バカテス×真恋姫 ~バカたちは戦乱を征く~ (抹ッチャ)
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序幕
零 バカは舞い降りる


再投稿です

伝説が、ハジマル


 土曜日のお昼時。

 いつもの補習を終えた僕、吉井(よしい)明久(あきひさ)は友人たちと帰り支度をしていた。みんなで帰りに寄り道でも、なんて話をしていたところにやってきた話に僕らは反対の声を上げ――

 

 

 

 力の前に無力感を味わっていた。

 

 

 

「お前たちには二つの選択肢をやろう」

 

 見上げるような巨躯から漂う威圧感。厳つい顔立ちは眉間の皺でより険しさが増していて、腕を組み不動の姿勢が一回り以上大きく見えた。

 目の前の補習の鬼である鉄人(またの名を西村宗)から漂うただならぬ緊張感に、僕はつばを飲み込んだ。

 

「選択肢だと……?」

「…………怪しい」

 

 隣では友人の坂本(さかもと)雄二(ゆうじ)土屋(つちや)康太(こうた)こと寡黙なる性識者(ムッツリーニ)が疑わし気に鉄人を睨みつけている。

 二人が疑うのも当然だ。僕だってあの鉄人から妥協案が出てくるなんて、って思ってるし。これは絶対に裏があるはず――

 

「俺の鉄拳制裁受けてから召喚獣を出すか、2時間の補習を受けてから召喚獣を出すか選ぶといい」

「「選択の余地がないだと!?」」

「もちろん、補習の形式はいつもと一緒だ。あまりに目も当てられない馬鹿な回答をした者には鉄拳制裁が待っているから覚悟しろ」

 

 それってどっちを選ぼうと、雄二はともかく僕とムッツリーニは殴られるってことじゃないか。最近の雄二は『打倒Aクラス』に燃えているのもあって成績がグングン伸びてるし、そのおかげで補習中に当てられた問題で間違えるなんてことはほとんど見なくなってる。おかげで鉄人の拳は僕やムッツリーニにばかり集中している。

 くそっ……せっかく土曜の補習が終わったところなんだ。また補習なんてされてたまるか……!

 

「ちょいと西村先生、何を馬鹿なことを言ってるだい」

 

 鉄人の理不尽な発言に僕らが抗議するより早く、隣に立っていたババア長が不機嫌そうにそういった。

 正直ババア長がここで口をはさむことに僕はびっくりだ。このババア長、教育者のくせに今まで人が殴られたり理不尽に怒られているのを見ても止めもしないで、それどころか煽ってすらいたんだから。そのババア長がこうして鉄人の体罰に対して抗議するんだから、人は変わるものなんだ――

 

「補習なんてつまらんモノで私からバカども(モルモット)を奪うんじゃないよ。今は、私がこのジャリたちを使う番だよ」

 

 人は簡単に変われないんだと今証明された。

 

「クソババア……人をモルモット扱いとは笑えねえ冗談だな」

「冗談じゃないからね」

「…………喧嘩を売るなら相手を間違えた」

「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ。聞き分けの悪い生徒(モルモット)への愛情表現さね」

「「「……おぇ」」」

「一斉に吐き気を催すんじゃないよ! 失礼なガキどもだね‼︎」

 

 だってババア長の口から愛……うッ! 考えただけで頭痛と吐き気とめまいが……。

 

「しかしワシも明久たちに同感じゃ」

「あの学園長が愛情って……信じられないわ」

「で、でも学園長先生も一応教師ですし……」

「……言い方はともかく教育者としては優秀」

「姫路さん、代表もだけどそれじゃあフォローになってないよ? というかそれ以前に、生徒をモルモットって呼ぶところにツッコミを入れるべきじゃないカナ?」

 

 周りではババア長の気持ち悪いセリフに女性陣が顔をしかめたり、フォローじゃないフォローをしたりしていた。それと工藤さん、ババア長の口の悪さなんて今更なことは気にするだけ無駄だよ。

 

「明久よ、お主今ワシを()()()と一括りにせんかったか?」

 

 僕を指差してそう言う秀吉に首をかしげる。何かおかしいこと言ったかな? 見ればムッツリーニも不思議そうに首を傾げていた。

 

「そこまで自然に首を傾げれたら何も言えんのじゃ……」

「まあ……なんだ、強く生きろ木下」

 

 なぜか疲れた表情で肩を落とす秀吉を鉄人が慰めていた。

 

