ハートキャッチプリキュア!~大樹の守護者と青い鎧戦士~ (sora1996)
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プロローグ「知られざる死闘」

殴り書きな部分も多いので到ない部分は目をつぶってくれると幸いです。 


 一体どこなのかわからないような場所、果てしなく続く緑の大草原の後ろには大きい大樹が立っている。少なくともこんな大きな大樹や自然ばかりがあふれる景色はそうは存在しないだろう。

 

???

「やぁあっ!!!」

 

???

「はぁあああっ!!!」

 

???

「でりゃあああっ!!!!」

 

 そんな平穏な地形とはミスマッチな集団が2つのグループに分かれて戦っている。一方のグループには頭にクワガタ虫の角を生やした緑の鎧の戦士と同じ甲虫の触覚を生やした赤の鎧の戦士に加えて銀色の長髪を美しくなびかせた少女という3人組だ。

 

???

「・・・今日こそ貴様らには消えてもらおう」

 

???

「ふぅん」

 

 その3人と対峙するの二人組。その一人は悪魔のような片翼を背中からはやしたおかっぱ頭のゴスロリ風味の衣装が特徴だ。そしてもう一人はその片翼の少女と同じ禍々しい黒の鎧戦士。黒い鎧戦士はモチーフがカミキリムシであり時々黒い仮面バイザーが黄色く光り凶悪な目つきを見せた。

 

???

 「スティンガークロー!!」

 

 緑色の鎧戦士が右腕にクワガタムシの角をイメージしたアームの付いた手甲型の武器【スティンガークロー】を装備する。

 

???

 「・・・・・」

 

 そのアームを片翼の少女に向けて飛びかかる。クワガタの大顎の如くのその刃に挟まれれば真っ二つに割かれてしまうだろうが片翼の少女はそれを紙一重で避ける・

 

???

「何!?・・・・っ!?・・ぐあぁあああああっ!?!?」

 

 何処かに消えた標的を探す緑色の鎧戦士。辺りを見回しても何処にいるかわからない。神経を研ぎ澄ませながら辺りを見回すが突然上から赤黒い砲撃が彼を襲いかかった。

 

???

「ジースタッグ!!」

 

 緑の鎧戦士【ジースタッグ】のもとへ赤い色の鎧戦士【レッドル】が向かって走る。幸い軽い傷であるようで直ぐに立ち上がる。砲撃があった方向を見てみるが其処にはもう既に少女の姿はなかった。

 

???

「消えろ、大樹の守護者どもが」

 

ジースタッグ

「ブラックビート!!?」

 

 少女に気を取られている2人の鎧戦士に黒鎧の戦士。【ブラックビート】は右太腿のホルスターに収められている銃【ジャミングマグナム】で砲撃を放ち2人を凄まじい爆炎で包み込んでしまう。

 

ブラックビート

「ふぅん・・・所詮貴様らはブルービートに遠く及ばん。消えろ、貴様ら等この世から!!」

 

 ジャミングマグナムをホルスターに収めながらブラックビートは一言呟いた。黒い仮面に隠されて黄色い目を光らせ何発も砲撃を2人に浴びせる。

 

???

「ジースタッグ、レッドル」

 

 銀髪の少女が爆発に巻き込まれた2人を助け出そうと向かう。爆炎の方に駆け寄るがその彼女の前に衝撃と共に何かが乱入し彼女の行く手を遮った。

 

 

???

「人の心配より自分の心配をするのだな!!」

 

 その正体は片翼の少女だった。風が吹く草原に少女二人は凄まじい速度で移動しそれぞれ攻撃と防御を繰り返しながら野原を移動し激しくぶつかり合う。

 

???

「キュアムーンライト、心の大樹と共に滅ぶがいい!!」

 

片翼の少女が瞑っている右目を開かせると黄色い瞳が禍々しく輝きを放ってみせる。

 

???

「《心の大樹を守る》・・・それが私の使命!!」

対する銀髪の少女【キュアムーンライト】は左肩を抑えながらも臆することなく草原にそびえ立つ大樹を背にしながら片翼の少女を睨みつけた。

 

ムーンライト

「集まれ花のパワー、ムーンタクト!!・・プリキュア・フローラルパワー・フォルティシモ!!」

 

 ムーンライト怯まず音楽の指揮者が振るうタクトを取り出し身体が光り輝く。自身の大技で敵を一気に殲滅するつもりなのだ。

 

???

「闇の力よ集えダークタクト、プリキュア・ダークパワーフォルティシモ!!」

 

対するおかっぱ頭の少女も黒いタクトを取り出し身体が赤い光に包まれる。大技どうしのぶつかり合いで決着をつけるという意思は彼女も同じだ。同時に大技を出しおかっぱ少女が先にムーンライトに体当たりを仕掛けそれに合わせ彼女も高速で移動する。

 

???

「わぁああ!!」

 

 その様子を2匹の子犬ほどの大きさの生物が声を上げて静観する。その間にも激しい空間を切るような音が辺りに響く。

 

 二人の少女は同時にタクトの様なアイテムを取り出し銀と赤黒の光に変わると同時に空に飛び激しくぶつかりあった。そして草原に光が着地しそのまま直線上にぶつかり合うとそれぞれに光から2人少女が姿を見せた。

 

???

「・・・くっ!?」

 

ムーンライト

「・・・・っ!?」

 

 お互いに振り返る。先に地面に膝をつけたのは片翼の少女。ムーンライトは表情を引き締まっているがすぐに自分の異変に気がつき表情が変わる。そして次の瞬間には・・・・・

 

ムーンライト

「ああああああああああっ!?!?!?」

 

 ムーンライトの姿がノースリーブのワンピースのような光の衣を纏った姿に変わってしまう。それに合わせて空に色も青空から曇り空のようになり大樹から落ちる葉も枯れてしまう。一面に不穏な空気になる。

 

???

「《伝説の戦士プリキュア》敗れたり・・・大樹の守護者《ビーファイター》も我がブラックビートの敵ではなかったようだな」

 

 片翼の少女と黒鎧の戦士の後ろで戦いを静観していた仮面の男がそう呟く。それと同時に・・・・

 

ジースタッグ・レッドル

『うわぁああああああああああああああああっ!?!?!?!?』

 

 キュアムーンライトの敗北とほぼ同時にブラックビート攻撃の前に動くことすらできなくなったジースタッグ、レッドルが近くにあった。

 

ブラックビート

「ハハハハハハ!!!終わりだ、ビーファイター!!!」

 

 黒鎧の戦士が勝ち誇ったように笑い声をあげる。右手から鋭い爪がついたロッド状の武器【スティンガービュート】を構え勝ち誇るとそれが鈍く輝く。

 

ムーンライト

「ジースタッグ・・・・レッドル」

 

ジースタッグ

「ムーンライト・・・・許せ」

 

レッドル

「インセクトアーマーが・・・もう、力が・・・・」

 

 ムーンライトの声も虚しく2人の鎧戦士は消滅していく。残された彼女は敗北感と戦友を失った悲しさに言葉を失い体が僅かに震えていた

 

???

「これで心の大樹が枯れてしまえば世界は我ら《砂漠の使徒》のモノになるだろう」

 

 

???

『わぁああぁ!!!』

 

 

 地面に香水のようなものが刺さる。香水のような形をしたそれは彼女の力の象徴だ。それを二匹の妖精が急いで抱えて大樹の後ろに下がった。それに合わせ大樹からは青光りが妖精の前に降り立ちそこからカブトムシの角を生やした銀色で黒の羽のスマートフォン程の大きさの機械が出現する。

 

 

???

 「あれはブルービートのビーコマンダー!?・・あの時ブラックビートが破壊したはず・・・っ!?」

 

 

 仮面の男がゆっくりとそびえ立つ大樹を見る。葉が散りこのまま枯れ果てていくのを見るつもりなのだが大樹は彼はじめる気配がない。花は散ったのにそれ以降何も反応がないということは・・・・もしや!?

 

 

???

「!?・・・・花は散ったのに何故枯れぬのだ!?」

 

 まさかこの大樹はまだ生きている!? まさかまだ希望を捨てていないとでも?

 

ムーンライト

「ざ、残念だったわね。例え私が倒れても心の大樹を守る戦士は・・・必ずお前たちの前に現れる!!!」

 

 銀髪の少女はおぼつかない足で立ち上がりながらもそう言った。負け惜しみにも見えるかもしれないがそれでも怯まなかった。

 

ジースタッグ

 「そうだ。俺たちが倒されようとも・・・この大樹がある限り・・・・」

 

レッドル

 「私達の意思は受け継がれる!!・・・お前達を倒す戦士が必ず!!」

 

 ムーンライトに続いてボロボロの姿になりながらも立ち上がる鎧戦士もまた同じ気持ちだった。例えここで自分たちが消えようとも意思を継ぐ者が必ず自分たちの代わりとなる。

 

 

???

 「戯言を・・・・ブラックビート、ダークプリキュア、ビーコマンダーとココロパピュームを奴らから奪い取れ!!」

 

???

「ダークフォルテ・ウェイブ!!!」

 

 主人から拝命を受けたおかっぱ頭の少女『ダークプリキュア』は黒いタクト【ダークタクト】から赤黒いエネルギーを放出しながら飛び上がる。

 

ブラックビート

「スティンガービュート!!!」

 

 それに続けて後ろからはブラックビートも同時にスティンガービュートをジースタッグとレッドルに向けて振りかざして飛び上がって突撃する。

 

 

ムーンライト

「ふっ!!」

 

ジースタッグ・レッドル

『はぁああっ!!!』

 

 ムーンライトと光となって消えかけているビーファイター二人は最後の抵抗をする。ムーンライトはコインほどの大きさの宝石のようなものから結界を形成しビーファイターは自身の力の象徴の鎧【インセクトアーマー】から残りのエネルギーすべてを放出し光の壁を作って赤黒いオーラごと受け止める。ビーファイター2人は鎧から火花が散り苦しみの声を上げる。

 

???

 『キュアムーンライト!!、ビーファイター!!』

 

 地面に突き刺さった。パヒュームを持った妖精たちは叫んだ。

 

ムーンライト

「シプレ、コフレ・・・ココロパフュームを次のプリキュアに渡しなさい!!」

 

ジースタッグ

「ビーコマンダー・・・お前は【ブルービートの適合者】を探してくれ・・・俺たちが時間を稼ぐ!!」

 

レッドル

「私たちが消滅しようとも・・・大樹がある限り・・・希望は消えたりしない。だから・・・今は逃げて!!」

 

 

 3人の力も限界が近い。僅かしか稼げない時間を無駄にはできないと二匹の妖精はココロパピュームを持ちその場から大急ぎで逃げる。ビーコマンダーもまた青い光もその場から全速力で飛び立ち空の彼方へと消えていった。あれだけのスピードならあと少し耐えれば十分だろう。

 

ダークプリキュア

「退け!!」

 

ブラックビート

「貴様らに用はない!!!・・・負け犬は地獄に堕ちろ!!」

 

 

 2人の黒い戦士は結界を張り巡らせて妨害してくる3人にそう吠えるが3人の正義の戦士は引かなかった。だがエネルギーはもう底を尽きようとしていてビーファイターのアーマーには火花とともにヒビが入り軋む。もはや自分達もここまでか・・・・・

 

ムーンライト

 「妖精たちよ・・・私たちの代わりを、探して!!」

 

 《ビキ、・・・バキィイイイイイン!!!!》

 

ダークプリキュア

 「何っ!?」

 

 ムーンライトが持っていた藍色のコインのようなものが砕けると同時に5人を巻き込んで周囲は大爆発を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは視界がだんだんと白く霞んでいき・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 「っ!?・・・はっ!?」

 

 突然夢のような世界から現実へと引き戻された少女は辺りをキョロキョロと見渡す。やはり今のは全て夢であったようでどうやら自分はいつの間にかうたた寝していたようだ。

 

???

 「どうしたの?つぼみ」

 

???

 「な、なんでもない。・・・・・・・・」

 

 つぼみと呼ばれた少女は母親に一声かけられて意識がはっきりとする。

この頃見るこの夢に何かを感じていた。何かが自分に起ころうとしている・・・・いや、始まろうとしているのかもしれない。そんな予感がする。

 

つぼみ

 「・・・(また同じ夢)」

 

 だが今はそんなことは忘れよう。何故なら明日から新しい生活が始まり今日はその準備で忙しくなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの何も変わらない学校の教室。ホームルーム前の教室は授業の準備でガヤガヤと話し声が響いている。

 

???

 「・・・・」

 

 俺の名前は甲斐拓哉。最近の俺は周りのみんなと一緒に気にはなれないでいた。何故なら俺は長い間ずっと探していた真実にたどり着いたからだ。だがそれは誰にも言えない。そしてその目的を果たすべく手に入れた力のことも・・・・。

 

 

拓哉

 「・・・(ブラックビート・・・そしてブルービート)」

 

 溜息が出る。今俺が知っていることを話しても誰も信じないだろうから最近はスッキリしない気分が続いている。決意は既に固まっているはずなのに・・・・

 

???

 「・ねぇ、ちょっと拓哉!!」

 

 そんな俺に構わず大声で呼んでくる声がある。我に返った俺は声の方を見ると予想通りの相手がいたので溜め息がまた出た。

 

???

「さっきから上の空だけど大丈夫?」

 

拓哉

 「ああ、・・・で、朝からどうしたんだ?、、またファッション部が存続の危機って話それなら昨日もその話で夜遅くまで電話で作戦会議って付き会わせたから嫌でも・・・」

 

 話し相手の少女は俺の知り合い・・・というか小さい頃からの幼馴染という方が正しい。彼女の名前は来海えりか。実家がファッションショップの【フェアリー・ドロップ】という店を開いていて母親は元モデルで今はトップレベルのファッションデザイナー。姉は高校生にして現役の人気ファッションモデル。そしてコイツはこの明堂学園中等部でファッション部を開くという筋金入りのファッション家系だ。

 

えりか

 「そうそう。アンタも一応は部員なんだから少しは考えてよね!!」

 

拓哉

 「・・・昆虫研究部に入ろうとした俺を幼馴染という理由で問答無用で引き抜いた部長さんが言うセリフじゃないと思うけど」

 

 そう。俺はえりかが運営するファッション部の部員で尚且つ唯一の男子部員なのだ。

 

えりか

 「いいじゃん。幼馴染のお情けってことで頼んだんじゃない」

 

 最初は昆虫研究部や自然研究部に入ろうと思っていたのだがそうはさせるかと良く言えば幼馴染の仲という名目で悪く言えば殆ど強引に気がつけば俺の部活の入部届けにファッション部と記入され現在に至るというわけなのだ。

 

拓哉

 「・・・まぁな」

 

 確かに男が裁縫部まがいな事をするだけではなく服をデザインする活動を行うファッション部に入るというのは最初こそ抵抗があった。だけど今はそれ程でもないし寧ろ楽しい。だから本音はファッション部をに残したいというのは同じ気持ちだ。しかし現実とは虚しいものである。

 

えりか

 「だからぁ~~~部員を増やす方法を考えって言ってるんじゃん!!」

 

拓哉

 「いや、でもさ部員が入らないんじゃどうしようもないだろ。今いる女子たちも雲行きが怪しいし新しい部員を探すにも俺の友達は論外だし」

 

 そう存続の危機とはつまり部員の事だったのだ。この学園では総数が部活として成り立つ数が決まっていてそれを下回ると【同好会】に格下げされてしまう。今は俺とえりかを含めて女子二人合わせて4人でその定数ギリギリの人数なのだ。

 

拓哉

 「・・・まぁ、なるようになって。ウダウダ考えてもしょうがないよ」

 

えりか

 「・・・まぁ、それはそうだけどさ~」

 

 まだ今いる女子たちが部活を辞めると決まったわけじゃないから今は流れに任せるしかないだろう。俺はえりかにそう言ってなんとか黙らせる。いつまでもコイツの話を朝から聞いていると正直疲れる。

 

《キーンコーン、カーンコーン》

 

拓哉

 「もう時間か・・・続きは昼休みだな」

 

 その数秒後にホームルームが始まる前のチャイムが鳴った。今日は色々と忙しくなる・・・そんな気がしたのは間違いではなかったのだ。何故なら今日はオレと彼女が初めて出会った日なのだから・・・・・




ちょっとえりかのキャラが違うか?・・・・実際こんな幼馴染がいたら毎日が楽しそうですよね(笑)



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第1話「転校生」

 ホームルームも終わりチャイムがなるとこのクラス担任の鶴崎先生が入ってくる。今日の授業の一限目は国語だったはず。正直マジで眠くなるため拓哉は国語が大苦手であった。

 

拓哉

 「昨日みたいに大目玉をくらうのだけはゴメンだ。今日はなんとか頑張って意識を保っておかないと」

 

 

 頑張って意識を保つという事自体がそもそもおかしな話であるのだが本人にとっては真剣な事。だがいつもそう思っていてもどうしても国語だけは睡魔に襲われてしまうから困ったものである。

 

 

鶴崎

 「授業を始める前に新しい仲間を紹介するよ。花咲さん、入ってきて」

 

 鶴崎先生の合図に転校生と思われる少女が入ってきた。だが入り方がガッチガチでぎこちない動きでなんだか違和感が隠せない状態だ。女子生徒はとりあえず黒板の前に立って止まったがそこから動こうとしない。

 

 

鶴崎「花咲さん、黒板に名前を書いて自己紹介して」

 

 

つぼみ

「っ!!」

 

あまりのテンパった様子に苦笑いを浮かべるクラスメイトの生徒。少女は黒板に名前を書いてはいるが・・・・一番前の席からギリギリ見えるか見えないか程度の字の大きさで一番うしろにいる拓哉には見えなかった。だがそのことに彼女は気がついてないようでそのまま深呼吸をしたかと思えば

 

つぼみ

「  は、はじめ・・・・」

 

 

 なんといきなり自己紹介を始めたのだが名前を言い終えるその前にえりかが手を挙げた。

 

えりか

 「先生、字がちっちゃくて見えないよ~~~??」

 

拓哉

 「(・・・・やると思ったよ・・・・)」

 

 えりかの一言でクラスメイトがクスクスと笑う。だが少女の顔は笑っていない。寧ろ話す前に腰をおられてしまい緊張に拍車をかけてしまったようだ。

 

拓哉

 「(あぁ~あ。完全にえりかのペースになっちゃった)」

 

 こうなってしまったら簡単には自分のペースを掴むのは難しいぞと拓哉も少し笑いながら少女の様子に注目する。

 

鶴崎

 「花咲は謙虚というか控えめなんだね」

 

 

 鶴崎先生に言われ少女は名前を書き直しているが大きさはさっきと殆ど変わっていない。それに気がついて少女はもうパニックになっている。その様子を見て鶴崎先生が肩に手を置くと少しは緊張が和らいだようだが緊張は凝り固まっているようでまだ様子がぎこちない。

 

つぼみ

 「きょ、今日から転校してきました【花咲つぼみ】です。趣味は・・・・」

 

えりか

 「はぁあ~~??」

 

つぼみ

 「っ!!!」

 

えりか

 「花咲さんって声まで控えめなんだ?」

 

 

えりかは悪気がないようだが少女にとっては大ダメージに違いない。えりかのおふざけムードに周りは笑っているが・・・・

 

拓哉

 「(えりか・・・・今の傷口に塩だぞ・・・・多分)」

 

 

 長年の付き合いの拓哉は少し冷や汗ものだった。これはもうあの娘に主導権を返すことは不可能に近いだろう。

 

鶴崎

 「えりか言い過ぎ。花咲が喋れなくなっちゃうだろ」

 

えりか

 「そっか。自分が声デカイもんだからつい・・・こりゃまた失礼しました。」

 

 鶴崎先生のフォローでようやくえりかは反省したように頭を下げた。これで少しはあの娘も楽になるだろう。よし、ここは俺の出番だと拓哉は意気揚々にタイミングを見計らった。

 

拓哉

 「お前の場合はその声と態度は控えめになった方がちょうどいいぐらいだけどな」

 

 えりかのおふざけのあとに拓哉が一言ツッコミを入れた途端にクラスメイトは爆笑する。その爆笑の中えりかは手を振り拓哉はグーサインを見せた。

 

つぼみ 

 「・・・・・・・」

 

 助け舟を出しがつぼみ本人はそれに気がついてない様子。せっかく新規一転し自分の殻を脱ぎ捨てようと思ったのに結局いつもと変わらない。それで頭が一杯なのかもしれない。

 

鶴崎

 「花咲、他に言うことは?」

 

 

つぼみ

 「え、あ、あの・・・よろしくお願いします!!」

 

 

 言いたいことはもう他に思い浮かばないようで転入生の花咲つぼみは最後に一言そう言って頭を下げた。すると拍手が起こる。その様子を見てつぼみはやりきった事にやっと笑顔になった。

 

 

鶴崎

 「えっ~と・・空いてる席は・・・」

 

えりか

 「此処よぉ!!花咲さん」

 

 そう、偶然にも空いてる席はえりかの隣の席だったのだ。その前にいる拓哉は「あぁ~あ」と声を漏らしているがそれは鶴崎先生には気がついてない様子。・・・つぼみはえりかの隣になることを聞いて顔が引きつってしまった。だが他に席がないのならば仕方がない。

 

つぼみ

 「・・・・・」

 

えりか

 「あたし、来海えりか。分かんないことがあったら何でもあたしに聞いてね♪」

 

 

自己紹介の時に弄られた事を少し根に持っているのか自分からは話しかけないようにしようと思い黙っていたがえりかにその手は通用しなかった。

 

 

つぼみ

 「・・・は、はい(私、こういうタイプの娘苦手なんですけど~~~~)」

 

 つぼみが苦笑いになって心の声でそう呟いている。えりかの勢いに押されていてかなり困っている様子だ。どうやら悪い癖が出ているなと拓哉は後ろを向いた。

 

 

拓哉

 「おい、自己紹介は後にしろよ。・・・また先生に怒られちゃうぞ」

 

えりか

 「国語の授業でよく昼寝して怒られるアンタに言われたくないですよ~~~」

 

拓哉

 「うっ・・・・そ、それを言われると何も言い返せません。失礼します~~」

 

拓哉が助け舟のつもりでそう言ったが逆に的を射た一言を言われて返り討ちにあってしまった。拓哉は何も言い返せない様子で前に向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拓哉

 「・・・・ふぁぁぁ~~~~」

 

 授業が始まり男子のひとりが指定された段落を読んでいるがそれを聞いて既に拓哉はアクビをしてしまっている。まだ始まって15分しか経っていないのに眠く堪らない。

 

えりか

 「ねぇ、花咲さんって何処から引っ越してきたの?」

 

つぼみ

 「鎌倉ですけど・・・というか授業中ですよ??」

 

 睡魔と戦っている拓哉の後ろでえりかに話しかけられたつぼみが困っているようだった。拓哉に話はあとにしろと言われたのにそれも気にせず自分のペースで話して来るこの娘に苦手意識は更に増長している。

 

えりか

 「鎌倉!?良い所じゃない!! 何で引っ越してきたの?」

 

つぼみが嫌がっているのにえりかは気が付いていないようで大声をあげる。それに前で睡魔と戦っていた拓哉は目が覚めたようで後ろで話こけている二人の会話を聞き入っている。

 

つぼみ

 「おばあちゃんの所に住むことになって」

 

えりか

 「お父さんとお母さんは何やってるの?」

 

つぼみ

 「一応お花屋さんなんですけど~~」

 

 つぼみもえりかの質問に答えているうちに授業中であるということを忘れてしまったようで話に夢中になってしまったようだ。えりかはコソコソと自分の席のほうに体を戻す。

 

鶴崎

 「花咲!!・・・授業中は無駄口利かない」

 

つぼみ

 「す、すみません・・・・」

 

 鶴崎先生に注意されてしまい素直に謝るつぼみ。だが納得がいかない。話しかけてきたのは隣にいるこの娘(えりか)なのに・・・・

 

つぼみ

 「・・・・・」

 

 えりかを見てみるとこっちを向いて手を合わせている。誤っているつもりなのだろうがそれでも自分だけが怒られるなんてどうしても納得ができない様子でつぼみのえりかに対する印象はもう最悪なものになってしまった。

 

 

拓哉

 「(・・・花咲さん、ドンマイ)」

 

 えりかに嵌められた・・・いや、たまたま運が悪かったかもしれないのだが自分も一度やられたことがあるので拓哉もつぼみに心の中で同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから滝のように一日は流れていったがつぼみはえりかに振り回されて転校初日でもはや天敵なのではないかと思うほどになってしまっていた。昼休みではお弁当で好きなおかずの唐揚げを食べられてしまったりといろいろ気苦労という疲れが彼女を襲っていた。

 

つぼみ

 「・・・・疲れました」

 

 部活も見たかったけど今日はそんな気分ではない。早く家に帰って部屋にある荷物の片付けでも済ませてしまおうかと思うほど・・・・もう明日から学校に来るのが憂鬱だ。

 

えりか

 「えぇ~~~~~~!?!?!?」

 

つぼみ

 「っ!?!?」

 

 この大きい声は・・・まさかと思って声がした教室を見てみると其処には女子生徒数名とえりかに拓哉が何か真剣に話っているようだ。

 

つぼみ

 「・・・・・」

 

 

 つぼみはえりかに見つからないようにその様子を見ていたが何やら訳あり・・・と言うよりも真剣そのものだった。

 

えりか

「やめちゃうの??」

 

 

女子生徒A

 「ごめん・・・塾もあるし」

 

 

えりか

 「ちょっと待ってよ・・・貴女たちにやめられちゃったら・・・ファッション部はあたしと拓哉の二人になっちゃうじゃない!!!」

 

 

女子生徒B

 「もう決めちゃったことだし・・・・・」

 

女子生徒A

 「ゴメン・・・・・」

 

 女子生徒は申し訳なさそうにしながらも教室から出て行ってしまった。えりかの声も届く前に。

 

拓哉

 「予感的中・・・・すんごいヤバイねこりゃ・・・俺、占い師の才能あったりして」

 

 今朝の拓哉の予言が的中してしまったことに本人も焦っている。言霊とはもしかしたら実在するのか?と思うほどの的中ぶりに拓哉は現実逃避のボケをかます以外この場を和ませる方法が思いつかなかった。

      

えりか

「んなこと言ってる場合か!!!・・・んんぁああぁあああ~~~~~!!!!・・・もう!!」

 

 

 拓哉のボケにツッコミを入れながらえりかは頭を抱えて叫んだ。このままでは部活として存続できなくなってしまう。えりかにとってそれはもはや死活問題だ。

 

えりか

 「どうすりゃいいのよ~~~部員があたしと拓哉だけじゃ同好会になっちゃうじゃない~~~~~」

 

つぼみ

 「・・・・・・・」

 

 つぼみはこの流れで見つかったら絶対部員になってくれとせがまれると思い見つかる前にさっさと退散しようとゆっくりと動いたが・・・・

 

えりか

 「っ!!!」

 

つぼみ

 「ひっ!?」

 

 頭が若干見えていたようでえりかに見つかってしまった。拓哉はえりかが何かを見つけた様子に同じ方向を見てみると同時に廊下を大急ぎで逃げるつぼみが見えた。

 

えりか

 「まぁ~~~てぇ~~~~~~~!!!!」

 

拓哉

 「おい、えりか!!・・お前も待たんか!!」

 

 えりかの暴走特急モードになっていることを悟った拓哉はマズイと大急ぎでえりかを追いかけた。

 

えりか

 「ファッション部入って!!」

 

拓哉

 「待て、えりか、それは強引すぎる!!!・・・落ち着け、なぁ?」

 

 つぼみの手を掴んで強引に勧誘しているえりかの姿を見てかつての自分を思い出す。そう言えば俺もこんな流れになっていたような・・・・拓哉はえりかの手を掴んでなんとか暴走と食い止めようとするもえりかには拓哉の声は届いていない様子だ

 

えりか

 「まだ部活決めてないんでしょ!?・・・このとおーりだよ!!」

 

 拓哉の声を無視してえりかは話を強引に進めていこうとする。拓哉もこの状態のえりかは危険極まりない・・・もとい、止めるのは至難の業である事は理解している。

 

つぼみ

 「ちょっと待ってください。私一応園芸部にはいろうかと思ってい・・てぇっ!!」

 

 流石にこればかりにはつぼみも従えないと自分のやりたい部活があるということをえりかに伝えようとするもえりかは聞き入れる様子はない。

 

 えりか

 「つぼみ家お花屋さんなんでしょ?学校来てまでお花なんかいいよぉ~・・ファッション部入ろう!!」

 

拓哉

 「どうしてそうなるんだよ!!!」

 

 えりかの部活存続に必死になっているのはわかるがいくらなんでもその理論は強引すぎると拓哉もツッコミを入れる。えりかの肩を掴んでつぼみから離れさせると思ったがまだえりかは強引に手を取ったままだ。

 

 

えりか

 「楽しいよ~~!!女のコだもんねファッションに関心無いわけないよね!?」

 

 

 えりかのマシンガントークは耐えなく続いていく。つぼみもいつまでも黙っているのかと拓哉は心配になったが遂に我慢できなくなったつぼみがえりかの手を払う。

 

つぼみ

 「私お花が大好きなんです!!!・・・勝手に決めないでください!!!」

 

えりか

 「・・・・・・」

 

  突然大声を上げたつぼみに驚くえりかと拓哉。控えめというか自分から意見は言わないタイプだと思っていたということもありギャップが激しいことに同様が隠せないようだ。

 

 

つぼみ

「っ!!・・・・・・・・・・」

 

 我慢できなくなってつい怒鳴っていしまったことにつぼみ自身も驚いているようだ。つぼみはそのまま回れ右して後ろを向くと早歩きで去っていた。

 

拓哉

 「・・・・えりか、ああなるのは当然だよ・・・・少しは相手のことも考え・・・・おい?」

 

 ポカーンとしているえりかに拓哉はそう言ってなんとか宥めようと思ったが突然えりかは校舎に向かって走っていってしまった。

 

拓哉

 「・・・・おい、お前まさか」

 

  えりかの後を追うと教室に戻っていて荷支度を始めていて今日のところは帰るようだ。拓哉は念の為にえりかに問いただす。もしやまたつぼみを追いかけるのではないかと

 

えりか

 「今日のところは帰るだけだよ。・・・じゃね、拓哉・・・また明日」

 

拓哉

 「あ、ああ」

 

 少しは堪えたか?・・・家に帰るだけと言っていたが・・・一応後をつけてみるか?

 

拓哉

 「心配だ・・・・やっぱり追いかけよう」

 

 幼馴染としての長年の付き合いでえりかの良い部分も悪い部分も殆ど知り尽くしている。今のように悪い癖が出ないか心配でしょうがない。ここはこっそりと様子を伺うかと拓哉も気がつかれないように教室を出て行きえりかの後を追う。




 基本的にト書は描写ナレーション形式にしたいと思います。

場合によりけり主人公メインの時は主人公目線からになります(汗)

さて、いよいよ次回は大地に戦士登場!!


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第2話「大地に咲く花、キュアブロッサム!!」

拓哉

 「・・・・えりかは言ったとおりちゃんと家に帰っている・・・・筈なのになんで花咲さんの後をつけているみたいな状態になってるんだ?」

 

 えりかに気がつかれないように距離を取りながら後を追いかける拓哉だったが妙な光景に混乱していた。えりかはちゃんと自宅の帰路を歩いている・・・そう歩いているのだが何故かその彼女の前につぼみが歩いているのだ。

 

つぼみ「・・・・・・・」

 

 つぼみもえりかが後ろにいるに気がついているようだ。つぼみはまだ部活に勧誘してきているのかと思っているらしく後ろをチラチラと見ている様子が遠くからもはっきり見えた。

 

つぼみ

 「あの、来海さん!!」

 

拓哉

 「・・・・おお、花咲さんがえりかに話しかけた」

  

つぼみは彼女(えりか)の家がこの方向にあることを知らない為まだ部活勧誘しに来ているのだと思っているようで振り返った。拓哉は気づかれないように隠れる

 

えりか

 「【えりか】でいいって」

 

つぼみ

 「じゃあ、えりかさん。どうしてついてくるんですか?何度頼まれてもファッション部へは・・・・っ!?・・・」

 

 つぼみがセリフを言い終える前にえりかがつぼみとの距離を一気に縮めるように走って近づく。それを後ろから見ていた拓哉は全く状況がつかめない。

 

 

 

えりか

 「あたしンち・・・あっちなの」

 

つぼみ

 「あぁ・・・そうだったんですか」

 

 

拓哉

 「・・・・・」

 

 自分も同じことをやられたので気持ちはわかる。だがえりかの家の方向はこっちであっているからここで拓哉が出て行って説明するのも変な話だ。もう少し様子を見るしかあるまいと息を潜めるように拓哉はゆっくりと移動する。

 

拓哉

 「・・・帰る方向がたまたま一緒なの・・・か?」

 

えりかの家の方向は確かにあっている。本当に偶然なだけならありえる話。俺の取り越し苦労だったか?そう思って拓哉はもう少し様子を見ようとコソコソとしばらく後をつける。

 

 

 

拓哉

 「まだ同じ?」

 

 えりかが追い越して先に進んでいき階段を下りるのを確認する。このままいけばえりかの家は目と鼻の先だ。

 

えりか

 「あたしンち、此処」

 

えりかは自分の家【フェアリードロップ】をつぼみに見せるように家の前に立った。

 

つぼみ

 「ええぇえええええええええ!?!?」

 

拓哉

 「何だ?・・・何がどうしたんだ!?」

 

 突然つぼみの驚いた声が聞こえ拓哉も驚く。よく見るとえりかの家の隣にはいつの間に新しい花屋が開店しているのに拓哉は気が付く。

 

拓哉

 「・・・・もしかして・・・あれが花咲さんの家?」

 

 確か会話ではつぼみの家は花屋を経営していると言っていたが・・・その場所がえりかの家のとなりだったとは拓哉も驚きつぼみと同じぐらい動揺している。またえりかもそれに喜んでいるようでつぼみを自分の店に連れて行ってしまった。

 

拓哉

 「連れてっちゃった。・・・どうしよう」

 

 えりかがつぼみを【フェアリードロップ】に拉致・・・もとい連れ込んだあと拓哉も後を追うか追わざるべきか迷っていた。入ってどうすればいいというのだ?自分がどう止める?・・・ここはやはり出来るとすればえりかが暴走しないことを祈るぐらいなのだ。

 

 

 中の様子が気になる拓哉。しかしどうやって入ればいいかの理由を考えられなくて躊躇している。

 

拓哉

 「えりか・・・大丈夫かなぁ~?・・・・うん?」

 

 

 時間は30分も経たないうちにつぼみが勢いよく【フェアリードロップ】から出て行って自分の家に入るのを見た拓哉は心配が的中したのではないかと不安になった。

 

 

拓哉

「あ、あの様子だと・・・・まさか」

 

 予感的中?・・・今日は予言が当たる日でもあるのか?と拓哉は思いながらも何があったのか知るべく【フェアリードロップ】の中に入るとえりかの姉の【来海ももか】が出迎えてくれた。

 

ももか

 「あら、拓哉。久しぶりね」

 

拓哉

 「やぁ、ももネェ。今年に入ってからは久しぶりだったね。あの、えりかは今・・・・」

 

 幼い頃からの付き合いでお互いに馴染みがある来海家の長女【来海ももか】は実の姉のような人だ。だが最近は彼女も高校生になってからモデルの仕事も忙しくなったためこうして会うのはけっこう久しい。

 

ももか

 「今、拗ねちゃって部屋に閉じこもっちゃった。だからソットしておいてくれないかな?」

 

 挨拶を済ませた拓哉は本題に入ろうとするとももかは家の奥を指差した。

 

 

拓哉

「あぁ・・・そうなんだ(やっぱりな・・・・)」

 

 

 やはり暴走してしまったか・・・・躊躇せずに入って暴走を止めれていればよかったかもと拓哉は思ったがもう後の祭りだ。えりかを励ましに行こうにも流石にもうお互い年頃・・・部屋にまで行くことは抵抗があって易易とは出来ない。今日はとりあえず帰ろうかと思っていると

 

えりか

 「拓哉、来てたんだ・・・・なんか用?」

 

 一言で言えば超不機嫌状態のえりかが私服に着替えて姿を見せたことに拓哉は驚く。聞くまでもなく気分は最悪だろう。

 

 

拓哉

 「え、えりかさん・・・ど、どちらに?」

 

 えりか

 「ちょっと出かけてくる」

 

拓哉

 「お、おい!!・・・っ!!!」

 

 拓也は嫌な予感がした。今の彼にしかわからないえりかの異変・・・いま外に出るのは危険だ。今のえりかの心では・・・なんとしても止めないと。

 

拓哉

 「待て、今日は家でおとなしく頭を冷やせ・・・だから今は外に出ないほうがいい。なぁ?・・・少し落ち着い・・・」

 

えりか

 「うっさい!!!・・・拓哉まで何よ。もう知らない!!!」

 

 拓哉は必死にえりかを説得しようとしたが彼の言い分を聞入れず彼女はそのまま家を走って出ていってしまった。普通なら気晴らしの散歩と見るのだが・・・・今の拓哉にはえりかの【心理状態】・・いや正確には“今の彼女の”【心の状態】でのこの行為が如何に危険かを理解していた。

 

拓哉

「えりかぁ!!!・・・・・・・ったくよぉ!!」

 

 

 拓哉も急いであとを追いかけるも見失ってしまう。早く探さないと・・・辺りをキョロキョロと見回すが何処にも姿が見えない。一体どこに行ったんだ?

 

 

拓哉

「(ダメだ・・・・早く見つけないと・・・ダメだ!!)」

 

 早く見つけないと・・・えりかが大変なことになる。拓哉は焦りながらもシラミ潰しに探すしかないとひたすら走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つぼみ

 「あ、甲斐くん?」

 

拓哉

「あぁ・・花咲きさ・・・ん?」

 

 

 暫く走り回っているとつぼみと鉢合わせする。そしてまず目を疑ったのが・・・つぼみの変化している一部分だった。

 

つぼみ

 「あ、あんまりジロジロ見ないでください」

 

 拓哉の視線を感じたつぼみは頬を少し赤めせる。もしかして誤解されちゃった?恥ずかしあのあまりつぼみは拓哉に背中を向けてしまう。

 

拓哉

 「あ、あぁ・・ゴメン。・・って今はそんな場合じゃなかった!!・・あのさ、えりか見なかった??」

 

 つぼみにそう言われると直ぐに我に返った拓哉は目を反らす。そして本来の目的を思い出すとつぼみの顔を見て拓哉はそう言った。

 

つぼみ

 「えりかさんですか?・・・さぁ、見てないですが」

 

拓哉

 「そうか・・・・見つけたら家に帰るように行ってやってくれ。頼んだよ!!」

 

 つぼみに要件だけ伝えると拓哉はまた大急ぎで走っていく。つぼみは一体どうしたんだろう?と思いながらも今自分の胸にいる珍獣2匹と共に目的の場所を探そうと歩く道中で足が止まった。

 

つぼみ

 「っ!!」

 

 近所の公園でえりかがしょぼくれているところに派手な黄色の服を着た謎の女に絡まれているのを発見した。一体どうしたんだと声をかけようとするが次の瞬間には女は現実にはありえない事をやってのけたのだ。

 

 

 「心の花よ、出てきてぇ~~~!!!」

 

えりか

 「きゃぁああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 えりかの体が突然光ったかと思えば大きなクリスタルの先端部分に掌サイズの水晶玉がくっついているモノが出てきたのだ。

 

つぼみ

 「・・・・」

 

 夢でもマジックでもない。今起きていることは揺るがない現実だ。だけどにわかには信じ難いこの出来事につぼみは隠れてみることしか出来ずにいた。

 

???

 「【心の花】が盗られたですっ!!」

 

 その一部始終を見ていたつぼみの服の中に隠れていた2匹の妖精が出てきて状況を解説する。最初に声を上げたのは耳に青い装飾品をつけた妖精「コフレ」だ。その隣にいるコフレと瓜二つの姿だが耳がピンク色の装飾品で束ねられているのは「シプレ」だ。

 

 「こっちはいらないわぁ~」

 

 女は水晶玉を剥ぎ取るとそのまま地面に投げ捨てた。2匹の妖精はそれを大急ぎで回収しつぼみもそれに続いてその水晶玉がなんなのかを見ようとした。

 

コフレ

 「これ見てくださいですっ!!」

 

つぼみ

 「えりかさん!?」

 

 

 コフレが持ってきた水晶玉にはなんと蹲っている少女の影が・・・その少女はなんと【来海えりか】その人だった。これは一体どういうことなのだ!?

 

コフレ

 「【心の花】を盗られたからですっ!!」

 

シプレ

 「サソリーナから【心の花】を取り返さないとこの娘は元に戻らないです!!」

 

つぼみ

 「・・・・・」

 

 【心の花】というのは恐らくあのクリスタルのことだろう。それを取り返さなければならないのならばそうあの女に言うしかあるまい。つぼみはそう思い前に出る。

 

つぼみ

 「すみません、【心の花】を返してください!!」

 

 「あらぁ~さっきの・・・?・・ふぅ~ん、妖精が入ってたのね。・・・・・アレがいいわぁ」

 

 

 この見るからに怪しく派手な黄色の服を着たて語尾が無駄に伸びる口調の女・・・【サソリーナ】はターゲットを見つけたとばかりに周囲を見渡すと捨てられたボロボロの人形を見つける。

 

 

サソリーナ

「デザトリアンのお出ましよぉ~~!!!」

 

 その人形と【心の花】のクリスタルを融合させると次の瞬間に巨大な人形の化物が出現して雄叫びをあげた。

 

コフレ

 「逃げるですっ!!!」

 

 体長は人間の大人の数倍はある巨大な怪物を目の前にして逃げない輩は普通いないだろう。つぼみと妖精二匹は回れ右をすると悲鳴を上げながら大急ぎで逃げる。

 

つぼみ

 「ひいいいいいぃいいっ!?!?!?」

 

 だが怪物の移動速度はつぼみを凌ぎ無差別に攻撃してくる。つぼみは夢中になって逃げるが怪物が飛び上がると追いつかれてしまい数歩走るも腰が抜けてしまう。

 

つぼみ

 「もうダメですぅ~~~~~!!!」

 

 3人はあまりの絶望感と恐怖に腰を抜かしてしまった。つぼみはその場に尻餅をついて泣きじゃくりコフレとシプレはつぼみにしがみついて怯える始末。絶体絶命の大ピンチ。もうおしまいだと思っていると突然怪物が声を上げた。

 

デザトリアン

 「【ももネェ】ナンカ・・・ダイッキライダァアアア!!!

 

つぼみ

 「!?」

 

 一体急にどうしたんだ?つぼみは怪物【デザトリアン】の姿を見ると腕を振り上げていてまるで子供が駄々をこねるように暴れていることに気がついた。

 

 

拓哉

 「今の声は・・・まさか!!」

 

 その頃えりかを探し走り回っていた拓哉は公園から聞こえた声に足が止める。そして制服のポケットから銀色メインに黒い虫羽のようなウィングカバーが特徴のカブトムシの角をはやしたスマートフォン程の大きさのアイテム【ビーコマンダー】を取り出す。

 

拓哉

 「遅かったか・・・だとすると・・・・・・えりかが危ない!!」

 

 拓哉のビーコマンダーのカブトムシの角の形をしたアンテナが青く光っている。これは拓哉にだけ理解できる危険信号。急がねばと拓哉は公園の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デザトリアン

 「チョットグライ美人デスタイルガイイカラッテ・・・イバラナイデヨォオオオオ!!!!」

 

つぼみ

 「いいいぃいいい!!?!?」

 

 言葉を発しているがやっている事は質が悪いとつぼみは咄嗟に後ろにあった土管のなかに隠れて事なきを得た。だがその後もデザトリアンとなったえりかは土管を手刀で殴りつけた。

 

 

つぼみ

 「あれは何を言っているんですか??」

 

 さっきからあの怪物は一体なんのことを言っているのか分からない。あの怪物がえりか自身だというのか?つぼみの質問にシプレは持っている水晶玉をつぼみに見えながら答える。

 

シプレ

 「【心の花】を盗られたこの娘の心の叫びですぅ!!」

 

つぼみ

 「えりかさん・・・・」

 

 能天気そうに見えた彼女にも自分と同じように真剣な悩みがあった。知らなかった。悩んでいたのは自分だけじゃなかったんだ。

 

 

デザトリアン

 「アタシダッテ頑張ッテルノォオオオ!!!!デモ、【ももネェ】ミタイナ素敵ナ人ニナレナイ!!・・・羨マシイヨォオ!!」

 

 

つぼみ

 「コレがえりかさんの・・・悩み」

 

 

 あの怪物が彼女の心の叫びと言うなら・・・心の奥の奥に隠し持っている気持なのだとしたら。人は誰にも言えないような悩みを抱えているのか・・・つぼみは土管の中でシプレたちを抱えながらもえりかの叫びを聞くこと以外何もできなかった。

 

 

シプレ

 「このままじゃ【心の花】が枯れて【心の大樹】が弱っちゃうですぅ!!」

 

つぼみ

 「心の大樹?」

 

 その名前なら夢で何度も聞いた。まさか夢の中の産物が本当に実在するのかと思ったが今のこのありえない状況だからその程度では驚けなかった。

 

シプレ

 「心の大樹を知っているですか!?」

 

 

シプレはつぼみの反応を見て驚いた顔をする。

 

つぼみ

 「夢の中によく出てくる言葉です」

 

コフレ

 「夢!?・・・まさか」

 

シプレ

 「この娘が?」

 

 シプレとコフレはつぼみの話を聞き何かを探し当てたようなでもあり信じられないとでも言うような顔になる。その次の瞬間にはデザトリアンは土管が破壊できないことを学習し腕を土管の中に伸ばして捕まえようとするのを確認しつぼみ達は間一髪脱出する。

 

 

 

つぼみ・シプレ ・コフレ

 『はぁ、はぁ、はぁ・・・・・』

 

サソリーナ

 「お遊びは終わりぃ~~」

 

 息も上がり始めたつぼみ達を見てそろそろ本気で攻める時だとサソリーナは遊具の上からシプレとコフレを見る。

 

サソリーナ

 「さぁ~【ココロパフューム】を渡すのよ~」

 

コフレ

 「ココロパヒュームは【伝説の戦士プリキュア】のモノ!!」

 

シプレ

 「砂漠の使徒なんかに渡せないですぅ!!!」

 

 つぼみからすればなんのことを言っているのか理解できないが自分達の存在に気がついたデザトリアンが再び【えりかの本音】という名の咆哮を上げる。

 

デザトリアン

 「【ももネェ】ミタイニナリタイヨォオオオオ!!!」

 

つぼみ

 「えりかさん・・・・・」

 

 自分の心の中に眠る本音を叫びながら暴れまわるデザトリアンの姿を見るつぼみ。しかしその彼女の前でサソリーナが一度鼻で笑うと・・・・

 

サソリーナ

 「下らないわぁ~・・・」

 

つぼみ

「っ!!!」

 

サソリーナ

 「そんな事で悩んでないで妖精捕まえなさいよ」

 

 サソリーナからすれば所詮は他人の悩み。自分の目的を果たす上では全く関係ないことでしかない。今いるデザトリアンも所詮はそのための道具。使い捨てのコマの一つでしかない・・・だが今の発言にはつぼみが黙っていれなかった。

 

 

つぼみ

 「下らなく何かありません!!えりかさんの悩みを利用してそんな魔物を暴れさせるなんて酷すぎます!!」

 

サソリーナ

 「・・・・・」

 

 さっきまで怖がっていたのに何を言っているんだこの娘はとでも言うような目で睨んでいる。

 

つぼみ

 「わ、私、堪忍袋の緒が切れました!!」

 

 つぼみが精一杯今言える怒りの感情を込めたセリフと同時にシプレの胸のピンク色のハート型の鏡のようなものが光り輝き始めた。つぼみは勿論シプレやコフレも突然のことに驚く。

 

シプレ

 「これはどうたいですぅ?」

 

コフレ

 「【ココロパヒューム】がつぼみの心に反応しているです!!」

 

シプレ

 「ならキュアムーンライトの思いをつぼみに託すです!!!」

 

 

 シプレの胸から光から両掌に収まるほどの大きさの香水のようなものが出現しつぼみの掌に落ちる。これは夢の出てきたものとソックリその物だ。

 

つぼみ

 「キュアムーンライトの思い?」

 

 

 一体コレはなんなのだと顔に疑問視の表情が浮かんでいるつぼみだがそんなつぼみには気にも止めずシプレとコフレはつぼみの顔に近づく。

 

コフレ

 「変身アイテムですっ!!」

 

つぼみ

 「変身!?」

 

 へ、変身?・・・な、何になれというのだ?急展開につぼみはもはやパニック状態になってしまっている。

 

シプレ

 「伝説の戦士【プリキュア】になるですぅ!!!」

 

 

つぼみ

 「プリキュアぁ!?」

 

 プリキュアってあのキュアムーンライトのような戦士のことを言っているのか?自分がそんなモノになれるとでも?わけがわからない状態を更にシプレとコフレが輪をかける。

 

 

コフレ

 「ココロパヒュームに力を込めて!!」

 

シプレ

 「プリキュア・オープンマイハート!!」

 

つぼみ

 「えぇえ!?」

 

 

 急にいろいろ言われてしまい完全に混乱しきっているつぼみ。だが妖精二匹はその彼女にお構いなしに大声で耳元に向かって叫ぶ。

 

 

シプレ・コフレ

 『いいから叫ぶですぅう!!!!』

 

つぼみ

 「もぉ~~~!!!・・・なんだかわからないですけど!!!」

 

 

 もう何がなんだか分かららないがこうなれば仕方がないと【何事も成せば成る】。そう思ったつぼみはココロパヒュームを手に取ると全身がピンク色の光に包まれて呑み込まれていった。

 

 

つぼみ

 「えい!!」

 

 ココロパヒュームを手に取ると先端が開閉する。それに合わせ彼女のカラダは突然ノースリーブのワンピースのような光の衣に全身が包まれた。だがそれも気にせず手を合わせ祈るとつぼみ自身の胸が光り輝いた。

 

シプレ

 「プリキュアの種、行くですぅ!!」

 

 

 それをシプレが吸収し集めて凝縮するとピンク色のコインほどの大きさの結晶体【プリキュアの種】がつぼみの手に止まる。

 

つぼみ

 「プリキュア! オープン・マイ・ハート!!」

 

  光に包まれながら自然と出た言葉を高らかに叫びプリキュアの種をパヒュームに装填すると開らかれたパヒュームが自動で閉じピンク色に眩しく光る。そして上から順番に光の香水を振りかけていくと服装が変わっていく。最後には瞳の色と髪の色が明るいピンク色になってロングポニーテールの形に纏まる。

 そして最後にひと噴き香水をかけてリボンで髪を纏めて光のピアスが耳につきパヒュームを腰に当てる肌身離さないように装備すると変身が終わる

 

 

 

サソリーナ

 「ぷ、プリキュア!?」

 

 さっきまで逃げていただけの少女がいきなり自分の目の前で伝説の戦士へと変身したことに驚きが癖ないサソリーナ。だがそれは彼女だけではない。勿論つぼみ自身も同じく動揺して・・・

 

つぼみ

 「なぁ、なんですかこの姿は!?」

 

 

 殆ど勢いで動いた為つぼみはいきなり普段の私服なら絶対に着ないような服装に恥ずかしさと驚きが混じった感情になっている。

 

シプレ

 「すごいですっ!!やっぱりこの娘がプリキュアだったんですぅ!!」

 

コフレ

 「名前、名前を決めてください!!」

 

つぼみ

 「って言われても~~・・・・っ!!・・・決めた!!」

 

 いきなり名前を考えろと言われても・・・さて、どうしようかと真剣に悩むつぼみ。その彼女の視界に写りこんだのはピンク色の花を満開に咲かせた大きな桜の木。それを見た瞬間につぼみは閃いたという顔になる。

 

 

 

つぼみ

 「えりかさんは私が必ず助けます!!私の名は・・・大地に咲く一輪の花!!キュアブロッサム!!」

 

 

 この瞬間に花咲つぼみは【ただの少女】から【伝説の戦士】へと姿を変えた。大地の戦士が誕生したのだ。伝説の戦士【キュアムーンライト】と大樹の守護者【ビーファイター】の意思を継ぎ心の大樹を守る新しい戦士その名は・・・【キュアブロッサム】




長いので戦闘は次回!!(笑)


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第3話「前途多難なデビュー戦

輝く衣装を身に纏った花咲つぼみが変身した姿キュアブロッサムの登場にサソリーナは驚愕したまま言葉を失っていた。

 

サソリーナ

 「ぷ、プリキュア!?」

 

 シプレ・コフレ

 『プリキュアですっ!!!』

 

それに比べてシプレとコフレは新戦士キュアブロッサムの誕生に大興奮。プリキュアコールをしながら大はしゃぎ状態。それに困惑する花咲つぼみことキュアブロッサムだが・・・・

 

コフレ

 「キュアブロッサム!!」

 

シプレ

 「ブロッサムぅ!!」

 

 2匹は同時に飛びついてブロッサムは笑顔を見せる。その数秒後に少し考え込んだ顔になるがまた笑顔に戻る。

 

ブロッサム

 「よーし、プリキュア!!」

 

 ポーズをとり自分の初出陣に気合を入れるブロッサム。それに合わせてシプレとコフレはパチパチパチと拍手してブロッサムを持ち上げる。

 

サソリーナ

 「こうなったらプリキュア諸共ぶちのめして~~~」

 

 出てきてしまったのなら仕方がない・・・こうなればとサソリーナはブロッサムにデザトリアンを差し向けてそのまま迎撃に向かわせる。デザトリアンは飛び上がる。

ブロッサム・シプレ・コフレ

 『っ?・・・・』 

 

 飛び上がったデザトリアンの様子をただ見ている3人。飛び上がっただけじゃそのまま落ちてくるだけ・・・ん?・・・落ちてくる?・・・・そう物理の法則に則って落ちてくるのだ・・・上からあの巨大なものが。

 

ブロッサム・シプレ・コフレ

 『うわぁああああああっ!!!!』

 

 こちらに向かってあの巨体が勢いよく落ちてくることを理解した3人は間一髪デザトリアンの急降下からのボディダイブアタックを避けて散る

 

サソリーナ

 「何っ!?」

 

 あの勢いのボディダイブアタックを避けるとは流石というべきかと驚くサソリーナ。だがそのサソリーナの評価とは裏腹にキュアブロッサムはと言うと・・・

 

ブロッサム

 「なんでこんなに高く飛べるのぉおお~~~~~???」

 

 自分のパワーを制御できずにさっきまでのデザトリアンと同じぐらいの高さにまで飛び上がっていた。ブロッサムであるつぼみは涙を流しながらこのありえない状況に悲鳴を上げながら涙していた。

 

シプレ

 「説明するですぅ!!」

 

ブロッサム

 「えぇ?」

 

コフレ

 「それは【プリキュア】だからです」

 

 

 ブロッサムに駆け寄った2匹はそう説明する・・・がそんなの答えになっていない。ブロッサムはそんなことよりも上に行くだけのこの状況を何とかしなければと思うが下を見ると公園はもう目では見えない程の高さになっている。

 

ブロッサム

 「でも私・・・高いところ苦手なんですぅ!!・・・・っ!?」

 

手で顔を抑えながらブロッサムは自分が高所恐怖症であることを告白する。その数秒後に飛び上がっていた勢いが収まることに気がつくと顔が真っ青になった。

 

ブロッサム

 「はっ!?・・・はわわわわ!?!?・・・あぁああああああああああああっ!!!」

 

 なんとか手を翼のように動かすがそんなんで鳥のように空を飛べるはずがなくブロッサムはそのまま地面へと急降下して落ちていく。

 

シプレ・コフレ

 『ブロッサムぅ!!!』

 

 妖精二匹は叫ぶも彼女の耳にはそれが届くことがなくそのまま地面へと真っ逆さまに落ちていった。そしてドカーンと地面に大穴を開けてしまう。辺りには土埃が舞っていてその衝撃の凄まじさを物語っていた。

 

ブロッサム

 「あぁ・・・うぅ・・・・・ガク!!」

 

あまりの衝撃の強さに目を回してブロッサムはその場に倒れるように力尽きるようにダウンしてしまう。それを見た妖精二匹はもしかしてと顔を合わせる。

 

コフレ

 「あの娘をプリキュアにしてホントに良かったですか?」

 

シプレ

 「うーん・・・・」

 

 今更になって選択を誤ったのかと思ってしまう妖精二匹。もしかしてこのキュアブロッサムって・・・史上最弱?

 

 

デザトリアン

 「ドール・・ドール」

 

ダウンしているキュアブロッサムに近づくデザトリアンはその巨大な腕を伸ばしてきた。そのまま掴んでいって握り潰すつもりなのか?

 

シプレ

 「キュアブロッサム、危ですぅ!」

 

ブロッサム

 「ひっ!?・・・ひえええぇええええっ!!??!?」

 

 デザトリアンの巨大な腕が近づいていることに気がついたブロッサムは猛スピードで逃げると公園を一周し一度転ぶ。転んだあともまた逃げる。その姿にサソリーナは失笑状態になっており言葉も出ないでいた。

 

コフレ

 「逃げてちゃダメですっ!!」

 

ブロッサム

 「だってぇ~~~~」

 

 普通逃げるなという方が無理な話。だがコフレとシプレからすれば逃げられては困るのもまた事実。なんとかして戦ってもらわないと困るのだがブロッサムはというと涙目になりながら猛スピードで走り回る始末。

 

コフレ

 「ていうか前!!」

 

 走るのに夢中になっていたためコフレも気がつくのが遅くなったがいつの間にか巨大な気が目の前に・・・このままじゃぶつかってしまう。だがブロッサムはというと・・・・

 

ブロッサム

 「早すぎて止まらないですぅ~~~!!!」

 

 なんと走るのをそのまま止めることができず気に激突そしてそのまま大の字に倒れてしまった。その間にデザトリアンが近づき巨大な顔を見せつけるとそれに3人は悲鳴を上げて逃げ回った。

 

ブロッサム

 「うわぁあっ!?・・・うぁ・・あぁっ!?・・あう!!」

 

 

 さんざん逃げ回っていたが遂には勢い余って鉄棒に捕まって高速大車輪をしてしまいその遠心力に身を任せたまま気に激突して目を回してしまった。

 

ブロッサム

 「め、めがまわるぅ~~~~」

 

 とうとうグロッキー状態となってしまい目を回してしまうブロッサム。力が強大だということそして何より使い方を誤るとこうなるのだといういい見本・・・と言えばまだよいか?

 

 シプレ

 「しっかりするです~~~!!」

 

 すっかりとグロッキー状態のブロッサムに近寄るも目を回したままダウンして動かない。全部を見ていたサソリーナはもはや失笑を通り越して愚弄する言葉も出ないようだ。

 

ブロッサム

 「パワーがありすぎてコントロール出来ない」

 

 強大すぎる力を上手くコントロール出来ずに制御できない。なんとかしようにも取扱説明書があるわけでもないためどこまで加減すればいいかが分からないのだ。普通の人間でもこのような状況になれば10人中8人ぐらいは恐らくこうなるだろう。

 

サソリーナ

 「今のうちにやっちゃいな」

 

 敵が自滅するのならばそれに越したことはない。それに力を制御し始めたら厄介だとサソリーナはデザトリアンにトドメを刺すように指示する。それに気がついたブロッサムは直ぐに立ち上がり今度こそ戦う・・・と思われたが

 

ブロッサム

 「ひいいいいぃい!!!!」

 

 なんと敵前逃亡してしまうそれに気がついたシプレとコフレは彼女のスカートを掴んで踏みとどませる。

 

シプレ

 「ダメですぅ!!。逃げてばっかりじゃ」

 

コフレ

 「プリキュアなんだから戦うですぅ!!」

 

 その理屈もおかしい理屈だがこの2人からすれば十分な理由だろう。だがブロッサムからすれば話は別であり理不尽な理屈でしかない。

 

ブロッサム

 「離してぇ~~~~スカート脱げちゃう!!!」

 

 どちらかが力を抜けばいい話だがブロッサムであるつぼみからすれば逃げたい一心でそこまで考える余裕がない。不意にシプレたちは手が滑ったのか彼女のスカートを離してしまうとブロッサムは顔面から地面に倒れてしまった。

 

サソリーナ

 「お間抜けねぇ~・・・史上最弱のプリキュアかも。・・・・やっちゃって~」

 

 こんな相手に一瞬でも不安の感情を抱いた自分が情けなくなってきたサソリーナはさっさと片付けようとデザトリアンを動かす。

 

 

ブロッサム

 「ひいぃいいい!!!」

 

 デザトリアンの攻撃を紙一重で避けて逃げる3人。これではまた同じことの繰り返しだとサソリーナもいい加減に業を煮やしたようであり・・・

 

サソリーナ

 「えぇい。ちょこまかと!!」

 

 髪の毛をまるで蠍の尻尾のように飛ばしブロッサムに叩きつけて攻撃するとブロッサムは倒れる。そしてその隙をついてデザトリアンが巨大なる両手で彼女を掴んでしまった。

 

サソリーナ

 「一気に握りつぶしちゃって~~」

 

 手の力を強めるデザトリアン。だんだんと顔が顔が赤くなり呼吸が苦しくなっているのが分かる。このままでは本当に潰されてしまう!!

 

シプレ・コフレ

 『キュアブロッサム!!』

 

 妖精達はなんとかしようと慌てるもそれだけしか出来ずどうしようもない。遂にはブロッサムの顔が赤から青みがかっていってカラダから力が抜けていく。

 

 

ブロッサム

 「もう・・・だめぇ・・・・・・」

 

 

 絶体絶命・・・このまま自分は・・・・潰されて・・・意識が遠のいていくブロッサム。もうここまでか!?

 

???

 「はぁあああ!!!!」

 

 

 絶体絶命のそのとき締め付けられているキュアブロッサムを助ける一つの影が割り込んだ。その影はデザトリアンの腕に飛び蹴りを仕掛け無理やり彼女を離させると落ちた彼女をお姫様だっこをして抱きかえて距離を取るように舞った。

 

サソリーナ

 「何っ!?」

 

 

 その影の主はカブトムシの角と美しく輝く蒼い鎧戦士だった。表情はわからない青い仮面の目の部分は赤い瞳のように輝いていて彼は抱き抱えたブロッサムを一度見下ろした。

 

ブロッサム

 「・・・・・・あ、貴方は?」

 

 仮面に隠されていて表情は分からないが抱きかかえられたことでブロッサムは確信した・・・この人は自分の味方だと。それがわかると安心したのかブロッサムは眠ってしまう

 

シプレ

 「ブロッサム、よかったですぅ」

 

コフレ

 「誰だか知りませんがありがとうございますですっ」

 

 

 シプレとコフレもブロッサムを助けた鎧戦士に一言お礼の言葉を言う。それに対してデザトリアンを従えるサソリーナはというと・・・・

 

サソリーナ

 「何者よ!!・・・あ、アンタまさか・・・」

 

突如乱入してきた鎧戦士に向かってそう物申すように言ったが鎧戦士はそんな相手にせず

 

 

???

 「インプットマグナム!!」

 

 青鎧の戦士はそのまま右太腿のホルスターに差し込まれている銃を右手に取る。銀色の銃身の真ん中にから1から0までの数字キーがある認証コード入力銃【インプットマグナム】をブローバックして起動させる。

 

???

 「煙幕弾!!」

 

 そのまま青い鎧戦士は地面に銃弾を数発放ち周りを包み込むように白い煙幕を発生させる。そしてそれに紛れて姿を消した。

 

 

サソリーナ

 「に、逃げた!?・・・あぁあ~~もう!!妖精まで取り逃がすなんて・・・デザトリアン、なんとしてでも探しすのよ!!!」

 

突然現れた乱入者に邪魔された挙句に逃げられたなんて知られたら一大事。サソリーナはなんとしてでも探し出してやるとデザトリアンと一気統合するようにそう言った。



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第4話「蒼鎧の戦士ーブルービートー」

ある方からの指摘を受けて書き方を変えてみました。試験的なものなので統一するかは未定です。


 公園での出来事から一時間後ぐらいたっただろうか・・・夢を見ているかのような感覚で突然つぼみを呼ぶ声がした。その声に呼ばれるように目が覚めると目の前に自分の祖母の優しい顔があった。

 

「おばあちゃん?・・・どうして私ここにいるのかしら?」

 

 目覚めたその場所はつぼみの祖母の花咲薫子が園長を務める植物園だった。つぼみはどうして自分がここに居るのだと頭に疑問視が浮かぶ。確か私は・・・・その様子を見て薫子は笑う。

 

 

「私が温室に入ってきたら此処で倒れてたのよ?」

 

 薫子にそう言われるとつぼみは頭の中がしっかりしてきたようで記憶をたぐり寄せるように思い出す。そう確かに自分は公園で蒼い鎧騎士に助けられたのだ。つまり自分をここに運んでくれたのは彼・・・でもどうしたこの場所にと疑問が疑問を呼ぶ。

 

 

「あ、ブロッサム!!」

 

 コフレとシプレが何やら謎の巨大な置物のようなモノのお腹の部分から頭を出してつぼみの元に飛んでいく。シプレがつぼみの顔に擦り寄りつぼみはシプレの体を抱きしめてやった。

 

 

「あ、キュアフワラーだァ!!!」

 

 コフレもつぼみの元に近づいている途中でつぼみの隣にいる薫子の存在に気がつき大声を上げた。それにつぼみは目が点になった。

 

「シプレにコフレ久しぶりね」

 

「はぁ!?・・え、おばあちゃん・・・この子達と知り合いなの!?」

 

 驚きが隠せないつぼみ。いや、この状況で驚かない方が逆に肝が座っているというべきだ。つぼみの問に薫子は「ええ」と答えてつぼみの隣に座った。そして再度確認するようにつぼみは詰め寄った。

 

「今、この子達がキュアフラワーって・・・・・」

 

 もしかしたらもしかする。考えたくはないがここまである徹底的な証拠から推察するにもしや・・・返答するまでの間つぼみは息を飲んだ。

 

「実は私・・・昔はプリキュアだったの」

 

「お、おばあちゃんがぁあ!?・・・おばあちゃんってずっとここの植物園の園長をしていたんじゃないの?」

 

 つぼみは普段になく興奮した口調になって食い入るように問いただした。自分が知っている限りでは祖母はこの植物園の園長をしていたことしか知らない。いや、それしか知らないのが普通なのだが。

 

「そうだけど・・・此処で【心の大樹】の研究をしているうちにコッペに出会ってね・・・」

 

 妖精は巨大な者の正体に気がつくとそのまま興奮しながら擦り寄った。妖精2匹が言ったセリフは・・・・

 

「伝説の妖精・・・・・コッペ様?」

 

 妖精のリアクションとの温度差が激しい理由があるとすれば1つ・・・はっきり言えば「伝説」という言葉には合わないほどの顔つきをしているのだ。

 

「コッペは私がプリキュアだった頃のパートナーよ。シプレやコフレの大先輩ね」

 

 なるほどそういう事なら納得ができる。だがつぼみは納得ができないでいた。なぜならば確実に一つ思うことがあるのだ。それは・・・・

 

「あれが妖精・・・全然違うような・・・」

 

正直に出た一言だった。自分が思い浮かべる妖精のイメージは童話に出てくるような可愛らしいものなのだから。しかしコッペは一言で表すならば・・・やはり「怪獣」か?

 

 

 「カッコイイですぅ!!!」

 

「ボクも早くコッペ様のようになりたいですっ!!」

 

 

 シプレとコフレのセリフを聞いてつぼみはその場にずっこけるリアクションを取った。あ、あれがカッコイイ・・・の?

 

「ど、どこがカッコイイの!?」

 

 コッペという妖精を知らないつぼみからすれば当然の反応だ。つぼみが思うカッコイイとは自分を助けてくれたあの蒼い鎧騎士のような者を言う。だがコッペは・・・・それ以上は言葉が出ない。

 

「つぼみ、失礼です!!」

 

「コッペ様は僕たち妖精の憧れです!!」

 

 だがそれに反論するシプレとコフレ。憧れの対象の悪口を言われてしまえば誰もがする当然の反応だ。

 

 

 

「史上最弱のプリキュアに言われたくないですぅ~~~」

 

「ですっ~~」

 

それに付け加えシプレに言われた一言につぼみはムッとした顔でシプレとコフレを睨みつける。何も言い返せないのが悔しいが事実なので反論できない。

「ちょっと待って。今つぼみがプリキュアって・・・・」

 

「そうですぅ!!。つぼみが心の大樹の夢を見たって言うのでココロパヒュームを渡したら・・・」

 

「キュアブロッサムに変身できたですぅ!」

 

 今度は薫子が自分の孫娘がプリキュアに変身したという話を聞いて驚いた。今度はつぼみと立場逆転という状態だ。

 

「つぼみが見た夢ってもしかして・・・キュアムーンライトとビーファイターが倒される夢?」

 

「うん。何度も何度も繰り返してみるの・・・それでこの子達に出会って無理やりプリキュアに・・」

 

薫子はつぼみに問いただしつぼみは頷く。殆ど成り行きでプリキュアになったことを説明する。

 

「僕たちを追いかけてきた【砂漠の使徒】の幹部サソリーナに襲われたですっ!!」

 

「そうだったの・・大変だったわね」

 

 薫子はシプレコフレに手を添えて怯える2匹を落ち着かせる。その様子を見た

 

「・・・・(あの時私を助けてくれた蒼い鎧を纏った人は・・誰なんだろう・・・また来てくれるのかな)」

 

絶体絶命になったとき蒼い鎧騎士に助けられた事をつぼみは気がかりになっていた。自分を助けてくれたあの優しい戦士は一体誰なのだろう・・・また自分のもとに来てくれるのか・・・・等と少し考え込んでいると薫子がつぼみに話しかけてきた。

 

 

「それにしてもまさか、つぼみがプリキュアになるなんて思わなかったわ。でも・・・花が大好きなつぼみなら十分その資格はあるわね」

 

 つぼみはそれを聞いて少し安心したのか笑顔を見せた。そして薫子の隣に座った。

 

「ねぇ、おばあちゃん【心の大樹】ってなんなの?」

 

 夢に毎回出てきてはいるが実際にそれを見たことがあるわけじゃないのでずっとそのことだけは不思議に思っていた。夢の中でキュアムーンライトと2人のビーファイターが命をかけて守っていたあの大きな大樹についてだ。

 

「【心の大樹】は・・・【心の花】の源なの」

 

「心の花?」

 

 つぼみの問に薫子は胸に手を当てて説明を始めた。それを聞くつぼみはというとまた聞きなれない言葉に首をかしげた。

 

「そう、人間は一人一人心の中に“自分だけの”【心の花】を持っているの。その花は種類も色も違っていてね。同じものは一つもないの」

 

 「私も・・・心の花を持ってるの?」

 

「勿論よ。心の大樹は心の花と目に見えない力で繋がっていてね・・・心の花が萎えたり悪い色に変わったらと心の大樹は弱ってしまうの」

 

 

「そう言えばこの子達がえりかさんの心の花が赤くなったって・・・そうだ!!えりかさんは?」

 

蒼い鎧戦士に助けられてから今まですっかり忘れていた事を思い出して顔を真っ青にするつぼみ。そうだ自分はえりかを助けるために戦っていたのに・・その事を忘れいたと汗をかく。

 

 

「心配ないです!!」

 

コフレは胸にあるハート型の装飾品を光らせるとそのからえりかが閉じ込められている水晶を出現させた。

 

「えりかさん!!」

 

 水晶の中で閉じ込められているえりかが苦しんでいる。悪夢を見たときに魘されるような声を上げている。

 

「可哀想に。心の花が弱りだしているのね」

 

「サソリーナ達の仕業です!!」

 

 シプレが憤怒の声を上げる。早く何とかしなければと思っていた矢先に外で何かが地面を叩きつけるような大きな音が響いた。

 

 外に出てみればデザトリアンが暴れ回っていた。つぼみ達が駆けつけるとサソリーナが出現した。

 

「見つけたわよ・・・妖精たち。さっきは邪魔が入っちゃったけど今度は逃がさないわよ」

 

 サソリーナと共につぼみを睨むデザトリアン。えりかの呻き声が聞こえつぼみは水晶の中で苦しんでいるのを見てつぼみは心配そうな表情を浮かべる。

 

「アタシハァア、ツボミノ為ヲ思ッテメチャモテキャラシトウトオモッタダケヨ!!ソレナノニ【ももネェ】とキタラァア!!」

 

デザトリアンの叫びが大きくなればなる程水晶に閉じ込められているえりかの叫びも大きくなっていく。

 

「えりかさん!!」

 

 一体何が起こっているのだ?シプレがハート型の鏡のようなものを形成していくとそれを双眼鏡のようにしてデザトリアンを見ていく。

 

 

「心の花の【白いシクラメン】がもうすぐ真っ赤に染まってしまうですぅ」

 

「白いシクラメンの花言葉は【純潔】赤になると【嫉妬】に変わってしまうわ」

 

シプレ曰くえりかの【心の花】のシクラメンが白から赤に染まる寸前・・・たしかシクメンの花言葉は・・・つぼみが思い出す前に薫子が解説する。

 

「そうしたら・・・どうなるの?」

 

「あとは枯れるしかないです。枯れちゃったらこの娘は心を乗っ取られたまま永遠にこの玉のなかで眠り続けるです」

 

「そんな・・・」

 

 心の花が枯れた者の末路を聞いたつぼみはそれ以外に言葉が出ない。このままではえりかは永遠にあの玉の中で眠り続けることになる・・・それだけは防ぎたい。だが・・・・

 

「友達を助けるにはつぼみがプリキュアになってデザトリアンを倒すしかないです!!」

 

「さぁ、プリキュアに変身するです!!」

 

 そう。最後の手段はもはやそれしかない。迷っている時間もないとシプレとコフレはつぼみに変身するようにもう一度説得する。

 

「わ、わかった・・・・?・・ない!?ない?・・ない!??」

 

 つぼみはある物がないことに気がつく。何がないのだとシプレとコフレは頭に疑問視マークを浮かべるがつぼみの顔が青くなって顔に汗が浮かんでいることに気がつくと嫌な予感がした。

 

「変身する時にシュシュッとするやつが・・・なぁ~~~~い!!!!」

 

そう自分がプリキュアになる時に必要な変身アイテム【ココロパヒューム】が手元にないことに気がついたのだ。それを聞いたシプレとコフレも顔が青くなり叫び声を上げた。

 

「さぁデザトリアン、こいつ等をボコボコにしてぇ!!」

 

 サソリーナの命令を受けてデザトリアンは大きく息を吐いてシプレとコフレを吹き飛ばす。

 

「オオオオオオオオ!!!!」

 

そして大きな腕を上げてその腕をつぼみ達に振り下ろされる。思わずつぼみは目をつぶってしまい動けなくなってしまうががその彼女に腕が振りおをされる紙一重のところで一つの影が乱入する。

 

「!?・・・あ、貴方は!!」

 

「なっ!?あ、アンタはさっきの蒼い鎧戦士」

 

サソリーナの驚きの声と共にデザトリアンは地面に叩きつけられた。蒼い鎧戦士は一度下がりつぼみの前に立った。

 

 

「君は下がって・・・ココは俺に任せろ」

 

 青鎧の戦士はそう言うと勢いよく飛び上がりそのままパンチを放ちデザトリアンを吹っ飛ばした。

 

 

 「ええい、何者かしらないけど・・・邪魔だては許さないわよぉ~~!!」

 

 突然の乱入者しかもかなりの強敵とわかるとサソリーナは戸惑った。これはまさか大樹を守る“もう一つ”の守護の力?だとすれば・・・・焦りが生まれるサソリーナだが青鎧の戦士はそのまま右太腿のホルスターに差し込まれている銃を右手に取る。

 

 

 「インプットマグナム!!」

 

 

銀色の銃身の真ん中にから1から0までの数字キーがある認証コード入力銃【インプットマグナム】をブローバックして起動させる。

 

 

 「【1,1,0】・・・インプット。ビームモード!!」

 

  コードを入力し引き金を引くと黄色の光線がデザトリアンに向けて放たれた。ダメージはそれほど与えられていないようだが衝撃で怯んだようで大きな隙が出来る。

 

「やぁあああっ!!!」

 

 それを見逃さず距離を一気に縮め蒼鎧戦士は飛び蹴りを放った。時間稼ぎにしかならないがそれでも鎧戦士は怯まずデザトリアンに攻撃を仕掛ける。

 

「・・・・っ!!」

 

 蒼い鎧戦士にデザトリアンが気を取られている間につぼみは薫子の手を取って近くの茂みに隠れていた。足元に転がるえりかが閉じ込められている水晶みてココロパヒュームを何処にやったのだと探すが見当たらない。

 

 

「ココロパヒュームをどこにやったですぅ?」

 

 

 

「そんなこと言われても・・・」

 

 つぼみは困ったようそれが分かれば苦労はないとそう言う。早く見つけて彼と合流して戦わなければならないが・・・焦るつぼみの肩を薫子がトントンと叩くとつぼみに彼女のココロパヒュームを見せた。

 

 

「ココロパヒュームですっ!!」

 

 

「つぼみの横に落ちてたわよ」

 

 

「ありがとう、おばあちゃん!!・・・もう少し頑張ってね!!」

 

 

 つぼみは水晶玉にそう言ってえりかがもう少しだけ持ち堪えてくれることを祈った。その頃既に蒼鎧戦士はインプットマグナムを持ちながらもなんとかデザトリアンの気を引こうと出来るだけ傷つけないようにと攻撃を最小限にとどめていた。

 

「(彼女を庇いながら戦うのは厳しい・・・・だけどアイツをあのままにしておくわけには)」

 

蒼鎧の戦士がそう考え込んでいるとデザトリアンのパンチを身体に受けて彼は飛ばされる。なんとか受身を取るが腹に直撃したため直撃した鎧は少しショートしたように火花が散って痛みが走る。

 

 

「うぐぅっ!?・・・・このままじゃ負ける・・・・どうすれば!!」

 

 

 

 蒼鎧戦士は切羽詰った状況に焦る。すると逃がしたはずの少女―つぼみがーがデザトリアンに下に走ってきた。

 

「なっ!?・・馬鹿、逃げろと言っただろ!!」

 

 

 

 何をするつもりだと蒼鎧戦士は声をかける。その声を聞きつぼみは一度彼を見る。

 

「助けてくれてありがとうございます。でも私も戦います!!・・・絶対、えりかさんを助けるんだから!!」

 

 つぼみはココロヒュームを前にかざしもう一度光に包まれた。 決意を胸にもう迷わないと今度は凛々しく堂々と自分の変身コードを叫ぶと光がパヒュームから発生する。

 

 

「プリキュア! オープン・マイ・ハート!!」

 

 ピンク色の光に包まれつぼみが次の瞬間には彼女の姿は既に大地の戦士キュアブロッサムの姿に変わっていた。

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!!」

 

「・・・キュアブロッサム・・・自己紹介がまだだったな。俺の名はブルービート。大樹が残した最後の守護者【ビーファイター】だ。」

 

彼女の決意を見た青鎧戦士も飛び上がりブロッサムの隣に着地しデザトリアンの前に立った・共にファイティングポーズを取りながらも一度ブロッサムに声をかけ名を名乗った。

 

 

「ブルービート?・・・それが貴方の名前・・・わかりました!!」

 

 突然話しかけられてブロッサムは驚きながらもこれで確信に変わった。彼はプリキュアと共に戦う守護者【ビーファイター】の最後の一人。一人でダメなら二人で行くぞとブロッサムは最初の公園の時とは違い勇気が湧いてきた。

 

「必ずえりかを助け出す・・・・ブロッサム、行くぞ!!!」

 

「はい!!」

 

 蒼い鎧戦士とピンク色の大地の戦士は共にダッシュしデザトリアンへと向かっていた。果たして2人はデザトリアンとなったえりかを救い出すことができるのか!?



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第5話「大地の戦士の覚醒!!」

 ブルービートとブロッサムが当時に飛び上がるとデザトリアンは大きな腕を二人に向かって振り下ろす。それをふたりは腕を組んで受け止めて地面に足を踏ん張らせて堪える。

 

「ぐっ・・・おおおおぉおお!!!」

 

「うくぅ・・・・・んんんんっ!!!」

 

 

 地面に足を踏ん張らせながらブルービートとブロッサムのブーツの踵の部分に土が盛り上がる。それだけデザトリアンの力が強大であるのを物語っているが二人は耐えると足と腕に力を込めていく。

 

 

「はぁああああああっ!!!!」

 

 

「とりゃぁあああああっ!!!」

 

 二人は同時にデザトリアンの腕を振り払う。

そのままブロッサムとブルービートの腕がデザトリアンに伸びる平手と拳が叩き込まれて凄まじい勢いで飛ばされる。

 

 

「コレがプリキュアの力?」

 

 平手打ちであの巨体を遠くに飛ばしたことにブロッサム自身が驚いていた。この強大な力がプリキュアの力・・・さっきは制御できなかったから凄さが実感できなかったが改めて自分が得たパワーの凄まじさを実感する。

 

「油断するな、来るぞ!!」

 

 ブルービートの声に我に返るとサソリーナの喚き声を聞いてデザトリアンは腕を光らせると巨大な木製のハンマーを装備してデザトリアンは咆哮をあげているのが見えた。それを見たブロッサムはというと・・・・

 

「えーーーーーーーーー!?」

 

 あんなデタラメがありなのかと目を点にして驚いていた。その隣のブルービートは言うと「やれやれ」と声を漏らしていた。

 

「・・・・」

 

 

 二人が身構えていた次の瞬間にはデザトリアンは残像が発生するほどの高速で瞬間移動して大きなハンマーを二人に向けて振り下ろした。

 

「ひ、ひいぃ!!??」

 

「あ、あぶねぇ~~~」

 

 ブロッサムは悲鳴を上げて体を屈ませブルービートは後ろに宙返りして猫のような身の軽さでハンマーを避ける。ブルービートはあの大きなハンマーしかもデザトリアンが持つパワーで叩きつけられたら大ダメージは必至と冷や汗を浮かべながらも距離を保った。

 

 

「アレを破壊しないと近づけない・・・っ!?・・・」

 

 

 なんとかあの巨大ハンマーを破壊しなければとブルービートは考えるがデザトリアンの動きが早くしかも狙いをブロッサムに絞っているようで無闇にインプットマグナムでの砲撃は出来ない。迷っているうちにに逃げていたブロッサムが足をつまづかせて転んでしまう。

 

「きゃぁっ!?・・・・っ!?」

 

 

 転んだ先にあった白い花を見てブロッサムの動きは止まる。えりかの心の花のシクラメンと同じ白い花・・・思わずその美しさに思考が停止したらしいが・・・今はそんなことをしている場合ではない。

 

「危ない!!」

 

 無情にもデザトリアンはブロッサムの後ろに立ちハンマーを振り下ろし彼女の体を潰しにかかる。ブルービートが間一髪彼女を抱きかかえて難を逃れるも風圧で二人は飛ばされて宙を舞った。

 

 

『うわぁあああああああああっ!!!???』

 

 ブルービートはキュアブロッサムをなんとか支えブロッサムも無意識に彼にしがみついた。

 

「・・・・っ!!」

 

 

 ブロッサムは不意に目を開くと白い花弁が自分達と同じように宙を舞っている光景が目に映った。そう花は無理やり散らされたのだ・・・その光景を見て彼女の目の色が恐怖から怒りへと変化する。

 

 

「っと・・・大丈夫か?・・・・・・おい?」

 

 

 ブルービートはなんとかブロッサムを抱きかかえたままうまく地面に着地しブロッサムに声をかける。しかしブロッサムはというと反応がなく黙ったまま立ち上がった。

 

「えりかさんを苦しめるだけじゃなく・・・・花達まで・・・・」

 

「・・・・・」

 

 ブロッサムの怒りが混じった声にブルービートは言葉を失った。先程まで逃げ回っていた彼女も遂に怒りによって理性という名のリミッターが外れたのだ。そして次の瞬間に俯いていたブロッサムは顔を上げる。

 

「私、堪忍袋の緒が切れました!!・・・はぁああっ!!!」

 

 

 憤怒の表情。それを顔に浮かべたブロッサムは飛び上がると急降下キックをハンマーに叩きつける。そして次の瞬間にはハンマーは粉々に砕けて塵となった。そして追撃のストレートキックをデザトリアンの腕に放つ。

 

「っ!?」

 

 だがデザトリアンも攻撃をただ受けているだけではなく反撃する。食い込んだブロッサムの足ごと彼女を後ろに飛ばす。

 

「っ!!!・・・・やぁああっ!!」

 

 

 飛ばされるブロッサムだが今度は上手に受身を取って踏ん張り再び飛び上がり反撃のラッシュを浴びせる。

 

「・・・凄い」

 

 

 一言ブルービートはそう呟いた。ほんの数分前の彼女の動きからは想像し難く凄まじいばかりの成長ぶりを見れば誰もがそうなるだろう。

 

「はぁあっ!!!」

 

 気がつけば徐々にブロッサムが戦いの流れをつかみ後ろに回り込んでパンチを一発浴びせてデザトリアンをうつ伏せに倒させていた。

 

 

「・・・あれ?さっきよりなんか強くなってる?」

 

 戦いに夢中になって気がつかなかったが自分自身が突然しかも段違いに強くなったことにブロッサムも驚いた。いきなりここまで相手を圧倒できるなんて普通はありえない。

 

 

「友達や花を助けようとする気持ちがプリキュアの能力を高めているのよ」

 

 

「そうなんだ・・・」

 

 

 プリキュアの力は変身者の思いの強さで0から10にまで進化する。それを実感したブロッサムは感心し自分の力の真価に身震いする。

 

「って感心してる場合じゃないです!!」

 

 

「そうでした!!!」

 

 

 今は戦いの最中で自分の力の強さを実感している場合じゃないとブロッサムはハッとした様子になる。一体この娘はボケなのかツッコミなのか偶にわからなくなる。

 

「っ!?」

 

 

 突然後ろから何か尻尾のようなものが彼女の体に巻き付いた。その物体の正体はサソリーナの長い髪の毛でありその名前のように蠍の尻尾のような俊敏な動きで捕らえた獲物を甚振るようにブロッサムを締め付ける。

 

 

「いい気になるのもそこまでよ」

 

 

 サソリーナは笑みを見せながらそう言うと髪の毛の先端を蠍の毒針のように変形させる。それを見たブロッサムは顔が青くなり一瞬だけ恐怖する。

 

 

「その毒針に刺されたら・・・イチコロよん♪」

 

 ゆっくりとサソリーナは毒針を近づける。だがブロッサムの表情は既に恐怖しておらず逆にサソリーナを睨みつけていた。

 

 

「人の心を踏みにじる者よ!!・・・ここは一歩も引きません!!」

 

 

 力強くブロッサムは締め付けられていた髪の毛による拘束を振り払う。それに驚いたサソリーナは怯む。その隙にブロッサムは彼女の髪の毛を掴んでいってしっかり握り締める。

 

 

「はぁああっ!!!!」

 

 

 ブロッサムは次の瞬間にはジャイアントスイングのように遠心力をつけて思いっきりサソリーナを投げ飛ばした。自分の長い髪の毛を逆手に取られた攻撃にさすがのサソリーナも手も足も出ないようでそのまま投げ飛ばされて地面に叩きつけられて土埃が舞う。

 

 

 

「やっぱりプリキュアは強いですっ~~~!!」

 

 

 

 ブロッサムの強さに見直したぞとコフレは彼女に頬摺りをする。史上最弱のプリキュアの汚名を返上するようなその強さにそうなるのは当然だろう。

 

 

「キュアブロッサム、今のうちにデザトリアンを倒して友達の心の花を奪い返すです!!」

 

 

 

 サソリーナの邪魔が入らない今がチャンスだとシプレはブロッサムにそう言う。離れてブロッサムの戦闘を見ていたブルービートも彼女に合流しインプットマグナムをブローバックさせ起動させるながら飛び上がった。

 

「俺がデザトリアンの動きを止める。ビームモード!!」

 

 

 ブルービートはインプットマグナムから光線を発射してデザトリアンの注意を引き付ける。数発打ち込んでいくとデザトリアンはブルービートを睨みつけていくと・・・

 

 

「ドーーール!!」

 

 彼の挑発にかかったデザトリアンはビームモードの砲撃を受けながらも体当たりを仕掛ける突進してきた。

 

 

「単調だぞ。はぁあっ!!」

 

 ただぶつかってくるだけの体当たりだけでは攻撃とは呼ばない。ブルービートはデザトリアンがぶつかってくる寸前に昆虫が大空へと飛ぶようにジャンプして避ける。空中で飛び上がりながらインプットマグナムをブローバックさせて起動し認証コードを打ち込んだ。

 

 

「【0,1、0】インプット。絶対零度冷凍弾!!!」

 

 

 空中からブルービートはデザトリアンの脚に目掛けてインプットマグナムの銃口から白い冷気ガスと共に発射される絶対零度弾を浴びせる。それによりデザトリアンの足は瞬時に絶対零度の温度に達し足は凍てつく氷柱へと化した。

 

 

「今だブロッサム!!・・・今のうちにデザトリアンを倒せ!!」

 

 

「い、今だって言われたって・・・どうやって倒すんですか?」

 

 ブルービートは着地してマグナムをホルスターに収めるとブロッサムにそう言った。だがブロッサムに倒せと言われてもあの怪物を倒す方法なんて・・・あるのか?

