俺の友達が美少女になったから凄くマズい。 (4kibou)
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織斑一夏(♂)は死んだ。

息抜きに書いたもの。続くかどうかは分かりません。こう、何かが降りてきたら書く、筈、多分。


「……、ん……」

 

 ふと暖かい光を感じて、俺こと織斑 一夏(おりむらいちか)は目を覚ました。と言っても、微かに目を開いただけで、布団の中から出たというわけではない。そもそもだ。この寝起きの微睡みを楽しむのは、自分の日課でもある。寝るか寝ないか、寝たいけど起きなければならない、そんな板挟み的状態を楽しむ。マゾって訳じゃあ断じてない。そう、俺はマゾって訳じゃあ断じてないんだ。フラグじゃないぞ、本当だぞ。あ、(ホモとかそういうのも)ないです。

 

「ふぁぁ……。朝、か……」

 

 ゆっくりと体を起こして時計を見れば、既に午前八時に迫ろうとしていた。いかん、これは物凄い遅い。他の人からしたらどうだとしても、自分的には八時に起床は遅い時間だ。しかも、学校があったのなら遅刻は確定。けれども幸いなことに、今は中学二年の春休み半ば。もう少しすれば三年生へと進級するこの時期は、長期休暇とはいえ課題が無いのもあり、加えて訪れる春の陽気に緩んでしまっても仕方がないだろう。気持ちを切り替えるためにも目をごしごしと擦れば、いやに腕にあたる髪の毛が気になった。最近髪を切ってなかったし、伸びてるのかもしれない。切らないといけないなぁ、なんて考えながら体をほぐすのも兼ねて腰を捻れば、コキリという音が鳴る。同時に、慣れない感触が襲う。

 

「……ん?」

 

 そこでやっと意識が覚醒したのか、気付いた。髪の毛が伸びているどころではない。長い。長すぎる。女の子かっていうくらいに長い。ポニーテールにでも出来そうな長さだ。腰辺りまで垂れているそれは、しかし紛うことなき己の髪の毛。一晩でこれだけ伸びるものか? 否、そんなことは到底ありえないだろう。ジェバンニだってやってくれない。

 

「どういうこと……、ていうか声……」

 

 状況整理の為に呟けば、やけにその声が高く聞こえる。これもそうだ。昨日までの自分の声と、明らかに違う高音。それこそ、まるで女の子みたいな……。とそこまで考えて、あり得ない考えが浮かび上がる。いや、まて、そんな馬鹿な。フィクションの中だけの話だろう、それは。うん。そうだ。絶対にあり得ない。百パーセント。間違いなくあり得てはならないのだ。何だか胸に僅かな重みを感じているのだけど、多分気のせい。全部気のせい。気のせいにしてください。

 

「……待て。いやいや、待てよ。おい。ちょっと待ってくれ……」

 

 恐る恐る視線を胸元へ向ければ、微かに、けれどもしっかりとあるその膨らみ。幻覚ではないかと掴んでみれば、しっかりと反発力が働いた。生物学上雄に分類する自分には、あってはならない筈のもの。それつまり、それがあるってことは、あっちの方も……と考えた瞬間にソコへ手を当てた。ない(・・)。何がないって、ナニがないんですけど、それ以外にどう説明しろと。詳しく言えば、ないけどあるんだ。ある筈のものが無くなって、無い筈のものが現れた。これもうわかんねぇな。

 

「……、夢だ。これは夢だ。何かの悪い悪夢だ。よし、寝よう!!」

 

 悪い悪夢とかそれ頭痛が痛いと同じ間違いワロタ。そんな風に考えることもままならず、即座に布団を被って寝る。夢の中で寝るとか、ちょっと自分でも何やってるかよく分からん。けど、これが現実ではないのだけは理解した。俺が女の子になるとか、そんなの誰得だよちくしょうめ。そう言ってやりたい。宣言してやりたい。だからこれは悪い夢だ。起きたときには俺は男だし、髪の毛はいつも通りの筈だし、声だって変わっていない筈だ。胸なんて筋肉だけの、男としてあるものはある、そんな俺に戻っている。

 

「そうだ。これは夢なんだ。だから、一回寝れば直るんだ。これは夢。夢だ」

 

 だとすると、果てしなく嫌な夢だなぁ。自分が女の子になる夢とか、それ絶対に現実で起こってほしく無い。色々と苦労するだろ。トイレとか、着替えとか、主に下着方面とか。あっはっは、夢でよかったわー。まじでこれ夢でよかったわー。ホント、ユメデマジヨカッター。……はぁ。

 

「……うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!??」

 

 とりあえず叫んでりゃ何とかなる。本能からそう思った俺は、思いっきり息を吸い込んでから、そんな大声を上げた。アイエエエエエ!? ナンデ!? オンナノコナンデ!? 寝て起きたら女の子って、一体どういうことだってばよ!? 分かんねぇ分かんねぇ分かんねぇ分かんねぇ分かんねぇ分かんねぇ分かんねぇ!! どうしてこうなった! こんなことするような人、俺の身内には存在しな……いや、一人いたけどあの人は今絶賛指名手配中だしっ!!

 

「な、なんなんだよこれ!」

 

 救いを求める叫び声は、しかし自分以外誰もいない部屋に木霊するばかりだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 突然だが、俺──植里 蒼(うえさと あお)は転生者である。うん。いやね、君たちが疑ってしまうのも理解できる。だってこんな突拍子も無い話、信じられなくて当たり前だ。俺だって目の前で転生したんだ~なんて言われたら真っ先に頭が大丈夫かどうか確認する。目がマジだった場合は本当に手遅れなので、直ぐ様お近くの精神病院に運んであげて下さい。多分、もう二度と会えないでしょうが。良い奴だったよ、アイツは……。いやいや、誰もそんな奴いねぇよ。むしろ俺自身がそうじゃないか。なるほど、俺自身が精神病院になることだ。一体どういうことなの……?(困惑)。なんて巫山戯ている場合ではない。話を戻そう。ごく普通の生活をしていた俺は、ある日唐突に神様と出会った。ここ重要。なんか寝たら居たんだよ。夢かとも思ったが妙に意識がはっきりしてるし、痛覚はきちんとあったし、何よりも夢とは思えない現実味が存在してたと思う。何の疑いもなく「ああ、これって現実なんだ」なんて信じちゃったあの時の俺バカ。超バカ。お陰で現状物凄い面倒くさくなってる。とりあえずチラ見。

 

「うぅ……ぐすっ、ひぐっ……」

 

 マンションで独り暮しの男子中学生の部屋に泣いている美少女がっ。おいおい、誰だよ泣かした奴。こんな綺麗な子を泣かすとか全人類敵にまわしてるぞコラ。さっさと出てこんかい。特定するならば天才じゃなくて間違えた天災とか呼ばれてるおっぱいらびっと。てめーの所為で俺の日常生活がエマージェンシーだよ。どうするの、これ。ねぇどうするのこれ。前世の時から容姿は良くない方で、転生しても一切変わらなかった結果として女性との接触は苦手なの。しかもここISの世界だし。分かる? インフィニット・スラトトス……ちげぇよインフィニット・ストラトスだよ馬鹿野郎。全く、焦るな落ち着け冷静に対処するんだ。そう、部屋にいるのは紛れもない美少女。だが──()だ。

 

「ままままぁ、コ、ココッココココーヒーでも飲んで落ち着けよ一夏」

「お前が落ち着けよぉ……」

 

 もうやだ……なんて涙目で言いながらカップを受けとる一夏ちゃん。やべぇ、凄い可愛いんですけど。しかしながらお前男だろと言いたくなってくる。なんでそんな瞳をうるうるさせてんだよ。萌えるだろうが馬鹿野郎。違う違う、お前そんなキャラじゃねぇだろ。千冬姉を支えたいんだ(キリッ)とか言ってたお前はどこいった。カムバック一夏くん。カムバック友人。

 

「その……なんだ。本当に、一夏なのか?」

「……、」

 

 無言でこくりと首肯する一夏ちゃん。やだ、何この子本当にあの唐変木かよ……。すくっと立ち上がって一言。

 

「ちょっと寝てくる。やっぱ夢って怖いわー」

「夢じゃないよ現実なんだよ蒼!」

 

 えっ、なにその絶望感。やめてくれ、その言葉は俺に効く。嘘だろこれも夢なんだろ? ほら、早く覚めてくれ。痛みだって……あるし、現実味も……あるし、意識もはっきりとして……るけれど、これは夢だ。そう、夢なんだ。むしろ俺が夢と思った時点で、全ては夢なんだっ!!(暴論)ごめんちょっと凄い混乱してる。

 

「ちょ、やめ、う、うう腕を掴むなよバカ! 女の子に触られるの慣れてないんだよ!!」

「俺は男だよ! 織斑一夏だよ! お前の友達だよ!!」

「あっ、そっか……。そう思うとなんか安心したわ」

「えっ」

 

 言った瞬間にさっと部屋の隅に逃げる一夏。何故に。

 

「お前まさかホm……」

「俺の友人に織斑一夏なんて奴はいない。さっさと帰れこの電波」

「ごめん、ごめん! だから見捨てないでくれ蒼!」

 

 この通りですとか言って土下座してくる美少女(男)。あかん、俺の精神衛生上いくない。とりあえず早急にやめてもらった後、詳しい話を聞くためにもお互いにテーブルを挟んで向かい合いながら座る。ついさっき押し掛けてきて、織斑一夏だとか言ってくるから相当びびったわ。おまけに美少女だったから余計に。やっぱ女の子って苦手っすわ……。

 

「お茶がいいんだけど……」

「わがまま言うな」

 

 とか話しながらもお茶を持ってくる辺り、俺は結構甘い性格をしているのかもしれん。手をつけなかったコーヒーは俺が美味しくいただきました。

 



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家族の絆は偉大。

「──で、だ一夏ちゃん」

「一夏ちゃん言うな」

 

 ジト目でそんな抗議の声をあげながらも、持っていた湯飲みをことんと置く。兎にも角にも状況把握からだ。何をしようにも知識というものは重要であり、逆に言うと知識が無ければ出来ることすら限られてくる。キノ◯ッサとかぷふー、なんて油断していたらほうしローキックドレパンほうしローキックドレパンなんて事もある。すまない、ちょっと前世のトラウマが。本当にすまない。気にしないでくれ、発作みたいなもんだから。つらたん。

 

「先ず、どうして俺のとこに来た」

「俺の交遊関係を思い出せ」

 

 言われて思い返してみる。原作前なので勿論のこと他国ヒロインは殆どいない。取り敢えずあげていこう。篠ノ之箒さん。なんたら保護プログラムのせいでどこにいるか分からない。よって一夏を助けられない。いや、居たとしても助けを求めるのはやめた方がいいと思うが。凰鈴音さん。残念ながら引っ越してしまった為、助けに応じることは出来ないだろう。というか同じ理由で求めるのはやめた方がいいな。惚れた相手の性別が変わったとか、そんなん失神ものやでぇ……。となれば自然五反田家に行くのもマズイ。妹さんがいるから。数馬? 失礼ながら役に立つビジョンが見えなかった、すまんな。お前もそうだろとか言われると何も言えないけど。

 

「……弾、は駄目として、数馬のところとかあっただろ」

「考えてみろ。あいつらがまともな思考回路を働かせると思うか?」

 

 沈黙。

 

「…………なら、俺もだな」

「蒼はいつでも冷静だし、なんか……大丈夫そうだなと」

 

 はは、なんて笑いながらそう言ってくる一夏。瞬間、俺の中の何かが切れた。こう、決定的な何かが。貴様俺の最後の波紋を喰らわせてやろうかこの野郎。なるほど、つまりお前は俺をヘタレとして見ていたんだな。そうかそうか、良く分かったぞ一夏。ヘタレで女性に耐性が無くて意思も立場も弱いクズみたいな男だと、そう言いたいんだなお前は。よしよし、OK。理解した。

 

「ちょっと死んでくる」

「どうしてそうなった!?」

 

 がっしと後ろから羽交い締めにしてくる一夏。ええい、離せ、離すんだ一夏! こんな前世も合わせて童貞守り通してるチェリーボーイ(笑)なんて死んだ方がマシなんだろそうなんだろ! さよなら母さん父さん。今世では絶対気味の悪い子供であった筈の俺を優しく育ててくれてありがとう。中学生になると同時に独り暮らしさせるとかマジかとも思ったけど、別に何とかなってるし嬉しいよ本当。けどごめんね。今なら分かる。空を飛ぶ鳥の気持ちが、分かる気がするんだ。

 

「あいきゃんふらーい」

「無理に決まってんだろ馬鹿か!?」

 

 より強く押さえ付けられ、一夏と体が密着する。ここで初めて俺は気付いた。気付いてしまった。冷静に状況を分析しよう。今、織斑一夏(♀)は植里蒼(♂)を後ろから思いっきり羽交い締めにしており、必然的にそれは女性的部位があたるということだ。むにゅり、という感触と共に弾ける思考。飛び出すパッション。溢れるセンセーション。何イって……何言ってんだろ俺。

 

「ぅい……いい一夏、ちょっといいか」

「? なんだよ、急に落ち着いて」

 

 これが落ち着かずにいられるか(半ギレ)。

 

「えっと、その……だな。あ、当たってるん……だが……」

「何が?」

 

 こいつTSしても鈍感なままなの? なんでや、いやつい先日まで男だったからまだ分かるけど、なんで自分の体のことを把握してないんや。何となく歪んだなー、とかそういうので分からないの? 朝起きた時とかも揺れたりして違和感覚えるだろ。しかもこいつよく考えたらノーブラじゃねぇかおいマジで何してんだ嘘だろ承太郎……。

 

「……一夏」

「だから何だよ」

「おっぱいが当たってるんだが」

「は? …………はぁぁああッ!?」

 

 めっちゃ大声で叫んだかと思えば、尋常じゃないスピードで部屋の隅にまで移動。あれ、なんか凄いデジャブ(前話参照)

 

「お前気持ちわりぃぞ……」

「例え中身が男だろうが体は正真正銘女性のそれだろうが。こっちは女体の神秘の“し”の字さえ知らねーんだぞおい」

「だからって今の反応は……、うん。ごめん帰るわ」

 

 じゃ、と片手を上げて帰ろうとする友人。正直な話このままスルーしてやってもいいのだが、如何せんこの問題は俺にとっても結構重要だったりする。神様転生を果たした一人の凡人として、織斑一夏には織斑一夏(♂)でいてもらわなければ非常にマズいのだ。原作介入とかしたくない。つーかとっくの昔に諦めたわ。あんなチート共相手に何が出来るって言うんや。戦闘能力たったの5……ゴミめ、的な展開しか待ってないですしおすし。

 

「そもそも、お前身内に俺より頼れる人がいるだろ」

「は? いや、誰だよそれ」

「お前の姉」

 

 ぴたり、と動きを止めた一夏は、直後に物凄い早さでポケットから携帯を取りだし、タタタタッとボタンを連打。何今の早業。しゅごい。まるで渋谷とかにいる女子高生の如き携帯の使いよう。爺臭い一夏でもこうなのだから、人間必死になればなんでも出来るんだなー……なんてぼうっと考えた。ツーコールほどだろうか。少しの時間を待ってから、一夏の肩がびくりと跳ねる。

 

「もしもし千冬姉!? 俺だよ俺!」

 

 それ明らかに詐欺電話。

 

『……誰だ貴様は。それは一夏の携帯の筈だが』

「俺だよ織斑一夏だよ!!」

『馬鹿を言うな。私の弟の声はそんなに高くない』

「あああそうだった声違うんだったッ!!」

 

 やっぱ焦りすぎやろお前。そりゃそうだ。女の子になった一夏ちゃんは声も高くなってるんだから、余計一夏くんと信じてもらえなくてもしょうがない。少し考えれば分かる筈なのに、何だかなぁ……。いや、俺も人のこと言えた義理じゃないけど。

 

『それで、一夏をどうした。場合によっては今すぐ──』

「そうだ! 今から蒼に変わるから!!」

 

 は? いや、なして俺? ちょっと待て言いたいことは分かるがしかしおい無理矢理携帯を握らすんじゃねぇやめろ千冬さんと会話とか出来る訳ねぇだろ女性苦手なんだよ正気かおい正気か織斑一夏てめぇその胸揉みしだくぞコラァ!!

 

「……もし、もし」

『ほう、本当に植里そっくりだな。それで、本人たちはどうした?』

 

 あかん信じる気ゼロやんこの人。

 

「そ、その本人です、ちっ……千冬、さん。その、マジでヤバイんです。本当、あの、ええっと……とにかく」

『……ふむ。吃り具合から察するに本当に植里本人か。ならば何だ。イタズラか? 大人をからかうなと学校で──』

「千冬さんっ!! ……お、おおお落ち着いて、聞いて下さい」

『……何だ』

 

 

 心臓がスッゲェばくばく言ってる。女性の名前を叫んだだけでこれとか、些かメンタル弱すぎると思います。しょうがないだろ、この世界の女性は立場的に上なんだから……。IS使えるだけで立場が上とか、ちょっと納得出来ないにも程があるけれども。現実なんだからしょうがない。認めるしかないのだ。

 

「一夏って、男でしたよね?」

『あぁ、そうだが』

「俺の目の前に、織斑一夏を名乗る女の子がいるんです」

『ほう、面白い夢だな。お前の欲望が漏れ出ているじゃないか』

 

 俺にそんな欲望はない。断じてない。ない筈だ。あってはならない。というかマジで勘弁してください。そこまで行ったら俺は女性に餓えた薄汚ねぇ野郎だ。幾らなんでもそんなに性欲は強くない……と思いたいなぁ。男なんてお猿さんばっかりだから可能性としては低いけど。

 

「その、千冬さん。お手数ですけど、頬っぺたつねってみて下さい」

『それがどうした、普通に痛いが』

「現実です」

『──』

「これが、現実なんです」

 

 電話の向こうからの音声が途切れる。今、千冬さんは一体どんな表情をしているのだろうか。世界最強の驚いた顔は是非とも見てみたい。それが画面の向こう側とか一次元下であったならば。

 

『……植里、一夏に代われ』

「わ、分かりました」

 

 答えてさっと一夏に携帯を返す。会話を近くで聞いていた一夏は、もしもしと言いながらそれを耳に当てた。ふぅ……やっと終わった。長かった、これだけの時間を女性と喋ったのは何時以来だろうか。一対一で。一夏とか弾とか数馬がいるならばまだしも、一人だったり今のように電話だったりすると極度に緊張する。直さなければいけないんだろうけど、そう簡単に直りそうにないし。つーか直っても良いことねぇよちくしょう。

 

『本当に一夏なんだな?』

「あ、あぁ。そうだよ千冬姉」

『──信じるぞ。今から三時間後にそっちへ行く。場所は?』

「え? あ、えっと、蒼の住んでるマンションだけど」

『分かった。待っていろ』

 

 プツリ、と通話が終わる。色々と話の内容からして言いたいことはあるが、とりあえず一言。

 

「一夏、いいお姉さんを持ったな」

「明らかに悪い予感しかしないんだけど」

 

 しっかしあの人大丈夫か。絶対仕事とか全部放ってこっち来る気だったんだけど。まさにブラコン。社会人としての立場はなんのその。その気になれば武力で解決できそうなのもそれを後押ししている気がする。ただ、その姉すら攻略対象に入れるとか、こいつ最早ギャルゲー主人公越えてエロゲー主人公だろ絶対。R18指定入ってんだろ、知ってる。

 

「さて、取り敢えずは──」

「あ、腹減ったんだけど」

「だからわがまま言うんじゃねぇ」

 

 取り敢えずは、食事からだな。

 

 




ISの設定があやふやすぎてヤバイ。時系列とかどうなってんのあれ……おしえてエロい人。


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友人の家事力が高い件について。

「ふんふふーん♪」

 

 そう鼻歌交じりにキッチンで料理をしているのは、先程まで焦りに焦っていた姿こそ違えど我が友人(♀)である。つまるところの織斑一夏。インフィニット・ストラトスというライトノベルの主人公。鈍感で唐変木でどうしようもないほど人の好意に気付かない、それはもうイケメンな男の子だった(・・・)。過去形? 当たり前だろ、目の前にいるのは紛うこと無き超絶美少女なんだから。いやぁ、千冬さんもかなり美しい部類に入っているし、織斑家ってやっぱ頭おかしい(褒め言葉)。姉は刃のように綺麗で格好いいクール系美女。弟(♀)は凄くモテる優男だったキュート系美少女。なるほど、クールにキュートと来れば次はパッションですね!

 

「……そんなに楽しいか、料理」

「まぁ、嫌いじゃないし」

 

 ふんふむ。何ともすばらな光景ですね。しかし残念かな、こいつの本性は男なのだ。しかも憎きイケメン。本来の性別だったとしても絵になるとは思うが、思春期の中学生としてそれを見るのはご遠慮願いたい。男が男の部屋に上がり込んで料理とか、それどこのBL漫画。加えて鼻唄までやってたら、パーフェクトアウトじゃあありませんか。うん。そう考えると失礼だがこいつがTSしておいて良かったと思う。絵面的にもこう……萌える方に傾いてくれたからね。エプロンは無いけれども。すまんな、俺は殆ど料理なんてしないんだ。自炊しなきゃとは思ってるんだけどなぁ……。

 

「なんつーか、本当すまんな。任せっきりで」

「いいさ、別に。気分転換にもなってるし」

 

 なんて会話をする理由は、数分前のことにまで遡る。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 件の一夏が腹減ったなどと言ってきたので、仕方無く食事を優先することになった。とりまコンビニでいいかー、なんて軽く考えて立ち上がれば、近くに突っ立っていた一夏ちゃんから一言。

 

「どこ行くんだよ」

「え、いや……コンビニ?」

「は? なんで?」

 

 如何にも分からんと言った風に首を傾げる一夏。いや、人がこの状況でコンビニに行く理由なんて限られてくるでしょ……。というか正直どうでも良くないですかね。俺がコンビニに行く理由とか。

 

「腹が減ったって言ったのはお前だろ。飯買いに行くんだよ」

「え? 作らねーの、飯」

「残念ながら俺にそんな主夫力は無いのです。……つーわけでちょっと行ってくる。何がいいよ?」

 

 言った瞬間、一夏ちゃんから向けられていた視線が強くなる。え? なに、俺なんか気にさわること言った? ちょっと待ってくれよ、今のお前女性だから視覚情報には弱いの。許して。許してヒヤシンス。

 

「お前、まさか毎日コンビニ弁当かよ」

「馬鹿を言うな。そんな無駄遣いはしない。三、四日ほどはきちんとしたモノを食べるし、それ以外の日もカップラーメン一個とか、カロリー◯イトとウ◯ダーとか、そんなもんだ」

 

 びしり、と一夏の体が固まる。つーかちょっと震えてない? 肩がふるふるしてない? フルフル。なに、ヴェアアアアアアみたいな叫び声あげるの? 怖っ。

 

「……今から俺が朝食を作る。それでいいな?」

「いや、でもそれは──」

「 い い な ? 」

「はい」

 

 ごめんなさい、別の理由で一夏ちゃん怖いです。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「あの時は命の危機を感じたぜ……」

「何言ってんだ蒼」

 

 ほら、なんて言いながら俺の目の前に置かれたのは、織斑一夏特製の朝ごはん。白ご飯に漬け物、先程焼いていた魚にお味噌汁、おまけに卵焼き。ご飯とお味噌汁に関してはインスタントですけどね。うむ。人類の技術ってすげー。なになに、卵焼き? もちろん食べりゅ。

 

「しっかし食べ物が華やかだな」

「どんだけ偏った食生活を……だから体調崩すんだよ蒼は」

 

 そりゃあ自覚するほどに酷いものですよ。すまんな、こちとら不健康を地で行く現代っ子なんや。カップラーメンマジで神。あれさ、固まってる麺を三つに割ったら三食一個で乗り切れるんだぜ! ただこれ、あんまやり過ぎると体壊すから。マジで体育の途中にぶっ倒れた時は死ぬかと思った……。あれから結構改善したと思うんだが、一夏的にはアウトだったらしい。なんでだ、きちんとした飯はちゃんと食ってるって言うのに。

 

「いや、朝起きたらいつも気分悪いし、朝食とかちゃんと作るの面倒だろ」

「それは不規則な生活をしてるからだ。いつも健康的にすごしていれば体の不調なんて殆どない」

 

 ふん、なんて真面目な顔でそう言ってくる一夏。確かにこいつが体調崩したことなんて滅多に見ない。年中元気に女子へと笑顔を振り撒いてる。めっちゃキャーキャー言われてる。しかしそれをただの(・・・)好意と受け取ってしまうのが一夏クオリティ。付き合って。いいよ、買い物か? なんてあまりにも有名なフレーズ。お前本当頭ん中どうなってんのと聞いた俺は悪くない。相手の女子凄い可哀想だったじゃん。勇気出して告白したのにその対応はねぇよ。マジねぇよ。

 

「…………さっすが、この年で健康を意識してる奴は言うことが違うな」

「当たり前だろ。いい老後はいい生活から」

 

 言い切って胸を張りながらぱくぱくもぐもぐ。こいつ食べる時まで姿勢良いのかよ……(驚愕)。いや、薄々気付いてはいたけれども。何故今更そんなことを気にするのかと言うと、胸を張ってるおかげで自己主張の激しいそれがもうわがまま。Tシャツだから余計に分かる。密着した時にもしやと思ったが、結構でかいんじゃないんすかねこれ。正直目のやり場に困って仕方ない。やめてくれよ、俺のSAN値が直葬コースだよ。もうやだ、凰さんに謝れよこの野郎。

 

「……気にしてもしょうがない、よな……」

「? 何がだよ。それより食わねーのか?」

 

 お前さっきからそればっかだな。本当どうして気付かないのかなぁこの朴念仁。……いいや、最早考えても無意味だな。こいつが昔からそうなのは知ってるし。むしろ生まれる前から識ってる。元々織斑一夏ってキャラクター自身がそうなのであって、何もしなければこうなるのは必然なのだ。何もしないというより出来なかった自分に敬礼。お前のおかげで、数多の女子が救われたと思うよ……多分。ほら、告白が意味無いって分かって。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 手を合わせてぽつり。確かに不規則な生活を送る現代っ子だが、食べ物に関する感謝の念を忘れるほど馬鹿でもない。というか忘れたら一夏に殺される。無駄にそういうところ真面目だからこいつは本当お節介。トラブルメーカーでもあるが。尤も、振り回されるのは主に周りにいる俺達だけだがな! 駄目じゃねぇかオイ。巻き込まれ系転生者とか、そういうところで巻き込むんじゃない。もっとシナリオに関する場面でだな……いや、それこそ勘弁してほしいけど。

 

「おお、うまい」

「ん、そっか。なら良かった」

 

 流石は幼い頃から家事を行ってきただけはある。マジでうまくてちょっと感動しちゃったじゃねーか。なるほど、これがおふくろの味ってやつね。一夏がおふくろとか、何それ男なのにぷーくすくす……なんて言える状況じゃないんだよな、現在進行形で。だって一夏ちゃんだもの。どこからどう見ても完璧に女の子ですよ。やったねちーちゃん妹が出来たよ! はてさて、それは本当に喜ぶべきなのか。いいや、喜ぶべきじゃあない(反語)。

 

「つーか、女になって真っ先に来るのが女苦手な俺のとこって、そこはかとなく悪意を感じるんだが」

「うっ……すまん。だって、身近で頼れるのがお前くらいしかいないし、家も一番近いし、何よりもう訳が分からなかったし……」

「あーすまんすまん悪かった、別にそんな困らなかったしいい、だからほら、あの、泣くなよ……」

 

 お前いつからそんな涙脆くなったんだよ。千冬姉を少しでも助けてあげたい(キリリッ)とか言ってたお前はどこ行ったんだ本当。カムバック一夏くん。カムバック友人。こんなの織斑一夏じゃねぇ!(断言)……いや、気持ちとしては分からなくもない。朝起きたら女になってるとか、そんなもん混乱して泣いたとしても仕方ないだろう。おまけにほら……俺って冷静に見えるらしいし。内心凄い焦ってテンパってるんですけどね。何はともあれ、頼れる人がいたらつい溢れたのかも知れん。でも、美少女なので結構真剣に泣くのはやめてほしいです(懇願)。

 

「……そういや蒼。俺と喋るのは大丈夫なんだな」

「まぁ、外見はともあれ一夏だし。何より話し方がいつも通りだからな。これで女みたいだったらやば──」

「私のことは大丈夫なんだね?」

「──っひゃい!?」

 

 びっくーんと自分でも驚くほど肩が跳ねる。手に持っていた食器を落とさなかったことだけは褒めてやりたい。だがその反応については忘れたい。ちょっと女子っぽくされただけでこれとか、やばい。ガチでへこむ。何で俺はISの世界なんかに転生させられたんだろう。軽く自己嫌悪に陥っている間、現状を作り出した元凶はどうしているのかと言うと。

 

「ぶふっ。っひゃい。っひゃいってお前ッッ……」

 

 爆笑しておられた。

 

「てめぇ一夏この野郎……」

「あ、すまん蒼。醤油とってくれ」

「今それ言うか。あとここ人ん家だからな?」

 

 飯を作ってくれたとは言え、許せないことはある。いやまぁ、醤油はきちんと渡しましたがね。



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暴走美女ちっふー。

「……遅いな、千冬さん」

「そうだな……」

 

 俺はコーヒーを、一夏はお茶をすすりながら呟く。かれこれ食事をとってから数時間。やはり気になっているからか、手元のそれは殆ど減っていない。というか冷めてしまって余計飲む気になれなかった。一夏の方はとちらり視線を向ければ、両手で湯のみを抱えてほっこりしている。可愛い。あと可愛い。外見だけを見れば。もうこいつずっと女の子のままでいいんじゃない?

 

「いや、そういう訳にもいかんだろ……」

「?」

 

 俺の独り言に対してこてんと首を傾げる一夏ちゃん。何でもないかのようにコーヒーをぐいっと一気にあおり、ちょっと乱暴に置く。かたんと音をたてるカップ。朝から訳の分からんことだらけで混乱していた頭が、今更になってきちんと動き出した。よーしよし、よくやったぞ俺。是非ともご褒美が欲しいとねだれるくらいにはよくやった気がする。脳みそ起こしただけなのに何言ってんだろ……。うん。やっぱ混乱してるわ(混乱)。

 

「しかし、もう昼近くだぞ……」

「んー……。やっぱ千冬姉無理なんじゃ──」

 

 と、一夏が諦めの台詞を口にしようとした時だ。ピンポーン、と聞き慣れた音が部屋に鳴り響く。来た。キタキタキタ、キタ━━━━━━! すまんちょっと予想以上に興奮してる。ごめん。ただ、これも仕方がないことなんだ。千冬さんは女性だから俺氏苦手。あーゆーおーけー? どぅーゆーあんだすたん? 解答は是非ともいえす、あんだすたん! を望んでおります。つまりどういうことかと言うと、一体どういうことなの……?(困惑)ええい、待て、落ち着け。つまり、苦手な人が来るときのドキドキと助けが来たドキドキが合わさって、もうドキがムネムネなんだよ!

 

「……ぁ、開いてます、千冬さん」

「一夏ァッ!!」

 

 ばーん、とドアをぶち破って入ってきたのは世界最強のお姉ちゃんでした。やばい、何がやばいって顔が絶対ファンの皆様にはお見せできない。これは不味いっすよ千冬さん。主に俺へのダメージが。いやだってこんな状況待ち望んでた訳でも無いし、冷静に考えると女二人に男一人っていう状況だし、しかも一人はくっそテンパってるし、一人はTSしちゃって情緒不安定だし。ひゃー、これは想像以上にえぐいですぞー。ワイのメンタルが。何度でも言う。ワイのメンタルが。

 

「一夏!! 大丈夫──」

「千冬姉!! 俺だよ俺、分かる!?」

 

 ぴたりと静止。それから凝視。じっくりことこと一夏ちゃんを穴が開くほど見詰める。ほっ、こっちへ矛先が全然向いてない。やったね、これで安心して二杯目のコーヒーが飲めるよ。ふぅ、やれやれだぜ。ラノベのやれやれ系主人公と承太郎さんの差はでかい。つまりテメーらに足りてねーのはオラオラなんだ。あと情熱と思想と理念と頭脳と気品と優雅さと勤勉さ。そして何より速さが足りない。

 

「一、夏……なのか……?」

「そ、そうだよ千冬姉。その、信じられないかも知れないけど、俺は正真正銘織斑一夏だよ!」

 

 きゃーはっきり言っちゃう一夏ちゃんかっこいいー、すてきー、抱いてー。いや、やっぱやめて。先ず俺そんな頭悪そうな女子みたいな思考回路してないし。男だからどちらかという抱かれる方より抱く方だし。まぁ、生涯で一人抱けるかどうかも分かりませんがね! えぇそうですよ童貞ですけど何か。もうここまで来ると一周回って童貞で自慢できるレベルだよ。恥ずかしくねーよ。自分の貞操をここまで守りきってるんだぜ。むしろ尊敬してくれてもいいのよ。マジで言ってんのかって? んなもん負け惜しみに決まってんだろバーロー。

 

「──植里」

「ひゃい!?」

 

 いきなり名前呼ばんといて下さい。びっくりしちゃって変な声出たでしょーが。同時に自己嫌悪で死にたくなっちゃうでしょーが。あと一夏、お前また笑ってんじゃねーよその胸揉むぞコラ。一夏と相対していた千冬さんがゆらりと揺れ、前髪で隠れた顔が此方を向く。えっ、何その状態。凄く怖い。つーか怖い。やめて、もう俺のライフポイントはゼロよ。食べても美味しくないよぉ!

 

「なんだ、こいつは」

「え、いや、その、い、いいい一夏です、けど……」

 

 ギロン、と眼光が煌めく。ひえっ。お願いやめてぼく死にたくないよまだ生きたいよやり残したことがあるのヤり(・・)残したことがあるの二回連続で童貞のまま死ぬとかあの世に行っても笑い者だよやめてちょっと近付かないであんた世界最強なんだろ死ぬよぼく死んじゃうよ一般人が逸般人に勝てる訳ねぇだろいい加減にしろよあのすいませんマジで勘弁して下さい腎臓でも何でも売るんで。尚、内心こんな動揺してるけど、現実では冷や汗かいて震えてるだけ。だから勘違いされんだよお前は。

 

「なんだ、この──」

 

 がしっと肩を掴まれる。痛い。いや、こう骨が折れるとかそういうのじゃなくて、切実にただ痛い。気付いたら肩が消し飛んでるんじゃないかってくらい痛い。え、それって結構ヤバめな肉体の危険信号じゃない? なるほど、つまりもう既に俺の体はボロボロなんだな。オデノカラダハボドボドダ!

 

「──可愛い生き物は」

 

 ………………は?

 

「ちょ、ま、待って。ちちち千冬さん落ち着いて」

「これが落ち着いていられるか。ただでさえ可愛かった一夏が女の子になったんだぞ。女の子になったんだぞ!」

 

 何故二回言ったし。

 

「男のままでも十分一夏は可愛かった。だが、女の子になってもここまで可愛いとは思わなかった。これは最早人間レベルのものではない。人間国宝レベルの可愛さだ。永久保存レベルだ。世界遺産に登録しなくては(使命感)」

「やめて! 確かに一夏は可愛いと思うけど、それは絶対面倒なことになるからやめて! というか千冬さんなら本気でやりかねないからマジで勘弁して!」

 

 これはマズい。当初の予測とはかなり違ってマズい。取り敢えず俺が千冬さんと普通に話せてる時点でマズい。そして何より千冬さんの一夏に対する溺愛っぷりが物凄くマズい。何がマズいってさっきからマズいとしか言ってないくらいにはマズい。あれ? ここってかの有名なインフィニット・ストラトスの世界だよね? もしかして転生者のバタフライエフェクト的な何かでこうなったの? とにかくマズい。この焦り具合からして本当マズい。マズいマズい言い過ぎてもうマズいがゲシュタルト崩壊起こしそう。マズい? 何それ美味しいの?

 

「千冬姉落ち着いてくれ! もう千冬姉が頼みの綱なんだよ!」

「なんだ一夏。お前の願い事なら可能な範囲九十九パーセント国家権力を使ってまで叶えてやる。大丈夫だ安心しろ、うるさい政府の奴等も黙らせてやるから」

「じゃあこの体をどうにかしてくれ!」

「却下だ」

「なんでだよ!?」

 

 うん。ちょっと予想してた。けどガチでそう言うとは思わなかった。これも俺のイメージが足りていなかったせいだろう。イメージしろ。君はこの言葉で何を思い浮かべる? 赤い外套のあの方が真っ先に出てきたそこの貴方。立派なfate脳です。ドラゴニックでオーバーロードを使うあの人を思い浮かべた貴方。立派なヴァンガ脳です。勃ち上がれ、俺の分身!

 

「ああもうどうすればいいんだよ!」

「どこぞの天災に連絡出来ればいいんだけどな」

「は? 蒼、何でだよ」

「十中八九この騒ぎを起こした張本人だろうから」

 

 しんと静まり返る部屋。千冬さんが何がだと言うように眉根を寄せ、一夏が黙ったまま俯く。ちょっとその表情が見えなくなる角度やめてもらえませんかね。泣いてるお前の顔思い出して嫌なんだけど。

 

「それ先に言えよバカァ! いや、薄々感付いてたけど!!」

「ならいいだろ。つーか、冷静に考えてあの人以外にこんな事態は起こせないし」

「だよな、だよな! 千冬姉! 束さんに電話!」

「仕方がない。それならいいだろう」

 

 取り出して二秒もかからず耳に当てる。えっ、なにいまの。指を動かしたところさえ見えなかったんだけど。頭おかしいんじゃねぇの本当。やっぱ織斑家って魔窟だわー。まじパネェわー。携帯の認識速度ギリギリの人間の認識速度を越えた操作って、それ実際に可能なんですかね……。いや、無理に決まってんだろ常識的に。

 

「もしもし、束か」

『もすもすひねもすちーちゃんおっひさー! 何々? この束さんにお電話とは珍しいねー。それで? 何か言いたいことでもあるのかい?』

「グッジョブ」

『そんな、お礼はいっくん──改めいーちゃんをIS学園に入学させてくれれば』

 

 うん。最早察した。この流れ、もう誰にも止められない。例え隕石が降ってこようとも止まらない。天災ってそういうものだろ。というか千冬さんがこの調子じゃ何も出来ないって。

 

「確かに、一夏を下手な学校に入れて馬鹿な男に騙されてはいけないからな。その点あそこなら安心だ」

「俺嫌だよ!? IS学園って明らかに女子だらけじゃねーか!!」

「一夏、あきらメロン」

「嫌だよ絶対行きたくねぇよだって俺男だよ!?」

 

 原作のお前は行ってんだよ(暴論)。

 

「それで、一夏を元に戻すモノはあるのか?」

「!! ち、千冬ね──」

『無いよ。作るまで三年はかかるね(大嘘)』

「私は最高の友人を持ったよ」

「ちっくしょう!!」

 

 何これ。まさに混沌。こいはーかおっすーのーしもべなりー。別に恋じゃねぇけど。あとはどうでもいいけど話を振られるか否かのドキドキで俺のSAN値がピンチ。とりあえずあんたら一旦落ち着けよ。話はまだ終わってねぇんだっ!!




この作品にシリアスがあると思った貴方。そんなものは私が許さない。

結論:やっちゃったぜ。


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天災でも立派な女性だから怖い。

「落ち着け、落ち着くんだ……そう。素数を数えるんだ……あれ、素数って何だっけ」

「お前が落ち着けよぉ!!」

 

 一夏のツッコミが冴え渡る。なるほど、これが笑いの零落白夜ですね分かりません。とりあえずこんなてんやわんやしていてはどうしようもない。千冬さんがテンション跳ね上げすぎてもう頼りにすらならないし。何しに来たんだこの人。そう問うたら多分一夏を愛でるために決まってるだろう(キリッ)って返されると思う。事実現在進行形で返されました。人の考え読み取ってんじゃねーよ駄姉。心の内では強気なのに、リアルになると途端に弱くなるメンタルチキン野郎。はい、俺です。

 

「ああもうどうすんだよ蒼! 余計事態が悪化してるんだけど!?」

「you諦めて覚悟決めちゃいなyo」

「嫌だよ!? お願いだからどうにかしてくれ! このままじゃ俺、女に囲まれながらの高校生活だぞ!?」

 

 今と然程変わってない気がするのは気のせいですかね。女の子にモテモテで四六時中キャーキャー言われてるのに、それを言われても今更感しか漂ってこない。落ち着いて考えてみるんだ。そう、女の子に囲まれるという事態は織斑一夏として避けられない現象であり、忌避すべき対象ではないのだ。結果、織斑一夏=ハーレム=女の子いっぱいとなり、織斑一夏=女の子となる。なんだ、最初っから答えは出ていた。

 

「一夏。女が女の園へ行って何がおかしい」

「いやだから俺男だっつってんだろいい加減にしろ!」

 

 えっ(驚愕)。

 

「どうしてそこで驚く!?」

「お前……男、だったのか……?」

「昨日まで蒼と友達だったのは誰だぁぁあ!!」

 

 叫んでぜーはー、肩で息をする一夏ちゃんかわいい。つーかかわいい。おまけにテンションMAXな千冬さんもかわいい……ハズ。ごめんなさい、そこは自信を持って言えないんだ。なんて言ってもファンの方々には別の意味で絶対に見せられないし。こんなの織斑千冬じゃねぇよ。織斑千冬じゃねぇよ! 大事なことでもないけど二回言いました。

 

「……つーか、蒼は、もう分かってんだろ。俺の言いたいこと」

「HAHAHA、いいい一体なな何のことかな(震え)」

「あからさまな反応ありがとう。この中で一番冷静なのは誰か分かってるよな」

 

 勿論だろ。一旦この状況をまとめてみよう。俺って状況整理するの凄く好きだね。今日だけで何回この思考を繰り返しただろうか。千冬さんは一夏のTSでMAXコーヒー並みにテンションがMAXになってるから無理。一夏はそのTSを経験した張本人だから冷静に見えて意外と焦りとか不安とか色々とごちゃ混ぜ闇鍋状態。精神が脆くなっておられる様子。一夏を狙ってる女子の皆さん! 今優しくしたらチャンスだよ! ご結婚出来るかもしれないよ! ……千冬さんという壁を乗り越えられたら。なにそれどうやっても詰んでる。無理ゲーじゃねぇか。一夏の攻略がつーんだつーんだ。ここまで現実逃避。これからも現実逃避だったらいいなぁ。いえ、不可能ですけどね。うん。さて、一番関係無くて頭の中を整理しており比較的冷静で今も尚こんな馬鹿げたことを考える余裕がある人だーれだ? 私だ。お前だったのか……。

 

「ぼくれいせいじゃないからわかんない」

「お前だよ。こんな状況でもふざけてるお前以外に誰がいる。見てみろ、千冬姉のあれはナチュラルなボケなんだよ分かってんのか!?」

 

 こいつ遂にボケなんて言いやがったで。しかも地味に世界中で一人だけの身内のことディスってる。千冬さんは悪くないんだ。一夏の可愛さにやられたせいであって、全てはこれを起こした元凶……おっぱいらびっとが悪いんだ。あれはナイスおっぱいですよ。流石は細胞レベルでオーバースペック。織斑家にも負けず劣らず。篠ノ之家もどーなってんだよ……。

 

「頼む。酷いこと言ってる自覚あるけど、千冬姉を止めてくれよ。そして束さんを説得してくれ」

「あの、自覚あるんだったらやめてもらえませんかね。想像しただけで気絶しそうなんだけど」

「もうお前しかいないんだ。……頼むよ、蒼」

「っ……」

 

 涙目、アンド上目使いのコンボ。確かに俺は女性が苦手だが、別に性的欲求を抱かないって訳じゃあない。萌える展開と合わさってしまえば、自然と本能が勝ってしまうのも仕方がないわけで。つまり何が言いたいかというとだな、一夏ちゃんはいつの間にそんなスキルを身に付けたんですかね。やめてくれ、そんなことされて断れる男はホモくらいしかいない。あとゲイ。どっちも方向性は同じじゃねぇか。そして言うならば、俺はホモでもゲイでも無いということだ。これでもう分かっただろ。

 

「千冬さん、借ります」

「あぁ……、! なに、植里が吃っていないだと」

 

 心臓は凄い跳び跳ねてますから安心して下さい。やばい、こう口から何かが出そう。でろーんて。内蔵みたいなものがこうでろーんて。それくらいドキがムネムネしております。正しく言うとムネがドキドキ。吃らなかったのだって奇跡に近い。ここに来て俺の勝利フラグは立てられた。よし、今なら天災とも対等に話せる気がするぞ、いけるいける絶対出来るやれば出来る諦めんな、諦めんなよぉ! 通話。

 

「も、ももももしもし」

 

 無理じゃねえかヘタレ。

 

『んー? その吃り具合と声はあっくんだね! おひさー! なになに? 君から話そうだなんて明日は隕石が降ってくるね!!』

 

 どうして俺の近くにいる人の共通認識が吃り具合なんだよちくしょう。声でいいじゃん。吃り具合で人を判別しなくてもいいじゃん。ちょっと傷付くだろオイ。ナチュラルに罵倒してんの? それとも俺に罵倒しなきゃ生きていけない病でも患ってんの? 勘弁してくれよ、そんなのあったらもう死ぬしかないじゃねぇか(義務感)。転生オリ主なんて生きても良いこと無いんだ。もう死ぬしかないんだ(確信)。特典も何もない一般人での転生者とか、それ転生した意味あんのかよ俺。

 

「あ、その、ええっと……た、束さん……が、やったんですよね?」

 

 呼吸。呼吸がしたい。ひゅーこー。ひゅーこー。だから息継ぎをしながら話せとあれほど。一息で話すとか無茶にもほどがある。しかしこの人とはあまり話したくないんだよ分かって。察して。

 

『いーちゃんのことでしょー? そうだよー、どうどう? あっくんの中の既視感(・・・)は消えたかな?』

「ま、まままぁ、そりゃ、その……こ、こんなことされたら、消えますって」

『うんうん。それなら良かった。これでもっと楽しくなりそうだよー♪』

 

 何が楽しくなるっていうんだ(困惑)。楽しいどころかこっちは凄い面倒くさいよ。どうしてくれんだこのおっぱい。こらおっぱいこら。揉むぞ。その世界一美しそうなおっぱい揉むぞコラ。

 

『いいよー、君の記憶と交換ならね!』

「!? あ、いえ、えええ遠慮しておきまっす!」

 

 ひえっ。どうして考えてることが分かるんですかねぇ……。やっぱ天災だからか。もしかして部屋に盗撮用のカメラとかつけられてねーよな。この人なら躊躇いなくしそうで怖いんだけど。ちなみに先程の会話からティンときた人もいるかと思うけど、この天災には素性がバリバリばれてるのだー。ははっ、転生者だってばれてーら。色々あったんや。本当色々あったんや。つっても知られてるのは俺が別の世界線から転生したであろうことと、織斑一夏が主人公の小説がこの世界だと知ってるってことくらいだけど。思えばそれさえ言わなければ俺なんて天災にとっての路傍の石だったろうに。あの時のこの人の怖さに口を滑らせた俺のバカ。超バカ。なんとか原作の展開内容だけは死守したがなぁ! ……あれ、一夏が女の子になってる時点でほぼアウトじゃねえか。

 

『ま、あっくんはあっくんのまま動いてくれる(・・・・・・)方が楽しいからいいけど』

「……嫌な予感しかしねぇ」

『あははっ』

 

 ぼそっと呟く。ばっちり聞こえてたみたいですが。ここで俺はピーンと閃いた。独り言ならこうもスルスル言えるんだ。束さんと会話している、ではなくてただ独り言を言っているという認識なら、普通に喋れるのでは。一筋の光が現れた。やった、これで俺も吃らずきちんと喋れるんだ。会話という名のコミュニケーションがとれるんだ。いざ、実践。

 

「そ、そっ、そそそれで、ぃ一夏のこれ、ほ、ほほ本当に直らないんですか?」

 

 やっぱり駄目だったよ……。

 

『うん』

 

 即答ッ! 頷かずにはいられないッ!!

 

『いっくんに使ったのは即効性と確実性のあるモノなんだけどねぇ、欠点として三年間はどんなことをしようが女の子のままなんだ。凄くない? ねぇ凄くない?』

「凄いですね(震え声)」

『当然でっしょー?』

 

 おい天災。その台詞はお前が言うものじゃないと俺の第六感的な何かが告げている。先ず世界線が違う。ここはインフィニット・ストラトスの世界だろいい加減にしろ! さっきから聞いてれば訳分からんことばかり言いやがって。一般的な中学生の偏差値なめんな。転生したからって頭いい訳じゃねえんだぞ。学年トップ争えるくらいだけど。いやそれ十分頭いいやん何言ってんねん俺……。

 

『あとはいーちゃんがどう動くかだけど……これは心配要らないか。いーちゃんは友達思いな良い子だからね、ちゃんと慣れさせて(・・・・・)くれるはず』

「うぇ? あ、いや、その……い、一体どういう……」

『なんでもないよー☆ じゃあもう大体楽しんだし切るねー、ばいばーい!』

 

 切られた。えっ、嘘やん解決方法無くなったやん。しかもあの人楽しむだけ楽しんだだけって。でもお楽しみはこれから的なことも言ってる。あれ、どういう意味だよマジで天災とか意味分かんねぇよ馬鹿野郎。ほんっと人間の手におえねぇ。イミワカンナイ!

 

「……とりあえず、昼飯でも食おう」

「ちょ!? 嘘だろなぁ嘘って言ってくれよ蒼ぉ!!」

「そうだな、さっさと作れ植里」

「ええぇ……(困惑)」

 

 食卓に一人追加。しかも女性。おかしいな、世の中ってこんなに俺に対して優しくなかったっけ。泣きたい。一先ずはこの二人をどうにかしないと安息の日々は訪れないだろう。その為にも今は、昼飯の準備が最優先だ。

 

「一夏、ちちち千冬さんとそこで待ってろ。適当なもん作るから」

「……うん……もう、そうさせてくれ……」

「しっかりしろ。……あとで説明はしてやるから」

 

 すっかりと意気消沈した一夏ちゃん。満面の笑みを浮かべた千冬さんにめっちゃ頭撫でられてる。ついでにほっぺもスリスリされてる。最後にはあれクンカクンカし始めるんじゃね? 何はともあれ、今日もこの世界は平和だなぁ……(目そらし)。




もしかしたら大幅に書き直すかもかも。その時は某猫型ロボット並みのあたたかい目で見守って下さい。

束=サンとの関係がどうもうーんこの。

納豆食いてぇ間違えた納得いかねぇ。


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女の涙はISより強い。

 手に持っているお茶碗を一旦置き、目の前のしゅんとしている一夏ちゃんを見据える。今にも泣きそうでかわいいけど怖い。女の子の涙に弱いのは男の性よ。こいつ一応は男の筈なんだけどなぁ……。女の子一番の武器はISじゃなくて涙。はっきり分かんだね。

 

「……つまり、無理……らしい」

「そっ、か……はは。あれ、おかしいな。目から汗が」

 

 もう存分に泣けよ(慈悲)。ちょっとお行儀は悪いけれども、手を伸ばして一夏の頭へぽんと置いた。そのまま撫でる。今更だけどこいつ髪サラッサラじゃねえか。なにこれ、本当に同じ人間の髪の毛かよオイ。こんなところまで忠実に女の子にしなくてもいいよ天災。本当にありがとうございます。やっべ、一夏のくせにやっべ。これはもう市役所に行くしかありませんね! いや冗談。

 

「……やめろよ、お前。気持ち悪いぞ」

「いいから。今はゆっくりしとけ」

 

 なでこなでこ。ふわふわり、ふわふわる。それ千石。隣の千冬さんが虎でも殺せそうな視線を向けてくるけど、気にしたらいけない。つーか気にしたら死ぬ(確信)。あんたさっき頬っぺたスリスリしてたでしょーが。結構傍から見たら十分な量のスキンシップだと俺は思うわけですよ。だがあれは見てられねぇ。千冬さんテンションが最高にハイッてやつになってるから気付いてないけど、一夏ちゃんすっげえ濁った目をしてたんだぞ。あれはマジで駄目なもんだと思います。何故だろう、今の例えで千冬さんが時を止めるイメージが簡単に出来たぞ。

 

「……ふむ、植里か。吃る点さえ除けば何とか……」

 

 何とかってなんですか(震え)。ごめんなさい凄く怖い。どれくらい怖いかって言うと、深夜の二時に部屋で一人呪怨をプレイするくらい怖い。心臓の弱い人はあれ絶対やっちゃ駄目だから。マジで心停止するから。

 

「ぅ……蒼ぉ……」

「あーもうなんでお前は泣くのやめろよちょっとドキッとするから心臓に悪いんだよ男だろお前ちゃんとしろよほら胸ぐらい貸してやるから」

「早口で何言ってるか分かんねぇよぉ……」

 

 箸を置いて立ち上がってから此方へ回り込み、ひしっと抱きついてくる一夏。こいつ自分がどれだけ可愛いか絶対分かってねぇんだけど。そして何時からそんな泣き虫になった。女の子になってからですね。落ち着いたかと思ったけどやっぱまだ情緒不安定じゃねえか。こいつもこいつで無理してたのかもしれん。何だかんだ言って千冬さんを支えようとバイトしてたような奴だし。受験勉強するからって今はもう辞めてるけど。

 

「俺どうすればいいんだよ……女の子とかやってられる訳ないだろ……」

「あぁ」

「しかもなんでこの時期なんだよ……あと一年間中学生活を送らなきゃならないんだぞ……」

「そうだな、本当」

「なんでだよ……なんで俺なんだよ……束さんの馬鹿ぁ……」

 

 よしよし一夏。言いたいことは分かってる。分かってますとも。全部あの天災が悪い。そう、一夏がこうして泣いているのも、千冬さんがこうも壊れてしまったのも、俺が女性苦手なのだって全部あの天災のせいだ。一つ違うだろって? そんな訳ないだろ。全部全部あの人のせいなんだ。なんと盛大な責任転嫁ッ! 俺のシャツを弱々しく握りながら時折嗚咽を漏らす一夏ちゃんを安心させるよう擦る。さすさす。背中あたりを優しく撫でてやってればなんとかなるだろ。泣き虫な子供を持つ親ってこんな気持ちなのかなぁ……。

 

「うぇぇ……ひぐっ……」

「お前ホント泣きすぎだろ……(困惑)」

「ごめん……ごめん……」

「謝んなよ。……その、何だ。今日くらいは、めいっぱい泣いとけ」

 

 正直視覚情報的にキツいんですけど、一夏のためにも少しは我慢だ。一番キツいであろう一夏がここまで頑張ってたんだし、俺だって頑張らなきゃ男が廃るってもんだろ。女性相手にバリバリ吃ってる時点で男廃ってるとか言うな。自覚はしてる。だって女性経験とか一切無いんだもの。本当の本当に童貞中の童貞だと何度言えば。自分から傷に塩を塗っていくスタイル。辛いです。今世こそは魂レベルの童貞を卒業したい。無理だと思うけど。

 

「ぅ、うぁ……うあああああああっ! 束さんのバカァァァァァァァ! アホォォォォォォ! なんで俺なんだよぉぉぉぉ! 蒼じゃ駄目なのかよぉぉぉぉお!!」

「おいコラ」

 

 不吉なことを言うんじゃありません。この状況で俺までTSしたらもう収拾つかなくなるぞ。具体的にいうと発狂する。キエェェェェェェッエーイ☆(発狂)。セロリはちょっと落ち着いて。大丈夫大丈夫、ここISの世界だから学園都市最強(ガチ)なんていない筈。……断言できないってそれちょっとやべぇな。いいや断言しよう。この世界に能力者なんて一人も居ないのだよ(キリッ)。後にこれがフラグになると、この時の俺はまだ知るよしも無かった……何それもう手遅れじゃん。

 

「クラスの奴等になんて言えばいいんだよぉ……」

「それは俺も協力する。……つーか、出来る限りはしてやるから。安心しろ」

 

 根拠はない。けど、こういう時は心にゆとりを作るのが先決だってばっちゃが言ってた。どこの世界でもばっちゃは先人の知恵を話してくれるから有能。おばあちゃんが言っていた……それは天の道を往く人です。

 

「……うん。ホント、ごめん蒼」

「何年お前の友達やってると思ってんだ。これくらいの苦労ならもう慣れた」

 

 ほんっとこいつトラブルメイカーだからなー。特に多いのが女の子関係のやつ。なにそれ俺を的確に殺しに来てる。しかも一番付き合い長いせいか、一番振り回されてる希ガス。どうして俺なんだ。容姿的には月とスッポンだと自負しているんだが。現に全くモテませんし。前世と殆ど同じになってきてるこの体がいけない。コミュニケーションの方をどうにかしろだと? 馬鹿野郎これだけ喋れてたらいつかは女子とも話せるんだよ、多分。未来は不確定なんだ。そうさ、いつかは絶対。絶対は現在進行形でしか有り得ないんですけどね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「落ち着いたか?」

「あ、あぁ。……えっと、出来ればさっきのは忘れてくれると……だな」

 

 顔を真っ赤にさせながらそう言う一夏。頬を人差し指でかいているし、本気で恥ずかしいのだろう。まぁ、昔ながらの友人にあんな泣いてる姿を見られたらなぁ……。うん。俺だったら軽く自殺してるね。その場で手首スッパーまである。包丁持ってこなきゃ(使命感)。ちなみに美少女+包丁で思い浮かぶ事柄によってその人が正常かどうか分かるらしい。真っ先にヤンデレが思い浮かんだぼくは正常ですか? えぇ、女の子が料理なんてシチュエーションは欠片も想像出来ませんでしたよ。あ、朝にしっかりと経験してたわ。

 

「一夏ちゃんは泣き虫ですねー」

「うっ……」

 

 じわりと潤う瞳。つまり涙目。

 

「すまんマジですまん本当すまんかったいやそこまで脆くなってるとは思わないだろお前」

「蒼なんて嫌いだ……」

「ごめんなさい(本気)」

「ふむ。涙目の一夏もやっぱりいいな……」

 

 千冬さんお願いだからまともに戻って(切実)。これからのことを考えるとあんたの協力が必要不可欠なんだって結構真面目に。俺だけでこの事態をどうにか出来ると思ってんのか。無理に決まってんだろ常識的に考えて。前世知識を抜いたら何もない中学生ですよこっちは。国家権力動かせる影響力なんて欠片もありません。

 

「ち、ちち千冬さんも、そそそろそろ真剣におお願いしますよっ……」

「この点さえ無ければなぁ……」

 

 だから無かったら何だって言うんだ。もういいだろ。これは俺のポリシーなんだよ。ごめん嘘。こんな恥ずかしいポリシーなんて要らねぇわ。全力で拒否するわ。本当拒否したかった……。培ってしまったものだからね、仕方ないね。

 

「──それで、何だ植里。頼みがあるんだろう?」

 

 真面目な千冬さんキタァァァァァアアアア!! ヤッタァァァァアアアア!! よっしゃ、これで勝つる! 我々の勝利だ(フラグ)。いいや今はそんなふざけている場合ではない。さっきまでこれより酷い状況でふざけてただろとか言うな。思っても心に閉まっておいて。お願い。にしても流石は千冬さんだな、話が早くて助かります。

 

「あ、その、は、はい。えっと、い、一夏の服と下着の用意とか、あ、あああと肌の手入れとかけっ、化粧とか、そういうの、ぉお願いします。えと、俺じゃ無理なんで」

「……なるほど、確かに向こう三年は女のままとくれば、それらは必要になってくるか」

 

 ふむと顎に手をあてて考え込む千冬さん。なかなか様になっておられる。流石は世界最強のお姉ちゃん。この安心感を抱かせられる人はそういない。だからお願いします。いつもその貴女でいてください(懇願)。暴走したこの人の頼り無さはギャップを越えた何かを感じる。何だろう、こう、新しい扉を開いてしまいそうな。それって完全にヤバイ奴じゃないですかやだー。

 

「……ぁ、あと、言い難いですけど、そっ、そそその、トイレとか、女性特有の生理現象とかっ」

「ふふっ。なんだ、意外としっかり考えてたのか。お前らしいな、ふざけてるようで冷静とは」

 

 これでも保健体育のテストで百点を記録した男ですからね。別に変な意味でじゃないよ?  ただしっかりと事前に勉強をしていた結果そうなった訳で。別にやましいことなんてないよ。本当だよ。だから童貞なんだよとか言うんじゃねえよおいコラ。自覚あるつってんだろちくしょう。

 

「──だから一夏。あとは千冬さんに頼れ」

「えっ」

「そうだな。あとは私がフォローしておく」

「ちょっ」

「つー訳でじゃあな一夏、ちっ、千冬さんも。また今度」

「待っ」

「迷惑かけたな植里。邪魔した」

「お前逃げやがったな!?」

 

 バタンとドアが閉まる。ふぅ、やっと安息の時間が巡って来たぜ。静かになったところで食後のコーヒーでも飲むとしよう。昔は苦くて不味かったものが何故か美味いと思うのだから、本当コーヒーって不思議。やっぱ年取ると味覚が変わってくるのかね……なんか爺臭えな。何はともあれ、今日は午前中だけで凄い疲れた。お陰でぐっすり眠れそうです。

 

「逃げたには逃げたけど、俺が役に立たないのも事実だしなぁ……」

 

 ポットが沸き上がるのをぼーっと待ちながら、そんなことを一人呟く。女性の問題には女性が一番だ。ましてや俺みたいな女に苦手意識を持ってる男なんて、使えないにもほどがある。どれくらい使えないかというと、温度調節の効かないエアコン並みに使えない。何それほんまつっかえ。

 

「うん。今日もコーヒーがうまい」

 

 ちなみにブラックじゃありません。カッコ悪ぅ……。




なんかスッゴいお気に入り増えてんだけど(困惑)

こんなんじゃ、こんなんじゃ好きにふざけられないじゃないかっ!

俺はただオリ主と一夏ちゃんのイチャラブを書きたいだけなんだよ(暴露)


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やっぱ美少女にちゃんとした服着せちゃ駄目だろ。

 織斑一夏(♂)が織斑一夏(♀)になった翌日。当人より軽くとも精神的負担のかかっていた俺は、未だほんのりとした朝日がカーテンの隙間から射し込もうとも布団に潜っていた。あぁ~、あったかくて気持ちいいんじゃあ~。朝飯とか作るのダルい。起きるのさえ億劫だ。よし、そうとくれば極限的に腹が減るまで起きないことにしよう。そうしよう。多分その時には一部の部位が硬化して弾かれ無効無効がついてる。あとダメージカットもだっけ。極限化システムは絶許。せめて石の効果時間長くしろよゴラァ!

 

「ふあぁ……ねむ……ぐぅ」

 

 そのまま意識を深くまで沈めようとしたとき、聞き慣れたチャイムの音が鼓膜を揺らす。ピンポーンってやつ。なんだなんだ、こんな朝っぱらから押し掛けてきやがって。変な押し売りとかだったら殴る。男でも殴る。女の方なら徹底的に面会を拒否します。起きて早々拷問にかけられるみたいなもんすよ……。さて、しかしながらこうして考え込んでいても相手は帰る様子を見せない。二度目のチャイムが鳴らされた。ふむ。何故だろう。ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。波乱の予感。あれ、そういえば昨日もこんなことがあったような。

 

「……い、今行きまーす」

 

 き、気のせいだよね(震え声)。そう。昨日は何も無かったんや……平和な一日やったんや……。友人が女になったとか、そういう取るに足らない事しか起こってないんや。めっちゃ取るに足るじゃん。取り敢えず来客の確認よりも先に己の体を見る。よし、今日もばっちりモテない男の子してるな! セルフ罵倒。ドMじゃないから精神がゴリゴリ削られてーら。ちゅらい。玄関まで来たので素早くドアノブを掴んで捻った。ガチャリと音をたてて扉が開く。

 

「はい、どなたで──」

「よっ」

 

 そう言って片手をあげたのは、どこからどう見ても百人中百人が美少女というような美貌の美しい女の子だった。めっちゃ意味被ってる。落ち着け落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。よく見てみろ。腰辺りまである長くて艶のある黒髪。優しい雰囲気を醸し出す少し垂れ目気味な瞳。服の上からでも十分な主張をしてくるおっぱい。尚且つ体は健康的な細さ。服装は清楚さを感じさせる。え、なにこのパーフェクト美少女。街歩いたらナンパどころかスカウトされるまであるんじゃねぇの。一目惚れしそう(童貞感)。だが、この人は女性だ。そして俺は植里蒼。察しの良い人ならもう分かったと思うが、知人の共通認識が吃ることである自分がこんな美少女をまともに見れるか。いや、見れない(反語)。

 

「ごめんなさいっ!」

 

 バタンとドアを閉めた。ふぅ、誰だ今の。俺の知ってる人にあそこまで可愛い女の子はいない。先ず知ってる女の子の数が少ないけど。うん。この話はやめよう。一方的に自分から傷付くだけだ。さっきも言ったがドMちゃうねん。申し訳ないが自傷行為はNG。まぁ、何のようがあったのか知らんが、今の対応で帰ってくれる筈。もう一度ベッドに潜り込んで寝るぞーっ、とくるり踵を返す。同時にドアが叩かれた。

 

「おい! なんで閉めた!?」

「ヒイッ!?」

 

 やだ、随分と気性が荒いですよこの人。全く最近の女性はなんてこった。もっと大和撫子みたいに清楚じゃないと男なんて捕まえられませんぞ。ごめん、今の俺の趣味嗜好全開。亭主関白とまではいかないけど、優しい女の子と恋がしたいんだ。贅沢とか言うな。だから童貞なんじゃねーのとか言うんじゃねぇよちくしょう。理想が高いのは分かってる。ええ、分かってますとも。

 

「し、失礼ですけど、どなたで……?」

「織斑一夏ですけどッ!!」

 

 ゲートオープン、界放。

 

「なななんだよ一夏かよおおお驚かせんじゃねーよ」

「落ち着いてるつもりだろうが落ち着いてねーぞ」

 

 仕方ねーだろお前。だってお前。もうちょっとでぼく心の絶甲氷盾発動してたよ。バースト発動してたよ。確実にあの展開はライフ減少してました。だって心臓めっちゃ痛かったし。バクバクいってたし。胸筋突き破って飛び出るかと思ったわ。ズバーンて。

 

「朝飯、その様子だとまだか?」

「え、いや、まぁ。……そ、そうだけど……?」

「ならちょうどいい。今日も作ってやるから、部屋入れてくれ」

 

 にこっと笑ってそう言う一夏ちゃん(昨日より可愛さ三倍増し※当社比)。なにこの子可愛すぐる。思わず顔が赤くなるのを実感してしまった。やべぇー……一夏ちゃんの破壊力やべぇー……。イケメンなりの挨拶スマイルがこうも変化すると、もう何も言えねぇよ……。加えて服装がきちんと女の子してるから余計マズいですよ!

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「そ、それで、きっ……今日は何しに来たんだよ」

「ん? 何って、分かるだろ? お前」

 

 一夏ちゃんお手製のお味噌汁(減塩)を飲みながら聞くと、妙に威圧感のこもった顔でそう言われた。怖い。一夏ちゃんかわいいけど怖い。なるほど、これがコワカワイイ系女子って奴ですね! 可愛いけりゃ何でもいいと思ってんじゃねえぞオラ。オラオラ。悪とはてめー自身のために弱者を利用しふみつける奴のことって承太郎さんも言ってるだろ。身勝手な女性のふるまいは現状法律で裁くことが難しい。だから、俺が裁く! え? 女性と会話すら出来ない俺が? 無理ぽ。

 

「逃げられると思ってんの?」

「すいませんでした(戦慄)」

 

 日本人の考案した最も効率的且つ美しい謝罪方法DO☆GE☆ZAを実行。やだ、何か新しい扉開けそう……。多分それ禁断の扉。開いたらもう戻ってこれなくなるじゃねえか。ストップストップ。そんなに意気揚々と進むんじゃありません。お前死ぬぞ(社会的に)。クラスの女子からキッモーとか言われただけでゾクゾクするような変態になってもいいのか。よくないだろ。多分、きっと、めいびー。しかしさっきから色々と伏せカード多すぎんよ……。大嵐は、大嵐は手札に無いんですか!? いや、むしろ今は一夏のターンだしエンドサイクで十分だろ(KONAMI感)。うん。ちょっとカードネタ多いな。自重。

 

「あのあと、俺がどうなったか知ってるか?」

「聞きたくないです一夏さん」

「千冬姉にランジェリーショップから薬局まで幅広く連れ回されたんだぞ」

「聞きたくねぇつってんだろ」

 

 そう語る一夏の顔は妙に清々しかった。こいつ、悟ってやがる。でも千冬さんは悪くないんだ。きちんと俺からの頼み事を完遂させてくれたので、むしろグッジョブですよ。一夏が駄目そう? かまへんかまへん! こいつの事だから縁側でお茶飲んだらもう忘れてるって。ん、それを忘れずここで話しているってことは。あっ……(察し)。ヒールトリガーにかけろ(自重)。

 

「なぁ、分かるか? 実の姉から女のいろはを教わったんだぞ。どうしてくれるよ」

「さすがは千冬さん、俺には出来ないことを平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!」

「……」

「すいませんちょっと調子乗ってました」

 

 本日二度目の土下座。無言でにっこり笑ってくるとか一夏マジでこえーよ。こいつだけは本気でキレさせちゃいけない(戒め)。いっそ手を出してくれた方が楽だと思いました。あぁ、ISヒロインって今思えば優しかったんやなって。一夏へ理不尽な暴力を振るっていたのはこんな心境にさせないためだったのか。ははっ、ワロス。ごめんでも今の状況はワロエナイわ。

 

「蒼、安心しろって言ったよな?」

「えっ、いや、そその、えぇっとぉ……」

「 言 っ た よ な ? 」

「はいッ」

 

 拒否権なんて無かったんや……。

 

「覚悟はいいか?」

「よくないです」

「いいか?」

「だからよくn」

「 い い か ? 」

「俺はできてる」

 

 肯定最高や! 否定なんて最初っからいらんかったんや!

 

「三年間、お世話になるぞ★」

「ひえぇ……」

 

 星が黒いよ一夏。普通そこは(こう)じゃないの。なんなの、お前の心象を表してるの。だとしたらその原因は誰だよ馬鹿野郎。俺ですね、はい。これがインガオホーってやつか。くそっ、何が駄目だったんだ。ただ逃げようとしただけで優しかった友人がこんなにも怖くなるなんて。ショッギョ・ムッジョ。

 

「……それと、蒼はそのくせ(・・)直したいか?」

「な、何が」

「だから、女の人相手に吃るくせだよ」

 

 言われて考える。正直こうも長く続いているものが直るとは思えないが、あっても良いことなど一つとして存在しない。出来ることなら直したいと思う。それはもう積極的に。……なんだが、どうしてそれを一夏が聞いてくる? そこがどうも分からん。何か直す手立てがあるとかなら別だけど。

 

「……直したいが、どうしてそれを聞く」

「そんなの決まってるだろ」

 

 言って一夏はすぅっと息を吸い、吐く。自分の胸元に片手を置いて、閉じていた瞳をゆっくり開ける。ついでに口の端を吊り上げてにっこり。一言。

 

「ついでに私が(・・)直す協力をしてあげるからっ」

「ッ!?!?!!?」

 

 がたごとどったーん。ビビりすぎて盛大に床へと身を投げ出した。痛い。マンションだし床が固くて痛い。カーペットとか敷いとけば良かった。肘とか肩とかぶつけた部分がジンジンする。マジで痛ぇ。どうにか立ち上がって、全ての元凶をじろりと見詰める。そいつは赤くなった頬をぽりぽりとかいて、実に恥ずかしげにぽつり。

 

「や、やっぱ恥ずかしいね、女口調」

「い、いいい言いながらきっちり女口調じゃねぇかオイバカやめろ」

 

 心臓に悪いです。あと体にも悪い。さっきこけて軽く怪我しちゃったし。つーか俺ホント女性に対する免疫無さすぎだろ。一夏って分かっておきながら口調を変えただけでこれって、重症通り越して手遅れじゃね? 直すこと実質不可能じゃないすか? 一夏も一夏で恥ずかしいんならやめろよ。お前の女口調なんか誰も得しねーだろうが。むしろ俺にピンポイントでダメージ与えてる。勘弁してくれ。極限化してねぇから肉質くっそ柔らかいんだよ。俺の肉質どこ殴ってもヒットストップかかるぞ。

 

「……まぁ、何だかんだ言って蒼には助けられてるし。女になった今なら役に立てると思ってな」

「お、おおおう。そ、そっか」

 

 顔が熱い。目を見れない。心臓が飛び出そうだ。これは酷いですね患者さん。マジでアウトですよ。女物の服を着て、女っぽい喋り方を意識して、こいつ本当に男だったのかと思う友人と部屋で二人きり。軽い逃がさない発言までされるという始末。なんだこれ。なんだこれ。こいつ本当に一夏だよな。本当の本当に一夏だよな。くっそ可愛いいんですけど。めちゃくっそ可愛いいんですけど。よく考えてみろよお前。自分がTSして精一杯な筈なのに、ちょっと相談に乗ったくらいの友人に対して気を遣うとか、こいつマジでやべぇよ。うっそだろオイ。うっそだろオイこの野郎。

 

「だから、一緒に直していこうぜ……じゃなくて」

 

 ぶんぶんと首を振って、再度此方を見る。

 

「いこうよ、蒼」

 

 にこりと微笑み。

 

「うっ……あ、えっと、その……は、はい」

 

 嘘だろ嘘だろちょっと待てよここまでとは思わなかったぞ予想すらしてないぞだってあの唐変木がたかが女になっただけで色気の欠片もねーだろとか思ってたし正直外見だけで期待してなかったのにやべぇよちょっと並みの女子より女子してるんだけどどういうことなの意味不明理解不能理解不能理解不能。

 

 

 

 

 ──俺の友達が美少女になったから凄くマズい。

 

 




朝起きて確認したらマジで日間一位だったんだけど。こんな設定もクソも内容が無いような小説が一位でいいんですか(震え)本当にありがとうございます(本音)

感想が沢山来て返信出来ていませんが、きちんと読ませてもらっています。おまいらの優しさに涙不可避。

あと、別に作者はホモじゃないからね(目そらし)。うん。どうしてホモが沸いてるんですかねぇ……。


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女性って怖いですね。

「やっぱ、そう簡単にはいかないよね」

 

 くっそ吃って一夏の誘いに頷けば、苦笑されながらそう言われる。そりゃそうだろ。簡単にいったら自分一人で直せてら。むしろ直るまで全力を尽くした。今まで直そうという努力もしてなかった奴の台詞とは思えないですねぇ……。後からはどうとでも言える。つまりこれは言い訳って奴なんだ。言い訳は良いわけよ。……今日はなんだか寒いな、やっぱり春と言ってもまだぽかぽかにはほど遠いか。気のせいか地球温暖化の進み具合も低下したような。影響力強すぎィ!

 

「あっ、ああ当たり前だろお前。なな何年これとつつ付き合ってると思ってんだ」

「何年なの?」

「……う、生まれた時から」

「アホでしょ」

 

 アホちゃうねん転生者やねん。じっとーとした視線を向けてくる一夏から目をそらし、虚空をぼんやり覗く。こうでもしてないと耐えられん。心臓が。心臓が破裂しそう。鼓動が半端じゃねぇぞこれ。ドッドッドッドとかそんなもんじゃない。()いらない。ドドドドドドドなんて速さはホンマに久々やで。音だけ聞くと凄い悪役の登場シーンっぽい。俺は人間をやめるぞーッ!! やめたとしてもこの吃り癖は直らないだろうが。どちくしょう。てか、そもそもの原因はこいつなんだよ。目の前にいる女口調に切り替えた超絶美少女なイケメン男子。男なのか女なのかはっきりせえや。女ですね、はい(洗脳)。

 

「えと、やっぱやめるってことは……」

「ないよ?」

 

 にっこり笑いながら言うのやめーや。怖いでしょうが。ちょっとワイの息子も元気無くなってるし。女の子の笑顔なんて素敵とか思っちゃいけなかった。こんなにも怖い女の子の笑顔が存在するなんて思いもしなかったぜ。それともなに、一夏ちゃん固有のスキル? もしかして宝具? 植里蒼特攻でも付いてんの? やばい、やられる(確信)。セイバー枠の一夏ちゃんとか絶対雪片弐型生身で振るいますやん。いや、女になっても専用機が白式なのかは知らんけど。多分白式なんじゃない(曖昧)知らんけど。

 

「折角蒼が乗り気なんだし、この際に克服しないとね?」

「ももももういいです。かか勘弁してください。マジで駄目なんだよ女の人は駄目なんだって」

 

 本日三度目の土下座。女性に対して高圧的に出られる男などこの世界には殆ど居ないのです。世の結婚男性の八割はこんな気持ちなのかなぁ……。世間一般的にそれを尻に敷かれていると言うらしい。一夏ちゃんのお尻に敷かれているのか。ふむ。中身にさえ目を瞑れば最高やな(錯乱)。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるガールズ一夏ボディはボーイズ植里殺し。やっぱ特攻付いてるじゃないですかやだー! 貴様俺に何の恨みがあってこんなことを。いや、全ては天災のせいだったな。これもあれも天災のせい。一夏が女口調に切り替えたのも天災のせい。決して俺のせいじゃない。全部が全部何もかも天災のせいなんだ(暴論)。さっきも言ったが自分から自分の首をしめるなんて自殺行為(オナニー)したくないんですよ。え? ルビが変? 気のせいじゃないか。あなた疲れてるのよ。

 

「……はぁ。蒼はさ、一生このままでいいのか?」

 

 ぴきゅいーん(ニュータイプ)……はっ。この感じ、いつもの一夏だ。

 

「そりゃ、良くないと思う……けど」

「別にいきなり慣れろって訳じゃない。ただ、女みたいな俺と話せるようになれば、他の子とも話せるようになるだろ?」

「……意識の持ちようで違ってくるんじゃ」

「なるだろ?」

「はい」

 

 ふぇぇ……一夏ちゃんが怖いよぉ……。

 

「……ま、俺も無理強いはしない。ゆっくり慣れていけばいいんだしさ。三年間もあるんだぜ。時間はたっぷり残されてる」

「その間たっぷり一夏は一夏ちゃんなんですね」

「やめろ。凄いブーメランになるから、やめろよオイ」

 

 うん。どれだけ外見が美少女でも、服装が女の子っぽくても、一夏の口調そのままなら話せるんだよなぁ。多分認識の差だとぼくは思うんです。この状態だと織斑一夏(♂)のパーツがしっかりと分かるから大丈夫なんだ。口調変えるともう駄目。あれは一夏じゃない。織斑一夏じゃねぇよ。いや、織斑一夏なんだけど。ああもうどういうことだ。まるで意味がわからんぞ!

 

「よし。じゃあ実践を続けよう?」

 

 ぴきゅぃいーん(ニュータイプ)……はっ! この感じ、女口調の一夏だ!! 逃げなきゃ(使命感)。蒼はにげだした! ノーモーションで立ち上がり、流れるように足を踏み出す。ふっ、これは決まったな。流石の一夏でもこの動きにはついてこられまい。とにかくここから出るんだ。一旦思考を落ち着かせて、一夏を普通の口調に戻した上で説得を試みる。完璧な作戦じゃあないか。さすがは俺。伊達に学年トップを競い合ってないぞー。一夏なんかには負けんのやぞー。頭のよさでは原作メインキャラの六割に勝ってる自信がある。スッゲェ微妙じゃねえか。ふふ、ポジティブシンキングは良いことだらけって生物の先生が言ってたからな。無理矢理にでも前向きに捉えるんや。

 

「どこへ行くの?」

 

 しかしまわりこまれてしまった(無慈悲)。なんでや。おいちょっと待ておかしいやろ。完ッ全に油断したタイミングを狙ったんやぞ。どうして俺の目の前にいる。やばいやばい、顔は笑ってるけど依然怖いし足が震えてもう走れそうにないし油断も隙も見当たらないしなにより逃げたら殺される(確信)。一体いつから一夏が凡人だと錯覚していた……? まともに考えて初見のほぼ初乗りで代表候補生を追い詰めた奴が凡人な訳ない。しかもブレードオンリーな機体。人間じゃねえ、こいつ人間じゃねえよ! 百歩譲ったとしても超能力者(レベル5)とかじゃねぇの。あ、フラグ回収乙。

 

「いいい一夏、はは、話をしよう。そう、あれは今から三十六万……いや、一万四千──」

「蒼?」

「なんでございましょう」

 

 嘘だろ、体が勝手に(調教済み)。気付いた時には目の前に一夏ちゃんのくびれが見えた。何が言いたいのかっていうと、一夏ちゃんのスタイルが良いってこと。じゃなくて。じゃなくて(大事な事だからry)、俺が正座をしているってことなんだ。理性とか、意識的にとか、そんなもんじゃねえ。本能が必死に警鐘を鳴らしたような感覚だった。うぇぇ……怖かったよぅ……。誰だよISさえ無かったら女性なんて弱いとか言ったやつ。知らねーよ。強いよ。女の人強いよ。勝てない。

 

「一緒に直していこうって、はいって、言ったよね?」

「た、高いってことじゃね?」

「はいって、イエスって言ったよね?」

「い、いいや、イエスとは言ってないぞ?」

「言ったよね?」

「あの、いや、だから」

「さっさと頷けよオイ(言ったよね?)」

「一夏。逆、逆」

 

 本音と建前って大事。逆になっちゃうと途端に悲惨な出来事が起こるからね。一夏TSとかふざけてんじゃねーぞ元に戻せやオラァ!(建前)ナイスゥ!(本音)そんなこと言ったら一夏ちゃんがぼくにドロップキックぶちかましてくる未来しか見えない。背骨が逝っちゃうよぉ。女の子に蹴られて骨折るとか、そこまでドMちゃうわ。つーかドM違うし。ワタシドエムチガウヨホントダヨ。度重なる自業自得な行為のせいで誤解される方もいるかもしれないが、俺はどこまでもブレないノーマルなんだ。Sっ気とMっ気を両方持つごく一般的な人間なんだ。攻めるのも好きだけど、攻められるのもよ……くはない。よくはないぞぉ。なんだろう。その発言をした瞬間には最後、後戻りできない気がする。あはは、なんでさ。泣きたい(冗談)。

 

「自分から言ったよね? 責任、とらなきゃね?」

「な、何の責任をとるんですかねぇ……(震え)」

「ね?」

「ね、ねるねるね?」

「ね?(威圧)」

「イエス、マイプレジャー」

 

 泣きたい(本気)。割と真面目に涙腺が崩壊しそう。こんなのって、こんなのってねぇよ! そうだ、全てはあの日(昨日)から始まったんだ。あの時一夏が俺の部屋に来た瞬間から、俺の人生はめちゃくちゃだ! 長年仲良くしてきた友人がいきなり可愛くなって、頼りになるとすがった友人の姉がリミットブレイクして、解決するために知人の天災と電話をすればナチュラルに罵倒されて、やっと開放されたと思ったら逃げられなくて友人がもっと可愛くなってやがる! なんて日々だ。なんて日常だ! くそっ、ふざけてやがる。こんなのって。こんなのってねぇよ、ちくしょう! 思ってたより最高の展開じゃねえか馬鹿野郎ッ!! うおぉ……なんか、なんか悔しいッ! なんか悔しいぞぉッ!! 決壊。

 

「うぇぇ……」

「嘘だろあの蒼が泣いたぁ!?」

「一夏ぁ……俺の人生幸せだよぉ……」

「なら別に泣かなくていいよな!?」

 

 人には意味もなく泣きたい時があるのです(悟り)。男の涙なんてどこに需要があるのかと疑いたくなるが。女の子ならいいんです。女の子なら。よし、脳内変換してくれてかまへんぞ。泣いているのは決して残念スペックな俺ではない。君の思い描く美少女の泣き顔にすり替えてくれ。そしてもう一度画面を見たとき、既に俺はその美少女になっているだろう。いつの間にだって? ふふ、すり替えておいたのさ!(強引)だからいつの間に。

 

「よしよし、ほら、大丈夫だから。ね?」

「昨日まで男だったくせに母性溢れすぎだよぉ……」

「うるさい」

 

 ふっふっふ。そう言いながら赤くなってやんのー。恥ずかしいんか、お? 恥ずかしいんか? ねぇねぇどんな気持ち? つい先日まで男だったくせに母性溢れすぎとか言われてねぇねぇ今どんな気持ち? NDK、NDK。しかし俺自身もかなり恥ずかしい。一夏ちゃんに頭撫でられてるんやで。俺が。もう一度言う。俺が。やめろや、ちょっと気持ち悪いだろ。

 

「ふふっ」

「……え、なんで笑ったの?」

「いや、だって……」

 

 ほら、なんて続けながら一夏はまた笑う。

 

「普通に話せてるじゃん」

「………………あ」

 

 マジや。

 

「やったね、これで一歩前進だよ」

「いや、慣れただけじゃね?」

「それでも、慣れるって分かっただけ十分だと思うけど?」

「……まぁ、そう……なの、か?」

「そうだよ、きっと」

 

 くすりと怖くない笑顔をつくる一夏。いやぁ、イケメンスマイルは性別が変わると美少女スマイルになるんですね。眼福や。削られてたSAN値も回復していくような気分。こいつが一夏だとは本当思えないんだけどなぁ……。昨日はまだしも特に今日だと。

 

「つーか、お前なんでそんなスムーズに女口調話せんだよ」

「え? いや、昨日練習してきたから」

 

 用意周到だなオイ。




感想欄が半ばホモの巣窟になっている件について。一応言っておきますけど、この作品はオリ主と一夏ちゃんのイチャラブ物語になりますよ(暴露)。ええんか?

つーか作者はホモじゃないって言ってるだろ(かたくな)

ここまで言って信じないとか、やはりホモは疑り深い(確信)


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お前ホントに男かよ。

 朝食を食べ終えた俺は、いつも通り食後のコーヒー(微糖)を飲みながら一夏の話に耳を傾けていた。そこでブラックじゃないから駄目なんだよお前は。RXも違いますね。ブラックだよブラック。全く。全くもう。この童貞。もうそろそろセルフ罵倒で快感を感じそうなのでやめておく。ドMになんてなりたくない。出来ることならそう、私は貝になりたい(名作)。

 

「だから、戸籍関係やら学校での色々は千冬姉が片付けてくれるって」

「ふぅん……千冬さん有能だな」

 

 さんきゅーちっふ。己の職務を放り出してまで弟(現在は妹)のために奔走するとは。まぁ、あの可愛がりようだしなぁ。仕方がないと言えば仕方ない。どれくらい仕方がないかと言うと、コーラを飲んでゲップが出るくらい仕方ない。ふぅ、やれやれだぜ。最近やれやれ言い過ぎてやれやれ系主人公扱いされそう。やめろよオイ。やれやれ系主人公って意外と嫌われやすいって聞いたことあるぞ。あ、だからぼくはモテないんですねハイ。まったく、やれやれだぜ……。またかよこいつ。ホントやれやれ好きだね。セットでオラオラも付いてこいよオラァ! 星の白金ッ!!

 

「ちなみに」

「ん?」

 

 ずずーとコーヒーを啜っていれば、意地悪そうな表情を浮かべた一夏が付け足して言う。

 

「蒼の吃り癖を直す方法を考えたのも千冬姉」

「やれやれだぜ……」

 

 ふぁっきゅーちっふ。あんたのせいで俺の逃げ場が完全に無くなった。前門の虎、後門の狼ならぬ前門の一夏、後門の千冬ってとこか。ふむ。体型のイイ女性二人による素晴らしいサンドイッチですね(戦慄)。命の危機さえ感じなかったら最高の気分だったよ。多分現実でそんなことになったら間違いなく惨怒逸血(サンドイッチ)でしょうが。字が違う? なに言ってんだこれで正しいに決まってんだろJK。ジャスト回避でも女子高生でも無いぞ。しかしちっふとちっひて似てるよな。事務員……アイドル……エイプリルフール……おねしん……うっ、頭が(唐突)。

 

「というわけで、私はただその言葉に従っただけ」

「従っただけ、か。良い言葉だな。逃げる口実として優秀じゃないか」

「従っただけ。イイネ?」

「アッハイ」

 

 有無を言わさぬオーラを感じました(今更感)。とりあえず一夏ちゃんが怖いのでみくにゃんと那珂ちゃんのファンやめます。いぇーい、恋のとぅーふぉーいれぶーん(解体済み)。艦隊のアイドルなんて紅茶が飲みたい人とかぱんぱかぱーんさんとかにやらせとけばええんや。声がいいのね、分かるわ。分かられてもちょっとあれなんですけど……(困惑)。む。なんだかさっきオラオラとか言ったけどやっぱ違う気がしてきた。わ……わ……わなび。ちょっと違う。WAAAAAAAAANNABEEEEEEEEE!!

 

「ずずー……ふぅ。まぁ、昨日はそれくらいかな。あとは何だっけ、ISの……えーと……」

「適性検査?」

「そうそう、それ。束さんがまた何かしてきちゃいけないから、一応言葉通りには動いておくって」

「うん。とても正論に聞こえる言い訳(理由)だな」

 

 脳内想像。現実。あの馬鹿が何かしてきてはいけん、IS学園に一夏を入学させる(キリッ)。思考。一夏に何かあっては死んでも死にきれん、IS学園に一夏を入学させる(キリリッ)。完璧だな。我ながらとてもいい推理力だと思う。まさに超推理。江戸川乱歩かな? 

 

「目がマジだった、とだけ言っておくよ」

「手遅れじゃねーか」

 

 ちっふやばい。何がやばいって、性別の変わった弟の心配をせずに甘やかそうとする強かなメンタルがやばい。そしてそれに耐える一夏のメンタルもやばい。こいつワンサマーとか言われても怒らないんじゃないかな。いいや、ワンサマーなんて呼んじゃ駄目だ。ここはきっちりとふざけず真面目にワンサマーちゃんと読んであげるんだ。特に変わってない? 気にしたら負けよ。ワンサマーとか呼び捨てにするより可愛くね。ワンサマーちゃん。うん。いいね。今日から君はワンサマーちゃんになるんだ。おめでとう、ワンサマーちゃん。

 

「……なんか失礼なこと考えてない?」

「いいや、別に何も考えてないよ。ワンサマーちゃん」

「正座」

「ちょおまなにい──ッハイ」

 

 土下座じゃないだけまだマシ(ポジティブ)。けれども一夏ちゃんのキレ具合はマジ。それに怯える俺の態度も割とマジ。だから全部マジな出来事。YO。何の形もありはしないクソラップだな。まるで意味のないサランラップみたいですね。サランラップ。オレァクサムヲムッコロス。はいはい、そんな馬鹿なこと考えてたらもう一度一夏ちゃんのくびれ見つめタイムがやってきましたよ。いいくびれですね。かぶりつきたいです。なにそれ変態じゃん。やめてけろ、俺はノーマルなんだけろ。

 

「あのさぁ……性転換二日目。私まだ二日目なんだよ。意外と心に傷を負ってるんだよ?」

「仰る通りです」

「蒼のためにもって頑張ってたけどね、もう限界だよ。分かる? この罪の重さ」

「分からな……いわけないじゃないですかー!」

「うん。そうだよね? ほら、さっさと悔い改めて」

 

 †悔い改めて†(幻聴)。不思議なことに尻の穴がきゅっと締まりました。え、なに。やめて、意味不明な行動しないで俺の体。怖くなっちゃうから。八尺様をネットで調べた日に迎える夜ぐらい怖くなっちゃうから。ちなみに一夏(イケメン)だと八尺様に呪われる前に惚れさせるんじゃねーの。大丈夫ですか(キリッ)とかやってぽっ(鳴き声)てなるんでしょ。なにそれどこのギャルゲの冒頭シーン。やっぱ一夏は強い(確信)。

 

「悪い、悪かったって。ほら、落ち着けよワンサマ」

「そう思うならやめてよ」

「分かった。だから落ち着けワンちゃん」

「結局略しただけじゃねーか」

 

 ワンサマーちゃん。略してワンちゃん。黒髪ロングで垂れ目気味おっぱい美少女一夏ちゃんに犬耳と尻尾がついた状態を幻視したあなた。ようこそ、こちら(・・・)の世界へ。既に後戻りなんて出来ません。TSにはまったら逃れられないって、それ一番言われてるから。一先ずは落ち着いて部屋にこもりTSモノを読み耽るんだ。十作くらい読んだ後には「TSって最高やな! 危ない扉なんて最初から無かったんや!」とか思ってる君がいる。そしてそれをニッコリと笑って迎え入れる俺達ガイル。多分。

 

「ステイステイ一夏。ほら、お手」

「死ね」

 

 ツンデレさんですね(白目)。このワンちゃんちょっと懐きにくすぎんよー。犬派より猫派の人はすまんな。猫もいいけどやっぱりペット(意味深)にするなら犬が良いって俺は思うの。別に変な意味じゃないよ。燃料投下ってナンノコトデスカネ。最近変態嗜好の強い人が多いからね。美少女に首輪をつけて調教させたいなんていう変態さんもどこかにはいる筈なんだ。やべぇな、勝てない。変態力が圧倒的に高すぎる。くそっ……獣耳少女の耳を息が荒くなるまでもふもふして赤面させたいと思う程度の俺じゃあ勝てないッ……!!

 

「……悪かったって。ごめん。だから機嫌直せ」

「じゃあ、交換条件」

「ん? なんだよ」

 

 すっ……と一夏ちゃんが指したのはこの部屋の扉。え、まさかその扉を寄越せと。それは流石に無理かな。色々と問題があるし。ほら、ここマンションだからうちの私物じゃないですし。扉が無かったら風が吹き抜けて寒いでしょうし。あと物騒。戸締まりも出来ないから泥棒にだって入られる。結論、流石に無理だよ一夏ちゃん。

 

「扉はあげられないぞ」

「ちがうよ、ほら」

「違うって……ん? いや、なんだその手」

「ほら、早く」

 

 言いながら手を差し出してくる一夏。握手でも求めてるのかな(超推理)。さっきから言いたいことが全く分からん。主語を話せ主語を。君はちゃんと国語の授業を受けていたのかね。主語述語接続語修飾語やら何やらって話を聞いてたのかね。俺は聞いてた(うろ覚え)。じゃあ主語って何だよーって煽られたら焦るけど。困ったときは大先生(Google)おばあちゃん(知恵袋)に相談や! 主語ってなんですか。それはつまり主語なんだよ(哲学)。訳が分からないよ(クッソ汚い淫獣)。

 

「この部屋の合鍵、ちょうだい♡」

「」

 

 はーとまーくでせすじがこおったのははぢめてです。にっこりと笑う一夏の顔はちょっと赤い。恥ずかしいんならやんじゃねえ。やんじゃねえよ。そして地味に怖い。ちょっと言い表せないレベルの怖さがほんのりと滲み出てますよ。蛙の子は蛙。つまりチートで化け物な千冬ネキの弟である一夏もチートで化け物でFA。実際そうじゃないかと思い始めてきた今日この頃。何でだろ、昨日までは俺の方が優勢だった筈なのに。逆にこいつのこと弄って遊べてたのに。

 

「一応聞いておく。何故だお前」

「え? だって毎日会って女性に対する耐性をつけるために、自由に出入りできた方がいいでしょ?」

「確かにそうかもしれんが、ケツ狙われるのは勘弁」

「狙わないよ。あと、朝ごはんも早く作れるし」

 

 こいつまさか毎日来て朝飯作っていくつもりか。一体どこの押し掛け女房だよと声を大にして言いたい。言いたいけど、絶対無自覚なんだよなぁコイツ。イケメンだから性格もイケメン。ただ世話焼きたいから焼くだけ。それを好きでやってると言い張る。なんだこの童貞キラー。イケメンをTSさせちゃいけない(戒め)。同じくして冴えない奴をTSさせてもいけない(保険)。ぼくは男だよ!

 

「……渡さなきゃダメっすか」

「ダメ」

「やっ、やれやれ、だぜ……」

 

 友人が女の子になった翌日の朝。友人に部屋の合鍵を奪われました。ダレカタスケテー。

 




引き続いて感想欄の勢いが激しすぎる件について。これは不味いですよぉ……。

活動報告でも書きましたが、あまりの多さに返信をすることが出来ておりません。してたら朝になりまする。

感想多すぎて困るぅ!(建前)もっとぉ!!(本音)

目は通していますので、これからもホモしく……宜しくお願いします。


いいですか、作者はホモではありません。確かに初めてapoのアストルフォちゃん見たときに恋をしましたが決してホモじゃないのです。……あれ?


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一夏曰く吃れ蒼。

「うん。任務完了、ってね」

 

 爽やかな笑顔でそう言う一夏ちゃんの手には、見慣れた形状をしている我が部屋の合鍵。俺的にはめちゃくちゃ渋って。それはもう最大限まで渡すまいと抵抗したのだが、彼もとい彼女特有のにっこりスマイルには勝てなかったよ……。どれくらい勝てないかと言うと、オサレな氷雪系最強(笑)くらい勝てない。日番谷隊長が活躍する場面はまだですか師匠。

 

「任務って……まさか、最初から狙いは」

「まぁ、これも千冬姉の考えだから」

「ふぁっきゅーちっふ」

 

 つい声に出してしまった俺は悪くない。千冬さんが悪い。だから、絶対にごめんなさいは言わない。言うもんか、千冬さんなんかに(カレーライス感)。だってぼく悪くないんだもーん。僕は悪くない。だって、僕は悪くないんだから。大嘘憑き。

 

「……なんて簡単な脳みそをしている俺ではない」

「?」

「一夏、一つ聞いておく」

「え? なに?」

 

 戸惑う一夏を前にゆっくりと立ち上がり、人差し指をビシッと向ける。うん。いいふいんき(何故か変換出来ない)。補足しておくといい雰囲気。ちなみに変な意味ではない。断じて変な意味ではない。フリじゃないよホントだよ。おいやめろ、変な目で見るんじゃねえよ。俺達はそんな変態じゃねーぞ(戒め)。

 

「本当に、千冬さんが言ったのか……?」

「……だから、なにが?」

「とぼけるんじゃあない。あの千冬さんが態々ワンサマーちゃんを男の部屋に入れるような真似、するワケがねぇんだ」

「正座」

「やめろ(切実)ヤメロォッ!!(本音)人の話を聞けこのダボがっ!!」

 

 変なふいんき(二度目)。変というよりもこれは奇妙だね。多分背後から精神エネルギーっぽい何かが出てくるから見とけよ見とけよ~。出ません。なん……だと……。粉バナナ。そりゃそうだ、冷静に考えてこの世界はIS時空です。天災が作ったインフィニット・ストラトスtueeeeeしてる世界なんだ。決して精霊なんて存在しないしアスタリスクもただの記号だし落第騎士なんて実在しない。サラティガも来ない。

 

「千冬さんは一夏ちゃんを可愛がっていた。このことから察するに、男の部屋に通わせるなどあり得ない」

「凄い笑顔で推奨されたんだけど……」

「嘘だろ承太郎……」

 

 何故だ千冬さん。あんた一体何を考えてんだよ。一夏ちゃんが可愛いんじゃ無かったのか。どうして、どうして俺の部屋になんか来させる。やめろよ、平穏が悉く消されていってるんだけど。世界が敵に回ったような感覚だ。先ずメンタル面から潰そうとしてるんですね分かります。耐えられない……こんなんじゃ、生き抜けないよぉ……。息抜きが生き抜く理由になるなんてザラなことだ。息抜きに始めたゲームが生きる糧となるあの感覚、凄まじくええもんじゃないか。ゲームは千時間越えてからが本番。極限は帰れ。発掘とギルクエはいいよ来いよ!

 

「ちなみに、責任はとれとか言ってたけど……なんのこと?」

「Oh……千冬ネキェ……」

 

 とりたくありません(真顔)。目の前の美少女をもう一度見てみろ。キューティクルの凄まじい艶のある長い黒髪。だが男だ。どこからどう見ても整った顔立ち。だが男だ。華奢な体格。だが男だ。服を着てもなお存在を主張するわがままおっぱい。だが男だ。全体的に見てこれ以上に無いくらいふつくしい女子。だが男だ。男なんだよ分かったか千冬さん。一夏は男なんですよ。女の子でも男の子なんですよ(矛盾)。自分で言ってて訳分かんなくなりそう。一体どういうことなの。

 

「俺の味方はどこですか」

「ここにいるよ?」

「一夏は味方。でも一夏ちゃんは敵です」

「なんだよお前ホモかよ……(ドン引き)」

「訂正。織斑一夏(┌(┌^o^)┐ホモォ…)は敵」

「座って」

「やれやれだぜ……(震え声)」

 

 このあとめちゃくちゃオシオキされた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一夏からの制裁(ガチ)をどうにか乗り切った俺は、意を決して外出することにした。べ、別に外に出るのが怖いとかそういうのはないんだからねっ! ちなみに冒頭の文を一夏(正妻)からの制裁と幻視した人はもう末期です。直ちにお近くの精神病院へ行ってください。なんなら良い病院紹介するよ。三食昼寝エロゲー付きの病院とか。それがただのエロゲーならノンケ専用、もしくはノンケへとさせる特殊施設だが、百合の花が咲いたり薔薇が咲き乱れていた場合、途端に状況は変化する。ゆるゆりの反対はガチホモ。はっきり分かんだね。さて、どこへ向かったかと言うと、察しの良いホモの皆さんならもうお分かりだろう。出掛ける直前にも察しの良い一夏(ホモ)には伝えておいた。

 

『絶望は、出来るだけ早い方がいい』

『……?』

 

 さっぱり分からんて表情をしていたが、ありゃ嘘だね(確信)。まさかIS世界のホモ筆頭とも言える織斑一夏くんが理解出来ない筈がない。あ、今は織斑一夏ちゃんじゃねーか。なんてこった。くそっ、ホモだと思っていた俺が馬鹿だった……。一夏だって、ちゃんとした性癖を持つオトコノコだもんなっ! あれ、女の子なんだっけ? ややこしい。まさにややこしや。NHKは沢山のことを教えてくれます。つまり現在。

 

「うぅっ……ぐすっ……ぅええ……ひぐっ」

「ちょ、あの、お、おおお落ち着いて蘭ちゃん」

「うおっ!? なんだこの判定、亜空間すぎるだろ」

「これでもマシでしょ。昔はもっと酷かったな……」

 

 なんだこの混沌(カオス)。墓地の光属性と闇属性を一体ずつ除外でもしたのか。それ開闢。むしろケーオスですよケーオス。けーおす、けーおす、あいわなけーおす。やばいな、世界が滅ぶ。つーか何なら滅んでくれませんかねぇ……。詳細を書くと蘭ちゃんが泣きながら俺の胸に顔を押し付けていて、弾と一夏が仲良くゲームしてる。そう、我々は五反田家にお邪魔していたのだ!(今更)理由はもちろん一夏のTS事情の説明。後で後でと引っ張っておいても良いことは無い。ならばさっさと告白しちゃえばいいじゃん、という楽観的な思考の結果として行き着いた選択肢です。ほら、蘭ちゃんて一夏に恋してたから。

 

「なんで一夏さんなんですかぁ……蒼さんじゃ駄目だったんですかぁ……」

「うん。あの、ほんとごめんね。俺じゃなくて。だ、だから。ちょ、あの、は、早く、だ、ダレカタスケテー」

「ちょっとまっててー」

「一夏、お前自分のことなのに助ける気ゼロだな」

 

 そこのゲームしてる二人。とくに赤髪イケメンの方。お前だって妹のことだろーが。兄として何か気にかけてやる事とかないの。それともノータッチなの。年頃の妹が抱く恋心にはノータッチなんですか馬鹿野郎。あと朗らかに笑ってんじゃねぇ。テメー友達が女になってんのにどうしてそんないつも通りというかいつもよりテンション高いんだよ。クッソ腹立つ。クッソ腹立つわこいつ。しかも憎むべきイケメンその二と来れば殴りたくなるのも仕方ない。あれ、俺の周りイケメン多すぎじゃね。これ俺がTSしてたらやばかったんじゃないの。ふぅ、イケメンじゃなくて良かったぜ。死にたい。

 

「ふぇぇ……ぐすっ……」

「弾、お前は何かないのか」

「んー? 一夏ドンマーイくらいしか」

「友人の不幸を喜ぶ馬鹿は死ねばいいよ」

 

 ナチュラルに罵倒を挟む一夏ちゃんはやっぱ怖い。なんか不気味なオーラが出てるのにそれを笑って吹き飛ばすとか弾は強い。もしかしてお前別の弾なんじゃねぇの。赤のコアの光主とかじゃないの。ほら、髪の毛も赤いし。ジークヴルムでも使ってくるじゃないですかねぇ……。もっとも多分あそこにいるのが俺なら土下座してる。そう思うと弾には救ってもらった気分だ。え、嘘やろ。一夏ちゃんの威圧を受け切れないのって俺だけ? やっぱ植里蒼特攻が付いてるんだよ!

 

「正直、一夏が女になってくれたのはすまんが嬉しいんだぜ蒼よ」

「……え、弾お前まさかホm」

「学校一のイケメンが女になれば、必然的に慕っていた女子の大半は百合に目覚めるか諦める。そうすると、イケメン弾くんの天下ってワケよ!!」

「あぁ、うん。そうだね、そんな性格でさえ無ければ夢じゃなかったね」

 

 弾はゲス(確定)。これ世界の真理だから。もっと真剣になって考えてくれると思っていた俺が馬鹿だった。なにこの使えなさ。俺の周りに使えないアホしかいないんですけど。俺自身も使えないアホだから仕方ないとか言うんじゃねえよ。少なくともこいつらよりかは使えるという自信がある。会社で上司に文句言われながらも酷使される自信がある。結局駄目じゃねえか。何でも聞かずに自分でやって、からのどうして聞かずに勝手にやっちゃったのかなぁ……の流れは本当凄い。こっちのただでさえ仕事したくない意識をより強くしてくれる。もぅゃだょ……しごとゃめょ。

 

「うぅ……一夏さぁん……ぐすっ」

「と、とととりあえずこの状況なんとかしない?」

「蒼が焦ってるのはメシウマなので続行」

「私も賛成で」

 

 このゲス野郎共がァッ!!




感想欄の勢いが収まらない。つまりみんなホモ。この作品読んでる八割はホモで二割は純粋なTS好きで残りの一割は紳士なんだろ、知ってる(白目)

真面目な話いきます。中学三年の出来事(一夏ちゃんとの夏祭りだったり体育祭だったり文化祭だったりクリスマスだったり正月だったりイチャイチャ)を書くか否かを活動報告でアンケートとろうと思ってます。感想ではちょっと自重して(懇願)

正直なところで「さっさとIS学園に入学させんかいワレェ!」とか思ってる人もいるかと思いますので。

ちなみに、例えIS学園に入ろうともシリアスは来ないし来させない。だってこの作品、オリ主とTS一夏ちゃんのハイスピードイチャイチャラブコメディだぜ?(暴露)


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らんらん蘭ちゃんダンダン弾ける。

ネタが少ない(´・ω・`)

なんかちょっと違うんだ。もっとこの小説って明るかった筈なんだ。

……大幅に修正するかもしれません。許してください何でも(ry


「ごめんなさい。本っ当にごめんなさい蒼さん」

「い、いいよ。その、大丈夫だから、ほら。悪いのはアイツらであって」

「スコップさん弱くなったなぁ……」

「古文書が強すぎただけじゃない?」

 

 人が凄まじくヤヴァイ状況でも構わずゲームしてたイケメン二人。だが一人はTSして女。一人は友人のTSを見てもけろっとした態度でゲス発言。だから弾くんはモテないんですよ。顔だけなら絶対引く手数多だろうに。つまり黙ってれば弾は格好良いでFA。落ち着いた弾とかマジで弾さんじゃねえか。サジットアポロで処刑されそうですね。逆に俺が処刑したい気分ですけど。殺意を最大限まで込めた視線を二人に向ければ、何でもないかのように振り向かれた。一夏はともかく弾は凄いですね。一夏ちゃんの威圧に耐えられるその精神、是非見習いたいものだ。イケメンは精神までイケメンなのか。もうイケメンの定義が分からなくなってきた。イケメンって何だ(哲学)。

 

「本当、ごめんなさい。蒼さん女性苦手なのに」

「うぇ、っとですね、あの。マジで大丈夫だから、ほら、頭上げてくれない?」

「オイ蒼テメーなに人の妹に土下座させてんだ」

「最低だね蒼」

「野郎ぶっ殺してやる!!」

 

 キレた。これはもう完全にキレましたよ。ええ。何が今までスルーしておいて人の妹に土下座させてるだ最低だのと言ってやがる。コイツらマジで許さない。こいつはメチャ許さんよなあああああ。今ならこの溢れる怒りで超サイヤ人でも何でもなれる気がする。勝てる。勝利フラグはここにたった。既に負ける要素など一ミリも存在してはいない。完全に勝てるんだ。いいや、むしろ勝てない訳がない。ここで負けるようなら将来何にも勝てやしない。ヤムチャくらい勝てやしない。あらやだ、絶対勝てない気がしてきた。

 

「ちょ、蒼さん落ち着いて!」

「いいや限界だ蘭ちゃんッ!! 一回殴らなきゃ俺の気がおさまらねぇッ!!」

「馬鹿め、俺は蒼が女性のいる空間で暴力を振るわないということを知っている。つまり、一夏も俺も大丈夫というワケだな」

「正直気まずいのでネタに走った。反省はしてる。後悔はしてない」

 

 のほほんとした様子で淡々と絶対に殴られないなどと言う弾。少しだけ反省の色を見せる一夏。同じイケメンでも性格の違いが滲み出ている。やっぱ一夏って凄まじいレベルのイケメンだったんやな。学校中の女子が惚れてファンクラブまで出来る訳だ。弾は実際、顔は良いんだからモテたいんならもっと態度から変えていけよと思う。ぼく? ははっ、お察しの通りよ。やめよ、ナチュラルに心が傷付いていく。心が(イケメン死ねと)叫びたがってるんだ!

