々となった。

 

私達の村では、基本的には不干渉、場合によっては友好を取ろうと決まったが、それが決まったこと自体が少し前のことなので、最近になって近くの村との相談をしたりするなど忙しくなってきたらしい。

 

だから、私はお父さんが大変なのもわかるけど______

 

「これはない」

「そうね~」

 

私とお母さんは許さなかった。お父さんは、

 

「分かりましたよーだ!お父さん泣いちゃうから!」

 

なんて言いながら、丁寧に『ドア開けないで!』なんてプレートを下げて部屋にこもってしまった。自分のお父さんだけど恥ずかしさは止まらなかった。

 

それを見送ったお母さんが、私の方を見てくる。

 

「あ、ユノちゃん。今日山に行ってキノコ取ってきてくれないかしら?丁度食べ頃だと思うから」

「そろそろ秋も本格的だもんね。分かったよ」

「演習教室終わった後だけど、大丈夫?」

「平気だよ」

 

そう言いながら出かける準備をする私。短剣持った。キノコ取り用のかごも持った。よし。準備万端。

 

「じゃあ、任せたわね」

「うん!いってきます!」

「いってらっしゃい!」

敬礼っぽい動作をするお母さんに手を振ってから、私は家を出た。

 

眩しいくらいの太陽が、雲ひとつない空と私たちの村を照らしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

村長の教室

昨日降った雪が積もった道は、私が出かける頃には半分くらい溶けて一番滑りそうな状態だったけど、転ぶことなく進むことができました。

 

そして今は。

 

「バルトさん。おはようございます」

「あぁ。おはよう。今日は遅かったね?」

「すいません...寝坊しちゃって」

「ユーノ!遅かったじゃない!待ちくたびれたわ!」

「あ、リーゼ。別に待ってなくてもよかったのに......」

「ッ!...私が待ちたかったからいいのよ!ほら!さっさと来るの!」

「分かったから......」

 

この人はバルト・ヴァスティさん。『シオン』の村長で、私のお父さんが補佐してる人。私に突っかかってきた金髪の女の子はリーゼ・ヴァスティ。バルトさんの娘で、小さいことからの付き合いだから、今のだって私を待っててくれたんだってわかります。よく喧嘩もするけど、一緒にいて楽しい友人です。

 

私がなぜここに来たかというと、バルトさんが開いている護身用の演習教室に参加するため。

 

この世界では魔力であれ単純な力であれ、力を持ってないと何かあったときにやられてしまう。特に女は危険が男の三倍なんて言われることもあるくらい。

 

それ以外にも、肉を手に入れるため、動物を刈るために力がいる。

私の場合、使いこなせる魔法が固有魔法と体に纏うように使う身体強化魔法だけ。それも、少し足が早くなったり、重い剣を持てるようになる程度のもの。

 

これだけでもなんとか出来なくもないけど、不安が残る。だから私は使い物にならない杖の次に得意な短剣で、この教室に通っています。まだ弱いけど。

 

今日は私、リーゼとあと5人の女の子が着ていた。

 

「じゃあユーノちゃん。今からいける?」

「...ぜひお願いします!」

 

遅く来たぶんバルトさんと戦う順番を優先してくれたみたいで、バルトさんが声をかけてくれた。お言葉に甘えて返事をしてから、お互いに武器を構える。私は短剣を。バルトさんは槍を。

 

「いくよ」

「はい!」

 

私とバルトさんが走り出したのは、同時だった。

 

 

 

 

 

...と言いたいところだけど、実際は私がフライングした。負けたくないんです!!

 

バルトさんは槍を使うのがうまく、私達は実際に使っている武器に対して、バルトさんは木を削って作った木刀ならぬ木槍で戦うくらい強い。

 

それに、短剣と槍。リーチで勝てないのは当たり前。だからこそフライングして動揺させたかったんだけど...

 

バルトさんは少し驚いたものの、私が近寄らせないよう槍を振るう。

 

私は短剣で槍を弾き、さらに近づこうとするも、バルトさんはバックステップを踏みながら槍をつき出してくる。

 

それをさらに弾き、追撃しようと足を踏み出した瞬間。バルトさんは笑っていた。

 

(何かくる!)

 

本能的に悟った私はそのまま右に飛ぶ。身体強化は最大で!

 

結果として、それは正解だったらしく、上に弾いた槍の反対側で、地面を突くバルトさん。なかなかひどい手を使ってくる...私があそこにいたら胸の部分を潰されかねない。

 

だがせっかくできた隙を見逃すわけにはいかない。私は飛んだばかりの無理な体勢を強引に立て直し、地面に着くと同時、強化魔法を足にだけ込めて一気に剣を届かせようとする。

 

(これで、決める!)

 

決めたらバルトさんは大怪我なのを忘れて、もう一度飛んだ私。でも...

 

(...あれ?)

 

実際には足が滑って、転んだだけだった......そして。

 

「ふぅ......僕の勝ちだね」

「パパ!」

 

そう余裕っぽくリーゼに笑顔を向けるも、バルトさんの灰色の目は笑っておらず、『危なかった~』 と言っているように見えた。って!

 

「え、えと、ごめんなさい!」

「あぁ、大丈夫だよ。それより、今ので何が悪かったのか言ってごらん?」

 

慌てて謝る私に、 気にして無さそうに言うどころか、反省することを聞いてくるバルトさん。すごい...

 

「え、えと、おじさんの槍を気にして避てたけど、後の行動をあまり考えられなかったこと?」

「それもあるね。避けたあとの体勢に無理があった。元々今日は季節外れの雪があるからね。あと、フライングはダメだよ?」

「うっ......すいません」

「そうよユーノ!ズルしちゃだめじゃない!」

「ごめん...」

「でも、一番気になったのは強化の弱さだね。いつもより出来てなさそうだったけど、どうかしたの?」

「決まってるじゃない!ユーノがついに強化魔法も使えなくなっちゃったのよ!」

「...っ」

「リーゼ!」

「あっ...ごめんなさいっ!」

 

私が基本魔法を使えないことをリーゼは知っている。その上でつい言われてしまった一言で私はショックを受けてしまった。それに気づいて申し訳なさそうに走り出していくリーゼ...

 

「全く......ユーノちゃん。ごめんね。リーゼにはしっかり言っておくから......」

「いえ...それよりリーゼの相手をしてあげて下さい。あの子、バルトさんにしかられるとすごく落ち込みますから......」

「でも」

「今日は全体を見て次にどうするか決めるのが大切だと分かっただけで十分ですし、これから用事もあるので、失礼します!」

 

私は急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

「...戦い方自体は、レベル上がってるんだけどな」

 

だから、バルトさんの一言は聞こえなかった。




今日中にあと二話作りたい...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会いⅠ

「あー......やっちゃった......」

 

私は森に来ていた。森の中でまだ溶けてない雪の上で寝転がる。ボフッと音をたてても心は晴れず、絶賛反省中。キノコは雪のせいでとれないし、取る気も起きないし......

 

だって、リーゼとはまた喧嘩みたいになるし、せっかく演習の機会をもうけてもらってるのに断るし......

 

リーゼが伝えることが少し苦手だからどうしても強めの言葉になるのは分かる。あと咄嗟に口が滑るのも。でも、魔法のことを言われると私もどうしたらいいかわからなくなりやすいから......

 

(嫌われたかなぁ......)

 

はぁ...とため息を吐く。つかずにはいられない。

 

確かに私は基本魔法の内の初級...小さな火を作ったり、石みたいな氷を作ることすらできない。

 

理由は、魔力を変換させることが苦手だから。

 

一般的に、魔法で火の玉を作るとするとイメージは

 

①球体を想像する。

 

②球体に赤い色を塗るイメージをする。

 

みたいになる。①で、手のひらに球体を作り、②で炎という属性を付ける形。

 

でも私は

 

①球体を想像する。

 

②色を塗るのが苦手なのでとことん赤くする。そして、球体から溢れでて、暴走する。

 

となる。結果、バカにみたいに大きい火の玉が出来上がり、おまけに暴走することに......炎魔法はそんなことしたら危険だから作ったことないけど。

 

私は持ってる魔力量自体は多いらしい。だから強い魔法も使えるはず...ただ、使いこなせることはない。できるのは強化魔法と固有魔法だけ。

 

これは、いくら特化型の旧魔の中でも異常。そして私は、使える力はあるのに使いこなせない自分にコンプレックスを抱くようになっていた......

 

(こんなことなら、なんでもこなせる新魔に生まれたかったよ......)

 

...産まれてから新魔見たことないけど。

 

またため息をこぼす......その時。

 

「キャー!!」

 

近くから聞こえる悲鳴。

 

「この声!!リーゼ!?」

 

私は何事かと立ち上がり、リーゼと気まずい関係になっているのも忘れて悲鳴の聞こえた方へ急いで走り出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

雪のせいで何回か転びそうになるも、なんとかリーゼを見つけた。

 

かなりまずい状況で。

 

まずリーゼの後ろにいる二人。雪遊びをしてたのか体のあちこちに雪を付けているものの、ケガはなさそう。ただ、腰が抜けているのか動けなさそうな状態。

 

次にリーゼ。無事なものの、彼女が大事にしている金髪は雪を被り、息が荒く、いつも感じる魔力をほとんど感じない。使い過ぎによる一時的なものだけど、辛そうに見える。

 

最後に、リーゼの真正面。そこには血ぬられたような赤い毛を持つ熊がいた。名前はたしか...『ブラッディ・ベア』

 

この森を縄張りとしている魔物の一種のはず...

 

魔物っていうのは、古くからいる種族の一つではあるが、違う種族を本能のままに食いつこうとするやつらのことで、人の種と呼ばれるそれ以外の共通の敵と見なされている。

 

熊だけでなく、人型や、パンサーみたいなの、果ては竜なんかもいるけど......

 

そして、その中でも知能が低い魔物は、共通して赤色を見ると興奮する。リーゼが着ている服は......赤色だった。

「リーゼ!」

「ユーノ!?あなたなんで!」

「困った時はお互い様でしょ!」

 

そういいながら、私はリーゼと熊の間に割り込み、迷うことなく魔法を詠唱する。

 

「ーーーーーーーーーーーー!」

 

詠唱が必ず必要なのは、超上級魔法か、あるいは......

 

『fog・beast!!』

 

私が使いこなせる魔法の一つ。固有魔法。

 

名前は、『fog・beast』。

 

魔力の塊を動物の形に変えて、操ることができるというもの。

 

生成限界の3匹を全て獅子の姿へ変化させ、熊に突撃させる。あっちはまとわりつくように攻撃するおかしな動物に困惑しているように見えた。今のうちに!

 

「リーゼ!そっちの子支えて、早く逃げよう!」

「分かってます!」

「リーゼお姉ちゃん...」

「ぐすっ...ひっく...」

「もう大丈夫ですから!さぁ早く!」

 

腰を抜かした子を一人ずつおんぶして走り出す私たち。しかし

 

「なんであんなに早く走ってますの!?普段なら赤色でもそんなにならないはずなのに!」

 

いつも出会うときは、こっちから逃げれば追ってくることはほとんどなく、追ってきたとしても遅いから逃げ切れるはずだった...だからこそこの森に子供だけでも入っていいと言われていたのに。

 

『ブラッディ・ベア』は私が作った獅子を振り払いながら、リーゼに向かって走ってくる。このままではいずれ追い付かれてしまう。

 

さらに。

 

「前からもう一匹!?」

 

逃げている先からも『ブラッディ・ベア』が迫ってきた。完全に挟まれる形。脇道に逃げようにもおぶった状態で雪道を走るのは...

 

「戦うしか...ない」

 

私は背負っていた子を降ろし、腰にかけていた短剣を抜いて飛びかかった。つばぜり合いになる私の短剣と熊の爪。だが

 

「こんなに強かったっけ!?」

 

一瞬拮抗したように見えたものの、すぐに押され始める。かといって、強化魔法をさらに強めたら後ろの熊と戦わせている『fog・beast』の制御がしずらくなってしまう...

 

(このままじゃあ皆を守れない......こうなったら、本気で魔法を......あっ!)

 

考え事をしているうちに短剣が弾かれてしまった。そのまま降りおろされる熊の爪。あれが当たったら私は一撃だろう。

 

「ユーノ!!!」

 

(あぁ...こんな突然死ぬんだなぁ......)

 

リーゼの声を聞きながら、ぼんやりそんなことを考える私。

 

そして、降りおろされた爪が私の体に......

 

 

 

 

 

当たらなかった。

代わりに、熊の腹から出ているのは剣先。

 

「え......?」

 

状況を理解できずにいると、熊はそのまま私の横を倒れた。

 

そして、その影に隠れていたのは......

 

「魔物とはいえ俺だけなら逃げるけど、人に手を出すんなら容赦はしないぜ......お前ら、皆無事か?」

 

黄金の剣を持ち、吸い込まれそうな黒い瞳で、アルト声を響かせる黒髪男の子でした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会いⅡ

「もう......ようやくかよ。ただ走るのも楽じゃないぜ......」

 

休める時間もあるにはあったが、ほぼずっと走ること半日以上。ようやく熊は追うのをやめてくれたのか、その姿は見えなくなっていた。倒してもよかったんだが、かわいそうだしな...

 

「疲れたー!」

 

服が汚れるのを構わず雪が積もった地面に寝転がり、疲れた体を休ませようとする。しかし。

 

「キャー!!」

「!?何事だよ今度は!」

 

聞こえた悲鳴に驚き飛び上がる。だが、辺り一面が木で覆われているためどこで何があったのか分からない。

 

「......確か、あっちだな」

 

悲鳴が聞こえた方に足を踏み出す。流石にほうっておいて何かあったら感じが悪い。

 

それに、

 

「まさか、つけられてた......?」

 

それで他の人に被害がでるなど、それこそ大問題だ。本隊が来る前に気絶させるしかない。大慌てで走り出す。

 

しかし、その不安は杞憂に終わった。

 

見つけた場所に居たのは、熊と対峙する少女達。

 

奥にいるのは茶髪の少女二人と金髪の少女が一人、そして一番手前にいる薄紫の髪をした少女が短剣で熊と戦っていた。

 

しかし、そんな状況を見てる間に少女の短剣が熊に弾かれてしまった。このままでは......彼女は間違いなく切り裂かれる。

 

(させるかよ!!)

 

瞬時に自身の相棒である剣を作りながら強化魔法を使用。全ての力を足に込め、突撃する!

 

開いていた熊との距離を詰め、剣を刺し込んだ。

 

しばらくして、少女の隣に倒れる熊。それを見て、俺は。

 

「魔物とはいえ俺だけなら逃げるけど、人に手を出すんなら容赦はしないぜ......お前ら、皆無事か?」

 

口を開け、水色の目を見開いて固まったままでいる薄紫色の髪をした女の子に話しかけた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私は驚いて固まっていた。理由は、目の前に男の子がいたから。

 

それだけなら問題ないけれど、問題は旧魔の象徴である大きな角がないこと、そして、風で見えた小さな角は...

 

(新魔がなんでここに!?)

 

私たちの村は新魔の領地からも旧魔の王都からも離れた田舎に等しい場所。そんなところに新魔が一人だけでいるなんておかしすぎた。

 

だが、彼は間違いなく新魔だった。角が髪で見えなくなるくらい小さいのは、旧魔ではありえない。

 

そんな中、私が動けないでいる間にも状況は動き出す。具体的には、後ろの熊が私の魔力でできた獅子を振り払ってリーゼたちに向けて走っていた。

 

「あっ!」

 

あわてて短剣を拾いに行こうとする私。すると彼は、

 

「奥にもいたのか......随分とめんどうだな」

 

と言いながら、いつの間にか右手に握られていた黄金の剣は消え、何処から出したのか赤い槍を左手に持っていた。

 

(あの槍......どこから!?)

 

想定外過ぎる事態に頭が混乱する中で、彼が一言、

 

「危ないから頭下げて避けな」

 

突然言われて動揺するも、忠告に従って頭を地面につけるようにしゃがむ。

 

そして、彼の魔力が膨れ上がったと思ったら......

 

「いっけえ!!」

 

槍を熊に向けて投げ飛ばした。

 

......その時の揺れる黒髪と漆黒をした目は、かっこよかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いっけえ!!」

 

俺が強化魔法で体を強化し、その力で投げ飛ばした槍は見事熊に突き刺さった。その勢いでふっ飛び倒れる熊。立ち上がることもないので一撃だったのだろう。

 

「ふぅ...これで終わりか」

 

改めて周りを見渡すと、助けた全員が口を開いたままだった。

 

(...流石に一撃で倒すの見たらびっくりするというか、怖がるもんだよな......)

 

何より周りが旧魔なのに、自分だけ新魔だから警戒されているのかもしれない。

 

何て思いながらもこのまま去るわけにもいかず、俺は仕方なく、

 

「おーい。助けたのに無言は流石に悲しいんですけど......」

 

少しふざけた感じで問いかけてみた。

 

あわてて立ち上がる三人。だが。

 

 

「動かないでください!!」

 

もう一人......金髪の女の子が尖った氷を俺に向けてきた。おそらく氷魔法で作った物だろう。浮いているのにも関わらず、切っ先はこちらに向いている。

 

(俺この子達を助けたんだよな。逃げたらもっとめんどくさくなりそうだし...助けたのになんでさ。全く......)

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「動かないでください!!」

 

あわてて私が苦笑している彼にお礼をしようとした時、後ろにいたリーゼが得意の氷魔法を作り、男の子に向けていた。きっと魔力が少し回復したんだろう。でも、

 

「リーゼ!なにやってるの!?」

「ユーノ!こいつは新魔なのよ!なんでこんな所にいるのか聞く必要があります!」

「でも、助けてくれた人にいきなり魔法を向ける必要なんてないでしょ!」

 

私はリーゼと男の子の間に、男の子を守るように立つ。まぁ、あっちの方が身長高いから守りきれてないけど。

 

「確かに彼はなんでここにいるのか分からないけど、助けてもらった人にこんなことをするなんて間違ってる!」

 

反論する私に対してリーゼは、

 

「パパが言ってたわ!新魔には戦いたがる者と平和になろうと努力している者、両方いると!でも、あんな強い武器を突然出す魔法を使うなんて、戦いを好んでいるに決まってる!」

「リーゼ!そんなの思い込みでしょ!」

 

その時、カシャと彼の服が動く音がする。振り向いてその顔を覗くと、彼はむちゃくちゃだなぁ......みたいな顔をしながら、

 

「ここで平和のために努力している側だと言っても、聞いちゃくれないよな......君もそんなに俺を守らないでいいんだぞ?仲間割れはよくないからな」

 

急に話しに入ってくる。でも、助けてくれた人だし......あぁでも、いきなり出てくる槍向けられても怖いし......

 

「俺はこの近くで迷ってるだけだし、あんたらが住んでる所を見つけても入らないから。それでいいだろ?昨日から寝てなくて眠いんだよ......」

「あなたを一人にするのが問題なの!何を企んでるか言いなさい!」

「あんたらに対しては、何も企んでないって......」

「あわわ...」

「はわわ...」

 

ここを去ろうとする男の子と、それを止めるリーゼ。怖がるアキ、ユキの二人という、そんないたちごっこが続いていると、

 

 

「リーーーーーーーーーーーーーーーーゼーーーーーーー!!!!!」

 

 

バルトさんが思い空気を壊して突っ込んで、リーゼに抱きついた。

 

あぁ、なんだかさらに面倒になりそうな予感......




この前書き、後書きに何を書けばいいのかわからなくなります(笑)
他の方々の作品を見てる時は、話題くらい探せばいくらでもあるだろ!と思っていたのですが、いざ自分で書こうとすると...普段も、自分からはそこまで話題提供しない気が...

け、決して普段から話す相手がいないとか、そんなんじゃないんだからねっ!(誰得)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アインツ家

突然森の向こうから走ってきたおっさんは、俺に氷を向けていた金髪の女の子に抱きつき、頬擦りをしていた。

 

「リーゼ?大丈夫?なんともない?叫び声が聞こえたから心配したんだよ?心配で心配で途中道をふさいでた木を倒しちゃったくらい。リーゼ...リーゼ?」

「パパ......やめて。今はパパの方が怖い」

 

そういわれたおっさんは形容しがたい顔をしていた。

 

こちらとしては、向けられていた氷がなくなったので助かったが......あっても弾けばよかっただけだけど。

 

そうは言っても大人。そこら辺に二頭の熊が血を出して倒れ、知らない男が娘の近くにいるのを確認して目の色を変えてきた。

 

「これはどういう状況かな?」

「暴れてた熊から彼女たちを助けた後ですよ」

こっちとしては、ようやく話が通じそうな人が来てくれて少し安心した。

 

「君は......」

「ここを通った、ただの新魔です」

 

そう言って髪をすくって、新魔特有の小さな角を見せる。おっさんは少し驚いてこちらを見て、

 

「そうか......娘達を救ってくれてありがとう。お礼がしたいんだが、どうだろうか?」

「パパ!こいつはすごい魔法使うし、危険なのよ!」

「それで守ってもらったんだろ?だったらそんなことを言わないで、お礼を言うのが先じゃないの?」

「うっ......」

「それに、うちの村はできれば新魔と良好な関係を築きたいと思っている。田舎だから来る人も少ないけどね。ともかくどうかな?村に来てくれればお礼もできるんだけど」

「......実は昨日から寝てなくて。寝床を用意していただけると助かるのですが」

「そのくらいお安いご用さ」

「パパ!」

「いいから黙ってなさい」

「ッ!」

「こっちとしても見てて不安なので娘さんと喧嘩しないでくれると......」

「あぁ、すまないね。娘は新魔の話しか聞いてないから...実物を見て混乱してるんだろう」

 

なんだか実物って言われていい気はしないが、男性も少し動揺してるんだろうと考える。

 

(普通はこんなところに新魔なんて来ないからな)

 

「じゃあ案内するよ。ついてきて」

「はい。でもいいんですか?ここで決めちゃって」

「僕が村長だからいいんだよ」

 

(それって職権乱用なんじゃ......)

 

俺はツッコミしたい気持ちを抑えて動きだした村長さんの後についていく。彼はいまだに固まっている女の子に手招きして、

 

「ユーノちゃんも行くよ?」

「あ......はい」

 

こうして全員で道を歩いていく。周りの女の子達から視線を感じるものの、気にしたら負けだと腹をくくった。

 

(...なんだかんだで上手くいったな。これで今日はゆっくり寝れるだろう。なりより、こうも上手く旧魔の村へ行けるとはな......人助けはするもんだな)

 

ここからが本番。頑張っていかなければ......

 

「大丈夫かい?」

「あ、はい。すいません」

 

考え事をして足が止まっていたのを謝ってから、俺は村長の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

村に帰った私たちは、そのままバルトさんの家に向かった。中に入ると町内会議でもあったのか、村の人がほとんどいた。

 

「おぉ!バルトさん!娘さんは見つかりましたか」

「急に会議抜け出しちゃってすいませんロザリオさん。でも、娘の悲鳴を無視するわけにもいかなくて......」

 

そんな会話をするバルトさんと、この町で服を作っているロザリオさん。

 

でも、家の中で会議してたのに、森からの娘の悲鳴を聞き分けるなんて......この村には娘が好きすぎる人が多くて少し不安になった。

 

「アキ!ユキ!もう帰ったの?」

「熊に襲われちゃって......」

「あの人に助けてもらったの!」

 

茶髪の双子......アキとユキの母であるミクさんは、ユキちゃんが指を指した男の子を見るなり「ありがとうございます」と頭を下げ、男の子は「あ......いえ」と、戸惑ったように頭を下げ返していた。

 

「ところで、その子は?」

「あぁ......娘達を助けてくれた人だよ。新魔だけど、今日はお礼に寝床を用意しようって話になってね」

 

その言葉にざわつきが生まれる皆。

 

いきなり新魔が来ました。なんて言われたら、ドッキリだと思うだろうし...

 

しかし、バルトさんが事の経緯を説明すると、ほとんどの人が静かになった。静かになったけど、なんだが目線が...私はその空間が居心地悪かった。

 

「あの、バルトさん」

「はい?」

 

口を開いたのは木こりであるニカッジさん。

 

「彼にはなんでこんなところに一人でいるのか説明してもらう必要があると思います。さすがにこんな田舎町にいるのは...」

「うーん...その通りなんですけどねぇ...」

「...説明ならちゃんとするつもりです。どのみち聞いて欲しいこともあったので」

 

男の子がそう言うと、再び周りが静まった。私はこういうところでもしっかり意見できるなんて凄いなぁと他人事のように感心した。

 

「でも君も疲れてるみたいだし...なんでこんなところの森にいたのかは、明日説明してもらうから。それでいいかい?」

「構いません」

「じゃあそれで。そしたら泊めてくれる家を募集したいのだが......」

「バルトさんの家では駄目なのですか?」

「娘がね......」

 

そう言うと、話の本人は「ふんっ!」とそっぽを向いていた。

 

いくら新魔と友好的にしたいといっても、突然泊まらせてくれと言われても...思った通り、皆ざわつきだした。

 

どの家に行くんだろう...お、お礼もかねて今なら少し話しても大丈夫かな......なんて思っていると、

 

「なら、ウチでいいですよ~」

「え?その声...お母さん!?」

 

お母さんが手をあげていました。

 

「なんでここに!?」

「今日は休日だけど町会議ある日だって聞いて......部屋にこもっちゃったあの人の代わりよ」

「お父さん......」

 

会議があっても出てこなかったんだ...

 

「でもフィルフィさん。勝手に決めてしまって良いのですか?」

「いいのよ~別に」

 

お母さんはいつもふわふわしてるのに一つ意見を固めるとなかなか変えない人だし、バルトさんもそれをわかっていた。

 

「まぁ、それならいいんですけど......君もそれでいいかい?」

「かまいません」

 

そのままこちらに寄ってくる彼。

 

「ここになったみたいですね」

「ええ。ようこそ『シオン』へ。私はフィルフィ・アインツよ。ほら、ユーノも」

「ユ、ユーノ・アインツです。よろしく」

「よろしくね~」

「はい。俺の名前は......カムイです。カムイ・テイカー。こちらこそよろしくお願いします」

 

ペコリとお辞儀をしてくる彼にあわせて私もお辞儀してしまった。

 

「綺麗なお辞儀ね~どこかのお姫様みたい!」

「あ、ありがとうございます」

「自己紹介もすんだし、せっかくカムイちゃんが来たんだから夕飯も豪勢にしなきゃね~」

「ちゃん付けはやめてください...」

「あはは......」

 

お母さんと握手する男の子......テイカー君は、少し困った表情をしていました。

 

こうして、一日だけ我が家に居候ができました。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ただいま~」

「我が家へようこそ~」

「......お邪魔します」

「玄関で靴脱いでね?」

「あ、はい」

 

テイカー君を連れて家に入った私たちは、玄関で靴を脱いでリビングへと向かう。

 

「部屋は二階の一番右奥が開いていると思うから、そこを使ってね。ベットもあるから」

「分かりました。ありがとうございます」

「眠いみたいだし、夕飯ができるまで寝てていいからね?」

「すいません。お言葉に甘えさせていただきます」

「そんなにかしこまらなくていいのよ?」

「いえ...そういうわけにもいきませんから。失礼します」

 

そのままテイカー君は二階の部屋へ向かった。私たちは、リビングからそのままキッチンへ。

 

「家族が増えたみたいで嬉しいわ~」

「それ違くない?」

「そんなことないわよ~?もう少し柔らかくなってくれるとなお良いんだけど...」

「お母さんったら...」

 

そんな会話をしながら夕飯を作り出すこと一時間。もう窓の外は真っ暗でした。そして、

 

「ユーノー!お父さんが悪かったから許してくれ!」

 

父(甘えん坊)が一人増えました。

 

「もういいから、早くテーブルかたして?なんかよくわからないのでいっぱいじゃん」

「分かった!娘のためならなんだって!」

 

そう言って忙しく紙をかたすお父さん。

 

「それ仕事の書類なんでしょ?もっと大切に扱いなさいよ?」

「......ハイ」

 

お父さん大丈夫なのかな......

 

ガタガタと動くお父さんを心配してると、ガチャ、とドアが開く音が。見ると顔がさっきよりスッキリしているテイカー君が。

 

「かなりよく寝れました。ありがとうございます」

「そう、よかった~」

「......え、我が家に家族以外の知らない人物?え?」

 

お父さんが持っていた書類をそのまま落とし、固まった。

 

「あ、えーと...今日一日だけこの家に泊まらせていただくカムイ・テイカーです。よろしくお願いします」

「泊まる...?え、泊まる...?」

「は、はい...」

 

お父さんは自己紹介をするテイカー君をまじまじと見つめ、

 

「まさかお前...ユーノの彼氏か!?」

「「え?」」

 

私とテイカー君が固まる中、お父さんは一人頷き、

 

「俺に内緒で泊まろうとするとは...だがお前に娘はやらん!絶対にだ!!」

 

高らかに宣言するお父さん。

 

ガンッ!!

 

その後ろで夕飯のステーキを作り終えたお母さんが、その手に持った神器(フライパン)を降り下ろした。満足そうにしているお母さんと、頭から倒れるお父さん......殺してないよね?

 

「ごめんなさいね。うちのダメ夫が」

「えー...助かりました?アインツさん」

「あら?ここにはアインツが二人いるから、名前で呼んでね」

 

((さりげなくアインツ家から一人消した!!))

 

この時、私とテイカー君の思ったことは同じだったと思う。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

不思議な家族だ。

 

それが、俺が用意された部屋のベットと上で考えたことだ。

 

既に(フライパンで殴られてたアイオス・アインツさん含め)四人で夕飯のステーキを食べ、皆それぞれの部屋に戻った後だ(アイオスさんとフィルフィさんの部屋は一緒らしい...)

 

でも、今日の雰囲気。元より家族とあまり触れ合わない俺にとっては、慣れないものだった。

 

(それだけ大切で、魅力的ってことだよな......)

 

これからやろうとすることは無謀かもしれない。でも、達成できれば......それに、この村はかなり良い条件。新魔と友好的で、あっちからは入りづらい旧魔の村。問題は時間だが...今は気にする程でもない。まだ。

 

(これができたら、俺も家族皆で笑いあえるのだろうか......いや、してみせる)

 

決意を固めた俺の意識はいつの間にか落ちていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

午前五時。

 

目を覚ますと既に朝日が見えていたが、普通に起きるにはまだ早い時間。

 

(...やるか)

 

俺はベットから出て、そっとドアを開ける。静かに一階に降り、家の外に。

 

(玄関の鍵は閉められないか...まぁ、見ながらやれば問題ないか)

 

楽観的に考え、日課を始めるために家から少し離れて立ち止まり、目を閉じる。右手を前に出して魔力を込める。

 

(今日は剣かな)

 

イメージするのは鋼鉄の剣。強く、固く、細長い剣。

 

(っと、こんなもんか)

 

右手に鋼色の剣が握られているのを確認して、何回か振るう。ときどき、ほとんど溶けている雪に足を持っていかれそうになるも、強化魔法をかけて踏ん張りながら剣を横になぎ払う。

 

(無詠唱生成完了。お次は...)

 

俺は作った剣を消して、もう一度目を閉じた。

 

「ーーーーーーー」

 

作るのは、さっきより強い剣。不朽で輝く剣を。そして、それを使う自分を詠唱しながら考える。

 

『image・replica』

 

静かに唱えた詠唱のせいか、辺りに風が吹く。目を開けるとさっきより輝きの増した剣が現れる。だが、

 

(まずまずって所か。実際役に立つのは無詠唱だしな......)

 

詠唱してこの程度じゃ満足なんて出来るわけがない。

 

基本的に詠唱を必ず必要とするもの。旧魔の固有魔法と、天災レベルと言われる超上級魔法以外では、無詠唱で能力を使うことができる。

 

しかし、それ以外の魔法でも詠唱を行うことにより、精度や生成効率を高めたりすることができる。

 

俺の魔法『image・replica』だと、生成した物の強度などが増加する。時間がかかるのであまり使わないが...

 

「次でラストっと」

 

作り出した剣をもう一度消し、新しく作り直す。今度は無詠唱。しかし、それでいて俺が作るなかで一番上手く出来る俺だけの剣(つるぎ)。

 

「...来い。エクスシア」

 

構築されるのは黄金の長剣。俺が望んだ最強の力。

 

(うーん...これもまずまずだな)

 

「きれい......」

「ッ!」

 

彼女...ユーノ・アインツが現れたのは、そんなことを考えている時だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意を胸に

「ううん......もう朝?」

 

まぶたを擦りながら起きると、もう明かりが出ていた。何時かはわからないけど、まだ皆は起きてないらしい。

 

「せっかく早起きしたんだし、外に出てみようかな」

 

なんとなく思って2階の部屋から階段を使って降りると、玄関が開いていて......

 

「まさか......泥棒!?」

 

あわてて玄関を開けると、外には少し遠くにテイカー君がいるだけだった。

 

(あ、テイカー君も同じだったんだ)

 

早起きした仲間を見つけた嬉しさからか、突然現れた存在に興味があったからなのかはわからない。ただ、そのまま近づこうとする私に気づかずにテイカー君は目を閉じていた。そして、

 

「テイカーく......!?」

 

右手から太陽の光を反射して輝く剣ができるのを見て、驚くと同時に。

 

その姿に見惚れてしまった。

 

「きれい......」

「ッ!」

 

思わず呟いてしまった一言に驚くテイカー君。

 

「あ、ごめん...迷惑だったよね?」

「いや、別に大丈夫だ。それよりこっちが起こしちゃったか?」

「ううん。早起きしただけだから」

「そうか。ならよかった」

「...」

 

なんとなく気まずいので、話題を変更してみることにする。

 

「そ、その剣はテイカー君の?」

「あ、あー...」

 

今思えば不思議だった。旅をしている風だったのに手元に武器を持ってないこと。そして、突然剣や槍を出せること...だから、この質問が出ちゃうのは当たり前ではあった。

 

それを聞いて少し困ったような顔をするテイカー君。もしかして話しちゃいけなかった!?

 

「あ、ご、ごめん」

「あぁいや、どうせ二回も見られてるし...教えてもいいか。これは俺の一番得意な魔法なんだよ。色々条件はあるけど、武器とか生活用品とかなんでも、魔力の持つ限り何回でも作ることができる。こうやって消すこともな」

 

そう言って、剣を消してみせる彼。でもそれより、

 

「なんでも!?それって固有魔法じゃ......新魔にもいたんだね」

 

私が気になったのはそっちだった。基本魔法である炎や氷をはじめ、何かを生成できる魔法があるのは知っていたけど、なんでも作れるのは初耳だった。しかし、

 

「ちょっとちがうな。新魔は、きっと知ってるだろうけど、基本は固有魔法を持たずに、中級魔法やそこからの応用が得意でこういったのが使える奴は限られる。それに、旧魔のはほとんど魔力の消費だけで固有魔法が使えるが、こっちは色々と制約が付いたものが多いからな。俺のだと、一度に一つしか作れなかったり、自分のイメージで強さががた落ちしたりな...でも、詠唱はなくてもいい。それぞれ長所と短所があるんだよ。俺達の中では限定魔法って呼ばれてる」

「へー....よく知ってるね」

「そりゃ自分の魔法だし、色んな話を聞いたからな。そういうそっちは、変わった動物みたいなのだったよな?」

「あ、うん。『fog・beast』って言って、魔力の固まりを動物の形にして出せるんだ。自分の魔力をそのまま持っていかれるから少し辛いけどね」

 

私が言うと、テイカー君はうーんとうなってしまった。

 

 

 

 

 

「でも、そんだけ魔力があれば平気なんじゃないか?」

 

 

 

 

 

「へ?」

「だって、ユーノ魔力はちょっと見ただけでもその多さがわかるくらいすごい量だけど?」

「う......」

 

バルトさんやお父さんには言われたことあるけど、テイカー君まで言ってくるとは...

 

「なんか理由ありか?」

 

テイカー君は察しがよすぎるよ......

 

「......私ね。魔力の制御がすごく苦手なの」

 

でも、なんで私はこれを話しているんだろう。昨日あったばかりの人なのに。

 

「魔力は固有魔法で持っていってもらうか、強化魔法で垂れ流すことくらいしかできないし、初級魔法も使いこなせないくらいダメダメなの」

 

自分の弱気な気持ちが限界だったのか、家族以外の誰かに聞いてほしかったのか、昨日リーゼに言われて落ち込んでいるのか。

 

「ふーん...そうなのか」

 

それとも。

 

「もうちょっと詳しく聞かせてくれる?」

 

この人ならどうにかしてくれると思ったのだろうか?

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

それから私はテイカー君に少しずつ、自分のことについて話していった。

 

魔力はあっても魔法を使うのが苦手で、強化魔法と固有魔法しか使いこなせないこと。そして...最大火力なら基本的な魔法も打てることも。

 

すると彼は

 

「つまり、魔力をそのまま流すのが得意で、なにか他の炎や氷に変えるのが苦手と。でも、できないわけじゃない」

「うん......」

「そんで、旧魔でも、この村でもここまで出来ない人はいないと。こんなもんか?」

「はい......」

「敬語になるなよ。別に気にしないし...な?」

 

笑って話しかけてくるテイカー君。自分から話しておいてあれだけど、不安になってきた......

 

「ちなみに杖は使ったのか?あれは魔法の力をあげるだけじゃなく制御のしやすさも上がるはずだけど」

「この前やったら......氷魔法を打とうとして、暴走して、空に向かっていったら雪になって......」

 

 

 

 

 

「.........は?」

 

 

 

 

 

テイカー君が固まる。無理もない。

 

「え、待って、氷魔法が雪になんの?え?」

「うぅ...」

 

普通の暴走(暴走の時点で普通ではないんだけど)は、自分の思った方向に飛ばなかったり爆発したりする。

 

そんな風に暴走するのならともかく、普通だったら氷が雪になるなんてあり得ない。いや、本当にたまたま季節外れの雪だっただけなのかもしれないけど...私にはそうは思えなかった。

 

実際に起こったことだけど、自分でも信じられない位だし...それに、もしこの村にそのまま落ちたら......

 

 

 

 

 

私は、人殺しになっていたかもしれない。そんな罪悪感もあった。

 

 

 

 

 

「やっぱり、どうしようもないのかな」

 

ふとテイカー君を見ると驚いた顔のまま

 

「うそだろ!?一昨日のあれを!?一人で!?偶然とはいえ天候操作したんだぞ!!だれもできたことないだろ!」

「私だって狙ってやったわけじゃないもん」

「それでもすごいだろ!」

 

素直に感嘆してるように見える。でも。

 

「...怖くないの?」

「え、なにが?」

「私が怖くないのって聞いてるの!この村を氷漬けにできる魔法を、天候を変えられる魔法を管理できないんだよ!?暴走したら皆殺しちゃうかもしれない!!今体が勝手に作って、ここに...テイカー君に打っちゃうかもしれないんだよ!?」

「ユーノ......」

「私は、私なんてもう......ッ!」

 

私がうなだれてるところを、ガシッ!と急に両肩をつかんでくるテイカー君。そして

 

「ひとまず落ち着け。変なところでネガティブになるやつだなぁ...いいか?誰が何を言おうと俺はお前が怖いと思わないし、普通の魔法が使えなくたって良いじゃないか。無理にやる必要なんてない。お前は、お前のしたいことをすればいいんだよ」

「私の......したいこと?」

「そう。大体、なんでそんなに普通の魔法を使いたいんだよ?強化魔法が使えればある程度はなんとかなるだろ?」

「なんでって......」

 

そう言われて思い出されるのは、周りの皆...リーゼ達が、初級や中級とはいえ火や水なんかを出せるようになる中でなにも出来ず、バカにされる自分。

 

「私は...皆の使う魔法を一緒に使えるようになって、認めてもらいたい。ううん...自分を......変えたい!」

「...そっか、カッコいいな。お前」

 

そう言ってニコッと微笑む彼に、胸が高鳴る私......って、ないない!まだ会って二日の人だし!

 

「顔赤いぞ?」

「ふぇっ!」

 

言われて両手を頬に当てる。あ、いや、嘘!?

 

「ひとまずどうするかは後にして家に入るか」

「え?」

「飯の準備も出来たみたいだしな」

 

そう言ってテイカー君が指さした玄関を向くと、お母さんが。

 

「あと最後に1つ聞かせてくれ」

「え?」

「もし、自分を変えれるチャンスがあれば、お前は挑むか?」

「......うん」

「そうか、分かった。じゃあ行くか」

「あ...待って!」

 

歩きだすテイカー君に声をかける。今はせめて、これだけは言わないと!

 

「テイカー君!話し聞いてくれてありがとう!」

「お前がどうするかは決まってないし、お礼を言われることじゃないけどな。あと、カムイでいい」

 

ぶっきらぼうに言いながらお母さんと家に入るテイカー...カムイ君。私はそれを、

 

「うん!」

 

笑顔で付いて行った。




昨日ガルパン劇場版を見てきました。二回目です。

映画館で同じ映画を見るのは初めてなのですが、五回見るのは普通と友達に言われ震えました。

感想、質問等くれると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実は

いつもより少なめです。

いつも少ない?...反論できない。



「じゃあ、いただきましょうか」

「「「「いただきます」」」」

 

カムイ君と家に戻ったら、朝ごはんは熱々の状態でできていました。 皆で合掌し、食べ始める。

 

「カムイちゃん。お味はいかがかしら?」

「昨日の夕食もそうでしたが、フィルフィさんの作るご飯はとても美味しいです」

「あら、嬉しいわ~」

「ちゃん付けをやめてくれるともっと素敵ですけど」

「それは無理ね~」

 

なんて会話をしていると、お父さんが

 

「今日はバルトさんの所に行って説明するのだろう?そんな格好でいいのか?」

 

確かにカムイ君の服は、値段が高そうなものの、何日も着ていたのか少しよれよれで、土汚れも所々に付いていた。

 

ちなみに、寝るときはお父さんの綺麗な服を着ていた。その時お母さんに頼んで洗えばよかったのに...

 

「それならお風呂も入っちゃいなさい。昨日もすぐ寝ちゃってたし~替えの服はこっちで用意しちゃうし!」

「そこまでしていただくわけには......」

「いいのいいの!私やユーノのはサイズ合わないけど、この人のがあるし。もちろん新品よ?」

「ちょっ!フィルフィ!あれはついこの間やっと手に入れたや「あなたがあれ着ても似合わないわよ」......はい。」

「というわけで、服は気にしないで!」

「しかし...」

「ね?」

「...ありがとうございます」

 

戸惑いながらもお礼を言うカムイ君に、少し涙ぐんでいるお父さん。黒のコートなんて似合わないのをわかっていないんだろうか?

 

続いてお母さんが、

 

 

 

 

 

「なんなら、ユノちゃんも一緒に入ってきたら?朝も外に出てたから寒いんじゃない?」

 

 

 

 

 

突然爆弾を投げてきた。

 

「「え?」」

「はぁ!?」

 

固まる私たちと、立ち上がるお父さん。でも、

 

「まぁ、それでもいいですけど......」

 

カムイ君がさらに核弾頭を放り込んできた。私は顔を赤くした。だって、それって...!!!

 

完全に硬直した私を置いて、お父さんはカムイ君の胸ぐらを掴む。

 

「お前に、お前のような奴に娘はやらんぞ!突然きたお前のような男に!!絶対やらん!!」

 

騒ぎ立てるお父さんに掴まれてびっくり......というより、きょとんとするカムイ君。そして

 

 

 

 

 

「えーと......俺。女なんですけど...」

 

 

 

 

 

「「へ?」」

 

世界が、というよりお父さんと私がが完全に停止する。その時苦笑しているカムイ君が妙に印象的だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あ~気持ちいい。やっぱ風呂はいいな」

 

今俺は、フィルフィさんに進められた通り風呂に入っている。新魔ではあまり普及していないが、俺はゆっくり入れるのが好きでありがたかった。ちなみにユーノはいない。

 

しかし、まさか男だと思われているとは......

 

フィルフィさんは最初から気づいていたみたいで、あのあとアイオスさんは彼女のフライパン攻撃(前日より見た目威力2倍)を受け、俺に土下座していた。あの「スイマセンデシタァァァ!!!」という声はしばらく忘れられないだろう。

 

ユーノは...固まっていた。あのボケッとした顔は面白かった。

 

ただ、信じられないって顔はショックだった。せめて胸がもっとあればわかるんだろうになぁ...

 

「さて......」

 

だが、楽しい思いもここまで。ここからは今日にしてもらった俺についての説明。最悪その場で切られるかもしれないが、うまくいけば......全ては俺の説明のしかたしだい。

 

でも。

 

「もし、できるなら」

 

風呂から上がりながら思いだすのは、彼女の面白い顔と、朝に見た笑顔だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

...一方その頃。

 

「ユノちゃん。良かったの?」

「なにが?」

「一緒に入らなくて」

「いいの!」

「フライパン怖いフライパン怖いフライパン怖いフライパン怖いフライパン怖い」

「お父さんうるさい!」

 

アインツ家は、平和です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦争の引き金

お風呂から上がったカムイ君と私達アインツ一家は、カムイ君の説明をするためにバルトさんの家に来た。

 

真っ黒のコートに身を包んだカムイ君は、かっこよくてやっぱり女にはあまり見えなかったけど......

家の中には昨日話を聞いていた人だけでなく、村のほぼ全員がいた。

 

「あれ?リーゼは?」

「あの子と会いたくないといって、朝から遊びに行ってるよ......もう少し丸くなってくれると助かるんだけどね」

「それがリーゼちゃんの性格だものね~」

「まぁ、そうですけどね」

 

そんな世間話が終わった後。皆はバルトさんの「座れる人は座って下さい」という一言でテーブルの席に着く。人数が多いので、ほとんどの人は立ったままだったけど。

 

カムイ君はテーブルの上にベルトポーチから取り出したこの世界の地図を広げ、

 

「じゃあ、皆さん気になっていることについて、できるだけ話したいと思います」

 

説明を始めた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ひとつ深呼吸をする。大丈夫。よくよく考えたらかなり危機的な状況だけどなんとかなる。いや、なんとかするんだ。

 

「じゃあ、皆さん気になっていることについて、できるだけ話したいと思います」

 

そうして俺は、説明を始める。

 

「まず始めに、これから言うことは全て真実なので、その上で聞いていただきたいです。あと、質問するのは後で挙手をお願いします」

 

周りの大人たちが頷く。

 

じゃあ、言うか。

 

後で書いた線を消せるペンを取りだし、長方形の世界地図の左上と中央下、右上に丸を、そして中央に縦線を描く。

 

「ご存知の方も多いでしょうが、この左上の丸部分が新魔の王都『クロスベル』です。我々は縦線...中央の『レベル山脈』を避け、旧魔側をあざむくため『レベル山脈』より南の『アリストの森』を抜けて旧魔王都、左上に丸をつけた場所『ストライク』を目指していました」

 

下向きの半円を書くように『クロスベル』と『ストライク』を結ぶ。辺りは突然何を言っているのかわからなくなってきている。

 

そして、重要な一言を。

 

「目的は......旧魔王都襲撃、そして旧魔国王女アリスの殺害です」

 

ガタッ!!

 

「なんだそのいい加減な話は!」

「ふざけるな!そんなことが許されると思っているのか!?」

「そもそもなんでそんなことをお前が知っているんだ!!ただの小僧だろう!?」

 

立ち上がり、口々に叫んでくる人達。

 

想定内だな。

 

「申し遅れました。私は新魔王都第ニ特務部隊所属のカムイ・テイカーです。あ、ちなみに女です」

 

今度こそ、周りが黙りこんだ。ふとユーノを見ると、なぜか目が死んでいた。わかりづらい話ではあるからな...

 

それが少し面白くて笑いそうになるも、村長...バルトさんが手をあげるので顔を引き締める。

 

「皆さん静かに...質問よろしいですか?」

「どうぞ」

「その重要機密であろう問題をを我々に話す理由は?」

「......これから話します。とりあえずお座り下さい」

 

席に促す俺に、渋々従う大人たち。

 

「お話した通り、我々は王都を襲撃する予定でした」

「でした?」

「はい。これは元々、国の一部から旧魔と戦うべきだと訴えだしたのが始まりです...そしてそれは幹部の者にも広まり、穏健派との和解策として出されたのが今回の、新魔だとバレずに暗殺するという任務です。隠密に行うことが命の作戦...部隊の誰かが消えたり死んだ時点で一時撤退を命じられています」

「......その消えたのが、君だと?」

「ここにいるのは進行途中に逃げてきたから...というのは、俺の理由になりますよね?」

「信じられないけど、でっち上げで新魔が一人でこんなところにこないだろうね」

「理解が早くて助かります」

 

俺達の会話についていけない人達が多いのか、ざわつきがぶり返す。まぁ、バルトさんと話せるなら今はそれでいい。

 

「だが、君の言い方からしてわざとその部隊から離れてここに来たんだろう?その理由はなんだい?」

「...このままいけば、アリス様は危険にさらされる。そして、新魔と旧魔は戦争になる。俺は、それを止めたい」

 

シン......と静まりかえる。

 

「君のいた部隊は旧魔を滅ぼそうとしているのに、今さら戦争を止められるのかい?」

 

バルトさんの言葉に何人かがハッとしている。これはすでに戦争の火種であり、実行されれば大戦が避けられないところまできているのを実感したようだ。

 

だが、だからこそ。

 

「うちの部隊は旧魔を殲滅しようとしている人の集まりで、今回の作戦も、和解策というよりかなり独断行動に近いものでした。だからこそ撤退という制約がついたのですが。ともかく、あいつらの撤退より早く『クロスベル』に行ければ、まだなんとか出来る可能性がある」

「君がなんとかできるのか」

「あいつらより早くつければ」

「具体的にはなにをする気ですか?」

「過激派の多くがうちの部隊にいます。それがいないだけで国民の意識を変えることはかなり容易になるんです...演説なんかもしやすくなりますし」

「時間は?」

「行きはこの辺りまで来るのに4ヶ月。撤退のため時間が早まると考えると......3ヶ月です」

 

「...あと、たった3ヶ月で、大戦が起こるかもしれないのか......」

 

誰かが呟いた一言は、周りを凍らせた。

 

「それは、信用していいんだね?」

 

若干顔がひきつっているバルトさんに、

 

「俺の話せる全てですから。信用していただかないと困りますよ」

 

真顔で答える俺。

 

そしてここからは、

 

「それで、お願いがあります。」

「なんだい?」

「戦争を回避する可能性を高めるために、旧魔からどなた来ていただいたほうがよいと考えました。演説なんかもするとしても、喧嘩してる相手の意見があった方が良いと思うので...しかし、最適な人物を探すには時間がない......なので」

 

 

 

 

 

「ユーノを、連れて行きたいのですが」

「え?私?」

 

辺りは騒然。ユーノはまた固まった。今度は石像みたく動かなくなる。

 

そんな中で、今まで一言も喋っていなかったアイオスさんが手をあげた。

 

「つまり、君は自分の部隊を出し抜いて王都に戻り、ユーノを使って残りの新魔を戦争をしないような考えに変えさせるわけか?」

「相手側の人間が戦争をしたくないと言えば、可能性は上がるかと」

「ぬるいな。そんなもので国の意志が変わるとは思えない。極秘とはいえ一度軍を出したのだからなおさらだ。おまけに君は脱走兵で、隣に旧魔がいれば敵である旧魔に情報が漏れているのがバレバレだと考える。その場で二人とも殺されるのがおちだ。国は基本、いつも最悪の状況を考えるものだからな。いや、そうでなければならないからな」

 

昨日今日接していたアイオスさんとは全く違う空気に、俺は動揺しながらも必死に答えを出す。

 

「それについては大丈夫です。あちらでの待遇は国賓級ですよ」

「君がかい?」

「ユーノも」

「なぜそこまで言い切れる?」

「...あちらには俺の仲間がいるので。かなり上の立場にいるやつがね」

「...そもそも、君のいた部隊は撤退するのか?戻るメリットがなさそうだが」

「絶対にします。あちらには俺の仲間だけでなく、あっちの仲間も少しですがいますから。何かあったとき俺の部隊のトップは、基本的に予備団員でも戦力を減らしたくないって考えかたなので」

 

ちなみに、遠距離かつ、移動する人同士でのやり取りは使い魔を使えばできる。だが、使い魔を出すのは固有魔法。新魔では使い手が限られる上に限定魔法になるため条件が厳しく、使える人はいなかった。

 

「それだと君が戻っても意味がないじゃないか」

「残ってる奴等だけなら問題にならないので」

「なぜ予備団員を残しているんだ?」

「あっちで布教活動を続けているんですよ。ですが、それだけならなんとかなります」

「可能性の話ばかりだな...不確定要素が多すぎる」

「そしたら、全面戦争が起こるってのもあくまで可能性ですよ?」

 

「え?私なの?カムイ君の言ってたチャンスってこれ?」

 

本当に家の時とは全く違うアイオスさんの対応に驚くが、そうも言ってられない。一つ息をついて落ち着く。

 

 

 

 

 

「うちの国の意思はまだひとつではありません。まだチャンスがあるんです。そして、なにもしなければ変わりません!ですから!」

「...なぜユーノを?」

「彼女の魔法の話を今朝聞きました。その向上がこの旅で出来ると思います......というのが、表の理由です」

「裏があるのか?」

「...本当は......俺が、信用できる人物がいいからです」

「ッ!」

 

蘇るのは、今朝の出来事。

 

今、俺だって何を言っているのか分からない。でも、今朝の笑顔を見たとき......こいつを守りたいと思った。

 

今度こそ。

 

「......ユーノは、どうしたいんだ?」

「私は......説明できるかわからないけど、カムイ君と行きたい!」

「それがどういう意味か分かっているのか!?」

 

ユーノの言葉にアイオスさんが激高する。

 

「わからないけど、私は私のやりたいことをやるの!やりたいの!」

「あらあら。ユノちゃんいつから反抗期になったのかしらね~」

 

フィルフィさんの参入でアインツ家が静かに......あれ?でも俺もだいぶ恥ずかしいこと言ったんじゃ...!

 

バルトさんと目が合うと、微笑んでいた。うっ...この人は~!大事な話をしているはずなのに、なんだかわからなくなってきた。

 

「フィルフィからも何か言ってやれ!」

「私はいいと思うけど?かわいい子には旅をさせろっていうじゃない~」

「お前!!」

「...実際、ちゃんとしなきゃいけない時が来たんじゃない?」

「!?...カムイ君。来なさい」

 

立ち上がったアイオスさんは、外に出ていく。俺を含め皆がそれについていった。

 

これから何を言われるのか、何をするのかは分からないしがなるべく穏便に済ませたい......そう思わずにはいられなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その剣の名は

アイオスさんと俺、そしてバルトさんをはじめとした村の人は、村の中央に位置するであろう広いところに来ていた。

 

「君が戦争を止めたくて、そのためにユーノを連れて行きたい、ユーノは乗り気、それは分かった。だが、親としてそんな危険な旅をさせたくはない。まあ、ついていってもいいがそれは嫌だろうしな。なら、娘の安全を守れるくらいの力を証明してくれ。ここで」

「!!」

 

そうくるか。

 

「ユーノを守って王都に行けるかどうか試すということですか?」

「そうだな」

「どうやったら認めてくれますか?倒せばいいんですか?」

「強気じゃないか...怪我はフィルフィが治してくれるが、血は出すべきじゃないな。なら」

 

そこからアイオスさんは、左腕につけた時計を見ながら、

 

 

 

 

 

「これから10分のうちに私を一歩でも動かせばいい。ちなみに、こっちはガードするだけだから遠慮なく攻撃してくれていい」

 

衝撃の一言を言ってきた。

 

「それは、なめられているのですか?それとも、ユーノを守るのはその程度でよろしいのですか?」

「もっと難しいのがいいのか?本気の潰しあいとか?」

「......」

 

アイオスさんが挑発してくる。仮にも自分が軍の部隊所属であることを言ったあとでこの反応をされるのはムカつくけど、これが挑発だと言うのは目に見えている。

 

「それでいいんじゃないかな?」

「カムイちゃん!頷いちゃえば勝ちよ!」

 

バルトさんとフィルフィさんはあぁ言うし...

 

いや、冷静に考えろ。簡単な条件の方がいいじゃないか。ユーノを......信用できるやつがついてきてくれるなら。

 

「じゃあ、それで」

「そうか。フィルフィはあぁ言うが、勝たせる気はないからな。」

 

片手をこちらに向けて、さらに挑発してくるアイオスさん。落ち着けよ、俺。

 

「テイカー君。先に彼の固有魔法について教えとくよ」

「バルトさん。さすがにそれは」

「言わなきゃ10分なんてすぐ過ぎてしまうだろ?ハンデだよハンデ」

「......わかりました」

「テイカー君よく聞くんだ。アイオス君の固有魔法は空気を圧縮する能力。半径10メートル以内ならどこでもできる物だ」

「圧縮?」

「それで壁を作って、君の攻撃を防ぐつもりなんだろう。話せることは話した。頑張ってくれ」

「どうして話してくださったのですか?ユーノを...この村の人を危険にさらそうとしているんですよ?」

「......君の説明する姿に感銘を受けた。と言っておくよ」

「...ありがとうございます」

 

「ついでにもう一つだけ。彼は......昔、王女アリス様の護衛にもついていたような人物だ。本気で戦うといい」

「はっ!?」

 

驚いてアイオスさんの方を向くと、戦士の目をしていた。溢れる魔力はユーノを越えている。

 

魔力の制御がうまい人ほど普段溢れる魔力を抑えられ、必要な時に出すことができる。そして、今まで気づけなかったのは......制御する力が高い。

 

この人は強い。それも、王女の護衛に選ばれるくらい。おそらく...いや、絶対に俺より遥か上。

 

「さぁカムイ君。来るといい」

 

なんでそんな人がここに居るかが不思議だが、今は関係ない。やるべきことをやる。全力で!

 

「......では、遠慮なく!!」

 

槍を生成。強化魔法を足と手に。

 

「いっけえぇぇ!」

「-------」

 

まずは遠距離からの投擲。足を踏み込んで出した槍は、アイオスさんに真っ直ぐ飛んでいく。しかし

 

『akasha・fefnir』

 

ガキンッ!

 

アイオスさんに届く手前で何かに弾かれる音がして、槍がどこかに飛んでいく。これがアイオスさんの固有魔法。魔法が使われた瞬間、辺りが一変したように感じるくらい力があることにゾッとする。

 

だが、俺だって負けられない!

 

今度は板を作る。薄くていい。広くて硬い鉄の板を!

 

作られたのは10メートル近くの縦長の鉄板。俺はそれをアイオスさんに向けて蹴り倒す。

 

「あれだけ教えられてて、こちらもなめられているのかな?」

 

そう言うも、一歩も動いてはいけないので魔法を使って鉄板を潰すアイオスさん。冷静に自分の当たりそうな所だけを壊す辺りさすがである。

 

だけど、今回は間違いだよ!!

 

「いくぜ!」

 

アイオスさんが自分に降ってくる鉄板を壊す直前に自分の足元の方にある鉄板に乗り、走り出す。先を壊された衝撃で板が俺の体重をものともせず吹き飛ぼうとする。

 

そして、走りながらイメージするのは、自分の理想の剣。それを使ってアイオスさんの魔法の壁を切っていく俺自身。

 

『image・replica』は、創造力が大切。それが実物するものならそれについてよく知っていればいるほど本物に近い、もしくは越える物ができる。空想の物ならそれを緻密な所まで思い積めれば積めるほど強い物ができる。

 

創造するのはアイオスに勝てる自分。その道筋を作る剣。使いこなす最強の自分!

 

だからさ、力を貸せよ。相棒!!

 

「エクスシア!!」

 

板を消す直前に飛び上がり、黄金の剣の名を叫び振りかぶる。

 

「なっ!」

 

前を覆われていたアイオスさんにとっては、慢心しながら鉄板を壊したらいきなり至近距離の上空に敵が居る状態。驚く顔のアイオスさんと目が合う。

 

「もらった!」

 

そういって降り下ろしたエクスシアは、アイオスさんの魔法で作られた空気の壁に防がれる。キンッ!と響く音は、剣同士がぶつかったような音だった。

 

だが、動けないアイオスさん相手に剣の間合いに入ることは、自分から下がらなければどう振るおうと剣が届くということ。

 

このまま切らせてもらう!!

 

俺は気合いを乗せ、横に剣を振るった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

一言で言えば、すごい戦いだった。

 

剣を上下左右から色んな手をつかって振るカムイ君と、それを全て自分に当たる前に『Akasha・fefnir』 で圧縮した空気の盾を作って防ぐお父さんの攻防は、すでに七分以上経っていた。

 

お父さんが戦う姿をあまり見ない私は感動すると同時に、カムイ君がそれに剣で立ち向かう姿に目を離せなかった。

 

ただ、このままでは時間が過ぎるだけで、決定的なものは決まっていない。残り時間が一分を切る。

 

しかし、戦局は動いた。

 

「あっ!」

 

本人の疲れからか、カムイ君の黄金の剣が、砕けた。しかし、それと同時にお父さんの魔力で作られた壁も砕ける音がしたけど、にやけるお父さん。剣を壊したことで余裕だと思ったんだろう。それに、空気の壁ならいくらでも作り直せるから...

 

あぁでも、これで終わりか......私は何もできなかったな......

 

そう思い諦め、下を向いた瞬間。

 

 

 

 

 

「まだ、終わりじゃない!!」

 

 

 

 

 

叫ぶカムイ君と同時に、

 

「そうだろ!エクスシア!!」

 

剣が再び現れた。

 

その姿を見て私は思い出す。今朝、カムイ君は 『なんでも、何回でも作ることができる。』と言っていた。あの剣ももう一度作り出したものだろう。

 

お父さんは、槍や鉄板を作った時その仕組みを分かっていなかった。いや、分かっていたのかもしれないけれど対応しきれなかった。

 

「......俺の勝ちですね」

「そうだな...」

 

結果。後ろにバックステップをとり、勝敗が決まった。ハイレベルの戦いの、あっけないとも言える最後だった。

 




いまさらですが、サブタイに深い意味はありません(笑)

それにしても、バトルシーンって書くの難しいですよね...上手く書くコツとかサイトあさってみても、実際できるわけじゃないし......これから精進したいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦った後で

アイオスさんとの戦いで勝利した俺は安堵しながらエクスシアを消す。

 

でも、アイオスさんのあの強さ......尋常ではなかった。

 

俺はアイオスさんがどんな魔法を使うのかは直前に聞いた。アイオスさんはこっちの魔法を分かっていなかった上に、防御を行っていただけ。しかし、結果はやっとのこと一歩後ろに下がらせた程度。本気で戦ったらと思うと......ゾッとする。いや、比喩ではなく瞬殺だろう。

 

俺も......もっと強くならないとな。

 

「負けてしまったか......なめた態度をとってすまなかったな」

 

戦い終わった後のアイオスさんが優しそうに謝罪してくる。さっきとのギャップがありすぎてなんだか少しおかしく感じた。

 

「いえ...あの、いくつか質問してもいいですか?」

「答えられる範囲なら、答えよう」

「なんで王女の護衛を止めてこの村に?こんなに強かったら護衛を解雇されたわけではないでしょう?」

「あー......彼女がこの村にいたから。だね。」

 

そういってフィルフィさんに顔を向けるアイオスさん......

 

「......顔がにやけてますけど?」

「ハッ!」

 

緩んだ頬を引き締め直すアイオスさん。さっきの威厳とか、もうないですよ。

 

「もうひとつは、なぜ貴方がユーノの指導をしてあげなかったのですか?アイオスさんなら、魔力の制御なんてすぐに教えられそうなのに」

「......自分の娘に、魔法を教えたくはなかったんだ。使い方を間違えれば人殺しの道具になるし、なにより自分の親がそんなことをしてると思われたくなかった。その結果このざまだけどね。今の環境に甘えていたよ」

「アイオスさん......」

「さて、他はあるかな?」

 

苦笑しながら答えるアイオスさんを見て、急に不安になった。だからこそこんな言葉が出たんだろう。

 

「あとは......どうやったら、貴方みたいになれますか?」

「それは、強くなりたいからかい?」

「はい。正直この戦いで、今のままでは.....ユーノを守れないと思いました。でも、俺は......」

「だいたい言いたいことは分かっているつもりだよ。君はもっと辛いことをしようとしているのだから」

「......」

 

返す言葉もない俺に、アイオスさんは考えるように手を顎にあて、

 

「二つアドバイスをしよう。君の戦いかたは見たけど、欠如しているのは魔力の練りの甘さと、単純な魔力量だ」

「!」

「筋肉の原理のように、魔力を圧縮して練る練習をすることで、より魔力が増え強くなることは分かっているだろう?君の魔力はもっと強くなり、量も増やせるだろう。だから毎日魔力を使うべきだ。それだけでやれることが格段に増すだろう。制御もうまくなるから剣を使う間の強化魔法もさらに使いこなせるようになるだろうし、利点は大きいと思う」

「......ありがとうございます!」

 

的確なアドバイスに頭を下げる。確かに『image・replica』も、基礎的なことをやればできることは広がるだろう。まぁ、純粋に魔力不足ってのも悲しいけどな......

 

「あともうひとつ。気持ちを強くもて。絶対に諦めない心を持て。君の魔法を使う上で、そしてユーノを守る上で...いや、人間の心で一番大切なことだ」

「ッ!!」

「頼むよ?」

「ありがとうございます。本当に。.......俺は強くなります。人を、ユーノを守れるくらい強く」

「頑張れ。あ、あとさっきのはただのおっさんの助言だからな」

 

ほがらかに笑顔を向けるアイオスさんにつられて俺も笑う。

 

「次会う時までに成長してれば、本気で勝負してみたいな」

「そんなすぐには強くなりませんよ」

「なれるさ。絶対にな」

「はぁ...」

「......娘を、頼むな」

「......はい!」

 

アイオスさんは認めてくれた。俺も新たな目標ができた。

 

 

 

 

絶対にやってみせる。

 

 

 

 

 

決意を新たにしたその時、

 

 

 

 

 

 

「キャー!!!」

 

事件は起こった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「キャー!!!」

「リーゼ!?」

 

遠くから聞こえた悲鳴にバルトさんが反応する。本当に今ので自分の娘かどうかわかるんだ......

 

「また熊か?」

「最近は冬眠に備えている時期だからな......栄養が欲しいのかもしれないな」

「まだ冬眠しないんですか?」

「時期的には微妙だよね...ここら辺は他より少し暖かいってのもあるけど」

 

冷静に解説するカムイ君とお父さんの声も聞こえなかったようで

 

「リーーーーーゼーーーーー!!」

「待ってください!」

 

私たちは走り出すバルトさんについていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

バルトさんを追うと、その先は森の中だった。

 

「このあたりか?」

「手分けして探そう」

「そうしましょう。早く見つけないと」

「リーゼー!!」

 

...リーゼを探すこと五分。カムイ君と一緒に行動する私は、なかなか見つけることはできなかった。

 

「もう食べられてるってのは......」

「そんなことないだろ。こんなところで後ろ向きの考え方するな。早く探すんだよ」

「うん......」

泣きそうな目を拭ってリーゼを探す......リーゼ、死んでないよね?

 

だが、あっさりと、

 

「このっ!このっ!あっちいけ!!」

「いたぞ!」

 

彼女を見つけることができた。

 

しかし、見た先にいたのは、ボロボロで血も流しているリーゼと、彼女と対峙している『ブラッディ・ベア』二匹。リーゼは魔力が切れているのか、もう抵抗らしいことができなかった。

 

「助けなきゃ!」

 

慌てて腰につけていた短剣を抜くも、熊はその爪をリーゼに降り下ろす。

 

固有魔法が詠唱なしなら、妨害できただろう。

 

強化魔法がもっと強かったら、素早く移動して割って入れただろう。

 

...詠唱なしの普通魔法が使えれば、助けられただろう。

 

その全てができない私は...無情にも、ただ見ていることしかできなかった。

 

あぁ......もうだめだ!

 

私は友達が傷つく恐怖から目を反らした。

 

 

 

 

 

「さっき言われたばっかりだしな」

 

 

 

 

 

彼女の声を聞くまでは。

 

「え?」

「これは...」

 

恐る恐る目を開けると、さっきお父さんと戦ったときに出てきた鉄板みたいな、氷の壁がリーゼと熊の間に入っており、爪が刺さっていた。守られたリーゼも口を半開きにしている。

 

「諦めない。絶対に」

「カムイ君......」

 

カムイ君が氷魔法を使った結果だった。

 

「俺は人を守れる力が欲しい。もっともっと強い力だ...ユーノも協力してくれるか?」

「...うん!」

「じゃあまずは、あいつらをやるぞ!」

「うん!!」

 

手に持ったままの短剣を握りしめ、カムイ君は黄金の剣...エクスシアを作り出す。そして、リーゼを助けるため私たちは駆け出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パーティーで酔うのは基本?

「じゃあ、かんぱい!」

『かんぱーい!』

 

午後7時。俺やユーノ、アイオスさんを初めとした村人全員は、バルトさんの家で祝杯をあげていた。村長ってそんなことも突然できるのかと驚きはしたが......ちなみにフィルフィさんは「準備があるから先に祝われててね~」と言って自分の家に戻っており、今ここにはいない。

 

あのあと、無事にリーゼちゃんを助け熊を倒した俺たちは、バルトさんから泣くほど感謝され、リーゼちゃんもお礼を言ってくれた。「あ、ありがとう...」と言った彼女をの顔は、襲われた直後だからか顔も赤くなっていたが、今は問題なさそうでなによりだ。

 

その後、無事に娘が見つかったことと、俺とユーノの旅がうまくいくようにパーティーをすることになり、現在にいたる。

 

実際俺もおいしい料理ばかりならんで良い思いをさせてもらっていた。新魔と旧魔ではメインで出される物が違うから新鮮だし、特にデザート美味しすぎ。やっぱり動いた後の甘いものは最高だな!

 

そんな感じで一人で料理を食べていると、

 

「凄く美味しそうに食べるね。ユーノもこのくらい笑顔なら......」

「私は関係ないでしょ!」

 

アイオスさんとユーノが同じテーブルの席に座ってくる。

 

「ここの料理は美味しいですから」

「なんとなくカムイ君はもっと良い料理食べてそうだけどなー」

「そんなことないさ」

「まぁ、楽しんでくれてるようでなにより......さて、本題だが」

 

アイオスさんが話を切り出してくる。

 

「まあ、その前に一つ質問だ。君がこっちの王都に来て、情報を教える代わりに信頼関係を築こうと言うのはダメなのか?それならわざわざユーノを出す必要もなくなる」

「俺が『ストライク』に行ったら門前払いですよ。アイオスさんの名前を出せば行けるかもしれませんが、それだとあっちに残してきた仲間が心配になるので。それに、うちの部隊は証拠を残しませんから」

「自信があるわけだ?脱走はされてるのにね」

「表情をとりつくろったりして苦労しましたよ」

「そうか...なら、さっきも言ったが......ユーノを、頼むよ」

「はい」

「許可だしてくれてありがとう!」

「送り出すからには戦争は止まるんだろうな?もちろんユーノの演説で」

「そっそれは...「もちろんです」え、カムイ君!?」

「俺もサポートしますし、きっと大丈夫です」

「さっきとは別人みたいだな」

「気持ちも強くなるって決めましたから」

「ちなみに、どうやって『クロスベル』まで行くつもりだい?」

「『レベル山脈』を越えて行きます」

 

ブーーーッ!!!

 

飲んでいたジュースを吹き出すアイオスさん。きっと無謀とか言い出すんだろう。確かに『レベル山脈』は雲を貫いている様な高さの山が立ち並ぶ所だが、そこを突っ切らないとあいつらより早く『クロスベル』にたどり着けない。

 

「私無理だよあれ上るなんて!」

「だが、『アリストの森』を通れば俺の部隊に見つかる危険性が高い。そしたらその場でドンパチだ。無駄な戦闘をさけて安全に行くなら山を登るしかない」

「あの山登る時点で安全ではないんだけど......」

「はぁ......先に聞いといてよかったよ」

 

汚れた口周りを拭き終わったアイオスさんが呆れた顔で会話に入ってくる。

 

「それならここから2つ北西に離れた『アースラ』を目指せばいい。」

「なぜです?」

「そこにいる同僚...メイルって奴の固有魔法が転移なんだよ。それを使えば、少なくとも『レベル山脈』は越えて行けるはずだ」

「ホントですか!?」

「色々と面倒な奴だけどね......俺の娘だと言えば助けてくれると思う。あとは頑張ってくれ」

「なんだか無責任だね......」

「ユーノ許して!」

「はいはい許すから」

「...あいつのことは知ってるつもりだな、今でもよくわからない所が多くてな」

「可能性があるだけでも十分です。ありがとうございます」

「あぁ。...っと、スピーチかな?」

 

アイオスさんが向いた方向に目を向けると、バルトさんがお立ち台に登っていた。

 

「えー皆様。本日はお集まりいただきありがとうございます」

「一番最初にやるべきなんじゃないかー?」

「そうだそうだ~」

「娘が無事なことに舞い上がっておりまして......ともかく、本日大活躍してくれたカムイ・テイカーくん!こちらへどうぞ!」

(これ大丈夫かよ......)

