ヘロヘロさん、元気になる (ヘットズピカル)
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始まりの一幕

健康診断の結果も納期も気にしなくていい世界に帰ってきたヘロヘロさんと一人じゃなくなって却ってブレーキを失ったモモンガ様が異世界で現実世界より充実して爆走していくお話です。
きっとヘロヘロさんは凄い強いんだ!という思い込みから始まり、原作中で最も報われて無い感のある有能ソリュシャンちゃんに世界が優しくなる感じです。

※ソリュシャンに優しい世界←なので残酷な描写も含む予定です。その話の前書きに記述する予定ですがご注意とご了承願います。


「本当に有難うございました。俺達のギルド、アインズ・ウール・ゴウンの最期を一人で飾る事無く迎えられて嬉しいです。―――俺、報われましたよ。」

 

 

見上げるような高さの天井には豪奢なシャンデリアが煌びやかな光を放ち、白を基調とした中に美しい金細工を施した壁に囲まれた静謐な神殿の如き広く高い部屋。

 

壁の左右には模様の異なる巨大な旗が天井から床まで計41枚―――部屋を訪ねる者にその威容を見せつける様に連なりながら並んでいる。

 

声を発した主はその最奥―――豪奢な細工がふんだんに施された十数段の階段の先にある天を衝くかの如く据えられた水晶の玉座に鎮座していた。

アンデッドの最上位種、死の支配者(オーバーロード)でありギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスターであるモモンガ―――鈴木悟は横で別の玉座に座りながら頭をフラフラとさせている黒のぶよぶよ―――古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)に優しくそう語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

DMMO-RPG『ユグドラシル』

一時代を築いた体験型ゲームであり、その多種多様な種族や職業と自由な世界観に魅せられたプレイヤー達により長きに渡って愛されたそのゲームにおいて、最盛期には少人数ながら最上位ギルドにも数えられていた異業種のみで構成されたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』

 

ナザリック地下大墳墓を拠点に数多のプレイヤーを阿鼻叫喚の渦に落とし込み辛酸を嘗めさせた憎きDQNギルド―――でありながら悪党として変な所で正々堂々としており、更にユグドラシル全土においてもごく一部であるワールドチャンピオンをはじめとした高スペックプレイヤーが数多所属している主要メンバーの攻略Wikiも存在するギルド

 

憎しみを一身に引き受けながらも最後まで落城する事なく悪を貫き通し、匿名掲示板において各メンバーが数多のヘイトと一定数のリスペクトを浴び続けたそんなギルドも今は昔

かつてのメンバーはやむを得ない事情などで一人、また一人と去っていき残ったのはギルドマスターでありアンデッドの最上位種である死の支配者(オーバーロード)にその身を映したプレイヤー、モモンガのみとなった。

 

 

そのモモンガも日々をナザリック地下大墳墓の莫大な維持費を稼ぐ為だけにログインしている有様だったそんな中、届いたサービス終了の公式発表―――

 

 

来る時が来たか、と思うと同時に最期の時を皆で迎えたい―――そう考えかつての仲間達にメッセージを送り今日の日に備えた。

が、やはり社会人として日々を過ごし、いまやリアルの生活の比重が圧倒的となってしまったメンバーの集まりは芳しくなかった。そして来てくれた仲間達も話もそこそこにログアウトしてしまった。

 

仕方ない。大半の人達が少ない時間をやりくりして来てくれたじゃないか―――

忙しい中来てくれたんだから最後まで共にいてほしいと思うのは俺のわがままじゃないか。

分かっていたつもりだったがやりきれなかった。

 

 

そう、頭ではわかっていても心は付いてきてくれなかった。

 

 

何故・・・何故なんだ!

数々の冒険を共に過ごし、何度も相談と喧嘩をしながら少しずつナザリックを作り上げていったじゃないか!皆で苦楽を共に過ごしたあの時間への愛着はなくなってしまったのか!!

 

そう思う自分を止められなかった。

そう思ってやるせなくなって行き場をなくした怒りを机に叩きつけたそんな時だ。

 

叩きつけた拳からでるダメージ0の表記と共に

 

 

「ハイッ!!ただ今っ!進行中の案件の報告につきましてはそのっ・・・!!」

骨の髄まで労働精神を植え付けられた黒いぶよぶよがエビ反りの状態でログインしてきた。

 

 

「っヘロヘロさんっ・・・!?ヘロヘロさんじゃないですかお久しぶりで――――」

 

「ハハハッ、会議後の課長に近づくなんて死にたいのか?いいか、女性社員の後ろに身を潜ませながらな――――」

 

「ヘロヘロさん?戻ってきてください!?ヘロヘロさんっ!!」

 

「はっはっはっ俺を揺すっても致命的なエラーの該当箇所は出てこないぞっはっはっはっ。さ、なくなる前にコンビニで焼き肉弁当と羊羹買ってきてくれ。いいか?夜と深夜と明け方の分だぞ?勿論経費では落ちないんだぞっ☆」

 

「ヘロヘロさーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、本当におひさーですモモンガさん。お恥ずかしい所を見せてしまいました。」

 

「いえいえ、本当にお疲れなんですねヘロヘロさん。まさか机を叩いた音であんなスイッチが入るなんて・・・凄まじい労働環境なのがよく伝わりましたよ・・・。」

 

ヘロヘロさん―――スライム種において最強ランクである古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)でありアインズ・ウール・ゴウンにおいてはその対人に特化した能力の高さと相手の大切に大切に育て上げた武器を劣化させる事に執念を燃やした立ち回りから蛇蝎の如く嫌われ、魔法詠唱者(マジックキャスター)の高位魔法に晒され続けるのが日常と化していた非常にアインズ・ウール・ゴウン的な立ち位置のプレイヤーだった。

 

死んでいなくなる寸前の場所に超位魔法や回数制限スキルを空撃ちでぶち込まれていた事からもその嫌われっぷりは伝わるだろう。

 

一度全身神話級(ゴッズ)アイテムに身を包んだ対人でそのアイテム全てをアイテムにまで劣化させた時など怒り狂う相手に全体チャットでリアルの住所を聞かれていた。

 

 

ギルドにおいては本業のプログラマーの腕を活かしてNPCの行動AIプログラムを組みあげてくれた一人であり、彼のおかげでナザリックのNPCは細やかな動きの表現を可能としていた。

又、デザインにおいては一般メイド複数の生みの親でもある。

 

 

だがそんなプログラマーとしての確かな腕が仇となり転職先で馬車馬の如くこき使われ、なまじ高い技術力のせいで毎度極限までポテンシャルを発揮し続けた結果、リアルの負荷の為に泣く泣く引退をしたプレイヤーだ。

引退した後も籍だけは残してくれていたが最後のログインから二年ぶりのその姿に懐かしさもひとしおである

そこから始まった互いの仕事の愚痴は怒涛の如き勢いで飛び出すヘロヘロさんがメインとなり、真っ黒だったヘロヘロさんの濁流が清流になるまで続いた。

 

 

 

「すいません、なんか俺の愚痴ばっか言っちゃって。互いに大変なはずなのに。」

 

「いえいえ、愚痴が言い合える仲ってのも中々貴重ですもんね。こういう所でしか吐き出せないものですし遠慮しないで下さい。」

 

「でもメッセージを受け取った時はビックリしちゃいましたよ。まさかまだこの場所が残っているなんて正直驚いてしまいましたから・・・。」

 

 

「―――っ。そうですね、驚かれるのも無理はないと思います―――。」

 

 

それはあんまりな言いぐさなんじゃないか。そう思い一瞬言いよどんでしまったが次の言葉でその思いは掻き消える

 

「ありがとうございます、モモンガさん。俺たちがいつ帰ってきても言いように維持し続けてくれていたんですね。大変な作業だったでしょうに・・・」

 

「・・・っ、それもギルド長としての仕事ですから!苦なんかじゃありませんよ。」

 

「そんなモモンガさんだからギルド長に選ばれたんでしょうね。喧嘩しかしてなかったたっちみーさんとウルベルトさんはおろかあのるし☆ふぁーさんまで誰一人異論を唱えませんでしたもんねー。アレ位じゃないですか、満場一致で議題が通ったのって?」

 

「そうでしたかね?確かに全員が一致した議題はほとんどなかったような―――」

 

「まぁ毎回ベクトル真逆のあの二人が率先して意見だしてくのがうちのスタイルだからまとまるはずないんですけどね。ピンクの肉ぼ―――茶釜さんとペロさんはすぐ喧嘩するし一番おいしい所をこっそり通してくるぷにっと萌えさんも侮れなくて面白かったですよねー」

 

「そうそう!やまいこさんをダシにして行き先を決めようとした時なんか―――」

 

一度思い出話が始まると堰を切ったように次々と話題が飛び出し、その思い出に浸る楽しさに二人は時間も忘れて語り合った。

 

「っとと。もうこんな時間じゃないですか!あっという間ですねー。」

 

初めに比べると見違える様に生気を取り戻し、もはや属性も変わったのではないかと思う程のヘロヘロさんがコンソール画面を見て呟く。

 

「モモンガさん。最後の時は何処で迎えるつもりなんです?」

 

「あ、最後は玉座に鎮座して迎えようかな、と思ってるんです。それがロールプレイ重視の自分としても相応しいかな、と。」

 

「確かにそうですね。なら玉座に移動しましょうか。本当は少しログインするだけの予定だったんですけど・・・。愚痴を聞いてもらって大分スッキリしましたし、眠気と戦ってるかもしれませんけど俺もお供させてください。」

 

 

「本当ですか!うわー、最後を仲間と迎えれるのは嬉しいですね!」

 

 

―――その素直な言葉にヘロヘロは心の中で申し訳ない気持ちで一杯になった。

こんなにギルドの事を考えてくれて尽くしてくれた人を長い間、寂しい気持ちにさせていた事に。

明日の朝も早いがそれがなんだというのか。

最後の時を一緒に迎えるくらいのワガママは許されるはずだ。

 

体が嘘を付けと抵抗しているが気のせいだ、間違いない。俺はやれる、明日も始発前に起きれる。

 

そう考え少し体をプルプルさせながらヘロヘロとモモンガは玉座へと向かう。

途中、最後だからとギルド武器をモモンガさんに持たせそれをはやし立てたり、自分の作った一般メイドを自画自賛したり執事のセバスやプレアデスを引き連れながら生みの親の思い出を語り合う。

あっという間に玉座へとたどり着いた二人は互いに顔を見合わせながら扉を開く。

 

ゆっくりと開く荘厳な扉の向こうには懐かしい我らのギルド全員の紋章旗達がはためいていた。

うおー懐かしい。

そして設定厨のタブラさん渾身のNPCであるアルベドが微笑みながら迎えてくれる。

うーむ、見事だぜタブラさん。執念まで感じる作り込みだ。

タブラさんの設定厨ぶりを確認しようと二人で覗き込んだアルベドの設定の長さに絶句し、最後の悪ふざけにとビッチ設定(あんまりだと思う)をモモンガ純愛に強引に変えてニヤニヤしたりしていると日付変更―――終わりが迫っていた。

 

わざわざ自分達の分の玉座まで用意してくれていたモモンガさんの気遣いにまた感謝が止まらなかったが時間も時間なので心の中で感謝をし、急いでアルベドやセバスを脇に跪かせ自分達はギルドの主として玉座に腰掛ける。

 

 

「いよいよですね。この場所にいられるのもあと少し。長かったようなあっという間だったような・・・」

モモンガが感慨ぶかげにそう呟く。が、返事が来ない。

横の玉座を見るとヘロヘロが頭をふらつかせうつらうつらしていた。

 

「・・・あ、すいません・・モモンガさん。・・・・はしゃぎすぎたのか・・・・大分眠気が・・・きて・・・まして・・」

そう言っているヘロヘロはすでに船を漕いだ状態であり限界が近いのがわかる。それを微笑みながら見てモモンガは呟く。

 

「・・・いいえ。そのままで結構ですよ。最後の瞬間まで付き合って頂いてすいませんでした。でも嬉しかった・・・やっぱり嬉しかったです。・・・一人は―――」

「一人は・・・寂しいですもん・・・・ね。」

 

 

半分寝言のように続けてくれたヘロヘロの言葉を聞き、天井を眺めたままモモンガは満足げに呟く

 

 

「本当に有難うございました。俺達のギルド、アインズ・ウール・ゴウンの最期を一人で飾る事無く迎えられて嬉しいです。―――――――俺、報われましたよ。」

 

 

そんなモモンガとその言葉を夢うつつに聞いていたヘロヘロの今にも途切れそうな意識は最後のカウントに向けられる

 

・・3

・・・2

・・・・1

・・・・・0・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・0・・・0・・・0?

 

万感の思いと共にカウントを終え現実世界に引き戻されるはずの自分の感覚が未だ戻らない事にモモンガは違和感を感じる。

なんだよ、締まらないなぁ、と目を開けると視界は先ほどのまま。

 

コンソール画面を引き出す―――出ない。

チャットやGMコールは――――――――――――通じない?