 

「弾。テメーは許さねぇ」

「んだとゴラ蒼。おい、決闘(デュエル)しろよ」

「蘭ちゃん、ほら。馬鹿二人は放っておいて話でもしよう?」

「一夏さんどうしてそんな話し方なんですかぁ……」

 

 やっぱ駄目だわ一夏(コイツ)。どうせならイケメンに全てを託してこの混沌世界(カオスワールド)の激流に身を任せようとも思ったが無理だ。よく考えたら一夏くんがまともな恋愛空間を形成できる訳がない。一夏ちゃんになったとしてもそれは同じ。つまり織斑一夏に恋愛は出来ない。なにそれ女の子達が可哀想。ガチでポンコツだからどうしようもねぇ。くそっ、これだからハーレム主人公は駄目なんだ。漫画の主人公を見習え。友情努力勝利とかいう素晴らしいモットーですよ。コイツなら何とかしてくれる感が足りねぇんだよお前。

 

「大体、一夏が色々と優れていたらこんな事にならなかったんだ」

「それには激しく同意だな。このクソイケメン」

 

 弾の手のひらクルックル。

 

「一夏さぁーん……うぇぇ……」

「よ、よしよし、蘭ちゃん。大丈夫。私は大丈夫だから、その、心配してくれてありがとうね?」

「ちげーよ唐変木」

「さすがは朴念仁」

「え?」

 

 一夏が違うの? と言いたげな顔を向けてくるが思いっきり首を横に振る。一夏の身を心配しただけでその態度というのはちょっと頭の回転が足りませんね。もっとぐるぐるさせなきゃ駄目です。つーかよく考えなくても大体の人間は察せる。ここまで泣かれたら想いを寄せられてたんだなくらいは選択肢にあがるでしょう。あがらない? 一夏の脳みそは特別製だからあがらないか……(諦め)。

 

「ぐすっ……一夏さん」

「う、うん? なに?」

「私、一夏さんのこと好きです」

「私も蘭ちゃんのことは好きだよ?」

「ハァ~……(クソデカため息)」

「もう駄目みたいですね(冷静)」

 

 こいつマジか。ここまで来てまだそんなことを言うか。これだからイケメンは。むしろイケメンだからこそ質が悪い。女子に好きとか言える度胸があるから余計に。これはどうしようもねぇよ。あまりのどうしようもなさに弾くんがついに冷静になっちゃったよ。馬鹿騒ぎこそが俺らのポリシーとか叫んでた弾くんはどこにいった。カムバック弾くん。カムバック友人。あれ、一夏の時も似たようなことが……うっ、頭痛が(唐突)。

 

「違います。違うんですよ、恋愛対象として好きだったんです」

「え?」

 

 静かにしなきゃ(使命感)。

 

「あはは……。色々、アプローチしてたつもりだったんですけど……そこの蒼さんに教えてもらったりして」

「そう、だったの……?」

「蒼ェ……。お前マジ人の妹に何教えてんだ」

「頼られたらしゃーねーだろ。恋する乙女は強い」

 

 伊達にイケメンの友人を幼い頃からやってませんよ。千冬さんには負けるが弾よりかは一夏について知ってることは多いという自負がある。あと原作知識とかも残ってるしね。細かい部分は薄れてきてますけど。そのために、一夏の好みだとか趣味だとかを聞くのに俺はもってこいって訳よ。ただ、会話の段階で壁がありますけど。蘭ちゃんはその壁を乗り越えてまで踏み込んできた一握りの女性。ガチで落としたいんだなってつい色々と言っちゃったんだZE。まぁ、一夏は優しいから許してくれるだろ(テキトー)多分、きっと、めいびー。

 

「……でも、一夏さんは女の子になったんですよね」

「う、うん。は、ははは」

 

 笑ってんじゃねーよ。つーか笑えねーよ。やっぱお前メンタル強いな。この状況で渇いた笑いとか俺には絶対出来ない。だってメンタルチキンですし。女性に苦手意識を持ってる駄目男ですし。

 

「撫でて下さい」

「えっ?」

「頭、撫でて下さい」

「……わ、分かった」

 

 そう言って蘭ちゃんの頭を撫でる一夏。お世辞にも上手いとは言えないようなぎこちない手の動きだけど、必死にどうにかしようとする気持ちは伝わる。オロオロとしながらもこっちに助けは求めていない。自分で何とかしなきゃって分かってるんだろう。それでいい。それでいいんだ織斑一夏。己の力で未来を切り開いてこそ主人公って奴よ。だからチラチラこっち見んじゃねえ。結局無理とか思いながら助けを求めんじゃねえ馬鹿野郎。

 

「……一夏さん、撫でるの下手ですね」

「うっ……ご、ごめん」

「──ふぅ。もういいです。ありがとうございました」

「えっ? あ、いや、うん」

 

 ぱっと一夏から離れた蘭ちゃんは、いつも通りの笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「一夏さん。色々と大変でしょうし、何なら頼ってください。蒼さんじゃ頼り無さそうですし」

「お、おう」

「ナチュラルに罵倒される蒼に草」

「蘭ちゃんだから別に良いんだよ」

 

 数少ない。本当に数少ないこんな俺と我慢強く話してくれた子だからね。途中から何だこの良い子って思い始めてましたよ。純愛すぎて泣けてくるんじゃぁ~。あれ、視界がぼやけてきた。なんでだろ、俺眼鏡なんてかけてないんだけどなぁ……(涙腺崩壊)。

 

「その、えっと……気付かなくて、ごめん」

「もういいですよ。終わったことです(・・・・・・・・)

 

 君っていう子は……ッ!!(号泣)

 

「これからも、宜しくお願いしますね。一夏さん」

「蘭、ちゃん……」

「最初から一夏に任せておけば良かった……ッ」

「そうだな。それならもっとイイ環境だったろうし」

 

 一夏についてのことを蘭ちゃんに説明していた俺が抱きつかれるなんてことも起きなかったんや。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一夏と蒼が帰った後。

 

「ふぇぇ……ひぐっ……お兄ぃ……」

「あーよしよし。ったく、泣いた妹あやすなんて何年ぶりだ……?」

 

 ぼりぼりと頭をかきながら考える。こいつ何時からか俺には強気になっちゃってたからなぁ。女の方が強い今の世間では当たり前っぽいけど。お兄お兄言いながら後ろをついてきた頃が懐かしい。今や立派な乙女になっちゃって。お兄ちゃんは嬉しいやら悲しいやらで複雑な気分だよ。あと彼女欲しい。

 

「ふぐっ……う、うぅぅ……」

「我慢すんな。泣け。今泣いとかねぇと辛いぞ」

「うわぁぁぁぁあん! お兄の馬鹿ぁぁぁあ!」

「なんでだ」

 

 どうしてこの子はナチュラルに兄を馬鹿にしてくんの。お前魔法科高校の妹を見習えよ。あんだけ愛されたら兄冥利に尽きるってもんよ? ほら言ってみ。さすがですお兄様って言ってみ。当たり前だろ誰だと思ってんだ五反田さんだぞ(イケボ)。正直な話、どんな事件が起きようとも蒼がいれば何とかなるから放置してたんだけど……居なくなったら仕方ねーよ馬鹿。

 

「俺らは蒼に頼りすぎてるなぁ……」

「ぇう……なに、が?」

「なんでも。モテねーモテねー言ってるくせに極たまーに凄まじいレベルの愛情をぶつけられる頼りがいのある冴えない奴のことを考えてただけだ」

「蒼さんか……ぐずっ。あの人、なんで好かれるんだろ」

 

 居ないところで罵倒される蒼とかやっぱり草生えるわ。つっても本気じゃないあたりアイツは頼られてるなと思うが。

 

「一夏を一目見て惚れられるタイプだとすれば、蒼は長く接してきた末に惚れられるタイプだからな。理解して、ようやくその良さに気付く……らしい」

「誰情報なのそれ」

「秘密だ。モテない俺がアイツらのどんな役割を引き受けるか、想像に難くないだろ」

「でも、蒼さんって先ず女の人と接さないんじゃ……」

「物好きはいるんだよ。粘りに粘る人とか」

 

 このハート型の弓矢でその脳天を貫いてやろうかと何度思ったことか。

 

「ま、容姿は圧倒的に俺の方がカッコイイけどな!」

「そんなだからお兄はモテないんだよ……ぐすっ」

 

 なら性格の問題か。そう思って今日来た友人二人の性格を思いだし、自分には無理だなと諦めかけた。一人は炊事洗濯に加え気遣いまで出来るパーフェクトイケメン。なんか女の子になってたが。もう一人は地味に優しくて地味に気遣いができて地味な容姿の地味にカッコイイ行動をする地味にカッコ悪い地味男。並べると差がハンパない。まぁ、そこまで現実は酷くないけど。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あっ」

「どうしたの、蒼」

「蘭ちゃんに戻る可能性があること伝えるの忘れてた」

「なにやってんの……」

 

ごめん蘭ちゃん。ちょっと首吊ってくる。




感想欄に天才が降臨してたんだけど……(困惑)八割と二割と一割で十一割をホモに持っていくとか頭良すぎて思考が追い付かないわ(白目)すいませんマジで八と二と一で十割とか考えてました。疲れてんのかな……。

というわけで訂正。ホモが七割、純粋なTS好きが二割、紳士が一割、雑食性の┌(┌^o^)┐カサッが一割。完璧じゃまいか(目ぐるぐる)

活動報告でアンケートとってます。ホモの皆さんも大歓迎ですよ!(開き直り二度目)



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可愛い女の子だと思った? ふふっ、ざーんねん、TS一夏ちゃんだよ。

感想で指摘してもらいマジで読みにくかったのでちょっと改行……するならいっその事と少し加筆修正(4/6水)


 朝ちゅん、というモノを皆さんご存じだろうか。その名の通り朝に鳥がちゅんと鳴く様子を表しているわけなのだが、この単語の本質はそこではない。漫画やら小説やらの創作で朝ちゅんというシチュエーションが使われた場合、大体というか九割方というか殆どというか九分九厘というか限り無く高確率で事後である。事前でも事中でもない。事後である。R15、もしくはそれ以下の作品で男と女が性行為をした事柄を簡潔に伝え、また読者の想像をかきたてるこの表現方法は素晴らしいの一言につきる。

 

「~♪……──?」

 

 朝ちゅん。なんというイイ響きだろうか。夜に行われる紳士と淑女のお茶会(隠喩)を詳しく描写できないなら、やった証拠を突き付ければいいじゃないかという神様たちの考えが受け取れる。ええ、しかと受けとりましたよ。R18作品でない限り、もう面倒くさいからドストレートに言うけどセックス描写なんて出来ないわけだ。十八歳まではエロゲーもしちゃ駄目だしエロ本も拾っては駄目ですよ当たり前です。メーカーの決めたレーティングはきちんと守ろうね!(清純派オタク感)

 

「──?……──……」

 

 ちなみにこれは俺個人の見解だが、セッ〇スと伏せ字で書くよりセックスと全部書いた方がまともに見えるのは気のせいだろうか。エロワードを伏せているとなんだよこれエロ小説かよぐへへ……的な感じになるが、伏せずに直接書くことによってなんだか真面目な文学小説みたい……となって作品自体のレベルが上がる気がするんだ。つまりセックスとドストレートに書いているこの小説は真面目な文学小説。完璧だな。色気の欠片も無いような本でエロい言葉を使ってもエロスは感じられないのだ。だからこそ人はロマンを求めて虎穴(とらのあな)に入るんですよ。虎穴(とらのあな)に入らずんば虎子(同人誌)を得ず。いい言葉ですね。

 

 さて、長々と説明して真面目くさい文を書いてしまったが、この小説はお探しの小説で間違いありません。何が言いたいのかというと、朝ちゅんっていいよね! でも、現実はそう甘くないんだよと伝えたかったんだ。ゆうべはおたのしみでしたね。楽しんでません。

 

「──?」

 

 不意に、とんとんと肩を叩かれる。やめてほしい。安眠妨害だ。ゆっくり寝させてくれ。ただでさえ最近は本当眠れないんだから、じっくりと布団にこもっていたい。むしろ布団こそが俺のテリトリー。起き上がって直ぐにスマホか小説かゲームをとれる状態にしておくとマジで飯食う時以外は動かなくていいので楽。このままミノムシになりたいなぁ……なんて考えておやすみ。いやだよぅ……起きたくなんてないよぅ……。

 

「──」

 

 ゆっさゆっさ。今度は揺らされた。うがぁぁぁぁぁぁぁ安眠妨害ィィィィィィイ。ちっくしょ。マジでちっくしょ。これはあきまへんわ。寝たい寝たいと思っても俺を起こそうとしている何かが邪魔をする。意識が浮上してきていないだけマシか。何か言ってるようだけど声は聞こえないし。うん。このまま眠れ。より深い睡眠を求めて微睡みに身を任せるのだ。

 

「──て、あ──」

「んぅ……」

 

 だんだん声が大きくなってきてる。あまりボリューム上げすぎんなよ、近所迷惑になるだろうが。壁ドンされたらどーするんだお前。両隣とも綺麗なオネーサンでしたけどね。あれ、何だか悪意を感じるよ。やっぱり世界って俺に対して酷くないっすかね。転生者とかいう異物だから認めてもらえないんかオイ。認めろやゴルァ。ワイは転生者やぞお前。完璧最強皆のヒーローで分身なスーパーオリ主になり得る可能性をもつ転生者やぞ。踏み台とかいうんじゃねえよ。むしろ踏み台にすらならねぇスペックだぞこっちは。努力ぅ? 俺の嫌いな言葉は一番が「努力」で二番目が「ガンバル」なんだぜ。

 

「起きて、蒼っ」

「……ゃだ……」

 

 プツン、と何かが切れる音。

 

「起きないとガムテープで脛毛抜くよ?」

「いい朝じゃないか。おはよう一夏」

 

 あの痛みは一度経験するとトラウマもの。虎に馬が噛み付いてる画像くらいトラウマもの。あれ? それ噛み付かれるの逆じゃね?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ふあぁ……ねむ……」

「髪の毛ボサボサじゃん。ちゃんと直してきなよ」

「めんどくせぇ……いただきます」

「はぁ……。昨日一体何時に寝たの……」

 

 言われて白米をモグモグしなから考える。昨晩はスマホ弄ってたりゲームしてたりで気付いたら陽が昇りかけていたのだ。カーテンの隙間からうっすらと光が射し込んだときはちょっと焦った。一日が二十四時間って少ないと思うの。でも学生なら登校する時間や社会人なら出社する時間を考えると二十四時間で十分とも思う。まぁ、百歩譲って学校なら二日は休み確定だしいい。しかも座って授業聞いてるだけで終わるんだぜ。義務教育サイコー、でも勉強はしたくねぇ……。

 

「最後に時計を見たのは五時半だったか」

「今は七時だけど? 絶対寝てないよね」

「寝たのを邪魔したのはどこのどいつだったか」

「起きない蒼が悪いんだよ」

 

 呆れたような風に言いながらぱくぱく食べる一夏の服装はいつも通りの私服……ではなく制服(・・)だ。しかも我が中学校の女子用。別に一夏が女装趣味のある変態系主人公ってわけでもなく、限り無く女の子に見える男の子ならぬ男の娘ってわけでもなく、女子生徒織斑一夏として今日から学校に通うからってだけ。察しのいい読者とホモの皆さんはもうお気付きだろうが、訳が分からなくなってるノンケの方々のためにも状況を説明しよう。今日は中学三年生になる始業式です。はい状況説明終わりーっ!

 

「大体、新学期なんだからもっとシャキッとしなよ」

「学校に行ったら多分シャキッとしてる」

「どうだか……」

 

 これでもとある女子に「あんた学校にいるとボイルキャベツなのに普段は腐ったキャベツなのね」って言われたことあるんだからな。めっちゃシャキシャキしてそうだろ、ほら。つーかまたナチュラルに罵倒されてんですけど……。くそっ、酢豚マジで許さねえ。背中曲がってるとか言いながらバンバン叩いてきた恨みを俺は一生忘れやしない。ついまな板とか漏らして中国拳法(ガチ)を喰らったことだってもちろん忘れない。くっそ痛いんだよお前の暴力……。腹パンは是非可愛い幸子(腹パンアイドル)にやってください。あ、いや、将来的に木刀を振り回す予定の篠ノ之さんよりかはマシだと思うけど。

 

「これでも学校の俺はまだマシ(・・)だって言われたんだぞ」

「え、誰に?」

「中国四千年の歴史」

「あー……鈴かぁ……」

 

 元気かな、なんて言いながら微笑む一夏。多分というか絶対元気だと思いますよ。だって一年ちょっと後には代表候補生として日本に来るだろうから。でかいでかいと来てまさかの小さい。多分読んでいた半分の人が驚いて残りの半分は狂喜乱舞したことだろう。貧乳はステータスだ。希少価値だ。そう言ってあげたら一時間正座させられて説教されたのは良い思い出。余計なフォローは人を傷付けるってはっきり分かんだね。ISのヒロインって怖いです。

 

「まぁ、鈴のことだから元気だと思うけど」

「うんうん。病気しなさそうだし」

「毎日健康にしてれば無病息災だし」

「それはお前だけ」

「えっ?」

 

 中学生の頃からこんな思考回路の人間こいつ以外に見たことがありませんよ。どんだけ爺臭え考えしてやがるんだ。いや、女だから……ってこの流れ前もやった気がする。果てしないデジャビュ。いつだったか……そう。あれは……。思い……出した! 思い出しても前世が平凡な一般人だから勝てねーな。やっぱ綴ることも出来ないサラティガも来ないような転生者では駄目ですね。俺の前世がでっかい竜を撃ち落としてその血を背中以外に浴びてチート性能誇っておきながら背中刺されて殺されたネーデルラントの王子だったら良かったのに。それどこのすまないさん。邪悪なる竜は失墜し(別に失墜しません)世界は今落陽に至る(多分至りません)撃ち落とす(落とせません)幻想大剣・天魔失墜(ばるむんく)

 

「規則正しい生活って大事だと思うんだけど……」

「皆思うだけ。実行できるお前はすげーよ」

「そ、そう? さんきゅーね」

「はいはいどういたしまして。ごちそうさまです」

 

 ことんと食器を置いて一息。ふぅ、悔しいけど一夏のつくる飯はうまいからな。春休み中に性転換してからずっと朝に来られて飯作られてみろ。ちょっと申し訳なくなると同時に胃袋を掴まれた感覚になって怖くなるのに加えて一夏のメンタル面の強さにもう一度怖くなるんだぜ。こいつ本当精神が特殊合金レベル。ダイヤモンド? ダイヤモンドはハンマーで砕けるのよ(震え声)。砕けないのはクレイジーな方だけです。

 

「んじゃ、ぱぱっと後のこと終わらせてさっさと行きますかね」

「うん。あ、食器は私がやっとくから。蒼はその髪の毛といて歯磨いてきて、ほら」

「分かった分かった。だから押すんじゃねえよ。つーかお前は?」

「私は私で歯ブラシ持ってきてるし。だからさっさと行く。堕落した生活は駄目なんだよ」

「……うぃーっす」

 

 お前は俺の何だ、と。そう声を大にして言いたくなった自分は間違っていない。いやまぁ、いつも通りの一夏と言えば一夏なんだが。というより学校でも結構口を酸っぱくして言われてたのが日常生活にまで溶け込んだだけ。う~ん、ちょっと辛いわ。だから抱いた感想は間違いなんかじゃない。決して、間違いなんかじゃないんだからッ……!!




作者は天才ではありません。なので、作者がふざけて書いているこの作品も絶対面白いとは限りません。皆さん、面白いって何ですか(哲学)ちょっとテンションが足りませんね。デスソース一気飲みしてきます(自殺)

活動報告のアンケートは明日の十二時の時点で結果出します。結果はお察しとか言わないで(懇願)

さて、次も元気に頑張るぞい!(白目)



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中三の始業式が平和に終わると思った?

 かつかつと音をたてながら一人廊下を歩く。やはり寝てないからか、物凄く怠い。怠すぎてやばい。何が怠いって、もう学校っていう存在自体が怠い。怠すぎてもう怠い。いやぁ、怠いですね!テンション上げても変わらなかった。むしろ怠い怠い言いすぎて怠いがゲシュタルト崩壊気味。おー、君のその服怠いねー。服が怠いってどういうことよ。ほんと日本語って難しい。英語を見習え。丁寧語とかフランクとかそういうのあまり無いんだぞ。日本語がおかしいだけ。感謝を伝える時の言葉も多いんだよ。サンキューでええやん。部長、おごってもらってサンキュー。確実に首スッパーンされるな。

 

「ふぁぁ……ねむ……」

「あ、植里くんおはよー」

「うぇ? あ、うーっす」

 

 横を通りすがった女子生徒に挨拶をされたので、出来るだけ平静を装って返す。ちなみに名前は知らない。というか覚えてない。いや、聞いたらピンと来るんだろうけど。それなのに何故話し掛けられたかと言うと簡単なことで、一夏と一緒に居ると嫌でも有名になるからだ。あと時々一夏情報バラまいてたから。これでも近くに男子がいれば吃りを極力減らせる精神構造をしてるんだぜ。勿論一人と大勢だったり一人と一人だったりすると途端に話せなくなる。いや、男子が居ても殆ど会話の体を成さないんですけどね……。うーん。ネガティブ。やめだやめ。ポジティブに行こう。ポジティブシンキングこそが正義だ。花粉症もそれで何とかなるらしいし。いや、俺花粉症ちゃうんですけどね。

 

「……あれ、でも一夏がああだとすると……」

 

 俺氏、女子生徒全般から盛大な手のひら返しを喰らう可能性大。一夏くんが女の子になったぁ? じゃあ植里とかいう奴にも関わらなくてジューブンね、的な感じ。うわぁ、想像しただけでテンションがた落ちしたよ。ちくしょう、女心っつーか女性との付き合いは難しいのです。野郎だったらふざけて叩いて殴りあってれば仲良くなれるけど。決して堀り合っても仲良くはならない。何を掘り合うのかも聞いてはならない。分からなかった純粋なそこの君。阿部さんで検索検索ぅ! で、その当の本人である一夏はというと、先程下駄箱でクラス名簿を確認した折に。

 

『私、えっと、学校側との話があるから、また後でね』

 

 と言って職員室に向かった。千冬さんが色々と手を回したんだろうなぁ。世界最強がここまでブラコンもといシスコンだと一体誰が想像できようか。一部の人間にはとてつもなくバレてそうだけど。いや、弟のために試合放り投げてくる立派な姉ちゃんやで? 正直身内にあんな人が居たら安心感半端ない。さらわれても名前を呼んだら例え時空を超えてでもやってきそう。凄いなちっふー。負けるなちっふー。千冬さんが負ける? そんな時には多分人類史終わってるからへーきへーき。とか下らないこと考えてたら教室の前についた。ちなみに一夏とは同じクラス。弾とも同じクラス。数馬? 居たような居なかったような……多分居た。居たと思うんだけど。居たら居たで居なかったら居なかったでいいや。がらりと引き戸を開ける。

 

「おは──」

「蒼テメーこの野郎ッ!!」

「よぶはッ!?」

 

 入るなりいきなり頬に衝撃。痛い。地味に痛い。この絶妙な力加減で悶えるほど痛くないけどしっかり痛みを感じるパンチ。知っている。知っているぞ。俺はこの痛みを知っているッ! つーか弾。なにこいつ。え、俺別に何も悪いことしてないよね? 蘭ちゃんの件で今更殴られたとか? ははっ、そんな馬鹿な弾に限って──いや、こいつ地味にシスコンだから分かんねぇな。周りに気付かれにくいタイプだけど。

 

「なーにすんだ弾コラ」

「すまん。つい衝動的に……」

「ぶっ殺すぞお前」

「男性器もぐぞテメェ」

 

 一人の命と一人の棒って対等ですかね。弾は死ぬのに俺はナニが無いまま生き延びる。死ぬことよりも酷いですねそれ。やめて欲しい。全国の男性器を欲している人たちに謝れ。満足したい人たちに謝れ。チームサティスファクション。こんなんじゃ……満足できねぇぜ……。

 

「で、なんでお前は殴った」

「朝から美少女と登校とか裏山」

「それは事情を知っていて煽ってんのか?」

「まぁ、クラスでもその話題で持ちきりだし。植里が見知らぬ美少女連れて登校してきたって」

 

 やばい(確信)。そっか、そうだよなぁ……一夏ちゃん普通に可愛い部類に入るもんなぁ……。千冬さんがあんなことになるくらいだもの。その影響力をさっぱり忘れていた。つまりパンツ。間違えたパンチ。ちげーよピンチだよ。なんでピンチからパンツまでいった。俺の脳内ピンク色過ぎない? 思春期の男子中学生なのかは知らんがもっと自重しろ。ついクラス内でパンツとか言ってみろ。視線が刺さるぞ。物理的に。なにそれ怖い。

 

「どーすんだよ蒼。バラすのか?」

「いや、後でアイツ自身から挨拶がある……はず」

「ほほー。しかしなぁ、これは大事件だぞ」

「大事件どころじゃない。世界崩壊レベルだろ」

 

 女子からしてみればって話だが。野郎共からしてみれば嬉しいだろうな。イケメンが美少女に変わったおかげで女子と付き合える可能性が増えるんだから。弾くんがニヤニヤしているのがその証拠。こいつ顔に出やすいなー。もしかして秘密とか教えちゃいけない人種かね。バリバリ教えちゃったんだけど。あれ? フラグ? いいや、フラグじゃない。フラグじゃないんだよそうなんだよ。絶対、多分、恐らく、きっと、だといいなぁ……。

 

「それより、数馬は?」

「寄り道してくるらしーぞ」

「あぁ……なんとなく察したわ」

「ま、本当人生分からんもんだなー」

 

 ぼうっとした様子で呟く弾。そろそろ廊下に倒れてるのも疲れてきたのですくっと立ち上がり、弾の横を抜けて教室に入る。席は番号順らしいので、廊下側の後ろから二番目がそうだろう。……やっぱりというかなんというか、随分と配慮されてますなー。前だったら宿題移せるしラッキーとか思ってたんだろうが。俺の名字の頭文字はう。そのあとに続く語順から考えて、分かるだろ? あいうえおだよ。あい()()。とにかく荷物を置こうと歩き出したその時。背後からその呟きは響いてきた。

 

「──まさか、一夏が女になるとは」

 

 ぴしっ、と教室の空気が固まる。は? いや、え? 嘘だろお前何言ってんだこの馬鹿。信じられなさすぎて弾の方を振り向けば、あっという風なリアクションのあとにグーを作った片手で自分の頭を小突いた。

 

「やっちゃったZE☆」

「貴様ァァァァァァ!!」

 

 許さない許せない。むしろこれを許せる奴がいるの? いたとしても残念だったな。俺は許せない。今日この時以上に弾のことを消えればいいのにと思ったことはない。ふざけて下衆発言して真面目にしないくせに本気で不味いときは地味に支えてくれる心優しいコイツの事をマジで地獄に落ちろよと思ったことなど、十回や二十回程度はあれどそれもおふざけのうち。今は全力で頭にきている。ぶち殺し確定ね☆

 

「女のいる空間では暴力を振るわないと言ったな。あれは嘘だ」

「すまん、マジですまん蒼。だからちょっと落ち着いて周りを見てみよう、な?」

「ハァ!? この期に及んで何を──」

 

 がっしと肩を掴まれる。あっ、これ駄目な奴。

 

「ちょっと植里くん!? どういうこと!」

「えっ、いや、その」

「織斑くんが女になったって本当なの!?」

「えっとだな、ちょ、ま」

「どうなんだ植里!! はっきり言え!」

「だから、あの、い」

「嘘でしょ!? ねぇ、嘘なんでしょ!?」

 

 ちょっとやめなよ女子! 植里くん嫌がってんじゃん! つーかそんながっつくんじゃありません。マジで怖いからやめて。女の子に耐性が無い恐怖と鬼気迫る表情の恐怖とで怖さがマックス。どれくらい怖いかと言うともうマジで怖い。膝は笑ってないけど表情が引き攣ってる。多分口の橋がピクピクしてるでしょう。

 

「織斑が!? 女に!?」

「マジかよおい、マジかよおい!」

「うぉぉお! これで、これで彼女ができる……っ!」

「青春を謳歌できる……ッ!!」

「織斑が女? これはたまげたなぁ」

「女体化とかこれもうわかんねぇな。お前どう?」

「とりま女子は落ち着け。暴れんな、暴れんなよ……」

 

 男子も落ち着けやオイ。一部の人間が嬉しすぎてなのかガチ泣きしてるんですけど。どんだけイケメン一夏と一緒になるのが嫌やったんや。確かにクラス入ったときに暗いなーとか思ったけど、まさか一夏と同じクラスになったから沈んでたのかこいつら。ハッン。馬鹿め。一夏と同じクラスになろうがなるまいが彼女なんて出来ねーんだよ。何年も幼馴染みやってる俺が証明する。

 

「どうなの!? 植里くん!!」

「だから、あの」

「答えて植里くん!!」

「ちょ、ま」

「さっさと言え植里!!」

「言うから、まず」

「嘘って言ってよ植里くん!!」

「えっと、あのな」

 

 こんなにも多くの女子に言い寄られるなんてぼくはモテモテだなぁ(白目)呼吸困難で死にそう。というよりなんで話せと言っているわりに話させてもらえないんですかねぇ……。取り敢えず落ち着け。そして落ち着け。じゃないと俺も落ち着けない。もうそろそろ発狂するぞ。女子に囲まれて発狂するとかそれどんな変態。いやだ、中学三年を変態扱いされてすごすなんて、俺はいやだぞ!

 

「あー……本当に一夏女だぞ」

「弾!?」

「いいじゃねえか。どうせバレたんだし」

 

 バレたのお前のせいだけどね。

 

「そんな……ッ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

「馬鹿な……嘘だ……」

「あれ? てことは朝の光景は……」

「まさか織斑くんと植里くん?」

「スイーツですねぇ……」

 

 中学生活最後の始業式。俺が教室に入って僅か三十秒で混沌とかしました。なんなの、どれだけこの世界はカオスなの。男子は狂喜乱舞して服を脱ぎ出す奴まで出る始末。女子は項垂れる婦女子とにっこり笑う腐女子に別れてるし。やめろ、そんな目で見るんじゃない。死にたくなってくるだろ。死にたい。むしろ死に体。




私は純愛が大好きなので、純愛を書くことにしました。
(訳:1で決定ですよ皆さん!)
ただ、もぅまぢ無理……となった場合は唐突な場面転換からの「お前のことが好きだったんだよ!(迫真)」そして幸せなキスをさせて終了します(ネタバレ)

TS一夏ヒロイン流行れ(懇願)


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うちのクラスはノリがいい。

 始業式もつつがなく終わり──式場への移動開始時間と同時に全員がいつもの調子に戻ったのは凄かった──担任からのありがたいお話があるのかと思えば、それよりも先にとても面倒なものがあった。

 

「──というわけで、諸事情により今は女らしい」

「織斑一夏です。よろしくね?」

 

 にこっと笑う一夏。ぴしっと固まる教室。変だな、この流れはつい先ほどにやった筈なのだが。ギチギチと油のきれた機械のように首を動かして教室内を見渡す。全方位から刺すような視線。主に女子生徒からの視線が強いかなー? んー? おかしいなー、この流れはさっきやったからやる必要無いと思うんだけどなぁ。よし、身動きがとれなくなる前に一言。

 

「ステイ」

 

 じょしせいとにこうかはないみたいだ……。

 

「どういうこと植里くん!?」

「いや、だから」

「あれって五反田くんの冗談じゃなかったの!?」

「え、や、普通に考えて」

「答えてよぉぉぉぉぉお!!」

「あ、あのだな、その」

「はっきり言わんかいワレェ!!」

 

 今度は先程より激しく、というよりマジな雰囲気でがくがくと体を揺らされる。やめて、吐きそう。女子に囲まれてあれなのと体を揺らされたことによって吐きそうだからほんとやめて。公衆の面前でリバースなんてしたくないんですよ! 決してリンクジョーカー編のあれではない。吐くほうのリバース。嘔吐のほうのリバース。復活ともちゃうぞ。

 

「折村が……女?」

「違う。織村が女。アーユーオーケー?」

「織斑が女な。ったく、アホかお前ら」

「織斑一夏は男。つまり女であるあの子は……」

「折村一華ちゃん?」

「いや、織村一花ちゃんだろ」

「それだと織斑の名残がある。折村一香でFA」

「いい匂いしそう(小並感)」

 

 ダメだ、野郎共は思考が追い付かなさすぎて変になってやがる。くっそ使えねー。そもそも名前の案を言葉にすんじゃねえ。文字じゃないからさっぱりだよこんちくしょー。織斑一夏は織斑一夏です。だってワンサマーだしねあいつ。一花とかワンフラワーじゃねえか。ネタに出来ない名前など要らんのだよ。ワンサマはワンサマ。つまりワンサマがワンサマでワンサマのワンサマがワンサマァァァァ!! した結果ワンサマーちゃんになったんだ。うん。どういうことだってばよ。

 

「えっと、皆さん、さっきので理解しなかったの?」

「あれは冗談だと思ってたのよぉ!!」

「は?」

「織斑くんと同じクラスでテンションアゲアゲよ!!」

「あ、なるほど、つまり」

「本当だなんて聞いてないよぉ!!」

「あ、はい。じゃあ、本当です」

「シバき倒したろかあぁん!?」

 

 ひえっ。勘弁してよ……。

 

「しかし、うん」

「織斑がマジ女。それつまり?」

「青春?」

「謳歌?」

「彼女?」

「リア充?」

「ちくわ大明神」

「砕け散れ」

「誰だ今の」

 

 まだマシ。そうだ、まだマシなんだよ。まだ混沌としてないだけマシ。先程はみんな精神が安定してなかったからね。俺も含め。女子の五割は席を立って此方に詰め寄り、男子の五割は席に座ったまま服のボタンを外していってる。脱ぎたがりが多いクラスですねぇ……。ちなみに残りの奴等は大半ぽっかーんと口を開けてる。その口にぽんかん詰め込んでやろうかと思うくらい開けてるから本当誰かぽんかん貸して。

 

「五反田くんがいきなり一夏が女になった反応ごっこしようぜ! とか言うから変だと思ったのよ……」

「オイコラ弾」

「あの時はおかしかったの。織斑くんと同じクラスになれておかしかったのよ」

「テメー何してんだオイこっち見ろ」

「まさか本当だなんて、あぁ……っ」

「そうか、分かったぞ。全部テメェのせいなんだな!」

 

 五反田死すべし慈悲はない。どうりで皆妙に聞き分けが良くて始業式と同時にケロッとしてた訳だ。最初から全部演技だったんだから、それは当然ですよね。そしてぼくはクラスメイトのノリが良すぎて驚くばかりだよ。なんでそんなテンションアゲアゲやねん……。確かにうちの中学にはノリが良くてアホやってる奴等ばっかだけど、こんなにも良いなんてお兄さん感動しちゃう。今年はボケ倒したるよオラァ!

 

「本当にこうなるとは……やはり織斑さんは凄いな」

「あ、あはは。一応自慢の姉なんで……」

 

 一応をつけるあたり一夏も千冬さんに苦労させられているのだろう。大体あの人基本的な家事スキル皆無だからどうしようもねぇよ。本当家事万能な誰かさんのヒロイン枠だよ。身内が正規攻略対象。途端にエロゲー感が増すな。近親相姦は文化です。いや、それ文化にしちゃ駄目な奴だから。一夏に助けてもらおうかと思ったけど目を合わせてくれないので諦める。くそっ、裏切りやがったなイケメン美少女。仕方無いので野郎共をちらり。

 

「新時代が……幕を開けるッ!!」

「やったぜ」

「ハッルゥアショォー!!」

「すぱしーば、すぱしーば!」

「俺の勝ちだ、アーチャー」

「流石に気分が高揚します」

「ここからが、俺の……いやッ!!」

「俺たちのターンだ!!」

 

 お前らのその変な団結力はなんなの? 馬鹿なの? 死ぬの? ふざけてんじゃねぇ。ふざけてんじゃねぇぞコラ。全員揃ってそげぶしたろか。まずはその幻想ぶち殺したろか。いいや、それよりも現状をどうにかする方が先決ですね。周りに女子が多すぎてちょっと体が震えてきましたよ。助けて一夏。助けて弾。どうにかして俺をここから連れ出して。信じてるからぁ!

 

「あれ? つーまーり?」

「織斑×植里?」

「体は違えど精神的BL……」

「私はパス。足りないんだよ成分が」

「私はイケル。うんうん。TSもまた愛だよね!」

「ふふっ、スイーツですねえ……おっと失敬鼻血が」

「うんうんそれもまたアイ(カツ)だね」

 

 ……あの辺は、うん。大丈夫だな、きっと(白目)。今も一部の物好きがよだれ垂らしたり鼻血垂らしたりしてるだけで、中には半裸の男子を熱心にスケッチしている人もいますし。筋肉の付き方がうんぬんかんぬん言っててちょっと怖いんですけど。クリエイティブ精神に溢れてますねぇ……。男の上半身なんか書くとは、一体どんな内容なんだろう。多分バトルものとかだろうな。うん。そうに違いない! きっとそうなんだ! イチャイチャボーイズルァヴなんてないんや。

 

「織斑の女体化。友人の植里は知ってた。つまり」

「長年連れ添った友との友情が愛情へ」

「だが相手が相手だけに沸き上がる葛藤!」

「悩みに悩んだ末、織斑は一つの決断を下す……」

「私は、蒼のことが好きなんだ──と」

「ふぅ、いいエサでした」

「ちょっとSS書いてくる」

「スレ立て乙ー」

 

 あそこは……あそこは……あそ、こは……。えっと、取り敢えず落ち着こう。趣味なんて人それぞれだもんな。俺だってTSモノの一つや二つ読んだことありますよ。その当事者に友人がなるとか考えたこともありませんでしたけど。勿論自分がなるとも思ってなかった。世界っておかしいよね。そこら辺のヒロインより可愛い男の娘(天使)がいたり、むしろヒロインじゃないかと思うくらいのTS主人公(まじえんじぇ)がいたり。贔屓目に見てクラス一の美貌を持ってしまった一夏(イケメン)がいたり。うん。おかしいわやっぱ。

 

「なんで織斑くんが……」

「えっと、その」

「植里くんじゃ駄目だったの……?」

「あ、その、ごめんなさ」

「謝ったら警察はいらないよぉ……」

「え、でも、あ、すいませ」

「私らが欲しいのは謝罪ちゃうねん……」

 

 どうしろって言うのよぉ! テンションがた落ちマジ落ち状態の女子を、女性経験皆無の俺がどうにかできるわけねぇだろうが! 冷静に考えて謝ること以外出来ないんですけど。謝ることさえ禁止されたらもう何も出来ませんよ。いやだ……こんな地獄、嫌だよぉ……。学校休めばよかった……。なんで学校来たんだろ俺。もう帰ろ。つーか帰りたい。帰らせて。帰る。帰るって言ったら帰るんだから! 蒼おうち帰るもん!

 

「うーっす。遅刻してすいま──って、なにこの空気」

「数馬ァ!!」

 

 神や。神がここにおった。

 

「え、なんで蒼はそんな女子に囲まれてんの?」

「よく来た数馬! 良かった、お前ならこの空気を壊してくれそうだから良かった……ッ!!」

 

 御手洗数馬(みたらいかずま)。弾と同じく中学になってからつるむようになった友人三人目。少し変わった奴だが、(ダン)のようにぱーっと(ハジ)けない(弾だけに)し、一夏のようにトラブルも持ち込まない。もちろん俺みたいに女性相手にも吃らない。ともすればその人のアレ(・・)によっては恋愛対象とすらしない。そんな最強の男。御手洗数馬。十四歳。

 

「つーか、誰この女の子」

「うっ……あ、あはは。やっぱ分かんないよね……。織斑一夏だよ、数馬」

「一夏? 一夏ってあの?」

「う、うん。その、ありえないかもだけど、女になったんだよね……はは」

「ふーん」

 

 幾ばくかの沈黙。じろりと一夏を眺めてから数馬が一言。

 

「マジかお前」

「信じてくれると、嬉しいかな……」

「……蒼があの調子、弾もだんまり、一夏はいない。なるほど……まぁ、一旦信じる」

「そ、そっか……あの、ありがと──」

「けど折角なら小学生くらいになれば良かったのに」

 

 沈黙。感謝の言葉を伝えようとして固まる一夏。いつも通りの数馬の様子にやれやれ顔な弾。よくやったと心底思いながら天井の染みを数える俺。周り見たら女子がいっぱいだしね。これがコイツの変わったところ。見た目も悪くない。クールで格好いい方だと思うし、性格の方もどちらかと言えば優しい。だが、一番の欠点がコイツには存在する。幼女趣味。ペドフィリア。言い方は色々あれど、簡潔に言えば──。

 

「JCは甘え、俺が欲するのはJSのみ」

 

 御手洗数馬。この男、真性のロリコンなのだ。




この作品に登場する数馬くんは適当に練り上げた設定の都合でこうなっており、原作との関連性は同一人物という以外にありません。ご了承ください。

イチャラブを期待の皆様。あとすこしお待ちください。ホモの皆さんは我慢強いって聞いたことあるから大丈夫だとは思いますけど(曖昧)


ちなみに。

御手洗数馬→みたらいかずま→ミタライカズマ→カズマ→衝撃のォ!→……はっ!

ティンと来た(`・ω・´)


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私の主婦力は五十三万ですよ。

 数馬の乱入によって女体化騒動はうやむやとなり、結局今日はそのまま放課後になってしまった。弾は面倒くさいことを嫌ってかそそくさと帰ってしまい、救世主数馬は初日から遅刻と言うことで今頃担任からありがたいお説教を貰っているだろう。しかも遅刻した理由が女子小学生を口説いてましたって、妙にキリッとした表情で言ってんじゃねーよクソロリコン。あんな性癖さえなければ彼女の一人や二人くらい出来るだろうに、なんと勿体無いことか。完全非モテ男子である俺をおちょくってんのか。流石に弾みたいにあー……彼女欲しー、とは言わないが。あー……童貞捨ててー。もっと先に行っちゃった件について。

 

「空なんか眺めて何かあるの?」

「……いや、なんでもねーよ。はぁ……」

 

 そして件の女体化騒動の張本人である一夏に残されたのは、消去法的にも自由選択肢的にも俺のみ。教室に残っていても良いことなんてないので、さっさと鞄を引っ掴んで出てきた始末である。思わずため息が出てしまうのも仕方無い。まだ昼にもなっていないのにどっと疲れた。これほどの疲れは一夏TS初日以来か。やっぱ学校なんて行くんじゃなかった。美少女と帰宅できるからプラマイゼロ? 中身が一夏だからプラスマイナスマイナスでマイナスじゃない? やだ、打ち消されてない。

 

「蒼が青空を眺める、なーんてね。ふふっ」

「はは。面白いな一夏。その胸揉みしだくぞ」

「そこまで怒らなくてもいいじゃん……」

「でかいもん持ってるお前が悪い」

 

 西瓜やメロンという程ではない。逆にまな板やRJのようなすとーんすかーんつるんでもない。……ん? 今どこからか殺気を感じたんだが……。まさか中国のやつ、海を越えてなおプレッシャーを与えられるというのかっ!? あ、ありえん。いや、この話はこれ以上やめよう。何か不幸なことが起こると俺の第六感的なセブンセンシズが告げている。六なのか七なのかはっきりしろよ。ただ一つ言うとすれば、中学三年生で確かな膨らみを制服の上から見てとれると言えば紳士諸君には分かってもらえるだろうか。うん。ナイスおっぱい。

 

「……なんだか不躾な視線を感じる」

「そう睨むなよおっぱい。じゃなかった織斑」

「わざとだよね? 私のこと織斑とか普段呼ばないもんね?」

「冗談だよ一夏」

 

 ぱちんとでこぴんしてやれば、あうっなんて漏らしながら若干仰け反る。そんな仰け反ってたらGP高出力出来ませんよ。立ち直った一夏はおでこを擦り、ジト目で此方を睨んできた。おいおいやめろよ。照れちまうだろ。美少女のジト目ってどちらかというとご褒美の領域だよね! そう思わない? 俺は思う。あれ、これもしかして既に調教済み?

 

「蒼の馬鹿」

「馬鹿で結構」

「ろくでなし」

「だから?」

 

 ぐぬぬ……、と唸る一夏。

 

「アホ」

「アホでも生きていける」

「間抜け」

「別にそれでも構わん」

 

 なんか段々可愛く思えてきたな。こいつの性格上人の悪口とかあまり言うタイプじゃないし、探すのに一苦労ってところか。本当こいつはおかしい。今時の中高生は軽くスキンシップでの暴言とか吐くぞ。やっぱり時代は流れてるんですねぇ……。

 

「毎朝ちゃんと食べなよ」

「めんどくせぇ」

「ちゃんと寝なよ」

「眠たかったらな」

「体を大切にして」

「善処する」

 

 ……あれ? 確か俺って一夏に罵倒されてた気がするんだけど。一体何が起こった。つーか悪態ついてまで人の体の心配すんな。自分の心配をしろってんだ。俺の不規則な生活態度から来る体調不良より、明らかにTSしてる一夏のほうが辛いだろうし。むしろ何で俺に関わってんだろとさえ思ってくる。

 

「あ、そういえば食材切れてたんだった。近くのスーパーに寄ってかない?」

「ん? 別にいいけど……金は?」

「元々そのつもりだったから、ちゃんとあるよ」

「おお、さすがはイケメン」

 

 今は美少女ですけどね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 昼時ということもあり、適当に立ち寄ったスーパーは意外と人が多かった。主夫の皆さまお疲れさまです。家の掃除なんてしてもお金貰えないのに、毎日ご苦労様です。女尊男卑社会はマジで生きにくいからね。もっと男を大切にしてくれと思う。じゃねーと世の女性どもは結婚出来ねえぞ多分。駄目だな、婚期の話はNGってどこでも言われてるから。決してニュージェネレーションズではない。

 

「蒼はお昼何がいい?」

「なんでも」

「……それが一番困るんだよね」

 

 眉を八の字にしながらため息をつく一夏。確かに俺も何がいいって聞いてなんでもって答えられたらちょっとイラッとしてしまうかもしれん。ならば、なんと答えれば一番嬉しいのか。顎に手を当てて考え込むこと数秒。瞬間的に脳裏をよぎったことを口に出して繰り返す。

 

「じゃあ、お前」

「さーて買い物買い物」

「待てやコラ。ちゃんと突っ込め」

 

 放置されたらぼくただの変態じゃなですかやだー! ボケというものはツッコミがあってこそ成り立つんやで。お笑い的にも社会的にも。つまり数馬はロリコンってことだ。対象年齢が六歳から十二歳って聞いたときはこいつ頭大丈夫かって真剣に考えちゃったわ。実際頭おかしい奴でしたけどね。登下校中に美幼女見付けたら華麗な話術で円滑に会話してんだぜ。怖いわ。そのスキル俺も欲しいわ。女子と円滑に会話出来たらどれだけいいことか。

 

「なら、真面目に何がいいの?」

「……肉」

「率直すぎてびっくりだよ」

 

 まあいいけど、なんて呟きながら買い物かご片手に歩いていく一夏。その様は歩き方から何までどこからどう見ても女の子にしか見えなくて、春休み中に随分と変わったことに気付く。頑固なあいつのことだから意地でも男のままあり続けるかとも思ったんだが、多分殆ど俺のせいでああなってるんだよな。そう考えると地味に罪悪感が湧いてきた。たかが一人の男の吃り癖を直すのに口調と立ち振舞いまで変える。普通はそこまでしない。というかむしろこいつが徹底しすぎなんだよなぁ……。

 

「肉だけじゃなくて野菜も食べてもらうよ?」

「別にいいけど。あ、椎茸はちょっと」

「知ってるよ。何年友達やってきたと思ってるの」

 

 食えない訳では無いんだけど、どうにも好きになれないというか。調理法によって好き嫌いが別れるというか。松茸は食えるんだけど椎茸は苦手というか。何とも言い難いあれがあるのだ。もっと酷いやつはなんで菌糸類を食べなきゃいけないの? なんてほざく奴もいるし。キノコって凄いんだけどね。大きくなったり小さくなったりとても大きくなったり。或いは秘薬だったり強走薬だったり鬼人薬だったり。キノコってすげー。同じくしてなすの方のきのこもすげー! 人類皆強大。

 

「あ、玉ねぎが安い」

「肉と玉ねぎ……牛丼?」

「牛肉は高いから駄目だよ」

「うわぁ、家計に優しい友達だなぁ」

 

 一夏ちゃんの主婦力が天元突破しすぎてヤヴァイ。どれくらいヤバイかっていうと、つい何でもしますからと言ってしまった時くらいやばい。また君か壊れるなぁ。ん? 今なんでもするって言ったよね? 自分の放った言葉には責任を持たなくちゃいけない(戒め)。そうじゃないけとケツを掘る♂……間違えた墓穴を掘ることになるからね。

 

「あらあら、仲の良い学生さんねぇ。もしかしてカップル?」

 

 不意に、隣で同じように商品を眺めていた女性からそんな声をかけられた。うふふ、なんて言いながら口元に手を当てているけど、しっかりにやけているのが丸分かりである。これは確実にからかわれてますなぁ……。やっぱり、年の差にはどうしても勝てないって。

 

「い、いや、残念ながら、その、友達ですよ」

「あら? そちらの男の子は残念なの?」

「え、ちが、あの、そうじゃなくて」

「あらあら、うふふ」

 

 あたふたしてたら笑われた。しかもくすっというような感じで。今の時代にこんな穏やかな人がいんのかよ。女神にさえ思えてくるぜ。つーか実際女神なんじゃねえかな。人を完全にからかってきていますがね! 目がもう面白いもの見ーつけた☆と言わんばかりに煌めいてる。キラキラ輝いてる。キラキラキラキラ、輝くの。

 

「あはは。普通に幼い頃からの友達です」

「あら、そうなの。ふふ、邪魔してごめんなさいね」

「いえいえ、そんな」

「男の子も、精一杯頑張りなさいね?」

 

 何をですか。

 

「……なんか、疲れた」

「そう? 私はそうでもないけど」

「だって女性相手だし。しかも初対面だし。地味に綺麗な人だったし」

「でも、前より吃っては無かったよね」

 

 言われて思い返すと、確かに酷かったの吃りが普通の会話が出来るレベルにまで落ち着いている。気付かなかった。というより必死で気付けなかった。段々と慣れていっている、ということだろうか。そうだと嬉しいのだが。

 

「でも、私と蒼が恋人なんてちょっと想像つかないよね」

「だな。先ず容姿的にありえねー」

「容姿は関係ないでしょ。蒼には蒼の良いところがあるんだよ?」

「そうか? まぁ、お前がそう言うんならそうだろうけど」

 

 このあとめちゃくちゃ買い物した。一夏ちゃんの作るお昼ご飯は美味しかったです、とだけ言っておこう。




あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ! 俺は小説を投稿しようとログインしたらいつの間にか目を閉じて夢を見ていた。な、何を言っているか(ry

訳:遅れて申し訳ありません。許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)

感想でも言われましたが、どうやらグダっているみたいですね。どうにかもっとハイテンションにハイペースでいきたいものです。


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あいえすとなかよし一夏ちゃん。

 織斑一夏が女になった。その情報は電光石火のごとく伝わり、じたばた(イケメン)によってヒットポイントを減らされていた女子全員を悉く撃墜する。三タテとか六タテどころじゃない。歩くだけで膝を折り、喋れば顔を俯かせ、笑顔を咲かせれば頬が染まる。幸福→失墜→また幸福のループかな? いや違う。一夏ちゃんが可愛すぎるからいけないんです。立ち振舞いやイケメン特有の格好良さと見た目の可愛さによるギャップにハートを撃ち抜かれたお方も多くいたようで。

 

「一夏ちゃん可愛い~」

「ふふっ、小さなお口にご飯を頬張る姿。いいわね」

「これだけでお米三合はいけます!」

「むしろ主食でしょこれは」

 

 静かに食べるべきであろう昼食時になってもその勢いはとどまるところを知らない。

 

「人気者だな一夏ちゃん」

「……うっさい」

 

 机を向かい合わせて向こう側に座る一夏は、もぐもぐとご飯を食べながらそう溢す。しかし体は正直なようで、頬っぺたはほんのりと赤い。恥ずかしがっちゃってこいつ。注目されるのに慣れてないって訳じゃあるまいし。可愛いとか言われたこと無かったからだと思うが。格好良いとは散々言われてたけど。ちっ、このイケメンが。

 

「照れんな照れんな。可愛いよ一夏ちゃ~ん」

「ふんっ」

「ッッッ!!」

 

 弁慶蹴られた。ちょういたい。しかも爪先で。くそっ、こいつなんてことしやがる。シューズだから地味に威力も増してるしよ。暴力ですよ暴力。理不尽な暴力ふるうヒロインは嫌われるんだぞ。最近すぐ殴るメインヒロインが多くていけませんね。もっとこう、純愛をですね、強調したいというか、なんというか。つまり一夏ちゃんサイテーってことだ。冷静に考えたらからかった俺の自業自得でした。

 

「一番の理解者がふざけるのってどうなの?」

「……反省はしてる。後悔は」

「どうなの?」

「すいませんでした」

 

 謝罪って大切だよね! 悪いことをしたら謝る。これ社会の常識だから。悪いことをしてなくても自分が悪いと思ったら謝る。あと妙に威圧をかけられても謝る。ヘタレチキンで非力なぼくは強さに逆らえんのです。じんじんと残る脛の痛みに耐えながら、お茶碗片手に箸を動かす。うん。今日も美味しいのか美味しくないのかよく分からん微妙な美味しさの給食だ。一夏の飯食ってると舌が贅沢になりそうで怖い。まぁ、これも今年度で最後だと思うと感慨深い気もしないでもないが。でもやっぱ一夏の方が美味しいんだよなぁ。家事力高すぎでしょこいつ。

 

「一夏」

「なに?」

「水炊き」

「……案の一つとして」

 

 ちっ、決定は出来なかったか。久々に鍋が食いたい。つーか俺が何の脈絡もなく言っただけで夕飯に水炊き食いたいってことがよく分かったなこいつ。テレパシーでも備わってんの? 普通はそれがどうしたってなると思うんだけど。不思議に思ってじっと見ていれば、如何にも不服そうな表情でなにと聞いてくる。

 

「いや、どうして分かったのかと……」

「長いこと一緒に居ればそれくらい分かるよ」

「お前怖えな……」

「? ……普通じゃないの?」

 

 世間一般ではそれを異常と言うんですよ一夏ちゃん。仲の良い夫婦ならまだしも、たかが友人関係でそれはちょっと厳しいんじゃないでしょうか。いや、日本人だから十分にあり得ると言えばあり得るけど。空気を読むとか外国人からすれば意味分からんらしいし。気配察知だったりそういうのもそうなんですかね。やっぱ日本人は全員ニンジャの素質があるんやな! 忍者死すべし慈悲はない。ショッギョムッジョ。

 

「おやおや数馬さん。ラブラブな二人ですねぇ」

「そうだな弾。俺もロリの嫁が欲しい。ヒロイン力天元突破済みでバッチコイ」

「真性のロリコンすぎて引くわ」

「中学生はな、ババアなんだよ」

 

 弾の野郎が何か言ってきたが、さすがは数馬さんだ。何時でも己の本能に付き従うその態度。憧れます。理性が仕事してないけど、数馬には先ず理性なんて必要ないからね。イエスロリータノータッチ、でも同意の上なら遠慮しないが座右の銘なのも頷ける。決して幼女の嫌がることをしない数馬は生粋の紳士だ。まさに男の鑑だ。最早漢と言っても過言ではない。多分数馬には良い嫁さんが出来るだろうね。確証はないけど直感的に。

 

「あ、そういえば言い忘れてたんだけどね」

「なんだよ」

「私、IS操縦者になるんだ」

「ふーん。そっか」

 

 なるほどなるほど、一夏ってばISに乗るんだね。となると専用機とかどうなんだろう。あるとしたらやっぱり白式か? 束さんのことだから十中八九零落白夜を使えるよう細工するんだろうけど。あれはロマンだよ。一撃必殺で諸刃の剣とか凄い燃える。もろはのずつきも好きですよ。ときのほうこう? あ、すいませんそれはあくうせつだんの方が好きです。話が逸れた。しっかし一夏がIS操縦者かー……。ん? いや、ちょっと待て。今は中学三年生の序盤。本来なら一夏がISと密接に関わり始めること自体原作開始……つまりほぼ一年後。この時期でISに乗る? ちょっと待てなにそれどういうこと。

 

「……え? いや、えぇ?」

「なんか、春休み中に適性検査みたいなものしたんだけどね、Sだっけ? なんかそれくらいが出ちゃって」

「IS適性……S……」

「こっかだいひょーこーほせー? とかなんとかになるために訓練受けるらしいよ。まぁ、体動かすの得意だし良いんだけど」

 

 IS適性S。それは原作でもヴァルキリーだったりブリュンヒルデだったりモッピーだったりしか出していない数値だ。普通に代表候補生より高いレベル。つーか本来の一夏ならそこまで適性は無い筈だ。確か原作のIS適性はBとかそこらだった気がする。なんでこんな跳ね上がってんだこいつ。

 

「チートか。TSによるチートですか」

「なにいってるの?」

「お前も自覚しろ。それ、世界に数えるほどしか居ないクラスだから」

「え? マジ?」

「マジもマジ。大マジだっつーの」

 

 蛙の子は蛙。親子ではないが、血の繋がっている姉妹も似たようなもんだろう。最強にて最凶である千冬ネキの妹である一夏ちゃんも最強にて最凶。疑う余地もない事実である。そんな存在を目の前に飯食ってる一般人な俺。正直言うとなにしてんだろって思う。ただ下手なこと言うとその最強にて最凶から手酷い仕置きを喰らうので動くに動けない。あまり弄りすぎても駄目なんだとこいつが女性になってから気付きました。これも全部天災のせいやな。訴訟。

 

「どうりで千冬姉があんなに驚いてた訳だよ……」

「え、千冬さん驚いたの? その顔見たかったわ」

「ちょっと目を見開いただけだけどね」

「それで驚くレベルなのかよあの人……」

 

 そんな微細な変化にも気付けるこいつもどうかしてると思うけど。全く、織斑家は一家揃って全員どうかしてるぜ! つっても俺の知る限りは二人しかいないけど。識る限りではあれも織斑家なのかどうか。あの、某魔法少女みたいな名前の女の子。僕はね、(精神的に)魔法使いなんだよ。あれ、なんだか視界がかすむなぁ。教室内に霧でもかかってるのかなぁ。やだ、辛い。ぼーくにでぃーてぃーすてーさーせーてよー。童貞になる道程を歩むのは死にたくなるからやめてください。

 

「ま、姉弟揃って仲良いことよ」

「なにが?」

「IS扱うのが上手いことで」

「世界最強と比べられたくはないなぁ……」

 

 言いながらちょっと熱意が燃えてるところはこいつらしさを感じる。意外と抜けてるように見えて地味に負けず嫌いだからな。ほんと変なところで頑固。そのくせ変なところで抜けてる。でもぜんたいてきにみるとやっぱりイケメン。それが織斑一夏。それこそがインフィニット・ストラトスの主人公。白式に角がついてればパッカーンて割れるだろうになぁ……。なんとなく声的に。

 

「ホント仲良いなあいつら。端から見たらカップルじゃねーか。そう思うだろ? 数馬」

「はいはいそうだな。……ん、すまん弾。メールだ」

「誰からよ」

「去年知り合った小五の子。ちなみにすごい甘えてくるぞ」

「いや、知らねーよ。つーか事案」

「馬鹿め。同意の上でしかも中学生と小学生ならセーフだ。セーフに違いない。いや、してみせる」

 

 数馬ェ……。手を出してはいないけどある意味出してはいた訳ね。というか普通にレベル高過ぎじゃありませんかね。ロリコンでも中々実行に移してガチ目に仲良くする奴は居ないと思うんだけど……偏見かな? いや、明らかに数馬はおかしい。

 

「御手洗。校内での携帯電話の使用と性癖についてあとで職員室な」

「うーっす。まぁ、無駄だと思いますが」

 

 ほんとこいつの性癖直すのは無理だろ。

 

「数馬はいつも通りだね」

「その方がらしくていいさ。俺もお前も、不思議とあれで安心するだろ?」

「……まぁ、ね」

 

 変態でクールでロリコンでかなり空気を読まないエアブレイカー数馬だが、居ないとそれはそれで寂しいものがある。結局、いつも通りが一番って訳よ。いつも通りが。




やっぱり疾走感が足りませんね。ちょっとグダり気味だもの。まぁ、疾走感が足りないからと言って失踪したりしませんが(ここ笑うとこ)はい。すいません

私もいつかはブラックコーヒーを甘くするような小説を書きたいものです。

……ホモ成分足りねーなこれ。お前どう?


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オンナノコってやつだよ。

最初に言っておきます。いつも低いクオリティが更に酷いことになってます。


「む……」

 

 久々に目覚ましの音を聞いた。ぱっちりと目を開けて確認すれば、時刻は七時前。もうそろそろ起きなければ時間的に余裕がなくなる。ちょっとした違和感を感じながら体を起こして、ぐっと伸びをする。ぼーっとしていた意識も覚醒してきた。何がいつもと違うのか。少しの間考えて、直ぐ様その答えに行き着く。

 

「……一夏がいない」

 

 別に変な意味じゃなくて、ただ単純に一夏がいない。TSしてから約一ヶ月と少し。既に春の陽気が夏の熱気へと移り変わろうとしているこの時期まで、件のイケメン美少女が朝飯を作りに来なかったことは一度も(・・・)ない。分かるか? 一度もだ。びっくりするだろ。休日まで飯作りに来るんだぜ。しかも気付けば放っておいた洗濯物まで片付ける始末。お前は俺の何だ。母親か、とツッコミたくなった俺は悪くない。でも世話されてる立場で言うのもなんだからサンキューとだけ伝えるチキン。いい笑顔で慣れてるからいいよとか言われても今の僕には理解できない。

 

「……風邪か? いや、あいつに限ってそれは」

 

 ないな。うん。ない。ないない。あの織斑一夏が風邪なんてひいた暁には、千冬さんが薬局の一つや二つ潰しにかかる。あと病院も数件ほど機能停止する。おいおいやべぇな、患者さんの命がマジで危なくなってんじゃねーか。まぁ、千冬さんなら頑張れば蘇生術とかも使えそうだけど。だってあの人化け物だもん。人間やめてるもん。ニンジャか何かじゃないの? アイエエエエ!? チフユ!? チフユナンデ!?

 

「……行くときに少し寄ってみるか」

 

 なんか心配だし。それに、いつもの生活リズムを崩されるとなんか調子狂うだろ。携帯を確認してもメール一つ送られてない。嫌な予感は別にしないけど、どうにもただ事じゃない気がして仕方無い。

 

「とりま飯は……パンとコーヒーでいいな」

 

 一夏の作る飯は確かに上手いが、こういう朝飯もたまには良い。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ノックしてもしもぉ~し。ちなチャイム。数秒して戸が開くと、一夏が此方を覗き込むようにひょっこりと頭を出した。

 

「……蒼? なんで?」

「なんでって……もう学校行く時間だろ」

「え……あ、本当だ」

 

 ポケットから取り出した携帯の画面を見て呟く。おいおい大丈夫かこいつ。明らかに様子が違うじゃねえか。本当に風邪でもひいてたり? そう思って顔を見てみるが、別段熱を持っているようにも見えない。ここで見に徹するのが俺。ひたいをピットリくっ付けて確認するのがイケメン。つまり俺はイケメンじゃないってことですね。はは、ワロス。

 

「……大丈夫かよお前。学校休むか?」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと色々あって」

「色々?」

「うん。…………女の子の、アレ」

 

 あっ……(察し)。なんとなくというかうっすらというかおおよそ想像はついた。流石は天災。そこら辺も完璧に女の子にしてる訳ですか……。つーか以前まで男だったのに、その、アレとかあるんですね。初めて知ったよ。一夏もこれが初めてらしい。けど残念かな。この問題に関して言えば俺は役に立たない。男が役に立つ訳ない。

 

「千冬さんには言ったのか?」

「きっちり電話越しに説明されたよ」

 

 さすが千冬ネキ。だてに女の子(世界最強)やってないよあの人。ホント良かったな一夏。身内にあの人居なかったらやばかったぞ。色んな意味で。先ずTSしたところからやばい。やっぱ千冬さん最高やな! あんたが一夏の姉でマジ良かったよ。だからいつもマトモで居て。それだけが願いです。

 

「……すまんな。手助け出来なくて」

「仕方無いよ。まぁ、そう思うなら今日ぐらいちょっと優しくして欲しいけど」

 

 おk。優しくすればいいんですね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 という事があって今現在。学校帰りに二人で買い物に来たわけだが、いつも一夏に頼りきりなのを思い出して今日はソロプレイでした。一夏ちゃんには外のベンチで待ってもらってます。毎回あっちから率先して買い物カゴ片手に歩いていくからなぁ。俺はその後ろから手ぶらでついていくだけという。駄目な男ですね。はい。自覚はあるんだよ勘弁してくれ。

 

「ま、俺もやれば出来るってことよ」

 

 今晩作る飯の材料込みで様々なものが入れられたレジ袋を片手に、若干の早歩きで店内を移動する。別にイケメンだから気にしないとは思うけど、ほら、なんつーか長く待たせるのも悪いじゃん。あれでも大切な昔ながらの友人だもの。ぼくだって罪悪感はちゃんと感じるんですよ。例え相手が女になっていたとしても。

 

「どっか行ってなけりゃいいけど」

 

 あいつに限ってそれは無いか。なんだかんだで真面目な奴だし、トラブルさえ持ってこなかったらただのいい人だし。TSしてからはガッツリその方向性がプラスに振られましたけど。立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花ってか? いや、むしろ歩いたら百合の花が咲く。まさに童貞殺しならぬ同性殺し。ホモセクシュアルキラーの一夏とか呼ばれたりすんのかね。つまり一夏はホモ。あれ、一夏がホモってことはそれ百合にな……いや、精神面で言えばノーマル……? これもうわかんねぇな。

 

「……ん? あれは……」

 

 ふと見えてきた一夏を座らせたベンチだが、何やらその周りにいくつかの人影が。なんだかいやな予感。

 

「あのさぁ……君、俺らと遊ばない?」

「い、いえ、結構です」

「ええやん、ちょっとくらい、な?」

「あの、人を待ってるので」

「そう言わず、どうかオナシャス!」

 

 ……なんだこれはたまげたなぁ。この御時世に命知らずが居たもんだ。ナンパしたのが一夏でお前ら本当良かったな。そこらの女性なら通報されて冤罪吹っ掛けられて一発KOスリーアウトチェンジですよ。一夏も一夏で戸惑わずにちゃんと返事しろやオイ。そういう弱気な態度じゃ駄目に決まってんだろJC。間違えたJK。ただ、一夏に声をかけた気持ちは分かる。見た目だけで言えばかなり可愛い方だし。ぶっちゃけすれ違ったら振り返るくらいの美少女だし。仕方がない。仕方がないんや。でもすまんな。今日は優しくする約束をしてるんや。

 

「いいだルォ? なぁ、オイ……」

「え、いや、駄目です」

「頼むわ、ほんまに」

「えぇ……(困惑)」

「アイスティーくらい奢りますよ?」

 

 てかあの人達めっちゃガツガツ行ってんな。目が獲物を見付けた野獣なんだけど。一夏の何にそんな引かれるものがあったのか。いや、ナニとか言っちゃ駄目だ。今の一夏は女の子。つまり一夏にナニはない。良かった、ホモ的展開なんて無かったんや。良くない。ナンパされてる女の子助けるとかハードル高すぎィ! ちくしょう。織斑一夏。なぜ、女なんだ。

 

「……立ち往生しててもしゃーない……か」

 

 うん。覚悟完了。こういうのは良く考えない方が上手くいく。策を弄すれば策に溺れる。頭良くない奴が策士気取ってもろくなことにならない。俺みたいな馬鹿なんてその通りだ。本当の策士ってのは次に相手が喋る言葉さえ予測する。次にお前は、一夏ちゃん可愛いと言う! 一夏ちゃん可愛い……ハッ! 当たり前だぜ、織斑家の遺伝子をなめんじゃねぇぞッ!! さて、早速行動開始。スタスタと歩くスピードを上げて一夏に近付き、群がる男共三人の間を堂々とすり抜ける。がっしと実に女の子らしい手を一掴み。

 

「ちょ、やめ……、あっ」

「さっさと帰るぞ。ったく、面倒持ち込みやがって」

 

 ぐいと引っ張りそのまま全力疾走。後ろからなんか言ってくるけどスルー。無視だ無視。気にしてたら駄目なんだよ。残念なことに俺はあんな奴等と多対一で立ち回れる自信が無いからね。逃げたことを許してほしい。ある程度まで駆け抜けたところでスピードを緩め、そっと手を離して振り返る。ふぅ、キツい。一夏の方もちょっと辛かったのか息を荒くしていた。

 

「その、サンキューね」

「別に。これくらい当然じゃないっすかね」

「……素直じゃない奴」

「うっせー馬鹿。ナンパされるとか何してんだ」

「知らないよ。気付いたら居たんだし」

 

 なにそれ怖い。どこからでも沸く虫か何かかよアイツら。独特な雰囲気だったし、出来るなら今後一切会いたくないですなー……。

 

「お前だけでも追っ払えただろうに」

「いや、元男だから、その……ね?」

「分からんでもないが、自分の身くらいは自分で守れ。助けるのは今回だけだぞ」

「そうだね……うん。今日は、ちょっと疲れた……」

 

 ちなみにその後、時折起きる一夏へのナンパ行為を毎回助けたのはお約束。いや、日本人として友人の危機は見逃せませんし。




かゆ……うま……(白目)感想欄で御祝儀送られて草。早くケーキ入刀ならぬ蒼くんの雪片弐型も入刀した方がいいんですかね(混乱)ダメだ、まともな思考が出来ない……イチャラブセックス……うっ……頭がっ……





ふぅ……、世界平和について考えよう。


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勘違いは唐突に。

今日は更新ないと思った? 残念! きちんと毎日更新する駄作者だよ!

訳:盛大に遅れてすまぬ……すまぬ……。なんもかんも政治が悪い。許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない)


 ことの始まりは夏休みが間近に迫ったとある日。その頃になれば織斑一夏TS騒動も落ち着いて、いつもと変わらぬ普通の学校生活に戻りかけていた。クラスの奴等と馬鹿やって、はしゃぎあって、精一杯楽しむ。そんなんでいいのか受験生とか突っ込んではいけない。今の時期って案外デリケートだから。余計なこと言うと心が折れちゃうから。なんて言っても俺の進路は決まってる訳だが。

 

「暑いね……」

「だな……」

 

 俺はパタパタとカッターシャツの内側に風を送り込みながら、一夏は軽く手で扇ぎながら歩く。学校からの帰り道。今日もお天道様から降り注ぐ光はギラギラと輝いていた。やめて。もうちょっと出力抑えて。省エネモードとかないんですかねぇ……。

 

「まだ七月半ばだぞオイ……」

「だからこそなんじゃないかな……」

 

 マジか。それらもやっぱり地球温暖化の影響ってやつですかね。絶許。オゾン層破壊とか堪ったもんじゃ無いから何とかしてくださいよレックウザさん。りゅうせいぐんとかでどうにか出来ません? こう、ぽぽぽぽーんて。無理だろ。なんだそれ、ACのCMかな? すーてきーな、なーかまーが、ぽぽぽーん! 思い返してみると仲間が死んでるようにもとれる不思議。

 

「早く帰りてぇ……」

「クーラーの効いた蒼の部屋……」

「思いっきり居座るつもり満々じゃねーか」

 

 こいつって奴は本当に。見た目だけなら完璧美少女なのに、勿体無いというかなんというか。一夏がこの見た目なのは納得いくけどいかないというか。言ってしまえば一夏の性格とこの容姿は組み合わせ的にアウトなんですけど。外見も中身もほぼ完成されてる美少女とか一体どこのヒロインだよって話だ。本当ならこの子きちんとした主人公なんだぜ? しかも戦う度にヒロインを増やしていくハーレム系バトルラブコメの王道主人公。すばらです。いや、何がすばらなんや。

 

「ご飯作るんだし良いじゃん」

「まぁ、そこは感謝してる」

「ならOKってことで」

「強引だなぁ……」

 

 つっても一夏に飯を作ってもらってるのは事実だし、それが美味しいからありがたく思ってるのも本当だ。冷房の効いた部屋を提供するくらいは許してやろう。めっちゃ上から目線。心の中でぐらいしか大きく出れませんしね。強いハートを持ちたかったぜ。ふぅ、やれやれ。やれやれ系キャラはあまり好かれないと知っておきながら積極的に使っていくスタイル。いいセンスだ。

 

「今日は何がいい?」

「冷奴」

「……まぁ、たまにはそれもいっか」

「なにいってんだ、冷奴最高だろ」

 

 馬鹿言っちゃいけない。冷奴とか名前からして冷たそーじゃねえか。そうめんより涼しく感じるぞ馬鹿野郎。かき氷には負けるけど。つまり、なんだ。その、食べたくなるのも仕方無い。豆腐っておいしいよね! みんなも一緒に食べよーよ!(魔王スマイル)やめてください咲さん僕たちは死んでしまいます。

 

「時々私は蒼のことが分からなくなるよ……」

「逆に分かられてたらこえーよ」

 

 阿吽の呼吸って奴ならまだしも、一方的に知られてるってのは中々心臓に悪いもんだ。貴方のことは何でも知ってるのよ、なんて言われた暁には真面目に逃亡を図るレベル。ヤンデレは二次元でお腹いっぱい。個人情報ただ漏れとか怖すぎィ! 包丁持ち出されて来たら抵抗出来る訳がないしね。幾多ものギャルゲー主人公がバッドエンドを迎える理由は、包丁持ち出された時点で余計な言い訳をせずにセルフで手錠やら南京錠やらをつけないからだ。自分から拘束されにいったのなら、それはまさしく愛じゃないですか? いいえ、愛です(反語)。だがそんな芸当出来るのはドMの変態くらいなので、結局のところ無理そうなんだけど。うん。そうだよ。ボクドエムチガウモン。

 

「いや、普段は大体分かるんだけど……」

「えぇ……(困惑)」

「声のトーンとかで機嫌の良し悪しだったり、あとは何しようとしてるか……みたいな? まぁ、大体だけど」

「……はぁ、ここ数ヵ月殆ど一緒にいるしな……」

 

 だからだろう。だからであってくれ。そうじゃなければ今から首吊って死にます。怖ぇよ。一夏ちゃんマジでちょっと怖ぇよ。チートの一族といってもやって良い事と悪い事があるんですよ。千冬さんの妹と考えれば不可能に思えないのが余計怖い。いつかこいつも世界最強に躍り出るんじゃねえの? ほら、IS適性Sとかいう馬鹿高い数値だし。十分狙える圏内じゃねーか。

 

「蒼ってホント面白いよね。色々と分かり難いクセとかも多くて」

「へーへーそうですか。俺は面白くねぇ」

「だろうね」

 

 でも、それを言うなら俺だって一つ、生まれる前から知っている一夏のクセがある。ちらりと視線を下げてみると、ちょうどそれが起こっている時だった。左手をぐっぱーぐっぱーと開いて閉じて開いて閉じて。たしか、調子に乗るとこのクセが出るんだっけ。加えてこれが出たときは大抵初歩的なミスをおかすという。難儀なもん持ってんなぁ、こいつ。自分で気付けねーのかと言いたいが、それは無理な話か。なんといっても調子乗ってますから。

 

「……一夏、段差気を付けろよ」

「へ? なに──うぁっ!?」

 

 ほーら言わんこっちゃない。道にあった少しの段差でつまずくとかお前は小学生か。事前に注意しておきながらこの有り様ってどういうことよ。ある程度は予測していたのでがっしと一夏の手を掴み、ぐっと引っ張る。もちろん抱き留めたりはしない。そんなこと出来るのは一夏くんみたいなイケメンだって何度も言ってるだろいい加減にしろ。手を引かれてバランスを取り戻した一夏ちゃんは、ととっとたたらを踏みながら立ち直る。

 

「ほら見ろ馬鹿」

「あ、あはは……」

「……ったく。次から気を付けろよ」

「はい……」

 

 少ししゅんとした様子を見るに、どうやら反省はしたようだ。もし転んだりしたら俺の身がどうなっていたことやら。多分世界最強に木っ端微塵にされてたぞ。人体が木っ端微塵て。それどこのドラゴンボール。いや、千冬さんなら十分可能だと思いますが。やっぱ織斑家は魔窟。むしろ魔王城なんじゃないのかとさえ思ってくる。大魔王ちっふー。回避とカウンターを絶えず繰り返して油断したところに一撃必殺の攻撃いれてプレイヤーをハゲさせるんですね分かります。また髪の話してる……。

 

「なんか負けた気分……」

「勝ち負けとかねーだろ」

「そうなんだけどぉ……」

「何をそんな気にして──」

 

 そう聞こうとした時だった。思わず己の目に映った光景を疑わざるをえない。けれどもどうしてだとか、なんでなんだろうという疑問は決して思い浮かばない。ただ只管に脳内で何かが警鐘をかき鳴らす。うむ。緊急事態ですよこいつは。一夏は項垂れていて前方を確認できていない。つまり目の前から突っ込むように迫ってくるあの乗用車のことも一切知ってはいない。パンツですよパンツ。間違えたピンチ。さて、このままでは二人とも轢かれてしまいそうだし、さっさと退くとしよう。速さ的に絶対アウトでもだ。人間気合いでなんとかなる。ここで全力全開フルぱぅわーで猫火事場を発動させるんや俺! いけるいける! いけない。

 

「うわっ──」

 

 気付けば一夏を盛大に押し飛ばしていた。しかもちゃっかり車に当たらないような位置に。何故だ俺。自衛本能的に己の体の方を守りなさいよ。こういうのはイケメンがするから格好良いのであって、俺みたいな奴がやっても意味なんて一切無いの。余計なことだよこんちくしょー。あぁもうやけだやけ。このまま受け身でも何でもとったる。多分生き残れる。ほら、二メートルほど前から突っ込んでくる車を見てみろ。どう見ても大丈──。

 

(──あ、これ死んだわ)

 

 無☆理。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ……なんだこれ、暗っ。目の前真っ暗。しかも痛っ。熱っ。苦しっ。三重苦どころか四重苦。キリの良い数字だしこのまま死ぬんじゃねえの。縁起でもねぇな。しかしながら何ともヤバイ。恐らく車に撥ねられたんだろうけど、意識もうっすらとしてるしあんま考えられねぇし目は見えねぇし耳は雑音が酷いしでどうかしてる。つーか何も出来ない。声すらあげられない。指一本ピクリともしないし、これ本格的に死んだんじゃ。

 

「──蒼!? おい! 大丈夫か!?」

 

 おう、一夏の声。体に響くから大音量はやめちくりー。そもそもお前はこの俺が大丈夫に見えるのか。いや、見えるんだったら別に良いんだけど。あと、お前口調戻ってんぞオイ。

 

「と、取り敢えず、救急車か? いや、千冬姉ならなんとか……でも急だし……えっと、えっと……」

 

 救急車でお願いします(懇願)。千冬さんが来たら酷くなる未来しか見えない。もとより来れないだろあの人。こんなマジガチ緊急事態に。どれくらい緊急事態かと言うとチェンジしたのに手札全部トリガーくらいの緊急事態。立ち上がれない……。あ、指先動いた。

 

「! 蒼? おい、蒼!?」

 

 お前俺のこと見すぎでしょ。そんな暇あるんならはよ電話して。救急車でも何でも呼んで。死ぬ。ぼく死んじゃうから。とりあえずそれを伝えよう。声が出ないから口パクで。お・わ・っ・た。

 

「──え?」

 

 驚いたような一夏の声を最後に、ぷっつりと意識が途切れる。操り人形の糸を切ったら多分こんな感じ。転生オリ主で操り人形とかそれやべーな。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──よかった(・・・)




母音が一緒だとそれらしく見えるよね!(強引)しかしどうしてこうなった。もっとこの小説って純愛なハートフルを描く筈だったのに。おうイチャコラさせるんだよあくしろ(セルフ)

更新、まだまだいっくよー(予定)


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不幸中の幸い中の不幸。

前回が遅かったからと言って、今日も遅いとは限らない。投稿してから即効で仕上げたからクオリティ低めだオラァ!


 目が覚めた。知らない天井だ。まぁ、当然の如くお約束ですよね。はい。でもって、ここはどこだろう。肌に当たる感触からして俺はベッドに寝ているようだが。まさかあれも全て夢だったのか? 夢オチ。ギャグとしては定番の、けれど打ち切り方として忌み嫌われる手法の一つ。夢オチエンドはう~んが多いからしゃーない。でも、今だけはそれで良かったと心底思う。よっしゃ! 夢オチやんけ! せや、事故なんて起こってなかったんや。それならなんで腕に違和感があるんでしょうかねぇ……。

 

「……病院……か?」

 

 周囲を見渡してみるが、どうも視界がぼんやりとして見え難い。形が安定しないというか、霧でもかかったみたいにぼけて見えるというか。ふむ。何故だろう。何が原因かは分からんが、物凄く不便だなこの状態。何があるのかさえ詳しく把握出来ない。ただ、近くのものは辛うじて確認できる。それで分かったのだが、着ているものが見慣れない病衣っぽいものという時点でほぼ確。

 

「……はぁ。馬鹿だろ俺」

「んっ……、」

 

 ぼそりと呟けば、すぐ近くから小さな息遣いが聞こえてきた。なんだなんだ、敵襲か? さてはニンジャだな。弱ったところを狙ってくるとは許すまじ。ニンジャ死すべし慈悲はない。さて、真面目に誰だろうか。確認のためにそちらへ視線を向けるが、ぼやけて顔がよく見えない。ええい、めんどくさい。ぐっと近寄る。と同時にその人が顔をあげた。

 

「っ! ……ぁ、あ……」

「……ん?」

 

 この声。この匂い。なによりぼやけているがこの顔。間違いはない。多分だけど。正直言ってよく見えないから自信が無い。けど、長年一緒の時間を過ごしてきた植里蒼としての勘が告げている。目の前でふるふると震えているように見えるこいつは、友人である織斑一夏がTSした姿だ。そのはず。そうだと願っておこう。というわけでその確認。

 

「……一夏か?」

「あ、お……?」

 

 お互いに数秒見つめ合う。目と目が合う~瞬間~好k違います。目があっただけで惚れるとかラノベだとスッゴイチョロインですね。現実だと割とそういう恋の仕方もあるらしいから分かんないけど。というか何時までこの膠着状態を続ければええのん? なんて思っていたら一夏ちゃんの瞳がじわり。わぉ、ぼくこの流れ知ってるよ。流れ変わったな(確信)。

 

「あお、アオ、蒼、……」

「おう、お前の命の恩人蒼さんだぞー」

「……ぅ……蒼ぉ……」

「ファッ!?」

 

 泣いた。え、嘘やろお前。ちょっと待てやちょっと落ち着けやあんた。こ↑こ↓がどこか分かってんのかい? 俺は未だに分からないよ。恐らく病院だってことは予測してるが、確実とも言えないので断言はしないでおくよ。これで実家とかだったら笑える。ぷふー、車に撥ねられたのに怪我軽すぎなんですけどー。ついに俺まで人間をやめてしまったら一夏の周りから普通の感性を持つ人間がいなくなりますよ。唯一の常識人枠を潰してはいけない(戒め)。

 

「良かった……良かったっ……」

「うぇぇ……あの、どゆこと?」

「ぐすっ、ひぐ……蒼、蒼ぉ……」

「ちょ、おま、泣くな馬鹿色んな液体がっ!?」

 

 色んな液体ってどんな液体ですかねぇ(暗黒嘲笑)。これは酷い。一夏ちゃんの顔がもうぐっしゃぐしゃ。髪の毛もぐっちゃぐちゃ。ちなみに服とかもはだけそう。やだ、こんなときに何考えてんだクソヤロウ。煩悩退散心頭滅却精神統一天上天下唯我独尊! それは仏教のお方です。うむ。心頭滅却すれば火もまた涼し。同じくして一夏も泣き止んでくれるだろう。俺が心頭滅却するから殆ど意味無いんだけどな!

 

「ごめん……でも、良かった……良かったよぉ……」

「あーもう分かった、分かったから落ち着けよオイ」

「うん……ぐずっ……」

「ったく、混乱してるのはこっちもだってーのに」

 

 いきなりぶっ飛ばされて意識トンで起きたら知らない部屋にぼやける視界と泣き出す友人。正直発狂しても良いんじゃないかと思ってきた。キェェェェッエーイ☆

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──だから、足は殆ど擦り傷や軽い捻挫くらい。でも腕は直接地面に打ちつけてボロボロ。特に右は全治一ヶ月とか」

「なるほどなるほど」

 

 ふむ。よく生きてたな俺(白目)。どうりで腕に違和感があるわけだよ。マジで感覚すらちょっとあるかどうか疑わしいレベル。そりゃ叩き付けられたらそーなりますわな。足が助かったのは本当奇跡。普通ならバッキバキに折れてますよ。普通なら。……ちょっと脳内にうさみみが通りすがったのは気のせいですかね? あれの差し金ならマジで許さないんだけど。妹さんでも千冬さんでも動かして復讐すらしてやる覚悟。復讐は何も生まないって? ははっ、何を言っているんだ。そいつの死体が生まれるに決まってるダルルォ?

 

「それで、他に異常は無いか起きたら確認してくれとか……」

「あー……えっと」

「……あるの?」

「いや、あるにはあるけど、そんな大した事無いというか、なんというか……」

 

 うぐっ、視線を感じる。ちらりと横目で確認すれば、ぼんやりと映る一夏の顔。これって一応は異常なのかなぁ……。別に見え難いだけで異常じゃないとか、そういうのじゃありませんかね。だから、うん。これは別に異常でもなんでもないんだ。オーケー。隠すことに決めた。この事は一夏に言わず心に閉まっておこう。慣れたら案外見れるもんだし。

 

「いいや、別に。何もないぞ」

「…………」

 

 視線が強くなった、だと(困惑)。そんな馬鹿な。完璧にバレないよう頑張って平静を装ったというのに。まさかこいつ読心術とか持ってねーよな。読唇術なら使えそうだけど。流石は織斑家。無限の可能性を秘めてますね! その行き着いた成れの果てがちっふー。あれは全ての可能性という可能性を超越した可能性の獣ですわぁ……。可能性言い過ぎて可能性が可能性に可能性。えっとそれどういう可能性?

 

「……蒼、今何時か分かる?」

「は? いや、時計無いのに分かんねーだろ」

「そこ、ベッドの向かいの壁にあるじゃん」

「お、ホントだ。……七時半か」

「まだ六時半だよ」

 

 Oh……自ら墓穴を掘っていくスタイル。やべぇ、言い逃れが一切思いつかない。むしろ何か言えば言うだけ状況が悪くなりそうな予感すらする。逃げ場なんてないさ。うーそもむじゅーんも、のみほすつよさーとともにー。ここは黙っておくのが吉だな。私は黙秘権を行使します! 黙秘権って言葉便利だよな。今の俺の目と比べるとその便利さがより分かってくる。こんな便利な言葉がこの世には存在していたんですね……!

 

「…………」

「……目、悪いの?」

「いや、そういうわけじゃ」

「正直に言って」

 

 黙秘権? あぁ、奴は死んだよ。こんな真剣な一夏を見たのはいつ以来だろうな。イケメンオーラがバリバリ溢れ出てきてる。美少女なのにイケメンとか何それ光と闇が合わさって最強に見える(中二病)。カオスは最強。でも中二病患者は最弱。最弱無敗なのかな? ちなみにクリエイターは中二病じゃないとやってられん。作家も漫画家も中二病全開じゃねえとな。センスの光る中二は好きです。オサレ師匠ホントオサレ。

 

「……大丈夫。ぼやけるくらいだから」

「ぼやけるって、殆ど見えてないじゃん」

「心配すんな。むしろ腕や目くらいで一夏が無事なら良かった(・・・・)ってもんだ」

「ッ……」

 

 実際そうだと思う。たかが俺の腕が使い物にならなかったり、ちょっと目が悪くなったくらいで一夏は無傷という結果を生み出せた。そう考えるなら安い買い物だろう。方やイケメンでモテモテな女子になっても美少女でマスコット的扱いを受ける勝ち組人生な人間、方や童貞のモテない非リアな冴えない男子の負け組人生な人間。どちらの方が良いかなんて聞かなくても分かる。絶対に一夏だ。

 

「……それで」

「ん?」

「それで蒼が死んだら、どうするの」

 

 ピタリと、体が固まった。

 

「……さぁ、知らん。死んだら死んだでそこまでだろ」

「蒼はそれでいいかもしれない。けど」

 

 視線がぶつかる。ぼやける視界でも捉えられるまでの距離に近付いた一夏の瞳が、今の己をそのまま映していた。その奥に隠れるようにして、僅かだが激情の炎を感じ取る。マジか、頭にキテんのかよオイ。ちょっと怖い。え、なに。俺なんか悪いこと言った?

 

「置いてかれる人の気持ち、考えたことあるの」

 

 衝撃。まるで稲妻にうたれたみたいな、強い衝撃だった。ビリビリと肌が痺れる感覚まで引き起こしそうなくらいの。そんなこと、考えようとしたことすらない。何故なら今の今まで、自分にはそんなことを思ってくれる人など居ないと思っていたから。所詮非リアな俺はひっそりと死ねれば本望だと、そう願っていたから。

 

「私は、蒼がいたから頑張れた」

「……それは──」

「違わない。蒼がいたから元気でやれた。笑顔を振り撒けた。いつも通りの『俺』として意識を保てた。ずっと、ずっと、頭がどうにかなりそうだったけど、でも。それでもっ……」

 

 信じられない。こいつがまさか、そんなことを思っていたなんて。いつも普段通りにしていたから、てっきり割り切ったものだとばかり思っていた。普通に考えてそんな簡単に割り切れるものでもないのに。

 

「……二度と」

「え?」

「二度と、こんなことするんじゃねえ」

 

 明確な怒りの籠った瞳。向けられて初めて気付く。怖い怒りなんかではない。優しい、暖かい怒りだ。

 

「若い友人の死に顔なんて、俺は拝みたくない」

「…………おう」

 

 ……やられたな、こいつは。

 

 




イチャコラはもう少し待ってくれ。なんか感想欄が本編の一歩どころか三歩ぐらい先を行ってるけど、まぁそのままの勢いでオナシャス。

一夏ちゃんはまだ自覚症状無しでっす。いや、この子ホントならめっさ鈍感野郎ですし。

察しの良いホモは多分わかってるだろうけど、事故から助けてくれた人が片腕使えなくて、それまで夫婦まがいの生活をしていたらどうなるか……ね?


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あおいろの感情。

しっくり来ない……(´・ω・`)


「しかし、『こんなこと』……ねぇ?」

「なんだよ」

「その『こんなこと』で助けられた人は誰だったかなー? んー?」

「うっ……」

 

 言葉に詰まる一夏。こいつ頭良さそうに見えて意外と馬鹿っぽいところがあるんだよね。だから我が中学での俺たちの俗称が四馬鹿スクエアなんだよ。ちくせう。他の三人はまだしも俺は馬鹿じゃねえ。少なくとも学力だけなら結構高いくらいなんだ。だというのに何故四馬鹿でくくられるのか。そこが分からない。

 

「……ごめん」

「別に謝れとは言ってねえけど」

「…………ごめん」

「だから、謝罪なんざいらねーって」

 

 謝られたところで何になると言うのか。此方が得することなど一つもない。頭下げられてもこいつの髪の毛サラッサラだなーくらいしか思わないし。むしろ謝るだけ時間の無駄だと思います。悪いのは突っ込んできた車であって一夏ちゃんは何も悪くないからね。故に謝罪なんていらない。無駄。無駄無駄ァ! あの時にワールド使えてたらどれだけ良かったことか……。

 

「でも、その……やっぱごめ──」

「ああもううるせぇ。謝んなコラ」

 

 ぐいっと顔を近付ける。こう言う時は目を見てきちんと話した方が良いっておっとさんが言ってた。今ちょっと視力が凄く悪くなってるぽいからね。一夏は俺の目を見れても俺はこの距離ぐらいじゃないと一夏の目が見えないのだ。うん。これ絶対黒板とか見えねーよな。日常生活で困り果てる未来しか見えない。どうにかして早く慣れねば。いや、もしかして治療したら直せる可能性が微レ存……? 確かに出来そうだけども。

 

「オイ一夏。お前、なんか忘れてないか」

「……え?」

「人に助けてもらったら、謝罪よりも前に言うことがあんだろ。それともなんだ? お前の姉はそんなことも教えてくれなかったのか?」

 

 煽っていく煽っていくゥ! 蒼だけに煽っていくゥ! いいキレ具合だな。今日もマイブレードはキレッキレだぜ。OLFAより切れそう。なにそれ凄えな。空気軽く切断してんじゃん。やっぱりカッターと言ったらOLFA。ぶっちゃけ結構この話題に関してはどうでもいいんだけど、どうにも一夏がしつこいし、ここで片付けておいた方がマシだろう。すまんな。スマートとはかけ離れた存在の蒼くんはスマートに解決なんて出来ないんや。あれはイケメンにだけ許された特殊勝利的システムだからね、仕方ないね。

 

「……あ、ありが、とう……」

「ん。こちらこそ、無事で居てくれてサンキュー」

 

 ちょっと笑ってそう返す。うぉぉ……なんか言ってて照れ臭くなった。シリアスな雰囲気は肌に合わんのです。馬鹿やってる方が何万倍も落ち着く。それだけ俺も馬鹿ってことか。あながち四馬鹿間違ってねぇじゃねえかオイ。ネーミングセンス完璧だな名付けた奴。

 

「つーわけで、俺はお前の謝罪を聞きたくて助けたんじゃないんだ。分かったか馬鹿野郎」

「……うん」

「まぁ、別に感謝される為って訳でもないが」

「……じゃあ、何で助けたの?」

 

 少し遠慮がちに、上目使いで一夏はそう聞いてきた。可愛い。あと可愛い。女としての態度に慣れすぎてる気がしないでもないけど、体は女性だから違和感ないどころか無問題。あれ、この子一夏だよね。時々マジで混乱して分からなくなる。先ず意図的に女性のような動きしてるから男の名残とか少ないし。口調も殆ど女みたいなしゃべり方だし。それらも全部俺の招いたことだと考えれば、やっぱり自分から墓穴を掘っていることに気付く。自業自得とはまさにこの事か。

 

「いや、理由なんかねーけど」

「……は?」

 

 うん。考えてみても理由は思い浮かばない。気付いたら体が動いていたって感じだし。そんな一夏を助けなきゃっていう明確な思いも無かった。むしろ自分だけでも逃げたかったのが本音です。それがどうして庇っちゃったのかねぇ……。なんなの、本当は優しいキャラとかそういう系なの? んなもん今更流行らんわ。

 

「お前馬鹿だろ。親しい人を助けるのに一々理由なんざつけてたまるか。あえて言うならお前が『一夏』だったからだ」

「私……だったから……?」

 

 どうやら意味を理解出来てない様子。ふむふむ。ここは真面目な蒼さんの出番ですね! 一夏ちゃん精神的にフルボッコタイムでございますわ。つまるところ説教ですよ説教。そげぶ先輩お得意のSEKKYO。いいぜ、テメーがいつまでも謝るって言うんなら。先ずはそのふざけた幻想をぶち殺すっ! キャーカミジョー(サンカッケー)

 

「友情も愛情も買おうと思えば金で買える。上っ面だけの関係なら金で作れるし、愛だって簡単に捧げてくれる。……でも、本当に仲の良い奴って違うだろ」

 

 思い返す。今までの事を。奥深くまで掘り返す必要はない。比較的最近の、俺が二度目の小学一年生になってからの記憶だけで十分だ。

 

「こいつと歩きたい、隣に立ちたい、話したい、遊びたい、馬鹿やって、怒られて、はしゃいで、くだらねー事言いながらくだらねー事考えて。そんな日々をこいつと過ごせたら幸せだろうって」

 

 最初は何だったっけ。ちょっとした好奇心か何かだったと思う。原作主人公である織斑一夏が気になって、あと篠ノ之箒にもちょっとというか結構な興味があって、おふざけ半分でこいつに近付いた。まぁ、その頃はまだ一夏と天災の妹さんは仲良くなかったけど。

 

「スゲェ楽しいんだよ。どうでも良いような事をするのが、楽しくて仕方無い。本心も何も隠さず話せるのが、気持ちいいんだ」

 

 隠す本心も何もないんですけどね。まぁ、そこら辺は馬鹿な男ですのでしゃーない。男は単純。女子の方が数倍難しい。女心は秋の空とも言うしな。チョロインなんてこの世界には居ない筈なんや。チョロコットさんなんて不名誉な渾名を付けられるあの人? 誰ですかねそれ(すっとぼけ)。

 

「本当、一夏と仲良くなれて良かった」

「蒼……」

 

 驚いたように呟く一夏。まぁ、俺自身あんま真面目に喋らねえしな。こんなムード漂わせたの何年ぶりだこんちくしょう。気恥ずかしくてしゃーねーわ。なんとも堪えきれなくて、ぽりぽりと人差し指で頬をかく。顔が熱い。馬鹿正直に言うもんじゃねえな。やっぱ事故でどっかやられてんじゃねーの。

 

「まぁ、なんだ。……お前はちょっと別格なんだよ」

 

 キャラ的にもな。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 少し寝る。そう言って怪我人である友人はベッドに倒れ込み、そのままぐっすりと眠ってしまった。やっぱり辛かったのかな。だとするとなんだか申し訳ない。私はその後にそっと病室を出て、震える手でどうにかドアを閉める。音をたてなかった自分を褒めてやりたい。

 

(……熱い)

 

 主に顔が。かたかたというよりぷるぷると小刻みに震える手を握り締め、胸にあてる。心臓が煩い。というか働きすぎだ馬鹿。どうりで顔が熱く感じる訳だよ。今の自分は絶対真っ赤だ。思えば思うほど恥ずかしい。この顔をあの友人に見られなかっただけマシか。

 

「……やっぱ、熱い……」

 

 一夏と仲良くなれて良かった。蒼がそう言うと同時にちょっと微笑んだ瞬間、何かが決定的に変わった。見える景色も思うことも全部ひっくるめて、少なからず圧倒的な何かの影響を受けているみたいだ。これも蒼のせいに違いない。普段はあんなこと絶対言わないだろうに、こんなときに限って言うもんだから不意を突かれた。正直に言ってくれるのは嬉しいけど、流石にあれは恥ずかしすぎる。

 

「……ッ」

 

 意識は朦朧としてる筈なのに良かったなんて言おうとして、感謝を伝えたら逆に感謝されて、助けた理由も無いどころかむしろ私だったのが理由なんて言ってきて。

 

「……馬鹿蒼」

 

 ぽつりと呟く。ホント馬鹿だ。こっちの事を持ち上げるのは好きにすればいいけど、少し自分を過小評価しすぎじゃないかと思う。蒼の良いところは沢山ある。それこそ外面は突出して格好いい方では無いけど、その分何というか、地味に優しいというか。まぁ、気付いてるのはほんの一部の人だけだろうけど。

 

「いつもいつも、蒼は本当……」

 

 本当、蒼には支えられてばかりだ。頼まれたら基本断らずに、自分の持てる全てを使って対処するから余計に質が悪い。しかも地味に思慮深いから意外と判断が良かったりする。

 

「本当、馬鹿だよ」

 

 でも、この熱さは一体何なんだろ。




作者は力尽きました。なんでこんな展開になったんだろ。思い返してもよく分かりません。ちょっと頭が変になってます。もしかしたら書き直すかもかも(詐欺)

色々と落ち着いてきたらまたいつも通りになってるから……うん。少し眠ってきます(白目)


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利き腕使えないからしゃーなし。

 事故にあってから二週間後。怪我をしたと言っても腕の骨折と視力の低下のみ。視力低下の原因は不明らしいが、大方何かの拍子にこうなったのだろう。状態としては普通に目の悪い人と変わらないらしいので、眼鏡でもかけてれば問題ない。見た目に問題はあるが。まぁ、それも今更って奴だな。もともと見た目なんて気にしてねぇよこんちくしょう。そんなこんなで検査の結果、退院しても問題ないだろうとされた俺は現在。

 

「おぉ、懐かしく感じる……」

「ずっと病院だったもんね、蒼」

 

 一夏と一緒に自分の住む部屋に戻って来ております。なんで一夏が居るのかって? もう学校は夏休みに突入したんだよ。察しろ。しかしマジで懐かしい。なんだかんだで二年弱も住んでるから、意外と愛着が沸いてるのかもしれない。何気に結構良い部屋だし。鍵を差し込んで回し、ガチャリと解錠。ドアノブを捻って扉を開けば、そこには見慣れた光景が変わらずに存在していた。くっそぼやけてるけど。それ結局見慣れてねえじゃん。

 

「なんか……変わってねぇな」

「そりゃあ、蒼の居ない間は毎日掃除してたし」

「……マジか。なんか、すまん」

「……ふふっ」

 

 言えばくすりと一夏が笑う。え、なんで。俺なんか変なこと言ったっけ? 分からずに混乱していれば、意地悪そうな顔で額に人差し指を突き付けられる。うん。訳が分かんねぇぜ。なんか普通に焦っちゃいそう。やめて、最近のお前なんつーか、狙ってんのか知んねえけど、ちょっと距離が近い。主に一緒に居る時の位置とかが。前はもっと離れてませんでしたかね? なんなの? 友情が深まったが故のあれなの? つまりこれも自業自得という訳ですかそうですか。

 

「……な、なんだよ」

「謝るより先に、言うことがあるんじゃない?」

 

 ははっ、こやつめ。

 

「……サンキュー、な」

「こっちこそ、無事退院してくれてありがと」

「テメェ……何のつもりだコラ」

「別に? ただ純粋に思ったことを伝えただけだよ?」

 

 ニコニコしながら言っても説得力無えよ馬鹿野郎。美少女だから地味に似合っててなんか腹立つ。やめてほしい。あの時の俺はどこか可笑しかったんだ。多分色々と精神的なアレとか身体的なソレとかで弱ってたんだ。だからあんな小っ恥ずかしいことを言ってしまった訳であって。つまり全部黒歴史です本当にありがとうございました。悶え死ぬ。

 

「つか、近いよお前。俺が表情見える位置とかどんだけだよオイ。あと腕とかも離してください」

「そうしないとまともに歩けないのは誰でしたっけ?」

「馬鹿言え、流石にここからは」

「そう言って五回くらい躓いて転びそうになったのはどこのお馬鹿さんだったかなぁ?」

 

 うぐぐ。否定出来ない。実際道端の段差とか全然見えねえから普通に躓く。そんで咄嗟に一夏が支えてくれること数回。呆れたこいつは俺の片腕を抱いて引っ張りやがった。傍から見ると恋人みたいだなこれ(白目)。抵抗する隙さえありませんでしたよええ。というかぶっちゃけおっぱい当たってんだよオイ。柔らかい膨らみに圧迫される腕の感触で死にそうなんですよ。結構真面目にヤバイのでやめてもらいたい。俺の評価をこれ以上下げないためにも。

 

「もう部屋の前だ、転ぶなんてあり得な──」

 

 ガッと何かにつま先を引っ掛ける。がっと一夏に腕を掴まれる。ふむ。どうやら入り口の小さな段差に躓いたらしい。ははっ、ふざけんじゃねえぞ。少しの希望を持って一夏の方を振り向けば、にっこりと笑顔で一言。

 

「座るまで行こうね?」

「……、はい……」

 

 靴を脱いで部屋に上がり、そのまま引き連れられてテーブルの前まで行く。俺は介護の必要な老人か何かですかね? 一夏みたいな見た目美少女に介護してもらえたら最高だろうけど。美少女に介護。こう、クルものがないかい? ちょっとビビッとなるというか。ティンと来るというか。ぼくはきました。てかこいつ凄え良い匂いすんだけど。女の子なの? 女の子でした。当たってる部分は柔らかいし髪の毛はサラサラだし手とか意外とちっこいし私服も女の子っぽいし。……あれ、この子誰だっけ(すっとぼけ)。

 

「はい、座るのはゆっくりでいいから」

「そこまでやんなくていいわ。俺はジジイかっての」

 

 わしゃあまだまだ元気やぞぉ! 若いもんにはこれっぽっちも負けんからのぉ! 俺がおじいちゃんとかキャラ的に似合わねーな。どちらかと言うとニートしてた方が似合ってる。親の脛かじり虫となるのだ。そんなことしたら多分うちの母さんキレると思うけど。一回冗談で働かねーとか言ったらもうちょっとで殴られそうになったことを俺は忘れない。ママン怖いよ……。

 

「やらせてよ。私が好きでやってるんだから。てことで、ちょっとお昼御飯つくるから待っててね」

「……了解。待たせてもらうよ」

 

 言って一夏はたたっとキッチンに駆け込む。あそこはもう既に俺の部屋にして一夏の領域と化している。調味料の位置は勿論のこと、どんな食材があるかとか、どんな調理器具がどこにあるのかも把握できていない。ちなみに一夏は全部覚えてるらしい。前に電話で鍋がどこあるか聞いたら一秒もかからずに特定してビビった思い出がある。一夏ちゃんこわかわいい。

 

「~♪」

 

 ったく、鼻唄なんて歌っちゃって。随分と今日はご機嫌ですね貴女は。まぁ、当たり前か。他の仲良い奴等が入院中に数回ほどしか来なかったのに対して、一夏は毎日足を運んでたし。正直来なくて良いって言ったんだが、本人にはどうも譲れないものがあるようでそれを拒否られた。お陰でうちの両親ともはち合わせして対応が面倒でしたよ。誰だこんなことにしたやつ。織斑家は暴走させちゃいけないって言っただろ! そもそもの原因が何か言ってますよ。

 

「ふふっ、~♪」

 

 ……楽しそうですねぇ。本当何がそんなに良かったのか。理解に苦しむ。ただ俺が退院しただけだというのに、些か喜びすぎな気がしてなら無い。まだ親がこうなら理解できる。したくは無いけど。でも、一夏がこうも喜ぶのはちょっとイキスギィ! じゃないだろうか。やっぱこいつ最近変だよな。変わったというか、近付くようになったというか……考えすぎだな。多分俺の気のせいだ。やめよう、今はゆっくり一夏の料理が出来るのを待っているに限る。なんせ、久々の一夏お手製だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「はい、今日は蒼が退院しためでたい日だからね。奮発して鯛飯だよ」

「おぉ、さっすが一夏」

「ふふん」

 

 胸を張りながらドヤ顔で鼻をならす一夏。あ、こいつ調子乗ってる。流石にぐっぱはしてないけど。てか、その体勢はやめといた方が良いって何度言えば分かるのか。ふくよかなおっぱいが強調されて癒されると同時にゴリゴリ何かが削れていくんですよ。多分SAN値的なものとか正常値的なものとか理性の化け物とか。それヒッキー。

 

「……で、俺のお茶碗と箸は?」

「ここにあるよ?」

「なんでお前の手元にあんねん」

「え? いや、だって……」

 

 言葉を一旦切りながら、一夏はご飯をすくってお茶碗によそう。まぁ、普通だな。何の問題もない。と思えば一体何を考えているのかそれを片手に持ち、もう片方の手に箸を握りやがった。あれ、嫌な予感。箸で湯気が立つ美味しそうな鯛飯をつまみ、お茶碗をことりとテーブルに置く。空いた手を箸の下にして、そのまま両手を此方に伸ばしてきた。嫌な予感的中。

 

「ほら、口開けて」

「え、いや、あの、自分で食えるから」

「右が利き手なのに使えないでしょ。ほら」

「えぇっとぉ……あの、ほら、そう、病院では左で食べてたから大丈夫」

 

 言った瞬間空気が凍る。あ、これはちょっとマズイ奴ですね。純粋な日本人で空気の読める俺には分かりますよ。このままだと色々ヤバイって事くらいはね。あと逃げたらもっと酷いことになるってね。選択肢が強制的に一つへ絞られてる……。なにそれ怖い。

 

「──病室で看護婦さんに食べさせて貰ってたのはどこの植里くんかな?」

「うぇっ!? いや、あの、それは──」

 

 束さんの息がかかった人で異常無しだとか正常に動作なんて訳分からんこと言った後にからかわれただけである。断じてそんな夢のシチュエーションを味わった訳ではない。味わえるほどイケメンでもねえし。言ってて本当悲しくなってくるわ。イケメンちょっとそのイケメン力三割くらい寄越せよ。せめて五割。さらりと増やしていくのは何故なのか。

 

「えいっ」

「んむっ!?」

 

 言い訳しようとしてたら無理矢理押し込まれた。危ねーだろお前。喉に詰まったらどうしてくれるつもりだこの野郎。一生責任とってくれんのか? その生涯を全て俺に捧げてくれるんですか? いや、やっぱ一夏の生涯とかいらねーわ。イケメン死すべし慈悲はない。今は美少女だけども。

 

「どう?」

「…………うまい」

「ふふっ、そう。良かった」

 

 そのあと? 勿論めちゃくちゃ食べさせられた。もう精神的にも現実的にもお腹いっぱいです。怪我して不便なのに変わりはないけど、少し得した気分だな。

 




あれ、こいつら付き合ってたっけ(錯乱)

何はともあれ作者は久しぶりに五時間も睡眠をとれて元気が出ました。ふぅ……(ツヤツヤ)

ただ、調子を戻すのにはまだ時間がかかるっぽいですね。何度書いても不安なんだよなぁ……(チキン)


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蒼色眼鏡はとっても素敵。

「へぇ、眼鏡ってこんなに種類があるんだ」

「正直どれでもいいんだけど……」

 

 話しながら一夏は適当なフレームを手に取り、じろじろといろいろな角度から眺める。午後から特に用事の無かった俺達は、早めにしておいた方がいいとの事で早速眼鏡を買いに来ていた。ちなみに視力はさっき測りましたよ。ええ、勿論散々な結果ですとも。以前までは結構下まで見えてたのに、今では上から二番目すら危うい。一番上は流石にぼやけていてもギリギリ見えるが。道理で躓いちゃう訳だよ。そんな訳でレンズの方を用意している間、お好きなモノをと物色しているのです。

 

「蒼はテキトーだね……。ほら、これとかどう?」

「んー? あー、いいんじゃね?」

「真面目に考えようよ……」

「でもなぁ……奇抜じゃなければ何でもなぁ……」

 

 ファッションセンスとか皆無って自覚してる地味系男子としては選ぶ時間が勿体無い。ある程度普通な感じだったらもうそれでいい感じ。妥協のライン低すぎィ! あんまりそういうのに興味ないからしょうがないね。時間かけて服とか選ぶ間にどれだけゲームが出来ると思っているのか。こんな思考だからモテないんだろうなぁ、ちょっと辛いなぁ……。つーか最近ゲーム触ってねぇ。入院生活も辛かったなぁ……。

 

「なんかこだわりとか無いの?」

「普通でオナシャス」

「本気でどうでも良さげだね……」

 

 実際どうでも良い。普通に使えて普通に眼鏡してる普通な眼鏡で普通に普通。うん。普通だな。やっぱり普通が一番普通。普通ほど普通なものってないよな。結局色んなものに行くけど一周回って普通が良くなるよね。ビバ普通。ヒャッハー普通。あれ、普通ってなんだっけ。

 

「……はぁ、そこまで言うなら一夏が決めてくれ」

「へ?」

 

 きょとんと首をかしげる一夏ちゃんかわいい。略していちかわいい。目の保養って素敵ですね、これだと残り一週間くらいで腕の骨折も完治しそう。いや、絶対完治してる。この自信はどこから来ているのだろうね。確証なんてねーよ馬鹿野郎。しいて言うなら一夏ちゃんがいちかわいいから魔法の言葉でぽぽぽーんなんだよ。いちかわいいは全ての怪我を治癒する魔法の言葉。あらやだステキ。

 

「私が決めたので良いの?」

「おう。お前普通にセンスいいからな」

「うっ……なんか責任重大じゃない?」

「何なら適当なのでおk」

 

 実際一夏なら変なものは持ってこないだろうし。こいつに任せておけば安定だろ。弾だと明らかにネタ要素満載なやつ持ってきそうだし、数馬は幼女に似合うやつを探し始めて持ってこない可能性がある。あれ、もしかして俺の周りにまともな人って居ない? 巫山戯る馬鹿にロリコンの馬鹿にTSしたイケメンに指名手配される天災に妹を溺愛する最強。わぁ、なんてカオス。

 

「……うん、よし。蒼に一番似合うやつ探す」

「なんでやる気出してんの……」

「頼まれたからには精一杯やらないと、ね?」

 

 真面目か。いや、真面目だったな。なんせ苦労しているであろう姉貴のために青春を放り投げてアルバイトし始める奴だ。真面目じゃなければやってられない。昔から一夏はこんな奴だった。正義感に溢れてて、イケメンで、クラスどころか殆どの女子にモテモテで、町を歩けばナンパされるのを鈍感ですり抜けていく馬鹿。マジでこいつヒロインじゃねえか。男の時からあまり変わってねぇな。いや、女性から狙われなくなったのは結構でかい。

 

「これ……はちょっと派手。これは……逆に暗すぎるかな……」

「マジモードかよオイ」

「当たり前だよ、全くもう……」

 

 はぁ、とひとつ溜め息をついた後に再度物色し始める一夏。ぶつぶつとあーでもないこーでもないと呟いている。マジで真面目なまじまじめ。流石はイケメンと言った方がいいか。こういう時に真剣に選んでくれると女子は嬉しいんだろう。君にはこういうのが似合ってるよ、キリッ。きゃっ、織斑くんセンスも良くてカッコイー、ぽっ。チョロい(確信)。俺には絶対出来ないだろうなぁ……だから童貞なのかね。ふふっ、死ねる。

 

「あ、これとかどう?」

「……それはどちらかと言うとお前に似合うような」

「えー……そうかなー?」

「ほら、ちょっと貸してみろ」

 

 さっと一夏の手元からフレームを取って、試すように此方からかけてやる。片手で眼鏡のフレームいじるのは疲れるな。はてさて、その苦労の結果は。……Oh、びゅーてぃふぉー。眼鏡美少女ってこういう子の事を言うんですね。これは新しい扉を開けそうですわ。眼鏡属性、イイネ! 今まで眼鏡とかぷーくすくすなんて馬鹿にしてすいませんでした。眼鏡最高ですね、両手で挟むようにくいって上げる動作とか凄くイイと思います。多分こいつが一夏じゃなかったら既に恋に落ちてる。

 

「いいな、似合ってる」

「………………」

 

 ぽけーっと口を開けて呆ける一夏。やめろよ、そんなに見詰められると照れちまうだろ。テレテレ。普通にキモいな。あと別に照れなかった。一夏ちゃんの容姿には既に慣れたのだー、ふははー。と言っても完全にじゃありませんけどね。まだまだ耐性は低いです。別に俺は悪くない。世界最強さえ骨抜きにしてしまう美少女一夏ちゃんのチートボディがいけないんや……。なんて思っていれば一夏ちゃんがいつの間にか復活してた。じとーっとした視線。

 

「……買うのは蒼のやつだよ?」

「知ってる知ってる」

「……もうっ。新しいの探してくる」

「……顔赤くないかお前」

「気のせいっ」

 

 ちょっと強めに言い放ってくるりと踵を返す。イケメンのくせに意外と褒め言葉に弱いんですねぇ……。ほんまチョロい(確信)。顔真っ赤にしちゃってバレバレですよ一夏ちゃん。必死に隠そうとしても無駄ってやつだな。ただあまり弄りすぎても此方がでかい反撃を喰らうだけなのでここは追い討ちをかけないでおく。学習するかしこいかっこよくないアオーチカですよ。まだセルフ罵倒してるよこいつ。もうそろそろドM認定されそうだな。違う。ぼくせめるほうがすっきゃねん。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「熱っ……」

 

 ぱたぱたと手で仰いで頬に風を送る。しっかりと暖かくなってしまった頬が冷めるのには少々時間がかかりそうだ。本当熱くて堪らない。理由は分からないけど。これも何も全部蒼のせいだろう。いや、蒼のせいに違いない(反語)。最近の蒼は絶対におかしいと思う。聞くだけで恥ずかしくなるような台詞を平気で言ったり、かなりの頻度で自然に笑ったり。元々そんな笑う方では無かったと思うんだけど。……その顔が妙に脳裏に焼き付いてるし。

 

「なんなの、あれ。なんであのタイミングで微笑むのかなぁ……」

 

 似合ってるとか言いながら普通にいい笑顔を向けないで欲しい。思わず固まってしまった。蒼のナチュラルな笑顔なんて一年に一回見れるかどうかくらい貴重だから仕方ないとも思うけど。大体笑わない蒼が悪い。私は悪くない。蒼が悪い。

 

「……あ、これとか良いかな?」

 

 ふと目についたそれを手に取って見る。彼の名前と同じ蒼色のシンプルなフレーム。特にこれと言った理由は無いけれど、何となくいいって思えた。直感的というか何かを感じ取ったというか……蒼風に言えばティンと来たって感じ。うん。少し別のことに思考を割いたからなのか、いつの間にか頬の熱は冷めている。くるりと振り向いてその姿を確認し、今度は直ぐに渡しにいく。

 

「ねえ蒼、これとかつけてみてよ。はい」

「ん? え、いや……まぁ、別にいいけど……」

 

 ちょっと驚きながらも、蒼は差し出されたフレームを受け取る。流石に二度目は無いか。ちょっと安心。それにこれは絶対私より蒼に似合ってると思うし。当の本人はマジで似合うのかこれ……なんて呟きながら、恐る恐る顔に持っていく。スチャリと掛けて、どうかと言いたげな視線をこちらに──

 

「……えっと、どうっすかね?」

 

 ──あれ?