「ったく、どいつもこいつも教師を舐めてるとしか思えない態度だね。とんだ素行不良ばかりじゃないか、ここは」

「安心しろ、俺らが舐めてんのはクソババアだけだ」

「…………敬う価値なし」

「でも、いままであんなことしておいてよく偉そうにできるよね」

「神経の図太さは明久にも負けてねえな」

「雄二、それはどういう意味かな?」

「今すぐ召喚しないと補習を倍にするよ!!」

 

 しびれを切らしたババア長がそう叫び、すぐさま召喚フィールドを展開した。

 したんだけど……

 

「……いつもと違う?」

「はい。これは……荒野でしょうか?」

「背景がついてるなんて、今回の実験は学園長先生も力を入れてるんだネ」

 

 姫路さんのいう通り、フィールド展開に合わせて教室内には荒野が浮かび上がっていた。さっきまで畳だった足元は土の地面になり、壁には山や青い空の背景が浮かんでいた。

 勝手に本音をしゃべる召喚獣といい、勝手な行動をとる大人型の召喚獣といい、自分の好きなことにだけ力を入れる人は勝手で困るよ……。

 

「人のことは言えんと思うんじゃが……」

「今回は、今度の学校見学で使う予定の体験型の設定にしてあるんだよ。見学者には100点満点の小テストを受けてもらって、その点数に応じてサンプル召喚獣を召喚してもらうんさ。今回あんたらは召喚獣を出して、相手用のNPC召喚獣と戦闘をしてくれりゃそれでいいさ。見たいのはNPCの運動性能だけだからね」

「ほぉ~……まるでゲームみたいだな」

 

 ババア長の説明に感心した様子の雄二に僕も一緒に頷く。確かに対戦系ゲームとかにありがちな設定だよね。

 

「これで試召戦争でもしようものなら、姫路による某無双ゲームの再現が見れそうだな」

「わ、私ですか!?」

 

 驚く姫路さんとは裏腹に僕の脳内に腕輪の能力による熱線に圧倒されるFクラスの男子たちの姿が浮かぶ。

 ……うん、呂布もビックリな無双っぷりになりそう。みんなの微妙な表情を見る限り、たぶん僕と同じことを考えているんだろう。

 

「この仕様は体験会でしか使わないからあんたらが想像するようなことには絶対にならないよ。そんなことより、くだらないこと考えてないで今からNPCを出すからあんたらも召喚しな」

「「ちょっとま――」」

 

 パチン、とババア長が指を鳴らした後に見慣れた召喚陣が三つ浮かび上がる。こっちが返事する前に断れないような状況を作りにきたな!

 

「(これで断ったら補習が増えるってこと?)」

「(だろうな。向こうは俺らの召喚獣すら眼中にねえみたいだし、余計な被害を避けるためにも癪だが従っておいたほうがいいかもな)」

「(…………納得がいかない)」

「(俺だってそうだ。だがここでごねて補習を増やされるのに比べりゃ、不本意だが従っておいたほうがいいだろ)」

「(でもさぁ……)」

 

 そりゃ補習を増やされるのは嫌だけどさ。でもだからってババア長の言うことを聞くのは、それはそれで天地がひっくり返っても嫌だ。

 そうして僕らがごねてる間に、いつもより時間をかけて召喚陣から召喚獣がゆっくりと表した――

 

 機動性を重視した鎖帷子。

 急所を守るための分厚い額当て。

 幅広く湾曲した刀(偃月刀?)。

 

 まるで戦国時代の農民がしていたかのような装備を身にまとい、その召喚獣たちは勝気な笑みを浮かべた。

 

 

 

 僕と雄二とムッツリーニの顔をした召喚獣が。

 

 

 

「「ちょっと待てぇえ!!?」」

「…………最大の侮辱……!」

「なんだい。いいから早く召喚獣を出しな」

 

 なんだいも何もどうしてNPCが僕の召喚獣なのさ! 雄二やムッツリーニの悪人面ならともかく。

 

「おいコラ、どういう意味だてめぇ」

「…………心外だ」

 

 目の前の召喚獣たちは僕らの元の召喚獣をもとにしているらしい。防具は一式一緒でも、武器は僕がモデルの召喚獣は刀、ムッツリーニのが短刀、雄二のは手甲をつけていた。というか僕の召喚獣は改造学ランと木刀なのに、NPCのほうが装備がいいってのが余計に腹がたつ。完全な嫌がらせじゃないか!