 

 

「ブロッサムタクトを使うです!! 【集まれ花のパワー、ブロッサムタクト!!】って叫ぶです!!」

 

 

「わかりました!!」

 

 

 

 次の瞬間にブロッサムは胸のハートのクリスタルに手を当ててそこからピンク色のハートの結晶体を生み出す。そしてそこから先端がピンク色のクリスタルが輝き真ん中がクリスタルドームになっている大きなロッド状のアイテムを召喚し手に取る。そうコレが彼女の武器【ブロッサムタクト】だ。

 

 

「集まれ花のパワー、ブロッサムタクト!!」

 

 

 ブロッサムタクトにピンク色のエネルギーが集まると先端のクリスタルが光り輝いた。そして次の瞬間にはハート型のエンブレムも輝いた。

 

 

 

「【花よ輝け、プリキュア!ピンクフォルテウェイブ】って叫ぶです」

 

 

 

 その次にシプレが指示する。それ合わせブロッサムも動きタクトのクリスタルドームを回転させると虹色の光がタクトの先端に集まる。そしてピンク色の光がタクトから眩く輝きそれを指揮者のように振るいポーズをとる。

 

「花よ輝け、プリキュア!ピンクフォルテウェイブ!!!」

 

 

 タクトから巨大なピンクの花の形をしたエネルギー弾を飛ばしそれがデザトリアンに直撃すると絶対零度で固まった足が元に戻り浮き上がる。

 

「はぁあああああああああああああっ!!!!!!」

 

 最後の仕上げだとブロッサムはクリスタルドームを回転させてタクトからエネルギーを増幅させ送り込んで一気に浄化しにかかる。浄化の力を受けたデザトリアンは光に包まれ跡形もなく消滅して残されたのは公園に捨てられていた人形だけであった。

 

 

「おのれプリキュアぁッ!!・・・次に会ったときは私の毒針で仕留めてやるわよっ!!」

 

 一方ブロッサムに大穴を開ける程の力で叩きつけられたサソリーナはというとデザトリアンを失い形勢不利と悟ったのか捨て台詞を吐いてその場から瞬間緯移動で姿を消していたとろこだった。悪役らしい退場の仕方とはまさにこのことを言うのだろう。

 

 

 

 

 

 残された人形をブロッサムが手に取るとその上からえりかの心の花のクリスタルがゆっくりと降りてくる。コフレが持っている水晶玉をクリスタルと合体させると二つは光り輝いた。

 

「な、何っ!?」

 

 

 今度は何が起こるのだとブロッサムはおっかなびっくりになるが光が止むとえりかが気を失っている状態で出現して倒れる前にブロッサムが抱き抱えた。

 

 

「えりかさん・・・よかったぁ~~~~」

 

 

 

 なんとか助け出すことが出来たことにホッとするブロッサム。

 

 

「・・・・(元に戻ってよかった)」

 

 

「っ!!・・・待ってください!!」

 

 

 それを離れたところで見ていたブルービートはブロッサムに何も言わずソっと歩き出しす。だが寸前のところでブロッサムに気づかれて呼び止められた。

 

 

「危ないところを助けてくれてありがとうございました!! あの・・・ブルービートさん?」

 

 

「呼び捨てでいい。それと礼を言われる覚えもない」

 

 

 ブルービートは少し覚めた口調でブロッサムを突き放すようにそう言った。ブロッサムはというと彼の突然の態度の豹変に驚いている。

 

「・・・一つ言っておく。俺はあくまでも大樹を守るために・・・そして俺の目的のために行動しているだけだ。史上最弱のプリキュアと呼ばれた君を助ける為に動いているわけじゃない」

 

 

 ブルービートはそう言って彼女に背を向けた。ブロッサムは史上最弱という言葉を聞いて顔を赤くしている。今の彼女にとってはもうその言葉は禁句になるほど精神的ダメージが大きい言葉になっているのだろう。

 

 

「でもさっきの戦いは見事だった。・・・それは認める」

 

 

 散々ダメ出しをしたブルービートだったが最後の戦いは素直に自分でも目を見張るものだったという評価を彼女に下した。それを聞いてブロッサムは若干機嫌が良くなったようで彼に手を差し伸べた。

 

 

「また一緒に戦ってくれますか?」

 

 

「ああ、俺は大樹の守護者。ビーファイターは【プリキュアと共にある存在】・・・デザトリアンと砂漠の使徒の影がある限り俺はいる」

 

 

 ブルービートはブロッサムの手を握ることはなかったがそう言って歩いて姿を消してしまった。

 

「・・・・あ、あの・・・私も強くなります。だから、また戦ってくださいね!!」

 

 謎の存在ではあったが頼もしい味方でもある。彼は自分と共に戦うつもりはないのだろうか?それは今の自分が弱いからなのかブロッサムは俯いてしまうが彼の姿が見えなくなる前に最後に大きい声でそう言った。

 

 

「・・・・・」

 

 一度止まるブルービート。振り返り彼女の顔をみると直ぐに前を向き走るとそのまま飛び上がって今度こそ姿を消した。

 

「大丈夫よ。いつか彼もつぼみを仲間と認める時が来たら手を取り合ってくれるわ」

 

 ブルービートの戦士としての厳しい言い分に少し落ち込むブロッサムを見て薫子はそう励ました。まるでブルービートが何者で在るかを知っているかのようであった。

 

「・・・ブルービート」

 

 

 だがブロッサムは何も聞かなかった。いつか自分をちゃんと認めてくれるその日がくると信じたからでもあった。

 

「・・・・(貴方は一体、誰なんですか?いつか仲間と認めてくれる時に・・・教えてくれますか?)」

 

 

 蒼い鎧戦士ブルービート・・・ブロッサムの心から彼の姿がしばらくは消えることがなかった。助けられたあの姿が特に印象に残っているのは気のせいではない・・・・もしかしたら・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?・・・此処は!?」

 

 時間は流れ夕方になると眠っていたえりかが目を覚ました。えりかは見覚えのない場所に混乱する。

 

「おばあちゃんの植物園の温室です」

 

 

「どうして私ここに居るの?」

 

 

 えりかはふと疑問が浮かんだ。確か公園でしょぼくれていたところで・・・それ以降の記憶は曖昧で思い出せないがこんな場所に来た覚えがない。つぼみはその問に顔が少しひきつる。

 

「公園の前に倒れていたのでここに連れてきたのよ」

 

 

 薫子の咄嗟の一言にえりかは納得したようでつぼみはホッとする。単純な相手でよかったと思っていたが・・・・

 

「う~ん・・・」

 

 

「どうしたんですか?えりかさん」

 

 やっぱりそんな単純な人間などそうは存在しないかとえりかは眠っていた間の夢を解説する。

 

「眠ってる間に超リアルな夢見ちゃったの。あたしの体から花が取り出されて、それが人形に取り憑いて暴れまわる夢」

 

「ええっ!?」

 

 それは数時間前に現実に起こった話だとつぼみは的を射られたような顔をする。嘘が付けない性格故に挙動不審なのがバレバレになることが多いのだ。

 

「それにキュアなんちゃらって女のコやブルーなんとかっていうカブトムシが人になったような青いのが現れて・・・・」

 

 

「そ、それは・・・・」

 

「面白い夢ね」

 

 またも薫子の助け舟で難をしのいだ。流石にプリキュア経験者という事は有りこう言う場合のあしらい方は熟知しているようだ。

 

「ですよね~~~」

 

 

 ため息をつきたくなるほどの脱力感に襲われるがその間も与えずえりかがこっちの方を見てる事につぼみは気がつく。何を思っているのだろうとつぼみは考えていると・・・

 

「つぼみ!!・・・その、あの・・・ごめんね」

 

 

「え?」

 

 また強引にファッション部に勧誘してくるのかと思っていたが思わぬ事につぼみはそれ以外言葉が出なかった。

 

「あたしって相手のこと考えないで自分の事ついつい押し付けちゃんだよね。ももネェと違って」

 

 

 えりかはそう言ってつぼみに自分のことを説明し今まで自分がした事を反省している。それを感じたつぼみはすぐに笑顔を見せると

 

「そんなことありません。変わろうとしている私のことを思ってやってくれた事ですから」

 

 元々は種を蒔いたのは自分であってつぼみからすれば自分を変えるきっかけを作ってくれただけだとつぼみは言った。

 

「あたしのこと怒ってないの?」

 

 

えりかは自分がしたことに嫌気がさして怒っているとばかり思っていたがそうでないとつぼみが言ってくれたことにホッとしたのか喜んだ。

 

「それより、えりかさん」

 

「さん付けは止めて。【えりか】でいいよ」

 

 

 えりかはつぼみにそう言って念押しする。えりかからすれば友達なのに”さん付け”されるのはおかしい話だということなのだろう。

 

「じゃあ、えりか。ファッション部に入ればこのお人形もっと可愛くできますか?」

 

 

 それを聞きつぼみは改めてえりかにそう問いただした。えりかは不思議そうな顔にいなるがその数秒後にえりかは喜んだ顔になり。

 

 

「え?ファッション部に入ってくれるの?」

 

 

「園芸部と掛け持ちでよければ」

 

 

「ありがとう!!大歓迎だよ!!」

 

 これで廃部にならなくて済むかもしれないと喜んでえりかはつぼみにハグする。えりかにとっては今日は人生で指で数える程いろいろなことが起きた日だろう。

 

「あ、いけねぇ買い物中だった」

 

 

 えりかは買い物袋を見て買い出しの途中だったことを思い出し買い物袋とつぼみが持っていた人形を手にとった。

 

 

「明日までにあたしが直しといてあげる。つぼみ、つぼみのおばあちゃん・・・倒れてるのを助けてくれてありがとう!! じゃあね」

 

 

 

 えりかは元の元気な態度で植物園を後にした。それをつぼみが見送りシプレとコフレはえりかが居なくなったのを確認するとコッペの中から顔を出した。

 

 

「・・・キュアブロッサムか」

 

 

 植物園の外ですべての一部始終を見ていた拓哉もまたえりかを追うように植物園から離れる。そしてズボンのポケットからビーコマンダーを取り出し下の赤いボタンを押す。

 

「花咲つぼみ、君はまだ弱すぎる・・・俺は君を守りながら戦わなければならないようだ」

 

 黒いウィングが開いたビーコマンダーの中にはブルービートの蒼鎧の甲冑が小型化して収納されている。ビーコマンダーの中の光で戦いによって傷ついた鎧を治癒されるのを確認する。

 

 

「父さん、俺は必ず奴を倒す・・・そして必ず貴方を超える!!」

 

 

 拓哉はそう言って夕日を歩きながらコマンダーをしまう。新戦士ブルービートの甲斐拓哉、キュアブロッサムの花咲つぼみの戦いは今まさに始まったばかりだった。




こ、ここまで書くの長かったぁ~~~~~~

さて、次回は青いあの子が登場!!


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第6話「二人目のプリキュアは超マイペースガール!?」

 果てなく広がる夢の世界のような場所にキュアブロッサムに変身した状態でつぼみはいた。彼女の目の前にいるのは昨日の戦いで自分を助けてくれた蒼鎧騎士ブルービートだった。

 

 

「あ、あの・・・ブルービート、改めてちゃんとお礼を言わせてください!!!あの時貴方が助けてくれなかったら私は・・・・」

 

 

 戦いが終わったあとには彼からは冷たく言われてしまったがブルービートにはちゃんとお礼を言いたかったとブロッサムは頭を下げる

 

 

「・・・・」

 

 

 その彼女を見てブルービートは無言で近づいていくとそのまま突然抱きしめた。当然ブロッサムはというと突然のことでテンパってしまう。

 

 

「い、いきなりなんですかぁ!?大胆すぎます!!!」

 

 

 

 いきなりしかも彼女からすればかなりの大胆な行為に顔が真っ赤になりるとブロッサムは彼を突き飛ばした・・・

 

 

「わ、私にはまだ・・・は、はやすぎますぅ!!!」

 

 

 というところで突然場面は切り替わる。そう今までの光景の全ては夢であり今のつぼみは寝ぼけてるのだ。

 

 

「つぼみ・・・」

 

 寝ぼけている彼女に飛ばされたシプレとコフレは勢いよく壁に叩きつけられてしまったようでフラフラになっている。

 

 

「えぇ?」

 

 

『突き飛ばすなんてひどすぎです』

 

 

 一体どんな夢を見ているんだこの娘はと思いながらも妖精コンビはハモってそう言った。

 

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと衝撃的な夢を見たものですから」

 

 

「衝撃?」

 

 

「どんな夢ですか?」

 

 

 衝撃という言葉の意味に疑問次が浮かぶ妖精二匹。どんな夢を見たらそんな言葉が出てくるのだとつぼみに問いただす。

 

 

「秘密です♪」

 

 つぼみはそう言ってはぐらかした。ブルービートに抱きしめられて慌てふためいたなんて言えるわけがない。それに今の夢は結構いい夢だったから心に留めておこうと思いあえて言わないことにしたのだ。

 

 

「つぼみ、おはよう!!

 

 

「おはようございます」

 

 

 カーテンを開けると朝日が眩しく思わず目を瞑りたくなる・・・えりかの部屋の方を見ていると制服に着替えた彼女が挨拶してきた。つぼみもベランダに出てえりかに挨拶を返す。

 

 

「もう登校する時間だよ。着替えなくていいの?」

 

 

「ええっ!?もうこんな時間?・・目覚ましかけ忘れちゃいましたぁあ!!!」

 

 

 えりかにそう言われるとつぼみは大急ぎで着替える。その姿を見てえりかは笑いながらも彼女らしいなと思うのだった。

 

「あたしのアドバイス受け入れてくれたんだ」

 

 

 つぼみはなんとか着替えと朝食を済ませてえりかと共に学校へと向かっていた。その道中えりかはつぼみの姿を見てそう言う。

 

「え?」

 

 

 唐突になんことだろうと思ったがつぼみだがえりかに「メガネとヘアスタイル」と言われると成るほどと納得した。

 

 

「性格を変えるには形から変えるのもアリかなと思ったものですから」

 

 

そう今日のつぼみの姿はえりかのアドバイスを参考にメガネを外しツインテールにしてみたのだ。本人は気がついていないのだがえりかのセンスは抜群でかなり似合っている。

 

 

「おはよう~~~えりか!!・・・おお、一緒にいるのは誰かと思ったら花咲さんじゃん」

 

 

 話し込んでいる二人に後ろから拓哉の声がする。えりかは彼にハイタッチを求めるように腕を出し拓哉はそのえりかの手を叩いて応えながら隣のつぼみにそう言った。

 

 

「甲斐くん、おはようごさいます」

 

 

 隣でテンションの高いえりかとは対照的に落ち着いた口調でつぼみは彼に挨拶をする。すると拓哉はまじまじとつぼみを見て全体のシルエットを目に焼き付けて笑顔になり。

 

 

「うん、似合ってる。いいじゃん♪」

 

 

 

「え、ええ!?」

 

 

 拓哉にストレートにそう言われると思わずつぼみはドキっとしてしまい顔が少し赤くなった。やはり年頃の女のコは社交辞令でも緊張するものだ。

 

 

「ファッション部副部長として見てもいいセンスだよ。・・うん、えりかじゃないが勧誘したくなるねぇ~うちの部活に」

 

 

 

 何だそういうことか・・・嬉しいようなちょっとガッカリしたようなと複雑な心境になるつぼみ。いや、悲しい訳じゃないのだが複雑だ・・・いや、そんな気持ちになる理由は考えられないのだが。

 

 

 

「でしょ!! あたしのアドバイスなんだよ!!」

 

 

 拓哉の一言でえりかはさらにテンションが上がったのか天狗になった気分でドヤ顔を浮かべた。拓哉はそれを見るなり成程なというような顔になる。

 

 

「ほうほう、つまりは彼女に無理矢理この姿をするように仕向けたか?相変わらず風邪菌のような感染力のようで」

 

 

「こら、人聞き悪いこと言わない!!」

 

 

 いつもの口調で拓哉は皮肉を言うとえりかのツッコミが返ってくる。それを見たつぼみはクスクスと笑いそれに釣られて2人も笑う。

 

「おっと・・・ちょいと遅れ気味だな。さぁ、行こう」

 

 

 腕時計を見た拓哉はそう言うとチャイムがなる。3人は一緒に教室に向かいながらも世間話をする。それは全くいつもの変わらない平和な日常の風景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つぼみ、早く早く~~~ここで食べるお弁当は最高だよ!!」

 

 

 

 時間はあっという間に流れて生徒達は昼食を取る為の昼休みを迎えていた。つぼみ、えりか、拓哉の3人も自分たちが持ってきたお弁当を手に握りえりかに言われるがまま中等部の屋上に来ていた。

 

「うわぁ~~~気持ちいいですね」

 

 

そこから見た光景はまさに天下を取ったような気分にもなれるほど絶景だった。えりかと拓哉のお気に入りの場所だ。

 

「でしょ?・・・ここで昼寝すると気持ちいいんだよなぁ~~。飯も美味くなるしこの中等部の隠れた名所なんだよ」

 

 

特に拓哉は放課後で暇なときは昼寝の場所として勝手に使っているほど。まさに知る人のみ知る秘密の場所なのだ。

 

 

「おっと・・・そろそろ限界だ」

 

 

グーと腹の虫がなった拓哉はもうお弁当のおあずけはしんどいと顔を赤くしながらそう言う。その様子を見てつぼみは笑いえりかもニヤリと笑みを見せた。

 

 

「だね。さぁ、食べよう」

 

 

 食事をしながら世間話をする女子二人だが拓哉はというと花よりも団子であり弁当を食べながら満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「・・・私さ、最近変な夢を見るんだよね」

 

 

「変な夢?」

 

 

「プリキュアなんちゃらとビーなんとか・・だっけかな?・・とにかく変な夢で」

 

キュアムーンライトですか?」

 

 

「ビーなんとかって・・・もしかしてビーファイターか!?」

 

 えりかの夢の話につぼみと拓哉は同時にそう言った。お互いにハッと顔を合わせ拓哉ははぐらかすように顔をそらす。えりかは二人の反応に不思議な違和感を察したが流して自分の見た夢の話を続ける。

 

 

「そう、それそれ!!」

 

「えーーー!!??えりかも私と同じ夢を見ていたんですか」

 

 

 えりかの答えを聞いて思わずつぼみは驚き大声を漏らした。拓哉はと言うと突然黙り二人と距離を取るように一歩下がっているのだがそれは気がついていない。

 

 

「同じ夢?」

 

 

 どういうことなのか全くワケが分からない。いや、普通はそうだろうし同じ夢を見たぐらいでこんなに騒ぐこと自体がそもそも変な話だ。

 

 

「だったらプリキュアになれるですっ!!」

 

 

 今までの話を全部聞いていたシプレとコフレがつぼみの弁当袋から声を上げて飛び出てきた。つぼみはソレを見て顔が青くなり隣に居るえりかはと言うと・・・

 

 

「ぬ、ぬいぐるみが喋った!?」

 

 

 当然の反応で目を丸くしている。ぬいぐるみが喋るなんてありえない現象・・・それを後ろで見ていた拓哉も同じように目を丸くしていて言葉が出ないでいる。

 

 

「何でこんな所から・・・ていうか私のお弁当は?」

 

 何でというかいつの間にこの中に入っていたのだ?・・いや、それ以前に弁当袋にこの二匹が入っていたということは中にあったはずのお弁当は自宅にあることに気がついたつぼみはそう聞く。

 

『そんな事より大事なことがあります』

 

 勝手に入って勝手に話を進めている妖精二匹はつぼみの反応を尻目にえりかの元へと飛んでいった。えりかはというともはや完全に放心状態で目が点になっている。

 

「この娘にはプリキュアになる資格があるのです」

 

「ですです」

 

 場の空気を読まず話をどんどん進めていくシプレとコフレ。少しはもっと考えてから行動するべきなのでは?と第三者が見たら思うほど大胆だ。

 

「なんなのこの子たち・・・つぼみ?」

 

えりかは一体何者だと二匹を見ながらつぼみを凝視する。つぼみはというとどう説明したらいいか分からずにいるが言葉が見つからずこうなればストレートに包み隠さず説明したほうがいいと思い口をごもらせる。

 

 

「こ、【心の大樹】を守る妖精の・・・・・」

 

 

「コフレですっ!!」

 

 

「シプレですぅ!!」

 

 

 つぼみがすべてを言い終える前にまたしても勝手に自己紹介をするシプレとコフレ。えりかは案外肝が座っているようで気がつけば表情は普段のものに戻っている。

 

「へぇ~妖精なんだ」

 

「納得して頂けましたか」

 

 つぼみはホッとした表情になってはいるが約一名ワケが分からないまま目が点になっている男が一人いることを忘れている・・その人物とは拓哉のことだ。

 

「えりか、お前・・・納得すんの早いね」

 

 もはや何処からツッコミを入れればいいかわからないこの状況で考えることを止めた拓哉も一度息を吐いて納得したようにそう言った。

 

「あぁ!!甲斐くんの事忘れてました!!」

 

 拓哉の存在を忘れていたつぼみはそう言ってまた焦るが拓哉はと言うと至って落ち着いている様子。普通ならばこういう状況になれば自分の正気を疑いようなものであるが拓哉も意外と肝が座っているのだろう。

 

 

「もう何も驚かないから・・・話を続けてくれ」

 

 

 拓哉もえりかが見たという夢に興味があるのかそう言ってえりかに話の続きをするように促した。えりかは「そうだった」と話の続きをする。

 

 

「今、心の大樹って言ったよね?・・・そう言えば昨日見た夢の中にも出てた・・・」

 

 

 えりかは公園で倒れてから見たという昨日の夢で見たことを思い出すようにそう言った。そうだ・・・やっぱり夢だと思っていたのは気のせいなんかではなかったのということなのか?

 

「えりか、貴女が気を失っていた時に見た夢は・・・現実です!!」

 

「えぇ?」

 

「そして魔物を倒したキュアブロッサムというのは私なんです!!」

 

 

 驚いているえりかに言い聞かせるようにつぼみは自分が【キュアブロッサム】であるという事をえりかに告白した。ここまできたらもう黙っている必要はないと思ったからだろう。

 

「え、マジ!?」

 

「マジです!!」

 

 えりかは衝撃の事実にそう言う。いや、驚かないと言うのはこの流れや空気的にありえないだろう。

 

 

「・・・・」

 

だが後ろで聞いている拓哉はそのやりとりを聞いてはいるが驚いてはいない。寧ろ聞き流しているようだったがその態度に二人は気がついていなかった。

 

 

「まさかこんな身近にプリキュアになれる人がいたなんて・・・えりか、僕のパートナーのプリキュアになってですっ!!」

 

 

 コフレは感激しえりかに自分とコンビを組みパートナーになってくれるようにそう言った。

 

「あたしがプリキュア?・・・あのコスチューム・・・可愛かったなぁ~」

 

 

 プリキュアにならないかという誘いを受けてえりかはブロッサムが登場した時のことを思い出す。あのコスチュームはえりかにとっても魅力的な可愛らしい衣装。

あれを着れるなら・・・なってもいいかも!!

 

「でしょ、でしょ!!第二のプリキュアになってです!!」

 

 もうひと押しだとコフレはそう言ってえりかのモチベーションとテンションを上げる。あとはココロパヒュームを渡せれば・・・と思っていた矢先突然屋上の扉が開く音がし3人と2匹は何事だという顔になる。

 

「・・・お前は」

 

「生徒会長!!」

 

 当然メガネをかけた男女数名が入り込んできてその団体を率いる者が姿を見せた。それはこの明堂学園の生徒会とその生徒会を率いる生徒会長の【明道院いつき】であった。

 

「来海さん、甲斐くん。ファッション部だけまだ部員名簿が出ていませんよ?」

 

 

 えりかはギクっとした態度になっているが拓哉はそうでもないようで寧ろいけ好かないとでも言うような顔になっており口笛を吹いている。ソレを見てえりかは拓哉の頭を叩いて黙らせた。

 

 

「すいません生徒会長。今週中には必ず!!」

 

 珍しくえりかが動揺しているのを見てつぼみは状況が読めないでいた。ただ分かっているのは生徒会長呼ばれた男子と思われる人物の姿は凛々しく思わず見とれるほどだということぐらいだ

 

 

「名簿を提出してくれないと予算が出せないので急いでください」

 

 生徒会長のいつきはそれだけ言うと頭が硬そうなガリ勉メガネ集団を率いて屋上の扉から出て行った。

 

「ふぅ~」

 

「ふん・・・偉そうに。つーかそれだけの要件だったらわざわざここまでくるなっツーの!!」

 

えりかはホッと息を漏らし拓哉は鼻息を漏らして何やら気に食わないと不機嫌な態度になっていた。

 

「生徒会長さんって素敵な方なんですね~~!!」

 

 

「まぁね。この学校の理事長の孫でさ」

 

 

 つぼみはその凛々しさに胸がキュンとなったようでそう言うがえりかは何やら意味ありげな笑みを浮かべている

 

 

「(・・・そして実は女のコなんだよな~~~・・・知ったらどうなるか)」

 

 その事実を拓哉とえりかは言わなかった。知ったら恐らく大変なことになる。拓哉はそれを去年目の当たりにしたので面倒はゴメンだと事実を知ったつぼみがどうなるかと悪知恵を考えているえりかとは対照的だった。



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第7話「儚い理想と無情の現実」

 つぼみ達が学校で昼休みを過ごしているのと同じ頃に別次元のよると大きな満月が空に浮かび闇が広がる無限迷宮のような場所に禍々しい雰囲気のある場所があった。

 見渡す限りの無限迷宮のような闇空間にひとつだけ建造物があった。そうこの【秘密基地】という言葉が浮かび上がるこの悪魔の城こそが心大樹を狙い地球侵略を企む【砂漠の使徒】のアジトだ。

 

 

「何?・・・新しいプリキュアが現れただと?」

 

 

 広い空間で玉座に座っている仮面の男はでサソリーナの報告を聞きそう問い返した。この仮面に包まれた長髪の男の名はサバーク。【砂漠の使徒】の司令塔にして最高幹部の人物だ。

 この男こそがつぼみたちの夢で見た敵側の仮面の男の正体でありキュアムーンライトを倒した「堕天使」の言葉が一番似合うであろう存在【ダークプリキュア】とジースタッグ、レッドルを玉砕した黒い鎧騎士にして悪のビーファイター【ブラックビート】を生み出した張本人なのだ。

 

 

「いきなり現れたので不覚をとってしまいましたわぁ。そしてビーファイターの最後の守護者【蒼鎧騎士ブルービート】のビーコマンダーも適合者を見つけたようですわぁ。おかげで妖精たちを取り逃がしてしまいました。」

 

 

「そうか。ブルービートのみならず新しいプリキュアまで出現するとは・・・奴らにこのまま【心の種】を集められたら厄介なことになるな」

 

 

 キュアムーンライト、ジースタッグ、レッドルを倒したことで心の大樹を守る【守護者】は完全に消し去ったと思っていたのだが思わぬ事に危惧の態度を浮かべるサバーク。

 

『・・・・・・・』

 

 玉座の両端には黒の申し子ダークプリキュアとブラックビートが立っていてそこにいるということでサソリーナと違い上の身分の【上級幹部】であるという事を示しているかのようだった。

 特にブラックビートは黒い仮面に黄色い目を光らせてサソリーナを睨みつけて完全に見下しているようであった。

 

 

「・・・心配ありませんわぁ。キュアブロッサムはまだなりたてで今のうちなら私一人でも倒せますわ。・・・では」

 

 

 二人の黒い戦士の威圧を感じながらもサソリーナは汚名返上のために次なる作戦を発動すると言い瞬間移動で姿を消した。

 

 

「サバーク様、サソリーナ如きにブルービートが倒せるとは思えません。是非ともこの私にも出撃命令を!!」

 

 

 サソリーナの姿が消えた瞬間にサバークの右隣にいたブラックビートは彼の前に膝まづいて自分の出撃許可を直訴するようにそう言った。

その態度はどこか焦っているようにも見え夢で見た余裕を感じることができないほど態度ににじみ出ていた。

 

 しかしながらサバークはブラックビートに向かって首を振って返事を返した。

 

 

「何故です!?・・・私ならば必ずブルービートのアーマーを粉々に・・・」

 

 

 それに納得ができないようでブラックビートは反論するしようと声を荒げるもさバークの仮面の目の部分が突然光ると言葉が止まる。

 

「今は泳がせておけ!!・・・ブルービートの適合者が誰なのか断定できた後にお前には出撃を下す。それまではダークプリキュアと共に待機だ・・・いいな?ブラックビート」

 

 

 ブラックビートの言葉を無理やり止めたサバークはそう命令を下し彼を無理やり黙らせた。普段の彼を知っている二人からすれば反論されることは逆に珍しいようでそれからは何も言わなくなった。

 

 

「はっ!!」

 

 ブラックビートは渋々とした態度ではあったが命令には逆らえないという忠誠心とプライドがあるようで大人しく身を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃明堂学園中等部ではえりかを司令塔として拓哉、つぼみの両名を巻き込んでファッション部の部員増強の為の勧誘大作戦・・・という名で中等部のクラスに乱入し宣伝し回っていた。だが結果は・・・・・

 

 

「これだけ回って・・・ぜ、全滅なんて」

 

「結局一人も入部してくれませんでしたね」

 

 

 そうまさかの大惨敗だったのだ。えりか特注のハチマキを頭に巻きつけてつぼみは旗を持たされ拓哉は法被を着せられて中等部の殆ど全クラスを回った3人であったが結局たった一人も新入部員を見つけることはできなかった。

そしてあっという間に時間は流れ放課後になり3人は校庭で反省会を開いていた。

 

 

「明日から作戦を変えよう!!」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

 突然のえりかの発言に首をかしげる拓哉とつぼみ。作戦を変えるといってももう全クラスを回って散々宣伝した結果がコレだったのにまだ何かあるのか?という顔をして二人は顔を見合わせて無言の会話状態になった。

 

「ウチのお店のカッコイイ服を着て勧誘するってのどう?」

 

 

 

 

「・・・それって格好を変えただけだから印象は違っても決定的な効果にはならなくないか?」

 

 

 えりかはそう言って満面の笑みで提案するが拓哉は乗り気ではないようで渋い顔を見せた。

 

「えーーー、じゃあ拓哉は何かいいアイディアあるの??」

 

 

「そうは言ってもこれだけ散々動いてダメだったんだぞ?・・・簡単に勧誘できるなら苦労しないっての!!」

 

「なによそれ~~~ていうか諦めるの早いってば!!」

 

 えりかに文句を言われると拓哉も黙ってはいられないと反論し口喧嘩となる。お互いにアーでもない、コーでもないと言い合うのを見てつぼみはオドオドとし始めてしまう。

 

 

「何度言えば分かるんだ?ダメなものはダメだ!!」

 

 

 えりかと拓哉の口喧嘩を止めたのは後ろから聞こえてきた男子生徒の声だった。何事だと思って3人は声のした方向をソっと覗いてみると其処には女子生徒と男子生徒が何やら真剣に話し合っているようだった。

 

 

「なんだ?・・・デートの誘いか?」

 

 

「んなわけ無いでしょ!!・・・あ、あの娘は確か・・・」

 

 

 拓哉のボケにそう突っ込むえりかは怒鳴られている女子生徒に見覚えがあった。確かあの娘は・・・拓哉がジトーと女子を見ると声を出した。

 

 

「あ、アイツはえりかに喧嘩を売った女子!!」

 

 記憶を手繰り寄せていたところで拓哉の一言で完全に思い出す。そうあの女子生徒はファッション部の勧誘の時に「軟弱な部活」と言って喧嘩を売ってきた人物だ。

 

 

「サッカー部に女子は入れないと言っているだろう」

 

 

「お願いします」

 

 

「練習の邪魔。じゃ」

 

 

 話を推察するにこの女子はサッカー部に入りたいらしいがソレを部長と思われるあの男子生徒に門前払いを受けていたようだ。

スバっと女子生徒を一刀両断するように男子生徒はそう言うとサッカー部のグランドへと戻っていってしまった。

 

 

「・・・・・」

 

 

 女子生徒はというとハッキリ断られたことで心に傷を負ったように悲しげな表情を浮かべている。ソレの一部始終を見ていた3人の中で最初にえりかが動き女子に声をかけた。

 

 

「・・・ふん」

 

 

「甲斐くん行かなくていいんですか?」

 

 

 だが拓哉は動かずその場で横になった。その様子を見てつぼみは驚いたように声をかけるが拓哉はと言うと逆に不思議そうな顔をしてつぼみを見た。

 

「だってなんて声をかけるの?・・・彼女はサッカー部に入りたいと言っているようなものじゃないか・・俺達が関与できる問題じゃないよ」

 

 

 拓哉はそう言ってつぼみを諭す。確かに今の彼女に一体何をすればいいのだ?一体どうすれば解決できるというのだ?今の彼女はサッカー部に入れないという現実を直視して傷ついている。その彼女に向かって何を言って励ますというのだ?否励ます術などはそうはない。

 

「大体・・名前も知らないのにいきなり親しげに話しかけるのもおかしいよ」

 

 

 さらに言えば自分たちの力でその現実が変えられるわけじゃない。だがもしもそれを現実にするために実行できる手があるとすれば二つ候補がある。

 一つはあのいけ好かない生徒会長に直訴して彼女も入部出来る新サッカー部の設立すること。二つ目はあの男子生徒を説得して彼女を入部させるように根回しすること。この二つの方法ならば現実味があるしやろうと思えばゴリ押しでなんとかなる。

 

 

「それはそうかもしれませんが・・・見て見ぬふりをするなんて」

 

 

「じゃあ逆に聞くけど・・・俺たちが動いて一体どんなメリットがあるの?ましてや俺達のファッション部だって存続の危機なんだよ?」

 

 

 だが拓哉からすればだがそもそもそんな事をする義理は何もない。そもそもファッション部の悪口を言った人物に対して助け舟を出すことも拓哉は嫌なようだ。そして何より優先順位が高いのは自分の部活の部員勧誘があることを言った。

 

 

「それなのに俺達のファッション部を【軟弱】呼ばわりした奴の事なんか・・・・っ?」

 

 

 つまりは他人に時間を割くよりも自分たちのことを優先するべきだと拓哉は言っているのだ。中学生にしてこう考えるのはドライで冷たいかもしれないが的を射ている。厄介事はゴメンだと言う拓哉の言い分をつぼみは黙って聞いているが・・・

 

 

「・・・・・」

 

 

 拓哉が全て言い終える前につぼみは立ち上がった。そして寝ている拓哉を見下ろして拓哉の顔を見た。拓哉はその彼女の顔を見て急にそれ以上は言葉が出せなくなる。

 

「それでも私は困っている人をそのままにしておくなんて出来ないんです。私も行ってきます!!」

 

 

 つぼみは一言そう言ってえりかに続いた。ひとり残されてしまった拓哉はふてくされるように一度寝転んで空を見た。

 

 

(花咲さん、君は一体どうしてそこまで他人のことに真剣になれるんだ?)」

 

 

 少しの間考え込んみながらも拓哉は身体を起こして二人の様子をコソコソと隠れながら伺った。

 

 

「あの娘、泣いてる?」

 

 

 つぼみとえりかが女子生徒と会話が終わると女子生徒の目には涙が浮かんでいてそれが太陽光に反射して光っているのが拓哉にも見えた。

 

「っ!!・・・まさか、次は彼女が?」

 

 

 拓哉のポケットに入っていたビーコマンダーの角が蒼く光る。それを見た拓哉は彼女の心の異変を察知し奴らが来る前に引きとめようと立ち上がる。

 だが拓哉が合流する前に涙を見せた彼女はそのまま走って行ってしまい学校からも姿を消してしまう。今の彼女の心の弱さに漬け込んだ悪魔の蠍の影が忍び寄っているとも知らずに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人は下校しながらファッション部の部員増強をどうすればいいかを考えていた。そんな中で突然つぼみはえりかに頼みように頭を下げたかと思えば・・・・

 

 

「えりか、明日も部員集め手伝いますから、プリキュアになってください!!」

 

 

「それとこれとは違うでしょ?」

 

 

 まるで昨日のえりかのファッション部勧誘のようだ。というか彼女からすれば真剣に頼んでいるのだが・・・えりかからすれば正直微妙でデリケートな問題だ。

 

 

「・・・・・っ!?」

 

 

 えりかを必死に説得するつぼみ、そのつぼみの頼みを聞いて考え込んでいるえりか、そしてそれらを黙って見ている拓哉3人の前に悲鳴が聞こえてきた。何事だと思って見てみると其処には・・・

 

 

 

「何?あの大きなサッカーボールは」

 

 

 巨大なサッカーボールの姿をしたデザトリアンが近所の少年団のサッカーチームを襲い追いかけている光景に驚く3人。

 

 

「サソリーナの仕業ですぅ!!」

 

 

「大変ですっ!!心の花を取られたのは、さやかちゃんです!!」

 

 

「さやかさんの心の花を奪うなんて」

 

 

 コフレが持っている水晶の中に閉じ込められていたのはあのサッカー部に入部希望をしていたあの女子生徒の【上島さやか】であった。彼女が閉じ込められているその姿を見てつぼみは目付きが変わりココロパヒュームを取り出す。

 

 

「あの子を助けます。シプレ、プリキュアの種を!!」

 

 

「はいですぅ!!」

 

 

 つぼみはパヒュームを持ちながらシプレにプリキュアの種を召喚するように指示依頼する。シプレはそれにガッテン承知と腕を上げて了承するとつぼみのパフュームがピンク色に輝いた。

 

「プリキュアの種、いくですぅ!!!」

 

 

 

「プリキュア! オープン・マイ・ハート!!」

 

 

 シプレの胸にピンクの光が集まりひとつになるように収縮凝縮すると結晶に変化する。結晶となったプリキュアの種をつぼみが受け取りパヒュームにセットする。

 全身をピンク色の光に包まれつぼみはパヒュームの光を胸に浴びせて光を形成。そして上から下へとプリキュアコスチュームが形勢し身に纏われるた。最後に髪の毛が纏まりロングポニーテールになりココロパヒュームを腰に押し当てキャリーにしまいポーズを決めて大地の戦士キュアブロッサムの姿へと変身完了する。

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!!」

 

 

 手を花にたとえその花を開かせる仕草をしながら名乗り上げポーズを決めるブロッサム。その後ろで彼女の登場を見たえりかはコスチュームの可愛さに見とれてメロメロ状態となった。

 

「わぁああ!!!チョーキュート!!かわいい♪!!」

 

 

 

 やはりストライクゾーンのコスチュームはファッション家系の血が騒ぐのか大興奮のえりかは大はしゃぎだ。ブロッサムもその黄色い歓声は満更ではないようで笑顔を見せて飛び上がった。

 

 

「・・・・・」

 

 

 つぼみはデザトリアンと戦うことに、えりかは彼女の戦う姿に釘づけになりっていることを確認すると拓哉は2人に気がつかないように後ろに下がった。そしてコッソリと隠れるように息をひそめる。

 

 

「此処ならあの二人も気がつかないだろう」

 

 後ろは坂のようになっていて降りれば上から気がつかれない。周りを見て念入りに辺りを確認した後ズボンのポケットから銀色に煌くビーコマンダーを取り出してビーコマンダーを持った手を横に広げるポーズをとった。

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉は変身コードを叫びながら腕をクロスさせてビーコマンダーの一番下の部分にある赤いスイッチを押す。

すると電子音のような音と共に黒い虫の羽根をイメージしたウィングが開きそのままビーコマンダーを空に掲げる。

中にある蒼い鎧騎士ブルービートの甲冑が小型縮小して収納されていてその甲冑が中で蒼く輝きを放つと彼の身体全身が包まれる。

 

「はぁっ!!」

 

 腕から胸に鎧が装着されていき最後に正面を向いた瞬間に拓哉の顔に蒼いカブトムシの仮面が付けられてポーズを決めると蒼い閃光が鎧から発生し変身が完了する。

 そして後ろから飛び上がってブロッサムの隣に着地する。

 

 

「わぁあっ!!・・・」

 

 

 後ろから現れたブルービートの姿を見てえりかの興奮はさらに高まった。某ヒーローショーでも見ているかのような気分だ。

 

 

「ブルービート、来てくれたんですね」

 

 

「・・・言ったはずだ。デザトリアンと砂漠の使徒がいる限り俺はいつでも現れると」

 

 

 歓喜の声を上げるブロッサムにそう言うブルービート。そして同時にデザトリアンの方に向き襲われているサッカー少年団のグループの救出へと同時に走った。



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第8話「海風に揺れる花キュアマリン!!」

「女ノコッテイウダケデサッカー部ニハイレナナンテ、ヒッドーーーイ!!」

 

 サソリーナの悪魔の囁きに暴れまわるデザトリアン。全ては心の花の持ち主の悲痛な叫び・・・それを利用し暴力にされる。

 

 

「そ、そんなこと僕らに言われても・・・」

 

 

「ウルサイ!ウルサイ!!楽シクサッカーヲスルンジャナイワヨ!!

 

 

 少年団のサッカーチームに自分の持つ不満を叫び喚きながらサッカーボールの大きな手を少年たちに振り下ろされる・・・が間一髪ブロッサムが盾になるように前に立ちデザトリアンの腕を受け止める。

 

 

「たぁああっ!!!」

 

 

 次の瞬間にはブルービートが飛び上がりデザトリアンの顔面に両手からのダブルパンチを浴びせてものすごい衝撃によって後ろに吹っ飛ばした。

 

 

「さぁ、みんな逃げて!!」

 

 

 ブロッサムの言葉に我に返る少年団のメンバー。助けに現れた二人に感謝し恐怖しながら少年達は大急ぎで逃げて散り散りになった。全員の避難が完了したことを確認した二人はデザトリアンを睨む。

 

 

「デザトリアン、やっちゃってぇ~~~」

 

 

 現れた邪魔者を今度こそ片付けてやるとデザトリアンにサソリーナは指示する。それを聞いたデザトリアンはサッカーボールに形を変えて高速で転がって体当たりを仕掛けてきた。

 

 

「っ!!」

 

 

 二人は同時に横に飛んでデザトリアンのボールアタック攻撃を避ける。流石に単調な体当たりレベルではブロッサムでも避けることはできるのは言うまでもない。

 

 

「コドモノコロカラダイスキダッタ【サッカー】ヲ、中学生ニナッテモ続ケラレルト思ッタノニィ!!!」

 

 

 体当たりをよけられてグランドの泥濘に落ちるデザトリアン。泥沼から上がってきたデザトリアンは悲痛の叫びを浮かべながら目からは泥と共に涙を流している。 このデザトリアンの心の花の持ち主はそれだけサッカーに対する愛が強いのだ。それ故に【女子】というだけの理由で続けられないことは理不尽以外なんでもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「サッカーなんて一人でも出来るでしょ?・・ホント、ちっさな悩みね」

 

 

 泥と混じった涙を流しながらそう呟くデザトリアンにサソリーナは冷たい口調でそう言った。その言葉を聞いた瞬間ブロッサムは即座に大声を上げる。

 

 

「ちっちゃくありません!!」

 

 

「さやかさんの純粋な心、サッカーを好きという気持ちを弄ぶなんて・・・私、堪忍袋の緒が切れました!!」

 

 

「人の何かに対する愛情を利用した罪は重い。許さないぞサソリーナ!!」

 

 

 ブロッサムの怒りの言葉に続きブルービートも同じく呟いた。何かを心の底から愛することはそう簡単にできるものではない。自分にもそれの思い当たる節はあったため共感できる。ブルービートは拳を握り締めたサソリーナを指差してそう言う。

 

 

 

「はぁ?何よ、勝手にキレてなさいよ!!・・・デザトリアン!!」

 

 

 

 デザトリアンが高速回転すると凄まじい突風が発生し辺りの視界が悪くなる。ブルービートとブロッサムは腕を組みなんとか突風に飛ばされないように身を丸くして踏ん張る。

 

 

「っ!?・・・きゃぁあああああっ!!!」

 

 

 だがそれに気を取られていたことの二つの悪環境が重なりデザトリアンの攻撃でブロッサムは飛ばされてグランドに叩きつけられてしまう。

 

 

「ブロッサム!!・・・っ!?・・ぐぅ!??」

 

 

 飛ばされたブロッサムを呼ぶブルービートに対して今度はターゲットを絞ったデザトリアンの強大な腕の連続パンチ攻撃が雨のように降り注がれる。ブルービートは間一髪腕を組んで防御の体制をとったが連続で攻撃を受けることは流石の彼も限界があった。

 

 

「ぐあぁあっ!?・・・うわぁあぁああああああああっ!!!!」

 

 

 5発目のパンチで腕のアーマーに火花が発生してショートすると衝撃に組んでいた腕が弾かれてブルービートの腹筋にパンチが叩き込まれる。

 

 

「すごい威力だ!!・・・ぐぅっ!?・・うわぁあああああっ!!!」

 

 

ブルービートはそのまま勢いよく飛ばされて地面に叩きつけられる。パンチを受けた部分のアーマーはショート煙が上がっているがまだ余力は残っている様子。

 

 

「ぐぅ・・あぁあっ!?」

 

 

「ブルービート、大丈夫ですか?」

 

 

 勢いよく飛ばされてグランドに倒れたブルービートに駆け寄るとブロッサムは彼に肩を貸す。ブルービートは何も言わず立ち上がりデザトリアンを睨みながらも胸を抑えブロッサムは左肩を抑える。

 

 

「俺のことより自分の心配をしておけ」

 

 

 ダメージを受けながらも二人はもう一度散り散りになるとブルービートはジャンプして空に飛び舞い上がるりインプットマグナムを連射し注意をひきつける。その間にブロッサムは走ってデザトリアンと距離一気に距離を縮めて接近戦を挑んだ。

 

 

 シプレは心の花の状態を確かめるためにハート型のミラーでデザトリアンを透視すると心の花はあと少しのところで枯れる寸前にまで蝕まれている。

 

 

「【心の花】がもうすぐ枯れてしまうですっ!!」

 

 

「え?」

 

 

「心の花を取り戻さないとこの子は元に戻れないです!!」

 

 

 苦戦する二人を見ながらコフレの説明を聞くえりか。そして自分よりも遥かに大きくそして強大な力がある相手に対して恐ることなく立ち向かう姿を見て二人の背負っている責務の重さを感じる。

 

 

「つぼみは皆のためにプリキュアしてるのね」

 

 

「そうです!!」

 

 

「皆の心の花を守るためにブロッサムはブルービートと一緒に戦っているのです」

 

 

 えりかはそれを聞いて腕の拳を握った。つぼみは誰かの為に一人で・・いや、あの蒼い鎧騎士と共に戦ってはいるのに自分はファッション部のことだけしか考えてず部活の勧誘にまで付き合わせてしまった。

 自分のことだけに手一杯になっていた事に無意識に嫌悪と情けなさを感じたのかもしれない。えりかは決意を秘めた瞳をするとコフレの方を向いた。

 

 

「あたし、プリキュアやるわ!!」

 

 

「ホントですか?」

 

 

「ホントの本気よ!!あたしだって、みんなの心を守りたいもん!!」

 

 

 自分に戦う力があるなら選ばれた者として戦う責務がある・・・。なら逃げるわけにはいかない!!そして何よりも自分がデザトリアンとなった時に身を徹して助けてくれたつぼみに恩返しをする為に迷いは捨てると決意した瞬間・・・

 

 

「これはどうしたですっ!?」

 

 突然コフレの青いハート型のエンブレムが明るい青の光を放った。これはつぼみがパヒュームを受け取りプリキュアに覚醒した時と同じ現象・・・

 

 

「ココロパヒュームがえりかの心の反応してるですっ!!」

 

 そうソレはココロパヒュームがえりかのプリキュアになり戦士として戦う決意を認めた瞬間だ。コフレも自分の目に狂いはなかったと光を彼女に向ける。

 

 

「やっぱり、えりかにはプリキュアになる資格があったですっ!!」

 

 

 光が凝縮して2つめのココロパヒュームを生み出した。つぼみのパヒュームとの違いはなく全く同じもの。

 

 

「ぐっ!?・・あぁあああっ!!」

 

 

 一方その頃ブルービートとブロッサムは連携プレーでデザトリアンを浄化しにかかるもデザトリアンの素早さと防御力に苦戦していた。接近戦を挑んだブロッサムは腕で体を放り上げられるとリフティングのような動きで弾き飛ばされてサッカーゴールに身体を叩きつけられてしまう。

 

 

「ブロッサム、大丈夫か!?」

 

 

 ゴールネットがあったといえども衝撃は凄まじくブロッサムはすぐに立てないでいた。ブルービートはなんとか彼女を守ろうと向かってくるデザトリアンの前に立った。

 

 

「さぁ、デザトリアン・・・生意気な鎧騎士とプリキュアを踏み潰しちゃって!!」

 

 

 近づくデザトリアンに対して身構えるブルービート。彼女を守りきりながら戦うのは厳しい・・こうなれば躊躇せずにあれを使うしかないと覚悟を決める。

 

 

「そうはさせない!!」

 

 

 だがその思考も少女の声で一度止まった。動けなかったブロッサムは声のした方を向くと其処にはココロパヒュームを握り締めたえりかの姿があった。

 

 

「何よお前は?」

 

 

「あたしは来海えりか。二人目のプリキュアよ!!」

 

 

 サソリーナの問にえりかはそう答えココロパヒュームを見せた。その瞬間に彼女は青の光に包まれて服もつぼみと同じく光のワンピース衣に変わる。彼女の胸に光が集まりそれがコフレに送られると・・・

 

 

 

「プリキュアの種、いくですっ!!」

 

 

 コフレに集まった光が収縮凝縮し青いプリキュアの種に変化するとえりかはそれを手にとった。そしてソレをパヒュームにセットする。

 

「プリキュア!オープンマイハート!!」

 

 

 種をセットした瞬間に青い光が眩く発生する。えりかはパヒュームを胸に浴びせ上半身からブロッサムとフリルワンピースにロングブーツを装備装着される。最後にブロッサムとは違い髪はストレートロングに目の色と髪の色がメインカラーの水色に変色し変身が完了する。

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

 変身完了後に手を花に見立て指を開かせるポーズを決めたあとに名乗りあげセリフと共にポーズを決める。今この場に来海えりかは海の戦士【キュアマリン】に覚醒した。

 

 

「二人目っ!?」

 

 まさかの二人目のプリキュアの覚醒に驚愕するサソリーナ。それとは逆にブロッサムは笑顔になりブルービートも祝福するように鼻で少し笑った。

 

 

「キュアマリン~~~♪」

 

 

「でもなんで教えてないのにプリキュアに変身できるのですか?」

 

 

 二人目の戦士の覚醒に喜ぶ妖精二人。しかしコフレは疑問だった。どうして何も教えてないのにこうも簡単にプリキュアに変身できたのかだ。言われてみれば普通こういう場合は手ほどきを受けるものなのだが・・・

 

 

「昨日夢で見てたし、名前は今朝プリキュアになってって頼まれたあとずっと考えてたの。とぉう!!」

 

 

 なんとこう言う準備は用意周到。えりかはつぼみとは違いこういう事にかけては起用なようだ。そしてマリンはその場から飛び上がってブルービートの隣に着地する。どうやらプリキュアの力の制御もつぼみとは違い使いこなせるだけの技量はあるようだ。

 

 

「ここはあたしに任せて休んでいて」

 

 

「キュアマリン!!」

 

 

 マリンはブルービートと同じく自分よりも力のコントロールがスムーズなのを見てブロッサムは頼もしさに目を輝かせる。

 

 

「うん!!・・・さぁ、あたしが相手よ。かかってきなさい!!!」

 

 

「デザトリアン、何ボケっとしてるの?早くやっつけちゃって!!」

 

 

 指をさしながらマリンは挑発する。その挑発に一番先に反応したサソリーナはデザトリアンに命令しデザトリアンは回転攻撃で突風を発生させる。

 

 

「同じ手はあたしには無駄よ!!頭の上は隙だらけ!!」

 

 

マリンはその攻撃の弱点を見抜いていたのだ。回転攻撃は横四方からの攻撃には完璧なる防御を誇るが頭上からの攻撃には対処できないのだ。それ台風で例えるならば中心の目の部分が穏やかであるのと同じ理論だ。

 

「はぁあっ!!!」

 

 

 頭に対する攻撃で回転攻撃を止められたデザトリアンは肉弾戦を挑むもマリンの動きは素早くデザトリアンをぎゃくに返り討ちにするように胸にパンチを与えて吹っ飛ばした。

 

「マリン・シュート!!」

 

 

 マリンは右手を回して水の塊を無数に作り上げるとソレをデザトリアンに叩き込んだ。デザトリアンは無数の水の塊を身体に受けると衝撃でその場に倒れた。

 

 

「やっり!!!!」

 

 

 初出陣にして大活躍。マリンはガッツポーズをとりしてやったという顔を浮かべるがその隙をデザトリアンが見逃すはずがなかった。

 

 

「ボーーーール!!!」

 

 

 デザトリアンは起き上がるとボール状に身体を丸めてマリンに向かって高速体当たりを仕掛けた。マリンが気がついたときには既に回避は間に合わない距離にまで縮まっていた。

 

 

「危ない!!!」

 

 

 体当たりが当たるか当たらないかのギリギリのところで間一髪ブルービートがマリンを抱きしめて彼女と共に横に飛んだ。彼女を庇いながらブルービートが地面に転がりマリンへのダメージは最小限に防いだようだ。

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

「戦闘中に油断するな!!」

 

 

 辛口のコメントをしながらも二人の青い戦士は立ち上がった。なんとかデザトリアンの動きを止めなければとブルービートはインプットマグナムを構えるがソレをマリンに止められる。

 

「・・・お前の初出陣だ。あとはお前が決めろ」

 

 何をするつもりだと思ったが仕方がない今回は美味しいところは譲ってやるとマグナムをホルスターにしまう。

 

 

「キュアマリン、心の花を取り戻すですっ!!」

 

 

「それも分かってるって!!!」

 

 

 そこにコフレが合流しマリンに指示する・・・前にえりかは既にその方法もわかっていた。マリンは胸のクリスタルから青いハートの結晶を手に出すとそれが輝き先端の宝石と青いエンブレムのブロッサムと色違いのアイテム【マリンタクト】を召喚する。

 

 

「集まれ花のパワー、マリンタクト!!」

 

 マリンタクトのクリスタルドームを回して虹色の光を青いクリスタルに集めるとエネルギーを充填させると青い光がタクトのクリスタルから放出される。

 

 

「花よ煌めけ、プリキュア!ブルーフォルテウェイブ!!」

 

 

 充填させた花のパワーを一気に集中させるとを水色の花の形に形成させたエネルギー弾に変換させてデザトリアンに向けて勢いよく発射した。

 

 

「はぁあああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 タクトのクリスタルドームを回転さえてエネルギーを送り込んでいく。するとデザトリアンの身体は宙に浮かんでいき浄化のエネルギーが送り込まれると光を発し心の花と媒体となっていたサッカーボールが分離する。

 

 

「おのれっ~~今度はあたしが相手よ」

 

 

 一度ならず二度までも作戦の邪魔をされたことに憤怒しないはずがない。サソリーナは今度は自分が相手になると前に出るがそれと同時に休んでいたブロッサムがマリンの隣に立った。

 

「サソリーナ!!これ以上悪さを働くというのなら・・・」

 

 

 ブロッサムはマリンと顔を合わせるとお互いに目と目で会話し頷くと同時に指をさした。

 

 

『私たちが相手よ!!』

 

 

 今度は二人で勝負だとブロッサムとマリンは宣言する。それに隣でインプットマグナムをブローバックさせてサソリーナに銃口を向けるブルービートも加わる。

 

 

 

「3対1だ。例えそれなりの強さを持つ貴様でプリキュア二人にビーファイターを一度に相手には出来ないだろう。・・・だがもし今この場で勝負しようというのなら・・・俺達は容赦はしない!!」

 

 

 

 最後にブルービートが締めのゼリフを言うと流石のサソリーナもこの状況で勝負を挑むほど馬鹿ではないようで顔に汗を浮かべながらも舌打ちすると・・・

 

 

「おのれぇ・・・今日のところはこれくらいで許してあげるわ!!」

 

 

 負け犬の捨て台詞を吐くとサソリーナはその場から瞬間移動で姿を消す。今回もなんとか退けたのだ。

 

 

「キュアマリン、やりましたね」

 

 

 勝利を確信したプリキュア二人はハイタッチして勝利を分かち合った。そしてマリンの手によって取り返した心の花を水晶と合体させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さやかが元に戻り自分が間違っていることをつぼみたちに語り今度は女子サッカー部を作るという話の一部始終をブルービートは離れた場所から聞いていた。そしてつぼみの解説によれば彼女の花は【ポインセチア】であり花言葉は【私の心は燃えている】だそうだ。

 

 

「【私の心は燃えている】・・・か」

 

 

 ブルービートは空を見ながら何かを懐かしむようにそう言った。一部始終すべてを見届けた彼はその場から立ち去ろうとするとまたもつぼみに見つかってしまう。

 

 

「また来てくれたんですね・・・ありがとうございます!!」

 

 

 

「言ったはずだ・・・心の大樹を守る為に俺はいると。それだけの事・・・・っ!?」

 

 

 つぼみにお礼を言われても彼は何も返さないまま背を向ける。すると今度はえりかがかれの腕を掴んで無理やり正面を向かせる。

 

 

「もう、素直じゃないんだから・・・あたし達仲間じゃん!!なんでそんな態度なのよ?」

 

 

「【仲間】・・・か」

 

 

 えりかの【仲間】と言った瞬間にブルービートはなにか寂しそうにそう言った。するとえりかはまたいつもの悪い癖で彼にとって気に障ることを言ってしまったのかと思って申し訳なさそうな顔をする。

 

 

「あ、あの・・・もしかして気に障ること言っちゃった?」

 

 

「・・・いや、何でもない」

 

 

 ブルービートはえりかに静かにそう言うとまた彼は空を見た。しばらく考え込んだかと思うと突然・・・彼女の方を見つめ直す。

 

 

「来海えりか。言い忘れていたが・・・君にある奴から伝言を頼まれた。」

 

 

「伝言?」

 

 

 突然改まった態度になったブルービートにマリンも緊張しているのか畏まった表情になった。

 

 

「おまえは確かに自分の意見を言い過ぎて暴走する癖がある。だけどそれは時として【誰に対する救いになる】だから、無理に直すことはない・・・と」

 

 

 自分が気にしていたことを知っているかの口調にえりかは驚いた顔になった。そしてしばらく考え込むと笑顔を見せる。

 

 

「・・・じゃあその伝言を貴方に言わせた奴に伝えて。【あたしの事をちゃんと見ててくれてありがとうって】」

 

 

「ああ。必ず伝えておく」

 

 

 確かに伝言は受け取ったとブルービートは頷くとインプットマグナムをブローバックさせ煙幕弾を発射させる。二人が視界を取り戻した瞬間には既に彼の姿はなくなっていた。

 

 

 

「一体誰なんだろうブルービートって。まるで私たちのことを知ってるみたいだったよね」

 

 

 夕日が照らす街を歩きながら二人はブルービートの事が気になっていた。どうして彼は自分達を助けてくれるのだろうか?大樹の守護者だからか?・・・それにしてはまるで自分たちがピンチである時に絶妙なタイミングで助けに現れる。そんな偶然が何回も続くものだろうか?

 

 

「そう言えば昨日えりかを助ける為に私と戦ってくれた時に「えりかを助けるぞ」って言ってました」

 

 

「ああ!!」

 

 

 えりかも夢の中のことだから今の今まで忘れていたが思い出した。自分はブルービートと会ったのは今日が初めてのはず。そしてまるで自分を知っているかの口調。謎が謎を呼ぶ蒼い鎧騎士ブルービート・・

 彼は本当に味方なのか?・・・心の大樹の最後の守護者「ビーファイター」という言葉だけが彼に対して深い謎を呼ぶ。

 

 

「でも、悪い人じゃない気がします。だって私やえりかを二回も助けてくれたんですから」

 

「そうだね!!・・・よぉ~し今度出てきたらあの仮面とっちゃおうかな♪」

 

 

 悪ふざけのつもりかそう言うえりか。そしてその態度を見てつぼみは笑う・・・二人は彼の正体が気になってはいたが無理に追求はしないことにした。いつか彼が自分から正体を明かしてくれるということを信じて・・・今は待とう。彼がこちらに歩み寄ってくるその日を。

 

 

 

 

「・・・仲間か」

 

 

 重甲を解除した拓哉はある場所で落ちていく夕日を眺めていた。その場所は自分にとって特別な場所・・・。彼の前には十字架があり誰かの墓が作られていて彼はその墓前で真剣に悩んでいるようだった。

 

 

「・・・俺に仲間を持つ資格なんてない。・・・俺は・・・」

 

 

ビーコマンダーを強く握り締めながらも拓哉は震える声を出す。そしてしばらく目を瞑って黙り込んだあとその場所から姿を消した。誰にも気づかれず一人孤独の道を何故彼が突き進むのか?・・・それが分かる日はいつ来るのか・・・それは彼にしかわからない。



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第9話「思わぬ誤解」

いつもと同じ時間が流れる私立明堂学園中等部。本日も中等部、高等部の両部では何事もなく一日が流れる・・・筈だった。

 

「たぁあああああっ!!!」

 

 

 そう今日は事情が違った。砂漠の使徒にサソリーナが懲りずに私立明堂学園中等部を襲撃してきたのだ。混乱に襲われる学園に蒼鎧騎士のブルービートが駆けつけデザトリアンに立ち向かい生徒、教員、学園関係者を避難させるべく立ち向かっていた。

 

 

「ビームモード、でやぁあああ!!!」

 

 

デザトリアンに向けて空中からのインプットマグナムの砲撃、それに加えてダメ押しの急降下飛び蹴りを浴びせてデザトリアンを無理やり倒させた。だが簡単には倒されまいとダメージを受けながらもデザトリアンは立ち上がる。

 

 

「ゴーーーーール!!」

 

 

 サッカーゴールを媒体としたデザトリアンはゴールネットをブルービートに向けて絡み付けて動きを封じにかかる。まるで蜘蛛が獲物を自身の糸に絡めるような手つきは素早く、攻撃をしようと飛び上がった状態のブルービートでも回避が間に合わない。

 

 

「ぐっ!?・・・なんだこれは?」

 

 重厚な身体に絡みついたゴールネットはしっかりとブルービートを捕らえると動きを封じる。どうにかして身体に絡みつくゴールネットを焼き切ろうにも腕の動きが制限されてしまいホルスターに収められているインプットマグナムに手が届かず使えない。ブルービートは一気に形成は不利になってしまい動けない彼を見てサソリーナはニヤリと悪者の笑みを見せる。

 

 

「さぁ、デザトリアン!! ブルービートを一気に片付けちゃってぇ!」

 

 

 今がチャンスだとデザトリアンにブルービートのトドメを刺すように命令するとデザトリアンはブルービートに腕を振り下ろし彼の青く輝くインセクトアーマーを殴ると殴られた部分から火花が散った。

 

 

「ぐっ、がぁはぁああっ!?!?」

 

 

更にそれに加えてブルービートの身体を腕で掴んで持ち上げてギリギリと締め上げたあと上空に放り投げてからの体当たりを仕掛けて凄まじい勢いで吹っ飛ばす。

 

「うわぁああああっ!!!ぐっ!?・・・」

 

 

飛ばされたブルービートの後ろに素早く回り込んでゴールネットへ捕らえと飛ばされた勢いをそのまま反動力として利用され今度は後ろから前に飛ばされてしまい校庭のグランドに叩きつけられる。

 

 

「うぅ・・・ぐぅ・・・・っ!!」

 

 

縛られていて体の自由が利かないブルービートは身体を震わせながら拳をギリギリと握り締める。そしてサソリーナとデザトリアンを睨みつけると傷つたアーマーから煙があがっている。

しかしブルービートは倒れた身体に力を入れて起き上がり再度両手の拳を握り締めた。

 

 

「お前なんかに負けてたまるかぁっ!!!」

 

 

 力強く叫ぶとブルービートは自分のアーマーに縛られているゴールネットを一気に引き千切ろうと力を込める。中々力を込めても引きちぎれないのだったがブルービートは両手の拳を全力で握りしめて震わせると身体に絡みついたゴールネットを握り凄まじい握力で引っ張り上げる。

 

 

「おおおおおおおおおおお!!!!!・・・ぐぅう!!!・・おぉおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 

 ブルービートの赤い目の部分が光り輝いた瞬間に全身を震わせていたアーマーに閃光が走るとギチギチとゴールネットが音を立てて引っ張り上げる。

 

 

「力を込めても無駄よォ~~!! デザトリアン、今のうちにブルービートにトドメをさしちゃって~~~!!」

 

いくらどれだけ力を込めようともデザトリアンのゴールネットは簡単に引きちぎれない。無駄なあがきだとサソリーナはタカをくくってデザトリアンにトドメの一撃を命令する・・・がその油断からの奢りが決定的な綻びを生むことになった。

 

 

「ぐぅううううううううっ!!!・・・・うおおおぉおおおおおああああああああああああ!!!!!!」

 

 

デザトリアンが距離を縮めトドメの一撃を放とうとした次の瞬間にブルービートは身体の周囲に火花が散ると同時に自分の身体に絡みついていた蜘蛛の糸のようなに強靭であったゴールネットを引き千切る。

 

 

「でりゃぁああああっ!!!!」

 

 

 そして次の瞬間には反撃のジャンピングダブルパンチアタックをデザトリアンに叩き込んで向かってきた勢いを逆にそのまま打ち返す。先ほどのゴールネットを利用した攻撃を今度は逆にブルービートがそのまま返したのだ。

 

 

「ゴーーーーールゥ!?!?!?」

 

 

すると自分のパワーをそのまま身体に打ち返されたデザトリアンは返り討ちとなりグランドに叩き潰された。

 

 

「何!?」

 

 

馬鹿力とでも言うべき凄まじいパワーを目の当たりにしてサソリーナは驚く。プリキュアも想定外は大概であるがこのビーファイターという鎧騎士ブルービートも同じぐらいに危険因子だと改めて感じるサソリーナだったが今更気がついても既に遅い。

 

 

「スティンガーウェポン!!」

 

 

ブルービートは一気に勝負を決めると右手を背中に回す。するとその腕が蒼い光を放ちながら眩しく光り輝く。次の瞬間には蒼い光は何かの形をなしていき数秒後には変化いや、光から出現したブルービートの専用武器が初めて姿を見せる。

 

 

「スティンガーブレード!!」

 

光が収まった彼の右腕にはビーファイター専用の手甲武器【スティンガーウェポン】が装備された。ソレを背中から前に出して胸の前に掲げる。

ビーコマンダーと同じカラーリングで銀色と黒で彼の武器は自身の鎧の色と同じ蒼色の長く鋭利の刃が装備された剣【スティンガーブレード】だ。

 

 

「はぁあっ!!!」

 

 

スティンガーブレードを構えたブルービートは勢いよくジャンプしてデザトリアンとの距離を一気に縮めるとデザトリアンの身体に一閃を叩き込み斬りつけるとデザトリアンは再度倒される。

 

 

「まだまだいくぞ!!」

 

 

だが反撃だとすぐに起き上がる。それを見たブルービートも同じく剣を構えデザトリアンに向かって走る。そして距離を縮めながらの素早いスティンガーブレードの攻撃にブルービートに戦いの流れは一気に傾き始める。

 

 

「ゴーーーール!!」

 

 

 自分に向かってくるブルービートにデザトリアンはゴールネットでもう一度動きを封じようとするが同じ手はブルービートには通用しない。ブルービートはスティンガーブレードを構え振り上げると素早く移動した。

 

 

「遅い!!」

 

 

放たれたゴールネットをスティンガーブレードの蒼い刃が全てそれを斬り裂きバラバラにしていた。もはやデザトリアンの攻撃はブルービートには一切通用しない。

追い打ちの一撃だとブルービートは飛び上がると上空からデザトリアンに狙いを定める。

 

 

「たぁあああああっ!!!」

 

 

 そのまま急降下から斬りつけ攻撃を叩き込み着地したあともブルービートは振り返りざまにデザトリアンの足を斬りつけデザトリアンに反撃の隙すら与えない。そして最後に縦一文字に斬りつけデザトリアンを倒れさせる。

 

 

「トドメだ!!」

 

 

 ブルービートはスティンガーブレードを胸に翳すと胴体部分がスライドして内部が露出する。内部は銀色のギアが内蔵されていてそれが勢いよく回転すると蒼いスティンガーブレードの刃も回転する。

キュイーーーーンと金属音を響かせながらブルービートはデザトリアンへと走り一気に距離を縮めてゼロ距離にまで近づくと一度スティンガーブレードを振りかざし下ろすとスティンガーブレードの蒼い刃に蒼い光の稲妻のようなエネルギーを充填させる。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

凄まじいばかりのエネルギーを纏ったスティンガーブレードの刃をもう一度振り上げデザトリアンに向けて横斜めに振り下ろして斬りつけるとデザトリアンの身体に蒼い閃光が叩き込まれる。

 

 

「ゴーーーーールゥウ!!!」

 

 

数秒悶えたデザトリアンは倒れて爆発し消滅すると媒体となったサッカーゴールは元の場所へと戻り心の花と分離する。ブルービートは降りてきた心の花が入っているクリスタルを優しく取り回収する。

 

 

「キィーーーーーーー!!! ブルービート、覚えておきなさいよ!!」

 

 

 圧倒的な力の差を見せつけられて敗北したことにサソリーナは悔しがりながらその場から消える。心の花を取り戻したブルービートは事前に回収した水晶とクリスタルを持ち一度離れるように呼び上がると誰もいない屋上に移動する。

 

 

「よし、此処なら誰も来ないだろうし目覚めても大丈夫だ。」

 

 

 心の花と水晶を合体させてデザトリアンにされたサッカー部の少年を元に戻すと少年をその場に寝かせる。

ブルービートはその場から移動するように離れて学校の外へとジャンプして飛び上がった。

 

 

「そろそろ奴が・・・ブラックビートが姿を見せてもいい頃なのに・・・まだそこまで俺やプリキュアが危険因子と見なされていないという事か?」

 

 

デザトリアンを倒すことは出来たがブルービートはどこか満足していないようであった。彼自身も狙っている相手がいるがそれが一向に現れずイライラが募っているようだ。

いずれ必ず姿を見せる筈だと思いながらも苛立ちを隠すように気に拳を叩きつけると学園のチャイムが鳴った。

 

 

「っ!!・・そうだった、早くしないと昼休みが終わっちまう。重甲解除!!」

 

 

 そう、今は昼休み。早く戻って普通の中学生としての生活を演じなければならないと拓哉は重甲を解除しブルービートの鎧を拡散させてビーコマンダーに収納させると鎧騎士から人間としての甲斐拓哉の姿に変わる。

 

 

「今からなら5分でギリギリ間に合うな・・・よし、近道だ!!」

 

あと5分で午後の授業が始まるその前に拓哉は教室に戻ろうとグランドを囲うフェンスを飛び越える・・・上手く着地しようと下を見ると其処には予定外のものがあった。

 

 

「花が!?・・・ぐっ!!!」

 

 

 下を見ると自分が着地ポイントと定めていた所にはタンポポの花があることに気がつく。拓哉は花を避けようと無理やり別の場所に身体を飛ばすと見事着地に失敗してしまう。

 

 

「い、いってぇ~~~・・・・でもよかった」

 

 

 派手に尻餅をついてしまいその衝撃が腰に走ると痛みに拓哉は悶えてしまう。インセクトアーマーが体に装備されていればこの程度の痛みなど何でもないが流石に生身となるとそれなりの高さから派手に落ちると痛みもそれに比例する。

拓哉は自分の腰を摩りながらも花が無傷であることを確認し立ち上がる。さて、今から全速力で走れば授業に間に合うと重い拓哉は走ろうと立ち上がる。

 

 

「・・・か、甲斐くん?」

 

 

「っ!?・・・」

 

 

 聞き覚えのある声に拓哉はハッとする。声のした方向を見ると其処にはこちらを何かを知ってしまったというような顔になっている・・・まさか、重甲を解除したところを見られブルービートの正体が彼女にバレた!?

 

 

『・・・・』

 

 

なんとかこの状況をやり過ごせないか・・・何とかしてこの状況誤魔化せないかと拓哉は必死に普段は使わない頭をフルに回転させる。想定外のこの状況に拓哉の精神は精一杯で何も出てこない。気まずい空気がつぼみと拓哉の二人を包み込んでいった。

嫌なほど続く重い沈黙。吹き抜ける風に揺れる木々のざわめきが酷く五月蝿いほどよく聞こえた。季節はずれの汗が拓哉の額から溢れるように出る。・・・なんとかこの娘を納得させるような嘘を考えければと焦る拓哉だったが・・・・

 

「甲斐くん・・・・あ、あの」

 

 

 拓哉はつぼみに名前を呼ばれると身体がビクンと反応した。彼女との目線がぶつかり反らすことができない。だがようやくつぼみの唇が、僅かに動いた。その瞬間、ようやく拓哉も身体の自由が利いたのか動く。

つぼみが言葉を形成す前に彼女の前に立ち彼女が何を言う前に威圧を送り込んで黙らせる。

 

 

「今・・何を見た?」

 

 

「え、え?・・いえ、あの・・・」

 

 

 普段見ない拓哉の威圧感につぼみは恐怖する。日ごろ大人しい姿しか見せない人間が凄い剣幕で近づいてくるのを見たら誰もがこうなるだろう・・・はっきりしない態度に拓哉は苛立ったようにしながらも一度彼女を見る。

 

 

「今見たことは忘れろ。そして絶対に誰にも言うなよ・・・特に絶対にえりかには・・・誰かにバラしたらその時は・・・」

 

 

 拓哉はハッキリしない態度でオドオドするつぼみの身体を押さえつけるように肩を掴んだ。そして念押しするように彼女に忠告する。つぼみは拓哉の言葉につぼみは少し震えながらも頷きそれを見た拓哉はつぼみの拘束を解いた。

 

 

「・・・・」

 

 

拓哉はそのあとすぐに全速力で教室へと走りその場から逃げるように姿を消し残されたつぼみは数十秒ほど放心状態となるが予鈴のチャイムが成り我に返る。そして自分も急いで戻らなくてはと走りながらも思ったことは・・・

 

「甲斐くん、昼休みに学校に抜け出すのはよくありませんよ!!」

 

 

 つぼみは拓哉が居なくなったあとにそう呟いた。実は彼女が見たのは拓哉が重甲解除した場面などではなく拓哉が学校の外からフェンスを飛び越えたあとタンポポの花を庇って尻餅をついて怪我をしたその瞬間だったのだ。

 先ずは学生が昼休みとは言えど勝手に学校を抜け出したことをクラスメイトとして注意しそのあとに花を庇った事を褒めて嫌な空気を相殺しようと思ったが拓哉の思わぬ威圧に押し負けてしまったため何も言えなくなってしまったのだ。

 

「・・・でも甲斐くんが花を庇ったのは意外でしたよ」

 

拓哉が全速力でつぼみの前から逃げるように姿を消したあとつぼみも急いで教室に戻るとギリギリ二人は授業に間に合う。

 

 

「つぼみ、拓哉、二人とも何処に行ってたのよ?」

 

 

 教室にほとんど同時に入ってきた二人は自分の席に着席するなりえりかに問いただされる。しかし二人の耳にはえりかの言葉は届いておらず拓哉とつぼみはお互いに的違いの抱えてをしてしまっていた。

 

 

「(正体がバレたのは本当に花咲さんだけか?・・・いや、もしも他に誰か見ていたとしたら・・・・やっぱり学校で重甲なんてするじゃなかったよ!!)」

 

 

「(甲斐くん・・・やっぱりあとでちゃんと一言言わないと。でも言われた通り、えりかにはちゃんと黙っておきましょう)」

 

 

 お互いに勘違いしたまま午後の授業を受けるのだが・・・その間にも拓哉とつぼみは何処かぎこちない雰囲気を醸し出している。



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第10話「目覚める戦士!! 覚醒のブルービート」

 放課後になるとファッション部の部員勧誘の為にとえりかを含め拓哉とつぼみはファッション部の部室に来ていた。えりかの作戦会議という名の雑談を二人は聞いてはいるが話は耳に入っても頭に留まることはなかった。

 

『・・・・・』

 

 

 えりかは昼休みのあとから様子がおかしい二人から発する違和感に既に気がついていた。一体この二人に何があったのだろうと思いながらも無理に聞けない。

 

 

「そういえばさ、今日も来てくれたねブルービート」

 

 

 突然えりかの【ブルービート】という単語に拓哉はビクン身体を反応させる。それにえりかとつぼみは不思議そうな顔をするが拓哉はもしや秘密にしろと念押しした事をバラされたと思ったが・・・・

 

 

「あたしはやっぱりブルービートってこの学校の人なんじゃないかと思うんだよね~~だってそうじゃなきゃ学校に颯爽と出てきたりしないよ!!」

 

 

 

 えりかの発言を聞いて拓哉はギクリと動揺したように嫌な汗をかく。しかし普通なら考えられないようなブッ飛んだ推理なのだがそのブルービートの変身者である本人が目の前にいるなど絶対に言えないと拓哉は首を横に振った。

 

 

「どしたの拓哉?」

 

 

「え、・・・あぁ・・ちょ、ちょっとトイレに」

 

 

 早くこの場から逃げたいと拓哉はそう心の中で非願の声を上げる。話を聞く限りそして様子を見る限りではえりかはつぼみから何も聞いていないと思われるが自分はもう心臓が破裂しそうなほど緊張が隠せないでいた。

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 以前と続く拓哉とつぼみの微妙な空気・・・えりかもそれには流石にどうしたのだと二人に問おうとしたその時ファッション部の窓からシプレとコフレがものすごい勢いで飛んできた。

 

 

 

「つぼみ、えりか大変ですっ!!」

 

 

「デザトリアンが街で大暴れしてるですぅ!!!」

 

 シプレとコフレの報告に3人は急いで学校からデザトリアンが出現したという場所へと向かう。現地に着くと襲われた街はデザトリアンの襲撃で歩道橋が潰されコンクリートの地面には穴が空けられていた。

 

 

「なんて事を・・・・っ!?」

 

 

 逃げまとう人々を見て拓哉とつぼみは言葉を失う。混乱で人々は悲鳴を上げて場所を行ったり来たりしている。街の歩道橋にはサソリーナではない別の人物がニヤついているのが見え拓哉はそれを見つける。

 

 

「貴様、何者だ!?」

 

 

 拓哉はその人物を見つけると大声でそう問いただす。すると歩道橋にいた男はそこから飛び降りてこちらを睨んだ。赤い色の髪を広げたような長髪にダンダラ模様の白色のロングコートが特徴だ。

 

 

「砂漠の使徒の一人・・・大幹部【クモジャキー】」

 

 

 クモジャキーは自分の名を名乗りあげると拓哉たち3人を睨みつけた。そして後ろには既に使役として操っているデザトリアンが咆哮を上げる。

 

 

「サソリーナとは別の幹部だって?」

 

 

 拓哉はサソリーナの他にも別に砂漠の使徒には侵略を実行する輩が存在したのかと驚く。つぼみとえりかも同時に驚いているが臆することなく二人は前に出る。

 

 

「拓哉は下がってて」

 

 

「ここは私たちの出番です!!」

 

 

 二人は同時にパヒュームを取り出すとピンクと青の光に辺りは包まれる。つぼみからピンクのえりかから水色の光がシプレとコフレに送られる。

 

『プリキュアの種、いくですっ!!!』

 

 

 2匹の妖精からそれぞれの光を凝縮させたプリキュアの種が呼び出されつぼみ、えりかは各々の種を手に取る。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!』

 

 

 同時にパヒュームに種をセットし光りを増幅し発生させると二人は上半身にパヒュームからの光を浴びる。上半身にコスチュームが纏われると次につぼみがえりかの腕を組んで背中合わせに回ると下半身にスカートが纏われ次の瞬間に足にロングブーツが形成される。

 最後にそれぞれの髪の毛の色と瞳の色がメインカラーになりリボンで纏めピアスが出現して全体の変身が完了するとパヒュームをキャリーにしまう。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

 二人はそれぞれ名乗り上げながらポーズを取ると次の瞬間に同時にもう一度ポーズを決め直す。

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 ブロッサムとマリンは同時に名乗り上げを決めてポーズをとる。いつの間に考えたチーム名に拓哉は「おおう」と声を上げたのと同時に二人は飛び上がりデザトリアンの攻撃を避ける。

 

 

「ふん・・・貴様らに興味はないぜよ。俺が戦いたいのはブルービートじゃき!!」

 

 

 クモジャキーはデザトリアン攻撃命令をしながらも離れた場所でそう言った。そうこの男は何よりも強者との戦いを好む闘いの猛者であった。

 

 

「じゃあ、ブルービートと戦いがためにわざわざデザトリアンを?」

 

 

「そうじゃ。お前らみたいに二人でなきゃ戦えん奴等はどうでもいいぜよ。俺が戦うべき相手はブルービートじゃき。行けぇ、デザトリアン!!」

 

 

 昼間のサソリーナの作戦の失敗からブルービートの強さを聞き強さを求める彼はブルービートと一戦交えるためにわざわざ出向いたということなのだ。

 

 

「そんな勝手許さない!!」

 

 

 マリンは怒りを見せながら共に飛びデザトリアンに急降下からの飛び蹴りを浴びせる。マリンの勢いがついた飛び蹴りは確実にヒットし手応えを感じるもデザトリアンは腕を振り上げてマリンを吹っ飛ばした。

 

 

「マリン!!・・・・っ!?・・・あぁあああああああっ!!!!」

 

 

 マリンに続きブロッサムも同じように飛ばされてしまう。拓哉は急いで人目につかないところに移動しようと思った矢先・・・・

 

 

「大丈夫か?・・・今瓦礫をどける」

 

 

 一人少年が逃げ遅れているのが目に入った拓哉は急いで駆け寄りコンクリートの瓦礫を持ち上げる。常人で尚且つ中学生が持つには重たい瓦礫だがなんとか持ち上げる。

 

 

「?・・・何をしてるかと思えば目障りぜよ。デザトリアン!!」

 

 

 拓哉が瓦礫を退かして少年を逃がしているのを見てなにか気に食わないとクモジャキーはデザトリアンを拓哉のいる方向へと進ませる。拓哉が目に映ったデザトリアンはそのまま巨大な腕を振り下ろす。

 

 

「ああっ!!!・・・くっ!!!」

 

 

 なんとかデザトリアンの攻撃を避ける拓哉。自分が攻撃されることは想定外ではあった今のままではどうしようも無い。なんとか逃げるしかない・・・いつになく素早い動きでデザトリアンの攻撃をなんとか避ける。

 

 

 

「ちっ!!ちょこまかと動き回りおって」

 

 

 拓哉の素早い動きによってデザトリアンは追いつかないようで攻撃が中々当たらない。距離を取った拓哉はもう少しでデザトリアンをまけると走る。逃げ回るのは気に食わないが今は無様でも仕方あるまいと自分に言い聞かせていた。

 

 

「花が!?・・・くっ!!!!」

 

 

 しかしながら逃げることに夢中になっていた拓哉は道端に咲いていた花を踏みそうになってしまう。花を踏む寸前で拓哉は空中回転するように身体を飛ぶが着地に失敗して派手に転んでしまう。

 

 

「ちょ、なにやってんのよ拓哉!?」

 

 

 普段の拓哉ならありえない程のそそっかしい行動に驚くマリン。そこへ振り下ろされるデザトリアンの大きな拳。生身の拓哉なら間違いなく即死レベルのその攻撃は今、まさに彼を粉砕しようとしていた。

 

 

「くっそぉ!!!うわぁああああああああああっ!!?!?」

 

 

 重甲しようにもブロッサムとマリンの目の前にいるためそれも躊躇する拓哉。迷っている間にデザトリアンの拳は拓哉に向かって振り下ろされる・・・もはや自分もここまでかと拓哉は恐怖と絶望に目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ?・・・俺は生きているのか?・・・一体何が?」

 

 絶体絶命の大ピンチに陥った甲斐拓哉は自分になんの痛みも走っていないことに気がつく。一体何が起きたのだと疑問に思いながらもソっと目を開ける。

 

 

「ブロッサム?・・・・・・俺を、助けてくれたのか?」

 

 

 すると其処には自分を守るためにデザトリアンの大きな腕を受け止めている最弱のプリキュアと言われてしまったキュアブロッサムが踏ん張って耐えている光景があった。

 

 

「大丈夫ですか?甲斐くん」

 

 

 

 デザトリアンの攻撃を受け止めてなんとか踏ん張るブロッサムは拓哉に優しく彼に声をかけた。その姿を見て拓哉は驚きと自分を助けてくれたブロッサムに対して感動が溢れ出ていた。

 

 

「ふん、弱いのう。そんなちっぽけな人間一人ごとき放っておけばいいんじゃ。強さこそが全て!!・・・小僧、お前のような弱者などは存在する価値もないぜよ!!」

 

 

「くっ!!・・・」

 

 

 「強さこそ全て」クモジャキーのその言葉が拓哉の心に矢のように刺さった。自分もその意見には同感だと思っている事が悔しい・・・だがそのクモジャキーの言葉を即座に否定する声が上がる。

 

 

「そんなことありません!!」

 

 即座に否定したのはブロッサムだったのだ。彼女はクモジャキーを圧するようにそう言いデザトリアンの攻撃から拓哉を守りながらもクモジャキーを睨む。

 

 

「甲斐くんは弱くなんかありません。誰よりも優しく強い心を持った素敵な人なんです!!」

 

 

「何っ?」

 

 

ブロッサムの言葉に驚くクモジャキー。そしてそれを間近で聞いていた拓哉も同じく驚いていた・・・・拓哉は自分が他者からどう思われているなど考えたことがなかったのだ。

 

 

「たしかに、甲斐くんはどこかよそよそしい、他人に対して冷たいところもあります。でも、なんだかんだで困ってる人や泣いてる人を放っておけない、そんな人です! 」

 

「ブロッサム・・・・」

 

 

 拓哉はブロッサムの言葉を聞いて胸にナイフが刺されたような感覚が襲う。しかし痛みだけではない。自分を見てくれていたブロッサムへの感動と驚きが混ざった不思議な感覚。  【優しさ】・・・・長い間でいつの間に拓哉が忘れていた言葉だ。そうだ・・・本当の俺は・・・・

 

 

「今日の学校での昼休みの時フェンスを飛び越えた時に花を庇って彼は怪我をしました。今だって甲斐くんは自分の危険も顧みず逃げ遅れた男の子を助けました!!」

 

 後ろにいる拓哉に対して言葉を続けるブロッサム。拓哉はその彼女を見て思った。彼女も本当は弱くなんてない・・・誰よりも強い。プリキュアとしての力では弱くても人を守りたいという思いは自分にも負けていないのだ。

 

 

「そしてさっきは道にあった花を庇い転んで逃げ遅れてしまいました・・・・でもそれは本当の甲斐くんが誰よりも優しい心の持ち主だという証拠です!! 力が強ければ【強い】ってことなにはなりません、それだけではただの【暴力】です!