 

「……あの、一夏? オーイ?」

「……あっ、えっと、その……うん。凄くいいと、思うよ?」

 

 ただ、眼鏡かけただけだよね?

 

「なんか嘘くさいな。実は似合ってないんじゃね?」

「いや、本当似合ってるよ。とっても」

「フォロー必死すぎない……?」

 

 なんか。

 

「……ま、これで良いならこれにするけど」

「う、うん。それで良いと、思う」

 

 なんか、ちょっと。

 

「……どうした一夏。なんかおかしいぞ」

「えっ? い、いや、なんでもないよ?」

 

 ちょっと、ほんのちょっとだけ──。

 

「……なーんか不安になる言い方だなオイ」

 

 蒼が、カッコイイ?

 

 




凄く……(感想が)荒ぶってます。みんな己の欲望をぶちまけ過ぎなのよー。もうちょっと自重して(建前)もっと裸になれよオラァ!(本音)

ただ、この小説は健全な。そう、とっても健全な作品なので、18歳以下の方に優しい言葉でお願いします。おっぱい? え、それってエロワードなの?(すっとぼけ)

何となく着地点は決まったので、そこまで突っ切りたい所存です。私の脳内では福音さんが二人に祝福のベルを鳴らしていたのでそれでいいでしょう。いいよね?


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皆さん! お風呂ですよ、お風呂っ!

 一夏の変な態度に少し不安を覚えつつも眼鏡を無事購入し、俺の日常はやっと平穏を取り戻すだろう。主にぼやけず見えるという点で。余談だが店員さんにとてもいい彼女ですね、ってにっこり微笑まれた。違うわ。ただ相手が女性だったのもあり、苦笑いしながら後頭部を押さえるくらいしか出来なかったが。あれは絶対に誤解してるだろうなぁ……。むしろ誤解させるような行動をした俺に責任がある。くそっ、やっと結構吃らず喋れるようになったというのに。完全に直ってない時点でアウトじゃねーか。

 

「ねぇ、蒼」

「なんだ一夏」

 

 夕食も食べ終わりゆっくりとくつろいで居たところ、台所で洗い物をしている一夏から声がかかる。ちらりと視線を向ければ、顔をこちらにやらず持参したエプロンを付けた一夏の後ろ姿のみが映った。つーかあれっていつの間にか俺の家に置かれてたやつですよね。おかしいな、どうして俺の家に一夏の私物があるんだろう。それを見て「あぁ、一夏のか」って納得してた俺も俺だけどさ。なんで納得してんだよ馬鹿野郎。

 

「お風呂って入れるの?」

「多分な。ギプス濡らさないようにすれば大丈夫とかなんとか」

 

 その準備がちょっと面倒くさいですけど。まぁ、自分で招いたことなので仕方がない。むしろ腕と目だけで済んで良かったなラッキーボーイ。事故に遭っても美少女(イケメン男子)に心配されて身の回りの世話までしてもらえるなんて、ぼくはしあわせものだなぁ(白目)。一夏ちゃんよ。もうちょっと適当でも宜しいのよ? むしろ適度に離れてくれた方が精神衛生上いい。女の子はまだまだ少し苦手なんや。

 

「体とか髪とか洗える?」

「まぁ、何となるだろ。少しキツいけど」

 

 片手でも意外と出来ることは多い。左だから使い難いことこの上ないけど。こういう時に両利きの人は羨ましく思う。片手怪我したとしても逆の方で代用が効くとかいいっすね。両利き裏山。いっそのこと両手とも右手にすれば両利きに出来る。それどこの吊られた男。この俺が貴様を絶望の淵にブチ込んでやる。

 

「……キツいの?」

「そりゃあ、慣れない左手だしな」

 

 確認するようにぐっぱぐっぱとしながら言う。別に調子に乗ってる訳じゃありませんよ。俺は一夏と違いますし。この阿呆は調子乗ると直ぐこれやるから分かりやすい。本当分かりやすい。そしてそれを見ると油断慢心ダメ絶対って心底思える。簡単なことでミスってんじゃねえよ。だからお前は原作でもセ尻アさんに折ルコットされてんだよ。なにそれイミワカンナイ。

 

「…………」

「無理ではないと思うけど」

 

 そうそう。頑張れば左でもできるできる。やればできる。やってやれないことは無い。やらずにできる訳がない。つまりやろうと思えば出来るんだよ! 人生は根性でなんとかなる。あとネコ火事場弓でもなんとかなるって親戚のお兄さんが言ってた。性能なしのバックステップで咆哮回避が俺の目標。ブシドー? お前ちょっと4g戻ってきてみろよ。

 

「……よし。ねぇ蒼」

「ん? なんだよ続けて」

 

 くるりと此方を向く一夏。長い黒髪がつられてふわりと揺れる。綺麗ですねぇ。思わず脳内シャッターをバシバシきってしまった。女の子の髪の毛が靡くと凄く美しいからね。仕方ないね。例え一夏でも外見は超絶美少女な訳ですし。現実でも写真におさめたい。だが残念なことにカメラが近くにないんだよなぁ……。ちくせう。

 

「手伝うよ」

「なにを?」

「お風呂」

 

 ………………What?

 

「誰が?」

「私が」

「誰の?」

「蒼の」

 

 ……ふぅ、一旦落ち着け。そう。こういう時は素数を数えるんだ。素数を数えて落ち着くんだ。2……3……5……7……11……13……17……19……23……29……31……落ち着きますた。素数は1と自分の数でしか割れない孤独な数字。つまりモテない数字。モテない俺の心を癒してくれる。やっぱり素数は万能。困ったときは素数数えてればどうにかなる。800ドルもするズボンに蛙が引っ付いて来ても大丈夫!

 

「却下」

「む。なんで」

「俺は男。お前は女。一緒に入浴は駄目。精神衛生的にも外聞的にも絶対駄目。よって却下。はい終了」

「私一応は男なんだけど」

 

 じろりと睨む。頭の天辺から足の爪先まで再確認。可愛いお顔。綺麗で長い髪。ふくよかなおっぱい。くびれのある腰。柔らかそうなお尻。弾力がすごそうなふともも。どこからどう見たって美少女じゃね? というか最早男の要素ゼロじゃん。パーフェクト美少女一夏♀ちゃんじゃん。いちかわいいじゃん。エプロンしてるから新妻みたいに見える。ご飯にする? お風呂にする? それとも……えと、わ、わた、し? とか言ってくれんの? 羞恥心半端なさそう(小並感)。

 

「今は女。つまり女体。思春期の男子中学生には毒だぞお前」

「蒼ってまず性欲あるんだ……」

「はっ倒すぞゴラ」

 

 俺にだって男として並みの性的欲求はありますよ。ほら、これでも人生二回目で一度も童貞捨ててないし? 彼女とか一人もいたことないしぃ? 前世の時からほんの時々女性と仲良くはなれてもそこから先には進まなかったすぃ? 女体の神秘なんて一切知りもしませんすぃぃ? まーたこの子は自分で自分苛めてる(オナニー)よ。あんまり燃料を投入せんでくれんかね。いい加減にしねーとお前はっか場すぞ。

 

「いや、蒼のイメージだよ」

「ばーか。どこをどう見たらそうなる」

「いつも冷静だし。女の子のことあまり見ないし。なんというか、達観してるというか」

「見ないんじゃない。見れないんだ」

 

 忘れたのか一夏。俺は女性が大の苦手だったんだ。結構マシになったとは言え、それもマシになったというレベル。依然として少しは吃ってしまうし、一対一で話すのは少しキツいものがあるのです。男子が他にいたりすると結構話せるんだがな。

 

「とにかく、入浴は駄目」

「むぅ……」

 

 そんな顔しても駄目。絶対に駄目。駄目なものは駄目なんだ。やめろ。オイもうそろそろやめろよ。駄目って言ってるでしょーが。駄目ったら駄目。ぜ、絶対に駄目なんだからねっ! なんて思っていれば一夏が近くに寄ってくる。少し俯かせた顔を上げ、涙目と上目使いのコンボで一言。

 

「……だめ?」

「」

 

 駄目って、言える?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 言えませんでした。

 

「んしょっ……どう?」

「あー……いいんじゃね?」

「なにそれ、ふふっ」

 

 ごしごしと背中をこすられる。あぁ^~いいっすねぇ^~。実際背中って手が届き難いから結構いい感じ。右手が完全に使えない現状なら尚更。正直なところ嬉しいと言えば嬉しいんだが、なんならもっと心臓に優しい展開にしてほしかったですね……。女の子にお風呂で背中を5454(ごしごし)されるとかどこのサービスだよ。男ならいいのかって? いやだよ(建前)嫌だよ(本音)。

 

「よい、しょっ……ふぅ、よっ……」

「あぁ、うん。いいわコレ」

「そう? なら、いいんだ、けどっ」

 

 ごっしごし。ごっしごし。力加減もなんだかちょうどいい感じ。ええやん。背中洗われるのって素敵やん。そんな一夏ちゃんの格好は別にタオル一枚とかではない。残念だったな。ぶかぶかのTシャツに短パンで裸足。肩とかちらって見えてる。なぜTシャツがぶかぶかなのかについては察してほしい。主に俺と一夏の体格差によるせいだ。ええ、俺のですが何か?

 

「ねぇ、蒼っ」

「んだよ」

「身体っ、大きく、なったっ?」

「そりゃ、成長期だしでかくなると思うけど……また唐突になんでだ?」

 

 言えば後ろから笑い声が聞こえてくる。相も変らずお上品な笑い方をする奴だ。男の時から大声で笑うような奴ではなかったから、そこは変わってないとも言えるか。イケメンポイントから萌えポイントに変わってはいますけどね。

 

「なんか、前より蒼の背中が、大きく見えて」

「俺の背中が? ありえねえ。つか貧弱だろ」

「そうでもないよ? 頼りになる背中だし」

 

 どうだか。この程度の背中で頼れるならどんな背中でも頼れそう。ひ弱な背中ですよひ弱な。爪楊枝で刺されたら軽く仰け反る弱さ。スタンドは無いし体も剣で出来ていないし悪魔の実なんて食べてないしグルメ細胞も無ければ惑星べジータからきた宇宙人でもない。「分解」と「再生」も一刀修羅もサラティガも幻想殺しもスターバーストストリームも滅びのバーストストリームも出来ない。光射す道にもならない。

 

「頼りないだろ、こんな背中」

「ううん。十分頼れるよ。だって」

 

 ぴとっ……と違った感触。指だ。

 

「私は、この背中に助けられたんだもん」

「──」

 

 掌を当てられて、さすさすと触られる。そこの部分が妙に熱くなって、ちょろっとだけ意識を強く向けてしまった。多分人肌の温もりってやつだろう。そうに違いない。今は多分少し敏感になってんだよ。ほら、緊張とかで。

 

「ありがとう、蒼」

「……るっせぇ」

 

 くそ恥ずい。なにこれ。やべぇよ、風呂場でこんな熱くなってたらのぼせるわ。つかやっぱ最近のお前はおかしい。距離近いし。馴れ馴れしさもかなり増してるし。一体どんな心境のだっつーの。むしろ逆の方向で変化してほしかったわ。離れてくれた方が精神的には楽。色々と世話焼いてもらってる立場だから絶対言えねぇけど。

 

「よし、背中終わり」

「なら寄越せ。前は自分でやる」

「大丈夫大丈夫。元は男だし」

「いいから、さっさと出ろ馬鹿」

「……顔赤いよ?」

「うっせぇ馬鹿一夏」

 

 あっちぃ……。




信じられねぇだろ。付き合ってねぇんだぜ、こいつら……。やっぱり一夏ちゃんの……SSを……最高やな! つーわけでいちかわいいIS二次流行れ(懇願)

祝福の歌を福音さんに歌ってもらってシンフォギアしよう(提案)


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夏の数ほど青春は。

ネタなし。つまらない注意。めーでーめーでー!


 夏休みに入って少し経った頃。部屋の中でパソコンを弄っていた俺──御手洗数馬の元に、友人である織斑一夏は突然訪れてきた。お陰で今日も元気にロリ画像を集めようと思っていた予定がパーである。生きる糧とも言える時間を潰されては、例え俺でなくとも機嫌が悪くなるのは必然だ。蒼のやつなら許しそうだが。あいつは根本的におかしい。マジで酷い事以外はふざけて許すような馬鹿とも言える。将来は下手な女に引っ掛かって暴力とかに耐えながら結婚生活送りそう。一人の友人として優しい奴と結ばれてほしい。

 

「麦茶しかないが、大丈夫か?」

「あ、うん。大丈夫」

 

 ……蒼の情報ならこういう場面になるとせがまれて結局熱いお茶を出すことになると聞いた。なるほど、これが心の距離の差ってやつか。かれこれ二年ちょっとになるが、たかがそれほどでは幼馴染みに追い付けるわけも無い。何だかんだでかなり仲の良い奴等だ。信頼し合っていて、ほどよくお互いの事を理解していて、例を上げるのなら名前を呼ぶだけで何を求めているのかさえ察する事ができる。なんだこいつら。

 

「それでまた、唐突にどうした」

「えっと……少し、相談があって……」

「ほう」

 

 ぐいっと冷たい麦茶をあおる。こいつが俺に相談。家同士の距離ならば他の二人に比べて遠く、付き合いに関しても蒼より薄く弾と同等レベル。そんな俺に対してこいつが相談事とくれば、考えられる要因は幾つかある。その中で現在のこいつの状況を加えた上で選択肢を絞るのなら──大方、あいつに関することか。

 

「蒼と何かあったのか」

「!? な、なんで……?」

「普通の相談事ならあいつにするだろう。態々俺のところまで来たということは俺の得意分野関連、またはあいつに言い難いこと……蒼自身に関係することだ」

 

 付け足すなら今の一夏がロリに興味を持つ可能性はその性格的にも限り無く低い。もし目覚めていたのなら奇跡か天啓か神の所業だろう。何よりロリコンに目覚めるやつは一目見ただけで分かる。直感的に分かってしまうんだ。あぁ、こいつは俺と同じ道を歩むのかと。この人は俺よりも険しく厳しい道を進んできたのかと。ロリコンは先ず第六感に目覚めないとならないからそこら辺気を付けておけ。センスの無いロリコンはロリコンと呼べないのだよ。

 

「よ、良く分かったね」

「普通だ。蒼でもこれくらいならやってのける」

「そうなの?」

「ふざけて誤解されがちだがな。あいつはあれでかなり頭の回転が早い」

 

 その分、緊張したり焦ったりすると働かせ過ぎて回路がショートする欠点付きでもある。だからあいつは女性の前で冷静な思考が出来んのだ。いつも通りなら頼り甲斐のあるクールで優しさも持ち合わせる男子として少しは女子に目を向けられるだろうに。吃り癖も少しは直ったとはいえまだまだ少しの会話も苦しい。本当なんというか、人間的弱点の分かりやすいことで。

 

「まぁ、案外色々考えてるもんね、蒼」

「生来のお人好しも合わさって尚更な」

 

 内面だけを評価すれば中の上くらいには行くだろうけれど、外見が良くも悪くもない普通だからどうにも言えなくなる。それも男子目線での評価なので、女子からすれば悪い方なのかもしれないが。……少なくともそこまで酷いとは思えない。実際にあいつを心底毛嫌いするような奴は少数だ。同じくして恋心を抱くのも少数。後者の少数がかなり面倒くさいのは内緒だ。恋に恋する中学生とは思えないくらいの愛情とか意味分からん。

 

「それで、内容は?」

「あ……うん。えっと、ね……最近なんだけど」

 

 出した湯呑みを両手で包み込みながら、若干顔を俯かせて一夏は言う。すっかり女性の動作が染み付いているな。実際に女性の体になっているらしいから、ホルモンによる影響なども少なからずありそうだが。僅か数ヵ月でここまでとは……一夏が恐ろしいのか、それとも蒼が恐ろしいのか。

 

「なんというか、変……なんだよね」

「変? なにが変なんだ」

「その……こう、えっと……あー……」

「……」

 

 言い難いのか、歯切れの悪い様子を見せる一夏。それとも自分ですらはっきりと分かっていないのか。どちらにせよ、思ったより簡単な問題ではないらしい。流石に蒼ほど上手くやれるとは思わないが、俺に出来る限りはしてやろう。これでも大切な友人だ。性転換しても見た目はJCなので恋愛感情など沸かんが。

 

「蒼の近くにいると、熱くなる……というか、暖かい……というか」

「……ふむ」

「その、変なんだよ。熱くて、暖かくて、でも汗を大量にかいたりはしなくて」

「……はぁ、そうか」

 

 一つ息を吐き、頭を手で抑える。さっきまで真剣に悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。確かに簡単な問題ではないけれど、同時に至極単純な問題でもある。というよりこれは重症じゃないか。手遅れだ手遅れ。あいつを理解して長く付き合ってきた異性は絶対惚れると何度弾と話したことか。確かに理解している。長く付き合ってきた。そして性転換を成し遂げた今、こいつは蒼にとっての異性だ。スリーアウトチェンジ。織斑一夏なんてこの世には存在しない。そいつは既に一夏ちゃんへと変化済みだよ。

 

「凄く、やる気が失せてきた……」

「えぇっ!? ちょ、なんでっ!?」

 

 当たり前だろう。誰が好き好んで人の惚気話を聞くというのか。相談は相談でも恋愛相談とは予想も出来なくて当たり前だわ。数か月前まで男だった奴が恋するとか普通に思い付かねえって。蒼、マジでやばい。下手なハーレム主人公より質が悪い。しかもそれを本人が自覚していないから余計に。あいつにだけは異性の幼馴染みを与えちゃ駄目なんだよ。

 

「数馬は、これが何なのか分かるの?」

「……はぁ。いいか、それは──」

 

 ──いいや、やめよう。

 

「……いや、違うな。すまん、俺も分からない」

「そ、そっか……数馬でも分からないんだ……」

「俺だって何でもは知らない。知ってる事と幼女の事だけだ」

「ソ、ソーナンダー」

 

 幼女の事は知ってる。今週末にデートする彼女の好きなキャラクターとか、趣味とか、どんなものが好みなのかとか。さらっと聞き出して気付かれないように調査済みですので。策士策に溺れる? 溺れるとしてもそれは幼女にだから無問題。

 

「しかし、そうだな。助言はしておこう」

「助言? 分からないのに?」

「確かに分からないが、分かってるんだよ」

「??」

 

 適当なことを言えば、一夏は頭上にクエスチョンマークを乱立させながら首を傾げる。こういう時にこの口調は便利だ。変なことを言ってもどこか知的に受け取ってもらえる。実に使い勝手が良い。素の俺なんて馬鹿で阿呆などうしようもないロリコンだと自覚するレベルだ。こうでもしないと世の中生きていけない。主に警察の目が怖くて。

 

「いつか多分。お前はその答えに辿り着いて、選ばなければいけない時が来る」

「選ぶ……? なにを?」

「知らん」

「えぇ……(困惑)」

 

 俺は知らない。別に一夏がどんな選択肢をどれほど用意されているのか、そして結果的にどれを選ぶのかなんて全然知らない。一切知らない。全く知らない。これっぽっちも知りはしない。いいね? 俺は知らない。はい復唱。……さて、ちょっと真面目にやってみるか。

 

「だから一夏。一度こうと決めたら、自分が選んだのなら、決して迷うな」

「へ?」

「迷いは、それが他者に伝染する」

 

 一夏の調子が乱れれば、必然的に蒼の調子も乱れる。そうなった時に不測の事態などが起きてしまったら、俺と弾でどうにか出来るのかも怪しい。つい先日にあった交通事故だって誰一人何も出来なかった。何かを成し遂げたのは事故に遭った植里蒼のみ。あいつは身を挺して織斑一夏を助けた。

 

「選んだら進め、進み続けろ」

 

 恐らく、その道が一番正しい。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ただいまー……」

「おー。お帰り」

 

 玄関でそう言えば、奥の方から蒼の気怠げな声が返ってきた。言ってくれるのは嬉しいんだけども、もう少し何とかならないのか。ちょっとそんなことを考えながら靴を脱ぎ、さっさと歩いていく。

 

「結局、お前どこ行ってたんだ?」

「うん? あー……ちょっと数馬の家」

「ほう……珍しい。俺も行けば良かったか」

「そう、だね。あはは……」

 

 なんだか直感的にだけど、あの会話を蒼に聞かれたらいけない気がする。分かんないけど。うん。分かんないけど、でも脳内で何かが必死に警鐘を鳴らしてる。これはヤバイ(確信)。絶対開けたりしたら駄目な奴だよ。大事な何かがパリンって壊れるよ。

 

「それより、夕飯まだだよね。待ってて、今から作るよ」

「おう、いつもごちそうさまです」

「喜んで貰えるなら満足だよ」

 

 殆ど料理をここでするために買っておいたエプロンを身に付けながら答える。結構無理矢理始めた事だけど、蒼が良いのならそれで良いや。私も別に嫌って訳じゃないから。ほら、やっぱり友達のことは心配だし、健康は毎日の食事からって言うし。

 

「……あ、そういえば、さ。一つ聞きたいんだけど」

「ん? なんだよ」

「──蒼って、私と居るときに何か感じる?」

 

 問い掛ければ、彼はきょとんとした表情を見せる。これは滅多に見ない珍しいものを見れた。なんだか少し得した気分。顔で心境が丸分かり。最近表情の微細な変化まで読み取れるようになってきたから、こんなにオーバーじゃなくても分かるけど。

 

「……また急だな、お前は」

「あ、あはは……」

「しかし、一夏と居る時ね……あぁ、そうだ」

 

 そこで蒼はふと思い出したように虚空を眺め、此方を真っ直ぐに見据えてくる。最近買った眼鏡を通して視線が交錯し、少しの間を置いて一言。

 

「お前と居ると、なんか安心するわ」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら、そんなことを言った。

 




イチャラブをご所望の方々、ごめんよ。もう少し待ってくれ。熱さにやられて作者はちょっと中二をぶり返しているんだ。やだ、ハズカスィ。ぽっ。

ちなみに分かる人には分かることを言っておきます。今後も私はアレのように前触れ無く、そして告知もなく、隠れるようにあんなものをやります。こう、プレゼント的なモノですよ。ええ。あと、羞恥心が堪えきれないのであまり駄目なんです。本当。いやァン、馬鹿ァン。


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唐突に巻き起こる大展開、じゃねえな。

今回は諸事情で文量が少なめです。許してヒヤシンス。


 久しぶりに解放感というか開放感というか界放感というかとにかくそういうものを漢字で完治で感じ取った。カンカンカン! もいっこカン! ツモ、嶺上開花! 麻雀って楽しいよね、一緒に楽しもうよ! 嫌です(切実)。あんなんチートやチーターや。なんやみんなこわいなーとづまりすとこ。はい。というわけで、自由の効くようになった右手を軽く動かす。痛みはない。違和感もそこまでない。ずっと固定してたからまだ慣れはしないけど。つまり結論を言おう。

 

「やったぜ」

 

 腕の怪我が治りました。

 

「無事に治って安心したよ……」

「ふん、俺はそんなヤワじゃねえの」

 

 病院からの帰り道。ほっと息を吐く一夏の頭へぽんと手を置いて、幾度か軽く叩いてやる。ぽふぽふ。全く余計な心配をしてくれちゃって。たかが車に撥ねられた程度で転生オリ主を倒せると思ったか。残念だったな。オリ主に一度使った技は二度と通じないと思え。別に俺トラック転生とかしてないけど。異世界転生のあの不思議なくらいのトラック率は何なのかね。皆そこまでトラックのこと好きなの? ぼくはトラックよりドリーム派です。夢って素敵。同じくして働くことも素敵。寝て起きて寝る。それが俺の生き様だ。なんて言ったらお母様にぶん殴られるので言いませんけど。

 

「お前が思うほど弱くないんだよ」

「……でも、心配じゃん」

「その気持ちはありがたいがだからって今日までずっとご飯を食べさせてお風呂で背中洗ってを繰り返す生活はキツいだろうがオイコラ」

 

 こっち向きなさい一夏ちゃん。今更になって羞恥心に悶えてんじゃねえぞ馬鹿。こちとら毎日布団の中で転げ回るハメになってた。声にならない叫び声を上げながら飛鳥文化アタックしてた。背中痛い。お猿さんの飛鳥文化アタックは嫌い。特にG級。岩のあれといいお前は何なんだサイヤ人かこの野郎。

 

「うん。ちょっと後悔してる」

「ならやるんじゃねえ。やるんじゃねえよ」

「やめて。恥ずかしいよ。思い出したら駄目だよ」

「自業自得なんだよなぁ……」

 

 ワンサマはやっぱり今になってもワンサマ。馬鹿は死 ななきゃ直らないと言うが、女の子になっても直らないのは新発見だと思う。ここに一つの事実を追加しよう。馬鹿は女の子になっても馬鹿。故にイケメンは女の子になってもモテる。勝ち組は勝ち組へ。負け組は負け組へと変貌するのだ。俺に勝ち目がありませんね。バグかな? いいえ、仕様です(白目)。ふぁー。

 

「……その、蒼。えっと」

「次にお前は『ごめんね』と言う」

「ごめんね……はっ!」

 

 またまたやらせていただきましたァン! つっても今のは簡単すぎるか。テンションとか声のトーン、あとは付き合ってきた長さによる勘と大体の空気で分かりきってたし。一夏の言うことは真っ直ぐだから本当いい。そういうのお兄さんは好きですよ。

 

「一夏は謝りすぎだ。全部自分で抱えんな」

「でも……」

「でももだってもねえ。悪いとこだぞ」

「……、うん……」

 

 うぐっ。そうも露骨に落ち込まれると罪悪感に苛まれるんですが……。狙ってんの? 何かそういう腹黒的な感じに狙ってんのか? まぁ、一夏がそんなことを考えるとも思えんが。もし考えてたら俺はどうしたら良いのか分からなくなる。恋人になれば良い? でも根本的な解決にはなりませんよね? エッチしたら大丈夫? ……でも、それも原因の解決にはなりませんよね? いいからさっさとやれ? これじゃ、俺……一夏を守りたくなくなっちまうよ……。

 

「……けど、なんだ。その……だな」

「……?」

「………………サンキュー」

「っ! う、うんっ」

 

 ……なんか、居辛え。なんでだ。別に俺普通にお礼言っただけだよな? 確かに少し恥ずかしくて間が空いたけど、至極普通なことしか言ってないよな? なのにどうしてこうなった。訳が分からないよ。残念ながらクッソ汚い淫獣はNG。あーでもないこーでもないと隣の一夏に

 バレないよう首をかしげていた時だ。ポツポツと何か、冷たいものがうなじに当たる。雨。夕方より少し前の午後の時間帯。成る程、これは運が悪い。

 

「うわっ、あ、雨……っ?」

「ゲリラ豪雨か夕立か。どっちにしろ災難だな」

「と、とにかく、蒼の家まであと少しなんだし早く行くよっ」

「おわっ、ちょ、引っ張んなよ!?」

 

 一夏の力が強い。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結果、普通に濡れました。土砂降りだから地味に下着までやられて酷いことこの上ない。つか雨に濡れたからか変な感じがする。早くシャワー浴びてぇ。けど、今はちょっと我慢我慢。何故かってお前、普通に考えたら分かるだろ。女の子を優先するのはこの世界の真理ですからね。仕方ないね。紳士的にもびしょ濡れの美少女をそのままにはしておけなかったのサ。例え元男だったとしても。ちなみに一夏の服なんて勿論俺の部屋にある筈もなく、一時的にこちらのを貸すことにした。

 

「……ふぅ、蒼? 出たけど?」

「ん? おう、じゃあ俺──」

 

 ──も入るか。そう続ける筈だった台詞が出せない。口を封じられた訳じゃない。声が出なくなったなんてことも無い。ただ、驚きすぎてマジヤバイ。どれくらいヤバイのかって言うと、目の前がアヴァロンのエクスカリバーでエクスカリバーが出しなてめーのスタンドをマジでやるからマジエンジェ。

 

「……い、一夏。その格好は?」

「? ……応急処置だよ?」

 

 しれっと返すなやコラ。

 

「あぁ、それは分かる。服が濡れたんだろ。分かるさ。だがなお前。それはダメだろ」

「でもこれ以外無くて……」

「うん。服を常日頃から多く買わない俺も悪かったと思う。けどな」

 

 ──下着無しのカッターシャツとだぼだぼの学生ズボンって、ちょっとヤバくないですかね。




ついにうちの感想が四桁突入しましたよ。勢い半端じゃないですね。何が君たちをそこまで駆り立てるんだ……。

さて、とりあえず謝罪をば。多分誤字脱字とか酷いと思いますので。何を隠そう私今にも眠たくて落ちそうなのであります。本当すいません。ちょっと眠ります。この話自体寝惚けながら書いているので、書き直す可能性も結構あります。このお返しは必ずいつか……


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クールに行こうぜクールに。

(´・ω・`) すまないね。イチャラブは品切れ中だ。次の入荷を待ってくれ。


 頭からシャワーを浴びて思考を冷ます。落ち着け。とりあえず落ち着くんだ俺。一夏のマズい格好(前話参照)を見て即座に風呂場へ駆け込んだが、今はその行動選択をした自分を褒めてやりたい。よくやった俺の本能。よくやった俺の反射神経。プチパニックを起こしていたというのに何て体だ。女性に対する耐性が悉く低すぎて自分でも引く。マジないわー。あんなもんに顔真っ赤にして逃げちゃうとかマジないわー。……はぁ。いや、正直あれはいかんでしょ。見た目って大事なんだぞ。これまで一切モテなかった俺が言うんだから間違いない。人間見た目なんだよこんちくしょう。

 

「1……3……5……7……11……、よし」

 

 ふぅ、やっぱり素数を数えると落ち着く。別に天国とか求めてないけど。神父とかじゃないけど。とにもかくにも段々と冷静になってきた。うん。大丈夫。大丈夫なんだよ。ゆっくりと事実を刷り込めばいい。織斑一夏は男。織斑一夏は男。織斑一夏は男。分かったか蒼。男の一夏がする格好に興奮なんてしねえ。あれ、でも今の一夏は女の子であって別に男じゃねえじゃん。何てこったい馬鹿野郎。見た目は女、頭脳は男。その名も、イケメン唐変木織斑一夏! 事件とか一切解決せずに周りの女の子落としそう(小並感)。

 

「……落ち着け、落ち着け……お前(分身)もだよ」

 

 ふぅ……。あの一夏ちゃんがノーブラノーパンで俺のカッターとズボン着てる。あれを初めて見た時……なんていうか……その……下品なんですが……フフ……勃起…………しちゃいましてね。嘘です。見た時はびっくりし過ぎて逆に縮んだかもしれない。駄目だな。エロい場面で勃たないとか一生童貞路線ですね。事実を認識してからはもうエキサイトフィーバーヒャッハーエクスタシーですけど。うん。下ネタはちょっと自重。こんなクッソ汚い描写なんか読んで得する奴いんの?

 

「一夏は男だ。一夏は……男……」

 

 ここ数ヵ月のコミュニケーションを振り返ってみた。あれ、言動が完璧に美少女のそれなんだけどあの子って正真正銘織斑一夏その本人だよね? やっぱ元男のくせにヒロイン力高すぎるんだよ馬鹿野郎。そのスキルで一体誰を落とそうとしてんの? 千冬さんか? 千冬さんなのかおい。別にいいけどあの人を選ぶならちゃんと幸せにしてあげろよ。

 

「もうあいつ女なんじゃないか」

 

 ぶっちゃけそう思わざるをえない。いや、誰だってあんな態度で結構な時間を一緒に過ごしたらマジで女かと思ってくるだろ。俺がおかしい訳ではない。一夏がおかしい。最近も妙に引っ付くようになって余計酷いことになってるし。つーか何で今更距離詰めてんのあいつ。事故から助けたことで好感度でも上がったんですかね。それは無いな。そんなギャルゲーみたいな展開あったら驚く。あと普通ではなかったけど友達感覚で話してたから大丈夫大丈夫。大丈夫じゃなくね?

 

「そもそもガード薄すぎだろあれ。襲って欲しいのかなんなのか」

 

 まぁ、当然の如く天然でしょうけど。むしろ意図的にやってたらそれはそれで怖い。一夏に穴♂じゃなくて棒♂を狙われる日が来るとはたまげたなぁ……。世の中何が起こるか分かったもんじゃありません。人生ってたのすぃー。こんな場面でそんなこと言ってられっかチクショウメー! どうでもいいけど良く考えたら一夏のおっぱいぷるんぷるんだよ! くっそ揺れるよ! どうしてくれる。俺は……あの二つの果実から……一体どうやって身を守れば良いんだ……。圧倒的絶望感。はっ、もしかしてこの絶望を乗り越えれば絶倫蒼くんが覚醒する可能性が微レ存……? こんなんじゃ全然満足出来ねぇぜ……(不満足感)。

 

「……焦るな、冷静に。理性を掴め。大丈夫。今まで風呂場で背中を洗われて一度も勃起を察させ無かった俺の実力は並大抵じゃない」

 

 お前普通に興奮してんじゃんとかそういうのは言ってはいけない(戒め)。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「出たぞ一夏」

「あ、蒼」

 

 きちんと着替えて風呂から出れば、一夏は依然変わらぬ格好で座りながらテレビを見ていた。声を掛けたと同時に振り向いたことから集中してという訳ではないらしい。やることもなくぼーっと見て暇を潰していた感じか。そういう時はよくある。むしろいつもぼーっとして暇を潰していたいとすら考える。われわれの、せいぎのたーめーにー。将来の夢は自宅警備員です。てへっ、冗談だから許して欲しいなてへぺろ☆(真顔)。真顔でそれやっちゃあかんでしょ……。

 

「雨、まだ降ってるのか」

「うん。帰るまでにやむとは思うけどね……」

 

 話しながらタオルでばっさばっさと髪を拭く。眼鏡かけた状態でこれやるの少し難しいんだよな。なんか勢い付けすぎるとぶっ飛ばしそうで。慣れたら何ともなくなると思うけど。男ならワイルドにがしがしやるのみ。うちの家系は禿げないらしいので頭皮の心配はご無用なのだ。ご無用だと思いたい。その点女性はいいよね、基本的に禿げないんだから。それだけは一夏裏山。

 

「あ、ちょっと蒼。何してるの」

「何って……髪拭いてんだけど」

「そんな乱暴にやっちゃ駄目でしょ。ほら、ちょっと貸して」

「別にいいんすけど……」

 

 無理矢理タオルを奪われて座らせられる。その背後に一夏は立つと、程よい力で俺の髪を拭き始めた。そうやって世話を焼いてくれるのはいいんですけど、ちょっとやりすぎと違いますかね? 一応もう怪我は完治してるのよ? コツとか教えて貰えれば自分でもやれるというのに。一夏に頼りっきりは何だかと思うので、実に複雑な気分だ。嬉しいけど嫌でもあって喜べなくて落ち込めない。感情のみっくちゅじゅーちゅやな。みっくちゅじゅーちゅ。何その噛み噛みな台詞。噛みすぎてまさに髪ってる。ミスった神ってる。また髪の話してる……。

 

「よくないよ。体は大切にしなきゃ。それにきちんと拭いとかないと風邪引くし」

「ばっかお前、俺が風邪引く訳ねぇだろ」

「不健康な生活してる人は少し静かにしてようね」

「ぐぬぬ……」

 

 こいつ言うようになりやがって。俺と過ごす時間が増える度に弱味を掴まれてる気がしてならない。最近はもっぱら口で勝てないので尚更だ。くっそ、そういうところまで女の子にならなくていいっつーの本当。男が女に口で勝てないのはどこでも一緒。IS世界でも当然適用される。マジでこいつ女じゃねーか。

 

「はい、終わりっ」

「……一応サンキュー。正直必要ねぇけど」

「あるよ馬鹿蒼、全く……。さて、そろそろ少し早いけど晩御飯にしよっか」

「おう」

 

 言いながら立ち上がり、ぐっと伸びをする。何となく力加減は伝わったので真面目に必要無いんだけどな。言った方がいいのか言わない方がいいのか。ま、どうせなら確かな技術を持ってる奴にやってもらう方がいいだろう。しかしながらそれだとまた一夏に頼ることが増えてしまうよなぁ。俺が自分で出来ること、かなりある筈なんだけど。

 

「じゃあちょっと待──」

 

 ガクンと一夏が体勢を崩す。あ、これこけるやつ。サイズの合わないズボンなんか履いてるからだよ馬鹿。

 

「っとぉ! お、お前、危ねえな……」

「へ、あ、蒼……ッ!?」

「なんだどうした。そんな顔赤くし──顔が赤い?」

「赤くないよっ!」

 

 大きな声で宣言する一夏ちゃんだがそのお顔は林檎みたいに真っ赤であった。今鏡とか見せたら悶えるんだろうなぁー。それとも自分で気付いてないふりでもしてるのかなー。どちらにせよ俺にはどうでもいいが。ここで現状の説明。咄嗟に一夏を助けようと動いた俺とこけそうになった所を助けられた一夏ちゃん。微妙に後ろから抱き付くみたいな感じになってる。俺が。もう一度言う。俺が。抱き付く。一夏。ドゥーユーアンダスタン?

 

「大丈夫かよお前。風邪とか引いてねえよな」

「ちょ、あの、蒼、耳、近っ……」

「何だって? 小さくて聞こえねえよ」

「ッ!! わ、わわ、私ご飯の準備してくるっ!」

「うおっ!? おま、走ったら危ね──てか速っ」

 

 びゅーんと飛ぶように一夏はキッチンへと行ってしまった。ご飯の準備をするらしいが、その服は一応制服なのでエプロンして下さいよ。というか何であんな顔真っ赤にしてんだあの野郎。この部屋そんなに熱いのか?




正直調子が出ないんだ、許して下さい何でもしまむらうづきガンバリマス! 本当に頑張りたいよ……。

R18は諸事情により無理です。書くためにはエロゲを十本くらいやらなきゃ無理な希ガス。一日五回の一本消費でやっと書けるんじゃないですかね(てきとー)

ほら、この作品って純愛だから(震え)

雌堕ち展開は一夏じゃなくて蒼くんがTSした場合だからね、仕方無いね(白目)


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理不尽で小さなシカエシ。

(ど、どうしちゃったんだろ)

 

 ただ只管に困惑した。おかしい。間違いなくこの体は異常を来している。さっきから顔は火が出るほど熱く、心臓は破裂するかのように激しく脈をうっていた。おかしい。調理器具を準備しながらも脳を支配するのは、蒼に助けられて抱き付かれたこと。あの時に漂ってきた彼特有の香りは、非常に私の鼻孔をくすぐって。

 

(すごく良い匂いだったよね……じゃなくて!)

 

 違う。違う。そうじゃない。確かに良い匂いとは思ったけど今はそんなこと関係ない。というか態々思い出さなくて良いんだよ。余計なことをしないで私。うん。集中集中。一旦落ち着いて冷静になろう。そうしよう。私は冷静。私は冷静。よし、多分落ち着いた。

 

「えっと……トマトはあったっけ……」

 

 ごそごそと冷蔵庫をあさりながらぽつりと呟く。蒼は積極的に野菜を食べようとしない。出されたらきちんと食べるんだけど、日頃からとろうとはしてないようだ。嫌いなのかと以前聞いたところ、別に嫌いじゃないけど好きでもないとかいう微妙なコメントをされた。はっきりしてくれた方が嬉しいんだけどなぁ……。

 

「……まぁ、普通にサラダでいいよね」

 

 ドレッシングをかけてれば多分食べてくれるはず。というか食べなかったら無理矢理にでも口に入れる。最近はちょっと甘やかしてあまり食べさせなかったし。色々と生活が大変だから、食事くらい楽しんでもらいたかったんだよね。健康は第一ですけど。

 

「あとは……う~ん……」

 

 いっそのこと野菜パーティーにでもしてみようか。緑色に染まる食卓を見た蒼の顔はさぞ見物だろう。まぁ、流石にそれは酷すぎるのでやらないが。弄るのもTPOを弁えないとね。ある程度の信頼関係はあると思うので大丈夫だとは思うけど。何だかんだで小さい頃から仲良しな私たちですもの。

 

「──よし。さっさとやっちゃおう」

 

 献立も決まったところで調理開始。別に私は冷静だから焦ってもいない。平常心を保つために気を紛らわそうともしてない。大丈夫。本当に大丈夫だもん。多分。

 

『──顔が赤い?』

「ッ!!」

 

 ッダーン! 思いっきり包丁をまな板に叩き付けた。ふぅ、集中だよ。精神を落ち着かせて集中するんだよ。心頭滅却すれば火もまた涼し。どんな苦痛も強い精神で乗りきれる。だからこの程度の痛みにすら入らない問題なんて気にすることでも無い。

 

『小さくて聞こえねえよ』

「~ッ!!」

 

 ああもうっ! なんなの蒼は! 凄く心が乱されるんだけど!? 分かんないよ本当にもう! 耳元で囁かれると変な気分になるからやめてほしいよ! なんで変な気分になるのかも分かんないよ! もう、もうっ! これも全部蒼が悪い。誰がなんと言おうと例え神が肯定しても蒼が悪い。あんなことをする変な蒼がいけないんだよ。全く……全くっ!

 

「……なんか、ムネが痛い……」

 

 きゅうっと締め付けられるというか、萎んでいくような感覚というか。何にせよ地味に痛い。鼓動が早くなっているからだろうか。バクバク言ってて凄く煩いし。これは痛くなっても仕方無いよ。うんうん。だから全部蒼のせいに違いない。

 

「だんだんムカついてきた……」

 

 いや、かなり理不尽な八つ当たりってのは自覚してるけど。むしろ自覚してなかったら酷いよそれは。まぁ、そんな理不尽もしっかり受け止めてくれるのが私の友人もとい幼馴染みもとい親友だ。今回はその器のでかさを見込んでばっちりやらせてもらおう。何度も言うけど私は一切悪くない。滅多に怒らなくて基本的に誰に対しても優しい蒼が悪い。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 どんっ、と強めに置かれた目の前のお皿には、はみ出さんばかりに盛られた野菜。どこからどう見ても普通のサラダの量と違うんだけど。高校球児のお茶碗一杯分は優に越えてるんじゃねえのこれ。多いわ。なしてこんな大盛りサラダをドレッシング少なめで食わなあかんのやろな。俺は草食動物か何かか。それとも俺に恨みでもあんのかお前は。そう思いながらちらっと視線を向ける。

 

「……なに?」

「いや、その……多くない?」

「そう? 気のせいでしょ?」

 

 にっこりと微笑みながらそう言う一夏。うわぁい、凄く綺麗な笑顔だなぁ。思わず心が浄化されちまいそうだぜ。若干声のトーンが低めじゃなかったらな。明らかに悪意たっぷりな笑みありがとうございます。笑ってるのに笑ってないとか表現に困る表情するのやめーや。誰か文豪呼んでこい。今の顔を的確に描写させるんだ。ストレイドッグスの方は違います。

 

「え、なに、怒ってんの?」

「別に、全然怒ってないよ? ふふっ」

 

 ぞわっとした。なにその笑い声。至って普通な筈なのにめっちゃ鳥肌たったぞお前。一夏ちゃん怖い。やっぱり精神の安寧には一夏ちゃんを一夏くんに戻さなきゃ(使命感)。正直どっちもどっちだから最近気にしなくなってきたんだけどね。ほら、一夏が女に慣れすぎて逆に違和感無くなってるし。何も知らない状況だったら男とかカミングアウトされても信じないレベル。一夏ちゃんが男? うっそだぁ! 無知は罪。なんとも悲しい。

 

「少し蒼にストレスをぶつけたくて」

「完っ全に八つ当たりじゃないですかやだー」

 

 一夏ちゃん怖い(重複)。人に当たっちゃ駄目って千冬さんに教わらなかったの? ただでさえブラッド・オブ・オリムラなのに理不尽な暴力とか勘弁して下さいよ。原作のヒロイン勢を見習え。何かあったら直ぐ一夏に被害を向けるんですよ。それってまさしく愛じゃないか(錯乱)。つまり俺に八つ当たりする一夏が人生のパートナーな可能性が……ねえな。無い無い。幾らなんでもそんなことはある訳ナス。

 

「……本当にストレス溜め込んでんなら相談しろよ。愚痴くらいなら聞いてやる」

「サンドバッグになってよ」

「ゲスだ。ここにゲスがいる」

「冗談。……愚痴はまた今度、お願い」

「イエス・マム」

 

 どうやら普通に溜まってたみたいですね。適度に抜かないと駄目じゃないか全く(意味深)。ぜろななにーのよんごーよんごー? い、一体何のことですかね。ぼくには分かんないなー、純粋だからなー。ほら、ピュアなことで有名な植里くんですし? ピュアじゃなくてチェリー? ははっ、あんまふざけてっとマジぶっ飛ばすぞリア充共が。うちの清潔感漂う女慣れ皆無な息子が汚れたらどうしてくれるんですか! 責任♂取ってくれるんですか! まずうちさぁ……童貞、なんだけど。ヤってかない?(直球)

 

「ごめん蒼、お醤油取って」

「ん、ほらよ」

「うん、ありがと」

 

 ……なんつーか、本当変わったよな。俺も一夏も。二年時の俺なら絶対この状況で吃りまくってた。普通に見て美少女とマンツーマンで食卓を囲んでる訳ですし。一夏も一夏でTS直後ならまだ男っぽさが残ってた。いつからこいつはこんなに女の子するようになったんですかねぇ……。そもそもの原因は何よ。喋り方を女っぽくした事だと俺は予想するね。あれ、結構マジで当たってんじゃねえの? だってそれ以外の要因とか考えられないし。俺も大したことしてないし。ふふ、どうよこの超推理。褒めてくれてもいいのよ? キャー、蒼(サンカッケー)。どうして黒くなってんだオイ。

 

「いただきます」

「ん、いただきますでーす」

 

 ますです。反対にするとデスマス。物理技で攻撃するとミイラになりそうですね。ミイラの怖さをいまいち思い知れなかったリゾートデザートの思い出。後々色々と出来ることがあるって気付くのです。

 

「やっぱり野菜多いわこれ……」

「文句言わずに食べる。ほら、あーん」

「ちょ、お前ナチュラルに何してんの?」

「…………あ」

 

 ぼっと頬を赤く染める一夏。うむ、まさにこのトマトみたいな赤色ですね。恥ずかしいんだろ、分かるぜ。つーかぶっちゃけ仕方ない。昨日までずっとやってた訳だし、それが染み付いているんだろう。俺も一夏に箸取られて差し出されるまで気付かなかった。これは二人とも重症ですね(白目)。

 

「……た、食べてよ」

「は? いや、普通に俺は食べられ──」

「いいからっ! もう勢いだよ! このまま引っ込めるよりマシだよっ!」

「お、おう……」

 

 う~ん、これはテンパってますね。しかしそれに強く出られない俺はどうなのか。生まれついてというより生まれる前からのチキンだからね、メンタル弱いんでやっぱ一般人だな。自分が主人公とか有り得ないし。

 

「……うん。今日も美味い」

「そ、そう……」

「…………」

「…………」

 

 気まずっ。なんか、つい最近も似たようなことがあったような無かったような……。気のせいだよね!




ISは一夏ちゃん正妻可愛いの略(大嘘)。IS二次なのに一切ISしてない小説があるらしいっすよ←
でも一夏ちゃんは正妻可愛い(確信)

さて、先ずは謝罪を。前話の蒼くんによる素数講座ですが、完全に私の描写不足です。すいません。ただ一つ言わせてください。自分のボケを自分で解説する行為ほど辛いものは無いと思うの。ゃだ……はずぃょ(赤面)

誰か真面目な一夏TS二次書いてくんないかな……私が書くとどうしてもそっち♂方向に行ったりギャグ路線になるので。


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隣に幼馴染みがいる時間。

すまない……調子が出なかった……本当にすまない……。ばーるむんく!


「はい、これ蒼のやきそば」

「サンキューな」

 

 言いながら一夏に手渡されたそれを受け取る。夏休みも残すところ半分を切った。一ヶ月半の長期休暇だというのに僅か一週間にも満たないんじゃないかと思うくらいだ。時間が過ぎるのは早い。歳をとればとるほどそのことを実感していく。現在でも十分実感している俺がお爺ちゃんになったらどうなってんだろな……。時間とか止められたりすんじゃねえの。やれやれだぜ。いや、むしろWRYYYYYYYYYYY!! 

 

「てか、よくこんな場所見つけたね」

「女性から逃げてると必然的に」

「それって偶然だよね……」

「そうとも言う」

 

 そんな会話をする俺たちの居る場所は、転生少年植里くんが幼い頃に見付けた花火を見るときの隠れスポットである。お察しの通り今日は花火大会。別に出店を回っても良いのだが、何となく今年はゆっくりしたい。そう思って最初は行く気すら起きなかった訳だが、隣に座るこの美少女に強請られて渋々来てやった。常日頃に色々とありすぎて疲れてんのに労ってくれよ。思えば全ては一夏TSから始まり交通事故まで。ワイの人生めっさ楽しそうやなー。非日常に溢れてるやん。誰かちょっと居場所変わろうぜ(提案)。

 

「ぶっちゃけ、感傷に浸りながら見る花火ってのを経験してみたかった訳よ」

「あぁ、お祭り気分じゃなくて?」

「そうそう。静かなところで響く音を聞くのも良いってこと」

「そうなんだ……ちょっと楽しみ」

 

 くすりと微笑んで、一夏はやきそばを啜る。そんな姿を見て手元にある同じものを思い出した俺は、付いてきた割り箸をぱきんと割って早速食べることにした。海に行った時とかもそうだけど、こういうイベントで食べるものって何故か美味いよな。脳内物質か何かでも出てるんですかね。平常時に食ったらそんなに美味しくないだろうに。だって一夏の飯の方が美味いんだもの。比較対象が織斑家な時点でちょっとおかしかったわ。すまん。ほら、ブリュンヒルデさんと戦闘力を比べられたらこいつ馬鹿かって思うだろ? それと同じ。

 

「……なんか、すまんな」

「ん? ……んっ。何が?」

「いや、誘って貰ったのに付き合わせて」

「なんだ、そんなこと」

 

 ふぅ、と一息ついてから向けられる視線。なんか無駄に緊張するな。妙に顔が真剣だからか? いや、こいつの場合いっつも真剣だから別に変化ない気もする。真面目くんもとい真面目ちゃんですねぇ。騙されやすそうだけど基本的に人生得するタイプだよなコイツ。持ち前のレベル高い容姿もあって。家事が出来て飯も上手くて気遣いの出来る性格も良い美少女。なんだこの超メインヒロインスペック。もうちょっと欠点とかあってもいいんですよ? あ、こいつ元男やん。ノンケにとっては凄まじい欠点ですね。

 

「ほら、こうやってゆっくり出来るのも今年で最後かもしれないし」

「? いや、なんでだよ」

「だって、私はIS学園に行くんだよ?」

「……あぁ、そういえばそうだった」

 

 こいつ結局来年から本格的にIS学園に通うようになるのね。あれだけ抵抗してた素振りはどこへやら。何ともないように告げる一夏の心情は分からない。気持ちが変わったのか、それとも何かを隠しているのか。昔から感情をよく表に出す奴だったから、ちょっとだけ意外だ。嘘をつけるような性格でもないし、ならば心配はいらないとも思うが。……でも、どっかで女性の方が嘘つくのは上手いって言ってたような言ってなかったような……まさかTSしてその特性を取り入れているのか……ッ!?

 

「蒼はどうするの?」

「自宅警備員」

「へぇ?(威圧)」

「ごめんなさい嘘です。……多分、藍越」

 

 そう、多分。

 

「ああ、蒼なら楽に受かりそうだもんね」

「それもあるけど、進路選択にそれ以外無かったというか……潰されたというか……」

「え?」

「とにかく、多分藍越だ」

 

 あの天災兎は一体どこまでその手を広げているのか。進路調査の行きたい学校の欄が知らない間に藍越学園になってた時点でちょっと察した。普通の人間ならなんだその程度かで済むと思うけど、俺の場合は違う。インフィニット・ストラトスというライトノベルを知っている転生者。そんなイレギュラーだからこそ分かる。原作一夏とほぼ同じパターンに陥る可能性が高い。間違えて入った部屋にISが置いてあって偶然触り起動。まぁ、その時は意地でも触れてやりませんがね! 簡単に俺を攻略出来ると思うなよ……!!

 

「なんかはっきりしないね」

「……誰が進んでIS学園なんて入りたがるよ」

「え? なに?」

「いいやなんでも」

 

 うん。さっきのは全部忘れてくれ。一般人の俺が適当に暇潰し程度に考えた可能性の一つであって確証も何もない。つまりこの程度天災には把握済みな可能性もあるのだ。凡人に天才の考えは理解できない。ならば、凡人にとって天災とは何か。でかいおっぱいぶら下げた変態らびっとちゃんです。テメェ人のこと利用するんならその無駄に良さそうな乳揉ませろやゴルァ。

 

「……気になるんだけど」

「気にすんな。それよりほら、花火上がるぞ」

「むぅ……」

 

 如何にも私は不服ですと言いたげな表情をする一夏。それを軽く流しながら遠くより微かに花火の上がる音を聞く。人が周りにいない分、音も通りやすいってやつなのか。そこら辺はよく知らん。むしろ俺より数馬の方が得意分野である。幼女の声を聞き逃さないために特殊な訓練を受けたあいつは凄い。幼女の声が聞こえたとか言って時々授業とか抜け出すし。そんな馬鹿げたことを考えていれば、不意に視界一面を光が迸る。ほーとーばーしーるあついぱーとすーでー。

 

「うわぁ……」

「……」

 

 うん。単純に一言。やっぱ花火って綺麗だわ。光のあれがうんたらかんたらとか夜空に映える閃光がどーたらこーたら何て小っ恥ずかしいことは言わねえけど。あえて感想を言うとすれば、やっぱり綺麗の一言に尽きる。無駄に言葉を並べ立てる意味なんてねえだろ。普通に綺麗だから綺麗なんだよ。いいね、花火って。こう、直ぐに消えていく感じが凄くいい。俺の命の灯火みたい。なんなの、重病患者か何かですか俺は。折角のいい雰囲気が台無しだぞオイ。

 

「何度見ても綺麗だよね」

「……あぁ」

 

 どうやら一夏も同じ心持ちなようで。ふむふむ。ちょっとはセンチになってます? ならばその心に漬け込んで一つ悪戯をしてやろう。このモテない系男子蒼くんが前世に同士たちからアンケートを無理矢理集計した結果に叩き出された『彼女が出来たらしたいシチュエーションランキング童貞ver』にて堂々の第三位に輝いたこれをするチャンスは、今しかないと思うのです!

 

「何度見ても綺麗だよな、一夏は」

「……ふぇ?」

 

 未だ上がり続ける花火の音に遮られることもなく、その一言は妙に透き通って伝わった。言われた本人はぽかんと口を開けて此方をまじまじと見詰めてくる。言った台詞が信じられないのか、それとも何こいつとか思っているのか。多分後者の方が確率としては高い気がする。自分のスペックは自分が一番知ってるからね。ちょっと顔が赤いような気もするけど、多分花火の光によるせいだろ。むしろそれ意外にどんな理由が。

 

「なーんて、冗談だ──いてぇっ!?」

「……」

 

 無言で腕をつねられました。

 

「何すんだお前。地味にじんじんするんだけど」

「人をからかう蒼が悪いよ」

「からかわれて割と本気でつねる馬鹿がいるか」

「だってその冗談一切面白くもないし」

 

 ちょっとこの子辛辣過ぎません? もうちょっと優しくしてくれてもええんとちゃう? 友達同士のふざけ合いの範疇やぞオイ……。別に本気で一夏のこと口説いた訳でもあるまいし、一夏も俺に口説かれて嬉しい訳無いだろうし。特につねられる理由が思い当たらないんですが……。はっ、まさか最近流行りの理不尽系暴力ヒロインってやつか。現実では嫌ですねぇ。

 

「理不尽な暴力……」

「違うもん」

「じゃあ何でやったし」

「分かんないよそんなこと」

 

 どうして自分で分からないんだ(困惑)。俺が悪いのか? 自覚症状のない俺が悪いんですか!? いや、でも一夏の方が悪い可能性も微粒子レベルに存在……してたらいいなぁ。うん。多分これ、俺が悪いんでしょ。からかったのは自分な訳ですし。その理由は知らんが。




いちかわいいは永久不滅。例えこの作品が終わったとしても、第二第三のいちかわいい小説が……ある、はず。あるよね?(期待)

一時期ホモホモしかった感想欄が今となってはいちかわいいで埋め尽くされる始末。どうしてこうなったんでしょうねぇ……。段々と皆いちかわいいに目覚め、そして周りをいちかわいいにしていく。ゾンビみたいっすね。

取り敢えずいちかわいいイラスト最高じゃないっすかね(恍惚)


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新学期初日の怠さは異常だと思うの。

後でちょっと修正するかも。


 夏が終わった。より詳しく述べるとすれば夏休みが終わった。何とかギリギリ課題は全部終わらせたとはいえ、長期休暇の終わりというのは憂鬱だ。今日から学校。そう思えば思うほどにテンションはだだ下がりする。後に午前中だけということでほんの少しだけいつも通りに戻る。むしろ初日から六時間も授業があってみろ。大多数の生徒によるボイコット起きるぞ。我々はー! 始業式初日からー! 勉強することをー! 拒否するー! 学生の本分は勉強ではなく青春だとー! 今ここに声高らかに宣言したーい! ははっ、青春を謳歌せしリア充どもよ。砕け散れ(アニメヒッキー感)。もしくは爆発しろ(原作ヒッキー感)。

 

「学生の本分は学校を嫌だと思いながら行くことだと思うんだよなぁ……」

「何その暗い考え。もっとポジティブに行こうよ」

「俺は女性が苦手。でもこの容姿のお陰で女性からの接触は少ない。こんな惨めな体に生まれて良かった」

「すっごいネガティブ……」

 

 うーんこの。なんか調子上がんねぇなあ。やっぱり夏休み明けだからか。色々とテンションがぐだぐだしてた頃から変動しないのであります。プールやら海やらにも行かずに部屋で殆ど過ごしてたし。一夏も女の姿でそこらに行くのは嫌だろうし。やだ、友人を気遣えるとか植里くんかっこいい! 抱いて! どう足掻いても幻想。そんなこと行ってくれる子なんていません。

 

「ま、最近は女慣れしてきたけど」

「それだけ言うとなんか変態っぽいよ」

「男子中学生なんてみんな変態」

「多分違うと思うなぁ……」

 

 お前何言ってんだ。男子中学生の八割は野生の猿と同レベルだぞ。頭の中はオナニーとセックスで埋め尽くされてる性欲の化身ですよ。普通なら伏せていく単語を敢えて堂々と使っていくスタイル。変に伏せるくらいならもうぶっちゃけた方がいいじゃない。よくない? なんか頭良い風に思えてきた。別にパスタを茹でながらゆっくりと射精したりはしないけど。うん。下ネタが多すぎるなこれは。自重自重。健全な男子中高生のためにも健全な小説であらないとね。プライオリティの高いそれを重視することで他の作品よりアドバンテージをとり緻密に練られたアジェンダのもと書き続けることをコミットした上でタイトになった場合はリスケしていく。頭良いというより意識高い()ですねぇ……。

 

「さて、一体何人が夏休み課題と奮闘しているのか」

「弾は確定としてね」

「あいつマジでやってこねぇからな……」

「私たちに見せてもらえるからでしょ」

 

 五反田くんはいけない子。同じ名前を持つ者として馬神くんを見習いなさい。さっさとダブルブレイブ(意味深)するんだよおうあくしろよ。男じゃ無理? そこに食べ物を入れるところと出すところがあるじゃろ? あとは……言わずとも分かるだろう。男だらけの3Pとかマジで誰得だよ。つーか下ネタ自重出来てねぇな。下らんことを考えていればいつの間にか教室前まで辿り着いた。ガラリと引き戸を開けて挨拶。

 

「うーっす」

「おはよー」

 

 前者のやる気無さげなのが俺。後者の地味にほんわかしてるのが一夏。これだけで圧倒的な差が出てくる不思議。やっぱりイケメンには勝てないんやな、例え性別が変わろうとも。俺がTSしたところで特にこれと言った特徴も無い地味子ちゃんになりそうですし。家事とかも軽くしか出来ませんし。一夏ちゃんと比べたら凄く低スペックなことが露呈してる。ぶっちゃけこいつが凄すぎるだけなんですけどね……。

 

「おー、仲良し二人おは……て、誰?」

「おはよう一夏ちゃん……と、誰?」

「朝から可愛いな一夏……で、誰だ?」

「一夏ちゃん可愛い……と、誰や?」

「おう一夏宿題見せ……え、誰それ?」

 

 集まる視線。並び立つ疑問符。どうして俺の姿が認知されてないんですか。もしかしてこの数ヵ月でとっくに記憶から消し去ったんですか。やめてくれよ。心が叫びたくなってくるだろ。てか現在進行形で叫んでる。悲痛な叫び声が体の中に木霊してるよ。そんなにも俺は要らない存在でしたかそうですか……はぁ。鬱だ、死のう。

 

「いっそ殺してくれ……」

「あ、蒼の目からハイライトが!?」

 

 最後はどんな死に方がいいかな。定番で首吊りってのもいいんだけど、リストカットも捨てがたい。むしろもう一回車に突っ込むか? 高所から飛び降りれば痛みは感じないらしいしありだな。しかし歩行者を巻き込む危険を考えるとやっぱり自室で首吊りか。よし、帰りにホームセンターによって作業用ロープでも買おう。

 

「え? 植里くん?」

「うっそ、マジで? 植里!?」

「嘘だと言ってよ、バーニィ」

「ほぇー、植里眼鏡かけたんかワレ」

「あ、蒼か。よく見ればうん。分かるな」

 

 何その微妙な反応。なんなの、やっぱり俺の眼鏡姿って合ってないの? ただでさえ酷い容姿がもっと酷くなってたりするの? やめて(本音)。やめて(切実)。そんなのうっかりまた死にたくなっちゃうだろオイ。もぅマヂ無理……リスカしょ。ちくしょうが、明日からはコンタクトにするよそれで良いんだろ!

 

「……そんなに似合ってないんすか、眼鏡」

「いや、その、なんというか……」

「知的に見える……というか……」

「クールな人っぽい……」

「COOL! 最高だ! 超COOLだよアンタ!」

「はいはい君はこっちでスナイプされようねー」

 

 あら、思ってたより……というか思ってた以上に評価が高くない? 嘘やろ、たかが眼鏡かけただけでそんな人の印象なんて変わるかよ。鏡で確認したけど普通に眼鏡かけてる俺くらいにしか思わなかったぞ。一夏だってわざとらしく微笑みながらいいんじゃないくらいしか言わなかったし。もしかしてここは俺の夢の世界である可能性が……ねぇな。普通に感覚とかあるもの。

 

「うん、似合ってるよ植里くん!」

「あざーす」

「まともになったじゃないか」

「うっす」

「これでやっと顔が見れるね!」

「お、おう……」

 

 ん?

 

「ふぅ、吐き気を催さなくてすむようになるのか」

「ちょ、ひど……」

「精神が安定するわぁ……」

「うわぁん……」

「泣いちゃったよ……」

 

 何なのこの波状攻撃。一回ガードしても連続でごっそ削られるんですけど。性能+2は必要ですね。こんなのまともに受けたら貫通ダメージの大のけぞり間違いなしだよ、心が。まるでナイフを突き立てられた気持ちです。誰か傷付いた俺を慰めてくれないですかね。精神的にも身体的にも。マジで悲しい。愛と哀しみのボレロってやつね。かなーしいーことーがーあるーとー、ひらーくーかわーのーひょうしー。

 

「よしよし、蒼。良い子良い子」

「一夏ぁ……お、おぉ……おおぉ……ッ!!」

「うんうん。泣いて良い。泣いて良いよ」

「おっぱい……」

「蒼なんて知らない」

 

 ぺいっと投げ捨てられた。教室の床にケツを打ち付けて痛い。いやだってあれは誰でも意識しちゃうでしょうがよ。女の子に頭抱えられてよしよしされたら大抵は当たりますしね。お胸が。乳が。おっぱいが。男たちの夢と希望を詰め込んだのがおっぱいなんだって親戚のおじさんが言ってた。多分というか絶対酒飲んでたけど。いや、しかしながらおっぱいが好きな人に悪い人はいないとも聞くし、となるとおっぱいってやっぱり最高なんやな!

 

「いやぁ、夫婦漫才ですねぇ……」

「はよ結婚しろ」

「式場の予約はした!? ドレスは!? ケーキは!? 初夜の準備はぁぁぁあ!?」

「ステイ。落ち着くんだ。彼らはまだ付き合ってすらいないんだぞ」

 

 なんだか教室の奥の方が騒がしいな(難聴)。うん。ぼくみみがわるいからきこえないんだ。一体何の話をしているのカナー? ぼくには分かんないナー。本当どんな内容なのか気になるナー。……聞こえません聞こえません。あんなカオスじみた言葉なんて聞こえないの。

 

「でも、本当似合ってるから安心して」

「あ、はい。お世辞でも嬉しいけど」

「お世辞じゃないんだよね……」

「え、マジ?」

「結構マジ」

 

 やったぜ。普通に喜ばしいことなので自然と顔がにやける。と言っても必死に誤魔化そうと全力を尽くしているので、軽く微笑むくらいに留まっていると思うが。周りの反応を見ても引かれている様子はない。むしろ呆然とした様子で此方を覗いている。え、なに? 俺なんかやったの? 内心首を傾げていれば、不意に手の甲をぐいっとつねられる。犯人は勿論こいつ。

 

「なにデレデレしてるの」

「へ? いや、別にしてねえよ」

「してたよ。分かるもん」

「いやしてねぇって。つーか何でお前怒ってんの?」

「……分かんない」

 

 最近の一夏。分かんないけど行動に出ることが多い。これって何かの前触れとかですかね。




知人にこの小説がバレてホモと呼ばれた私が通りますよー。こんな作品書いてるやつがホモな訳ないんだよなぁ……(確信)ほら、これって健全で真面目な純愛小説じゃない? よって作者はホモじゃない。Q.E.D.証明終了。

ぶっちゃけイチャラブ足りてないような……足りてないよね? 頑張るから今は耐えてくれ。ほら、ホモは我慢強いってよく言うし(てきとー)


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体を育む祭と書いて。

(´・ω・`)すまない。まだ入荷出来ていないんだ。本当にすまない。代わりと言っては何だが、この年上モノ同人誌でも読んでいてくれ つ[ウスイホン]


 早いことで九月も終わりが差し迫り、本格的に秋の訪れを感じ始めた。秋と言われて思い浮かべるものは沢山ある。学校行事やイベントなどの多いこの季節は、地味ながら様々な魅力に満ち溢れている。秋は飽きない(ここ笑うとこ)。例えば食欲の秋、例えば読書の秋、例えば芸術の秋。だからと言って何でも秋にこじつけて良いって訳ではないが。ロリコンの秋ってなんだよオイ。ロリコンはいつだってロリコンだろJK。いや、ここはむしろロリコン的にJSと言っておくべきか。意味通じなくなってくるからやめよう。という訳で、何がという訳なのかという無粋な突っ込み♂はご遠慮させていただき、今日は二学期を代表する二大行事の一つ。スポーツの秋。つまるところ体育祭である。

 

「くっそ怠い」

「最初からやる気ゼロだね……」

 

 入場行進だけで疲れました(引きニート感)。軍隊とか自衛隊に所属してる人って凄いのね。中学の体育祭の入場行進なんてまだ軽い方。千冬ネキが見たら何か感じるものとかあるのかね。今日千冬ネキ来てるのか知んないけど。あ、うちの両親は普通に来てます。めっちゃ気怠げに歩いてたら母さんに物凄い眼力で睨まれた。何あれ怖い。見た目は着物の似合いそうな美人(父親談)だというのに中身はほぼヤンキー。ギャップに萌えろっていうやつ? 萌えない。怖い女の人は苦手。故に千冬ネキもちょっと苦手。

 

「また蒼のお母さんに睨まれるよ」

「それは勘弁。母さんマジで怖いんだよ」

 

 小学校時代に寝坊しかけたとある日の朝。いきなりベッドに蹴りかまして叩き起こされたあの時の恐怖を忘れることはないだろう。地震かと思ったわ。めっちゃビクッてなって起きたけど。その後にすっごい低いトーンで「起きろ」って言われたのも怖かった。あやうく漏らすところだったぜ……。ママン怖い。

 

「で、千冬さんは来てんの?」

「あー……いやー、それが……」

「んだよ、来れなかったのか」

「ううん。えっと……」

 

 首を横にふった一夏は躊躇うように視線を泳がせ、かたかたと震える人差し指を観覧席の一点に向ける。なんだよ来てんじゃねえか。すいーとその道筋を辿っていけば、行き着いたところに腕を組ながら仁王立ちの超絶クール美女が立っている。ただ、結構ガチな雰囲気でカメラ用意してなければ良かったんだけどなぁ……。あんたそういうことするキャラじゃねえだろ。キャラ崩壊は物語崩壊の第一歩って習わなかったのか。全く。あ、よく考えたら一夏が女になってる時点で崩壊してた。なんだよ、つまり何の心配もいらなかったんだな! 千冬さんはいいお姉さんですね(洗脳済み)。

 

「まぁ、ある程度予想はしてたけど」

「なんかもう恥ずかしいよ……」

「そう言うな。良いお姉さんじゃないか」

「貸してあげるよ?」

「遠慮しとくわ。一夏が可哀想だし」

 

 勿論千冬さんが居なくなったらではなく、千冬さんが居る現状でってことで。友人の不幸を望んでいくスタイル。こいつ気遣ったり罵倒したりからかったりもうこれわかんねぇな。複雑な感情に揺り動かされる小学生かっつーの。……うん。この話題はちょっとやめよう。小学生っていう単語を出せば出すほどあいつが乱入する確率が高まっていく。と言っても今頃は見に来ている女子小学生をナンパしてるだろうが。

 

「蒼は普通でいいね……」

「は? お前さぁ、手抜いたら胸ぐら掴んで説教してくる母親のどこが普通なんだよ」

「いいお母さんじゃん」

「全然。怖いだけでしょあれ」

 

 なんてぶつくさ言ってたら妙に覚えのある殺気をぶつけられる。あ、これマズい奴。冷や汗をだらだらと流しながらそちらへと振り向けば、遠くでにっこりと微笑むマイマザーの姿が。変ですね、笑ってる筈なのに恐く感じてしまうんですけど。バグじゃねこれ。いいえ仕様です。ふざけろ。不意に母さんがここからでも分かるくらいに口を開いて、ぱくぱくと何かを喋った。読唇術でも使えってか? んなもん持ってねーよ。

 

(あとでおぼえてろよ、ばかむすこ)

 

 持ってないから。読唇術とか一切分からないから。多分これは俺の勘違いなんだ。偶然口の動きがそう見えただけなんだよ。そうだ。そうに違いない。マジでそうであってくれ。じゃないとぼく死んじゃう。顔面蒼白で突っ立っていれば、隣の一夏が肩にぽんと手を置いた。

 

「蒼、がんばって♪」

「無理です」

 

 どう足掻いても絶望。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『次の種目は100m走です。選手の皆さんは所定の位置についてください』

 

 はい。取り敢えず無難な種目選んで楽しようとした俺参上。ただ走るだけとか何それ簡単やん。そう思っていた次期が俺にもありました。別にそれ自体はその通りだったので特に問題は無い。マジで100m走るだけ。問題はその一緒に走る奴だった。右を見てみよう。観覧席の綺麗なちゃんねーを見ながらケツがエロいだの胸がでかいだのと宣う五反田弾(生粋の変態)。左を見てみよう。観覧席の愛くるしい女子小学生に向けてはにかんだ後にキリッとした表情を作ってキャーキャー言われてる御手洗数馬(生粋のロリコン)。それらに挟まれるのは最近夏休みデビューしたと校内で結構真面目に有名な植里蒼()。残りの二人は確か美術部と吹奏楽部。どっちも文化系。そこはまぁ良いとして、何だこの局所的混沌(カオス)。混沌過ぎて思わずもう少しで這い寄っちゃうところだった。ふぅ、危ない危ない。

 

「ふふ、ここで格好付ければ俺にもチャンスがッ!!」

「見守ってくれてるあの子達の為にも頑張らないとな……」

 

 うー、にゃー! 果てしなき混沌。どうして君たちは妙にやる気を出してるんですかね。俺はもう体育祭ってだけでテンションがた落ちしてんのに。なんなの、欲望の為ならそこまでやってのけるの? いや、一人は紳士的心持ちからだけど。うん。ノーマルよりロリコンの方が格好良く見えるってこれどういうことやねん。数馬さん本当あんた幼女キラーしてるね。普段一体どんな行動してんのお前。

 

「なぁ、蒼」

「なんだ(変態)

「──絶対ェ負けねぇぞ」

「あ、うん。頑張れ」

 

 駄目だこいつ早く何とかしないと。

 

「なぁ、蒼」

「なんだ数馬(変態紳士)

「──真ん前から打ち砕く」

「これは競争なんですがそれは」

 

 お前の自慢の拳は別にいいから。天下無敵の力なのは承知の上ですから。残念ながら俺はそれを正面から切り裂く唯一無二の力なんて持ってません。一般人だから。どこにでもいる普通の人間だから。

 

「次の人ー」

「あ、うーっす」

 

 そうこうしている内に俺たちの出番が回ってきた。回ってきてしまった。母さんの機嫌をとるためにも本気で走らなければいけないのだが、馬鹿二人の全力全開は全くの予想外である。このままじゃ一位をとって何とかお仕置きを回避するという俺の素晴らしい作戦がパーだ。是非ともご勘弁願いたい。加えて変態どもに邪魔されたとなるとマジでキレそう。プッツンいくぜプッツン。オラオラ。テメェらの頭上にロードローラーとタンクローリー落としたろか。なんてぶつくさ文句を垂れていた時だ。

 

「蒼~! がんばって~!」

 

 ぶんぶんと手を振りながら大声を張り上げる一夏の姿を視界の端に捉える。付け加えるとぶんぶんだけではなくゆっさゆっさもあったと言っておこう。何が揺れてるのかはご想像にお任せします。ただ一つ、母性の象徴ということだけは言っておこう。なんか元気出てきた。

 

「……よし」

 

 男子中学生なんてみんな変態。そしてエロを力に変えていくどこぞのハーレム王然り、特殊性癖の静かに暮らしたい人然り、変態は大抵強い。つまり男子中学生の大半は強いということだな。性欲がさいつよ。他には何もいらない。この歳の男はえっちぃことだけ考えてれば全部上手くいくんだよ!

 

「位置についてー、よぉーい……」

 

 一夏の声を聞いたからか、派手に揺れるおっぱいを直視したからか。なんというか、しない。確信すら持って言えるまでだ。頭は冷えて落ち着いてるのに、心は熱く萌え上がってる。あと燃え上がってもいる。しねぇな。全然。負ける気が、しねぇ。

 

「ここで勝って絶対にモテてやるんだッ!!」

「美幼女の前で格好付けてこそ男だろう?」

「友人の期待に応えねぇ訳にはいかねぇよなぁ!」

 

 弾、数馬、俺。バラバラの思いを胸に、全員が同時にスタートを切る。たかが100m。されど100m。全身全霊を尽くして行われた勝負の行方は、その後の母さんからのお仕置きが無くなっていたということだけ言っておく。




圧倒的にイチャラブ成分が足りてませんね。そろそろ通常補給に加えて臨時補給すべきでしょうか。まぁ、思い付いたらひっそりと書くと思いますけど(フラグ)

(二人のイチャイチャが)まだだよ、こんなんじゃ全然満足できねぇ。足りねぇなぁ! そう思うだろ? あんたも!

ちなみに察しのいい┌(┌^o^)┐は気付いてると思うけど、主人公の保護者がいて主人公と一夏が一緒にいて一夏の保護者がいる。となれば家族で食事をするのは当たり前。

次回ッ!! 炸裂! 一夏ちゃん特製愛妻弁当! (特に変更の無かった場合)


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家族で食べようお弁当。

 午前の種目が終われば昼休憩と弁当である。午後に向けてもう一頑張りするためには重要な時間だ。といってもやる気なんてあまり無い。どうして休みの日に態々体を動かさなければいけないのか。休日出勤ならぬ休日登校は憂鬱以外の何物でもない。就職希望の学生さんたちはせめて完全週休二日制くらいはきちんと調べて知っておくんだゾ。お兄さんとの約束。兎も角として100m走を思いっきり駆け抜けたからか、何時もより腹が減っている。だったらどうする? 答えは一つだ! 弁当を用意する、箸を握る。そして、飯をかっ喰らう!! いかん、数馬のナニカが伝染ってきてる。とまぁ、そんなこんなで折角の家族団らん。開放されてる体育館でご飯を食べることにした俺なのだが、いつの間にか織斑家まで交ざってた。一体どういうことなの……?

 

「すまんな一夏ちゃん。うちの馬鹿息子がさぞ迷惑かけたろ」

「い、いえ、むしろ助けられてるくらいで」

「ほう、それなら良いんだが……なぁ? 蒼」

「あの、母さん。怖いっす」

 

 ギロンとガン飛ばしてくるマイマザー。女性なのにそこらの男より男らしいっす。口調もどちらかと言うと男寄りだし、母性仕事しろと言わんばかりだ。これでも甘えん坊らしいのだから女性って分からん。ソースは勿論マイファザー。母さんの隣でニコニコしてる優しくて真面目そうな顔の人がそうです。あんたら性別逆じゃないんですかね。母さんが引っ張って父さんが支える。女尊男卑だから一応合ってんのか……? つーかそれで良いのか父さん。男としてのプライドとか無いの? と言っても実に現状で満足そうだから良いんだろうが。

 

「まぁまぁ。蒼だって頑張ってたし、今日くらい許してあげたら?」

「……ちっ。今回だけだぞ」

 

 ナイス父さん。流石は未だ尚新婚夫婦感を漂わせる二人。家にいる時はナチュラルにメンタル削られて凄く辛かった。息子の前でイチャつくんじゃねえぞオラ。父さんから美女だの大和撫子だの言われた母さんが頬染めながら罵倒する光景とか本当どこのツンデレヒロインかと思ったわ。しかもそれを全部分かってるよって顔でニコニコ笑って受け止める父さんも父さんだが。

 

「本気出すんなら最初からやってろっつーんだ」

「なぁ父さん。どうしてうちはこんなにもスパルタ教育なんだい?」

「母さんなりの愛情表現だよ、蒼。怒られているうちが花とも言うじゃないか」

 

 激しい愛情表現ですね(白目)。そんなこと言うもんだからまた父さんが母さんの照れ隠しを受けてる。横から肘で脇腹どつかれても笑ってられるマイファザーは世界最強の男性かもしれない。多分内心で照れてる母さん可愛いとか思ってんだろうなぁ。カップルかあんたら。

 

「千冬も。こいつに何か失礼されてないか」

「その質問が息子に失礼なんですが……」

「いえ、立派な息子さんですよ、蒼さんは」

「へぇ……こんなのがねぇ……」

 

 呟きながらちらっと視線を向けてくる母さん。心が、心が痛いよ。転生者だからといっても一応は育ての親なのである。色々とあれな感情があると言うのに、それを全てぶち壊す勢いだ。あと千冬さんが久々に真面目モードしててちょっと違和感。さん付けで名前呼ばれたのこれが初めてだよ多分。いっつも名字でしか呼ばれないからね。

 

「千冬姉、いつもああなら良いんだけど」

「無理だろ。ネジ外れてるもんあの人」

「言わないで。なんか悲しくなってくるから」

「頑張れ一夏ちゃん」

 

 一夏がTSしてからのあの人はリミットブレイクしてるからしゃーない。多分あれでダメージ入ったんだろうね。千冬さんはリミットブレイク4。もしも5だったのならばセーフかも知れなかったというのに。

 

「つかぶっちゃけ飯食いたいんだけど」

「あぁ、はいこれ」

「お、サンキュー。マジで空腹感がヤバイ」

「あれだけ頑張ってたからね」

 

 そりゃあな。一人の男子中学生としてあのシチュエーションを頑張らないのはありえねえ。結局変態三人と普通二人というマジ混沌とした100m走になったけど。参加者のうち三人が不純な動機で走るとかこの学校の体育祭どうなってんの。しかもその不純な動機で走った奴が一位とるんだから本当ふざけてる。いや、俺たちの目線で言えば当たり前とも言えるが。基本変態はチート性能持ってるからね、仕方無いね。

 

「なんだ、お前弁当作ってもらったのか」

「まぁ、いっつも飯作ってもらってるし」

「ふぅん……いっつも(・・・・)、ねぇ……?」

 

 ニヤニヤと笑う母さん。やっぱりこの人どう足掻いてもこえーわ。実に愉しそうですね。僕は全然愉しくありませんけど。小さい頃はもっと可愛がってくれてたんだけどなぁ……それこそ親馬鹿かってくらいに。あの時の愛情は一体何処へ。一人息子なんだからもっと優しくしてくれていいのよ? つーかして下さい。愛されてないのかと思っちゃうだろ。

 

「良かったじゃねえか、蒼」

「いや、なにが」

「お前の一番の懸念事項が消えて私は嬉しいよ」

「全く意味が分からないんだけど」

 

 え、唐突になに(非リア特有の鈍感)。なんか良く分からんけど取り敢えず俺に関することなんだろうってだけは察した。でも一夏に飯作ってもらってるのと全然繋がらないんですが。なんなの、俺の一番の懸念事項って一体何よ。栄養か? 栄養が偏り気味な食事をすることなのか? それくらいしか思い浮かばねえ。しかしおかしいな。母さんには俺の不摂生自体バレてない筈なんだけど。バレたらどうなるかって? それこそ火を見るより明らかじゃないっすかね。

 

「蒼。はい、お箸」

「ん、さて。いただきまっす」

「ちゃんと味わってよ?」

「了解了解」

 

 早速いただこうと箸を握れば、不意にぽんと肩を叩かれた。見れば父さんが慈愛の表情で此方を向いている。何だか分からないけどやっぱり父さんは優しい。厳しくしてくる母さんとは大違いだ。いや、どっちも好きと言えば好きですけどね。こんな俺を放り投げずにきちんと育ててくれた人達だもの。愛のムチなんでしょう? 分かってる分かってる。

 

「良かったね、蒼」

「父さんまで何なんだ……」

「大切にするんだよ? お父さんとの約束」

「うん。一体何のこと?」

 

 うちの両親はどうしちゃったの(モテない系男子特有の鈍感)。大切にしろと言われても何を大切にすればいいのか。体か? 体を大切にしろってことか? 確かに事故ったからそんな心配されても仕方無いけど。むしろそれ以外に何かあったっけ? 俺が大切にしなきゃいけないモノとか精々命と平穏とベッド下の同人誌くらいしかないけど。なんか最後だけやけに具体的やな。年上モノ同人誌……一夏ちゃん……馬乗り……逆レ……うっ、頭痛が(唐突)。これ以上はいけないと第六感的な何かが必死に訴えてる気がする。

 

「千冬、うちの息子を宜しく頼む」

「宜しくお願いします」

「いえ、此方こそうちの一夏をお願いします」

「あぁ。無理矢理にでも大切にさせる」

 

 何だか保護者組がこそこそと言い合ってますね。なになに? やっぱり男らしさ溢れる女性として通じ合うものでもあったの? けど千冬さん。先に言っとくけど母さんはあんたほどチートじゃないよ。精々が素手でリンゴを簡単に潰せるくらい。うん。どこが大和撫子の美人だって話だ。アイアンクローとかされた日には頭痛が治まらなくなる。頭蓋骨凹むからやめてほしいです。

 

「あ、蒼。ほっぺにソース付いてる」

「マジか、どこよ?」

「ここ」

 

 一夏がつんつんと右のほっぺをつつく。そんなとこにソース付けるとか俺は小学生か。仕方無いのでティッシュを一枚取り出して右頬の適当そうな場所にそっと当てる。一夏の示した通りなら多分ここなんだが。よし。多分拭けた。取れたかという確認の意味も込めて視線を向ければ、くすっと笑って近寄る一夏。え、なに。

 

「違うって。ほら、貸して」

「え。あ、うん……ほい」

 

 言われた通りティッシュを渡す。受け取った一夏はそれを丁寧に畳んで整え、そっと俺の左頬を拭う。近い。何が近いって一夏の顔が近い。思わず少しだけ身を引いちゃったわ。いつまでもチキンな童貞の鏡。この不名誉な称号を捨てられるのはいつになるやら。最後にちょんちょんと軽く当てるようにして、まじまじと見詰めたあとににこぱーっと笑顔。

 

「うん。取れた」

「ぉ、おう。サンキュー……」

 

 何だこれ。何だこれ(錯乱)。ちょっとお前スキンシップが明らかに友達の範囲を越えてない? 気のせい? どちらにしろ俺の心臓に悪いことだけは事実だ。夏休みにもごりごり削られたのに二学期に入ってもごりごり削られるとか聞いてないんよー。このままじゃSAN値がマッハで直葬コース。お前いい加減可愛いことを自覚しろや。だから唐変木なんだよ。

 

「中学生のくせに甘いなぁオイ」

「僕たちも似たようなもんじゃ無かったっけ?」

「一夏の明るい笑顔……やっぱりいいなぁ……」

 

 一人方向性違うんだけど。




いち……かわ……(白目)パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだか、とてもいちかわいいんだ……(末期)

夢でポンポン持った一夏ちゃんにふれーふれーされながら必死に小説書いてたどうも作者です。多分精神状態おかしいんです許して下さい。あんな素晴らしい絵を描いてくださった絵師さんたちが悪い(褒め言葉)

みんなのために……はやく……イチャラブを……


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シリアスなんて犬に食わせておけ。

先に言っておきます。本当にすいませんでした。


 はてさて長かった体育祭も残すところあと一種目。最後の団対抗リレーのみである。これまでに男子の騎馬戦だったり女子の小綱引きだったり野郎共の組体操だったり淑女たちのダンスなんてやった訳だが、それらを押し退けて一番の見所と言えるかもしれない。いや、ごめん嘘。普通に女子のダンスとか見てる方がいいよね。誰とは言わないけどまたあの子は揺らしてた。誰とは言わないけど。何なのあれ。もうゆっさゆっさ本能を刺激してくる。まぁ、俺の理性って結構強いから大丈夫ですけどね。うん。さんきゅーりっせ。りっせってなんや。兎も角として基本的に高得点が設定されているこのリレーな訳だが、ここで一つアクシデントが発生。

 

「あぁぁん♡」

「!? おいお前! どうした!?」

「アシクビヲクジキマシター」

「……なん……だと……」

 

 出場予定の生徒の霊圧が消えた。しかも俺たちが率いている側。相手の方だったならどれだけ良かったことかと悔やむゲス野郎共(体育会系)を取り敢えず冷めた目で見て、これは不味いなーと他人事のように考えた俺はやる気なしの屑。結局誰もが人間くさくなっちまう状況なんですぜ、へへ……。とまぁ、ここまでなら良かっただろう。いややっぱ良くねーわ。どちらにせよ問題はその後である。

 

「補欠のやつは!?」

「午前中の競技でアシクビクジいてる」

「なにやってんだてやんでぇッ!!」

「ヤーレンソーラン」

 

 凄く……混沌(カオス)です……。まさかの補欠までアシクビクジく始末。からの混乱に乗じて一部男子生徒がソーラン節をし始める。あ~どっこいどっこい。ここまで酷い体育祭なんて見たことねえ。来年からは男子の種目でソーラン節やればええやん。みんなやりたいからやっとるんやろ? え? 違うの? あれ慣れないと股関節くっそ痛くなるんだよなぁ……。

 

「くそっ……一体どうすれば……」

「そういえば午前中に凄く早い奴がいたよなー、チラッ」

「女の子に応援されて本気だした奴がいるなー、チラッチラッ」

「馬鹿ップルみたいなことしてる奴がいたなー、チラッチラッチラッ」

 

 おい馬鹿こっち見んな。この時点でたっぷりと嫌な予感がしていた、というか的中率九割は軽く越えてたと思う。この流れ、もう誰にも止められない。もしも俺に母さんみたいな強さと父さんみたいな優しさがあったのなら別だろうが。普通は逆なんですけどね。うちの家庭は本当少しおかしいぜよ。これが普通とか言われた暁にはIS世界ってこえーとか言ってテノヒラクルーする機械に成り果てますけど。

 

「んだよ、俺はやらねーぞ」

「頼むよ蒼ぉ! おねがぁい!」

「やめろ男がやんじゃねえ。そういうのは女子がやるもんだろうが!」

「お前ら女子持ってこい」

「やめろください」

 

 女子にそんなこと言われたらやる前にやられる気しかしない。一夏と接し続けて少しは慣れたとはいえ、やはり前世からの苦手意識はそうそう克服できるものではない。女の子はマジで苦手なのよ。嫌いじゃなけど。嫌いじゃなけど。きらーいじゃないけど精神的にむりぃ。ギャグふっる。

 

「ほいほい一夏ちゃん持ってきたぞ~」

「ナイス」

「Niceboat」

「ナイスよナイス! ヴェエエリィィイイナイス!」

「えっと……なにこれ?」

 

 ドゥヒン☆なんだ一夏か(安堵)。こいつなら慣れてるし特に問題ないな。適当にささっと済ませて早くこの混沌世界(カオスワールド)から抜け出そうそうしよう。凄い中二病感溢れてんなコレ。光と闇が合わさって最強に見える。人は五分だ五分だと言うけれど本当は七三位が丁度良い。ザ・センターマン! うん。ちょっと今回はギャグ多めなので次長課長。じゃなくて自嘲。ちげーよ自重だろうが馬鹿。どんだけセルフ罵倒を望んでるの俺。

 

「織斑、頼みがあるんだが」

「あ、うん。なに?」

「そのだな……ごにょごにょ……」

「うんうん……え? いや、それは……」

 

 少し戸惑った様子を見せる一夏。若干恥ずかしそうなんだけどお前一体なに言われたの? お兄さん凄い気になるんだけど。おっぱい? それともいちぱい? いちぱいは大きいからね、仕方ないね。触り心地も最高だと思う……んだけど、一夏の胸……触る……うっ、急に頭痛ががががが。今日はちょっと頭の調子が悪いな。よって俺はリレーなんて出ない! 終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!

 

「頼む、俺たちを助けると思って」

「お願いだよいちえもーん」

「お願いします何でもしますから」

「ん?」

「今」

「なんでもするって……」

 

 その無駄な連携やめーや。男共に頭下げられてなにかを頼み込まれた一夏は、少しして諦めたようにため息をつく。まぁ仕方ない。こいつら諦めの悪さだけは一級品ですから。ぐっと覚悟を決めたような表情で、一夏がくるりと此方を向く。視線がぶつかる。目と目が合う~しゅーんかーんすーきだーと(ry ふぅ、自重自重。

 

「ねぇ、蒼」

「あぁ~ん? んだコラァ」

「──私、蒼のカッコイイ姿見たい……かも」

 

 ぽっと頬を染めて、胸の前で人差し指をつんつんしながらそう言う一夏。ふっ、馬鹿め。お前の可愛さなんぞとうの昔から知っておるのだ。その程度でやられる俺じゃない。甘い、甘いんだよぉ! かき氷のシロップ原液で飲んだ時くらい甘いなぁオイ! 返答。

 

「ちょっと走ってくる」

「うん、頑張って」

『うおっしゃぁぁああああッ!!』

 

 やっぱり一夏ちゃんには勝てなかったよ……。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 つーわけで植里リレー出るってよ。全くやってらんねぇよこんちくしょう。運動は大事。それは分かってる。板東は英二。それも分かってる。でも運動は苦手なんだって察して。あれだけ早く走れたのも偶然に偶然が重なっただけですし。こんな展開で活躍できるの転生チートオリ主くらいだぞ馬鹿野郎。転生してもチート持てないカスオリ主では相手にもならんのです。戦闘力たったの五……ゴミめ、展開しか待ってない。

 

「頼むぞアンカー」

「マジでおかしいっしょ……俺だよ?」

「大丈夫。織斑が応援してくれる」

「いや、それ普通に関係ねえよオイコラ」

 

 行っちゃった……。既にあらかた走り終え、残すはラスト二人のみ。やっぱリレーだからはえーよ。つか地味にうちのクラストップ走ってんだけど。え、あ、これガチでマジにヤバイやつだ。プレッシャーとかそこら辺凄まじいやつだ。どうしよう。どうにか教師に掛け合って出場権利もぎ取ったあいつらの苦労も今まで走ってくれた走者の努力も全部水の泡とかあり得ねえぞ。冗談じゃねえ。こんな大役俺につとまるか! 馬鹿馬鹿しい! 帰るぞ(死亡フラグ)。ぶっちゃけふざけないとやっていけない。はわわわわ、やばいのです。そうこう言ってるうちにもう出番。ちっくしょ。マジでちっくしょ。

 

「蒼ー! 頑張れーっ!!」

「頑張れよ蒼ー。正直女子じゃねえし興味ねえ」

「頑張れ蒼。正直ロリじゃないので興味ない」

「……」

 

 一夏からの大きな声援。弾からのふざけた声援。数馬からの変態的な声援。そして最後に母さんからの無言の視線。はは、死んじゃいそうだZE☆ 真の英雄は目で殺すって言うけど、母さんってまさか英雄なの? 少なくとも違うと思いたい。安心して。あの人は魔眼なんて持ってないし人格も一つだしごく一般的な普通の女性ですよ多分。男っぽい女性を普通とするのか否かで変わっては来るが。

 

「植里ォ! お前マジ頼むぞ!!」

「うっせぇ余計なプレッシャーかけんなっ!!」

 

 叫びながらバトンを受け取って走る。うん。そうだ、風になれ。風になるんだ俺。なにも考えるな。ただ感じろ。すべてを投げ捨てて風になれば、必然的にゴールテープは切られているのだ。

 

「──これが、モノを殺すっていうことだ」

 

 様々な外的要因により植里蒼の精神状態が悪化したため意味のない言葉を喋りますが基本的に無害なので聞き逃してもらって結構ですはい。自分から忠告出来てるところとか凄い冷静なんて言っちゃいけない(戒め)。

 

「くそっ、植里はええっ!」

「フゥーハハハァ! 待っていたぞジョジョォ!!」

 

 繰り返しますが様々な外的要因により植里蒼の精神状態が悪化したため意味のない言葉を喋りますが基本的に無害なので聞き逃してもらって(ry

 

「追い、つけ、ねぇっ! 俺じゃ足りないってのか!?」

「ああ、足りないね! 全然足りないッ!!」

「な、にっ!?」

「お前に足りないものは、それは──」

 

 すうっと息を吸い込み、叫ぶ。

 

「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そして何よりもォォォオオオオッ!!」

「なっ!? 速く、なっただと!?」

「 速 さ が 足 り な い !! 」

「ちくしょおおおおおっ!!」

 

 三度目となりますが様々な外的要因により植里蒼の精神状態が(ry

 

「勝ったっ! 第三部完ッ!!」

 

 たびたび申し上げますが様々な外的要因に(ry

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ──体育祭、優勝。




こう……さ、我慢できなかったんだ。色々と溜まっていたんだと思う。最初の頃の勢いとか、滞る進捗状況とか、生意気な後輩とか。はい。本当にすいませんでした。次からはきちんと真面目にイチャラブするんで許して下さい何でもしますから。

あ、そうだ(唐突)なんか主人公の両親が感想欄にて凄まじいことになってるけど本編とは関係ナイデスヨ。ええ。てか型月脳多くないっすかね……?


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お祝いはもっと楽しもうぜ。

足りません。いちかわいいが。足りません。

もう少し、もう少し待ってくれ……駄目なら、臨時補給……させてもらいます……(白目)


 その日の夜。言動はどうであれ大活躍をしたことは事実であり、これは祝うべきだと声を揃えた両親と織斑姉妹により俺の部屋でプチパーティー的なものが開かれる予定だった。そう、予定だったんだ。

 

「何か弁解はあるか」

「……いや、あの俺、少食なんで……」

「あぁ?」

「ヒイッ!? すいませんすいません!」

 

 ガン飛ばすんじゃねえよ怖えなマイマザー。もっと気楽で緩やかにいこうじゃないか。そんな風に言えたのならどれだけ良かったことだろう。うちの母さんは怖すぎて逆らうことも出来ませぬ。眼を合わせた瞬間に駄目だコレって悟るくらい。おかしいな、うちの母さんは至って普通の女性な筈なんだが……。

 

「まともな食事も出来ねえのかお前は。インスタントだの栄養調整食品だの」

「べ、便利だから良くないっすかね?」

「は?」

「ナンデモねーです!」

 

 言い訳は良いわけなかった(絶望)。ワイの不摂生なんて母さんにバレる訳ねーだろへーきへーきとか思ってたらゆっさゆっさ揺らす誰かさんが告げ口してくれやがった。なんてことしてくれんのお前。オイコラ、お前だよキッチンに立って鼻唄交じりに鍋振ってる美少女。ふぁっきゅーいっち。味方だと思っていたのに……オンドゥルルラギッタンディスカー!

 

「食費もきちんと渡したよな、諸々とは別で」

「うっす。きちんと受け取りました」

「浮いたそれを何に使った」

「…………ご、娯楽のために……」

「殺すぞ馬鹿息子」

「ひえっ」

 

 何故だろう、一瞬凄い寒気が走った。そんな簡単に人を殺すことって出来ないと思うんだけど。つか自分の息子本気で殺そうとは思わないでしょ、普通。母さんが普通かそうでないかは置いといて。妙に迫力のあるものだからナチュラルにビビったわ。くそ、失礼だがやっぱりこの人を可愛いって思える父さんの感覚が分からない。これが愛のムチだって? 愛のナイフとかの間違いだろ絶対。

 

「と、父さん! 助けて!」

「残念。これはお父さんも少し」

「いやーッ!?」

 

 父さんも敵に回してしまったらもうこの世に味方なんて居ません。あ、これ死んだわ。覚悟完了しちゃいそうだわ。この年で逝くなんてとても不運な人生ですね。長生きはしなくて良いからせめて童貞を捨てて死にたかった。誰か俺にDT捨てさせてくれませんか。男になりたいんだよ。ちくしょう。こんな理不尽があってたまるかってんだ。俺は、俺は転生者だぞ!?(踏み台感)こんなふざけた幻想今すぐぶち殺したい。そげぶやそげぶ。

 

「あの、一応蒼も反省してますし、今は私がご飯作らせて貰ってるので。えっと、今はその辺で……」

 

 め、女神や。女神が美味そうな料理を持って降臨なされた。直ぐ側には付き人の騎士も見える。ただしものスッゴイパシャパシャフラッシュ焚いてるけど大丈夫かアレ。別にエプロン姿の一夏とか珍しくも何とも無いだろうに、千冬さんは本当分からん人だ。というかあんたこんな所に居ていいんすか? どこぞの学園の決戦人間兵器としての役割もあるんじゃない?

 

「……はぁ。だとよ馬鹿息子。精々感謝して責任とるんだな」

「うぇ? いや、責任って……」

「あぁ?」

「イエスマイマザー」

 

 なんか良く分かんないけど取り敢えず肯定しておけ。そうじゃないと死ぬもとい殺される。うちの母さんなら殺りそう。いや、殺るぞ(確信)。なんてふざけてみたが実際は多分大丈夫大丈夫。ほら、これでも母さんは普通に女の子らしいから(父親談)。信じられないけど甘えてくる時とかあるらしいから(父親談)。きちんと息子のことを大切に思ってくれてるらしいし(父親談)。あれ、何だか目から汗が……。やだ、泣きそう。

 

「俺って愛されてるなぁ……」

「そんな死んだ目で言っても説得力無いよ、蒼」

 

 言いながら隣に座る一夏。ふむ、そこはかとなく違和感があるな。気になって思い返し、そう言えばこいつはいつも正面に座るのだと気付く。成る程、いつも向き合ってるからコレジャナイ感が酷い訳だ。つーかぶっちゃけ近すぎなんだけど。フローラルな香りと一夏特有の香りの二つが混ぜ合わさった匂いもするし。うん。これは近すぎですわ……。

 

「……なんで俺の横に?」

「え? 蒼が空けててくれたんじゃないの?」

「違うわ。いや、誰情報だよそれ」

「千冬姉が……植里が隣空けてるぞって」

 

 ふぁっきゅーちっふ。ただでさえこいつは最近不思議とスキンシップが増えてるのに、これ程まで近いとかなりヤバイじゃないですか。だって見た目完璧美少女だよコレ。おっぱいぷるんぷるんだよ。中身が男とか関係無くマジモンの女性なんだよ今は。それが今日一日でたっぷり理解させられましたよ、ええ。一夏はどう足掻いても女の子。少なくとも今はだけど。はよ戻れ。俺の精神の安寧のために。

 

「……まぁいいや。嫌じゃないし」

「嫌とか言われたら泣く自信あるよ?」

「ははっ、一夏の隣なんて嫌だわー」

「ふふっ、もぐよ?」

「ヒィァッ!?」

 

 一体ナニをもいじゃうんですかねぇ……。エグいこと言わんといて下さい。せめてち〇こもいじゃうから☆くらい可愛く言ってくれると嬉しい。超期待。どれくらい期待しているかと言うともう物凄く期待してる。期待し過ぎて気体になっちゃうレベル。やべぇな、俺って気化できるのか。ふっ……これが転生オリ主の実力って奴だな……跪け雑種。むしろ自分は跪く側の雑種なんですがそれは。下らんことを考えてたら不意に肩をポンと叩かれる。振り返ればそこには笑顔の父さん。あらやだ奥さん、いつも優しい父さんがちょっと怖い。

 

「蒼、大切にしようね?」

「えっ……あの、それはどういう……」

「ん?」

「アッハイ。大切ニシマス」

 

 やっぱりうちの家族はヤバイ。どこからどう見ても一般的なそれと違ってます。だからこそ俺もここまで普通にやれてるのかもしれんが。そう考えると逆に良かったと思うべきなのかもしれん。つっても母さんのスパルタ教育はマジで勘弁ですがね。もっと優しくして(建前)もっとォ!(本音)あ、いや、優しくする方の意味で。スパルタの方はもうこれ以上望んでないの。お願いだからこれ以上俺を殺さないで。

 

「意外。蒼って親御さんに弱いんだね」

「親に勝てる子供がいるかっつーの。ましてやこんな化け物夫婦だぞ」

「誰が化け物だって?」

「ナンデモナイデスナンデモ。だからやめて母さん睨まないでッ!」

 

 勝てない(確信)。多分この先どれほど時間か経とうと母さんにだけは勝てる気がしない。あとちょっとでも怒ってる父さんとか。加えると最近一夏にも勝てなくなってきてる。おかしいなぁ、基本的身内に弱く他者に強い筈なんだが。ソースはどこぞの変態友人二号。もとりロリコン。何でも浅いところに入れた奴はそこそこの関係として済ませるが、深いところに入った瞬間溺愛するタイプだとか。知らんわ。ぶっちゃけそんな訳ねぇだろうに。俺自身今のところ溺愛してる人間なんて居ないと思うすぃ?

 

「あ……」

「ほい、醤油」

「え? あ、ありがと……良く分かったね」

「何ヵ月一緒に飯食ってると思ってんだ」

 

 それとなくなんか分かるようになったわ。当たり前でもある。マジでこいつとばっかり飯食ってるからなぁ。しかもこいつの作ったものを。毎日そんなんで飽きないのかって聞かれると、普通に飽きないから困る。普通に美味いし結構色んなもの作ってくれるし。こんなんで飽きたとか吐かしてたら一生嫁さんなんて貰えねぇわ。先ず顔の容姿の時点で絶望的ですがねぇ! クラスメートの女子によると多少はマシらしいが。多少はマシ。それを目の前でバッサリ言われた俺の気持ちが分かる?

 

「うん。今日も一夏の飯は美味い」

「ふふっ、ありがと」

「これならどこへお嫁に行っても安心だな」

「お嫁って……ふざけないでよ」

 

 じろっと睨んでくる一夏。ははっ、可愛いやつめ。母さんの殺されそうで死なされそうな視線に一日殆ど晒され続けた俺にその程度で威圧できる訳無いだろう。ちょっとその目を魔眼にしてから出直せ。モノを殺すってことを理解してから出直せ。なんなら教えてやろうか。

 

「まぁ、(植里がもらってくれるなら)安心だな」

 

 ほら、千冬さんもこう言ってる。

 

「……馬鹿息子(コイツ)、本当に理解してんのか?」

「大丈夫だよ。蒼は明確な事実さえ揃えばあとは安心だから」

 

 ほら、父さん母さんもこう……ってどういう意味だそれ。全くもって理解不能すぎる。俺は別に不能じゃありませんけど。付け加えるなら、その後の一夏はちょっとだけ機嫌が悪かったと言っておこう。

 




やめて! 一夏ちゃんの可愛さで蒼の理性を焼き払われたら、同棲まがいなことまでしてる蒼の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで蒼! あんたが今ここで倒れたら、千冬さんや両親との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、イチャラブできるんだから!

次回「植里死す」デュエルスタンバイ!(大嘘)


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実り始めた青い果実。

 朝ちゅん、というモノを皆さんご存じだろうか。その名の通り朝に鳥がちゅんと鳴く様子を表しているわけなのだが、この単語の本質はそこではない。漫画やら小説やらの創作で朝ちゅんというシチュエーションが使われた場合、大体というか九割方というか殆どというか九分九厘というか限り無く高確率で事後である。事前でも事中でもない。事後である。R15、もしくはそれ以下の作品で男と女が性行為をした事柄を簡潔に伝え、また読者の想像をかきたてるこの表現方法は素晴らしいの一言につきる。さて、ここからが本題だ。

 

「……すぅ……すぅ……」

「」

 

 相手が織斑一夏(♀)(自分の友人)だった場合、それは朝ちゅんに入りますかね? え、入る? 入らない? どっちなんだい! なんて冗談も程々に現状の理解に努めよう。昨日は確か体育祭の祝勝パーティー的な感じで迷惑にならない程度にどんちゃん騒ぎをして、流石に遅くまではいけないとのことで9時には解散をした。母さんと父さん、ならびに千冬さんとはそこで別れた記憶がある。なら一夏とは?