 

「文句なら受け付けないよ。これはアンタらへの()でもあるんだからね」

「ハッ! ついには言われのねえ罪まで押し付けるとは、耄碌したな」

「…………言い訳は法廷で聞こう」

「お前ら……あれだけの騒ぎを起こしておいてどの口が言うんだ……!」

 

 鉄人が怒りに震えているけどそれはこっちのセリフだ。確かに多少騒がしいクラスだってのは認めるけど、でもここ最近は試召戦争もなくて落ち着いてたはずだ。そりゃ多少の異端審問会が行われたりもしたけど、それもクラス内のイザコザであって迷惑はかけてないはずだし……。

 

「まったく……証拠もなにもないのに人のことを疑うなんて、最低教s――」

 

 

()()()

 

 

「「「……(サッ!×3)」」」

 

 

「言葉にせんでもわかるのう……」

「自覚があって惚けていたのか、本当に忘れていたのか……」

「このバカ達なら本当に忘れていたに違いないさね」

 

 揃って目をそらした僕ら三人を見るみんなの目は非常に冷たくて、ため息はとても重かった。

 でもそれは僕らだけのせいじゃないじゃん! 確かに大人版召喚獣がのぞき紛いのことはしたけど、そもそもあれはババア長があんな設定にしたのが原因でじゃないか!僕らだけが一方的に責められるのはおかしいよ!

 

「召喚獣の自立行動は当人の精神性に起因するって言っただろう。後悔する暇があるならちょっとは健全な学生生活を送るようにするんだね」

 

 まるで普段の僕らが不健全みたいな言い方じゃないか。エロ担当はムッツリーニであって僕らじゃないってのに。

 

「…………俺はエロくない」

「うん。いつも通りの反応をありがとう」

「いいから早く召喚しな。アタシはこの後に調整もあって忙しいんだよ」

 

 ならわざわざ僕らにやらせないで自分でやればいいじゃないか。

 不満満載でババア長を睨みつけるけど、ババア長は僕らが召喚するまで動くつもりはないらしい。

 

「目を離すと何をするかわからないからね。この前みたいに召喚獣で攻撃されそうになったら、西村先生頼んだよ」

「はぁ……それで私に監督をしろと言ったのですか……」

「この馬鹿どもを(物理的に)御しきれるのはお前さんだけだろうからね」

 

 鉄人がいる理由は僕らが報復を実行したときの対策も兼ねているらしい。人間の召喚獣とタイマン張れるような超人がいたんじゃ不具合って名目で攻撃もできないじゃないか。

 雄二のほうを伺えば鉄人に見えないように舌打ちをしていた。妙に納得がいいと思ったら僕と同じことを考えていたみたいだ。でもそれも見破られたからか、とても悔しそうな表情を浮かべていた。

 こうなったら何としてもババア長に一矢報いてやr――

 

「しょうがないね……。こうなったら高橋先生と船越先生も呼んできて無理やりにでも召喚させたほうが……」

 

 

「「「試験召喚(サモン)!!」」」

 

 

 僕ら三人のセリフに召喚陣が浮かび上がった。

 

「おや? ようやく観念したようだね。なるほどねぇ~、今度からはこう言えばいいってことかい」

 

 ニヤニヤとむかつく笑みを浮かべるババア長に対して憤怒の炎が沸き上がる。高橋先生と船越先生なんて天敵を前に反射的に召喚した僕らには、それを睨みつけることしかできなかった。

 

「あの二人の名前を聞いた途端に召喚するなんて……」

「でも、それもしょうがないと思います……」

「明久は高橋女史にそうとう扱かれとったからの……」

「……船越先生は先週から男子を数学準備室に連れ込んでるって噂になっている」

「ウチのクラスもだけど、男子たちが名前を聞くだけで震えあがるって相当だよね~」

 

 思い出すのは合宿の時に味わった鋭い痛み。うう……物理干渉が少し軽減されてるにしたって、あれは痛すぎるよ……。高橋先生の相手は二度としたくない。

 船越先生に関しては噂を聞いてから十分警戒していたけど、すでにFクラスで被害者が出てたりする。この前の授業で間違えが多かった近藤君が十分休み後に戻ってきたときには、まるで異世界の化け物にでもあってきたかのような恐怖を顔に張り付けて服はボロボロにして戻ってきたからね。あんな姿を見て今の船越先生に会う度胸は僕にない。

 