 

バルトさん含め皆酔っているのかなんだかおかしな雰囲気だが、断る理由もないので席を立つ。

 

バルトさんのところまでくると、マイクを向けられながら

 

「はい!カムイ君です!拍手!!」

 

バルトさんの掛け声に......シーンとする会場。リーゼちゃんだけが拍手してくれていた......なんだかカオスだな。一刻も早く抜け出したい。

 

そんなことは露知らず、

 

「カムイ君はユーノちゃんを引き連れて戦争を止めに行くのです!これはその前祝いだから」

「一応機密事項なんですけど...」

「この村の人はもう皆知ってるから!それで、いつここを出るんだい?」

「そうですね......明日には」

「えぇぇ!?」

 

今度はユーノが立ち上がる。あれ、言ってなかったっけ?

 

「聞いてないよ!?」

「心読むなよ。じゃなくて...だって早くしなきゃいけないことだし......」

「なにも準備してないから三日は待って!女の子なんだよ!?」

「俺も女だけどそんな時間かからないよ!」

 

ひどい言い訳をされたが、確かにいきなりは無理があるかな~なんて考えていると。

 

「大丈夫よ~」

 

ドサッ!と荷物を下ろすフィルフィさんが会場に入ってきた。

 

「ユノちゃんの荷物は全部まとめて来たから~」

「お母さん!?」

「善は急げよ~」

 

......なにはともあれこれで助かったな。明日には行けそうでよかった!

 

「じゃあ明日の朝見送るために早寝しましょう!解散!!」

『オーー!!!』

 

突然パーティーはお開きとなった。ユーノの「いきなりだよぉぉ!!」という叫び声は夜空に消えた。




活動報告の方で詳しく書きましたが、ラブライブ!のラストライブ頑張ってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出発、そして。

そんなこんなでもう朝です。

 

「準備はいいか?」

「...この杖いる?」

「お前......魔法を制御させなきゃいけないんだから、できる可能性は上げるべきだろ」

「まぁそうだけど......かさばるじゃん」

「寄っ掛かりながら歩けば?」

「そんなおばあちゃんみたいなことしません!」

 

前日に(お母さんが)準備した肩掛けバックを持って、服はお気に入りのをきて、下着は......毎日変えれなさそうな量だけど持ちました。今さらだけど旅してる人って荷物どうしてるんだろ......カムイ君はみた感じバック持ってないし、腰にあるポーチくらい?

 

ともかくそれから、左手に杖、腰に短剣という武器を持ち、準備は万端。

 

カムイ君は服を私達の家にあったものを借りた結果、お父さんからのもらった首もとが白い毛で覆われている黒コートを着て、ズボンも似たような黒という、貴族とかにいそうな服を着ていた。というか、貴族にしか見えなかった。お父さんが着てもこうは見えないだろう。ちなみに自分の服はしまったらしい。ちっちゃいポーチに。

 

「いいなぁ......」

「なに言ってるんだ?行くぞ」

「あ、まってよ~」

 

村の入り口まで行くと、リーゼやバルトさんたちが待っていた。

 

「いやー昨日はすまなかったね」

「いえ、大丈夫です」

「カムイ様!ありがとうございまた!」

「次から様付けじゃなくていいからね?リーゼちゃん」

「はい!」

 

カムイ君が会話をしているのを見て、私はお母さんとお父さんの所に行く。

 

「ユーノー!!!やだ!!別れたくない!!ユーノォォ!」

「お父さんうるさい!」

「ダメじゃない...昨日はちゃんと見送ろうって言ってたのに」

「だっ!て!ユーノ!が!!」

「聞き取りにくいからちゃんと喋って?」

「だってユーノがいなくなるんだもん」

「もんって...」

 

ここにはいつもの朝の様な、いつものやり取りがあって少し悲しくなる。

 

「ユノちゃんまで...大丈夫?」

「...うん。大丈夫。私は」

「そっか...じゃあ、気をつけてね?」

「あっちがどんなことになってるかは分からないけど、頑張ってな」

「うん!頑張ってきます」

「ユーノ。お父さんからアドバイスだ。ユーノはすごい力があるから自分を信じてしっかりやりなさい」

「はい!」

「いざとなったらカムイ君に丸投げしなさい」

「はい!」

「それは違くないか?」

 

リーゼ達と話終わったのか、こちらに来るカムイ君。

 

「カムイ君。特訓の仕方は昨日教えた通りだ。ユーノとあっちの情勢も任せたよ」

「必ず上手くやります。ありがとうございました」

「あぁ。」

「二人とも頑張ってね~」

「うん!」「はい!」

 

お母さんの言葉に、私たちは同時に返事を返した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それじゃあ、いってきま~す!」

「色々とありがとうございました!」

 

こうして、私たちは手を振っている皆に振り返して、

 

「じゃあ行くか」

「よろしくね。カムイ君!」

「......アハトだ」

「え?」

「アハト。俺の本当の名前だ。これから二人の時はそう読んでくれ」

「......じゃあ、アハト君。私からもお願いが......」

「なんだ?」

「荷物もって!!」

「断る!」

「あ、待ってよアハト君!」

 

勢い良く走り出すカムイ...アハト君についていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あぁ......行ってしまいましたか......カムイさん。素敵だったのに......」

「あれで女の子なんだからすごいよね~」

「......パパ。今なんて?」

「え、すごいよねって」

「その前!」

「あれで女の子?」

「......女の子?なの......」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あぁやっぱりお父さんも着いていく!待ってろよユーノ!」

「そんなのさせるわけないでしょう?それより......これ、なーんだ?」

「ッ!!どうしてそれを!」

「昨日ユノちゃんの準備をしてたら見つけちゃったのよね~」

「うぐっ...はぁ...」

「話がすんなりいけば、アハト君もユノちゃんも助かるだろうな~」

「そ、そうだね」

「ところで......私たちまだ、新婚旅行行ってなかったわよね~?」

「え、まさか、フィルフィさん?」

 

 

 

 

 

「だから、仕事ついでに旅行に行きましょ?王都にね♪」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「見つからない......か」

「申し訳ありません!」

「悲しいけど......戻るしかないわね。進路変更を伝えてきて」

「はっ!」

「進行はここまでしちゃったけど、情報漏洩や、証拠は残さないように」

「了解しました!失礼します」

「ふぅ......全く。あの人のせいでこんな条件に従わなきゃいけないなんて。厄介ね。このまま『ストライク』に行ってもいいけど...立て直さないと不味いものね。それにしても...あの子が簡単に死ぬわけないし...脱走?」

 

 

 

 

 

「......すこし、面倒なことになりそうですね」

 

 

 

 

 

「そうね。でも、戦争はしてもらうわ。旧魔どもを滅ぼさないと......」




なんとか三月中に一章終わらせることができました!

これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エイプリルフール短編-もしも...

もしもアハトが女であることをバレないようにしなければならなかったら。


...俺、アハトは今、二つの大きな国、旧魔国と新魔国の間で戦争を起こさせないよう動いている。

 

なりゆきで着いた『シオン』という旧魔の村で居候させてもらっていて、これからなぜ新魔である俺がこんな旧魔の田舎村にいるのか村長のところまで説明しにいかなければならないのだが...

 

「お前に、お前のような奴に娘はやらんぞ!突然きたお前のような男に!!絶対やらん!!」

 

現在。居候先のアインツ家の家主でるアイオス・アインツに胸ぐらを捕まれていた。

 

原因は。アイオスさんの妻であるフィルフィさんが、二人の娘であるユーノと俺が一緒に風呂に入ったらどうだと言ってきたからだ。前日眠くて入らなかったため、確かに入った方が良いのだが...そのユーノとアイオスさん(多分フィルフィさんも)は、俺が男だと思っているらしい。

 

俺という一人称を使ってはいるものの、れっきとした女であるため一緒に風呂に入っても問題はないのだが...ここで問題が一つ。

 

諸事情があり、俺は男として振る舞わなければならないのだ。だからここでバレるわけにはいかない...諸事情というのは、決して短編だからとかもしもの話だからいらないとかそういう理由ではない。断じてない。

 

「なんとか言ったらどうだ!!」

「ひゃっ!//えー...えっと......」

 

俺の葛藤など知るよしもなく、さらに胸ぐらを高く持ち上げてくるアイオスさんのせいで変な声が出てしまう。腕は肘辺りまで胸に密着しているのにも関わらず、本人が気づく様子は全くない。

 

(なんか無性に腹立つ!!)

 

気づいて欲しいのか欲しくないのかよくわからないまま時間だけが過ぎ、俺は意を決して口を開いた。

 

「ふ、風呂は一緒に入りませんから安心してください...ここもすぐ出ていきますから」

「言ったな?」

「はい。誓います」

「...本当か?」

「はい」

「本当の本当か?」

「はい」

「本当の本当の本「しつこい」ぐべぇっ!?」

 

言い寄ってきていたアイオスさんの頭に、フィルフィさんが持っていたフライパンが直撃する。鐘の音のような音がしてからアイオスさんが地面に倒れる。

 

「ひいっ!?」

「大丈夫よ。殺してないから~」

「......そうですか」

 

あなたの娘がとんでもない顔してますよ。なんて、この時俺は口が裂けても言えなかった。

 

同時に、フィルフィさんに謎の忠誠心が育まれた...気がした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ...疲れた」

 

既に説明、アイオスさんとの戦い、村長であるバルトさんの娘リーゼを熊型の魔物から助け出し、パーティーも終わって明日に備えて寝るだけになっている。

 

今日一日だけで多くのことをこなしたからか疲労がかなりたまっていた。このままいけば寝るのに数分かからないだろう。

 

「荷造りは...するほどないし。洗って貰った服も受け取ったし、やることは...ないか」

 

確認をしてからベットに頭から突っ込む。睡魔はすぐにやって来た。

 

「せめて...最後に...」

 

アイオスさんから貰い着続けていた黒のコートを脱ごうとしたが、脱いだのを自覚する前に意識が消えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「カムイ君...寝てる?」

 

お母さんに「カムイちゃんから何か必要なものないか聞いてきてくれる?」と言われたのが二分前。本人に聞こうと思って貸し出している部屋の扉を開けると、小さな寝息を立てながら寝ているカムイ君がいた。

 

「こんなにはみ出して...」

 

寝相が悪いからなのか、布団から足や手が出ていてコートもなんだか脱ぎかけ...男の子って皆こんな感じなのかなぁ......

 

「全く...しょうがないなぁ」

 

身長も私より高く、年上のはずなのに、寝ている顔はなんだか可愛らしくまるで女の子みたいに見えて思わず笑ってしまう。

 

「でも、これから一緒に旅するし...ん?」

 

疑問に思ったのは、コートを脱がせようと手をかけたとき。注意して見なければ見逃しそうなくらいだが...胸に二つの膨らみがあることに気づいた。

 

「この位置は...あれ?」

 

男だと言っていたのにも関わらず、胸が少しだけとはいえある。服の厚みなら全体的に盛り上がっているはずだから...おかしい。

 

「...か、確認だけだから......」

 

私は誰に言い訳しているわけじゃないのにそんな言葉を口にしてから...カムイ君の体の下の方に手を伸ばした。

 

やってはいけないと頭では分かっているのにも関わらず、自分の手を止めることはできなかった。

 

あと少しでその手が触れそうになる。そのまま手を伸ばし...

 

 

 

 

 

「...んっ」

「!?」

 

触れる直前にカムイ君が呻き声をあげ、ヒュバッ!と音がなりそうな勢いで手を戻した。テンパってそれ以外は固まってしまう。

 

「あわわわわわ......」

「んんっ...」

 

そして、カムイ君はその両目を開けてしまった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

「えーと...こんばんは?」

 

誰かの気配を近くから感じて目を開ければ、すぐそこにユーノがいた。

 

顔を真っ赤にして息づかいも荒く感じる。お互い服が乱れていて、何より...はたから見たら上から四つん這いで押し倒されている状態だった。

 

(どうなってるんだこれ...)

 

なぜこの状況が出来上がったのか全く理解せずに呆然としていると、

 

「カムイ君って...男の子なの?」

「へ?」

 

ユーノが声をかけてくる。恥ずかしいのか目を伏せてはいるものの、距離が近すぎてどうしても目があってしまう。とろけるような水色の瞳に吸い込まれそうになる。

 

だが、彼女に質問されて俺が本当に男なのか聞かれているんだとようやく分かった。そりゃ、これだけ近くになったら分かるだろう...

 

「はぁ...本当は、俺は女だよ」

 

正体がバレてしまったため仕方なく白状するも、彼女はボーッとしたままだった。

 

「ユーノ?」

「女の子なの?じゃあ...ここにはなにもないよね?」

「え?あ、ちょっ、ユーノ!?」

 

彼女は目をとろけさせながら、右手を俺の胸にのせてくる。そして、左手を...下の方に。

 

「あっ、ユーノそれはっ!」

「ふふっ...」

 

ユーノは俺の声が聞こえないのか、正気を失ったように手を進めて_____

 

 

 

 

「夜の部屋...男女二人っきり...押し倒し...ユノちゃんも大胆になったわねぇ~」

「「!!?!?」」

 

いつの間にか開いていた扉の向こうからフィルフィさんが覗いていた。

 

「明日は赤飯ね~残ってたかしら?」

「ちょ、フィルフィさん違うんですこれは」

「うゎ...きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うるせぇユーノ!叫びたいのはこっちだ!!」

「仲も良くなって...お母さん嬉しいわ~」

「私はなにをやってわぁーカムイ君になにをわぁーあああああ!!」

「勘弁してくれぇ!」

 

ニコニコと微笑むフィルフィさんと正気に戻って俺のすぐ上で絶叫し出すユーノを見て、俺も叫びをあげた。早く休むということはどこか遠くに消えてしまった。

 

 

 

 

 

___結果、誤魔化そうとしてもその日の内にバレる。___




ご覧の方はお気づきだと思いますが、いつもより少し甘めです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

...エイプリルフール短編なのに、嘘ついてないだと......気にしたら負けさ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編Ⅰ

鉄血のオルフェンズが終わり、ガンダムucテレビ版、始まりましたね。何気に楽しみです。


村を出てから数日。今日も、私たちは次の村へ移動している最中だった。

 

日が暮れそうになり、辺りはうっすらと赤色に染まる。

 

「じゃあ、今日はこの辺にするか」

「はーい!」

「元気だな...」

「お腹すいたから」

「いつもと変わらないぞ?」

「じゃあいつもよりお腹すいた!」

「はいはい...じゃあ炎だけつけるから後頼む」

「はい!」

 

アハト君の指示で歩くのを止め、私はテントと夕御飯を作りだす。その間、アハト君は自分の鍛練をしている。これは、朝の私の鍛練の時にアハト君に見てもらっているから。人のを見ながら自分のことをやるとどっちも片手間になってしまうかららしい。お陰で私はきちんと教えてもらえるので、こうしてお礼として夕飯を作っているのですが。

 

でも、今日アハト君は特訓せずに腰につけているポーチから棒状の何かを出すと、カリカリと食べ出した。

 

「アハト君特訓しないの?」

「今日はわりと坂道が多かったかし、お前がいつもより早くおきたぶん眠いんだよ。糖分摂取したいんだ」

「でも、夕飯前にダメです!」

「あっ!ユーノ!」

 

アハト君の手から棒の入った袋ごと取り上げる。てゆうか、ポーチの中にあったのによく折れなかったね......

 

よく触ってみると、棒はクッキーみたいなものでできていた。折れそうになるのを注意しながら掴み続ける。

 

「これで糖分とれるの?」

「中にチョコが入ってるんだよ。一本食べてみな?」

 

疑わしかったが、言われた通り一口食べてみる。口のなかには甘い香りが広かった。

 

「うーん...はむっ......!おいしい!」

「だろ?」

「うん。...あ、食べちゃった......」

「これでお前も一緒だな。さ、残りを返そうか?」

「だ、だめだよ!夕飯食べてから!」

「食べたやつに言われたくないぜ......それに、それは集中力の特訓にもなるんだぞ?」

「え?これが?」

「二人で端と端をくわえて、折らないよう注意しながら最後まで食べ進める......ってやつだったと思う。すぐ近くで見れないから感覚が研ぎ澄まされるとか言ってた。だから返せ」

「それ一人じゃできないじゃん!」

「騙されなかったか...」

「私そこまでバカじゃないよ。でも...せっかくだしやろうよ!それなら簡単そうだし私も集中力つければ基本魔法も上手くできるようになるし」

「一本じゃ意味ないとおもうけどな......まぁ、お前が言うならそれでいいけど」

「?」

「いい早くくわえろよ」

 

いつの間にか袋ごと私から奪っていたアハト君は、棒を一本取り出すと口にくわえてその先を私に向けてきた。

 

「ほは、ふーほも(ほら、ユーノも)」

「う、うん...」

 

せかされた私は反対の端をくわえる...

 

(顔ちっか......///)

 

くわえてから気づいた。これダメだ。きっと顔は真っ赤になっているだろう。

 

だってアハト君の顔近いし、というかアハト君の顔も真っ赤だし、なんかいい臭いするしでさっきまでおいしかったこのお菓子の味なんてもう分からなくなっているし......

 

「しゃあ、いくしょ(じゃあ、いくぞ)」

「ふぁ......///」

 

アハト君の顔が寄ってくる。え、でもダメだよこれこのままいったら......でも、アハト君ならいいかもしれないけど......あれ?

 

考えてるうちに、どんどん減っていく私たちの隙間。

 

(えぇい!ままよ!)

 

私は覚悟を決めて目を閉じる。来て...

 

 

 

 

 

しかし。

 

ポキッ。

 

「あ......」

 

棒は見事に手前で折れてしまった。出来なかったな......ってなんで落ち込んでるの!キスされてないからいいじゃない!それにこういうのはムードが大切で......べ、別にムードが良ければしたいわけじゃ!!

 

私が一人でわたわたしていると、

 

「いやー折れちゃったかーうまくいかないなー」

「......アハト君?」

 

若干棒読みっぽく喋りながら、後ろを向いているアハト君。顔は見えないが、その耳は赤々としていた。

 

もしかして......

 

「アハト君......」

「なんだよ!?」

「もう一本、しよ?」

「しないから!!はっ!」

 

顔をこちらに向けてツッコミをいれたアハト君の顔はりんごみたいに真っ赤だった。

 

「あははははははっ!」

「ユーーノーー!!」

 

その顔がかわいくて大爆笑する私に、アハト君の怒号が響き渡った




次回から二章に入ります!気長に待って下さい!(そう遅くはならないはずですから...)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二章『エルビス』
旅の日課


これから二章に入ります!


「じゃあ、今日はここまで」

「はぁ。疲れた~」

「準備頼むな」

「はーい」

 

アハト君が横たわっていた木の幹に座り、私がアハト君の作ってくれた鍋に具材を入れ、魔法で火をつけてもらう。

 

村を出てから一週間。私とアハト君は『シオン』から二つ離れた町『アースラ』を目指して森を抜ける毎日です。

 

新魔の王都『クロスベル』まではまだまだだけど、「急いだら俺もお前も特訓できないしな」ということで、朝と夜に特訓。昼は歩いて移動しています。

 

森を突き抜けて移動してるから馬車とかより時間かからないし。

 

あ、修行、というか特訓についてだけど、アハト君曰く、

 

「アイオスさんからも聞いたけど、お前は普通の魔法制御ができない。でもそんなの見たことないし......ひとまず、体くらいの大きさでいいから氷を作る練習をしよう」

「小さくなくていいの?」

「無理に小さくしようとして暴走したことあるんじゃないか?」

「うっ...」

実際、この前氷魔法をやろうとして、イメージした大きさは小指くらいだった。

 

確かにダメかも......ということで、今は魔力制御のためにイメージ練習している。一応暴走しても火事なんかにならないよう氷を作ろうとしているけど、まだ作ってはいない。最低でももう少しやらないと......昨日、アハト君から「見てて漏れる魔力が少なくなってきてる...気がする」って言われたから、効果は出てるわけだし。...出てるよね?

 

この魔力制御を朝と夜に行い、昼はずっと移動。途中に出てきた魔物や果物を捌いて食糧とするサバイバル生活をしています。

 

アハト君は私が朝に魔力制御をしている間、ずっと見てくれて場合によっては注意をしてくれます。その分、夕飯のしたくは私が行い、その時アハト君が朝の分特訓するのが日常になりました。

 

他にも、この一週間でアハト君のことも分かってきました。例えば、

 

「毎日肉ばっかだな......ハチミツとか落ちてないかな......」

「ごろっと?」

「ごろっと。あ、蜂の巣あれば自分で解体するから平気だけど。前もやったし」

「!?」

 

かなりの甘党だったり、

 

「アハト君17歳なの!?」

「悪かったな......」

「そうなんだ~」

「お前は14歳くらいだろ?」

「なんでわかったの!?」

「雰囲気だよ」

 

年齢差が三歳もあったり。あとはベルトのポーチにお菓子と針とメモ帳と......なんて、間違いなく入りきらない量の物が入っていたり......あれ中どうなってるんだろ。

 

ジュワ~っと鍋から音が聞こえてくる。今日の夕飯も肉。ただ、今日は『ブラッディ・ベア』と、鳥形の魔物(名前忘れちゃった...)から柔らかい部位をもらったので期待はできる。自分を襲ってきた魔物を食べるのは少し抵抗あるけど。

 

アハト君、喜んでくれるかな?

 

そんなことを思いながら、彼女を呼んだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「アハト君。ご飯できたよ~」

「了解。これ終わらせたら食べるから先食べててくれ」

「はーい」

 

ユーノと旅に出てから一週間が経った。

俺はメモ帳とペンをポーチにしまって、ユーノの方へ向かう。

 

毎日夕飯の準備をしてくれるのはとてもありがたいな。問題は材料か...

 

「しょうがないとはいえ、肉ばっかだな...デザートはもう全部食っちまったし」

「でもほら!今日のは柔らかいはずだから」

「待っててもらって悪いな」

「気にしないで」

「じゃあ、食べるか」

「「いただきます」」

「また絵を描いてたの?もぐっ...」

「そうだよ」

「私ずっと同じものばかり描いてたら飽きそうだなぁ...」

「自分で作った自分の剣だからな。飽きないし、飽きてたら何もできないさ」

 

食べ出してからも会話が続く。

 

俺は朝にユーノの特訓を見てる分、夕飯を作っている間特訓させてもらっている。夜はお互い別々だが。

 

さっきやってたのは、体内で魔力を練り込む動作。アイオスさんに言われた物だ。これをやることで全体的な魔力量を増やすことができ、高純度の魔力を生成することもできるようになる。

 

火の玉で表すと、同じ大きさでも込めれる温度が違うってこと。

 

効果が出てるのかはあまり実感がない。初めて一週間だしこれからだとは思うが。

 

ただ、これだけだとどうしても何もしていないように感じてしまうので、俺は特訓中に自分の剣...エクスシアのスケッチをしている。

 

「...ん」

 

これを色んな角度で描くことによって、とっさにでもより強い物がイメージできるようになる。実際、さっき描いていたメモ帳は三代目だ。

 

「......トくん。」

 

魔力量を増やすのと平行してもっとやらないとな...こっちは熊を倒すときに成果がすぐでるし。それでも微々たるものだけど......

 

「アハト君!」

 

気がつくと、ユーノが目の前にいた。若干頬を膨らませている。

 

「え?どうした?」

「どうしたじゃないよ。何回呼んでも返事しないから」

「あぁ、マジか。気づかなかった」

「まったく......食べ終わったし、先に特訓してるよ?」

「わかった」

 

立ち上がって少し離れたところで特訓を始めるユーノ。何も知らないやつが見たらただ杖を構えて目を閉じているだけに見えるが。

 

俺も早くやるか。

 

肉を食べながらなんとなく見上げた夜空は、雲っていて星が見えなかった。

 




ちょっとした次回予告。

ユーノとアハトが着いた町で出会ったのは、

「あ、助けてくれないかな?」

大胆な服を着て、赤い髪をした女で...





感想などぜひお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間

いつの間にか四日もたってる...

お待たせしてしまって申し訳ないです。これからもっと遅れるかも...


「今日はあっついね~」

「最近のことを考えるとあり得ないくらいだからな...」

 

『シオン』を出てからもうすぐ二週間、疲れました。田舎だから一つ一つの町の間隔が広くて...

 

いや、ホントに毎日景色の変わらない森の中歩くのは苦痛なんだよ!?おまけに今日はかなり気温が高いし。冬に向かっているとは思えないくらいに。

 

「でも、もうすぐ次の村につけるんじゃないか?地図的に」

「やったー...あれ?でも、うちの隣の村って確か......」

「噂をすれば、だな。見えたぜ」

「......うわ~」

 

急に木々がなくなって村が見えた。『シオン』と比べたら少し大きいくらい。確か、

 

「あそこ、エルフの住んでる所だよ」

「そうなのか?」

「バルトさんから聞いたことがあるから」

「こんなところにもいるんだな~」

「こんなところとは失礼な」

「すいません」

 

エルフ。魔法を使う種族では代表的なもので、耳が尖っている見た目が特徴。

 

私たち旧魔や新魔と違う所は、こっちは大きい小さいの差はあるものの角が魔力の源なのに対して、あっちは生まれながらに心臓の近くにある魔力石がその役目を果たしていること。エルフ自身はコアと呼んでいるみたいだけど。

 

昔は一つの大きな町に住んでいたらしいけど、今はバラバラになって、それぞれで生活してるみたい。だからこそこんな辺境な場所にもあるんだけど...

 

まぁ、今はそれはあまり問題じゃなくて、一番不味いのは......

 

「あそこ他種族好きじゃなかったよな?」

「うん。せっかく来たけど遠回りした方がいいかな......」

 

そう。アハト君が言ったようにあまり他の種族と関わりを持ちたがらないのだ。下手な所は門前払いどころかその場で魔法を打ってくるレベルで。聞いた話だけど。

 

理由は知らないけど、それなら一つの町で固まってた方がいいだろうに......

 

「行ってみるだけ行こうぜ。もしかしたら肉意外を食べれるかもしれないし」

「!!」

 

確かに野菜とか食べれるかも......ここ最近の食生活はホントに襲いかかってきた魔物のお肉と、少しの木の実。アハト君の一言によだれが出そうになるのも仕方がない。

 

「決定だな」

「うん。行こう!」

 

どうか歓迎してくれるような所でありますように!

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

俺たちはエルフの村(名前は『エルビス』というらしい)の門の手前まで来ていた。門前払いはされないみたいだけど...

 

「なんというか、暗そうな所だな」

「うん......」

 

外から町の中を見ても人が一人も見当たらなかった。荒んでいる、とも言えるだろう。

 

「買い物くらい勝手にしてもいいかな?」

「さすがに不味いんじゃないかなぁ...」

「だよな。はぁ、入れはするけど...誰もいないし。遠回りしてさっさと『アースラ』目指すか」

「そうだね...」

 

そう言って二人で立ち去ろうとする。しかし、

 

「お願いします!」

「いやーそう言われてもね」

 

男と女で、言い争っているような声が聞こえた。町の方か?

 

「なんだろな」

「うーん...行ってみない?」

「人がいるなら話してみるか。あとユーノ。他の人がいるときはカムイって呼んでくれ」

「え?」

「いいから」

「う、うん」

 

勝手に中に入って声のした方に向かうと、俺と同い年くらいの赤髪の女と、少し年老いて見える耳の尖った男がいた。

 

「あ、助けてくれないかな?」

「え?他の町の方々ですか!?」

 

......肩や腹の部分が露出した服を着ている女と、そいつに土下座しているおっさんが。

 

「...ぁー」

 

隣のユーノにも聞こえない声...というよりため息をつく。

 

やばいのに捕まったかも。

 

俺は今さらながらに後悔していた。意味無いのにな......

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「と、言うわけ。わかった?」

「わかるか!」

 

えー、今の状況を言うと、すごい面積の少ない服を着た女の人の突然のボケにアハト君がツッコミを入れてる。という状態です。

 

「じゃあ最初からだね」

「なんも話してないだろ!」

「カリカリしてるとハゲるぞ?」

「ハゲないわ!」

「説明は初めからしますから助けてください!」

 

アハト君の血管が若干浮き出始めたところで男の人から止めが入った。ナイスです!

 

「...んで、なんなんだよお願いってのは?」

 

落ち着いた...でも隣にいる女の人を気にしながら質問をするアハト君。

 

「はい。あなた方に娘を助けて欲しいのです!お願いします!!」

「......どういうことだよ?」

「ここの近くに竜が住んでて、昔から十年に一度女の子を食べちゃうんだって。パクって」

「!ひどい...」

「なんで!?」

「自分たちの村を襲わない代わりに生け贄を捧げているんだってさ。で、今年竜に選ばれたのがこの男の娘ってわけ」

「今年...明後日には竜が来てしまうんです!お願いします!どうか竜を倒してください!」

「あんたら自身が倒せないのか?」

「エルフが攻撃すると村を滅ぼされてしまうんです...どうか!」

 

再び土下座をしてくる男性。

 

竜は、私はめちゃくちゃ強い魔物、くらいしか分からない。絵本だと騎士と一緒に世界を救ったとかみたことあるし!噂では一匹で町三つ滅ぼしたとか...?

 

協力したいけど、そんなの倒せる気がしない。でも、その娘さんは助けたい...

 

とっさに一緒に行動している彼女の顔を覗くと、すごく思い詰めたような表情をしていた。

 

「アハト君?」

「俺は......俺たちはできる限り協力します。条件はつけますけど」

「本当かい!?」

「はい。...悪いなユーノ。勝手に決めて」

「私も同じだったから大丈夫!それにアハト君なら『戦争を止めに行くのにここで見過ごしてたら意味がない』とか言いそうだしね」

「ずいぶんと過大評価してくれるんだな。ありがと」

「ううん、いいの!」

「ただ、名前間違ってる。カムイだ」

「あ、いたたっ!ごめんなさい!」

「君たち仲良いね」

 

アハト君に頭をぐりぐりされる中、女の人は苦笑していた。そして

 

「私は受けないから。この話」

「え?」

 

その言葉を聞いた瞬間、男性が恐怖に満ちた顔をした。

 

「なんで受けないんですか?明日明後日までにこの村に来る人なんて私たち以外ほとんどいないんですよ?」

「君らがやるでしょ?」

「人数は多い方がいいです!」

「竜を倒せる算段でもあるの?」

「それは...今から考えます!」

「あのねぇ......お人好しなのは分かったけどさ」

彼女は肩をすくめ、諭すように語ってきた。

 

「この人の話聞いたでしょ?ここは何回も女の子を生け贄にして生き延びてるの。それが、いざ自分の娘が食べられるとなったら助けを求めるとか、都合良すぎない?」

「それは......」

「そんなことを言ってくる奴のお願いなんて聞きたくないよ。命をかけるならなおさら」

「でも、娘さんが死んじゃうんですよ!?」

「運がなかっただけだ。選ばれた運命を恨むんだね」

「そんなの許される訳がない!」

「「「!?」」」

 

急に怒鳴るような声をあげるアハト君。

 

「......そんな運命は潰してやる」

「そう。なら頑張ってね」

「お前も手伝うんだよ」

「倒せる見込みもないのに?」

「ユーノが言ったように、人数は多い方が良いからな」

「なんでわざわざ死にに行かなきゃならないのさ」

「死なせるもんか。ユーノもお前も」

「随分高まってるね」

「...確かにな」

「...なんか拍子抜けしちゃうなぁ...」

 

ふざけているとも、真剣ともとれる二人の態度にハラハラする。やがて女性は肩をすくめて、

 

「...はぁ。じゃあとっておきを言うよ。私は、魔法が使えない」

「!」

「だから、君たちの足手まといになる。わかった?」

「お前もしかして......人間だったのか?」

「え、今さら?」

 

驚く顔をしたのは、きっとアハト君だけじゃないだろう。

 

人間は魔法が使えない。

 

この世界は魔法などがないと全てを奪われる...わけではないけど、基本的に魔法が使えないの立場は低い。人間は色んな種族と共に暮らしたりして守ってもらうのがほとんどだとお父さんが言っていた。

 

でも、目の前の女の人をもう一度確認しても、バックを一つ持っているだけでとてもじゃないけど一人でこんな田舎にこれるとは思えなかった。私も角が見えない新魔なのかな~と勝手に思い込んでいた。

 

「でも、どうやってここまで......」

「あ、お前じゃこの辺までこれないだろ格下がぁ!みたいな?」

「そ、そんなことは!」

「まぁ実際私にはマジックアイテムがあるからね~修行の旅ができてるのもそのお陰よ」

「マジックアイテム?」

「あ、これ私が勝手に呼んでるだけだったね。じゃあ証拠を見せてあげよう!えーとっ...お、あったあった」

 

そういいながらおもむろに自分のバックをあさり、取り出したのは小さなガラス瓶。それの栓を外して私に向けてきた。

 

『ーーーーーーーーーーーーー』

「これは......」

 

魔法を唱えるように詠唱を始める女性。でもついさっき魔法は使えないって......

 

『coming』

「え?」

 

その言葉が発された瞬間。私は見える景色が歪んだ。




新学期始まりましたね。えーと...高校生なので始業式とか出てました。

おまけにすぐテスト...学期の初めくらいゆっくりさせてくれないんですかね?(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『遺産』とは

「マジかよ...」

「すごいでしょ?」

「ど、どうなってるの......アハト君が大きい?あれ?皆も!?」

 

ありのままを話そう。女が詠唱したあとユーノは彼女が持っていた小さなガラス瓶の中に入ってしまった。もちろんサイズは小さくなっている。

 

何を言っているかわからないだろうけど俺にも......あ、

 

「それ、『遺産』か?」

「ピンポーン!よくわかったね」

「本で見たことがあったからな」

 

『遺産』。『前時代の秘宝』とか『化石』とも言われているそれらは、昔生きていた者が作り、そいつらの死と同時に土に埋まって、今では文字通り化石扱いされている。

掘り出されたものはその希少性から高値で取引され、それで生計をたてているいる人もしばしば。大体は無理だと分かって諦めるらしいが...

 

その見た目、効果は様々なものがあり、そうだと紹介されるまでわからない物もある。

 

特徴は、魔力がない人でも詠唱さえすれば使いこなせるということ(ちなみに詠唱方法はその実物とセットで取り扱い説明書がついているらしい)魔法ではできないこともやれることがあるくらいか。

 

「それは...」

「ふふん。名前は収縮瓶。構えた方向にいる人をこのビンの中に入れられるんだ。それに」

 

彼女は解説をいれながらさらに詠唱をする。

 

『ーーーーーーーーーーーーーout』

「わわっ!」

「ユーノ!?」

 

そして、小さくなってビンに入っていたユーノが元の大きさに戻って出てきた。突然のことでバランスを崩す彼女を慌てて支える。

 

「こんなふうに戻せるしね?人間くらいの大きさしか入らないけどさ。私はこういうのを売買したりして修行、観光かな?の旅をしてるわけ。でも魔法使えないし。というわけでじゃあね」

「いや行かせるかよ」

 

俺は勢いよく肩を掴む。なんか去ろうとしてるが、意味がわからなかった。

 

「ちょっ!なんで掴むのよ!」

「いや、普通にそうゆうの使えば即戦力だろ。余裕で俺らより使えるぞ?」

「あ......」

 

俺の手を振りほどくものの、墓穴を掘ったことに今さら気づいたらしい。バカだな。

 

「おとなしくしろ。竜を倒すのも修行もなるだろ?」

「勝てるわけないでしょ!」

「勝てるから。多分」

「多分じゃ死ぬわよ!それに私はこいつのお願いを聞きたくないの!わかる!?」

「それじゃあ詳しい話をしたいので座れる場所でも行きませんか?」

「そ、それなら村長の家に行けば大丈夫だと思います。あっちです」

「ありがとうございます」

「話聞けーー!!」

「あはは...」

 

女の叫び声を無視してズルズルと引きずっていく。そのときのユーノのひきつった顔が印象的だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「で、そういうわけで協力したいのですが」

「じゃがのう...」

 

 

今俺たちはさっきの男性(名前はダンだと言っていた)に連れてこられた村長の家でさっきの話の続きをしている。ただ、あちら側は乗り気ではないらしい。

 

「これだから嫌だったんだ。自分達のことしか考えないから」

 

確かにその通りだろう。村長達からしたら他人の娘を差し出すだけでまた十年安全になるのに、それをやめて無謀な賭けをしようとしているのだから。自分の関係ないことなら所詮は対岸の火事なんだろう。同じ村の仲間としてどうなのかは言わないでおくが。

 

だけど、見過ごす理由にもならない。

 

「竜の情報をくれればこちらでなんとかします。お礼は、俺たちは食料をくれれば結構ですので」

「「え!?」」

 

この条件はかなり破格だろう。命をかけてるのに、金銭などは取らないと言っているのだから。

 

「アハト君。それだけでいいの?」

「大丈夫だ。お金なんて全く使ってないしな」

「確かに...たくさん持ってたもんね」

「そんなに多くないさ」

「えー......」

「あとカムイな。今回は聞こえてないみたいだけど」

「あ、すいません...」

 

 

ユーノが小さな声で話しかけてくる。俺たちの全財産はユーノの貯金と俺の持ってたお金だけだが、旅で全く使ってないので大丈夫だろう。俺も困らない程度には持ってきてるし。

 

「それなら...お願いしようかのぅ」

「じゃあその竜についてなにか意「私はぶんどるからね!」はぁ...」

 

せっかく交渉がまとまったと言うのに、何を言い出すんだろう。いや確かにユーノやこの女をしゃべらせてはいなかったけど。

 

「私が要求するのはこの村の『遺産』だよ!」

『!!!』

「もともとこの村に『遺産』があるって聞いて来たしね」

 

周りの空気が一気に冷える。この反応を見るに、誰かしら『遺産』を持っているのだろう。

 

「...お願いします」

「ダン!貴様!あれはこの村の大切な物だぞ!」

「それでも娘の方が大切なんです!」

「貴様なぞ出ていけ!無論お前らもだ!」

「そのつもりです。皆さんこちらに来てください」

「わかりました」

 

なんか熱くなってる村長(ご老人)を放っておいて家を出る。ここ何時間かでスルースキルが高くなった気がした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「さっきはすいません。寝床はうちの家でもよろしいですか?」

「どこでも構いません」

「ありがとうございます」

「これでこいつらに適当にやらせて『遺産』をもらえれば...」

 

私たちは村長さんの家を出てから、ダンさんの家に向かっています。

 

「ここの『遺産』ってそんな貴重なんですか?」

「いや、村長が大切にしているだけでそう大したものじゃないよ」

「思い入れって大事なんだな...」

 

アハト君がダンさんの話に微妙な顔をする。それにしても...

 

「少し不気味だね...」

「なにがだ?」

「だって、全部おんなじ家じゃん...」

 

そう。並んでいる建物はすべて同じ見た目だった。

 

「あぁ、それはこの村の地面にあわせているからなんです」

「地面に?」

「はい。エルフは自然と共存するというのを生業としているので、その場所に合う家を作っています」

「作る家でそんなにかわるんですか?」

「ここの土地は魔力がこもっているので、その魔力を少し分けてもらえるよう地面に刺さるような設計になってるし、逆に作物が不作になったりしたら僕たちの魔力をわけれるようになってます。」

 

魔力が込もっていると、その土地は活性化するというのは知っていたけど、全部同じ見た目にすることないのに...

 

「暮らしていれば気にならないですけどね...さて、ここが僕の家です。少ないもてなししかできないけど入ってください」

「じゃあ入りまーす」

「「お邪魔します」」

 

軽い感じで入っていく女性を先頭に、私とアハト君も家に入る。

 

「娘さんは?」

「竜に狙われてると言われた時から部屋にこもってしまってね...」

「あぁ...」

「今呼んできますね。どうぞくつろいでいて下さい」

 

そういって二階に上がっていくダンさん。

 

それを見送ってから、女の人はソファーに寝転がる。ここ来たばかりの家ですよね?

 

「あぁー気持ちいい~」

「連れてきました」

「はやっ!」

 

ダンさんが連れてきたのは、10歳くらいの女の子。私たちを怖がっているのか少しダンさんに隠れていた。

 

「ほら、あいさつを」

「...ティナ・ハンスです。」

「よろしくね」

 

おずおずと自己紹介してくる彼女。

 

「そういえば、まだ名前を聞いてませんでした。あなた方のお名前は?」

「ユーノ・アインツです」

「カムイ・テイカーだ」

「私はアカーディアだよ。よろしくね」

 

それぞれの挨拶も終わって、皆がソファーに......

 

「お前どけよ。てか自己紹介とか寝ながらするもんじゃないだろ」

「嫌だよ。ここが私のテリトリー!」

「うるせぇ。座れないだろうが」

「ッ!きゃっ!首根っこ掴むなんてサイテー。女の子に暴力は振るうもんじゃないでしょー!」

「悪かった悪かった」

「なんなのよ!」

「落ち着いてください...」

 

無事?すわる。アハト君ももう少し抑えてよ......

 

「あはは...えーと、竜に関する資料と、僕らが言えることは何でも言うので、娘を助けてください!」

「任せてください」

「『遺産』のためだしね...しょうがない」

 

こうして、竜討伐の作戦会議が始まりました。




さて、彼女達はこれからどうなるのか...?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

情報集め、食事、睡眠。どれも大切なことです。

あのあと俺たちは、ダンさんから借りた竜についての資料をあさったり(俺は見たことあるものが多かったが)この村の話を聞いたり、その話をまとめたりして、気がついた時にはもう日がくれていた。窓から見える外は闇しかない。今俺はそれぞれにダンさんから割り当てられた部屋の中で見たことある資料をパラパラと見直していた。

 

分かったことと言えば、

 

1.竜はここから西の上り坂の上にある洞窟に住んでいる。

 

2.十年に一度女の子をこの村から貰い、洞窟まで戻って食べる。

 

3.ここにいる竜は翼はあるものの空は飛んだことはない。

 

と、こんなところだった。空を飛べる竜は能力が最高クラスらしいので、そこはまだ救い所だろうか。

 

そして、一番不味いところは......先程の会話を思い出す。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「不死身?」

「はい。竜は元々長寿ではありますが、攻撃を受けてできた傷なども、すぐに回復してしまうらしいのです」

「どこから聞いたんですか?」

「ソノーさん...村長から聞きました。前に一度だけ竜を攻撃したらそうなったと。その時は言い訳して、村はなんとか焼かれずにすんだらしいのですが......」

「なるほど」

「不死身って...勝ち目ないじゃん。諦めて逃げようかな~」

「いや、いくら竜でも不自然だ。それに、そこまで強い竜ならこんなところじゃなくて竜の巣である『レベル山脈』にいるはずだしな。なにか理由があるのか...」

「明後日までに見つけられるかな?」

「見つけるしかない。とりあえず明日は外にでて聞いてみよう」

「教えてくれないだろうけどね」

「言ってろ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

絶対見つけてやる。

 

「アハト君ご飯だって」

「ユーノか?あぁ分かった」

 

いつの間にかドアの前にいたユーノを後を、俺は開いていた分厚い本をしおりを挟んでから閉じ、決意を新たにして向かった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どうぞ召し上がってください」

「豪勢だね~」

「私とティナちゃんで用意したんだよ」

「...召し上がってください」

「んじゃ遠慮なく」

「久しぶりの肉以外......デザートもある食事...だと!?」

 

嬉しそうなアカーディアさんに、若干おかしな目をしているアハト君が座って、皆が席につく。

 

「いただきます」

「「「「いただきます」」」」

 

全員で合掌してから ......20秒後。

 

「「おかわり(頼めるか)?」」

「はやっ!!」

 

同時に茶碗をあげる二人に、思わず反応してしまう。

 

「久々なんだからな...野菜とか。それに早くデザート食べたい」

「美味しいからね!それにこいつに全部食べられそうだし...」

「その通りだ」

「そんなのさせるわけないでしょ」

「......ふふっ」

 

嬉々とした顔をしてるアハト君を睨み付けるアカーディアさんに、ティナちゃんは少し固かった表情を和らげてくれた。その顔を見て、

 

そうだよね...突然竜に選ばれて食べられそうになってるんだもんね......

 

絶対助けてみせる!

 

気持ちを強くした矢先に広げられるのは、どっちが先におかわりをもらうかで揉めている二人の姿と、それに苦笑するハンス家の親子の姿だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ところで、替えの服はあるかい?」

「ユーノは持ってないですね」

「私も持ってないですよ~」

「困ったなぁ...そのままベットで寝てもらうのも......」

 

確かに俺たちの服は少し汚れてきた。毎日森の中を歩いていれば当然だから気にしなかったけど。

 

「ユーノさん。私の服...」

「あぁ、確かにアインツさんとティナのはギリギリ合うかな?」

「さんとかつけないでくださいよ~ティナちゃんもいいの?」

「うん」

「じゃあ、ありがたく着させてもらうね」

「今来ているやつは洗濯しておくから。魔法使えば朝までに乾くし」

「ほんとですか!?ありがとうございま、す...」

 

恥ずかしそうにしながらも着替えに行くユーノ。すれ違いに「なんか負けた気がする......」と言っていたのは気のせいだと信じたい。十歳と体格が似てるのは確かに...ちなみに服を乾かす魔法なんて存在しない。どんなマジックをするのか...ともかく。

 

「問題は、こっちかな」

「私も旅に余計なもの持ちたくない主義だから」

「他人のは着たくないですよね?」

「誰が男の服を着るもんですか」

 

問題はこっちのお姫様か......まぁ、いいか。

 

「つまり、新品の女物がいいんだな?」

「少し意味違うんだけどそういうことだよ。もしかして今から買ってきてくれるつもり?外真っ暗なのに?」

「買うわけないだろ...少し待ってろ」

 

そういってリビングを出て、二階に繋がる階段へ...行くことはなく、誰もいないことを確認する。

 

(バレても問題はないけどな)

 

そう思いながらワンピースをイメージ。ズボンとシャツとかだと二つ作らなければならないが、俺の魔法は一度に一つしか物を作れない。普段は武器しか作らないからあまりイメージがわかず、少し質素なものだが...

 

(そのへんは我慢してもらうけどな。これ以外に方法ないし)

 

『image・replica』

 

しっかり詠唱もして、できあがったのは白のワンピース。ほつれなども見当たらないそれを持って再びリビングへ行き、アカーディアに渡す。

 

「ほらよ」

「え?」

「えじゃなくて、ワンピース。それ着てろよ。」

「ホントに買ってきたの?」

「んなわけあるか。企業秘密だ。俺の服じゃないから安心して早く受けとれ」

「あ、ありがとう...」

「じゃあ、アカーディアさんのも洗うね。でもテイカーさんは大丈夫?」

「一応、長旅の予定で替えの服は持ってきたので。といっても普段はこっちの方がいいので洗濯お願いできますか?」

「あぁ。分かったよ」

 

なんだかんだでアイオスさんのコートは気に入っている。動きやすいし、かなり良い素材らしくしっかりしていた。ちなみに替えの服はベルトポーチの中だ。ユーノにも言ってないが、あれも『遺産』の一つで、実際の十倍くらい物が入る。どういった原理なのかは知らないけどな。

 

「っ...あん__________の?」

「え?」

「なんでもない!お風呂入りますから!」

 

そのままリビングを抜けるアカーディア。言葉は聞き取れなかったけど何を言っていたんだろう?

 

「テイカーさんはどうする?」

「もう少し資料をあさるので朝シャワーを浴びれれば結構です。おやすみなさい」

「あ、あぁ...おやすみなさい。服は風呂場に置いといてくれればいいから」

「わかりました」

 

部屋に戻り、手早く着替えを済ませて風呂場に服を置きに行く。中からうなり声が聞こえた気がしたが放置してまた部屋に。

 

ベットに腰掛け、魔力の特訓をしたまま資料を見返し始める。今頃ユーノも鍛練をしてるんだろうか。

 

俺もできることをやろう。

 

 

 

 

 

竜が来るまで、あと二日。




感想、評価、どしどしください。くれると飛び回ります(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

残り少ない時間

目が覚めて窓の外を見ると、朝日はもう出ていました。

 

昨日の夜、ティナちゃんとお風呂に入ってから魔力の特訓を少しして寝たので...少しって言うとアハト君に怒られそうだけど。

 

それにしても、少し日が高過ぎるような...

 

部屋から出て、階段を下りてリビングへ。

 

「おはようございま~す」

「じゃあ、行ってきます!!嘘!ユーノちゃんに行かせて!」

「いってら。はよ行け。そしておそようだぞねぼすけ」

 

リビングには(服は皆着替えていました)手を振るアハト君、怒っているような顔をしたノクスさん、ひきつった顔をしたティナちゃんとダンさんがいて、わけがわからないことになっていました。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私はアハト君の説明を受け...

 

「えーと、つまりティナちゃんと一緒に遊ぶ人、ダンさんと一緒に情報を聞きに行く人、ここで資料をもっと読む人に分けたいけど、私が寝てたからティナちゃんと遊ぶのを私に任せることにしてダンさんとアカーディアさん「ノクスって呼んでいいよ!」...ノクスさんで無理やり行かせようとしたけど私が起きたことで振り出しに戻った.....ってこと?」

「そういうこと」

「ユーノちゃんからもこいつに言ってやってよ!自分が本読んで動きたくないだけのひどいやつだって」

「考えた結果なんだけどな...」

「...カムイ君が考えたのなら良いものかも知れないけど、無理やりはよくないと思うよ」

「そうだそうだ!」

「悪かったよ。すまないな」

「これは土下座か『遺産』の提供ですね!」

「その前にティナと遊んでやれよ。そっちの方がいいんだろ?」

「もちろん!本読んでても寝ちゃうし!それじゃあティナちゃん行こうか?」

「は...はい」

 

リビングがら出て二階に上がっていく二人。それを見送ってからアハト君が息を吐いた。

 

「じゃあユーノ。ダンさんと頼むぞ」

「カムイ君がそれ読むの?」

「俺がこのメンバーの中で一番目を通している。この家の物置にあった本もさっきとってきたし、こういうのには慣れてるから。お前もしっかり情報集めしてきてくれ」

「うん。わかった」

「あと、パジャマ姿で外でるなよ?」

「わかってるもん!」

 

ダンさんから受け取った自分の服(ホントに一日で乾いてる...)に着替えて、私たちは情報集めのために外に出ました__________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「で、何もなかったと」

「面目ありません...」

「ごめんね」

 

ユーノとダンさんが帰ってきたのは日がくれる少し前だった。新しい情報はゼロだったけど。

 

「いえ、最初から村長などもなにか知っているとはあまり思ってなかったので」

「じゃあなんで私たちを行かせたの!?」

「万が一を考えてに決まっているだろう」

「うっ...夕飯の支度します!」

 

そういってユーノはキッチンに逃げた。全く...

 

「そういえばティナとアカーディアさんは?」

「ケーキを買って来てから部屋に戻りましたよ」

「あぁ、ティナはケーキが好きだからね...」

 

 

 

 

 

__________最後の夕御飯、とか、思ってるのかな__________

 

 

 

 

 

その呟きは、周りを静かにさせるのに十分だった。

 

だから。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫です!」

 

彼女のその声も、周りによく通るものだった。

 

「きっと明日竜を倒した後のパーティー用ですよ!」

 

誤魔化しにも聞こえたけど、

 

「それに、カムイ君だってノクスさんだって、一応私もいますし...」

 

他人任せにも聞こえたけど、

 

「いざとなったら逃げればいいですし!」

 

自分達のことしか考えてないように聞こえたけど、それでも。

 

「だから、大丈夫です!」

 

一生懸命さが。ユーノの思いが伝わるものだった。

 

こんなやつだから俺は。

 

「ユーノの言う通りです。お父さんが落ち込まないでください」

「...そうだね。二人ともありがとう。」

 

ユーノが仲間で良かったと思った。

 

「いえいえ。さて、夕飯は前夜祭として張り切っちゃいますよ!」

「俺も手伝うぞ。あの二人を驚かせてやろうぜ」

「うん!」

 

ユーノの隣に並んで腕捲りをする。いつの間にか日は沈んでいた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃあ、おやすみ...」

「あぁ、すぐ行くからね」

「うん......」

 

あのあと夕御飯を作り、上の部屋で寝ていた二人を起こして皆で食事をしたあと(ちなみにケーキは食べなかった)ティナちゃんは寝るためにリビングから出た。

 

ダンさんは一応娘との最後になるかもしれないから一緒に寝てあげたいんだろうが、すぐには行けない。なぜなら、

 

「じゃあ、作戦会議だね」

「すぐ終わらせますから」

「ありがとう...本当にありがとう」

「泣かないでよ見苦しい」

「ま、まだ竜倒してませんから!嬉し涙はとっておきましょう?」

「......そうだね」

 

ダンさんはユーノとアカーディアに言われて顔を上げる。その顔に涙は残っていなかった。

 

「じゃあ、早速始めるけどその前に。」

「なに?」

「お前が持ってる『遺産』の中に、なにか使えるものないのか?」

「再生する竜に効きそうなやつなんてなにもないわよ。収縮瓶だって入らないだろうし。魔力増強ジュースはあるよ?あげないけど」

「ダメじゃねえか...だいたい、お前魔法使えないならそのジュース持ってる意味ないだろうに。じゃあ......俺たちがとれる作戦は一つだけだな」

「一体なにを?」

「簡単ですよ...ユーノに竜を燃やしてもらう。それだけです」

「「!!?」」

「ちょっ!カムイ君!?」

「そりゃそうだろ。大火力によって再生できないくらいダメージを与えればいい。ユーノの中で辛うじて安定してできそうなのは炎と氷。なら燃やせ。氷はダメな?復活するかもしれないから」

「いやいや!?竜を燃やせることってできるの!?」

「一か八かだな。でも、資料と情報を集めて、一番可能性が高いとしたらこれだ。ちなみに魔力増強のやつはいらないからな?いきなりそんなのいれたらどうなるか分からないし」

「ユーノちゃんは普通でそんな強いの打てるの!?」

「えーと......もしかしたら?」

「大丈夫じゃないよね。これ」

「......それでも、お願いします」

「ちょっといいの!?娘の命がかかってるんだよ?」

「今まで真剣に考えてくれた方々がそれしかないと言うのです。それなら、任せるしかありませんよ」

 

微笑みながらダンさんは任せると言ってくれた。なら、

 

「任されました。必ず倒します」

「頑張ります!」

「私は結局なにもしないのか...いざとなったらティナちゃんを逃がすくらいはやるよ」

「お願いします!」

 

全力でやるだけだ。

 

「ま、出来るかどうかはユーノ次第ですけどね」

「...あ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ユーノ、よく寝ておけよ?」

「う、うん...」

「じゃあおやすみ」

「うん。おやすみなさい」

 

作戦会議(作戦と言えるのかはともかく)は終わり、ダンさんはティナちゃんの元に、俺達も自分の部屋に戻ってからしばらく経ったとき、俺は特訓しながら一冊の本をまた見ていた。

 

特訓のほうは、ここ三日辺りで安定感が出てきた気がする。実践で使えるのかは知らないが......

 

目の前にある本は、50冊近くあったなかで俺にとって有効なことが書いてあると思ったものだった。最後の確認に読むのにはふさわしいだろう。

 

さっさと確認して寝るか......と思った矢先。

 

コンコン。

 

「ん?」

 

ドアをノックする音がして、そのまま開いた。向こう側にいたのは_____

 

「今、いいかい?」

 

アカーディアだった。

 

「......いまさらだが、その腹とか肩とか露出しまくってる服寒くないのか?」

「うるさい!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それで、なんか用か?」

「いや、チェスでもどうかな~って」

「...まぁいいぞ。やるか」

「うん。駒しかないけどいいよね?」

「盤なら用意できる」

「え?」

 

明日使うだろうし、バレてもいいか。そう思ってチェス盤をイメージ。すぐに完成させたものをベットに置く。

 

「座るのベットしかないけどいいだろ?」

「それより今のなに!?」

「俺の得意魔法だよ」

「へぇ...すごいねぇ......」

「俺からしたら何で駒だけ持ってるのか不思議なんだが」

「ちっちゃいから持ち運びに便利じゃん。盤は紙でも作れるし」

 

そういいながら駒を並べていく。彼女の昨日とかと少し違った態度を不思議に思いながら。

 

「先攻どうぞ」

「言っとくけど、俺は強いからな?」

「なめないでよね」

 

軽く会話しながらポーンを動かす。まぁ、今はぶっちゃけこの勝負どうでもいいんだけどな...

 

「それより、ただチェスしに来たわけじゃないんだろ?」

「...うん。さっきまでユーノちゃんと話してたんだけどさ。少し気になって...」

「なにが?」

「......君が」

 

駒を動かしながら会話が進む。アカーディアはこっちを見ずにチェスに集中しているように見えた。

 

「なんで最初、私を村の人たちの情報収集に行かせようとしたの?」

「なんでって...お前『遺産』集めなんてやってて交渉するの得意そうだったから情報集めやすいんじゃないかな~って。それだけ」

「!ちゃんと理由があるなら言ってくれればよかったのに」

「今のお前と違って頑固そうだったからな。てか今お前潮らしくなりすぎだろ。昨日とかと全然違うじゃん」

「そんなことはないし、そんなことはいいの。それより...君とユーノはついこの間会ったんでしょ?なのに凄く仲良く見えるから気になってね。何でなのかな~って」

「出会って少しハプニングがあっただけだ。今では守りたい良いパートナーだけどな」

「それだけじゃないんじゃない?」

「なに?」

「だって、あんたはたまにすごい目してるから。遠くを見てるような......」

 

駒を動かす手が止まる。まさか......

 

「いや、なんでもないさ」

「嘘つき。バレバレだよ?」

「......マジか。こんな奴に」

「こんな奴言うな。それで、今なら話し聞いてあげるけど?」

「上から目線だなおい」

「私の方が偉いから」

 

何故かどや顔のアカーディア...だから俺も、ポロッと話してしまった。

 

「......昔、一緒に遊んでいた奴に怪我をさせてな。そいつは足が折れた」

「......」

「そいつは大丈夫とか言ってたけど俺は自分を攻めて...それから守りたい人を守れるように強くなりたいと思って、魔法を覚えたんだ」

「...あっさり、というかあんまり深くない理由だったね」

「言ってろ。俺にとっては大事だったんだ」

 

あのときは俺もあいつも泣いていた。それから周りの人を泣かせない、助けれる人になりたいと思った。

 

思いは今も変わらない。そのために新魔と旧魔の戦争を止める手伝いもし始めたのだから。

 

「でも、ダメだな」

「え?」

「たぶん、ユーノとあいつが似てたから、重ねて見ていたんだと思う。でもそれはダメだろ。同じ人じゃないのに大切な人同士とはいえ違う人を一緒に考えるなんて。それに、ユーノはパートナーだ。いつもは見ていて危なっかしいけど、大切なことに気づかせてくれるやつだ。まだ少ししか一緒にいないけど、守りたいと思える大切な人だから。対等でいたいって言うと違うかもしれないけど......ダメだ。まとまらない」

 

自分の気持ちが分からなくなる。無意識に重ねていたんだろう、そんなことはするものじゃないのに。感情に任せてこういうことをすぐ言う辺りもダメなんだがな...

 

 

 

 

 

それでも、

 

「確かなのは、ユーノは大切な奴で、守れるくらい強くなるってだけだ」

 

「...そっか。いいね、そういう関係って」

「うらやましいか?」

「そうだね。少しね」

「俺で良ければお前となってやるよ。いや、こっちが下だからなってもらえませんか。かな?」

「ぅえ?」

 

初めてアカーディアが顔を上げ、目が合う。

 

「関係ってこうやってなるもんでもないと思うけどな。あ、なんなら朝困らせた時に約束した土下座でもしようか?」

 

少しふざけた風に言うと、アカーディアはいきなり肩を掴んできて、

 

「ちょっと待って!今までさんざんバカにされて怒ってないの!?」

「バカにされてたのか?まぁ最初の方無理して笑顔とか作ったりしてんのは分かってたけどな」

「!!?」

 

アカーディアはめっちゃ驚いた顔をしている。俺は思わず笑いそうになるのを堪えて話をすすめた。

 

「あ、もしかして分かってて声かけてくるから怪しまれてる?」

「やっぱり『遺産』目当てなの?それとも私自身!?」

「前半はともかく、後半は自惚れすぎだろ。はっきり言っとくが、だれも『遺産』目当てなんかじゃないさ。ましてやお前とか...」

「くぅぅ~!」

 

突然こいつはなにを言ってきたんだろうか?首をかしげていると、彼女はさらに顔を近づけてきて、

 

「私の目をよく見て!」

 

両手で首をしっかりと拘束され、顔が目の前までくる。

 

自身の赤い髪につられるようにできている少し黒くなっている赤目が見つめてきた。髪は触れあい、あと数ミリで顔がくっつく。さすがに近い...少し動揺した。

 

それから体感では何秒か、何分たったかはわからない。アカーディアは顔を離して、

 

「ほんとに、なってくれるの?」

「え?」

「...やっぱりやめておくよ。ほら、チェスも終わりだよ!」

 

よく見ると、盤面はアカーディアの優勢だった。

 

......ここから逆転も楽なんだけどなー...あ、そうだ。

 

「このままだと負けそうだなー」

 

我ながら棒読みだったと思うが、まぁいいだろ。

 

「だけど、新魔に伝わる奥義があってな...」

「?」

 

首をかしげる彼女を尻目に、俺は盤に手をかけ、

 

次の瞬間。

 

『flame・bomb!』

「あぁぁ!」

 

そのままひっくり返した。もちろんそんな奥義は旧魔にも新魔にも存在しない。

 

「何してくれんのさ!」

「だから、奥義だよ。今日はもう遅いし早く寝ろ。片付けばしとくからさ」

「なにがなんだか...もういいっ!」

 

アカーディアは怒った顔をかくそうともせず、足早に部屋を立ち去ろうとする。

 

「続きはまた今度な」

「!!......おやすみなさい!」

「あぁ。おやすみ」

 

頬を赤くしたアカーディアがドアを完全に閉める。荒立たしい足音もやがて消え...静寂が訪れた。

 

「さて、俺も早く片付けて寝ないとな...」

 

一人言を呟きながら手早く片付けを済ませ、ランプを消す。月明かりは俺の部屋のベッド部分だけ照らしていた。

 

 

 

 

 

竜が来るまで、あと一日。




一週間近くの放置申し訳ないです!

基本的に文字数少ないのですが、効率悪いので...(笑)

せめてもう少しはこのペースを保てるよう精進します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

到来

________ノ

 

見渡す先に何もない空間。一人だけの世界。

 

_____ノ

 

そこから産まれる黒い塊。これは、私?

 

----サイ---

 

お__ユー________

 

黒の塊は少しずつ大きくなる。その正体は分からないけど、触れると何かが壊れる...そんなモノ。そして、反対には白き光。

 

これは...なんなの?私は...

 

ユ__ノ__い_げんに__ろ___

 

----ツヨサヲ、ノゾンダ----

 

光は強くなる一方、それを上回る速度で黒が広がる。あと少しで、触れてしまう...

 

もう...

 

「ユーノ!!!」

「はっ!」

 

 

 

 

 

気がつくと、目の前にアハト君が。

 

今の、夢...?

 

鮮明に見えていた夢が色を失い、すぐに忘れてしまった。はりついた汗が気持ち悪い。なにより、今のは...

 

「目が覚めたな!?早く準備しろ!皆もう行っちまった!くそ!もうあれから何分たった!?」

 

アハト君はそう言って私の服を投げつけてくる。

 

「皆行ったって、どこに?」

「村の入り口だ!もう竜が来たんだよ!!」

 

......え?

 

私は受け取った服を持ったまま動けなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あわててダンさんの家を出て、村の入り口まで向かう。

 

そこの曲がり角を曲がれば...

 

「ッ!ユーノ!」

「ちょっ!」

 

アハト君にいきなり肩を掴まれ立ち止まる。

 

「アハト君!?なにを」

「いいからここから覗け!バレるなよ!」

 

そう言われて家の角から少しずつ頭をだし、村の入り口を覗く。すると_____

 

「ッ!!」

 

そこにいたのは竜。身体中紫色の鱗で覆われ、大きな翼を生やし、四本の足で地面を踏みしめている異形の化け物。

 

「ともかく、この小娘はもらっていくぞ」

 

声が大きいのか竜の声だけが鮮明に聞こえてくる。人間五人分くらいの高さの竜は、ティナちゃんを近くに引き寄せた。

 

「あれは!?」

「今魔法を打ったらティナちゃんまで犠牲になるぞ!落ち着け...!」

 

次の瞬間。

 

「__________!!!」

 

ノクスさんがなにかを叫んで竜の元に走り。

 

その鱗に右手をつき、そこから出た炎が竜の体を貫いた。反対側まで伸びる炎の渦。

 

「!!」

「あれは...!」

 

魔法を使った反動からか、ノクスさんはそこに尻餅をつく。

 

なんで人間のノクスさんが魔法が使えるかなんて分からない。ただ、それは相手にとって致命傷だというのは分かる。

 

いや......致命傷だった。

 

「なめるな小娘!」

 

地面が振動する。見ていた全員が目を見開いた。

 

穴のあいていた竜の体は、たちまち治ってしまったのだから。

 

鱗こそなくなり、中の肉が丸見えになったものの確実に治っていた。

 

「こんなもの効かぬわ!!」

「あれは...」

「再生した...!?」

 

どうして!!?という叫びを止められたのは、ある意味奇跡かもしれなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

復活した竜は、アカーディアに目を向けた。

 

「__________ 」

「__________」

 

声が小さくなったせいでここまで聞こえなくなったが、アカーディアと言い争っているように見えた。

 

それより今の感覚......竜の再生。引っかかるのがたくさんあるのにうまく答えが出せない。

 

......なんであいつは、ユーノより魔力がなさそうなのに再生できる?

 

魔力の多さは自分が魔力を使えれば使えるほどよく分かるようになる。(人間だと大雑把な雰囲気だけらしいが)最近上がってきた俺の力でも、あの竜の魔力はあまり感じなかった。

 

この世界に回復魔法は確かにある。だが、基本的に使える者は最高レベルだけのはずだ。しかも今のは一撃でやられてもおかしくない。そんな傷を一瞬で治すというのは、ありえなかった。昨日読んだ資料にも、今までの知識からも竜は皆治癒能力があるとは書かれてないし、知らない。

 

だから、自分の傷を癒す力がそんな簡単に行える訳がない。できるやつは......

 

...ユーノの全力でも、叶わない?

 

しかし、これ以上考える時間なんて与えられなかった。

 

竜が足でアカーディアの顔をぶった。彼女はその場に倒れ、持っていたバックがふっ飛ぶ。

 

「ッ!」

 

必死に動こうとする体を止める。今出てもなにも解決されないし、ユーノにまで被害が及ぶ。

 

「では、また10年後に会おう!」

「まてっ!ティナー!!」

 

しかしそんな中、ティナと、なぜかアカーディアまで連れて竜が引き返す。ダンさんは近くの同族に捕まえられて動けないなか、必死に手を伸ばしていた。

 

俺が行って二人だけでも逃がすか?だが、村はどうなる?考えろ。考えろ。なにかあるはずなんだ。

 

「もうまてないっ!」

「おい!ユーノ!」

 

ユーノは村の門まで走り、魔法を唱えようとした。それを俺は必死に止める。

 

「離して!このままだと二人とも!!」

「ダメだ!今使ったら二人も危ないしお前も捕まるぞ!」

 

ユーノの今の精神状態なら、竜に当たらないことだって考えられた。

 

「でも!」

「貴様らまだいたのか!」

 

互いに譲らず口論を続ける俺達に、村長が話しかけてくる。

 

「今回はこれで助かったのだ。あの竜はダンの娘と、あの女を連れていくことで今回は許してくださると言った。よしとしようじゃないか」

 

村長がそんな言葉を投げ掛けてきて、俺は視界が黒く変わった気がした。その言葉にはある意味感心するぜ...

 

「なにを言ってるん「ふざけるな」...カ、カムイ君?」

 

怒りが沸々とわいてくる。

 

「ふざけるなよ。必要な犠牲とでも言うつもりか?あんたは」

 

必死に右手を抑える。汗が全身を駆け、不安だけが募る。

 

こいつを今殴ったって何も変わらない。俺の本当にしたいことはそうじゃないから。

 

「...そうじゃ」

 

怒りに飲まれて暴れることじゃない。この状況から二人を助けるために動くんだ。

 

「あんなに小さい子を見殺しにして、巻き込まれた形のあいつも見殺しにして、それが必要な犠牲と言ってここで暮らすのか?」

「今までも我らはそうして生きてきたのだ。それに、彼女は自分から突っ込んでいって自業自得じゃ 」

 

「御託はいいんだよ!!人の体は、命は戻らないんだぞ!!!」

 

あいつみたいに...

 

俺の激昂に、周りからの反応はなかった。くそが!

 

俺は体の向きを変えて村の入り口を出ようとする。

 

「貴様、どこにいく?」

「もちろん、あいつらを逃がしに行く。お前らはここで戻ってきた竜に焼かれてろ」

 

さっきまでの理性が働かない。俺はどうやってあいつらを逃がすかだけ考えていた。

 

(こう考えたら俺も...大概なやつだな)

 

「ふざけるな!我々の村だぞ!だいたい再生する竜なぞ倒せるものか!」

「知ったもんかよ」

そのまま歩こうとして...

 

「ダメ!アハト君!」

 

ユーノに止められた。

 

「私を止めたのに自分は行こうとするの!?アハト君も死んじゃう!」

「そうだよ。俺はずるいやつだからな。それに、俺はこんなところで見捨てるなら自分から死ぬさ」

「落ち着いてよ!!」

「嫌だ!」

「ッ!...!」

 

はっきりと拒絶の言葉を口にした瞬間、

 

 

 

 

 

パァン!!

 

 

 

 

 

俺はユーノに頬を叩かれた。

 

そして、

 

「お願いだから行かないで...ティナちゃんもノクスさんも死んで、それにアハト君にまで消えられたら......私は......」

 

両手を背中に回され、抱きつかれた。激しく掴まれて痛いが、温かくて、必死な思いが伝わるもの。

 

(...あぁ、なにを焦っていたんだろう。)

 

自然と自分の中の怒りが、衝動が収まっていくのを感じる。

 

「お願い...」

「...あぁ、ありがとう。ユーノ」

「アハト君...」

「ふぅ...よし!」

 

自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。大丈夫、今ならいける。

 

「とにかく、竜と交渉するしかないかなぁ...この村を明け渡すとか」

「なに!?ふざけるでない!」

「倒せないなら平和的に解決するしかないだろ?村人逃がしてさ」

「この話は終わりじゃ!余計なことをするな!」

「それは断るぜ。二日とはいえ一緒に過ごした仲だ。みすみす見殺しにできるかよ」

 

ひとまずこの村長を言いくるめて村人を逃がそうと考える。

 

しかし現実は残酷だった。

 

「た、大変です!」

「今度はなんじゃ!?」

「い、家で隠れていた仲間が皆急に倒れました!」

『!!!』

 

さらに悪い話だった。これじゃあもし村長のやつが村の提供を承諾しても移動できない。こんなタイミングで起こるなんて...