 

 

【暴力】・・・その言葉も拓哉の心に強く突き刺さった。今の自分は父を超えることに拘るばかりに力こそが強さと勝手に考え武力という名の【力】を求めてまるで囚人のように彼の心を縛り付けていたのかもしれない。

 

 

「(父さん・・・今の俺を見たら貴方も同じことを・・・)」

 

 

 拓哉は今までの行動全てを思い起こすように目を瞑った。そうだ・・・俺が本当にやらなきゃならない事は・・・本当に俺がするべき事は・・・

 

 

「たぁあああっ!!ブロッサム、いいこと言った!!!」

 

 

 起き上がったマリンがデザトリアンを蹴り飛ばしてブロッサムの隣に立つ。その顔はいつもの笑顔で満ちているがクモジャキーを見るとキリっとした表情に切り替わった。

 

 

「昔からぶっきらぼうで他人に対してつんけんしてるところあってとっつきにくいけど、でも・・・あたしのこと誰よりも近くで見てくれた。だからあたしも、拓哉の前では本当の自分でいることができた。力が強いだけのアンタなんかより、拓哉の方が何倍も強いんだから!!!」

 

 

「マリン・・・・」

 

 

 幼馴染のえりかが・・・いや、マリンの言葉も拓哉に強く響いた。マリンは拓哉の顔を見てグーサインを送ると拓哉の顔も笑顔が戻る。拓哉の心の中に残っていた複雑な思いが一つの確信へと変わっていく

 

 

「あの小僧が俺よりも強いじゃと?・・・男は一人、人生の荒波を超えていくんじゃ!!【優しさ】など全く下らん!!」

 

 

 クモジャキーは自分が携帯している剣の鞘を抜きそれを振り回してブロッサムとマリンの言葉を断固否定した。だが二人も負けじと食ってかかる。

 

「下らなくありません!!」

 

 

「拓哉がなんでアンタなんかより強いか・・・・教えてあげるよ」

 

 

「甲斐君の強さ、それは・・・・」

 

 

『心の強さです!!(よ!)』

 

 

【心の強さ】

 

――――――そうだ、戦うだけの力だけが強くても何も守れない。だが守りたいと思う心だけでも何も守れない。【守りたいと思う心】と【戦う為の力】その二つがそろって融合するときに生まれるのが真の【強さ】なんだ。

 

 

「・・・・そうだ。そんな簡単なことだった」

 

 

拓哉は立ち上がるとブロッサムとマリンの間へと歩み寄る。かつて自分が誰よりも憧れていた存在・・・父親に教えられた言葉と意味を・・・【力の意味】を胸に秘めて。

 

 

「一番大切なことを忘れてたよ。何よりも大切なことだったのに・・・・父さん、俺はやっぱり向いてないよ。アンタみたいに戦うなんて」

 

 

 拓哉は自嘲の笑いを浮かべてポケットから取り出して手に持つビーコマンダーを見つめる。角が淡く蒼い光を纏って輝いてまるで拓哉の意思に反応し同調しているかのようだ。

 

 

「おい、脳筋野郎!!・・・たしかお前ブルービートと戦いたいんだったよな?」

 

 

「そうじゃ!! お前ブルービートの居場所を知ってるのか?・・・ならばさっさと教えるぜよ!!!」

 

 

 ブルービートという言葉を聞いてクモジャキーは即座に反応する。今の目的はブルービートと手合わせをすること。最弱のプリキュア二人組など眼中にないと態度で示すと拓哉は鼻で笑う。それにクモジャキーは疑問の顔になる。

 

 

 

「ブルービートならいるぜ?・・・今お前の目の前にな!!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーのウィングを開かせ腕を組む。拓哉がもっているビーコマンダーに気がついた二人も驚いた。

 

 

「重甲!!!」

 

 

 ビーコマンダーを頭上に上げると其処から発せられる眩いばかりの蒼い光に拓哉の身体は全身包まれる。腕から胸に重厚なるその鎧が纏われ最後には蒼いカブトムシの仮面に顔を覆われ拓哉の姿を変える。もう一人の大樹を守る心の大樹を守護する蒼き鎧騎士の姿へと。

 

 

「拓哉!?」

 

 

「甲斐くん!?」

 

 

 拓哉の姿が自分たちと共に戦っていた鎧騎士ブルービートへと姿が変わったことに驚く二人。ブルービートはその二人に構わず前に出るとクモジャキーを睨みつける・・・そして彼は身体に纏われた鎧を動かしポーズを決める。

 

 

「ブルービート!!!!」

 

 

 鎧が動く金属音を響かせながらもポーズを決めブルービートは自分の名を名乗り上げる。そしてもう一度ポーズを崩すとブロッサムとマリンのように再びポーズを決め直して叫んだ。

 

「重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 青い閃光と共にブルービートは大樹の守護者の総称【ビーファイター】と名乗り上げを高らかに決める。それは拓哉がブロッサムとマリンを仲間として認めた瞬間でもあった。そして甲斐拓哉という一人の少年自身の戦士としての迷いと力に対する執着が消え純粋な戦士として改めて覚醒した瞬間でもあったのだ。



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第11話「深まる絆」

 クモジャキーとデザトリアンの間に対峙する鎧騎士ブルービートの鎧は凄まじい輝きを放ってそれが敵に対する威圧となって放たれていた。それに臆することなくクモジャキーは目的の相手が出てきたことに寧ろ歓喜の笑みを浮かべていた。

 

 

「ほぉ~弱々しいお前のような小僧がブルービートだったとは・・・面白いぜよ。さぁ、俺と勝負じゃ!!!」

 

 

 クモジャキーは剣を構えながらも興奮した口調でそう言うとデザトリアンの前に移動しブルービートに決闘を挑む。ブルービートもそれを了承したかのように前に出る。

 

 

「ブロッサム、マリン。デザトリアンの浄化を頼んだぞ。・・・あの脳筋野郎はやつのお望み通り俺が叩く」

 

 

 いつものように冷たい口調ではなくいつもの甲斐拓哉としての口調でブルービートは二人にそう言った。それを聞いたブロッサムとマリンも彼の様子を見て安心したかのような笑顔になった。

 

 

「分かった。絶対に負けないでよ」

 

 

「ああ、勿論分かってる。・・・お前たちも負けるなよ!!」

 

 

 3人はそれぞれの標的に向かって走りブルービートはクモジャキーへとブロッサムとマリンは暴れまわるデザトリアンへと向かう。これ以上好き勝手にさせないと戦士たちはそれぞれの相手に戦いを挑んだ。

 

 

「俺はサソリーナのようにはいかんぜよ。お前を倒して世界を相手にするぜよ!!」

 

 

 お互いに一定の距離を保ちながらも睨み合い身構え隙を見せないでいた。クモジャキーの声に無言でブルービートは拳を握りながらも彼を睨むと一気に距離を縮めるように飛び上がり得意のフライングダブルパンチアタックを叩き込んだ。

 

 

「その野望絶対に叶えさせない!!」

 

 

 力強いブルービートの声にクモジャキーは笑みを見せて立ち上がると剣をブルービートに振り下ろし彼のインセクトアーマーを傷つけさせる。反撃を受けるがブルービートは怯まずパンチを叩き込んだ・・・だが・・・・

 

 

「こんなものか・・・・お前の強さは!!」

 

 

「何っ!?・・・ぐっ!?・・うわぁあああっ!!!」

 

 

 ブルービートの攻撃はクモジャキーに対して殆どダメージは与えられていないようで彼と組み合うとそのまま勢いよく彼を空に向けて投げ飛ばす。

だがブルービートは投げ飛ばされながらも空中回転でなんとかバランスを取り戻すと壊された歩道橋に着地する。

 

 

「たぁあああっ!!!!」

 

 

「ふんっ!!!」

 

 

 そのままブルービートは歩道橋から飛び上がると飛び降りた勢いを乗せた強烈な飛び蹴りをクモジャキーに向けて放つ。しかしそれに対してクモジャキーは剣を振るい刃からソニックブームのようなエネルギー波を発生させてブルービートに向けて発射する。

 

 

「ぐわぁあっ!?!?」

 

 

 攻撃しようと向かったブルービートは回避行動が間に合わずクモジャキーのソニックブームが見事に身体全体に命中してアーマーに火花が散り地面へと落ちた。なんとか立ち上がるもクモジャキーは攻撃の手を緩めなかった。

 

 

「思った以上に弱いぜよ・・・これではまっことつまらんじゃき!!!」

 

 

「ぐあぁああああっ!!?!?・・・うわあぁああああ!!!」

 

 

 立ち上がったブルービートに向けて追い打ちのソニックブームを数発放たれると避けるまもなく見事に彼へと命中しブルービートのアーマーに刃の型を取ったような亀裂が走る。これが大幹部を名乗るクモジャキーの強さ・・・・口先だけはないことをブルービートは思い知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブロッサム、ダブルパンチよ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 ブルービートとクモジャキーが激戦を繰り広げられる中ブロッサムとマリンは共に協力してデザトリアンと戦っていた。マリンの指示をブロッサムは聞き共に走って勢いをつけてからのダブルパンチを叩き込んでいく・・・

 

 

「ダブルプリキュア・・・・きゃぁあっ!?」

 

 その筈だったのだが・・・・ブロッサムは穴が開けられた地面に躓いてしまうとそのまま派手に転んでしまう。ブロッサムのそそっかしいのはやはりプリキュアになっても変わることはできないのか?

 

 

「うわぁあっ!?」

 

 

 それに釣られてマリンもブロッサムと一緒に転んでしまい二人仲良く地面に倒れてしまう。こういうチームワークは・・・正直言えば全く役に立たないのは説明するまでもないだろう。二人が転んでいる間にもデザトリアンは足を進めて彼女に迫る。

 

 

「うぅ~~ゴメンなさい!!

 

 自分が原因でマリンに迷惑をかけたマリンに謝るブロッサム。やっぱり自分は足を引っ張ってばかりでマリンのパートナーでいていいのか?・・・そんな迷いが彼女の戦いに乱れを生み出してしまう。

 

 

「ダイシャーーーーー!!!」

 

 

 デザトリアンがブロッサムに向けて大きな腕を振り下ろされる。彼女は立ち上がりざまであった事もあり回避が遅れてしまう。ブロッサムは恐怖のあまりに思わず目を瞑ってしまい動きが止まる。

 

 

「きゃぁあああっ!!!??」

 

 

「ああああぁあっ!?!?」

 

 

 だがその彼女の前に立ったマリンが身代わりになる形で攻撃を受けると衝撃に耐えようとするも流石に至近距離からの攻撃には耐え切れず後ろにいたブロッサムも巻き込んで飛ばされてしまう。

 

 

「すみません。私マリンの足を引っ張ってばかりで」

 

 

「そんなことないって」

 

 

 思わぬ迷いにマリンを巻き込んだことで自責の念がブロッサムのメンタルを侵食するように追い詰める。つぼみの責任感が強い故に自分が脚を引っ張って他者に迷惑をかけることが何よりも許せなかったのだ。

 

 

「ダイシャーーーーーーーー!!!!」

 

 

 デザトリアンは二人に対して追撃をと巨大な腕を振り揚げそのまま二人を押し潰しにかかった。マリンは抱きかかえていたブロッサムを庇うように突き飛ばすとデザトリアンの腕を受け止めて踏ん張る。

 

 

「マリン!!・・・・また迷惑かけて!!」

 

 

 またしても自分のせいでマリンの足でまといになってしまった。ブロッサムもすぐに彼女を支えるべくデザトリアンの腕を掴んだ。

 

「やっぱり私ダメなんです!!ブルービートやマリンみたいに強くなれないんです・・・ マリンはブルービートみたいにもっと強い娘と組んだほうがいいんです!!」

 

 

 自分はやはりマリンやブルービートとは違う。戦いに未だに慣れないためにマリンの足を引っ張っている事にブロッサムは耐えられないのだった。自分より強いプリキュアになれる娘と組んだほうがマリンのためでもあるかもしれない。だがそれを聞いたマリンは・・・

 

 

「もしかしてそのことで今日悩んでたの?」

 

 

「はい」

 

 

 

「そうだったんだ・・・・もう、ちゃんと言ってよ。言ってくれなきゃ分からないよ!!」

 

 

 何を悩んでいたのかと思えばそういうことだったのかとマリンはブロッサムの本心を知ると安心したように笑顔になった。そして自分がブロッサムをどのように思っているかを告白する。

 

 

「あたしはブロッサムが好き。頭が良くていろんなことに気が付けるなんて素敵だもん!!」

 

 

「マリン!!」

 

 

 悩んでいたのがバカらしくなるぐらいにマリンに自分の長所を褒められるとブロッサムは今まで悩んでいたことが吹っ飛んだ。マリンと共にデザトリアンの腕を持ち上げると二人はフルパワーを合わせる。すると力強く伸し掛っていたデザトリアンの腕を見事持ち上げデザトリアンを押し倒す。

 

 

「私たちは二人でプリキュアだよ!!」

 

 

「二人でプリキュア・・・本当に、本当に私でいいんですか?」

 

 本当に自分みたいな弱いプリキュアがパートナーでいいのか?ブロッサムはまだその迷いが捨てきれないでいたがマリンはその心配など当てはまらない程彼女を手を握りながら笑顔で答えた。

 

「ブロッサムでいい・・・じゃなくてブロッサムがいいの!!」

 

「・・・はい!!」

 

 その言葉を聞いてブロッサムも完全に迷いが吹っ切れたようで彼女の顔にも不安の表情が完全に消え去った。もうブロッサムは全くデザトリアンへ真に覚醒した二人の絆を見せつけてやる。

 

 

「ここは二人攻撃です!!」

 

 

「二人の心が一つになった今・・・・」

 

 

『超スーパーな技がきっと出せるですっ!!』

 

 

 どこからともなく現れたシプレとコフレが二人にそう言って二人が真の絆を合わせた時に出せる二人が出せる真の力を今こそ開放する時だと。それを聞きブロッサムとマリンはお互いの顔を見る。

 

 

「マリン!!」

 

 

「やろう!!」

 

『コレが私たちの二人の力!!』

 

 二人も今の自分たちならば最高の力を開放できると確信しデザトリアンの前に立った。次の瞬間に二人は同時に胸のクリスタルからピンクと青のハートの結晶を呼び寄せるとブロッサムタクトとマリンタクトを召喚し同時に手にとった。

 

『集まれ花のパワー!!!』

 

 

「ブロッサムタクト!!」

 

 

「マリンタクト!!」

 

 ピンクと青の光がタクトに集まっていくと花のパワーが吸収されるように二人のタクトに集まっていく。二人のタクトのエンブレムに光が灯る。その後二人はタクトのクリスタルドームを回してタクトにエネルギーを充填させるとタクトの先端のクリスタルが輝いた。

 

 

『集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワー・フォルティシモ!!!』

 

 

二人はタクトをクロスさせて充填させたそのエネルギーを解放させてタクトを振ってフォルテッシモ記号のような形をしたピンクとブルーのエネルギーを生み出すとそれを身体に纏う。

 二人は手をつなぐと同時に飛び上がってピンクと青の光のエネルギーを融合させるように手を繋ぎデザトリアンに向かって突撃して貫いていくとハート型の大きな穴を開けてデザトリアンの後ろに立った。

 

 

『ハートキャッチ!!!』

 

 

 二人のトドメとその言葉を発した瞬間にデザトリアンは大爆発を起こして身体は宙に浮き上がっていくその間にも二人はタクトのクリスタルドームを激しく回しタクトから浄化のエネルギーを送り込んでいくとデザトリアンはついに消滅し媒体となった荷物台車と心の花が分離する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブロッサムとマリンがデザトリアンとの戦いの中でお互いの絆の強さを確かめ合った中でブルービートはクモジャキーの思わぬ力強さに苦戦を強いられる。

 

 

「ぐわぁっ!?!?」

 

ブルービートの蒼い鎧はクモジャキーの剣での攻撃で抉られてあちこち傷がつけられている。しかしブルービートは何度攻撃を受けようとも何度も倒されそうになろうとも立ち上がる。

 

 

「はぁ、はぁ・・はぁ・・・」

 

 

 激流のごとくの凄まじい攻撃の前に体力も消耗しているがブルービートは勝ち誇っているクモジャキーを睨みつけながらも今の自分の思いを曝け出す。

 

 

「アイツらは言った・・・・真の強さの意味を。俺は危うくお前のように戦うだけのマシーンになりかけた・・・でもそれじゃダメなんだ!!」

 

 

「不抜けたことを・・・・力の強さこそ男が求めるもの・・・・心の強さ?んなもんに意味などないぜよ!!」

 

 

 クモジャキーはブルービートに向けでサーベルを振り下ろすと彼の肩のアーマーに刃が食い込んだ。だがブルービートはそれに怯まず刃を掴みクモジャキーに逃げられなくさせるとクモジャキーの首を掴み睨みつけた。

 

 

「クモジャキー、自分たちの欲望のために人の心を利用するお前たちに・・・俺は・・・いや、”俺たち”は負けない!!!」

 

 

 クモジャキーの大きな身体を背負投げのように投げ飛ばしブルービートは煙が出てボロボロになっている自分の姿も気にせずさらに彼に向けて言葉を続ける。

 

「みんなの心を守るために俺たち守護者は戦う!!戦い続ける。それが【ビーファイター】だ!!」

 

 ブルービートは拳を握り締めクモジャキーに向かって走った。対するクモジャキーも返り討ちにしてやるとブルービートに向けて剣を振り下ろしたのと同時にブルービートは拳をクモジャキーに向けて突き出した。

 

 

「たぁあああっ!!!!!」

 

 

「うおおおっ!?!?」

 

 勝利したのはブルービートだった。彼の拳がクモジャキーの剣を弾き飛ばしクモジャキーはその勢いに負けて地面へと飛ばされてしまっていた。先程までのブルービートとは何かが変わった事にクモジャキーは驚く

 

 

「スティンガーウェポン!!」

 

 敵が自分の反撃の攻撃に怯んだその瞬間を見逃さずブルービートはスティンガーブレードを装備しクモジャキーと剣での直接対決を挑む。

 

 

「面白いぜよ!!・・・来るがいい、ブルービート!!」

 

 

 ブルービートのスティンガーブレードとクモジャキーの剣が激しくぶつかり合う。火花を散らす二人の剣だが一瞬の隙をつくようにブルービートのスティンガーブレードがクモジャキーの身体を切り裂くと戦いの流れはブルービートに一気に傾いた

 

 

「でやぁああああっ!!!!」

 

 

「ぐうっ!??」

 

 ブルービートのスティンガーブレードがクモジャキーの身体を斬りつけると彼の身体から火花が散る。ブルービートは振り向きざまにもう一度クモジャキーの身体を横一文字に斬りつけたあと左手で掴んで彼を投げ飛ばした。

 

 

「お前が力の強さだけが正義と思っているのなら・・・絶対に俺達に・・・いや、“俺にすら”勝てない!!!」

 

 

 自分に大切なことを教えてくれたブロッサムとマリンの方が自分よりも強い。力に囚われた哀れな囚人などに絶対に負けないとブルービートはブレードで3斬撃を追い打ちでクモジャキーの体に叩き込んだ。

そして最後のトドメだとスティンガーブレードの胴体部分のハッチをスライドさせ内部のギアを高速回転させる。回転に比例してスティンガーブレードの刃も高速回転させてエネルギーを充填させてそのままクモジャキーへと向かった。

 

 

「ビートルブレイク!!!!」

 

 

 ブルービートがブレードを一度振り下ろしもう一度腕を振り上げると蒼い閃光がブレードに降り注がれる。その次の瞬間にブルービートはクモジャキーに向けてエネルギーを纏ったスティンガーブレードの刃を横斜めに振り下ろす。

 

 

「ぐおおぉおおおおっ!?!?」

 

 

 ビートルブレイクがクモジャキーの身体に叩き込まれると蒼い閃光と共に大爆発を起こす。流石の大幹部といえどもこの一撃には無傷では済まされないはず・・・ブルービートはスティンガーブレードを振るいながらも様子を伺う。

 

 

 

「面白い、もっと強くなれブルービート!!・・・そしたら俺が倒してやるぜよ!!!」

 

 

 爆発と爆風が静かになるとそこからクモジャキーが右肩を抑えて姿を見せた。見ればデザトリアンも既にプリキュアたちに浄化されており自分も負傷しているため今日のところは撤退が得策だと判断し捨て台詞を吐いてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重甲解除!!」

 

 

 ブルービートは重甲解除し甲斐拓哉の姿に戻る。その彼に同じく戦いを終えたつぼみ、えりかの二人がかれの後ろにソっと近づいていた。

 

 

「ありがとう。二人のおかげで大事なことを思い出したよ」

 

 

 拓哉は二人に向けてそう言って笑顔を見せた。普段の彼の素っ気ない態度からは想像し難い態度につぼみは勿論だが昔からの付き合いのえりかも久々に彼の満面の笑みを見たと少し驚いているようだった。

 

 

「つぼみ、えりか・・・今まで黙っていて悪かった。でもこれからは改めて俺を仲間として加えてくれるかい?」

 

 

「い、今私のこと【つぼみ】って」

 

 

 拓哉が自分のことを名前で読んでくれた。どこか人を避けているように感じ彼が自分の名前を呼んでくれたことに感激し拓哉に思わず笑顔を見せる。

 

 

「あ、・・・えっと・・・いきなり名前で呼ぶの嫌だった?」

 

 

 思わず拓哉も普段の自分らしからぬ事をしてしまって本人も驚いているようだったが、つぼみはそんな事ないと首を横に振った。それを見て拓哉は「よかった」と安心したようでふぅと息を出す。

 

 

「私も【拓哉】って呼ばせてください」

 

 

 その代わりと言うのは変な話だがお互いに名前で呼び合うことにを了承させるようにつぼみもそう言った。それに拓哉はぶっきらぼうながらも首を縦に降った。

 

 

「どりゃぁあ~~~~~」

 

 

 突然えりかが二人の間に入り二人に抱きついてきた。拓哉とつぼみは唐突のことに驚くがその二人を全く気にせずえりかは二人の身体を腕で抱きしめた。

 

 

「あたし達の絆も強くなったよね」

 

 

「はい!!」

 

 

「おい、なんだよ急に?」

 

 

 いきなりの幼馴染の暴動に何だどうした?と拓哉は思ったがえりかのいつにもなく改まった顔に拓哉は不思議そうな顔を浮かべた。えりかはその拓哉とつぼみの方へと向き直ると口を開く

 

 

「だからさ、あたし達親友だよね?・・・そうでしょ?」

 

 

 普段のえりかとは違う態度に拓哉とつぼみは思わずお互いの顔を見合わせるがすぐに静かに頷いた。それを確認した3人は笑い声を上げる。特に拓哉は久々に笑顔を取り戻したために一番笑っていた。

 

 

「そう言えばつぼみと拓哉・・・今日学校で変な感じだったけどなんだったの?」

 

 

 その帰路の中でえりかはファッション部の部室で妙な空気だった二人のことを思い出す。それに拓哉はもう隠すこともないと思い事の成り行きを説明する。

 

 

「実は昼間俺がブルービートの変身を解除したのをつぼみに見られちゃったんだよ・・・で、その事をえりかにバラされないかと不安になってたんだ」

 

 

「え?・・・あれはそう言う意味だったんですか?」

 

 

「はい?・・・違うの!?」

 

 

 つぼみの思わぬ反応に拓哉は驚いた。だとしたらなんだったのだと拓哉は思っていたがつぼみが見ていたのは・・・・

 

 

「私は・・・拓哉が昼休みに勝手に学校を抜け出したことを注意しようと思って・・・・」

 

 

 そう全ては拓哉の勘違いだった。しかし今となってはもはや過ぎた笑い話だと拓哉は骨折り損思うことなく逆によかったのかもしれないと思う。

 

 

「そうか・・・なんだぁ~じゃあ俺の隠密行動は完璧だったわけだ。結局は自分でばらしちゃったけど」

 

 

 拓哉はこの二人にならもう自分がブルービートであると知られてもいい。そう思ったから目の前でブルービートになった。その経緯・・・それは今は話せないが何れ話す時が来る・・・そうなった時に二人は自分を受け入れてくれるか不安だ・・・でもこの二人ならきっと大丈夫だ・・・拓哉はそう信じた。



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第12話「離れる父子」

 砂漠の使徒のアジトの大広間でブラックビートはスティンガービュートに熱加工を加えて爪の手入れをしていた。誰もいない場所で一人でそのようなことをしている光景は傍から見れば不気味な光景でしかないのだが彼にはそのような事は気にもとめていなかった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 広間にあるテーブルに小さな機械を置きスティンガービュートに熱光線を当てて刃を鍛え直すというごく単調な作業だが武器の手入れは彼にとっては日課の一つであり暇さえ見つければ常にスティンガービュートの刃を鍛え直している。

 

 

「甲斐拓哉・・・ブルービート。お前を倒すのはこの俺だ!!」

 

 

「随分と念入りだな・・・ブラックビート。」

 

 

 ブラックビートのいつになく感情をあらわにしている姿を見て声をかけたのは片翼の少女ダークプリキュアであった。彼女の姿を見るなりブラックビートは鼻で笑うとスティンガービュートに視線を戻す。

 

 

「やっとブルービートの正体が判明した。これで俺にも出撃出来る。・・・そのための準備を念入りにしているだけだ」

 

 

「ほぉ?随分と熱心じゃないか。・・・いつになく感情的にも見えるが?」

 

 

「・・・ふぅん、貴様にそのような事を言われる覚えはない」

 

 

 あくまでも自分は【砂漠の使徒】の上昇部の一人。身勝手な独断先攻はするつもりはないが自分をいつまでも燻らせておくのなら話は別。まだ組織の一員として機会を待つと表向きは装っているがブラックビートは目を黄色く光らせるとどことなく感情がむき出しになっているようにも感じた。

必ずあの蒼い騎士をこの手で倒すと心に決めているかのようにダークプリキュアはいつにないブラックビートの内に燃え滾る何かを感じていた。

 

 

「二人とも仲良しだね」

 

 

 その二人に話しかけたのはウェーブがかかった青色のロングヘアーと青色のダンダラ模様の白い上着を羽織るのが特徴のクールな美青年が姿を見せる

 

 

「コブラージャか・・・貴様、やっと出撃する気になったのか?」

 

 

「まさか・・・今からこの僕にふさわしい背景を探しに外に出るだけさ。ここの風景は殺風景極まりないからね」

 

 

 この美少年の名前はコブラージャ。三幹部の最後に一人であるが自身の信条【美しさ】のためにしか基本的に行動せず今までも地球侵略作戦に対して消極的である為か姿を見せることはなかった。

 

 

「ふぅん・・・下らん。勝手にしろ。」

 

 

「ああ、そうさせてもらうよ。アデュー!!」

 

 

 どうせまたいつもの下らない事だとブラックビートは軽蔑の言葉を送りそれを無視してコブラージャは瞬間移動で下界へと降りる。

 

 

「・・・・」

 

 

 ダークプリキュアはそれを見ながらもブラックビートに目線を送る。何か言いたげであることを感じるとブラックビートは彼女にまた視線を戻した。

 

 

「何だ?・・・ブルービートの事ならクモジャキーに傷を負わせたと聞いている。その実力を持っている奴がコブラージャ如きに負けはせん。奴を倒すのは・・・この俺、ブラックビートだからな」

 

 

 どこから出てくるその自信は彼の実力が根拠ということなのだろうか?一番に彼の実力を知るダークプリキュアは納得したと言わんばかりの顔になりその場から姿を消した。

 

 

「ふぅん」

 

 

 その後その場に残されたブラックビートはただただ自分の武器の刃を鍛え直しきたるべき戦いに備える。自分が勝つという絶対的な自信を胸に秘めながらのその姿は不気味さと言葉にし難い威圧感がオーラとなって放たれているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校が終わり放課後に拓哉、つぼみ、えりかの3人は話しながら歩いていると突然えりかが何かを見つけて目を輝かせた。一体何だとつぼみと拓哉の二人はえりかのあとに続く。

其処には新装開店の文字があり今まさに建設中と言わんばかりの建物があった。そこにあった張り紙を見て拓哉もえりかと同じく拓哉も目が輝いた

 

「おおお、[【三浦ラーメン】二号店が希望ヶ花にまもなくオープン!!]」

 

 

「おお、マジ?ここのラーメンめっちゃ美味いんだよね!!・・・まさかこの街に二号店を出すなんて」

 

 まさかの朗報に興奮するえりかと拓哉。一人置いてきぼり状態のつぼみであったが察するにここのラーメン屋のラーメンは二人が特にあの拓哉もここまで絶賛してくるのを考えるとかなりの美味しいラーメン屋なのだろう。

 

 

「えへへ、これからはいつでも食べられる!!!」

 

 

「えりかはホント食い意地張ってるよな~それがお前らしいが」

 

 

 えりかがそう思うのは無理もないが拓哉は彼女の食い意地ぶりに思わずそう言った。まぁ、それがコイツらしいといえばそうなるか・・・と拓哉は勝手に納得する。

ファッション以外では食べることぐらいか?コイツが興味あるのって・・・と心の中で呟いたのもほとんど同時であったが。

 

 

「ああ、三浦くん」

 

 

 3人がそんなやり取りをしていると後ろから男子が通りすぎる。えりかはそれに気がつきその少年に声をかけると振り返った。顔はなぜか不機嫌そうであったのに拓哉とつぼみは不思議に思ったがえりかはと言うと気がついていない様子。

 

 

「おめでとう!!二号店が出来ることなんで教えてくれなったのよ?」

 

 そうこの少年【三浦 あきら】はこの三浦ラーメンを経営する両親の息子である。えりかに二号店が新しく開店することを祝福されるも何故か彼は笑っていない。

 

 

「(機嫌悪そうだな・・・何かあったのかな?)」

 

 

その様子を見て拓哉は明らかな自分達との温度差に何があったのかと一番に疑問に思った。普通こう言う場合は喜ばないか?と第一に思うものを・・・。

 

 

「あたし食べに来るからね。開店日に」

 

 

「来るなよ」

 

 

 拓哉の静かな凝視の視線をえりかは感じ取っていないようで彼に絡んでいるが・・・・。彼はボソボソながらも開口一番にハッキリとえりかにそっけなく言った。その言葉をはっきりと聞こえた途端に彼の様子のおかしさに流石のえりかも気がついたようだ。

 

 

「え?いま 【来るな】って言った?・・・・・・なんで?ねぇ~」

 

 

 えりかの問に答えないまま無言になる三浦少年。何があったのだ?3人は理由がわからないまま彼の父親が出てくるもその途端に無言のまま歩いて行ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日学校にて3人はあきらの様子を見るべくグランドに来ていた。彼は野球部所属であるようで3人が到着した時には練習が始まっていた。

 

 

「へぇ、三浦のやつレギュラーになったんだ。一年の時はたしか補欠だったよな?」

 

 

「そうだったね。ああ、そう言えば一年の時か。【三浦ラーメン】の一号店が開店したの」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

 地元人の拓哉とえりかは彼が1年の時にクラス中に宣伝したいた事を思い出した。しかし昨日の彼はその時の彼とは明らかに違う。一体何があったのか・・・2人にも流石にそこまでは彼に直接聞いてみないと分からないとますますワケが分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 放課後になると拓哉は自宅に戻り自室で私服に着替えて休んでいた。今日は今のところ砂漠の使徒の目立った動きもない。今日は奴らも休みなのか?と思いながらもため息をついた。

 

 

「・・・眠い・・・ふぁぁ~~・・・・」

 

 

 流石にこの間から連戦激務で少し疲れたと。ベッドに横になり目を閉じる。意識がだんだんと遠くなっていくのを感じ拓哉はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

「(ここは・・何処だ?)」

 

 

 ここは・・・何処だ?・・・なんで自分は泣いているんだ?・・・アレは・・・・?あの白い箱は柩?誰のだ?中で眠っているのは誰なんだ?

 

 

 夢の世界に落ちた拓哉は今自分の見ている光景に懐かしさを感じた。意識とは別に乗り移り器となっているのは・・・そう昔の4年前の自分だ。

 

 

「(やめろ・・・やめてくれぇ!!!・・あ、熱い・・か、身体が焼けるぅ!?)」 

 

 

 拓哉の意識はこの光景に対する拒否反応で頭の中が埋め尽くされてしまう。

そうこの映像(ヴィジョン)は自分がブルービートになる宿命を背負った出来事・・・自分の父親が死んだあの日・・・その数日後に感じた身体が焼けるような苦しみ。

 

 

 どうして今頃になってこんな夢を見る?・・・何故なんだ???

 

 

「うわぁああっ!?!?・・・ああぁ・・・・はぁ、はぁ・・・夢か」

 

 

 最悪の夢に拓哉は飛び起きると同時に自分の右手を見た。あの忌まわしい出来事で出来た傷を・・・今はもうその傷跡も消えて綺麗に治っているが自分の中では今でも鮮明に覚えている。

 

 

「・・・どうしてこんな夢を」

 

 

 嫌な汗をかいたと拓哉はフェイスタオルで体と顔を拭く。ただの夢であるのだが嫌な胸騒ぎがするのはどうしてだ?と思いながらも。数十秒ほど考え込んでいると携帯から着信音が鳴った。

 

 

「・・・なんだ?」

 

 

 一体どうしたのだと思いながらも電話に出るとえりかは急に拓哉に有無を言わさず植物園に来いと言ってきた。今度は何を企んでいるのだと拓哉は思いながらも拓哉は荷物支度を済ませて植物園へ行くと・・・・

 

 

「・・・・コレを振れと?」

 

 

「うん」

 

 

「そのためだけに俺を呼び出したと?」

 

 

 わざわざ呼び出しがきたから一体何事だと思ってきてみればシプレとコフレは空腹でダウンしておりその空腹を満たす唯一の手段の【キュアフルミックス】をバーテンダーがカクテルを作るようにシェイクするためだけに拓哉は呼び出されたのだ。

 

 

「・・・そのためだけにわざわざ・・・俺は便利屋か!!」

 

 

「ほら、あたし達女の子だし~~~こういうのは男の子にお願いしたいなぁ~って」

 

 

 えりかの言い分はつまりこういう作業は拓哉にさせたかったらしい。拓哉からすれば大迷惑な話だがシプレとコフレが飢えに耐えしのいでいるの見るに見兼ねてため息をつきながらも拓哉はえりかに対する不満を全て発散させるかのように両手でキュアフルミックスを持つと・・・・

 

 

「うおおぉおおりゃぁああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

 

 凄まじいばかりの動きでキュアフルミックスを振り乱してやる。超高速とでもいうような動きであったが彼が超絶ヒートでキュアフルミックスをシェイクしていく。それが1分ばかり続くと・・・・

 

 

「オッケーです!!!」

 

 

 コフレがそろそろいいと拓哉に合図を出すと拓哉は息を切らしてキュアフルミックスをつぼみとえりかに渡す。またも変な汗をかいたと拓哉はその場に座る。

 

 

『幸せです~~~~~!!!』

 

 その拓哉を尻目にシプレ、コフレは出来上がったご馳走を堪能し始める。むくれていた拓哉だったが妖精二匹を見るとその気分も失せたのか立ち上がって二匹に近づいて座り治す。

 

 

「わかる、わかる。美味しいもの食べると幸せになるのよね。三浦ラーメンなんてまさにそう!!」

 

 

「とんこつベースに鰹出汁が隠し味になっててスープは濃厚なのにしつこくなくて」

 

 

 想像しただけでも腹の虫が鳴りそうだと拓哉とえりかはのほほんとした顔になった。あの味を一度覚えれば誰もが病みつきになる。癖になってまた食べたくなるのは一度食べてみないと分からないものだ。

 

 

「・・・・・」

 

 

「どうした?つぼみ・・・なんかうかない顔してるけど」

 

 

 一人浮かない顔をしているつぼみの表情に拓哉は彼女に声をかけた。 拓哉に声をかけられるとつぼみははぐらかす様に返事を返す。不思議に思いながらも拓哉はえりかと三浦ラーメンの話で盛り上がる。

 

 

「はい、どうぞ~~♪・・・つぼみは今、誰かを励ましたいと思ってるんじゃないの?」

 

 

 他愛もない雑談をしている3人に薫子がハーティーを差し入れで持ってきた。そして誰よりもつぼみのことは分かっているのか彼女の今の心境を問いただすようにそう言う。

 

「え?べ、別に私・・・」

 

 

 つぼみは図星をつかれたのか即座にはぐらかそうとするもやっぱり嘘は付けない。つぼみは黙ってはいるが薫子には全てお見通しのようだ。

 

 

「これ美味しい♪なんてお茶ですか?」

 

 

「タイムのハーブティーよ。タイムの花言葉は【勇気】よ」

 

 

「【勇気】」

 

 勇気・・・その言葉を聞いてつぼみは思った。いま自分が思っているべきことは伝えるべきなのだがその勇気が自分にない。迷っていてもしょうがない・・・ここは勇気を振り絞る時だと・・・つぼみは決意したようで目付きが変わる。



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13話「寂しさと本音」

 翌日の放課後に3人はまたいつもの学校帰りの道を歩いて帰っている最中に三浦ラーメン二号店の前を通ることとなるのだが其処には既に先客がいるようだった。

 

 

「あ、親不孝もの。お花壊したりしないだろうな?」

 

 

 幸いえりかの毒舌はあきらには届いていないようだ。拓哉も正直それをやりかねないのではないかと思っていたがそれどころか意外にも彼は風か何かで飛ばされた花を元に戻した。

 

 

「・・・・(アイツ・・・やっぱり)」

 

 

 それを見た拓哉は自分の中での疑問が確信に変わった。あきらは本心では父親のラーメン屋を応援していないわけではない。でも何かが迷いを生んでいる。

それが一体何かであるのかは流石に本人にしか分からないが虚勢で自分と他人を誤魔化そうとしているだけなのだ。

 

 

「つぼみ?」

 

 

 拓哉が内心でそう思っていると突然つぼみがあきらを追いかける。えりかと拓哉は一体どうしたんだと思いながらも同じく追いかける。

 

 

「あ、あの・・・すいません」

 

 

 つぼみは自分なりに勇気を振り絞って彼に話しかけようとするのだが言いたいことを言う前にあきらが逃げるように階段を走って登って行ってしまう。つぼみはそれに気がつき急いで追いかけるが・・・

 

 

「うわぁああっ!?」

 

 

 なんと上がっている派手に転んでしまう。慌ててドジをするのは彼女らしいというべきか・・・あとを追っていたえりかと拓哉は急いで転んだ彼女に駆け寄った。

 

 

「いてて・・・」

 

 

 

「大丈夫?つぼみ」

 

 

 やれやれとつぼみに駆け寄った拓哉とえりかの二人は彼女が擦りむいた膝の傷を見る。痛がってはいるが転んだ程度なのでそれほど大きな傷ではない。だが傷からは血が出ており見た目はそれなりに痛々しい。

 

 

「大丈夫?あぁ~あ、血が出てる・・ちょっと待って、今ティッシュを・・・」

 

 

 女の子に傷を残すのはよろしいものではないと応急処置をするべく拓哉はカバンからティッシュを探すがそれを出す前にあきらがつぼみに駆け寄る。

 

 

「ほら、これやるよ」

 

 

 

「え?」

 

 

意外も意外つぼみに絆創膏を手渡したのだ。拓哉が言えた立場ではないが昨日までのぶっきらぼうな彼にはあまり想像し難い。

 

 

「野球部だからな。いつも持ってるんだよ」

 

 

 

「あ・・ありがとうございます」

 

 

 つぼみは意外な優しさを感じやっぱり何かがあると疑念が確信へと変わった。絶対に今の彼には何か理由があるから父親を避けている・・・つぼみはタイムの花言葉【勇気」を振り絞って彼に声をかける。

 

「あ、あの!!・・・三浦君はお父さんにどうしてほしいんですか?」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 つぼみに父親に何を求めているのかと聞かれいきなり動揺したあきらの顔は動揺したように表情が変わる。・・・・というよりもいきなりそのようなことを聞かれれば誰しもがああいう反応になるのが普通なのだが・・・・

 

 

「どうしてお店を応援できなくなっちゃったんですか?お父さんにラーメン屋をやめてほしんですか?」

 

 

「そんなわけねぇだろ!!!」

 

 

 つぼみのマシンガントーク調の問い詰めに大声でそう返したあきらの態度に3人は驚く。そして彼自身も自分の感情的な行動に驚いたのかその場から走るように逃げていってしまう。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 残された3人はますます理由がわからなくなる。彼の本心は一体なんなのか・・・もしかしたら答えは自分たちが思っているほどかなり複雑で入り組んだものなのかもしれない。

 

 

「あのさ・・・俺、結構遠くにあるものなんじゃないかと思うんだ。本当に大事なものってさ」

 

 

 夕焼けに包まれる土手の道を歩きながら3人はモヤモヤした気持ちになっていたがその中で突然拓哉がふとつぶやいた。

 

 

「何よ、どうしたのさ急に?」

 

 

 普段の冷たくドライな態度からはらしくない拓哉の言い方にえりかが微笑する。昨日の一見から今朝のことで思うことあったのか・・・拓哉は突然止まり夕焼け色の空を見る。

 

 

「・・・俺たちはそれぞれ大切なものを持っている。それは普段は気が付かないけど【一番近くにあるようで一番遠い】・・・・そう思う。」

 

 

「一番近くて・・・・」

 

 

「一番遠い・・・・」

 

 

 拓哉のセリフをつぼみ、えりかと繰り返していると拓哉は止めていた足を再び前へ進める。いつもの彼からは想像できない程優しい口調だがその本心は何かを思い出して寂しそうで複雑な心境・・・それだけは二人にも理解できた。

 

 

「その大切なものを突然・・失くしちゃうとさ。大事のものであればあるほどきっと遠くに行ってしまう・・・だから必死に守ろうとする。でもどんなに手をのばしても届かないものもある・・・・親とか家族も同じでさ。いつも近くにいるのが当たり前に感じてるけど、気が付いてみると案外遠くにいるもんなんじゃないかな・・・って」

 

 

 夕焼け色に染まっている空を見て語る拓哉の意図がわからない二人は互いに顔を見合わせて首をかしげる。だが拓哉本人はというと突然懐からビーコマンダーを出して少しの間それを見つめ、また喋りだす。

 

 

「・・・・たぶん、それは皆同じなんだよ。自分が普段は見えてないだけ・・・本当はいつも近くで自分の大切な人のために頑張ってる人がいて、その人のこと誰よりも大切に思っているからきっとあんな風に言ったんだと思う。三浦にもきっとなにか理由があるはずなんだ」

 

 

「それって一体どういう・・・・・っ!!・・・拓哉、もしかして思い出しちゃった?」

 

 

 えりかの問いに、拓哉は少し顔を俯かせたあとにすぐに顔を上げてある方向を見る。その視線の先には、土手したで仲良く遊ぶ幼い子供と父親の姿があった。それを見てえりかは彼の心中に思うもの察しがついた。

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 えりかは察しがついたようだがつぼみは一人置いてきぼり状態だ。しかしつぼみにも拓哉の言葉がただの思いつきなどではなくちゃんと感じ自分が思っている本心だということは分かった。

 彼の過去に何があるかは詮索できないがそれでも分かる・・・何か悲しみと痛みを背負っているという事は。

 

 

「・・・・いつだって、親は子供が心配なんだよ。どんなに離れていても、言葉が届かなくても。ちゃんと必要なものは伝えててくれるんだ。例えいつか突然自分の目の前から消えてなくなっても」

 

 

「拓哉・・・・」

 

「おっと、らしくない話が長くなっちゃったね。・・・ごめん、今の忘れてくれ。なぁ、3人で三浦ラーメンの開店日に食べに行かないか?・・・せっかくなんだしさ」

 

 

 いきなり話題を変えるように明るく振舞う拓哉だがつぼみは彼のどこか寂しく辛そうな表情が頭から消えることはなかった。それ以上言葉が出なかった。拓哉にはまだ自分にしか言えないような何かを抱えている。それもただの痛みじゃない。想像を絶する痛みなのだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の使徒では緊急の幹部招集されていた。ブロッサムとマリンのプリキュアチームに2回、ブルービートに1回敗れたサソリーナ、ブルービートと正面からの決闘を挑み敗北したクモジャキーは勿論のことだが下界に降りていたコブラージャも呼び出されておりまさに緊急の作戦会議・・・いや御前会議という名の叱責という方が適切だろう。

 

 「サソリーナに続きまたしてもプリキュアとビーファイターに遅れを取るとは・・・どういう事だクモジャキー?」

 

 

「この前はほんの小手調べじゃ。次は必ず」

 

 

 クモジャキーからすればブルービートとプリキュアの実力を図るが故での行動程度でしかないだろう。しかしながらサバークからすればいつまでもこのような事態をズルズルと野放しにしておくのはかなり都合が悪い話だ。

 

 

「それは言い訳かい?ライト」

 

 

 クモジャキーの言葉を切って割り込んだコブラージャは手下にライトをもらせて自分に目一杯の光を浴びて登場する。

 

 

「ふふっ、全く君はむさ苦しい上に見苦しいね~クモジャキー」

 

 

 高圧的で上から目線のその態度と仕草全てを傍から見ればただの【目立ちがたりのナルシスト】という言葉以外は思いつかないだろう。クモジャキーもそのナルシスト野郎に好きに言われて黙っているはずはない。

 

「やっかましいわコブラージャ。お前の出番はないぜよ・・・引っ込んどけ!!」

 

 

 まだ侵略作繊維参加すらしていない輩に文句を言われる筋合いはないとクモジャキーはコブラージャに噛み付いていくも当の本人は全く堪えている様子はない。

 

 

「どうでしょう?僕ならもっと上手くやってみせますが」

 

 

 どこから出てくるか分からない自信タップリにコブラージャはそう言う。玉座のとなりで彼の態度を見ていたダークプリキュアとブラックビートも半分呆れたような視線を送っているがそれもいまの彼には届いていなさそうだ。

 

 

「ならば行け、コブラージャ。プリキュアとブルービートを倒せ」

 

 そこまで言うのであれば今回の作戦の主導権を与え全て任せてやるとサバークは彼の出撃志願を承認する。

 

 

「・・・・お任せ下さい」

 

 

 その言葉を待っていたとばかりにコブラージャは唇を歪ませて笑みを作ると瞬間移動で下界へと降りていった。

 

 

「・・・・ふぅん(・・・コブラージャなんぞの【自己顕示欲の塊】風情に未熟なプリキュアはともかくブルービートを倒せるはずはない。奴を倒すのはこの俺だ!!)」

 

 

 玉座の隣でブラックビートは心中でそう呟きながら突如玉座の間から姿を消すべく足を動かした。彼にはまるで分かっているようだ。今回も作戦は失敗すると。

キュアムーンライトをダークプリキュアと共に倒した彼の実力が第六感【シックスセンス】を働かせているのか・・・・それとも何か別の力が彼に確信を与えているのか・・・・

 その根拠は全く分からないが彼にはわかっているかのようだ・・・自分が敵視している因縁の相手【ブルービート】は着実に成長している事が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッモ~~ニ~~ング!!!いつまで寝てんの?起きた!起きた!!」

 

 

 つぼみの部屋に乱入したえりかは日曜日で爆睡している彼女の布団を剥ぎ取って無理やり叩き起こしていた。つぼみは一体何だ?というか何でえりかが自分の部屋に入っているのかと寝ぼけている頭での情報処理と感応処理が追いつかないままボケっとした顔でえりかを見つめた。

 

 

「んんぅ~~~~・・・学校はお休みじゃ?」

 

 

 まず一番に出てきたのはソレだ。今日は日曜日・・・日曜日ぐらいはゆっくりと普段よりもより多くたくさん寝ていたいは誰もが思う欲求だ。つぼみは低血圧な体質でもあるようであり寝起きはアクティビティに活動は出来ない様子。

 

 

「三浦ラーメン二号店の記念すべき開店日にのんびり寝てる場合じゃないっしょ」

 

 

「開店は11時からじゃぁ~~??」

 

 

 今の時間は朝の8時。いくらなんでも3時間も前から近くのラーメン屋に行くだけで準備するには早すぎるのでは?と思っているつぼみは寝ぼけながらもえりかは待ってくれずつぼみの手を掴んでベッドから引きずり出す。

 

 

「並んで待って1番に食べるのぉ~~~!!」

 

 

 何のこだわりか分からないと思いながらもつぼみはえりかに言われるがまま着替えさせられて準備をさせられる。外には同じく叩き起された拓哉が待っていた。

 

 

「ふぁぁあ~~~~~・・・眠い」

 

 

 食べに行こうといったのは自分であるためあの超が付くほどのウルトラマイペース幼馴染に言われるがまま半分以上強引に日曜日に叩き起されたのだが正直今の自分はかなり眠気が酷く辛い。

 

 

「・・やっぱ遅くまで漫画を読んでるんじゃなかったな。ていうかアレを貸してきたのはアイツなんだけど」

 

 

 

 その理由は単純な寝不足だった。先日えりかから借りた漫画を夜遅くまで読んでいたのが祟ったのだと思いながらも拓哉は欠伸をして眠気をなんとか発散しようとする。朝食も食べる暇もなかったので腹の虫も鳴っているがそれ以上に眠気が酷い。

 慣れない夜ふかしなどするものではないと思いながらも二人がつぼみの家から出てきたので眠気を抑えながらも3人は和気あいあいとしながら目的とへと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃野球部の練習のためにあきらは家を出ていた。普段の登校ルートだと途中に二号店の前を通ることになるのでどうしようかと迷ったが結局は時間の都合もあり普段の登校ルートを使うと事にしていつもの道を歩いていた。

 

 

「・・・・」

 

 

 本日は二号店の開店日で父親は勿論だが母親も回転の手伝い出向いている筈。見つかれば面倒なことになりそうなのだがそれでも今更戻る時間もない。声ぐらいはかけようかと目線が店に向かい迷っているうちに店から母親が出てきてしまう。

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 そしてそのまま店に入ると父親が開店の準備とラーメンの仕込みを始めている。正直それを見るのは今のあきらには辛い。だがそれを言葉にして伝えることが出来ない。そんな歯痒さが心を掻き毟るように彼を襲う。

 

 

「この2号店がうまくいったら次は3号店ね。【三浦ラーメン】をいろんな人に食べてもらいたいっていうお父さんの夢叶えなきゃね」

 

 

「ああ」

 

 母親はそう言うがあきらにとってそれは更に自分を苦しめるだけにしかならない。そうでも決してラーメン屋を止めてほしいわけじゃない。ただの子供じみたワガママで両親を翻弄したくない。

 

 

「・・・・・」

 

 

 だから自分の心の中で抱え込むしかない。だがそれも日増しに辛くなってきている・・・無意識に自分の本音が悲鳴を上げているの・・・出されたラーメンを見ると心の中に押し殺しているのがやっとの本音が叫びたくなる。

 

 

「どうした?冷めちまうぞ」

 

 

 あきらの父は自分の息子の様子の異変に気がついたようで声をかけるも黙ったままで何も返てってこない。

 

 

「食べたくない!!」

 

 

 一方あきらが出せた言葉はそれしかなかった。本当は違う。そうじゃないのに・・・母親が心配そうに彼に問いかけるも彼は拒絶しかできない。本当はそうじゃないのに・・・・言いたい事が言えない自分が腹立たしくて嫌になる。

 

 

「ラーメンが嫌いってわけじゃないよな?・・・・言いたいことがあるなら、はっきり言え」

 

 

 何か言いたいことがあるのは態度でわかる。だがそれをどうして言わないのかが分からない。思い切ってそう言って言うようにけしかけてみるがそれは今のあきらには逆効果だった。

 

 

「言ったてしょうがないんだよ・・・どうせラーメンが一番大事なんだろ!!!」

 

 

 

 逃げるようにあきらは店を飛び出す。自分の本当の気持ちは父親に伝えても変えられない。だからこそ黙っているしかない。でも本当は・・・・

その迷いを持ったまま店を飛び出したことが良くも悪くも目をつけていた邪悪な蛇がいることにこの段階では気がつけなかったのだった。



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第14話「戻る父子」

思わず飛び出してしまったあきらだったがその彼を待っていた影があった。その正体は世界一美しい男を自称するナルシスト幹部ことコブラージャだった。

 

「君、君の心いい具合に萎れているね」

 

 

 透視能力であきらの心の花がデザトリアンを生み出すには丁度良い具合に弱っているのを確認するとコブラージャは目を怪しく光らせる。

 

 

「心の花よ、出てくるがいい!!」

 

 

 次の瞬間にはコブラージャがあきらに向けて腕を伸ばすとあきらの身体が光に包まれて心の花が取り出されてしまう。心の花を取り出されたあきらは水晶玉に閉じ込められてしまいコブラージャは水晶玉を分離させて心の花を手にとった。

 

 

「さぁ、ショーを始めよう。デザトリアンのお出ましだぁ!!!」

 

 

 自分の部下【スナッキー】に持ってこさせたあきらの父のラーメンが入った丼ぶりを媒体として心の花と融合させるとラーメンの丼に手足が生えたデザトリアンが生み出される。

 

 

「ああ、アレ見てですぅ!!」

 

 

「デザトリアン!! つぼみ、拓哉」

 

 

『うん!!』

 

 

 デザトリアンの気配に気がついたシプレがつぼみ達に知らせる。それに気がついた3人はそれぞれ変身アイテムを取り出す。つぼみ、えりかの二人はココロパヒュームを拓哉はビーコマンダーを取り出す。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート』

 

 

 ピンク、水色の二つの光がそれぞれつぼみとえりかの身体を包み込んでいく。その過程の中でピンクと水色の光はお互いに混ざり合うように交差していくと二人の少女は大地の戦士と海の戦士へと変わっていく。

 

 

「重甲!!!」

 

 

 ビーコマンダーのウィングを開きそこから発せられた蒼い光りは眩く拡散し拓哉の身体を包み込んでいくと重厚なる鎧を纏った昆虫の王カブトムシの力を持つ蒼き守護者の騎士へと変わる。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!』

 

 

 少女二人が大地と海の戦士の姿『プリキュア』に変身し二人揃ってポーズを凛々しくそしてキュートに決める。

 

 

「ブルービート!!」

 

 

 その隣で重厚なる蒼い鎧騎士も名乗りあげて鎧を唸らせながらポーズを決める。3人はそれぞれ名乗り上げを終えるとブルービートは飛び上がりブロッサムとマリンはダッシュでデザトリアンへと向かっていた。

 

 

「・・・来たね。プリキュア、ビーファイター」

 

 

ブロッサム、マリン、ブルービートの3人は器用に鉄格子の上に飛び乗るとそれに気がついたコブラージャが3人に目を向ける。

 

 

「砂漠の使徒の新しい幹部!!」

 

 

「名を名乗りなさい!!」

 

 

 ブロッサムとマリンはサソリーナ、クモジャキーに続く3人目の幹部にも怯まずそう言った。

 

 

「僕の名はコブラージャ。よろしく!!」

 

 

 意外にも礼儀正しいコブラージャはブロッサムとマリンに向けて何かカードのようなもの投げつけてきた。二人はそれを手で取り見てみるとそれは・・・なんと彼の敷筆サイン入のブロマイドであった。ブロッサムとマリンはそれを見て絶句する。

 

 

「おい、二人とも・・それ貸せ」

 

 

 自分には渡されなかったことにブルービートは苛立ったのかコブラージャのブロマイドを二人の手から取り去るとそれを空に投げてインプットマグナムを乱射してブロマイドを一瞬で消し炭にする。

 

 

「君、僕のブロマイドになんて事を!!」

 

コブラージャは自分丹精込めたブロマイドを灰にされ当然気に食わない様子でブルービート睨む。だがブルービートはと言うと自分を無視したお前が悪いとばかりに逆に睨み返す。

 

 

「うっさい。男とは言え敵を無視した罰だ。ていうか自分のサイン付きブロマイドなんか渡すか普通・・・はっきり言うが自己意識のナルシストキャラも度を越すと凄く気色悪いぞ?」

 

 

 

「気持ち・・・・悪い・・・・?この僕が気持ち悪いだと!?」

 

 

 ブルービートに自分の態度を客観的にそして尚且つコブラージャが最も嫌う言葉を投げかけられると静かなる怒りをコブラージャ。自分の容姿や美貌には並の女性以上に徹底的にこだわっている彼にとってはプライドをズタズタにされたも同然の行為だが・・・

 

「ねぇ、なんか地雷を踏んだ気がするんだけど・・・・」

 

 

 ブルービートのセリフに過剰反応しているコブラージャを見てマリンは彼にそういうもブルービートはと言うと・・・・・

 

 

「知るか。こういうやつは一度身の程を知ったほうがいい」

 

 当のブルービートはというとマリンに軽くそう言ってその事は一切気にしていない様子でマグナムをホルスターに収める。ブルービート自身もコブラージャは何が気に食わないのかブルービートも食ってかかる態度を見せる。

 

 

「ほら、行くぞナルシスト野郎!!」

 

 

 

 コブラージャの態度にイラつきがあるようでありいつも以上に嫌味のキレがかかっている。構えを見せながらも3人はコブラージャに向かっていこうとするがその前に暴走するデザトリアンを止めなければならない。

 

 

「ブロッサム!!」

 

 

「三浦くん!!」

 

 

 シプレが回収した水晶玉には三浦あきらが閉じ込められていてあのデザトリアンは彼の心の花がデザトリアンの本体として利用されているということだ。それを察したブロッサムはコブラージャなどよりもデザトリアンを浄化することを第一優先に考えると我先に飛び上がった。

 

 

「小学生ノ時ハイツモ応援シテクレタジャナイカ・・・・ナノニ今ハ毎日【ラーメン】ノ事バカリ。俺ナンカモウドウナッテモイイト思ッテルンダ!!!」

 

 

 デザトリアンの本体として利用されているあきらの本心が雄叫びとなって暴露される。それを聞いた彼の父親はやっと自分の息子の本心が明かされたことに動揺し動けなくなる。

 その間にデザトリアンの怒りの矛先が向けられラーメンの麺の形をした腕が鞭のように降り注がれようとしていた。

 

 

『させない!!』

 

 

 しかしその前にプリキュア、ビーファイターが割入りデザトリアンの攻撃を中断させる。

 

 

「ここは私たちに任せてください!!」

 

 

 3人はデザトリアンの注意を引きつけるように飛び上がる。そのあとを追うようにデザトリアンも巨大な体には似つかわしくない素早い動きで飛ぶ。3人の守護者とデザトリアンは三浦ラーメンの店から離れた空地へと着陸する。

 

 

「はっ!!!」

 

 ラーメンの麺のような腕が触手のように伸びて地面に突き刺さっていく。それをブロッサムは避けるとデザトリアンは次の一手だと麺の束をバラバラに分散して針山のようになってブロッサムに触手を伸ばしていくがそれも彼女は華麗なる身のこなしと動きで全て避ける。

 

 

「はぁあああっ!!

 

 

 ブロッサムに気を取られているのを機にとマリンは伸ばされたラーメンの麺をスケートのように滑って一気に距離を縮めるとそのまま顔面に向けて廻し蹴りを叩き込んだ。

 

 

「メーーーーーン!!」

 

それに倒れるデザトリアンだが反撃だとナルトやメンマの形をした爆弾を3人に向けて発射する。パチンコで的を当てるかのような容量のその攻撃の速さはブロッサム、マリン、ブルービートを凌駕していた。

 

 

 

『きゃぁあああああああああっ!!!!』

 

 

 凄まじい素早さの爆弾での狙撃攻撃を避けることができなかったブロッサムとマリン、ブルービートの3人に見事爆弾が命中し二人はその場に倒れてしまった。

 

 

「くっ・・・こんのぉっ!!!!」

 

 

 爆撃を受けた3人はすぐには動けない。だが一番先に立ち上がったブルービートは爆弾の狙撃をなんとか避けていくと力を振り絞りジャンプして飛び上がる。

 

 

「ビームモード!!!」

 

 

 反撃だとブルービートはインプットマグナムを連射してデザトリアンの動きを止めさせる。その間になんとか体制を立て直そうとするもデザトリアンの叫びにブルービートも動きが止まった。

 

 

「父サンハ俺ヨリ仕事ノホウガ大事ナンンダ」

 

 デザトリアンはあきらの本音を曝け出す。寂しさ故の嫉妬・・・愛情を欲する故の嫉妬心を怒りと力に変えていきながら・・・だがその言葉を聞いて一番先にブルービートは首を振った。

 

 

「違う、違う!!子供が大事じゃない親なんてこの世界にどこにもいない!!!三浦、お前の親父さんだってお前のことが大好きなんだ!!」

 

 

「そうです!!お父さんは三浦くんのことを誰よりも大切に思っています。だから暴れちゃダメです!!」

 

 

 ブルービートとブロッサムは即座に諭すように言葉を送りデザトリアンを説得しようと考える。

 だがデザトリアンにはブルービート達の言葉は届かず自分の本心のまま欲望を叶えんとし苦しみの声を上げながらも凄まじい勢いで暴れる。

 

 

「ラーメン屋ナンテ無クナレバイインダァア」

 

 

 暴れまわった末にデザトリアンはとうとう特大の大きさの煮玉子型の爆弾を取り出してそれをラーメン屋に向ける。3人はデザトリアンが次に起こす行動が火を見るよりも早く想像でき背筋に怖気が走った。

 

 

 

「やめろぉおっ!!!!」

 

 予想通り三浦ラーメンに向けて発射しようとするデザトリアンを見て我さきにとブルービートが飛び上がって自らの身体を盾にして爆弾を受け止めた。爆撃が彼の身体を包み込み全身が見えなくなってしまう。

 

「がぁっ・・・あぁあ」

 

 爆風の中で全身のインセクトアーマーから煙を上げながらブルービートは地面に落ちて呻き声を出しながらも傷ついた体を抑える。流石に如何なる敵の攻撃を受けきることが自慢のインセクトアーマーの強度といえどもあのゼロ距離爆弾の爆発にはかなりの大ダメージは必至だ。

 

 

「ブルービート!!」

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 仲間を傷つけられたことにマリンは怒りの表情をデザトリアンに向けブロッサムは倒れたブルービートに駆け寄り彼の身体を起こすのに肩を貸す。ブルービートはフラつきながらも立ち上がりデザトリアンに身構えるが急にデザトリアンは苦しみ始める。

 

『ッ!?」

 

 

 突然デザトリアンの動きが止まり頭を抱える。よく見ればデザトリアンの目からは大粒の涙が溢れている。一体何が起きたのだと3人は困惑するもその3人を無視してデザトリアンは悲痛の本性を暴露する。

 

「ヤメロ・・・ラーメン屋ヲ壊シチャ駄目ダ!!父サンノ夢ヲ壊シチャ駄目ダ!!」

 

 

 デザトリアンが泣いている姿を見て3人は攻撃の手が止まる。さっきまでの態度とは全く違う行動。

 

 

「さっきまでラーメン屋なんてなくなれって・・・」

 

 デザトリアンが心の本心を映し出した怪物ならばつまりこれもラーメン屋を壊したくないという心の叫びも本心の筈。一体どういうことなのだ?困惑する3人だが・・・・

 

 

「両方ともあの子の本心です」

 

 

「二つの気持ちの間で苦しんでいるんですぅ」

 

 

 そうつまりは二つ嫉妬と寂しさによって生まれる【破壊衝動】の気持ちと父親の夢を守りたい・・・自分のために迷惑をかけたくないと言う【優しさ】という二つの感情からの板挟みのジレンマで苦しんでいたのだ。

 

 

 どうしたらいいか分からない。二つの気持ちをコントロールできないが為の苦しみはその者にしか理解はできない。全てを悟った3人の戦士は言葉を失い数分の間その場から動けなくなってしまう。

 

 

「・・・スティンガーブレード!!」

 

 

 だが凍りついた空気を切り裂くようにブルービートは動いた。泣き叫ぶデザトリアンを見てブルービートは続けざまに無言でスティンガーブレードを装備する

 

 

「ブルービート!?」

 

 

 

その姿を見てブロッサムとマリンは驚く。しかしブルービートは二人に普段は見せない優しく落ち着いて口調で口を開いた。

 

 

「苦しみを終わらせよう。俺達にしか出来ない・・・・苦しみを解き放つきっかけを作るのはビーファイターとプリキュアだけなんだ!!!」

 

 

 

 これ以上苦しみを長引かせるつもりはないのは3人とも同じ。暴れるデザトリアンに向けて3人は決意を固めたように目をキリっとさせるがその3人にむけてデザトリアンを蔑む影があった・・・

 

 

「はぁ~~そんなことで心の花が萎れてしまうなんて弱くて情けないやつだ」

 

 

 その正体はコブラージャであった。3人に向けてデザトリアンの本心を愚弄するように軽蔑の言葉を出したのだ・・・。それを聞いた瞬間にブロッサムの表情が憤怒に変わり彼女の隣にいたブルービートも仮面の下にある拓哉の顔が怒りの表情へと移り変わった。

 

 

「弱さじゃない!!!三浦くんの【優しさ】です」

 

 

「そうだ。その【優しさ】が自分の本心を押し殺していただけだ。その気持ちを利用し踏み躙りやがって・・・許さない。三浦の優しさを踏みにじった貴様を許さん!!」

 

 

 ブロッサムに続きブルービートもスティンガーブレードを振るいながらいつも以上に怒りを見せた。左手の拳を握り締め震わせているその姿にブロッサムとマリンも同じく同調しコブラージャに対する怒りが今にも爆発寸前というところまできている

 

 

「私、堪忍袋の緒が切れました!!」

 

 

 ブロッサムが自分の決めゼリフを決めてコブラージャに対して怒りを爆発させる。決めゼリフとともにコブラージャを威圧してはいるがコブラージャにはあまり届いていないようであったが・・・・

 

 

「あたしも【ムカーっ!!】ときて【ガーっ!!】って感じだよ!!!・・・あぁ~~なんか決まらない・・・次までになんか考えておくよ!!」

 

 

 ブロッサムの決めゼリフに対してマリンも何かいいセリフがないかと思っていたが今は思いつかない。仕方がないとマリンは次までに考えておくとドヤ顔を決めるがそれを見て妖精二匹はすっ転ぶ。

 

 

「行くぞ、二人とも!!!」

 

 

『うん!!』

 

 

 ブルービートはスティンガーブレードの胴体部分をスライドさせてブレードを高速回転させていきながらデザトリアンへと走る。

 更にその後ろでブロッサムとマリンの二人はそれぞれのフラワータクトに大地と海の花のエネルギーを送り込み充填させて身体に光をまとった。

 

 

『集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワー・フォルティシモ!!!』

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

 

 ブルービートのビートブレイクの蒼い閃光、ブロッサムとマリンのピンクと青のエネルギーが融合しデザトリアンに叩き込まれ直撃すると眩い光がその身体を包み込んでいくとデザトリアンの体を眩い光が包み込んでいった。

 

 

「セーフ!!」

 

 

 デザトリアンを浄化し本体の心の花と媒体となったラーメン丼ぶりが光から現れるとマリンがラーメンをキャッチしブロッサムが心の花の結晶を確保しブルービートが水晶玉を妖精から受け取る。

 

 

「なかなかやるね。今日はこのくらいにしておくよ・・・アデュー!!」

 

 

 3人の怒りの視線を受けながらもコブラージャは3人の実力を目の当たりにしたことでサソリーナとクモジャキーが倒せなかったのも頷けると納得した顔になると瞬間移動で姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを終えて3人は本来の目的である三浦ラーメンのラーメンを食べに行きキッチリ感触を済ませると帰る前にえりかがつぼみに耳打ちするように話しかける

 

 

「あのさ、三浦くんの本心あたし達が言ってあげたほうが良くない?」

 

 

「ううん。そういうことは本人が自分で言ったほうがいいと思います」

 

 

「ああ、俺たちが言っても意味はない・・・・あくまでもきっかけにするだけでいい」

 

 えりかは気を利かせたつもりだがそこまでするのはお門違いだとつぼみは言う。それに拓哉も同調し3人はラーメン屋を出ようと入口の扉を開ける。すると噂をすれば影ということかナイスタイミングでその本人が登場する。

 

 

「ああ、本人。あのさ・・・っ!?」

 

 

 えりかはまたも親切心のつもりだが拓哉とつぼみが同時にえりかの口を塞いで大急ぎで彼女を抱えて店をあとにする。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 3人は離れた場所で様子を見ていると父子がキャッチボールをはじめあきらは久しぶりに笑ったというような笑顔を見せていた。3人もそれを見て満足した顔になる。

 

 

「キャッチボールっていいですね」

 

 

「だね。いい仕事したね、あたし達」

 

 

「ああ、俺達にしか出来ない大切なことを・・・・な」

 

 彼の心の花の【サルビア】の花言葉は【家族愛】。いつも近くにいる家族だからこそ言葉では伝えられないことがある。でもそれでも勇気を振り絞って伝えることで離れた絆はより強くなって再生するのだ。

 二人のプリキュアと一人のビーファイターはこれからも人々の心を守るために戦い続ける。砂漠の使徒の悪しき野望を打ち砕くために。



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第15話「つぼみの乙女心!?始まる初恋」

 午前の国語の授業が終わり休み時間になると本日は花咲つぼみの隠れた特技にえりかの友人の女子が数名注目していた。というのも彼女は中学生にとっては難しい【徒然草】をいとも簡単に訳したためであった。

普通はあの【徒然草】を予習してなければいとも簡単に訳するのは難しい。というか普通の中学生が古文や漢文に興味を示すということも珍しいのであるのだが・・・・

 

 

「・・・・(眠い。ていうかよく喋るよな女子って)」

 

 

 女子たちが騒いでいる中で拓哉は机に顔を埋めてボーっと時間を過ごしていた。女子はどうして朝からこうも元気なのだろうか?と思うほどよく喋る。その話を聞いていて飽きないが熟睡できないのが難点である。もう少し静かにしてくれれば程よく眠れていいのだが・・・・・

 

 

「ふぁぁあ~~~~・・・・・(こうも後ろで井戸端会議されると寝る気も失せたな。とりあえず起きてるか)」

 

 

 次の授業までできれば寝ておきたかったのだがどうやらそれもさせてくれないらしい。やれやれと思いながらも仕方がないと拓哉はまたもボーッとしながら時間を潰そうとする。

 しかしながら突然つぼみ達の教室に突然教室の扉を勢いよく音を立てて開かれるとそこに全員の目線がその扉を開いた人物に集まった。

 

 

「あ、アンタは・・・・」

 

 

 

「せ、生徒会長さん!?」

 

 

 なんと入ってきた人物は生徒会長こと明堂院いつきであった。一体どうしてこのクラスに?とつぼみと拓哉は思っていたがその二人より先にえりかが何かに気がついたような顔になる。生徒会長が来たことで何かを忘れていたのを思い出したようだ。

 

 

「どうやら僕が来た理由が分かったみたいですね。来海さん?」

 

 

「おい、えりか部長さん。アンタ・・・・まさか」

 

 

 拓哉もえりかが珍しく深刻そうな顔になっている理由に察しがついてようやくこの珍獣が何をしでかしたのかが読み取れたようにえりかに皮肉を込めてそう聞いた。

 

 

「そのましゃか・・・部員名簿ですよね?」

 

 

 拓哉の問にえりかは静かに頷いて見せてそれを見た拓哉も一瞬間で顔に汗が出るこの部長はと思っているが自分も部員名簿のことを今の今まで忘れていたので同罪であると感じ黙ってはいたが・・・

拓哉と同じくえりかも汗を顔に浮かべているのだがそれに構わず生徒会役員を引き連れて先導者いつきは話を続けた。

 

「提出日はとっくに過ぎています。今日中に提出してくれないとファッション部は廃部にします!!」

 

 

「そんな!!」

 

 

「ええ!?」

 

 

 提出期限を守っていなかったファッション部部長のえりかに殆どの責任はあるが今になって突然生徒会長から直々にファッション部の廃部宣告を聞かされてしまい激しく動揺してしまう。まさかここまでの強硬手段に出てこられるとは予想もしていなかったが・・・・・

 

「ではそういうことで。失礼」

 

 

 要件が済んだいつきと取り巻きの生徒会役員は早々と教室を後にする。その姿を見ているつぼみはと言うと頬を少し赤らめながら見とれている様子で「なんて凛々しんでしょう」と言っている始末。

 

 

「・・・・・(ど、どうしよう・・・あと3人部員集めなきゃいけないんだけど)」

 

 

今日中に部員名簿を出せと言われてしまってもまだ部員は部長の自分、副部長の甲斐拓哉、新入部員の花咲つぼみの3人だけプリキュアやビーファイターとして砂漠の使徒と戦っていたこともあり今の今まですっかり部員勧誘のことを忘れていたため新入部員の宛などはどこにもない。

しかしなんとかして部員定数をクリアするためには最低でもあと2人入らなければならない。

・・・だが今の今になって勧誘などしても時間が・・・どうすればいいのかとえりかは困惑し頭を抱える。あと二人・・あと二人でいいのだが・・・・・・

 

 

「(・・・・・・)

 

 

 えりかは丁度自分の目の前にいる女子3人組を見て目が止まった。それに気がついた女子3人組は目を反らして口笛を吹いて誤魔化しているが拓哉はというと次にこのマイペース部長が何をするかな等は手を取るように理解ができた。

 

 

「としこ!なおみ!!るりこ!!お願い、ファッション部に入って!!このとーりだから!!」 

 

 

 拓哉の予想が大的中して目の前の女子3人組としこ、なおみ、るりこに部員になってくれるように手を合わせて頼んでみるも3人組は部活をしてまでという部分に微妙な顔をしてしまっている。

 

 

「そう言われてもな~」

 

 

「おしゃれには興味あるけど・・・・部に入ってまでやる気は」

 

 

 最初の拓哉、つぼみと同じ反応である3人組。女子としてファションに興味はないワケではないがそれでもわざわざ部に入ってまでやるつもりはない。迷っている3人にえりかは手を合わせて頭を下げる。

 

 

「そうだ、ウチのショップの商品2割引にしてあげるから!!」

 

 

 拓哉はそれを聞きなんの権限があってそんなことできるのだ?とツッコミを入れたかったがえりかの必死すぎる態度に思わず黙る。

えりかの事だからこの場は黙っている方が自分に危害が及ばない上えりかがあとで始末をつければ問題ない。

 

 

『・・・・・もう一声!!』

 

 

 えりかのモノで釣る作戦で相手を釣ろうということなのだろう。某通販番組のような特典を見せられるとファッション部へと入ること傾き始める3人。だが少し考え込むと・・・

3人は目を見合わせるとそう言ってえりかにあとひと押しで落ちるとアプローチする。流石のえりかもこれ以上何を付ければいいかと考えるが数秒後に・・・

 

「こーなったらフェアリードロップ特性の【オシャレノート】も付けちゃう!!!」

 

 

『おおおーーー、 乗った!!』

 

 

 トドメの一撃の特編に女子3人はファッション部への加入を同意しこれで部員は6人。定数を上回ったので部として成立できるとえりかはホッと安心する。あとは部員名簿をさっさと生徒会に提出するだけだ。

 

 

「みんな仲間ですね♪」

 

 

「ていうか・・・はじめからこうすればよかったんだな。流石はえりか部長」

 

 

 つぼみは新入部員の3人を歓迎し拓哉はえりかに対して皮肉を込めるかのようにそうナイスアイディアだと言わんばかりの視線を送る。とりあえずこれであとは部員名簿を提出するだけだ3人はひと安心しその後の授業を受けるのだった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり生徒会室へと向かう拓哉、つぼみ、えりかの3人。昼休みにでも出せばよかったのだが色々と準備等があったため結局は後回しになって放課後までもつれ込んだのだ。

 

「ファッション部の来海、花咲、甲斐。入りま~す!!」

 

 

 えりかを先導にファッション部の幹部3人は生徒会室に入る。すると其処には生徒会室とは思えない程薄暗い雰囲気が漂っており中にはメガネをかけた男女が暗闇でメガネを光らせながら3人を眼力で圧倒するように睨みつけていった。

 

 

『!?』

 

 それに3人は圧倒されて思わず絶句する。明堂学園の生徒会は異質な者が多いと聞いたことがあったがまさかここまで違う意味で凄いとは思ってもみなかったためだが。

 

 

「あの・・・・生徒会長は?」

 

 

「明堂院さんなら今さっき帰ったところだよ」

 

 

「ファッション部の部員名簿を持ってきたんですけど・・・・」

 

 

絶句している拓哉とつぼみの代わりにえりかがそう聞くが淡々と生徒会役員はメガネを上げながらそう言う。話では今日までに部員名簿を提出すればいい筈だからまだ間に合うとえりかはそう問うように言うが・・・・

 

 

「ファッション部は廃部ってことで決定したわ」

 

 

「そんなぁ~~~」

 

「何っ!?・・ちょっと待ってくれ。部員名簿は今日中に出せばいいと言っていた本人が先に帰るなんてどういうつもりなんだよ!?・・・だいたいアンタら役員が残っているのに統率すべきトップが先に帰るなんて・・・・」

 

 

 つぼみが理不尽だという悲鳴の声をあげ拓哉は納得がいかないと抗議するようにそう言う。

『今日中』なのだから文字通りの意味なら普通は学校が閉められる時間までと考えたいたがまさか生徒会長が家に帰るまでがタイムリミットだったなんて誰が予測できるものなどいるはずがない・

 そんな理不尽など納得ができるかと拓哉は食ってかかるもその彼を黙らせるように生徒会役員の視線が一気に集まった。

 

 

「日直の仕事が長いちゃって遅くなっちゃったんです」

 

 

 拓哉の生徒会役員に対して噛み付いてくる態度はまずいとえりかは事実をありのままに話すも相手側はそれをすごすごと受け入れてくれるような感じではない。生徒会役員たちは薄暗い部屋で3人に軽蔑するような視線を送り無理やり黙らせようとしてくる。

 

 

「明堂院さんは一度決めたことは変えない人だからな」

 

 

「会長は提出日が過ぎてもずっと待っていらしたのよ?今日だってギリギリまでお待ちになっていたのに・・・・」

 

 

「・・・あぁあ~~~!!もう、いいよ。キミらと話していても埒があかない!!・・えりか、つぼみ、行くよ!!」

 

 

 拓哉はこの空間にいるのが耐えられないと二人を連れて生徒会室から出ていき扉をバタンと締めた。3人は思わぬ自体に数秒固まってしまうもいつまでもそうしている場合ではない。どうにかしなければ・・・・

 

 

「えりか、拓哉、どうしましょう?」

 

 

「こーなったら生徒会長の家に乗り込んで直談判しかない!!」

 

 

「だな。こっちから直々に出向くしかないっしょ」

 

 

 こうなれば最終手段だと3人はいつきの自宅の明堂院亭へと乗り込むしかない。学校からはそれなりに遠いが急いでいけばなんとかなるとえりかと拓哉はつぼみを連れいつきの自宅へと向かった。

 

 

「うわぁ~~~」

 

 

「噂には聞いていたがやっぱりデカイな・・・さてと、インターホンはここか?」

 

 

 つぼみは普通の家の数倍はある和風の門構えに思わず声を漏らす。たしかいつきの実家は武術家系で本人も明堂院流という武道の心得があり実力も県大会で優勝する程だとこの前聞いてはいたが想像を超えていたため当然の反応となった。

 玄関のチャイムを鳴らし3人はいつきの友人ということで家の中に入れてもらうも中もかなり広く武術家の家ということで古風漂う和のイメージで固められた広い中庭が広がっていた。

 

 

「いつき様は只今武道館で門下生たちと稽古に励んでおりますが」

 

 

「いくらでも待ちます。今日中に会ってどうしても話さなきゃならないことがあるので」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 どれぐらい時間がかかっても構わないと3人は武道館へと案内されていつきの稽古風景を見学することとなった。3人は周りにいる門下生に混じっていつきが組手をしているのを見させてもらったが・・・・

 

 

「おお、素敵です!!素敵すぎます!!」

 

 

 相手をしていた男子を一瞬で投げ飛ばして勝負を決めてしまった場面を見てつぼみはベタ褒めになっている。

その様子を見てえりかは「おーい」と声をかけながらつぼみの顔に手を伸ばすとそれに気づきつぼみは「なんですか?」と聞き返す。

 

 

「泣きを見るから生徒会長には惚れないほうがいいよ~」

 

 

「・・・・な、何を急に言い出すんですか!!?」

 

 

 つぼみは少しの間えりかの言っていることを考えていると意味を理解し大声でそう言う。それに周りにいた門下生が反応しチラリとこちらを見てくるのを見てつぼみは「すみません」と静かに誤った。

 

 

「言っとくけどさ生徒会長は・・・」

 

 

「おしゃべりは稽古の邪魔になりますから・・・おぉ~~この高鳴る鼓動はもしかして・・・初恋!!」

 

 

「・・・あの、つぼみさん~~あとでどうなっても知らんぞ~~俺は忠告したからねぇ~?」

 

 

 つぼみが案の定な状態になっている事にえりかと同じく隣にいた拓哉も少し冷ややかな視線を送ってそう言った。もしも生徒会長の“正体”を知ったらどうなる事やら・・・

 多分予想ができるパターンは落ち込んでどん底に落ちて・・・・最悪は去年のえりかのように熱を出して寝込むだろう。

 

 

「やめろと言われれば言われるほど恋は盛り上げるのです!!!」

 

 

 完全に本気恋愛モードになっているつぼみを見て拓哉とえりかは呆れかえる。つぼみはいつきに対して本気の本気の大真面目の恋愛感情を抱いている。自分たちの忠告をここまで無視することを見る限り拓哉はこの後のことを考える・・・絶対に超クラスで面倒事になると。

 

 

「おい、えりか・・・後処理は同じ女子のお前に任せるよ」

 

 

「えぇ!?・・面倒事を私に押し付けるの?」

 

 

