うさぎと歯車 (ななしのC)
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歯車を壊すうさぎの話

「誰だ?」

 

 屈強な歩哨の声が、通路に響くがそれも一瞬。

 目の前で起こった現実に驚く暇もなく顔面を鋼鉄の拳が襲う。

 歩哨から見たら、突然目の前に鋼鉄の拳が迫っていたに違いない。

 

 異音を発する義手を左右に軽く振り、スニーキングモードを解除した男は、意識を失ったまま崩れ落ちた歩哨を物陰へ素早く運びこむ。

 黒いスニーキングスーツを身に纏い、この場ではヘイズルという名の与えられた男は、手早く無線機に電源を入れて相手を呼び出す。

 

「こちらヘイズル。大佐、またせたな」

 

<こちらでもモニターはしていたが、予定より随分早いじゃないか>

 

 耳に刺したイヤホンから年老いた老人の返答に苦笑しながら、歩哨の所持していたアサルトライフルを回収する。マガジンを外し、スライダーを引いて薬室内の弾を外に出して再度マガジンを刺して安全を確認したヘイズルは、足音を殺すようにゆっくりと通路を進み続ける。

 

「まだ道中なんだから、油断は大敵さ」

 

<それはそうと…今の私は、軍属じゃない。その呼び方はよしてくれ。>

 

 現役を引退して久しいキャンベルは、そのやり取りをどこか懐かしみながら、無籍越しの若者に不可能を可能にしてきた友の姿を見た。

 

「了解、覚えていたら気をつけることにしよう」

 

<そう言って、すぐに大佐に戻るんだろう?>

 

 ヘイズルの無線越しにキャンベルの苦笑が聞こえてくる。キャンベルの友で、ヘイズルの親代わりであった彼の残した言葉や影響は、どんな状況でも彼らに強く影響を与えている。子を残すことができず自然から逸脱した蛇であったが、彼の遺伝子は形のないものとして生きている。

 

「それでこの傍迷惑な揺れは、目標のウーンドウォートが起動してるとみていいんですか?」

 

<あぁ、どうやらすでにお目覚めのようだ。>

 

 ヘイズルは、義手に埋め込まれたリング状のデバイスを起動する。リングに埋めこめられた極めて小さいプロジェクターが手の平に3Dモデルを投影して、各装備品の状態を示す。各装備品に埋め込まれたナノマシンを利用して、装備の状態を一括管理できる代物。

 近代化した戦場では、それらが与える恩恵は大きい。

 

「親父達が墓場から悪さをしている気がして、頭痛くなってきたんですけど…」

 

 ウーンドウォートを外に出すため上部の階層では、エリルもとい兵士達の動きが騒がしい。

 これは、先を急いだほうが良さそうだと呟いたヘイズルは、徐々に振動の激しくなる通路をやや駆け足で駆け抜けていく。

 

<ハーイリンクス、その義手の使い心地はどうかしら?>

 

「どうでもいいけど、どうやって割り込んでるんだよ…」

 

 通信に割り込んだ強気な雰囲気を感じされる若い女性の声。

 義手の開発者にして、とある財閥のサイバネティクス部門の一端を担うヘイズルの友人。

 無線サポートに入ってくる話は聞いていないが、またいつも通り回線に割り込みをかけているんだろうとヘイズルは、ため息をつき返事を返す。

 

「普段使っている義手と同様の繊細な動きできるのは悪くないが、歩哨殴ったら義手のオクトカム偽装が故障。駆動系も多分逝かれたぞ」

 

<あなた、どれだけ力篭めてるのよ…それ、ハイエンドモデルなのよ?>

 

「9mmくらいなら受け止められるとかいう話だったけど…」

 

 左腕の前腕部に取り付けられたスニーキングミッション用に急遽調整されたハイエンドタイプのバイオニックアーム。元々は、冷戦時代に東側で研究されていた技術だが、研究者の亡命後に80年代の終わり頃から徐々に技術の広まった代物。伝説の兵士もこの機械の腕を愛用している。

 

<あら、好みじゃなかったなら一緒に開発する?>

 

「望むところだといいたいところだが、次は荒事向けじゃないモデルを用意しておいてくれ」

 

<…あぁ、やっと決めたのね。なら、そっちはまかせておきなさい。>

 

 長く信頼関係にある相手とのコミュニケーションは、緊張状態を緩和させる。

 ヘイズルの体内に打たれたナノマシン越しに体の変化や心理状態をモニターにしている干渉しているであろう彼女には、ヘイズルの心理状態も筒抜け。彼女もそれが分かって、このタイミングで無線を繋いだのだろう。

 ヘイズルは、一方的に丸裸にされている状況に思わず苦笑いをする。

 

<そろそろ目標が見えてくるころだ、気を引き締めろ。>

 

「了解、通路を抜けるぞ」

 

 通路を抜けたヘイズルの前にミサイルサイロを改造した地下大型格納庫が広がる。

下手に地上で稼動テストができない以上、VRをメインに最低限の稼働テストをしていた為、ミサイルサイロという場所が選ばれた。事前に渡されていた資料で確認はしていたヘイズルだが、想像通りの状況に唇を舐める。