 

_____まてよ、

 

 

 

 

 

『再生した...!?』

 

『こんなもの効かぬわ!!』

 

『家にいた仲間が倒れて_____』

 

 

 

 

 

「ど、どうしたら...」

 

 

 

 

 

『 ここの土地は魔力がこもっているので』

 

『 ユーノより魔力がなさそうなのに再生できる? 』

 

 

 

 

 

カチリ。と、脳内でパーツが繋がった音がした。

 

そういうことだったのか。種が分かれば呆気ない物じゃないか。

 

「村長」

「もう話合うことはない」

「竜を倒せると言っても?」

「倒せぬだろう?」

「倒せるさ。今できなければこれからも竜の危険がある。それは嫌だろう?」

「それは......」

「なら選べ。このまま見逃してこれからも竜に屈服した生活をするか、自分達で倒そうとして村と村人を焼かれるか、俺達に倒してもらうか」

「貴様...」

「アハト君......」

「...アハトさん。お願いします」

 

村長が怒りの目で、ユーノが心配そうな目でこちらを見つめる状況下で、ダンさんは頭を下げてきた。

 

「ダン。貴様までか...!」

「村を失います。それでもいいですか?」

「なんだと?それではやはりダメではないか!」

「いいから。皆を助けるなら、あなたに村長としての自覚があるなら、かけがえない同族を助けるため協力してくれませんか?」

 

相手の瞳をじっと見つめ、必死に思いを訴える。村長は考え込んだ後、沈んだ声で言ってきた。

 

「......本当に倒せるのだろうな?」

 

勿論答えは決まっている。

 

「もちろん」

「............任せた」

「!ありがとうございます!」

 

渋々といった形ではあるが、折れてくれた村長にも頭を下げるダンさん。俺はそれにニヤリと笑みを浮かべ、

 

「じゃあ任された!ほらユーノ!いつまでやってるんだ」

「わわっ!」

 

今まで抱きついていたユーノを離して、あいつのバックを拾う。

「アハト君。なにするの?」

 

...もうカムイだとツッコムのは止めよう。

 

「なにって、もちろん」

 

俺は全力の笑顔を向けてこういった。

 

 

 

 

 

竜退治_____救出作戦だよ。




アハトとユーノが二人を助けるために取る作戦は...?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私の過去

私は、男が苦手だった。

 

理由の一つはこの服があげられるかもしれない。七歳くらいからだろうか。元々暑がりで、普通の服を動きづらいと感じた時からお腹周りや肩の部分がない服をよく着るようになった。

そしたらまぁ、やらしい理由で近づく男が出るわ出るわ。やっぱモテる女は辛いわね~

 

 

 

 

 

なんて、自分で言ってて悲しくなってきた。

 

かといって、自分がわざわざ周りに合わせたくなかったからそのままにした結果、同じ町にいた女子からは男子に媚びた格好だと仲間外れにされ、男子からは言い寄られることも多くなった。

 

この頃から、男が苦手意識はあったと思う。

 

もう一つの理由は『遺産』。私がマジックアイテムと呼ぶものを好きになったからだった。

 

初めて手に入れたのはお父さんからの誕生日プレゼント。小さく細い棒が人一人分くらいの大きさの抱き枕になるもので、あれに感動した。...今でも寝れないときに使ったりする。

 

魔法が使えない私にとって、時に魔法以上のことができるアイテムは魅惑の物だった。

 

希少性が高いが、町で運良く貰ったり、お小遣いを貯めて買っていた。

 

だが、それだけでは飽きたらず、新しい『遺産』が欲しくなった私は両親に旅をさせてくれと頼み込み、放任主義の両親から無事旅をさせてもらえることになった。

 

魔法が使えず、隣町に行くのも危険が伴う人間が一人で旅をさせてもらえる許可が出たのも、『遺産』のお陰だろう。

 

具体的には今両手にはめている小手がそうだ。強化魔法の効果を付けていて、魔法も少し弾ける。これがなかったら絶対に旅には出させてもらえなかっただろう。感謝感謝。これ以外にも色々あるけれど。

 

でも、その旅も楽なものでもなかった。

 

ありふれた言葉で言うなら、新しい物が買えたら嬉しいし、見たことない景色を見るのも面白かった。

 

しかし、オトコと会話することも格段に増えてしまったのだから。

 

基本マジックアイテムを扱ってるのは男が多く、それが欲しい私はより良い条件で貰えるよう交渉をしなければならない。私はこれを好きなものだし、譲るつもりはなかった。

 

また、残念だけど家から出たあと生計を建てるには『遺産』を売るしかなく、取捨選択しながらいらないものを売っていた。

 

初めは嫌々話していて、それが顔に出ていたんだろう。あまり良い条件では売買できなかった。

 

これではダメだと作り笑顔で交渉をしてみるとどうだろう、かなり破格の値段で売ったり買ったりしてもらえることが多くなった。

 

やっぱり男って単純だな~っと軽く考えていた矢先、

 

 

 

 

『うーん...君が僕の奴隷になってくれるならいいよ』

 

 

 

 

 

......私にとって、これは地獄だった。初めて言われた時は足がすくんで思わず逃げ出した。

 

一員として服がばっさりのなので見とれてるのも多かったんだろうけど、『体で』といってくるクズが増えた。最初に言ってきた奴は私から離れても追ってくるほどだった。

 

そこから、私は男を信頼、信用しなくなった。

 

なぜ最初から気づかなかったんだろう。よくよく考えると。

 

『君は可愛いね』

 

男はいつも下心をもって。

 

『ところで、ここに遺産があるんだけど』

 

人の好きなもので釣って。

 

『少し、どうだい?』

 

自分の欲望を叶えようとしていた。

 

 

 

 

 

それから私は、 全く信用できない男どもからマジックアイテムを貰うため、ニコニコと笑う仮面を着けて、あざとい格好をさらに露出させ、でも必ずお金や物で交渉できるように努力した。

 

私もやっていることは同じかもしれない。男の下心を利用して自分の欲望を叶えようとしているのだから。

 

だが、お前もやってることは同じだとか、そういう説教は受けるつもりはない。変態とか言われても、まぁ放っておこう。

 

信用ならない男(ゴミ)から信用できる遺産(宝物)を手にいれるために必要なことだから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それが、なんでこんなことに...」

「早く歩け」

「...はいはい」

 

今私は、化け物...竜に連れられてそいつの棲んでいる洞窟を目指して歩いている。逃げれば殺されるし、なにより、

 

「ご、ごめんなさい。ノクスさん...巻き込んでしまって......」

「ティナちゃんは悪くないの。大丈夫だからね」

 

さっきから涙を流しているこの子をおいて行けるわけがない。

 

(全く...最悪だ)

 

ただ、この気持ちが晴れることもなかった。ユーノちゃんも来なかったのは残念......だったけど、私はそれよりあいつが許せなかった。

 

(やっぱり...見捨てたんだな)

 

やっぱり男は信用できるもんじゃなかったな。

 

思いだすのは...二日前に会ったばかりの、でも、少し。少しだけ期待していた、黒髪のやつのこと____

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私はエルフが住む村に珍しい『遺産』があると聞いて向かい、着いた時の感想は、

 

「...閑散としてるな~」

 

沢山の家があるのに、誰一人外にいなかった。人口少ないのかな?

 

(一人一軒とかだったら買いたいな~)

 

ま、まずは交渉しに行かないとね。

 

しかし、動き出して見つけたのは、

 

「村の外から来た方でしょうか!?」

 

なんか切羽詰まった感じで迫ってくる男。

 

「そうですけどなにか?」

 

ここ数ヵ月で上手くなったポーカーフェイスで対応。ここでも対応するなんて優しさの極みだよね。

 

 

 

 

 

んでもって話を聞いてみると、竜を倒して娘を救ってくれとのこと。普通だったら助けてもいいんだけど...

 

(男のお願いなんて聞きたくないし......アイテム貰えないかな~)

 

 

 

 

......竜と戦う危険性や、娘さんのことを考えないあたり、もう私はおかしなやつだったんだろう。

 

「お願いします!」

「いやーそう言われてもね」

 

土下座までしてくる相手を見て、さて、どうしようかと考えていた時。

 

 

 

 

 

あいつは現れた。

 

まず見えたのは綺麗な薄紫の髪にくりくりした水色の瞳をした、大き目の角が生えている旧魔の少女。そのかわいさに心がぐらついた。

 

私は男が嫌いになってから女の子が気に入るようになっていた。け、決してレズではないけどね?でも、その子は本当に可愛かった。杖を大切そうに抱えている辺りもいいね!

 

 

 

 

 

そして、もう一人。

 

少しボサボサの黒髪に、同じく漆黒の瞳。おまけに服まで黒が基調のコートを着た奴。初めに思ったのが真っ黒だなーだったのは私が悪いわけじゃない。角が出てないから有名どころだと新魔、人間などだろうか...

 

そんな、女みたいな男だった。

 

私たちをみて驚いている二人に、

 

「あ、助けてくれないかな?」

「え?他の町の方々ですか!?」

 

私と懇願している男(ダンって言うらしいけど)は同時に話しかけた。黒髪のほうが呆れていたのは、私がなるべく目を合わせようとしなかったので分からなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

二人が加わり、順調に(あいつに肩掴まれたり、無視されたけどね!!)話がまとまりかけて、今は村長の家にいた。

 

「で、そういうわけで協力したいのですが」

「じゃがのう...」

 

でも、あちらは乗り気じゃないみたいだった。やっぱり自分に火の粉のかかることは嫌なんだろう。ま、私もだけど。あーあ...

 

「これだから嫌だったんだ。自分達のことしか考えないから」

 

思わず口から漏れてしまう。男ってやっぱり最低だな。

 

_____自分のことを棚にあげなきゃ人を攻められなくなったのはいつからだろう?_____

 

しかし、

 

「竜の情報をくれればこちらでなんとかします。お礼は、俺たちは食料をくれれば結構ですので」

「「え!?」」

 

(...え?)

 

この黒髪が言ったことにはすこし驚いた。さっきから『遺産』のことをあてたり、人のことできるやつみたいに言ってきたり、自分に利益がほとんどないのに勝てるみこみがない戦いをしようとしたり...なんなんだよこいつ?私の中で無駄な焦燥感が表れる。

 

「_____君。そ__________いの?」

「大丈夫だ。お金なんて全く使ってないしな」

「確_________んね」

「そんなに多_____いさ」

「えー......」

「__________。今回は聞こえ__いみたいだけど」

「あ、すいません...」

 

男と女の子は小さな声でしか喋ってないけど、だいたいのことはわかった。

 

(金持ちなんだね...)

 

かなり偏見だが、これも娯楽の一つとでも考えているのだろうか?

 

「それなら...お願いしようかのぅ」

「じゃあその竜についてなにか意「私はぶんどるからね!」はぁ...」

 

待ってました!と言わんばかりに私は割り込む。隣でため息を疲れてたのは無視した。

 

「私が要求するのはこの村の『遺産』だよ!」

『!!!』

「もともとこの村に『遺産』があるって聞いて来たしね」

 

これなら依頼を受けてもいい。もともとただで譲って貰えるとは思ってないし。

 

「...お願いします」

 

ほらつれた。

 

「ダン!貴様!あれはこの村の大切な物だぞ!」

「それでも娘の方が大切なんです!」

「貴様なぞ出ていけ!無論お前らもだ!」

「そのつもりです。皆さんこちらに来てください」

「わかりました」

 

やり~と、心の中でガッツポーズをとる。これで討伐は任せて『遺産』だけゲットしてやるぜ!

 

......でも、 あいつがこれを受けた意味が分からなかった。

 

盗み見た顔からは、男にも女にも見えるようだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あれから自己紹介を済ませ、ティナちゃんを救うためにまずは情報をあつめることに。

 

「不死身?」

「はい。竜は元々長寿ではありますが、攻撃を受けてできた傷なども、すぐに回復してしまうらしいのです」

「どこから聞いたんですか?」

「ソノーさん...村長から聞きました。前に一度だけ竜を攻撃したらそうなったと。その時は言い訳して、村はなんとか焼かれずにすんだらしいのですが......」

「なるほど」

 

私は竜について全然知らないので、マジックアイテム目的でついやるなんていってしまったけど。

 

「不死身って...勝ち目ないじゃん。諦めて逃げようかな~」

 

実際倒せないなら逃げるしかないかな~

 

「いや、いくら竜でも不自然だ。それに、そこまで強い竜ならこんなところじゃなくて竜の巣である『レベル山脈』にいるはずだしな。なにか理由があるのか...」

 

黒髪...さっきテイカーと名乗ったやつが真面目に考えてるのに、私は無償に腹が立った。

 

(......どうせなにも出来なくて逃げるくせに)

 

「明後日までに見つけられるかな?」

「見つけるしかない。とりあえず明日は外にでて聞いてみよう」

「教えてくれないだろうけどね」

「言ってろ」

 

おちょくってみたらあしらわれた。すごいムカつく!

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

食事(ご飯の取り合い)が終わり、満足感に浸っている私に問題が起きた。

 

......服どうしよう。

 

もともと替えの服はなく、あるのは今着ている身軽な服だけ。でも、お風呂には入りたい上、一応人様の家だから汚いままベッドに入るのもダメだろうしな...

 

ユーノちゃんはティナちゃんの服を借りるらしいけど、私の場合は......サイズが合う人がいない。辛うじて合いそうな黒髪の服は着たくない。

 

 

「問題は、こっちかな」

 

思わず、その通りです。と言いたくなった。

 

「私も旅に余計なもの持ちたくない主義だから」

「他人のは着たくないですよね?」

「誰が男の服を着るもんですか」

 

嫌っている男の服なんて着たくなかった。

 

「つまり、新品の女物がいいんだな?」

「少し意味違うんだけどそういうことだよ。もしかして今から買ってきてくれるつもり?外真っ暗なのに?」

 

テイカーの突然の質問に、私はてきとうに答える。実際女物か、男物でも誰かが着ていたものじゃなければいいんだけど。

 

やっぱりこれで寝るかな~っと思っていると。

 

「買うわけないだろ...少し待ってろ」

 

そんな言葉を口にしてテイカーが部屋を出ていった。その口ぶりは、まるで用意しているかのよう。

 

てか、今さら無理に決まってんじゃん。あいつは女物の服どころか冒険してる人にとって必需品である武器も持っていなかった。私のように小手なんかもない。魔法なのかもしれないが、きっと戦うのもユーノちゃんに任せっきりなんだろうな......そう思うと偉そうに考えてこんでいたあいつの態度がよりムカついてきた。

 

これでもし自分の服とかを出してきたらぶん殴ってやろ_____どこ殴ろうかなんて思っていたら、

 

「ほらよ」

「え?」

 

部屋に戻ってきた彼から渡されたのは、ワンピースだった。刺繍などは施されてないものの、綺麗な白いワンピース。

 

「えじゃなくて、ワンピース。それ着てろよ。」

「ホントに買ってきたの?」

「んなわけあるか。企業秘密だ。早く受けとれ」

「あ、ありがとう...」

 

私はすごく動揺していた。どうやって服を......

 

 

 

 

 

なんだかんだで、親以外から対価なく渡されたものは初めてだったかもしれない。

 

 

 

 

 

「じゃあ、アカーディアさんのも洗うね。でもテイカーさんは大丈夫?」

「一応、長旅の予定で替えの服は持ってきたので。といっても普段はこっちの方がいいので洗濯お願いできますか?」

「あぁ。分かったよ」

 

__________なんで私にこれをくれたの?

 

でも、今まで迫ったきた男は皆。

 

「っ...あんたも『遺産』目当てなの?」

「え?」

「なんでもない!お風呂入りますから!」

 

そう言って部屋を出ていき、場所を把握しといた風呂場に向かう。

 

__________なんでこんなに慌ててるの?

 

私は自分の気持ちが分からなかった。

 

もらった服は両手で胸元に抱えていた。自分でも無意識に、大切そうに......

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私の変化

翌朝。なかなか寝付けなかったわりにはすっきりした朝を迎えられた。

 

朝ごはんは用意されてるかなだろうか。

 

すこし上機嫌だった私の心は、

 

「おはよう」

「......おはよぅ」

 

風呂場兼洗面所から出てきた黒髪のせいで急降下した。朝一で会うとは運が悪いとしかし言いようがない。同じ家使ってるんだし、当然といえばそうだけど。

 

「朝飯もう出来てるってさ。ティナちゃんも起きてる。お前が最後から二番目だな」

「あっそ...」

 

なんとなく、必死に作り笑顔を作ろうとして失敗した。なんだか、こいつの前だと顔や口調がごまかせなくなっている気がした。

 

顔を洗ってリビングに向かうと、確かにユーノちゃんを除いた全員がいた。

 

「おはようアカーディアさん」

「おはようございます」

 

今のは特に変化もなく対応できた。この差はなんなのだろうと考えるも、きちんとした解答は得られない。

 

「あ、ティナちゃんもおはよう」

「お、おはようございます...」

 

ティナちゃんはまだ少し緊張しているのか、たどたどしく返事を返してきた。

 

「ユーノ起こして来ますね」

「いや、まだいいよ。寝れるときに寝ておかないとね...」

 

そう言った本人が眠そうだったけど。明日娘が自分のもとからいなくなるかもと考えたら寝てなんていられないか。

 

「それよりアカーディアさん。服は洗っておいたから、はい」

「あ、ありがとうございま~す」

 

触られてたと思うと嫌な気分だが気にしない。それより、

 

「この服どうしたらいい?もらえたら嬉しいんだけど」

「あ、無理だわ。返してくれ」

「...あんたが着るの?」

「んなわけあるかよ」

 

まぁ、借りた奴が言えるもんじゃないし、当然か。

 

「後で匂い嗅いだりしたら殺すから」

 

冷めた口調で口にすると、

 

「そんな変態みたいなことしないから安心しろよ」

 

あっけらかんとした返事が返ってきて、なんだかつまらないと思った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅ~」

 

朝御飯を食べ終わって一息。

 

「お前ダンさんと情報聞いてきてくれない?」

 

そんな休みは口論へと変わった。

 

「はぁ?なんであんたの言うこと聞かなきゃならないのさ?」

「俺は資料読むから」

「一人で行かせればいいじゃん?」

「『遺産』貰えなくなるぞ?」

「うっ...」

 

そこをつかれると痛い......今のところ何もしてないし...

 

でも、男とは極力話したくないと言うのが本音。

 

「ユーノちゃんに行かせれば」

「あいつ寝てるし」

「ティナちゃんと遊んでる!」

「ユーノが起きたらやらせる」

「うぅ......わかったよ!」

「じゃあダンさん。任せます」

「うん」

 

あいつのいいように進んでいることに腹が立った。全く勝手に指図しないでほしい。腹が立つことこの上ない。

 

「じゃあ、行ってきます!「おはようございます~」!うそ!ユーノちゃんに行かせて!」

「いってら。そしておそようだぞねぼすけ」

 

いきなり呼ばれたユーノちゃんは、寝ぼけた目をぱちくりさせていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それじゃあティナちゃん行こうか?」

「は...はい」

 

無事にティナちゃんと遊ぶという仕事を手に入れた私は、二人でリビングがら出て二階に上がっていき、そのままティナちゃんの部屋へ向かった。

 

「ど、どうぞ」

 

ティナちゃんの部屋の中は主にベット、机だけと質素ではあるものの、人形があったりと女の子らしい面もあった。

 

「じゃあ、何して遊ぼうか?」

「私は...」

「遠慮しなくていいんだよ?」

「......じゃあ、ケーキを買いたいです。」

 

ティナちゃんから聞いたのは予想外の言葉だった。

 

「ケーキ?」

 

もしかして、私の最後の食事とか言うんじゃ......

 

「い、いえ。別に最後にするつもりなんてなくて、ただ、皆で食べたいな~って」

 

私の雰囲気から察したのか、ティナちゃんがかぶりを振って否定してきた。そのしぐさと考えに少し当てられたんだろう。

 

「...じゃあ、買いに行こうか?」

「はい!」

 

この子を助けられたらいいな~とぼんやり思った。

 

お出かけ用の服に着替えるティナちゃんを置いて、入ったばかりの部屋を出る。私は一応出掛けることを連絡するためリビングへ顔を出した。

 

「ん?どうした?」

 

いたのはテイカーだけ。ソファーに座り、机に並べられている本の山を睨んでいた。生物の専門書や図鑑、果ては竜が出てくる絵本まで。

 

「あの二人は?」

「もう出掛けた」

「早いねぇ...」

「ユーノが準備するだけだったからな。で、なんかあんのか?」

「あ、ティナちゃんが皆で食べる用のケーキ買いに行くんだけど」

「マジで!?」

「今日食べるかは知らないけどね」

「マジか~...」

 

何故か一喜一憂して揺れる黒髪に目がいく。面白い動きしますねと言いたくなった。

 

「アカーディアさん...」

「あ、ノクスでいいよ~」

 

いつの間にかリビングに来ていたティナちゃんに訂正を入れながら近寄っていく。

 

「...じゃあ、行ってくるよ」

「待て、その前に一つ」

「?......ッ!」

 

あいさつをしたら、こいつは少しずつ寄ってきた。

 

ヤメテ。

 

その顔が少しずつ近づいて__________

 

 

 

 

 

「近寄らないでっ!!」

 

耳元で喋ろうとしていたんだろう。でも、耐えられなくて反射的に押し返してしまった。

 

「っとと...わりぃな。そんなに嫌だったとは......ティナちゃんは先準備しててくれ。」

「わ、わかりました」

 

ティナちゃんはいそいそと靴を履き、外に出ていく。

 

「えーと...悪かった。ごめん。ティナちゃんに聞かれたくなかったからさ」

 

彼がしてきたのは謝罪だった。今まで...今までの相手とは違う反応。

 

私だって今の行動に他意があったなんて思わなかったけど、すごく近くにいられるのが堪らなかった。

 

「こっちが過剰に反応しちゃっただけだし...こちらこそごめんね?」

 

無意識に謝っていた。いつもだったらもっと怒ったりするのに...どうして?

 

「えーと、伝えたかったのはティナちゃんのこと頼むなってだけだ。さすがに竜に狙われてると思うと精神的にまいってそうだからな...」

 

それに答えるものは何もなかった。

 

「う、うん...わかった。じゃあね」

「あぁ。いってらっしゃい」

 

靴を履いて外に出る。テイカーの方は一度も見なかった。

 

「お待たせティナちゃん。行こっか?」

「はい」

 

こっちも精神的にまいりそうだよ。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ここ?」

「はい。すいませーん!」

「なんだい一体...って、ティナちゃんかい?」

 

閑静な住宅街の中にそのケーキ屋さんはあった。ティナちゃんが声をかけると、中から小太りしたおばさんが出てくる。

 

「はい。ケーキ下さい」

「うーん...今在庫切らしちゃっててねぇ...今から作るから待ってて貰える?」

「分かりました」

「なに味がいい?」

「ノクスさん何かあります?」

「ティナちゃんが決めていいよ」

「えーと...じゃあチーズケーキで」

「あいよ。じゃあ一時間くらい後にもう一度来てね」

「はい」

 

女店主は早々と店の中に入ってしまった。私のこと何か言ってくるかと思ったんだけど...見た目人間だし。

 

「ティナちゃん。家に戻る?それともどこか暇潰せる場所知ってる?」

「ここで待ってもいいですか?」

「え?」

「家に戻ってもカムイさん一生懸命なので。邪魔したくないんです」

「そっか...じゃあ、ここで待とうか」

「はい」

 

 

 

 

 

と、待ち出してから少しして。

 

(気まずい...)

 

無言になってしまった。な、何か話題を!

 

「そう言えばティナちゃんのお母さんはどこにいるの?家には居なかったよね?」

「お母さんは...私が産まれてからすぐいなくなりました」

 

 

 

 

 

......墓穴掘った。

 

「え、えと...ごめんね?こんなこと聞いて」

「いえ...」

 

再び無言。それを破ったのは、

 

 

 

 

 

「私のお母さんは、私を産んですぐに竜に食べられたそうです」

 

 

 

 

 

「......え?」

 

ティナちゃんの、震えた声から発せられた一言だった。

 

「私が自分の母親について聞いたら、お父さんは泣きながら喋っていました。『僕を、この村の人を守るために、お母さんは自分を犠牲にしたんだよ...』って。なんで自分を犠牲にしたのか聞いたら、『あの人はこの町が好きだったから。昔の活気溢れた、暖かい心の人達が大好きだったから』と言われました」

「_____________」

 

私は、七つも歳が下の女の子が、凛として語るその話に聞き入っていた。

 

「私は、今のあまり関係が良くない村の皆しか見ていないけど......それでも、自分が育ったこの村の人たちを守りたいんです」

「......他人のために命を投げ出すなんて、怖くないの?」

「怖くないわけ、ないじゃないですか。でも......っ」

 

気づいたら私は、ティナちゃんを抱き締めていた。体が震えているのが分かる。

 

「ごめん。わかった。大丈夫。大丈夫だからね」

 

 

 

 

 

_____私も助けるから__________

 

 

 

 

 

この子のためなら、頑張ろう。そう思って、きつくきつく抱きしめた。

 

「ありがとう、ございます」

 

お父さんを心配させまいと我慢していたんだろう。ティナちゃんから涙が止まらなくなる。すすり泣く声を聞きながら、震える体を感じながら、私は抱きしめたまま動かなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......ノクスさん」

「なぁに?」

 

あれからまた少しして。

 

「今度は私が質問してもいいですか?」

「いいよ。なんでも聞いてね?」

「じゃあ...なんで、お父さんとカムイさんに突っかかるようにしているんですか?」

「うっ...」

 

痛い質問するなぁ...この子ホントに10歳?

 

「それには訳がありまして...」

「訳があっても、良くないと思いますよ?」

「そうですね......」

 

さっきお母さんの話を聞いてしまったため、心が痛かった。

 

「私で良ければ聞きますけど?」

「うーん...でも、ティナちゃんにはティナちゃんの問題があるし、これは私個人の問題だから」

 

これ以上この子と話していると、ダメになりそうだった。弱音を吐いてしまいそうで...

 

「私のは聞いてくれたじゃないですか」

「......私、男といろいろあって苦手だから、ついああいう態度とっちゃうんだよね~」

「......男っぽい人ですか?」

「え?まぁそうだね」

「そうですか......でも、カムイさんやお父さんはノクスさんのそう言う人達とは違うですよね?会ったばっかりですし」

「...そうだね」

「なら、話せるときにちゃんと話した方がいいですよ。その人の良いところが分かりますし!それに......」

 

 

 

 

 

_______________何かあってからじゃ、遅いですからね__________

 

 

 

 

 

そう言って苦笑するティナちゃんに、私は尊敬の眼差しを向けていた。

 

 

 

 

 

...ダンさん。あなたの娘さんはすごい子ですよ。曇り空を見上げながら、私はそう思った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

無事にケーキをもらって帰宅。

 

「お、おかえり。ずいぶん長かったな」

「作ってもらってたので...これ入れますね」

「何ケーキ?」

「チーズケーキです」

「イェス!」

 

先に行ったティナちゃんと、買ってきたケーキに喜ぶテイカーの声が聞こえる。私もそっちに向かうと、

 

「おかえり~アカーディア」

 

ガッツポーズをとったまま、こちらに声をかけてきた。

 

 

 

 

 

『話せるときにちゃんと話した方がいいですよ』

 

 

 

 

 

相手は男だけど、こいつは......

 

 

 

 

 

「...ただいま、テイカー」

 

呟くように出た一言。それは、小さくも大きい一歩だったのかもしれない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私ともう一人

あれから部屋に戻った私たちは二人で寝てしまって、気づいたら夕食だった。もう帰ってきてた二人を含めて五人で食事をとり、そして。

 

「じゃあ、作戦会議だね」

「すぐ終わらせますから」

 

ティナちゃんが自分の部屋に戻ってから、作戦会議が開かれた。内容は言わずもがな、竜の討伐。

 

「ありがとう...本当にありがとう」

「泣かないでよ見苦しい」

「ま、まだ竜倒してませんから!嬉し涙はとっておきましょう?」

「......そうだね」

 

この中で唯一の大人が泣くのを止めようとする一方、ちらっと隣を見る。私は不死身の竜に対抗出来るものがほとんど無さそうだけど、こいつは何かあるのだろうか。

 

「じゃあ、早速始めるけどその前に」

「なに?」

「お前が持ってる『遺産』の中に、なにか使えるものないのか?」

 

いきなり遺産頼りですか?と突っ込みをいれたくなったが、それを抑えて口を開く。

 

「再生する竜に聞きそうなやつなんてなにもないわよ。収縮瓶だって入らないだろうし。魔力増強ジュースはあるよ?」

「じゃあ......俺たちがとれる作戦は一つだけだな」

「一体なにを?」

「簡単ですよ...ユーノに竜を燃やしてもらう。それだけです」

「「!!?」」

「ちょっ!カムイ君!?」

 

きっぱりというアハト。シンプルだけど、それってつまり策はなし?

 

「そりゃそうだろ。大火力によって再生できないくらいダメージを与えればいい。ユーノの中で安定してできそうなのは炎と氷。なら燃やせ。氷はダメな?溶けたら復活するかもしれないから」

「いやいや!?竜を燃やせることってできるの!?」

 

出来る算段で話が進んでいるが、そこから謎だった。復活する竜に魔法が有効に効くのかどうかも分からない。

 

「一か八かだな。でも、資料と情報を集めて、一番可能性が高いとしたらこれだ。ちなみに魔力増強のやつはいらないからな?いきなりそんなのいれたらユーノがどうなるか分からないし」

「ユーノちゃんは普通でそんな強いの打てるの!?」

「えーと......もしかしたら?」

 

もしかしなくても、この作戦が無謀の一言につきることが分かった。

 

「大丈夫じゃないよね。これ」

「......それでも、お願いします」

 

それでも頭を下げるダンさんにぎょっとする。

 

(これは本気で不味いやつじゃん!)

 

「ちょっといいの!?娘の命がかかってるんだよ?」

「今まで真剣に考えてくれた方々がそれしかないと言うのです。それなら、任せるしかありませんよ」

 

なんだか少し拍子抜けした。まぁ、確かにこれで倒せるならいいんだけど。

 

「任されました。必ず倒します」

「頑張ります!」

 

本人たちはすごいできるっぽいし。

 

「なにもできないけどティナちゃんを逃がすくらいはやるよ」

「お願いします!」

「ま、出来るかどうかはユーノ次第ですけどね」

「...あ」

 

一応納得したが、なんだか不安しかない_____確認しなくては。

 

あの時の私はそんな正義感のような物があったと思う。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あれから自分に割り当てられていた部屋に戻った私は、バックを持って、まずはユーノちゃんの部屋へ向かう。

 

コンコン。

 

『はーい?』

「ノクスだけど、少し話がしたくて...いいかな?」

『あ、どうぞ~』

 

といってドアが自動的に開いた。ユーノちゃんが開けてくれたみたい。

 

「ありがとう」

「いえいえ。それで...話ってなんですか?」

「うん」

 

少し聞くのはためらうけど...中に入って、私は決意とともに聞いてみる。

 

「テイカーのことなんだけどさ」

「アハト......カムイ君がなにかしました?」

「アハト?」

「いいえ!なんでもないです!」

「そう...いや、ユーノちゃんとテイカーって仲がいいな~って思って。ほら、新魔と旧魔じゃん?中違いがありそうだし」

「そうですか?まだ会ってから二週間位しか経ってないんですけど」

「え!?そうなの!?」

「はい」

 

当たり障りのない質問をからすると、それでも予想外の返事が返ってくる。意外だなぁと、顔に書いてたんだろう。ユーノちゃんが苦笑して説明をしてくれた。

 

「ここから南東の『シオン』って知ってますか?私そこに住んでて、カムイ君の出会ったのは私と友達が熊に襲われてた時でした。それから今は...色々あって旅をしている最中です」

「熊から助けてもらったんだ。あいつ武器なにも持ってなさそうだけど...」

「カムイ君魔法が得意なんです。剣も強いですけど」

「へ~」

 

魔法を使う奴だったのか......ってそうじゃなくて、

 

「ユーノちゃんはテイカーとどうしてそんなに仲良くなれたの?」

「そう言われると...人柄ですかね?」

「人柄?」

「というより性格でしょうか...周りをよく見ていて、面白くて、優しくて...私は信頼してます」

「ベタ褒めだね」

「ああっ//カムイ君には言わないで下さいね!?」

 

顔を赤くして両手と頭についている旧魔特有の大きな角をブンブンと振るユーノちゃんはとっても可愛かった。

「うん。わかったわかった」

「ふぅ...ありがとうございます。話は他に?」

「いや、ありがとう。大丈夫だよ」

 

(やっぱり、自分でどういったやつか見極めた方がいいよね)

 

「じゃあ、私は特訓するので...」

「特訓?」

「あ、氷を作るイメージをするんです。明日頑張らなきゃいけないので! 」

「そんな一日で身に付けられるもんじゃないだろうに...」

 

人間は魔力なんて見えないけど、その人のオーラというか気迫でぼんやりと分かることができた。

 

ユーノちゃんからは、なんとなく魔力がある感じがした。

 

 

 

 

 

最後に、もう一つ確認しとかないといけない。

 

「そうだ...ユーノちゃんは、本当に竜を倒せるくらいの力持ってるの?」

 

ティナちゃんを守るためにはこれしかないと言っていたあいつを思い出す。でも、少なくともユーノちゃんからは正直そんな力を感じられなかった。

 

「できるかは分かりません。でも、カムイ君が任せてくれてるし、ティナちゃんを助けたいんです。私は全力でやりますよ!」

「あいつのこと信じてるんだね」

「さっきも言ったじゃないですか...それに、ここに来るまでで魔物と戦ったときに分かったんですけど、カムイ君は全体を良く見て指示してくれてるので今回も大丈夫だと思います」

「そっか...じゃあ、明日一緒に頑張ろうね」

「はい!おやすみなさい」

「おやすみ~」

 

パタン。とドアが閉まった。静まりかえる夜。

 

(あとは、あいつの所に)

 

多少、聞きたいことは聞けた。でも本番は、ここから。

 

私は気を引き閉め直しから、もうひとつのドアに向かった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

目の前には扉が。この先にあいつがいる。

 

 

 

 

 

『話せるときにちゃんと話した方がいいですよ』

 

『私は信頼してます』

 

 

 

 

 

(行こう)

 

コンコンと扉を叩く。

 

「今、いい?」

 

自分で聞きつつも、緊張で返事を待たずに開けてしまった。扉の向こうには、もちろんテイカーがいた。

 

「......いまさらだが、その腹とか肩とか露出しまくってる服寒くないのか?」

「うるさい!」

 

今回のあいつとの第一声は、こんな会話からだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それで、なんか用か?」

「いや、チェスでもどうかな~って」

 

バックから取り出したチェスの駒を見せる。あまり相手と目を合わせたくないときによく使うので持っていた。

 

これ使ってる時点でダメかもしれないけど、まだ少し不信感があったから。

 

「...まぁいいぞ。やるか」

「うん。駒しかないけどいいよね?」

「盤なら用意できる」

「え?」

 

そんな軽装のどこからでてくるの?なんて考えていたら。

 

彼は、右手のなにもない空間からチェス盤を出した。

 

......え?

 

「二人で座れるのベットしかないけどいいだろ?」

「それより今のなに!?」

「俺の得意魔法だよ」

「へぇ...すごいねぇ......」

 

物つくれる魔法なんて固有魔法しかないと思ってたんだけど、新魔が使ったことに驚く。もしかして全く見当たらない剣も、これを使って出すのだろうか。

 

「俺からしたら何で駒だけ持ってるのか不思議なんだが」

「ちっちゃいから持ち運びに便利じゃん。盤は紙でも作れるし」

 

驚きを隠しながら駒を並べていく。

 

「先行どうぞ」

「言っとくけど、俺は強いからな?」

「なめないでよね」

 

これでも男と目を合わせたくないときにやったり、マジックアイテムを賭けてやってたので自信は十分だった。

 

「それより、ただチェスしに来たわけじゃないんだろ?」

 

鋭い一言に体が震える。でも、最初からこれが目的だから...

 

「...うん。さっきまでユーノちゃんと話してたんだけどさ。少し気になって...」

「なにが?」

「......君が」

 

駒を動かしながら会話が進む。私の視線はチェスの方ばかり見ていた。

 

(まずは質問してみようかな?)

 

「なんで最初、私を村の人たちの情報収集に行かせようとしたの?」

「なんでって...お前『遺産』集めなんてやってて交渉するの得意そうだったから情報集めやすいんじゃないかな~って。それだけ」

「ッ!」

 

短い間しか一緒にいないのにここまで考えられていたこと。そして、それをすらっと言ってくることにびっくりした。

 

『周りをよく見ていて_____』

 

ユーノちゃんの言葉が思い出される。確かにヤバイ、分析力が高すぎる。

 

「ちゃんと理由があるなら言ってくれればよかったのに」

「今のお前と違って頑固そうだったからな。てか今お前潮らしくなりすぎだろ。昨日とかと全然違うじゃん」

 

痛いところを...でも、ティナちゃんやユーノちゃんに感化されて気になってるあんたと話をしにきた。なんて言えず、

 

「そんなことはいいの。それより...君とユーノはついこの間会ったんでしょ?なのに凄く仲良く見えるから気になってね。何でなのかな~って」

「出会って少しハプニングがあっただけだ。今では守りたい良いパートナーだけどな」

 

話を聞いて、違う。と感じた。

 

「それだけじゃないんじゃない?」

「なに?」

 

私だって、目を合わせたくないだけで見ていないわけじゃない。

 

なんとなく違う気がした。だって__________

 

「だって、たまにすごい目してるから。遠くを見てるような......」

 

___________私が男を無理やり別の何かに見ようとする時と、同じような目をするから。

 

突然テイカーの駒を動かす手が止まった。動揺してるのか、それともフリなのか。

 

「いや、なんでもないさ」

「嘘つき。バレバレだよ?」

「......マジか。こんな奴に」

 

どうやら前者だったらしい。カムイが勝手にかまかけた状態に近いんだけど。

 

「こんな奴言うな。それで、今なら話し聞いてあげるけど?」

「上から目線だなおい」

「私の方が偉いから」

 

それから少しして。

 

「......昔、一緒に遊んでいた奴に怪我をさせてな。そいつは骨折した今は車椅子だ」

「......」

「そいつは大丈夫とか言ってたけど俺は自分を攻めて...それから守りたい人を守れるように強くなりたいと思って、魔法を覚えたんだ」

 

____なんというか。

 

「...あっさり、というかあんまり深くない理由だったね」

 

もっと深い事情かと勝手に思っていた。

 

「言ってろ。俺にとっては大事だったんだ」

 

まぁ、私のも他の人からしたら大したことないのかもしれないけど。

 

「でも、ダメだな」

「え?」

 

私は首を傾ける。いきなり自分の言ってることを否定するなんてどうしたんだろうか。

 

「たぶん、ユーノとあいつが似てたから、重ねて見ていたんだと思う。でもそれはダメだろ。同じ人じゃないのに大切な人を違う人と一緒に考えるなんて。それに、ユーノはパートナーだ。いつもは見ていて危なっかしいけど、大切なことに気づかせてくれるやつだ。まだ少ししか一緒にいないけど、守りたいと思える大切な人だから。対等でいたいって言うと違うかもしれないけど......ダメだ。まとまらない」

 

なんだか変なこと言い出している...何を言っているんだろう。

 

 

 

 

 

「確かなのは、ユーノは大切な奴で、守れるくらい強くなるってだけだ」

 

その言葉が、この話の中で一番しっくりきた。

 

 

 

 

 

(あぁ。お互い信頼してるんだね)

 

 

 

 

 

私も...

 

 

 

 

 

「...そっか。いいね、そういう関係って」

「うらやましいか?」

「そうだね。少しね」

 

少しどころじゃないけどね。と自嘲気味に笑おうとしたら......

 

「俺で良ければお前となってやるよ。いや、こっちが下だからなってもらえませんか。かな?」

「ぅえ?」

 

思わず顔を上げる。そしたら、あいつの黒い瞳と視線が合った。

 

ていうか、今なんて??

 

「関係ってこうやってなるもんでもないと思うけどな。あ、なんなら朝困らせた時に約束した土下座でもしようか?」

 

冗談めいた言葉に、私の中の何かが切れた気がした。

 

__なんでこいつはっ!___________

 

「ちょっと待って!今までさんざんバカにされて怒ってないの!?」

 

私は凄く動揺して、声も裏返っている中テイカーの両肩を掴む。

 

バカにしてたんじゃないけど、散々反抗的だったのに。それでもなんで、

 

「バカにされてたのか?まぁ最初の方無理して笑顔とか作ったりしてんのは分かってたけどな」

「!!?」

 

(それも気づかれてる!?)

 

少なくともこんな短い日数で看破されたことはなかっただけあって、動揺していた心が更に揺れる。

 

「あ、もしかして分かってて声かけてくるから怪しまれてる?」

 

少し笑っているテイカーを見て、

 

「やっぱり『遺産』目当てなの?それとも私自身!?」

 

さらに動揺して自分でもわけの分からないことを叫ぶ。なんでこいつは...私は。

 

「それは自惚れすぎだろ。はっきり言っとくが、だれも『遺産』目当てなんかじゃないさ」

 

( ......ホントになにもないの?目的もなく仲良くしてきたの?)

 

「私の目をよく見て!」

 

なにか別の言葉を喋り出してしまう前に、私はこいつに思いっきり顔を近づけて目を見た。真っ黒の瞳に映るのは......ただの動揺だけ。それだけだった。

 

...まさか、本当に?

 

自分でも何秒、何分その瞳を見ていたか分からなかったけど、私自身が恥ずかしくなってその顔を離して、

 

「ほんとに、なってくれるの?」

「え?」

「...やっぱりやめておくよ。ほら、チェスも終わりだよ!」

 

今の私はどうかしてる。これは動揺が生んだ結果に過ぎないよ!!

 

 

 

 

 

__________それに、こいつならいつでも__________

 

 

 

 

 

自分の本当の気持ちに蓋をしたまま、無意識に気づかないまま私はチェスを決着つけようと盤を見つめた。

 

今は私の優勢。このまま勝つ。

 

「このままだと負けそうだなー」

 

突然棒読みでそんなことを言ってくるテイカー。

 

「だけど、新魔に伝わる奥義があってな...」

「?」

 

テイカーが盤を持つ。私は彼が何をしたいのか分からず首をかしげた。

 

次の瞬間。

 

『flame・bomb!』

「あぁぁ!」

 

そのままひっくり返された。

 

 

 

 

 

 

「何してくれんのさ!」

「だから、奥義だよ。今日はもう遅いし早く寝ろ。片付けばしとくからさ」

「なにがなんだか...もういいっ!」

 

私は部屋を立ち去ろうとする。こんなやつ知らない!

 

「続きはまた今度な」

「!!......おやすみ」

「あぁ。おやすみ」

 

ドアを完全に閉めた。そのまま、へなへなと膝をつく。

 

 

 

 

 

頬に両手を当てると熱かった。きっと、顔は私の髪の色みたいに真っ赤だろう。それが怒りから来たのか、恥ずかしさから来たのかは私には分からない。

 

「また今度って...」

 

その場で呟いた一言は、誰にも聞かれずに消えていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私は... / じゃあ、行くか

見てくださってる方、ありがとうございます。

二話を改稿しました。といっても、今もこれからもほんのすこし文字が増えてたり、結合したりしていくだけですので。気になった方は見てみて下さい。感想もくれると嬉しいd(((

それではどうぞ。


「ふゎぁ~ねっむ...」

 

あのあと自分の部屋に戻ってもなかなか寝つけなかったので、抱き枕を展開して寝たのが昨日。というか今日だった。

 

今日はティナちゃんを助けないと。朝から気合いを入れ、部屋のドアを開けると_______

 

「竜がきたんじゃよ!早くせんか!」

「ですが!」

「お父さん...私、行くから」

「ッ!!」

 

一階から聞こえた声は、すでに事態が進んでいることを意味していた。慌てて階段をかけおり、玄関に顔を出す。

 

「ティナちゃん!!」

「ノクスさん...」

「行かないで!ユーノちゃんとかまだ起きてないし!」

「竜がお呼びしている。早くしないと村を滅ぼされるのじゃ。よそ者は黙っておれ」

「よそ者でもあんたよりティナちゃんを知ってる自信があるよ!」

「ノクスさん...あなたは...」

「......来い!」

「あっ!」

 

くそ村長に連れ去られていくティナちゃん。

 

私はバックから道具を取り出そうとして...

 

「ノクスさん。私は大丈夫ですから」

 

本人に止められた。その悲しげな顔が、私の脳裏にこびりつく。昨日見せていた笑顔の面影はどこにもなかった。

 

「ティナちゃん...」

 

なにもできない憤りが襲ってくる。

 

「大丈夫です。少し、先に行っていますね?」

「すぐにあいつら起こしてくる!」

 

私が魔法を使えれば。強ければよかったのに。それをこんなに思う日はなかった。

 

「テイカー...テイカー!」

 

そしてそれは、無意識に彼を呼ぶ声になっていた。

 

「もう起きてる!俺がユーノを叩き起こすから、ティナちゃんと一緒にいてあげてくれ!」

「...うん。わかった!」

 

私はそのまま180度ターンして、外に向かう_____

 

だって、あいつのことは信頼したいから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ティナちゃん!」

「あ、ノクスさん...」

 

ティナちゃんたちは、いつのまにか玄関から消えたと思ったらもう村の入り口近くまで来ていた。

 

「私が側にいて支えるから」

「ありがとう...っございます」

「ティナ......」

 

涙ぐんでるティナちゃんに、それを見つめるダンさん。

 

そして、

「来たようだなー!」

 

_______そんな雰囲気をぶち壊す、悪魔が叫んだ。

 

見えたのは、まがまがしい色をした竜(バケモノ)。

 

「さぁ、早く来るといい小娘」

「はい...」

「ティナ!」

「ティナちゃん!」

「......お父さん。ノクスさん」

 

そそくさと行こうとするティナちゃんを引き留めようとする私たちに、振り返ったティナちゃんは...

 

「私、村の人皆を守りたいんです。だから...行きますね」

 

覚悟を決めた顔を、向けてきた。

 

「今までありがとうございました」

 

 

 

 

____さよなら_______

 

 

 

 

 

その言葉を口にしてから、ティナちゃんは四本の足で地面を踏みしめる竜の元に。

 

ユーノちゃんは、テイカーはなにしてるの!?

 

「ククク...ともかく、この小娘はもらっていくぞ。ご苦労だったな」

「はい...」

 

村長がかしこまっている。あいつらは来ない。

 

ダンさんが手を握りしめる。今エルフ族が魔法を、娘の意思に反することをしたくないんだろう。あいつらは来ない。

 

ティナちゃんが涙を流す。あいつらは......あいつは来ない。

 

 

 

 

 

(あーーーもう!!!)

 

もう、限界だった。

 

 

 

 

 

「返せ」

「ん?」

 

一人ごとに律儀に返してくる竜。そんなことはどうでもいい。今は、

 

「ティナちゃんを、返せぇぇぇぇ!!!」

 

あいつの代わりにこいつを倒す。それだけ...ただ、それだけ。

 

手に持つのはバックから取り出しておいた魔法石。それも、最高級の水晶タイプ。

 

魔法石っていうのは、魔力なしでもその石を砕くことにより魔法が使えるという『遺産』の一つ。私が持っているのはその最高ランクである水晶型。

 

基本的な魔法石は、その石に決められた物しか使えない。赤色なら炎。水色なら水や氷。威力もそこそこ。でも、このタイプは自分の願うことなら、固有魔法以外の基本的な魔法ならなんでも叶えてくれる。想像した力なら。ただし全て使い捨て。

 

今私が持っているのは四つだけ。一つ持ってるだけでも十分だけど、頑張ってここまで集められた。

 

 

 

 

 

と、長々語っても今の私には関係ない。

 

走り、右手で持っていた魔法石を竜に押し当てる。戸惑っていた相手は、私が持っているものを知っていたのか驚いた顔をするが、もう遅い。

 

( ...お願い!効いて!)

 

押し当てられたことで水晶が割れる。あふれでてくるのは炎。

その力は自身の手も含め、竜を貫く火柱となった。

 

反動で尻餅をつき、右手が焼け焦げていることにも気づかなかった私は、竜に体に空いた穴を凝視していた。

 

(やった!別に私だけでもできたじゃん!)

 

願いが現実になって、喜びが溢れる。

 

だが、

 

「なめるな小娘!」

 

 

 

 

 

そんな希望は、絶望に変わる。

 

なぜなら、竜にあった穴が塞がったから。

 

「こんなもの効かぬわ!!」

「う、うそ......ほんとに...?」

 

(なんで効かないの?)

 

竜はじろり、とこちらを向いてくる。私の背筋はそれだけで凍った。直後、竜が足で私を叩かれる。持っていたバックが飛んでいく。でも、

 

「さっきまでの威勢はどうした?また攻撃してもいいのだぞ?」

「あ、ぁぁぁ、ぁぁ...」

 

全身が恐怖に支配されて、なにも出来なかった。痛みとかなにも感じなかっただけましなのか。それとも、完全に恐怖に呑まれてしまったことを悔やむべきなのか。

 

「しかし娘...貴様もなかなかだのう」

「ッ!!!」

 

反射的に感じた。あいつらと同じだと。

 

頭に思い浮かんだのは、想像もしたくないこと。思わず顔が歪む。

 

「貴様も小娘と共に来るといい。そうすれば今回は村を焼かないでやろう」

「ノクスさんっ!」

 

でも、逆らうことは許されなかった。ここで私が逆らえば、ティナちゃんの覚悟を無駄にしてしまうから。

 

「......はい」

「では、また10年後に会おう!」

「まてっ!アカーディアさん!ティナー!!」

 

ダンさんが魔法を打とうとしているを、周りのやつらに止められていた。私達はそのまま竜についていく。

 

最後に後ろを振り返っても、あいつは来なかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「中に入れ」

 

思い返している間に、移動が終わったらしい。目の前には洞窟が見えた。高台にあるとはいえ、後ろを振り返っても村は見えなかった。

 

「早く入れと言っている!」

「はいはぁぃ...」

 

いつもの感じで対応しようとするも、声が裏返ってしまった。

 

「今回は二人も連れて運がよかった。片方はエルフじゃないようだがまぁいいか。それにしても_____________」

 

なんか竜が喋っているようだったけど、どうでもいい。

 

「ノク、スさん...ごめん、なさい」

「いいんだよティナちゃん。これでお父さんとかは10年安全なんだし。あ、でも女しか狙わないんだっけ?だったら元から意味ないか」

「えぇ、そうでしたね...」

 

涙を流しながら笑うティナちゃんを、私はこれ以上見れなかった。私も、涙が出そうな瞳を隠す。これから私達は、死ぬ。喰われる。そう考えるととても怖くて、

 

(さ、とっとと死にますか。)

 

考えること、生き残ることを放棄した。

 

「食べるなら早くしてくれない?待ちたくないんだけど」

これ以上怖い思いをしたくないから。これ以上悲しい思いをしたくないから。これ以上期待したくないから。

 

「おぉぉ、そうだな...では貴様からだ。娘」

「っ。来なさいよ!」

「恨むなら俺を攻撃した自分の愚かさを恨むんだな!」

 

竜が口を開いて食べようとしてくる。私はその暗い口の中が怖くて目をつむった。

 

あぁ、でもどうせなら。

 

 

 

 

 

最後にあいつの顔。見たかったかもなぁ_____________

 

 

 

 

「その食事、もう少し待ってもらえますかね」

「ぁ...!」

「......なに?」

 

洞窟の入り口の方から声が聞こえた。恐る恐る目を開けると、竜が

顔をそっちに向けていた。

 

つられて私も入り口を見つめると、あいつがいた。

 

「そいつと話がしたいので」

 

私は、微笑むあいつ___カムイ・テイカーから目が離せなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

必ず

テイカーが少しずつこっちへ寄ってくる。

 

「何者だ貴様!」

「そこの彼氏です。いや~朝からいなくなってて困ってたんですよね~」

 

激昂する竜につらつらと言い訳を述べる彼。

 

(て、え?彼氏?)

 

「何をいって...」

「そしたら竜に連れ去られたって言うじゃないですか。心配したんだからな!」

 

口を出そうとする私を抑えて喋り続ける彼。よく見ると、にこやかにしていながらその瞳はこっちをじっと見つめてきていた。

 

(話し合わせろってこと...?)

 

「だが残念だったな。この娘は俺に喰われる」

「え!?なにやったんだよノクス!?」

「ご、ごめん...」

「今さら返してと言われても無理なのでな。諦めて帰るといい」

「そんな......竜なんて勝てないし...ならせめて、最後にノクスとお話だけでもさせてください!」

「ふふふ、殊勝な心がけだな。その姿勢に免じて五分間待ってやる」

「ありがとうございます!さぁノクス!」

 

両手を広げるテイカー。こちとらノクスノクスって呼ばれたことでダメージ負ってるのに、まだやるのかと少し気が滅入った。

 

(でも、ティナちゃんだけでも助かるなら...ええぃ!)

 

「カムイー!」

「おぅふ!」

 

生き残るために必要だと割り切り、結果的に彼の案に乗ることにして走って抱きついたら、テイカーがそのまま勢いを殺せず二人とも倒れこむ。地面が無駄に固くてやり過ぎたことを後悔した。

 

「全く...危ないな~」

「ご、ごめん」

「大丈夫だけどさ。それよりその手...」

「あー」

右の手のひらは、さっきの火傷の後が。

 

「一子報いた時にね?」

「ここに治せるものあるか?」

 

開かれるのは、私が落としたバック。中には...

 

『絶対助けるから』

 

もっと役に立つこと書きなよ。と思ったのは失礼ではないと思う。少なくとも私はそう思った。

 

「顔にやけてるけど、どうした?」

「あっ、いや、なんでもない!ていうかもうすぐ死んじゃう人を治す必要なんてないよ」

(あるにはあるんだな...十分だ。後で聞くから)

「ひゃっ!//」

 

竜に聞こえないよう耳元で、小さな声で囁いてくる。今まで感じたことない感覚がこそばゆくて思わず声が出てしまった。

 

「じゃあ、始めるぞ。さぁ立った立った!」

「え?」

 

手を握られて一緒に立ち上がる。でも、助けるったって逃げたら村がなくなるし、ティナちゃんは竜の目の前だし、とてもよい方向に行くとは思えない。

 

「別れの挨拶はすんだか?」

「いや、まだなんで今言わせてもらいますね」

 

そう言って、テイカーはいつの間にか握っていた瓶を向けて、

 

『___coming!』

 

竜の近くにいたティナちゃんを瓶に閉じ込めた。

 

「「なっ!」」

「さよならだ化け物さんよぉ!アカーディア行くぞ!」

「ちょっ!」

 

次の瞬間、私は膝の裏と背中に手を回され___所謂お姫様抱っこで持ち上げられる。

 

「貴様ぁぁぁ!!」

「なにやってんの!?バカ!変態!!」

「俺が抱えて走った方が早いんだよ!なんでもいいからしっかり捕まってろ!」

「わわわっ!」

 

後ろから竜の叫びが聞こえるが、それから逃げるように洞窟の外に出て坂道をかけおりる。今彼は強化魔法を使っているようで、走る速度がとても早く感じた。確かに魔法で早く走ったほうが早いだろうけど、このままだと問題は、

 

「村の人とかどうするの!?このまま逃げてたらあいつは...」

「逃げやしないよ!ここで倒すんだからな!今は時間稼ぎが出来ればいい!」

「なら私を置いてって!そしたらもっと動けるしティナちゃんは助かるでしょ!?」

「それは拒否する!もう大切な人を怪我させるのはゴメンだ!」

「...ッ!!」

 

テイカーの言葉に言いたいことが全て詰まる。私は______私はっ。

 

「オォォォォォォォォ!!!!!」

「ッ!!アカーディア!!!」

「へ?」

 

私は急な方向転換に動揺して、しっかりとテイカーの首に手を回した______________________________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どこだぁぁ!!」

「はぁ、はぁ、こいつは......」

「んにゅ...テイカー?」

「しっ!静かに!」

 

どうやら少し意識が飛んでいたらしい。テイカーに揺すられることで起きた私は、静かに辺りを見渡す。私たちは木の後ろに隠れていた。

 

テイカーが後ろを指差す。振り返った先には、

 

「ッッ!!」

 

声が出そうになるのをあわてて止めたが、腰が抜けるのは止められなかった。見えたのはただの地面だ。

 

 

 

 

 

さっきまで木が沢山生えていたのに、それがごっそりえぐられ、茶色しか存在しなくなった地面だが。

 

「ブレス...ここまでなのか......」

 

テイカーの声は、私の耳には届かなかった。きっと顔も青ざめているんだろう。頭に浮かぶのは恐怖。

 

(もしテイカーが避けなければ...ううん、もしこれが村に向けられたら...ここからでも全部消されてしまう......)

 

それが全身を駆け巡り、体が動かなくなる。怖い、恐い、コワイ。

 

「なぁ、このバックに役立つの何かある?」

 

そんな硬直から助けてくれたのは、他でもないテイカーだった。でも、なんでこいつは。

 

「あ、あ、あんたこれ見てもまだあれの相手するの!?死にに行くようなもんじゃない!」

「死ぬわけないだろ。お前らを無事に返さなきゃいけないんだからな。かといってさすがにこれ以上あれを吐かれるわけにもいかないし、近づいて相手する。準備する時間もあるだろうし大丈夫だろ。あ、ティナちゃんはまだ瓶から出すなよ?多分元に戻った時魔力でバレるから」

「あんたのはバレてないの?」

「こういうのは慣れてるんでな」

 

すました顔で言うものの、その顔には汗が流れているのが分かる。こいつは、あとどれだけ馬鹿なことをするのか私には分からなかった。

 

「ないの?」

「...あぁもう!」

 

急かすように聞いてくる彼に、私は思考をやめた。

 

(きっと止めてもこいつは行くだろう。なら...)

 

バックを広げて、水晶タイプの魔力石三つと魔力増強ジュースを取り出す。

 

「あいつと戦うのには、これくらいしか役にたたないと思う...」

 

私がはめている小手じゃあいつの攻撃はなにも防げないし、他の魔力石だと威力が出せない。文字通り今の私のほぼ全財産。

 

「魔力石...もしかしてお前これ使って?」

 

テイカーが訝しげに聞いてくるのを私は頷いて答えた。

 

 

「意味なかったけどね。でも、いつも魔法使ってるやつの方が有効に活用出来るでしょ?」

「こんな貴重なもの...いや、もらっておく。ありがと」

「素直でよろしい。というか見てたの!?助けに来てくれなかったの!?」

「それは悪かったけど、今こうしてるわけだし許してくれよな?」

「むぅぅ...」

 

納得はしてなかったが、使える左手で魔力石三つ全てとジュースを渡す。

 

「...なぁ、これってなんの魔法でも使えるのか?」

「固有魔法じゃなければ基本的に大丈夫だと思う」

「そっか...じゃあ」

「ッ!それはっ!」

 

テイカー力の入らない私の右腕を握って、左手で魔力石を砕いた。止める間なんてなかった。

 

「このタイプのは自分のしたいことを願って使うから...」

 

彼の両手に挟まれた私の腕は、みるみるうちに元の色を取り戻していった______戻ってしまった。

 

「あ、あんた...こんなことに使ったら!」

 

生き残るための手段の一つを、こうもあっさりと、しかも私なんかのために使うのが信じられない。

 

「これはもう俺の物だ。文句は言わせない。今ので居場所も見つかっただろうし、もう行くわ。少しは移動しろよ?」

「...待って」

 

平然としながら駆け出そうとする彼の手を握る。自分の心臓がトクン、トクンと動くのを感じる。

 

「早くしろ。あ、もしかしてお代か?それは後でいくらでも払うから」

「違う...お金なんていらない......だから、無事に返って来て」

 

 

 

 

 

そして__________この思いを確かめさせて?_____________

 

 

 

 

 

「言ったろ?死ぬ気はないってさ。だから大丈夫だ。任せろ」

「......うん!」

 

木の間を抜けて、竜に向かっていくテイカーを見送ったあと、あいつと触れた手を胸に当てる。

 

(大丈夫。あいつならきっと。)

 

急いでティナちゃんの入っている収縮瓶を取り出すも、ティナちゃんは気絶していた。無事だろうけど、不安は大きい。

 

「ひとまずここから離れないと」

 

私は、少しずつうっそうと生い茂っている林のほうへ逃げて行った。

 

 

 

 

 

必ず、無事で____________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

アカーディアからもらった魔力増強ジュースを飲みほす。メロンと桃が混ざったような甘味があって、自分の魔力が増えたのが実感できた。人によって合う合わないがあるらしいので不安はあったが、上手くいって何よりだと安心する。

 

「さてと...」

 

ベルトポーチに魔力石はしまった。あいつはまだこちらを見つけていない。魔力探知が下手くそなのか。

 

「まぁ、いいや」

 

そして俺はゆっくりと、木の影から竜の前に姿をさらす。

 

「よ、ようやく見つけたぞ。貴様!」

「悪いな。俺一人だけだ」

 

竜が若干驚いているのはただ俺が自分から出て来たのに対してなのか、それとも。

 

「ちょっと答え合わせをしないか?」

 

そう言って俺は、自覚できるくらい顔をにやけてみせた。

 

(今は時間を稼ぐことを考えろ)

 

 

 

 

 

俺も、ユーノも、アカーディアも、村の全員無事に生き残るために。

 

 

 

 

 

(さぁ、始めようか)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

討伐

一週間に一つ投稿してたんですけど、遅れてしまって申し訳ないです!

遅れた原因は後日わかると思います...

では、アハトの勇姿を!


一息ついてから、俺は言葉を紡ぐ。

 

「お前さ、本当は弱いんだろ?」

「突然なにを言い出すかとおもえば...何を根拠にそんなことを言ってくるというのだ!」

 

(やっぱり乗ってきた!)

 

心の中でガッツポーズをとる。あとは時間を稼ぐだけだ。そうすれば勝率が上がる______いや、勝てる。

 

(頼むぜ、ユーノ)

 

今隣にいないもう一人を思いながら、俺は目の前の現実と対峙する。

 

「貴様も見ただろう!俺のブレスを!これでもまだ弱いと言うのか!」

「あぁ。弱いさ。それはお前の力じゃないんだからな」

 

竜の怒りをふつふつと沸き上がってるのを感じる。短気な性格なんだろう。これだけ手玉にとりやすいなら容易い。

 

「理由は、お前が自分の魔力を使っているわけじゃないからだ」

「ッ!」

「それを我が物顔で『俺のブレス』なんて言うんだから笑えるぜ」

「貴様ァ!!」

「エルフが自分達の土地に送っている魔力を吸いとって、そのまま自分の攻撃とする。地面から魔力を吸いとれるっていうのは、確かに竜の中でも珍しいんだろう。でも、自分の持てる魔力が少ないからただのブレスなんだろ?他の何にも頼らず戦うはずの竜がそれとか、だっせー」

 

竜が使うブレスっていうと、基本的に炎や氷が混ざった物を想像する。てかそれであってる。

 

だけど、こいつのは______ユーノの『fog・beast』と同じように、純粋な無属性の魔力だけ。でも、理由はユーノとは違う。

 

「自分の中で作られた魔力じゃないから、炎や氷の属性を付けれないだけ...」

 

前に出した魔方を作る例に当てはめると、魔法使いは、自身の魔力の大きさを設定し、炎や氷などに色づけしていくわけだが、自分の魔力で無いものは着色が出来ないということだ。

 

「だからお前は弱い。エルフを喰うことで作られたただ硬い鱗を着けただけ、村人の魔力を吸うことでしか大きな攻撃ができず、敵わないと思わせるためにさらに周りの魔力を吸って体の再生をした、ただの雑魚だ!」

「余程死にたい...っ!らしいな!」

「死ぬわけないだろ。こんな竜の面汚しをしているようなやつにな」

「黙れ黙れ黙れぇ!!貴様ァ!ふざけるなぁぁ!!」

「それはこっちのセリフだ。平和に暮らせるはずなのに関係ないエルフを何代も巻き込んで、人間も巻き込んで!やったことは自分の面目を保っているだけか!」

「黙れといっているぅ!」

 

「洞窟で静かにしているから、魔力をわけてくれ」ここまで竜との関係がこじれてない頃なら、こう頼むだけで穏便に済んだはずなんだ。なのに。

 

竜が炎のブレスを吐いてくる。これは自分の体内で作られた魔力を使っているんだろう。でも、

 

「やっぱり、威力がさっきと全く違うぜ!」

 

自分の前に氷の壁を作る。ブレスはそれを溶かすことすら敵わない。

 

(_____特訓の成果もかなり出てるかな?あ、アカーディアのジュースのおかげか)

 

さっき貰ったアイテムに感謝する暇もなく、竜が攻撃を仕掛けてくる。

 

「ならば!」

 

硬い尻尾を払われる。とっさにエクスシアを作ってガード。しかし、ビリビリと手に伝わる痺れは止まらなかった。

 

「さすがに硬いな...」

「死ねぇ!!」

 

呟きながらもバックステップをとり続けるが、竜も追撃をしてくるためなかなか距離を離せない。時間稼ぎには丁度良いくらいだが。

 

「ちょこまかと動くやつめ!」

「動かなきゃ死ぬだろ」

「動いても殺してやるさ!!」

 

 

竜が止まり、力を貯める。禍々しいオーラが集まって______

 

(これは...さっきの!?地面からエネルギーを吸っているとはいえ早すぎる!)

 

とっさに避けようとするも、ピタリと止まってしまった。

 

(この方向は...後ろに、『エルビス』!?避けるわけにはいかねぇ!)

 

「やばっ!」

「ふざけたことをっ!死ねぇ!!」

 

エクスシアの代わりに硬い、しかしこれからくる攻撃には耐えられそうもない壁を作って構える俺に、竜がブレスを_____________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ん、んぅ...ここは......」

「ティナちゃん!?大丈夫!?」

「ノクスさん...って、カムイさんは?あいつは!?」

 

気がついておどおどするティナちゃんにここまでの経緯を話す。話を聞いた彼女は、興奮しながらも少し落ち着きを取り戻してくれた。

 

「大丈夫?」

「はい。でも一人で戦うなんて...!!」

「どうしたの!?」

「あっちからすごい力が感じて...とても怖い...」

 

怯えるティナちゃんを見てハッとする。もしかして、それは______

 

「まさか、さっきの!?」

そんな早くもう一回できるなんて聞いてない。

 

(テイカーが死んじゃう!)

 

「嘘でしょ、カムイ!?」

「......あれ?」

「え?なに?」

 

ティナちゃんが顔をきょとんとするのを見て、私も動揺していた気持ちが止まる。やがてティナちゃんはこっちを向いて、

 

「なんか、急に魔力を感じなくなりました...」

「...えーと、そんなことありえるの?」

「さっきまであんなに膨らんでたのに...」

 

まるでわけがわからなかった。魔法が途中で止まることなんてあり得るのか。

 

(確認しに行かないと)

 

「行ってみよう。方向分かる?」

「はい!任せてください」

 

走り出す彼女についていく。体はとても自然に動いてくれた。

 

 

 

 

 

(テイカー、無事でいて!)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「ァァァァ、アアアァァァ、アアアアアアアァァァァァァ!!!」

「危なかった...ユーノ、ナイス」

 

今は離れているパートナーを誉めながら、役目を果たすことがなくなった壁を消す。どうやら賭けには勝ったらしい。今目の前には、地面に倒れ、もがいている竜がいるだけ。

 

「ない魔力を無理やり使おうとするから...」

 

それが分からなかったあたり、やっぱり雑魚なんだろう。

 

「貴様...何をした?」

「その貴様ってのやめてくれないかなぁ。俺一応女なんですよ?まだ17なんですよ?アカーディアとほぼ同年代だろうに...俺も服変えようかなぁ......」

「質問に答えろ!」

 

この傲慢っぷりに、さすがにキレそうになった。それとも飄々としているのが悪いのだろうか。

 

「その前に倒すからさ、おとなしく散れよ雑魚」

「貴様だけは殺す!絶対にだ!」

「やれるもんならやってみなぁ!」

 

叫ぶと同時に取り出した魔力石を俺と竜の間に投げる。割れた魔力石から出てきたのは______濃い霧。同時に、ベルトポーチから針と、魔法で作った氷を射出。

 

魔力石は基本魔法ならイメージするだけで使える。霧は、詳しいことは知らないが水や温度が関係しているらしい。

 

つまり...過程はどうあれ、霧が基本魔法でできることと、結果さえ分かっていれば、こいつでイメージするだけで作り出すことができる。

 

「目眩ましなど...ッ!!」

 

濃霧は俺達を包み込む。きっと竜は目の前から飛んできた氷と針に驚きながら__________

 

(ティナちゃんやアカーディアを傷つけたお礼はしっかりさせてもらう!!)

 

「なめたまねを!」

 

霧を払い、飛んでくる物を防ぐために、飛べない翼をはためかせるだろう。

 

ここまで予想通り。

 

「なに!?」

 

俺はもうそこにはいない。 そして、

 

 

 

 

 

「!?上か!」

 

霧が出てる間に強化魔力全開で飛び上がった俺は竜の頭の上を取る。二本の氷の槍を精製しながら。なぜなら______

 

 

 

 

 

「そうらよっ!」

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

(いくら鱗が固かろうが、目は弱いだろ?)

 

竜の目に刺さったアイスランスをさらに深く刺そうとするも、半ばから折れてしまった。おまけに竜が頭を振る。俺はそれに逆らわずに地面に着地した。

 

ここまで予想通り。

 

「どこだぁぁ!」

 

目を潰された竜はその場で暴れまわる。回復はもう起こらなかった。

 

「エクスシア!!」

 

(出番だぜ!相棒!)

 

「はぁ!」

 

一気に接近して、エクスシアを突き刺す。硬い鱗の中で唯一皮膚が見えている所_____アカーディアが燃やした場所めがけて。

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

グサリ、と深々と突き刺した剣は、

 

「そこかぁぁ!!」

 

深手の筈だが、とっさの意志が無駄に強いのか、竜がブレスを吐こうとしてくる。さすがにこの距離だと止められない。そして____二人まとめて溶けるだろう。

 

自身の怪我をも惜しまない一撃。喰らえば例外なく全てが消える。防ぐ手段など持ち合わせていないが、俺は______静かに笑った。

 

 

(ここまで予想通り!!あとは運次第だ!)

 

「頼むぜ!」

 

左手から取り出すのは、アカーディアから受け取った二つ目の魔力石。

 

それをエクスシアの持ち手に押し合て、砕いた。

 

 

 

 

竜の弱点魔法。それが資料をあさって見つけた有益そうな情報。

 

ユーノには自分のできる魔法に集中してもらうため教えなかった。

 

アカーディアは魔法が使えないから言わなかった。実際魔力石を使っていたが。

 

エルフの人達は竜と戦わないだろうから喋らなかった。

 

エクスシアが強化魔法以外の魔法を使うと消えてしまうため、魔力石を使うしかなかった。さらに言えば、刺して奥まで届く状態の中じゃないと、魔法がちゃんと通るか分からなかったから。

 

イメージは、自分の得意な魔法の方がしやすい。

 

そして、俺の得意な基本魔法は氷と......

 

 

 

 

 

「荒れ狂え!!」

 

 

 

 

 

____________電撃。

 

瞬間、叫び声と同時に視界が白く覆われ_____

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

目を開けると、焼けた竜が見えた。その瞳に光はなく、体はピクリとも動かない。

 

 

 

 

(......やった?)

 

安堵した瞬間、見つめていた世界が回る。

 

(あぁ、なんで気がつかなかったんだ。アカーディアもそうだったじゃん)

 

倒すことに夢中だったのは、なにも竜だけではなかったらしい。

 

 

 

(魔力石使う魔法、自分で出すわけじゃないから、被害がこっちにもくるじゃんか......)

 

軽い後悔は役に立たず、視界が暗転した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星空

まどろんでいた意識がかすかに震える。

 

「ん......ここは...?」

気がつくと、俺は誰かに抱えられていた。

 

「あ、起きましたよ!ノクスさん!」

「ホント!?」

 

顔を少し傾けると、そこにはアーカディアとティナちゃんがいた。二人してこちらを覗きこんでいる。

 

「お前らか...って、竜は?」

「...見てごらん」

 

見えた先には、完全に死んでいる竜だった塊が。

 

ちゃんと倒せたんだな______

 

「良かった...」

「良いわけないでしょバカ!」

「うぇ?」

 

いきなりアカーディアに抱きつかれた。予想だにしていなかった行動に少し動揺する。

 

「そんなボロボロになって!あんたが死んじゃうところだったでしょ!?そしたらどうすんのよ!」

「そうですよ!」

 

二人は泣きながら、怒ってますと言わんばかりの顔をしていた。

 

言われて自分の体を見ると、全身服が裂け、血がにじんでいた。電撃受けてこれだけですんだら良い方なんだけどな。

 

「...ごめん」

「もういいの!結局無事だったんだから!」

 

彼女の気持ちを組んで謝ったのに言われて、回らない頭が少しキレる。謝り損じゃないか。

 

「それよりほら、村に帰ろう?」

「はぁ...そうだな......」

 

しかし、喜んでいる二人にこれ以上なにも言えなかった。

 

 

 

 

 

______全部守れて、よかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ケーキ用意してくれてるといいね~」

「はい!」

「...二人とも。村につく前に、言っておかなきゃならないことがある」

「なんですか?」

「もったいぶらないで言いなさい!」

 

竜から解放された嬉しさからか、浮かれた状態の二人に、俺は声をかける。

 

俺は現在、アカーディアにおんぶしてもらって村を目指していた。そこまでやらなくていいと言ったのに「そんな体じゃダメ!」と、断られた。納得したくはなかったが、思うように体が言うことを聞いてくれないので、しぶしぶこうなっている。

 

振り向けないアカーディアの分もかねているのか、体ごとこちらに向けてくるティナちゃん。

 

一呼吸入れてから、俺は

 

「ごめん。村は_______________」

 

それより早く、予想より早く、森が開けて、村が見えた。

 

「ほらテイカーさん!この村がどうかした......え?」

「なんで...?」

 

 

 

 

 

辺り一面黒くなった、村だった土地が。

 

「村は燃やしてしまった。ごめん」

「どういうこと!?竜はこっちにも攻撃したの!? 」

「そうじゃない」

 

全て消えた土地を見て、アーカディアは動揺し、ティナちゃんは...その瞳から、光が消えていた。

 

「え、テイカーさん?嘘ですよね?竜は攻撃してないって言うし...ここが『エルビス』なんて~」

「......」

 

明るい口調ながら、俺にはその姿が痛々しく写ってたまらなかった。

 

「そっか!皆で驚かせようとかくれんぼでもしてるんですね!なら頑張って探します!絶対驚きませんからね?」

「ティナちゃん......」

 

ティナちゃんは壊れた人形のように動き出す。涙はとまらず、すすり泣く声は止まらなかった。

 

俺は汗が止まらなかった______

 

 

 

 

 

______自分の、説明の下手さ加減に。

 

「俺の言い方が悪かったんだよな。これ」

「え?」

「ティナちゃん。実は...」

 

 

 

 

 

「ティナーーー!!」

「ノクスさん!カムイ君!!」

「「!?!?」」

 

村はなくなったけど、村人は無事だから。

 

そう声をかけるよりも早く、ティナちゃんは皆の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

既に日は落ち、寒さが出てきたころ、私たちは____________________

 

「もっと飲んでくれカムイ君!!ほら!」

「い、いえ結構ですので...」

 

アハト君はダンさんの絡み酒に付き合って、

 

「これ美味しいよ!」

「まだまだありますから、沢山食べてくださいね?」

「やったー!ユーノちゃんも食べよう?」

「はい!」

 

私達はケーキを楽しく食べていた。後ろから「俺にもチーズケーキ食べさせろー!!」という声が聞こえたけど気にしないでおこう。

 

「そういえばユーノちゃんはなにやってたの?」

 

きっと、いや、絶対竜と戦っていた間のことだろう。

 

まぁ、私は直接行ってないし______

 

「実は___________」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『家を燃やす!?』

『竜はこの村の魔力を吸い上げてあの回復力を実現している。でも、家をなくせば魔力はすぐに枯渇する。だから燃やしといて』

『いやいやいや!!そんなのここの人たちが許してくれるわけ...』

『もう許可は取ったから。いつでも直せる村と、治せない人の命どっちが大事だ!って言ってな』

『えー...』

『炎は練習してただろ?いつも通りやれば大丈夫』

『そう言われても......』

 

 

 

 

 

『じゃあもういくから。あとよろしく!』

『あ、カムイ君!』

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りがあったのが10分前。アハト君はもうここにはいない。そして______

 

「ユーノさん!お願いします!」

 

荷物なども全て出した人たちが村から少し離れて、あとは私が燃やすだけな状況になっていた。

 

(これ私よりダンさんとかがやった方がいいだろうけど...)

