ガンダムブレイカー to entertain hopes (みなび)
しおりを挟む
スタート
人類が、重力のくびきから解放されるべく宇宙エレベーターを完成させてから、一年。
まだ宇宙コロニーや月面ステーションの建設は手付かずであり、全ての人類が宇宙へ上がるのはまだ先の話ではあったが、確実にその日は近づいている。
そんな時代ではあるが、普通に暮らす人々には何の関係もあるはずがなく、寂れた商店街の住人ミサは、いつものゲームセンターにいつもの如く通い、いつもの如くゲームセンターのマスコットとなっている業務用ロボット、インフォちゃんに話しかけられていた。
『ミサさん、本日も、ご来店ありがとうございます。』
「毎日お出迎えありがとうね、インフォちゃん。」
もはや日常となっているこのやり取り。
「なんだい、今日も来たのかい。悲しい青春送ってんねぇ。」
このゲームセンターの店長、イラト婆さんが冗談交じりの嫌みを言う。
「一応お客なんだから歓迎して欲しいなぁ。」
「だったらもっと金落としな。毎日いるだけじゃねぇか。」
そう、ただいるだけ。たまに遊びはするが例のゲームを監視しなければならないのだ。そして…
そこまで考えたとき、店の入口側から声が聞こえ、ミサの思考は中断された。
「イラト婆ちゃん!このクレーン、ガバカバすぎて景品取れねーよ!」
「黙りな!景品が取れることはちゃんとチェックしてんだよ!」
「インフォちゃんにチェックさせんな!人間にはミクロ単位の操作なんてできねぇんだよ!」
「ロボットに出来るのは100%までだよ。人間だけが限界を越えて120%の力を 「聞いたことある台詞でごまかしてんじゃねぇ!ちくしょう、覚えてろよ!」
クレームをつけていた少年は走って行ってしまった。イラト婆さんはそれを見て笑いながら「おう、また来いよ!」などと言う。
簡単に120%の力が出せれば苦労しないし、ミサは今、こんなところにいない。
「私はシミュレーター見に行くよ。」
さっき思考は中断されてしまったが、目的を忘れることはない。
ガンプラバトルシミュレーター、組み立てたガンプラをスキャンし、そのデータを使ってバトルする画期的ゲーム。
売り文句は自分で組み立てたガンプラでバトルが出来る!これが夢のシステム・ガンプラバトルシミュレーター!
競技人口は多く、世界中にプレイヤーがおり、今ではプロガンプラファイターなるものがいるくらいには熱狂者も多い。
大きすぎて家庭用移植ができないため、ゲームセンター希望の星でもある。
「先ほど、初めてのお客様がシミュレーターに入りました。そろそろプレイが始まる頃です。」
「ホント!?」
それを聞き、ミサは期待せずにはいられなかった。このゲームセンターで初心者狩りが横行してどれだけ経ったか。
噂のせいで新規プレイヤーが来ることがなくなりどれだけ経ったか。
例え一見さんであろうが、ただの初心者だろうが既にミサの中でとるべき行動は決まっていた。
必ず、引きずり込むと。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
エンカウント
本当の初心者かもしれない
これは、また、ダメか。
出撃した機体はその体躯に似合わぬGNソードIIIを携えたジムだった。紛れもなく、ガンプラをスキャンせずにプレイしたときに出てくる初期機体だった。
先は初心者でも引きずり込もうという覚悟だったが、考えてみればタイムリミットまで残り少ない。そんな期間で初心者育成などできるわけがないだろう。諦めなければならないのか、そんなことを考えていたから、モニターを見ていなかった。
気がつけば彼は既に乱入プレイヤーと交戦に入ったようだ。
ガンプラバトルシミュレーターではいくつかのモードがあり、今彼がプレイしているのはアーケードモード。つまりCPU戦だ。ルールは単純、ステージに出てくるCPU機を全滅させればクリアだ。
だが、乱入設定をONにしていたため同じステージをプレイしていたプレイヤーとオンラインマッチングし、乱入戦、つまり対人戦が始まったのだ。
数は二。機体はシャア・アズナブルとララァ・スンを再現したのだろうか。面白い格好をしている。しかし携えた武器はシャアがレイピア、ビームライフル、ララァがビームライフルとビット二基。振りの大きいGNソードIIIでは相性が悪いだろう。
これはもう終わったなと、ため息を洩らしながらもモニターを眺めた。
正直に言って舐めていた。