 

 

「どういう事だ!?」

 

 

思わず立ち上がり周りを見渡す。

声に反応したのであろうアルベドの気ぜわし気な顔、同じ様にこちらを窺うセバスやプレアデス。

そして

 

 

設置した横の玉座に古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)、ヘロヘロさんの姿は無かった―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルベドは困惑していた――――

 

至高の御方であり、愛しきモモンガ様が久しぶりにお越しになられた。

最近はナザリックの維持作業の時にしか玉座にお越しになられずあまり元気がないようにも思えた、そんな愛しきお方が今日は同じ至高の御方であるヘロヘロ様と共に玉座へ来られ二人で仲睦まじくお話をされている。

 

もはや会う事すら叶わない―――そんな思いすら抱いていた至高の御方の来訪に、的外れで不敬な考えをしていた自分を恥じ、いつもより明らかにお元気なモモンガ様の姿を見て愛しさをこみ上げる。

 

 

・・・・・・羨ましい。

羨ましくてたまらない。

 

 

 

何故自分ではないのか?何故自分ではモモンガ様を笑顔にさせる事が出来ないのか。

いつも―――いつでもあなたのそばに寄り添いたいと思っている自分ではなく何故来る事すら稀なその黒いぶよぶよに笑顔をお向けになるのか。

 

どの至高の御方に対してもこの様な不敬な感情を持つ事など万死に値する行為でありこのナザリック大墳墓においては決して看過されぬ事であるのは百も承知であるし、もしそのような態度を感じさせる臣下がいれば苦痛と後悔を与えた上で殺している。

 

敬意を忘れたわけではない。

 

臣下として身を粉にして働き、命じられれば命など顧みず与えられた任務を果たす気持ちは持っているしその事に誇りも感じる。

だが、あの方――――モモンガ様の事になると何故か我慢がきかないのだ。

 

その様な矛盾の思考の渦に陥っていた自分はモモンガ様の戸惑われたお声によって瞬時に現実へと引き戻された。超かっこいい声

 

見るとモモンガ様は普段は滅多に見せない困惑した様子で周りを見渡している。あぁ、戸惑われているお姿にも威厳と風格、それでいて優しさをも伴う完璧なお姿。

 

そんな愛しきモモンガ様を戸惑わせている原因は何なの?許せない、許してはおけない。今すぐ私が排除致しますので此方を向いて一言おっしゃってください。

 

 

 

『アルベド、お前が欲しい』――――と

 

 

 

◇◇

 

 

セバスは緊張していた――――

 

至高の御方のまとめ役であり最後までこの地に残りし偉大なる御方であるモモンガ様と久方ぶりにお姿をお見かけしたヘロヘロ様がお二人で談笑されながらお越しになられ、玉座までの供として私とプレアデスを帯同させて頂けた。

 

玉座に腰掛けながら談笑されるのを傍らで聴く光栄に身を震わせ、臣下の礼を取りながら何か御命令があればすぐに対応できるようにと身構える。

後ろに控えるプレアデス達も同じ気持ちであろう事が雰囲気で伝わり上司でありまとめ役の家令(スチュアート)としてもとても誇らしい。

しかしソリュシャンはヘロヘロ様のお傍にいれる喜びが漏れており、少し前のめりになっていますね。同じ種族として特に敬意を抑えれないのは致し方無い事とはいえ、あくまでメイドとしてスマートである事を忘れてはいけませんよ――――

 

そんな事を思うセバスが最も気になっていたのは自らの横にいるアルベドの腰が据わってない事だった。

 

他の者は気付いてないがNPCとして同じ最高レベルの自分にはわかる。明らかに集中できていないその様な状態で至高の御方達のご命令に迅速に対処できるのか――――

守護者統括でありナザリックNPCの頂点として存在している彼女のその浮ついた空気に苛立ちを覚える。

 

この玉座において、いや、至高の御方の前で失態を演じる事は許されない。もし対処が必要であるならば自分がフォローせねばならない。

 

そう考えた時、モモンガ様がお声を上げられた。いつもとは違うどこか困惑されている声――――

出番があるかもしれないと顔を上げるとアルベドも同じ様に顔を上げている。良かった。浮ついていながらも瞬時に対応しているとは流石は守護者統括です。

 

そう考えていたセバスが目にしたのは困惑した様子で立ち上がるモモンガ様。とヘロヘロ様の御姿が消え空になった玉座であった。

 

至高の御方がリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で瞬間的に移動されるのは珍しい事では無い。だが、いつもとは感じが違うその消失とモモンガ様の困惑した様子――――

 

これはただ事ではないでしょう。我々の出番があるかもしれませんしいつでも対応できる様に身構えておかねばなりませんね。お声が掛かるのを待ちましょう

 

 

『セバス』――――と

 

 

◇◇◇

 

 

ソリュシャンは驚愕していた――――

 

至高の御方の中でも特に畏敬し、崇拝しているといってもいい御方であるヘロヘロ様が久方ぶりに――――本当に久方ぶりにその美しき姿をお見せになられ、更には我々の上司であるセバス様と我々戦闘メイド(プレアデス)を玉座の傍にて侍らす事をお許し下された。

 

種族が不定形の粘液(ショゴス)である私にとって最上位種として畏敬し、崇拝すらしているあの御方の傍に仕えれるのはこの上ない喜びだ。

あの漆黒の無駄のない美しい御姿――――威厳と溢れんばかりのオーラ

 

あの御方の命令であれば率先して承りたいし、足元にも及ばないし不敬だと解ってはいるが少しでも近づきたいし出来ればお仕えしたい。これだけは姉妹といえど他のメイド達には譲れない。

 

 

そんな敬愛すべき至高の御方であるヘロヘロ様の気配が急に途絶えた――――

 

 

アサシンや盗賊系のスキルを修めてる自分には判る。至高の御方が普段使用されるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンとは明らかに違う気配の消え方だ。断絶した、という感じがしっくりくる。

なにか異常が起きたのか。そうに違いない――――

 

そう思っても勝手に動くことは従者として許されない。ましてやモモンガ様の気配はまだしっかりと感じるのだから。

 

あぁ、モモンガ様。どうか早く我々、いえ私に御指示を――――焦燥感に駆られていたその矢先、モモンガ様の困惑されたお声が聞こえる。

すぐに顔を上げると先ほどまで会話を楽しまれ、まどろみの中におられたヘロヘロ様の美しき御姿はやはり無い。何て事なのでしょう――――

 

あの偉大なるヘロヘロ様に異変を起こした原因は何なのか?許せない、許してはおかない。今すぐ私が排除致しますのでモモンガ様、早く此方を向いて一言おっしゃってください。

 

 

 

『ソリュシャン、ヘロヘロさんを頼む』――――と

 

 

 




ナザリックの恋する乙女組は遠慮しない、を旨に爆走していくのです。

誤字・脱字のご指摘や感想ありましたらお待ちしております。
宜しくお願いします


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動き始めるナザリック地下大墳墓

出来る限り原作準拠と言ったな、あれは嘘だ


原作の流れに沿って肉付けしつつ極端に破綻しないという方向性で何卒・・・!!

この話、ヘロヘロさん一回も出てこないんです、嘘みたいでしょ。


全10階層からなるユグドラシル屈指のギルド拠点であるナザリック地下大墳墓、その最奥に鎮座する玉座の間

 

 地下にありながらも広く高く作られた部屋は精緻な作りこみを施した金細工に彩られ、壁に掲げられたギルドメンバーのシンボルを施した41の旗と共に雄大な景観を作り出している。

この玉座は計算しつくされた照明の配置により神殿の如き荘厳さ、そして静謐さを悠久ともいえる時間携えて

 

「どういうことだ!!」

 

破られたのだ―――

 

 

声を上げた主こそこのナザリック地下大墳墓の所有ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスター、モモンガその人である。

 

そのモモンガの心中は混乱を極めていた

 

(なんだ!?一体何が起きている?コンソール画面やGMコールは効かなくなっているし各種情報も表示されなくなっている。体は―――動く。ギルド武器を掴んでいる感覚も物凄くリアルだ。目は―――扉の彫刻や模様の隅々まで確認できるし「如何なさいましたか、モモンガ様?」声も聞こえるな?アルベド、いい声してるな流石だぜタブラさん。「失礼いたします。」近づいてくる動きももの凄いリアルじゃないか流石だぜタブラさん。しかしチチでけーな流石だぜタブラさ「何かございましたか?」顔ちけーな流石だぜタブ・・・タブラさん?)

 

「・・ぅぉっ!?」

 

吐息のかかる距離まで近づいてきたアルベドを他人事の様な視点で眺めていたモモンガはアルベドの芳しい匂いにつられる様に思考の渦から引き戻され、ゲームではありえないその行動と自分の感覚の変貌に思わず驚愕の声を上げそうになる。

が、同時に自らの感情が青白い光と共に沈静化され抑圧されていくのを感じた。

 

(感情が沈静化されている?これは・・・アンデッド化による感情の均衡化?つまり・・・これゲームじゃなく現実になってる・・・?この乳でかくていい匂いするアルベドも現実?しかし顔近いな。さささ触ってみちゃったりなんかしていいのか―――)

 

もう一度青白く光ったモモンガは固唾を飲んでこちらの挙動に注視してる皆から目を逸らす。

その先にある空になったヘロヘロの玉座を見つめ、静かにそして厳かに言葉を発した。

 

「・・・アルベド。控えよ。私は動く許可を出した覚えはない」

 

偉大なる主のオーラがひときわ強くなるとともに発せられた命令

 

「っ申し訳ございませんモモンガ様!!」

その言葉に飛び退くように後ろに下がり臣下の礼を取り直し顔を伏せるアルベド

その顔には恐怖と失態による焦りが張り付いており、それを見たセバスやプレアデスの間にも緊張が張り詰める

 

(今はアルベドや他の臣下達の忠誠が本物かどうかわからないじゃないか。敵になる可能性だってある。だが何よりも優先すべきはヘロヘロさんの安否だ。その為には確度が低いからといって慎重になってばかりはいられない。せっかく帰ってきてくれた仲間をこんな形で失うわけにはいかない―――)

 

何よりも大切なギルド仲間の為に―――

モモンガは安全よりもリスクを獲る事にしたのだ

 

覚悟を決め先程より更に強いオーラを放つ

 

まずは情報だ。

それも確度の高い情報を一つでも多く手に入れなければならない。

そう考えてから臣下達の様子を窺うと

 

アルベドは先程から見せていた震えをより激しくしている。

俺に怒られて自分の行動を後悔してるのか?それとも後悔してるフリで俺を油断させていきなりバルディッシュ(巨大な斧頭を持つ武器)で殴りかかってくるんじゃないだろうな?

クソッ、下を向いたら深い谷間がより見えるじゃないか。しかもプルプルさせやがって、俺を油断させるつもりなんだろそうなんだろ―――保留

 

プレアデスは―――俺の絶望のオーラⅢに耐えるので一杯一杯な感じだな。

ん、何だ?金髪縦ロールだけは全然応えてないな。種族スキルか何かなのか?なんでこっちを睨み付けてるんだ?

反逆か?反逆するのか?舐めるなよ喰らえ絶望のオーラⅤ!・・・効いてないじゃん!横の団子頭の子なんか顔から蟲が飛び出してるのに!何なのあの金髪の子。目が光ってないのに目が燃えてるよ怖えよ、クソッ!

いざとなったら背中から時計盤出して地獄見せてやるからな!!魔法使えるのかまだ分かんないのまでばれてんじゃないだろうな畜生!―――保留

 

 

最後にセバス―――アレ?あんまり変わってないな。やっぱレベル100NPCはこの程度じゃ応えないよな。

・・・というかアルベドに対して怒ってないか?

先程から険しい雰囲気をアルベドに向けていたのは感じていたが今は更に凄まじい圧力をかけているのが分かるな。一言声をかければアルベドに対しても厳しく接してくれそうだしプレアデスのまとめ役である家令(スチュアート)でもある彼なら万が一プレアデス(特に金髪)が暴走しても抑えてくれるだろう。最悪まとめて時計盤出して吹き飛ばそう―――採用

 

 

 

そうして皆を見まわしながら考える事約1分。

今までで最も脳を回転させたモモンガに突然、天啓に導かれたように素晴らしいアイディアが閃く。

これだ、これしかない。

 

だがそうなると―――段取りは――――――その前に――――――――――

 

 

 

そうして全ての算段をはじき出し、モモンガは覚悟を決めて沈黙を破り口火を切る。

 

 

「セバス」

 

「ハッッ!」

呼びかけに即座に応じるセバス。その態度は完璧で確信に満ちたものだ

やはりセバスは大丈夫そうだ。アルベドが絶望に満ちた顔してるのは予定通りだとしてなんで金髪は驚愕してんだ。ポジション的にあり得ないだろう呼ばれるのは。やっぱ怖いなあの子

 

 

「セバスよ。ナザリック地下大墳墓を出て、周辺地理を捜索せよ。その際、知的生物を見つけた場合は交渉してこの場へと連れてくるのだ。極力友好的にな。そして・・・・煩わしいな。アルベドよ!!」

 

セバスへの命令を中断して先程から俯いて震えているアルベドに怒号を飛ばす

 

「ハッッ!!お、御見苦しい様をお見せし、も、申し訳ございません!!守護者統括でありながらモモンガ様の御目汚しとなりし事、誠に!誠に!!―――」

頭を地面に擦り付け懇願するように謝罪の言葉を吐くアルベド。その様子を見たモモンガは玉座から立ち上がりゆっくりとアルベドへと近づきその肩に手を置く。

 

ビクリとアルベドが震えるが自らの体を触る偉大なる主人の手は決して荒々しいものではなかった

 

「よい。良いのだ、アルベドよ。お前の全てを許そう。私を想っての事と分かっている。だがお前は守護者統括でありこのナザリック地下大墳墓全ての臣下達を纏める責を持つ者であろう?いつまでもその様に情けない様を周りに見せるでない。」

 

「モ、モモンガ様ぁ・・・。ウゥッ・・・ン。お恥ずかしい様を見せました事、慚愧の念に堪えがたいものです。が、頂きました恩赦に報いるべく与えられた責務を全う致します。」

 

「うむ、期待しているぞ。・・・む、そういえば負の接触(ネガティブタッチ)を切るのを忘れていたな、済まない」

 

「とんでもございません。この程度の痛み、ダメージに入りませんし偉大なる主人から与えられるものであるのならば喜んで享受致します。」

 

「ふむ、頼もしいものだ・・・。さぁ立つのだ。手を貸そう。スキルは切ったから遠慮するな。」

 

「まぁ、有難うございます。それでは・・・。」

そういってモモンガが差し出した手を取りアルベドは立ち上がる。

その姿に先程までの弱さは微塵もなく、立ち居振る舞いも守護者統括にふさわしいものへと戻っている

その様を安心したように見守るセバスとプレアデス達。

特にセバスからは先程までの剣呑な気配も消え失せ、統括として又ナザリック地下大墳墓の仲間として扱う空気が漂っている

 

その様を満足そうに見たモモンガはゆっくりと玉座の方へと振り向く。

その顔には笑顔が張り付いている

 

(・・・スキルによるダメージは与えられているな。オンオフも意識したら出来るしフレンドリーファイアは間違いなく解除されている。しかも接触禁止のペナルティも一切ない。肩を触りながら内側まで手を動かしたが何らお咎めも無い。間違いなくこれは現実だ。そしてNPC達も自我を持った個人なのも間違いないが設定はどうやら忠実に引き継いでいる様だ。ならばいくらでもやりようはある)

 

確信した情報を手に、玉座に座りなおしたモモンガは予定の次の行程へと歩みを進めるために偉大なる主人としての態度を意識的に出しながら声を上げる。

 

「先に指示を出そう。アルベドよ。」

 

「ハッ!」

 

「今すぐにお前の姉、二グレドの元へと出向きヘロヘロさんの居場所を探索する様に命じるのだ。その際、ナザリック各階層守護者に各自の守護階層の探索を併せて命じるのだ。〈伝言(メッセージ)〉を行使して各階層、探し漏らしの無いよう徹底せよ。」

 

「かしこまりましたモモンガ様。姉にナザリック内の探索しにくい箇所を担当してもらう許可を頂けますでしょうか?」

 

「許す。まずはこのナザリック地下大墳墓内にヘロヘロさんがいるかどうかを確定させる事が最も大切な事と知れ」

 

「心得ました、モモンガ様」

 

「結果が分かり次第、私に知らせよ。頼んだぞ。お前は代わりがきかぬ重要な人材だ。その事を心に留め、勤めに励むのだ」

 

 

「かっ、代わりのきかぬ者(結婚相手)っ・・・ク、クフーーーー!!かしこまりてございます!!」

「お、おう・・・」

決定的な誤解を与えた気がするが気のせいだろう。

 

与えた命令を実行する為に玉座の間から去ろうと足早に歩いていくアルベドを見てモモンガは思い出した事を伝える。

 