 こうなった時の女子のテンションの上がり具合と事実を知った時の奈落の底へ落ち粉砕されたときの対応を考えただけで面倒だと拓哉はつぼみがその事実を知ったあとの後処理をえりかに丸投げしようと考えるほどだった。

 

 

「だって一応お前も女子じゃん。つぼみの励ましとフォローはお前の方がしやすいだろ?」

 

 

「”一応”って何よ?・・・・・しらないよ~~」

 

 

 拓哉にそう言われえりかは面倒なことになったと思いながらもこの後どうなるか想像しただけで面倒だと同じ女子ながらも【恋心】とは恐ろしやと思うのだった。

 自分も女のコだから分かるが無情にそれを砕かれた時の反動というものは凄まじいもの・・・拓哉ではないが自分もつぼみが落胆する時になんて声かけようかと今から考えるほどだった。



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第16話「揺れる思い」

 いつきの武術稽古がひと段落を終えやっとファッション部の件について話ができると4人は外に移動する。外は既に夕日が見えておりその綺麗な太陽の光が広い中庭を包み込んでいった。

 

「生徒会長、ファッション部を廃部にしないでください!!部員名簿だってこのとおり出来てたんです」

 

 

 えりかはつぼみが持っている部員名簿を見せてそう言う。実際出来ていたのだからまだ廃部の決定をくだされるには早すぎるという言い分だ。

 

「しかし、幹部会でもう決まったことだし」

 

 

 しかし生徒会長としての立場があるいつきも簡単には首を縦には振れない。自分にも生徒会役員を統率している以上は特例というのを簡単には出すわけにはいかなのは言うまでもないようだ。

 

 

「今日中に提出すればいいって言ってたじゃないですか。日直でたまたま遅くなったんです」

 

「・・・・・!!」

 

 

 思わずいつきと目線が合ったつぼみはまたも顔が赤くなる。これは本気の本気で惚れてしまっているようだと拓哉は直ぐに察しがつくが本人の前ということもありあまり大っぴらには何も言えない。

 

 

「つぼみ、拓哉なにやってるの?アナタ達からも頼みなさいよ!!」

 

 

 ボーッとしているつぼみと拓哉にえりかが容赦なくそう言われるとつぼみは我に返り拓哉はというと少し嫌そうな顔をするも仕方がないと3人は同時に頭を下げる。

 

 

『お願いします、どうかファッション部を廃部にしないでください!!』

 

 

「今日はウチの道場の稽古日で僕も早く下校してしまったからね・・・分かりました。改めて幹部達と話し合ってファッション部を続けられるようにしましょう」

 

 

 たしかに【今日中】と言っていたのに自分は彼女たちの事を考えず予定を優先して先に下校してしまったの。しかし部活存続のために彼女たち3人はわざわざ自分の家に来たところを考慮すると自分にも非があるのは事実だと自分の非を認めると3人にそう言う。

 

 

『ありがとうございます!!』

 

 

 

つぼみ、えりかの二人は意外な太っ腹ぶりにここまで来てよかった喜び拓哉も安堵したようにため息をついた。

 

 

「いつき“お嬢様”お茶を」

 

 

「ありがとう。3人もどうですか?」

 

 

「いただきま~す」

 

 

「ちょうど喉渇いてたのでじゃあ俺も」

 

 

 門下生のひとりがお茶を持ってきたのに拓哉とえりかも貰おうと駆け寄った。しかしつぼみはある言葉を聞いて動きが固まった。

 

 

「お、『お嬢様』?」

 

 

 お嬢様ということは女のコつまり自分と同じ同性ということになる。あんなにカッコよくて凛々しい男装が似合う女のコが・・・・思考回路が停止したつぼみは何がどう言うことなのだという状態になっている。

 

 

「生徒会長は女のコ。そんなの全校生徒が知ってるよ?言おうとしたのにつぼみ、聞かないんだもん」

 

 

 つぼみの態度とは全く真逆に拓哉とえりかは湯呑に口をつけてお茶を飲みながらいつきが実はいつきはれっきとした女の子であるということを説明する。

 この事は学園では既に知りわたっている事実であるので常識とまではいかないのだが誰もが認知している事実である。

 

 

「そうそう。と言っても外から来たつぼみが知らないのは当然なんだけど」

 

 

「花咲さんは転校してきたばかりだったね。僕はある事情で男子の格好をしているけどれ、れっきとした女の子なんだ」

 

 

「そうなんですか・・・そうなんですかぁああ!!!」

 

 

 本人からも事実を聞かされてつぼみは現実へと引き戻される。まさか本当にこんなに自分好みの相手が同性であるなんて・・・・

 認めたくはないが事実ならば受け入れるしかないとつぼみは砕かれた恋心という傷を胸に秘めながら心の中で泣いた。

 

 

「元気だしなってば・・・・・・・と言っても無理か」

 

 

 事実を知ったつぼみはと言うと拓哉が危惧していた通りの状態になってしまっていた。後ろでえりかに励まされながらもその言葉も上の空のつぼみを見て拓哉は恐らく明日にはえりかと同じ状態になるなと次の予測が立っていた。

 

 

「だから言ったてしょ?【やめといたほうがいいって】」

 

 

 拓哉の隣にいるえりかは落ち込んでブルーになっているつぼみの手を抱えながらそう言う。自分も去年同じ状態になってしまっているので気持ちはわからなくもないのだが・・・いや、女子にとってダメージがデカいのは二人にしかわからないだろう。

 

 

「生徒会長さんが女のコだったなんて・・・・・・私の初恋がぁ・・・3分で終わってしまいました!!!」

 

 

 二人はつぼみと一緒に自宅の帰路を歩いていながらもどう励まそうかもといどうやって回復させてやろうかと考えているが思っていた以上に自体は深刻だ。どうしようかとえりかはつぼみの顔を見ながらも・・・・思いついたセリフは・・・・

 

 

「あたしが言えることはねぇ・・・ファッション部が続けられてよかったよ!!」

 

 

『そっち!?』

 

 

 そのセリフを聞いた拓哉とつぼみは同時にそう言った。いや、いくらなんでもそれでフォローのつもりだったら少し笑えないのだが・・・拓哉も思わぬえりかの発言にどう言おうかと思ったがその前につぼみが言い返した

 

 

「友達ならそこは励ましてください!!」

 

 

「いやぁ・・・ほら、初恋は甘酸っぱいって言うし」

 

 

「はぁ~~私、もう立ち直れません」

 

 

 親友であるはずのえりかにそう言われ拓哉は苦笑いしたまま何も言えないようであった。つぼみは思った・・・ここまで衝撃的すぎる出来事が起きてしまったらもう立ち直れないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃明堂院亭ではいつきがある人の車椅子を押して中庭を散歩していた。車椅子に乗っているのはいつきの兄の『明堂院さつき』。実は若くして体が弱く車椅子に乗ることもしばしばある。

 

「とめて」

 

 

 さつきが車椅子から降りて立ち上がると中庭にある池を見る。立派な鯉が泳いでいて中庭に釣り合うその風景を綺麗に彩っていた。

 

 

「友達が来ていたようだけど?」

 

 

 

「ああ、来海さんたちのこと?」

 

 

 

「いつきが女の子の友達を連れてくるなんて滅多にないから驚いたよ」

 

 

 夕日を見ながらさつきは妹には珍しい同性の友達が来たことを喜んでいるようだった。それだけ今の彼女が同性の友達を連れてくることが彼にとっては嬉しいのだ。

 

「別に友達じゃないよ」

 

 

 だがそう言われてもいつきにとってはあの3人は友達でもなんでもない。兄はそう思ってくれているみたいだけども・・・さみしげに

 

 

「僕はいつきにもっと女の子に付き合ってもらいたいんだけど」

 

 

「お兄様・・・」

 

 

 

 いつきが男装している理由はその為でもあった。自分が武道家として家を継ぐためには女子であるということを捨てなければならない。

 そう思ったから学校でも特例で特別仕様の男子制服を身に纏っているのもそれが理由なのだ。

 

 

「僕の体が弱いばかりにいつきが明堂院家を継がなきゃならなくなったけど・・・ぐっ!!・・・ゴホゴホ・・・」

 

 

 突然咳き込むさつきの身体を支え車椅子に座らせる。さつきは「すまない」と言いながらも体を休めるように車椅子にもたれかかった。

 自分の情けない姿にやはり自分の体では武道家として実家を継ぐなどは到底できない。妹に任せる意外はほかに方法がないのか・・・自分の体の弱さを嘆くようにため息をついた。

 

 

「お兄様、私は・・いや、僕は一生お兄様を守ると決めたのです。僕は今の生活に満足しているしお兄様が気に止むことはありません」

 

 

 いつきがここまで自分を犠牲にしていた理由・・・それは兄を守りたいからという純粋な理由だった。家を継ぐことだけじゃない。自分の体の弱さでさつきが自分を責めないように守りたいから。それ故に自分が頑張ればいいという自己犠牲でもあった

 

 

「・・・・無理だけはするなよ」

 

 

 いつきは兄に心配などかけたくないためそう言ってはいるが本心は・・・本当にどう思っているかなんて自分でもわからない。さつきは彼女に手を取り優しく励ますようにそう言った。

 

「・・・・・」

 

 

 いつきはそれを聞き自分でも隠している本心があることは兄妹だから兄に知られているのかもしれない。でもそれでも自分はこの道を選んだのだから最後まで突き進む。そう決めたのだと自分に言い聞かせた。

 二人がいる中庭を夕日が照らしていって夜闇が包み込んでいく。いつきの心の奥底にある迷いが生まれ始めたのはその日が初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝にえりかはつぼみの家に迎えに来たのだが・・・つぼみは学校を休むと言っていた。理由はやはりいつきが女子だと分かったショックが大きすぎたことがあった。

 仕方がないとつぼみへの伝言をシプレに託しえりかはそのまま拓哉の家に向かった。

 

 

「おはよー・・・やっぱ、つぼみは重症?」

 

 

「お察しの通り・・・・まぁ、無理ないよ~~あたしも同じ去年理由で寝込んじゃったからさ」

 

 

 つぼみがいないことに拓哉は自分の予測がまたしても大当たりしたことに占い師の才能でもあるのかと思うほど自分ながらに驚いていた。

学校へ行く支度を済ませて拓哉はえりかと久しぶりに二人での登校に昔の話をしながらしばらく歩いていた。

 

 

「ああ、今でも覚えてる。こんなこと言いたくないがちょっと聞いていいか?・・・あの生徒会長のドコに惚れるんだよ?・・・俺にはサッパリわからないんだけど」

 

 

 拓哉は去年に体だけは丈夫であるはずのえりかも大熱を出して寝込んだことを思い出し思わずえりかにそう聞いた。やはり男の子からすれば男装したあの凛々しい姿の良さはわからないようだ・・・

 

 

「アンタ、恋愛とかホントに疎いもんね~~女のコはね・・・突然胸が高鳴っちゃうことがあるの♪」

 

 

「そんなもんかね~?・・・ていうか今日はやけに機嫌がよさそうだけど・・・何かいいことでもあった?」

 

 

 えりかにそう言い返されるが拓哉はまだ理解ができてないようだった。やはり異性の感性の違いというのは彼にはまだ理解できていないようだ。そして何故か今日のえりかはいつも以上にテンションが高い様子で楽しそうに花歌を歌っているのに気がついてまたしてもそう聞いた。

 

 

「別に~~~♪」

 

 

「???」

 

 

 えりかのはぐらかすような態度に拓哉はまたしても疑問顔になる。一体何を考えているんだこの珍獣はと思ってはいたが・・・それにしても何故かえりかは楽しそうだ。

 何かいつもと様子が違うように拓哉には見えていたがこのマイペース珍獣のことだから予測不可能なのはもはや平常運転だからあまり気にしないほうがいいか?考えるだけ疲れるしあまり変に憶測を立てるのも面倒だ・・・・

 

 

「まぁ、お前が楽しいのなら別にいいけどな」

 

 

 何を考えているか分からないがいつもそんな感じだし別にそこまで複雑に考えなくてもいいかと拓哉はスルーする。

 久しぶりの幼馴染同士の二人だけでの登校をやけに楽しそうな幼馴染を引き連れて学校へと向かう拓哉であった。

 

 

 二人よりも先にいつきが車で先に学校へと向かっていた。流石に学園の理事長の孫ということもありこういう待遇は特別視されているということなのだろう。

いつきが車から出て学園の門へと向かうと待ち構えていた1年の女子生徒達にぬいぐるみやら花束やらファンレターなどなどのプレゼントの贈呈が待っていた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 いつきは笑顔でそう返すと女子生徒達は大喜びでその場から散り校舎へと入っていく。いつきは彼女たちを見てなにか思い当たることがあるのか珍しくため息が出た。あの女生徒たちを見て自分にはないものをそして一番欲しいもの持っているとでも言いたげな表情だ。

 いつきはそのままコソコソと移動すると誰にも気がつかれないようにしながら学園の理事長の彫像の後ろに隠れる。プレゼントの中で貰ったウサギのぬいぐるみをマジマジと見つめると思わず見惚れる。

 

 

「か、かわいい!!」

 

 

 実はいつきは可愛いモノに弱くこういう類ものが大好きなのである。やはりどんなに自分を偽っても自分は女のコであることは完璧には隠せないようだ。

 

 

「女の子みたいだね?」

 

 

「っ!?・・誰だ、お前は!?」

 

 

 自分の姿を誰かに見られたと思って後ろを振り返ると其処には見かけない男・・・その正体砂漠の使徒の幹部の一人コブラージャだ。

その事を知る由がない彼女は不審者が学校に入ったとしか思えない。先生に報告するべきか迷っているとコブラージャは自分のブロマイドを取り出すと・・・

 

 

「イケメンがぬいぐるみに頬擦りをするとは・・・美しいじゃないか!!」

 

 

 投げたブロマイドはいつきには当たらなかったがウサギのぬいぐるの耳をかすめてその耳を切り裂いてしまう。

 

「っ!?・・・・はぁあっ!!」

 

 

 それに気がついたいつきは人前ではほとんど見せたことがない怒りの表情になるとコブラージャにいきなり格闘戦を挑んだ。しかしコブラージャには人間の技はそう簡単には通用せずブロマイドを投げて反撃する。

 

 

「っ!?・・・???」

 

 

 いつきは手に来たブロマイドを手にとって攻撃を防いだが思わず目に入ったそれに絶句して動きが止まってしまう。それをチャンスに思いその隙を逃がさないとコブラージャは目を光らせた。

 

 

「心の花よ出てくるがいい!!」

 

 

 いつきが危険を感じた時にはすでに手遅れであった。彼女はコブラージャの発生させた光に包まれてしまうと心の花を取り出されて彼女は水晶玉に閉じ込められてしまった。

 

 

「なんだ?・・・・っ!?」

 

 

「この美しい牡丹を真っ黒に染めてあげよう」

 

 悲鳴を聞いて拓哉とえりかは学校に入ると其処には既に遅くいつきの心の花を抱えてそれを持ちながら舌を不気味に這いずらせている姿がそこにはあった。

 

 

「デザトリアンのお出ましだ!!」

 

 

 まさか二度も学校でデザトリアンを召喚されるなど思ってもいなかった。えりかと拓哉はパヒュームとビーコマンダーを出す。

 

 

「えりか、行くぞ!!」

 

 

「やるっしゅ!!!」

 

 

 拓哉の言葉に同意し二人は周りに人がいないことを確認するとえりかはパヒュームを開閉しコフレからのこころの種をセットし拓哉はビーコマンダーのウィングを開かせる。

 いつきに学校で暴れさせるわけにはいかない。二人は各々の変身アイテムから光を発生させるとそのまま青い光を発生させる。

 

「プリキュア・オープンマイハート!!!」

 

 

「重甲!!!

 

 

二人は同時に青い光に身を包まれ海の戦士と守護者の鎧騎士の姿へと変身するとデザトリアンの前に立った。



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第17話「心休まる場所」

「ドーーーゾォーーーー!!!」

 

 

 デザトリアンは咆哮を上げながら暴れまわる。さらに今回のデザトリアンは特殊能力を持っているようで目の部分を光らせて眩い光線を発生させて人間に当てそれに当たった人間は石像にされてしまうという恐ろしい能力だ。

 既に何人かの生徒はその光線の餌食となってしまい石像となってしまっていて石像となって生徒がその場に何体か残されていた。

 

 

「きゃぁあああああっ!!!?!?」

 

 

 一人逃げ遅れた女子生徒がデザトリアンに捕まってしまい両手で体を掴まれてしまい身動きがとれない状態にされてしまう。デザトリアンはマジマジと女子生徒を見ていく。

石像にするということはしないようだがそれも気まぐれでどうなるか分からない。女子生徒は怯えながらもデザトリアンを刺激しないようにすることしかできないでいた。

 

 

「コノ格好ノ女子ノ制服可愛スギル!!・・私ダッテ、着テミタァアイ!!!」

 

 

「え?・・・お前、何を言っているんだ?」

 

 

 いつきの事を男子だと思っているコブラージャは今の発言に苦言の顔になる。普通に考えればそうなるのは当然だが次のデザトリアンの思わぬ発言にコブラージャは更に度肝を抜かれることになる・・・・

 

 

「私、女ノコナノォオ!!!!」

 

 

「・・・えぇええええええええええっ!?!?!?!?」

 

 

「だ、誰か助けてぇえ!!!」

 

 

 コブラージャが事実を知って驚いている間にデザトリアンは少女に向けて石化光線の発射体制に入る。しかしさせるものかと後ろからマリンが飛び蹴りを浴びせてデザトリアンから少女を離させて地面に落ちる少女をブルービートが受け止める。

 

 

「さぁ、早く逃げるんだ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

ブルービートは自分の隣に着地したマリンと同時に身構えデザトリアンと睨み合う。デザトリアンの眼力も二人を威圧するがそれにも怯まず二人はお互いに好きを伺っていくが・・・・・

 

 

「カワイイィイ~~~~」

 

 

 マリンのコスチュームを見たデザトリアンの発言にブルービート、マリン更にコブラージャもその場にすっ転んだ。

 

 

「バカも~~ん!!そんなことやってる場合じゃないだろ。早くプリキュアとビーファイターを倒すのだ!!」

 

 

 デザトリアンにツッコミを入れながらコブラージャはそう命令するとデザトリアンは石化光線を発射してくる。二人はそれを飛び上がって避けるが自分たちの後ろに教員がいた事に気がつかず教師二人はそのまま石像へと変えられてしまった。

 

 

「このままじゃマズイ。マリン、一気に決めるぞ」

 

 

「うん。生徒会長!! あたし達が浄化して元に戻してあげる」

 

 

 マリン、ブルービートは同時に走って距離を縮めえるとそのまま飛び上がってラッシュを叩き込むが二人の攻撃は全てデザトリアンにガードされて通らない。

 

 

「マリンダイブ!!!」

 

 

 こうなれば決定打を決めるためにはやむを得ないとマリンは超高空へと飛び上がるとそのまま凄まじい勢いでの急降下キックの【マリンダイブ】をデザトリアンに向けて放ったがマリンの攻撃はデザトリアンに紙一重で避けられてしまう。

 

 

「はぁああああっ!!!」

 

 

 土煙のなかマリンは飛び上がってそのままストレートパンチを叩き込んでいくのだがそれもガードされてしまう。突然のことに離れていたブルービートもマリンも動きが止まってしまう

 

 

「なっ!?・・きゃぁあああああああっ!!!」

 

 

 驚いて動きが止まっているマリンの隙を逃がさないとデザトリアンはそのまま巨大な手で平手を作ってくと・・・・マリンはそのまま巨大な手で平手打ちを受けて校舎の壁に向かって飛ばされるがそれを後ろにいたブルービートが受け止める。

 

 

「マリン、大丈夫か?」

 

 

「うん。あのデザトリアン強いよ・・・いつものデザトリアンとはどこか違う」

 

 

 ブルービートが自分の体を受け止めてくれたためマリンにはそれほどダメージはなかったが今回のデザトリアンの強さは予想以上でそれ以上に動きが素人の喧嘩殺法ではないためどの攻撃もうまく避けられてしまう。

 流石に武術家の心の花を媒体としただけはあり格闘戦を挑むのは不利だと察したブルービートは前に出る。

 

 

「スティンガーウェポン!!」

 

 素手でいくよりマシだろうと判断したブルービートはスティンガーブレードを装備しデザトリアン向かって斬りかかるが腕でガードされまた斬撃が当たってもデザトリアンの防御力にはそれほどダメージは与えられていないようだった。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

 ここは一気に決めるとブルービートはスティンガーブレードの胴体ハッチを開かせてギアを高速回転させてブレードにエネルギーを溜めて必殺技『ビートルブレイク』の発動体制に入る。

 蒼い閃光を纏わせたそのスティンガーブレードの刃を右上から振り下ろして浄化エネルギーを一気にデザトリアンに向けて叩きつけていく・・・のだったが・・・・・

 

 

「ドーーーゾーーーーーーー!!!」

 

 

「っ!?・・・ぐわぁああああああああっ!!!!」

 

 

 なんとスティンガーブレードの刃を掴まれてしまいそのまま動きが封じられてしまうとブルービートはそのまま平手打ちを受けて吹っ飛ばされてしまう。

 校舎まで凄まじい勢いで飛ばされてマリンの隣の壁に体を叩きつけられてしまい衝撃でブルービートもよろけてしまう程のダメージを受けてしまった。なんとか立ち上がるも拓哉自身の身体が衝撃で麻痺しまったようですぐには動けない。

 

 

「ブルービート!!」

 

 

「真正面からの攻撃は奴には通用しない・・・・どうすればいいんだ」

 

 

 エネルギーを纏ったスティンガーブレードの刃を受け止められて斬撃の直撃を封じられてしまうと浄化ができない。自分の技の盲点をうまく利用されたことで技の弱点を初めて知らされてしまうがその相手がデザトリアンとなると皮肉以外何者でもない。

 

 

「トレビアァ~~~ン!!女の子だと思ったら相当なお転婆のようだね?」

 

 

「!!!!」

 

 マリンとブルービートを圧倒するその実力にコブラージャは興奮したように声を発する。デザトリアンを褒めるようにそういうのだったが今の【女の子】という言葉はこのデザトリアンにとって怒りを爆発させる地雷であったのようでコブラージャに怒りの視線を向けた。

 

 

「なっ・・・なんだよ、その目は!!僕は砂漠の使徒の幹部だよ!!」

 

 

 あくまでも自分が上司お前は部下だということを強調するコブラージャだったがデザトリアンにそれが理解できる知性があるはずがない。偉そうにするコブラージャにデザトリアンはターゲットを変更したようでコブラージャの方を向く。

 

 

「【ヌイグルミ】ガ好キダッテイイジャナイ!!!デモ、【お兄様】ミタイナ、ステキナ武道家ニナルニハ【可愛イモノ】ガ好キダナンテ言エナァ~~イ!!!」

 

 

『・・・・・・』

 

 

「普通ノ女ノコノヨウニ、【オシャレ】ヲシタリ【ピアノ】ヤ【バレー】ダッテ習イタイィ~~~」

 

 

 心の花の持ち主であるいつきの本心を聞かされて彼女にとって普通の女のコのように振る舞い生活できることがどれだけ羨ましく大切であるかを聞かされてマリンは何も言うことができない。

 普段はあれだけ完璧な姿を見せていた生徒会長にも誰にも言えない悩みがあったことにも驚きであったが・・・

 

 

「ワタシハ、【可愛イモノ】が大好キナンダァアアアアアア!!!!」

 

 

 自分の本音を叫びながらコブラージャに向けて廻し蹴りを仕掛けるとそれが見事に大命中しコブラージャは勢いよく空へ飛ばされてしまう。

コブラージャは「ぎゃぁあああああああっ!!!」と断末魔の叫びを上げて昼間の空の星となって消えていった。

 

 

 

「それが生徒会長さんの本心だったんですね!!」

 

 

 真打ち登場とばかりに遅れてブロッサムが登場する。マリンはブロッサムの登場に歓喜の笑顔をブルービートやっと登場したかと鼻で少し笑ってみせる。

 

 

「心の奥に秘めた思いまで引っ張り出してデザトリアンにするなんて私、堪忍袋の緒が切れました!! 二人とも早くデザトリアンを浄化しましょう!!

 

 

『うん!!』

 

 

 3人揃えばもう怖いものはないとブロッサムとマリンの二人はフラワータクトを召喚ブルービートはスティンガーブレードを装備する

 

『集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワー・フォルティシモ!!!』

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

3人は同時に飛び上がりデザトリアンの注意を拡散させるとブロッサム、マリンのダブルペアのフォルティシモが発射されその後ろからブルービートが上空からのビートルブレイクを叩き込む。

 

 

『ハートキャッチ!!』

 

 

ハート型の穴があいたデザトリアンは大爆発を起こして消滅して媒体となった彫像といつきの心の花が分離する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ここは?」

 

 

 目が覚めたいつきは自分がいたはずの場所ではないことに驚く。目の前にはファッション部の3人がいて自分は理事長の像の前で倒れていたので3人に運ばれたという。来沖がはっきりしないが自分は確か・・・・・

 

 

「そうだったのか・・・ありがとう。・・・すっと、悪夢を見ていた気がする」

 

 

 記憶がはっきりしないため3人に礼を言っていつきは生徒会室の椅子に座る。思い起こしてみると悪夢を見ていたような気がしてならなかった。その悪夢を助けたくれた3人の人影は思い出せるのだが誰なのかははっきりとしない。

 

 

「生徒会長さん!!あの、ファッション部に入りませんか?」

 

複雑な顔をしながらスッキリしていない表情を浮かべて考え込むいつきにつぼみは声をかけた。えりかは唐突なつぼみの提案にいつきはわけが分からずキョトンとしてしまう。

 

 

「え?・・何故・・・なんで僕がファッション部に入らなければいけない・・・馬鹿げているよ」

 

 

「『馬鹿げているかどうか』・・・そういうことじゃないと思う」

 

 

 拓哉にそう言われるといつきはまた言葉が止まる。つぼみも拓哉が突然何を言いだしたかと思ったがそれに構わず拓哉は言葉を続けた。

 

 

 

「君が何のために頑張っているかは俺たちには分からない。だけど今の君は自分を犠牲にし過ぎている・・・俺にはそう見える。誰にだって休息も必要だよ。君にとっての【心が落ち着ける場所】がね」

 

 

「私もそう思います。生徒会のお仕事のことや武道のお稽古で疲れていたんだと思います。生徒会長さんがファッション部に入れば少しはその疲れも癒されるんじゃないかと」

 

 

 拓哉の言い分につぼみも続けてそう言う。今の彼女は頑張りすぎている・・しかし人間には休むことも必要不可欠だからこそファッション部がいつきにとって休息の場所となるのならばと思ったのだ。

 

 

「ありがとう・・・考えておくよ。それより君、制服は?」

 

 

「え?・・・あぁあああああああっ!!!」

 

 

 拓哉もえりかも今いつきに言われて気がついた。つぼみはいつきがデザトリアンであると聞かされて急いできたこともあり制服ではなく私服しかも寝巻きという格好で学校に来ていたのだ。

 それをいつきに言われて気がつきつぼみは大ドジをやらかしてしまったと顔が真っ青になってしまう・・・それに気がついた拓哉とえりかの二人は大急ぎでフォローに入る。

 

 

「この娘見かけによらずそそかしくて・・・・失礼しまーす!!」

 

 

 拓哉とえりかはつぼみを抱えて生徒会室をあとにした。そそっかしいというかあの3人組を見ていると何故か笑ってしまうといつきは3人が居なくなったあと思わず笑った。

 

 

「・・・・・」

 

 

 いつきはそのあと壊されたぬいぐるみの耳を縫って直していた。自分はやはりこういう物に手を出していいのか迷いが振り切れていないが・・・

 しかし彼女はつぼみや拓哉に言われた言葉が思い当たる部分があると思ったのかもう無理に自分を偽ることはやめようと直したぬいぐるみを抱えて学校へとはいる彼女の姿は何かに吹っ切れたような笑顔になっていた。

 

 

「【牡丹】の花言葉は【王者の風格】、【高貴】、【恥じらい】なんですよ。ホント生徒会長さんにピッタリ!!」

 

 

「花言葉もいいけどさ・・・まだパジャマのままなんですけど」

 

 

 つぼみはそう言われて大急ぎで家に戻った。どうやらショックで出た熱もあれだけ動ければもはや完全に完治した様子であり拓哉とえりかは平常運転のつぼみを見て思わず笑った。

 

 

「さてと・・・俺達も教室に戻ろうか」

 

 

「うん」

 

 拓哉とえりかもいつまでも此処にいても仕方がないと走って家に戻るつぼみの姿を見送ったあと教室へと戻る。いつもの何気ない日常や当たり前のことは実はとても重要であるということを思いながら今日の日を過ごすのであった。



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第18話「妹の憧れ」

 いつもの変わらない平日。普通の家庭であればそろそろ起床する時間であり学校や仕事の支度をはじめる頃合である。

 

「ふぁぁ・・・・おはよぉ~~~」

 

 

 朝起きるのは好きではないが学校がある以上は仕方がないと渋々自室から出て今に降りると其処にはこの出ては日常茶飯事の光景があった。

 

「ももかちゃん急いで」

 

 

「ちょっと待って。今日は私服撮影だから服選ばないと」

 

 

姉のももかがモデル撮影のため母が慌ただしく急いでいるのだ・・・もはやこの光景は慣れたものだが・・・

 

 

「・・・・(朝から騒々しいな~って・・・ももネェは今日もお仕事か)」

 

 

そう学校があろうとも関係ないのがモデルの仕事というものなのだ。本日も彼女は仕事でその準備で母は追われているのだ。だが当の本人はというと逆にどっしりと構えていて大慌ての母とは対照的だ。

 

「・・・・・」

 

 

あの姿を見ているとある意味肝が座っているというか流石になれているというべきなのだろうか。

 

 

「えりかちゃんご飯適当に食べてね~~~」

 

 

「はい、はい」

 

 

「【はい】は一回!!」

 

 

「はぁ~い!!」

 

 

 

「もう、朝から慌ただしんだから」

 

 

学校がある平日であるというのにここまでバタバタしている家庭はそうはないだろう。えりかはそう思いながらも冷蔵庫にある牛乳を手に取る。いくら仕事といえども学校に行く前の朝ぐらいはゆっくりとさせて欲しいと思うものである。

暫くすると準備が出来た姉の姿を見て思わずその姿を見て見惚れる・・・が

 

 

「あぁ~あ、モデルはいいな~~学校は休めるし、ちやほやされるし撮影で綺麗な服を着せてもらえるし~~」

 

 

「・・・悔しかったら、あんたもモデルになればいいじゃない?」

 

 

 皮肉を言ったつもりが返り討ちにあってしまった。えりかは自分で喧嘩を売ったのに逆に挑発されて煽られると朝から不機嫌モードマックスまで跳ね上がってしまう。またいつもの姉妹での張り合いが始まったと母親は呆れてしまうが・・・・

 

 

「いやぁ~ウチの娘達は可愛いね~~~!!」

 

 

 写真家の父親はというと愛娘たちのその姿に親バカ丸出しとでも言うべきか写真を撮る始末であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなひと朝の悶着があったえりかは学校に行き授業を受けたあとの休み時間・・・・またしてもその出来事を思い出すことが起きるとは予想してなかった。

 

 

「じゃぁ~~ん♪」

 

 

「どうしたのそれ?

 

 

「ファッションのこといつもえりかに教えてもらってばかりだから少しは自分で勉強しようと思って買ったんです」

 

 

 つぼみが持っているファッション雑誌の巻頭グラビアに自分の姉の姿がデカデカと映し出されているのを見ていい気分がしない。えりかは少しぶすっとした態度になっているのだが・・・つぼみが気がついてない様子で話を続ける。

 

 

「この“ももかちゃん”ってモデルさん凄く可愛いですよね。今一番人気のカリスマモデルさんらしいですけど、えりかはやっぱり知ってました?」

 

 

「その“ももか”ってモデル・・・私のおねえちゃんなんだよね」

 

 

「へぇ~~~・・・・って、えええぇえええ!?!?!?」

 

 

 えりかの発言にベタな態度で大いに驚くつぼみ。それをとなりで見ていた拓哉は何だ何だ?と思いながら休み時間を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

「ママも昔はすごいカリスマモデルでさだから・・・あたしも、ももねぇもモデルになれると自然と思ってた・・・結局モデルになれたのはももねぇだけだったけどね」

 

 

「そうだったんですか」

 

 

また時間が流れ昼休みに3人で屋上に行き昼食をとりながらもさっきの話の続きになった。えりかが珍しく過去を語っているのを見て拓哉とつぼみは黙って聞いていたが二人は思い出した・・・・えりかがデザトリアンになったときのことを。

 

 

「(そうか、やっぱり今でも悔しんだな・・・自分だけがっていう今の現状が)」

 

 

 拓哉がえりかの心中を察していると後ろにいたコフレを掴み抱えてそのまま彼の顔をつまみ上げて弄り始める。その間に「姉妹でどうしてこうも違うかな~」とつぶやいているのを見て・・・二人はなんと彼女に声をかけるのを迷ったが不意につぼみが立ち上がる。

 

 

「えりか、ええっと・・・駅前に新しいクレープ屋さんがオープンしたんです。今日はそこでファッション部の活動をしませんか?」

 

 

「おお、それいいね!!そうと決まればさっさと食べちゃって皆を誘いに行こう」

 

 

「はい!!」

 

 

 つぼみの一言でえりかも気持ちが切り替わったのか普段の表情に戻ったようで抱えていたコフレを飛ばしてしまう。拓哉は飛ばされたコフレを見て「あぁ~あ」と声をかけるも機嫌が治ったようで一安心になる。

だが弄られ者となったコフレにとっては少し散々だったかもしれない。投げられたコフレはベンチから転び落ちてしましシプレが慌てて駆け寄る。それを見てコフレも姉気分に付き合わされて大変だなと拓哉は思った。

 

 

「やれやれ・・・予想はしていたが流石にこうもなると」

 

 

 放課後になって新しくオープンしたというクレープ屋にファッション部全員が集まった・・・のだがクレープ屋ということで常連客になっているのは学園の女子ばかりで拓哉にとってはかなり居づらい空気になっていた。

 

 

「何ブツブツ言ってんのよ。ほら、副部長クレープ5つね」

 

 

「へいへい。」

 

 

 えりかに部長権限と言われ拓哉は渋々とクレープ屋でクレープを注文する。えりかはチョコ、つぼみはイチゴ、ほか三名はフルーツ系だそうな。拓哉は列に並びながら思う・・・女子は甘いものには目がないというのはやはり本当であるようだ

 

「あ、あとイチゴクレープにチョコをトッピングしたやつも一つください。飲み物はコーラ6つお願いします」

 

自分も小腹がすいてきたところだしと思いついでに自分のもちゃっかりと頼みクレープが6つをファッション部が集まっている机の上に運び全員揃ったところで部長からの活動方針を聞かされる。

 

 

「こんな感じでみんなにもデザイン画を書いてきてほしんだよね」

 

 

 具体的な活動方針を聞かされてモチベーションが高まる新入部員の3人組。拓哉はクレープを食べコーラを飲みながらえりかの説明を聞いていると突然周囲の人間がざわめきだしたのに気がついた。

 

 

「なんだ?・・・あ、・・・・」

 

 

周囲の人がなぜ集まっているのか分かると拓哉も納得する。噂があればそこには影とでも言うが如くえりかの姉のももかの姿がありそれを見た人が騒ぎ始めていたのだった。

 

「(こうも大騒ぎだと大変だな。ももねぇ疲れてそうだな・・・)」

 

流石はトップレベルの人気を誇るカリスマモデルがひょんなところに姿を見せれば誰もがこうなるだろう。しかしちょっと街をうろついただけでこうも人も集まるようではプライベートもへったくりもないなと拓哉がそう思っている隣では・・・・

 

 

「・・・・・・」

 

 

 突然不機嫌モードになったえりかの顔がありつぼみやほかの部員たちも人が集まっていることに気がついたようであり遠くからその様子を眺めているのだった。

 

『・・・・・・』

 

その様子を後ろで拓哉とえりかはやれやれと思いながら見ていると突然つぼみたちがこちらの方を振り返ってえりかに向かってゾゾゾと近づいてくる。

 

 

『え~~りぃ~~~~かぁ~~~~』

 

 

拓哉はともかくとしてえりかも突然のことでかなりの驚きの様子であったが理由を聞いてはっきりした・・・その理由を聞いてえりかはまた面倒事を引き受けてしまうことになった。

 

 

「撮影を見学したい?」

 

 

「友達がさどうしても・・ももねぇがモデルしてるとこ見てみたいて・・・・あたしはヤダって言ったんだけどこれもファッションの勉強だって言われると断りきれなくて・・・」

 

 

「ファッションの勉強?・・ああ、ファッション部だっけ?アンタの部活」

 

 

「そうだけど」

 

 

「どんなことしてるの?それ見せてくれたら撮影来てもいいわよ?」

 

 

「ええぇ?」

 

 

 成行でこんなことを頼むことになってしまったのだがまさかの条件がデザイン画を見せることになるとは・・・えりかはどうしようかと迷う。だが頭に自分に目を輝かせて頼んできたファッション部のメンバーの顔が脳裏に浮かぶ。

 

 

「・・・・・・・あぁあ、もう分かった。はい、これ・・・デザインをおこして服にするの」

 

 

 こうなればもうヤケだとデザイン画を見せるえりか。見せる文は減るもんではないのだがそれでもやはり実の姉にこんなものを見せるなんてかなり恥ずかしい・・・顔から火が出るとはまさにこのことなのだろう。

 

 

「もういいでしょ!! 明日見に行くからね!!」

 

顔が真っ赤になるほど体温が上がり途中で耐え切れなくなったえりかは突然ももかからデザイン画を取り上げてしまうと自分の部屋に逃げるように上がっていった。

 

 

 

「もぉ~~~なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないのよぉ!!」

 

 

部屋に入るなりベッドにダイブして駄々をこねるようにそう言う。一体何事だとコフレは驚いているがその声を無視してデザイン画を見ながら一体どう思ったのかと考えるが・・・・絶対あの姉のことだから見下しているに決まっていると思うと・・・・

 

 

「恨むからねぇ、つぼみ!!」

 

 

 八つ当たりもいいところだがこうしなければやってられないのだろう・・・・えりかあけた窓を締めるとそのまま自分の部屋でしばらく貯めたストレスを発散する術を考えるのだった。その結果・・・

 

 

「急に電話してきたと思ったら・・・お前も相変わらずだな」

 

 

「だってさぁ~~~つぼみや皆に頼まれちゃったら断れないじゃん。でもさぁ~あたしだって・・・・」

 

 

 こういう時は話すに限ると拓哉に電話しさんざんいろいろと聞かされるが黙って話を聞いてくれたことに少しはストレスも発散できた様子ではあると電話からでもわかる程であった。

 

 

「・・・前にも言ったよな?お前にはお前でいいところがあるんだ。だから無理に比べる必要はないだろ?・・・それに」

 

 

「それに?」

 

 

「お前のデザイン画・・・俺は好きだぞ?」

 

 

「・・・・ありがとう。拓哉」

 

 

 拓哉にそう言われると満更でもないようにえりかはそう言った。そのあとは明日の集合場所などを打ち合わせたり・・・久しぶりに二人でゆっくりと話したりと彼女にとっては充実な時間を過ごしたのだった。



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第19話「姉の憧れ~姉妹の結束~」

翌日ももかの撮影現場に集まったファッション部一行はまず思ったのが流石カリスマモデルの人気の凄さが如何なるものかということだった。どこかで噂が広がって聞いたかは知らないが撮影現場には多くのファンが彼女を一目見ようと集まり凄まじい人集ができていたのだ。

 

 

「うあぁ・・・すげぇ」

 

見渡す限りの人の量を見て一行は空いた口が塞がらない。この人の量であるがために撮影現場の見学のために最前列へ向かうのも一苦労であった。なんとか人の川をわたり一行は最前列までたどり着く。

 

 

「いつもえりかがお世話になってます。今日はゆっくり見学していってね♪」

 

 

『は、は、はい!!』

 

 

「・・・・・」

 

 

 妹の友達という肩書きのおかげでファッション部は特別に撮影現場の中に入ることが許されつぼみ達はカリスマモデルを目の前にしてガッチガチの緊張で凝り固まってしまっているのだがその後ろにいる妹はというと不機嫌そうであり嬉しくなさそうだ。

 

 

「えりか・・・機嫌直せって。折角来たんだから俺たちも楽しまないと」

 

 

「・・・・うん」

 

 

 つぼみ達とは温度差が激しいえりかに拓哉はそう言ってなんとかご機嫌を直そうと考えるが・・・やっぱり彼女なりに考えている部分があるのだろうから一概には言えない部分がある。

その二人を差し置いてつぼみ達はというとモデルの撮影現場というのがどういうものであるのかというのに興味津々であるようで撮影現場特にももかのグラビア撮影に釘づけになっていた。

 

 

「モデルさんって凄いですね~~」

 

 

「だね。カッコイイ」

 

 

「あぁ~あ、あたしもあんなお姉さん欲しかったなぁ~」

 

 

「あげられるもんならあげたいよ・・・・人の気も知らないでさ」

 

 

 ブツブツと愚痴をこぼしているえりかに拓哉は苦笑いしているのだがとしこ、なおみ、るりこの3人の視線を感じるとえりかは疑問顔になる。

 

 

「えりかちゃ~ん♪」

 

 

「拗ねちゃって~~~♪」

 

えりかもともと乗り気でなかったことで拗ねているのをやっと察したのか3人は戯れつくようにえりかを弄る。えりかもそれを言葉では嫌がっているのだが実際は戯れつかれて多少なりとも心が和らいだのかやっとこの場に来て笑顔になった。

 

 

「やれやれ、ワガママ姫様もやっと笑顔になったか」

 

 

 友達に弄られながらもやっと笑顔を見せたえりかを見て拓哉はホッと安堵する。昨日の電話で姉とのコンプレックスはまだ心残りがまだあるようでそれが一番の悩みの種であったようだったが今みたいに笑っているのがやっぱり彼女らしいから。

 

 

「・・・・」

 

 

 妹のその様子を見てももかは突然なにか思いつめた表情になった。誰も気がついていないが今の彼女は何かを求めている。だがそれを言葉にしないのは彼女自身が気持ちの整理ができていない事もあるのだろう。

 

 

「あっ!!・・・・・みんな」

 

 

流石に騒いでいるのがうるさいと感じた撮影スタッフは騒いでいるえりか達に視線が集まりそれいち早く察したつぼみと拓哉は顔が青くなりつぼみが4人に声をかける。流石に場の空気を察したようであり4人は途端に静かになった。

幸いなことに注意を受けただけで撮影現場から追い出されることはなかったためこれ以上は迷惑をかけるわけにはいかないそろそろ私語は慎もうと6人は黙って撮影見学をすることとなった。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 

 だが今度は上空から野太い男の声が聞こえてきて撮影現場は空気を壊されることとなった。その邪魔者の正体は砂漠の使徒の幹部クモジャキーであり撮影スタッフは当然の乱入者に対して警戒心を剥き出しにするも当の本人は全く気にも止めていない。

 

 

「あれは、クモジャキー!!!」

 

 

 混乱の中で拓哉たち3人だけはクモジャキーのことが分かっていたようであり今度は誰をデザトリアンにする気だと警戒するもこの人が多い場所でプリキュアやビーファイターになる訳にはいかない。

 

 

「つぼみ、えりか・・ここは移動して変身を・・・っ!?」

 

 

 なんとかできないかと思っていたがクモジャキーは3人に猶予の時間を与えてくれるほどお人好しではなかった。邪魔者のプリキュアとビーファイターが来る前に行動するのみだと今回のターゲットへと近づいていく。

 

「今にも枯れそうなお前の心の花をいただくぜよ」

 

 

 今回のターゲットを既に決まっている・・・そう今目のターゲットは今自分の目の前にいる来海ももか。それに気がついた3人だったが時すでに遅し・・・クモジャキーはももかから心の花を取り出す準備を始めてしまう

 

「心の花よ出てくるぜよ!!」

 

 

 

 ももかはクモジャキーによって心の花を取り出されてしまうと水晶に閉じ込められてしまう。周突然人間が得体の知れないものに変えられたことで周囲の人々は大混乱となったが妹のえりかだけは分離された水晶玉に誰よりも先に近寄った。

 

 

「ももねぇ、ももねぇえ!!!」

 

 

 水晶玉に閉じ込められた姉の姿を見ていつになく混乱した姿を見せるえりかの元へ拓哉とつぼみも駆け寄る。その間にクモジャキーはデザトリアンの媒体となるべき素材を探していると撮小道具の荷物から散乱した化粧道具に目をやる。

 

 

「デザトリアンのお出ましぜよ!!!」

 

 

 化粧道具を媒体として生まれたデザトリアンの姿は散乱した道具をそれぞれ合体させたようなものであり見た目はクモジャキーの好みではないようであるが見た目はどうでもいいと暴れさせる。

 

「ビューーーーティーーーーー!!!」

 

 

 デザトリアンの出現によって混乱はピークを迎え人々は逃げ惑いファッション部も散り散りとなった。暴れたことで周囲には凄まじい土煙と人々の悲鳴が響き渡っていく。

 

 

「えりか、えりか!!!」

 

 大混乱の中放心状態のえりかに拓哉は彼女の方を揺さぶって声をかける。目の前で自分の肉親がデザトリアンにされたショックがかなり大きく普通の人間であればこうなるのは無理もない。

 

 

「つぼみ~~~!!えりか~~~!!」

 

 

「えりか!!プリキュアに変身してももかさんを助けましょう!!」

 

 

「うん!!」

 

 

 つぼみの言葉を聞いてえりかは我に返ったのか決意の表情になり二人はココロパヒュームを取り出すとピンク色と青の光に包まれる。そしてパートナーに集まった光を凝縮したこころの種を手にとって変身コードを叫んだ。

 

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 プリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

 次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

 最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき二人は同時にポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 少女たち二人はプリキュアに変身を完了させたあとポーズを決めて名乗り上げる。

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーを取り出し赤いスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

掲げたビーコマンダーが青く光りを発生させあると中に収納されているブルービートのインセクトアーマーが元の大きさに戻っていき拡散し拓哉の身体もその蒼い光へと包まれていった。

 まずは腕に素早く鎧が纏われ次に胸と下半身そして顔以外のすべての部分に重厚なる鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!! 重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 ジャキっと金属音を響かせながらポーズを決めて鎧騎士の姿に変えた少年は騎士の名を名乗り上げをポーズを決めた。

 

 

「現れたなプリキュア、ビーファイター。行くぜよデザトリアン!!」

 

 

 やはり出てきななとクモジャキーはデザトリアンに命令を下し3人と戦わせる。居無いな腕での先制攻撃を仕掛けるも3人は飛び上がって攻撃を避ける。

 

 

『はぁああああああああああっ!!!!』

 

 

 飛び上がった勢いに乗って3人はトリプルキックをデザトリアンへと叩き込んでいくが化粧独具の一つであるパクトが胴体となっていることでトランポリンから飛ぶように弾き飛ばされてしまいその勢いに乗ったまま後ろに飛んだ。

 だが幸運にも後ろのビルがあったことでそれを足場にするように一度止まり3人は足を着地させて体重をビルに預け一度力を足に貯めていくと・・・・・

 

 

『はぁああああっ!!!』

 

 そのままもう一度ブロッサムとマリンは二度目のダブルキックをブルービートは飛び上がりからのフライングダブルパンチ放ってデザトリアンを押し倒す。

 3人は同時に着地しマリンは我先にとデザトリアンへと向かって飛びブロッサムとブルービートはその後を追うように走る。

 

 

「ダレニモ・・・ダレニモ私ノ気持チハ分カラナイ!!!」

 

 

「っ!?・・・ああぁあっ!!!!」

 

 

 飛び蹴りの態勢に入ったマリンはももかの心の声を聞いて一瞬隙ができてしまう。その隙を逃がすものかとデザトリアンが腕をふるってマリンをビルへと叩き飛ばしてしまう。

 

 

「マリン!!」

 

 

「ヤバい!!・・・ブロッサム!!」

 

 

「はい!!」

 

 流石に姉が相手となるといつものように戦うことは難しいのだろう。ブロッサムとブルービートは彼女のサポートに回るべく急いで空に飛ぶ。

 

 

「ブロッサム・シャワー!!!」

 

 

「9,6,4、インプット。フラッシュモード!!

 

 突風を集中させると手から無数の桜の花弁をデザトリアンに向かって勢いよく発射しそれに続きブルービートはインプットマグナムに認証コードを入力し盲ましを発生させるほどの強烈な放ちブロッサムの技と融合させた光線がデザトリアンに直撃しデザトリアンのその大きな体が地面に倒れた。

 

 

「マリン大丈夫か?」

 

 二人はデザトリアンが倒れた隙にマリンのもとに駆け寄った。マリンの傷自体は大きな問題ではないそれ以上に姉がデザトリアンにされたことによるメンタル面のダメージが非常に問題ありの状態だ。いつもの彼女には見られない動揺が隠せないでいるのがわかる。

 早く戦いを終わらせなければならないと思っているとデザトリアンは立ち上がりももかの心の中に眠る本音を暴露し始めたのだ。

 

 

「確カニ私ハ【モデル】トイウ夢ヲ叶エタワ。キレイナ服ヲ着テ雑誌ニ載ッテ・・・ファンノ人ニ応援シテモラッテ。デモその所為デ失ッタモノモ沢山アル。【普通ノ生活】【普通ノ友達】・・・えりかガ、妹ガ羨マシイ!!!」

 

 

『!!!』

 

 

「ももかさん」

 

 ももかの本音を聞き3人は動きが止まる。特にえりかは妹として一番近くにいたのに姉がこれほど前に思い悩んでいたことに言葉が出なかった。

 知らなかった・・・・モデルになりたいと思っていた自分とは正反対に自分のように普通でいる事を望んでいたなんて。

 

 

「あっはははははは!!!!もっと叫べデザトリアン。心の花が枯れるまで暴れるぜよ!!」

 

 

「特別扱イナンテシテ欲シクナイ。私ダッテ普通ニ友達ト遊ビタイ。タダ、ソレダケナノニィ!!」

 

 

 デザトリアンは次なる攻撃だと胴体をドラミングのように叩いていくとその部分から煙幕のように煙が発生して辺りを包んでいく。

3人は司会を奪われてしまいブロッサムとマリンは思わず咳き込んで動きが止まってしまった。

 

 

『ゲホゲホゲホ・・・・・っ!?・・・きゃぁああああああああ!!!』

 

 

 視界を奪い第二の攻撃の口紅型ミサイルでプリキュアチームを大きく吹き飛ばしてしまう。

 

「ブロッサム、マリン・・・っ!?・・・ぐああああぁああっ!!!」

 

 

 いつの間にか距離を縮めていたデザトリアンの巨大な腕がブルービートに迫り彼の体はビルに向かって凄まじい勢いで飛ばされてコンクリートへと叩きつけられる。見た目とは反比例なほどの強敵に3人は圧倒される。

 

 

「このデザトリアン見た目は好かんが中々やるぜよ。さぁ、心の花が枯れるまで暴れるぜよぉ!!!」

 

 

「ビューーーティーーー!!」

 

 

 デザトリアンの咆哮があたりに響いた。悲しき心の怪物の咆哮が・・・・そしてそれに合わせクモジャキーの勝ち誇った高笑いも重なっていく。

 

 

「やめて・・・もうこれ以上心を弄ばないで・・・・」

 

 デザトリアンにされたももかの心の花が枯れ果てるまで本音という叫びを見世物にされる・・・それにマリンは耐え切れず弱々しくクモジャキーに許しを請うように声を出した・・・だがそれを聞いてクモジャキーはニヤリと笑を見せるだけであった。

 

 

「弄んだのは俺じゃないきり。そいつの気持ちを分かってやらん周りの人間じゃき!!」

 

 

 クモジャキーの言い分にマリンは何も言い返せない。たしかに妹の自分だってこうなるまで彼女の気持ちが分からならなかったのだからクモジャキーの言うとおり・・・周りの人間と大差ない。

 あたしも同罪なんだ!!

唇を噛み締めるマリンはどうすればいいか分からなくなりそうだった。

ももねぇを助けたい・・・・・でもどうすれば・・・どうすればいいの?

 

 

「それは違います!!」

 

 

「っ!!」

 

「確かに周りの人はももかさんの寂しい心に気づけなかったかもしれない。でもその心を引きずり出して弄んだのはクモジャキー・・・貴方です!!」

 

 

「そうだ・・・・人の心の弱みに付け込んで自分たちの目的のために利用した。クモジャキー・・・許さない!!!」

 

 

「私、堪忍袋の緒が切れました!!」

 

 

 後ろから仲間の・・・ブロッサム、ブルービートの声を聞いてマリンも立ち上がる。ブロッサムの決め台詞を合図にブルービートも本気モードのスイッチが入り彼女の隣に飛び着地する。

 

 

「ブロッサム、ブルービート・・・・ももねぇの気持ち・・こんなことにならなきゃ絶対わからなかった自分が悔しいよ!!」

 

 

 二人の怒りの表情を見てマリンも心の中にあった迷いが一気に消えていった。一番近くにいたのに意地になって自分は近づこうともしなかった。そればかりか嫉妬して怒り人気があることに拗ねて・・・・

 

 

「でも・・・だからこそ絶対ももねぇを助けてみせる!!」

 

 

「はい!!」

 

 

「ああ!!」

 

 

「海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ!!・・・覚悟しなさいクモジャキー!!!」

 

 

 怒り大爆発のマリンはクモジャキーに向けて指を立ててそう宣言する。クモジャキーはというと鼻で笑って挑発を返す。

 

 

「やれ、デザトリアン!!」

 

 

 クモジャキーの号令に合わせ先ほどの煙幕攻撃を発生させるが同じ手は二度も通用しないとブロッサムとブルービートは同時に飛び上がった。

 

 

「その手は桑名の焼き蛤です!!・・・同じ技は聞きません。ブロッサム・フラワーストーム!!!」

 

 

 同じ手は二度も通用しないとばかりにブロッサムはカラダを大回転させて竜巻を発生させていくと煙幕を消滅させる。

 

 

「0、1、0・・・インプット。絶対零度冷凍弾!!!」

 

 ブロッサムに続けて飛んでくるミサイルにインプットマグナムをブローバックさせ認証コードをに入力。絶対零度冷凍弾を発射し冷気でリップ型のミサイルを冷気で固める。

 

 

「1,1,0、インプット。ビームモード!!」

 

 その後素早く通常ビーム攻撃を連射しインプットマグナムの砲撃を放ちミサイルを粉々にして攻撃手段を一気に封殺しにかかった。

 

 

「マリン、今です!!」

 

 

「ももねぇを助けろ!!!」

 

 

「うん!!」

 

 

 二人の気持ちを胸にマリンはデザトリアンの隙を見逃さず胸のクリスタルを光らせる。

 

 

「集まれ花のパワー、マリンタクト!!」

 

 マリンタクトのクリスタルドームを回して虹色の光を青いクリスタルに集めるとエネルギーを充填させると青い光がタクトのクリスタルから放出される。

 

 

「花よ煌めけ、プリキュア!ブルーフォルテウェイブ!!」

 

 

 充填させた花のパワーを一気に集中させるとを水色の花の形に形成させたエネルギー弾に変換させてデザトリアンに向けて勢いよく発射した。

 

 

「はぁあああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 タクトのクリスタルドームを回転さえてエネルギーを送り込んでいく。するとデザトリアンの身体は宙に浮かんでいき浄化のエネルギーが送り込まれると光を発し心の花と媒体となっていた化粧道具と分離する。

 

 

 

「今度はお前の番だクモジャキー!!!」

 

 

「ちっ・・・・今回はやっぱり貧弱ぜよ」

 

 

 次はお前だとブルービートはスティンガーブレードを取り出すが流石に形勢不利と判断したようで主観移動で姿を消した。

 

 

 

 その日の夕方には久しぶりに姉妹で話し合い二人は長い間に出来た溝が埋まったようだった。・・・ももかの心の花であるダイヤの花言葉は【可憐】つぼみ曰くももかにピッタリだ。そしてえりかもももかの本音を聞いたことで考え方が変わった・・・・そしてこの日に純粋に憧れの対象へと変わったのだった。



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第20話「動く黒い影」

 暗黒の闇が続く空間にそびえ立つ巨大なる城。それこそは砂漠の使徒のアジトでありそのある場所でダークプリキュアは月を眺めていた。黄色い目を光らせながら禍々しいオーラがあたりを包む。

 それとほぼ同時刻の玉座の間では砂漠の使徒の兵隊【スナッキー】の軍団が集まりスナッキーたちの上には大幹部のサソリーナ、クモジャキー、コブラージャが待機していて誰かを待っているようだった。

 

 

「キュアブロッサム、キュアマリン、ブルービート。こころの種を集め心の大樹を復活させようとする者たちがいる。我々【砂漠の使徒】は人々の心を枯らし世界を砂漠にするのが目的・・・・【プリキュア】、【ビーファイター】なんとも邪魔な存在よ」

 

 

 三幹部たちが待っていた相手はサバーク博士であり登場するなり玉座の間の頂点部分から演説を行う。

 これまで自分たちの計画を見事までに何度も潰してきたプリキュアとビーファイターという大樹の守護者達のまずわらしさは既に自分たちの許容範囲を超えつつあるのだから問題に切にはいられないということだ。

 

 

「サバーク博士。次こそはあの未熟なプリキュアとビーファイターを倒してみせますわ!!」

 

 

「あのキュアムーンライト、ジースタッグ、レッドルの3人に敗れたならいざ知らず、未熟な守護者に何度敗れれば良いのだ?」

 

 

 サソリーナにそう一喝してサバークは黙らせた。最初こそは未熟であったキュアブロッサムだけであれば問題なかったが別の守護者ビーファイターのブルービートが加わり更に第2のプリキュアキュアマリンの覚醒によって敵側の戦力は確実に強化されているのは事実でありもはや自分が危惧していたことが現実になりつつある現状サバークも焦りが生まれ始めているのだ。

 口では未熟と見下しているのにも関わらずいつまで経っても成果を出せない3幹部に対してサバークの不満はもはや臨界点にまで達しているのだ。

 

 

「た、大変申し訳ありませんわ!!」

 

 

サバークの心情がやっとわかったようでサソリーナの二の舞はゴメンだとクモジャキーとコブラージャはサソリーナがサバークに謝罪し頭を下げるのを黙って見ている以外何もしなかった。

 

 

「サバーク博士プリキュアの二人・・・始末は私が」

 

 

「ブルービートの討伐は私にお任せを・・・栄えあるサバーク博士の野望を必ずやこのブラックビートが成功させて御覧に入れましょう。その代わり今後奴の始末は後私に一任を」

 

 

 突然その重苦しい空気を打ち破るようにサバークの隣に現れたのは悪魔の片翼を持つ少女ダークプリキュア、続いて後ろから漆黒の影から黒い鎧を持つ漆黒の力を持つ悪のビーファイター【ブラックビート】の闇からの二人であった。

 

 

「・・・好きにするがいい。ただしプリキュアが集めたこころの種をすべて始末しろ。ブラックビート、お前はブルービートの変身者【甲斐拓哉】をこの世から消せ」

 

 

『はい』

 

 

「ちょっと!!あの3人を倒すのは私よ!!」

 

 

「ならば、我々の部下として使ってやろう」

 

 

「・・・・ふぅん、無能な雑魚を手下に使うなど俺の美学に合わん。ダークプリキュア、こいつはお前にくれやる」

 

 

「そうか・・では私の部下として使ってやろう」

 

 

「・ざ、雑魚・・・ぶ、部下・・・ですってぇ!?・・・ふざけないでよ!!!」

 

 

 二人の黒い戦士に大幹部でありながら雑魚だの部下にしてやるだのと言いたい放題言われてしまいプライドをズタズタにされてしまう。

 このまま言われたい放題言われて黙っていられるかと大声で言い返すがサソリーナだったがその彼女にダークプリキュアが向き瞑っている右目を開くと金色の瞳がサソリーナを捕らえるように睨みつけると・・・・

 

 

「ううぅっ!?・・・・な、なにすんの・・・・・・・・っ!!!」

 

 

 ダークプリキュアの右目から凄まじい衝撃波が発生しあたりを吹っ飛ばしていとその衝撃に耐え切れずサソリーナはその場に倒されてしまう。クモジャキー、コブラージャはしっかりと耐えて見せているがそれでも衝撃波は凄まじいものがあった。

 

 

『・・・・・・・・・・』

 

 

 サソリーナは悔しさに睨みつけ言い返そうとするがその視線の先にはダークプリキュアの黄色に光る眼光とブラックビートの黒いカミキリムシの仮面の目の部分が黄色く光り瞳のように邪悪な顔と同時にアーマーの胸が血のように真っ赤光り輝いて目には見えないオーラで威圧されていることに気がつくとサソリーナは恐怖のあまり言葉が詰まる。

 

 

「うっ・・・・・・し、しょうがないわね!!今回だけは大サービスで言うこと聞いてやるわぁっ!!」

 

 

 流石に実力の差を思い知らされたのかサソリーナはブツクサ文句を言いながらもダークプリキュアの部下として今回は働くことを受け入れたようであり瞬間移動でその場から姿をける。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 弱い犬ほどよく吠えると言ったところだろうかサソリーナの捨て台詞を聞きながらもサソリーナに続けてダークプリキュアがそれに続けてブラックビートが瞬間移動でその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春風が吹く昼下がりに甲斐拓哉はある場所へ来ていた。希望ヶ花市の全体が見渡せる大きな小山の丘から少し離れた場所にある大きな木がある場所へと。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 そこはキュアムーンライトがダークプリキュアとブラックビートの闇の戦士タッグと激戦を繰り広げた心の大樹がある平原を連想させるような自然と神秘があふれる場所で拓哉が自分の本音を言えるただひとつの場所でもあった。

 

 

「父さん・・・俺、まだわからないよ。本当に俺がブルービートになってよかったのか・・・貴方のように戦えるのかが」

 

 

 大きな大樹の前にあるひとつの十字架の前で拓哉は独り言をつぶやいていた。もうこの世にはいない相手に向けて・・・・

 この場所は拓哉がブルービートのビーコマンダーと初め出会った場所でもあり思いつめたり何かに迷ったりして時に彼は此処に来て誰も聞いていないのに一人で自問自答を繰り返すのだ。仲間になったつぼみ、えりかにはまだ話していないこともある。自分が何のために砂漠の使徒と戦っているのか・・・その本当の目的を・・・・

 

 

「・・・でも、今の俺は一人じゃない・・・・何となくそれはわかる気がするよ。あの二人なら本当のことを話しても・・・・」

 

 

 あの二人なら自分の本音を・・・自分が戦っている本当の理由を打ち明けても今まで通り心の大樹と人々の心を守る仲間として、親友として接してくれる・・・・

そんな気はするのだがやはり怖い・・・もしも自分の本性を知った時に二人が離れていってしまうのではないか今の関係が壊されてしまうのではないかと・・・

 そして自分でもまだ認めたくない部分が無意識にあるのだ・・・・・自分の戦っている本当の目的が【復讐】のために戦っているという事実を。

 

 

「そろそろ行くよ。父さん・・・・」

 

 

 今日はこれくらいにしておこう。拓哉はそう思い重い脚を動かして大樹とその前にある十字架に背を向けた。まだ本当の意味での答えは見出せていないのかもしれない。でもいつかその答えを自分の力で見つけ出さなければならない日が必ず来る。そんな気がするのだ・・・・

 万が一その時になって自分はブルービートとして大樹の守護者【ビーファイター】として戦っていく事が出来るのか・・・それは今の自分には分からない・・・・・

 だが遠くない未来にその時が必ず訪れその時までには答えが出ている・・・・そんな予感もまた彼は自分の心の奥底で感じ取っていたのだった。

 

 

「お、アイツ等もここにきてたのか。おーーーい!!」

 

 

 今日は砂漠の使途も今のところは動きを見せないから一旦は家に帰って久々にゆっくりと時間を過ごそうかとかと思っていた道中の途中で小山の頂上でつぼみ、えりかの二人が壮大な景色を眺めている場面を発見し拓也は二人に声をかけた。

 

 

「珍しいね。何してんの?こんなところで」

 

 

「え、いや・・・ちょっとな。・・それより、絶景だね此処からの景色。学校があんな小さいや」

 

 

 えりかに問いただされると拓哉ははぐらかすようにそう言い返す。2人はなにか隠してはいる・・・だがそれ以上特に何も感じなかったため詮索はしなかった。

 

 

「・・・・綺麗」

 

 

 改めて自分の街の全景を見て思わず出た言葉がそれだった。つぼみが初めてシプレとコフレの二人に出会ったのがこの場所。ここからの景色は心が洗われるほど美しい・・・

 

 

「砂漠の使徒はこの世界を砂漠にしようとしてるんだよね」

 

 

「そうです。それを防ぐために【こころの大樹】を復活させるです」

 

 

「それが私達の使命なのです!!」

 

 

 この美しい世界を守るのが自分たちの使命。砂漠の使徒がどうしてこの綺麗な世界を砂漠にしたいのかは分からない。なぜ争いしかできないのかその疑問は常にあったがこうやって改めてそれについてじっくりと考えることは今までなかった

 でも相手がどのような目的であっても絶対に自分たちの故郷を大切な場所を不毛な砂漠の世界にさせるわけには行かない。砂漠の使徒からこの世界を守るのが【プリキュア】と【ビーファイター】でありこのという二つの守護者の力はその為にこそあるのだから。

 

 

「・・・キュアブロッサム、キュアマリン、ブルービート。俺達3つの力が1つに合わされば誰にも負けない。たとえこれからどんなに強大な敵が現れても3人の力を合わせれば絶対に乗り越えられる。だよな?」

 

 

「うん!!・・・もう一つ・・・皆の胸の中にある【心の花】を砂漠の使徒から守り綺麗に咲かしてあげる」

 

 

「そして【こころの種】をたくさん集めれば【こころの大樹】は蘇るのですね」

 

 

 こころの大樹が復活させることもまた守護者の使命。今はまだ【こころの種】の数は少ないが少しずつ集めていけば必ず蘇る。そのためにも人々の砂漠の使徒から心を守り抜くことも自分たちのもう一つの使命なのだ。

 

 

「それだけじゃないです!!素敵な奇跡が起こるです」

 

 

「なになに素敵な奇跡って!!それで砂漠の使徒をバーーっと倒せちゃったりするの?」

 

 

「それは秘密です!!」

 

 

「秘密か~それじゃ仕方ないな」

 

 

 もしかしたら本当に砂漠の使徒を倒せるかもしれないと期待したのに秘密と言われてしまうとガッカリしてテンションが下がるえりか。

 

 

「でも何回砂漠の使徒を倒せばいいんですか?」

 

 

「そ、それも秘密ですっ」

 

 

「そ、それなら仕方ないですね」

 

 

 本当はよくわかっていないんじゃないかとつぼみは思って苦笑いする。だが実際このまま何度も戦うしかないと3人は思う。相手が諦めるまで何度も戦って戦って戦い続けるそれが自分たちの使命だと・・・・・・ 



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第21話「激突!!黒の恐怖」

 翌日の学校で突如事件が起きた。新設された女子サッカー部の部員全員が謎の二人組に襲われるという事件が起きたのだ。幸いにも全員怪我は浅く大事には至らなかったが気になることがひとつあった。それは・・・・

 

 

「プリキュアとビーファイターが女子サッカー部を襲っただって!?」

 

 

 放課後になり下校途中で拓哉はでつぼみ達に今日起きた事件の一部始終を聞かされて大声でそう言った。

 砂漠の使徒のあの3幹部でも直接人間を襲うなどということは今までなかったが拓哉は【黒いビーファイター】という単語を聞いて顔に冷や汗が浮かんだ。遂に奴が動き出したということなのか?・・・と。

 

 

「でもどういう事?・・・あたし達の他にプリキュアやビーファイターがいるのかな?」

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 えりかの疑問に拓哉は一つの確信があったがまだ仮説の段階であるため何とも言えない。二人の重苦しい空気を断ち切るようにつぼみはなにか閃いたような顔になる。

 

 

「もしかしてキュアムーンライトが生きていたとか!?」

 

 

 自分たちの以外でプリキュアがいるとすれば消去法から推測してもキュアムーンライトの他に考えられない。もしもそうだとしたら心強い大戦力であるが拓哉はその言葉を直ぐに「違うよ」と言って否定する。

 

 

「仮にそうだとしてもキュアムーンライトがあんな事をするはずがない。それに・・・・(【黒いビーファイター】・・・・もはや奴以外は考えられない!!!)

 

 

「そうですよね・・・・」

 

 

 拓哉は言い分に2人はごもっともと息を揃える。キュアムーンライトだとすればあのような無差別攻撃などするはずがない。

 仮にも自分たちの先輩格の存在が守護者の名前を汚すような真似を自分でするなどとは考えられないのだ・・・いくつかの可能性を覗いた場合にのみだが・・・・・

 

 

「花の声が聞こえるですぅ!!!」

 

 

「花が助けを呼んでるですっ!!!」

 

 

 考え込んでいた3人に突然シプレとコフレは何かを感じ取った。二匹曰く花が何者かに襲われ助けを呼んでいる。3人はもしかしたら自分達の偽物が現れたのではないかと大急ぎでその現地へと向かうとそこで見た光景は・・・・・・・

 

 

『あああぁっ!!!!』

 

 

 花畑の花がすべて枯らされて見るにも無残な姿へと変貌させられていた。その花畑の中央には黒一色の姿をした二人の人物が立っていた。花畑を荒らした犯人はあの二人組なのか?

 

 

「花畑をこんなにしたのは貴方達ですか!?」

 

 

 二人組はつぼみの声に振り返りその姿を見せる。その姿を見た3人は驚きの顔シプレとコフレは恐怖の顔になった。その相手とは・・・・・・

 

 

「貴方達は!?」

 

 

「夢の中で・・・」

 

 

 花畑の花を無残にも駆らせた張本人の黒一色の二人組は振り返ると体から放たれるオーラで無意識に3人を威圧していく。その姿を見た瞬間につぼみとえりかはこころの大樹の夢を思い出す。

 キュアムーンライトとビーファイターを倒したあの漆黒の闇の使者【ダークプリキュア】と【ブラックビート】という存在を。

 

 

『・・・・・』

 

 

 言葉で表現するのに最も適しているのは一つしかない・・・それは『邪悪』だ。この言葉は今目の前にいる二人の黒い戦士を象徴するには最も適しており自分達の恐怖を煽るだけには十分な威力がある。

 しばしの無言による静寂が辺りを包み込んでいくのだったがそれを切り裂くようにダークプリキュアが口を開いた。

 

 

「私はプリキュアを倒すために造られた。【ダークプリキュア】」

 

 

「・・・・まさか女子サッカー部員に怪我を負わせ更には何も罪もない花をこんなふうにしたのも・・・・」

 

 

「その通り。そして此処は貴様たちの墓場でもある」

 

 

 続いて黒い鎧騎士ブラックビートが黒い仮面の目の部分を黄色く光らせながら声を上げた。此処が自分たちの墓場?・・・その言葉に拓哉は身構えつぼみとえりかも恐怖が心を支配する・・・ただひとつ分かることそれは今目の前にいる相手は3幹部など確実に凌駕するほどの実力を秘めている・・・・ということだけだ。

 

 

「お前が・・・・黒い鎧騎士・・・」

 

 

「・・・察しがいいな?甲斐拓哉。そうだ。我が名は【ブラックビート】・・・貴様をこの手で倒すために生み出された存在だ」

 

 

 ついに姿を見せたブラックビートを前に拓哉はビーコマンダーを取り出す。だがそれと殆んど同時にダークプリキュアが右目の眼力から発生させた衝撃波で3人後ろにある土手の坂に身体を叩きつけられた。

 

 

「ぐっ・・・・なんてパワーだ」

 

 

 3人は咄嗟に腕を組んで防御の体制に入ったのだったが衝撃波の威力は凄まじい。牽制程度の攻撃であれほどのパワーを秘めているとなるとかなりに実力者である事を3人は本能的に察知する。

 

 

「我々にはお前たち大樹の守護者を倒しサバーク博士が望む【世界を砂漠化する】という目的がある。だがお前たち“プリキュア二人”には何の目的もない。そんな奴らがこの私に勝てるはずもない」

 

 

 ダークプリキュアの今度は左手をつぼみとえりかに向けて伸ばす。そして次の瞬間には腕から重力波のようなものが二人に向けて放たれていく。

 

 

『きゃぁああああああああっ!?!?!?』

 

 

「つぼみ、えりか!!・・がぁあっ!?」

 

 

「貴様の相手は俺だ!!!」

 

 

 つぼみとえりかを助け出そうと拓哉は駆け寄ろうとするがその前にブラックビートが立ちはだかり拓哉の顔面にパンチを叩き込んで思いっきり吹っ飛ばした。起き上がった拓哉はブラックビートを睨みつける。

 拓哉がブラックビートに対して向けているその目はいつにない鋭い目付きであった。いつもの素っ気ない目ではない。・・・彼自身の憎悪が極限にまで高ぶっているかのようだった。

 

 

「重甲!!!」

 

 

 拓哉は持っているビーコマンダーのウィングを開いてそれを頭上に掲げて蒼い光に身を包むとブルービートのインセクトアーマーを装着する。それを待っていたとばかりにブラックビートは右腕のスティガービュートをサーベルモードへと変形させて構えてみせる。

 

『・・・・・』

 

 ブルービートもスティンガーブレードを装備してブラックビートに構えを見せる。対峙する青い正義と黒い怨念・・・二つの鎧が枯れ果てた花畑に召喚された瞬間にその場は決闘の場へと変貌する。

 

 

「行くぞ、ブルービート!!」

 

 

 ブラックビートの声を合図にブルービートもスティンガーブレードを構えながらブラックビートに向かって走り両者先制攻撃と自分が持つ剣を相手の鎧に向けて突きたて火花を散らせていった。

 

「はぁあっ!!!」

 

 

 飛び上がりからのスティンガーブレードの縦斬りを叩き込んでいったがブラックビートのスティンガービュートに防御され薙ぎ払われてしまうとそのままビュートの刃が蒼い仮面を傷つける。

 

「ぐっ!?・・・たぁああっ!!」

 

 

 勢いに負け地面に落ちるブルービートだが直ぐに立ち上がりスティンガーブレードをブラックビートに振り下ろしブラックビートもスティンガービュートを振りかざす。

二つの刃が同時に相手の肩の鎧に食い込んでいき金属音を響かせて火花を散らせる。

 

「ぐっ・・・・・」

 

 

 剣術では自分以上の実力だと起死回生の手をインプットマグナムをホルスターから取り出すブルービートだがそれに合わせブラックビートもジャミングマグナムをホルスターから取り出す。

 

「ふんっ!!!」

 

 

「ぐあぁああっ!?!?」

 

 

 次の瞬間には2人は同時にマグナムから砲撃を発射するが砲撃が直撃したのはブルービートだけであり紙一重でブラックビートへ放ったブルービートの砲撃を避けられていたのだ。砲撃の爆炎と衝撃がブルービートを包み込みそのまま彼の体は宙を待って飛ばされる。

 

 

「ぐあぁっ!??・ぐぅぅううああう!?!?・・あぁあああっ!?!?」

 

 

 衝撃で飛ばされてしまったブルービートはその場に倒れる。立ち上がろうとするもその前にスティンガービュートをサーベルモードからワイヤーモードに変形させていきそれを彼の首に絡ませていくと右へ左へと振り回して遂には雑草が生える地面へと投げ飛ばされる。

 もはや力の差は歴然としておりこのままでは抹殺されるのは決まりきっている。だがそれでもブルービートは立ち上がった。

 

「お前だけは・・・許さない!!」

 

 

 何が彼をここまで奮い立たせるのか・・・ブルービートはスティンガーブレードを構えブラックビートへとその刃を振り翳していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こころの種を全て出せ」

 

 

 ブルービートとブラックビートの決闘を繰り広げているの近くではダークプリキュアがつぼみ達を力で脅迫している真っ最中であった。変身できない二人などに本気を見せる必要すらないと少し手を抜いてはいるが傍から見ればその光景は拷問という言葉以外浮かばないのであった。

 ダークプリキュアは二人と二匹を完全に格下であると見下し徐々に重力波の力を強めていきながら早くこころの種を出せと要求するが簡単にそれに応える筈はなかった。

 

 

「こころの種はココにはないですっ!!」

 

 

「あっても絶対渡さないですぅ!!」

 

 

 絶対に砂漠の使徒に仕えているような存在に自分達の希望のカケラの象徴である【こころの種】を渡してたまるものかと断固拒否するシプレとコフレ。重力波に苦しみ悶える声を出しながらも必死に耐えるがダークプリキュアが突然腕を動かすと・・・・

 

 

『っ!?!?』

 

「ならばコイツ等と交換だ」

 

 ダークプリキュアに引き寄せられるようにシプレとコフレが地面から引き離されてしまう。つぼみとえりかはそれに気がつくが重力波に身体を麻痺させられて力が出ない。

 遂にはシプレとコフレはダークプリキュアに捕まってしまう。シプレとコフレはなんとか暴れて逃げ出そうと考えるがその程度では逃げ出すことなどできるはずもなかった。

 

 

『つぼみ、えりか。来ちゃダメですっ!!』

 

 

 自分達のためにこころの種を砂漠の使徒に渡すことだけは絶対にさせてはならないと捕まりながらもシプレとコフレは大声でそう言った。その二匹の叫びを無視しダークプリキュアは後ろに映る給水塔で待つとだけ言って片翼の翼を羽ばたかせて飛び去ってしまった。

 

 

『シプレぇ!!!コフレぇ!!!』

 

 

 慌ててダークプリキュアを追いかけようと走るも既にその時にはダークプリキュアは飛び上がった後でありそのまま飛び上がったダークプリキュアを見ること以外は出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消えろぉ・・・貴様などこの世から!!」

 

 

 その頃ブルービートを追い詰めスティンガービュートの刃が首根を掴みバチバチと火花を散らしていた。ブラックビートからもブルービートに対する絶対的な憎悪を体から前回に放ちながら巨大なる執念を見せつける。

 

 

「・・・トドメだぁ!!」

 

 

「ぐっ・・・・はぁああっ!!!」

 

 

 これでトドメだとスティンガービュートの刃を首に食い込ませにかかるがさせるものかとブルービートはインプットマグナムの近距離砲撃を放ってブラックビートを無理やり自分から引き剥がす。ブルービートは飛び上がって距離と取るとつぼみとえりかに起きた事を察し急いで彼女たちに駆け寄る。

 

 

「くっ・・・・一旦引くしかない。煙幕弾!!」

 

 

 悔しいがここは一度撤退かないとブルービートはインプットマグナムから煙幕弾を発射して辺りを白い煙で包み込ませた。

 

 

 

「っ!!!・・・逃げたか。無駄なことを・・・・もはや我々【黒の戦士】の前に屈服しこころの種を渡すしかないというのに。・・・まぁいい。お楽しみは長引かせるに限る。くくくく・・・・」

 

 

 慌ててブラックビートは走って駆け寄るもその場には既にブルービート達の姿はなかった。しかし所詮は梅雨の間の延命策でしかなく自分とダークプリキュアに勝てる可能性など限りなく0なのだ。

 だが折角の出陣なのだから・・・どうせならもっと楽しませて欲しいとブラックビートはその鎧を動かしてダークプリキュアが向かって給水塔へと移動し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルービートに連れられてなんとか逃げ延びたつぼみとえりかはショックに心が砕かれそうになっていた。「目的がないのにプリキュアをしている」のにと言うのは二人にとって痛い程的を射ていた。

 

 

「・・・・・馬鹿言ってんじゃないわよ!!アタシたちだってちゃんと目的があるじゃない!!」

 

 

「はい。みんなのこころの花を美しく咲かせることです!!」

 

 

「そしてこころの種を集めてこころの大樹を蘇らせる!!」

 

 

「そうです。それで十分です!!・・・私たちがプリキュアになって戦う目的は」

 

 

「うん」

 

 【目的がない】・・・それは違うのだ。自分たちにだってちゃんとした目的があって命懸けで戦っているのだ。ダークプリキュアなんかに言われた言葉など本気で気にしてたまるものかと二人はブルーな気持ちから一気にテンションを上げて気持ちを昂らせていく。

 

 

「でもなぁ~このあとどうする?」

 

 

「シプレとコフレを助けるためにはこころの種を渡すしか・・・・・」

 

 

 戦う意義はキュアムーンライトの意思そのものなのだからと二人は決意を新たに固めるのだった・・・・が大きな問題があった。これからどうするかということだった。

 交換条件はこころの種を渡すということ・・・だが素直に交換に応じるとは思えない。八方塞がりのこの状況でどうすればいい?二人が頭を抱えてしまう中で拓哉は立ち上がる。

 

 

「俺が行く。俺がシプレとコフレを助けに行く」

 

 

「何言ってんの?・・拓哉一人じゃ無茶だよ・・あたし達も」

 

 

「プリキュアに変身できないお前たちに何ができるんだ??・・・こころの種を渡しても相手は砂漠の使徒だ。絶対にそのまま目的をプリキュア討伐に切り替えるよ。だったら一か八か・・・大丈夫だよ。絶対にシプレとコフレを俺が助けるから・・・つぼみ達はお茶でも飲んで待っててくれ・・・絶対に奴らの好きにはさせない!!」

 

 

 拓哉は不安一色の二人に珍しいほど優しい笑顔を見せて植物園を走って出ていった。二人は拓哉の背中を見ながらも今の自分たちには・・・変身する力がない自分たちには何もできないことに悔しさを噛み締めた。

 

 

「あぁあ~~~もう!!どうりゃいいのよ!?」

 

 

「拓哉一人じゃ自殺行為ですよ。・・でも今の私たちじゃ何も」

 

 

 何もできないのもまた事実。今の自分たちが行ったところで拓哉の足でまといにしかならない。どうすればいいか迷っている二人を突然女性の声が現実に引き戻した。

 

 

「ちょっと、静かにしてくれない?」

 

 

「あ、すみません」

 

 

 まさか今までの話を全て聞かれていた?一瞬そう思ったが相手の女性もとい学生服を着た女子生徒の態度から彼女は話を聞いたというわけではなさそうだ。とりあえず一安心といったところだろうか。

 

 

「貴女達随分仲がいいのね」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「この【ゼラニウム】の花言葉は知ってるわよね?」

 

 

 自分よりも年上のもとい恐らく身なり的には女子高生だろうが初見の相手に突然出された問題を出されて戸惑うがつぼみは応える。【ゼラニウム】の花言葉は【真の友情】。それを聞きえりかは自分たちと言うが・・・・

 

 

「どうかしら?・・・その本当の意味はわかっていない見ただけど」

 

 

「ちょっと待ってください。何が言いたいんですか!?」

 

 

「それぐらい自分で考えなさい」

 

 

 少女はそれだけ言うと淡々とした態度で植物園から去っていってしまう。残されたつぼみとえりかは彼女の言葉を考える・・・

【真の友情】・・・・その意味とは・・・・

 

 

「【真の友情】の本当の意味」

 

 

「それってやっぱり信じあう心?」

 

【信じあう心】その言葉の意味を見出すために二人は思い出す・・・シプレとコフレはいつも自分たちを信じてくれていた事を。

 一人決闘へと向かった拓哉も誰よりも自分たちの為に戦ってくれていたことを。

 【ビーファイターとプリキュアが力を合わせれば誰にも負けない】・・・・拓哉の言った言葉を思い出し迷いは一気に吹っ切れた。

 

 

「今度は・・・私たちが守る番です」

 

 

「うん。例えあたって砕けても」

 

 

「【信じる心】を守るのがプリキュアです!!」

 

 

 例え変身できなくても自分たちは逃げるわけにはいかないのだ。そんな簡単なことも忘れてしまうなんてやっぱりまだまだ自分たちは未熟なのかもしれない。でも 今戦えるのは自分たちしかいないのだ。もう揺るがない・・・二人はダークプリキュア、ブラックビートと闘う決意を固める。

 

 

「行きましょう。シプレとコフレを助けに」

 

 

「一人戦いに行った拓哉もね!!」

 

 つぼみとえりかは心の種が入った【ココロポット】をもって拓哉の後を追うようにダークプリキュアが待つ給水塔へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐああぁあっ!?!?!?」

 

 

 その頃ブルービートに重甲した拓哉はブラックビートとの激戦を繰り広げ早くもピンチに立たされていた。スティンガービュートを首に絡まれ投げ飛ばされ追い打ちの電撃を全身に浴びるとその場に倒れる。

 

 

「あぁ・・・ぐぅ・・・ああ・・・・」

 

 

「無様だな・・・弱い仲間と群れている貴様は実に見苦しい。所詮プリキュアなど変身できなければただの雑魚・・・恨むなら力のないお前の仲間を恨め」

 

 

 蒼い鎧から煙を出しながらも重たくなり始めた身体に力を入れて立ち上がろうとするブルービートの顔面を蹴り飛ばし蔑むブラックビート。

 ボロボロにされなお蹂躙され続けるその姿見るに耐えないとシプレとコフレはブルービート名前を叫ぶ。もはや絶体絶命か!?