 

「こちらヘイズル、ウーンドウォートの目視確認」

 

 核搭載二足歩行型戦車メタルギアの亜種。

 ヘイズルの目の前で、起動シークエンスに入っているウーンドウォートもシャドーモセス島事件後、彼らの策略で世界中に拡散されたメタルギアREXのデータを基に作られている。

 

 だが、PMCの持つ技術力では、アームズ・テック社の開発したメタルギア・REXとの技術力の差を埋められなかった。胴体の装甲周りの強固な爆発反応装甲やREXよりも大きく肥大化した脚部ユニットからは、ヘイズルの知るメタルギア・REXに存在していた力強さは、感じられない。

 

「情報通り、所詮は、亜種止まりのようだ」

 

 ウーンドウォートは、格納庫を揺らしながら大型貨物用エレベータに向かって移動をしていく光景を眺めながら、素早く周囲の状況を確認したヘイズルは、格納庫に滑り込むように移動する。

 

<肥大化した脚部の分、武装のペイロードが増加。対歩兵用の装備が充実しているようね。>

 

「武装を山積みにしても使いこなせるかは別の問題だ」

 

 ジョニーやハル兄さんの好きなアニメの世界だけ、山積みにした武装をすべて使いこなす人間は、すでに全員墓の下で眠っているとヘイズルは、心の中でそっと呟いた。

 

<あれを全部使うのは、至難の業ね。>

 

「見掛け倒しか。タンデムHEAT弾でも持ってくれば歩兵だけでも制圧できそうだ」

 

<ヘイズル、問題は核兵器を運用が可能と言い切っている点だ。すでにVRシュミレーションで発射に成功しているとの情報もある。>

 

「まぁ、現物の弾頭が手に入っていないのが幸いだ」

 

 核で武装したPMC、かつて世界を開放しようとした男達の影がよぎったヘイズルは、死者を冒涜されたような気分になってしまい、苦い表情を見せる。目の前のPMC達には、父親達のような強靭な精神や思想が見えなかったからだ。

 乱れた心を落ち着かせるように心身をスニーキングモードに切り替えたヘイズルは、徐々に通路を進んでいきながら、サプレッサーの付いたUSPとスタンナイフを引き抜いた。

 

<今君が考えていることくらい、モニターを見ていなくても分かる。彼らの中にはビッグボスを崇拝するものもいる。CQCの真似事をする兵士の姿を君も見たはずだ。>

 

 

「思想も錬度もなっちゃいないって感想ですけどね」

 

 閉所空間とはいえ刻一刻と変化する周囲の状況にシンクロさせ気配を消していく。

 ターゲットの移動する振動、歩哨達が動き回るたびにゆれる装備と息遣いに自身のチューナーを合わせ、ヘイズルという異物の存在を現実にゆっくりと流し込むと獲物を狙う狩人のように意識を更に研ぎ澄ます。

 

<ヘイズル、ウーンドウォートが地上に出る前に阻止するんだ。>

 

 ヘイズルは、譲り受けたデジボーグに視線を凝らすとキャンベルに短く返事を返す。

 

「十分で」

 

 ヘイズルにとっての最大の脅威は、兵士の警戒レベル。

 彼の陽動に騙された兵士達が、次々に上部甲板へと移動しているが、今の彼らの警戒レベルは最大。

 ターゲットのことを考えると見張りの兵士の動きを悠長に探っている時間はないと判断したヘイズルは、巡回をしている兵士の死角へと移動を繰り返し、一匹の勇敢なウサギは、狩場へと急ぐ。

 

<キハールは、30分でランディングポイントに到着予定だ。急げよ。>

 

 了解。

 彼の小さな呟き声は、巡回中の兵士の耳に届くことなく格納庫へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘイズルが、双眼鏡を覗くとPMCがメタルギアを開発していたミサイルサイロから煙を上げながら、爆発音を上げている。

 

 

 武装集団サンズオブリバディの引き起こした巨大海上除染処理施設ビッグ・シェル占拠事件以後、世論の反発から他国への軍事力の派遣が困難になったアメリカの正規軍。彼らは、"Private Military Company"つまり、民間軍事請負企業に代替したことで、PMCは急速に台頭した。

 それと合わせるかのように兵士・武器・戦場を管理、統率するSOPシステムと無人兵器の市場流通。

 命を消費する戦争は、姿を変えて合理的ビジネスの場となったことは当然の流れ。

 

 

 ヘイズルにメタルギアを破壊された彼らは、かつて中規模のPMCとして活動していた。

 愛国者達の代理AIが破壊され、戦争ビジネスが崩壊した為に衰退を辿っていたグループの一つ。

 システム崩壊後、違法薬物や人身売買、仕舞いにはメタルギアに手を出しながら、生き延びていた。

 

 国連の補助機関PMC活動監視委員会に目を付けられた彼らであったが、下手に軍隊を動かすと新たな火種になる場所に彼らが拠点を置いていた為に、今日まで野放しにせざるを得なかった。