「待てアルベド。(姉に会う時の注意事項を)忘れてないだろうな。()()だぞ。」

そういって赤ん坊を抱く仕草とシルエットを見せるモモンガ

 

「(私達の)コレ(赤ちゃん)ですね!?!ク、クククフゥフーーー!!!!勿論(この任務が終わりましたら)滞りなく準備して(モモンガ様の元に)参ります!!」

「お、おう・・・・・」

 

 

致命傷を自ら作る詰めの甘さこそナザリック地下大墳墓の主たる証である

 

 

スキップしそうな動きで出て行ったアルベドを見て感じる妙な寒気に首をひねりながらもアインズは次の指示を飛ばす

 

「後にして済まないなセバスよ。」

 

「とんでもございません。偉大なる主人、モモンガ様の的確な指示を拝見させていただきました事、誠に幸運というほかございません。」

 

「ありがとうセバス。さて、先程の続きだがセバスにはナザリック外の調査と知的生物の友好的招待だ。条件は可能な限りのもう。探索範囲は周辺一キロだ。」

 

「畏まりて御座いますモモンガ様。直ちに行動を開始いたし――」

「待て。探索範囲だがナザリック地下大墳墓内にヘロヘロさんがいなかった場合、二グレドに命じて外の探索も始める。その場合は緊急時を除いて外の調査範囲を広げ、探索を続行してもらう。」

 

「全ては御心のままに」

 

「うむ。万が一戦闘や危険が及んだ場合はセバスの判断で対処しろ。そして・・・一人だけプレアデスを連れていきその者に情報を持たせて引き返させるのだ。二グレドも万能ではない。セバスが探索してないところを担当させていた場合はこちら側の対応が遅れるだろうからな。そして恐らくだがヘロヘロさんはナザリック外の可能性の方が高・・・い」

 

「なんと・・・。そこまで見当がついておられたのですねモモンガ様。流石は我らが主でございます。」

 

「よせ。私はお前たち臣下が有能な事を信じているのだ。ナザリック内の大半の場所にヘロヘロさんがいたなら誰かしらから報告があってもいいはずだからな。だからこそこの任務は継続性が高く重要度も高い。信じているぞセバスよ」

 

「おぉ・・・!かしこまりましたモモンガ様。必ずやご期待に沿えるよう行動致します。して、連れていくプレアデスは如何致しましょう。」

「うむ、そうだな―――」

 

 

金髪がすっごい目で見てる。さっきのヘロヘロさんが恐らく外辺りから一段と目力が上がってもう何でもできそうです

 

「そ、そうだなセバスよ。セバスが任務への適性、変化する状況への対応力、自身との相性などを考えた場合に誰を優先するのだ?」

 

「・・・そう、で御座いますね。皆優秀かつ信頼のおける部下であるとの自負がございますが任務への適性を考えた場合、ルプスレギナかソリュシャン、もしくはエントマ辺りが宜しいのではないかと存じ上げます。」

 

「ふむ、理由を聞こうか(名前ソリュシャンか、そうだったそうだった。その時だけ目が元に戻ったもんな。そのままの君でいて)」

 

「はい。まず最有力のルプスレギナですがクレリックのクラスレベルを修めており回復魔法を使用できる事から、私や自身の継戦能力が高いと考えます。又、人狼(ワーウルフ)の種族によって完全不可視化を行えますので情報を持ってナザリックへの帰還という予期せぬ強敵に当たった時の対処としては最も相応しいでしょう。

次にソリュシャンですがルプスレギナ程ではありませんがアサシンとして気配を消す術に長けております。また種族が不定形の粘液(ショゴス)ですので自らを切り離して遠隔視する事によって探索範囲を広げる事も出来ます。

ただ最後になりますエントマが符術師であり蟲使いであるので使役する蟲によって劇的に探索範囲を広げる事が出来ます。派手になってしまうので情報を持ち帰る点に難があると考えますがヘロヘロ様の探索においては最も適しているか―――」

「うむ、よく分かったぞセバス。見事な説明だ。(メッチャ見てんじゃんセバスの背中、怖えよ!アサシンなのにこんなに明るくてみんなが見てる前で暗殺しそうだよこの子!!横のエントマもチラチラソリュシャンの方見てるし。ルプスレギナはなんで笑ってるんだ?自分が選ばれたらソリュシャンに妬まれるんだぞ?もしかしてSなのか?それとも馬鹿なのか?)」

 

「ハッ、長々とした説明で恐縮でございます!」

 

「うむ、プレアデスよ。あとは私とセバスで話し合って誰を連れていくかを決めようと思う。」

 

その言葉にプレアデスの空気が変わる。皆表には出さないようにしているが意識している。金髪縦ロールを。本人は素知らぬ顔をしてるのが腹立たしい

 

「だ、だが!私は皆の意見を尊重したいとも考えている。姉妹達で話し合ってそれにセバスが納得する理由があればその者を連れて行っても構わないと考えている。いくつか指示をせねばならない事があるのでプレアデスは外で待機しながら話し合うがいい。」

 

「かしこまりましたモモンガ様。それではプレアデス、外で待機しております。」

 

副リーダーの眼鏡をかけた夜会巻きのメイドが代表して声を発し、それに皆が併せて礼をする。見事な動きだ。一部の乱れもない

 

そのまま外に皆で出ていき扉を閉め

「ねぇ、エントマ?話があるんだけど」

「な、なぁにぃ?ソリュシャンちゃ―――」

 

 

バタン

 

・・・・・。

・・・・・・・。

 

「・・・セバスよ。一応聞きたいのだがもし私の推すメイドとプレアデスの中の話し合いで出た者が違った場合どうするのだ?」

 

「聞かれるまでも御座いません。勿論モモンガ様の決定された者を帯同させます。その事に不満を持つ様な愚かな者はこのナザリック地下大墳墓において一人もおりません。」

だよなぁ、そう言うよな設定に忠実なんだとしたら。

 

コレは俺がソリュシャン以外を選んだ場合はとんでもなくめんどくさい事になりそうだな。

幸い候補に挙がってたしヘロヘロさんを探す熱意は凄そうだし彼女にしといたほうが無難だろうな

こんな所で綻びを作ってる場合じゃないし内部調査が終わったら二グレドの探索に併せて他の者も捜索に出せすのだから。重要な役割ではあるが先遣隊としてなら問題ないだろう

 

「ではセバスよ。帯同させるのはソリュシャンで良いのではないか。確かに突出してはいないかもしれないが先程からヘロヘロさんを探そうという意欲と熱意がヒシヒシと感じられて頼もしく思ったぞ。」

「なんと・・・!部下達の熱意まで汲み取って頂けますとは流石は慈悲深き我らが主でございます。」

 

「う、うむ・・・。ではそのように取り計らってくれ。この任務は重要だ。くれぐれも間違いが無いよう頼んだぞ」

 

「ハッ!!」

 

一礼と共に玉座の間を出ていくセバスの後姿を見ながらモモンガは「俺が主だよな?俺の意思で決めたんだよな?何か精神操作とか喰らってないよな?」とひとりごちるのだった

 

 

 

 

 

 

玉座の間、そこを出た所でセバスは感動に打ち震えていた―――

あれこそ正しく我らの為に最後までこの地に残りし偉大なる主人、モモンガ様。

至高の41人の御一人であられるヘロヘロ様の安否が分からず、また現在のナザリック地下大墳墓において異常が発生してると思われる中、的確かつ入念な指示と見事な人心掌握術。

それでいて臣下に対する慈悲深き配慮を忘れず、各個の意見を軽んじられない素晴らしき御方

 

あの御方の元で働ける喜びを噛みしめ今から行う任務を完璧に、より完全に行う事を誓いながら廊下へと足を向ける

 

と、そこにはかの御方に選ばれた幸運なる部下の姿が見える

 

「おや、ソリュシャン。貴方だけがココにいるのですか?他の者達は?」

 

「はい、セバス様。皆話し合いの最中に必要事項だから、と各自の場所へと()()()()()。あの・・・セバス様?モモンガ様は誰をセバス様の供にすると決められたのですか?」

 

「あぁ、善き知らせですよソリュシャン。貴方のヘロヘロ様への熱意は能力を超えた所で働くやもしれんとの事。この大役、完璧に果たすべく全力を尽くすのですよ?それがモモンガ様やヘロヘロ様、ひいてはこのナザリック地下大墳墓に益となる事なのですから。」

 

「まぁ!本当でございますか!!嘘のようです。私が選ばれるなんて・・・この上ない誉れですわ。セバス様、私ソリュシャン・イプシロンは偉大なる御方であるモモンガ様の期待に応えるべく全力でセバス様のサポート、そしてヘロヘロ様の御身の為に身命を賭して働く事を誓います。」

 

「宜しい。では参りましょう。他の者に連絡する時間も惜しいです。貴方から伝言(メッセージ)で皆に各階層の警備とヘロヘロ様の探索にあたる様伝えてください。」

 

「畏まりました」

そう言って礼を取り下を向いたソリュシャンの顔は明るい。そうニチャッという音がしそうな笑顔だ

 

 

「あぁ、そうそう。ソリュシャン」

 

「ハイ?」

 

「アインズ・ウール・ゴウンの臣下たる者、どの様な時もスマートさと華麗さ、そして清廉である事を忘れてはいけません。何処で付いたのかはわかりませんが顔に血が着いてますよ。任務の前に身だしなみを急いで整えなさい。」

 

「これは失礼致しましたセバス様。直ちに」

 




ぷれあですはみんななかよしです。


流石だぜタブラさn


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ラン・ソリュシャン・ラン(前編)

こんなはずでは・・・。
長くなりすぎたので分割です

はやくヘロヘロさんに会いたい・・・!


「戻れ、レメゲトンの悪魔たちよ」

 

 モモンガのその言葉に周りを取り囲んでいた巨大な体躯のゴーレム、それも稀少な鉱石を贅沢に使用した特製の警備兵はその見た目とは裏腹に足音軽く元の位置に戻り、再び警備の体勢を取る。

問題ばかり起こすがゴーレムクラフターとして確かな腕を持つかつての仲間が心血を注いだ自信作を思い通りに動かせた事にモモンガは胸をなでおろす。

 

「これで大体は済んだか・・・な」

 

 ただ一人玉座の間に残ったモモンガは、現在行われているナザリック地下大墳墓内のヘロヘロさん捜索の結果が出る間、自らが行使できる権利や魔法、アイテムの確認を急いでいた。

先程のやりとりで自分を取り巻く環境はそれ程悪い状態ではないと感じていたが、元来モモンガは石橋を叩いて叩いて叩き倒し、信頼できる人柱を投げつけてから渡るか考える程の慎重派(チキン)なのだ。

 

 そんな自分が仲間の安否というのっぴきならない事態に後先など考えずに行動し指示を出した

 

その心中はまさに地雷原を目隠しで歩く様なもの。

特大の地雷達が自分から主張してきたのは僥倖と言う他ないがそれでも道を求めて暗闇を走るのは精神がすり減る思いだった

 

 そんな緊張の連続であった作業を終え暫定的にではあるが自らの状態確認をし、大きく息を吐いたモモンガは右手をそっと天にかざす。

そこに存る照明の光に照らされひと際強く輝く薬指の指輪を見つめる

 

その指輪の名は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』―――ギルドメンバーにしか所持を許されぬ指輪

 

他の指にはめてある指輪と比べると余りにも弱い力しか持たない、しかし最後まで決して外す事は無い指輪―――例え自らの命が朽ちようともだ。

それは作り上げ、築き上げてきた誇りの形であり苦楽を共にしてきた仲間達との絆の証明

 

 その指輪を持つ者が今、この地にきっといる

 

もう二度と会えないとさえ思っていた仲間。彼がこのナザリックに戻り、再び共に歩んで行く為なら俺は何だってする。そう、何だって―――

例えそれが仲間達が心血を注ぎあげた作品であり、自分達にとって子供達同然の存在であった臣下達を犠牲にする事になったとしてもだ。だから―――

 

「無事でいますよね?ヘロヘロさん。貴方とのお別れはしませんからね」

 

 そう一人呟くモモンガの思考に〈伝言(メッセージ)〉の糸が飛んできた。

少しの苛立ちを感じるが気を取り直し、心の準備を済ませてからからその糸を繋ぐ

 

『何だ?』

『失礼致しますモモンガ様。アルベドでございます。ヘロヘロ様の探索の件につきましてのご報告をさせて頂いてもよろしいでしょうか?』

『っうむ!報告せよ』

『ハッ!結論から報告させて頂きます。全階層全領域捜索の結果、ヘロヘロ様はナザリック地下大墳墓内にはおられないと結論付けます』

 

やはりか・・・。

予想してはいた事だが落胆は大きい。ナザリック内にいてくれたら、とそう願わずにはいられなかった。そう思いたかった自分がいた。

沈黙したモモンガの様子を推し量るように遠慮がちにアルベドの言葉が続く

 

『心中お察しいたしますモモンガ様。この様な結果をお伝えする事となり申し訳ございません』

『いや、良い。・・・・それは確実なんだな?』

『はい。全ての領域守護者と伝言(メッセージ)で緊密な連絡を取りながら捜索を行い、手間が掛かる箇所は私が責任を持ちまして姉の二グレドに指示を出して探索致しました』

『分かった。ご苦労であったアルベド。大役を任してしまったな』

『とんでもございませんモモンガ様!守護者統括として当然の責務を果たしたまででございます』

『あぁ・・・。ではこれより捜索範囲をナザリック外へと移す。それに併せて階層守護者達と直接会って伝えねばならん事もある。』

 

 ここからは自分にとっても最も大切な確認を含んだ作業を連続して行わなければならない。気を張り直さなければ・・・

 

『畏まりましたモモンガ様。では今すぐに全ての階層守護者を玉座の間へと集めますか?』

『いや、第六階層の円形劇場(アンフィテアトルム)だ。時間は30分後。動くのが困難な階層守護者は含まなくて良い。アウラとマーレには私から行くので必要ない』

『全て承りましたモモンガ様』

『うむ、頼んだぞ。あぁ、内部を担当したプレアデスもその時集めておいてくれ』

 

 そう言って繋がりを切ったモモンガはしばしの間俯き、苦悶のため息を吐く。

最後に、とふざけてヘロヘロさんとアルベドの設定を変えなければ今の守護者統括として働くアルベドが本来の姿だったのだろう。

彼女にも彼女の創造主のタブラさんにも申し訳ない事をした

 

 だが今は俯いてる時間はない。全ての力は前を切り拓く為に使わなければ・・・!