 

 

「シプレ!!」

 

 

「コフレ!!」

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえ急いで立ち上がるブルービート。遠くから二つの人影がこちらに近づいているではないか・・・まさかと思いインセクトアーマーのゴーグルで確認するとその正体は予感通りつぼみとえりかであった。

 

 

「あの二人なんで来たんだ!!・・・バカ早くもど・・ぐっ!?」

 

 

「人の心配ではなく自分の心配をしろ?・・・トドメをさしてやる」

 

 

 

 

「・・・終わったな」

 

 

 ブラックビートがブルービートを追い詰めさらにスナッキーの軍団によって取り囲まれたつぼみたちを見て勝利を確信したダークプリキュアは場から立ち去ろうと背を向ける。  

 しかしその瞬間異変は起きた。突然妖精たちを縛り付けていた旗に竜巻が発生しそれが消え去ると妖精二匹の拘束を説いた青年の姿が映った。

 

 

「貴様っ!?」

 

 

 慌ててダークプリキュアは妖精を取り返そうとするも素早い動きで避けられてしまう。青年はそのままつぼみとえりかの方に着地しもう一度竜巻を発生させてスナッキー軍団を吹っ飛ばしてしまう。

 

 

「つぼみ、行くよ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 プリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

 次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

 最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき二人は同時にポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 少女たち二人はプリキュアに変身を完了させたあとポーズを決めて名乗り上げる。

 

 

「マリン、行きますよ!!」

 

 

「おうさ!!!」

 

 

 ここからは自分達の大逆襲だとブロッサムとマリンはスナッキー軍団と大激戦を繰り広げる。ブロッサムがスナッキーに飛び蹴りを浴びせばマリンがパンチをスナッキーに叩き込んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああっ!!!!」

 

 

 

 

 つぼみとえりかのが無事にプリキュアに変身できたことを確認したブルービートはスティンガーブレードを装備してブラックビートとの剣術合戦を繰り広げていた。今までの流れならばブルービートの不利であるはず・・・・

 

 

「ぐおおっ!?!?」

 

 

 なのだがブルービートのブレードがブラックビートのビュートを薙ぎ払うとそのままブラックビートの黒い鎧を斬り付けた。ビュートとブレードの鍔迫り合いを繰り広げながらブルービートは素早い斬撃を叩き込んでブラックビートの鎧に亀裂を走らせる。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

 そして続けざまにスティガーブレードの刃にエネルギーを溜めていくとそのまま稲妻のような光をまとった刃をブラックビートの鎧に叩き込んでやった。

 

 

「ぐおおぉおあああっ!?!?・・・おのれぇ・・・・小癪な真似を!!」

 

 

 先程までとは明らかに強さが違うブルービートに驚愕するブラックビート。何がやつを変えたというのだ?・・・だがまだ勝機はあると傷つけられた胸を抑える。

 

 

「俺は勝負を捨てない!!・・・お前に負けるわけにはいかないんだ・・・・お前を倒すことこそが・・・俺がブルービートになった理由なのだから!!」

 

 

 ブラックビートと同じくブルービートにも負けられない理由がある。それは自分の力を嘗て使っていた父のため。今目の前に相手を絶対に倒す事こそが父との誓なのだからとブルービートはブレードを構え怯んだブラックビートに追撃の斬撃を叩き込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プリキュア・大爆発!!!』

 

 

 逆襲を決めるとブロッサムとマリンの最強コンビはスナッキー軍団に決め技を叩き込んで一気に昼間の空に輝く星にさせた。

 

 

「次はダークプリキュアよ!!」

 

 

 残るターゲットはダークプリキュアだけだと二人は向かっていくも眼力の衝撃で飛ばされてしまう。

 

 

「未熟なプリキュアが私に挑もうとは愚かな・・・・」

 

 

「まだまだです!!」

 

 

「アンタなんかに負けないんだから!!!」

 

 

 ダークプリキュアの力は強大。だがそれでも信じる心が勇気に変われば絶対にどんなに強い相手にも勝つことは出来る・・・・命懸けでブラックビートと戦っているブルービートの言葉を信じ。

 

 

「下らないことだ・・・信じても勝つことはできない。全ては・・無駄に終わるのだ。キュアムーンライト、ジースタッグ、レッドルのようにな」

 

 

「キュアムーンライトを、ビーファイターを馬鹿にしないでください!!」

 

 

「アンタやブラックビートなんか偽物のくせに!!!」

 

 

 こんな邪悪な存在に自分達の先輩を馬鹿にされて黙っていれるはずがない。ブロッサムとマリンは怒りの表情を顕にしながらダークプリキュアへと視線を向ける。

 

 

「お前たちを倒せば我々が本物だ!!」

 

 

「キュアムーンライト、ジースタッグ、レッドルの思い・・・いつでもこの胸にあります。だから負けるわけにはいかないのです!!」

 

 

「・・・・・」

 

 

「マリン一緒に」

 

 

「オーケー!!」

 

 二人は同時にピンクと青の光を手に集めフラワータクトを手にとっていき一気に勝負を決めにかかった。全力で行かなければ絶対に勝てない。二人には躊躇も迷いもあん買ったのだ。

 

 

『集まれ花のパワー!!!』

 

 

「ブロッサムタクト!!」

 

 

「マリンタクト!!」

 

 ピンクと青の光がタクトに集まっていくと花のパワーが吸収されるように二人のタクトに集まっていく。二人のタクトのエンブレムに光が灯る。その後二人はタクトのクリスタルドームを回してタクトにエネルギーを充填させるとタクトの先端のクリスタルが輝いた。

 

 

『集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワー・フォルティシモ!!!』

 

 

 二人はタクトをクロスさせて充填させたそのエネルギーを解放させてタクトを振ってフォルテッシモ記号のような形をしたピンクとブルーのエネルギーを生み出すとそれを身体に纏うとダークプリキュアに向かって突撃していく。

 

 

『はぁああああああああああああああああああ!!!!!』

 

 

 ダークプリキュアは片翼で二人のフォルティシモを防いでいく。衝撃に地面にかかとが食い込んでいくがこの程度で負けるものかと二人に向けて眼力のソニックブームを叩き込んでいくと・・・・・

 

 

『きゃあああああああああああああああっ!!!!!!』

 

 

 変身が解除されて吹き飛ばされてしまうブロッサムとマリン。終わりだとダークプリキュアはダークタクトを召喚しそれ手に取ると黒いクリスタルが鈍く光を放っていった。

 

 

「っ!!・・ブロッサム、マリン!!!」

 

 

「バカめぇ!!」

 

 

 二人のピンチに気がついたブルービートはブラックビートを払いのけて助けに行こうと動くもその前にブラックビートのビュートでの一撃がブルービートの右肩に叩き込まれると遂にアーマーの限界を迎えてしまう。

 

 

 

 

「ぐあぁ・・・・ぐっ・・・・」

 

 

 ブルービートのインセクトアーマーは強制解除されて拓哉は生身の身体にビュートが食い込む痛みに苦しみ悶える。拓哉の顔は土埃汚れ肩からは出血しブラックビートのビュートにそれが染み付いていて傷が生々しい

 

 

 もはや絶体絶命・・・3人はそれぞれの敵対者にトドメを刺されようとしていた。ブラックビートのスティンガービュートが拓哉をダークプリキュアのダークタクトがつぼみとえりかに向けられる。・・・・・だが突然二人の動きが止まった。

 

 

「・・・・ふん・・面白い」

 

 

「・・・・気が変わった。お前等いつでも倒せる・・・・残り少ない命を精々大事にするのだな」

 

 

 ダークプリキュアとブラックビートは3人には突然目もくれなくなった。突然の態度の豹変に混乱する3人。

 

 

「つぼみ、えりか・・・・大丈夫か?」

 

 

「なんとかね・・・・って拓哉こそ酷い傷。怪我してるじゃない!!」

 

 

「平気だ・・・・この程度も傷なんか何とも・・・ぐぁあ!!」

 

 

「大丈夫じゃないですよ。早く手当を・・・」

 

 拓哉はつぼみとえりかに駆け寄り二人の傷を確かめた。幸い二人共大した怪我ではしておらず寧ろ自分の怪我の傷の方が酷そうだとえりかが拓哉の肩をとった。

 

 

「なんていう強敵だ・・・ダークプリキュア、ブラックビート」

 

 3人はお互いに自分達の力不足を思い知った。今回初めて味わった敗北に体が震える・・・命を奪われそうになった恐怖と気まぐれによって手に入れた束の間の安堵・・・悔しい・・・・あそこまで見下されたことが。

 

 

 

 

 

・・・・その後ろでは・・・・

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 植物園で【真の友情】の意味を二人に問うたあの少女が街を眺めているのだった・・・風で髪が美しく靡かせている彼女の瞳はどこか悲しみと寂しさが混ざっている・・・

 手には砕け散ったコインのようなものが握られていてそれはあのキュアムーンライトが最後に自分の身を守る時に使ったプリキュアの種に形が似ており割れたそれの今の形はまるで三日月を表しているかのようであった。



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第22話「同調」

「っ!?・・・・はぁ、はぁ・・・はぁ・・・・」

 

 

 またあの夢を見た・・・あの嫌な夢を・・・・

 長髪のストレートヘア少女【月影ゆり】は悪夢から目が覚める。土曜日で学校は休みだというのに最悪の目覚めになってしまった。せっかくの休みの朝が台無しだと思いながら彼女は額に浮き出た汗を手の甲で拭った。

最近の睡眠は殆どあの夢を見るのでどんなに寝ても寝た気がしない。心が休まらないのだ。

 

 

「・・・そろそろ朝ご飯の準備をしなきゃ」

 

 

 嫌な気分になりながらもベッドから起きるとそのまま寝巻きのパジャマから部屋着に着替える。

土曜日は自分が朝食当番であるからそろそろ支度を始めないと母親が仕事の間に合わなくなってしまう。ゆりは私室から出て台所へ向かう。

 

 

「あ、お母さん・・・ごめんなさい。土曜日は私が当番なのに」

 

 

 ゆりが部屋から出ると包丁で野菜を切るリズミカルな音が聞こえてくる。もしやと思っていると予想通りだった。

 

 

「おはよう、ゆりちゃん。今朝は早く目が覚めちゃったからいいのよ」

 

 既に台所には母の春菜が朝食の支度を始めていてほとんど朝食はというと殆どできる寸前まで進んでいるところであった。母親の元気な姿を見てどことなくやりきれない気分になる

 何してるんだろう私は・・・・らしくない・・・

 

 

 朝食が出来上がると母とゆりの茶碗にご飯と味噌汁が注がれおかずには焼き鮭に納豆と日本人には嬉しい食事メニューが並んでいる。「いただきます」と挨拶をして二人は箸と茶碗を手に取る。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 ゆりは思わずあるものが目線に入って手が止まる。その目線の先にあったものはご飯も味噌汁も継がれていない食器。父親の席に置かれたそれを見て思わず思い出してしまった・・・3人で仲良く過ごしていた日々を。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 ゆりの様子のおかしさに気がついた春菜は彼女に問う。ゆりは言うか迷っていたがやはり自分の気持ちに嘘は付きたくないと重い口を開いた。

 

 

「もう、お父さんの食器出すのやめましょうよ」

 

 

「どうして?」

 

 

「もう3年よ?【こころの大樹】を探しに行くって家を出てから・・・あんな優しいお父さんが3年間も連絡無しなんて・・・もう・・・お父さんは・・・」

 

 

「お父さんなら大丈夫よ」

 

 

 ゆりがそれ以上の言葉を詰まらせているのを察しゆりの春菜は彼女に優しくそう言った。根拠がないそれにゆりはなぜそんなに自信があるのか分からない。

 

 

「どうしてそんなことが言えるの?」

 

 

 ゆりは自信満々の母に対して思わずそう聞いた。どんな根拠があってそんなことが言えるのかわからない。

 

 

「お母さんには分かるのよ」

 

 

 実に根拠のない理由であるが母親の自信たっぷりの表情にはやはり勝てない。何も言い返せないと「はぁ~」とため息をつく。

 

 

「お母さんにそう言われると納得しちゃうのよね。ホント、お母さんには敵わないわ」

 

 

 二人はそう言い合いながら食事を進め食べ終えると食器を片付ける。

本日は土曜日でゆりは学校が休みであるが今のこのご時世の社会人は休みが取れるわけではないので春菜は仕事のための支度を済ませるとゆりに見送られて職場へ向かうために家を出る。

 

 

「・・・・・強がっちゃって・・・・」

 

 母はああいっているが本音を言えば自分よりも辛い思いをしているのはわかっている。この3年間で実は自分に見られないようにしようと思いながらも時々我慢できずに泣いている夜があることを知っている。

 せっかくの休みの日だし自分も久々に気晴らしに出かけてみようかとゆりも思い立ち私室に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠の使徒のアジトの城のバルコニーでダークプリキュアは一人佇んでいた。先日自分の視界に入った少女・・・彼女は・・・・

 

 

「キュアムーンライト・・・・・」

 

 

「珍しいな。貴様がここに居るなど・・・そんなにキュアムーンライトのことが気がかりか?」

 

 

 バルコニーに一人佇んでいるダークプリキュアにブラックビートが声をかける。彼も丁度スティンガービュートの刃を鍛えようと思っていたところに砂漠の使徒史上でも実に珍しい光景を見てしまったために思わず足が泊まったのだ。

 

 

「もしも奴が生きているのなら・・・・面白いことになるなダーク?」

 

 

「・・・・」

 

 

「俺は眼中にもないか・・・ふん」

 

 

 自分の質問の声に対して無反応の彼女を見て鼻で笑うブラックビート。珍しい現象もここまでくると笑えるなと思いながらしばらく彼女の様子を見ていると後ろから気配を感じる。

 

 

「二人共どうした?」

 

 

 珍しく考え込んでいる彼女に声をかけたのはサバーク博士だった。彼は歩み寄りながらも仮面にある赤い瞳を光らせていき仮面であるはずなのに感情が現れる本物の目のような動きをさせる。

 

 

「サバーク博士!!」

 

 

 サバークに向けて一礼するブラックビート。そしてダークプリキュアから離れて副官としての義を貫く。

 

 

「キュアムーンライトが生きているはずはない。お前達もキュアムーンライトの最期を見ているではないか」

 

 

サバークの言うとおりなのだ・・・そうなのだ。あの時確かにキュアムーンライトは自分の力の前に敗れ去った。その証拠に今の自分の手にはやつが変身の時に使うプリキュアの種が残っていただけだ。

 

 

「例え生きていたとしてもプリキュアの種がこちらにある限りやつは二度とプリキュアに変身できないのだ。とにかくお前は今いるプリキュアを倒すことだけを考えろ」

 

 

「はい」

 

 

「ダークプリキュア・・・お前は今後キュアムーンライトには関わるな」

 

 

 ダークプリキュアの肩に手を置いてそう諭すサバーク博士はそのまま城の中に戻り闇の中に身を投じて消えていった。

 

 

「・・・・ふぅん」

 

 

 ブラックビートもその後を追うようにバルコニーから姿を消す。ひとり残されたダークプリキュアは振り返ってバルコニーからの見える暗黒世界の空を見た。外はいつもの変わらない月が照らされた闇の世界・・・無限に広がる砂漠の荒野・・その地平線を一人で長め時間を潰す。

 

 

「サバーク博士は何故そこまでキュアムーンライトのことを気にするのだ・・ダークなら理解できるが・・・・何かあるのか?ダークをムーンライトに近づけたくない何かが・・・」

 

 

 ブラックビートは城の中を歩きながらひとつに疑念が生まれた。なぜダークプリキュアがキュアムーンライトを完全に倒すことを拒絶するように止めたのか。その理由は全く見当がつかない。

 自分がブルービートを倒すことに対しては何も問題ないと気持ちが悪いぐらいノータッチであるのに対してのこの差・・・一体何がそうさせるというのだ?・・・・

 

 

「・・・・・」

 

 

ダークプリキュアは命令ならば従うまで。だがブラックビートが感じたこととおなじくサバークの腑に落ちないでいた。もしもやつ・・キュアムーンライトが生きているのならば完全に止めを刺したほうが限りなく自分たちには大きな利益になるはず。

 なのに何故そこまで??・・・・自分とキュアムーンライトを近づけたくない理由でもあるというのか??

 わからない・・・私は・・・・奴を倒すために作られたというのに・・・・・

 

 

「(私は・・・やつを倒さなければ私自身になれない。ブラックビートが甲斐拓哉を倒すことが宿命であるように!!)」

 

 腑に落ちないままダークプリキュアはその場でしばらくそこで考え込む。だがそれでもやることはもう決まっている・・・そしてもしもやつが生きているのならば・・・・今度こそこの世から・・・どんな手を使ってでも葬り去る・・・・

 それが例えサバークが望まないことであっても自分はやらなければならない・・・

 

「・・・・・・」

 

 

 それがこの世に生を受けた造られた理由であり自分の目的でありそして自分がたどり着くべき最終的な到達点なのだから・・・絶対に引き分けにはいかないのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のままじゃブラックビートを倒せない。・・・・どうすればいいんだ」

 

 

 拓哉はビーコマンダーを手に取りながら自分の部屋で考え込んでいた。先日無残にも自分がブラックビートに負けたことが悔しくて堪らなかった。

 

 

「今のままのスティンガーブレードじゃ勝てない・・・・もっと力が欲しい」

 

 

 戦いのあとスティンガーブレードを確認すると刃の表面部分に罅が入り刃こぼれしていて今のままの装備ではブラックビートの鎧の防御力にすら歯が立たないということなのだ・・・

どうすればいい??どうすれば奴を倒すことができるのだ??

 

 

「・・・やめよう。これじゃあ前と・・・アイツ等に出会う前と同じじゃないか」

 

 拓哉は突然考えるのをやめた。今の自分は力を欲している。だがそれではつぼみとえりかに教えてもらったことを踏み躙る事になる。

 それでは前にただブラックビートを憎みやつを倒すことしか考えていない復讐の使者に戻るのか?大樹の守護者という本当の目的を出しにして自分の私情のために動いたあの頃に・・・

 

 

「父さん・・・貴方だったらこの状況でも諦めなかったんだろうけど・・俺は・・・」

 

 

 不安がよぎる。今のままの実力でブラックビートに勝てるのか・・・そして砂漠の使徒から人々の心を守り通すことができるのか・・・・

 

 

「せめて・・・ムーンライトが生きているのならなんとかなるかも・・・いや

 

 それでは他力本願でしかない。もうキュアムーンライトはいない。彼女の意思を継いだのが自分たちなのだ。例え相手が強く強大であったとしても逃げるわけにはいかない。それが大樹の守護者なのだ。

 

 

「ブラックビート・・・お前は必ずこの俺が倒す!!!」

 

 

 迷っている時間が惜しい。こうなれば一人でもいいからブラックビートを倒すための秘策を考えなければと拓哉は突然部屋を出た。じっとしていても始まらない。何か行動に起こさなければと思って・・・・



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第23話「超絶!!漆黒タッグ」

 拓哉が家を出てから1時間ぐらい経った頃だった。拓哉は今とあるファッションショップへと足を運んでいた。ある二人組に連れられて・・・・

 

 

「・・・なんで僕はこうなっているんでしょうかね?」

 

 

「いいなぁ~これ」

 

 

「それもいいけどこっちもいいんじゃない?」

 

 その道中で丁度ショッピングに出かけていた来海姉妹に捕まってしまいつぼみがリュウゼツランという何十年に一度歯科の花を咲いたという花好きに堪らずまた滅多に見れない突然のイベントで来海姉妹との約束をキャンセルしたのだ。

 

 

「楽しそうだな二人共」

 

 

 それ故の穴埋め役として本人の了承を得る前にえりかに拉致されるような形で連れてこられ現在は此処に至る。えりか、ももかの二人はというと姉妹水入らずで楽しんでいる様子。思わず拓哉も笑いが溢れた。

 

 

「・・・ついでだから俺も何か見てみるか」

 

 

 そういえば暫く新しい服を買っていないしちょうどいいから自分も何か探してみるかと拓哉も店の中を歩いてみた。

 

 

「春となると色とりどりっていうか・・・目がちょっと疲れちゃうな」

 

 

 何か良い物がないかと拓哉もショップ内を探索するように探してみる。今の季節が春ということもあってか薄手のインナーが多かったり明るい色がメインのバリエーションに目が少しチカチカしそうになった。

 

 

「このズボンいいな。でも少し値が張るな・・・・・う~ん、でも欲しいなぁ~」

 

 

 そんな中でも拓哉は目に止まり手にとってみたのはフェイクレザーデザインのホワイトカラーデニムジーンズだった。

 しかし中学生が買うには少し高い値段であった。でも欲しい・・・物欲とはこういう時に人を揺さぶってくるので困ったものである。特に突然目の前に現れたモノに惚れ込んでしまうと尚更質が悪い。

 

 

「何してんのよ?・・・・あ、もしかしてそれが欲しいとか?」

 

 

「あ、ああ。でもちょっと高くて手が出さないよ・・・・でも欲しいなコレ」

 

 

 手にとっているジーンズを見ながらも迷っている拓哉のとなりにえりかが突然ひょこひょこっと現れた。

 特殊な加工でレザー風潮に見えるがジーンズの生地自体は完全な純デニム素材という中々思いつかなかない発想のデザインに拓哉は惚れ込んでいた。

 

 

「う~~ん・・・・・」

 

 

 その独特なデザインの魅力に完全にどっぷりとハマる拓哉だが値段はとても自分の今の手持ちでは買うのは難しい。今から親に頼んで小遣いを前借りしてもいいがそうなると暫く学校での昼食を我慢しなくてはならなくなりそうだ。

 

 

「なんだったらあたしが作ってあげようか?」

 

 

 買うか買わないかで悩んでいる拓哉にえりかはそう言ってみる。拓哉は「お前が?」と聞き返すがそれが聞き捨てならないとトタトタと素早く歩いて彼女は拓哉に詰め寄った。

 

 

「ふっふっふ~~えりか様を舐めないほうがいいよ?材料さえあればそのデニムよりもっと凄いの作ってあげちゃうから」

 

 

 お得意の得意顔を見せるえりかに自信の程を納得する。そうだ、コイツはというか俺もだがファッション部だからオーダーメイドの服を作るぐらいは簡単だ。しかもえりかのデザインならば任せても恥ずかしくない。

 

 

「そこまで言うなら頼んでみようかな・・・まぁ、期待しないで待ってるよ」

 

 

「ちょっと、そこは期待しなさいよね」

 

 

「わかったって。そう怒るなってば・・・ふふっ」

 

 拓哉の素っ気ない返しにえりかはツッコミをいれる。ごく当たり前のやり取りをするのも久しぶりであり拓哉自身も楽しさのあまり思わず笑う。

 持っていたものを棚に戻ししばし3人はその後ショッピングを楽しんでいると外がやけに騒がしいことに気がつき様子を見に外に出てみる。

 

 

「どうしたんですか!?」

 

 

「へんな奴らが駅で暴れてるのよ」

 

 

 逃げてきた女性からの情報によれば謎の集団が駅で大暴れしているとのこと・・・嫌な予感しかしないと拓哉とえりかは急いで駅に行ってみるとそこには・・・・・

 

 

「ダークプリキュア!!」

 

 

「ブラックビート!!!」

 

 

 そこには【極悪の漆黒タッグチーム】ダークプリキュアとブラックビートが大量のスナッキー軍団を引き連れて暴れている姿があった。

 

 

「ももネェは先に行って」

 

 

「え?何言って・・・きゃぁっ!?」

 

 

 敵の狙いはただ一つそれは自分たちプリキュアとビーファイターを倒す事だ。ももかに先に逃げるように促すと同時にももかは逃げる多くの人の波に飲まれて有無を言う前に駅から離れさせられる。

 

 

「人が逃げ遅れてる!!えりかはあの人を頼む。奴らは俺が片付ける」

 

 

「うん!!」

 

 

 駅の入口で逃げ遅れている女性と子供の姿を発見した拓哉はコフレがいないため変身できないえりかに代わりスナッキーの始末を引き受けるとビーコマンダーを取り出した。

 

 

「じゅう・・・っ!?」

 

 

 ビーコマンダーを構え重甲しようとした拓哉の横をかすめるように一人の少女が横切った。その人物を見て拓哉は動きが思わず止まる。

 

 

「あの人は何考えてるんだ・・・っ!?・・」

 

 

 その正体は月影ゆりであった。彼女は素早くもしなやかな身のこなしスナッキーの軍団をまるでちぎっては投げるようにあっという間に片付けてしまう。

 

 

「す、すごい・・・・」

 

 

 生身では拓哉でもスナッキーとはまともに戦えないのに彼女はいとも簡単にあのスナッキー軍団を相手にしても臆することなく果敢に戦いなぎ払うかのような強い姿を見て拓哉は勿論えりかも絶句する。

 

 

「あの人は・・・もしかして、ゆりネェ!?」

 

 

 スナッキーと戦っているあの彼女の顔を見てどこかで見たことある面影だと拓哉は考える・・・・そして過去の記憶を呼び起こしていくとあの少女が誰なのかを思い出したように声を出す。

 どうして彼女がここにいるんだ?・・・いやそれ以前にていうかなんであんなに強いんだ?

 目の前の状況にわけがわらかなくなる拓哉だったが今はそれよりもこの混沌とした状況を何とかしなければ混乱する頭にある思考を無理やり振り払うように首を振った。

 

 

「えりか、拓哉、変身です!!」

 

 

「うん!!」

 

 

「ああ」

 

 

2人がゆりのとてつもない強さに絶句している間につぼみがシプレ、コフレを連れて合流する。3人はゆりに続き戦場となった駅をそして砂漠の使徒から人々を守るべく変身アイテムを手にとった。

 

 

『プリキュアの種、いくですぅ!!」

 

つぼみからピンクの光がえりかからブルーの光がシプレ、コフレの胸に集まり光が凝縮されピンクと青のプリキュアの種が二人の手に取られる。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 それぞれ手にとったプリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

 次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

 最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めて変身が完了する。

 

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 二人は名乗り上げを決めて同時にポーズを決めると煌めいて光が発生する。

 

 

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーを取り出し赤いスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

 掲げたビーコマンダーが青く光りを発生させあると中に小型化されて収納されているブルービートのインセクトアーマーが元の大きさに戻って拡散し拓哉の身体はその蒼い光に包まれていった。

 腕に素早く鎧が纏われ次に胸を中心に上半身から下半身へ鎧が装着される。顔以外のすべての部分に重厚なる鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの鎧騎士へと姿を変えてポージングを決めると蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!  重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 鎧を唸らせポージングを決めて名乗り上げると鎧が蒼く煌いた。そしてもう一度ポーズを崩して総称『ビーファイター』の名乗りあげを高らかに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人は同時に飛び上がりゆり駆け寄った。それに合わせダークプリキュア、ブラックビートの二人も瞬間移動で3人の前に対峙する。

 

 

「スナッキーを暴れさせたのはお前たちをおびき寄せるためではない」

 

 

「何っ!?」

 

 

 驚くブルービートを他所にしダークプリキュアは手を前に出して赤い光の衝撃波を発生させてブロッサムとマリンの二人を後ろの駅の方へと飛ばしてしまう。

 

 

「ブロッサム、マリン・・・・っ!?」

 

 

「ブルービート、貴様の相手は俺だ」

 

 

 ブルービートにはその衝撃が命中しなかったのはブラックビートが狙っていたからであった。自分の前に飛びかかり同時にクロスカウンターの要領でお互いの胸を殴りあった。

 

 

「ぐっ!?・・・たぁああっ!!」

 

 

「ぐお!?」

 

 

 インセクトアーマーのスペックやパワーでは両者共に互角だが先に怯んだほうが目の前の相手に押し負けるのは互角同士の勝負の鉄則。そう思ったブルービートは追撃の右ストレートをブラックビートの胸の赤い装甲へ叩き込んだ

 

 

「ほう?・・・この前よりは多少は戦い方を覚えたか?」

 

 

 

「もうお前に負けるわけにはいかない。いくぞ!!」

 

 

 先日の敗北が身にしみているブルービートはブラックビートを吹っ飛ばしたあと再度構えを見せてやる。始めて戦ったあの時とは多少なりとも違うと自分に言い聞かせながら冷静さを装いながらブラックビートを睨みつけてやった。

 

 

「面白い。だがお前では俺を倒せない」

 

 

もうあのような敗北はしないというブルービートに対してあざ笑う黒いカミキリの戦士。青い正義と黒い怨念は駅を二人の決闘のバトルフィールドとしながら大激闘を繰り広げはじめた・・・

もはやこの二人の対決を止める事はもはや出来そうにない・・・二人の鎧騎士は同時に勢いよく離れた距離を一気に縮めるように走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしていつまでも私にこだわるの!?」

 

 

 青い正義と黒い怨念が激闘を始めていたその近くではゆりがダークプリキュアの攻撃をなんとか受け止めているところだった。

なんとかダークプリキュアのパンチを腕で受け止めても次の瞬間には空中からの回し蹴りで蹴り飛ばされてしまう。

 

 

「お前は・・お前は私だから。キュアムーンライト!!!」

 

 

 ダークプリキュアの言葉を聞いて後ろに飛ばされたブロッサム、マリンはもちろんブラックビートと激戦をしていたブルービートも驚いた。

驚いている3人を尻目にダークプリキュアは躊躇なく膝をついたゆりに近づいき目と鼻の先まで距離を縮める。

 

 

「私はひとりで十分だ。お前には消えてもらう」

 

 

ダークプリキュアはそのままゆりにむけて手を伸ばし赤い光を集めていく。生身の人間があの衝撃波を受けたら恐らくは跡形もなく消滅してしまう。ブロッサムとマリンは彼女を助け出すべく急いで走って向かうが・・・・間に合わない。

 

 

「消えろ・・・・・」

 

 

 赤い光線がゆりに向かって放たれた。もはや絶体絶命・・・・誰もがそう思ったが紙一重のところで割り込んだ影があった。

 

 

「・・・・・・・・っ!?」

 

 

 

 ゆりは衝撃を受けたはずの自分の身体に何も衝撃が走っておらず痛みも何も感じていないことに違和感を覚える。

 もしかして私は痛みを感じるまもなく自分はこの世から消えたのか?

 そんな錯覚を覚えながらゆっくりと目を開いていくとそこには・・・・・・・

 

 

「大丈夫?・・・ゆりネェ」

 

 

「拓哉」

 

 

 目を開いて見たその目線の先にはいつの間にか自分の前に立ったブルービートがダークプリキュアの衝撃波を自分の身体を盾にして守っていた姿だった。

 

 

「貴様、邪魔をするな!!」

 

 

 突然邪魔に入ったブルービートに向けてパンチとキックのラッシュを浴びせるも腕を組んで逆にアーマーのパワーで押し切るようにダークプリキュアの身体を飛ばす。

 

 

「このままじゃヤバい。ゆりネェをダークプリキュアから逃がさないと・・・ビームモード!!」

 

 

 目の前の漆黒の戦士を相手に一般人を巻き込むのは部が悪すぎるとブルービートはインプットマグナムを手に取りブローバックさせるとダークプリキュアとブラックビートに向けてビームモード砲撃を連射して動きを止めさせた隙にゆりを抱えてブルービート達はゆりを連れて一時撤退し駅からは黒い戦士を除いて誰もいなくなった。

 

 

「逃げても無駄だ。これがある限りキュアムーンライトは逃げきれない」

 

 

 残されたダークプリキュアとブラックビートだったがダークプリキュアにはまだ切り札があった。ムーンライトのプリキュアの種の残骸・・・これはゆりが持つプリキュアの種の欠片と共鳴する性質がありこれがある限りどこに隠れていようとも逃げ切ることはできない。

 

 

「他人をかばうとは・・・だからお前は俺に勝てんのだ。ブルービート・・・お前の強さ、弱さ・・・この戦いで全てを見てやる。覚悟するのだな」

 

 

 

 黒い戦士達は駅をあとにし各々の標的であるキュアムーンライトこと月影ゆり、ブルービート甲斐拓哉を血眼になって探し始めるのだった・・・・たとえ逃げようとも自らの手でこの世から抹殺するという漆黒の野望を胸に秘めながら・・・・



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第24話「勝利と敗北」

 ダークプリキュアとブラックビートは月影ゆりとブルービートこと甲斐拓哉がいる場所をダークプリキュアが持つプリキュアの種をゆりが持っているプリキュアの種と同調することを利用して移動しながら探していた。

 

 

「どこにいるキュアムーンライト」

 

 

「焦るな。その種の反応が強くなってきている。・・奴らはこの近くにいる筈だ」

 

 

 片翼を使い大空へと舞い上がるように飛ぶダークプリキュアと黒い光球となり高速移動するブラックビート。二人は暫くの間はプリキュアの種の反応を頼りに手探りに移動する・・・するとしばらくして3つの人影が二人の視界に映った。

 

 

「ふぅん・・・そちらから来るとは都合がいい」

 

 

 キュアブロッサム、キュアマリン、ブルービートの3人が黒い二大戦士の前に立ち塞がった。地上に着地する黒いカミキリと片翼少女は3人を威圧するように睨みつける。

 

 

「ここから先には行かせません!!」

 

 

「お前達の好き勝手にはさせない。・・・・いくぞ!!」

 

 

 凄まじい威圧を眼からはなってくるのにも怯まないまま身構える3人の大樹の守護者達。3人はそれぞれダークプリキュアとブラックビートという因縁の相手に向かっていた。

 

 

「邪魔をするなら容赦はせん」

 

 

 目的の相手はこの弱いプリキュアではない。もうひとりの自分『月影ゆり』なのだとダークプリキュアは黒いソニックブームでブロッサムとマリンに叩き込んでいき遠くへと凄まじい勢いで吹っ飛ばすとそのまま追撃の一撃を叩き込んでやるが前回の戦いとは違い二人はダークプリキュアの攻撃を受け止めて二人はお互いにバックアップを取りながらダークプリキュアと対等に渡り合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スティンガービュート」

 

 

「スティンガーブレード」

 

 

 その近くでは蒼いカブトムシと黒いカミキリムシが自分の武器を右手に装備しそれぞれ風が吹く野原で睨み合いながら仕草を伺う。それぞれ自分が持つ鎧『インセクトアーマー』の戦闘能力(スペック)は殆ど互角。

つまりは戦いを制するためには必要なもの・・・それは鎧を纏う装着者の技量次第ということになる。

 

 

「やぁああっ!!!」

 

 

「ふん!!!」

 

 

 お互いに刃を相手に振りかざし鎧に叩きつける。ブレードの刃とビュートの刃が黒と蒼の鎧を叩きつけ合い火花を散らせる。同時に相手の胸を切り刻み振り仮ざまに刃と刃をぶつけていく。

 

 

「はぁああっ!!!」

 

 

「ぐぁああっ!?」

 

 

  振り返りざまからの鍔迫り合いを制したのはブラックビートでビュートの刃をブルービートの鎧に叩きつけ火花を散らせるとビュートを首に挟んでいき地面に押し倒した。

 

 

「がぁあっ!?・・・ぐぅ!?」

 

 

 首にスティンガービュートが挟まれて火花が散るブルービートのアーマー。苦しみに悶えながらもブルービートはビュートを左手で抑える。

 

 

「この世に“俺は”二人もいらない。貴様が消え・・・・この俺が残ればいいのだ!!」

 

 

「どう言う意味だ!?・・・・それは・・・」

 

 

 ブルービートのゴーグルから映るブラックビートの姿から伝わってくるのは自分に対する凄まじいまでの嫌悪と憎しみ。ビュートが首を締め付けてきており苦しい・・・視界が霞んできた。俺はこのまま・・・負けるのか?

 しかしブルービートの耳にブロッサムとマリンの悲鳴が響いた。視界を悲鳴がした方向に移すとそこには飛ばされながらもダークプリキュアに怯まず反撃の一手を叩き込もうと懸命に頑張る二人の姿。

 それにブルービートも闘士に火がつき業炎の如くに燃え上がった。

 

 

「ブロッサム・・・マリン・・・・そうだ、俺はこんなとこで負けるわけにはいかないんだ」

 

 

 そうだ。俺はここで負ける訳にはいかない!!大樹の守護者として・・・ゆりネェの意思を魂を継いだビーファイター・・・ブルービートとして!!

 

「ビームモード!!」

 

 

 ビュートが首に食い込む痛みを受けながらもブルービートは左手をホルスターに伸ばしてインプットマグナムを手に取りブラックビートの胸に銃口を向けて近距離からのビームモード砲撃を叩き込んだ。

 

 

「ぐあぁあああっ!!!??・・・おのれぇ、またしても小癪な真似を」

 

 思わぬ反撃怯み飛ばされたブラックビートは体制を立て直そうと立ち上がるも既に目の前にはスティンガーブレードを構えたブルービートがこちらに向かって走ってくるブルービートの姿があった。

 

 

「はぁあっ、でりゃぁあああっ!!!」

 

 

「ぐあぁっ!?・・ぐっ!!!?」

 

 

 ビュートでブレードの刃を受け止めるも薙ぎ払われ体が勢いに力負けするとブルービートのブレードの斬撃がブラックビートの黒い鎧に叩き込まれる。何が奴の心に火をつけたというのだ?思わぬ闘志に怯むブラックビート。

 追撃の手を緩めずブルービートはスティンガーブレードのハッチをスライドさせて銀色のギアを高速回転させる。そしてエネルギーを限界の限界まで溜めていくと普段の数倍の質量のエネルギーが刃に集まり凄まじいほどの蒼い光でブレードが輝いた。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

 ブルービートはスティンガーブレードの刃を普段の右斜め切りだけではなく振り下ろした刃をもう一度振り上げて左からブラックビートに向けて二度目の斬撃を振り振り下ろした。

エネルギーが消え去る前に素早く二度目の斬撃を叩き込むことでのX字斬りのビートルブレイクは流石のブラックビートといえども大ダメージは避けられなかった。

 

 

「ぐあぁああああぁあっ!?!?・・お、おのれぇ・・・・・ぐっ・・・・・」

 

 

 パワーアップしたブルービートの猛攻についにブラックビートも限界を迎えてしまったのか膝をついてしまう。今の自分なら絶対に勝てる。その奢りがブルービートの勝利への執念に足元を掬われてしまったのか・・・・

 傷つけられた鎧に手を当てながら呼吸を整えるもすぐに立ち上がれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブルービートとブラックビートの戦いに決着がついた頃ダークプリキュアとブロッサム&マリンチームの戦いにも決着がつこうとしていた。

 終始ダークプリキュアの圧倒的な力の前に実戦経験で劣るブロッサムとマリンは何度も追い詰められそうになるも決して諦めず最後の最後まで食らいつくかのように粘っていた。

 

 

 

「闇の力よ集えダークタクト、プリキュア!ダークパワーフォルティシモ」

 

 

 しかし遊びはここまでだとダークプリキュアがダークタクトを手に取りそのまま自身を闇の力の塊へと変化させる。キュアムーンライトを負かした技に対抗できるかわからないがブロッサムとマリンは臆することなく傷だらけの体に鞭をうち立ち上がる。

 

 

「ゆりさんは私たちが守ってみせます!!」

 

 

 ブルービートも命懸けで戦っている。だからこそ今この場から自分たちだけが逃げるわけにはいかない。キュアムーンライトの意思を継いだプリキュアとして。フラワータクトを二人は手に取り闇に対をなす光の力を集める。

 

『集まれ花のパワー!!!』

 

 

「ブロッサムタクト!!」

 

 

「マリンタクト!!」

 

 ピンクと青の光がタクトに集まっていくと花のパワーが吸収されるように二人のタクトに集まっていく。二人のタクトのエンブレムに光が灯る。その後二人はタクトのクリスタルドームを回してタクトにエネルギーを充填させるとタクトの先端のクリスタルが輝いた。

 

 

『集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワー・フォルティシモ!!!』

 

 

 二人はタクトをクロスさせて充填させたそのエネルギーを解放させてタクトを振ってフォルテッシモ記号のような形をしたピンクとブルーのエネルギーを生み出しダークプリキュアのフォルティシモとぶつかり合った。

 

 

『ぐぅうっ・・・・っ!!!』

 

 

 二つのフォルティシモの勢いはほぼ互角・・・どちらが勝つかは分からない・・・と思われのだがダークプリキュアが本気を出すとばかりに瞑っていた右目を開き金色の瞳が姿を見せると黒いオーラがブロッサムとマリンのフォルティシモを飲み込んでしまった。

 

 

「ブロッサム、マリン。やめろ、ダークプリキュア!!」

 

 

 変身が強制解除された二人にブルービートが駆けよりスティンガーブレードを構えるブルービートは二人を自分の背に隠すように庇う。

 

 

「・・・ブラックビート、いい加減に休んでないでお前もこっちに来い」

 

 

「・・・言われるまでもない」

 

 

 ダークプリキュアの言葉に動かされるように回復したブラックビートもビュートを構えて3人に一気に襲いかかろうと戦闘態勢に入る。ビートルブレイクの攻撃を短期間で回復させたブラックビートと無傷に等しいダークプリキュアの二人を相手にするなどは流石にブルービートでも絶望的な程に力の差がある。

 

 

「来るなら来い。・・・絶対にお前たちをゆりネェに近づけさせない!!」

 

 しかし例え勝てる可能性が低くても逃げるわけには行かないとブルービートも黒の二人に合わせて立ち上がった。負けるとわかっていても逃げるわけにはいかない・・・・守護者として負けないという決意を胸に秘めて。

 

 

「やめろ、ダークプリキュア、ブラックビート」

 

 ダークタクトとスティンガービュートを構え突進しようと力を込めた黒のタッグチームだったがそれを止めるサバークの声が響き渡った。

声の主の正体がわからないブルービート達は混乱するもそれ以上に動揺していたのは他ならぬダークプリキュアとブラックビートであった。

 

 

「キュアムーンライトには関わるなと言ったはずだ。すぐに戻ってこい」

 

 

「分かりました。運のいい奴らだ。」

 

 

「どうやらまた決着はお預けだな。ブルービート」

 

 

 命令というのならばやむを得ないとダークプリキュアは空を飛びブラックビートはその場から瞬間移動で消え去った。

 

 

「・・・・」

 

 

 残された3人のうち特にブロッサムとマリンは二度目の敗北に悔しくて言葉に出ない。辛くも勝利したブルービートも勝利の余韻に酔っている余裕などはない。

 サソリーナ立ち3幹部、上級幹部のダークプリキュアとブラックビートの上をいく更なる存在を前にして3人は緊張を強いられるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って、ゆりネェ!!]

 

 

 

「・・・・拓哉。何か用?」

 

 

「・・・まだ、俺はゆりネェには遠く及ばないかもしれない。でも絶対に俺はゆりネェみたいに強くなる。ゆりネェや父さんが出来なかったことを・・・俺が・・・俺達が絶対に成し遂げてみせるから・・・その、だから・・・・」

 

 

「・・・拓哉、背伸びしなくていいわよ。どんなに頑張っても貴方は貴方にしかなれない。ほかの誰でもない。貴方は貴方でしかないわ」

 

 

 言葉をつづけようとした拓哉にそう言ってゆりは背を向けた。拓哉は「どういう意味?」と聞き返したがゆりは振り返らすに歩みを進めて言って・・・・

 

 

「それぐらい自分で考えなさい」

 

 

 答えを自分で考えろという彼女らしいと言えば彼女らしい切り返し。キュアムーンライトとして戦っていた心の傷が言えていないこともありいつも以上に冷たく接している。

 

 

 

「ゆりネェ・・・・・・」

 

 

 拓哉は夕日の中を歩くゆりの姿を見て決意した。悲しみを背負った彼女のためにも絶対に俺達は負けない。砂漠の使徒の思い通りにはさせない・・・そしてダークプリキュアとブラックビートを必ず倒すと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ~、私達もゆりさんから見ればまだまだなんでしょうね」

 

 

「チョー悔しいよ。こうなったら意地でも、ゆりさんにあたし達の事認めさせたい!!」

 

 

「・・・・認めさせる・・か」

 

 

 悔しがるえりかの隣で拓哉はそう呟いた。いつもと違う様子にえりかは不思議そうな顔をして彼を見る。

 

 

「誰かに認めてもらう事って難しい。時にはそれに執着するがゆえに大事な事を忘れてしまう……」

 

 拓哉は一人夕日を見てそう続けた。珍しい程しんみりしている彼の顔につぼみは勿論えりかも声をかけられない。仲間になってから時々見せる拓哉のさみしそうな表情と何かを秘めた言葉・・・真意は彼にしか分からないが以前にも見せた彼のこ・・何を求めているだろう?もしかしたら求めていてももう手に入らないものなのか?

 

「・・・・・・」

 

 やはり彼には自分が背負っているものとは何か別のモノがある。それもそれを理解するなど到底できないような何かを・・・・。夕日に照らされる拓哉の後姿を見てつぼみは何と言えばいいか分からなかった。

 

 

「なんてな。ゆりネェはああ言ってるけど・・・いつか、認めてくれる。だから俺達なりにやれる事をすればいいんじゃん……な?」

 

 

 拓哉は二人に振り返ってそう言った。空元気の様にも見せるその態度に二人は合わせて笑って見せた。

 

 

「そう言えば拓哉はどうしてゆりさんの事を【ゆりネェ】って呼んでるんですか?」

 

 

「そう言えばそうだね。ゆりさんも拓哉の事を昔から知ってるみたいだけど二人って知り合いなの?」

 

 

 植物園の帰り道を3人は歩いていた。一日の終わりを告げるように夕日が町を照らしていて3人はその光に照らされる街を見ながら帰路を歩いているのだった。

 

 

「小さい頃からの付き合いだよ。ゆりネェのお父さんと俺の父さんは大学時代の友達でな。だから家族ぐるみで仲がよかったんだ……昔のゆりネェはすっごい優しかったんだぜ?」

 

 

「そうだったんですか。あ、そう言えば拓哉のお父さんとか会ったことないですね。今度会わせて・・・」

 

 

「つぼみ!!!」

 

 

 言葉を続けようとしたところにえりかがつぼみの口を塞いだ。つぼみは訳がわからないと混乱しているようだ。拓哉はそれにそっとえりかの手をつぼみの口から退けた。

 

 

「いいんだ、俺には父さんは居ない・・・死んだんだ。5年前に」

 

 

 拓哉の口から出た衝撃言葉につぼみはえりかが自分を黙らせた事を理解した。知らなかったとはいえ拓哉の辛い過去を思い出させてしまった・・・やらかしてしまったと拓哉のほうを見ながらも謝ろうかと言葉を詰まらせる。

 

 

「・・・えっと、ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまって」

 

 

「気にしないでくれよ。知らなかったんだから。それに・・・・どう足掻いても、誰に何と言われてもその事実は変わらない。だからいいんだ」

 

 

 つぼみへのフォローをしながら拓哉は不意に空を見た。つぼみには彼が無意識に見せる何かは父への憧れなのか?・・・それともまた何か別のモノ?……いずれ自分達に語ってくれるのだろうか?・・・だとすれば今は待つしかない。彼が自分から教えてくれるその日まで。



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第25話「試み」

 学校へ向かう明堂院いつきに女子の視線は集まっていた。某劇団のような男装女子な彼女だが初対面の女子は殆どが男子と間違えるほどだから視線が集まるのは無理がない。

 

 

「・・・・か、かわいい」

 

 

 だが彼女もやはり年頃の女の子。学校の通り道で視界に入った服屋の展示されている服を見て思わずときめいてしまう。自分もこんな服を着ることが出来たらどんなに素敵だろう。想像しただけで・・・・なんて考えるのも最近になってようやく出来るようになった。

 あの二人のプリキュアとビーファイターが現れるまでは出来なかったのに・・・・

 

 

「生徒会長、ウチの新作気に入ってくれたんですか?」

 

 

 いつきがドレスに目線が釘付けになっている後ろから声がして我にかえると其処にはえりか、つぼみの姿があった。あまり見られたくない場面を見られてしまったかと少し動揺するが目撃者の3人はというとあまり気にしてない様子であった。

 

「ま、まぁ・・・・」

 

 というのも実はいつきが見惚れていたドレスが展示してあるファッションショップはえりかの実家の【フェアリードロップ】だったのだ。ちょうど二人も学校に登校する時間だったので思わぬところで鉢合わせしてしまったということなのだ。

 

 

「お願いしていたファッション部への入部考えていただけました?」

 

 

「ふぁ、ファッション・・・いや、申し訳ないが忙しくてね。それじゃ失礼する」

 

 

 やはりまだ自分に正直になれない様子でいつきはその場から逃げるように歩き始めるのだがそれをえりかが腕をつかんで引きとめた。

 

 

「じゃあせめてデザインだけでも書いてみてください」

 

 

「デザイン?」

 

 

「可愛いなと思う服を自分で書いてみるんですよ」

 

 

「ボクが服を?」

 

 

 自分がデザインを・・・それならば無理しなくても出来るかもしれない。その日の学校は二人に勧められたデザイン制作のことで頭がいっぱいになりろくに授業の内容も頭に入らないのだった。

 

 

「出来たぁ!!!」

 

 そして下校後に自宅でいつきはその日の夕方の武道稽古の前の時間に自分の部屋でデザイン画を回見るのだった。自分好みの世界で一つだけのデザインを頭の中で精いっぱい考えて・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の明堂学園中等部のファッション部の部室では今日も活動が行われていた。ファッション部部員たちはと言うと部費で仕入れた材料を使い自分たちがデザインした服を自作しおdのデザインが自分に合っているかなどを探求することに夢中で部室内は非常に楽しいという空気であふれていた。

 

 

「ちょっと飲み物買ってくるけどついでに何か欲しい人いる~?」

 

 

「あたし、オレンジジュースね!!」

 

 

「私はお茶をお願いします」

 

 

 飲み物を買いに行くついでだと拓哉はファッション部全員に欲しいものを聞きそれをメモすると部室を出て購買部の近くにある自動販売機で6人分のジュースやお茶などを買い漁った拓哉は部室の前まで戻ってみるとそこには・・・・

 

 

「あれ、生徒会長?・・・何してんだウチの部室の前で」

 

 

 部室の扉の前で佇んでいる人影を見かけた拓哉はその人影の主の正体を知り驚いた。なんと生徒会長の【明堂院いつき】その人だったのだ。

 

 

「生徒会長」

 

 

「わぁ!?・・・な、なんだ、甲斐君か。びっくりしたぁ~」

 

 

 急に声をかけられたことでかなり動揺している姿を見て珍しいものを見た。しかしそれよりも今問題なのはなぜ彼女が部室の前で佇んでいるのかということだ。

 

 

「それは俺のセリフなんだけどな。それより、何してるの?こんなところで」

 

 

「え?・・・えっと、それは・・・その」

 

 

 ほとんどの同級生はいつきに対して敬語なのだが拓哉は構わずため口でそう聞くと突然の事でいつきは更に動揺する。拓哉はいつきが持っているA4の大きさの茶封筒を見て「成程」と心の中で頷いた。

 

 

「用があるならいつまでもこんな所につっ立てないで、どうぞ、どうぞ」

 

 

「え、ちょっと!?」

 

 

 なかなか部室に入れないいつきを後押しするように拓哉は部室の扉を開ける。いつきはまだ心の準備がと言いたそうだったが拓哉には見えていない様子であった。

 

「たっだいま~~~」

 

 

「おかえりなさい~~」

 

扉をあけるとつぼみが拓哉を出迎えそのすぐ後にえりかが拓哉が持っている袋から頼んでいるジュースを取ろうと駈け寄る。

 

 

「今日は珍しいお客がいるよ・・・・じゃん!!」

 

だがその前に拓哉は部員面々に自分の後ろにいるいつきを部員に紹介するようにそういった。いつきはというとまだ緊張が解れていないようで態度がコテコテに凝り固まっていた。

 

 

「や、やぁ・・・失礼するよ」

 

 

「生徒会長!?」

 

 

「えっと・・・こ、これを。頼まれたデザイン画描いてみたよ」

 

 

 茶封筒から取り出したデザイン用紙を見たファッション部女子部員一同は「可愛い!!」と全員が揃えて声を上げた。始めた描いた自分のデザインがかなりの高評価でいつきも満更ではなさそうであり思わず普段のキャラが崩れそうになってしまうほど笑みを見せてしまった。

 

 

「・・・・よし、折角だからこのデザインを作ってみない?なぁ、今日の活動は会長のオーダーメイド私服製作ってのどうよ部長」

 

 

「お、それいいね。じゃあ、生地を買いに行きましょう!!」

 

 

「え?い、今から?」

 

 

 またも拓哉の一言でファッション部部員全員がいつきを連れてそのまま彼女が描いたデザインをこの世に誕生させるべく材料の買い出しへと向かうのだった。



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第26話「守る者と守られし者」

ファッション部の活動として急遽決まったいつきのデザインした洋服作りのために部員達総出で材料を購入。その後はつぼみ、えりか・・・そして何故か二人に強制的に拓哉も連れてこられた。

 

 

「・・・なぁ、女子の部屋に男子一人だけって凄くおかしいと思うのだが」

 

 

 材料集めが終わったので今日はそれで帰ろうと思っていたのだがえりかに強引に連れてこられて現在に至るのだがイマイチ今の状態に解せない拓哉。

 

 

「ウダウダ言わないの。アンタ副部長でしょ?」

 

 

「いや、それって関係あるのかよ。まぁ、それはいいとして・・・・【和】だなこの部屋」

 

 

 流石に拓哉も年頃の男子。女子の部屋となれば落ち着かないのも当然といえば当然・・・なのだが・・・・

妙にこの部屋は拓哉もそのことに関してはあまり気にすることないのだ。何故ならば部屋が全くの【和】一色でありハッキリ言うのであるのならば女子らしさは欠片もないと言ってしまってもいいほどであった。

 

 

 

「【質実剛健】【整理整頓】って感じで・・・・ねぇ、もっと可愛いのおかないんですかぁ?」

 

 

「ちょっと二人とも」

 

 

 確かに年頃の女子の部屋にしては殺風景で女子らしくない。えりかはブーブーといつきに問いかけるといつきは立ち上がり襖を開け其処にあるタンスを開けると其処からは女子がいかにも好きそうなかわいらしい動物のぬいぐるみ達が顔を出した。

 

 

「無理はしないと決めたけどやっぱり修行の邪魔になると思ってね」

 

 

「・・・・(やっぱり無理しちゃってるんですね)」

 

 

 いつきは口ではああ言っているがやはり無理をしているのではないか・・・そこまでしてなぜ彼女が頑張れるのかは分からない。だがまた無理をすれば・・・

 

 

「(そうだ!!)洋服作りはあと何をすればいいんですか?」

 

 

「パターン作りだよ」

 

 

「型紙を作ってそれに合わせて生地を切る作業。先ずは型紙作らないとな」

 

 

 デザインを基礎に型紙を作ってその型紙に合わせて生地を裁断する本格的な作業にこれからなのだ。ここからはファッション部部長の真骨頂が発揮されるときだと4人は気合が入った。そしてしばらくして・・・・・

 

 

『出来たーーーー!!!』

 

 

 結構苦労したが型紙をデザイン通りに作り上げた。あとはこの鏡に合わせてベースとなる生地の型をとるだけ。ここからが一番難しい。気合を入れなおすようにして取りかかる・・・・筈だったのだが・・・・

 

 

「兄を守るため・・・にか」

 

 

 いつきが武道の稽古の時間となってしまい本日はお開きということになってしまった。彼女がどうして自分を其処まで犠牲にしてまでも武道を極める理由を知った時に拓哉達は改めて彼女の強さを知った。

 

 

「何よ急にしんみりしちゃって」

 

 

 拓哉が帰り道の道中に突然いつきの話題を振ってきたので珍しい現象だとえりかは拓哉を凝視する。

 

 

「いや、その気持ち・・・俺にも思い当たる節があるから・・・ちょっとな」

 

女の子でありながらどうして男子の制服を着て男になりきろうとするのか・・・・それは生まれつき病弱である兄のさつきに代わりなるため。それはつまり兄を守るため・・・その為だけに今の彼女は自分の本心を押し殺している・・・・

 拓哉にもある目的のためにブルービートになったから何かのために我武者羅になるという気持ちは大いに理解できた。

 

 

「そう言えば拓哉は何でブルービートになったのよ?・・・やっぱり、あたし達と同じように選ばれたの?」

 

 

「なんだよ急に?」

 

 

 突然えりかが自分に寄りそって改まった態度で聞いてきたことに拓哉はそっけなく返す。

 

 

「だって最初はあたし達に隠れてコソコしてたし今思えば気になるんだもん。ねぇ、つぼみ」

 

 

「はい。もしよかったら聞かせてくださいよ。拓哉がなんでブルービートになったのか」

 

「・・・・俺がブルービートになったのは」

 

 

 ビーコマンダーを取り出して徐に拓哉は【父親の仇であるブラックビートを倒すため】・・・それが自分の本当の目的であると言おうとした瞬間につぼみ、えりか顔を見て言葉が詰まった。二人は純粋に地球を守るために・・砂漠の使徒から人々の心の花を守るために闘っているのに俺は・・・・・二人は拓哉が

 

 

「悪い、今は言えない」

 

 

『・・・・』

 

 

 拓哉のどこか迷っている態度を見てしまった二人は何も言えなくなった。なんとなくビーファイターになったというのが拓哉の『砂漠の使徒』と闘う理由はもしかしたら自分達とは何か違うのか?

いつもの仲間や友達には優しい普段の彼からはあまり考えられないような姿を見て沈黙してしまう・・・

流れる静寂の中なんとか場を持たせようと3人はそれぞれ考える中拓哉は突然弾けた態度になったように笑い出す。少しでも場を持たせようと思った彼なりの行動だ。

 

 

「おいおいそんなにマジになるなって。いつかちゃんとした理由があることを二人に話すよ。・・・必ず」

 

 

 父のように本当の意味で自分がブルービートとして闘う理由を見出すまでは・・・復讐のためになったなどと言ったら二人は自分から離れて行ってしまうかもしれない。

それだけは今の拓哉にとっては一番の恐怖・・・それだけ今の拓哉は二人といる時間がかけがえのないモノになっているのかもしれない・

 

 

「もう、いいじゃん!!今すぐ教えてよ~~~!!!」

 

 

本音を誤魔化すようにお茶らけた態度を見せた拓哉にえりかはブーブーと文句を言っていつもどおり幼馴染同士の親友同士の何気ないやりとりが始まった。

 

 

「うるさいな、この“超”がつくほどのマイペース珍獣が!!」

 

 

「なんですってぇ~~~?ブルービートなんてかっこいい名前だけどアレただのカブトムシじゃない。この虫野郎!!」

 

 

 

拓哉はえりかに「カブトムシ」と言われて「なんだと~~珍獣えりかっか!!」と言い返す。言い合う中で思わず吹き出して大声で笑う拓哉とえりか・・・それによって気がつけばいつにも何気ない笑顔をみせる。

 

 

「・・・・(拓哉、やっぱり私達に言えないことがまだあるのでしょうか?)」

 

 

えりかと一緒にふざけている拓哉の姿を見てつぼみは違和感を覚えた。無理にこの場を和ませているようにも見える・・・自分達にブルービートであることをばらさないようにしていた時のように。

 

 

「どうしたの?つぼみ」

 

 

「いえ、何でもないです」

 

 

 つぼみの視線に気がついたえりかがそう聞くもつぼみは何でもないとそう言う。拓哉もそのことには気が付いていたが何も言わないで誤魔化した。お互いに何かを感じる部分があるが・・・言葉のできないのは年頃だから・・・それとも別の理由があるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Δ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日再び拓哉達はいつきの家に足を運ぶのだが・・・・・思わぬ出来事に驚かされることになった。

 

 

「えぇ~~~!!!??」

 

 

「服作るのやめちゃうんですか?」

 

 

「すまない。やはりああいうのは僕には向いてないと分かったんだ」

 

 いつきが3人に言ったのは折角だがこれ以上はやはり自分らしくないからと服を作るのをやめたいということだった。えりかは其れを聞いて黙っているはずがなく・・・・

 

 

「向いてない?」

 

 

「っ!!・・・そ、そうなんだ」

 

 

 いつきは自分の言い分をハッキリと伝えようと思っていたのだが其れを聞いて黙っていないのがファッションに命を賭けているといってもいいファッション部部長えりかの思わぬ威圧感を感じて怯むように引いてしまう。

 

 

「あぁ~あ、スイッチ入っちゃったよ。ああなったら止めるのは難しいぞ~」

 

 

「で、ですね」

 

拓哉はえりかをみてスイッチ入ったなと後ろで苦笑いを見せていてこうなってしまったら止めるのは至難の業であるということを一番知っている。いつきが押し出されるのも時間の問題だと思う。つぼみも暴走したえりかをまだ短い付き合いだが分かっているつもりなので納得したように後ろで拓哉と共にいつきがどう動くかを見るのであった。

 

 

一方いつきはというと・・・・ここでえりかに押し出されるわけにはいかないと思って言葉を選んでいたのだがその最中でも容赦なく目の前のマイペースガールの追撃が待っていた。

 

 

「楽しくなかった?」

 

 

「た、たのし・・・・ぼ、僕には他にやるべきことがあって・・・・」

 

 

「じゃあ、あたし達でやっちゃいますから見ててください。行くよ~~つぼみ、拓哉」

 

 

 二人の予想は的中しえりかに連れられる形で3人はいつきの制止を振り切って明堂院家へと突撃していくのであった。

 

 

 

 

Δ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして4人はいつきのデザインと選出した生地をベースにして世界に一つしかないちぇニックを製作の総仕上げに取りかかった。えりかの裁断の絶妙はハサミ捌き、つぼみが縫製を担当し・・・

 

「・・・・」

 

 

「やってみます??」

 

 

「・・・いいのかい?」

 

 つぼみが縫製をしている姿を見ていつきは思わず目を輝かせている・・・つぼみはそれに気がつくと途中でいつきにそれを代わる。その姿は意外にも様になっており・・・何より本人が一番楽しそうで勧めた甲斐があったと満足し彼女が縫製する姿を静観する。

因み拓哉はというと・・・・

 

 

「・・・・(俺の出番ないや・・・まぁ、偶にはいいかなこういうのも)」

 

 

 つぼみ達にお役を取られてしまいやる事がないと出されたお茶を飲み暇を潰しているのだった・・・・因みに彼の担当はというとデザイン作りが主であるため正直言えばいる言いがないのだ。

 

 

『かんせーーーーい!!』

 

 

そしてしばらくして遂に縫製も完了し遂にこの世に二つともない明堂院いつき特製の中ニックが完成した。それにつぼみ、えりかは大はしゃぎであったが一番喜んでいたのは勿論・・・・

 

 

「僕のデザインしたチュニック」

 

 

 ちょっとしたきっかけが現実となったことに興奮が隠せない・・・いつきは年相応の女の子らしい笑みを見せてテンションが高くなっていた。

 

 

 

「早速試着しましょう!!」

 

 

「試着って・・・・えぇええ!?!?」

 

 

 服なのだから着なくては意味がない。当たり前のことだがこんな女子らしい服は今まで来たことがないのだろう・・・いつきは胸が高鳴りながらも3人に廊下に出てもらい着替えて試着していく。そして試着が終わった彼女の姿は・・・・・

 

 

「こ、これが・・・ぼく?」

 

 

「どうですか~?」

 

 

 鏡に映っている別人のような自分を見て言葉を失ういつき・・・これが本当に自分?・・・この可愛い姿が・・・夢にまで見た姿に思わず我を忘れる。

 

 

「まるで別人だ・・・・似合ってるじゃん会長」

 

 

「え!?・・・そ、そうかな?」

 

 

 拓哉に似合っていると言わるといつきは頬が赤くなっている。照れているのだが男子に言われたことが何よりうれしいのだ。

 

 

「色合いといい全体的なシルエットといい・・・流石だ」

 

 

 だが拓哉はと言うとどっちかと言えばいつきが作り上げたデザインの事を褒めているようにも聞こえる。それを聞き後ろにいるつぼみ、えりかは・・・

 

 

「拓哉、其処は他にも言うことあるでしょ!!」

 

 

「ま、まぁまぁ・・・・でも、拓哉・・其処はもっと他に言うことあるのは確かですよ」

 

 

 二人は拓哉に聞こえない様にそういいながらも二人は感じた。拓哉は無意識に他者を特に女子を勘違いさせることが多いということを・・・・・・・

 

 

「?・・・なんだ?外が騒がしいけど・・・・」

 

だが・・・それも突然壊されることとなった。外が何かでも燃えていることに気がついたいつきと拓哉達3人は何事だとその場所へと向かう。

その後これから起こる事がいつきにとっての人生で最大の転機となる出来事となる事はこの時誰も予想がつかないでいたのだった・・・・・・・・・



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第27話「素直な気持ち」

突然やってきた道場破りにこの日の明堂院家は波乱を迎えることになった。道場破りの正体は元明堂院流の門下生のヒロトであった。

 いつきはヒロトと勝負を挑み力のみにこだわる彼の信念を叩き潰してやろうと決意したのだがその結果は・・・・・・・

 

 

「僕が・・・負けた?」

 

 

 

 結果はヒロトの不意打ちによる勝利に終わった。その事に戸惑いが隠せなず道場の看板を奪われて明堂院流の名に傷をつける原因を作ったことに大ショックで自信をなくしてしまった。それだけで済めばまだよかったのだが・・・

 

 

「僕は・・明堂院流を継ぐことが兄を守る事だと一人で思いこんでいたようだ・・・僕から【武道】を取ったら何が残るだろう?」

 

 

 さつきや祖父に言われた言葉・・『大切なのは自分の心』、『誰かのためではなく自分のため』 その言葉が身に染みる・・・今まで自分は兄を守るために全てを犠牲にしてきたのにそれも変えなければならない時がきたというのか?

 

 

「【武道】一筋で生きてきた僕に。“僕のため”の【他の道】なんて・・・・」

 

 

 今までの自分を変える時が来たという百歩譲ってよしとしても・・・今更自分のために他の道を探せるだろうか?今の今まで物心ついたときから始めていた【武道】以外に自分がやりたいことなんて・・・・・・近くの湖が見える場所でいつきは考える。

今が自分を変えるとき。ターニングポイントだということは分かっていても今更になってそんなこと言われても・・・

 

 

「いっぱいありますよ」

 

 

「そうそう!!ファッションデザイナーだって何だってあるじゃないですかぁ!!」

 

 

 何をすればいいか全くわからないいつきにつぼみはそう呼び掛け。それに続きえりかが便乗して続いた。

 

 

「僕がファッションデザイナー?」

 

 

「はい。楽しいと思えることを楽しんでやりましょう」

 

 

「自分の心に素直にね」

 

 

 僕がやりたいこと・・自分の心に素直になって心の底から楽しいと思えること・・・こんな単純なことも考えてもいなかった。いつきは自分が本当に楽しいと思えること事が何であるか・・・

僕が素直になれるもの・・・それは・・・・

 

 

「っ!?」

 

 

 考え込んでいる中で唐突に辺りが揺れるのを感じるのとすぐ後に突然デザトリアンが横切っているのが見えた。あの巨体を隠すなどはそもそも無理な相談であるのだが・・・拓哉、つぼみ、えりかはデザトリアンを発見したことで目付きが一瞬変わったが・・・

 

 

「(会長の前じゃ重甲もプリキュアに変身も出来ない)」

 

 

 拓哉がどうにかしようと思っていた矢先にいつきが先導を切るようにデザトリアンのほうへと走る。

 

「おい待て、会長。素手であんなのを倒せると思ってるのか?」

 

 

拓哉は止めようとしたが逆に彼の手をはねのける。

 

 

「僕の心配はいい。甲斐君は花咲さんと来海さんと頼む。」

 

 

普通に考えれば無謀以外何物でもないのだがそれでも彼女は正義感が捨てきれないのか・・いや、本当は捨てきれない自分の心の迷いやヒロトに負けたショックからか何かせずにはいられないのかもしれない・・・・いつきは拓哉の制止を聞かずに走ってデザトリアンのほうへと走っていってしまう。

 

「あぁ~あ。あの会長は・・・・ったくもうよ」

 

 拓哉は顔に手を当てて呆れかえってしまう。なんで甲いう展開になってしまうのやら・・・拓哉はため息をつくがそのすぐ後に顔をキリリとさせる。

 

 

「やれやれ面倒だが、お転婆姫を助けにいかなきゃな。二人ともいくぞ」

 

 

『うん!!』

 

 

 拓哉の号令につぼみとえりかは同意しココロパヒュームを手に取る。そして拓哉もビーコマンダーを取り出してコマンダーのカブトムシの象徴である角を蒼く光らせた。

 

 

『プリキュアの種、いくですぅ!!」

 

つぼみからピンクの光がえりかからブルーの光がシプレ、コフレの胸に集まり光が凝縮されピンクと青のプリキュアの種が二人の手に取られる。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 つぼみ、えりかが手にとったピンクと青のプリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。

上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき二人は同時にポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

「重甲!!」

 

 

 ビーコマンダーの赤いスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせ変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた瞬間にビーコマンダー内部に圧縮収納されたブルービートのインセクトアーマーが光り輝き拓哉の身体を青い光で包みこんでいく。アーマーは元の大きさに戻って素早く拡散し拓哉の身体を包みこんでいく。

最初は両腕に素早く鎧が纏われそこから胸と下半身そして拓哉の顔以外のすべての部分に重甲なる鎧がまとわれる。

最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!! 重甲!!ビーファイター!!!

 

 

 ジャキっと金属音を冴えながらポーズを決めて鎧騎士の姿に変えた少年は名乗り上げを決めたあと3人は急いでデザトリアンの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人のプリキュアと1人の蒼鎧戦士はいつきに襲い掛かろうとしているデザトリアンの前に立った。いつきは突然現れた3人の戦士特にプリキュアのコスチュームの可愛さに目を輝かせた。

 

 

「此処は危険です」

 

 

「逃げてください」

 

 

 カッコよくセリフを決めるブロッサムとマリン。デザトリアンの咆哮が響く。3人の戦士は身構えいつでも飛びかかろうと力を身体にため込んでいく・・・・のだったが

 

 

「プリキュア・・・か、かわいい~~~!!!

 

 いつきの言葉は二人のキリっと決めた空気を一瞬で粉砕しポーズを崩させてしまう・その当のいつきはその二人にに構わず後ろでプリキュアの衣装を見て子供のように騒いでしまっている。

 

 

「・・・・・(ホントにこの娘はなんていうか、ギャップが激しいな)」

 

 凄まじい程にギャップの差が激しすぎるのかブルービートも言葉を失い固まってしまう。

 

『はやく逃げて!!!』

 

 

 自分達のコスチュームに見惚れている場合ではないとブロッサムとマリンは同時に声を出した。その間にもデザトリアンは動きだして看板が媒体になっているその平たい板の大きな腕で3人を殴りつけてきた。

 

 

「危ない!!」

 

 

 

 デザトリアンの攻撃に気がついたブルービートがいち早く声をあげてギリギリのところでブロッサムとマリンは同時に飛び上がり回避。ブルービートも自分の近くに居るいつきを抱えてその場から緊急回避べく空へと飛び上がった。

 

 

「さぁ、早く逃げて」

 

 

「う、うん・・・あ、ありがとうブルービート」

 

 

 ブルービートはいつきを地面に下ろしてデザトリアンのほうを向く。いつきはブルービートの背中を見て思わず何かを感じる。ブルービート本人は気がついてないようであったが・・・・

 

 

 

「ふははははははは!!!!コイツは甘えん坊じゃき。師匠に叱って欲しかったらしいぜよ。弱い奴じゃ」

 

 

 後ろから現れたクモジャキーに全員の視線が集まる。またもこの男は強さを以外のものはすべて否定する発言にブルービートの苛立ちを募らせた。

 

 

「うるさい脳筋野郎!!人が誰かに謝ろうと思っているその思いを・・・不安や迷いを利用するなんて許さない!!一気に決めるぞブロッサム、マリン」

 

 

『うん!!』

 

 

 怒りに震えるブルービートはスティンガーブレードを右腕に装備ブロッサムとマリンはフラワータクトを召喚して手に取るのだが・・・そうはさせまいとクモジャキーが動いた。

 

 

「そうはさせんきり。ビックバンクモジャキースペシャル!!」

 

 

 クモジャキーは拳にエネルギーをためていくとそのまま一気に地面へと叩きつけて稲妻のような何かが迸っていく。一見するとただのパンチでしかないのだが・・・・・

 

 

『うわぁあああぁああああっ!!!??』

 

 

 次の瞬間には大地が裂け大規模な地割れが起きて3人は裂け目にのみ込まれてしまったのだ。ブロッサムとマリンはクモジャキーの不意打ちに対処できずに飛び上がる前に地面の裂け目に飲まれて完全に身体が宙に浮いてしまった・・・このまま自分達は落ちる!?

 

 

「ブロッサム、マリン」

 

 

 しかし間一髪のところをブルービートが左手ブロッサムの右手を掴みその瞬間にブロッサムはマリンに手を伸ばして掴み上げたことで3人は首の皮一枚のところで最悪の事態だけは免れた。

 

 

「待ってろ。今持ち上げるからな・・・(だけど流石に二人を片手で持ち上げるには力が足りない。・・・・だけどこのままじゃ!!)」

 

 

 聞き手の右手はスティンガーブレードを装備したために封じられている。左手で二人分の体重を支えきるには体制が悪い。なんとか踏ん張ろうとアーマーに力を込めるがそれをさせまいとクモジャキーがブルービートへと歩み寄っていく。

 

 

「今3人とも楽にしてやるぜよ」

 

 

「くっ!!・・・二人とも絶対に手を離すなよ!!!」

 

 

 早く持ちあげなければと焦るブルービート。だが左手だけではやはり厳しいのかなかなか思う通りに動かない。崩れた地面の岩が亀裂の間からクモジャキーが放ったエネルギーが雷のように走っていてバチバチバチと音が鳴っている。

不意に石ころ亀裂の無限の穴に落ちていくとそれに反応したかのように稲妻が発生。それによって石ころは粉々に砕かれた。落ちれば自分達の身体も稲妻の攻撃を受ける・・・・それを見た3人は落ちればタダでは済まされないと肝を冷やす。

 

 

「落ちるぜよ!!」

 

 

 なんとか二人のプリキュアを支えているブルービートに向かってケリを入れようとするクモジャキー。迫りくる牙を研いだ敵の気配を感じたブロッサムとマリンは思わず恐怖で目を瞑った。

 

 

 

「駄目だ!!」

 

 

だが間一髪のところでギリギリそれ防がんとした少女が割り込んでクモジャキーを突き飛ばした。その正体は明堂院いつき。彼女はクモジャキーを突き飛ばして離れさると今にも落ちそうなブルービート達へと駆け寄った

 

 

「さぁ、3人とも早く!!」

 

 

「ありがとう。・・・っ!!・・・危ない、逃げろ!!」

 

 

 しかしその彼女に向けてデザトリアンの容赦のない攻撃が放たれてブルービートといつきが居る足場を崩した。いつきは紙一重でその攻撃をかわしブルービート達3人は崩されて宙を舞った岩を足場にしてなんとか体制を立て直し飛び上がって散り散りとなるのだが・・・

 

 

「ぐあぁああっ!?!?」

 

 

「きゃぁああああっ!?!?」

 

 

「あぁああああぁあっ!?!?」

 

 

その瞬間にまるで触手のように自由自在に伸びる看板の腕に3人は叩きつけられて地面や亀裂で出来た岩肌に叩きつけられて猛攻を受ける。3人の悲鳴がその場に無情にも木霊する。

 

 

「プリキュア、ビーファイター」

 

 

「どこを見てる?」

 

 

 クモジャキーのキックがいつきを襲うが彼女はギリギリのところでよけることに成功し頬をかすめた程度で済んだ。

 

 

「ほぉ?人間にしては上出来じゃき。遊んでやるぜよ」

 

いつきが意外にも自分の蹴りを避けたことを素直に称賛しクモジャキーは人間でありながら強い相手と察したのかターゲットを切り替えて彼女へと迫った。

 

 

「(『武道』の道は僕にとって辛い事の連続だった。でも同時に『武道』を極める喜びもあった。お兄様のため、家のためだけ修行してきたわけじゃない。僕は武道が大好きなんだ。この力で僕は・・・大切な人たちを守る!!)」

 

 

 やっと気がついた本当の自分の気持ちに吹っ切れた・・・・・

もう迷いはない・・・いつきは自分が持てる力で今目の前にいる邪悪なるものと闘う決意を固めクモジャキーに向かって闘いを挑んだ。

 

 

「でりゃぁああああああっ!!!」

 

 

「はっ、たぁあああああああっ!!!」

 

 

その勝負の勝敗はいつきに軍配が上がった。殴りかかってきた拳を可憐によけてクモジャキーの腕を取り彼の勢いを利用してそのまま柔道でいえば一本背負いの要領で投げ飛ばし地面へと叩きつけて組み伏せたのだ。

 

 

「どうだ!!」

 

 

 そして追撃の関節技を決めてクモジャキーを攻めるが人間の腕力ではやはり彼には通じないようでクモジャキーはニヤリと余裕を込めた笑みを見せた。

 

 

「何ぜよ?それは」

 

 

 所詮は期待外れ。クモジャキーの素早いキックがいつきに迫る。脳筋馬鹿力のあのケリを生身の人間が受けたら大けがでは済まないがこの距離では逃げるのも間に合わない・・・・だが一つの影が彼女を抱えて飛び去った。

 

 

 

「プリキュア!!」

 

 

 その正体はキュアブロッサム。彼女を抱え遠くに飛び去ってクモジャキーから逃がしたのだ。クモジャキーはそれを面白くない様にうなり声をあげるがその彼にもう一つの影が迫った。

 

 

「ビームモード!!」

 

 

「ぐあぁあっ!!?」

 

 

 

 上空からブルービートのインプットマグナムでの援護砲撃でクモジャキーは爆発に巻き込まれてしまう。

 

「ぐあぁああっ・・・ちっ!!!!」

 

砲撃を受けたクモジャキーは「小癪な」と声をあげるも突然爆風を切り裂くように突撃してきたブルービートのダブルパンチアタックが待っていた。

 

「たぁあっ!!」

 

 

「ぐあぁあっ!?・・・おのれぇ・・・」

 

 

 カブトムシの角に見立てた二つの拳からの一撃は流石のクモジャキーでも大ダメージは必至。殴られた胸と右手で抑える一度逃げるように飛び上がった。あと残るはデザトリアンのみだ。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「あとは私達・・・プリキュアと!!」

 

 

「ビーファイターに任せてくれ!!」

 

 

いつのまにかマリンがデザトリアンの腕を抱えて投げ飛ばしていた。それを見てブロッサムとブルービートのペアは同時に飛び上がりマリンの隣に立ちブルービートはスティンガーブレードを構える。今度こそ一気に浄化すると各々の武器を構えて煌めかせた。

 

 

 

「カンバーーーーーン!!!」

 

 

 投げられたデザトリアンはまだまだ抵抗してやろうと向かってくる。だがブロッサムとマリンが同時に前に出る。

 

 

「ブロッサム・シュート!!!」

 

 

 先ずは先制攻撃とブロッサムのブロッサム・シュートの砲撃の雨がデザトリアンに降り注がれる。一発一発の攻撃力は大きなダメージになることはないがそれでもそれが集団に集まれば所詮は多勢に無勢。一つ一つが小さくともその力が集まれば一つの大きな力となる。水の滴が固い岩に穴をあける如くの連続砲撃の前にデザトリアンは思わず怯む。

 

 

「マリン・ダイブ!!」

 

 

 続けてマリンの追撃マリン・ダイブを放ちブロッサム・シュートでデザトリアンで怯んでデザトリアンをものすごい勢いで後ろへと吹っ飛ばす。周りにはマリンの技によるソニックブームが辺りに降り注がれた影響で草木は風になびかされる。

 

 

「スティンガーブレード!!!」

 

 

 その時を待っていたとばかりにブルービートが飛び上がってスティンガーブレードを振り下ろし抜刀斬撃をデザトリアンに叩きこみ動きが鈍ったその巨体に蒼い刃を振りおろされていった。ブルービートが放つ数発の斬撃を見舞わせて動きを更に鈍らせにかかる。

 

 

「たぁあ!はぁあ!!・・・でやぁあっ!!」

 

そして一度飛び上がって離れてトいくとブルービートはトドメとばかりにブレードを胸に翳していきスティンガーブレードのハッチをスライドさせて銀色のギアを高速回転させてエネルギーをブレードの刃に充填させる。

 

 

「ビートルブレイク!!」

 

 

右から刃を振りおろし更に左に刃を振り上げてもう一度振りおろしてX字に斬りおろすとデザトリアンに青い稲妻とエネルギーの光がX字型を描きながらに包まれていく。

 

 

「カンバーーーーン!!!!」

 

ブルービートのビートルブレイクがデザトリアンを切り裂き蒼い稲妻がその巨体を包みこんでいくとそのまま巨大なる怪物は倒れて大爆発を起こして消滅。媒体となった明堂院道場の看板と道場破りヒロトのこころの花と分離する。

 

 

「ふぅん・・・プリキュアも少しは強くなったようじゃき。次はもっと楽しませるぜよ!!」

 

 

 闘うこと以外は本当に興味がないのかクモジャキーは捨て台詞を吐いて瞬間移動で使役にしているスナッキーとともに消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れ夕日が町を綺麗に照らす。道場破りのヒロトは改めて入門を許され一件落着し奪った看板も返された。終わりよければすべてよしとはまさにこのことだろう・・・・。

 

 

「君たちに頼みがあるんだ」

 

 

 看板を元に戻したいつきは唐突に拓哉達に改まった態度でそう言ってきた。何だろうと3人は疑問顔になる。

 

 

「僕をファッション部に入れてほしい」

 

 

 その言葉を聞いてつぼみは大感激。えりかも喜びの笑顔になった。自分たちの努力がようやく実を結んだとなると喜んで当然だろう。

 

 

「もちろん大歓迎ですよ!!!」

 

 

 大はしゃぎの女子二人組。その後ろで拓哉はと特に何も言わず黙ってはいるもののいつきに笑顔を見せてうなずいて見せる。無言で歓迎するということだろう。

 

 

「お爺さま、お母様、そして、お兄様・・・いつきの迷いは消えました。僕の素直な心を伝えます・・・僕は、『武道』も『可愛い服』も大好きです!!」

 

 

 ようやく言う事が出来た本当の気持ちを伝える事が出来た少女の顔は清々しくなっていた。もう自分は誰かの為だけに頑張らなくていい・・・・

いつきにとって今日という日は自分を縛りつけていた重い枷が外れた瞬間でもあった・・・



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第28話「新しい命」

 季節は進み初夏から梅雨へと月日が流れ虫や人々が活発になる夏という季節にむけていよいよ本番にまで近づいてきたこの日に。プリキュア勢力と砂漠の使徒勢力の双方であ新たな動きが起きていた。

 

 

 

「なんです!?この光は・・・・・」

 

 

「溜まった【こころの種】が輝いてるです!!」

 

 

「ということは・・・・・」

 

 

 目を合わせるシプレとコフレ。このような事が起きると言うことは・・・・考えられることは一つだけだ。それは・・・・・・

 

 

『すっごい事が起こるですっ!!!』

 

 

 何が起きるかわからないにしてもとんでもない事が起きるということは間違いない。具体的には何が起きるかわからないにしても・・・因みにその予感は当たっていた。いや、正確には今まさにその何かが起ころうとしていたのだった。

 

 

 

 

 場面をこころの大樹がある場所へ移動すると地上でこころの種が同調するかのような光を放っているところでこころの大樹にも凄まじい光が集約していた。その光は大樹の一点に集まり2つの光を作る。

 

そしてしばらく光り輝いたの後に現れたのは・・・・・

 

 

「・・・・はぁ~~~」

 

 

 シプレとコフレより一回り小さい白い身体の妖精。そしてその隣には形状から察するに短剣と思われる石器のようなものが出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また同じころ砂漠の使徒の中秋司令室とも呼べる場所にサバークがおり彼の側近のダークプリキュアとブラックビートが呼び出されていた。そう、サバークが砂漠の使徒のボスではない。そのさらに上の存在が・・・影なる存在が今姿を見せたのだ。

 

 

「サバーク・・・・サバークか?・・・・・通信状態が悪いようだな」

 

 

 通信室からサバークを呼んだ相手はデューンという名前。顔などは通信状態が劣悪な環境の影響からかハッキリと判別は出来ないのだが声は聞こえる。

 

「・・・・・」

 

ブラックビートはデューンという存在の名を聞くのが初めてであるようで姿が見えない事をいいことに腕を組んで不服そうな態度をとっていた。というよりも自分の生みの親であるサバークに軽々しく命令口調で話すデューンが気にいらない様子であった。

 

「早速だが、【地球および人類砂漠化計画】はどうなっている?」

 

 

「それが・・・新しいプリキュアとブルービートの復活により事の他遅れおります」

 

 

 言いたくないことだが事実は言わなければならない。サバークは言葉を詰まらせながらもそう言うとモニターから自分の名前を大声で叫ぶデューンの反応に思わず身体をビクつかせて驚いた。

 

 

「ふふふ、総指揮官の座を降ろされるとでも思ったのか?」

 

 

「っ・・・御冗談を」

 

 

 図星を突かれた事にサバークは内心冷や汗が止まらない。中間管理職というべき立場ではよくあることだ。上からは目標達成を急かされるも下の先兵が使い物にならなければ思い通りにならない。サバークも内心ではそろそろ焦り始めているのだとブラックビートとダークプリキュアは察しがついている

 

 

「こころの大樹を守る妖精を逃し、倒したはずのブルービートのビーコマンダーが大樹の力で修復された揚句、次の資格者に移った時点で起こりうることだ。私は気にしておらんよ・・・」

 

 

 本当にそう思っているのか?ダークプリキュアとブラックビートは思わずそう思った。確かに今の敵の戦力と自分たちの戦力を比較すれば一目瞭然で大した障害ではない。つまりはデューンも其れを認識しているとでもいうことなのか?だがそれにしても今のいい方では戦いを楽しんでいるようにも聞こえるが。

 

 

「お前にいい情報を与えよう。嘗てこのデューンがキュアフラワーとビーファイターに敗れたのは・・・彼ら自身が強かったこともあるが、更に“能力を高める何か”を手に入れたのが大きな要因だったのだ。」

 

 

「なんなのですか?それは」

 

 

「それがわかれば苦労はしない。とにかく、それを手に入れさせてはならない。奪うなり壊すなりすればプリキュアやビーファイターなど恐れるに足りぬ。」

 

 

 デューンの言葉はもっともであった。というよりももしもデューンがこの地球に来ていた時点でもしもその力の要因が分かっていたのであれば今頃自分たちがわざわざ地球砂漠化作戦を彼の代理になって行う必要がないからだ。それよりも重要なのはその要因がまだ今のこの戦いにおいて自分たちが認知していないという事だろう。

 

「手掛かりはこころの大樹にあるはずだ・・・探してみるがよい」

 