 

<こちらキハール、ランディングゾーンに到着。>

 

 ヘリの下降気流で巻き上げられた草花が視界で激しい舞を踊り、鳥達は我先にと飛び立っていく。

 絶妙な位置でホバリングを続けるキハールに乗り込み、ヘイズルは離脱の支持を送る。

 

「長居は無用だ。早いところ戻ってしまおう」

 

<了解、キャプテン。これより離陸します。>

 

「キャプテンはよしてくれ…」

 

 マンハッタンの事件以後、急速に発達したシステムに管理された痛みのなき戦争。

 死期が確実に迫っていても全てに終止符を打つと決めた男と彼を支え続けた者たちのシステムを越えた意思と未来への祈りは、様々な思惑の元で50年もの間世界を呪い続けてきたシステムを打ち破った。

 様々な人間の紡いだ物語がそこにはあった。

 

 新たに再誕した世界で、残された者は未来のために戦い続ける。

 世界は変わったが、戦火の炎は相変わらず消えることは無い。

 

 

<出発前にも話したと思うが、今回の話を君に回したくはなかった。>

 

「SOPの影響で、正規軍は建て直し中。場所が場所だから別の火種になる状況なら仕方ないんじゃないんです?」

 

<む…私が言いたいことはそうじゃない。そろそろ君も違う生き方を探して、人並みの幸せを感じてほしいと思っている。だからこそ、本来なら君にこの話を持って行くつもりではなかった…というのに君というやつは。>

 

 ヘイズルもとい、ユイは、キャンベルの言葉に思わず噴出した為、危うくスニーキングスーツにコーラをぶちまける所だった。

 

「キャンベルさん、デイビットと似たようなこといってますよ」

 

<そうか…彼も同じことを気にしていたのか。>

 

 キャンベル大佐とデイビット。

 彼らの関係は、友人、育て親、上司と部下など挙げていけば切りがない。

 だが、そんな彼らの関係だからこそ、どうしても似た言葉になってしまうのだろう。

 

「その…もう1年は過ぎてますし、いい加減新しい一歩を踏み出そうと考えてます。墓場からデイビットが脱皮して若返りながら目覚めてきそうですし……」

 

<違いない。>

 

 常人よりも早く老化が開始するように遺伝子にプログラムされ、年齢からは想像の付かないまでに老人のように老け込んでいった彼の姿が脳裏によぎる。

 もしこの場にデイビットがいたなら"遅すぎる、待たせすぎだ"と不適な笑顔を向けてくれるかもしれない。

 

「日本に住んでいるマスターの教え子のお店に以前から誘われているんで、そこに行ってみようと考えてます」

 

<もしかして、木組みとレンガの町にいる彼の店か?一度、バータイムに訪ねたことがある。>

 

「えぇ、マスターが亡くなってから大分立ちますが、今でも手紙のやり取りをさせてもらっています。……まぁ、それはともかく喫茶店で働く自分の姿なんて、まるで想像できないですけどね」

 

 エプロンを付けた自分の姿を想像したユイは、想像以上にシュールな光景に思わず引きつりながら、手元のコーラを飲み干して、ドリンクホルダーに差し込みながら窓から広がる景色に目を向ける。

 

 かつて、報復の連鎖を続けていたこの大地が兵士として立つ最後の地。

 見るだけで飲み込まれてしまいそうな深い藍の眼をした最初の育て親の姿がよぎっていき、ゆっくりと消えていく。

 

 

<君がノーマッドにいた時に通信越しで見たエプロン姿は、なかなか様になっていたぞ。>

 

「あのメンバーって料理できる人間がいなかったから、仕方なく覚えたんですよ……」

 

<だが…彼らでも彼女の料理よりマシだと思うぞ。あの頃の私は、軍用レーションで食事の幸福を取り戻していた。特に日本製のは実に美味いぞ。>

 

 特殊部隊FOXHOUND、かつて最も優秀な兵士に与えられるフォックスの称号を持っていたキャンベルにそこまで言わせる料理にユイは、鳥肌が立つ。

 同時に彼女の夫の食生活が心配になったが、味覚のON/OFFの機能を付けたパーツを送った時に味覚をオフにできる素晴らしさについて語っていたので多分大丈夫だろうとそっと眼を逸らした。

 親父が生きていたならば、うきうきと拘束した相手に食べさせる道具として使うに違いないだろう。

 

<ユイ、ところで日本での住居は決めているのか?>

 

「あ、そうだ。住む所確保しないと…」

 

<そういうことなら僕も手を貸すよ。>

 

 キャンベルの問いに思い出したように反応したユイの呟きに柔らかく優しさを感じさせる男の声が無線に割り込む。

 

「ハル兄さん?」

 

 ハル・エメリッヒ。

 元アームズ・テック社の社員でメタルギア・REXの生みの親。

 そして、電子・物理工学のスペシャリストにして、伝説の傭兵ソリッド・スネークの相棒。

 そして、彼の最後を見届ける役目を背負っていた男だ。

 優しげな雰囲気の見た目に騙されがちだが、彼の意思の強さは歴戦の戦士のそれと変わりない。

 