 

「……うぐぉ……思い出せ……」

「くぅ……すぅ……」

 

 そう、多分一夏とはその後、後片付けを手伝ってくれるとのことで散らかったマイルームの掃除を一緒にやっていた。かなり時間が掛かってしまい、終わったのが十時過ぎだったはず。うん。ここまではおk。そっからは夜分遅いとかなんとかでうちの風呂を貸してやり、十数分後に出てきたところで──。

 

「……あ」

「うぅん……すぅ……」

 

 電話だ。千冬さんからの電話があった。内容的に詳しくは覚えてないけれど、夜道は危険だから俺の家に泊まれ的なことだったと思う。告げられた瞬間の衝撃はかなりなものでしたけどね。ふざけてんのかと。ここから一夏の家まで歩いて五分とかからねえぞ。どんだけ溺愛してんだこのシスコン。てか溺愛してんなら先ず男の部屋に泊めようとすんな。心臓に悪いわ。

 

「……よ、良かった……」

「すぅ……ぅん……」

 

 マジで心臓に悪い。あやうく勘違いして一夏に土下座かますところだった。最悪切腹する覚悟までしてた。俺みたいな奴がヤったとしても良い結果には繋がらないのよ。強姦罪で訴えられてアウトですね分かります。実はあなたのことが好きだったの、責任とってよね……? みたいな展開はイケメンにしか来ない。つまりイケメンじゃない俺には来ない。完璧だな。自分の頭の良さに思わず震えちゃいそうだぜ。ぷるぷる。

 

「ったく、こいつは暢気に寝やがって……」

「くぅ……ぁお……」

 

 本当に幸せそうな顔で寝てんなこの馬鹿。時々頬が緩んでるし。一体どんな夢を見てるんですかねぇ……。ちょっとだけ気になる。だってこの幸福オーラはかなりヤバイでしょ。出来ることならその幸せを俺にも分けてくれませんか。転生してからというより最近はマジで不幸の連続だと思うんだ。不幸だって叫びたい。別に右手に幻想を殺せる力なんて宿ってませんけど。でもマジでやりたくないことやらされたりめちゃくちゃに巻き込まれるわで不幸なのは事実。はっ。まさか俺って今流行りの巻き込まれ転生者ってやつか……? なるほど、どう足掻いてもマキコマーレ。

 

「おーい、一夏。起きろ」

「ぅうん……むにゃ……」

 

 つんつん。ほっぺぷにぷに。んほぉぉおおお! いちかちゃんのほっぺやわらかいのぉぉおおお! これはクセになりそうな柔らかさ。けれども我慢できる中学生としてここは自重。幾多もの性的欲求を捩じ伏せてきたこのチキン理性は最強なんだ!(雁夜感)いつかこの腐れきった最後の砦を本能がぶち壊してくれることを願っておく。その時が多分卒業の日。

 

「一夏。起きろって……」

「んっ……ふぁ……」

 

 ゆさゆさ揺すれば、くぁっと布団の中であくびをする一夏。未だ意識が覚醒していないのだろう。目をしぱしぱとさせながらぼうっと此方を向いている。見詰め合うこと数秒。もぞもぞと動き出した一夏は、寝ぼけ眼をごしごし擦りながらゆっくり体を起こした。

 

「……あお……」

「おはよう一夏。良い朝だぞ」

「うん……んー……」

 

 次いでぐぐっと伸びをする。おっふ。こいつまたおっぱい強調してんだけど。どんだけ自分のそのふくよかな胸を自慢したいのん? あと視覚的に大ダメージ不可避なんでやめろ下さい。俺のTシャツぶかぶかなんだから色々と考えろよ……起きたばっかりだからしゃあないのか? いやそれでもなぁ……うむ。

 

「おふぁよ、あお……」

「……まだ眠いか」

「うん……」

「まぁ、昨日は遅かったしなぁ……」

 

 寝たのは十一時過ぎてたし。俺としては別にまだ早い時間帯な訳だが、毎日真面目に規則正しい生活をしている一夏からすると遅いに違いない。生活リズムは狂うと結構キツいものがあるからな。ソースは俺。今となっては懐かしい不健康時代に散々味わいましたよ。世話焼いてもらってる現在では絶対あり得ないんだけど。

 

「……あお」

「おう、なんだ」

「ちょっと……」

「え? なに?」

 

 くいくいと手招きされて、仕方なく近付く。なんかまだ完全に目が覚めてないっぽいし嫌な予感がするんだけど気のせい? 違う。よーうーかーいーのー、せいなのね。すでのなうそ。電なら笑顔で許せる不思議。

 

「……」

「あの、いや……ち、近くない?」

 

 近距離でじっと見られて思わずたじろぐ。たじたじ。今の一夏が何を考えているのかさっぱり分からない。てか近い。マジで近い。鼻の先がぶつかるじゃねえのと思うほど近い。何ならキスも出来ちゃうレベル。普通一夏とキスするのは原作ヒロインですけどね。まぁ、そこんとこ俺は男なので関係ない。いやぁ、TS転生しなくて良かったぜ。

 

「……ううん。やっぱなんでもないや」

「へ?」

「ご飯作ってくるね。早く食べて一旦家に帰らないといけないし」

「お、おう……」

 

 そのまま一夏は立ち上がってたたっと駆けていき、直ぐ様いつも通りの朝が始まる。あいつが飯を作って、起きてきた俺と一緒に食って、可能な範囲で同じ時間を過ごす。

 

「……なんだったんだ一体」

 

 ただ一つ、疑問はあるけれど。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「何やってんだろ私……」

 

 先ほど至近距離にまで迫った彼の驚く表情を思い出して、ちょっとだけ恥ずかしくなる。あんなに近くまで寄って何をしようとしていたのか。自分でもぼんやりとしてて分からないけど、でもあそこで頭が冴えて良かったんだと思う。多分。

 

「はぁ……。本当分かんない……」

 

 ただちょっと、今日は不思議な夢を見た。最初はなんてことのない普通の日常。蒼と話して、ふざけて、歩いて、一緒に過ごすだけ。別にいつも通りなのだから何も感じないと思ってたんだけど、意外なことに少しだけ心地好かったり。意外なことに。ただ、そのあとに続けざまで見た夢はちょっと居心地が悪かった。蒼が誰か(・・)と話して、ふざけて、歩いて、一緒に過ごすのを見てるだけ。誰かが誰なのかは知らないけど、多分女の子だった気がする。こう、なんとなくだけど。

 

「……はぁっ」

 

 駄目だ。なんかもやもやする。蒼の隣に誰がいようと彼の自由だと言うのに、それを面白くないと感じてしまうから不思議だ。特に女の子だと。自分の居場所を取られたみたいで嫌だからなのかな。そんな子供でも無いと思うんだけど。だって今や立派な中学三年生だよ? 流石に友人が他の誰かと話してるだけで嫉妬するほど単純な思考回路は持ってない。ハズ。

 

「もういいや。さっさとご飯作ろ」

 

 考えても無駄というやつで、恐らく蒼にそんな状況が来るとは思えない。失礼だけど。未だ女子を前に時折吃ってしまうところを見ていれば尚更。今回の活躍で多少は見直されるだろうとは言え、そう簡単に手のひら返しなんて起こらない。誰かが彼に近付く可能性は結構低めだと予想する。

 

「蒼の隣は私のモノなのに……って、そうじゃないでしょなんでそうなるのっ」

 

 どこをどうしたらその考えになるのか。自分でも理解できない不思議思考が展開されるあたり、まだ私は寝ぼけているようで。うん。少し気を付けよう。包丁で指を切るなんて真似はしたくない。

 

「さっさと起きろ私」

 

 ぱしんと両頬を叩いてそう呟く。蒼にはいつも支えてもらってるんだから、少しでも返していかなきゃ。

 




ネタが……ネタが足りないよぉ……ネタを挟まないと死んじゃうよう……あう……いち……かわ……。

マジで恋愛描写は苦手です。せっかちな私はせっかちな展開にせっかちしてしまうのでせっかちです。D・Pのライバルかな? あれはマジせっかち。

同じくしてせっかちな私は我慢できないのでこれ一ヶ月も連投してんだぜ。笑えよベジータ。本当に良くやれたと思いました(小並感)


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乙女の真心。

今日は砂糖吐かなくていいのよ~

(´・ω・`)


 自分の名前はどうしてこうなのか。そう親に聞いたことのある人は決して少なくない筈だ。事実俺もその一人である。転生者なのに何してんだとか言うんじゃない。だって普通に分からなかったし気になるもんだろ。ちなみにその時の答えは「産んだ日の空が青かったから」とかなんとかで、物凄く微妙な気持ちにさせられた。在り来たりすぎィ! つーか空って殆ど青いままっすよ母さん。夕焼けとか曇天とかあるけど普通はもう海と同じくらい青いんですよ。あ、だから俺はどこまでいっても一般人なんだな! 理解理解。

 

「なぁ一夏」

「んー?」

 

 結局何が言いたいのかというと、人の名前は案外些細な理由で付けられることもあるのだ。勿論きちんと画数とか色々調べる人だっているが。そうとくれば本題はこの友人。名前を織斑一夏。こいつの誕生日は一体いつでしょうか? 一夏なんだから夏に決まってんだろJKなんて草生やしながら思ったそこの君。甘い。太刀筋が寝ぼけているよ(キリッ)。実はこいつの誕生日、夏なんて名前に入ってるのに九月二十七日である。つまりあと数日後。

 

「お前、誕生日何が欲しいよ」

「ん~……特に無いかなぁ……」

 

 洗濯物をぱたぱた畳みながらそう返してくる一夏。こいつマジかよ。なんか欲しい物とか普通はあるでしょうに。ラノベとかゲームとか円盤とか同人誌とか最新型のノーパソとか。自分の欲がだだ漏れですねぇ……。

 

「嘘だろオイ」

「あはは……」

「ぶっちゃけそれじゃ困るんだが……」

「と言われてもね……」

 

 一夏には大きな借りがある。たしか去年のこと。自分の誕生日にノリで一夏に本棚が欲しいなーとか言ってみたところ、この野郎は本当に買ってきやがったのだ。中学生が本棚プレゼントだぜ? ありえねえだろ。いや、その時は割とガチで震えた。なにこいつ怖い。先ず当たり前の思考回路を持っていればやらねえぞ。アルバイトしてるから金は無駄にあるんだ、なんてにっこり笑いながら言われたけど全然笑えなかった。むしろ鳥肌がたったわ。やめろよお前。今でも大事に使わせてもらってます。

 

「え? あれ冗談だったの?」

「欲しかったのは本当だけどな。いや、マジで買ってくるとか思わねえよ馬鹿」

「……むぅ」

「拗ねんなよ、きちんと感謝してるから」

 

 本当神様仏様一夏さまさまだな。まぁ、その分俺の罪悪感はマッハでたまりましたけどね! 一夏を良く考えずに弄ってはいけない(戒め)。そうか、弄って後々ろくな事にならない現状は既に男の時から発揮されていたのか……。なんてこった。パンナコッタ。ちくせう。一夏が女になったから勝てないんじゃなくて、女になった一夏と相性が悪いから勝てないんだ。本気で逆らえない気がしてきてるんですけど。

 

「んで、真面目になんかないの?」

「なんか……あるかなぁ……?」

「冷蔵庫でも洗濯機でもどんと来い」

「出来れば小物で……」

 

 本棚買ってきたお前にだけは言われたく無かったわ。その言葉をそっくりそのまま一年前の自分に突きつけてこい。あまり高すぎる贈り物はかえって貰う方に気を遣わせるんだぜ。ソースは俺。それまで一夏の誕生日とか適当にジュース奢ったりしてたのも追い討ちをかけてきてた。そりゃ俺でも真剣にお返しを考えます。

 

「……小物ね。よし、分かった」

「いつも通りジュース奢ってくれただけで良いのに」

「いいや、それじゃ納得いかねえ。俺が」

 

 ぶっちゃけこれでも納得いかないけど。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一夏ちゃん生誕祭(千冬さん命名)当日。休日なら一日使って何かしてやれたかもしれんが、生憎と平日なので勿論のこと学校がある。今日くらいは主役なんだから休んでくれても良いのに、こいつは律儀にいつも通り飯を作りに来てくれた。違うところと言えば一つ、普段より少しだけテンションが高いくらい。にこにこ微笑みながら鼻唄交じりに料理してる姿を見たときは驚くと同時にめっちゃ和んだ。可愛い(確信)。だが男だ。ちなみにその理由はというと。

 

『千冬姉が祝ってくれるからね』

 

 言って満面の笑み。うん。千冬さんが一夏を猫可愛がりする理由が分かった気がするわ。こんなん今まで通り放っておける訳無いんだよなぁ……。多分あの人の庇護欲は限界突破するレベルでかきたてられてる。優しさが半端じゃないもんアレ。出席簿アタックかましてる人とは思えない。最早別人じゃないかな。妹を溺愛するブリュンヒルデとか世間的にヤバイ。

 

「ほい、おめでとさん」

「あ、ありがと」

 

 現在朝の通学路。早めに渡しておいた方が良いかもしれないということで、お店で買ってきました感溢れる小さな袋を渡す。実際そうだから仕方無い。しかしながらこれを選ぶだけでもかなりの時間悩み抜いた。TSした友人にあげるプレゼントとして適切なモノなんて分かるわけねえだろこんちくしょう。男相手感覚でチョイスすればいいのかそれとも女相手感覚でチョイスすればいいのか。結局女性寄りの物になってしまったけど。

 

「開けていい?」

「ん。そうしてくれ」

 

 言えば一夏は丁寧に封を外していく。外国だとあまり良くないあれですね。なんかめっちゃ不安になってきたんだけど。いいや大丈夫。ここ日本だし。包装とかそういうの意味もなく綺麗に外したりするし。一夏がその部類に入るのかどうかは分からんが。スッゴイ嫌な顔とかされたらどうしよう。……こいつに限ってそれだけはありえないか。性格イケメンだから嫌でも笑顔で受け取るのは目に見えてる。ふむ。そう考えるとこちらへの精神的ダメージが少ないので安心だな! 友情? いえ、知らない子ですね。

 

「これって……ヘアピン?」

exactly(そのとおりでございます)

「なんで英語なの……」

「気にするな」

 

 はい。女の子になった友人の誕生日にヘアピン送ったけど何か質問ある? ちな普通のアメピンとか呼ばれてるやつ。しょうがないだろ。小物って言われてちょうど良いのがこれくらいしか思い付かなかったんだから。ネックレスとか指輪なんかは時間が無くて十中八九選べないだろうし。千冬さんにこっそり相談したら給料三ヶ月分とか変なこと言われるし。それ大体いくらなんすか。学生が払える値段じゃないでしょ絶対。ましてや中学生だぞこちとら。

 

「前髪。ちょっと邪魔に思ってたろ」

「あ、うん。……分かったの?」

「偶然な。最近結構な頻度でかきあげてたろ」

「そういえばそうかも」

 

 思い返したようにそう言う一夏。まさかあれ無意識でやってたの? 俺はてっきり意識的にやってるものだとばかり。ほら、学校で後ろ向いて話してる時とか何回も繰り返してたし。だからヘアピンあげとけば良くね? とかいう単純思考。男なんてみんな単純だからしゃーなし。うっかり勘違いしてうっかり想いを抑えきれなくなってうっかり告白しちゃってばっさりフラれる。フラれちゃうのかよ。いかんいかん。ポジティブシンキングだ。明るく前向きにいこう。

 

「それでどうかと思ったんだが……」

「……うん、嬉しいよ。本当にありがとうね、蒼」

「お、おう……はぁ、良かった」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。なんか変に緊張しちゃったじゃねえか。たかが友人にヘアピン渡すだけでビビりすぎだっつーの。これだからメンタルチキンなんて呼ばれるんだ。全くもって反論できないところが悔しい。いや、だってどこからどう見てもチキンじゃん。豆腐メンタルじゃん。ヘタレじゃん。自分で言ってて悲しくなってきた。誰か俺のルール(理性)をブレイクしてくれませんか。

 

「……蒼って、意外と私のこと見てる?」

「別に。ただ、一応は大切な友達だし」

「なにそれ。ツンデレ?」

「違うわアホ」

 

 大体男のツンデレなんて一部の層にしか人気出ねえっつーの。それもイケメン限定。容姿に恵まれてる奴って本当良いよな。何しても映える。比べて俺みたいな奴等は何しても平凡。へへ、悲しみにうちひしがれちゃいそうだぜ。

 

「ふふっ、蒼のツンデレさん」

「馬鹿なこと言ってねえで行くぞアホ一夏」

「あ、ちょ、待ってよ!」

「あーあー聞こえませーん」

 

 取り敢えず、これで今日の俺の役目は終わり。あとは千冬さんが盛大に祝ってくれるだろう。ただでさえ最近一夏と一緒に過ごしてないらしいし、物足りないどころか十二分な一時を与えてくれるに違いない。なんといってもあの人、世界最強のお姉ちゃんだからな。




くぅ~、疲れましたw(ry

めっちゃ難産でした。多分誤字脱字酷いんじゃないっすかね。あと内容も酷いっすね。これもうわかんねぇな。

正直殆どの人が忘れてると思うけど、これ息抜き作品なんだよなぁ……。故にくっそ適当な展開とくっそ適当な設定でやってきたのに何故ここまで人気が出たのか。コレガワカラナイ


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しかしまわりこまれてしまった。

ちょっとキーボードの調子が悪くて遅れますた。


「一夏、十五歳の誕生日おめでとう。乾杯」

「か、かんぱい」

「かんぱーい……」

 

 順に千冬さん、一夏、俺。大人はお酒の未成年はジュースでコップをかちんと打ち鳴らす。いやぁ、誕生日って本当にめでたいですね! こういう大事な日は家族で過ごすに限る。尤も俺の場合は独り暮らしなんでそうはいきませんけど。べ、別に悲しくとかないんだからねっ! 久々にお袋の味を堪能したい(本音)。そんな自分と違って千冬さんとの家族団らんを楽しむそいつへとちらり視線を向ける。うん。にこにこしてんな。世界のYAZAWAくらいのにこにこじゃねえか。にっこにっこにー。可愛い(真理)。千冬さんと無事に過ごせて良かったね。で、なして関係のない俺はここにいるの?

 

「どうした植里。元気が無いな」

「いや、その……ですね。えっと」

「蒼? どうかしたの?」

「うん。まぁ、率直に言うとだな。どうして俺はここにいるんだろうなーって」

 

 言った瞬間一夏にはきょとんとした表情で首をかしげられ、千冬さんからお前は何を言っているんだと言わんばかりの冷めた視線が突き刺さる。なんでさ。え? 俺なんか悪いことしたっけ? 全然身に覚えがありませんのですが。勘弁してくれ。織斑家の連中に凡人が勝てるわけ無いだろ。察しろ。つーか察しろ。早く察しろ。何がなんでも察しろ。いいや察してくださいお願いします。千冬さんと一夏を敵に回すのは世界中の軍隊を敵に回すより恐ろしいんやで。ソースは白騎士事件。

 

「千冬姉が呼んだからでしょ?」

「そうだな。私がお前を呼んだんだ」

「いやいや、ちょっと待ってください」

 

 ステイステイ。ステイナイト。それフェイト。テスタロッサの方でもありません。兎にも角にも少し考える時間を下さい。あとこの部屋から飛び立つための翼を下さい。マジで自由な空へ飛んでいきたい。一瞬天災の顔が脳内を横切ったけど多分気のせい。気のせいなんだ。気のせいじゃなきゃ(使命感)。ISは人類にとっての翼。はっきり分かんだね。分かりたくなかった。

 

「えっと……俺が居て良いんですか?」

「私は別に」

「逆に植里以外なら叩き出してるところだ」

 

 マジかよ(戦慄)。何なんですかね、俺ってば織斑家にとって特別な存在だったりするの? おいおい、転生者だからってそんな持ち上げんなよ。死にたくなってくるだろ。転生オリ主は早く死ななきゃいけないんだ! 異物は排除される。それもまた運命。フェイトって奴だね。今度は菌糸類のとも違います。

 

「……帰ったら駄目っすかね」

「出来れば居て欲しいなぁ……」

「ほう。植里貴様、一夏の誕生日を祝わないとは良い度胸だな。表に出ろ」

「盛大に祝わせて貰いますッ!」

 

 いつの間にか床が地雷原になってたんですけど。しかも知らずに踏み抜いたら一番でかい奴。もうどうしようもねえなこれ。俺みたいな一般人に拒否権なんて用意されてる訳もなかった。やはり織斑家は魔窟。魔王いちかと大魔王ちふゆが二段構えで同時に相手取らなければいけない模様。勝てない(確信)。どう足掻いても絶望。しらなかったのか。まおうからはにげられない!

 

「よし。なら植里、さっそく仕事だ」

「おっふ……」

 

 仕事。たった二文字で構成されるこの言葉は人によって酷く嫌な言葉になる。特に社畜とか社畜とかあと社畜。全部社畜じゃねえか。まぁ、日本人の大体七割は社畜って言われてるからしゃーない。最早日本人=社畜の式が出来上がっちゃうのも時間の問題。働いたら休むんじゃなくて休むために働くんだよなぁ……。

 

「一夏を祝え」

「祝えって……具体的には?」

「ここに切り分けたケーキとお皿、フォーク一本を用意してある。さて、あとは分かるな」

 

 ふんふむ。理解したぜ。こくこくと頷いて千冬さんからケーキの乗ったお皿を受け取る。仕事と聞いた時には反射的に蹲りたくなったがなんてことはない。実に簡単な仕事じゃないか。中退入社一週間の新人でも出来るほどイージー。くるりと一夏の方に向き直り、ことんとゆっくり皿を置く。

 

「ほらよ、ケーキ」

「あ、ありがと」

「違うわ馬鹿者」

 

 え、違うの? 目で千冬さんに問うとスッゴイ睨まれた。死ぬ。居心地が最悪すぎる。まるで心臓を掴まれたみたいな感じだ。なるほど、これが蛇に睨まれた蛙ならぬG級ダラ・アマデュラに睨まれた下位のテツカブラという奴ですね。噛み付きとブレスで即死不可避。もしくはディオ様とモンキーでも可。千冬さんにとっての俺はモンキーなんだよォ!! 件の蛇に手招きされたので恐る恐る近付く。

 

「植里、お前何をやっている」

「何って……一夏にケーキ出したんすけど」

「馬鹿が。馬鹿者が。よく考えろ。今日の主役に態々ケーキを食べてもらう(・・・・・・)気か?」

 

 ケーキ食べさせたら駄目なのか。そう聞けば違うわ大馬鹿者と首を横に振られる。着実にグレードアップもといグレードダウンしていく俺の評価に草。このままのペースだと一時間後には超ハイパーウルトラストロングネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング大馬鹿者とかになりそう。完成度たけーなオイ。

 

「率直に言う。食べさせろ」

「……はい?」

 

 え、なんだって?(プリン感)。今だけはあの難聴が羨ましい。小鷹さんその耳片一方だけでも分けてもらえませんか。もう二度と汚いプリン(笑)なんて言わないんで。賞味期限切れのプリン(嘲笑)とかも言わないんで。心改めてプリン大先生って呼ぶから。全然心改めて無いんだよなこれが。結局あいつはプリンってことだ。プリン……しんかのきせき……フレンドガード……うっ、頭が。

 

「……マジっすか」

「マジだ」

「千冬さんじゃ駄目なんすか」

「駄目だな」

 

 えぇ……(困惑)。一体それどういうことなの。さも当たり前のように言われてもまるで意味が分からんぞ。無駄にキリッとしても無意味です。関係無いけどこう見ると千冬さんの格好良さがよく分かる。つり目だし凛としてるしスタイルは良いしで完璧じゃないか。やだ、なにこの人。そこら辺の男よりイケメン。俺なんか目じゃない。それは殆どの男性にも言えるか。う~ん、ネガティブはやめましょうねー。

 

「どうか御慈悲を」

「逃げられるとでも?」

「あっ……(察し)」

 

 そうだ、最初から分かりきっていた。簡単なことさ。今時小学生でも答えられる理由に他ならない。さてここで問題です。世界最強を相手に「にげる」を選択した場合どうなるか。二度目なので分からない人は居ないだろう。だいまおうからはにげられない!

 

「分かったか? 分かったな。ならさっさとやれ」

「イエスマム」

 

 くるりと振り向いた。不思議そうにこちらを見ている一夏の手元からケーキの乗った皿とフォークを奪い、一口サイズに切ってそれを掬う。問題はここから。何気に緊張しちゃってるよ。大丈夫大丈夫。お遊び感覚だお遊び感覚。ただ一夏を面白おかしく弄ってるだけ。そう思えば幾分か気楽だ。

 

「一夏。ほら」

「へ?」

「だから、ほら。……あ、あ~ん」

「!?」

 

 これはヤバイ。主に俺の精神が。なんと言ったって恥ずかしすぎる。もう顔から火が出るんじゃないかってほどだ。この部屋ちょっと暑くないっすかね! もう九月も終盤なのにこの暑さはおかしいな! 多分地球温暖化ってやつのせいやろな! ふざけんなCO2! 酷い八つ当たりを見た。

 

「あ、蒼? ちょ、いや、えぇ?」

「さっさと食えよほらあくしろよ」

「ま、待って、あの、心の準備が……」

「しなくて良い」

「んむっ!?」

 

 強引に、それでいて優しく丁寧にケーキを突っ込む。本気でぶち込んだら幾ら一夏と言えど死んじゃいますわ。とはいえ一夏の顔がめっちゃ赤くなってるけど特に気にしない。若干涙目になってたりするのも関係ありません。別に喉の奥ぶっ刺した訳じゃあるまいし大袈裟な。あとプラスチックの奴だからあまり痛くもない筈。

 

「お、お味の方は」

「……お、おいしい、です」

「…………」

「…………」

 

 うわぉ、気まずい。ここ最近こいつと気まずくなることが多くなってきてる気がする。全くもってやりにくいことこの上ない。形勢逆転も簡単にされてしまうし。弄られキャラ織斑くんはもういない。いるのはこわかわキャラいちかちゃんだ。尤も怖いのは俺に対してだけですけどね。何という理不尽。

 

「ほら、さっさと続きをしろ」

「マジかよオイ……」

「当然。はぁ、照れる一夏も良いなぁ」

 

 駄目だこの人、早くなんとかしないと。

 

「……もっかい口開けろ。ほら、早く」

「や、やらなきゃ駄目?」

「ダメです」

「うっ…………あ、あ~ん」

 

 今度は一夏の方から口を差し出してくれたのでやりやすい。同じように一口サイズを掬い、すっとそちらの方へ持っていく。なんか餌付けしてるみてーだな。少し調子に乗ってきたところでふと思い付く。不意打ち。

 

「はむっ」

「……美味しいですか、お嬢様」

「ッ!? げほっ、ごほっ!」

「 計 画 通 り 」

 

 むせる一夏に飲み物を渡してやる。引ったくるようにしてそれを受け取った一夏は、ぐいっと一息に飲み干してコップをテーブルに叩き付けた。ギロリと向けられる冷たい視線。反対に千冬さんの方からは何故だか暖かいモノを感じる。はて。

 

「むぅ……」

「気に入らないか? お嬢様(・・・)

「恥ずかしいんだよっ!」

「ははは、そっかそっか」

 

 うん。何だかんだでいつも通り。これで良し。変に気まずかったりするのは生憎と好きでない。誰しもそうだとは思うけど。ちなみにこの後、一夏がお腹一杯と言うまでは俺はフォークを動かし続けた。あたふたするこいつは実に面白かったとだけ言っておこう。




最近感想欄のカオスさが増している件について。本編がネタしかないからって感想までネタまみれになるとはたまげたなぁ。

素敵なイラスト書いてくれる絵師さん達もありがとうございます。あぁ^~執筆意欲がわいてくるんじゃあ^~

本当にありがとナス!


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スポーツの次は文化の秋。

今回は平凡回。砂糖はまた今度のためにとっておいて

(´・ω・`)つ[シュガースティック]


 秋も深まる十月上旬。古い言い方だと神無月なんていう実に厨二心くすぐるこの時期。俺たちのクラスはいつも通りというかいつも以上にというかハイテンションプリーズに互いの意見をぶつけ合っていた。なんと言ったってもうすぐ文化祭。お祭り騒ぎが大好きな中学生はただでさえはしゃぐ行事をこいつらがやるとどうなるかなんて知れたこと。めっちゃはしゃぐ。

 

「だから演劇に決まってんだろJK」

「いいやお化け屋敷だ」

「でっかいの! スノーアイス!」

「え、アイスティー?(難聴)」

「え、なんだって?(難聴)」

「耳鼻科行け」

 

 うちのクラス聴力検査大丈夫ですかねぇ……。補聴器つけろ補聴器。全くお前らちゃんと耳掃除してんのか。俺はしてるぞ。つーかされてる。誰にってのは聞かずとも分かってくれる筈だ。勿論俺の後ろの席に座ってるつい最近十五歳になった人ですよ。マジでスキンシップ行き過ぎてんだよ気付け馬鹿野郎。友達同士の枠を完璧に越えている気がしてならない。日頃の感謝とか言ってるけど俺自身そんなに感謝されることしてないし。つーか膝枕しながら語りかけてくるのやめーや。危うく眠っちゃうだろーが。

 

「クラス全員でソーラン節」

「いいやここはEZ DO DANCEでしょ」

「文化祭、本気でやろう、阿波踊り」

「Daisuke踊ろうぜ」

「これはLOVE&JOY」

「ダンスバトルかな?」

 

 うん。これもう収拾つかねえな。正直ダンスとか運動苦手な奴等が死ぬと思うんですけど。俺含めて。体育祭の時に活躍しただろって? いや、あれ完全にマグレですし。なんか色々とリミッター外れてましたし。リミッター解除ですし。もし俺が機械族だったら攻撃力が倍になってる。ストラクのマシンナーズが地味に強かった思い出。代行天使には勝てませんけど。

 

「唱歌、仰げば尊し」

「翼をください混声三部合唱」

「 国 歌 斉 唱 」

「こころぴょんぴょん♪」

「あぁ^~こころがぴょんぴょんするじゃあ^~」

「駄目だこいつら……早くなんとかしないと」

 

 また混沌(カオス)だよ。最近混沌多すぎるよ。そんなに混沌するんならさっさと背反する双逆鱗よこせやオラァ! ぽいって今日を投げ出したい。居るだけで疲れてくるクラスとか一体どうなってんの。そういう固有結界だったりするんじゃねえの。 I am the bone of my sword(体は剣で出来ている。).凄く正義の味方しそう(型月並感)。

 

「グラウンド使ってサバゲとか」

「鯖の味噌煮?」

「サーヴァント?」

「サービスショット?」

「スリングショット?」

「oh! セクシーダイナマイトひゃっふう!」

 

 スパーンと最後三つを繋げた男子三人がハイタッチ。ここには変態しかいないのか(呆れ)。発想力がもう完全に性欲まみれの男子中学生だよ。やれやれ、これだからオープンスケベな猿共は。ムッツリスケベとは相反する存在なのも頷ける。相反する。背反する。はっ。さっさと双逆鱗よこせやオラァ!(発作)

 

「もうまともな意見出てねぇじゃん」

「あはは……。まぁ、うちのクラスだし」

「阿呆しかいねーよ本当」

「楽しいから良いんじゃない?」

 

 自分もその阿呆だと気付いてないどうも植里阿呆()です。くっ、セルフ罵倒になんか負けないんだからっ! ドMになんて絶対になってやるもんか! 多分次のコマでは堕ちてる。セルフ罵倒には勝てなかったよ……。弱い。弱い(確信)。こんなんじゃ野生のうさぎにもタイマンで負ける。野生のうさぎ(天災)だと木っ端微塵確定じゃないすかね。やべぇ。

 

「知ってるか一夏。その阿呆筆頭は俺たちだぜ」

「私は阿呆じゃないし」

「テンパったら何もできない奴が何か言ってんな」

「ぐぬぬ……」

 

 フゥーハハハァ! どうだぁ? 悔しかろう悔しかろう。学校では家みたいに振る舞えなくて辛かろう! ここが畳み掛けるチャンス。手札から速攻魔法発動! バーサーカーソウル! いくぜ、ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカードォオ! つまりあれだ。何勘違いしているんだ。まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!

 

「夕飯は椎茸をふんだんに使おっかなー」

「やめてください死んでしまいます」

「冗談だよ、ふふっ。必死になっちゃって」

「心臓に悪いわ」

 

 別に食えない訳じゃない。食えない訳じゃないんだよ。でもやっぱり出来るなら遠慮したい。それ結局嫌いってことですね。全国の椎茸作ってる人達に申し訳無いです。すいません。でもほら、鍋とかに入れると食べれるし。炊き込みご飯とかでも大丈夫だし。色々と食える手段は無いこともない。

 

「でも、こういう時に数馬は騒がねーよな」

「そうだね。さっきからずっと本読んでるよ」

 

 ちらりと見れば実に優雅な体勢で読書に勤しむロリコンの姿が。ちなみに席替えをしたので隣。しかしながら微妙に似合ってるんだけどなんかしっくりこないコレジャナイ感。う~ん、こいつが読書ってキャラじゃない気がするんだが。なんて抱いた疑問も本の題名を見れば霧散する。その名も『後輩を虜にする114514の方法 ~まずうちさぁ……年上……なんだけど~』大丈夫かあれ。

 

「大して興味が無いからな。強いて言うなら多くの人が楽しめるものにしてほしい」

「お前何があった」

「数馬がまともだ……」

 

 なにこいつ。すっげえきちんとした解答してきたんですけど。もしかして偽物なんじゃない。本当の数馬をどこへやった。オープンロリコンなあいつを返せ! ……思えば同じロリコンだから大して変わらんか。やっぱり別に返さなくても良いです。

 

「なぁ、蒼。人を好きになるってどういうことだと思う?」

「は? いや、お前何言ってんだ」

「いいから答えろ」

「……その人と一緒に居たくなる、とか?」

「違う。違うな、全然違う」

 

 ふりふりと首を横にふる数馬。なんだこいつ。いつにも増しておかしいぞ。自覚してなさそうだけど。すっと此方へ目が向けられる。話すことに専念するためか、数馬は読みかけの本に栞を挟み、ぱたんと閉じて机に置いた。どことなく真面目な雰囲気が漂ってますな。

 

「その人を本心から愛しいと思ったとき。それが多分、人を好きになるってことなんだ」

「え、いや、数馬?」

「外見とか、年齢とか、立場とか、そんなものは関係ない。関係ねえんだよ」

「ちょっと? あの、聞いてる? 数馬? 数馬さん?」

「確かに俺はロリコンだ。幼女趣味だ。けどな、そんな俺がどれだけ年をとろうと好きでいられるって、愛せるって思ったんだ」

 

 ダンッと音をたてて椅子の上に立ち上がり片足を机に乗せる数馬。危ないから降りなさい。そう教師から声がかかるもガンスルー。ぐっと握り締めた拳を頭上に高々と掲げ、クラス全員の注目が集まったところで大きな爆弾を落とした。

 

「──御手洗数馬、十五歳。彼女出来ました」

 

 ……え?

 

「……なん……だと……」

「アイエエエ!? カノジョ!? カノジョナンデ!?」

「ロリコンに先を越された……」

「お前は今泣いていい」

「嘘だろ承太郎」

 

 おいおいマジかよマジですかこの野郎! 嘘だろ!? なぁ!? 嘘だって言えよぉ! どうしてこんなロリコンが彼女持ちになるんだよ。ありえねぇ。まじありえねぇわこの世界。狂ってる。全部が狂ってやがる。普通の男子中学生を差し置いて筆頭ロリコンに幸福を捧げるとか汚いさすが神様汚い。死ね。つーか死ね。おまけに死ね。あと死ね。妬み嫉みのオンパレードですね。嫉妬は醜い。はっきり分かんだね。

 

「相手は誰だよ」

「前にメールしてたあの子」

「告白の台詞とかは?」

「普通に。好きだ、一緒に居てくれって」

「場所は!?」

「夕方に二人っきりの公園。デート終わりにな」

 

 それロマンチック過ぎてあかんやつや。ましてや相手は小学生。初心な年頃の女の子にそれはちょっとやばくないっすかね。てか付き合う前にデートするとかジュンバンおかしくない? きちんと順番守れよ。ん? ブーメラン? はて、なんのことやら(鈍感)。

 

「解散。終了。閉廷!」

「数馬ァ……許さんぞ貴様ァ……」

「モテない男子の怨みを喰らうがいい」

「平凡な見た目でよくもぉ……」

「平凡な見た目……蒼のことかぁーっ!!」

「んだとゴルァ!!」

 

 テメーは俺がぶちぶちにじきのめす。

 

「なぁ、話戻すんだけどよ」

「なんだ(アホ筆頭四号)

「ご奉仕喫茶やろうぜ」

 

 ぴしりと教室の空気が固まる。数馬に集まっていた視線は全て弾へ。三百六十度全方位から視線のエメラルドスプラッシュを浴びた弾は「え? やだなに怖い」と呟く。が、お前は一つ勘違いをしている。うちのクラスの連中を思い出してみろ。はしゃぐべき文化祭。むしろはしゃいでこその文化祭にそんな案が出されたら。結果はご想像の通り。

 

「それある」

「可決! 決定! 終了!」

「とりま服とかどうすんの?」

「演劇部の借りれば良くない?」

「だな。あとは軽くつまめるものと……」

「誰が燕尾服とメイド服を着るか」

「最重要選択項目ですな」

 

 阿呆の特徴その①──決まってない内から行動が早い。

 

 




TSした美少女。ご奉仕喫茶。メイド服。あとは……分かるな?

とりあえず色々とあれなんで念のためにも再度確認。この小説の八割はくっそ適当な設定と展開に十割のネタをぶっ込んだアイスカフェオレです。真面目な考察なんてしたら無駄無駄ラッシュされるので気を付けましょうねー

せっかちなホモの為に事前予告しておきます。予告って大事。残されたイベントは僅か。文化祭の次にはクリスマス、大晦日からのお正月、受験。あ、バレンタインとかありましたね。多い(白目


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冥土の土産は友人のメイド服。

ちょっと遅れたけど大丈夫だと信じたい


 文化祭、決まってしまった、喫茶店。植里蒼、微妙な気持ちでおくる心の俳句。はい。というわけで無事うちのクラスはご奉仕(意味深)喫茶をすることになりました。なんてこった。パンナコッタ。そんなこった。弾が思いきって提案したこの出し物。当初は生徒達だけが盛り上がって教師に止められ、そのまま頓挫して他のものになるだろうと高を括っていた。ぶっちゃけ関係者もOKだから無理だなと。こんなのは認められないわぁ的な感じで。だが教師(ヤツ)は弾けた。

 

『ご奉仕喫茶? 安全面の問題? かまへんかまへん! うちは自由な校風がウリやからな!(大嘘)』

 

 最早ヤツは教師ではない。ただのホモだ(曲解)。ホモは嘘つき。よってあの教師はホモ。はっきり分かんだね。こんなんで良いのかこの学校。衛生面はどこぞの天災が人類の科学力(笑)を底上げしてくれたお陰で問題ない。となれば残るは一つ。不審者対策なんだが。

 

『束。一夏の学校でご奉仕喫茶をするそうなんだが』

『ふんふむ。了☆解! アヤシイ人が近付けないよう細工しておけば良いんだね!』

『ありがとう、束』

『きゃっ☆ ちーちゃんの感謝とか珍しすぎて束さん濡れちゃいそう!』

『赤く濡らしてやろうか』

『ご遠慮させていただきマス!』

 

 どこぞの誰かさんが直ぐ様連絡を取りあった結果、どっかの誰かさんがやってくれるみたいです。流石は束さんだぜ! 認識した人に対しては悉く優しい! どこか後ろ暗い部分があるけど! 何かがありそうでめっちゃ怖く感じるけど! そんな天災に怯える一応は認識されてしまった一般人のどうも俺です。転生者だから仕方がない。そう割り切れたらどれだけ幸せだろう。こんなんならもっと別の世界に転生したかった。そして可愛い幼馴染みとくんずほぐれつしたかった。叶わぬ夢。人の夢。儚い。それでもパンツは履かない。変態じゃねえか。

 

「ドキドキ! 男だらけの試着タァーイムゥ!」

「いぇーい☆」

「ッエーイ☆」

「いぇーい☆とか男がやるとキモイな」

「禿同」

「ハゲ?」

「また髪の話してる……」

 

 そうして現在。空き教室へと追いやられた選ばれし男たちは制服をぬぎぬぎしていた。ざっと十人ほど。チョイスされた理由は人それぞれで、顔が良かったり声が良かったり声真似が上手かったりモノマネが上手かったり中二病だったりオタクだったりロリコンだったり変態だったりとクッソ適当である。それらの中に自然と混ざる俺氏。どうしてこうなった。

 

「完全に俺っていらなくない?」

「大丈夫大丈夫。ほら、顔はまだ眼鏡でマシ」

「マシって言うなよ死にたくなるだろ」

「尻痛くなる?(難聴)」

「一体ナニをしたんですかねぇ……」

「さっさと耳鼻科いけ」

 

 生涯ケツの穴は守り抜きたい所存です。でも童貞は守り抜きたくないです。いや、ヌキはしたいんだけどね。抜きたくないのに抜きたいとはこれ如何に。直訳すると彼女が欲しい。どう訳せばそうなるのかなんて聞かないでくれ。身近な奴が幸せになるとそういう心が刺激されるよね! 数馬死ね。

 

「なぁ蒼。コレ似合ってるか?」

「なんだ数馬かよ死ね」

「誰が死ぬか。彼女を置いたまま死ねるわけない」

「勝てない(確信)」

 

 やだ、びんびんに勝利フラグ立てられちゃってる。これらどう足掻いても敗北。勝てる確率ゼロだな。むしろ今のこいつに勝てる人なんかいんの? 精々ラッキーマンくらいしか思い浮かばない。ラッキーは偉大。でもそれ以上にフラグは強大。結局勝てねーな。こいつの自慢の拳で殴られそう。

 

「けっ。似合ってんじゃねーの?」

「そうか、お前も似合ってるぞ」

「黙れロリコン。破局しろ」

「これは酷いな。死ぬか?」

 

 ……ふぅ。

 

「貴様が!」

「てめぇが!」

「貴様が俺の敵だぁぁぁあ!!」

「てめぇが俺の敵だぁぁぁあ!!」

 

 今分かった。理解した。こいつは。こいつだけは。決して許してはいけないと。無傷で帰してはいけないと。俺の中の長年燻ってきた童貞精神(タマシイ)に火が点く。リア充死すべし慈悲はない。

 

「クソがぁ! 彼女さんと幸せになぁ!!」

「たりめぇだ! 結婚式には呼んでやるよぉ!!」

「カズマァァァアッ!!」

「アオォォォオッ!!」

 

 ひしっ。抱き付き。

 

「おめでとう──数馬」

「ありがとう──蒼」

 

 友情には勝てなかったよ……。うん。まぁ、マジでおめでたい。良かったな数馬。末永くお幸せに。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「それではいざ! 面会の時間でっす☆」

 

 言いながらきらーんと目にお星様を宿す女子生徒。その腕にはちゃっかりと“文化祭実行委員”の腕章が。場所は変わって自分達の教室前。着替え終わった野郎共含める男子はは廊下で待たされて今か今かと女子の着替えが終わるのを待っていた。苦節十数分。やっとメイド服を拝めることに感動したのか涙を流す奴までいる。ガチ泣きとかちょっと怖いっす。

 

「ほらほら野郎共入りやがれー!」

「オラァァァアアアア!!」

「無駄ぁぁぁああああ!!」

「ドララララララララ!!」

「ураааааааааааааа!!」

 

 突撃突貫突進。ハイテンションボーイ共は自らの欲望のままに教室へなだれ込む。まぁ、現役女子中学生のメイド服なんてそうそうみれたもんじゃないしね。気持ちは分かる。……完全に思考回路がおっさんのそれだな。先ず普通の中学生ならメイド服ってだけで十分で他の事なんか考えないんだよなぁ……。

 

「……こうも阿呆が多いとどうすればいいんだ」

「その阿呆に俺たちも入ってるぞ、蒼」

「それくらい分かってる。分かってんだよ」

「阿呆が阿呆を宥めても阿呆しか生まれない」

 

 なにその凄まじい計算。どれだけ試行錯誤しても上手くいく気がしなくなった。名付けて人生諦めが肝心の方程式と呼ぼう。あきらめたらそこで試合終了ですよ……?

 

「つーか弾は?」

「あいつならさっき雄叫びながら入った筈」

「何考えてんだあの馬鹿」

「性欲の処理方法だろ」

 

 汚いさすが弾汚い。命の源のアレ的な意味で。分からない? 純粋な男の子なら直ぐに想像できるハズさ。男が出す命の源なんて一つしか無いだろう? つまりそういうこと。さて、ふと見渡してみれば既に俺たち以外は全員中へ入ったっぽい。こうしちゃいれない。さっさと中へ入ろうと足を踏み入れたその瞬間。前方から声が掛けられた。

 

「……あ、蒼?」

「え? あ、あぁ……い、一夏?」

「う、うん」

 

 こくりと頷く一夏ちゃんメイド服バージョン。うん。やっぱりこいつ伊達に美少女してねぇわ。普通に似合ってて此方としては驚くばかりです。気付けばあんなにアゲアゲだった男達も全員こいつを見て固まってる。入ってすぐにこんな美少女いたらしゃーない。イケメンは何してもイケメンだから美少女も同じく何しても美少女。結論としてメイド服のいちかわいい。ただ、ひとつ疑問。

 

「……な、なんでお前だけミニスカなの」

「いや、その、べ、別に好きでやった訳じゃなくて、なんかこうなったというか、気付いたら着せられてたというか……」

 

 あぁ、納得。大方一部の変態たちにやられちゃったのだろう。それなら仕方ない。変態は強いからね。勝てなくて当然。むしろ変態に勝てるのは変態しかいない。

 

「す、スタイル良いからいいんじゃね?」

「そっ、そういう問題じゃないよ……恥ずかしい」

 

 そう言う一夏の顔は火が出るかと思うくらい赤い。羞恥心が半端じゃないのね。そりゃそうか。ただでさえメイド服とかいう慣れない人からすれば恥ずかしい格好をミニスカートという更に恥ずかしさプラスされてする訳だ。しかも本人の意識無関係。恥ずかしくない方が稀である。

 

「まぁ、でも、なんだ。その……だな」

「……?」

「に、似合ってる、から。まぁ、気にすんなよ」

「ふぇ? あ、え、あの、えっと」

 

 わたわたとあわてふためく一夏。多分漫画とかなら汗のマークが飛び散ってる。顔も赤くなってるし見方によれば完全に恋する乙女。本当最近こいつの乙女行動増えてきて蒼さん胃が痛くなりそうよ。女の子ニガーテ。

 

「あ、蒼も……格好いい、から……」

「……お、おう。さ、サンキュー……な」

 

 二人して俯いたままそこに佇む。い、居た堪れねええええええええ。ちくしょう、おいてめぇら。持ち前の明るさはどうした! こういう時ばっかり黙ってんじゃねえぞゴラァ!

 

「なぁ、織斑のメイドやめない?」

「同感。これは駄目だね」

「だな。織斑は植里の専属メイドだから」

「なんならこいつら二人に厨房任せるか」

「いや、植里は接客もしてもらおう」

「ふむ。……これはいい予感」

 

 阿呆の特徴その②──憶測はやがて妄想へ、そして現実に。




見知らぬ男「書くんだよォ!」ペシーン

作者「アァンッ!」アシクビヲクジキマシター

そんな夢を見た今日この頃。疲れてんのかな


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破壊と滅亡の申し子。

タイトルと本編の関連性が薄い拙作。

どうでも良いけどp2gのこれトラウマなんだよなぁ。


 うちの食卓に並ぶ料理は全て一夏が作る。今年の四月あたりからそうなった訳なのだが、これが地味に嬉しいことであった。なんせこいつの料理は普通に美味い。それまでインスタント食品ばかり食べていたから尚更そう感じてしまう。てか今も感じてる。流石は家事の出来る元家庭的男子。専業主夫一夏の渾名は伊達じゃない。尤も今は専業主婦だが。さて、ここまで語っておいて一体何が言いたいのかというとごく普通のことで。今日は遂にやってきた文化祭当日。家事力の高いこいつはメイド服を着ているくせして厨房にこもっていた。

 

「なぁ、一夏」

「なに、蒼」

「こっち向いてくんね?」

「別にいいけ──」

 

 カシャリ。フラッシュと共にシャッター音。即座にメモリを確認すればきちんと撮れている。うむ。最近のデジカメって手ブレ修正とかあって便利ね。結構なお値段はするけども。それを普通に渡してくる千冬さんマジパネェ。聞くところによると今日は急遽仕事が入って来れなくなったそうだ。最終的に血涙を流してたけど大丈夫かあの人。

 

「ちょ、なに撮ってるの!?」

「お前」

「いや、そうじゃなくて!」

「まぁまぁ、落ち着けよ一夏。深呼吸深呼吸」

 

 言われた通りにスーハースーハー。逆にするとハースーハースー。途端に変態度が増したな。つまり深呼吸はエロい。よって最後に深呼吸を行うラジオ体操第一もエロい。数馬じゃねえけどロリ巨乳のラジオ体操とか一度くらい見てみてえなぁ。ほら、小学生って何かとラジオ体操やるじゃん? ジャン・バルジャン? それはレミゼですね。

 

「……なんで撮ったの」

「こほん。──“頼む植里。このカメラで、どうか、どうか一夏の可愛い姿をッ……お願いするッ!”──とのことでだな」

「千冬姉ェ……」

「許せ一夏」

 

 これで最後じゃないけど。千冬さんからは最低でも三百六十五枚は撮ってくれと言われている。なんでも一日一回新しい写真を見ることで生きる気力を持続させられるらしい。一夏って凄いんだな。千冬さんにとってはもう既に麻薬みたいなものじゃないっすかね。多分もう少しで禁断症状が出るぞあの人。

 

「姉弟だからって勘弁して欲しいよ……」

「まぁ良いだろ。写真くらい」

「使った服とかタオルとかとられるのは……?」

「マジかよ千冬さん……(戦慄)」

 

 前言撤回。既に禁断症状が出てた。

 

「でも頼まれたことは仕方ない。今日は沢山撮らせてもらうぞ」

「……はぁ。もう好きにして……」

「悲しんでる表情いいよー」

「………はぁ」

 

 パシャパシャパシャパシャ。安心してくれ千冬さん。あんたがここに来て暴走出来ない代わりと言っては少々心許ないかもしれないけど、俺の持てる全ての力を使ってこの一夏をレンズにおさめるから。なになに、料理途中にとられたら集中力途切れさせて邪魔にならないかって? そこは大丈夫。ご奉仕喫茶と言ったって所詮は中学生の出し物。既製品のお菓子を開封して盛り付けたり、飲み物をコップに注いだりするだけだから。

 

「これも仕事のうちって奴だな」

「蒼の仕事は接客でしょ……」

「オーイ植里。お一人様対応頼むわ」

「おぉ。んじゃ行ってくるわ」

「うん。逝ってらっしゃい」

 

 ちょっと字が違うんじゃないですかね? 少し写真撮られたくらいでどんだけ恨んでんねん。しかもなんか優しい声なのが腹立つ。そんな声音で言うんならもっときちんとした雰囲気をですね。なんて言っている場合ではない。そそくさと服装を正しながら出ていく。どこどこの席だと律儀に説明してくれる伝言役のクラスメートに感謝しながらスタスタと向かえば、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「誰だあの人、めっちゃ綺麗だぞ」

「行くのは……植里、か」

「え? 無理じゃね?」

「あいつ女性だけはホンット苦手だもんなぁ」

 

 え、なにあれ。なにあの人。今からあの綺麗な人の対応なんざせにゃあかんの? どこからどう見ても整った容姿。グンバツのスタイル。透き通るほど蒼い瞳。きらきらと光るようで綺麗な銀髪。おぅっ! 精神のピンチはっやーい! いや、違う。俺が遅い? 俺がSlowly!? 冗談じゃねぇぇええええ!!

 

「あの、チェンジで」

「それあっちが言うことな」

「マジで駄目なんだって、本当お願い」

「いいからさっさと行け」

 

 さっさと逝け? あぁ、つまり一夏のアレはフラグだったんですね分かります。逝ってくるよ、一夏。僕はついてゆけるだろうか。()の居ない世界のスピードに。よくよく考えたらこれタイマンなんだよね。軽く十回は死ねる。

 

「うっ、頭痛が……」

「馬鹿言うな。あっちだってほら、手招きしてるぞ」

「……え、なんで?」

「もしかして知り合いなんじゃね?」

 

 そんな馬鹿な。俺の知り合いにあんな綺麗な人が居た記憶はない。尤も居たとしても関わり合いなんぞしなかったろうが。親戚のおじいちゃんが言ってた。美人は腹の中が真っ黒だから気を付けろって。一夏? TS美少女だしそういうの無関係だろ。ここまで現実逃避。深く息を吐いて覚悟を決める。覚悟はいいか? 俺はしたくない。でもやらなきゃいけない。くそう。もうどうにでもなーれ☆

 

「……い、いらっしゃいませ、お嬢様」

「あら、ふふっ。緊張してるのかしら?」

「……も、申し訳ありません」

「いいのよ。なら、そうね。今すぐリラックスさせてあげるわ。こほん」

 

 ニコリと微笑んでそう言う美人さん。い、一体何をするつもりなんだ。ナニを。いかんいかん。煩悩退散煩悩退散。心頭滅却精神統一。天上天下唯我独尊。ふぅ、何とか堪えきれたぜ。全く、こんな人まともに相手出来る訳ねぇだろ。誰かマジで変わって。

 

「──もすもすひねもす?」

 

 ……。……? ……?? ……! ……!? アアアイエエエエエエエ!?!?!?!?

 

「な、な……ッ!!」

「来ちゃった☆」

 

 て、ててて、て、てててって、てて、て! て! ててって! ててっててって! ててて! て! て!!

 

「うっ、い、あ? え、あぁ?」

「動揺するあっくんも良いねぇ、ふふ」

 

 お、落ち着け。落ち着けお前。お前。お前! 目の前に座ってる人を見てみろ! どこからどう見ても美人さん! 初対面! ほら! 髪の毛銀色だし! 目の色も蒼いし! どこもあの人と共通するところなんて無いじゃん! ジャン・キルシュタインじゃん! それ進撃。

 

「あ、これ凄いでしょ? 束さん特製のウィッグとカラコン。誰も私って気付かないよねー?」

「な、あ、ぇ」

 

 オワタ。

 

「じ、冗談……っすよね……」

「ううん。違うよ?」

「ホ、ホログラム、とか……」

「残念! 現物でした!」

 

 ちくしょう。何故だ。何故こいつがここに居る。絶賛全世界より指名手配中のこの人がよりにもよって何故俺らの中学の文化祭なんかに来てやがる。ふざけんな。アルパカぶつけんぞ。それやったら投げ返される未来しか見えないけど。飛んできたアルパカを某狩ゲーのお猿さんみたく片腕で持ち上げて振るってきたり。となると激昂束さんに狂竜化束さん、極限束さんと獰猛化束さんを実装しなきゃ。なにそれ勝てない。

 

「……マジなんで居るんすか」

「あっくんの執事服を拝みたくてねっ♡」

「服さえ用意して貰えれば今度やりますから今日はお引き取りください」

「連れないなぁ、全くもう」

 

 怒ったぞーという風に頬を膨らませる束さん。見た目を変えてるにしろ変えてないにしろどうせ可愛いには違いないのだが、如何せん怖さの方が勝ってしまう。逆にこの人を目の前に可愛いとか思うこと自体罪なんじゃないかって思ってきた。

 

「……で、本当の目的は」

「ん? 君に会いに来たんだよ」

「はぐらかすんすか」

「嘘じゃないって。本当に」

 

 ガタッと束さんが椅子から立ち上がる。次いでその動作に少しビビりながらもどうにか耐えていた俺の頬に、そっと優しく当てられる片手。最後に空いているもう片方の手でゆっくり俺の眼鏡を外し、恐らくだがじっと見てきた。ここまでずっと動いてません。なんかこう、動いたら死ぬって直感が囁いてるんだ。

 

「──うん。いやぁ、良かった。やっぱり直で見ると安心するよ」

 

 軽く笑いながら呟かれた台詞。それは一体どういう意味なんですか。勘違いしそうになるんでやめてください。十中八九アヤシイ意味だとは思うけど。俺の顔を見て安心する要素なんてあるのか。いや、ない(反語)。結論。束さんはアヤシイ。

 

「あの、見えないんすけど」

「えー? そんなの私は知らないなー。勝手に眼鏡受けとればいいんじゃない?」

「あ、あざす」

「もー! ノリが悪いなぁあっくん!」

 

 すいません。貴女のノリには付き合いきれんのです。てか一度ノってしまったが最後、潰れるまで使い尽くされそうなんだよ。全力で。

 

「つか、変装の完成度高いっすね。声まで少し変えるとか」

「へっへーん。私は天災だからね! なんならほら──でも私、カズくんといたい!」

「ッ!?」

 

 え? なんのこと? どったの束さん。変に思っていれば過剰反応したやつが一人。今の台詞っつーか声に何かあったのか。君の意見を聞こう、数馬。

 

「……今、確かにかなみの声が……」

 

 大丈夫か数馬。

 

「あ、くれぐれもこの事は内密に頼むよ! 勿論いーちゃんにもね」

「まぁ、分かってはいましたけど」

「最初から理解しているとは話が早い。いいね! じゃーばいばーい!」

 

 さらばとでも言いたげに片手を上げてスタスタと教室を出ていく束さん。信じられないけどあの人がIS作ったのよね。うん。つーかご奉仕喫茶らしい対応なに一つせずに終わっちゃったんだけど。マジで俺の顔見に来ただけかよあの人。早速暇が戻ってきたので来た道を帰り厨房へ向かう。途中でクラスメートが「よくやった。あとは任せろ。……死ぬなよ?」と言ってきたが一体なんのことやら。しかも結構な人数に同じようなニュアンスのを。

 

「おっす。何とか帰ってきたぞ」

「ねぇ、蒼」

「ん? なんだよいち──」

 

 か……? うん。様子がおかしい。厨房に戻ってきたら一夏がおかしくなってた。何故に。しかも俺の目はついに駄目になってしまったようで、一夏の背後に般若(スタンド)が見える。も、もしかしてオラオラですかぁ~!?

 

「さっきの、誰?」

「え、いや、その……」

「あれだけ近付いて。何してたのかな?」

「べ、別に何も」

 

 やだ、この子怖い。

 

「ねぇ、蒼」

「ま、待て。い、今は文化祭中……だろ……」

「……うん。分かった。今はやめる」

 

 ほっ。良かった。これで危機は去った。思わず胸を撫で下ろす。なでこなでこ。ナデポとニコポを欲しがる転生者は大抵踏み台。惚れさせんなら男が『漢』であることを見せつけろってんだ。自分も出来てないのに何言ってんでしょうねこのアホ。

 

「話は今日の夕飯で……ね……?」

「は、ははっ、そ、そっすね」

 

 俺、今日死ぬかもしれないわ。

 

「こ、これは……」

「浮気? 浮気か?」

「純愛一夏ちゃんになんてことを……」

「植里許すまじ」

「完全に夫婦のやり取りだよな」

 

 阿呆の特徴その③──自分達で勝手に盛り上がる。

 

 




遅れてすいません。許してくださいなんでも(ry

でも実はこの話、いつもより千字くらい多めなのよね

結構ガチで疲れたので寝ます。体重って何もしてなくても減るんですね(白目)

本当ならゴールデンウィークだし一日くらい三連投しよっかなとか考えてたけど流石に無理じゃないかなって


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尋問するならSMプレイで。

文化祭終ゥー了ォーッ!


「それで」

 

 ことりと置かれる食器。これにて我が家の夕飯の準備は整った。文化祭も無事に全日程を済ませ、加えてうちのご奉仕喫茶も大繁盛で終了。なんと言ったって小さい子キラーのカズマ・ミタライと、黙ってればイケメンというのが接客の言葉遣いによって遺憾なく発揮されたダン・ゴタンダによるものが大きい。俺も何故だか極少数の人から高い評価を貰ったけど。しかも全員が昔ちょっと関わってたような奴。所謂お世辞。

 

「なにか、言いたいことは?」

「ひぇっ」

 

 とまぁ、その極少数の一人である束さんの一件をここまで引きずられました。一夏ちゃん怖い。ヤバイ。マズイ。飯は美味いけど。うむ。美味いのに不味いとはこれイカに。イカ。スプラトゥーンかな?

 

「あ、あのですね、一夏さん」

「うん。なに? 蒼さん」

「あれは、その、本当に何もないのよ?」

「ふぅん。そうなんだぁ……」

 

 にこにこ。表情は完璧に笑ってるのに殺気が向けられる不思議。やめて! もう植里のライフポイントはゼロよ! 織斑家から送られる殺意の波動とか慢心しないAUO並みに怖い。イメージしろ。お前の目の前には殺意を滾らせた千冬さんがISを身に纏って佇んでいる。その時君は思うだろう。「あ、これ死んだわ」と。

 

「ならさ、どうしてあんなに近付いてたのかな?」

「ぇ……。いやっ、あの、それは……」

「ん?」

「ひぃぃ……」

 

 オーラが増した。嘘だと言ってよ、バーニィ。思わず情けない声なんて出しちゃう。全く自分のことながら不甲斐ない。男ならどっしり構えてろってんだ。変に動揺なんかしたりするから嘘も隠し事もバレるのよ。男って本当馬鹿。そら、しっかりしろ植里蒼。

 

「なに、もしかして言えないの?」

「い、いや、言えない訳では無いんだが……」

「じゃあ話してよ」

「……、」

「言えないんだね?」

 

 男ならどっしり構えてろ? 無理に決まってんだろ阿呆か。怖いものは怖い。だって人間だなも。たぬきちさんはさっさと村にお帰り下さい。ははっ。冗談でごまかそうと思ったけどマジで怖いです。膝の上に置いた手がめっちゃ震えてる。ふるふるゼリーかっつーの。

 

「じゃあ質問を変えるよ。あの人は誰? 蒼とどんな関係?」

「え、えっと……」

「えっと、なに?」

「……」

 

 一体どう答えろっちゅーねん。束さんだと言うことは直々に本人から頼まれた為に教えられない。天災だろうと変態兎だろうと一応は知り合いだからね。約束くらい守ってみせますよ。俺だって男の子だ。女性に頼まれちゃあ死んでも守り通すしかねぇだろ。とか格好いいこと言いましたけど理由としてはそれが五割くらいしかない。残りの五割はばらした時の報復が怖いからです。

 

「……だ、誰かは、言えない」

「どうして?」

「ひ、秘密にしてくれって、言われてな」

「……じゃあ、関係は?」

 

 関係。俺と束さんとの関係。実はこれ、簡単そうに見えて意外と複雑なんだよなぁ……。俺からすると束さんは畏怖の象徴。束さんからすると俺は世界に一人しか居ないイレギュラー。簡潔に述べるなら研究者とモルモットが良い例かもしれない。尤もそれほど酷くはないが。蒼くんがモルモットにされて束さんとイチャラブセックスする展開はよ。来るワケねーか。ねーっすね。まぁ、そういう面倒なものを全部排除して考えるとすれば。

 

「し、知り合い……」

「へぇ。本当にそれだけ?」

「お、おう。当たり前よ」

「ふふっ。そう、そっか……」

 

 くすくすと笑う一夏。や、やったか?(フラグ)この激マズ状況を遂に切り抜けたか!?(二重フラグ)そうであってくれ。もうそろそろ限界が来そうなんだ。ヤバイ。胃がキリキリする。てか何で俺はこんなにも尋問されてんの。ただ女の人と接しただけだよね。ちょっと密着して。

 

「ただの知り合いが、どうしてあんなにベタベタするのかなぁ……」

「い、いや、それは……ほら、えっと、スキンシップが好きな人で……」

「嘘だよね。だって蒼、嘘つくときに一回下向くんだよ」

「ッ!?」

 

 マジか。直ぐ様目線を前の方に固定する。俺にそんな癖があるなんて知らなかった。これも生活を共にしてきたことの弊害か。まさかこんなところで出てくるとは思わなかったけど。ちくせう。

 

「ふふ、やっぱり嘘じゃん。そんな癖ないのに」

「なっ──だ、騙したのかよ……」

「先に騙したのはどっちかな?」

「うっ……」

 

 してやられた。こいつにそんな策士的思考があると予想すらしていなかっただけに驚く。いつからこうも頭の回転が良くなったんだこいつ。男の時はもっと馬鹿みたいな性格してたろうに。何気に酷いこと言ってんな。女になったからって頭のよさも変わるの?

 

「すまん。それは謝る。だから、その、許してもらえないでしょうか」

「何を許せば良いの? まだ話は終わってないよ?」

「……お、お前の作った飯が冷めるだろ」

「そんなの温め直せばいいし」

 

 逃げ場なんて無い。一夏、嘘も矛盾も飲み干す強さを持ってください。つーかマジでなんなのこれ。何で俺怒られてんの。冷静に考えたら普通におかしいよね。俺と一夏はただの友人。友達が綺麗な女性と接しただけでこんなに怒るか? 明らかに過剰ってやつだ。なに、美人と接して羨ましいとかそういう気持ち? てめぇの方が美人と接してるでしょーが。

 

「てかさ、何でそんなにキレてんだよ」

「別にキレてないよ?」

「……言い方を変える。何でそれを聞きたい」

「気になるから」

 

 気になるだけでこうも執着するかよバーカ。

 

「どうして気になんだよ……」

「知らない。ただ、無性に気になるの」

 

 わたし、気になります。えるたそ~。なんて巫山戯てる場合ではない。直感が告げている。今は俺のターンだと。俺のターン! ドロー! エクゾディア特殊勝利! 確率ひっく。

 

「あーもう。あれだ、知ってる人に眼鏡ない顔見せただけだ」

「……本当?」

「これはマジ」

「……そう。なら、良いんだけど」

 

 呟いてやっといつもの一夏に戻る。ふぅ、何とかなるもんだな。実際束さんに眼鏡ない顔見せただけだから嘘は言ってない。親戚のおばあちゃんが言ってた。嘘つくときは所々真実も混ぜると効果的よって。その知識が役に立ちました。ありがとう親戚のおばあちゃん。健やかな老後を願っております。

 

「でも、それならいつ知り合ったの」

「子供の時に偶然……な」

「偶然……ね」

「なんだよ」

「別に」

 

 素っ気なくそう言ってから手を合わせていただきます。ようやく一夏の変な状態はおさまったらしい。これにて一件落着。ひと安心。束の間の休息ってやつだ。束の間なのかよ。兎も角として俺も腹が減っている合掌&いただきますコールをして早速ご飯に手をつける。うむ、美味しい。満足したところで落ち着いた思考回路を働かせる。今の……というより最近の一夏について。

 

「……お前、なんか夏休みから変じゃないか」

「そうかな? 別に普通だと思うけど」

「ほら、スキンシップの頻度は高いし、今みたいに訳も分からずキレるし」

「だからキレてません」

 

 それ絶対キレてる奴の言うことだからな。ソースは長州力。または東方仗助。キレてないですよ。別にきれちゃあいませんよ。うん。絶対キレてるわ(確信)。どれくらいキレてるかって言うと本気でうったヲタ芸くらいキレッキレだわ。ちょっと大閃光持ってこい。

 

「……まぁ、別にいいけど。なんか悩んでんなら言えよ。相談くらい乗るから」

「そうだね、気が向いたら」

「向かずとも話してくれ。これでも長い付き合いだろうが」

「……うん。そうだね」

 

 こいつは本当幸せなのやら不幸せなのやら。あれだけ女子に好かれておきながら一番近い場所に座るのが俺という男。不憫だな。はっ、まさかこいつはホモ……だとすれば美少女になって正解じゃん。ほら、正式に男とお付き合い(意味深)出来るし。

 

「つってもあんま無理なのは勘弁だけど」

「格好良さが台無し」

「いいんだよ。俺が格好良いとか似合ってねえ」

「あ、自覚あるんだ」

 

 お前って案外毒舌になったよな。




私の名前は4kibou! 趣味で二次創作を書いてる普通の作者! でも、ひょんなことから作品の評価が凄いことになっちゃって……これから私の作品、どうなっちゃうの~!

はい(真顔)

一夏を『ひとなつ』と読むか『いちか』と読むか『いちかわいい』で読むかで汚染度が分かるらしい。一体何の汚染度なんですかねぇ……


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『私』が始まった日。

一言だけ。やっと。


「ごめん数馬。待った?」

「待ったぞ一夏。七分だ」

 

 そういう数馬は読みかけの本に栞を挟んでパタンと閉じる。地味に几帳面だ。文化祭が終わってから数日後。突然数馬から呼び出された私は、こうして約束の場所へと来たんだけど。

 

「……申し訳ないです」

「まぁ、いきなり連絡した俺も悪い。それに怒っている訳でもない」

「そ、そうなんだ……」

 

 数馬は時々何を考えているか読み取れない時がある。ていうか殆どそうだったり。蒼なんかは結構分かりやすいんだけどね。大体は必死に隠して誤魔化したりしてるけど。取り敢えず立ったままというのもあれなので、数馬の向かい側の椅子を引いてそこに座る。そういえばこうやって話すのは夏休み以来だっけ。違うのは私からじゃなくて数馬からってことくらい。

 

「一夏。質問してもいいか?」

「質問……? 別にいいけど」

「──幼女は、好きか」

「……え、えぇ……」

 

 なにその凄く答えづらい質問。相手が私じゃなかったら多分殴られてるよ数馬。弾は何だかんだで理由をつけて問答無用にストレート。蒼はふざけんなって感じで腹パン。想像したら数馬が不憫に思えてきた。真性のロリコンだから仕方ないとは言え。

 

「えっと……好きは好き、だよ?」

「じゃあ、匂いを嗅ぎたいと思うか?」

「それは普通に思わないよ……」

「なら舐めたいとは?」

「論外です」

 

 ふむ。と顎に手を当てて考え込む数馬。さっきからどうしてこんな質問ばかりされなきゃならないんだろう。別に私じゃなくても良いんじゃないかな。主に弾とか蒼の方が的確な処置出来そうだし。ロリコンロリコンって馬鹿にされてる数馬だけど、ほら、愛の形は人それぞれって言うから。きちんと彼女さんも大切にしてるんだから偉いとも思う。

 

「脱ぎたての衣類に興味は?」

「あの、数馬? 病院いこう?」

「それを見て疼いたりは?」

「いい加減にしないとぶっ飛ばすよ」

 

 肩をがっしと押さえて宥める。段々声が大きくなってるんだよ。ほら、ちょっと気付いちゃった周りの人の視線が変なモノになってる。中には今すぐ110番を押せるように携帯を握ってる人もいた。やっぱりこういう場で数馬の中身を晒け出したら駄目でしょ。絶対警察のお世話になっちゃうから。むしろお世話にならない方が珍しいとか言われるようになるから。

 

「すまん。ちょっと興奮した」

「その割に冷静だね……」

「公共の場だからな。どうにか抑えてる」

「どうにかなんだ……」

 

 なんか物凄い疲れた。少ししか話して無いのにこんなに疲れてしまうのは数馬だからか、それとも数馬の話題によるものか。絶対に後者だよ。前に相談のってもらった時は至って普通だったし。いつも通りなら本当に良い人なんだけど。どうにも暴走した数馬の対応は未だに慣れない。僅か二週間であしらえるようになってたあの二人が羨ましい限りだ。

 

「よし、それなら対象を変えよう」

「対象を……変える?」

「あぁ。お前はロリコンじゃないと分かったからな」

「最初から分かってたでしょ」

 

 二年ちょっとも一緒に居て気付いていないなんて馬鹿なことあり得ない。というか私がロリコンって色々とおかしいでしょうに。一体なんなのか。こんな質問をされるためだけに呼び出されたのならさっさと帰りたい所存です。IS学園入学のための勉強とか色々とやることは有り余ってる。珍しく数馬から呼ばれたかと思えばこれだよもう。

 

「一夏。お前──蒼は、好きか」

「蒼って……色のこと?」

「違う。植里蒼は好きかと聞いているんだ」

「あぁ、うん。勿論好きだよ?」

 

 というか好きじゃない相手に毎日料理作ったり身の周り世話焼いたりする訳がない。なんと言ったって一番付き合いの長い友達である。嫌いなら今日までずっと関係を続けてないだろうし。蒼はよく自分のことを過小評価してるけれど、普通に良い人だと思うんだよね。基本的に親しい人には優しくて、滅多に本気で怒ったりしないところとか。なんて考えていたところに、大きな溜め息が聞こえてきた。意識を戻して目の前を見れば、頭を痛そうに押さえた数馬が一言。

 

「……重症だな、これは」

「え? なに、どういうこと?」

「女になっても変わらずってことだ」

「?」

 

 えっと、それは褒めてるのか貶してるのか。なんとなくイントネーション的には呆れが混じってるけど。つまり貶されてるっぽい? 変わらないとか何とか言ったけど、先ず変わったことの方が少ないから何なのかも分からない。うん。考えるだけ無駄な気がしてきた。

 

「自覚症状ゼロ。感覚ではオールクリア。本心は染まりきってる。だから嫉妬心が起きた……か」

「ま、ちょっ、え、なに?」

「面倒くさいな。それに親友の不憫を放っておくのも何だか……」

「か、数馬?」

 

 ぶつぶつと早口で何かを呟いている数馬。声が小さいのと早いのが合わさって全くはっきりと聞こえない。なんだか数馬が怖いんだけど。真剣な表情をしているから特に。言っても数馬はいつもこうだっけ。笑うこともあまり無かったと思う。満面の笑みなんて両手で数えるほどしか見たことないような……。

 

「……正直俺が言うのも何だと思うが、あいつの為だ。言うぞ一夏。心して聞け」

「え、あぁ……うん。いいけど」

「──お前、蒼のことが好きなんだろ」

「うん」

「しまった」

 

 返答すると数馬はそう言いながら頭を抱える。若干うごごごごって声が聞こえてきた。呻くほど頭が痛いのだろうか。だとすると帰って安静にした方が良いと思うんだけど。うん。絶対にそうした方が良い。というか友達の体調不良とか見過ごせないんだよ。

 

「頭痛いんだったら帰って痛み止め飲んで安静に……」

「いい。これは別の意味だ」

「そ、それなら良いんだけど……」

「俺は良くないがなぁぁぁあ」

 

 先程と同じく呻くように漏らす数馬。やっぱり頭痛いんじゃないの? 風邪? でも血色はむしろいつも通りに見えるんだよね。精々がちょっと疲れてるように見えるだけで。あ、疲れから来る頭痛だったり? きちんと寝て休まないと駄目でしょうに。あの蒼でさえ最近はちゃんと寝てるっていうのに。

 

「……一夏は、蒼が他の女の子と仲良くしてたらどう思う」

「なんか、ちょっと面白くないかも」

「ほら来たこれ来たもう確証出てんじゃんなのに何で気付かねぇんだよ朴念仁がァァアッ!」

「え、えぇ……(困惑)」

 

 落ち着いてよ数馬。ここ喫茶店。ほら、周りの人からの視線がより一層強まってるから。なんだあのガキ取り敢えず通報しとくかって雰囲気になってるから。このままだと警察の方々が来ちゃうから。だがしかし当の本人はそんなこと気にもしない。バンっとテーブルに手を付いて立ち上がり、びしっと人差し指を私の額に突き付けてきた。

 

「ええいつまりだな一夏! お前は! 植里蒼に! あの蒼に! “恋してる”ってことなんだよ!!」

「………………へ?」

 

 蒼に……なんて?

 

「分からねぇか!? なら分かるまで言ってやる!! てめぇは! 織斑一夏は!! 植里蒼っつー人間に恋愛感情を持ってんだ!」

「ちょ、数馬!? く、口調がおかしいし、言ってることもおかしいよ!?」

「うるせぇ! これが俺の素だ、悪いか! いいからてめぇは黙って考えろ! 気付け! そして認めやがれ! てめぇの本心を、てめぇの想いって奴をよぉ!!」

 

 ぜーはーぜーはーと肩で息をする数馬。そうまでして私に伝えたかっただろう。けど、信じられない。というか有り得ない。私が蒼に恋してる? そんな馬鹿な。だって私と蒼は友達だし。確かに蒼と一緒に居るのは楽しいし、話してる時も不思議と気分が良くなるし、そこにいるだけで心が弾むけど。

 

「……あ、れ?」

 

 うん。待って。待ってよ。うん。えっと、一旦纏めよう。蒼と一緒に居ると楽しい。話してると気分が良くなる。そこにいるだけで心が弾む。どころかそこに居るだけで良い……ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って! なんで追加してるの!? ああもう!! なんなのこれ!? なんかもう訳が分かんないんだけど!?

 

「……なんで、あれ、蒼は……」

 

 蒼は。アオは。あおは。そう、蒼は……友達。友達なんだよ。私と蒼は友達。ちょっと大袈裟に言っても親友。恋人だとか、そういう関係ではない。今までそうだったし、これからもそうに違いない。それで良い。それで良かったんだから。……良かった、んだから。

 

「蒼、は……」

 

 なん、で?

 

「蒼……は……、……」

 

 蒼は友達。蒼は友達。蒼は友達。

 

「あ……お……」

 

 蒼は、友達なんだよ。

 

「……ッ!!」

 

 なんで、どうして。言えない。口が動かない。違う。動かせていないんだ。それを思う度に胸が締め付けられたみたいに痛くなる。前まではこんなこと無かった。いつから? 知らない。自覚したのが今なんだから知っている訳がない。ただ、この痛みを経験した覚えはある。文化祭の時も……多分、これだった。この痛みはなんなのか。どうして痛むのか。考えて、考えて、考えて。

 

「………………あ」

 

 やっと、行き着いた。

 

「そっか、私……」

 

 おかしい。変だ。一般的じゃない。そんなのは言うまでもなく自分が一番分かってる。自覚した瞬間からそういう思考も浮かんでいた。けど、それら全部が吹き飛ぶくらいにこれは強くて。

 

「──蒼のことが“好き”なんだ」

 

 そして、どうしようもなく心地が良い。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ……やっと気付きやがったよこの馬鹿。

 

「ようやくか……はぁ」

「数、馬……私、私……」

「分かってる。分かってるから。もう言うな」

 

 マジで疲れた。一瞬隠してた部分まで露呈させてしまったし。どうも隠すっていうのは性に合わない。俺は真っ直ぐ馬鹿みたいに突き進む方が好きなんだが。それだと親に何を言われるか分かったもんじゃない。擬態でも何でも下手くそなりにやってなきゃあな。

 

「これでやっとスタートラインなんだから聞いて呆れる」

「す、スタート、ライン……」

「当たり前だな。あいつの性格を思い出せ。悉く自己評価の低いヘタレチキンだぞ。しかも無駄に理性まで固いときた。てめぇから……お前から行かなくてどうする。絶対あいつからは告白なんてしない」

「た、確かに……」

 

 本当どんな生き方すればああなるのか。自分に普通の好意はまだしも恋愛感情なんて向けられる筈が無いと完全に割り切ってやがる。お前を好きな人だって居るんだぞとか言っても信じようとしない。信じたとしても本心からじゃない。おまけに好きな人が出来たら告白するか否かについて即答の否。理由は恥をかいて失敗すると分かりきっているものを態々やる必要がないから。馬鹿じゃねーのアイツ。クソヘタレチキン豆腐メンタルが。その体を性根ごと殴り抜いてやろうか。

 

「あと、嫉妬はやめろ。それをして良いのはアイツの隣に立った奴だけだ」

「……うん」

「何か思うとこでもあるか? ならさっさと隣に立て。躊躇いなんざ吐き捨てろ」

「……分かってる。でも」

 

 一旦言葉を切って、若干俯かせていた顔を上げる。見ればかなり赤く頬を染めていた。湯気まで出そうなほどのそれに驚く。と同時に何となく理解。

 

「ちょ、ちょっと落ち着かせて……」

「どんだけ恥ずかしいんだ」

「だって! こ、こういうの始めてだし!」

「とりあえず水でも飲んで落ち着け」

 

 何はともあれ、これは前途多難だな。




何度も言うようだけどやっぱり恋愛描写って苦手なのよね。精神的BLをタグに入れておきながらラブコメ書くの苦手な駄作者です。ギャグはどこ行ったァ!

ちなみに四十話突破。そのくせIS要素ゼロ。あれ、これって何の二次創作だっけ(すっとぼけ)


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その時馬鹿なそいつは馬鹿してる。

遅れた手紙。遅レター。はい。すいません。

とても申し訳ないのですが、今回はいちかわいい成分無しでございます。次の日まで期待せず待っててください。期待せず。


「じゃ、じゃあね数馬……」

「あぁ。ゆっくり考えろ」

 

 ふりふりと適当に手を振って去っていく一夏を見送る。恋愛なんぞ男の時ですら経験したことのないあいつにとって、今の気持ちというのは簡単にすまないものがあるらしい。気持ちに気付いた後にはやれでも元男だのやれ蒼は自分のことを普通の友人だと思っているだのと言ってきた。全くなよなよしい。それでも元男かと叱責したくなった俺は悪いだろうか。まぁ、性格の問題というやつである。

 

『お前が好きならそれで良い。それが恋ってやつだ。俺は言ったぞ、迷うな』

『……で、でも』

『……はぁ。一旦帰って考え纏めろ。少なくとも俺はお前らがイチャ付こうがエッチしようが気にはしない』

『ッ!?』

 

 お陰でそんなお節介まで焼いた始末。彼女とのデートを先延ばしにしてまでやってやったのにあのままじゃあ何となく納得いかない。いや、あまりこういう事に口出しすべきじゃないのは十分理解しているが。ただ、一夏の場合は自覚する可能性が薄すぎた。天性の鈍感が限界突破しているあいつに男相手の恋心の自覚など殆ど無理に決まっている。自分に向けられる好意すら気付かないのだから当然か。本当に面倒な奴等(・・)である。

 

「……さて、と」

 

 ポケットから携帯を取り出して電話帳を開き、もう一人の面倒な奴へ通話を試みる。実を言えばこれ自体があいつに頼まれたことであって、俺自身が率先的に行動した訳ではない。というか普通に考えて彼女とのデートより友人の悩みを優先させる男なんぞ先ず居ない。ここにちゃっかり居てしまっているが。結局俺もあいつらと同じ面倒な阿呆の一人。しっかりした人間とは到底かけ離れている。

 

『……も、もしもし数馬!?』

「蒼。多分もう大丈夫だ」

『ま、マジで? なら良いんだけど。一夏のやつ、最近なんか様子おかしかったからな。やっぱお前に頼んで正解だったわ。で、原因は何だった訳よ』

 

 ……こいつには言えないな。

 

「悩みごとだよ。普通のな」

『嘘ぉ~……なら俺でもいいんじゃないっすかね』

「乙女に関する問題だが」

『なら数馬が一番適任ですね!』

 

 嘘は言ってない。ほら、一応現在進行形で一夏は乙女だから。そして熱い手のひら返し。やっぱり今でも女性耐性が低いのは直らないか。これでも一夏と話せてるから完全にゼロということではないと思う。尤も文化祭の時にチラ見した様子だと年上美人にはめっぽう弱かった。こいつまさか年上好きか。一夏が泣くぞ。

 

「用はそれだけだ。切るぞ」

『えっ。ちょ、待っ、待ってよ待って超待ってカズヤァ!!』

「カズマだ」

『数馬さん! ヘルプ! ヘルプミーなう!』

『蒼さん! なにやってるんですか!』

『電話だよ蘭ちゃん!!』

 

 ……弾の妹? どうして一緒に居るのか。というかこいつ今どこだ。てっきり部屋にこもりっきりだと思っていたが、珍しく外出でもしたのか。あの蒼が? 想像もつかない。引きニート予備軍の自称非リアでモテない童貞気取ってるガチ童貞でリア充を見れば始めに死ね、次いでうぜぇ、最後に爆発しろとか思う蒼がだぞ。ふむ。現実的にありえんな。つまりこいつまさか。

 

「……友人の妹と部屋でナニやってんだお前」

『違うわっ!? 馬鹿かお前!?』

『そこ誤魔化す必要ないですよね』

『蘭ちゃんしーっ! ちょっと静かに!』

「マジで何やってんだお前」

 

 うん。一体こんなののどこに惚れ込むのか。俺だったら絶対無いわ。ただのヘタレチキン豆腐メンタル自称非リア(笑)な奴に惹かれる理由がいまいち分からない。地味に優しい時があるからそれにきゅんとでも来るのか? 絶対来ないわ。

 

『いや、あの、それがな──』

『蒼~? これ続きどこよ?』

『弾てめぇッ! 話を遮るんじゃねえ! 通話をしてんだろうがッ! あとそれは右の本棚の四段目!』

『サンキュー。いやぁ、流石新妹魔王。エロいわ』

『お兄キモ。サイテー。死ね。てか死ね』

『さすおにくらい言ってくれよ』

『さすが(にウザいから早く死んでほしいん)だよお兄!』

『ぐはっ(吐血)』

『おいこら人のラノベに血を吐くんじゃねえ!』

 

 なんだこの漫才。

 

「……なぁ、切っていいか。いいよな?」

『いや、待ってよ数馬。ぼくしにそうです』

「そうか。良かったな。じゃ」

『オンドゥルルラギッタンディスカー──』

 

 プツリ。潔く通話終了ボタンを押す。ふぅ、これで今日の用事は終わった。案外早くすんだせいか時間が余っている。これから家に帰ってゆっくりするか、それとも本来通りに彼女とデートでもするか。うん。悩むまでもなく後者にしようそうしよう。

 

「──あぁ、かなみか? ちょっと今から……」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「さぁ、電話は終わりましたね?」

「……」

 

 だらだらと冷や汗が大量に伝っていく。不味い。何が不味いってナニが不味い訳でも無いが不味いものは不味い。先ずはどうして蘭ちゃんがここに居るかなのだが、原因はベッドでラノベ読み耽ってるこいつの所為である。弾は余計なことしかしない。

 

「ほら、蒼さん」

 

 すっと手を差し出してくる蘭ちゃん。エスコートでもされるんですかね?(すっとぼけ)それなら手を引くのは俺の方だと思うんだけど。まぁ、こんなクソ童貞にそんな事できる訳ないんですけどね。

 

「手、握ってください」

「かっ、勘弁して下さい……」

「もう! 弱気になりすぎですよ! そんなんじゃ一生女の人と過ごせませんよ!」

「それは嫌だけどこれもハードル高いよ!!」

 

 まぁ、そういう訳である。文化祭で吃りに吃りまくる俺の姿を見た心優しい蘭ちゃんは世話になっていたからとのことで女性苦手克服の練習を手伝ってくれているのです。というか無理矢理やらされてる。俺が。向こうがやる気とかこの世界一体どうなってるの……?

 

「私を抱きとめたじゃないですか! 手を握るくらいやれるでしょ!」

「無理無理無理。ほら、俺の手って汚れてるから、神聖な蘭ちゃんの手なんか握れないんだ」

「別に犯罪とかしてないですよね。手汗とかも気にしないんでほら早く」

「実は俺、転生者なんだ」

「さっさとして下さい」

「うっす」

 

 本当のことほど信じられないんですね。知ってた。何気に結構俺の深くにあることを伝えたんだけどなぁ。むしろ信じろって言う方が難しい。俺だって目の前の奴が異世界から転生したとか言ったら大人しく精神病院に連れていくからな。あとショック療法で殴る。記憶が飛んだらラッキーですね!

 

「……しかしこっちから行かなければいけないのは些かキツいものが……」

「面倒くさいですね蒼さん(ヘタレ)

「ちょっと? そのルビはなに」

「ルビってなんですか蒼さん(チキン)

 

 やだ、死にたい。

 

「そうだぞヘタレチキン豆腐メンタル自称非リア(笑)非モテ冴えない眼鏡系というより眼鏡が本体と言っても過言ではないクズでウスノロな男子中学生植里蒼くん」

「死体蹴りはやめろ弾」

「お兄キモい。死んで」

「蘭ちゃんも死体蹴りはやめたげてよぉ!」

 

 なんだこの兄妹。外見は驚くほど良いのに中身が驚くほど残念すぎる。残念イケメンや残念美少女は大抵ラノベのメインキャラ。ソースは俺の私物。つまり弾も蘭ちゃんもメインヒロインと主人公になる可能性を秘めたダイヤの原石だった訳か。俺より主人公が似合いそう。そもそも俺って主人公なの?

 

「つーかさ、蒼。お前、マジでこのままだと駄目だよな」

「……まぁ、そうだけどよ」

「そんなんじゃお前を貰ってくれる人も貰ってくんねえぞ」

「先ず貰ってくれる人が居ないんですが……」

「居る。絶対居る。一人は居る。いいか、絶対だ」

「アッハイ」

 

 なにこの無駄に凄い説得力。威圧感だけでゴリ押してるのにゴリ押し感が皆無。これが弾の能力か(異能バトル並感)。

 

「最初から諦めてんじゃねえ。俺だって、俺だってまだ、まだ諦めてねぇんだよ……ッ!!」

「お前はさっさとアキラメロン」

「いいや諦めねぇ! 俺が諦める時は死ぬ時だ!」

「無駄に格好いいのが腹立つ」

 

 ただ彼女作りたいだけなのにガチ過ぎるでしょこの子。もっと余裕を持った方が色々と接点持てると思うんだけどなぁ。弾は普通にイケメンだし。

 

「……とにかく、諦めんな。お前みたいな奴がアタックするのは無理だろうから、せめて待ってろ。可能性を全部潰すんじゃねえ」

「待ってても変わんねーよ、ずっと」

「いいや変わるね。なんなら俺の毛根懸けてやる」

「言ったな。じゃあ俺は同人誌だ」

「男子って本当馬鹿ばっかり……」

 

 ここに契約は完了した。と言っても、未来は決まっているがな。



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どうやら植里くんはズルいらしい。

土曜日に休みな学生さんたちが羨ましいです(白目)


 植里蒼の朝は早漏い。間違えた早い。どれくらい早いかと言うとたんまり脂肪の溜まったお腹で走るくらいには早い。ちなみにそれは遅いって言うんだって。動けない太っちょはただの太っちょ。動ける太っちょはスタイリッシュイケメン。あの変に惹かれる格好良さの理由はなんだろう。大きなハンデを背負ってなお俊敏な動作をする姿への憧れとかだろうか。ちなみに自分はむしろその逆に近い体型である。ガリとかホネとか皮とかまではいかないけどガリレオとか湯川学みたいな。後半が完全に違っている件について。なんなの、実に面白いとか言っちゃう子なの俺。それならまだ邪王真眼発動させるわ。弾けろリアルッ!! ぴきーん。

 

「……ふあぁ……」

 

 あくびをしながら目を覚ます(目覚めの刻はここに来たれり)うん(嗚呼)良い朝だ(妬ましい)カーテンの隙間から射し込む光に照らされて(我が身を焼く灼熱の光線を耐え)眠気覚ましにぐぐっと伸びをする(覚醒に至るその道を進む)昨日は蘭ちゃんとの一件で地味に疲れた(過ぎ去りし過去は己を縛る鎖)やっぱりこれはそう簡単に直らない(容易く砕け散るならば無意味)今ごろはかなり女性と接している気もするが(歩み続ける時の中で少女と視線を交わす)前世では皆無(元よりこの身は虚無)自分のコミュニケーション能力(原初より紡がれる呪い)の無さが実感出来る(が体を蝕むのみ)だってこうして直そうと努力できるのも(故に我は自らを更なる高みへ)一夏に支えられてこそだからな(盟友と共に歩んでいくのだ)もう無理限界(破却の刻は来た)中二病にもリミッターは設定されてる(この身を焼く灼炎が我を喰らい尽くす)多分(消失)

 

「……ん。よし」

 

 今日も今日とて朝一番に鼻腔を擽ってくれるこの匂いは間違いない。一夏の用意する料理だ。数馬からの連絡で分かってはいたが、それでも友達の悩みという奴は気になる。実はとても重いことなんじゃないかとか、少しでも力になれないかとか。つっても原作主人公だから大抵何とかなるって分かってるんですけどね。大体あいつがどうにかならないのは恋愛事情だけ。どうにかっつーよりどうにもって感じだが。

 

「今日も一日がんばるぞい!」

 

 植里蒼ガンバリマス。けど頑張るのは嫌いだからやっぱガンバリマセン。なんだ結局いつもの無気力系ヘタレメンズの僕ですね! あふっ。昨日蘭ちゃんから罵倒されすぎて調教されたみたいだ。俺はヘタレ。俺はヘタレ。ヘタレチキンの糞メンタル。やだ、なんか弾々死にたく……違った段々死にたくなってくる。あの子の影響力すげえな。流石は未来の生徒会長。応援してる。それはさておきさっさと着替えて食卓へ。飯の用意は着々と進んでいるようだし。まぁ、一先ずは。

 

「おっす、一夏」

「おはよう、蒼」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「いただきます」

「いただきます……の前に蒼」

「ん?」

 

 茶碗を持とうとすれば一夏から声がかかる。雰囲気的に怒っているという訳では無さそうだ。どちらかと言うと普段より若干テンションが低い。一体何事だというのか。いつも通りの朝食風景かと思われたこの時間に変な空気が流れ始める。朝飯くらいほんのりほんわかとゆっくり食べようぜ(提案)。ほんわかぱっぱ、ほんわかぱっぱ。猫型ロボットかな?

 

「今までごめん」

「へ?」

 

 ぺこりと頭を下げる一夏ちゃん。長い黒髪がさらっと揺れて実に宜しい。眼福眼福。なんて思ってる場合じゃないんだよなぁ……。ちゃっかり思ってるじゃんとかそういう無粋なツッコミはしてはいけない(戒め)。ぶっちゃけこちとら何が何だか分からんのです。いきなり頭下げられて謝られても罪悪感しか沸いてこない。ここでも出てくる弱いメンタル。やはり俺のメンタルが豆腐なのは間違っている。だと良かった。

 

「いや、お前、え? なにが?」

「蒼に色々と酷いことしちゃって」

「酷いこと? お、覚えがねぇぞ……」

「文化祭の日とか」

 

 文化祭? 聞いてふんふむと考える。……あぁ、あの殺意の波動に目覚めた織斑一夏ちゃんのことね。はいはい分かった分かった。たったこれだけで理解するとか蒼くんあったまいー! 冗談。別に良くない。でも頭の良さは一つじゃないからね! 勉強が出来る=頭が良いではあるけど頭が良い=勉強が出来るでは無いんだよ! 多分、きっと、めいびー。

 

「あれがどうしたんだ」

「え、いや……それが酷いことなんだけど……」

「うん。先ずお前さ、最初から思い返してみろ」

「さ、最初……?」

 

 最初。ことの始まり。つまるところコイツがTSした時まで遡る。朝起きれば何故か女の子になっていた。天災によりそんな経験をしてしまった織斑一夏くんは咄嗟の判断のもとに俺の部屋へと駆け込む。女性が苦手と公言していて一人暮らしの尚且つ転生者でもある俺の部屋へとだ。これ、普通に考えたら明らかに悪意が垣間見えちゃうのよね。女の子になって行く先が女の子を苦手とする奴のところってお前……。

 

「この一連の事件に巻き込んだ時点でかなり酷いと蒼くんは思うんです」

「うっ……ご、ごめん」

「ん。ただまぁ、そういうことだ」

 

 未だに下げられたままである一夏の頭に手をポンと置き、かなり適当に撫でくり回す。わしゃわしゃ。髪の毛は女の命とか聞いたことあるし、これでちょうど良い罰って奴じゃないっすかね。

 

「うわっ」

「あの程度、本気で酷いとは感じねーわけよ。むしろ俺の身を案じてくれたのかと思って感謝までしてた」

「……でも」

「ぶっちゃけこの程度で壊れる関係なら今まで友達続けてねーんだよ馬鹿一夏」

 

 ぱっと手を離してバチンとでこぴん。不意をつかれた一夏はあうっと言いながら後ろへのけ反る。俺のでこぴん織斑家相手にのけ反り【中】とかつえー。ガード貫通も夢じゃない。額を守ってなお防げないでこぴんとかそれめっちゃ怖いな。武術の応用か何か?

 

「いったぁ……」

「痛いか。ならこれがお仕置きでいいな。はい。この話終わり。さっさと飯食って学校行くぞ」

「……蒼はズルいよ」

「ズルくて結構。別に綺麗な心してる訳でもない」

 

 なんと言っても蘭ちゃんに触れることを躊躇うレベルの汚さを持ってるからね。せめてもの救いは蘭ちゃん自身が綺麗なので俺の汚さも中和されて弱く見えるということくらいか。一夏の奴も綺麗な心を持ってるから余計に弱まること間違いなし。やっぱり一般人はこうだから駄目なんですかね。聖人みたいな生き方なんぞ出来るとも思わんが。嘘はつくし誤魔化しもする。悪口も言えば少しの意地悪だってやる。

 

「なんだ、嫌われるとでも思ってたのか?」

「……す、少し……」

「その方が酷いわ。俺のことなめてんのかテメェ」

「……ごめん。本当に、ごめん」

「ったく……」

 

 なんかさっきから一夏のごめんばっかり聞いてる気がする。これじゃ美味い飯も不味くなるってもんだ。折角こいつが毎日しっかりと作ってくれているのだから、きちんと噛み締めなきゃいけないのに。もぐもぐ。満腹感を得るだけならガム噛んでればいい。一時期だけ毎朝のご飯がガムなんてこともあったし。

 

「こんなに長く一緒に居るんだ。そんじょそこらの些細なことで嫌になる訳ねーだろ、親友(・・)

「……親友、か……」

「不満か?」

「…………ううん。満足だよ」

 

 その割に不満足そうですけどね。

 

「ありがとう、蒼」

「こっちこそ、仲良くしてくれてサンキュー」

「………やっぱり蒼ってズルい」

「なーにがズルいだ馬鹿一夏」

 

 どうやら一夏からすると俺はかなりズルいらしい。一回ならまだしも連続で言われるとは思わなかった。しかも今回は自覚症状ゼロ。まぁ、狡賢さも頭が良いって事の一つだし、良いと言えば良いこと……なのか?




最近更新が遅れ気味ですいません。ちょっと忙しさが増しておりまして。それでもまだ、まだ毎日更新はやめない……ッ! ハズ

まぁ、こんなテキトー作品を真面目に楽しみにしてる人なんてあまり居ないと思いますが。


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空裂眼刺驚。

面白い話書かなきゃ(使命感)書けない(絶望感)


「じゃあ五反田。5×3は?」

「先生、馬鹿にしてるんですか? 中学生ですよ? 俺でもそれくらい簡単に出来ます」

「おぉ、なら答えは?」

「──18」

「ちょっと小学校行ってこいお前」

 

 授業中。教卓に立つ先生(ハゲ)の話をぼうっと聞きながら板書する。かりかりとシャーペンを走らせていればクスクスという笑い声が聞こえてきた。また弾が馬鹿解答をしやがったせいで。略して馬解答。5×3が18ってお前どういう計算してんの……(困惑)。遂に脳内思考が数学の法則を越えでもしたのか。多分あれだ。五反田数学では5×3=18なんだよ。凄い数学ですね(白目)。

 

「先生」

「なんだ御手洗」

「俺も小学校に行きたいんですが」

「座れ」

 

 悔しそうに数馬が着席する。いやなにを本気にしてんだお前。お兄さんもビックリだよ。弾ならまだしも数馬を小学校に送り込むとかアウト。事案発生。いや、彼女がいるからそれは大丈夫か。問題なのはその彼女さんとイチャイチャしないかという点だな。普通に考えても無理でしょう。結果。数馬を小学校へ行かせなかった先生(ハゲ)は有能。やはりハゲは優秀である。また髪の話してる……。

 

「ついでだ御手洗。5×3は?」

「……15です」

「よろしい。が、どうしてそんなに嫌そうに言う」

「数字的に対象じゃないので」

 

 流石っす数馬さん。略してさすかず。たかが数字にも己の好みを向けるその精神、思わず憧れちゃいそうになっちゃったぜ。よく考えたらロリコンなので憧れるのもあれだと正気になって思ったが。それでも数馬は実際格好良いので仕方無い。だから彼女も出来る。比べて五反田数字の創始者である五反田弾くんを見てみよう。イケてる容姿。まるで彼女の一人くらい持ってますというような雰囲気。結構な身体能力。されど奴はマジでモテない。本当モテない。可哀想なくらいモテない。 モ テ な い ( 確 信 )

 

「…………なぁ、一夏」

「え、なに?」

 

 前を向いたまま小声で後ろのそいつに話し掛ける。はてさてクラスの馬鹿二人が馬鹿やってる間、というよりその前から少し気になっていることがあった。恐らくは俺の自意識が過剰なだけだろうが、それでも一度気にしてしまうとどうも引っ掛かって仕方無い。ならば正直に吐いてしまった方が授業にも集中できて悩みも解決できるというまさに一石二鳥。ちらっと視線だけを少し向けて問い掛けた。

 

「なんか背中に視線を感じるんだけど」

「……気のせいじゃない?」

「……なら良いんだけど」

 

 そっかー、気のせいかー。そっかそっかー。遂に俺もヘタレ・非リア・コミュ障に加えて自意識過剰【new!】が発動しちゃった訳ですね。マイナススキルのオンパレード。最早なんらかの能力に目覚めちゃっても良いんじゃないかと思うレベル。例えば大嘘憑きとか荒廃した腐花とか。いや、先ずは親にガソリンを飲まされてからですね! 無理に決まってんだろJK。

 

「……ふむ」

「……、」

 

 視線を感じる、だと(驚愕)。しかし分かる。分かるぞォ。この背中に突き刺さるような視線ッ! まるで俺の動作を事細かに観察するような感覚ッ!! 間違いか? いいや違う。断じてこれは間違いなんかじゃあない。ふっふっふ……甘い。甘いぞォ。MAXコーヒーよりも甘いッ! ──そうだろう、織斑一夏。貴様、見ているなッ!!

 

「い、いきなり振り向いてどうしたの?」

「とぼけるんじゃあねえぜ。お前今、見ていただろう?」

「……なんのこと?」

「植里、織斑。授業中は静かに」

 

 怒られちゃったよ。ちくしょう。てっきり視線が強すぎて授業中ってことを忘れてたぜ。しかもこんな時に限って馬鹿共が騒がない。騒げよ、ほら、もっと。もっと熱くなれよぉぉおお! 

 

「…………む」

「…………、」

 

 視線の方が熱くなりやがった。ええい、違うわ。お前じゃないんだ。熱くなるのは周りの奴等の方でお願いします。別に熱い視線とかいりません。いらないんだよ。てかマジで誰からの視線だ。背中に穴があきそうなんだけど。もしこの視線の主がカルナさんなら多分死んでるぞ。真の英雄は目で殺す。目からビーム凄いっすね。

 

「いーちかちゃーん?」

「な、なに?」

「見るのやめよーね?」

「べ、別に見てないよ……?」

 

 嘘つけ。そんだけ分かりやすく狼狽されて嘘と信じれるほど俺は馬鹿じゃない。バレバレだっつーの。アホだアホ。ここにアホがいるぞ。なんだ、いつものことジャマイカ! つまり別に何の問題も無かったんですね! な訳ねーだろぶっ殺すぞ。

 

「ふーん。ほうほう、まだ言うか」

「え、えーっと……」

「おい植里。前向け」

「……うす」

 

 まーた怒られてるよこの馬鹿。学習しろって奴だな。全く馬鹿馬鹿しい。そうだ、京都へ行こう。違う違う。そうだ、もう気のせいでよろしい。気のせい気のせい。俺の自意識過剰! はい、終了! 閉廷! 解散! もうそれでえーやん! いーんだよ、グリーンだよ。

 

 二時間目、国語。

 

「つまりここの文法が……」

「……ふぅ」

「……、」

 

 三時間目、英語。

 

「はい、ここの英文訳分かるやつー?」

「……ふんふむ」

「……、」

 

 四時間目、体育。

 

「死ねぇ蒼ォ!」

「くたばれ弾!」

「随分殺伐としたキャッチボールだな……」

「……、」

 

 昼食、昼休み。

 

「蒼ー、グラウンド行こうぜー」

「すまん弾。宿題やってないから無理」

「大丈夫大丈夫。俺もやってないから☆」

「全然大丈夫じゃねーじゃねえか」

「……、」

 

 五時間目、美術。

 

「好きなもの描いてこーい」

「適当に風景でいいよな……」

「……、」

 

 六時間目、音楽。

 

「今日はビデオ見まーす」

「ビデオってまだ残ってんのか……」

「……、」

 

 そして放課後、帰路。

 

「なぁ、一夏」

「なに? 蒼」

 

 じぃーっ。

 

「マジで言うけどよ」

「うん……?」

 

 じぃぃーっ。

 

「お前さ」

「うん」

 

 じぃぃぃーっ。

 

「見すぎ」

「……あ、あはは。なんのこと?」

 

 ズビシと手刀を隣に並ぶ頭へ叩き込む。痛いなんて言いながら一夏は当たった部分を押さえて立ち止まった。まーだはぐらかすつもりでいやがりますよコイツ。今日一日でもう背中に何か刻み込まれそうだったわ。もし一夏が吸血鬼なら死んでる。空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)

 

「ばーか。普通に気付くわ」

「だよね……ごめん」

「別に。怒ってはねーよ。ただ理由が知りたい」

「理由……理由、か……」

 

 見られるだけなら良いんだよ、見られるだけなら。いや、本当は良くないけど。でも基本的に注目されることのない俺だから視線とかそういうものの理由を深く考えてしまうのだ。背中に変な紙でも貼ってあんじゃねえかとか後頭部に十円ハゲでもあるんじゃないのとか。

 

「特に意味はないけど、ちょっとした確認……みたいなものかな」

「確認? なにをだよ」

「それはほら……気持ち、的な」

「んだそれ。ワケ分かんねぇ」

 

 俺の背中を見れば何らかの気持ちの確認でも出来んのかよ。すげーな俺の背中。やっぱりそれって過負荷(マイナス)なアレみたいなもんですかね。気持ちの確認をさせる過負荷。なんかそれだけで収まりそうにねぇな。気持ち確認させた後に叩き折りそう。

 

「私は分かっちゃったんだけどね……」

「なにが?」

「う、ううん。何でもない。……さ、先に帰ってるからっ!」

「あ、おい。……ったく、変な奴だな」

 

 うん。おかしい。やっぱり全然解決してないじゃないですか数馬さん。一夏ちゃんいつも通りじゃないままですよ。むしろ酷くなってる気がする。あれ、もしかして数馬に頼んだこと間違い? いや、そんな筈はない。あいつはロリコンはロリコンでも精神的イケメン成分たっぷりなイケロリコンだ。大丈夫……だと思う。

 

「……帰るか」

 

 もしも駄目だったら今度は自分で何とかしよう。毎回数馬に頼るのもアレだし。




感想欄で溢れるおまいらの優しさに画面がぼやけて見えなかった。優しくされるとつけあがるので適度にケツ叩いてくれてもいいのよ。

毎日更新途切れさせるとね……妥協して段々書かなくなっちゃいそうだから。多少無理してでも書いてます。終わりまで駆け抜けたい。でもそれで今のペース結構時間かかるのよね……。書かなきゃ(使命感)


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メリークルシミマス。

サクシャモクルシミマス。


「……さっむ」

 

 思わずそう声を漏らす。そりゃ当然。時期はそこかしこで雪が降る十二月も終盤。ちなみに言うと冬休み真っ只中というやつでもある。いやぁ、二学期は強敵でしたね。春休み夏休み冬休みと来れば秋休みもあってしかるべきだと思うの。ほら、季節の変わり目って体調を崩しやすいから。子供達の健康を維持するためにも長期休暇をもっと取り入れてですね。え? 勉学もきちんとしなくちゃならない? 家で授業受けられるようにすればええやん(適当)。ほら、モニターとマイクで何とかなるでしょ。ならないか。束さーん。

 

「そりゃ、こんな天気だし」

「だよな……。雪とか勘弁してほしいわ」

 

 子供の時は雪が降るだけでお祭り騒ぎだった。手袋はめて外に飛び出してはよく雪合戦なんてしたものだ。勿論前世だけでなく此方でも。いや、こう……さ、少年の心が疼いちゃったというか。男はいつでも少年の心を忘れないものだろ? うん。周りがあんなにも盛り上がってたらついやっちゃうってもんだ。しかしながらやはり歳を重ねると雪はマジで怠くなるのだから悲しい。学校のある日は大雪警報やらで自宅待機ヒャッフー! だが微妙な積もり具合だと自転車は滑るし歩いても滑るし車も怖いしで良いことが無い。結論。雪は怠い。

 

「良いと思うけどね、ホワイトクリスマス」

「良くない。いいか、こんな日にただでさえリアルが上手く行かずに仕事に没頭していたら雪が降って交通手段に困る社会人の皆さんにあやまれ」

「妙に的確すぎない……?」

 

 本当おつかれさまです。

 

「つーか、一つ聞くぞ」

「うん。なに?」

「どうして俺はクリスマスイブにまで一夏(お前)と出掛けなきゃならんのだ」

 

 そう、今回一番の問題点はそれである。なんとこいつはあろうことか俺にクリスマスイブ&クリスマスの予定が無いのを良いことに一緒に出掛けようと誘ってきやがったのだ。勿論前述の通りに調べられていたので言い逃れは出来ない。つーんだつーんだ。どれくらいつんでいたかと言うと某ラノベ原作ギャルゲーの初見あやせルートくらいにはつんでた。badendスゴイッすね。

 

「嫌だった?」

「嫌ではない。が、今は少し嫌だ」

「え、なんで?」

「視線が酷すぎんだよバーロー」

 

 ほら見てみろこの同志達による容赦のない人を殺す眼差しを。視線に明らかな殺意が含まれてる。おまけで凄まじい嫉妬の念も。やめろ。これはお前らが思ってるような甘い展開ではないんだ。至っていつも通りの普通なノリなんです。許してヒヤシンス。こいつら全員直死の魔眼でも持ってんじゃねーの。

 

「……? そうは感じないけど」

「お前はな。俺の場合は凄く感じる」

「へぇ~……」

「体に穴が空きそう……」

 

 あれ、前にもこんなことがあったような。

 

「別に気にしなければいいのに」

「自意識過剰だからな。仕方ない」

「あ、認めちゃうんだ……」

「出来れば否定して欲しかったなぁ……」

 

 親友にまで自意識過剰認定された俺参上。最初から最後までクライマックスだな。べ、べべべ別に悲しくなんかないし。な、なな泣いてなんかねえし。これはほら、あれだから。目にゴミが入っただけだから。ちょっとCMの真似しようとして失敗しただけだから。キターとかやってみたかっただけなの。くそがぁ……(号泣)。

 

「あ、うん。蒼は別に自意識過剰じゃない……と思うよ?」

「なに手のひら返してんだふざけんな顔面にアーモンドケーキ叩きつけるぞ」

「え、えぇ……(困惑)」

「お前マジなめんなよ。あれ地味に痛いんだからな。アーモンドの破片が刺さって痛いんだからな」

「しかも実体験なの!?」

 

 弾は絶対に許さない。あれは二年前のクリスマス。クリぼっちを満喫していた俺の部屋に上がり込んできたあいつは唐突にアーモンドケーキを構え、全力で振りかぶりながら俺の顔面にぶち当ててくれやがった。決め台詞は「ハッピーメリークリスマス!」馬鹿さ加減が滲み出ていた。ついでにお返しで俺はカップ焼きそば(作りたて)をスパーキングしてやった。どちらも当てられた側が責任をもって美味しく頂きました。

 

「ちなみに焼きそばを顔面にあてられると焼きそばパンの気持ちが分かるらしい」

「な、なにそれ」

「それ以降三ヶ月。やつは焼きそばを食べられなかったらしい」

「あ、弾のことか……」

 

 俺も一時期はアーモンドケーキがトラウマでしたけどね! あの恐怖は本気で忘れられない。痛いのなんの。あんな甘ったるいものが刺激的だなんて生まれて初めて知ったわ。別に知りたくもなかった。

 

「その点ショートケーキはいい。甘いホイップクリームと酸味のある莓のハーモニーが調律してシンクロンサーチからのデッキシャッフル後に上から一枚墓地に送れる」

「なにいってるの?」

 

 はっ。しまった。もう少しで光差す道となるところだった。ふぅ、危ない危ない。こんなところを決闘者(デュエリスト)に見られては只じゃすまない。大方あいつらは目を合わせた瞬間にこう言ってくる。おい、決闘(デュエル)しろよ。蟹! なぜ蟹がここに……逃げたのか? 自力でd(無言の腹パン)

 

「とにもかくにも、だ」

「うん」

 

 よくよく考えてみれば、こいつが女になってざっと九ヶ月。半年以上。そんな長い期間を織斑一夏は諦めることなく生き抜いてきた。多分俺には無理。部屋に引きこもって精神安定剤飲んで寝る毎日だと思うわ。むしろ普通に生活できてるこいつの方が異常。いや、これが正常ではあるんだけど。なんたって原作主人公だし。この程度で心が折れるほど弱かったらやってらんねーよな。

 

「お前、ホント良く頑張ったよな」

「なっ……なに、突然」

「別に。ただ、慣れない女の体でここまでやれてるってスゲーじゃん。普通に尊敬する」

「そ、そう……かな」

「おう。少なくとも俺には真似できねぇ」

 

 並んで歩きながらそう言う。男の時から既に分かりきっていたことだ。一夏は凄い。身体能力は勿論のこと、考え方や行動力だって凡人とは段違いの領域に達している。加えてイケメン力はカンスト間近。更にプラスαで家事も出来るとくればモテるのも致し方なし。イケメンがモテるのはモテるべくしてモテるからなのだ。モテるってどういう意味だろう(錯乱)。

 

「……あ、そういや忘れるとこだった」

「ん? どうしたの?」

「えっと……確かここだっけ……ん、あった」

「??」

 

 ごそごそと衣類のポケットを探って目当てのそれを見つけ出す。うん。きちんと忘れてはいなかったみたいで安心。つっても忘れてたらどうせ家に一旦帰るのでその時に渡してたと思うが。どちらにせよこれはサプライズというやつなので、折角なら綺麗な雪景色を背景にやってみたいじゃない? やだ、植里くんったら以外とロマンチック。

 

「ほら。クリスマスプレゼント」

「…………え?」

 

 差し出したのは綺麗に包装されている長方形の箱。用意したのはつい最近。つーか三日ほど前。案外簡単に送ろうということは決まったのだが、そこから買うか否かで物凄く悩んだ。それはもう悩んだ。悩みすぎて納屋に入り込もうとしたほど。

 

「えっと、私……に?」

「当たり前だろ。お前以外に誰がいる」

「……あ、ありが、とう」

「どうも。つっても良いもんじゃねーけど」

 

 ちゃっかり保険かけてますよこのヘタレ。

 

「……これ……ネックレス?」

「イエス。どうよ、綺麗だろ?」

「うん。とても綺麗……だと思うけど」

 

 一夏にあげたのは小さく雫の形を模したようなものが付けられているシルバーのネックレス。選んだ理由は特にない。しいて言えば直感。シックスセンスというかセブンセンシズというかフォックスセンスというか。分かりやすく纏めると適当。こう書くと途端に俺が屑野郎に見えてくる不思議。一人称怖い。

 

「……これ、幾らしたの?」

「二万二千円」

「にまっ……!?」

「HAHAHA、金ってマジ飛ぶんだな!」

 

 あれだけの大金。多分ゲームのハードとか簡単に買える。少し安いものだとソフトもプラス出来るレベル。つまり何が言いたいかというと大破産DEATH☆正直ちょっとだけ後悔してる。

 

「ど、どこからそんなお金を……」

「以前行っていた不摂生。そのお金って実は使ってなかったんだぜ」

「それでも中学生のプレゼントじゃないよコレ」

「そりゃあな。本棚の仕返しも兼ねてるし」

「あれ七千円くらいなんだけど!?」

「七千円も結構な大金だと思うんだ」

 

 金銭感覚麻痺しそう。

 

「……さすがにこれ受け取れない、かな」

「いいから。黙って受け取れ」

「いや、でもね……」

「しつこい。ちょっと貸りるぞ」

 

 するりとネックレスを奪い取ってから一夏の前に移動する。意地でも貰いそうにねーからこっちは意地でも貰ってもらう。大金はたいて買ったんだから受け取ってくれないとそっちの方が悲しいわ。全く、俺の豆腐メンタルを理解してねぇのかこの馬鹿は。

 

「ちょ、蒼!?」

「ほい完成。うん、やっぱ綺麗だわ」

「わ、悪いよ蒼。こんな高いもの……」

「良いって。ほら、めちゃくちゃ似合ってんじゃん。お前」

 

 予想通り。いや、予想以上と言った方がいいかもしれない。確かに似合うかもとは思っていたがここまでなんて誰が想像した。凄い。ヤバイ。美少女が輝く美少女にランクアップしてやがる。容姿が良いってマジ得しかねぇよな。

 

「……あ、あり、がと……」

「どういたしまして」

 

 なんて言い合ってふと、目についた時計の針がいつの間にやら0を回っている。つまりイブから本当のクリスマスへと切り替わった訳だ。引き続いてのホワイトクリスマス。 まぁ、悪い気もしなくない。リア充共は潔く死んでしまえと思うが。

 

「お……メリークリスマスだな、一夏」

「う、うん。メリークリスマス……蒼」

 

 さて、ともかくさっさと帰らなければ。こんな場面を先生に見られようものなら大変極まりない。しかも中三のこの時期とか結構冗談抜きでマズイ。急ぎながら、でもゆっくりと一夏を隣に帰路へついた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『あっくんといーちゃんへ。

 

 やぁやぁあっくん、いーちゃん。元気にしてるかな? 尤もいーちゃんに至ってはちーちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど。はてさて、今回こうして手紙を君の部屋に置いたのは大切な理由があってね。さながら天災兎によるクリスマスプレゼントってやつだよ。その内容? 聞くまでもないよ。

 

 ──いーちゃんをいっくんへ戻す方法さ☆』




疲れたのでレタス食べたい。どうでもいいけどレタスが食べたい。ゴマドレッシングをかけたレタスが食べたい。ポン酢をかけたレタスが食べたい。

……はっ、私はなにを(混乱)

もうこの作品今月いっぱいで終わりまで持っていってやろうかと思い始めた駄作者です。現実的に無理がありましたけど。早く完結させなきゃ(使命感)


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俺の友達が美少女になったら。

凄くマズい。


 一言だけ俺から言わせてもらいたい。マジか。

 

『あっくんといーちゃんへ。

 

 やぁやぁあっくん、いーちゃん。元気にしてるかな? 尤もいーちゃんに至ってはちーちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど。はてさて、今回こうして手紙を君の部屋に置いたのは大切な理由があってね。さながら天災兎によるクリスマスプレゼントってやつだよ。その内容? 聞くまでもないよ。

 

 ──いーちゃんをいっくんへ戻す方法さ☆

 

 気になる答えはこの手紙の側に置いてある指輪に隠されているのだー! そこにコードで繋がれた二つの指輪があるでしょ? それをいーちゃんの指にはめる。そしてもうひとつは“とある男性”の指にはめてもらう。するとあら不思議。いーちゃんはいっくんへ、相手方のあっく……げふんげふん、男性は女の子に! これぞまさにエキサイティングだね! メリークリスマス☆

 

 篠ノ之束』

 

 マジか。

 

「ねぇ蒼、これって……」

「……」

 

 嘘吐きやがったなこの天災兎。三年間どころか一年もかかってないじゃねえか。これなら絶対あの時直ぐに作れたよな? 作れない訳が無いよな? しかも最後の名前だけ地味に達筆なのが余計腹立つ。死ね。ふざけてんじゃねえぞこのクソラビットが。その耳さんざんもふもふした後に引き千切ったろか。いや、先ずあれってもふもふ出来ないじゃん。潔く引き千切ろう。

 

「解決策みたいだな」

「そ、そう……だよね」

「……」

「……」

 

 あぁ、うん。それでもきちんと一夏を元に戻すものを作ってくれたことには感謝する。感謝してやる。悔しいけど感謝せざるをえない。悔しいけど。だがそれもまた問題の一つだ。マジでどこまでふざけるつもりだくそみそラビット。もう少し真面目な思考回路は出来ないんですかねぇ……。天災に何かを望む時点で間違ってるか。どうせ天災に凡人の考えなんて分かっても理解出来ませんよ。

 

「…………」

「…………」

 

 逆に言ってしまえば、凡人に天災の考えなんて分かりもしなければ理解も出来ない。つまり基本的凡人である俺にはあの人が何を考えてこれを作ったのかが分からない。確かに一夏を男に戻せるものなのだが、その為に一人の犠牲が必要となる。むしろこういうものは性転換希望だったり性同一性障害に悩まされている人に使うべきだと思うの。

 

「……はぁ」

「あ、蒼……?」

 

 なのだが、果たしてあのクソ兎はそんな展開を許容するだろうか。既に出ている結果から分かる通りに許容する筈もない。ましてやご丁寧に自らの意向に沿えと指名してきやがった。ぼかしてる? いや、あからさま過ぎてプッツン行きそうですわ。死ね。言外に俺がやらないと駄目って伝えてきてるの本当腹立つ。死ね。この世に細胞の一片も残さずに死ね。

 

「よし。決まった」

「え?」

 

 さて、植里蒼男人生最後の恨み言もこれにて終了だ。心の準備は出来ていない。覚悟なんて欠片も持っちゃいない。いわゆる勢いに身を任せる体勢というやつだ。大丈夫なんとかなるもうどうにでもなーれな気持ち。真面目に考えてたらそれこそSAN値がマッハで削れていきますわ。

 

「やるぞ、一夏。俺が相手だ」

「あの、ちょ、蒼!?」

 

 スッと指輪をはめてそう告げる。早くしてくれ。今ちょっと勢いにのってるだけだから。後先考えずに行動してるだけだから。一回考え出すとマジで躊躇っちゃうからお願い早くしろよぉ! しかしながらそんな俺の思いもつゆ知らず、一夏は目に見えて狼狽える。

 

「ほ、本気なの……?」

「当然」

「……女の子に、なっちゃうんだよ?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 大丈夫じゃない、大問題だ。

 

「……私は、いやだ」

「…………はぁ?」

「蒼が女の子になるのはいやだって言ったの」

「……お前、自分が何言ってるか分かってんのか」

 

 自分自身が男に戻りたくないとかならまだ分かる。いや、出来ることなら分かりたくないが。けれども俺が女になるのが嫌っていうのは分からない。己が男へと戻れる唯一の方法なのだ。友人が進んでやろうとしているのなら先ず断ること自体あり得ないだろう。それをコイツは平然と、しかも自分以外の理由でやってのけやがった。なに考えてんだこの馬鹿。

 

「ねぇ、蒼。知ってる? 女の子って大変なんだよ」

「それくらい分かってる」

「本当に? 細かく理解して決めた?」

「いや、そうじゃないけど」

「……蒼」

 

 ぐいっと一夏が迫ってくる。近い。鼻先の距離が縦にしたシャーペンひとつ分くらいしかない。当然の如くそんな近距離では瞳がばっちりと合う。透き通った綺麗な目が暗く淀んだ俺の眼球を映し出した。きったな。俺の目きったな。これはモテない訳ですわ……。

 

「私は蒼に同じ苦労を味わって欲しくないよ」

「なめてんのか。俺はそんなヤワじゃない」

「違う。蒼が弱くないって知ってる」

「……じゃあなんでだ」

 

 そう一夏に問い掛ける。あれほど俺じゃあ無理俺じゃあ無理言ってたやつが何を吐かすと言われそうだが、人間ってそういうもんだ。無理だの出来ないだの言っておきながら土壇場では見事それをやってのける。必死になれば出来ることは多い。性転換したあとの生活だって何とかなる。いや、なんとかしないといけない。四月から奮闘してきた一夏のためにも。

 

「ッ……だ、だって」

「……?」

「──ああもうっ!」

 

 がっしと一夏が肩を掴んでくる。え、なに。

 

「言うよ! 言う! もう言うから!!」

「ちょ、あれ、一夏?」

「鈍感! 朴念仁! 唐変木!」

「え、いや、えぇ……?」

 

 この子盛大なブーメラン投げてることに一切気付いてないよ。それはこっちの台詞だ。女子からの好意に一ミクロンも気付かず千切っては投げ千切っては投げ。イケメンに鈍感属性を持たせた境地とは男子間で共通認識である。そんな鈍感で朴念仁で唐変木・オブ・唐変木ズな織斑一夏。ほら見ろ全部当たってるじゃねえか。

 

「蒼っ!!」

「お、おう。なに?」

「私、蒼のことが好きなんだよっ!!」

「まぁ……そりゃあ友達だしな」

「そうじゃなくて! そうじゃなくてっ!!」

 

 ぐいっと一夏に襟首を掴まれて引き寄せられる。ただでさえ近い距離はほぼゼロ。無いも同然。つーか無い。うん。あれ、これって結構ヤバくないっすかね。このままじゃ頭突きとかかまされちゃう。絶対痛い。そう思うのも束の間。急に殺された勢いと引き換えに、ゆっくりとお互いの顔が近付いて──。

 

「んっ」

「っ!?」

 

 近付いて。

 

「……こういう、ことだよ」

「お、おお、おまっ……!?」

 

 近、付いて。

 

「分かったでしょ? 分かったよね? ねぇ?」

「いや、ま、待て、お前、い……はぁ!?」

 

 ちか、づいて。

 

「“好き”なんだよ、蒼」

「え、あ、ちょ、ど、えぇ……?」

 

 ──お、おおおお落ち着けけけけけけ。待て待て待て待て待て待てステイ待てステイ待てステイ待て。いやちょっと待てやお前なにしてくれてんねん馬鹿じゃねーのマジでなに考えてんのこれでも一応は人生初ですよ人生初別に意識はしてねーけどこれ下手したらトラウマもんだぞおい馬鹿なにやってんだ馬鹿この馬鹿。

 

「お、俺は……お、男、だぞ?」

「知ってる」

「お前と、俺、は……と、友達、だったよな?」

「うん。私と蒼は確かに友達だよ」

 

 だ、だよな! そうだよな! う、うん。ちょっとキャパオーバー起こしそうだけど、これも行きすぎたスキンシップだと思えば笑い話のひとつくらいに──。

 

「でも、好きなんだよ。蒼」

「い……一夏?」

「少し捻くれてて、素直じゃなくて、人をからかって楽しむ悪い性格で」

「あの、一夏? 一夏さん?」

「でも優しくて、頼み事を断れなくて、人のことを心配してて」

 

 目と目が合う。

 

「元男とか、友達とか、そういうのは関係無くて。ただ一人の人として、織斑一夏として」

 

 あつい。ただただそこに佇んでいるだけであつい。見ているだけで分かる。とても熱の籠った瞳。分かりやすい。こんなの誰でも分かる。それを向けられているのが自分自身なら尚更。

 

「私は、蒼が好きなんだよ」

 

 まさか友人に告白されるなど、誰が予想しようか。




くぅ~疲れましたw これにて完結です!(嘘)

もうちっとだけ続くんじゃよ?(大嘘)

今日、知り合いに手の甲を見られて「お前死ぬんじゃねーの」とガチで心配されました。痩せすぎだそうです。え、手の甲って普通の状態で骨と血管くらいは見えますよね? うん。大丈夫大丈夫。

感想欄にて学園行く前に終わると思ってる方が結構いらっしゃるのですが、えっと、それでいいんすかね。てっきり学園書かなきゃと思ってたんですが

……え?