 

「行くか。見守っていて下さい、皆さん」

 

 

指輪を見つめ呟いたモモンガの姿は次の瞬間掻き消え、玉座に束の間の静寂が訪れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓外の調査を任されたセバスとソリュシャン。

大霊廟の外に広がる光景を目にした彼らは驚きを隠せなかった。なぜなら一度もナザリック外に出た事がない二人が伝え聞いていた周辺地理は沼地、それも毒属性を帯びたものが散在する大湿地というもの。

 それが目の間に広がるのは草原、それも見渡す限り平坦な草原だったからだ。更に薄い霧が立ち込めるはずの空は晴れ渡り、星のきらめく夜空がどこまでも広がっていた

 

 とてつもない異変が起きている―――

動揺を抑え与えられた周辺地理1kmの調査をつつがなく終えたセバスとソリュシャンは報告する為、互いの所感を纏めていた

 

「驚きましたねこれは。周辺1kmにおいて知性を有する生物はなく地形も平坦な草原、そして人工建築物も無し・・・ですか。」

「ハイ、私のスキルにも引っかかりはありませんでした。セバス様、これは・・・」

「えぇ、モモンガ様の予想通りナザリックが何かしらの異常に巻き込まれたと見るべきでしょう」

 

調査の終点である大森林の方を前にセバスは呟く

 

「ハイ。となりますとヘロヘロ様もやはり外にいる可能性の方が高いと考えられます。あぁ今すぐに御身の元へ―――」

「待ちなさいソリュシャン」

 

すぐにも飛び出していきそうなソリュシャンに対し抑え付ける様にセバスが口を挟む。それも普段の彼には見られない強い口調で

 

「貴方らしくありませんね。プレアデスの中でも最も柔軟な対応力と機微を捉える観察眼を持つ有能な貴方が見る影も無いではありませんか」

 

「・・・申し訳ございません、セバス様」

手を前で組み深々と頭を下げるソリュシャン。そんな彼女を見てセバスはため息とともに言葉を続ける

 

「貴方のヘロヘロ様への深き畏敬の念は理解できます。そしてそれを評価なされたが故にモモンガ様は貴方を選ばれたのです」

一旦言葉を切り、ソリュシャンの方へ向き直りセバスは言葉を続ける

 

「最優先任務、それは勿論ヘロヘロ様の探索と発見である事は疑う余地もありません。しかし現在、我々がまず行うべきはナザリック地下大墳墓外の周辺地理の調査です。まして異変が起きている現状においてはモモンガ様から御連絡があるまではそれに専念する事こそが正着であるといえます」

 

「相違ございません。臣下としての心得を忘れ、私欲にはしり誠に申し訳ございません」

 

「強く諫めてしまいましたがその熱意は決して悪いものではありません。本懐を果たすべく、まずはモモンガ様に今後の方針を仰ぎましょう。急がば回れですよソリュシャン」

「かしこまりました。ご配慮感謝致しますセバス様」

 

そういってもう一度深々と頭を下げるソリュシャンを満足気に見つめ、セバスは今後の方針を仰ぐべくモモンガへと伝言(メッセージ)を繋ぎはじめた

 

 ソリュシャンは頭を下げたまま今後について思考を走らせる

(確かに軽率でしたね・・・ですが私の粘体(おんな)の勘が告げています。絶対にヘロヘロ様は外にいらっしゃる筈です。()()()()をしてまでセバス様に付いてきたのは敬愛するヘロヘロ様を発見する事ただ一つ。モモンガ様は偉大なる至高の御方、恐らくそんな私の心中を洞察された上で選抜なされたのでしょう。あぁ、流石は至高の41人の纏め役にしてあのヘロヘロ様の上に立たれた御方。ならばココからは更なる広範囲探索の御指示が下されるはずです)

 

 全てを見通し鑑みた偉大なる御方の考察(仕返しが怖いし何より目が怖い)、ソリュシャンはそれを出した慈悲深き御方が次に下すであろう指示に心構えをしながらセバスを見つめる。

モモンガとの伝言(メッセージ)を続けていたセバスが深く一礼すると共にソリュシャンに告げる

 

「御指示を賜りました。ココからは二グレドの探索と併せて広範囲を調査するとの事です。危険性も低いと判断されましたので増援が来るまでは我々は連絡を密に取りながら別々に森の調査を始めよ、とのお達しです」

 

 

 

「畏まりましたセバス様。では私はこちら側を担当させて頂きます(やはり。流石でございますモモンガ様)」

溢れる敬意を胸にソリュシャンは森の中へと走り始める―――

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 地下でありながら星々が空に耀き草木が生い茂る深き森で構成されたナザリック地下第6階層。

大いなる自然が主として存在している階層だがその中心には石材で構成された巨大な楕円形の建築物が鎮座している―――名を円形闘技場(コロッセウム)

6階建てに相当する建物は古代ローマ時代を彷彿とさせる作りであり、その中にある円形劇場(アンフィテアトルム)―――かつてこのナザリック地下大墳墓に侵入してきた多くの者達を殺戮してきた闘技場、その入り口付近にメイドが一人、静かに佇んでいた

 

 彼女の名はユリ・アルファ―――プレアデスの副リーダーであり姉妹の長女である。

夜会巻きにまとめられた黒髪をくゆらせ、豊かな肢体をメイド服で包んでいる彼女の腕にはその雰囲気にそぐわない棘付きの凶悪なガントレットが填められている。

そんな彼女は必需品とばかりに掛けられた眼鏡を触りながらその怜悧で知的な顔に笑顔を浮かべていた

 

(まさかソリュシャンがあんなワガママを言ってくるなんてね・・・驚いちゃったわ。でもそれだけヘロヘロ様の御発見に携わりたかったのね。可愛い所あるじゃないの)

 

―――勿論モモンガ様がプレアデスから一人決められたら従うのは当然だが、私たちの話し合いで決めた者を優先するのなら自分を選んで欲しい―――

 

普段は優秀だがサディスティックな気性がたまにキズの妹がした、滅多に見せない本心からの懇願に姉として思わず頬が緩んでしまった

 

(ボ・・・私が選ばれなかったのは少し残念だけど、ソリュシャンは選ばれたのかしら。候補としてはもう一人のサディストも入ってたものね。自分が有利と告げられた時のあの嬉しそうな顔ときたら。ホント問題児なんだから)

 

 

 現在、劇場の中ではモモンガ様と階層守護者の皆様の話し合いが行われており、終わるまでプレアデスは入り口付近で待機が命じられている。

自らの担当部分の探索と報告を終え、この場所に来たがまだ他の妹たちは来ていない。誰がセバスのお供に選ばれたのかはまだ聞かされていないのだ。ユリは可能性の高い可愛い妹二人(サディスティック担当)のやり取りを思い出しため息をつく

 

 そこに音もなく一人の影が近づいてくる

 

「あら、あなたも選ばれなかったのね、シズ」

「・・・残念。だけど納得してる・・・」

 

 現れたのはプレアデスの四女―――正式名称CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ)ことシズ・デルタ

赤金のロングヘア―を揺らしながら歩いてくる彼女はユリと違い、メイド服にミリタリー風味で統一した飾り付けを纏い首元に同じ柄のマフラーを着用している。

片目をアイパッチで覆っているその顔は表情こそ無表情であったが、翠玉の瞳に浮かぶ感情は優しげなものだった。

 

「・・・・・一生懸命、諭された。・・・ナザリック内部の方がシズ姉さんは、活躍できるって・・・・一生懸命、説明された」

「あら、私はお願いされたわ。シズには感情じゃなくて理論で攻めたのねあの子」

 

「・・・可愛かった。・・・いつも私を、いじくってたのに・・優位に立てた感じがして、ちょっと・・・・いい、気分」

「ふふ・・・」

 

 普段見られぬ妹の可愛い姿を思い出し談笑している二人の顔に影が差す。見上げた先には照明を背に上空から魔法で降りてくるプレアデス三女、ナーベラル・ガンマの姿があった。

切れ長で黒曜石のような輝きを持つ瞳に美しい黒髪をポニーテールに纏めてたなびかせながら、フワリと地面に降りてきた彼女は先に着いていた二人に話しかける

 

「遅くなってごめんなさい。担当部分が思ったより広くて」

 

「まだ時間には余裕があるから構わないわよ。ナーベ、お疲れさま」

「・・・・お疲れさま」

 

 労いの言葉に応えながら、身だしなみに乱れが無いかチェックするナーベラル。

非常に高い忠誠心と実直な性格を持つ彼女にとって敬愛する主人に粗相があってはならないという思いは殊更強いものなのだ。

 

「ありがとう二人とも。でもその分、私が一歩リードしていると言っても良いんじゃないかしらね。限界まで頑張ったわ」

「ん?そうね・・・・ところでナーベ?一つ聞いていいかしら」

「何かしらユリ姉さん」

「その・・なんで頭からウサミミを生やしてるのかしら?」

「あぁ、コレは魔法の兎の耳(ラビッツ・イヤー)よ?」

「えぇ、それは分かるんだけど何故今それをしているのかしら?」

「担当部分の探索の時も使ってたんだけど、今からモモンガ様へのアピールタイムなんだから先に出しておこうと思って」

 

「アピール・・・タイム?」

 

「そうよシズ。探索の時もだけれどいついかなる時もヘロヘロ様を発見する為には五感を研ぎ澄ませておいて損はない。そうした方がモモンガ様もきっとお喜びになられる、ってソリュシャンがアドバイスしてくれたの。だから私頑張ったんだから。担当部分より多めにまわったわ、フフフ。それにセバス様の調査に行く時に選ばれたら、この魔法がきっと役に立つはずよ。アピールポイント高いって」

 

「ソリュシャンが?」

「そう、ソリュシャンが」

 

 万全の体勢を整えたと自負している―――そう自信満々の顔でナーベラルは二人にアピールしている。そんなナーベラルを見て二人は顔を見合わせてコソコソと話しはじめる。

 

「騙されてるわね」

「・・・・また、騙されてる」

「そうよね。又、言葉巧みに誘導されたのね、ナーベラル・・・」

 

 コソコソとしゃべる二人をナーベラルはキョトンとした顔で眺めていたが

(そう。二人とも私程は探索範囲を広げなかったのね。今から決めるだろうセバス様のお供選びは、悪いけど私の一歩リードねフフフ)

そう思い当たりウサミミを動かしながら渾身のドヤ顔で二人を眺めるナーベラル。その顔には今から与えられるだろう栄誉ある仕事への期待が満ち満ちている。

また妹に騙されているそんな三女の不憫さに二人はいたたまれない気持ちに―――

 

(またいい様に騙されたのねナーベラル。貴方のその高い忠誠心と能力の割にウッカリが治らない所、ぼ・・・わたし好きよ)

(・・・・何度見ても、姉さんのそういう所・・・・理解不能。・・・でも、好き)

 

 

はならなかった。

 

 

勝ち誇る負け組を生温い視線で眺める二人。ナザリック戦闘メイド、プレアデスの相関関係がにじみ出る一幕、それは耳に飛び込んでくる大量の蟲の羽音で終わりを告げる

 

「あら、エントマも駄目だったのね」

「・・・・やっぱり、蟲が目立つ、のを嫌って・・・・候補から、外れたんじゃ」

「捜索範囲を多めにしたのは控えめにいうべきね・・・。あくまで能力的に出来たからした、みたいな方が慎ましくていいと思うし」

 

 轟音をたてながら飛来してきた蟲達は地面近くまで下降すると纏まりながら球体を描き始める。

膨れ上がりながら大きくなる球体は蟲達が中心へと固まり始めるとともに密になっていく。

そうして出来た蟲達の球体が動きをピタリと止めると弾けた様に散り散りに解け始め、一人の少女が解けた球体から現れる

 

 先の三人とは異なる和服テイストのメイド服を身に纏い、腹部の前に大きく蝶々に結んだ赤い帯締が印象的な少女は二つの団子頭を軽く傾けこちらに小走りにかけてくる。

少女の名はエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ―――プレアデス六女の蟲使いである

 

「遅くなってぇ、ごめんなさぁいぃ」

 

そう言って可愛らしく頭を傾けるエントマにユリが歩みながら問いかける

 

「時間内だから問題ないわよエントマ。こっちにいらっしゃい、ほら口元が汚れてるわよ、もう」

そう言いながらハンカチを取り出しエントマの口周りを吹き始める

 

「んんぅ~。ありがとうユリ姉さまぁ」

「これでよし、と。仕事はちゃんと終わったのエントマ?遊んでたんじゃないでしょうね」

「ちゃぁんと終えたよぉ。担当範囲をまわってぇ、報告したんだけどぉちょっと時間が余ってたからぁ、もっかい寄り道しただけぇ」

立ち上がりハンカチを折りたたみながらユリが問いかける

 

「もう一回寄り道?」

「うん。おやつの間ぁ」

 

折りたたんだハンカチを投げ捨て、ワナワナと震えながらエントマの顔を手で挟むユリ。お気に入りの柄だったのだ

 

「ぅう痛いよぉユリ姉さまぁ。そんなに強くぅムニュムニュしたらぁ仮面が外れちゃうぅぅ~」

「うあぁ、ぼぼ僕のお、お気に入りのハンカチだったのに・・・クスン。二回も行ったの?恐怖公の所に」

「うん、一回目はぁ連れて行っただけでぇ私は一口二口しか食べてないからぁ」

「連れて行った?誰を?」

「ソリュシャンだよぉ」

 

 事もなげに話すエントマだが聞き逃せない話題にユリとシズは喰い付く。

「やっぱりポイントは・・・そう・・・それで・・・」

ナーベラルは事前準備に没入していて聞いていない

 

 本来ソリュシャンは人間等を溶かして好んだりするなど知性を持つ生物を対象にしている。確かに恐怖公の眷属はある程度の知性を有しているが対象ではないはずだし何より・・・あの生物なのであるから

 

「・・・エントマ・・それなんで連れて、いったの?」

「えっとぉ、玉座の間から出てすぐぅ、私に秘蔵のぉお肉をくれるって言ってぇ、実際先に半分くれたのぉ。すっごい柔らかくておいしかったのぉ」

 

この子、誑かされているパターン

目と目で通じ合うユリ姉とシズ。ウサミミの角度を調整するナーベラル

 

「んでぇ、ソリュシャンがユリ姉さまとシズと話してぇ、ナーベラルが飛び立つのをぉ一緒に見送ってからぁ、連れて行ったのぉ」

「あら、エントマ。来てたのね。ソリュシャンはどうしたの?そろそろモモンガ様の選考会が―――」

「・・・ナーベラル、本当に準備は、万全?」

「ハッ!確かに・・・まだ不完全かもしれないわ。ありがとうシズ」

 

グッ、と指を立ててナーベラルを追い払うシズ。ユリは更に顔を近づけてエントマに問いかける

 

「恐怖公の所に行って?どうしたの?」

「え、えっとねぇ。私が恐怖公と話してる間にぃ、ソリュシャンがぁ―――」

 

「うー、遅れたっすよー。申し訳ないっすーー」

 

 話を聞いていたユリの肩に突如重さが加わり、後頭部に柔らかいものが押し付けられる。

ユリの背後の何も無かった空間から、赤い三つ編みに浅黒い肌をした修道服風のメイド服を着た女性―――プレアデス次女のルプスレギナ・ベータがユリの頭に胸を載せながら登場した

 

「ちょっとルプー、重いわ!髪が乱れちゃうからどいて頂戴!」

「えー、ひどいっすよユリ姉ぇ。可愛い妹がひどい目にあったのに、慰めてほしいっす」

 

そう言いながらユリの頭から胸を離したルプスレギナは、にゃははと後ろに下がる

 

「もう・・・。と、いう事は貴方とソリュシャンの勝負はソリュシャンが勝ったのね」

 

 ずれた眼鏡を戻し、髪を整えながら立ち上がったユリはソリュシャンが願いを果たせた事に心中で胸をなでおろす

 

「そうっすよー。もーひどい目にあったんすからー!あ、エンちゃんっすね!!協力したのはぁー!!」

「うぷぷ、ごめんねぇルプー。今回はソリュシャンのぉ味方になったのぉ」

 

話が見えず困惑する二人をよそに、互いにじゃれ合うルプスレギナとエントマ。巻き込まれてナーベラルのウサミミが乱れた

 

「・・・・ちゃんと、説明してほしい」

「そうね。経緯がまだ把握できてないわ。よろしくお願いしたいところよ」

 

たしなめる様に言う二人にナーベラルを連れて三人で近づいてきたルプスレギナが言葉を続ける

 

「モモンガ様とセバス様の話し合いの時に私達が外に出たじゃないっすか?それでソーちゃんが私に『もし私達で決めた者でセバス様に着いて行く者を決めれるなら私に譲って欲しい』って言ってきたんすよ」

「それで?」

「勿論いってやったっすよ!『アレアレ?お願いの仕方があるんじゃないっすかねぇー?』って!」

「・・・最低」

 

シズに後ろから抱き着きながら喋るルプスレギナの言葉に無表情にシズが答える

 

「勿論本心じゃないっすよー。なんだったら私が選ばれてもソーちゃんを推してたかもしれない位応援してたっすよ!」

 

(嘘ね)

(・・・ウソ)

(嘘ですぅ)

(何の事かしら?)