「でもまあ、これでようやくデータが取れるってもんさ」

 

 気のせいか楽しそうに聞こえるババアの声に更に怒りの炎を強めるけど、一度召喚してしちゃった以上抵抗しても無駄だ。

 しょうがない……。ここはババア長に姉さん特性の(何故か鼻を刺す酸味と目が痛くなる刺激臭が共存する)見た目は普通のおにぎり三個セットを食べてもらうことで諦め――

 

「あれ?」

 

 どうにか心を静める方法を決めたと思ったところでおかしな状況に気づく。それは僕だけじゃなく、雄二やムッツリーニ、それに眺めていた姫路さんたちやババア長たちも一緒だった。

 

「…………召喚獣が出てこない?」

「おかしいね……召喚陣は出てるのに」

「はい……。それに、学園長の召喚した召喚獣はちゃんと出てきましたし……」

「……雄二たちの召喚獣に問題がある?」

「ちょっとアキ、また暴走とかじゃないわよね?」

「それは僕に言われても……」

 

 目の前にはいつもの召喚陣があるのに僕らの召喚獣は一向に現れない。それを見て美波から文句を言われるけど、そもそもシステムをいじってるのはババア長なんだから僕に言われても困るよ。

 

「ふむ……これはどういうことじゃ?」

「学園長、これは一体どういうことですか?」

「そんなのアタシが聞きたいよ。ハァ……なんでアンタらが絡むと毎回問題が起きるんだい」

「「人のせいにするな!!」」

 

 管理してるのはあんたなんだからどうにかしてよ!

 深々とため息をついたババア長は持ってきていたタブレット睨みつけていじり始めた。ブツブツと何かをつぶやきながら操作をしているみたいだけど、一向に召喚獣が現れる様子はなく目の前には陣が浮かんだまま変わった様子はない。

 

 そうしてしばらく操作をしていたババア長に、いい加減耐え切れなくなった雄二が苛立ちを隠さずに問いかけた。

 

「おい、ババア。これは一体どういう――」

 

 

 その時

 

 

 ―― カッ!!――

 

「うわっ!!?」

 

 突然召喚陣から発せられた強い光に腕で目をかばう。

 そこを境に、僕の意識は途絶えた。

 

 

 

~ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ~

 

 

 

 薄暗い脇道まで伝わる喧噪。それは戸惑いと畏怖に染まったものであり、個人に向けられたものではない。

 

 ひっそりと商う占い師は嗤う。

 

 見上げたそこに生じる現象は、誰もが予想していなかった出来事であった。

 

 ―― おい……なんだあれ……? ――

 

 ―― おお……なんてことだ ――

 

 ―― コワイヨォォオオ!!? ――

 

 【星降り】―― 後にそう語られる光景に道行く人々は()()()()を見上げ、その形相に恐怖と不安を浮かべた。

 多くはその光景にこの世の終わり、滅亡を予感して恐怖していた。

 

「まさか……これが天の怒りだとでも?」

「あらら、お姉さんも吃驚」

「わぁ! 二人とも見て、見て! 凄いよ!」

 

 天を見上げる者の中には恐怖に竦む者だけではなかった。

 

 在る者は勇ましき不敵な貫録を

 

 在る者は思慮深くも剣呑で獰猛な眼差しを

 

 在る者は希望に満ちた暖かき微笑みを

 

 胸に宿す野望とともに、空を割り落ちてくる星にぶつけて天を仰ぐ。

 

 

 星は舞い降りた

 迎えるは戦乱

 鎮めんとするは八竜

 

 

 占い師は嗤う。

 喧騒が鎮まるころには占い師の姿はなくなっていた。




詳細は活動報告にて

修正と執筆が終わり次第順次投稿していきます
お付き合いいただけたら嬉しいです


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壱幕 三羽鳥編
壱ノ一 バカ×兵士×三人娘


お久しぶりです、そして大変申し訳御座いませんでした。

最後に更新したのかが修正後の1話をアップしました。
感想をくれた皆様もまた読んでいただけると嬉しいです。



 空は快晴。草木は風に揺られ、遮蔽物のない荒野の向こうには悠々と山脈が佇んでいる。

 荒野を割って流れる大河から数キロ離れたところに小さな街があった。無骨な石造り土壁とその上に建てられた木の塀に囲まれたその街は賑わいと活気に溢れておりおり、その証拠に街の出入り口は住民と商人で溢れていた。

