人外召喚士が異世界から来るそうですよ? (猫屋敷の召使い)
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キャラクター紹介※ネタバレあり

まず、召喚獣はこれから新しく登場した場合は書き足していく予定です。

 

 

館野蒼奇(たてのそうき)

 

保有ギフト

〝盟友召喚〟

・・・契約したモノ達を呼び出すギフト。このギフトにより召喚獣を呼んでいる。契約するまでは魔術の召喚術で呼んだり、自ら異世界などで探し回った。

〝影の住民(シャドウ・ウォーカー)〟

・・・影の中を移動するギフト。だが、〝恩恵強化〟により影を操ったり、影の中に世界を創り出したりとイカレたギフトへなっている。主人公は基本的にこのギフトで影の中に召喚獣を召喚する。

〝同化〟

・・・他者や物質とギフトや特性、身体能力などを共有するギフト。これにより主人公は人外へと昇華している。複数の身体能力が同化している場合は全て加算される。多少の制限がある。制限とは召喚獣との同化は召喚した個体のみ。たとえばしまっちゃうおじさんのように〝増殖〟で増えてから全員の身体能力を同化させて加算などはできない。

〝恩恵強化〟

・・・ギフトを強化するギフト。ただし一部のギフトは強化できない(例:〝盟友召喚〟や〝同化〟)。これにより召喚獣達のギフトが強化され、能力が変質したものもある。

 

本作の主人公。人外召喚士兼平凡(自称)魔術師。年齢は五百歳からは数えていないがそれからはまだ年月は経っていない。

人を育てるのが好きで、才能を持った人がいると放っておけない。自分を超えさせるのを目標としているが、今のところは戦闘では誰一人としていない。生産は全員が超えられている。全体としての教え子は百人を超えている。

多くの召喚獣を使役しており彼らと同化して戦う。同化しなければ教え子達や白夜叉に瞬殺されるレベル。

戦闘系の教え子は主人公を認識すると襲いかかり殺そうとする。理由は教え方が超スパルタだったから。

逆に生産系の教え子の多くには懐かれており、よく主人公に自身の製作物を贈っている。主人公はそれを嬉しく思っている反面困っている。だからよく公に出さないように注意して回っている。

 

 

青鬼

引用元:フリーゲーム『青鬼』

 

保有ギフト

〝神出鬼没〟

・・・空間移動のギフト。視認できる場所や探知できる場所へ転移できる。

〝擬態〟

・・・様々なものへ変化するギフト。人なら声や仕草も完璧にできる。ただ、一部の生物に擬態しようとするとブルーベリー色になる。

〝不滅〟

・・・不老不死のギフト。たとえ消滅しても湧いて出てくる。まさに不滅という感じのギフト。ただし怪我は治らない。体がミンチにされたらやっと全快で蘇る。

〝???〟

・・・まだ秘密。考えてはいる。

 

主人公の一番最初の召喚獣。ブルーベリーみたいな色をした全裸の巨人。全召喚獣の中でも強力な部類で主人公の意識を乗っ取ることが出来る。しかし自身の居場所を提供してくれた恩によりそういうことは滅多にしないが、恩人である主人公が馬鹿にされるのは耐えきれない。ゲームではあまり詳しい設定が出ていないので、この作品では青鬼は不老不死の怪物という設定です。

主人公が本気を出す際に主に呼ぶ召喚獣。

 

 

しまっちゃうおじさん

引用元:漫画『ぼのぼの』

 

保有ギフト

〝神出鬼没〟

・・・青鬼と同じ空間移動のギフト。

〝増殖〟

・・・自身のクローンを生み出すギフト。ただ、増えたらどれも同一人物なので、ギフトを使用した個体を本体と呼称している。

〝収納〟

・・・「しまっちゃおうねー」がギフト化したもの。生物無生物を関係無しにしまうことが出来る。襲撃者たちはこれによりしまわれて、青鬼にイタダカレました。

〝未来視〟

・・・未来を視るギフト。主人公はこれを使うことはない。理由は初めて使用したときに制御に失敗して頭が爆発(物理的)した。

 

ピンク色の二足歩行の豹。よく主人公に警告をしてくれる優しい召喚獣。意外と子供好き。よく主人公に転移をお願いされている。しゃべることはめったにないが、かなり感情の起伏が大きい設定です。若干熱血漢気味。

 

 

巨神・アース

オリジナル

保有ギフト

〝対神格〟

・・・神格持ちに対して多大な効果のあるギフト。これを所持していれば、凡人でも神格と戦える。

〝強者の両腕〟

・・・他者を強靭な両腕で拘束するギフト。単純に腕力や握力も強化される。

 

異世界にいたところを主人公に目をつけられて召喚獣にならないかと勧誘される。大きさはエベレストを超えるが小さくなれるがそれでも五百メートルほどまでが限界。初めて主人公が楽しいと思った戦いをした猛者。逆にいえば、主人公の戦闘狂を目覚めさせた一端。

 

 

植物人間・ブライト

オリジナル

保有ギフト

〝再生〟

・・・様々なものを「なおす」ギフト。怪我も服もこれでなおせる。

〝植物操作〟

・・・植物を操るギフト。生長の速度も操れる。ただしマンドラゴラのような動物にも含まれるものは操れない。

 

話すことは出来ないが優しい性格で主人公や召喚獣たちをいつも気遣っている。仲間である植物が好きで影の中で菜園を作っている。

 

 

黒太陽の申し子・J

引用元:漫画『ボボボーボ・ボーボボ』

保有ギフト

〝黒太陽真拳〟

・・・黒太陽を創り出し多種多様な攻撃を繰り出すギフト。というよりは真拳。黒太陽は膨大なエネルギーを生み出す。それにより巨大な都市の全エネルギーをも賄える。

〝Jガード〟

・・・Jの字のポーズをとることでどんな攻撃も防ぐ。しかし主人公はこのポーズが恥ずかしいから使わない。

 

頭が玉ねぎの白スーツの紳士。世界一カッコイイ玉ねぎでもある。

敵にも味方にも紳士的対応だが一度戦闘が始まると敵に容赦はしない。そしてたまにポーズを決めながらキャッチコピーが出る。

 

 

妖精・リィナ

オリジナル

保有ギフト

なし

 

手のひらに乗る程度の大きさの少女。主人公が癒しとして召喚した召喚獣。

彼女の羽から出る鱗粉は魔術師にとってかなり高価な代物。

出番こそ少ないが影から主人公を支えている。

 

 

魔草・マンドラゴラのレイ

引用元:漫画『魔法使いの嫁』※名前はオリジナルで引用は見た目のイメージだけです。

 

保有ギフト

〝促成〟

・・・葉を毟られても次の日には生えるギフト。ただそれだけ。

 

主人公の癒し要員その二。

花瓶に体の半分を埋めていて顔はハニワっぽい。

常に震えている。

葉は二枚つけている。

 

 

暴食・アバドン

引用元:ゴッドイーターのアバドン

保有ギフト

〝暴飲暴食〟

・・・全てを喰らい尽くすギフト。物体から事象や記憶までありとあらゆるものを喰らい取り込むことが出来る。さらに喰らったものから情報を得ることもできる。

ただ教え子たちはこれすら躱して攻撃してくるため牽制程度にしか使えない。

 

主人公の癒し要員その三。

しかしかなりやんちゃで主人公を困らせることもしばしば。

主人公が幻獣世界で散歩していると襲ってきたので捕獲して召喚獣化した。

最初はかなり主人公のことを嫌っていたが、今ではかなり懐いている。

その理由はご飯がおいしいから、らしい。

 



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YES!ウサギが呼びました!
手紙&召喚


初投稿です。


 寒空の夜、青年が黒い上着のフードと自身のところどころ長さの整っていない長髪をゆらしながら月に照らされ、影を作りながら歩いていく。ただその影は異様で歪な形をしている。もはや人の形は消え失せ時折うごめく。その姿形は異常で影なのにどす黒く少年の足元を中心に歪んだ円状に形作っている。

 

「くそ、あの人外剣士が………髪を変な感じに斬りやがって………なにが『その女々しい髪を男らしくしてやる』だよ。いい迷惑だよ。育ての親を少しは敬え………だけど、暇だな………アイツからもらった本にも指示は書いてないし………う~ん、今日本にいる魔術師の友人って誰がいたっけ?」

『………。………。………』

「うげっ、世界でもトップクラスの人外たちじゃん………本当にそいつらだけ?僕の教え子とかは?」

『………』

「間違いない、か。はぁ………なんであの人たちと友人なんだろ?あの人たちは相手が面倒なんだよなぁ………」

『…………………』

「僕がその人外筆頭だからって………僕は君らの力があってやっとあの域だよ。あの人たち単独な上、素であれじゃん。僕という個の存在一人だとあの人たちの足元にも及ばないよ」

『………』

「それでも僕が人外なのは事実だから仕方ない、って………はぁ、わかったよ………じゃあ、何か召喚して契約してみようかな………」

 

 青年は自身の影に………正しくは影の中に()()()()()()()()()とそんな会話をしながら人気のない夜の道を歩いていく。

 

「でもな~僕好みの変り種はなかなか見つからないし………利便性か純粋な戦力、マスコットもなぁ………今は間に合ってるし………また今度にしようかなぁ~?」

 

 雪が降るなか時々立ち止まり何かを考えまた歩き出す。

 

「ねぇ、君らの友人か知人に僕が好きそうなのはいないの?」

『…………………………』

「………ごめん。みんなぼっちの集まりだったね」

『………』

「いいよいいよ。君らのときのように自分で探し当てるから」

『……………………………』

「………余計な慰めと励ましをありがとう。でも、警告と注意ってなんのこtへぷっ!!」

 

 青年が自分の影の中のモノたちと話しながら歩いていると、急に風が吹き青年の顔に何かが貼り付く。

 

「………痛い。急になに?警告と注意ってこれのこと?」

 

 少年は自身の影に問いかける。

 

『………』

「………そう。ありがとう………でも今度はもう少し早く教えてほしいかな………」

『………………』

「うん、わかってくれてありがとう。で、結局これはなに?」

 

 青年はさっき顔に飛んできたもの………一枚の封書を手に取り目をやる。

 

「………封書?手紙?一体どこから………?」

『………』

「え?………あ、本当だ。宛名が僕宛だ………でも、送り主の名前は書いてない………」

 

 封書には『館野蒼奇(たてのそうき)殿へ』と青年の名前が記されていた。

 

『………!………!!』

「へぇ、君らにもわからないんだ。面白いね、これ………」

『………!!』

「危ないから封を切るな………って?」

『………』

「………ねぇ」

『………?』

「……………カリギュラ効果って………知ってる?」

『………ッ!?』

「というわけで、切りまーす!」

『………ッ!!?』

 

 青年………蒼奇は影の注意を聞かず封を切り中の紙の文章を読む。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの〝箱庭〟に来られたし。』

 

「………なにこれ?まさか………っ!?」

 

 手紙を読んだとたん、

 

 

 

 蒼奇の視界は一瞬で変わり、

 

 

 

 日没の暗さは日中の明るさへ、

 

 

 

 黒い空は青い空へ、

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 地上から上空4000mへと変わった。

 

『「………!?」』

 

 眼下に広がる光景は決して彼らのいた世界では目にすることはできないものだった。

 世界の果て、

 巨大な天幕の都市、

 明らかに蒼奇たちのいた世界とは別の世界………異世界だった………。

 

 

 




次話は明日投稿予定。


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紹介&説明

10月29日、三人称に改稿及び今後のための矛盾修正。


 蒼奇は呆然としていた。突然、別の世界に引きずり込まれたのだ。思考を一時的に放棄するようなことにもなるだろう。

 だが、彼はそんなときでも心に一つ、いや二つの思いを秘めていた。一つは不安、もう一つは歓喜だった。

 

「………あー、この感じ………マジかーこの展開………」

『………!』

「………うん、平気だよ………っていうかわかってて聞いてるでしょ?」

『………』

「そう、僕は今、とても興奮しtへぶぅ!!」

 

 そのとき、蒼奇の顔面に本日二度目の衝撃が走る。そのまま張り付いた何かを蒼奇は両手で慎重に剥がして確認する。

 

「………猫?なんで?」

 

 彼の顔に張り付いていたのは猫だった。

 それを疑問に思ったが、水面が目前に迫っているのを確認すると抱きかかえた猫を衝撃で離さないようにしっかりと抱える。

 そして、上空四千mから落ちたにしては衝撃もなく呼び出された四人は着水した。

 湖に落ちてずぶ濡れになった四人は何とかして岸に上がる。

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。 場合によっちゃあゲームオーバーコースだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだマシだぞ」

「………いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 

一緒に呼ばれた人たちの声が聞こえつつ湖から上がる。

 

「………ああ、ずぶ濡れだ………大丈夫かい?猫君?」

『ナ゛、ナ゛ァー………!』

「………平気そうかな?」

 

 蒼奇は抱きかかえた猫を気遣いながらも共に呼び出された三人を観察する。

 一人は金髪の少年で蒼奇から見てもその存在は異常なことが見てとれた。

 そして黒髪の少女。彼女からも何か特殊な力を感じる。

 同じく最後の一人、茶髪の少女からも異様な雰囲気を感じ取れた。

 心の中で育ててみたいななどと考えていると、腕の中にいた猫が飛び降りて茶髪の少女の下へ向かっていった。彼女とともに召喚されたのだろうと考え、すぐに影の中の存在たちに意識を向けた。

 

「ここ………どこだろう?」

 

 茶髪の少女が猫を抱えながら言う。

 

『………』

(………うん。一旦とりあえず送還するよ?)

『………!』

(わかってるって。なにかあったら召喚するから)

『………』

 

 最後にひと声かけられて、影の中から全ての気配が完全に消える。それを感じ取った蒼奇は表に出さないように密かに安堵した。

 

「――――――――――――お前たちにも変な手紙が?」

 

 金髪の少年が問いかける。

 

「そうだけど、まずは〝オマエ〟って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ、以後気をつけて。そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「・・・春日部耀。以下同文」

「そう、よろしく春日部さん。そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう、取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 互いに自己紹介をしていく。そして、蒼奇の心の中は安堵から一転。焦りに変化した。なぜならば、彼自身がまともに自己紹介をしたことがないからだ。

 だが、そんな焦りも空しく彼の番が回ってくる。

 

「それで、残った貴方は?」

 

 どうしようかという考えはすぐに捨てて、普通に名前だけ名乗ればいっか、と思い自身の紹介をする。

 

「あー、僕は館野蒼奇。ただの変わり者だよ」

「そう。よろしく蒼奇君」

「うん。よろしく」

 

 そして、一般人のフリをして三人の反応を観察に徹することにした蒼奇。

 

「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

「………いや、僕は十分混乱してるんだけど?これ以上はきつい………」

「「「…………………」」」

「あ、あの………無言のまま冷めた目で見ないでくれませんか…………………?」

「「「…………………………」」」

「………ほ、ほら!あそこに隠れている人に話を聞こうよ!」

 

 彼は三人の冷たい視線に耐えられずに話を逸らそうとし、茂みに隠れている何者かの話題を提供する。しかし、

 

「「「逃げたな/逃げたわね/逃げた」」」

 

 三人はそんな蒼奇を逃がさず追撃した。

 

「う、うるさいよ!なんでそんな息ピッタリなんだよ君ら!?本当に初対面かい!!?」

「「「おう/ええ/うん」」」

「………ハァ。それよりも三人とも気づいていたんだからさっさと話を聞こうよ」

 

 なにもかもフリなのだが、実際に精神的疲労が多少増えたような気がした蒼奇だった。それと同時にいつか仕返しをしてやろうと心に決めたのだった。

 

「というより、あなたたちも気づいていたのね」

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ?」

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 

 各々がそんなことを言う。しかし、最後に言った耀のセリフに蒼奇ともう一人、十六夜が反応した。

 

「へえ?面白いなお前」

 

 十六夜は笑いながらそういうが、蒼奇は今まで通り表に出さずに心の中だけで思考を巡らせた。

 そして、呼び出された挙句湖に落とされ、説明もないこの状況に機嫌がだんだんと悪くなっていく。

 この状況に耐えられなくなった蒼奇は茂みに隠れている人に話しかける。

 

「こちらの三人の機嫌がさらに悪くなる前に出てきてほしいんだけど?」

 

 そう伝えるとようやく茂みに隠れていた人物は恐る恐るといった感じで両手を上げながら姿を現す。

 

「や、やだなぁ皆々様。そんな狼みたいな顔で睨まれると黒ウサギは死んでしまいます? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵にございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「え?………じゃあ、やだ」

「あっは、取りつくシマもないですね♪って最後の方ッ!じゃあって何でございますか!じゃあって!?」

 

 三人が拒否したので流れに従って拒否した蒼奇。それを咎めるウサ耳少女。

 しかし、すでに彼の意識は少女の言葉に向いておらずある一点を見つめていた。

 そして、おもむろに手を伸ばし、

 

「………」

「フギャ!」

 

 少女のウサ耳を引き抜こうとした。突然の痛みで悲鳴を上げる少女。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面でいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「君の値踏みするような視線が気に入らず、気が付いたらやってしまっていた。反省も後悔もしていない」

「せめて反省してください!」

「三人もどう?本物だよ、これ」

「へえ?じゃあ半分よこせ」

「私も」

「じゃあ私も」

「ちょ、ちょっと待っ―――――――――!」

 

 少女の悲鳴が森に木霊した。蒼奇はその様子を一息つきながら見ていたのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらう為に小一時間も消費してしまうとは。が、学級崩壊とはこの様な状況に違いないのデス」

「いいからさっさとしろ」

「早くしてくれない?」

 

十六夜と蒼奇が説明するように要求する。

 

「それでは、皆様方。ようこそ、〝箱庭の世界〟へ!我々は皆様にギフトを与えれた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は全員、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〟を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。それをただ黙って話を聞く四人。

 

「まず、初歩的な質問からしていい? 貴方の言う〝我々〟とは貴方を含めただれかなの?」

「YES! 異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある〝コミュニティ〟に必ず属していただきます」

「嫌だね」

「え、マジで?」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝主催者(ホスト)〟が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

 属しなきゃいけないってところで少し嫌そうな顔を浮かべる蒼奇。

 そこまでの話を聞いた四人の中の一人、耀が手を上げて質問する。

 

「………〝主権者〟ってなに?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

 特徴として、前者は自由参加が多いですが〝主権者〟が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。〝主権者〟次第ですが、新たな〝恩恵〟を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「後者は結構俗物ね………チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 黒ウサギの説明を表面上は嫌そうな表情を浮かべながら聞く蒼奇。しかし、心の奥底では獰猛で荒々しい化け物たちが暴れているかのように昂っていた。

 

「そう。なら最後にもう一つ質問させてもらってもいいかしら?」

「どうぞどうぞ♪」

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

「………つまり〝ギフトゲーム〟とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

「ふふん?なかなか鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも金品による物々交換は存在しますし、ギフトを用いた犯罪などもってのほかです………が、しかし! “ギフトゲーム〟の本質は全くの逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです」

「そう、なかなか野蛮ね」

「ごもっとも。しかし“主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しております。奪われるのが嫌なら初めから参加しなければいいだけの話でございます」

「僕からもいいかな?」

「はい♪なんでしょう?」

「僕のような人でもゲームを開催することは可能なんだよね?その方法は?」

「はい!それはですね〝契約書類(ギアスロール)〟というギフトが必要です。ゲーム内容、ルール、チップ、賞品などを書き、コミュニティのリーダーが署名をすることでゲームが成立します。契約書類に書かれた事は絶対で破ることはできないのですよ」

「つまり、それらが書かれていてちゃんとクリア出来る内容ならいいってこと?」

「はい!そのとおりでございますよ」

「なるほどね。ありがとう」

 

 黒ウサギは一通りの説明を終え、一呼吸して改めて四人に尋ねる。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。ここから先は我らのコミュニティでお話をさせていただきたいのですが………よろしいです?」

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。オレが聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 三人は十六夜の言葉に黙って耳を傾けていた。その言葉に全身全霊の期待を込めるかのように。

 

「この世界は―――面白いか?」

 

 十六夜の放ったその質問はまさに召喚された四人が求め続けていたものだった。そしてその回答も、

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人智を超えた神魔の遊戯。

 箱庭の世界は外界よりも格段に面白いと黒ウサギが保証します♪」

 

 ―—————彼らが心から欲していた代物だった。

 

 




次話は三日以内に投稿予定


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移動&遭遇

ちょっと強引かもしれませんがツッコまないでください。お願いします。

あと章付けしました。

12/24
改稿作業完了。



 黒ウサギの説明も終わり彼女の案内に従い天幕に向けて、上機嫌な彼女を先頭にして移動していく五人。

 しかし、蒼奇はそわそわして落ち着かない様子だった。

 その理由は遠くの方に彼好みの変わり者の気配がするからだろう。

 さて、どうするべきか。黒ウサギに迷惑かけるのもいけないだろうし、だからと言ってこの機会を逃すのも嫌だ。

 などと彼が考えていると不意に十六夜から声をかけられる。

 

「おい館野」

「ん?どうかしたのかい?十六夜。それと蒼奇でいいよ。僕も十六夜って呼ぶし」

「じゃあ蒼奇。世界の果てまで行ってみねぇか?」

 

 ご都合主義と言わんばかりのタイミング。だが、ちょうどいいのもまた事実であった。

 まあ、一人いなくなるのも、二人いなくなるのも変わらないよね。とズレたことを考えながら返答する。

 

「いいよ、行こうか。でもなんで僕なんだい?」

「湖に落ちて陸地に上がったあと少しの間お前の影が不自然に動いてたからな。それに興味があるだけだ」

「………え?マジで?結構早めに直したし、できるかぎり隠したんだけど………」

「安心しろよ。多分俺しか気づいてねぇよ」

「そ、そう………まぁ向かいながら話そうか………と思ったけど、寄り道するところがあるから先に行っててほしいかな。あとで合流するから」

「………ちっ、わかったよ。じゃあ後でな」

 

 そう返事をすると十六夜は世界の果てに向けてすごい勢いで向かい始めた。

 彼が向かうのを見送ると蒼奇は黒ウサギを除く二人、春日部耀と久遠飛鳥に話しかける。

 

「耀さん、飛鳥さん」

「「なに?/なにかしら?」」

「僕と十六夜は世界の果てに行ってくるから。黒ウサギには言わないでね?それと止められても行くから。それじゃあ、あとはよろしく」

 

 それだけ矢継ぎ早に告げると彼女たちの返事も聞かずにその場から転移して消えた。

 

 

 

 

 

 蒼奇が転移した後、その場に残された耀と飛鳥は蒼奇が一瞬で消えたことに驚いた。

 

「「………」」

「………どうしよう?」

「………どうしようかしら?」

「「………」」

「「………そっとしておこう/そっとしておきましょう」」

 

 二人は蒼奇の言ったことを図らずも守って?黒ウサギには言わずにそのままついていった。

 

 

 

 

 

 それから少しして天幕が近くなると黒ウサギが声をだす。

 

「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れて来ましたよー!」

 

 黒ウサギが声をかけた先にはダボダボのローブに髪の毛が跳ねているジンと呼ばれた少年が天幕の入り口にいた。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの四名様が――――――」

 

 黒ウサギはクルリ、と振り返り四人のほうへ向くが、そこにいたのは耀と飛鳥の二人だけだった。

 そのことを認識し少しの間固まるが、すぐに二人問いかける。

 

「あ、あの?もう二人いませんでしたっけ?〝俺問題児!〟って感じの方と〝僕変人!〟って感じの方が」

「ああ、それなら蒼奇君が『僕と十六夜は世界の果てに行ってくるから。黒ウサギには言わないでね?それと止められても行くから。それじゃあ、あとはよろしく』って言っていたわ。口止めされていたのだから仕方のないことだったのよ」

「うん。仕方なかった」

「ほんとは面倒くさかっただけでしょうお二人さん!?」

「「そうともいう/そうともいうわね」」

「このお馬鹿様方!」

 

 スパパンッとどこからか取り出したハリセンで二人をたたく黒ウサギ。

 

「た、大変です! 〝世界の果て〟にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいて、人間では太刀打ち出来ません!」

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 ジンは慌てて事の重大さを伝えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。

 黒ウサギは呆れつつも立ち上がりジンに話しかける。

 

「………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいですか?」

「わかった。黒ウサギはどうする?」

「問題児達を捕まえに参ります。事のついでに〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 黒ウサギはそう言うと黒い髪を緋色に染めていく。そして跳び上がると外門の柱に張り付く。

 

「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 

 言い終わると全力で跳躍した黒ウサギあっという間に見えなくなった。

 

「………箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属で、様々なギフトや特殊な権限を持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の事がない限り大丈夫だと思うのですが………」

「そう、なら黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

「春日部耀」

 

 ジンが自己紹介をすると、二人もそれに倣って一礼した。

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

 

 

 

 蒼奇が召喚獣の【しまさん】に気配を頼りに転移してもらった場所は森の中だった。

 

「………っと!到着っ!さ~てと気配の主は~っと………この先の開けた場所か………」

 

 何がいるのかな?彼が()()()〝箱庭〟で初めて遭遇する人以外の生命体。その存在に胸が躍り期待してしまう。

 そう思い先にいる生物を驚かせないように静かに、けれど素早く近づいていく蒼奇。

 

「さ~て、何かな~っと………おっ?」

「………」

「………」

「………(ぷるぷる)」

「………スライムかな?」

 

 気配の主はスライムだった。見た目は紫色で大福やまんじゅうのような形で両手で抱きかかえられるサイズだ。グレープ味のグミをそのまま大きくしたらこんな感じになるだろう。

 そのまま一人と一匹によるにらみ合いをしていると、スライムが突然飛びついてくる。

 

「………ッ!!(ガバッ)」

「おおうっ!?」

 

 

 

「急に襲ったりしてなんだい?なにがしたいんだい?」

「………」

「………動かなくなった?なんで?」

「………」

「………お腹が空いてるなんていうベタな理由だったりしないよね?」

「………ッ!?(ブルブル)」

 

 蒼奇の質問に体を大きく震わせて応答するスライム。その反応に多少の呆れを含んだ息を吐きながらも影の中に食べ物がないかを確認し始める。そうすると蒼奇本人が入れた覚えのないもの、主に食べ物が入っていることに気づく。それも誤って入れてしまったという量ではない。千人が一年は飢えを凌げるのではないかというほど大量に入っていたのだ。影の中では外の世界よりも時間がゆっくりと進むように設定している場所や完全に時が止まっている場所も存在させている。そこに大量の食料品が置かれていたのだ。

 心の中でこれらの食料を入れたと思われる召喚獣たちに怒りを覚えればいいのか感謝の念を送ればいいのか困りながらも影からチョコレートを取り出しスライムに差し出す。

 

「これ食えるか?」

「………(プルプル)」

 

 蒼奇がチョコレートを差し出すとスライムは体から触手を伸ばして彼の手からチョコレートを受け取り、体に取り込む。すると瞬く間にチョコが小さくなっていき最後には完全に消えた。

 そのことを確認した蒼奇はスライムに話しかける。

 

「満足かい?」

「………(プルプル)」

 

 尋ねられたスライムは満足そうに体を震わせていた。それを見た蒼奇も満足そうに笑みを浮かべる。

 

「そう、それは良かった。………それで僕が君に会いに来た本題なんだけどさ」

「………?」

「僕と一緒に来る気はない?」

「………」

「………今なら食事と屋根のある寝床付きだよ」

「………ッ!」

 

 蒼奇の言葉を聞いたスライムは勢いよく蒼奇に飛び込む。思いのほか欲望に忠実なスライムなようだ。

 スライムの反応に再び満足した蒼奇はスライムを抱きかかえたまま立ち上がり、その場を後にしようとする。

 

「さてと、十六夜と合流するかな」

 

 蒼奇は十六夜の気配を探りはじめ、すぐに見つけることに成功したが、もの凄い速度で移動中のため合流するのが憚られる。

 そこで後回しにしていたことを先にしてしまおうと思い、スライムに話しかける。

 

「そういえば君、名前あるの?」

「………?」

 

 蒼奇の質問に身じろぎするスライム。

 

「その反応はなさそうだね。………じゃあ僕が決めるよ。そうだね、君の名前は~、ネロ。ネロでいいかな?」

「………ッ!(プル)」

「………それって、気に入ったっていう反応でいいのかな?」

「………♪(プル)」

「あはは、そうみたいだね。じゃあ改めて、僕は蒼奇だよ。よろしく、ネロ」

 

 そうやって、スライムのネロと戯れている間に十六夜も目的地である世界の果てに着いたようで気配は動いてはいなかった。

 

「じゃあネロ、移動するよ」

「………(プル)」

 

 ネロを上着のフードの中に入れて立ち上がる蒼奇。

 そして、影の中にいる召喚獣【しまさん】に転移を頼む。が、

 

「………………しまさん?」

『……………』

「……………忘れていたわけじゃないよ。ただ、空気だっただけで―――」

『……………ッ』

「ちょッ!?さらにいじけないでッ!!僕が悪かったから!!」

 

 蒼奇は必死に謝り、何とか機嫌を直した【しまさん】が転移してくれるのに少し時間がかかった。

 

 

 

 

 

 機嫌を直した【しまさん】によって寸分のズレもなく十六夜のすぐ横に転移した蒼奇。

 いきなり現れた蒼奇に一瞬驚きはしたもののすぐに表情を戻す十六夜。

 

「やぁ、十六夜。少し遅れちゃったかな?」

「いや、ちょうどいいぐらいだぜ?………んで、フードのそれはなんだ?」

「そうかい?ならいいけど。それとこの子は僕の寄り道の結果………かな?………逆に聞くけど()()はなんだい?」

「あん?」

『………ほう。貴様らのような人間が来るのはいつ振りか。ここに来たということは試練を受けにきたのだろう?さぁ、試練を選べ』

 

 蒼奇が指をさしながら十六夜に何かを尋ねる。その方向には白い大蛇がいた。蒼奇は気配を感じ取るとすぐに神格持ちだと気づくが、それと同時に興味もなくした。

 それは何故か?そんなものは単純だ。相手しても楽しめそうにも興奮できそうにもなく、つまらなさそうだったからだ。一言でいえばあの蛇が弱かったから。

 だから、

 

「十六夜」

「なんだよ?」

「あれの相手は譲るよ。いや、むしろやってくださいお願いします」

「あん?ビビったのかよ」

「うん」

「………お前、意外と小心者だよな」

「僕は生まれた時からそうだよ」

「………ハァ」

 

 十六夜は失望したのか溜息を吐く。それを横目に蛇を見据える蒼奇。

 

『なにをしゃべっている?早く試練を選ばぬか!』

「ハッ!先にお前が俺を試すのに相応しいか試してやるよ!」

 

 大蛇がそう叫ぶと十六夜がその言葉を一蹴すると同時に殴りかかる。

 ああ、神格持ちなら蛇と人間程度の差じゃ普通のパンチは効かないのに………。などと思っていたが、蒼奇のその予想に反し、効かないどころか一発で倒してしまった十六夜。

 そのことに目を見開いて驚く蒼奇。だが、それを十六夜に見られないようにすぐに表情を取り繕う。

 そして、元の世界では定番であった()()()()を叫ぶ。

 

「やったか!?」

「おいこらやめろ」

 

 蒼奇はこのネタが通じるのかと内心戦慄していた。もしかしたら十六夜の世界も似たような代物があるのだろうか、と。

 

「いや、定番かなって」

「いや、まぁ、そうだけどよ」

「ああ、それと黒ウサギが近づいてきてるよ」

「あ?マジかよ」

「うん。たぶんそろs「この辺りのはず………」………ほらね」

「ヤハハ、正確だな。って、黒ウサギ。どうしたんだその髪の色?」

 

 多少、黒ウサギに言葉を遮られたのを心の中で気にしながらも、大蛇の気配がまだ動いていることに気づき影の中に召喚獣【アース】を召喚する。

 召喚された【アース】は影の中から蒼奇へと話しかける。

 

『………久シイナ』

(うん久しぶり。今回は〝身体能力〟と〝対神格〟を【同化】するよ?アースさん)

『アア………マカセろ』

(うん、今回も頼りにしてるよ)

 

 頭の中に響く低く深い声に返答しながら着々と戦闘準備を始める蒼奇。

 

「もう、一体何処まで来ているんです!?」

「〝世界の果て〟まで来ているんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ」

「そうだよ。僕らは湧き上がる好奇心を抑えることができなかったんだから、大目にみてよ」

「「ねぇ?/なぁ?」」

「このお馬鹿様方!!」

 

 十六夜と蒼奇は声をそろえて頷く。そのことに黒ウサギが激昂し、声を荒げる。

 

「ま、まぁ、それはともかく!十六夜さん達が無事で良かったデス。ここに来る途中、水神の眷属のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

「水神?―――ああ、アレのことか?」

「だろうね。神格も持っていたし」

 

 二人のその言葉を聞いた黒ウサギは「え?」と声をこぼす。彼らが指示した方向には十六夜に殴り飛ばされて水面に浮かんでいる大蛇の水神の姿があった。

 すると水神は水飛沫をあげながら勢いよく起き上がり、叫ぶ

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

 その叫びと呼応して水面からいくつも水柱が生える。

 水神の叫びに驚きながら黒ウサギが反応する。

 

「蛇神・・・!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか!?」

 

 黒ウサギが喚きながら二人に詰め寄る。

 当の二人は飄々として態度で返事をする。

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか言ってくれたからよ。俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。結果はまぁ、残念な奴だったが。あとそこにいるバカに押し付けられた」

「ちゃっかり僕に責任を押し付けようとしてない?十六夜。それにしても丈夫だねぇ、あの蛇」

「お前が生存フラグなんか言うからだろ」

「え、マジで?じゃあ、僕が相手した方がいいのかい?」

「おう」

「はぁ、じゃあこの子持ってて」

『貴様ら………付け上がるな人間共!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 蒼奇がネロを十六夜に預けてしかたなく水神の方へと向かっていく。

 召喚獣である【アース】と〝同化〟し、〝身体能力〟と〝対神格〟を使用する。

 

「お二人とも、下がって!」

 

 黒ウサギがそういって蒼奇の前に出ようとするが、十六夜と蒼奇の二人がそれを制す。

 

「あの蛇はもうアイツの獲物だ。邪魔はすんなよ?」

「悪いけど、もう僕の獲物だ。邪魔をするなら黒ウサギでも容赦はしないよ?」

 

 二人が同時に言う。その言葉を聞いた水神がフッと鼻を鳴らす。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様らの勝利を認めてやる』

「ごめんね?僕は喧嘩を売りに来た相手は倒さなきゃ、気がすまないんだ」

『フン―――――その戯言が貴様らの最期だ!』

 

 その言葉を聞くと同時にさっき〝同化〟させておいた〝身体能力〟と〝対神格〟。ダメ押しでアースの()()の人の〝神格〟も一緒に同化させる。

 

『なんだと!?』

「なんで蒼奇さんに神格が!?」

 

 蛇神が驚愕した隙に頭上へと跳ぶ蒼奇。

 

 そして、蛇神の頭を――――――

 

 

 

 

 

「往生際が悪いんだよ、お前。敗者は敗者らしく潔く負けを認めていろクソ蛇」

 

 

 

 

 

 ――――――蹴り落とした。

 

 

 

「やっぱ、神格持ちでも弱いほうだね」

 

 

 

 そう言って地面へと着地する。

 やはりつまらなかったな、と予想通り過ぎてなおさら落胆する蒼奇。

 

(アースさんありがとう。助かったよ)

『アア・・・まタ呼ベ』

(うん。必要ならそうするよ)

 

 蒼奇は【アース】にお礼を言いながら、〝同化〟を解いて送還する。

 そして、うまく地面に着地したのだが、残念なことに水神を水面に叩きつけた際に生じた水柱を盛大に頭から被ってしまう。

 蒼奇は溜息を吐き水を滴らせながら十六夜からネロを受け取ろうとする。が、ネロは腕をするりと抜けて地面へと着地する。どうやら濡れた状態で触られたくないようだ。

 そのことを理解すると大人しくネロを捕まえようとはせずに、服を乾かすことに専念する蒼奇。

 そして十六夜が蒼奇に話しかける。

 

「やっぱり強かったんだな、お前」

「誰も弱いなんて言ってませーん。ただ戦うのが面倒だっただけだよ。それにあんなに弱いのを相手にしてもつまらないし。というか、そういうことなら十六夜だって出鱈目だよ。普通、ではないというのはわかってたけれど、神格を持たない人間が神格持ちを殴り飛ばすなんて普通は無理だよ」

「ヤハハハハ!お互い様ってことかよ!」

「そうそう。お互い様。でも、君の喧嘩を横取り?しちゃってよかったのかい?」

「ハッ!譲ってやったの間違いだぜ?」

「……………僕の力が見たかっただけだろうに」

「ヤハハハハハハ!!」

 

 二人がたわいない会話をしている横で、黒ウサギは見事に固まっている。

 

(蒼奇さんが………神格持ち!?ですが神格を感じたのはあの一瞬だけ………それに話を聞いている限りでは十六夜さんは………人間でありながら………神格を殴り飛ばす………?そんなことが本当に………?)

「さてと、黒ウサギ。僕は蛇神にゲームの報酬の要求と治療をしてくるよ」

「……………………」

「黒ウサギ?」

「え?………あ、は、はい!」

「じゃあ十六夜。黒ウサギの尋問、よろしく。君に丸投げするから」

「おう。任せろ」

「………え?」

 

 それだけ十六夜に伝えると蒼奇は蛇神に駆け寄っていく。

 

「さてと、黒ウサギ――――――

 

 

 

 

 

 

――――――オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

 

 そんな言葉を小さく耳にしながら………。

 

 

 

 




次話は明日か明後日中には投稿予定。






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治療&入店

2017/1/20
改稿終了。
今後も修正の可能性有り。


 十六夜に話を丸投げした蒼奇は水神の頭の前まで行くと話しかける。

 

「ねぇ、生きてるよね?」

『………』

「………………ん?あ、あれ?ま、まさか死んでる?……………………………さーて、どうやって処理しようかな?燃やそうかな?埋めようかな?いや、こんだけ大きいから食べごたえありそうだし蒲焼きにでも――――」

『生きておるわ!?だから燃やすやら埋めるやら蒲焼きなどと恐ろしいことをしようとするでないわッ!!』

「………チッ!」

『なぜに舌打ちッ!?』

 

 蒼奇の言葉に反応した水神が激しく反応し、その様子を見た蒼奇が舌打ちをする。

 

「まったく。生きてるならすぐに返事ぐらいしてほしいね。まぁいいけど。とりあえずこれ飲んで」

『………それは?』

「エリクサー」

『!!?』

「何も言わせないよ?」

 

 何か言われる前にしまさんに蛇神の口の中にエリクサーを転移させる。

 今現在、ある一人の人物によって彼の影の中には多くのエリクサーが溜まりに溜まっているのだ。その在庫処分の一環として気にしなくてもいい怪我にもエリクサーを使うという始末だ。

 それはともかくとして、エリクサーを飲んだ水神は見る見るうちに怪我が治っていき、目に見える傷はなくなってしまった。

 そのことを確認した蒼奇は改めて水神に話しかける。

 

「治ったよね?」

『………なぜ、我のようなものにエリクサーのような貴重なものを?』

「余ってたから」

『………は?』

「いやだから、大量に余ってるんだよ」

『………もう何も言わんぞ』

「えー、つまんな。もうちょっと根掘り葉掘り聞こうとしようぜー。張り合いねえのー」

 

 唇を尖らせながら黙ってしまった水神に文句を言う蒼奇。

 

「まっそれはともかくとして。とりあえず、ゲームの報酬プリーズ」

『………ああ、いいだろう』

 

 そういって水神が渡してきたのは樹の苗ののようなものだった。

 それを不思議そうに観察する蒼奇。

 

「これは?」

『〝水樹〟と呼ばれるギフトの苗だ。枯れない限り水を出し続けるものだ』

「おお~。零細コミュニティにはうれしい代物だね」

『………貴様は、あの者のコミュニティの状況を把握しているのか?』

「いや?でも予想はできてるし、別にいいよ。そうじゃなきゃ僕らを呼ぶような必要性がないかなって感じただけだし。でも、どんな状況でも僕は、黒ウサギのコミュニティに入る。面白そうだからね。それに僕の娯楽の障害になるものがいるんなら………徹底的に潰すだけだよ」

『………そうか』

「僕の仲間がねッ!!」

『人任せか!?貴様!?』

「まぁね~。それに僕は召喚魔術士だよ?自ら手を出さなくても僕の家族たちがやってくれるよ。それに君を殴った他にも召喚された子たちもいるし。その彼らには強くなってほしいんだ。でも分が悪いと思ったら手は出すつもりでいるよ。まあそういうことで、元気でね。今度はちゃんと試練でも挑戦でも受け()()に来るよ」

 

 人を育てるのって楽しいからね。そう最後に付け加え、〝水樹〟を影の中にしまってから水神から離れて十六夜と黒ウサギの元へと戻る。

 

「十六夜ー、話は終わったかい?」

「おう。ちょうどな」

「じゃあ、簡潔に聞かせて」

「零細コミュニティ、魔王は悪者、だから助けてほしい、そして黒ウサギはリア充」

「おけ把握」

「え?………え?………………え?」

 

 黒ウサギはぽんぽんと進む会話についていけていないのか戸惑った声を出している。

 

「あ、あの本当にいいんですか?詳しく聞かなくて………」

「え?黒ウサギが爆死するんでしょ?」

「しません!!なぜそこだけを拾うんですか!?それに今のでどうやって分かったのでございますかッ!?い、いえ、そうではなく!詳しく知っておいてほしいのですヨッ!?」

「別にいいよ。全部聞こえてたし」

「ではさっきの会話は何だったのですかッ!?」

「「ノリ」」

「ハァ………あっ!ということは蒼奇さんも黒ウサギのコミュニティに加入を!?」

「もちろーん。でも一つ聞きたい」

「は、はい!何でしょう?」

 

 蒼奇は一度言葉を切ると意を決して黒ウサギに尋ねる。

 

「………畑はあるかい?」

「………はい?」

「畑、農地、土壌、ファーム、もしくはその類や植物を育てられるだけの土と土地」

「は、はい。一応ありますけど………」

「うん、ならいいや。あ、そうだ。はいこれ。ゲームの報酬。黒ウサギに預けとくよ」

 

 そういってから影の中にしまっていた〝水樹〟を黒ウサギに手渡す。

 

「ええ!?こ、これって………!?」

「〝水樹〟の苗だって」

 

 それを聞き、改めて理解した黒ウサギはウッキャー♪と奇声を上げて喜んでいる。

 その姿を見ながら十六夜が蒼奇に尋ねてくる。

 

「それで、その影は一体なんだ?」

「僕は影を操ったり、潜ったりできる恩恵だよ。こんな風にね」

 

 蒼奇は影を触手のように伸ばしながら説明する。

 

「でも、大半はさっきみたいに物をしまうのに使ったり、影の中に召喚獣を呼び出すのに使ってるけど」

「へぇ、召喚士かなんかか?」

「その通り。正しくは召喚魔術士。魔術も使えるけど最近は滅多に使わないよ」

 

 そういいながらも、指先に火をともしたりと軽い魔術を使って見せる蒼奇。

 その様子を十六夜は興味深そうに観察していた。

 

「さて、とりあえず話は一段落したし目的を果たそうか、十六夜」

「おう、そうだな」

「ほら黒ウサギも。そろそろ落ち着いて」

 

 いまだにはしゃいでいる黒ウサギを落ち着かせて、当初の目的のとおりに〝世界の果て〟に向かう一行。

 以前来た時も世界の果てには来たことが無かった蒼奇はどんな光景が広がっているのかと心を躍らせながら向かう。

 

 

 

 

 ただ一つの懸念事項を残して―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――どうやってずっと空気だったネロとしまさんの機嫌を元に戻すかという問題が残っていたのだ。

 

 

 

 

 

 正直、十六夜と黒ウサギの会話はネロとしまさんの機嫌取りに必死で聞いてなかった蒼奇。

 そして二体との話し合いの結果、ネロはしばらくかまってあげることで満足し、しまさんは夜の話相手で妥協してくれた。

 そのことに一安心した蒼奇。

 しかし、機嫌取りに必死で〝世界の果て〟の景色に意識がほとんど向かずにあまり記憶に残っていない蒼奇であった。

 そして、目的の〝世界の果て〟を見た一行は飛鳥と耀の二人の下へと合流したのだが、

 

「な、なんであの短時間に〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算つもりがあってのことです!」「聞いているのですか三人とも!!」

 

「「「「ムシャクシャしてやった。だが、反省も後悔もしていない!」」」」

「黙らっしゃい!!!せめて反省してください!!!そしてなぜ、蒼奇さんがそちら側にいるのですか!!?」

「ノリです。楽しいよ!」

「お馬鹿様!!!」

「でも、話を聞く限りだと彼女たちの行動もわかるよ」

「そ、それはそうですが………」

 

 蒼奇たちがいない間に飛鳥と耀、そして四人が所属することになる〝ノーネーム〟のリーダーであるジンの三人が〝フォレス・ガロ〟のリーダーであるガルド=ガスパーにゲームを仕掛けたのだ。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「そうそう。黒ウサギもそれくらいで許してあげなよ。君はその話を聞いて、喧嘩を売らずにいられるの?」

「うっ………で、ですが、このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」

 

 そう。確かにこのゲームはクリアしても自己満足しか得られない。だがそれは個人の話だ。〝フォレス・ガロ〟を潰せば、脅迫されて従っていたコミュニティに恩を売ることができる。

 しかし、蒼奇はそういう裏で動くことが苦手なので十六夜あたりにすべて任せる腹積もりらしいが。

 なんやかんやしてジンや飛鳥や耀の主張によって何とか黒ウサギが納得する。

 

「はぁ~………。仕方がない人達です。まぁいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんか蒼奇さんがいれば楽勝でしょう」

 

 黒ウサギは神格持ちを倒した十六夜や神格を持っているように思える蒼奇に期待してるようだが――――――

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

「僕も参加しないよ」

「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」

 

 ――――――その期待は蒼奇と十六夜と飛鳥の三人によって打ち砕かれる。

 

「だ、駄目ですよ!皆さんはコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういうことじゃねぇよ。この喧嘩はコイツらが売った。そして奴らが買った。なのに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

「僕らが手を出したら喧嘩を売った彼女たちに失礼だよ」

「あら、分かっているじゃない」

「………ああもう、好きにしてください」

 

 すでに四人の扱いに慣れたのか、はたまた疲れただけなのかはわからないが諦めたような表情で返答する黒ウサギであった。

 

 

 

 

 

 とりあえず状況が落ち着き、ジンをコミュニティの拠点に帰すと黒ウサギに案内されるままにある場所に向かっていた。

 すると、その道中で蒼奇は耀に話しかけられた。

 

「………館野さん」

「どうかした?耀さん。それと蒼奇でいいよ」

「わかった。私もさんはつけなくてもいいよ。………それで、フードの中にいるのはなに?」

 

 そういわれ、一瞬何のことを言っているのか理解できなかった蒼奇だったが、すぐにフードの中にいるネロのことだと思いつく。

 そのことを理解した蒼奇は返答する。

 

「スライムだよ。ネロっていうんだけど………触ってみる?」

「いいの?」

「たぶん平気だよ。もし不安なら本人に聞いて」

 

 そういって、ネロを耀に渡す蒼奇。

 

「………っ!」

 

 ネロは彼女に大人しく触らせ、耀は触った瞬間、ネロの触感に驚いたのか小さく息を漏らす。その後は何も言わずにネロの触り心地に夢中のようだ。

 そして、さらに少し進んだところで飛鳥が声を上げる。

 

「桜の木………では無いわね。真夏になっても咲いているはずが無いものね」

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜がいてもおかしくはないだろ」

「………?今は秋だったと思うけど」

「ああ、やっぱりみんな違うんだ。ちなみに僕は冬」

 

 三人はそれぞれのかみ合わない話を聞いて首をかしげている。

 そんな中、十六夜は蒼奇の発言に疑問を持ち、問いかける。

 

「おい蒼奇。やっぱりってなんだ?」

「たぶんみんなはそれぞれ違う世界の違う時間軸から来てるんだよ。なんていったかな?たしか………立体交差並行世界論………だっけ?」

「はい。そうでございますよ。蒼奇さんのいうとおり皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。時間以外にも歴史や文化、生態系も所々違うはずです」

「へぇ………それでなんで蒼奇は知ってたんだ?」

「………恩恵の関係上と趣味と娯楽………かな?」

 

 そうこうして店についた一行。商店の旗には蒼い生地に互いが向かい合う二柱の女神像が記されている。

 ここが目的地のコミュニティ〝サウザンドアイズ〟の店舗のようだ。

 しかし、店の前に店員と思しき一人の女性がおり、店の暖簾を下ろしている光景が目に入ってきた。

 そのことを認識した黒ウサギは店に滑り込み、

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 ………ストップの声すら許されなかった。入り込む隙もなく断られてしまった。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁!?これだけで出禁とか御客様を舐めすぎでございますよ!?」

 

 かなり厳しい決まりがあるのか、それとも〝ノーネーム〟に対する嫌がらせなのか。

 そんな様子を面白そうに観察しながら見守る蒼奇。

 

「なるほど、〝箱庭の貴族〟であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

 女性店員がそのようなことを言う。それについて十六夜が返答した。

 

「俺達は〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」

「ほほう。ではどこの〝ノーネーム〟様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 そこで、蒼奇の表情が若干歪んだ。その理由は店内からここに近づいてくる気配を感じ取ったせいだろう。

 

「その………あの………私達に、旗印はありま」

「いぃぃぃやほぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

「きゃあーーーー………………!」

 

 店内から飛んできた何かと共に黒ウサギは吹っ飛んでいった。そのまま道の脇にあった水路へと落ちる。

 

「………おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?ならオレも別バージョンで是非」

「あっ、じゃあ僕にも」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

「対価がエリクサーでもだめ?」

「………やりません」

 

 その光景に対して十六夜と蒼奇がどうにかドッキリサービスをしてほしいとお願いするが、断られてしまう。

 ………蒼奇にエリクサーを対価として提示された際に多少悩む素振りを見せたが………。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!やっぱりウサギは触り心地が違うのぅ!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

 一見、少女にしか見えない白夜叉と呼ばれた人物は黒ウサギの胸に顔をうずめながらセクハラを続ける。

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 しかし、一度話を聞いてもらうためなのか純粋に離れてほしかっただけなのかはわからないが、黒ウサギが白夜叉を四人の方へと放り投げてきた。

 そして、勢いのままにくるくると縦回転しながら幼女が向かってくるのを十六夜が

 

「蒼奇、パス」

「ゴバァ!」

「は?」

 

 その言葉の通り十六夜が幼女を蒼奇の方に向かって、蹴る。

 蒼奇は特に慌てる様子もなく、普通に、

 

「せいっ」

 

 叩き落した。

 影を触手のように伸ばし、上から下へと振り下ろして彼女を叩き落とした。

 

「ゴペッ!」

「おいおい蒼奇、かわいそうだろ?」

「え?コイツを蹴ってよこしたお前がそれを言うの?」

「お、おんしら、飛んできた初対面の美少女にこんなことをするとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

「おいおい十六夜。もう少し優しい言葉をかけてあげなよ。あ、僕は蒼奇様だよ。仲良くしようねセクハラ幼女」

 

 ヤハハと笑う十六夜。

 薄く笑みを浮かべる蒼奇。

 周りが少々呆気にとられているうちに、耀から気持ちよかったのか、すっかりとろけていたネロを返してもらい、フードに突っ込む蒼奇。

 

「貴女はこの店の人?」

 

 この状況からいち早く復帰した飛鳥が思い出したかのように話しかける。

 

「おお、そうだとも。この〝サウザンドアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

 何処までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

 こいつがオーナーかよ終わってんなこの店、と心の中で溜息を吐く蒼奇。

 そして、女性店員に目を向けて声をかける。

 

「これがオーナーかぁ………実力とか実績よりも性格で選んだほうがいいんじゃないの、店員さん?」

「………それは言わないでください」

「………あっ(察し)。………今度、胃薬持ってくるよ」

「………はい、ありがとうございます」

 

 やはり彼女も苦労しているようで、胃薬を渡すというだけで切実そうな声で礼を告げる女性店員。その様子を見てさらに溜息を吐きたくなる蒼奇であった。

 

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

「因果応報………かな」

 

 服を搾りながら歩いてくる黒ウサギ。耀の言う通りだと召喚された他の三人も同意するように頷いていた。

 

「まぁ、立ち話もなんじゃ、店内で話そうかの」

「よろしいのですか?〝ノーネーム〟は規則では」

「〝ノーネーム〟と分かっていながら名を尋ねた店員に対する侘びだ。いいから入れてやれ」

 

 店内には入れることに安堵する者たちと嫌そうな顔をする者が若干一名いる中、一行は入店した。

 

 

 



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挑発&挑戦

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

白夜叉に招かれた場所は落ち着いた雰囲気の和室だった。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

「はいはい、お世話になっております本当に」

「その外門、って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

・・・ッ!?白夜叉で四桁?嘘だろ!?・・・いや、さっきの気配からだと何らかの理由で力を抑えて四桁まで落としているのか?