<久しぶりだね。君の友人から連絡を受けて、彼女経由で繋がせて貰っているよ。>

 

<せっかくあなたが、違う道を探そうとしているんだからと思って、頼りになりそうな人を呼んでおいたわ。>

 

 最近、ますますモテ期に入ったとサニーに愚痴られるが、本人にその気はないが、彼の因縁もここで終わったのだから、作家辺りとくっ付けばいいとユイは感じている。

 

「あぁ、助かるけど…町についてから住居探そうと思ってたんだけど?」

 

<例の街だろう?あの戦いの後、僕たちが使っていたセーフハウスがそのまま残っている。そこを使ってくれて構わないよ。>

 

「ハル兄さん日本にも拠点置いてたんだ」

 

<電子部品の類が安く手に入るからね。>

 

「あぁ、アキバか…」

 

<確か、メリルの夫がそんな呼ばれ方をしていたな。>

 

 どこかで胃腸の弱いベテラン兵士が妻に踏まれながらサムズアップする姿が空に浮かぶ。

 今日もどこかで、メリルに尻を敷かれているのだろう。

 

<ま、まぁ、ともかくだ。しばらく使っていなかったから多少修繕が必要になる筈だ。君が日本に来るまでには、作業を終わらせてすぐ住めるように手配しておくよ。>

 

「助かるよハル兄さん」

 

<どういたしまして。おっと…サニーだ。…それじゃ、またあとで。>

 

 通信が切れる直前、ハル兄さんの無線からサニーの声が無線機に入ってきたが、元気にやっているようだ。エメリッヒの姓になってからは、吃音癖も治り始め、ハル兄さんと2人で静かに暮らしている。

 ユイは、苦笑しながらヘリの座席に横になった。

 

 

<もしもーし、きこえるー?それなら私も暫くしたらに日本に戻るわね。>

 

「本国にいなくて大丈夫なのか?」

 

 ユイは、無線機越しの彼女に疑問をぶつける。

 

<別にどうとでもなるわよ。向こうにも支部はあることだし、優秀なスタッフ達よ?それじゃ仕事に戻るわね。帰る前にこっちによること。それまでに代わりの腕の一つくらい用意するから…いいわね?>

 

「あぁ、腕の交換もしないといけないしな」

 

 本国で、いつも振り回される専属スタッフも苦労をしているだろうが、彼女の周りに集まるスタッフは、技術の最先端を突っ走るような尖りすぎた優秀な人材。彼女の無茶なオーダーにも応えられるだけの実力と技術を持っている。

 

<博士は相変わらずのようだな。>

 

「彼らの影がなくなってからは、周りを巻き込む力に磨きがかかってますね」

 

<魅力ではないのか?>

 

「起きたら義手をロケットパンチに改造された事件を忘れないですよ。どうせ、徹夜明けのテンションで変なものでも作ったんじゃないんですかね。…たぶん」

 

 ナノマシンでの遠隔思考操作を可能にしたロケットパンチ搭載の義手。

 テスト用のターゲットに用意した子月光3機が木っ端微塵となり、部屋を蹂躙しながら、どこかへ飛んでいった事件は、ユイの記憶に新しい出来事だ。

 

<まぁ、その…なんだ。マッドサイエンティストと料理がマズい子を嫁にするのはやめた方がいいぞ。>

 

「無駄な説得力がある」

 

 

 

 

 警戒空域を抜けて、安全圏へ離脱したヘリは、飛行場へと無事にたどり着いた。

 スニーキングスーツを処理後、私服に着替えたユイは、マスターの愛用していたものと同型のサングラスをかけると、軽く伸びをした後に一言だけ呟いた。

 

「緑色は、今日で廃業だ」

 

 ダスターコートを羽織り、キャンベルの手配した飛行機に乗り込むと彼の育ての親が戦ったであろう報復の地に別れを告げた。




 ごちうさ要素の少なすぎる1羽。


 主人公の設定盛りすぎて、大変愉快なことになっていてすまない。
 離別した彼らが姿を変え、報復の大地から主人公を通して、共に旅立つみたいなことを書きたかったんだ。

 キーワードは、義手、ダスターコート、サングラス。

 お察しのとおり、彼の息子。


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ココア色の一枚目

「どうしたの?手が痛いの?」

 

 嫌な汗を流しながら失った痛みの続く腕を押さえ込んでいると歳の少し下の少女がこちらを覗き込んでいる。

 心配そうに声をかける少女に少年は強がってみせたが、言葉とは裏腹に亡くした痛みがまるで、何かを主張するように叫んでいるかのような痛みは続く。

 

「大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 腕をまくりした少女は、義手に手を当てる。

 

「イタイイタイのとんでいけっ…これでどうかな?」

 

 それは、よくある民間療法であったが、彼女の小さな手が、泣き止まない子供をあやすように撫でるたびに失くした腕の痛みが徐々に収まっていく。

 

「君はいったい…?」

 