 穏やかな空気に充てられて笑顔の多い街。しかし現在は、出入りする人間も関門に立つ()()もその表情は硬かった。

 

『おぉ~い』

『ん? おお~!(けぇ)ったか!』

 

 遠くから聞こえた声に関門の傍で積み荷をまとめていた男が手を上げた。彼の視線の先には数人の町人とそれを囲う兵士たちの姿があった。

 男は街に住んでいる漁師だ。傍にいるのは彼の弟子である青年たちで、兵士は最近の治安を心配して蜂起した義勇兵だった。

 

『収穫は?』

『喜べ! なっかなか大量だ——()()

 

 近くまでやってきた漁師の男がホクホク顔でそう答えると、同じような嬉しそうに町人も頷いた。腕のいい男だったので獲れ高については心配していなかったが、人間である以上完璧ということはない。わずかながらに抱えていた懸念が外れて両者ともに喜んでいた。

 しかしさっきまで嬉しそうだった顔を渋らせた男が言いよどむと、空気が変わる。

 

『どうしただ?』

『んぁ~なんつーのか……変なもんが掛かったというか……』

『変なもん? そんなけったいな(もん)だったんかぁ?』

 

 問いかけに対する返答は苦笑いだった。弟子の青年たちにも目を向けるが、彼らも気まずそうに視線を泳がせて目を合わせなかった。

 何故か明確な答えを返さない男たちに首を傾げていると、隣で話を聞いていた兵士が二人の間に入った。

 

『申し訳ないが、お話はその辺で。捕獲した物についてはお任せしますので、()()()()については後は我々が』

『お願いします』

『お(ねげ)えします、て。オラは気になんど。なしてそうも隠すん?』

『申し訳ありません。これ以上は……』

 

 兵士の余所余所しい発言に町人は不満そうだった。しかし捕獲した獲物を取り上げられるわけでもないということで、興味も薄かったこともあって食い下がることはなかった。

 若干の消化不良を残しながら、獲物を整理しようと荷車に近寄る。そこで一際大きな藁ぐるみを見つけるが、すぐさま兵士が抱え上げてしまった。

 目測で2m弱はありそうなその藁ぐるみを不審そうに睨みつける。しかし先ほどの大量という言葉通り、荷車の中にあった籠は大量で運び出しと計量と仕事量が多いことが分かった。結局頭の中に浮かんだ仕事で藁ぐるみの存在はすぐに忘れてしまい、町人と漁師たちはせっせと仕事に励んだ。

 

 兵士たちは目立たぬように持ち出した藁ぐるみは運んでいった。

 たとえ藁ぐるみの端から()()()()()()()()が見えていても、すれ違う人の多くは見間違いだと思って気にしなかった。

 

 

 

~ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ~

 

 

 

 目を覚ますとそこには古ぼけた天井があった。

 

「うぅ……ん……あれ……?」

 

 なんで僕は寝てるの? たしか教室でババア長に無理やり召喚獣のテストをさせられて、そしたら召喚陣から強い光が出てきて……

 

「まさか! 不具合で僕死んだ!?」

 

 慌てて体を起こして以上を確認する。そして体の隅まで確認してみると、傷もなければちゃんと触ってる感触も感じられた。手足の喪失感もないし、振り返って布団を確認してみても僕の体が倒れてるなんてことはなかった。

 よかった…。また起きてるのは魂だけとかにはなってないようだ…。

 

「ふ~……ん? あれ?」

 

 起きてから気づいたけど、ここは教室じゃなかった。

 寝かされていた床はあの教室みたいな畳じゃなくてフローリングだし、部屋の中央にあるのは田舎とかにある薪を燃やすやつ(囲炉裏)だ。壁には昔話で見るような笠が掛けられてて、よく見れば枕も藁を編んだ四角い形の枕だった。

 ここ、どこ? 学校の中にこんな部屋なかったよね?

 そう思って部屋中を見回していると、出入り口らしき木の扉から軽鎧を身に着けた兵士が二人入ってきた。——兵士!?

 

「え、誰!?」

『お? 目を覚ましたようだな』

「え、なに、コスプレ?」

『こす、ぷ……何か良くわからないが、対話はできそうだな』

『みたいだな。じゃあお前は見張りを頼む。すぐにショウグンを呼んでくる』

『承知した』

 

 なにか話し合っていた二人の兵士は、片方が部屋を出ていきもう一人が部屋に残った。残った兵士はおぼんを床に置くとゆっくりとこっちに押し出して、すぐに後ろに下がった。

 どういうこと? 教室じゃないところで寝てるかと思ったら、本格的なコスプレをした兵士は出てくるし。何がどうなってるの? 僕はコスプレ会場にでも連れてこられたの?