外門についての説明を受けるが、三桁や二桁、一桁の実力がどれほどなのか気になるな。・・・楽しみが増えたね。

 

「・・・超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

「・・・食べたくなるからやめてよ」

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

蛇神のあの実力で強力なのか?・・・実力の基準がよくわからなくなってきた・・・。僕の周りがおかしかっただけか、むなしいね・・・。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?」

「いえいえ。この水樹は十六夜さんと蒼奇さんがここに来る前に、蛇神様を叩きのめしてきたのですよ」

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童達は神格持ちの神童か?」

「蒼奇さんは持っていましたが、十六夜さんは持っていないかと・・・。神格なら一目見ればわかりますし」

「むぅ、一人は神格なしで神格持ちを倒したのか。そして蒼奇だったかの?なぜ神格を持っておるんじゃ?」

「ああ、あの神格は借り物だよ。僕のギフトでそういうことができるとだけ言っておくけど、これ以上は今は言わない」

「今は、か」

「そう、今は」

「「・・・」」

 

僕と白夜叉は鋭くにらみ合う。すると気まずくなったのか、黒ウサギが話を変える。

 

「そ、それで白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

「む、ああ。知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

・・・ふぅ、助かった。黒ウサギナイス。褒めてつかわそう。

 

「へぇ? じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の〝階級支配者〟だぞ。この東側で並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

「そう・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「無論、そうなるのう」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

・・・あちゃー、嫌な予感。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?蒼奇さんも止めるの手伝ってください!」

「ごめん、無理」

「蒼奇さん!?」

 

ちょっとやそっとじゃその三人は止められないんです・・・。・・・でも、すぐに思い知るとは思うけどね。

 

「蒼奇はやらないのか?」

「言ったはずだよ。僕は小心者だって」

「あら、意外ね」

「・・・うん」

「君らもすぐにわかるよ」

「ふふ、そこの神格疑惑の童以外はギフトゲームに挑むつもりか。しかし、ゲームの前に一つ確認しておくことがある」

 

白夜叉はそういうと着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印である向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

「おんしらが望むのは〝挑戦〟か――――――――――もしくは〝決闘〟か?」

 

 

 

すると、刹那、視界が爆発的に変化した。

 

 

脳裏を多くの情景が掠めていく。

 

 

黄金色の穂波が揺れる草原。

 

 

白い地平線を覗く丘。

 

 

森林の湖畔。

 

 

記憶にない場所が流転する。

 

 

現れたのは――――白い雪原に凍る湖畔、そして白夜――――太陽が水平に廻る世界だった。

 

 

「「「―――――――ッ!?」」」

 

 

喧嘩を売った三人。十六夜、飛鳥、耀は息を呑んだ。それに対し僕は気配の違和感を理解した。

白夜と夜叉か・・・なるほどね。天と地、あえて地の格を得ることで落としていたのか。ほんと、よくやるねそんなつまらないことを・・・。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か?それとも対等な〝決闘〟か?」

「水平に廻る太陽と・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現してるってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原、永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・!?」

「して、おんしらの返答は?〝挑戦〟であるならば、手慰み程度に遊んでやる。だが〝決闘〟を望むならば、魔王として命と誇りの限り戦おうではないか」

「・・・蒼奇、お前白夜叉の正体わかってただろ?」

「いや?少なくとも強いっていうのがわかってただけで、星霊っていうのはわからなかったよ」

「ハッ・・・参った、やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるということかの?」

「ああ。さすがにこれだけのゲーム盤を用意されたらな。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

・・・十六夜が妥協したか。ならほかの二人も妥協するはず。

 

「く、くく・・・して、他の童達も同じか?」

「・・・ええ。私も試されてあげていいわ」

「右に同じ」

 

よかった。丸く収まったか。

 

「それで残ったおんしはどうするんじゃ?」

「・・・僕は小心者だって言ったはずだよ。普通に挑戦を選ぶよ」

「ふむ、そうか・・・」

 

え、なに?その思案顔。嫌な予感しかしない。

『・・・!・・・!!』

うわっ!!し、しまさん?警告?ど、どれぐらい?え、人外どもとの遊びレベル?・・・暇つぶしにはなりそう。・・・とか言ってる場合じゃないか・・・ああ、面倒くさい。

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!! 〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う〝階層支配者〟なんて、冗談にしても寒すぎます!! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

「何? じゃあ元・魔王様ってことか?」

「はてさて、どうだったかな?」

 

まぁ、魔王が真っ当なコミュニティの支店オーナーなんてやらないよね。

・・・ッ!・・・今の鳴き声は!?

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

「ふむ・・・あやつか。おんしらを試すには打って付けかもしれんの」

 

あれは・・・やっぱりグリフォン!?

 

「グリフォン・・・嘘、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ。そこの童もそんなに身構えなくても平気じゃぞ?」

「え・・・?あ、ああ、元の世界ではグリフォンにはいい思い出がなくて、ついね・・・」

「そ、そうか」

 

ペットにグリフォンを従えてる友人を思い出す。

あのチートグリフォンよりは断然弱いって理解してるんだけど、姿を認識したらつい構えちゃうんだよなぁ・・・。グリフォンは火とか雷とか吐かず、空を駆けてるほうがいいよね、うん。

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしらとこのグリフォンで〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、ということにしようか」

 

そういうと先ほどのカードを取り出し、そこから一枚の輝く羊皮紙が現れる。

 

 

『ギフトゲーム名〝鷲獅子の手綱〟

 

 プレイヤー一覧

   逆廻十六夜

   久遠飛鳥

   春日部耀

 

 ・クリア条件 グリフォンの背に乗り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる。 

 ・敗北条件 降参、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝サウザンドアイズ〟印』

 

 

・・・ん?

 

 

「・・・僕の名前は?」

「さて、誰がやるかの?」

「ねぇ?ねぇってば?僕の名前は?白夜叉さん?聞いてます?」

「私がやる」

「え、みんなして無視?酷くない?」

「「「「うるさい」」」」

「・・・グスン」

「く、黒ウサギは蒼奇さんの味方ですヨ?」

「・・・ありがとう・・・それを目を見て言えたならもっと良かったんだけど・・・?」

 

ネロは伸ばした触手で頭をなでて慰めてくれる。この場には僕の味方は君だけだよ・・・。

 

しまさんの警告、それとさっきの思案顔に対する嫌な予感はこれか・・・。

・・・向こうでネロと遊んでよ・・・ほら行こうネロ・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

僕がネロと遊ぶという現実逃避をしている間に耀は見事ゲームをクリアできたらしい。

その報酬としてさっき白夜叉が持っていたようなカードが与えられた。

 

コバルトブルーのカードに逆巻十六夜・ギフトネーム〝正体不明(コード・アンノウン)

ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム〝威光〟

パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟〝ノーフォーマー〟

 

それを見た黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で三人のカードをのぞき込む。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ネロ、疲れたろ・・・。僕も疲れたんだ・・・なんだかとてもスヤー」

「ち、違います! というかなんで皆さんそんなに息がピッタリなんですか!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!そして蒼奇さんは起きてください!!」

 

・・・ふぇ?・・・ああ、寝てた。

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵なアイテムなんです!」

 

みんながはしゃいでる中、目が覚めた僕は話が落ち着くまで待ってから白夜叉のもとへ歩む。

 

「それで、僕は別の試練を受ければいいの?」

「うむ。理解が早くて助かる。・・・ほれこれじゃ」

 

『ギフトゲーム名〝太陽への一撃〟

 

 プレイヤー一覧

   館野蒼奇

 

・クリア条件 白夜叉へ有効な一撃を与える。

・クリア方法 白夜叉へ神格を解放した状態で一撃を与える。

・敗北条件  プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝サウザンドアイズ〟印』

 

・・・は?白夜叉に有効打を与える?降参は・・・なしか・・・。

 

「し、白夜叉様!?このゲームは少し無茶では!?」

「ふむ・・・嫌なら受けんでもよいぞ?」

「蒼奇さん!このゲーム無茶です!いくら神格を使っても勝てる可能性は限りなく低いデス!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、蒼奇よ。このゲーム――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――受けるかの?」

 

 



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戦闘&解説

召喚獣の正体がわかります!











 

 

このゲーム―――――――――受けるかの?

 

 

 

 

・・・それに対する僕の返答はすでに決まっている。

 

 

「・・・喜んで受けさせてもらうよ」

「なっ!?」

「ほう」

「「「・・・」」」

 

黒ウサギは驚き、白夜叉は感心した声を出す。すでに試練をクリアした三人は静観している。

本当なら全力を出せるときにやりたかったけど。まあ、楽しむために程よく手を抜こうか。

 

「む、無茶です!いくらなんでも」

「これは・・・僕のゲームだよ。受けると自分で決めたんだ。発言を取り消すつもりはないよ」

「ですがっ!」

「おい、黒ウサギ。無駄だ。諦めろ」

「そうだの。こやつが自分で受けると決めたんじゃ」

「そう。諦めてよ」

「う・・・わかりました・・・」

 

ぎりぎり呆れられたかな。

 

「では、始めると」

「ごめん。少しだけまってもらってもいいかい?準備がしたい」

「む?良いぞ。それくらいならの」

「ありがとう」

 

さてと、まずはネロをどうにかしないと。上着も邪魔だし脱ぐか。

 

「耀、またネロを、それと上着を預かってもらってもいい?」

「うん」

「ありがとう。ネロ、大人しくしてるんだよ」

 

さて次は、とことん影の中に召喚獣を召喚して片っ端から【同化】する・・・

 

 

【召喚】 〝青鬼〟【青鬼】

 

【同化】 〝神出鬼没〟〝擬態〟〝不滅〟

 

 

 

【召喚】 〝しまっちゃうおじさん〟【しまさん】

 

【同化】 〝神出鬼没〟〝増殖〟〝隠密〟

 

 

 

【召喚】 〝巨神〟【アース】

 

【同化】 〝対神格〟〝神格〟〝身体能力〟〝強者の両腕〟

 

 

 

【召喚】 〝植物人間(プラントマン)〟【ブライト】

 

【同化】 〝光合成〟〝再生〟〝植物操作〟

 

 

 

【召喚】 〝黒太陽の申し子〟【J】

 

【同化】 〝黒太陽真拳〟

 

 

 

最後に〝恩恵強化〟を施してっと。よし、これぐらいで白夜叉にちょっと弱いぐらいかな。

 

 

 

「もういいよ」

「随分と掛かったの?」

「それだけ念入りに準備しないとつまらないからね」

「く、くく、そうか。ではそろそろ始めようかの」

 

僕と白夜叉は20mほど離れて向かい合う。観戦する四人は遠巻きに僕らの様子を見ている。

 

「では、このコインが地面に落ちたら開始としよう。良いな?」

「かまわないよ」

 

僕は始まった際の行動のイメージをする。

 

地面に着くとほぼ同時に〝隠密〟を使い気配を消し、〝神出鬼没〟で背後に転移して蹴りを叩き込む。失敗したら〝黒太陽真拳〟の【眠らざる五太陽】を使う。

()()()、サポートよろしく。

 

そして、ゆっくりと、コインが、放物線を描き、

 

 

 

 

 

 

地面に落ちた。

 

 

 

 

 

ッ!!

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

僕はすぐに白夜叉の背後に転移する。白夜叉は僕が消えたことに驚きの声を上げ、背後にいる僕の方へ向こうとするが、顔の動きに合わせ連続で転移をし、白夜叉の死角に回る。

だが、蹴りが打ち込まれる前に白夜叉を中心に爆炎が広がり、それにより僕の視界がふさがれる。その隙に白夜叉は僕の攻撃範囲外へ逃げようとする。僕は気配を頼りに攻撃を繰り出すが気配が大きく、外してしまう。そして爆炎に紛れながら【眠らざる五太陽】を使用し、屈折による幻影を作りながら、爆炎から転移で離脱する。転移した場所の視界の先には白夜叉がいた。

 

 

「いやはや驚いたの」

「いや、なんで躱せるのさ?」

「経験が違うの、経験が」

「・・・ははは!!・・・腹立つな~」

 

 

会話の最中に先ほどの爆炎で焼け爛れた身体と服は〝再生〟により完全に治り(直り)、僕は自身を黒太陽で隠しながら〝増殖〟により自分を五人に隠しつつ増やす。そして再度、転移して攻撃を仕掛ける。

 

「それはもう通用せんぞ!」

 

白夜叉自身の体の周囲が陽炎のように揺らめき始める。それに対し召喚獣たちから警告を受ける。それを聞くと瞬時に攻撃を中断し、白夜叉を観察する。そして、一つだけ思い至った予想をぶつけてみる。

 

「・・・それって、もしかしてコロナかい?」

「答えると思っておるのか?」

「・・・ハンデとしてそれぐらい教えてくれても良いだろう?」

「ふむ・・・まぁいいだろう。その通りだの」

「そう、律儀に答えてくれてありがとう」

 

会話している最中、僕はひそかに地面に〝擬態〟させていた一人を〝隠密〟によって、白夜叉の足元に近づかせていた。そして会話終わると同時に〝強者の両腕〟を使い足をつかませる。

 

 

「なっ!?一体どこから!?」

「ッ!!」

 

その隙に転移で近づく。

〝強者の両腕〟。このギフトは〝巨神〟の力強さがギフト化したものだ。

 

その能力は――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

その効果は脳筋思考だが絶大で、つかんだものは決して放さず、不変の枷となる。それに今はその腕が地面から生え、つい先程、地面と【同化】させた。それにより、更に強固な枷へと変貌した。

 

 

「だが、まだ腕は動かせるぞ!」

 

 

ああ、わかっているよ。君の目の前の僕はわざと〝隠密〟を弱めさせた()だ。

 

 

 

本体の僕は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――ずっと君の影にいたんだよ。

 

最初の攻撃の時に白夜叉を攻撃を仕掛けたのは〝増殖〟による分身だ。そして今、目の前にいる僕も分身だ。白夜叉が目の前の僕に注意がいっている隙に本体の僕は影から脚だけを出し、膝蹴りを放ち、当たる直前に神格を解放する。

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

その攻撃は、

 

 

 

 

 

白夜叉が気づいた時にはもう―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――彼女の背中に命中していた。

 

 

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 

 

白夜叉がうめき声を上げると同時に契約書類が発光し―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――僕の勝利を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

ゲームが終わり白夜叉と共にみんなの下へ戻る。

 

が、なぜか飛鳥、耀、黒ウサギ。挙句の果てに十六夜までもが僕をありえないとでも言いたげな目で見てくる。

 

「「「「・・・」」」」

「あ、あの、その目をやめてくれないかい?」

「「「「・・・・・・」」」」

「・・・言いたいことがあるなら言って欲しいんだけど?」

「「「人外」」」

「わかってたよ!コンチクショー!!」

 

問題児たちが口を揃えてそう言う。

僕で人外なら友人たちはどうなるのかがすごい気になるよ!

そんな雰囲気の中ネロが上着と一緒に僕の腕の中に跳んでくる。

ネロを頭に乗せ上着を着ると白夜叉が話しかけてきた。

 

「それで蒼奇よ」

「ん?」

「ゲームの報酬のギフトカードじゃ」

 

そういって白夜叉は柏手を打ち、僕の目の前に仄かに暗い灰色のカードが現れた。

 

 

館野蒼奇・ギフトネーム〝盟友召喚〟〝影の住人(シャドウ・ウォーカー)〟〝同化〟〝恩恵強化〟

 

 

 

「それで、他の者たちもさっきのゲームについて疑問に思っておるだろうから、いろいろと聞きたいんじゃが?」

「・・・答えられるものならいいよ」

「うむ、それでかまわぬ。まずは一番疑問に思っておる最後の攻撃じゃ」

「ああ・・・どこから説明すれば?」

「全部に決まっておろうが」

 

デスヨネー。

 

「じゃあ先に僕のギフトを一つずつ説明したほうがいいね。まず〝盟友召喚〟だけど、このギフトは僕と契約した人物や魔獣、幻獣なんかを約束や縛りはあるけど召喚できるギフトでね。これによって召喚獣たちを〝影の住人〟で作りだした影の中の世界に召喚して、〝同化〟で召喚獣の所持ギフトを共有して〝恩恵強化〟で全て強化したんだ。神格も〝同化〟によって共有したんだ」

「・・・召喚獣は何体いたんじゃ?」

「今回は五体だよ。僕と契約している戦闘用の召喚獣はそれで全部ってわけじゃないけどね。今回の呼んだ五体なら見せてもいいけど、見てみるかい?」

「見せてくれるというのなら是非頼みたいの」

「・・・一応非戦闘用も目の保養として一部出すけど、戦闘用は癖が強いのばかりだから気を付けてね」

 

そういって僕は契約している召喚獣を呼び出す。

そうして現れたのは全部で六体。

 

 

 

ブルーベリーみたいな色をした全裸の巨人【青鬼】

 

 

濃いピンク色の二足歩行の豹のしまさんこと【しまっちゃうおじさん】

 

 

木の蔓が集まり顔のない人型を形成したような見た目の植物人間【ブライト】

 

 

玉ねぎの頭にサングラスと髭をはやした白スーツを着た黒太陽真拳の使い手【J】

 

 

手のひらサイズの半透明の羽を二対もつ少女の風貌の妖精【リィナ】

 

 

土の入った鉢植えに目と口、芽以外の自身の身体の多くを埋めている魔草マンドラゴラ【レイ】

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

突然現れた召喚獣に対し少しだけ身構えてしまう五人。

 

「・・・む?この中に神格持ちがいないようじゃが?」

「ん?・・・ああ、彼は大きすぎてね。呼んでも平気かい?」

「ちなみに何なんじゃ?」

「巨神」

「・・・は?きょ、巨神じゃと?」

「そう。巨神のアース」

 

彼、エベレストを超えるレベルの大きさだからなぁ・・・。小さくはなれるけどそれでもまだ大きいからなぁ・・・影の中にしか呼んであげられないのが申し訳ないなぁ・・・。

 

「それで、出そうか?」

「い、いや良いぞ。出さなくて」

「そう?それじゃあ、話に戻ろうか。見てもらったほうがわかりやすいかな?」

 

僕はそういうと召喚獣たちと共有してから、ギフトカードを五人に差し出す。

そこには先ほど記されていたギフトに加え先のゲームで使った召喚獣たちのギフトネームと新たに促成と万年草が示し出されていた。

 

「「「・・・」」」

「「・・・」」

 

映し出されたギフトの数を見て固まる飛鳥と耀と黒ウサギの三人。十六夜と白夜叉はなにかを考えているのか黙り込む。

 

「それで、最後の攻撃だけど白夜叉の影の中から脚を出して蹴ったんだ」

「・・・いつからおった?」

「最初の攻撃の際に潜ませてもらったよ。蹴りを放ったのも、あの爆炎に巻き込まれたのも増殖による分身でそれ以降もずっと潜んでいたよ」

「つまりあれ以降は私は偽者を相手にしておったのか」

「いや、そういうわけでもないよ」

「何じゃと?」

「〝増殖〟というギフトは文字通り増えるんだ。細胞分裂のように自分と全く同じ存在を作り出す。思考から何までね。だからゲームを受けたのも僕だし、白夜叉が途中から相手にしていた僕も僕だよ。ややこしいかもしれないけどね」

 

そして影の中のエリクサーやら食べ物が無限増殖している原因だとは思う。

 

「・・・そうかの。次の疑問じゃが、なぜコロナを纏っている私の足をつかめたうえ、攻撃できた?普通なら触れることも出来ず一瞬で焼失するはずだが?」

「〝強者の両腕〟と〝不滅〟のことだね。〝強者の両腕〟は使用中は問答無用で何があろうと対象を拘束するために触れることが可能なんだ。でも拘束以外のことをしようとするとそれもないけど。別の力もあるけどそれは秘密ってことで。〝不滅〟は十秒だけ無敵になれるだけのギフトだよ」

「・・・本当にそれだけかの?」

「え、隠してるのバレた?」

「「「「・・・ほう?/へえ?/ふーん?/ん・・・?」」」」

 

あ、かまかけられた上、墓穴掘っちゃった。

 

「「「「さあ、キリキリ吐け」」」」

「ちょ、君らその関節はそっちに曲がらないから!待って!お願いだから待って!話すから待ってよ!黒ウサギも見ない振りしてないで助けて!!あ、それ以上は無理だから!!ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

その尋問という名目の拷問は僕の四肢の関節が四人によって逆方向に曲げられるまで続いた・・・。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

僕は破壊された四肢を〝再生〟を使って治す。こういう骨折とか内部のは皮膚表面のと違って若干遅いっていうのに・・・。

 

「「「「さあ、吐け」」」」

「まず君らは僕に謝罪して反省しろ」

「「「「忘れた」」」」

「よし、わかった。喧嘩売ってんだな?喜んで買ってやるよ」

「「「「どうでもいいから早く話せ」」」」

「・・・はぁ、わかったよ。僕が話してないのは〝不滅〟の効力だよ」

「まだ何かあるのかの?」

「無敵時間は十秒で任意発動。これは絶対だよ。でも持ってるだけで常時発動の効果がある」

「ふむ、その効果はなんじゃ?」

「恒久的不死」

「・・・なに?」

「死なず老わず、永久に生き続ける。細胞の一片も残さずに殺されると地面から湧き出て、蘇る。でも、傷を負っても治らないけどね。ここじゃギフトもチップなんでしょ?だから言いたくなかったんだ。元の世界でもよくあったし」

「・・・それはすまんかったの」

「うん、それを謝る前に僕の四肢を折ったことを謝ろうか?」

 

いっそ、諦めるほうが楽かな・・・?

 

「それでほかに質問は?」

「うむ。これで最後だの」

「どうぞどうぞ」

「・・・なぜ髪が伸びておる?」

「あ、そんなこと?〝再生〟で一緒に直ったのかな?僕だって好きであんな髪型にしたわけじゃないから、直ってよかったけど」

「なぜあんな髪型になったんじゃ?」

「ん?殺し合いだよ?同時に斬撃を放ったり、時間差で斬撃が出現させたりとかできる、中二病人外剣士とのね。深くは聞かないでほしいな」

「そ、そうか」

 

よし、やっと終わった~。それじゃあ、召喚獣を帰してっと。

帰し終わると白夜叉が話しかけてきた。

 

「・・・おんし、まだ力を隠しとるだろう?」

「・・・ん~これ以上は話せないよ。奥の手や切り札の十個や百個や千個は隠しておきたいし」

「・・・少し、多過ぎないかの?」

「それぐらいないと元の世界の人外どもを出し抜けなかった。ただ、それだけ。大半が僕の教え子だけどね。まあ、彼らと戦うのは結構ハラハラして楽しいから好きだけど」

 

いや、本当。あいつらなに?なんなの?絶対おかしいよ・・・そういう風に育て上げたのは僕だけどさ!でも、あー思い出したら戦いたくなってきた!懐かしの僕vs全員をやりたい!・・・みんなは嫌がるだろうなぁ・・・。

 

「あと、白夜叉だって全力出してないし、お互い様」

「・・・わかっておったか」

「バレバレ。だから〝挑戦〟にしたんだよ・・・次は全力の上〝決闘〟でお願い。僕は負けず嫌いなんだ」

「くくっ、そうか楽しみにしておこう」

「僕も楽しみだよ」

 

 

 

 

・・・そういう風に感じるって、僕はやっぱり戦闘狂(ジャンキー)だよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 




次回はしまさんが大活躍します。

次話は明後日に投稿予定。









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拠点&襲撃

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦する時は対等の条件で挑むのだもの」

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好つかねぇからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ」

「君らも僕と同じで負けず嫌いなんだね・・・」

「「「蒼奇にも挑むからな?/蒼奇君にも挑むわよ?/蒼奇にも挑むよ?」」」

「・・・じゃあ、楽しみにしてるよ。心の底からね」

 

僕は薄ら笑いとも微笑みともとれるような笑みを浮かべる。

 

「ただ、年上は敬ってほしいな。これでも五百年は生きてるんだけど」

「・・・は?」

「え?」

「・・・え」

「ええ!?」

 

それぞれが驚きや戸惑いの声を上げる。・・・ドッキリ成功。

 

「おいおい、マジかよ・・・」

「・・・信じられないわね」

「・・・うそ」

「く、黒ウサギより年上・・・」

「まぁ、敬語も何もいらないしさっきのように接してよ。君らは教え子たちよりは僕の扱いはいいし」

 

これぐらい生きてなきゃ教え子百人とかは無理だしね。しかもあいつらの大半が視線があえば即バトル、即殺し合いで終わった後に世間話とかだし。これって順番逆だよね?

 

まったく誰に似たのやら!

 

「・・・今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」

「ならそれを取り戻すために、〝魔王〟と戦わねばならんことも?」

「ごめんね。戦闘狂(ジャンキー)なんだ」

「・・・では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

「そうよ。打倒魔王なんてカッコイイじゃない」

「〝カッコイイ〟で済む話ではないのだがの・・・。まぁ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦おうとするのなら・・・そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

 

 

「大丈夫。死なせないよ。この三人には、僕に挑んでもらって、勝ってもらう。それまでは死なせないし、その域までは僕が育て上げる」

 

 

 

白夜叉の言葉に対して、僕はかぶせるように言った。

 

 

 

「だから、それまでは、絶対に守りとおすよ」

 

 

 

「・・・そうか。なら、安心だの」

「・・・守られっぱなしになるつもりはないわよ?」

「・・・うん、すぐに自分の身は守れるようになる」

「なら早く、僕にそう思わせられるようになってほしいかな?」

「・・・ええ、望むところよ」

「うん」

「じゃあ、白夜叉。今度は本気でやり合おう。お互いに、ね。いずれ彼らにも挑ませに来るよ」

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。・・・ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

「いいだr「嫌です!」

 

なん・・・だと・・・?僕の速さに追いつくとは・・・やるな黒ウサギ!

 

それを最後に僕らはコミュニティに向かった。

 

 

 

むぅ。でも、黒ウサギをチップにしたら白夜叉と全力でやれるのか・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・悩みどころだけど仲間を売るのはだめだよね、うん。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

黒ウサギに案内されてコミュニティに着く。コミュニティの門を開け、中に入る。

 

そこには、何もかもが朽ち果てた光景が広がっていた。人の生活の一部が残っており、以前に人が住んでいたことを示している。・・・これが、三年前か・・・。

 

「――――――い。おい、蒼奇」

「ん?・・・ああ、ごめん。どうかした?」

「・・・いや、お前はこの光景、どう思う?」

「・・・正直なところ――――――――――――

 

 

 

 

 

四人が僕の言葉の続きを静かに待っている。

 

 

 

 

 

――――――――――――()()()()かって、少し、がっかりしてる」

 

 

「「「「・・・っ!?」」」」

 

「この程度の惨状なら僕の教え子の多くの魔術師なら可能だし、直すこともできる。もちろん僕もできるよ。期待してた魔王がこんなちっぽけな存在だってことに反吐が出る」

「も、戻せるのでございますか!?」

「戻せるよ。でも、戻すつもりはない」

「な、なぜですか!?」

 

 

「僕らを呼んだのってコミュニティを戻すためじゃなくて再建のためだろう?元に戻したら未練がましく過去の栄華に、以前の人たちの功績に縋ったまま前に進めない。――――――――だから栄華を取り戻すんじゃなくて、また新しく築き上げる。今の、ここにいる人たちで。コミュニティもだ。一からゲームでギフトを獲得し、栄えさせる。〝ノーネーム〟の前にどんな名前だったかは知らない。・・・でも、以前の〝ノーネーム〟じゃなくて、僕らの〝ノーネーム〟として、一から築きたい」

 

「「「「・・・」」」」

 

 

「だから、戻すつもりはないよ」

 

 

四人が何を思って僕の話を聞いてるかは知らない。・・・これはただの、僕の身勝手な『わがまま』だ。

 

 

「・・・わかりました」

「・・・まぁ、一番はつまらないからなんだけどね」

「・・・・・・はい?」

「いやぁ、人生に一度でいいから開拓とか街づくりとかしてみたくてねー♪戻したらそれもできないし?」

「・・・ハァ」

 

ふふ~ん♪楽しみだな~♪

 

「・・・やっぱ、蒼奇は蒼奇か」

「・・・そうね、肝心なところでしまらないところとか」

「・・・でも、それが蒼奇の長所」

 

 

・・・この短い間に僕のことが把握されている件について・・・・・・。いや、うん。悪いことじゃないよね、理解が深まるのはいいことだよ、うん。前向きに行こう。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

廃墟を抜けて水路のような場所にジン君を含む多くの子供がいた。黒ウサギをを見つけるとわらわらと群がってくる。それを見た十六夜、飛鳥、耀の三人がそれぞれ違う表情を浮かべる。

 

本当に子供ばっかりなんだ・・・魔改造・・・いや、やめておこう。子供は純粋なほうがいい。

 

そんなことを考えながら、ぼーっと辺りを見回していると話が終わり、ようやく水樹を設置するようだ。

 

コミュニティの子供たちの苦労話を聞いて待っていると黒ウサギが声を上げる。

 

「それでは苗の紐を解きますよ!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

「あいよ」

 

へぇ、遠目でもすごい水路だとは思ってたけど近いとなおさらだね。

黒ウサギが紐を解くと一気に水が溢れ、貯水池を埋めていく。

 

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!流石にこれ以上濡れたくねぇぞ!」

 

おお、十六夜が焦ってる。貴重かな?この光景は。

ん?十六夜。どうして僕の足を

 

「オラァ!」

「え、ちょ!?僕だって今日はもう濡れたくないよ!?」

 

十六夜に足をつかまれ投げられる僕。ってマズイマズイ!!

 

「しまさん!座標交換!」

 

僕は投げ、薄ら笑いしている十六夜と場所を――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――ではなく、黒ウサギと入れ替わる。

 

 

「え!?な、なんで黒ウサギが!?」

「ふぅ、焦った~」

 

 

ポチャン、と黒ウサギを水に落ちたのを確認して三人のもとへ戻る。すると十六夜から、

 

 

「蒼奇」

「ん?」

「よくやった」

「十六夜はそれを見越したうえで僕を投げたんだろう?」

「ヤハハ、そうだぜ」

 

そういって僕らはハイタッチをする。

 

「いらないところで妙な結束力を発揮しないでくださいませ!このお馬鹿様方!!」

 

全身を水で濡らした黒ウサギがはたいてくる。

 

「「これが俺達だぜ/これが僕達だよ」」

「黙らっしゃい!!」

 

二発目入りましたー。・・・結構痛いけどそのハリセンの材質は何?私、気になります!

 

 

そのあとは十六夜がジン君に対していろいろ言ってたけど、コミュニティをどう開拓しようか考えていて、聞いてはいなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ふう、やっと一人になれた」

 

 

女性陣はお風呂に、十六夜は気配の()()()なほうに向かった。ちなみに僕はネロと部屋でくつろいでいる。()()()()()()()ほうの気配は〝しまさん〟と〝青鬼〟を向かわせたし、いいかな。

 

「風呂の時間まで少し休もうか、ネロ」

 

ネロをベッドのわきに置いて、少し眠r『ズドガァン!』・・・まったく、静かにやれないのか、あいつは・・・。

 

・・・しまさん、相手が子供を狙ってるからかな?・・・ブチ切れてたなぁ・・・。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

~襲撃者視点~

 

 

 

「ははは、本当楽な仕事だよな!子供を攫うだけでいいなんてのはよ!」

「まったくだぜ!攫っただけで金も女もくれるなんてガルド様は太っ腹すぎるぜ」

 

俺達はいまガルド様の命令で〝ノーネーム〟の敷地内で子供を探しながら移動している。だが夜だからかなかなか子供の姿が見えない。

 

「しかしなかなかいねぇもんだな。夜だからか」

「そうだろうよ。やっぱり建物の中に・・・ん?おい、見ろよ」

「あ?・・・はっ、ちょうどいいところにガキがいるじゃねぇか。一人か?」

「・・・ああ、そうみてぇだ」

 

一人がそのガキに近づき肩に手をかける。でも、なぜこんなところにたった一人で

 

「おい、少し俺達と来てもらおうか?」

 

 

 

 

 

話しかけた瞬間―――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――ガキが青い二頭身の巨人の化け物に変わり、そいつの手をつかむ。

 

 

「ひっ、な、なんだよあいつ!?」

「と、とにかく逃げろ!」

「お、おい!助けてくれよ!こいつ放さねぇんだよ!!」

「んなもん自分でなんとかしろ!!」

「まっ、待って、やめろ、放せ、ひっぎぃああああぁぁぁぁぁ・・ぁぁ・・・ぁ・・・・・・」

 

化け物がつかんだやつを持ち上げたと思ったら―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――ソイツを口に入れ少しずつ、食べ始めた。

 

 

小さくなっていく悲鳴に触発されたのか、

 

 

「に、にげろ!失敗だ!!」

「あ、ああ!」

「ひいぃぃ!!」

「うわあぁぁぁ!!」

 

その声を聞くと全員が散り散りに逃げる。

 

 

 

だけど、逃げる途中に声が聞こえて・・・すべてが狂いはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――さあ、子供を攫おうとするような悪い子は、どんどんしまっちゃおうねー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら周りの声は聞こえなくなり、他の奴らは見えなくなっていた。

 

「はぁ、はぁ、他の奴らは一体どこに・・・いや、今は逃げることだけを・・・たしかこっちだったはずだ・・・」

 

そういって俺は敷地内へ入ってきた場所へと向かう。

 

「・・・っ!あった、あそこだ!!これで助かる!!」

 

そのとき俺は油断してしまっていたのかもしれない――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――あの声の主がすぐ近くにいるのに、気づかないほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――さあ、つかまえた

 

 

 

 

 

 

 

俺が最後に見たのはピンクの斑模様だった・・・

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ん?・・・ああ、おかえり。どうだった?

 

 

 

『・・・』

 

 

 

そう、クズだったから始末したんだ。・・・満足した?

 

 

 

『・・・!!』

 

 

 

もう少しいたぶりたかったって・・・子供好きだもんね、君。

 

 

 

『・・・!・・・!!・・・・・』

 

 

 

ああ、ストップストップ・・・しまさんと子供議論すると長いから、また今度ね。

 

 

そうだ、青鬼は?

 

 

 

『・・・』

 

 

 

うわ、食事中か・・・聞かなきゃよかった。それじゃあ、しまさんも疲れただろうからゆっくり休んで。

 

 

 

『・・・』

 

 

 

・・・うん、お疲れさま。

 

 

 

 

 

 

 




次話は三日後に投稿予定





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来訪&石化

活動報告に質問や疑問用の場所を設けました!

そしてキャラクター紹介も同時に投稿しました!







あの襲撃以降は特になにもなく風呂に入って寝てしまった。少しジン君と十六夜の声が聞こえた気がするが、気のせいだと思う。うん、気のせい。『負けたら俺と蒼奇、コミュニティ抜けるから』とか聞こえてない。

・・・それにしても髪が戻ったら頭が重いな・・・。とりあえず髪は・・・ポニーテールでいいか。

 

「ネロ、おいで」

「・・・(ピョン」

 

ネロをフードの中に招き入れ、キッチンへと向かう。するとそこには狐耳と二本の尻尾を生やした少女がいた。

 

「・・・あ。お、おは、おはようございましゅ!」

「・・・ああ、うん。おはよう。・・・えっと」

「り、り、り・・・りりりともしましゅ!」

「・・・りりりちゃん?」

「え?ま、間違いました!リリです!」

「あ、うん。とりあえずリリちゃん。それ、焦げるよ?」

「え。あ、あわわわわ」

 

僕が指さす方向には噴き出す鍋や若干煙をあげるフライパンがあった。リリちゃんは慌てて駆け寄る。

 

「はあぁぁーーー・・・危なかったー」

「うん。間に合ってよかったよ。とはいっても話しかけた僕が悪いんだけど・・・」

「い、いえ違います!」

「お詫びに手伝うよ。いや、手伝わせてくださいお願いします」

「いえ!悪いですよ!?」

「いや、料理ってやらないとすぐ腕が落ちちゃうから・・・」

「・・・わかりました!ではそっちをお願いします!」

「うん」

 

この子は優しいなぁー。まるで天使・・・いや、あのキチガイどもと同類はだめだ。なにが『主の糧になれ』や『殺らないか?』だ・・・お前らが死んでろっての・・・。

でも、あの問題児三人にもこの子ぐらいの優しさがあれば・・・いや、それはそれで怖いな。

 

 

そのあとはリリちゃんと話しながら、料理をすべて作り終えた。

 

 

 

 

・・・・・・上手に焼けましたー♪

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

朝食も終わり全員の身支度が済むと黒ウサギが声をかけてくる。

 

「では、皆さん!〝フォレス・ガロ〟の居住区へ向かいましょう!」

「うん、行ってらっしゃーい」

「はい!行ってきますデスヨ!」

 

そして僕はみんなを送り出す。

がんばってねー。

 

「ってなんで蒼奇さんは残ろうとしてるんですか!?」

「んー?昨日、ガルドの手下が襲撃に来たから子供たちの護衛として、かな?ゲーム中に来ないとも限らないからね」

「え、ええ!?そ、それで子供たちは!?」

「朝、全員いるの確認してるんでしょ?つまり、そういうことだよ」

「そ、そうでした・・・ではなく!なぜ黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

そう、この黒ウサギ。子供たちを全員覚えているどころかあの素敵耳で確認もしているのだ。・・・黒ウサギ・・・恐ろしい子・・・!

 

「対処できたからね。まあそういうことで、僕は留守番してるから。・・・負けないでよ?」

 

僕のスローライフのためにも。

 

「あら、私達が負けるとでも?」

「・・・ひどい」

「・・・それだけ自信があれば大丈夫そうだね」

 

それを終わりにしてみんなはギフトゲームのために出かけて行った。

・・・さてと!

 

 

「これで少しの間は平和だ」

「蒼奇お兄ちゃーん!これ運ぶの手伝ってー!」

「今行くよー!」

 

子供の相手をして一日を過ごすのはいいねー、平和的で。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一日中子供たちを手伝ったり遊んだりしてたけど、いや、うん。子供の体力って本当に底知れないよね。

結構動きっぱなしなのにまだ動けるのはすごいな。

ネロも子供好きみたいでみんなと遊んでいた。

・・・結構力あるんだね。でも触手で子供御手玉は危ないからやめなさい!

ん?子供好きのしまさん?陰から見守ってるよ。たぶんYESロリータ!NOタッチ!の精神だろう。今『違う!』と聞こえたのはおそらく気のせいだね。

 

 

ん?んー、この気配は黒ウサギ?と、耀?・・・随分と小さくなってるなぁ・・・。この感じだと向かった方がいいかな?

進行方向は・・・工房、だっけ?あそこは。

 

 

「ごめんね?少し用事を思い出したからあとは自分達でできる?」

「うん!」

「大丈夫!」

「平気だよ!」

「よし、いい子だ。ネロは置いて行くから。ネロも子供たちをお願い」

「・・・(グッ!」

 

 

ネロは触手で拳?を作って『任せろ!』というように意気込んでいる。

じゃあしまさん、お願いします!転移!

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「蒼奇さん!」

「・・・あー、と。何があったか聞く前に、治療が先だね」

 

転移したさきには、今到着したと思われる黒ウサギと血を腕から流している耀がいた。

 

んー、とりあえずエリクサーぶっかけとこう。エリクサーさんマジ便利。飲んで良し、かけて良しなんて使い勝手良すぎるよね。

 

「えい」

 

エリクサーを傷にかけると傷痕も残さずふさがっていく。

服に着いた血は〝再生〟で消そうかな。ブライト、お願いするよ。・・・君もたいがい便利だよね。本当、お世話になってます。

 

「あの、蒼奇さん・・・いまのは?」

「エリクサー」

「!!?」

「その反応は飽きたよー。テイク2を要求します!」

「・・・!?・・・?・・・!!?」

「・・・おお、やってくれるのか」

「違います!い、いえ、そういうことではなく、そんな貴重なものを・・・!!」

「数万本はあるから平気」

「・・・」

 

あ、口から魂でてきた。・・・初めて見たなー。・・・結構神秘的なものなんだね。おお!?うさ耳がはえてる!!

 

ってそれどころじゃない。

耀は・・・うん、傷はふさがったけど血を流し過ぎたからか顔が青いね。少し休ませないといけないかな。

 

「黒ウサギ。耀を部屋に運んで寝かせてあげて。・・・黒ウサギ?」

 

・・・ああ、まだ出てる。さっさと魂を戻さなきゃ。

 

「起きなさい」

「痛っ!はっ、黒ウサギは何を・・・」

 

黒ウサギを叩く。するとすごい勢いで、なんか、ちゅるん!という感じで魂が体に戻っていった。

 

「黒ウサギ、耀を部屋に」

「え、あ、はい!すぐに運びます!」

「ああ、でも増血の類だけでも可能ならお願い」

「はい!」

 

 

 

ふう、これで黒ウサギも耀も平気かな。・・・あとで見舞いに行った方がいいのかな?

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

談話室で寛いでいると十六夜と黒ウサギが入ってくる。

 

「やあ、耀の調子は?」

「ダルそうだったぜ」

「あれだけ、出血すればそうなるだろうね」

「・・・で、エリクサーを使ったんだっけか?」

「あ、そうですそうです!なんでエリクサーなんて貴重なものをそんなにたくさん持っているのですか?」

「・・・僕の教え子のね、等価交換に喧嘩売ってる錬金術師のせいだよ・・・」

「へぇ。どう喧嘩売ってるんだ?」

 

喧嘩どころか裸足で逃げ出すレベルかもしれないけどね・・・。

僕はエリクサーを一つ取り出し、二人に見せる。

 

「これの原材料、わかる?」

「え、魔草や霊草、あとは神水など・・・」

「普通はそうだね。・・・でも、これの原材料は違う」

「な、なんでございますか?」

 

十六夜も答えを黙って聞こうと身構えている。

・・・うん。でもね、身構えても無駄だよ。

 

「水道水だよ」

「「・・・は?」」

「あいつは水道水をエリクサーに、道端の石を賢者の石に、鉄から金どころか無からオリハルコンを作り出すような錬金術師だよ」

「「・・・」」

 

ああ、だよね。固まっちゃうよね。僕も聞いたときそんな感じだったし。

 

「ほら起きて!とりあえず僕の話はこれで終わりだよ!・・・ってことで、話題プリーズ」

「あ、ああ。・・・じゃあ、例のゲームの話を黒ウサギから聞くか」

 

僕は無理やり話を切って、変えさせる。

でも、例のゲーム?・・・全然わからん・・・。

 

「・・・ごめん。その時点でついていけてないから概要だけお願い・・・」

「以前の仲間が景品として出されるゲームの話だ」

「・・・ああ、そういう。それで?」

「・・・ゲームは延期。このまま中止の可能性まで・・・」

 

黒ウサギが悲痛の表情で説明する。

・・・は?なにそれ?

 

「うわー、つまんな」

「まったくだぜ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったよそうですから」

 

気に入らないなぁ。結局は金かよ。主催者として出したものをひっこめるのはダメだろうに。

 

「チッ、所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ」

「本当だよ。でも、〝サウザンドアイズ〟も組織だから仕方ないね。そりゃ利益を優先するよ」

「はい、その通りです。今回の主催は〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティの幹部、〝ペルセウス〟です」

「・・・傷がついても、痛くないレベルの売買ということかな」

「おそらくは・・・」

 

・・・その買い手を上回るくらいのギフト攻めしたら気が変わるかな?エリクサーとか賢者の石ならものすごい余ってるけど。それ以外にもキチってる性能のもの()()ないけど、山ほどある。

 

「まぁ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「あ、それ僕も気になる」

「そうですね・・・スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の様にキラキラするのです」

「ああ、もしかしてあんな感じ?」

「え?」

「おや?バレてしまったか」

 

僕が指さした窓の外には、まさにそんな髪色の少女が浮いていた。

 

「レ、レティシア様!?」

「様はよせ。箱庭の貴族がモノに敬意を払っていては笑われるぞ」

「・・・あ、ごめん。そういう気分悪くなる話はパスで」

 

黒ウサギが錠を開け、招き入れる。

 

「こんな場所からで済まない。ジンには見つからずに会いたかったのだ」

「そうでしたか・・・。あ、すぐにお茶をお持ちします!」

 

黒ウサギがお茶を淹れに茶室へ向かう。

この人が以前の仲間か・・・それにしては弱すぎる。気配的には黒ウサギより弱いかな・・・ギフトを失ったか奪われたかしてるね。

ん?十六夜がレティシアを見ているけど・・・ま、まさか!?

 

「十六夜。まさか惚れたのかい?」

「いや、美少女だから目の保養にしてただけだ」

「ありゃ、残念。・・・でもまぁ、そうだね」

「ふふ、なるほど。君らが十六夜と蒼奇か。白夜叉の言う通り歯に衣着せぬ男と掴みどころのない男だな。しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが」

「あれは愛玩動物なんだから、弄ってナンボだろ」

「そうだね。あれは愛でるより弄る方が映える」

「ふむ。否定はしない」

「否定して下さい!」

 

あ、おかえりー。お茶ちょうだい、お茶。

僕はお茶をもらいに駆け寄る。

 

「それで、ご用件は?雑談のためだけに抜け出してきたわけじゃないんでしょ?」

「ああ。新生コミュニティの新人達の力を見に来たんだ。結果としてはお前達の仲間を傷つけることになってしまったからな」

「いいよいいよ。死なない限りは治せるし、いい経験になっただろうし」

「・・・お前はきびしいんだな」

「まぁねー。甘やかしてのびるならそうするけどそういう子じゃないし」

 

そこからはレティシアについての話が始まった。

 

ふむ。こんな感じかな?

 

・レティシアは吸血鬼で〝箱庭の騎士〟って呼ばれてる。

・〝純潔〟の吸血鬼が恩恵を与えると、与えられた人は吸血鬼っぽくなる。

・そういう人はゲームを開いてチップに血をもらってるよ!

 

・・・うん平和だね!僕のところの問答無用な吸血鬼とは大違いだ!根絶やしにしたけどね!

 

「だが、神格保持者と神格級のギフト保持者が、コミュニティに参加したと耳にした」

 

レティシアはそういうと僕と十六夜を、黒ウサギと十六夜は僕を見る。・・・って、なんで?

 

「いや、十六夜もでしょ?誇りなよ」

「黙れ人外」

「・・・」

 

・・・黙りますよ。黙ればいいんだろう・・・。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

それから十六夜とレティシアが話し、なんか力試しのゲームをすることになった。

うーん、一応助けられるようにしとこうか。しまさん、カモン!

 

「双方が共に一撃ずつ撃ち合い、それを受け合う。受け手は止められねば敗北」

「いいね、シンプルイズベストって奴?」

「そうだ。だが先手はもらうぞ」

「好きにしな」

 

レティシアがランスを掲げ、投げる。

 

「ふっ―――――!」

 

おお、さすが吸血鬼。地力パネェ。さてと、十六夜は・・・

 

「カッ―――――しゃらくせえ!」

 

・・・殴った?って見てる場合じゃない!転移!

 

「ちょっとごめんね!」

「なっ―――――」

 

驚いてるレティシアを抱きかかえ、地上に転移する。

そして抱えた時にギフトカードを盗み取る。

 

「間一髪っ!」

「レティシア様は!?」

「無事ですよー。とりあえず、黒ウサギ。これ、レティシアのギフトカードだから確認して」

「な、いつの間に!?」

 

黒ウサギがギフトカードを確認する。

 

「ギフトネーム・〝純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟・・・やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残ってない」

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

「まあ、これだけ気配が小さいしね」

「・・・はい。他には武具しか・・・」

 

レティシアが目を下げる。黒ウサギも苦い顔をする。

 

「とりあえず、またお茶でも飲みながら話そうよ」

「まあ、そうだな。戻ろうぜ」

「・・・はい」

 

「・・・それで、いつまで抱きかかえてんだ?」

「意外と抱き心地が良くてね。まあ、屋敷に戻るまでかな。十六夜も抱いてみる?」

「・・・あっそ。遠慮しとくぜ」

 

 

 

しかし屋敷へ戻る途中に遠くから褐色の光が向かってくる。

それに気づいた腕の中のレティシアが顔を上げる。

 

「まさか・・・ゴーゴンの威光!?お前達、逃げろ!」

 

十六夜と黒ウサギの二人はすぐに離れるが、僕は動かないし、放さない。

 

「私を放してすぐに逃げろ!お前も巻き込まれるぞ!」

「へーきへーき」

「そんなことを言っている場合では・・・!」

「うん、もう遅いけどね♪」

「っ!!」

 

そうこうしてるうちに僕らは光に飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 




次話は三日後に予定。

けれど、リアルが忙しくなり始めたのでこれからは少し遅れるかもしれません。そこのところご了承ください。申し訳ございません。







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??&脅迫

~三人称視点~

 

 

黒ウサギと十六夜は蒼奇とレティシアが光に飲まれるのを黙ってみているしかなかった。

だが、光が消えると、そこには蒼奇の石像しか横たわっていなかった。

そこへ翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士が押し寄せてきた。

 

「おい!吸血鬼がいないぞ!?すぐに捜せ!」

「例の〝ノーネーム〟と石化させた奴はどうする!?」

「邪魔するようなら斬り捨てろ!石像は放っておけ!吸血鬼が最優先だ!」

 

騎士たちはレティシアを捜しているがその姿は見えない。

 

「絶対に見つけるんだ!取引が台無しになるぞ!!」

「そんなことになれば我ら〝ペルセウス〟の居場所が・・・!」

「相手は箱庭の外の一国規模のコミュニティだぞ!奪われでもしたとなれば・・・!」

「箱庭の外ですって!?」

 

黒ウサギは男たちの言葉に声を上げる。

 

「一体どういうことです!彼女達ヴァンパイアは―――――〝箱庭の騎士〟は箱庭の中でしか太陽の光を浴びられないのですよ!?それを外に連れだすなんて・・・・・・!」

「部外者は黙っていろ!それよりも、もし匿っているなら容、赦はし、な・・・」

 

男の言葉が途中で止まり、剣を構える。中にはその体を震わせているものもいた。

不思議に思った黒ウサギは男たちの見ている方向へと目をやる。

 

 

 

 

目を向けた先には、多くの幻獣や魔獣。

 

 

 

 

蒼奇の召喚獣と思しきモノたちがその目に怒りを宿し、佇んでいた。

 

 

 

 

中には、不死鳥(フェニックス)、ワイバーン、ケルベロス、鬼などが存在した。そしてもはや無数と言ってもいい多種の幻獣達がいた。

 

 

 

 

「な、なんだこいつらは!?」

「くそっ!ルイオス様に報告する!撤退するぞ!!」

 

そう言い残し、男たちは姿を消した。

 

そして、程なくして幻獣たちも次々と姿を霞のように薄くなり消えていった。

 

「い、十六夜さん。黒ウサギはどうすれば良いのでしょう・・・?」

 

しかし、十六夜は黒ウサギの言葉には答えず、蒼奇の石像の方を見ている。黒ウサギもつられてその方向を見る。

 

 

 

 

「おおそうきよ、しんでしまうとはなさけない!」

 

 

 

「「・・・」」

 

 

そちらにはレティシアを抱きかかえたままの蒼奇が自身の石像にむかって話しかけていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

~蒼奇視点~

 

石にされた。

 

なんてことはなく、普通に大丈夫でした☆

 

「さてと。やっほー、これからどうするの?」

「「・・・」」

「ん?どうしたの。なにか反応sゴペェ!!」

 

二人の反応がないので話しかけていると、十六夜、そして黒ウサギまでもが突然殴ってくる。

 

なので、とっさにレティシアを放す。

 

「いや、なんで!?」

「生きてんな」

「生きてますね・・・」

「幽霊じゃありません!それに僕は死なないよ!」

「・・・どういうタネだ?」

「単純だよ。すごい速さで分身作ってー影に隠れてーエキストラの皆さんに熱演してもらっただけー。いやーバレなくてよかったよー」

 

本当にバレなくてよかった。まあ、かなり細工してるから、わかったらすごいよ。いまだに教え子たちにもバレてない方法だからね、これは。

ああ、それとエキストラで出てくれた幻獣たちにはお礼をあげないとね!

 

「そ、そんな単純な・・・」

「・・・あっそ。とりあえず他の奴らとお前の石像を連れて、白夜叉のところ行くぞ」

「・・・ああ、なるほど。じゃあ僕は擬態してついていくよ。レティシアは・・・影の中に入っててくれる?」

「あ、ああ。わかった」

「石像は僕の召喚獣に持たせるよ。それと耀はまだ安静にさせないとさすがにだめだよ」

「ああ、任せた。なら、俺は黒ウサギと一緒に御チビと飛鳥を連れてくる」

 

さて、擬態するのは・・・アゲハチョウでいいかな。

 

そう思いアゲハへと〝擬態〟を使って変化するが、全体的にブルーベリー色になる。

 

『やっぱりこうなるのかー』

 

性質なのかな、これ。まあ、あとは力持ちの〝鬼〟の【鬼一(ほおいち)】!カモン!

 

「お久しぶりです、ボス」

『もー毎回いうけどボスはやめて』

「すいやせん」

 

そうして出てきたのは道着を着た筋骨隆々の二メートルほどの巨漢。

 

『この姿の僕は【青鬼】と呼ぶこと。今回は特に気を付けて』

「へい。青鬼・・・さん」

『んー、まあ及第点かな』

 

そのようなことを話していると三人がやってくる。

 

「わっ!?誰ですか、その人!?」

『みんな来たね。この人は鬼の鬼一だよ。僕の石像を運んでくれる』

「よろしくお願いしやす」

「は、はい」

「あら、蒼奇君は随分とかわいらしい姿になったのね」

『ありがとう。でもこの姿のときは青鬼って呼んでほしいかな。・・・ところでジン君は?』

「看病に残るってよ。じゃあ、行くか」

 

 

・・・一応、()()を用意しとこうか。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「うわお、ウサギじゃん!実物初めて見た!噂には聞いていたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスって随分エロい!ねーねー君、ウチのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

あ、だめだこいつ。一瞬でわかった。外道臭しかしない。

着いてすんなり通されるとへんな奴がいた。店員さんも早く帰ってほしくて僕らを通したよね、絶対。

 

「残念だけど、この美脚は私たちのものよ」

『そうだ!僕らが独占している!』

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って何を言っているのですか飛鳥さん、青鬼さん!」

「そうだぜお嬢様に青鬼。この美脚は俺のものだ」

『なん・・・だと・・・?』

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃい!」

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で買おう!!」

「売・り・ま・せ・ん!いい加減にしないと黒ウサギも怒りますよ!!」

『「わざとだから気にすんな」』

 

スパパァーンと、黒ウサギのハリセンがうなる。

 

が、忘れてない?今の僕は―――――

 

 

『へぶぅ!!』

 

 

―――――アゲハチョウだってこと。

 

僕はハリセンの威力で吹っ飛び、畳に叩き付けられる。

 

「あっ!?あ、青鬼さん申し訳ありません!」

『ブ、ブルータス、お前もか・・・ガクッ』

「青鬼さん!?」

『・・・ん?なに?』

「・・・」

『ちょ!?無言で羽を引っ張んないで!?痛い痛い痛い!!』

 

最近黒ウサギも僕の扱いが酷くない!?