「んー?私の名前はね…」

 

 

 

 

 

 セピアに色あせた景色がゆっくりと光を取り戻していくと同時に窓から差し込む暖かな春の日差しで、意識が浮上していく。

 随分と懐かしい、優しさを感じる夢を見ていた気がすると心の中で呟いたユイは、大きな欠伸を手で押さえながら、移り変わる窓の景色に視線を向ける。

 

 二度寝すれば、もう一度見れるかと思ったが、目的の駅まで近づいていたため、二度寝という気分にはなれない。

 タブレット端末を時間を潰す為に起動すると国際ニュースの記事にPMCが拘束されたという内容の記事が自動取得がされている。

 心当たりのありすぎる記事であったが、白昼夢ということにした彼は、そっと目を逸らしながら、タブレット端末の電源を落とす。

 そのままボストンバックの中にしまうと嘆息する。

 

 長時間座りっぱなしで固くなった身体を軽く伸ばしながら、メッセンジャーバッグの中に仕舞いこんだデジタル一眼レフを取り出した。

 お世話になった人への報告に写真でも撮って送ろうと購入したカメラ。

 日本語で書かれた随分と丁寧な分厚い説明書は、メッセンジャーバックの奥に保証書と共に丸まってしまっている。

 

「設定は、こんなもんか。カメラは使って慣れろ、これに限るな」

 

 カメラの液晶画面で、ISO感度や露出の調整を軽くしていたユイの手元に影が差し込む。

 ふと、ユイが影の差し込む方向に視線を移すと隣の席に座っていた15歳ぐらいの少女が熱心に手元のカメラを覗き込んでいた。

 

「うわぁ~でっかいカメラ。お兄さんもしかして凄腕の敏腕ジャーナリストってやつでしょ!」

 

 彼女は、ユイと彼の手元のカメラを交互に視線を移しながら不思議なことを聞いてくる。どちらかというと、彼らの対照的な"元緑色"だったユイは、苦笑いをしながら、彼女の問いかけに首を振る。

 

「あ、あれ?じゃ、じゃあ伝説の敏腕カメラマンとか!」

 

 随分変わった感性をしている少女に内心、伝説と敏腕って付ければいいってもんじゃないだろうとツッコミながら、ユイは少女に至ってシンプルな回答を返した。

 

「全部外れかな。強いて言うならこれは…趣味用に購入したもの。次の駅で降りる普通の一般人さ」

 

「あ、奇遇だね!私も次の駅で降りるんだー」

 

 コロコロと笑顔を振りまきながら喋る少女の姿は、見ている人間の気分も明るく変えて、笑顔にしてしまう魔法のよう。今まで知っている女性とは、まったく別のタイプの少女に思わずユイも妙な返事を返してしまう。

 

「随分と大荷物だけど一人の旅行に向かうつもりなのか?」

 

「はっずれー!私はこれから、あの街の高校に下宿しながら通う予定なんだ~!」

 

「ハイスクールか。その歳で親元から離れるって色々大変じゃないのか?」

 

 元緑色のユイと笑顔の似合う少女の会話は、不思議と弾んでいき目的の駅に付くまで続いていた。少女のペースに巻き込まれる不思議な感覚。

 ユイは、会話を楽しんでいる自分に気がつくと思わず苦笑した。

 

「ちょっとだけ心細いけど、ワクワクとドキドキで胸がいっぱいだよ!」

 

 両手を広げて、オーバー過ぎるリアクションを返してくる少女。

 新しいスタートを切るには、幸先よく面白い子と出会ったのかもしれないと考えたユイ。少女と共に駅のホームに降り立つと手元のカメラに視線を向ける。

 

「じゃあ、折角だし一枚どう?機械ばかり撮影したけど、腕には自信があるつもりなんだけど…」

 

 手元のカメラを軽く掲げながら、少女に問いかける。

 ピンクベージュ色のセミロングの髪にアクセントを与えている特徴的な花の髪飾り。

 茶色のハイネックに白のワンピース。端正な顔立ちで、笑顔のよく似合う少女に清楚でアクティブな印象を与えている。

 被写体としても美少女と呼ぶに相応しい少女。

 

「本当!!なら、ポーズはこんな感じかな!!」

 

 満面の笑みで、了承してくれたが少女。

 だが、力こぶを作るようなポーズに電車から降りてきたほかの乗客が微笑ましい目をしながら通り過ぎている。

 

「無難にピースでいいんじゃないかな?」

 

「そうかなぁ?ビシッと決めたほうがかっこいいかなぁって思ったんだけど…」

 

 まるで、憧れの存在の真似をするような行動。

 身内辺りにそんなポーズを取る人がいるんだろうかと考えたユイだが、自分にも心当たりがあった為、その言葉を何とか飲み込んだ。

 なにかと濃い人生を送ってきた彼もまた同じような行動を真似していたら、それが身体に染み付いてしまった性質。

 人のことを言える人間ではない。

 

「んじゃ撮るよ!はいチーズ」

 

「いぇい!」

 