 

皆感想は同じであったが話の続きを促す

 

「そんでっすねー、そう言ったらソーちゃんが『後で二人きりで少し話がしたい』って言ってきたんで、『馬に乗る遊びがしたいっすねー』って言ってから一旦別れたんすよ、勿論冗談っすよ」

「そのセリフ言った時の顔、してみて」

「こんな顔っす!」

「全部分かったわ。続きを話してちょうだい」

 

 こめかみを抑えながらユリは続きを「・・ルプー、石鹸の匂い」「へへー、お風呂に行ってきたっすよ」「ハッ!私とした事が!身だしなみを」「それもう意味無いですぅ」

ピシッ!ピシッ!!ピシッ!!!「ルプー?続けて」鞭を叩きながら促した

 

「え、えっとそれでっすね。その後、二人で会ったんすよ。そしたら『ルプー、いえルプスレギナ様。背中にお乗りください』って言いながらソーちゃんが四つん這いになったんすよ。もうテンションあがちゃってっすね『え、聞こえないわ?馬の言語だから』って言いながら鏡の前まで歩かせて言って『その姿を脳裏に刻み付けなさい』って言いながら跨ったんすよ」

 

「わたしぃ、ルプーが悪いと思うぅ」

「なんでっすかー!普段滅多に無いソーちゃんの絶対的に不利な立場っすよ!こんなチャンス逃す方がどうかしてるっすよ!」

「どうかしてるのは貴方よルプスレギナ・・・」

 

他の姉妹がドン引きする中、頭を押さえながらユリはため息を吐く

「それで・・・どうしたの?」

 

「え、そんで跨った瞬間にソーちゃんがニチャッって顔して笑ったと思ったら、爆発したっす」

 

「・・・・え?」

唐突過ぎる展開に耳を疑う。シズも同じリアクションだ

 

「だから、爆発したっすよー。で中から恐怖公の眷属がいっぱい飛び出してきてっすね。もー飛び散った汁とか部分とかが体中にゴヘェッ!!」

 

 唐突に話を途切れさせ闘技場の壁まで吹っ飛ぶルプスレギナ。

原因は皆まで聞かずに肘鉄をぶち込んだシズ、理由は先に結論を言わないからである

 

「・・・・先に・・・・・・いいなさいよ」

「だってだって一人だけGまみれとか嫌じゃないっすかー!大丈夫っすよ、しっかりお風呂で洗ってきたっすから」

何処からか取り出した銃の銃口をルプスレギナの眉間に合わせるシズ。ルプスレギナが動くと銃口を動かすあたり、本気具合が窺える

 

「エントマは知ってたの?」

 

「そこまでは知らなかったぁ。すごい勢いでぇ恐怖公の眷属を取り込んだと思ったらぁ、自分の分身を出してきて私に同じ姿の幻を作って掛けさせてぇ、爆散符を仕込ませたのぉ。泣き叫んで慈悲を求める恐怖公もぉ睨み付けて黙らせてたしぃ、あんなに太ったソリュシャンみたのぉ、久しぶりだったぁ」

「ひどいっすよエンちゃん!もう後片付けも大変だったし中から『後でお詫びするから』って紙出てきたのも逆に腹立つっすー!絶対に仕返ししてやるっすから!」

 

「・・・どんな、顔で?」

「こんな顔っす!」

 

 ズドンズドンズドン!と銃を撃つシズとそれを避けるルプスレギナにユリはため息を付きながらも経緯を把握し、状況を理解したので手をパンパンと叩く

 

「はいはい、そこまでよ。各自が仕事してたのは分かったし報告も済ませてるから姉さん安心したわ。もうそろそろモモンガ様と階層守護者様達の話し合いも終わる頃でしょうから私達も準備するわよ?皆、並んでね。あ、ナーベ?ウサミミ直しておきなさい」

 

「はーいっす。」

「・・・了解」

「え・・・てことは・・・えっ?」

「並ぶ順番そこじゃないですぅナーベラルぅ」

 

 皆を並ばせると仕事モードへと切り替えさせる。今から与えられる仕事は恐らく外で奮闘しているソリュシャンを助けるものになるはずだ。

戦闘メイド・プレアデス(6連星)は偉大なるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の臣下である。各自が各自を想い、助け合うのがギルドにとって最も良い事であり、プレアデスの存在価値を高めるものになる。

 

そう、皆いろいろ言ってもその事を分かっているのだ。はずだ。

 

(頑張るのよソリュシャン。私達が応援に行くことになったら全力で駆けつけるから)

(ちぇー、今回はまぁ仕方ないっすねー。この借りをどーやって返してもらうかじっくり考えないといけないっすね二ヒヒ)

( )

(・・・・・・ルプー、またロクでもない事考えてる顔してる。・・・・・ソリュシャン、うまくいくといいな))

(お肉っ☆お肉っ☆あのお肉ぅどの箇所のお肉なんだろおぉ、やわらかかったあぁ・・・あ、いけないぃ涎出ちゃいそうぅ)

 

分かっているのだ

 

 準備が完了した頃に伝言(メッセージ)でアルベド様より闘技場に入る御許可を頂く。ここからはプレアデスとして失態は許されない。

一度後ろを見ると皆、顔を引き締めている。宜しい。長女としてまたプレアデス副リーダーとしての顔を整え、ゆっくり皆で一列に並んで闘技場の入り口の門をくぐり、宣言する―――

 

「失礼いたします。戦闘メイドプレアデス(6連星)、参りました」

 

 

 




プレアデスは、みんな仲良しです。





追記
寝ころびながらスマホで自分の前の話チェックしたら読みにくすぎて驚愕しました。
後編を上げた後に少し読みやすくする為の改行や改変を(主に2話)入れる事になると思いますのでご了承願います




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ラン・ソリュシャン・ラン(中編)

四苦八苦してたら遅くなってしまい申し訳っ・・・!!


又伸びに伸びてしまい中編に。後編は明日上げます。

※オリジナルキャラが出てきます


 ナザリック第六階層の中心部にある円形闘技場(コロッセウム)、その中の円形劇場(アンフィテアトルム)―――かつて地下大墳墓に侵入してきた者の大半を殺戮してきた闘いの場。

 

 その地に足を踏み入れた瞬間、ユリは自分を抑え付けるかの如き重圧を感じる。

それは闘技場中央に立つ主人、モモンガより発せられているもの。

この程度の重圧に耐えられぬ者、この地に立つ資格なし―――そう雄弁に自分達に語り掛けているかの様にさえ感じる圧倒的な力の奔流

 

 だが我らは戦闘メイド・プレアデス―――主人に仕え、主人の為に命を懸けて働く事を至上の命題とする者。そんな者達が膝を折るわけにはいかない。

 

 何より長女として後ろの妹達に恥ずかしい姿を見せる事は許されない。ユリは視線を主に保ったまま主の方へと歩みを進める。それに後ろの妹達も追随しプレアデスは一糸乱れぬ動きでモモンガの前に一列に並ぶと見事な呼吸で一斉に跪いた

 

「モモンガ様、戦闘メイド・プレアデス、御身の前に」

「うむ、御苦労。今後の方針を伝えるべく来て貰った。ナザリック内の探索の後ではあるが我が盟友の為にもうひと働きして貰いたい」

 

「「「ハッ!」」」

プレアデス全員、声を揃えて返答すると階層守護者達の列の後ろへと並ぶ

 

 そのプレアデスの後ろ、そこには多数のモニターが空中に設置され、そこに映る映像にはそれぞれにナザリックの主要な臣下達が一堂に集められた様子が映っていた。

その中には一般メイド達が集められた食堂の様子も映っており、中では同僚達が既に臣下の礼を取りながら待機している。そこにプレアデスの面々も加わり臣下の礼を取って待機するのを確認したモモンガは、簡易で備え付けられた玉座に座り直して一同を睥睨する

 

 ギルド仲間たちと共に心血を注いで育て上げた臣下達の中でも能力を突出させて作り上げたNPCの頂点ともいうべき存在達と全臣下。

その彼らが跪き臣下の礼を取る前でモモンガは威風堂々と王たる所作で臣下を見下ろしている。

 

勿論表面上のモノである

 

内心バクバクであり未だに不安は付きまとっている心中は見た目とは真逆。

だが一連の確認作業が概ね上手くいった―――その事実にモモンガは胸をなで下ろしていた

 

(良かったぁあ!!スキルや魔法はそのまま使用可能だし感覚的にははむしろ良くなってるじゃないか。守護者達の忠誠心がガチ過ぎるのと俺への評価が高過ぎたのは面食らったが・・・まぁ、マイナスではない・・・のかなぁ?)

 

 疑心暗鬼(チキン)、そんな思いを抱えていたモモンガは先程まで進行させていた今後の対応を思い返す。

既に終えていた警備網の刷新や新しい運営システムの構築、更には偵察に出したセバスの報告からのナザリック外周の改造の議題等、全て滞りなく進んでいた。

 

たった一つ、ヘロヘロが見つからなかった事を除いて―――

(クソッ!こまめに伝言(メッセージ)を飛ばしてはいるがまだ繋がらないのか。)

 

 この世界にヘロヘロがいる可能性が高いと考えているのは決して希望的憶測だけではなかった。

万感の思いを込めて『ユグドラシル』サービス終了の瞬間を目を閉じて迎えていたあの時、自分はある意味集中してサーバーダウンに備えており自分より先にヘロヘロがログアウトしたならメッセージ通知音に気付かない筈がない、それが一つ―――

 

 もう一つはヘロヘロがこの世界に来ているのだとして、何故他のナザリック地下大墳墓所属の者達と同じように中にいないのか、その理由だ。

それは現実社会でブラック企業戦士だったヘロヘロはよく回線を繋いだまま寝落ちをしている時がありそれが元となって問題になった事があった。

 

 新たな材料集めの為に単独で採掘場に行ったヘロヘロが帰ってこず、連絡もつながらないのを不審に思ったペロロンチーノがその場所に探しに行った時の事だ。

飛んで上空からヘロヘロの姿を探していた彼は、採掘場近くで予想だにしない光景を目にする

 

 

彼が見たモノ―――それは処刑される寸前の魔女の如く十字架に寝落ちしたまま張り付けられたヘロヘロの威厳溢れる姿だった

 

 

 実行犯はかつてヘロヘロに武器を劣化させられた正当な怒りに燃え上がったリベンジャー達であり、キャンプファイヤーよろしく下に薪を敷き詰め、燃やす準備をしながら円を描いて肩を組み合って取り囲んでいる様は実にシュールだったとのちに彼は語っている

 

(それ見てテンパったペロさんが上空からゲイ・ボウで弓矢乱射したら引火してヘロヘロさんが燃え上がったんだよなぁ。ギルドチャットに飛び込んできたヘロヘロさんの『グアアァァァァッッ!!?』って叫び声、未だに覚えてるよ。皆で助けに行った後、ペロさんが自分のせいじゃないって誤魔化そうとしたけど茶釜さんの執拗な現場検証で引火原因の弓矢見つけられて滅茶苦茶シバかれてたもんなぁ。そもそもその前の『あ、やべ』でバレてたのに変に嘘つくから)

 

 そんな経緯もあって以降、ヘロヘロは自分の意識が途切れた時に自らの体を隠れ家に瞬時に移動させる様な設定を施していた。ナザリックにしなかった理由は万が一それを知られて敵に一緒にひっ付いてこられない様にする為であった

 

(でもその設定、変更し忘れてギルド対抗の時いきなり目の前から消えていったんだよなぁ。てか寝落ちするかねあの局面で。戻ってきたたっち・みーさんに真っ二つにされてウルベルトさんに燃やされてたもんなぁ。それ見て『また燃えとる』って爆笑したペロさんの弓矢溶かして大喧嘩したししかも仲裁したの俺だったしそこらへんほんとウッカリというか―――)

 

 ふとした事にも思い出が溢れ出すのはさておき、設定を切らずにこの世界に飛んできたのだとしたらナザリック内にいない事にも納得がいく。そして座標的な位置取りがこの世界に切り替わった際にそのまま反映されているとしたならヘロヘロが飛ばされたのはナザリックからそう遠くない位置の筈なのだ

 

(確か寝袋と目覚まししかない山の洞窟とかだったよな・・・座標がそのまま反映されるのか分からないし何より今ヘロヘロさんは装備が一切ない状態なんだよなクソッ。あのブヨブヨ早く見つけないと)

 

 現状、外部のレベルが全く把握出来ていない状態でヘロヘロを野ざらしにしてしまっている事への苛立ち。それがモモンガの振る舞いを乱暴なものにしてしまう。

その焦りと苛立ちを跪きながら感じる階層守護者達―――彼らが抱える心中の思いも様々である

 

(はーすっごい重圧だ。でも優しいモモンガ様の事だからきっとヘロヘロ様の身を案じておられるんだ。よーし、アタシも早く外の捜索に加えて頂いて頑張らなきゃ)

(は、はぁもの凄いオーラだぁ。でもモ、モモンガ様の事だからヘロヘロ様の身をあ、案じておられるんだよねきっと。お姉ちゃんにま、任せてもらえないかなぁ探索)

正解を導き出している闇妖精(ダークエルフ)の第六階層守護者、金の髪に浅黒い肌を持つあべこべの服を着用したオッドアイの双子達、アウラとマーレもいれば

 

(何トイウ激シキ奔流。未ダヘロヘロ様ヲミツケラレヌ我ラノ力量不足ヲナゲイテオラレルノカ)

間違えている第五階層守護者、ライトブルーの外骨格に身を包んだ大柄の蟲王(ヴァーミン・ロード)、コキュートスの様なもの

 

(おぉ、盟友であられるヘロヘロ様の身を案じられておられるのですねモモンガ様。未だヘロヘロ様の居場所を掴めぬ卑小なる我ら如きの知恵が思慮深く、神にも等しきモモンガ様のお役に立とう等おこがましくも―――)

完璧に正解しているのに、ブッチギリの忠誠で過剰に飛んでいくスーツを着こなした悪魔、第七階層守護者のデミウルゴス

(はぁ焦られている姿も素敵ですモモンガ様。ヘロヘロ様を案じられている時の憂いを帯びた顎のライン。直ぐに発見なさいたいとお考えの時の添えられた指の動き。そのどれもが真に友の身を案じられている事を完璧に伝達する偉大な―――)

完璧に正解しているのに、ブッチギリの欲情で過剰に飛んでいくアルベド

 

 

(愛しき君、モモンガ様の凄いオーラ(御褒美)がわたしの体を溶かしていくでありんす・・・はぁあ、あぁ・・・下が、下着がまずぅい事に)

完璧に間違えている、漆黒のボールガウンに身を包み胸に嘘を詰め込んだ真祖(トゥルーヴァンパイア)、第一~第三階層守護者のシャルティアまで、本当に様々である

 

 

各階層守護者の様々な想いをよそにモモンガは今後のヘロヘロ捜索の手段をたぐり始める。

 

(本当は情報が揃ってからが望ましいがそうも言ってられない。探索範囲の拡大を始めるか。だがリスクは極力避けたい。特にここにいる者達は代わりが効かぬ者達、外のセバスとソリュシャンも呼び戻して失っても痛くない者に代えるべきか?)