僕の必死の抗議が伝わったのか放してくれる。

はぁ、はぁ・・・からかいすぎたかな・・・?この姿であまりからかうと本当に痛い目をみるね・・・。

 

「あっははははは! え、何? “ノーネーム”って芸人コミュニティなの? そうなら纏めて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」

「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありませんよ」

 

・・・え?

 

「へえ? 俺はてっきり見せる為に着てるのかと思ったが?」

『趣味じゃないの?』

「ち、違います! これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この格好を常備すれば賃金を三割増しにすると言われて嫌々・・・」

『「白夜叉」』

「なんだおんしら」

 

僕は飛んで白夜叉の肩にとまる。

 

「超グッジョブ」

『ナイスです』

「うむ」

 

ビシッ!と親指を立てる二人。ああ、こういうときってすごい不便!人に戻りたい!

 

『まぁ、そろそろ本題に入ろうか』

「うむ、そうじゃな。だが、ここではなんだ、客間へ移ろうかの」

 

 

というわけで鬼一、もう少しお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。ご理解いただけましたでしょうか?」

「う、うむ。ペルセウスの所有物・ヴァンパイアが身勝手にノーネームの敷地に踏み込んで荒らした事―――――」

 

うん、いい感じに話が進んでるね。あとはこのルイオスとやらの対応だけが気になるけど・・・。

 

「―――――仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限〟の名の下に」

「いやだ」

『「・・・はい?」』

 

(・・・今、こいつは・・・ナンテイッタ・・・?主人を石のままニしてオクつもリカ・・・!)

・・・ッ!?青鬼、落ち着け!?・・・くそ、マズイ!意識を飲まれっ・・・!!

(少し、主人は、ネムッテイテクダサイ)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

~三人称視点~

 

 

 

 

「―――――んて冗談じゃ―――――それに――――――――――たって証拠が―――」

「こちらで拘束――――――に話を―――」

「駄目だね―――――逃げ出した―――――それに口裏を―――――――――限らない―――――元お仲間さん?」

 

(モウ、イイ。シャベルナ、オマエ)

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した理由はお前達だろ?」

『割り込むようですまない』

「・・・なに?話の途中なんだけど」

『そちらが石化した我らの主人について、どうするつもりか?』

「はあ?そんなの巻き込まれたそっちの責任でしょ?石化される方が悪い」

 

(アア、ダマレ)

 

『黙れ』

「が、あぁ・・・!?」

 

虚空から異形の腕が現れ、ルイオスの首をつかむ。

 

『我々はあまり気の長いほうではない。主人のことをバカにするのならなおさらな』

「な、ぁ・・・が・・・!」

『次からは気を付けろ、ガキ』

 

その言葉が吐かれると腕がルイオスを放す。

 

「ゴホッ!ゲホッゲホッ!?」

『さて、今一度、問い直そう』

 

青鬼の周りが黒く澱み、その中には多くの異形が見てとれた。

 

『我らの主人について、どうするつもりだ・・・!!』

「やめんか!!」

 

白夜叉から怒声が飛び、青鬼を止めようと動く。

 

『黙れっ!!やめるつもりなどはない!!この者に答えさせるまではっっっ!!!!』

 

澱みから鎖が伸び、ルイオス以外を拘束する。

 

「「「「・・・っ!?」」」」

 

 

 

『さあ!!答えろ!!!我らが貴様を殺す前に!!!!!』

 

その言葉にルイオスは顔を恐怖によって青白くし、震えている。

 

「ひっ・・・!ア、〝アルゴールの魔王〟ッ・・・!!」

 

 

ルイオスが自身が隷属させている星霊を呼ぶために、首のチョーカーを外し、掲げる。

すると、チョーカーの装飾が強弱をつけ、光り始める。

 

「ハ、ハハハ!!これでお前は終わりだ!!」

『無駄な足掻きを・・・飲み込め、【暴食】』

 

青鬼がつぶやく。すると、光が弱くなっていき、最後には消える。

 

「ハハハ、ハハ・・・は?」

『貴様の答えは・・・それで決まったのか?』

 

澱みの中から異形が一人、歩み出る。その手には太刀が握られていた。

 

『では、死ね』

 

そういって、自室茫然としているルイオスの首めがけて太刀が振られる。

 

 

 

だが――――――――

 

 

 

 

「はい、ストップ」

 

 

 

 

――――――――――一人の男の声によって、止められた。

 

 

「本体の意識を沈めて、なにを好き勝手やっていやがる」

『・・・いえ、この者が主人のことを・・・』

「それでも主人の意思を無視してんだろうが。お前はしばらく反省していろ、【強制送還】」

 

その言葉で異形、四人を拘束していた鎖も消え失せる。

ただ、蒼奇が擬態している蝶は残り、青鬼の意識だけが消え失せたようだった。

そして、【暴食】が飲み込んだ〝アルゴールの魔王〟も元に戻す。

 

「・・・おんしは分身か」

「そうだよ、白夜叉。本体、大丈夫かい?」

『・・・うん。頭と思しきものが痛いけど、平気』

「他の四人も平気?」

「・・・ああ、大丈夫だぜ」

「平気よ」

「黒ウサギも大丈夫です・・・」

「私も問題ないの」

 

蒼奇の分身が五人を心配し声をかけると全員問題ないと返事をする。

 

『・・・それよりも随分と遅かったね?』

「・・・・・・・・・タイミングを見計らってました☆」

『そこは本体の身を案じて、早く止めようよ!?』

「サーセン。次から気を付けやーす」

『・・・やっぱ僕だよな。・・・おい、そこの三人、〝蒼奇だから仕方ない〟みたいな感じでため息吐くな。・・・はぁ、まあそれはそれとして、とってこれた?』

「もち。だって、僕だぜ?」

『でかした!さすが僕っ!』

 

 

 

 

そして、蒼奇と蝶はルイオスに向き直り――――――――――――――――――――

 

 

 

 

『「さて、ルイオス君。ゲームを開催していただこうか?」』

 

 

 

 

―――――――――――――――――目の前に紅と蒼の二つの宝玉を転がした。

 

 

 

 

 




次の投稿は週末辺りに予定。

遅れたら申し訳ありません。


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不参&雑談

第10話にサブタイトルがなかったので修正しておきました。








『ギフトゲーム名〝FAIRYTALE in PERSEUS〟

 

・プレイヤー一覧 

   逆廻十六夜

   久遠飛鳥

   春日部耀 

 

・〝ノーネーム〟ゲームマスター ジン=ラッセル

 

・〝ペルセウス〟ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

 

・敗北条件

プレイヤー側ゲームマスターによる降伏。

プレイヤー側のゲームマスターの失格。

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・舞台詳細・ルール

*ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない。

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦権を失う。

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる。

  

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                              〝ペルセウス〟印』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

~三人称視点~

 

 

 

 

ルイオスとの会談でゲームは三日後に行うということでまとまり、拠点へと戻ってきた四人とレティシア。それに夜も遅かったから、ジン君には明日話すということに決めた。

今は談話室に耀と影の中からレティシアも出して集まり、事の顛末をあらかた話し終えた。

 

「これで粗方話したかな?」

「・・・おい蒼奇。さっきのは何だ?」

「え?・・・・・・・・・・・・・・・どれ?」

 

蒼奇は思い当たることが多すぎて、十六夜が何のことを言っているのかを判別できなかった。

 

「全部だ」

「・・・なにから話せばいいのかわからないから、とりあえず一個ずつ質問してほしいかな」

「じゃあまず、最後のあの玉はなんだ?」

「それについては僕もよくわかってないんだけど・・・黒ウサギは知ってる?」

「えっと、はい。〝ペルセウス〟への挑戦権を示すギフトです。クラーケンとグライアイにゲームで勝利することで手に入れることが出来ます」

「へえ。蒼奇はなんで知ってたんだ?」

「僕はただ、襲ってきた兵士の記憶を盗み見ただけ。それでその二つを持っていけば挑戦できるって知っただけ」

 

そう。たったそれだけのこと。そうして蒼奇は分身を生み出し、取りに行かせた。記憶を、ルイオスの人間性を見てしまったから。もしも、和解しなかった場合の保険として。

 

「そうか。で、()()()はなにがあった?」

「そうね。あれについては私も聞きたいわね」

「黒ウサギも同じです」

「私も興味があるな」

「・・・あれ?」

 

その部分については詳しく話していなかったので耀はわかっていなかったが、おそらく四人が言っているのは蒼奇が青鬼によって意識を乗っ取られたことについてだろう。

 

「ああ、あれは青鬼が僕の意識を乗っ取ったんだよ。召喚獣は基本的に強力な奴らばかりだから、彼らが暴走したりするとたまにああなっちゃうんだ。今回はルイオス君が僕のことを戻そうとする意志がみえなかったから、キレたんだろうね。普段なら他の召喚獣が止めてくれるんだけど、ルイオス君の言動は許容できなかったみたいだね」

 

今回のことは同化していた召喚獣の暴走ということを聞いた四人はその身を強張らせる。

 

「ああ、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。もうやらせるつもりはないし。それに君らに手を出したらどうなるかってのは彼らはよく理解してる」

「・・・そうかよ。それで?ゲームに参加しなくてよかったのか?」

「むしろ僕が参加するなんて言ったらルイオス君はたとえ伝統だろうと嫌がったろうね。それに、君らにはいい経験だとも思ったし。僕無しで頑張ってみせてよ。それじゃ、すこし疲れたから休むよ。三日後のゲーム、がんばって」

 

そういい蒼奇は談話室から出ていく。

 

「・・・お前ら、どう思う?」

「傍目から見ても疲れていたと思うわ」

「・・・うん、顔色が悪かった」

「黒ウサギもそのように感じました」

「私もあまり良いようには見えなかったな」

 

青鬼に意識を乗っ取られたあと、見るからに顔色が良くなく、体調が悪そうだった。

 

「乗っ取られるのは相当の負担ってことか」

「「「「・・・」」」」

 

十六夜の言葉に四人は黙り込む。

 

「なんにせよ、次は蒼奇に手を出されたり何かされる前に俺らでどうにかするぞ。これ以上アイツに出番は取られたくないしな」

「ええ、そうね。これ以上、蒼奇君の世話にはなりたくないわ」

「うん。お荷物のままは嫌だ」

「黒ウサギも手伝いますヨ♪」

「「「「期待はしない」」」」

「ひどくないですか皆さん!?それにレティシア様まで!?黒ウサギだってやればできますヨ!?」

 

その後も談話室で五人はうるさく騒いで盛り上がっていた。蒼奇はその会話を自分の部屋のベッドに寝転がりながらひそかに聞いていた。

 

 

 

 

「・・・くくくっ、面白い会話してるねー。・・・でも、うん。人に頼らず自分たちで何とかしようなんてのは、いい傾向だね。やっぱり人の成長ってものは見ていて楽しいよ・・・少し寂しいものもあるけれどさ。でも直接指導しないってのも面白いかな?成長こそ遅いけど見ていてなんか和むよ」

 

それから蒼奇は少し兵士の記憶を思い返し〝ペルセウス〟のゲームの内容について思考し、

 

 

「・・・うん。あの三人なら平気そうだ・・・」

 

 

あの三人の成功を確信して眠りについた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

三日後の〝ペルセウス〟のギフトゲーム当日。もう六人は出発し〝ペルセウス〟の本拠へ着いている頃、蒼奇は今日も留守番している。

 

「蒼奇お兄ちゃーーーん!遊んでー!」

「蒼奇お兄ちゃん!これ運んでー!」

「蒼奇お兄ちゃーん!肩車してー!」

 

子供から引っ張りだこで大忙しで増殖まで使って子供の相手をする。

 

「・・・はあ。早く帰ってこないかなーあの六人」

「蒼奇お兄ちゃん!早く早く!」

「・・・はぁ・・・今行くよー!」

(これ、体を取られるよりも疲れそう)

 

 

 

 

その後、蒼奇はゲームに勝利して、ゲームに向かった時のままの六人で帰ってきた彼らによって、干物のような状態で倒れているところを発見された。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

蒼奇は自室のベッドで上体を起こした状態で黒ウサギに叱られていた。

 

「まったく!驚かさないでくださいよ!」

「ごめんねー。いやー子供は怖いってことを初めて知ったよ。次からは気を付けるよ」

「うっ・・・い、一応子供たちにも言いつけておきますが、蒼奇さんも本当に気を付けてくださいね!」

「了解でーす」

 

そして黒ウサギは部屋から出ていく。

 

「さてと」

 

蒼奇は問題児三人へと向き直る。

 

「言いたいことがあるなら言えよ」

「ヤハハ!いや、何もねえよ!」

「ええ、そうね。言う事はないわね・・・ふふっ」

「うん。なにもない・・・クスッ」

 

三人はそんな理由で倒れた蒼奇に対して明らかに笑いを堪えている。

 

「はあ、自分でもやらかしたと思ってるよ。正直子供を舐めてたよ」

「「「どんまい」」」

「なら替われ」

「「「だが断る」」」

「・・・はあ、最近君らのせいでため息が増えた気がするよ」

「・・・私は最近、蒼奇が本当に強いのか疑問に思うときがある」

「そうね。子供に負けるのはどうかと思うわ」

「そうだな。子供に負ける最強ってのはな」

「よし、表に出ろ。今すぐギフトゲームをしようか。なに加減はしてやろう。雀の涙ほどだが、な」

「「「悪かった/ごめんなさい」」」

「わかればいい」

 

蒼奇の口調と声色が変わり、危険を察した三人はすぐに謝る。その謝罪を聞いた蒼奇は満足して、改めてレティシアへと向き直る。

 

「さて。とりあえず、お帰りレティシア」

「あ、ああ・・・た、ただいま」

「うん。・・・あ、ちなみに君の扱いに関してはこの三人に一任してるから」

「・・・・・・・・・は?」

「「「これからよろしくメイドさん」」」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「・・・ということらしいから、頑張ってね?」

 

ちなみに所有権は3:3:3:1らしい。言わずもがな蒼奇が1だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのうえ倒れた蒼奇は歓迎会に参加できずに、流れていく星を窓から眺めるしかなかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おなか、すいたなぁ・・・・・・」

 

 

・・・料理すらも持ってきてもらえなかった。

 

・・・・・・そんな蒼奇の目の縁には、月と星の光で輝く雫が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

その日は空腹のせいで一睡もできず、翌朝に黒ウサギが顔色の悪い、どころかさらに悪化している蒼奇に対して必死に謝ってる姿が見られたとか見られなかったとか・・・。

 

 

 

 

 




とりあえずこれで一巻終了です。

次話は一週間以内に投稿予定です。遅れる可能性がありますのでご了承ください。


それと一つ聞きたいんですけど、主人公視点と三人称視点、どっちが読みやすいですか?もしくは読みたいですか?

活動報告の視点アンケートにて返信いただけるとありがたいです。


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魔王襲来のお知らせ?
招待&祭典


ある朝、〝ノーネーム〟の敷地内でそれは起きた。

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁん!」

「おーい、黒ウサギー!」

 

リリと蒼奇が黒ウサギを呼びながら駆け寄る。

 

「リリ!?蒼奇さんも!?どうしたのですか!?」

「じ、実は・・・皆さんがこれを置いていって!」

 

リリが慌ただしく黒ウサギに持っていた手紙を渡す。

 

『黒ウサギへ。

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴女も後から必ず来ること。あ、あとレティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合四人ともコミュニティを脱退します。

P/S ジン君は道案内に連れて行きます。

P/Sその2 蒼奇君の分身をコミュニティの護衛に置いていきます』

 

「・・・・・・!?・・・・・・!?」

 

時折蒼奇の方を見ては固まり、また手紙を見て固まる。

 

「ご、ごめんね?僕の本体も行きたかったみたいで・・・止められなかったよ・・・」

「・・・な、何を言っちゃってんですかあの問題児様方ああああーーーーー!!!」

 

黒ウサギの叫びが〝ノーネーム〟全体に響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――時間は蒼奇が目を覚ました頃まで遡る―――

 

 

 

「・・・んー!・・・はあ」

 

ああ、大分疲れはとれたかな・・・?ネローおいでー・・・

ネロは僕に呼ばれると流れるようにフードの中へと入る。

やっぱりフードの中なんだ・・・ん?扉の前に気配が・・・?

 

「蒼奇君、起きなさい!」

「ゴパァッ!!」

 

ドアが突然開き赤いドレスを着た少女、飛鳥が飛んでくる。

なぜか膝を突き出して。

な、なんで急にシャイニングウィザードを・・・!?あ、でも下着が見え・・・うわなにをするやめっ!?

 

 

 

 

 

どなどなどーなーどーなー♪蒼奇を引いてー♪

 

「・・・蒼奇、そろそろ自分で歩いて」

「なら僕の首の向きを元に戻せ」

「・・・ごめんなさい」

「謝るくらいなら首を戻すか鏡をよこせ」

「・・・」

「無視ですかそうですか」

 

はあ、飛鳥にボコボコにされた顔は治したけど・・・誰か、シャイニングウィザードによって曲げられた首を元に戻してください・・・・・・。

 

 

 

 

 

僕らが図書館へ行くと十六夜とジン君がそこにはいた。

 

「十六夜君!起きなさい!」

「させるか!」

「グボハァ!?」

 

あ、十六夜いた。ていうか飛鳥学習したね。下着が見えない蹴り方をしてる。・・・それよりジン君は平気かな?彼は僕みたいな耐久ないよね?

 

「ジ、ジン君がぐるぐる回って吹っ飛びました!?」

「大丈夫だよリリちゃん。死んでなければ問題無いよ」

「デッドオアアライブ!?」

「ほらリリちゃん、死んでないよ。ちゃんと生きてる」

「ちょっと蒼奇さん!?酷くないですか!?」

「死んでなければ治せるって意味だよ。それにこの扱いは諦めて受け入れなさい。それが君の運命デスヨ?・・・さてとりあえずジン君、首の向きを元に戻してくれないかい?」

「ってうわぁ!?どうしたんですかその首!?」

「ジン君と同じ目にあったんだ」

「・・・」

 

そう言うとジン君は自分の無事を静かに喜び、僕の首を元の向きへと戻した。

あーよかったー。安心したよ。

僕とジン君のやり取りの間に飛鳥と耀が十六夜に事情を説明し終わったようだ。

 

「って、あっ!?そ、その手紙はなんですか!?」

「北側の祭りについての手紙だけど?」

「北側の祭りっ・・・!?まさか行くというんですか!?何処にそんな蓄えがあるというのですか!?此処からどれだけの距離があると思って・・・!?リリも、大祭の事は皆さんには秘密にと―――――」

「「「秘密?」」」

「・・・あちゃー」

 

あーあ、口滑らしちゃった。痛い目見るぞー・・・。

 

「・・・そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないな。ぐすん」

「ごめんジン君。これ以上君を弁護できない。心苦しいが、諦めて罪と罰を受け入れてくれ」

 

ジン君の顔が凄い引き攣り、汗が滝のように流れてる。

うん、ご愁傷さま。何度も言うけど諦めてね?

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

北側に僕の転移で行こうなんて話も出たけれど、先に差出人のもとへ行くべきという僕の意見で〝サウザンドアイズ〟へと向かう。

 

「というわけで来たよ」

「うむ。よく来たの」

「じゃあこの子たちよろしく。じゃあね!」

「うむ。ではの・・・っておい!?」

 

これからはじまる話が長そうだと感じた蒼奇は早々に退散する。

 

悪いね白夜叉!僕は長い話が嫌いなのだ!さあ、いざ行かん、まだ見ぬ北の大地へ!転移!

 

 

 

「っと、到着!・・・おお・・・すごいな・・・」

 

巨大な赤壁、ガラスの回廊、数多のペンダントランプ。すべてが蒼奇の興味をそそる・・・。

街中に感じる不穏な気配も含めて・・・。

 

「・・・すこし、四人を待とうかな」

 

〝サウザンドアイズ〟の支店を見つけて、その前で白夜叉と四人を待つ。

それから十分ほどで気配が建物内に現れ、素早く出てきた。

 

「「「あっ」」」

「やっほー」

「先に行くなんてずるいわ」

「・・・ひどい」

「そうだな。今度なにか埋め合わせしてもらおうか」

「「そうね/うん」」

「あ、僕の意思はないんだね。わかってた、うん。・・・まあそれよりさ、見なよ」

 

三人は僕に促されて街に視線を向ける。

すると三人は眼下に広がる街並みに息を呑んでいた。

でもね、そんな暇はないよ?

 

「さて、そんな君達にお知らせだよ」

「「「・・・?」」」

「黒ウサギ到着まで三秒前です」

「「「ッ!?」」」

「みぃつけた―――――のですよおおおおおおおおおおおおお!!」

「ほら到着ー♪・・・さぁて、逃げないと・・・捕まっちゃうよ?」

 

僕の言葉を聞いた十六夜は隣の飛鳥を抱えて、飛び降りる。耀はグリフォンのギフトで飛び上がろうとするけど・・・ちょっと、遅かったかな?

 

「耀さん、捕まえましたヨ!!」

 

あーあ、やっぱり捕まった。・・・ってこっちに投げるの!?

 

「きゃ!」

「っとと!」

「グペッ!」

 

間一髪でキャッチできたけど・・・なにか(十中十白夜叉だけど)を・・・踏んでしまったよ・・・。

耀を受け止めた僕は黒ウサギに言葉を返す。

 

「あー、耀のことは任せてくれていいよ。気にせず行ってきなよ」

「はい、お願い致します!それでは黒ウサギは行って参りますので!」

「がんばってー」

 

そういって黒ウサギは跳んで行った。

 

「いつまで踏んでおるんじゃ・・・!?」

「んー?耀を降ろすまでかな?」

「そこはすぐどかんか!?」

「耀、降ろすよー?」

「うん」

「無視かおんし!?」

「じゃあ、白夜叉どくよー?準備は良いー?それとも、もうちょい踏まれてるー?」

「さっさとどけい!!」

「はーい」

 

渋渋僕は白夜叉の上から降りる。

 

「はあ・・・ああ、そうだ。耀よ、おんしに出場してほしいゲームがある。詳しい話は中でしようかの」

「私に?」

「僕には?」

「失せろ」

「えー・・・」

 

むぅ、残念。少し弄りすぎちゃったかな?

んー、じゃあ散策でもしようか。街を歩いてる不穏な気配を感じる辺りを・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふふ~んふ~ん♪祭りってだけあって賑わってるなー」

 

店もそれなりの数と種類あるし、展示物も多い。

 

「・・・さて、あの娘かな?この不穏な気配は」

 

僕の視線の先には斑模様のワンピースの少女がいた。

 

「・・・声、かけるべきかな?」

 

むむむ、悩むな・・・。

僕は道の端により思考の海に潜る。さて、どうす

 

「私になにか用かしら?」

「ん?ああ、って誰?」

 

かなり早めに思考の海から戻されると、目の前にさっきの斑模様の少女がいた。

 

「あら?私のことをずっと見ていたと思ったのだけど?」

「は?自意識過剰すぎるんじゃ・・・冗談ですごめんなさい許してください頼みを一つ聞くのでお願いします」

「・・・わかったわ。じゃあ私と付き合って♪」

「・・・ああ、買い物とかか・・・びっくりした。別にいいよ」

「そう、ありがと!それじゃあまずはあっちからね」

 

そういって僕の腕を引っ張っていく。

 

「ああ、そうだ。僕は館野蒼奇。君の名前は?」

「・・・ペストよ」

「あーなるほど」

「・・・わかったのかしら?」

「なんとなく?まあ、モノによるけど手はあまり出さないよ。特に戦闘に関してはね」

「・・・そう。バレてるのね」

「それより、あれが食べたいの?」

「あら、買ってくれるのかしら?」

「もちろーん。女性にお金を払わせるつもりはないよー。それに僕は個人的に君が欲しいし」

「・・・・・・プロポーズかしら?」

「・・・ハ、ハハハハッ!!いやそういう風に聞こえたかもしれないけど、違うよ。僕は君とその仲間が戦力として欲しいんだ。ただ、君の協力者は少し確かめたいことがあるけどね。まあ、そいつは場合によっては殺すかもしれないね」

「・・・そう。そこまでバレてるのね・・・」

 

彼女の協力者は気配の隠し方に少し覚えがあるからね・・・。それに何人かの教え子の気配の残り香があるのがなおさら気になる。

教え子に手を出して、もしも殺せたのなら少し期待したいけど・・・。

 

「・・・と、ところでフードの中のそれ・・・」

「ん?・・・あ、ネロのことかい?」

「そ、そう、ネロっていうのね。・・・そ、その・・・さ、触ってみても、いいかしら?」

「ああ、そういうこと。別にいいよ。はい」

 

そういってネロをペストに渡す。

そうするとペストの顔がニヤケて、とろける。ってネロもとけてるな。・・・ネロの奴、誰でも良いのか?

でも・・・うん、どっちもかわいいね。

 

 

 

とりあえず、

 

 

 

「・・・(ニヤニヤ」

「ハッ!?」

「幸せそうですねー(ゲス顔」

「こ、これはっ!その・・・!」

「いいよいいよ。わかってるってば。ネロは気持ちいいもんなー」

「うっ・・・」

「だから、一緒にいる間は持っててもいいよ」

「・・・ええ、わかったわ」

 

そこからは僕とペストとネロの三人で一通り祭りを見て回って屋台で食べ物を買ったりなどして楽しんだ後、

 

「そろそろ戻らないといけないわね」

「そうかい?それじゃあネロ、おいで」

「・・・(ピョン」

「あっ・・・」

 

僕が呼んだらネロはフードの中に跳び入る。

 

「じゃあまたね、ペストちゃん♪」

「・・・ええ、そうね。・・・また早いうちに」

「あはは、楽しみにしてるよ」

 

 

そうして僕は白夜叉と問題児達と黒ウサギの気配を探って、そちらに向かう。

ああ、楽しみだなぁ・・・。あの三人は今回のことでどれくらい成長するかなぁ・・・。

それに彼女の協力者・・・。誰だろう?気配的にはあのイカレ野郎の気配に似てるんだよなあ・・・。

 

 

でも、もし本当にそうなら、

 

 

 

 

 

 

殺さなきゃ、ダメかな?

 

 

 

 

 

 

あいつの行動や考え方は危険だったから何もできないようにすべてのギフトを剥奪した筈だけど、誰から力をもらったのかね?

 

まあ、その力で少しは楽しませてくれるといいけど。

 

 

 

 

 

 






次話は25日の予定


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雑談&観戦

サウザンドアイズの支店に戻って来ましたー。

でも、勝手に歩き回るのは不味いかな?誰か・・・あっ。

 

「店員さーん。皆はいる?」

「・・・久遠様とレティシア様以外はいらっしゃってます」

「そう。それならいいかな。・・・ちなみに休める部屋とかってある?」

「・・・ございます。ご案内しますか?」

「そうしてくれるとうれしいかな。・・・ああそれと、これをあげるよ」

 

僕は店員さんに瓶を一つ渡す。

 

「・・・?これは?」

「前に言ってた胃薬だよ。使用方は書いてるから。それに一応疲労やストレスに効くサプリメントもあげるよ」

「・・・ありがとうございます」

 

そういって、胃薬以外にもいくつかのラベル付きの瓶を渡す。

 

「なくなった時は言ってくれればあげるからね」

「はい。・・・ではこちらです」

「うん。ありがとう」

 

そういって案内されたのは十畳ぐらいの和室だった。

 

「・・・少し寝ようか。朝は飛鳥にとんでもないことされたし」

 

そして僕は案内された部屋で少し仮眠をとった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・さん・・奇さん!蒼奇さん!」

 

・・・ん~・・・だれですか~?・・・くろうさぎ~?

 

「・・・なんぞや・・・?」

「飛鳥さんがけがをしたのでエリクサーをください!乙女の柔肌に傷が残ってはまずいです!」

「・・・黒ウサギ、君も図太くなったよねぇ・・・はい、これ・・・」

「はい!ありがとうございます!」

 

忙しそうだねぇ・・・。んー、どうしようかぁ・・・とりあえず十六夜のほうにぃ・・・ああ、ねむい・・・

ふらふらと気配のする部屋へと歩いていく。

 

「十六夜とぉ・・・ジン君ぅ・・・おはよぉ・・・」

「・・・大丈夫ですか?」

「・・・ごめん・・・おやすみぃ・・・」

「えっ、ちょ、ちょっと蒼奇さん!?」

「御チビ、面倒だから寝かせとけ」

 

そして僕は倒れるように寝る。

なんだか今日は、無性に眠い・・・まぁいまはぁ・・・とりあえずねるぅ・・・。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「おい、蒼奇。この眺めをどう思う?」

「ふぇ?」

 

十六夜に起こされ、指さす方を見る。

するとそこには浴衣を着た、湯上がりなのか上気した肌が見える女性陣がいた。

 

「ごめん、十六夜。目の保養にはなるけど、さすがに五百年以上生きてると性欲が枯れてね。彼女達を見てもかわいい孫娘を見るおじいちゃんのような気持ちで複雑なんだけど・・・」

 

やっぱり同年代ぐらいなのが僕は好きなんだ。相手が好きになってくれた場合はその限りじゃないけどさ。

そういうと十六夜が僕のことをあり得ないという目で見てくる。

 

「・・・」

「まあ十六夜も五百年ぐらい生きればわかるよ。僕の気持ちが」

「なら、一生分からねえな」

「なんかそういう目で見られないのは逆に女性として複雑な気持ちになるのだけれど・・・」

「うん・・・よくわからないけど、なんか複雑な感じ・・・」

「黒ウサギもそう思います・・・」

「くくっ、なら私はどうだの?年齢的にはおんしより年上じゃが?」

「ごめん。合法ロリは愛でる分には有りだけど守備範囲外なんだ」

「・・・」

 

僕に言われ、落ち込む白夜叉。・・・なんで落ち込むの?コンプレックスなの?

 

 

「かわいいとは思うけど欲情はしないかなー・・・」

 

 

僕も・・・歳かなぁ・・・。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それでは皆の者よ。これから第一回、黒ウサギの衣装をエロ可愛くする会議を」

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

「え、違うの?僕はそう聞いて引き留められたんだけど・・・」

「違いますっ!」

 

それならよかった。興味はなくはないけどね。

どうやら話とやらは黒ウサギに明日から始まるゲームの決勝の審判の依頼だった。なんか問題を起こして黒ウサギの存在が公にバレたらしい。

・・・あの時計塔はやっぱりこいつらか・・・。

黒ウサギはその話を受けるようだった。まあ、貴重な収入源だからね。

 

「白夜叉、私が明日戦う相手はどんなコミュニティ?」

 

ああ、耀が参加するゲームなんだ。ぜひとも勝ってほしいけど・・・相手によるか・・・。

 

「すまんがそれは教えられん。せいぜい教えてやれるのは相手のコミュニティの名前ぐらいだの」

 

〝ウィル・オ・ウィスプ〟に〝ラッテンフェンガー〟ね。・・・うん、どんなのかはわからん。

 

「へえ・・・ラッテンフェンガー?じゃあ明日の敵はハーメルンの笛吹きか?」

「ハ、ハーメルンの笛吹きですか!?」

「まて、小僧。どういう事か詳しく話せ」

 

?なんか・・・二人が驚いてる・・・どういうこと?

 

「ああ、そうか。最近召喚されたのだったか。・・・〝ハーメルンの笛吹き〟とは、とある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

 

どうやら僕と同じ召喚士がリーダーのコミュニティがあったらしく、しかもかなりの数の悪魔が呼び出せたこともありかなり強力な魔王だったらしい。が、滅んだはずだという。・・・むぅ、同業者として一度会ってみたかったが・・・残念だ・・・。

・・・じゃあペストが魔王かな?・・・うん、たぶんそうだね。

 

「―――――おい、蒼奇」

「え、なに?」

「・・・おんし。話、聞いてたのかの?」

「一応。なんか魔王が来るんでしょ?でも、僕はあまり手を出す気はないよ?」

「・・・はあ。おんしはどう思ってるか聞こうとしてたんだが、よいか?」

「・・・なんで僕なの?」

 

僕に知識は期待してほしくないんだけど。それに今回は一人を除いて誰かと戦うつもりはないし。

 

「おんしがこの中では一番実力があるからの」

「・・・そんな理由で?いや、まあ、いいけどさ・・・じゃあとりあえず・・・」

 

みんなが黙って僕の話に耳を傾ける。

そこに僕は爆弾を投下する。

 

「昼間に魔王と思しき人物とデートしてました。サーセン」

「「「「「・・・は?」」」」」

「いや、不穏な気配に接触したらさ、なんか成り行きで?多分あの人が今回の魔王勢力のリーダーかな?・・・なんか、その、ごめんなさい」

「・・・詳しく話せ」

「え、それはやだよ。つまんないし」

「「「「「・・・ほう?」」」」」

 

あ、やべ。デジャブだ。今回は一人多いけど。

さすがに状況が状況だから黒ウサギもそっち側か。

危険を感じた僕は五人に対して先手を打つよ!

 

「ま、待って!・・・じゃ、じゃあ!一個だけ!一個だけ話すから!」

「・・・なんだ?」

「・・・〝ラッテンフェンガー〟は魔王ではない。それだけは言ってもいい」

「・・・そうか、わかった。これ以上は話さないんだの?」

「うん、話さない。なにされてもね。なにかするようなら北側を壊滅させるぐらいには全力で抵抗しちゃうよ?」

「・・・はあ、わかった。ではこれで解散としようかの」

 

よっしゃ!寝るぞー!

 

けれど僕は部屋を出ようとしたときにあることを思い出してみんなに告げる。

 

「ああ、あともう一つだけ」

「「「「「・・・?」」」」」

 

 

 

 

 

――――――魔王に協力している奴は、()が相手をする。誰も、邪魔はするなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

そして翌日、僕らは運営側の特別席に座っていた。どうやら〝サラマンドラ〟の新しいリーダーのサンドラちゃんが取り計らってくれたらしい。

・・・でも耀の対戦相手、なんか教え子の異世界渡航魔女っ子の気配の残り香があるんだよなぁ・・・。あとで少し話しを聞いてみようか。

 

「蒼奇君。あなたから見て春日部さんは勝てるかしら?」

「たぶん無理。気配の大きさに差がありすぎるから」

「・・・そう。あなたもそう思うのね」

「まぁね。でも、負けるのもいい経験だよ。とりあえず結果なら見てればわかるよ。ほら、始まる」

 

舞台の上には黒ウサギがいた。そして息を吸い、観客席に笑顔を向ける。

 

『長らくお待たせしました!火龍誕生際のメインギフトゲーム・〝造物主達の決闘〟の決勝を始めます!進行と審判はお馴染み黒ウサギが務めさせていただきます♪』

「月の兎キタアアアアアアァァァァァ!!」

「黒ウサギいいいいい!お前に会うためだけに来たぞおおおおおおお!!」

「今日こそスカートの中を見るぞおおおおおお!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

同情するよ、黒ウサギ。あぁ・・・ウサ耳がへにゃってる・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・。人気者ね」

「飛鳥、言うな。こんな光景は受け入れるべきではない。後で黒ウサギを慰めてやるべきだ。この文化は日本でも箱庭でもダメな部類の代物だ。それと横にいる馬鹿どもはいないと思え。サンドラ様もそこの二人は無視してください」

「・・・そう、異常なのね」

「は、はい。わかりました・・・」

 

僕らの横には双眼鏡で黒ウサギのスカートの裾を目で追う白夜叉と十六夜がいた。

・・・ゲームが始まったらゲームの方を見てくれればいいけど。

 

ついに耀が通路から出てくる。が、急に耀の目の前を火の玉が横切った。

その火の玉の上にはツインテールの少女がいた。そして火の玉の中心にはカボチャのような頭部のシルエットが見えた。

 

「YAッFUUUUuuuuuuuuu!!」

 

そして火の玉が身の周りの炎を振りほどき、手にランプを持ったカボチャ頭の幽鬼が姿を現した。

 

おお!ジャック・オー・ランタン!

あの彼から残り香を感じる。ぜひとも時間があったら話したいものだね。彼に対してあの魔女が何もやらかしてないか不安だよ・・・。飛鳥はジャック・オー・ランタンをみてはしゃいでいる。そんなに見てみたかったのかな?

でも、さすがの僕でもジャック・オー・ランタンは召喚獣にはいないからなー。

・・・それに結構強そうだね。耀に無理言ってでもサポート役で参加すればよかったかな?

 

「むぅ・・・」

「・・・?どうかしたのかしら?蒼奇君」

「いや、あのカボチャ、強そうだから戦ってみたいな、と」

「・・・貴方はそれしか考えないのね」

 

最近、楽しい戦いや燃える殺し合いとかしてないからね。ちょっと禁断症状的な感じでヤバイ。

早くペストちゃん来ないかな~。協力者君には結構期待してるんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~今日の分身その1!~~~

 

 

 

「・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・静かだねえ、リリちゃん」

 

「・・・そうですね」

 

「あの三人がいないだけでこんなに静かなんだねー」

 

「・・・そうですね」

 

「・・・もしかして、少し拗ねてる?・・・お祭り、行ってみたかったの?」

 

「・・・はい。少しだけ」

 

「・・・今回は諦めよう?また今度機会があったら、一緒に連れて行ってあげるから」

 

「本当ですか!?約束ですよ!?」

 

「・・・う、うん。約束」

 

「~~~♪」

 

「(さっきの食いつきようといい今の上機嫌さは、絶対に少しじゃないよね?)・・・さ、休憩終わり!そろそろ仕事しようか、リリちゃん」

 

「はい!」

 

 

二人は家事をしながら平和な一日を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 




次話は一週間以内の予定です。


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魔王&会談

その後、ゲーム盤として大樹が現れてゲームが開始された。

ゲーム内容は大樹の外へと先へ出た方が勝者という単純なもの。

耀が先に動き、あの二人は耀を追いかけるという展開が繰り広げられていた。

しかし、ある場面で状況が一変する。

 

(あのカボチャ、本気になったかな)

 

そこからは耀がカボチャによって足止めされ、一歩も進めなくなるという盤面へと変化した。

そこで、耀は勝てないと判断したのか―――――

 

 

 

―――――自身の降参を宣言した。

 

 

 

「春日部さん、負けてしまったわね・・・」

「仕方ないよ。あのカボチャが本気を出した時点で勝ち目は消えてたよ」

「ま、気になるなら後でお嬢様が励ましてやれよ」

 

サンドラや白夜叉が慰める声をかけている中、僕は空に目を向ける。それにつられたのか自分で気づいたのかは知らないけど、同じく空を見ている。

 

「・・・白夜叉、アレはなんだ?」

「どうやら来たみたいだよ、白夜叉」

「なに?」

 

空から降り注ぐ黒い契約書類。

 

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

・プレイヤー一覧

現時点で三九九九九九九外門、四〇〇〇〇〇〇外門、境界壁の舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ。

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

・ホストマスター側・勝利条件

全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

・プレイヤー側勝利条件

一、ゲームマスターを打倒。

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 

 

「魔王が現れたぞオオォォォ―――――――――!!!」

 

 

ああ、楽しみだ・・・!!

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

あそこにいるのは・・・ああ、間違いない・・・!あのイカレ野郎だ・・・!!

 

「悪いが、他は任せた。くれぐれも俺の邪魔はするな」

「え、ちょっと!?蒼奇君!?」

「蒼奇さん!?」

「・・・」

 

飛鳥と黒ウサギの二人は止めようとしたみたいだが、遅いよ。十六夜は静観している。

 

しまさん、転移頼む。

 

『・・・』

 

自制はできてるから問題ない。

 

『・・・』

 

ああ、ありがとう。

しまさんは納得して指示通りに男の傍へと転移してくれた。

 

そして、僕はボロボロのローブを身にまとった剣を持つ男に蹴りをぶち込む。

 

「ぶっ飛べや・・・!このクズがっ!!」

「くっ!?」

「「「なっ!?」」」

 

僕は男を驚くペストやその仲間から離れさせる。

そしてすぐに転移で近づく。

 

「よぉ、元気そうだな?」

「・・・」

「おいおい、しゃべれねぇなんてことはないだろ?」

「・・・ダマレ!!」

 

男はそういって僕を攻撃してくる。

 

蹴り。

 

殴打。

 

ギフトによる業火。

 

はたまた剣による斬撃。

 

ありとあらゆる攻撃をしてくる。

 

 

 

でも、

 

 

 

「足りねぇよ」

 

 

 

それら全てを防いだ僕には何一つとして、届きはしない。

 

「なぁ、会話をしようぜ?久留井鏡夜(くるいきょうや)君?」

「ダマレ!その煩わしい声で話しかけるな!!」

「おいおい、元・師匠に対してそれはひどくねえか?たしかにお前の人生をダメにしたかもしれんが、そこまでかよ?」

「お前と話すことなどない・・・!」

「俺はあんだよ。まずお前から教え子の気配がするのはなんでだ?殺したのか?いや、お前程度に殺られるほどあいつらは弱くない。一体何が目的で接触したんだ?」

「話すことはないと、言ったはずだ!!」

 

そういって彼、鏡夜は僕に突っ込んでくる。

 

「だから、届かねえって」

 

鏡夜の斬撃を防ぐ。

 

 

防いだ、はずだったのだ。

 

だが、あいつの斬撃は僕に当たる前にはすでに切り傷が出来ていた。痛みもなく、違和感もなくできていた。そして防いだ後にも、もう一つ別の傷が出来ていた。

 

「・・・どういうことだ?」

「話すと思ってんのかよ・・・!」

「ごもっとも」

 

話している間にも激しい攻防を繰り広げる。しかし僕の身体には傷が増えていく一方だった。

 

(鏡夜の攻撃のカラクリはなんだ?空間?時間?因果律?切断の事象の付与?)

 

傷を〝再生〟で治しながらも、多くの仮説が頭の中を駆け巡る。そして一つの結論に達する。

 

(・・・・・・いや、何にしろ圧倒的な力でねじ伏せればいいのか・・・)

 

そう結論付けて実行しようと攻撃を仕掛けようとしたとき、

 

 

激しい雷鳴が鳴り響く。

 

 

僕と鏡夜の二人はほぼ同時に動きを止める。

 

「チッ、今はここまでか」

「・・・オマエは絶対にこの手で殺す・・・!」

「こっちのセリフだ、イカレ野郎」

 

「〝審判権限〟の発動が受理されました!〝The PIED PIPER of HAMELIN〟 は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に――――――――」

 

黒ウサギの声を聞きながら、僕らは戦闘を一度預けた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

僕は気配をたどって大広間まで来た。そこには十六夜やジン君、黒ウサギをはじめとした多くの人がいた。

 

「やあ、どんな感じだい?」

「・・・蒼奇。大丈夫そうだな」

「蒼奇さん!お怪我は!?」

「もう治したから平気だよ。他の人たちは?」

「・・・やはり被害が大きいです」

「そう。エリクサーを箱で置いて行くからよかったら使って。足りなかったら言ってくれれば追加するよ」

「はい、ありがとうございます」

 

そういって影から三箱ほど出した。

 

「・・・さっき、もう治したって言ったか蒼奇?」

「言ったけど、それがどうかした?」

「お前が全力でやったうえで怪我なんか負う相手だったのか?」

「「・・・!?」」

 

黒ウサギとジン君が十六夜の言葉に驚愕する。

 

「・・・初見だったからね・・・ちょっと遊んでたんだよ。まあ、油断していたのは否めないけどね。次はもう少し本気になるよ。それに付け加えるなら僕の耐久は人と変わらないし、子供でも僕を倒せるんだよ?前みたいに」

「・・・どんな相手だったんだ?」

「・・・シャレは無視かい?いや、いいけどね。・・・・・・僕の元・教え子だよ。危険思想を抱いていたから、ギフトを剥奪して破門したんだ。でも最初はそんな子じゃ、なかったんだけどね。たぶん、力に溺れたのかな・・・・・・だからこそ、僕がこの手で終わらせるよ」

「・・・そうかよ」

「じゃあ・・・少し気が立ってるから落ち着かせて来る。話し合いが始まる頃に呼びに来てよ」

「ああ、わかった」

 

大広間を出るとそのまま建物の外へ行く。そして建物の屋根へ上がる。

 

「ああ・・・腹立つ。次に戦うときは、全力で、即、殺す・・・!!」

 

鏡夜は危険だ・・・!――――――――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――第三次世界大戦が勃発する寸前まで世界を操っていたアイツは・・・!!

 

 

いや()が止めなければ確実に起きていた。

日本、アメリカ、ロシア、中国、EU。その周辺国や関係のない国もすべてを巻き込む歴史上最大最悪の戦争が確実に・・・!!

 

 

 

それから僕は黒ウサギが呼びに来るまで屋根でその時に鏡夜を殺しておかなかったことを後悔していた。

 

 

 

 

 

「ギフトゲーム〝The PIED PIPER of HAMELIN〟の審議決議、及び交渉を始めます、けど・・・蒼奇さんはなぜ魔王陣営にいるんでございますか!?」

「精神が安定しないんです。だから魔王ちゃんとネロの絡みを間近で見て和んでます。ホント情緒不安定なんで許してください。アイツが来ないっていうからここに来たんだからマジで勘弁してください。いや本当にお願いします。本当ならすぐにでもアイツを殺しに行きたいけど、この状況を見ることで抑えてるんだからさ」

「・・・は、はい、わかりました」

 

黒ウサギは僕の必死すぎるお願いが通じたのか、すぐに引き下がった。

今の僕はペストちゃんを膝にのせていて、さらにペストちゃんの膝にはネロがいる。

・・・うん、かわいい。前みたいに場所が場所だからとろけてはいないけどネロを撫でて微笑んでいる。

今度、レティシアやリリちゃんにもネロを渡して反応を見ようかな?

 

それからはかなり順調に話が進んでいった。それでもそこそこ横着しているけど。

日を跨ぎ再開は一か月後。そこに十六夜とジン君が待ったをかけてペストちゃんと仲間たちの名前を当てた。

それをペストちゃんが気に入り、一つの提案をする。

 

「蒼奇、ここにいる人たちが参加者側の主力かしら?」

「・・・なんでそれを僕に聞くのかな・・・?・・・まあ、そうだね」

「き、貴様っ!!それでもっ!!」

「僕が言わなくてもそこの、ヴェーザーさん、だっけ?その人にならバレてたと思うよ」

「・・・ああ、その通りだぜ」

「そう。なら、此処にいる人たちと白夜叉。それらが〝グリムグリモワール・ハーメルン〟の傘下に降るならそれ以外の人たちは見逃してあげるわ」

 

ふぅん?・・・ここら辺の交渉は僕の今の立ち位置じゃ無理だね。そこらへんはジン君に任せよう。

 

 

そこからは交渉により少しずつゲーム再開までの日数が縮まっていった。

マンドラが黒死病感染者を殺すと言い出した時は驚いたけど。

 

そして十日後まで縮めると、ジン君が勝負に出た。

 

 

「―――――――ゲームに期限を設けます。再開は一週間後でゲーム終了はその二十四時間後として、同時に〝主催者〟側・・・あなた方の勝利とします」

 

・・・!!大きく出たね。

 

でも好ましいよ、そういう大胆な決断ができる子は。

 

「ジン。貴方は一週間生き残れたら・・・私に勝てるつもり?」

「勝ちます」

「・・・・・・・・・そう、わかったわ」

「僕からも少しいいかいペストちゃん?」

「・・・何かしら?」

「ここに署名してほしいんだ。そっちの二人もね」

 

僕はギフトカードからボロボロの古びた本を取り出す。

そしてあるページを開く。人が見れば落書きにしか見えないようなものたくさん書かれているページだ。

 

「・・・これは?」

「君には言ったはずだよ。僕は君らが欲しいと。これはそれを成すものだよ。それで?署名してくれるの?」

「・・・ええ、いいわ。ヴェーザーにラッテンも書きなさい」

「ちょっ!?マスター!?」

「命令よ」

「・・・は~ぃ」

 

ペストちゃんはすぐに署名し、残る二人も渋々といった感じで署名した。

 

「ありがとうね」

 

 

「ええ。それじゃあ―――――――――貴方達は必ず私のものにするわ」

 

 

すると黒い風が吹き抜けペストちゃんたちは消えていった。そしてもうそこには黒い契約書類一枚しか残っていなかった。

 

 

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

・プレイヤー一覧

現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ(〝箱庭の貴族〟を含む)。

 

・プレイヤー側ホスト指定ゲームマスター

太陽の運行者・星霊、白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。

 

・プレイヤー側禁止事項

自決及び同士討ちによる討ち死に。

休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より500m四方に限る。

 

・ホストマスター側勝利条件

全プレイヤーの屈服、及び殺害。八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。

 

・プレイヤー側勝利条件

一、ゲームマスターを打倒。

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

・休止期間

一週間を相互不可侵の時間として設ける。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 

 

 

 




次も一週間以内の予定


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雑談&死合

あの後、耀が黒死病に感染していたことが発覚したから、すぐにエリクサーを飲ませた。ただでさえ病のせいで青い顔色が真っ青になったけど。

・・・クソ不味いもんね、エリクサー。・・・爆笑してごめんね?心の中で謝っておくよ、耀。でも無事に治ってよかったよ。今は元気に黒ウサギや十六夜と行動している。

僕は別行動でジャックを捜してる。

そろそろ話を聞いてみたい。気配をたどってはいるけど、なかなか着かない。・・・自由行動範囲外じゃないよね?

しばらく歩いているとジャックのカボチャ頭が見えた。

 

「すいません。そこのジャックさん?」

「ヤホ?」

「ん?誰だ?」

 

僕の声に反応してこっちを向く二人。

 

「初めまして。僕は〝ノーネーム〟の館野蒼奇。君たちと対戦した耀の仲間だよ」

「・・・それで?何の用だよ?敵討ちか?」

「アハハ、まさか。いやね、少しジャックに話があってね」

「ヤホ?私にですか?」

「うん。さっそくだけどさ以前にうるさい魔女っ子に会ったことは?」

「・・・なぜそれを私に?」

 

それを聞いたジャックは僕のことを少し警戒する。

やっぱり迷惑かけちゃってたのかな・・・?

 

「君から気配の残り香を感じたから。でもその返しをしたってことは知ってるんだよね?」

「それを聞いて、どうするつもりですか」

「・・・・・・あー、いや、そのー。・・・あの子は、迷惑をかけなかった?ほら、僕の教え子でもやんちゃな子だったんだ、あの子・・・」

「・・・ヤホ、ヤホホホホホホホホッ!!!そう!そうですか!あなたがミカさんが言っていた先生ですか!!」

「そうそうその子、鏑木ミカです」

 

異世界渡航魔女っ子こと鏑木ミカ。教え子の中でも突拍子のないことをやらかして周りに迷惑をかける人物だ。僕や教え子の多くは巻き込まれて多大な被害を受けている。

それに知らない人に迷惑とかは一番マズイ。

 

「それで迷惑などは・・・?」

「いえいえまさか!あの人にはウィラともども助けてくれた恩人ですよ!」

「・・・・・・ちなみにミカは僕のことをなんと?」

「彼女は『超厳しいけど超強くて優しい私の大好きな先生!』と言っておりましたよ」

「・・・そうですか。厳しいのに優しいってなんだ・・・?・・・ああ、聞きたいことはこれだけです。ごめんね、時間を取らせちゃって」

「いえ、良い時間でしたよ。ミカさんにも改めて礼をお伝えしておいてください」

 

ジャックに聞きたいことを聞いて満足した。

すると、アーシャが僕に話しかけてくる。

 

「お前、強いのか?」

「・・・人外から人外呼ばわりされるくらいにはね」

「・・・なんだそれ?よくわかんねー」

「今はそれでいいんじゃないかな?いずれ、いずれ分かるよ」

 

それを聞いたアーシャは疑問符を浮かべながらも納得したようだった。

 

・・・さて、一週間後か。・・・長く感じるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて、あの交渉からもう六日が経った。

・・・いよいよ明日、決着をつけられる。

・・・考えないようにしよう。気分が高ぶり過ぎて危険なことになる。

 

「・・・・・・はぁ・・・暇だな・・・」

「なら、俺を手伝わないか?」

 

突然僕の後ろから声が聞こえた。

僕が声のした方を向くと十六夜が立っていた。

 

「嫌だ。頑張れ。僕は極力手を出さないって言ったはずだよ」

「・・・ちっ、やっぱ無理か」

「・・・行き詰ったのかい?」

「ああ。もう少しなんだがな・・・」

 

むぅ・・・十六夜で行き詰るかぁ・・・。今回は大目に見ようか、今回だけは。次回からは僕抜きで頑張ってもらおう。

 

「・・・今回は初回だからってことで、仕方なくヒントはあげよう」

「あ?」

 

僕の言葉に十六夜は呆けた声を出す。

 

「白夜叉と時代。この二つについて考えなよ。これでも、出血大サービスもんだからね。・・・十六夜。僕を、失望させないでよ?」

「・・・・・・・・・はっ!そういうことかよ・・・!」

「解決したようだね?それなら、もし次に魔王と戦うときはゲームの謎解きは僕の手助けなしでやってよ?」

「・・・ああ、安心しろよ。俺は、いつかお前に勝ってみせる男だぜ?」

「・・・く、くははっ!いいね!・・・なら今度お試しとして戦ってみるかい?」

「それもいいかもしれないが、俺はそこまでお前を失望させるつもりはねえから遠慮しとくぜ」

 

それだけ言って十六夜は去っていった。

失望ねえ・・・?いまだに僕に勝った人はいないのに僕が何に失望するんだろう?

それでもやっぱり、まだまだかな?・・・でも、これからが楽しみだよ。

三人とも?せいぜい、僕を楽しませてよ?