 もしもそれが奴らの手に渡ったら・・・・自分達でも手に負えなくなる可能性がある。相手が弱いといえども武器を持たせたら大いに戦況は変わることは分かっている。

 

 

「ふぅん」

 

 砂漠の使徒は予感を感じながらも行動を開始し指令を受けたダークプリキュアを向かわせ空を呼びこころの大樹の探索を開始する。そのころ通信室を出たブラックビートは・・・

 

 

「急がなくては・・・ブルービートを、甲斐拓哉をこの俺の手で!!」

 

 

 このままではデューンがもしも地球に迫ってくればブルービートをこの手で倒す前に地球が砂漠化されてしまう。それで組織としての目的を達成できるのは大いに結構であるが自分が生まれてきた目的を果たせなくなってしまったら無価値に変わらない。

 黒いカミキリ虫の使者はこうなれば自分のルールでやるまでだと独断で一人下界に降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、僕はなんでこんな所に居るんでしょうかね?」

 

 

 甲斐拓哉は休日にえりかに呼び出されある場所へと来ていた。本日は日曜日・・・折角ゆっくり休もうかと思っていたところに呼び出されたので今の彼は不機嫌さが極まりない程であった。

 

 

「いいじゃない~つぼみが初のモデルデューなんだから」

 

 

「いや、モデルデビューじゃなくて代役でしょ?・・・それに何で俺まで」

 

 

 

「だぁ~もうウダウダ言わない!!」

 

 

 そう実はつぼみがももかの相手役の代役として急遽モデルの仕事を引き受ける事になったのだ。ほとんどはえりかがゴリ押したようなものであるがマイペースガールに無理矢理連行された形なのだ。

 

 

「・・・・しっかし、つぼみガッチガチだな。なんていうかぎこちなさすぎる」

 

 

「た、たしかに・・・つぼみ~~!!」

 

 実際に自分があの立場になったら自分も絶対に彼女と同じくガチガチになってしまうからあまり大口は言えない。

 そして恐らくつぼみの緊張は自分たちが想像する以上のもので半端なるものではないのだろう。ポーズが固いままの彼女に助け船を出す様にえりかはつぼみに見本のポーズを見せてみるのだが……

 

 

「ポーズはいいが顔が笑顔じゃないだろあれ・・・・」

 

 

 ポーズは見事に決まっているのだが其れに不釣り合いすぎるほど笑顔が不自然すぎてミスマッチの一言。遠くからそれを見た拓哉が思わず苦笑いをしている状態になるほどであったためその酷さはフォローする言葉も思いつかないほどなのだ。

 

 

「つぼみちゃん、撮影終わったらスイーツバイキング行こう」

 

 

「え?ホントですか!?」

 

 

 ももかの一言でつぼみは自然な笑顔を出して撮影班はそれを逃さず写真を撮った。驚きなのはやはり、ももかのアシストだ。仕事で慣れているというのもあるだろうけども人の心を解すのはそう簡単にできることはない。

 

 

「やっぱり凄いな桃ネェは。ほら、つぼみも負けずに頑張れって」

 

 

「は、はい~~」

 

 

 今日の体験はつぼみ本人からすれば良い意味でも悪い意味でも貴重なものとなるはず・・・なのだが本人からすれば緊張が止まない非常に長い一日という事に変わりはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また同じ頃こころの大樹の偵察へと向かったダークプリキュアは自身の予想が当たった事に驚いていた。こころの大樹の内部には少なくとも生まれたての妖精が生み出されたことは間違いない。

 妖精は本能で危険を感じたのかなんとか守ろうと自身の能力で大樹に黄金の結界が出現させて守っている。

 

 

「まさか・・・こころの大樹が再び新しい妖精を生とわな」

 

 

「ひょっとするとあの妖精がデューン様の言っていた手掛かりなのでは?」

 

 

「うむ、捕まえろ」

 

 

 

 サバークの命を受けダークプリキュアは砲撃で一気に黄金の結果に罅を入れさせていく。それに震え恐怖を感じる。だが破壊者はその悲鳴を無視し一気に砲撃を叩きこんでいき結界を少しずつ壊していく。

 

 

「や、やめるでしゅ。もう守りきれないでしゅ」

 

 

 両手に光を宿してなんとか守りの力とも言うべき能力で大樹を必死に守る妖精。しかしその頑張りを粉砕するかのように砲撃は勢いを増してそれを受ける次第に結界の罅割れは大きくなっていく。この妖精一人ではどうにか攻撃を抑え込もうとするも力不足なのかこれ以上は破られるのも時間の問題だ。

 

 

「っ!?・・・逃げるでしゅか?・・・で、でも!!」

 

 

 なんとか守ろうと踏みとどまる妖精。しかしその絶体絶命の妖精に大樹が助け船を出すように自身の葉の囀りを声変わりにして妖精に逃げるように促した。

 逃げろと言う大樹の言葉を聞いて妖精は逃げる事を迷う。生まれたばかりの自分でもこれらの起こるである事の予想は出来る。だからこそ自分だけ逃げる事は出来ないのだ。

 しかし非情にもその考えている間にも砲撃は止まらず結界の亀裂は大きくなっていく。そしてトドメとばかりの巨大な一撃が放たれると罅割れは遂に結界の全てに走っていき爆発が発生して崩れ落ちた。

 

 

「あっ!!!」

 

 

 爆発音が発生して結界は割れてしまう。妖精はそれに気がついて思わず目を閉じてその場に蹲る。爆発で発生した爆風が周りを包み込んでいき大樹全体を包み込んでしまって幸運にも妖精はそれで身を隠すような状態となった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 ダークプリキュアは見事に結界を破壊したのだが思いのほか砲撃の威力を強すぎたのかあたりの爆風が自分の視界をも奪ってしまっていて肝心の妖精が何処に居るかわからない・・・・目をを凝らしてみても視界が悪いためどこにいるかすら分からないのだ。頼れるのは気配ぐらいしかないようだ。

 

 

「っ!?」

 

 

 爆風が包む一帯の探索を続ける中突然謎の光球がダークプリキュアの横から猛スピードで横切る。咄嗟の事でダークプリキュアは驚いたがすぐに条件反射でその物体に向かって砲撃を放つ。

 

 

「ひぃっ!!?・・あぁあっ!!」

 

 

 その正体はあの妖精であり大樹の言葉を聞き石器を持って超スピードで逃げようとしていたのだ。だがダークプリキュアの咄嗟の攻撃を避けるのに精一杯で逃げる際に一緒に持ってきた石器を落としてしまった。

 気がついたときにはもう遅い。既に石器は遥か下の方に堕ちてしまっていて身体の小さいこの妖精では取りに行くことは不可能。妖精はその石器のこと諦めるしかない・・というよりは考えている余裕がないと言う方が適切だろうか自分に迫ってくる黒い悪魔から必死に逃げた。

 

 

「逃がさん!!!」

 

 

 

「待て。恐らく仲間の妖精のもとへち逃げていったのだろう。アイツを捕まえるのはサソリーナ達に任せる。お前はこころの大樹を探せ」

 

 

 追いかけようと動くダークプリキュアだったがそれをサバークが止める。気がつけばその場にいたはずである大樹も消えておりその場に残ったのはあの妖精が作ったと思われる砕け散った黄金の結界の破片だけであった。

 

 

「・・・・・」

 

 不満であるが命令とあれば仕方がないとダークプリキュアは腑に落ちない気持ちを抑えて無理やり自分を納得させて一人大空を移動し消えた大樹の探索を開始する。果てなく続く広いこの青空のどこかに居るはずであろう大樹を探して舞うように悪魔の肩翼を羽ばたかせた。

 

 

「・・・・・」

 

 

 サバークはその間に3幹部たちとブラックビート招集したのだがブラックビートは一向に姿を見せない。奴はどこに行ったのだとサバークは呆れて息を漏らす。

 

「ブラックビートはどこに行った?」

 

 

「そう言えば姿が見えませんわねぇ・・・まさか勝手に独断先攻を?」

 

 

「勝手な真似を・・・・まぁよい。新たに第3妖精が現れた。恐らく仲間の妖精やプリキュア達のもとへと向かったのであろう。お前達はその妖精を生け捕りにしてくるのだ」

 

 

『はっ!!』

 

 

 3幹部は久々の全員出撃に気合を入れるように掛け声をあげると瞬間移動で姿を消す。それとまた同じころ下界には町に降りた黒い影の申し子が既に行動を開始していた。



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第29話「蘇る力、煌めけ!!パルセイバー」

 つぼみがモデルデビューに奮闘し更に砂漠の使徒が2匹の妖精を追いかけているまたそのころ希望ヶ花のショッピング街を不機嫌そうに歩いている少女がいた。彼女の名は露木かりん。この少女こそが、ももかの後輩でつぼみが代役を務めるきっかけを作った人物であるのだ。

 最初こそ口論となりモデルの仕事を降りた彼女であったがその後どうなったかが気になり撮影現場へと足を運んだ。だが其処で見た事実は自分を更に惨めにさせるものだった。

 

 

「・・・・・」

 

 全部あの女のせいだ。あの女が自分を邪魔者だから消すためにワザと嵌めたに違いない!!・・・・そんな被害妄想を含まらせながら街を一人放浪する。この仕事をやめようか・・そうさえ思っているとその彼女に一つの影が迫った

 

 

「・・・お前の心枯れているな・・・・いい具合に」

 

 

 日差しが強い夏の暑い季節には場違いな服装の男はユラリとかりんに近づいた。・・その服装は上下共に黒一色で長袖のロングコートに顔が隠されたハット帽といった姿で右手に何やら石器時代の遺物のような何かを手に持っている。

だが一番の特徴を言うのであれば首から黄色いカミキリ虫の顔の様な形をしたネックレスであり其れを首からぶら下げた姿は実に不気味であり黒い姿を更に印象付けるものとなっている。

 

 

「な、何よアンタ!?」

 

 

「お前にとっては何でもいい。なぜならお前に用があるのではない。お前の心に用があるのだからなぁ!!!」

 

 

 男はそのまま手を伸ばしかりんを光に包みこんでしまいなんと次の瞬間には彼女を推奨に閉じ込めこころの花を取り出した。そうこの男は普通の人間ではない・・・・。ハット帽に隠されている口元を歪ませて笑みを作ると辺りを見回していくと目の前にあった展示用のマネキンに気がついた。

 

 

「ふぅん、あれがいい。出でよ、デザトリアン!!!」

 

 

 黒い稲妻と光を発生させるとデザトリアンを生みだす・・のだがその姿は黒い身体に黄色い目・・・普段のデザトリアンの様な愛嬌のある顔ではない。文字通り凶悪で凶暴な顔つきそのものであった。

 

 

「あ、あれは!?・・・砂漠の使徒の新しい幹部ですっ!?」

 

 

「つぼみ達に知らせるですっ!」

 

 

 何しれぬ気配を何処からか感じ取っていたシプレとコフレはスタジオを抜け出して空を飛んでいるとたまたま黒い男がデザトリアンを生みだした一部始終を目撃し二匹は急いで撮影スタジオまで飛んで戻るのだった。

 

 

 

「さぁ行けデザトリアン、お前の力の限り暴れるがいい。これを餌に奴をおびき寄せてくれる・・・くくく」

 

 

 デザトリアンは男の声に従い大いに暴れる。街を壊し響き渡る悲鳴。そして偶然過か必然なのか暴れる中でデザトリアンは奪われたこころの花の持ち主の意識があるのかつぼみ達がいるスタジオへと走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

「アレはいつものデザトリアンじゃない?」

 

 

 外から聞こえてきた凄まじい咆哮を聞いて拓哉達は真っ先に確認するべく外に出る。目の前にいるデザトリアンの姿はいつもと違い黒い体色に黄色い目というその配色はまるで誰かを連想させる。

 

 

「このままじゃマズイ。二人とも!!」

 

 

『うん!!』

 

 

 流石に丸裸に等しいこの場所で変身は出来ない。ひとまず3人は避難するふりをして人眼のつかない建物の裏へと向かい誰もいない事を確認してそれぞれ変身アイテムを手に取った。

 

 

『プリキュアの種、いくですぅ!!」

 

 つぼみからピンクの光がえりかからブルーの光がシプレ、コフレの胸に集まり光が凝縮されピンクと青のプリキュアの種が二人の手に取られる。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 それぞれ手にとったプリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

 次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

 最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき二人は同時にポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

「重甲!!」

 

 

 二人に続き拓哉はビーコマンダーの赤いスイッチを押して黒いウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

掲げたビーコマンダーの内部の小型化し収納されたインセクトアーマー青く光りを発生拓哉の身体を素早く包む。

 光の中でアーマーは拡散し最初に腕に素早く鎧が纏われ次に胸と下半身そして顔以外のすべての部分に鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼い鎧戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!! 重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 ブロッサムとマリンの隣でポーズを決めて名乗り上げると3人は同時にその場かから飛び上がってデザトリアンの元へと向かう。

 

 

 

「ウゴオォオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 暴れるデザトリアンは駐車場の車を脚で蹴り飛ばしと力の限り暴れて怒りの咆哮をあげる。しばらく暴れると視界に逃げようとしていた来海ももかスタッフが入ったようで邪悪な眼光を見せつけその巨体を近づけていく。そして次の瞬間には植えてあった樹を引っこ抜いくとそれを彼女たちに向けて投げる。

 

 

「ビームモード!!」

 

 

 巨大な樹にむけて後方からビーム砲が超劇して樹は跡形もなく消滅する。ももかはその方向を見るとブルービートがインプットマグナムを向けている姿があった。

 

 

「早く逃げてください!!」

 

 

 その彼に続いてマリンがももかに駆け寄って逃げるように促す。流石に家族といえども秘密は通さなければならないためスの自分が出ないように接するのは一苦労でもあるのだがなるようになるものだ。撮影スタッフも含めて非難し姿が見えなくなるのを確認すると3人は目の前の黒いデザトリアンに向かって走る。

 

 

 

「ウゴオオオォオオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

 

「たぁあああぁあっ!!!!」

 

 

 先制攻撃とブルービートが飛び上がりからのパワーパンチを叩きこんだがデザトリアンの腕に防がれてしまう。それだけならまだよかったがいつもと様子が違うこの黒いデザトリアンは邪悪に黄色い瞳を光らせる。

 

「っ!?・・・ぐぁあああぁあっ!?!?・・・ぐっ!?」

 

 

 パンチを受け止められたブルービートは返り討ちにあい逆に巨大な腕でのパンチを全身に受けてブルービートは地面に飛ばされてしまう。思わずふらつく程の衝撃に身体がマヒしてしまい言う事を聞かず動かない。

 

 

「ウゴオォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」

 

 

「っ!?……しまっ!?」

 

 思う様に身体を動かせないブルービートに向かってデザトリアンの巨体が迫る。なんとか体勢を整えるべく立ち上がるブルービートだったが気がついたときには巨大な脚が凄まじい勢いで自分に向かってきているところまで来ていた。

 予想外の攻めの速さと先程受けたデザトリアンの反撃のダメージが思った以上に身体に響いていて彼はすぐには動く事が出来ない。防御するにも今の間合いやタイミングでは成功したとしても大ダメージは避けられない。

 

「危ない!!!」

 

 

 咄嗟なことであったがブロッサムが動けないブルービートを抱きかかえて突き飛ばした。紙一重で踏みつけを避けた二人はコンクリートの地面に倒れる。

 

 

「ありがとうブロッサム。あのデザトリアンいつものデザトリアンとは何かが違うぞ。パワーもスピードも普段の倍・・・いや、それ以上だ!!」

 

 

「ウゴオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 立ち上がる二人は今まで戦っていたデザトリアンとは別物であるその強さを感じる。今までのデザトリアンはこころの花の持ち主の包み隠している感情を曝け出して暴れているのだがこのデザトリアンはそれすらない。まるで心を持たない戦闘マシーンのようにタダ暴れているだけ。どう考えてもおかしい。

 

 

「あの黒い身体に黄色い目.。・・・似ている奴に」

 

 

 黒い身体に黄色い目ときてブルービートは思いついた。この二つで連想すると言えばあの黒鎧の戦士しかない。だがブラックビートの姿はない・・・考え過ぎなのか?だがその考えが捨てきれなくてならない。いずれにしても考え込む前に早くデザトリアンを倒すのが先決だ。

 

 

「とにかくここは一気に浄化してこころの花を取り戻そう!!」

 

 

「よし、スティンガーウェポン!!!」

 

 

 マリンの提案にブロッサムとブルービートは賛同しフラワータクトとスティンガーブレードを装備する。3人の必殺技の同時連打攻撃なら十分望みはある。3人は構えを見せて一気にデザトリアンに対しての攻撃態勢を準備するが……

 

 

「そうはさせんぜよ!!」

 

 

「っ!?・・・クモジャキー、コブラージャ」

 

 

 突然ブロッサムとマリンの身体を後ろから締めつけてきた者がいた。その正体はなんと3幹部連中であり今の今まで存在自体を忘れていた。そう言えば今日はコイツらの誰もいなかったがあのデザトリアンはコイツらが生み出したものじゃないのか!?

 

 

「妖精を探している道中で下が騒がしいと思って見てみれば面白い事になっとるのぉ?」

 

 

「偶然とはいえ好都合。君達を倒させてもらうよ」

 

 

 このタイミングで邪魔者が増えるのは戦況的にかなりマズイ。二人の手を振り払おうと身体を動かすブロッサムとマリンだが体勢が悪く力が入らない。

 

 

『デザトリアン!!』

 

 

『きゃぁああああぁっ!!!!』

 

手間取っているそのまま幹部二人組はブロッサムとマリンをデザトリアンの方へと放り投げ二人は壁に叩きこまれてしまう。

 

 

「ブロッサム!!、マリン!!」

 

 

 壁に叩きつけられた二人を助け出そうと二人の前に出るブルービートだがデザトリアンはその彼に向けて腕を振り下ろす。咄嗟にスティンガーブレードの刃を盾代わりに使い膝を地面について踏みとどまる。

 

 

「ぐっ!?・・・・ぐぁあっ・・・うぅう」

 

 

 スティンガーブレードの刃を盾にしてなんとか直撃は免れたが巨大な腕からかかる重圧にいつまでブレードの刃が耐えられるはずはない。デザトリアンがかける力が徐々に強くなっていけばいくほどブレードの刃に対して圧力がかかりインセクトアーマーが軋む音が響く。

 

 

 

「ふぅんっ!!!」

 

 

 このままの鍔迫り合いは分が悪いと判断したブルービートはワザと力を抜いていくと体重を集中させていたデザトリアンの重心を崩させて動きを乱させると巨体であるその身体の滑りこむように素早く身体を動かして後ろに回り込んだ。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 ブルービートは一気に決めるとスティンガーブレードのハッチを展開しギアを高速回転させてブレードにエネルギーを溜めさせる。後ろからデザトリアンへと向かって刃をX字に切り裂くように振り下ろした。・・・・渾身の一閃の刃が直撃・・・・したのだったが。

 

 

「ガァアアアア」

 

 

「っ!?・・・・ぐぁあああぁあああぁああっ!!!!!!」

 

 

 ブレードの刃がデザトリアンを切り裂くことなくその巨体に受け止められてしまったのだ。動揺が隠せないままブルービートはデザトリアンのパンチが直撃しそのままビルの壁に叩きつけられてしまった。

 

 

「ぐっ!!?・・・・ビートルブレイクが通用しない!?」

 

 

 渾身の一撃のビートルブレイクが防がれてしまった。続けてブロッサムとマリンもクモジャキーとコブラージャの幹部二人組によって彼の近くに飛ばされてしまい壁に身体が埋め込まれてしまう。

 

 

「トドメを刺してやるぜよ」

 

 

 この絶好の機会を逃がすものかと2人は最大限の必殺技を3人の戦士に向けて発射した。今の状態では回避は間に合わない。ブロッサムは覚悟を決めたように目を閉じた。

 

 

「プリキュアをいじめちゃダメでしゅ~~!!!!」

 

 

 攻撃が当たる瞬間に突然何処からか聞こえてきた何者かによるセリフと共に黄金の盾が3人を守りクモジャキーとコブラージャの攻撃を跳ね返した。

 

 

「ぐぅ!?・・・ちぃ!!」

 

 

「僕の顔に傷が・・・・覚えていろよ!!!」

 

 

 

 突然の事に戸惑いながらも二人は瞬間移動で撤退する。3人は何が起きたか理解ができなかったがとにかく絶体絶命からなんとか事なきを得たとホッと腕を撫でおろした。

 

 

「助かった。だけど今の盾は一体誰が?」

 

ビルの壁から離れるように地面に落ちると3人は生きた心地がしない様な気持ちになるが休む間もなく突然の事に頭に疑問が浮かんだのだが考える間も休む間も与えず突然その彼らに何かが近付いた。

 

 

「やっと会えたでしゅ!!」

 

 

「な、なんですかこの子は?……とっても可愛いです」

 

 

 その正体はシプレやコフレと同じ種族の妖精であった。ブロッサムの胸元に来たその妖精をみて思った感想を言った。確かに見た目はかなり可愛らしくマスコットキャラという言葉が一番似合う外見をしていた。

 

 

「こころの大樹が元気になってきたから生まれた妖精ですぅ」

 

 

 プリキュアチームは新しい妖精「ポプリ」の可愛さに和んでいるが隣で見ているブルービートはと言うと戦いの最中だと言うのにこの和やかさに固まってしまっている。

 

 

 

「マネキィインンンッ!!!!」

 

 

 デザトリアンの咆哮に我に返った3人は体当たりを巨体で体当たりを散り散りになって避ける。ビートルブレイクが通用しないこの相手・・・幹部たちは消えたがデザトリアンに付け入る隙がない。ビートルブレイクが通用しない相手をどう倒せばいいのだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 今までの全ての闘い様子をスタジオビルの屋上から静観している影があった。その主はあのデザトリアンを召喚した元凶のあの男だ。黒いハット帽に隠されたその顔でデザトリアンの強さをうかがいながら手に持っている石器が青く輝きを放って光を放った。

 

 

「成程な……やはり、これは奴のモノか。ならば奴が持っているほうが都合がいい。」

 

 

 石器をブルービートに向けて男は彼こそがこのアイテムを持つべき人物であると確信を確固たるものにする。ハットから見える口元を歪ませて笑みを見せながら。

 

 

 

「なんだ?この感覚は!?」

 

 

 インセクトアーマーの角が光り輝いて自分の力が何かと同調している事に気がつくブルービートは突然の事に辺りを見回す。何かがインセクトアーマーと共鳴している?でも一体何が?言い知れぬ感覚・・・何かが近くにある?

 正体不明の感覚を感じながらもブルービートを余所に責めてくるデザトリアンをマリンとブロッサムが迎え撃つべく攻防を繰り広げるも強い攻撃に段々と劣勢を強いられ始めていった。

 

 

「・・・・ふぅん、流石に限界か」

 

 

 男はそろそろ連中の力の限界かと石器をビルの上からブルービートに向けて投げ落した。石器は落ちていくとブルービートに同調するように光を発していった。

 

 

「いてっ!?・・・・っ!?・・・・なんだこれ?」

 

 

 頭に何かが当たった衝撃になんだとキョロキョロと首を動かすと足元に短剣のような形をした石器が転がっていた。それを手に取ると石器とブルービートの角が青く光り自分が感じていた感覚の原因がこの正体不明のコレなのか?・・・と拓哉は鎧の中で不思議何かを感じる。

 

 

 

「一体何で上から・・・・っ!!・・・誰だ?」

 

 

 上を見ると微かに気配を感じブルービートは上に飛び上がろうと思ったがデザトリアンが彼に向ってきてそれを邪魔する。もう一度同じ方向を見ると気配は消えていた。

 

 

「なんだったんだ一体!?」

 

 

「あぁああっ!!!」

 

 

「それは!!」

 

 

 シプレとコフレはブルービートが握っている石器を見て大声をあげた。そして大急ぎでブルービートに近づいていくと持っているソレに視線が釘付けとなった。

 

 

「それは、ブルービートだけが使える伝説の武器『パルセイバー』ですっ!!!」

 

 

「こころの大樹が元気になったから『パルセイバー』も蘇ったですっ!!!」

 

 

 勝手に話を進めるシプレとコフレに困惑するブルービート。とりあえずこの武器が新しい武器であると言う事は間違いない。だが何故それが空から降ってきたんだ?と疑問が残るが今はそれよりも敵を倒す事が先決。

 

 

「シプレ、コフレ・・どうすればこれを使えるんだ!?・・今のこの状態じゃどう見てもただの石で武器になると思えないぞ」

 

 

「力を解放するには『パルセイバーの種』がいるですぅ」

 

 

「種?こころの種か!?だったらポットから・・・」

 

 

「違うです。パルセイバーの力を解放するにはブルービートのアーマーと『パルセイバーの種』が必要です。でも、パルセイバーの種はムーンライトが倒された時にパルセイバーと一緒に大樹の力を維持のために封印されてしまったですっ!!」

 

 

 なんと言う事だ。銃で例えるなら弾丸がない状態という事ではないか・・・・折角の武器があっても使えなければただの遺物でしかない。どうしようかと策を講じている間にもブロッサムとマリンはデザトリアンの猛攻に悲鳴を上げる。

 

 

「ブロッサム、マリン・・・くっ・・・・どうすればいいんだ??・・どうすれば・・・・・」

 

 

 

「種ならあるでしゅっ!!……ブルービート、これを!!」

 

 

 絶体絶命の助け船の如く突然ポプリがメタリックブルーに輝く独特のエンブレムが入った種を持ってきた。まさかの偶然・・・いや必然を感じブルービートはポプリからメタリックブルーの種を手に取った。

 

 

「いくぞ・・・デザトリアン!!」

 

 

 ブルービートはパルセイバーの刃とグリップの真ん中の円の部分に種をセットするとパルセイバーが光り輝いて石に亀裂が入っていく。そしてまるで昆虫の蛹が脱皮して成虫になるように光り輝くと黄金の刀身に青いグリップ、そして刀身の反対側には紅く輝きを放つメーターが出現した。

 

 

「パルセイバー!!!」

 

 

 黄金の刀身を煌めかせながらブルービートはパルセイバーを握りしめ高らかに武器名を叫んだ。デザトリアンは自身を脅かす不吉な光に反応しブロッサムとマリンは自分達を照らす聖なる光に目を輝かせる。

 

 

「パルスラッシュ!!!」

 

 

 パルセイバーに向けて叫ぶと赤いメーターが最頂点まで光り輝き黄金の刀身が淡い青の光に包まれデザトリアンに向けて一閃を叩きこんで倒される。

 

 

「マネェ・・・・・・キィン」

 

 

 それでも尚立ち上がるデザトリアンだが確実なる手ごたえを感じたブルービートは一気に勝負を決めるべくインプットマグナムをホルスターから引き抜いた。そしてパルセイバーを掲げて二つを光らせる。

 

 

「合体!!『セイバーマグナム』」

 

 

 パルセイバーとインプットマグナムを合体させて合体武器セイバーマグナムを誕生させる。それを構え認証コードの1,1,0を入力するとパルセイバーのエネルギーがインプットマグナムに充填される。

 

 

「マキシムビームモード!!!」

 

 

 ビームモードが数倍にも強化された必殺技『マキシムビームモード』がデザトリアンに向けて放たれ直撃するとデザトリアンはその場に仰向けにゆっくりと倒れて青い光に包まれて消滅し媒体となったマネキンとこころの花が分離する。

 

 

 

「凄い威力です」

 

 

「・・・うん」

 

 

 

 新しい武器パルセイバーの威力はプリキュアのフォルテウェイブやフォルティシモの数倍の威力だと驚くブロッサムとマリン。新しい武器が加わった事でこの上ない頼もしさを感じる。3人はこころの花を回収し持ち主の元へと返還するべく人気のない場所へとひそかに移動した・・・・その跡地では・・・・

 

 

「ふぅん、強くなれ甲斐拓哉、ブルービート。この俺に倒されるためにな……」

 

 

 影のように現れた黒い男は自ら渡した武器の威力を見て身震いしていた。男はそれだけ言うと背を向けてその場を後にした。・・・路地裏に消えていくこの男は一体?

 そしてポプリの誕生が何を意味するか・・・それは3人目の新しい戦士が覚醒の時を迎えようとしている前兆なのだ。確実に守護者と侵略者の闘いに拍車がかかっている・・・全てが絡み歯車のようにつながる時・・・その時こそ何かが起きる!?



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第30話「いつきの奮闘ー前篇ー」

 夏もいよいよ本番といったところで蝉の鳴き声が五月蠅いほど響き渡る。太陽の光も強くなってスカイにラムネが欲しくなるの頃だ。

 

『あぁ・・・・ああ』

 

 

 明堂学園中等部も明日からいよいよ夏休みという事で普通の生徒であれば休みをどう満喫数かを考える頃合いなのだが拓哉達は今現在事情が違っていた。というのも・・・

 

 

「・・・・」

 

 

 先日生まれた第3の妖精ポプリがなんと学校のど真ん中である人物の手の上にいたのだ。それを見ていたシプレとコフレはというとこの状況でパニックになっていてどうしようかと完全に困惑状態となってしまっていたのだった。

 

 

「可愛い縫いぐるみ」

 

 

 ポプリを抱きかかえている人物は明堂院いつき。どういう経緯でこうなってしまったのかわ分からないのであるがそれにしても今のこの状況は『マズイ』の一言。なんとかしなければと拓哉、つぼみ、えりかの3人が近付いた。

 

 

「あ、あのぉ~~」

 

 

「いつきさん!?」

 

 

「この子君達のかい?可愛いね……何処で買ったの?」

 

 

 それは生き物ですなんて言える筈がない。ポプリを速く取り返さなければと3人は必死に何かいいアイディアはないかと考えながら話す。

 

「えっと・・・えりかが作ったんだ・・・よな!?アレは」

 

 

「え?・・あ、そうそう、あたしが作ったんです!!」

 

 

 芸人のアドリブ芸のように不自然極まりない態度であるが場繋ぎ程度にはなる。そういって乾いた笑いを浮かべる拓哉とえりか。

 

 

「へぇ~流石ファッション部の部長さんだね。とっても可愛いよ」

 

 

「・・・・・」

 

 

 いつきに抱きかかえられてそう言われるとポプリは感動の声を押し殺しながらその顔を見る。まるでその笑顔は太陽のようなきれいな笑顔………ポプリはある事が確信に変わりつつあった・・・今目の前にいる彼女こそが自分が探していた【資格者】なのかもしれないと………

 

 

 

 

翌日からいよいよ学校も夏休みで拓哉達も休みをのびのびと過ごしている筈だったのだが……が朝からグデグデと一同は疲れ切っていたのだ。その理由はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよぉ・・・一晩中探させやがって」

 

 

「寝不足です」

 

 

 そう理由は簡単であり先日当たらに仲間に加わったポプリが突然3人目のプリキュアを見つけたと言って深夜の遅い時間につぼみの家から飛び出したためそれを手分けして捜索する羽目になったからである。一晩中探しまわった挙句やっとの思いで見つけた一同は完全に睡魔に襲われていて拓哉とつぼみは疲れ切っていた。

 

 

「しかしポプリの言う事が確かなら本当にあの生徒会長がプリキュアってことになるんだが……」

 

 

 そもそもポプリが突然飛び出したのは明堂院いつきが第3のプリキュアだと言いだしたからであったからなのだ。拓哉達は今その彼女の家の前にいるのだがどうやって話を切り出そうか迷っていたのだ……しばらく考え込んでいると家の大きな門から人影が出てきた。

 

 

 

「生徒会長・・・」

 

 

「拓哉、つぼみ、えりか・。確かめるですぅ!!」

 

 

 ポプリをコフレと共に抑えつけながら3人に本当に彼女が資格者であるのかを確かめて来るようにそう言う。拓哉達はまるで刑事ドラマで犯人を尾行するかのようにゆっくりと彼女の後を追う。

 

 

「確かめるねぇ…どうするよ?」

 

 

「【プリキュアですか~?】って聞くわけにもいかないですし」

 

 

「う―ん」

 

 確かめると言っても身分証明書があるわけでもないしましてや今回にいたってはポプリの完全な指名にも等しい。もしも違っていたらそのあとの処理面倒すぎる……果たして何かいい方法はないだろうかと3人は考えながらいつきを尾行する。

 

 

「あ、そうだ。あたし達プリキュアになる前にこころの大樹とキュアムーンライトとビーファイターの夢見たよね?」

 

 

「ああ、そうか!!」

 

 

「成程。いつきさんが同じ夢を見たかどうか聞けばいいんですね!!」

 

 

 そう言えばそうではないか。自分たちの共通点はその夢を見たことなのだ。だったら何気ない感じでその夢を見たかどうか問いただしてみればいい。3人は早速いつきにその事を聞こうとコソコソするのをやめて彼女に声をかけようとした・・・のだが。

 

 

「病院!?」

 

「いつきさん、どうかしたんでしょうか?」

 

 

「・・・さぁ?」

 

 

 3人は訳がわからないまま顔を見合わせる。彼女に何かあったのだろうか?

 

 

「とにかく行ってみよう。此処でつっ立ていてもしょうがない」

 

 

『うん』

 

 

 15分ほど考え込んだがいつまでもこのままでいては何も解決しない。拓哉は率いるように二人にそう言って病院の中に入っていった。

いつきに気がつかれないように3人はいつきの後を追うとある病室に入った姿を見て拓哉は察しがついた。

 

 

「成程な。お兄さんのお見舞いね」

 

「あら?」

 

 

『っ!?・・・いつきさんのお母様!?・・こんにちは!!』

 

 

 後ろから声がして反射的に反応してしまうと其処にはいつきの母の姿があった。別に悪気があったわけではないのだが思わぬ事に3人は当然のように動揺して謝るように挨拶をしてしまった。

 

 

「貴方達もさつきのお見舞いに来てくれたの?」

 

 

「え!?・・・えっと・・・偶々なんです。あの、さつきさんどうかしたんですか?」

 

 

 拓哉は必死にその場をやり過ごす様に適当な言い訳を考える。まさか用があるのはいつきの方ですなんて言うわけにはいかない。拓哉に続いてつぼみがはぐらかす様にそう言い逆に質問を返した。

 

 

「実は……これから手術なんですよ。さつきの」

 

 

『え?』

 

 

 思わぬ展開に思わず3人は食い入るように話を聞き始めた。簡潔に説明すると今回さつきが受ける手術が成功すれば彼の身体は自由に動けるまでに回復するという事らしい。医者曰くその成功率は殆ど完璧にまでという事らしい。

 

 

「…(だったらなんで生徒会長の顔色が暗かったんだろう?・・・何かあったのかな?)」

 

 

 話を聞きながら拓哉はそう思った。喜ばしい事であるはずなのにどうして雰囲気が暗かったのだろう?彼女に何か聞いてみたほうがいいかもしれないと一同はプリキュアの夢の事を忘れて彼女が病室から出てくるのを待った。



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第31話「いつきの奮闘ー後編ー」

 その日の夜。誰もが眠りに落ちる深夜につぼみは突然ポプリに頬を往復ビンタ叩かれて目を覚まさせられて。

 

 

「ふぇぇ~??……ポプリぃ~?」

 

 

 折角気持ちよく寝ていたのにと思って目を開けると其処にはドヤ顔を浮かべたポプリの姿があった。

 つぼみは熟睡しているところを起こされたこともあって何が何だかサッパリ分からないと言わんばかりの表情であった。

 

 

「プリキュアはあの娘、いちゅきに決定でしゅぅ!!」

 

 

「ええぇ?い、いつきさん!?」

 

 

 つぼみはポプリの爆弾発言にようやく目が覚めた。確かに彼女だったら武術の達人だから仲間になったら心強い・・・・ってそういう話ではない。

 

 

「ポプリはああいう娘をさがしていたでしゅ。優しくてカッコよくて~とってもとってもしゅてきでしゅぅ。ポプリはこれからいちゅきと一緒に暮らすでしゅ!!バイバイでしゅ~~~」

 

 突然の発言でつぼみは一人置いてきぼり状態となっているのだがそれを余所にしてポプリは部屋の窓を開けるとそう言って飛び出そうとしたが……

 

 

「ストーーーープ!!」

 

寸前でつぼみがようやく完全に思考が覚醒して整理がついようでベットから飛び上がった。ポプリを捕まえたまではよかったがベランダの手すりの部分に身体の左側面の部分をぶつけて悶絶してバランスも崩してしまう。

 

 

「ぐぅぅ~~~~~・・・・はぁ、はぁ・・・・はぁ・・・」

 

 

「こんな夜中に何~?」

 

 

『どうしたですぅ~~~??』

 

 危うく二階から地面へと真っ逆さまに落ちてしまうところだったとヒヤっと肝を冷やす。

 つぼみは息を荒げながら呼吸を整えているとそれまでのやり取りの五月蠅さに流石に目が覚めたえりか、シプレ、コフレが彼女に駆け寄った。

 

「確かめるねぇ…どうするよ?」

 

 

「【プリキュアですか~?】って聞くわけにもいかないですし」

 

 

「う―ん」

 

そうなのだ。プリキュアに身分証明書があるわけでもないしましてや今回はポプリの完全な独断の指名であって確証を示すものが何もないのだ。

もしも違っていたらそのあとの処理面倒すぎる……果たして何かいい方法はないだろうかと3人は考えながらいつきを尾行する。

 

 

「あ、そうだ。あたし達プリキュアになる前にこころの大樹とキュアムーンライトとビーファイターの夢見たよね?」

 

 

「ああ、そうか!!」

 

 

「成程。いつきさんが同じ夢を見たかどうか聞けばいいんですね!!」

 

 

 そう言えばそうではないか。つぼみとえりかがプリキュアに覚醒するきっかけとなった出来事の共通点はその夢をこころの大樹とキュアムーンライトとビーファイターの闘いの夢だ。

だったら何気ない会話を装ってその夢を見たかどうか問いただしてみればいい。3人は早速いつきにその事を聞こうとコソコソするのをやめて彼女に声をかけようとした・・・のだが。

 

 

「病院!?」

 

 

 

 移動していたので気がつかなかったのだが気がつけば目の前の建物に病院があり彼女の目的地が此処で会った事に気がついた。そのまま躊躇なく進んでいく彼女に3人は困惑しその場で止まる。

 

「いつきさん、どうかしたんでしょうか?」

 

 

「さぁ?」

 

 

 3人は訳がわからないまま顔を見合わせる。彼女に何かあったのだろうか?まさか病気か何かか?怪我なら移動して病院に行くなど考えられない・・・・なにかあまりよくない予感が3人の脳裏によぎる。

 

 

「とにかく行ってみよう。此処でつっ立ていてもしょうがない」

 

 

『うん』

 

 

 15分ほど考え込んだがいつまでもこのままでいては何も解決しない。拓哉はつぼみとえりか率いるように二人にそう言って病院の中に入っていった。

 

「……(診察ではないようだな。という事は誰かのお見舞いか?)」

 

いつきに気がつかれないように3人はいつきの後を追う。受付をすっ飛ばしてエレベーターに乗りこんで出た先のすぐの病室に入っていった。

 

「誰の病室だ?」

 

 

「あ、ちょっと拓哉!!」

 

 

 いつきが病室に入ったことを確認したあと拓哉は誰のお見舞いか気になって部屋の前にある名札を確かめに近づいた。流石にそれはマズイだろうとえりかが止めるもそれを無視して名前を確認するとこう書いてあった【明堂院さつき】と。

「成程な。お兄さんのお見舞いね」

 

 

 以前に聞いていたため拓哉はすぐにどういう理由か理解できた。病弱である彼女の兄さつきのお見舞いに足を運んでいた。だがそれは詰まり彼の身体の体調が悪化したということか?嫌な推測が拓哉の中で成り立って行く……

 

 

 

「あら?」

 

 

 拓哉が病室の前で考え込んでいるのをつぼみとえりかはビクビクと見ていたのだが突然二人の後ろから声がして反射的に反応してしまう。反応し目線を向けた其処にはいつきの母の姿があった

 

 

『っ!?・・・いつきさんのお母様!?・・こんにちは!!』

 

 

 二人は大声で「こんにちは」と何度もリピートするのを拓哉は聞いて何してんだコイツ等はと呆れかえったように溜め息をついた。

 拓哉も挨拶をすると笑顔を返されたので挨拶をリピートしていた二人は落ち着きを取り戻したように息を吐き出した。

 

 

「貴方達もさつきのお見舞いに来てくれたの?」

 

 

「え!?・・・えっと・・・偶々なんです。僕の親類が怪我をしてしまったようでそれで・・・なぁ、つぼみ?」

 

 拓哉は必死にその場をやり過ごす様に適当な言い訳を考える。まさか自分達の目的があるの本命がいつきの方ですなんて言うわけにはいかない。

 

 

「そ、そうなんですよ。そ、それより……さつきさん、お身体の調子を悪くしたんですか?入院してるようですけど」

 

拓哉に続いてつぼみがはぐらかす様にそう言い逆に質問を返した。とにかく適当に話しておけば悪い印象はないだろう。別に悪いことはしていないのだが真面目さが取り柄である故の罪悪感からか無駄な事を考えてしまっているようだ。

 

 

「実は……もうすぐ手術なんですよ。さつきの」

 

 

『え?』

 

 

 思わぬ展開に思わず3人は食い入るように話を聞き始めた。簡潔に説明すると今回さつきが受ける手術が成功すれば彼の身体は自由に動けるまでに回復するという事らしい。医者曰くその成功率は殆ど完璧と言うことだとか。

 

 

「(だったらなんで生徒会長の顔色が暗かったんだろう?・・・何かあったのかな?)」

 

 

 話を聞きながら拓哉はそう思った。喜ばしい事であるはずなのにどうして雰囲気が暗かったのだろう?彼女に何か聞いてみたほうがいいかもしれないと一同はプリキュアの夢の事を忘れて彼女が病室から出てくるのを待った。

 

「はぁ~~お兄様。僕に…いつきにしてあげられる事は無いのでしょうかぁ~~!!」

 

 

 病室から出て来るなりいつきは溜め息を吐いて椅子の上に横たわって何やら思いつめているようであった。椅子の上でジタバタと身体を動かしていると勢い余って床に倒れてしまった。

 

 

「……あの」

 

 

声をかけようと近づいていた3人は床に倒れるような姿になったいつきにバツが悪そうな顔になっていた。

 

 

「わぁあっ!!……や、やぁ」

 

 

 やっと自分が何をしている状態になっているか気がついたように大慌てになりながら、いつきは立ち上がった。

 

 

「心配なんですか?お兄さんの手術」

 

「え?」

 

「元気に動き回れるようになる嬉しい手術なんですよね?」

 

 

「お医者様は「成功する」と言ってくださっているね。でも、一番手術を待っていたはずの兄の様子が変なんだ。とても暗い顔をして夜も眠ってないみたいで……自分の病が辛くてもいつも笑っている。昔からそう言う人なのに……」

 

 

 今更この3人に隠す事など何もないと判断したのかいつきはそう語り始めた。兄の様子がおかしい事に気が付きながらも何も出来ない自分が悔しい事を。

 

『・・・・・』

 

 

 それを聞いた3人は彼女にとってそれだけ兄が大切な存在である事を知った。今の彼女にとってどれだけ大切であるという事も分かった気がした……

 

 

「優しい人なんですね。さつきさん」

 

 

「うん。でもそんな兄が手術の前に一人悩み苦しんでいる。僕は兄の力になってあげたい。守ってあげたいんだ」

 

 

「……」

 

 

 自分達の目的を忘れて3人は彼女の決意を聞き入っていた。そしてこれ以上は自分達が関与できる問題ではないと出直す事にして一同は病院を後にした。

 

「あ、もどってきたでしゅ!!」

 

 

『ポプリ!!』

 

 

 結果を期待していたポプリは3人が戻ってくるなり大急ぎで駆け寄った。シプレとコフレは誰かに見られていないかと肝が極寒の如く冷えてヒヤヒヤしているのもお構いなしで。

 

 

「どうでしたか!?いちゅきは夢を見ていたでしゅか!?」

 

当の3人はいつきの話を聞いてしんなりした顔になっている事もお構いなしのハイテンションで目を輝かせながらであり温度差が激しい事にも気が付いていないようだ。

 

 

『あ、ごめん。聞くの忘れてた』

 

 

 「ぷうーーーーーーっ!!!3人とも何してたんでしゅか!?」

 

 

 事情を知らないポプリは3人に向かってそう言いながら八つ当たりのように癇癪を起した。3人は人が来た事に気がついて慌ててポプリを抱えながら人気の少ない所に行った。

 

 

「今度聞いてやる。だから待ってろって……な?」

 

 

「やーでしゅ!!!!」

 

 

 拓哉の説得など初めから聞く気はないとポプリは人間の子供(もとい生まれたばかりだから妖精からしてもまだまだ子供であるのだが)のように駄々をこねた。

 

 

『はぁ~~~』

 

 

3人はこのワガママ妖精の反攻の声を聞きながらも一時解散としてポプリをつれて帰宅していった。いつきに対して夢を見たか否かはまた後日に聞くしかない。今はそれよりも彼女がやりたい事を頑張ってほしいから。

 

 

翌朝に拓哉達一行はお見舞いに行こういう事になりつぼみ宅で拗ねているポプリも連れて行って少しは機嫌を直させようと考えた。しかしポプリは3人より1枚上手であった。つぼみが準備を済ませてポプリに呼びかけたのだったが……

 

 

『あぁあああ~~~~!!!!やられてですぅ~~~!!!』

 

 

 つぼみの目を盗んで先に病院に向かったようだ。一泡吹かされたとつぼみは急いで拓哉とえりかにこの事を伝えたが一足違いでまた病院では……

 

 

 

 

「か、かわいい・・・あ、違う。ぬ、ぬいぐるみが歩いて喋って…いや、そうじゃなくて。あ、そうだ…はじめまして、明堂院いつきです!!」

 

 

 既にポプリがいつき本人とコンタクトを取っていたのだった。突然ぬいぐるみが歩いて喋って混乱して頭の整理がつかないのであったが取り合えず自己紹介といつきはポプリに名を名乗った。

 

 

「よろしくでしゅ」

 

 

「えっと・・・・」

 

 

「プリキュアの妖精でしゅ!!」

 

 

「よ、妖精!?」

 

 

 突然のぶっ飛んだ話を聞かされたら誰もがこうなるだろう。いつきはポプリの説明に若干ついていけていないようであったがそれに構わずポプリは話を続けた。

 

 

「いちゅき、プリキュアになってくだしゃい!!」

 

 

「え?僕がプリキュア……」

 

 単刀直入にそう言われていつきは真っ先にプリキュアのあの可愛いコスチュームを思い出した。あのプリティーでキュアキュアのコスチュームを自分も着れる。そう考えると思わず胸が躍った

 

 

「僕もあんな可愛い格好を?………」

 

 

「もっともーーっと可愛い格好するでしゅ!! きっと似合うでしゅ!!」

 

 

「そうかなぁ~~~?」

 

 

「そうでしゅ!! そしてこころの大樹を守ってくだしゃい!!」

 

 

 ポプリがまるで通販番組で視聴者を誘惑するようなフレーズを一通り教え込んだ後に一番大事な事と共にポーズとドヤ顔を決めながらそう言った。

 

 

「こころの大樹を守る?」

 

 

「はい!!」

 

 

「【守る】・・・・」

 

 

 いつきは【守る】という言葉を聞いて突然笑顔が消えた。流石のポプリもその様子の変化に気がついたようで「どうしたでしゅか?」と声をかけるといつきは重くなった口を開いた。

 

 

「僕にプリキュアになる資格なんてないよ」

 

 

「えぇえ!?・・ど、どうしてでしゅかぁ!?」

 

 

「僕には守りたいものが沢山ある。精一杯頑張ってきたつもりだったけど……僕には【何かを守る力】なんて無いのかもしれない」

 

 

 ポプリには理解し難い理由であるかもしれない。自分が理想だと思っていた娘の弱い部分を見て戸惑っているのだろう。困惑した表情になってしまい何を言っていいか分からなくなってしまっているのだ。

 



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第32話「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!!」

「いつきさぁ~ん!!」

 

 

「ひぃ!?!?」

 

 

 聞き覚えのある声にポプリはビクっと震えて大急ぎでいつきの方に駆け寄ると彼女の服に侵入するとお腹の部分に隠れたのだった。

 

 

「ポプリ!?」

 

 

「シーーーっでしゅ!!」

 

 

 いや、そう言われても……

いつきは困惑してしまうのだったがどうしようもなく何も出来ないままであった。

 

 

「おはようございます」

 

 

「お、おはよう」

 

 

 前かがみになっていたので分からなかったのだが立ち上がるとつぼみ達はいつきのある部分を凝視した。お腹がポッコリと膨らんでいたのだ。まさかその中にポプリが入っているなど絶対に想像できないだろう。

 

 

「そ、そのお腹・・・」

 

 

「こ、これは……き昨日食べ過ぎて」

 

 

「何食べたんですか!?」

 

 

 えりかの声が響くその近くではシプレとコフレがポプリ捜索を続けていたのだが一行に見つからない…というのも灯台もと暗しとでも言うべきで目の前にいる事が分からないので見つかるはずがないのだが。

 

 

「いつきさん、これお兄様に」

 

 

「手術が成功するように俺達も祈ってるよ。」

 

 

 つぼみは花束を渡し拓哉が激励の言葉を贈るといつきは笑顔を見せた。自分だけでなくこうして兄を想ってくれる人がいる事は素直にうれしい。もうすぐ手術が始まる…その時だった・・・突然空が曇り始めて太陽の光が隠れてしまった。天気予報では快晴の筈だったのに・・・・

 

 

「(嫌な予感がする………ものすごく嫌な予感が)」

 

 

 今日だけはその予感が外れてほしい。そう思っていたが無情にもその予感は当たる事になる。しかも最悪に最悪を上乗せした形で………

 

 

拓哉の予感は的中してしまった。突然ガラスが割れた音がしてその場所が院内でさつきの病室だと分かると4人は大急ぎで走った。病室の中に入ると其処には居る筈の彼の姿がなく窓が割れて風が吹いているという有り様であったのだ。

 

 

「っ!?・・・お兄様!?」

 

 

 ベッドの中から水晶が床に落ちる。いつきはそれを手に持って見た瞬間に驚いた。中には閉じ込められ兄の姿が……そしてその次の瞬間には自身の様な地響きで病院の敷地内が揺れた。

 

 

「イーーーース」

 

 

 その地響きの原因は巨大な車椅子の顔を持ったデザトリアンであった。それを見た瞬間にいつきは困惑して言葉を失った。

 

 

「いつきさんは此処に居てください!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 いつきは今一体何が起きているのか理解が出来ないまま置いてきぼりにされる。

一体彼女達は何を?いや、そうじゃない・・・何がどうなっているんだ!?

 

 

「いちゅき、ポプリと一緒に行くでしゅ!!」

 

 混乱し頭がグチャグチャになりそうであったがポプリがいつきに近づいて彼女を我に返すポプリに言われ彼女たちの後を追う。一体彼女達は何をするつもりなのか?

そういえばこの前もあの3人は……まさか?

 

 

 

「サソリーナ!!」

 

 

「お早い到着ね?」

 

 

 デザトリアンを暴れさせていたところにやはり出てきたなとばかりにそっけない声でサソリーナはそう言った。それに対して拓哉達は怒りが極限まで高ぶっておりサソリーナを睨み返す。

 

「いつもいつも人の弱みに付け込んで!!」

 

 

「みんなの心は私達が守ります!!」

 

 

「つぼみ、えりか……行くぞ!!」

 

 

 3人は自分の後ろにいつきが居るとは思っておらずそのまま変身アイテムを取り出した。そして蒼、ピンク、ブルーの光がそれぞれを包み込んでいくと……

 

『プリキュアの種、いくですぅ!!」

 

つぼみからピンクの光がえりかからブルーの光がシプレ、コフレの胸に集まり光が凝縮されピンクと青のプリキュアの種が二人の手に取られる。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 それぞれ手にとったプリキュアの種をココロパヒュームにセットした二人は胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク色の光と水色の光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光りが発生するとロングブーツが身にまとわれる。

次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

最後につぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに整っていきえりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に変わりひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき二人は同時にポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーを取り出し赤いスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

掲げたビーコマンダーが青く光りを発生させあると中に収納されているブルービートのインセクトアーマーが元の大きさに戻っていき拡散し拓哉の身体もその蒼い光へと包まれていった。

まずは腕に素早く鎧が纏われ次に胸と下半身そして顔以外のすべての部分に重厚なる鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!! 重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 鎧を輝かせ名乗り上げてポーズを決める。そして次の瞬間には守護者の3人は飛び上がってデザトリアンの前に立った。

 

「あの3人がプリキュアとビーファイター!?」

 

 

 いつきは3人が変身した事に驚愕してそれ以上の言葉が出なかった。3人の戦士にはいつきが居ることには気が付いていないためそのまま先頭へと突入する。

 

 

「………」

 

 

デザトリアンはゆらりと身体を動かすと素早い動きで3人との間合いを一気に詰めた。素早い動きに体勢を崩されそうになったがギリギリのところで応戦しブロッサムがデザトリアンの張り手やパンチを避ける……どうやら狙いはブロッサムであるようだ

 

 

 

「ビームモード!!」

 

 

 標的が絞られている事を逆手にとってブルービートがインプットマグナムを発射する。直撃して爆発に包まれた事に効果は期待できるか?とホルスターにマグナムを収める。

 

 

「っ!?」

 

 

 突然土埃が風によって舞い上がったかと思えばデザトリアンがブルービートに目と鼻の先まで近づいてきた。咄嗟の事で判断が遅れた彼をそのまま巨大な手でつかみ上げられる。

 

「ぐぁあぁあっ!!!!・・・ぐぅ!?」

 

 

『ブルービート!!』

 

 

 握力にインセクトアーマーが軋んで火花を散らす。ブロッサムとマリンは大きく飛び上がるとデザトリアンの手首に向けてダブルキックを叩きこんで彼を逃がす。すぐに体勢を立て直すべく3人は離れる。

 

 

「・・・・・・」

 

「たぁあああ!!!!」

 

 

『はぁあああっ!!!』

 

 

3人はこのままいつまでも劣勢のままでいるつもりはないとブルービートはフライングパンチアタックを繰り出しブロッサムとマリンはダブルキックを放った。この距離での攻撃であれば避けることなどできる筈だし当たればかなりのダメージが与えられる事は間違いない。そう確信した・・・が・・・

 

 

「・・・・・・っ!!!」

 

 

「何っ!?」

 

デザトリアンが腕を盾にするように前に出すと突然残像のようにその姿が消え3人の攻撃は空を待っただけであった。その次の瞬間にはデザトリアンの反撃が直撃して3人は地面にたたきつけられると同時に悲鳴がその場に大きく響いた。

 

「あの呼吸は明堂院流!?・・・お兄様!?」

 

 

いつきはデザトリアンの動きを見てあの構えと動きを見て確信する。あの怪物は…自分の兄であるという事を。

 

 

「このデザトリアンめちゃめちゃ強いよ」

 

 

「ああ。会長の時と同じだ……俺達の動きが完全に読まれている」

 

 

 地面に膝をついてマリンの弱音を吐いてブルービートはデザトリアンの強さを確信した。あのデザトリアンは並みレベルとは格が違う。いつきがデザトリアンとなった時と動きがほぼ同じだが強さはその倍いやそれ以上だ。

 

「コワイ…手術ガコワイ」

 

『っ!?』

 

 

 デザトリアンは突然膝をついてそう呟いた。それにブルービート達は勿論すぐ近くに居るいつきも驚いた。

 

 

「手術ガ決マッテ皆喜ンデル。今更コワイナンテ言エナイヨ!!」

 

 

 デザトリアンから出てきた本音に絶句する一同。手術で身体が自由に動き回れるというのは彼自身も喜んでいるだろう。しかしそれ以上に恐怖が彼の心を蝕んでいたのだ。

 

 

「妹ハボクノ為ニガンバッテクレテイル。手術ヲ怖ガル情ケナイ姿ナンテ妹ニ見セタクナイ!!」

 

 

 

「……お兄様」

 

「ミラレタクナイ~~~~!!!」

 

 

 うめき声をあげながらデザトリアンはブロッサムとマリンを掴み上げる。二人は抵抗が出来ないまま握っていた腕が光っていくと爆発して周囲に衝撃波が走った。

 

 

「ブロッサム!!、マリン!!……大丈夫か!?」

 

 

 爆炎と爆風が治まった頃にブルービートが駆け寄って二人の身体を気遣う様に優しく手を置いた。地面に大穴があくほどの爆発をゼロ距離から受けてダメージを避けられないはずがないためすぐには立ち上がれない様子。

 

 

「二人とも少し休んでろ。俺が少しでも時間を稼ぐ」

 

 

 ブルービートがスティンガーブレードを装備するとすぐには動けないであろう二人から注意を離すために一人走った。彼の存在に気がついたデザトリアンは振り返り身体を動かすとギロリと眼光を光らせて威嚇していくように睨みつけたがその程度で今更ブルービートが怯むはずはなく一気に距離を縮めて飛び上がった。

 

「たぁああぁっ!!!!」

 

 

飛び上がって構えたスティンガーブレードの刃をデザトリアンの上半身に叩きつけて一気に一閃斬りつけを浴びせていこうとするも巨大な腕によって防御されてしまいブレードの刃はデザトリアンの固い体表対して小さい傷程度しかつけられない。

 

 

「っ!?・・ぐあぁあああぁああっ!?!?」

 

 

 腕を薙ぎ払われ更に追撃のパンチを真正面から受けてしまいブルービートは勢いよく飛ばされて地面に叩きつけられてしまった。

 

 

「ぐっぅ・・・っ!?・・ああぁあああああっ!?!!??」

 

 

 起き上がろうとしたところを蹴り飛ばされて更に掴み上げられてしまう。凄まじい握力による圧力でアーマーが軋み火花が散る。それを静観していたサソリーナは今回生み出したデザトリアンの強さに惚れ惚れしているとばかりに邪悪に満ちた笑みを浮かべて唇を歪ませる。

 

 

「いいわよぉ~デザトリアン。そのままブルービートを握りつぶしちゃってぇ!!・・・そしてこころの花が枯れ果てるまで暴れるのよぉ!!!」

 

 

アーマーの傷が大きくなるにつれて火花も大きくなっていく。彼の悲鳴が大きくなっていく共にサソリーナはいつも以上にテンションをあげて興奮したように声を漏らす。ブルービートの腕に力がなくなっていきダランと垂れていく……装着者の拓哉の体力もこのままではもたない!!

 

 

「やめろぉ!!!」

 

 

 ブルービートの絶体絶命というその時に一人の影がデザトリアンの前に立った。その影の主の声にデザトリアンは意識を集中しブルービートを離した。

 

 

「っ!?・・・・か、会長!?・・・何してるんだ、離れろ!!」

 

 

インセクトアーマーのダメージ蓄積が通常の数倍以上で破損が激し過ぎるため身体が思うように動けず立ち上がろうとどんなに力を込めても自由が利かない。

 

 

「お兄様は人を傷つけて喜ぶはずがない!!……お兄様ぁ、目を覚ましてください。優しい心を取り戻してください!!」

 

 

 いつきは必死に訴えた。元の優しい兄に自分が幼いころから知っている人に戻ってくれと。しかしデザトリアンの目を見た瞬間に彼女はそれが無駄であると本能的に感じ取った。

その眼とはただ赤く光るだけ。邪悪に満ちただけの瞳でそれに映るものはすべて敵だと断言しているかのよう。

 

 

「お、お兄様」

 

 

 いつきがその瞳を見て擦れるようにな声で出した言葉がそれであった。その次の瞬間にはデザトリアンの巨大な腕が彼女に向かって降り注ごうとしていた。直撃すれば生身の人間は玉砕されるほどの勢い。

 

「やめろぉおおお!!!!!」

 

 

ブルービートの叫びが木霊する瞬間にいつきは眼を瞑った。しかしその瞬間に彼女の前に巨大な黄金の盾が彼女の目の前に現れた。そう、この能力を使えるのは一人しかいない。

 

 

「ポプリ!?」

 

 

 拳と盾がぶつかり合って火花が散っている。ポプリはその小さな体で必死に力を込めていき踏ん張って耐える。しかしその頑張りは目の前に居る強大なデザトリアンの拳にいつまでも耐えれるほどの力はない。

 

 

「きゃぁあああああああああっ!!!!」

 

 

 盾が粉々に砕けて衝撃にポプリは飛ばされた。それを後ろに居たいつきが受け止めてい地面に寝転んだ。

 

 

「ポプリ、どうしてあんな無茶を!?」

 

 

 ポプリの小さい身体を手にとって優しく問いかけた。自分の無茶も大概ではあるがそれ以上にその小さい身体で敵に突っ込んでいった事に驚いているようだ。

 

「いちゅきと・・・同じでしゅ」

 

「え?」

 

 

「守りたいんでしゅ。プリキュアを守りたい……こころの大樹を守りたい……いちゅきを守りたい。守れなくても……いっぱい、いっぱい頑張って皆を守りたいんでしゅ!!……いちゅきも同じでしゅ」

 

 

「ポプリ……」

 

 

 ポプリの決意を聞いていつきは自分と同じだと知りその小さい身体を優しく抱きしめてやった。守れなくても守れるようになればいい。だったら・・・・・いつきの中で渦巻いていた迷いが吹っ切れた。

 

 

「一匹、二匹…三匹。あぁ!?・・アンタ、第3の妖精ね?ラッキーー!!アンタをサバーク博士のところに連れて行けば大手柄よぉ!!」

 

 

 今更になってサソリーナは妖精が3匹いる事に気がついたようで狙いを守護者討伐から妖精捕獲に切り替えて、いつきに近づいていった。

 

 

「会長、ポプリを連れて逃げろ!!」

 

 

 なんとか立ち上がったブルービートがブレードを構えいつきの間に立つ。アーマーは既にショートして煙が上がっていて装甲の破損の度合いを物語っている。

 

 

「でも!!」

 

 

「早く行けって!!こういう時ぐらい言う事聞いてくれ!!」

 

 

 二人は声を荒げながら言い合うがどちらも譲ることはない。その間に邪悪なるサソリが迫っておりその毒牙が二人に向かって忍び寄っていた。

 

 

「ごちゃごちゃ五月蠅いわねぇ……ほら、さっさと妖精を渡しなさいよぉ!!」

 

 

 いつきとブルービートに向けてサソリーナの髪の毛が無数に忍び寄った。ブルービートは素早くポプリを庇っている、いつきを自分の背に隠すように前に立ちスティンガーブレードの刃で薙ぎ払うが数の多さでは対処しきれなくなっていく。

 

 

「くっ!?・・危ない!!!」

 

 

 髪の毛が後ろの回り込んだのに気がつくとブルービートはいつきを抱えて宙に舞った。その間に彼の背中に髪の毛が鞭のように叩きつけられていって身体に衝撃が走った。

 

 

 

「ぐぁああああああああぁああっ!?!?!?・・・がぁっ・・ぐぅ・・・っ!?」

 

 

 地面に着地しなんとか身体を起こすもいきなりインセクトアーマーから通知音が鳴る。そして中の装着者である拓哉の目に映ったのは【”ARMORED TIMEーLIMIT”】の表示。その意味は文字通りであった・・・

 

 

「駄目だ、インセクトアーマーのエネルギーが………」

 

 

 インセクトアーマーがメンテナンスを要求しているのだ。重甲が限界になるほど追い詰められるのは初めてかもしれない。自分が纏っている鎧がこんなにも重いと感じたことも今までなかった……まるで、自分の身体ではないと錯覚するほど動きの自由が利かない。

 だけど・・・・拓哉は動かない身体に鞭を打つ。

 

 

「ブルービート!!・・どうして其処まで」

 

 

 いつきはボロボロで傷だらけのブルービートに駆け寄った。彼の鎧は熱く熱を帯びていて生身では触れないほど。こうなったのも自分とポプリを必死に守ったせいで……いつきはどうしてここまで他者のために必死になれるのだと彼に問いただすとアーマーを触っていた手に自分の手を置いた。

 

 

「別に理由なんてないさ。ただ、自分の目の前で危険な目にあっている人を助けるのは力を持っている人間だったら当たり前の事。・・・・ただ、それだけだ」

 

 

 いつきにそう語りかけブルービートは立ち上がる。サソリーナを睨みつけているが彼自身の身体を守るはずのその傷だらけの装甲は見るだけで痛々しいが本人はそれも気にせず身体に鞭を打って動かした。

 

 

「そして、砂漠の使徒に利用された人を助けたい。・・・それがこころの大樹を守るプリキュアと共に闘う・・・守護者【ビーファイター】だ!!」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 ボロボロになってまで戦う彼の姿を見た瞬間にいつきの中にあった何か何かが吹っ切れた。ポプリを抱きかかえた体勢でサソリーナに向けてファイティングポーズをとっているブルービートの隣に立つ。

 

 

「ポプリは渡さない!!」

 

 

 いつきの突然の宣言に全員が驚いた。それにサソリーナは嫌悪感丸出しの態度となっているがそれを無視して、いつきは言葉を続ける。

 

 

「力がなくたって守って見せる。ポプリも、お兄様も……僕は、“大切な皆”を守って見せる!!」

 

 

 例え力がなくても想いの強さがあればそんな事関係ない。【“守りたいという想い”】と言うこそが大切。ポプリが、今ここに居る皆がそう教えてくれた

だからこそもう迷わない!!

 

 

『っ!!!!』

 

 

 いつきの心の想いに同調したようにポプリの胸のゴールドのエンブレムからエンブレムと同じ色の光が輝いていった。ポプリも驚き戸惑っているがブルービート達はこの光が何なのかを知っている。

 

 

「アレはまさか!!」

 

 

 

『いつきの心に変身アイテムが反応してるですぅ!!!』

 

 

 ポプリの中に眠る第3のプリキュアの変身アイテムといつきの心が繋がった証の光なのだ。つまりポプリの選好みではなく本当に彼女が第3の戦士だったという事なのだ。

 

 

「いちゅき、一緒に皆を守るでしゅ!! 【シャイニーパヒューム】でしゅ!!」

 

 ポプリはいつきに向けてその光の中かから生まれたのはブロッサムとマリンと同形状のパヒューム型のアイテム。二人のココロパヒュームとの差異はレリーフの形状が違う事そして色が金色であるという部分だ。

 

 

「シャイニーパヒューム……いくよ、ポプリっ!!!」

 

 

「はいでしゅぅ!!!」

 

 

 自分が大切な人たちを守るために手に入れた力を手にいつきはもう一人の自分へと覚醒時。彼女の身体は黄金の光にへと包まれていった。

 

 

プリキュアの種、いくでしゅぅ!!!」

 

 

 いつきが黄金の光に場が包まれて風景が変わると彼女にも変化が現れる。ショートヘアーだった髪がロングヘアーに変わったのだ。ポプリを抱きしめ高くあげるとポプリの胸から光が射出され其処から凝縮された黄金色のプリキュアの種が生み出される。

 

 

「プリキュア!オープンマイハート!!」

 

 

 プリキュアの種をシャイニーパヒュームに装填していき光り輝いていく。そして金色の光の香水を上半身に拭きかけて辺りにその光が拡散するといつきは上半身にパヒュームの光を噴きかけるフリルが出現その次にスカートが纏われていく。

 次に脚に光を浴びせるとロングブーツが纏われ胸、両手首にパヒュームの光を浴びせるとプリキュアの象徴のハート型のリボンとリストバンドが形成される。

 いつきは一通りのコスチュームが纏われたあとにロングになった髪を靡かせるとそれがツインテールに纏まっていき色もイエローかかった茶髪からゴールドに変わり髪止めのリボンとピアスがつけられて変身が終わる。そして仕上げにシャイニーパヒュームを腰に当ててパヒュームキャリーに収納するとポーズをとって全体のシルエットを見せる。

 

『………』

 

 

 いつきの変身が完了した瞬間に暗雲に包まれていたはずの雲に太陽の光が照らし暗黒の全てを吹き飛ばした。それは彼女がまるで太陽の女神と言わんばかりに輝いていて神々しい。

 

 

「これが私!?」

 

 

「さぁ、好きな名前を考えてくだしゃい!!」

 

 

「名前……」

 

 

 自分でも驚くほどの変わり加減に思わず言葉を失った。いつきはポプリにこの姿の名前を考えるように言われると空にある太陽に目がいった。それを見た瞬間にこの姿の名前を思いついた。

 

「私・・私は、そう・・・出来るなら太陽のような!!」

 

 

「本当にいつきさんが」

 

 

「プリキュアだったんだ」

 

 

『3人目のプリキュア誕生ですっ!!』

 

 

 その姿はまさに太陽の戦士そのもの。眩く光を放つようなそのゴールドでヴィーナスの如く美しきシルエットは彼女の理想の姿そのもの。彼女のその姿を見て絶望に沈んでいたブロッサムとマリンは希望の光を見たように笑顔を取り戻す。

 

 

「3人目ぇ!?金色のプリキュア??目立ちすぎよぉ、やっちゃってぇえ~~~!!」

 

 

 自分と色の系統がが被ったのが気に入らないのかサソリーナはデザトリアンを差し向ける。それと同時に3人目のプリキュアは飛び上がった。

 

 

「はぁあっ!!・・・・たぁあああっ!!!」

 

飛び蹴りを浴びせその直後にエルボードロップ更に回し蹴りを放ってデザトリアンを地面へと叩きつける。デザトリアンはその程度では怯まず叩きつけられながらも体勢を立て直して彼女へと体当たりを繰り出した。

 

 

「ふっ・・・・・はぁあああっ!!!」

 

 

 デザトリアンの攻撃を華麗によけると水の上を優雅に走り素早く高速移動して更に反撃のストレートパンチをデザトリアンの顔面に叩きこんだ。

 

「イーーーース!!!」

 

それでも怯まないデザトリアンはサンシャインに三度(みたび)飛び上がるも今度はシールドの発生によって攻撃を跳ね返されてしまいまたもその場に地面に叩きつけられた。

 

 

「お兄様。お兄様の心の光は私が取り戻します。そして願わくば【太陽】のような 皆の心を見守る光になりたい。私の名前は……」

 

 

 太陽の光を見て思いついた名前……それはどんな夜の闇を飲み込みで人々を希望で照らすような光の存在になるという意味を込めたあの言葉以外なかった。いつきだった少女はブロッサム、マリンと同様に手を花弁のように拡げてポーズをとった。

 

 

「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!!!」

 

 

今この時よりいつきは一人の少女から人々を守る戦士へと覚醒したのだ。その名前はブロッサム、マリンと同じく自分の思いがこもった名前。太陽という大きな存在になるという思いを込めて。3人目のプリキュアキュアサンシャインがに覚醒!!!

 



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第33話「太陽の戦士舞う」

 太陽に輝く戦士キュアサンシャインの誕生は敵味方問わずその場にいたプリキュアチーム、ブルービート、サソリーナまでもが驚愕していた。名前の通り暗雲を消し去るような光を放つその姿はまさに「神々しい」の一言以外誰も思いつかないだろう。

 

 

 

「はぁあ、たぁああっ!!!」

 

 

 その彼女は美しさだけではなく強さも並大抵ではないブロッサムマリンがあれだけ苦戦したデザトリアンの攻撃を蝶が空を舞う様に身体を動かして避けると蜂が一瞬の隙を見極め敵に攻撃し着実にデザトリアンにダメージを蓄積させて戦いの流れを掴んでいるのだ。

 

 

「強い!!・・・いや、ただ強いだけじゃない。相手の動きを逆に利用して自分に絶対優位な戦いを作り上げている?」

 

 軽やかな身のこなしと素早すぎる攻撃はまさにプロ級の一言。それを今流行りの言葉で思いつくのはまさに『超高校級の格闘家』だろうか?その強さは下手をすればブルービートの力をもってしても五分 ……いや、油断すれば一方的に負けてしまうとさえ錯覚するほどだ。

 

 

 

「ぐっ!?・・・ああっ・・・・・うぐぅ!??」

 

戦いを見ているブルービートだったが突然身体に違和感を覚えるとその場に倒れこんでしまう。それと同時に身体全体が青い光に包まれるとインセクトアーマーは収縮してビーコマンダーに回収されて甲斐拓哉の姿に戻ってしまう。

 

 

「・・・っ!?・・・・・・インセクトアーマーが自分から重甲の解除を。くっ・・・流石にアーマーが持たなかったか」

 

 

 ビーコマンダーのスイッチを押してウィングを開かせると収納されたアーマーのメンテナンス状態に入り中で光を放っている。他の機械とは違い心や意思を持つインセクトアーマーが自分から強制解除をするまで追い詰められたのは拓哉自身も初めての事。メンテナンス完了までにどれだけの時を消費するかは未知数で今はもう戦えない。しかし少なくとも今この場には自分がいなくても心配はなさそうだ。その理由は考えるまでもない…………

 

 

「人の弱みに付け込んでその心を悪事に使うなんて・・・・その心の闇、私の光で照らして見せる!!」

 

 

 そう、もう既に勝負は拓哉が見る限りでは決まりつつあるのだ。サンシャインの圧倒的なパワーの前にデザトリアンはペースを乱されて彼女に対して適格なる判断で反撃をすることなどできないのだ。つまり、言いかえればその余裕すら無いという事。勝負において自らの心の余裕をなくすことは相手に敗北を認めるも同然……拓哉はそれをよく知っている。

 

 

「キュアサンシャイン、君の手で決めろ……大切な人をその手で取り戻せ!!!」

 

 

「……うん!!」

 

 

 拓哉の言葉を聞きサンシャインは再び飛び上がった。デザトリアンの伸縮自在の腕を両手で防御し股の間を素早く滑り込むように移動する。まさに今の動きは一瞬の神業でブロッサムとマリンは何が起きた変わらないほどだ。

 

 

「はぁあああっ!!!」

 

 

 デザトリアンの振り向きざまからのジャンプキックを顔面に叩きこんだあとエネルギー弾による爆撃で目くらましをして一気に体勢を崩した。

 

 

「負けないで。お兄様!!」

 

 

 いつきは目の前に居るデザトリアンに向けてそう呟いた。兄は絶対に弱さに負けない…例え負けそうになって迷ってしまっても自分が道標(みちしるべ)の光になればいいのだと強い思いがこもった口調に彼女の胸のクリスタルは輝いた。

 

 

 

「集まれ花のパワー、シャイニータンバリン!!」

 

 

 ゴールドの光がハートの形になると其処から更に別の形に変形していった。それは縦にも見える輝かしい黄金色のタンバリン型のアイテム「シャイニータンバリン」でありブロッサムとマリンの「フラワータクト」ブルービートの「スティンガーブレード」や「パルセイバー」と同じ力を持つ彼女の武器だ。

 外周部にひまわりの花状の金色の飾りがついていて、黄色とオレンジ色のハート型の宝石が交互にあしらわれているその武器は他の3人とは明らかに違う。一体どのような武器なので

 

 

「はぁあっ!!!」

 

 

 シャイニータンバリンの外周部にひまわりの花状の金色の飾りがついていて、黄色とオレンジ色のハート型の宝石が交互にあしらわれている。その部分をサンシャインが回転させると光が辺りに輝いた。

 その瞬間サンシャインはタンバリンをリズミカルにたたいていきその場に舞い踊る。タンバリンをたたいていくと辺りにはヒマワリの結晶が形成されて彼女の後衛に待機する。無数のその結晶はまるでミサイルのようだ。

 

 

「花よ舞い踊れ、プリキュア!ゴールドフォルテ・バースト!!!」

 

 

 彼女の必殺技の掛け声とともに後衛に待機していたヒマワリ型のエネルギー弾はデザトリアンへと一斉に発射されてまるで雨の如く降り注いでいった。巨大な身体中にヒマワリのエネルギー弾が敵を包み込んでいった。

 

 

「はぁあああああああああああっ!!!!」

 

 

 タンバリンをまわして浄化のエネルギーをデザトリアンにへと送り込んでいくとデザトリアンは抵抗も出来ないままデザトリアンは浄化されて媒体となった車椅子とこころの花が分離してその場へと出現する。

 

 

「キーーーー!!またしても厄介なプリキュアが出てきたわねぇ!!!」

 

 

 サソリーナはいつも通りの捨て台詞を吐いてその場から消え去った。それを軽く受け流して拓哉達はサンシャインへと近寄った。

 

 

「やったな。キュアサンシャイン!!」

 

 

「うん」

 

 

「さつきさんを早く戻してあげましょう!!」

 

 

 戦いを終えて少女たちは変身を解除しこころの花の結晶とさつきが閉じ込められた水晶玉を合体させて閉じ込められた彼を解放する。彼はそのまま眠ってしまっているようで暫くはそのまま寝かせる事になった。

 

「・・・・う・・・ん?・・いつき?」

 

それから30分ぐらいたった頃になると彼は眼を覚ました。目の前には妹の姿があり自分が覚えている光景を語る。

 

 

「今、夢で女の子にあったよ。怖がって逃げる僕を必死に励ましてくれて・・・その姿がキラキラしていてとても綺麗だった。太陽みたいに・・・・ごめんな。情けない姿を見せてしまって」

 

 

「お兄様は僕の憧れですよ。昔も、今も・・・・」

 

 

 いつきにとってはそれは変わらない事実。人には弱い部分があって当然なのだ。人は機械のように完全なる完璧など出来る筈がないのだから……時には弱り苦しみ何かに対して逃げてしまいたくなる事もある。でもそれを仲間がそして大切な人が励ます事で乗り越えられる……それは以前いつき自身も経験があるから。

 

 

「・・・・今回はホント、やばかった」

 

 

 もしもあのまま闘いが続いていたらブルービートは戦闘不能のあの状態では残りの戦士であるブロッサムとマリンだけでは太刀打ちできなかっただろう。そう考えると肝が冷える。

 

 

「会長、今はお兄さんのそばに居てやってくれ。俺たちが知ってる事は後日ちゃんと説明する」

 

 

「・・・分かった。甲斐君達も今日は休んだ方がいい・・・じゃあ、明日にでも病院で」

 

 

「ああ」

 

 

 今日は戦いに体力のほとんどを使い果たしてしまった……本日は解散だと全員一度帰宅してその日の夜はぐっすりと眠る事になった。

拓哉達と同じようにその間にビーコマンダーの特殊能力によってインセクトアーマーは着実に修復されていき傷がいやされていった。次の闘いに備えて・・・・。

 

 

 

 

 夜も更けてきた頃になると人々は皆眠りについて夢の中に旅をしているのが大半だろう。誰もが眠りを貪るように身を休めているその闇に紛れて黒い悪魔の翼が空を駆けている事など誰も気がつかない。空を舞う影は何かを探しているようでもあったが・・・・・

 

「あらゆる場所を探っておりますが未だ見つけられず申し訳ありません」

 

 

 その正体はダークプリキュアであった。先日の任務の中であり今も尚寝る間を惜しんで目的の場所である【こころの大樹】を探していたのだ。しかし結局は見つからず渋々と彼女は本部に帰還し事の全てをサバークに報告していたところであった。

 

 

「【こころの大樹】は 人間達の「こころの花」と繋がっている。そう遠くへは行けまい」

 

 

 慌てているダークプリキュアに対してそう言って宥めるサバーク。簡単に見つかればそもそもこのように手古摺(てこず)る事もない。ゆっくり虱潰しに探すしかない。また明日の朝に闇に隠れる事が出来なくなったその時こそチャンス・・・そう思っているからだ。

 

 

「サバーク博士!!大変、大変、金色のプリキュアが3人目のプリキュアが現れましたわぁ!!」

 

 

「何?」

 

 

 こうも早く恐れていた事態が起こるとは予想外。これは悠長な事を言っている余裕はないかもしれないとサバークはサソリーナの蔵だない小言を聞き流しながらダークプリキュアとブラックビートを呼び出した。

 

「こころの大樹に居た第3の妖精か・・・・ブルービートに新しい武器【パルセイバー】が加わったことも考えると急いだ方がいいな。行けダークプリキュア、ブラックビート」

 

 

『はっ!!』

 

 

 二人の闇の戦士は拝命を受けその場から姿を消した。これ以上敵を強化してしまえば面倒ことこの上ない。その前に奴らを潰す事・・・それこそが最優先なのだ。



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第34話「こころの大樹での決戦ー前篇ー」

 次の日には拓哉達は約束通りいつきに自分達が知っている情報全てを話すべく待ち合わせている私立病院へと足を運んでいた。拓哉は語る。大樹の守護者【ビーファイター】伝説の戦士【プリキュア】の事、こころの大樹を狙う砂漠の使徒と言う存在、そして彼女自身が【伝説の戦士】に選ばれたという事、自分達が何のために戦っているのかを。

 

 

「そうか・・・じゃ、あの時の出来事も夢じゃなかったんだね」

 

 

「そう言う事になる。でも驚いたよ。まさか会長が本当にプリキュアだったなんてな」

 

 

 拓哉は今でも信じられないのだった。最初こそポプリの選好みによる選出だと思っていたのだが第6感(シックスセンス)とでも呼べるものに導かれたのだとしたらそれも運命なのかもしれない。自分がブルービートのインセクトアーマーの適合者になった事もそれに値するから恐ろしいものを感じる。

 

 

「僕自身そうさ。・・・今でも信じられないよ。でも、この力を手に入れた以上は僕もこれからは君たちと一緒に戦う。改めて僕を仲間として認めてくれるかい?」

 

 

 つぼみやえりかとは違い覚悟の視線を持った表情でいつきは拓哉に問うた。拓哉は暫く何も言い返さないで黙っていた。何かを考え込んでいるかの様子で・・・・

 

 

「もちろん。だよね、つぼみ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 何故か黙っている拓哉の後ろからつぼみ達がそう言った。拓哉はすこし考えながらも「ふぅ」と息を吐くと3人から少し離れるように歩を進める。そして3、4歩進むと窓際を眺めながら口を開いた。

 

 

「・・・まぁ、取り合えず・・あれだ・・・。これからは宜しくな。会長・・・・いや、いつき」

 

 

「・・・・うん!!」

 

 

 拓哉は照れ隠しのつもりなのだろうか3人に顔を見せることなくそっけなくそう言った。その姿を見てつぼみはクスっと微笑し隣のえりかはと言うと珍しい態度にププっと笑った。不器用ながらも彼なりの挨拶なのだろう。

 

 

「じゃあここに新生プリキュアチーム結成だね!!」

 

 

 えりかが手を伸ばしそれにつぼみの手を乗せる。その次にいつきが手を乗せる。最後に渋々と拓哉が手を乗せて4人は決意を新たにする。

 

「・・・ああ(・・・これで俺達の陣形はかなり強化された。だが素直に喜んでいいのだろうか?・・・この胸騒ぎは一体何なんだ?)」

 

 キュアサンシャインと言う頼もしい仲間の加入は砂漠の使徒との今後の砂漠の使徒との戦いで必ず有利となるはず。しかし拓哉は安堵だけではなく不安もあった。言葉にできない胸騒ぎと言った方が正しいだろうか?しかも……遠くない未来に。

 自身にも与えられた伝説の剣【パルセイバー】が蘇ったことと合わせてもタイミングが良過ぎる事も何か引っかかるからだろうか?

 絶対に何かが起こる……それも計り知れないほどの大きな何かが。無意識に自分へと予言しているのかもしれないがそれも漠然としたままでハッキリとした事は言えないのだが。

 

 

「っ!?・・・一体何!?」

 

4人が決意を新たにしたその瞬間に合わせて突然ポプリの胸のクリスタルからゴールドの光が放たれて周囲を眩しく照らしていく。周りに人がいたら注目の的は間違いなしであったが幸いな事に大きく光ったのは一瞬だけでありそのあとは懐中電灯よりも少し強いばかりの光程度にまで弱まった。

 

 

「こころの大樹が呼んでるでしゅ!!」

 

 

「こころの大樹が近くにきてるですっ!!」

 

 

『ええっ!?』

 

 

 拓哉達は驚いて病院の外に出た。実際に【こころの大樹】を見たのは夢以外ないため「近くにきている」何ていわれても信じられなかった。というか夢で見た限りでもあんな大きなものがどうやって移動しているのか……そもそも何処に在るのかさえ謎に包まれていた事もあってか気持ちが急かされる。

 

 

「取り合えず外に出たけど・・・・一体どこにあるんだ?・・・」

 

 4人はシプレ達の案内を頼りに外に出てみたものの其処は近くの河川敷でありそれ以外は特に何もない。一体どこにあの大きい大樹が隠れているというのだろうか?拓哉が何処にあるのだと辺りを少し見回しているとポプリが声を大にして場所を示した。その場所とは・・・・・

 

「あそこって・・・空ですか!?」

 

「早くみんなで行くですぅ!!!」

 

 

ポプリが指をさした場所を見る・・・その場所は天高く広がる青い大空で。まさか大樹があると言う場所はここから数千メートルも上空にあると言うことか?確かにあんな大きなものが突然出現したら近隣住民は大騒ぎするだろう。しかしそれにしても問題が一つある。

 

 

「行くって・・・・どうやって?」

 

 

 遥か高い上空にある場所へ行く手段は一つしかない。空を鳥のように羽ばたいて大空を舞う事。だが其れは人間には無理な話だ翼がない以上は飛ぶことなんて無理な話。

 プリキュアになったとしても高く跳んだあとには重力に逆らえず地面に落下すると言う末路が待っている。手段があるとすればヘリコプターなどで自分達を運んでもらうぐらいだがそんな伝手(つて)もコネもない。

 

 

「僕たちに任せるですっ!!」

 

 

 そう言ってコフレ達は一度つぼみ達よりも高い位置に浮遊していくと手品でよくみられるような一瞬の芸当で光のように変化する。その次の瞬間つぼみとえりかの両名の首筋に纏わりついて某国のヒーローを思わせるマンとへと姿を変えた。つぼみはシプレだった其れを触りながら妖精にこのような能力がある事に驚いていたが・・・・

 

 

「うーーーん・・・ファッションとしては微妙かも」

 

 

 えりかはと言うとファッション部部長としての影響かそう呟いていた。どんな状況下でもこのような事が言えるのがえりかのいい部分でもあるとはいえ・・・拓哉は少し呆れたように苦笑いする。

 

 

「サンシャインが生まれたからこころの大樹は来たんでしゅ。いちゅき、一緒にこころの大樹を守ってほしいでゅ」

 

 

「うん。分かった……僕に出来る事があるなら協力するよ。ポプリが守りた者を僕も守りたい」

 

 

 改めてポプリはいつきに共に戦ってほしいと彼女に言うとそのまま二つ返事で首を縦に振る。しかし其れはもう迷いも何もない証拠。同じ目的のために戦う仲間となった瞬間だ。

 

「いちゅき、しゅきーーーーー!!」

 

 

 いつきが改めて自分のパートナーになってくれた事にポプリは気持ちをストレートに言葉で表すとそのまま彼女の首に飛びついてシプレ達と同様にマンとへと姿を変えた。これでプリキュアチームは準備が整った。しかし、問題がここでまた一つある事に3人は気がついた。それは・・・・

 

 

「あ、そう言えば拓哉はどうやって空飛ぶわけ?」

 

 

「あぁ!!」

 

 

 えりかの問いにシプレとコフレは青ざめたような声を出す。そう言えばブルービートって空飛べるのだろうか?・・・いや、ビーコマンダー自体には浮遊の力がある事は確認済みでるが拓哉を運ぶ手段は・・・・と思っていると拓哉の胸ポケットからアラーム音が鳴る。

 

 

「っ?・・・・やっとメンテナンスが終わったぜ。よぉし・・これなら問題ない」

 

 

 ビーコマンダーを取り出してみると中に収納されているブルービートの甲冑から青い光が煌めいてコマンダー全体を包み込んだ。3人はどうするつもりなのだろうと思っていると拓哉はコマンダーのウィングを開いた。

 

 

「重甲!!!」

 

 

 なんとそのまま彼はメンテナンスが終わったアーマーを身に纏ってブルービートの姿に変わる。まさかその姿は飛ぶこともできるのだろうか?