 ファインダー越しに少し体を傾けながらピースサインを送りながら、春に咲く花のような笑顔の振りまく少女につられる様に表情を緩めたユイは、シャッターを切る。

 

「OK、撮れたが……これから旅行に出るような写真だ」

 

「そうかなぁー?すっごく綺麗に撮れてると思うよ!!」

 

「可愛い被写体に恵まれたからかな?」

 

「そ、そんなことないよ~。それは…あれ?そういえば自己紹介してなかったよね」

 

 ふと、思い出したかのように呟く少女。

 電車の中で過ごした時間、一度も名前も名乗っていなかったが、特に問題なくコミュニケーションが成立していたの事に気がついた二人は思わず噴出した。

 

「そういえば完全に忘れてたな。…親父に怒られそうだ」

 

 女性の扱いにサングラスとベレー帽がトレードマークの育て親の姿がよぎる。娘がいても女好きは直らなかったプレイボーイな育て親が亡くなって、早10年。

 厳しい親であったが、彼がいなければこの地をまた踏む事にはならなかっただろう。

 物思いに耽ていたユイは、ふと我に返ると少女は、くるりとその場で一回転して太陽のような眩しい笑顔を向けながら自己紹介を始める。

 

「私は、ココア!ココアって呼んでね!」

 

 ブイサインをしながら自己紹介を決めたココア。

 余所見をしていた事が原因で、危うく転倒しかけたが、目の前の男はしっかりとココアの腕を捕まえて地面との衝突を回避させる。

 

「ほら、ちゃんと見て歩かないと危ないだろう。俺はユイ、よろしくココア」

 

「あ、ありがとー…ユイ君もよろしくね!」

 

 駅の改札口に向かいながら自己紹介を終わらせた二人は、新しい生活が始まる木組みの家と石畳の街へ足を踏み出した。

 雲一つない快晴が広がり、時節空を彩るように淡紅色花が舞う駅前の広場。

 視界に広がった花吹雪の歓迎に二人は足を止めてしまう。

 

「きれいな街だね…ここなら楽しく暮らせそう!」

 

「それについては、同意しようかな。…そうだ。ココアはこれからどこへ向かうんだ?荷物もあるから、下宿先が最初だとは思うが」

 

「うん、これからお世話になる家に行く予定!ユイ君はどこへ?」

 

「俺は…そうだな。先に家の方に行こうかと思ってるから途中まで送っていくよ。育て親に怒られそうだからな」

 

「えへへーありがとー!それじゃ、れっつごー!」

 

 ココアは、ユイの手を引くとそのまま歩き出す。

 彼女の突然の行動に思わず困惑していたユイだったが、まぁいいかと小さく呟くと苦笑しながら、冷たい機械の腕をそっと握り締めた。




木組みの家と石畳の街に行きたい。


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再開するうさぎ

FGOとなろうの更新で遅れました。
これも全部人理焼却ってやつの仕業なんだ。
うわああああ、礼装こねえええええダヴィンチイイイイイ


 木組みの家が建ち並ぶ石畳の街。

石畳を鳴らすブーツの軽やかな音をBGMにココアは、これから三年間を過ごすこの街の景色に目を奪われる。

 

「ここが、こうでー…あっちがそっちで…うーん?まぁいいか!」

 

 時節、地図を見ながら道を間違えそうになるココアに隣にいるユイは、苦笑しながら現在地に指を刺してルートを示していく。

 

「こらこら、知らない街で迷子になるぞー」

 

「そんなことないよ。大丈夫、大丈夫!!」

 

 根拠のない自信を主張しながら胸を張るココア。

 彼女なら自然と正しい目的地に寄り道しながら辿り着きそうだなと心の中で呟いたユイは、

 

「さて、と…そんなココアに朗報だ。この道をまっすぐ行って突き当たりを曲がればココアの目的地があるはずだ」

 

「ほら、やっぱり大丈夫だったでしょー」

 

「六回は、道に逸れそうになったのは触れないでおこう。それじゃ、ココア。いったんお別れだ」

 

「うん、ここまでありがとう。またね、ユイ君!」

 

 一度別れれば、次に会うときは主義主張の違いで敵となる世界にいた経験から"またね"という言葉は、彼の心に深く響いた。

 大きく手を振るココアと別れ、ほんの少し足取りの軽くなったユイは、肩にかけたボストンバックを背負い直し、裏路地に歩を進める。

 

「この街は、こんなところにもウサギがいるんだな…」

 

 葉っぱを咥えた、右目の十字傷が特徴の強面ウサギに見送られ、裏路地を抜けようとすると、陰から飛び出してきた少女とぶつかってしまう。

 小さな叫び声をあげて、尻餅をついた少女。

 ユイは、すぐさま彼女に手を差し出して、声をかける。

 

「大丈夫か。前を見ていないと危ないぞ?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ウェーブの掛かった金髪にどこかお嬢様のような気品のある少女は、ユイの手を借りて立ち上がるとスカートを軽く払い、周囲を警戒するように見渡す。

 目の前の少女の見せる行動にユイは、不思議なものを見るかのように頭をかしげる。

 