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ゲーム再開の当日。

 

「其の一。三体の悪魔及び魔王の協力者の相手は〝サラマンドラ〟とジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟が対処する。

 其の二。それ以外の者は、各所にある一三〇枚のステンドグラスの捜索。

 其の三。発見した者は指揮者に指示を仰ぎ、ステンドグラスの破壊、もしくは保護すること」

「ありがとうございます―――――以上が、参加者側の方針です。魔王とのラストゲーム、気を引き締めて戦いに臨んで下さい」

 

おおと参加者達が雄叫びを上げる。

少しは士気が上がったかな?これで終わった時に死者とかが少なければいいんだけど・・・魔王とのゲームだし期待しない方がいいかな。

それよりも僕は自分のことに集中しよう。【暴食】を呼んで同化。

これだけで鏡夜の奴をどうにかできるかな?いや、どうにかしないといけないのか・・・。もし足りないようなら他にも呼んで同化を繰り返そうか。

 

「・・・もういっそのこと最初から全力で・・・いや、街とステンドグラスに被害が出る可能性が・・・」

 

そのようなことを考えているとゲームが再開する。それと同時に激しい地鳴りが起きた。

何事かと僕を含めた多くの参加者達が辺りの変化に驚愕する。

境界壁は消え、建物は尖塔のアーチが木造の街並みに。黄昏時のようなランプの煌めきはなく、パステルカラーの建築物が並んでいた。

これは、ゲーム盤か・・・?

 

「まさか、ハーメルンの街!?」

 

へぇ、そういうことか。ならステンドグラスだけ気にしてればいいか・・・。

気配は・・・。

 

「・・・見つけた。じゃあ、さっそく行くか―――――

 

 

 

 

―――――あのクズを殺しにっっ!!!」

 

そういってハーメルンの街を駆けていく。

 

 

 

 

~三人称視点~

 

 

 

(これは・・・誘い込まれてる・・・?いや、動いてないから単純に待っているだけか・・・?俺を正面から叩き潰したいのか?)

 

蒼奇はそういうことを考えながら街の中を移動していく。そしてついに鏡夜を見つけた。

 

「よぉ。わざわざ待っててくれたのか?」

「・・・肯定したくはないが、その通りだ。俺はお前と戦うためだけにあいつらに協力していただけだ」

「・・・へぇ?・・・まあ無駄話はそろそろやめにして・・・始めるか」

「・・・・・・」

 

僕は【暴食】の〝アバドン〟とブライトの二体と追加でゴーレムと同化して体の強度を上げる。

それに対して鏡夜は剣を構える。

 

そして、同時に飛び出す。

 

「「死ねっ!!」」

 

本来鍔迫り合うはずのない剣と拳が鍔迫り合う。以前のように蒼奇の身体に傷ができるが〝再生〟で治した。

 

「ちっ!面倒な野郎だな、おい!!」

「こっちのセリフだ!落第生君よぉっ!!」

「・・・っ!黙れっ!!」

 

そこから何度も剣撃と拳撃が交錯する。鏡夜の剣は蒼奇にすべて当たるが、皮膚の硬さに弾かれるか傷が出来ても即座に再生される。対して蒼奇の拳は鏡夜の身体に当たってはいるが、ダメージが入っているようには見えなかった。

 

「硬すぎだろうがっ!!」

「そういうてめぇはどういう体してやがるんだ!?ちったぁ痛がれよっ!!」

 

二人はそういいながらも攻防を続ける。

 

鏡夜が斬りかかり、蒼奇が剣を蹴りで弾く。

そしてそのまま回転してもう一度蹴りを繰り出す。

鏡夜はその蹴りを体を捻って避けると後退しながらナイフを投げて距離をとる。

 

蒼奇から離れた鏡夜は二人の間に業火で壁を作り、そのまま蒼奇の方へと壁を迫らせて来る。突然のことで蒼奇はそれを受けてしまった。

そして、炎の中からナイフが五本飛んできて蒼奇の周りの地面に刺さる。すると地面に刺さったナイフは光り出し、地面から蒼奇を拘束する鎖のような結界を形成した。

 

「・・・っ!?」

「・・・・・・捕まえたぞ・・・」

 

蒼奇は抜け出そうと必死にもがくが抜け出すことはできなかった。鏡夜は蒼奇がしっかり拘束されたのを確認すると持っている剣とは別の剣に持ち替えた。

 

「・・・動けねぇよなぁ?お前用に考え抜いた結界だ。そう簡単に抜けられる訳ねぇよ。それとこの剣には〝不死殺し〟と〝空間切断〟、〝斬撃転移〟が付いてる。いくらお前でも防げないはずだぜ」

「・・・・・・っ・・・!」

 

蒼奇は悔しそうな顔を見せる。鏡夜はその顔を見るとにやりと笑い、ゆっくりと近づいてくる。

 

「こんなにもお前が弱いとは思わなかったぜ?・・・でも、ずっと、ずっとお前を殺せる日を、越えられる日をずっと待っていた。そうしたら俺は最強へとなれる!そして、ついに今!お前を殺し!俺は!最強となる!お前の次は弟子どもだ!このゲームに参加しているあの三人も!此処にはいない数百人の弟子も!全員殺して俺が頂点になる!!」

 

鏡夜は言い終わると蒼奇に不死殺しの剣を振り下ろす。

 

しかし、

 

 

 

 

「・・・やっぱ、雑魚だな」

 

 

 

 

 

蒼奇の声が響くと鏡夜の持つ剣が消滅する。それどころか蒼奇を拘束していた結界すらも消え失せる。

突然のことに鏡夜は驚き、硬直してしまう。

そして、蒼奇は自由になった腕で固まっている鏡夜を掴み、持ち上げる。

 

「ひっ!?」

 

鏡夜は怯えて、引きつった声を上げる。

 

「〝不死殺し〟?今の俺は不死じゃないし、たとえ〝不滅〟を使っていたとしても不死殺しは効かない。なぜかってか?簡単だ。〝不死〟じゃなくて〝不滅〟だからだ。〝不滅〟は〝不死殺し〟すらも凌駕して不老不死であろうとするようなイカれたギフトだ。それと俺がいつ本気だといった?てめぇに俺は召喚獣を二体しか使っていないんだぞ?俺の教え子たちなら戦闘系なら最低でも十体、生産系でも最低でも三体は引っ張り出してくる。その時点でてめぇは俺どころか教え子にすら劣っているんだよ。それに結界?こんな粗末な結界ぐらい本来なら引っかかることもねぇよ。今回はてめぇの奥の手や切り札を出させるために、わざと引っかかってやったけどよぉ。もっと頑張れや。教え子なら余裕で俺を一分は拘束できるぐらいのなら作れるんだよ。それに今回はあの謎の斬撃もわざわざ受けることもなかったしよぉ。油断させるために受けたんだぜ?俺を傷つけられて少しは気分が良かったか?・・・それで、どうだ?てめぇの手も策も、すべてを潰された気分は。本当なら会って速攻で殺してもよかったんだぜ?それをわざわざ猶予を与えやったんだから、感謝しろよ?」

 

鏡夜は怯え切った表情をしているが、最後の抵抗を講じた。

鏡夜の身体が突然、淡い橙色に光りだす。鏡夜はそのことを確認すると突然笑い始める。

 

「ハ、ハハハハハッ!!これでこの街にいる奴らもステンドグラスも終わりだ!!俺の身体は今、核に匹敵する爆弾に変わった!!ここで爆発したらステンドグラスは粉々になってゲームのクリアは―――」

「言ったはずだ。すべて潰した、と。喰らえ、【暴食】」

 

するとルイオスのチョーカーのように光が弱くなり、最後には消えた。

 

「・・・・・・は・・・?」

「冥途の土産に教えてやる。俺が今同化してるのは【暴食】のアバドンのギフト〝暴飲暴食〟と身体特性。そして【植物人間】のブライトの〝再生〟だ。今の現象は〝暴飲暴食〟によるものだ。このギフトはなんでも喰らう。ギフト、概念、事象、物体など。さっきの剣が消えたのもこれだ。そして今回は『お前が爆発する』という事象を喰らった。・・・さて?奥の手はこれで全部か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

鏡夜は完全に絶望しており、抵抗する気は消え失せていた。

 

「ないみたいだな?・・・じゃあ、そうだな。最後に言い残したいことあるか?元・弟子ってことで特別に許してやるよ」

「・・・・・・俺は・・・・・・たかった・・・」

「・・・あ?」

「俺は、あなたみたいになりたかった・・・」

「・・・・・・は・・・?」

 

蒼奇は突然、鏡夜の自分への二人称の呼び方の変化と突然の告白に驚く。

 

「あなたみたいに、強く、なりたかった・・・そして、みんなに慕われ、みんなを守れるような・・・そんな存在に・・・なりたかった・・・」

「・・・なら、お前は道を間違った。第三次大戦なんてことを目論まなければ、今頃はそんな存在には、なれていたはずだ」

「・・・俺も、するつもりはなかった・・・でも、何かが俺を、僕を、そういう風に、させたんです・・・耳元で何かが囁いて、しなきゃいけないと・・・思ってしまって・・・」

「・・・・・・そうかよ。でも・・・これでさよならだ」

 

 

 

 

 

そういって、蒼奇は鏡夜を、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

~今日の分身その2!~

 

 

 

「・・・皆さんが出かけてから、もう一週間ですね」

 

「そう、だね。それがどうかしたの?リリちゃん」

 

「・・・お祭りを、楽しんでるんでしょうか?」

 

「・・・そ、そうかもしれないね」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・(き、気まずい・・・。だからといって、魔王とゲームしてるなんていって心配かけたくないし・・・)・・・こ、こんなに長く満喫してるなら、おみやげ、期待してようか」

 

「・・・そうですね」

 

祭典に行った六人を羨むリリを慰める蒼奇であった。

 

 

 

 




次も一週間以内には


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勝利&後日

一週間以内と言っていましたが、GWなので投稿します!







蒼奇は鏡夜に勝利してから休んでいると数時間ほどで、黒い契約書類が光って、参加者側の勝利を告げた。

そこからは祭の続きのためにゲームの後片付けを全員がはじめた。

その後の二日間は誕生祭の続きやゲームの祝勝会などで終日大盛り上がりだった。

 

「・・・みんな、楽しそうだねぇ」

「おい。隣いいか?」

「いいよぉ、十六夜」

 

蒼奇に声をかけ、隣に座る十六夜。

 

「どうかしたのかい?」

「いや、一つ聞きたくてな」

「くふふっ、今は気分いいから一つじゃなくてもいいよぉ?」

「・・・酔ってんのか?」

「ほろ酔いってところかなー。泥酔まではいってないよー?それに、今日はもう飲むつもりはないよ。二日酔いが怖いしね。・・・それでー?本題は?」

「・・・あいつを殺さなくてよかったのか?」

「・・・・・・・・・」

 

蒼奇は先ほど、マンドラとした密会を思い出す。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 蒼奇はある人物を連れてマンドラの執務室へ向かって歩いていた。すると途中で十六夜と遭遇した。

 

「あれ?十六夜もマンドラに用があったのかい?」

「・・・ああ。それで、後ろの奴は?」

「ああ、彼かい?彼はシン。ほら、挨拶して」

「は、初めまして。シンと言います。一人でいるところを蒼奇さんに保護していただきました」

「・・・そうか。・・・あとで聞きに行くからな」

「だと思ったよ。じゃあ、あとで」

「ああ」

 

そういって蒼奇とシンは十六夜と別れた。改めてマンドラの執務室にむかって歩いていく。

少しすると執務室のドアの前に着き、コンコンとノックをする。

 

「入れ」

「失礼しまーす」

「し、失礼します」

 

蒼奇とシンは部屋に入る。

 

「・・・なぜそいつがいる?」

「あー、その、突然だけどさ。彼を、雇わないかい?契約で君とサンドラの命令以外では他者を殺せないようにはしてるからさ」

 

 

「・・・だがっ!?・・・そいつは魔王に協力していたものなのだぞ!?」

 

 

そう。シンとは蒼奇が【暴食】によって記憶を喰らわれた久留井鏡夜のことなのだ。

 

「・・・その節は、本当に申し訳ありません」

 

シンは本当に申し訳なく思い、素直に謝罪して頭を下げる。

 

「記憶はないし、契約によって安全だよ。そのうえ彼はほとんど姿を見られていないから魔王の仲間とも思われないよ。もしバレても隷属させたって言えばいいんだし。そんなに心配ならこの契約書を見てよ」

 

蒼奇は一枚の紙を出してマンドラへ渡す。

 

『契約書

 

・シンこと久留井鏡夜はサンドラもしくはマンドラの命令は絶対に逆らうことも破ることもできない。

・シンはサンドラもしくはマンドラの命令以外では他者を殺す事を禁ずる。

・上記二つを破った場合はシンに激痛が与えられる。

 

シンはこの契約書に同意し、承諾したものとし、ここに契約を成立させます。

 

〝館野蒼奇〟印』

 

紙にはそのような内容が書かれていた。

 

「・・・」

「どうだい?悪くないだろう?何かあったら、すぐ僕に連絡できるギフトも渡しておくし」

「・・・この内容は絶対なんだろうな?」

「絶対だよ」

「・・・・・・わかった、いいだろう。〝サラマンドラ〟で雇わせてもらう」

「・・・!!ありがとうございますっ!」

 

マンドラはシンを雇うことを承諾し、話はまとまった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

蒼奇は鏡夜の記憶、そして悪意を【喰った】だけで命までは奪わなかった。まだ裏にシンを洗脳していたものがいると判断したからだ。しかし、記憶を覗いても、その正体はわからなかった。その部分だけが記憶からきれいに消えてしまっているのだ。

 

「・・・よかったんだよ、これで。まだ彼は元の道に戻れると、そう判断したから」

「・・・そうか」

「それに剥奪したギフトも返すついでに別のもさらに貸し与えたから、また操られる心配もない」

「へえ?どんなギフトをやったんだ?」

「流石に秘密だよ。いずれゲームであたるかもしれない相手の情報なんて、与えないよ。知りたかったら自分で調べるなり聞くなりしなよ」

「・・・ヤハハ!それは楽しみだな!」

「くははっ・・・そうそう楽しみにしてなよ。今度はこういう魔王のゲームじゃなくて、ちゃんとした公式のゲームなんだからさ・・・」

 

それを最後に十六夜は蒼奇から離れて行く。

 

そして、蒼奇はシンに貸し与えた二つのギフトを思い返す。

 

 

 

 

 

不干渉(ドント・タッチ・ミー)〟と〝信念継承(マイ・ジャスティス)

 

 

 

 

 

〝不干渉〟は他者からの影響を一部例外を除いて無効化するギフト。例外とは自身が同意して契約したものだけは無効化することはできない。これによって、シンが洗脳される心配はない。

 

そして〝信念継承〟。このギフトは自身の抱いてた志を忘れず、それを成そうとするギフトだ。シンの場合は洗脳時は第三次世界大戦の勃発だったが、蒼奇が悪意と洗脳の概念を【暴食】により喰ったので、今は鏡夜が最後に漏らした本音、みんなに慕われ、守れる存在になるという思いにこのギフトは作用している。

 

さらに蒼奇はシンの記憶をなくしたが、自身のギフトや箱庭について最低限必要な知識は逆に植え付けていた。これでこの先で困ることはないだろう。

 

一つを除いて。

 

 

「あいつ・・・生活能力ゼロだけど、平気かなぁ?」

 

 

シンは体は鏡夜、というよりは洗脳される以前の鏡夜に戻った状態なのだ。したがってその頃の鏡夜が出来なかったことはシンにもできないのだ。

 

「・・・・・・あとでマンドラに連絡して伝えとこうか」

 

ちなみにシンの生活能力は豪邸を一日でゴミ屋敷にするレベルだと言っておこう。

 

 

「・・・とりあえず、シンを裏で操っていた奴を捜し出さないとな・・・駒はあと何人いる?一体誰が?そいつは魔王なのか?強さは?・・・そこらへんの情報も集めないといけないか・・・」

 

蒼奇は考える。黒幕のことを。情報の集め方を。

 

「・・・情報は他のコミュニティに頼む?・・・いや危険が大きすぎる。逆に駒にされるな。・・・白夜叉?・・・視野には入れておくか。・・・こうなったら教え子を何人か拉致って手伝わせるか?・・・やめよう、箱庭が崩壊する。・・・やっぱり、自分でやるしかないか・・・そうなると、必然的に〝ノーネーム〟が巻き込まれることに・・・それについては最善の注意を払うことにしようか」

 

蒼奇は仲間たちをもしも巻き込んで死なせてしまわないようにしようと心に刻んだ。

 

 

そして、黒幕は絶対に殺すとも。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ああ、彼はやられたか」

 

とある場所で一人の男が呟く。辺りは暗く男の姿はよく見えず、声だけが響く。

 

「でも、まだまだたくさんいるし一人ぐらいはどうでもいいか。それに彼は失敗作だ」

 

男はそういうとある方向を向く。そちらには―――――

 

 

 

「彼、館野蒼奇は自身の教え子相手に、どう戦うのかね?」

 

 

 

―――――数十人もの人が眠らされて床の上に並べられていた。

 

 

 

 

 

「ああっ、楽しみだ!彼は一体どういう表情を見せてくれるのだろうか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~今日の分身その3!最終話だよ!~

 

 

「・・・・・・」

 

「(り、リリちゃんが暗い!?そんなに羨ましかったの!?)・・・り、リリちゃん?ど、どうかしたの?」

 

「・・・買い物に行った時に北側で魔王が現れたと聞いたんです。・・・皆さんは、大丈夫でしょうか?」

 

「あ、さっき無事に勝ったって本体から連絡あったよ」

 

「え?」

 

「え?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「え?」

 

「いや、勝ったって連絡あったって」

 

「「・・・」」

 

「え?」

 

「いや、だからね―――――」

 

蒼奇とリリはそんなやり取りを彼女の理解が追いつくまで、しばらく続けていた。

 

 

 

 

 

 




正直GWの存在を忘れていました。

とりあえず明日も投稿します!

とはいっても、次話は三巻の突入前の閑話ですが・・・。


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閑話
閑話1~美少女剣士の来訪1~


〝黒死斑の魔王〟のゲームが終わり本拠に戻った翌日。蒼奇は契約を上書きして手に入れた三人。ペスト、ヴェーザー、ラッテンを召喚して契約内容について話していた。

 

「一つは基本的に自由。コミュニティの仲間たちさえ傷つけなければいいよ。十六夜と戦っても、飛鳥をからかっても、ペストを愛でてもかまわない」

「「わかったぜ/わかったわ」」

「待ちなさい」

「「「なんだ?/なんです?」」」

「私を愛でるっていうのはどういうことよ?」

「「・・・?かわいいものを愛でるのは当然のことでしょ?」」

 

蒼奇とラッテンは声を合わせて言い放った。

 

「だからそれg「とりあえず二つ目話すよ」言わせなさいよ!」

 

蒼奇はペストの文句を遮って契約内容の二つ目について話す。

 

「君らはこの本拠の防衛をしてほしい。公に対魔王コミュニティって名乗ってるし、実績もできたからね」

「「了解」」

「ちょっと?無視しないでくれない?」

「あとでかまってあげるから少し黙ってて」

「・・・・・・むぅ」

 

ペストは蔑ろに扱われ、これ以上言っても無駄だと判断して押し黙る。

 

「三つ目は僕とリーダーのジン君の命令は絶対。これで全部だよ。君らは基本出しっぱなしにするからよろしく」

「「「ああ/ええ」」」

 

蒼奇は三人に一通り話し終えて一息ついた。三人はそれを聞くと部屋から出ていこうと立ち上がりドアへ向かう。

 

「・・・今日は比較的平和だね。・・・でも、平和って長く続いた記憶がないんだよなぁ・・・」

「・・・・・・ちょっと?」

「ん?」

 

蒼奇が声の方を見るとまだペストがそこにいた。

 

「あれ?まだ居たんだ。どうかしたの?」

「・・・施設の紹介ぐらいしてほしいのだけれど?」

「・・・・・・・・・そうだね。それじゃあ、案内するよ」

「~~~~~~♪」

 

ペストは施設の案内をしてほしいと言っているが、どうやら蒼奇にかまってほしくて律儀に待っていたようだ。返答を聞いたペストは上機嫌で蒼奇の前を歩いていく。もちろんその腕にはネロを抱いている。

そこからは屋敷や工房を案内したりし、畑を見に来たときにペストが聞いてくる。

 

「・・・小麦はないのかしら?」

「・・・・・・視野には入れてる。でもこのコミュニティって米派が多いんだよね」

「・・・そう」

「いずれは僕が貸してもらっている場所で育てて、パンでも作ろうかとは思ってるけどね」

「・・・・・・それなら小麦が実ったら見せてほしいのだけれど・・・」

「さっき言ったはずだよ?基本的には自由だって」

「・・・ふふっ、そうだったわね」

 

ペストが嬉しそうに薄く笑う。

そして蒼奇が本拠の出入り口の方面を案内しようと近づいた、その時。

 

「・・・・・・・・・っけたぁぁぁぁ・・・・・・」

 

どこかから少女のような声が聞こえた。すると蒼奇が突然、張り詰めた雰囲気へと変わる。

 

「・・・ペスト、影に入るか全力で離れろ」

「え?ど、どういうこと?」

「いいから。死にたくなければ選べ」

「・・・影に入らせてもらうわ」

 

ペストはそう言われて影の中の方が安全と判断したのかネロと一緒に影に入り込む。それを確認した蒼奇は召喚獣のリィナを筆頭とした妖精たちを呼び出す。

 

「リィナ。妖精たち総動員で結界を張ってくれ。余波でできるだけ被害は出したくない」

「はい、わかりました。・・・頑張ってください」

「ああ」

 

蒼奇は妖精たちが本拠に結界を張るのを確認すると召喚獣たちと同化を始める。

 

青鬼に〝個群奮闘(個にして群、群にして個)〟を使わせて手始めに百体と同化する。

 

〝個群奮闘〟は青鬼を無限に召喚できるギフトだ。しまっちゃうおじさんの〝増殖〟に似てるかもしれないが少し違う。しまっちゃうおじさんの〝増殖〟は召喚してから増える。しかし、青鬼の〝個群奮闘〟は召喚していなくとも多数存在しているのだ。そうやって蒼奇は青鬼すべてを召喚して身体能力を同化させて人外へと昇華している。

 

それに加え、アースと身体能力を同化、ブライトとは〝再生〟を同化して得る。そこからさらに鬼やゴーレムとも身体能力や硬度を同化する。

 

そして同化が終わるとちょうど先ほどの声がまた聞こえた。

 

 

 

 

「見つけたああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!このクズ師匠おおおぉぉぉぉ!!!!!!」

 

「うるっせぇんだよ!!!このアホ弟子がぁ!!!!!!」

 

 

ドガアアアアァァァァァァァァン!!!!!!

 

 

黒髪の少女の剣と蒼奇の拳が交わり、とてつもない衝撃波と爆音を生み出した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ドガアアアアァァァァァァァァン!!!!!!

 

 

「な、何事でございますか!!?」

「さぁな。蒼奇がなんかしたんじゃないか?」

「うん、きっとそう」

「そうね。彼ならできるわ」

 

黒ウサギ、十六夜、耀、飛鳥は四人で集まりお茶を楽しんでいたが突然の爆音と衝撃で黒ウサギが驚く。

 

「そういって蒼奇さんじゃなかったらどうするんですか!?」

「・・・・・・それもそうだな」

「・・・・・・一理ある」

「・・・黒ウサギにしてはまともなことを言ったわね」

「「ああ/うん」」

「あーもう!!早く行きますよ!!!」

 

四人は音のした方へと向かっていく。

するとそこにはヴェーザーとラッテンがすでにいた。二人も音を聞いて駆けつけたのだろう。

 

「よぉ、お二人さん。なんの騒ぎだ?」

「「・・・・・・・・・」」

 

二人はただ一点を見たまま固まっている。その顔には冷や汗が見える。それが気になった四人は二人の見ているものに目を向けた。

 

 

 

「死ね!早く死ね!!疾く死ね!!!」

「死ね死ね、うるせぇなぁ!!もっと他の言葉も使ったらどうだ!!?このバカ弟子!!!」

「・・・殺す!!」

「ボキャブラリーが少ねぇんだよ!!」

「うるさいうるさいうるさい!!!とりあえず師匠は死ね!!!修行つけてもらおうと思った途端消えちゃってさあ!!!!!」

「んなもん、自分で頑張るって言いだしたお前の責任だろうが!!!!!」

「黙れ人外!!!!!!」

「お前もその域に九割入ってることに気付けよ!!!!??」

「えっ!!?ホント!!!???」

「喜んでんじゃねぇよ!!このドアホッ!!!!」

 

 

 

お互いに罵詈雑言をぶつけ合って剣と拳で打ち合っている蒼奇と少女がいた。

 

ただしその光景は普通じゃなかった。

 

余波で地面は抉られており直撃したらどうなるかは予想できない。

 

また二人の動きは速く、六人の目ではまったく追うことはできない。

 

そして何よりその戦闘の中であれだけ言葉を交わす余裕があるということだ。

 

それはつまりまだ二人は本気ではないということを意味している。

 

 

 

「・・・こ、これは一体・・・?」

 

黒ウサギが驚きで疑問を漏らす。それに先客のヴェーザーが答えた。

 

「さぁな。俺らが来た時にはもうすでにあんな感じだ・・・だが話を聞いてる限りじゃ、あいつらは師弟関係だろうな」

「へぇ?じゃああれが蒼奇の教え子の一人か。・・・ヤハハ、とんでもねぇな・・・!」

「・・・うそ。教え子全員あのレベルなの・・・?」

「・・・私達、とんでもない人に目を掛けられたのね・・・」

 

ヴェーザーの言葉に改めて三人が状況を認識する。

 

「で、ですが止めないと・・・!?」

 

そんな中、黒ウサギは蒼奇と少女の戦闘行為を止めようとするが、

 

「「そこのウサギィ!!邪魔するならお前から潰すぞ!!!」」

「・・・・・・うっ・・・」

 

動く前に蒼奇と少女の二人に一喝されて、あえなく撃沈される。

 

「止められないならどうすれば・・・?」

「「そこで待ってろ!!!すぐに終わらせる!!!・・・ああ!?弟子が嘗めたこと抜かしてんじゃねぇぞ!!!!!!(師匠が弟子を嘗めんな!!!!!!)」」

 

そこから戦闘はより一層激しくなり音も衝撃も強まった。

 

そして六人が待つこと五分。

 

「そろそろ・・・やめろ!!!」

 

蒼奇が少女の頭を蹴って地面に叩きつける。

 

「うぐぅ!!?・・・・・・」

「・・・満足したかよ?」

「うう・・・は、はい・・・憂さ晴らしが出来てすっきりしました・・・」

「じゃあ帰れ」

「わあっ!?待って!!他にもちゃんとした用事があるから!!」

「・・・・・・チッ、わかった。とりあえず中に入れ。リィナたち、結界を解いて戻っていいぞ。あとでお礼を持っていく。さてと中に・・・ああ、その前に他の奴らに挨拶していけ」

 

蒼奇と少女は六人に歩み寄り少女の紹介をする。

 

 

 

「お前らに紹介しとく。俺の戦闘系の教え子の中では()()()()柊里桜(ひいらぎりお)だ」

 

「柊里桜です!師匠の弟子の中では一番新人ですが、よろしくお願いします!」

 

 




次は土日に投稿予定。


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閑話2~美少女剣士の来訪2~

 それから八人と影の中から出されたペストとネロ、そして遅れてやってきたメイド服姿のレティシアを加えた十一人は談話室へ集まっていた。

 

「・・・先にそこの八人。聞きたいことがあるなら先に聞くが?」

「・・・じゃあ」

 

 蒼奇がそのように促すと耀が口を開いた。

 

「・・・その柊さんは、」

「里桜でいいよっ!」

「・・・里桜さんは蒼奇の教え子の一人ってことでいいの?」

「ああ、そうだ。以前から話している通り、たくさんいる教え子の内の一人だ」

「・・・それで、里桜さんはその中で一番弱いっていうのは・・・?」

「それについては少し訂正しよう。正しくは戦闘系の中では、だ」

「・・・?」

「俺は才能のあるやつを見つけては育ててきた。戦闘の才能、生産の才能なんかは関係なしにな。その中で戦闘の才能を開花させてきた奴らを戦闘系と呼んでいる。さらに言えば教え子の中で大まかな順位付けをしている。その順位付けは戦闘系、生産系関係無しにつけられている。上から上級、中級、下級と分けられていてその中にさらに上位、中位、下位と分けられる。それでいうと里桜の順位は中級の中位、ど真ん中だ」

「ちなみに下級は三百人弱。中級は五百人強。上級が三百行くか行かないかぐらいです」

「・・・そんなにいたっけか?」

「はい、師匠が覚えてないだけでいます。それに今は上級の上に師匠級ってできましたよ。まだ一人しかいませんが」

「・・・ああ、もしかしてそいつって中二病剣士か?」

「はい。あの人が変わらずトップです。やっぱりちょっと納得いかないですけど・・・」

「納得しておけ。あいつの発想の勝利だ。さて話を続けるが、下級と中級の下位はもちろん全員が生産系だが、決して弱いわけではない。ここにいる七人が束になってもかなわないほどの実力を有している。それに生産系でも上級に位置づけられている者も多くいる。もちろん相性なんかもあるだろうがな」

「おいおい、生産系にすら劣るのか?俺らは」

 

 十六夜が文句あり気に言う。しかし蒼奇はすぐにそれを肯定する。

 

「ああ。お前らは自身の身体を毒にして襲ってくる薬師や料理を化け物にして攻撃してくる料理人を相手どれるか?そのうえ今言った二人は転移や音速で移動するんだぞ?」

「・・・ははは、マジで新しいマスターの周りは化け物ぞろいかよ・・・?」

「ああ。俺がそういう風になるように育てたからな」

「・・・あの、それで私の用件は・・・?」

 

 そこで里桜がおずおずと声を上げる。

 

「・・・ああ、そうだったな。話せ」

「はい・・・。その、私たちの世界にある師匠が開いたと思われる世界門を閉じてほしいんです・・・」

「その世界門というのは?」

 

 飛鳥が疑問の声を上げる。その疑問に里桜が答える。

 

「世界門というのはまんま世界から世界へ渡る扉のことです。正確には世界の(ひずみ)らしいですが。まあ、それを人工的に造る技術を師匠が生み出して何人かの弟子に継承させたものです。しかし、閉じれるのは開いた本人しか・・・。それで今私の世界には謎の世界門が開いていまして・・・。開けられる人全員に尋ねたんですけど誰も開いていないっていうのでてっきり師匠かと・・・」

「・・・・・・いや、俺は開いても使い終わったら絶対に閉じているから、それはない」

「じゃあ誰が・・・?」

「・・・俺ら以外、ってことだな。他には何か異変はなかったか?時期とかは?」

「それが確認されたのは師匠が消えてからです。それから下級の人たちが少しずつ行方不明になっていって、いま上級の人たちが鋭意捜索中です」

「・・・無駄だろうな。おそらく行方不明の奴らはもうその世界にはいないだろう。世界門を使って異世界に拉致されたと思われる。今無事な下級の奴らはどうしてる?」

「上級と中級上位の人が常に護衛についてます」

「そうか・・・念のために中級の奴らにも一人ではなく二人か三人で行動するように伝えろ。護衛についてる奴らにもな。それと他人の開いた世界門の閉じ方だ。開けられる奴ら全員にバラまけ」

 

 蒼奇は影から一冊のノートを取り出し、手渡す。

 

「・・・師匠は来ないんですか?」

「やることがある。・・・と思ったが、お前に一つ提案がある。・・・それに乗るなら俺が直々に行ってもいい」

「・・・何ですか?」

「まあちょっと待て。おい黒ウサギ。ジンをここに連れてこい」

「え?は、はいなのですよ!」

 

 蒼奇は黒ウサギにジンを連れてくるように頼む。

 

「一体、何なんですか・・・?」

「来たら話す」

 

 里桜が疑問を投げかけるが蒼奇はそれを制した。

 そして数分後。黒ウサギがジンを連れて戻ってきた。

 

「お待たせしました!」

「黒ウサギ?急に来てほしいって一体・・・」

「・・・ショタキタコレー!!」

 

 里桜はジンのことを認識すると音速で近づき抱きしめる。

 

「えっ!?ちょっ!?」

「はぁはぁ、いい感じのショタだぁ~クンカクンカ!」

 

 里桜は戸惑うジンを押さえ込み好き放題する。

 

「・・・なぁ蒼奇」

「どうした?十六夜」

「あいつって、」

「ショタコンだ。とびっきりのな。ショタに性癖を合わせるぐらいの行き過ぎたショタコンだ」

「・・・なんで御チビに会わせた?」

「これから話す」

 

 そう言って蒼奇は里桜に話しかける。

 

「さて提案なんだが・・・ソイツの護衛としての「受けます!受けさせてください!!むしろ受けさせろ!!!」

契約を・・・わかった。じゃあ早速契約に移ろう」

 

 蒼奇は里桜の気迫に押されながらも契約書を作成する。

 

『契約書

 

一つ、柊里桜は契約によりジン=ラッセルの護衛となる。

二つ、柊里桜は護衛対象であるジン=ラッセルの命令は絶対である。

三つ、柊里桜はジン=ラッセル以外の子供に接触することを禁ずる。

 

柊里桜は上記の内容に同意したものとし、契約を履行することを此処に誓う。

 

〝館野蒼奇〟印』

 

 

「・・・・・・・・・・・・!!?」

「ん?どうしたんだ里桜?」

 

 そう尋ねる蒼奇の口角は明らかに上がっていた。

 

「何ですか三つ目の内容!!?聞いてませんよ!!??」

「言ってないしな」

「いやいやいや!!やっぱ無し!!無しですよこんなの!!」

「契約内容を言う前に『受けさせろ』と言ったのはそっちだろ?俺に責任はない」

「うっ・・・」

「それに一体何度、猥褻容疑で捕まっては俺を警察署に呼ばせる気だ?これを機に少しは自分の行動を反省しろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「わかったな?」

「・・・はい」

 

 蒼奇の言葉に力なく返答する里桜。

 

「でも!!今の私にはジンきゅんがいるもん!!!!」

「ジンには申し訳ないが生け贄になってもらう。ジン、悪いが命令でどうにか縛ってくれ」

「わかりました。正座してそのまま動かないでください」

「と、突然の裏切り!?」

「「もとより味方じゃない」」

 

 蒼奇とジンは声をそろえて里桜を一蹴する。その言葉に里桜はしょんもりと沈んだ。

 

「それと里桜。お前を腕輪と同化させておく。これで腕輪と人とを自由に変化できるからな」

 

 蒼奇は無骨な腕輪を里桜と同化させる。

 

「じゃあ、そろそろ行ってくる。その間は本拠を頼む」

「「「「「ああ/ええ/うん」」」」」

 

 問題児三人とヴェーザーとラッテンは返事をした。

 

「黒ウサギ、俺がいない間は頑張ってくれ」

「は、はい・・・」

 

 黒ウサギはこれからのことを考えたのか、少々元気がない。

 

「できるだけ早く帰ってくる。それじゃあな」

 

 蒼奇は最後にそういって姿を消した。

 

「・・・おい、里桜」

「はい?何ですか?」

 

 十六夜が正座のままの里桜に尋ねる。

 

「・・・実際、蒼奇はどれぐらい強いんだ?」

「ん?・・・うーん?私は師匠の本気を見たことがないですから、何とも言えませんけど・・・師匠が言うには、本気でやるなら絶対に壊れない世界を創らないといけないから面倒だ、と言っているのを聞いたことがあります」

「・・・世界を・・・創る?」

「はい。師匠は世界を創ってそこで中二病さんと殺し合ってるそうです」

「・・・さっきから中二病さんや中二病剣士と言っているけど、一体誰なの?その人が一番強いのはわかるのだけれど・・・その、名前とかは?」

「えっと・・・・・・・・・山田・・・・・・さんです」

「はい?」

「・・・ああもう!山田✟黒炎の竜騎士(ダークフレイム・ドラグーン)✟さんですよ!!」

「・・・・・・本名なのか、それ?」

「・・・そう、らしいです。師匠もそれはないだろうと思い、出生記録と戸籍を調べたら本名だったそうで・・・」

「・・・本人は・・・中二病なの?」

「いえ、今はいたって普通です。強さと名前以外は弟子の中では珍しいほどの常識人ですよ」

「・・・今は?」

「やはり名前のせいなのか、中二病に一時期なってしまいまして・・・ですが、その時期にすでに師匠の弟子だったので技の数は中二的発想によって急激に増え、強さに拍車がかかったそうです」

「「「「「・・・」」」」」

「そいつが今の弟子最強かよ・・・」

「私は納得いかないです」

 

 談話室の空気は何とも言えないものとなってしまい、そのまま解散となってしまった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・え?・・・あ、あの?正座をやめさせてほしいんですけど?あの、誰かー?ちょっと?ホントに誰か!?足が痺れてきたんですけど!?ホントに誰かいないの!?誰かー!ヘルプミィー!!!」

 

 

 

 

 その後、里桜は翌朝まで放置され、しばらく自身の足を押さえて悶えていた。

 

 

 




次は一週間以内には!


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閑話3~蒼奇の里帰り~

ミスって投稿しちゃったけど削除するのも失礼な上、めんどくさいのでこのまま放置!

とりあえず最新話です!






 元の世界へと帰ってきた蒼奇は世界各地にある世界門を探し出しては【暴食】を使用して、一つ残さず喰いまわっていた。

 そして今、最後と思われる世界門を喰った。

 

「・・・よし。これで全部か?・・・それにしても、これだけ喰ってもまったく情報が得られないとはな・・・」

「・・・・・・・・・あー!!先生、いたー!!」

「・・・・・・・・・あぁ。また面倒な奴が・・・」

 

 蒼奇の後ろにストレートで金の長髪を持つ少女が現れて大声を上げる。

 

「世界各地にできてた世界門、師匠の仕業でしょ!?アレのせいで私達迷惑して―――――」

「ストップだ。それについて話をしに来た。まずは各地の世界門は俺のじゃない」

「えーうそだー!あんな数開けるのなんて師匠ぐらいじゃん!」

「だから話すと―――――」

「あ、それよりさー!」

「・・・話を、聞け!!」

「みぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ついに蒼奇は我慢の限界がきて少女にアイアンクローをかける。少女は両手で必死に蒼奇の手を引きはがそうするが微動だにしなかった。

 

「俺は!なんと!言った!?さっき!話に来たって!!言ったよなぁ!!!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!!?頭がつぶれるから放してぇぇぇ・・・・・・」

 

 少女の語尾が小さくなると抵抗していた両手が力なく垂れさがる。

 

「・・・起きろ」

「ごっふぇいっ!!」

 

 蒼奇は頭を手放して少女を地面に落とす。ただし顔面から。

 

「ヒドくない!?女性の顔を傷つけるなんて!?」

「鏡見ろ。ケガなんざしてないだろうに。上級に属するお前がその程度で傷なんぞつくかよ。なぁ、鏑木ミカ?」

 

 この金髪の少女はあの鏑木ミカだ。ジャックとその製作者であるウィラ=ザ=イグニファトゥスが恩人と呼ぶ人物だ。

 

「それでも常識ってものがさぁ!!」

「それよりも他の奴らは?緊急事態だ」

「・・・もしかして先生、かなり焦ってる?そんなにヤバイの?」

「ああ。だから、早く教えてくれ。他の奴らは?」

「・・・もうみんな集まってる。着いてきて」

 

 そういうとミカは世界門を開き、着いてくるように促す。そして二人は門の中を進んでいく。

 

「ああ、そうだ。お前って以前にジャック・オー・ランタンとその主人を助けたことは覚えてるか?」

「え?うん。覚えてるけど、なんで?」

「偶然出会ってな。改めて礼を言っておいてほしいと言われた」

「むー、気にしなくてもいいのに・・・。それより、もう着くよ」

 

 ミカがそんなことを言うと突然開けた場所に出る。そこには長机と椅子、それに座る四人の人影があった。

 

 

 

「遅刻ですよ、師匠」

「山田か。遅れて悪いな。文句はミカに言え」

「ちょっと先生ヒドくない!?」

 

 一人目は教え子内実力トップの山田✟黒炎の竜騎士(ダークフレイム・ドラグーン)✟。見た目は黒髪の普通の青年だが戦闘になるととてつもない力を発揮する。

 

 

 

「・・・・・・遅い」

「ミリア。わざわざ引きこもってるところを出てきてもらって悪いな」

 

 二人目はローブを羽織っている茶髪のボブカットに眼鏡の少女、ミリア=フォーサイス。例の等価交換が裸足で逃げ出す錬金術師だ。見た目は少女だが年齢的には成人している。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・相変わらず無口だな、ジョン」

 

 三人目はジョン=ドゥ。寡黙で厳つい顔の武具職人の大男だ。蒼奇の影の中で容易に使えずに肥えている武具は彼の作品だ。名前に関しては蒼奇が調べても情報が出てこなかったが、義理堅い男なので信頼に値する人物である。

 

 

 

「・・・・・・・・・他の女のにおい・・・」

「おっと!その話はひとまず会議のあとにしようか?玲那(れな)

 

 四人目は十人中十人が振り向くような大和撫子、御明玲那(みあかしれな)。蒼奇のことを溺愛するヤンデレ少女だ。全力を()()()()()()()今の山田さえも上回ると蒼奇が予想している人物だ。

 

 

 

 ここにいるミカを含めた五人は教え子の上位五位の面子だ。

 

 そして蒼奇とミカが椅子に座り、蒼奇が言葉を発する。

 

「それじゃあ、会議を始めようか」

「「「「「・・・・・・」」」」」

「まずは先ほどすべて処理した世界門のことからだな」

「そうだね。あれは先生の仕業じゃないってのはどういうこと?」

「「「「・・・!」」」」

「俺は世界門は開いたら必ず閉じている。ミカ、お前にもそういう風に教えたはずだ。今回のことは俺と、そして教え子たちの仕業でもないだろうな」

「・・・なんでそう言い切れるんですか?師匠」

「・・・お前らは、久留井鏡夜のことを覚えているか?」

「・・・?はい。あれほどのことをしたんですから、そりゃ覚えてますよ?」

「・・・・・・うん・・・私でも・・・わかる」

「・・・・・・(コクリ)」

「蒼奇、を裏切った奴、を忘れるわ、けがない」

「あ~、あの戦犯ね。そいつがどうしたの?」

 

 五人がそれぞれの反応を見せる。

 

「・・・あいつの犯行は誰かに操られて行動した疑いが出てきた。この俺にすらバレずに、鏡夜を洗脳していたようだった」

「「「「「・・・!?」」」」」

 

 蒼奇のその言葉に五人が驚き、息を呑む。

 

「だから今回のことも鏡夜を洗脳していた奴の可能性がある」

「ですが、なぜ?」

「下級の教え子を攫って自身の駒にするため、だろうな・・・」

「・・・そう、ですか。目的はやはり、師匠ですか?」

「ああ。俺への挑戦状か宣戦布告か何かだろう」

「・・・・・・・・・一人で、いいの?」

 

 ミリアが心配そうな声を蒼奇へかける。

 

「それについての役割をお前らに与える。だが、教え子については師の俺がどうにかする。お前らはこれ以上被害が出ないように努めてほしい」

「「「「「・・・」」」」」

 

 五人は蒼奇の言葉に無言で了解する。

 

「まずはミカ。これを渡しておく」

 

蒼奇は影から一冊のノートを取り出して渡す。

 

「他人が開いた世界門の閉じ方が書いてある。他の奴らと協力しろ」

「うん。わかったよ。ていうか、もっと早く教えてよ」

「忘れてたんだよ。正直悪かったよ、ミカ。次に山田は上級と中級をまとめ上げてくれ。下級を護衛するようにして、なおかつ中級は常に二人か三人で行動するように伝えろ」

「はい。承りました」

「ミリアはいつも通り薬を作ってくれ。影をつなげておくからエリクサーとかができたら影に入れてくれ」

「・・・・・・・・・うん・・・がんばる」

「ジョンもいつも通り装備品を作ってくれ。今回は洗脳とかの他者からの干渉を無効化か防止できるものを。素材は影から提供する。つなげておくから自由に出してくれ」

「・・・・・・・・・(コク)」

「それと全員に連絡用の腕輪を渡しておく。何かあったら連絡しろ」

 

 蒼奇はそういって玲那以外の四人に腕輪を渡す。

 

「・・・私の役割、は?」

 

 玲那が蒼奇に疑問の声を上げる。

 

 その疑問に蒼奇はすぐに答えた。

 

 

 

 

「玲那は・・・俺に着いてこい。お前の力が必要になるかもしれない」

「・・・・・・!!」

「「「「・・・!?」」」」

 

 全員が驚く。

 当たり前だ。玲那の力は強大だが扱いが難しく、本人ですら一割もうまく扱えていない。その状態で上級に名を連ねている時点でどれだけ強力かはわかる。

 

「ちょっ、先生!?本気!?」

「・・・・・・・・・きけん・・・」

「・・・・・・(コクコク)」

「・・・・・・玲那の力を借りた師匠と戦いってみたいな・・・」

「ちょっと!?そこの中二病戦闘狂!!変なこと考えてないで先生を説得してよ!!?」

 

 四人?が必死に止めようとしてくるが、

 

「悪いが、十二分に準備しておきたい。そのためには玲那の力が使える状態が望ましいんだ」

「私は着いてく、よ?」

「でもっ!玲那の力は使い勝手は良いけど、その分危険も・・・!!」

「わかっている。だが事実、何があるかわからない相手だ。下級程度を手駒にしているとはいえ、侮れない。鏡夜ですら多くの力を与えられていた。何があってもおかしくはないんだ。だからこその玲那だ。そこのところをわかってほしい」

「・・・・・・うぐぐぐっ・・・これ以上、なに言っても絶対に曲げる気はないんでしょ?」

「「当然」」

「・・・はぁ~・・・わかったよぉ。使うときは世界の方を気にかけてあげてよね?」

「ああ、使うときは別世界に引きずり込んでから使うさ。・・・・・・じゃあ、解散だ。それぞれさっき言ったことを頼んだぞ」

「「「「はい」」」」

 

 玲那以外の四人は返答するとその姿が消える。

 

 

 

 

 

「・・・・・・本当、について行ってもいい、の?」

「・・・・・・うん。正直言うと僕の力よりも、君の力の方が制御しやすくてね・・・世界を壊さないようにするならその選択をした方が楽だったっていうのはあるよ」

「・・・やっぱり、そうなん、だ。それで・・・」

「ん?」

 

 

 

「私の蒼奇を奪おうとしたのはどこの雌猫?今はどこにいるの?ねぇ教えて?教えてよ蒼奇。すぐに殺しに行かなきゃいけないから。ああ、でも蒼奇が大切にしてる人なら殺しちゃったら嫌われちゃうよね・・・?なら拷問にかけて痛めつけて近づかないように教え込むことで我慢しなきゃ、だめだよね。あ、それと雌猫は何人いるの?複数人の女のにおいがするんだけど?ねぇ何人なの?その女たちの場所は?関係は?もういっそ蒼奇を監禁した方がいいの?私を放っておいて他の女と触れていたの?私だけじゃダメなの?私に飽きちゃったの?それとも、私だからダメなの?・・・ねぇ、ねぇねぇねぇ?答えて?」

 

 

 

玲那の独特な区切る口調がなくなり蒼奇に詰め寄る。

 

「・・・た、ただの教え子だよ。向こうでできたね。それに僕はほとんど直接は指導していない。他の人たちもただの仲間だったり、愛玩動物だったりだよ・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・」

 

 静寂が空間を包み込む。蒼奇の額に冷や汗が流れる。選択を間違っていないかを心配しながら、玲那の返答を待つ。

 

「・・・」

「・・・そっか!それなら大丈夫だ、ね!」

「・・・う、うん。玲那が心配するようなことは何も無いよ」

「そうだ、ね。それで私達はこれからどうする、の?」

「少し、一人にさせてほしい。後で迎えに行くから」

「は、い」

 

 玲那はそう言ってその空間から消える。

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ。・・・玲那を連れていくなんて判断、早まったかなー・・・」

 

 

 蒼奇は一人になったその空間で早くも自身の決断を後悔していた。

 

 




次は一週間以内に投稿予定です!


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閑話4~蒼奇、箱庭に帰還する~

 蒼奇は少しして後悔から立ち直って玲那の下へ向かう。

 

「それじゃあ、行こうか」

「はい!」

 

 そうして二人はその世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 箱庭の七桁の外門にある〝ノーネーム〟の本拠に帰ってきた蒼奇。

 

「ただいまー」

「あ、蒼奇さん!?早速ですが助けてくださ、ひぃ!!?」

 

 黒ウサギが悲鳴を上げる。

 当然だ。今、黒ウサギは玲那によってナイフを喉元へと突きつけられていた。そんなことをされたら誰でも悲鳴を上げて固まるだろう。

 

「こいつが・・・私の蒼奇を・・・!」

「やめなさい」

 

 ドゴンッ!!と蒼奇に拳骨をされて、人体から出てはいけない音を出しながら地面に突き刺さって気絶する玲那。

 

「それで?どうかしたの?」

「え?え、えっと里桜さんと皆さんが戦おうと・・・」

「・・・やらせてもいいかとは思ってたけど、勝手にやっちゃったか・・・。此処じゃ被害が大きいね。わかった。すぐに止めるよ。場所は?」

「は、はい!こちらです!」

 

 蒼奇は黒ウサギの案内に従って玲那を左手で引きずりながら向かう。

 案内されたそこではすでに戦闘が行われており、里桜は加減をしているのだろうがそれでも十六夜や耀、飛鳥、ヴェーザー、そしてペストの攻撃は難なく防がれており完全に遊ばれていた。

 

「あれ、ラッテンは参加しなかったんだ?」

「・・・マスターと彼女の戦闘行為を見てやる気にはなれなかったわ・・・それより早く止めたら?」

「そうだね」

 

 蒼奇は一瞬で里桜の背後に回り、そして―――

 

 

 

「も~!もっと私を楽しませ「このドアホ」グペッ!!」

 

 

 

―――里桜を殴って地面に叩き付ける。ごんっ!と玲那よりは軽い音が響いた。

 

「師匠!!なにするんっ、です、か・・・?あ、あああの左手に持っておられる方はもしかして・・・」

 

 里桜の語尾が段々弱くなり、震える手で蒼奇の左手の玲那を指でさす。

 

「・・・知っての通り、御明玲那だ」

「なんで師匠の右腕と名高いその人がいるんですか!?」

「こいつの力が必要と思ったからだ。これからはずっと俺の傍に置くつもりだ」

「いやいやいやなんで!?いやそれよりも私はその人とは関わり合いたくないのでしばらく腕輪になります!それではっ!」

 

 里桜は口早に言ってその場で腕輪になり地面に転がる。

 蒼奇は腕輪になった里桜を拾い上げて、駆け寄ってきたジンに渡す。

 

「はい、ジン君。これ、しばらくは大人しいと思うから、持ってて」

「ありがとうございます」

「うん。身に着けておいてね?・・・さて五人とも、里桜と戦ってみた感想は?」

 

 蒼奇の目の前で疲弊して手や膝をついている五人に問いかける。

 

「・・・正直ここまで手が出ないとは思わなかったぜ」

「・・・うん。あり得ない強さ」

「・・・そうね。あれで弱い部類だとは思えないわ」

「・・・神格使っても勝てねぇってどういうことだよ」

「・・・私の死の風も効かなかったわ・・・」

「僕の教え子はそういう元が規格外な子たちの集まりだよ。ああいう子たちに力の正しい使い方とか鍛え方を教えるのが僕の方針だよ。まあ、今回のことはみんなにもいい経験になったと信じる、よ?どうしたのみんな?」

「「「「「・・・」」」」」

 

 蒼奇のその言葉をしっかり聞くために蒼奇の方を向くが、やはり左手に視線が集まってしまっている。

 

「ああ、この子のこと?改めて話すから談話室にでも集まってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 場所を談話室に移し、黒ウサギやジン、レティシアとラッテンも集まっていた。すでに玲那はソファに寝かしてある。

 

「じゃあ改めてだね。この子、御明玲那のことについて話すけど、何から聞きたい?」

「・・・どういう関係かしら?」

「僕の、右腕かな?それに付け加えるなら、この子は一応教え子の上位五名の一人だよ。そのうえ未だに彼女自身が力を完全に制御できるのは一割までなのに上級に属してるんだ。だから、玲那にはそれなりに期待してる」

「・・・里桜よりも上なのか?」

「里桜の狼狽えっぷりは見ただろう?つまり、そういうことだよ」

「・・・そんなに怖い奴なのか?」

 

 十六夜がそんなことを聞く。

 

「・・・彼女は僕のことが好きでね。よくついて歩いてきたよ」

「・・・惚気か?」

「いや、そういうつもりじゃないよ。ただどこで歪んだか知らないけど・・・ヤンデレに変貌してね。しかも周りの女性を排除するタイプの。ただ里桜はそれの被害者ってだけだよ・・・」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

 その話を聞いた女性陣には顔色を青に染めるものや冷や汗を流すものがいた。

 

「心配しなくても一応契約で縛ってはいるよ」

「「「「「「・・・(ほっ)」」」」」」

「でも彼女の力って、それすらものともしない可能性があるんだけどね・・・」

「「「「「「・・・!?」」」」」」

「まあ、その時は僕が止めるから」

「「「「「「・・・(ほっ)」」」」」」

 

 女性陣は蒼奇の弟子である玲那に目をつけられて何かされないかを心配して蒼奇の言葉一つ一つに過敏に反応する。

 しかし蒼奇の話はまだ続いていた。

 

「それと、」

「「「「「「・・・?」」」」」」

「女性の皆さん・・・面白い反応をありがとう!」

「「「「「「死ねっ!!」」」」」」

 

 女性陣が蒼奇に襲い掛かるが、その動きが突然止まる。いや、女性達だけではない。蒼奇以外の全員が動けなくなっている。

 

『・・・!?』

 

 蒼奇以外のその場の全員が驚く。・・・いや、もう一人だけ驚いていない人物がいた。

 

「・・・私の蒼奇はヤらせな、い」

「・・・起きたんだね、玲那。それと殺るのニュアンスが少し違うと思うよ?」

「うう、ん。・・・これであって、る。・・・それより、も殺していい、の?」

『・・・!!』

「・・・だめだよ。君の敵でも、僕の敵でもないんだから。それにこれからは味方になる人たちだよ」

「・・・・・・そう。わかっ、た」

「そう、いい子だ」

「~~~♪」

 

 玲那は六人の拘束を解くと蒼奇に駆け寄る。そして蒼奇は駆け寄ってきた玲那の頭を撫でて、機嫌をとる。

 

「・・・今のがそいつのギフトなのか?」

「正確にはその一部だよ、十六夜。玲那の力はほぼ万能と言ってもいいギフトだからね。でも、これ以上は秘密だよ♪」

「・・・そうかよ。それで?連れてきた理由は?」

「・・・元の世界で教え子が行方不明ってのは里桜から聞いたよね?それが鏡夜を操っていた奴の仕業だと僕は考えているんだ。それで教え子を手駒にして仕掛けてくる可能性を考慮して、玲那の力が必要だと感じた。教え子たちを無傷で確保するためにも」

 

 玲那の力は本当に万能と変わりないほどの代物だ。蒼奇が今言った通り敵を無傷で捕まえることも。逆に敵を一人残らず殲滅することも可能だ。

 

 だが、それでさえ()()なのだ。

 それだけのことが出来るのに未だ一割しか使えないのはその強力性にある。強力すぎて少しでも自分の制御可能な力以上のことをしようとすると暴走してしまう。

 それでも蒼奇はその強力すぎる力を十全に使いこなすことが出来る。

 

 だからこそ知っている。その危険性も万能性も。

 

「・・・今回の件は十二分に準備をしておきたいんだ。僕が標的なのに教え子が巻き込まれてしまっているから、なおさらね」

「そんなに危険な相手なのかしら?」

 

 ペストが聞いてくる。

 

「一応だよ。でも鏡夜を僕にバレずに洗脳するような相手だから、決して油断はできない。ペスト、もしかすると君にも手伝ってもらうことになるかもしれないから、その時はよろしく」

「・・・ええ、分かったわ」

 

 ペストはそう言って引き下がる。

 

「それで他に聞きたいことは?」

「・・・その人、本当に大丈夫?」

「・・・一応、契約で縛ってはあるよ。君らに危害を加えないようにね。むしろ僕に関する契約内容がないのが心配なくらいだよ」

「・・・?」

「玲那に何度となく夜這いされてるからね」

「・・・次、こそは、成功してみせ、る」

「うん?いつも通りヤらせないからね?」

「・・・無理、やりに、でも」

「・・・いや、毎回無理やりだよね?」

 

 蒼奇と玲那がそういうことを話していると他のみんなは蒼奇に憐みの視線を向ける。

 そこで蒼奇が思い出したように声を上げる。

 

「あ、そうだ」

『・・・?』

「玲那と戦ってみる?」

『無理』

「・・・だよね。僕もできれば玲那とは戦いたくないし」

 

 全員が声を揃えて断るを飛んで不可能と答えた。

 玲那は教え子の実質的なNo.1だ。

 可能性、力の強力さ、汎用性、そのうえ彼女は機転も効いて対応力もある。

 おそらく彼女が力の二割ないし三割を完璧に扱えるようになれば今のNo.1、師匠級の田中✟黒炎の竜騎士(ダークフレイム・ドラグーン)✟すらも圧倒できるようになるだろう。

 

 ・・・ただその間に彼はより高みに行くだろう。

 なぜなら彼のすごさはその成長速度だからだ。誰がどう頑張っても誰も追いつけはしないだろう。

 たとえ玲那が三割、いや四割制御可能になっても彼はさらに高みに行き、それすらものともしないだろう。

 

 彼の目の前にはただ一人、自身の師匠である蒼奇しかいないのだから。

 

「じゃあ、これでお開きにしようか。里桜との戦いでみんな疲れてるだろうしゆっくり休んでね。行くよ、玲那」

 

 そういって蒼奇は玲那を連れて出ていった。

 

「・・・蒼奇はあの御明って奴にも勝てるのか?」

 

 十六夜が誰に言うでもなく呟いた。だがその呟きに答える者が一人だけいた。

 

『・・・はい。師匠は教え子全員を相手にしても勝てます』

 

 腕輪となっている里桜の声だった。

 

「・・・そうなのか?」

『はい。以前暇つぶしで師匠対教え子全員という企画がありました』

「・・・結果はどうだったのかしら?」

『師匠の圧勝です。しかもそれですらまだ本気じゃなかったと思う』

「・・・やっぱ、あいつが最強か」

『『『・・・うん』』』

 

 そんな会話が蒼奇と玲那が消えた談話室で話されていた。

 




これで閑話は終わりで次から三巻の内容に入ります!
次は土日のどちらかに投稿予定です!