 

『……行ったか?』

「えっと、あの~これは一体——」

『おっと、余計な動きは見せるなよ』

 

 『ズビジッ!』なんて音が聞こえてきそうなポーズを決めた兵士の人。そのポーズはアレだ、『ジョ〇』のジョ〇フがとってたポーズだ。

 

『お前の身柄は、すでに我々蛮勇な戦乙女率いる一軍の支配下にある。大人しく、言うことを聞いてもらおうか?』

「ば、ばんゆう?」

『ふふふ……恐れから声もでないか? それも仕方ない、何故なら俺はこの軍を率いる我らがメガm——』

 

 ばんゆう? 名前か何かなのかな? バン=ユウか、韓国とか中国っぽい名前だなぁ。しかも乙女とか言ってたってことは、そのバン=ユウさんってのは女性なのか……あれ? てこは僕、女性に誘拐されたの?

 

『安心しろ。お前を餓死させるつもりは毛頭ない。こいつを食べたければ、大人しく俺の質問にこt——』

 

 そりゃあ、いつも美波や姫路さんや姉さんに襲われた時、自分の非力さには悲しく思ってたよ。いつだったか『ちょっと鍛えてみよう』なんて考えたこともあったけど、日々の臨死体験で消費するカロリーと僕の食生活じゃ難しくて諦めたっけ。それに、あの雄二でも本気の霧島さんや通常時の鉄人に通用しないのを考えたら、僕はどこまで鍛えればいいのかすら分からないってのもあって、諦めがついた。

 とはいえ、僕だってあのFクラス(地獄)で半年も生き延びた一人。それが女性に誘拐されるなんて、そこまで自分が非力とは思ってなかったよ……。

 

『そして、ガクシン様は言うのさ!“あぁ……なんて優秀で格好いい兵士なんだ。私の部下なんて勿体無い! ぜひ、私のはんry——”』

 

 それにしても誘拐犯は何が目的なんだろう。姉さんと生活するようになってからは多少なりとも貯金ができるくらいには余裕ができたけど、それでも足した額じゃないし……。いや母さんたち直接要求するつもりなのかも。だとするともう身代金の要求とか始まってるのかもしれない。

 でもあの母さんが、息子の生活費を振り込まないで姉さんを送り込むあの鬼のような人が素直に要求に応じるとは思えない。さんざん救いようのないバカだの言われてるし……いや、さすがに自分の子供を見捨てるなんてことはしないはずだ。

 

『さぁ~て……、そろそろ腹は決まったか? 痛い目に遭いたく無ければ、精々正直にすべてを吐くことだな』

 

 そもそもこの状況が本当に誘拐なのかも怪しい。だって目の前で酔ったように妄想を語ってる人がいるんだし。ならこの状況は誰の仕業かって話になる……いや、こういう質の悪い真似をする奴なんて決まってる。

 

「雄二だな……」

 

 理由は知らないけど、あの性悪雄二ことだ。僕をだまして、恥を晒すためならここまで凝ったことを計画することも考えられる。どうせ美波との……き、キスの事件の時みたいに、どこかでムッツリーニがカメラとマイクで隠し撮りしてるに決まってる。

 そうと分かればやることは決まってる。騙そうと思ってるなら、それに乗っかったうえでこっちが驚かせてやる!

 

『どうしたぁ~? 怖くて何も言えないかぁ~?』

 

 なんとかこの三下臭漂う兵士のキャラに乗っからないと。え~っと、尋問されてるって設定でいいのかな? だとしたら、この前見た刑事ものドラマみたいに振舞えばいいってことだよね……。あの時はたしか——

 

「『ふ、ふんっ! たとえ何をされようと、俺は仲間を売ったりしないぞ!』」

『おぉう!? な、なんだ! 急にやる気になったか!? じょ、上等だ! お、俺の剣の錆にしてやる!』

 

 僕のセリフ(ドラマのセリフ)に驚いたのか、兵士が腰に下げていた剣を抜いて構えだした。すごい、なんてキャラの作り込みだ。これは生半可な演技じゃ騙しきれないぞ。

ところで、なんかすごい光を反射してるんだけど……その剣は作り物だよね? 作り物なんだよね? ちょっとこっちに近づけないでくれません? 別に怖いわけじゃなくて、例えハリボテでもそれで殴られたら痛そうだから——

 

『お、俺が本気になったらな! お、お前なんて、簡単に——』

「ちょ、待って待ってストップ! 落ち着いて話をしましょう! だからその剣を離し——どわっ!?」

『よよよ余計なくくくちをひりゃくんじゃにゃい!!』

 

 今明らかに前髪切れたよ!? 本物!? 本物なの!?