 

さすがに自分達の手で村を壊したくないとのこと。気持ちは分かるけど、私だってしたくはない。

 

でも、

 

「なにはともあれ、頑張らないと!」

 

失敗するかもしれない、というかその方が確率は高い。今まで成功したことないし。

 

『もしユーノが時間かけてると、俺再生する竜相手にずっと戦わないといけないから。なるべく早く頼むぜ?』

 

でも、あんなこと言われてやらないわけにはいかない。

 

「よし!」

 

自分を鼓舞してから、両手で杖を構え、呪文を詠唱する。

 

「----」

 

『大きすぎるとか小さすぎるとか気にせずいつもイメージしてる大きさでやるんだ。その方が成功する。』

 

アハト君の言葉を思い出す。詠唱時間自体は短い。基本魔法だし。それを、ゆっくり、慎重に唱える。

 

「-------」

 

あふれでそうになる炎を抑える。もっと落ち着いて。もっと、もっと。

 

ピリッと、感じたことがないものが私を突き抜ける。

 

(今だ!)

 

『flame!!』

 

実は、基本的に魔法の名前は自由だったりする。自分の想像しやすい名前を皆がつける。だから、中級以上の魔法は人によってバラバラで、初級の物も、その呼び方を推奨されているだけ。初級の技に応用を効かせることは難しいから、呼び方が一つに絞られている。

 

そんな中、例に漏れず推奨されている呼び方を叫んだ結果は成功。無事に家三軒が同時に燃える程度ですんだ。

 

こんなにやるつもりはなかったんだけど。という戸惑いよりも、 やった!できた!と、喜びの方が大きく____状況を考えず、その場で喜んでいた。

 

この調子で__________

 

こうして私は、村の家を燃やしていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

これは誰にも言うつもりないけど。

 

全ての家を燃やし終わってから戻ると、ダンさんに言われたことがある。曰く、

 

『一度にあれだけ家を焼きながら、嬉しそうにニコニコしているユーノさんは...ユーノ様は、怖かったです...』

 

はい。すいません。忘れて下さい。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「そうだったんだ...」

「結局間に合って、皆無事だったから良かったけどな」

 

どさっと体を下ろしてくるアハト君。ダンさんからの絡みはなくなったみたいだった。

 

「あ、私お父さん寝かせて来ますね」

「ティナちゃん。いまさらなんだが...ごめん。村を無くしてしまって...」

 

アハト君のその言葉に少し怯えてしまう。だって、やったのは私だから...

 

「そんなの気にしてるわけないじゃないですか!皆無事だったんだからいいんですよ!」

「......ありがと」

「いえ、私行ってきますね?」

 

嬉しそうに駆け出していくティナちゃん。それを見て、アハト君の顔も少し楽になった気がした。

 

「明るくなってよかったね」

「命の危険がなくなったんだし、そりゃ元気にもなるだろ」

「そうだね」

「それよりケーキどこ?」

「もう私が食べたよ!」

「アカーディア!貴様ぁぁぁ!」

「ちょ、あいつ思い出すからやめてよ!」

「カムイ君!私もらってくるから!」

 

暴走しそうなアハト君を止めるために、私はケーキを貰いに行きました。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

「いや、ないならないでいいんだが」

「ユーノちゃんが行った後に呟かれても...」

 

星空を見上げながら座り込む私達。

 

ふと横のテイカーを見る。所々破けた服から見える包帯が痛ましかった。私は息を飲む。

 

(よし。今は二人きり。言うこと言わなきゃ!)

 

「そういえば、まだお礼言ってなかったね。助けてくれてありがとう」

「それはユーノに言ってやれ。あいつがいなけりゃ全滅だったんだから」

 

(なんで謙遜するんだよ...)

 

若干不機嫌になりつつ、ずいっと近寄って目を合わせる。

 

「私から見たら、助けてくれたのはあんたなの!」

 

吸いつけられるようにあいつの黒目を見つめる。

 

「素直に受け取っときなさい!」

「...はぁ、分かったよ。ありがと、アカーディア」

「まずそこ!」

「え?」

「名前でいいの!ノクスで!」

「お、おう...」

 

圧倒されたように後ずさるテイカー。そんなにやってないのに失礼な。

 

「なら俺もカムイ...いや、アハトでいい」

「アハト?」

「俺の本名」

「へー、良い名前だね」

 

彼の言葉に淡白に返す。でもそれはどうでもいいからじゃなく、素直にそう思ったからだった。

 

「じゃあ改めてよろしくね!アハト!」

「こちらこそだ、ノクス」

「っ...それより!」

 

にやっと笑う彼の顔がかっこよく見えて、ごまかすように話を変える。

 

「ほら、綺麗な星空よ」

「さっきから見てるわ」

「うぅ...」

 

失敗。

 

「次二人はどこに行くの?」

「隣町の『アースラ』までだ」

「なんなら案内してあげようか?私ここにくる前までいたし」

「いいのか?」

「元々『遺産』求めてどこでも行くからね。それにほら......」

「?」

 

(ユーノちゃんや、あなたと一緒にいたいから)

 

なんて言ったらどんな反応するだろう?

 

「あ、それなら付いてくるといいと思うぞ」

「え?」

「これから王都に向かうんだが、確か『遺産』が沢山あった気が...」

「ほんと!?」

「たぶん、俺も行ったことあるし...今回使ったやつのお礼もそこで払うよ。俺も行けば安くなるだろうしな」

「絶対だよ!?」

「お、おう...」

 

(しばらく一緒にいれる上に、マジックアイテムまで、至れり尽くせりじゃん!)

 

都合の良すぎる条件を聞いて、ただ...

 

「じゃあ決定な」

「いったいどこにそんなコネを持ってるの...」

「色々あってな」

「もしかして怪しいお店とかに?」

「......少し?」

「ダメだよ。いくら男の子でもそんなところに行ったら...」

「そうだな。次からは行かないように......ん?」

「どうしたの?」

 

彼の言葉が止まったことを疑問に思いよく見ると、少しアハトが震えだしている。

 

「今お前、男って言った?」

「え、うん......」

 

そこから紡がれた言葉を、私は信じられなかった。

 

 

 

 

 

「俺は、女!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「カムイ君~ケーキ貰ってきた......よ?」

 

戻ってきた私が見たのは、何故か口喧嘩してる二人。

 

「信じられねぇ!お前俺のことおんぶしてたろうが!それで分かるだろ!」

「あんたみたいな胸でわかるわけないでしょ!」

「お前だって貧乳のくせに!」

「うるさいわよ無乳!!」

「えーと......これは...」

「「!!」」

 

同時にこっち睨んで来たため、反射的に体が震えた。なぜか背中の汗が止まらない。

 

「なんで14歳に負けてるんだ......」

 

私、特別胸があるわけじゃないんだけど、アハト君、気にしてたんだなぁと感じる。

 

そこらへん、なんだか女の子だなぁと少し驚いた。いつも男の子っぽくさばさばしてるから。三つも年上だけど。

 

「ユーノちゃん...なにかしてるの?」

「い、いえ......」

 

現実に意識を引き戻され、ここでなにか間違ったことを言ったら命がないと本能が訴えているのを直感的に感じ取った。

 

「確かめさせろ。ユーノー!!」

「私にも教えて!」

「無理ですよー!!!」

 

しかし、それは時既に遅く。

 

こうして、夜の鬼ごっこ(鬼は真剣)が始まって______

 

 

 

 

 

私は、満点の星空を見ながらスタートダッシュを決めた。

 




もっと上手くキャラを書きたいなぁ...と感じる今日この頃。

感想、意見があったらぜひお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

土産と仲間

村の皆の家がなくなったので、即興で作った簡易テントで寝た次の日の早朝。

 

「もういっちゃうのかい?」

「なるべく急ぎたいので」

「そっか...昨日は本当にありがとう」

「お礼はユーノに言ってください」

 

俺とユーノ、ノクスの三人はもう旅立つ支度を済ませていた。ぼろぼろになったコートや体は次の町で治すことにした。ここは村を再生させるのに苦労するだろうから。

 

「あ、これ受け取って下さい」

 

俺は思い出した様にポーチからある程度のお金を出して、ダンさんに渡す。じゃらりと音を立てるそれを受け取ったダンさんは、目を丸くした。

 

「復興資金のたしにしてくれれば。こっちはこのくらい渡しても問題ないはずなので」

「こ、こんな大金受け取れない!これ以上なにかしてもらうわけにもいかないからね」

「そんなこと言わずに」

「ダメなものはダメ!!返します!もう少し大事に使ってください!」

「...わかりました」

 

復興費用として考えればそんな多くないんだが、押し返された勢いに負けて渋々お金をしまう。

 

一方ユーノたちは、

 

「本当にありがとうございました!」

「また会いにくるからよろしくね?」

「綺麗になった村、絶対見に来るから!」

「はい!」

 

ティナちゃんに別れの挨拶を済ませていた。彼女が見せる笑顔は、今までで一番輝いている様に見えた。

 

「お前ら準備はいいな?」

「うん」

「もちろん」

「じゃ、行くか」

 

そう言って、三人で歩き出す。

 

 

 

 

 

「待て」

「...?」

 

それを呼び止めた人は、村長だった。今さらなにを______

 

「今回は、すまなかった」

「あ、えと...」

 

勢いよく頭を下げられたので、こっちが戸惑ってしまう。とっさに二人の方を向いたが、どちらも我関せずといった形でそっぽを向いた。

 

「我々が間違っていた。竜が十年に一人しか喰わないから、喰われることに慣れてしまっていた。だが...今さらになって、大切さが分かった。どうか、許してほしい」

「...許すとか許さないとかじゃないですよ」

 

この人は村の村長として、良くも悪くも真面目じゃないといけなかったのかもしれない。それでも消えた命は戻らないし、その家族の憎しみは消えない。

 

考えるのは後の祭りでしかないが、俺にはこう思うことしかできなかった。

 

「じゃあ、一日でも早くこの村が元に治るように願っています」

「待て、礼を済ませていない。おーい!」

 

呼び声で持ってこられたのは、食料と短剣と、石。

 

「これ『遺産』じゃん!!」

「これは村を守るお守りのようなものじゃったのだがな...今の我々にはもう必要ない。受けとるといい」

「これから大変なのにそんなの「いいからうけとれ。この村の全員の意志じゃ」...ありがとうございます」

 

ノクスが『遺産』を、俺が食料を受け取った。

 

「気を付けてな」

「...はい!」

 

村長の労いの言葉に、俺は元気良く答えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃーねー!」

「またくるから~!」

 

ティナちゃんが見えなくなるまで手を振ってから、私はユーノちゃんに声をかける。

 

「ユーノちゃん短剣持ってるよね?これいる?」

「え、いいんですか?」

「私は護身用の軽いナイフでいいんだ。だから」

「あ、ありがとうございます!」

 

見た目のわりに重い短剣をユーノちゃんにあげる。ニコニコしているのがかわいさ満点だった。

 

「かわいいなぁ~」

「ちょ、ノクスさん?」

「歩くときくらい迷惑かけるなよ」

「わかってまーす」

 

少しほっぺたツンツンしてただけなのに、少し前を歩くテイカーに怒られてしまった。テイカーのジト目は避けれるけれど、ユーノちゃんに迷惑をかけたいわけではないので潔く引き下がる。

 

「それ、なんの効果があるんだ?」

「短剣の方はめちゃくちゃ固そう。もうひとつは...」

「ただの石ころに見えるけどな」

「私達が使った水晶タイプの魔力石。あれが魔力を補給することでいくらでも使えるやつ」

「は!!?」

 

驚いて振り向いてくるテイカー______アハトに、私はすごいだろ!と言わんばかりに笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

男だと思っていても、きっとこの笑顔を出していただろうね____

 

「改めて、これからよろしく!ユーノちゃん!アハト!」

「こちらこそよろしくお願いします!」

「うんぅん!?」

「...浮かれて転ぶなよ」

「ぷっ...あはははぁ!!?!?」

「ふっ...そこぬかるんでるからなー」

「「言うの遅いよ!!」」

 

いきなり泥を被った私達を、アハトは鼻で笑いながら見ていた。

 

 

 

 

 

こうして、旧魔と新魔と人間の三人旅が始まった。




気づいたら最新の更新からはや一ヶ月...だと?

読んでくださってる皆様はぜひ許してください。これも全部テストってやつの仕業なんだ...

これからは、少し上げてきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編Ⅱ

今回は短編になります。ホントに短いですけど...ここまできたらぜひ。


「私、いらなくない?」

「は?」

 

私の言葉に、彼女______黒髪に黒目、服まで黒い黒だらけの同い年、アハトは固まった。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『エルビス』から『アースラ』まで向かうある一日のお話。

 

朝、私が起きた時にはユーノちゃんとアハトの特訓が終わり、朝ごはんが並んでいた。私が作った物と比べ物にならないくらい上手く作られた料理。

 

昼、襲ってきた魔物をユーノちゃんとアハトが倒しながら道を進む。魔法が使えない私は一番後ろで守って貰う形に。短剣で参加しようとするも、その前に決着がついてしまう。『遺産』は貴重なため使えない。

 

夕方、ユーノちゃんがご飯、アハトが特訓。ご飯作るのを手伝おうとすると、「ノクスさんは座っていてください」と言われる。並べられるのはやはり美味しそうな料理。

 

夜、せめて魔物の見張りくらいしようとするも、「どうせ寝れないから」といってアハトが変わる。私の見張り時間40分。

 

こうして一日が終わり、次の日へと繋がっていくのである。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「なにを言い出すかと思えば...」

 

そして、話は冒頭へ。

 

「だって、守って貰ってばかりだし、手伝いも要らないみたいだし、私...」

 

せめて魔法が使えれば話は変わってくるだろうけど、私はなにもできない人間。『エルビス』でもらった魔力石も結局は使った分二人から魔力を吸収しなきゃいけないから、その分負担がかかる。

 

「はぁ...ほら」

「わわっ!」

 

頭におかれる手は、暖かくて少し小さかった。私はなすすべもなく撫でられる。

 

「な、なにをっ//」

「お前はいらないやつなんかじゃない。そりゃ、何もできないかもしれないけどさ...俺からみたら、大切な仲間なんだから」

 

(どうしてこう、恥ずかしい言葉をすらすらと言えるのか)

 

現実逃避のように、私は今の状況を客観的に見ていた。

 

「まぁそこまで思ってるならこれから料理とか一任させるけどな!」

 

 

 

 

 

(そして、雰囲気ぶち壊すこと言うかなぁ!!)

 

「ふんっ!やってやるわよ!一人旅で身に付けたスキルを見せてあげる!」

「そいつは楽しみだな。聞いたかユーノ!そういうわけで明日からはこいつがやってくれるってさ!」

「聞こえてるよ~でも、いいんですか?」

「いいの!それに敬語じゃなくていいんだよ?」

「アハト君はともかく、ノクスさんは...」

「どういう意味だそれ」

「...あははっ」

 

思わず笑いが込み上げてくる。

「あ、親睦を深めるという意味を込めてこの前あった話をしますね。アハト君が棒状のチョコを食べてて...」

「ちょっ!ユーノ!」

「なにそれ聞きたい!」

「ノクスまで乗り気になるな!」

 

まだ出会って数日しか経ってないけど、私にとっては激動した数日間だった。

 

 

 

 

 

本当に、この二人と出会えてよかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三章『アースラ』
二つの種族が暮らす町


「好意...いや、それ以上だ」

「......」

 

目の前には、変な仮面を付けた奴が騒いでいた。

 

「この気持ち...まさしく愛だ!」

「......」

 

仮面の男も俺も剣を構え、剣先はそれぞれ相手に向けている。

 

「行くぞ!」

「......」

 

共に今か今かとその時を待つ。そして、

 

「二回戦第三試合、開始!」

「切り捨て、ごめぇぇぇぇぇぇ「うっさい!」ん!?」

 

勝負は一瞬でついた。剣の持ち手を腹に入れる。それだけで相手は倒れた。

 

「勝者、カムイ選手ー!」

 

歓声の響くなか、俺はあることを思い出していた。

 

全く、なんでこんなことに____

 

 

 

 

 

時は二日前に遡る。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ご飯出来たよ!」

「はーい」「わかった」

 

『エルビス』から出て15日。ご飯の準備はノクスさんにやってもらうことになったおかげで、私とアハト君が特訓する時間が増えました。

 

「うまそうだな」

「ノクスさんのはいつも美味しいでしょ?」

「確かに」

「あ、認めてくれるんだ?」

「ホントに上手いしな。いっそ『遺産』の資金を露天販売で稼いだらどうだ?」

「なるほど!『アースラ』に着いたらやってみよっかな~」

 

実際ノクスさんの料理はお金を払っても食べたいレベルで、私も少し教わったりしてます。

 

「今日中には『アースラ』に着くだろうし、ちゃっちゃと食べて行くか」

「そうだね!」

「意義なし」

 

ご飯を食べ終わって移動しようとした時、 アハト君のコートのポケットからエクスシアをスケッチしてるメモが落ちてしまった。

 

「アハト、なんか落としてるよ?」

「ん?あぁ悪い」

「なにこれ?」

「ノクスは知らないのか。俺の武器のスケッチ用メモ帳」

「エクスシア?」

「そう、そう」

「ふーん...」

 

その場でパラパラとめくってみるノクスさん。

 

「...なんも描いてないじゃん」

「え?」

 

私が声を出してしまった。だってアハト君毎日描いていて、三代目まであるはず。まさかメモ帳四代目突入?

 

「これは、まだ使って無いだけだ」

「へー」

「そんなに見たけりゃ二代目やるよ」

ノクスさんが持ってたメモ帳を受け取り、代わりにベルトポーチから少し古そうな物を出して渡した。

 

「ど、どうも...」

 

ノクスさんは、「別に貰っても...」なんて顔をしていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「着いたー!」

「結構歩いたな...」

「まさか森で迷うなんて...私一回通った道なんだけどな......」

 

あれから予想外に時間が掛かってしまって、着いたのは真昼でした。

 

それにしても_________

 

「「なんでこんなに人いるの?(んだ?)」」

 

アハト君とハモってしまうのも無理はない。

 

見渡す限りの人、人、人。皆大通りっぽい道に屋台みたいなのを建ててたり、中には既に露天を初めてる人もいた。

 

なにより、旧魔だけでなく、多くの新魔までいる。

 

アハト君から戦争が始まるかもしれないって聞いて旅して来たから、こうして共存している町を見てどこかホッとした。

 

「ノクスが居たときもこんなだったのか?」

「い、いや...もともと新魔もいる大きな町だったけど......」

「なるほど」

 

二人曰く、大きな町では色んな種族が混ざって生活してるところもあるらしい。

 

「ようこそ『アースラ』へ!」

 

アハト君とノクスさんの会話に、チョビヒゲのおじさんが割り込んでくる。

 

「もしかして、これからここで何するか知らないで来たのかい?」

「はい。何かやるんですか?」

「それはね、年に一度の武道大会をやるからなんだよ!」

「そうなんですか...」

「腕に自信があるなら出てみな!エントリーは明後日ギリギリまでやってるから!じゃあね!」

 

颯爽と去っていくおじさん。

 

「楽しそうだね」

「出ないけどな。俺らは目的があるし」

「え、聞いてないよ」

「あれ?ノクスに言ってなかったっけ?俺達はここで...名前誰だっけ?」

「メイルさん」

「そう、ユーノのお父さんの友達のメイルさんに、『クロスベル』まで送ってもらうんだよ」

「『クロスベル』って...ここから新魔王都まで?」

「転移魔法が使えるらしいからな」

「ここの『遺産』取り扱ってる人、めちゃくちゃバカだから安く買えるのに...時間ないのかぁ......」

 

目に見えて落ち込むノクスさんを見て、アハト君は手を顎に当てて、

 

「...どうせメイルさんとやらを探すのに町の探索はいるしな。聞き込みしてこい」

「いいの!?」

「俺たちも自由行動にしよう。メイルさんの家がどこなのか聞き込みしながら...日が沈む前にここに戻ってくればいい。いいな?」

「ありがとう!行ってきます!」

 

即座に走り出すノクスさんを二人で見つめる。

 

「案外かわいい所もあるな」

「え?」

 

アハト君の言葉が少し以外でした。

 

(ノクスさん普段から可愛らしいと思うんだけど...)

 

「さ、ユーノはどこか行きたいところはあるか?」

「私?...あ、」

「なんかあった?」

「う、うん。私も一人で行ってきます!ここに戻ってくればいいんだよね!?」

「お、おう...」

「じゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい」

 

「俺も一人かよ...」とアハト君のぼやく声は、私の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

カランコロンと、少し古ぼけた音がする。

 

「いらっしゃい」

 

なかには少し老化が進んでいるおじさん。無愛想なのは前来たときと一緒だった。

 

「お、ラッキー」

 

ちょうど一番目立つ所に『新作!』と張られた棚をみて、思わずガッツポーズを取りたくなる。

 

元々そんなに取れるものではない『遺産』が、隣町を往復するだけで手に入ってるなんて運がいい。

 

「どんなのがとれたのかなぁ」

 

うきうきと棚に近寄って見てみると。

 

「これは...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私は洋服屋さんに来ていました。

 

目的は___アハト君のコートをかってあげるため。竜との戦いで傷だらけの物はこの町で直す予定になっているけど、あんなにボロボロだと直すのも難しいだろう。

 

内緒じゃなくてもよかったんだけど、サプライズの方ご喜ばれるかな~と思い、本人を置いてきてしまった。

 

ただ、あのコートは気に入ってるみたいだからあれに似たやつがいいかな。そう思って黒のコートを探してみると、

 

「お客様、今日はどんなお洋服をお探しで?」

「あ、えーと、黒のコートなんですけど...」

「左様ですか...でしたら丁度良いものが入荷していますよ。少々お待ちください」

 

礼儀正しそうなお姉さんが持ってきてくれたのは。

 

「これは...」




メレクです。今回から第三章に入ります。

最初の人物は、最早有名なはず...分からない人はガンダム00を見てね!(この作品とその作品とは、一切関係ありません笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一悶着

二人と別れた(置いてかれた)俺は、『image・replica』で作ったフード付きローブを被って町を歩いていた。

 

(このくらい大きな町だとバレて面倒ごとになる可能性は高いからな。今度ローブ買おう)

 

人に聞きながら向かったのは武器を扱ってる店。個人的に行きたかったのと、店主が物知りらしい。

 

「いらっしゃい!」

「どうも」

 

店に入ると圧倒される数の武器が置いてある代わりに、人は誰もいなかった。ま、大会見に来た人達は武器なんていらないし____店員の顔がいかついし、といったところか。

 

にしてもこの店。

 

「何で剣しか置いてないんですか?」

「俺の趣味さ。武器は剣が一番!」

「...そうなんですか、いいですよね」

「お、にいちゃんわかるかい!?流石だねぇ!」

「...どうも」

 

(俺も剣しか見るつもりなかったし、いいか)

 

ふと目についた剣を手に取ってみる。形はエクスシアに似ているだろうか。黒のスタンダードな中に、あちこち赤のアレンジが入っていた。

 

「お、あんた目利きがいいね。そいつは俺の自信作だ」

「いい剣ですね」

「わかるか!あんたとはうまい酒が飲めそうだ!俺は飲めないけどな!」

 

_____夜中にうろつく人切りが持ってそうな色をした剣ですね。なんて言えなかった。

 

剣を置いてさらに物色すると、両手持ちの剣を見つけた。

 

太さはさっきの二倍から五倍。長さもそれなりにあって、とても片手では持ち上げられなさそうだった。

 

「こっちのはやめた方がいい。ひょろひょろのにいちゃんが使えるもんじゃないよ」

「...そうですね」

 

もう、性別のことはどうでもよくなってきた。心の中では息を吐いたが。

 

「じゃあ、片手で持てる大きめの剣はどれがいいですかね?」

「そんなのを見たいのかい?どっちもいいとこどりしたみたいな?」

「はい。ありますか?」

「あんま取り扱ってないな...今度あんちゃんが来るときまでに何個か作っておけるようにするよ」

「いえ、わざわざしてもらうのも....」

「俺が作りたくなったんだから気にするな!」

「...じゃあ、頑張ってください」

「おう!またのご来店を!」

 

屈託のない笑顔で見送ってくる店長を背に店を出る。

 

重さもあって、攻撃を防げて、かつ片手でも満足に動かせる剣。

 

(テーマは決定したな。頑張らないと)

 

「あ、メイルさんの場所聞くの忘れた」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「らったらったったた~♪」

 

少し重たくなったバッグを持っていた私は、慣れない歌まで歌ってスキップしていた。

 

理由は簡単。マジックアイテムが買えたからだ。

 

(相変わらずあそこの人はこの子達の価値が分かってないな~)

 

バッグを覗いて、今まで入ってなかった物を確認する。

 

苦労して相手(男)の目を見て話をつけたおかげで、値段をかなり下げた。

 

(今回はあんまり人のこと言えない気がするけど...)

 

金色の指輪。効果は全く分からないのに、値段が割りと高かった。たぶん綺麗だったとかなんだろうけど。

 

少ないお金をやりくりして使える『遺産』を買わなければならないのに、今回無駄な物を買ってしまったのは____

(いや無駄ではないんだけど、なんで『遺産』で買ったんだろう......)

 

 

 

 

 

______もしかして、自分の好きな物をもって欲しかった?

 

(ないないない!これはただのお礼なんだから!!)

 

顔が青くなって赤くなったのに、私は気づかなかった。歌もいつの間にか消えている。

 

「きっとアクセサリー屋さんとか行くのをめんどくさがっただけなんだから。うん。そうよ...あっ」

「おっと」

「あ、ご、ごめんなさい」

 

ぶつくさと独り言に集中していたため、こっちに歩いていた人、見た目からして軽そうな男三人組の一人とぶつかってしまった。とっさに謝り立ち去ろうとすると、

 

「なんだぁ?謝って済ませようってんのかぁ?」

「そうっすよ!」

「んだんだ」

 

ガシッ、と腕を掴まれてしまって、私は鳥肌がたった。

 

確かにアハト達と会う前はこんなこともよくあった。その時は普通に対応できたから____

 

「ちょっ!離して!」

「嫌だね!こちとら肩を痛めちまってなぁ。慰謝料くらい払ってもらはないとなぁ?払えなければ...」

「こいつ上物っすよ兄貴!胸はないけど!」

「んだんだ」

こいつらは所謂カツアゲをしてきた。必死に力を入れて振り払おうとするも男には敵わない。周りは見ているだけで、なにもしようとしなかった。

 

(いやっ、やめてっっ!!)

 

「あはは!こいつちょっとひき止めただけで泣きやがってる!」

 

男の言葉に、私はピタリと止まった。

 

(泣いてるの?私が?いつもなら...)

 

 

 

 

 

数日でも二人と一緒に過ごしてダメになっちゃったのかな、私。あの空間に慣れすぎて______

 

「このまま路地裏に行きやしょう!そして...グフフ」

「んだんだ」

「ッ!!」

 

 

 

 

 

アハトが男だという勘違いがなくなった時、男でも良い人はいるかもしれない。なんて希望を見ていた。

 

でも、現実はどうだ。目の前にはゲスい顔をした三人と、見ているだけでなにもしないやつらばかり。

 

 

 

 

 

自分の気持ちがこんなに弱いなんて、もう、どうしようもないのかな______

 

「__て」

「ん?なんだぁ?」

「泣きながら謝るんすか?無駄っすよ?」

「んだ?」

 

 

 

 

「助けて」

 

 

 

 

 

ユーノちゃん。

 

 

 

 

 

_______アハト ____

 

 

 

 

 

「はぁ?この期に及んで助けなんてこねぇぐばぁ!!!?」

「兄貴!?」

「んだ!!?」

 

 

 

 

「あ......」

 

 

 

 

 

「全く。こんな真っ昼間から道のど真ん中でカツアゲとは、恐れ入るぜ」

 

その後ろ姿は、

 

「 しかも俺の仲間を......ノクスを泣かせたんだ。わかってんだろうな?」

 

今まで見たどんな人より輝いて見えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「なんだお前?喧嘩うってんのかぁ?」

「黙れ」

 

ノクスを掴んでいた手を離させる。

 

「もしかしてお前、俺を知らないのか?」

「興味ない」

「なら教えてやるよ!この町で有名な、泣く子も黙るカノン様とは俺のことだ!」

 

魔力が漏れ出てる。少なくとも強くはなさそうだなと判断をつけた。

 

「行くぞノクス」

「あ、うん...」

「おい!待ちやがれっ!」

「そうっすよ!」

「んだんだ」

 

自己紹介をわざわざ聞いてやる必要もないためノクスを連れて立ち去ろうとするも、騒がしい奴等は突っ掛かってきた。

 

「待ちやがって言ってんだろ!」

 

奴の大声に怯えるノクス。

 

こいつら、どうやって潰してやろうか。

 

「こっちも黙れと言っている」

「その女は俺達が目をつけたんだぞ!彼氏気取りのやつは引っ込んでろ!」

「か、彼氏って」

「...お前、ふざけんなよ」

 

顔を少し赤くしてるノクスを離して、クソ男に向かっていく。

 

「お前ら!」

「おいっす!」

「んだ!」

 

リーダーが叫ぶと付き添っていた二人に体を掴まえられ、ローブも軽く結ばれる。緩い拘束だったが外しはしなかった。

 

「どうするつもりだ?」

「うるせぇ!くらいな!」

 

結論を言うと、大きな音がした。魔力を込めた拳を大きく振りかぶって顔面を殴られた。

 

 

 

 

 

まぁ、それだけ。

 

「...な、なんで効かないんだ......」

 

そりゃ、こいつのを上回る強化魔法で顔を覆えば痛みを感じるどころかこんなふうに微動だにしないさ。なんて教えてやる義理もなく。

 

俺は静かに拘束から抜けて、リーダー格の首もとに腰から取り出した細長い針をピタリとつけた。

 

「なっ!」

「俺は殴られたから正当防衛だよな?」

 

(まぁ、こっちは最初に殴ったけど。気づいてなさそうだし、煽るのには十分だろ)

 

最近煽り技術が身に付いてきた気がするのはあの竜のお陰だろうかと、ぼんやり考えた。

 

「こいつぅ!」

 

圧倒的な力の差を見せつけたので、怒り狂って来るかと思ったが、その時は訪れなかった。

 

「...やめなさい」

「ッ!あんたは!」

「?」

 

野次馬をかき分け、水色髪の女性が乱入してきたのから。

 

「ゲッ!兄貴、あいつは」

「早く逃げるぞ!お前ら、覚えてやがれ!」

「んだ!」

 

そいつが登場した瞬間、三人は慌てて逃げていった。

 

「なんだったんだあいつら...っとと」

 

逃げた方向を眺めていると、いきなり後ろから体を押されてしまった。振り替えって見ると、涙目のノクスが抱きついて来た。

 

「えーと、ノクス?」

「なんでわざと殴られるのさ!心配したんだからなバカ!」

「......ごめんな」

 

頭をそっと撫でてやる。

 

(こいつ怖かったんだろうな。苦手な男から絡まれるのは)

 

この町にたどり着く前に「もう少し努力してみるよ」と言っていたが、いきなりは厳しいもんだろう。

 

「...大丈夫?」

「え、あぁはい。大丈夫です。ありがとうございました」

「...そう」

 

いきなり話しかけて来たのはさっきの女性。答えられないノクスの代わりに応対すると、表情一つ変えることなく返答された。

 

「...この町は初めて?」

「はい」

「...なら路地裏は気を付けた方がいい」

「あ、ありがとうございます...」

 

悪い人ではないんだろうが、醸し出されるプレッシャーがなんとも言えなかった。

 

「...名前は?」

「え?」

「名前は?」

「え、えっと...」

 

突然の質問に動揺してしまう。しかし、それ以上の物があった気がした。

 

(この人に嘘をついたら逆に怪しまれる)

 

「アハトといいます。こっちのはノクス」

「...そう」

「あなたは?」

「...私はメイル。メイル・セリカ」

「そうですか...」

 

 

 

 

 

ん?

「メイル?」

「...?」

思わず呟いてしまった言葉に、女性______メイルさんは首を傾げていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トーナメント

夕方。約束通り日が沈む前に町の入り口に戻ってきたものの。

 

「あ、ユーノちゃん」

「?ノクスさんだけですか?」

 

いたのはノクスさんだけで、時間は守りそうなアハト君の姿が見えなかった。

 

「あぁ、あいつは...」

「?」

「まぁいいや、ついてきて」

「は、はい」

 

ノクスさんの後をついていくと、脇道のとある一軒家にたどり着いた。ここからだとメインストリートの騒がしさがあまり聞こえず、夕暮れが少し薄気味悪さを出していた。

 

「ユーノちゃん連れてきたよー」

「遅かったな」

「...おかえりなさい」

「はいただいまです」

「え?」

 

中に入ると、テーブルを挟んでアハト君と見知らぬ人が向き合って座っていた。

 

「...ッ!」

 

白衣のような服を纏い、水色の髪をした女性は、私の方を向くと少しだけ目を見開いたように見えた。

 

「ええと...アハト君。この方は...?」

「俺らの探し人だよ」

「え?...えぇ!?」

「...メイル・セリカ。よろしく。ユーノ」

「は、はい...よろしくお願いします」

「...あなたが生まれていたのはアイオスから聞いていた。会ったことはなかったけど」

「あ、そうなんですか」

 

お父さんの同僚、元王族の護衛をしてた人だからどんな人かと思ったら、優しそうな女性で少し安心した。ずっと無表情だけど。

 

「......それじゃあ、さっきの続き」

「はい」

「もしかしてアハト君?」

「この人には全部話してる。下手に嘘ついてもバレるしな」

「...続き」

「あ、はい。二人とも座りな。ユーノはともかくノクスにはまだ話してないしな」

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...つまり、新魔と旧魔の戦争を止めるために訪ねて来た?」

「はい」

「私そんなの聞いてなかったんだけど」

「言ってなかったしな。どうせお前は遺産のために『クロスベル』まで来るつもりだったろ?」

「そりゃそうだけど...」

「なんなら人間代表で話してもいいぞ?旧魔一人だけだと買収したみたいだしな」

「...必要になったらね」

「......」

「それで、どうか俺達を『クロスベル』まで連れてってくれませんか!」

 

ノクスがそっぽを向いて黙り、俺がお願いをする。メイルさんがおもむろに眼鏡をかけた。今さらだが、なぜ白衣の両胸のポケットに一つずつあるのか気になったが、迷わず右の眼鏡をかけていた。

 

「じゃあ質問だよ!」

「...えーと、はい」

 

眼鏡をかけたメイルさんは、キャラが変わったようにハキハキと喋りだす。こっちがびっくりしてしまった。

 

「あ、これは人格を変えるマインドセットみたいなもんだから気にしないでね。こっちの方が話が早く進むし。」

「...わかりました」

「それじゃあ、私の返事ですが...残念ながら、あなた達を行かせるわけにはいきません。」

 

 

 

 

 

「「「え?」」」

 

メイルさんの発言に皆が固まった。

 

「なぜです!?」

「理由はまぁ、色々あるんだけどさ...多分、今のままだとアハトがいた部隊と鉢合わせたら死んじゃうでしょ?会わないようにしてるってことはそういうことだよね?戦争させたくはないけど、私は子供を死なせに行かせられるほど割りきれる人間じゃない」

「ッ...」

「そもそも戦争を子供に止めさせるようなやつらは戦争してた方がいいんじゃない?無駄な人口が減ってさ」

「俺はそうならないように自分からこれを達成しようと志願したんです!!」

「君がそんな身を粉にしてやる必要ある?」

「あります!」

 

俺は手で机を叩きながら立ち上がる。だって、俺は人を死なせたくないから、大切な人もそうでない人も。

 

「......まぁ、君の思いはわかった。ごめんね?挑発して。大人がやらなきゃいけないことをやってくれてありがとう」

「...試されてたんですか?」

「察しの良い子はお姉さん好きだぞ?それで、そっちの二人はどうなのかな?この子と一緒に『クロスベル』まで行く気ある?」

 

追及を案外早めに切り上げたメイルさんは、今度はユーノとノクスの方を向く。

 

「私は...魔法が全然使いこなせなくてよく弱気になっちゃいます。でも、そんな自分を直したくてアハト君と村を出ました。それで...今は、アハト君の手助けをしたい。そう思っています」

「.....私は二人が『クロスベル』に向かう理由も今聞いたし、そこまで強い理由があるわけじゃないけど...それでも戦争は良くないのは分かるし、それに努力してるアハトや、手助けするユーノちゃんに何かしてあげたいって気持ちはあるから」

 

二人とも......

 

「...分かったよ。君達を運んであげる」

「!ありがとうございます!」

「ただし条件付きね」

「なんです?」

「それは_________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「アハトくーん!」

「...ん」

 

時は戻って。場所は武道大会の参加者専用エントランス。俺はユーノの呼び声に考え事をやめた。

 

「お疲れ」

「...お疲れ様」

「わざわざありがとうございます」

 

同じく大会に参加してるユーノとノクスは、関係者だったらしいメイルさんと一緒に歩いて来ていた。

 

メイルさんの出した条件。それは、武道大会で全員が一回戦突破、さらにその内の誰かが優勝するというものだった。

 

本人曰く「これで優勝してやっと送り出せる位の強さかな!」だそうで。

 

昨日、開会式と一回戦をして、全員突破(俺はなんとか...)したので、あとは誰かが優勝するだけ...俺はさっき二回戦を突破。午後にはユーノとノクスが二回戦が始める。参加者の人数は32人でトーナメント制なので、俺はあと三回、ユーノ達はあと四回勝てばいいわけだ。

 

「おーい、アハト君」

「ここではカムイだ。さっきも間違いやがって...」

「痛い痛い!ごめんなさい!」

 

間違えて呼んでいるユーノの頭をグリグリしてやる。当の本人は笑っているようにも見えるが。

 

「で、これからお昼どう?」

「...私のオススメ」

 

ノクスが少し微笑んで、メイルさんは相変わらずの無表情で話しかけてくる。

 

「なら期待して行かせてもらいます。店の場所は?」

「...ここを右に出てすぐ。名前は『ホットカフェ』。良いお店」

「わかりました」

 

(...あ、でもそれなら)

 

「俺、少し用事があるので先に行ってて下さい」

「あ、ちょっと!」

 

追及されるのを避けるために返事を聞かずに走ってエントランスを抜ける。

 

向かったのは言われたお店と反対側にある少しきらびやかな店。宝石や、それを使ったネックレスなどのアクセサリーを売っている所だった。

(にしても、フードがないだけで随分視野が広くなるなぁ...)

 

もうフードは被っていない。あれだけ大騒ぎしてバレないのだから大丈夫だろう。お陰で一昨日と景色が違って見えた。

 

中に入ると、ところせましと並んだ宝石が太陽の光と店の明かりを反射していた。

 

一昨日はこの町にこんなに長居しないだろうと存在だけ把握していたのだが、ここの店なら______

 

「すいません」

「はい?」

「実は...アクセサリーを作って貰いたいのですが」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「お、上手いなこれ」

「...でしょ?」

 

後から来たアハト含め席に着いた私達は、並べられた料理を食べ始めていた。ユーノちゃんはサンドイッチ、アハトはパスタ、メイルさんはがっつりカレーで、私はシチューにした。

 

「あ、アハト。後で魔力頂戴?」

「それで意味あんのかな...」

「魔法が使えないんだからしょうがないでしょ!」

 

魔力も使えない私は大会の中でも唯一の人間で、あとは旧魔か新魔ばかり。それでも勝っていくためには手段が欲しかった。

 

「だって、もらった魔力石で一度だけのとんでも魔法打って、相手が怯んでる時にナイフを突きつけるって...強さというよりは別のなんかじゃん。」

「そりゃそうだけど...」

 

そう、この前『エルビス』でもらった魔力石を使って、私は一回戦を突破した。というより、こうでもしないと普通は何も出来ない。

 

「こう言うのもあれですけど...これでいいんですか?」

「...発想の勝利」

「そうですか...ま、これから頑張れよ」

「うん!」

「......うん」

 

元気よく頷くユーノちゃんとは対照的に、ガラスに写る私の顔は少し怯えているように見えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

次は私の番だ。

 

(大丈夫でありますように...)

 

一回戦の時と同じお祈りをして、歩き出す。

 

「二回戦第五試合、戦う二人は...町の最強大工!フワム・オゴス選手!」

「ふんすっ!」

『おぉぉぉぉぉ!!』

 

反対側にいるのはボディービルダーのようにムチムチの筋肉でポーズをとる新魔のおじさん。一回戦で使ってたのは魔法だったけど。

 

「もう一人は、今回最年少!ユーノ・アインツ選手!」

 

オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

「うっさ!」

「ユーノちゃん頑張れー!」

 

さっきとは桁違いの空気を裂くような歓声に、背筋が震えてしまう。そんな中二人の声援?が聞こえて、少し安心した。

 

「念のためルールを確認します。基本は魔法、武術などなんでもありで、相手に降参と言う、もしくはこちらで危険と判断されるまで流血した場合その選手の負けとします。制限時間はありません!こちらで回復魔法を唱えられる人員も用意しているので存分に暴れて下さい!」

 

この大会のためにかなり応用の魔法の部類に入る回復魔法を唱えられる人を用意するなんて______大会の大きさに改めて驚く。

 

「それでは、両者準備はよろしいですか?」

「うっす!」

「は、はい!」

 

相手が杖を、私が短剣を構える。

 

私は基本魔法を使うわけにはいかない。この前制御できたとはいえ、あれを使ったら相手が丸焦げになってしまう。

 

「------------」

 

だから、使うのは『fog・beast』と強化魔法だけ。

 

「それでは、二回戦第五試合、スタート!」

『fog・beast!』

 

私は詠唱を終わらせていた固有魔法を、試合開始と同時に繰り出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

届かない声

「ユーノも楽に勝ち上がりそうだな」

「なんで?」

 

俺が呟くと、ノクスが質問してくる。

 

「あの人一回戦見てる限りだとそんな強くなさそうだし」

 

ユーノは開幕早々『fog・beast』を唱え、三体の狼に似た形の魔力を出す。

 

「燃やせ!『flame』」

 

相手も炎魔法を唱えているようで、自身の目の前に炎の球体ができていた。それが三つ。

 

「それじゃあ倒せないな」

「え?」

 

火の玉と無属性の狼がぶつかり爆発が起きる。だが、爆風から飛び出したのは『fog・beast』だけだった。

 

「なにっ!?」

「いっけぇ!」

 

不意をつかれた相手はそのまま魔力の塊に体当たりを喰らい、三メートル近く飛ばされる。

 

「今さらだけどユーノちゃんのあれ、どうなってるの?魔法なの?」

「れっきとした魔法だよ。最も、無属性魔法で知られてるのは強化魔法だけだが」

 

属性付きの魔法を使うのが苦手なユーノが無属性を固有魔法にできたのは幸運だろう。

 

「ユーノの固有魔法は、魔力を圧縮して動物の形にできるものだ。圧縮された魔力は質量を持ち、触ったりぶつかったりできるようになる。あの形だと牙で噛むことだって出来るだろう」

「...」

「今のだって、例えるなら壁に炎魔法をぶつけてるようなもんだ。壁が負ければ炎に溶かされるし、逆に炎が負ければ壁が形を保っている。今回は壁、つまりユーノの魔法が勝ったわけだが」

「......強いね。あれ」

「あいつもここ一ヶ月くらい特訓を積んでますしね。魔力の圧縮技術とか、元々高い魔力量がさらに上がったりだとかしてると思います」

 

視線を戻すと、相手は『fog・beast』に魔法を放ち、三匹全てを倒していた。

 

「さすがに攻撃を受けすぎると消えますけどね」

『fog・beast!』

 

すかさずユーノは今度は獅子の形で追加する。相手はそれを見るなりげんなりしているように感じた。

 

「短剣持ってる意味ないけど、これなら勝ちだろ」

「あれ、どこ行くの?」

「飲み物買ってくる。これ以上試合も変わらないだろうし。お前ももうすぐ試合なのにいいのか?」

「あ、そうだった!」

 

観客席を立ち、動こうとする俺達。

 

「メイルさんは、飲み物何かいりますか?」

「...ジンジャーエール」

「わかりました」

「...行ってらっしゃい」

「はい」

 

食い入るように試合を見ているメイルさんを置いて、俺達は動き出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅー...疲れたー」

 

ついさっき試合から解放された私は、選手用の通路を歩きながら息をついていた。

 

さっきのムキムキのおじさんとの試合は、私が『fog・beast』を使い、おじさんがそれを防ぐことしか出来ずにいた。それが防げなくなって終わったという、勝てたのは嬉しいけど______

 

「私一歩も動かなかったし、勝ち誇れはしないかな......」

 

なんだか、自分の力で勝ったって喜びがいまいち感じられなかった。

 

(でも、私だけ前に出たらカウンターもらうかもしれないし...)

 

「はぁ...どうしたらよかったんだ......ろうっ!?」

「わわわっ!」

 

突き当たりを曲がろうとしたら、走ってきた誰かとぶつかってしまった。トスッと音が響く。

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「いったった...あ、大丈夫です。ありがとうございました」

「あ...」

 

ぶつかった相手はすぐさま通路の向こうへ行ってしまった。身長からして、小さい男の子だった。

 

(でも、今回の最年少は私らしいし、もしかして迷子だったのかな?)

 

あんなに急いでたのもお母さんと離れたからと考えれば、納得もいく。

 

「一緒に探してあげればよかったな...」

 

私は少し後悔しながら出口まで向かっていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「次はお前だな。頑張れよ」

「うん。ありがと」

 

 

 

 

 

試合場所に行くノクスを見送ってから、俺は露天で飲み物を買っていた。

「これでよし」

 

メイルさんに頼まれたジンジャエールと、ユーノがどっちでも飲めるようにオレンジとグレープジュースを買い、きた道を戻ろうとする。

 

「しかし、わざわざ外に出ないと売ってないとは...売り子でも作ったら儲かるだろうに」

 

戻りの道は行きより長く感じたが、文句も言ってられない。

 

「...助けて」

「?」

 

そんなとき、どこからか声が聞こえた高い、女性の声。

 

「助けてください」

「...ここか?」

 

耳を済ませると、通路の端のトイレから声が聞こえていた。中に入って扉を開けると______

 

「......なにやってるんですか?」

「...(^^)」

 

 

 

 

 

なんか微笑んで便器にめり込んでいる女性がいた。

 

 

 

 

 

意味わかんねぇよ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いやー助かったよ。バレないように隠れてたのはいいけど、もうすぐ試合なんだ」

 

見つけちゃったので仕方がなく助けたら、相手はそんなことを騒いでいた。

 

試合と言われて思い出したのは、一回戦特に目立ったこともせず淡々と相手を倒した姿。確か名前は______

 

「あ、もう時間だから。ありがと!」

「あ...」

 

女性はあわてて走り出してしまい、すぐに姿が見えなくなってしまった。トイレにポツンと残される。

 

「なんだったんだ一体...」

 

俺は頭に?マークを浮かべながら、炭酸が抜けないように気を付けながら飲み物を運んで行った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「大丈夫。大丈夫」

 

あまり迷信を信じないので『人』を書いて飲み込むなんてことはせず、ただ出番を待っていた。

 

『頑張れよ』

 

(頑張るよ。)

 

「それでは二回戦最終試合。今日ラストの試合を始めます!」

 

大きくなる歓声を聞きながら、私は戦いの場に入る。

 

「一人目は、一回戦で強力な魔法で脅すという戦法を使ったノクス・アカーディア選手!」

 

説明を無視して向かい合った相手と目を合わせる。

 

「対するは、小さい見た目で相手を騙す、マルク・レイ選手!」

 

 

 

 

 

その笑顔に、その仕草に、

 

 

 

 

「よろしくお願いしますね?」

 

 

 

 

 

背筋が凍った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

思ったより時間がかかってしまい、メイルさんと、戻ってきていたユーノと合流したのはノクスの試合が始まった直後だった。

 

(にしても、観客うるさいな)

 

「頼まれたものです」

「お、ありがと。ちょうどいい感じに喉乾いてたんだよね~」

 

さっきと違って眼鏡をかけたメイルさんから目も向けられずにお礼を言われ、少しムカッときたもののユーノにも飲み物を渡そうとする。

 

「ユーノ、グレープかオレンジどっちが...」

「あ...あぁ......」

「それよりカムイ。ノクスちゃんの心配した方がいいと思うよ」

「え?」

 

思わずメイルさんを見てから試合を...ノクスを探す。

 

「...なっ!」

 

 

 

 

 

そこには、倒れているノクスと、そこに剣を突き立てる小さな旧魔の男姿があった。

 

 

 

 

 

「ノクスさん!」

「なにやってやがる!?早く棄権しろ!」

「この大会に出てる以上、血を流すのは同意の上だからあのくらいじゃ審判は止めないよ。本人が棄権すると言えば済むけど...言えないんじゃしょうがないね」

 

確かにノクスは大声を出して騒いでいるように見えるが、ここまで声は聞こえず、静寂だった。だが、当の本人は暴れているという歪な光景に、思わず吐き気がする。

 

「!?どういうことですか!?」

「多分固有魔法が関係してるんじゃないかな?周りの音を遮るとか」

「ならそれを早く伝えてやめさせないと!」

「もう気づいてるよ。ただ、審判の声が遮られてたら、周りは棄権とは判断してないみたいだけどね...もしかしたら、動きも封じられてるのかもしれない」

「...そんな」

 

審判や大会スタッフも口は開いているものの、声は全く通っていない。動けないのか動こうとしないのかは分からないが...もし一人で二つの固有魔法を持ってるなら______強すぎる。

 

「なら、あの魔法を止めればいいんでしょ!!」

「あ、ア、カムイ君!」

 

 

発動中の魔法の消しかたなんて分からないけど、ここままにしておけるわけない。

 

(やるしかねぇ!)

 

俺は観客席の前の方まで行き、そこから作ったエクスシアを投げ飛ばした。

 

真っ直ぐ飛んだ剣は相手に弾かれたが、観客席に飛んでくる前に消す。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「この勝負マルク選手の勝ちです!ノクス選手を急いで医務室に!」

 

聞こえてきたのは彼女の叫び声と審判の指示と、

 

「...よく邪魔してくれたね」

 

男の透き通った声だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対峙、マルク・レイ

夜。俺はメイルさんにあてがわれた部屋のベッドに横たわっていた。片手で両目を多い、光がうつることはない。

 

 

 

 

 

「俺は...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

扉が勢い良く開け放たれる。

 

「ノクス!大丈夫か!?」

「ノクスさん!」

「二人とも...来てくれたんだ」

 

ベットから体を起こす。私は試合でボロボロにされ、医務室で治療を受けていた。服は脱いだけど、治療してくれた人が女の人でよかった。

 

「彼女なら大丈夫だよ。もっとも、かなり危ない状況だったけどね...」

 

医務員さんの言葉を聞いて思わず自分の肩を覗くと、なにも無かったように白い肌が見えた。

 

(......さっきここは、剣で切りつけられた場所...回復魔法って凄いね)

 

回復魔法は、固有魔法でこそないものの身に付けれる人が限りなく少ない。だからこそ使える人はいろんなところで重宝される。

 

「よかった~」

「傷跡もないみたいだし、やれやれってところか...」

「ただ、今日はここで安静にしてもらうけどね」

「そのくらいは大丈夫です。ありがとうございました」

「ちょっと、なんであんたが答えてんのよ」

「どうせ似たようなこと言うだろ?」

「うっ...」

 

アハトの言葉に否定できない。何も言うことは変わらないから。

 

「じゃあ、少し席をはずしますから、ごゆっくり」

 

女医さんが医務室をでたことで、残ったのは私とユーノちゃん、それにアハトだけ。

 

「...でも、本当によかったです。ノクスさん試合が始まる前から魔法をかけられたみたいになってて不安だったから......」

「ッ!」

 

さっきの景色が思い浮かぶ。あの場所で、目が合ったときから動けなかった。

 

(あいつは......)

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

私の雰囲気が暗くなったことに気づいてしまったユーノちゃんが謝ってくる。私はそれにかぶりをふった。

 

「ううん...それよりどんな奴か教えないとね。あいつは...」

 

私が話し出す前に、

 

「ユーノ。今日は帰るぞ」

 

冷めた声であいつが立ち上がった。

 

「アハト君...でも......」

「別に聞くのは明日でいいだろ。それに...泣かれてる奴に、無理に聞けるか」

「え?」

 

 

 

 

 

気づいたら、泣いていた。顔からぽろぽろと雫が落ちる。

 

(あ、あれ?最近泣くこと多いな~)

 

 

 

 

 

この二人と出会ってから。

 

 

 

 

 

「あ、あれ...?」

「でも...側にいた方が「今日はそっとしておけ。一人で考える時間だって欲しいだろ?」...うん」

 

アハトはそのまま部屋を出るのかと思ったら、足向きを変えてこっちに来た。

 

 

 

 

 

「...お前も、辛いときはもっとちゃんと泣けばいい。誰もそれを止めないし、ここにはお前のことが好きな仲間しかいないしな」

 

 

 

 

 

こいつは、

 

「またそんな、こと言ってさ......恥ずかしく、ないの?」

「...うるせぇ」

 

彼女の少し照れた顔を、私はずっと見ていたいと思った。

 

 

 

 

 

私は________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「結局時間かかってんじゃねぇか...」

「アハト君が泣いていいって言ったからでしょ?」

 

あれからノクスに泣きつかれ、突っぱねるわけにもいかないため頭を撫でていたらすっかり遅くなってしまった。本人は泣きつかれたのか寝てしまったので、ようやく解放されたというわけだ。

 

「顔真っ赤にしちゃってさ...」

「ユーノと戦うことになったら医務室送りにしてやる」

「いったなー!」

 

通路を歩きながらふざけていると、

 

「...容体はどうでしたか?」

「「ッ!」」

 

壁に寄っ掛かっていたあいつが聞いてきた。小さい体ながら、そこから出る雰囲気は奇妙の一言。見える角は旧魔の証。

 

そして、ノクスを傷つけた張本人。

 

「マルク・レイ...」

「自己紹介はいらないみたいですね。さっきぶりです。ユーノ・アインツ」

「...さっきの」

「ぶつかったときはすいません。急いで行かなければならなかったので」

 

『...ユーノと会っていたのか?』なんて問いただす暇もなく、あいつの奥からもう一人現れた。

 

「やっほっほー」

「お前は、さっきの...」

「いやーありがとね?私も試合に出る所だったからさ~」

 

そこにらさっき俺が助けた、トイレの女がいた。落ち着いて無視し、レイを睨む。

 

「お前が、ノクスを傷つけた張本人がよくすまし顔で聞けるな?」

「正直予想外でした。もっと痛めつけるつもりだったんですけど...」

「...この外道が」

「まぁそういわないであげて?この子サディストだからさ。自分の物と決めたら譲らないんだよ」

 

旧魔の男を新魔の女が擁護する、いや、それ以前にこの笑っている二人の組み合わせに違和感しかなかった。前者の部分だけならこっちも似たようなもんだし。

 

「ノクスさんは物じゃない!」

「...なるほど、話は聞いてないんですね」

 

レイは大袈裟に肩をすくめ、嘲笑うように口元を緩める。

 

「なら教えてあげます。彼女は本来、僕の物になる予定だったのですよ?」

「減らず口を!」

「以前、『遺産』が好きな彼女を僕が惚れてしまいまして。お金が余ってた僕は餌を集めて出して釣れたのはいいのですが、最後の所で突っぱねられましてね」

「!」

 

(ノクスが驚いたり、何かを話そうとしていたのはこれが原因だったのか...)

 

「ざけんな。契約が成立しなかっただけだろ」

「そうだけどね。それがこの子さ、ご執心で無理やり捕まえようとしたのよ」

「そしたら逃げられてしまって...憂さ晴らしにここへ来たのは偶然でしたが、彼女とまたあえて幸運でした」

「今度こそ自分の物にしたいからって、剣で跡をつけようとするのはよくなかったけどね~」

 

無意識に自分の拳が強く握られるのを感じる。

 

(要は、自分勝手な都合であいつを傷つけた?剣で貫いたのか?)

「勝手な都合で!ノクスさんをいじめないで!」

「虐め?とんでもない。勧誘、もしくはしつけと言ってください」

「ノクスさんはあなたの物じゃないって言ってます!!」

 

 

 

 

(...あいつが泣くまで?)

 

 

 

 

 

「やはりあなたのその姿勢も良いですね...欲しくなってしまいます」

 

体は言うことを聞かなかった。ガバッと奴の胸ぐらを掴む。あっちの身長が低いので片手で完全に持ち上げた。目の前の顔とぶつかりそうになるほど自分の顔を寄せる。

 

「なんでしょうか?」

 

(ノクスだけでなくユーノまで...)

 

歯ぎしりが止まらなかった。

 

「......絶対許さねぇ。お前と当たったとき、全力でねじ伏せる。覚悟しとけ」

「それは楽しみだねー。良い試合が期待できそうだ」

「そうですね。楽しみにしています」

「アハト君...」

 

相手の死んだ目と自分の冷めた目が合う。あっちは胸ぐらを掴まれてるのに動こうとももがこうともしなかった。

 

「...覚えておけよ」

「そっちこそですよ?これのお返しは、しっかりしますから」

 

俺は胸ぐらを離して、出口へと、あいつらはその反対側へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...おかえり」

「「ただいま(です)」」

 

メイルさんが紙を読んだままこちらに言葉をかけてきたので、二人でハモって返した。メイルさんの家に戻る前に、気持ちが落ち着くことも、ユーノがおどおどするのをやめることもなかった。

 

「...喧嘩はよくないと思う」

「見てたんですか?」

「...たまたま。これの話をしようとしてただけだから」

 

メイルさんは手に持っていた紙を机に広げてみせた。俺とユーノはその紙を覗いてみる。

 

「...大会要項?」

「...全体には明日言われる。私は先にもらった」

 

それを聞いて、改めてこの人は大会関係者だったと思い直した。

 

「...大会はこれから、試合の危険性を考慮して勝ち残った人が二人一組になるようにする。残りは八人。明日は休みにして明後日準決勝。明々後日が決勝になる」

「...ペア戦ですか」

「他には、審判とかにジェスチャーを覚えさせる」

「それ意味あるんですか...?」

「というより、今までよくルール変更されませんでしたね?」

「...ここまでは初めてだった。こうなることを考えてなかった私も悪かった。許してほしい」

「俺らよりノクスに言ってあげて下さい」

「...そうする」

 

部屋に沈黙が訪れる。

 

「...でも、試合以外で喧嘩するのは良くない。ましてや、私は自分の気持ちを抑えられない人が大きなことを出来るとは考えられない。」

「...すいません。弁明のしようがないです」

「...でも」

「「でも?」」

 

 

 

 

 

「...仲間を大切に思う心は大切だと思う」

 

 

 

 

 

「...ありがとうございます」

 

そう言って微笑むメイルさんに、俺は素っ気なく返事をするしかなかった。

 

「じゃあアハト君。私と組んで!」

「元よりそのつもりだ。即席のタッグじゃ優勝できないだろうし、なによりあいつにも勝てないからな。これからよろしく、ユーノ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ......」

俺はもう一度息を吐いた。ユーノやメイルさんと話すこともなく、夜も深くなってきたので寝ることになり、今は一人だ。

 

部屋にあるのは机とベッドだけという簡素な物だが、このくらいさっぱりしてた方が落ち着く。

 

そして、ベッドには横たわる俺ともうひとつ。

 

「あーあ...」

 

転がっているのは表面がまだ綺麗なメモ帳。本来エクスシアを書くものだ。だが、

 

「どうも決まんねぇ...」

 

新しい、エクスシアに代わる剣のアイデアがどうしてもまとまらなかった。魔力の練習をする気力も起きない。

 

そもそも何故新しい剣を創ろうと思ったのは、『エルビス』での出来事。竜にブレスを吐かれそうになったとき、後ろに村があってエクスシアでは守りきれないと考えて、とっさに鉄板の壁を出した。

 

だが、今考えるとあの魔力だったらそんなものは壁にすらならないのは分かりきった話。ユーノが間に合ってくれたからこそ良かったものの、間に合わなければ死んでいただろう。

 

それに、これからのことを考えるとノクスやユーノを庇ったり、俺のポジション的に後ろを守りながら戦うことが増えるだろう。そのイメージに一番合うのは、エクスシアよりもデカイ大剣。

 

ただし、俺は昔から両手剣だと使いこなすのが難しかったので、片手で持てる範囲の物に限定される。というのが、この前考えたものだ。

 

今は強化魔法も強くなっているので、それを使えば見た目は両手剣でも振ることは出来るだろうが、

 

「どのくらいにしたらいいか全然まとまんねぇな...」

 

メモ帳の中には、ラフにスケッチされた色んな大きさの剣が書かれていた。エクスシアの時はもっと苦労したけど、これもなかなか決まらない。

 

「...どうしたものかな」

 

明日は籠って絵でも書くか、それより外に出てアイデアを探すか悩む。

 

「あ、新しいコート買わなきゃ」

 

悩んだ末にたどり着いたのは、新たな買い物だった。

 

今着ているアイオスさんからもらったコートは、未だボロボロになっている。

 

「前途多難かもな」

 

呟く声は、反響もせず空気に溶けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プレゼント

「今日はどうするの?」

 

二回戦の終わった次の日。今日はメイルさんから聞いてた通り試合は休みになり、勝ち残った八人でペアを組むように言われ。

 

私とアハト君は後で会場に報告しに行くつもりでいた。

 

今は朝食で、メイルさんが今日の予定を聞いてきて、私は食べていたパンをお皿に置いた。

 

「私はちょっと用事が...」

「俺は部屋にいるつもりだったんですけど...コートを買いに大通りに行こうと思ってます」

「えっ!!?」

「なんだよ、いつまでもボロボロだと流石にまずいだろ?」

 

確かにアハト君のコートはボロボロでもうどうしようもない感じがする。

 

(でも、それはそうなんだけど、そしたら私は......)

 

「...アハト。それは最終日にして」

「?何故です?」

「...今日は、あなたには頼みたいことがある」

「...なら、分かりました」

 

ちらりとメイルさんを見ると、こちらに目を向けていた。口パクで『頑張って』と言っているように見える。

 

(でもなんでバレてるんだろう...)

 

疑問には思ったものの、口には出さずに紅茶を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「で、なんでこんなことに...」

 

ユーノと大会の手続きをした俺が来たのは、先日訪れた『ホットカフェ』。

 

そこに何故か執事の服を着て立たされていた。

 

「あの人カッコいいね!」

「うんうん。スラッとしてて...」

「ちょっと女の子っぽい?」

 

お店に来ていた旧魔の女の子達の話が聞こえる。俺は正真正銘女だよ!と全力で答えたいところをぐっとこらえる。

 

「髪でも伸ばそうか...」

 

前髪をいじりながら、数分前のことを思い出した。

 

そもそもの原因は、メイルさんがここの店の店員数が少ないのを知っていて、常連だったから自主的に手伝いをする予定だったらしいのだが、今回の件で大会関係のあちこちに行かねばならず、代わりに俺が行かされることに。

 

あの人に、「...ご注文を」なんて無表情で言われたら怖いけど。

 

でも、これ自体まるで俺の行動を止めるように______

 

(まぁ気にしてもしょうがないか...にしても、平和だなぁ)

 

思考を中断して周りを見渡す。お店で料理を食べたり話している人達は、だいたいが旧魔なものの新魔も少なくない。大きな町では仲良く一緒に暮らしてる者同士がいるというのを、改めて実感する。

 

(...こういう場所が色んな所で作れればいいな)

 

「すいませーん」

「はい。少々お待ちください」

 

(頼まれたことだし、社会勉強としてもしっかりやるか)

 

「ご注文承ります」

 

気持ちを切り替え、普段はしない笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~」

「あの、すいません」

「はい?...あぁ、出来上がってますよ。少々お待ちくださいね」

「はい」

 

私が来たのはこの前来た服屋さん。目的は、

 

「はい。サイズ調整はもちろん、ラッピングもしてあるから」

「ありがとうございます」

 

中に水色のリボンの着いた袋が入っているのを確認して、少し頬がにやけた。ちなみにサイズを測ったのはアハト君が寝ているうちだった。抜かりはない。

 

「ユーノちゃん。それは彼氏君へのプレゼントかな?」

「ふぇ!?そ、ほれよりなんで私の名前を...」

 

店員さんの突然の言葉に思わず受け取った袋を落としそうになる。

 

「もう有名人よ?史上最年少でベスト8、今はベスト4かな?まで勝ち進んだ子だ~って」

「そうなんですか」

 

(全然知らなかった...)

 

「そんな子が、自分とは違うサイズの黒い服を買うなんて...考えるじゃない?」

「あはは...」

 

彼氏って所以外は正解です。と喉まで出かかったのをなんとか抑えた。

 

「相手はどんな子なのかな?」

「えーと...明日確認してください!」

「あっ!応援行くからねー!」

 

なんとなく、ありがとうございます!と返すことも忘れるくらい気恥ずかしくなって、私はそのまま走ってしまった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...大丈夫?」

「ん...んぁ...あ、メイルさんですか」

「...大丈夫?」

「もうほとんど平気です」

 

時計がないから確認はできないけれど、おそらくお昼前。メイルさんが私を訪ねに医務室にきた。

 

「...ならよかった」

「ご心配をお掛けしました...あ、あの!」

「...?」

「メイルさんは、昔お姫様の護衛をされていたんですよね?」

「...うん。それで?」

 

私は一回息を吸ってから、

 

「私でも...人間でも魔法が使える人たちに負けないくらい強くなる方法ってありませんか?」

「...はぁ」

 

私の頼み込みに呆れたのか、メイルさんは右ポケットに入っていた眼鏡をかける。

 

「その意義やよし!私もそれ目的でここに来たからね。今日と明日でアハトとかに勝てるくらいの力をあげる!」

 

全然違った。というか!

 

「!!ほんとですか!?」

「ただし!本来は一ヶ月以上かけて教えるものくらいになるだろうからね...だから、辛いよ?それに、一回でもやめようとしたら私もやめる。そのくらいの意義じゃないとダメだから。それでも...やる?」

「......やらせて、下さい」

 

ユーノちゃんにも、アハトにも、負けないくらい強くなりたい。

 

(いや...違うかな)

 

「あの二人に心配とか、迷惑とかかけたくないんです」

「...うん。じゃあ、今から始めるよ。準備はいい?」

「はい!」

 

私は飛び上がって、部屋から出ていくメイルさんについていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「たっだいま~」

「お帰り」

「...お帰りなさい」

「...ぅぁぁ」

 

私が買い物(服以外にも)を済ませて帰ってきた時には、皆帰ってきていた。若干一人死にかけていたけど。

 

「ノクスさんどうしたんですか?」

「...気にしないで」

「さっきからこれしか言わないんだよ」

「...死ぬぅ......」

「...そんなことよりご飯」

 

テーブルには、もうご飯が並んでいました。

 

(まだ夕方だから早い気がするけど)

 

「少し早くないですか?」

「...これからノクスと出かける。明日の夜まで帰らないから二人は頑張って。朝ごはんは残ってるのを好きにしていいから」

「あ、ありがとうございます...」

「なぁノクス、お前なにしてんだ?」

「...ちょっと修行」

「......止めはしないけどさ、体壊すなよ?」

「...もう壊れてる......」

「...頂きます」

 

心配してる人、倒れてる人、黙々とご飯を食べてる人。

 

「...なにここ」

 

そう呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いってきまーす!」

「...ぃってきます......」

「「いってらっしゃい」」

 

出掛ける二人(...となっている方がノクスさんです)を見送ってから、アハト君と私はこれからの予定を話そうと顔を向けて______

 

「んじゃ、明日に備えて寝るか。おやすみ」

「え!?」

「なんだ?なんかやり残したっけ?」

「ええと...明日の作戦会議とか...」

「明日の対戦相手はまだ決まってないし、一日で二回しか試合がないんだ。休憩時間に話せばいいだろ」

「うぅ...」

「......」

 

(これだと、なにかのついでとかで渡せない...そもそもどうやって渡せばいいんだっけ!?)

 

ポフッ。

 

「え?」

「そう緊張しなくても大丈夫さ。俺達の目的は優勝。そのために頑張ろう?」

「わぁ...」

 

アハト君が頭をくしゃくしゃ撫でてくれている。あまりの気持ちよさに思わず声が出る。

 

「ほら、早寝しろ」

「...ハッ!アハト君!!」

「ん?」

 

(危ない、完全に忘れる所だった!!)

 

私は急いで買い物袋の一つから、ラッピングされた袋を取り出して、

 

「これあげる!」

「あ、ありがとう...急にどうしたんだ?」

「えーっと...」

 

完全に渡すまでしか考えてなかった。なに言えばいいんだろうか。

 

「それ...アハト君にはいつも助けてもらってるから、お礼です!!いつでも優しくて、カッコいいアハト君に何かあげたくて!」

 

本人の顔を見れなくて、目を閉じながら言葉を出す。

 

(...あれ?)

 

ふと疑問を浮かべる。言いたいことは言えたけど、

 

 

 

 

 

(恥ずかしくないですか!!?)

 

あたふたし、恐る恐る目を開けると顔を真っ赤にしたアハト君が、

 

「...あ、ありがと」

 

照れくさそうにはにかんでいた。

 

「じゃあおやすみ!」

「あ、おい!」

 

なんだかその顔が見てられなくて、自分の部屋に逃げるように入っていった。付いていた鍵も閉める。

 

(喜んでくれてるようで、良かった)

 

だから、「こっちだって助かってるんだから、わざわざ何かくれなくてもいいのに...」という言葉は、私の耳には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぁー...ぁぅ...」

 

真っ暗だった夜に、太陽が顔を出していた。今日も晴天だな。

 

「起きるか」

 

時計を見ると七時に近い。着替えをすまして部屋を出る。

 

一階にはもうテーブルにパンがおいてあって______

 

「あ、アハト君おはよ...それ!」

 

ユーノがスープを置いているところだった。本人はこちらを見て目を見開いている。なぜなら、

 

「似合ってるだろ?」

「...うん!」

 

黒を基調とした中に、白のラインが入っているコート。所々毛で覆われていて暖かいし、おまけにフードまでついて、サイズもぴったり。

 

そんなユーノから貰ったコートを着ているのだから。

 

アイオスさんのと似てると思ったら、作ってるメーカーが同じらしく、変わってる点は少ないけど。

 

「ありがとな」

「どういたしまして!早くご飯食べよう?」

「おう!」

 

(今日も一日頑張りますか!)

 

俺ははりきって食卓についた。

 

 

 

 

 

「どうして俺のサイズを知っているんだ?」とは、聞けなかった。

 




もうすぐ夏も終わりますね。皆さんどう過ごされましたか?

猛暑が続くのでノクスみたいに腹だし肩だしのシャツに、短パン(スカートはなし)を履いて過ごしたかったです。腹壊しそうですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開花するもの

サブタイつけるの難しいですね...