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教え子紹介※ネタバレあり

・シン(久留井鏡夜)

 

序列:なし(途中で破門されたため)

 

保有ギフト

◆〝不干渉(ドント・タッチ・ミー)〟

・・・他者からの影響を受け付けないギフト。ただし例外として自身が同意した契約やギフトゲームのルールは受けてしまう。

◆〝信念継承(マイ・ジャスティス)〟

・・・自身の抱いていた志を忘れずに貫き通そうとするギフト。

 シンはこのギフトで抱いている志はみんなに慕われ、守れる存在になるというもの。このギフトによって志を貫き通した時には新しい力が開花する。

◆〝剣の加護・寵愛〟

・・・剣を所持している際の身体能力の大幅上昇及び剣術の練度強化。

 蒼奇が剥奪していたシンが元々持っていたギフト。このギフトの強化だけで中級・上位の実力に食い込むことが可能。

◆〝死角に潜みし者〟

・・・他者の意識を自身から逸らして隙を作ることが出来る精神操作系ギフト。ミスディレクション的なヤツ。

 

 何者かに操られて第三次世界大戦を勃発寸前まで世界を精神操作で操っていた人物。

 そうなる前はまじめな好青年だった。ただし生活能力はゼロで立派な豪邸を一日でゴミ屋敷にするレベル。

 以前は〝死角に潜みし者〟よりも強力な精神操作系のギフトも持っていたが、現在は蒼奇によって剥奪されたままである。

 

 

 

・柊里桜(ひいらぎりお)

 

序列:中級・中位

 

保有ギフト

◆〝限界突破〟

・・・限界を超えるギフト。成長速度は多少上がるが常人の二倍程度。それでも他の教え子には追いつけない。

◆〝斬撃強化〟

・・・刃物を扱った攻撃の威力や速度に補正が付くギフト。

◆〝武器強化〟

・・・自身が持つ武器の切れ味や丈夫さが強化される。

 最初の頃はほんの少ししか強化されなかったが、今では絶対不変の丈夫さに切れ味は斬れないものはないレベルになっている、はずなのに蒼奇や上級の人には軽くいなされてしまう。

◆〝対神話〟

・・・神話群や神話に関わりを持つ者を相手取るときに身体能力や致死性が上昇するギフト。

 蒼奇によって今後必要になると思われて付与されたギフトである。

 

 服装は和装で着物に袴で刀を扱う武士スタイル。

 蒼奇の教え子の中では一番新顔で戦闘系でも一番弱いので、序列が一つ下の生産系の人にも勝率七割ぐらい。

 御明玲那によって粛清された一人。

 

 

 

・山田✟黒炎の竜騎士✟(やまだ✟ダークフレイム・ドラグーン✟)

 

序列:師匠級・一位

 

保有ギフト

◆〝下剋上〟

・・・自分より強いものと戦う際に大幅な強化及び相手の大幅な弱体化をするギフト。

 相手との実力差があればあるほど効果は高い。自身が相手より強い場合は強化はされないが弱体化は有効。

 これにより山田は師匠級にいると言っても過言ではない。

 蒼奇曰くぶっちゃけ超主人公的ギフトで相手にするときは超めんどくさいらしい。

◆〝虚構と現実の狭間(トゥルー・オア・フォルス)〟

・・・事実と虚構を曖昧にするギフト。

例:

・負傷したらその事実を曖昧にして虚構にしてなかったことになる。

・自身がギフトを所持してないという虚構を曖昧にして事実へとする。ただしこの場合は一時的なもので負荷も大きい。

 山田がこのギフトを使うのは相手が師匠である蒼奇かぶちぎれたとき。

 蒼奇はこのギフトでも苦戦を強いられる。

◆〝貪欲な肉体〟

・・・成長速度の上昇ギフト。上昇率としては常人の二十倍。

 だから基本的には誰も追いつくことはおろか、どんどん離されていく。

 戦闘中にすら成長していく。超主人公的ギフトその2。

 

 眼鏡をしていて根暗気質の少年。それでも強さは教え子の古参を押さえて堂々の一位。(ちなみに古参は自分から不老不死を望み、自らの手や蒼奇によって不老不死になった者たち。最低でも百年は生きる人たちばかり)

蒼奇でも相手をするのは面倒なので避けているが、山田の蒼奇センサーによって見つけられては勝負を(強制的に)挑まれる。

 戦闘中は中二的なセリフが出るので、戦闘が終わった後に羞恥で悶えている。

 

 

 

・鏑木ミカ(かぶらぎみか)

 

序列:上級・上位二位

 

保有ギフト

◆〝魔導王〟

・・・魔力が尽きず、ありとあらゆる魔法を使いこなし生み出すことのできるギフト。それでも世界門に関わる魔法を生み出すことはできなかった。

 

 金髪のストレートな長髪。

 典型的な白を基調とした魔法少女の恰好をしていて、長い杖を持っている。

 蒼奇の教え子の中でも蒼奇以上に自由奔放な性格でよく蒼奇を困らせては説教されていた。

 しかしそれでも懲りずに自由に生きている。

 

 

 

・ミリア=フォーサイス

 

序列:上級・上位四位

 

保有ギフト

◆〝法則無視〟

・・・水をエリクサーに。石を賢者の石に。無から有を生み出す事の出来るギフト。錬金術師の誰もが欲しがるようなギフト。しかしこのギフトは上位互換のみで下位互換は出来ない。

 そのうえ錬金術を行う距離も関係なくなる。どれだけ遠くても正確に対象を取り攻撃(錬金術)できる。

◆〝減価錬金〟

・・・上記の法則無視の逆を行えるギフト。エリクサーを水に。賢者の石をただの石に。有を無に錬金術師するギフト。このギフトは下位互換のみで上位互換は出来ない。

 

 ダボダボのローブに身を包んだ茶髪のショートヘアに眼鏡の少女。

 しかし自身が造った不老不死の薬により不老の身で古参の一人。年齢は百五十年ほど。

 基本的には研究室に引きこもって薬や毒物なんかを作っている。よく蒼奇に造りすぎた薬を送るある種の問題児でもある。

 蒼奇のことは自身の師として尊敬しており、ギフトを扱えるようにしてくれたことを感謝している。

 彼女の順位は一対一の正々堂々の試合の成績で、暗殺などを抜きにした場合の順位である。彼女の本領は超遠距離で錬金術を行使することなので蒼奇や〝不干渉〟系統のギフトを持つものしか防げない。

 

 

 

・ジョン=ドゥ

 

序列:上級・上位三位

 

◆〝武具製作〟

・・・どんな鉱物も扱えて武具を造れるギフト。ヒヒイロカネやオリハルコンも簡単に扱える。

◆〝巨神の肉体〟

・・・どんな攻撃も通さず、人を超えた剛力を出せるギフト。のはずなのだが蒼奇や山田などのジョンより上の人物には簡単に傷つけられている。ただし鍛冶の際は火傷もせず、熱さも感じないため重宝している。

 しかしこのギフトは本来なら人が持ち得ることのないギフトで、ジョンの先祖に巨神の眷属がいたことがわかっているため、先祖返りに近いものではないかと蒼奇は考えている。

 

 二m近い体躯を持ち、その体は鍛え上げられている。

 基本的に寡黙で厳つい顔をしているが根はやさしく、義理堅い人物。

 彼が造る武器はどれもぶっ壊れ性能で、蒼奇を困らせる原因の一人でもある。

 蒼奇が出会った当初はまだ子供で自身を〝名無し〟の意味のジョン=ドゥと名乗ったために過去を探ったが、経歴の一部と先祖に巨神の眷属がいたことしか知り得なかったが、それでもジョンのことはかなり信頼している。

 

 

 

・御明玲那(みあかしれな)

 

序列:上級・上位一位

 

◆〝理想の現実(リアル・ドリーム)〟

・・・理想を現実にするギフト。自身が思い浮かべたものを現実にできるがはっきりと思い浮かべないと暴発して、何が起こるかわからない。

 過去にあったのは、核爆発、ブラックホール、超新星爆発など。これは蒼奇が傍にいる場合のみでそれ以外だと暴発はなく、あっても弾ける程度。

◆〝化身(ザ・モンスター)〟

・・・ありとあらゆる生物へと変化できるギフト。その生物の特性を模倣できる。神霊や星霊になることすら可能。

◆〝言霊〟

・・・言葉の力を引き出すギフト。ただし周囲への被害が大きくなることもあるので、自身の強化や中・遠距離の攻撃に使用。

◆〝深淵の王〟

・・・蒼奇でさえ能力が一切わからない謎のギフト。この力で自身の強化などを行っているが玲那自身もどうやってるかはよくわかっていない。

 

 十人中十人が振り向くような大和撫子。蒼奇のことが好きで、周りの女性を排除しようとするタイプのヤンデレ。しかし、蒼奇に嫌われたくないので出来る限り排除する衝動は抑えてはいるが、偶に暴走して蒼奇に気絶させられる。

 口調は特徴的で途切れ途切れ話す。この口調は意識的に〝言霊〟を暴発させないためにしていた口調が完全に制御できる今でも癖になってしまっているだけである。

 山田とは別方向の蒼奇センサー持ち。



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そう・・・巨龍召喚
競争&報告


 〝黒死斑の魔王〟ことペストとの戦いから約一月。

 蒼奇はペストを膝にのせながら木陰でのんびりと過ごしていた。先ほど〝ノーネーム〟の会議に誘われたが長い話が嫌いな蒼奇は分身すらも出席させずに堂々とサボっていた。

 

「・・・出なくてよかったのかしら?」

「長い話は嫌いなんだ。だからあんまり出たくない。こうやってのんびりしてる方が僕は好きなんだよ」

「・・・そう。じゃあ、あの物陰にいる彼女はどうにかならないの?」

 

 そういってペストはちらりと建物の物陰にいる人物を見る。そこには歯ぎしりをしながらペストを睨む玲那がそこにはいた。

 

「・・・ああ・・・。玲那!こっちにおいで!」

 

 蒼奇が玲那を呼ぶと彼女は二人のほうへと駆け寄ってくる。

 

「ちょっと!?」

「平気だよ。僕がいる限りはね」

 

 玲那が傍までくると蒼奇が横に座るように促す。玲那はそれに従い大人しく座る。すると玲那は蒼奇の肩に頭を乗せながらペストを睨む。

 

「こら。睨まない」

「・・・チッ」

「舌打ちもしない」

「・・・本当に大丈夫なのよね?」

「ダイジョウブダイジョウブ。ソウキウソツカナイ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 片言で話す蒼奇に疑わしい視線を向けるペスト。そして問題の玲那は蒼奇の肩に寄りかかりすでに幸せそうな顔で眠っていた。

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

「ほらね?」

「・・・そうね」

「ペストも少し寝たら?」

「・・・お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 ペストはそういって蒼奇の膝の上で目を閉じる。

 二人が眠ってから少しすると黒ウサギがこちらへ駆けてくる。

 

「そ」

「静かにね?」

 

 黒ウサギが大きな声で蒼奇の名前を呼ぼうとしたためにすぐに蒼奇がくぎを刺す。

 

「は、はい。それで蒼奇さんの畑の件ですが何とか話が付きました」

「そう?じゃあ後で案内してくれるかな?」

「はい。それと収穫祭についてですが・・・」

「収穫祭?」

 

 蒼奇は先ほどの会議で話題に、もとい問題になっていた収穫祭について尋ねる。

 

「はい。正式に成果を上げたので招待状が来たのですが・・・」

「・・・もしかしてその収穫祭って期間が長かったり?」

「はい・・・」

「・・・なんとなく読めたよ。誰が残るかでもめたんだね?」

「ええ。結局前夜祭までに最も多くの成果を残した順で行くということになりました」

「前夜祭ってことは本当に長い祭典なんだね。言ってくれれば僕が残ったのにね」

「あの、その、おんぶにだっこは、嫌いだそうですヨ?」

「・・・そう。くくっ、いいね!じゃあ三人がどれぐらい成長したかを大人しく見させてもらうよ。ありがとう黒ウサギ」

 

 蒼奇は三人の成長を楽しみ、大人しく静観することにした。誰が一番になるかを予想しながら。

 

「はい♪」

「それと、畑に植えるのはなんでもいいの?」

 

 蒼奇が黒ウサギに尋ねる。

 

「・・・例えばなんでしょう?」

「マンドラゴラとかマンイーターとかトレントとかラビットイーターとか」

 

 蒼奇はどこでも危険指定されるような植物を平然と言う。元の世界でも研究目的や薬の材料として育てていたため、その扱いには長けていた。

 

「蒼奇さんまでそんなこと言うんですか!?」

「静かにねー?それに僕まで?」

「あっ。す、すみません。い、いえあの御三方もラビットイーターなんて言ったものですから・・・。ですが、ラビットイーターなんて実際にあるんですか?それに管理については・・・」

「実際にあるんだよ?人工的なものじゃなくて自然に自生したものがね。用途はたくさんあるんだ。驚くことにあれは余すことなく使えるんだよ。葉はエリクサーの材料に、根っこは万能薬に、花は不老不死の薬に、実は食べたら神になれるとも言われてるんだよ」

「なんかすごい植物なんですね!?」

「でも栽培が大変だからね。育つのも遅いし。アレは芽が出るまでに十年以上かかった例が大半なんだ。稀に八年ていうのもあるけど。花や実に関していえば実例がないほどなんだ。それにアレはある程度育ったら生きたウサギしか食べないし、そのうえわざとグロイ食べ方をして育てさせる気をなくさせるんだよ。まったくもって賢いよね」

「却下です!!子供たちの教育によくありません!!」

 

 黒ウサギが小声で怒鳴るというスゴ技を見せる。

 

「そう。まあ子供たちが誤って迷い込んだら危ないしね。じゃあ、危険じゃないのを育てるよ。薬草とかハーブとか」

「ぜひそうしてください」

 

 黒ウサギは安堵の息を吐いて去っていった。

 

「・・・さて、どうなるかな?あの三人は」

 

 蒼奇は静かに三人の成果を期待した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして戦果発表の日。昼食を終わらせた十六夜たちは大広間に集まっていた。

 

「あら?蒼奇君もいるのかしら?」

「うん。君らの戦果が気になったからね。それと物陰の人物は気にしないでいいよ」

 

 大広間にはすでに蒼奇と物陰に玲那がいた。

 

「戦果ですが、まず飛鳥さんは牧畜のための土地の整備と山羊十頭です。準備が調い次第、連れてくる予定です」

「牧畜ね。小屋とかなら普通に作れるけどやろうか?一日あれば大丈夫だけど」

「・・・一応土地の整備に含まれていますが、できれば早い方がいいのでお願いしてもいいですか?」

「任されたよ」

 

 蒼奇が飛鳥の報告を聞いて満足そうにする。

 

「次に耀の戦果だが、凄いぞ。〝ウィル・オ・ウィスプ〟から招待状が送られてきたうえ、主催のゲームに勝利した」

「それで耀さんはジャック・オー・ランタンが作る、炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです。そして、これを機に竈などの生活必需品を〝ウィル・オ・ウィスプ〟に発注することになりました」

「ふうん?まあ、あそことつながりを強く結ぶのは素直に良い判断だと思うよ」

 

 そのおかげでこれからの生活が大きく変わるだろう。蝋燭や薪を消耗することもなくなる。

 

「それで十六夜は?」

「おいおい、その前にお前の戦果はどうなんだよ?」

 

 十六夜が蒼奇に対して戦果を聞く。

 

「蒼奇さんは・・・」

 

 ジンが蒼奇に戦果を言おうとして申し訳なさげな表情をする。

 

「ジン君。僕は在庫を処分しただけだよ。僕の戦果はエリクサーとかの薬や強力なギフトの売り上げだよ。それに薬草やハーブ、霊草なんかも売ったかな」

「・・・蒼奇さんは自身の所有するギフトを対魔王用として多くのコミュニティに売りつけて、多大な利益や良好な関係を築き上げました。そのうえペストとのゲームで使用したエリクサーなどの薬についての連絡が止まらず追加注文や作成依頼が殺到しています」

 

 だが、当の本人の蒼奇は暇だからとマンドラに押し売りをしに行き、改めて薬やギフトに驚いた〝サラマンドラ〟がせめてもの恩返しとしてなのかなんなのかは知らないが、周りに吹聴して根回しをしたのだ。そこからはてんてこ舞いで〝サウザンドアイズ〟などの大手や〝ウィル・オ・ウィスプ〟。その傘下に出張販売をしないといけなくなってしまったのだ。

 

「さすがに疲れたよ。まさかあんな大騒動になるとはね。まあおかげで在庫や失敗作を処分できたからいいけど」

「「「・・・」」」

 

 在庫や失敗作でそれほどの成果を上げていることに十六夜たちは開いた口がふさがらず、唖然としている。

 

「それに僕は今回の競争には不参加だよ。増殖したら嫌でも行けるんだから。それより早く十六夜の戦果を教えてよ」

「・・・ああ。とりあえず〝サウザンドアイズ〟に受け取りに行かないといけないが」

 

 十六夜は〝サウザンドアイズ〟向かうようだが、他のメンバーにも聞いてほしいことがあるようで全員で店に足を運ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 支店に着くと店先で女性店員が掃除をしていた。

 

「・・・また貴方達ですか」

「やあ、店員さん。あれから薬の売り上げは?」

「それは上々です。ですがまた品切れを起こしたので卸してほしいのですが・・・」

「別にいいよ?こっちも儲けさせてもらってるし。それでいくつぐらい?」

「これぐらいなのですが―――」

 

 蒼奇と店員は出会うとすぐに商談の話をはじめた。

 

「ああ、なるほどね。・・・あ、時間かかりそうだからみんなは先に行っててよ。あとで行くから」

「いえ、先にそちらの用事を終わらせていただいて構いません」

「いいの?」

「こちらこそ商談は慎重にやりたいので、ゆっくりと話せる状態で行いたいのです」

「・・・それもそうだね」

「それでご用件は?」

「・・・?白夜叉から話は通っていないのかい?」

「は・・・?」

 

 蒼奇がそう聞くと女性店員は疑問の声を上げる。

 

「おお、すまんな。伝えておらんかったの。重要な案件故に急ぎで通してやってくれ」

「・・・薬は残ってる?」

「・・・・・・商談の際にお願いします」

「わかったよ。じゃあ、入らせてもらうよ」

「ええ、どうぞ」

 

 蒼奇たちは女性店員の許可をもらい白夜叉のいる座敷へ向かう。

 

「・・・いつの間に仲良くなったんだ?」

「商談と個人的な売買でだよ。ああいう仕事のできる女性は貴重だから仲良くしていて損はないよ。商売でもコネでも」

「・・・案外、腹黒いのね」

「こういうやり取りはあまり好きでも得意でもないから、きれいな関係を保つ程度にしてるよ」

 

 〝ノーネーム〟一同が白夜叉の座敷へ向かうにつれて女性のあられもない声が聞こえてくる。

 白夜叉と思しき影は二人の女性の影に迫っていく途中だった。

 

「・・・十六夜。僕は商談に向かうから、拠点に帰ったら戦果の報告をよろしくね」

「まあ待てよ」

「正直これ以上白夜叉のバカ騒ぎに付き合いたくない。・・・あ、そうだ。玲那!」

「・・・ここにいる、よ?」

 

 蒼奇がここにはいないはずの玲那のことを呼ぶとどこからともなく現れた。

 

「あのな・・・を・・・こい」

「わかっ、た」

 

 蒼奇が玲那に何かを耳打ちすると玲那は座敷の中へと消えていく。

 

「なにを言ったんだ?」

「中にいる白髪ロリをシメてこいって言ったんだ」

 

 すると中から声が聞こえた。

 

「む?誰だ?おお!おんし良い体つきを」

「すこし、死んで?」

「してって、うぉい!?きゅ、急に何をするのかの!?」

「蒼奇、にあなたは変態、って聞いたから撲滅する、よ?」

「うおおおおぉぉぉ!!?」

 

 白夜叉の悲鳴が聞こえ、少しして静かになると玲那が出てくる。

 

「・・・もう大丈、夫」

「お疲れさま」

「「「・・・」」」

 

 三人が鬼を見るかのような目で蒼奇を見ているが二人は意にもしないで座敷へ入っていく。

 そこで六人の目に飛び込んできたのは、ミニスカの着物を着た黒ウサギともう一人女性がいた。

 

「・・・はあ・・・」

「黒ウサギ?どうしたその恰好」

 

「十六夜、お前は黙ってろ。話がこじれるからな。それともお前もあそこの変態みたいにシメられたいか?それとそこの二人はさっさと着替えてこい」

 

 

 

 蒼奇の口調が変わり、機嫌が悪くなったことを悟った三人は言われたことを迅速にやり始めた。

 

 

 

 




次も一週間以内、だと思います!

それと三巻と四巻は召喚獣が比較的出しやすいので、出してほしいキャラクターや伝承・伝説の生物などがある方はお早めに教えていただけると嬉しいです!

別にこの作品から誰でもいいから出してほしいというのでも構いません!

お待ちしてます!


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戦果&祭事

「それで?なんでこんなことになっていやがるんだ?」

「うむ。それはの―――」

 

 いま、蒼奇の目の前には体中ボロボロの白夜叉がいる。

 白夜叉が言うには十六夜の戦果である隷属させた蛇神こと白雪姫による大規模な水源施設の開拓を行おうということらしい。先ほど黒ウサギたちが着ていた着物もどきはその施設の正装らしい。

 

「・・・なるほどな。上からの施しではなく俺達のコミュニティを知らしめると同時に競争心の向上ってことか。・・・ありがとう。よくわかったよ」

「うむ。そういうことだ」

 

 蒼奇の口調が元に戻りそこにいる全員が安堵の息を吐く。

 

「・・・それで、私を痛めつけたそこの娘は何者だの?」

「僕の教え子の実力No.2の御明玲那だよ。まだ大きな力に振り回されてるような子供だよ」

「よろし、く」

 

 白夜叉が玲那のことを聞いてくる。

 

「ふむ、そうか。ところで―――」

「玲那を貸し出すつもりは一切ないよ。力が暴走したら箱庭が消える可能性すらあるからね」

「・・・そ、そうか!ならば仕方ないの!」

 

 白夜叉が蒼奇の言葉を信じたのかどうかは分からないが納得した。

 そこで蒼奇は本題を切り出す。

 

「それで、十六夜は何をもらう約束でこの依頼を受けたんだい?」

「そう急かすでないわ。それにこれからわかることだ。・・・では、ジン=ラッセル。これをおんしに預けるぞ」

 

 そういって白夜叉はジンに一枚の羊皮紙を渡す。

 ジンはその文面に目を通すとあまりの衝撃で硬直してしまう。

 黒ウサギもジンの後ろから確認するが彼女も同様に固まってしまう。

 どうやら渡された羊皮紙は外門の利権証のようだった。外門の外装を広報に使用することやその外門の〝境界門〟の使用料の八十%が入ってきたり、無償で使用できることを許可する代物だ。

 

「なるほど、ね。これはさすがに僕の負けかな」

「あ?今回はお前は不参加だろ?」

「そう。今回は留守番だよ。畑の世話もあるしね。でも、もしも参加していたらの話だよ。誇っていいことだよ。この僕に負けだと思わせたんだから」

「・・・ハッ!そうかよ」

「じゃあ僕は商談に行くよ。君らは先にコミュニティに帰ってていいよ。玲那も今回は着いてこないで先に帰ってね」

 

 蒼奇は立ち上がり店につながる障子に向かう。

 しかし、座敷の後ろの方にいる飛鳥と耀に声をかける。

 

「二人もすぐに追いつけるよ。伸びしろはどっちもあるから、そう悲観しなくてもいい」

 

 蒼奇は二人の返答を待たずに商談のために女性店員の下へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、いたいた。今は平気かい?」

 

 蒼奇は店の中を見ると奥の方に女性店員の姿を見つける。

 

「はい。早速ですが商談に入りましょう。まず、エリクサーなどの薬の件ですが―――」

「さっき見せてくれた書類に書いてある一千個でいいの?もう少し買ってくれるならちょっとは割り引くけど」

「どれぐらいですか?」

「んー、もう二百か三百ぐらい?」

「では、五百追加でこれくらいで―――――」

 

 蒼奇と女性店員の商談は順調に進み、無事に終わる。

 

「それで・・・あの薬がなくなってしまったのでいただきたいのですが・・・」

「・・・用法はちゃんと守って使ってよ?えっと。はい、これ」

 

 女性店員に以前渡した三つの薬の瓶を新しく渡す。

 

「ありがとうございます」

「うん。こちらこそいい契約ができたよ。これからよろしくね。じゃあ、仕事頑張って」

 

 そういって蒼奇はエリクサーなどの薬の売り上げのお金をしまって出ていく。

 

 

 

 

 

 

 その夜〝ノーネーム〟では小さな宴が開かれ、料理を堪能した蒼奇は自室に戻り、のんびりしていた。

 もちろん傍にはペスト、物陰に玲那がいるが。

 

「・・・収穫祭、どうしようか?」

「あら?行かないの?」

 

 蒼奇の思わず漏れた独り言にペストが反応する。

 

「正直、植物の種を買うっていっても大半のものはあるからね」

「・・・普通に出店なんかもあるのだから、そっちの方を楽しんだら?」

「・・・・・・そうしようか。二人も来るんでしょ?といってもオープニングセレモニーからだけど」

「「ええ/う、ん」」

 

 蒼奇は二人の返事を聞いて満足したのか目を瞑り寝る態勢に入る。

 

「寝るのかしら?」

「寝る。なんか疲れたし。じゃあ、おやすみ」

 

 そういった蒼奇の意識は沈んでいく。

 

 

 

 ベッドに入ってくる二つの暖かいぬくもりを感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。十六夜は出発直前だというのに本拠の前に現れなかった。

 どうやら、昨夜入浴中にヘッドホンがなくなり夜通し探していまだに見つからず探しているようだ。

 本拠の前には飛鳥と黒ウサギ、ジンが待っていた。

 

「・・・あ、来ましたよ!」

 

 ジンが声を上げる。しかし十六夜の頭にはヘッドホンではなくヘアバンドが載せてあった。さらに言うならその手には蒼奇の襟首をつかみ本人を引き摺っていた。

 それに驚いた黒ウサギは尋ねる。

 

「ど、どうしたんですそれ」

「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。それと蒼奇は気にするな。それより話がある」

 

 十六夜が道を開けると後ろから、トランク鞄をを引く耀と三毛猫が前に出た。

 流れを見る限り、十六夜は本拠に残ってヘッドホンを探すつもりで自分の代わりに耀を連れていけとのことらしい。

 耀は驚き、瞬きをしてから十六夜を見上げていたが―――ふっと、小さな華が咲いたような微笑みで十六夜に礼を言う。

 その後も少し話しをしていた二人に黒ウサギが尋ねる。

 

「あ、あの。それで蒼奇さんは何のために・・・?」

「荷物持ちと財布だ」

「アッハイ」

「・・・どうして・・・なんで、僕が・・・」

 

 蒼奇はただ単に影に荷物やらをしまうために連れて行けということらしい。

 

 こうして五人と一匹は本拠を後にした。

 

 

 

 

 

 

 何事もなく〝境界門〟を通って七七五九一七五外門〝アンダーウッドの大瀑布〟フィル・ボルグの丘陵に着いた一行。

 

「わ、・・・・・・!」

「きゃ・・・・・・!」

「・・・水樹って、あんなになるのか・・・」

 

 冷たい風に悲鳴を上げる耀と飛鳥の二人。蒼奇は目の前の光景に珍しく驚いていた。

 遠目からでも確認できる巨大な水樹。

 巨躯の水樹から溢れた水は幹を通して都市へと落ちて水晶の水路を通過し、街中を駆け廻る。

 それを見た耀は今まで出したことが無い様な歓声を上げて飛鳥の袖を引く。

 飛鳥は水路の水晶を見て何かを思ってるようだったが耀がすぐに声をかける。

 

「飛鳥、上!」

 

 えっ、と今度は上を見上げる飛鳥。それにつられて蒼奇も上に目を向ける。

 遥か空の上には何十羽という角の生えた鳥が飛んでいた。

 耀が熱っぽい視線を向ける中、蒼奇は鋭い視線を鳥の群れに向ける。

 

「角が生えた鳥・・・しかも鹿の角だ」

「ああ。ペリュドンだ。耀、間違ってもあれとは友達になるな。僕でもあんなのを取り込んだらどうなるかはわからない」

「・・・?どういうこと?」

「あれは人を食うために殺すんじゃなくて、人を殺すために殺す殺人種だ。ペリュドンはアトランティス大陸に生息していたとされる怪鳥で、人を殺せば自身の影を取り戻せるとされている。だが一度、影を取り戻したら消えるまでは人を襲わないはずだ。まあそれでも、危険なのには変わりないが」

 

 蒼奇が鋭い口調で説明をする。するとそこにいた全員が驚いて蒼奇の方を見る。

 

「・・・随分と詳しいのね?」

「こんなんでも僕は魔術師の端くれだよ?それに召喚術であんなのは召喚も契約もしたくないから一通り調べてるんだよ。耀も気を付けてね。あれのギフトがどんなのかは僕も把握してないし、不用意にやると下手したら殺人衝動なんかをもらいかねないから」

「うん。わかった」

 

 耀が返事をするとその場に旋風が駆ける。

 すると現れたのは〝サウザンドアイズ〟のグリフォンだった。

 

『友よ、待っていたぞ』

(・・・おお。本当にわかる。さすがジョンが作った代物だ)

 

 蒼奇は旋風が駆けた時に影の中からジョンが作った補聴器型翻訳機を装着してグリフォンの言葉を理解する。

 

「久しぶり」

『ああ。此度の祭典で行われるバザーには〝サウザンドアイズ〟も参加するらしい。それで私も護衛の戦車を引いてきたのだ』

 

 そういう彼の背中には鋼の鞍と手綱が装備されていた。

 

『〝箱庭の貴族〟と友の友よ。そちらも久しいな』

「YES!お久しぶりです!」

「お、お久しぶり・・・でいいのかしら」

「た、たぶん」

「幻獣の言葉がわからない。そんなお困りの二人には僕の教え子作・翻訳補聴器をさしあげよう!」

 

 青い猫型ロボットが道具を出すときの明るい音が鳴るかのような感じで二人分の補聴器を出す。

 

「・・・便利ね」

「・・・まさか、これを売ったりなどは・・・?」

「安心して、非売品だから。さすがにこんな規格外な代物を広げるほど馬鹿じゃないよ」

 

 ジンが不安そうな声で売っていないかと蒼奇に聞くが、すぐに否定した。

 

『ここから街までは距離がある。南側は東や北と違い道中も気をつけねばならん。良ければ、私の背で送って行こう』

「本当でございますか!?」

「・・・本物ね、これ」

「そうですね・・・」

 

 黒ウサギは喜びの声を上げ、飛鳥とジンは蒼奇からもらった翻訳機の効果に驚く。

 

「ありがとう。良かったら名前を聞いていい?」

『ああ。私は騎手より〝グリー〟と呼ばれているから、そのように呼んでほしい』

「うん。私も耀でいい。それでこっちが飛鳥とジン、蒼奇」

『分かった。友は耀。友の友は飛鳥とジン、蒼奇だな』

「ええ、よろしくグリー」

「よろしくお願いします」

『・・・む?わかるのか?』

「蒼奇君がくれたこの翻訳機のおかげよ」

 

 飛鳥が耳にはめている翻訳機を指す。

 

『友の友はすごいものを持っているのだな・・・』

「いや、ただのもらいものだよ。それよりもペリュドンは放っておいていいのかい?」

『・・・なに?奴らが近づいているのか?』

「そうだね。君さえ良ければ、追い返すか討伐するかしておくけど?」

『・・・いや、しかし』

「グリーはみんなを送ってよ。二人と一匹追加で」

 

 蒼奇は影の中からペストと玲那、ネロを取り出してグリーに乗せる。

 

「みんなを安全に運んでくれれば、僕はそれでいいよ。気配さえ追えば合流できるし」

『・・・では、追い返してくれ。もし警告に従わないようならその時は殺して構わない』

「わかったよ。じゃあみんなは先に行ってて」

 

 そういってみんなから離れた蒼奇は次の瞬間、強く光りだしそれがおさまるとそこには、

 

 

 象を乗せれるほどの巨躯。

 

 

 見たこともないほどの綺麗な羽毛が生えた翼。

 

 

 その存在はとても強く大きく感じるものだった。

 

 

「CUOOOOOOOooooooooooo!!!!!」

 

 そして鳥になった蒼奇は一鳴きすると空へと力強く飛び立っていく。

 

「い、今のは・・・?」

『まさかっ、今のはシムルグなのか!?』

「う、ん。そうだ、よ」

「シムルグ?」

 

 グリーの驚愕した声に玲那が肯定し、耀が今の言葉に対して疑問を抱く。

 

『・・・そうだ。シムルグとは鳥の王とも呼ばれる霊鳥だ。あのきれいな羽毛には治癒の力があり、寿命も長く不死鳥という話もあるほどの幻獣だ』

「蒼奇、の友達。昔、から、一緒、らしい」

「そんなにすごいんだ・・・!」

 

 耀の目が再び熱を帯びた視線を飛ばす。

 

『・・・あれほどの存在なら心配は不要だな。街へ行こう』

 

 グリーの一言でシムルグをずっと見つめていた全員は街へ向けて移動をはじめた。

 

 

 




次は土日のどちらかだと思います!


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移動&食事

 シムルグとなった蒼奇はペリュドンを追い返すべく群れの前へと飛び塞がる。

 

『もし、これ以上先へ進むつもりなら容赦はしないよ?』

『『『GYAa!GYAAAaaaaa!!』』』

 

 しかしペリュドンたちはその言葉を無視して蒼奇へ襲い掛かる。

 

『・・・それでも進むというわけかい?・・・なら、死んでもらうしかないね』

 

 蒼奇が翼を大きく後ろにしならせ、勢いよく前へはばたかせる。

 

『『『GIiiッ!?』』』

 

 するとその巨体ゆえに強烈な風を生み、刃のようになり飛んでいく。それがペリュドンたちの身体を斬り刻み、掻き消えていく。中には避けた個体もいたが連続して放たれてくる風の刃に避けきれず、斬られて絶命していく。

 

『・・・これで最後かな』

 

 そして蒼奇は倒したペリュドンを落ちる前に影の中へ収納する。

 

「これって討伐報酬とか出るかな?もしくは食べることとか・・・どうせ鳥だし食べれるか」

 

 そんなことを考えながら〝ノーネーム〟一行の気配を探り、そちらへと向かう。

 

 

 

 

 

 蒼奇は皆の姿を視認するとできるだけ風を起こさないように近くに降り立つ。

 

「わっ!?」

「ヤホッ!?」

 

 〝ウィル・オ・ウィスプ〟の二人。アーシャとジャックがシムルグとなっている蒼奇の姿を見て驚き、声を上げる。

 

『あれ?君らも来ていたんだ?』

「あん?その声・・・」

「蒼奇さんですか?」

『そうだよ。ここに近づいてきていたペリュドンの群れを倒してきたんだ。・・・それと、耀?せめてひと声かけてからモフろうか?ペストもね?』

 

 耀とペストはシムルグのままの蒼奇の胸に顔をうずめてその感触を堪能していた。

 

「・・・ふかふか・・・!」

「・・・ベッドにしたい心地よさね・・・」

『ヤダこの子たち、聞いちゃいないわ・・・。あ、そうだ。ジャック、ペリュドンって食べられる?』

「ええ、可能ですよ。主に串焼きなどですね」

『そう。ありがとう』

「いえいえ、その程度ならば。・・・そういえば、あなたは〝ヒッポカンプの騎手〟に出場はするのですか?」

『・・・ヒッポカンプの騎手?そのゲームはヒッポカンプ限定なのかい?』

「いえ。水上を駆けれる生物なら何でも構わなかったはずです」

『・・・え?条件ゆる過ぎない?それなら僕、麒麟やらケートスやらスレイプニルを引っ張ってくるけど・・・』

「「やめてください」」

 

 ジャックと黒ウサギが声を揃えて蒼奇を止める。

 

『まあ、そうなるよね。・・・さて耀にペスト。そろそろ戻りたいから放して』

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

『・・・少しなら幻獣を見せてあげられるけど?』

「・・・ッ!?」

 

 耀はその言葉を聞くとすごい勢いで蒼奇を放す。しかしペストは放してはくれなかった。

 

『ペストはあとでかまってあげるから放して』

「・・・・・・」

 

 ペストはそれを聞き渋渋ながら放してくれた。

 蒼奇は放したのを確認するとシムルグの身体を輝かせて元の人の姿へと戻り、ペストとネロを肩車する。

 

「うん。ありがとう」

「蒼奇、早く見せて!」

「あーはいはい。といっても誰にしようか・・・あ、あの子なら平気か」

 

 思い立った蒼奇は召喚術で一匹の召喚獣を呼ぶ。

 呼び出された生物を見た耀と他のメンバーは思わず固まってしまう。

 

「・・・・・・・・・・・・なにこれ?」

「ああ。この子はね―――――

 

 蒼奇が召喚した幻獣の姿は全身がヌルヌルしており、真っ黒い太い胴体から生える四本の脚。

 

―――――ウナ〇イヌだよ」

「別のにして!」

「だよね。知ってた」

 

 耀は即座に変更を申し立てた。

 そう力強く言われた蒼奇はすぐにウナギ〇ヌを送還してすぐに別の召喚獣を呼び出す。

 そして、そこに現れたのは黄色の体毛に覆われた大きめのウサギのような生物。しかしその額からは六十センチほどの角が生えていた。

 耀は今度はすぐにその生物を抱き上げて蒼奇に聞く。

 

「この子は?」

「アルミラージだよ。インド洋付近の島に生息してる聖獣。一応肉食だけどそこらへんは調教済みだから安全」

「・・・肉食なの?」

「そうだよ。角で相手を刺し殺して食べるんだ。だからその分、身体能力は高いんだ」

 

 耀は蒼奇の説明を聞いて一瞬驚いた表情をするが、すぐに安心してアルミラージを撫でる。

 

「名前はあるの?」

「リム。良ければ呼んであげてよ。この名前、結構気に入ってるみたいだから」

「うん」

「それでこれからどうするの?」

 

 蒼奇の疑問にジンが答える。

 

「ジャックさんが〝主催者〟にご挨拶へ行くらしいのでそれに同行しようかと」

「そう?じゃあ先に荷物を置きに行こうか」

「そうですね。では少しだけ待っていてください」

 

 ジャックは陽気に笑って承諾して、アーシャとともに外で待った。

 荷物を置いた一同はジャックとアーシャに連れられ地下都市を登り、収穫祭本陣営まで足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 螺旋状に掘り進められた〝アンダーウッド〟の都市を登っていく。

 収穫祭ということだけあってか多くの出店が開かれていた。

 

「あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる〝白牛の焼きたてチーズ〟って、」

「駄目ですよ。食べ歩きは―――」

「だが残念。もう遅いのだよ黒ウサギ」

「え?」

「美味しいね」

「い、いつの間に買ったんですか!!?」

「蒼奇がくれた」

「蒼奇さん!?」

 

 耀がありもしない事実を言って蒼奇に責任を押し付けようとする。しかし蒼奇も負けじと事実を言う。

 

「冤罪だよ!?僕はあげてない!耀はもうすでにそれを持って食べていたから仕方なく代金を払っただけなんですが!?本当にごめんなさい!」

「やっぱり耀さんじゃないですか!?」

 

 そう。耀は出店から品物を持ってきて勝手に食べていたのだ。それをたまたま見た蒼奇が品物の代金を店主に謝りながら払っていたのだ。

 そんな黒ウサギのツッコミを気にしないで次々とチーズに手を伸ばす耀。

 それのせいで焼きたてのチーズの薫りが辺りへ広がる。

 そして耀の横で物欲しそうに見つめる飛鳥とアーシャ。

 耀はそれに気が付くと包み紙を近づけて二人に聞く。

 

「・・・・・・匂う?」

「匂う!?」

「匂う!!?匂うって聞かれた!?普通は『食べる?』って聞くはずだろ!!」

「まあ、空っぽだしね」

「空っぽ!?」

「残り香かよ!!?」

「とりあえず落ち着きなよ、二人とも」

 

 蒼奇が耀に怒る二人をなだめようと声をかける。

 

「これが落ち着いていられるわけないでしょう!?」

「そうだそうだ!!」

 

 蒼奇になだめられるがそれだけでは怒りが治められない二人。

 そこで蒼奇はあるものを取り出す。

 

「まあまあ。はいこれ、二人の分」

「「は・・・?」」

「ん?いらないの?」

「「・・・ありがたくいただきます」」

「うん、よろしい。ほら玲那とペストにネロ、黒ウサギの分も」

 

 蒼奇は耀の代わりにを代金を払うついでにみんなの分もちゃっかり買っていたので、皆に品物を渡してまわる。

 

「はい。ジン君も。一応里桜の分も渡しとくよ。ほらジャックも」

「ありがとうございます」

「ええ。ありがとうございます」

「蒼奇。私のは?」

「いや、耀はさっき食べたばかりでしょうに・・・。いや、そんな泣きそうな目で見られても困るんだけど・・・?と、とりあえず〝主催者〟に会った後ならなんでも奢ってあげるから・・・」

「約束だよ?」

「なっ・・・う、嘘泣き、だと・・・!?」

 

 蒼奇は先ほど食べ終わったばかりの耀に涙目で品物をねだられて仕方なくあとで食べ歩きに付き合うという約束をするとすぐに涙が消え、笑顔になる。

 その後もたわいない会話をして進んでいく。網目模様の根を上がりようやく地表に出る。

 

「それにしても、高いね」

「・・・うん。黒ウサギ。この樹って高さはどれくらいあるの?」

「〝アンダーウッド〟の水樹は全長500mと聞きますよ」

「そんなにあるんだ。それなら神木でもそこそこ大きい部類だね。それにこれほどのものがいまだに本来の機能通りに機能していることには驚きだよ」

「はい。そうでございますね。ですが、黒ウサギたちが向かうのは中ほどの位置でございますよ」

 

 黒ウサギの言葉を聞いた耀は面倒そうな表情をして、

 

「・・・飛んで行っていい?」

「春日部さん、いくらなんでも自由すぎるわ」

「そうだね、さすがにやめてよ?それにこういう広い場所なら、ちゃんとした移動手段があると思うよ」

「ヤホホ!お気持ちはわかりますが、蒼奇さんの言うとおり本陣まではエレベーターがありますから、時間はかかりません」

 

 エレベーター?と一同が首を傾げる。

 しかしジャックはそれを意に介さずに歩みを進める。

 そして太い幹まで来ると、ジャックは木造のボックスに乗り、手招きをする。全員が乗り込むとジャックが木製のボックスに備え付けられたベルを二回鳴らすように促す。ベルを二回鳴らすと乗っているボックスとつながった空箱に、大量の水が注がれる。

 

「水が・・・なるほど。これは重し式のエレベーターかい?」

「ヤホホ!そうですよ。反対の空箱に注水して引き上げているのです」

「水が豊富なこの地域ならではのものだね。それに動力がない分、何かを気にする必要もないしね」

 

 そしてエレベーターは上昇していき、ものの数分で本陣へと移動した。

 

 

 

 




今回はここまでです・・・。
次も一週間以内だと思います!


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説明&会談

 エレベーターのボックスを金具で固定して、木造の通路へと降り立つ。

 その通路は見た目以上にしっかりと作られており、乗ってもびくともしない。そのうえ通路の両側には柵も設けており、落ちないように整備されている。

 一同が通路を進んでいくと、収穫祭の主催者である〝龍角を持つ鷲獅子〟の旗印が見えた。

 

「旗が・・・七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」

「いや、六つじゃないかな?中心の大きな旗は連盟か同盟としての旗だと思うよ」

「蒼奇さんの言う通りですね。〝龍角を持つ鷲獅子〟は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでいます」

 

 旗印は七枚あった。

 

 〝一本角〟

 〝二翼〟

 〝三本の尾〟

 〝四本足〟

 〝五爪〟

 〝六本傷〟

 そして中心の〝龍角を持つ鷲獅子〟。

 

「これが連盟旗・・・でもなんで連盟を組むの?」

「はい。それはですね「やっぱり魔王の脅威が一番の理由じゃないかい?対抗する際には物量で押した方がいいときもあるし、連盟に加入してれば他の加入コミュニティが助けてくれるかもしれないから。でも、それも絶対というわけでもないから、商業面や役割分担とかの方が強い場合もあるかもしれないね」蒼奇さん、黒ウサギのセリフを取らないでください!!」

 

 三人がそんなことを話しこんでいる間に他のメンバーは本陣入り口の両脇にある受付で入場届を出していた。

 そして、受付の子が飛鳥を見ると確認するように話しかけた。

 

「もしや〝ノーネーム〟の久遠飛鳥様ですか?」

「ええ。そうだけど、貴女は?」

 

 その子が言うには弟と一緒に火龍誕生祭に参加していたようで、魔王と戦った際に飛鳥が彼女の弟を助けていたようだ。

 

「そう、それは良かったわ。なら招待状をくれたのは貴女たちなのかしら?」

「はい。大精霊は眠っていますので、私たちが送らせていただきました。他にも〝一本角〟の新党首にして〝龍角を持つ鷲獅子〟の議長でもあるサラ=ドルトレイク様からの招待状と明記させていただいております」

「サラ・・・ドルトレイク?」

「ふーん?なるほどねー。〝サラマンドラ〟関係か。それでここに北側の技術が使われていたんだ」

「お、おそらくは。サラ様はサンドラの姉であり、ドルトレイクの長女です。・・・北側の技術の流出も―――――」

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

 そこに突然聞き覚えのない女性の声が響く。それに全員が声の方へ振り返る。

 途端、熱風が大樹の木々を揺らした。その発生源は空から現れた女性が放つ二枚の炎翼だった。

 

「サ、サラ様!」

「久しいなジン。会える日を―――――っ!?」

 

 サラの声が突然止まる。

 

 

 その理由は―――――

 

 

「これ以上・・・!女性はいらな―――――」

「やめなさい」

 

 

―――――玲那がナイフを喉元に突きつけたからだった。

 

 

 しかし、すぐに飼い主である蒼奇の踵落としが炸裂して、ドゴンッ!!という音を出し気絶させられる。

 

「申し訳ありませんでしたー」

「あ、ああ・・・」

 

 蒼奇はサラに謝り、玲那を引きずってみんなの下へ戻る。

 

「・・・一体、何だったんだ・・・?」

『『気にしないでください』』

 

 その場に居た〝ノーネーム〟メンバーが声を揃えてサラに向かって言う。

 

「・・・そ、そうか、わかった。・・・と、とりあえずキリノ。受付ご苦労。中には私が居るからお前は遊んで来い」

「え?で、でもここを離れては」

「私が中にいると言っただろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大体出そろった。受付を空けても誰も責めんよ」

「そうそう。人の厚意くらい受け取って収穫祭を楽しんで来たら?」

「は、はい・・・!」

 

 キリノは表情を明るくさせ、飛鳥たちに一礼して収穫祭へ向かった。

 残ったサラは一同に目を向けると、口に僅かな笑みを浮かべ仰々しく頭を垂れる。

 

「ようこそ、〝ノーネーム〟と〝ウィル・オ・ウィスプ〟。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も喜ばしい」

「・・・噂?」

「ああ。だが立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つぐらいは淹れよう」

「あ、本当に?」

「あ、ちょっと!?待ちなさいよ!」

 

 手招きしながら本陣の中へ消えるサラ。そしてそれに追随して消える蒼奇と玲那。そこからさらに二人を追随するペストとネロ。

 両コミュニティのメンバーは顔を合わせるも先に行った蒼奇たちに着いていくように大樹の中へ入っていく。

 

 

 

 

 

 〝アンダーウッド〟収穫祭本陣営。貴賓室。

 蒼奇たちが招かれた貴賓室は大樹と大河の中心であった。そして窓からは地下都市が一望できた。

 サラは席に座ると全員に座るように促す。

 

「では改めて自己紹介をさせてもらう。私は〝一本角〟の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。先ほどジンが言った通り元〝サラマンドラ〟の一員でもある。そして地下都市の水晶の通路も私が作った。しかし水晶や使われている技術は私が独自に生み出したものだ」

「あ、そうなんだ。独自の方法でやるなんてすごいね」

 

 ジンはサラの話を聞いてほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「それで、両コミュニティの代表者にも自己紹介をお願いしたいのだが・・・ジャック。彼女はまた来ていないのか?」

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので」

「そうか。北側の下層で最強と言われる参加者を、ぜひとも招いてみたかったのだが」

「・・・北側、最強?」

 

 耀と飛鳥が疑問の声を上げる。その声に隣に座っていたアーシャが自慢そうに話す。

 

「私たち〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダーの事さ」

「そう。〝蒼炎の悪魔〟こと、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉できる大悪魔だ」

 

 話によるとジャックの製作者のウィラは北側最強とまで言われる人物の様だ。しかしその反面に実態はあまり知られていない。三年前に突如として頭角を現したそうだ。それに噂だと〝マクスウェルの魔王〟とやらを封印したという話まであり話だけでもそのすごさが窺える。

 

「噂が事実ならば六桁はおろか五桁最上位と言っても間違っていない」

「へえー。ウィラってそんなにすごかったんだ」

「ヤホホ・・・。ですが、五桁は個人よりも組織を重視いたしますので、強力な同士が一人いたとしても長くは持ちません。それにミカさんや蒼奇さんに比べれば全然ですよ」

「なに・・・?」

「謙遜しなくてもいいよ。素直に褒めてるんだからさ」

 

 サラはジャックと蒼奇の会話に驚く。

 そして蒼奇のことについて聞こうと口を開く、が。

 

「お前は―――――」

「その話はあとでね。今は世間話を一通り終わらせようよ。それに聞きたいことはまだあるんでしょ?」

「・・・それもそうだな。どうせ話の途中で聞くことになるだろうしな」

 

 当の本人である蒼奇によって止められる。

 

「では、話を戻そう。まあジャックの言う通り、その強力な一個人を打ち破られれば容易く瓦解してしまうからだ。・・・その例が〝ペルセウス〟だ。そうだろう、ジン?」

「え?」

 

 どうやらサラの話はジンの〝ノーネーム〟の功績についてのようだ。

 〝ペルセウス〟を打ち破った話。

 北側を襲った〝黒死斑の魔王〟を打ち破った話。

 そして、〝サラマンドラ〟を守ってくれたことに対する感謝。

 

「故郷を離れた身だが、〝サラマンドラ〟を助けてくれてありがとう」

「い、いえ・・・」

 

 赤髪を垂れさせて一礼するサラ。それから顔を上げると屈託のない笑みで収穫祭の感想を問う。

 

「収穫祭の方は見て回っただろうか?楽しんでもらえてるといいのだが」

「はい。まだ着いたばかりですが、前夜祭にもかかわらず賑わいがあっていいかと」

「そうだねー。これで前夜祭なら本格的に始まった時が楽しみだよ」

「そうか。それなら良かった。ギフトゲームは三日目以降だが、それまでにバザーや市場も開かれる。そっちの方も楽しんでくれたらうれしい」

「そのつもりよ」

 

 飛鳥がサラの言葉に笑顔で答える。

 すると飛鳥の隣に座る耀は、目を輝かせながらサラの頭上にある龍角を見ていた。

 

「・・・私の角が気になるのか?」

「うん。立派な角。サンドラみたいな付け角じゃないんだね」

「ああ。これは自前のものだ」

「だけど〝一本角〟のコミュニティだけど、二本あるのにいいの?」

 

 サラは耀の質問に苦笑交じりで答えてくれた。

 〝龍角を持つ鷲獅子〟の一員は身体的特徴でコミュニティを作っているが数字についての規制は特にないらしい。それ以外にも役割に応じて分けられているようだ。

 〝一本角〟と〝五爪〟は戦闘。

 〝二翼〟〝四本足〟〝三本の尾〟は運搬。

 〝六本傷〟は農業や商業。

 という風に分けられていてこれらをまとめて〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟と呼ぶそうだ。

 

「そうなんだ」

 

 耀は簡潔に返事をすると、連盟旗を見上げて描かれている鷲獅子の姿を確認する。

 そしてある疑問を抱き、首を傾げた。

 

「・・・〝六本傷〟は何を指してるの?」

「ああ、それはな―――」

 

 サラは〝龍角を持つ鷲獅子〟のモチーフである鷲獅子が負っていたとされる傷を指しているらしいと言った。組み分けとしては商業や農業に役立つ知識や才があれば良いので全種を受け入れている、かもしれないそうだ。

 

「まあ、この収穫祭でも〝六本傷〟の旗を多く見かけるだろう。今回は南側特有の動植物の販売をしているらしい」

「・・・もしかしてラビットイーターとかはいる?」

「蒼奇さん!?いくら使い道が多いからと言ってそんなもの在り」

「在るぞ」

「在るんですか!?」

「マジで!?どこで売ってるのか分かる!?・・・あっ!もしかして変異種のブラックラビットイーターも!?」

「さすがにそこまで揃えてはいないと思いますよ!?」

「在るぞ」

「在るんですか!??」

「よっしゃ!これは即買いだね!!場所は!?」

「これが発注書で、場所はたしか最下層の展示会場に―――」

 

 黒ウサギはそれを聞くとサラから発注書を奪い取って、蒼奇とその一味以外の〝ノーネーム〟メンバーの首を鷲掴んで去っていく。

 

「あっ!?先を越された!?マズイ、急がないと焼かれちゃう!?ごめん!!これで失礼させてもらうよ!!」

 

 蒼奇は影を操って玲那とペストにネロを回収して、「僕の万能素材ー!」と叫びながら去っていった。

 

「何なんだ?あいつら」

「・・・結局、あいつについては何も聞けなかったか」

「ヤホホ、すこしぐらいなら私から話しましょうか?とはいえ私も詳しく知っているわけではありませんが・・・」

 

 残された三人は茫然としてそんな声を漏らしていた。

 

 




次も一週間以内に投稿予定!