 

「お前たちみたいにマントがないのがちょっと残念だけど・・・まぁ、仕方ないな。よぉし・・・んじゃ、行こうか?」

 

 

「レッツフライですっ!!」

 

 

 えりかを先頭にプリキュアチームは上空に飛び上がる。一番最後の出発となったつぼみは高所恐怖症であった事を今になって思い出したのかビクビクと怯えながら一人悲鳴をあげて空に消えていった。

 

 

「……っ!?・・・誰だ!?」

 

 

 3人が上空に飛び上がった後に続いてブルービートも上空にジャンプしようとするがその前に後ろを振り向いた。何かの気配を確かに感じたのだがそこには誰もいない。あの気配は思い過ごしだったのだろうか?

 

「気のせい・・・か?」

 

 本当にそうなのだろうか?・・・ブルービートは疑念を抱きながらも思い過ごしならばそれでも構わないと気持ちを切り替える。とにかく急がないとつぼみ達を見失う。跳び上がっていくと次の瞬間には彼の身体は青い球体状に変化して空へと飛んだ。

 

 

『・・・・・・・・・・』

 

 

 全員が居なくなったその場所に突然現れた二つの黒い影。ブルービートの感じていた気配の主の正体は影以外の姿を見せないままその場から気配を消した。その様はまるで獲物を見つけた蛇の様に狡猾さと獰猛さを秘めていて気配を殺す殺し屋の様なおぞましいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大空へと飛び上がった4人はまるで鳥になった気分であった。えりかは特にフライングを楽しんでいるようで大はしゃぎだ。しかし……

 

 

「うぅ~~~~」

 

 

 つぼみはと言うと高所恐怖症であるためもガクブルと身体は震えてしまっている状態だ。隣に居るブルービート(拓哉)はその様を見てやれやれと少し仮面の下で顔を苦笑いしている。仕方がないとブルービートは近くに飛んでいくと手を出して彼女(つぼみ)の手を握る。

 

 

「怖いのなら飛んでる間俺が傍に居る。だからそんな顔するなよ」

 

 

「は、はい。あ、ありがとうございます」

 

 

 つぼみはブルービートの手をしっかりと握る。そう言えば前にもこんな感じの夢を見た気がする。それは確か拓哉がブルービートであると知る少し前の事であったかな?あの時の夢は・・・・・今思いだすと非常に恥ずかしいものだ。

 

 

「・・・・ねぇ、あそこだけ空気が違う気が」

 

 

「・・・うん。でもあの二人・・・なんだかいい感じだよね」

 

 

 いつきとえりかは二人の様子を近くで見ていてそう思った。いつきは特に何も思っていないようであったが・・・えりかはと言うと何か少しだけ不機嫌な様子。そのやりとりがありながらも4人は大空を進んでいくと途中で大きな雲を見つける。

 

 

「ここだ。この先で【こころの大樹】が待ってる」

 

 

 インセクトアーマーから何かに共鳴するような感覚を感じるとブルービートはつぼみと手を繋いだまま先陣切って突入する。するとその中に広がっていた景色はまるで某ファンタジックな童話の物語に出てくる『龍の巣』を思わせ神秘的で神々しい世界が広がっていた。

 

 

「・・・・・」

 

 

 今自分は生身のままその世界に入り込んでいる・・・このような体験は普通の人間ならば絶対に出来ない経験。考えてみれば今まで生きてきた中で飛行機も乗ったことない自分がこのような体験をすること自体があり得ない事なのだ。

 つぼみはそう思いながらも未知の世界の恐怖と興奮からかブルービートの手を両手で強く握って辺りの雲という白い空間に目を奪われてしまう。

 

 

『・・・・っ!!!」

 

 その世界の出口に出ると太陽の眩しさが凄く思わず目を瞑る。目を開けてみると其処には広大な空の景色に堂々と浮かんでいる一つの島がある。その島の中央には夢でしか見た事のない【こころの大樹】があった。4人はその小島にゆっくりと着陸する。

 

 

「・・・・・これがこころの大樹か」

 

 

 ブルービートは重甲を解除して改めて目の前にある大樹の全体を見回していく。夢で見た通りでもあるがやはり自分の目で確かめると迫力が違う。その威厳と言うべく何かに4人はその迫力に息をのんでしまうほどだ。

 

 

「・・・はじめまして。花咲つぼみです!!……やっと会えましたね」

 

 

 不意につぼみが大樹の方に近づいていくとそのまま大樹を見上げて自己紹介を始めた。そう言えばこうやって対面するのは今まで初めてであった。

 つぼみに続いて次にえりかが自己紹介すると大樹はそれに反応するように枝が揺れる。まさか自分達の言葉が伝わっているのか?

 

 

「こころの大樹も『はじめまして』って言ってるですぅ。二人の気持ちがちゃんとこころの大樹に伝わってるですぅ」

 

 

 なんと予想通りと言う事になった。やはりと言うべきか普通の樹木ではないようだ・・・えりかは其れに感心したのか上から目線に「流石こころの大樹だね」と言ってみせる。

 

「それにしてもデッカいね~~夢で見た通りだよ」

 

 

「夢?もしかしてキュアムーンライトとビーファイターがここで戦う夢の事?」

 

 

 いつきはえりかの言葉に反応しそれを聞いてすぐに二人は彼女の方に詰め寄った。どうやらポプリの選好みは偶然ではなく必然だったようだ。えりかはアレだけ苦労したのはなんだったのだろうかと今更になって文句を言う。

 

 

「ポプリは最初から分かっていたでしゅ!!」

 

 

 3人の会話を聞いてポプリはまるで自分が予言者であったかのような言い草をするが拓哉はそれを聞いて「おいおい」と心の声で呟いた。散々選好みでいつきを指名していたの子供が言えた事ではないと思ったのだろう。

 

 

「不思議だけど夢で見るたびに思ってたんだ。花が散ってしまったこの樹にまた美しい花が咲かせられないかと」

 

 この大きな樹に花が満開の姿をさせてあげたい、そう思ったのはこの場に居る全員がそうだ。この大きな大きな大樹を・・・

 

 

 

「はっ!!・・・見てください。あそこ、“花の蕾”があります!!」

 

 

 つぼみが大樹をよく見るとあちこちに花の蕾(つぼみ)があちこちに確認できる。つぼみ達は大樹全体を見回すと色取り取りの花の蕾があり。それはまだまだ花には程遠いがいつか必ず成長し綺麗な姿を開花するだろう。

 

 

「【こころ大樹】はみんなの【こころの花】と繋がってるですぅ。これまで3人が頑張って【こころの花】を元気にしてきたから【こころの大樹】も元気になってきたですぅ」

 

 

「そうか・・・今まで頑張ってきた甲斐があったね」

 

 

「はい。こころ大樹の花が咲くのが楽しみです!!」

 

 

 拓哉は3人が歓喜に溢れているところで大樹を見回すように動くと大樹の根元で何かが光っているのを見つける。なんだと思い思わず拓哉は近づいていくと・・・・・

 

 

「ビーコマンダー!?」

 

 拓哉が見つけたのは自分が持っている変身アイテムと同じものだった。唯一の差異はクワガタの顎とカブトムシの触角のアンテナが立っている事。そう詰まりこの二つのコマンダーはあの二人のモノなのだ。

 

 

「これはジースタッグとレッドルのビーコマンダーじゃないか。どうしてこんな所に?」

 

 

 手に取った二つのビーコマンダーは土で汚れて更にあちこち傷だらけでボロボロになっていた。試しに赤いボタンを押してもウィングが開かない。拓哉はシプレとコフレの方を見ると二匹の顔が突然暗いものになった。

 

 

「二人はシプレ達を守るためにその身を犠牲にしたんですぅ。そのビーコマンダーにはもうジースタッグとレッドルの力は残ってないのですぅ………だから」

 

 

「じゃあもう二人は・・・・」

 

 

『・・・・・』

 

 そこから先の言葉が出ないシプレとコフレ。拓哉もその表情の意味に察しがついたようでコマンダーを強く握りしめる。二人は自分とは違いインセクトアーマーの装着者を必要としないいわば精霊のような存在。

 その二人が自らの命を削ってシプレ達を守りその残骸こそがこの二つのビーコマンダーなのだ。拓哉は手に持っているそれからには二人の受けた痛みと決意の強さが伝わってくる。

 

 

「・・・・先輩」

 

 

 二人のビーコマンダーを拓哉はポケットにしまった。持っていても仕方がないかもしれないがそれでも先輩たちの亡骸をこのまま此処に放置する事だけは出来なかったのだ。誰も知らないまま戦い散っていた戦士の魂をせめて自分の手元に置きたかった。そんなつまらない感情だけではない・・・

 

 

・・・この二人は俺の父親と一緒に・・・

 

 

「!?」

 

 

 突然辺りが暗くなった……太陽が雲に隠れたのだ。それだけでなら別にさほど恐れる事はないのだがポプリはビクンっと身震いすると何かに怯えたような態度になって親に子供が飛びつくのと同じように、ポプリはいつきの方に飛んでいった。

 

 

「この気配は・・・まさか」

 

 明らかに様子がおかしい。この嫌な空気・・・何かとてつもなく邪悪な気配を感じた妖精達は後ろを振り返ってみると其処には今一番会いたくない最悪の相手がその場に居た。シプレ達に釣られて振り返ってみるとつぼみ達も驚きが隠せない・・・如何してこの場にこの二人が!?

 

 

「ふふふ」

 

 

「見つけたぞ・・・」

 

 

 その相手は黒い片翼の悪魔の戦士と黒い甲冑を纏った最悪の二人組だ。ダークプリキュアとブラックビートはいつの間にか4人の尾行していたのだ。こころの大樹が守護者を呼び出した事をまんまと利用された。

 あの時、拓哉が感じていた違和感の正体はこの二人組だった・・・やはりもっと注意していれば・・・・・しかし今更後悔してももう遅い。



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第35話「こころの大樹での決選ー後編ー」

「どうしてここに!?」

 

 

 招かれざる客であるダークプリキュアとブラックビートの突然の登場に驚く守護者4人。一体どうやってこの場所を突き止めたというのだ?つぼみ達は全く見当がつかないという表情になっている中で拓哉はあの時の違和感を思い出す。

 

 

「まさかあの時の気配………お前達だったのか!?」

 

 

「その通り。貴様の読み通りだ甲斐拓哉。其処の間抜け3人組は俺達の気配に気が付かなかったようだがな」

 

 

 あの時感じた妙な殺気と気配は気のせいではなかったのか・・・もっと注意して見るべきであったと悔やまれるが今はその場合ではない。この場所が付きとめられてしまった以上は全力で後ろに立つこころの大樹を守るべく防衛しなくてはなわない。

 

 

「甲斐君、あの二人は?」

 

 

「プリキュアとビーファイターを倒すために砂漠の使徒のサバーク博士が生み出した悪のプリキュア【ダークプリキュア】と悪のビーファイター【ブラックビート】だ」

 

 

 実物を初めて見るいつきに対して拓哉がそう説明する。その説明を聞いている間にも身体へと直に伝わってくる殺気と威圧感は言葉にしようがないほど強いものである。

あえて何かに例えるのであれば野生の草食動物が捕食者(プレデター)である肉食動物に狙われている時に感じる“それ”と同じものであるかもしれない。

 

 

「こころの大樹をどうするつもり!?」

 

 

 

「ふぅん・・・お前らには関係あるまい。痛い目にあいたくなければ其処を退け」

 

 

 ブラックビートにそう威圧されるが素直にその脅迫に従う守護者など聞いた事がないと4人は逆に睨みつけていきそれぞれ変身アイテムを取り出した。ここは絶対に引くわけにはいかないと決意にその瞳は燃えあがる。

 

 

『プリキュアの種、いくですぅ!!」

 

つぼみからピンクの光えりかからブルーの光いつきからゴールドの光ががシプレ、コフレポプリの胸に集まり光が凝縮されピンクと青のプリキュアの種が3人の手に取られる。

 

 

『プリキュア・オープンマイハート!!!』

 

 

 それぞれ手にとったプリキュアの種をココロパヒュームにセットして胸からそれぞれの種の色の光の香水を胸からまとっていく。上半身がピンク、水色、ゴールドの光がそれぞれフリルスカートに変わり今度は下半身にかけて光が発生するとロングブーツが身にまとわれる。

次に互の胸に香水を噴きかけると胸にハートの形をしたクリスタルが出現す手首にリストバンドが形成される。

つぼみの長くきれいな髪がと瞳がピンク色に変色しロングポニーテールに纏われ、えりかは明るい青色に変色そしてロングストレートの髪型に、いつきは長く伸びたストレートヘアがゴールドのツインテールへと変わる。仕上げのひと噴き頭に香水をかけてリボンで髪を結んでいきパヒュームを腰に当てココロパヒュームキャリーに収めていき3人はそれぞれのポーズを決める。

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!」

 

 

「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!!」

 

「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!!」

 

 

 

『ハートキャッチプリキュア!!!』

 

 

 新生プリキュアチームはしん来るするようにポーズを決めると周囲は3人のシンボルカラー3色で照らされる。ピンク、ブルー、ゴールドのその3色の光は実に彩り豊かという言葉以外は浮かばないだろう。

 

 

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーのスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

掲げたビーコマンダーが青く光りを発生させあると中に収納されているブルービートのインセクトアーマーが元の大きさに戻っていき拡散し拓哉の身体もその蒼い光へと包まれていった。

腕に素早く鎧が纏われ次に胸と下半身そして顔以外のすべての部分に重厚なる鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!! 重甲!!ビーファイター!!!」

 

 

 鎧を唸らせながら大樹の守護者【ビーファイター】ブルービートはその場にポーズを決めて前に立った。

 

 

 

 

 

 ブロッサム達プリキュアチームはダークプリキュアへブルービートはブラックビートへとそれぞれ走っていた。こころの大樹という聖地での漆黒の戦士との決戦は3人が夢で見たものと全く同じシチュエーション。不吉な予感を響かせながらも戦士達は怯むことなく邪悪の申し子達へと戦いを挑んだ。

 

 

『はぁああっ!!!!』

 

 

 3人がかりでダークプリキュアへと各党戦を挑むブロっサム、マリン、サンシャイン。しかし3対1と言う数では不利な形勢でも実力の差での差は圧倒的で全く埋める事が液ないのか赤子の手を捻るように3人の攻撃は全く通用しない。

 

 

「きゃぁあっ!?・・っ!?」

 

 

 マリンが不意にダークの攻撃に足を取られてしまうとバランスを崩してしまった。其処にダークプリキュアのニードロップアタックが彼女に向けて放たれるが紙一重で避ける。地面に伝わる振動から察するに直撃すれば大ダメージは必須。

 

 

「はぁあっ!!!」

 

 

 体勢を立て直す前に一撃を食らわせてやるとブロッサムが不意打ちのようにストレートパンチをダークプリキュアへと叩き着こんでいったのだが悪魔の翼をもつ片翼の少女はその攻撃も紙一重で飛び上がって避ける。

 

 

「ふっ!!」

 

 

 その時を待っていたとサンシャインがダークプリキュアの後ろへと飛び上がって攻撃を仕掛けにかかるが武術の達人の彼女も悪魔の持つ能力には追い付く事が出来ないのか素早い身のこなしでサンシャインの回し蹴りを受け流すとそのまま反撃の腕振り下ろしのよる叩きつけ攻撃によってサンシャインは地面へと叩きつけられてしまう。

 

 

「っ!!」

 

 

「来ちゃダメ!!」

 

 サンシャインが物凄い勢いで地面へと叩きつけられるとその周辺に土埃が発生してその衝撃を物語る。ブロッサムとマリンはダークプリキュアの攻撃の直撃を受けた彼女が気がかりをと駆け寄るがサンシャインが二人を止める。一体どうしてと思っているとその答えの如くの攻撃が上空から降り注いでいった。

 

 

『きゃぁあああぁああああっ!!!!』

 

 

 サンシャインがブロッサムとマリンを自分に近づけさせない理由……それはダークプリキュアが第二の攻撃を仕掛けていると察したからであった。その攻撃は上空からのエネルギー弾の砲撃を発射する全体攻撃でありその第一波がサンシャインに直撃し次の瞬間にはその爆撃が近くに居たブロッサムとマリンも包み込んでいってしまった。

 

 

「サンシャイン!!」

 

 

 爆風だけでもこのダメージなのに砲撃が直撃した彼女はひとたまりもないとブロッサムは彼女の名前を叫ぶ。一撃必殺とは言い難いものの直撃すれば怪我だけでは済まされない・・・返事がない事に嫌な予感で冷や汗が浮かんでくる。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 しかしその予感は幸いにも外れていた。サンシャインはギリギリのところでヒマワリ型のエネルギーシールド『サンフラワーイージス』で砲撃の直撃を耐えていたのだ。思わずそれと見たブロッサムは「ふぅ・・・」と息を吐いて安堵する。だが束の間のそれに酔っている時間はないとすぐに気持ちを切り替えた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

「ええ。でもあの動き・・・・徒者(ただもの)じゃない」

 

彼女自身の戦闘能力に加えた最強と言うべき防御力はまさに鬼に金棒なのであろうが目の前の悪魔にはその彼女でさえも軽くあしらう程の戦闘能力(スペック)と実戦経験による実力を兼ね備えている・・・・ブロッサムとマリンにサンシャイン目の前の敵と対峙して感じた素直な感想をただ一言で述べた。

そして彼女が感じた事は今目の前に居る相手に対して一瞬でも気を抜いて隙を見せたり勝てないからと言って弱気になったりしたら負ける・・・・と。

 

 

 

 

 

「たぁああぁあっ!!!」

 

 

「ふぅんっ!!!!」

 

 

 その近くでは青い正義と黒い怨念の決死の死闘が繰り広げられていた。その激しさはいつにも増して過激でありスティンガーブレードがブラックビートの右肩の鎧に食い込んでいかせるとスティンガービューとがブルービートの脇腹へと食い込んだ。

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

「ちっ・・・・はぁああぁっ!!!」

 

 

「ぐあぁっ!?・・・がぁああぁっ!?」

 

 

 鍔迫り合いの末にブラックビートがブルービートの脚を蹴りあげてバランスを奪うと氏馬乗りになるようにビューとで首を挟んで締めあげる。このまま締めつけられて歯が食い込んでいけばアーマーがひしゃげて拓哉の首が千切られてしまう。まさに激戦の死闘に相応しいぶつかり合いと言うべきだろう。

 

 

「ぐぅ・・・たぁあっ!!!」

 

 

苦しみに悶えながらもブルービートの仮面の下で拓哉の表情は苦痛に歪んでしまう。ビュートの刃は確実に自分を追いつめている。だがこのまま終わって堪るものかとスティンガーブレードをブラックビートの首へと振り下ろした。

 

 

「ちっ!?・・・ぐぁああぁああっ!?!?」

 

 

ブルービートから上をとっている優位の体制とは言え突然大きなブレードが首筋へと叩きこまれて刃が食い込めば流石のブラックビートでも衝撃で一瞬怯みブルービートを絞めてあげて拘束していたビュートの刃へと入れていた力が緩む。その瞬間を待っていたとばかりにブルービートは空いている左手に力を込めて拳を作る。

 

 

「はぁあああっ!!!」

 

 

次の瞬間にブルービートの左腕はブラックビートの仮面へとストレートパンチを放った。無理矢理自分から引き剥がす様に吹っ飛ばした。続けざまの不意打ちに黒い鎧戦士は対処できずにそのまま数メートル飛ばされて地面に尻餅をついてしまう。

 

 

『・・・・・・』

 

 

一進一退の攻防……喰うか喰われるかの死闘とはこの事をいうのだろう。蒼と黒の鎧戦士両者はアスリート並みの激しい動きをしたにも関わらず休憩もいれずに立ち上がると右手に各々の象徴の武器を構えて相手を威嚇するように睨む。傷ついた鎧からは煙が上がり双方が相手へ送り込んだ攻撃の激しさを物語る

 

 

『っ!!!』

 

 

しばしの静寂の中でその場に風が吹くと大樹の葉が擦れ合って囀る。二人の鎧戦士はそれを合図にしたかのように同時に横走りをして【こころの大樹】という聖地を駆け巡った。青い正義の守護者と悪の黒き申し子は無言のまま言葉を交わすことなくそのまま戦いへと投じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の鎧騎士の死闘が激戦を極める中でプリキュアチームの闘いも大きく動いた。悪魔の片翼で上空を自由に舞いあがるダークプリキュアがブロッサム、マリン、サンシャインの3名の攻撃を受けつけず防戦一方まで追い込んでいるのだ。

 

 

「何よ自分だけ空飛んで・・・コフレ、こっちもやるよ!!」

 

 

「ガッテンですっ!!」

 

 

 空を飛ぶ事は何もあの悪魔だけの専売特許ではない。マリンはコフレを率いて前に走るとシプレとポプリもそれに同調してプリキュア達の背中に纏わりつくようにマントへと変化して3人空を舞う力を与える。そして3人は一斉に飛び上がると上空で待ち構えているダークプリキュアへと格闘戦を挑みそれがプリキュアチームVSダークプリキュアの第2ラウンド開始の合図となった。

 

 

「っ!!!」

 

 

『っ!?・・・うわぁああぁああっ!!?!?』

 

 

 しかし飛び上がった瞬間にダークプリキュアも彼女達へと向かって瞬間移動の如く高速で飛びロケットのように体当たりを仕掛ける。すると3人の編成を一瞬で崩して体勢を壊されてしまその途端にリズムが崩された事で動きが止まってしまった。3人は壊された体勢を立て直そうと瞬時に身構えるもダークプリキュアの攻撃の速さは3人の処理速度を遥かに超えていたのだ。

 

「ぐっ!!?」

 

「っ!?」

 

「うわぁっ!!?」

 

次の瞬間にはダークプリキュアは3人へとパンチ、キック、ハンマーナックルの3連続攻撃をそれぞれに浴びせて再び3人を地面へと叩き伏せた。3人は受け身をしっかりととって着地に成功してダメージは至っていないが次なる攻撃は既に待ち構えていた。

 

 

「っ!?」

 

 

 ブロッサムが気が付いた時にはもう遅い。ダークプリキュアのオッドアイである右目が開かれるとその瞬間に周りに凄まじい衝撃波が発生しブロッサム達を襲う。マントとなっていた妖精達はその衝撃に耐えきれず飛ばされてしまう。

 

 

「っ!!・・・蕾が。こころの大樹を傷つけちゃダメでしゅ!!」

 

 

「・・・・・」

 

 

 ダークプリキュアの衝撃波によって花の蕾が千切れて地面へと落とされてしまう。それに気が付きポプリは小さいその身体から大声でそう言った。それが癪に障ったのかダークプリキュアはポプリに向けて冷たい眼光を向ける。嫌な予感がサンシャインの胸に走った。

 

 

「ポプリ危ない!!」

 

 

 その予想通りにダークプリキュアはポプリに向けて衝撃波を発射して小さい妖精の身体を後ろにある大樹の枝へと叩きつけた。幸いにもポプリの身体には影響はなかったのだがダメージを受けていたのはポプリだけではなかったのだった・・・・・

 

 

「・・・あぁ・・・・・っ・・・・・」

 

 

 それ以上に大きな問題がポプリを精神的に絶望のどん底へとたたき落とした。目の前にはこころの大樹の大きな枝から千切られた花の蕾の数々。目についたものを拾っていくが目線を拡げてみると数え切れないほどの花の蕾が其処には転がっていた。

折角ここまで育ったのに・・・とポプリは目の前の光景に何も言葉が出ない。

 

 

「……なんてことを」

 

 

サンシャインがポプリに駆け寄り優しく抱きしめてやる。ポプリはそのまま黙って泣く事もせず言葉を失ったままだ。それに続きブロッサムとマリンが合流して辺りの惨状を見て出した言葉がそれだった。

 

 

「【こころの大樹】が枯らせば人間達の【こころの花】も枯れて砂漠化する。それはサバーク博士が望んでいる事だ」

 

 

「・・・ポプリやこころの花を傷つけて」

 

 

「っ?」

 

 

「私、堪忍袋の緒が切れました!!!」

 

 

 怒り爆発とブロッサムはブロッサムタクトを取り出してクリスタルドームを回転させる。タクトに花のエネルギーを充填させてクリスタルを輝かせるとタクトを振るい舞う。そしてピンク色の光を辺りに発生させてダークプリキュアへと向ける。

 

 

「花よ輝け、プリキュア!ピンクフォルテ・ウェイブ!!!」

 

 

 そのままダークプリキュアへとフォルテウェイブを発射する。ピンク色のエネルギー弾はそのまま物凄い族度で直進していったがダークプリキュアは微動だもしない。それどころか右手を前に突き出すとフォルテウェイブを受け止めていってエネルギーを拡散消滅させてしまった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「そんな」

 

 

 必殺技のフォルテウェイブですら通用しない。ここまで力の差が歴然となってしまえばもはや勝ち筋など考えられない。これがキュアムーンライトを倒した実力だと言うのか?だとすればこんな相手に勝つことなんてできるのか?いや、それ以前にこの強大な相手に対してどうやって戦えばいい?最初から勝負は決まっていて出来レースだったと言うのか?・・・・そんな錯覚さえも生まれてしまうほどだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時系列を少し戻しブロッサム達がダークプリキュアへと第2ラウンドを挑んだ場面になる。その時の彼女達の近くでは・・・・

 

 

「たぁあっ!!!」

 

 

「ふぅん!!!」

 

 

 蒼と黒の鎧戦士の両名の死闘は両者譲らない流れが続いたまま動かない。まるで鏡合わせのような戦術のぶつかり合いによって両者の力関係はほぼ互角だ。

 

 

「ブルービート・・・貴様を倒す。それが俺の生まれた宿命!!」

 

 

「宿命?・・・お前の宿命などどうでもいい。お前が俺を倒したいのと同様に俺はお前をこの手で倒さなければならない。絶対に!!」

 

 ブラックビートはビュートとブレードの鍔迫り合いの中ようやく開いたセリフはそれだった。それにブルービートも同調しブレードを薙ぎ払うと二人は同時に鎧の腹筋部分へと刃を立てて斬り伏せる。

 

 

「ぐっ・・・・パルセイバー!!」

 

 

「っ!?・・・ごふっ!?・・・ぐあぁあっ!?」

 

 

 ここでブルービートは勝負の流れを自分のモノにしようと左手にパルセイバーを構えて二刀流になる。そして素早い斬撃をブラックビートの鎧へと叩きつけた。流れは一気にブルービートへと動いた。続けざまにインプットマグナムへと合体させてセイバーマグナムを召喚して手に取った。

 

 

「マキシムビームモード!!」

 

 

 

「ぐぁああぁあああぁああぁああっ!!?!?」

 

 

 蒼い砲撃がブラックビートに直撃するとその場は爆発してその黒い鎧の身体を包む。衝撃で飛ばされてブラックビートは宙を舞い一回転して背中から地面へと思いっきり叩きつけられてしまった。

 

 

「くっ・・・・この俺のアーマーにここまで傷を負わせるなど・・・だが、そうでなくては貴様に武器をくれてやった意味がないというもの」

 

 

 

「・・・何っ!?」

 

 

 意味不明の発言をするブラックビートにブルービートはそう言った。俺の武器を託した?コイツが敵である自分に何故そんな真似をする必要がある?…理解が出来ないと困惑しているブルービートだったが突如ブラックビートは立ち上がりながら黄色い目を光らせて不気味な顔でブルービートを睨みつけた。

 

 

「ふぅん・・・・・っ!?」

 

 

「・・・・!?」

 

 

 再び戦いを繰り広げようとした瞬間に物凄い衝撃波が二人にも降り注がれた。何事だとブルービートが視線を辺りに広げてみると視界に映った光景はダークプリキュアに追いつめられる仲間の姿があった。

 

 

「くっ!!・・・・」

 

 

 死闘を繰り広げていたのだったが目の前で仲間が絶体絶命のピンチに追い込まれている光景が目に映るとブルービートの動きが止まる。目の前の敵から逃げる事は戦士としてのプライドが許さないがそれ以上にこのまま見過ごすなんて事の方がもっと出来ないと迷った末にブラックビートとの闘いを中断し飛び上がろうと構える・・・・しかし目の前の相手はそれの察しがついたのか黄色い瞳を黒いソリットの上に光らせる。

 

 

「逃がさんぞ。スティンガービュート!!!」

 

 

「っ!?・・・ぐあぁ!?・・・あぁああああぁああっ!!!??」

 

 

 無粋な真似はさせないとブラックビートは仲間の元へと向かおうとするブルービートの首にワイヤーへと変形させたスティンガービュートを絡ませると無理矢理自分の元へと引きつける。そして瞬時にワイヤーをサーベルに切り替えブルービートの肩に刃を叩きつける。

 

 

「今こそ消え失せろ・・・この世から・・俺が俺になるためにぃ!!!!!!」

 

 

「があああぁあっ!?!?・・・ぐぁあああぁあっ!?!?!」

 

 

「終わりだぁ・・・・・」

 

 次の瞬間にはブルービートの刃がインセクトアーマーの肩の部分の隙間を斬り裂いて拓哉の右肩を傷つけて続けざまに胸にビュートを振り下ろして薙ぎ払う。するとそのまま痛みに耐えられない彼の身体は地面へと押し倒された。これで勝負は決まったというような声で笑うとブラックビートはトドメを指そうとビュートをブルービートの首の上に翳す。痛みで動けないブルービートの仮面の下の拓哉は思わず目を瞑る・・・・・だが次の瞬間・・・

 

 

「ぐあぁっ!?……ぐぅ……や、奴の痛みがこの俺にぃ???」

 

 

 突然ブラックビートの右肩がショートしたかと思えば痛みに悶えその場に倒れる。突然に起こった黒い鎧戦士の異変。しかし今がチャンスだとブルービートは立ち上がるとスティンガーブレードでブラックビートの胸へと全力全開の一閃を叩きこんだ。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

 

「ぐおぉおぁあああぁああぁっ!!!!!」

 

 そして渾身の一撃のビートルブレイクによるX字斬撃がブラックビートを直撃して蒼い閃光がその黒い身体を包み込んでいく。倒れはしないもののブラックビートは右肩の傷と今までの戦闘での疲労と今の一撃重なってもはや闘いを続行できるような状態ではない。唸り声をあげるようにしながらも胸に手を当てブルービートを睨む。

 

 

「おのれぇ。ブルービート、貴様の命…今しばらく預けたぞぉ!!!」

 

 

 ブラックビートは捨て台詞を吐くとそのまま瞬間移動をして消えていった。なんとか今回もギリギリの勝利となってしまった。ブラックビートも着実に強くなってきている。

だがしかしそれよりも気になるのはあの傷は?・・・・・

 

 

「あの光はまさか!?」

 

 

 考えこんでいたがすぐに現実に引き戻されたブルービートは赤黒い光が発生した事に気が付くと振り返る。するとその眼に映ったのはダークプリキュアがダークタクトを手に取っている姿。その先にはブロッサム達が・・・・急いで合流しなくてはとブルービートは痛みが走る右肩を抑えながらも大急ぎで身体を動かした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇の力よ集えダークタクト・・・・・」

 

 

 力の差と言うモノに絶望して言葉すら失ったブロッサムとマリンにはもはや用すらないと判断したダークプリキュアは勝負を一気に決めるべくダークタクトを呼び出して右手に握る。キュアムーンライト倒したこの場所で奴と同じように引導を渡してやるつもりなのだ。

 

 

「皆、大丈夫か!?」

 

 絶体絶命の大ピンチにブルービートがブラックビートとの闘いを終えて合流してきた。・・・ブルービートの視線の先にはダークプリキュアが此方に向けてダークフォルテウェイブの発射態勢に入ってきていた。このままではあの夢の通りの結果に終わる!?いや、そうは絶対にさせない。スティンガーブレードを構えて飛び上がろうと体勢を整えるがその彼にサンシャインが止めに入るように声をかけた。

 

 

「皆、私に考えがあるわ・・・・時間との勝負になるから協力して。先ず私がダークプリキュアを・・・・・」

 

 

まだ策はあるとサンシャインが3人へと呼びかける。この期に及んでどうするつもりなのだと3人はサンシャインの呼び掛けにこたえて視線を集め彼女の策を聞いた。そして全員は彼女の考えた作戦に乗じるしかないと顔を見合わせ目線と目線を合わせて頷いた。

 

 

「絶対に成功するっていう保証は出来ないわ。でも・・・・」

 

 

 サンシャインが言葉を続けようとした瞬間にブルービートが遮った。そしてブルービートはサンシャインに向けて腕を出す。

 

 

「絶対に成功させる。だよな?ブロッサム、マリン」

 

 

「はい。【こころの大樹】を守るために必ず成功させます!!」

 

 

「あたしもサンシャインの作戦を信じるよ。だからブッツケ本番だけど・・・全力で行こう!!」

 

 

 4人は手を合わせるように腕を出し合った。ブッツケ本番の一発勝負で失敗は絶対に許されない。しかし今はこれに賭けるしかない・・・・4人はダークプリキュアの方を見直すと其処には既にダークフォルテウェイブを発射が終えた所であり早速手筈通り全員が動いた。

 

 

「サンフラワーイージス!!!」

 

 

 先ず動いたのがサンシャインであった。先程も自分の身を守ったサンフラワーイージスを発動させてダークプリキュアのダークフォルテウェイブを跳ね返す。流石のダークプリキュアも防御はまだしも反射という能力がある事に驚き腕を前に出してクロスさせて自分の攻撃を凌ぐ。

 

 

「集まれ花のパワー、シャイニータンバリン」

 

 

 その一瞬の隙にサンシャインはシャイニータンバリンを召喚して手に取るとゴールドの光が輝く。その瞬間にシャイニータンバリンの外周部部分を回転させてエネルギーを充填させてタンバリンをリズミカルに叩いてその場に舞い踊り周りにヒマワリの結晶が形成されて彼女の後衛に待機させる。

 

 

「花よ舞い踊れ、プリキュア!ゴールドフォルテ・バースト!!」

 

 

 技名を高らかに叫ぶとその瞬間にヒマワリ型のエネルギー弾がダークプリキュアめがけて発射。纏わりついたエネルギーの玉は逃げようとするダークプリキュアを追尾していき遂には拡散して黒い悪魔を完全に拘束して動きを封じる。

 

 

「今よ!!」

 

サンシャインが相図を出したその瞬間にブルービートがインプットマグナムにパルセイバーを合体させてセイバーマグナムを構えブロッサムとマリンの二人はフラワータクトを同時に取り出してクリスタルドームを回転させる。

 

 

「1,1,0インプット。マキシムビームモード!!!」

 

 

「集まれ二つの花の力よ、プリキュア!フローラルパワーフォルティシモ!!」

 

 

 サンシャインのフォルテバーストによって動きが封じられたダークプリキュアに向けてマキシムビームモードの砲撃とフローラルパワーフォルティシモのダブル攻撃を発射する。3つの光はダークプリキュアに叩きこまれていくと爆発し辺りは土埃によって大樹があった小島が覆われて全く見えなくなってしまう。

 

 

「それで私を倒すつもりか!?・・・未熟なプリキュアはともかく、ブルービートよ貴様の攻撃手緩いな。所詮は貴様でも私を・・・・っ!?」

 

 

 衝撃によって身体は少し飛ばされてしまったがダメージは殆ど皆無。ダークプリキュアはこの程度の攻撃で撤退するとでも?と言わんばかりの態度で見下していくダークプリキュアだったが様子のおかしい事に気が付く。煙から何やら金色の結界の様なものが出現しはじめたのだ。

 

 

「目的はこれか!?」

 

 

 次第に視界を奪っていた土埃がだんだんと晴れていくと目の前に映ったのはサンシャインが太陽の光を吸収してポプリ共に【こころの大樹】がある小島全体を覆いかぶせるほどの特大サイズのバリアが形成されていく。

 

 

「(そう。今までの攻撃は全てこの真の目的を奴に気がつかせる事を遅らせるための誘導・・・ダークプリキュアにフォルテバーストが効かなかったり避けられたりしたらその時点でアウト。それが心配の第一要因だったが其処はなんとかなったか。)」

 

「光よぉ!!!」

 

 

「【こころの大樹】を守るでしゅ!!!」

 

 

 サンシャインはまだ開花して間もない自分の能力がどれ程のものなのか把握していない・・・しかし咄嗟の判断といえど実力で勝てない以上は一か八かの勝負に出る以外この場を凌ぐ手はなかった。しかし今のところはその作戦も順調に進んでいる・・・あと少しで結界は大樹全てを覆い隠すところまで進んでいった。

 

 

「(その後の俺とブロッサム達の攻撃は煙幕の代用・・・インプットマグナムの煙幕弾よりもこの方が奴も乗ってくるっていう判断は間違いじゃなかったようだな)

 

 

「っ・・・させるかぁあっ!!!」

 

 ダークプリキュアの焦った様を見て作戦は見事に成功したとブロッサムとマリンは彼女を睨みつけてやった。その視線が癪(しゃく)に障ったのかダークプリキュアは赤黒いエネルギーを溜めて光弾を作っていくとそれを発射する。

しかしそれが直撃する寸前のところで先にサンシャインとポプリが創り出した結界が完成して紙一重のところで赤黒いエネルギー弾の砲撃はそのまま標的に当たらず空に舞って消えていった。

 

 

「おのれぇ・・・・おのれぇえええぇえええええええええっ!!!!!!!」

 

 

 僅かなる慢心によって格下が僅かな時間で考え出した場繋ぎ程度の作戦にまんまと嵌まった事にこの上ない屈辱を覚えたダークプリキュアは誰もいなくなったその場で荒げた声を空に木霊させる。残された彼女がその後どうなったのかは当の本人以外は全く謎に包まれていてそれはブラックビートにさえも知らない出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はるか上空で片翼の悪魔が怒りの咆哮をあげたその後にはプリキュア達は地上に帰還する。シプレ達曰く【こころの大樹】は別の場所へと移動し砂漠の使徒には絶対に見つからない場所へと移動したらしい。更にサンシャインポプリが張った結界の効果もあってか園守りはほぼ完璧だということ。

 

 

「大したことないのにこんな傷・・・いってぇ!!!・・・痛いですよ先生」

 

 

 いつきは兄の手術が終わった事で病室へ行きつぼみ達もそれに付き添っていった。しかし拓哉はというと病院の医務室で手当てを受けていた。ブラックビートとの闘いで出来た傷を3人に見られてしまい病院だから序に治療を受けろとしつこく言われたためほぼ強制的に連行されてしまったのだった。幸いにも見た目ほど大したことはなく傷の軽い洗浄と消毒で済んだのだが痛みはそれなりあるため思わず手当てをしてもらっているが文句が絶えないでいた。

 

 

「(・・・・あの時俺達は……俺とブラックビートは“同じ傷”の【痛み】を分け合った。何かが……何かが始まろうとしているのか?)

 

 

 当の本人は治療の最中にブラックビートと自分が同じ傷を受けた事を思い起こした。あの時の奴にも傷ができたのは何故なのか?ブラックビートが拓哉をつけ狙う理由とは?今この戦いでブルービート【甲斐拓哉】と悪のビーファイター【ブラックビート】の闘いに拍車がかかる。



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第36話「つぼみを救え!!’黒の挑戦ー前篇ー」

「ここは・・・・一体どこですか!?」

 

 

 冷たい空気で突然目が覚める少女【花咲つぼみ】は自分がいる場所に全く見覚えがない事に違和感を覚える。周りは果てない砂漠だらけで空も夜空のように暗く月明りだけが視界の頼りとなっているようなその場所は【地平線】という言葉が一番適切だろう。辺りを見ながらも彼女は相棒の妖精シプレもいない事に気が付き途端に【孤独】と言う恐怖が彼女の心を包み込んでいった。不安で身体が震えてしまう・・・その中でも彼女は今自分が置かれている状況を思い出すために記憶を手繰り寄せてそこから情報を整理してゆっくりと必死に考える。まるでそれは探偵にでもなったかのような気分になったが今のこの状況ではそんなことを素直に喜べるような状態ではなかった。必死に思い出す。

 今日は確かファッション部の合宿で使う資材がない事に気が付いて・・・・・・・・それからは・・・・

 

「そうでした・・・私は拓哉と一緒にファッション部での資材の買い物に出て一緒に過ごしているところをブラックビートに襲われて」

 

 ファッション部の必要資材の買い出しという名目で私は拓哉と二人で買い物へと出掛けたんでした。

 あの一時は今思い起こせば私の人生で初めの事で妙に緊張したのを覚えています。そんな中で私と拓哉はえりかに言われた生地やビーズ、縫い糸などを全て買ったあとはする事もないので解散しようかと思っていたら拓哉が折角だから一緒に遊ばないと誘ってきたんです。

 私は彼からそんな風に誘ってくるとは思ってもみませんでした。でもとても嬉しかった。初めてのデートでしたから。

 私は拓哉と二人で一緒に居る時間を過ごしていたら突然現れた黒尽くめの男が現れて・・・・

そうだ、自分は彼の足手まといになってブラックビートに・・・・

 

「拓哉ぁ!!・・・誰も居ないんですか?」

 

 

 つぼみは孤独から生まれる恐怖を少しでも間際らそうと分かりきっている事を呟いて辺りを見る。自分が今いる場所は一体どこなのだろうか?恐怖ゆえに一緒に居た少年の名前を呟く。彼女の声がその場に木霊しながらも砂漠に吹く風がその華奢(きゃしゃ)な身体を強く打ちつけて体温を奪う。

 

「寒い・・・・」

 

 

 

 此処は体力を温存するのが無難だとつぼみはその場に蹲るように身体を丸めて座り込む。夏と言う事で服装は軽装で風が身体に浴びせられると一気に体温が奪われてしまう。空を見てもただ暗いだけで月明りのみが光として照らされるだけの暗黒の世界。プリキュアにもなれないこの状態でいつまでもここに居てしまったら自分の【こころの花】が枯れ果ててしまうかもしれない・・・もしそうなったら自分はどうなるのだ?

 

「ふふふっ・・・怖いか?花咲つぼみ」

 

 

 つぼみは孤独と未知の恐怖で涙が出る。するとその彼女のみじめな姿を見て笑う声がその場から五月蠅いほど響いて来た。つぼみはその声に顔をあげて涙を手で拭って表情が険しくなる。この声は聞き覚えがある主。まさか・・・

 

 

「ブラックビート!?・・・やっぱり貴方が。此処は一体どこなんですか!?」

 

 

「此処は【デザートフィールド】。俺が支配する闇と砂漠の世界さ」

 

 

「デザートフィールド!?」

 

 

 名前の通りの空間と言うべきだろうか?この冷たく砂だけの不毛な世界はブラックビートが創り出した世界?しかしどうして自分をわざわざこのような場所へ?つぼみはブラックビートがわざわざこのような事をした動機がわからなかった。どうしてこんな回りくどい事をする必要があるのだろうか?

 

「そうだ。・・・・お前を此処閉じ込めたのは甲斐拓哉をおびき寄せるための餌になってもらうためだ。今頃奴はこの場所を血眼で捜しながらお前を探しているあろうさ。…俺の使役【デザートデーモン】を仲間に任せて・・・・タイムリミットまでにお前を助け出すために」

 

 

「タイミリミット!?」

 

 

「おっと、口が滑ったな。・・・いいだろう…教えてやる。この世界で【こころの花】が萎れた人間はこの世界の支配者である俺が手を下すまでもなくデザトリアンになるんだよ。勿論【こころの花】は取り出され我々【砂漠の使徒】に回収される。その意味がわかるか?」

 

 

「それって・・・・まさか」

 

 

「ここで絶望するという行為そのものが人間を捨てると言う事だ。更に言えば今の・・・お前を助け出す事が出来るのはお前の名前を叫びながら必死に探しているブルービートだけ。だがその前に果たしてお前の心が絶望に耐えられるかな?・・・・精々恐怖におびえるがいい花咲つぼみ。人間からデザトリアンになると言う最悪の恐怖になぁ・・・・ふふふ・・・あっはははははは!!!!」

 

 

 自分がデザトリアンになる!?その事実につぼみは恐怖でその場に膝をついてしまう。もしも拓哉が助けに来てくれなかったら………シプレが傍に居ない今プリキュアになって抗うことも許されない。ただ待つ事しか出来ないのか!?・・・・・

 

 

「拓哉……助けて」

 

 

 つぼみは風で聞き取れないほど擦れるような声でそう呟いた。こんな暗く冷たい場所で自分が自分でなくなっていくのを待つしか出来ないのか!?いや、ブルービートが……拓哉が絶対に助けに来てくれるはずだ。自分を探してくれているのなら絶対に……

 つぼみは自分にそう言い聞かせて再びその場に座って蹲った。何も考えないようにした方が絶望しないで済むかもしれない・・・・拓哉が来てくれると信じる以外出来る事がないのなら・・・何も考えず心を空っぽにするしか……それしかこの惨すぎる現実から逃げるすべなんて…………ない。

場面は数時間前にさかのぼる。本日はえりかの実家【フェアリードロップ】にてファッション部の合宿に向けての打ち合わせが行われていた。しかしながら合宿とは言っているが実際は来海家の伝手で希望ヶ花から離れたペンションへ寝泊まりしバーベキューをしたり海で泳いだり近くのお祭りや花火大会を見に行ったりと遊びが7割で残りの3割は文化祭に向けてのファッションコーディネートのデザインが作りといった内容になっている。

 

 

 

「で、これがデザインを起こして実際にサンプルとして作るために必要な材料ってことか?」

 

 

 拓哉。つぼみ、いつきの3人はえりかの面々で集まり合宿の当日でどう行動するかのタイムテーブルの作成、必要資材や持ち物の確認などのパンフレット作りの最中であった。その作業の中で突然えりかが拓哉に向けてメモを渡す。

 

 

「うん。それで悪いんだけど拓哉とつぼみで今日中にソレを買いだしてきてほしんだよね。ホントは私も行きたいんだけどちょっとこれを仕上げたくて」

 

 

「ああ、そう言う事なら・・・・・っ?」

 

 

 

 えりかはデザイン画を拓哉に見せてやるそこには書きかけのデザイン画で見る限り相当力を入れているものの様子・・・これを合宿前に仕上げたいと言うこと言う事らしい…しかし書きかけのデザインが残っているなんて彼女からすれば珍しい事であるのでは?と拓哉は思う。

 

 だがしかし、そういう理由があるならやむを得ないかと拓哉はえりかから資材費用の資金を貰い財布にそれを入れて立ち上がった。早くめんどくさい事を住めせてしまうとう思った・・・・だがその時何かがおかしい事に気が付いた。そうだ、もう一人まだ居るではないか。今自分のしかも目の前に……

 

 

「ちょっと待て。いつきは?お前が駄目ならアイツと俺とつぼみの三人で買い出しに……」

 

 

 拓哉は目の前にいつきが居る事に気が付いてそう言う。どうせ買い出しに行くならその方が効率もいいしこういう面倒事は早く終わる。それに越したことはないと思った拓哉だったがそのセリフが全部言い終える前にえりかが彼の発言を途絶えさせてしまう。

 

「いいの!!これはつぼみとアンタに頼みたいんだから!!」

 

 

「あ、ああ分かったよ。そこまで言うなら・・・・じゃ、つぼみ・・・行こうか?」

 

 

「あ、は、は、はい!!」

 

 

 拓哉はえりかの態度に違和感を覚える。あそこまで意見をゴリ押しするなんて珍しい……彼女があそこまで強く言われてしまうと逆に何かをこじつけて反論するのが面倒だ。何を考えているのか分からないのは幼馴染の自分よく知っているから気にするまでもないと拓哉は鞄に財布を入れてつぼみと共に部屋から出る。腑に落ちないままであったのだが・・・・

 

 

「いいのかい?えりか・・・本当は君が拓哉の事を」

 

 

「いいんだよ。だって、あたしは・・・つぼみと拓哉の親友だもん」

 

 

 いつきの言葉をえりかはそう言って切り返した。えりかの心中を察しが付いている……幼馴染だからこそ言えない事はある。【一番近くて一番遠い存在】・・・以前にも拓哉が言っていた事がある。本当はもどかしくて歯痒くて・・・・

一番近い存在だから自分の気持ちを・・・・言いたい事は一つだけある。でも、今の自分と拓哉との関係が壊れるぐらいなら私は近くに居る親友としてそしてもう一人の親友の為になれればいい。逃げているだけかもしれないけどそれでいい。そう決めたのだ。

 

 

「・・・じゃあ二人が帰ってくる前に全部終わらせちゃおう!!」

 

 

「おーーーー!!!」

 

 

 残されたえりかといつきの二人は残りの作業を片付けるべく分担して作業を進め始めた。その間に折角セッティングした二人の事が気がかりであったが・・・その結果は想像どおりである事を願ってただ単に作業を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を残した拓哉とつぼみはショッピングモールへと足を運んでいた。えりかに頼まれた物の殆どのモノが此処で買う事ができる更に此処は遊び場としてもかなり充実しているため都合がよかったと言うのもあった。

 

 

「随分大量になっちゃったな」

 

 

 メモの通りに言われた物を買いあさった二人は荷物を持ちながらショッピングモール内にあるフードコートで一休みしていた。大型のショッピングモールと言う事で映画館やフェアリードロップの様な服屋などと遊び場としてのレパートリーは豊富であり不定期にイベントも開催されるほど何でもそろっているのがこの施設の強みである。

 

 

「そ、そうですね」

 

 

そんな場所に男女は二人と言う事は誰もが今の拓哉とつぼみを見て誰もがこう思うだろう。このカップルはデートをしていると。拓哉はそう思っていないかもしれないが彼の目の前に居るつぼみは違うだろう。現に今の彼女はどこか落ち着かない様子であるのが傍から見ても分かるほどだ。

 

 

「あ、あの拓哉・・・こ、この後どうしましょう?・・・必要なモノはもう買いましたし・・・えっと・・・」

 

 

 ここから先痛い言葉を言う勇気が中々出ない。つぼみは言葉を途切れさせながらもあと一言の言葉を口に出そうとするがその前に拓哉がつぼみの方に視線を向ける。視線がぶつかり合った事に気が付いたつぼみは思わず目線を反らしてしまい自分から言い出せるタイミングを必死に探るように間を図る。だがその彼女に目の前の相手は突然口を開いたのだった。

 

 

「つぼみ、よかったら・・・このあと時間ある?」

 

 

「え?」

 

 

「いや、折角だから時間があるなら一緒に見て回らないかと思ってさ。・・・何か予定ある?」

 

 

  拓哉からデートの誘いがくるなんてまさかの出来事。つぼみは自分から切り出そうかと思っていた所でのこの状況に思わず思考が止まりそうになるが折角の好機を逃す手はない。すぐに頭を整理して考えをまとめていって拓哉の顔を見ながら言葉を絞り出す。

 

 

「い、いいえ。特に何もないです。あの・・・えっと、何処から行きましょう?」

 

 

「そうだなぁ~映画館があるから試しに映画でも見ない?・・・その後の事は映画の後で考えよう」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 まさかの王道すぎる展開に戸惑うウブな少女はそのまま少年に誘われるがままフードコートを移動。映画館へ行ってみると夏休みという事もあってそこには家族連れも多かったがやはりカップルグループの一番比率が高かった様子で拓哉とつぼみは自然とその中に溶け込んでいった。

 

「色々あるね」

 

 

 公開中の映画を見ると色々なタイトルがあった。【大決戦!超ウルトラ7兄弟】 【魔法少女リリカルフェイト】【BRIGHT STREAM】等などと様々なタイトルがある。さて、どれを見るか……

 

「【BRIGHT STREAM】・・・・これにしてみる?」

 

「はい」

 

 

 拓哉に言われるがままという状態になってしまっているのは緊張のせいだろう。つぼみは拓哉にゆっくりと付いていくように足を進める。二人はチケットを買いポップコーンや飲み物を片手に持ちながら映画の席に着く。暫くするとシアターが暗くなっていき映画の予告が始まり二人はしばしの時を共有しながら映画の世界へ引き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・』

 

 

 それから二時間弱ぐらい経った頃になると映画からは内容に感動して泣き顔になっているつぼみとその涙を堪えている拓哉が出てきた姿があった。

 内容はと言うと二人の男女の恋物語。ある日幸せに暮らしていた二人であったのだが突然悲劇が訪れる。女性は不幸にも交通事故にあって一命は取り留めたもののその後遺症として男と過ごしていた全ての記憶を無くしてしまう。大切な人は変わらずと存在しても自分の記憶を全て無くしてしまったという現実に悲観した男は絶望心が壊れに廃人同然の生活へと追い込まれてしまう。

 絶望の谷底で這いずり回っていたその男の闇を一筋の光が照らす……それは事故にあう前に女性が残した手紙だったのだ。

 廃人同然の生活を送り死の寸前にまで片足を突っ込んでいた男だったが幼いころからの付き合いであり彼を本当の弟のように義姉から渡されたその手紙を読んで生きる気力を取り戻し自分の中に彼女との思い出がある限り本当の意味で彼女の存在は消えない。『繋がる心こそが自分の力になる』と彼は気が付きこれからまた彼女との思い出をゼロからリトライすればいいと決意し生きる気力を取り戻すものだ。

 クライマックスで女性がある出来事をきっかけに男との過去の記憶を取り戻し男の名前を呟き取り戻した記憶とそれまでの共に過ごしてきた時間が融合し固い絆を手に入れた二人は永遠に結ばれるというものだ。

 映画タイトルの「BRIGHT STREAM」の意味は【一筋の光】。人との出会いが『光』を生みだしその『光』はどんな困難や絶望と言う名の無限に広がる『闇』を照らす大切なモノになると言う意味が込められているらしい。

 その後エンディングテーマも映画タイトルと同じくBRIGHT STREAMー一筋の閃光―」という曲が流れると途端に映画を見ていた人々は涙に溢れることとなった。

 

 

「な、なんか湿っぽくなっちゃったな……下のフードコートでおやつでも食べに行こう!!」

 

 

「ぐす・・・・はい」

 

 

 あまりに内容が壮大すぎて二人は涙が止まらなくなりそうだった。いや、既につぼみは涙が止まらなくなっていると言う方がこの状況は正解だ。つぼみは特に感動のあまり映画途中で無意識に拓哉の手を握ってしまってしまうほどだ。

涙を流す事は悪い事ではないのだがいつまでもこの状態では間が持たない。拓哉は気持ちの切り替えも兼ねてフードコートへつぼみを連れて行く。その間に彼女もやっと涙が治まったようで目が少し赤くなっていたが笑顔を取り戻していた。

 

 

「おぉ『エンジェル・クレープ』じゃないか。ここのクレープは最高なんだよ。わぁ凄い行列だな」

 

 

 何を食べようかと迷う二人だったが拓哉はクレープ屋の前で足が止まった。つぼみはその彼の隣に近寄ると彼の顔は満面の笑みとなっていた。つぼみもここのクレープ屋はえりか達とよく食べに来る事が多いので美味しさは知っている。

 

 

「ああ、拓哉!!・・・もう、食べ物にガッつくなんて誰かさんみたいですね♪」

 

 

目の前のクレープ生地を焼く香ばしい香りという甘い誘惑に我慢できなくなったのか拓哉はそのまま迷わずそのクレープ屋へと足を進めるとつぼみも続けて彼と一緒にその行列に並ぶ。今の拓哉の姿は普段見せている大人しいというか少し大人びた彼とは違って年相応だ。またも見えた彼の意外な一面につぼみは心の中で彼に対する印象が少し変わっていく。

 

 

「おぉ~~いろいろあるな。ん?ブルーベリーソースとストロベリーソースのハードハンドハーフ仕立てのミックスベリーが当店人気№1だって?こんなメニューあったかな?」

 

 

 行列を並んで20分後にようやく二人の注文の番となり拓哉は何にするか迷っている。王道といえばストロベリーやチョコなのだがそれでは面白くない。折角来たのだから偶には違う味に試してみるのも悪くない。そう考えていると中々決められないようだった。しかしあるものに目がとまる。【当店人気№1の味ミックスベリー】と言うのを見てしまうと目に留まらない方が不自然だろう。拓哉は悩んだ末にようやく決まったようで店員に視線を向ける。

 

 

「決めた。俺はミックスベリーにしよう。つぼみはどうする?」

 

 

「え?ミックスベリーですか?・・・・じゃあ……私もそれに」

 

 

 店員は拓哉とつぼみがミックスベリークレープを頼んだのを見て何やら不自然な間を置いた後注文を受けてクレープを作り二人に渡す。行列を作っていた周りの人々も何やらヒソヒソと話している様子が見受けられる。

 

「なんだ?なんか皆俺達の方を見てるけど・・・・」

 

 

「もしかして分からないで注文したんですか?」

 

 

全くわけがわからないと言わん態度の拓哉。それに対してつぼみはミックスベリークレープの意味が分かっているのかそう呆れたように呟いた。

 

 

「だってブルーベリーとストロベリーは好きなんだから一つで二倍の味と美味しさを楽しめると思ったんだ。どうせなら食べたいものがいいと思ったんだけどなぁ…なぁ、つぼみはミックスベリーのクレープにはどういう意味があるか知ってるの?だったら俺にも教えてくれよ」

 

 

「それぐらい自分で考えてください!!」

 

 

「ちょっと、つぼみ!?・・・・(食べ物に美味しい以外に他に意味があるのか?)」

 

 

 

 少し拗ねたような彼女の態度を見て少しばかし疑問を感じながらもクレープのついでにミルクココアを注文し二人はそのままテーブルへと移動する。椅子に座り映画の感想を言い合いながらクレープを食べココアを飲む。ありふれた中学生の夏休みのほんのひと時という時間を噛みしめながら二人は暫く談話を楽しんだ。

 クレープを食べた後は拓哉とつぼみはそのままショッピングを楽しみ気が付けば時刻は夕刻になり夕日が火を照らす時間になってしまった。

 

「そろそろ帰らないとワガママ姫に大目玉食らっちゃうな。そろそろ出ようか?」

 

 

「・・・そうですね」

 

 

 楽しい時間というものはあっという間に流れてしまうものだ。拓哉の言葉を聞くとつぼみは名残惜しそうに彼に付いていく。もっと多くの時間を彼と過ごしたいと思っているこの気持は……心の中でときめく彼に対するこの複雑な感情が混ざった想い・・・これはもしかしたら………

 私は彼の事が………

少女は華奢な胸の中にある想いを抱きながら隣に居る少年に向けてそっと手を伸ばそうとする。昔の彼女だったらここまでの行動は絶対に出来なかっただろう。【プリキュア】になったことや今まで多くの経験がなければ。

 

「なぁ、つぼみ……」

 

 

 手を伸ばそうとしたその瞬間に拓哉が彼女に向けて視線を向けた。つぼみはその途端に手を引っ込めた。少女は心の中に溢れ出るような想いを今言葉にして彼に向けたい。でも勇気が出ない……少しの間流れた静寂の後目の前の少年が再び口を開いた。

 

 

「今日は凄く楽しかったよ。だから・・・また誘ってもいいかな?」

 

 

 拓哉も緊張のあまり言葉が途切れ途切れになりかけていたが振り絞ってそう言った。目の前の少女と同じく拓哉も彼女に対する感情が変わりつつあるのかもしれない。それは今目の前に居る少女と同じく言葉にしがたい複雑な想い……

 

 

「・・・っ!!……はい!!」

 

 

 つぼみは拓哉の言葉に驚きながらもすぐにそう返事をした。まだ夕日が出ていないのに二人の顔は少し紅く染まっていたのはお互いに気が付いていなかった。その間も歩きながら間を持たせようと言葉を交わし待たせている二人の親友の元へと向かうのであった。

 

 

 

夏の日差しが照らしてくる中で二人は感じた。お互いに気が付いていないが想いは同じなのだ。しかしながらその想いは感じているだけで『言葉』にしなければ伝わらない。その言葉にする勇気はまだ出ないのだ。でも時間がそれを解決してくれる……だからこれからはもっと関係を築いていければいい。例え二人の想いがお互いに伝わるのがゆっくりでも……

 

だが二人のその気分を悲鳴と地響き更には爆発音が粉砕してしまう。二人は唐突に起きた異常事態に嫌な予感がすると走って爆発音が聞こえてきた場所へと移動する。現場に着いた2人が見た光景は思わず声を失うほどであった。

 

 

「これは・・・・・誰がこんなマネを!?」

 

 

「ひどい」

 

 

 その一面に広がっていたのは壊されたアスファルトの地面に歩道橋や街路樹の残骸が散乱して破壊の限りを尽くされた“かつて街であった場所”の風景でありそれは見るにも耐えないほど無残な状態であった。こんな事をする輩など【砂漠の使徒】以外あり得ない。

 

「・・・・・・・」

 

 

 泣きわめく子供の声や燃え上がる炎に拓哉は拳を握りしめ怒りの感情が火山の噴火の如くわき上がり始める。しかしその怒りをぶつけるべき対象が目の前に居ない事に気がつく。普段ならば笑い声をあげながら自分達の目の前に姿を堂々と見える筈なのに。

・・・・隠れて自分たちの反応を影から見て楽しんでいるのか?だとしたら自分達を完全に舐め腐りきっていると拓哉は一歩前に出た。

 

 

「・・・・こんな大騒ぎをした癖に姿を見せないなんてふざけた真似をするな!!・・・・俺達に用があるなら隠れてないで出てこい!!!」

 

 

 砂漠の使徒の破壊活動にしては普段とのやり方の違いに不自然さを感じられたが拓哉はそれ以上に目の前の惨状に怒り心頭で感情を荒げて大声を上げた。彼の声がその場に大きく響き渡るとそれにようやく反応したかのように一つの影が二人の前に姿を現した。

 

「待っていたぞ・・・ブルービート、キュアブロッサム」

 

 

 その男の姿は真夏にも関わらず黒の長そで革コートに同じ黒い色をした革製のジーンズズボンにロングブーツという非常に暑苦しい格好に加えて黒いハットで素顔を隠し悪魔を模ったような独特の形をした黄色いペンダントは太陽光の光を浴びて鈍く輝いた。

 

「・・・・・・・・」

 

 黒いハットおかげで素顔が見えないその男のルックスは【不気味】という言葉以外は思いつかない程の何かのオーラを放っている。その不気味なオーラのせいだとでも言うばかりに悪寒を感じる。この男は一体・・・・・・

 

 

「貴様、何者だ!?」

 

 

 拓哉の問いに目の前の黒い男は一歩近づいていくとコートに手を入れる。何か武器でも出すつもりかと警戒する二人だったが二人はその予想を上回るとんでもないものが出て来るとまでは思いつかなかった。二人の予想を超えるものソレは・・・・・・・

 

 

「黒い・・・ビーコマンダー!?」

 

 

 つぼみは男が取り出したそれを見て声を漏らす。男が見せてきた者は自分の隣に居る拓哉が持つブルービートの力を宿したビーコマンダーよく似ている物だ。しかしよく見れば全くの別物だと分かる。

 その理由としては次の事が当てはまる。奴が持っているビーコマンダーは拓哉のモノと同形状ではあるが決定的な違いがあるからだ。先ずは銀色の部分はブラックメタルとも言うべき黒い色に染まっていてスイッチは黄色になっている。次にビーコマンダーの中に宿っているインセクトアーマーのパワーソースの象徴であるビーコマンダーの頭頂部にあるのは黒く長い触角があるという点だ。

 黒と言う色に拓哉はすぐに察しがついたあのビーコマンダーの中に眠るインセクトアーマーの正体を・・・・

 

「そうか・・・貴様がブラックビートのインセクトアーマーを・・・お前は誰だ?誰なんだ!?」

 

 

「【シャドー】・・・とでもしておこう」

 

 

「【シャドー】?」

 

 

 突如として自分の目の前に現れたこの男こそが自分の因縁の相手であり自分が倒すべき宿敵。その男の名前は【シャドー】。英語の直訳は【影】と言う意味があるが・・・・しかしそれ以上に気になるのは何故今頃になって自分たちの目の前に生身の姿を見せつけたと言う事。普通ならば変身者であるという事は隠しておけば戦いは優位に進める事が出来る筈なのになぜわざわざ自分の正体を明かす真似をする必要があるのだ?

 

 

「拓哉、大丈夫ですか!?」

 

 

 拓哉は頭の中で様々な推測が湯水の如く湧き出てくるがその思考を隣に居る少女の呼びかけで無意味だと悟ると考えるのをやめる。様々な疑問が残るがそんな事は今はどうでもいい。今はこれ以上は被害を拡大させないと言う事が第一優先。二人は表情を切り替え目の前の男を睨みつける。

 

 

「えりか達が来るのを待ってられない・・・・いくぞ、つぼみ!!」

 

 

「はい!!!」

 

 

 今頃あの二人もこの惨状を聞いて此方に向かって飛んできているはず。しかしそれを悠長に待っている余裕はない。これ以上被害を拡散させないために二人は目の前の相手に向けて変身アイテムを取り出した。

 

「プリキュア! オープン・マイ・ハート!!」

 

 

シプレの胸にピンクの光が集まりひとつになるように収縮凝縮すると結晶に変化する。結晶となったプリキュアの種をつぼみが受け取りパヒュームにセットする。

全身をピンク色の光に包まれつぼみはパヒュームの光を胸に浴びせて光を形成。そして上から下へとプリキュアコスチュームが形勢し身に纏われる。

最後に髪の毛が纏まりロングポニーテールになりココロパヒュームを腰に押し当てキャリーにしまいポーズを決めて大地の戦士キュアブロッサムの姿へと変身完了する

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!!」

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉は変身コードを叫びながら腕をクロスさせてビーコマンダーの一番下の部分にある赤いスイッチを押す。

すると電子音のような音と共に黒い虫の羽根をイメージしたウィングが開きそのままビーコマンダーを空に掲げる。

中にある蒼い鎧騎士ブルービートの甲冑が小型縮小して収納されていてその甲冑が中で蒼く輝きを放つと彼の身体全身が包まれる。

 

 

「ブルービート!!!重甲!ビーファイター!!」

 

 

 ポーズを決めて名乗るあげる二人の戦士。ピンク色の光と蒼い光が同時に煌めいて目の前の相手を眩く辺り一面を照らす。しかしその相手は全く反応すらせず静かに睨み返す事以外何もしない。それがまた不気味さを醸し出していた。

 

「・・・・・・・」

 

 

 二人の変身を見た男は分厚い革コートをその場に脱ぎ捨てると黒いビーコマンダー【ブラックコマンダー】のウィングを展開させる。その中には黒いインセクトアーマーが小型化されて収納されており邪悪なオーラをその場に放たせる。そしてそれをゆっくりと胸の前に持って行き左手を合わせてクロスさせる。

 

「邪甲!!!」

 

 

 【重甲】ではなく邪悪なる鎧の装着の文字をとって【邪甲】。まさに悪の戦士の変身コードには相応しいものであるとばかりに男は黒い光に包まれると一瞬にして全身が黒い鎧に包まれる。光が収縮し現れたのは邪悪なるカミキリムシのインセクトアーマー【ブラックビート】を纏った男がゆっくりとブルービートとブロッサムへと近づいてくる。

 

 

『・・・・・・・』

 

 

 いつにもまして邪悪なる何かを纏っているブラックビートの前にブロッサムはタダならぬ何かを感じ取った。今日のあの男はいつもの感じとは違う。直々に変身した後のオーラを見たこともあるのだろうか・・・・言い知れぬ何かをブルービートとブロッサムは感じ取りながらも逃げるわけにはいかないとファイティングポーズをとってその場で身構える。

 

「スティンガーブレード。はぁあっ!!!」

 

 

 ブルービートは十八番の武器であるスティンガーブレードを構えるとブラックビートに向けて突撃する。ブラックビートはその場に止まったまま動こうとしない。

 

 

「やぁああぁっ!!!(いつもと様子が違いますが・・・・ダメージを与えるにはチャンスですね)」

 

様子がおかしい事にブロッサムは感づいては居たが攻撃のタイミングとしては好機以外何物でもないとブルービートに続きそのままブラックビートに向けてパンチを叩きこむ。攻撃が当たれば強敵といえどもダメージは免れない。二人の全力の一撃が黒いカマキリに放たれる・・・が・・・

 

 

「ふぅん!!!」

 

 

『っ!?』

 

 

 右手でブルービートのスティンガーブレードの刃を左手でブロッサムの拳を受け止めるとブルービートは投げ飛ばされブロッサムは腕を掴まれてブラックビートに耐性を崩されてその場に押し倒されてしまう。

 

「ああぁあっ!?・・・ううぐぅ!?」

 

 

「ブロッサム!!!・・・貴様ぁ、ブロッサムを離せ!!」

 

 

そのまま倒されたブロッサムは腕をブラックビートに掴まれてしまい見事に関節技を決められて動きを封じられてしまった。痛みに悶える彼女を見てブルービートは怒りに拳を震わせてブラックビートへとジャンピングパンチを叩きこんでいった・・・怒りのブルービートの一撃は凄まじい勢いでブラックビートへと叩きこまれていった・・・・が

 

「ふぅん!!!」

 

 

「がぁああぁっ!?!?」

 

 

またしてもブルービートの攻撃が当たる前にブラックビートの左手が彼の顔面へと延びて避ける事を考えていなかった彼はその拳が直撃して殴られてしまった。勢いよく飛ばされたブルービート身体は崩されたビルの壁へと叩きこまれてしまった。

 

 

「ブルービート・・・っ!?・・ぐぅっ!??・・あぁあうっ!?]

 

 

 

 ビルへと飛ばされたブルービートの名前を叫ぶブロッサムは突然腕を引っ張られて身体を立たせられてしまうと腕を振り払われてしまいそのままボディへとパンチを受け続けてパンチラッシュの連打を受ける。

 

 

「くっ!?・・・ぐぅぅうっ!?!?」

 

 

「どうしたキュアブロッサム?俺の攻撃から逃げているだけでは勝てんぞ?・・・貴様は所詮最弱のプリキュアだ」

 

 

「っ!!!」

 

 

 紙一重で腕をクロスさせて防御するも次第にパンチの勢いに身体が耐えきれなくなっていく。更にブラックビートに自分の弱さを言葉と力で示されてしまう。特に「最弱」という言葉はブロッサムの動きがどんどん鈍くさせる最大の言葉となって彼女の精神に突き刺さっていく。

 

 

 

「その程度では張り合う相手にすらならん。消えろ・・・・はぁああぁあああぁああっ!!!!!!」

 

 

 パンチのラッシュを受け続けていたブロッサムだったが防御はもう既に追い付いていない状況。これで最後だとブラックビートは重いはずのアーマーからは想像できないほどの身軽に空へと跳び上がるとそのまま跳び蹴りをブロッサムの身体へと叩きこんでいった。

 

「きゃぁああぁあああぁああぁああああぁああっ!!!!!」

 

 

 女の身体は勢いよく後ろへと噴き飛んでいった。綺麗に決まった飛び蹴りはサッカーボールをゴールへと蹴り飛ばすかのような凄まじいほど勢いで彼女の身体をコンクリートの外壁へと飛ばす。

 

「ブロッサム!!!」

 

 

 瓦礫の残骸の中に埋もれていたブルービートは彼女の悲鳴を聞くなりすぐに跳び上がった。先回りしてブロッサムの後ろへと跳び上がり身体を大の字に広げて勢いよく跳んできた彼女の身体を抱えて受け止めにかかった。

 

「ぐっ!??・・ぐあぁああぁあああっ!?!??」

 

 

 だが勢いが強すぎたことでバランスを崩してしまったブルービートはブロッサムと共に二人仲良く飛ばされる羽目になった。アーマーの背中に走る衝撃に耐えながら右手でブロッサムの身体を抱え左手でを伸ばして何かにつかまろうとする。そしてようやく街路樹の残骸に捕まってようやく勢いを止める。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・ブロッサム、大丈夫か!?」

 

 

 

 少し乱暴な処理であったが自分自身の身体にはそれほどダメージは残っていないとブルービートは息を荒げながらも抱きかかえていた

 

「はい。それよりも貴方こそ私を庇って。ごめんなさい」

 

 

「謝るなよ…俺は大丈夫だから。それより今日のブラックビートは何かが違う・・・気迫と執念がが・・・いや、それ以上に何かが奴から感じられる。一体何が!?」

 

 二人はお互いを庇い合う様に声を掛け合う。ブロッサムを心配させまいとブルービートは難なく立ち上がって見せる。蒼く光る彼の鎧は土埃で汚れているがそれ以外は目立った外傷は見られない。ブロッサムはそれを見て「よかったぁ・・・」と声を呟いた。

 二人はお互いの身体の無事を確認できたことに安心したのか「ふぅ」と息を吐いてすぐに視線を敵であるブラックビートへと戻した。

 

 

 

「・・・・どうした?お前達の実力はその程度か?」

 

 

 全く持って手ごたえが感じられないと言わんばかりの態度でブラックビートは二人を見下していく。いつも以上の気迫とパワーを見せつけているブラックビートを見てブルービートとブロッサムは恐怖を感じながらも普段以上に高圧的で舐め腐っているその態度を見て怒りが募る。

 

「っ・・・・・セイバーマグナム」

 

 

 ブラックビートの動きがいつもの2倍いや10倍以上も機敏であり2人の攻撃パターンが読まれてしまっている。いつも以上の強さに二人は驚愕しながらも負けてなるものかと激情したブルービート立ち上がりながらブラックビートへとセイバーマグナムを向ける。

 

「・・・・」

 

 

 聖なる銃を見せつけらえながらも全く怯まないブラックビート。そのまま二人へと近づいてくるのにブロッサムは違和感を覚える。今のブラックビートの気迫と強さは普通ではないと言う事以外に何かを感じるのだ。

 

 

「マキシムビームモード!!!」

 

 

 

 全力でのマキシムビームモードを連射で発射するがブラックビートはそれを弾いてしまう。そしてそのままゆっくりと近づいていきブラックビートはブルービートへと拳を叩きつける。

 

 

「ぐあぁあっ!?・・・」

 

 

 拳で怯ませた次の瞬間にブラックビートはブルービートの首へと腕を伸ばしてそのまま掴んで彼の身体を持ち上げてみせる。あまりの苦しさにブルビートはセイバーマグナムを地面へと落としてしまい腕を地面へと垂らす。左手でブラックビートの腕をつかんではいるが大した抵抗にはならない。

 

 

「甲斐拓哉・・・ブルービート!!。貴様の喜び、怒り、悲しみ・・・それら全てを見てやる。奪ってやる!!!」

 

 

「ぐっ!?・・・何がお前をそこまで・・・お前は一体何者なんだ?・・ああぁがぁっ!?」

 

 

 目の前の黒い鎧騎士を憎んでいるのは自分とて同じ。しかし自分とは違うベクトルの怒りの感情を感じるとブルービートは彼に向けて問いただす様に言葉を投げかける。ギリギリギリギリとブラックビートは首をしめながらブルービートを睨むように黄色い瞳を光らせた。

 

 

「俺はおまえを倒す。お前がいる限り俺は俺になれない。これは【光と影の闘い】。俺と貴様の宿命の闘いだ!!」

 

 

「【光と影】・・・俺とお前の宿命!?」

 

 

 俺を倒さなければ奴は自分自身になれない?どういう意味なんだ?ダークプリキュアもゆりネェに同じ事を言っていたが。俺とこいつに何の因縁があると言うんだ?俺の父さんをコイツが・・・・殺した以外に何があると言うんだぁ!?

 

 

 拓哉はブラックビートの【シャドウ」の言葉を聞き頭の中が混乱を極めた。コイツに自分が抱いている思念とは違う何かがあるというのか!?それは一体!?

 

 

「やめてください!!・・・ブルービートを離してください!!!」

 

 

 ブルービートの中でブラックビートへの疑惑が深まる中突然現実に引き戻すかのようにブロッサムがブラックビートの腕へとパンチを叩きこんで無理矢理ブルービートのを離れさせる。ブラックビートはそれを見てターゲットをブロッサムへと切り替えるように鬼のような形相で睨みつける。

 

 

 

「貴様ぁ、邪魔をするなぁ!!!!」

 

 

 黄色い瞳を光らせたその眼光は悪魔以上のオーラを放っている。目の前の黒いカミキリ虫の戦士のその眼光は獲物を捕らえる前に動きを止める蛇にも似たようなモノであったのだ。その瞳を見たら大概の人間は次の様になってしまうだろう・・・・

 

 

「っ!?・・・あぁ・・・ぁっ・・・っ!!!」

 

 

 

 そのブラックビートの威圧によって恐怖からか身体が全く動かせなくなったブロッサムは震えが止まらなくなってしまう。計り知れないほどの怒りと憎しみは彼女の理解を超えているとでもいわんばかりだ。

 だがブラックビートは容赦はしなかった。何の躊躇もなくスティンガービュートをブロッサムの首へと伸ばすとそれをワイヤーモードにして絡めていきブロッサムの呼吸を奪う。

 

 

「あぁあっ!?・・・ああぁああぁあああぁあああああぁああっ!?!?!?!?」

 

 

 首に絡められたスティンガービュートから眩いばかりの光と共に電撃を放たれるとブロッサムはプリキュアの変身を解除されてしまい花咲つぼみの姿に戻ってしまう。戸惑っている暇すら与えられないままブラックビートのワイヤーによってつぼみは引き寄せられてしまう。

 

「つぼみ!!・・・やめろ、つぼみを離せ!!」

 

 

 ブルービートがつぼみを助け出そうと大急ぎで走るがその前にブラックビートは彼女の首へとチョップを放って気絶させてしまう。ブラックビートは気絶した彼女をお姫様だっこをして抱きかかえるとブルービートから距離を置いた。

 

 

「丁度いい人質が出来たな。今からゲームを始めよう」

 

 

「ゲームだと!?」

 

 

 

「ルールは簡単だ。今日の午後5時までにコイツを隠している場所を見つけてみせるだけだ。・・・だがもしもそれまでに見つけられなければコイツは俺が貰う。」

 

 

「つぼみをゲームの道具にするつもりか?・・・彼女は関係ない!!!俺と戦いたいなら一対一で勝負しろ!!!」

 

 

「勘違いするな。貴様を倒すことに変わりはない。だが・・・その前に貴様がそれに値するか試させてもらうんだよ。貴様の強さが”俺がこの手で殺した”貴様の父親を超えるかどうかのな」

 

 

 

 つぼみの華奢である身体を抱えていきブラックビートはブルービートを睨みつける。彼女を助け出そうとブルービートは動きだすもその前に彼に向けてそれだけ言い残すとブラックビートは姿を消してしまう。

 

 

「ぐぅ・・・・・くっ・・・・・・」

 

 

 残されたブルービートは破壊された建物のコンクリートに拳を叩きこむ。その下にはつぼみのココロパヒュームが落ちていた。それを拾い上げて握りしめるとその数秒後にはその場に膝をついてしまったブルービートは重甲を解除して拓哉の姿に戻るとは大声で吠える。

 

 

「うぁああぁあああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

 

 自分がいたにも関わらず少女一人を守れなかった事に対しても無力感と怒りが止まらなかったのだ。そして何より因縁の相手に自分の大切な人を“二度も奪われた事”が拓哉にとって一番辛く何よりも許し難い現実だったのだ。

 たった一人で獣のように叫び続ける拓哉はブラックビートへの怒りが今まで以上に豪炎の如く燃え上がった。パヒュームを握りながら拳を震わせて何度も吠える。声が彼の喉が潰れそうになるまで。

 

「・・・・・・」

 

 絶対に許せない・・・自分の大切な人を”一度ならず二度までも”奪おうとするあの黒い戦士を。叫び続けた拓哉の心の中である決意が生まれた。絶対につぼみを助け出しブラックビートへ雪辱を晴らすと。

 



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第37話「つぼみを救え!!’黒の挑戦ー後篇ー」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

 拓哉はシプレと共に希望ヶ花の街を走り回っていた。デザトリアンもサソリーナ達も出ない事も気にならないままたった一人でシャドーに拉致されてしまった彼女を探すつもりなのだ。

 

 

「・・・・・」

 

 

 一人でただひたすら拓哉は街中を全力で走り続ける。奴(シャドー)がどこに彼女を監禁しているのか分からないまま夏の日差しが照りつける熱線を身体中に受け顔や身体中から汗を噴きでるのも気にしないまま。体力だけが削られるが休むことすら考えず手がかりも何もないまま時間だけが過ぎていく。時計を見ればタイムリミットの午後5時まで残り一時間と三十五分にまでなってしまっていた・・・時間がない。このままでは彼女が・・・・・

 

 

「つぼみ、無事でいてくれ!!!」

 

 

 つぼみの身に何かが起きてしまえば全ては自分のせいだ。あの時しっかり守る事が出来ていればこんな事には・・・拓哉は自分の力の無さを呪った。

あの時の闘いは普段と違い情に流されていたのは確かなる事実だ。普段の自分らしなく奴(シャドー)の挑発に簡単に乗って感情的になったばかりに彼女をこんな危険な目に巻きこんでしまったのだ。

やはり自分には仲間なんて持つべきではなかったのか?ただ一人で守護者(ビーファイター)として奴(ブラックビート)と戦っていれば誰も傷つけなかったんじゃないか?少なくとも今の様な事にはならなかったんじゃないのか!?