 

 

「いよいよだな」

「うん」

 

運命の、決勝。

 

「ここまで来たら勝つだけだ」

「頑張ろうね?」

「もちろん」

 

二人でスタジアムへ続く階段登った先には______

 

 

 

 

 

_____クラウ________

 

黒い、ナニカ。

 

 

 

 

 

え、

 

 

 

 

 

「ユーノ!」

「はいっ!?」

 

目が覚めたら、見えるのはアハト君だけで、スタジアムも、黒い塊も、消えていた。

 

「ここは...」

「控え室だろ?大丈夫か?朝から早起きしてご飯作るから...」

「あんまり寝付けなかったんだけど、ここに着いたら眠くなっちゃって......」

 

そうだった。準決勝の組み合わせが出て、ノクスさんを傷つけたペアとは決勝でぶつかることになって、先にこっちが第一試合だから控え室に来て______

 

(いつ寝たんだろう?)

 

「無理するなよ?明日が本番だしな」

「今日のはいいの?」

「いや、もちろん出るけど。勝たなきゃいけないし。そこで相談が...こんなのをしたいんだが...」

「?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

「...そんなもの?」

 

身体中が悲鳴をあげている。もれ出る息はヒューヒューと上がり、まるでずっと血を吐いているような錯覚に陥っている。

 

「...あと20秒で起き上がること」

「はぁ...はぁ...かはっ」

 

立ち上がるのをこんなに億劫に思ったことはない。手が縛り付けられたように地面から離れない。

 

私はメイルさ______いや、メイルに連れられた町の近くの森で、特訓を受けていた。

 

「...あと10秒」

「はぁ...ぁぁぁぁぁあ!」

 

なんとか体を持ち上げ、短剣を構える。今自分を守る武器は、これしかない。静かに佇んでいる相手は生えてる旧魔特有の大きな角と相まって、地獄から来た死神に見えた。

 

「...よく相手の動きを見て。あなたは動体視力が良いから追えない速度じゃない」

 

と言いながら動いている相手を全然追うことができない。

 

「どうゆう動き方してるのよ...」

「...人間、目は顔に二つしかついていない。だから、どんな人でも必ず死角が存在する。ある程度強い魔力を持つ者は相手の魔力を探り当てることができるけど、貴女はそれができない」

「ッ!そんなこと、知ってるよ!!」

 

突然視界に入ってきた相手に短剣を向けるも、あっさりかわされて蹴られてしまう。私はそれに耐えられずに木に当たり、その場に倒れた。

 

「かはっ!!」

「...あと30秒。こんなふうに魔力で身体の力も負けてしまう。貴女がそんな奴らと対等に戦いたいのなら、力ではなく柔軟性を手にいれた方がいい。今私がやったように相手の死角に飛び込み、切りつける。それができる能力も、貴女は持っているから」

「言いたい...放題で......」

「...現に、今剣を突き出したのは私が見えたからでしょう?それは、突然のことにも対応できるってこと。それに、今私が出た場所から逆算して、どこが人の死角なのか分かる」

 

そんなこと、言った、って。

 

「...魔力がないのは短所。でも、逆に魔力で気配を探る相手には絶対バレない長所。だから、貴女には今自分の体で感覚をつかんでもらっている。これが自身の手でできれば、今より格段に強くなる」

「なんで...貴女は、そんなことが出来るように、なったん...ですか?魔法が使える旧魔なのに......」

「...『nephrite・enable』で相手の死角に回り込こんで、攻撃してたことがあったから」

「『nephrite・enable』?」

「...私の、固有魔法」

 

つまり、転移で敵の見えない所に入り、攻撃したという______

 

「...時間」

「え?」

 

まだ30秒は経ってないはず、なんて考えていると、突然メイルは構えを解き、私の目の前に液体が入った緑色のビンを置く。

 

「これ、は...」

「...私が作った回復薬。王都にいたときは、暇潰しに作っていたことがあったから。大丈夫。資格はある」

 

回復薬の作成資格は、安全性と実際の効力からそう簡単に取れるものじゃなかったはず。

 

「なんでもありですね...」

「...それを飲んで、今から私が二人の試合を見てくる間に、昨日の練習を二セット」

「あれを!?」

「...無理なことは言ってない」

 

私はきっと、ひどい顔をしているだろう。昨日は半日かけて一セットやった特訓を、数時間かけないでやれと言われたのだから。

 

「...終わってなかったら、その時点で特訓も終わり」

「そんな...」

「...それと、無理に敬語にしなくていい。ムカつくなら文句も好きに言って」

 

普段無表情なくせに、嘲笑するような顔を向けていい放ってくるのを、私は意地で顔を向けた。

 

「...絶対、やっとくから」

「...なら、頑張って」

 

詠唱の後、メイルは消えた。

 

昨日今日で、言ってることは無茶苦茶だし、とんでもない力を使ってくるけど。

 

『頑張って』

 

的確なアドバイスに、ためになる力。半日前の自分とはかなり違うのが分かる。こんなに早く。

 

だからこそ。

 

あの人に、

 

「認められ、たい」

 

ユーノちゃんと、アハトと、

 

「同じ道を、一緒に行きたい」

 

だから、

 

置いてあった回復薬を飲み干す。甘い味に少し酸味が入っていた。そしてなにより、すぐにメイルにつけられた傷が治っていく。即効性の高さに思わずにやけてしまった。

 

 

 

 

 

「...やってやろうじゃん!!」

 

私は頬を両手で叩き、気合いを入れた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(...あの子...凄くのびしろがある)

『nephrite・enable』で試合会場まで移動したメイルは、一人考え事をしながら観客席まで向かった。直接行かなかったのは、行った先にいる観客に突然現れたことを怪しまれないためである。

 

(...ここまでいけるとは思ってなかった。おそらくこのまま放っておいても十分戦えるようになる)

 

彼女は歩きながら眼鏡をかける。

 

(ま、いずれあいつにも見せなきゃ。そんで今はこっちかな!)

 

スタジアムが見える観客席まで着いたものの、まだ始まっていない。予定より少し遅れているんだろう。

 

(決勝まで上がれるか楽しみだな...まだ本気は出せないみたいだけど、今のうちに得られる情報を多くしないとね)

 

_____獣の、ね______

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それではこれより、準決勝第一試合を、おぉぉこないまぁす!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「凄い熱気だな」

「う、うん...」

 

昨日あんなことがあったばかりだというのに、会場は異様なまでの熱気に包まれていた。年に一度のお祭り、それも後半戦に入ってきたから気持ちはわからんでも_____

 

「今回からペア戦になります!まずは、大会中にプレゼントをあげる仲!ラブラブなユーノ、カムイペア!!」

 

『ぉぉぉうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

「やっぱわかんねぇ」

「え?」

 

なんでこんな騒いでんだよ。てか、なんで気づかれてるんだよ。俺コート変えただけだぞ。

 

「な、なんでこんなに...」

「お前のファンだからお前が静まらせろよ」

「えぇ?私の?」

「俺の時こんな奇声あげられてないし」

 

今なおバカ騒ぎしてる奴らに、司会から『静かに!しじゅかに!うぅ...噛んだ』なんてなんとも締まらない注意が響く。その甲斐があったのかどうかは知らないが、一応会場は静まった。

 

「続きまして対するのは、昨日初めて話したという即席ペアは伊達じゃない!ランス、ガーナペア!!」

『............』

「「なんの反応もなしかよ!!」」

 

男女ペアの相手は紹介されても無反応だった。二人でハモってツッコミをいれてる辺り、息はあってるのか、なんか可哀想だなと同情した。少しだけ。

 

「まあいいか。ユーノ、話した通りだから」

「いきなり倒れちゃうのはやめてね?」

「分かってる」

 

ユーノが静かに詠唱を始める。魔法を使っていいのは試合が始まってからだが、そのための準備は開始の合図を待たなくていいから。

 

(...さぁ)

 

「それでは準決勝第一試合。開始!」

「行くぜ!」『fog・beast!!』

 

そして、俺は_______

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

 

「げぼらっ!」

 

ユーノとアハトが叫んでから一秒も経たない内。見ていた全員が固まっていた。

 

理由は、アハトがその場から消えた瞬間、ランスと呼ばれていた相手がいた場所によろけながら立っていて、その相手は観客席の下の壁にめり込んでいたのだから。

 

「ど、どういうことだー!なぜかカムイ選手が...!」

「はっぶ!」

 

ビュンと空気を切り裂く様な音がしたときには、今度はもう一人の相手が吹き飛んでいた。

 

「...審判さん。まだ戦わなきゃダメですか?」

「い、いえ!この勝負ユーノ、カムイペアの勝利です!!」

 

ユーノの催促によって終わった試合で残ったものは、気絶してる二人が作った壁の穴と、二人の勝利だった。

 

「なんだ今の!?」

「黒髪が消えたと思ったらあいつらが吹っ飛んでんだからな...どうなってんだ?」

「魔法じゃないの?」

「あんな瞬間移動できるのが、固有魔法以外でできるかよ。あいつ角ないから新魔だぜ」

 

観客が口々に叫ぶ中、メイルはただ一人じっと二人を見つめ、眼鏡をかけ直す。

 

(新魔でも固有魔法に近いことができるのは知ってる。でも、あれはそんなもんじゃない。第一瞬間移動なら私の所を訪ねる必要がない...自分でも痛いと言っていたことから、制御が効かない?)

 

じっと会場を見つめ続けていると、何か光が見えた気がした。

 

(あの光は...雷?)

 

「あれは...」

 

ボソッと呟いた独り言は、誰にも聞かれず、本人と共に消えていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

準決勝が終わった後、俺達は控え室に戻って休んでいた。

 

「ふぅ...」

「お疲れ様。カムイ君?」

「お疲れ、といってもそんなすごいことやったわけでもないからな」

 

俺があれについて考えたのは、これもまた竜と戦った時。

 

最後に使った電撃魔法は相手も自分も巻き込んだ。死ななかったもののかなりのダメージを負ったし。それと、昔本で読んだ人間も微力な電気を帯電しているという話。これを合わせて、人間の体に大量の電気を帯電して、制御できないかと思った。

 

竜との戦いで大量の電撃を浴び、元から電撃魔法が得意な方だった俺は、そう苦労せずに体に纏うことができた。

 

強化魔法で全身を覆うようにするのと同じ要領で、魔力な雷の属性をつけることで体に電気を纏う。これだけだと普通に使うのとメリットは変わらず、寧ろ普段より魔力消費量だけ増えてくだけだが、

 

「でも、まさか自分も電気と一緒に移動できるなんてね...」

「まだ制御は出来ないし、強化魔法を全開にしないと体が大変なことになりそうだがな」

 

体全体を覆うことで圧倒的な速度での移動を可能にした。

 

もっとも、体がついていけるように強化魔法は常に全開にしないといけないし、急停止、方向転換なんかはまだできないけど。

 

実際、一回戦で使ったときは自分だけ壁にぶつかってしまって負けるところだった。さっきのも体当たり自体は成功したけど、ジンジンとした痛みは今もとれずにいる。

 

相手を警戒させるには、未知の技が一番有効策になる。

 

「これで印象付けができればいいんだが...」

「これだけやったら大丈夫だよ!自信持って!」

「...そうだな。やったことを分かった奴がいるのかどうかだけど...」

 

決勝で、あんな危険な賭けをするつもりはないが、警戒してくれるならありがたいからな。

 

「分かる人だっているって!」

「...お前、他人のことについてはポジティブだな」

「...ええへ」

 

はにかむユーノと共に、もう一つの準決勝を見ようと控え室を出た。




前回の話で、ついにUAが1000を越えました!

他の方々にとっては小さなことだと思いますが、自分としてはこの作品が一つの区切りを迎えられて嬉しいです!

今後も、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編 1000ua記念水着回

内容なサブタイ通りです。記念と、8月も終わりということで。

ちなみに、今回は本編と一切関係ありません。本編は秋から冬な向かってるので水着なんて入らせられないし...

なにはともあれ、楽しんでいってください。


「白い砂浜!青い湖!そして青い空!」

「青二つだぞ」

「灰色の空よりましだよ」

 

太陽が照りつける砂浜に、三人の少女が立ち並ぶ。

 

「水着で楽しむ私達!完璧!」

「なんで水着なんだよ...」

「むしろ何でアハトはそんな乗り気じゃないの!?湖だよ!」

「お前いつもそれと面積の変わらない服着て、雨の中でも動くじゃねぇか」

「アハト君がそんなに言うなんて...どうしたの?」

 

ユーノの質問に、俺は黒髪をかきながらぼそりと答えた。

 

 

 

 

 

「...泳げないんだよ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「傘立てあります~?」

「...ここに」

「ありがとうございます~メイルさん」

「...いえ、気にしないでください」

 

大胆なピンクのビキニ姿に着替えたフィルフィと、水色のスポーツタイプの上にいつも通り白衣を着ているメイルが、並んでビーチパラソルの中に入る。

 

「娘のぉぉぉ!水着ぃぃぃ!!!」

 

その近くで天高く叫ぶのは、上半身裸のアイオス。その姿は、魔法を唱える時より真剣な顔をしていた。

 

「...昔は、あんなやつじゃなかった」

「昔のあの人のこと、色々聞かせて下さらない?」

「...始末してから」

「分かったわ~」

 

妻と同僚、その会話に気づくことなく、アイオスは叫ぶことを止めない。

 

「この目であますことなく見つめなければ...そう!これは使命!これは「死ね」」

 

いつもよりはっきりした言葉で砂と共に巻き上げられたアイオスは、誰にも見送られることなく空と同化した。

 

「...じゃあ、何から話す?」

「そうねぇ~...馴れ初めから?」

「...分かった」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「にしてもアハトが泳げないなんてねぇ...ふふっ」

「笑ってるとぶちのめすぞ」

「ほらアハト君、バタ足止めないで」

「あ、あぁ...」

 

手を引っ張ってもらっているユーノちゃんの指示で、アハトはバタ足を再開した。

 

「ただでさえアハトが白い服着てるってだけで驚いたのにな~」

 

私には一人ごち、アハトの体______水でぴったり貼り付いた白の水着をまじまじと見つめる。肌はとても綺麗な肌色をしており、慎ましい胸を水着が前と後ろを肩を通して繋がっている。

 

腕は普段剣を振るっているとは思えないほど細く、腰もすらりとしている。

 

下も、下着同然の面積から伸びるふとももはみずみずしく、柔らかそうだった。

 

普段黒い服ばかり好んでいるのに、今回は白を選んだというギャップに意外という感想以外浮かばない。

 

「...ぷはっ......はぁ」

「そうそう、その調子だよアハト君。飲み込みいいし水が苦手な訳じゃないからこれならすぐ泳げるよ」

 

声を聞いて、私はアハトと手を握りながら泳ぎ方を教えているユーノちゃんに目を向けた。

 

フリルのついたワンピースタイプの水着は、薄い水色をして肌と水に一体化している。透けた先の肌には、アハトと同じような白い水着が見えていた。決定的に違う所はあったが。

 

「ノクスさんは泳がないんですか?」

「んー...アハトと勝負するから体力温存しとく」

 

薄紫の長髪をなびかせながら話しかけてくるのに対し、ふりふりと手を振った。

 

「でも、せっかく来たんだし...砂の城でも作ってるかな」

 

対岸が見えない湖を見ながら、砂浜に上がり、水で茶色になった砂を山のように積み上げ始めた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ノクスとの勝負負けられねぇ...急だけど」

「無理しなくていいんだよ?アハト君泳げるようになったばかりだし...」

 

心配そうに声をかけてくれるユーノに感謝しながら、俺は少し先にある水から飛び出した岩を指差す。

 

「あいつに吹っ掛けられて出来ないって言うのも嫌だからな。クロールも出来るようになったし...とりあえずあそこの岩までやってみる。ユーノありがとな」

「ううん、アハト君に教えられることって少ないし楽しかったよ!」

「じゃあ、教えてくれた師匠のためにもがんばらなきゃな...行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

 

見送るユーノに敬礼しながら、俺は覚えたばかりのクロールで泳ぎだした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あれ、アハトは?」

「ノクスさんとの勝負の前に練習だって泳いでます。あそこ」

 

私は泳ぎ出すアハトを指差して、ノクスさんは「あぁ、あれ」と反応する。

 

「頑張るねぇ... 」

「ノクスさんはいいんですか?」

「練習?私も得意ではないけど、流石に今覚えたばかりの素人には負けないよ~」

 

髪と同じ赤色の水着に、無色のパーカーを羽織っているノクスさんは、喋りながらも砂の城を作り上げていた。

 

「どう?上手いでしょ?」

「...これ、一人で作れるものなんですね......」

 

そこには、昔話で出てくるような立派過ぎる城が、茶色一色で出来上がっていた。完成度はものすごいことになっていて、この短時間で作れたとはとても思えない。

 

「ふふーん...アハトにも見せてやら...なく、ちゃ...」

「ノクスさん?」

 

自慢気な顔が消え、若干青白くなる。目は一点だけを見ているようで、釣られて振り返ると、真っ青な湖が見えた。

 

「えーと...」

「...アハト、どこ?」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...目、覚めた?」

「......」

 

意識を覚醒させると、目の前には横向きにたノクスの顔が覗いた。

 

「......」

「アハト?」

「...胸ないとよく顔が見えて良いな」

「なっ!?」

 

状況を飲み込んだ俺は、ひとまず膝枕してくれているノクスに皮肉を言ってみる。すると案の定、頬が髪色と同じように赤く染った。

 

「アハトだって無胸じゃん!」

「うるさい絶壁」

「なにー!!」

「アハト君元気そうだね...」

 

怒るノクスの膝から脱出し、首を回すとユーノがあきれるように息をついた。

 

「足つって、溺れてる所を助けてもらったってもう分かってるからな」

「...心配したんだからね?」

「......ごめん」

 

泳いでる途中で助けを呼ぶ暇もなく溺れた俺は、気絶してそのままこの砂浜まで助けられたらしい。自分でも驚くほど冷静に判断して、生きていると分かった。

 

そのせいか、思ったより驚きが表に出ず、ユーノに叱責されてしまった。

 

「そうだよなにやってるのアハト!」

「いや、仕方ないというか事故と言うか...泳ぐ気にさせるため勝負仕掛けてきたお前が悪いんじゃね?」

「酷すぎるよそれは!私だって心配してたのに...」

「そうよ~アハトちゃん。人口呼吸までしてくれた命の恩人に失礼でしょ~?」

「...無事ならいい」

 

口論に参加してきたのは、フィルフィさんとメイルさんだった。方やニコニコ、方ややれやれといった顔になっている。

 

「...ん?人口呼吸?」

「し、してないからね!でたらめ言わないでください!」

 

ノクスがさっきよりさらに赤面しながらあわあわと答える。ここまで動揺するなんて______

 

「まさか、本当に...」

「してないって言ってるでしょーー!!!」

 

青空の下で、ノクスの叫び声が響き渡った。

 




感想、評価、誤字等ありましたらお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心地よい場所

「ささ、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

 

俺とユーノはスタッフに『今人気なお二人に観客席なんて行かれたら収集がつかなくなるので止めてください!』と言われ、審判の隣で試合を観ることになった。

 

しかし、

 

「この勝負、マルク、ウィントペアの勝利です!」

 

準決勝第二試合は、驚かれるとこもなく、あっけなく終わっていた。

 

あの二人が使った魔法は基本魔法ばかりで、対策の参考に出来るようなものはなかった。相手も大きな怪我をしたわけでもなく、ただ作業をするように淡々とこなしていた。

 

「さぁ!明日はいよいよ決勝!ユーノ、カムイペアとの対戦です!皆さんぜひ足を運んでくださいね!」

「これで明日も楽しみに出来る奴がどれだけいるのかねぇ...」

 

すぐそこにいる司会の人に突っ込みを入れるように言葉を紡ぐ。もちろん聞こえないようにだが。

 

「最後に!今こちらにいらっしゃるユーノ、カムイペアから一言ずつ頂きたいと思います!」

「えぇぇ!」

 

突然の無茶ぶりに驚くユーノ。なんだかめんどい空気になってきたことを察し、いち早く逃げる用意をする。

 

「まずはユーノ選手!どうですか?」

「あ、あの、えーと...が、頑張ります!」

「ありがとうございますありがとうございます!!続いてカムイ選手に...あれ?」

「あーー!」

 

(...発見される前に早く帰ろう)

 

結局、俺が話すことはなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あのあと、フードを被っていたお陰もあって誰にも声をかけられることなく帰宅に成功した。

 

「アハトなんであそこでおいていくの!?私あのあと代わりに質問攻めにされたんだから!」

「悪かったー悪かったー」

「ちっとも悪いと思ってない!」

 

彼女は案外ご立腹らしい。頬をぷくーっと膨らましているのがおかしくて笑うと、さらに怒られた。

 

「それより...二人遅いな」

「今日も帰ってこないのかな?ノクスさん...」

「あんだけ死にそうにしてたのにな...もう帰らぬ人になってんじゃないか?」

「バカなこと言わない!」

 

既に夕飯は残っていた余りを使って野菜炒めを四人分作っている。だから、あとは帰ってくるだけなんだが______

 

「...ただいま」

「うわぁ!」

「なっ!」

噂をすれば。転移魔法で帰ってきたんだろう。突然家の中に現れたので飲みかけていたお茶を吹き出しそうになる。

 

「いや、もう帰ってこないのかと思いました...」

「...先にノクスを寝かせてた」

「二階に行ってたなら階段から降りて下さいよ」

「...私も思ったより疲れてるみたい。ご飯食べよう」

「じゃあ、ノクスさんは明日の朝ですか?」

「...朝までに起きたら」

 

(いったいなにをしてたんだ...)

ご飯を食べ出したメイルさんの無表情からは、何も分からなかった。

 

「...それより、アハト」

「はい?」

「...昼のあれは、電撃による強化?」

「...応援来てたんですね。その通りです」

 

俺が答えると、メイルさんは眼鏡をかける。

 

「ちょっと詳しく教えてくれないかな?」

「まぁ、別に良いですけど...」

 

それから、自分に話せることは全て話した。電撃魔法の発動条件が、強化魔力を全開にしなければならないこと。圧倒的な速度を得られる代わりに曲がったりなどがまだできないこと。など。

 

「なかなか厳しいですなぁ...」

「まだ始めたばかりですし、今回は使わないと思います」

 

メイルさんが食うのが速いのか、俺が喋るのが遅いのかは分からないが、メイルさんはもう食事を終わらせていた。

 

「うーん......」

「どうかしたんですか?」

「...自分の限界を越えようとすることも大切だよ?」

「それは...」

「まぁでも今日は終わり。明日に備えて早く寝なさいね?おやすみ~」

「あ、メイルさん...」

 

早々と一階の自分の部屋に向かっていくメイルさん。ガチャリとドアの閉まる音がすると、辺りはまた静かになった。

 

「はぁ...俺らも寝るか」

「何も話さなくていいの?」

「ここまで来たら意地で勝とうぜ」

「...頑張ります」

 

気持ちを軽くしようとしたのに、逆効果だったらしい。まだまだ人を見る目がないなぁと自虐する。

 

「じゃあおやすみなさい」

「あぁ。おやすみ」

 

ユーノとご飯を片付け、残りを冷蔵庫に入れてからそれぞれの部屋に入った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ...どうなるのかなぁ......」

 

明日はいよいよ試合。相手はノクスさんを虐めた人で、とても強そうな人。

 

「勝てるのかなぁ」

 

固有魔法が声や動きを止めるような力で、剣が強いことくらいしか分からない。

 

(せめて私が普通の魔法も使えれば、戦略も広がるのに...)

 

力の制御はまだまだ不完全で、人に向けて使えるくらいにはできない。傷つけることができるこの大会でも、人の命は奪ってはいけないし、そんなことしたくない。

 

________ハカイ_____

 

「ッ!!」

 

自分の胸に手を当てて落ち着かせる。なんだか、最近よく見る夢の中の______

 

コンコン。

 

「あ、はい」

 

ドアをノックされたので呼び掛けると、入ってきたのはメイルさんだった。

 

「メイルさん?」

「いやーユーノちゃんは寝れないだろうなぁと思ってね。お姉さんがフォローをしに来たんだよ」

「あ、ありがとうございます」

 

メイルさんと二人きりというのは初めてかもしれない。少し緊張する。

 

「大丈夫?」

「大丈夫ではありますけど...」

「今から明日が不安?」

「はい...」

「大丈夫。一人なら不安かもしれないけど、明日はアハトとのペアでしょ?三つも年上なんだもん。任せとけばいいんだよ」

「でも...」

「はぁ...アイオスから聞いてたけど、その様子だと昔からあまり変わってないのかな?まぁ、お姉さんから一つアドバイスだよ」

「?」

「何かに迷ったら自分の意志で、感情で行動しなさい。それなら大抵のことは上手くいくし、失敗しても成長できる」

「自分の意志で...」

「忘れないでね?」

「.....はい!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いよいよ、か...」

 

翌日。今日は遂に、マルク・レイと、わけのわからないトイレの女と戦う。

 

(ノクスを傷つけた分、きっちり返すぜ)

 

決意を固めてから部屋を出る。一階のダイニングには、メイルさんとユーノが立っていた。

 

「...眠れた?」

「ばっちりと」

 

あらかじめ想定していた質問なのですんなり答える。本当は新しい剣のスケッチをしていたんだが、アイデアが上手く出ずに時間だけ無駄に使ってしまった。ペアで戦う以上、後ろへの攻撃を防ぐ必要性は高いんだが。そのための剣は、作れていない。

 

(ま、エクスシアを使いたくないわけでもないし、いっか)

 

「ご飯もうできるから、ノクスさん起こしてきてくれる?」

「あ、了解」

 

再び二階に戻り、今度はノクスの部屋へ。扉を開けると、完全に爆睡しているノクスがいた。服はいつものへそ出しのやつで露出が高いのにも関わらず、布団を蹴飛ばしている。

 

「このままじゃ風邪引くぞ...」

 

あまりに寝顔が気持ち良さそうなので起こすのは癪だが、俺達の食べる時間がなくなるし、どうしたものか。

 

「ノクス、起きろ。起きろー」

「んんぅ...アハ...ト」

「...何の夢を見てるんだか」

 

なかなか起きないので、くすぐってみる。

 

「早く起きろー」

「ん...んんっ!あはははははは!」

「ごふっ!?」

 

結果は、俺が暴れだしたノクスからボディーブローを貰うだけだった。思わず腹を抱える。

 

(もう絶対こいつはくすぐって起こさない!!)

 

自分の失敗を心に刻んでいる間に、当の本人はしっかり起きた。

 

「あ...アハト、おはよう~ 」

「...おはよう。ノクス。飯だから早く降りてこいよ?」

「はーい。支度するから先食べてて」

「わかった」

 

本人にも怒ろうと考えたが、ノクスの笑顔を見たら怒るに怒れなくなってしまった。仕方なく一階へ向かう。

 

「全く、朝から散々だぜ...」

「アハト君どうしたの?」

「いや、なんでもない。準備するから先食べててだそうだ」

「は~い」

「...頂きます」

 

ノクスに言われたことをそのまま伝えると、皆食事をとりだす。(真っ先にメイルさんが)

 

(にしても、あいつ...一昨日見たボロ雑巾みたいじゃなかったな)

 

さっきの様子を見て、さらに死人みたくなってるわけではなさそうだった。

 

(特訓か...何をしたんだ?)

 

「メイルさん。ノクスさんにどんな特訓したんですか?」

「...秘密」

「なんでですか?」

「...真似されたら困る」

「え?」

「...近いうち、分かる」

 

ユーノも気になってたのか質問したが、メイルさんにはぐらかされてしまった。

 

「ご馳走さまでした」

 

あっという間にメイルさんの皿にはなにもなくなっていた。相変わらず早い人だ。

 

「おまたせ!」

「あ、ノクスさん。おはようございます」

「おはようユーノちゃん」

「...食べて。皆で行くから」

「わかったよ、メイル」

「お前...」

「ノクスさん敬語...」

 

なんかこいつヤバくなった気がする。完膚なきまでにボロボロにされ、敬い方さえ忘れたのだろうか。

 

「...私が認めた。大丈夫」

「そうそう」

 

「いっただっきまーす」と言ってご飯を食べ出すノクスを見て、俺は、なんだか知り合ったばかりではあるけど、それでも、変わったな。と思った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

場所はもう会場の控え室。メイルさんは、「じゃあ、私はここでおさらばするね?やらなきゃいけないことがあってね」と言ってこの場を去っていた。いるのは、俺とユーノ、ノクスだけ。二人ともかなり緊張していた。特に俺とノクスは、因縁浅からぬ相手だから。

 

「...ねぇ、少し、いいかな?」

「「?」」

「...あいつのこと、喋らせて」

 

ノクスは意を決したように、下げていた頭を上げて喋りだした。

 

「あいつと会ったのはそんなに昔じゃなくてね。二ヶ月位前かな?どこから私が『遺産』を集めるのが好きだと知ったのかは知らないけど、『遺産』が手に入ったのでどうですか?って言われて...始めは乗り気だったけど、取り引きが成功する直前に...『君が僕の物になるのが条件だ』って言われてさ」

 

ポツリポツリと呟かれていく話に比例して、ノクスの声は掠れた物になっていく。

 

「その前から似たようなことは言われたことがあるけどさ...っ。でも、そのあとなにもせずに逃げようとして、攻撃されたのは初めてだった」

「ノクスさん...」

「怖かったんだ。とても怖くて...絶対に捕まるかって逃げた。その時は逃げ切れたけど......そしたらこんな所でまた会うんだもん...でも、今回は前よりも怖くなったんだ... 」

 

ノクスの目元から涙が出てきた。声も上擦っている。部屋の中ですすり声だけが響く。

 

「だって、二人に出会って、暖かさを知っちゃったから。親が放任主義に近かったから、初めてだった。だからっ...三人でいる空間が暖かくて、気持ちよくて...っ!」

「ノクス...」

「だからっ!あいつと会ったとき、なんだか前に戻った気がして...!たまらなく嫌で!だから...だから私っ!」

 

 

 

 

 

「もう、何も言わなくていい」

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

気づいた時には、俺はまたノクスを抱きしめていた。三日前と同じ、温かい。

 

「気持ちは分かった。お前が変わりたくて、メイルさんに修行を頼んだんだろ?」

「それは...二人に迷惑かけたくないし」

「それだけじゃないんじゃないか?」

「......」

「お前はもう強いよ。そうやって周りを考えて、自分を変えようとするんだから」

「あ、アハト...」

「だから、今は応援しててくれよな?あいつに、もう二度とお前に近づくなって言ってやるからさ。な、ユーノ?」

「うん!!」

「ユーノちゃん...アハトォ...!!」

「おっとと」

 

感極まったのか、ノクスが顔を埋めてきた。涙で服の一部が色濃くなる。全くしょうがないやつだ。

 

 

 

 

 

それから何分たったのかは分からない。ただ、その間ずっと頭を撫でて、ユーノは背中をさすってやっていた。

 

「もう大丈夫...ありがとう」

「「どういたしまして」」

「...ふふっ」

「ははっ」

「あははっ」

 

いつの間にか、響いているのは笑い声だけになった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はー笑った笑った」

「そうだな。楽しかった」

「後でまた楽しみましょう?」

「祝杯だな」

「メイルさんに頼んで準備しないとね」

「そうだな...でも、よかった」

「なにが?」

「...なんか、今日の朝からノクスが変わったなーって思ってさ。短い付き合いだけど、なんか変に感じて...でも、笑って泣いて、いつものノクスだと思って安心した」

「ッ!///どうしてそういうことを真顔で言うの!」

「だって、泣いてるのとかはよく見てるし」

「なにをー!?」

「落ち着いて下さい!ノクスさん!」

「乙女心を返せ!」

「俺も乙女だから自分の分でいっぱいだ。お前のは奪ってないから安心しろ」

「あーもう!」

「...なんかいいですね。こういうの」

「人との付き合いは、時間だけじゃ決まらないからな。俺も心地いいよ。二人といれて」

「...ユーノさん。どう思います?」

「...///」

「なんだよお前ら?」

「「なんでもない!(です!)」」

「ま、いいや...てか、そろそろ時間だな」

「うん」

「じゃ、行くか?」

「そうだね」

「...頑張ってね?応援してるから」

「あぁ、任せろ!」

「...あと、アハト!」

「なんだよ改まって?」

「...これ、受け取って」

 

そう言われて渡されたのは、なんの装飾もされていない金色の指輪。

 

「これは?」

「普段のお礼。お金が足りなくて、ユーノちゃんは今度で我慢してね?」

「は、はい」

「なら、これをユーノに渡せば」

「こ、これはアハト用に買ったんだから、おとなしく受け取りなさい!」

「...分かったよ」

 

貰った指輪を左手の人差し指に付ける。剣を使う上で、左手より右手が自由の方がいいから。ピッタリはまった指輪は、俺の指で金色に光る。

 

「大事にしてね?」

「あぁ。それじゃあ...行ってくる!」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!!」

 

手を振るノクスに見送られながら、俺達は試合場へ。

 

やることは、一つ。

 

「勝つぞ。ユーノ」

「うん」

 

 

 

 

 

「「じゃあ、行こう」」

 




読んでくださりありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動く心と輝く剣

「それでは皆さん。お待たせいたしましたーー!!これより、第43回『アースラ』武道大会、決勝戦を行います!!!」

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

年に一度のお祭りの最後だからか、司会も観客も大興奮だった。

 

「騒がしいのは相変わらず、か」

「さっそくいきましょう!まずは一組目!二人の絆は世界一ぃ!ユーノ、カムイペア!!」

 

 

 

 

 

ウウウウウゥゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

「...まるで一種の魔法だな」

「......」

 

隣のユーノが歓声で固まってしまった。無理もないが。

 

「対するは、明るい見た目に騙されるな!マルク・ウィントペア!」

 

低いものの「わぁぁぁぁぁっ!」という歓声を浴びながら、会場入りをしてくる二人。ふと、マルク・レイと目が合う。

 

お前には、負けない。

 

さて、どうでしょう。

 

一瞬の交錯は、そんな思いが込められていた気がした。

 

「決勝戦のルールは簡単、自分の膝が十秒地面に着いた時点でその人は負けとします!降参もありです!先に二人を負けさせた方が勝ちでとします!また、審判が止める場合もあるので、気を付けてください!」

 

前に危険な行為をしたレイを警戒したのか、先に釘を打っておく審判。

 

(まぁ...いいけど)

 

自分の国に帰るためにも、ノクスの敵を討つためにも、絶対に勝たなきゃいけない。

 

「ユーノ、勝とう」

「...!」

 

そして、

 

 

 

 

 

「それでは。試合、開始!!」

 

開始直後はまず、俺が突っ込んでユーノが『fog・beast』で援護する。相手の固有魔法がよくわからないので初めは正攻法で仕掛けるしかない。しかし、

 

『abuse・voice』

『......!!』

「...どうした!?ユーノ!」

 

レイが固有魔法を使ったが、ユーノはいつまで経っても魔法を放つどころか一歩も動かない。声も聞こえているのか分からない。

 

(まさか...やっぱり行動を制限する固有魔法なのか!?)

 

「くっそぅ!!」

 

ユーノが動けないなら、まだ動ける俺があいつらの注意を引き付けなければならない。女の方を見ると、集中して詠唱してる途中なのかあちらも動かないままだった。

 

なら、俺は。

 

「レイ!」

「ふふっ...来てみるといいよ」

 

最初から顕現させていたエクスシアと、やつの剣が交錯する。ギリギリギリと擦れる音が自分の脳にはびこる。

 

「相方が大変そうですね。大丈夫ですか?」

「うるせぇ!お前だって似たようなもんだろ!」

「まぁ...そうですね......」

 

剣の向こうで、レイがほくそ笑みを浮かべる。そして、

 

「今のところは、ね?」

「...!!!」

 

(なんだ...これは...)

 

奴の言葉の直後、体が鉄に侵食されるように、動けなくなっていく。でも、こいつはユーノに固有魔法をかけた。詠唱が必要な固有魔法をし直していないのにどうして。

 

「まず、一人目だ」

「...!」

 

そして俺は、逆手に持ち帰られたレイの剣をそのまま喉に______

 

キィィンと金属音がした。

 

刺さることはなかった。目の前には『fog・beast』を展開しながら突っ込んできたユーノ。

 

「_________!!」

 

大声でなにか叫んでいるようだが、耳にはなにも聞こえない。

 

「邪魔が...君は傷つけずにしたかったんだけど、しょうがないですね」

「...!!」

「おっと!」

 

レイが手を上げると、ユーノが再び固まり、俺は急に動けるようになったためバランスを崩す。

 

(これは...動けなくできるのはどちらか片方だけ!)

 

種が分かれば今度はこっちの番だ。

 

「エクスシア!」

 

レイの剣がユーノに当たる前に、俺が弾く。そのまま押し込むと、奴はバックステップをとる。

 

「フォローは上手いようですが...それで良いのですかね?」

「意味わかんねぇぞ...!?」

「すぐ喋る癖、直した方がいいと思うよ」

「なっ!」

 

声が聞こえた方を見ると、さっきの場所でウィントと呼ばれていたトイレの女が球体の炎を構えている。大きさは、ユーノの作れる一番小さな氷と同じかそれ以上。ルールなんて関係なく殺す気なのは目に見えている。あんなの喰らったら持たない。

 

『hell・frame!』

「_________!!」

「よそ見をしてたらダメですよ?」

「クソッ!」

 

ウィントの炎が放たれる。ユーノは考えるのはできるのか、『fog・beast』を動かして壁として使うも、三体全てが溶けて消える。次を出すにも詠唱が必要な固有魔法で口が開けないんじゃ______それにあいつは初級魔法だって時間がかかってしまう。

 

時間にしてあと二秒はかからない。それだけで______

 

 

 

 

 

___死ぬ?ユーノが?____

 

 

 

 

 

「やらせるかぁぁぁ!!」

 

レイの剣を力の限り押した瞬間、エクスシアを消して電撃を纏う。そして________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「なんで...」

 

死んじゃうと思った。試合が始まる前から動けなくて、アハト君が止まった瞬間私は動けるようになった。だから、きっと一人の動きを封じる魔法なんだと思う。

 

動きを封じる魔法相手に庇い庇われながら戦ったものの、アハト君が突っ込んだ時に待ってましたといわんばかりに炎が私に放たれた。体が動かなくなって、出していた『fog・beast』は全て体当たりさせてもダメでだった。

 

だから、死んじゃうと思ってたのに。

 

「なんで!」

 

______目の前には、こっちを向いて立ち尽くすアハト君。背中に氷の壁を作っていたけど、炎の力を抑えきれずに本人に当たっていた。

 

「______」

「アハト君!!」

前に______私の方へ倒れこむアハト君を慌てて支える。回した手から感じた背中は生温かい。

 

(そんな...そんな......)

 

視界が恐怖で染まる。受け入れたくないと現実を拒絶する。それでも______温かいそれは止まらない。

 

そんなとき聞こえたのは。

 

「...よかっ...た」

「あ...あ......」

 

 

 

 

 

「さよならです」

 

 

 

 

 

アハト君のかすれ声と、死を告げる剣だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あっけない」

「えげつないことするからでしょ?」

 

アハトとユーノをまとめて貫いた剣を引き抜く。地面には鮮血が飛び散り、今なお広がっている。

 

目の前で行われた惨劇にその場にいる全員が戦慄していた。四人を除いて。

 

「『 release』...審判さん、まだやった方がいいですか?」

「あ、えと、この勝負は「...待って」え?」

 

審判を止めたのは、メイル・セリカ。彼女は今朝アハト言われたことを思い出していた。

 

『もし俺が酷い状態になっても、ルールに適してない限り待ってくれるようにしてくれますか?きっと最初は苦戦すると思うんですけど...負けられませんから』

 

「...まだ十秒経ってない」

「で、でも!」

「大丈夫です...二人が、あんな奴らに負けるわけないから」

 

メイルの隣にいたノクスは、祈るように二人を見つめている。釣られてそちらを見ると______

 

「!!!?」

「...ほら」

 

アハトは膝がつかないよううつ伏せ状態の体を回転させた。ルール上、確かに問題はない。

 

そしてユーノは、その場に立ち上がっていた。腹部の剣の傷は、舐めるように青白い炎がのぼっている。

 

「なにが...どうなって...」

 

メイルが一人、微笑む。

 

(...二人の力。私に見せて)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ア...ア...」

 

体が思うように動かないのを無視して回転させる。血が出まくってたからしょうがないけど。

 

回復魔法が使えない俺は、体の止血を強化魔法で行う。外から圧迫してるのと同じだ。

 

そんな自分のとこを後回しにして、腹に青白い炎をのぼらせながら立ち上がっている彼女を見つめる。

 

纏う魔力は、まるで彼女でないような、人を畏怖させるような魔力だった。

 

(あれは...ダメだ......あんなの、違う。)

 

炎が消える。貫かれた痕は、きれいさっぱり無くなっていた。

 

こちらを見ずに、相手だけを見つめるユーノ。このままだと__________言い様のない不安が、俺を襲った。

 

だから、体を動かす。ユーノと、左手につけた金色の指輪が重なった。

 

 

 

 

 

止めなくては。手遅れになる前に。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

不思議な感じだった。立っているのにも関わらず、自分は浮いているように感じる。

 

「ア...ア...」

 

なにより、自分の声も、体も、他人に操られているのをただ見ているような感覚がとても気持ち悪かった。

 

でも、それより。

 

(アハト君。貫かれて......)

 

_____コロス_______

 

この感じは、夢で見たものなのか。

 

(...なんだって、いい)

 

「なんなの...あれ?マルク?」

「...残念ながら、僕も知りません。ウィントは抑えてください」

「わかった...え?あれ?」

「どうしました?」

「あれっ...嘘っ!効かない!?弾かれてる!?」

「!そんな...」

「------『down・wind』!!」

「...ア」

「...本当に、効いてないみたいですね」

 

自分を縛ろうとするなにかを弾く感覚。自分の口から自分じゃない声が出る感覚。全てが怖い、怖い。

 

私は手を振り上げた。かざされた手は、血がべったりだった。あの人の、アハト君の、血。

 

「「!!」」

「...あれは、闇魔法?一体......」

 

同時に現れた黒い球体は、自分の魔力で作られているにも関わらず恐怖した。 あんなの打ったら、きっと、誰か死んじゃう。

 

コノテノイロミタイニ?

 

_______止めて______

 

お願いをしても、自分の体は止まってくれない。

 

「...。コロス」

 

_____止めて!!

 

 

 

 

 

「ユーノ!」

「あ...」

 

後ろから回される腕。背中から伝わる温かい感触。気味の悪い感覚は、そこで溶けていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...っ」

 

ボロボロの体を動かす。死んでないから平気だし。背中に攻撃を受けた時はゾッとしたけど、まだ動けるから問題ない。

 

彼女は誰もが畏怖する雰囲気を纏ったまま、強いて言うなら闇だろうか、黒い球体を浮かべている。雰囲気だけで、あれが放たれればここにいる人の大多数に被害が及ぶことが目に見えている。

 

そんな物を顔色一つ変えずに作る彼女が、なんだかいつもとは別人に見えて、それが怖くて悲しくて俺は、

 

「ユーノ!」

 

彼女を抱き締めた。

 

「あ...」

「お前はそんなやつじゃないだろう?そんな周りに迷惑がかかる魔法を打つやつじゃない。」

 

だからこそ初級魔法すら打たないのだから。

 

短い間でも、彼女がどんな魔族(人)で、何がしたいかなんて分かっている。

 

だからこそ______俺は、今の彼女を否定する。

 

「ユーノ...お願いだ。元に戻ってくれ。元のお前に......」

「...うん」

「!」

 

 

かすれた声と共に頷くユーノ。黒い球体は、いつの間にか消えていた。

 

「...死んでるかと思ったんだからね!?」

「バーカ、死ぬかよ。それよりユーノ...よかった」

「う、うん...//」

「いちゃついてるところ悪いんだけどさ」

「「!!」」

 

安心したのも束の間、ウィントがさっき以上の炎魔法を構えている。

「ヤバそうな状態だったから私が作れる限界まで溜めてたのにさ。今は動きも止めれるしつまんないよ」

「くっ...!」

「!」

 

(確かにユーノを抱き締めたまま動け...え?)

 

「魔力もこれで尽きちゃうし、悪いけど...ここで負けてね?『hell・prism!』」

 

さっきより勢いの増した炎が迫ってくる。あれは二人まとめて死ぬだろうな。

 

「!!」

「大丈夫だ」

「!?」

「喋らなくたって大丈夫だよ」

「え、なんで...確かに効いてたし、魔力切れも起こしてないのに!」

 

ユーノより前に出る。ちょうどさっきと同じような状況。でも、不思議と不安感はなかった。

 

(俺はこいつを止められる)

 

エクスシアで切ろうにも大きいし、防ぐにも剣の幅が足りない。他のものを作っても強度が足りない。

 

その、はずなのに。

 

(なんでだろうな、確信してる自分がいる)

 

右手に魔力を込める。作るのは______創造したこともない大剣。風が吹き荒れ初め、うっとうしくなった髪をかきあげる。

 

(贅沢は言わない。あれを防げるくらいのやつだ...できるよな?俺)

 

守りたいもののため、俺は力を尽くそう。

 

『image・replica』

 

静かに詠唱が唱えられ、構えた右手から光が溢れだし____

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

致死量の炎が飛んで行っても、審判はメイルによって止められていた。審判は抗議をするも、一向に話を聞こうとしない。そして、

 

「...あれは」

「一体なにが」

「大丈夫なのか!?あの小僧!」

「アハト...」

 

周りの観客がどよめき、ノクスが呟く中、

 

(...さっきのが、覚醒した力。まだ弱いのに制御は不安定みたいだけどそれだけか......それと)

 

「あれが、あの子の力かぁ......」

 

眼鏡をかけたメイルを含め、全員が見た。

 

 

 

 

 

黒髪がなびき、黄金の目を輝かせているアハトの白い光を放つ剣(つるぎ)を。

 

 

 

 

『image・replica』

 




タイトル変えようか迷ってます。こんなのどうだろうか!という方はぜひお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

相棒(パートナー)

剣の先を前に向ける。右手を引いて上に、左手を剣の刀身に当てる。

 

「こいよ」

 

燃え盛る炎は突き出した剣とぶつかり、その激しさを増した。圧倒的脅威が目と鼻の先で止まる。

 

 

 

 

 

後ろに守りたい人かいるから。だから、負けられない。

 

 

 

 

 

「そうだろ?だからお前の力を貸してくれ!」

 

白く輝き続ける名もなき剣は、俺の声に答えるように光を強くして、炎を上空へ反らした。かすった観客が悲鳴をあげているが許して欲しい。

 

「なっ!」

『psychic・plasma』

「っ!!!」

 

剣を消し、電撃を体に纏って体当たりをかます。ドンという派手な音と共にウィントが壁に突き刺さり、そのまま倒れた。

 

あれは完全に気絶してるだろう。膝も着いてるし問題ない。あとは、

 

『---------』

「させるかよ!」

「っ!ごほっ!ごほっ!」

 

 

レイがしていた固有魔法の詠唱も、口の中にすくった砂を高速移動したままぶつけてやる。不意をつかれたレイは抵抗できずにそのまま咳き込んでいる。なんだか悪役がやりそうな手段だが、なりふりかまっていられない。

 

「アハト君大丈夫!?」

「今さらだけどカムイだからな。周りは聞こえてないみたいだけど」

「あ、ごめん...」

「かはっ...どう...して...限定魔法は、剣を...作る、ものじゃ...」

「この移動方法か?遠くから見てなかったらわからないだろうけど...ただの魔法の応用だよ」

 

消費する魔力が半端ない上、使いこなせてもいないけどな。という言葉を飲み込む。わざわざ弱点を教える必要もないだろう。

 

ちなみに限定魔法ってのは、新魔がつかえる固有魔法のことだ。俺の『image・replica』や______

 

「応用って話なら、お前らの方が凄いだろ?相手の声を操る固有魔法と、動きを止める限定魔法。それらをバレないようにしてたんだから」

 

初めはレイの固有魔法が動きを止め、声も出なくなるだけだと思っていたが、違う。

 

(どうして気がつかなかったんだろうな。自分も同じものを使ってるのに)

 

限定魔法で動きを止めていたのは、新魔であるウィントだった。そして、レイが声を遮る魔法の使い手。

 

「ノクスとの試合の時、大会スタッフを止めていたのは場外にいたウィントだったんだな。お前はノクスの声を遮っていただけ...あの時あいつは数人の動きを止めて、この試合で片方ずつしか止めなかったのは、限定魔法持ちだとバレたくなかったからなのか、詠唱がバカみたく長いからとか、そんな理由か」

 

魔力の消費が並みじゃないってのもあるかもしれない。それなら、ユーノみたいな大きさの炎魔法を作る余力もそうないだろう。

 

「こほんっ...見破ったことは称賛します。ですが今攻撃しないで答え合わせしていたことを後悔させてあげますよ」

「答え合わせの方が大事だと考えただけだ。それに、俺もノクスを傷つけた分後悔してもらうからな。覚悟しやがれ」

 

こっちは実際に大怪我をさせるつもりはない。あんな奴と一緒になりたくないし、誰も喜ばないから。

 

だから、せめて。

 

「ふっ...勝てますかね?」

 

そう言って剣を構えるレイ。

 

(ならこっちだって!)

 

消してしまった白い大剣は思い出せず、馴染み深い相棒(エクスシア)を創造する。

 

(こっちも魔力切れが近いな...完璧な状態で作れるのはあと一本くらいか?強化魔法に使う力も入れると...もう作れないか)

 

なら、目一杯の力で。

 

「エクスシア!!!」

 

顕現させるのは自分が望んだ剣。その感触を確かめ、構える。

 

「ユーノ」

『fog・beast!』

 

彼女の方を見ると、詠唱がちょうど終わったらしく魔力の狼が三体出てくる。

 

「『fog・beast』もいれたら五対一だ。気楽にいこうぜ」

「う、うん...カムイ君」

「?」

「...ううん、後で言う。頑張ろうね!」

「ユーノ...あぁ!」

「------「させるかっての!」!」

 

相手が詠唱を始めた瞬間攻撃を開始する。相手は剣捌きは互角だが、

 

「------」

「ユーノ!」

「てやぁ!」

 

 

俺はエクスシアで、ユーノは短剣で、狼たちは体当たりで波状攻撃をかけるものの、流石に五対一とあって、同時攻撃をしかけるには限界がある。

 

「-----」

「ふっ!!」

力と力がぶつかりあい、周りの地面を陥没させる。それでも止まらずお互いの剣で弾き、いなす。周りの観客は一言も発することなく息を飲んでいた。

 

先に動いたのは、レイ。

 

『abuse・voice!!』

「!」

「!_____!!」

 

死にものぐるいで唱えた固有魔法により、周りの声はなくなり、相手と自身の呟きしか聞こえなくなる。これでユーノとは声で連絡が取れなくなった。レイの口角が上がる。

 

「これで終わりです」

 

剣を交わす回数、速度がどんどん上がっていき、ユーノが割り込む隙がなくなる。俺とあいつの一騎討ち。

 

「上等!!」

 

俺は『image・replica』を使っているから、あっちは剣に集中しているからか魔法は一切なく、剣劇だけが飛び交う。上から降り下ろし、下から跳ねあげ、横から勢いよく来る剣を必死で弾き、反撃に出る。剣がぶつかる回数が増え、一度の間隔が短くなっていく。

 

 

 

 

そんな戦況が動いたのは。

 

「なっ!!?」

「これで!」

 

エクスシアを真上に弾かれる。体勢が崩れた俺に止めを刺そうとするレイが、剣を真上から降り下ろす。

 

これ以上剣を作ることも、魔法も使えない。こっちが出来るのは、腕を犠牲にして体勢を立て直すくらいか。

 

(どうせ優勝すれば回復薬貰えるし、いいか...なんてな!)

 

魔法で誰にも聞こえない声で叫ぶ。

 

「諦めるか!!そうだろ!」

「なっ!ッッ!!」

「せやぁ!!」

 

俺の真後ろから、弾かれたエクスシアを持ったユーノが俺を飛び越えて前に出て、レイの剣を叩き折った。相手からしたら完全に不意をつかれた状態。固有魔法も消えていた。

 

「くっ...だがこれで終わりだね!」

 

折られた剣を捨て、ユーノに殴りかかるレイ。

 

それを俺は。

 

「例え声が届かなくても!」

「連携くらいしてみせるさ!」

 

ユーノの肩を掴んでそのまま飛び越え、レイの顔面に膝を入れてやった。「がぁっ!」と言って倒れこんだ所をそのまま馬乗りし、ユーノから受け取った短剣を喉元にピタリとつけた。

 

「降参しろ。それで終わりだ」

「大人しく負けを認めると?」

「固有魔法を続けられないくらいなくせによく言うぜ」

「...君らは強いね」

「......伊達に一ヶ月近くも一緒にいないってことだ」

 

 

 

 

 

試合の決着がついたのは、この直後だった。ふと相棒(パートナー)の顔を見ると、満面の笑みだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「この試合、ユーノ、カムイペアの勝利です!!おめでとうございます!!」

 

『オオオオオォォォォォォォ!』

 

「終わった...」

「はぁ~...」

 

審判さんの声と、周りの歓声でようやく終わったんだと理解したのか、二人揃って地面に倒れてしまった。ウィントさんたちはもういなくなっていた。

 

「やったな」

「うん。やったね...ふふっ」

「なんだよ?」

「だってアハト君...あははっ!」

「なんだよお前!」

 

こんな場所なのに、土をつけた顔が面白くて笑ってしまうと、アハト君に怒られてしまった。

 

「全く...でもこれで、行けるんだな。やっと」

 

確かに、これで、新魔領、『クロスベル』に行ける。

 

「予定は二ヶ月くらいだっけ?全然早いじゃん!」

「ま、早いことにこしたことはないからな。それより演説用の原稿とか、今から練っといた方がいいんじゃないか?」

「う...善処します」

「では、このまま表彰に入りたいと思います。が、その前に!」

 

私たちが倒れながらまったり話している空間を壊したのは、

 

「イチャコラしてないで早く立った立った!」

「「!!!」」

 

圧倒的なまでの魔力と、ザンッ!!という何かを地面に叩きつけた音。

 

「これは...」

 

あわてて立ち上がると、入口で仁王立ちしている人が______

 

「満足するのはまだ早いよ?」

 

自分の背丈とは不釣り合いなくらい大きな斧を持ったメイルさんと、その後ろいるノクスさん。

 

「これより、最後のアフターマッチを開催します!」

「さぁ、第二ラウンドだ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強者と意地

「はいこれ」

 

眼鏡をかけたメイルさんから放り出された二つを慌てて掴む。

 

「割れ物だから注意してね?」

「投げてからいいますか!?」

「キャッチ出来たし問題なし!私が作ったエリクサールに限りなく近いやつだよ。魔力も回復するしこれでもう一回戦えるね!」

「...は?」

「あ、優勝商品の本物は後で貰えるから安心してね?」

 

さらりと述べたことがとんでもないことを、この人は自覚しているのだろうか。

 

(いや、自覚した上で言ったんだな...)

 

『遺産』の中でメジャーでありながら値段が下がることがほとんどない品物。それが回復薬だ。種類も値段も色んなものがあり、それでいて冒険者には必須アイテムだからよく売れる。こっち(新魔領)では余計な混乱を避けるため、これだけは国全体で値段の規定が設けられているほど。

 

その中でも最高ランクの一品、通称エリクサールは、怪我、体力はもちろん魔力まで瞬時に回復するという化け物じみた回復薬だ。勿論値段も最高レベルで、一般的なものが冒険者御用達なのに対し、こっちは大貴族、王族ですら二桁は持ってないくらい。

 

そんなものが優勝商品だというのには、驚きこそすれ別に嬉しくはなかった。本来そんな物が必要な人は即死する可能性の方が高いから。

 

さらに回復薬は低ランクな物でもなかなか作れる人がいない。調合が難しいからだ。

 

そしてメイルさんは、近いものとはいえ最高ランクのエリクサールを自分の手で作ったと言った。それが意味するのは。

 

(それで商売でも始めれば、三代目くらいまでは贅沢できるだろうに...)

 

そっちの仕事をしないのが不思議なくらいだ。

 

「こういうのは趣味で作るから楽しいの。ともかく早く飲んで試合しよう?皆も待ちきれないよ?」

 

心を読んだようにつけたすメイルさんを見て、覚悟を決めた。

 

「...ユーノ」

「あ、うん」

 

黙って回復薬を飲み込む。疲れた体に染み渡っておいし____

 

「「からっ!!」」

「だよねー...私も大変だったよ」

「味は今後の改良点だね」

 

始めは甘味があったものの、急激に辛さが襲ってくる。ユーノと揃って悲鳴をあげたのをノクスが同情し、メイルさんは頷くだけだった。

 

「というかノクスは?」

「ん?私とメイルでペアだよ」

「マジかよ...」

 

大会スタッフってそんなことまで出来んのか。

 

「...アハト」

「カムイな」

「そこはどっちでもいいでしょ!...さっきはありがと!こういうこというのはなんか変だけど、気持ちが晴れたよ!」

「あ...あぁ、レイのことか。気にするなよ」

「さて、会話も終わった?覚悟はいい?」

 

顔の赤いノクスの隣で、自分の背丈より大きな斧を振り回すメイルさん。

 

「メイルさん。これは...」

「あ、送るって件ならこれで戦ってみて決めるから頑張ってね」

「!!...ユーノ、大丈夫か?」

 

一気に、負けられない戦いになってしまった。

 

「...うん」

「じゃあ、行けます」

 

俺も魔力がほぼ完璧に回復していた。すり減った精神までは治らないが、やるしかない。

 

「じゃあ、始めようか!」

「それではこれより優勝チーム、ユーノ、カムイペアと、おそらくこの町最強!メイル・シャル選手と、今大会出場者、ノクス選手ペアのアフターマッチを行います!」

 

メイルさんが手を上げると、審判が進行を始める。そして_____

 

「それでは、試合、開始!」

 

試合が、始まった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃ、動かないでね」

「分かってます」

「さぁー、ノクスはまだ動かないから二人がかりでかかってきな!」

「じゃあ、行かせてもらいます!」

『fog・beast!』

 

メイルさんが片手をこちらに向けて挑発してくるのを見て、私とアハト君は向かっていく。両手で構えても不安定に感じる大きな斧なら、懐に入ってしまえれば。

 

「行け!」

 

『fog・beast』で作った狼を三方から突撃させる。メイルさんはゆっくり斧を持ち上げるものの、その速度では絶対間に合わない。

 

(もらった!)

 

「はぁ...甘いよ」

 

「「!!!」」

 

狼達の体当たりが当たる直前、メイルさんが信じられない速度で斧を振り回す。その力に耐えられず、三匹ほぼ同時に魔力の塊へと霧散した。

 

その後、暴風が吹き荒れる。メイルさんの白衣のような上着がはためき、土煙が舞い上がる。

 

「嘘...でしょ?」

「強さ的には、アイオスさんとほぼ同じか...それ以上か」

「あ、あいつと戦ったの?いいなー。久々に殴り込みに行こうかな...でもなー......よし!」

「!」

 

メイルさんの魔力がさらに増幅される。強化魔法を纏うだけでここまでのプレッシャーが______

 

「この勝負に勝ったら行こう!というわけで、勝たせてね?」

「ッ!!」

 

メイルさんがにこやかな笑顔を覗かせた瞬間、アハト君の目の前まで移動して斧を降り下ろす。アハト君も驚きはしたもののエクスシアで応戦し、ガキンッ!と甲高い音をたてて鍔迫り合いが起きる。

 

「へぇー...耐えるのかぁ」

「生憎、まだ負けるわけにはいかないんです」

「...この斧(ハルバート)は、私が認める友達に作ってもらった一級品でね。『遺産』をベースにして作ってもらってるんだ」

「『遺産』を...?」

「透明結晶(クリスタ)。名前くらい聞いたことあるでしょ?魔力を通すことにより強度が上がる物質。このバルバトスには、それが使われている。だから!」

「なっ!」

「こんなことだって出来ちゃう!」

 

メイルさんが叫んだ直後、持っていた斧、バルバトスの刃先が輝きだし、アハト君のエクスシアに亀裂が走し、砕け散る。

 

「くそっ!」

「甘いよ!!」

 

アハト君が一旦離れ、新しい剣を即座に作るものの、メイルさんが降り下ろした斧をそのまま持ち上げ、二人の武器がぶつかった瞬間___________エクスシアが割れた。

 

「嘘だろ...」

「カムイ君!」

「このタイミングで割り込めるのは凄いね...」

「「はぁっ!」」

 

アハト君のカバーに入り、そのまま短剣を突き立てる。アハト君も新たな剣を振って、二方向からの剣がメイルさんを襲う。

 

「まぁ、でもね」

 

そこからメイルさんは、棒高跳びの要領で斧を使いこなし、私たちの攻撃をかわした。

 

「そんな!」

「身軽過ぎる...」

「詰めが甘いよ」

 

そして、上空へ上がった状態で両手を、そこに握られた大きな斧を高く振り上げ、

 

 

 

 

 

「ね、バルバトス」

 

 

 

 

 

着地と同時に、それを降り下ろした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

メイルさんが降り下ろした一撃は、辺りの土を根こそぎ抉って上空へと舞い上がらせた。地面は先程の見る影はなく穴が開き、観客からは悲鳴があがる。俺も衝撃で吹き飛ばされ軽く埋もれてしまった。

 

「ん...くっ」

 

上に覆い被さっていた土を払い、立ち上がる。

 

「あちゃー...久々だったから少しやり過ぎたかなぁ。やっぱり触ってないと細かい感覚なんて忘れるもんだねぇ」

 

言った張本人はなにかがおかしいのかクスクスと笑っており、しかししっかりと斧を片手で構える。

 

「強い...」

 

俺と同じく埋もれていたユーノも出てくるが、全身土まみれで見るに耐えられなかった。俺も周りから見れば同じなんだろうが。

 

「じゃあ、私はカムイ君の相手をしようかな。ノクス、地獄の特訓の成果を見せちゃいな!」

「ユーノちゃんが相手かぁ...頑張らないと」

「ここでノクスもかよ...」

 

俺とユーノ、二人がかりで圧倒されていたメイルさんだけでなく、ノクスまで入ってくるとなると。

 

あいつがどんな練習をしてきたかは分からないが、さらに不利になることは間違いない。

 

そう結論を出し、ちらりとユーノを見ると、「私は大丈夫」と言わんばかりに頷いてくる。

 

(じゃあ...任せた)

 

正直、不安しかないが。

 

「なら...どうぞ!ノクスさん!」

「じゃあ、行くよ!」

 

勝てる見込みなんでない。でも、勝つ可能性を少しでも上げるにはひとまずユーノがノクスを倒すまで時間を稼がなければならない。

 

「良い練習相手になってね!」

「お断りします!」

 

普段絶対に言わないような言葉を出してから突っ込んでくるノクスに、ユーノは短剣を構えて走り出す。

 

「じゃあこっちもやろうかな」

「...お手柔らかにお願いします」

「んーん、無理!」

 

恐ろしい速度で向かってくるメイルさんに対抗するため、俺は集中力を限界まで引き上げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「それっ!」

「くっ!...どんな動きしてるんですか!」

 

私はノクスさんに押されていた。前にいると思ったら突然消え、見えないところから剣が振られてくる。強化魔法で強くなった力を回避に使わなければ、今頃身体中切り傷だらけだろう。

 

たまに顔や体が見えるものの、突然消えるのは凄くゾッとする。

 

「本当に効くのかどうか不安だったけど...二日で覚えた割にはいけてるかもね。こうやって努力が報われるのは嬉しいよ」

「いったい何を...していたんですか!?」

「...終わったら教えてあげるね!」

 

ノクスさんの攻撃をいなし続ける。後ろに回り込むのは出来ないのか前からの攻撃だけなので、まだ耐えられる。

 

 

 

 

 

_____コロソウカ____

 

「!!!」

 

ナニカ不気味な感覚から逃げるように、ノクスさんから距離をとる。

 

「そんなんで大丈夫なの?今のアハ...カムイだけじゃ絶対あいつを倒せないよ?」

「...わ、わかってます!」

 

自分が自分でなくなる感覚、正体はわからないけれど、これ以上このナニカに行動させてはいけない。

 

(そのためにも!)

 

「私が私の力で倒します!」

「望むところ!」

 

そして、お互い再び距離を詰め、短剣を振った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「まだまだいけるよね?」

「はぁ...はぁ...」

 

47本。それが今まで砕かれた相棒(エクスシア)の数だ。

 

どんなに質の良い剣を作っても、メイルさんのバルバトスとは五発も持たない。

 

魔力も無尽蔵ではないので疲弊してきてるし、早いとこ決着をつけたいが、勝てる見込みが一切ないのは気のせいだろうか。

 

(これ、新魔と旧魔で戦ったら勝てる気がしないぜ...)

 

無駄のように見える動きはわざとか次の技への繋ぎか。一見ゆったりに見える動きは全てを繋げることで洗練された舞の様になる。その顔から余裕が消えることはない。

 

「...そんなにやる気ないなら、止めてよね」

「...はぁ!?」

 

武器のぶつかり合いが一度途切れる。でも、本気出してないわけがない。現にこっちは必死すぎるほどに必死だ。

 

「もっと本気を出しなさいよ!さっきの試合みたいにね!もし出さないなら...」

 

こちらに怒鳴った次の瞬間。

 

「無理やり出さなきゃいけない状況作っちゃうんだから」

「ッ!!!」

 

瞬間移動____したかのように見える動きを目で追うことが出来ずに、エクスシアもろとも吹っ飛ばされる。

 

「おしまいっ!」

「やら...れるかっ!!」

 

追撃を仕掛けてくるメイルさんを、作り直したエクスシアで迎え撃つ。

 

「そうそうそれだよっ!君だって知ってるでしょ?魔力を持つものが限界を越えると目の色が変わるってやつ」

「それが...なんですかっ!」

「極限状態で目の色を確認する人なんていないから自分は見れないけどさ。君、さっきもだけど...黒から金になるんだよ。光輝いてて格好いいよ?」

「お世辞は結構です!」

「じゃあ...君の本気、見せて!!」

 

つばぜり合いから離れたメイルさんは、両手持ちの斧とは思えない速度で、それも連撃を放ってくる。俺はそれをエクスシアを一つ一つ作り直して切り払う。さっきまでの防戦ではなく、一進一退の攻防。

 

「はぁぁぁあ!!!」

「そーれっ!」

 

それから何撃したか、されたかは分からない。でも先に崩れたのは________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ!」

「てぇい!」

 

『fog・beast』は全て消した。追加を出す気配もない。追加で出せる魔力がないのか、詠唱する余裕がないのか。私には判別できなかった。

 

お互い倒されながらも剣をぶつける。ユーノちゃんを相手に出来る、この近距離戦闘。

 

(凄いね。こんなに...)

 

二日三日で上達したとは思えないくらい手応えもある。だからこそ、

 

「今日これで分かったよ!私はきっと、まだまだ可能性がある!魔法が使えなくても強くなれる!」

 

今までは、塞ぎこもっていたのかもしれない。でもこれからは違う。

 

「だって、一緒にいたいから!二人と肩を並べたいから!!」

「私は...これからもダメかもしれない。魔力の制御も出来ないし、皆に迷惑かけるかもしれない。ノクスさんだってこんなに強くなって...でも!私だって!強くなるって決めたんです!」

 

私達は同時に足を踏み出し、

 

「「だから!」」

 

 

 

 

 

「勝つ!」「勝ちます!」

 

 

 

 

 

剣を相手の首もとに向けて___

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「両名の脱落を確認。この勝負勝ったのは、メイル、ノクスペアです!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の町へ

「...お疲れ様」

「「「お疲れ様でした...」」」

 

アフターマッチ、結局勝ったのはメイルさんとノクスだった。いや、ユーノとノクスはお互い首もとすれすれに短剣を当てていたので引き分けだったが、俺の方が魔力切れを起こしてメイルさんにやられたので、言うなれば俺一人だけ負けだった。

 

「...ユーノとももっと戦いたかった」

「何バトルジャンキーみたいなこと言ってるの?」

「...ノクスには言ってない」

「むー!」

「あはは...」

 

で、今現在はメイルさんの家に戻って小さなお疲れ様会を開いていた。大会の方でも用意されていたらしいのだが、メイルさんが「そんなのめんどいからパス!」と言ってこっちになった。俺としても助かるけど、あんな試合を設定してくれた人達に対してそれでいいのかは疑問だ。

 

「アハト君食べないの?」

「いや、食べる」

「じゃあ食べられる前にチキンを全部貰って「...よくない」そ、そんなっ!」

 

ノクスの目の前にあったチキンを盛られている皿が、メイルさんの手にわたる。二人の視線はぶつかって今にも火花が散りそうだった。

 

「メイルさん。一つください」

「...はい」

「ありがとうございます」

「アハトは良いのか!」

「...独り占めしないから」

「あんなこと言わずに黙って食べれば良かったのか!」

「ノクスさん。落ち着いて...私の鳥あげますから」

「ユーノちゃん優しい!大好き!」

「えへへ...」

「...三歳も年下の子からご飯を奪う貧乳」

「......言ってはいけないことを言いましたね?」

「...ヒュー、ヒュー」

「口笛吹けないならするな!」

「ぷっ、あははっ!」

 

あまりにも面白くて思わず笑ってしまう。家族みたいで良いなと思った。

 

「アハトも笑ってんじゃない!私より貧乳の癖に!」

「よしお前表に出ろ潰してやる」

「望むところよ!」

「二人とも止めてくださいー!」

「...やれやれー」

「メイルさんは煽らないで下さい!!」

 

夜が更けるのはあっという間だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

_____二日後の朝。

 

「...準備は出来た?」

「はい」

「といってもすぐ町だからさほど準備もしてないがな」

「あっちで買うんでしょ?」

「多分、あっちの方が良いのが揃ってるから」

 

私達は、旅の準備を、軽くだけどしました。

 

メイルさんとの勝負に負けたので、てっきり魔法は使ってくれないのかと思ったのだけれど。

 

『え?誰も負けたらダメとは言ってないよ?ちゃんと運ぶよ。気が変わらない内に早くした方がいいよ?』

 

と言われて、慌てて買い物をしたのが昨日。軽い食料や必需品を揃えました。

 

「服も新しくなったし!」

「ここタグついてる」

「え、マジで?」

 

一番問題だったのは、アハト君の背中が炎魔法で焦げた服だったのですが、

 

『大会優勝者が着ていた服が貰えるならそこら辺の服持ってっちゃっていいわよ!出血大サービス!!』

 

なんて私がアハト君用のコートを買ったときのお店のお姉さんに言われ、同じ物の新品(サイズはまたバッチリ!)を頂きました。

 

「...いい?」

「「はい!」」

「はーい」

「...ノクスはここで一生暮らす?」

「ごめんなさい」

「...そういえば」

 

「ちょっと待ってて」と言って家に入るメイルさん。戻ってくると、その手には色んな物が入っていた。

 

「...私からのプレゼント。ノクスにはこれ」

 

そういって渡したのは、先から手元にかけて少し台形の形をしていて、刃の部分が透明な剣。

 

「これは...」

「...元は籠手を使っていて今は短剣にしているけど、こういうのがあってもいいと思って」

「これ、私に?凄く良さそうなやつじゃん」

「...『遺産』だし「ぜひください!」はい」

「ありがとう!!」

 

「わーいわーい!」と叫んでるノクスさんにアハト君は「子供かよ...」と言いたげな顔をしていた。

「...アハトにはこれ」

「?...これはっ!」

 

続いてアハト君に渡されたのは透明な石。よく見なければ持っていることすら分からない。

 

「...それで剣を作れば、今より強くなれる」

「ありがとうございます」

 

よく分からないものを渡されたアハト君は妙に嬉しそうだし。

 

「あれ透明結晶(クリスタ)だからね」

「え!?」

 

ノクスさんの耳打ちでようやく理解した。メイルさんの武器にも使われていた魔力を流すことで力が強くなる物質、それでもしアハト君がエクスシアを作れば。

 

「そしたら喜ぶよね...」

「そういうこと」

「...ユーノには、これを」

「これは...」

 

メイルさんが渡してくれたのは、少し小さめの杖。

 

「...多分、今持ってるけど使ってない杖よりは強い。制御もしやすくなるはず」

「ありがとうございます!メイルさん!」

「...今の杖はくれる?」

「え、でも...」

 

これは使ってないとはいえ練習に一番付き合ってくれた、アハト君風にいうなら『相棒』みたいなもので。離したくないからか少し体に力が入る。

 

「...次会う時までに、これを...バルバトスを作ってくれた人に強化してもらうから」

「そういうことなら...お願いします」

 

メイルさん自身もだけど、その武器もとても強い。それを作った人にやってもらえるなら。と思い、メイルさんに杖を渡した。

 

(...次使うときは、もっと上手くなってるからね)

 

「...別れる前に、改めてお詫びをさせてほしい」

「しょうがないですよ。『レベル山脈』を越えられるだけうれしいです」

 

それは昨日、メイルさんから言われた真実。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ごめんね。実は、あなたたちを王都まで運ぶことは出来ない」

「え?なんで!?」

「私の固有魔法、『nephrite・enable』は、自分の記憶している場所にしか行けないんだ。でも、あっちの王都なんて覚えてないし」

「そんな...」

「代わりに、『ヘルシンキ』になら運べるから、そこで我慢してほしい」

「『ヘルシンキ』か...」

「アハト?」

「その町で構いません。以前王都からそこまで行ったことがありますから」

「ごめんね...」

「運んで貰えるだけ十分です」

 

 

 

 

 

「ちなみに、なんでそこは覚えてるの?」

「景色が綺麗だったから」

「えー...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「あ、俺からも渡すものがあった」

「「「?」」」

「すいません。メイルさんには無いですけどね...これ」

 

アハト君が私とノクスさんの手に何かを握らせる。渡してきたのは、天使の羽の形をしたペンダント。

 

「...!」

「凄い!くれるの!?」

「この町に着いてから作ってもらってて、昨日受け取りにいったんだ。お前らのために作ってもらったから...もらって欲しい」

「...うん!」

「ありがとう!」

「...どういたしまして」

アハト君は恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。それが女の子らしくてノクスさんと笑ってしまう。

 

「なんだよお前ら」

「なんでもなーい!」

「...じゃあ、今度こそやる。手を出して」

 

話を遮られ、ペンダントを胸元に着けてからメイルさんの言われた通り、三人で手を出す。メイルさんはその手を一つに重ね合わせ、自分の手も重ねる。

 

『--------』

 

そして、短い詠唱の後_____

 

「...じゃあ、頑張ってね。ユーノ、ノクス、そして_____」

「ッ!!」

 

メイルさんが、アハト君に何か耳打ちしてから_____

 

『nephrite・enable』

 

辺りが光で満ち溢れ、次の瞬間_____

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅ...ととっ」

 

一瞬体が浮き上がった感覚がしてから、足が地面につく。目の前にいたメイルさんは消え、代わりに森林が視界に入った。

 

「これが瞬間移動...」

「変な感覚だね」

「楽しかったー!」

「遊びじゃねぇぞ...」

「...それより」

「「?」」

「...着くのって、町じゃないんですか...?」

「「あ」」

 

ユーノに言われてなんとなく後ろを振返ると___________

 

「わぁー...」

「綺麗...」

 

俺達がいたのは、対岸が見えないくらい大きな湖と、その手前にある町を一望できる崖、だった。太陽が反射してキラキラと光っている景色はまさに絶景。

 

「これは確かに覚えるよねぇ」

「そうですね...あれ?」

「ん?」

「...アハト君、『ヘルシンキ』ってどこ?」

「あ...確かにここ崖と森しかないじゃん」

「......すぅー....はぁー...あそこ」

「え」

「あそこは...」

 

俺は動揺していた心を落ち着かせ、二人の質問に答える。指さしたのは、さっき見た湖手前の町。

 

そして俺は、メイルさんの元に届けと祈りながら叫んだ。

 

 

 

 

 

「景色が綺麗だからって、町から遠い所に送るなよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...ちょっといい?」

「......どちら様ですか?」

「...この町にアイオス・アインツはいる?」

「アイオスさんなら、奥さんと一緒に王都まで新婚旅行に行きましたよ」

「...そう」

「それであなたは...ッ!?消えたっ!?」

「パパー!」

「...リーゼ」

 

(今のは気のせいなのか...いや、そんなはずはない。それに、どこかで...)