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談話&蹂躙

 〝アンダーウッドの地下都市〟最下層・展示保管庫。

 ズドォォォォォン!!!と雷鳴が轟いた。

 迸る稲妻は全長5mはありそうな食兎植物を貫き、辺りに無残に飛び散る。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!?万能素材のラビットイーターがぁぁ!!??」

「・・・勿体ない」

「お馬鹿言わないでください!こんな自然の摂理に反したものは肥やしになるのが一番なので御座いますっ!」

「・・・はあ。まあ僕の知ってるものと全く違ったし、別にいいか。できれば研究したかったけど」

「おやめくださいませ!!このお馬鹿様!!」

 

 その後〝ノーネーム〟は日が暮れるまで収穫祭を見学した。

 地下都市でバザーや市場を見て、農園に植える苗や種子を物色していく。他にも毛皮製の商品を試着したり、民族衣装を試着したりなどして過ごした。

 その間、蒼奇は財布として機能していた。

 後は〝ヒッポカンプの騎手〟を始めとしたいくつかのギフトゲームに参加登録をし終えた頃に黒ウサギが夕焼け色に染まる空を見て呟く。

 女性陣は収穫祭を楽しく堪能したが、蒼奇は自身の貯金を見て涙を流していた。

 

「そろそろ宿舎に帰りましょうか」

「うん」

「やっとか・・・ああ、懐が寒くなっちゃったよぉ・・・」

 

 そうして一同は自分たちに宛がわれた宿舎にまで行く。

 宿にある談話室に男性と女性でそれぞれ遠慮なく話せるように別れる。

 女性陣は椅子に座って今日一日を振り返る。

 対して蒼奇たち男性陣も別の談話室に集まって話していた。

 

「ああ、疲れた・・・」

「お疲れ様です。蒼奇さん」

「うん。ジン君もお疲れ。・・・ところで、黒ウサギがここに来てからなんか機嫌がよかったように感じたけど・・・」

「・・・おそらく、昔お世話になっていた仲間が南側の生まれだったので、一度来てみたかったのでしょう」

 

 ジンが悲痛な表情で悲しそうな声で話す。

 

「それって、魔王に連れ去られた一人かい?」

「はい・・・」

「・・・そう。さらに聞いちゃうけど、その人の名前って?」

「金糸雀様です」

「・・・金糸雀」

 

 蒼奇はその名前を聞いて少し記憶を探ったがすぐにやめた。

 

「・・・?どうしました?」

「いや、特には。・・・さて、僕は今日はもう疲れたから寝させてもらうよ」

「はい。おやすみなさい」

「うん。おやすみ。ジン君も早く寝なよー」

 

 蒼奇は自分の荷物を持って談話室を出て、宛がわれた部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 〝アンダーウッドの地下都市〟館野蒼奇・ペスト・ネロの部屋。

 

「あー・・・お金がー・・・。定期的に入ってくるとはいえこの出費はつらいなー・・・」

「なら、サラに市場に出させてもらえば良かったんじゃない?」

「・・・・・・・・・そ、そんな手があったなんて・・・!?」

 

 蒼奇がペストの言葉に戦慄した声を上げる。

 

「・・・気づいてなかったのね」

「・・・いや、まあこの収穫祭の分くらいなら十分な貯金はあるしね。ペストもネロも食べたいものや欲しいものがあったら言ってね?」

「そう?なら、ぜひそうさせてもらうわ」

「それにこれから働いてもらうしね」

「え?」

 

 ペストが疑問の声を上げるが、その直後。

 

「きゃっ!?」

「ほいっと」

 

 突然響き渡る激震にペストが体勢を崩すが、蒼奇によって抱きかかえられて持ちこたえる。

 

「きゅ、急になんなの!?」

「襲撃だよ―――――

 

「オオオオオオオオッォォォォォォォ――――――――!!!」

 

―――――巨人族による、ね」

 

 そんな二人に巨人族が大剣を振り下ろす。が―――――

 

 

「危ないなぁ。ネロ?早くこっちにおいで?」

 

 

―――――人外によって片手で止められる。

 蒼奇はすでに一万体もの青鬼と同化し、身体能力が巨人族ですら足元にも及ばないほどに強化されていた。

 蒼奇の部屋を、いや〝アンダーウッド〟を襲った巨人族は世界一不運だったろう。

 ネロがこっちによって来ると影に入れる。

 

「よし。あ、もう死んでいいよ?」

 

 蒼奇が巨人にそう声をかけると、突如崩れ落ちる。

 

「・・・なにをしたの?」

「ん?完全に生気を吸い取っただけだよ」

 

 軽い口調で恐ろしいことを言う蒼奇。

 

「じゃあ、外の奴らを始末しに行こうか。中の方は黒ウサギ辺りがどうにかするだろうし」

「え、ええ。わかったわ」

 

 蒼奇とペストは部屋だったものから出て、巨人族を殲滅しに向かった。

 

 

 

 

 

 二人が外に出るとそこには二百体程度の巨人族がいた。

 

「おお。おお。わんさかいるなー」

「そうね」

 

 暢気にそんな会話をする二人。

 

「じゃ、ペストはあっち。僕はこっち。巻き込まれないようにね」

「・・・マスターも巻き込まないように気を付けて」

 

 二人はそれぞれ別れて巨人族を分担する。

 

「さて?誰が相手してくれるのかな?」

「「「オオオオオオオォォォォォォォォォ!!!」」」

 

 蒼奇に三体の巨人族が襲い掛かり、剣を振り下ろす。

 

 しかし、それでも人外には遠く及ばない。

 

 

「うん。いい心意気だ。そういうわけで武器をもらうよ?」

 

 

 どういうわけかはまったくもって分からないが、巨人族の一体から剣を奪い取り強化を施して、三体を薙ぎ払う。

 その一振りで胴体を二つに分かち、三体の巨人たちは絶命する。

 それにより周囲にいた巨人族が蒼奇を警戒し、距離をとる。

 

 

 

 しかし、人外にはその行為は無意味、いや逆効果だった。

 彼らがすべき行動は距離をとることではなく、逆に全員で襲い掛かるべきだったのだ。

 

「せいやー」

 

 軽い掛け声で人の身には余る巨剣を光速を超えて振るわれたそれは剣圧を飛ばして巨人族を斬り払う。

 しかし、その代償に巨剣がボロボロになり使い物にならなくなってしまう。

 

「あちゃー。もうだめなのかー。やっぱジョンの造った武器じゃないと耐え切れないか・・・」

 

 そんな暢気な声を上げているときにも巨人族は襲い掛かってくるが、蒼奇は片手間でいなしては手刀で首を刈り取る。

 

「弱いよ弱いよー」

 

 蒼奇がそんなことをいって巨人と遊んでいると、飛鳥のディーンの声が響き渡る。

 

「DEEEEEEEeeeeEEEEEEEN!!!」

「・・・あっ。飛鳥とか耀のこととかすっかり忘れてたや」

 

 ディーンの声を聞いて蒼奇は飛鳥と耀の存在に気が付いた。

 

「・・・一応、様子を見に行こうか」

 

 しばらく巨人を蹂躙してた蒼奇はそう考え、巨人族を足場にして二人の下へ向かう。

 そのうえ足場にされた巨人族は触れた瞬間に生気を吸われて絶命していく。

 

「・・・っと。二人とも、無事だったんだね」

「ええ。一応ね」

「・・・うん」

 

 蒼奇が二人の下に着いて安否を確認すると同時に安全を知らせる鐘が鳴り響く。

 それを聞いた耀は何かを思い出したかのように旋風を巻き上げて宿舎の方へまっすぐ駆けていった。

 

「か、春日部さん!?」

「・・・なにを焦って・・・?・・・ああ、あれを見つけたんだ」

「あ、あれって・・・?」

「行けば分かるよ。一先ずは襲撃は落ち着いたみたいだしね」

 

 そうして二人は自分たちが先ほどまでいた宿舎へと向かった。

 

「・・・転移で向かわないのかしら?」

「いや、こういう時に先回りされたら飛鳥はどう感じる?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ほら、そういう嫌そうな顔になる。だから、ちょうどよく着くくらいで移動すればいいんだよ」

 

 会話をしながらのんびりと。

 

「あ、でも先に行ってて。玲那とペストを連れてくるから」

「・・・いつものことだけれど、その締まらない癖はどうにかならないのかしら?」

 

 

 




テスト期間に入るので次話は未定です。
遅くなり過ぎないように頑張ります。


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成敗&取引

ギリギリ一週間以内に投稿できました!


蒼奇は気配を頼りに玲那とペストを探し始める。

 

「・・・?なんで二人が一緒に?」

 

するとどういうわけか二人の気配は同じ場所から感じ取れて一緒にいることが分かった。

 

「・・・行けば分かるか。それじゃ、久々のしまさん!カモン!」

『・・・・・・。・・・・・・・・・』

「あっ、いや、その、ごめんなさい・・・。なかなか活躍できる場面がなかったから呼べなくて・・・ホントすみません・・・」

『・・・』

「許してくれてありがとう・・・。じゃあ、二人の傍に転移をお願いするよ」

 

しばらく呼んでもらえなかったしまっちゃうおじさんは不機嫌で召喚されて蒼奇へ愚痴と文句をこぼしたようだった。

そんなしまっちゃうおじさんに蒼奇が恐る恐る謝ると嫌々ながらも許してくれたらしい。

そしてしまっちゃうおじさんに二人の傍へ送ってもらうとそこには―――――

 

 

「「・・・・・・ッ!!」」

「おっふ・・・」

 

 

―――――お互いを鋭く睨み合う玲那とペストの姿が蒼奇の目に映った。

 

「・・・あ、あの一体何が」

「この女が私のことを狙って攻撃してきたのよ!!」

「ちが、う。貴女が私の射線、に入ってきた、だけ」

「嘘よ!あれは絶対に狙ってたわ!!」

「・・・偶、然」

「だったらどうして動いてない私に攻撃が来るのよ!?」

「・・・引、力」

「ないわよ!そんなもの!!」

 

二人が蒼奇の声を皮切りに互いに自分の主張を言い始める。

 

(あっ、これ収拾つかない奴だわ)

 

一瞬で理解した蒼奇は行動に移る。

 

「面倒だから二人とも寝てろ」

「「・・・!?」」

 

ドゴンッ!!という音が二つ鳴る。もちろんペストと玲那の頭から発せられた音だ。

蒼奇に殴られた二人は当然気絶して、影に仕舞われる。

 

「これでよし・・・。さて、飛鳥たちのところに行くかな」

 

 

 

 

 

〝アンダーウッドの地下都市〟宿舎残骸前。

 

「っと」

「蒼奇君!あなたも手伝いなさい!」

「ん?」

 

蒼奇が飛鳥の声に反応してそっちに意識を向けると飛鳥が気を失っている耀を運ぶ姿が見えた。

 

「何があったんだい?」

「木が落ちてきて春日部さんの頭に直撃したのよ。それよりもこれを見なさい」

 

そういって飛鳥が差し出してきたのは炎のエンブレム。

おそらく十六夜のヘッドホンの一部だろう。

 

「ああ。やっぱりこれの安否が気になったんだ」

「やっぱりって・・・知ってたのかしら?」

「知ってたよ。僕と召喚獣がその気になれば簡単だしね」

「・・・犯人は春日部さんかしら?」

「それは本人に聞きなよ。とりあえず耀を救護施設的なところが設けられているみたいだから、そこに運ぼうか。それと飛鳥も怪我してるみたいだし、エリクサーを渡しておくよ。耀の頭にもかけといてくれる?運び終わったら僕はジンと黒ウサギの方へ様子を見に行くから」

「え、ええっと、わかったわ」

 

 飛鳥は蒼奇から次々出される言葉に押されながらも了解する。

 

「それじゃあ施設前に転移するよ」

 

 蒼奇はそういって二人と施設に転移する。

 

「よし。飛鳥。ここからは一人でも平気かい?」

「ええ。ありがとう。助かったわ」

「それじゃあ、あとはよろしく」

 

 蒼奇はそういって転移で飛鳥の下を離れてジンと黒ウサギの下へ移動する。

 

「やっほー、二人とも」

「「蒼奇さん!」」

「うん。蒼奇さんですよー。・・・それで、どういう状況?」

 

 蒼奇が転移した先には二人の他にもサラやジャック、アーシャがいた。

 そこで蒼奇は今回の襲撃の詳しい話を聞いた。

 今現在南側には〝階層支配者〟が存在しないこと。

 以前の〝階層支配者〟は先月、〝黒死斑の魔王〟と同時期に現れた魔王に討たれたこと。

 今回の襲撃者の巨人たちは十年前の魔王の襲撃の復讐であり、〝階層支配者〟が討たれた後から暴れ始めたこと。

 

 そして―――――

 

「・・・これがバロールの瞳?」

「ああ。今回の巨人族の狙いだ」

 

―――――巨人族がバロールの瞳を狙っていることも。

 

「それでどうするの、これ?」

「それなんだが、これを扱える者を探していたのだが・・・貴方は使えるのか?」

「使えるけど、僕は僕でやることがあるから・・・」

「そうか・・・」

「でも、代わりにペストを貸し出すよ」

 

 蒼奇はそういって影から気絶しているペストを出してジンに渡す。

 

「はい、ジン君。精々こき使ってあげてよ」

「は、はい。わかりました」

「うん。頑張って。・・・さて、サラ?」

「ん?何だ?」

 

 蒼奇はサラへ向き直り、話を切りだす。

 

「僕と、取引しない?」

「・・・なんだと?」

「ここにエリクサーが三千個ほどあるんだけど、これを買う気はないかい?」

「蒼奇さん!?こんな非常時に何を!?」

「これは取引だよ、黒ウサギ。僕はこれらを彼女の言い値で売る。ただそれだけだよ」

「しかし―――!」

「いいだろう」

「サラ様!?」

 

 蒼奇が黒ウサギと口論しているとサラが割り込み、取引を了承する。

 そして一枚の紙を差し出してくる。

 

「この値でいいだろうか?」

「・・・うん。取引成立だよ」

 

 蒼奇は紙に目を通すと、一つ頷いて受け入れる。

 

「じゃあ、エリクサーは此処に置いておくよ。追加で欲しいなら言っくれたら売るから」

「ああ。感謝する」

「いいよ別に。じゃあ二人とも、次の襲撃まで瓦礫の撤去作業を手伝いに行こうか」

「えっ!?あっ!ちょ、ちょっとお待ちくださいませ蒼奇さん!それではサラ様、また後でなので御座いますよ!」

「こ、これで失礼させてもらいます!」

 

 サラに一言言って、去っていく蒼奇に追随する二人。

 

「そ、蒼奇さん?一体いくらで買い取ってもらえたのですか?」

「えっ?そんなこと聞きたいの?うわー、黒ウサギってばがめついなー」

「そんなことはありません!そうではなくあまり大きな額を負担させては復興が―――」

「問題ないよ。ほらこれ。さっきの取引書」

 

 蒼奇はしつこく責めてくる黒ウサギに先ほどサラから渡された一枚の紙を手渡す。

 

「えっ?・・・な、なんですかこれ?なんで白紙なんですか?」

「だって、金銭はもらってないからね」

「い、一体どういう・・・」

「なるほど。蒼奇さんが売ったのは恩ですか」

「そうだよ。信頼といってもあながち間違いではないよ。大分リーダーらしくなってきたね、ジン君」

 

 先ほどの取引、蒼奇とサラは一切の金銭の売買は行っていない。

 彼らは関係を売買していたのだ。

 蒼奇はエリクサーただで売った。

 サラはエリクサーをただで買う代わりに蒼奇に、というよりは〝ノーネーム〟に借りをつくったのだ。

 つまり蒼奇は〝アンダーウッド〟に〝ノーネーム〟として金銭の代わりに恩を売ったのだ。

 

「ヤホホ!そういうことでしたか!」

「やあジャック。いつも通り元気そうだね」

「ええ。それが私の取り柄ですから!」

「それもそうか。・・・じゃあ僕は外で見張りでもしてるよ。みんなは飛鳥と耀に合流でもしててよ」

「おや?少しお話したいこともあったのですが・・・」

「まだまだ収穫祭は長いんだから、話す機会はたくさんあるよ。それに耀たちのゲームについては僕は見てたからよく知っているよ」

「そうでしたか。では、お二人に話すことにしましょうか」

「そうそう、そうしてあげてよ。それじゃあまた後で」

 

 蒼奇は三人の下を離れて大樹の外へ向かう。

 

『・・・よかった、の?』

「なにをだい?」

『・・・二人のゲーム、の話、させちゃっ、て。戦果、ごまかし、たんで、しょ?』

「ああそれか。・・・さあ?僕は知らないよ」

『・・・なら―――』

「でも、いい方向に転んでくれると思ったからね。ただの勘だけどさ」

『・・・そう』

「じゃあ張り切って見張ろうか」

 

 蒼奇は影の中の玲那と話しながら、大樹の見張り台へと向かう。

 

 

 

 

 

 蒼奇が見張り台に着く。

 あんな襲撃があったため、当然のように何人かの見張りがいた。

 

「見張り、お疲れ様です。手伝いに来ました」

「む?それはありがたいが・・・どこの所属だ?」

 

 見張りの一人が警戒しながら聞いてくる。

 

「ジン=ラッセルの〝ノーネーム〟で通じる?」

「・・・!そうか。北側で魔王を倒した・・・。それは心強い。歓迎しよう」

 

 見張りの人にも手伝いを正式に認められ、そこに残る蒼奇。

 そして蒼奇が見張りに加わって数十分後。

 蒼奇の探知に多くの気配が引っかかった。

 

「・・・来たか」

「なに?」

 

 見張りの一人が蒼奇の漏らした声に反応するが、次の瞬間琴線を弾く音が聞こえ、蒼奇以外が気を失って倒れる。

 

「っ!?ちっ!精神干渉系のギフトか!?」

 

 急に他の人たちが倒れたことに驚く蒼奇だが、すぐに精神干渉によるものだと見当をつけて切り替える。

 蒼奇はしまっちゃうおじさんを呼び出して近くにあった鐘を鳴らさせ、〝アンダーウッド〟全体に緊急事態を知らせる。

 しまっちゃうおじさんが鐘を鳴らしたのを確認すると外へと飛び出して応戦しようとする。

 

「玲那。影から出て、〝アンダーウッド〟の人たちを守れ」

「・・・わか、った」

 

 蒼奇の影から玲那が出てきて、後方へ向かう。

 それを確認すると青鬼を影の中に百体呼び出し、同化する。

 

「・・・さて、僕だけが楽しむのはまずいかな?んーそうだなぁ・・・あ、巨人つながりでいこうか。おいで、アースさん」

 

 そしてそこに現れたのは襲撃者の巨人族の三倍はあるかというような巨体の【巨神・アース】。

 

「それとおまけでJ!カモン!」

 

 さらに追加で現れたのは玉ねぎ頭の白スーツに身を包んだ紳士【黒太陽の申し子・J】。

 

「あとは、強化寄生体(ブレイン・ジャッカー)二十体」

 

 最後に現れたのは一つ目の球体の八本足の奇妙な黒い生命体。それが二十体。

 

「んー?訓練ってことで戦闘用最弱のブルーニトロたち!」

 

 羽毛を持った人型の生物【グルメ貴族・ブルーニトロ】。それが八人出現する。

 

「さあみんな。・・・楽しもうか!!」

 

 そうして蒼奇と召喚獣たちは巨人族の大軍に向かって駆け始めた。

 

 

 




次話も一週間以内に投稿します!(予定)


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遊戯&講義

 緊急を知らせる鐘が〝アンダーウッド〟に鳴り響き、耀たちは急いで樹の根の外へと向かった。

そこで外へ出た耀たちが見たのは―――――

 

 

「なに、これ・・・?」

 

 

―――――圧倒的蹂躙だった。

 

 襲撃者の巨人族の三倍は身の丈のある巨神・アースが腕を振る度に巨人族が吹き飛び、潰れていく。

 

 黒い太陽から発せられる熱と炎によって巨人が焼死していく。

 

 顔に黒い何かを張り付けている巨人が味方であるはずの巨人を虐殺していく。

 

 羽毛を持つ人型の生物が巨人の腕や首を喰い千切る。

 

 そしてその召喚獣たちの主である蒼奇は巨人の足を持って振り回して、武器の代わりにして殺戮していく。

 

 全員がそれぞれの戦線を維持して巨人族の侵攻を食い止めていた。

 

「・・・伝、言」

「わっ!」

 

 そんな光景を見ていた耀たちの横に、突然玲那が現れて話しかける。

 

「で、伝言?」

「・・・うん。『巨人は何とかしておく。だからさっさと竪琴の方を何とかしろ』・・・って、言って、た」

「・・・わかりました。僕に考えがありますので、それを実行しましょう。そのためには耀さん、貴女の力が必要です」

「・・・それは、・・・ううん、何でもない。作戦を教えて」

 

 

 

 

 

 蒼奇は巨人族の進行を必死、でもないがとりあえず食い止めていた。

 

「弱すぎだよー。ほら!もっと熱くなれよ!もっと必死になれよ!」

 

 向かってくる巨人を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す。

 そして戦線の奥の方から蒼奇にまで聞こえてくる叫び声が聞こえた。

 

「何処に行ったの、あのクソ女あああああああッぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 玲那に対するペストの罵倒が響き渡った。

 

「・・・ふっ、ははははは!!こんな時にそんなことをっ!?いくら片手間で相手できるからって玲那への恨み言をっ!?ひ、ひはははははは!!!」

 

 そんな叫びを聞いた蒼奇は戦場の真っただ中で腹を抱えて笑い出す。

 

「「「オオオオオオオォォォォォォォォォ!!!」」」

「はぁーはぁー・・・あ、そういえば戦場だったね。・・・ていっ」

 

 蒼奇が腕を振る度に十体以上の巨人族が吹き飛び、倒れ伏していく。

 そのまま少し遊んでいると琴線を弾く音が聞こえて、濃霧が一帯を包み込み視界を奪っていく。

 

「おーやっとか。みんな戻っていいよー。・・・さて、うまくやりなよ、耀」

 

 濃霧を確認すると召喚獣たちを送還して、聞こえるはずはないが耀に一言声援を送った。

 

 

 

 

 

 耀の活躍により巨人族に勝利した翌日。

 蒼奇は耀たちに付いていかずに自身に割り当てられた部屋にいた。

 

 

 

 ある女性二人が喧嘩を始めないかビクビク怯えながら。

 

「「・・・・・・」」

「そこ。睨み合わないで仲良くしろ」

「無理ね/・・・無、理」

「はあ・・・」

 

 二人の緩衝材兼仲裁役として蒼奇はここに残っているのだ。

 そんな時間を過ごしていると、部屋の扉がコンコンとノックされる。

 

「・・・は~い、開いてますよ~」

「・・・お邪魔します」

「お邪魔するわ」

 

 入ってきたのは耀と飛鳥の二人だった。

 

「「・・・」」

「それで何の御用?」

「えっと、その前にあの二人は?」

「ああ。・・・寝てろ」

 

 蒼奇は何時しかのように二人を殴って気絶させて、影の中に引きずり込む。

 

「もういいよ」

「・・・・・・それで用件なんだけれど」

 

 突然のことに少しの間茫然とした二人だったが、いち早く飛鳥が直って話を切りだす。

 

「・・・これ、直せない?」

 

 耀が差し出したのは十六夜のヘッドホンの一部である炎のエンブレムだった。

 

「あれ?代わりの物を召喚してもらったんじゃないの?」

「・・・それが、」

「それが凄く可愛いものが召喚されたのよ!」

 

 耀の言葉を遮って飛鳥が興奮気味に話す。

 

「可愛いもの?・・・ああ、そうか。あのヘッドホンってネコ耳仕様だったか」

「・・・!知ってるの?」

「一応ね。十六夜のやつも元々は出る仕様だとは思うけどね。そうか、耀の世界はそういう世界なんだ」

「結局、直せるのかしら?」

「直せるよ。少し貸して」

 

 耀から炎のエンブレムを受け取る。

 

「えーと、【時間逆行(リターン)】」

 

 蒼奇がそう言うと炎のエンブレムが少しずつ姿を元のヘッドホンに戻っていく。

 

「はい、直ったよ」

「・・・ありがとう」

「でも、十六夜にちゃんと謝るんだよ」

 

 元に戻したヘッドホンを耀に渡す。

 しかし、渡したときに誤ってスライド横のボタンを押してしまう。

 すると、カシャン!と音をたててネコ耳が生えた。

 

「「・・・・・・」」

「あ、あれ?戻し過ぎちゃった、かな?」

 

 二人が蒼奇のことを何をしたと言いたげな目で睨んでくる。

 

「そ、それより用件はこれだけ?」

「「・・・」」

「・・・?」

「私たちのギフトについて少し指導してほしいのだけれど・・・」

「・・・いい?」

「・・・むぅ。どうしようか。出来ればそこらへんは自分で気づいてほしいんだけど・・・」

「・・・さっきフェイスさんから人間の領域を大きく逸脱した代物って言われた意味だけでも教えて」

「・・・っ!」

 

 耀の質問に蒼奇が少し動揺した。

 

「「・・・・・・・・・」」

「・・・・・はあ・・・。それについては肯定しておくよ。本来なら回収して人の手の届かないところに保管するべきものだとは考えてる。でも耀には必要だし、君なら大丈夫だとも考えてる」

 

 二人の視線に観念した蒼奇はそんなことを口からこぼした。

 

「・・・じゃあ、」

「これだけは言っておくよ。そのギフトの本当の力を知ったとしても、心は強く持ってね。そのギフト、〝生命の系統樹〟は耀にとっては害になることはないだろうから」

「・・・わかった」

「私には何もないのかしら?」

 

 それまで黙っていた飛鳥が口を開く。

 

「そうだねー。とりあえず、どこまで理解してる?」

「・・・正直、分からないわ」

「まあ、そうだよね。でも飛鳥のギフトは三人の中でも特異なギフトだ。そのうえ状況が充実すれば伸びしろは無限にあると言っても過言ではないんだ」

「「・・・!?」」

 

 蒼奇の話に対して驚愕する二人。

 

「ど、どういうことなの!?」

「そのまんまの意味だよ。飛鳥のギフト〝威光〟は能力の幅が広すぎるんだ。人が持つには大きすぎる力だ。それに僕らは『威光』と名の付くギフトを一度目にしているけど、覚えてる?」

 

 その言葉に二人は自身の記憶を探り始める。

 

「・・・ゴーゴンの威光?」

「あっ」

「正解。あれは与える側の恩恵だ。それと同じように飛鳥の〝威光〟も与える側のギフトだ」

「でも、それがどう私のギフトにつながるのかしら?」

「飛鳥の命令する力はほんの一部でしかないってことだよ。・・・そうだね。おまけだ。〝白銀の十字剣〟を貸して」

「えっ?いいけれど・・・」

 

 飛鳥から十字剣を受け取った蒼奇はその剣にいくつかのギフトを付与する。

 

「はい。いくつかのギフトを付与しておいたよ」

「・・・何のギフトかは、」

「秘密。でも、すぐにわかるよ。だから、戦闘ではいつも帯剣しておいてね?」

「・・・わかったわ」

「・・・・・・・・・」

「ん?耀。どうかした?」

「・・・・・・・・・蒼奇が、ちゃんと先生らしいことしてる・・・!?」

「いや、育てるって言ったからには多少はするよ。だから、そんなに戦慄したような表情にまでならなくても・・・」

「すこし信じられないわね」

「うん」

「・・・ああもう!講義は終わり!ほら、さっさと帰って帰って!」

「ちょ、ちょっと!?」

「わわっ・・・!」

 

 蒼奇は二人を入り口に追いやって外へ放り出す。

 

「ふぅ。やっと一人になれたか」

『・・・私、は?』

「別に玲那ならいいよ。ペストは?」

『まだ気絶、中。ふ、ふふ』

 

 玲那は蒼奇に特別扱いされたことに嬉しく思って笑い声をこぼす。

 

「・・・?笑ってるけどどうかした?」

『何でもな、い』

「・・・そう。まだ今回の騒動は続く可能性がある・・・鏡夜みたいに仕掛けてくる可能性もだ。あえて未然には防がない。三人の成長のためにも。だから玲那、場合によっては力を借りるよ」

『・・・う、ん』

 

 その空間には蒼奇の声しか響かないが、彼にはちゃんと玲那の声が届いていた。

 

「それにしても・・・」

『・・・?どうか、した?』

「つまんなかったなぁ・・・あの巨人族たちは」

 

 最後の最後に戦闘に対する愚痴をこぼすのだった。

 

 




次回は週末にあげられると思われます・・・。


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十三番目の太陽を撃て
興奮&会議


 陽も沈み、星の光が輝き始めた頃。

 蒼奇は十六夜とレティシアの気配を探知した。

 

「二人もようやく着いたか」

 

 自分の部屋のベッドで横になっている蒼奇が呟く。

 

『・・・そろそろ出してほしいのだけれど?』

「喧嘩しないなら」

『・・・・・・』

 

 蒼奇の言葉に黙るペスト。喧嘩をしないという保障が出来ないからだろう。それからは少しの間、静寂が包む。

その間も二人は影の中にいるはずなのだが、牽制しあっていた。

 

『『・・・・・・・・・』』

「・・・仲良くは出来ないの?」

『『無理』』

「はあ・・・」

 

 そんな時、ある異変が発生する。

 

―――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ―――

 

『何!?一体なんなの!?』

『・・・』

「・・・始まるか」

 

 事情を聴いていないペストが一人で騒ぐ。

 

「さて、もう一仕事だ。外に向かおう」

『・・・う、ん』

『ちょっと!?説明くらいしなさいよ!』

「・・・魔王のゲームが始まるんだよ。正しくは再開、かな」

『えっ・・・!?』

 

 驚くペストをよそにどんどん外へ向かう蒼奇。

 

「今回は、楽しめるかな?」

 

 

 

 

 

 そして大樹の外へ来た蒼奇が目にしたのは、

 

「GYEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaa!!!」

 

 天地を揺るがす雄叫びを上げる巨龍に大量の巨人族。

 そして巨龍から鱗が降り注ぎ巨亀や大蛇になって街を襲う光景だった。

 

「・・・っ!!ああ、ああ!いいなぁおい!!はははははははははは!!!龍ってマジかよおい!!よぉし!お前ら、出てこい!!」

 

 蒼奇は召喚獣たちを呼び出す。

 巨神・アース。

 黒太陽の申し子・J。

 強化寄生体(ブレイン・コントローラー)

 そしてグルメ貴族・ブルーニトロ。

 この四種類。強化寄生体は多めに三十体出しており、ブルーニトロは三人出している。

 

「さあ!巨人族やそこらにいるバケモノ相手に思う存分暴れろ!!俺は巨龍の相手をしに行く!!くれぐれも邪魔はするな!!」

 

 目の前の戦線を召喚獣に任せて自分は期待している巨龍に向かう。そしてしまっちゃうおじさんの力によって巨龍の目の前に転移する。

 

「GYEEEEEAAAAAAaaaaa!!!」

「ははは!!威勢がいいなぁ!?とりあえず手始めに、青鬼・一万!!」

 

 一万の青鬼と同化して巨龍の頭を地に向けて落とすように殴る。

 

「GIAaa!!?」

 

 呻き声を上げて、巨龍は凄い勢いで地面に向かう。そのままの勢いで巨龍は地面に激突して地を揺らす。

 

「おいおいおい!?こんなもんかぁ!?」

「ちょ、ちょちょちょっと!?蒼奇さん!?」

「あん?ああ黒ウサギか。どうした?」

 

 巨龍の傍にまで降下した蒼奇に黒ウサギは大樹の中から声を荒げて話しかける。

 

「も、もうすぐ〝審判権限〟の発動が受理されます!!そうなったらすぐに交戦を中止してください!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ギリギリギリ」

「い、いえ・・・そんな怨めしそうな顔で血涙流されながらのうえに歯ぎしりをされても黒ウサギが困るのですが・・・?」

「・・・・・・ちっ。わかったよ」

「そ、そうですか。それはよかっ」

「じゃあ、こいつを誰かに取られないように遠ざけるから待ってろ」

「た?」

 

 蒼奇は巨龍の影を操り、巨龍を握れるほど巨大な手を形成する。そして巨龍を掴み上げる。

 影の手は蒼奇の現在の身体能力に依存するため、巨龍を簡単に持ち上げた。そして、勢いをつけると〝アンダーウッド〟から遠ざける方向に、

 

「オッラァァァァ!!」

「GYEEEEAAAAAaaaaa――――――・・・・・・」

 

 思いっきり投げ飛ばした。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「これで良し。さて黒ウサギ。発動受理はまだか?」

「えっ?はっ?え、ええと?」

「〝審判権限〟の受理はまだかって聞いてるんだが?」

 

 今の光景に口を開けたまま茫然としている黒ウサギに声をかける。

 

「は、はい!たった今受理されました!」

「なら早く宣言してくれ」

「は、はい!!」

 

 そして黒ウサギは〝アンダーウッド〟全域に届くような声で宣言した。

 

「〝審判権限〟の発動が受理されました!只今から〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します―――――」

「・・・今回で、どれくらい成長してくれるかな?」

 

 そんな中、蒼奇は自分にしか聞こえないほどの声でつぶやいた。

 

 

 

 

 

 それから一夜明けて大樹の中腹にある連盟会議場に蒼奇たちは足を運んでいた。

 作戦会議が始まる前、いや始まってから少し一悶着があったもののその後はうまく戻り順調に進んでいた。

 最初にサラから〝黄金の竪琴〟とともに〝バロールの死眼〟も奪い去られたこと。

 そして現在、南側だけでなく北側の〝階層支配者〟である〝サラマンドラ〟と〝鬼姫〟連盟や東側の〝階層支配者〟である〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉が同時に魔王の強襲にあっていること。

 それを聞き黙っていた蒼奇が口を開く。

 

「・・・すべての〝階層支配者〟が襲われている、ってことか。まさか魔王の狙いは上位権限の〝全権階層支配者〟か?」

「おそらくはそうでしょう」

「「「「・・・?」」」」

 

 蒼奇の発言にフェイス・レスが肯定する。

 

「あ、あの〝全権階層支配者〟とは何でございましょうか?」

「・・・あまり知られていない制度なのか。あー何だったかな。〝階層支配者〟が壊滅か一人になった場合に、」

「暫定四桁の地位と太陽の主権の一つ与え、」

「あーそれだ。そのうえ東西南北から次の〝階層支配者〟の選定権を与えられる、だったか?」

「ええ、その通りです」

「なっ!?太陽の主権に暫定四桁の地位だと!?」

「そんな制度が!?・・・あ、あれ?ですがなぜ蒼奇さんはそのことを?」

 

 蒼奇とフェイス・レスは無駄に息の合った謎のコンビネーションで説明する。

 しかし黒ウサギが今の話を聞いてそんな疑問を口にする。

 しかし蒼奇は答えずに一旦流した。

 

「今はそんなことは置いておけ。それよりもその制度が適用された前例は、」

「白夜叉とレティシア=ドラクレアの二名だけです」

「それが〝箱庭の騎士〟の由来でもある」

「レティシア様が・・・!?」

 

 黒ウサギの声を荒げる反応にフェイス・レスが逆に驚く。

 

「〝箱庭の貴族〟ともあろう者が、〝箱庭の騎士〟の由来を知らないのですか?」

「うぐっ。く、黒ウサギは一族でぶっちぎりの若輩ですので、古い話はあまり・・・」

 

 そのことから黒ウサギは十六夜、飛鳥、そしてフェイス・レスまでが参戦して弄り始める。

 しかしこのままだと収拾がつかなくなりそうだと判断した蒼奇は割って入る。

 

「はぁ・・・。〝箱庭の貴族(笑)(恥)〟の戯言はとりあえず置いといて話を戻すぞ」

「置いとかないでください!!」

「事実だから黙ってろ」

「はい・・・」

 

 蒼奇にそう言われてウサ耳をへにょらせる黒ウサギ。

 

「・・・まぁいいでしょう。・・・そうですね。確か〝全権階層支配者〟となったレティシア=ドラクレアはその権力と利権を手に、上層の修羅神仏に戦争を仕掛けようとしたそうです」

「レティシア様が・・・?」

 

 フェイス・レスの話を聞いて、一斉に顔を見合わせる〝ノーネーム〟一同。・・・いや蒼奇だけは不快な表情をするだけで他者の顔を見ることはしなかった。

 

「それは魔王としてということかしら?」

「それは聞いていません。その後は戦争を阻止しようとした吸血鬼たちが革命を決起し、同族同士の殺し合いの末に滅んだと」

「同族同士の殺し合いを・・・?」

「はい。これについては当時を知るクイーンの話で「当時を知る、か。どうやらクイーンとやらは随分と記憶力が乏しいみたいだな」・・・どういうことでしょう?」

 

 突然自身の主を貶されたフェイス・レスが声を遮った蒼奇へ鋭い視線を向ける。

 

「どういうことも何も、今の話には虚偽しか存在しないだろうに」

「・・・では貴方は真実をすべて知っていると?」

「ああ、知っているさ。お前の何者かさえもな」

「・・・っ!?」

「安心しろ。俺は言うつもりはない」

「・・・そうですか」

「あ、あの。それよりも今の話が嘘だというのは・・・?」

 

 そこで二人の会話に放っておかれた黒ウサギが割って入る。

 

「・・・こんな話は俺からではなく本人から聞くべきだと、いつもなら言うが今回はゲームのためにも話そう。ただ、聞いていて気持ちのいい話ではないことは予めわかっていてくれ」

 

 それから蒼奇はレティシアの過去について少しずつ話し始めた。

 

 




次話は一週間以内、にあげられるといいなぁ・・・。


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秘密&度胸

 蒼奇はレティシアの過去を要所だけ取り簡潔に話した。

 戦争を仕掛けようとしたのはレティシアのいる〝階層支配者〟制度賛成派ではなく反対派の連中だということ。そして同族殺しもその連中が太陽の主権を用いて大天幕を開放したこと。大天幕の開放は吸血鬼の純血、つまりレティシアの家族だけを殺すためにしたものだということやその結果彼女は復讐と〝階層支配者〟制度を残すために自身の名にすべての泥を被ったことも。

 蒼奇は自身が()()()()ものを嘘偽りなく話した。

 

「これが魔王ドラキュラの誕生秘話の真相ってところだ」

「・・・そうでしたか」

「レティシア様にそんな過去が・・・。で、ですが蒼奇さんはなぜそのことを知っておられるんですか?箱庭に以前いらっしゃったことでも・・・?」

「いや、この身体では初めてだ」

「・・・待て。この身体だと?どういうことだよ?」

 

 蒼奇の言葉に全員が首を傾げ、今まで黙っていた十六夜までもが口を開き尋ねる。

 

「俺は館野蒼奇だ」

「・・・?それはここにいる人なら誰でも知っているわよ?」

「急かすなよ、飛鳥。・・・この身体は、これさえも『館野蒼奇の分身体』だ。生み出されたのは千年以上前だ。起動させられたのは五百年ほど前になる。この身体が動き出す前にもこの身体と同じギフト、同じ姿の『館野蒼奇』が多くいて弟子の多くは俺ではない『館野蒼奇』の弟子だ」

 

 蒼奇が発した言葉にその場に居るすべての人物が驚いた。

 

「ど、どういうことですか!?まさか今まで僕たちを騙して―――」

「だから急かすなと言っているだろうに。これからすべて、とまではいかないがある程度なら話すさ」

 

 蒼奇はそういうと一息おいて話し始めた。

 

「俺のこの身体は本体である『館野蒼奇』が限りなく本物に近づけて作り出したうえ、全世界に『そこにいる者が本物の館野蒼奇である』と思い込まさせた身体だ。俺の本体が生み出し、そして俺が生み出した分身は数多の世界のいたるところに存在させている」

「そんなことが可能なのか?」

「可能だ。現に本体が『本体と思い込ませた分体』である俺の下に召喚の封書が届き、今ここにいるからな。しかし俺は本体である蒼奇のギフトの一部、それも召喚術と組み合わせたら強力なものしか貸し与えられていない。世界のバランスを壊し過ぎないようにな。そのため他の分身体も一部制約が存在する」

「本物は一体どこにいるのかしら?」

「それは俺さえも分からない。唯一わかっているのは、生きているということだけ。だが、館野蒼奇が生を歩み、見てきたものの記憶は俺にもある。今回のレティシアの件もその一部だ」

「・・・つまり、貴方の本体は一時期箱庭にいたということですか?」

「・・・そうだな。それについては肯定しよう。俺の本体は箱庭を見ていた。その関連で手を出したこともある」

「て、手を出したって、一体何をしたのでございますか?」

「・・・今回の関連でいうと、レティシアの家族やその派閥の者たちの保護だ。これはレティシアが魔王となったすぐ後に話して彼女自身も了解済みだ」

『『『・・・はっ?』』』

「本体もさすがに不憫だと感じたようでな、思わず手を出してしまったようだ。今は本体が創った世界で平和に暮らしている。とはいえ、本体はその時は名乗ってもいないし、記憶操作でうまく隠したから『館野蒼奇』が恩人だとは気づいていないだろう。お前らもレティシアには話すなよ?」

 

 突然の暴露に蒼奇以外の全員が唖然とする。そのまましばらくは時間が止まったように固まった。

 しかし蒼奇は心の中で嘘を織り交ぜて話したことを鵜呑みにしたことを確信して次の言葉を発する。

 

「それと固まっているところ悪いが、俺はこのゲームのクリア方法もすべて理解している。しかしそれについては話すつもりも必要すらもない。そうだろう十六夜?」

「・・・はっ、随分なサプライズを用意してくれたもんだな・・・!」

「お前の育て親ほどじゃないさ」

 

 二人は獰猛な笑みで睨み合い、視線で牽制しあう。そしてお互いに折れて視線を少し長い瞬きで視線を遮り、再び互いを見る。

 

「さて、()はどうすればいい?巨龍の相手?それとも空の城に単身で突っ込んだ方がいいのかな?」

「はっ!言ってろ。お前は巨龍だけ押さえとけ。あとは俺らだけでやってやるさ」

「・・・くははっ、その意気だよ。・・・ああそれと十六夜」

「なんだ?」

「君が選ぶのは、無残なデッドエンドかい?それとも、幸福なハッピーエンドかい?」

「・・・安心しとけよ。んなもん当に決まってる」

「そうかい?それなら作戦立案は任せたよ。僕の力を借りたくなったら、いつでも言ってよ」

 

 そう言って蒼奇は席を立ち、玲那やペストをおいて会議場を後にした。

 

 

 

 

 

 会議場を後にした蒼奇は〝アンダーウッド〟の医療施設に足を運び、治療のために忙しなく動いていた。そしてそこに近づいてくる四つの気配を察知する。

 

「ここね!蒼奇君!!」

「マスター!!」

「蒼、奇」

「・・・助けてください、蒼奇さん」

 

 蒼奇を見つけ出して声をかけてきたのは飛鳥、ペスト、玲那そしてジンの四人だった。

 

「・・・なんで此処が・・・!?・・・ハッ!ま、まさか、玲那の蒼奇レーダー!?」

「その通りよ!そして早速で悪いけれど、私を指導して頂戴!」

 

 飛鳥は蒼奇に声を掛けるとすぐにそんなことを言った。

 

「・・・前にも言ったけど僕はあまり手を出したくないんだけど・・・。もしかして十六夜に何か言われた?」

「・・・っ!」

 

 蒼奇の言葉を聞いた飛鳥は顔を強張らせた。その反応を見ただけで察した蒼奇は次の言葉を察する。

 

「前回した以上の指導はしたくないよ。飛鳥は今回は十六夜の指示通り大人しくしているべきだよ」

「けれどッ!?」

 

 飛鳥の言葉が途中で切れる。その理由は蒼奇が一瞬で飛鳥の後ろに回り、首に剣を突きつけていたのだから。

 

「自身のギフトの全容もわからず、且つ今の僕の動きにも対応どころか反応すらできてない。そんな君が前線に立つ?ガキが笑わせるな!!」

「・・・ッ!?」

 

 蒼奇の言葉が荒々しくなり飛鳥を叱責する。

 

「・・・それでも私はレティシアを、春日部さんを、仲間を助けるために何かをしたいのよ!」

 

 自身の決意を声に出して首元にある剣を掴み、一気に蒼奇の方へ振り向く飛鳥。そして、剣を掴んでいないほうの手を振り上げて、全力で振り抜いた。

 パシンッ!と軽い音が響いた。

 その手は蒼奇の頬に当たった音ではなく、当たる前に蒼奇の手によって飛鳥の手が受け止められた音だった。

 

「くっ・・・!」

「・・・・・・・・・ハア。お前みたいな心意気だけは立派な奴は苦手なんだがな・・・。仕方ない。今回は僕が折れよう。指導をしてあげる」

「・・・・・・本当、かしら?」

「そんなに疑わなくても本当だよ。だからとりあえず手の治療をして、人の少ない地下に行こうか」

 

 蒼奇は手にできた傷の痛みに耐えている飛鳥にエリクサーを渡し、〝アンダーウッド地下大空洞〟にある地下水門へと向かった。

 

 




次話も一週間以内にあげられるように頑張ります!