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新年と新年度はややこしい。

クッソテキトーです。やっぱり時間に余裕がないと駄目ですね、はい。


 重く響き渡る音が、どこからともなく聞こえる。

 

「除夜の鐘を聞きながら飲む酒も良い。そうは思わないか、植里」

「千冬さん。俺未成年です」

 

 いや、精神的には成人ですけども。そう思うも目の前に座る酔っ払いは片手に握り締めた酒瓶を見詰めるのみだ。焼酎らっぱ飲みとかこの人大丈夫かね。世界最強だから大丈夫なんでしょう。今日は大晦日。もう少しすれば元旦。つまりごんごんと先ほどから鐘が鳴らされている現在の時刻は十一時半を回ったくらい。本来ならこの時間を家でゆっくり過ごすつもりだったのが、とある理由で態々織斑家にて過ごしている。

 

「いや、植里というのももうアレだな。蒼と呼んでもいいだろう?」

「……別にそれは構いませんけど」

「蒼。ふむ、植里の方がしっくり来るな」

「もうどっちでもいいです」

 

 蒼でも植里でもBLUE SKYでも好きに呼んでください。出来れば普通でお願いしたいけど。誰が好き好んでBLUE SKYだのBLUEBERRYだのRASPBERRYだのVERYNICEだのと言われなければいけないのか。後半とか全然蒼と関係無いじゃねえか。ふざけんな。VERYNICEに至っては最早褒めてるだけという。人のつけるあだ名って結構意味不明なものが多いよね。

 

「ならば蒼と呼ばせてもらおうか。なんせもう他人では無いのだからな」

「……確かに知り合いですよね」

「違う。家族だ」

「家族っすか……」

 

 どもー! 植里蒼ならぬ織斑蒼でぇっす☆今日からみんなヨロシクねー! という訳じゃない。むしろそんな事態に陥ったらどういうことだと問いたい。養子縁組かな? もしくは婿養子。女性優位のこの世界だと普通のことだから問題はない。俺が婿に入るという問題はあるが。そこ気にしちゃいけないのよね。

 

「うちの一夏と結ばれたのだから当然だな」

「いや、まぁ。そうはそうですけど」

「違うのか?」

「違わないっすね」

 

 今明かされる衝撃の事実ゥ! 植里くんは一夏の告白をOKしていた! なになに? そこら辺の描写を詳しく? 特に面白くもなんとも無かったのでカット対象です。男が吃りながら『……えっ、と。その、なんつーか……あー。うん。まぁ、はい。よろしくお願いします』なんていうシーン誰も見たくないだろうよ。マジで誰得。このヘタレ系チキン主人公どうにかして。さっさと件の美少女に刺されてからバラバラに切り分けられてNiceboat展開するしかない。Niceboat。

 

「正直、お前がそう簡単に了承するとは思っていなかったんだが」

「……ぶっちゃけ、あの容姿であんなに熱い告白されたら断れませんよ」

「それが理由か。つくづくお前は変わってる」

「変わってますかね」

 

 人間ってそんなもんだと思います。見た目的にクリティカルヒットした後に追い討ちをかけるような言葉でのダイレクトアタック。ただでさえ女の子に告白された回数ゼロだったのにあんなことされちゃあ見る目がガラリと変わるもんですよ。自分でもチョロイって思う。まだ会ってないけどセシリアさんよりチョロイ。この作品一番のチョロインは俺だったんやな! うせやろ。

 

「あぁ。なんせ私やあの馬鹿をただの女性と同じように見ているからな」

「……え。それって変っすかね?」

「篠ノ之束と織斑千冬を見れる奴などお前を入れて片手で数えるほどしかいないさ」

「なんか良く分かんないすけど」

 

 そこに居るんだから誰でも見えるでしょ。いや、束さんの場合は光学迷彩マントとか作って姿くらい消せられそうだけど。流石だな大天災。人類史上最も質の悪い歩く自然災害と勝手に呼ばせてもらっているだけはある。あの人の一挙手一投足で新たな法則が次々と生まれてんじゃないの。

 

「もしもお前が私たちと同じ年代に生まれていれば、この世界も少しは変わっていたかもしれん」

「そんな大層な人間じゃねーっすよ」

「それもそうか。お前じゃあな……」

「あの、だからって即座に否定するのは……」

 

 ぼくの心が砕かれちゃうのぉぉおおお! やめて。砕かないで。ダイヤモンドは砕けない。よって黒曜石は砕けない。うっ、頭が(トラウマ)。

 

「体も弱い。心も弱い。辛うじて意志は少し強い。あの馬鹿が切り捨てそうな一般人じゃないか」

「本当に切り捨てられて良かったんすけど」

「お前の何かが引っ掛かったんだろう」

「マジっすか……」

 

 いったい俺の何があの人の琴線に触れたんだ。それさえ隠しておけば俺は今でも平和な生活が出来ていたというのに。非日常が多くなると日常が恋しくなる。アニメと同じだな。ファンタジーや厨二バトルものばかり見ていると時々ほんわか日常ものが見たくなってくるのだ。より詳しく言うと心がぴょんぴょんしたくなる。ご注文はうさぎです。なんて考えていればいつの間にやら新年明けました。はい。くっそ適当でぐだぐだな年越しですね。しかもまだ蕎麦食ってねえし。

 

「蒼~、初詣行くよ~」

「ほら、お呼びだぞ蒼」

「……うっす。そんじゃ行ってきます」

「車と兎に気を付けておけ」

 

 車はともかく兎に気を付けなければいけないのか。そう思ったが直ぐ様ぴんと来る。おっぱいラビットのことですね分かります。ご注文はうさぎだけどお前じゃないんだよなぁ……。性格が好みじゃないのでチェンジで。チェンジでお願いします。

 

「行こっか、蒼」

「おう」

 

 兎よりワンサマ。はっきり分かんだね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「やっぱり寒いね……」

「この時間だし当たり前だろ」

 

 新年迎えた直後。深夜。こんな時間帯でも初日だから当たり前のように人は多い。まるで人がゴミのようである。これなら三分間待った方が良かったか。いかん。それだと目をやられる心配がある。至近距離でバルスとか言われた日には失明は免れない。例えグラサンをかけていたとしても。バルス! 

 

「そういえばおみくじどうだった?」

「凶。予期せぬ事故が起きるとかなんとか」

「うわぁ……結んできた?」

「勿論。お前は?」

「大吉。予期せぬ幸せが訪れるとかなんとか」

「この差はなんだ……」

 

 やだ、泣きたい。

 

「あとは拝んで帰ろっか」

「だな。これでも受験生ですし」

 

 不可解な天災の行動。おみくじで出た結果。補足として僅かに存在する原作知識。それらを総合した結果として勉強しても全部無駄になる予感しかしないけど。多分気のせいだって信じてる。気のせいじゃないと冗談抜きで禿げかねないので勘弁してください。ハーレムは原作だけで十分なのよ。

 

「神様。いえ、ピッコロさん」

「それは違うよ」

「じゃあ桂馬さん」

「落とす方の神様……」

 

 桂馬さん本当尊敬します。落とし神モードの使い方を是非ご教授願いたい。六つ同時とか明らかに人間やめてる。ならほど、だから貴方は落とし神なのか。リアルにも持ち込めるギャルゲスキルの数々に震えた日々が懐かしい。それはともかく賽銭入れて鈴を鳴らし二礼二拍手一礼。願い事は……うん。まぁ、妥当に。後が支えているのでさっさとその場を後にする。寒い寒いと呟く一夏の手をきちんと握りながら帰路につけば、ふとそういえばなんて問い掛けられた。

 

「蒼はなんてお願いしたの?」

「そういうお前は?」

「蒼とずっと一緒に居られますようにって」

「そ、そうっすか……」

 

 やっべ。なんだこれ。凄い恥ずかしいんですけど。意識し出した途端にこれですか。確かに辛いわ。ハーレム主人公が鈍感になるのも頷ける。関係ねぇな。しかも一夏によると俺も人のこと言えないらしい。お前もなと言い返した自分の選択肢は正しいと思う。

 

「それで、蒼は?」

「あー、えっと、だな。……お、お前の幸せ」

「それならもう叶ってるよ」

「え? いや、マジで?」

 

 聞き返すと一夏が握っていた手にぎゅっと力を込めて指を絡めてきた。いわゆる恋人繋ぎ。ふぇぇ……童貞には辛いシチュエーションだよぉ……。

 

「だって、蒼と一緒にいるのが私の幸せだから」

「…………あっそ」

 

 ナチュラルに恥ずかしくなる言葉はやめろ。照れて何も言えなくなるから。




最近もう駄目だと思った瞬間。

「今日も書かないとな……あ」

書きたいんじゃなくて書かないとって時点で既にモチベが尽きかけてるんだよなぁ……。だから駄作者なんだよコイツ。ほらさっさと書けや(セルフ)

一応学園やります。モチベ? HAHAHA、睡眠時間の二時間や三時間削れば何とかカバー出来るさ!(白目)


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さぁ、始まりの終わりを始めよう。

我こそは混沌の覇者なり! 深淵に揺れる煉獄の業火よ。視濁する昏き焔、歪曲する真紅の闇 。絶叫し、発狂し、破滅(おわり)へと誘う灯火。罪を以て罪を制す。黒の断片(かけら)を身に刻み、不遜なる摂理に牙を突き立てろ!

(´・ω・`)すまない。発作だ。気にしないでくれ


 新学期が始まって数週間。俺と一夏の関係は驚くほど早く学校内では周知の事実となった。その早さたるや島風の如し。クーガーの兄貴がアルター能力使ったのかと思うほどである。実際結構ビビった。翌日にはもう殆どの生徒どころか教師にまで知れ渡ってるからね。裏で天災が手引きでもしたのかと疑っちゃったよ。

 

「おはよー植里くん、織斑さん」

「うーっす」

「おはよー」

 

 教室に向かう途中の廊下で前から来た女子に挨拶を返す。一夏を変わった変わったと言っていたが、俺もかなり変わってきている。去年の四月と比べればかなり吃らなくなった。これも一夏と過ごしてきたお陰ってやつかもしれない。つっても吃りが完全に消え始めたのは一夏が彼女になってからだけど。やっぱり心の問題とかそういうのですかね。

 

「今日も眼鏡似合ってるねー、カッコいいよー」

「あ、ど、どうも」

 

 まだ吃ってんぞこのチキン。会話は可能でも褒められるとかあまり慣れてないのは勘弁なのよ。てか挨拶だけで許してください。こういう時の対応ってどうすれば良いのか未だに分からん。苦笑いして過ごせばいいの? サンキュー☆(バチコーン)とかウインクしながら言えばいいの? 完全にチャラ男。とか阿呆なことを考えていれば腕に刺激。いやん。

 

「いッ!?」

「……馬鹿蒼」

 

 やめて一夏ちゃん。照れただけ。照れただけだから。慣れてなくて照れただけだから。別に惚れたりとかそんなんじゃないから。なので腕をつねらないで。ちょっとそれ痛いんだよ。凄く痛いんだよ。ちょっとなのか凄くなのかはっきりしろや。

 

「早速尻に敷かれてるねー」

「あ、あはは……」

「別にそんなつもりは無いんだけど……」

 

 俺だって尻に敷かれるつもりなんてねーよ。そう思っていた時期が僕にもありました。女の子って怖い。妙な迫力と有無を言わせぬオーラは一体どうやって発生させてるんですか。恋する乙女特権ですか。え、違うの? ならもう超能力者のレベルじゃん。女の子は超能力者。浮気バレとかの話を聞くと俄然そう思う。

 

「ま、仲良し夫婦をお邪魔しちゃ悪いんでこの辺でおさらばするよ。じゃっ!」

「まだ夫婦じゃないんですが」

「ふ、夫婦……」

 

 こらそこ、顔を赤らめるんじゃない。さっきまでバリ嫉妬してたくせに調子の良いことで。まぁ、変な方向に進んでバットエンドルートまっしぐらとかよりは断然マシですけど。付き合う前までは至って普通の可愛らしい女の子。それが付き合い始めた途端に束縛監禁拘束プレイでにゃんにゃんしちゃったりしたらもう目も当てられない。下手すればナイフ持ってザクー。下手しなくても精力搾り取られてゲッソリ。ヤンデレって怖い。

 

「……まぁ、将来的にはな」

「っ!!」

 

 ぼふん。一夏の顔が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! それ爆熱ゴッドフィンガー。すっげぇな。ぷすぷす言いそうなくらい真っ赤。体温計当てたら人として物凄い数値を叩き出しそう。みんなの味方体温計。必死に温度をあげて無理矢理学校を休もうとした人は決して少なくない筈だ。かく言う俺もその一人である。前世では数回。今世では一度だけ試そうとして失敗に終わった。植里家怖い。

 

「ほ、ほんとに?」

「千冬さんと話がついた時点で決まったようなもんだ。逃げられねぇし逃げる気もねぇけど」

「そっ、か……良かったぁ」

「相変わらず素直なことで」

 

 そもそも一夏ならまだしも俺を貰ってくれる人なんてこの先現れるかどうかすら分からない。むしろ現れない可能性の方が高い。ソースは今までの俺の人生全て。絶対彼女なんて出来ねえだろと半ば諦めかけるレベルのモテなさに今でも枕を濡らすことが多々ある。最近は無くなったけど。

 

「そういや最近数馬や弾と話してねぇな。あいつらどうしたんだ?」

「あぁ、なんか蒼関係で後処理があるとかなんとか」

「俺関係の後処理? なんだそれ……」

「私にも分からないよ」

 

 てか後処理ってなんだ。俺なんか悪いことしたっけ。特に身に覚えが無いんだが……。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「弾。そっちはどうだ?」

『なんとか抑えた。そっちは?』

「こっちもだ。話が出来て良かったよ」

『だな。……蒼のやつ、面倒なもん残しやがって』

「仕方ない、本人も無自覚だ。……だから面倒になる」

『クソがぁ……。あいつ殴る。絶対殴る』

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 一月往ぬる。二月逃げる。三月去る。そう言われている通りこの時期は妙に月日が流れるのを早く感じる。この年ではやこうだと歳をとった時は一体どれほど早く感じてしまうのか。転生者だからかもしれないけど。ともかくとして俺は平穏無事にこの日を迎えた。なんと表現すればいいだろう。運命の日。始まりの日。歯車の噛み合った日。全てが動き出した日。厨二的に言葉を使えば始まりの終わりを始めようってところか。あながち間違いでもない。

 

「うっわぁ……」

 

 思わず漏れたのは誰が聞いてもドン引いていると分かる声。当たり前だ。むしろ今のこの状況でドン引かなきゃ転生者じゃない。転生者じゃねえよ。目の前に佇むのは人が乗るように設計された機械。つーか兵器。つーか翼。ぶっちゃけるとIS。つまりインフィニット・ストラトス。かの女性にしか扱えないとされている代物である。

 

「うん。まぁ、まぁね、薄々感付いてはいたよ」

 

 ここまでに来る道中のこととか。あれ、これどっかで読んだことあるなーって思ったもの。完全に原作一夏の行動を踏襲していたと知ったのはついさっき。つまりコイツを目の前にしてからである。その原作主人公たる一夏は既に入学が決定しているので今朝に部屋で応援の言葉と共に見送られた。ちなみに帰ってきたら話したいことがあるとも。恐らく俺と最低でも三年間離れ離れになることなのだろうが、まさかここでフラグ発生条件に入ってしまうとは。

 

「けど、マジでこれは無いわ……」

 

 一夏と会えないのは少し寂しいが、彼女いない歴=年齢を魂レベルで行っている俺としては遠距離恋愛程度バッチコイ。我慢出来ないという訳でもない。こちとら性欲を今の今まで抑え込んでる理性の化け物と呼ばれてもいいくらいの男よ? 彼女が居ないからって他の女性とヤる気もなければヤれる気もしない。だってモテないんだもの。

 

「……帰ろう。うん。俺は何も見なかった」

 

 そう呟いてくるりと踵を返し、ガチャッとドアノブを捻ってドアを開け──ようとした瞬間。

 

「あーっくん☆」

 

 ガシッと手首を掴まれてひしっと後ろから抱きつかれ首にきゅっと腕が入ったかと思えば俺の体が宙を舞っている。HAHAHA、ワロス。待てや。たかが凡人相手にこの天災さんは何してるんですか。つーか何でここにいやがるんですか。あんた原作だと居なかったでしょう。態々出張ってくんじゃねえこのおっぱいラビット。ふざけんな。

 

「飛鳥文化アターック☆」

「ごふぁっ!?」

 

 背中いたーっ!

 

「た、げふっ、束さ、かふっ、げほっがほっ」

「あっはっはー! 私の勝ちだよぉん!」

 

 ずるずると壁に凭れ掛かりながら立ち上がると、声高らかにおっぱいラビットが勝利宣言をしやがった。こいつマジで何しに来たんですかね。さっさと帰ってさっさと引きこもって。あんたが世間に出てるとろくなことが起きない。歴史が証明してる。

 

「痛ぁ……背中、マジで痛……」

「そ・れ・よ・り・も、君はそれに触っちゃっていいのかなぁ?」

「は?」

 

 なに言ってんだこの人。それってなによ。訳も分からず自分の手元の方へ視線を送れば全て気付く。ドアを開けてこの部屋に入った目の前にISはあった。そこからくるりと反転して帰ろうとした矢先に天災が現れて反対方向に投げ飛ばされた。さて、こうなるとどうなるでしょーか! 正解は『敗北』です。もしくは『オワタ』。

 

「…………あ」

「話し声が聞こえたけど誰か──」

 

 バットタイミング。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『もしもし一夏か?』

「千冬姉? いきなり電話してきてどうしたの?」

『植里が馬鹿に誘拐された』

「へぇ、そうなんだ。…………うん?」

 

 え?




最近適当加減が増してる? それは気のせいじゃなくて事実だから気にしないでくれ。全部私が悪いんだ。ちょっと最近休日が休日じゃなくてもう休日ってなんだっけ状態なだけなんだ。

はい。すいません。ゆっくり休んでから色々と書き直したりします。

最近、油っぽいものを単体でいただけなくなった今日この頃。あっさりした野菜が美味しいと思いました(小並感)


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見知らぬ、天井。

※この話には過度なキャラ崩壊が含まれております。苦手な方は即座にトイレへ行って一旦冷静(意味深)になってからブラウザバック推奨です。



……ふぅ。人はどうして争うのか。


 知らない天井だ。最近はやりの異世界転生系小説ではよくこの表現が使われている気がするが、態々ぼくはこの天井知らないアッピルをする必要はあるのか。エヴァに乗らなければいけないのか。そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「知らない天井だ」

 

 人生で一度は言ってみたい台詞ランキング百位圏内に入っているだけはある。なんか溢れ出てくるものがあるね。いいよ、求めていたのはこういう刺激だよ。ならシゲキックス食べてろって話。はてさてその知らない天井なのだが当然病院ではない。自室でもない。一夏の部屋でもない。ならばどこか。知るか。だから知らない天井っつってんだろーが。天災に投げ飛ばされて壁に手を付きながら立ち上がったかと思えばそれがISで起動したところを誰かに見られた時から記憶が途切れている。なんのことだかさっぱり。

 

「植里蒼」

「はい?」

 

 なんて思っていれば突然名前を呼ばれた。声の方向に振り向けばなんてこったい。そこにはまさに外国人といったような銀髪美少女が座ってらっしゃる。うん。ちょっと考えちゃったけど完全に初対面。ならなんでこの美少女は俺の名前知ってんの? いや、俺も知ってるには知ってるんだけど。確かくおえうえーるさん。違う。

 

「平均的な容姿。平凡な性格。豆腐メンタルのチキン。付け加えると童貞。合っていますか?」

「………………ごふっ」

 

 うえさと は たおれた。なにこの子。パンチ強すぎるんですけど。起きて早々にストレート入れられた感じなんですけど。いや、この威力を考えるとハートブレイクショットとも言える。マジで俺のハートブレイクしちゃってるから。無意識か意識的かは知らないけど粉々に砕いてくれちゃってるから。貴女の言った通り俺は豆腐メンタルのチキン童貞なんですよ。やだセルフ。

 

「合っていますか?」

「ハイ」

 

 そしてメンタル強い。俺と違って本当メンタル強い。なんだこいつ。俺の敵に回したくない人間ランキング第五位に躍り出たぞ。ちな一位は千冬さん。二位はおっぱいラビット。三位は一夏。四位は母さん。上位二人が化け物すぎて他が霞んでみえる。霞か雲か古きぞ出ずるってか。盗んで毒って姿消してからの高威力ブレス。禿げそう。

 

「……あの、一ついいっすか」

「はい」

「ここってどこなんすかね」

「束様のラボです」

 

 へぇ~、ここが日本の誇る大天災篠ノ之束のラボなんだぁ~! ぼくなんかが見れるなんてなんとも光栄だなぁ。一生に一度あるかないかの機会じゃないか。運が良かった。やっぱりおみくじの結果は信用できない。ここまで全部俺の現実逃避。うん。おみくじの結果は信用できないだって? ばりばり当たってやがるよちくしょうめ。予期せぬ事故ってこれの事だったのね。乱数調整してスナイプでもしたのかと思うほどの的中率に転生者の植里さんもビックリだよ。

 

「……た、束さんは……?」

「各国の政府の方々と話をつけているところかと」

「えっと。それはまたどうして……」

「男性IS操縦者が現れたからでは」

 

 マジで? 遂に現れたのかよ男性IS操縦者。誰だよあの天災が作った欠陥機動かした奴。凄いな。そりゃあ各国のお偉いさん方も必死になる訳ですわ。社会の基盤からひっくり返せそうな存在ですものね。そんな阿呆みたいな存在はどこにいるかって? うん。先ずここに一人いるな。ベッドに寝てるどこぞのBLUE SKY。

 

「俺の人生オワタ」

「ざまあメシウマ、と返しておきます」

 

 やだ、ナチュラルに精神を抉ってくるよこの子。ちなみに名前はクロエ・クロニクルだそうです。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「つ、つまり、束さんが拐ったってこと?」

『あぁ、そうだ』

 

 あ、そうなんだ。良かった、変な人に誘拐されたのかと勘違いしちゃったよ。千冬姉も紛らわしい言い方するから。一瞬だけど蒼にも隠してるコレ(・・)を使っちゃうところだったし。危ない危ない。一旦落ち着こう私。束さんからある事のお祝いとかで渡されたコレはかなり扱いづらい反面、最強の兵器とも言えるモノらしい。千冬姉が説明してくれた。確かにコレだと私より千冬姉の方が理解は深いよね。うん。

 

「お、驚かせないでよ……」

『しかし問題があってだな』

「も、問題?」

 

 なんだろう。まさかやっと安心したところに追い討ちをかける気じゃないよね。千冬姉のことだから流石にそんなことしないと思うけど。むしろ今回の事件の犯人である束さんの方がやりそう。安心したところに追加情報を与えて混乱させるとか。蒼曰く、天災は防げないから天災と呼ばれる。そりゃあ束さんの進撃を防げる人なんてこの地上には千冬姉以外存在しないって。

 

『あいつ、ISを動かしたそうだ』

「……えっと……束さんが?」

『違う』

 

 話の流れからして束さんの事だと思ってたらどうも違ったみたいですはい。あの人がIS動かしたらかなり問題になりそうだし正解だと思ったんだけどなぁ……。なんだっけ、細胞レベルでオーバースペック? 昔に蒼がそんなことを言ってた気がする。その時は物知りだなーくらいにしか思ってなかった。今なら分かる。確かに性能面では殆どの人間を上回ってるよあの人。

 

『植里蒼がISを動かした』

「え?」

 

 いや、え?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「くんかくんかはすはす。う~ん、あっくんの匂いだねぇ……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「植里さんしっかりして下さい」

 

 俺氏、発狂する五秒前。それをなんとか銀髪美少女であるクロエ・ルメールさんじゃなくてクロエ・クロニクルさんに押し止めてもらってる状態。なんと言ったってこの現状、酷く精神及びSAN値をマッハで削ってくる。なんなの、クロックアップでもしてんの。密着した状態でひたすら匂いを嗅いでくる天災の恐怖よ。クロエさん! 天災が! 天災がぁ! こっちにくるよぅ!!

 

「さーて始まりました植里蒼と篠ノ之束による理性のドキドキチキンレース。実況は私、束様のアイドルことクロエちゃんがお送りします。きゃは☆(真顔)」

「きゃーくーちゃんかっわいー☆はすはすいろはす」

「クロエさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 あんた味方じゃ無かったのかよぉ! ちくしょう! ここに俺の味方はいないのか! いいや、落ち着け。こういう時こそ冷静にだ。辺りを見渡して状況を詳しく把握しよう。裏切って実況を始めたクロエ・クロニクルさん。なんかお偉いさんとの話を切り上げて癒されに来たとか吐かしながらクンカーとなっている天災。その対象となっている転生者兼現役中学生で彼女持ちの、彼女持ち(・・・・)の俺。味方なんていなかったんや。

 

「くんかくんか……あー、良いねぇ。あっくんの匂いといーちゃんの匂いが混ざって最高の芳香剤を嗅いでるような気分だよ☆」

「ダレカタスケテー」

「おおっと束様攻めていくぅ↑」

 

 語尾上げんな。

 

「すぅーっ……はぁーっ。すぅーっ……はぁーっ。えへへ~」

「クロエさん助けろください」

「まさかの服に顔を押し付けて深呼吸からの微笑みぃーっ。ノビシロですね」

 

 どこがノビシロなのかちょっと説明して。もう何がなんだか訳が分からないよ。貴女ってそういうキャラでしたっけ。もっと冷静沈着クールに行こうぜなキャラじゃありませんでしたっけ。あれなの。やっぱり天災といたから色々とネジがぶっ飛んでんの?

 

「うふふ~、あーっくん☆」

「ちょ、やめ、顔近っ!? いや顔近っ!?」

「束様まさかの急接近。植里選手かなり押されております。ヘタレチキンは伊達じゃない」

 

 罵倒やめーや。てかマジでそろそろ限界。近い。この天災マジで近い。理性じゃなくて意識の方が持っていかれそう。もう、ゴールしてもいいよね……? いや、させてください。死ぬ。

 

「あふん」

「いえーい! 束さん大☆勝☆利!!」

「試合終了。勝者は束様。流石です。はっやーい。ちなみに実況は私、束様のアイドルこと、くーちゃんがお送りしました。きゃは☆」

 

 2-4-11……解体……しなきゃ……(使命感)。




かゆ……うま……あんぱん(錯乱)

最近、コンビニ弁当の紅しょうがに本気で感謝の念を捧げてます。あれが無いとからあげ弁当とかキツいっすわ……。

やっと休日らしい休日を過ごせそうなので疲れはとれると思います。モチベ? 疲れがとれたんなら徹夜も出来るだろ(白目)


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囚われのお姫様♂。

疲れた体に栄養ドリンク。美味い(朦朧)


『もしもし蒼!?』

「よっ、一夏」

 

 電話に出るなり勢いよく話し掛けてくる一夏。気持ちは分かるけど落ち着いてほしい。ちなみに俺が天災のラボに来て既に三日が経っています。最初は直ぐに帰してくれるだろとか思っていたところ、なんと身の安全が確保されるまで帰れないことを言い渡された。それも昨日。最初から言ってろやボケ。アホ。天災。お陰で受験のために携帯の電源を切っていた事とかが重なって見事に連絡の付かない行方不明の出来上がり。いや、束さんによると一部には伝えられてるらしいが。

 

『あ、蒼だよね? 本当に蒼だよね!?』

「あー……うん。まぁ、落ち着け」

『落ち着いてるよっ!』

「どう捉えても落ち着いてないんですが」

 

 ちょっとこいつの周りに誰かいないの。千冬さんとか千冬さんとか千冬さんとか。もしくは千冬さん。全部千冬さんじゃねーか。それだけ千冬さんは有能ってことでもある。流石だぜ千冬ネキ。どこぞの天災とは存在意義からしてレベルが違う。俺主観の考えで。

 

『ど、どうしたの? つい昨日まで一切連絡取れなかったのに……』

「それに関してはすまん。携帯の電源切ったままだった」

『そ、そうなんだ。……それ、充電とか大丈夫?』

「一応束さんが簡易充電器を作ってくれた。ウイルスバスターと盗撮盗聴投影機能付きのな」

『す、凄いもの貰ったんだね……』

 

 マジで凄いわコレ。いつも使ってる奴より二倍ほど早く充電してくれるし、束さんにどんなサイト見たのか伝わるし、束さんにどんな動画を見たのかも伝わるし、唐突に束さんのホログラムが投影される。マジで凄いわ。凄い心臓に悪いわ。やめろ。天災の姿には本能的恐怖を覚えちゃう一般人なんだから勘弁して。

 

『それで、どうしたの? 何かあったの?』

「あぁ、あれだ。生存報告ってやつだ」

『生存報告……』

「おう。植里蒼は元気に生きてますよー」

 

 言えば向こうからくすりという音が聞こえる。うん。十分に落ち着いてくれたみたいでなにより。つっても本当にこれ伝えるためだけの通話なのでもう他に言うこと無いんですけどね。ほら、声聞いて無事って分かると安心できるだろうし。

 

『そっか……うん。良かったよ、本当』

「俺も生きてて良かったわ」

『なにそれ、ふふっ……あ、なんか涙出てきた』

「おう、マジかよ」

 

 あれですかね。涙を流すくらい植里くんのトークが面白かったって事ですかね。おいおいやめろよ馬鹿、照れるだろ。てれてれ。そんなに持ち上げられると将来芸人になれるんじゃないかと夢見て結局挑戦するも売れなくて諦めちゃうかもしれないだろ。やだ、ネガティブ。

 

『だって、蒼の声聞いてたら、本当に生きてたんだって、思って』

「……うん」

『えっと、あの、嬉しくて、だからっ。その、別に悲しんでは無くて』

「分かってるよ。それくらい」

 

 女になってからのコイツと一番長く過ごしたのは多分俺だ。男の時からでも二番くらいにはなる。そこに元々あった知識も合わせればご察しの通り。一番の理解者と胸を張って言える訳ではないが、絶対の味方くらいなら堂々と宣言できる。ここでも働くヘタレチキンメンタル。なんなのこいつ。働きすぎだろ。社畜か。もうそろそろ過労で倒れるんじゃねえの。

 

『ご、ごめっ……だ、大丈夫、だから。なんでもっ、ない、から……っ』

「あーもう。泣くなら泣け。別に誰も責めやしねぇだろ」

『うぇぇ……ひぐっ……蒼ぉ……』

「ったく……」

 

 色々と溜まっていたに違いない。三日も連絡がとれなかったのだから当然だ。俺も少しの寂しさや物足りなさはあったが、こいつの場合はその比じゃないだろう。先ほど束さんの話題を出したときに反応しなかった事から一応どういう事かは知っているっぽいが。なんと言っても一夏は意外なことに結構……というかかなり愛が深い(オブラート)タイプだった。そこ、重いとか言わない。植里くんの死亡フラグが乱立しちゃうからやめなさい。冗談抜きでNiceboatしそう。

 

『ぐすっ。……ごめん。もう、大丈夫だから』

「無理すんなよ。色々と大変だろ」

『そうでもないよ。いつもの生活リズムは崩れてないし』

「ならいいんだけど」

 

 実際、下手すると病んでる可能性も否めなくて電話掛けるのちょっぴり怖かったのよね。元男のTS美少女だと侮ってはいけない(戒め)。たったの数ヵ月でばっちり理解してしまいました。原作主人公とは思えないこれには戸惑うばかりである。もっと主人公の一夏って王道を行くハーレム王みたいな感じじゃなかったっけ。どこをどう間違えたらこうなるのか。もう一度最初から一夏を育成し直すとか出来ませんかね。出来ませんね。いや、天災に頼み込めばなんとか(錯乱)。

 

『ただ、いつ蒼が戻ってきてもいいようにずっと蒼の部屋で過ごしてたんだけどね』

「おお。…………え?」

『ほら、掃除とかしておかないと汚れちゃうし、使わなくても埃が溜まっちゃうからね。あ、勝手にベッド使っちゃったけど駄目だった?』

「い、いや、別に良い、けど……」

 

 そこは問題じゃない。問題な気もするけど別に今は大した問題じゃないんだ。問題はこれが上位で通用するかだな……。違う。肝心なのは一夏が俺の部屋で寝泊まりしているということ。その理由が帰りを待ってという点に着目したい。普通なら忠犬みたいで可愛いと思うこの行為だが、当事者になった瞬間がらりと見方が変わってくる。具体的に言うとなにこの子怖い。

 

「お、お前、家には帰れよ。千冬さんが心配するぞ」

『大丈夫だよ、許可は貰ってるし。それに千冬姉は殆どいないから』

「そ、そうか……」

『あと、ここだと蒼が近くにいるみたいで安心するし』

「」

 

 なんてこったい(白目)。これもう既に手遅れなんじゃないかと思ってきた。マジか。本当何が起きた原作主人公。女になったから女の織斑の血が騒いでるの? 千冬さんみたいに公式チートを地で行く超人になっちゃうの? やだ、俺の周りって強い人多すぎ……? これは守られちゃう系転生者の匂いがプンプンするぜ。

 

「……とっ、とにかく、お前は一旦家に帰れ。俺は無事だから。な?」

『蒼がそこまで言うなら……』

「そ、そうしてくれ。ついでにゆっくり休め」

『……? うん、分かった』

 

 ついでが本音だとは言わない。今の一夏には本気でゆっくり休んで落ち着いて欲しい所存だ。テンションではなく精神的に。このまま俺が電話を掛けなかったらはたしてどうなっていたのか。想像するのも恐ろしく感じる。やべえ。同時に今日から開放されるまで二日に一回は一夏と通話することを心に誓う。じゃないと色んな意味で心配になるわ。

 

『そういうば、蒼って今どこにいるの?』

「知らん。多分電波の届かないところ」

『いや、じゃあどうして通話が出来てるって話に』

「俺が誰と居るか知ってるだろ?」

『あっ……(察し)』

 

 天災はIS世界に対するジョーカー。はっきり分かんだね。どんな事態もどんな無理もどんな不可能もどんなラスボスだってこの一人で全てが片付く。尚キャラの扱い辛さはトップクラスの模様。その分強さは他より頭一つ抜きん出てる。あの人は格ゲーのキャラかなにか?

 

「今、色々と束さんがやってるらしいからな。少なくとも一週間は帰れそうにない」

『そうなんだ……。ちょっと、寂しいかも』

「あー……こうして電話は出来るから。なら少しくらい紛れるだろ?」

『……うん、そうだね』

 

 柔らかい声音で一夏が返す。無事作戦は成功らしい。このまま適度に声を聞かせていけば一夏のサイコパス色相も綺麗になってくれるだろう。そう信じてる。

 

「そろそろ切るけど、なんか言う事とかあるか?」

『えっと……あ、そうだ』

「ん?」

 

 ひとつ間を置いて。

 

『またね、蒼』

「……おう。またな」

 

 ……これ、二日に一回で済むかなぁ。




最近休息推奨コメントが増えてきて混乱してる作者です。ワタシタブンマダイケルヨ。一回妥協するとズルズル行っちゃうからやれるとこまでやる所存です。

つまり私の更新が途切れた日は「あ、こいつ遂に力尽きやがったな」とでも思ってください。多分その時は活動報告で何か言ってるハズ。


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胃薬が欲しい今日この頃。

箒♀「なぁ、いいだろぉ……」ネットリ
一夏♂「やめろよ箒。俺たち異性だぞ」キリッ
箒♀「いいじゃないか……異性、いいだろぉ」ネットリ
一夏♂「ちょ、ま、どこをあぁんっ♡」ビクンビクン
箒♀「一夏の一夏は可愛いなぁ……」ネットリ

そんな夢を見た、昨日の夜。


「しかしお前も運が悪いな」

「はぁ……」

 

 ツカツカと前を歩く黒髪の女性から声が掛かる。ビシッとスーツを着こなした可愛いというより綺麗系のその人は何を隠そう世界最強。ブリュンヒルデ。関羽でお馴染み織斑千冬さんである。姉の顔を見て第一声があれはかなり酷いと思うの。どんだけ恐怖の象徴として君臨してたんだって話。尤も今のあいつは千冬さんに対して恐怖のきの字もないだろうけど。

 

「あの馬鹿に目を付けられてこれだろう?」

「……そーっすね。本当怠いっす」

 

 本心から漏れ出た言葉は思っていた以上にどんよりとした気分にさせる。明らかに選択肢を間違えた。間違えすぎてしまった。アホ毛が特徴的なラノベ主人公の青春くらい間違えたんじゃなかろうか。やはり俺のIS世界に転生した人生は間違っている。

 

「あいつも随分酷いことをする。……いや、それは昔からだったな」

「もう駄目じゃないっすか……」

「アレと関わった時点で既に駄目だと思うが」

「それブーメランですよ」

 

 さっきから束さんのことを「あの馬鹿」だの「あいつ」だの「アレ」だのと頑なに名前を呼ばない辺りその苦労と恨みが窺える。千冬さんも色々とやられたんですね(しみじみ)。謂わばこの人は俺の先輩とも言える人物である。ち、千冬先輩! 一生ついていきまっす! 実際そうなりそうなんですが……。

 

「正直なところ」

「……?」

「私への被害が軽いことに少し安堵している」

「うわぁ……」

 

 やっぱりもうついていきません。千冬先輩がそんな人間だとは思わなかったよ。ちくしょう。自分があまり被害を被っていないからってそんな態度はねぇよ。ありませんことよ。俺だって好きで天災からの被害を受けている訳ではない。というかあの被害を好き好んで受ける奴なんて精々ドMか全力で束さんを愛せる人だけだと思う。恋愛感情的な方で。あの人の理不尽は裏を返すと愛情表現とも言える……かも、しれない、多分、恐らく、凄く曖昧な捉え方をすれば。

 

「私だって目を付けられた被害者の一人だ。人生最大の失敗だよ、あんなのと関わったのは」

「言ってる割に楽しそうですね」

「同じ被害者の様子を見るのが案外面白くてな」

「人の不幸は蜜の味……」

 

 確かにそうは思うけど。自分に向くと心底嫌気がさすのに同じ境遇の誰かに向けられている様は実に愉快な気持ちにさせられる。なるほど、これがメシウマってやつですね! 天災の被害で今日もメシが美味い! 尚、結構な確率で己にも向いてくる模様。あの人もう自然災害として登録すればいいんじゃないかな。明日はくもりのち雨で時折天災も現れるでしょう。なにそれ警戒体制しいとかなきゃ(確信)。しかし警戒していてもそれを突破するのが天災。結局どうしようもない。

 

「さて、ついたな」

「すいません。腹痛が痛いので帰っていいですか?」

「駄目だ。そして日本語をきちんと学べ」

「ず、頭痛がするんで早退……」

「あぁ、ここでは織斑先生と呼べ、植里」

「最早無視っすか……」

 

 酷いや、千冬さん。俺の懇願するような視線をもスルーしてさっさと教室へ入っていく。あ、やべ。マジでお腹痛くなってきたんだけど。真面目にこれ帰っていいかな? というか帰らせてください。日常へ。俺の愛すべきありふれた日常へ。あ、教室の中の一夏と目が合った。小さく手を振ってくる。うん。ちょっとだけ救われた気分。サンキュー。

 

「あはは、安心s胃ががががが」

 

 はてさてお気付きの方もいるだろうが、今俺のいるここはIS学園。99.9%の生徒が女子であるこの学園は、文字通り女の園と言っても過言ではない。その残った0.1%の汚物が俺です。どうしてこうなった。その理由は数週間前に遡る。と、その前にひとつだけ。

 

 死ね、クソうさぎ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『──って事があってね、珍しく数馬が狼狽してたよ』

「へぇ、そりゃまた面白そうな事を」

 

 こうして一夏と通話するのも既に二桁を越えた。予想通りというかなんというか、案の定二日に一回のペースなんて一度連絡手段を持ったこいつが耐えられる筈もなく。めでたいことに俺の計画は破綻。平均一日一回の時折昼間と寝る前で二回という普通の生活をしているなら地味にハードな所業を強いられている。俺は、一夏と過度に通話することを……強いられているんだ!(集中線)

 

『あはは……蒼は、まだ帰れないの?』

「ん? あぁ、束さんに聞いてはいるんだけど、なんか返事が曖昧でなぁ。それと」

『それと?』

「……最近、機嫌が悪いんだ」

 

 これ。マジでこれ。最近の束さんは明らかにご機嫌斜めである。一回あの強烈な悪者顔で「ちょっと黙っててくれるかな?」って言われた時は軽く死を覚悟した。ちょっとじゃなく永遠に黙らされるのかと思った。めっちゃ怖かったです。その後に直ぐ様正気に戻ったのか「あ、ごめんごめん! そういうつもりじゃ無かったんだよ! ちょっと束さん的によろしくない事が続いてストレスが溜まってただけで、あーもう本当さっさと条件のんで言いなりになってろよクソ政府どもが」なんて言いながら頭を撫でてくれたが。あの時だけは束さんに目を付けられてて良かったと思う。

 

『束さんでもそういう時ってあるんだね……』

「人間アピールもいいとこだ。勘弁してほしい」

『確かに私も不機嫌な束さんとはちょっと』

「だろ? お陰で最近胃がキリキリする」

 

 このままじゃ胃薬使っちまいそうだよ。俺も将来胃薬が手離せない系キャラになるのだろうか。嫌だな、絶対不健康な生活を強いられる。俺は不健康な生活を……強いられているんだッ!!(集中線)はいはい天丼天丼。個人的に天丼より牛丼の方が好み。重いけど。安定した価格と美味しさ、いいよね。重いけど。

 

『えっと……大丈夫?』

「お前の声聞いてるから大丈夫」

『ふふっ、なにそれ』

「一夏の声で癒されるってことだよ」

 

 言えば向こう側からの音声がぱったりと途切れる。あら? もしかして充電切れた? そう思って画面を確認してもまだ80%はある。電波も良好。通話状態も継続中。ふんふむ。不思議に思って再び耳に当てると、小さく呻くような声が聞こえた。うん。大丈夫そうだ。

 

「どうしたー。大丈夫かー?」

『とっ、唐突にそんなこと言わないでよ。恥ずかしくなるじゃん』

「あ、すまん。……一応本音なんだが」

『だからこそだよっ』

 

 ですよねー。まぁ分かってた。一応これは会話の主導権を握るための練習である。一夏ちゃんってば主導権渡しちゃうと本当手が付けられなくなるからね。上手くこちらが握っておかなければやられてしまう。無理矢理奪われる時もあるが。しょうがないね、植里くんは基本貧弱な男だからね。貧弱貧弱ゥ! 俺ごときの抵抗など無駄なんだよ無駄無駄ァ! 「世界(ザ・ワールド)」ッ!!

 

「まぁ、こっちはそんな感じで苦労してる」

『そ、そっか。……助けてあげたいんだけど、ね』

「こうして話してくれるだけで十分助かってるよ」

『な、なら、良かった……かも』

 

 なんて話していた時。ふと俺の携帯に押し当ててない方の耳が何かの音を拾う。むっ、これは明らかに足音。しかも近付いている。近付いているぞ。凡人の俺にでも分かるくらい大きな足音で近付い──ってこれもう直ぐそこじゃね? あ、嫌な予感。思った瞬間にバーンと開く部屋の扉。入ってきたのは当然。

 

「あーっくぅーん!!」

「げぇっ! おっぱい!?」

『蒼ッ!?』

「えへへ、あっくんあっくーん」

 

 がばりと抱き付いてすりすりしてくるおっぱい。間違えた束さん。おっぱいがでかすぎて束さんがおっぱいなのかおっぱいが束さんなのか分からなくなる。どっちでも天災だから関係ねーな。

 

「ど、どうしたんですか、そんなテンション上げて」

「喜びなよあっくん! ISを起動したことによって消えようとしていた君の人権とか安全とか名前とか存在とかを死守できたのさ! 尤も国籍とかそこら辺はアウトだったけどっ☆」

「へ、いや、いつの間にそんな……」

「いやぁ、やっぱり最初から脅しておけば全部丸く収まったよね! 変に会話なんかするとレベルが低すぎて疲れちゃうよ」

 

 俺の知らない間に俺の存在が消えようとしてた事に驚きを隠せないんですが。え、なんなの。男なのにIS動かせるってどんだけ凄いことなの。原作一夏って普通に過ごしてた気がするんだけど。あ、あれは身内に世界最強がいるからか。やっぱり千冬ネキ有能。

 

「……あれ、てことは身の安全は……」

「うん。確保されたよ。いやー、これで取り敢えず第一関門突破だね。早速次の段階へ行っちゃおー!」

「え?」

「ん?」

『へ?』

 

 あれ?

 

「……帰れないんすか?」

「当たり前だよ。まだまだやることはイッパイあるんだから♡」

「(白目)」

『あはは……。が、頑張って、蒼』

 

 イッパイ。どうせならおっぱいが良かったです。天災てめぇその豊満なおっぱい寄越せやコラ。そんなこと言うとダブル、もしくはトリプルにやばい状況を引き起こしそうなので言わないが。天災からの同意&交換条件。一夏からの無言の圧力。千冬さんからの本気の殺意。死んじゃう。




いつの間にか五十話を突破していたようで、よくここまで続いたなと自分で思いました。うん。単純に考えると五十日も連続投稿。馬鹿じゃねーのこいつ。だから最近周りの人に体調を心配されるんだよ。

ともかく、これからも頑張っていきますので何卒よろしくお願いします。どうか暖かい目で見守ってください。


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ジョインジョインホウキィ。

小説ってどう書くんだっけ(すっとぼけ)

今回の話は面白くない、以上ッ


「植里、入れ」

「うーっす」

 

 スタスタと教室に足を踏み入れる。決して軽い足取りではない。そんなことは当たり前。そもそも周り全員が女子という環境に男子一人を放り込む時点で間違ってる。原作一夏の場合はイケメンだったから良かったものの、俺みたいなお世辞にもイケメンと言えないような奴が来たところで歓迎も何もありはしない。あのクソうさぎはどうしてこんな事をしたのか。俺の反応でも見て楽しみたかったのか。もしそうならあのウサミミ引き千切る。なにがなんでも引き千切る。

 

「……ぅ」

 

 あは、胃がががが。ちょっとやめて。見ないで。植里くんお腹いたい。ドアをくぐった瞬間に大勢の女性から熱い視線を向けられた。てかぶっちゃけ突き刺さってるだろこれ。視線が実体化していたら多分死んでる。あとクラスメート全員が真の英雄でも死んでる。吸血鬼もまた然り。視線怖い。がたがた。

 

「どうした、早く来い」

「す、すいません」

 

 千冬さんの声ではっと気付いて歩みを再開する。ナイス千冬ネキ。言葉で表さずとも目で告げてきた。緊張するな、楽に逝け蒼。多分そんなところだろう。あらやだお姉さん字が違うんじゃなくて? 不吉ですわ。逝くくらいなら最後にイカせたい。だって童貞だもの。

 

「……えっと」

 

 呟けば視線が強さを増した。ひぇっ。ボクナニモワルイコトシテナイヨ。シイテイウナラテンサイガゼンブワルインダヨ。ダカラボクワルクナイ。僕は悪くない。だって僕は悪くないんだから。あ、このままマイナス路線でいけばやれるんじゃね? 駄目だな。千冬さんに叩き潰される。どうにかしてまともな自己紹介を行わなければかの悪名高き『出席簿アタック~頭いたをのせて~』を喰らう羽目になるのだ。あんなもの俺が喰らったら死ぬぞ。いやガチで。

 

「植里蒼、十五歳、男、好きなものはゲーム。嫌いなものは椎茸。あと……」

 

 うん。これは言っとかなきゃいけない。束さんにも是非と推奨されたことだし。てかむしろ自分から率先して言いたいまである。相手女子だけど。よし、言うぞ。言ってやる。相手女子だけど。

 

「彼女はいます(キリッ)」

 

 瞬間、教室内の空気が固まった。誰一人として動こうとしない。まともに意識を保っているのは俺と千冬さんくらいか。当事者と事情を知ってる人なんだから何もおかしくはない。そして俺が千冬さんと同じ土俵に立っているという訳でもない。え? 一夏? あぁ、大勢の前で公表したからか顔真っ赤にしてうずくまってるよ。別にお前と明言した訳じゃないんだからそんなに恥ずかしがらなくても。いや、この後の対応でどうせ知れ渡るだろうが。

 

「え、えぇぇぇぇぇ!?」

「嘘! マジ!?」

「なるほど、リア充って奴か」

「よし、殺そう」

「いいや爆発させよう」

「リア充? あぁ、砕け散れ」

 

 今となっては送るべきだったこの罵詈雑言をこの身に受けることで快感が……沸かねーな。別に俺ドMとかそういう特殊性癖持ちでもありませんし。確かに多少ネガティブなせいでセルフ罵倒をする時もあるが決して攻められてあひんあひん言うようなタイプじゃないのだ。むしろどちらかと言えば攻めたい方。

 

「な? 一夏」

「ちょっ!?」

 

 例えばこんな風に。うん。以前から度々通話という名目で練習を重ねていて良かった。主導権を握るという行為は一夏を相手にする時において最も重要な事柄の一つだ。特に己の身の安全を考えれば使わざるを得ない。というか使わなかったら圧倒的に不利。ソースは二学期の俺と一夏。ふふふ、あの時のヘタレチキン豆腐メンタルな蒼くんとは違うのだよ。今の俺はヘタレチキン絹ごし豆腐メンタル最弱全敗の蒼くんだ。弱くなってんじゃねーか。

 

「え? いや、え?」

「まさかIS学園のこのクラスに……?」

「死ね。てか死ね」

「青春とは嘘であり、欺瞞である」

「やはりリア充はくそ」

「ケツ掘られて堕ちろノンケ」

 

 うーんこの。ドストレートに向かってくる嫉妬の念に戸惑いを隠せない俺氏。男ならともかく女性からこんな殺意の波動を向けられるとは思わなかった。しかし甘いな。こちとら身近に殺意を滾らせたら宇宙一とも言われるチフユ=オリムラが居たんだぞ。その程度の殺意、受け止めきれなくて何が彼女持ちか。俺を怯えさせたいのならその三倍は持ってこい。あ、いややっぱ無理。

 

「……うん。なんとか上手く──」

「行くと思っていたか」

 

 がっしと制服の襟を掴まれてそのまま床に押し倒された。いやぁー! 背骨がー、背骨がー! 大丈夫? 俺の背骨曲がってない? あ、元から猫背でちょっと曲がってましたね。なら何の問題もねーや。いやあるわ。冷静に現状を把握しよう。俺の上に跨がって鋭い視線を向けてくるポニーテールのばいんばいんな黒髪美少女。それを見てふと一夏と千冬さんに視線を向ける。ばいんばいん。やっぱりおっぱいって遺伝するんやなって。天災にも負けず劣らずナイスおっぱい。ナイスおっぱい。大事なことなので二回言った。

 

「ちょ、せ、背中が……」

「私のことを覚えているか、蒼」

 

 被害を訴えようとしたら無理矢理遮られたでござる。解せぬ。ともかくとしてこの美少女を覚えているか。答えは間違いなくイエス。艶のある黒髪。大和撫子といった言葉が似合いそうなその少女は、小学生の頃に一夏を通して少しだけ関わった。実際は木刀で牙突放ってくる俺の中の最重要危険人物その四くらいに入っている人間。天災の妹もやはり天災じゃったか……。ツンデレ(物理)でお馴染み、胸がある日かsげふんげふんファースト幼馴染みこと篠ノ之箒ちゃん!

 

「あ、うん。篠ノ之さんっすよね」

「……やはり忘れているようだな。ならば一度ショック療法で……」

「いやー久しぶりっすね箒さん! 懐かしさで蒼くん涙が出そうだよ!」

「うむ」

 

 別の意味でも泣きそう。なんだろう、先ほどからダブルで突き刺さってくる非情な視線が非常に痛い。一夏からの何してるのっていうそれと千冬さんからの貴様一夏を泣かせないだろうなというそれが実に精神・SAN値共にゴリゴリと削ってくる。鑢で削られる材木の気持ちが分かりそうだと思いました(小並感)。

 

「さて、とりあえずだな蒼」

「う、うっす」

「今はSHR、他の生徒にも迷惑をかけている。それを考慮した上で聞くぞ」

「は、はい」

 

 にこりと笑顔を作る箒さん。あらやだ可愛い。思わず惚れちゃいそう。実際一夏と付き合ってなかったら惚れて好きになっちゃって想いが抑え切れなくなったところで告白したらフラれて号泣してる。あ、そもそも俺の場合告白すること自体ありえねーな。周りからボロカス言われるほどのヘタレチキン豆腐メンタルらしいですしおすし。あれ、変だな。目から汗が(泣)。

 

「アレが織斑一夏で良いんだな?」

 

 そう言って指差したのはじとっとした目を向けてくる一夏ちゃん。合ってる合ってる。

 

「ならお前は、アレと付き合っているんだな?」

 

 再度一夏を指差したまま問い掛けてくる。確かに俺と一夏は所謂彼氏彼女の関係というやつでして。うん。合ってる。合ってる。

 

「……なぁ、蒼」

「な、なんすか箒さん」

「この行き場の無い悶々とした気持ちを、私はどう片付ければ良いだろう……」

「と、とりあえず姉にぶつければ良いかと」

 

 一夏を女体化させたのは誰でもない篠ノ之束その人である。分かりきっていることだが箒さんの姉。妹の恋い焦がれた男子を女にするとかあの人の脳内はどうなっているのやら。まさか、百合の花が咲き乱れ……ッ!? なに。千冬さんから殺気が届いた、だと(困惑)。

 

「数年ぶりに再開した想い人が知り合いの男と付き合っていた。こんなこと、あっていいのか……ッ!!」

 

 先ずそのケース自体限り無く低いっすね。




書き直すかもしれません。とか言っておきながら今まで書き直してない駄作者がいるらしいですよ。私です。

もう疲れたよパトラッシュ……


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衝撃のファースト幼馴染み。

「い、一夏」

「うん。久しぶりだね、箒。六年ぶりだっけ?」

「……あ、あぁ、そうだな」

「すぐに分かったよ、昔からその髪型だもんね」

「蒼ぉ!!」

 

 ひしっとタックル(抱き付き)してくる箒さんをしっかり受け止める。ふふん。こういう展開で尻餅をつくほど力の無い植里さんではないのです。どや? 女の子からのアタックを真摯に受け止める俺格好良いやろ? どやぁ? なんてふざけてどや顔してたら絶対零度の如き視線が貫いた。勿論向けてきたのは一夏。ひぇっ。いちか の ぜったいれいど! いちげきひっさつ!

 

「ほ、箒さん、ちょ、あの」

「何故だ。これは誰だ。私の知る一夏ではない」

「えっと、正真正銘一夏なんすけど……」

「ならどうして女みたいな喋り方なんだッ!!」

 

 くわっと目を見開いて迫る箒さん。怖い。ちょっと一旦落ち着いてよもっぴー。幾ら理不尽になれている蒼くんと言っても物理的火力が段違いな貴女には強引な手段を容易にとれないのよ。千冬さんとかになると以ての外だが。熟練者の振るう木刀より強い生身って一体何なんですかね。ISの身体補助機能なしでIS専用ブレード振り回すとかなめてんの?

 

「そ、それには深い訳があってですね……」

「……一応聞いておく」

「えっと……あ、あはは……あの」

「さっさと言え」

 

 これ言ったら俺殺されるんじゃね? 今は手ぶらで何も持ってないけどいきなりどこからともなく真剣とか取り出して真剣(マジ)で三枚におろされるんじゃね? ゔぉおい! 三枚におろすぞぉ!(鮫並感)それは避けなくちゃならない。どうでもいいけど手ぶらって手ブラに表記を変えるだけで凄い状況になるよね。ともかく助けを求めるように一夏へと視線を送れば、にこりと笑ってこくんと頷いてくれる。天使だ。ここに天使がおられるぞ。今の俺なら一夏のために何でもできる気がする。飛べって言われたら飛んでみせよう。そして潔くお金を差し出そう。それなんてカツアゲ被害者。

 

「これは蒼のために……ね?」

「貴様が原因か。答えろ蒼」

「一夏てめぇ!!」

 

 なんてやつだ。俺の怒声もスルーしてふんとそっぽを向く。不機嫌モード全開ですね。俺もそろそろキレちまいそうだよ。よく考えたら何も悪いことしてないのに攻められる立場なのだから当然。何度も言うように俺は悪くない。悪いのは天才であって俺は無関係なのだ。全てはやつの責任。この世全ての悪とも言える。いや、それは言えねーか。くさっても世界を変えた天才だし。

 

「なぁ、どうなんだ蒼。答えてくれ」

「……え、えっと、その拳はなに……?」

「返答次第によってはお前の腹にこれをぶち込む」

「俺は関係ありませ──ッ!?」

 

 そこまで言ったところで箒さんの拳が揺れる。あ、殺られる。ぐいっと引き絞られる右腕。ぐぐっと主張するおっぱい。さらさらと靡く黒髪。状況観察これだけ出来てるとか案外余裕じゃねーか俺。そこまでの恐怖を感じていないということか。確かに幾ら天災の妹と言っても同一の存在でもなければ大人な訳でもない。篠ノ之箒さんは未発達な女子高生である。エロい。

 

「嘘を」

「ッ!?!?」

「嘘を、つくなよ……」

 

 当たるかと思えばまさかの寸止め。うおおおおおこええええええ。むしろ直撃より嫌な怖さがある。拳圧がぶわって来た時なんか思わず変な声出そうになったわ。箒さん怖い。がったがたがたきりばーと震えていればジロリと睨まれた。はい、すいません。

 

「いっ、いや、それはあの、はい。俺の責任というか、なんというか。えっと」

「はっきり言え」

「俺の責任ですすいません」

「スゥー……ハァー……。衝撃のォ!!」

 

 腹に来るぞ! 気を付けろ!

 

「ファーストブリットォォォオオ!!」

「ぶほぁっ!?」

「あ、蒼が吹っ飛んだ」

 

 どんがらがっしゃーん。ドアを越えて廊下にまで転がっていく俺氏。どうにかして体勢を持ち直すも腹のあたりが地味にジンジンして痛い。一応手加減してくれてるあたり箒さんは優しいなぁ。とか一瞬思ったが全然優しくなかった。ちらちらと周りを見渡せば客寄せパンダ(自分)を見に来た先輩たちが数名。というか大勢。他クラスのやつらが数名。というか大勢。結論。大勢の女子からじーっと見られた。これならいっそ意識ごと持っていって欲しかったです。

 

「……ど、どもです」

「あれが世界初の男性IS操縦者……」

「なんか変わった子だねー」

「てか殴られてなかった?」

「知ってる? 彼女持ちらしいよ」

「リア充死ね。あと死ね」

 

 そそくさと教室に入る。無理。あんな状況耐えられない。ひそひそ話とか駄目なタイプなのよ。被害妄想が激しいとも言う。キモい。だからこいつ前世で彼女出来なかったんだよ。まさか転生して出来るとは夢にも思わなかったが。かなり特殊な人種だけど。普通に考えたらあり得ないような存在だけど。

 

「蒼は人気者だね?」

「馬鹿言うなよ一夏。珍しいだけだろ……つか目が怖いんだけど」

「……む」

「ん? どうしたの箒さん」

 

 聞けばビシッと指差してきた。なに? 直々にぶちのめしちゃうの? オラオラされちゃうの? 幾らなんでも理不尽すぎやしませんかね。そんなことされたら怒らないことに定評のあるかどうか分からない微妙なヘタレの俺でもキレちゃうよ? ヘタレがキレたところで別に怖くねぇな。吹っ切れた(・・・・・)らまた別だけど。

 

「それだ、蒼。今気付いたが」

「それって……この眼鏡?」

「違う。お前、スムーズに話せるようになったんだな」

「あ、うん。一夏のお陰だよ」

 

 こればっかりは本当こいつに感謝である。吃りに吃りまくっていた俺がこうまで自然に女性と話せるようになった。この恩恵はかなりデカイ。マジ感謝。最早感謝しすぎて一夏が神格化するまである。女神イチカ。対になる夫がいたとすれば凄く共感できそうだ。多分嫁さんの尻に敷かれてるんだろうなぁ。分かる分かる。

 

「一夏の?」

「こいつが女みたいな振る舞いで接してくれたからな。いつの間にか耐性がついたらしい」

「……なるほど、それでこうなった訳か」

 

 まぁ、他にも蘭ちゃんだって結構助けてくれたんだけどね。それを言ってしまうと箒さんはともかく一夏の地雷を盛大に踏み抜いてしまう恐れがある。蘭ちゃんと弾が家に来てあんなことしてただなんて恥ずかしいのと怖いので言えない。特に言ったあと。どんな反応が返ってくるのか分からないのが本当もう駄目。

 

「……しかし、そうか。蒼に何か違和感を覚えたわけだ。うむ。眼鏡、似合っているぞ」

「お、おう。サンキュー……っす」

「……なにデレデレしてるの」

「してねーよ!?」

 

 ちょっと不意打ち気味だったからビビっただけだ。嘘と言いたげにじとっと睨んでくる一夏をスルーして頭をがしがしとかく。やっぱ褒められるのはなれねぇな。どうしても恥ずかしくなる。つか慣れてしまう環境にいたら最早それは俺じゃない。「カッコイイね!」に対しての返答が「いえ、別に……」な時点でお察し。「よく言われます」とか言ってみてーわ。

 

「複雑な気分だ。私の言動で嫉妬させてしまう……とても複雑な気分だ」

「全部お姉さんにぶつけたら良いかと」

「……だな。今夜は姉さんを寝かさない」

 

 おぉ、箒さん積極的。なんて思ったところへ二時間目の開始を告げるチャイムが鳴る。なんだかんだでちょうどいい。世界最強が来てからでは遅いのでその前にじゃあと別れを告げて席に戻った。時間にルーズなようでは現代社会を生き抜けないもの。

 

 ──ちなみに原作で一夏の撃沈した二時間目の授業内容だが、見事に一夏ちゃんはパーフェクト理解。俺は原作を見習って撃沈となった。後で教えてもらう約束です。




いち

かわ


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セ尻ア・チョロコット。

あまり納得いかなかったので修整するかもしれません。とか言っておきながらまたこいつ修整しない可能性あるからこれもうわかんねぇな。


「ちょっとよろしくて?」

「ん?」

 

 二時間目が終わった休み時間。必死で理解に努めていた脳みそはほぼ限界。加えて精神の方も最初からゼロに等しい。そんな極限状態でぐったりする俺へと声をかける勇者がいるとは思わなかった。つーか忘れてた。しかもここ唯一の男子生徒だったり彼女持ちだったりと色々アレな部分があるのにだ。やっぱりこの人ってメンタル強いのね。どうかその強さを少しでも分けてもらいたい所存である。

 

「あー……はい。一応は」

「……随分と適当なお返事ですわね」

 

 や、さーせん。俺ってばこう見えて人見知りしちゃうタイプなの。貴女のことが綺麗すぎて緊張しているだけだから気にしないでくれ。そんなことを言えたのなら俺の人生180度変わってた。言えないからこうなってるんだよなぁ……。キザな台詞は言う人によって印象が変わるから仕方ない。

 

「まぁいいですわ。大方、イギリスの代表候補生にして入試首席のこのわたくし、セシリア・オルコットに話し掛けられて緊張しているのでしょう?」

「………」

 

 セ尻ア・オルコット?(難聴)それはまた良い尻をしてそうな名前で……え? 違う? あ、はい。しかしながら中々にインパクトのでかい初対面である。自己評価高すぎてやべーな。これくらい大きな態度がとれる人間に俺もなりたいものだ。到底無理でしょうが。はてさてこの金髪美少女。名はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生で入試首席。ISはブルー・ティアーズ。付け加えるなら極度のメシマズだったり。なぜそんなことを知っているかって? そりゃもちろんこの人原作ヒロインです本当にありがとうございました。

 

「ちょっと、訊いてますの?」

「あ、はい。すいません。少し緊張してまして」

「なら仕方がありませんわね。相手がわたくしなんですもの」

 

 ふふんと胸を張るセシリアさん。同時に日本人からすると十分に大きな二つの果実がぽよんと揺れる。でかいすごいやばい。なにより眼福すぎる。ずっと見ていたくなる素晴らしさですね! と言っても所詮はヘタレチキン豆腐メンタル。揺れた瞬間にさっと目線を他所へずらした。これだから童貞は……(呆れ)。どどっどどど童貞ちゃうし! 冗談でもそんな事言ったら約一名に殺されそうですがね。てか現在進行形で冷めた目を向けられてる。こいつまたかとでも言いたげな目だ。

 

「あら、どうかなされましたの?」

「い、いや、なんでないっす」

「そうでしたか。……それにしても」

 

 言って腕を組みながら此方を見下ろしてくるセシリアさん。やだ、女王様みたい。なに? 今から鬼畜プレイでも強要されるんですかね。豚のように鳴きなさい、ほら、ほらぁ! しぱーんしぱーん。ぶひぃぃぃぃぃいいいい!! みたいな。ねぇな。あったとしても俺は絶対に屈しない。え、SMプレイになんか負けないんだからっ! 数日後、そこには豚と成り果てた植里の姿が。なにそれ怖い。

 

「貴方みたいなのがISを……本当ですの?」

「い、一応事実です、よ……?」

「……その弱々しい態度、なんとかなりませんの?」

「えーっと、その、すいません……」

 

 なんで俺謝ってんだろ。いかんいかん。相手のペースに呑まれている。こんな様では一夏を口で言いくるめるなど夢のまた夢。到底無理だ。つっても初対面の女の人はなぁ……原作知識で知っているとは言えなぁ……まだ若干苦手でなぁ……。うん。しゃーなし。今まで近くにこういうタイプの人が居なかったのも関係ある。嫌いではないんだけど、少し苦手というかなんというか。女子的にそれは嫌いに入るとか言っちゃいけない。俺は歴とした男の子ですから。間違っても男の娘ではない。

 

「もういいですわ。唯一男でISを操縦できると聞いていましたからどんな人かと思えば……期待はずれですわね」

「あ、あはは……」

 

 ピクリと眉が動く。一夏の。いやなしてお前が怖い顔してんの。罵られてるの俺。馬鹿にされてるの俺。貶されてるの俺。全部俺。原作だとお前が受けたあれこれ全部受け止めてるの俺。やべ、こう思うと俺カッケー。ふふふ、なんか今一番転生者っぽいことしてるわ。セシリアさんと話してる俺KAKKEEEEEEE! けどまともに対応出来てないからダサイ。俺DASEEEEEEEE! 結局はいつものクッソ格好悪い植里くんじゃねーか。訴訟。

 

「けれどもわたくし優秀(・・)ですので。貴方のような人にも優しくしてあげますわよ」

「そ、そうですか」

「ISのことで分からないことがあれば聞いてくれてもよろしくってよ?」

「あ、ありが──」

「その必要はないよ」

 

 ガタリと席を立ってそう言う一夏。なんてこったい。どうしてそこで立つのか。もう少しでこの人を穏便に追っ払えたんだぞ。結構神経使ってたんだぞ。ちょっと突付いたらハリセンボンみたいにぼんってなりそうだから気を付けてたんだぞ。うむ。今度からセシリアさんのことはハリセンボンさんと呼ぼう。てかこの人マジで苦手になりそうなんですが……。

 

「貴女は……あぁ、恋人の方ですか」

「うん。そう、そこにいる植里蒼の恋人(・・)の織斑一夏です」

「セシリア・オルコットですわ」

「え、えーっと……」

 

 なに、この雰囲気。やべぇ。セシリアさんは普通なんだけど一夏の方が普通じゃない。やべぇ。これは駄目な空気。やべぇ。そこはかとなくマズイ気がする。やべぇ。さっきから俺の本能も必死で「やべぇ」って連呼してる。やべぇ。警鐘をカンカン鳴らしまくってる。やべぇ。なんなら鳴らしすぎて鐘が潰れるんじゃないだろうかと言うほど。やべぇ。やべぇやべぇ言い過ぎてやべぇって何だっけと思ってきた。矢部ぇ。それはちょっと違うんじゃないかなって。

 

「まぁ、そういうことだから。蒼には私が教えることになってるだよね。ねぇ、蒼」

「……お、おう。そうだな」

「だから、セシリアさんの手助けは別にいらないかなって」

「……いらない、ですって?」

 

 あれれー? おっかしーぞー? さっきまで普通だったセシリアさんの様子も変わった。嘘やろお前煽り耐性ひっく。ちょっとの刺激で爆発するセシリアさんはまるでニトロとかそこら辺のものっぽい。おっぱい揉んだら一体どんな反応見せるんでしょうねぇ……。

 

「貴女、わたくしが誰だか知ってそれを言っているんでしょうね」

「もちろん。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんでしょ?」

「それで分かりませんの? 一介の生徒と代表候補生の差は歴然だと思いますが」

「大丈夫。私も代表候補生だから」

 

 その言葉に教室が静まり返る。まさに今明かされる衝撃の事実。一夏は代表候補生だった。え? いや、ちょっと待て。何がなんでもおかしい。あの一夏が? 女になってISを使い始めた一夏が? 元男の一夏が? 代表候補生だって? うん。ありえない。幾ら一夏と言えども一年経たずして代表候補生入りなんてチートにもほどがある。よってこれは一夏のついた嘘だ。嘘なんだ。嘘だよね? 嘘だと言ってくれ。

 

「だ、代表候補生が二人も!?」

「しかも植里くんの彼女さん!!」

「世界最強の夫婦……」

「リア充がっ……リア充がっ!」

「世の中は不平等。はっきり分かんだね」

「何故だ……一夏ぁ……」

 

 嘘だろ承太郎……。

 

「あら、そうでしたか。これは失礼しました。なんせ極東の島国の情報なんて手に入りづらいもので」

「ふふっ、同じ島国でもご飯が不味いところよりかはマシだと思うなぁ」

「……」

「……」

 

 火花が飛び散ってる。やだ、なんか怖い。女の子同士の戦い怖い。あれ、一夏って一応元男だよね? 女に馴染みすぎじゃないっすか。いや、それは前からだな。しいて言うなら女の子らしさが良い意味でも悪い意味でも増している。ホルモンバランスの影響とかそういうのですかね? 俺にはよく分かりません。そんな時、まるで天から使いが降りてきたかのように、グラードンとカイオーガの戦いを静めるレックウザのように、救いのチャイムは鳴り響いた。サンキューチャイム。

 

「……また後で来ますわ、織斑一夏さん」

「どうぞご自由に、セシリア・オルコットさん」

 

 とりあえず色々と言いたいことはある。いつの間に一夏が代表候補生になっただとかどうしてなれたのかとかセシリアさんのおっぱいは揺れてたとか。けれども一言だけに絞るとすれば。

 

 女って怖い。




モッピーはいずこへ。


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俺の彼女と原作ヒロインが修羅場すぎる。

溢れ出るコレジャナイ感。

やはり学園編は厳しかった。さっさとセシリアさんのセ尻アをオルコット(意味深)しないと


 教壇に立つ千冬さんを見ながら、そこはかとなく嫌な予感を感じる。IS学園初日の三時間目。それは原作一夏が色々とアレでアレしてアレになったところである。アレってなんだ。

 

「この時間では実践で使用する各種装備の説明をする……と、その前に決めなければいけないことがあったな」

 

 前半の説明で希望を持たせておきながら後半に叩き潰していくスタイル。千冬さん、あんたって人は……あんたって人は……ッ! 思わず涙が流れそうになった。冷静に現状を把握してみると見事に植里蒼くんは織斑一夏くんの立場になってしまっている。それは明白だ。どれくらい明白かって言うと冨樫先生の作品が休載することくらい明白だ。最早確定事項。

 

「再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決める。文字通りクラスの代表になる訳だが、対抗戦以外にも生徒会の開く会議や委員会への出席など……まぁ、簡単に言うとクラス長だな。一度決まれば一年間変更はない」

 

 クラス長。というかクラス委員だの学級委員だのというのは大抵ろくな事が起きない。何故ならばこういう面倒くさい役回りは気の弱い人や真面目な奴に押し付けられるからだ。後者ならまだしも前者にとっては地獄以外の何物でもない。ふざけんな。中二の時に人がちょっと惰眠を貪っていただけで学級委員にされた恨みは忘れんぞ。相方の女子は優しくて良かったけど。

 

「ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む」

 

 資本主義に競争は付き物。つまりIS学園は資本主義だった……? ねーな。そもそも資本主義だったり社会主義だったり萌えアニメ主義だったりと難しいことを考えていたら頭がいたくなる。ふむん。せんせー、頭痛が痛いので保健室言っても良いですかー? 馬鹿丸出しの台詞に俺自身ビックリだよ。はわわ。おっぱい揉みたい(真顔)。

 

「誰かやる人は……」

「私は別に……」

「私もこういうのはちょっと」

「え? 私? 嫌だよ」

「ちょっとご遠慮願いたいですね」

 

 殆どやる気ねえじゃねーか。なにやってんの。君らISのこと学びたくてこの学園に来たんじゃないの。セシリアさんを見習いなさい。あの私が選ばれるのは当然でしょうけどここは少し様子でも見ておいてさしあげますわ的な感じの態度。ですわーですわーなのですわーとか言い出すんじゃね。うさぎぃ! セシリアさんのことを半分背負ってあげなきゃ(使命感)。

 

「はい、織斑先生」

「どうした篠ノ之」

「私は植里蒼を推薦します」

 

 もっぴぃぃぃぃぃいいいい!! 貴様ぁ! 俺を、この俺を裏切りやがったなぁぁぁああああ! おのれ篠ノ之! ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 恨みを込めた視線で睨み付けていれば向こうからもキリッとした鋭い眼差しを返される。アイコンタクトって奴っすかね。残念ながら俺はそんな高等技術持ち得てないのよ? なんて思っていればちらっちらっとセシリアさんと一夏の方をいったりきたり。あっ(察し)。なるほど、つまり一夏を推薦しても納得できませんわ! セシリアさんを推薦しても納得できないよ、となる可能性を踏まえて無駄な争いを減らそうと俺を利用した訳ですね! 箒さんにしては随分と考えられている。しかし甘い。

 

「……(ちらっちらちらっ)」

「……(ちらちらちーらちらっ)」

「……ッ(ちらちーらちーらち)」

「……?(ちらっちちーらちち)」

「お前たちは何をしている」

 

 ギロンと千冬さんに睨まれる。あふん。やめて、ちょっと普段と違いすぎて怖いですよ。仕方なく箒さんとのアイコンタクトをやめた。ちなみに今の間にあった会話を訳すとこうなる。

 

『あの、俺が巻き込まれるだけなんですが』

『構わん。むしろ巻き込まれてしまえ』

『駄目だろそれはッ』

『駄目なのか……?』

 

 駄目です(断言)。今時巻き込まれ系転生者なんて使い古されすぎて真新しさの欠片もねーよ。なーんだまたこいつ巻き込まれてるよとか言われるのが目に見えてる。いっつも巻き込まれてんなこいつ。そんなに巻き込まれたいんなら車輪にでも巻き込まれてろっつーんだ。転生者はさっさと死なないといけないってぼく知ってるよ。俺の寿命は心臓が弱くてあと三ヶ月なんだ……(大嘘)なんだか純愛のかほりがすりゅ。

 

「植里くんかー。ちょっと頼りないけど」

「まぁ、唯一の男子生徒だし」

「彼女持ちのリア充野郎だし」

「少しは貧乏クジ引いてもらわなきゃ、ね……?」

「(計画通り)」

 

 一対一かと思っていたら多人数で攻め込まれました。なんだこのリンチ。最早俺の体はミンチ。お肉にされちゃいそう。植里くんクッソ不味い挽き肉にされちゃう。誰も買わないのに肉にする意味は無いんだよなぁ……。最初から廃棄処分確定とか、マジウケる! いやウケねーよ。折本さんは世界線さえ違えば正妻になってる人だからね。閃光さんだからね。

 

「候補者は植里……他にはいないか? 自推他薦は問わないぞ」

「あ、じゃあセシリアさんで」

 

 ここぞとばかりに手を上げてそう告げる。そうよ。最初からこうしておけば全部丸く収まる。俺が辞退して後はセシリアさんに任せちまえば大団円。わたくしに任せておきなさいおーっほっほっほとも言わんばかりにこのクラスをまとめ上げてくれるだろう。原作では結局一夏がやることになってたけど。あれはまぁ、しゃーない。チョロコットさんの運命という奴だ。運命とは眠れる奴隷だからね。

 

「じゃあ、というのが少し気にくいませんが構わないでしょう。わたくしが選ばれるのは当然のことですから!」

 

 ナイス。ナイスセッシー。相変わらず良いケツしてんなぁ……じゃなくて。相変わらず良い性格をしておられる。いや、純粋に。俺には真似できないよあんな自尊心に満ち満ちた態度。普通に憧れちゃいそう。そんでもって告白したら「ごめんなさい貴方みたいな凡人とは付き合えませんの生まれ変わって出直してきてくれません?」ってフラれるんだろ? 知ってる。

 

「植里とオルコットか。他にはもう誰もいないか? いないならば二人のうちどちらかに決まるが──」

「織斑先生」

 

 ピクンと眉が動く。千冬さんの。手を上げてそう言ったのは一夏。心なしか千冬さん、親しい人にしかバレないくらいだが若干悲しそうな嬉しそうな複雑な表情をしている。あぁ、一夏に千冬姉って呼んでもらえなくて悲しいのね。でも織斑先生って呼ばれるのも新鮮で良いとか思ってるのだろう。なして俺はこんな的確に千冬さんの内心を予想しているんだろう。もしかして千冬さんのこと好きなの? だとしたら好きすぎて引くわ。

 

「私もいいですか?」

「あぁ、別に構わない」

 

 あれ、一夏?

 

「お前、なにを……」

「別に。ただ、うん。ちょっとセシリアさんに思うところがあってね」

「聞こえていますわよ織斑さん」

 

 セシリア、聞こえてたってよ。ふふふ、怖い。ふふ怖だよふふ怖。ふふふ、怖いか? しっかしなぁ……以前からそうと言えばそうだったんだけど、一夏ってこういう女尊男卑社会のノリにノッてるような女性に対しては案外あたりが強いというかなんというか。物怖じしないのは美点だけど同時に汚点でもあるというか。とにかくなんだかなぁ……。

 

「あ、ごめんね。気にしなくて大丈夫だから」

「……貴女、随分と性格が悪いんですわね」

「セシリアさんは結構良い性格なんじゃない?」

「…………決闘ですわ」

 

 おい、決闘(デュエル)しろよ。……はっ! 駄目だろセシリアさん。決闘者(デュエリスト)の前で決闘(デュエル)なんて言っちゃあ考えるより先に体が動いてしまう。

 

「いいね。四の五の言うより分かりやすいよ」

「精々負けて泣きわめかないことですわ」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ」

 

 ばちばち。またもや火花飛び散る。あれ、女の子同士の会話ってこんなにもトゲトゲしたものだったっけ。いや、単にこの二人の相性が悪いだけか。原作だと主人公&ヒロインだと言うのに。一夏ちゃんよ。もうちっと主人公らしさ出してもええんやで?

 

「……おい、一夏。お前マジでなにしてんの」

「……あのね、別にセシリアさんのことを特別嫌ってる訳じゃないんだ」

「ならなんでそんな……」

「私が一番怒ってるのはね、知らないのに蒼のことを侮辱してくれたから、だよ」

 

 ……お前なぁ。




原作読む→小説書く→行き詰まる→原作読む→小説書く→行き詰まる→33-4

彡(゜)(゜)


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あまあまちっふー。

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、植里はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」

 

 ぱんと手を打つ千冬さん。良い音やな。あの人が本気だしたら多分鼓膜が破れるくらいの衝撃を出せそうだけど。すまん、鼓膜が片方破れて聞こえないんだ。ともかくとしてうちのクラスの雰囲気がヤバイ。特に俺の彼女と原作ヒロインの間がヤバイ。どれくらいヤバイかって言うと明日までが提出期限の書類を夜寝る前に思い出して慌てながらやるくらいにはヤバイ。めっさヤバイ。

 

「先生、その日は用事があるので辞退します」

「ほう。どんな用事だ、言ってみろ」

「………………束さんとお茶を」

 

 すぱこーん。

 

「すいませんでした」

「下らない嘘を吐く暇があるなら学べ。それでもこいつの彼氏か貴様」

「はい、はい。ごもっともです」

 

 言ってビシッと一夏をさす千冬さん。うん。今のは俺が悪かった。言い訳として他の女性を出す辺り特にダメダメですね。一夏からのジト目がそれを語ってる。なんとなく予想はしてたけど、想像以上に一夏へ負担がかかっているような。気のせい? いや、気のせいじゃない。ぶっちゃけ俺ってそんな信用ならんの? 心のうちで涙目になりながらそう考えていれば、女子の一人がそっと手を上げる。

 

「……あの~、織斑先生」

「なんだ」

「織斑先生と織斑さんって」

「あぁ、…………姉妹だ」

 

 ちょっと迷いましたね千冬さん。

 

「ち、千冬さまの妹っ!?」

「いいなぁ……代わってほしいなぁ……」

「姉は世界最強。整ったルックス。そして彼氏持ち。こっちもリア充か……」

「まるでリア充のバーゲンセールだな」

 

 そんな超サイヤ人みたいに言わんでも。つか俺は別にリア充ではない。どっちかと言うとリア充(笑)に分類される。もっと言うと非リア(笑)なんて宣ってた時代があったほどだ。つまるところ結論を言えば植里くんは決してリア充ではない。一人の彼女作るまでに人生一回終わらせてんだぜ……? 俺の恋人をつくる道筋ハードすぎない? 途中選択肢で異世界転生(確率で成功)とか外した瞬間永遠の眠りにつくじゃねーか。そう考えると今生きてることって素敵。生命に感謝。粉塵にも感謝。ふんじんはやく! やくめでしょ!

 

「静まれ。別に家族だからと言って優しくしたりはしない。その辺は分かっているだろう、織斑」

「うん、分かってるよ千冬姉──いたっ」

「……織斑先生だ。気を付けろ」

 

 ぽすんと頭に優しく出席簿をあてる千冬さん。おい、それは完璧に優しくしてるだろ。言い逃れも出来ねぇぞこの馬鹿姉。身内に優しいんなら俺にも優しくしてほしいです。一応一夏の彼氏ですよ千冬さん。思ってから原作の方の扱いを思い出した。ねーわ。マジねーわ。

 

「千冬さんそれ身内贔屓ですよ──ッ痛ぁ!?」

「織斑先生だ。それにほら、身内に厳しくしているだろう?」

 

 相も変わらず出席簿ですぱこーんと頭を叩かれて痛がる俺氏。ニヤリと笑みを浮かべて俺の言い分を否定する千冬さん。身内と見てもらえて嬉しいことではあるが純粋に喜べない不思議。うん。確かに厳しいですね。ぼくが間違ってましたよええ。千冬さんが贔屓するのは一夏♀に対してだけだもんな。それでも十分駄目だと思うが。

 

「以後気を付けろよ植里。織斑も二度目はない」

「……うっす」

「はい」

 

 一度は許される時点でお察し。次へ次へと引き伸ばされるのもお約束。一度あれば二度目が来る。そして二度あることは三度ある。やっぱ一夏って色々と恵まれた環境にいるよなぁ。天災との関わりを除けば。

 

「それでは今度こそ授業を始める」

 

 考えてみると俺ってば完全に原作一夏の下位互換なのね。なんか悲しくなってきた。勝ってる部分が彼女持ちな部分くらいしかない。頭のよさは辛うじて前世知識で勝っているか。コミュ力はあちらが圧倒的に上。イケメン度も限界突破。才能は宝物庫かと思うほどある上に身体能力も高い。おまけに家事スキルは専業主()目指せるレベル。勝てるわけねーだろ。ちなみにそんなのがうちの嫁さんなんだよなぁ……。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「終わった……」

「お疲れ、蒼」

 

 放課後。色々と精神的苦痛の重なった俺には最早元気の欠片も無かった。『げんきのかけら』は欲しい。瀕死の植里くんのHPを半分回復してくれ。もしくは『げんきのかたまり』でも可。

 

「やべぇわ……IS凄いわ……凄い訳分かんねー」

「束さんの所でちょっとは教えてもらったんじゃないの?」

「あれを教えたとは言わない。こちらの理解を前提にして話すからまるで意味分からん」

「さすが天才……」

 

 いや、天災。学園から届いた入学前の参考書を「こんなものを読むより私が教えた方がいいに決まってるよねっ☆」とか言いながらゴミ箱へシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!! してくれた。お陰で千冬さんとどうにか連絡を取って用意しておいて下さいと頼むことに。仕方がないという風に了承されたので良かったが。しかしながら本当マジ天災。教えられたけど何言ってる全然分かんなかった。頭がどうにかなりそうだった。原作知識とか専門用語とか、そんなチャチなもんじゃねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

「あ、植里くん。まだ教室にいたんですね。良かったです」

「ん?」

 

 名前を呼ばれてそちらを向けば、我等が副担任山田真耶先生が立っていた。常々思っていたが実物はやっぱりインパクトがある。でかい。どこがとは言わないが。いや言ってしまおう。ここで変に伏せておいてはそこらのスタイリッシュ転生者と同じではないか。俺らしくない。山田先生。おっぱいが凄く……大きいです。一夏につねられた。痛い。

 

「……バレバレだから」

「すいません」

「? ??」

 

 どうやら山田先生の方は気付いておられなかった様子。いや、本当すいません。ごめんなさい。つーか何で一夏にはこうもバレるんですかね。なんなの、超能力でも持ってんのお前。そして今日だけで何回嫉妬してんだお前。マジでそんな信用ならんか俺。これはちょっと話さないといけない希ガス。やだ、植里くん強気。

 

「えっと、どうしたんですか、山田先生」

「あ、はい。植里くんの寮の部屋が決まりました」

 

 あ、うん、知ってた。部屋番号の書かれた紙とキーを受け取る。それを見ていた一夏が横で「あ」と声をあげる。え、なに。なんかあったの。ちょっとビビりながら振り向けばなんとも嬉しそうな表情をしている。どうしたお前。

 

「私と一緒の部屋だよ」

「……マジ?」

「うん、マジ」

 

 愕然。感じるのは明らかな手回し。千冬さん、あの人ついにやりやがったな。一体どんな手を使いやがった。恐らく単純な話術(力業)とコネと正論っぽい何かでも振り回したんじゃなかろうか。現在日本では天災と世界最強に拮抗できる存在はおりません。あの二人、一人ならまだしも手を組んだら全世界すら敵に回せるからなぁ……。

 

「誘拐とか勧誘とか、あとハニートラップなど諸々の危険性を考えると、関係・実力共にしっかりしている織斑さんが一番だと織斑先生が……」

 

 やはりやりやがったぞあの世界最強。

 

「千冬さんェ……」

「千冬姉は……うん。まぁ、ね?」

「あ! でも不純異性交遊はだめですからねっ!?」

「わ、分かってます」

「不純異性交遊……」

 

 ぼふっと赤くなる一夏。お前って意外と初心だよな。それでも男かっつーんだ。まぁ、唐変木・オブ・唐変木ズだからしゃーないとも言える。

 

「そういえば荷物とかは……」

「先ほどお前のご両親から送られてきたぞ」

 

 あ、ダースベイダー。違う違う。千冬さん。しかしながらそうか、母さんと父さんが態々……ありがとうございます。最近連絡が疎かになってる息子を許してください。生存報告はきちんとしたけど。一瞬親に部屋を漁られたと考えて嫌な予感がしたが、よく考えれば我が宝(エロ本)は全て弾が持っている。安心安心。いやぁ、さすが弾。俺は信じてたよ。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時。寮の一年生用食堂でとってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使う時間が違って……と言っても植里くんは使えないんですけどね」

「あ、はい」

 

 正直シャワーだけでも大丈夫っちゃあ大丈夫。日本人として湯船に浸かりたいところではあるが。やっぱりお風呂って偉大だよ。一日の疲れがとれる気がする。日本に産まれて良かった。お風呂イベントはアレですけど。精神的に辛かったですけど。

 

「それじゃあ私たちは会議があるので、これで。植里くん、ちゃんと寮に帰るんですよ、道草くっちゃダメですよ」

「うっす」

「返事はきちんとしろ」

「……はい」

 

 きゃー、千冬さま怖ーい。うん。キモいな。自覚症状はある。産まれた時から。

 

「……行くか、部屋」

「うん、そうだね」

「箒さんも行かないっすか?」

「……あぁ、なら同行させてもらう」

 

 こくんと頷いて立ち上がる箒さん。彼女なりに色々と話したい事とかあるだろうし。ふふん、どうよ、気を遣える男植里くん。気を遣える男はモテるってどっかの雑誌で書いてた。おい、誤情報を載せんじゃねえよ。別にモテねーじゃねえか。せめて※ただしイケメンに限るくらいは入れとけ。




不純異性交遊、ダメ、絶対。

18歳以下のエロ本購入、ダメ、絶対。

イチャラブセックス、あ、それなら別にいいんじゃないっすかね(すっとぼけ)


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悶々、かくかく、ムラムラ。

やった……日曜日だ……(白目)


 現在。寮の一室。詳細に述べると俺と一夏の部屋。そこには三人の男女が微妙な空気の中座っていた。比率は男一人に対して女は二人。修羅場かな? それとも3Pかな? いいえただ気まずいだけです。床で正座をしながら向かい合うのは一夏と箒さん。そこから少し離れたベッドの上で教科書と睨めっこしている俺。ふむ。偉いやろ? 授業の復習をきちんとする植里くん偉いやろ? ドヤァ。というのは冗談。授業内容が全く分からなかったので理解しようと教科書見てるだけなんです。落ちこぼれ植里くんダサい。

 

「……えっ、と……」

「……な、なんだ」

 

 そして二人の間に流れる空気が本当気まずい。どれくらい気まずいかと言うと先生のことを間違えて「お母さん!」と大声で言ってしまった時くらい気まずい。むしろ恥ずかしいですね。レパートリーは無駄に豊富。お母さんから始まり母さんだのママだのマミーだのマイマザーだのマザー・テレサだの。最後だけちょっと違いますね。いや大分違う。マザー・テレサなんて呼ばれたら先生も対応に困っちゃうよ。織斑先生(マザー・テレサ)! ……うん。なにもなかった。いいね?

 

「……ご、ご趣味は?」

「う、うむ。武道を嗜んでいる」

「お見合いか」

 

 思わずそう突っ込んでしまった俺は悪くない。ご趣味はって。ご趣味はってお前。お見合いか。お見合いなのか? いや、お見合いなんだろう。箒さんも真面目に答えないで下さい。余計ややこしくなる。加えて百合百合しくなる。箒さんが百合に目覚めるだって!? いや、むしろ変態に目覚めるべきだと思うんだ(提案)。箒さんは人間的リミッターを外せば素晴らしい人材になると俺の第114514感が告げている。円周率って素晴らしいですよね! おっπ(パイ)! おっπ(パイ)

 

「普通に話せ普通に。なんでそんな緊張してんだ」

「えっと、じゃあ……き、休日の過ごしかたは」

「た、鍛練に費やすことが多いな」

「お見合いかっつってんだろーが」

 

 なんでそんなお見合いみたいな雰囲気だしてんの。お見合いなの? お見合いなんだな? よろしい、ならばお見合いだ(意味不明)。そもそも君たちは色々と話すためにそうしているのに全く話せてないじゃないか。わけがわからないよ。どうして人間はそんなに(ry。

 

「……一夏」

「あ、はい」

「……本当に、一夏なんだな?」

「う、うん。そうだけど」

 

 その返答に箒さんは大きくため息をついた。最終確認というやつか、自分の心に決着をつけるためのものか。どちらにせよこいつが織斑一夏ということは既に周知の事実だ。なんせあの織斑千冬が猫可愛がりしているのだから当然とも言える。お陰で俺よりも注目されてましたよこいつ。やっぱり原作主人公には勝てませんわ。根っこから違うよ根っこから。神は二物どころか全てを与えました。

 

「あぁ、鬱だ。死のう」

「やめなさい箒さん」

「そうだよ箒。私が女になったくらいで」

「くらいですむか大馬鹿者っ!!」

 

 そうそう。すむわけねーだろ阿呆一夏。箒さんは初恋の相手が女になってて傷心なんですよ。気付いてさしあげろ。……はっ、もしかしてこれはあれか。傷心の箒さんを優しく慰めてあげることでフラグが発生するパターンか。植里くんハーレム来るー? いや来ない。箒さんはそんな単純な女の子じゃないから。そも他人事のように言ってるけどこれって俺もちゃっかり関係してんのよね。一夏と付き合ってる訳だし。

 

「? なんで?」

「そっ……それは、だな……」

「箒? どうしたの、顔赤いよ」

「なっ、なんでもないっ!」

 

 皆さん見ました!? リアルツンデレですよ! ツンデレ!! デレ要素少ないけど。なんかもうこいつら見てるだけでいいわ俺。IS学園とか決闘とか授業とか全部放棄して見ていたいわ。箒だけに。……審議中。

 

「わ、私は自分の部屋へ行く」

「あっ、箒」

 

 ばたーんと閉められる部屋の扉。そう上手くいってはくれないか。やっぱり蘭ちゃんは凄かったんやなって。堂々と告白するあのメンタルには感服です。ああまでやらなくていいと思うけど、もうちっと雰囲気を良くしたいのも事実。どうしたものか。あ、こんなこと考えてるのって転生者っぽい。転生者設定がきちんと仕事をしている……だと……。

 

「……なんだったんだろ」

「分からないお前が怖いよ」

「え?」

 

 イケメンなんだからモテる自覚くらいしろってんだ。俺みたいな非リアならともかく。ふはは、自慢ではないが伊達に一夏と付き合うまで一度も女性からアプローチをかけられたことが無いんだぜ。本当に自慢じゃなかった。心が痛いよ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ふあぁ……」

 

 眠い。思わず出た欠伸がそれを主張してくる。腕時計を確認すれば九時を少し過ぎた頃。あの後食堂で飯を食ってから先に風呂へ入らせてもらい、それから今までずっと教科書を読んでいたわけだから──大体一時間ほどもこうしていたらしい。やべぇ。俺ってば案外集中力続くのね。ゲームばかりしていたからだろうか。ちなみにゲームが上手い奴は大抵勉強も出来る。ちょっと腹立つのはご愛嬌。

 

「──あれ、蒼。まだやってたの?」

「ん、おう、一夏か」

 

 風呂から上がって声をかけてきたそいつは、意外そうな表情でこちらを見る。なんだよ、そんなに俺が真面目なのがおかしいか。むっとした顔で見返してやると苦笑された。ふむ。わけが分からん。

 

「蒼でも難しいことはあるんだね」

「おい、それは俺に喧嘩売ってんのか。買うぞこら。五百円で」

「違うって。ほら、中学の時は殆ど勉強してないくせに毎回一位とか二位だったじゃん」

「ちょっとはしてるわ。一夜漬けだけど」

 

 テストは授業さえきちんと受けていれば前日の一夜漬けで意外とどうにかなる。ばっちり覚えてぐっすり寝る。そうして次の日にちらっと見返せば大体は覚えてる。この状態でテストを受けると「あ、これ昨日やったところだ!」と進研ゼミの漫画的展開で問題が解けるわ解けるわ。尚、時々「あ、ここ昨日やったけど……思い……出せない……ッ!!」という地獄が待ち受けている模様。思い……出した!

 

「それで、どこが分からないの?」

「あー……こことか」

「どれどれ、ちょっと見せて……あぁ、これはね」

 

 後ろに回り込んだ一夏が肩越しに教科書を覗き込んでくる。……近ぇな。近すぎてシャンプーの香りが漂ってきてんじゃねえか。あれ、そもそもここのシャンプーってこんな良い香りだったっけ。やばい。なんか知らんけどやばい。つか当たってんだよオイ。オイコラ。おっぱいが当たってるんですよ一夏さん。後ろからもたれ掛かるんじゃねえ。精神衛生上とてつもなく厳しいので勘弁してください。感想? あ、はい。とっても柔らかいです。

 

「──って蒼? 蒼ー? 話聞いてる?」

「あ、うん。聞いてる聞いてる」

「……じゃあ今言ったところ音読してみて」

「えっと……あー……」

「……」

「すいませんでした」

 

 ぎゅっと軽く頬をつねられる。

 

「いたた」

「ちゃんと聞いててよ。二度も言うのは手間だし」

「す、すまん……」

「……」

 

 いやだって仕方ないでしょう。背中あたりに柔らかなそれが当たってるんですよ? こちとら息子を起こさないよう必死でそれどころじゃありませんよ。話なんて入ってくる訳がねぇ。ふぇぇ……童貞には刺激が強すぎるよぉ……。あっはい。まだ童貞です。卒業してません。僕たちは健全な(・・・)お付き合いをしてますから。

 

「顔、赤いよ?」

「ッ……お、お前、分かってやってんだろ」

「一体なんのこと?」

 

 ぐぬぬ。こいつめ、なかなか良いパンチ打ってくるじゃねえか。人が強く出られないからって押してきやがって。

 

「当たってんだよ馬鹿野郎」

「あててんのよ……みたいな?」

「やめろよ……」

「とか言いながら真っ赤だね」

 

 うっせ、ほっとけ。







あん


          ぱん


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おはようからおやすみ(死)まで千冬。

「蒼ー?」

 

 新しい朝が来た。希望の朝だ。さて、ラジオ体操でもしますかね。起きて早々にそんなことを出来るほど植里くんは強くありません。むしろ弱い。朝の陽光で体が燃え尽きるくらい弱い。ぐあぁぁぁぁぁぁぁ! からだがはいになっちゃうのぉぉぉぉぉぉぉぉ! まるで吸血鬼みたいですね。大丈夫大丈夫、引きこもり予備軍はみんな太陽の光に弱いから(震え声)。日光を浴びると途端にテンションが下がってやる気もなくなる。夜になると変な安心感に加えてテンションがアゲアゲになる。もう立派な夜型人間。深夜のテンションは偉大。

 

「朝だよ、起きないの?」

「……あと五分……」

 

 朝? なにそれ美味しいの? 出来ることならこの布団の中でぐっすりと惰眠を貪りたい。起きたくない。学校に行きたくない。女子からの刺さるような視線を背に授業受けたくない。もうなにもしたくない。寝て起きて寝る。それが私の生き様だっ! 植里蒼十五歳。将来の夢は自宅警備員です。……リアルにそれを実行しようと考えたら途中で五回くらい死んだ。一回目は千冬さんに殴られて死亡。二回目は千冬さんに蹴られて死亡。三回目は千冬さんに突き飛ばされて死亡。四回目は千冬さんに抱き締められて死亡。五回目は千冬さんに空中コンボされて死亡。全部千冬さんじゃねえか。

 

「……千冬姉に怒られるよー」

「オハヨウゴザイマスっ!」

 

 がばっと起き上がって一言。いやぁ、良い朝ですね! 清々しくて寝起きもばっちりだよ! 別に冷や汗なんてかいてない。想像したら死ぬ瞬間だったとかそんな事はない。いかんいかん、千冬さんを悪い方向にイメージしすぎだ。昨日の教師モードが強すぎて引っ張られている。いつもの千冬さんは普通に優しい人ですから。俺みたいな凡人に対しても平等に接してくれる良い人だもの。優しくない筈がない。その優しさを適応してくれと切実に思う今日この頃。はい、二日目です。

 

「おはよう、蒼。ほら、さっさと着替えて。朝ごはん食べに行くよ」

「お、おう。分かった……けど、その起こし方はどうなのよお前」

「起きない方が悪いよ。……嫌なら今度から別のにするけど?」

「ならそれで頼む。マジで心臓に悪いわ」

 

 思わず「千冬さんが来るよぅ!」って叫ぶところだったわ。その後の展開は読めている。背後から漂うオーラ。殺意の漲った声で「私が、どうしたって?」と聞かれたが最後。振り向き様に一発ぶち込まれて人生お疲れさまでした。火力的には抜刀大剣溜め三や4G準拠の高出力くらいありそう。

 

「言ったね? 言質はとったよ」

「え、ちょ、何を企んでやがるお前」

「さぁね? まぁ、楽しみにしておいてよ」

「……なんだか嫌な予感が」

 

 勘弁してくれ。女性に慣れてなんとかなると思ってた? 残念! 慣れても完全に直ったわけじゃなかったよ! ふざけんな。全くもって面倒なものを引っ提げてますねこいつは。一番IS世界に転生させちゃいけない人種だと思うの。どちらかと言うと男ばかりの世界に転生……させると途端にホモォの香りが漂うからやめとこうか。うん。よし、ISの世界に転生できて良かった!

 

「なにしてるの蒼、はやく」

「ちょっと待てよ。ったく……」

 

 そそくさと寝巻きから制服へ着替える。うーん、この服に着られてる感。似合わなさすぎて周りから変に思われてないか心配だよ。やっぱりこれは一夏専用の制服なんやなって。これをきっちり着てばっしり決まるとか流石だぜイケメン。崩したら崩したで担任様からのありがたいお叱り(物理)が待ってるしなぁ……。

 

「ふぅ、お待たせ……って、箒さん?」

「うむ。おはよう、蒼」

「あ、うっす。おはようです」

「箒も一緒に行こうって。良いでしょ?」

 

 まぁ、断る理由が無いしな。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「む、これは美味しいな」

「うん。鮭もご飯も良い感じ」

「おぉ、マジでうめぇ……」

 

 朝八時。一年生寮の食堂。三人揃って和食セットを頼んだわけなのだが、それについての感想がこれである。三人とも結局のところ美味いとしか言ってない。さすがだぜIS学園。世界各国から生徒を受け入れているだけはある。食事レベルもトップクラスということか。美味い飯食って難しい授業を受けて厳しい訓練する。素晴らしい環境じゃないか。アメとムチの比率が1:2なところとか実にそう思う。人間、少しのアメさえあれば大抵頑張れるからね。

 

「あ、そういや箒さん」

「む? ……んっ。なんだ」

「束さんとはなにか……」

「あぁ、そういえばそうだな」

 

 言いながらもぐもぐとご飯を口に運ぶ箒さん。こう見ると凄い礼儀正しくて凛とした大和撫子だよなぁ……じゃなくて。そんなのは一々言わずとも昔から分かりきっていることでして。いやいや、そこスルーしちゃいけないよ箒さん。なして何事も無かったかのように食事に専念してんの?

 

「箒さん? あの、束さんとは……」

「そうだな。それもISだな」

「箒さんっ!?」

「あぁもう、分かった。話すから落ち着け蒼。ひっひっふー。ひっひっふーだ」

「箒、それ産まれるやつだよ」

 

 ひっひっふー。男がやったところで何の意味が。普通に深呼吸をさせたんでいいんじゃないっすかね。その前に何か問題がある気がするけど分かんないから別にいっか。特に大した問題でもないだろう。ノープロブレム。無問題。つまり問題なんて無かった。いいね?