 

「?どうしたの?」

「...いや、なんでもない。暗くなる前にキノコたくさん取るぞ?」

「はーい!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「進路を変更してくれる?」

「よろしいのですか?急いで向かわなくて...」

「アレができたのよ」

「「!!」」

「それは、つまり...」

 

 

 

 

 

「少し寄り道しましょう?」

 




三章が終わりましたが、悲しみにくれたほうこくが...

これを作ってる携帯がこわれ始め、書くのがかなり辛く、更新頻度が格段に下がります...

続けていくつもりではあるので、今後ともよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編Ⅲ

「......」

「......」

 

喫茶店『ホットカフェ』にて、一組の男女が向い合わせで座っていた。二人は微動だにせずに、静かにしている。

 

「お待たせ致しました。ご注文のホットココアとハーブティーです」

「「あ、ありがとうございます」」

 

そんな静寂な空気は店員が持ってきた飲み物によって崩される。ごく自然に置いているのにも関わらずカップをテーブルにつける音がしないあたり、食器の扱いが相当上手いのだろう。「失礼しました」と言って離れる店員をボーッと見た後、前に視線を戻すと男がハーブティーを持ち上げていた。

 

「え、えーと...とりあえず、これからよろしく」

「う、うん。こちらこそ」

 

女の方もカップを持ち上げ、そもまま口に運ぶ。これが二人の______ランス・セブンとガーナ・シンディの出会いだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

そもそもの始まりは今日の朝。出場ていた大会から連絡来たことから始まった。内容は、今日は大会を休みとし、明日までに今残っている八人でペアを作っておくことだった。

 

休みを取ったのは、おそらく昨日行われた残虐な試合のせいだろう。

 

大会に出るため一人でこの町に来たランスは、ひとまずペアを作るをために大会受付に行ったが。

 

「残念ながら、もう三組決定しています」

「マジかよ...あ、ありがとうございました」

 

着いたときには、既に八人中六人が決定していた。つまり、残り物であるランスは、もう一人の余りと組むしかない。微妙な顔を浮かべる運営委員から背を向け、近くにあったソファーに座る。

 

「せめて選べればな...」

 

戦略上、自分の戦い方にとって有利なをペアにしたかっだがもう決定したものは変えられないらしい。

 

「「はぁ...どうしよう......?あ」」

 

隣で全く同じようにため息をつく相手は、強気そうな女だった。

 

「もしかして、あなたもあまり?」

「あ、あぁ...」

「そっか...」

 

ランスは余っていたのがてっきり男かと思っていたが、童顔で、かわいげな女だったため少し動揺してしまった。

 

「俺の名前は...ランス・セブンだ」

「私はガーナ・シンディ。よろしくね」

「よろしく。シンディ」

「...これから、どうする?」

「そうだなぁ...まずは、エントリーするか」

「あ、そうね」

 

聞き取りやすい声で話してくる彼女を背に、もう一度受付へ戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あのあと、「お互いの魔法とか知ってた方がいいんじゃない?」とシンディに言われ、彼女が好きだと言う『ホットカフェ』に来ていた。

 

「それで、次から二人で戦うわけだけど...お互い得意魔法とか、旧魔だし固有魔法とか話した方がいいかな?」

 

乾杯をしてからしばらくして、唐突にガーナが話だした。

 

「そ、そうだな。じゃあ俺から...固有魔法は地面を操れるもので、得意魔法もそれだ」

 

少し動揺しながら答えたランスにガーナは気づくことなく手を顎に当てて考える仕草をしていた。

 

「地面魔法ってマイナーだよね...そんなに難しい魔法じゃないけど使う人はそういないし、ましてや固有魔法でなんて......」

「マイナーで悪かったな。これでも便利なんだぞ?好きなところで土を盛り上げさせて椅子にしたり、遠くの物を坂作って転がしたり」

「私達戦い方を相談してるんだよね?」

 

実際、友人にも『珍しいよな』とよく言われていたランスはメリットを話すも、相手には理解されなかったようだ。

 

「戦闘だと...土をトゲみたいに出せる。以外と便利だぞ?相手は空に逃げるしかないし」

「固有魔法だとそこまでできるんだ...」

 

固有魔法でも、普通に使える魔法の強化版のようなものもある。その場合、他の人よりバリエーションが増えたり、熟練速度が速かったりする。

 

(固有、というより得意な魔法。って感じだが...)

 

「だいたい分かったかな?そしたら次は私だね。私の固有魔法は...水なんだ」

「水?氷じゃないのか?」

「氷は使えません!」

「お前もマイナーじゃないか」

「純水おいしいんだよ!?」

「戦闘で水飲んでる場合かよ!」

 

基本的に水魔法を使う人は、氷魔法を炎で溶かして使うか、水を凍らせて氷魔法として使えるのだが、彼女はそうではないらしい。メリットとしては、水を作る工程を一つ飛ばせるということくらいだろうか。

 

「得意魔法は?」

「それが一番得意だよ」

「...ま、旧魔のほとんどが自分の固有魔法を得意だって言うしそんなもんかな。にしても...俺達相性悪すぎだろ」

「......その通りだよ!なんで土と水なの!!風と炎とかなら協力したりできるのに!私が水の時点でダメだけど!」

「お、落ち着け落ち着け。ここ他の客もいるから」

 

キレだすガーナを必死で宥めた結果、なんとか静まった。周りの目が少し厳しくなったのは気のせいだと思いたい。

 

「はぁ...どうしようか」

「もう変えられないし、相手の分析をしようぜ。例えば...」

「お待たせ致しました。ご注文のチーズケーキと梨のタルトです」

「「あ、はい...!!?」」

 

頼んでいたデザートを運んできた相手をみて驚く二人。そこには、店員の服に身を包んだ大会の出場者がいた。声を聞く限りさっきの飲み物もこの人物が運んで来たんだろうが、緊張していて全く気づかなかった。

 

「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ...ありがとうございます」

「いえ。では失礼致します。ご用がございましたら声をお掛けください」

 

かしこまった礼をしてスタスタとテーブルを離れていくのを見て、二人は互いの顔を見た。

 

「...今のって、カムイって奴だよな?」

「そうだね...こんなところで働いてるんだ」

「まぁ、イケメンだしな...なにやってもモテるんだろう」

「そう人のこと言う立場でもない気がするけど?」

「そいつはどうも」

そう言ってクスクス笑う二人。余談だが、この時カムイ____アハトは厨房でくしゃみをしていた。

 

「じゃあ、まずあいつの話をするか。なんかあったっけ?」

「...一回戦の時は、何故か凄い勢いで自分から壁にぶつかったけどなんとか勝って、二回戦は剣を一回振っただけ...」

「謎だらけだな。強化魔法くらいしかわからないぞ...」

「ペアってなってた子はかわいい子だよね?」

「あの薄紫髪の?」

「うん。確かユーノちゃんだったかな?魔法は動物っぽい魔力を出すやつ...」

「...土で貫けんのかな?」

「そのくらい弱いことを祈るよ。他は____________」

 

二人は、さらに会話を進めていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃあ、また明日」

「またね!」

 

結局、夕方になってまで出した結論は、明日になって相手が分からないと対策のしようがないとしてお開きとなった。ガーナと別れたランスはここ数日予約している宿の寝室で寝る準備をする。

 

「にしてもなぁ...」

 

ランスはシャワーを浴びながら今日初めて会話した彼女のことを思い出していた。

 

(ガーナ・シンディか)

 

あのあとは特に緊張することなく話せたので、普通に楽しむことができた。

 

(俺の周りはあんな感じのいなかったし。可愛かったもんな...って!)

 

「ちょっと話しただけでこれはないわ」

 

これじゃまるで変態じゃないか。ランスはそんな邪念を振り払うように頭をゴシゴシと洗った。

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「よう、昨日ぶり」

「おはよう」

 

次の日、会場で合流した二人は対戦相手を確認した。相手は、

 

「昨日のか...」

「カムイ、ユーノかぁ...」

 

控え室に向かいながら、憂鬱そうに呟く。

 

「「はぁ...」」

 

同時につかれたため息は儚くも消えていく。

 

「こうしていても無駄か。どうするか考えようぜ」

「そういえば、なんでこの大会に出たの?」

「思いっきり話変えるのかよ...ま、いいか」

「それでそれで?」

「俺の固有魔法の話はしたろ?それを昔馴染みからよく使えない魔法呼ばわりされててな。見返してやりたいと思っただけさ。この大会も見に来てるしな」

「へー...」

「そういうお前は?」

 

お前と呼ぶことに、抵抗は全くなかった。

 

「私は優勝賞品の最強回復薬、エリクサールが欲しいんだよね」

「あ、体調どころか魔力も一瞬で復活させるっていうあれか?」

「そう。弟がさ......少し不味くて」

「そう、なのか...」

 

急激に深刻な話になって不安になる。そっとガーナの顔を覗くも、表情は見れなかったが。

 

(弟を案じているんだろうな...)

 

この、気持ちは。

 

「じゃあ、俺はお前のために頑張ろう」

「え?」

「俺は、お前のために大会を優勝する。その方が頑張れるから。だから一緒に頑張ろう」

「...ありがとう」

「くっ...//」

 

我ながら気取った台詞と、なかなか見ない女の笑顔に思わず照れてしまう。

 

「ほら、時間だ!行くぞ!」

「あ、ちょっと!」

 

赤くなった顔を誤魔化すため、ランスはガーナの手を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

「......ありがとう」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「んうぅ...ここは...?」

 

午後。医務室。ランスはベットで寝かされていた。

 

「痛っつ...あ、そうか.....」

 

あのあとの準決勝で、黒髪の男、カムイと呼ばれている方が普通ではあり得ない速度で突進をしてきた。出来たことといえば、強化魔法でダメージを軽減したくらい。そこからの記憶がないということは、気絶したんだろう。

 

「あんだけ言っておいて...恥ずかしいじゃねぇか」

 

頭に巻かれた包帯を無造作に取りながら舌打ちする。血はにじんでいない。分かっていたからこそ包帯を取ったんだが。

 

(過保護な医者さんだ...)

 

「ん...ぁぁ」

「!大丈夫か!?」

 

小さな声がした隣を覗くと、そこにはランス以上に包帯が巻かれたガーナがいた。

 

「ここ...は?」

「医務室だ。すまない...負けてしまって」

「あぁ...そっか。負けたんだ」

 

悲しげな顔をするガーナ。少し震えて腕を抱える彼女がなんだかよくない気がして。

 

俺は自分のベッドから降り、彼女の手を握った。

 

「なにを...」

「俺はお前のために勝つと言っておきながら、なにもできなかった...それは謝るしかない。でも、優勝した連中に土下座でもなんでもするから...」

 

弟のために、泣かないで_____

 

 

 

 

 

「おねーちゃーん!!」

「あ、ティス!」

「くれ...って、え?」

 

医務室を訪れた子供が、ガーナに飛びつく。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「うん。ティスが来たから体調治っちゃった!」

「よかったー!」

「あー...悪い、シンディ」

「ん?なに?」

「その子は?」

「初めまして!ティス・シンディです!よろしくお願いします!」

 

ハキハキと喋るティス君。姉弟そろって元気そうだ。

 

「いや、そうじゃなくて」

「じゃあなに?」

「お前の弟って、重病なんじゃ...」

「そんなこと言ってないけど?」

「うん、そうだけど...不味いってさっき」

「不味いよそりゃ。熱出てたんだもん。もう治ったみたいだけど」

「エリクサールがいるくらいなんじゃ!?」

「弟が熱を出してたのよ!最高の薬を用意するのが姉ってものでしょう!」

「...悪かった。ブラコン」

「ブラコンじゃないし!過保護なだけだし!」

 

過保護って自覚はあるのな。という声は出さなかった。

 

「でも、ランスも恥ずかしいことばっかり言ってさ...」

「忘れろ!!」

「やーだねぇ!」

「ランスさん、ランスさん」

「なんだ弟。今からお前の姉ちゃんボコるから少し待っててくれ」

 

煽られたことに対する怒りが込み上げて来たところで、ティスはランスの耳元で、

 

「お姉ちゃんが男の人の下の名前を呼ぶなんてなかなかないんですよ?」

「それがどうし...」

 

 

 

 

 

『でも、ランスも恥ずかしいことばっかり言ってさ...』

 

さっき言っていたことを思い出して思わず顔が赤くなる。

 

「だから、これからも仲良くしてあげて下さい。ああ見えてうぶなんで」

「.....お前の方がヤバイことは胸に刻んでおこう」

「二人でなに話してるのさー!」

「うるせぇブラコン!」

「なにをー!」

 

医務室は、それから暫く賑やかだった。

 

 




お久しぶりです。まずは、ここまで遅れて申し訳ありません。

やっとちゃんとした状態で書けるようになったので、更新を再開します!

...学生特有のアレのせいで、またしばらく空きますけど...これからもよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編Ⅳ

旧魔王都『ストライク』に建てられている一軒の一室。

 

「これで...よーしっ!できたよ!」

「...ありがとう」

「いいのいいの!私とメイちゃんの仲でしょ?それに、この前みたいなことがあったら困るからね!」

「...ありがとう」

「だから、ありがとうは別にいらな「ありがとう」い...はい!わかりました!じゃあ、使いこなせるよう頑張ってね?明後日でしょ?」

「...必ず」

「うん!その意気だ!」

 

二人の女性の言葉が、飛び交っていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

この二人の最初の出会いは、ここ王都だった。

 

王都の中でもひときわ目立つ城。そこでの仕事を求めて来る人は毎年増え続けている。仕える相手は王女。そこに一番近い職場とあれば、待遇が良いと考えるのは当然だった。

 

しかしそれは、同時に難関な道でもある。毎年応募者の内、入れるのは両手で数えられる人数。

 

しかし彼女たちは、高い実力で入団試験に合格し、今この仕事____城での勤務を行っている。

 

試験が終わってから知り合った彼女たちは、お互いの性格が良かったわけではないものの少しずつ仲良くなり、今ではルームメイトにまでなっている。

一方は明るくお喋りな親友を見守る彼女。一方は普段寡黙な親友を理解している彼女。

 

この二人の名は後に、最強の王女の護衛(クイーン・ナイズ)の一人として呼ばれるメイル・セリカと、王家の鍛冶屋(ロイヤル・オーダー)と呼ばれるエルマ・メルエストだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「正直、素材持ってくるなら怪我する前に持ってこいって話だけど...」

「...少ししくじっただけ」

「それが不安なんです!」

 

メイルには、軽くだが肩に包帯が巻かれている。前回の探索で魔物に襲われできた傷だった。

 

「にしても、こんな武器を頼んでくるなんてね...」

「...まさか、以前の古跡(ファーデン)探索で手に入った物が透明結晶(クリスタ)だったなんて...」

「私も実物を見たのは二回目だったから、直ぐには気がつかなかったよ。じゃなくて」

「?」

「私が言いたいのは、なんで注文が斧だったのってことよ。普段使ってるのは剣と槍の間みたいなやつでしょ?」

「...昔は、斧を使ってた。今違うのは、周りに合わせようとしたから...」

「へぇー...まぁ、大きな武器だと連携とりづらいしね」

 

そう言ってエルマが、先程まで自身の手で作っていた武器を一瞥する。

 

そこには、透明な線が所々に入った大きな斧があった。

 

メイルが仕事で行った『遺産』が多く手に入る場所、古跡(ファーデン)。城の仕事には、より国を豊かにする道具を探すためとして古跡の探索が入っている。エルマは戦闘員ではなく武器の調節などの作業班のため行けないのだが。

 

そこでメイルが私物として持って帰ってきた透明結晶を使い、エルマが作ったのがこの斧(ハルバート)だった。

 

「...でも、怪我してでも取ってきた価値はある。凄く軽い」

「ちょっ、部屋の中で振らないで!」

 

感触を確かめるためにメイルが斧を持ち上げるも、大きいため天井につきそうになる。慌ててエルマが止めると、メイルはしぶしぶ元の場所に置いた。見た目より軽い、と言うだけで普通では持ちずらい重さだが、メイルはそれを感じていないように見える。

 

「まぁ、頑張った甲斐あって最高の出来なことに変わりはないからさ」

「...流石」

「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」

「...いい」

「んなぁ!」

 

漫才のようなやり取りの中でメイルが少し微笑んだのは、周りに人がいたとしても気づいたのはエルマだけだっただろう。

 

「...バルバトス」

「え?」

「...この子の名前」

「え、この斧の?」

「...うん」

「名前つけて貰えるのはうれしいけど...なんでバルバトス?」

「...本に載ってた悪魔のように、相手を倒したい」

「それはそれで怖いなぁ...ま、本人が気に入ってるなら良いか」

「...ありがとう。エルマ」

「...突然名前呼ぶのは反則......」

「?」

「なんでもない!ほら、さっさとイメトレでもする!明後日でしょ!?」

「...分かった」

「うん、頑張って!」

 

そうして、その日は更けていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

城で働く人の中でも、最高の仕事と呼ばれるものがある。

 

それは、王女アリスの護衛。クイーン・ナイズと呼ばれるボディーガードだった。

 

姫様が移動される場合は必ず側について暗殺などに警戒する。命懸けで王女を守ろうとする人々は、ほとんどの人の憧れの仕事だった。もっとも、そんな危険は滅多にないが。

 

しかし、その道は狭き門であり、合格した人は毎年おらず、ごくまれに一人、その道につける程度。

 

その合否を決める試験が、明後日行われるのだった。

 

そして。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ではこれより、審査を始める。一応おさらいするが、今回の希望者三人で総当たり戦を行ってもらい、我々が合否を判断する。問題ないな?」

 

こくっと三人が頷く。三人の内、一人はメイル。一人は現兵士ルサヘム・クゥウィッチ。そして、もう一人が__

 

「ではまず、クゥウィッチとアインツ。前へ」

「「はい」」

 

アイオス・アインツだった。

 

(...アイオス・アインツ)

 

メイルが思い出すのは、三ヶ月前、城に就けるかどうかを決める試験の時だった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『nephrite・enable』

王都の試験、特に戦闘面で受ける人はとても厳しい採点がされる。魔力のテスト、試験監督者との一騎討ち、集団戦闘まで。

 

メイルはその時、古跡調査時にそこを住みかとしている魔物と戦えるかをチェックするため遠征をしていた。参加者ほぼ全員が来ている。

『ガァァァ!』

 

見つけた魔物に固有魔物で後ろをとり、細剣(レイピア)を使って倒す。今のメイルの基本スタイル。

 

(今ので五体目...)

 

他の参加者たちは皆まだ三体程度だろう。少し休もうと座りこんだ瞬間、

 

『pgyy!!』

「っ!」

 

突然地面から現れた魔物に足を捕まれる。

 

(気を抜いたのが間違いだった!!)

 

魔物は剣を抜く前に爪をたて体に突き刺さる_____

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

ことはなかった。まるで何かに潰される様に、もぐらみたいな魔物がへこみ倒れた。

 

声がした方を振り返ると、アイオス・アインツがたっていた___

 

何をしたのかは分からなかったが、助けられたのだけは分かる。だからこそ、

 

「...なぜ助けたの?別に助けなんていらなかったのに」

「...気まぐれだ」

 

そのまますたすたと別の方に行くアイオスを、メイルは睨み付けるだけだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

個人的な逆恨み、と言われればそれまでだろう。だが、メイルはあのときの彼の態度に腹が立っていた。自分はお前に助けられる程弱くはない、と。

 

(見返してやる)

 

「じゃあ、始めろ」

『full・wind!』

『Akasha・fefnir』

 

審判の合図の直後、二人が固有魔法を唱える。クゥウィッチの魔法は風の刃を生成するものだと前から分かっている。

 

「一気に終わらせる!」

 

自身の周囲に風の刃を停滞させる。その数およそ30。独立した魔法をそれぞれ操るのは高度な技術で、流石にこの試験に出るだけあって実力はかなりのものらしい。

 

「いけ!」

 

それを一気に解放し、全てアインツの元へ飛んでいく。しかし、

 

「......」

 

当の本人は微動だにせず、目だけを動かして数を確認した。その瞬間。

 

「なっ!」

「!!」

 

風の刃はアインツに届く前に全てなくなってしまった。まるで壁に当たったかのようにぶつかる音がしたが、その正体がなんなのかわからない。審判を含め全員が驚愕した。

 

「...終わりだ」

 

そして彼は、指先から氷の槍を作り、彼の喉元にピタリと当てた。一歩も動いてないことから、その長さは15メートル。クゥウィッチの方は、動かない_______いや、動けないように見えた。これも魔法の一種なのだろうか、それともただの恐怖からなのか。

 

「...すごい」

 

思わず呟いてしまった一言は、メイルがかなり驚いているのを表すには十分だった。

 

「...この勝負、アインツの勝ちだ」

「あっけないな。本当に」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「続いてセリカとクゥウィッチ」

「...はい」

「はい...」

 

すぐに二回戦が始まる。落ち込んでいる者の相手をするのはスッキリしないが仕方がない。自分は勝たなければならないのだから。

 

「流石に次は勝たないとな...」

「...潰す」

 

まるで余裕だ。ともとれる一人言に腹が立ち、力を込めて両手に握ったバルバトスを構え、呼吸を整える。負ける気はしなかった。

 

「試合開始」

『full・wind!!』

「...バルバトス」

 

クゥウィッチはさっきと同じように風の刃を生成する。数はさっきより多いかもしれない。それに対しメイルは、固有魔法を唱えずに両手を高く上げた。

 

(...数で攻めてくるなら、それを覆す強力な一撃があればいい)

 

バルバトスに使われている透明結晶に、魔力を注ぎ込む。魔力を得た部分が透明からわずかに白く輝き出す。

 

「今度こそ!!」

 

合図と共に放たれた風。一つ一つが体を引き裂く威力のそれを、

 

「...!!」

 

全力で降り下ろしたバルバトスによってできたエネルギー波で全て破壊してみせた。地面に亀裂が入り、突風が起こる一撃。

 

「...これが、バルバトスの力」

 

感嘆しながらもひるむ相手に近づいてバルバトスを頭に降りおろす直前で止める。相手の涙混じりの顔を、メイルはしばらく忘れないだろう。

 

「セリカの勝ちだ。最後にアインツとセリカ」

「はい」

 

クゥウィッチと入れ替わりでアインツが目の前に立つ。休憩の時間はなかったが、早く戦いたいという思いの方が圧倒的に高かった。

 

(この武器の力...もっと試したい)

 

「準備はいいな」

「はい」

「...すぅー、はぁー。大丈夫です」

 

深呼吸をして落ち着いてから、相手の灰色の瞳を睨み付ける。その奥は炎が出ているように見えた。

 

(...負けない)

 

「では、始めろ」

『nephrite・enable』

『Akasha・fefnir』

 

合図と同時に固有魔法を唱え、アインツの後ろに瞬間移動で回り込む。相手がどんな魔法を使っているのか分からない以上、短期決戦に持ち込むのが得策だ。

 

バルバトスを振るうも、気づく様子は全くない。

 

(...貰った)

 

「そこっ!」

 

振るった斧は、なにもない空間にガギンッ、と何かとぶつかる音と、手に強い振動が伝わるだけだった。

 

「...弾かれた?」

「シッ!」

「!!」

 

感触を確かめる暇もなく襲いかかってくる炎を避ける。次の布石にもなるように、今度は今いる反対側、最初の正面へ。

 

「!?」

「...今度こそ」

 

アインツが驚くのも無理はない。普通、固有魔法は詠唱しなければならず、一度移動したら詠唱し直さなければならないと考えるだろう。だが、『nephrite・enable』は一定時間なら何回でも移動でき、詠唱し直さなくてすむ。

だから、完璧ではないとはいえまた不意をついた一撃 。未知の魔法を使う相手でも、一撃入れられたら勝てる。

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

 

 

「...」

「...な」

 

体に当たる直前、なにかに当たって火花が散る。そのまま力を込めるが、アインツには届かない。その手前が歪んでいるように見える。

 

「終わりだ」

「...まだ」

 

力の跳ね返りが強くなり、一度距離を取る。

 

(...なにか操っている...でも、なにを?)

 

「こないのか?」

「...」

 

静かに自分の強化魔法を最大まで高める。ドウッ、と音がして地面が震える。

 

アインツを守っているなにかごと、砕く。その決意を持って、メイルは足を再び踏み出した。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

あれから何分たったのか分からない。もしかしたら数秒かもしれない。メイルはバルバトスを振り続け、アインツが自分の体に当たる前に防ぎ続ける。自分が辛い顔をしていると自覚していた。だが、それだけの収穫はあったと思いたい。

 

まず、このバルバトスの強さ。強者と当たって初めて分かった。

 

(...魔力を込めれば込めるほど固くなっているのが分かる。今までのは本気で使うとすぐダメになるけど、これは凄い)

 

本当にエルマは良いものを作ってくれたと、自然に微笑んだ。

 

「なにを笑っている?」

「...この武器の強さを分からせてくれたこと?」

「疑問系で返すな」

 

話してる間も高速でバルバトスを振るうが、全て弾かれる。だが、その正体ももう気づいていた。

 

「...空気の応用」

「......戦闘中に気づかれたのは初めてだ」

 

正確には空気の圧縮だろうか。自分の周りの空気を魔力で押して固め、一瞬だけ剣や斧を弾けるだけの固さを持つ。圧倒的な空間認識能力と、周り全てを覆えるだけの魔力量がなければ出来ない高度な技術。

 

「...凄いと思う」

「誉められて悪い気はしない。だが、ここまで予測出来たかな?」

「...!」

 

転移して振りおろそうとしたバルバトスが動かなくなる。そして、自分の体も。

 

(...これは...私の周りにある空気を固めて、動けないようにした!?)

 

型にはめられたように、ピタリと動かなくなる。これでは転移もできない。それを見て初めてアインツが笑った。

 

「さぁ、詰みだ」

 

そして、炎魔法を向けられ____

 

(...やられたくない)

 

放たれる。

 

(...まだ)

 

それは、そのまま吸い込まれるようにメイルに、

 

 

 

 

 

(...まだ!!)

 

魔力全てをバルバトスに込める。白く輝く光が溢れ、ピキリと刃先の周りから音がする。

 

「...貫け」

 

閉じられたままの口から発音することは出来なかったが、バルバトスの刃先から、全てが砕け散る。枷がなくなった自身の武器は炎を切り、その衝撃波が相手の間近の地面を抉りとる。

 

「な、なんだとっ!?」

 

こんなことは想定外だったのだろう。口が開きっぱなしのアインツの顔は驚愕の色をしていた。その顔を見て逆にこちらの口角が上がる。

 

「...これで、」

 

 

 

 

 

終わりだ。

 

 

 

 

 

転移して相手の目の前に立ち、自身の最大まで魔力を込め、降り下ろした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...ここは」

 

寝ぼけていた意識を覚醒させると、なぜか城の医務室にいた。

 

「...試合は、アインツは......」

「いきなりなにやってるんだ。お前は」

「...」

 

起き上がるのを止められ、声のした方を見ると、アインツがあきれた顔をしていた。

 

(でも、どうして...)

 

「...なんで」

「はぁ...お前は倒れたんだよ、原因は魔力の著しい欠損。不思議な武器だったが、自分の武器にどれだけ魔力をとられているのか分からなかったのか?」

 

器用にお茶を飲みながら肩をすくめるアインツ。

 

「...心配してくれた?」

「ぶふっ!!」

 

お茶吹いた。

 

でも、医務室にアインツしかいないこと、自身の容体をわかっていたこと、そして_____メイルの頭に濡れたタオルがかけられていること。これで察せない方がおかしいくらいだった。

 

(...初めて会った時もそうだったけど、こいつは、悪いやつじゃない)

 

冷静になって考え、感情が急激に冷えていく。

 

(それなのに私は、逆恨みがなんだというのだ)

 

「...はぁ」

「......悩みごとか?」

「...ここにいるってことは試験落ちたなぁって」

 

なんとなく悟られるのが嫌で、試合に負けたことが悔しいのだと思わせる。

 

「それなら問題ないぞ。俺達二人とも試験には合格してるから。落ちたのはクゥウィッチだけだ」

「...え?」

 

しかし、そんなメイルの想像は完全に裏切られた。

 

「試験監督様は俺達が必要だと感じたらしい。あの試合だって、本来は能力を見るものであって勝ち負けは関係ないからな」

「...あ」

 

言われてみれば、確かにその通りだった。

 

「...聞いてもいい?」

「なんだ?」

「...初めて会った時、私が弱いから助けたの?」

「はぁ?なんの話だ?」

「...いいから」

「えーと...あ、あの時か。いや、あの時も言ったが、ただの気まぐれだ」

「...本当に?」

「なんで疑うんだ?」

 

これ以上口論しても無駄みたいだった。自分の考えてたことが恥ずかしく感じる。

 

(......顔赤くなってないかな)

 

普段異性と話すことのないメイルは思っているより気分が浮かれているようだった。とっさに自分を戒める。

 

「...俺からも聞いていいか?」

「...なに?」

「どうして、この試験を受けようと思ったんだ?」

「...私は別に、王女様に忠誠を誓うとか、そんな気持ちはない」

「だろうな。そんな感じする」

「...でも、この国に必要な人だっていうのは分かるから。私は、この国を平和にしたい」

「随分大きく出たな」

「...この国が好きだから」

「なるほどなー」

 

友人がいて、なんとなく平和に暮らせるこの場所が。

 

「...むしろ、貴方は何故?」

 

クスクスと笑っている彼に同じ質問を問いかける。正直、王女のために、などとは微塵も思っていなさそうだった。

 

「俺か?俺は...今自分が幸せなのか分からなくてな。確かめるためにもっと世界をみたい。そのために今一番偉い人の近くで働こうと思ったんだ」

 

そうすれば、きっと何か見えるはずだから。

 

そう言って柔らかな笑みを浮かべるアインツ・アイオスに、私は素直に好感を抱いた。

 

「ま、何はともあれこれから同じ職場だしな。よろしく頼む。同期として」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「_____ん。メイ___!」

「......」

「メイちゃん!!」

「はぁい!?」

 

突然の大声で目が覚める。どうやら寝てしまっていたらしい。

 

「あ、夢かぁ...」

「夢かぁじゃないよ!何回も起こそうとしたのに!」

 

ずれていた眼鏡をかけ直すと、隣にいる彼女_______エルマが怒ったように話しかけてくる。全然怒ってないけど。

 

突然訪れたてきたユーノやアハト、ノクスから別れてから七日目。メイルは旧魔王都『ストライク』に来ていた。目的はバルバトスの調整を親友に頼むことと、

 

「ごめんごめん」

「全く...これから王女様と会うんでしょ?少しは緊張とかしないの?」

「あの子でしょ?するわけないじゃんエルマはするの?」

「いや全然」

「知ってた。それ」

「昔からの仲だしね...そう昔でもないけど」

「...んじゃ、行ってきます」

「聞けし...行ってらっしゃい」

「バルバトスよろしく」

「はーい」

 

ドアを開け、手を振ってから閉める。夢のせいか気分が良かった。

 

「...世界を見た結果、妻を見つける......か。今度からかってやろ」

 

 

 

 

 

だから早くここまで来い。そしてまた一緒に。

 

「よし!」

 

メイルは首を少し振ってから、以前自分が働いていた城に向けて歩きだした。

 

 




気づけばもうクリスマス間近!投稿遅れてしまって申し訳ないです。

これも全部ジージェネってやつの仕業なんだ...

感想、評価ございましたらよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定集(三章時点)

ユーノ「こんにちは!ユーノ・アインツです!」

 

ノクス「こんにちは!ノクス・アカーディアです」

 

アハト「いったいなんなんだ...」

 

ユーノ「今回は特別編ということで!三章終了時点で何が起きているのか、また登場キャラなどを台詞形式で纏めようと思います」

 

ノクス「察しの良い人は気がつくだろうけど、先に。若干のキャラ崩壊、メタ発言が苦手な方、こんな物語設定見なくても読めるわい!という方は飛ばしちゃって下さいね?あ、でも後半は真面目な説明もあるので、後半だけ見るのもありです!」

 

アハト「で?」

ユーノ&ノクス「「?」」

 

アハト「本音は?」

 

ユーノ「作者もグダクダで分からないところだらけなので確認したいと...」

 

ノクス「元から見切り発車だからねぇ...」

 

アハト「...どうしようもねぇな。さっさと終わらせるぞ」

 

ノクス「説得は諦めたんだ...じゃあ、みなさんゆっくりしていってね!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ノクス「まずは世界観の説明だね。アハト!」

 

アハト「俺かよ...この世界は、頭に大きな角が二つ生えている古くからの魔族、旧魔と、その旧魔から生まれた新魔。主にこの二つの種族がいる場所だ」

 

ノクス「他にもエルフとか、普通の人間もいるしね。私とかそうだし」

 

ユーノ「ちなみにアハト君は新魔、私は旧魔です。あとは、言葉を理解できず、人を襲う魔物もいます」

 

ノクス「この二つの種族の違いは、

新魔の方が新しい魔族......旧魔より後に出来たらしい人々のであること

、角の大きさが旧魔の方が大きく、新魔は髪に隠れるくらいなこと、固有魔法の有無とかかな?」

 

ユーノ「固有魔法っていうのは、旧魔一人一人がオリジナルでもってる魔法のことです。この世界には炎、氷、電撃、風などの基本魔法があります。肉体強化も含みますね。イメージとしてはドラゴン○ールの気とかを思い浮かべてくれればオーケーです。それらを組み合わせて作る魔法を応用魔法、そこに属さない魔法を固有魔法と呼びます」

 

ノクス「例えば炎を出すのが基本魔法で、風を混ぜて熱風を作ったりするのが応用魔法、瞬間移動だったりが固有魔法だね。」

 

ユーノ「ちなみに、固有魔法はそのほとんどが旧魔でしかできず、新魔は出来る人でも魔力消費以外の条件があることから限定魔法と呼ばれます。代わりに、私たち旧魔は何かに特化していることが多く、新魔はバランスよく何でも出来る人が多いです」

 

アハト「そして、物語の発端は新魔と旧魔の関係が悪化していることだ。新魔は最近現れたばかりで、歴史として出てくるのは300年近く前。それより前は元々、旧魔しかいなかったらしい。急に現れた新魔がなんでもそつなくこなせることから他の種族から引っ張りだこにされた」

 

ノクス「まぁ、やれることが限られた特化型の旧魔より、安定してこなせる新魔の方が手伝わせるなら良いよね。日常生活だったら固有魔法が役にたつことも少ないし」

 

アハト「そしたら今まで必要とされてた旧魔が怒り、それが元で一時新魔側につく人が多く、この300年という歴史で、昔からある旧魔とほぼ同じ力を新魔は得た。だが、その歪な関係のまま来てしまったため、今では同じ種族でも住んでる地域によって、相手の土地から離れようとする人達や、戦争一歩手前の人達。逆に、今でも一緒になって暮らそうとする人達と様々となった」

 

ノクス「そこに痺れを切らしたのが新魔側。現旧魔王女、アリス様を暗殺するため、極秘で元々アハトがいた部隊を送りつけたんだ」

 

アハト「周りにバレないようにするため、大きく遠回りをして向かったな」

 

ユーノ「世界地図が四角形として、左上に新魔王都『クロスベル』が、右上に旧魔王都『ストライク』があります。アハト君が通ったルートは、下向きの半円みたいな形ですね」

 

アハト「これは、周りに悟られないようにするだけでなく、ど真ん中に縦に連なる『レベル山脈』を避けるためでもある。なかなか標高が厳しい上、魔物もかなりいるらしいからな。それに対し、南は『アリスト』の森で、楽が出来るからだ」

 

ノクス「でも、アハトの部隊は秘密利に動く特殊部隊だったから、なにか失敗したらバレない内に戻るよう言われてたんだよね。でも...」

 

アハト「結果は失敗に終わっている。新魔と旧魔が争うのはおかしいと考えていた俺は部隊を抜け出した。今頃あっちは『クロスベル』に戻っている頃だろう。そして俺は...着いた町でユーノに出会った」

 

ユーノ「『アリシア』の森の少し東、田舎町『シオン』に住んでいた私は、突然現れた新魔に驚きながら、アハト君の話を聞きました」

 

アハト「今新魔では旧魔に戦争を仕掛けようとする気持ちが強まっている。だからこそ俺がいた部隊が出たんだがな。それを止めるには旧魔の人を新魔領まで連れていき、皆を説得して貰うのが得策だと考えた俺は、その相手としてユーノを選んだ」

 

ユーノ「アハト君がもといた特殊部隊と会わないようにするため、私たちはお父さんの友人で、瞬間移動の固有魔法の使い手であるメイルさんの元へ動き始めました」

 

ノクス「それで、旅の途中で私に出会い、今は無事新魔領まで着けたところだね」

アハト「王都までひとっ飛びかと思ったら、かなり手前の町で困ってる。そんな現状だ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ユーノ「次は各キャラの紹介です。自己紹介します。アハト君から!」

 

アハト「なんで俺なんだよ...えーと、アハトだ。カムイ・テイカーは偽名」

 

ノクス「なんだかんだで始める人(^-^)」

 

アハト「やめろや!...こほんっ、年は17、好きな食べ物は甘いものだ。ケーキとか」

 

ユーノ「私たちの世界では18で成人だからもうすぐ大人だね」

 

ノクス「外見的な特徴は、黒目の少しぼさっとした、でもストレートに近いしてる短めの黒髪、男っぽい体、絶壁を思い浮かべてくれればいいよ!」

 

アハト「絶壁じゃねぇし!だいたい髪の話矛盾してるじゃねえか」

 

ノクス「ご想像にお任せしますってやつじゃないかな?」

 

アハト「都合良すぎるだろ...」

 

ユーノ「服は私のお父さん...アイオス・アインツから貰った黒服を使ってたけど、今は私があげたフード付の服に変えたよね?」

 

ノクス「イメージとしては某黒の二刀流使いを思い浮かべてくれれば大丈夫だよ」

 

アハト「ユーノから貰ったのは、白とか金のラインも入ってるし、首回りとか毛で覆われてるけどな」

 

ノクス「得意魔法は氷と電撃、他にも基本魔法は全部使えるよね?」

 

アハト「限定魔法は『image・replica』。自分の想像したものを一つ作れる魔法だ。基本これでエクスシアって名前の剣を作って戦う」

 

ユーノ「『image・replica』を使っている間は他の魔法が強化魔法しか使えないからね」

 

アハト「戦闘では剣を使うな。さっきいった通りエクスシアを。あれは俺が作ったオリジナルだ。別の剣はまだ難しい...上手く想像して作らないと、実践で使えないくらいの酷いものが出来る可能性があるからな。他には、槍とか、短剣とか、鎌とかにも手を出したことはあるな」

 

ノクス「次は私かな?ノクス・アカーディアです。アハトと同じく17歳で、好きな食べ物は魚かな?」

 

ユーノ「外見は赤みがかった黒目、赤い短髪、あとは...」

 

アハト「俺と同じくらい胸なし」

 

ノクス「アハトよりあるし!それに貧乳はステータスだし!」

 

アハト「こいつ何言ってるんだ...」

 

ユーノ「服装は、おへそが丸出しのシャツに、ホットパンツです」

 

アハト「信じられないくらい軽装だよな...」

 

ノクス「理由は知ってるでしょ?『遺産』を持ってる男にすりよるため!今はこの服装が気に入ってるんだけどね」

 

アハト「詳しくは二章を見てくれ」

 

ユーノ「魔法は...なにも使えません。人間なので」

 

ノクス「代わりに、『遺産』を使ってるけどね。あ、『遺産』の説明してない!」

 

アハト「『遺産』って言うのは、昔の文明が作って、今は地面に眠ってるものだ。恐竜の化石とかと一緒だな。俺達はそれを掘り出して使っている」

 

ユーノ&ノクス「さすが説明係」

 

アハト「誰が説明係だ!」

 

ノクス「私は魔力を蓄えて使える魔力石だったり、魔力を少し防げるこてで戦ったりしてるね。ちなみに私が男にすりよって男のことが嫌いになったのは、『遺産』が好きだからだね。安く買おうとするため努力したから...」

 

ユーノ「希少な物も多いですし...私がノクスさんから貰った短剣も『遺産』の一つですし」

 

ノクス「エルフから貰ったのを渡しただけだけど」

 

アハト「俺が使ってるポーチもそうだな。見た目以上に物を入れられる優れもの」

 

ユーノ「戦闘スタイルは...確かにこの間までは『遺産』メインでしたけど」

 

アハト「今は暗殺拳みたいなの使ってるからな...相手の死角に入り込むとかマンガかよ」

 

ノクス「自分で考えた剣で戦う中二病がそれ言う?」

 

アハト「くっ...」

 

ノクス「メイルから教わって、今は短剣での近距離戦闘が得意かな?詳しくは三章を見てね」

 

アハト「じゃあ、最後にユーノ」

 

ユーノ「ユーノ・アインツです。年は14歳で、好きな食べ物はキャラメルとか、クッキーとかのお菓子です」

 

アハト「外見は、薄紫の長髪に旧魔特有の大きめの角、水色の目。ってとこかな?」

 

ノクス「皆そうだから気にしなかったけど、肌の色は白っぽいよね」

 

ユーノ「服はワンピースみたいな物に、上着を羽織ってます」

 

アハト「それで、魔法は...」

 

ユーノ「...固有魔法は『fog・beast』です。強化魔法と同じ無属性の魔力の塊を三つ、動物の形にして出します」

 

ノクス「体当たりとか普通に痛いし、弱い魔力ならもろともしないよね」

 

アハト「...ユーノは周りから見ても魔力量が多い。だから強いんだが......」

 

ユーノ「...制御が出来なくて、基本魔法も使いずらい状況です!」

 

アハト「一番小さくて、家三件燃やすレベルだっけか?他の人は最低レベルだと指の先にちょこっと出すだけなんだがな...」

 

ユーノ「やめて!アハト君言わないで!」

アハト「言わなきゃ話にならないだろ」

 

ノクス「戦闘では、『fog・beast』と一緒に短剣で切り込んでるよね~杖も持ってるけど、実際使ってるの見たことないや」

 

ユーノ「はぁ...」

 

アハト「...まぁそう落ち込むなよ」なでなで

 

ユーノ「アハト君...」

 

アハト「そのうちできるようになるさ。そのうちな...」

 

ノクス「それフラグ!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ユーノ「他のキャラは、今後登場予定(予定は未定)のキャラのみですが、是非みてください」

 

 

 

 

 

アイオス・アインツ

 

ユーノの父親。元王女の護衛役。親バカだが、頭はきれる。旧魔。

 

固有魔法『Akasha・fefnir』

半径10メートル以内の空気を圧縮、制御することができる。本人の制御によっては、人がミンチになる可能性も。

 

 

フィルフィ・アインツ

 

ユーノの母親。天然ぎみで優しい性格だが、夫をフライパンでぶん殴る。旧魔。

 

固有魔法『?』

 

 

メイル・セリカ

 

元王女の護衛役で、アイオスの同僚。眼鏡をかけると人格が変わる。使う武器は、『遺産』透明結晶(クリスタ)を使った斧(ハルバート)、バルバトス。旧魔。

 

固有魔法『nephrite・enable』

自分の覚えている場所への瞬間移動。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

アハト「なかなかキャラ登場したはずだが、これだけなんだな...」

 

ノクス「一期一会を大切に!だよ」

 

アハト「そうだな...そうなのか?」

 

ノクス「ま、これからもっと出るだろうしね」

 

アハト「気長にお待ちくださると嬉しいです...ところで、ユーノどこいった?」

 

ノクス「あぁ、ユーノちゃんならね...」

 

バコーン!!

 

アハト「なんだ!?何事だ!?」

 

ユーノ「アハト君!ノクスさん!この会場燃やしちゃいましたぁ!」

 

ノクス「少しでも早く基本魔法を使いたいからって、練習しにいったよ?」

 

アハト「...外でやれぇぇ!!」

 

ノクス「と言うわけで、今回はありがとうございました!またね!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

___焼け崩れた書類より抜粋。

 

アハト____

 

魔力解放で目が黒から金に。

 

___剣の名は______

 

________。

 

 

ユーノ・アインツ

 

魔力解放で目が水色から赤に。

 

______________。

 

 

ノクス・アカーディア

 

男嫌いを直そうと努力中。

 

____

 

 

ミ__________

 

____先_____

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四章『ヘルシンキ』
新魔領『ヘルシンキ』


「着いたー!!」

「長かったね...」

「本当だぜ全く...」

 

メイルさんの魔法で崖に送られた俺達は、結局『ヘルシンキ』につくのに五日もかかってしまった。今度あったらぜひ文句を言ってやりたいものだ。

 

「でも、これでようやく...」

「そこの者、ここは新魔以外は入れないぞ」

「 「え?」」

 

いざ町に入ろうとした瞬間、町の兵士であろう男が二人、旧魔であるユーノの道を塞いでいた。ノクスは人間だと気づかれなかったらしい。まぁ、角が出てる旧魔は目立つから仕方ない。俺は無言で服についているフードを深く被った。

 

「なんでですか?」

「この町は元から新魔以外受け付けていないからだ。さぁ帰ってもらおう!」

「えぇと...ちょっと待ってください!ここまで来たのに行きなり帰れなんて酷くないですか?」

「我々にそれを言われても困る。大体ここに来る前にも言われた筈だぞ。それを聞いてなかったのか?」

「嘘...」

「...ねぇ、どういうこと?」

 

ユーノと兵士が言い争っている傍らで、俺はノクスが聞いてくる質問に答える。

 

「どうって、何が?」

「なんで旧魔はダメなのかってこと。この前までいたところは色んな種族混ざってたし」

「...一番の原因は、資源だな」

「資源?」

「ここの湖は、対岸が見えないほどだっただろ?確か世界で一番大きいんだよな...そこから取れる魚とか、資源とかを多種族に横取りされないため、他の所より警備が厳しいんだろ...そんな差別するのは悪いことだが、旧魔を快く思ってないやつらもいるし、自分達が良くないことをやってると分からないんだろうな。そういうのがたくさんいるからやれ戦争だ、なんて言うやつが多いんだが」

「成る程...」

「ま、勝手なことしやがって...前来た時は新魔だけだったし、こいつは想定外だったな...しょうがねぇ」

 

ため息を着いてから、兵士の肩を叩く。

 

「なんだ?」

「というかあんた知り合いなんだろう?もしあれならお前も戻らせるぞ」

「...その旧魔の胸元を見ろ」

「一体なにを...!!」

「なっ!!」

 

耳元でささやき、疑いを向けていた奴らが目を見開く。いくらバカなこととしか思えないことをしてても、国の規定は覚えていたらしい。

 

「俺は彼女の護衛だ。そんな長居をするつもりはないし、とっとと通せ」

「し、しかし...」

「ほら、さっさとする。頼んでクビになるぞ」

「し、失礼しました!」

「どうぞお通りください!」

 

胸元の二本線が刻まれているバッジをつつきながらからかうように言ってやる。それを聞いて慌てて離れる二人。

 

「カムイ君?」

「あんたなに言ったの?」

「別に、どうってことないさ」

 

今度は彼女達の怪しむ目から離れるように、俺は町の中に入っていった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「崖で見たときも綺麗だったけど、ここから見ても凄いね」

「町の中に水が入ってる!」

「近くに湖があるんだ。こういう風になるのは当然といえば当然だろ」

 

灰色の石畳の道に、水路が入り組んでいる。家の色は白が多く、まさに水の都、といった形だった。

 

「さてと...お前らは市場にでも行ってこい。あっちにあるから」

「ア...カムイ君は?」

「前にこの町に来たことあるって言ったろ?その時できた友人に会いに行こうかな、と」

「カムイの知り合いとか、それはそれで気になるんだけど...」

「言われなくても後で会わせてやるから、その前にお前らは行ってこい。きっと気に入るから」

「へー...期待しとこ」

「じゃあ後でね」

「その前に...これかぶっとけ」

「わぷっ」

 

ユーノの頭に被せたのは、縦に長い帽子。今『image・replica』で作り上げたものだ。

 

「これなら旧魔だってバレることもないだろう?」

「...ありがとう!」

「おう。じゃあ後でな」

「うん。ほらユーノちゃん、行こう?」

「はい!」

 

十字路をユーノ達はまっすぐ進み、俺は右側の橋を渡る。思い返すのは白に近い灰色の髪をなびかせる一人の少女。

 

(来たのは確か半年近く前か...元気でいるだろうか?)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「うひゃー!」

「随分と活気がいいね」

 

私とユーノちゃんは、アハトが言っていた市場にたどり着いた。大きな湖の隣だからか魚なんかがところせましと並んでいる。ユーノちゃんの目が心なしかいつもより輝いているように見えた。

 

「てかいつもはそんな声出さないでしょ」

「あ、すいません...なんだか嬉しくなっちゃって」

「確かにお店いっぱいだけど、この前の『アースラ』のお祭りだってそんな変わらないんじゃ?」

「あそこの目的はあくまで大会だったので...それに、ノクスさんと二人きりでこんなところこれるなんて思っていませんでしたから」

「...可愛いなぁもう!」

 

帽子が飛ばないように気をつけながら頭を撫でると、「えへへー」と緩みきった顔を見せてくる。なにこのかわいいの。私知らない。

 

「しっかし、アハトが言ってたのも分かるわ...」

「そうですね...一つ一つ見ますか?」

「そうだね。適当に歩こうか」

 

ひとまず手前の店から見ていくことにした。食料品のお店やアクセサリーを扱うお店。スパイス専門店なんかもあった。

 

「まさか同じ人形しか売ってない店があるとは...」

「少し怖かったです...」

 

そして、中央の広場着いたとき、その言葉は聞こえてきた。

 

「それではこれより、本日取れたばかりの『遺産』オークションを開始します!」

「......」

「あ、ノクスさん!」

 

私は、全てを忘れて走り出した。

 

メイルから貰った剣を抜く時より早く財布を開け中を確認。『アースラ』で指輪とか買っちゃったから30000ウル、何か安いのを二つ三つ買えそうなくらいはあった。

 

ここの通貨はウルと呼ばれ、新魔も旧魔も統一されている。世界で有名な『うめぇ~アイス』が50ウルで、一般的な『遺産』の相場は、物にもよるが安いもので1000ウルはする。

 

(オークションだから、それよりさらに上がるよね...)

 

声がした方に走り出してからオークション会場はそう遠くなくすんなり辿り着けたものの、既にオークションは始まっていた。

 

ちなみに、ここまでで数分かかっていない。

 

「遅かった!いや、まだ間に合う!」

「ノクスさん速すぎです...」

「じゃあこの魔石コップセットは5000ウルで落札だ!次いくよ!これは今日のの目玉!」

 

司会者がバサッと上にかけられていた赤い布を取ると、中からさらに赤い布が出てくる。

 

「強力な対魔法が施された布だ!家一つ燃やせる炎魔法を耐えてみせたから性能は折り紙つき!料金は10000ウルから!」

「すご...」

「そんな布、存在するんですか?」

「軽い物を防げるなら知ってるけど、ここまでするとは...15000!」

「ノクスさん!?」

「あいつには内緒にしてね?」

 

その後も値段は上がっていき、あっというまに27000ウルまで上がってしまった。

 

「こうなったら...」

「ノクスさんこれ以上は!」

「...ここで退くなと私の心が叫んでいるんだ!」

 

いつのまにか、私も会場のテンションに乗せられていた。だがもう止まらない。

 

「「30000ウル...え?」」

 

高らかに全財産をかけると同時、隣から声が上がる。かわいい髪飾りをつけ、サイドテールを揺らす灰色の髪に、サファイアのように濃い青の瞳をした女の子。その顔はとても真剣だ。

 

「貴方は...」

「31000ウル」

「ちょっ!?」

 

こっちを見ることなくお金を釣り上げる彼女。対して、私の残金は。

 

「...ユーノちゃん!」

「あげませんよ」

「くっ......こうなったら、あいつに借金すれば」

「カムイ君がお金貸すと思いますか!?」

「だがしかし...」

 

 

 

 

 

「あの、カムイってカムイ・テイカーですか?」

「「え?(へ?)」」

 

高まっていた口論に割り込んできたのは、さっきの女の子。顔も体もこちらを向けており、複雑そうな顔をしている。

 

「えーとっ...そうだけど?」

「...先輩が、この町に来てるんですか!?」

「「先輩?」」

 

普段使われない言葉に私達は思わず聞き返してしまった。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「で、ここにいなかったんだな」

「お久しぶりです先輩」

「えーと...色々聞きたいことがあるんだけど、二人は知り合い?」

「あぁ。俺が会おうとしてたやつだよ」

「初めまして、ミディナ・マキです。この店の店長をやってます。ミディナって読んでください」

 

そう言って自己紹介するミディナ。『遺産』のオークションをやってたらしく、そこで出会った三人は俺の元______ミディナの家である料理店に戻って来た。若干一名ご立腹だが。

 

「ねぇ、なんであんたが向かう先が『遺産』を取り扱ってる店だって言わなかったの?」

「忘れてた」

「今では夜バーもやってます。私カクテル作るの上手いんですよ?」

「未成年なのに?」

「味は保証されてます」

「...まぁいいか。それで?」

「......なんでもないですぅ!」

 

そいつは俺の一言に言い返せないらしく、悔し涙を流していた。

 

「そこにいるのはユーノ・アインツで、こっちがノクス・アカーディアだ」

「ユーノ・アインツです。よろしくねミディナさん」

「二人は同い年だぞ?」

「え、そうなんですか?」

「じゃあ...ミディナちゃん?」

「うん。よろしくねユーノちゃん!」

 

二人は仲良く握手していた。こいつはユーノが帽子をとって旧魔だと分かっても態度を変えるようなやつではないだろうし大丈夫だろ。

 

「でもすごいね、14歳でお店営業してるの?」

「私も今はこの町の周りを冒険して出資はなんとかなるし、友達も手伝ってくれるから」

「へー...」

「...なんで先輩って呼んでるの?」

「それは先輩が剣の指導をしてくれたからです」

「といっても半年近く前にちょっとやっただけだけどな」

「私にとってはかなり本格的な内容だったので。あれから魔物に会っても動じなくなりました!」

「そいつはよかったな」

「はい!」

「アハトって意外なところに人脈あるんだなぁ...」

「あ、バカ!」

「アハト...?」

 

ノクスの間抜けな一言で、俺とミディナが固まる。

 

(余計なことを...)

 

「教えてなかったの?」

「まぁな...アハトは俺の本名だ。騙してて悪かったな」

「アハト、アハト...どっかで聞いたことあるような...」

「どこら辺にもある名前かなぁ?」

「...というか、怒らないのか?俺は今まで...」

「カムイさんでもアハトさんでも、先輩であることに代わりはありませんから」

「そうか...ありがとう」

「いえいえ」

 

(...こいつ疎くてよかった)

 

首を横にふるミディナに、感謝だけ表す顔をするのはかなり苦労したのは内緒だ。

 

(バレてもいいが、それはそれでめんどくさいし)

 

「それにしても皆さんどうやってこの町まで来たんですか?今通行止めされてるはずなんですけど...」

「「「へ?」」」

 

今度は俺を含めたミディナ以外の全員が、ピタリと動かなくなった。

 




あけましておめでとうございます!

投稿開始からもうすぐ一年...早いものです。

ことしもまたこの小説、よろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

古跡(ファーデン)

「それにしても皆さんどうやってこの町まで来たんですか?今通行止めされてるはずなんですけど...」

「「「へ?」」」

 

ミディナちゃんの言葉に皆が固まった。

 

「あ、でもあそこの門番だけだろ?」

「いえ、町に入る前の通りで三重の関所ができています。今は商人くらいしかこの町に入ってこれませんよ。逆に出ることも出来ませんが」

 

恐らく、私達が降り立った場所は二つの関所を抜けた先だったのだろう。

 

「へ、へー...」

「...不法侵入?」

「ええぇっ!」

「に、なるよなぁ...いや、そんな法律あったっけ?」

 

万引きはやっちゃダメとか基本的な法律はあるけど、国に入っちゃダメとかあるのかは知らない。アハトも知らないようで、首を捻っていた。

 

「先輩方!?大丈夫なんですか!?」

「バレなきゃ平気だろ」

「無茶苦茶な...」

「...ミディナ、帽子あったら持ってきてくれるか?」

「はい?どうしたんですか突然?」

「いいから」

「は、はい」

 

ミディナちゃんがしぶしぶアハトの言う通り帽子を取りに部屋を出る。すると、アハトがこっちに手招きしてきた。私達はそれに寄る。

 

「なに?」

「ミディナにはユーノが旧魔だって正直に話した方がいいと思う。どうせユーノが旧魔ってことは言わなきゃいけないし。少なくともそのうちバレるし」

「嫌われないかな...今せっかく友達になったのに...あぁでもやっぱり」

「こんなところで弱気になるなっての。大丈夫さ」

「...それで、どうするの?」

 

アハトとユーノちゃんの漫才もどきを止め、話を進ませる。

 

「とりあえずなんで通行止めされてるかを聞いて、俺達ができる問題だったらやろう。違うなら通行が出来るようになるまで休む」

「バッサリしてるね...」

「実際これくらいしか考えられないが、なるべく早く移動した方がいいからな」

「そうだね」

「じゃあそれで」

「「うん(はい)」」

「先輩、とってきましたよ?」

「サンキュー」

 

アハトがミディナちゃんから帽子を受け取り、

 

「じゃあ、いいか?」

「...うん」

「どうしたんですか?...っ!」

ユーノちゃんに許可をとってから、『image・replica』で作っていた帽子を消した。驚いた顔で固まるミディナちゃん。

 

(新魔がどんな反応するのか全然知らなかったけど、この感じだと...)

 

まじまじと見られるユーノちゃんは獣に睨まれて怯えているように体を震えさせている。

 

でも、そんな心配は杞憂に終わった。

 

「わぁー!それ旧魔の角ですよね!おっきい!!」

「え?」

「いや私前から旧魔の角見たかったんですよ。こんな髪で隠れちゃうやつじゃなくて存在感あるやつが。初めて見ました!」

「大きさは人によって違うから...それよりミディナちゃん、怖くないの?」

「へ?なにが怖いの?」

「そ、その...私、旧魔なんだよ?」

「ユーノちゃんが旧魔だからって怖がる理由なんてないよ?むしろかわいい!」

「...ありがとう」

「やっぱり大丈夫だったろ?」

「うん!」

 

興奮するミディナちゃんに、安心するユーノちゃん。二人を見るアハトの目を見て私も安心した。

 

「それじゃあ、本題に入るか...ミディナ、どうして通行止めなんてしてるんだ?」

「本当に知らないんですね...このすぐ近くの森で、古跡(ファーデン)が見つかったんですよ」

「それ本当!?!?マジックアイテムいっぱいなの!?!」

 

ガバッとミディナちゃんの元まで詰め寄り、目を開きながら訪ねる私。ミディナちゃんはそれに対してかなり顔をひきつらせていた。

 

「えぇーっと...はい」

「アハト君。ファーデンって?」

「知らないよな...簡単に言えば、『遺産』が同じ場所にたくさんあるところだな。お宝取り放題的な?」

「だからノクスさんあんなに...」

 

ユーノちゃんの目が少し冷たい気がしたが、気にせず無視しておく。

 

「死活問題なんだろ、きっと。それよりどうしてそれで通行止めになる?」

「理由としては二つありまして、一つは利益の独占ですね。噂を聞き付けた旧魔が入ってこないようにという話らしいです」

「だからオークションやってたんだね」

「またそういうのやってんのか...」

「ここの人たちマジ許さない。取られる前に取ってくる」

「お前もかなりわがままだから。少し静かにしろ」

「はーなーせー!」

 

アハトは外に出ようとする私の首根っこを掴んでくる。あっさり捕まったお陰でまともな身動きも出来なくなってしまった。渋々動きを止める。

 

「で、理由はそれだけじゃないんだろ?」

「はい。もう一つは...といっても、こっちが主な理由ですけど...魔物の数が異常なんです」

「魔物の?」

「はい」

「ミディナちゃん、魔物って古跡にいるの?」

「今回見つかった『遺産』の場所は洞窟で、そこを住みかとしていた魔物が多いんだ...ただ、数も強さも普通じゃなくて。けど、町の遠くに逃げ出すと隣町なんかが危険になるからここで倒そうとしてるの」

「で、魔物の逃げ道を塞いでる、か...ぶっちゃけ人間が越えられなさそうな山くらいは越えそうだけど」

「そこまではもう責任取れないみたいですけど...」

「魔物は倒そう!強い魔物がいる古跡は良い『遺産』が多い傾向あるから!」

「そうなのか?」

「一応私も聞いたことはあります」

 

私の力説にアハトは疑問を浮かべ、ミディナちゃんが返答する。それに「へー」と感心したように呟くアハト。私の話は信用ならないのか。

 

「でも、だからこそより独占しようって声が高くなるんですよね...」

「悪循環だな」

「そうですね...おまけに、まだ治癒薬なんかの有効な物とかがあまり出てないらしくて余計皆に火がついているんです。うちもあまり良いものは...」

「あるの!?見せて!」

「あ、分かりました。ちょっと待っててくださいね」

 

そう言ってミディナちゃんが奥の部屋に行き、しばらくすると両手に色々持って戻ってきた。

 

「お前が古跡から取ってきたのか?」

「私も一応戦えますからそれもありますし、オークションで買ったのもあります。ですが今回は武器なんかが少なくて...さっき買った魔力で温めることができるコップとか、魔法に耐性のある布とか、丸いのを半分に切ったみたいな宝石とか色々です。使い道が分からないのが多いですけど」

「うーん...」

 

ごそっとテーブルに置かれたものを一つ一つみると、確かに何に使うか分からないものが多かった。

 

「普通は一緒に説明書みたいなのが埋められてあるんですけど...かなり離れた場所にあったり、まだ見つかって無かったり......」

「そのぶんさらに貴重な物が眠ってる可能性があると考えてるわけか...本当にあったらとんだお宝だな」

「ん?これは...」

 

二人の会話を聞き流しながら、持ってきて貰った物を見て、少し薄っぺらい丸をした赤色の宝石を手に取った。

 

「あ、それは私が自分で手に入れたやつです」

「部屋の飾りにしか見えないんだが...」

「これ、もらっていい?」

「私は先輩の言う通り部屋の飾りにしか使えないと思ってるので、そんなもので良ければどうぞ」

「ありがとう」

「物好きだな...そんなものでも欲しいのか?」

「個人的にほしいのもあるけど、今回は...っと」

 

宝石を、朝からつけていた私の小手にはめる。それはカチリ、と音を立ててはまった。

 

「「!!」」

「やっぱり」

 

内心全力で叫びたくなったが、驚異(私の中で)の自制心で抑え込む。

 

「これ、小手にはめる物だったんですか?」

「勘でやっただけだけどね。これで性能上昇とかなら嬉しいなぁ...」

「...なんかもっと嬉しがるかと思った」

「いや、嬉し過ぎて冷静なだけ」

「あ、そう...」

 

答えを聞いたアハトは呆れた様にそっぽを向いた。

 

「それでアハト君、これからどうする?」

「俺らが出来るとしたら魔物退治だなぁ......わかった。古跡にも行くからその目をやめろ」

「やったー!!」

 

私のお願いする瞳にアハトが折れた。

 

「いいんですか?」

「どうせ動けないなら、こいつは一人で行きかねないからな。ミディナ、道案内頼めるか?」

「それは構いませんけど、せめて明日からにしましょう。今日これから行ってもすぐ暗くなってしまいますし。寝床はここで良ければ使ってくれて構いませんから」

「いいのか?助かる」

「いいのミディナちゃん?」

「もちろん!」

「ありがとう!」

「私は泊まらせてくれるなら床でいいから」

「ちゃんと人数分布団用意しますよ!」

 

それから私達は、『遺産』を取るため、そこに住む魔物を狩るために必要なものを買いに行ったりした。

 

どっかの誰かさんのせいで、森を移動してから町についたから。なんて言葉は、私の優しい心によって留めておくだけにした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「にしても、バーやってるとはな...」

「本当に手伝わなくて良かったのかな?」

「本人が言ってるんだし、大丈夫だろ。ふぁーあ...」

「寝不足?」

「いや、ただ眠いだけ」

 

アハト君があくびをしながら布団に入る。

 

ミディナちゃんの家で寝ることになったものの、空き部屋がないため皆で同じ部屋で寝ることに。二人より小さい私と、この家の主であるミディナちゃんが一つのベッドに、アハト君とノクスさんはそれぞれ用意された布団で寝ることに。

 

今ミディナちゃんはバーを開店させていて、私達がお店を手伝うか聞いたものの丁重に断られ現在にいたる。

 

「明日は朝から忙しくなりそうだし、早く寝ろよ?お休み...」

「凄い妨害したくなるんだけど」

「明日相手してやるから」

「私を構ってちゃんみたいに言わないで!」

「はいはい」

「全く分かってないでしょ...私も寝ようかな」

 

お風呂上がりで髪を乾かし終わったノクスさんも、アハト君の隣にしかれた布団にもぞもぞと移動する。

 

「年上組が先に寝ちゃうのもあれだけど...ユーノちゃんも早く寝なよ?」

「はい」

 

それから二人が目を閉じて五分。アハト君は「すー、すぅー」と寝息を立て始めた。

 

「よし、おしまい」

 

二人より髪が長いため時間がかかってしまったが、それもようやく終わった。私もベッドの中に入る。

 

ミディナちゃんを待ってようかと思ったが、「先に寝ていてください。明日は早いですから」と本人に言われているし、何より睡魔には勝てなかった。徐々に視界が暗くなっていく。

 

(でも、軽蔑されなくて良かった...)

 

頭から生えた旧魔特有である大きめな角を触りながら、私はそんなことを考えていた。それからいつ寝たかは覚えていない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メイルの贈り物

「...朝?」

 

目を覚まし、眠気眼を擦りながら辺りを確認する。部屋の窓からはカーテン越しにうっすらと明かりが指しており、朝日が出たばかりなんだろうと回らない頭で考えた。

 

日の明かりで照らされている所にはベッドで寝ている二人が見える。どっちも熟睡しているようで、小さな寝息がたっていた。

 

(かわいい...じゃなくて。なんだか慣れたなぁ...)

 

一月くらい前までは一人で寝て、一人で起きる生活が当たり前だったから、起きたら両親以外の誰かの寝顔を見ることなんてなかったし、そうなるなんて思わなかった。

 

(人間の適応力って高いなぁ...って)

 

少し感心しながらさらに辺りを見ると、隣の布団の中がもぬけの殻だった。そこに寝ていたのは黒髪の_____

 

「...アハト?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

「アハトー?いるー?」

 

二人を起こさずアハトを探すため静かに家の中を探したものの、どこにも見当たらなかった。あと探してないのは家の外。

 

「うぅー...寒っ!」

 

家の扉を開けて外にでる。日が出たばかりの朝は、寒くなっていく季節と相まって想像以上の寒さを作り出していた。あまりの寒さに思わず声が出てしまう。

 

しかし、目的の相手は直ぐに見つかった。

 

「お前の服は薄衣だからな。流石に朝は体に堪えるぞ?」

「...アハト」

 

家のすぐ前でいつもの黒いコートを纏い、片手に透明結晶(クリスタ)を持った彼女が声をかけてきた。

 

「練習?」

「あぁ、思ったより早く起きちゃってな。少しでも上手くしないと...」

 

苦笑しながらそう答えてくる。練習というのは、彼女の魔法、『image・replica』で透明結晶を作り出すこと。

 

この町に着くまでも、このあいだメイルからもらった透明結晶を参考にしながら何度か作ろうとしていた。時にはメモ張にスケッチをしてイメージを膨らませていたり、実際に作ってみたり。

 

「順調なの?」

「バッチリ...と言いたいが、見た目がそっくりの物を作れても、魔力を通すと割れてばかりでな...魔力に対する強度が本物より相当足りない」

「本来今の人の技術で作れるものじゃないから『遺産』なんでしょうが...」

 

希少性が高く、ただの石のように見えて魔力を一時的に蓄え、自身の強化に使うことができるこの結晶は、挑戦してもそう簡単に作れる物じゃない。

 

魔力を流し込むこと自体は、強化魔法と同じ無属性しか流せないので簡単、らしい。魔力を使えない私には分からない。

 

話している間も彼女は練習しているようで、もう片方に同じ大きさの石が現れる。確かに見た目はそっくりに見えた。

 

その透明な石が白く光る。それは魔力が送られている証拠。しかし数秒経たずにパキンと音がして、急速に色を失った。たぶん割れた所から魔力が漏れてるのだろう。

 

「な?」

「確かに...」

「今のこれを使うなら普通に剣を作った方が硬い。問題はこれをどこまで強くできるか...」

 

アハトは自分の作る剣に透明結晶を使い、魔力を注ぐことで今より強い剣を作ろうとしている。それこそメイルの斧、バルバトスに負けないくらいのものを。

 

「この前作った大剣は?」

「そっちもな...あの時は無我夢中で作れたけど、今は大雑把な輪郭しか思い出せない」

 

この前出た大会で、こいつは輝く大剣を作っていた。私は魔力が使えない人間だから魔力を正確に感じられないけど、緊張とか、相手を怖く感じるかなんかで大体を分かる。そしてあれは遠目から見てもかなりの存在感を放っていた。

 

「まぁ、俺の魔法じゃ一つしか作れないから、剣が二本あっても意味ないけどな。元は二刀流だったんだが...」

「え、そうなの?」

「ホントに剣を始めたばかりはそうだった。『image・replica』が使えるようになってからは止めてるが。」

「へー...」

 

意外な事実に相槌を打っていると、アハトが少し躊躇いながら、それでも笑顔で声をかけてくる。

 

「...それより、せっかく起きたんだしやらないか?」

「何を?」

「...一戦な?」

 

それからこいつは嬉しそうにエクスシアを作って構えた。私は軽くため息をつく。

 

「戦闘狂じゃあるまいし、今日古跡(ファーデン)行くのにやるの...やるけど」

 

私も小手をはめ直し、腰につけていた剣______先が少し幅があるため、槍のように使うこともできそうなメイルからもらったもの______を構える。

 

実際に少し実戦形式でやりたかったという思いはあった。私の戦い方はこの間教わったばかりで、技術の飲み込みが早いと言われたとはいえ不安だったから。

 

どちらからということはなく一歩動き出し、すぐに二つの剣が激突する。

 

アハトの戦い方は、『image・replica』で作ったエクスシアでの近接戦闘。その間強化魔法以外は使えないらしい。

 

(そういえば、電撃も出来るんだっけ...まぁいいや。使いこなせなければ変わらないし)

 

私は魔法が使えないのを補うため、相手の死角に自ら入り、気づいた時には剣が迫っているように錯覚させるメイルから教わったトリッキーな近接戦闘。この前はユーノちゃんといい勝負をすることができた。

 

どっちも近距離が得意な人達なんだから、こうなるのも当然だった。アハトは遠距離だとなすすべない私に合わせてくれたのかもしれないけど。

 

それより、腹が立ったことが一つ。私はその事をアハトの死角、身長的にギリギリ見えないであろう左下に滑り込みながら叫ぶ。

 

「でも、せっかくの練習なのになんで透明結晶使わないの!?」

「お前に砕かれるのは嫌だ!」

 

アハトは驚くものの、かろうじて剣を合わせてくる。

 

「なにそれ!?」

「ただの俺の思いだよ!」

 

気持ちが高まってお互いに声を荒くしながら剣を交える。

 

(でも、私には使いたくないってそれ舐められてる!?)