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試合&指導

 〝アンダーウッド地下大空洞〟大樹の地下水門。

 蒼奇は先に到着しており、飛鳥たちが来るのを待っていた。少しすると飛鳥たちが来た。

 

「やあ、来たね」

「ええ。私から頼んだことを投げ出さないわよ。それで、何をするのかしら?」

 

 飛鳥にそう聞かれた蒼奇は影から一本の木剣を取り出す。

 そして、言い放つ。

 

「時間もないしこういう場合はとことん実戦形式の戦闘を経験した方がいいんだ。だから飛鳥にはこれから僕と何でもありの模擬戦をしてもらう。とは言っても僕はちゃんと加減するし、傷をつけるつもりはないから寸止めする。でも飛鳥は殺すつもりで来なよ。ディーンを使ってもいいし、十字剣を使ってもいい」

「・・・本当に死なないのよね?」

「うん。これでも僕は教え子を殺したことはないんだ。それと戦闘中も指導するからちゃんと聞いてね?」

「・・・わかったわ」

「よし!それじゃあディーンを出すなり準備してよ」

 

 そう言われた飛鳥はギフトカードからディーンを出して肩に乗る。

 

「いいわ」

「・・・そう?じゃあペスト。合図をお願い」

「なんで私が・・・。じゃあ、はじめ!」

 

 開始の声が響いた瞬間、蒼奇は姿を消す。

 

「えっ!?ど、どこに―――」

「指導その一」

 

 姿を消した蒼奇は飛鳥の背後に浮いており、首に木剣を添えながら声をかける。

 

「僕の指導は必ず実行しましょう。十字剣を使うつもりはなくても、戦いでは常時帯剣するように言ったはずだよ」

「・・・そ、そうだったわね」

 

 背後に突然現れた蒼奇に冷や汗を垂らしながら返事をする飛鳥。そして仕切り直すために蒼奇は二人の正面に戻る。その間、飛鳥は言われた通りに十字剣を取り出して右手に持つ。

 

「それじゃあ、仕切り直しだ。ペスト」

「・・・ええ。・・・はじめ!」

 

 蒼奇は今度も姿を消して背後に回って剣を横薙ぎに振る。しかし、飛鳥は彼女の身体能力ではありえない速さで反応してその攻撃を防ぐ。

 それを見た蒼奇は薄く笑みを浮かべた。

 

「うそっ!?」

「・・・えっ?」

 

 ペストが驚き、防いだ飛鳥自身も驚きと疑問が混じったような声を上げる。

 

「指導、というよりはネタばらし。それが僕が十字剣に付与したギフトの一つ、〝自動防御(オートガード)〟だよ。使用者の身体を強化して勝手に動かすかその剣自体が所持者を守るために独りでに動くものだよ」

「・・・そう」

「それともう一つがっ!」

「えっ?ちょ、ちょっと!?」

 

 飛鳥が驚きの声を上げる。その理由は再び自身の身体が勝手に動き出したからだ。

 

「な、なんなのこれ!?」

「それが二つ目の〝自動攻撃(オートアタック)〟。効果は〝自動防御〟とほとんど同じだよ。ほら、手を放してみなよ」

 

 飛鳥はディーンの肩の上で落ちない絶妙な動きで蒼奇に攻撃するが、ひらりひらりと避けられてしまう。

 それから飛鳥は困惑しながらも蒼奇に言われた通りに十字剣を手放す。すると十字剣が浮き上がりすごい勢いの剣戟で蒼奇を攻撃し始める。

 

「えっ?・・・えっ?」

 

 飛鳥は突然の出来事に理解が追い付かず十字剣と自身の手を交互に見ている。

 

「困惑してる場合じゃないって。飛鳥のギフトは自身の所持してるギフトの効果を把握して把握して使いこなさないといけないんだから」

「え、ええ」

「うん。それじゃあ次は十字剣とディーンにギフトを使って指示を出すんだ。内容はなんでもいい。僕を攻撃しろでもいいし殺せでもいい」

「・・・じゃ、じゃあ。剣とディーン!()()()()()()()()()()!」

 

 飛鳥のその言葉に十字剣は速度を増して剣戟を繰り出す。対してディーンは正面から蒼奇へと突進していく。

 

「そう、それでいい。でも少し説明する時間を作ろうかな?」

 

 すると十字剣は弾き飛ばされ、ディーンは投げられて背中を水面に叩き付けられる。その衝撃で大樹が激しく揺れ、水が大波となって周りにいた人たちに降りかかる。飛鳥はもちろんのことジンやペスト、玲那も体を水で濡らす。

 

「さて、飛鳥は今の戦闘で自身のギフトについてどう感じたかな?」

「・・・先に言うべきことがあるんじゃないかしら?」

「おいおい。戦闘中に、しかも相手に向かって『水がかかってしまったので謝ってください』なんて言うつもりなのかい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうね。私がギフトを使って命令したとき、その、ディーンはよくわからなかったけれど、剣の方は勢いが増したような気がするわ」

 

 自身の怒りを飲み込むためと納得させるための間を作ってから、蒼奇の最初の質問に答える飛鳥。

 

「・・・うん。及第点としようか。飛鳥の言う通りギフトによってあの十字剣とディーンは強化されたんだ」

「・・・そう。状況というのは私の所持ギフトのことだったのね」

「おお!そこを理解できたんだ!言った通り飛鳥は自身が制御できるギフトを多く持てば持つほど強くなれるんだ。この際ギフトの強弱は関係なくギフトの数がものを言うんだ。でも弱すぎるギフトは強化に耐えられず急激に寿命が縮むから、そこらへんは消耗品と考えて複数個持っていた方ががいいかな」

「・・・そう。それなら、今回は十六夜君の判断が正しいのね・・・」

 

 飛鳥は覇気のない声でそう言って十字剣とディーンを回収する。

 

「そうだね。僕がさっき言った通り、今回は大人しくして指示に従うべきだね。でも〝ウィル・オ・ウィスプ〟とも良好な関係を結べたから、多少ギフトを優遇してもらえばいいさ」

「・・・ええ、そうね」

「また今度、機会があるよ。・・・って、十六夜?どうかし」

「手が滑ったあああああああああッ!!!」

 

 十六夜が手に持っていたバケツで水を飛ばしてくる。その水はそこにいたジンとペストと玲那にまったく濡れていない蒼奇にまでかかって、そして一部は上方にある主賓室に向かっていき黒ウサギ、は素早く避けてその後ろにいたサラにかかってしまう。

 

「・・・・・・おい。なぜ僕までやられるんだ?」

「ついでだ!!」

「・・・・・・・・・玲那。飛鳥とペストを連れて風呂に行け。ジンもだ。いいな?」

「・・・う、ん。わかっ、た」

「は、はい」

 

 蒼奇は十六夜を睨みながら玲那とジンにそういった。そして四人が去ったのを確認すると、

 

「おっとおおおおっ!!!ギフトが滑ったああああああッ!!!」

「なっ!?テメエ!!それはやり過ぎだろうが!!?それにギフトが滑ったってなんだ!?」

「ただの暴発(故意)に決まってんだろうがッ!!」

「ふざけんな!!」

 

 蒼奇は仕返しとしてギフトで水を操って龍を生み出して十六夜へ突撃させる。その後もバケツやギフトを盛大に用いた水かけ合戦は続いた結果、二人で仲良く?風呂に入ることになった。

 

「・・・蒼奇。テメエ、アレは反則だろうが」

「そんなのは知らないね。元よりルールもクソもないものだろうに」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 少しの間、二人に沈黙が訪れる。

 そして、

 

「・・・ヤハハハハハハハッ!!!」

「・・・くはははははははっ!!!」

 

 ・・・・・・声では笑い合っている二人だが、実際は視線などで牽制しあい二人の間に火花が散っていた。

 

 

 




つ、次も一応一週間以内を目安に頑張ります・・・。


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犯人&喜劇

すごいあっさり終わります。


 〝アンダーウッド〟見張り台。

 そこに蒼奇と玲那、そして数人の見張りがいた。

 一夜明けて、ゲーム攻略に向けて動き始めたのだ。

 

「ごめんね。またお邪魔しちゃって」

「い、いえ。先日の襲撃であなたの実力は拝見させていただきましたので、心強いばかりです」

「そう?それならいいけど」

 

 見張りについてる人たちとたわいない会話をしながら二人は過ごしていた。すると集合を知らせる鐘が鳴り響く。

 

「・・・あの?」

「ん?どうかした?」

「あ、いえ。集合場所に行かなくてもよろしいのかと思いまして・・・」

 

 見張りの一人がそんなことを尋ねる。

 

「いいのいいの。僕の役割は決まってるし」

「そうですか・・・」

「それより僕らはしっかり警戒してようよ」

 

 そしてゲーム攻略の、レティシアを助けるための作戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 作戦が始まり、見張り台にいる全員が〝アンダーウッド〟上空にある古城へと向かっていった者たちを見上げていた。しかしその姿はもう見えることはなく不安そうな視線を送るだけだった。

 

「・・・大丈夫なんでしょうか?」

「議長と僕の仲間を信じなよ。・・・それよりも、巨人族が来るよ」

「えっ?ですが姿も何も―――――」

「――――――――――――ウオオオオオオオオオオッォォォォォォォォ―――――――――――――!!!」

「なっ!?なぜ!?」

「目に見えるものがすべてじゃないってことだよ。ほら僕は巨人族を押さえておくから、鐘を鳴らして緊急事態を知らせなよ」

「は、はい!」

 

 見張りは鐘を鳴らして〝アンダーウッド〟全域に知らせる。その間に蒼奇は巨人族の中に突っ込み、召喚する。

 

「被害が少なく、他の人の邪魔をしないのは・・・強化寄生体(ブレイン・コントローラー)

 

 先日召喚した強化寄生体を二十体呼び出して、手頃な巨人族に寄生させて攻撃させる。

 

「・・・うん。あとは傍観していればいいかな?でも、玲那。一応飛鳥たちの援護に行ってよ」

「・・・?なん、で?梃子、摺るほど強くない、よ?」

「一応だよ、一応。平気そうなら手を出さないで傍観に徹してほしい」

「・・・わかっ、た」

 

 寄生された巨人の蹂躙っぷりを見てそう言い放つ蒼奇。

 蒼奇が召喚した強化寄生体とは、名前の通り寄生した存在の格を上げたうえで体を乗っ取る召喚獣だ。そのため、今ここを襲撃している巨人族では手も足も出ないぐらいに強くなっているだろう。

 

「さてと早く終わらせてよ、みんな。暇で暇で死んでしまいそうだよ」

「そうか。それなら俺の相手をしてもらおうか?」

 

 蒼奇の背後からそんな声がかけられる。声の方に顔を向けると顔を包帯で覆っている不審な男がいた。

 

「・・・ああ、やっぱり来てたんだ、教え子誘拐の犯人さん?」

「・・・はははははっ!!そうか、やはりバレていたかっ!」

「えっ?なに急に笑ってんの?こわっ」

「・・・・・・・・・・・・」

「や、やだな~。睨まないでよ~。楽しい会話をしようよ。どこの世界の僕かは知らないけどさ」

「・・・!?・・・そこまでバレているのか?」

「気配察知はお手の物だよ。僕なら知ってるでしょ?だからこそ玲那を遠ざけたんだし」

「・・・チッ」

 

 男は舌打ちしながらもより一層強く蒼奇を睨む。

 

「その感じだと、僕を生み出す過程の失敗作、かな?」

「・・・その通りだ」

 

 男は蒼奇の言葉を肯定して自身が『館野蒼奇』であることを認めた。

 今の『館野蒼奇』を生み出すのに最初から成功したなんてことはもちろんなかったのだ。もとからいくつかの分体を並行して生み出していたのだ。そして箱庭に召喚された『館野蒼奇』は唯一成功した個体で今も生き永らえている。

 しかし失敗した個体は本体によって処分されてきた、はずだった。

 

「それで、なんで生きてるの?」

「・・・拾われただけだ」

「なるほどね。魔王連盟に、か・・・じゃあやっぱり僕の敵だ」

「まあ待てよ。勧誘も含めて俺は来てるんだよ。まったくもって不本意だがな」

「勧誘・・・?魔王連盟に?」

「ああ、そうだ」

「冗談でしょ?僕は魔王でもなんでもな―――」

「〝青き魔王〟」

「・・・ッ!?」

 

 蒼奇(偽物)が発した名前に蒼奇(本物)が反応する。

 

「・・・そっちこそ結構調べてんじゃん。でもおかしいな。記憶操作は完璧なはずだけど?」

「こっちにゃそういう類が効かない古株や『館野蒼奇』がいんだよ」

「・・・なるほどね。そうだったっけか。まあ、返答に関してはNOだ」

「・・・だろうな!そんじゃあ遊ぼうぜ!!」

 

 そういった蒼奇(偽物)の影から攫われた教え子たちが出てくる。

 その数は、約五十人。

 

「こいつらは俺がさらに手を加えて強化してる!いくらお前でもこいつらに無傷じゃ―――」

「【しまさん】、〝収納〟」

 

 たったそれだけの蒼奇(本物)の言葉で、教え子全員の姿が掻き消える。

 

「・・・は?」

「そうだね。さすがに僕だけで周りに被害を出さずに対処するのは厳しい。だから召喚獣たちに頑張ってもらうことにするよ」

 

 今頃しまっちゃうおじさんの収納部屋の中では召喚獣たちによる捕縛劇が繰り広げられているだろう。そういった蒼奇(本物)蒼奇(偽物)を正面から見据えて、話しかける。

 

「それで?君の作戦はこの程度で終わりかい?もちろん僕には精神操作の類は効かないよ?」

「・・・クソッ!!」

 

 教え子たちが役に立たないと理解した蒼奇(偽物)は逃走を試みる。しかし、

 

「そんなこと、僕が許すとでも?」

「ガフッ!?」

 

 蒼奇(本物)によって腹を蹴られて地面へと叩き付けられる。

 

「・・・弱い。マジで失敗作かよ、つまんねぇ」

「くそがっ・・・!てめえが異常なだけだろうが・・・!!」

 

 蒼奇(本物)は地面に倒れ伏す蒼奇(偽物)を見下ろす。

 そして、首を掴んで持ち上げる。

 

「ぐっ・・・!?」

「遺言があるなら聞くけど?」

「そうかよ・・・!なら、よく聞け!失敗作は俺の他にもまだいるんだ!そいつらが絶対にお前を!」

「・・・知ってるんだよ、んなこと。まあ、それだけならさっさと死んでくれや」

 

 掴んでいる首からグシャッ!という音が鳴るとともに蒼奇(偽物)、失敗作は絶命した。

 

「・・・生き返らない、か。やっぱ失敗作だね、こいつ」

 

 死体を見ながら、そんなことを呟く蒼奇(本物)

 

「さて、召喚獣たちの方も終わったみたいだし、連絡するか」

 

 そういうと懐から腕輪を取り出し、自身の影をつないでいるミリアとジョンに連絡する。

 

「ミリア、ジョン。聞こえているか?」

『・・・うん』

『・・・・・・』

「ジョン。せめて何か話してくれ。通信がつながっているかどうかわからないからさ」

『・・・聞こえている』

「よし。それじゃあ話すぞ。先ほど誘拐犯を始末した。洗脳を解いたら影の中に入れておくから、そっちで回収してほしい。構わないか?」

『・・・まかせろ』

『・・・・・・・・・』

「ミリア?」

 

 蒼奇はミリアから返事がないことを不思議に思い、聞き返す。

 

『・・・割に合わない』

「・・・埋め合わせするから許して?命令権一回とかぐらいならあげるから」

『・・・なら良し』

「そう。じゃあ頼んだよ二人とも」

 

 蒼奇はそう言って二人との通信を切る。

 そして本体が創りだしていた分体のことを思い返していた。

 

「本体の分体の失敗作は四人、だったかな。だからあと、三人。・・・今回のは僕らの中でも精神干渉に特化した奴だろうな。他のは三人は戦闘系だったはずだから、次の僕には少し期待しようかな。四天王的な感じで強くなっていけばいいな!・・・あっ!つまり今回の僕は『我は四天王の中でも最弱(ry』的なアレだったのか!?いやまあ、たしかに精神干渉特化だからそれもありえ」

 

 蒼奇が一人でそんなことを言っていると、

 

「GYEEEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!」

「あっ!来た来た来た来た来たぁ!!?あはははははははは!!!さあ!!十六夜たちが来るまでは僕と遊んでもらうぞデカブツ!!」

 

 巨竜の声が響き渡り、蒼奇が歓喜の声を上げる。

 そして、二体の怪物が再び対峙する。

 

 

 

 

―――――と思われた。

 

「でも、始まる前からすでに時間切れか。残念だけど今回の僕の役目はこれで終わりだ。後は頼んだよ三人とも」

 

 蒼奇は巨龍を十六夜たち三人に任せて静観することに決めた。

 そして、巨人族の相手を終えたペストと玲那が蒼奇のもとに来た。

 

「・・・ただい、ま」

「ただいま戻ったわ、マスター」

「お帰り、二人とも」

「・・・・・・・・・」

「どうかしたかい?ペスト」

 

 蒼奇は自身をじっと見ているペストに不思議に思い、尋ねる。

 

「・・・マスターは手を出さないのかしら?」

 

 ペストがそんなことを聞く。

 

「出さないよ。僕の役目は終わったんだ。あとはあの三人に任せるよ。その結果がどうなろうと知ったことじゃないよ」

「・・・そう。冷たいのね」

「せめてスパルタと言ってくれよ」

 

 三人が集い、暢気にそんな会話をしている間にゲームの展開が目まぐるしく進んでいき、三人の視界の先にいる巨竜の姿が光の中に静かに消えていった。

 

「・・・終わりだね」

「そうね」

「う、ん」

「これから後始末で忙しくなるよ。二人もちゃんと手伝ってね?」

「もちろん。わかっているわ」

「・・・・・・・・・」

 

 ペストは当たり前とでもいうように返事をするが、玲那が返事もせずに黙りこくってしまう。

 

「玲那?わかってるよね?」

「・・・・・・・・・・・・う・・・ん」

 

 蒼奇がさらに念を押すと嫌々ながらも返事を返す玲那だった。

 おそらく蒼奇以外に使われるのが嫌だったのだろう。

 

「とりあえず先に行っててよ。僕はやることがあるからさ」

「・・・?ええ。わかったわ」

「・・・了、解」

 

 玲那とペストが蒼奇から離れて〝アンダーウッド〟へと戻っていく。

 一人になった蒼奇は影の中の倉庫とリンクする。

 

「さて、洗脳を解かないとね」

『・・・出来れば、俺たちの治療も頼めないか?』

「やあ、ブルーニトロ君たち。今回の戦闘はいい経験になっただろう?」

『・・・』

 

 影の倉庫で洗脳されていた教え子を相手していたブルーニトロが蒼奇に話しかけてきた。それに蒼奇が問いかけると押し黙ってしまった。

 

「・・・まだ相手は早かったかな?」

『・・・今度からは別の相手にしてくれ』

「了解。とりあえず倉庫の中のエリクサーを使っていいよ」

『すまない』

 

 それを最後にブルーニトロとのリンクは切れた。そして、会話をしながらしていた洗脳解除作業も終わった。

 

「よし。これであの二人とつながっている倉庫に移しておけば完璧だね。今回の騒動はこれにてめでたし、かな?」

 

 蒼奇は最後に体を伸ばして〝アンダーウッド〟へと戻った。

 

 




次も一週間以内ぐらいに・・・。
ただ、レポートがたまっているので少し遅れるかもしれません・・・。


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降臨、蒼海の覇者
騒動&傍観


「・・・それで?なんで僕を、そのうえみんなにさえ内緒で呼んだんだい?」

「うむ・・・それなんだが―――――」

 

 いま、蒼奇は白夜叉に呼び出されていた。他の誰にも知らせずに。

 そして白夜叉の話だと、暫く東の〝階層支配者〟を退くからその間の代役を担う人物を探していて、もう一つの伝手がダメだった場合の保険として蒼奇のところへ頼みに来たのだ。

 

「でもなんで僕なんだい?」

「おんしは実力もあり、なおかつあの店員とも仲が良いからの」

「・・・あの店員さんと仲がいいのは取引相手だからだよ。それに、僕の性格からして断ることが分かっている上に、所属コミュニティは旗もない〝ノーネーム〟だよ?そんなことをしたら君の面目や〝サウザンドアイズ〟としてもまずいのは理解できてるんだよね?」

「十分に理解できておるぞ?・・・のう、〝青き魔王〟よ」

「・・・君もその名前で呼ぶのかい?やめてよ、もう。それは自分の実力を知りたかったっていう感じの若気の至りなんだからさ」

「若気の至りで『箱庭で最も恐ろしい魔王』なんぞと呼ばれておったらどうしようもないと思うのだが?」

「・・・ごもっとも。まあ、とにかく僕はやらないよ、そんなの。もう一つの方を当たってよ」

「・・・あい、わかった。・・・それでもう一つ相談があっての、」

 

 白夜叉がもう一つ話すべき内容を切り出すが、蒼奇はそれを許さなかった。

 

「ゲームの妨害役についてならしないよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・では、また収穫祭での」

「うん。じゃあね。・・・ああ、でも」

「・・・ん?なんだ?まだ何かあったかの?」

 

 蒼奇が白夜叉の頼みごとを予測し、先手を打つことで話を切る。が蒼奇が思い出したように声を上げて白夜叉を引き留める。

 

「どうしても、もう一人の方がダメだったら()()()()()()引き受けてもいいよ」

「・・・そうか。ならばその時は遠慮なく頼らせてもらおうかの」

 

 それを最後に白夜叉は蒼奇の下を去っていった。そして蒼奇は

 

「・・・もう一つの伝手も気になるけど、今は自由にしようか。さて、どうしようか?・・・ペストや玲那と食べ歩きでもしようかな?・・・うん。そうしよう。そうと決まればレッツゴー!」

「・・・ごー」

「・・・・・・」

「・・・・・・?」

「・・・もしかして・・・盗み聞きしてた?」

「・・・?・・・大事、な話だ、ったから、聞いてない、よ?」

「・・・それなら、いいけど。じゃあ改めてゴー!」

「ごー」

 

 蒼奇は玲那が突然現れたことに困惑し、一応確認として白夜叉との密会を覗かれたかと心配したが、どうやら話が終わったのを見計らって飛んできたようだった。

 そして部屋で待機しているペストを迎えに行く。

 

 

 

 

 

「さて、どこから回ろうか?とはいえ僕はほとんど回ったから二人に行先は任せちゃうけど」

「そう?それなら・・・って、あそこの人だかりはなにかしら?」

「ん?・・・あれー?あそこの中心から耀の気配がするんだけど・・・なに店泣かしなことしてんのあの子・・・?」

 

 三人は人だかりに近づき、中心にいる大食いみたいなことをしている耀と調理に奮闘する店員たちを観戦する。しかし、人ごみにリリの姿を見つけた三人はそちらの方へ向かう。

 

「リリちゃん。なんでこんなことになってんの?」

「え、えっと・・・・・・わかりません・・・」

「・・・・・・ほっとこうか。他の年長組の子たちは?良ければ僕が何か奢ってあげるけど」

「・・・そうですね。お願いします。それでは私は年長組を集めに行ってきます!」

 

 そしてリリが蒼奇たちに背を向けて、年長組を招集しに行こうとしたとき、

 

「・・・何だ、この馬鹿騒ぎは。〝名無し(ノーネーム)〟が意地汚く食事しているだけではないか」

 

 熱気の中から冷めた声が聞こえた。

 リリもその声が聞こえたのか足を止めていた。蒼奇たちもその声の方へと視線を向けていた。その方向には人の姿に鷲と思われる翼を生やしている人物がいた。

 さらに、その人物の周りからも冷めた声が聞こえてきた。

 そして、侮蔑の言葉を聞いたリリが叫び、反論する。

 まさに一触即発の状況になる。

 

「・・・止めないのかしら?」

「まだ様子見。さすがに危なくなったら止めるって」

「・・・そう」

「―――――長になられる御方。南の〝階層支配者〟だぞ。〝ノーネーム〟如きに下げる頭なんぞないわッ!」

「・・・待って。それ、どういうこと?」

「おっと、僕もそれは初耳だ」

 

 しかし、取り巻きの放った言葉に食事に夢中になっていた耀と傍観に徹していた蒼奇が声を上げる。

 

「何だ、あの女から聞かされていないのか?あの女は龍角を折ったことで霊格が縮小し、力を上手く使いこなすことが出来なくなったのだ。実力が見込まれ議長に推薦されたのだ。失えばそれが消えるのも道理だろう?」

「・・・それ、本当?」

「そんな嘘など吐かん。本人にでも聞くと良い。龍種の誇りを無くし、栄光の未来を手折った、愚かな女にな」

「・・・これは少し、マズイかな」

 

 笑うグリフィスとその取り巻きと彼の話を聞いて動揺した観衆たちがいる中、蒼奇は冷静に判断していた。

 ・・・そろそろ耀の我慢が限界であることを。

 蒼奇の読み通り耀は無言で立ち上がり、男たちへ近づく。

 

「・・・どうしようか?」

「そんなこと、私が知るわけないでしょ?」

「右に、同じ」

「・・・君らって実際、仲悪いけど仲良いよね」

 

 三人がどう対処すべきかと考えている間に耀はすでに〝生命の目録〟を変幻させ〝光翼馬〟のレッグアーマーによって取り巻きの一人を吹き飛ばしていた。

 

「「「・・・」」」

「機を見計らおうか」

「「ええ/う、ん」」

 

 三人はもう少しだけ傍観することにした。

 そして、グリフィスが人化の術を解き、二人が臨戦態勢になった時も蒼奇はまだ動かずに傍観に徹している。

 

「ちょっと?止めなくていいの?」

「うん。予想が正しければ、僕が手を出さなくてもすぐに第三者が止めるよ」

 

 蒼奇がそんなことを言って、傍観したまま動こうとしない。

 そして二人が激突しそうになった瞬間、

 

「はい、そこまで」

 

 男の声が響いた。そしてその男は瞬時に二人を殴って気絶させた。

 

「ふぅ。そこの君ら。この子の同士なら早めに止めてもよかったんやないか?」

「悪いね。まったくもってその通りだけど、感情を抑えられるか確認したくてね。まあ、」

「まあ、なんや?」

 

 突然言葉を切った蒼奇を男は不思議に思い、尋ねる。

 

「いや、ただ、ね?喧嘩の仲裁ついでに両コミュニティの事後仲裁かなんかもしてくれたらなぁ~、と・・・」

「・・・なんや。そんな事かいな。それくらいならもとからやるつもりやったから気にせんでええよ」

「それはどうも。じゃあ僕は二人を、いや三人を運ぶから頼んだよ。治療をしていくから遅れていくってことも伝えといて」

「わかったで」

「玲那とペストは先に宿舎に帰ってて」

 

 そう伝えた蒼奇はグリフィスと耀、そしてしまっちゃうおじさんに回収させてきた取り巻きを持って、とりあえず本陣営に向かう。が、その前に、

 

「っと、その前に君の名前は?」

「ん?僕か?僕は蛟劉や。そちらさんは?」

「館野蒼奇。それとこれ、飲んどきなよ。一発もらってたでしょ?同士がごめんね」

 

 蒼奇はエリクサーを投げ渡して今度こそ離れていった。




次も一週間以内にできるように頑張ります!


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報酬&愚痴

短めです。


 蒼奇は三人を運んでいる際に意識を取り戻したグリフィスを放して、取り巻きの治療に専念した。

 とはいってもエリクサー一本で済む話なのだが。

 取り巻きの治療も終わり、耀の調子を確認するために部屋を訪ねる。

 

「失礼するよ」

『あっ!人外の兄ちゃん!お嬢は変わりなく眠っているで』

「そうかい?それじゃあそのまま傍にいてあげてよ。僕は皆のところに行くからさ」

『分かってるで!』

「じゃあ、頼んだよ」

 

 蒼奇は翻訳された三毛猫の声を拾い、会話をする。そして三毛猫に耀のことを頼むと部屋を出て会談を行っている部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 蒼奇が部屋へ到着し、中へ入るがそこはすでに宴会の席へと変わっていた。

 

「あちゃー。のんびりしすぎたか?」

「蒼奇か。随分と遅かったな」

「まあね。それで?どんな感じに落ち着いたんだい?」

 

 十六夜が事の顛末を話す。それによると二日後に行われる〝ヒッポカンプの騎手〟にて決着をつけるそうだ。

 

「なるほどね。・・・ところで君らって報酬とかでモチベーションが上がるタイプの人たち?」

「・・・そうね。ものによるわ」

「そうだな。例えばどんなものを用意してくれんだ?」

「そうだね・・・。・・・優勝したらサラの龍角の治療と霊格の強化。優勝ではなくとも良い結果だったなら前者のどちらかの劣化版、とかでどう?」

「・・・それは、絶対に治せるのね?」

「保障するよ。だって、僕だよ?治せるし、強化もできる」

「なら、それで構わないわ」

「フフッ。そう。それなら頑張ってね。応援してるよ」

「・・・・・・追加で私用のギフトとかは、」

「はい、カタログ。もし欲しかったら僕から買い取ることだね」

 

 そう言って五百ページほどの本を飛鳥に渡す。

 

「値段も性能も記されているから頑張って貯金してね」

「・・・・・・・・・・・・・・・そ、そう・・・」

 

 飛鳥はカタログを受け取り、口元を引きつらせながら、何とか返答した。

 

「それじゃあ、僕は帰って休むよ」

「あ?こいつの話を聞いてかないのか?」

 

 十六夜は蛟劉を指さしながら聞いてくる。

 

「今日あまりかまってあげられなくてすねてる子が二人もいるんだよ。そっちで手いっぱいだよ」

「・・・両手に花ってか?」

「右から呪詛、左から死の風をやられなければ、そうかもしれないね」

「・・・・・・・・・」

 

 笑顔で楽しそうに話す蒼奇に対して、引きつった笑みを返す十六夜だった。

 その後、部屋を出た蒼奇は二人のいる宿舎へ帰った。

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

(・・・気まずい。この静寂が実に気まずい。この二人の機嫌をどう取ろうか・・・?)

 

 部屋に戻ってきた蒼奇は玲那とペストの二人と対面して座っている。そして二人はただじっと蒼奇のことを見つめていた。

 

「あの、お二人さん?何か言ってほしいんですけど?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あの?」

「・・・・・・明日こそ、」

「・・・ん?」

「明日こそ祭りを見て回れるんでしょうね?」

「・・・・・・もしかして結構楽しみにしてた?」

「・・・そ、そうよ!悪い!?」

「いや、別に。明日は特に何もないから普通に満喫しようか(見た目通り、子供っぽいところもあるんだなー)」

 

 どうやらペストは収穫祭を楽しみにしていたらしく、明日一緒に回ることを約束する。

 

「それで玲那は?」

「・・・デート、邪魔、された」

「・・・・・・あっそう」

「・・・だから、お詫びに、こづく「却下」・・・よと「却下」・・・セ「却下」・・・むぅ」

「玲那も明日は普通にデートしてあげるから我慢して」

「・・・それ、で妥協、する」

 

 玲那にも何とか許してもらえた蒼奇。しかし、明日のことが少し・・・いや、かなり不安になった。

 

 

 

 

 

 時間は少し過ぎ、〝ヒッポカンプの騎手〟ゲーム当日。

 ゲーム会場には蒼奇と水着姿の玲那とペストがいた。ただし蒼奇は昨日さんざん扱き使われた様でやつれていた。

 そして今彼は一人の人物の愚痴を聞かされ、慰める羽目になっていた。

 

「私が酔いつぶれている間に勝手に水着の着用を義務付けるなんてとんでもないことをやらかし、そのうえ―――――」

「ソウダネー。キミモタイヘンダネー」

「聞いているんですか?」

「ダイジョウブ。キイテルキイテル」

「・・・・・・はぁ。貴方に愚痴っても仕方ないことですね。もう当日になってしまったのですから」

「ソウダネー。・・・ハッ!?ああ、うん。そういえば薬は残ってるのかい?」

「・・・いえ、愚痴のついでに頂ければと思いまして・・・」

「そう?えーと・・・じゃあ、はい。いつもの。お仕事、頑張ってね」

「はい。ありがとうございます」

「・・・あーごめん。お客さんが来たみたいだからこれで失礼させてもらうよ」

「そうですか・・・。白夜叉様の暴走を一緒に止めていただければと思ったのですが・・・」

「ごめんね。無視するとうるさそうだから。・・・あ、それと水着、似合ってるよ」

「・・・そ、そうですか」

 

 蒼奇の言葉に頬を赤く染めつつも返答する店員。

 そして蒼奇は玲那を連れて〝アンダーウッド〟の外へと向かう。外へ出ると少し離れた場所に移動する。

 

「・・・さて、来てるんだろう?四人とも」

「「「「・・・」」」」

 

 蒼奇が声を出すと何もない空間から山田、ミカ、ミリア、ジョンの四人が現れる。

 

「それで?何の用だ?遊びに来たっていう雰囲気ではないが」

 

 四人の気配はいかにも臨戦態勢といった感じで怒りが見て取れた。

 

「・・・誘拐犯を始末したと聞いたので、その詳細を聞きに来ました」

 

 山田が代表して答えた。

 

「・・・まあ、その話だよな」

「犯人は単独犯ですか?それともまだ他に仲間が」

「待て待て!ちゃんと説明する!補足も加えてな」

「・・・そうですか」

「ああ。そうだな・・・まずは―――――」

 

 蒼奇は一息おくと玲那も加えた五人に今回の顛末を話していく。

 ・・・自身の身の上話も含めて。

 

 




次話も一週間以内にできるように頑張ります・・・。



レポート怖い。


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対話&訓練

 蒼奇は五人に今回のことを話した。

 自分が『館野蒼奇』本人ではなく本体が生み出した分体であること。

 今回の件は自身と同じ分体の失敗作が引き起こしたこと。

 それらを話し終え、改めて五人に向き直る。

 

「今回のことは俺の不始末が原因だとわかった。だからお前らはもう手伝わなくていい」

「「「「「・・・」」」」」

「・・・?どうした?」

「あーいや、突然そんなこと言われても・・・」

「・・・理解が」

「・・・出来ん」

 

 ミカとミリアとジョンが連携してそんなことを言う。

 

「・・・僕たちは師匠の教え子ですか?」

 

 山田が不安そうに聞いてくる。

 

「それに関しては安心しろ。お前ら五人は全員、俺が手掛けた弟子だ」

「そうですか。まあ、月並みですが師匠は師匠ですしね」

「・・・・・・・・・本当に月並みだな。こういう時ぐらい厨二的に言えないのか?」

「それはもう卒業しました!!」

 

 蒼奇と山田が言い合い、そして笑い合う。

 

「ちょ、ちょっと待って!?私たちが追い付けて無いんだけど!?」

「「俺は俺ってことだ/師匠は師匠ってことです」」

「だから!それがわかんないって言ってんのー!!」

 

 ウガーッ!!と頭を抱えて振り回すミカ。ミリアとジョンも未だに混乱しているようだった。ただ玲那だけはこの状況を理解できているようで落ち着いていた。

 

「・・・早く、観戦し、たい」

「ああ、そうだったね。行っててもいいよ?」

「・・・一緒、に見たい」

「ああ、そういう・・・」

「先生!!イチャつかないでもう一回説明してよ!?」

「えー?めんどくさ・・・もういっそ頭にぶち込むか?」

 

 そう考えた蒼奇は三人の頭に情報をぶち込む。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

「どうだ?理解できたか?」

「で、出来たけど・・・頭がぁ~」

「・・・割れそう」

「・・・うむ」

「理解は出来たんだな?なら帰っていいぞ。玲那も収穫祭が終わったら元の世界に帰っていい」

「先生はどうするの?」

「今回は俺の不始末だから、俺一人でどうにかするさ」

「・・・なんか納得いかない」

「なら教え子全員〝箱庭〟に移住してコミュニティでも興すのか?」

「「「「「・・・・・・」」」」」

「あ?どうしt」

「「「「「それだ!!」」」」」

 

 突然五人が黙ったので蒼奇が声をかけると大きな声を揃えて言った。

 

(これは余計なことを言っちまったか・・・)

 

 その反応に提案してしまった本人は心の中で後悔していた。

 

「そうだよ!そうすれば先生にいつでも授業してもらえるし!」

「・・・薬も渡せる」

「・・・武具もだ」

「・・・いつでも、会える」

「勝負も挑めますしね」

「・・・マジでやる気か、お前ら?」

「提案したのは先生でしょ?」

「まあ、そうだが・・・」

「ということで善は急げってことでみんなを集めてコミュニティを興すよ!四人とも行くよ!」

 

 ミカは玲那も含めた全員で箱庭の世界へと飛び出そうとする。

 

「・・・待って」

「すこし待ってください」

「・・・時間が欲しい」

 

 しかし、ミリアと山田、ジョンの三人が引き留める。

 

「えっ?なに?なんかあったっけ?」

「ええ。すこしだけ」

「え~?早く終わらせてよー?」

「というより貴女も参加するんですよ?」

「えっ?どういうこと?」

「それは・・・」

 

 山田は一度言葉を区切って、ミカから蒼奇へと向き直る。

 

「「「どうでもいいから一発殴らせろ」」」

 

 山田とミリアとジョンが口を揃えて言い放つ。その言葉に蒼奇は驚いた表情をして、すぐに薄らと笑う。ミカも同様に驚き、三人に尋ねる。

 

「・・・なんで!?どうして!?」

「「「振り回されたから」」」

「いやいやいや!?それだけ!?動機が感情的すぎない!!?」

「まあ、落ち着けよ。それにお前も参加するんだろ?」

「いや!?しま「「「す」」」ちょっと!?そこの三人!私の言葉に被せるな!!」

「加減はしてやる。だから安心して殺されに来い」

「加減するなら殺さないでよ!!」

 

 ギャーギャーワーワー!!と騒ぐミカを無視し、玲那に向き直る。

 

「玲那。お前はどうする?」

「・・・参加、する」

「嘘ぉっ!?」

「・・・さて、逃げ場はないが、どうする?」

「・・・・・・う~!やればいいんでしょ!やれば!?」

 

 玲那も承諾し、残りはミカだけという状況でようやく彼女も折れた。そして―――

 

「んじゃ、世界を変えようか。フィールドは荒野だ」

 

 ―――蒼奇が戦いの場所を作り出す。

 六人の視界に映った場所は草一つ生えていない土地で、空には太陽が顔を覗かせていた。

 

「・・・此処なら、存分に暴れられる」

 

 その言葉に五人は構えて、すぐに動けるようにする。

 それを見た蒼奇は呆れたように笑って、

 

「殴るって言ったのはそっちだ。先手は譲るさ」

 

 優しい声音で話しかける。

 

「「「「「・・・・・・ッ!!」」」」」

 

 そして数瞬の間をおいて、蒼奇に各々の攻撃を繰り出す。

 山田は自身の生涯最高ともいえるほどの一閃を繰り出す。

 ミカは魔力で一点集中のレーザーを打ち放つ。

 ミリアは土でゴーレムを作り出したうえ、オリハルコンへと変質させて叩き潰そうとする。

 ジョンは自身が造りだした武具を身に纏って突撃する。

 玲那は強化を施して死角へと回り蹴りを放つ。

 それぞれ自身の全力で。一撃でも、少しでも届いてほしいと、願って。

 

「・・・ああ、やっぱ、いいな。でも、まだ甘いな」

 

 蒼奇は青鬼一万体と【同化】して攻撃を打ち払う。

 山田の剣を足で蹴り上げて、そのまま腹に一撃を入れて吹き飛ばす。

 ミカのレーザーを手で打ち払い、消滅させる。

 ミリアのゴーレムの手を受け止めて、押し返す。

 ジョンの突進をゴーレムを押し返した手で止めて、投げる。

 玲那の蹴りを空いてる手で足を掴み、投げる。

 

「山田。他の四人を意識しすぎて振りが甘かった。躊躇って少し速度を上げ損ねたな。もう何度も集団で俺に挑んでるんだから学習しろ。それにお前に付いていけないほど此処の四人は弱くない。ミカ。魔力の練りは上手くなっているが、密度がまだ甘い。圧縮の練習をしろ。速度もまだ上げられる筈だ。それに手数も増やせ。そのうえ直線ではなく自在に動かせるようにもだ。ミリア。この場合は速度の遅いゴーレムじゃなくて人形系や動物系、昆虫系が正解だ。物量で動きを阻害しろ。ゴーレムのようなデカブツは他の奴らも巻き込む。ジョン。もう少し武具の組み合わせを考えろ。それにお前はどうしても考えが真っ直ぐすぎる。搦め手も視野に入れろ。玲那。死角を取ったことやそのうえ強化も十分だった。しかしもっと他のギフトも組み合わせられたはずだ。そこを考えろ。俺相手に手を抜こう何ざ考えてんじゃねえぞ」

 

 蒼奇は五人に対して、それぞれのミスを言っていく。

 

「さあ、もう一回来いよ。それとも次はもう少し加減してやろうか?」

「「「「「・・・・・・・・・・・・ッ!!」」」」」

 

 蒼奇のその言葉を皮切りに人外同士の力のぶつかり合いが始まった。

 

 

 

 

 

 六人は荒野の地形を大きく変えながら激闘を繰り広げていた。

 

「死ね!くそ師匠!」

「・・・俺の弟子は全員恨みでもあるのか?」

「「戦闘系は全員少なからず持ってると思いますよ/思うよ!!」」

 

 山田とミカが声を揃えて突っ込む。

 

「むぅ・・・。厳しくし過ぎたか?いやむしろより厳しくして心を折って逆らえなく「「させるか!!」」おっと!」

 

 二人が蒼奇の言葉に反応して同時に攻撃をする。

 

「そんなことしたら廃人確定だよ!!」

「そうです!ただでさえ心が折られた人を僕らが立ち直らせてるんですから!!」

「・・・・・・じょ、冗談に決まってるだろ・・・?」

「「じゃあ疑問形にするな!!」」

 

 そんなやり取りをしている中でも蒼奇は五人の攻撃を避けて、流して、すべてを防ぎきる。

 

「あーもう!!少しは当たれ!!このくそ先生!!」

「いや、それは無理。当てたきゃ頑張れ。全員で協力したらワンチャンあるかもしんねぇぞ?」

 

 ミカが魔法を繰り出したり、杖で殴ってくるのをひらひらと避けては親切にも返事をする。

 

「せいっ!」

「ん?」

 

 そんなことを続けているとミカが離れながら青白い球体のものを蒼奇に向かって投げる。

 

「なんだこれ?」

 

 蒼奇は特に避けもせずに観察していると、

 

「弾けろ!タイムボム!」

「はぁ!?タイムボム!?おいジョン!今度はラ〇ェクラの影響を」

 

 そこまで言って蒼奇はタイムボムが弾けた影響で時間の流れが遅くなり、言葉は聞き取れなくなる。

 

「「「・・・ッ!!」」」

 

 それを好機と見た山田、ミカ、玲那の三人は一斉に攻撃を仕掛ける。最初の攻撃よりも一段と強力な一撃を。

 そして、その攻撃はタイムボムの空間内にいる蒼奇へと見事命中してその体を後方へと吹き飛ばして地面へ激突すると盛大に砂煙を上げる。

 

「・・・やったの?」

「ミカ、その発言はフラグですよ」

「・・・う、ん。絶対にこの、程度じゃ、やられな、い」

「・・・同意」

「うむ・・・」

 

 五人がそんなことを話していると煙の中から声が聞こえてくる。

 

「・・・そうか。この領域まで育ったんだ・・・」

 

 その言葉を聞いた五人は今まで感じたことのないほどの悪寒が背筋に走った。そして煙の中からの声がさらに言葉を発する。

 

「なら、次の領域を見せてもいいか。覚悟しろよ?これから見せるのは今までとは比にならない。・・・安心しろよ。死なないように加減はしてやる」

 

 未だ続く言葉に五人は先ほどの悪寒が気のせいではないと確信する。

 蒼奇は五人にもわかりやすいように()()()()を声に出した。

 

「青鬼、()()

 




次も一週間以内にできるように頑張ります。


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最強&私情

―――青鬼、三億―――

 

 蒼奇の口から出された数字は単純計算で五人が先ほど相手していた蒼奇の三千倍だった。

 そして、言葉が発せられた後は一瞬だった。

 五人は気づいたときには空を見上げて、地面に寝転んでいた。いつ攻撃を受け、いつ気絶したか。そして起きてなお、どこを攻撃されたかわからないほど不自然に痛みが存在しない。それほど加減されたうえで、一瞬だったのだと、五人は悟った。

 

「・・・なに、今の?」

「お前らの次の目標」

「・・・え?」

「アレを超えれるように頑張れ、ってことだ」

 

 あまりに衝撃過ぎて、思考が停止するミカ。

 

「・・・師匠」

「どうした山田?」

 

 山田が横になったまま蒼奇に質問する。

 

「最後ですが〝下剋上〟が上手く作用しなかったんですが・・・」

「ああ、あのギフトはあまりに力の差があるとそんな感じで機能しなくなる。いい経験になっただろ?」

「・・・そう、ですか。ありがとうございます」

「だが、俺に一撃与えたのは誇っていいぞ。敵にしろ弟子にしろ、青鬼一万体と同化した状態の俺に有効打を与えた奴は片手で数えられるぐらいだ。だが精進しろよ?✟黒炎の竜騎士✟君?」

「下の名前で呼ばないでください!!」

 

 蒼奇が山田を弄りながら賞賛の言葉を贈る。今度はジョンとミリアに向き直る。

 

「ジョン。タイムボムには度肝を抜かれた。あんな代物の製造に成功しているとは思ってもみなかった。おそらくだがミリアとの共同開発だろう?」

「・・・ああ」

「・・・そう」

「そうか。・・・扱いには気を付けろよ?頼むから」

 

 蒼奇はそれだけ言って最後の一人、玲那に話しかける。

 

「玲那。最後の一撃は良かったぞ。全てのギフトを自身が制御できるギリギリの範囲まで出し切った一撃だった」

「・・・う、ん。疲れ、た」

「・・・ハハハッ!お疲れさま。少し休んでろ」

 

 そして蒼奇は改めて全員に向き直って、話しかける。

 

「正直、一万体の領域で一撃を与えられるようになるのは、もう少し先だと思っていた。素直にお前らの成長を嬉しく思うよ」

「・・・月並みですね、師匠」

「仕方ないだろ?マジでそう思ってるんだからよ」

 

 最後の最後で山田に茶々を入れられて、みんなで笑う。

 その笑い声は六人しかいない無限に広がる荒野によく響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 それから六人は蒼奇が創り出した世界から出て、今後のことを話していた。

 

「・・・それでお前ら、本当にコミュニティを作るのか?」

「作るよ!最初は先生の弟子だけで結成して色々活躍する!」

「・・・期待しないで待っているよ」

「何よ!その目はー!!」

 

 ミカの穴だらけの計画に投げやりに返答する蒼奇。

 

「お前らも同意の上ってことでいいんだな?」

「「「「はい/うむ/うん/(コク)」」」」

 

 四人が肯定の意思を蒼奇へと示す。

 

「それなら何も口出しも手伝いもしないが・・・がんばれよ」

「今に見てろー!絶対見返してやるー!!皆行くよ!!」

 

 ミカは声を上げると〝アンダーウッド〟から離れる方向に走っていく。彼女に追随して他の四人も消えていく。

 

「・・・さて、ゲームは終わっちゃっただろうし・・・あ、蛟劉の気配から生気を感じる。うーん?・・・よし!気になるから見に行こう!」

 

 そう決めた蒼奇はとりあえず白夜叉の気配を感知してそこに転移する。

 

「・・・やあ、白夜叉。・・・なんだか嬉しそうだね?」

「む?ああ、おんしか・・・。いやの、若者の出立をの」

「ああ、なるほどね。僕も先ほど感じたよ」

「そうか・・・。さて、蛟劉。さっさと入って来んか」

「あちゃー、ばれてました?」

 

 ワザとらしい声で窓から入室する蛟劉。

 

「・・・なんで僕の知り合いには普通に入室する人が少ないんだろう?」

「知らんな。蒼奇の言う通り、普通にドアからでは駄目だったのか?」

「きっとグリーがいたから入り辛かったんだよ。それぐらい察してあげなよ」

「まあ、そんなところや。それで?君は何の用なん?」

「ああ、これをサラに渡しておいて欲しいんだけど」

 

 そして蒼奇は一本の角を取り出す。

 

「・・・なんやこれ?とんでもない代物というのはわかるんやけど・・・?」

「最強の龍種、僕がそう考える三体の角をある方法で一つにしたものだよ」

「んな・・・!?」

「一体は炎を司り、一体は雷を司り、一体は風を司ってる。サラには完全に相性の良いもののはずだよ」

「・・・よいのか?このような貴重なものをやっても?」

 白夜叉は角を持って蒼奇に尋ねる。

 

「いいよ別に。僕は使わないし。それに僕はこれからやることがあって少しの間、〝ノーネーム〟を離れるし。そのことも伝えといて欲しいし」

「何じゃと・・・?」

「私情で動かなきゃいけなくなってね。みんなを巻き込みたくないからね。頼むよ」

「・・・そんなに危険なことなのかの?」

 

 白夜叉の言葉を聞いた蒼奇は薄く笑って、答えた。

 

「僕と同じクローンの情報収集と可能ならばその始末だよ」

 

 

 




次話は諸事情で遅れるかもしれません。


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ウロボロスの連盟旗
離脱&今後


 ―――〝ノーネーム〟本拠、正面口大広間。

 現在そこには昼食を取り終えた年長組とメイド組、そしてジンがいた。ジンは全員が集まっているのを確認するとこれからのことを説明し始めた。

 ジンとペスト、里桜はこれから〝サラマンドラ〟が治める五四五四五外門へ『〝階層支配者〟の召集会へ同席を求む』という招待内容によって向かうことを告げる。すでに魔王連盟との交戦経験もあり二体の魔王も退けている〝ノーネーム〟にも招待状が来たのだ。

 

「十六夜さんたちは三日前から五四五四五外門に行って打ち合わせに入っている。僕らも今日中に合流する予定だ。今度の遠征はいつもより長くなるかもしれない。みんなもそのつもりでコミュニティを守ってほしい」

「「「「「了解しました!!!」」」」」

 

 それを聞いた年長組の子供たちは大声で返事をして、今日の作業に取り掛かった。その様子を見届けたジンは居残り組のレティシアと白雪姫に向き直る。

 

「レティシアさん、白雪様。蒼奇さんがいない分、留守をお願いします」

「心得た・・・。蒼奇が帰ってきた際にはそちらに向かわせるとしよう」

「はい、お願いします・・・」

 

 このときすでに、最強の支配者だった白夜叉が退き、そして蒼奇が〝ノーネーム〟の下を離れてから二か月が過ぎていた。

 

「・・・ねぇ、ジン。一体マスターはどこに行ったのかしら・・・」

「・・・わからない。それでも蒼奇さんが『戻る』と言ったからには必ず帰ってくるよ」

 

 そういってジンは自身が持っている蒼奇からの手紙に視線を向ける。

 

『しばらく私情で動かないといけなくなったからしばらく〝ノーネーム〟を離れます(´;ㅿ;`)!用事が済むか目処がついたら戻りますm(_ _)mあの三人のリードは黒ウサギに任せたよ( ´•ω•` )!』

「「・・・・・・」」

「何度みてもふざけた手紙ね・・・!!」

「ま、まぁ落ち着きなよ・・・。蒼奇さんなりの心配させないための配慮かもしれないんだから・・・たぶん」

「あーもう!あのクソマスター!!」

 

 自身のマスターに対する文句を叫び続ける少女とそれを宥める少年の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 ―――〝ストレンジャーズ〟拠点、幹部会議室。

 円卓があり六つの椅子が置かれていた。それぞれの椅子に一人ずつ座っていた。そこには創設時の五人、そして蒼奇の六人が集まっていた。

 

「えっと、とりあえず今日は前々から言ってあった五四五四五外門で行われる召集会について一先ず、話そう、か?」

「・・・ミカ。リーダーならもっと自信をもって進行役をしろ」

「わかんないよー!!リーダーってなに!?自信ってなに!?もうなんもわかんないよー!!?」

 

 うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!と頭を振り回して叫ぶミカ。そんなミカにネロが近よって触手を伸ばして頭をなでる。

 

「ネロォォォォ・・・。私の味方は「とりあえず、さっきミカが言っていた通り召集会について話そうか」「「「「わかりました」」」」・・・うううぅぅぅぅ・・・」

 

 役に立たないミカを放置することに決めた蒼奇は進行役となり会議を進める。

 ミカはショックで円卓の上に顔を突っ伏す。

 

「今回の〝サラマンドラ〟で行われる召集会では魔王連盟について話し合いが行われるはずだ」

「・・・師匠でも魔王連盟の全貌はまだ見えていないんですか?」

 

 山田が蒼奇に質問をする。

 

「そうだね。所属しているだろうと思われる魔王は何人かは予想出来てるけど全貌はまだかな」

「そうですか。・・・それで、今回は介入か何かするんですか?」

「そこなんだよなぁ・・・。別にしなくてもいいとは考えているんだがぁ~・・・。まぁそのための会議だよ。君らの意見を聞きたいんだ。それに、おそらくは今回も魔王が現れる。ゲームこそしないかもしれないが・・・」

「・・・そういえば〝サラマンドラ〟には彼が?」

「彼?・・・ああ、シンのことかい?いるよ」

 

 五人はシンが、久留井鏡夜がいると聞くとわずかながら顔を顰めた。

 

「・・・僕は介入をすべきだと考えますが、」

「が?」

「表には出ないようにして裏で動いた方がいいと思います。彼には、シンには顔を合わせたくありませんので」

「・・・了解!他の四人は?」

 

 未だ顔を突っ伏しているミカと二人で進行していたために眠りかけていた三人に声をかける。

 

「・・・・・・・・・私は、召集会にいる生産系コミュニティの人に会って話をしてみたい」

「・・・俺もだ」

 

 生産者の二人はやはり物を作る一人として他のコミュニティの作品が気になる様だった。

 

「そうかい?・・・うん。それはそれで繋がりを作れるかな。それはいいよ。けど僕のことは伏せるようにね。あそこにはミカの知り合いがいるから案内を頼むといいよ」

「えっ?知り合い?でも私、ここに来たばかりで知り合いなんて・・・」

「前に言っただろう。お前が助けたジャック・オー・ランタンにあったって」

「あっ!あの人たちか!」

「そうだよ。だからこれを機にあってくるといいよ」

「うん!」

 

 ミカは先ほどまで突っ伏していたのが嘘かのようにご機嫌になった。

 

「玲那はどうする?」

「・・・此処、に残る。〝ノーネーム〟に、あった時に、困る」

「そっか。わかったよ。じゃあ、まとめようか」

 

 蒼奇は皆の意見をまとめたことを話し始める。

 

「ミリアとジョン、ミカは表で生産系のコミュニティと接触してつながりを持つように。山田は、そうだね。上級か中級の子を何人か連れて裏で巡回。玲那は非常事態が起こるまでここで待機。・・・うん、こんな感じかな?みんなはこれでいいかい?」

「「「「構いません」」」」

「いいよー」

「じゃあ、それぞれ動いていいよ」

「「「「「はい」」」」」

 

 蒼奇がそう声をかけると玲那以外の四人が姿を消した。おそらく空間を移動したのだろう。

 会議室には蒼奇と玲那の二人が残された。

 

「・・・これで何もなければ最良なんだけど、無理だろうなぁ・・・」

「・・・う、ん。たぶん、無理」

「だよなぁ・・・ああ、考えたら頭痛くなってきた・・・。玲那、僕は部屋にいるから何かあったら呼びに来て。しばらくは一人になりたいからついてこないでね?」

「・・・・・・・・・・・・わか、った」

「・・・」

 

 蒼奇は玲那の返答に大分間があったことでついてくる気だったんだと悟り、訝しげな眼を向ける。

 

「・・・大丈、夫。ついていか、ない」

「・・・それなら、いいけど」

 

 蒼奇は改めて拠点の中にある自身の部屋に転移した。そして着いてすぐにベッドに仰向けに倒れ込む。

 

「・・・はぁ。それにしても結局、二か月間調査し続けても一切の情報はなし、か。さすが腐っても僕ってところかな・・・?」

 

 そういって蒼奇は腕で目を覆う。頭の中では他の蒼奇がいつ仕掛けてくるかの可能性を考えていた。しかし、自分ならば、と考えても相手はさらにその裏をかいてくる可能性が存在する。なにせ相手も自分と同じ考えを持っているのだから。

 そこまで考えた蒼奇はいたちごっこになると感じて考えるのをやめた。

 

「・・・今から心配しても、仕方ない。その時にならないと、まったくわからないな・・・。でも、精一杯、楽しもう。僕らしく、いつも通りに」

 

 そんな独り言をつぶやき眠りに落ちていく。

 

 

 

 

 




次も少し遅れるかもしれません・・・。


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観光&来店

 〝ストレンジャーズ〟の拠点を後にしたミカとミリアとジョンは街に繰り出して、観光しながら目的地の錬成工房街へと向かっていた。

 

「ふんふふ~ん♪あっ!?あれおいしそう!」

「・・・あまり買いすぎると」

「大丈夫!ちゃんと先生からお小遣いもらってるから!」

「・・・(さすが先生。ミカの扱いが慣れてる)」

 

 ミリアは心の中で蒼奇に賞賛の念を送る。

 ミカをコントロールするならば、彼女が目移りしそうなものに対して必要な対価を渡しておけば大抵の場合は上手くいく。今回の場合はそれが多くの店であり、対価の金銭であっただけである。

 

「・・・それで、目的地は?」

「・・・まだなのか?」

ほうふぐはよ(もうすぐだよ)!」

「「・・・」」

 

 ミカは頬いっぱいに食べ物を詰めて返答する。それを汚いものでも見るかのようにミリアとジョンが視線を向ける。

 

はにふぁ(なにさ)!?ほのふぇは(その目は)!?」

「「なんでもない」」

「・・・ごくん!いや絶対に何かあるでしょ!?」

「「別に」」

「むうぅぅぅ・・・!あとで絶対に聞きだしてやる!!」

「「どうぞどうぞ。できるものなら」」

「きいいいぃぃぃぃぃぃッッッ!!」

「「猿」」

「違うよ!?」

 

 ミリアとジョンがミカをからかいながら進んでいくと、ようやく目的地である工房街が見えてきた。

 

「あっ!あそこ!あそこからジャックの気配がする!」

「・・・なら、早く行こう」

「・・・うむ」

「えっ!?ちょっとー!?おいてかないでよー!!私がいないと二人はただの部外者なんだからねー!?」

 