 

モモンガは目の前の守護者、戦闘メイドと後ろのモニターを一瞥しながら選別を始める

(しかしそれでヘロヘロさんの捜索が遅れては意味がないんだよな―――)

 

しばし逡巡した後、意を決したモモンガは今後の対策を皆に伝えようと声を上げる

 

「皆、面を上げよ」

その言葉に全ての臣下達が一斉に顔を上げる

 

「知っての通り現在ナザリックは非常事態に突入している。偵察に出したセバスとソリュシャン・・・から聞くにナザリックは未知の土地に移動しているのは間違いない。更に現在一部、この世界の理が変更されているフシも見られる。そして何より!我が盟友であるヘロヘロさんが現在ナザリック外にいる可能性がほぼ確定となった」

 

 オーラを殊更強く放ちながら喋るモモンガの言葉に皆真剣に耳を傾ける。特に先程ヘロヘロの帰還と危機を伝えられた一般メイド達の気迫たるや凄まじいの一言に尽きる。何もできない設定なのに何でも解決してくれそうだ。そして

 

(何だ?あの黒髪の・・・ええとナーベラル、だったか?)

セバスとソリュシャンの下りで何とも言えない顔をしたナーベラルをジッとモモンガは凝視する。

 

(なんて悲しそうな顔なんだ・・・よく分からんが後で部屋付きにして労いでもしたら大丈夫だろ。主として部下の心情把握と管理は必須だからな!一応メイドだしね。何だ?今度は顔が赤くなってるな。)

他と比べ僅かに情緒不安定な気がするナーベラルを見つめながら偉大なる主としてのロールプレイをシミュレートするモモンガ

 

(ん、アルベド辺りからギリィッって聞こえたけどどうしたんだろう。あ、アルベドもナーベラルを見てるな。流石は守護者統括、部下の異常にすぐ気づくとか本当に優秀な奴だなぁ。お、今度は青くなった)

部下の体調を心配する完璧な主プレイに酔いしれるモモンガは少し鈍くなっている

 

「・・・ん、現時点をもってナザリックより外部へと捜索をする部隊を編成する。それについて指示を出したい。まずはアルベドよ!」

「ハッ!!!」

裂帛の気合が籠った声がこだまする。些か入れ込みすぎな気がしないでもないが守護者統括としての気迫の表れに違いない。頼もしいぞ

 

「これよりヘロヘロさんの捜索メンバーを選別する。警備レベルを下げずに探索に秀でた者を選出せよ」

「畏まりましたモモンガ様っ!必ずや期待にお応えする事をお約束致しますっっ!!」

(声でかすぎんだろアルベド。目も何かランランに輝いてるし。やる気のスイッチの入りどころが分かんないよこの子。あれ、ナーベラル凄い青くなってる。もしかして彼女も疲れてんのかなー大変だよねきっと。うんうん、部屋に呼んだら少し優しく接してやろう)

 

「うむ、頼もしいぞアルベドよ。ココに映っている二グレドにさせている外部探索の映像も利用するのでそのつもりでな」

「ハッ!!それでは賜った命令を遂行しに移りたいと思います!」

「うむ。行け」

 

立ち上がりキッ!とプレアデス辺りを見た後、指示を実行しに移動し始めるアルベドを見ながらモモンガは心の中で嘆息する。

(いちいち大げさなんだよなぁ皆。もうちょっと軽くというか、緩くなってくれないかな・・・)

原因である本人だけが無自覚なそんなモモンガの思考は飛び込んできた伝言(メッセージ)によって中断される

 

何か進展があったのかもしれない・・・!その思いにアルベドに呼びかけ、手ぶりで止める

 

「しばしその場で待て。・・・何だソリュシャンか、どうした?(お、ナーべラルの目が光った)・・・何?現地人だと!?」

その言葉に臣下達に緊張が走る。アルベドも近くへと戻ってくる

「うむ・・・その地点に二グレドの探索を飛ばす。お前は指示通り極力友好的に接するのだ。このまま繋いで向かえ。」

そう言葉を区切るとモモンガは急ぎ指示を飛ばす

 

 

「二グレドに今すぐソリュシャンの位置の映像を出すように言え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓の外1kmから広がる大森林。夜になり空の星々が照らす光届かぬ深き森の中をソリュシャンは走り続けていた。

ただ闇雲に駆けていたわけではない。自らの持つスキルを最大限発揮して周りの気配を感じながら森を調べていたのだ。間に上司セバスとのやり取りも頻繁に行いながら捜索範囲を拡大していった。が、得られる成果は芳しくなかった。

 

(大型の獣の気配はあれど知的生物の気配は無し・・・あぁ、そしてヘロヘロ様が気配が未だ感じられません)

敬愛する御方の気配であればどこにあっても捉えられる自信があった。だからこそこの任務をかってでたというのに何も成果を上げられない自らへの苛立ちと御方への焦燥が合わさりソリュシャンの心中は追い詰められていた。

 

 悪い方へと考えが向いていたそんな時、森の彼方に光る小さな光を捉える。

気配を殺し、急ぎその地へと向かい木の上から覗き見るとそこにはたき火を囲み、野営をする複数人の男女が見られた。

この地に来て初めての知的生物。その存在にソリュシャンは気配を消して詳細を掴みに近づいていく。

 

(男2、女1に・・・あれは少女、ですか。装備も・・・貧弱です、ね。レベルも大したことありません)

手に入る情報は自らの力でどうとでも処理できる、そう確信させるもの。それを吟味してからソリュシャンはセバスへと伝言(メッセージ)を繋ぐ。

 

『・・・はい。どうしましたソリュシャン?』

『セバス様、人間の集団を発見いたしました。レベル的にもかなり低い集団です。如何いたしましょう?』

『ほぅ、真ですか。それは慎重に事を運ばねばなりません。貴方からモモンガ様に伝言(メッセージ)で詳細を伝え、指示を仰ぐのです。このままお繋ぎしなさい』

 

指示に従い、モモンガに伝言(メッセージ)で事を伝えたソリュシャンは二グレドが自らを捉えるまでの間に与えられた任務を遂行すべく、再び気配を消して集団へと近づく―――

 

 

 

 その日、バハルス帝国にて主に活動をしているワーカーチーム〈フォーマンセル〉は非常に上機嫌だった。

 

定期的に出されるアンデッドが跋扈する平野、カッツェ平野におけるアンデッドの発生の抑止と駆除という依頼をつつがなく終え、更に期待のエースであり最年少でマジックキャスターでもあるヘックスの第三位階魔法の実戦使用が殊の外上手くいったからだ。

収穫したアンデッドも質が良く、今回の依頼の成果を考えると悩みの種であった装備の新調に手が届きそうなのも上機嫌の理由だった

 

「いやー、今回は言う事なしだったな!完璧に近い内容だったぜ」

リーダーのマッシュがそう言うと

 

「調子にのんないの。ヘックスの魔法が調子よすぎたせいで結局、一泊野宿になっちゃったんだから。リスクは出来る限り避けないといけないわ」

と弓兵のアマンダが窘める。しかし本気ではなく彼女も今回の経過に満足しているのが伝わる。

 

「しかしヘックスの魔法はどんどん向上していきますね。いずれはあのトライアドまで達するんじゃないですか?いや、素晴らしい」

メンバー最年長で神官のハップがそう話の主役であるヘックスを褒めたたえると

 

「――そんなに褒めないで欲しい。あんまり褒められると、ムズムズする」

と顔を赤らめながら金髪をいじくり、照れをごまかす少女ヘックスの姿があった。

 

 彼らの職業であるワーカーはいわゆる何でも屋であり、金銭によっては危険な仕事も汚れ仕事も行う職業だ。そんな彼らにとって定期的に依頼が来るカッツェ平野の仕事は自分達で滞在期間や難易度をある程度調節できるありがたい仕事でもある。

 

 特に今回の様に仲間の成長確認も兼ねて行えるのは自らのチーム戦力の把握にも役立つ為、比較的危険を冒さないプランにしていたのだ。

それが蓋を開けてみれば危険度は無くそれでいて討伐の報酬が高いいわゆる当たりを複数掴んだ為、予定していた分を超える収穫を一日で揚げる事が出来たのだ。

 

 その結果として野宿にはなったがカッツェ平野からはある程度離れており、近くに獣位しか確認されて無いスポットで野営を行えた今回の冒険は完璧に近いものであった

 

(ありがたい話だぜ。チームは強くなったし報酬は予定より大幅に上回った。これであのいけ好かないパクリ集団に水をあけられるだろう。何がフォーサイトだふざけやがって。)

最近帝国でも名が上がり始めているワーカーチームが構成から何から自分達と酷似しているのが気に入らなかったマッシュは報酬で新調する装備への期待に胸を膨らませていた。

(帰ったら一息ついて前から準備してた場所にアマンダを誘うか。頼んでた指輪も出来上がってる頃だろうし、な)

 

 そんな思いを胸に抱きながらアマンダを見つめるマッシュ。

見つめられ、少し照れながらそっぽを向いて食事をするアマンダとそんな二人を神官にあるまじき顔で見つめるハップ。

それを半眼で引きながら見つめるヘックス。

 

彼らのそんな日常は森の奥からゆっくりと出てきた影を視界に入れた瞬間、終わりを告げる

 

 

「何者だ!!」

 

 その姿を確認もせず飛び上がりながら腰の剣を引き抜き、構えながら前に出るマッシュ。彼が声を出す前に各々が迎撃の姿勢を取っている仲間達の頼れる所作にも気を緩めず、マッシュは気配の方向を睨み付ける。

 

「突然の闖入、失礼致しました。私、ナザリック地下大墳墓に所属しております戦闘メイド・プレアデスが一人ソリュシャン・イプシロンと申します。この度は皆様にお願いしたき事がございまして参上致しました」

 

 そこに現れたのは獣でも盗賊でもなくメイド服姿の女性、それもとびきりの美貌を携えた女性であった。豊かな金髪を縦のロール巻きに纏め上げ、服の上からでもわかるメリハリの効いた体からは匂い立つような色香が漂っている。

 

彼女は優雅な仕草で自分達の前で一礼をした後

 

「この度、私共の住居ナザリックにお越し頂きまして、皆様にこの付近の周辺地理の情報を頂きたく存じ上げます。もてなしの他、報酬も含め可能な限り皆様の希望を優先させて頂きますゆえ、何卒ご一考頂けませんでしょうか?」

 

 そう言って微笑みながら再び一礼するソリュシャンの姿。

そこには敵意はまるで無く礼をする姿も一流のメイドそのもの。彼女が身に着けているものも見た事がない程、精緻で上質な物でありそれ自体で一財産になる程の逸品であるのが見て取れる。

また彼女自身も気品に溢れた物腰と態度であり、これが町中であれば真偽はともかくまず話を聞いてみようと飛びつくものだ。だが

 

(怪しすぎるだろうどう考えても)

 

 此処は人里離れた深き森の中であり、死が渦巻くカッツェ平野からほど遠くない場所である。

そして彼らが警戒を向ける最大の理由―――マッシュはちらりと後ろのハップとヘックスを見る。彼らは首を横に軽く振る。

 

(周りに仕込んでた罠も鳴子も反応なしで警報(アラーム)も掻い潜ってるとかコイツ、普通じゃねぇな)

音を立てずにここに現れた時点で只者ではない。そんなマッシュの思考を読んだかのようにメイドが話しかけてくる

 

「周りを騒がしくして皆様を不快にさせない様、静かに近づかせて頂きました。お仕掛けになられたものは何一つ作動させておりませんのでご安心下さいませ」

 

逆だろこのメイド女、そう悪態をつきたくなる。

 

 警戒を保ちながらチームリーダーとしてマッシュは結論を伝える。

「悪いがその話には乗れそうもない。都合がよすぎる条件は信用されないんだぜメイドさんよ」

「それ程状況が逼迫しているという事です。我々が欲しているのは一般的な情報がほとんどです。もう一度ご再考願えませんでしょうか?」

「くどいわね。アンタの得体のしれない主人に会いにわけ分かんない家には行かないって言ってんのよ」

アマンダが強い口調でメイドに言葉を叩きつける

 

「・・・ナザリック地下大墳墓、でございます。いと尊き御方達が住む我らの住居をその様に表現するのはおやめ下さいませ」

 

先程と同じ様に微笑みながらメイドが近づいてきて言う。

本当によく出来たメイドだ。安い挑発にも乗らない

 

(どうしたもんかね・・・。こちらから仕掛けても無事に済むかわからんし周りにコイツの味方がいないとも限らんしな)

そう思慮するマッシュの前にゆっくりと近づいていたメイドが立ち止まり顔を向ける

 

「少々お待ちください。主人より指示を仰ぎます」

 

 

 

 

 

「何だ、こいつら?」

 

 そのワーカーチーム〈フォーマンセル〉とのやり取りの一部始終をモモンガ達は二グレドの探索とソリュシャンを通して見聞きしていた。

モモンガはまずこの人間達の装備の貧弱さとレベルの低さに驚いた。きっと冒険したてのチームなのだろう、と見当をつける。そして彼らを見ても抱く感情が何も無い自らにも驚いた。言うなれば犬や猫、あるいは虫を見てる様な感覚に近かった。本来であればなんら興味を抱かない存在だが情報を貰うまではこの者達を逃がすわけにはいかない。