 

「こっのー!」

「...っ!!?」

 

腹が立って思いきり自分の剣を振りかぶって叩きつけようとする。しかし、アハトは急に後ろに下がってしまった。

 

「避けんじゃない!」

「...殺意溢れてるやつに言われたくないわ」

 

呆れてるように見える彼女に剣を向け_______

 

 

 

 

 

「しかも魔法使えないのに、炎向けてくるんだもん」

「ええぇ!?」

 

自分の視界に入った剣は確かに炎に包まれており、自覚した瞬間熱さも伝わってきて思わず落としてしまう。

 

ガチャンと音を立てて落ちた剣から徐々に炎が消え、やがて完全になくなった。

 

「...」

「...これは」

 

自分が魔法を使えないのが分かっているからこそ、あり得ない現象に固まる私と、何かを考えるように顎に手を当てるアハト。

 

「先輩、ノクスさん。ご飯出来ましたよ」

「あ...ミディナちゃん」

 

家から出てきて現れるミディナちゃん。いつの間にか起きていたらしい。

 

「...ありがとうミディナ。ノクス、とりあえず飯にしよう」

「う、うん...」

 

戸惑っていた私にアハトが声をかけくれたことで、ひとまず落ち着く。

 

なぜ炎が出たのか、それが剣が纏ったのか、分からないことは多いけど。

 

とにかくメイルからもらった、この『遺産』。

 

(この剣、凄いのかも...)

 

なんて子供みたいな気持ちを抱きながら落とした剣を拾う。さっきまであった熱はもう冷めていた。

 




ご無沙汰してます、メレクです。もう一月が終わりに...早いもんです。

更新頻度も高めたいと思いながらなかなか出来ないので...読んでくれてる方は、待っていてくれると嬉しいです(感想、評価くだされば執筆スピード加速します。たぶん笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探索開始

「あれは多分、お前の剣と小手が反応したんだろ」

「え、突然なに?」

「朝の話だ」

「あぁ...」

 

時は変わって既に朝御飯を食べた後。私、アハト、ユーノちゃん、そしてミディナちゃんの四人は古跡(ファーデン)を目指すため馬車に乗り込んでいた。町から近くにあった古跡とはいえ、探索する前に体力を消耗したくないという考えから、今の期間だけ町と古跡を繋ぐ馬車が通っているらしい。

 

小回りが良いように馬を操る御者さんと四人までしか乗れない小さな馬車だけど、お陰で男と相席なんてことにはならなかった。代わりに、今も何台か同じ馬車が周りにいるはず。

 

そんな中アハトが突然喋ってきた。内容は朝に起きた、私の剣から炎が出たという話。ユーノちゃんとミディナちゃんにも伝えており、二人とも顔をこちらに向けてくる。

「じゃああれ?私の剣と小手が反応したとか言いたいの?」

「今同じこと言ったよな?」

「いやそうだけど、それならこの町につくまえだって...」

 

メイルの不手際のせいで町から遠いところに落とされた私達は、襲ってくる魔物を倒しながらこの町についた。その時も私は小手をはめた上で剣を持っていた。効果がでるならその時にも出たはず。

「昨日、ミディナからもらった物を小手に取り付けたろ?」

 

私の疑問点を分かっていたんだろう、アハトがそう言いながら私の右手_____そこにつけられた赤く煌めく宝石を指差す。

 

「でも、ノクスさんは魔法を使えないんじゃ...」

「魔力を肩代わりしてくれるやつなんてこいつが前から持ってるだろ」

 

確かに私は、魔力を持たないものでも魔法が使える上 、魔力を充電してもらえれば何度でも使える特別な水晶をエルフの村で貰っている。「それかなり魔力使うからあまりやりたくない」と魔力源(アハト)に言われてしまったため、普段の戦闘で使うことはなくなったけど。

 

「現地についたら試してみればいいんだよ。その宝石がついてる右手と、ついてない左手で比べながらな」

「ですが水晶、宝石タイプは一度使うと割れてしまいますし、希少なものでも中にある魔力自体は失われてしまうのでは...」

 

自分の店で『遺産』を取り扱っているせいか、ミディナちゃんが的を射た質問を投げ掛けた。

 

「宝石の色が変わらないから、大丈夫なんじゃないか?使い捨てのやつは使うと灰色になって割れるし。『遺産』の仕組みをちゃんと理解してるやつなんていないし、可能性は十分あると思うが?」

「そう言われると...」

「物は試しだ、古跡ついたらやってみようぜ」

 

アハトの言葉で一区切りがつき、少しの間沈黙が訪れる。

 

「...そう言えば、なんでノクスさんは『遺産』が好きなんですか?」

 

この中で唯一知らないミディナちゃんが話しかけてくる。ただそれは、私が男嫌いになった原因でもある過去に触れるということ。

 

男嫌いを直そうとはしているけど、なんだか簡単に話してはいけないと思った。こんな純情な子に話していいものか。

 

「話してやれよ、きっと泣いてくれるから」

「泣き虫じゃありません!」

「アハト...?」

 

こういうときに冗談を言わない彼女から言ってくるということは、本当に話しても大丈夫ということなのだろうか

 

アハトの目を見てみると、優しそうな目でウインクまでしてきた。

 

笑い話にしてこそ、乗りきった証拠だろ?

 

そう語っている気がして、私は一つ深呼吸をした。

 

「...じゃあ、どこから話そうか」

 

最近よく出すようになった笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

「その前にアハト、ウインク下手くそ」

「うるせぇ!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「さーて...ついたな」

「ここが古跡...」

「ひゃっほぅぁ!」

 

馬車から飛び降りる俺と、それにユーノ、ノクスが続く。 一人興奮しすぎて滑って転んでるやつがいるが。

 

そして最後の一人は。

 

「うぅ...ぐすっ」

「ミディナちゃんまだ泣いてるの?」

「だってぇ...」

ミディナがサファイアの様な藍色の瞳から涙を流しながら馬車を降りる。馬を撫でていた御者さんがビックリした顔をしていた。

 

ミディナが泣いているのは、馬車の中でノクスが話した彼女自身の過去話について。『遺産』が好きだったりとか、一人旅をしてきたとか、男といざこざがあったとか。

 

俺達は話を聞いていたし、今彼女が前向きに男と話そうとしているのを知っているから(話す機会自体がないが)問題ないが、初めて聞いた14歳の女の子としては辛いものがあったらしい。

 

「ノクスさんがぁ...」

「いや、私今はここにいるから。そんな泣かなくても...」

 

ぐすぐすしているミディナを見て慌てるノクス。それを見てるぶんにはかなり面白いんだが。

 

「ユーノ、俺あっちの説明聞いてくるから静めておいてくれ」

「え、私!?」

「頼むぞー」

「え、え、えぇ?」

 

ユーノに後処理を任せて、他の探検者たちがそろう場所まで向かう。馬車から降りた者はここで軽く説明を受けてから洞窟に入るらしい。後々喧嘩が起きないようにルールをもうけているそうだ。

 

「キノコ狩りか何かじゃないよな?」

 

ボケた一人言は誰も聞く奴などおらず。俺はコートについているフードを深くかぶり直した。

 

一つの馬車に集まった他の奴等は、パーティーごとに話しているらしく微かな壁を感じる。

 

「はーい、皆さん聞いてください。この古跡(ファーデン)の説明をしますので!」

 

馬車の上から大声で話す男を見て皆が静かになる。

 

「今回この古跡探検者の指示をしているミコン・スラッツです。さっそく始めますね」

 

基本的にこういう指示をする人というのは、近くの町、村で誰からも信用される人や、大金持ちが多い。前者は皆が納得するように、後者はいらない『遺産』を売るときその場で買い取ってくれるからだ。そのお金持ちがいらなくても、オークションなどに売ればいい話だし。

 

(『遺産』はある意味、貴族の持ち物の定番みたいなところがあるからな...)

 

あまり良いことだとは思っていないが。

 

「この古跡は皆さんご存知であると思いますが、なかなか見つからない上、魔物も比較的強めですが、代わりに珍しい物が多いです。ぜひ大目玉を当ててください!ルールとして、『遺産』は最初に触った人の物とします。魔物の情報は先に入っている探検者から聞いてください」

「おぉぉ!」

「燃えてきたな!」

「絶対見つけてやる...」

 

話を聞いた周りの奴等が騒ぎだす。無駄ないざこざにならなければ良いが。

 

「そして、昨日の探索で結論付けました。この古跡は量、質共に最高、Sランクです!」

 

途端、即席の会場がさらにざわめく。古跡というのは場所によって取れるものが違うのだが、良いところからSランクがつけられ、そこからA、B、Cとなる。俺もSランクを聞くのは二回目だった。

 

ちなみに『遺産』にもある程度のランク付けはあるのだが、俺は使わない。そういえば、そういうのが大好きなノクスも話はしないなと今更ながらに思い出した。

 

「また、魔物は見つけ次第討伐、動物は無視でお願いします。なお、いらない『遺産』はこちらで買い取らせて頂きますので、頑張ってください!それではどうぞ!」

「いくぜぇぇ!」

「ひゃっほぅ!」

「お宝じゃあ!」

 

合図と同時に、二つの団体が騒ぎながら動き出す。俺もそれにならって、でも静かにあいつらの元に戻った。

 

 

 

 

 

「あやつは...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「動物と魔物の違いってなに?」

 

三人と合流して洞窟に入りながらさっきの説明をしていると、ユーノがそんな質問をしてきた。

 

「基本的には魔力があるかないかだな。魔族と人間みたいな」

「へー...」

「犬飼ってる人いるでしょ?それは動物だから町でも大丈夫だけど、魔物はダメってこと」

「なるほど...『ブラッティ・ベア』も?」

「あれは四足で走る時に魔力を使ってたからな」

「そうだったんだ...知らなかった」

「俺達が初めて会ったときは襲われてたんだよな...なんか懐かしいわ」

「『ブラッティ・ベア』と言えば、旧魔領の辺境にしかいないと言われてる魔物じゃないですか。先輩そんなところまでいってたんですか!?」

「それは追々話すよ...他には、人を襲う魔物と、そうじゃないのがいるけどな...あれみたいに」

 

洞窟の中に設置されている明かりで見えた天井を指す。そこには、三匹の魔物がいた。

 

「コウモリ?」

「の形をした魔物だよ。『ファンパイアス』だっけかな...」

「あってますよ先輩」

「ありがと。あいつらは人を襲うどころか近づく者から逃げる奴等だから...」

 

無言で歩き続けると、そいつらは『キキーッ!』と鳴いて洞窟の奥に逃げていった。

 

「魔物だから討伐しないといけないんじゃないの?」

「俺は襲ってこない奴を殺したくない」

「そっか...」

 

ノクスは俺の言葉に納得したのか頷いていた。赤い髪が異様になびく。滅多なことじゃないも風がふかない洞窟で_______

 

「ノクス!伏せろ!」

「え?きゃっ!」

 

ノクスに抱きついて地面に押し倒す。その上を何かが通過し、洞窟にぶつかって穴を開けた。

 

「なんですか!?」

「え、アハト君?ノクスさん!?」

「話をしてれば...人を襲う方の魔物だぞ。気をつけろ」

『ギヒ、ギヒヒヒ』

 

よく目を凝らさないと分からない洞窟の脇道に、一匹の魔物がいた。人間の様に二本の足で立ち、両手を前に出している。名前は確か、

 

「そいつは『セルダー』。風魔法を使う中位の魔物だ!有効なのは炎!」

「はいっ!」

 

俺の声にミディナが反応する。灰色っぽい髪をなびかせ、右手で剣を抜き、左手で炎の玉を作る。そのまま突っ込む彼女に続き、俺も立ち上がって氷を作る。

 

「せえやっ!」

『ギヒ!?』

 

ミディナは剣を突き出して『セルダー』を後退させ、そこに炎を発射した。相手は慌てて避けるものの、その衝撃でバランスを崩す。

「ミディナ!」

「はい!」

 

声をあげると、ミディナは頭を下げる。俺はそこに無詠唱で作った氷魔法『freezed・ice』を通し、『セルダー』の足を貫かせた。

 

『ギヒヒヒギヒ!?!?』

「これでぇ!」

 

動揺したままの『セルダー』の胸に造り出したエクスシアを突き刺す。『ギヒ!!!』と短い叫びをあげたが、やがて完全に動きを止めた。

 

「ふぅ...」

「やりましたね」

「あぁ、ナイスミディナ」

「いえいえ、支援ありがとうございました」

 

エクスシアを消し、ミディナと拳を合わせる。一緒に戦うのは久々だったが、うまくいってよかった。

 

「二人とも...凄い」

「ありがとう。ユーノちゃん」

 

ユーノの感嘆したとも呆然としたとも取れる声にミディナが返事をする。あぁ、完全に出番なかったからか。

 

「あ、アハト...ありがと」

「気にするな。俺も話に夢中だったからな。無事でよかった」

「ちょっ、やめなさい!」

 

お礼を言ってきたノクスの頭を撫でてやると、彼女は頬を赤くしながらその手を振り払った。

 

「ほら、他にもいるかも知れないでしょ!?」

「うーん...本来『セルダー』は群れでいるから警戒はしたけど...一匹だけでよかった。あいつらの一番怖いのは、届かないところから打ってくる大量の風魔法だからな」

「うわぁ...なにそれ」

「まぁ、こういう暗いところにしかいないから、炎を避ける習性があるんだがな。それにしても...ミディナ、上達したな」

「えへへ...そう言われると嬉しいです。」

 

ミディナもミディナで愛らしく頬を染めていた。前よりも魔法と剣の扱いに慣れている様に感じた。

 

「ちゃんと練習してましたからね」

「そりゃよかった」

「ねぇ、どうせならこの脇道行ってみない?なかなか気づかないから、他の人あまりいないかも」

「魔物が『遺産』を集めてるかもしれませんし...そうですね、行きましょう!」

「じゃ、そうするか。ユーノも行くぞ?」

「あ、うん」

 

なんだかボーッとしているユーノに声をかけ、四人で脇道に入る。しばらく進むが、人は誰もいなかった。

 

「こっちの方には誰も来てないんだね。さっきの道は明かりがついてたのに...」

「俺らが入る前の探検者が用意してくれてた物だからな...でも、なんか明るくないか?」

「え?」

「ほら、そこの土...」

 

うっすらとだが、地面が緑色に輝いているのが分かる。ユーノとノクス、ミディナも気がついたようでその方向を見ている...様に感じた。暗くて表情は分からない。

 

「もしかして...よーし!」

 

一番にノクスが地面に剣を突き立てる。スコップを使うように地面を掘るノクスは、今にも鼻歌を歌い出しそうなほど軽やかだった。

 

「ノクスさん、それならこっちの方が使いやすいですよ...」

 

ユーノがノクスに自分の短剣を貸そうと鞘から引き抜く。そして______

 

「えぇ!?」

「うっ!」

「何この光!」

「眩しいっ...」

 

その短剣が光輝いていた。

 

「なんで...」

明かりに照らされたユーノは、驚いた表情をしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探索結果

突然光りだしたユーノちゃんの短剣に皆が驚いている中で、

 

「それでここ掘ったらいいんですかね?」

 

目を輝かせたミディナちゃんが言葉を放ってくる。

 

「とりあえず...やってみようか。ユーノちゃん貸してくれる?」

「あ、はい」

 

ユーノちゃんから短剣を貸してもらい、土を掘り始めた。

 

「何が出るのか...」

「先輩は何か知らないんですか?」

「少なくとも剣が光るのは魔力通した時くらいじゃないか?」

「確かに...」

「あ」

 

案外浅いところにあったみたいで、短剣の先に何かが当たる音が洞窟に響いた。同時に光が消えていく。

 

「見つけたのか?」

「そうみたい。『遺産』なのかは分からないけど...とりあえずここを」

 

割れ物の危険を考えて手で掘っていく。なかなか辛い作業だが、そう時間はかからなかった。

 

「何かな~」

「なんだか嬉しげだな」

「だってこの感触は生き物じゃないもん、絶対『遺産』だから」

「本当に大好きなんですね」

「我が半生!なんてね」

 

喋りながらそれを完全に土から出す。アハトが無言でつけてくれた炎に照らされたそれは、 先から手元にかけて少し台形の形をしていて、刃の部分が透明な剣。

 

「え...」

 

ユーノちゃんとアハトが声をあげ、私を____正確には私の腰を見つめる。

 

 

 

 

 

「なんで、ノクスと同じ剣が...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「疲れたー...」

「お茶入れてきますね」

「頼むー...」

「ミディナちゃん、私も手伝うよ」

「ううん、ユーノちゃんも座ってて」

 

無事ミディナの家までたどり着き、ようやく一息つく。疲れた俺はソファーに寝そべり、その隣をノクスが占領した。

 

「まさか、あんなに追われるとは...」

「あれなら皆が期待するのもわかるよね...いや、あれは期待せざるを得ないっていうか...」

 

ノクスの持つものと同じ剣が見つかってから、光っていたことで魔物に見つかったらしく犬型の魔物『リグロ』の群れに追いかけられた。

 

してくる攻撃自体は、爪で引っ掻いてくるか牙で噛んでくるかだけなのでそうたいしたことはないのだが、最も警戒しなければならないのは、数と、その特性。

 

どっかの黒いカサカサしてるのじゃないが、一匹見るといつの間にか三匹、それを確認したら何故か九匹に増えている______そんなやつらだった。

 

それにあいつらは、より多くの魔力を持つ者を執拗に狙ってくる。おまけに、噛むとそこから魔力を吸いとってくる。

 

今回現れたのは全部で30とちょっと、やつらの特性から狙われたのはユーノだった。彼女を守るために俺とノクスは前に出て応戦、ミディナが支援する形を即座に取り相手する。

 

ユーノの『fog・beast』はあくまで動物の形をした魔力の塊なので、『リグロ』の餌も同然。かといって下手に魔法を打つと、その威力から洞窟ごと壊しかねないため、なにもできずにいた。まぁ、ユーノに注目しているだけ俺らへの警戒がないから、横からばっさばっさと斬り倒していったわけだが。

 

特にノクスの動きは良すぎるくらいだった。普段から人の視界に入らないように動く彼女は、魔力を持たない人間だということと相まってほとんど気づかれる前にやつらの首を跳ねていた。

 

「皆ごめんなさい...なにも役に立てなくて」

「いやいや、ユーノちゃんがいたからこそ私達もあまり狙われなかったわけだし、助かったよ」

「そうそう気にするな。新しいことも分かったしな」

 

気落ちしているユーノを寝そべったまま励ます。そこから見えた彼女の自慢の角は、心なしかいつもより下がって見えた。

 

「新しいことってノクスさんの剣ですか?」

「というより、剣と小手の反応だな」

 

さっきの戦闘で、ノクスが右手で剣を振ったときは炎が出て、左手で拾った同じ剣を振ったときは炎が出なかった。赤い宝石は右手の小手についていたからもう確定だろう。

 

「色々燃やすなよ」

「分かってるわよ。いざとなったらアハトに氷つくってもらうし」

「俺は便利屋じゃないんだぞー」

「いいから、これもよろしくね」

「...はいはい」

 

さっきの戦闘で、魔力を戻せばまた使えるようになっている見た目水晶の魔力石を使ったため、ノクスが魔力を戻すため俺に押し付けてくる。渋々魔力を込めながら、俺は話を続けた。

 

「あとは、俺の魔法だな...」

「強化魔法だけだって言ってたのに、嘘つき」

「うるせぇ、言ってろ」

 

電撃魔法_____俺が『psychic・plasma』と呼ぶ魔法。強化魔法のように体に電撃を纏い高速移動を可能にするもの。

 

一方俺の限定魔法『image・replica』は、使用中強化魔法以外使えない_______はずだった。

 

しかし今回とっさに使ってみたら、エクスシアを持ったまま移動ができた。止まらずに壁に激突したが。

 

どうやら氷や炎などの形作る魔法は使えない、ということらしい。強化魔法しか使えないと思っていたのは、自分に体に纏うタイプの魔法がなかったから。別に『image・replica』は、作り終わってからも魔力を使ってるんわけじゃないから、作る物じゃなければ問題ないのかもしれない。

 

「分からないものだな」

「ア、アハト君...」

「さ、お茶入れましたよ」

 

ユーノに何か言われる前に、妙にニコニコしたミディナがお茶をテーブルに置く。「ありがとう」と言ってからお茶を取り、

 

「なんか良いことでもあったのか?」

「いえ、ところで先輩、勿論さっき洞窟の壁に当たってから服についた土は落としたんですよね?」

「......」

 

そっと、お茶を元の位置に戻した。

 

「先輩?」

 

 

 

 

 

「...すいませんでした」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日の戦利品確認しましょう!」

 

アハトがソファーについた土を掃除している間に、ミディナちゃんが両手を合わせてかわいらしく言ってきた。

 

「魔物に襲われた後も色々手に入れたもんね」

「いらなければ私が貰ってもいいですか? 」

「全部欲しいところだけど...皆で取ったしね」

「私が拾ったのはこれで...」

「じゃあ私も...ユーノちゃんは?」

「あ、はい」

 

お茶を端に置いて、真ん中に拾った物を広げる。ここからは自分のお店で『遺産』を扱うミディナちゃんと、私の出番。目がいくのは三つ。

 

「まず、ここら辺のは全部使い捨ての魔力石ですね」

「状態は全部良くないね。ミディナちゃんのところで売れる?」

「寧ろこのくらいのやつの方がギリギリ安値で取り扱われないので良いです。全部もらっていいですか?」

「じゃあどうぞ」

「ありがとうございます」

 

ミディナちゃんはいつの間に持ってきていたのか、大きめの袋に魔力石を入れていった。これで全体の三割は減った。

 

「私が手伝えることって、ありますか...?」

「ユーノちゃんは休んでて、ずっと狙われて嫌だったでしょ?」

「でも、私...」

「...じゃあ、一緒に見ててくれる?私達だけだと先入観があるから」

「ミディナちゃん...うん!」

「じゃあユーノこれ変わっ「じゃあ、次いくよ」ノクスてめぇ!」

 

後ろからの騒音は無視して続きを見る。

 

「こっちは回復薬だね...」

「これはいりますか?」

「いや、ユーノちゃんとアハトはエリクサール持ってるから」

「エリクサール!!?」

 

ガタッとミディナちゃんが立ち上がる。その目は驚愕の色をしていた。

 

「ちょっ、最高位の薬じゃないですか!!本物ですか!?」

「ユーノちゃんあるよね?」

「見せましょうか?」

「ぜひお願いします!!」

 

ユーノちゃんが、バックからエリクサールを出す。

 

「ふぁー...これが...」

 

目を輝かせて瓶を見つめて感動している彼女は、年相応の感じがした。

 

(私と似てるのかなぁ)

 

『遺産』に対する反応が私と変わらない気がした。

 

「まぁ、だからそれも商品にしちゃっていいと思うよ。確かに数は多い方がいいけど、そこまで必要でもないから...」

「わ、わかりました」

 

ハッとして更に机の物を整理をする。残ったのは二本の剣。

 

「じゃあ、あとはこれだけですね」

「そうだね...」

「...ノクスさんのと、同じ剣」

 

 

最初の一本が見つかったあと更にもう一本見つかり、私のと合計して三本になっていた。

 

「これはもらっていい?」

「確かに謎が多いですけど、同じ剣三本もいります?」

「これ、貰った物だからその人に会ったときに聞いてみたいなと思って」

「成る程...分かりました。独特な形ですけど鞘も用意しますね」

「ほんと?ありがとう」

「綺麗にしましたよっと」

 

話に区切りがついたとき、まるで狙い済ましたようにアハトが報告を入れてくる。

 

「じゃあ、ご飯にしましょう!先輩のために甘いものもありますから」

「ありがとうございます!!」

 

ミディナちゃんは、アハトの胃袋を完全に掴んでいるみたいだった。

 

 

 

 

 

「......」




更新頻度遅くなって申し訳ないです...また戻せるよう頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

溜まり場

更新を久々にしたと感じる...申し訳ないです

少しでもお楽しみください。


「じゃあ張りきって行こう!」

「はい!」

 

テンション高めなノクスとミディナが駆けていき、その後を俺が、さらに後ろからユーノがついてくる。

 

俺達が『遺産』を探し出して早くも二日目。今日を入れてあと二日で交通規制が解除されるようで、それまで目一杯『遺産』を探すことになった。あまり人目につかないところまで移動し、短剣が光出したところで周辺を探す。これを繰り返すだけでかなりの物が手に入った。

 

「魔法花火詰め合わせに、ちっちゃくなる枕、魔力が(気持ちだけ)上がるセンスの欠片もない仮面に、魔法機解説書(マニュアル)...なにこの実用性皆無の品々?」

「実用性皆無じゃないもん!!」

 

使えるのかよく分からない物ばかりだったが。

 

俺の呟きにノクスが反論してくる。そういえばこいつ、収縮する抱き枕持ってるんだったと思い返す。彼女の気持ちを表すように暗い洞窟でも割と目立つ赤髪が重力に逆らっているように見えた。

 

「でも、今回手に入ったのはほとんど私のお店か、オークション行きですね...」

「こんなものでも取り扱うのか」

「『遺産』は名前だけで価値がありますから」

 

既に昼時は過ぎ、粗悪品が多いが物は手に入った。ミディナは大きめの袋を持ってきていたが、数だけはあるため俺のポーチにもいくつか入っている。

 

「魔法機の解説書ってやつは貰うね。見てみたいから」

「分かりました。でも分からないと思いますよ?なんかよくわからない字で書かれてますし...」

「それは代(だい)暗号だと思うぞ。かなり昔の文字。確か本で読んだことがある」

「じゃあ、その辞書が手に入るまでお預けですね」

「ま、まぁその内見つかるでしょ!」

 

一休憩するために洞窟の入り口近くまで戻ってきた俺達の会話は、止まることがなかった。

 

「にしても、何でユーノの短剣が『遺産』に反応して光るんだ?おまけに光らないのもあるし」

 

結局ユーノが(正確に言えばノクスだが)エルフの村で貰った短剣がなぜ光るのかというのは、今もわからないままだった。近くにいたユーノはぶんぶんと首を横に振る。

 

「私に聞かれてもわからないよ...ノクスさんとミディナちゃんは? 」

 

まだ人はいないものの、周りの目を気にして帽子を深くかぶるユーノが『遺産』に関して詳しい二人に聞き返すと、二人は考えるような仕草をとった。

 

(...ノクス似合わないな)

 

「光るというのは多分その剣の性質なんでしょう。元々なんなのか分からない『遺産』なんですし、こういうことがあってもおかしくはないと思います」

「多分、他の『遺産』に反応して光るよう作られた物なんだろうね 」

「じゃあ、光のと光らないのがあるのは?」

「それは多分、作り手の違いじゃないかと」

「「作り手?」」

 

ノクスの意見に俺とユーノが揃って声を上げる。

 

「『遺産』にはそれぞれ何かしらの印が彫ってあって、それが作り手それぞれの違い、言ってみれば見分け方になっているのではないか、という話です」

「昨日確認したけど、私がメイルから貰ったやつは十字、昨日手に入れた二本は半円が彫られてたよ。ほら」

 

ノクスが腰に着けていた剣と、背中にクロスさせて背負っている新しい剣の一つを取りだし、こちらに見せてくる。確かにその剣の唾の近くには、十字と半円の印がうっすらとあった。

 

「ホントだ。てことはユーノの短剣も...」

「あ、あったよ。半円」

「てことは、同じ作り手、印にしか反応しないってことか。物同士をくっつければ光も消えるし」

「そゆことよ。あんたは知ってると思ってたけど?」

「俺だって知らないことくらいあるさ」

 

上げられていた期待を無下にして、自身のフードをかぶり直した。洞窟の中をうっすらと流れていた風を横からは完全に感じなくなる。そんなときだった。

 

 

 

 

 

「キャーー!!!」

「「「「!?」」」」

 

遠くの方からつんざくような悲鳴が耳を打ったのは。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「今のは!?」

「!!」

「!アハト君!」

 

悲鳴がした直後、アハト君は洞窟の奥へ引き返していった。それを大慌てで追いかける私たち。それでも距離はぐんぐん離されていった。光って見えるのは使っているのが強化魔法ではなく、電撃魔法である証。

 

「あいつ魔法使ってるよ!」

「非常事態なのは分かりますけど、一人では危ないですよ!」

「洞窟の中で声が反響してるんだから、正確な方向も分からないくせに!」

 

ノクスさんとミディナちゃんが叫んでも、アハト君は止まろうとしない。一切振り向かないので、声が聞こえて無いようにも見えた。

 

(いつものアハト君なら、何か一言くらいは言ってきてくれるはず...)

 

それだけ焦っているのか、それとも別に一人で対処できると考えたのか、私には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

「______」

「ッ!!二人とも!」

 

シャラン、と響く鈴の音。それと、私の前を走る二人の上から何かが降ってくるのは同時だった。

 

「「!」」

 

急停止する二人の目の前に昨日見た魔物『セルダー』が降ってくる。その手には壁に穴を開ける風魔法。既に詠唱してあるのか、二匹の右手には風の塊が鎮座している。ほぼゼロ距離の、避けるのが不可能な攻撃。

 

「やめっ」

 

て。と言い切ることすらできない刹那に、

 

「邪魔!!」

「はぁっ!」

 

前者は炎を纏った剣を出し、その風ごと切り伏せ、後者は同じ魔法で相殺、動揺している間に剣で首を跳ねた。ほんのわずかな出来事。

 

「行こう!」

「はい。ユーノちゃんも」

「...うん!」

 

たった今命のやり取りがあった様には見えない二人に促され、私は再び走り出した。

 

 

 

 

 

______その足どりが、あまり良くないのを自覚したまま。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

先に行ったアハト君にやっと追いつく。だがそれは速さを上回った結果ではなかった。あんなに走っていたのに、アハト君が止まったから。

 

「なんだよ...これ」

「なにが?」

「何かあるんですか?」

「お前ら!?見ちゃダメだ!」

 

後ろにいた私たちに驚きながら止めようとするも遅く。私たちは自分達からは死角になっていた道の先を覗いた。アハト君は手で止めようとしていたが、本当に遅かった。

 

 

 

 

 

道の先には、薄暗い洞窟でも分かるほどの赤い水溜まりが出来ていた。

 

「...え?」

「......」

「...うぅ」

 

ノクスさんがとぼけた様な声を上げ、私は何も言えず、ミディナちゃんはくぐもった声を出す。

 

______水溜まりには、人が倒れていた。うつ伏せでどうなっているのかは分からないけれど、これは、そう。

 

 

 

 

 

まごうことなき、死体だった。

 

「キャーー!!!」

「うぇっ」

 

知覚してから、鉄が鼻先に押し付けられているような錯覚に陥る。赤い水溜まりから発せられる異臭。それを発する原因となった人物の顔が見えないのは、幸運なのか不運なのか。

 

「し、死んでっ」

「だから見るなって言ったんだ、この中でこんなことの耐性あるやつなんて......ユーノ?」

 

アハト君の言葉も届かず、私はその赤に、朱に見入っていた。人の体が作り出す色。その生命が終わりを迎える代償に見える量の色。

 

「あぁ...」

 

 

 

 

 

___キレい_________

 

「あぁぁ......」

 

恐怖と、高揚が、入り交じる。背筋が凍る。自分は何を思っているんだろう。こんな、これを恐怖以外で見るなんて______

 

「ユーノ!!」

「っ!」

 

アハト君の声でようやく元に戻る。恐怖で足がすくみ、腰が抜けて地面に倒れてしまった。それでも足と手の震えは止まらない。ガクガクと、ガクガクと。

 

「魔物を倒してても、人が倒れてるのを見て正気でいられるわけねぇもんな...」

「...先輩、私」

「言わなくていい。取り敢えず戻って報告しよう。休むならそこでだ」

「はい...」

 

顔面蒼白。今のミディナちゃんにはその言葉が一番似合うだろう。

 

「ノクスも」

「え、うん...」

「なんなら、おぶっていこうか?」

「...いや、大丈夫。それよりミディナちゃんかユーノちゃんを」

「...辛かったら無理せず言えよ」

「......分かってるよ」

 

ノクスさんもノクスさんで、顔色が悪いのが分かる。今にも倒れてしまいそうだった。

 

「ユーノ、立てるか?」

「...ぅん」

 

アハト君の手に捕まり、おぼつかない足で立ち上がる。

 

私は今どんな顔をしているのか、無性に気になった。

 

「皆無理するなよ。ひとまず入り口まで戻って状況を伝えに...」

「大丈夫ですか!?」

「何があった!?!?」

 

アハト君が先導して来た道を戻ろうとした時に現れたのは、いかつい顔をして斧を持っていた男の人たちだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気遣いと強がり

「大丈夫ですか!?」

「何があった!?!?」

 

死体が倒れている俺達の元に来たのは、以前見たことがある冒険者達。そいつらが赤い池を見て戦慄する。

 

「これは」

「俺達が来た時には、こうなっていたんです。仲間が辛そうにしてるから、ここを任せたいんですが」

「あ、あぁ...」

 

少なからず動揺があったのか、ユーノやミディナの顔を見てその意思を組んでくれたのか。あっさりと許可を出して貰う。

 

「ありがとうございます。お前ら、行くぞ」

「うん...」

「はい...」

「うぅ......」

 

俺は気だるげに崩れている三人を連れて洞窟の入り口へと歩いていった。勿論周りに魔物がいないか警戒しながら。

 

 

 

 

 

どこかからシャランと、聞き慣れない鈴の音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どうしたんですか!?さっき悲鳴が聞こえて...」

「...死体が見つかりました。今は後から来た二人に任せました。こっちは体調を崩したので...」

「そうでしたか...辛いところもあるでしょう。休んでいてください」

「助かります」

 

外に出ると、 古跡(ファーデン)探検者の指示をしているミコン・スラッツがこちらに話しかけてきたので、適度に話す。こちらに無駄な注目が来ないように。今ユーノ達を不安がらせる視線を向けさせたくない。

 

周りを見渡すとかなりの人数がグループに別れて話していた。恐らく、探索中に危険だと感じた者が出てきた結果、そのほとんどが出てきたのだろう。

 

「......お前らはしばらく座ってろ。目立つなよ?特にユーノ」

「こんなんじゃ、目立ちたくても出来ないっての...」

 

皆を馬車が集まる所の端に座らせてからかけた俺の言葉に、ノクスが口で返すのを聞いて幾分か安心した。

 

だが、魔物と戦っているから大丈夫だと思っていたが、人間の死体は衝撃が大きかったらしい。魔物も、ユーノと旅をし始めてからは襲ってくるやつしか相手にしてこなかったし。

 

「先輩は...」

「第一発見者だしな。状況の説明がいるだろうし、してくる」

「...体調は」

「大丈夫だ。任せろ」

 

心配してくるミディナには、はっきりと自分のことを伝えた。

 

「...アハト君」

「カムイな。じゃあ、行ってくる」

 

ユーノとはもはや恒例になりつつあるやり取りをして、再び入口手前まで戻った。

 

戻ったときには、現場を任せた二人も戻ってきており、大体の人がその周りに集まっていた。

 

「皆さん聞いてください」

 

その中でスラッツさんが手を上げる。場慣れしていないが、まとめようと凛させている声と共に。

 

「皆さん察しているかと思いますが、この洞窟で、初めて死体が見つかりました見てきてもらったお二人から、誰だかも分かりました。シュベル・クルールさんです」

「!!」

 

名前を聞いた瞬間、重い空気がさらに凍りつく。

 

「...この町でも有名な魔法使い。そんな彼が死ぬということは、高位の魔物なのは確定です。ですが、この洞窟ではそれこそ数は多いものの、出て『セルダー』程度の中位魔だけしか出ていないと聞きます。どなたか、それ以上の魔物を目撃したという方はいますか?」

 

つまり、実力者がやられたことで動揺したんだろう。どのくらい強いのかは俺には分からないが、周りの空気の冷めようで大体理解できた。

 

魔物との戦いで死ぬ人はいくらでも出る。過去にも古跡(ファーデン)を探索して死んだ人だっている。それでもこれだけ落ち込んでいるのは、有力者がやられたこと、そもそもこうした大きめの古跡自体あまりないことがあるのか、それとも______

 

「...誰もいないようですね」

 

質問の答えが返ってこないことで、早々に切り上げるスラッツさん。

 

「では、これよりこの古跡は危険域としてしばらく関係者以外立ち入り禁止にしたいと思います。少なくとも高位の魔物がどんなものなのか判明するまではむやみに入ろうとしないでください」

「探索者なんだし自業自得だろ!俺達に責任はないんだぞ!」

「そうだそうだ!」

 

悪い予感が当たった。さっきの答え、それはこの古跡の状況にある。

 

魔物の数は多く、『遺産』も普通のクラスなら多く出ること。それによって高まる期待。なにより今朝、この古跡がSランクだと言われたのが極めつけだった。

 

それは______人が死ぬことによって、自分の取れる可能性が上がることに対しての興奮。しかしそれをこんなところで言い出したら失礼どころではないので、自分の気持ちを抑えていた。俺はそんな予想をしていた。

 

そしてそれが形となって現れたのが、たった今出た不満なのだろう。思わず体が動きそうになる。

 

(人が...死んだのに)

 

憤りで拳を握りしめた。

 

「皆さんの命を預からせて頂いてるのに、そんなことはさせられません!」

 

探索者を纏めるものとして出した結論をその当人達に否定されるものの、スラッツさんは怒気のこもった一声で押さえ込む。その声を聞いて、俺の気持ちも幾分か収まった。

探索者を入れた方が『遺産』は運ばれ、ある程度自身の元に来るのは分かりきっている事実。それでも中に入れることはない。つまり自分の利益を後回しにしてでも人の安全を優先する提案には素直に尊敬する。

 

『遺産』はまだまだ希少性が高い、この場所に残りどれだけ地面に埋まっているかも分からない。なら早く、多く取らなければ。そんな概念に捕らわれてもおかしくないのだから。

 

「その上で、魔物の討伐に協力してくださる方を募集します!報酬は何らかの形で!」

 

探索者から傭兵の形になるが、やることが『遺産』さがしから魔物討伐に変わるだけなのでさして内容は変わらない。しかし、『遺産』だけ狙っていた奴らは困り顔を作るしかない。

 

それからは、有名人がやられただけあって手はなかなか上がらなかった。ざわざわとした雰囲気だけが続く。

 

特にあいつらも気にしないだろ。そう結論づけて、手を上げようとして______

 

「じゃあ、行きます」

 

人混みの中から出てきた手を見て引っ込めた。

 

「あなたは...」

「ここで魔物を止めなければいつ町に降りてくるか分かりませんし、協力させて頂きます。もちろん報酬はいりませんので」

 

さりげなく無償で働くと言ってきたのは________髪の、いかにも好青年といった様子の人物だった。

 

「あぁ、町長の息子か」

「いや、こないだ次期町長に決まったらしいぞ」

「じゃあ任せて平気だな」

「俺達は帰るか」

「明日にそなえてっと」

 

その人物の登場に、今までの暗い雰囲気から明るさが出てくる。他力本願で最低な台詞ばかりだが、この時だけは俺は別のことを考えていた。彼の名前は、確か____

 

「ハルベルトさん、ありがとうございます」

「いえいえ、自分は村の一員ですからね」

 

 

 

 

「...ハルベルト・クリム」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「え、あんたやるの!?」

「協力したいんだよ。いいだろ?」

 

戻って来たアハトが私達に言ったのは、魔物の討伐をしに行くというものだった。

 

だけど、あの現場を見たから分かる。行かせたら、またこいつは危険になると。

 

「無茶だよ!あんた以外にいるんでしょ、その人に任せれば...」

「さすがに一人だと何かあったときに対応出来ることが少ないし、危険な魔物に至っては正体も分からないんだ。人数は多い方が良い」

「でも!」

「行かせてくれ」

 

私の怒り混じりの言葉はアハトが頭を下げることで止まらざるをえなくなる。

 

「...先輩、ならせめて私達も......」

「そうだ!私も」

「お前らは先に帰っておいてくれ。どのみちそんな顔してたら連れていけないしな」

「顔って、なにを」

「この話をし始めたときから辛そうな顔が出てるぞ。無意識なんだろうけどな」

「......」

 

言われて、さっきの映像が思い出される。流れ続ける血の臭いと、絶望したような顔が脳にこびりついて離れない。

 

ミディナちゃんと同じように顔を触ると、その頬はひきつっているように感じた。

 

でも、この顔からさらに崩してはいけない。そしたらアハトは絶対に私を連れていこうとしないから。

 

「...確かに怖いよ?でも、カムイ君一人で行かせる方が......」

「一人じゃないし、死ぬつもりもない。強いて言うなら飯でも用意しといてくれよな」

 

ポツリ、と今まで黙っていたユーノちゃんが呟く。それに対してアハトが流暢に返して、会話か途切れた。

 

「じゃあ、行ってくる。ちゃんと先に帰ってるんだぞ」

「......いってらっしゃい」

 

背を向けて歩き出すアハトに、見送りの言葉しか出せない私達。やがて彼女は、もう一人の討伐者と一緒に暗闇しかない洞窟の中へ入っていった。しばらく、そのまま動かない私達。

 

 

 

 

 

「私が、もっと強ければ......」

 

 

 

 

 

その言葉を両隣のどちらが紡いだのか、私には分からなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「よかったんですか?」

「何がです?」

 

洞窟に入ってから三分程度だろうか。ひとまず死体があった場所まで戻ろうと歩いている途中で、たった二人の討伐隊の片割れ、この町の長の孫であるハルベルト・クリムが話しかけてきて、俺はその質問に質問で返した。

 

「貴方の仲間を放っておいて、ですよ。これから行く現場を見たんですよね?」

「ばっちし」

「顔色も良くなかった。側にいてあげるべきだったのでは?」

「...そうですね」

 

フードに隠れた顔を歪ませる。そっちの方が彼女達にとってよかったかもしれない。でも、

 

「...ここから魔物が出る方が危険ですから」

「......そういうことに、しときます」

 

俺のついた嘘を、彼はすぐに看破する。それでも、俺は言い直そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

俺の手は、震えていた。

 

 

 

 

 

(死体を見て励ませるやつがどこにいる...ってな)

 

俺も、恐怖は感じていた。牙か爪で貫かれたのであろう腹に空いた穴、そこから流れる深紅の液体、見開き、閉じることが叶わなかった虚ろな目、あれを見て怖くないなんて言えない。平然としていられる人がいれば、俺はそれこそ恐怖を感じる。

 

(でも...)

 

あいつらの泣きそうな目を見て、俺まで怖がるわけにはいかない。だから、さっきまでは精一杯の強がりをした。あそこから、あいつらの側から離れたのは。

 

(あれ以上いると、俺まで辛くなりそうだからな)

 

一緒に泣くなんてしたら、あいつらの少し落ち着いた心がまた動揺してしまう。そんなこと、したくない、させたくない。それは俺の精一杯の抵抗だった。

 

「ここですか」

「...そうですね」

「......あれ、ですよね」

「はい」

「...切り込みます」

「じゃあ魔法で援護します。あまり期待しないでください」

「援護なんてしてもらわなくても倒してみせますよ」

 

彼は背中から大剣を引き抜き、俺は無詠唱で氷魔法を作り出す。

 

そうして______血塗られた死体を貪っていた『リグロ』の群れに対して、攻撃を始めた。始めに放った少し大きめの氷魔法は、一番手前にいた『リグロ』の脳天に深く刺さった。




気づけばこの作品、最初に投稿してから一年以上経ちました。長続きしない自分がよく書けていると思います...思いたいな!(笑)

あと、リアルの友人に「タイトルと内容噛み合ってなくね?」と言われたので、何か似合うタイトルありましたらコメントしてくださると泣いて喜びます。

これからもこの作品をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気持ちの変化

サブタイ決めムズい...


音をたてながら、部屋の片隅に置かれている時計はその針を動かし続ける。

 

「遅い......」

 

一人きりのリビングで私は何度目か分からない言葉を呟いた。喉が乾いたためテーブルに置いてあるお茶を飲む。

 

 

 

 

 

既にアハトと別れてから十時間は経っていた。見えていた太陽はとうに失せ、家の外は夜の暗闇しかない。

 

あのあと、私達は町に戻る馬車に乗ってミディナちゃんの家に帰ってきた。あまり元気は出せなかったが、年長者として夕食の準備をし(料理の腕はともかく)、二人は少し早めに寝てしまった。アハトが帰って来るまで起きようとはしていたけど、足場が安定しない洞窟を半日以上歩いた上、精神的問題もあって限界だったらしい。今は布団の中でぐっすりのはず。

 

そして私は、

 

「早く帰って来なさいよ...まだ洞窟にいるわけじゃないんでしょ」

 

眠たい体を奮い立たせ、誰にも届かない罵倒を繰り返していた。夕飯の残りは用意してあるし、お風呂も沸いている。その並べられている食器を見ながら、またため息をついた。

 

魔物は夜になると獰猛になる者が多く、いくらなんでもこんな時間まで探索しているとは思えなかった。だからここまで遅くなっても帰ってこないのは、偉い人に捕まっているのか、あるいは______

 

「っ!そんなわけない!」

 

立ち上がり、あわてて自分の想像を打ち消す。それ以上思ったことが現実だったら耐えられないから。私は脱力し、項垂れるようにソファーに沈んだ。

 

「はぁ...どうして」

 

少し前まで、こんなことになるなんて思わなかった。『遺産』だけ求めて一人旅をしていた私が、どうして一月たらずでここまで変わると思えるだろう。

 

「...アハト・テイカー」

 

初めはカムイ・テイカーと名乗っていた彼女を、私は男だと思い込んでいた。短めであまりそろってない黒髪、何も寄せ付けないような黒い瞳、なにより飄々とした態度と言葉使い。

 

男を信用していない私は、ずっと警戒していた。だが、まだ彼女を男だと思い込んでいた時___竜に襲われ、助けてもらった。それから正体が判明したわけだが。

 

私はその時、男でも女でも、信頼できる相手というのは関係なく決まるのだと思った。別に、男だから信用出来ないわけでも、女だから信用出来るわけでもない。

 

「ただ、あいつだから」

 

ユーノちゃんも比べられない位大切な仲間だ。友達とか、親友ともとれるが、仲間という言い方が私にとって一番しっくりくる。

 

ミディナちゃんも、つい数日前に出会ったばかりだが仲良くできてると思う。なにより『遺産』の話が出来るのが嬉しい。

 

だが、それでも、

 

「私にとって、あいつは...」

 

視野の狭まっていた私に無理やり周りを見せた人、何かと気にかけてくれる人、竜の時もあのレイの時も、私を気づかってくれた人。

 

「あぁーもう」

 

自分の考えが分からなくて頭をかかえる。勿論それで答えが出ることはないが、それでもやらずにはいられなかった。

 

「信じられない」

 

ソファーに顔をつけ、力を抜く。自然と肺から息が出る。

 

確かに彼女が私にとってどういった人物なのかはわからない。でも、

 

(......大切な人を考える時って、こんなかんじなのかな)

 

「...早く帰って来い。バーカ」

 

私はその感覚が気持ちよくて微笑んだ。

 

 

 

 

 

「ただいまっと...ノクスが死んでる!?」

 

まぁ、そんな感傷はすぐに消えるのだけど。

 

 

 

 

 

「死んでないわバカ!」

「バカとはなんだ、やっと帰ってきたのにいきなりそれは傷つくぞ」

「こんなに遅くなる時点でバカでしょ!外真っ暗じゃん!」

「はいはい悪かった悪かった」

「絶対悪いと思ってないー!」

 

こうして、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ん、ご馳走様でした」

「お粗末さまです。お風呂にする?」

「いや、朝シャワーにするわ。今はこのまま寝たい...ふぁーあ」

「確かに眠そうだね」

「まぁな」

 

ひとまずノクスが作ってくれた夕飯を平らげ、満足感に浸りながら目をこする。しかし、落ちてくる目蓋が元気を取り戻すことはなかった。

 

「全く...」

「...悪いな」

「別にそういうこと言われたくてやってるわけじゃないから」

「......ありがと」

「はいはい」

 

会話の最中に目の前に置いてあった食器が無くなっていく。言い訳しながら流しまで運ぶ彼女に感謝しながら、机に突っ伏した。

 

(自分だって眠いだろうに、なにも言わなくてもこういうのをやってくれる辺り、凄く根はいいやつなんだがなぁ...)

 

「どうかした?」

「いや、なんでも」

 

(本人は、気づいてないんだろうな)

 

他人だからこそ分かることに苦笑しながら、活発に動かない頭で必要事項を整理していった。

 

「明日も討伐で、志願者以外は入れなくするそうだ。交通規制も延長、少しこの家で過ごすのが長くなるな」

「そうなの?」

「俺達もあのあとかなりの数を倒したんだが...大物が見つからなくてな」

 

半日近く洞窟を手当たり次第歩き、魔物を倒した成果はそう多くなかった。

 

「いや、ほんと、『リグロ』40匹を二人で倒すのは辛かったけど...」

「...へ?」

 

一番苦戦したそれは、間違いなく一人だったら何かしらの失敗をしていただろう。

 

「ねぇ、大丈夫なの!?」

「いや、無事だから帰ってこれてるわけですよ?」

 

ノクスが半笑いのまま固まっていた表情を変えて迫ってくる。俺としては彼女が洗っている皿が動揺で滑らせてしまわないかが心配だった。

 

「そ、そっか...よかった」

「...お前、ホントに最初会ったときから変わったな。今の方がよっぽど親しみやすい」

 

割りと最初の方から漫才染みたことはしていたが。

 

「親しみやすい...か」

「?」

「何でもない!」

 

突然微笑み、俺の顔をみてさらに笑顔を見せるノクスに、俺は疑問しか浮かばなかった。とりあえず話を戻すことにする。

 

「まぁ、だから明日も行くつもりだ。お前らはどうする?」

「...へ?」

 

俺の質問に彼女は再び表情を固まらせる。今日はコロコロ表情が変わるなと思い、いつも変わってるわと自分の中で突っ込みを入れた。

 

「いや、だから明日、お前らはどうするってこと。この町は魚が多いし、市場も賑わってると思うからそっち行っても...」

「...なにいってるの?」

「へ?」

 

彼女の切り返しに今度は俺が硬直する。ノクスは呆れたようにため息をつきながら、

 

「私も討伐行くよ?当たり前でしょ」

 

本当に、当然だと言わんばかりに言い返してきた。

 

「いや、お前らを行かせるわけには...」

「じゃあアハトも休む!」

「それはしたくない...なんでそんなこと言ってくるんだ?」

「......はぁーあ。いい?」

 

呆れた顔をさらに崩し、手を頭にあてる動作をしてから、

「ユーノちゃんも、ミディナちゃんも、...私も、皆一人だけ無理して行こうとするあんたが心配なの?分かる?」

「......」

「私と出会ってからいつも無理させてるし、足手まといなのもわかってるけど行かないなんて選択はするつもりないの。確かに今まで死ぬかもしれないと思ったことはあったし、実際...死体を見て、恐怖しかでなかった」

「......」

「でも、だからこそそんな場所に一人で行かせたくないの。私はなんと言われても絶対行くから」

 

ノクスの言葉に、俺はただただ聞いているだけだった。そのまま立ち上がり、二階へ向かう。

 

「ちょっ、話はまだ...」

「...明日も早い。もし来るなら...さっさと寝ろ」

「!...うん!」

 

返事を聞く前に二階まで上がる。真っ暗な廊下の中、壁に背中を預けてもたれかかった。

 

「......その言い方は、ずるいだろ」

 

俺と別れるまで震えていたから、行かせたくなかった。それが、俺が心配だからついていく。と言ってくれた。

 

俺は別に信用してなかったとか、仲間想いじゃないとか、力が劣っているとか、そうゆうわけじゃない。でも、彼女に言われて気づいたことはある。

 

「...ありがとう」

 

何か縛りが自分から離れた気がして、一人安堵した。

 

月は明るく、輝いていた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「くしゅん!...そろそろ朝シャワーは諦めるべきかね......」

 

背筋を走る寒気を振り払いながら頭を洗う。使わせてもらっている石鹸からは良い匂いがした。

 

昨日泥の様に眠り、残したままの汗を流すため朝シャワーをしているが、この地域だともうすぐ雪が降る季節でもあるので辛いものになってきていた。

 

「新魔にはあまり風呂ないし...」

 

新魔の住む場所は基本シャワーしかない。ここも例にもれずなのだが、風呂に入りたい派の俺には少し感じるところがあった。

 

(まぁ、使わせて貰っておいて何を言ってるんだってのは、重々承知だけどな)

 

女子としては短めの髪を洗い終わり、体の方へ手を伸ばす。

 

「失礼しまーす」

「へ?」

 

しかしそれは突然の来訪者______服を着たまま入ってきたミディナによって止まった。

 

「いや、ミディナ、お前」

「昨日早く寝たぶん早起きしてしまって、起きたらシャワー室から音が聞こえたものですから。背中流しても良いですか?」

「...頼む」

 

女子同士とはいえ恥ずかしさはあるが、出ていけとも言えず渋々了承した。

 

ミディナはどこからともなくスポンジを取りだし、同時に出した椅子に座る。俺も洗いやすいよう別の椅子に座ると、ほどなくして背中に柔らかい感触がした。

 

「気持ち良いですか?」

「あぁ、うん。ありがとな」

 

確かにミディナの洗い方は優しくもあり強さもあり、自分でやるよりも背中が気持ちよかった。

 

「......」

「......」

「...先輩」

「んー?」

「...昨日、どうして私達を残して行ってしまったんですか?」

「あの時のお前らを連れていっても、何にもならないだろ」

「そうですけど...聞きたいのはそうじゃないんです」

 

ゆっくりと、シャワーの音でかき消されそうな声で出てくる言葉をしっかりと聞く。

 

「なんで、先輩は危険のある場所に、一人で行ってしまったんですか?」

「別に一人ではなかったし、古跡(ファーデン)はいつも危険があるが...高位な魔物が町にでも降りて来たら、大変だろ?」

「......」

「今の俺は力もつけてきてる。戦って守れる物があるなら...俺は戦うさ」

「......」

 

コツン、とスポンジ以外の何かが背中に当たる。首だけ動かして見ると、ミディナが頭をもたれさせていた。

 

「...いつも先輩は、無茶し過ぎです」

「最近自覚してる」

「理想は高い方が良いですが、大勢の皆を守るために戦って、全部を守れるなんて思いません」

「そうだな」

「守れても、先輩が犠牲になったら意味ないんです。守られた人は、私も含めて喜びません」

「......そうだな」

「...だから、必ず無事でいてください。約束ですよ?」

 

ミディナの少し震えた、優しげな声に俺は、

 

 

 

 

 

「...あぁ、約束だ」

 

力強く頷いた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

「......」

「...えっーと」

「......」

「......」

「......なにこの空気?」

 

シャワーから上がって残りの二人も起き、飯の時間。とある二人は無言を貫いていた。

 

「......」

「......」

 

まぁ、俺とミディナなのだが。

 

さっきのシャワー室での出来事が、頭から離れない。今思うと朝から赤裸々なことを言い合ったのだ。結果______

 

(恥ずかしすぎるだろ!!!)

 

羞恥心で一杯だった。飯の味がしない。顔は真っ赤で、体温も高くなっていた。

 

ミディナも同様らしく、ずっとうつむいたままだった。目を合わせないので気は楽だが。

 

「ねぇ、一体なにがあったわけ?」

「何もなかった。いいな?」

「いや、ここまで無言でなにもないっ「いいな?」...分かった」

 

無理に咳払いをして、俺は必死に話題を変えようとした。

 

「じゃあ、今日も俺は討伐の協力をする。お前らも来ても構わないが、昨日みたいに死体を見るかもしれないし、自分が死ぬかもしれない...それでも、来たいというやつだけ連れてく。後は買い物とかしてる。どうだ?」

「行くに決まってるでしょ。昨日みたいになるつもりはないから連れてって!」

「はいはい...お前は昨日聞いてたから分かってるよ」

 

くどくど説いた説明を吹き飛ばすようにノクスが手を上げ、俺は頷いた。残りは二人。

 

「私も行きます」

 

さらに手を上げてきたのはミディナだった。

 

「年上だけに任せてもいいんだよ?」

「年上でも年下でも関係ないですよ。私が行きたいから行くんです。私だって先輩や、ノクスさんも危険な目にあってほしくないんです。それに...自分の町くらい、自分で守ります」

 

さっきの恥ずかしそうにしてたのから一転、きっぱりと言い切るミディナが本当14歳か若干分からなくなった。

 

ともかく、これで二人が決まった。残るは一人。

 

「...ユーノは、どうする?」

「私は...私も、連れて行ってください!」

「...分かった」

「じゃあ早く食べて行こう」

「はい。そうですね」

 

これで、全員の参加が決まった。どうなるかは分からないが、ユーノの____暗いままの顔が、無性に記憶に残った。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「これで、私も...今度こそ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砕かれた思い

到着した洞窟前は、異様な光景に包まれていた。

 

「この人達は...」

「凄いな...」

 

いつものように集まった人が、いつもより少し熱く武器の見せあいをしたり、どう戦うかを話していた。

 

それは確かにいつも通りだったのだろう______昨日の朝までなら。の話だが。

 

「私が言えることじゃないけど、昨日あんなに逃げてた人がこんなに集まるものなの...?」

 

ノクスの言葉は、俺達全員の意思を組んでいるように思えた。

 

昨日、逃げ出した人ほとんどがいる。それも、まだ討伐部隊しか入ってはいけないとなっているのにも関わらず。疑わない方がおかしかった。

 

「カムイさん」

「あ、ハルベルト...さん」

 

こちらに声をかけてきたのは昨日共に戦ったハルベルト・クリムだった。そのままこちらに寄ってきて、静かな声で話し出す。

 

「ミコンさんから何か聞きました?」

「いや、何も...昨日全員で解散してから見てません」

「全員討伐部隊に参加......というのは、あり得ない話ですよね。そちらの彼女達は?」

「こいつらは一緒に参加します。昨日あれだけ怯えてて不安だと思う...でも、戦力になることは、保証する」

「......危なかったら、すぐ退かせて下さい」

「勿論です」

「でしたら、あとは......」

 

数分してからスラッツさんが来る。彼がした顔は、たくさんの討伐志願者が来てくれた喜びではなく、なぜここにいるんだと言いたげだった。

 

「皆さん?ここはまだ一般に解放するつもりは...」

 

しかし、返ってきた言葉はある意味予想できたことであり______予想外のことだった。

 

「え、昨日倒したんじゃないのか?」

「もう終わったんだろ?」

「今朝言いに来ていたぞ。今日からもう大丈夫って」

「...え?」

 

昨日最後まで洞窟に残っていたのは、俺とクリムとスラッツさん、それに馬車を動かすスラッツさんの部下の四人。

 

「どういうことだ...」

「...俺じゃありません」

 

少し視線をずらしているのに気づいたのか、クリムが釘を刺してくる。

 

「リン、貴女はなにか?」

「知るわけないですよ。ただでさえさっきまで寝てたんですから」

 

聞こえる声からして、残りの二人も知っている様子ではない。

 

「とすると...」

「皆さん!まだ危険があるので今日も入らないで下さい!」

「あ!?またかよ!?」

「こっちは大丈夫だって言われたから来たんだぞ!」

「情報の伝達にミスがあったのは謝りますが、ご了承下さい!」

 

気性の荒い男達と、自分に関係ないことで謝るスラッツさんの声を聞きながら、俺は考えていた。

 

誰が何の目的で、こんなことをしたのか。もしこの探索者達を使って『遺産』を手に入れようとしているなら、こんなところで指導者を待たせる必要はない。

 

この騒動の間に自分だけ洞窟に入ろうというなら、危険の高い場所に一人で入るのはあまり考えにくい。この町で強い人が死んでいるのだから尚更。

 

だが、それ以外の理由はどれも大した理由にはならない。もうすぐこの探索者達も、死にたくはないだろうから帰るだろう。

 

(もし誰かが目的をもってこんなことをして、ここに沢山の人を連れてきた理由...?)

 

「うっ!」

「わわっ!」

 

その時、突風が吹いた。目に砂が入らないよう目を瞑る。別段珍しいことではないただの強風。

 

「あ...」

 

しかし、タイミングは最悪だった。

 

「あ、...あ、あぁ」

 

 

 

 

 

そこには、帽子が飛ばされたユーノが震え声を出していた。

 

全員が彼女を______彼女の頭に存在する、大きな角を見ていた。

 

 

 

 

 

「その角...旧魔?」

「旧魔がなんでここに!」

「ここ『ヘルシンキ』だよな?」

「てめぇいつからいやがった!」

「ひっ...ち、ちが......」

 

ざわついていた空気が爆発するように、ユーノを攻める声が上がり始める。ユーノはそれに怯えることしか出来なかった。

 

(まさか...これが目的だったのか?)

 

ユーノが旧魔だと知っているものはこの町で俺達だけのはず。だが、古跡(ファーデン)が探索できなくてストレスがたまっている探索者たちがここに集まったことがわけの分からない情報ミス______偶然で起こったこととは思えなかった。

 

「カムイ!」

「っ、違う!ユーノは違うんだ!」

 

ノクスに名前を言われて意識が現実に戻される。俺は何を言えばいいか悩みながらも必死に否定した。

 

「カムイくん...」

 

ユーノを庇うように探索者達との間に立つ。後ろから彼女の弱々しい声が聞こえる。隣にはノクス、ミディナも立ってくれた。

 

「なにが違うってんだ!旧魔はこの町にいないはずなのにここにいて、古跡の中に行こうとしていた!手柄を横取りする気だろうが!」

「彼女は魔物を倒そうと、逃げたい気持ちを抑えてるんだぞ!」

「そんなの信じろってかぁ?旧魔禁制の時に入ってきた不法侵入者の時点で信用なんかないんだよ!」

「そもそも旧魔に信用なんかしてられるか!」

「違う...違う!!」

 

彼らの膨れる言葉を抑えられず、自分の言葉も意味を成さなくなる。ストレスがたまっている彼らを論ずるなど土台無理だった。

 

「もう殺すか?」

「やめろ!ユーノは...」

「旧魔なんだからいいだろ!?」

「ああ...あぁ......」

 

なぜこんなにも旧魔を嫌ってしまっているのか。そんなに種族の隔絶は、市民層の間で広まっていたのか。この場では意味のない疑問ばかり上がってしまう。

 

「さてはお前も旧魔だな!?とっととそのフード外せ!」

「ちがっ、俺は!」

「うるせぇ!このままなら二人まとめて殺してやんよぉ!こちとら腹立ってんだ!」

「そうだそうだ!」

 

探索者達の粗野な声が響き渡る。

 

 

 

 

 

殺せ!いや、それは不味いから生け捕りに...いや角折って杖に使おうぜ、旧魔は角に魔力がたまってるからな。そりゃいいね!俺達とは違って全身に魔力を貯められないかなら! キャハハハハハギャハハハクスクスハハハギャーッアハハハハハハハハハハハ______

 

 

 

 

 

『もうやめろぉぉぉぉ!!!!』

 

その叫び声は、決して届くことがなかった。

 

「もういい」

その言葉だけでここにいる者全員が静まる。鳥のさえずりさえ聞こえない。それほどまでその声は悲痛で、底知れない冷たさがあった。

 

「...もういいよ」

「......ユーノ」

 

声がした後ろを振り向くと______ユーノが、泣いていた。

 

「もういいよ。カムイ君」

 

その目には、覚悟を決めているように見えた。

 

「カムイ君まで、殺されそうになったら嫌だもんね」

 

ただ、その目には______

 

「...今まで、ありがとう」

 

 

 

 

 

____さよなら______

 

 

 

 

 

そのまま彼女は、洞窟の方へ走り出した。目元から流れた一滴の涙が、地面のほんの一部分を丸く濡らした。

 

「ユーノ!!!」

「ユーノちゃん!」

 

俺達の声を無視して洞窟の中に入る。数秒たたずに彼女の姿は見えなくなった。ミディナだけは無言で後を追う。

 

「俺達も________」

「おっと、一人は行っちまったが...行かせると思うなよ。全部話すまでいかせないからな」

「旧魔の仲間なんだろ?なんでこんなところにいるんだ!?」

「やっぱり『遺産』目的か!?他に理由があるなら言ってみろよ!」

「洗いざらい吐けよこらぁ!」

「悪いが邪魔だ!どけ!」

 

ミディナの後を追おうとするが、その道を彼らが塞ぐ。俺は初めて、こいつらに殺意が沸いた。

 

「皆さんいい加減にしてください!」

「そもそもあんたの管理が悪いのがいけないんだろ!なんで旧魔が混ざってるんだよ!」

「そ、それは...」

 

 

 

 

 

大切な、大切な仲間をこんな風に言われ、自分の命は大事にするくせに人の命を無惨に殺そうとする奴ら。

 

アイオスさん、メイルさん、そしてユーノを思い浮かべ、これが旧魔より優れている、と言われている姿だとは思えなかった。

 

そして______そう言えなかった。ユーノを守れなかった自分に腹が立った。

 

「てめぇら、いい加減にしろ...」

 

言いながら、エクスシアを作り出そうとして______

 

 

 

 

 

「あなたたちバカなの!?」

「...ノクス」

 

ノクスが、誰よりも大きな声を張り上げた。

 

「人を角有るか無いかでしか判別出来ないなんてそれでも人類?」

「なんだてめぇ、いきなりしゃしゃり出て来やがって」

「文句あんのかぁ!?」

「文句あるよ、だって私のこと人間だって分かってないじゃん」

 

その言葉に何人かは動揺し、何人かは自分の魔力でノクスに魔力があるか調べたのだろう。その顔をさらに動揺させた。彼女には魔力などないのだから。

 

「その程度で仲間意識強いですみたいに言われても、なに言ってるの?って感じよ」

「てめぇ!」

「本当のことでしょ?ねぇ、角が大きかったら悪なの?角が小さかったら善なの?旧魔は悪者で、新魔は正義なの?どうなの?」

「そうだよ!旧魔は悪者だよ。この古跡にも手を出して来てるじゃないか!」

「新魔の一人占めを阻止したら悪者だなんて、自己中心的過ぎるでしょ。それに、私は旧魔と新魔が一緒の町で過ごしているのを見てきた。一緒になって笑ってたり、楽しんだりしてた。あんたたちは他の町とかを見てないだけだよ」

「なんだと......」

 

ノクスがこの場にいる全員に諭すように話続ける。

 

(ここは、男ばっかりなのに...)

 

男嫌いの彼女が、屈強な男達を論破する。それは、彼女を知ってる者ほど信じられない光景だった。

 

「私は、男が嫌い。嫌なことされて、偏見で男全員が嫌だった。でも...そこにいるカムイや、ユーノちゃん、ミディナちゃんもいて、私も。旧魔も新魔も人間も、種族なんて関係なく仲良くなれた。だから今、こうして男だらけのところで大声で話せるんだ。それを支えてくれる人がいるって知っているから...」

 

ノクスがちらりとこちらを見る。俺はその顔に笑顔を向けた。

 

「......だから、あんたたちみたいな奴らが、種族のこと言える資格なんてない。ぐちぐち言うな!!」

 

最後の言いたいところを言い切ったのか、少し息を荒くしながら叫んだ。俺はその姿に、なんとも言えない気持ちになる。

 

「さっさと散れぇ!!」

「...うるせぇぞ!綺麗事ばかり言いやがって!!」

 

しかし、それを聞いても全員が引き下がらなかった。

 

「まだやるの!?本当いい加減に...」

「...ノクス、もういい」

 

食って掛かろうとするノクスの肩に手を置いて顔を振る。これ以上何か聞いて変わる奴らじゃない。

 

「でも...」

「...強行突破、行くぞ」

「ちょっ!?」

 

そう口にして、呼吸を入れる前にノクスの手を引いて『psychic・plasma』で前の人の隙間を抜け、洞窟の手前までたどり着く。

 

「て、てめぇら!」

「行かせるかよ」

 

間を通られたことに気づいた者から順に、剣を、斧を、自身の武器を取り出す。何を言っても聞きそうにはなかった。

 

「このまま逃げるか」

「ユーノちゃんとミディナちゃん追っかけながらね」

「ふざけるな!行かせると思って...「いえ、あなたたちはここで止まっていてもらいます」!?」

 

俺達と探索者達の間にするりと入って、地面に愛刀を突き立てる。

 

「ハルベルトさん...」

「ここは任せて...あと、さん付けなんてやめて下さい。貴女がそれをするのは、素の貴女を見てからはむず痒い」

「あ、あんたまさか...」

「幸い、人の顔と声を覚えるのは得意なんですよ。フードを被っていても、すぐわかりました」

「...」

「だからここは任せて、早くいってあげて下さい。どんな事情があるかは知りませんが...今は」

「...助かる」

 

ハルベルトと目を合わせ、一つ礼をする。

 

「行くぞノクス」

「...そうだね。急ごう」

 

そして俺達は後ろを向いて、洞窟の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

「さて...彼女たちを阻みたい者はここを通ってください。最も、その前にこのハルベルト・クリムが相手をさせて頂きますけどね」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ユーノ...ユーノっ」

 

暗闇の中を闇雲に走る。ユーノは見えない。

 

「大丈夫だよ。私達より先に行ってる子もいるし」

「そうだが...」

「アハトはもう少しユーノちゃんを信じてあげたら?」

 

ノクスは、場違いな雰囲気を出しながらそんな言葉を口にする。

 

「信じてるさ。でも俺が守らないと...」

「...それは違うんじゃない?」

「え?」

 

ノクスの予想外の言葉に、子供のように反応してしまった。

 

「そりゃアハトの方が強いけど、そんな一方的な物じゃないでしょ?助けてもらって、助けて上げて...支えあっていくものでしょ?それが仲間でしょ?」

「ノクス......うん、そうだな」

 

なんとなしに言われた言葉は、俺に深いショックを与えた。

 

(...そうだ。何を考えていたんだろう。ユーノにも支えられていたのに...まるで自分が上の立場の様に)

 

「...ありがとう、ノクス」

「どういたしましてと言っておく!」

「なんだそれ」

 

感謝の気持ちを言葉にしたのに、軽くあしらわれた気がしてむしゃくしゃした。いつものノクスはこんな感じじゃなかったのに、今日はやりづらい。

 

(もうこの大切な思いを忘れない。俺は俺のやり方で...仲間を支える)

 

自分の信念を新たにして、暗闇の中走るスピードをさらに上げた。

 

(だから...支えさせろ、必ず無事でいろ。ユーノ!)

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝える気持ち

「...うぅぅ...ぐすっ」

 

逃げ出した。逃げてしまった。どうして逃げてしまったのか。

 

(私が弱いから...)

 

魔力の制御も、そして______意志も。

 

いつもいつも魔物を倒すのはアハト君かノクスさん。『fog・beast』を出す前に決着がつく。昨日なんかはミディナちゃんもいた。

 

もし魔物をすぐ倒せる力があれば。いや、力があっても魔力の制御が出来ないのだから、宝の持ち腐れだった。

 

(私が役立たずだから...)