 

「なんか面白そうだったから」

「へ?」

「それが一夏を女にした理由らしい」

「そ、そうだったんだ……」

 

 嘘吐けクソウサギ。絶対裏があるって分かってますよ。腐っても天災にして天才。緻密に練られた計画がうんたらかんたらって理由なんだろ。知ってる。でもあの人の性格を考えるとそんな理由だとしても実行しかねないから否定できない。マジで面白そうとかいうだけで女にされたらたまったもんじゃねぇだろ。キレるぞ一夏。比較的俺に対して以外は温厚な一夏がキレるぞ。いや、セシリアさんの件を見るに俺以外でも温厚じゃないな。

 

「もう、なんだ。どうでも良くなった。一夏が女? 蒼と付き合ってる? 別に良いさ、好きにすれば良い。私には関係ないことだ」

「箒さんが諦めの境地に立ってる……」

「ちょっと箒、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。大丈夫だ」

 

 どう見ても大丈夫じゃないんですが。基本的に大丈夫じゃないと言う人は意外と大丈夫で、大丈夫と言う人はマジで大丈夫じゃない。比べてみると分かる。大丈夫かという質問に対して「もう無理……」とか言われたら「あ、こいつあとちょっといけるな」って思うのに対して「だ、大丈夫、です……ッ!」とか言われると「もう休め」なんて言いたくなる。甘い。

 

「えっと、辛かったら愚痴ぐらい聞きますよ?」

「ありがとう、蒼。今度お邪魔させてもらう」

「あ、マジであるんすね、愚痴」

 

 即答ということはかなり溜まってるんだろうなぁ。全部受け止めきれるかなぁ。途中から憂鬱になってくる未来しか見えない。やっぱよく考えずに提案するのはいけませんね。あとあとろくな目にあわない。つっても言ってしまったことは仕方ないのできっちり箒さんの愚痴は聞きますけども。いつかIS学園の愚痴を聞いてくれる人とかになるんじゃなかろうか。さすがにそれはねーな。なんて考えていたらツンツンと脇腹を肘でつつかれる。犯人はもちろん一夏。

 

「蒼が優しいのは知ってるけどさ、程ほどにしなよ」

「や、別に優しくねーよ。普通だフツー」

「……惚れられたらマズイらしいのに」

「? なんか言った?」

「別になにも」

 

 空耳か。なんか言ってた気がするんだけど。ともかく学園生活二日目。気合い入れていかなければ。気合い! 入れて! いきます!





かゆい

うま


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世界のShinonono。

色々と少なめ。いちかわいいしかり、文字数しかり。


 二日目の授業。思い出したくもないような初日の授業とはうってかわり、案外最低限の理解は出来た。これも一夏に教えてもらったお陰か。理性を応援するのに必死で半分くらい聞いてなかったけど。やっぱ少しでも分かってくると安心感が半端ないわ。やっと絶望の淵から救い上げられた感じ。尤もIS学園という地獄からは抜け出せませんでしたがね。糸は、お釈迦様の垂らしてくれる蜘蛛の糸はどこですか!?

 

「ところで植里、お前のISだが」

「あ、えっと……」

あの馬鹿(篠ノ之束)が直々に作るそうだな」

「……らしいっすね」

 

 俺のIS、天災が自ら作ってくれるってよ! やったぜ。なんて簡単に喜べる筈もない。喜べるのはあの天災と関わってない一般人くらいだ。良いよな、世の中には知らない方が得することって多いんだぜ。俺だって知ってはいても体験したくはなかった。やはりあれか、豆腐メンタルだからいけないのか。植里くんがこうなったのは豆腐メンタルがすべての原因か。多分違う。

 

「専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援♂が……」

「あぁ^~いいっすね^~専用機」

 

 正直専用機を貰ったところで「え? 大丈夫? 俺だよ?」という思いしか浮かんでこない。マジで大丈夫なのか日本政府。俺だよ? 資料見たら分かる通りごく一般的な普通の人間だよ? いくら天災に脅されたからって流石にそれは……あ、天災に脅されたからか。なら仕方無いね。世界のパワーバランスを軽く崩壊させるあの人に脅されてまともに対応できる国があるだろうか。いや、ない(反語)。

 

「一応データ収集という目的は伝えた。が、どうなるかはあいつの気まぐれだな」

「神のみぞ知るってやつっすね」

「どちらかと言うとあいつのみが知るが」

 

 つまるところ俺の機体がまともか否かという点はその日の天災の気分によってがらりと変化するのだ。今日は天気が良いからチート性能にでもしよっかなーだったり。はたまた今日は天気が悪いからとびきり扱いづらくてとびきり勝ちにくい性能にしようだったり。そうなったが最後、どう足掻いても植里くんは勝利の二文字を掴めない負け犬人生まっしぐら。わんわん吠えまくってしまうかもしれない。弱い犬ほどよく吠える。

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして……」

 

 そんな時、一人の女子がおずおずと手を上げてそう尋ねた。ふむふむ。これは盛大に地雷を踏み抜いた予感。箒さんと束さんの間柄はお世辞にも宜しいと言えるものではない。少なくともこの時期の原作ではそうだったと覚えている。ぶっちゃけ今の質問もなんかあったように記憶してますし。うーむ、曖昧。それに対して千冬さんの答えは。

 

「あぁ、アレの妹だ」

 

 さすがや千冬ネキ! 個人情報もなにもあったもんやないな! 箒さんが深くため息をついてらっしゃった。気持ちは分かる。あんな人が身内だったら俺の場合常に姿勢を低くしているかもしれん。うちの姉がご迷惑をかけましたとか謝り倒すことになりそうだ。身元バレした瞬間にすいませんでしたとか言って最早土下座も辞さないレベル。心労が凄そうですね!(白目)

 

「えぇーっ!!(マスオ並感)す、すごいっ!」

「クラスに有名人の身内が二人も、だと(困惑)」

「ねぇねぇっ、篠ノ之博士ってどんな人!?」

「天才なの!? 天才じゃったかなの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりするの!?」

 

 いいえ、天災です。てか一人明らかに女子じゃなかったんだけど。日曜夜六時半に帰りなさい。そもそも束さんが天才で箒さんも天才なら天災というのも適応されてしまうだろ。嫌だよ、そんな箒さん。「いっくん、大好きだぞっ☆」とか言うの? それ結局束さんだな。キャラが被りまくってる。そう考えると箒さんが普通の人間でよかった。ちなみにその普通の人間である箒さんの元にはわらわらと大量の女子が集まっていく。言っちゃ悪いけどアレだな。明かりに群がる……いや、やめとこう。なんでもないです。

 

「……確かに家族だが、私とあの人は別だ。関係ない。むしろ血縁関係も切りたい」

「えぇ……」

「なにがあったの篠ノ之さん」

「ちょっと現実に絶望してるだけだから大丈夫だ」

 

 全然大丈夫じゃありませんね。ヤバイぞ束さん。あんた妹に果てしなく嫌われてるぞ。妹のこと好きじゃなかったんかい。ラボで生活していたときに「箒ちゃんはねー、箒ちゃんはねー」とひたすら妹自慢をしていたではないか。ちなみにあれは酷くウザい。食事中に「あ、おっぱい大きくなってるんだよあの子」とか言われてお茶吹いたわ。その時クロエさんから残念なものを見る目で見られたりもした。悲しい。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

 ただ、果てしなく嫌われていても気まずさみたいなものは解消されているようで。いや、あれで本当に解消されているのかは分からないけど。とにかくそう考えればまだマシなんじゃないかと思いました(小並感)。女体化してなお箒さんと束さんの関係修復を無意識のうちに行うとかやっぱり一夏ってスゲー。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「安心しましたわ。きちんとそちらに専用機が用意されるようで」

「そうっすね」

 

 ですわですわなのですわー!(CV.ゆかな)休み時間に席の近くへやって来たオルコットさんが腰に手を当てながらそう言う。そのポーズ似合ってますねー、さすがはお嬢様。醸し出してる雰囲気が他とは違うぜ。なるほど、これが溢れ出るチョロイン感ってやつですね。

 

「まぁ、どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」

 

 あ、今回は早いのね。それだけ言って踵を返しながら立ち去るセッシー。途中で一夏との間にばちっと何かが飛び散ったような気もするが多分気のせいだろう。気のせいでありたい。いや、気のせいに違いない。このクラス代表決定戦、最早女同士の戦いみたいになってて俺が完全にいらない子なんだけど。やだ植里くんいらない子。やはり転生者はいらなかったか……。

 

「蒼、ご飯食べに行こう」

「お、おう」

「箒も。一緒にいかない?」

「あ、ああ。そうさせてもらう」

 

 なんつーかあれだよな。この何事も無かったかのように接する態度とかなんか怖い。いや、さっきまで敵意丸出しだった奴の行動とは思えんよ。一夏ちゃん怖い。昨日はあんなに優しかったというのに。……思い出したらあの感触で俺のヴァンガードがスタンドアップしそうなのでやめておくが。静まれ俺の煩悩。

 

「学食、混んでるよなぁ」

「生徒数的に仕方ないって、多分」

「私は静かな場所で食べる方が落ち着くのだが」

 

 ともあれ、なんとか生きていけてることに感謝。もし一夏がいなかったらもう既に死んでる。むしろ一日目で死んでるまである。つまるところ何が言いたいかといえば。ぽふんと一夏の頭に手を置く。

 

「……? どうしたの、蒼」

「いや、なんつーか。お前がいて本当良かったわ」

「……私の前であまりイチャつくなよ」

 

 あ、はい。さーせん。




(物語の進行スピードが)おっそーい!

駆け抜けるために足りないのはやはり速さか……


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見ろ!! 転生者がゴミのようだ!!

目が、目がぁ~!


「……なぁ、蒼。言ってはなんだが」

「ぜぇーっ、はぁーっ、げほっごほっ」

「強さが昔から一切変わってな……いや、むしろ弱くなったな」

「いわ、ないでっ、はぁーっ、げほっ」

 

 その日の放課後。ISでの訓練は残念ながらすることができない。専用機は未だに天災が弄っており、学園の訓練機は全て貸出中。やべ、これ詰んだわー。とか思ってるところにティンときてやったのがこれである。原作一夏同様箒さんとのジャパニーズケンドー。無論初心者なので構えも何もあったもんじゃない。めっちゃ手加減してもらった。それはもう一目で分かるくらいゆっるゆるに手を緩めてもらった。それでも勝てなかった。当たり前だよこんちくしょう。なにこれ。くっそ重いんですけど。視界悪いし。もうやだ、ISやめる! 切実にそうしたいと思ったのは内緒。

 

「無理……駄目……死んじゃう……」

「口調が幼くなっているぞ」

「知らないよそんなこと……」

 

 正直口調とかどうでもいいです。意味が伝わればそれでOKじゃないっすかね? 次に進もうぜなんじゃないっすかね? とにもかくにも辛い。ツラい。つらい。ちゅらい。心臓がバクバク言ってるし足はブルブル震えてるし腕も上がりそうにない。オデノカラダハボドボドダ! 慣れないことはやるもんじゃない。体力なんて受験勉強と天災ラボ拘束で減りに減っている。最早ゼロにまで等しいレベル。運動は嫌いです。汗でベタつくから。あとしんどいから。

 

「はい、お疲れ蒼」

「お、おう、一夏。ありが、とう……」

 

 ぶっ倒れていたところへタオルとスポーツドリンクを持ってきたのは俺の嫁。……になる予定の一夏。このままなんの問題もなく俺が卒業できればの話だが。ちなみに両保護者の許可は既に得てます。うちの親は最初から乗り気だったし、千冬さんに至っては確定事項にまで達していた。その分裏切ったり別れたりしたら後が怖くてしょうがない。そしたら俺どうなるんだろ。よくて存在を消される。悪くて一生監禁とかされるに違いない。想像したら背筋にぞわっときた。

 

「はい、箒も」

「あぁ、ありがとう、一夏」

 

 しかしながら汗が半端ない。これが輝く青春の汗ってやつか。違うな。俺から流れてるので多分一切輝いてない。輝く汗っていうのは女子が流してこそでしょうがよ。汗だくの美少女。よくない? いやぁ、それこそまさしく青春ですよ。輝く汗。なびく髪。ゆれるおっぱい。紛うことなき青春だな!(断言)世界の中高生男子の八割は変態。これ日本では常識だから。

 

「しかし蒼、本当に大丈夫か」

「な、なにが……?」

「オルコットとの試合だ。ISが補助をしてくれるとはいえ、お前がまともに戦えるとは思えんのだが」

「……確かに勝てる見込みはほぼ無いっすね」

 

 そりゃ考えるまでもない。相手は世界でも有数の専用機持ち代表候補生。チョロインだのチョロコットだのセ尻アだのメシマズだの言われてようが歴とした実力者であることに違いはないのだ。つまるところ、ISをただ起動できるだけのひ弱な男の子植里蒼くんは童貞……間違えた到底敵うはずもなく。下手すれば開始五分でセシリアさんにイカされる(意味深)。あら? もうですの? あなたは随分と早いんですのね、みたいな。

 

「まぁ、精々全力で負けてきますから」

「む。男子たるもの最初から勝つ気が無くてどうする。いや、勝てないのは分かりきっているが」

「そうだよ蒼。微粒子レベルには存在してるって」

「励ますのか貶すのかどっちなんだ」

 

 つーか一夏よ。お前もきっちり試合することになってんだぜ。そこら辺忘れてない? そう思った俺でしたけど一夏に限ってそんなことがある筈もなく。その後に箒さんときっちり手合わせを行い、なんと勝ちやがった。代表候補生になるための訓練とかで色々と運動はしてたらしいです。ぼくより強くて当たり前ですね。

 

「すげぇな一夏……」

「もしこいつが男なら私は惚れてるぞ。……む?」

「あ、あはは……一応今は女の子です」

 

 箒さんしっかり。こいつ元男だから。しかもあんた惚れてたでしょうが。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 忘れたけど、いつかまだ天災のラボに居た頃。ふと気になってどうして俺がISを起動できるのかと聞いたところ、むふんとたわわに実った胸を張りながら束さんは言った。クロエさんの視線はゴミを見ていた。

 

「それはねー、あっくんの体に秘密があるのさっ」

「か、体っすか」

「そうそう。詳しくは体に埋め込まれた機械!」

 

 ……ん?

 

「え? いや、え?」

「ん?」

「束様。このヘタレ束様の胸をガン見してます」

「きゃー、あっくんのえっち♡」

「違うわっ!? いや、違うくはないけど違うわっ!?」

 

 別にガン見してないよー。ちょっとチラッとさりげなく見ただけだよー。あおくん嘘つかない。大体俺みたいなヘタレがあんなぷるんぷるん揺れるおっぱい見れるわけねえだろうが。途中で恥ずかしくなって視線を動かせなくなるに決まってんだろ。いい加減にしろ。結局こいつ見てたんですね。ええ、実に良いおっぱいでしたよ。

 

「あの、何時から俺の体にそんなもんを……」

「あっくんが去年事故った時かな?」

「……まさか視力が悪くなったのも」

「あ、それは意図的にやった」

 

 !?

 

「ちょ、あ、うえぇ……?」

「あっくんに眼鏡は似合うからね! 無理矢理にでもかけてもらおうと思って。てへっ☆」

 

 てへっ☆じゃねーよクソウサギ。あんたがやっても可愛く見えるだけだから。つかふざけんじゃねえ。なにを勝手に人の視力奪ってくれてんの? 眼鏡とか慣れるまで超不便だったんですけど。訴えんぞコラ。無理だと思うけど訴えんぞコラ。この人の中ではこの人自身がルールだから意味ねぇな。

 

「というのは冗談で、それを埋め込んだらこう……なんかなっちゃったー、みたいなー?」

「ふわっふわか。理由ふわっふわか」

「まぁ治してあげるのも良いんだけど、私はそのままのあっくんが好きなので治しません! えへへ」

「治せこの天災」

 

 俺の視力返して。快適なゲームライフを返して。

 

「天才だなんて……照れるなぁ、テレテレ」

「照れてる束様も可愛いですね、はぁはぁ」

「死ね。つーか死ね」

 

 なんて茶番劇をしつつも聞き出せたことをまとめると、ワイの体にIS無理矢理動かせる機械が埋め込んであるから動かせるんやで! でも無理矢理やから普通の女の子より本領を発揮できんのや! 勘弁してな! ということらしい。例えるならマスターキー的な。切符的な。パスポート的な。分かんないけど。

 

「あの、それって俺がIS操縦者の中で……」

「うん。ダントツで弱いねっ!」

「唯一の男は最弱とか笑えますね」

 

 最弱無敗なら良かった。

 

「だからあっくんにはとびきりの機体を用意してあげるよ。むふふ……☆」

 

 あ、嫌な予感。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「遂に明日だなー」

「そうだねー」

 

 自室のベッドで横になりながらそう呟く。隣のベッドにいる一夏も同じように間延びした声で返してきた。なんか適当だな。別にいいけど。はてさてこんなことを言うのはお察しの通り、明日がセシリアさんとのクラス代表を決める試合の日だからである。ちな一夏とも対戦するんだろうけど、どちらにせよ勝てる気がしない。勝てるわけがない。むしろ勝てたら奇跡。今こそ奇跡を掴み取る時なんすかね。

 

「正直やりたくないわー」

「私は別にバッチ来いだけど」

 

 おお、随分と好戦的だなお前。今に始まったことじゃないけど。何でも試合に勝ったら頭下げて俺を侮辱したことを謝らせるらしい。いつの間にそんなことを決めたのか俺は不思議でならないよ。セシリアさんが勝った場合は褒め称えなければいけないらしいが。

 

「……勝てないって分かってて何でやんなきゃいけねぇんだよちくしょう」

「千冬姉曰く、戦闘経験をつんで少しは自分の身を守れるようになれ、だから」

「それは分かってるけど。……絶対恥かくぞ」

 

 圧倒的力量差に叩き潰される未来がありありと見える。確かに唯一の男性IS操縦者だったりそのくせ最弱だったりで学園内狙われる可能性ナンバーワンを誇る俺は自分のことくらい自分で守らなければならないってまでは分かる。分かります。分かるんですけど。

 

「……大丈夫だよ、蒼」

「なにが」

「蒼がどんなに無様でも、私は応援してあげるから」

「……地味にヒデェな、それ」

 

 俺が無様なの前提かよ。確かに明日は凄く無様になりそうですが。願うはひとつ。どうか、どうかセシリアさんが余裕綽々の慢心せずしてなにが専用機持ちかとなっていますように。

 

「まぁ、あれだ。頑張って負けてくるわ」

「そっか」

「そうだ。……んじゃ、そろそろ寝る」

「あ、待って蒼」

 

 なんだよ、そう言いかけて振り向けばそこに一夏の姿はなく。──いや、厳密に言うと一夏の姿が見えなかった。視界を覆うのは手入れのされている綺麗な肌色。それに気をとられるのも束の間、額に優しくなにかがふれる。うん。なにかってこれ、完全にあの、一夏の唇なんですけど。えっと、うん。一旦落ち着こう。

 

「い、一夏、さん?」

「ちょっとしたおまじない。明日、少しでも上手くいくといいね」

 

 にこっと笑ってそう言う一夏。頬は若干じゃないくらい赤いですねぇ……。恥ずかしいならどうしてやったし。俺も恥ずかしいじゃねえか。ちくしょう。

 

「……お、おやすみっ」

「お、おう……」

 

 ……なんか、唐突に上手くいく気がしてきたわ。




セシリア「早漏」
蒼「あひん」
セシリア「ヘタレ」
蒼「いやん」
セシリア「死んでくださりません?」
蒼「イクぅぅぅううう!」

そんな展開は(多分)ないのです。


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もしも植里くんが女慣れしていたら。

ただのヘタレやな(確信)


 へい姉ちゃん! ちょっくらお茶しないかい? ああ、俺? 俺の名前は植里蒼。蒼って呼んでくれ。え? やだ? 恥ずかしがらなくてもいいぜ? なんせ俺ってばカッコイイから面と向かって恥ずかしくなるのは当たり前だ。なんならそのまま俺に惚れてみるかい? こう見えて意外と一途よ、俺ってば。けど聖人君子ってワケじゃないから悪しからずね。嘘もつけば隠し事だってしますとも。つーわけでどうよ。あんたとても綺麗だ。俺で良ければ、是非とも相手にしてほしい。……駄目か?

 

「集中集中集中集中……」

「蒼ってば緊張しすぎだよ……」

「まぁ、こうなるとは思っていたが」

 

 それに、相手の意思は尊重するタイプだ。あんたが嫌って言うんなら勿論やめるが……返答が無いってことはそういうことか? 無言は肯定と捉えるぜ。確かに意思は尊重するがその前に言ったじゃねえか。俺は聖人君子ってワケじゃない。多少強引でも許してくれよな。早速だが手を失礼するよ。ああ、そんな顔を真っ赤にしなくてもいいじゃない? これくらい。俺だって恥ずかしいのを我慢してるんだ。そうは見えない? そりゃあレディの前で無様な姿を見せるワケにはいかないでしょ。男ってのは馬鹿だからカッコつけたくて仕方ないんだよ。

 

「……よし。いける」

「あれ?」

「む?」

 

 息を吸って、吐いて。おお、どっちも随分と綺麗な女の子じゃん。こんなに美しい人達が俺と仲良くしてくれるだなんて、とても光栄だね。感謝の証としてその美しさを褒め称えなければ失礼ってもんだろう。男として日頃から女性を褒めない奴はクズ同然だ。美しいものを愛でる感覚が分からないのか。

 

「よう一夏! 相変わらずカッワイーなお前! 流石は俺の嫁だ。今日は存分に楽しもうぜ?」

「……あ、蒼?」

「箒ちゃんはいつも通り綺麗だ。今日もポニーテールが最高にキマってる! 俺は毎日箒ちゃんと合えて幸せだね」

「……蒼?」

 

 なんだどうしたのよ二人とも。そんな不思議そうな顔をしながらこてんと首を傾げちゃって。全く可愛くて困っちゃうなこれは。頼まれたら断れそうにない。ま、男として女性の頼みごとは基本断らないけどね。

 

「俺の顔に何かついてるのかい?」

「蒼、それやめて」

「おいおい一夏ちゃん。可愛いくせして随分と怖い顔で迫られると俺も流石に冷や汗が」

「やめて」

「はい」

 

 すみません。

 

「なにしてるの」

「緊張を誤魔化そうと役になりきってた」

「それでどうして箒を口説いてるの」

「あ、いや、なりゆきで……」

 

 ちょっと女性慣れした植里くんを頑張って想像してみたんだけど盛大に方向性を間違ってましたね。女慣れというより女たらしと言った方がいい。俺が女たらしだって? HAHAHA、ワロス。なれるもんならむしろなってみてーよ。どうやったらそんな流暢に話せんのって感じ。さっきお前流暢に喋ってただろうがというツッコミは無しの方向で。そもそも一夏と箒さんだからある程度慣れている。

 

「なりゆきで口説かれた私の気持ちも考えろ。もう少しで惚れるところだったぞ」

「あ、さーせん。……え?」

「勿論冗談だが」

「ですよね!!」

 

 一瞬マジでビビったじゃねえか。箒さんはチョロインじゃないってぼく信じてる。どこぞのイギリス代表候補生さんとは違うって。お尻が特徴的なあの人とは違うって。

 

「……浮気はダメだよ」

「いや、しねぇって」

「なら良いんだけど」

 

 そもそも浮気する相手がいませんよ? 一夏さん。そこら辺あんた忘れてないかい? 俺は基本モテない非リアな植里くんそのままです。変わったところなんて精々女性とのコミュニケーションに困ることが少なくなったくらいだ。吃ることは減った。でもまだ慣れないのが現状。現状ディストラクション。

 

「植里くん植里くん!」

「あ、山田先生」

「届きましたよ! 植里くんのIS!」

「あ、やっとっすか……」

 

 試合開始までまだちょっと余裕はある。そう考えれば原作よりマシか。いや、一夏が俺という下位互換になってる時点でマシもなにもありはしない。オイコラ天災。あんたならもう少し早く作れただろ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! みんなお待ちかねメインヒロイン☆束さんの登場だよっ!」

「メインヒロイン……?」

「誰も姉さんのことなんて待ってません」

「どこから入った馬鹿者。今すぐ帰れ。土に帰れ」

「うわぁん! みんな酷いよっ!」

 

 酷いのはあんたと俺の機体だよ束さん。絶賛千冬さんからアイアンクローかまされてる天災を冷めた目で見ながら溜め息をつく。いやさ、そりゃあ白式が良い例だからある程度予想はしてたけどさ。うん。これはない。はっきり言ってこれはねぇよ。まだ訓練機の方が戦えるんじゃないかってレベル。アホじゃねえのこの人。アホだろ。どう考えてもアホだろ。天才じゃねえよ。天災ではあるが。

 

「聞くぞ。何故お前がここにいる」

「専用機を届けに来ました~えへっ」

「ならもう帰れ」

「やーだよっ☆」

 

 あ、またアイアンクロー喰らってる。

 

「いたた……いやぁ、私が開発したんだからさ、晴れ舞台くらい見させてくれても良くない?」

「お前はそんな奴じゃないだろう」

「酷いなぁちーちゃん。束さんだって普通の感性があるんだよ?」

「どの口がそれを言うのか」

 

 箒さんが凄い勢いでブンブンと頷いてる。そして微かに拳が握り締められつつある。あれ、下手なこと言ったら今までの恨みと共に打ち出されるパティーンですね。いいよ箒さんやっちゃって。躊躇いなく殴り抜いちゃって。特殊な呼吸法でも何でも使っていいから。震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート。

 

「ま、流石に長居はしないよ。この機体の説明だけしてソッコーで帰るから! 海の上であっくんのために製作したので、名付けて蒼海!」

 

 へぇ、そうかい。

 

「説明書を読んだ植里が固まっているが」

「当然! なんせこの機体は凄くスペシャルなものだからね!」

 

 ええ、とてもスペシャルですね。悪い方向で。

 

「先ず武装! エネルギーチャージ及び放出機能付きロッド一本! のみっ!!」

 

 分かりやすく言うとちょっとメカメカしくなってる長い鉄パイプ。

 

「それ以外? うんうん。それもまたISだね」

 

 はい、それだけ。うん。馬鹿じゃねーのマジで。棒だけって。武器が棒だけって。馬鹿じゃねーの。なんか機能付いてるらしいけど結局棒なんだろ? ただの棒なんだろ? 長いだけの棒なんだろ? 棒♂なんダルルォ!?

 

「あっくん、それをただの棒か何かだと思ってる? 違うんだなぁこれが!」

「……ま、まさか他になんかあるんすか」

「あるよっ! 詳しくは説明書の次ページ!」

 

 ぺラッとめくる。なになに。ふんふむ。自分なりに解釈するとロッドで攻撃したり捌いたりしてるとエネルギーが溜まる。溜まったエネルギーを解放して刃を生成。当たりさえ(・・・・・)すればほぼ確実にシールドエネルギーを削りきれる。なるほど。あれ、普通に強いじゃん。一発で仕留められるとか凄いっすね。やっぱチートって奴ですか? やったぜ。

 

「ちなみにブレードは三秒しか維持できないし再発動まで十分間の冷却時間があるからご利用は計画的にねー」

「やっぱ駄目じゃねえか」

 

 エネルギー溜め→状況を見て解放→三秒経過→終了→エネルギーゼロ→十分間ただの棒。あらやだ奥さん。ロマンの塊ですわよ。一発にすべてを賭けなきゃいけないのか……燃えるな(白目)。

 

「初心者になんてもんを……」

「私の機体より酷いなんて」

「蒼、敗北を知るのもまた人生だ」

「植里の初戦は黒星からか」

 

 負け確とはこういう状況を言うのだと、この日改めてそう思った。マジで手加減して、セッシー。




説明がふわっふわ? 作者の頭の中がふわふわしてるから仕方ないね。ふわっときてくらっとしてストーンですよ。皆さん貧血や脱水症状には気を付けてください(戒め)

意識落ちるときってマジで分からないのね


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そうかいそうてきかい。

わたしはーげんきー(トトロ感)


「あら、逃げずに来ましたのね」

「まぁ、逃げても面倒なだけなんで……」

 

 ふふんと鼻を鳴らすセシリアさんとその台詞に答える俺。ちなみに試合開始の鐘は既に鳴っている。つーか逃げたら逃げたで世界最強に捕まるのが目に見えてるんですよ、察して。束さんの二の舞になりたくはない。あの細胞スペックで天才が痛みに悶えるレベルのアイアンクローなんて喰らった日には記憶が消し飛ぶ。ここはどこ? 私は誰? 一夏って誰? 感動で涙不可避の物語の匂いがする。しない?

 

「貴方の性格なら戦わないということも視野に入れていたのですが」

「確かに出来るならそうしたいっすけど」

 

 争い、ダメ、絶対。平和と日常をこよなく愛する一般市民としてはこの場に立ってるだけで酷く心がかき乱される。あかん、なんだこの周りからの視線。ISのハイパーセンサーか何かで敏感になってるところにこれは無いでしょう。よく耐えれたな原作一夏。よく平気でいられるねセシリアさん。やはりヘタレに勝ち目なんて存在しなかったか……。

 

「やる気の欠片もありませんわね」

「いやー……そういう事なんで、手加減してくれるとありがたいっすね」

 

 せ、セッシーなら手加減してくれるやろ? 油断慢心バッチ来いやろ? 最初からクライマックスに本気出されてブルー・ティアーズとか使われたら堪ったもんじゃない。なにが“しずく”だ“ティアーズ”だ。そんな怖いしずくがあってたまるかってんだこんちくしょう。使うなよ? フリじゃないからな? 使うなよ? ダチョウ倶楽部理論でもないからな?

 

「自分から言うとは案外賢いですわね。わたくしも弱者をいたぶる趣味はありませんの」

「そっか、なら──」

「ですがお断りしますわ」

「ナニッ!!」

 

 馬鹿な。いや、ヴァカな。ヴァカな? ヴァカめ! 私の伝説は12世紀から始まった! 挨拶が遅れたな……私がエ(ry

 

「わたくし、貴方みたいな弱い男が嫌いですの」

「え、あ、はい。さーせん」

 

 なんで謝ってんだろ俺。思わずいつもの癖でやっちゃったよ。別にこれ謝る必要無くね? 罵倒された側が謝るとかこの世界色々とおかしいですね。しっかりするんだ植里蒼。戦闘は既に始まっている。いくぜ! 全てライフで受ける!(死)

 

「そういうところですわっ!!」

 

 キュインと独特な音をたてて、銃口から光が走る。なるほどなるほど、これがレーザーってやつですね。凄いカッケーじゃねえか。うちの馬鹿機体とは比べ物にならないほどのロマンですよロマン。流石ですセシリアさん。略してさすせし。スターライトMKⅢやべー。……で、この迫り来るレーザーどうやって避けんの?

 

「──うおおおおおおッ!?」

 

 ギリ。超。緊急回避。無理矢理体を捻って横へ滑るように移動する。あっぶねー、冷や汗かいたわ。ISが無ければ死んでいた。しかし我ながらよく避けられたと褒めてやりたい。機体性能はまぁまぁある……のか? 一応さっきフォーマットとフィッティングは完了したからこれくらいは出来て当然か。うむ。分からん。

 

「ふ、不意打ちは卑怯だと思いまーす……」

「避けるくらいの実力はあるみたいですわね」

「人の話聞いてよ……」

「ならば踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 決め台詞いただきましたー! いや、俺なんかに言うんじゃねえよオイ。踊る踊る。めっちゃ踊るからもう少し手加減してもらえませんかね? 手加減されたら頭に来るとかそういうの無いんで。むしろ喜んじゃって尻尾がついてたらフリフリするまである。よし、一旦落ち着こう。セシリアさんは完全に戦闘モードへ突入した。サシでまともに戦って勝てる確率は皆無。何度も言うが初心者と代表候補生なのだから当たり前だ。ならばどうするか。

 

「こっ、こえええええ!!」

「汚い悲鳴ですわねっ!!」

 

 手に握り締めたロッドで向かい来るレーザーを弾き飛ばす。恐らく構えも振り方もなってない。でたらめで適当にぶんぶんやってるだけ。当たったことさえ奇跡だ。直後に視界の端で0だった数値が12.3へと変動。あ、チャージされたって事ですかね。意外と溜まるの早いな。ぶっちゃけ冷却時間さえ無ければ連発可能じゃねえか。

 

「ひっ!? いやぁ!? うおっ!?」

「中距離射撃型のわたくしに近接格闘装備で挑もうだなんて、馬鹿としか言いようがありませんわね!」

 

 んなこと言われたってしゃーないでしょ。武装がこれ一つしか無いんだから。まぁ、今回に限って言えばこれで良かったかもしれない。対オルコットさんについての作戦はとにかく無様に、滑稽に、余裕なく振る舞うこと。それでいて反撃の可能性を自ら低くする。訓練された代表候補生と言えど所詮セシリ……げふんげふん十代の少女。初心者相手に油断するなと言う方が無理なんじゃないかと彼女の性格的に……げふんげふん若者の心的に考えられる。焦って、惑って、地を這いずって。セシリアさんに無理矢理油断してもらうのだ。……上手く行くかは分からないけど。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「十分か……意外と持ったな」

 

 ピットでリアルタイムモニターを見ていた千冬姉が時計をちらりと見ながらそう呟いた。うん。それには同感。

 

「蒼にしては健闘してるよね」

「あぁ、蒼にしては、な」

「さすがは私のあっくんだね!」

 

 ……蒼は束さんのモノじゃないですよ。どちらかと言うと私の蒼です。だって恋人だし。手も繋いだし。キスだってすませたし。本番は……まだやってないけど。とにかく蒼は私の彼氏であって束さんにそんなことを言われては黙ってられる筈もなく。

 

「……束さん。蒼は私の恋人です」

「冗談だよ? もう、いーちゃんは怖いなぁ」

「自分の姉と初恋の人が友人の男をめぐって争っている。この美しき残酷な世界……」

「あはは、賑やかですね……」

 

 あ、箒がなんだか死んだ魚のような目に。山田先生は苦笑いしながら見ずに助けてあげてください。やっぱり束さんがいると色々精神的にクルものがあるのだろうか。いつもは凛として格好いいのに。箒のことは心配だけれど、それよりも心配なのは蒼のことだ。操作の慣れもなにもない状態での実戦だからすぐやられる可能性だってあったのに。

 

「……まだ、持ちこたえてる」

「ふむ。あれだけの攻撃を避けるとは」

「あれは植里が凄いのではなく、オルコットが手加減しているだけだ。あれくらい初心者でも避けられる」

「頑張れあっくん! 愛してるよー!」

 

 ……私の方が絶対蒼のこと愛してます。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ぜぇーっ、はぁーっ……」

「十五分。随分と早いお疲れではありませんこと?」

 

 どもっ☆開始十五分で息も絶え絶えになってる植里くんです! IS使ってる割にスタミナの欠片もねぇな。持久走とかどうすんのお前と言いたい。だが侮るなかれ。勿論これは完璧な演技(・・)である。天災様特性のそれに乗っておきながらこの様なんてあり得ないでしょ。流石の俺でもあと五分はいける。多分。

 

「もうそろそろ閉幕(フィナーレ)と参りましょうか?」

「ぜぇーっ、ぜぇーっ、げほっげほっ」

 

 答えない。答えてやるもんかってんだ。未だブルー・ティアーズは使われていない。裏を返せば使われるレベルの戦闘に達していない。ただ只管ロッドでレーザー弾いてただけ。お陰でエネルギーMAXだよ。いつでもOKだよ。ずっと惨めにちょこちょこ逃げていたのでセシリアさんもかなりご機嫌な模様。流石ですねお嬢様。

 

「──喰らいなさい」

 

 カチリと構えられるライフル。警戒するよう射撃体制に入ったことを告げてくる自らのIS。こういう時こそ考えなければ。冷静に状況を分析しよう。傍目に見て疲れはてて動けない俺。余裕綽々にトドメを刺そうとするセシリアさん。武器は射撃武器。対する俺は僅かニメートル少しのただのロッド。瞬時加速(イグニッション・ブースト)なんて使おうにも使い方が分からない。普通なら絶体絶命。勝ち目なし。オワタこの瞬間。

 

「……ッ!!」

 

 戦闘中に掴んだ感覚を思い出しながら一気に地面を蹴りあげ飛翔する。とにかく迫れ。何がなんでも迫れ。最速で、最短で、真っ直ぐに! 一直線に! それシンフォギア。待て待て。なに? 歌わないといけないの? 絶唱しなくちゃなりませんの?

 

「この瞬間を……」

「なっ!? 貴方、まだそんな余力が──」

「多分待ってた!」

 

 イエス。そう、多分。

 

「いくぜ、『喰らいなさい!』ってな!」

「ッ!?」

 

 トンとロッドの先をセシリアさんの胸辺りに当てる。別におっぱいに当ててる訳じゃない。セクハラちゃうよ。戦闘中だもの。はてさて、初心者の俺が三秒しか維持できない高威力チャージブレード(俺命名)を当てるのは至難の技だ。正直無理。たったの三秒で振り回してぶち当てるとかなにそれ無理ゲー状態。早々に諦めた。そこで発想の転換。解放してから当てるのが無理ならば、最初から解放されるところを相手に当てていれば良いじゃない。

 

 ──エネルギー解放、刃生成。残存時間3秒。

 

「!! ブルー……」

「遅いッ!!」

 

 捩じ込む、押し込む、突っ込む。そして糊米(のりこめ)ー! 完全にぶち当たった。このままいけばシールドエネルギーを削り取るのも時間の問題。……なんだけど、そう上手くいく筈もなく。

 

「遅いのは貴方ですわっ!!」

「うげっ!?」

 

 流石は初心者。当てただけで満足してちゃいけませんよね。上手く後ろに避けられて盛大な隙をさらしてしまった。あー……これ詰んだか? てかあれ避けられちゃうのね。結構強引に捩じ込んだんですけど……。やっぱり本気出した代表候補生には勝てないのかね?

 

「ブルー・ティアーズ!!」

「おいおいマジかよっ!?」

 

 ──残存時間0秒。解放を終了します。再使用可能まであと10分00秒。

 

「ここまでシールドエネルギーを削られるとは……予想外ですわ」

「そ、そりゃどうもですね……」

 

 こりゃもうどうしようもねーわ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結果、負けました。

 

「次は織斑とオルコットだ。用意しろ」

「うん。分かったよ千冬姉」

「織斑先生だ」

 

 そりゃあねぇ、最初から分かってましたよ。ええ。俺みたいなのが土壇場でやれる訳ないじゃないっすか。相手は代表候補生ですもの。うんうん。だからこれも仕方ない。負けちゃっても仕方ないんだよ。しゃーなししゃーなし。いやー、久々に運動したね!

 

「……蒼」

「なんだ一夏」

「頑張ったね、格好良かったよ」

「……そうかよ」

 

 なんだよ、ちくしょう。ああもう、身の程わきまえろってのは分かってる。分かってるけどよ。……やっぱ悔しいっすね。なんか、ちょっと溢れ出るものがあるわ。男の子としてのアレですかね。

 

「お前も頑張れよ、一夏」

「うん。……ちゃんと見ててね、蒼」

「穴が開くほど見てやるわ」

「ふふっ、そっか。──来て、白式」

 

 呟いた一夏の体を包み込むのは白。原作同様ピーキーな性能をお持ちの白式さんである。使い辛さではうちの機体も負けていないが。

 

「……じゃあ、行ってくるよ」

「……おう」

「油断するなよ」

「勝ってこい、一夏」

「いーちゃん頑張れー」

「頑張ってくださいね、織斑さん」

 

 一夏は色んな人に愛されてるなぁ。惨めな俺とは大違い。原作主人公だから仕方ないと言えば仕方ないのだけれども。なんてつまらないことを考えていれば、隣にいた千冬さんから話し掛けられる。

 

「植里、よく見ておけよ。一夏の戦いかたは恐らくお前の機体にも適用される」

「は、はぁ……」

「オルコットが相手なら二十分持てば良い方だろうな。……そのオルコットが、だが」

「え?」

 

 そのあとの一夏とセシリアさんとの戦いは凄かった。なんかもう別次元っていうか一夏と千冬さんがダブって見えたと言うか才能の片鱗を垣間見たと言うか。なにはともあれ結果だけを見るならば。

 

 一年一組クラス代表、──織斑一夏(♀)。




当初の予定ではさっさと原作すませて休むぞオラァーと張り切っていた私でしたが、そういう訳にもいかなくなりました。はい。

今回の流れで十分あれだったと思いますけど、原作なぞるといちかわいい出来なくなるんですよね。知りました。この作品唯一の取り柄が無いってこれもうわかんねえな。

という訳なので次からは頑張って一夏ちゃんとの濃厚な絡みを多くしたい。他ヒロイン? むしろ一夏ちゃん以外のヒロインいるの?

最後になりましたが、作者はまだ元気です。更新出来てるってことはそういうことだってばっちゃが言ってた。時々立ち眩みとかでぶっ倒れるのは昔からなので大丈夫大丈夫。


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あとのこと。

 お風呂に入ってスッキリすれば、あとは寝るだけ。今日は色んなことがあって大変だった。唐突な天災の来訪やらまともに使えない専用機やらセシリアさんとの試合やら一夏ちゃん無双やら二十人の精鋭に囲まれた天災の大脱出劇やら。もう体はくたくたです。くたくたしすぎてしなびちゃうまである。しなぁ。なんだかどっと疲れが襲ってきたので早急にベッドへ腰掛けた。眠い。寝たい。疲れた。疲レタス。レタスって食べると眠くなるらしいっすね。

 

「そういえば蒼」

「ん? なんだ一夏」

 

 ぼーっとしていれば隣のベッドで待機状態の白式を弄っていた一夏から話し掛けられる。なんかようか九日十日(ここのかとおか)。てっきり何らかの作業に集中してて周りが見えてないと思ってたけど違ったようっすね。没頭していた訳ではないみたい。もしくは一夏に第三の目がある可能性が微レ存……? こえーな。織斑の血筋にこれ以上チートを与えてはいけない(戒め)。ソースはISを纏った千冬さん。

 

「今日、負けたね」

「おう。すっかりはっきりコテンパンだぜ。いやぁ、手も足も出ねーわ、流石に相手が相手──」

「悔しい?」

 

 ピタリと会話が途切れる。うーん。そういう質問は反則だと思うんですよね。俺的にはこういう時に思うことってあんまりないんですけど。そもそも普通の人間は最初から負ける戦いに挑んでおいて悔しいなんて言ったりしない。途中でへんに希望を持たない限り。……へんに希望、持っちゃったんだろうなぁ。

 

「悔しいもなにも、格上相手にあれだけやれたら上出来だろ。何も言うことなし。蒼くんは頑張った!」

「悔しいんでしょ。はっきり言いなよ」

「……分かってんじゃねーか」

「今の蒼、明らかに態度がおかしいからね」

 

 マジか。結構いつも通りだと思うけど。やっぱり付き合いが長いから分かるってやつか? 誤魔化すのはかなり得意な部類のつもりですし。感覚とかで判断されたのならたまったもんじゃない。そんなのどうやって誤魔化せばいいのかと。嘘もつけないし隠し事だって無理じゃないですかやだー! 詰み、投了、負けました。

 

「いや、分かってるよ? 初心者の俺がセシリアさんに勝てる訳ないってのは十分理解してる」

「うん」

「ぶっちゃけ俺みてーなのには似合わないし思う権利すら無いと思うよ? ほら、実力を鑑みればね」

「それで?」

「悔しくなんかねぇよバーカ」

「悔しいんだね、よしよし」

 

 やめろよ頭撫でるんじゃねえよちょっと良い匂いするじゃねえか悔しいじゃねえか文句あるかゴルァ! 俺だって歴とした男の子ですもの。きちんと棒のついた童貞の道程を歩んできた男ですもの。馬鹿なことしか考えられない男ですもの。負けたら悔しいですよね。下手に勝てそうだったから余計。多分こういう奴がギャンブルのカモになるんだと思う。いやまぁ、一応他の理由もあるにはあるんだけど。

 

「その気持ちがあれば十分だよ。確かに機体は酷いけど、ああいうのは使い方次第で強くなるから」

「使い方次第って……才能も何もないのにどうしろと」

「もうちょっとスタイリッシュな作戦を考えるとかかな? 今日のアレは確かに有効だったけど」

 

 うっわ、演技してたこともバレテーラ。そりゃあバレるか。それか千冬さんが見破って伝えてくれたのか。どちらにせよ一夏には今日の俺の動きが全てバレバレだったらしい。なんなのお前。俺のこと好きなの? 付き合ってるから当たり前でしたね。もう既に冷めていたら否定されるけど。

 

「まぁ、そういう訳で蒼は頑張りました。悔しい思いもしました。なのでご褒美をあげます」

「あ? ご褒美……ってうおい!」

「はい、ごろーん。ほら、力抜いて」

「……強引だな」

 

 無理矢理横にさせられて出来上がった状態は一夏のふとももon俺の頭。所謂膝枕。や、やわらけぇ、やわらけぇよ。適度に筋肉があるんだけど女性特有の柔らかい感触が何とも言えない。嘘みたいだろ、こいつ一年ちょっと前まで男だったんだぜ。元来から女の子の素質があったんじゃないかと疑うレベル。女子力高すぎィ! 

 

「……蒼」

「ん」

「格好良かったよ」

「……二度目だな」

「うん。二度目だよ」

 

 さらさらと俺の髪を撫でながら一夏が微笑む。なんだかくすぐったい。でも決して嫌な感じではなく、どちらかと言えば気持ち良いほどだ。安心もする。これが母性ってやつだろうか。こいつに母性があるとかクッソ笑えるな、草不可避だわ。……とか、去年の俺なら爆笑しながら言ってたんだろうけど。今となってはそれすら不思議に思えなくなるんだから別の意味で笑える。大概俺も好きだね、こいつのこと。

 

「……すまん。良いとこ見せられない彼氏で」

「気にしてないよ。むしろ蒼らしくて良いかも」

「ぐっ……否定できねぇ」

 

 実際俺が純粋に格好良かったら果てしなくコレジャナイ感があると思う。ほら、植里くんはどこか残念というか決まるときに決められないというか格好つけようとして失敗してるというか。結局残念ってことですね。一般人的転生者ですらもっと格好良く活躍できるぞ。例え転生特典が無かったとしても。

 

「あ、もしかして悔しがってるのもそれが関係してる?」

「………………いや、別に」

「へぇ~、そうなんだ~」

 

 じろじろと見てくる一夏。きちんと否定したのに伝わらないってどういうことですかねぇ……。いや、別の意味ではしっかり伝わっちゃってますけど。だから嫌だったんだよこれ言うの。なんだよ意外とか言うんじゃねえよ少しはそれくらい思いますよだって大切な人なんだから仕方ないじゃん。

 

「……俺が弱かったらお前がなんか言われるかもしれねぇだろ。そういうの嫌じゃん、普通」

「普通は逆だよ、それ」

「逆ぅ? アホか、別に俺の事はどうでも良いんだよ」

「……はぁ」

 

 俺の言葉を聞いた一夏が盛大なため息をつく。なにそのまた始まったよみたいな顔は。何も変なこと言ってませんよね? え? 存在自体が変? 転生者だからしゃーなし。なんて馬鹿げたことを考えていればさすさすと撫でていた手が一旦離れ、ぺちんと軽く頭を叩かれる。千冬さんとは大違いな優しい一撃。千冬さんも優しいっちゃ優しいけど。

 

「どうでも良くないって。蒼が私のことを思ってくれるのなら、私は蒼のことを思ってるの」

「しかしだな一夏、俺は──」

「問答無用。自分を大切にできない人は駄目」

「……分かった分かった。以後気を付けます」

 

 おぉ怖いおぉ怖い。一夏は下手に怒らせると普段の態度からは考えられないほど怖くなるからな。あと極端に周りが見えなくなる。その割によくプチ切れを起こすから分からない。熱しやすく冷めやすいかと思えばガチ切れがデカイだなんて。これは本気のプッツンではない。ただのプッツンだ。というやつだぜ。

 

「……もうそろそろ寝よっか?」

「だな。さすがに眠い」

「うん。じゃあ、お休み、蒼」

「おう。お休み、一夏」

 

 膝枕をやめてそれぞれのベッドに入り、電気を消す。体も頭もよほど疲れきっていたのか、直ぐに意識は落ちていく。とりあえず、お疲れ様。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「植里さん」

「は、はい」

「先日は失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。今までの非礼、お詫びいたしますわ」

「い、いや、そんな大袈裟にせずとも気にしてないですからセシリアさんっ」

 

 翌日。朝っぱらから来訪があったので誰かと思いドアを開けてみれば驚き桃の木山椒の木。居たのは昨日俺たちと激闘を繰り広げたセシリアさんである。一体何かと突っ立っていればこの有り様よ。一夏に負けたから渋々謝りに来たんですかね。確か勝ち負けでそんなことを言ってたなぁ。マジで実行するとは。

 

「見誤っておりましたわ。情けない男かと思っていましたが、意外とそうではないのですわね」

「え、いや……そんなことは」

「──あの一撃、かなり効きましたわよ?」

「あ、あは、あはは……」

 

 い、いやぁ、そんなに効きましたか。それはなんとも嬉しいことで。

 

「今度また、お茶でもしましょう。貴方に少し興味が沸きましたわ」

「……別に、つまんない男ですよ、俺」

「それを決めるのは貴方ではなく、わたくしですわよ?」

「そうですけど……」

 

 ただヘタレなだけの男だからね? 貴女の嫌うそこらの女に媚びへつらってる男共と変わってるところなんて無いからね? セシリアさんのお眼鏡に適えるとは到底思えません。

 

「それでは、朝早く失礼しました。わたくしはこれで」

「あ、はい。どもっす」

「あぁ、それとひとつ。セシリアで構いませんわ」

「……ま、マジっすか」

 

 難易度高くね?

 

「ではまた、()さん」

「……じゃあまた、せ、セシリアさっ……セシリア」

「ふふっ、ええ」

 

 にこりと笑って去っていくセシリアさn……セシリア。はたして名前を呼び捨てに変える意味はあったのか。友人感覚みたいなものかね。恋心は当然のごとくあり得ないとすればそれくらいしかない。つーかあれだろ。ちょっと面白そうだからちょっかい掛けられてるだけだろ。知ってる。

 

「……仲が良さそうだねー」

「うおっ!? ……なんだ、一夏か。ビビらすなよ」

「別にビビらせてないって。……にしても、セシリアさんと良い感じじゃなかった? ん?」

「ばっかお前、そんなんじゃねえよ」

 

 その後に部屋で思いっきりイチャついたのは内緒。滅茶苦茶セックスはしてない。ほら、俺たちってピュアな恋愛をしてますんで。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──ふぅん、ここがそうなんだ……」




最後のって一体誰なんだろう……(すっとぼけ)

分からないなぁ、誰なんだろうなぁ、とりあえず貧乳はステータスだなぁ。

作者は元気だって何度言えば。無理なら更新してないヨ!


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撃滅のセカンド幼馴染み。

やはり原作沿いはいちかわいいが薄い。適度に挟まなければ(使命感)


 四月下旬。入学してからもう一ヶ月が経とうとしているこの時期になれば、ISの操縦だって少しは上達していた。……んなら良かったんだけどなぁ。やっぱり植里くんに才能なんて無かったのね。分かりきってたけど。千冬さんの飛行操縦実践の授業ではかなり厳しい言葉を投げ掛けられたものだ。もう少しでメンタルブレイクされるとこだったわ。ガラスのハートが砕け散る勢い。むしろ豆腐メンタルなんで豆腐が爆発四散するといった方が想像しやすいな。食べ物は大切に扱いましょう。

 

「だから、ぐいっとやってすぱーんだ」

「えぇ……(困惑)」

「箒、それじゃあ分からないよ」

 

 そして現在。放課後の自主練習を終えた俺達はアリーナから寮へ戻るために歩きながら話していた。うむ。一夏の言う通りよ箒。感覚派はこれだから。シンパシーを感じればいいのか? このジャパニーズヤマトナデシコにシンパシーを感じればいいのか? トゥギャザーしようぜなのか? 無理だな。あ、ちなみに箒って呼ばれるのを許されました。なんかセシリアのことを呼び捨てなのに昔からの付き合いである自分が他人行儀なのは許せないとかなんとか。勿論最初の頃はセシリア共々口にするのに苦労したのは言うまでもない。

 

「むぅ。何故分からないのだ」

「蒼はこう見えて考えるタイプだからね」

「こう見えてってどういう意味──ん?」

 

 と、そんなことを話していた時。不意に視線を向けた前方に立っている大きなボストンバッグを持った小柄な少女と目が合う。目と目が合う。え、なんなの? 瞬間好きだと気付いちゃったの? 首を傾げていればかの少女はスタスタと此方に歩み寄ってくる。あら、この子ツインテールじゃありませんか。小柄に見えただけあって背は低い。お胸の方は……し、将来に期待しとけばワンチャンあるから(震え声)。もしくは小ぶりなおっぱい(それ)の方が好みだという男性もいますので諦めるんじゃない。諦めたらそこで試合終了ですよ。

 

「……あ」

「どうしたの蒼……って、あ」

「どうしたんだ二人とも……む?」

 

 二人も気付いたようである。尤も認識の違いはあるだろうけど。一夏の場合はあのツインテール……はっ! という感じ。箒の場合は誰だあのちっぱいは……む? という感じ。憶測だから多分間違っているだろう。箒のキャラがブレブレなのはしゃーない。隠された素質をつついて開花できないかと思ってる。できないか。できないだろうなぁ……。はてさて、先程の特徴で最早向こうから近付いてくる女の子の正体は分かっている。てか気付いたら目の前にいるんだけど。え? 速くね?

 

「……」

「……な、なに?」

 

 そいつは俺の顔をじいっと見詰めたあとに、左右へすっと視線を移す。そして再度俺へと目を向ける。言外に女を侍らせてるとはどういうことだと告げてきているような気がした。うん。分かる。分かります。昔の俺と付き合ってたお前がそういう態度をとるのは分かってますよ? 特に一年ちょっと前なのだからそれはもう天変地異でも起こったのかというのが感想だろう。自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「ちょっと失礼するわね」

「え? ちょ、なっ……」

 

 すっと顔に手を伸ばされて何をされるのかとナニ(・・)をされるのかとドギマギしていればかちゃりと眼鏡を奪われた。ほっ。途中のくだりはもちろん冗談なので悪しからず。一夏以外の女子からは基本評価が一定以上に達しないからね。そう考えると男女間の友情が成立する極稀な存在とも言える。植里くんすげー。でも男としてかわいそー。僕らはみんな河合荘。

 

「……やっぱりアンタか」

「久々に再開した友人への態度がそれか」

 

 酷くない? 千冬さんに砕かれた心の破片を踏みにじる勢いだよこの子。まぁズバズバ言うのが昔から変わってないことに喜ぶべきか悲しむべきか。こういうストレートな性格も嫌いではないので喜んどこう。おしとやかなこいつとか想像できない。明るく元気に前向きに。活発という言葉がよく似合う美少女(小)。なにがちっちゃいのかはご想像にお任せします。

 

「眼鏡ないほうがしっくり来るわね。外見はともかく」

「相変わらず口が悪いな、凰さん」

「相変わらず性格悪いわね、蒼」

 

 なんだと貧乳。言ったら俺の体が無事ですまないので絶対に言わないが。ソースは五反田。中国四千年の歴史をその身に刻まれたくはないのだ。弾のやつは馬鹿だからなぁ……失言ってレベルじゃないもんなぁ。数馬? もう少し幼ければグッドだったらしいです。

 

「……はぁ。久しぶり、鈴さん」

「明らさまなため息ね。それともう一度」

「めんどくせえなお前。……よっす、鈴」

「よろしい。褒美としてこの眼鏡を返してあげるわ」

 

 ははー、ありがたき幸せー。受け取った眼鏡をかちゃりとかけ直す。スッキリと晴れた視界ではしっかりとこいつを見ることが出来た。身長と胸は相変わらず、か。

 

「……アンタ今変なこと考えなかった?」

「いや、別に」

「ふーん。そ、ならいいけど」

 

 あっぶねぇええええ。セーフッ! セーフッ!! こいつが妙に(胸のことに関して)鋭いのを忘れていた。それらは全部禁句だ。貧乳と漏らした弾は言わずもがな。貧乳はステータスとフォローした数馬だってその身に深い歴史を刻まれた。その点俺は紳士ですからそういう失言の類いをどうにかしないよう頑張ったわけです。ただ怖かっただけとも言う。

 

「しっかしあのアンタがねぇ……へぇ……こんな美少女たちをねぇ……」

「……別に侍らせてる訳じゃねぇぞ」

「少なくとも親しくはあるようだけど?」

「いやまぁそりゃそうだけど」

 

 一人は彼女で一人はお前と同じく昔から付き合いがあったし。ハーレムとかそういうのではない。断じてない。一夫多妻とかはうちの嫁さんが認めてくれそうにありませんので。いや、認めてもする気は更々ないけど。

 

「……今気付いたけど、アンタの気持ち悪い喋り方も直ってるのね」

「うわー、傷付いたわー。植里くん心の傷負っちゃったわー」

「はいはい。ツバでもつけときなさい」

 

 鈴ネキはほんま男前やな! 思わず惚れてまいそうやで! 嘘。冗談です。三歩後ろに下がって待機してるうちの世界一可(いちか)愛い嫁さんを裏切るわけにはいかない。

 

「ったく。アンタは何をしてんのよ。ISなんて動かしてくれちゃって」

「俺だって好きで動かしたわけじゃない」

「でしょうね。お陰でその唯一の男性操縦者と面識のある私は土下座されてまでここに行ってくれって頼まれたのよ。今思えば失言だったわね」

「あー……なんかすまん」

 

 原作だと一夏だからウキウキるんるんだったものね貴女。劣化版どころか比べようもない俺で本当すいませんね。これも全部そこにいる篠ノ之さんって人のお姉様がいけないんだ。この世すべての理不尽は天災へと繋がる。これIS世界の常識だから。

 

「……別にいいわよ。久しぶりに顔を見るのも良いかと思ってたし」

「なら最初からそう言えよ」

「なによ。そういうの恥ずかしいじゃない。悪い?」

「……いや、別に」

 

 恥ずかしいくせしてストレートに伝えてくるのは良いんですね。変なところで恥ずかしがる奴である。俺、弾、数馬が被害をこうむるのはいつものことだった。三人で凰鈴音被害者の会を作ろうかと話し合ったほどだ。内容は三人で集まってただひたすらに愚痴って愚痴って愚痴るだけ。ロリは良いぞ。彼女欲しい。リア充死ね。

 

「あ、あいつらは元気?」

「相変わらず。せいぜい数馬に彼女が出来たくらい」

「ふーん、あのロリコンが。……で、一夏は?」

「うん? ……あっ」

 

 そこで思い出した。つーか何で忘れてんだよ。俺や弾や数馬が凰鈴音被害者の会の会員だとすれば、ここにいる篠ノ之箒や五反田蘭、凰鈴音はまさに、そう──。

 

「久しぶりだね、鈴」

「は? アンタ誰よ」

「信じてもらえないかもしれないけど、織斑一夏だよ」

「…………は?」

 

 織斑一夏(♂)被害者の会の会員、である。




一夏とオリ主だけなら深すぎる絶望も、同じ傷を負った者がいれば軽くなるというものです

モッピー「コッチオイデー」
鈴ちゃん「」


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りんちゃんなう。

今は耐え忍ぶ時だってじっちゃが言ってた。


「笑えない冗談ね。ぶっ飛ばすわよ」

「えっと、冗談じゃないんだけど……」

「そもそも一夏はそんな喋り方しないわよ」

「これには深い訳があって……ね? 蒼」

「そうよ。アンタからも何か言ってやりなさい」

「……」

 

 いやーそれが冗談じゃないんすよね、コレ。信じられないだろうけど真実なんです。一夏くんは一夏ちゃんへとなってしまったんです。後戻りは既に出来ない。つーかする気がない。一夏自身。全く、こんな事態に誰がしたんだか。そいつは一回殴られれば良いと思う。面倒ごとばっか増やしやがって。さぁ、殴れよ(自白)。

 

「なに黙ってんのよ、ねぇ」

「……すいません鈴さん」

「ちょっと、ふざけるんじゃないわよ」

 

 鈴ネキの声が震えてる。もうやだ、俺これ以上言いたくねえよ。一夏が女になっていて、しかも既に恋人がいるだなんてこの人に言いたくねえよ! 付け加えるとその恋人は現在進行形であんたが肩を掴んでいる男だってことも! ちくしょう! 誰がこんな卑劣なことをしやがった! 分かってるぞ、オラ、出てこいや天災!

 

「……嘘、よね?」

「……すまん」

「何かの悪い夢……よね?」

「鈴ッ……一夏は……もう……」

 

 織斑一夏(♂)はもう、居ないんだ。

 

「そんな……ッ」

「くっ……一夏(♂)ッ……」

「一夏(♂)ぁ……おまえは、どうして……」

「ちょっと? 私まだ生きてるんだけど?」

 

 はい。こんなにお通夜ムード漂ってますけど一夏は元気に生きてます。むしろ男のときより元気とも言えるレベル。主に身体能力の面とかはね! てかちゃっかり乗っかってるんじゃないよ箒さん。あんたが突っ込まなくてだれがツッコミ役をするというんだ。ボケにツッコミを入れない会話はカオスになりがちだと習わなかったのか全く。

 

「そう落ち込むな、ツインテ娘」

「凰鈴音よぉ……」

「凰。私の話を聞いてもらえるか?」

「すんっ……なんなのよ……」

 

 立ち上がり星の光り始めた夜空を見上げる箒。風になびく髪が月光に照らされ、奇妙な静寂がその場を包み込む。驚いた。何をかと問われれば、横から見る彼女の表情はなんとも儚げで、まさに闇に溶け込むのではないのかと思わせる。さぁさぁと吹く風の音だけを耳が拾うなか、ぽつりぽつりと、彼女は小さな唇を動かし始めた。唐突な厨二小説感に草不可避。

 

「あれは今から36万……いや、数週間前のことだったか」

「大分最近じゃない」

「まあいい。私にとってはつい昨日の出来事だが、君たちにとっては多分明日の出来事だ」

「頭おかしいんじゃないのアンタ」

 

 少女──凰鈴音と名乗った──の言葉には答えず、女は変わらず夜空を見上げながら呟く。それは居なくても構わないと思っているからか、もしくはこの少女が自分の話を必ず聞くと確信しているからか。どちらにせよ女の物語は止まらなかった。確かに存在感はしっかりとしている。なのに、どうも見失えば消えてしまいそうでままならない。少女はそう思い、ゆっくりと女の話に耳を傾けた。

 

「別に思ってないわよ」

「彼には72通りの名前があるからなんて呼べばいいのか」

「誰よそれ」

「確か最初に会ったときは『一夏』。そうあいつは最初から言う事を聞かなかった」

「72通り無いじゃない」

 

 他にはソウル=イーターだったりダリル・ヤンだったりメルエムだったり月島蛍だったりスマイルだったりetcってやつですね。分かります。いや分かんねーよ。誰だそいつら。絶対IS時空じゃないんですけど。なんなの。シンクロ次元とかそういったものがこの世界にもあるの? 宇宙の 法則が 乱れる!

 

「私の言うとおりにしておけばな、まぁいいやつだったよ」

「既に過去形なのね……」

「そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない(一夏♀)」

「大丈夫じゃない、大問題よ」

 

 神は言っている──ここで死ぬ定めではないと──

 

「とまぁそういう訳で」

「どういう訳よ」

「凰。諦めろ、私はそうした。抵抗するだけ無駄だ。なんせ一夏には蒼という恋人も居るのだから」

 

 あっ、おい待てぃ(江戸っ子)それは言っちゃ面倒なやつだゾ。果てしない絶望に苛まれていた鈴の瞳が俺を捉える。瞬間ッ! 蒼の体には衝撃が走ったッ!! まるで心臓を直に握りしめられたようなッ!! 強い力で圧迫されたかのような感覚ッ!! 蒼は知っている(・・・・・)! この奇妙な感覚を、独特な感覚を持つこれを知っているッ!! それは今、自分が恋人ということを伝えた女、篠ノ之箒からも向けられたもの! 過去に向けられたそれと全く同じッ!!

 

「……ねぇ、蒼。アンタ、どういうこと?」

「い、いや。待て、落ち着け鈴」

「一夏と? アンタが? 付き合ってる?」

「は、話し合おう。まだ間に合う」

 

 近付いた鈴に胸ぐらを掴まれてぐいっと引き寄せられる。ぐえっ。ちょっと、喉が絞まって変な声出そうになっちゃったでしょーが。俺がヒキガエルとかいうアダ名付けられたらどうしてくれんの。ヒッキーじゃあるまいし。なんてふざけている場合ではない。間近で見る鈴さんの顔がマジ怖くてしゃれになんない。いやぁぁぁあダレカタスケテー。

 

「嘘? 本当?」

「う、嘘で──」

「蒼……?」

「ほっ、ホントですッ!!」

 

 脅しではなかった。ただ純粋に不安そうな声音で、悲しそうな顔をした一夏が名前を読んだだけ。それはズルいだろお前。そんな顔されたら嘘って言えねーじゃん。俺が殴られるくらいなら良いかと思っちゃうじゃん。やめろよ、男ってそういうのに弱いんだぞ。

 

「……歯、食い縛りなさい」

「はっ、ハィィィイイイ!」

「スゥー……ハァー……。撃滅のォ!!」

 

 腹に来るぞ! 気を付けろ! ……あれ、歯を食い縛る意味なくね?

 

「セカンドブリットォォォオオ!!」

「ぶほぁっ!!」

「あ、蒼が吹っ飛……なんかデジャブ」

「あいつはこういう運命だ。気にするな」

 

 ISを使われないだけマシ。そう思うことでこのジンジンとした痛みもなんとか耐えられそうだ。もし使われていたら今ごろ土手っ腹に風穴ぶち開けられてたね。生きてるって素敵。それだけで周りの景色が煌めいて見える。あはは。あ、あそこにいるのは死んだじいちゃん。待ってくれよじいちゃん。俺もすぐそっちに……あ、駄目? そりゃそうですよね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「いてて……鈴のやつ、本気でやりやがって……」

「あはは、ドンマイだよ蒼。理由は分からないけど」

 

 その後。一夏が女になった経緯やら一夏の喋り方が変わった理由やら一夏のおっぱいが大きいことやらを全て話して中国四千年の歴史を身に刻まれた俺は心身共にボロボロの状態で寮の部屋についた。一夏に関しては無傷ですよ。無傷。明らかな差別意識を感じますねぇ……。やはりIS世界の男は不憫。ちなみに余談だが去り際に箒と鈴が固い握手を交わしていた。二人とも妙に達観した表情だったとだけ言っておこう。

 

「大丈夫? 湿布貼ろうか?」

「あー……うん。頼むわ、訓練の分もあるし」

「ふふっ、了解」

 

 こんな場面を教師モードの千冬さんに見られたら軟弱者とか言われるんだろうなぁ。平常時だと少しは休めよくらい言ってくれるのに。なんというか、仕事とプライベートの切り替えがしっかりしてるというか。私情を仕事に持ち込まないというか。尚、一夏に対してだけは特別な模様。

 

「はい。持ってきたから上脱いで」

「おう」

 

 毎回思うんだけどこの制服着るのも脱ぐのも面倒極まりない。なんなのこのベルト。なんか制服の上にしてる意味でもあんの。無くてもいいじゃない。ぶっちゃけ中学時代の学ランが楽だったのもある。ネクタイとかそういうのはつけなくて良いしボタンぱぱっとやるだけで着脱も終わるし。

 

「ん。これで良いか」

「大丈夫……ってうわぁ、背中に痣できてる」

「マジかよおい……あの野郎」

 

 鈴、許すまじ。大方殴り飛ばされた時に背中をうったのでそのせいだろう。結局受け身取れなかった俺の責任とも言える。これだから貧弱なやつは。

 

「前は大丈夫?」

「ん? あぁ……目立った外傷はない」

「じゃあここと……ここは?」

「──ッ!?」

 

 つんつんと突付かれて刺激が走る。いやん、そこはダメェ! ビクンビクンと陸にうち上げられた魚のように悶えていれば後ろからごめんごめんと謝罪の声が聞こえた。別に良いって一夏。悪いのは貧弱な俺だから。

 

「こっちも鈴の時に?」

「それは多分訓練でやったんだろ。ほら、お前にフルボッコにされた時」

「あ、あはは……ごめんね?」

「俺はむしろ良い経験だと思ってる」

 

 こうやって痛め付けられて人間は強くなっていくんだなと思いました(小並感)。ISの絶対防御も完璧ではない。幸いなのは最低限の命が保証されているところ。擦り傷にも満たない怪我ですんで良かった。

 

「……ふぅ。いいよ、蒼」

「おう。サンキューな」

 

 言ってさっさと制服を羽織る。ずっと上半身裸のままでいるのも恥ずかしいでしょうが。他の女子と比べたらまだマシな方だけど。一度ばっちりお風呂の世話とかされちゃってますもんね。

 

「……背中」

「あ?」

「前より大きくなったね」

「……知るかよ、そんなこと」

 

 夏休みのあれを思い出しちゃうからやめなさい。俺的にもう黒歴史認定されてるから。パンドラの箱みたいなもんだから。




モッピー「ナカーマ(・∀・)人(・∀・)」
鈴ちゃん「ナカーマ(・∀・)人(・∀・)」



赤信号

みんなで渡れば

怖くない


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爆ぜろリアル! 弾けろシナプス!

バニッシュメント・ディス・ワールド!!


 翌日昼休み。今日も今日とて昼食をとるために食堂へと向かった俺たちなのだが、意外というか妥当というか当たり前というかそこにはどんよりとした凰鈴音がいたわけで。

 

「……なんでこっち来るのよ」

「空いてる席が無かったから……」

「一夏の言う通りだ、特に深い意味はないぞ凰」

「そういう箒の顔が凄い笑顔なんだけど」

「蒼さん。気にしてはなりませんわ」

 

 せやな。セッシーの言う通りや。こういうのを気にしていたらキリがない。小声で「ふははは絶望を味わえ」とか呟くのが聞こえても気にしない。空耳。気にしないったら気にしないんだから! てか気にしたら負けよ。勝ち負けがあるのかどうかは分かんねえけど。

 

「ま、別に良いんだけどね。……ある程度は整理もできたし」

「ああ、荷物の話?」

「一夏ちゃんはちょっと黙ってような?」

「……箒さん。なんの話ですの?」

「私たちにしか分からない話だ」

 

 こいつの鈍感さは相変わらずだよ本当。男時代はこれにいつも振り回されていた。今となっては鈍感の『ど』の字もぼくに見せてくれませんけどね! なんなの。俺限定で鋭くなるのなんでなの。恋人補正とかそういうのがあるとでも言うのか。女ってこえー。浮気とかが即バレして手痛い仕打ちをくらった世の男性の気持ちが今なら少し分かると思いました(粉ミカン)。

 

「……ねぇ、蒼。今気付いたんだけど」

「なんだよ鈴」

 

 答えればちらっちらっと視線が色んなところを行き来する。アイコンタクトか? と思ったが違うっぽい。ある一定の高さで平行移動をしているようだ。はてさて鈴はいったい何を伝えたいんだろう。俺の本能的な部分が必死にヤメロと告げてきているが。もしかしなくても貴女自ら死地へと赴いてるんじゃないっすかね。

 

「これ、狙ってんのかしら」

「は? …………」

「ん?(ばいーん)」

「……む?(ばいーん)」

「はい?(ばいーん)」

「……(ストーン)」

 

 やめっ……ヤメロォー!

 

「もういい。何も言うな、鈴」

「一夏にすら負けたあたしって……」

「私がどうかしたの?」

「一夏さん。それ以上はいけません」

「セシリアの言う通りだぞ一夏」

 

 マジでヤバイよ。主に鈴の精神が。こいつ下手しなくても箒の倍はダメージ喰らってるぞ。そう考えるとメンタル強いなオイ。俺とは段違いじゃねえか。あれ? よく考えたら俺の周りのやつ、メンタル強すぎ……?

 

「……嗚呼、今なら分かるわ」

「な、なにが?」

「──人の生きる意味が」

「鈴ちゃぁぁぁぁあん!!」

 

 あかん。鈴ちゃんが悟りの境地に達してしまう。全てを諦めたような穏やかな顔になってる。やめて。その今すぐ殺されても悔いなんてないわとかいう表情。別の意味で怖いから。若干後光が射してるように見えるのは多分俺の目の錯覚。それか中国四千年の歴史の結晶。

 

「ふっ……やっと辿り着いたか凰。……いや、鈴」

「篠ノ……いや、箒。アンタ……」

「ようこそ──絶望の淵へ」

「なんだこの茶番」

 

 もう誰も見てやしないんだけど。一夏は我関せずでずずーとお茶を啜っているしセシリアも優雅に紅茶を飲んでいる。優雅ですねぇ。……優雅? 紅茶? リン? うっ……頭がっ。つまりあれですか。倒してしまっても構わんのですか。理想を抱いて溺死しなきゃならんのですか。俺の勝ちにしなきゃ(使命感)。

 

「あぁ、忘れてたわ。一夏」

「ん? なに?」

「アタシ、クラス代表になったから」

「へぇー……あれ?」

 

 うん。一夏の言いたいことは分かるぞ。既に鈴が転入した二組のクラス代表は決まっていた。俺達のようにガチでやり合った訳でもないから当然である。つっても俺はおまけみたいなものでしたけど。二人とも代表候補生だから見劣りすることこの上ない。今思うと凄い恥ずかしいですねー。黒歴史確定ですわ。

 

「二組のクラス代表って決まってたんじゃ……」

「変わってもらったのよ。まぁ、なに」

「……?」

「私なりに、ケジメの付け方ってところよ」

 

 ……さすがは鈴。男前すぎて泣けてくるぜ。

 

「で、そちらの人は?」

「あぁ、申し遅れました。わたくし、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。以後よろしくお願いします、……凰さん、でしたわね?」

「鈴でいいわよ。あたしは中国代表候補生ね。よろしくセシリアー」

「……蒼さんとは違った意味で適当ですわね」

 

 いや、許してあげてください。別に俺みたいにやる気がない訳じゃないと思うんです。ただ心に致命的な致命傷(誤り)を負ってしまってるだけなんです。これも全部天災ってやつのせいなんだ。篠ノ之束許すまじ。やはり一回くらいはその罪を数えた方が良いと思うの。

 

「……あ、蒼。口元にソースついてる」

「マジか、やべ……ちょ、馬鹿やめろ。自分で出来るわ」

「いいからほら。動かない」

「ああもうなんなのお前のその強引さ」

 

 子供じゃねえっつーのに。

 

「ふむ。いつも通りだな」

「箒。アンタ凄いわね。尊敬するわ」

「ふふっ、微笑ましいですわね」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ぼふんとベッドに倒れ込む。ああ、気持ちいい。一日の疲れが全て吹き飛んでいくようだ。ここが天国か。いやオアシスかもしれない。ぶっちゃけ最近の代表候補生二人との訓練がキツすぎてきちんと休まないとまともにやってらんねーわ。なんなのあの人ら。本当頭おかしいんじゃないかなって。二人で対戦してる時とか動きがもう付いていけない。こんなんじゃ俺、ISを使いたくなくなっちまうよ……。対するこっちの成果と言えば精々瞬時加速(イグニッション・ブースト)の成功率が七割にまで達したくらいだよ。

 

「蒼、制服がしわになるよ」

「うーい……」

「……はぁ。全くもう……」

 

 仕方ねーっすよ。一般人の俺には耐えきれない色々な辛さがこの学園には存在しているのです。本当一夏がいなかったら死んでるぞ俺。もしくは逃走をはかって千冬さんに監禁されてるかもしれん。やだ、なにそれ千冬ルート突入ですかね。尋問と拷問待ったなし(白目)。

 

「まぁ、訓練で疲れるのは仕方ないけど」

「ならお前はなんでそうピンピンしてんだ」

「去年から似たようなことやってるし」

「流石は織斑の血筋……」

 

 射撃型のセシリアさんとやりあってごく自然と間合いに捉えるだけはある。初見の時は凄いビビってたなーあの人。一夏曰く千冬姉から教えてもらったらしい。そりゃあ世界最強と同じ特性の武器で同じ戦闘方法を教えて貰えば強くもなりますわ。千冬さんのことだから丁寧に教え込んだのが容易に想像できる。

 

「そういや一夏。暇になったらで良いんだけどさ、弾とか数馬も誘ってどっか行こうぜ」

「え? 別に良いけど……どうして?」

「鈴のやつ落ち込んでるだろ。あいつらと馬鹿やったら少しは楽になるかと思って」

 

 とは言ったものの先ずその鈴とも予定を合わせなきゃならんのですけどね。今ぼーっと考えてて思い付いたから仕方ない。完全に立ち直るまではいかなくても気を紛らわすくらいにはなってくれる……筈。なってくれると良いんだけどなぁ。どうも鈴のテンションが低いってのは中学時代に付き合っていた身として調子が狂う。その原因のひとつに俺自身関係してるけど。

 

「……蒼はそういうところだよね」

「は? いや、なにが?」

「別に。優しいなって思っただけ」

「ばっかお前俺が優しかったら世界中の誰もが優しいカテゴリに入るわ」

 

 あ、それだと束さんも優しいってことになっちゃう。それはいかん。うん。天災は全くもって優しくない。俺の人権とかそこら辺を守ってくれたのは優しいけど普段は本当優しくない。冷たいって訳でも無いんだけどあれを優しいとも言えないだろ。結論。束さんは果てしなく優しくない。極限化ジンオウガとか獰猛金レイアほどには優しくない。特に前者。頭弾かれるってなんなん。

 

「ねぇ、なんで私が蒼を好きになったのか知ってる?」

「え? ……い、いや、知らないけど」

「単純に優しいからってのがひとつ。あと」

「……あ、あと?」

 

 少し悩むような仕種をしたあとに、にこっと笑って此方を向く一夏。

 

「……やっぱり何でもない。あとは内緒」

「ちょ、何だよそれ。気になるじゃねえか」

「いいから、ほら。さっさとお風呂入って」

 

 背中を押されてシャワー室へと押し込まれる。本当に強引な奴だ。あとのことが気になって仕方ない。ほら、俺ってそんな優しい訳でも無いからあとの方が本命なんじゃないかと思うわけですよ。全く予想もつきませんがね。そもそも俺がこうして恋人作れてること自体予想出来なかったから。




モッピー「──ついて来れるか」
鈴ちゃん「ついて来れるか、 じゃ(ry」



五月も終わりかと思うと早いですね……(しみじみ)


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なついろの感情。

正直キツかったです。すいません。落ち着いた頃に追加描写とか出来たらいいなぁ……と。


 IS学園には行事が目白押しだ。体育祭や文化祭といった一般的なものからISに関するものまでよりどりみどりちゃんである。みどりちゃんって誰やねん。それはどうでもいいので一先ず置いておくとして。その中にはクラス対抗戦(リーグマッチ)という読んで字のごとくクラスで対抗して戦うイベントもあった。原作では我らがイケメン主人公一夏くんが鈴ちゃんに思いっきり「このちっぱいが」的なニュアンスの言葉をかけてしまって半ば殺伐としたアレ。しょうがないね、貧乳に貧乳って言ったらキレるのはこの世の法則。ちなみに俺は巨乳でも貧乳でもダイジョーブダカラネ! ウソジャナイヨホントダおっぱいヨ! 欲望が漏れ出てますねぇ……。

 

「来たわね、一夏」

「そりゃ来ない訳にはいかないし……」

 

 よって現在。五月。鈴が転入してきてから数週間が経ったこの日はちょうどそのクラス対抗戦が始まるわけでして。しかも一回戦から相手は二組だったわけでして。二組のクラス代表は無理矢理変わった鈴なわけでして。最初からクライマックスな予感がするわけなのでして~。……はっ、プロデューサーにならなきゃ(使命感)。

 

『両者は規定の位置まで移動してください』

「最初に言っておくわ。……微塵も手なんか抜かず、全力をアンタにぶつけるから」

「いいよ、それで。むしろその方が良いかな。真剣勝負ってそういうものだし」

 

 それをピットで見ている訳なのだが、普通に試合前の雰囲気だなーというのが感想である。ちっぱい騒動が無かっただけでこうも変わるものなのか。いやはや胸囲の問題はまさに驚異的だね。胸囲だけに。

 

「……なんだか寒気がしますわね」

「奇遇だなセシリア、私もだ」

「奇遇だな二人とも、俺もだ」

 

 せやなー、寒気がするなー、いやーほんと五月だってのに寒さがまだ残ってるかー。……はい、すいません。ちょっと魔がさしたというか我慢できなかったというかなんというか。これくらい多目に見てほしい。一夏のギャグよりかはマシだろう。どっこいどっこい? 人生で言われて一番きつい言葉ですね……。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

「いくわよ一夏っ! 長年の想いと胸の怨み! この手で打ち砕いてやるわ!!」

「特にそういうのはないけど全力で相手するよっ!」

 

 試合開始を告げるブザーが鳴り響いた瞬間に迫り合い、しのぎを削る二人。鈴ちゃんはちゃっかり胸のこと根にもってんのね。そればっかりは俺関係ないよ? でっかい身体になった一夏、もしくはそんな身体にした束さんが全面的に悪い。でもおっぱいは正義だから仕方ないと思うの。ジャスティスおっぱい。おっぱいジャスティス。これテストに出るから覚えておくように。

 

(……そういやこれって途中に謎の無人機が乱入して一夏がやばくなるんだっけ? いやでもなぁ、原作なんてもうあって無いようなもんだしなぁ……)

 

 ふんふむと考えてティンと来た。

 

(ぶっちゃけ来るわけないよね!)

 

 俺がクラス代表をやってるならまだしも一夏なのだからそんなことはあり得ないと思いたい。いや、一夏だからこそあり得るのかもしれないが。とりあえず警戒だけしとこうそうしとこう。普通に考えて乱入とかありえないと思うんですけどねー。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 乱入しますた。わーにんぐわーにんぐ!

 

「マズイことになりましたわね」

「マズイことになったな」

「マズイことになっちゃいましたね」

 

 以上、三名からのコメントでした。いやみんな冷静すぎない? 原作知識である程度覚悟完了してた俺はともかくとして君らはなしてそんなに思考が冴えてるのん? 冴えっ冴えじゃないですか。冴えすぎてもう冴えない彼女とか言ってられない。加藤ちゃん凄くメインヒロイン。

 

「さて、どうしましょうか箒さん」

「ふむ、どうする蒼」

「どうしますよセシリア」

「いや、箒さんが」

「む、ここは蒼に」

「セシリアさん!」

「落ち着け馬鹿共」

 

 フランスパンパパーンと小気味いい音が響く。今日の出席簿アタックはキレがよろしいですね。

 

「千冬ネキ!」

 

 コッペパーン!

 

「織斑先生だ」

「イエス、織斑先生」

 

 やれやれ、とんだ暴力教師だぜ。ま、それに耐えて従ってやってる俺は実はとても凄いやつなんだけどな(ドヤァ)。やっぱりそんなやれやれ系主人公は駄目ですね。もっと突っ張っていかないと。ケンカの相手を必要以上にぶちのめし、イバルだけで能なしの教師には気合いを入れてやり、料金以下のマズイ飯を食わせるレストランには代金を払わない。これ鉄則。やれやれだぜ。

 

「落ち着いたな、ならばこれを見ろ」

「遮断シールドがレベル4に……しかも扉が全てロックされて……あのISの仕業ですの?」

「そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできない」

「ふむ。手詰まり、という訳か……」

 

 ……や、やれやれ、だぜ(白目)。まぁ知ってたっちゃあ知ってたから良いんだけど。いや良くない。あの二人の実力をある程度知っているとはいえ心配なものは心配だ。例えその後の展開を知っていても。……つーか色々と前提条件が崩れてるから展開も何もあったもんじゃないのよね。ぶっちゃけ今の一夏なら無人機くらい軽く粉砕できそうだし。

 

「あいつらならば下手をしない限り大丈夫だとは思うが……浮かない顔だな、植里」

「……なんつーか、嫌な予感がするんすよね」

「嫌な予感、か……」

 

 こう、よく分かんないけど。胸がざわつくってのはこういうことを言うのだろうか。ざわ……ざわ……。きたぜぬるりと……。いや、来なくていいんですけどね。

 

 

 

 数分後。予想より早いスピードでこちらがシールドをこじ開けるより先に乱入者を倒してしまった二人なのだが、見事にこの嫌な予感が的中する。性別が変わっても根本的な部分が織斑一夏だということを忘れていた。いやほんと、変な汗かいたっつーの。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──で、無茶して突っ込んで叩き斬った挙げ句にこの様か。よく死ななかったなお前」

「あ、あはは」

 

 誤魔化すように笑うそいつにじとっとした視線をくれてやる。本当ならこの暇潰しに持ってきた読みさしの本で頭をぶっ叩いてやりたいところですけど。そこは怪我人だから仕方ない。全身に軽度の打撲ですってよ。いやほんと仕方なさすぎて八つ当たりしちゃうレベル。

 

「笑い事じゃねえわアホ。なに? 観客に被害が及ぶといけないから無理矢理切り込んで? 倒したと思ったらまだ力が残っててそれを身の危険すら省みずに切り裂いて? ……馬鹿だろお前」

「い、いやでも、あの場面はああするしか……」

「……もういい。ちょっと寝てろ」

 

 今のは俺に対してもですね。うん。ちょっとクールダウンしろよ植里くん。熱くなるのはキャラじゃないでしょうが。こういう時こそクールに行こうぜクールに。

 

「……なるほどな。一夏があんなこと言うのも分かる気がするわ」

「? なんのこと?」

「“二度と、こんなことするんじゃねえ”って」

「……あー……」

 

 初めて理解できた。何度言われてもイマイチしっくり来なかったけど、今回の件でばっちり分かりきってしまった。これはあかんね。どうも感情とかそこらがごっちゃごちゃになりそうで怖いわ。変なこと口走りそう。既に口走ってるかもしれないけど。マジで考えがまとまらねぇ。あー、なんかイライラする。

 

「あれだけ人に言っておきながら自分だって無茶してんじゃねえか」

「い、いやー……あはは」

「だから笑ってんじゃねえよお前俺がどれほど心配したと思ってんだ一瞬頭真っ白になったんだぞ無事だと分かってもこうして話すまで気が気じゃなかったんだぞ暇潰しに持ってきた本だって1ページすら頭に入ってこねぇし千冬さんの話も殆ど要点しか覚えてねぇしちょっと泣きそうになっちゃうしマジなんなの俺」

「ちょ、蒼。落ち着いて、落ち着いて」

 

 どう見ても落ち着いてるだろうがコラ。

 

「……心配した。分かるだろ、お前」

「う、うん。そりゃあ……ね……」

「次からは気を付けてくれ。お前に死なれると……なんだ。寝覚めが悪いっつーか……あぁもう。正直言って泣くからな。絶対」

「……うん。ごめん」

 

 謝るなら最初からするんじゃねえよ。……とか衝動的に言ってやりたくなるけど、今は完全に頭に血がのぼっちゃってるから余計なこと言わない方がいいわな。俺が。これは流石に自覚しますって。もう顔とか真っ赤なんじゃないかと。

 

「そんじゃあな。安静にしてさっさと治せ」

「あれ、もう行くの?」

「今お前といるとなに口走るか分からん」

「そっか……。ねぇ、蒼」

「なんだよ」

「ありがとうね」

「……そりゃどうも」

 

 ピシャリと扉を閉める。あー……うん。ちょっと校内でも散歩しようそうしよう。じゃないと落ち着かない。つーか何かしてないと無理。だらだらと足を運びながら廊下を進む。ここに来てからずっと一夏と一緒にいたからか、隣に誰もいない状況が少し珍しくて、同時にどこか寂しかったり。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……ほい。烏龍茶で良かったっけ?」

「……うん、良いわよ」

 

 夕暮れの少し冷たい風を浴びて思考も冷静さを取り戻したきた頃合い。なんとなく通り掛かった廊下で鈴とばったり出くわしたのついさっきのことだ。一目見ただけで元気がないことは丸分かりだったが。……一応友達だからそれくらい分かりますよ?

 

「……」

「……」

 

 二人しかいない教室で隣り合わせた机に座り、それぞれが飲み物を手で弄りながら沈黙が流れること数十秒。無言。予想はしていたけどかなりキツイ。今日は大分精神に負担がかけられますね。

 

「一夏さ、やっぱ変わってなかったのよね」

「……」

「口調も性別も女になってるのにそのまま。相変わらず格好良いやつよ、ホント」

「……そっか」

 

 腐っても……って言い方が適当なのかは分からないけど、立派なラノベ主人公である。おまけにイケメン。そりゃあ性転換しても格好良いのだって頷ける。最近めっきりその様子を見なかったから忘れていた。女に馴染みすぎなんだよなぁ……。

 

「……だから余計思うのよね。あの時告白してれば~とか、もし一夏のままなら~とか」

「……おう」

「結局、あたしがいけないんだけどね。意気地の無かった自分を責めるべきなのよ」

 

 にかっと笑って鈴はそう言った。決して綺麗な表情とは言えないような曇り具合。まるで決壊しそうなダムみたいにたまってる涙とか、引き攣った口の端とか。お世辞にも笑ってるなんて言えたもんじゃなくて。

 

「……なぁ、鈴」

「……なによ」

「今度、どっか遊びに行こうぜ」

「ぷっ。なにそれ、デート?」

「ちげーよ。……弾や数馬も誘ってさ、また皆で集まろうぜ。そんで馬鹿やって、はしゃいで……んで、めいっぱい笑おうぜ」

 

 思いっきり、大口開けて。

 

「……そうね。アイツらも私がいなくて寂しがってるだろうし」

「んなこと言ったら弾に噛み付かれるぞ」

「大丈夫よ、あんなチワワ」

「チワワって……なにその無駄な可愛いさ」

 

 確かに女性からの圧力で怯え上がる小型犬っぽさはありありと見てとれますけど。それにしてもチワワは酷くないでしょうか。まぁ弾だからいっか。

 

「可愛いもんよ。あんなヘタレ」

「鈴、そのワードは俺にも刺さるぞ」

「ぶっ刺さりなさい。一夏と付き合ってる代償よ」

「酷いことで……」

 

 




(多分)1巻終了


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明日から本気出す。

二巻の内容を見返して構成の難しさに心が折れかけた。明日から本気出す。


 六月初旬のとある日曜日。色々と面倒な手続きを行ってついに迎えた今日は少し特別だ。久々に味わうシャバの空気はたまりませんな~。あそこ刑務所ちゃうけど。いや、最近似たようなもんじゃないかと考えてしまう俺がいる。世界最強の看守サマもいますし。

 

「くそがぁっ! 鈴てめぇ!」

「なによチワワ。あたしとやるわけ?」

「だから誰がチワワだ! ふざけんな!」

「キャンキャン吠えて躾のなってないチワワね」

「ぶっ殺す」

 

 わーきゃんわーきゃんと騒ぐ小型犬と小型美女。どこがとは言わない。言ったら殺される。はてさてここはIS学園の外、五反田家である。五反田食堂とも言う。こうも暴れていて苦情とかは無いのだろうか。あるんだろうな。多分。俺は怒られるのが嫌なんでゆっくり読書にいそしむとしますか。いそいそ。

 

「賑やかだね、蒼」

「そうだな、一夏」

「……ねぇ、蒼」

「なんだ、一夏」

「本じゃなくて私を見て欲しいかなって」

「お前じゃなくて文字を見たいかなって」

 

 言えば目に見えてむっとする一夏。ちょっと落ち着けよお前。不機嫌オーラが溢れ出てるから。うちの嫁は読書も許してくれないのか。そうじゃなくて読むタイミングなんだよなぁ……。

 

「冗談だって。ほら、そんな顔すんな」

「頬っぺたつつかないで」

 

 ははは、こやつめ。そんな思いを込めてツンツンしてやった。反省はしてない。後悔もしてない。これ、柔らかくてクセになりそうなのよね。頬っぺたで思い出したけど肩をトントンして振り向いたところへ事前に立てていた指をぶっ刺す遊びが一時期流行っていたっけ。あれやられると無性にイラッとするのよね。

 

「ああああ!! 滾る! 滾るわぁ!! この呪い(オモイ)でアンタを殴っ血KILL!!」

「い、いやぁぁぁあ! 鈴さんお助けーッ!!」

「大丈夫よ──痛みは一瞬だからぁ!!」

「大丈夫じゃねえーッ!!」

 

 弾、うるさい、黙れ。お客さんがいたらどうするのよ店の息子さん。売り上げ落ちたらお小遣い減らされるんじゃないんですかね。全くもってけしからん。俺なら必死こいて手伝うぞ。金のために。

 

「……蒼って時々意地悪だよね」

「すまんすまん。そういじけるな」

「そこもまぁ好きなんだけどさ」

「うぐっ……」

 

 どうも、ストレートな言葉に弱いヘタレです。てかそうぽろぽろ好きとか言うんじゃありません。ワイの心臓が張り裂けそうになるから。弱っ。流石は世界唯一の男性IS操縦者にして世界最弱のIS操縦者。一点に特化しすぎた機体のおかげでもう何も言えません。そういやこいつあの無人機乱入事件以降よく恥ずかしい言葉を吐いてくるのよね。なに? 仕返しのつもり? ばっちり効いちゃってるので勘弁してください。

 

「あれ? どうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「……口元ニヤついてんぞお前」

「狙ってるからね」

「ついに自白しやがったなテメェ」

 

 じとーっと薄目で睨んでやれば笑って誤魔化された。流すのが上手くなりやがって。あんまり弄りすぎると俺だってキレるよ? キレちゃうよ? 普段怒らないやつが怒ったら怖いって知ってるか? つまり俺は怖いんだ。俺は怖いんだぞー、がおー。怖そう(棒)。

 

「数馬っ、数馬っ!! 助けてッ!!」

「まぁ落ち着け鈴。話をしよう。あれは今から──」

「そのネタは既にやったわ。盛大に吹き飛びなさい、このクソロリコン」

「馬鹿なッ!?」

 

 あ、数馬が巻き込まれた。まぁいっか。こっちに被害はきてないし。なにより数馬だし。弾の話によると年中彼女とイチャイチャして毎日一回は殴らないと気がすまないらしい。そのせいか最近パンチ力が格段に上がったとかなんとか。弾の嫉妬心やべー。多分要因にはちゃっかり俺も入ってるんでしょうが。

 

「ふふっ……でも、さ」

「あん?」

「こういうの、良くない?」

「……あぁ」

 

 確かにそう思う。平和に、日常的に、いつも通り。他愛ないことで感情を揺らして、何気ない一日を平凡に過ごす。それが凄く恵まれた環境だということを嫌でも理解させられる。五月にあった乱入事件のせいもあるだろうし、学園にいたというのも少なからず理由になっている筈だ。訓練ばかりの毎日は辛くて挫けそうだし、天災の考えは良く分からないし、千冬さんは怖いし。

 

「そうだな……とても良い」

「数馬ぁ! 死ぬぞお前! おい!」

「大丈夫だ、下がってろ弾。そして見てろよ鈴。これが! これだけが!」

「遅いッ!!」

「俺の自まぶふぁっ!!」

「カズマァァァァァァァッ!!」

「お兄うるさい!」

 

 この混沌(カオス)さえなければ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 そうこうして迎えたお昼なのだが、折角なのでご馳走になることにした。悪い気もするが好意を無下にするのも心苦しい。残り物ですから遠慮する必要ないですよと蘭ちゃんも言ってくれたし。

 

「うん。あれだな、カボチャが甘い。美味い」

「だね。これ美味しいよね」

「相変わらずね、アンタんとこの味」

「甘いのは良い。子供が喜ぶ」

「俺は正直売れ残ってとうぜ」

 

 言ってる途中でスコーンとお玉が弾の側頭部にクリーンヒットした。余計なことを言うからだ。くっ、無茶しやがって……。ちなみに投げたのは五反田食堂の大将にして一家の頂点、五反田厳さんである。特筆するべきことはげんこつが千冬さん並みに痛いくらいか。八十年以上生きた男の重さってやつかね。カッケエ。

 

「嫌なら食わんでもいい。下げるぞ」

「美味しくいただきますっ!」

「おう、食え」

 

 やっぱり弾はアホだなぁ。一連の流れを見た蘭ちゃんがやれやれと首を振って「これだからお兄は……」みたいな表情をしている。なるほど、こうして駄目な兄の背中を見て育った結果がこれか。どうりでしっかりしている訳である。妹より優れた兄など存在しな……圧倒的に優れている人がいましたね。「分解」と「再成」のお兄様。さすおに。

 

「……で、蒼。気になってたんだが」

「な、なんだよ、そんなに詰め寄って」

 

 ちょっと顔が近いんだけど。男の顔が近付いたところで何もトキメいたりしないしトゥンクなんて効果音も出ない。むしろイケメンフェイスを前にして殺したくなってくる。死ね。イケメン死ね。男の敵は女ではなくイケメンなのだとどうして理解できないのか。

 

「どうなのよ、女の園。いい思いしてるか?」

「は? いや、お前馬鹿なの? どうしてここで話すの?」

「いいから。さっさと言えよ」

「ちょっと待てだから──」

 

 カチャリ、と誰かが箸を置く。いや分かってる。俺の隣の人物だ。つまるところの織斑一夏。あはは、なんだろうこの流れ出る冷や汗は。嫌な予感しかしない。心当たりなんて微塵もないのに。

 

「いい思いしてるよね、綺麗な女の子と仲良くなって」

「マジかよ最高じゃねえか蒼」

「しかもセシリア……一部の女子からはお茶の誘いまで」

「マジかよ最低だな蒼」

 

 ここまで綺麗な手のひら返しがあるとは思わなかった。チワワ程度がよく噛み付いて吠えてくれるな。弱い犬ほどよく吠える。

 

「いや待て。それはあくまで交遊関係だろ。お前だって容認してんじゃん」

「まぁね。流石にそこまではしないって」

 

 いや、お前の場合は本気でしそうで怖いんですが……。

 

「なんだ、結局恋人同士でイチャイチャかよ。つまんね」

「ホンットクズいなお前」

「別に面白さを求められても……」

「だからお前は彼女が出来ないんだ」

「これだからチワワは……」

「さすがお兄。クズすぎて軽く引くよ」

 

 その場にいた全員からの罵倒を受けて弾が崩れ落ちる。ざまぁメシウマ。五反田の不幸で今日も飯が美味い。そんな下らないことをすぐ考え付いてしまう俺もなかなかのクズ思考。やはりこの世にクズは多かった。

 

「くそがぁ……俺だって、俺だって本気出せば彼女の一人や二人くらい……」

 

 それはあれですね。例えるならファーストドローで事故った日。『明日から本気出す』




ウチの主人公

ISの世界に転生した。明日から本気出す。
転生特典がなかった。明日から本気出す。
一夏と仲良くなった。明日から本気出す。
幼馴染みズと会った。明日から本気出す。
中学に無事あがった。明日から本気出す。


一夏が女になった。明日からいちかわいい。
↑一話


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転校生と転生者って似てるよね。







 月曜日。流石に遊びまくったせいか、ぐっすり寝ても疲れは完全にとれなかった。特に腕が痛い。エアホッケーのしすぎで。弾が持ち掛けてきた勝負なのだが言い出しっぺが一勝も出来ないって逆に凄いわ。一夏にはフルボッコにされ、ロリコンには容赦なく叩きのめされ、鈴にはフルスロットルでラブゲーム。俺? もちろん特に苦戦することなく勝ちました。弾は弱い(確信)。さすがはチワワと言ったところか……。

 

「これは死ぬ予感が……」

「私もちょっと腕が痛いかも……」

 

 一夏とお互い腕をさすりながらため息をつく。確かに弾は弱かったが凄くない訳ではない。俺たち四人を相手にして休みなしの連続でゲームをしておきながらブンブンと振り回される両腕。技術さえあれば敵はいなかっただろう。腕だけムキムキなんじゃねえのあいつ。

 

「あの格好良さを女子の前で披露できたらなぁ、弾だってなぁ……」

「うん。まぁ、彼女を作れそうではあるよね」

「それにあれだ。鈴もはしゃいでたし、少しは元気になってくれる……と良いんすけどねぇ……」

「元気になると思うよ、多分」

 

 多分とかつけんなよ、不安になるだろ。今でさえ普通に不安だというのに。これ以上不安にされたら一体どうなってしまうのか。きゃるるん! 私の名前は植里蒼! IS学園に通う高校一年生! ひょんなことから女性にしか動かせないISを動かしちゃって……女の子ばっかりの学校に入学することに! これから私、どうなっちゃうの~!?

 

「ホント、そういう気遣いは出来るんだから」

「気遣いじゃねえよ。あれだ、ただの押し付けだ」

「照れながら言っても効果ないよ」

「マママジで違うし。そそそんな訳ないし」

 

 目をバタフライさせながら吃っても全然駄目ですね。むしろヘタレなのがバレる。いや、もう周知の事実か。俺がヘタレだということくらい。……自分で言ってて悲しくなってきた。泣きたい。涙腺崩壊までしちゃうレベル。やはりメンタルが豆腐ですね。

 

「そういうところも好きだけど」

「……に、二度も同じ手はくわねぇぜ。そんなの恥ずかしくともにゃんともないわ」

「噛んでるし。顔真っ赤だし」

「うるせぇバーカ」

 

 いやぁ暑いなぁ! 六月だってのにどうしてこんなに暑いのかなぁ! 夏の到来早すぎィ! ついこの間まで寒かったかと思えば次は燃え尽きるほどヒート。季節の移り変わりは早いもんですね~、あっはっは。この燃えるような頬をなんとかしてくれよ。顔から火が出るってこういうことかい? 今ならフライパンも温めることが出来そうだ。

 

「拗ねないでよ」

「拗ねてねぇし」

「じゃあ照れてるの?」

「照れてもねぇよ!!」

 

 ばっとそらしていた顔を向き直す。そうすればどうなるかは容易に想像のつくことで、ばっちり一夏と向き合うはめになった。瞬間にニコッと笑顔を向けられる。やめてくれ。その笑顔は俺に効く。さっきより若干温度上がってませんかね? これも地球温暖化のせいってやつなのだろうか。多分そうだろう。そうに違いない。あまりオゾン層破壊してるとレックウザさんがブチ切れて降りてくる可能性が微レ存。

 

「ほら、照れてるじゃん」

「……うっせぇ。しょうがないだろ」

「なにがしょうがないの?」

「お前可愛いんだし」

 

 ぴたっと一夏の言葉が途切れる。見てみればかぁっと耳まで赤くなっていた。褒め言葉に弱いのはお互い様ってやつかね。俺も褒め言葉に弱い。一夏も褒め言葉に弱い。主にお互いからの。つーかあれだな。なんかやり返してやった感があって良いなコレ。やっぱりこいつ相手には主導権を握るに限る。

 

「……そういうの、反則だと思うなぁ」

「お前も同じようなもんだろ」

「そうだけど……むぅ……」

 

 そう呻きながら悔しいとばかりに赤い顔で眉間にしわを寄せる一夏。褒めたんだから嬉しそうな表情くらいしてもええんやで? 人の好意は素直に受け取りましょう。若干捻くれてる俺が言うのもなんだけど。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 そうして迎えた朝のホームルーム。開始と同時に言い放たれた山田先生の言葉で、俺はすべてを悟った。どれくらい悟ったかと言うと天上天下唯我独尊なんて呟いちゃうくらいには悟った。思わずもう少しで悟りの境地を垣間見るところだったぜ。

 

『ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!』

 

 あぁ、ついに来たか。来ちゃったかぁ──と。注目すべきは二名という点。うん。原作と同じ展開ですね。ならばその後の展開も簡単に想像できる。というか九割方予測はついた。幸いなことに俺を織斑一夏と勘違いする要素は皆無なのでどこぞのブラックラビットに殴られはしない。ハズ。多分。そこ確定じゃないのかよ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 二人いる転校生のうちの一人、シャルロッ……シャルルさんが挨拶をする。まぁ、当たり前のように事情を知らないその皆さんは呆気に取られる訳で。一夏も含めて全員がぽかんと呆ける姿はさぞ面白いだろうなぁ。千冬さんが若干笑いそうになってるし。

 

「お、男……?」

 

 誰が呟いたかそんな言葉に対してシャルロ……シャルルさんは。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国から転入を──」

「きゃ……」

「はい?」

「きゃぁぁああああああっ!!」

 

 沖縄料理ーッ!! それミミガー。テンションの跳ね上がった彼女たちの声は声を呼び、最早ソニックウェーブと言っても遜色ない。冗談じゃねえ。ソニックウェーブもソニックブラストもお断りである。タイミング良く音爆弾投げなきゃならないでしょうが。

 

「男子! 二人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「それに美形! 守ってあげたくなる系の!」

「お父さんお母さん夜の営みをありがとうっ!」

「本当イケメン! 本当イケメン!!」

 

 どうして二回も言ったし。

 

「あー……騒ぐな。静かにしろ」

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 ピタリと声がおさまれば、自然と視線が向くのはもう一人の転校生。さらっさらの銀髪が腰辺りまである色々な意味でちっこい眼帯美少女。見るからに軍人っぽい立ち姿と雰囲気が凄い。あれだな、やっぱりドイツがナンバーワン。世界一ィィイイイイイ!! 

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

 マジで立ち姿がやべぇな。かっけぇ。下手な男より滲み出る格好良さがあるぞ。ピシッとしてるのがとても良いですね。ギロリと睨むような目付きの悪さが無ければ女の子として完璧だった。怖い。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……」

 

 はい、ということで二人目はみんな大好きラウラ・ボーデヴィッヒちゃんでしたー。ちっこくて可愛らしいですね。なんて言おうものなら大口径リボルバーカノンを突き付けられそうなので言いませんけど。むしろちょっとビクビクしてるまである。

 

「……えっと、以上ですか?」

「以上だ」

 

 おどおどしながら聞いた山田先生へ無慈悲な返答。なんてことだ。ほら見ろ、あの人泣きそうになってるじゃないか。どれだけ無慈悲なのよ貴女。弱点特効と見切り+2の火力盛りなの? 無慈悲レギオス弓構成なの? なんて考えていたらばっちりと目が合う。え、嘘やろ?

 

「おい、貴様」

「はっ、はい」

「植里蒼、だな」

「そ、そうです、けど」

 

 なになになんなのなんなんですかの三段活用。スタスタと歩み寄ってくるラウラさんに果てしない恐怖を感じる。BGMはおそらくダース・ベイダーのテーマ。千冬さん繋がりで。すっと伸ばされた腕がついっとネクタイを掴む。標的を固定してダメージを逃がさないようにする気か!? や、やめろ! 死ぬぞ! 俺が!

 

「──ネクタイが曲がっている」

「…………へ?」

 

 いや、なんて?

 

「それでも教官に認められた男か。ふざけるな。強さが足りないのなら身嗜みくらい整えていろ。教官の評価を下げるつもりか」

「あ、はい。すいません……」

 

 なんで俺は初対面の人に説教されてんだろ。まぁぶっ叩かれてないだけマシだと思いますかね。原作一夏はここでバッシーンいかれてたからな! うんうん。植里くんは凄くマシ。ポジティブだ。ポジティブシンキングだ植里蒼。

 

「それと、久々だな織斑一夏」

「あ、うん。久しぶり、ラウラ」

「言っておくが、私はまだお前を認めていない」

「えー……あれだけISのこと色々と教えてくれたのに?」

「当然だ。教官の身内が弱いままなどあり得ん」

 

 ……えーと、とりあえず一夏よ。お前いつの間にラウラさんと知り合ったの?




これも全部おっぱいってやつのせいなんだ。おっぱいを眺めながら小説を書いていたら、いつの間にかおっぱいになっていた。うーん、バッドおっぱい。でもナイスおっぱい。おっぱいに罪はない。罪があるのはおっぱいを見詰める僕たちなのだと、通り掛かった警官さんが言っていた。

ごめんなさおっぱい。


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シャルンルシャルンル。

シャルルさんは魔女っ子だった……?


「……ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 ラウラさんとのちょっとした出来事の直後、ぱんぱんと手を叩いて千冬さんが行動を促す。俺としては色々と聞きたいこともあるのだが、状況的にはそうも言ってられない。理由。このままクラスにいると女子の着替えをばっちり見ちゃうから。ええ、社会的に抹殺されること不可避な事案発生ですよ。さっさと出よう。そうしよう。

 

「おい植里。デュノアの面倒を見てやれ。同じ(・・)男子だろう」

 

 妙に同じの部分を強調してんなこの人。知ってるよ。同じじゃないよ。男だとしてもイケメンは死すべしなので違っており、なによりこの子本当は物凄い美少女なのである。本名はシャルルォッ↑ト。

 

「君が植里君? 初めまして。僕は──」

「あ、ちょっとすいません」

 

 ぱしっと優しくシャルルさんの手を掴んでそのまま教室を出る。その際に一夏と目が合ってふりふりと手を振られたので此方も振り返しておいた。マジでみんな気付かないもんなんだな。なんか凄い。さっきから握ってるこの手とか完全に女子のものにしか思えないのに。……男の娘の可能性が微レ存?