一所懸命に作り、父にも褒められた「シャア・アズナブル号」を駆る少年は毒づきながら鍔迫り合いをする。
ビットが二基、左右を取り囲み、ビームライフル二丁で捉えたはずだった。撃った弾が防がれたところまでは予想の範囲内であったが、ビット二基が流れるように撃ち抜かれたのは予想外であった。
はっとした瞬間に肉薄され、なんとか反応は間に合ったものの、レイピアとGNソードではあまりにも不利すぎる。
さっとジムが飛び退いた。「ララァ」の援護射撃のためだろう。だがまずい。「ララァ」には近接武器も盾もない。接近されればなす術もなくやられるだろう。なんとしても接近させてはならない。レイピアを構え、「ララァ」に狙いを変えたジムに接近し、鋭い突きを繰り出し、防がれ、そして、砕けた。
「パチリと言うまで嵌めないから!」
敵の声が聞こえ、そして流れるように二機とも斬られた。
「やった!?」
宇宙ステージだから音は聞こえないが、振動は起こる。間違いなく目の前の敵を倒したのだ。
人心地つき、よくあれだけのことができたと自画自賛する。最後は敵の作りの甘さに助けられた。ビットを落としたのは見事だった。そんなことを考えながら歩を進める。
そんなときに外部から通信が入る。誰だろうか、心当たりはない。他にこのゲームをする人がいないから少し離れたこのゲーセンまで来たのだから。
「君!すごいね!」
回線を開いた瞬間だった。
「はい?」
「あぁ、突然ごめんね。私はミサ。君は?」
「僕はノゾムです。」
「よろしく、ノゾムくん!」
「ええと、よろしく。」
「おい!」
会話に気を取られ、目の前に乱入プレイヤーがいることに気が付かなかった。ガーベラテトラの腕パーツにドムだろうか、大きな足パーツのついた虎柄の派手な機体である。
「お前、この辺じゃ見ないヤツだな!俺はタイガーってんだ。この辺でガンプラやるならよぉ、まず俺に挨拶してもらわねぇとなぁ!」
そう言いながらグランドスラムを振りかぶり突進する。
思わずうわぁと言いながらも回避に成功する。
「なんなんですか、アナタは!」
「なんだ、タイガーか」
ミサが興味無さげに言う。
「知ってるんですか?」
「この辺で初心者狩りしてるタチの悪いヤツなの。でもまぁ、そんなに強くないから落ち着いて。」
「お前、外から邪魔すんなよ!」
タイガーというらしい男が焦ったように言う。
「いい加減初心者カモるのやめなよ、私が相手になるよ。」
会話をしている間にも剣閃が交える。パワーは圧倒的な機体だが、なるほど、可動範囲と機動性はよろしくない。正面から打ち合えば負けるが、ミサのアドバイス通り冷静に戦えればやれない相手ではないだろう。そう考えている間にもタイガーが自分の得意な戦いにしようと猪突猛進してくる。これならば、とノゾムはGNソードを構えた。
「俺は女とは戦わねぇ!俺よりも強い女とはな!」
そう言いながらグランドスラムを振るう。
「はぁ、キミ、さっさと片付けちゃっていいよ、こんなの。」
「言われなくとも!」
グランドスラムを右側に飛んで回避し、タイガーの機体の懐に潜り込み、シールドを左肩にねじ込む。ねじ込まれた勢いでややこちら側にタイガーの機体が傾き、無防備になった胴体をソードが容赦なく切断した。
「嘘だろ、ちっくしょう!」
その言葉も言い終わらない内に、タイガーの機体は爆散した。液晶はブラックアウトし、ノゾムは勝ったのだと確信したが、出てきた文字はDRAW。つまり、引き分けだった。
「な、なんで?」
思わず声が出てしまう。間違いなく無傷で勝利したはずなのに、と。
「あ〜最後の爆発に巻き込まれちゃったかー、惜しかったね。」
ミサの言葉でようやく気づく。敵の機体のド真ん中にいたのだ。爆発に巻き込まれないわけがない。
「ちっくしょ〜」
項垂れながら、ガンプラバトルシミュレーターを出た。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
アフィリエイト
「やーお疲れ!キミ結構スゴイねー!」
ノゾムがシミュレーターから出てきた矢先に声をかけられた。
「ありがとうございます。」
「あぁ、タメ口でいいよ。同い年っぽいし。ところで」
ミサが何か企んでいるかのような顔をする。出会って数分だというのに既に感じているこの嫌な予感は、間違いではないだろう。
「この辺じゃみない顔だけど、どこかのチームに入ってるの?」
「入ってないけど…」
「え、入ってない?コレはコレは好都合。」