 

「モモンガ様。脆弱かつ愚かな者達ですが手始めに情報を引き出すには宜しいかと」

「うむ、そうだな」

横からのアルベドの言葉に鷹揚に頷きながらモモンガは考えを張り巡らせる

 

(ふーん、このレベルならソリュシャン一人でも余裕だな。友好的ではないが最悪ふんじばってでも連れてこさせるか。セバスは継続してソリュシャンとは反対側を捜索させているし、二グレドにも継続して探索させている。時間もかけたくはないし―――)

 

「ソリュシャンよ。その者達は貴重な情報源だ。穏便に済ませたかったが致し方ない、捕らえてでも連れて帰る」

その言葉を受け目の前の者達にソリュシャンは意識を向ける

 

『畏まりましたモモンガ様。方法はお任せ頂いても宜しいでしょうか』

「うむ、任せる。殺しさえしなければ何でもよかろう」

『承りましてございます』

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

そう言いながら一礼すると再びマッシュ達に近づき始めるソリュシャン、その歩みは変わらず姿にも変化はない。顔には微笑みすら湛えている

 

 だがマッシュは全身から汗が噴き出すのを抑えられず、自分の体は金縛りにあった様に動かなくなっているのを感じていた。

先程こちらを見つめてきた瞬間から相手が出してきた得体のしれない威圧感、その正体をはっきりと相手が伝えてきている

 

殺意などでは無い。それは対等の存在に向けられるものである。

 

 今、彼女がこちらに向けているのは完全なる捕食者―――絶対的な強者が出す、餌に対して向ける効率的な仕留め方を探る視線でありそれを伴った嗜虐の笑み。

後ろから聞こえる仲間達も同じ様に感じているのだろう。途切れがちの声が戸惑いをもって聞こえてくる。

 

(何だよ・・・何なんだよコイツ!無事に済むどころじゃねぇ。別次元のバケモンだ。感じてたのは敵意じゃない、コイツからしたら俺達なんぞ相手にもしてなかったんだ。どうにかして皆を逃がさないと―――)

 

 マッシュの思考はそこまでだった。

目にも止まらぬ速度で飛び込んでくる金髪のメイド姿と共に自らの意識が途切れるのを何処か他人事のように感じながら崩れ落ちるマッシュ。

その視界に入る崩れ落ちる仲間達、そして最後の一人である愛する女を捉えた化物が放った言葉

 

 

「貴方は他の皆様とは少し違いますよ?我らの主を侮辱したその罪、しっかり清算して頂きます」

 

 

(俺だよ!馬鹿・・・・や・・・ろ)

身代わりになろうと心で絶叫を上げたマッシュの意識はそこで途切れた―――

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

『つつがなく完了致しましたモモンガ様。全員気絶させております』

『御苦労ソリュシャン。今捜索隊の一部をそちらに送り込むのでその者達に引き渡して、再び捜索を継続せよ』

『ハッ!ありがとうございますモモンガ様、全力でヘロヘロ様を探索致します』

『そのまま待機しろ。周りのモンスターや獣にそいつらを食い散らかされては堪らんからな』

 

モモンガは指示を出しながらアルベドへと顔を向け経過を尋ねる

 

「捜索隊の選抜の手筈は整っているか、アルベド?」

「ハッ。既に終えて現在第一階層付近に集結させ、待機させております。あとは此方にいますアウラをリーダーと致しましてシャルティアと共に向かわせれば完了でございます」

「うむ、ではその前に二グレドに今後の探索範囲の絞り込みを頼みたい。二グレドよ聞こえているか?」

 

 守護者達の後ろに控える多数のモニターの一つに顔を向けるとモモンガはそこに映る、筋肉がむき出しの顔をした女性に尋ねる。

 

「勿論でございますモモンガ様。先程より継続的に探索の方は進めているのですが・・・申し訳ありません。未だにヘロヘロ様を発見いたしておりません」

「・・・そうか」

 

 その言葉にモモンガは心中の焦りを大きくする。

二グレドは情報収集に特化したタイプの魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、彼女の索敵能力を考えればヘロヘロが未だ発見出来ていないのは些か不自然なレベルなのだ

 

(まさか・・・いや、きっと来ている筈。そうですよねヘロヘロさん。俺は・・・俺は・・・)

心に渦巻く疑念、想像したくない可能性を払拭するかの如くブンブンと顔を振りながらモモンガは二グレドに問い直す

 

「二グレドよ、今捜索している範囲の映像をモニターに見せてくれ。皆も見よ。」

 

 その言葉に正面の多数あるモニターの中心のモニターに上空から覗き込んだ森林が映し出される。その映像は鮮明であり、音も夜の静寂を携えた森の木々の揺れる音以外は何も聞こえない。

画面の片隅にはソリュシャンが待機する、先程の人間達の野営の火の光が映っている。

 

「今現在の捜索範囲がココからになっております。付近はほぼ全範囲捜索を終えております。従いまして―――」

 

二グレドがこれからの探索を説明し始めた時、突如モニターに猛然と飛びつく者達がいた。アウラとマーレの双子である。

 

「ちょっとアウラにマーレ?今、姉さんが今後の捜索の―――」「ちょっと黙って!!!!」

 

 その行いを窘めようとしたアルベドを凄まじい形相で睨み付けると画面に食い入るように目を向けるアウラ。おとなしく引っ込み思案なはずのマーレもそれに続いている。

至高の御方であるモモンガの前での許し難い行い―――他の者達、特にアルベドを始めとした守護者達が殺伐とした気配を出す中、気にも留めずアウラが二グレドに叫ぶ

 

「二グレド!画面の拾う音量を上げて!!」

「え?出来なくはないけれど何故―――」「いいから早く上げて!聞こえるの!!!」

その気迫に気圧されしたのか不満そうにしながらも二グレドは画面を操作する。

 

 徐々に木々のざわめきが大きくなる中混じるノイズ、それは繰り返される何者かの声。

僅かに聞こえ始めるその声にモモンガは目を丸くし、アウラとマーレは歓喜を携えながら画面を見つめる

 

そこから微かに聞こえる音。それは―――

 

 

 

「ヘロヘロお兄ちゃぁん!早く起きてー!!皆が心配してるよぉー」

 

 

 

第六階層守護者、双子のダークエルフであるアウラとマーレの生みの親、至高の41人の一人であるぶくぶく茶釜の何処か作ったかのような甘ったるい声であった

 

 

「これは・・・!?茶釜さん!?・・・いや、目覚まし時計か!ニ、二グレド!!この声の地点を特定して映像に映し出せ!急げ!!」

「ハ、ハッ!!」

 

 

 モモンガの指示に二グレドが慌てて操作を開始する。

守護者を始めとしたナザリック全臣下の視線を一身に受けながら二グレドが画面を動かし探索を進める。固唾を飲んで見守る一同の耳に聞こえる、繰り返される偉大なる御方の声が徐々に大きくなっていく―――

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 4人の気絶した人間の傍らで待機していたソリュシャンも繋いでいたその伝言(メッセージ)から聞こえる懐かしき至高の御方の声に耳を傾けていた。

(ぶくぶく茶釜様!?何故あの御方の声が。いいえ、それよりもヘロヘロ様を起こそうとなさっておられるこの声、近くにヘロヘロ様がいらっしゃるという事ですね!?)

 

 伝えられた内容からそこまで遠い範囲では無い。間違いなく一番近くにいるのは自分である。

(今すぐ指示を賜ってその地点に赴かねば!あぁ、しかしこの人間達が邪魔です!)

罠や鳴子を仕掛けているとはいえこの地点は深き森の中。周りには猛獣がいる中で気絶した人間達を置いていくのは殺すのと同義となる。

 

(いっそのこと全員殺してしまい―――いいえ、この者達は貴重な情報源。モモンガ様からも厳命されています。身の安全を確保してからでないとこの場を離れる事は許さ―――あぁ、でも近くでヘロヘロ様が私を待って―――ヘロヘロ様が迎えを待っているはずです。やっぱり殺して、いえ駄目いけません)

 

 普段では考えられない程の動揺から思考が混乱するソリュシャン。

もはやゴミと同義と化した自らが成果を上げたこの収穫物(邪魔者達)を苛立ちながら見つめる彼女の思考は伝言(メッセージ)に飛び込んできた音声によってシンプルに、そしてバッサリと決断される―――

 

 

 

 

 

 




死亡フラグは古典であろうと大事にしたい。
早くヘロヘロさんを起こしたい・・・!(人類が大変だから)

ソリュシャンは本当によく出来たメイドです(この話まで)






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ラン・ソリュシャン・ラン(後編)




まさか1か月もかかるとは、ね。(白目)





 指示を受けた時、二グレドの頭の中に訪れたのは混乱―――その言葉につきた

 

偉大なる主であるモモンガ様主導の元で行われてきた至高の41人の1人、ヘロヘロ様の探索

 

 鬼神の如き形相で部屋に飛び込んできた可愛い方の妹であるアルベドから受けた報告に驚愕しながらも立ち位置を理解して慎重に、だが迅速に捜索範囲を拡大してきたつもりだった

 

 それがどうした事だろうか。今、御方から指示された箇所、それは先程調べたばかりの箇所であり探索の起点にすべく念入りに周辺調査をした大森林の一角、樹齢何百~何千年という巨木が連なる地点だ。その地点にヘロヘロ様がおられるのだとしたらそれは自らの完全なる手落ちになる。

 

 

だが・・・ありえない

 

 情報特化型の魔法詠唱者(マジックキャスター)として生み出された自分にとって人物探索、ましてやナザリック地下大墳墓の主人を発見できない事など考えられない。

彼らの出す主としての気配はナザリックの全ての臣下であれば必ず感知できる程強いものであり、ただの臣下であっても見逃す事などあり得ないし許される事ではない

 

 片隅のモニターに映る、共に指示を出していた妹の顔が青くなっている。

それは守護者統括としてそれがあるまじき失態なのが分かっているからだ。

 

近くにいる守護者達やプレアデスは皆凄まじい気配、敵意といってもいい雰囲気を纏ってアルベドを見ている。特にデミウルゴスの顔は殊更険しく、普段の温厚で理知的な彼は目を見開きながらその眼窩に収まっているダイアモンドの瞳で射貫く様にアルベドを見据えている。

 

当然だろう。ナザリックにおいて主の為に役立てぬ者など必要ない。それが絶対の原則であり臣下である我らの行動基準だ

 

 ましてや至高の御方の探索という絶対的な優先度を持った任務を満足に出来ぬ守護者統括など害でしかない、と聡明なあの悪魔は考えているのだろう。それは氷結牢獄から出る事が出来ぬ我が身でも簡単に推察出来るし異論は無い

 

(この失態は生半可な事では許されないわ。私如きの命では到底足りぬけれど何よりも今はヘロヘロ様の御姿を―――!)

厳しい沙汰が待っているのは確実だが今、自らが行うべきは御方の発見に全力を尽くす事、その一事。そう胸に誓い再び捜索を二グレドは始めた―――

 

 

 

 

 

「こ、これは・・・!!あ、ああっ!?」

 

 

 円形劇場(アンフィテアトルム)内において全ての異形の者達が固唾を飲んで見守っている、物音ひとつしないその空間に漂う沈黙を破ったのは画面を操作していた二グレドであった。

その声は悲鳴に近く、見守っていた一同に不安が走る。それは玉座で報告を待ちわびていたモモンガも同様であった

 

 

「何だ!?何をしている二グレド!!早く画面に見ているものを映せ!!!」

 

 支配者然とした振る舞いも忘れ、玉座から立ち上がり二グレドを急かすモモンガ。

それにつられる様に守護者達やプレアデスも食い入るようにモニターを凝視する

 

「は、はい・・・」

二グレドが震える手で操作し画面が切り替わる。

映し出されたのは上空から捉えた、樹齢が何千年もあるであろう巨大な大木の根元の拡大映像。

 

 そこにその身を震わせながら懐かしき至高の御方、ぶくぶく茶釜の声を繰り返し吐き出す非常にシンプルな目覚まし時計が映っていた。

その何処か作ったかの様な甘ったるい声を出す目覚まし時計の周りには無数の枝葉が散らばっており、皆が見つめているその最中にも一振りの枝が目覚ましにぶつかる様に落ちてくる。

 

 映像は徐々に全容を捉える様に引かれていく。

段々と目覚まし時計が小さく、声だけの存在になった時、皆は二グレドの悲鳴の意味を悟った。

同じ様に皆の口から悲鳴の声が紡がれる。仕方が無い事だ

 

そう、その高く大きなその大木の頂上付近

生い茂った草葉を携えた、大ぶりな枝の中央にて蠢く物体

 

 

そこには晴れた日に干される布団の格好でぶら下がるヘロヘロの威厳溢れる姿があった

 

 

 意識がないのであろう。腰(?)の中央で折れ曲がる様に枝にのしかかり、風に任せるがまま頭部と手足をぶらつかせるその威厳溢れる姿。

それは重なり合いすぎてもはや頭と尻の区別も付かない程であり、その足(?)に寝袋を引っ掛け、はためかせながらぶら下がるその威厳溢れる姿は哀愁に満ち溢れている。

 

 遥か下の木の根元に落ちている目覚まし時計が繰り返すモーニングコールがその哀愁をより一層際立たせている。

又、その体からは液体が滴り落ちており偉大なる至高の御方の体に異常が発生している事を一目で伝えてきていた

 

「おぉ、何という御姿に・・・!!」

デミウルゴスが見開いた眼で画面を凝視しながら嘆きを呟く。その顔には悲哀が刻まれており、敬愛する御方の異常事態に流石の悪魔も動揺を隠せない。

 

「ミルニタエヌ・・・!」

そう呟き画面から目を逸らすように下を向くコキュートス。その体は震え、主の身を案じる姿が周りに伝わってくる。

 

 守護者達同様に他のモニター、特に一般メイドのモニターからは絶叫が響き渡っており、創造主の変わり果てた姿に彼女達の中には意識を失いかける者まで出る程であった。

アウラとマーレはヘロヘロを心配しつつも、その下の自らの創造主の声を出す目覚まし時計にくぎ付けである

 

 

 

 そんな中、モモンガは動かない。身じろぎもせず画面を注視している。

その視線は真っ直ぐに友であるヘロヘロの姿を捉えたまま一ミリも動かない。そしてその体は微かではあるが震えている様に周りの守護者達には感じられた

 

 

 仲間である至高の御方の深刻な事態に流石のモモンガ様も動揺されている・・・!

守護者達はそう判断する。掛ける声が見つからずただ自分達の無力さに打ちひしがれる守護者達。

特にアルベドは声を掛けようとしながらも失態と無力さから御方に声を掛ける事が出来ないでいた。また愛するモモンガにそんな顔をさせてしまった自分に苛立ちながら画面のヘロヘロをついでに憂慮していた。

 

 

(・・・寝てるよなアレ。え、ほんとに?だけ?)