 

「いや、ないな。ないない」

「ど、どうしたのいきなり」

「なんでもないっす。いやほんと」

「?」

 

 こてんと首をかしげるシャルルさん。うーん、やっぱりこれただの美少女だよなぁ……。胸が無いからバレてないんすかね? そうなら本当に酷い世界だ。ちっぱいが泣いてしまうのも頷ける。女の価値は決しておっぱいだけではない。ソースはうちの嫁。いやあいつ十分にでけーからな。

 

「ああっ! 転校生発見!」

「いたっ! こっちよ!」

「者ども出会えい出会えい!」

 

 あ、やべ。

 

「いいわね金髪。とても良い匂いがしそうで」

「しかも瞳はアメジストときた」

「冴えない男子とイケメン男子の逃避行……はっ」

「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日はBL雑誌二冊買ってあげるね!」

 

 愚腐腐腐腐……なんて聞こえそうな声に思わず耳を塞いでしまいたくなる。どうしてこうなった。最近というか今日までは特にこんなこともなかった。スムーズにアリーナの更衣室にまでたどり着けていたのだ。シャルルさんが来た瞬間に起きたということはつまりそういうことである。イケメン、死すべし、慈悲はない。世の中が不平等なのは転生しても変わらない。

 

「な、なに? なんでみんな騒いでるの?」

「あなたがイケメンだからっすよ」

「そ、そうかな……?」

「そうっす。俺から見てもかなり綺麗な部類だと思いますケド」

 

 実際シャルルさんはクラスでも言われたようにかなりの美形だ。美少女なのだから当たり前。おっぱい無くしたらイケメンになるのも仕方ないってことだ。もしこの人が百合百合してたら学園の秩序が乱れていたに違いない。数多の少女の純潔を貪り喰らう美少女。言葉にすると凄いなそれ。

 

「まぁ、そんな訳でよろしくお願いしまっす。植里蒼、呼び方はなんでもいい感じで」

「じゃあ、蒼で。僕のこともシャルルでいいよ」

「うっす。シャルルさん」

 

 偽名って分かってるとこうもスラスラ呼べるものなんだね。原作知識があって良かった。うんうん。そのせいでシャルルさんが美少女にしか見えないという欠点は抱えてしまいましたが。フィルターかかってるからしゃーない。どうにかして外せませんかね。

 

「あ、時間やべぇ。さっさと着替えねえと……」

 

 第二アリーナ更衣室に到着すればかなりマズイことにギリギリだった。鬼教官ちっふーの制裁をこの身に受けたくはない。頑張ろう。今ならギリギリまでがんばってギリギリまでふんばれる気がする。とりあえずは迅速かつ効率的に着替えなくては。俺のためにも、シャルルさんのためにも。

 

「わあっ!?」

「……」

 

 き、着替えづれぇえええ。これが知る者への試練だとでも言うのか!? ふざけんな。よく二次創作の転生オリ主さんたちはこの場面を切り抜けられましたね。一体どんな手を使ったの。まさか最初っからホの字だとか昔に会っていて攻略済みとか? あいにくと俺にはそんな行動力もイケメン力も皆無だ。

 

「ど、どうしたんすか。そんな声だして」

「いや、その、な、なんでもないよ?」

「なら良いんすけど。じゃあ、俺は先に行ってるんでシャルルさんも急いだ方がいいっすよ」

「あ、うん。分かった」

 

 我、決して後ろを振り返らず。言葉だけかけてそそくさと更衣室を出てから一息ついた。一緒に行ってやらないとか最低? ヘタレにそこまで求めるのは酷じゃありませんか。死ぬぞ。精神的に死ぬぞワイ。

 

「……行かなきゃな……」

 

 ああ、うん。憂鬱だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 その後、一夏が原作通り山田先生を受け止めたり鈴とセシリアがフルボッコタイムされたりしたが特に問題もなく授業は終わった。訓練機へとだっこで運ぶ地獄の作業なんて無かったんだ。イイネ? そもそもそんな大事なことを忘れるほどアホではない。一夏? あいつは元からちょっと抜けてるんだよなぁ……。

 

「ほら、蒼。あーん」

「この中で食べろと? 羞恥プレイじゃねえか」

「別に良いでしょ、これくらい」

「良くねぇよ馬鹿」

 

 という訳で昼休み。天気が良いのもあって屋上を使うことにしたのだが見事に俺たち以外いない。貸し切り。やったぜ。ちなみにメンバーは植里くん、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルルさん。これ、実はイジメなんじゃ無いかと思うくらい鈴が不憫。主にその一部男性には人気が出そうな胸において。

 

「さっさと食べろ蒼。せっかく一夏が作ってきてくれたのだぞ」

「いや、でもな──」

「はいはいそういうの良いから。アンタは黙って幸せでも噛み締めてなさい」

「ちょ、待って──」

「あら、遠慮しなくて結構ですわよ?」

「え、あのマジで──」

「僕も全然大丈夫だよ?」

 

 逃げ場なんて無かった。特に幼馴染み二人からの断ったらお前どうなるか分かってるよな的オーラが酷い。箒の言う通り、一夏は弁当を作ってくれていたのだ。どうりでチートボディのお前が腕痛いとか言う訳だよ。そりゃあ弾とホッケーしたくらいで限界は来ませんよね。

 

「はい、あーん」

「……ま、マジすか一夏さん」

「……早くしてくれないと私も恥ずかしいんだけど」

「い、いただきますっ!」

 

 ぱくりと食べて咀嚼。もぐもぐ。

 

「どう?」

「久々すぎてヤバイ。美味い。泣きそう」

「そんなに!?」

「うん。やっぱ一夏の飯は美味いよ」

 

 料理は愛情。ちょっと前までならくそくらえだったこの言葉も今なら少し分かる気がする。一夏の料理ってなんか他とは違うあれがあるんだよな。食べたくなるというかずっと食べていたいというか毎日作ってほしいというか。告白かよ馬鹿野郎。

 

「私たちは購買で買ったものを食べているというのにコイツらは全く……」

「甘いわね。さっき買ってきたビターチョコが何故か甘いわね」

「素敵な雰囲気ですわね」

「えっと、僕たちはこの場にいて良いのかな?」

「推しすすめたのは誰だコラ」

 

 睨みを効かせればしらっとした様子で目をそらす幼馴染みーズ。自白してるようなもんだぜ。セシリアとシャルルさんが女神に見えてくるのも頷ける。あ、いや、一方は男性デスケドネ。うんうん。シャルルさんは立派な男性ですよ? さっき教室で群がる女子に『僕のようなもののために咲き誇る花の一時を奪うことはできません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』とか言ってたし。いやイケメン。イケメンすぐる。

 

「あとシャルルさんはいてもらわないと何のために屋上へ来たのかって話になりますし」

「へ? 天気が良いからじゃないの?」

「それもありますけど、あの……飯の時も大勢からの視線は辛くないっすか?」

「あぁ、うん。まぁ……ほんの少しは、ね」

 

 困り顔もイケメン。

 

「ここなら自分ら以外居ませんし。騒ぎになることも無い……と思うんだけど……」

「最後までしっかり言いなさいよヘタレ」

「思いますっ!」

「その力強さを戦闘でも発揮できたら良いんだが」

 

 鈴と箒の波状攻撃に心が折れそうです。なんなの? 的確に俺のことを潰しに来てるの? やめろよ、明日から登校したくなくなってくるだろ。引きニートの誕生である。

 

「ありがとう。蒼って優しいんだね」

「いや、別にそんなんじゃないっす。本当」

「正直に言ったら? 嬉しいくせに」

「うるせぇよ一夏」

 

 余計なことを言わなくてよろしい。




うぃー

あー



おっぱい

いえあ


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イヤなヨカン。

略していよかん。


「お引っ越し?」

「はい。その、残念ですけど……」

 

 放課後。一夏と教室に残ってぼーっとしていれば、おずおずとした様子の山田先生がそれを伝えてきた。後ろには腕を組んだ関羽もとい千冬さんもいる。お引っ越しと言われても一体誰が引っ越すのだろう。俺かな? やっと一人部屋が用意できたんですね! やっぱり男女が一つ屋根の下というのはいけない。ほら、こんなヘタレでも理性がハジけちゃえばどうなるか分からないし。

 

「そういう訳だ。分かったな織斑」

「えっと……入るのは誰なんですか?」

「デュノアだ」

 

 ほうほう。一夏がいなくなってシャルルさんが新しくルームメイトになると。男同士だからホモでもない限りなんの問題もないね。男同士男同士。本当、オトコドウシだから。ここまで現実逃避。

 

「織斑先生」

「どうした植里」

「断固拒否します」

「……ほぅ」

 

 ギロッと千冬さんに睨まれる。か、体が動かない、だと(困惑)。こちらへ向けられた双眸がキランと光って石化の術でも発動したのかと思ったぜ。大丈夫大丈夫。動かないだけで石にはなってないから。むしろ石になってたら大騒ぎだよ。死亡確定だよ。

 

「や、あの、えっとですね」

「なんだ」

「今さら俺たちを引き離す必要はないかと……」

「別にそう言っている訳ではない。デュノアをお前に任せる(・・・)というだけだ」

 

 それつまり引き離してるんですけど。つーかぶっちゃけると俺が言いたいのはそういうことではない。一夏と同じ部屋じゃなくなるのは確かに少し寂しいが、それすら些細な問題である。重要なのはその一夏がいなくなった後の同居人。シャルル・デュノア。男だから無問題? ハハハ、ふざけろ。あいつ女だよ。原作知識あるから知ってるって言ってんだろーが。

 

「何より既に決定した事だ」

「……ま、マジすか」

「しょうがないって、蒼」

 

 違う。そうじゃない。そうじゃないんだ。一夏よ、お前は盛大な勘違いをしている。てかこんな理不尽があって良いのかよ。同じ部屋にさせたのはアンタだろ千冬さん。くそっ、お、俺のことを好き勝手弄んでくれやがって……(意味深)。この責任はとってもらいますからね!

 

「用件は以上だ。織斑は荷物をまとめて部屋を移動するように」

「あ、はい。分かりました」

 

 それだけ言って踵を返し、千冬さんはスタスタと教室を出ていった。残された山田先生はというとおろおろわたわた慌てている。あの人、もう話すことは無いとでも言うのだろうか。しかしこればっかりは認められない。引いてはやらない。最後の最後まで足掻き通してやると決めた。今決めた。心に決めた。ならばどうするか。簡単なことである。

 

「……ッ!!」

「ちょ、蒼っ!?」

 

 全力全開で走り出す。教室の扉をくぐって方向を急転換。ずざっと滑りそうになるのをなんとか堪えてまた走る。目指すはちっふー。前方10メートルかそこらに見えている背中だ。てか歩くの速くね? 全然距離が縮まないんだけど。俺かなり思いっきり走ってるんだけど。見られたら確実に怒られるレベル。あれ? おかしくね?

 

「ぜぇっ、はぁっ……ちょっ」

 

 速い速い速い! ちょっと速いってあの人。なんなの、島風なの。はっやーい! うん待って。マジで待って。ただ追い付こうとしてるだけなのになんでこうも全力疾走維持せにゃならんの。ほら周りから変な目で見られてんじゃんやべぇちょっとガチで待って千冬さん!

 

「ちっ、千冬、さんっ!!」

「……」

 

 大声で叫べばピタリと歩みが止まる。いつの間にか周りには人っ子一人いない。どこまで走ってきたんだろ。未だに校内で迷いそうになるから少し不安である。ともかくこれでやっと落ち着ける。膝に手をついて息を整えること数秒。すっと顔をあげれば、此方を見下ろす千冬さんと目が合った。

 

「なんだ、蒼」

「あのっ、シャルルさんのこと、なんすけど……」

「デュノアがどうかしたのか」

「……き、気付いて、ますよね?」

 

 沈黙。じっと見詰める視線だけが交差する。やだ、そんなに見られると濡れちゃう。むしろ立ち上がっちゃうんじゃね? ステンバーイ……ステンバーイ……。

 

「さぁな。ただ言えるのは、私はお前のことを信じている」

「どういう意味っすか……怖いんですけど」

「安心しろ。デュノアは問題ない。むしろ問題があれば意地でもお前たちには関わらないよう手を回すさ」

「ばっちり知ってるじゃん……」

 

 なにが問題ないの。問題しかないよ。バレてしまったシャルルさんがハニートラップとか仕掛けてきたらどうするの。無いとは思うけど。彼女がいるんだからそんなの効くわけもありませんがね。ふふん、世界唯一の男性IS操縦者なめんな。

 

「私としてはお前が知っていることに驚いたが」

「いや、普通に考えてアレに気付かない訳が」

「一切バレていないだろう?」

「……そっすね」

 

 いやほんと凄いわ。誤魔化してるのに一切気付かれなスーパー美少女デュノアさん。略してごいすー。

 

「ではな、植里」

「……うっす。織斑先生」

 

 あ、今気付いたけど通常モードだったのね。どうりで雰囲気が柔らかい訳である。出来ることならいつもその貴女でいてください。そう切に願いたいところではあるが、こういうのも特別な感じがして悪くない。むしろ良い。なんか凄いオリ主っぽくね? 最近の俺ってオリ主っぽいよね? 遂に秘められた力が……! ない。

 

「……とりあえず教室戻らないと」

 

 いきなり飛び出して来たもんだから色々と面倒くさくなる予感しかないが。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「なんか、やっぱり寂しいね」

「ん? ……あぁ」

 

 あの後クラスへ戻ったら何か生暖かい視線を向けられました。どうやら一夏と離れたくないがために千冬さんへ直談判しに行ったと思われたようです。正直怠かったので特に否定もしなかったよ。うん。もうそれで良いや。初対面の女子との相部屋をどうにか回避しようとするヘタレなんて真実よりかはマシだろう。ほら、植里くんも格好良く見えるでしょうしWin-Winってやつですね。

 

「そうだな。少し寂しいかもな」

「あれ、やけに素直」

「うっせ。別に良いだろうが」

「それもそっか」

 

 というわけで現在。部屋に戻った俺と一夏はシャルルさんが来る前に準備を終わらせようと共同作業の真っ最中。変な意味ではない。ただ荷物を纏めているだけ。断じて変な意味はない。ラッキースケベとかも存在しない。

 

「一夏。ほれ、歯ブラシ」

「あ、ありがと。……コップは?」

「一緒に投げると危ねえだろ。ほれ」

「はい。気遣いするならまず投げないでね」

 

 ごもっともです。

 

「あれだ。ほら、お前を信頼してるから」

「ふふっ……信頼、かぁ」

 

 けっ。嬉しそうな顔しやがって。大体あれだ。一夏の身体能力と俺の身体能力を比べた場合、一夏から投げられたボールを俺が素手でキャッチするなど到底無理だが、俺から投げたボールを一夏が素手でキャッチするのは可能なのである。男のくせに弱っちぃ。

 

「よし、終わり。……蒼、ちょっと」

「なんだよちょっとって」

「良いから、ほら」

「……ったく」

 

 ちょいちょいと手招きする一夏の元へとゆったり歩いていく。荷物はまとめ終わった。あとは部屋を移動するだけなのだが、一体なんだというのか。近くに来たところですくっと一夏は立ち上がり、ぎゅっとネクタイを掴んでそっと引き寄せた。今日はよくネクタイを掴まれますね。優しい力でぐえっとならなかったのが幸いか。

 

「んっ……」

「ちょっ!? お、おまっ……」

「……なに焦ってるの。頬っぺたでしょ」

「い、いや、それでもだな」

 

 恥ずかしいものは恥ずかしいというかなんというか。童貞に冷静でいろと言う方がおかしい。理性プッツン行きそうになっちゃうから。

 

「……それじゃあね、蒼。また明日ってことで」

「お、おう……。ま、また明日」

 

 吃りェ……。




うまれたままの姿で

えっちぃ展開で

さーびすしーんで

とうとつに巻き起こるラキスケで

ありとあらゆる展開で輝く

おっぱい。それは希望。


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こんなに可愛い子が女の子なワケない。

むしろ女キャラより可愛い男の娘。


あると思います(真顔)


 シャルルさんと相部屋になって数日。つまり二人の転校生が来てから数日が経った。相変わらずイケメン貴公子である彼女……げふんげふん彼の人気は凄まじいもので、連日ありとあらゆる学年の女子がクラスへと押し掛けている。あれか。原作と違ってイケメン成分が少なかったからもう爆発してんのか。悪かったなイケメンじゃなくて。世の男共なんてこんなもんよ。

 

「……」

 

 そのシャルルさんだが、最近は訓練も一緒にやってもらっている。試しに誘ったら喜んで受けてくれたんです。なんだこの人めっちゃいい人やん! どうしてもその裏を疑ってしまいそうになるのは俺の悪い癖。好意はストレートに受け取るもんだ。人間は意地汚いので本当はもっと注意深くしてないといけませんよ? うん。シャルルさんは別にいい。千冬さんからOKサイン貰いましたし。

 

「…………ふぅ」

 

 しかしながらこの数日は毎日がエブリデイだった。違う。毎日が試練の連続だった。なにせあちらの秘密をこちらは知っている。だがそれをあちらは知っていない。簡潔に述べるとシャルルさんが女という事実を知っている植里くんのことをシャルルさんはまだ知らない。必死でした。ラキスケもスキンシップも気まずい雰囲気もどうにか避けて来ました。原作一夏みたいに馬鹿やらんぞと。絶対にしくじるもんかと。んで、現在。

 

「どうすっぺよこれ……」

 

 思い悩みすぎて喋り方がおかしくなってしまった。やばい、お里がバレる。それは一旦置いておくとして。今日も今日とて厳しい訓練を終えた俺なのだが、山田先生から専用機の何やらかんやらで書類を書いてほしいと言われ職員室へ赴くことに。結果としてシャルルさんとの更衣時間を効率よくズラせたのでグッド。ナイス。ヴェリィナイス。そう思っていた時期が僕にもありました。

 

「いや、マジで……」

 

 さて、部屋に帰ってみるとシャルルさんがシャワーを浴びている。しかもボディソープは昨日切れたと言っていた。そうだ。そうなのだ。一夏だっていつも通りラキスケやって気付いた訳じゃない。たしか親切心でボディソープを渡そうとしてバッタリ鉢合わせ。そんな展開だったと思う。その気遣いが駄目なんだよ。

 

「……大事なのはバラさないことじゃない。どうバラすかだ。できる限り最小限の被害で」

 

 これまでの時間。俺も馬鹿みたいにただ避けて過ごしてきた訳ではない。ひたすら考えた。どうやってこの状況を切り抜けようかと。そうして行き着いた結論。さっさとシャルルさんを女とバラせば良いんですね! うん。原作展開だよしょうがないよ。任せるとか千冬さんに言われちゃったしそういうことだろ。

 

「大事なのはタイミング、視線、反応。息子(お前)は反応するなよ。出来るだけ自然に、だ」

 

 ぶつぶつと呟く。覚悟を決めろ植里蒼。ラキスケを決め込む覚悟を。ぼんやりと考えていた計画通りだ。ある程度の信頼関係を作ってからこのイベントを実行する。変に警戒されると危ない。だから仲良くなって俺に害がないと知ってもらったところで──見る。なにを。シャルルさんの裸を。イエス、女体。

 

「……行くぜ、俺のターン」

 

 ぐっとドアノブを握った。扉を挟んでガチャリという音が聞こえる。シャワールームから出たのだろう。今がチャンス。好機! 勝った! 第三部完ッ!!

 

「──シャルルさん? ボディソープが無かったと思うんですが……」

「ッ!! 蒼っ!? あ、ダメ、今は──」

 

 ダメって言われるとやりたくなるよなぁ!?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……で、見たの?」

「いや、そのな? ホント少しだけ。先っちょだけ」

「ふぅん……。どうなのシャルル」

「へっ? え、えっと……結構、見てたよね……」

「ギルティ」

「ちょ、おま、あばーっ!?」

 

 首がっ! 首が曲がるぅ! 曲がっちゃいけない方向にイッちゃうぅ! イクぅ! 許して一夏ぁ!

 

「かっ……はっ……い、いち、かっ……ぎぶ」

「堕ちろ。そして巡れ」

 

 なんだかどこぞの霧の守護者っぽいですね。マジでオチそうだからやめて。ほら、シャルルさんがめっちゃ怯えてるから。小声で大丈夫とか聞いてきてるから。優しいですね。一夏にもこんな時期があったのかと思うとお兄さんちょっと寂しいよ。

 

「げふっ」

「制圧完了」

「え、えっと……大丈夫?」

「ナントカ」

 

 つーかシャルルさんは人の心配より自分の心配をした方が良いと思いますけど。はてさてどうして一夏がここに居るのかという疑問だが、どう考えても俺より上手くやれそうなのでコールしました。電話で十秒。恐ろしいスピードである。ソニックも真っ青。あれ元から青いけど。

 

「大体、その言い方だと知ってたんじゃない?」

「……まぁ、一応」

「えっ」

 

 驚いたような声を出すシャルルさん。いやいや、なにをそんなに目を丸くしてらっしゃるの。その程度の嘘で俺を騙そうなんざ百年早い。俺ってばこう見えて結構嘘をつくのが得意だからね。同じくして嘘を見抜くのも得意だ。……まぁ、九割方原作知識ですけど。

 

「最初から変だと思うだろ。わざわざ安全性の高い一夏と部屋を離して一緒にさせるって時点で。しかもあの千冬さんが」

「……そう考えればそうかも」

「そんで色々と冷静になって見てみるとだ。シャルルさんが美少女にしか見えない。はい、ここ重要」

「口説いては……ないよね。さすがに」

「当たり前だ。この状況で口説くとかどんな馬鹿だよ」

 

 原作のお前くらいやぞ。

 

「てことは、今までずっと……」

「うす。めっちゃ頑張ってましたよ。着替えの時間もシャワーも上手く一人だったでしょう?」

「……あ」

「そんで気付いてないフリもしてましたんで、もうクッタクッタですよ植里くんは……」

 

 精神ゲージがゴリゴリ削られる削られる。削りダメが酷すぎてイライラしそうでしたよ。特に寝るときなんかもうヤバイ。マズイ。なにがマズイって一度女の子と一緒の部屋って意識しちゃうと瞼がぱっちりしてくる。ごめんなさい。一夏以外の女子にはまだ多少慣れが必要なんです。うちの嫁が最近女性関係にうるさくて……。いや、嬉しいことですけど。

 

「……そう、なんだ。あはは……バレてたんだね」

「あの、騙しててすいません。性格悪いやつでホント申し訳ないっす」

「ううん。僕も、騙してたから」

 

 うーん……無理矢理はっつけたような笑顔が痛々しい。なんつーか見てられない。思わず顔を背けたくなる。シャルルさんがイケメンなのも原因かもしれない。いや、今は美少女か。うんうん美少女美少女。美少女は良いものだよ、うん。

 

「……それで、どうするの? このことを伝えてここから追い出す? それとも言わないでやるから、ってやつ? どっちにしろ僕に選択権はないけどね」

「あ、いや、そうじゃないっす。はい。つーかそんなことする気ねぇよ……」

「違うの? じゃあ──」

「あぁもう。そもそもですね、俺は千冬さんにシャルルさんのことを“任せる”って言われたんですよ。そんなこと出来ません」

 

 任されたら最後までやり遂げるのが男である。多少の無茶は百も承知。全力全開でぶっちぎってやるぜ! とまではいかないが、約束は守る人間なのできちんと果たします。ホントだよ。ワタシヤクソクヤブラナイ。

 

「なら、蒼はなにを……」

「決まってますよ。──平和を取り戻す」

「あぁ、部屋をかえてほしいんだ」

 

 ちょっとやめて。ヘタレなのがバレるでしょうが。いやもうバレてる。

 

「とりあえず、なんでシャルルさんは男のフリしてたのか……ってとこからっすね」

「……聞いてどうするの?」

「それは聞いてから考えます。俺、こう見えて頭の回転が早いんで」

 

 これも嘘。原作知識でかなり知っちゃってるからね。こいつ大分嘘ついてんなぁ。嘘つきは泥棒の始まりだという言葉を知らんのか。閻魔様に舌を引っこ抜かれて死ねば良いと思うよ。できれば美少女の閻魔様が良いですねぇ……。

 

「大丈夫っす、シャルルさん。悪いようにはしませんから」

「完全に悪いようにするつもりの台詞だね」

「ちげーよ馬鹿一夏。俺は真面目です」

 

 久方ぶりに植里くんマジモードよ。




オリ主「親方! 空から一夏(♀)が!」

ちっふー「五秒で受け止めろ」


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つまりオリ主はただの転生者だったんだよ!

ΩΩΩ<ナ,ナンダッテー!


 例えば俺がもし今以上に調子に乗った転生者なら、この世界はどうなっていたのだろう。女性相手に吃ることもなく、イケメン一夏を死ねクソ野郎と距離を置き、ハーレム横取りして俺が主人公していたらどうなっていたか。その様子を想像した時に、なんとも言えない物足りなさというか、不満足感みたいなものに襲われる。これじゃない。こんなんじゃ全然満足できない、と。思わずチームサティスファクションに入っちゃうレベル。

 

「……と、まぁこんな感じ、かな」

「シャルル……」

「ごめんね一夏。今まで嘘ついてて」

 

 要するに、あれだ。なんつーか、どうにも俺ってやつは意外とこいつに惚れているようで。いや、箒もセシリアも鈴もシャルルさんもラウラさんも勿論素敵な女性ですよ? ええ、思わず吃っちゃうくらいには。けどやっぱり一緒に居て安心するのはこいつだし。むしろハーレム要らないから一夏が良いまである。うんうん。愛するって良いことだね。これぞ良き夫ってやつよ。……童貞(ガキ)がなに語ってるんだか。

 

「……蒼」

「ん? なんだよ」

「私、ちょっとキレそうかも」

「どうどう。抑えろ抑えろ」

 

 気持ちは分かる。シャルルさんの話は要約するとパパの会社が経営危機だから男装して注目浴びてちょっとIS学園にいる男性操縦者とその専用機のデータ盗ってこいよというものだ。うん。事前情報ありでかなり気持ちが構えられていた俺はともかく一夏は初耳。親の都合に振り回されてる状況のシャルルさんを千冬さんと重ねてたりするのか。僕には分かりません。てか分かってるなんて言えるわけがないだろ。

 

「……おかしいよ、そんなの」

「一夏……」

「ただ一方的に利用されるだけの関係なんて、親子のそれじゃない。生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずなのに……」

 

 これ、何も言えねーな。言う資格がない。前世含めた数十年。ある程度の家庭環境と両親に恵まれてぬるま湯にひたっていた凡人の俺では発する言葉すら見つからない。慰めとか同情とか先ずいらないだろうし。こういう時に無口キャラは便利だと思う。ずっと喋らなくてもいつも通りだから。今度から無口キャラ目指してみようか。

 

「ねぇ、蒼」

「おう?」

「解決策、ある?」

「一応あるにはあるぞ」

 

 必死に頭を捻って考えたところ、出てきたのは三つ。この問題で重要なのはシャルルさんが女だとバレたらヤバイということ。デュノア社が経営危機に陥ったことでこの一連の出来事が発生したこと。そして第三世代型の開発が遅すぎて最早手遅れ気味なこと。ふんふむ。やっぱり真面目モードは照れますな。こう、なんか、黒歴史が量産されてる気がしていけない。あとで思い返したら絶対布団にくるまってゴロゴロしちゃう。

 

「ソッコーで思い付いたのは特記事項第二十一。覚えてるだろ?」

「あ、うん。確か……『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に所属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』だっけ?」

「お前全文覚えてるとかやべぇな……(戦慄)」

 

 流石は基本高スペックなくせに弱いと思われがちな原作主人公。よく考えたらあり得ないほどチートなんだよなこいつ。まさに選ばれし人間。ぶっちゃけ人間やめてる。織斑さんたちが吸血鬼? ハハハ、この世界終わったな(確信)。

 

「それによると三年間は大丈夫ってことになる。その間に策を考えることも可能だけど、根本的な解決にはなりませんよね?」

「蒼? 口調がおかしくない?」

「俺たちが結託してどうにかシャルルさんの男装を隠し通すという手もある。でも、それも原因の解決にはなりませんよね?」

「うん。ちょっと話し方が変、かな?」

 

 これじゃ、俺……シャルルさんを救いたくなくなっちまうよ……(霧並感)。

 

「そこでだシャルルさん。二者択一。好きな方を選んでほしい」

「え? なにを?」

「一つ、シャルルさんが本当にシャルル君になる。二つ、シャルルさんとしての自由をもぎ取る」

「……そ、そんなこと、出来るの?」

「出来る。断言しても良い。俺は本気ですよ、シャルルさん。あとは貴女次第ってヤツっす」

 

 原作一夏にあって俺にないもの。それらはとても多くて数えきれない。格好良さだったりハーレム力だったり家事力だったり鈍感ラノベ主人公力だったり強さだったりと色々だ。言ってしまえばほぼ全てにおいて下位互換。劣っている。劣化というのも烏滸がましいたかが凡人に出来ることは少ない。

 

「……どうして、そんなに……」

「あ、別に優しさとかじゃないっすよ。えーっと……ああそう。あれです。自己満足です自己満足。シャルルさんを救った俺SUGEEEEみたいな」

「まーたそうやって捻くれる……」

「ほら、俺って性格悪いですし」

 

 逆に俺にあって原作一夏にないものは極僅かだ。両手の指で数えるほどしかない。けれどもその中に、この世界で一番でかいものがある。ジョーカーとも呼ぶべきそれを俺は持っている。一夏には無かった。けれども俺にはある。圧倒的かつ絶対的な効力を誇るカードが。

 

「……やっぱり蒼は優しいと思うよ、僕」

「あの、やめてください。マジで。恥ずかしいんすよ。ちょっと察して」

「なにを照れる必要があるの? 変な蒼」

「うぐっ……」

 

 IS世界に転生した時の攻略ポイント。可能であれば天災とイイ感じの雰囲気を作っておく。どこがどうイイ感じなのかは聞いてはならない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結果としてシャルルさんが決めたのは後者。普通の女の子なのだから当然である。男装だって自分の好きでやったことではないのだ。かなりというか男の俺より様になってるのは流石としか言いようがないけど。そのシャルルさんは現在ちょっと部屋を出ている。勿論男装をして。理由? 余計な詮索をする人は嫌われますよ。お花でも摘みに行ったんじゃないっすかね。

 

「それで、あんなこと本当に出来るの?」

「出来る。多分。八割くらい。いや五割か」

「段々確率が下がってるんだけど……」

 

 うるせぇ。俺だって分かんねぇよ。もしかしたら1%をきるかもしれないし、九割九分大丈夫かもしれない。はたまたどう足掻いても駄目な可能性だってあるし、気まぐれで了承するというのもやりかねない。つくづく読めない。と、ここまで言ってしまえばもう答えが出ているようなものか。

 

「束さんに土下座して頼む。それだけだ」

「あの人、動くかなぁ……」

「さぁ。そこら辺は賭けと俺の交渉術によるな」

 

 口はおろか肉弾戦でも一切勝てる気がしないのは仕方ない。天災だからね。細胞レベルでオーバースペックだからね。睡眠薬が効かないって完全に人間をやめてるんですけど一体どんな生活したらああなんのあの人。自分の発明で肉体強化施してんじゃね?

 

「……あ、そういえば蒼」

「ん? どうした?」

「シャルルの裸、ばっちり見たんだよね」

 

 ……あっるぇー? おかしいぞー? 一夏さんよ。その話はついさっき(前話参照)終わらせたと思うんですが。主に俺の首が多大な被害を受けて。

 

「え、いや、お前、さっきアレ受けたからもうチャラに……」

「ならないよ。狙ってやったとか聞いてないし」

「……ゆ、許して」

「駄目」

 

 おぅふ。いや、そりゃあね、ラッキースケベなら別に許されると俺だって思ってた。でもこれ違うのよ。意図的な犯行なのよ。ラッキースケベに見せかけたパーフェクトSE☆KU☆HA☆RAにもなっちゃう。あれ、これ訴えられたら死ぬじゃん。なにやってんの俺。馬鹿だろ。危険な橋渡りすぎじゃねえか。一歩間違えてたらそのままムショ暮らしかよこえー……。ん? まさか手遅れ?

 

「今度休みがとれた日」

「へ?」

「開けておいてよ。……二人でどっか行くから」

「お、おう。……分かった」

 

 えっと……これってつまりデートってことっすかね?

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『もすもす終日(ひねもす)?』

「……束さん。久しぶりっすね」

『そうだねー。ざっと二ヶ月くらいかな? なんなら秒単位で正確な時間を叩き出せるよ!』

「いや、良いっす。なんか怖いんで」

『あはは、言うねーあっくん! ……で、要件はなんだい?』

「束さんって、まだ俺の知識に興味あります?」

『んー? まぁ、私たちの物語がある異世界から来た、なんて言われて興味持たない方がおかしいよね!』

 

 

 

「ならそれ全部話すんで、ちょっと手を貸してほしいんですけど」




おい







決闘(デュエル)しろよ


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君が凡人だから。

駄目ですね、ええ。まーた中二病ぶり返してますよこの作者。眼帯つけて闇の炎に抱かれてMO☆GA☆KEとかボンバヘッ! とか言い出しますよこいつ。


おっ3.14



『駄目だね』

「……あー、マジっすか」

『マジもマジ。束さんはいつでも大マジだよーん!』

「はは、やっべーなこれ……」

 

 向こう側から聞こえてくる如何にも元気そうな声音に思わずため息をつく。いらない時はうざったらしいほど絡んでくるくせに、肝心な場面でこの態度。本当に読めないというかなんというか。故に天災だというのは十分理解してるつもりだけど。今回ばかりはちょっと驚いてなにもいえない。何も言えねぇ。この人なら受けてくれるとほぼ確信してたんだけど……それが盛大なフラグだった訳ですね、分かります。

 

『いくらあっくんとは言え、その隠してる知識だけで束さんを動かそうだなんて失礼しちゃうよ。天災の腰はそう軽くないってことさ』

「……じゃあ、どうすれば動いてくれますか」

『簡単だよ。“お願いします束さん動いてください何でもしますから”って言えば──』

「お願いします束さん動いてください何でもしますから」

『ん? 今なんでもするって言ったよね?』

 

 てめぇが言わせたんだろうが。

 

『じゃあねーじゃあねー、うん! あっくん! 君は何もしなくていいよ!』

「…………は?」

『だ☆か☆ら、何もしなくていいってば』

 

 何もしなくていい? それはつまりあれですかね。生命活動すらするなとかいう意味ですか? 要するに死ねっつーことか。冗談にしてはキツすぎるぜ、束さん。冗談じゃなくともキツすぎる。なんなの。この人動かすためには命すら捧げなきゃいけないの? 生贄召喚みたいなものか。アドバンス召喚とも言う。

 

「死ぬのは厳しいですよ、束さん」

『え? いや、どうしてそうなるの?』

「え? いや、息すらするなってことでしょ?」

『いやいやいや』

 

 いやいやいや。え? ちゃうの? 天災だからそれくらいのモノを吹っ掛けてくると事前にある程度は予測してたんだけど。違うの? お前心臓も動かすんじゃねーぞオラさっさと死ねやぁ! みたいな感じの脅し文句じゃないの? え?

 

『気楽に過ごしてなよ、ってこと。あっくんは何もしない。けれども私が特別に動いてあげるって言ってるんだよ』

「……ほ、本当ですか?」

『本当本当♪ この私がタダ働きだよ~? こんなこと頼めるの世界であっくん入れて数人だよ~?』

「あ、いや、その……ありがとう、ございます」

 

 束さんが何の交換条件もなく動いてくれた。その事実は嬉しいのだが、如何せん不安になる。なんと言ったって天災だ。何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのは仕方がないことだろう。なんというか、気味が悪い。理解できない。読めない読めないと散々言ってきたが、それらの中でも一番分からない。これならむしろ死んでくれと思っていた先程の方が信頼できる。

 

『というかだねあっくん。私は今の今までやろうと思えば君の記憶を覗き込むことくらい何時でも出来たんだよ。なら、どうしてそれをやらなかったと思う?』

「……え、いや、えぇ……?」

『私は君の記憶だけでなく、君自身にも興味を持っているんだよ』

「俺にって……ありえねぇ」

 

 ぼそっと呟く。過大評価しすぎてむしろ別人レベルなんですけど。俺はそんな興味を持たれるような人間じゃありません。そもそも転生を経験しただけのたかが一般人。本当なら原作介入なんてする気もなかった最近流行りの巻き込まれ転生者である。自分で巻き込まれ転生者って言っちゃうのかよ。今のところ巻き込まれずに回避したイベントだってあるんですが。

 

『確かにあっくんは凡人だしつまらないし特別飛び抜けた才能も得意といえる事柄も皆無だけどさ』

「あれ、なんで罵倒されてんの俺」

『こうやって時々ネジが外れたような面白い行動をするから、やっぱり目を外せないんだよねー」

 

 外れてないです。至って正常です。

 

『それにあっくん、私を普通の人と同じ目で見てるからねー。なかなか居ないよ、天災篠ノ之束のことを知って尚そんな目を向ける奴』

「勘違いじゃないっすか? 俺って束さんのこと結構特別視してますし」

『そんな奴等は先ず本気で私に頼ろうとしないよ』

 

 真面目に違うと思うんだけど……。だってこの人見てみろよ。おっぱいでかい。顔が整ってる。身体能力は人間越えてる。世界に一人の大天才にして天災。こんなスーパー人間を他と同列に見るなんて到底無理ですよ。もしこの人の本性を知らなかったら一目惚れする可能性もゼロではない。

 

『さて、それじゃ束さんは少しフランス旅行へ行ってくるよ! お土産楽しみにね!』

「……最初から全部知ってたんですね」

『んー? なんのことかなー?』

 

 別にあっくんのISに盗聴機能とかついてないから安心してねーと言いながら電話が切れる。それ完全についてるフラグじゃないですかやだー! うん。どうにかして除けられないか試してみよう。生憎と器用な方じゃないから上手くやれる自信はないけど。しっかしまぁ。

 

「……こ、怖かったぁ……」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──まぁ、そういう訳でどうやったかは言えないっすけど、なんとか手段は確保できたんで。あとは向こうが終わるまで隠し通せれば多分」

「そ、そうなんだ、本当に……。蒼って、何者?」

「ちょっと変わった一般人です」

 

 どやっと思いっきりドヤ顔をかます。どきっ! 天才と二人っきりの通話! ~死ぬ可能性【大】~を乗りきったから安心感がぱない。ぱないの! シリアス? 真面目? そんなもんは犬にでも食わせておけ。弾けるパッション! 溢れるセンセーション! 飛び出すネゴシエーション! 今こそフェアにクリエイティブ精神に則ってプランのメイキングをトゥギャザーしようぜ。意味分かんねぇな。

 

「もう一般人じゃないよ、それ」

「それが本当に一般人なんだよなぁ……」

「なんか、蒼って変なところで頑固だよね」

「俺のアイデンティティですからね」

 

 なんか頼りないアイデンティティですね。もっと格好良いアイデンティティが欲しい。一刀修羅的な。全力で自分を使い尽くす的な。れっつごーあへっど!

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「え、上手くいったの!?」

「おう。しかも条件なし。凄くね?」

「凄いも何も……大丈夫? それ」

 

 教室でひっそりと一夏へ事の顛末を語れば、返ってきた反応がそれだ。うん。当たり前。特にあの束さんがとなれば一段と跳ね上がる。結局気になってメールなどで再三聞いてみたが、今のところ全て返事はノーセンキュー。何でも知ろうと思えばいつでも知れる記憶よりも俺が現状に四苦八苦する姿を見ていた方が楽しいだろうとかなんとか。訳が分からん。

 

「大丈夫だと思いたい。大丈夫じゃなかったらその責任をとって俺は死ぬぞ」

「やめてよ、縁起でもない」

「バーカ、彼女がいるのに死ねるか」

「もっと良い雰囲気で言うもんでしょ、それ」

 

 実際ガチで未だに不安。この拭いきれない気持ち悪さもあの人が仕組んでいるんじゃないかと思うほどである。だって天災なんだもの。予測可能回避不可能。むしろ予測すら不可能な時があるので怖い。どれくらい怖いかというと満員電車で周囲全員女性に囲まれた時くらい怖い。痴漢冤罪ふっかけられる希ガス。

 

「というか、束さんに任せて良いの? あの人絶対何かやらかすって」

「ははは、なぁ一夏。束さんって誰だ?」

「現実から目をそらすの早いって」

「ワタシ、タバネサン、シラナイ」

 

 困ったときはこれで解決。秘技、自分とあの人は一切の関係がございません。ちなみに携帯を見られたら即アウト。携帯壊してもメモリ復元されたらアウト。あ、これは詰みましたわ。

 

「とりあえず今は今度の学年別個人トーナメントに向けて訓練しないとマズイ。全員強制参加ってなんですか」

「あはは、しょうがないよ。色んな人が見に来るらしいしね。練習、一緒に頑張っていこうよ」

「……だな。今日もよろしくお願いします」

「うん。それに、心配しなくても良いよ。蒼は十分強くなってるから」

 

 だと良いんだけどなぁ。この時期になってもまだ瞬時加速(イグニッション・ブースト)は安定せず、代表候補生の皆さんには一度も勝てず、全くと言っていいほど強くなってる気がしない。うん。やべぇなこれは。




前話で反応したデュエリストが多すぎて驚きました。どうしてここに。まさか、自力で脱しゅ(ry


正直真面目に考えると色々ありすぎて疲れるからシリアスって苦手です


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俺が勝てないのはどう考えても相手が悪い。

あと機体と状況と才能。


「む、植里蒼」

「あ、ラウラさん」

 

 これまた珍しい。この子とはあまり関わってなかったというか関わる理由が無かったというか、とにかくあまり親しい仲ではない。放課後に訓練のためアリーナへ行く途中でばったりと出くわしたのだが、正直気まずいのでさっさと逃げたい。あと怖い。やはり軍人というのがアレか。目つきが鋭くてちょっと慣れないんだよね。

 

「こんなところで何をしている」

「え、いや……ちょっとISの訓練をしに」

「ふむ。そうか」

「ええ、そうっす」

 

 会話終了ォーッ!! イエス。このままスタスタと通り抜けてやるぜ。スタスタ。黙々と歩を進めてアリーナを目指そうとしたところ、唐突に視界の端からひょいっと銀色のものが生えてくる。……生えてくる? いや、ラウラさんはむしろ生えてな(ry

 

「あの、ラウラさん?」

「私も同行しよう。一度、貴様の実力がどんなものか見ておきたかったからな」

「……えっと、弱いっすよ?」

「聞いている。だからこそ、少し興味がある」

 

 マジかよドイツガール。なに? 俺ってそんなに興味を持つ性質かなんか持ってんの? 自分が気付いてないだけで実は特別なの? うん。ありえねぇな。これも全部転生なんて非現実的な出来事を経験してしまったせいだ。こういうのは俺じゃなくてもっとやる気のありそうな人にしてください。オリ主できるような。いやまぁ別に転生させられて嫌ではないけど。ほら、なにより彼女が出来ましたし。

 

「手加減とかは……」

「いらないのならそうさせてもらうが?」

「……お、お手柔らかにお願いします」

「善処しよう」

 

 ラウラさん知ってるかい。善処するってのは決して了解したという意味では無いんだぜ。手加減とかそういうのは無しだということですか? 俺相手に? いやいや、まさかラウラさんに限って弱い者イジメのようなことをする訳がない。原作で鈴とセシリアがぼっこぼこにされてたような気がするけどそれも別の目的があってつまりここで俺をぼっこぼこにするような可能性は限り無く低いと願いたいけれどそうも言えないカモシカもシカもたしかにシカだがアシカはたしかシカではない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「もぅマヂ無理……サレンダーしょ」

「こんなものか」

 

 立てない。勝てない。当たらない。ないない尽くしで途中からないってなんだっけと思うほどだった。それこそない。あれ、ないってなんだっけ。いやある。それあるー。だからこの状況もありなんだ。うつ伏せに倒れ込んだ俺の近くへふわりと降りてくるラウラさん。流石ですね軍人さん。ISの扱いが天と地の差。月とスッポン。必死に策を練りまくったけどほぼ駄目にされた時の絶望感よ。上手く隠し通しても勘とか言って回避するから怖い。経験値が違ぇわ……。

 

「時間にして二十分。その力量にしてはよく保ったものだと思うが」

「それはどーもっす……いや、全然攻撃できませんでしたけどね……」

「だがシールドエネルギーは三分の一以上持っていかれている。私相手にこの戦績は誇って良いぞ」

 

 まぁ結局勝ったのは私だが、とドヤ顔で言ってくるラウラさんに可愛さを垣間見た。なるほど、これが後にIS本編で可愛さを大爆発させ数多のファンをブラックラビッ党に引きずり込んだ彼女の隠された素質か。……一体何を言っているんだろう、俺は。

 

「お疲れ様、蒼」

「おぉう、一夏。乙~……」

「満身創痍とはこのことですわね」

「違うぞセシリア。これはヘタレだ」

 

 うん? いつの間に俺は罵倒されるようなことをしたのかな? 記憶を手繰り寄せてみても全く覚えが無いんだがそこんとこどうなのよ箒さん。ジロッと睨めば真顔で事実だろうと言われた。酷いや。自覚してるから言い返せませんし。ヘタレにだって人権はあるんですよ!

 

「僕はそこまでヘタレじゃないと思うけど」

「そりゃアンタが男だからよ」

「えっ、でも……う~ん……」

 

 くっそ。好き勝手言いやがって。俺がヘタレなのとラウラさんに負けたのは関係ないだろいい加減にしろ! たしかにAICを警戒しまくって明らかに攻撃チャンスを自分から潰してたけど特に関係ないんだよ! はい。めちゃくちゃ関係ありますね。でも逆に考えてみるとそのヘタレがあったからこそ二十分も耐えれたのだ。良くやったぞ俺。さすがヘタレ。全然嬉しくねぇな。

 

「確かに強くはない。が、勝てないと分かっていながらも諦めずに戦ったその姿勢は評価する。もし少しでも手を緩めればベッドの上に送ってやったところだ」

 

 あはは……笑えねーよ。

 

「あれ、私の時はもっと辛口じゃ無かった?」

「当たり前だ。貴様の時とは事情が違う」

「貴様って……普通に名前で呼んでくれても」

「ならば今度の個人戦、もし私と試合して勝てたのなら呼んでやる」

 

 この二人は本当よく分からない。千冬さんのコネと権力を使ってドイツへ行ったときに会ったらしいのだが、特別仲が良いという訳でもなく、また酷いほど嫌い合っている訳でもない。どういうこっちゃ。一夏が言うにはラウラさんの態度、会った時より凄くマシになってるレベルだとか。初対面でビンタされたらしいぞ。そこで原作展開すんじゃねえよ。

 

「言ったねラウラ。今度こそ勝つ」

「次も勝つ、私がな」

 

 ……良きライバル。うん。なんかその言葉がしっくり来そうな展開である。おかしいな、この二人本当なら掘られ掘られて……間違えた。惚れて惚れられての関係なんだが。せ、世界が狂ってやがる。バタフライエフェクトってやつか! くそっ、全部は俺が転生してしまったからいけないんだ! さっさと死ななきゃ(使命感)。オリ主死すべし慈悲はない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「そういや一夏。例の件だけど」

「ん? 例の件?」

「ほら、シャルルさんの時のアレ」

「あぁ、アレね」

 

 訓練が終わったあと、一緒に並んで部屋に帰る途中で話を切り出した。あの時一夏が指定したのは今度休みがとれた日ということだけなのでどうも曖昧である。あと仮に俺が休みをとれたとしても一夏がとれていなければどうにもならない。それらの問題を解消するためにもやっぱり話し合わないと駄目かなって。

 

「結局いつなんだよ。今週の日曜か?」

「いや、しばらくは待って欲しいかな」

「そりゃまたなんで……」

「ほら、蒼には個人戦で頑張ってもらいたいし」

 

 うぐっ。痛いところをつかれた。先程ラウラさんにぼこられたばかりなので非常に。一夏はなんでああも簡単にIS使えてたのかね……。やっぱラノベ主人公と凡人の間には越えられない壁が存在しているのか。わざわざ代表候補生直々に教えられているというのに。

 

「……まぁ、なるべく頑張るわ」

「とか言いながら全力でやるんでしょ」

「知った風に言いやがってこの野郎……」

「蒼の事は十分知ってるから」

 

 そりゃまぁ親を除いたら一番の理解者と言っても過言じゃねえけどよ。つかぶっちゃけ親より鋭いから時々怖いんだよなぁ……。なんとなくとか勘とかいうもので対応されるのは好きじゃありません。考えろよ人間だろバカヤロー。本能じゃなく理性でかかってこいよ!

 

「──あっ! 植里くん発見!」

「え? なになに? って人多っ!!」

「ん? ってなにあれ? 人多っ……」

「植里くん織斑さん! デュノアくん知らない!?」

 

 焦った様子で詰め寄ってくる女子生徒。その背後には同じように駆け寄ってくる多くの人々が。ああ、これが人波ってやつですね。流されてく。なにもかも。

 

「シャルルさんなら確かまだ更衣室に──」

「ありがとうっ! 末長くお幸せにっ!」

「くそっ、先を越されたかっ!!」

「まだ間に合う! まだ、諦めきれない!」

「さよなら非リア! よろしくリア充!」

 

 どたどたどたと走り去っていく女子生徒一同。ざっと見ただけで五十は軽く越えてる。どうやら狙いはシャルルさんのようだけど、はて。一体どんな用事なのだろうか。まぁ、イケメン貴公子ならなんとかなるでしょう。きっと。女性関連の事案についてはノータッチ決め込む。それが俺。

 

「ああそうそう。お二人さんにも教えてあげるわ、これ」

「なになに、『今月開催される学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』──」

 

 あ。

 

「……一夏。シャルルさんのところへ戻るぞ」

「え? なんで?」

「シャルルさんが危ない」

 

 やっべー、完全にこのこと忘れてたわ。っべー。マジっべー。どうしてこんな大事なことを忘れるのか。脳細胞死んでんじゃねえのコイツ。でも今は、そんな事どうでも良いんだ。重要な事じゃない。良いからさっさと行けって話。




朝起きたらホモハーレムを作っていた。




そんな夢を見てゾッとした今日この頃。全員男の娘ならいける(確信)


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女に慣れたオリ主? あぁ、奴は死んだよ。

睡眠時間がゴリゴリに削られてしまった為、安全圏で投稿

今回はちょっとアレがアレしてアレでアレだからアレってことで許してヒヤシンス


「「「「私と組んで、デュノアくん!」」」」

 

 マモレナカッタ。

 

「うわぁ……入りづれぇ」

「でも、ほら。シャルルを見てみなよ」

 

 言われてチラッとシャルルさんの方を窺う。大勢の女子に囲まれて少し焦りながらもそれを巧妙に隠し、イケメン貴公子対応の真っ最中。大変そうだなぁとぼんやり考えたところ、バッチリ視線が交錯した。え、なに。やめて。その助けを求めるような目を向けるんじゃない。まるで雨の日にダンボールの中に入れられて捨てられた子犬と出会ったような気分になるから。

 

「……頑張れ~、シャルルさん」

「助けないの?」

「植里蒼は動かない。何故なら、その原因が女子だから」

「ちょっとは耐性も付いたんじゃない?」

 

 馬鹿を言うな。ちょっとだちょっと。そう簡単に克服できるわけねぇだろ。もしもあの大群がガチホモの集団なら別に問題ない。いや、それはそれで色々と問題があるが。とにかくあれは女子だ。しかも一人ではない。大量の、数十もの女子なのである。くそっ。助けてあげたい。どうにかしてやりたい。けど、足が震えて思うように動かねぇんだ……ッ!! ヘタレ。

 

「さーせん、シャルルさん」

「諦めた……」

 

 流石にこれは無理です。マジすいません。女に弱いヘタレですいません。少数なら良いんだ。けど、この数にもなると流石に敵に回したくはない。つーか回したら物理的にも社会的にも死ぬ。やめてくれよ。せめて死に場所くらい選ばせてくれ。学園で殺人事件発生! 被害者は男性IS操縦者とか洒落にならんぞ。

 

「みんなごめんね。それなら少し組んでみたい相手がいるんだ」

「えっ!! だ、誰!?」

「そこ、君たちの後ろにいるよ」

「後ろ……って」

 

 グルンと一斉に振り向く。いやぁぁぁぁぁ視線がぁぁぁぁぁ。駄目だ。最近ちょっと慣れてきたと思って調子に乗ってたらコレだよ。ちくせう。やはり俺の女性免疫が低いのにIS世界へ転生したのは間違っている。まぁ自ら進んで転生した訳じゃありませんけど。

 

「ね?」

 

 ニッコリと笑いかけてくるシャルルさん。その笑顔に隠された意思がうっすらと開かれた瞳より伝わってくる。ぐぬぬ……そういう目を向けられるのはあまり強くないんです。目をそらすという方法もあるが流石に今の状況でそんなこと出来ない。

 

「……そうっすね。俺もお願いして良いっすか」

「うん。こちらこそ喜んで」

 

 とりあえずこの事態を収拾するためにもそう返しておく。横からちょっと不機嫌オーラが漏れているような気もするけど今は我慢だ。うん。一夏よ、出来ることならもっと出力を抑えてくれ。なんだか罪悪感がマッハで貯まっていくから。

 

「ちぇ~、男の子同士か……」

「まぁ、他の女の子よりかは……」

「むしろ男と男ってのも」

「ありね」

「ありだわ」

「あるのだろうか。いや、ある(反語)」

 

 チッチッチ。シャルルさんは女だ。決して男同士のコンビが作られるわけではない。いやまぁ俺は正真正銘の男だけどね。てか俺が女だったら色々とヤバイだろ。男と男なんて言ってるが、本当はそれ性別違うんすよねぇ……。

 

「というわけで、本当ごめんね?」

「う、ううん! 別にいいって!」

「そうそう! デュノアくんの好きなように」

「まぁ、ちょっと残念ではあるけど」

「今回は仕方ないってことで……」

 

 口々にそんなことを溢しながら、ぞろぞろと押し寄せていた女子は一人また一人と去っていく。シャルルさんと組めないのなら無駄に居座る意味もないだろう。そこからまたペア探しが開始されたようで、ドアの向こう側からは色々と話し合う声が聞こえてきた。元気なことは良いことだと思います。

 

「……一応なんとかなったな」

「そうだねー。で、蒼?」

「おう。なんだ一夏。怖いぞ」

「ペア、シャルルと組むんだよね?」

 

 ……ん?

 

「いや、別に組まないけど」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 上から順に一夏、シャルルさん、俺。どうやら俺のペア組まない宣言が結構な驚きだったみたい。そんな驚くことでも無いと思いますけど。

 

「シャルルと組まないの?」

「うん。シャルルさんとは組まないけど」

「じゃあ僕に何をお願いしたの?」

「え、いや、一夏をお願いしようかと」

「は?」

「ん?」

「お?」

 

 言葉を喋れ。

 

「つーかあれだぞ。俺は確かにお願いしたが、一言も俺と組みましょうなんて言ってない。そして同じく、シャルルさんも組みたい相手が俺とは言ってない」

「……そう言えばたしかに」

「僕は本当に蒼なんだけど……」

「いや、遠慮しときます。一夏と組んでください」

「蒼は誰と組むの?」

「テキトーに誰か探すわ」

 

 ぶっちゃけ俺とシャルルさんが組んだ場合、ラウラさんのVTシステムを発動できるかさえ分からない。つーか多分発動できない。ワイがフルボッコにされてしまうからな! 三分の一削った? 不意打ちでチャージブレード当てようとして掠っただけだよ。なんか文句あんのかコラ。その後は一度も当てようとすることさえ出来ませんでした。

 

「それになんだ。強い奴が敵にいる方が燃えるってもんだろ?」

「蒼がそんな性格じゃないのは知ってるから」

 

 ちっ、バレてーら。




次回

「さよなら一夏! 蒼捨て身の戦法」




(大嘘)


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シャルルさんの心にずっきゅーん!

 最初の予感はいつだったろうか。そう。あれは確か数日前。そろそろパートナーを確保しないとやばいなーなんてぼんやり考えていたところに出会ったセシリアへナンパを実行した時だ。思えば、その瞬間から俺の運命は既に決まりつつあった。

 

『お誘いは嬉しいですが……ごめんなさい。わたくし、既に箒さんとペアを組んでますの』

『マジっすか』

 

 すっかり忘れていたが本来ならセシリア、そして鈴はラウラさんに怪我を負うほどフルボッコにされてトーナメントに出場できなかったのである。だがそんな事件が起きた様子はなく、またセシリアもピンピンで全くの健康状態。あ、流れ変わったなと思わざるを得ない。つまるところの原作崩壊。以前からあったにはあったので特に驚くことでもないが。いや、一夏がTSしてる時点でもう原作通りとはいかないし。

 

『最初は鈴さんと組む予定でしたが、誘ったときにはもうパートナー申請をしておりまして……そんな時に箒さんから誘われたので是非、と』

『お、おぉう。マジっすか……』

 

 そしてまさかの追加攻撃。数少ない学園内で知り合いの女子を全員一気に潰された。一夏はシャルルさんと組ませたから無理。セシリアも箒と組むらしく断られた。挙げ句の果てに鈴は最早パートナー申請を済ませている。はい。俺と交流のある女子が全員消えましたー。いやぁ、実に素晴らしいですね!(錯乱)ちなみにラウラさんと組むのは論外である。なして千冬さんモドキとやり合わなあかんのや。

 

『? どうしました蒼さん。顔色が悪いようですが』

『ああ、いえ、なんでもないっす』

『具合が悪いなら保健室でお休みになられた方が良いのでは? なんならわたくしが連れて行きますわよ?』

『大丈夫っす。ホント、元気ですって』

『なら良いのですが……』

 

 心配してくれる女神セシリアへ感謝と祈りを捧げながらその時は走り去った。運命にスイッチがあるとするならこの時点で押されていたに違いない。そうして歪に噛み合った歯車は動き出す……やだ、中二スイッチ入っちゃってる。

 

「どうした植里蒼。そんなところに蹲って」

「いや、なんでもねーっす。マジで」

 

 どうしてこうなった。今日は待ちに待った人もいるであろう学年別トーナメント当日。結局ペアを組めなかった人は抽選で決めるということで気軽に構えていれば来たのはラスボスでした。やっぱり人生ってクソゲーやな。これもうラウラさんの機体にVTシステム搭載されてないの祈るしかないやん。ちょっと優しくなってるこの人ならワンチャンあるかもしれん。いやもうワンチャンあってくれ。

 

「言っておくが、無様だけは晒すなよ。貴様の評価がどうなろうが私には関係ないが、教官の品位を下げるような真似は許さん」

「いや、それは無理っす」

「……ほう、何故だ」

 

 ラウラさんの冷たい視線が俺を射抜く。ちょ、怖い怖い怖い! 怖すぎますよラウラしゃん! めっちゃ寒気がしたじゃねえか。一瞬吹雪の中に身を投げ出されたのかと思ったわ。死ぬ。

 

「い、いや、俺、基本死に物狂いで藻掻くんで」

「……そうか。ならいい」

 

 あり?

 

「精一杯やるようならそれで文句はない。手を抜いて負けようものなら少し手を加えるが」

「あ、あはは……頑張りまっす」

「雀の涙ほどの期待はしているぞ、男性操縦者」

 

 それ全然期待してないじゃないっすか。ちくしょう。完全になめられてやがる。まぁ、ラウラさんと俺では戦力差がヤバすぎるので仕方無いと思いますが。……つーかあれだな。妥当に行くと一回戦の相手はあの二人になるワケだが、うん。活躍できる気がしねぇよラウラさん。

 

「しかし運が良い。まさか初戦の相手とはな」

「あ、トーナメント表出たんすね。えっと……」

 

 はい。案の定でしたー。蒼くん完全に死んだよ死んじゃったよ。植里は衰退しました。織斑一夏&シャルル・デュノア。この二人とは以前戦って散々不意打ちかましたから結構読まれて嫌なんだよなぁ。読まれないよう努力はしてるんですが。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「よろしく蒼、ラウラ」

「随分と余裕だな、貴様」

「よろしくっす一夏、シャルルさん」

「よろしく、だね」

 

 こらラウラさん。きちんと挨拶しなきゃ駄目でしょうが。挨拶するたび友達増えるんだぞ。スゲーだろ挨拶。ぼっちのコミュ障も挨拶すれば友達出来るんだぞ。先ずコミュ障は挨拶すら出来ませんでした。はい。気持ちは分かる。どうも、女子限定で酷いコミュ障を発揮していた植里くんです。

 

「行くぞ、織斑一夏」

「こっちこそ、ラウラ」

「優しくお願いしまーす」

「そのお願いは聞けないかな、僕」

 

 試合開始まであと五秒。四、三、二、一──開始。

 

「「叩きのめす」」

「仲良いなお前ら」

「本当だね、蒼」

 

 ……ん? 試合開始と同時に飛び退いて距離をとった筈なのに、どうしてこうも近くからシャルルさんの声が聞こえてくるんですかね。あっるぇ? 至近距離でアサルトライフルを構えるシャルルさんの姿が見えるんだけど。ナゼアナタガココニイル。

 

「いやぁーっ!? シャルルさんめっ! それめっ!」

「戦闘に駄目も何もないよっ!!」

 

 弾幕ってこういうのを言うんですね。正直死を覚悟したよ。即座にこの機体専用武装であるロッド(笑)を取り出してぶん回す。何発かもらうのは覚悟の上。手中でくるくると回して銃弾を弾いた。一応これでもエネルギーは溜まるらしいのでありがたく活用させてもらおう。流石は束さんだぜ!

 

「あ、凌がれちゃったか」

「へっへーん! どうよシャルルさん! 今の俺スーパーウルトラハイパーミラクルファンタスティックにロマンチックで格好良くない?」

「なら次は……」

「あれ? 無視? ちょっとお兄さん悲しいよ?」

 

 出来れば突っ込んで欲しかったなー。とかやってるとラウラさんに手を抜いていると判断されて手を加えられる(意味深)かもしれないのでもっと真面目そうに(・・・)やろう。ぶっちゃけこれは前哨戦みたいなもんだ。ラウラさんのVTシステムが発動するのならってことだが。……発動しなかったらガチで謝ろう。うん。なんだろう。発動してほしくないのに発動してほしい。

 

「これとか、どうかな」

「へ? あぁ、ショットガンっすか」

「正解。ついでに──お味は?」

 

 最悪ですね!

 

「うっおおおおおお!? ちょ、シャ、シャルルしゃん! 激しい! 激しいって! 撤退!」

「あ、逃げた」

 

 全力で飛んで逃げ回る。ショットガンこえーっ。なんとかロッド(笑)を振り回して最低限の被弾に抑えたとはいえシールドエネルギーは地味に削られている。チャージブレードもまだ溜まっていない。つーか溜まってもろくに使えない。なにこの産廃。くそが! こんな機体を作りやがったのはどこのどいつだこの野郎!! テメェだよおっぱいラビットゴルァ!!

 

「マジ使えねー……なにこの機体。今更だけど。俺が勝てないのはどう考えてもこいつが悪い」

「押し付けるのはどうかと思う、よっ!!」

「けど、なっ! 流石に、作ったのが、束さんなら、押し付けたくもなる、わっ!!」

 

 無闇矢鱈にロッド(笑)を振り回しまくって防ごうとする意思だけ示す。勿論当たっちゃってるからね。全部叩き落とすとかいう真似は出来ません。ある意味これが棒で良かった。くるくる回してれば盾みたいになるし。ええ、ISの補助があればなんとかやれます。

 

「うーん。イマイチ当たらないなぁ。……なら」

「え、なにを──って近っ!?」

「ゼロ距離ならどうかな?」

 

 どうも何もありません。死んじゃいます。なんとか離れようと試みるもそうそう離してくれる訳もない。シャルルさんってばそんなに俺のことが好きなのかい? 思った瞬間に恐らくラウラさんと一夏が戦っている方向から殺気が飛んできた。はい。ごめんなさい。別に口説いてる訳じゃないっす。

 

「これでっ!!」

「やっべ……」

 

 激しい銃声と共に撃ち出された銃弾が体を叩く。タイムラグほぼゼロじゃねえか。衝撃に痛いと思う頃には既に遅く、飛行中の体勢を崩して思いっきりふっ飛ばされていた。今ならサッカボールの気持ちが分かるわ。ボールは友達。それつまり友達はボール。だからって友達蹴るのはどうなんですかね。なんて阿呆なことを考えていたところ、逆側から強い衝撃を受けてその場に止まる。

 

「ったぁ……あれ、ラウラさん?」

「植里蒼か。悪いが、話している余裕は無いっ!」

「……ガチ戦闘っすか」

 

 そりゃそうか。うちの(一夏)、現段階で学年トップクラスなんじゃないかと思うほど強いから。原作一夏もきちんと鍛練をしていればこれだけ強くなっていたのだろうか。最早別次元じみていて現実から目を逸らしたくなる。俺って一体……。

 

「僕との戦闘は本気じゃないの?」

「いや、十分本気っすよ?」

「嘘つき。いつもの蒼ならダメージ覚悟で突っ込んで来る筈だよ」

「きちんとした戦いなんで堅実にやりたいんすよ」

「へぇ……」

 

 どうやら信じてもらえなかったようだ。つーことは当たり前のように他の人達にだってバレている。セッシーやモッピー、鈴ちゃんが手抜き野郎と罵倒してくる未来が見えるぜ。千冬さんに至っては特別指導の可能性も考えなくてはならない。精々今後の展開に期待。

 

「つか、二人で先ず俺を潰せばかなり簡単に勝てるでしょうに」

「一夏が、ラウラとは一対一でやらせて欲しいって言ったからね」

「んだその我が儘。ったく、本当あいつは……」

「あはは……。僕に蒼を任せたのだって手を緩めちゃうかもしれないからだし」

 

 どの口が言うのか。いつも訓練で容赦なく叩きのめしてくれるだろうが。そんな心配は全然無いってぼく知ってるよ。お陰で此方も全力で相手をすることが出来るけれど。うちの嫁さんは厳しいです。

 

「……ところで蒼。一つ聞きたいんだけど」

「なんすか?」

「あれって、何かの作戦?」

「あれ? あれって……」

 

 じっとシャルルさんが見詰める視線の先には何があるのか。確認したいが戦闘中だし下手に目を逸らすとこれ自体が罠の可能性だってある。……んだが、周りの様子から判断してもちょっとこれはただ事じゃない。明らかに変な空気が流れている。つまり、ある意味で予想通りになったってことだ。

 

「……いいや、あんなの」

 

 視線を向けた先に映るのは呆然と見詰める一夏と黒いナニカ。原作とかなり違っているから回避の可能性もあると願っていたんだが。残念なことにそうはならなかったようで。世界の修正力って奴ですかね。それともどこぞの誰かの陰謀か。

 

初めて(・・・)見ましたね」

 

 嘘は言ってない。見たのは初めてだ。無論、知ってはいたけど。



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鬼! 悪魔! 千冬!

ちっふー大佐「三分間待ってやる。その間に私の攻撃を耐え抜くことだ」

オリ主「(白目)」


『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!」

 

 やれやれ、面倒なことになったもんだ。やれやれ。反対から読むとれやれや。うん。クッソどうでもええことやったな。やれやれだぜ。なんてやれやれ系俺TUEEEEE主人公を気取ってみたが何か変わるわけでもない。状況は依然としてマズイままである。とりあえず一夏よ。さっさとその機体から離れてこっちに来てくれ。

 

「──!」

 

 あ、なに構えてんねんアホ。

 

「ぐうっ!!」

 

 握られていた雪片弐型が弾かれて、そのまま縦一直線。鋭い斬撃をお見舞いされた馬鹿は凄まじい速さで落下してくる。今のはヤベェだろ。IS無かったら死んでるぞオイ。ちょっと心配になってきたので即座に一夏の元へと飛んでいく。親方! 空から一夏が! 落とす訳にはいかないだルルォ!? ということで瞬時加速(イグニッション・ブースト)やってみたら成功しました。やったぜ。正直失敗する確率の方が高いから躊躇してたんだけど、多分これやらなかったら間に合わなかっただろうし。落ちてくる一夏をソフティーに受け止める(お姫様だっこ)。と同時に白式が消えた。嘘やろ。あんたまだ出番残ってるんやで。

 

「……おい、大丈夫か一夏」

「それがっ……」

「おい、聞いてんのかお前」

「それが、どうし──」

「オイコラ」

 

 バチコーンと優しくデコピンをかましてやる。ISを装着したままで全力出したら例え一夏であっても死にますから。勿論手加減したとは言え十分に頭が冷えるほどの威力だ。腕の中で額を抑えながら呻く一夏を見るにもう大丈夫だとは思う。いや、これで駄目だったらちょっと驚くどころじゃないわ。

 

「痛いよ! 蒼!」

「落ち着け一夏。どうどう」

「落ち着いてる!」

「だぁ~かぁ~らぁ~……。落ち着け」

 

 駄目だったみたいですね。ぎゃーぎゃー喚く一夏の額にこつんと自分の額を当てる。この体勢ちょっとっつーか結構キツいっすね。腰回りがなんかヤバイことになりそう。あひぃ。必死に何でもないようにしてるのは男の意地だ。彼女の前でくらい格好つけさせてくれよ。まぁ、俺が格好つけたところで格好良くは見えないと思いますがね。

 

「あ、蒼……?」

「頭冷やせ。お前、自分の状態分かってんのか」

「え、ええっと……」

「白式も無いのにどうするつもりだ。自殺でもすんのか? だとしたら余計にお前を離す訳にはいかねーけど」

 

 ホンット馬鹿。最近はちょっと控えられてきたとは言え、こんな風に感情に流されやすいのは昔から変わってない。良い意味でも悪い意味でも自分の気持ちに正直な奴である。馬鹿で直情的。おまけで有頂天になると初歩的なミスをする。凄いのか凄くないのか良く分からんなお前。いや、普通に凄いって知ってるけど。

 

「……あれは、あの動きは、千冬姉のものなんだよ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……ッ」

「まぁ、持ってる得物がアレだしなぁ」

「気に入らない。あのISも、あれに振り回されてるラウラも。一発叩かないと気がすまない」

「そっか。で、ISも無しにどうやって戦うんだ?」

「それは……」

 

 こいつの白式は先程消えた。あの消え方は恐らくエネルギー切れによるもの。ラウラさんほどの実力者を倒すのに零落白夜を使わない訳がない。それまでのダメージと零落白夜発動による減少。からの直撃で削られたのだから当然かもしれない。ちなみに問題の黒いISについてはアリーナ中央から微動だにしない。

 

「別に俺達がやらなくてもこれは解決される。無理にする必要なんか無いだろうが」

「私達がやるんじゃない。私がやりたいからやるんだよ。……千冬姉の身内として、黙って見ている訳にはいかないんだから」

「面倒くせぇな、お前」

「そんなの分かりきってるくせに」

 

 言われて思わず口の端を吊り上げた。確かにお前が面倒くさいのは昔から同じで、もう分かりきっている。一夏だから仕方無い。こいつと一緒に居れば決して退屈しないが、かなりの頻度で面倒事に巻き込まれるのだ。トラブルメーカーどころじゃない。お前自身がトラブルなんじゃないかと思うレベル。

 

「つってもどうすんだ。エネルギーは」

「無いなら他から持ってくれば良いんだよ、蒼」

「……シャルル、できるの?」

「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

 ここで来るか原作展開。いや、ラウラさんがアレになった時点で既に予想はしていた。やっぱり一夏としては千冬さんの姿をトレースしたアレを許せないっぽいし。言った通り、身内として黙っている訳にはいかない何かがあるんだろう。

 

「本当!? だったらお願い! 早速やって!」

「けど! ……絶対負けたら駄目だよ?」

「もちろん。ここで負けるなんて蒼じゃあるまいし」

「おい。さりげなく俺を罵倒すんじゃねえ」

 

 反論できませんけど。

 

「じゃあ、はじめるよ。……リヴァイヴのコア・バイパスを開放。エネルギー流出を許可。──一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜が使えるようになるはずだから」

「うん、分かった」

 

 リヴァイヴから伸びたケーブルが待機状態の白式に繋がれ、エネルギーの移行が始まる。その間にちょっとくらいアレについて考えおきますか。さて、一撃当てるだけなら白式を纏った一夏だけで容易く出来るだろう。けれどもそう簡単にはいかない。零落白夜を使うとなれば話は違ってくる。だってあれ、ものスッゴイ諸刃の剣ですし。

 

「完了。リヴァイヴのエネルギーは残量全部渡したよ」

 

 加えて、これだもんなぁ。

 

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

「充分だよ」

「な訳あるかアホ」

 

 呆れた。それだけで本当に大丈夫とか思ってんのかよこの馬鹿。防御ペッラペラじゃないっすか。当たらなければどうということはないの? 零落白夜当てるだけなら無問題なの? こっちは不安で仕方ねぇんだけど。

 

「ちょっと待ってろ」

「え、ちょ、蒼? まさか……」

「隙、あった方が良いだろ」

「いやいやいや! 無理だって!」

 

 俺じゃ無理だって? 分かってる分かってる。だってアレ千冬さんの動きするんでしょ。先ず勝てる訳ないんだよなぁ……。つーことで勝つ気は更々無い。体張ってただ一瞬の隙を作る。それだけで十分だろう。てかそれ以上やると俺が死にかねない。

 

「ようし。そんじゃあ構えとけよ、一夏」

「まっ、蒼っ!!」

「……はぁ。本当この二人は……」

 

 すまんなシャルルさん。あとで胃薬送ってあげるから許してくれ。もしくは頭抑えてるし頭痛薬の方が良いかもしれない。ぶっちゃけ一夏なら何とかやれそうな気もするというかやれると思うけど、出来るだけリスクは低い方が良いに決まっている。

 

「ドーモ、ラウラ=サン」

 

 言って武器を構えた瞬間に繰り出される斬撃。それを受け止めるようにロッドで防いだ。あっぶな。ロッドが無ければ死んでいた。サンキューロッド。しかしあれですね。挨拶に攻撃で返すとは随分野蛮な。

 

「いってぇ……防いでこれかよ。直撃したらISごと切り裂かれるんじゃねえの? こわっ」

 

 まともにぶつけ合ったらこっちが保たない。次いで放たれた袈裟斬りを今度は受け流すようにして防ぐ。威力を殺しきれないのなら殺さなければ良い。とにかく考えるのみだ。どうやって隙を作りましょうか。スッキスキスキー。隙があれば好きになる。なに言ってんだろ、俺。

 

「ごふっ!?」

 

 やっべ。油断した。脇腹に一撃入れられて簡単によろける。そのまま倒れそうになるのを何とか堪え、痛みでまともに回らない頭を無理矢理働かせにかかる。

 

「うっそ、だろ。三割近い、ぞ、これ」

 

 一発貰っただけでこの威力。数発連続で喰らったらオーバーキルは免れない。流石世界最強の動きをトレースしただけはあるぜ。強すぎて絶望しそう。攻撃を凌ぐだけで精一杯どころか結構厳しい。本物が一体どれほどの化け物だったのか良く分かる。

 

「……ぐっ、ごっ、ぶほぁっ!」

 

 あかん。これちょくちょく喰らう。もうシールドエネルギーの残量が二割を下回った。あと一発直撃すれば間違いなくやられる。直撃じゃなくとも二、三発で確実に沈む。ピンチ。圧倒的ピンチ。……なんだけど。

 

(来たぁッ!!)

 

 スッと向けられた切っ先がキラリと光る。防ごうと思っていたら絶対に顔を真っ青にしていたであろう攻撃。だが今回に限って言えばチャンスである。俺の目的は勝つことじゃない。ただ、大きな隙を作るだけ。来いよ、ラウラさん。その立派なモノ(意味深)で思いっきり突いて来いよ!

 

「っらぁ!!」

 

 かなりの速度で放たれた突き。それを避けきれずに少し喰らいながらも、両手で思いっきり刀身を握る。簡単に抜かれないようしっかり、食い込むくらいに。……生身では絶対やりたくねぇなぁ。

 

「一夏ァッ!!」

「こんの馬鹿蒼ぉ!」

 

 いつもとは違い、日本刀の形に集約された刃の雪片弐型を構える一夏。その後どうなったかなんて、分かりきっていることだろう。だからここで意識が落ちても俺は悪くない。多分、きっと、めいびー。




ひぃやっはぁぁぁぁあ!! おっぱいいぇあ!! べりぃおっぱい! ウィーアーザおっぱい! トップオブザおっぱい! ぅおっぱぁい!!



……はっ。私は何を(棒)


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オリ主によくある過去の話ってやつだね。

『俺の友達の話なんすけどね。そいつ、妹が居るんすよ。あ、今は居ないんすけど』

『……亡くなった、のか?』

『いや、まぁ……ちょっと色々ありまして』

 

 最初の印象はどうだったか。そう、たしか。

 

『結構良い妹だったらしいっすよ。そいつにも優しく接して、何を思ったか甘えてくるような奴で』

『……随分仲が良かったのだな』

『そりゃあまぁ。そいつも馬鹿みたいに甘やかしてましたし』

 

 頼りない。そんな印象だった。どこか芯の通っているようにも見えるが、全体的に頼りない。こんな男のどこを教官が評価しているのかと何度も考えるくらいに。

 

『その妹、スゲーんすよ。クラスの人気者で、誰とでも仲良くなれて、友達も多くて。もうリア充の権化って感じで』

『……』

『そいつが言うには、ちょっと羨ましかったけど、妹が幸せならそれで良いとかなんとか』

『……良い兄妹だな』

 

 その印象は一応当たっていた。女子に対して決して強く出ることはなく、殆どと言って良いほどキレない。温厚な性格とも言えるが、臆病な奴だとも言える。

 

『まぁ、そんなんだから仕方が無かったんでしょうね。馬鹿なそいつは妹を庇って死んだんすよ。即死だったらしいです』

『……妹の方は、どうなったんだ?』

『そこからは俺も知りません。聞いた話はそこまでなんで』

 

 一度戦ってみれば、驚かされた。毎日代表候補生に囲まれて訓練をしている所為か。四月からISに乗り始めたにしては中々良い動きをする。油断していたところへ貰った一撃がかなり重く、一瞬焦らされたほどだ。

 

『……誰かを救っても、自分が死んでしまっては意味が無いだろう』

『ははっ、厳しーっすね。……妹はともかく、そいつはきっと幸せですよ』

『……なぜだ?』

『だって、最愛の妹を救って死ねたんすよ。死に方としては最高ですよ。最低ですけど』

 

 だが、こいつの強さはそこではない。実力ではない。どこか見えない何かが、この男の強さに繋がっている。

 

『……一つ、聞いて良いか』

『なんすか?』

『……お前に、妹は居るのか?』

 

 そして多分、それは私には無いもので。

 

『居ませんよ。……少なくとも、今は』

 

 植里蒼(コイツ)特有のモノなのだろう。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「気がついたか」

 

 カーテンを挟んだ向こう側からそんな声が聞こえてくる。誰かと頭を悩ませるまでもない。千冬さんの声だ。女性にしては若干低めの声は少しキツい印象を与えるが、その分頼もしく感じられたりもする。相変わらず千冬ネキはええ声やなぁ……。

 

「私……は……?」

「全身に負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

「何が……起きたのですか……?」

 

 話しているのはラウラさんだろう。先程の戦闘の影響で凛々しく力強い口調は面影もなく、酷く弱々しいものだが。うん。これもこれでありっつーかなんつーか。可愛いっすねラウラさん。おっといかん。シリアスだよシリアス。空気を読まねば(使命感)。

 

「ふぅ……。一応、重要事項(・・・・)である上に機密事項(・・・・)なのだがな」

 

 ん? なんか今の言い方おかしかったな。少し威圧をかけるような感じというか。んん? 一体誰に威圧をかけてんだよ千冬さん。ラウラさんか? 病人にそんなことするのはちょっと酷くないっすかね。

 

「VTシステムは知っているな?」

「はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは……」

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

「…………」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

 知ってた。いやぁ、VTシステムは強敵でしたね! お陰で意識が綺麗に落ちましたよ! IS装着してても意識落ちるとかあるんだな。それともあれか。俺のISがもう限界ギリギリだったのか。まぁ、結構攻撃受けちゃってたし仕方が無いことだろう。

 

「私が……望んだからですね」

 

 望んだ。多分、千冬さんになることを。千冬さんみたいになることをラウラさんは望んでいた。だからVTシステムはそれに応えた……って感じか。一夏との仲が良かろうが悪かろうが、この人の千冬さんへの敬愛は変わっていない。だから、一夏を越えるために力を望んだのだろう。……これ間違ってたらくそ恥ずかしいな。赤面必至。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

 うおっ、ビビった。いきなり大声出さんといて下さい。心臓に悪いです。もし俺が心臓弱い人だったら死んじゃってるかもしれないよ?

 

「お前は誰だ?」

「わ、私は……。私……は、……」

「誰でもないのならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。何、時間は山のようにあるぞ。なにせ三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。その後も、まあ死ぬまで時間はある。たっぷり悩めよ、小娘」

「あ…………」

 

 か、カッケエ。

 

「ああ、それからお前は私にはなれないぞ。アイツらの姉は死んでも渡してやらんからな」

 

 らって。『ら』って。アイツ『ら』って。なんなんすか千冬さん。そんなこと言われたらもう一夏を幸せにするしか無いじゃないっすか。ズルイ人だ。

 

「それと、だ」

 

 なんて感動に打ち震えていればしゃあっと思いっきりカーテンが開けられた。犯人はヤス。違う千冬さん。目と目がばっちり合ってしまってこっちからすると何か気まずい。ここは何か言うべきだろうか。やっはろー? ひゃっはろー?

 

「お前は外傷なし。異常なしの健康体だ。起きたのなら真っ先に向かうところがあるだろう。行け」

「ちょ、一応怪我人……」

「だから怪我など無いと言っている。安心しろ。念入りに調べてやった」

「……えぇー」

 

 マジかよ早速逃げ道潰してきやがったよ。しょうがないのでダラダラとベッドから起き上がって扉へ歩いていく。もうちょっと休みたかったなー。実際どこも痛かったり変な感じはしないので元気なんですけど。千冬さんモドキ相手に良くやったよ。

 

「あ、そういやラウラさん」

「?」

「難しく考えなくても、ラウラさんらしさってきちんとありますよ」

「さっさと行け」

「はいっ!」

 

 千冬さんに急かされたのでダッシュで扉を抜けて廊下に出る。先ずは言われたよう、真っ先に向かうべきところへ行かなければ。うちの嫁さんのところに。

 

「……甘い奴だな、お前は」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「──という訳で、植里くん超☆元☆気!」

「ふーん、そうなんだ」

「良かったねぇ。あ、一夏、七味取って」

「はい」

「ありがと」

 

 あれ? スルー?

 

「ちょ、二人とも酷くないっすか」

「今回、私ちょっとキレてるから」

「僕もちょっと、うん。まぁ、ね?」

「えぇ……(困惑)」

 

 どうしてお二人ともお怒りなのかしら。俺ってなんか悪いことしました? いや、してない。してないぞ。記憶にある限り全然そんなことしてない。心当たりなんて一ミクロン無いんだからっ! ……マジでなんのことなん? 首をかしげながら天ぷら蕎麦を啜る。ちなみに一夏は海鮮塩ラーメン。シャルルさんは月見うどん。

 

「ISも無いのに突っ込むのを自殺とか蒼は言ってたけどさ、正直蒼のアレも自殺に近いよね。一歩間違えてれば死んでるよ」

「……で、でも生きてるし」

「そういう問題じゃないよ。僕や一夏ならまだしも、実力も経験も蒼はまだまだなんだから。突っ込むのは危険極まりないって」

「つーか俺、単純に一夏の手助けしたのになんでこうボロクソ言われなきゃならないんすか……」

 

 心折れるわ。

 

「蒼、私のことなめすぎ」

「え」

「あの程度なら一人で十分やれたって」

「」

 

 心、折れる、わぁ……。いやまぁ、確かに原作では単独でしかも結構余裕気味に対処してましたけど。あれ、てことは原作より強くなってるこいつなら完全に必要無かった? おぅふ……。

 

「確かに安全に出来たけど、だからって蒼が危険を犯す必要は無かった。……どれだけ心配したかと」

「うっ……すまん……」

「私のこと、信じてよ」

「……おう」

 

 でも、こっちだって心配だったんだから仕方ないだろと、声を大にして言いたい。



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お風呂タイムwithシャルロット。

いやぁぁぁぁあ恥ずかしィィィィイッ!!
↑朝起きた時の作者

前話の内容がもうね、うん。だからシリアスは嫌いなんだよ(ヤケクソ)土壇場で勢いに任せて文を書いてはいけない(戒め)

今回もちょっと患ってますねーお医者さんいきましょうねー


 その後、食堂に来た山田先生より男子も大浴場を使えるという朗報が飛び込んできた訳なのだが、勿論のごとく真実はそう簡単にいかない。三人揃って頭を抱える。ええい、ここに頭の良い奴はおらんのか! 転生してそこそこ頭の良い俺。元々高スペック且つ主人公力天元突破気味な一夏。あざといことで有めげふんげふん中々に頭のキレるシャルルさん。うん。結構戦力になりそうな奴等が集まってこれならオワタな。オワタ。

 

「……どうするよ」

「まだあの人から報告来ないの?」

「おう。音沙汰なしだぜ」

「ど、どうしよう蒼、一夏」

 

 ふんふむ。かなりマズイ。予測していたとは言えろくな回避方法が思い付かない。どれくらいマズイかと言うと自家発電を妹に見られた時くらいマズイ。いや、そんなこと無かったけどね? うん。全然。そもそも植里くんに妹なんていませんし? うんうん。はっはっは、余計なトラウマスイッチを踏ませるんじゃないよ。

 

「落ち着けシャルルさん。こういう時は円周率を数えるんすよ」

「3.1415926535……」

「それつまりおっぱ──」

「蒼。ステイ」

「わん。……さまー」

「ステイ」

「はい」

 

 すいませんでした。ちょっと調子乗りました。最近なんか妙に格好良いこと出来るなーと思ってたんです。ただこれ流れ来てるなって確信してただけなんです。まさか流れ変わったのか? 原作声優的に? ユニコォォォォォオオオオオオオン!!

 

「真面目に考えようね。先ずは現状把握から」

「男子は大浴場を使える。しかも機会は少ない」

「でも僕女の子……」

「そうだね、シャルルは女の子だからね」

 

 問題はそこだ。シャルルさん女の子。何度も言うがシャルルさん女の子。シャルルさん女の子。大事なことなので三回言いましたよ。もしこれでシャルルさんに生えてたら驚くどころじゃない。一回裸見て確認してるのになんで生えてんねんってな感じで。あ、いやまぁ生えてるっつっても棒の方で……いや、これ以上はやめよう。墓穴を掘りかねない。既に掘ってるけど。……良い、裸でした(澄んだ瞳)。

 

「いっそ蒼が入らないのは……駄目か」

「いや、俺は別にそれでも構わんけど」

「駄目だよ蒼。僕はまだしも、蒼は結構疲れが溜まってるんだし」

「いいや、シャルルさんの方が男子生活で疲れ溜まってますっしょ」

 

 精神的疲労と肉体的疲労では優先度が違うと思うの。ここはやはり滅多に入れないお風呂に入ることでシャルルさんの心の疲れを癒してですね。俺は別に後日でよろしいです。ほら、こういう時は女子に譲るのが世の男ってもんだろう?

 

「……なら二人とも一緒に入ればいいんじゃない?」

「「えっ?」」

 

 お前がそれ言うの? え? マジで?

 

「いいいい一夏!? 何言ってるの!? 大丈夫!? 熱とかない!?」

「ないよ。平気だって」

「お前馬鹿か。馬鹿なのか。俺が女性苦手なの知ってるだろ。無理に決まってます」

「蒼は相変わらずだね……」

 

 ここでも性格の差が表れてますねぇ。一夏の心配をするシャルルさんと自己の保身に走る植里くん。どっちが人間的に駄目かなんて明らかだ。ごめんな、ヘタレチキンの日本男児で。

 

「それに……あー、うー、……あ、蒼に信じてって言っておきながら私が信じないのは駄目、だし」

「一夏……」

「……あと、今度余るくらい返してもらうし」

「マジっすか……」

 

 それはあれですね。今度行くデートのことを言ってるんですかね。ははは、余るくらいに返せだと? 笑わせるなよ小娘。俺にそんなこと無理に決まってんだろ常識的に考えて。どうやって返せと。えっと、キスとかそういうので勘弁して貰えませんかね? 十分レベルたけーよオイ。オイコラ。オイヘタレチキンコラ。

 

「……ど、どうしますシャルルさん」

「…………こ」

「「こ?」」

 

 金輪際話し掛けないで変態、とか?

 

「……こ、今回だけなら……」

 

 なん……だと……(オサレ並感)

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……い、良い湯、ですねぇ~」

「う、うん。そう、だね」

 

 どうしてこうなった。気まずい。圧倒的に気まずい。とりあえず一緒に入ることになって大浴場内を極端に離れた位置で体と髪を洗い終えた俺達なのですが、その時から既に戦いは始まっていた。主に俺自身との戦いが。いえ、理性は大丈夫なんです。間違ってもシャルルさんを襲うということはない。鋼の理性なめんな。彼女居るんだぞ彼女。なめんな。駄目なのは本能。どうしても意識しちゃうと危ない。何が危ないってナニがアブないのよ。察して。

 

「……そ、それにしても、今日のアレは驚いたっすね。ま、まさかラウラさんがああなるとは」

「だ、だね。ぼ、僕も唖然としちゃったよ」

「はは、はははっ……」

「あ、あははは……」

 

 なんだこれ(混乱)なんだこれ(錯乱)。だから俺と女子を気まずい雰囲気の場所に押し込んではいけないとあれほど。別に言ってないけど。ふふっ、なんだか頭が痛くなってきやがったぜ。のぼせたのかな? 二分も経ってないと思うんだが。しかしのぼせたのなら仕方無い。さっさと出た方が身のためだ。うん。よし、出よう! そうして立ち上がろうとしたところで、ざばあっと音が聞こえる。おかしいな、俺はまだ勃って……げふんげふん立っていないんだが。

 

「……ね、ねぇ、蒼」

「ひゃいっ!?」

「わっ!?」

 

 ざっぱぁーんと直ぐ側で大きな音と飛沫が起きる。あら? ドウシテ直グ側ナンデスカネェ。嫌な予感しかしない。むしろ嫌な予感しかしない。もちつけ。同じ意味だ。ぺったんぺったん。文字ぴったん。それぴったん。ええい落ち着け! 俺! ステンバーイ! ステンバーイ!

 

「ななな何やってるんすかシャルルさん!!」

「ごごごごめんね! ごめんね蒼!!」

「謝るなら早く離れてッ!!」

「それは無理ッ!!」

 

 何故。

 

「そ、その、蒼に伝えたいことがあって」

「え、え? な、なんすか」

 

 ドキがムネムネしてる。これが恋する乙女の気持ちってやつね! ※注:違います。

 

「あ、ありがとう、蒼。……僕は、蒼のおかげで救われたんだよ?」

「ま、まだ決まった訳じゃないっすよ。報告が来てませんし」

「それでも……蒼のおかげで希望が持てたんだ」

「え、や、えぇっと……」

 

 こういう時ってどう言えば良いんだ!? ええい、分からん! 全くもって分からんぞ! 経験値がゼロだから慣れも何もない。初体験ですよ初体験! 同年代の女子と一緒にお風呂入ったの! 先ず普通の人間でもこの年代に一緒にお風呂はありえないと思いますがね!

 

「僕の名前ね、実を言うとシャルルじゃないんだ。仮の名前なんだよ」

「そ、そうなんすか?」

 

 知ってるけど。

 

「そう。僕の本当の名前は『シャルロット』。シャルロット・デュノア」

「……良い名前、っすね」

「うん。お母さんがくれた、大切な名前」

 

 大切な名前、かぁ……。あぁ、なんか泣けてくる。日本人ってこういう話に弱いんだよなぁ。俺の涙腺が緩いだけかもしれんが。くっそ。眼鏡が曇って前が見えねぇじゃねえか。あ、眼鏡かけてなかったわ。くっそ。

 

「時期が来たらそう呼んでよ?」

「うっす。シャルロットさん」

「……前から思ってたんだけどさ。なんでセシリアや鈴は呼び捨てなのに僕はさん付けなの?」

「……シャル、ロット」

「うん。それで良し」

 

 良くない良くない。こっちとしてクッソ恥ずかしい。今にも顔から火が吹き出そうだぜ。ああやだ。このままじゃのぼせちまうぜ。さっさと上がろうそうしよう! 今度こそざばあっとシャルロットさんに背を向けて立ち上がる。

 

「そ、それじゃあ俺、先に出てますからっ」

「う、うんっ。また後でね、蒼」

 

 その後、脱衣所で鳴り響いた携帯から天災の任務完了を告げる報告が入った。おせーよ。




早いことでこの小説も八十話。よく書いたなぁ(自画自賛)クオリティはお察しな部分もありますが(白目)

八十話記念に蒼くんがガチホモだったらという展開を考えてプロット練って話の構成をしていざ文を書こうとしたところで正気に戻りました。

ちなみに√aの場合。
生まれたときからホモ→女に耐性なし→ホモksk→ガチホモ化→一夏ぁ……(ねっとり)

√bの場合
生まれたときからホモ→女に無関心→イケメソ力発揮→素敵!→ホモを直さなきゃ!

どっちも駄目みたいですね(呆れ)


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抹殺の……あら?

ラストブリットォォオオ‼


「みなさん、おはようございます……」

 

 翌朝。ホームルーム。教室に入ってきた山田先生は一目見て分かるほど元気がない。覇気がない。エロスがない。おっぱいはある。いやぁ、今日も良いおっぱいですね山田先生! なんて阿呆なことを考えていればじとっとした視線を向けられた。ずっきゅーん。

 

「植里くん。そういうの、やめましょうね。女性は視線に敏感なんですよ……」

「あ、うす。さーせん」

「……変態」

「男なんてケダモノなのよ」

 

 本能という名の、ね。どこも格好良くない。そして括弧も良くない。『男なんてケダモノなのさ』とか言った方が良かったかしら。やだそれどこの球磨川さん。一夏だって男だったら山田先生のおっぱいに視線が釘付けだったろうに。ソースは原作。やっぱやまやっぱいは最高なんやな! ……という訳で分かったと思うが、俺のテンションは現在変な方に向かっている。主に昨日のお風呂での出来事で。

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。転校生といいますか、もう既に紹介は済んでいると言いますか、ええと……はぁ……」

 

 あかん。山田先生のテンションは俺と違って最底辺を彷徨っているところだった。大丈夫? サマヨール通信交換しようか? れいかいのぬの持たせてやってあげようか? したとしても山田先生が元気になるという可能性はゼロに等しいが。

 

「じゃあ、入ってください」

「失礼します」

 

 可愛らしい声が聞こえて、ガラリと戸が開く。そうして現れたのは声にも負けないほどの美少女。光に照らされキラキラと煌めく金髪。引き締まった肢体。眩しく思えるほど白く綺麗な肌。この年の女性としてはある方だと思われる胸……いや、おっぱい。紛うことなきパーフェクト美少女がそこにいた。うん。やっぱ今日の俺のテンションおかしいわ。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 ぺこりと女子の制服を着たシャルロットが礼をする。礼儀正しい良い子ですね、礼だけに。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」

 

 頑張って山田先生。俺、応援してます。声に出すと純粋に感謝されるか怒られそうなのでやめておく。無責任な応援とかそういうので腹立てる人もいるからね。仕方無いね。頑張れって言葉自体もう他人事だもの。実際他人事ですしおすし。

 

「え? デュノア君って女……?」

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね」

「この世にイケメンは居なかった……ッ!!」

「あれ、そういえば昨日、男子って確か大浴場を使用した筈じゃ──」

 

 おっと、なんだかこっちに飛び火しそうな勢いだゾ。やだやだやめて来ないで嫌だよぉ! 必死必死。植里くん超必死。なお脳内だけの模様。駄目ジャマイカ。俺の奮闘も空しくクラス中の女子の視線が一斉に集まる。後ろから一夏のため息が聞こえた。

 

「ほら、蒼。お風呂の感想をどうぞ」

「え、えぇ……このノリで?」

「ほらほら早く。ハリーハリー」

「……こほん。気持ちよかったです」

 

 お風呂が。

 

「気持ち……っ!?」

「え、嘘? えぇ!?」

「や、ヤりやがったのか!? あの野郎、遂にヤりやがったのか!? 他の女と!?」

「あ、愛人……だと……」

「どうして火を注ぐのかなぁ……」

 

 違います。それとシャルロット関連で愛人とか言うんじゃないよ。悲しい気分にさせてしまったらどうするって言うんだ。うちのシャルロットを悲しませる人は絶対に許しませんからね! なにその親馬鹿。親でもないのにうちのシャルロットとはおかしい。

 

「ち、違うよ! えっと、その、蒼っ!」

「あ、はい。違いますよ。俺はただお風呂(・・・)が気持ち良かったと答えただけで」

「な、なんだお風呂か……」

「もう少しで種馬認定するところだった……」

「ゲス男認定するところだった……」

 

 あんたら容赦なく俺の評価下げていくのね。ようしようし。そっちがその気ならこっちだって時には強気でやらせてもらうぜ。なめんなよ。今の俺は昨日の一連の事件でテンションがハイなんだ。単純に寝てないとも言う。いや仕方無いじゃん。シャルロットとあんなことをした後に同じ部屋でぐっすり寝るとか。

 

「そうですよ。俺はただお風呂の感想を言っただけなのに。一体ナニを想像したんですかねぇ……」

「そっ、それは」

「ナニを、と言われても」

「あ、あれ……? なんだか胸が……」

「おい、M気質の奴等が刺激されたぞ植里」

「えっ」

 

 うせやろ。ちょっと待て。うん。待とう。いや待ってくれ。待ってくださいお願いします。当初の予想ではここで罵詈雑言の嵐を喰らうくらいの覚悟はしてたんだけど。いや、うん。どうしてこうなった。

 

「普段は温厚で優しい冴えない彼……」

「しかし二人っきりになった瞬間牙を向く本性」

「ド、ドSですか? 貴方は私の求めたドSですか!?」

「いいえ、ノーマルです」

「どちらかと言うと受け気味だしね、蒼」

 

 うっさい一夏。そもそもあんたともまだヤってないでしょうが。もうこれシャルロットの転校騒動どころじゃねぇぞ。どう収拾するんだ。俺のクラスがてんやわんや。おい一夏。そこで楽しそうに見てんじゃねえよ。助けろ馬鹿。なんて視線を送るもガンスルー。恋人がドSと勘違いされても良いんですか!?

 

「ほう。蒼は攻める方が好みなのか。なるほどなるほど。新しい発見だ」

「いや違うから。ノーマルだから。つーかなにをメモって……」

 

 時が、止まった。

 

「ラウラさぁん!?」

「む、元気が良いな。朝から元気なのは良いことだ」

 

 うんうんと頷きながら手帳を仕舞うのは銀髪美少女ラウラ・ボーデヴィッヒさん。今日も銀髪が綺麗なことで。

 

「しかしネクタイが曲がっているのはいただけないな。最初に言っただろう。身嗜みくらいきちんとしておけと。どれ、直してやる」

「ちょ、あ、いや、サンキュー……です」

「うむ。そうか」

 

 感謝の言葉を受けたラウラさんは軽く微笑む。なんだろう。このどこか千冬さんに似てるけど根本的には違っている感じ。これがラウラ自身だとでも言うのか。凄く良い人じゃないっすか。いや、元から良い人っぽさは溢れ出てたんだけど。吹っ切れたというかなんというか。

 

「いや、その、えっと。どうしたんすか。突然」

「大したことではない。お前と私に血の繋がりは無いが、十分に理解して接することはできる。だから、これからお前のことを知ろうと思ってな」

「知ろうって……いやまぁ、良いんすけど……」

「それともお兄ちゃんと呼んだ方が良いのか?」

「是非ともご遠慮願います……」

 

 ラウラさんにお兄ちゃんなどと呼ばせたらそれこそ変な噂が立ちかねない。男性IS操縦者の植里がドイツの代表候補生に妹プレイを強いているとかなんとか。誤解も良いところですよ! なんてぷんすか脳内で怒っているとついつい制服の裾を引っ張る奴が一人。誰かは言うまでもない。我が嫁である。

 

「ねぇ蒼。ラウラと何かあったの?」

「……いや、知らねぇよ。ちょっと話しただけ……いや、あれを話したと言うのかは知らんが」

「おはようだな、一夏」

「あ、うん。おはようラウラ……って名前……」

「私の負けだろう、アレは。約束は守るさ」

 

 うん。色々と良い方向に吹っ切れてくれたようで何とも良かったと思いました(小並感)。でも付け加えるなら俺のことを知ろうとしなくて良いのよ? 知ったところでお察しだから。なんだこいつこれでも世界唯一の逸材かよとか思っちゃうから。

 

「改めてよろしく頼む一夏、蒼。私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「よろしく、ラウラ」

「よろしくです、ラウラさっ……ら、ラウラ」

 

 無言の威圧にやられました。彼女はラウラさんではない(無言の腹パン)。




オリ主「遅刻遅刻~」

今学校に遅刻しそうになって走っている俺は今日から中学生になるごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば転生者って事と男に興味があるってとこかナ……。名前は植里蒼。

ドンッ☆

オリ主「いったぁ~。誰だよ、いきなりぶつかってきたのは」

一夏「ごめん、少し急いでて。立てるか?」イケメンスマイル

オリ主「えっ……」ドキッ

その日、俺は恋をした。




こんなものを書いたところで作者の精神が悪化するだけだと悟ったのでお蔵入り。


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もういくつ寝ると臨海学校。

天災「おっ、私の出番かな?」ガタッ

オリ主「座れ」


 ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。小鳥のさえずりが聞こえてくる。あれだ。この鳴き方は「べ、別にアンタの事なんかちっとも知らないけど折角だから鳴いてあげるわよっ! ふんっ! ほら、さっさと起きなさいよ!」という鳴き方だ。凄いツンデレな小鳥ですね。案外想像してみると可愛かった。手のひらに乗りながらツンデレて来るんでしょ? 可愛い(確信)。

 

「蒼ー、朝だよー?」

 

 そうだな、朝だな。それがどうした。残念ながら何人たりともこの俺のぐっすりスヤスヤ睡眠タイムを削ることは許されんのだ。眠い。寝たい。あと今日は休日だしゆっくりしたい。外に出たくないでござる! 絶対に外に出たくないでござる!! という訳でもぞもぞと抵抗の意思を示す。

 

「あーおー、朝だってー」

 

 ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。やめろ、そんなに体を揺するんじゃねぇ。うっかり意識が覚醒しちゃうかもしれないだろうが。もう覚醒してるんじゃないのというツッコミは無しで。ワイは寝るんや。何がなんでも惰眠を貪ってやるんや……。

 

「起きないのー?」

「……うぅん……」

 

 ごろりと寝返りをうつ。くそう、なんだこの諦めの悪さは。粘り強い。凡人系漫画の主人公くらいには粘り強い。もしかしてお前は自分が劣る状況で常に勝ち続けてきたとでも言うのか。原作を思い出したら確かにそうだなとか思ってしまった。なんてこったい。やはり主人公パゥワーは偉大。

 

「……起きないとキスするよー? なーんて……」

 

 なん、だと(驚愕)。

 

「あ、蒼? 本当に起きてないの?」

 

 いいえ、起きてます。つーかどうすれば良いのこの状況。大人しくしてれば良いの? それとも目を覚ました方が良いの? どっちなんだい。教えてくれよ俺の中の俺。至急脳内会議を開始する!

 

『議題はキスを回避するか否かだが』

『受け入れろ。それが男だ』

『で、でもキスとか恥ずいし』

『それな』

『ばっかお前。それでも俺か』

『そうだ。どんと構えろって』

『ちくわ大明神』

『ほんとそれな』

『誰だ今の』

 

 誰だ今の。ともかくとして答えは一応決まった。男植里、この場面は待ちに徹します。ほら、俺だって立派な男の子ですし。幾らヘタレチキン豆腐メンタルだからと言って性欲が無いという訳ではないのだ。発散する場が殆ど無いのが最近の悩み。

 

「じゃあ……お、起きない方が悪いんだし」

 

 はいはい。起きない俺が悪いから。なんて軽く考えていたら唐突に唇へ柔らかい感触が走る。そしてなかなか離れない。こいつ、マジだった(愕然)。ヤバイ。何がヤバイって最近色々とあったせいで余計に幸福感がヤバイ。もしかしてこれ、目を覚ましたらホモが声真似してるとか無いよね? なんか心配になってきた。唇から柔らかい感触が離れた瞬間に、確認のためぱっちりと目を開く。

 

「……随分大胆な起こし方だな、一夏」

「っ!? え、あ、蒼!? 起きてたの!?」

「さっきので完全に目が覚めたわ」

 

 心臓がバクバク言ってて安眠どころじゃない。多分すました話し方してるけど顔は真っ赤なんだろうなー、俺。まぁ目の前のそいつも顔真っ赤ですが。ちなみに一夏と同じ部屋になった……もとい戻ったのは最近のこと。つまりシャルロットが女だと公表した後である。

 

「おはよう、一夏」

「お、おはよう、蒼」

「……」

「……」

 

 なんだか、気まずい。仕方無いよ。俺たちまだ純粋なお付き合いの途中ですから。ラブラブちゅっちゅでイチャつくなんて当分無理よ。……なんか付き合う前より距離が離れた気がするけど、本来これが普通なんだよな。うん。むしろ前の俺たちがおかしかった。そうに違いない。

 

「と、とりあえず蒼は着替えたら?」

「お、おう。……つーか、今日って何かあったっけ?」

 

 そう聞いた瞬間に一夏がむっとした表情を向けてくる。あ、これちょっと地雷踏んじゃったかもしれない。大きくなければ良いが。つか大きかったら即爆発&高火力の即死コンボなんであり得ないことを願う。

 

「……デート」

「さーせん」

 

 躊躇なく謝る姿はまるで尻に敷かれた旦那のようだったと後に天才、篠ノ之束は語る。──いや語んなよ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「で、どこ行くのよ」

「ちょっと買い物かな」

 

 天気は快晴。なんとも良いデート日和的な感じだが、俺にとっては太陽が眩しい。暑い。そして辛い。やはり外出なんて必要最低限でよろしいのだよ。歩くのも面倒ですしおすし。しかしながら買い物か。ふむ。ある程度予想はついた。この時期に買うモノと言えばアレしかないだろう。そう、IS学園では近日臨海学校が行われる。そのために必要なモノ。

 

「……水着か」

「まぁ、それもあるよね」

「はぁ……キッツゥ」

「本音は?」

「いやまぁ嬉しいですけど」

 

 はっ。つい本音を。貴様一夏ハメやがったなぁ! 自分からハマったくせに何を言っているんだか。ちょっと恥ずかしいのでぽりぽりと人差し指で頬をかいていればクスリと笑われる。やめい。

 

「なら文句ないじゃん」

「いや、周囲の視線が……ね?」

「気にするだけ無駄だって。そんなの」

「男前過ぎる……」

 

 うちの嫁がイケメンすぎてヤバイ。元がイケメンだから仕方無いとでも言うのか。なんなの。俺ってまさかヒロインなの? はっ、一夏が主人公で俺がヒロイン。無いな。無い無い。無いと信じたい。オリ主がヒロインってのはまだ分かる。うん。女性転生者とかTS転生とかでね? でも転生した男がヒロインってそれどういうストーリーだよ……いや、ありなのか(冷静)。

 

「大丈夫だよ。私が一緒にいるから」

「うわ、安心感の塊。頼りにしてるぞ」

「織斑さんに任せなさい、ってね」

「……まぁ、そっちは安心だよな」

「?」

 

 間違っても『織斑さん』のところに『た』で始まって次に『ば』が入って最後に『ね』が来る人の名前を入れてはいけない。あの人に任せると五割の確率で良い結果を持ってきてくれるが同じく五割の確率でそれを上回るカオスな結果を持ってくる。例えばデュノア社に対してあることないことでっち上げ吊るし上げ、フランス政府を脅しに脅してシャルロットの件を不問にするとか。お陰で彼女は現在卒業後の生活に向けて考えることになってます。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「ここだね、水着売り場」

「ソーデスネー」

 

 うむ。実に目のやり場に困る。色とりどり選り取り見取りの水着が並んでいるそこは一種の別空間のようにも思えてお世辞にも居心地が良いとは言えない。あと回りからの「なに女性のテリトリーに入って来てんだカス」とでも言うような視線が怖い。完全な被害妄想。

 

「あ、そう言えば蒼は買うの?」

「ん? あぁ、後で無難なもの買っとくわ」

「うっわ、適当……」

「良いだろ別に。ほら、さっさと決めてこい」

 

 ぐいぐい押してやればくるっと振り向く一夏。なんだね、そんな呆れたような顔をして。俺に何を期待したと言うのか。そういうの一番駄目だって君が知ってるでしょ。

 

「何言ってるの、蒼も一緒に来るんだよ」

「ですよねー」

 

 うん。知ってた。

 

「……駄目っすか」

「駄目っすね」

 

 そこまで言うなら仕方無い。このヘタレチキン豆腐メンタルで有名な俺が力を貸そう。むしろ足手まといにしかならない。ホント駄目ですねこの人。ぶっちゃけ一夏自身のセンスが良いから即座に決まりそうなんだよなぁ。

 

「とりあえず試着してみるから、判断よろしく」

「また難易度の高い注文を……」

 

 そこから先はもう言葉で表現できなかった。いや、言葉で表現しようとする事すら烏滸がましい。つかしたくない。アレは一生俺の心の中に仕舞っておく。墓まで持っていく所存。時にきわどく、時に清楚な雰囲気を漂わせていたアレはヤバイ。試しすぎ。もう少しで理性イカれるとこだったぜ。全く、転生事情とは比べ物にもならないほど重要な記憶だ。ただまぁ、一つ言えるとすれば。

 

 ──黒のビキニ、良くないっすか?




ちなみに私としてはスク水もありかと(真顔)


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臨海学校は雰囲気だけなら神イベ。

二重人格とか、好きな人って結構いると思うんです。中二病的にも設定的にもカッコイイし。カッコイイし(大事なことなので二回ry)なのでうちのオリ主を二重人格にしたらどうなるか考えてみました。


①:今とほぼ同じ人格

②:自分の好みのタイプの『男性』が来ると出てくる。ガチホモ。相手がノンケだろうが構わず喰ってしまう肉食系男子。

やべぇ、カッケェな。格好良くない?


「海だっ!」

「海だぁー!」

「うぅぅぅぅみぃぃぃぃ!!」

「ハルトォォォオオオオ!!」

「どさくさに紛れて叫ぶ兄さんは嫌いだ……」

 

 やってきました臨海学校。トンネルを抜けたバスの中で女子が声をあげ騒ぎ立てる。元気やな。外は眩しい太陽がギラギラと輝く晴天。その光が反射する青い海はとても綺麗だ。キラキラ輝いてる。キラキラキラキラ、輝くの。初日からこうも良いスタートだと後が心配になるとか言うが、そこに関しては何の問題もない。何故なら既に問題が発生すると分かっているからね!