 そんな思考が拓哉の頭の中でグチャグチャとかき回されていき焦りと自分自身への怒りが自分で自分の精神をどんどん追い詰めていく。

 

 

「時間がない・・・くそぉ!!!」

 

 必死に思い当たる場所へと拓哉は向かおうと走るが一人で探すとなるとこの希望ヶ花も広すぎる。それに手がかりがゼロなこの状況も重なってしまえば雲を掴むような難題だ。それでも何か行動に起こすと言う事で身体を動かさないよりは精神的に自分を保てるためか当てもないまま一人での捜索を続ける。その中で突然地響きが響いたのを感じ立ち止った。

 

 

「っ!?・・・あれは・・・デザトリアン!?」

 

 

「グオォオオォオォォオォオオォオオオ!!!!!!!!!!」

 

 

 まるで今の拓哉の心の中に渦巻く不安を増長させるがためにデザトリアンが出現した。しかもその姿は以前に一度現れたブラックビートを思わせる黒い身体に黄色い瞳をした強化タイプのものであった。まさかこの近くにつぼみが!?拓哉は僅かなる期待を心に抱く。

 

 

「はははははは!!!!」

 

 

「サソリーナ、コブラージャ」

 

 

 走る拓哉の前に突然現れたサソリーナとコブラージャ。二人の顔は笑っておりいま彼のおかれている状況全てを把握している様子であった。まさかブラックビートとの共同作戦を最初から計画して狙っていたのか?その疑惑が拓哉の中で抱かれると後ろに控えているデザトリアンが咆哮をあげた。

 

「久しぶりだね。ブルービート」

 

 

「あらぁ?汗まみれになっちゃって・・・もしかして取り込み中だったかしらぁ?」

 

 

「ふざけるなぁっ!!!」

 

 

 今の自分の慌てふためいている姿を茶化された事に拓哉は感情を荒げながらそう言い返した。緒初という事は分かっていても今の彼の精神状態では冷静さを保つこと事は無理難題に等しい。特に目の前のコブラージャとサソリーナの一言一言はイライラを増長させるには十分なものであることも重なっているのだ。

 

「ブラックビートの作戦に付き合うつもりはなかったけどサバーク博士の命令でね。・・・それにプリキュア一人を潰すという作戦は僕らにとっても好都合。悪いけどここから先にはいかせないよ?」

 

 

「っ!?・・この先につぼみが・・・そうなんだな!!!!」

 

 

「正解よぉ~ん。しっかしアイツもわざわざアンタにヒントを与えるなんて意味がわからないわねぇ。ほっておけばあの“最弱のプリキュア”を・・・・っ!?」

 

 

 サソリーナが言葉を続けようとした瞬間に目の前から徒ならぬ殺気を感じて言葉が止まった。視線をその方向に向けてみるとそこには甲斐拓哉の形相が凄まじいものに変化している。【鬼】いや、【阿修羅】を思わせるような凄まじい形相であり憎悪や怒り憎しみと言った全ての感情がサソリーナとコブラージャに向けられていたのだ。

 

「つぼみが最弱だって?・・・その発言だけは許さない・・・絶対に許さない。・・・・重甲!!!」

 

 

 

 拓哉は激昂したままインセクトアーマーを速攻で纏ってその身を包む。速攻で纏われた身体を素早く動かして目の前の敵へと走った。ガシャ、ガシャと歩く音を響かせるその音と彼から放たれるオーラにコブラージャとサソリーナは一瞬だけ恐怖心が生まれたのか怯んで動きが止まってしまう。だがそれ以上の動揺を見せる事は幹部としてのプライドが許さなかった様子で強化型デザトリアン【デザートデーモン】をブルービートに向かわせた。

 

 

「うぉおおぉおおぉおおおおおお!!!!!!」

 

 

 喉が潰れてしまうかもしれないほどの唸り声をあげて迎え撃たんと突進してきたデザートデーモンの巨大な身体にブルービートは渾身のダブルパンチを叩きこんで吹っ飛ばす。それによって巨体は放物線を描きながら宙を舞っていくと数秒後にはアスファルトの地面へとめり込むほどの勢いでその巨大な身体は叩きつけられた。

 

「スティンガーブレード!!!」

 

 

 次の瞬間には素早くスティンガーブレードを装備してサソリーナとコブラージャへと斬りかかった。しかしその攻撃は空を斬っただけで紙一重で避けられてしまう。怒りに我を忘れてしまっている今の彼は本来の戦い方を忘れてしまっているのだ。

 怒りにまかせてスティンガーブレードを振り下ろすブルービートだがサソリーナとコブラージャの動きに翻弄される。中々思い通りに戦いが進まない事にブルービートはイライラが募る。

 

 

「何を焦っているんだい?そんなにあの娘の事が気になるのかな?」

 

 

「まぁ、無理もないわよねぇ~アンタが守れなかったから巻きこまれたんだからぁ…」

 

 

「それは・・・・っ!?・・ぐあぁあぁあああぁああぁあっ!?!?」

 

 

 サソリーナとコブラージャの言葉はブルービートの心に深く突き刺さった。ブルービートは二人の言葉に動揺し動きが一瞬止まってしまう。その瞬間にコブラージャのカードによる射撃攻撃が放たれインセクトアーマーに突き刺さると爆発してブルービートはその炎と煙に包まれる。

 

 

「っ!?」

 

 

 爆発で視界がハッキリしない中で突然ブルービートの首にサソリーナの髪が絡まり彼の呼吸を奪う。そのまま身体を持ち上げられてしまう。

 

 

「僕たちの屈辱をタップリと教えてあげよう。さぁ、地獄に堕ちるがいいブルービート!!」

 

 

 ブルービートの動きを止めた事を確認しコブラージャはカードを構える。一気に彼へトドメをさすつもりなのだ。ブルービートは何とか逃れようと暴れるがサソリーナの髪の毛はしっかりと動きを固定されてしまって逃げられない。もはやこれまでなのか?つぼみを助けられないまま・・・・ブルービートの諦めと共にコブラージャから何枚のカードが彼に向って飛んだ。

 

ブルービートに発射されたカードが彼に直撃すると凄まじい爆発音が辺りに響き渡ると辺りには視界がホワイトアウトしそうなほどの土埃に包まれる。コブラージャはしてやったりと言わんばかりの笑い声をこぼしながら口元を歪ませる。

 

 

「ふっふふふ……あっははははは!!!」

 

 

 今までの恨み辛みを発散したとばかりの態度でコブラージャは大声で笑って見せる。サソリーナもコブラージャと同じように笑みを見せてはいるが態度はどちらかと言えば物静かであった。

 

 

 「これであたし達は大手柄よぉん」

 

 

 ブルービートを倒しキュアブロッサムの変身者である花咲つぼみを手中にある今の状況はまさに砂漠の使徒にとっては願ってない大チャンス。これで【こころの大樹】の守護者はあと二人。

 その二人さえ消せば自分たちが地球を一気に占領し砂漠化するのも遠い未来ではないとサソリーナははしゃぐ。キュアムーンライト討伐以来の手柄であるという事と今までの鬱憤が一気に晴れた事で気分爽快と言わんばかりの態度だ。

 

 

「ふぅん。では引き上げるとしよう。いつまでも此処に居るとセットした折角スタイリングした僕の髪やコートが汚れてしまう。さぁ、早く帰るよサソリーナ」

 

 

 大はしゃぎのサソリーナとは対照的にコブラージャはクールにそう言う。勝負が決まった今となればもはやこの場所に長居する必要はないから当然の判断だ。爆発で発生した土埃で髪や衣装を汚されるのは彼にとっては不快以外の何物でもない。サソリーナはコブラージャの催促を聞いて途端に不機嫌になった態度で振り返る。

 

「はいはい。ったくもう・・いい気分だったのに」

 

 

もともとこの二人は反りが合わないが今回ばかりは大目に見てやるとサソリーナは渋々コブラージャの催促に応じ背を向けゆっくりと歩き出した。しかし次の瞬間二人の後ろが黄金色の光が発生した。

 

「な、君は!?」

 

 

「キュアサンシャイン!?」

 

 

 二人は光の主の正体を見て淡い期待が一気に崩れ去ったのを悟った。ブルービートの前にはサンシャインの黄金の盾【サンフラワーイージス】が出現しておりコブラージャの一撃をギリギリのところで全て受け止めて防ぎきったのだ。

 

 

「さ、サンシャイン!?・・・如何してここに!?」

 

 

「シプレのお陰だよ。【つぼみを必死に探してるブルービートが危ない】って泣きながら私達に状況を伝えてくれたんだ」

 

 

「ホントにもう。なんであたし達を呼ばないで一人で抱え込んじゃうかな?」

 

 

「マリン、お前まで……」

 

 

 膝をつき締められた首を抑えて呼吸を整えるブルービートの前にもう一つの影が彼にそう呼びかけた。その正体はキュアマリンでありブルービートに向けて呆れたような表情を浮かべていた。マリンの言い分に彼はバツが悪そうになってしまって何も言い返せない。

 確かに今思えば二人にちゃんと連絡すればもっと効率が良かったかもしれないのにそれすら頭になくただ一人で俺は……ブルービートは焦る気持ちを抑えるように首を横に振って自分で自分を奮い立たせるように立ち上がる。

 

 

「おのれぇえ!!!……はぁああっ!!!」

 

 

 コブラージャは援軍が来た事に怒りを見せてカードを乱射して3人に攻撃を放つ。しかし今度の攻撃は3人には当たらず同時にそれを跳び上がって避ける始末になってしまう・・・。折角の勝利と言う名の美酒に酔いしれようとしていたのを邪魔されてしまった事で完全にペースを崩されてしまった為に早くも形勢がブルービート達に優位になり始めてきた。

 

「よくもやってくれたな。やられた分タップリお返しさせてもらうぞ。それも10000倍返しでな!!」

 

 

 ブルービートはそう言ってサソリーナとコブラージャに向けて逆襲だとファイティングポーズをとり向かっていこうと走る。だがその彼の前にサンシャインとマリンが立ってブルービートの語気を止めた。

「何の真似だ二人とも!?」

 

 

二人の唐突な妨害に驚くブルービートだがマリンはその彼を余所に前に出て柔軟体操を始めて見せた。

 

 

「ここはあたし達が引き受けた。ブルービートは先に行って」

 

 

「お前、何言ったんだ。二人だけでなんて危険すぎるぞ!!」

 

 

 いくらなんでも無謀すぎる。幹部二人にデザートデーモンが相手となれば形勢は一気にマリン達の不利になるのは火を見るよりも明らかだ。つぼみを助けるための時間がないといえども仲間をみすみす危険な目にあわせるなんてブルービートには出来る筈がないとそう言い返すがマリンも引かずに彼の顔に自分の顔を近づけた。

 

 

「ホントにアンタって誰にでも優しいんだから。それが誰よりもいいところでもあるんだけど……偶にはあたし達に頼ってくれてもいいんじゃない?こういう時ぐらい仲間に頼ってよ!!」

 

 

「……」

 

 

 目の前の少女にそう言われてブルービートは何も言い返せなくなった。自分の事を親以外で知っていると言えば今目の前に居る彼女ぐらい。確かにブルービートの変身者である甲斐拓哉は人に頼ると言う事を極力避けてきた節があったのは事実。今だってつぼみを自分一人だけで助けようとした事もだってそうだ。しかし二人だけに敵を倒す事を任せるのは不安が消し去れないのもまた事実。

 

 

「私達なら大丈夫。ブルービートはつぼみを助けてあげて。つぼみだってその事を望んでいるはずだから」

 

 

 その彼の心中を誘ったサンシャインがマリンと同じく前に出てブルービートを諭すように声をかけた。二人の姿を見ていつになく逞しく今の自分よりもはるかに強いと思えた。今の二人なら………拓哉はブルービートの蒼く輝く仮面の下で目を閉じて精神を落ち着かせる

 

「分かった。必ず、必ずつぼみを連れて戻ってくる。だから二人とも……頼むぞ!!」

 

 

 二人の気持ちを受け止めたブルービートはコブラージャとサソリーナを飛び越えるように大きくジャンプしていくと着地点に居るデザートデーモンを足場にしてもう一度跳び上がった。振り返ることなく彼は身体を動かしこの先に待つ花咲つぼみを救出するために全速力で走った。

 

 

「随分な真似をしてくれるじゃないか。でも手間が省けたというモノだね。君達も片づけてあげるよ」

 

 

 ブルービートには逃げられてしまったがキュアマリンとキュアサンシャインという倒すべきターゲットが自分から現れるなんて無駄な手間が省けたというもの。ブルービート討伐は後回しになるがそれでも順序が変わるだけで大した問題ではないと考えついたようだ。

 風がふいたのをのを合図にマリンとサンシャインが右側からデザートデーモンが左側から突進して双方は希望ヶ花の繁華街を舞台にしてぶつかり合っていった。

 

「寒い………身体が凍りついちゃいそうです」

 

 

 その頃つぼみはデザートフィールドの闇に心が染まり始めていた。ブラックビートに拉致され閉じ込められてから既にどれぐらいの時間がたったのか分からないまま時間だけが過ぎていき次第に何も考えられなくなってきてしまった。

 暗いだけならまだいいがデザートフィールドと言うこの空間は夏だと言うのに真冬のように寒く堪らない。身体が凍えるかのようなその寒さと月明り以外に照らす物がないその空間の【無限の闇】が彼女を蝕んでいき次第に絶望が心を侵食してくる。

 

 

「このまま私はデザトリアンにされてしまうんでしょうか?……そうなったらもう皆にも・・・」

 

 

 ブラックビートの言葉がもしも真実であるのなら絶望に心が染まりきったその瞬間にデザトリアンに変化させられ一生元に戻る事がないまま【こころの花】が枯れ果てるまで砂漠の使徒に利用されてしまうのだろうか?そうなったらもう・・・・・

 つぼみの瞳から光が徐々に失われていき絶望が心を呑みこんでいく。もはや絶体絶命なのか?誰にも看取られることなく事もなく人間でなくなってしまうのか?絶望が絶望を呼び空間の闇に彼女の全てが溶けはじめていく。

 

 

「・・・・・み」

 

 

「っ!?」

 

 

 絶望に心が呑みこまれかけたその時つぼみの耳に何かがうっすらと聞こえてきた。幻聴が聞こえるほどにまで精神的に追いつめられてしまったのかと彼女は一瞬混乱するが耳を澄ませてみるとその声は徐々にはっきりとしてきた。その言葉は・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「つぼみ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この声は・・・・・拓哉!?」

 

 

 自分の名前を呼ぶ声。そして聞き覚えのある声…拓哉の声を聞いてつぼみは途端に正気を取り戻した。拓哉が自分を助けるために必死に頑張ってくれている。だとしたら・・・まだ諦めには早い。まだ終わってはいないのだ。野球で例えるなら勝負はまだ9回表。

 だったら9回裏に逆転満塁サヨナラホームランを打てるほどの大反撃があるかもしれない。今の自分にとってその逆転の可能性を秘めているのは甲斐拓哉だけだ。

 

 「まだ諦めちゃダメ・・・ですね。私が諦めちゃったら拓哉ともう一度デートするって言う約束が果たせなくなっちゃいます。それに私はまだ彼に伝えたい事があるんです!!」

 

 

その彼が今この場所を必死に探して自分を助けようとしている………ならば諦めるにはまだ早すぎると少女は気がつくと大きく息を吸い込んで次の瞬間には自分が出せる最大限の大声を出した。

 

 

「拓哉、私は此処です。此処に居ます!!!」

 

 

 彼にこの声が聞こえるかどうかわからない。しかし叫ばずにはいられないのは人情というもの。自分を必死に探してくれている彼にこの声が届くと信じて花咲つぼみは暗闇と寒さに心と身体が蝕まれそうになりながらも拓哉にこの声が自分の想いが届くと信じて叫び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つぼみ!?・・・っ!!」

 

 

 外の世界で必死に探していたブルービートに一瞬だけつぼみの声が聞こえた。そしてその後は彼女の気配を感じその場所へと突き進んでいくと着いた場所は暗く冷たい廃屋のようになっていて今はもう随分と長い間使われていない地下道だった。

 

 

「クモジャキー!?」

 

 

 闇が続く中でもブルービートや躊躇なく突き進んだ。その理由は此処に彼女がいる…絶対に居ると確信を持っているからだ。突き進んだ先に見えた者は巨大な黒いエネルギーで作られた壁。そしてその前には無数のスナッキー軍団とつぼみを攫った張本人のブラックビート……ではなく強さ以外には全く興味を示さない脳筋男クモジャキーが待ち構えていた。

 

 

「待っていたぜよ。ブルービート!!さぁ、俺と勝負じゃぁ!!!」

 

 

「今はお前の相手をしている暇はない。そこを退けぇ!!!!」

 

 

 クモジャキーの号令にあわせて配下であるスナッキー軍団が一斉に走り出す。それと同時に右手にスティンガーブレードを左手にパルセイバーを逆手持ちにして同時に構え自分へと向かってくるスナッキーの大軍団へと向けて蒼い鎧戦士も走り出した。

 

 

「たぁあ!! だりゃぁあぁああっ!!!!」

 

 

 どれだけの数が自分に牙を向けようともブルービートは怯むことなくブレードの刃をスナッキーに振り下ろしパルセイバーの刀身を突き立てて斬っては投げ千切っては投げといった風に何十体と倒していく。

 

 

「キーーーーっ!!!」

 

 

「ぐあぁっ!?・・・ぐぉお!?!?・・・くっ・・・でやぁあぁっ!!!」

 

 

 時には手足を封じられてアーマーに打撃を受けて火花が散るが其れにも怯まず力でなぎ倒し砂漠の先兵共を次々と切り刻む。雑魚相手にいつまでも時間がかけて居られないとスティンガーブレードのハッチを開きギアを高速回転させてブレードの刀身へとエネルギーを溜めていく。

 

 

「ビートルブレイク!!!!!」

 

 

「キキーーーーーーッ!!??」

 

 

 スナッキー軍団に向けて蒼く輝かせたスティンガーブレードをX文字に振り下ろして何十匹も消滅させる。一個小隊が消滅させたがまだまだ雑魚軍団の数は星の数ほどあり全滅には時間がかかる、しかしそれでも目の前に自分の助けを待っている彼女の為にとブルービートは怯まずビートルブレイクの第二波の発動体勢に入る。

 

 

「キキーーーーーーッ!!!!!」

 

 

「ぐっ!?・・数に頼んでゾロゾロと。うわぁあぁあっ!?!?」

 

しかしスナッキーも仲間が倒されていく事にただ黙って応じるつもりはない。ビートルブレイク第二波を続けて発射態勢で出来た隙をつくように狙いを定めると数で勝負に出たのだ。数で勝るスナッキー軍団がブルービートに向けて跳び上がって彼に覆い被さり強引に動きを封じにかかった。

 

 

「あの音はスティンガーブレード!?・・・・拓哉ぁああぁ!!!!」

 

 

 スティンガーブレードの抜刀の音と爆発音が響いた事につぼみは向こう側に彼が居る。そう判断して迷わず大声を上げた。自分のこの声が彼の力になればいいと想いを込めて彼の名前を力の限り精一杯叫んだ。

 

 

「っ!?・・つぼみ!?」

 

 

スナッキー軍団に動きを封じられたブルービートには今確かに聞こえた。あそこにつぼみは居る。それを知った次の瞬間に彼の力は限界点を一気に超えインセクトアーマーが蒼く光り輝くと大量のスナッキー達を一気に吹き飛ばし消滅させる。

 

 

 

「邪魔だお前ら、今すぐにそこを退けぇえぇえッ!!!!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 気が付けば一瞬の間にクモジャキーとの間合いがゼロ距離となり蒼い鎧戦士は真っ向からブレードの刃を振り下ろしていた。クモジャキーは咄嗟に剣を構えてブルービートの斬撃を防ぎきったが勢いが尋常ではなく威圧と殺気に身体が押し戻されてしまう。

 

 

「でやぁあぁっ!!!」

 

 

「ちっ!?・・しまった!!」

 

 

 怯んだその次の瞬間にはクモジャキーはブルービートのパワーに力負けして勢いよく後ろへと投げ飛ばされた。その瞬間をブルービートは身体にある全てのパワーを脚に集中させて跳び上がると巨大な壁に向けてスティンガーブレードを向ける。

 

 

「ビートルブレイク!!!うぉおぉおおおおおぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

 

 スティンガーブレードに蒼い光を集め渾身のビートルブレイクを黒い壁と叩きこんでやった。代償としてスティンガーブレードが刃こぼれして真二つに折れてしまう。しかしその数秒後には壁の方にも変化が見られる。

 金属音にも似た凄まじい音が辺りに響くと壁に罅が入りそれが大きな亀裂になってピキピキピキと音を立てて割れる。次の瞬間には大きな崩壊音を響かせて黒い壁が粉々になってその破片が辺り一面へと飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

 

「・・・・拓哉?」

 

 

「つぼみ………つぼみぃ!!!」

 

 

 つぼみが粉々に砕かれた壁の中から現れたのを見てブルービートは一瞬だけ動きが止まるがすぐに我に返ると大急ぎで彼女に駆け寄った。つぼみはその場にペタンと尻餅をついて動けないでいて何かあったのではないかと心配になり身体を抱き寄せた。

 

 

「よかったぁ!!無事でよかった!!!」

 

 

「拓哉のお陰です…ありがとうございます。グス・・・っ!!」

 

 

 少し力が強いため窮屈に感じるがそれだけ自分を心配してくれたのだと感じ感動して目頭が熱くなってきた。気が付けば涙の筋が頬に出来ていて感情が爆発して今度はつぼみがブルービートの身体を思いっきり抱きしめ返した。

 

 

「怖かった、怖かったです。あのまま私は私じゃなくなって消えてしまうんじゃないかって思ったらとてつもなく不安で……貴方にも二度と会えなくなってしまうと考えたらもう・・・」

 

 

「つぼみ………ゴメンな俺のせいでこんな目にあわせちゃって。もう二度こんな目にあわせたりしない」

 

 

 自分が弱かったばっかりに彼女を危険な目にあわせてしまった。もう二度と彼女を危険な目にあわせない。今日ブラックビートに彼女を奪われて迷っていた気持ちがはっきりして確たるものになった。

俺は彼女の事が好きだ。自分がブルービートの力を手に入れた理由なんて比べ物にならないほど何よりも大切な存在となった。

 今この時より俺は彼女を守るために・・・・信ずる者との愛を守るために戦う。拓哉の中で戦う決意は新しいものとなったのだ。

 

 

「(……父さん、俺やっと見つけたかもしれない。俺が本当の意味で戦う理由を。貴方の為にもそして・・・彼女の為にも俺は戦う!!)」

 

 

 今思えばその為の俺は父から力を受け継いだのかもしれない。こんなにも簡単なことだったのに……いや簡単だからこそ一番難しいのかもしれない。でももう俺は自分の為だけに戦わない。目の前のこの娘を・・・花咲つぼみを俺は守り通して見せる・・・どんな事があっても!!

 

 

 

「いつまで馴れ合っとるつもりじゃ?・・・俺と戦えブルービート!!」

 

 

 場違いである事を自覚しないままクモジャキーは二人にそう吠えて現実へと引き戻しにかかった。ブルービートとつぼみは同時に立ちあがるとクモジャキーを睨み返してやりお互いに視線がぶつかり合った。

 

 

「つぼみ、掴まれ」

 

 

「えっ!?」

 

 

 先ずは仲間達の元へと合流だとブルービートがつぼみの手を左手でしっかり握りインプットマグナムを構えて煙幕弾を乱射する。辺り一面白い霧が発生するとクモジャキーは意図に気が付いて急いで近づいていくが時はすでに遅い。ブルービートとつぼみの姿は既になく取り逃がしてしまったのだった。

 

 

「おのれぇええぇええええぇえええっ!!!!!!」

 

 

 戦わずして逃げられた事にクモジャキーは怒り吠える。戦わずして逃げられるなど彼にとっては屈辱の極み以外何物でもない。その後しばらくは地下通路では男の唸り声が響いたというのはその後の二人は知るよりもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃マリンとサンシャインはコブラージャとサソリーナと激闘を繰り広げなんとか均衡状態を保っていた。強化型デザトリアンのデザートデーモンの力は凄まじくマリンとサンシャインだけでは力不足が否めなかった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

 

「ふっふっふ・・・終わりだよ。人間共も、この地上も!!」

 

 

 息使いを荒くする二人に近寄るコブラージャとサソリーナ。作戦がうまくいっていれば今頃ブルービートとキュアブロッサムは倒せているはず。この二人を消せば世界は一気に砂漠の使徒のモノになると言う野心を胸に秘めながら海の戦士と太陽の戦士に向けてトドメの一撃を放つ体勢に入った。

 

 

『っ!!!』

 

 

 コブラージャが手にカードを持った瞬間マリンとサンシャインは避ける体勢を取りながら後ろへと下がる。そろそろタイムリミットの5時になった頃合いなのにブルービートは戻ってこない。コブラージャの自信にあふれた態度を見てしまうと二人は不安と焦りが生まれずにはいられない。

 

 

「(拓哉、何で来ないのよ?約束したじゃん……なのに、アンタが約束を破るなんてあり得ないでしょ!?」

 

 

 嫌な予感がしてならない。ムードメーカポジであるはずの自分らしくない不安を抱きながらマリンはファイティングポーズを崩さないままコブラージャとサソリーナを睨む。しかし次の一撃を食らえば変身維持も危うい状況。もう後がない………絶体絶命だ。

 

「待てぇえ!!!」

 

 

 絶体絶命のその時…・・遠くから響く声を聞いてマリンとサンシャインは勿論であるが敵側であるはずのコブラージャとサソリーナも視線を向けた。その先には此方に向けて走ってくる二つの影が見える。その二つの影の正体は・・・・・

 

 

『!?』

 

 

 此方に向かって走ってくる二つの影………その二人の姿を見えてマリンとサンシャインは目を輝かせる。理由は言うまでもない……自分達の元に花咲つぼみを連れて戻ってくると約束した甲斐拓哉の姿だったからだ。

 

 

「待たせたな二人とも」

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

 

 まさにピンチの所にヒーロー参上と言ったところであろう。想定外の事にサソリーナとコブラージャは完全に動揺していて言葉を失い絶句しているがその二人に構わず拓哉とつぼみはマリンとサンシャインの前に立ちこれ以上は大切な仲間を傷つけさせないと目の前のサソリとコブラを睨みつけた。

 

 

「つぼみーーーーっ!!!・・・よかったですぅ!!」

 

 

「シプレ、心配掛けてゴメンなさい。でも拓哉のお陰で助かりました」

 

つぼみの無事を確認したシプレが彼女に飛んできた。シプレは歓喜溢れたのか涙を流して彼女の胸を濡らしていて如何に自分を心配したかを感じる。そして今度は自分が戦う番だと拓哉から渡されたココロパヒュームを取り出し拓哉も其れにあわせてビーコマンダーを出して見せる。

 

 

「つぼみ、行くぞ!!」

 

 

「はい!!!」

 

 

『重甲!!/プリキュア!オープン・マイハート!!』

 

 二人は同時に変身アイテムを光らせるとピンク色と蒼い光を発生させる。つぼみの腕が光れば拓哉の腕が装甲に包まれ上半身がスカートワンピースに変われば拓哉の上半身が鎧に包まれる。最後につぼみの瞳の色が変わりロングポニーテールになれば拓哉の顔が蒼きカブトムシの仮面に包まれ二人は同時に変身が完了し眩い光を辺りに放つ。

 

 

「ブルービート!!!」

 

 

 

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!!!」

 

 

 同時に変身を終えたブルービートとブロッサムは決めポーズを決めてその場で名乗り上げた。その姿は普段の倍いやそれ以上の勢いと気迫があり拓哉とつぼみの絆の強さを表すかのような程であった。

 

「マリンとサンシャインは休んで居てくれ。ここからは俺達が引き受けた……ブロッサム行くぞ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 マリンとサンシャインを気遣いながらブルービートはブロッサムのほうに視線を合わせると言葉で合図を送ると二人は同時のタイミングで走る。助走をつけて十分な勢いをつけたブルービートとブロッサムは同時に上へと跳んでブルービートは先制攻撃でのお得意技であるフライングダブルパンチアタックをコブラージャにブロッサムはサソリーナに向けて跳び蹴りを放ってみせた。

 

 

『ぐぉおおぉおっ!?!?』

 

 

 幹部二人を吹っ飛ばしたことでマリンとサンシャインを痛めつけた分の一部を清算した二人は次にデザートデーモンへとターゲットを変更する。視線を感じたデートデーモンは自分があの程度の相手に負ける筈がないという慢心があったのか怯むことなくブルービートとブロッサムへと向かっていった。

 

 

「ウガァアアアアアアアアアアアアアアァアッ!!!!」

 

 

「パルセイバー、パルスラッシュ!!!」

 

 

ブルービートは折れたスティンガーブレードの代わりにとパルセイバーを右手に持ち素早い動きでデザートデーモンの脚へとパルセイバーからの一閃攻撃であるパルスラッシュを放ってその場に転倒させる。

 

 

「ウゴオォオオォオオオオオ!!!!」

 

 

「ブロッサム・ダブルインパクト!!」

 

 

 すぐに立ち上がるデザートデーモンであったがそれに続きブロッサムが素早く距離を詰めた。ブロッサムインパクトの応用技であるブロッサム・ダブルインパクトをデザートデーモンの胸に向かって放った。

 小さい光の鉄拳が一つ増えて程度では痛くも痒くもない。そうデザートデーモンは思っていただろうが次の瞬間には胸の中央で大爆発を起こしてデザートデーモンへ大ダメージを与える。

 

 

「すごい」

 

 

「うん。二人の強さコンビネーションには全くの隙がない。絆の強さが二人の力を限界以上に引きだしているんだよ。」

 

 

 二人の無駄のない動きによる攻撃と絶妙なコンビネーションを見てマリンとサンシャインは今の二人にはどのような相手だろうと真っ向から粉砕してしまうと確信を抱いた。まさに今の二人には向かうところ敵なしの最強のタッグであり恐らくはブラックビートにも勝るとも劣らないと思うほどの強さであるから。

 

 

「合体、セイバーマグナム!!!」

 

 

 二人の絶妙なコンビネーションプレイによってデザートデーモンにダメージを蓄積させていき動きをどんどん鈍らせていく。動きが鈍り虫の息まで追い詰めた二人はそろそろ仕上げだとブルービートはパルセイバーとインプットマグナムを合体させてセイバーマグナムを召喚し手に取る。

 

 

「マキシムビームモード!!!」

 

 

「ブロッサム・スクリューパンチ!!!」

 

 

 ブルービートのマキシムビームモードとブロッサムの新必殺技『ブロッサム・スクリューパンチ』が合わさり融合していくと蒼とピンクの巨大なエネルギー波がデザートデーモンへと降り注いだ。二人の息が合わさった時に出せる最強のフィニッシュトリックとして名づけるならば『マキシムブロッサムバースト』とでも言うべきだろう。

 

 

「ウゴオォオォオォオオォオォオォオオオ!?!?!?」

 

 

 二人の必殺技が叩きこまれた瞬間にデザートデーモンは粒子化して跡形もなく消滅する。あのデザートデーモンをあそこまで簡単に消滅させた事にコブラージャとサソリーナは「ちっ」と舌打ちをして瞬間移動で姿を消した。

 

 

「やればできるではないかブルービート」

 

 

『っ!?』

 

 

 敵を退けたと思っていたブルービート達の前にブラックビートが姿を現した。4人は構えをとりいつでも戦える体制を維持するがブラックビートは「ふぅん」と鼻で笑ってみせると此方に向かってきた歩みを止める。

 

 

「今日のお楽しみはここまでにしておいてやる。だが、覚えておけブルービート……必ず貴様はこの俺が倒す。それが俺と貴様の『光と影の宿命』だ」

 

 

 不気味にそう言い残してブラックビートは姿を消した。【光と影】、【宿命の戦い】とはどういう意味なのかわからない。ブルービートは謎が謎を呼ぶブラックビートという存在にただの復讐の相手としての感情だけではなく徒ならぬ嫌な予感を強める。

 

 

「・・・・・」

 

 

このまま戦いはどんどん荒れ狂っていくのだろうか?今まで以上に激しくなると言う事は大切なモノを守る事が険しく厳しいモノになるかもしれない。ブルービートはその予感からかその場に立ち尽くして考えこんでしまう。・・・とそこにブロッサムがブルービートの手へとそっと自分の手を伸ばして彼の手を掴んだ。

 

 

「私も強くなります……今度は絶対に貴方の足枷になりません。だから貴方も恐れないで。」

 

 

「ブロッサム(………ありがとう。本当の意味で強いのは君なのに……俺ももっと強くなる)」

 

 

 こうして二人にとっていい意味でも悪い意味でも今日は忘れられない一日となった。何よりの転機とは讐の為だけに戦っていた拓哉にとっては大切な何かの為に戦う大切さを知る事が出来た事だろう。その想いを胸に居た気ながら夕焼け空に町が染まっていくと長い長い一日はようやく幕を閉じた。

 

 

 

 

 



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第38話「星空と月と花火の下ー前篇ー」

外はまさに快晴の一言で片づくほどの青空が続いていた。雲ひとつない空は澄みきっていて外では蝉が五月蠅いぐらい程鳴き声を奏でておりまさに夏の風物詩が揃いきっているという状態だ。

8月の中旬にもなると夏休みもいよいよ半分を過ぎた頃になった。甲斐拓哉達は今現在車である場所へと移動していた。その場所とは・・・・・

 

 

「おお、海だ!!」

 

 

 ファッション部一行が向かっている場所から見えてきたのは空に負けないほどの澄んだ青が広がっている海。そう、拓哉達は本日から数日間ファッション部の合宿と言う名目でえりかの母の友人が所有している海が近くにある別荘へはるばるやって来ていたのだ。

その別荘のロケーションは海が近くにあり夏休みの終盤までは近くでお祭りが開かれ花火大会も行われており遊ぶには最高の場所だ。

 

 

「暑い……」

 

 

別荘に着くなり拓哉はえりかを除いた他の部員達は荷物運びを手伝っていた。遊び道具に食料となると結構な量であり男子といえどもかなりの重労働であった。と言うよりは女子達に意図的に重いものだけ持たされたと言う方が適切だろう。暫く時間をかけてようやく荷物運びをあらかた片づけた拓哉は五月蠅い女子達を一階にほっておこうと一人で先に割り振られた部屋に入って休んでいた。

 

 

「水が欲しい……けど飲み物は下にあるんだよなぁ…あぁ~めんどくさい」

 

肉体労働で身体が熱くなっている事もあるがこうも暑いと喉の渇きは半端なものではない。拓哉は水分が欲しいと持ってきたペットボトルの蓋を開けるが既に入っている水は既に飲み干してしまっていて暑さを和らげるモノはこの場には扇風機ぐらいしかない。拓哉は扇風機の前に立って風を身体中に浴びてなんとか暑さを飛ばす・・・10分ぐらいそうしていると幾分かマシになったようでダルさは無くなってきた。

 

「ふぅ、風が気持ちいい。これならデザインもいいのが浮かびそうだ」

 

 

部屋の窓を開けてみるとそこからふいてくる海風が心地よく拓哉の身体に当てられる。

 

 

「外に出てみようかな」

 

 

 外の景色を見てみようと拓哉はバルコニーへと向かってみる。すると身体中にたくさんの風を受けて拓哉は両手を広げて大きく背伸びをして身体を伸ばす。

広がる大自然はをこの目で直に見るのはやはり格別でありここに居ると心も浄化されてしまうかもしれないと思うほどであった。

 

 

「拓哉・・・」

 

 

「ああ、いつきか。どうしたんだ?」

 

 

 バルコニーでのびのびとしている所にいつきが声をかけてきた。彼女の顔は何やら思いつめているような顔をしておりこの景色には合わない。何を想いつめているのだろうかと拓哉は彼女に声をかける。

 

 

「僕、来てよかったのかな?」

 

 

「?」

 

 

 突然の問いに拓哉は疑問視の顔になる。別に誰もそんな事は思っていない筈……寧ろ他のメンバーは楽しそうに話していたという印象だった。拓哉はいつきが何を言いたいのか分からなかったがそれに察しがついたように目の前の少女は言葉を続ける。

 

「折角の合宿に【生徒会長】の僕が居たんじゃ皆、楽しくないんじゃ……」

 

 

 

「確かに、【生徒会長としてのお前】じゃ・・・お互いに楽しめないかもしれない。だったら【生徒会長】じゃなければいいんじゃないか?」

 

 

 いつきの言葉を途中まで聞いたところで遮って拓哉は察しがついたようにそう言った。拓哉の言葉の意味にいつきは驚いた顔になるがそれに構わず彼女の手に視線を合わせる。

 

 

「人って言うのは見た目が変わるだけで心も変わったような気分になれる。人の印象もそれだけで変わる。肩書を捨てたいなら外見を変えればいい」

 

「…肩書を捨てる?」

 

 

「うん。どう行動を起こすかそれはお前次第だけど……敢えて言うなら折角来たんだから楽しまないと損だぞ?過ぎ去ってしまった時間は取り戻せない……後になって後悔してしまっても遅いんだから」

 

 

 不器用ながらに必死に言葉を探して拓哉はいつきに言った。真意が伝わったのか拓哉の言葉を聞いたいつきはその途端にバルコニーから自分の部屋へと戻っていった。暫くすると制服姿ではなく以前に自分でデザインしたあの服を着こなした彼女は拓哉の前に現れた。

 

「ど、どう・・・かな?」

 

 

「いいじゃん、似合ってるよ。じゃあ、皆にも見せに行こう!!!」

 

 

「えっ!?ちょ、拓哉!!」

 

 

 いつきの手を取った拓哉はつぼみ達が居る部屋に彼女を連れていった。つぼみとえりかを呼んでいつきのアシストをするように指示して拓哉は雑誌を丸めて作った即席マイクのように見立てたそれを手に持って司会者のように進行を進める。

 

 

「えぇ~それではお集まりの皆様方に改めて今この場をお借りしまして新入部員を紹介いたしましょう。この方です、どうぞ!!」

 

 

 拓哉の司会の合図にあわせていつきはゆっくりとその姿をファッション部の部員にお披露目をして見せる。すると残りのファッション部員4人は普段の印象が一気に砕かれて微妙に存在していた距離感がなくなった。

 

 

「これであたし達の心は一つになった。いつき、るみこ、なみなみ、とっこ、拓哉、つぼみ、なおみ。そしてあたし。よぉい、ファッション部初合宿張り切って行くよーー!!」

 

 

 唐突にえりかがベットの上に立ち改めて心が一つになった事と合宿開催を宣言し全員は昼ごはんに流しそうめんをすることになった。

拓哉は意外と負けず嫌いというよりもイベント好きのえりかの事だから流しそうめんと言う名のバトルが繰り広げられるだろうと予想し拓哉はそのメンバーから外れて別の場所にいた

 

 

「こっちのもそうめんあるのに。ねぇ?」

 

 

「全くだ」

 

 

 流しそうめんと言う名のバトルを繰り広げているつぼみ達を尻目に拓哉となみなみことななみ達はその様子を見て静かにそうめんを食す。ファッション部面々はその後食事を楽しんだ後は・・・

 

 

「新しい自分・・・かぁ」

 

「………」

 

 

 夜になり月明りが照らすバルコニーで拓哉は一人景色を眺めていた。別に眠れないわけではない。こうやって夜空も澄んでいて星が近くに感じるほど綺麗に見える・・・思えばこうやって星を見るのも久しい気がする。

そう言えば小さい頃は父さんとよく一緒に星を見ていたな。あの頃は・・・楽しかった。でもそれは今も・・・・・

 

 

「拓哉、眠れないんですか?」

 

 

 後ろから声がすると拓哉はその方向を見る。そこには眠そうに目元を手の甲で擦っているつぼみの姿があった。見る限りでは眠りかけているようだった様子だった。

 

「いや、偶には夜更かししてみようと思ってさ。それより見てくれよ!!星空が凄い綺麗だよ」

 

 

 拓哉が珍しくはしゃぐ姿を見たつぼみ達は言われるがまま彼の隣に立つと星空を見てその美しさに言葉を失った。その瞳に映ったそれは日ごろの生活では決してみる事が出来ない吸い込まれそうな程数多くの星が光り輝いている光景だった。その星空とはまた別に海を照らす三日月もまた今のシチュエーションを活気立たせていて確かに彼に言う通り夜更かしして見るだけの価値はあった。

 

 

「俺さ、父さんが死んでから忘れていたのかもしれない・・・こうやって友達と一緒にはしゃいだりする事の大切さを」

 

 

 拓哉はバルコニーの手すりに背を向けて寄りかかりながらつぼみにそう語った。そういえば拓哉の父親は小さい頃に亡くなったと聞いている。それ以上の事は彼が教えてくれなかったからあまり詮索はしなかった。二人は暫く星を眺めていると不意につぼみは拓哉の隣にそっと寄り添って近づいた。

 

 本来の目的であるファッション部のデザイン画作りへと取りかかった。自分で書きあげたデザインの服を自分で作り上げそれを文化祭のファッションショーで発表するとの事らし。そしてそのテーマは【新しい自分】ということで一同は試行錯誤を繰り返しながらその日の一日をデザイン画活動へと費やしたのだった。

 そしてその日の夜は・・・・・

 

 

「拓哉、その聞いてほしい事があるんです」

 

 

「!?」

 

 

 今この場でなら言えるかもしれない。心臓がバクバクバクと激しく高鳴っていくのがそして今までにないほど気持ちが高ぶっている事も肌に感じるほど分かる。しかし今居るのは自分と拓哉の二人だけ…神がくれた絶好のシチュエーションを逃してなるものかと少女は今まで生きてきた人生で一番と思われるほどの緊張を必死に押し殺して目の前に居る相手に視線を向ける。

 

 

「拓哉、私は貴方の事が・・・・」

 

 

 ここから先の言葉が続かない……あと一言「好き」という言葉が。どうしてだろう?経験がないからか?違う彼の事が本当の意味で大切だからだ。大切に思っているからこそ拒絶されたら怖い。だからここから先の言葉が続かない・・・でも言葉にして伝えなければいつまでも自分の気持ちを伝える事が出来ない。

 

 

「私は、貴方が・・・・す、好きです!!!」

 

 

「っ!!!」

 

 

 遂に言ってしまった「好き」と言う一言。それを聞いた瞬間に拓哉も顔が一気に真っ赤になった。目の前に居る彼女も同じように顔が赤くなっていて物に例えるなら二人ともリンゴのようになっている。

 

 

「えっと・・・あの、つぼみ」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「………ありがとう」

 

 

 今度は自分が勇気を振り絞る番だと拓哉は思いつく限りの言葉を探し出た一言を彼女に向けた。本当だったらこういう場面ではもっといい言葉あるのかもしれないが思いつかない。自分も思う.......どうしてここまで不器用のかと・・・・我ながらカッコつけれない自分が恥ずかしいと拓哉は思った。

 

 

「・・・・・はい。もうちょっとだけこうさせてください」

 

 

「ああ。もう少しだけ・・・・な」

 

 

つぼみは拓哉も同じ気持ちであるという事を察しがつくと二人はそのまま星を眺めて時間を過ごすのであった。綺麗な星空は二人にとって一生の思い出になるだろう・・・こうやってお互いの想い人と一緒に眺める星空の景色なのだから忘れる筈はあるまい。

 

 



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第39話「星空と月と花火の下ー中編ー」

本題であるデザイン画づくりへと取りかかった。しかし午前中はずっとこの作業をやるとなると流石に集中力は続かないのか初めて一時間弱で早くもファッション部一行はだらけ始めていた。

 

「なぁ、気分転換に外に行こうぜ~。こうも缶詰だとアイディアのアの字も出ない」

 

 

「う~ん、ぶっちゃけあたしもネタ切れだしねぇ。確かに拓哉の言う通りかも……皆で気分転換にお散歩行こうよ」

 

 

「おお、さんせ――――」

 

 

 鉛筆を加えながらも項垂れる拓哉は自分と同じく集中力の意図が切れかけているファッション部の他の部員達にそう言う。えりかも同感であるのか拓哉に同調しそう提案するが一人だけは意見が違うようであり拓哉が同意する前に言葉を遮った。

 

「駄目です。今日は夕方から皆で花火をやりたいと。昼間はデザインをしようと言ったのはえりかと拓哉ですよ。」

 

 

「はい、おっしゃる通りです。つぼみさん・・・はぁ~」

 

 

 反対意見を提示したのは他ならぬつぼみだった。釘をさすように全員にそう言った。一度決めた事はブレさせないという几帳面と言うか真面目な彼女らしいと言えば彼女らしいのだが。しかしこうも缶詰だと本当に頭が溶けてしまいそうだが一度言いだしたらこの娘は融通が利かない。ここは諦めて午前中は無理にでも頑張るしかないかと座ろうと視線を不意に前に戻してみると・・・・

 

「っ!!」

 

そこにはファッション部全員の視線が拓哉に集まって。なんで?どうして?と拓哉は思ったがここぞと言う時にこういう事になるのは男子の宿命か・・・・しかしどうやって説得しようか・・・拓哉は思った。この部活内で俺の安息の時はないのかと。

 

暫し拓哉は考えたのちつぼみを上手く引き寄せる何かがないかと考えたのちそう言えば事前に調べた事で絶対に喰いついてくる事があったと思いだした。これならば絶対に上手くいくと拓哉は指を顎に当ててわざとらしく声をあげて見せる。

 

 

「湧水のようにアイディアが浮かべは楽しんだけどね・・あ、水と言えばこの近くの森に大きな池があって其処には珍しい花があるって図鑑で見た気がするな。~アレは、確かぁ~みず・・・・みずか」

 

 

「ミズカンナですかぁ!?」

 

 

「う、うん」

 

 

 予想通りと言うよりは予想以上の反応であり思わず拓哉は呆気にとられる。つぼみ曰くその花は紫色の綺麗な花でありなかなか見つけにくい綺麗な花であるという事らしい。流石に歩く植物辞書のように植物の知識を詰め込んでいる。

 つぼみの花に関する興味の強さを一同は改めて認識するのであった。というよりも好きなモノに対するパワーは時にここまで便利になることを認識したと言う方が適切だろうか。

 

 

「あっ・・ごほん、ちょっとお散歩するぐらいならいいかもしれませんね」

 

 

『やったーーー!!』

 

 

 拓哉の作戦は見事に成功し頑固一徹のつぼみを説得し一同は散歩の為に小さな山林にハイキングをすることになった。流石に山の中は多くの樹木があり見渡す限りの緑に目が癒される。

 

 

「これだけ樹木が多いとカブトムシやオオクワガタの他にも珍しい昆虫もたくさんいそうだな」

 

 

 海が近い事もあり森の中の空気は非常に澄んでいる。夏だと言うのにマイナスイオンの効果もあるのか少し涼しいほどだ。これだけ自然が多いなら夏の風物詩の代名詞である蝉以外にもカブトムシやオオクワガタが数多くいそうだ。

 

「(スズメバチとかには注意しないとな。見た限りこの道沿いにはみられないけど・・どこの樹が捕獲場所にはいいだろうか)」

 

 

 これは夜になったら捕まえに行こうかと拓哉は思わず考えてしまう。今のうちにめぼしいクヌギの樹木を見つけておくかと辺りを見ながら暫く歩いていると突然えりかの悲鳴が響く。

 

「ぎゃぁあぁああっ!!?!?クモぉ!?」

 

 

 えりかが歩いるところに偶々糸を張り巡らせているクモが居たのだった。実はえりかはクモなどと言った虫は苦手であり目の前に突然現れた事も重なって大声をあげて驚くのであった。

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 えりかの大声に驚いた他の面々はドミノのようにぶつかり合ってしまって一山後ろに居た沢井なおみがバランスを崩して勢いよく倒れそうになる。それに気が付いたのか近くに居たいつきが手を伸ばす。

 

 

「危ない、沢井さん大丈夫かい!?」

 

 

「は、はい」

 

 

「よかった」

 

 

 なおみはいつきに問いかけられると一瞬の間をおいてすぐに返事をした。クモによるひと騒動は終わったのだが女子達はそれが行く手を塞いでいるため離れるように後ろに固まっており動こうとしない。

 

「おいおい、このクモは無害だぞ?・・・ってそういう問題じゃないか」

 

苦笑いしながらも全く動こうとしない女子一同を見て拓哉はやれやれと溜め息をつく。これではいつまで経っても先に進めないと辺りを見渡して近くにあった折れた木の枝と手に取りクモに近づける。するとクモはそれに捕まり拓哉は近くにあった木に降ろす。

 

「ビックリさせてゴメンな」

 

 

『おぉ~~~カッコいい!!』

 

 

 流石は昆虫少年と言うべきか。昆虫や虫の事となるとつぼみと同じくかなりの知己を持ち女子が嫌うであろう虫の対処の仕方も精通している様子でいつき以外の女子達は拓哉の意外なる一面に声を揃えてそう言った。ここにきて拓哉の隠れたスキルの大活躍の時なのかと周りは思ったに違いない。

 

 

「みんな大げさだよ。なぁ、いつき」

 

 

「なんで僕に聞くの?」

 

 

「・・・・すんません」

 

 

いつきに同意を求めようとしたら何やらものすごい視線を食らってしまった拓哉は慌てて謝った。たしかにクモは虫嫌いの人からすれば10人中9人は嫌いだと言う事は知っているが外見が理由で嫌われてしまっているのは非常にかわいそうなものだ。だがこういう場面で拓哉はよくこんな事を考える。

・・・・どんなものにも外見というのは大事なものであるのだなと。

 

 

「さっすが拓哉!!お願い、此処は虫博士の出番ってことであたし達の前あるいてくんない?』

 

 

「はいはい、分かったよ。さぁ、気を取り直して先に進もう」

 

 

 なんだかんだ女子に頼られるのが嬉しいのか拓哉は先頭に立ってファッション部一同は先に進む。道中には綺麗な川があり其処には遠くで見ても魚が泳いでいるのを確認できるほど水は透きとおっていた。

拓哉達一行は果てなく広大な緑が続く森林、山から濾過された水が小川へと流れる音、蝉や虫たちの鳴き声などの多くの自然をその身体に感じとっていくといつのまにか心も綺麗に浄化されていくかのようだった。

「なおみちゃん、さっきの拓哉カッコよかったですね。それに、咄嗟にさり気無く貴女に手を伸ばして支えになったいつきも」

 

 

「つぼみちゃん、私ね……ずっと生徒会長に憧れてたの。カッコよくて勉強もスポーツも何でも出来て……もう私からしたら雲の上のような存在で」

 

 

「分かります、直美ちゃんの気持ち。私なんか転校してきた頃なんかいつきが女の子だって知らなかったから・・・・ついその淡い恋心をですねぇ」

 

 

 その恋は3分で終わってしまったのはえりかと拓哉しか知らない秘密である。因みに今はちゃんとした相手はすぐそばに居るのだが・・・おっと、この事は拓哉との秘密であり親友であるあの珍獣にも話していなかった。それに今の話とは関係ない。つぼみは心の中で自分の気持ちが脱線している事に気が付いてすぐに現実に帰る。

 

 

「私、生徒会長とどうやって仲良くなればいいか分からないの。こうやって同じ部活に入って合宿だなんて全然想像してなかったもん。ねぇ……つぼみちゃんはどうやって生徒会長と友達になったの?」

 

 

「ええっ!?・・えっと、一言ではなんとも申し上げられないと言うか」

 

 

 まさか拓哉がビーファイターで自分、えりか、いつきがプリキュアであり「【こころの大樹】に選ばれた守護者になって親しくなりました」なんて言うわけにはいかない。といってもその事以外に自分といつきの接点を上手く説明できないため他に上手い言い訳が思いつかない。つぼみは茶を濁す様に言葉を適当に並べると、なおみは納得したのか勝手に話を進めていた。

 

皆みたいに生徒会長と普通に仲良く出来たらいいのに・・・・どうしたらいいのかな」

 

 

「・・・・・」

 

 

 人と仲良くなる方法がわからない。つぼみも同じ悩みを持っているためその気持ちは痛いほど分かるがその問題に対して具体的にどう解決すればいいかその場でアドバイスできない。何故ならば自分もそのコンプレックスを完全に克服できたというわけではないからなのだ。

 

 

「(こういうとき何て言えばいいんでしょう・・・・そう言えば昨日の私はどうして拓哉にあんな事が言えたんでしょうか。ちょっと前の私なら絶対にあんな事男の子に言うなんて出来なかったのに・・・・)」

 

 

昨日の事を今になって考えてみれば本当に不思議に思うほどだ。もしかしたら自分で思っている以上にコンプレックスは克服出来ているのか?自分では気が付いていないだけなのだろうか?

だがもしもそうだとしても自分の言葉で説明できない以上は本当の意味で克服したとは言えないのではない筈・・・つぼみは自分で自分に自問自答しながら前に居る彼に向って視線を向けなおみと共に目的地の池へと歩く。

 

 

暫くして目的地である池に到着したファッション部一同。つぼみは目当てであるミズカンナを見るなり普段は見せないほど興奮して感激し目を輝かせた後えりかの提案で池をバックに昼食を食べることになった。因みに拓哉はというと・・・・

 

 

「ちょっとカブトムシやオオクワガタとかを探しに行ってくる。すぐ戻るから」

 

 

 なんと女子達を残して一人で昆虫採集に行ってしまったのだ。夜行性である昆虫は昼間には活動する事は殆どないため採集するには適していない。しかしこれだけ自然が多いこの場所を目の当たりにしてしまうと昆虫マニアとして我慢できなかったのだろう。珍しく興奮した様子になっている拓哉の姿を見てしまったファッション部は絶句して何も言えない状態になってしまっているが当の本人はお構いなしの様子。

 

 

「こんな事もあるかと持ってきておいてよかったぜ。じゃあとで」

 

 

突然何処からともなく取り出した虫取り網や採集用の蜂蜜が入った鞄麦わら帽、更には自前の虫捕り用の捕獲籠を装備するなりすたこらサッサと森の奥へと入って行ってしまった・・・ホントに彼は昆虫が好きなようだ。

 

 

「……行っちゃいましたね。どうしましょうか?」

 

 

「ほっとこう。ああなると止められないから」

 

 

 拓哉の意外なる行動を見てしまったつぼみはポカーンとなってしまう。彼にもああいう一面があったのだとある意味知らない一面を知る事が出来たから悪い気はしなかった。しかし、その隣に居るえりかはどちらかといえば少し呆れている様子であった。虫が苦手である彼女からすれば拓哉の行動原理はイマイチ理解できないのだから仕方がないのだが。

 

「とりあえずあの昆虫マニアはほっておいても大丈夫だから、あたしたちはランチタイムにしよう」

 

 

 えりかはそう言うなりブルーシートを地面に敷いてランチボックスを開ける。その中には彼女の母の特性ランチが沢山入っておりファッション部女子達はそれを見るなりテンションが上がる。

 

 

「えりか、ちょっと」

 

 

「?」

 

 

 つぼみは他のメンバーに気がつかれない様にえりかに呼びかけると少し離れた場所へ移動する。誰にも気が付かれていない事を確認すると先程の事をえりかに説明しどう解決するかを考えてもらおうというのだ。話を聞いたえりかは意外な悩みを持っている事に驚いたのか「う~ん」と声を漏らした。

 

 

「成程、なおみにそんな悩みがあったとはねぇ」

 

 

「折角の機械ですし、もっといつきと仲良くなってもらいたいと思うんですけど……どうしたらいいんでしょう?」

 

 

「まっかせなさーい!!」

 

 

 えりかには何やらいい作戦があるようだ。つぼみはその作戦に期待を抱いていたがこのとき気が付くべきであった。この珍獣のやる事は強引過ぎて時に人の悩みをかき乱す事があると言う事に。

 

 



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第40話「星空と月と花火の下ー後編ー」

「この森すごいな。昼間なのにこんなに虫が元気だなんて」

 

 

 つぼみ達がひと騒動起こすほんの数分前の森の中で拓哉は久々の虫捕りに我を忘れていた。昼間はカブトムシやクワガタムシなどは土の中で眠っている事が多く夜にならなければその姿を見る事はあまりないのだがこの森にいる虫達はそうではなく昼間なのに多くの虫達が活発に動いているのだ。

それだけではない・・・・拓哉も今になって気が付いたのだが不思議な事に此処に居る昆虫達は拓哉を怖がらない。いや、正確に説明するのであれば寧ろ拓哉という存在を昆虫達は歓迎されているのではないかと言う風に感じられる。

 

 

「っ?……今誰か通ったか?」

 

 

 大はしゃぎもココまでにしてそろそろ皆が居る池に戻ろうと拓哉は林から通り道へと戻ろうと歩みを進めていると突然猛スピードでその道を誰かが走って行くのが見えた。遠かったため誰かはハッキリと分からなかったが何か嫌な予感がする・・・不穏な胸騒ぎを感じた拓哉はその人影が見えた方向へ向かうが既にその影の主の姿がなく見失ってしまった。

 

 

 

「・・・何処に行ったんだ?」

 

 

 止まらない胸騒ぎを心中に抱えながら拓哉は人影が何処に行ったかを推理しながら考える。だが小さい山といえども部屋に動いて迷ったら大変なことになる。幸いまだ人里が近いから救いはある。しかしそれだけでは済まない気がする・・・・この言葉に出来ない程の止まらない不吉な予感・・・根拠がない分達が悪いのか拓哉は少しだが焦りが隠せない様子だ。

 

 

「拓哉!!」

 

 

「いつき?どうしたんだ?」

 

 

「実はさっき・・・」

 

 

 焦っているところで後ろからいつきの声が聞こえてきた。拓哉はいつきに何があったのかを問いただすと彼女の説明を始める。話の過程を聞いて拓哉は思わず大声で「はぁ!?」と聞き返してしまった

 

 

「あの馬鹿なんでいつもトラブルを・・・」

 

あのトラブルメーカーは・・・デザトリアンになってもそこら辺は変わらないのだなと拓哉は少し内心呆れたが今はそれに気をとられている場合ではない。早く一人で何処かに行ってしまった彼女を探さなければと辺りを見回す。暫く2人でなおみを探していると拓哉のポケットの中に入れていたビーコマンダーからアラームが鳴り始めてた。

 

「っ!?・・・おいおい、予感が当たっちまったよ。・・・こういう時ぐらい外れてほしいもんだけどな」

 

 

「まさか沢井さんに何かがあったってこと!?」

 

 

 

「ああ、その可能性が高い。」

 

 

 ポケットから取り出してビーコマンダーを見てみると角が青く光って警告音が鳴っている。コマンダーがこの反応をしているという事は不安が確信に変わったという事だ。

 もしかしたら既に誰かがデザトリアンにされているかもしれないと拓哉は一度目を閉じて心を静める。非常事態の時こそ冷静さは欠かせないものなのだから。

 

 

「………こっちだ!!」

 

 

「えっ!?」

 

深呼吸をして冷静さを取り戻した所でコマンダーを頼りに辺りを見回し直感を信じて拓哉はいつきと共にある方向へと走った。いつきは根拠のない拓哉の言い分に半信半疑であったが勝手に突き進んでいったからには追わなくてはならない。二人は・・いや、正確には拓哉を追いかけるいつきが走る事数分後。

 

 

「スプレーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

「デザトリアン・・・遅かったか」

 

 

 聞き覚えのある唸り声が響いた瞬間に拓哉はその方向に向かって全速力で走って行く。すると其処には虫除けスプレーに手足が生えたような身形のデザトリアンが既におりその前にはクモジャキーが堂々と立っている姿が確認できた。

 

 

「クモジャキー!!!」

 

 

「あぁ?おお、まさかお前達がここにおるとは丁度いいぜよ。この前の勝負の続きさせてもらうじゃき」

 

 

「・・・口を開けば勝負、勝負って・・・んとにお前はそれ以外言うセリフがないのかよ?・・・っ!!」

 

 

 何度も耳にタコができるほど聞いているセリフに拓哉は嫌気がさしているため嫌悪感を剥き出しにしてそう言った。その拓哉の前に映ったのはデザトリアンが無差別に辺り一面へスプレーの噴射口から毒ガスを乱射している姿。それと見た瞬間に拓哉の顔は嫌気のさした顔から憤怒のモノへと変わった。

 

 

「やめろ!!!こんな綺麗な森でそんなもんばら撒いたら樹や虫達が……」

 

 

 この美しい森で殺虫剤という虫や木々にとっては有害物質の塊でしかないものを大量にばら撒いてしまったら生態系は一気に乱れて取り返しのつかない事になってしまう。拓哉はデザトリアンに向かっていったがそれを邪魔に思ったデザトリアンは彼に向けて殺虫スプレーの雨を発射した。

 

「危ない!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 直撃する間一髪のところでいつきが拓哉を抱えて後ろの茂みへと非難した。茂みに隠れた二人はすぐに起きあがりデザトリアンに見つからない様にしながら茂みに隠れて其処から様子をうかがった。二人はいつ出ようかとタイミングを計る。拓哉はいつでも戦えるがいつきはポプリがいないと変身が出来ない。

 

 

「いちゅき!!!」

 

 

 最悪の場合は拓哉が一人で戦うしかないとビーコマンダーを構えるがそのタイミングでポプリが駆け付ける。どうやらデザトリアンの気配を感じて此処まで一人できたようだ。こうなったら逃げる必要はないと二人は

 

「二人とも、ココでデザトリアンを食い止めるでしゅ」

 

 

「うん。いくよ、拓哉!!」

 

 

「おう!!!」

 

 

 役者は揃ったと拓哉はビーコマンダーをいつきはシャイニーパヒュームを手にとっていく。暴れるデザトリアンを食い止めるべく青い鎧戦士と黄金の太陽の戦士の力を解放し青と金の光がその場を包んでいった。

 

 

「プリキュアの種、いくでしゅぅ!!!」

 

 

 いつきが黄金の光に場が包まれて風景が変わると彼女にも変化が現れる。ショートヘアーだった髪がロングヘアーに変わったのだ。ポプリを抱きしめ高くあげるとポプリの胸から光が射出され其処から凝縮された黄金色のプリキュアの種が生み出される。

 

 

「プリキュア!オープンマイハート!!」

 

 

 プリキュアの種をシャイニーパヒュームに装填していき光り輝いていく。そして金色の光の香水を上半身に拭きかけて辺りにその光が拡散するといつきは上半身にパヒュームの光を噴きかけるフリルが出現その次にスカートが纏われていく。

 次に脚に光を浴びせるとロングブーツが纏われ胸、両手首にパヒュームの光を浴びせるとプリキュアの象徴のハート型のリボンとリストバンドが形成される。

 いつきは一通りのコスチュームが纏われたあとにロングになった髪を靡かせるとそれがツインテールに纏まっていき色もイエローかかった茶髪からゴールドに変わり髪止めのリボンとピアスがつけられて変身が終わる。そして仕上げにシャイニーパヒュームを腰に当ててパヒュームキャリーに収納するとポーズをとって全体のシルエットを見せる。

 

「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!!」

 

 

「重甲!!」

 

 

 拓哉はビーコマンダーを取り出し赤いスイッチを押して黒い羽のウィングを開かせると変身コードを叫んでコマンダーを頭上に掲げた。

掲げたビーコマンダーが青く光りを発生させあると中に収納されているブルービートのインセクトアーマーが元の大きさに戻っていき拡散し拓哉の身体もその蒼い光へと包まれていった。

まずは腕に素早く鎧が纏われ次に胸と下半身そして顔以外のすべての部分に重厚なる鎧がまとわれると最後に拓哉の顔が鎧騎士の仮面に包まれて蒼いカブトムシの戦士へと姿を変えて蒼い閃光が当たりに発生する

 

 

「ブルービート!!!」

 

 

 ジャキっと金属音を冴えながらポーズを決めて鎧騎士の姿に変えた少年は名乗り上げを決めた。

 

『はぁああああっ!!!!』

 

 

 変身完了後にブルービートとサンシャインは同時に飛び上がってパンチとキックのダブル攻撃をデザトリアンに向けて放った。パワーファイターのブルービートと変身者のスペックが高いサンシャインの強烈なる不意打ちによってデザトリアンは地面に倒れる。

 

 

「やはり出てきよったか。やれ!!!」

 

 

 デザトリアンに不意打ちを食らわせた者の正体がブルービートとさんじゃインだと知るやいなやクモジャキーの突撃命令が下ると一斉に二人に向けてスナッキーの先兵部隊が向かってきた。

 

 

「はぁあぁっ!!!」

 

 

「でりゃぁあっ!!」

 

 

 しかし今更雑魚相手に苦戦するほど2人は弱くはない。ブルービートは先の戦いでの破損から完全修復したスティンガーブレードを装備して向かってくるスナッキーを斬り刻む。

サンシャインはと言うと鍛えあげている格闘戦術を駆使しスナッキーを投げ飛ばし人海戦術で身体の動きを封じられ様なものであればプリキュアのエネルギーを暴走させて身体に爆発のような波動を放って牽制する。

 

 

「ビートルブレイク!!!」

 

そのサンシャインに負けていないのがブルービートであった。彼に周りにも数多くのスナッキー軍団が取り囲んでくるが一瞬の隙を見逃さずブレードの斬撃で一気にスナッキーを消滅させた。

 

 

『たぁあああああああぁああぁああああぁっ!!!!!!』

 

 

恐ろしいスピードでスナッキー部隊を空へ投げ飛ばし昼間のお星さまへしてったり時には斬り刻んでやったりとどんどん数を減らしていく。

 

「ほぉ随分とやるなぁ・・・デザトリアン!!!」

 

 

「スプレーーーーー!!!」

 

クモジャキーの指令を受けると不意打ちを狙いデザトリアンは素早く頭を動かすとターゲットをサンシャイン絞り彼女へとそのスプレー発射口を向ける。

 

 

「っ!?」

 

 

「危ない!!!」

 

 スナッキー軍団を倒しきった事で油断していたサンシャインは反応が遅れてしまい攻撃からの回避が間に合わなかった。だがその彼女の前にブルービートが立った。インセクトアーマー全身で殺虫剤を受け止めた瞬間に彼の身体はすぐに異変が起きた。

 

 

「ぐあぁあっ!?!?・・・な、何だ!?い、インセクトアーマーの動きがおかしい」

 

 

ただの液体を受け止めただけ。そう思っていたのだがそれは大きな間違いだったのだ・・・・物理的な攻撃は受けていないにもか関わらず大打撃を受けた様にアーマーから火花が散りその場に手と膝をついて脱力してしまうほどのダメージが彼に襲い掛かったのだ。すぐに立ち上がるが鎧は思う様に機能しない。

 

 

「ブルービート、大丈夫!?」

 

 

「あ、アーマーが……機能が、インセクトアーマーの機能が低下していっている」

 

 

 異変を感じアーマーに目線をやってみると殺虫剤を受けた胸の装甲の表面が若干ながら溶けているのだ。拓哉の目に映ったのは【Armor―Error】の表示。装着者の拓哉も知らなかった。まさか昆虫の弱点がこのインセクトアーマーの弱点にもなるとは思いしなかった。

 鎧の機能が低下し身体も思うように動かせないが今は森や虫達を守るために早くあのデザトリアンをなんとかしなければならない。ブルービートは立ち上がろうと力を込めるが自分が思っている以上にダメージは深刻でありその身体は動かなかった。

 

 

「これはええ。ブルービートにトドメをさせ!!!」

 

 

『っ!?』

 

 

 再び湧いてくるスナッキー軍団。更に迫るデザトリアンに2人はお互いに背を合わせながら周囲を見て状況を判断する。今の自分達の戦況的にはサンシャインは本調子だがダメージが受けインセクトアーマーに異常をきたしているブルービートは全快ではないため正直二人だけでは厳しい。

 

 

「キーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 その二人にお構いなしにデザトリアンと殺虫剤を噴射し同時にスナッキー軍団も跳びかかって動きを封じにかかった。もはや絶体絶命のピンチ・・・スナッキーの大軍団が一斉に飛びかかってきた瞬間に2人は思わず目を瞑った。

 

「っ!?」

 

 

絶体絶命の二人に対するその攻撃は当たる前に何かによって防がれてデザトリアンもその何かによって飛ばされていた。思わず顔をそむけて身構えていた二人は何事だと思って前方を見ると其処にはあの二人の姿があった。

 

 

「っ!?マリン」

 

 

「遅れてごめん」

 

 

「大丈夫ですか?ブルービート」

 

 

「ブロッサム。ったく、遅いぞ」

 

 

 ギリギリ間に合ったとマリンはサムズアップをして得意のドヤ顔を浮かべその隣に居るブロッサムは弱っているブルービートに肩を貸す。4人が揃った瞬間にクモジャキーはニヤリと笑みを浮かべて口元を歪ませた。どうやら2人だけでは勝負としては物足りなかった様子だ。

 

 

 

「ようやく残りも来たか。デザトリアン、まとめてぶっ潰すぜよ!!!」

 

 

『!?』

 

 

 クモジャキーの号令の途端にデザトリアンの攻撃が激しくなる。4人は直撃をギリギリで避けながらもデザトリアンとの距離を縮めてやる・・・やはり逃げてばかりでは勝負には勝つ事は出来ないの。勝つためには攻めなければならないと散開しながらデザトリアンの攻撃パターンを分析する。

 

 

 

「0,1,0インプット。絶対零度冷凍弾!!!」

 

 

 あの動きを封じるのが先決だと判断したブルービートはブロッサム達にデザトリアンの注意がブロッサム達に分散している隙をつきホルスターからインプットマグナムを引き抜き構える。素早く暗証コードを入力し一度飛び上がりながら距離を縮め近距離での絶対零度冷凍弾を脚に浴びせて氷柱へと変えさせる。

 

 

「す、スプ!?・・・っ!!!」

 

 

「今だ。行くぞ!!!」

 

 

 

 今こそ反撃の時。ブルービートは全員に合図を出すとサンシャインは後衛で援護体勢を維持しブルービート、ブロッサム、マリンの3人がデザトリアンへと距離を縮めていき各々攻撃態勢へと入った。

 

 

「マリンダイブ!!」

 

 

「ブロッサム・ダブルインパクト!!」

 

 

「スティンガーブレード」

 

デザトリアンへ向けて飛び上がりマリンは両足を伸ばしたキックをブロッサムはブルービートと共に飛び上がってブロッサムはダブルインパクトのエネルギーを拳に込めてブルービートはスティンガーブレードを装備して空中でビートルブレイクの発動体勢に入った。

 

「スプレーーーーーーっ!!!」

 

 

『っ!?』

 

 

 易々と攻撃を通してくれるほどデザトリアンも馬鹿ではなかった。3人に向けて殺虫剤スプレーの雨によって反撃を仕掛けようとその発射口を3人に向けたのだった。ブロッサムとマリンはともかく昆虫の力の結晶であるブルービートにとっては至近距離からあの攻撃を受ければ人間が硫酸を浴びに行くと同じぐらいの自殺行為に等しい。

 

 

「(この距離じゃ回避が間に合わない。こうなったらアーマー大破覚悟で突っ込むしか・・・だがそれだとブロッサム達が)

 

咄嗟の事で回避しようにも既にデザトリアンとの距離は詰められており動きが追いつかない。咄嗟の事にパニックを起こしてしまったブルービートは一瞬だけ動きが止まった。その様子を見逃していなかったデザトリアンも狙いを彼に定めスプレーを全力で発射するとその雨が彼に向って降り注がれた。

 

 

「サンフラワーイージス!!」

 

 

 間一髪のところで後方に居たサンシャインの黄金の盾【サンフラワーイージス】がブルービートを殺虫剤の雨から守った。体勢を立て直すべくブロッサムとマリンがブルービートに肩を貸し一度離れる。

 

 

「ありがとうサンシャイン。ギリギリ助かった。あの噴射攻撃をなんとかしないと。・・・しかし、あの早技・・まるで荒野のガンマンだ」

 

 

「いっそのことスプレーの穴の部分を石で塞いじゃえば?」

 

 

「簡単に言うな。・・・・ってソレだ!!」

 

 

 マリンの発言に全員の視線が一挙に彼女へと向けられた。こんな時に冗談が過ぎたのかとマリンは冷や汗を浮かべるが次の瞬間にはブルービートが何やらいい策を思いついたとデザトリアンの全体を見る。

 

「ビートスキャン!!」

 

 

 インセクトアーマーの特殊能力の一つに相手の弱点を探り出す探査能力がある。そのツールが『ビーストキャン』でありブルービートは今ゴーグルに映し出されているこのでデザトリアンの最大の武器殺虫剤の発射口を探っているのだ。探知能力でデザトリアンの全体図をくまなく探す。

 

 

「奴の攻撃はあの照準だ。あれを使えなくすれば勝てる!!……方法は?」

 

 

 発見した場所は顔面の中央の部分。あの部分を使えなくすればデザトリアンの戦力は大幅にダウンする。それさえ出来れば必ず勝てる・・・しかし、迂闊に動けば攻撃のレスポンスの差で押し負けてしまう。

 

 

「そうか!!」

 

 ブルービートが策を講じているとゴーグルのモニターにカブトムシが羽ばたいている場面が写される。それを見た瞬間ブルービートは方法を思いつく。まだ隠されているインセクトアーマーの特殊能力の一つ・・・それこそが打開策だ。

 

 

 

「何か思いついたんですか?」

 

 

「ああ、方法はこれだ!!」

 

 

 ブルービートが前に出る。そして腕を前に突き出して組んでいくとインセクトアーマーの残りのエネルギーを一点に集め始める。稲妻の様な光が彼のアーマーから発生するとそれに合わせ組んでいた腕を下の方に勢いよく振り下ろした。

 

 

「ビーファイター、ソニックフラップ!!」

 

 

 その瞬間にアーマーに蓄積したエネルギーが変換されデザトリアンへと向けて発射されるとデザトリアンの身体から突然火花が発生し苦しみ始めた。

 『ソニックフラップ』それは昆虫の翅の羽ばたきに習った機能であり、超音波を放つ技。破壊力は限られ威力は大したものではない。だが小さいものでもそれが一つに集まれば大きいものを倒す力を生み出す事もある。敵(デザトリアン)に学び反撃する、昆虫(インセクトアーマ)に学び群れ(チームワーク)を活かす。これこそが真のチームプレイだ。

 

 

「ス、スプ!?・・・・グオオォオォオォオォオッ!?!?!?!」

 

 

 

 超音波の一点集中攻撃をスプレーの噴射口に照射すると次の瞬間には発射口を潰されてスプレー噴射を封じるたのだ。

 

 

「さぁ、反撃だ。行くぞ!!!」

 

 

 今こそ反撃の狼煙を上げるときだとブルービート達はデザトリアンへと向かっていった。

 

 

 

 

最大の攻撃手段を封じた今こそ反撃の時。4人は一斉に再度散開して標的のデザトリアンへと距離を一気に詰める。

 

 

「たぁあっ!!!」

 

 

 第一攻撃を発したのはブルービート。先程の雪辱を晴らさんとばかりの勢いでデザトリアンとの距離を縮めて近づいていく。デザトリアンもそれに気が付いて攻撃を仕掛けるがギリギリのところでブルービートは避けて飛び上がった。

 

 

「パルセイバー!!!」

 

 空中でブルービートはパルセイバーを装備し黄金に輝く刀身をデザトリアンへと振り下ろして斬撃攻撃の嵐を叩きこむ。素早い動きで右へ左に動きデザトリアンの巨大な腕による反撃のパンチを華麗によけるとトドメとばかりにパルセイバーに向けて大声を発する。

 

 

「パルスラッシュ!!!!!」

 

 

 パルセイバーの黄金の刀身が蒼くきらめくとブルービートの意思とシンクロしてその小振りサイズの刀身の大きさが変化する。青とゴールドの光を纏ったパルセイバーの刀身は数倍に大きくなりブルービートはそれを勢いよく振り下ろしデザトリアンへと初の大ダメージを叩きこんだ。

 

 

「ス、スプレ・・・・・・」

 

 

「ブロッサム、マリン」

 

 

「はい!!」

 

 

「おうさ!!」

 

 

 ブルービートの攻撃に続いてブロッサムとマリンが同時に前に出る。そしてブルービートのインセクトアーマーの肩の部分を踏み台にして勢いよく空へと跳び上がる。

 

 

「ブロッサム・インパクト!!!」

 

 

「マリン・ダイブ!!!」

 

 

 上空へと跳び上がった二人は同時に牽制技の部類でも強力な力を持つ技を発動する。ブロッサムのピンク色のエネルギーを纏った拳が叩きこまれそれに続けてマリンのソニックブームが辺りに発生するほどの超高速の急降下キックが叩きこまれた。

 

 

「す、スプレーーーーーーっ!!!」

 

 

「まだ立つのか!?」

 

 

 だが3人の技を受けてもデザトリアンは尚も立ち上がってみせる。普通のデザトリアンであれば今の二人の攻撃にそうは耐えきれるものではないのだが……驚きのあまり声を出すブルービートは呟いた。

 

 

「ワカラナイ……如何シタライイカワカラナイ」

 

 

『ッ!?」

 

 

 立ち上がりながら突然デザトリアンは4人に向かって媒体されている人間の心の中にある本心を曝け出し始めた。4人はまだ交易が来るのかと身構えるがデザトリアンは立ち上がると自らが隠している本音を続ける。

 

 

「ワタシハ生徒会長ト友達ニナリタイ。デモ憧レノアノ人トドウ接スレバイイカワカラナイ!!!!」

 

 

『……』

 

 

「仲良クナリタイ……デモ、ドウシタライイカワカラナイ。ワタシハドウスレバイイノォ!!!」

 

 

 デザトリアンは感情をむき出しにしたまま4人に向けて攻撃を仕掛ける。殺虫剤による攻撃はソニックフラップによって封じられてしまったがその程度など全く問題ないとドスドスドスと大きな足音をたてながら距離を一気に詰める。

 

 

「スプレーーー!!!!」

 

 

「何っ!?」

 

 

 突然の事に咄嗟の判断の遅れ時に命取りとなるのが戦場の戦い。ブルービートが気が付いた時にはデザトリアンの影が彼の身体を覆いかぶせているような距離だ。

 

 

「ぐあぁああぁあああぁあっ!?!?」

 

 

 その次の瞬間にはブルービートの身体はデザトリアンの巨大な腕によって薙ぎ払われて森の樹木へと勢いよく飛ばされてしまうとそれに合わせて彼の悲鳴が森の中へと木霊する。

 

 

「ブルービート!!!」

 

 

「っ!?」

 

 

『うわぁああぁああぁああああぁあああっ!?!?!?!」

 

 

 ブロッサムが飛ばされたブルービートへ声をかけたその次の瞬間にデザトリアンは次のターゲットをブロッサム、そしてマリンへと絞る。見かけによらず素早い動きは2人の目には到底把握は出来るものではなかった。

 

「グオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 その一瞬の隙を見逃さず反撃の高速移動からの打撃攻撃が叩きこまれ2人も程無くしてブルービートと同じ方向へ吹っ飛ばされた。

 

 

「皆ぁ!!!……っ!!!」

 

 

 飛ばされた3人に声をかけるサンシャインにデザトリアンはターゲットを向けていき勢いよく腕を振り下ろしていく。この間合いでは跳び上がっても避けるのは間に合わない。

 

 

「サンフラワー・イージス!!」

 

 

 サンフラワーイージスを召喚しサンシャインはデザトリアンの攻撃を防ぐ。すると更にデザトリアンは自身の心の中にある不満を言葉で表現し叫ぶ。

 

 

「っ!?・・・私はなおみさんの想いにどう応えたら」

 

 

 『人の思いに応える』どうすればいいのか分からないのは誰もがそうだろう。しかし想っているだけでは相手には伝わらない。言葉にてまたは行動に示さなければ無理なのは当たり前だ。だがその方法がわからないが為に悩む事もあるだろう。それによって時には『こころの花』を萎れさせ病ませるほどに。

 

「下らんのぉ。仲良くなりたい?なんじゃよぉ分からん理由でこころの花をからしたのぉ。友を得る方法はただ一つ……『熱い拳』で語り合うのみ。ゴチャゴチャ悩まんと相手の飛びこんでいけばいいぜよ!!」

 

 

 確かにクモジャキーの言っている事は一理ある。悩んでいていつまでもウジウジシているぐらいならば『当たって砕けろ』という言葉があり相手のぶつかっていくことも一つの手段としては候補に挙がるだろう。クモジャキーは残りの戦士キュアサンシャインへと攻撃を伸ばそうとデザトリアンへと命令を下す。

 

 

「ゆけ、デザトリアン!!!」

 

 

「スプレーーーーーっ!!!」

 

 

「っ!!!」

 

 

 相手は自分の事を想ってくれている人間。それを感じてかサンシャインは反撃を躊躇する。その間にもイージスを粉砕しようとデザトリアンは腕を伸ばし何度も叩きつける。そして次の一撃で粉々にしてしまおうと力を込めたその時・・・・

 

 

『はぁあああぁあああぁああああああぁあっ!!!!!』

 

 

 森へと飛ばされたブルービート、ブロッサム、マリンの3人の渾身のトリプルパンチアタックがデザトリアンの身体へと叩きこまれ地面へと転がり落とした。

 

 

「脳筋野郎。確かに”今回だけは”お前の言ってる事には筋が通ってる部分がある。それは認めよう。だけどな、人が相手に対してどうやって想いを伝えるかそれをお前が強制する権利はない!!」

 

 

「なんじゃとぉ!?」

 

 

「人間は誰だって他者にどう思われているか常に考える。大切だと思っている気持ちが強ければ強いほど本当の気持ちを伝えられなくなる事だってあるんだ。・・・その人の迷いに漬け込んでデザトリアンの糧にした貴様を許さん!!!」

 

 ブルービートやクモジャキーにそう強く唸るように言葉をぶつける。それはまるで自分の事を重ねているかのようにも見える。彼自身も今自分の隣に居る人に想いで答えていないからだろう……

 

「(まるで自分に対して言ってるみたいだ。だけど、俺も同じだ。このデザトリアンと………)」

 

 いつか自分もその想いに応える日が来る……その時になったら自分はどうするだろう?同じように悩むのか?……いや、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい、鬱陶しい・・・やれ、デザトリアン!!!」

 

 

 突如動きが止まったブルービートへとクモジャキーはデザトリアンを向かわせる。だが動かない彼に変わってブロッサムとマリンのダブルパンチが再びデザトリアンを地面へと平伏した。

 

 

「オ友達ニナニタイヨォオオ!!!!」

 

 

「友達になるのは簡単だよ。だってもう仲良くなりたいと思ってるんだもん」

 

 

「っ!?」

 

 

「マリンの言う通りです。二人が友達になりたいと思っているならいつきとなおみちゃんはもう友達です。ですよね?サンシャイン」

 

 尚も叫び続けるデザトリアンに向けてマリンが前に出た。それにブロッサムも同調しサンシャインに声をかける。

 

 

「うん。友達だ。私と君は友達だ!!!」

 

 

 サンシャインは両手を広げてデザトリアンに向けて言葉を投げる。デザトリアンの中に潜在意識がその言葉に反応すると攻撃の手が急激に緩み始めた・・・つまりサンシャインの気持ちがデザトリアンの媒体にされているなおみの心に届いたのだ。

 

 

 

「デザトリアン、そんなぬるい友情では己を高めることは出来んぜよ!!!」

 

 

 

「クモジャキー!!」

 

 このやりとりに一人納得ができないのは当然クモジャキーただ一人だ。デザトリアンに向けてサンシャイン達の言葉ぬるいと罵り攻撃命令を続行しようとするがサンシャインによって遮られる。

 

 

「友情の形は人それぞれ。自分の考えを押しつけそれ以外の考えを貶める。その心の闇、私の光で照らしてみせる!!」

 

 

 サンシャインは怒りを胸に秘めながらクリスタルから光を発生させる。ゴールドの光がハートの形になると「シャイニータンバリン」に変化させてそれを手に取ってその場に踊るようにタンバリンを叩いてヒマワリの形をしたエネルギーを次々と発生する。

 

 

「花よ舞い踊れ、プリキュア!ゴールドフォルテ・バースト!!!」

 

 

 彼女の必殺技の掛け声とともに後衛に待機していたヒマワリ型のエネルギー弾はデザトリアンへと一斉に発射されてまるで雨の如く降り注いでいった。巨大な身体中にヒマワリのエネルギー弾が敵を包み込んでいった。

 

 

「はぁあああああああああああっ!!!!」

 

 

 タンバリンをまわして浄化のエネルギーをデザトリアンにへと送り込んでいくと身体を宙へと浮かせてみ動きを封じ。タンバリンを持つ手を前に伸ばしてそれを回していき浄化のエネルギーを送り込んでいく。

 

「ちっ。ここからが本番じゃき。俺の新たなる必殺技『ビックバン・クモジャキーサマークラッシャー・スペシャル』」

 

 

 デザトリアンを浄化された事に業を煮やしたクモジャキーは密かに開発した新技を見せてくれるとばかりにブロッサム達へと拳に込めた赤黒いエネルギー弾を発射した。

 

 

「脳筋野郎が……ブロッサム、マリン」

 

 

「はい!!」

 

 

「やるっしゅ!!」

 

 

 クモジャキーの長ったらしい必殺技名を聞いたブルービート、ブロッサム、マリンが前に出ると劇劇の準備を即座に開始。ブロッサムとマリンはフラワータクトを手に取りブルービートはインプットマグナムとパルセイバーを装備する。

 

 

「セイバーマグナム!!!」

 

 

「ブロッサムタクト!!」

 

 

「マリンタクト!!!」

 

 

 蒼、ピンク、水色の光がそれぞれ3人の手の中にある武器から発生すると即座に3人はクモジャキーが放った赤黒いエネルギー弾へと照準を合わせる。

 

 

「花よ輝け、プリキュア!ピンクフォルテ・ウェイブ!!!」

 

 

「花よ煌めけ、プリキュア!ブルーフォルテ・ウェイブ!!!」

 

 

「マキシムビームモード!!!」

 

 

 3人から放たれた3つのエネルギー波はクモジャキーのエネルギー弾を粉砕しクモジャキーへと向かう。流石に分が悪いと判断したクモジャキーは3人の合体光線が自分へと及ぶ前に瞬間移動でその場から消える。

 

 

 

『・・・っ!?』

 

 

 逃げられた?そう思った矢先にクモジャキーは腕を組みながら気の得たの上に立っており自分達を見下ろしている。劣勢を強いられている癖に態度だけは上から目線のようだ。

 

 

「力をつけてきたのぉ……ますます楽しくなって来たぜよ」

 

 

 相変わらずの戦い以外興味を示していないというセリフだけ残して今度こそ瞬間移動で4人の前から姿を消した。まさか今の合体攻撃でも自分達の力に対して恐怖を抱いていないというのか?だとしたらクモジャキーという幹部の強さは一体……これからの戦いはますます激しくなると4人は言い知れぬ予感に包まれる。

 

その日の夕方になると学園祭用のデザイン画のストックがようやく目標数にまで達成した。これで後の数日間は心おきなく遊びができる。そして本日の夜はメインイベントは夏の風物詩である花火だ。

 

 

 

「…………」

 

 

 えりか達が花火を楽しんでいる中で拓哉は一人でペンションのバルコニーで夜空の空を眺めていた。今日のデザトリアンの心の声は他人ごとではない気がしてならない。いや、まるで自分の事を言われているかのようで気分はすっきりしないでいたのだ。

 

 

「拓哉?」

 

 

「っ!?・・・つぼみ」

 

 

 後ろからの声に振り返ると其処には可愛らしい浴衣を着た花咲つぼみの姿があった。普段見ない彼女のその姿に思わず拓哉は目線に困った。何故ならその姿は本当に可愛いからだ。

 

 

「あ、あんまり見ないでくださいよ。恥ずかしいです」

 

 

 

「あ、ああ」

 

 

 何で素直に本人に今の姿が可愛いと言えないのだろう。拓哉はこうも自分が抱いている事が伝えられない自分自身に内心イラっとしてしまうが心を落ち着かせる。つぼみは何も言わずに彼の隣へと移動し昨日と同じように星空を眺める。

 

 

「なぁ、つぼみ」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

「今日のデザトリアンの心の声・・あれ、まるで俺の事を代弁してるかのようだった。・・・でもお前の言葉を聞いて吹っ切れた。だから、俺の気持ちを聞いてほしい」

 

 

「え?」

 

 

 突然拓哉がつぼみの顔を見て真剣な表情を見せる。つぼみはと言うと拓哉のいつにない行動のせいか緊張してしまい挙動不審の状態だ。

 

 

 

「つぼみ、・・・・・俺も、いや…俺はお前の事が好きだ。だから俺の傍にずっと俺の隣に居てくれ!!!」

 

 

 自分の想いを今こそ彼女へと伝える時。昨日は彼女が勇気を振り絞って自分へと気持ちを打ち明けた・・・だから今度は拓哉が抱いている目の前の少女に自分の気持ちを打ち明ける番なのだ。

 もっといい言葉があったかもしれない・・・でも今の気持ちはこの言葉だからと拓哉は精一杯の言葉をつぼみへ言った。

 

 

「勿論です。ずっと隣に居ます。貴方の傍にこれからもずっと」

 

 

 つぼみがそう言って拓哉に抱きついた瞬間にえりかが浜辺でロケット花火を打ち上げた。花火が星空と月の下で弾けると夏の夜空を美しく照らす。

 

 

 星空と月と花火の下で夏の香りする淡い恋を2人は実らせたのだった。



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