言い切る前にミサが話を進めていく。ノゾムはろくに喋る間もないまま流れにのせられ、店の外へ連れ出された。
「-でね、私の地元は小さな商店街なんだけど、駅前にタイムズユニバースの百貨店ができてからお客さん減っちゃってさ。」
「タイムズユニバースって?」
「え、タイムズユニバース知らないの!?」
「う、うん。」
普段からスーパーや家電量販店、地元の本屋などしか行かないノゾムには全く聞いたこともない名前だった。
「外国のすっごく大きな会社で、百貨店以外にも色々やってるの。最近は宇宙事業にも参入してるらしいよ。」
「へぇ。」
「まぁ、その百貨店が駅前にできて、うちの商店街のお客さん、みーんな取られちゃったんだ。」
ミサの足が止まり、こちらに向き直った。
「そこで、私は商店街の名前のガンプラチームを作って商店街の宣伝をしようと思いついたわけ。」
そう言いながらミサはやたら誇らしげに、希望に満ちた顔をしている。
「つまり、キミを我が彩渡商店街ガンプラチームにキミをスカウトしたいんだよ!」
ふと上を見ると、彩渡商店街と書かれた古びたアーチがあった。
「でも僕はこの商店街のことよく知らないし。」
断ろうとしたが、ミサは有無を言わせなかった。
「まあまあ、うちの店すぐそこだから来てよ。」
ノゾムはまたもやミサに押し負け、すごすごと付いていくことになった。
「ただいま〜」
「あぁ、おかえり。」
確かにミサの家なのだとわかる会話だ。ガンプラが一番の趣味のノゾムには実家が模型店というのはとても羨ましく思えるものだった。
「あのねお父さん。私、紹介したい人がいるの…」
ミサが恥ずかしがったような素振りを見せながらそんな台詞を口にする。わざと誤解されるように言ったのだろう。
「ああ、チームメンバー、見つかったのかい?」
が、ミサの父はミサの意図をスルーした。
「あのさぁ、もっとこう…キ、キミはまさか娘の!むぅ、許さん表に出ろ! とかないの?」
「ないよ。」ノゾムはそんなことよりも既にチームメンバーに入れられていることに驚いた。違うと一言言いたかったが、完全に機を逃して置いてけぼりにされてしまった。
「すまないね、君。強引に誘われたんだろう?ミサの父のコウイチです。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
コウイチがノゾムに話を振ってくれたおかげでようやく話をすることができた。
が、否定をし忘れたために、実質チームメンバーにされてしまったことに気がついた。
「ところで、もうすぐタウンカップだろう?参加登録しておいたよ。」
「そうだった!まずはタウンカップ優勝目指して頑張ろうね!それと、これからよろしく!」
「…うん、これからよろしく。」
ノゾムはもう流されるしかないと覚悟を決め、これで正式に彩渡商店街ガンプラチームのメンバーとなったのだった。
たぶん次の話から主人公もバンバン話し始めます。
もう流されてばかりじゃありません。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
プラクティス 1
「どわっ、たっ、ほっ、はっ、だぁぁ!」
情けない声を洩らしながら必死に攻撃を避けているのはノゾムだ。
「ほらほらほら、そんなんじゃ大会で一捻りだよ!」
ミサの機体、アザレアがビームサーベルでノゾムのジムを切りつける。
GNソードで受けるものの、ミサのビームサーベルのほうが動きが速い。ついに受けきれず、右手首が切断された。急いで落ちた手首にくっついたままのGNソードを拾おうとする。
しかし、「隙見せたらダメだよ!」とそのまま胴体を斬られ敗北した。
「慌てちゃだめだよー。隙を見せたらすぐにやられちゃうからね。」
「どうしても焦っちゃうんだよね。もっと練習しなきゃなぁ。」
自販機でジュースを買って休憩をしながら話す。練習を開始してから既に6時間経っているからか、二人に疲労が見える。
「そういえば、大会のルールってどんなルールなの?」
ふと浮かんだ疑問を口にする。ミサとタイマンでの練習はしているが、大会のルールは一切知らないのだ。
「ああ、大会のルールかぁ。簡単に説明するね。まず参加できる機体はグレードによってポイントがあるの。例えばHG機体なら一機につき3ポイント、PG機体なら一機につき5ポイント。合計が10ポイントまでならどんな編成でもいいんだ。とは言っても例外はあるけどね。」
「例外って?」
「MAとかが例外だね。同じHGでもガンダムとサイコガンダムが同じポイントだと不公平だから。」