「なにか慌てたみたいだけどどうかしたのか?」

 

「その、ウサギが苦手で追いかけられてたんです」

 

 少女は、周囲にウサギの姿がないことを確認するとホッと吐息を漏らして、軽く頭を下げ、裏路地の中を通り抜けていく。ユイの背後でまた出たという叫び声が聞こえてきたが、苦笑いをして目的地に向かって歩き出した。

 

「それにしても、街中にウサギが住み着いているなんて随分変わった街だ…といっても今までいた場所も大差ないか」

 

 ウサギの代わりに子月光が石畳をうろついていたチェコのプラハの街。

 軽く思い出に浸りながら歩を進めていると、目的地に辿り着く。

 二階建ての一軒家で、一階はガレージとして改装された元セーフハウス。

 エメリッヒからユイに提供された住居だ。

 

「っと鍵は…」

 

 ポケットからエメリッヒから預かっていた家の鍵を取り出したユイは、大型のシャッターの傍にある木製のドアに鍵を差し込み、ガレージの中へと入っていく。

 大型車一台は保管できそうな余裕のあるガレージ。

 

 

 そこには、一台のバイクがシートをかけられて保管されていた。

 シートの上には、エメリッヒのドット絵の描かれた封筒。

 

「ハル兄さんからのプレゼントってことか?バイク一台に一軒家ってやりすぎじゃないの…」

 

 無造作に封筒を手に取り、封を開けるとそこには、エメリッヒからユイ宛のメッセージカードとバイクのキー。

 

 メッセージカードには、バイクは大佐からのプレゼントだと書き込まれている。

 ユイは、随分と過保護な育て親に軽く呆れながら、バイクにかけられたシートを丁寧に剥がす。

 

「こいつは…」

 

 トライアンフ社のボンネビルT100。

 なにかと縁のあるスタンダートタイプのオートバイクが埃避けにかけられていたであろう、シートの中から姿を現した。

 キャンベルの枠なプレゼントに思わず、驚きに近い喜びをが湧き上がる。

 

「最初の育て親やおばさんも愛用してたモデル。まさか、またこいつと会えるなんてな」

 

 キャンベルからの贈り物を一通り堪能したユイは、二階へ続く階段をゆっくり上っていくと一通りの生活機能を備えた2LDKの部屋が彼を招き入れる。

 一人暮らしの男には広すぎる機能的な家。

 すでに必要な家電は運び込まれており、食材さえ購入すれば、すぐにでもこの街での生活が送れる状態である。

 

「さすがにこの家は、広すぎるなぁ…」

 

 僅かに生活跡の残った部屋を一部屋ずつ見て回った彼は、無意識に窓枠の向こうに広がる木組みの家が建ち並ぶ石畳の街の景色に手を伸ばす。

 何かを掴む事はなく、空を切る鉄の腕。

 半ば無意識で行った行動に苦笑いをしながら、軽く荷物を纏め終えるとボディバックだけを背負い戸締りの終えた二階を後にする。

 

 ガレージに戻った彼は、皮のジャケットのファスナーを閉めて、フルフェイスのヘルメットを片手にバイクを外へと持ち出した。

 

 軽くエンジンを吹かしながら、満足気に口を緩めると目的地である香風家へ向かってバイクを走らせる。

 

 風を斬るように石畳の街を疾走するバイク。

 心地よい春の日差しと風を全身に受けながら、走行しているとユイの想像していた時間よりも早く目的地に辿り着いた。

 

「ラビットハウス…ここがタカヒロさんの経営する喫茶店でいいのか?」

 

 店の隅にバイクを止めたユイは、店の外に吊り下げられたウサギの看板をマジマジと見つめる。店名になぞらえて作られたであろうシンプルでかわいらしさのある看板。

 

「まさか、うさぎだらけの喫茶店ってわけじゃないだろうな…」

 

 

 

 

 やや躊躇いがちに店の扉を開くと、木目調の落ち着きのある柔らかな店内が彼を向かい入れる。こぢんまりとしていてクラシカルな雰囲気のある店内。

 奥にあるバーカウンターには、コーヒー以外にもバータイム用のアルコールの類も置いてある。

 

『いらっしゃいませ』

 

 マジマジと店内に視線を向けていると、ピンクベージュ色のセミロングの髪によく似合うピンクの制服を纏った少女が駆け寄ってくる。

 つい先ほど別れたばかりの少女の姿にユイも思わず口をぽかんと開けてしまう。

 

「って、あれ?ユイ君?」

 

「あれ、ココア?なんでここに…?」

 

「ここが私の下宿先のラビットハウスだよ!」

 

「詳しいことを聞いてなかったから、さすがに驚いたな」

 

「私もユイ君がびっくりしたよ!とりあえずお好きなお席にお座りください」

 

 別れたときと同じように胸を張り、笑顔を振りまく少女に苦笑しながら、軽く手を振って問いかける。

 

「ココア、ここのマスターに用事があるんだけど呼んで来てもらえるかな?」

 