 

どこまで走ったか分からない。辺りは全て暗闇で、私の場所を示しているように思えた。絶え絶えになった息を抑えて膝を抱え込み、うずくまる。

 

私はいつも後ろ向きに考えやすいと分かっているのに、そこまで強く変えようと考えなかった。だからあのおじさんたちの言葉に耐えられなかった。

 

悪意のないミディナちゃんの、ノクスさんの、アハト君の言葉も悪くとってしまう。

 

『二人まとめて殺してやるよぉ!』

「......ぐすっ」

 

唐突にさっき言われた言葉を思いだし、涙がこぼれる。

 

(私がなにもできないから...)

 

______アハト君まで、殺されそうになった。

 

そんなのだけは、絶対に嫌だった。

 

「あぁぁ....」

 

______ユーノ!

 

最後の、あの顔。私は涙が潤んで見れなかった顔。

 

(きっと、悲しげな顔してたんだろうなぁ...)

 

あの人は、そういう人だから。

 

 

 

 

 

______さよなら______

 

それを私は、振り払った。伸ばされた手を拒絶した。

 

 

 

 

 

もう、戻れない。

 

 

 

 

 

「だから、もういいよ。好きにして」

 

両手を前に伸ばす。その先には______『リグロ』と呼ばれていた犬みたいな魔物がいた。

 

魔物からしてみれば、目の前に魔力の沢山あるご馳走が落ちているんだ。その子は目を血走らせて掛けてくる。

 

「サヨナラ」

 

さっきと同じ言葉なのに、心が全く違っていた様に感じた。涙がまた溢れる。

 

今まで会ったことのある人の顔が、代わる代わる出てくる。リーゼ。バルトさん。お母さん。お父さん。ミディナちゃん。ノクスさん。そして______

 

 

 

 

 

「...さよなら。アハト君」

 

『リグロ』のシルエットが地面から跳躍し、その牙が私に、

 

 

 

 

 

「さよならは、まだ早いですよ」

 

突き刺さる前に、横やりが入って吹き飛ばした。

 

蹴り飛ばしたのは______

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「今の雄叫び!」

「...こっちだ!急ぐぞ!」

「分かってる!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「貫け。氷よ」

 

私は魔法を詠唱する時、よく動詞と名詞を繋げる。こっちの方が身近に感じられてイメージがしやすいからだ。

 

発した言葉は自身から魔力を吸いとり、代わりに包丁程度の大きさをした氷の塊を宙に浮かばせる。その数九。

上げていた手を降ろした瞬間、それは『リグロ』に突き刺さる。絶叫し倒れるそれを見て、私はようやく一息ついた。

 

「ふぅ...ユーノちゃん。大丈夫?」

 

ついこの間出会い、今助けた同い年の彼女に声をかけると、その子は涙ながらに口を開いた。

 

「...で」

「え?」

「なんで助けたの!?なんであんなこと言った私を助けるの!?私はそんな資格ない!!」

「ユーノ...ちゃん?」

 

ユーノちゃんは、涙を流しながら激昂していた。その意味が分からず私は首を傾げる。

 

「私は役に立たないから!!何もできないから!そんな私を何で助けるの!?」

「何言って...」

「あのまま喰われてよかった!こんな、皆を傷つけるような厄介者にしかなれないなら...あのまま死んだ方がよかった!!!」

「ユーノちゃん!」

「なのに...何で邪魔するの!!邪魔しないで!」

「ユーノちゃん!!」

「ッ!!!」

 

気がついたら私は、彼女の頬を叩いていた。

 

「なんで...っ!」

「誰も貴女が役に立ってないなんて言ってない!何も出来ないなんて言ってないよ!!」

「私はダメなんだよ!魔力を使っても剣捌きはノクスさんと同じ!魔法は全然使えない!皆におんぶにだっこされたままここに来て、私のせいで皆が危ない!何で私ってここにいる必要があるの!?」

「別にそんなのを求めてるわけじゃ...」

「じゃあ気持ち!?こんなに泣き虫なのに!?」

 

ユーノちゃんの特徴的な角は心なしか垂れ下がり、顔は苦痛の度合いが増していく。 涙はぼろぼろとこぼれて両頬を濡らす。

 

「こんな思いするなら、『シオン』で一生暮らしてればよかった。なにもしないまま、魔法に悩みながら、お父さんとお母さんと暮らしてればよかった!」

「......」

「ねぇ...答えてよ。ミディナちゃん。私は...私は、どうすればよかったの......どうしたら......」

 

どうして、と繰り返し呟きながら私の服を掴み、膝をついて項垂れるユーノちゃん。

 

私はそのユーノちゃんの手を掴み、そっと抱き締めた。

 

「...私も、最初は魔法が全然使えなかった。先輩に会うまでは剣もまともに使えなかったし、自分のお店なのになにも出来なかった。カクテルだって上手く作れなかった」

 

その時友達には、『このお店本当に大丈夫なの?』とよく言われていた。

 

「でも、最初から何でも出来る人なんていないよ。皆弱いし、何にも出来ない」

「...天才だって沢山」

「それは何かをやってみて分かったことでしょ?何もしなければ得意なことだって、不得意なことだって分からない。ユーノちゃんは自分で努力して、不得意なことを見つけた。でも、誰も絶対に出来ないなんて言ってない。神様だって分からない。だから焦らないで、落ち着いて努力すれば...」

「努力...努力、か」

 

抱き締めたまま自分の思いを語ると、ユーノちゃんがかすかに震えているのが伝わった。

 

「努力。したよ?いっぱい。何年も普通の魔法を使う努力をして、アハト君に教えてもらって、ノクスさんとも戦って。ここに来るまでも朝と夜、特訓をしなかったのは一日もないし、魔物とも戦った。それで私は、強くなったの?なってないよ!!」

 

耳元でユーノちゃんの声が荒くなる。

 

「会って数日で...知ったような口を聞かないで!!」

 

きっとそれは、本心から出た言葉ではないと思う。たった数日でも一緒に過ごした私はそう思っている。

 

でも、今この子に言葉を届かせられるのは、

 

「...そっか、分かった。じゃあ、知ってる人に聞こう」

 

私はきっと、不機嫌な顔をしているだろうとぼんやり考えた。会って数日でも分かることがあるとか。ユーノちゃんと私は友達だから助けるのは当たり前だとか。言いたいことは沢山あったけど、今の彼女の気持ちを救えるのは私じゃないと分かったから。

 

「...やだよ。だって私、アハト君にさよならって言ったもん......私のせいで皆死にそうになったんだもん」

「それも含めて、本人に聞いてみよう?きっとユーノちゃんが想像してる返事は何もしてくれないだろうからさ。お店の全財産賭けちゃう」

 

軽く冗談を言いながら剣を抜く。

 

「だから...先輩とノクスさんが来るまで、耐えて?」

 

そこには、いつの間にか四足の魔物がいた。といっても、『リグロ』じゃない。

 

禍々しい魔力を纏い、太い体躯を見せつけ、獅子を思わせる毛を生やし、目と爪と牙を鋭く光らせ、口から涎を垂らす見たこともない怪物。

 

この洞窟で感じたことのない強さ______恐らく、うちの町の人を殺した高位の魔物。

 

(こんな時に...)

 

それがいつの間にか私とユーノちゃんの前にいた。ユーノちゃんを庇うように剣を構える。

 

撒き散らされるオーラで体が震える。強さは圧倒的にあっちが上だろう。

 

(それでも)

 

「きっと先輩はいつも剣使ってばかりだろうからなぁ...私が普通の新魔の戦い方を見せてあげる」

 

そして、その怪物は洞窟を崩す勢いで咆哮する。鼓膜が破けそうな音を聞きながら、今の私が剣を使うのと同時に扱える最大量______五つの氷を作り出す。

 

固有魔法がないため、剣と種類が豊富な魔法で攻める。これが基本的な、新魔の戦い方。

 

王道でありながら、王道であるがゆえに戦いやすい力。

 

「行くよ!」

 

そして私は、恐怖を隠しながら地面を蹴った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「こふっ!!」

「ミディナ...ちゃん」

 

ミディナちゃんが洞窟の壁に叩きつけられ肺にあった息を吐き出す。突然現れた魔物は、大きな腕で彼女を吹き飛ばし、何度も何度も壁に叩きつけた。

 

「なんで...」

「っ...こんのぉ!」

 

ミディナちゃんは落とした剣を拾い直し、魔物の周りに二つの炎を出しながら突撃する。しかしそれは、魔物の、その巨体さからは考えられない素早さで振るわれる爪で弾かれ、そのままの勢いでミディナちゃんに食らい付く。

 

とっさに剣でガードするも、その衝撃で地面が割れる。バランスを崩したミディナちゃんが倒れないようにバックステップをとるも、魔物はそのままミディナちゃんに体当たりする。彼女は爆音と土煙を立てて私のすぐ近くの壁にめり込んだ。

 

「があっっ!!」

 

煙の晴れた場所で、ミディナちゃんは口から血を流しながら笑っていた。渇いた薄い笑いだった。

 

「...もう、いいよ」

「ふふっ...はぁっ!!」

 

自分の半分くらいの炎を作り出し、相手に向けて勢いよくとばす。しかしそれは、相手が口元で作り出した炎の玉とぶつかり、爆発を起こすだけだった。煙を入れまいと目を隠す。

 

「もう無理だよ...」

「そんなことない!私だって出来ることがある!ユーノちゃんだって!」

「やめて!私は何も出来ない!!何も出来ないの!」

「そんなことない!!」

 

相手がさっきより大きな炎を作るのを見て、ミディナちゃんは両手を合わせ、六角形の氷の盾を生成する。その数七つ。

 

言われなくてもそれが避けようともしない私を守るためだと理解できた。

 

(...私、最低だなぁ)

 

最後まで足を引っ張るだけだった。最後まで出来なかった。

 

「ミディナちゃん。逃げて」

「今さら逃げれるわけないですよ!!」

 

魔物が出した灼熱の火球は、ミディナちゃんが用意した七枚の氷の盾を容易く破壊した。魔力の使いすぎで、一つ一つの質が低い。

 

「魔力が......」

「ごめんね。私のせいで。ごめんね...」

 

私は、同い年の彼女に謝ることしか出来なかった。涙がずっと止まらない。その涙を渇かす様に、さっきよりもさらに大きな炎を魔物が作っていた。ミディナちゃんが防ぐのは、もう、不可能。

 

「絶対、私が守るんだから」

「...なんでそんなに」

「大切な友達なんだから当たり前でしょ!私は死んでほしくないの!!会って数日でも、そう思えるから!!」

「......」

 

私は、こんな言葉をかけてくれる友達を、道ずれにしたんだ。

 

______シネば______

 

__ンダら、困ルヨ__

 

「私は...私は......」

私はこっちに飛んできた暗闇を照らす炎を見ながら。

もう一回くらい、話したかったかもなぁ______ごめん。

 

 

 

 

 

そして、大爆発が私達を包み込んだ。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紡ぐ理想

個人的に好きなシーン。共感して頂ける方がいたら嬉しいです。

それでは本編を。


煙に包まれた私は、戸惑っていた。

 

(死んだ後も、死ぬ前とそんなに変わらないんだ...)

 

手先、足先まで感覚はあるし、意識もしっかりしてるし、目も見開けるから。

 

個人的に、丸い魂だけになるんじゃないかなぁと思っていただけあって、少し驚いた。

 

でも、何より一番驚いたのは___目を開いた先が、真っ暗だったこと。天国って言うのはもっと白いのかと______

 

(あ、地獄行きか)

 

正直、今の私はどこに行こうと変わらないけど、死ぬ前にあれだけのことをしたのだから。

 

 

 

 

 

「すまない。待たせた」

 

だからそれも、地獄に住む人が私を攻めるための声真似だと思った。

 

「ミディナちゃん!!」

「...なんとか、なったみたいですね......」

「お店に置いておくつもりだった薬、持ってきててよかった!」

「それ、持ってきてたんですか...」

 

灰色髪をした女の子______ミディナちゃんを、赤い髪の女の人______ノクスさんが抱き抱える。

 

隣のそれを見てから、私はもう一度前を向いた。

 

「ミディナは大丈夫みたいだな。よく耐えてくれた」

「先輩...今度、先輩の好きなケーキ奢って貰いますからね?」

「実はめちゃくちゃ余裕だろお前...」

 

 

 

 

 

「...なんで、ここに」

 

そこには、右手に大剣を携えた黒髪の剣士がいた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「なんで来たの!?アハト君!!」

 

思わず叫ぶ。叫ばずにはいられない。

 

ここに来たということは、あの場にいた大勢の新魔を相手にしたということ。そして、ここまで探しに来てくれたということ。

 

「どうして探しに来たの!?私はさよなら言って、ミディナちゃんにもひどいめにあわせて!そうまでして助ける意味なんてないよ!何も出来ないのに!!」

「...ミディナ」

「私が言っても聞いてくれないので、先輩が言って上げてください」

「......前から、ネガティブになるときは酷いよな。ユーノは」

 

私が泣いているのを嘲笑うように、アハト君はケラケラと笑った。でもそれは優しさが溢れるような______

 

 

 

 

 

「俺は、ここの全員の意見を言うだけだがな...誰もユーノをいらないなんて思わない。仲間だから助ける。何も出来ないなんてそれこそ間違いだ。」

「私は仲間なんかじゃない!それに皆に酷いこと言って!!」

「喧嘩なんていくらでもあるだろ?仲直りすればいい。許さない頑固者は、ここにはいないしな」

「私は...何も出来なくて」

「いつもいつも努力して、魔法を覚えて。何も出来ないなんて思ってるのはそれこそお前だけだ。竜を倒した時も、あの大会の時も、お前がいなければやられてた」

「そんなの、アハト君だけでも...」

「一緒に戦ったやつが、お前が必要だった。って言ってるんだ。それ以上に何がいる」

 

アハト君は、後ろからさす明かりに照らされながら、

 

「それに...もっと言うなら......そうだな。俺は、ユーノ。単純な話だ」

 

 

 

 

 

俺が、皆が、お前と一緒にいたいから______

 

 

 

 

 

「それ以上に、理由なんていらねぇよ。難しく考える必要もないし、どうしてって聞く必要もない」

「う......ううっ...」

 

その言葉に、枯れていたはずの涙がまた流れてくる。

 

「アハト泣かせた~いけないんだ!」

「先輩...そんな人だったなんてー」

「お前実はめちゃくちゃ余裕だろ!いい雰囲気で終わらせさせろよ!後で殴るからな!」

「ふっ...あははっ」

 

(そんなに、簡単なんだ...)

この時だけ、いつもに戻った気がして笑いがこぼれる。

 

「...もう、大丈夫か?」

「うん...うん!」

「ならいい。全部は片付けてからだ」

 

アハト君は前を向いて、右手の剣を左腰に構える。後ろの光が膨れたものの、剣を振るうとそれが消し飛んだ。辺りが暗闇に覆われる。

 

アハト君の背中で何が起きたのかは分からなかったけど、その白く輝く剣を振るう姿と、

 

「さぁ...とっとと片付けますか!!」

 

威勢の良い声は、私がどんな暗闇に居ようと救ってくれるような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

「俺が、皆が、お前と一緒にいたいから。それ以上に、理由なんていらねぇよ。難しく考える必要もないし、どうしてって聞く必要もない」

「う......ううっ...」

 

ボロボロのミディナとユーノを助けようとしたら、ユーノは酷くまいっていた。

 

旧魔として、一人だけ異質の存在としているのが、14歳の彼女にとってどれだけ負担がかかり、こうなってしまうのではないかと想像できなかったのは、完全に俺の責任だった。

 

だから、ユーノが元に戻るように精一杯声を、本心を投げ掛ける。そして、その思いは届いたみたいだった。

 

「ごめんな、許して欲しい」

 

今すぐ側に駆け寄ってそう言いたい。だが、目の前にいる異質な魔物がそれを許さなかった。

 

鋭い爪を持つ四本の足が大地を踏みしめ、猫の物を伸ばしたような細い尻尾を動かし、黒みがかった魔力を身体中に纏って震えている。

 

目は血走り、よだれを垂らしているのを見て、魔物、以外の言葉が見当たらなかった。

 

そいつが火球_____さっき、俺が、破壊してみせたものよりずっと大きいが_____を作り出しているため、顔を少し後ろに向けるだけにしている。

 

絶対に消し炭にするという意志でもあるのか、あれだけ大きな火球を放ってくる様子はまだない。が、背を向けたら躊躇いなく撃つだろう。暗闇に明るさが増していき、目蓋を少し狭める。

 

「アハト泣かせた~いけないんだ!」

「先輩...そんな人だったなんてー」

「お前実はめちゃくちゃ余裕だろ!いい雰囲気で終わらせさせろよ!後で殴るからな!」

 

悪ふざけする二人の声に大声で返事する。ミディナの見た目はとても余裕には見えなかったが、その声には挑発するような気持ちがとれた。

 

「ふっ...あははっ」

 

その甲斐があってか、ユーノがこらえられずに笑い出す。この時だけ、いつもの様に戻ったみたいだった。

 

(起きたことは変えられない。でも、これからは変えられるから)

 

「...もう、大丈夫か?」

「うん...うん!」

「ならいい。全部は片付けてからだ」

 

前を向いて、剣を構える。さっきまでこの世に存在しなかった剣。それを、抜刀するように右腰に構える。

 

(この剣に鞘なんてないけどな)

 

『image・replica』で作れる物は、どんなものであろうと一つだけ。わざわざ鞘なんて作らない。

 

そもそも、この剣に合う物など、即座に用意できるはずもなかった。なぜならそれは______相棒、エクスシアですらないのだから。

 

縦の長さもエクスシアより少し長い。横幅は広く、柄の近くから剣先にかけて細くなっている。それでもギリギリ片手で振れるように、両刃剣の間、真ん中の部分は少しくりぬいたようになっていて、先を見通せた。

 

ユーノとミディナを見つけて、庇うためにとっさにできたのがそれだった。後ろを守るための大きめの剣。

 

今までの努力を積み重ねた結果なのか、偶然の産物なのかは判断できないが、この剣を握ることまでが偶然だとは思えなかった。

 

己の理想を体現する剣。

 

(一本しか作れないくせに、二本目を作るんだからなぁ...アホでしかないが)

 

同時に作れない相棒と新たな剣を悔やみながら、それでも一瞬で思考を振り払う。今考えるべきは今のこと。後のことは後で考えればいい。

 

(俺は、自分の理想を作り出す)

 

魔力を自分の体から剣に流し込む。本来剣に魔力を行かせたところで、大したことは起きない。だが、その剣は違った。

 

(皆が生き残って、笑いあえる。それが、今の俺の理想)

 

剣の両刃______それのさらに外側、小指程度の太さで白く輝き出す。それを見て、魔物は大きな火球を吐き出した。

 

(そのために、俺に力を貸してくれ)

 

魔力を通すことで、強度を格段に上げる物質、透明結晶(クリスタ)を使った剣。名前は、

(_____アイディール!!)

 

心で叫び動作で一閃。その一閃は、何にも負ける気がしなかった。

 

その思いの通り、強度が上がっただけでなく、魔力が通ってることで魔法に干渉しやすくなった剣と炎がぶつかった瞬間、炎の方が弾け飛ぶ。

 

「さぁ...とっとと片付けますか!!」

 

吠える魔物に向けて、俺はアイディールを構える。今この時、俺は負ける可能性があるなんて、死ぬ可能性があるなんて、微塵も考えていなかった。剣の輝きは、それを象徴するように光っていた。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二つの剣

「ノクス!二人を頼む」

「え...もしかして、一人でやるつもり?」

「先輩、流石にそれは辛いと思いますよ...」

「ミディナは黙って休んでろ。それにな...今からやることは、人が近くにいるとやりづらいんだよ」

 

腰を落とし、剣の先を前に向けながら両手を体の上に持ってくる。まるで突撃するように。

 

こちらの構えを見たからか、奴は光のない目を血走らせて咆哮を上げる。

 

『uoooooooooo!!』

 

狼のような声の威嚇を聞きながら、俺は静かに魔力を纏う。今や必須となる強化魔法と、最高の速さを出すための電撃魔法の重ねがけ。

 

「ふーっ...」

 

一息ついて心を落ち着けて、俺は剣に無属性の魔力を流す。それに答えて、剣の一番外側___透明結晶(クリスタ)で作られた刃が淡く光出した。

 

透明結晶は、強い魔力を流し込まれると発光し、強度が増す。だが、それは裏を返せば魔力を流さない場合はガラスより脆い。

 

おまけに、俺が作る練度が低い透明結晶は、まだそう大した魔力を注げない。入れすぎた時点で割れてしまい、もう一度作り直す必要がある。欠陥だらけかもしれないが、それでも作る理由があった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

負けじと叫び、足を踏み出す。なんてことない一歩は、強化魔法によって地面に亀裂を走らせ、電撃魔法によって風を切る速さを得た。

 

そのまま魔物の左側______右足の隣を抜ける。通り抜けがけに一閃して。俺は奴の悲鳴を聞くことなく次の行動に移る。

今の俺は、電撃を纏って止まることが出来ずに洞窟の奥へと移動している。両足を地面につけて減速しても、敵に対して絶対的な隙をさらすことになる。

 

(なら...止まらなければいい!!)

 

展開される逆転の発想。そして、それを叶える力が今の俺にはあった。

「っからのぉぉっ!!」

 

一瞬だけ足を地面につけ、真上に飛び上がるように電撃魔法を施す。地面すれすれを飛んでいた俺は直上した。

 

直上した後は重力によって止まり、落ちていく。その行動は本来、ユーノ達に目標が変わり、危険に晒してしまうだけの悪手だった。

 

 

 

 

 

もし、ここが外ならば。だが。

今俺が戦っているのは暗い洞窟。洞窟は、地面も壁も天井も、全て自然の土で覆われている。

 

現に、直上した後すぐに天井に激突しようとしていた。ここままだとただの自滅行為。

 

だから俺は剣を握っていない左手を伸ばした。その手が、少しだけ斜めに角度をつけて天井に触れる。

 

「しっっ!!!」

 

そのまま、もう一度電撃魔法を無詠唱で使う。接触していた手と天井に電撃が生まれ、弾かれる様に俺はもう一度進路を変更した。そのまま右腕を降り下ろす。

 

『giiiiaaaa!!』

 

アイディールは、見事魔物の左脇腹を切り裂いた。

 

(これなら...いけるっ!)

 

そして俺は、勝利を確信した。

 

攻撃方法はいたって単純。ビリヤードの玉の様に洞窟の壁に触れては電撃魔法で向きを変え、魔物を切り裂き続けるだけだ。

 

ただ、その速さが異常なだけで。

 

アイディールの透明結晶はこの速さでも反動で止まることなく魔物の体が切り裂ける。電撃魔法は問題ない。

 

おまけにあちらは体が大きいせいで後ろに回った俺を直ぐに見つけられない。俺を探すことに意識を向ければそれだけユーノやノクス、ミディナが襲われる危険がなくなる。かといって、襲おうとする前に自分の傷は増え、憎き相手が目の前に現れる。

 

だから俺は、勝利を確信した。この結論にたどり着くころには、敵の傷が五つに増えていた。

 

「追い付けやしない!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「す、凄い...」

 

目の前で行われている戦いは、正に一方的だった。

 

先輩が化け物の奥に行き、すぐさま私達の手前に戻ってくる。その行程が終わったときには、傷が二つ増えていた。

 

化け物はなすすべなく節々を切り裂かれ、悲痛な悲鳴を上げている。

 

「いつの間に...」

 

ユーノちゃんが、なんとも微妙な顔をしていた。ここまで先輩が出来るようになったのは最近のことなんだろう。初めて会ったときは剣もエクスシアだけだったはずだし、体に施すの魔法も今と比べたらだいぶ劣る強化魔法だけだったから。

「ほらほらどうしたぁ!」

 

先輩が挑発し、更に傷を増やす。だいぶ落ち着いた体を自力で持ち上げ、ふぅと息をついた。

 

「これなら...」

「いや...アハト......」

 

安堵する私の隣で、ノクスさんが微妙な声を上げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ほらほらどうしたぁ!」

 

虚勢を張り、大粒の汗を振り切って叫ぶ。さっきまでの勝利宣言は、撤回せざるを得なかった。

 

理由の一つ目に、魔物が意外にしぶといのがある。大型なだけあってかなり体力があるのか、いくら傷をつけても叫ぶばかりだった。

 

二つ目に、集中力の限界がある。今まで感じたことのない速度で景色が変わる中、アイディールの透明結晶に流す魔力を含め、強化魔法、電撃魔法を上手く制御しなければならない。

 

単純に考えて魔力の消費量は強化魔法のみである普段の三倍だし、下手したら洞窟にぶつかること、大切な人を守っているというプレッシャーに押し潰されそうになっていた。

 

正直一気に決めたい所だが、決定的な隙がない。無理やり決めようとして失敗したら、自分はおろか守っている仲間まで殺されかねない。ある意味拮抗状態だった。

 

それが動いたのは、相手によるものだった。

 

『yuooooo!』

 

悲鳴とは違う雄叫びを上げると、空中に大量の丸い炎が生まれる。あまりの多さに洞窟が明るく照らされる。

 

それは、高速で移動している俺の移動先にも現れる。

 

(多い!)

 

さっきまで何もしてこなかったのはこれを唱えるためだったようで、 あまりの数に体が止まりそうになる。

 

それでも、これを後ろのあいつらに通してやる気はない。

 

「本領発揮だ!アイディール!!」

 

俺の声に答えるように、アイディールの光が増した。目標を目の前の魔物から炎に変え、通り抜けがけに切る。炎はそれだけで形を留めていられなくなり、消えてなくなった。

 

魔法を切り裂いて消すということは、言うほど簡単ではない。実体を持つ氷とかならともかく、炎なとの実体を持たないものなら尚更。

 

もし普通の剣で切ろうとするなら、より中心を狙って切らなければ完全に消し去ることができない。一部分でも原型を留めていられるからだ。木刀なんかだと、自分の剣に火が移る可能性だってある。

 

しかし、だからこその透明結晶。強度を上げるだけでなく、中を通っているのは魔力のため、普通の剣より魔法への干渉がしやすい。当たり幅がが少し広くなったと言えばいいだろうか。

 

だからこそ俺は、霞んできた意識の中でも炎を消すことができる。

 

「これで、ラスト!」

 

一番最後の魔法を、横凪ぎに切って消し飛ばす。再び目標を魔物へ。

 

『doooooo!』

 

奴は性懲りもなく魔法を唱える。詠唱は無いものの、さっきより力強さを感じた。

 

「これ以上なにやっても...!!」

 

地面に着地した俺はこれ以上移動出来なかった。

 

「なんだよこれ...」

 

壁と天井の土の一部が盛り上がり、意思を持っているようにアイディールに絡み付く。水っぽかった土は、絡み付いつた瞬間固まり、剣を動かそうとしても出来なかった。

 

(土魔法の...応用!?)

 

地面を自由に動かせる土魔法があることは知っている。ただ、実際対峙していきなり対処できるはずもない。

 

(でも、俺の位置をどうやっ...!!)

 

縦横無尽に動いていた俺を捉える方法が分かった時、完全に驚愕してしまった。

 

(炎魔法を消した順番で、どこに動くかを予想した!?そんなことが!!)

 

そんなことがあまり頭が冴えない魔物に出来るのか。そう考えることは、この場では致命的だった。一気に体が疲労感を受ける。

 

『vllrrrr!!』

 

人を丸飲み出来そうな大きな口を開け、こちらに駆けてくる。その牙一本一本が死へと誘う凶器であり、耐える術はない。

 

「先輩!?」

「アハト!」

「だめぇ!!」

 

後ろから叫び声が聞こえる。持っている剣は上段の構えをした状態から動かせず、後ろに下がろうにも皆がいる。正に八方塞がりの状況。

 

「くすっ...」

 

俺はそんな場面で______笑っていた。

考えるのを止めろ。

 

(そうだ。何のために戦っている)

 

後ろに下がれないのなら。

 

(守るため。そうだ。守るために戦うんだ。ユーノを、ノクスを、ミディナを!)

 

前へ前へと突き進め。

 

「そうだろ!エクスシア!!」

 

呼応するのは相棒。上を向いて止められたアイディールを消し、手首を下に回しながら顕現させる。

 

己の最強。己の理想。己の極限。

 

(それが、皆の希望になるために)

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

下に向けて作られた剣を切り上げる。それは見事に突っ込んできた魔物を顎から切りつけた。

 

「いっけぇ!!」

 

空中に投げ出される魔物に向けて、電撃を体に纏い移動する。そして______アイディールと同じく、透明結晶を使ったエクスシアを頭に刺し込んだ。

 

『gaaaa!!!!』

 

短めの悲鳴を上げながら、それでも右足を伸ばしてくるのに対して、俺は自分の剣に魔力をでたらめに流し込んだ。

 

「これで、さよならだ」

 

まだまだ未熟な俺の作った透明結晶は、含める魔力の限界を超えて割れる。勢いよく行えば破片が飛び散る。

 

だから______エクスシアは、魔物の頭に突き刺さったまま弾けた。もう、悲鳴を上げる者はいなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅ...終わったか」

「アハト君...アハト君!!」

「おっとと...こっちで気を失いそうだな」

 

魔物を倒して、その左手につけた指輪と同じ金色の目をしょぼしょぼさせているアハト君に間髪いれずに抱きつく。両手を回した私には、アハト君の体温が、生きている証拠がしっかり伝わった。頭を撫でられ、優しさと恥ずかしさに包まれる。

 

「先輩...無事で良かったです」

「ホントにね。私も手伝ってもよかったんだよ?」

「いや、後ろで大人しくしていてくれて助かったよ。周りうろちょろされてると気にしそうで...」

「集団戦闘に向きませんね」

「というより、洞窟の中とか建物の中とかじゃないとこんな動きは出来ないからな」

 

ノクスさんとも、ミディナちゃんとも楽しげに談笑している。でも、私は______しなくちゃいけないことが、あった。

 

「ミディナちゃん、酷いこと言ってごめんなさい!」

「え?」

「なになに?」

「いや、あの、二人が来る前に、私酷いこと言っちゃって...」

「ユーノちゃん...大丈夫だよ。私は」

「ミディナちゃん......ありがとう」

「いいえ~これからも仲良くよろしくね!」

「うん!」

 

私が謝ると、ミディナちゃんは笑顔で返してくれた。その優しさがとても嬉しかった。

 

「ノクスさんも、アハト君も、ごめんなさい!!」

「別に気にしてねぇよ」

「そうそう!アハトの言う通りなんだから!」

「二人とも...!」

「さて、じゃあ早くこんなところ戻って...」

 

 

 

 

 

「...あれを倒すとは、随分と成長したようじゃな」

「「「「!!?!」」」」

 

ノクスさんの声を制するように発されたのは、若い、女の人の声。

 

同時に、シャランと鈴の音と、倒れていた魔物が燃える音が聞こえてくる。

 

「まさか一人でこれを倒すとは...試作品だと聞いていたからそこまでの期待はしとらなかったが、双方共に予想以上。といったところかの」

 

「てめぇ...何者だ」

 

皆がそれぞれの剣を抜き、魔物の後ろ_____洞窟の奥に向ける。そうしなければならないと感じた。

 

「我の名前はバンス。バンス・シュバイツァー。よくよく、覚えておくと良い」

 

そこには、青い炎に包まれた魔物を前に薄い水色の長髪と目を反射させて、裾が長い変わった服に身を包んだ女______シュバイツァーが、いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな目覚め

「エクスシア...っ!」

「アハト!?」

 

アハトが剣を作るも、疲れで尻餅をついてしまう。

 

「無駄じゃろうて。これと戦って疲れておるのだろう?その状態じゃ話しにならんわい」

 

知らない女が、青い炎で燃やされ灰になりつつある魔物を扇子で差し、そのままこちらへ向ける。

 

「それとも、無駄な死を望みか?」

「バカが...そんなわけないだろうが......」

「まるで自分が死なないと勘違いしているような戦い方じゃったの。後ろの奴等は守られてばかりじゃったの。新魔と旧魔と人間、そんなごっこ遊びはやめたらどうじゃ?」

「っ!...てめぇぇ!!」

 

アハトが激昂して立ち上がっても、すぐに倒れてしまった。

 

「何故その剣が作れたか不思議なくらいじゃ。前よりは格段に力をつけているようじゃが...それもここまで」

「俺は...仲間を守りたくて」

「それがごっこ遊びだと言うのだ。今日のお主らはほぼ全て見ていたが...そこの少女は薄っぺらい言葉で改心した。そこの少女は戯れ言を言われても笑顔を取り繕った。そこの女は仲間とやらを助けるために来たのにも関わらず、戦闘を放った」

 

扇子が、ユーノちゃんを、ミディナちゃんを、そして私を指す。

 

「そして...お主は、守るだの戯言を言って、自分が死にかけている。滑稽以外の何者でもないわい」

「ふざけるなよ...そんなわけ、ないだろ」

「盲信は時に人を殺す。よく言ったものじゃの」

 

そう言って、閉じたままだった扇子を開く。

 

「まぁ、安心するがよい。今貴様らがどんな思いをしていようと...死ぬのは、変わらぬ」

 

女が口にした瞬間、後ろから足音が聞こえてきた。数えきれない足音が、バタバタと洞窟に響く。

 

「これは...」

「この魔物は『リグロ』を使い試験した実験台じゃったが、用意のはそれだけではない......魔物を従わせる笛を受け取っているのでな」

「な...!」

「これで、貴様らは終わりだ。四人の内二人の新魔が大怪我、一人は使い物にならない旧魔、一人は魔法を使えぬ人間。どうしようもあるまい」

 

突如として、彼女の周りに青い炎が浮かび上がる。見たこともない綺麗な色だった。

 

(でも、あの色は...怖い)

 

「まさか...この洞窟の出来事全部......」

「それが分かったところでどうなる?」

 

炎は次々に浮かび上がり九つで止まった。

 

「魔物を倒して逃げるか、我を倒して逃げるか。好きな方を選ぶがよい」

「くっ...」

「ちなみに魔物の数は百は越えておる。我はそこのと同じ限定魔法の使い手じゃ。...このまま、偽善を信じて死ぬがいい」

 

私は、頭の中で何かが切れる音が聞こえた。

「アハト、貸して」

「は?お前...」

「そのエクスシアは透明結晶(クリスタ)使ってないでしょ。私でも使える」

「ちょっ、おまっ」

 

アハトから剣をぶんどって、女に向ける。

 

「後ろの方は任せるよ。なんとかなるでしょ?エクスシア消すときは声かけてね 」

「ノクス...?」

「ノクスさん!」

 

そのまま歩いて、後ろを守るようにたった。剣を上段で構える。

 

「くくっ...人間は魔力が分からないらしいからな。よく立ち向かえるものだ」

「うるさい...」

 

あいつは知らない。人間でも、魔力をその人の雰囲気として感じることができることを。実際、相手は魔力だけならユーノちゃんより少し劣っているくらいに感じる。

 

(それでこの恐怖感...ユーノちゃんが本気出したらどうなるんだ...と)

 

あいつは知らない。ユーノちゃんが言われた言葉でどれだけ救われたかを。

 

ミディナちゃんがユーノちゃんに言われた言葉は私も分からないけれど、それでも笑顔を作る理由が。私がどんな思いで戦闘を見ていたのか。

 

「ユーノちゃんも、ミディナちゃんもそんな子達じゃない...そして」

 

『ノクス!二人を頼む』

 

(頼まれたからには、それを信じてないと)

 

あいつは知らない。アハトがどんな思いで体を犠牲にしてまで私達を守ってくれるのか。

 

『それから守りたい人を守れるように強くなりたいと思って、魔法を覚えたんだ』

 

『俺にとっては大事だったんだ』

 

エルビスで言われたとこを思い出す。そうだ。そうだ。

 

「アハトが自分のこと死なないなんて、思ってるわけないでしょ...」

 

だから私は、上っ面だけ攻める彼女を許せなかった。

 

「怖くても、いつも皆のために戦ってくれる。守ってくれる。それを...あんたがバカにするなぁぁぁ!!!」

 

私は持ってる技術と勇気を総動員させて、女に向かって突き進んだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ノクスさんが特攻して、剣劇を繰り広げ始めた。ノクスさんはエクスシアで猛威を振るい、相手は扇子で受け止める。その表情は余裕に満ちているように見えた。

 

「この扇子は特殊製でな。そんじょそこらの武器とはわけが違うぞ」

「知らないよっ!」

戦いが始まったところで、アハト君がゆっくり近づいてくる。

 

「お前ら...今のうちに逃げろ」

「逃げれるわけないじゃないですか!」

 

私は、ノクスさんをじっと見ていた。

 

「前はあんなで、後ろは魔物うじゃうじゃですよ?それに、先輩は傷が...」

「それはお前も一緒だろうが。後ろのやつ、突破するぞ。ノクスが前に出てくれた意味がない...多分、魔物を相手にした方が勝ち目があるだろ?」

 

『ユーノちゃんも、ミディナちゃんもそんな子達じゃない』

 

(今まで逃げてきた。自分は何もできないと)

 

『そんなことない!私だって出来ることがある!ユーノちゃんだって!』

 

(でも、私を守ってくれる人が、困ったときに助けてくれる人がいる)

 

『ユーノ!』

 

(その人たちのために、私が出来ることは!)

 

私は、覚悟を決めた。

 

「ユーノ...?」

「ユーノちゃん?」

 

立ち上がる私に二人が声をかけてくる。私は真剣に、たんたんと必要なことを確認した。

 

「アハト君...私は、使えてこそないけど沢山の魔力があるんだよね?」

「あ、あぁ...」

「ミディナちゃん。アハト君を守ってて」

「え?う、うん」

「...任せて」

 

背中から、メイルさん渡されてから一度も使ってなかった杖を取りだし、地面に突き立てる。

 

「今度は、私が守るっ!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「っ!っ!!」

「どうした?その程度か?」

 

私の攻撃は、この女に全て避けられていた。

 

「...初見では対応できない暗殺術......といったところじゃろうか。ただの人間が出来ることは限られているからのう...当然か」

「ふっ!!」

「じゃが、種が分かれば...」

 

私の習った技術は、ただ前を向いていても見えない相手の死角を通って近寄り、何もないように見えるところか攻撃すること。でも、女はそこに青い炎の置いていて攻められなかった。

 

(こいつ..こうも早く!?)

 

「瞬間移動も出来ず、大した身体能力もない貴様が移動できる死角は、下だけ気にしていれば塞がる程度のものじゃ。それにまず、よくその姿を見ていれば死角に入り込まれることもない。身の程を知った方が...」

 

次はどうすると考えていた一瞬の空白を攻められる。とっさにエクスシアでガードした。

 

「よいと思うぞ?」

「かはっ!」

 

しかし、下から蹴りあげられる。肺から息がこぼれ出た。

 

「魔法は手加減しているというのにこの実力差...呆れを通り越して同情するわい。早くそこと変わってもらえ」

「...嫌だ」

 

私は確かに、魔法に対抗する力をほとんど持っていない。このままでは間違いなく負ける。いや______殺される。

 

それでも、通さなきゃいけない意地がある。

 

「負けない。負けれない。絶対に!」

「...ふむ」

 

私の心からの叫びに彼女が何か考えるような仕草をとる。そして、指を鳴らした。乾いた音と鈴の音が洞窟に響く。

 

「流石に驚くぞ。その弱さで立ち向かう勇気に敬意を讃え、本気で殺してやる」

 

喋る間に、次々と青白い炎が浮かび上がる。全てを灰にする炎。竜の時よりも感じる圧倒的な熱量。

 

「...我の炎は普通より温度が高くてな。橙色ではないのだが......一撃で終わらせるから変わるまい。失せろ」

 

右手に持つ扇子を私に向け、同時に炎が踊り出す。後ろには皆がいるから防がなければならないけれど、私には防ぐ手段が何もない。

 

「いや...!!」

 

とっさにポーチから水晶を出す。基礎魔法とその延長ならば本人の願いによって変わる特別な魔法石。

 

「氷を!!」

 

願った結果、花が開花するように氷の壁が生まれる。青白い炎はそのまま突っ込んだ。

 

「ほう...『遺産』か」

 

しかし、それも持ったのは数秒でしかなかった。

 

「あぁ...!」

 

炎に氷が溶かされる。なくなった壁を、新たな炎が通り抜けて来た。

 

「......」

「おいノクス!...っくそ!」

「先輩まだ無理です!」

 

せめて盾になろうと仁王立ちになる。エクスシアを構え、少しでも役に立つようにする。

 

「バカやめろ!」

「ノクスさん!?」

 

(アハトみたいに強くないし、ユーノちゃんみたいに優しくないし、ミディナちゃんみたいに気を配ることも出来ない)

 

メイルに技術を教わっても、こいつには叶わない。

 

(でも...お願い)

 

何も変わらない私でも、変わったものがある。

 

 

 

 

 

一人だった私に、守りたいと思える仲間が出来たこと。

 

だから。

 

(守れる力を、頂戴!!)

 

景色が、目の前まで来たの炎に覆われる。私は最後までそれから目をそらさなかった。

 

 

 

 

 

そして、その力は開花した。

 

「...なんだと」

 

炎が、消された。しかし、アハトやミディナちゃんが手を出してきたわけじゃない。その事実に、対峙する相手は怪訝な顔をした。

 

「ううっ...」

「なにが...」

「それ...」

 

眩しかった景色がいきなり暗くなったことで目が開けられずに俯く。その間も、後ろから、前からも呆気にとられる様な声がした。

 

「なに...?」

 

やっとの思いで目を開けると______そこには、剣が浮いていた。

 

「......は?」

 

メイルから貰った一本の剣と、ここで手に入れた同じ剣の二本。合計三本が、私の周りを漂う。まるで私を守るように。

 

「ただの武器が浮く...?そんなことあり得るはずが...」

 

女が呟くが、私は見た瞬間に確信した。これは、私を守ってくれていると。

 

「...ありがとう。いけるね?」

 

武器に声をかける。頭がおかしくなったのか疑われそうだが、それに剣は頷いているように感じた。

 

「まぁいい。消し炭になれ」

 

再度、炎が迫る。

 

「お願い!」

 

しかし、それは全て三本の剣に防がれた。

 

透明でありながら、透明結晶ではない剣の刃が、全ての炎を散らして見せた。

 

(やっぱり、私の思い通りに動く!)

 

「っ...どんな手品か知らないが」

「いける...これなら!」

 

エクスシアを握る手に力がこもる。自分の思い通りに動いてくれる剣達を漂わせ、相手の攻撃に構える。

 

「失せろ」

「いっけぇぇ!!」

 

そして、一進一退の攻防戦が始まった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

数えられない『リグロ』が、『セルダー』が、知らない魔物が迫ってくる。それでも私に不安はなかった。

 

『fog・beast!』

 

詠唱し終わった固有魔法により、三体の魔力で出来た狼が現れる。

 

「行って!」

 

その子達に指示をだすと、一目散に敵に向かっていった。魔力が大好きな『リグロ』はもちろん、他の魔物もそれとぶつかりあう。数からして数十秒経たずにこちらがやられてしまうのは明らかだった。

 

「----------」

 

その時間で、『普通の魔法』を詠唱する。氷という基本魔法でありながら、未だ成功したことのない技。

 

普通の人はこんな基本魔法を詠唱なんてしないし、こんなに時間もかからない。

 

「--------------」

 

さっきまでの私なら、とっくに諦めていただろう。

 

(でも、今は)

 

私を助けてくれる人がいて。励ましてくれる人がいる。

 

「--------------」

 

『何かに迷ったら自分の意志で、感情で行動しなさい』

唐突に、メイルさんが言った言葉を思い出した。

 

(...うん。自分の意志で)

 

制御しきれない魔力が溢れ、辺りに広がる。少し氷の魔力に染まった空気が辺りを冷やしていく。

 

「------------」

「この感じ...凄い!」

「何ですかこの魔力...!?」

 

(リーゼ。使わせて貰うね)

 

(『ar・flame!』)

(リーゼすごいね!!でも、『アル』って何?)

(アルって言うのは...そう、キュウキョクって意味ですわ!)

(そうなんだ!かっこいいね!)

(基本魔法でも、中級以上は自分の分かりやすい言い方で分けるのがイッパンテキなのですよ!)

(リーゼはむずかしい言葉をいっぱい知ってるね...ありがとう!)

 

昔『シオン』でリーゼとした会話を思いだしている間に、『fog・beast』が魔物にやられて霧散する。

 

(自分の力で、皆を守る!)

 

『リグロ』が足早に駆ける。しかし、その呪文は作り終わった。

 

ミディナちゃん。ノクスさん。アハト君。

 

「ユーノ!いけぇ!!」

 

そして、その式句を叫んだ。

 

 

 

 

 

『ar・ avalanche!!!』

 

唱えた瞬間、私の足元から洞窟の奥まで地面から氷の槍がびっしり突き上げていく。突き上げた槍は天井まで届き、深々と突き刺さった。誰も防ぐ手段を持たず、避ける隙間すら与えない絶対零度の一撃。

 

そしてそれは、意気揚々と私に食らいつこうとした『リグロ』を空中で突き上げ、一瞬で絶命させた。

 

続く魔物を一匹残らず絶命させた。広がるのは死、死、死。

 

私はその景色を______氷の色と、魔物の血の色がコントラストを表現する景色を見て、達成感が襲ってきた。

 

「よかった...これで、皆...」

「ユーノ!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「なんだ...今のは......」

 

後ろから、炎によって焼けただれた傷も含め体中が凍るような感覚が襲ってきた。声からしても、きっとユーノちゃんが力を出したんだろう。

 

(...凄いなぁ、ユーノちゃんの本領発揮は)

 

「ありえない...あんな小娘が......?まさか...」

 

目の前の実力者が数秒呆気にとられる程度には凄まじい物だったようで、完全に上の空だった。

 

「...まさか!?」

「そこぉっ!!」

「!?!?」

 

驚き顔を崩せない彼女に、エクスシアで切りつける。しかしすんでのところで避けられてしまった。

 

「ふ、その程度」

「いや、負けだよ!」

 

一撃を避けて自慢げになっていた所を、宙を漂う三本の剣に襲われた。二つは上手く避けていたが、一本が頭に当たる。しかし、それも流れるような身のこなしでかすった程度だった。

 

「これだけやって致命傷も与えられないなんて...」

「血?...我の、血?貴様が...やったのか?」

 

頭の上の方から、薄水色の髪と額を赤く濡らす液体が出ていることを自覚して、激昂する。顔をひしゃげさせ、大きく開いた目の片方に血が流れ込んだ。

 

「...くっ。潮時か。貴様はいずれ我が殺す。見るも無惨な姿に変えてから、指を一本ずつ折って、体をねじ曲げて殺す。忘れず、覚悟しておけ!!」

 

冷静に、淡々と叫んで、鈴の音と共に彼女は消えた。私は、逃げた相手にも聞こえるように大声で叫び返す。

 

「...もう二度と来んな!」

 

私の意識は、そこまでが限界だった。




ずっとシリアスシーンだったのでコメントを控えていたのですが、一段落ついて安心しています。

見てくれている友人には『長い』と一蹴されてますが、個人的にはお気に入りです。共感してくださる方がいらっしゃれば幸いです。

誤字脱字、感想、評価等ありましたらよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

関係性

約一月、遅れてしまって申し訳ないです。

本編どうぞ!


「うぅっ...」

「はぁ...はぁ...」

 

ベッドで寝ている二人の苦しそうな寝息を聞きながら、俺は一口紅茶を飲んだ。酸味が良く聞いていて、入れた者の技量が良くわかる。

 

「ローズヒップなんて、珍しいな」

「私が好きなんですよ。アールグレイやダージリンの方がよろしかったですか?」

「いや、いい」

 

チンッ、と陶器ならではの音を立ててカップが皿に置かれる。その反対側で同じ音を鳴らすのは、俺と同じくソファー座り、俺と同じく傷だらけのハルベルトだった。

 

魔物の群れがユーノによって氷漬けになり、シュバイツァーと名乗った彼女をノクスが追いやった直後、意識を保っていられなくなったミディナとノクスが気絶した。

 

慌てて介抱していたところに訪れたのは、町の反旧魔の意識が強い新魔と戦い、傷だらけになったハルベルト。

 

その後、ハルベルトの後をついてきたスラッツさんとその部下(名前はリンと言うらしい)の馬車に乗って、『ヘルシンキ』のハルベルトの家まで逃げて。

 

気絶したままの二人を軽い治療をしてからベッドで寝かせ、今にいたる。

 

「...ありがとう。あの大人数相手に、良くやってくれた」

「いえとんでもない。数えられないくらいの魔物を洞窟ごと氷で覆うような人はいなかったので大丈夫でしたよ」

「そのくらいのことが言えるなら大丈夫そうだな」

 

ハルベルトの話では、ユーノの魔法は洞窟の入口付近まで冷気を漂わせ、相手していた新魔達は凍った洞窟の中には入ってこなかったらしい。結果としてバレずに町まで逃げてこれたのだから幸運だろう。

 

スラッツさんは今頃洞窟に残っていたり、この家に来ようとする新魔の相手で汗水垂らしているらしい。

 

「暫くは来ないと思いますよ。権力には誰しも弱いですから。一日くらいは平気です」

「聞きたくなかったなぁそんなこと...」

 

ため息をついてから、ローズヒップを口に運んだ。

 

「...俺もまだまだだな。今回、皆に助けられたし、思い知らされることも多かった」

「......」

「...まだまだ強くならなきゃなって、思うよ」

「...そうですか。私はその実力を拝見させていただけませんでしたが、きっとそう思えるうちは強くなれますよ」

「偉そうだな」

「これは実際経験しましたから」

「そうか...そうだな。そう思うよ」

 

『新魔と旧魔と人間、そんなごっこ遊びはやめたらどうじゃ?』

 

(最初はパートナーとしてユーノを選んだのも、自分の...戦争を避けるという目的があったからだ。その意味では確かに、関係としてはごっこ遊びと言えなくもない)

 

脳裏にシュバイツァーの言葉がよぎり、無意識に歯を食い縛った。

 

(でも、ユーノと旅して、途中からノクスとも一緒にいて、ミディナもいるこの町に来て。新魔も旧魔も...種族なんて関係なく、俺には本当の意味で守りたい物ができた)

 

「あぁ、強くなるさ。皆の為にも、俺のためにも」

 

「旧魔の角って皆おっきいの?」

「人によってそれぞれです。私のは大きい方かな...」

「触ってもいい?」

「旧魔の角を触れるのは本当に信用できる人...それこそ夫婦同士とかだけなので...すいません」

「ちぇっ...」

 

「出てきたみたいですね」

 

 

決意を口にしたところに、隣の部屋______シャワー室からいつもの服を着たユーノと、部屋着に着替えたリンが現れた。

 

「ユーノ、大丈夫か?」

「うん。汚れはしっかりとったよ!」

「いや、そういうことじゃ...まぁいい」

 

水色の瞳を輝かせるユーノの返事に、俺は微妙な反応をした。今の質問の意味は、あれだけの魔法を使ってしっかり意識を保っていられているのかという問いだったから。

 

(何事もなかったようにぴんぴんしてんな...俺だったら、詠唱時間が三倍にして、やっとこいつの半分くらいだろうか......)

 

俺は大技を使えるタイプじゃない。どちらかと言えばエクスシアや氷魔法を使っての連続攻撃を得意とし、手数で押すのが得意だ。もっともその手数も、一度に操作できる数はあまり多くないが。

 

一気に氷を百個作り一斉射撃するのではなく、氷一個を飛ばし、即座にもう一個作って飛ばすことを繰り返す______そんな動き方だ。

 

だが、そのことを抜いても赤く目を光らせた本気のユーノの力は異常としか見えなかった。洞窟ごと凍らせるような魔法を使って、使った直後も息を切らした様子もなかった。

 

(結論としては、ユーノの魔力が底知れないってところか...それこそ、あれが使いこなせるようになったら...)

 

ユーノが喜びながらあれを連射する姿を想像し、途中で止めた。見てはいけないものを見たような感覚だった。

 

「アハト君?」

「あぁ...なんでもない」

「あ、ごめんカムイ君だよね!」

「...それも今はいいよ。それより今後の予定を言うから座ってくれ」

「?...分かった」

 

そう言うユーノが俺の隣に座った。風呂上がりで柑橘系の良い匂いが鼻をくすぐる。

 

「アハト君はお風呂いいの?」

「話が終わったら入るよ...分かってるとは思うが、もうこの町にはいられない。ノクスが目を覚ましたらすぐに町を出る」

「はい」

「用意はなにかあるか?」

「どこか行っちゃった帽子が...」

「そこのを使ってください」

「ありがとう、ハルベルト」

「ありがとうございます」

「いえ...アハト...さん。私はなぜ貴女が旧魔も行動してるのか、なぜこの町『ヘルシンキ』にいるのか存じません。ですが貴女のお連れが悪い人だとは思いませんし、実際皆さんを見てそれはないと思います。ですからせめて町を出るまでは、助力させていただきます」

「寧ろ助かる。感謝しかない」

「町の人からは文句しか出ないでしょうけどね」

「次の町長だろう?いいのか?」

「そしたら王都で働かせていただきます。過保護な家からも出たいと思っていたので丁度いいかもしれません」

「...そっちの助力はしないからな」

「問題ないですよ...たぶん」

 

話が纏まったことに安心して、俺はもう一度紅茶に手をつけた。

 

「じゃあ、あとは...」

 

後ろを向いて見つめる先には______ベッドで寝ている、ノクスとミディナがいた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「次期町長とあのアハトって人はどういう関係なんですか?」

 

アハト君がシャワーを浴びにシャワー室に入ってから、スラッツさんの元で働くリンさんがハルベルトさんに質問を口にした。

「まだ私は、町長になるなんて言ってはないんですけどね...」

「そこじゃなくてですね、前からの知り合いみたいですが、年齢的に立場は逆なんじゃ...」

「...スラッツさんの部下さん、でしたよね?貴女はもう少し国に目を向けた方が良いですよ」

「??」

「いえ、私も会っていなければ分からなかったかもしれませんが...」

 

意味の分からないことを呟くハルベルトさんは、何か決意したようにこちらに顔を向ける。

 

「んー...ユーノさん」

「は、はい!」

「...貴女はどれだけあの人のことを知っているか分かりませんし、私も本格的に話したのは昨日からですけど...寝ている二人も含め、皆さんと話している時のあの人はとても嬉しそうです」

 

____アハト君が国の軍に入っていたことや、国のために今ここまで来たことを知らないだろうハルベルトさんは、その全てを見透かしているように語りかける。

 

「これからも、仲良くしてあげてください」

「...言われるまでもないです!」

 

私はそれに、はっきりと答えた。

 

「お前に言われる筋合いはねぇぞハルベルト!」

 

素早くシャワーを終わらせたアハト君が、声をあらげて叫んだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

既に日は沈んだが、遠くから聞こえる喧騒はそのままだった。

 

「まだやってんのか...」

「そろそろ一度散ると思いますよ。もうすぐ明け方ですから」

 

ハルベルトの家に来てから半日。ユーノとリンは別の部屋で寝ていて、ノクスとミディナは寝たままの状態。そんな中、俺はハルベルトとまた紅茶を飲んでいた。今度はアールグレイだ。

 

「ったく...だいたい、仲良くしてあげてくださいってなんだ?お前俺にそんなこと言えるほど知り合いじゃないだろう」

「...申し訳ありません」

「いや、別にそこまで...」

「本当にこの家に来てから、貴女が安心しきった顔をしていたのでつい...あそこにいたときの大人しさとの差が...」

「...戦闘続きだったからな...もういい」

「...おそらく行き先は王都ですよね?新魔のみ入れる場所ですけど...そこに彼女達を、旧魔を連れていく目的は?」

「...色々あるんだよ。でも...今は単純に、あいつらといたい」

「...明かしてないんですか?」

「え?」

「いえ、ユーノさんの反応が、全部知らないみたいな感じだったので」

「...言う機会がなー......もうサプライズとして最後まで持っていこうかと」

「私も初めはびっくりしましたけどね...」

「やっぱり口調か?」

「はい」

「...まぁいいさ」

 

今日何回目か分からなくなっている紅茶を飲む行為をして、無意識にカップを音を立てずに皿に置いたとき。

 

「ううっ...」

「ミディナ!?」

 

聞こえて来たうめき声の方へ急いで駆け寄った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『ミディナ~暇~』

『私はお店の経営あるから邪魔しないで』

『はー...お店しなくてもいいんじゃない?』

 

私の友達であり居候先の一人娘、ロアナスちゃんがお店のカウンターに突っ伏しながら文句を垂れているのを聞きながら、私はお店の真っ白な帳簿を整える。

 

『今は私の家で居候、『遺産』を扱うお店を開いても、商品が商品だけに来る客はなし、ここ開かなくても...』

『それでもお父さんのお店を潰したくないの。開かなくなったら...本当に、潰れたって言われちゃう』

 

お父さんが病気で死んでから、もう十年近くになる。四歳だった私の記憶は薄れており、割りと大きかったらしい葬式も、大勢の参列者も、その時思った悲しみも覚えていない。

 

『『遺産』は珍しくて、安定した入手もできない。それは安定した収入が得られなくて、経営が難しいってことだよ?剣と魔法が上手くて自分で冒険して『遺産』を集めてた凄腕だっていうミディナのお父さんはできても、ミディナじゃ...』

『...お昼は喫茶店にする』

『店員一人じゃ無理無理』

『...でも』

 

お母さんは重病にかかったお爺ちゃんの家で看病し、このお店を潰したくなかった私は、昔から家族ぐるみで中のよかったロアナスちゃんの家に居候する、という条件でこの町に残った。

 

もしかしたら、無意識にこのお店がお父さんとの最後の繋がりだと思っているのかもしれない。

 

『せめて回復薬とかあればねー...それか、ミディナに剣か魔法の実力があれば...私達、魔法は中級くらいで、剣はからっきしだもんね。ミディナは使ってもないから分からないけど。魔法だけだと魔力切れた時どうしようもないから冒険しにくいしね...』

 

(それでも覚えているから。大きくて輝いてたこのお店と、お父さんの手を)

 

つけている髪飾りと、そこから出る少し小さめなサイドテールにぶつからないように手を頭に当てる。薄れてる記憶の中で、あの大きな手で撫でられた感触ははっきりと覚えているものだった。

『しょうがない...バーとか始めれば?それなら一人でもなんとか出来るんじゃない?』

『...ロアナスちゃん天才!』

『いや、冗談だったんだけど...カクテルとか入れられないし、そもそも私達未成年だし』

『......あの、語尾に『くそやろう!!』が口癖のおじさんの所いけば...』

『剣の実力を上げて、魔物を倒しながら『遺産』を探す!』

『無視かー...でも、私一人じゃ剣の力ってどうやってつければいいのか分からないよ...』

『うーん...周り皆戦わないしね。ミディナのお父さんみたいな、凄腕って呼ばれるような人がいれば師匠にして習えるのにね』

『そんな人いなくないかな...?』

『少なくともこの町にはね。あ、いや町長の息子が...あれ?名前なんだっけ?』

 

ロアナスちゃんが首を傾げ始めた時、カランコロンとお店の扉が開いた。

 

『い、いらっしゃいませ!』

『おー、久々の客』

『ちょっと黙って!』

 

出迎える私と呟くロアナスちゃんを気にせず、お客様は中に入ってきた。お金持ちが持ってそうな質感あるコートに身を包み、かぶったフードの中から豪華さを全て吸い込むような短めの黒髪と黒目が揺れる。年はそんなに離れていない印象だった。

 

『『遺産』を扱う店って聞いたんだが...合ってるか?』

『は、はい』

『ふーん...じゃあそこの剣も『遺産』の商品?』

 

そう言って、彼は店の奥の方に立て掛けてある剣を指差す。私は少し苦しめな表情をした。

 

『すいません、あれは『遺産』ではないですし、非売品なんです...』

 

この髪飾りと同じ紋章が描かれたその剣は、お父さんの形見だった。長年愛用されていた剣は、今も私が拭いていて、持ち主がいなくなって十年たっても錆び一つない。

 

作った人が同じらしく、私は小さい時髪飾りを貰った。いつだか、『お父さんはお揃いの物が欲しかったのよ』とお母さんが言っていた。

 

『うーん...じゃあ、手に持つだけならいいかな?ちょっと見たいんだ』

『まぁ、そのくらいなら...』

 

お店に来て非売品の剣を見たいというおかしなことを言う人を怪しむもの、それだけならと立て掛けてあった剣を手渡す。

 

『はい、どうぞ』

『ありがとう』

 

感謝を口にしてから、その客は色んな角度から剣を見る。

 

『怪しくない?』

『そんなこと言わないの』

 

ロアナスちゃんと小さな声で会話していると、あちらからも声が聞こえて来た。

 

『...古い、でも良い剣だな...この位の強度が出せれば......』

『なんかぶつくさ言ってるし』

『それは...』

 

訝しげに見ていた私達の目は、次の瞬間見開くことになる。

 

『やっぱ比べると悲しいな...』

 

瞬きした直後に、左手にお父さんの剣を握ったまま、右手に新しい剣を出したのだから。

 

腰や肩にさげていた様子はなかったのに現れた見たことない白と金で彩られた剣に、私は目を奪われた。

 

『え!?ねぇねぇ!今どうやってそれ出したの!?腰とかにつけてなかったよね!?』

 

興味深々で訪ねるロアナスちゃんに、男は『やっちまった...』と呟く。

 

『えーと..ちょっとした魔法、かな?』

『もしかしてそれで魔物倒すの? 』

『まぁ、ほとんどそうだな...』

『ふーん...ミディナ!この人でいいじゃん!』

『ふぇ?』『は? 』

 

突然話をふられて驚く私と、会話の流れについていけない彼が同時に声を上げる。

 

『だから、剣の師匠!魔物倒してるっていうし、なんとかなるんじゃない?』

『え、でも初対面の人に...』

『すいません!この子の師匠になってくれませんか?剣を教えてあげてください!』

『えーと...話についていけないんだが...これもいいか』

 

フードから、黒髪の全貌が明らかになる。少し跳ねがある短めの髪だった。

 

『で、えーと...師匠?だっけ?』

『はい!この店を続けるためにやらなきゃいけないんです!』

『こっちも訳ありできてるからな...でも、その期間だけならいいか』

『それじゃあ!』

『君はいいのか?』

『はい?』

『こっちの子が決めてるけど、やるのは君だろ?その...俺の弟子になるのは。それでいいのか?』

『っ...やります』

 

質問されても、出る答えは決まっていた。お店のために。今はいないお父さんのために。私のために。

 

『やらせてください!お願いします!』

『ん...分かった、じゃあよろしくな。俺の名前はカムイ』

『ミディナ・マキです。よろしくお願いします、師匠!』

『師匠呼びは止めてくれ。ま、もっとも...』

 

途中でいいよどむと、外から勢いよく男が入ってきた。二十代前半といったところで、かなり若く見える。

 

『ア...カムイ様!こんなところに!しかもフードとってるじゃありませんか!』

『様つけるな。フードとっても問題ない。あと落ち着け』

『落ち着いてられません!!』

『はぁ...こいつを落ち着かせて、納得のいく説明ができたら、だな』

 

そういうカムイさんは、どこか面白そうに微笑んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四人で

少しずつ活動を再開したいと思います!今後もよろしくお願いいたします!


「______ナ_________ナ!大丈夫か!?」

「んんゆぅ..先輩?」

「大丈夫、そうだな。よかった...」

 

目が覚めたら、すぐ隣に先輩がいた。心の底から安心したように息をついて、優しさを込めた黒目に見つめられる。

 

「ここは?」

「そこにいるハルベルトの家だ。お前とノクスが倒れて、それからずっとここにいる」

「...ユーノちゃんは?」

「あいつはもう寝てるよ。今は夜だからな」

「...先輩は?」

「...正直な話眠いけど、お前らのことを気にして寝れるほど図太い精神は持ってないんだよ。ユーノは無理矢理寝かしつけたけど」

「酷い先輩ですね」

「言っとけ」

 

私の言葉に先輩はいたたまれなさを感じたのかそっぽを向く。普段大人びた彼女が見せる年相応の態度に、年上ながら面白いと思った。

 

「......夢を、見てました」

「夢?」

「先輩と初めて会ったときの夢です」

 

あの時も、こんなことがあった気がする。私が先輩に剣を教えてもらい、それに疲れて寝てしまったのを介抱してもらった。

 

「あぁ...あれから半年くらいか?」

「なんだか懐かしいですよね」

「...そうだな」

「先輩、ありがとうございました」

「何がだよ?」

「私に剣を教えてくれたこと、私を助けてくれたことです」

「...約束、したからな。俺が無事でもそれを確認してくれなきゃいけないから」

 

鼻のしたを少し擦り、恥ずかしそうに笑う先輩を見て、

 

「...先輩らしいですね」

 

つられて微笑んだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なのか?」

「問題ないです」

 

起きたばかりのミディナは、自身の剣を腰にさげた。

 

彼女いわく、今からお店に戻るらしい。あそこで大声で叫んだノクスや、旧魔だとバレたユーノより目立っていないとはいえ、流石に不味いと引き留めたのだが、

 

『今戻らなきゃダメなんです。誰かに会っても最悪どうにかしますから』

 

と、言いきられてしまった。どこか意志が強い彼女に反論出来ず、 既に自分の持っていた物を全て手に持っていた。

 

「それじゃあ行ってきます」

「...行ってらっしゃい」

 

挨拶を済ませた直後、彼女は一目散に駆け出した。その姿はもう見えない。

 

「...今戻って、どうするつもりなんだか...」

「貴女も彼女も、いまいち抜けてますね 」

「なんだそりゃ?」

「なんでもないです」

 

ハルベルトは慣れたように肩をすくめ、ソファーに座り直した。

 

「......知らない天井」

「ノクス!」

「あ、アハト...って、ここどこ!?」

 

入れ替わるように目を覚ましたノクスは、現状を理解できずにあたふたしていた。そこにシュバイツァーと戦っていた時の威厳はどこにもない。

 

「はぁ...ここはハルベルトの家、お前も皆も無事助かったよ...お前の足止めのお陰でな」

「......はぁー!」

 

こわばっていた表情が安堵に切り替わり、大きなため息をついてベッドにの寄りかかる。

 

「よかった」

「ほんとそうだな」

「...ねぇ、アハト」

「ん?」

「私、なんとか出来てたよね?」

「まさに激戦を制してましたよ」

「なんかめっちゃ恥ずかしいこと喋ってた気が...」

「それは知らん」

「知ってるなバカ!忘れろ!」

 

枕を手に持ち、投げ飛ばしてくるのをはね除ける。そのまま跳ね返った枕はノクスの顔に直撃した。

 

「ぶふぉっ!」

「...こうして馬鹿げた枕投げをできるのも、お前たちのお陰だよ」

「!!」

 

それ以上言うのが恥ずかしくなって、知らず知らずの内にそっぽを向く。

 

「...アハトの方が、恥ずかしいかもね」

「言ってろ!」

 

笑い声と叫び声が飛び交いながら、その日の夜が明けていく______

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃあ、準備できたな? 」

「はーい!」

「勿論!」

 

俺の声に二人が答える。

 

ユーノは帽子を被り服を翻らせ、短剣を腰に携え、杖を持ち。

 

ノクスは腹や足を出した服を着ながら、バックを肩ごしにかけ。

 

俺は珍しく焼けたり切れたりしなかったコートを羽織りながら、少し短めのブーツの履き心地を確め。

 

全員が、出発の準備を完了させていた。

 

「じゃあ、世話になった」

「リンさん、ハルベルトさん、ありがとうございました!」

「...また来れたら来ます」

「是非そうしてください」

「今回の騒動で解雇とかにならなければね...」

 

俺、ユーノ、ノクスの順でお礼を言い、二人がそれに返した。一人の言葉は切実だったが。

 

「あとはミディナにも言いに行くか...」

「危険がありますよ?」

「それでも行かなきゃ、なぁ?」

「当たり前だよ!」

「私も挨拶したいし」

「その必要はないですよ?」

「「「うわぁぁぁぁ!?」」」

 

噂をすればなんとやらといった感じで突如現れたミディナに驚く俺達。

 

「ミ、ミディナちゃんお店に戻ったんじゃあ...」

「はい。お店に戻って準備してきました。私も旅に同行させてください!」

「ミディナちゃん、これはちゃんと目的があってだね...理由あって王都に行くんだよ」

「じゃあ私も王都の『遺産』取り扱いの店に行きたいので!そこまで!」

「えぇ...」

 

ミディナの猛攻、いや猛口にたじたじになるノクスの肩に手をおいて黙らせた。

 

「...ミディナ。なんで付いてきたいんだ?」

「っ...私、剣も魔法もまだまだだと思いました。お店を続ける為にも、『遺産』を手に入れるため、もっと強くなりたいです。先輩を越えるような」

「既に対等な条件で戦えば互角かそこらだと思うんだが... 」

「いえ...それに!新魔しか入れない王都に旧魔のユーノちゃんを行かせるなんて何かあるとしか思えません!理由があるんでしょうが、友達がそんな危険なことさせるなんて尚更心配です!」

「ミディナちゃん...」

「...ノクスが言ったせいだぞ」

「私!?私なの!?」

 

俺はこの場の全員がしっかり聞こえるくらい大きくため息をついた。

 

「...私はこの気持ちを曲げるつもりはありませんよ?」

「ロアナスちゃんの家にどう説明するつもりだ?」

「そこは抜かりありません」

「はぁ...店、どうすんだ?閉めたくないんだろ?」

「うーん...先輩なら、『長期休暇ってことにすれば大丈夫だろ!』とか言うと思ってたんですが...」

「うぐっ... 」

「アハト言われてるぞー」

「確かに言いそう...」

「外野うるさい!」

 

おほん、と柄にもないことをしてから改めて口を開く。

 

「それでいいんだな?」

「はい!」

「...じゃあ、店はこのハルベルトがやってくれるから」

「えぇえ!?」

 

まさかのパスにハルベルトが今まで聞いたことのない声を上げる。

 

「お前家出たいって言ってたじゃん?」

「そ、それはそうですけど...」

「ホントですか!?お願いしますハルベルトさん!」

「ハルベルト私からもお願いします!」

「...あぁもう!分かりましたよ!」

「「やったー!」」

 

ユーノとミディナがハイタッチするのと、ハルベルトが落胆して肩を落とすのは同時だった。

 

「じゃあ、改めてよろしくな。ミディナ」

「はい。よろしくお願いします!先輩、ユーノちゃん、ノクスさん!」

「うん!」

「よろしく、ミディナちゃん」

 

 

 

 

「あ...」

 

「?」

 

今までなにも言わなかったリンさんが声を出す、気になって後ろを振り返ると____________

 

「わぁ...」

「すご......」

「初めてですか?これは」

「...そういや、この町に来てからは一度も見てなかったもんな」

 

町と繋がっている大きな湖が、朝日を反射して幻想的で雄大な景色を作り出していた。

 

世界最北端の湖かつ、この世界最大の大きさである湖。その規模は対岸が見えないほど。

 

『ヘルシンキ』に入る前、昼間に見た青い湖ではなく、オレンジの光を映し出す特別な色。それに、全員が初めて見るユーノとノクスが心奪われていた。

 

「...さぁ!行くか!」

「はい!」

「うん!」

「わかってる!」

 

湖に背を向けて、俺達は歩き始めた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ミディナー?」

「残念ながらいませんよ」

「あ、次期町長。旧魔のいざこざで下ろされそうになってもそのまま町長になれちゃいそうな次期町長じゃないですか!」

「それ定着してるんですか...ロアナスさんですね?貴女宛に、ミディナさんからの手紙を預かっています」

「手紙?......お店の経営ってどうするの?一時閉店?」

「私ともう一人...彼女はバータイムの方ですが、営業してます」

「天職を見つけた気分です」

「ふーん...一人から二人になっただけ良くなってね?」

「それもそうかも」

「にしても...私になにも言わずこんな手紙だけ書いていなくなるとか...友達に裏切られたー!次会ったら殴ってやる!!」

 

 

 

 

 

ロアナスちゃんへ。

 

これを見ている頃私は武者修行の旅に出ているでしょう。半年くらい前に来た先輩がまた来てくださって、お店経営の力をつけるため、お父さんみたいに自力で『遺産』を見つけるための武者修行です。

 

居候させてくれたり、いつも気遣ってくれてたりするロアナスちゃんには、小さい頃からお世話になりました。というか今もなりっぱなしです。

 

今回時間がなくて、直接言うことも出来なくてごめんなさい。かなり酷いことをしているという自覚はあります。

 

でも、私のことを一番よく知っているロアナスちゃんは、涙も見せずにバカにしてくるでしょう。裏切られたーとか言うかもしれません。

 

だから、待ってて。直ぐ戻って、土産話と腕を上げた技術を見せるから。約束する。私が約束破らないのは知ってるでしょ?

 

それまで、店長代理のハルベルトさんと、バーでカクテル作るリンさんと、いつものように駄弁ってて下さい。

 

ロアナスちゃんを一番よく知っているミディナより。

 

P.S. ホントにごめん!大好きだから許して!

 

 

 

 

 

「私は怒ってるぞミディナ!早く帰ってこいバカー!!」




この話までは出してたと思ったのですが...凄い微妙なところで終わっていて申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。