なるほど、スケールが同じでもそういうことがあるのかと納得する。
「んで、予選はモノリス争奪戦っていうのをやるの。複数チームで限られた数しか設置されてないモノリスの破壊数を競い合って、モノリスを一番多く壊したチームが本戦に出れるの。ちなみに自分の機体が破壊されてもリスポーンできるけど、待機時間があるうえに初期地点に戻されるからだいぶ不利になるね。
本戦は相手を全滅させるまで終わらないデスマッチ、お互いのチームの防衛対象、コアを先に破壊したほうが勝ちのコアアサルト、複数のチームが同時に戦うバトルロイヤル、あとは予選と同じモノリス争奪戦だね。」
「…ウン、ワカッタヨ。」
カタコトにも程がある返答だった。第三者が見ても理解していないとわかる。
「ま、まあ大会までに覚えればいいから。」
「ところで、キミは自分のガンプラはないの?」
「あるんだけど、自転車で来てるから壊れそうで持ってこれないんだよね。」
できるだけ速く持ってこなければならないのはわかるが、自分が一所懸命に作ったガンプラが壊れてしまうのはあまりにも悲しすぎる。それは全世界のガンプラ製作者が思うことだろう。
「なら帰りにうちの店に寄って行ってよ。ガンプラ運ぶための専用箱あるからさ!予算はうちのチームの予算から出すよ。」
「え、本当に!?」
ノゾムにとって嬉しい話だ。というのもその箱は学生には少々高い値段だからだ。
「でもうちの予算少ないから、絶対に勝とうね?」
「う、うん。ありがとう。」
ハマーン・カーンでもいるかのようなプレッシャーがノゾムを襲った。
次回からノゾムはオリ機体です。
また、文中のルールはオリジナル設定です。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
プラクティス 2
赤と白を基調としたガンプラが目の前にある。ビルドストライクとビルドバーニングのミキシング機だ。その、あまりにも普通な発想と普通なカラーにミサは何も言えなかった。
「練習始めようか!」
「え、感想は?」
「さ、大会まで長くはないよ!」
Iフィールドが干渉し、お互いの機体が切り結び合う。
アザレアが一度距離をとり、背面のバズーカをノゾムの機体、ビルドホープの足元へと放ち、ビルドホープが後退した。爆発が起き視界が悪くなった瞬間を突きアザレアが突撃し、肉薄したが、既にノゾムに読まれていた。ビキニングガンダムのバックパックからサーベルを六本両手で抜き放ち振り下ろした。
アザレアがビームサーベルとシールドでそれを防いだが、シールドが一本をガードしきれずに肩を切り飛ばされた。
「やるようになったね!」
ノゾムの成長速度は異常だ。商店街で随一の強さを持つミサをこの短い練習時間で苦戦させるところまで来ているのだ。否、それどころか
「それはどうも!」
ビルドホープがバックステップをしながら左手のサーベル三本を投擲し、アザレアが回避のために機体を横へ大きく跳ばせた。さらに跳んだ先にも右手のサーベル三本を投擲した。アザレアの空中での制動は間に合わず、シールドで二本受け、腰部に一本刺さってしまった。着地しようとするも腰部の損傷によってバランスを崩す。
「やばい!」
「今なら!」
思考よりも先に手が動き、腰部のビームサーベルを抜き放ちバルカンを放ちながらアザレアに接近する。アザレアが背部バズーカを放つが乱射しているバルカンに当たり空中で爆発してしまった。そのままアザレアのコクピットをビームサーベルが貫き、ついにノゾムが初勝利を納めたのだった。
「キミほんと成長速いねぇ。嫉妬しちゃうよ。」
「それなら嬉しいな。ところで、他のチームメンバーは見つかった?」
ミサが探すと言ってはいたが、未だに一人も増えていない。タウンカップという小規模な大会ではあれど、二人だけで出場しても優勝は厳しいだろう。
「それがさっぱりでね…もしかしたら二人だけで出場することになるかも…」
タイガーはノゾムとの戦いの後、ゲーセンに来ていない。それでもまだ悪評が残っているのだ。さらに言えばこのチームは資金がない。勝とうとする人物がいても入ってはくれないだろう。
「二人だと厳しいだろうね…」
「だねぇ。まあ嘆いてても仕方ない、さあ、今度はタッグの練習だよ!」
「イエスマム!」
冗談めかした返事をして、二人は気分を変えてシミュレーターへ入っていった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む