 

守護者達の勘違いをよそに魔法でヘロヘロの状態を確認し、躍り出てきた〈睡眠〉の情報にヘロヘロを見つめるモモンガの心は急速に冷めていく

 

(あの寝袋、周りを隠れ蓑石で固めてるじゃねーか!宝物庫から在庫が無くなって担当の源次郎さんが袋叩きにあった時参加してたよなあの人!?)

二グレドが探索出来なかった訳が完全隠密性を有する稀少鉱石で寝袋をコーティングしていたからだと悟るモモンガ。

足(?)に引っかかりながらぶらつく寝袋の価値の高さとその制作過程で犠牲になった源次郎への謝罪にもはやヘロヘロ本人よりも寝袋が気になるモモンガ。モモンガは動かない

 

 

(俺があんなに覚悟を決めてかっこつけて頑張って確認して皆を動かして内心ビクビクしてる時にあのスライム居眠りしてただけ?ホントに?いや、予想してたけどさ。なんか、こうさ・・・)

 

 

身じろぎもせず画面を注視し続ける。モモンガは動かない

 

 

(涎を垂らすんじゃねぇぇええ!!あんたの涎レベル100だぞ!!溶ける溶ける稀少鉱石溶けちゃ『起きろヘロヘロてめぇ!このやろう!!×××野郎!!!』茶釜さんの素の声バージョンも入ってんのかーアレ)

 

甘ったるい声から一転して口にするのも憚られる様な罵声と共に根元の目覚まし時計がヘロヘロを罵倒する。皆が心配している体液は涎であるがそんな事よりモモンガはアウラとマーレの教育に良くない言葉を吐きまくる創造主の目覚ましを止めたい。モモンガは動かない

 

 

 ゆっくりと周りを見渡せば他のモニター、特に一般メイド達のモニターではぶくぶく茶釜の罵声に身震いしたヘロヘロが枝の上で寝返りを打つ度に怒号の如き悲鳴が飛び交っている。器用だなオイ

 

 寝返りの拍子に下へと寝袋が落ちていく。何度も枝にぶつかり、揺らめくように落ちていく寝袋(大切なもの)は狂った様に声を上げ続ける目覚まし時計の上に被さりその役目を終える。同時に声も聞こえなくなりアウラとマーレが悲しそうにしている。かわいそう

 

 

 

「・・・クシュッ」

 

 

(おい今アイツくしゃみしたぞ絶対ケガとかしてないじゃん。しかもくしゃみの涎で枝溶けたし。落ちた・・・・あ、引っかかった『イヤァアア!!』いやーじゃないよメイド達。大丈夫だよ)

 

 自らの涎により一つ、また一つと枝を折り、下に落ちていっては引っかかるヘロヘロ。起きろよ、そうモモンガは呟く。

 

 その姿にもはや心配どころか興味すら失せ始めるモモンガとは対照的に周りの守護者達、モニターの他の臣下達のボルテージはどんどん上がっていく。特に一般メイド達がヤバい。怖い。

 

自らの涎で枝を折り落下し続け、もはや残りの枝も数える程の高さとなるまで落ちてきていたヘロヘロ。そんな御方の一大事に対応すべく怒涛の勢いで動き回ろうとする守護者達と玉座に気怠げに座り動かない主人

 

 

 

その物体がモニターに映ったのは主と従者の温度差の拡がりがピークを迎えたそんな時だった

 

 

 

 

 画面の彼方向こうからすごい勢いで走ってくる丸い何か。

モモンガがその物体に抱いた第一印象は『走るハム』であった。

 

(何だあの無駄な動きの生き物は。この地に住む獣か何かか)

 

画面に映るその走るハムにやる気を失っていたモモンガも注目する。未だヘロヘロは眠っているのだ、もしかしたら危険かもしれない―――

 

そう考えたモモンガはその物体にズームが合わさり画面一杯にその物体が映った時、絶句した

 

 

 

「ソリュシャン!!」

 

 

 

 叫ぶプレアデスの声―――そう、それは敬愛する御方の危機を救わんと馳せ参じたプレアデスが一人ソリュシャン・イプシロンの変わり果てた姿。

 

メリハリの効いた体は見る影もなく、メイド服ははち切れんばかりに膨らんでいる。

心なしか短くなった気がする手足を懸命に動かしながら此方に近づいてくるその騒々しさにアサシンの影はもはやない。

 

(全部でっかくなってんじゃん。縦も横も!?何があったのよ!何そのスキル!俺知らない)

そんな心の中の疑問に

 

「体内に気絶させた人間達を内包して走ってるのね、ソリュシャン・・・。情報源を守りつつ、ヘロヘロ様を助けようと・・・任務を遂行させるために、そんな姿を晒してまで・・・・アナタ・・・!!」

 

と口元を抑え、涙をこらえながらユリが呟いて答えてくれる。妹のその献身的な姿に心を打たれたかの様に崩れ落ちる。

マジかこいつ・・・。モモンガは無言でそんなユリを見つめる

 

四人の人間を内包し非常に残念な姿を晒しながら爆走するソリュシャンは未だ遠く、自らの涎と共に順調に落下を続けているヘロヘロ。

起きろよ、そうモモンガは呟く。

 

 

「こんなことしてる場合じゃないでありんす!今すぐわたしがあの場にっっ!!二グレドっっ!私にあの場所の座標をおくりなさい!!」

 

 逼迫した事態に居てもたってもいられず、叫びながら赤い鎧を纏い転移門(ゲート)を開こうとするシャルティア。その声は切迫感に満ちており、今にも飛び出さんと身構えている

 

 

 

「待ちたまえシャルティアっ!!!」

 

 

 

 それを目を見開きデミウルゴスが叫びながら静止する。

その目にはめ込まれたダイアモンドは彼自身が流す涙と共に光り輝いている。

 

 

「デミウルゴスっっ!?何故止める!御方の一大事でしょ!!」

ヒステリックに叫ぶシャルティアに対して静かに、しかし力強くデミウルゴスは語り掛ける

 

 

「モモンガ様を・・・我らが偉大なる主をご覧になりなさい」

そこにモニターを見たまま身動き一つ取らぬモモンガの姿があった。モモンガの視線は木の元に走っていくソリュシャンに固定されたまま微動だにしない。その姿は泰然としており何一つ心配などしていないと言わんばかりであった

 

 

「我らが主は信じているのです・・・私達臣下を。この絶望的な苦境においても我らに乱れなど無く!彼女がその責務を果たす事を信じておられるのですよっ!!貴方の行動はそんな臣下のソリュシャンを!ひいてはそれを信ずるモモンガ様の御心に水を差す行為なのですよ!!!」

 

その魂の叫びといわんばかりの咆哮にシャルティアは雷を打たれたようにヨロ・・ヨロと後ずさりながら声を上げる。

 

「わ、わたしは・・・何という・・・。偉大なる御方の御心も、同僚の忠誠心も信じず・・・・あぁあ!」

鎧を解きながら愕然とその場に崩れ落ちるシャルティア。その姿は自らの軽率さを悔い、仲間達、ひいては敬愛する主への不義理を咎める儚げな姿。

 

 

そんな彼女の横に静かに歩み寄り、震える肩を優しく両手で抱きながらデミウルゴスは語る

 

「良いのですシャルティア。貴方がヘロヘロ様を想って行動しようとしたこと、我らがモモンガ様は理解しておられます。我々に出来る事、それはこの場にて主と共に仲間を応援する事、それ以外にありません」

その言葉と共に二人でモモンガを仰ぎ見る。偉大なる主は最早言う事はないとばかりに此方を一顧だにせず画面を見つめている。

 

その姿が答え。そう言わんばかりにこれ以上ない程深き臣下の礼をとるデミウルゴスとシャルティア。それに続く様に他の臣下達、そしてモニターの他の従者達も皆続いて礼を取る

 

(ないない(ヾノ・∀・`)。レベル100モンクがあの程度の高さから落ちても落ちた箇所の地面の方がかわいそうなレベルだわ。穴あくよ地面)

 

主の思いとは裏腹に、臣下の礼を解いた皆は一丸となって変わり果てた姿のソリュシャンを応援し、変わり果てた姿のヘロヘロを憂う

 

 

一体となったそんなナザリックの思いを一身に受け、玉のような汗をかきながら短くなった手足を振り回し、その豊満過ぎる体を揺らしながら激走するソリュシャン。彼女は焦っていた

(このままだと間に合わない!あの御方を、あの御方を泥まみれの地面に落とすなど許されない―――)

 

 

 

 

「あっ、1人捨てられたっス!」

 

 

 

 『ペッ!!!』という音と共に金髪の少女がもんどりうって転がり出てくる。情報の優先度が低いと判断されたのであろう。

一人捨てたことにより身が軽くなったソリュシャンが先程よりスピードを上げ、土煙を上げながら走る。ドタドタと。敬愛する御方の為に走る。ドタドタと

 

「あの子・・・。大好きな無垢な年齢の子供を捨ててまで・・・!!」

ユリが眼鏡を外し、涙をぬぐいながら呟く。見れば他のプレアデス達も各々が感極まっている。

マジかよこいつら・・・。モモンガは無言でそんな皆を見つめる

 

 そんな中、先程まで一番声を上げて応援していた三つ編みのメイド、ルプスレギナ。

快活、という言葉がピッタリな印象をモモンガが抱いていた彼女は応援を止め、ソリュシャンを見つめながら微笑む。

雰囲気がガラリと変わりまるで淑女の様に淑やかになった彼女をモモンガは思わず見つめる。

誰だお前は、と

 

「負けたわ、ソリュシャン・・・。貴方の思いに、私負けたわ。ふふっ、あの事も許してあげる」

 

だから誰なんだよお前、そう見つめ続ける。答えは出なかった

 

 

 

 

 

―――長い、永遠とも思えるような、それでいて瞬きの間のような濃密な時間の果て―――

遂に地面の前の最後の枝にまでヘロヘロが落ちてくる。

 

 次の瞬間にも起こり得る惨劇、自分達の敬愛する御方が地面に叩きつけられるかもしれない。

その光景に画面を見る事を拒否する者、あらん限りの声で応援する者など様々な反応を示す臣下達

 

 

 モモンガは動かない

(お、このアイテムこんだけ揃ってたか。有限のモノは慎重に運用だな。あ、こっちのは―――)

アイテムボックスの把握に忙しいからだ

 

 

 

画面を見ながら遠い所にいっているモモンガの前、遂に最後の枝が音を立てて崩れる

 

 絶叫が響き渡るナザリック。その彼らが見つめる画面、その中には全力で落下地点へと飛び込んで来るソリュシャンがあった。

大切な、敬愛する御方を守る為、只それだけの為に横長になって身を投げ出す―――

 

そこにちぎれたフンドシのように縦長に伸びたヘロヘロが落ちてくる。涎を携えて―――

 

 

 

 横に伸びた楕円と縦に伸びた楕円―――二つの楕円のシルエットが月の光を背に交錯する。

真っ黒になった固まりが生まれるそんな瞬間。

 

一瞬が永遠にも感じられる刹那の時は、行く末を見つめる臣下達の前で―――

 

 

 

・・・ベチョンッ

 

 

なんとも言えない音と終わりを告げた。

 

 地面をゴロゴロ転がり木の根元に激突する膨らんだ楕円。衝撃で土煙を上げながら激突した楕円の安否を固唾を飲んで見守る臣下達。

円形劇場(アンフィテアトルム)が無音に包まれる

 

 

 土煙が薄くなる中をゆっくりと、ゆっくりと楕円が立ち上がる。

そこには愛しき主をそのたくましい腕と豊満過ぎる肉体で包み込む様に優しく抱いて立つ

 

 

戦闘メイドプレアデス五女、ソリュシャン・イプシロンの威厳溢れる姿があった

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!!―――――――――!!!!――――――――――――!!!」

 

 その姿を目に捉えた瞬間、円形劇場(アンフィテアトルム)に爆発的な歓声が沸き上がった。

モニター内の全てのナザリック臣下達が立場も気にせず周りと喜びを分かち合いながら叫び、ソリュシャンを褒めたたえる。

拍手をするもの、泣きながら喜ぶもの、反応は皆様々だがその顔は一様に祝福に満ちている

 

 

 その反応は円形劇場(アンフィテアトルム)に居る者にしても同様であり、ユリとエントマはうずくまりながら泣いて祝福している。ナーベラルは感極まって上を向きながら拍手をしているその横でマーレとルプスレギナが抱き合って喜んでいる。

泣いて喜ぶシャルティアやアウラ、佇みながら震えているデミウルゴスやコキュートス等、皆が感極まっている中アルベドのみがつつがなく終えた後のアレ(子作り)に興奮しているが気付かれていない

 

その様子を玉座に座りながら静かに見渡しているモモンガ

 

(何だこれ。何なんだこれは)

熱狂と興奮に包まれた室内の様子はハリウッド映画で地球を救った後にしか見れないものだ。

正直そこまで感動しているのが理解出来なかった。あとアルベドの視線が怖い

 

 

 

 皆との温度差に1人途方に暮れていたモモンガ。

ま、まぁ、喜ばしい事だし無事で何よりだったよな、と皆との温度差を埋めようと考えを改めようとしてるとプレアデスの1人、シズ・デルタと目があう。

 

 無表情にこちらをみているシズ。

彼女のみ至って普段のままであり、この感情の坩堝に飲み込まれていない。

それを見たモモンガは考えを即座に元に戻す

 

(そうだよね!おおげさだよね!!仲間だよ仲間。シズ・・・デルタだったな。いやー良かった。いるじゃないか普通の感じのメイドも!部屋付きのメイドは彼女にしようかな!落ち着いて接してくれそうだしなー)

そんな考えを抱きながら立ち上がり、手を上げてシズの方へと向かおうとする

 

 

 ふと見るとシズがプルプル震えている。

違和感を感じたモモンガが全身をよく見渡すとシズが僅かにだが空中に浮いている

 

 

 

「アッ!!シズちゃんも感動で震えてるっスね!浮いてますもん!」

「本当ね。こんなに高く長く浮いてるなんてシズも感極まっているのね・・・!」

 

 

「・・・・そう・・・ソリュシャンの活躍・・・誇らしい。」

 

 

そう言ってフワフワと浮きながら他のプレアデスと共に歓喜の輪の中へと消えていくシズ。

モモンガの孤独が再び始まる。

上げた手を降ろし、玉座へと座り直すモモンガ。アルベドが見ている

 

 

 

上を向く。ブルー・プラネット謹製の荘厳な星空が溢れている

左右を確認する。歓喜の雰囲気は未だに終わらない

下を向く。骨の体だ。使用前に役目を終了した腰の辺りを見つめる

 

 

 

モモンガの体が青白く光り彼の感情は鎮静化された

 

 

 







会いたかったぜヘロヘロさん・・・!意識まだないけどな!!


本当は2話でここまで行くはずだったのにどうしてこんな事に。
次からは事前にあらすじを考えて書き溜めてから突入したいと思います

※前に記述しました変更を順次加えていきたいと思います。(主に2話です)




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