 ヒラリと目の前で散った前髪を見た瞬間、僕の背筋に冷や汗が流れる。目の前で勝手にパニックになり始めた兵士は、本物らしき剣を震わせながら威嚇してくる。今さっき振ったときは運よく前髪に当たっただけで済んだけど、もし今のが頭に当たっていたらなんて考えたら……。

 

『お、お前なんてなぁ! お前なんて——ブヘッ!?』

「わわっ!?」

 

 本気でヤバいと思ったその時、奇声と一緒に突然兵士が倒れ込んできた。反射的に避けた後、倒れ込んだ彼の顔を覗き見ると完全に伸びていた。何が起きた?

 

「ちょ! いきなり殴らんでもええやろ!?」

「ナギちゃん! 穏便に! 冷静になるの!」

 

 何が何やら分からないでいる僕の前で何やら揉めている女の子が三人いた。両サイドに立つ女の子に責められている女の子は、拳を振りぬいた姿勢で固まっていた。その表情は俯いていて分からないけど、肩が激しく上下している様子から怒っているように見えた。

 君たちは一体……?

 

「あーあ、こら完っ全にノビとるで」

「ナギちゃん……」

「……私は命令違反を犯した者を罰しただけだ」

「あんなぁ……そうやからって、いくら何でもやりすぎやで」

「そうなの。まだちゃんとした部下になったわけじゃないんだから、無理させちゃだめなの」

 

 僕も気絶した兵士も置き去りにして話を進める三人。その様子はそこで眠っている兵士とは違う雰囲気だった。

 というか誰かこの状況を説明してほしい。それぞれがドクロの飾りが目立つ服に眼鏡をかけてたり、銀の胸当てと小手を装備した吊り目で真面目そうな雰囲気をまとってたり、虎柄のビキニとすごい丈の短い短パンだけの目のやり場に困る恰好だったりって彼女らの恰好にも驚かされてる上に、雄二のネタ晴らしの雰囲気もなければ、さっきより空気が重くなった気もするし。何がどうなっているの!?

 

「お前たちは甘すぎる! 私たちはいずれ一軍を束ねる将となる身、そんな軟弱な考えでは——」

「あのー……」

「ナギはもっと肩の力抜くの覚えや。なんでも規律や熱意で縛り付けたらええ訳やないやろ——」

「あのー」

「そうなの。厳しくしたらその分、優しくしてあげるのも大切なの」

「あの!」

「「ん? (あん)さん/お兄さん誰?」」

「いやこっちが聞きたいんだけど……?」

 

 君たちは雄二が計画したドッキリの関係者じゃないの?

 

「ユージ? 誰やそれ? 知っとる?」

「ううん」

 

 目のやり場に困る関西弁の子と眼鏡をかけた特徴的な語尾の子が二人で首を傾げた。

 どういうこと? 雄二のドッキリじゃないなら、この状況はますますどういうことなんだ? こんな凝った用意までして……もしかして、ババア長か?

 まさか普段の仕返しにこんな凝った用意を? だとしたらなんて大人げないクソババア長だ。

 

「……おい、貴様」

「はぇ?」

 

 僕を指さしたのは三人のうち、真ん中にいた女の子。彼女は他の二人とは違って、鋭い眼光でジッとこっちを睨みつけている。初対面でここまで敵視されるなんて、初めて清水さんや木下さんに会った時以来だ。

 

「命が惜しくば正直に答えろ。私に冗談や酔狂が通じると思わないことだ」

 

 一体何をもって冗談と思うのか分からないけど、彼女から伝わってくる迫力は只者じゃないということはわかった。

 すごい……鉄人や高橋先生の召喚獣にも負けない圧だ。

 

「答えろ。貴様は何者だ」

「えっと……、僕は吉井(よしい)明久(あきひさ)って言います。文月学園の二年生で」

「「?」」

「え……なに?」

 

 なにかおかしいこと言った?