「ええっと…それなら、ちょっと待っててね!チノちゃーん!」

 

 小走りでカウンターに向かったココアは、彼女よりも背の低い薄水色のストレートロングヘアの少女の手を引いて帰ってきた。

 無理やり連れて来られたであろう少女もどこか困惑しているようだ。

 

「ユイ君、チノちゃん連れてきたよ!」

 

「ココアさん、無理やり引っ張ってこないでください」

 

 軽く一礼した後にココアに不満げな表情を見せる少女。

 彼女もココアと同じデザインで色違いの髪の色とそっくりな色をした制服を纏っている。彼女の頭に乗せている白い生き物は、アンゴラウサギだろうか。

 ユイは、ココアの連れてきた少女に思わず困惑しながら、

 

「マスターを呼んでほしかったんだけど…もしかして、世代交代?」

 

「私はチノです。ここのマスターの孫です。それでその、マスターは去年…」

 

 ユイの疑問にチノと呼ばれた少女がやや言い淀む様に答える。

 

「あー…ごめん、最初から名前を言えばよかったか。タカヒロさんは今在宅中してるかい?」

 

「父ですか。今部屋にいると思うので、呼んできますね。えっと、あなたのお名前は…?」

 

「ユイだ。アマミ・ユイといえば大丈夫だよ」

 

「分かりました。えっと、席についてお待ちください」

 

 ストレートロングの髪を揺らしながら、やや小走りで店の奥へ向かったチノ。

 その姿はまるで、小動物のようだ。

 

 

「チノちゃん連れてくればいいかなーって思ったんだけどダメだったかな?」

 

「次からは、ちゃんと説明して呼んであげな」

 

 ココアの行動に苦笑しながら、カウンターの席に着いたユイ。

 そんな彼を見ていた濃い紫色のツインテールの少女は、首を捻りながら声をかける。

 

「ココアと知り合いなんですか?」

 

 どこかぎこちない少女の口調に苦笑したユイは、

 

「無理に敬語使わなくていい。ココアとは、ついさっき知り合ったばかりだ」

 

「そうだよリゼちゃん!この街に来る電車の中でお友達になったんだよ」

 

 ユイの返事を付け足すように補足するココア。

 ひとりでに喋りだしたココアに思わず、リゼと共に苦笑する。

 

「随分仲がいいんだな」

 

「なんでだろうなー…ココアが親しみやすいからかもしれない」

 

「それには、同感だな。えっと、ユイでいいんだよな?私はリゼだ。よろしく」

 

 差し出された手を握り返したユイ。

 彼の手を握った瞬間、リゼは僅かに表情を変化させる。

 どこか生き生きとした表情にユイは、思わず握手した手を手放した。

 

「ユイ、もしかしてハンドガンとか握ったことないか?」

 

 リゼの問いかけに思わず、固まるユイ。

 その反応に満足したのかリゼはニコニコとしながら自分の趣味を語りだした。

 

 

 

 

 

「それでだ、やはりその女性の手には9mmの方がグリップが細くて握りやすいんだが、私としては、どうしても大きく感じてしまうんだ」

 

 自身の手を見せながら、悩みを打ち明けるリゼ。

 彼女には、ユイの手のクセが本物ではなくモデルガンでできた癖だと思われたようだ。内心ほっと溜息をつきながら、彼女の話についていくユイ。

 だが、彼の語る会話の内容はどうしても親の影響でズレてくる。

 

「オートマチックに拘るからだ。やはり、シングルアクションアーミーなんてどうだ?世界で一番高貴な銃だ」

 

「いや、しかしリロードがなぁ…」

 

「強固で頑丈、信頼性もある。なによりガンプレイも楽しめるぞ」

 

「なるほど…次に買うときは、リボルバーも考えてみようかな」

 

 

 

「ちょっと、リゼちゃんユイ君、私の話し聞いてた?」

 

 会話が弾みすぎた所為で、二人が自分の話を聞いていなかった事実に気がついたココアは、やや不満そうに頬を膨らませる。

 可愛らしい反応にリゼと共に誤っているとちょうどチノが店の奥から姿を見せた。

 

「ユイさん、えっと、父の部屋の方が都合がいいとのことなので部屋までご案内します」

 

「分かった。それじゃ二人ともまた後でな」

 

 ココアとリゼに軽く手を上げて、自分の荷物をつめたボディバックを背負いチノの後に続くユイ。階段を上がってすぐにの部屋の前にユイを案内したチノは、一礼してその場を離れる。

 

 

 

 ユイが軽くノックをすると、部屋の中から入室を促す声。

 最後にあっと時と然程代わりのない男の姿に苦笑したユイは、軽く一礼した後にタカヒロの部屋に入室する。

 

「お久しぶりですタカヒロさん」

 

 90年代半ばまでキャンベルの指揮していた時代のFOXHOUNDに在籍していた男の姿がそこにはあった。




すまない…千夜ちゃんだけタイミングが掴めなくて出せなかった。
オルレアンで竜を倒して詫びさせてもらおう。これしか能がない…すまない。

あ、最後は、模造しました。


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