 

「……海だな、一夏」

「そうだね、蒼」

 

 窓越しに景色を眺めながら隣の嫁へ話し掛ければ、ほんわかとした声音で返された。うん。今日も機嫌が良いようでなによりです。部屋が一緒に戻ってからと言うもの、以前より一夏の笑顔をよく見かける。加えてちょっとキツめだったあれやこれやも信じているとのことで緩くなっているのだ。今のこいつは世界で一番天使に近い。断言しても良い。いや、俺の中ではね。

 

「蒼兄は泳げるのか?」

「微妙。少し苦手だ。あとラウラ、その呼び方どうにかなんないの」

「……やはり駄目か? 部隊の皆はこう呼んだ方が良いとすすめて来たのだが」

「可愛いからOKで」

「了解した」

 

 こんな美少女にお兄ちゃん扱いされるとか至福すぎてヤバイだろ。正直なところ『お兄ちゃん』で無ければどう呼ばれても全然構わない。蒼兄だろうがお兄だろうが兄様だろうがお兄様だろうが兄さんだろうがばっちこいである。流石ですお兄様。お兄ちゃんだけはちょっとね。うん。まぁ、別に大丈夫だけど好き好んで呼ばれたく無いと言うか。

 

「なんか蒼、ラウラに甘くない?」

「いや、妹的な感じに思うとなんだかな」

「……まさかロリk」

「違うからな。断じて違うからな。つか彼氏に変な性癖の可能性を示唆するんじゃない」

 

 そもそもロリコンはあいつだ、数馬だ。現在も年下である彼女と非常にお熱いと弾から聞いているが、趣味自体は相変わらずらしい。可愛い女子小学生を見つけるとつい親切にしてしまうとかなんとか。現状それが彼女さんにバレても優しくしてるとかで褒めてもらってるらしいが。信頼関係ヤバイよぉ……。

 

「蒼さんは幼女趣味でありましたの? ごめんなさい、少し距離を置かせていただいてもよろしいでしょうか」

「うん。誤解ですセシリア。違うって」

 

 だからその養豚場の豚を見るような目をやめてください。貴女には果てしなき夜の女王様としての才能が眠ってるんだよ。将来セシリアと結婚した旦那さんは苦労するだろうなぁ……。いや、むしろドMの人なら我々の業界ではご褒美です理論で良い感じになるかもしれん。ドM怖い。ドM強い。

 

「なぁ、蒼」

「? どったの箒」

「覚悟はいいか。私はしたくない」

「え? いや、なにを──」

「姉さん、海来るってよ」

「はは、憂鬱だなぁ……」

 

 知ってた(白目)。どうにも箒のテンションが朝から低い訳である。優しいお姉さんから連絡が来てそれを知っちゃったんですね。仕方無いよ、だって天災なんだもの。時には予測不可能回避不可能というまさに大規模自然災害並みの力を伴うから気を付けよう。IS世界で一番気を付けるのは千冬さんでもなければ一夏でもありません。天災です。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ。あと篠ノ之、その件について詳しく教えろ」

「分かりました織斑先生……」

 

 千冬さんの言葉で全員がさっと座り、箒がため息をつきながら返事をする。青い空。白い雲。広い海。見える景色はこんなにも綺麗で清々しさを感じさせるというのに、一部関係者の心はどんよりと暗く曇っていく。美しい花に刺があるように、素敵なイベントで不穏は付き物なのだ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 花月荘。これからの三日間俺たちがお世話になる旅館の名前である。あらあらうふふと笑う女将さんがとても若々しく見えました。多分あれは七不思議に登録されてもおかしくないレベル。年を取らない綺麗な女将さんのいる旅館! 的な。冷静に考えると男ホイホイになってしまうという事実。ちなみに部屋の方ですが、どこぞの世界最強クラスのお義姉さまが手を回したのか一夏と同じでした。

 

「うぁー……疲れた」

「はっや。まだ旅館に着いたばかりじゃん」

「いや、これは精神的にだな」

「だからってゴロゴロしない」

 

 お前は俺のお母さんか。いや、まぁ将来的にはお母さんと呼ぶこともあるかと思うけど。うん。そうじゃなくてだな。何を考えているんだ俺は、全く。ひとつ息を吐きながらゆったりと立ち上がって、ぼりぼりと首をかく。

 

「……まぁ、でもあれだ」

「?」

「折角買った水着を使わないってのもあれだから、海行こうぜ、海」

「……ふふっ、そうだね。行こうか」

 

 暑いなぁ……。この時期にしては些か暑すぎると思うんだがそこら辺どうなのよ太陽さん。さんさん。今のは太陽のサンと後につくさんに加え太陽さんさんという三つのものをかけた高等技術なので笑っておくように。ここテストに出すからな。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 更衣室に向かう途中で箒とばったり出くわし、そのまま一緒に歩いていた時だ。道端にこれは明らかに罠だとでも言わんばかりのモノが置いて……いや、刺さっていた。

 

「箒、あの、これって……」

「間違いない。やつだ」

「自分の姉をやつ呼ばわりって……」

 

 まぁ仕方無いか、と唯一のフォローを即座に台無しにする一夏。それも仕方無い。こいつは中学のとある時点まで束さん相手に思うことは殆ど無かったのだが、ある日を境にこうなってしまったのである。当たり前だ。天災の被害を受けている人達は擁護など先ずしない。擁護したところで無意味だから。

 

「とりあえずどうするよ。抜く?」

「むしろ逆に押してみるか」

「いや、ここはいっそ潰すのも」

「「アリだな」」

 

 議題の中心になっているのは眼前の道端に刺さっている白いウサギの耳。どう考えても天災のアレです本当にありがとうございました。スイッチでしょ? これスイッチなんでしょ? ちゃっかり引っ張ってくださいという張り紙までしてあるし。しかしそこは篠ノ之束被害者の会プレミアム会員である俺達だ。ただ引っこ抜くだけで終わらせる訳がない。

 

「ならせーので潰すぞ。蒼、一夏」

「OKっすよ箒」

「こっちも大丈夫」

「よし、()っせーの……」

「「待って」」

 

 俺と一夏。二人して声が重なる。ちょっと待って。待ってくれよ箒。

 

「どうした二人とも」

「いっせーのなのか? せーのじゃないのか?」

「どちらでも良いだろうそんなこと」

「良くないよ箒。ほら、タイミングって重要だし」

「そう言われればそうだな。ならば一、二の、三で行こう。それで良いか?」

 

 ぐっ。サムズアップで答えた。こくりと箒が真面目な表情でうなずく。

 

「いくぞ、一、二の、三、はぁ──」

「「ストップ」」

「──ぁあッ!?」

 

 突然の制止をうながす声により箒の繰り出されかけていた足は絶妙な軌道を描いて僅かに逸れる。どんっと地面に当たれば凄まじい衝撃音が鳴り響いた。どこからか「あっぶねぇぇぇぇええ」という声が聞こえた気もするが気のせいだろう。空耳空耳。

 

「なんだ次は」

「一、二の、三、はいなのか。一、二の、三じゃないのか」

「どちらでも良いだろうそんなこと」

「良くないよ箒。ほら、タイミングって重要だし」

「そう言われればそうだな。ではいっせーのでやろう」

 

 ぐっ。サムズアップで答えた。こくりと箒が真面目な表情でうなずく。

 

「いくぞ、いっせーのっ、せぇぇ──」

「「ステイ」」

「ぇぇぇえええいッ!?」

 

 バガンと凄まじい蹴りがまたもや地面に放たれる。瞬間に「うぉぉぉおおお!?」という声が聞こえた気もするが気のせいだろう。空耳空耳。

 

「今度はなんだ」

「いっせーのっせなのか。いっせーのじゃないのか」

「どちらでも良いだろうそんなこと」

「というかさっさと着替えない?」

「そうだな。俺たち何してたんだろ」

「ああ、本当に何をしていたんだか」

 

 言ってそそくさとその場を離れる。全く箒は掛け声が合わないってどういうことだ。つーか蹴り強いな。流石は武道を嗜む大和撫子。そもそも俺たちは何のためにあんなことを繰り返していたんだろう。大事な何かを忘れている気もするが……まぁいっか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がばっ。

 

「私の出番は!?」



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水着、それは、君が見た光。

僕が見た、希望。


「……ふぅ」

 

 心を落ち着かせる。ただひたすらその行為を繰り返していた。そうでなければ自分の何かが砕け散り、二度と集められないような気がした。綺麗な砂浜。見渡す限りの海。思わず賢者モードに入ってしまいそうな環境は整っている。いや、それだけでは足りない。最も重要なモノをひとつ忘れていた。即ち──『水着』である。

 

「植里くーん、そんな所に座って何してるの?」

「彼女が来るの待ってるんすよ」

「そっかー。あ、眼鏡外さないの?」

「いや、泳ぐときには外すんで」

 

 もう一度そっかーと答えてクラスメートである女子(名前は忘れた)は去っていく。仕方無いね。基本関わらないから名前を覚えられないんだ。屑な俺を罵ってくれて構わない。さぁ! 鋭く、的確に、抉り込むように、開いた傷を穿るように、もっとだ、もっと痛めつけてくれ。その程度じゃあ満足できない。さぁ!! ドM怖い。

 

「だーれだ」

「おわっ」

 

 突然真っ暗になったかと思えばそんな声が聞こえる。めっちゃビビったんすけど。もしもし? ぼくがヘタレチキンだという事を忘れてませんかね? うん。察して。はてさて問いの答えだが、先ず間違いなく俺の嫁です。俺の嫁です。大事なことなので何度でも言わせてもらう。俺の嫁です。声で判断可能。

 

「一夏だろ」

「正解」

 

 言ってぱっと視界が明るくなる。眩しい。目が、目がぁぁぁああ!! 大佐はラピュタに帰って。しかしちょっとキツいのは変わらないのですっと目を細める。くるりと振り返ってみれば、先ず映ったのはにこにこと笑う一夏の顔。そこから目線を下に持っていけば──。

 

「どう?」

「……に、似合ってる」

「そっか。なら良かった」

「お、おう……」

 

 一夏ヤバイ。引き締まった体つきと元からの白い肌に黒いソレを着ているものだから余計ソコに引き寄せられるというかなんというか。似合い具合を見るにやっぱ姉妹(きょうだい)なんだなぁと思う。けれども一夏には一夏で千冬さんには無い良さもある。主にこう、なんというか、ちょっとした色気的な。いや、千冬さんも色気バリバリあるんですけど、でも彼氏としてここは譲れないっつーか。

 

「蒼」

「う、うん? どうした?」

「顔真っ赤」

「……仕方ねーだろ」

 

 あーもう今日はいつもと比べて一段とあついですねこの野郎! ぱたぱたと手で自分の顔に風を送る。気休め程度にもならないが、何もせずに居るよりかは幾分もマシだ。ホントあっちぃ。もういっそのこと海に飛び込んで頭冷やしてこようか。と思ったけど泳いだら疲れそうなので却下。

 

「へー、そっかー、仕方ないのかー」

「……んだよ、そんなにこにこして」

「なんで仕方ないの?」

「それ聞いちゃうのかよ」

 

 HAHAHA、ヘタレにその質問は殺しに来てるぜ? だが顔真っ赤にして黙るのもちょっと男の意地的にアレなので頑張ってあー、とかうー、と呟きながら言葉を探る。出来るだけ自然で尚且つこいつに一矢報いることの出来るような台詞。教えて先生(Google)

 

「だって、いや、お前スタイル良いじゃん」

「うんうん」

「……あと、可愛いし」

「っ。そ、そっ、かぁ……」

 

 ぼそっと呟けば効果覿面だったようで。二人して顔をトマトみたいに真っ赤にしながら目をそらす。俺はぽりぽりと人差し指で頬をかき、対して一夏は先程の俺みたいにぱたぱたと手で扇いでいた。知ってるかい? 一夏に効果覿面だったのは事実だが、それを言った本人にも効果が返ってこないとは限らないんだぜ。つまりこっちも恥ずかしいんだよちくしょう。

 

「待たせたな一夏、蒼。……? 二人とも様子が」

「べ、別に何でもないから。ね? 蒼」

「お、おう。そうだな一夏」

「なら良いが」

 

 救世主降臨キター! 砂を踏み締めながら参上したのは一夏のファースト幼馴染みである箒。流石は武道の心得を持つスポーツ少女と言ったところか。健康的な肉体が実に素晴らしい。白のビキニが似合ってます。小学校の頃に箒を馬鹿にしていた奴が現在の姿を見たらどうなることか。実に面白そうではあるが友人として薦めたくはない。トラウマを掘り返されるのは精神的にキツいと知ってますんで。

 

「久しぶりに泳ぐぞ、一夏」

「うん、良いよ。蒼はどうする?」

「待っとくわ。水泳能力はお察しだし」

「泳げるのだから来れば良いものを」

「箒や一夏とはレベルが違いますって」

 

 カナヅチでは無いのだけれど、この二人相手に泳ぐとなれば話は別だ。所詮基礎体力・身体能力ともに一般人の域を出ない俺では厳しい。完全チート俺tueeeee無双系オリ主でも無いのだから当たり前。そもそも俺がそんな奴だったら前回までの事件を悉く綺麗に解決できていた。できてないからなぁ……。

 

「体力温存。これ大事。体を大切にだ」

「なにジジくさいこと言ってんのよ」

「いってぇ!?」

 

 すぱこーんと頭を蹴られた。な、なんだ!? 敵襲か!? ええい! ものども! であえであえ! くるんとまたしても振り向けばそこには風に揺れるツインテール。まぁ、俺に対してこんなスキンシップを取るやつはお前くらいしかいないか。男子のノリだぞコレ。かなり手加減されてたけど。

 

「いきなり蹴んなよ、ビビるだろうが」

「ちょっと駄目ね。やっぱ蹴り心地はチワワが一番良い感じよ」

「弾ェ……」

 

 わんと吠える奴の姿を幻視したがあまりにも惨めだったので即刻記憶から抹消する。五反田弾。奴の惨めさが見る影も無くすのはこの一年と少し後のことだったと彼の友人四人は語る。いや語んなよ。

 

「さって、あたしもちょっと泳いで来ますか」

「準備運動くらいして行けよ」

「あーはいはい。軽く済ませるわよ。軽く」

「ちゃっかりしとけや」

 

 いくらそのオレンジと白のストライプが素敵だからって危ないのは許さないんだからねっ! どんなツンデレだっつーの。鈴はそれから少し、マジでほんの少し伸びとか体を曲げたりした後に直ぐ様海へ飛び込んだ。その間約十秒にも満たない。

 

「相変わらず過ぎる……」

「昔からああなのか?」

「だな。鈴は本当元気な奴で──」

 

 よく振り回されたものだ。という言葉は出なかった。独り言の筈なのにどうして返答があるのだろう。あっれれー? おっかしいぞー? ぴたっと喋るのを止めてゆっくり顔を動かせば、隣にはさらさらと流れる銀髪。特徴的な眼帯。鍛えられてはいても少女らしさを残す身体。

 

「ラウラァ……」

「む。どうしたのだ蒼兄」

「いきなりでお兄ちゃんちょっとビックリしたよ……」

「それはすまなかった」

 

 平然とした様子で謝られてもどう対応したら良いものか。まぁ良いんだけど。なんだかんだ蒼兄って呼ばれるのは悪くないし。うん。お兄ちゃんだったら複雑な気分全開だけどね!

 

「で、どうだ蒼兄。私の水着は」

「ん? あぁ、似合ってるよ」

「そうか。実を言うとシャルロットに選んでもらったのだ」

「へぇ。……その本人は?」

「もう少しすれば来ると思うが」

 

 実際ラウラの水着が似合っているのは事実。やはりシャルロットのセンスはかなり良い。余談だが前回の部屋替えで二人は同室である。仲が良いのも頷けますね。こう見えてラウラの方は時々天然かましてくるのでそれをフォローするシャルロットと相性は抜群の模様。

 

「お待たせ、ラウラ。って、蒼」

「おっす。水着、似合ってますね」

「ありがとう。良いね、蒼は嘘じゃなく本心から褒めてるのが分かるから」

「だな。蒼兄は顔に出やすい」

「マジかよ」

 

 そりゃあ褒めるときに恥ずかしくて少しは頬が赤くなるくらいはあると思いますけど。

 

「蒼はここで何してるの?」

「ぼーっとしてる。ほら、泳ぐと疲れるし」

「蒼兄は泳ぐのが苦手だったか」

「あいつらと比べるとな。……そういやシャルロットはバス移動中静かだったけど何してたんすか」

「あ、うん。ちょっと考え事」

 

 考え事か。うん。シャルロットは考える事が多いから仕方ない。主にIS学園卒業後の進路について。天災が無茶苦茶なことしちゃうから。いや普通に感謝してますけど。

 

「じゃあ僕たちも泳ぎに行こっか」

「そうだな。また後ほどだ、蒼兄」

「おーう」

 

 フリフリと手を振って送る。みんな元気だなぁ。俺は後のことも考えるとどうしても泳ぐのを躊躇してしまうからなぁ。単純に疲れを最小限にしたいだけとも言う。それからまたぼうっと座っていれば、また誰かのざっざっと砂を踏む音が近付いてきた。今度はこっちから振り向いてやるぜ! セシリアでした。

 

「うっす」

「ごきげんよう、蒼さん。何をしていらして?」

「少しぼーっとしてるだけ」

「あら、そうでしたか」

 

 ふふっと口元を手でおさえて笑う。お嬢様してますねー。さすがはセシリア。さすセシ。着ている水着も良くお似合いでヤバイっすね。主におっぱいが。主におっぱいが。大事なことなので二回言わなければならないと思った。反省はしてる。後悔はしてない。

 

「どうですか? ひとつご感想を」

「いや、まぁ……綺麗っすよ?」

「ふふっ、ありがとうございます」

「いえいえ」

 

 うん。あれだな。セシリアと居ると何かゆったりとした気持ちに浸れるわ。これが英国淑女の本気ってやつですかね。イギリスやばい。イギリス強い。

 

「なんならオイルを塗ってくれても構いませんが」

「それは遠慮しときまっす!」

「冗談ですわよ」

 

 意地悪な冗談ですねぇ……。




水着、それは、ふれあいの心。

幸せの青い雲。

青うn(ry


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夏の予感は良い予感。

なつ の あつさ に やられて さくしゃ は さくらん している !


「海を眺めて楽しいか、男子」

「え、あ、千冬さ──」

 

 ばちこーん。頭が思いっきり揺れるでこぴんである。首がくっそ痛い。ちくしょう。

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

「お、織斑、先生……」

「よろしい」

 

 俺の体はよろしく無いです。そう抗議の視線を向けてみたのだが、直後に威圧眼力で返されたので正直にさっと目をそらす。強い者に逆らわない。これ自然界で生き延びるための常識。弱い俺は極力織斑先生に逆らわないのだ。楯突いた者の末路なんて想像したくもない。

 

「しかしお前が独りとは珍しい。あいつらに置いて行かれでもしたか?」

「いや、自分の意思っすよ。身体能力の差が激しすぎるんで」

「そうか。ちなみに泳げない、なんてことは無いだろうな」

「大丈夫っす。平均レベルはあるんで」

 

 器用貧乏というまでは行かないが大抵のことをこなせてちょっとだけ器用に見えるも実に平凡な雑魚転生者がいるらしいですよ。誰のことだ全く。そんな低スペックにも程がある転生者とか本当に転生した意味あるのか。それともなんか凄いチートでも持ってんの? え? 持ってない? どころか転生特典すらない? もう駄目じゃねえかそいつ。なんか泣けてくるわ。号泣。

 

「それよりもだ、蒼。一夏の水着はきちんと褒めたか?」

「え、そりゃあ褒めましたけど……千冬さん?」

「適当に済ませてないだろうな?」

「えっと、真面目に褒めたらちょっと気まずい雰囲気に……」

 

 切り替えはえーよ。さっきまで先生だった人にどうやって身内対応しろと言うのか。うん。まぁ特に接し方は変わらないし別に良いんだけどね。こっちの千冬さんはちょっと緩めですしおすし。

 

「良くやったじゃないか。一年前と比べれば随分な進歩だと思うが?」

「まぁ……確かにそうっすけど」

 

 本当に大した進歩じゃね? 女子とまともに会話すら出来なかったヘタレが水着を褒めるまでに至ったんですよ。凄くね? 俺めっちゃ成長してる。もう幼虫から蛹を通り越して成虫にまでなっちゃってるレベル。このまま行けば一年後に完治している可能性が微レ存。結局微粒子レベルなのかよ……。

 

「……つーか、千冬さんも独りじゃないっすか。山田先生も居ないですし」

「山田先生ならあそこだ。生徒に囲まれているのが見えるだろう」

「あぁ、アレなんすか……」

「あぁ、アレだ」

 

 もしかしてセクハラなんじゃないかと思う光景が遠くに見える。仕方無いね。山田先生の身体は実にドエロチックだからね。当の本人はおっぱいをもみもみ、お尻をもみもみされて涙目のご様子。女子の好奇心がしゅごいのぉぉお! ご愁傷さまです。あとご馳走さまです。

 

「まぁ、水着だから仕方無いっすね」

「あぁ、仕方無いな」

「千冬さんも十分あれですけど」

「そういうのは一夏に言ってやれ」

 

 そうします。しかし正直なところ眼福すぎてヤバイ。山田先生はただでさえスッゴイ身体が余計に強調されてもう遠目からじゃないと直視できない。水着が良くお似合いです。あと素晴らしい形と大きさですね。ベリーナイスおっぱい。千冬さんは一夏と違った大人の女性の雰囲気というか、独特の色っぽさというか、別の方向で魅力的なのだ。そうだね! やっぱりちーちゃんがナンバーワン! ……はっ!? お、俺は何を(混乱)。

 

「それと、もう昼食だ。暇なら先に行っていろ。あいつらには私が伝えておく」

「おぉ、あざっす。じゃあ遠慮なく」

「──あぁ、待て。もう一つあった」

「?」

 

 立ち上がって去ろうとしていたところへ待ったをかけられ振り向けば、すたすたと歩いてきた千冬さんが俺の右手を取り、何かをその上に乗せた。感触はまぁ……うん。なんだろうねコレ。スッと手が除けられて正体が顕になれば、ソレは──。

 

「ちょっ!? ち、千冬さんコレッ!?」

「お前たちに用意した部屋はな、場所の関係上あまり人が通らない。あとは……分かるな?」

「分かるかっ!! いやいやいや! なんてモン(コン○ーム)渡してくるんすか!?」

「そら、昼飯と言っただろう。さっさと行け」

「これが教師のするこげふぁっ!!」

 

 後ろから蹴飛ばされて結局ソレを持ったまま昼食を食いに行くことに。うん。ポケットがあって良かった。尤も落としたら一巻の終わりだが。千冬さん、本気じゃありませんよね? 小粋なジョークですよね? 僕はそう信じてます。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 キング・クリムゾン。時間はあっという間に過ぎていき、現在は外も暗くなった七時半。俺たちはめちゃくちゃ広い大宴会場で夕食をとっていた。大広間三つ繋げたらそりゃこんなに広いワケですよ。

 

「昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だね」

「だな。流石はIS学園」

「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」

 

 一夏の言葉に俺とシャルロットが同意する。席順は両手に花と言いたいが言えないと言えば分かってもらえるだろうか。日本のお刺身は美味しいデース! 日本人からしたら当たり前でも生魚を食べるのって外国じゃ信じられないんだっけ? まぁそこら辺はどうでもいい。弾に彼女が出来ないことくらいどうでもいい。今は食事に集中である。

 

「うん、美味しい。しかもこのわさび、本わさじゃないの? 凄いなぁ……」

「本わさ?」

「あぁ、シャルロットは知らないっけ。本物のわさびをおろしたものを本わさって言うんだ」

 

 凄いよなぁ、臨海学校。修学旅行じゃないのかって思うほど豪華な食卓だ。いや、今時大きな学校でもなければこんなモノ修学旅行でさえ食べられないか。とにかくIS学園ってスゲー。あと一夏のわさび好きもスゲー。やっぱりちょっとしたお年寄りっぽさは相変わらずである。わさび、美味しいけどね。

 

「はむっ。……~~~~~~ッ!!」

 

 あ、こんな展開あったな。正直忘れてました。ごめんなシャルロット。わさびの山を食べるのはちょっとヤバイですって。

 

「だ、大丈夫?」

「だ、だいじょう、ぶ……」

「ほい、水」

「あ、ありがと、あお」

 

 ぱしっと受け取ったコップを素早く口に持っていき、シャルロットはぐいっと一気に飲み干す。

 

「……ふぅ、うん。風味があっていいね……おいしいよ?」

「無理しない方が良いっすよ」

「あ、あはは……」

 

 ちなみにもうお分かりというかなんというか、一夏がこれだけわさび好きなので勿論食卓にわさびが出ることもありまして。つっても前世の頃から食べられていたので無問題というやつです。デスソースに比べればまだ大丈夫なんじゃね?

 

「蒼は、わさび大丈夫なんだね」

「そりゃあまぁ。……一応こいつの彼氏ですし?」

「……頑張ったの?」

「いや、元から食べられた」

「そうなんだ……」

 

 わさび茶漬けとか美味しいよね。

 

「蒼が苦手なのはアレくらいだよね」

「? アレ?」

「菌糸類ってなんなの? 食べなきゃ駄目なの?」

「椎茸」

「へぇー、椎茸かぁ……」

 

 意外そうな目でこちらを見てくるシャルロット。俺だって好き嫌いはありますって。特に椎茸。てめーは駄目だ。以前一夏をちょっと怒らせた時に夕飯が椎茸三昧であの時は死ぬかと思った。ええ、全部残さず完食しましたよ。以後三ヶ月は椎茸と聞くと体が震える症状が出ておりました。

 

「一夏は蒼のことよく知ってるね」

「そりゃあ、ね。一応これの彼女ですし」

「おい。これとか言うなよ」

「二人とも似た者同士だなぁ」

 

 にこにこと微笑むシャルロットは実にほんわかとしていた事をここに記しておく。余談だが昼に渡されたアレは(バレるとヤバイので)厳重に保管してある。別に使う予定があるからとかじゃないからね。違うからね。

 




二人が一歩前進するためのアイテム①

『姉から受け取った不思議な形のゴム』×1

保持者:植里 蒼


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抹殺のラストお姉ちゃん。

最後に立ちはだかるのはお姉ちゃんだと相場が決まっている(確信)


 合宿二日目。今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用やデータ取りなんかに追われるのだが、勿論のごとく乱入してきた兎さんが居た訳で。

 

「やあやあ皆の衆! 待った? え、待ってない? ふふん。そんな嘘つかなくてもいーよ☆ 待ったんでしょ? 本当は待ちに待ってたんでしょ? というわけでお待たせ! いつもニコニコ貴方の隣に這い寄る天才篠ノ之束ですっ☆」

 

 帰れ。

 

「帰れ馬鹿(天災)

「酷いなぁちーちゃん。あっ、あれだね! 出会い頭にハグしてあげなかったから拗ねてるんだね!」

「違う」

「よぅし、なら早速! ちーちゃぁぁぁ──」

「死ね」

「あががががっ!?」

 

 ハグしようとした束さんは女性が上げてはいけないような声を上げて悶える。その頭にはしっかりと千冬さんの五指が食い込んでおり、あれは痛いだろうなぁと他人事のように思いました(小並感)。もう一度言うが食い込んでいるのだ。おーけー? 当たってるんじゃなくて食い込んでる。あの人頭大丈夫かよ……(戦慄)。

 

「ひ、非常にっ、熱烈な、愛情表現、だねっ!」

「まだ可笑しな事を言う元気があったか。ならばもう一段階ギアを上げるとしよう」

「ひえっ。ち、ちーちゃん、やめ」

「確かあいつらの友人がこういう時に言う台詞があったな。なんだったか……そうだ、確か」

 

 ぐぎっという嫌な音がした。肉が抉れるとか、骨が砕けるとか、そんなモノじゃあない。もっと恐ろしい何かが起こりそうな音だ。束さんが僅かに呻き声を漏らす。千冬さん、それ本当に大丈夫なやつですか。スプラッターとかありませんよね。みんなにトラウマを与えるシーンじゃありませんよね。

 

「抹殺のォ……」

「ちょ、ま、カズ君! あ、いやちーちゃん!」

「ラストブリットォォオオ!!」

「うぎごげぇあがっ!?」

 

 ぐちっという音と共に束さんの四肢がだらんと垂れ下がる。あー、これは逝っちゃいましたね。残念無念、いやはや惜しい人を亡くしたものだよ。ISなんて凄いものを開発する人だったから、もっと多くの発明を残すだろうと思っていたのに。結局彼女も力には勝てなかったという訳か。後で供養してあげよう。

 

「……さて、それでは再開するぞ」

「篠ノ之博士スルーって……」

「やはり世界最強は伊達じゃない……」

「流石は織斑先生! 私たちにできないこt」

「そこにシビレる憧れるゥ!」

「タイミング早いよ!」

「すまない。本当にすまない」

 

 なんだこの茶番は、たまげたなぁ。ところで砂浜の上に放り捨てられている天災はノータッチで良いんですか? 良いんですね。はい。というか先ず触りたくないんでノータッチ不可避。だって……ねぇ? あの天災に触るなんてもう恐れ多くて。

 

「フッフッフ……甘い、甘いなぁちーちゃん」

「……束」

「この私がこの程度のちっぽけな力でやられるなどと思っていたのか! フゥー↑ハハハァ!」

「束さん、頭から血が出てますよ」

 

 どばどばと溢れ出るその光景に女子の何人かがすっと目を閉じた。どうやらスプラッターの苦手な方はいたようです。山田先生がおろおろとしながらも救急箱を持って近寄るが、束さんはそれを片手で制した。ごそごそとポケットに手を突っ込んで取り出したのは一粒の変な錠剤みたいなモノ。

 

「ごくん。……かぁっはぁ~……効くぅ……」

「み、見る見るうちに傷が……」

「スッゲェなあの人……」

「だね……」

 

 上から山田先生、俺、一夏。隣で同意の声を漏らしながら唖然として見詰めている。あの人はいつの間に仙豆みたいなもんを作ったんだ。飲むだけで傷口が塞がるとかそれやべぇな。是非とも俺たち一般人でも使えるよう改良を施して提供してもらいたい。なんて思っていればちらっと視線を向けられてふりふりと手を振られる。

 

「あ、あっくんも飲みたいー? なんか飲みたそうな顔してるねぇ! ま、私以外が飲んだらちょっとアレなことになっちゃうんだけど」

「あ、アレってなんすか」

「インポテンツ。EDってやつだね」

「それ絶対同じモノじゃないっすよね。俺専用に作ったやつっすよね」

「てへっ☆」

 

 死ね。糞が、ただでさえヘタレなのに勃たなくなったらもっとヘタレちゃうでしょうが。昨日千冬さんに貰ったアレを一生使うことなくなりますよ。え、昨日使わなかったのかって? 勿論使いませんでしたよ。あ、生でとかそういうのじゃ無くて先ずヤってねーんだよちくしょう。

 

「……あれ、そういや一夏。箒は」

「あと三秒。二、一……出るよ」

「えっ?」

 

 ずびゅんと砂を巻き上げて束さんの背後に現れたのは二人の少女だった。一人は鞘に納めたままの日本刀を構えたポニーテールのおっぱい。もう一人は手にグローブをはめているツインテールのちっぱい。どちらも知り合いである箒と鈴だ。紹介に悪意がある? 気のせい気のせい。

 

「姉さん死すべし慈悲は無いッ!!」

「ごめんなさい篠ノ之博士ぇッ!!」

「ほへ?」

 

 ぼっふぉーん。あれ、ISとか使ってないよね。なのにどうしてああも砂煙が舞い上がっているのか。煙幕並みじゃねぇか。人間じゃねえ。あいつら人間じゃねえよ。怖いので一歩後退っておく。心臓に悪いぜ。

 

「──いやぁ、甘い甘い。私を倒したくば先ず時を止めることからだね。箒ちゃん。チャイニーズ」

「姉さん。口から血が出てるぞ」

「これ、一応モロに直撃したら意識落ちるレベルなんだけど……」

「だから言っただろう、鈴。姉さんを倒すには心臓を止めるくらいでも足りない」

 

 足がったがたなんですけど。束さん足がったがたなんですけど。やっぱ効いてるんじゃありませんかね。細胞レベルでオーバースペックとか聞いてたけどそうでもないような気がしてきた。しらけた目を向けているとまたもやそれに気付いた束さんがサムズアップしながら此方に呟いてくる。

 

「こ、この薬の駄目な所はね、使用後一分は著しい身体能力の低下に襲われるんだ……」

「馬鹿じゃないっすか。それくらい束さんなら無くせるでしょうに」

 

 つか著しく身体能力低下してそれかよ。基礎スペックどれだけ高いんだ。ごめんなさい。束さんは細胞レベルでオーバースペックです。はい復唱。

 

「ふっ……良いかいあっくん。天才はね、天才故に完璧から遠ざかるものなのさっ……ごくん」

「また飲んでる……」

 

 直後に箒は刀を振るった。頬に当たったそれはごすっという鈍い音をたて、束さんを二メートルほど飛ばしてきた。うわ、こっちにやるんじゃねえ。一夏の肩を掴んでさっと避ける。ずさーっと顔面で砂の上を滑って天災はぱたりと倒れ込んだ。

 

「や、やっほーあっくん。いーちゃん」

「死に晒せクソ野郎(お久し振りです束さん)」

「蒼。逆、逆」

 

 しまった。でもまぁ良い。どうせ束さんだし。この人は基本的自分の中だけで完結させるので何を言っても意味がない。つまり何を言っても良いのだ。やーいやーい、束さんのバーカバーカ! 小学生か。

 

「つーか何しに来たんすか束さん」

「ふ、ふふ、みーあーげてーごらんー」

「?」

 

 刹那、ずどーんという凄まじい音と共に大きなナニカが飛来してきた。箱かな? いいえISです。銀色の壁らしきものがバタリと倒れれば、中から現れたのは真紅の装甲に包まれた紅つば──げふんげふん。束さんお手製であろうIS。良いなぁ、まともに戦える性能。俺のISもどうにかして欲しいなぁー。

 

「じゃっじゃじゃーん! これぞ我が愛しの妹に贈る最高のプレゼントにして最大のサプライズ! 箒ちゃんの専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 そうやって妹は贔屓して、私とはお遊びだったって言うの!? 酷い! 束の馬鹿! 最低! なんて思いながらぼうっと赤椿を見ていれば、ツンツンと頬を突付かれる。犯人は束さんだ。皆が紅椿の方に集中しているので勿論この一連の流れに気付いている人はいない。隣の一夏ですらそうなのだから当然である。

 

「……なんすか」

「ふふん。あっくんにもプレゼント、あるんだよ?」

「嫌な予感しかしないっすね」

「マトモだって、はい」

「!?」

 

 ぐにゅっとおっぱいの間に手を突っ込んで引き抜けば、その手には携帯電話ほどのサイズの小瓶があった。すすっと手に取るよう促されるが、これを手に取るのはぶっちゃけ躊躇うというか何というか。ええい、変な場所から取り出すんじゃないよ!

 

「……こ、これは?」

「篠ノ之印の特性媚薬。いーちゃんに盛るんじゃなくてきちんと自分で飲むんだよ?」

「いや、なんてもん渡してくるんすか」

「初めての性行為。男の子なら……自分から行きたいものでしょ?」

 

 確かにそうですけど。

 

「大丈夫。ちゃんと記憶に残るやつだから」

「それなら安心……いや待て。いやいやいや」

「それに無害だし。うん。ゆー、やっちゃいなよ!」

「ああもう、どうして俺の周りの女性は……」

 

 やれってのか? もうやっちゃえってことなのか? 周りからのアレとか気にせずやれってことで良いのかこの野郎。ゴムは用意できてますし? 二人っきりの空間は確保できましたし? 主導権を握るためのアイテムも貰いましたし? ……あれ、これもうやって良いんじゃね(混乱)

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

「誰か別の人はいませんか?」

「残念! 私しかいないのだ!」

「……なら仕方ないですね。やれやれ」

「ねぇ、箒ちゃん。私お姉ちゃんだよ? ちょっと扱い酷くない……?」

 

 どよんと落ち込みながら歩いていく束さんを余所に渡された小瓶を見詰める。強いて言うなら色々とやらかしたアンタが全部悪いので自業自得っていうやつだ。今までのツケが一気に回ってきましたねー。

 

「? 蒼? なにそれ」

「あ、いや、大したもんじゃない。束さんから貰ったなんつーか……薬的な?」

「だ、大丈夫なのそれ……」

「おう。無害みたいだし」

「ふーん」

 

 それで興味を無くしたのか、一夏は紅椿の方へ視線を戻した。その横顔をじっと見る。俺は一体どうすれば良いのだろうか。前世含めて長年生きてきたが、何分こんな状況に陥ったのは初めてで困惑するばかりだ。ぶっちゃけると少し怖い。ふと視線に気付いたのか、一夏がこっちをちらりと向く。

 

「……そんなに見られると、その、ちょっと恥ずかしいだけど……」

「す、すまん」

「あ、いや、別にやめてって訳じゃ無いよ?」

「お、おう。そっか」

 

 ……案外、これは使えるかもしれない。




二人が一歩前進するためのアイテム②

『篠ノ之印の不思議なドリンク』×1

保持者:植里 蒼


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やはり巻き込まれ転生者植里は弱い。

束「じゃあじゃあ、女の子の姿になるってどうかな! いっくんが!」
一夏「なんなんですか、それは!」

原作三巻で実際にそんなやり取りがあったりなかったり


 あの後、箒は紅椿をみんなの前で動かしてみたのだが、それもう凄いの一言だった。飛ぶの斬るの斬るのが飛ぶのでもうヤバイ。ヤバすぎる。なんてスペックの機体を渡しているんだろうあの人は。やはり天災じゃったか……。ちなみにそれを動かしている箒の表情は酷く気怠げだったという事をここに記しておく。篠ノ之さんはいつもけだるげ。いつもは凛々しいんですけどね。なんでもお姉さんに色々と言われてるのが気にくわないらしい。それらを纏めて一言で伝えるならば『死ね』だそうだ。うん。俺も同じ気持ちだよ。現在進行形で。

 

「では、現状を説明する」

 

 千冬さんが真剣な表情で口火を切った。旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷、たしか風花の間とか言っていたそこに俺たち専用機持ち全員と教師は集まっている。何が起こっているのかお分かりいただけただろうか。原因は? くそウサギ! イェーイ!

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルの共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 来ちゃったよ福音さん。原作と変わらず来ちゃったんだよ福音さん。全く誰だ、こんな大事を仕出かしておきながらヘラヘラと笑って世間を知ってなおスルー決め込む馬鹿で天才で天災で人を人とも思わぬ糞野郎のくせに無駄にスペック高いから自由気ままに生きているおっぱいのでかいウサギみたいな篠ノ之束は。最後答え言っちゃってるやん。違うんだ。犯人はヤス。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

 淡々と言う千冬さん。滲み出るオーラがマジという雰囲気を伝えてくる。そんなものが無くてもマジだと分かってはいるんですがね。この展開、転生者として見過ごす訳にはいかねぇぜ! ……それに原作通り一夏が撃墜されると非常に心配なので是非とも参加したい所存である。まぁ、俺の機体スペックじゃ参加出来ませんけどね!

 

「教師は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 な、なんだってー!? 今明かされる衝撃の真実。楽しかったぜぇ、お前との友情ごっこぉ! 違う。それ真ゲス。その前からして違ってはいるが。もともと衝撃の真実でもなんでもない。既知の事実である。原作知識があるんですしおすし。お寿司。そんなことよりおうどん食べたい。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

 

 その言葉に続くようにして、座っていた彼女たちは次々に意見を述べていく。とりあえずセシリアさん提案の機体情報を受け取ったら後は何も出来ない。凄いな、何を言っているかさっぱり分からん。やっぱり俺だけ場違い感やばくないっすかね。正直蚊帳の外である。しかしもうこれはあれだ。割り切ろう。そういう神からのメッセージであろう。多分。という訳でもっぱら俺が考えるのは福音さんのことしかない。ぶっちゃけ戦いたくないんだけど戦わなければ生き残れない感じなのかどうか。そこが問題だ。機械相手に何を望むでもないから話し合いとかも不可能ですしね。……機械相手はちょっとなぁ。うむ。

 

「──おい、植里。聞いているのか」

「うっす。聞いてます」

「なら先程私は何と言った?」

「おい、植里。聞いているのか」

「馬鹿者が」

 

 スパァンといつもの二割増しで叩かれた。うん。今のは全面的に俺が悪い。つーかてめぇが勝手にやっても何一つとして解決できねぇだろうが。察しろ。

 

「こんな時に考え事か? 随分と余裕そうだな」

「はい。すいません」

「何を熱心に考え込んでいたかは知らんが後にしろ。お前だって重要な戦力の一部だ」

「……そーっすね」

 

 いやはやこんな俺でさえ戦力に数えてくれるとは千冬さんお優しいです。思わず涙が出ちゃうレベル。こんな雑魚に何か出来るとは思えませんがね。ええ、所詮は一般人というやつですよ。うん。あれだ、もうどうにでもなーれ。福音? 戦闘? 気合いでどうにかしてやるわボケ。あと、海の上で華麗に散るってのも美しくて良いと思うんですよ。死亡フラグ乙。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 結論としては原作通り。一撃必殺の零落白夜を持つ一夏を超高速起動が可能な箒の紅椿で運ぶ。福音さんは通りすがりに斬られる。落ちる。死ぬ。いや死んじゃ駄目でしょうに。うんうん。やっぱり原作通りって言うのは落ち着くよ。先が見えてる安心感ってやつなのかね。その作戦に俺がねじ込まれてなければの話だが。

 

「いやさ、別に良いよ? 嫌って訳じゃない。ただなんで俺なのかと」

「仕方ありませんわ。一撃の大きさでは一夏さんに引けを取らない筈ですわよ」

「当たれば、の話っすねぇ」

「当たれば、の話ですけど」

 

 当たれば。その四文字がどれだけ大変なことなのかを俺は知っている。そもそも当たったところで掠ってちゃ意味がないというのがこの武器の欠点だ。束さんが言うには確実に直撃さえすれば零落白夜に勝るとも劣らない超火力らしいのだが、如何せん実感がない。現にこれで倒したことってあまり無いんだよなぁ。あの天災曰く倒せないのは俺がまだロッドを完璧に使いこなせて無いからだそうだ。ちくしょう。

 

「そんなに気張らなくとも、わたくしたちはいざという時の保険だと織斑先生も言っていたでしょう、蒼さん」

「そうは言いますがねセシリアさん。やっぱりヘタレにこの重圧は少し愚痴りたくもなるというか」

「セシリア、ではなくって?」

「イエス。マイフレンドセシリア」

「発音もなにもダメダメですわね」

 

 容赦ない言葉の数々が脆くなった心を打ち砕く。その効果音はドラララララであることを期待したい。ダイヤモンドは砕けない。治ってくれマイハート。絹ごし豆腐よりも柔らかいと言われた俺の心よ。めっちゃ脆いじゃねえか復旧不可能。

 

「束さんに弄ってもらってブレードの出力と維持時間を伸ばしてもらったとは言え、五秒ってお前」

「五秒もあれば十分ではなくって?」

「いやいや、俺そんなに優秀じゃないから」

「まぁ、相変わらず自己評価の低いお人だこと」

 

 ちなみに何故セシリアと俺が居るのかって言うのはご想像にお任せする訳にもいかないのできちんと説明すると天災のせいである。説明終了。終わり。つまるところくそウサギがペラペラと喋り倒して俺を無理矢理戦場へ引きずり出したのである。なんとなく予想してたから別に良いよ。な、泣いてなんかないしっ!

 

「何はともあれ宜しくっす、セシリア」

「えぇ、わたくにお任せください。なるべく安全運転になるよう善処しますので」

「あ、これヤバイやつだ」

 

 なるべくと善処しますが合わさって最強のコンボに見えてしまった俺は悪くない。箒が一夏を運びセシリアが俺を運ぶ。上手く行く気? 勿論しない。




二人が一歩前進するためのアイテム③

『漂う死亡フラグ』×?

保持者:?? ?


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銀の福音。

「見えたぞ!」

 

 箒の言葉で前を注視する。居た。その名の通り全身が銀色のIS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』さんです。決してシルバニアファミリーとか銀の戦車(シルバーチャリオッツ)ではない。前者の方は全くもって関係ないな。後者も後者だが。うん。この程度のくだらない事を考える余裕は戻ってきてるっぽい。これなら緊張することなくやれそうだ。シリアス? いいえ僕たちが欲しているのは尻アスです。あとおっぱい。

 

「蒼さん、準備はよろしくて?」

「一応大丈夫っす。まぁ、あいつらが決めてくれると思うんですけど(大嘘)」

「それが一番ですわね」

 

 ロッドを構えて何時でもオーケー状態。高速戦闘だから五秒は意外と長く感じたり感じなかったり。やっぱ全然感じねぇな。おまけに高速戦闘用の超高感度ハイパーセンサーとかいうのは使う時に一瞬世界がスローモーションに見えるのだとか。なにそれ、やっぱ使うと同時に世界(ザ・ワールド)ッ!! とか叫んだ方がいいの? あっちもシルバー繋がりでちょうどいいな! 時よ止まれ。お前は美しい。

 

「加速するぞ! 目標に接触するのは十秒後だ。一夏、準備は良いな!」

「勿論、箒」

 

 箒はさらにスラスターと展開装甲の出力をあげる。その速度たるや凄まじいの一言だ。どんどん此方と距離を空けていき、高速で飛んでいる福音へと近付いていく。やれーやったれー幼馴染みどもー。くそヘタレに重圧かけんじゃねえぞー。お陰でロッドをきつく握り締めている始末。どんだけ心配なんだって話よ。

 

「はぁぁああっ!」

 

 一夏が零落白夜を発動させ、同時に瞬時加速でも使ったのか一気に間合いを詰める。や、やったか!?(フラグ)いや、これはやったに違いない。そう信じよう。現実から逃げたい俺はそっと目を閉じる訳にもいかないのでより一層ロッドを握り締める。やったって下さい一夏さん!

 

「なっ!?」

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》、稼働開始」

 

 あ、福音さんが最高速度のままこっちに反転&後退の姿になって身構えた。うむ。嫌な予感は良く当たるものですよね。良い予感は当たらないって言うのに。迫る刃を福音さんはぐりんと体を一回転させて避ける。零落白夜外れたー! マジワロエナイ。つーかなにあの変態機動。

 

「行けますか蒼さん!」

「むしろ無理矢理にでも行ってやります!」

「良い心意気ですわっ!!」

「モチのロンでジョーダンですがねっ!?」

 

 無理矢理には行かねーって。逝く羽目になるからね。二度目の人生をまだまだ謳歌したい植里くんの存命に清き一票を、清き一票をお願いします! 選挙で生死が決まるとかそれやべぇな。生きたい。生き抜きたい。そのために戦わなければ生き残れない。ファイナルベント的なあれで。

 

「接触まで残り三秒!」

「うっす!」

「二、一……今ですわっ!」

 

 ──エネルギー解放、刃生成。残存時間5秒。

 

「シャオラァァアアッ!?」

 

 避けられた。

 

「何をやっているんですの蒼さん!」

「いや待ってマジで何あの変態機動!? 本当に人間乗ってんのかよ!」

「仕方ありませんわ! ここは一旦体勢を立て直さないと──」

 

 そうさせてくれると有り難いんすけどねぇ。どうも福音さんはうちらにデレてないご様子。ツンデレだとしたらまだツンツンの時期である。デレないツンデレとか意味あんのかよ! それを最早ツンデレとは言わないことにこの時の僕は気付かなかった。そう、あの時までは。あの時ってどの時だ。

 

「うおぉっ!? 危ねぇっ!? エネルギー弾丸とかやべぇって!」

「ウイングスラスターに砲門が……」

 

 とりあえず避けきれなさそうなのを率先してロッドで叩いていく。おっほー、こりゃ凄い。エネルギーがどんどん溜まっていく。まるで健全な男子中高生のアレくらい溜まっていく。みんな、くれぐれも学校で抜いたりしちゃいけないんだゾ☆ トイレ掃除の人が困っちゃうからね。

 

「箒、左右から攻めるよ。左をお願い!」

「了解した!」

 

 なんて考えてる場合ではない。一夏と箒がガンガン攻めているがその一切の攻撃が掠りもしない。福音さんの避けること避けること。俺とセシリアも協力してみたが全然駄目すぎる。当たんねぇ。しかも同時に攻撃まで行ってくる。なぁにこれぇ。

 

「当たらないし攻撃来るしで嫌になるわ!」

「大丈夫、箒とセシリアが動きを止めてくれてる」

「おおぅ、一夏。……マジで止まってんのか」

「うん。あと少しで隙が出来る筈──」

 

 あ、全方位に向けて光弾撃ってきた。しかも同時に密漁船を発見。グッドなのやらバッドなのやら分からんタイミングやな。

 

「蒼!」

「しゃあねぇなオラァ!」

 

 言われてさっさと船に当たりそうな光弾へ向かう。白式のエネルギー的に考えて残り一回は余裕で零落白夜を発動させられるだろう。対して俺のアレは冷却時間があって使えない。どちらが助けに行くかなんて明白だ。何よりこいつの凄いところは俺が船に気付いたのに気付いたところだろう。流石俺の嫁。

 

「そぉい!」

 

 ぶぉんとロッドで殴れば光弾は跡形もなく消える。エネルギー攻撃って良いですね。そのままこいつが吸収してくれるので効率が半端じゃない。物理攻撃だと溜まるにしても遅いんだよなぁ。使ってて気付いた。……地味にこれすごい技術じゃないの?

 

「やるなっ……! だが、押し切るッ!!」

 

 声が聞こえて振り向けば、セシリアの援護で箒が光弾の雨を掻い潜り、福音さんへ追撃を叩き込んでいた。そうなれば隙が発生する訳で、今その場所に居るのはアイツ。となればもう決まったようなもんか。

 

「零落──」

「決めろ! 一夏!」

「決めてください! 一夏さん!」

「決まっただろ、アレは」

 

 最小限に振りかぶって、一閃。

 

「白夜ぁぁああッ!!」

 

 盛大に切り裂かれた福音は、真っ逆さまに海へと落ちていく。つーかこっちに来る。えっと、あれって一応受け止めた方が良いの? ナターシャさんだっけ、乗ってるんだよね。受け止めた方が良いよなぁ。よし、こういう時こそ言うべき台詞だろう。親方! 空から銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が!

 

「終わり、か?」

 

 ぼうっとゆっくり落ちてくる機体を眺めながら少し考える。ほぼ役立たず転生者が一人居てこの結果になるものだろうか。ぶっちゃけ上手く行きすぎてなんとなく怖い感じだ。よく考えてみよう。以前千冬さんから俺の長所は冷静な思考力だとか言われた記憶があるような無いようなやっぱり無かったような気がする。……つーか今気付いたんだけど、IS解除されてなくね?

 

「──思い……出した!」

 

 残されてる。まだあと一つ、こいつは変身を残しているんだッ!! フリーザか。変身ちゃうわ。その時不思議な事が起こらねーわ。マジで勘弁して欲しい。さっと福音さんから逃げるように遠ざかる。巻き込まれ転生者もこれには巻き込まれたくないんだよ。

 

「来るだろ。いや……来ない方がマシだけど」

「? 蒼、何を──」

 

 ぼんっと海面が爆発した。つーか吹き飛んだ。球状に蒸発したみたいだ。不思議なことにそこだけ時間が止まっているかのようにぽっかりへこんでいる。中心には青い稲妻を纏う福音さん改(銀の福音 第二形態移行)が自らを抱くようにしてうずくまっていた。これ、ヤバくね?

 

「せ、『第二形態移行(セカンドシフト)』……?」

「そんな……信じられませんわ」

「信じるしかないだろう。現実になっている」

「……うっわー。ありえねー」

 

 ブーイング的な意味で。

 

「一夏、エネルギーはどのくらい残ってる?」

「もう殆ど無いも同然。だからこれは……」

「そっか。なら撤退しよう」

「うん……って、蒼!?」

 

 まだ動いてない今の時点で接近しておく。そうすれば俺へとターゲットが向いてくれる筈だ。多分。自信ないのかよこいつ。確か第二形態移行の攻撃性はかなり高かった記憶がある。もうヒロインズボッコボコにしてたよね、福音さん。流石は一期のラスボス。

 

お前らは(・・・・)、だけど」

「馬鹿じゃありませんの蒼さん!」

「昔からだあれは、馬鹿に違いない」

「ああもう蒼の馬鹿……」

「ヒッデェ……」

 

 正直なところ、勝てるかどうかだったり生き残れるかなんてのは関係無い。多分、こうしないとあの人が満足しなさそうなんだよなぁ。自分から出なかったら無理矢理にでもやってきたに違いない。……俺の性格っつーかなんつーか、そういうの見抜いてやってきてるし、コレ。

 

「一夏」

「……なに」

「これが終わったら覚悟決める。俺だっていつまでもヘタレてる訳じゃないからな」

「へ、ちょ、蒼──」

 

 動いた、来るか。

 

「来いよ。銀の福音? はっ、銀の鐘だのなんだのと言うんなら俺たちに対する祝福の鐘でも鳴らしてろっつーんだクソ野郎が」

 

 煽っていくスタイル。機械に意味はありませんがね。




二人が一歩前進するためのアイテム④

『揺るぎない覚悟』×1

保持者:植里 蒼(予定)織斑 一夏(予定)


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ヤンデレ福音さん。

(特にヤンデレ要素は)ないです


『あっくん、天才束さんの作った機体を侮って貰っては困るね』

『は、はぁ……』

 

 ここに来る前に偶然出会った束さんとの会話を思い出す。セシリアの所へ行こうとしていた折にばったりと出くわしたんだっけ。それはどうでもいい。重要なのは話の内容である。状況が状況だけにあまり理解出来なかったけど、少し引っ掛かったっつーかなんつーか。

 

『もっとISを、武装を頼ってみなよ。君自身の力なんてちっぽけなんだから、どう足掻いても切り抜けられる訳が無いさ』

『ちっぽけ……いや御尤もっす』

『全く予想外だよ、ここまでISとシンクロ出来てないとは束さんもビックリしちゃう』

『シンクロ……?』

 

 リミットオーバーアクセルシンクロォオオオ!!

 

『そんなあっくんに一つアドバイスをあげよう。そのロッドに隠された能力はまだ残ってる』

『マジすか。……具体的にはどんな?』

『さぁねー』

 

 けらけらと笑ってにこにこ笑顔を振り撒く束さん。反射的にファブリーズをかけようとしてしまった俺は悪くない。いつの間にか振り撒く=ファブリーズという方程式が組み上がっていたんだ。あの時の俺は激流に身を任せどうかしていた。今なら分かる。

 

『それらは君自身が作り出していくものだよ。最初から設定されているのはあれだけさ☆』

『え、えぇ……?』

 

 そう、今なら分かる。あの時束さんが「見つけ出す」のではなくて「作り出す」と言った意味が。いや正直まだあやふやだけど。要するにあれだろ? 俺が望めば力は手に入る的な中二展開まっしぐらなんだろ? いいぜ、やってやる。ばっと片手を大空に掲げてぱちんと指を鳴らした。叫ぶぜ、この想い!

 

第二形態移行(セカンド・シフト)ォォオオオ!!」

『キアアアアアア……!!』

「無理か!? いや無理か!!」

 

 当たり前ですよねー。うん。知ってた知ってた。獣みたいな咆哮を上げながら突っ込んできた福音さんをロッドで受け止める。冷却時間を見るに九分間はどうしても粘らなければならない。なにその無理ゲー。果てしなく駄目な感じが漂ってくる。例えるなら目隠しをして事務椅子の上でタップダンスを踊るようなもん。

 

「いやぁッ!?」

 

 近距離でウイングスラスターがうねうね動いて周りを囲もうとしていた。これはヤバイ。これはマズイ。包んでからのエネルギー光弾でリンチだろ? 容赦なく死んじまうぜこの野郎。さっさと逃げるに限る。全速力で逃げ出して少し離れた場所で待機。こいつ相手に接近戦は辛いぞぉ……遠距離戦も同じか。

 

「ちなみに一夏たちは……。あー、うん。まだそんな遠くまで行ってねぇよなぁ」

 

 つーかよく考えると俺が一人になれたのは奇跡だ。絶対止められると思ってたのに。……まさか皆が愛想を尽かして放置なんて事は無いよね? 僕のことを信じてくれてるだけだよね? は、はわわ。不安。

 

「っと。余所見は駄目だって? ははは、嫉妬深くて可愛いっすねー」

 

 へらへら笑ってこんなこと言ってるけど内心スッゲービビってるのは内緒。こ、こえーっ。福音さんマジヤンデレ。私以外は見ないでとでも言うのか。余所見したら殺されちゃうの? 想いが重くて嬉しい限りだなぁ(白目)だが残念。俺には彼女がいるのだー!

 

「よっ、ほっ、とっ。……うん、やっぱ遠くの方が光弾は避けやすい」

 

 バラ蒔かれても来るまで時間があるしなんとか見て避けられる範囲内だし遠くだと一つ一つの隙間が広がって避けやすいし。それでもこれ回避無理だろってやつはあるんですがね。なんやねんこの変態攻撃。いかんいかん。このままでは福音=変態というレッテルが張られてしまう。……別に良いな。減るもんじゃないし。

 

「つーかこのロッド、マジで何とかならないのか」

 

 冷却時間中だと言うのにエネルギーが満タンまで溜まってしまった。ちなみにこれを無理矢理使おうとすれば暴発して自分がダメージを受ける。せめてあれだよな。ブレード状に展開せずにロッド自身に纏わせる的なことが出来たら良いんだが。

 

「こう……一旦解放して、また戻す、ような……感じで」

 

 福音さんからの熱烈なラブコールをギリギリ回避(数回に一度は直撃)しながらイメージを探る。出来たら良いな、こんなこと。物は試しだ。ロッドをきつく握り締めて、冷却時間警告を無視しながら強引にエネルギー解放。そのままロッド全体に行き渡るように……。考えるな、感じろ。

 

「あ痛ぁ!?」

 

 バチっと掴んでいた手が弾かれて危うく落としそうになる。既の所で掴み直したが。ふぅ、心臓に悪い。つかやっぱ駄目ですよね。なんか流れそうな気がしたんだけど。……いや、まさか実際に流れてたのか? 以前の暴発はこの程度じゃ無かった。もっとエネルギーが爆発四散する勢いで怖かったのを覚えている。だとすれば。

 

「全体じゃなくて、両端にエネルギーを集約させれば」

 

 攻撃に使うエネルギーを全部に纏わせたから駄目なんじゃなかろうか。握る部分は確保しておき、基本相手にぶち当てる端の方へ寄せていく。ブレードの火力には追い付かなくとも何とか攻撃力の底上げには。

 

「あ」

 

 ──エネルギー強化、発動。残り180秒。

 

「……で、出来た」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「……蒼」

 

 代表候補生でもない、同じ程度の実力でもない、ただ男でISを使えるというだけ。そんな蒼が第二形態移行(セカンド・シフト)した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦うのははっきり言って無茶だ。しかも一人でとなれば勝てないのは勿論、生きて帰れるかすらも怪しいって言うのに。

 

「一夏。あいつの表情を見たか」

「箒……」

「あれは駄目だ。何を言っても聞きはしない」

「……じゃあ、尚更止めるべきじゃ」

「一夏」

 

 凛とした声音で言われて言葉が詰まる。しんと静まり返った一瞬。背後から蒼の叫び声(セカンド・シフト?)らしきものが聞こえてきて、思わず咄嗟に動こうとした。

 

「一夏っ」

「……箒、でも」

「あいつがそう簡単に死ぬタマか。意地でも生きて戻ってくるさ。……確実に、な」

「どうしてそう言い切れるの」

 

 確証なんてない。死んだって何らおかしいことではない。だからそう言った。蒼が確実に生きて帰ってくるなんて保証がどこにも存在しないのは分かりきっている。あるのなら私だってここまで必死になりはしないだろう。……いや、分かんないけど。

 

「これは私が見ていて思ったことなんだがな」

「……思ったこと?」

「あいつは姉さんに好かれている」

「確かに束さんとは仲が良いけど……」

 

 好かれてる、のかなぁ? どっちかって言うと面白いから弄られている印象なんだけど。だってあの束さんだし。何考えてるかさっぱり分からない不思議な人だから憶測もつかない。あれで好かれてるのか……。

 

「どういう理由かは知らんがな。姉さんはあいつを大事にしている。IS使用直後の蒼を守りきったのは紛れもない姉さんだ」

「……確かにそう言えば」

「まぁ、姉さんの事は私でも良く分からない。全て勘違いという可能性もある」

「……そりゃあ、束さんだしね……」

 

 というか箒も最近までは凄く嫌ってたから仕方ないような気が。あ、いや、今もだけど。

 

「とにかく、今は直ぐにでも戻って状況を知らせよう。あとは応援と準備を整えて、再戦だ」

「……それまで保つかな、蒼」

「保たせるよ、あいつは。後ろに人がいると意地でも倒れない馬鹿だからな」

 

 だから心配なんだよ。




もう最後くらいオリ主無双させてあげようかと考えてみたけど、うちのオリ主の無双する姿が思い浮かばなかった。

愛の力で何とかなるかな?(白目)


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初めての。

 エネルギー強化されたロッド。その強さは本当に同じ棒かよと思うくらいだった。ヤバイ。ロッド強い。この強化に関しては時間制限こそあるものの、再発動まで間隔を空ける必要がない。使用→終了→使用と繋げることが可能なのだ。エネルギーさえあれば。加えて強化状態のエネルギーチャージ率は体感で二倍ほどに膨れ上がっている……ような希ガス。実際通常時よりガンガンエネルギーが溜まっていく。ヤバイ。ロッド凄い。

 

「うぉぉおッ!!」

 

 思いっきりぶん回して迫り来る光弾を掻き消す。ちなみに驚くのはそれだけじゃない。ロッド自身の攻撃力も比べ物にならないほど高くなっていて、これこそ専用機という感じがやっと味わえた。やっとだよ。これなら量産機使った方がマシとか言われる日はもう来ない。つーか来んな。

 

「クソ、ガァッ、コラァ!!」

 

 ただまぁ、そんな動作で全てを防げる訳も無く。況してや相手は確実に学習してくる機械だ。間隙を縫うようにして放たれた光弾がモロにぶち当たる。ぐらりと揺らぐ体勢をなんとか立て直し、尚も避けて防いで当たっての繰り返し。全く嫌になっちゃうぜ。なんて巫山戯たことを言えていたのが二十分ほど前くらいまでか。

 

「フゥーッ、フゥーッ……」

 

 既にブレードの冷却時間は終わった。エネルギーも十分。今すぐにでも放てる。けど、それを放つための隙を全然見せてくれない。こんなんに一人で勝とうとする方がおかしいんですけどね。メインキャラ組の到着はまだですか。ガチで。リアルに。

 

「ッ! しつけぇ、なぁッ!!」

 

 またもや放たれた光弾を叩く。避ける。同じように数発ほど被弾する。これは痛い。じくじくと肌が焼けるような感覚。シールドエネルギーだってもう多くはない。体の方も無傷とはいかなかった。所々マジでずきずき痛むし、酷ければ血まで出ている。あのISの攻撃力が高過ぎるっつーんだ。クソが。イテェだろオイ。

 

「ぜぇーっ、はぁーっ、げほっ……」

 

 どうする。考えろ。もう動き回って翻弄して一撃当てるなんて事はエネルギー残量的に無理だ。一か八かの瞬間加速も消費が激しいためにそう使えない。この状態で確実にブレードをぶち当てるなんて状況を作れるか? 俺には到底無理なように思える。

 

「うげっ……鉄の味……」

 

 正直諦めたい。八方塞がりだろ、これ。操縦者の集中力・体力共にギリギリ、機体のエネルギーもギリギリ。相手の攻撃を防ぐのに至ってはギリギリどころかもう無理な段階までいってる。じっくりと嬲られるのを待つような感覚だ。……なんか下らんことでも考えて紛らわせようとも思ったが、それすら思い付かない。マジでヤバイだろコレ。

 

「……まーたか、テメェは、よぉッ!!」

 

 光弾。光弾。また光弾。一体何度対処すれば満足してくれるのだろう。機械だから満足するとかそういうのは無いか。今までと同じようにロッドを振り回して防ぎ、避けて、また被弾。オイコラ。またか。痛いだろうが。少しは手加減とかそういうものをしてくれても罰は当たらないと思うんだが。

 

「ぜぇーっ、ぜぇーっ、ごほっげほっ、はぁっ」

 

 いかん、このままだとマジで死ぬのを待つだけだ。何も出来ずに力尽きましたとか洒落にならん。どうせなら何かをやり遂げてから死にたい。例えば、そうだな。目の前の福音(クソ野郎)をぶっ飛ばして死ねたのなら凄い誇れると思うね。

 

「……やるっきゃ、ないよなぁ」

 

 ぼそりと呟いた言葉は自らに染み込んでいく。今まで生きて帰ることを最優先に考えてた訳だが、多少のリスクも背負わずに勝つなんて出来る筈もない。だって俺は所詮俺だ。そんなチート主人公並みの活躍を期待されても困る。

 

「──ッ!!」

 

 先ずは接近だ。瞬時加速(イグニッション・ブースト)。いつもより丁寧に、確実に、成功だけを考えて発動させる。無事成功。一気に両者の間隔が縮まる。高速で距離を詰める俺に福音は無数の光弾を放ってきた。無理そうなのはロッドで弾き、避けられるものはそのまま避ける。当たってしまうのは割り切るしかない。必要な被弾だ。まるで雨みたいな弾幕。箒のように全てを上手く躱して突撃なんて綺麗にはいかなかったが──切り抜けた。

 

「っ、らぁッ!」

 

 がっしと福音を左手で半ば抱くようにしながら拘束する。ぶっちゃけハグみたいになってるが上出来だ。むしろ良くやった。福音は近くにいる標的を屠ろうとウイングスラスターを奇妙に動かして周りを取り囲んでくる。当然そう来るよな。けれども遅い。

 

「少し痛い、けど、我慢、してくれッ!」

 

 ──エネルギー解放、刃生成。強化状態解除。残存時間10秒。

 

 これは……なるほど。エネルギー強化状態でブレード展開すると、残存時間を伸ばす代わりに強化が解ける訳か。今回はそんなに要らないがな。

 

「消えろォォォォオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「あ、あは、あはは、あはははははッ!!」

 

 笑った。笑った。笑わせてもらった。なんと愉快なことだろう。思わず腹を抱えてしまう。それくらい面白いコトなのだ、これは。

 

「ひぃーっ、あ、あはぁっ、あははひはっ!!」

 

 駄目だ。堪えきれない。涙まで出てきた。おかしすぎて笑い声までおかしくなってくる。この私をここまで楽しませてくれるのはそうそういない。それこそ彼が初めてだと言っても良いくらいじゃないか。最初からほんの少しの興味は持っていたが、ここまで私の中で大きく膨れ上がるとは思わなかった。……実に、イイ。

 

「あー……オカシイなぁ、本当。どこまで楽しませてくれるのさ、君は」

 

 それこそ運命を感じる。そんな下らないモノを本気で信じたことなんて無かったけど。彼はどうも不思議な人間だ。遠くから見ている分にはツマラナイヤツだったというのに、近付けば近付くほどその姿を変えていく。変わっていく。嗚呼、これは目を離せない。

 

「初めてだよ……そう、初めてだ。私は今初めて、君を見たような気がする」

 

 彼のことは認知できていた。数少ない私が見ようと思った人間だから。どんな性格で、なにが好きで、なにが嫌いで、普段の生活はどうなっているのかも知っている。そして彼自身の墓場まで持っていくような秘密も。

 

『ヒィッ!? い、いや……えっと、ぼ、ぼくは何も知ら──すいませんすいません! ごめんなさい! だからそのドライバーを仕舞って下さいお願いします!』

 

「……フフ。今思えば、あの時は凄く可愛かったなぁ」

 

 まるで小動物が敵に見つかったみたいに震えながら縮こまって。

 

『俺、知ってるんす。この、世界』

 

「アレさえ隠し通せれば、今頃普通の人生だったかな? いいや、それでも私は君に興味を持ったハズだね」

 

 彼の記憶に興味はない。ある程度どんなモノかは想像がついているし、その程度のモノにずっと興味を向けられるほど私は一つに集中出来るタイプとは違う。けれども彼への興味はある。むしろ大きくなっている。

 

「君を動かすのも面白いけど、うん。やっぱり君自身で動く方が何倍も面白いや」

 

 イイ、なぁ……。

 

「かなりイイよ、あっくん」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「はぁーっ……はぁーっ……」

 

 天を仰いで乱れた息を吐く。鈍い痛みが駆け抜ける左腕には、ISスーツを着た実に麗しい女性が一人。福音の操縦者である。つまるところ、やってやった。

 

「どうだ……天災、テメェ……」

 

 俺は、やったぞ。

 

「なめんじゃ、ねぇ……」

 

 こちとら腐っても転生者だ。別にそういうプライドは無いけれど、変な意地ってヤツがある。しかしながら初めてじゃないだろうか。こうやって原作の事件を俺自身で解決したことなんて。……成長、してんのかな。

 

「あ」

 

 なんて思っていればいきなりフラッと来る。そりゃまぁ限界来てますもんね。当たり前か。これISが待機状態になったら終わったんじゃとか思ってる間に待機状態になったじゃねーかどうすんだオイ。

 

(せめてこの人だけでもどうにかしたいんですけど……)

 

 無理か。

 

「──ったく、無茶しすぎね、アンタ」

「……鈴?」

 

 ふわっと受け止められて、その顔を見る。

 

「残ってた専用機組で即刻連れ戻して来る計画だったのに……なに倒してんのよ」

「……出来れば一夏が良かったなぁ」

「あたしで悪かったわね。ほら、さっさとゆっくりしなさい。アンタキツいんじゃないの」

「だな、ちょっと、うん。寝るわ……」

 

 鈴ちゃんの腕もなかなか安心するっつーのは……言わない方が良いか。



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ハジメテの。

 ぱちりと目が覚めた。酷くぼやける視界から、眼鏡が無いのに気付く。うむ。何も見えん。知らない天井かどうかも分からない。けれども背中にあたる柔らかい感触とかから、ここは旅館の一室にあるベッドの上であろうことを予測。そうじゃなかったら植里くんどこに居るのって話になっちゃうからね。てかそうであってくれ。

 

「蒼?」

「んだよ……一夏、か?」

「……うん」

 

 すっと声の方に視線を向ければ、恐らく一夏であろう人物が座っていた。不確定なのは眼鏡が無くて見えないからしゃーなし。声で九割そうだと思うんだけど、天災の声真似や高性能機械音声とかいうイタズラの可能性があるのだよ。天災怖い。

 

「はい、これ」

「ん? ……おぉ、さんきゅ」

 

 なんて思っていたところ一夏の方から眼鏡を渡してきてくれた。気遣いの出来る良い嫁さんですね。すっと差し出されたそれを受け取ってかける。これでもう何も怖くない(フラグ)。今一度鮮明になった視界に一夏の姿を捉えれば、ほっと安堵のため息が漏れた。あぁ──安心した(切嗣並感)。

 

「…………」

「…………」

 

 えっと、なにこの雰囲気(困惑)。落ち着かない。なんか知らないけど落ち着かない。こういう時は久しぶりに素数を数えよう。よし、素数。素数だろ。素数はみんな生きている。あれ、素数ってなんだっけ(混乱)。駄目だ余計酷くなってんじゃねえか馬鹿野郎この野郎。ちらっちらと瞳をバタフライさせていれば壁の時計が目に入った。五時過ぎか。スゲー寝てたんだな俺。

 

「……な、なぁ、一夏」

「……ん?」

「福音の操縦者は、無事か?」

「……多分ね。傷は酷いけど命に別状はないって千冬姉が言ってたから」

 

 おお、マジか。いやぁ、良かった良かった。ゼロ距離で強化状態のブレードぶち当てたから少し心配だったんだよなぁ。息があるのは確認したけどやっぱり気になるもんじゃない? ほっこりとしてふぅとまた息を吐けば、続くようにして一夏の方からはぁとため息が漏れる。どしたん?

 

「……蒼は、さ」

「お、おう?」

「昔から、だよね。自分の優先順位が低いの」

「……そ、そーっすかねー? あはは……」

「…………」

 

 じとっとした視線を向けられて目をそらす。やめてくれよ、そんなに見詰められるときゅんきゅんしちゃうかもしれないだろ。キモい。だらだらと汗を流しながら吹けない口笛をぴゅーぴゅーと鳴らしていると、いきなり目の前が真っ暗になった。え、ちょ、いや待てどういう状況かを冷静に把握しよう。うん。それが良い。閉ざされた視界。顔に当たる柔らかい感触。どこか覚えのある良い匂い。そして後頭部を押さえている腕らしきもの。ふんふむ。あっ(察し)。

 

「体」

「へ、へ?」

「体、どこも痛くないでしょ?」

「……ほ、本当だ」

 

 嘘だろオイ。あれだけじくじくずきずき痛んでた所が全くもって普通。違和感ゼロ。まるで最初から怪我など無かったみたいに回復してる。お、俺の細胞スゲー。まさか遂に転生者らしく隠されたチートに目覚めちまったのか。そうだ。そうに違いない!

 

「束さんが全部治してくれたんだよ。蒼へのご褒美とか言って」

 

 違った(絶望)。

 

「そっか……あの人が、なぁ」

「妙にご機嫌だったよ。なんでか知らないけど」

「そうかぁ……」

 

 そこはかとなく嫌な予感がするのは気のせいでしょうか。うん。気のせいだろ。気のせいであってくれ。天災様に目を付けられると平穏から遠退くってそれ一番言われてるから。

 

「もうこんな無茶、しないよね」

「……いや、分かんねぇよ。それは」

「蒼」

「あのよ、一夏」

 

 相変わらず頭を抱かれたまま答える。ちょっとどころか結構この体勢恥ずかしいんだけど、一夏は離してくれないだろうし。息が出来ないとかそういうのは無いんで別に大丈夫なんですがね。ええ、恥ずかしいだけで。

 

「別にさ、俺は皆を助けようとか、知らない誰かの為になんて思う奴じゃないのよ。ただ」

「ただ……?」

「その……なんつーの? 惚れた奴くらいは、救いてぇじゃん。……男的に、よ」

「蒼……」

 

 あー、うん。やべーわ。途中からもう羞恥心が限界突破してる。やだ、植里くん顔真っ赤。一夏の胸に埋めているので気付かれないと思いますが。いや、耳も真っ赤だろうから気付かれるか? どっちにしろヤヴァイ。どれくらいヤヴァイかと言うと母親にエロ本を見付けられた時くらいヤヴァイ。あれは、なぁ……(遠い目)。

 

「馬鹿。馬鹿だよ、蒼は」

「……悪かったな、馬鹿で」

「本当、馬鹿。馬鹿なんだから、もう……」

「…………」

「……そんなの、何も言えないじゃん……」

 

 それは言えてる。つーかこっちだって何も言えねーわ馬鹿。ボソッと呟くんじゃねえ。距離が近すぎて普通に聞こえてるっつーの。ったく、暑すぎて熱中症になるんじゃねぇのこれ。

 

「それは、こんな奴に惚れられたお前が悪いな」

「ほんと、馬鹿に惚れた私も大概馬鹿だよ」

 

 馬鹿同士で相性は良いだろうがな。こうやって抱かれてるのも嫌いじゃないし。……鈴には悪いけど、やっぱり一夏の腕の中が一番安心するわ。多分人間的にじゃなくて、俺の気持ち的に、だけど。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「随分機嫌がいいな、束」

「そうかな? ふふ、そうみたいだねぇ」

 

 岬の柵に腰掛けた状態でぶらぶらと足を揺らす女性。鼻唄を奏でる束の顔は月明かりに照らされている。いつもより深い笑みは、その心理を如実に表していた。にこにこ無邪気に微笑む姿はいつもと変わりない。ただ、いつものどこか退屈そうな雰囲気が掻き消えている。

 

「ちーちゃん。あっくんは凄いんだよ」

「……あぁ、そうだな」

「一人で軍用ISを相手に勝っちゃうんだ。凡人だのなんだのと言ってるくせに、君が凡人なら他はなんだって言うんだい? ってね」

「……あいつは、少なくとも普通だよ。自分のために動く分にはな」

 

 千冬はその近くの木に背中を預け、束とは逆の方を向きながら話す。決してお互いの方を向かない。向く必要がない。変に深く繋がってしまった間柄、別に見なくとも容易に想像が出来るのだ。向こうがどういう顔をしているのかなど。

 

「だよねぇ。でも、守る対象があると違う(・・)

「……」

「爆発的に跳ね上がるんだ。能力が。思考も、判断力も、全部が全部」

「……言っておくが、あいつは私の大事な家族だ。もし手を出せばお前であろうと──」

「それくらい分かってるさ。手は出さない。間接的にも、直接的にも。あっくんは死なさないし、殺させもしない」

 

 それは果たして安心と言えるのか。逆に言ってしまえば死にたくても死ねないという事だ。言葉を発したのが篠ノ之束でなかったのなら、もっとストレートに受け取れるに違いない。言ったのが天才だからこそ、天災だからこそ、余計に考えてしまう。

 

「でも、ちょっと一緒に遊ぶくらいは良いよね?」

「ちょっと、なら良いがな」

「ちょっとだよちょっと。ほんの先っぽだけ」

「調子に乗るな馬鹿」

 

 くすくすと束の笑い声が辺りへ響く。千冬は呆れた様子でひとつため息をついた。

 

「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

 

 吹いていた風が、一度強くうなりを上げる。

 

「私もそこそこ楽しいよ。そこそこ(・・・・)、ね」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「えっと……蒼?」

「…………」

 

 夜。旅館の部屋。夕食も特筆すべき事など無く食べ終わり、お風呂にも入り終わった今。俺と一夏はそれぞれ敷いた布団の上で向かい合いながら座っていた。尤も、今から何をするかなんてあっちは気付いて無いだろうけど。

 

「……ヘタレ、だよなぁ、俺」

「へ? あ、蒼?」

「駄目だ。俺はよ、駄目な男なんだ、一夏」

「ど、どうしたの?」

 

 すっとポケットから束さんに貰った小瓶を取り出して栓を開けた。ゴムだって持っている。どうかこいつを飲んだ後の俺がなけなしの理性でつけることを祈ろう。頼むぞビースト植里くん。つっても紛れもない俺自身なんですけどね。

 

「だから一夏。俺からこれだけは言っておく」

「な、なに……?」

「……エッチ、しよう」

「!?」

 

 ごくん。一気に飲み干す。うぐぉ。なんだこれクッソ変な味がするのに後味がさっぱりして気持ち悪い。あの天災まさか不良品を掴ませやがったのか!? あ、いや待てよ。うん。待て待て。ステイ。……これちょっとヤバイわ。

 

「……流石だな、束さんは。感謝するしかない」

「え、ええっと、その、あああ蒼!?」

「なぁ、一夏」

「うぇえ!?」

 

 動揺する一夏に優しく抱きつく。そういう所とか普通に可愛いよなお前。マジで俺の彼女で良いのかと悩んじゃうくらいだ。しかし本当凄えなこれ。ある程度の理性は残ってると思うんだけど、ちょっと性欲が抑えられなくなってるというか。うん。ぶっちゃけると本能の猛襲がヤバイ。

 

「……良いか?」

「え、えっと、その、それは……」

「嫌ならそう言え」

「…………良い、です」

 

 か細い声で返された言葉はより一層刺激してくる。どうしてそう煽るのが上手いのか。本当に無自覚なんですかねコイツ。狙ってやってんじゃねぇの。まぁ、どっちにしろ今は関係無いけど。

 

「良いんだな? 言っとくが俺は本気だぞ?」

「あ、その、ひとつだけ」

「なんだよ」

「……や、優しく、お願いします……」

 

 マジか、こいつ。

 

「善処する」

「ぜ、善処って──うわっ!?」

「まぁ、お前を粗末に扱うなんてありえんが」

「あ、蒼……」

 

 とさっと軽い力で一夏を布団に押し倒し、その上に被さるようにして顔を近付ける。覚悟は良いか? 俺は出来てる。大丈夫だ、ゴムの存在は忘れちゃいない。こればっかりはきちんとしなきゃあな。

 

「好きだ、一夏」

「う、うん。私も……だよ?」

 

 そうして俺と一夏は、ゆっくりと唇を重ねた。



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エピローグ。

「……、」

 

 朝。ちゅんちゅんという鳥の鳴き声は聞こえないが、立派な朝ちゅんという奴だろう。なんせ昨日の夜、俺たちは大人の階段を登った。やったぜ。植里くんは果てしない優越感を得ている。あくびを一つしてからごろんと寝返りをうち、隣のそいつを見た。

 

「綺麗、だよなぁ」

 

 コイツ。本当に男だったのかと疑うくらいに。いや実際男だったんですけどね。今はバリバリ女の子やってるが。普通に考えたら釣り合わないどころか烏滸がましいレベルだよなぁ。こんな美少女と俺みたいなのが付き合ってるなんて。嬉しいけど。正直一生大事にしていきたいけど。

 

「……おい、一夏。起きろ」

「う、うぅ……ん……」

 

 もぞもぞと動きながら抵抗の意思を示すうちの嫁さんは世界一可愛い。異論は認めん。しかし、うん。やっぱり疲れてたりするのだろうか。いつも規則正しい生活をして早寝早起きだというのに、今日は俺の方が早く起きてしまった。まぁ、少しっつーかなんつーか、理性が吹き飛びそうでしたし、自分の。

 

「一夏。おい、朝だって」

「まだ……ねむ……」

 

 だからもう朝だっつってんだろ。じゃけんさっさと起きましょうねー。ほっぺをつんつんと突付きながら起きろ起きろと呼び掛ける。もしくはゲットアップでも可。続けていれば流石に違和感を覚えたのか、すっと瞼が持ち上げられて薄く目が開く。

 

「おはようだな、一夏」

「……おは……よう……」

 

 くぁっと口元を手で抑えながらあくびをして、んんーと声を漏らしながら上半身を持ち上げ──るのは良いんだけどお前自分がどういう状態か分かってんの? いやわかってねぇな。確かに整ったソレラは凄く綺麗で良いんですがね、えぇ。

 

「まだ寝惚けてんな、お前」

「へ? ……っ、あ、え……ぅ」

 

 今気付くのかよ。恥ずかしそうにまた布団の中へもぞもぞと入っていく姿は良いですね。癒される。朝からテンションがアゲアゲだ。いつもは低い。もう朝からテンションだだ下がりしているくらい。朝ってなんか絶望感が無い? あぁ、今日も行かなきゃ……みたいな。今は少し違いますがね!

 

「腰とか大丈夫か?」

「……す、少し」

「少しか」

「普通に動く分には、多分、大丈夫、かも」

 

 不確定要素満載である。何はともあれ気遣ったり手助けしたりとやることは沢山。話を持ち掛けたのは俺なのだから責任はきちんと取る所存だ。勿論将来的なモノも視野に入れて。父さん、母さん。息子は無事結婚出来るかもしれません。

 

「……とりあえず起きるか」

「だ、だね」

 

 この後に不意打ちでほっぺにキスをしたところ耳まで真っ赤にしながら俯く乙女が居たらしい。随分と可愛らしい人ですね。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「蒼さん」

「ん?」

 

 クラス別のバスに乗り込んでペットボトルのお茶を飲んでいたところ、トントン肩を叩かれて名前を呼ばれる。くるりと振り向けばそこにはニコニコ微笑むセシリア。なんだろう。綺麗な笑顔だって言うのに嫌な予感がする。隣の一夏も何か感じ取ったようだ。自然、身構えていれば。

 

「昨夜は、お楽しみでしたね?」

「ブフォッ!? げほっ、ごほっ!」

「ちょ、な、セシリア!?」

 

 ちょっと待て。ちょーっと待てよオイ。待て。待ってくださいセシリアさん。貴女なんでそれを知っていますのん? まさか見られてた? 千冬さんよォー、あんた人が殆ど通らないような位置って言ったじゃあないっすか。嘘だったんすか、千冬の姉御よォ。

 

「な、なんでそれを……」

「朝から随分と仲良しでしたので」

「セシリア。そういうの駄目だって……」

「あら、幸せを祝うくらいよろしいでしょう?」

 

 果たして祝う気はあるのだろうか。いや、ない。

 

「セシリア、お楽しみとはどういうことだ?」

「ラウラさん。それはですね、お二人が──」

「そこまでだセシリアッ!!」

「それ以上は駄目だよッ!!」

「むぐぐっ」

 

 がばっとヤベェことを口走りかけたセシリアに襲い掛かったのは箒とシャルロット。妥当な処置です。ラウラさんの純情ハートに何てことしてくれようとしてんだ。全く。あと人の性活をあまり言い触らすんじゃないよ。さっきの言葉通りであれば言い触らす以前に結構な人に気付かれてそうだが。

 

「ならば蒼兄。教えてくれ」

「ラウラ。気にしないでくれ。ホント。お願いだから」

「む……お願いとあらば仕方無い」

「や、やれやれだぜ……」

 

 やれやれ系主人公は以下略。真相がかなりバレていると知った一夏は隣で顔を隠しながらもうやだなんて呟いている。またしてもお耳が真っ赤。いつもとの違いがあったんだろうね。仕方無いね。割り切ろう。

 

「昔からの幼馴染みに先を越された私と鈴の気持ちを考えてみろ……! ネエサン、コロス」

「箒さんの目がマジですわ」

「落ち着いて、箒。お願いだから」

「先を越された……? あぁ、なるほど(察し)」

 

 ラウラが察した、だと(驚愕)。もうだめだぁ……おしまいだぁ。いや待てまだチャンスはある。諦めるんじゃない俺。勘違いならワンチャン。

 

「知っているぞ。こういう日は赤い飯を炊くのだと部隊の者が──」

「よしよしラウラ。こっちに来ようか」

「お赤飯、炊いてみたいですわね」

「セシリアやめて。遠慮しておいて」

「姉サン死スベシ慈悲ハナイ!!」

「箒は戻って来てよぉ!」

 

 シャルロットさん大変そうだなー。事態の収拾お疲れ様です。後で労って上げよう。頭に手を当てて唸っている様子はみんなのまとめ役兼お姉さんみたいだ。やっぱり凄く良い人なんだよなぁ。

 

「ねぇ、植里蒼くんっているかしら?」

 

 あ。

 

「俺ですけど……」

「君が……あぁ、うん。確かに、ね」

 

 わ、ワーニングワーニング。静かに警戒。この人の動きはしっかり覚えている。原作にて一夏にキスをしたが故にヒロインズが不機嫌になったあの場面。そのキスをした人こそこの女性。名前を──。

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

「あ、えっと……さ、さーせん?」

「ふふっ。どうして貴方が謝るのかしら。むしろ此方としては感謝しているくらいなのに」

「あ、あはは……」

 

 だって貴女福音さんに対する愛が凄かったような覚えがありますし。

 

「ありがとうね、男の子。それと──彼女さんを大切に、ね?」

「え、あ……う、うす」

 

 くるりと振り返ってナターシャさんはバスを降りていく。やべー。耳元でぼそっとそんなことを囁かれるものだからつい驚いてしまった。と、とりあえずキスされなくて良かったわ。……今更になって警戒する必要無かったかもと思ってみたり。

 

「……そりゃあ、大事にしますよ」

「へ、ちょ、蒼?」

 

 さらさらと一夏の頭を撫でながら考える。中学三年へと上がる春休みに起きた出来事。あの時から俺の人生は大きく変わった。変えられた、かもしれないが。友人が女になって、色々と苦労させられて、途中で事故ったりなんかもして、眼鏡をかけるようになって、紆余曲折ともスムーズとも言えないような過程の末に恋人になって。

 

「なぁ、一夏」

「な、なに、蒼」

 

 そこからまたISを動かしたりして、天災に捕まって一時行方不明なんかになって、IS学園に入学することになって、原作通りの流れを体験して。うん。これだけでも随分と充実した一年間と少しだったことが分かる。もう一般人とか気軽に言えねぇよこれ。俺のアイデンティティーが。とまぁ、そんな感じなのである。長いようで短いようで。そんな過程を一言で表すとするなら、そうだな。

 

「俺、今めっちゃ幸せだ」

 

 俺の友達が美少女になったから凄くマズい。




完結。




三ヶ月もの間ご愛読ありがとうございました。4kibou先生の次回作にご期待ください!(次回作があるとは言ってない)

エロシーンが無い? オカシイなぁ、心の綺麗な人には見える設定なんですが(すっとぼけ) 

しかしながらようやく一息つけそうです。連載はやっぱり厳しいのよー(白目)まぁ、毎日投稿してた自分もどうかしてたと思いますが。何はともあれこれで終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!


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番外編:二人で過ごす休日

やあ (´・ω・`)
ようこそ、くそったれた二次小説へ。
この前書きはサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この話を書いたんだ。



「おはよう、蒼」

 

目を覚ませば俺の彼女(かわいい)が至近距離でこちらを見つめていた。ちょっとでも動けば唇が触れてしまいそうなくらいである。柔らかい笑みを浮かべて朝の挨拶をかけられたが正直混乱気味なので「お、おう……おはよう一夏」としか言えない。冷静になれ植里蒼。先ずは落ち着いて状況を整理するんだ。朝起きたら同じベッドに一夏がいました。……あれ、別に変なことでもなくね?

 

「えーっと……今、何時だ?」

「八時半、くらい?」

「くらいってなんだよ」

「いや、さっき見たら八時だったし」

 

え、じゃあなに。三十分ほどの間、お前はずっと俺の寝顔を見てたってワケ? なにそれ恥ずかしすぎて赤面必至なんですケドウケるー! いやウケてたまるかこんちくしょう。自分でも分かるくらい顔が熱くなってきた。正直に言おう。なんか恥ずい。

 

「……時計見ろよ、時計」

「あ、もしかして恥ずかしかった?」

「うっさい。いいからそういうの」

「大丈夫大丈夫。蒼の寝顔は可愛いから」

「~~~ッ!!」

 

ああもうなんだこいつ。こんな場面で一夏(♂)的なイケメンっぷりを発揮してんじゃねえよ。俺はヒロインかっつーの。冗談じゃない。確かにうちの嫁さん(予定)は何かと積極的で攻めるタイプだが。いや、男の俺がヘタレてるからそうなってるだけだと信じたい。ナチュラルにヘタレ認めてもうたやないか。ちくせう。

 

「そういう問題じゃねえよ……」

「耳、赤くなってる」

「……ほんと、勘弁してくれ……」

 

頭のてっぺんまで布団をかぶって潜り込む。もうやだこの恋人。普通そういうのって俺の役割じゃないの? 男の照れとかどこにも需要ねぇよボケ。最近BLが流行ってるからですか? 照れる男も需要があるんですか? ないでしょうjk。

 

「ごめんごめん、からかいすぎたって」

「大体可愛いのはお前の方だろうが……」

「そっ、そういうのはズルいって」

 

チャンス到来。

 

「別にズルくないだろ」

「いや、その、唐突にはちょっと……」

「ちょっと、なんだ?」

「えっと、その……」

「………耳、赤いぞ?」

「~~~ッ!!」

 

よし、反撃成功。やったぜ。我ながらよくやったと褒めてやりたい。ヘタレのくせして中々やるじゃないかとか言われそう。胸中で自傷行為をしていくスタイル。やはり俺はドMなのではと時折真剣に考えてしまうのが最近の悩みごとだ。どうでもいい。

 

「……ばーか。蒼のばーか」

「はいはい、可愛い可愛い」

「っ……もう」

「ん」

 

ぎゅっと抱いて目を閉じる。片方の手でさらさらと髪を撫でながら、ほんのりとした温かさを堪能する。人肌のぬくもりってやつだね。不思議と落ち着く。なんだかんだ言ってこいつの事好きなんだろうなぁと再確認させられる感じだ。やだちょっと恥ずかしくない?

 

「どうする、起きるか?」

「……もう少しだけ」

「そっか」

「うん」

 

結果、布団から出る時には九時半を過ぎていました。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

パタパタと一夏が洗濯物を畳む側で黙々と本を読んでいる俺。千冬さんに渡されたIS関連のやつです。手伝おうかと一夏に訪ねてみたのだが、大丈夫だよと断られてしまったのだ。かと言ってどこか遊びにいこうにもなんというか折角の休日にこいつと過ごさないのは勿体無いというか納得いかないというか。うむ。めんどくせぇな自分(こいつ)。今更ながらよくこんな人間と付き合ってくれたもんである。

 

「平和だねー」

「だな」

 

超平和。後ろにバスターズがついちゃうくらい。時間の流れがゆっくりに感じてしまう。ゆっくりしていってね。おかしい。ISの世界って波乱と混乱が狂喜乱舞して重なりあう混沌(カオス)極まりないものじゃ無かったのか。凄い偏見。

 

「……」

「……」

 

パタンパタンと服が畳まれ、ぺらぺらと本の頁が捲られる。平穏って良いもんだなぁ。天災の介入とか他国ヒロインとのいざこざとか亡国なんちゃらの襲撃だとかそういうものの無い日常。なんつーか、結局大切なのはこういう時間なんだなって思った。小並感。暇なんだけど、その暇がいいというか。

 

(……む)

 

なんて考えていれば急に眠気が。いかんいかん。疲れでも溜まってんのか俺。目頭をぐにぐにしてから再度本へと視線を落とす。しかしそれで眠気が収まる筈もなく。次第に瞼が重くなってくる。これは駄目だ。

 

「なぁ、一夏」

「ん、はい」

 

ぽんぽんと太もものあたりを叩きながら微笑む一夏。流石に限界が近かったのでこてんと躊躇いなくそこへ頭を置いた。温かい。いい匂い。いい感じ。やはり一夏の膝枕は良いなぁ。

 

「俺、名前呼んだだけだぞ」

「そこはほら。声のトーンで、ね?」

「なんだ、それ。すごいなぁ……」

「蒼のことはよく知ってるから」

「そっか……」

 

声のトーンで判別なんて出来るのか疑問だが、それを詳しく聞くのはまた今度で良いだろう。つーか洗濯物畳んでるのにこんなことして良いのか……と思えばちょうど終わったしね、なんて言いながら頭を撫でてくる。気持ちいいです。あと眠気がマッハ。

 

「おやすみ、蒼」

「おう……」

 

何もない休日。たまには部屋でゆっくり過ごしてみるのも、悪くない。




長らく書いてなかったのでクオリティが心配ですが、そんなに読む人はいないでしょう(適当)

多分最初で最後の番外編。


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二期(注:投稿日をご覧下さい。)
始まりは二回目


お久しぶりです。

俺の友(ry 2期ィ!


原作では一夏ヒロインズと呼ばれる彼女達が各々の夏休みを過ごしていた時、俺──植里蒼はとってもキュートで可愛い彼女とゆったりまったり過ごしていた。意味が被ってる? それだけ俺の彼女が可愛いってことさ。個人的贔屓目に見て世界で一番ってところだ。うん、こんなこと現実にはあまり言えないけれども。

 

「蒼ー、そこどいて」

「おーう」

 

せっせと洗濯物を抱いて動き回る一夏に言われ、ごろんと横に体を動かす。最近は夏休みで自堕落な生活を送り続けてこの結果だ。やだ、蒼くん超ヒキニート……! 仕方ないんだ、だって一夏が身の周りの世話を進んでやってくれてるし。もう若干太りだしてるもの。なるほど、これが幸せ太りってやつか。

 

「蒼ー、お昼どうする?」

「あん? あー……お前の作った飯」

「いやそこは普通何を作るかを言って欲しいんだけど……」

「じゃああれだ。うん。お前の愛が込められたらオムライス」

「普通のオムライスねー」

 

勇気を出した軽いジョークをさらっと流されて思わず心がポッキーしそうなのを何とか持ち堪える。昔はいっつも顔を赤らめてたのに、あの時(・・・)からさも慣れましたと言わんばかりの対応である。俺、未だに一夏からのスキンシップちょっと恥ずかしいんだけど。

 

「……全く、もう」

「ん? なんか言ったか?」

「何でもないって。よーし、ご飯作るからちょっと待ってて」

「いつもマジで悪いな」

「好きでやってるから大丈夫」

 

……いやマジで、そういうことを唐突に言うのはやめて欲しい。俺が耐えきれない。くそう、童貞卒業してもあまり変わってない。ただ知らない女の人とでもほぼスムーズに話せるようになったのは大きな進歩です。マズイな、女性恐怖症を克服したら俺のアイデンティティーがクライシスする。このことを何度思っただろうか、激しいデジャヴ。

 

「愛……愛……血とか入れるべきかな……?」

「やめなさい。いつも通りで満足だから」

 

ケチャップと混ぜればバレないし……と呟く一夏へ止めるよう声をかける。ヤンデレ属性入ったお前とかどこにも需要ないから。というか今でもなお属性過多なのに更に増やされてもという感じだ。俺はありのままの君が好きだよ、と心の中で囁いておく。

 

「冗談だって。蒼はすぐ本気にするから」

「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ……」

「いやそんなことない……よ……?」

 

お前自身が疑問形でどうするんだ。断定しなさいよ、ちょっと不安になってくるでしょうが。そんなやり取りをしながら、キッチンでエプロンを着けた一夏がぱたぱたと動き回る。鼻歌なんてしちゃってとても御機嫌な様子が俺としては微笑ましい。はは、知ってるか? あれ、実は男だったんだぜ。なんて言って信じる人間がどれ程いるだろう。恐らく、殆どいない筈だ。

 

「……一夏」

「なに?」

「いや、呼んだだけ」

「なにそれ」

 

ふふっと笑いながらトントンと包丁を動かす一夏。気持ちリズムが軽快になった気がする。気のせいじゃなければ、だが。

 

「ねぇ、蒼」

「ん?」

「いや、呼んだだけ」

「……なんだよ、それ」

 

思わずニヤけながら答えて、二人同時に噴き出した。途切れていた鼻歌をまた始めながら料理する一夏の後ろ姿を見て、ああそうかと理解した。どうやら、気のせいでは無かったらしい。全くもって本当、お前は色々と反則すぎるんだよ。

 

 

◇◆◇

 

 

「やるんじゃなかった……」 

「うん。まぁ、あれは流石に恥ずかしすぎるよなぁ」

 

待ちに待った一夏お手製のオムライスには、ケチャップにて綺麗なハートマークと、「お、おいしくなぁれ……」というサービスが付いてきた。聞き間違いかと思って一瞬硬直し、がばっと顔をあげれば対面した頬を真っ赤に染め上げた一夏に、全てを察する。こういうのはまだ駄目なのね。

 

「まぁ、でも、あれだ」

「なに……?」

「ごちそうさま。……色んな意味でな」

「やめて……ほんとやめて……」

 

耳まで赤くなりながらテーブルに顔を伏せる一夏を笑いながら、キュッキュッとスポンジで皿を洗っていく。これくらいは手伝おうと俺から申し出た。本人もああいう状態だし、頼り切りになるのは申し訳ない。結局はどこかでヘタれている、そんな自分に嫌気がさす。どこかの誰かさんが言うには、それも俺の俺らしい部分らしいが。

 

「……ん? 箒からメールだ」

「マジ? 珍しいな」

「え? 意外と連絡取るよ?」

「……そうか、あぁ、そうっすか」

 

まぁ、これといって強い繋がりがある訳でもない、薄い幼馴染みたいなもんだからなぁ。主に一夏との方が仲良くて、俺はおまけみたいなもんだった。それでもちゃんと接してくれたんだから、実はちょっと感謝してる。

 

「へぇ……」

「何の話だった?」

「みんなでプール行こうって。ちなみに蒼にも伝えておけって」

「了解了解。大体いつものメンバーだろ」

「多分ね」

 

昔なら女の子とプールとか絶対無理だった。直後に断っていた自信がある。そう考えると、一夏(こいつ)にはいつでもどこでも助けられてばかりで、返すにも返しきれるかどうか。

 

「一夏は、さ」

「…………ん?」

「俺と一緒に居て、幸せ──」

「うん」

 

食い気味に言われて、反射的に目を見開いた。

 

「幸せだよ。私は、蒼と一緒に過ごすだけで、幸せ」

「……なら、いいんだけど」

 

一夏がそう言うなら、そうするしかない。二人して一緒に生きて、笑って、泣いて、老いて。そうすることで返せるのなら、俺だってそうしていく。けれども、こんな俺で本当に一人の人間を幸せに出来るのかと、どうしても考えてしまう。……一夏にはバレてるかな。

 

「深く考えすぎだよ、蒼は」

「……そう、かね」

「そうだよ。私は蒼と一緒に居れて幸せ。蒼も私と居れて幸せ。それでいいよ」

「俺がお前と居れて幸せなのも確定かよ」

「幸せじゃないの?」

「いや、めっちゃ幸せ」

「ふふ、そっか」

 

ひとつ、息を吐いて。

 

「──()も、()も、関係なく、織斑一夏は幸せなんだから」

 

いい笑顔でそう言い切って、一夏はこちらを見詰めてくる。あぁ、もう、だからこいつは、こいつには敵わないんだ。真っ直ぐに生きる織斑一夏は、曲がって捻くれた植里蒼を引っ張ってくる。それが、どれだけの安心感を与えてくれるか、彼女は分かっているのだろうか。

 

「……なんつうか、ごめん」

「いいよ、だって蒼のことだし」

「俺、頑張るよ。お前のためにも」

「うん。期待してる」

 

……本気で、頑張らなきゃな。

 

 

◇◆◇

 

 

「──もうすぐ」

 

ぽつり。

 

「もうすぐだ。もうすぐ会える」

 

ぽつり、ぽつり。

 

「あぁ、楽しみだ。一度は直に顔を見てみたかった」

 

ぽつり、ぽつり、ぽつり。

 

「なぁ──植里、蒼」

 

黒が、揺れる。

 




ギリギリセーフ!(投稿日を見ながら)

お察しの方もお察し出ない方も読んで下さりありがとうございます。四月馬鹿です。エイプリルフール。

勿論ながら続きません。すいません。新作を考えてる時にふと思い付いただけなんです。

リハビリも兼ねてるのでそこら辺はお察し下さい。


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番外編とも言えないナニカ
私はこの可能性を見ない……ッ!


息抜き。リハビリ。(割烹とは関係)ないです。












注)オリ主くんがオリ主ちゃんになった世界線です。引き返すならいまのうちだよ。


 

 

 

 

 

 

 拝啓。お父様、お母様。

 ……もとい、前略、俺のご両親さま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――植里蒼は、女の子になってしまいました。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 窓の外を見れば、大雨が降っていた。

 

「…………、」

 

 ざあざあと鼓膜を震わせる雨音を、窓を隔てて眺める。気分はさながら深窓の令嬢だ。なんだかおしとやかに思えてくる気分にノスタルジックさを感じつつある。灰色の雲と涙のように流れる雨。さながらそれは俺の心のようで、失ったナニかはもう戻らないという事実を押しつけてくる。ああ、なんてことだろう。現実はこうもおぞましく、恐ろしい――

 

「ただいまー」

「……おかえり、一夏」

「? なんだ、窓の外なんか見て。お嬢様ごっこか」

「おかえりなさいですわよ」

「似合わないな、蒼」

 

 女になっても、なんて言ってくる一夏を殴るかどうか俺は本気で迷った。ちょう迷った。しかしここは窓枠から外の景色を見て悲嘆にくれる箱入り娘。深窓の令嬢ウエサト姫である。寛大な心をもって許さなければお嬢様ポイントがなくなる。ふふふ、見てろイケメン。

 

「よくってよ!」

「は?」

「わたくしに跪きなさい! そして豚のような悲鳴をあげろ!」

「キッチン借りるぞー」

「スルーするのやめて? 心にくるからね?」

 

 ポッキーのごとく折れそうな心を保ちつつ振り返れば、そこにやつの顔が見えた。織斑一夏。メタ的に言えばこの世界線の主人公である。ヤツは当たり前のように俺の部屋にあがってなぜか台所へと入っていった。ねえ、俺の部屋なんだけど。

 

「なに買ってきたんだよー」

「ん? あー……まあ、適当に料理の材料」

「それを聞いてるんですけど(真顔)」

「なんでそこでマジトーンになるんだ……」

 

 疲れてるのか? なんて聞いてくる一夏。たしかに疲れている。俺は確実に疲れている。なにせ数ヶ月前にどこかの誰かさんのせいによって男の子から女の子へとなってしまった。うん、なにかの間違いだろこれは。俺より一夏のほうが主夫力あるし合ってるんじゃないか。おかしなクスリで弄るにしても注入する相手間違えただろあの天災。

 

「というか雨すごいぞ。この分だと明日まで降りそうだ」

「まじかー……じめじめすんの嫌いだわー」

「冬場の雨はちょっとなあ」

 

 と、同意しながらもなにやらキッチンで作り始める一夏。時刻はちょうど十二時半を回った頃。お昼時にしてはまあちょうどいい時間と言えなくもない。

 

「なにしてんの」

「見りゃ分かるだろ」

「見ても分かんないから聞いたんですけど(真顔)」

「ええ……(困惑)」

 

 胡乱げな目でこちらを見てくるイケメン野郎。やめろ、惚れるだろ。もう惚れてる。……え? え??(混乱)

 

「嘘だろ承太郎……」

「いや急に何言ってるんだ……」

「すまん。ちょっと俺の迸る熱いパトスで、思い出を裏切りそうで……」

「少年が神話になるのか」

「ワンチャンある」

 

 ない。そんな他愛もない会話をしつつも、一夏は着々と料理の準備を進めていく。なんだろう。この光景に慣れ始めた自分が怖い。なにが怖いってこの状況に特に否定したくなる感情がないのが怖い。

 ど う し て (震え声)

 

「やばいやばい……」

「……どうした、蒼。今日のおまえなんかおかしくないか?」

「おまえのせいじゃい!」

「ええ……(困惑)」

 

 おまえよく困惑すんな(困惑)。ちょっと困惑の意味がゲシュタルト崩壊しかけている。

 

「っていう冗談は置いといて」

「あ、冗談なんだな」

「冗談じゃなかったらやばいだろ。あっはっは。……やばいなー、コレ」

「?」

 

 首をかしげるイケメンにからからと笑いながらチラリと自分の体を見てみる。現実は非情である、という事実をこんな形で再確認するとは思いもしなかった。ボサボサの髪と貧相な体躯。おめでとう! 非モテ系陰キャ植里くんは地味目なちっぱいオタ少女に進化した! どこらへんが進化しているのか。ちょっとよく分かんないですね。

 

「で、お昼はなんだよ、あなた」

「ハンバーグだよ、マイハニー」

「――――」

「? 蒼?」

「……君、ちょっと黙れ」

「なんでだ!?」

 

 そこは「なんでさ」だろう、なんて言葉を喉元でこらえつつ俯く。うはーやばいこれ。なにこれちょうやばい。なんでさらっとそういう返ししてくるのおまえ。これおまえ俺じゃなかったら間違いなく勘違いしてるよ? ほんとおまえ俺のこと好きなのかとか勘違いしちゃうよ? どうなの? 死ぬの? ていうか俺が死にたい。

 

「はあ……はあ……!」

「……大丈夫か? なんか、息荒いけど……」

「敗北者……?」

「いや言ってないけど」

「取り消せよ……いまの言葉……!」

「本気で大丈夫か、頭」

「大丈夫、大丈夫……ふぅ」

 

 落ち着いた。大丈夫だ、問題ない。むしろ問題しかない気がするけど問題ないって言ったら問題ない。よし、もう落ち着いたぞ。これだけ頭を回せるなら俺はぜんぜん平気だ。なにも間違っちゃいない。よしいける。顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、本当に平気そうだな」

「――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔がよすぎるっ……!

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああもう無理いいいいいい!」

「へぇっ!?(汚い高音)ちょっ、蒼!?」

「なんでおまえはそうなのお! 無理だろこれえ! 無理だってこれえ! ああもう本気で誰か俺を殺してくれよお! むしろ死んでやるよお! ああああああああ!」

「いや本当にどうしたんだおまえ!? いいから一旦落ち着け!」

「うわああああああん! 一夏ああああああ!!」

 

 天災ウサギぜってぇ許さねえ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「……落ち着いたか」

「うん……サンキューな……」

 

 ずず、と湯飲みを傾けながらぼそぼそと答える。正直気まずい。ものっそい気まずい。どうしようコレ。なんか変な発狂したヤツとか思われてないかコレ。大丈夫かコレ。

 

「まあ……その、なんだ? 蒼も色々、女になって苦労とかあったんだろうし……大変なのは分かるからさ。愚痴とか、助けて欲しいところとか……なんかあったら言ってくれよ。俺にできることならなんでもするからさ」

「いまなんでもするって言ったよね?」

「? おう、言ったぞ」

「じゃあ……あー……どうしよっかなあ……コレ……」

 

 はあ、と力ないため息が自然と漏れた。ほんとどうしようコレ。どうにもならないんだけど。特にコイツ相手だからどうしようもないんだけど。でももうちょっとね、無理なんだよ。なんていうか、こう、長く続いてしまって、しかも戻る方法諸々が分からないままというのがトドメになっている気がする。

 

「……俺さー」

「ああ」

「今年の四月にさー……その、(こんなん)になったじゃん?」

「そう、だな……」

「いや、そこで気ぃ遣わなくてもいいから……」

 

 実際問題事実である以上はどうしようもない。植里くんはジョグレス進化して植里ちゃんになった。誰と合体したんだよ。変なクスリと混ざり合ったからそれか? いやねえわ。むしろ進化でもなんでもないよこれ。すくなくとも胸部ぐらいはキョダイマックスになるとかそういう特典はなかったんですか?

 

「そっからさあ、色々あったじゃん」

「まあ、そうだよなあ」

「うんうん。でさ……周りは騒がしいし、親は認知してくれたけどプレッシャーすげえし、千冬さんからのなんだか可哀想なものを見るような目に心が震えたし」

「それについては弟として申しわけなく思う」

「いいよ。別に、そんな? 気にしてませんし? ……ぐすん」

「すっげえ傷付いてる……」

「冗談……っ。ま、そんなことがありながらもさー、こうやって何でもない日々を過ごしてきたワケですよ」

 

 そう、それ自体はなんら問題なんてない。むしろ弾とか数馬とか、俺が女になって困っていても変わらず居てくれた奴には感謝してる。もちろん目の前の一夏にも。女性恐怖症のくせに性転換なんて希有な体験をして、それでちょっと恐慌状態に陥っていた俺をあやしてくれたことだってあるのだ。そこに文句を挟むところなんて一ミリもない。

 

「正直、そんな時間がずっと続けばいいと思ってた、最初は」

「蒼……」

「おまえらと馬鹿やって、笑い合って、でもってちょっとだけ泣けてさ。そういう……なんていうの? 月並みの幸せっていうのかな。そんなんが、ずっとあればいいなあって思ってた」

「…………、」

「だっていうのになあ……やっぱりおまえ、織斑一夏(主人公)だよ」

「は?」

 

 すっと、前を向く。虚をつかれたような一夏には、きっと一分も伝わっていない。そんなことは分かってる。所詮人間同士の意思疎通なんていうのは言葉に頼らなくちゃ確証なんて得られない。頼ったとしても疑問が残るぐらいなのだから、なにも言わなければなにも伝わらない。だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あなたに恋をした」

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたに跪かせていただきたい、夏よ」

「ちょっと待て?」

 

 なんだろう。最大限の俺の気持ちを伝えようとしたのだが、どうにも一夏の様子がおかしい。なんだなんだ。ちょっと今良いところなんだぞ。

 

「どうした一夏。なにか問題でもあったか?」

「えーっと、むしろ問題しかないんだが……」

「じゃあ言い直す。――時よ止まれ、君は誰よりも美しいから。永遠の君に願う。俺を高みへと導いてくれ」

「いや言い直すなよ。おい、ちょっと。蒼?」

「流出――!」

「千冬姉ー!」

「やめろォ!?」

 

 安易に世界最強を呼んではいけない(戒め)しかしながらどうやら織斑くんは俺の告白が気に入らなかった様子。なんでだろう。真剣に考えてみるが答えは一向にでなかった。やっぱり銀河一ウザい水銀では駄目だったのだろうか。

 

「誤魔化すなよ……本当、悩みとかあるなら聞くぞ?」

「おいおい、そんなこと気軽に言っていいのかあ?」

「いいよ。だって友達だろ、俺たち」

「……あー……いや待って。それは今、本当、マジで待って。ちょっと、クルから」

「?」

 

 それはちょっと無理だ。色々あったあとにその台詞は重いきつい。ああどうしよう、俺はつらいたえられない。死んでくれ杏寿郎。

 

「蒼?」

「あー……その、さ。いや……冗談でも言わねえと、耐えらんないだけでさ」

「……あ、うん……?」

「……ほんと、悪いんだけ、ど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれ、おまえに惚れてる、みたい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うそだろ」

「マジ、なんだよなあ……」

 

 マジじゃなかったらここまで胸がきゅってならないんだよなあ……。ほんと、つらい。

 

「え、えっと、その……いつから?」

「……二月前」

「ふ、ふたっ……!?」

「……文化際、あったろ。そのときノリで社交ダンス踊ったじゃん」

「あ、ああ。踊った、踊ったぞたしかに」

「それで、なんかこう、天啓的に気付いた。あれ、俺こいつのこと好きじゃん……って」

「…………まじか」

「マジ、なんだよなあ……」

 

 はあ、とひとつ重いため息。これほど苦しいコトもない、なんて思ってしまうのはすでに参っている証拠か。ともかく俺は女になって盛大な過ちを犯してしまった。そう、まさか、この俺自身が、原作主人公に惚れるなんて。ないわー……マジでないわー。ウケる。ウケるかよ馬鹿野郎。

 

「そ、その……えっと、俺は……」

「あっ、あーっ! 待った! 無理に答えようとすんな! いいんだよ別に、俺のことは。もともと……そういう関係になれるとも? 思ってないですし?」

「お、おう……いやでも」

「ただ! ……ただ、そこまで言うんなら、ひとつ。ひとつだけ……その、お願いが、あります」

「……なん、だ?」

 

 ごくり、と生唾を飲みこむ音が聞こえた。どちらかなんて言うまでも無い。この場において緊張しているのはたったふたり。……そうだ俺もしっかり緊張している! もう心臓はバクバクだし手汗ハンパないし脳みそぐるっぐるでこのまま卒倒しそうだ! でも意識だけはしっかり保つ! がんばれ蒼! おまえはヘタレだ! 大事なところで引くような奴だ! これまでもこれからも! 折れていても俺はヘタレのままだ! フォローになってない。

 

「――セックスしてください」

「………………は?」

 

 ぽかん、と口をあけて信じられないものを見るように一夏が固まる。うん、聞こえなかったのかな?

 

「え、いま、なんて?」

「エッチしてください」

「はい?」

「ハメてください」

「いやおかしいだろ!?」

「なにもおかしくねえよ!!」

 

 がたん、とほぼ同時に動き出す俺と一夏。ちょっと手が痛かった。あとで一夏に湿布はってもらおう。

 

「考えてもみろよ!? 俺はさ!? こんな風に女にされて!? 男である記憶を持ちながら、後の人生を悶々と悩んで過ごしていくわけですよ! あー俺ってなんで生きてんだろうって思いながら! 恋人もできずに! 恋人もできずに!」

「だからって! その、そういう行為に走るのは違うだろ!?」

「違わねえよ! 俺ぜったいおまえ以外の男とヤルのなんて無理だからな!? ほんっと無理! マジで無理! でもこのまま一生なにもしないまま終わるなんてできないだろ!? じゃあどうか処女だけでももらってくれよ頼むよ! 一生に一度のお願いだよ!」

「一生に一度しかないモノを賭けてそんなこと言うんじゃねえよ!?」

「だから言ってんだよ! おまえのことが好きなんだよ! エッチしてくれ頼む! 彼女にしてくれとか恋人になりたいとかめんどくせーこと言わねえからさあ! せめて処女だけでももらってくれませんか!」

「それおまえが前にやってたゲームのセリフじゃねえか」

「ちっ、バレたか」

 

 さとい奴め、と言いながらすこし後ろに下がる。ちょっと熱も下がってきた。クールダウンだ、落ち着け俺。熱くなるのはお腹の下あたりだけでいい。よくない。

 

「はあ……なんなんだよまったく、いきなり……」

「あっはっはー……いや、女の子になったら定番だと思ってな?」

「本気で肝を冷やしたぞ……一時はどうなるかと……」

「あっはっはー」

 

 けらけらと笑いながら言うと、一夏が「まったく」なんてむくれながら料理に戻る。

 

「……でさ、一応聞いとくけどさ」

「うん? なんだよ」

「俺が本気でおまえに惚れてるー……とか、言い出したらどうする?」

「……そうだなあ……」

 

 と、一夏はすこし考えるようにぼんやりと上の方に視線をやって、

 

「――ま、そのときはなるようになるだろ。色々」

「……そっか」

 

 そんなコトを言うものだから、なんとも言えなくて笑ってしまった。マジレスとか、ちょっと無理なので、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あーあ、本当……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……この気持ちは、いつになったら無くなるんですかね……マジで)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




植里蒼ちゃん

中学三年生

ちっぱい。身長は低い。


ボサボサの長髪をそのままにした地味子ちゃん。立派な陰キャ系女子だぜやったね! ただし隣にいるのがイケメンな時点でお察し。


男友達特有のノリの良さと拙作オリ主特有のウザいノリを駆使しつつ一夏くんと綱渡り気味な日々を過ごしていくが時々決壊する。そして泣く。めんどくせえ……


無論泣いたあとはネタを織り交ぜつつ必死に元の関係を取り戻そうとするが実は一歩進みたい心とのジレンマの狭間で揺れる。そしてまた決壊する。なんだこいつ……



当然本人には自覚はなけれども全力のヒロインムーブをかますため着実に距離を縮めつつ自分から逃げていくが結局ホールドされる……ような世界線があるといいね? まあ一夏ニキなら大丈夫でしょ、たぶん。








全盛期の切れ味が取り戻せない……ッ!


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