 普通の自己紹介をしたはずなのにおかしい反応を見せる両隣の女の子たち。真ん中の彼女はさっきよりも険しい表情で

 

「貴様……戯けたことを……!」

「いや、何もふざけてなn——おわっ!?」

 

 弁明しようとした僕の鼻先に突き付けられたのは拳だった。慌てて体を引くと、数センチ先の拳から熱を感じた。

 というか本当に熱っ!? 目の前にあるのは拳のはずだよね!? 普通に火とかと同じレベルで熱いんだけど!

 

「ちょっと待って! 僕なにもおかしなこと言ってないでしょ!?」

「兄さん、アホとちゃうか?」

「アホじゃない! いや、皆にはよくバカとは言われるけど……」

「お兄さん、お馬鹿さんなの?」

 

 あの、そんな純粋な目で『お馬鹿さん』って言われないで……。雄二たちに言われるのとは違ってすごい心が痛いんだけど。

 僕が一人心の涙を流していても向こうにとっては関係ないらしく、拳を構える彼女の目はどんどん鋭くなった。

 

「初対面でマナを預けるなど、貴様何を考えている!」

「マナ? いや、僕は明久っていうんだけど」

 

 マナって誰の事? あ、いつだったかちょっと話題になった双子の芸能人の事かな?

 

「兄さんマナやマナ。知らんなんて言わへんやろ?」

「ああ、うん。マナさんならあれだよね。あれ? でもどっちがお姉さんでどっちが妹なんだっけ?」

「なんで急に会話が通じなくなんねん!?」

 

 秀吉とお姉さんを見てても思うけど双子って本当にそっくりだよね。さすがに秀吉たちは見間違えることはないけど、テレビに出てるタレントや芸人さんだとどっちがどっちか分からないや。

 

「サワ、どう思う?」

「う~ん……嘘っぽくは聞こえないの」

「アホかバカやとは思うんやけど」

「え……これ、もしかして本気なの?」

「せやからアホなんちゃう?」

 

 コソコソ話をする二人の会話がこっちにも聞こえてくる。君たち、わざと聞こえるように言ってない? ねえ、そのチラチラ向ける視線は何?

 疑惑の視線を向けてくる三人に僕の精神は限界です。

 

「そもそもここは何処で君たちは誰なの? 建物の感じからして、学校近辺じゃないんだろうけど」

 

 もうババア長だろうと、雄二だろうと誰だっていい。とにかくこの状況について誰か説明をしてほしい。

 そう溢した僕の呟きに、三人は何だとばかりに表情を変えてこっちを見た。

 

「何処て、ここは大梁(だいりょう)やん」

「ダイ、リョウ?」

「サワたちはここで義勇軍をまとめているの」

「ギユウグン——軍!?」

 

 軍隊がいるの!? そういえば今『義勇軍をまとめてる』って言ったよね? じゃあ目の前にいるこの子は軍の中でも偉い人なの!?

 ほとんど変わらない年だと思う彼女たちにただ僕は驚いていた。

 

「君たちは、一体——」

 

 彼女たちの名前を聞こうとしたその時、バタバタと駆け込んできた兵士の言葉に僕は耳を疑った。

 

『ガクシン様! ああっ、リテン様とウキン様もこちらでしたか!』

「え?」

「騒々しいぞ、何事だ」

『はっ! 今しがた、チンリュウの使者と思わしき一軍が到着しました! 我が軍の代表者へと面会を求めております!』

「すぐに向かう。奥の部屋にお通ししろ」

『はっ!』

 

 指示を受けた兵士は慌ただしく走り去っていた。今の、本当なの?

 驚いて固まる僕の前で三人は気絶していた兵士を担ぎ上げて引き上げ体勢に入った。

 

「ちょ、ちょっと待って」

「なんや?」

「君たち、名前は……?」

 

 拝啓、天国のお祖父ちゃん

 

「ウチは李典(りてん)(あざな)曼成(まんせい)や。よろしゅうな」

 

 そちらの世界の生活はいかがですか?

 

「サワは于禁(うきん)なの。字は文則(ぶんそく)っていうの」

 

 僕は元気です。でもここが現実かどうか不安でしょうがないんだ。

 なぜなら……

 

「……私は楽進(がくしん)だ」

 

 三国志の登場人物と一緒にいるのだから。

 




何度書き直しても明久の口調が安定しない。
更新は書き上がり次第随時行っていきますが、定期はお約束できません。
気長にお待ちいただけると幸いです。

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