 ミカが目的地だと宣言すると、珍しく興奮が抑えられないジョンとミリアが街の中へと入っていく。それを見たミカが急いで二人を追いかける。

 通路を進んでいくローブの少女と厳つい巨漢。その二人を追いかける魔法少女。

 ミカが身体能力の高いジョンに強化なしで追いつけないのはわかるが身体能力がゴミクズ「ゴミクズじゃない」・・・低いミリアにさえ追いつけない状況がそこでは起きていた。

 

「なんで追いつけないの!?」

「「好奇心がなせる業」」

「それパク、ってまだ速度が上がるの!?」

 

 

 

 

 

「って、とにかく全員落ち着くのですよおおおおおおお――――――!!!」

 

 二人がミカをおいて進んでいくと、とある建物から大きな声と雷鳴が聞こえてきた。そして、窓が激しく飛び散る。

 そのことで二人はしばらく固まり、珍しく茫然とする。

 

「「・・・」」

「・・・ここ?」

「・・・おそらく」

「・・・じゃあ入ろう」

「・・・うむ」

 

 二人は意を決して建物の中に入っていく。

 そして二人の視界に入ってきたのは三人の女性とカボチャ頭の人とぼんぼんそうな男だった。

 

「「・・・」」

「・・・ヤホッ?」

 

 二人が固まっているとそれに気づいたジャックが二人に話しかける。

 

「なにかご用でございますか?」

「・・・うん。でも、私たちの用事よりも先に済ませないといけないけど、」

「・・・その本人がまだ着いていない」

「・・・?それは一体、」

「やっと追いついたー!!二人とも早すぎ!!」

「「・・・彼女がその張本人」」

 

 ミリアたちがジャックに説明していると二人の後ろからすごい勢いでドアから入ってくるミカ。

 

「ヤホッ!?」

「あっ!?ジャック!久しぶりー!」

「ミ、ミカさん!?一体なぜ・・・!?」

「いいじゃんいいじゃん!そんな細かいこと!あっ!ウィラちゃんは元気?」

「は、はい。それはもう・・・。ですが、まだストーカーに悩まされていますが・・・」

「そうなの!?あの変態め・・・!まったくもってしつこいなぁ~!!」

「そうですね。私たちも一度は撃退したのですがね・・・」

「そっか!私の力が必要になったら言ってね!箱庭にはしばらくはいるはずだから!」

「ええ。その時はぜひとも貸していただきます!」

 

 そんな二人のやり取りに茫然とする飛鳥と耀と黒ウサギ。そしてジョンとミリアは工房の中を見回す。そんな中黒ウサギは意を決して会話に割り込む。

 

「あ、あのジャックさん?そちらの御人は一体だれで御座いましょうか・・・?」

「ああ、こちらの方は先ほどの話にも関連してきますが、私とウィラが〝マクスウェルの魔王〟に襲われているときにたまたま助けていただいたのです。しかも一撃で撃退したのですヨ!」

「い、一撃でですか!?そ、それなら、なぜそんな御人がここに・・・?」

「ジャックとウィラちゃんに会いに!」

「・・・・・・そ、それだけでございますか?」

「うん!あっ!自己紹介が遅れちゃったね!私は鏑木ミカ!〝ストレンジャーズ〟のリーダーだよ!それでこっちの二人が、」

「・・・ミリア=フォーサイス」

「ジョン=ドゥだ。よろしく頼む」

 

 黒ウサギはミカのペースに呑まれてしどろもどろとしており、ミカは依然とそのペースを崩そうとしないがジャックがそこで話に入ってきた。

 

「〝ストレンジャーズ〟?最近台頭してきたあの〝ストレンジャーズ〟ですか?」

「うん!二か月前に人を集めて作ったんだ!」

「・・・それで、今回の用件は?」

「私はさっき言った通りジャックたちに会いに来ただけ!そっちの二人は、」

「・・・いろいろ、見たい。箱庭に来たばかりでどんな素材があるかわからないから」

「・・・その通りだ。そしてあわよくばそちらと良い関係を築きたいと考えている」

 

 二人は素直に自身の考えを暴露する。臆することもなく。

 

「・・・ヤホ、ヤホホホホホホホホッッッ!!!そうでございますか!!どうぞどうぞ!好きなだけ見ていってください!!」

「・・・うん。でもその前に」

「・・・ああ」

 

 そういった二人は黒ウサギに近寄って、壊れてしまっている〝疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)〟を観察する。

 二人に詰め寄られた黒ウサギは押されながらも尋ねる。

 

「な、なんでございましょうか?」

「・・・これなら」

「・・・ああ」

「これ、すこし貸してもらってもいい?」

「えっ?は、はい。どうぞなのですよ」

 

 黒ウサギから槍の残骸を受け取った二人はそれを持って、自身のギフトを十全に用いて復元を、いや、改良を始める。

 

「・・・これより錬成を始めます」

 

 その一言で二人は黒い球体で包まれ、外からは見えないようになる。

 

「い、一体何が?」

「きっと、さっき渡した槍の復元と改良だと思うよ。二人のお眼鏡にかなったみたいだし」

「・・・っ!?あ、あの、あなた方は・・・?」

「じゃあ、改めて。私は〝ストレンジャーズ〟のリーダーで館野蒼奇の教え子の上級・上位二位の鏑木ミカ。あの二人は同じく上級・上位三位のジョン。上級・上位四位のミリアだよ」

 

 ミカが平然と言い放つ。それを聞いた飛鳥と耀と黒ウサギは驚き、固まってしまう。

 そんな中、球体の中からミリアとジョンの声が響いてくる。

 

『・・・復元、完了』

『・・・神格の強化を始める』

『・・・完了。付加(エンチャント)開始』

『・・・不破、貫通力強化、速度強化、完了』

『・・・槍の存在を確定させます』

『・・・確定まで、3、2、1、確定成功』

 

 その言葉を最後に黒い球体が弾けるように消える。そして二人の手の中には半壊する以前の姿を取り戻している〝疑似神格・金剛杵〟がそこにはあった。

 

「・・・はい。直したよ」

「・・・は、はい。ありがとうございます・・・」

 

 完全に修理されていることに驚きながらも受け取る黒ウサギ。

 

「で、ですが、こんなことをただでしていただくなんて・・・」

「・・・?ただ、じゃない」

「・・・なにが欲しいのでございましょうか?直していただいて申し訳ございませんが黒ウサギたちにはそれほどの対価は用意でき「金銭はいらない」はい?」

「欲しいのはつながり。貴方達といい関係を築ければ私たちの利益になると思ったから」

「・・・やはり蒼奇さんに似ていますね。わかりました♪黒ウサギたちにできることなら、その時はお手伝いさせていただきますヨ!」

「・・・うん。ありがとう」

 

 ギュっと固く握手するミリアと黒ウサギ。それを遠巻きに見るジョン。そしてこの展開についてこれていないバカ(ミカ)。その様子を見た飛鳥と耀は思ったことがつい口をつついて出てきてしまった。

 

「・・・なんでミリアさんがリーダーじゃないの?ミカさんよりよっぽどリーダーらしいのに・・・」

「よくぞ聞いて「私と他の三人が押し付けたから」もう~~~!!!言わせてよ!語らせてよ!!この私に熱く!聞くも涙話すも涙な話をさぁ!!」

「それはミカが話す時点で不可能」

 

 きいいいいぃぃぃぃぃぃッッッ!!と奇声を上げるミカ。それを耳を塞ぎ無視するミリア。

 ジョンはそんな雰囲気の中、ジャックに近づき話しかける。

 

「・・・出来れば、そちらとも良好な関係を築きたいと考えている。そちらのリーダーに話を通してもらえないか?」

「ヤホッ?私達もですか?・・・ですがあなた方ならば引く手数多なのでは・・・?」

「力だけを欲する上辺だけの関係などいらん。必要としているのは後ろや隣を任せられる信頼できる仲間だ」

「・・・ヤホホホホッ!!分かりました!ウィラに話してみましょう!」

 

 そんな話を聞いていた飛鳥と耀の二人は黒ウサギに提案する。

 

「黒ウサギ。あんな下種坊ちゃんより鏑木さんたちのコミュニティと同盟を組んだ方がいいんじゃないかしら?」

「・・・私もその方がいいと思う」

「・・・・・・・・・それもそうでございますね♪」

「その方がいいかもしれませんね」

「おい!?さっきも言ったけど同盟関係だよね僕ら!!?」

 

 その会話を聞いていた三人は『同盟』という言葉を聞いて首を傾げていた。

 

「あの、同盟って?」

「あっ!?皆さんは箱庭に来たばかりでしたね。同盟というのはですね――――――」

 

「―――――というものです。わかりましたか?」

「・・・うん。ありがとう」

 

 ミリアは黒ウサギから同盟についての説明を受けて納得していた。それはジョンとミカも同じだった。

 

「・・・なるほどな」

「うん!よくわかんないけどわかった!」

 

 ・・・訂正。ミカは理解しきれていなかったようだ。

 その後もたくさんの話をした後黒ウサギたちはゲームの準備のために店を出ていった。出ていく際にミカ達に観戦に来てくださいね!ということを伝えて。ミカ達は店に残ってジャックたちとの話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 ミカ達がジャックの下を訪れている一方、山田と教え子の中でも選りすぐりの実力者数名を引き連れて煌焔の都市を駆け巡っていた。もちろん誰にも見つからないように隠密行動だが。

 

「総員。不穏な動きをしている人物、または嫌な気配のするものを見つけるようなら即座に排除に動くように。いいね?」

『はい!』

「じゃあ散開!」

 

 山田は他の者に指示を出すと一人突出した速度で駆け巡っていく。

 

「(先生は今回も仕掛けてくるか何かしてくると言っていた・・・。それが当たっているなら必ずどこかに潜んでいるはず・・・!)」

 

 山田はそんなことを頭の隅で考えながら疾駆する。しかし、いくら探しても姿どころか痕跡すら発見できずじまいであった。・・・ある一時までは。

 

 

 

 

 

 その騒動が起きる前。蒼奇は拠点で玲那に起こされていた。

 

「・・・なにを感じたの?」

「・・・いや、な感じ。誰かが傷、つけられてる、そんな感じが、した・・・」

「・・・そっか。動き出すんだ。いや動かざるを得なかったのかな?」

 

 ベッドから上体を起こして伸びをしながら呟く。

 

「・・・どう、するの?」

「動く、よ。ちょっと辛いけどね。わかってるとは思うけど、みんなには内緒だよ?」

「・・・う、ん」

 

 蒼奇は青い顔で立ち上がるが、その拍子に多少ふらつく。それを玲那がすぐに支えた。

 

「・・・ありがとう」

「・・・無茶、しない方、が―――」

「いいんだよ、これで。これが正しいんだ。僕としてはね」

 

 蒼奇はそう伝えて無理やり自身の身体を動かして拠点の外、〝煌焔の都〟へと足を向ける。

 

「さて、ほかの()が介入してこないように祈るかな」

 




一先ずテストも終わったので週一更新に戻ります!
それと、『問題児』編が終わった後の『ラストエンブリオ』編って読みたいですかね?
書こうとかは特に考えていないんですけども・・・。
一応それについての活動報告を作ってあるので返信ください!


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恐怖&処理

 蒼奇が起こされる少し前。耀と飛鳥はギフトゲーム〝造物主達の決闘〟でウィラ=ザ=イグニファトゥスと闘っていた。

 しかし、その途中で自体が急変した。突如、観客席から轟と雷鳴が鳴り響いたのだ。それは黒ウサギが放った〝疑似叙事詩・梵釈槍〟だった。だが、槍に穿たれた少年―――正しくは穿たれてはいないのだが―――は槍の柄を掴み、爽やかな笑みをした後に鎧を召喚した黒ウサギを殴り飛ばす。それに怒声を上げて少年に攻撃を仕掛ける耀と飛鳥。だが二人ではその少年に攻撃が届くことはなかった。二人の力では到底敵う相手ではない、とそう感じていたとき、突然少年が吹き飛んだ。

 

「ぐっ・・・!?」

「・・・っ!?一体、何が起きたの・・・!?」

 

 そのことに少年と耀と飛鳥はなぜそんなことが起きたのか、そして誰がやったのかを疑問に思うよりも早く、そこにいた全員が恐怖に包まれた。

 

『・・・・・・』

 

 そんな感情を抱かせている人物は彼女達と少年の真ん中ほどで静かに佇んでいた。その姿は黒いモヤのようななにかに包まれていてはっきりとは確認できなかった。それでもその姿を認識した全員は直感的に理解した。いや、理解させられた。そこへ轟音を聞いて駆けつけた十六夜が到着した。だがそんな十六夜もその姿を認識した途端に恐怖を感じ、嫌な汗が流れる。

 

「・・・おい、御チビ。アレはなんだ?敵か?」

「わ、わかりません・・・!ですが、あの人が現れる前に二人を傷つけていた相手が攻撃を受けたかのように見えました・・・」

 

 十六夜は本能が警鐘を鳴らすほど危険な存在を相手にしなければいけないのかと

 

『・・・このような状況にしたのは、貴様であってるか?〝原典〟候補者君?』

「ッ!!・・・そうだ。俺がやった」

 

 少年、殿下は『恐怖』からの問いに素直に答えた。

 その答えに対し、『恐怖』は頷き続けて話した。

 

『他の奴らも隠れてないで出てきたらどうだ?そのほうが手間を省ける』

 

 『恐怖』がそう声をかけると〝ウロボロス〟の連盟旗が靡かせて実力者たちが現れた。

 しかし、そんな実力者たちでも『恐怖』からすれば有象無象でしかなかった。

 

『・・・これで全員か』

「・・・殿下、この状況は危険です・・・」

『ここは退いたほうがいい。もっとも、そのようなことを許してくれる相手とは思えんが・・・』

「ハッ!まったくだ!なんでテメエみてえな〝恐怖の象徴〟とまで呼ばれた奴がいやがるんだか!」

『愚問だな。そこのガキが俺の琴線に触れることをした。ただそれだけだ。それにしてもまだそれだけ話せるのか。ならばもう少し上げても』

 

 そういって『恐怖』は〝ウロボロス〟の全員を睨みつける。そのうえさらに怒気と殺気が膨れ上がってその場に居た全員に圧し掛かる。

 

「チッ!どうするんだ?あんなバケモノ相手に勝てる気はしねぇぜ?」

『そんな貴様らに朗報だ。・・・取引しないか?』

「・・・なに?」

『貴様ら魔王連盟のお仲間を含めて、全員を生かして帰してやる』

「ッ!?」

 

 それは偶然にも先ほど殿下が言ったものと同じ内容だった。しかも言った人物はそれを確実にその逆、全員を帰らせず、ここで殺すことができるほどの圧倒的存在だった。

 

『だから・・・この都市から全員引き連れてさっさと消え失せろこの雑魚共がッッッッッ!!!!!!』

 

 その言葉と同時に先ほど力を増した圧力がさらに重くなった。

 これ以上ここに留まるのは危険だと判断した殿下は他のメンバーに告げる。

 

「退くぞ」

「えっ?でも」

「これ以上アレを怒らせないほうがいい。さもないと全員死ぬぞ」

「わ、わかった」

 

 そして殿下は瓦礫の上からわざとらしく周囲に聞こえるように告げた。

 

「二人とも、今日は楽しかったぞ!例の保留にしていた話―――魔王連盟に加入することを、よくよく考えてくれ!」

 

 その直後、『恐怖』から風が吹き起こり始めるがもう既に魔王連盟の影は一つもなかった。

 

『チッ・・・クソッたれっ・・・』

 

 『恐怖』は殿下の去り際の行動を許してしまったことに罵声をこぼす。

 そしてそこへ憲兵隊が到着し、恐怖で全身を震えさせながらだが、『恐怖』を取り囲む。

 

「う、動くな・・・!」

『・・・はあ。さすがにわからないよな』

 

 そこで『恐怖』は元の姿、館野蒼奇へと戻る。

 

「なっ!?蒼奇さん!?」

「拘束するならしてよ。実際闘技場に被害を出しちゃってるしね」

「い、いえ!魔王連盟を追い払っていただいたのですからそれぐらいはかまいません!!」

「えっ?なにこの手のひら返し。逆に清々しいんだけど。とりあえず被害状況の確認をして。負傷者は僕の教え子たちのコミュニティがどうにかしてくれるから見つけ次第連絡を。建物のほうもその子たちに任せるといいよ」

『は、はっ!』

 

 蒼奇の指示を聞くとすぐに観客席の方々へと散っていく憲兵隊。

 

「ミカ。山田。ジョン。ミリア。来てるんでしょ?」

『はい』

 

 蒼奇の問いかけに即座に反応して姿を現す四人。

 

「で?なにしてたの?」

「師匠の殺気で気絶した人たちを避難させてました」

「・・・うん。ごめん。それとありがとう。とりあえず憲兵たちの手伝いをして。でもミリアは先に耀と黒ウサギの治療を」

『はい』

 

 四人も蒼奇の指示を聞いて行動を起こす。

 

「・・・おい、蒼奇」

「蒼奇さん・・・」

「マスター・・・」

「ん?やあ三人とも!元気だったかい?里桜はいないのかな?」

『ここにいます!』

 

 蒼奇の下に十六夜、ジン、ペスト、腕輪状態の里桜の四人が歩み寄ってきた。

 

「今まで何してたんだ?それにさっきの姿はなんだ?そして―――」

「ストップ。落ち着いてからちゃんと話すよ。今は、黒ウサギを運んであげないと」

「・・・ああ。そうだな」

 

 少し不満そうな顔をしながらも同意する十六夜。

 そしてそこへさらに飛鳥と治療を受け終えた耀が寄ってくる。

 

「蒼奇君。さっきの姿は―――」

「蒼奇。さっきのって―――」

「待てい。あとでちゃんと話す。今は事後処理を優先させてくれ」

「・・・わかったわ」

「・・・わかった」

 

 十六夜と同じように不満そうな顔をしながらも二人も了解してくれた。

 

「それに大変なのはこれからだよ。奴さんも攻勢に乗り出し始めたみたいだし」

「そうだな・・・」

「うん。じゃあ僕も街の被害の確認をし始めるからまた後でね」

 

 そういって蒼奇は手を上げてひらひらと振る。それを見た六人は蒼奇に異様なことが起きているのが確認できた。

 

「おい蒼奇。その手にあるひびはなんだ?」

 

 十六夜たちは蒼奇の掌に大きな『ひび』を見つける。それは陶器にできるようなひび割れができていた。

 

「ん?・・・あ、やべっ。バレた」

「で?何なんだ?」

 

 問い詰める十六夜と答えを気にする五人。それを見た蒼奇は観念して話し始める。

 

「・・・んー・・・寿命かな?僕の場合は『死』じゃなくて『崩壊』とか『消滅』だけどね」

「・・・お前が?死ぬ?〝不滅〟なのにか?」

「そうだね。僕は生物的には〝不滅〟だよ。それでも体に限界がある。この身体は造られたもので正確には『生物』じゃないんだよ」

「・・・じゃあ、なに?」

「・・・入れ物、かな。別にゴーレムや機械と思ってくれてもいいよ」

「・・・で?どうなるんだ?」

「えっ?もちろん近いうちに死ぬよ」

「・・・どうにもならないのかしら?」

「ならない。言ったでしょ?寿命だって。延命処置だって今までも、そして今も散々やってる。そのうえで限界が来たんだから、諦めるしかないよ。まあ、それでもまだしばらくは平気だよ」

 

 蒼奇は終始笑いながら話す。話を聞いた里桜を除く五人は驚きで声を失う。

 

「・・・里桜は、知っていたの?」

 

 ジンは震える声で尋ねる。

 

「・・・はい。いずれ来るということは私達教え子は全員知ってます」

「うん。全員に話してるからね。それでも長生きしたほうだよ。僕自身ここまで持つとは思わなかったし。・・・だから、君らには頑張ってもらわないと困るんだ。もしも僕に何かあって死んだら、君らを助けてあげられなくなる。早く僕の手から離れていってよ?そうじゃないと僕は心配で死にきれないよ」

「「「なら死ぬな」」」

「絶対に死ぬから言ってるのに・・・。まあ今は黒ウサギたちを移動させようよ。詳しく聞きたいなら後で話してあげるからさ」

 

 ・・・そして蒼奇の話は区切られた。それでも、彼は終始笑顔を絶やさず話を終えた。いつものように楽しそうな笑みを。

 

 




次も一週間以内の予定。


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結末&消失

「これは一体どういうことだ!?」

 

 マンドラの恫喝にも似た声が宮殿内に響いた。

 魔王連盟が消えた後、〝ノーネーム〟のメンバー及び蒼奇には間諜の疑いをかけられていた。サンドラを連れだした容疑でジンと里桜は投獄され、召集会に参加させるかの審議にかけられていた。ただし、ジンと共にいたペストは蒼奇の交渉により投獄を免れ、現在ネロとともに蒼奇の膝の上にいた。

 そして、〝ノーネーム〟の三人はマンドラの問いに対して声を合わせて。

 

「黙秘権発動」

「拒否権行使」

「以下、同文」

「右に同じで」

「こんな時ぐらい真面目に答えられんのか貴様らあああああッ!!!」

「「「「無理」」」」

 

 マンドラは執務机をちゃぶだいよろしくといったようにひっくり返す。

 問題児三人+人外は事情聴取の場にあっても泰然と構え、むしろマンドラを責めるように睨み付ける。

 

「逆に君らの方はどうなのさ。別に怪しさではそっちも負けてないと思うけど?」

「ああ。ジンとペストに里桜を連れだしたのはサンドラって話じゃねえか」

「それに一緒にいた魔王連盟の子供。前々から宮殿に出入りしていたそうじゃない?」

「・・・蒼奇の言う通り、怪しいのは〝サラマンドラ〟の方」

 

 正論を返されたマンドラは押し黙ってしまう。

 怒りは溜まりに溜まったまま吐き出すことも出来ずに終わったが、少しは落ち着いたようで椅子に腰かけ、痛む頭を抱えるように溜息を吐いた。

 

「それについては、我々にも咎がある。実は、」

「〝ハーメルンの笛吹き〟の魔導書。アイツらから買い取ったんだろ?」

「うわっ、そうなんだ。羨ましいなぁ・・・。そんなことならもう少し早く箱庭に戻ってればよかったよ」

「「「「・・・・・・」」」」

「・・・あ、あはは・・・や、やだなぁ~。冗談だよ、冗談。だからそんな冷めた目で見ないでくれる?」

 

 蒼奇の発言を聞いた四人は冷たい視線を浴びせる。そんな蒼奇をおいて三人はマンドラに問いかける。いつの間にかマンドラからの事情聴取ではなくマンドラへの事情聴取に変わっていたが、そのまま話が進んでいく。

 マンドラはあの二人の子供以外にも三人。初老の従者とローブ姿の女性、金髪のメイドがいたことを話しそいつらが白夜叉を巻き込むことを吹き込まれたらしい。

 

「・・・面倒な相手だねぇ。ていうか仮にもコミュニティの上の立場がうまい具合に踊らされてんじゃないよ」

「しかし・・・」

「しかしじゃなくてね。おいしい話には必ず裏があるんだよ?それぐらいは理解してるんじゃないかい?まぁ、過ぎた話だからもう何も言わないけど」

「すまない・・・」

「いいよ別に。それにしてもあの旗印、気に食わないねぇ」

 

 蒼奇はペストの頭に顎を載せて不機嫌そうな声でつぶやく。

 

「旗・・・〝尾を喰らう三頭の龍〟か」

「そう。〝ウロボロス〟だね。ものによっては一頭だったり二頭だったりするけど、尾を食べてる姿で思いつくのはそれぐらいだしね。・・・あれってどういう意味だっけ?」

「『死と再生』とか『循環と回帰』とか、何かしらの不死性の象徴として扱われるのがポピュラーだったはずだ」

「ああ、そうだった。それ以外にも『始原性』や『完全性』とかもあったっけか」

 

 蒼奇と十六夜の会話にその場にいた人たちはついていけなかった。

 

「まぁ、そこらへんも後で話し合おうか」

「ああ、そうだな。お前の話も含めて、な」

「ありゃ、残念。忘れてくれてればよかったのに。・・・でも、そろそろ敵も動き始めたんだから頑張ってねぇ」

 

 蒼奇のその言葉に強く頷き意気込む三人。

 

「まぁ、その前に問題が一つあるけどね・・・」

「「「・・・?」」」

「蒼奇君。その問題っていうのは何かしら?」

「ああ、それは―――「ヤ、ヤホホヒョヒョヒョ!!?〝ノーネーム〟の皆さん、大変でございますよ!!?」―――見に行けばわかるよ」

 

 ジャックが扉を開けて飛び込んできた。そして蒼奇はやや疲れたような表情で三人に促す。二人の言葉を聞いた三人は一先ず話を聞こうとジャックに声をかけた。

 

「どうした、ジャック」

「何かあったの?」

「おなか減った?」

「それは貴女ですよ春日部嬢!」

「うん」

「足りないだろうけどサンドイッチあげるから我慢して。一応緊急事態らしいからさ」

 

 ぐぅー。とおなかを鳴らしながら蒼奇からサンドイッチを受け取り食べ始める、いや食べ終わった耀。

 しかしジャックはそんな耀に気にせずに廊下を指さし、

 

「黒ウサギ殿が・・・く、黒ウサギ殿が、大変なことに・・・!!?」

 

 あーやっぱりか。と蒼奇は心の中でつぶやいた。

 

「三人とも、先に行っててよ。僕はマンドラにご飯とジン君の釈放を要求してから行くから」

「頼んだ!」

「任せたわ!」

「ご飯はたくさん!」

「そ、そんなことを言ってる場合じゃないですヨ!」

 

 そして四人はあわただしく部屋から出ていく。

 

「・・・行かなくていいのかしら?」

「読めてたことだし、命にかかわることじゃない。僕がどうにかしようにもやった場合、僕自身がどうなるかはわからないからね」

 

 今まで黙っていたペストが話しかけた。蒼奇は冷静に答えた。まるでこのシナリオこそが正しいと言ってるかのように。だが、黒ウサギの状態を元に戻す場合は最悪死ぬ可能性があるのもまた事実だった。

 

「さて、マンドラ」

「・・・なんだ」

「次からはこのようなへまはしないようにね。誰のせいとか決まったわけじゃないけど、経験的にはサンドラよりは君のほうがまだ上だ。シンにはそういった才能がないからね。・・・任せたよ?」

「ああ。わかっている」

「ならよし。ご飯はよろしくね。それとジン君も。それじゃあ僕も黒う—――」

 

 蒼奇の言葉はそこで途切れた。なぜなら、

 

「来い!」

「来なさい!」

「来て!」

 

 問題児三人に首根っこを引っ掴まれてすごいスピードで攫われていったからだ。

 

「「「・・・」」」

 

 その場に残された二人と一匹はただ呆然とするしかなかった。

 そしてペストが一番早く回復して声をかける。

 

「・・・私も黒ウサギのところへ行くわ。それじゃ、また」

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

「ちょッ!?首っ!首締まってるから!!」

 

 蒼奇は首や襟首を引っ張られたまま黒ウサギのいる部屋へと連れていかれた。

 

「オラァッ!!」

「ちょっ!?投げんな!!?」

 

 部屋の前まで来たと思ったら十六夜は蒼奇をドアへとむけて全力で投げた。そのまま蒼奇は勢いのままにドアを破壊し、無理やり勢いを殺して壁にあたって止まる。

 

「痛い・・・。急になんなんだい?」

「「「あれをどうにかしろ」」」

「すみません蒼奇さん・・・。どうにか、できませんか?」

「無理。最悪僕が死ぬから」

 

 四人が言っていることは黒ウサギの頭、ウサ耳のことだろう。〝月の兎〟の象徴である耳がない。原因ははっきりしている。

 

「必勝の槍と黄金の鎧を併用するからペナルティを受けたんだよ。前なら〝月の兎〟の神格を与えれば解決したけど、今の僕じゃギフトを与えることは僕の命を削ることになる。〝月の兎〟の神格とペナルティの帳消しなんて死んでやっとのことはしたくないね。それぐらいは自分でわかってるんでしょ、黒ウサギ」

「うっ・・・はい・・・」

「・・・ペナルティ?」

 

 そこで、耀が疑問の声をあげる。

 

「そう、ペナルティ。黒ウサギが使ったギフトは英雄カルナの槍と鎧だ。でも、カルナはそれは一度も同時に使ったことがない。使えなかったんだ。黒ウサギはその伝承を破って併用したんだ。だからそれ相応、という割にはだいぶ軽いペナルティで済んでるけどね」

「これで軽いのかしら?」

「軽いね。最悪消滅や死ぬことさえもあり得たから。神格だけで済んでよかったといえなくもない。まあ僕のやらなきゃいけないことが済んだら神格を与えてあげるから待っててよ」

「・・・はい、わかりました・・・って、それじゃあ蒼奇さんはっ!?」

「えっ?死ぬけど?」

「だ、ダメでございますよ!黒ウサギの責任で神格がなくなったのに、蒼奇さんが命をかけてするほどでは!」

「いや、どうせ老い先短いからね~。それならいっそ誰かの役に立って散りたいよね~」

「・・・はっ?」

「僕はもって一年ぐらいかな?もしかしたらもっと短いかもね。力も衰えて、全盛期の三割も出せないし」

「ど、どういう、ことでございますか?」

「もう僕もお爺ちゃんで寿命がきたってことってこと。わかりづらかったかい?」

「蒼奇さんは、死なないのでは・・・?」

「生物的にはね。でも僕は物質的に死ぬんだよ。物の寿命ってやつさ。体が粉々になって塵のように消えていく。それが僕の死だよ。だから最後くらいはさ、僕の好きなように命を使わせてよ」

『・・・』

 

 蒼奇の話を聞いた人たちは全員押し黙ってしまう。

 

「・・・今更でございますが、蒼奇さんって何者なんでございますか?」

「昔、魔王をやってただけでーす!」

「・・・はい?」

『あぁ・・・』

「結構面白かったんだけど、挑戦しに来る人がいなくなったからやめたんだよね~」

 

 黒ウサギは固まるが、それ以外は納得したような声をあげる。

 

「話が聞きたいなら、僕以外から聞いてよ。正直、僕は自分の評判なんて気にしたことないから箱庭の古参にでも聞いてよ。〝青き魔王〟とか〝恐怖の魔王〟とかっていえば伝わると思うから。じゃ、僕は逃げます!それでは皆さん、またお会いしましょう!良き休息を!」

「えっ!?蒼奇さん!?」

 

 黒ウサギが声をあげるが、もうすでに蒼奇の姿はなかった。

 

「・・・えっと、一体誰に聞けばいいんでしょうか・・・?」

『さぁ?』

 

 その場に残された黒ウサギはほかの人に尋ねるがたった一言で捨てられてしまった。

 

 

 




次も一週間以内に投稿します。


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落陽、そして墜月~撃て、星の光より速く!
負荷&絶望


 姿を消した蒼奇は静かなところで体を休めていた。

 

『グアアアアアアアアアアアやられたあああああ!!!』

 

 ・・・訂正。ある程度声が届かないところでガタが来ている体を休めていた。

 

「彼らは元気だねぇ・・・いや、元気なのが一番なのだけれども・・・。それに比べて、僕はなぁ・・・。つらいなぁ・・・。早く偽物たちを片付けたいのに、体がこんなんじゃなぁ・・・ハァ」

 

 体を休めながらも、自身の無力さを初めて実感する蒼奇。今まで圧倒的な力で制圧してきた本人だが、力が衰え体も以前ほど動かなくなっていくことに自身の境遇を恨んでいた。

 

「・・・できる限り、体を休めておこうか。ミカたちに指示は出してあるし」

 

 そう呟いて、目を閉じて眠り始める。

 

 

 

 

 

 眠っていた蒼奇は妙なモノを感じ取り目を覚ます。すると、空から多くの黒い封書が降り注いでいた。

 

 

『ギフトゲーム名〝Tain Bo Cuailnge〟

 

 参加者側ゲームマスター〝逆廻 十六夜〟

 主催者側ゲームマスター〝      〟

 

・ゲームテリトリー、煌焔の都を中心とした半径ニkm。

 

・ゲーム概要

※本ゲームは主催者側から参加者側に行われる略奪型ゲームです。このゲームで行われるあらゆる略奪が以下の条件で行われる限り罪に問われません。

 

 条件その一:ゲームマスターは一対一の決闘で雌雄を決する。

 条件その二:ゲームマスターが決闘している間はあらゆる略奪が可(死傷不問)

 条件その三:参加者側の男性は決闘が続く限り体力の消費を倍加する(異例有)

 条件その四:主催者側ゲームマスターが敗北した場合は条件を反転。

 条件その五:参加者側ゲームマスターが敗北した場合は解除不可。

 条件その六:ゲームマスターはゲームテリトリーから離脱すると強制敗北。

 

 終了条件:両陣営のゲームマスターの合意があった場合にのみ戦争終結とする。ゲームマスターが死亡した場合、生き残ったゲームマスターの合意で終結。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ウロボロス〟連盟はゲームを開催します。

 

 〝ウロボロス〟印』

 

 

「そんなぁ・・・嘘だと言ってよぉ・・・奴さん早すぎるよー・・・こっちは全然休めてないしー・・・」

 

 そんな文句をこぼしながら起き上がって、現れるであろう巨人族を潰しに向かう。そして、

 

「ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォ―――――――!!!」

「うっさいなぁ!」

「ガアアアアァァァァァ―――――!!?」

 

 蒼奇が腕を一振りする。それだけで巨人族が爆散したり、吹き飛ばされたりした。

 

「・・・まだ、大丈夫そうかな?みんなぁー!巨人族潰しといてー!」

『わっかりましたー』

 

 蒼奇が声をかけると至るところから教え子たちが出てきて、巨人族へと向かっていく。

 

「召喚獣も大盤振る舞いで呼び出そうかな」

 

 そう決めると多くの召喚獣を呼び出し始めた。

 〝巨神〟アース

 〝黒太陽の申し子〟J

 〝冥王〟ルアラリエ

 〝暴食〟アバドン をはじめとした多くの召喚獣が巨人族へ向かっていく。

 

「さて・・・向こう側にいるかな?」

 

 何かを感じ取ると、蒼奇は転移でその場所へと移動する。

 

「よお。遅かったな」

「少し眠気を覚ましててね。でも律儀に待っててくれたんだね。ねぇ、本体?いや、転移者くん」

 

 転移した場所にいたのは館野蒼奇(壊れ物)を生み出した館野蒼奇(イカレ野郎)だった。

 

「そりゃ当たり前だ。俺の目的はお前だけだしな、()()()くん?」

「修正力なんて洒落たもんじゃないよ。僕は君を消すためだけに生み出されただけで正史を知らないんだから。それに君の自業自得でしょ。なにせその正史を壊そうとしてたんだからさ」

「ハハッ!ごもっともだ!・・・まあ、雑談はこんくらいにして、そろそろおっぱじめようぜ」

「そうだね。始めるついでに隠れてるクローンも出したらどうだい?」

「・・・チッ!やっぱバレてるか」

 

 その声に反応して物陰から百を超える蒼奇のクローンがわらわらと出てくる。

 

「うわっ・・・ゴ○ブリかよ。つか、作りすぎだろう・・・」

「悪いがこいつらはお前の同期と違って完成された奴らだ。くれぐれも甘く見んなよ?」

「そんな暇があるとは思えない、ね!」

 

 しゃべりながらクローンの群れへと飛び込んでいき、攻撃を仕掛けるが数人がかりで受け止められて動けるクローンから手痛い反撃を全身に食らう。

 

「ひゃぁー・・・。痛いなー。・・・でも、これは、ちょっとまずいかなぁ・・・?しかも、ギフトも今の一瞬で奪われちゃったし・・・」

 

 反撃を受けた上に先ほどの攻防で蒼奇が触れた瞬間に蒼奇が持っていた〝盟友召喚〟や〝同化〟などのギフトがすべて奪われた。

 そんな様子を見た蒼奇(本体)は嘲笑を浮かべながら問いかける。

 

「さぁ、どうする?」

「いやぁ、正直ここまで量産してるとは思ってなかったし。ちょっと勝ち目がないかなぁ、なんて・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とでも言うと思った?」

 

 その言葉で世界は一変した。蒼奇のクローンと本体を含む全員は周囲が暗く、寒い空間にいた。遠くの方では大小の何かが無数に輝いており、幻想的だった。しかし、その光景には全員が見覚えのあるものだった。

 その空間はまるで・・・いや、宇宙そのものだった。

 そこへと飛ばされたクローンと蒼奇(転移者)は周りをしきりに見回して警戒する。

 

「・・・テメェ、これは何だ」

「ふふっ。これは僕を造り変えた『世界』が僕のために世界を作って与えてくれたんだ。この世界では何をしてもよかった。たとえ破壊しようが、消滅させようがね。それに君を倒すための協力者を募ってもよかった」

「協力者だぁ・・・?」

 

 蒼奇(修正力)は宙を漂いながら話す。その間にもクローンたちは攻撃を仕掛けるが、見えない何かによって阻まれる。

 蒼奇は攻撃を気にもせずに話を続ける。

 

「そう!あの世界にはありとあらゆる神群がいた。創作も含めた神話の神群もいたんだ。その神群に協力要請したんだー」

「・・・そのことなら知ってるぞ。だがッ!それは全部の神群に断られて全面戦争になってすべての神を殺した—――――「本当にそう思ってる?」ッ!?」

「あの世界なら『世界』は干渉できるんだよ。それこそ情報ぐらい漏らさないで、誤情報を流すとかならね」

「なら、全柱が—――」

「ところがどっこい!」

 

 蒼奇(修正力)は漂いながら両手を広げて注目を集める。

 

「さすがにすべてが協力してくれるわけじゃなかったよ。君を消すために協力してくれるといってくれた神群は二つだけだった」

「ハッ!たったそれだけで勝てると思ってんのか?こっちにゃ神を簡単に殺せる戦力がたんまりいるんだぜ!」

「思ってるよ。君らに勝てるって」

「なにッ・・・!?」

「とまぁ、おしゃべりはここまでにしてネタバレといこうか」

 

 蒼奇は全員に声をかける。

 

「みなさん。ダイスの準備はいいかい?・・・SANチェックの時間だぜ」

 

 そして協力者の名前を呼んでいく。

 

「Summon Great Old One(グレート・オールド・ワン). Eihort(アイホート). Aphoom-Zhah(アフーム=ザー). Iod(イオド). Yig(イグ). Y'golonac(イゴーロナク). Ithaqua(イタクァ). Idh-yaa(イダー=ヤアー). Huitloxopetl(ウイチロソプトル). Othuum(オトゥーム). Oorn(オーン). Ghatanothoa(ガタノソア). Ghisguth(ギズグス). Quachil Uttaus(クァチル・ウタウス). Cxaxukluth(クグサクスクルス). Cthylla(クティーラ). Cthugha(クトゥグァ). Cthulhu(クトゥルフ). Glaaki(グラーキ). Groth-Golka(グロス=ゴルカ). Gol-goroth(ゴル=ゴロス). Cyaegha(シアエガ). Shudde M'ell(シュド・メル). Zoth-Ommog(ゾス=オムモグ). Dagon(ダゴン). Chaugnar Faugn(チャウグナー・フォーン). Zhar(ツァール). Tsathoggua(ツァトゥグァ). D'numl(ドヌムル). Nug and Yeb(ナグとイェブ). Nyogtha(ニョグタ). Byagoona(バイアグーナ). Byatis(バイアティス). Hydra(ハイドラ). Basatan(バサタン). Hastur(ハスター). Bugg-Shash(バグ=シャース). Han(ハン). Pharol(ファロール). Bokrug(ボクルグ). Miivls and Vn'vlot(ミイヴルスとヴンヴロト). M'Nagalah(ムナガラー). Mnomquah(ムノムクァ). Mordiggian(モルディギアン). Rhan-Tegoth(ラーン=テゴス). Rlim Shaikorth(ルリム・シャイコース). 」

 

 蒼奇の声に反応して多くの異形が出現していく。

 

 肉のついていない無数の足に支えられた青白く膨らんだ楕円形の何か。

 

 燐光に似た青白い光を放つ灰色の炎。

 

 無数の触肢と口と感覚器官をもつ悍ましい異形。

 

 絶えず形を変える巨大な燃える塊のようなもの。

 

 類人的でタコに似た頭部がつき、顔には触角がかたまって密生しているバケモノ。

 

 それ以外にも多くの見るものすべてに恐怖を植え付けるような異形の存在が現れた。

 

 クローンと蒼奇(転移者)は目を疑った。その異形たちは自分たちが知る最凶の生物たちだったからだ。

 

「・・・う、そだろ・・・?」

「嘘じゃないし、まだまだいくよ」

 

 蒼奇(修正力)は再び召喚のために名を呼びあげる。

 

「Summon. Outer Gods(アウター・ゴッド). Yomagn'tho(イォマグヌット). Yibb-Tstll(イブ=スティトル). Ubbo Sathla(ウボ=サスラ). Shub-Niggurth(シュブ=ニグラス). Sothoth(ソトース). Daoloth(ダオロス). Nyarllathotep(ニャルラトテップ). ――――――――――

 

 

 中に三枚の花弁状の炎が見える環状の炎。

 

 黒い体に大きく膨らんでうねっているマントをつけた〝古代のもの〟。

 

 巨大な雲状の塊が泡立ち、ただれている。そして時折、雲の一部が触手や口ねじれた足を形成する生き物。

 

 いくつもの半球体と輝く金属とがプラスチックで連結されている複雑に入り組んだ奇妙な存在。

 

 かぎ爪のついた手のような器官と顔の代わりについている赤い血の色をした長い触手を持ったモンスター。

 

 それ以外にも言葉では形容しがたい絶望的存在が数柱現れていた。

 

 そこまで言った蒼奇は一度区切ったが、すぐに次の名をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

——――――――――Yog-Sothoth(ヨグ=ソトース). Azathoth(アザトース). 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、先ほどのグレート・オールド・ワンや外なる神よりも悍ましく、より恐ろしい強大な存在が現れた。

 

 まさに絶望ともいえる存在が・・・。 

 

 

 

 




次も一週間以内の予定。


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正体&食事

そういえばいつの間にかお気に入り100件超えてたんですね・・・。
普通に、いやものすごい嬉しいですね。というわけで今後もこの作品をよろしくお願いします!
それでは、本編をどうぞ!



 宇宙に多数の異形の神が空間を漂い、蒼奇(修正力)は何事もないかのように鎮座していた。

 

「僕に協力してくれた神話は一つは日本神話。もう一つは、見ての通りクトゥルフ神話だよ。日本神群は君が日本人ということで協力してくれた。それに対してクトゥルフ神群は僕と契約して君を()()()()だけ協力してくれることになったんだ・・・っていっても、もう聞こえてないかな?」

 

 蒼奇(修正力)の視線の先には蒼奇(転移者)とクローンは発狂して奇声を上げている者や虚ろな目で空を見つめてぶつぶつと何かをつぶやいている者、幻覚を見て他者には見えない何かに恐れる者などと、症状は違えども全員がクトゥルフ神群を見て戦意を失っていた。正しくは戦えるような状況ではなかった。

 

「うん。これなら楽そうだね。それじゃあ、神様方。彼らの始末を契約に基づき『処理』をお願いしまー、す?」

 

 今度は蒼奇(修正力)が目を疑うことになった。なぜならばクローンと本体の処理に向かった神群の一部が()()()()()()()のだから。

 

「うっそぉーん・・・?こりゃあ、想定外だぁな。ここまで成長してたんだぁ。読みミスったかなぁ?」

 

 しかし、幸いにも神話生物たちがケガをした様子は見られなかった。

 蒼奇(修正力)はその光景を目にすると、すぐに行動に移した。

 

「Summon. Zathog(ザソグ)! ごめん!本体と僕だけ元の場所へ移して!!」

 

 時間と空間を行き来できる能力を持ったグレート・オールド・ワンを新たに召喚し、その力を借りて元の場所へと戻った。

 

「・・・ふぅ。焦ったぁ・・・ッ!?」

 

 そして、安心したのも束の間。危険を感じた蒼奇(修正力)はすぐに腕をクロスさせて防御態勢をとる。

 

「ガッ!?」

 

 しかし、ギフトを奪われ【同化】も使えない身では、まともに攻撃をとらえることができず下方向から腹部を蹴り上げられる。

 

「ゲホッ!ゲホッ!!くっそッ!!全然見えねぇ!?」

「なら、さっさと死ね」

「だが断る!」

 

 蒼奇(修正力)は魔術で身体強化を施し召喚術でないよりはまし程度の下級使い魔を召喚して対抗する。ギフトは奪われたが、まだ自身が習得した技術は残っていた。

 

 

 だが、

 

 

「オラァ!!」

「アグッ!?」

 

 

 それでも()人外では()人外には到底及ばなかった。

 蒼奇(修正力)は吹き飛ばされ足を地面にこすりつけて衝撃を殺す。

 どうにか止まると片膝をついて攻撃された腹を抑える。

 

 

「ハァ、ハァ・・・。なぁ、もうちょいおしゃべりしない?」

「・・・今更命乞いでもするつもりか?」

「まさか。もとよりそっちは僕を殺す気で来てるんだ。しても無駄なのはわかりきってる」

「じゃあ、何の話をするんだよ」

「おっ?ちょっと興味出てきた?」

「・・・今のお前なら簡単に殺せることが分かったからな。そら、俺の機嫌がいいうちにさっさと話したらどうだ?」

「そりゃどうも。じゃあ、昔話をしよう。僕の誕生秘話だ」

 

 それを聞いた蒼奇(転移者)は完全に動きを止めて話に耳を傾ける様子を見せる。

 

「・・・話せ。それについては俺も興味がある」

「おっ、マジでか。いいよいいよー話してあげるよー」

「ちっ・・・ウゼェ・・・」

「でも、質問は勘弁なー。・・・よっし!それじゃあ、お話ししましょう!この僕の、修正力の誕生秘話を!」

 

 そして蒼奇(修正力)は自身の生い立ちを話し始めた。

 

「僕は君に造られた。これは揺るぎない事実だ。そしてほかにも四人が同時期に造られてたよね。でも、なぜか僕だけが先に『人』として完成した」

「ああ。そうだ。お前が一番最初に完成してほかの四人は失敗作として切り捨て—――」

「うん。それ、間違いだよ」

「・・・なに?」

「僕が、僕こそが『失敗作』だった。そうなるはずだった」

「・・・一体、どういう・・・?」

 

 蒼奇(失敗作)の言葉を聞いて困惑する蒼奇(転移者)

 

「本来なら僕は『人』としても『物』としても完成することはないはずだった。ただただ消滅を待つ存在だった。でも、そんな僕を助けてくれた存在がいたんだ。それが君の行動を許さない『世界』だった」

「て、めぇ・・・!まさか最初から修正力として生まれていたのか!?」

「その通り。でも、僕は『世界』の修正力でもどうにもならないほど()()()いたんだ。だから世界は僕とある存在を、()()()。そうすることで『僕』という存在を確立させた。一応は『人』としてね。それでも本質は『人』とは言えないから、今は少しずつ体は崩壊し始めている」

「・・・あっそ。どっちにしろ死にかけなわけか。こりゃ楽ちんだな、とっ!」

 

 話を聞き終えた蒼奇(転移者)は修正力を殺すために手刀で首を刎ねようと横薙ぎに振る。

 しかし、

 

「なっ!?」

「まだ、僕の話は終わってないよ?」

 

 その攻撃は蒼奇(死にかけ)によって止められた。

 

「僕と混ぜられた存在ってのはとても力が強くてね。扱いに困るぐらいだったんだ」

 

 蒼奇(修正力)・・・のようなナニカは手を掴んだまま立ち上がる。

 

「その存在は〝青鬼〟。僕の最初の召喚獣でもある存在だよ。いや、むしろ僕と同一の存在だから最初に召喚したのかもしれない。今、僕は青鬼の力で自分の身体の中に無限の青鬼を宿しつつある。そしてすべての青鬼の身体能力が僕に加算される」

 

 蒼奇の体は徐々に青く、ブルーベリー色に染まっていった。そして染まっていけばいくほど、その存在感は増していく。

 

「ひっ・・ぅっ!?」

「僕は正史を知らないし、そんなものに興味もない・・・。ああ、興味がないは言いすぎかな。ただ俯瞰していたいとは思うぐらいに興味はあるよ。でも、僕はただ君を消すためだけにここに存在してる。それだけが僕の存在意義で、そのための力も『世界』から与えられてる。ここで君を殺したら、僕はやっと、この長い、長い呪縛から解き放たれるんだよ。・・・だから、ここで君を消す」

 

 次第に掴んでいる手に力が入っていく。

 そして完全に青に染まったとき、その存在感は消え失せた。

 

「・・・えっ?」

 

 その違和感に蒼奇(転移者)は呆けた声を出す。当たり前だ。いままで圧倒的存在感を放っていたものから急に何も感じられなくなったのだから。

 しかし、それが逆に得体の知れない恐怖を醸し出していた。

 そして、すぐに逃げなければと考えた、次の瞬間、蒼奇(転移者)の視界は黒く染まり、最後には意識も薄れていった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさま。っと。・・・これでやっと僕の最大の目的は達成できた。あとはズレそうなら『世界』から指示が来るはずだしね」

 

 ナニカ、無限の〝青鬼〟と融合した蒼奇は腹をさすりながらつぶやいた。

 蒼奇(転移者)を一飲みで体に取り込み、消化をすぐに終える。

 

「それにしても、時間食っちゃったなぁ。クローンの方も終わったみたいだしゲームの観戦にでも行こうか。・・・僕の世界と箱庭でだいぶ時間差があるのも予想外だったや・・・。のんびりしてもいっか。どうせズレないだろうし(かっこ)フラグ(かっことじ)

 

と、自分からフラグを立てておけばそんな事態は起きないだろうという願望が多分に含まれた考えをして歩いていくのだった。

 




今日から『問題児』編の最後まで毎日更新です!


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介入&喪失

 蒼奇は一先ず自分が最優先して終わらせるべき事柄をやり遂げて安心していた。

 そのためのんびりと廃都へと向かいながら、気配の動きで戦況を確認していた。

 

「・・・みんな、頑張ってるねー。・・・・・・これなら正史のままなのかな?だったら少しぐらいサボっても―――」

 

 そんなことを考えていると『世界』から思念が飛んできた。『三頭龍をちょっと痛めつけちゃってYO!』と、なんともふざけた感じで。

 

「・・・へーへー。やっぱりちょっと三頭龍さんの霊格が高いんですか、そうですか。そういうことならちゃんと『修正力』として働きますよぉー!つかもっとマシな言い方をできなかったんですかねー!?」

 

 後半は自棄(やけ)になりながら『世界』へと返答する蒼奇。

 

「つっても、正史を捻じ曲げないタイミングでの介入って・・・。まーためんどくさい要求をしてくれるもんだなぁ・・・くそ。まず正史を知らないんですけど・・・」

 

 難しい要求を出してくる自身を生み出してくれた存在に文句を言う。

 

「はぁ・・・。とりあえず急ぐか。なぜか主催者たちは揃い踏みだしね」

 

 そういうと、すぐに蒼奇の姿はその場から消え失せた。

 

 

 

 

 

 蒼奇が尖塔群が倒れ廃都と化したロンドンに着き、裂傷を負った鵬魔王と苦い顔をした主催者たちを遠目から確認した。その中に血塗れの十六夜の姿も確認できた。そして彼らから少し離れたところに三頭龍の気配を察知した。

 

「・・・先手必勝、かな?」

 

 しかし、蒼奇は立場上三頭龍を倒すことはできない。してはいけない。だからせいぜい時間稼ぎと相手の弱体化程度がちょうどいいと考え、主催者たちの横を通り過ぎて三頭龍に建物を壊しながら一直線に向かう。

 

「な、なんやッ!?」

「くっ!?」

 

 通り過ぎた際に発生した暴風に驚く主催者たち。それでも蒼奇はそんなことはお構いなしに三頭龍へ突っ込んだ。

 

「ちょっと付き合ってよ、大魔王さん!」

『グゥッ!?』

 

 蒼奇は三頭龍の真ん中の首を鷲掴み、建造物を破壊しながら五人から引き離す。

 

 

 

 

 

 

 蒼奇が過ぎ去り、三頭龍を掴んで連れていく。そんな光景をまともに見ることもかなわず何が起こったか理解できていない四人。

 

「なんや、今のは・・・?」

「・・・わかりません。ですが、今の行動から敵ではないのは確かでしょう」

「そうだな。これはチャンスだ。一度態勢を整えるためにもここは退くぞ。それに鵬魔王殿の手当てもしなければならん」

「・・・ええ。そうですね。何者かはわかりませんが助かりましたね」

「ああ。クロア、聞こえるかッ!聞こえたら私たちを回収してくれッ!!」

 

 そしてそこから空間を跳び、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

「・・・うん。ここらへんかな。・・・じゃあ、少し、遊ぼうか。〝絶対悪〟」

『誰かと思えば、貴様か・・・〝絶望〟』

「そうだよ。久しぶり。寝起きにしては元気そうじゃないか」

『そういう貴様は、随分と矮小な存在になったものだな』

「それでも、君を相手に時間を稼ぐことはできる。そのうえ僕は君を倒すつもりはないし、逃げに徹しても構わないからね」

『・・・フン。〝最も恐れられた魔王〟と呼ばれた奴が甘くなったものだな』

「フフッ。そうかもね。・・・ま、とりあえず―――

 

 蒼奇の姿が三頭龍の前から掻き消え、

 

―――片腕はもらったよ?」

 

 気が付けば三頭龍の後ろにいて、その左手には白い四本指の左腕が握られていた。しかも丁寧に切り口は血が出ないように焼かれた状態で。

 

『・・・ッ!?貴様ッ!!』

「まだ遅いんだよね、これ。最盛期とは比べ物にならないな。・・・これで調整は成功したのかな、『世界』?」

 

 そんなことを言いながら吹き出した血によって生まれてくる双頭龍をすぐに首を刎ね飛ばして始末していく。そしてすぐに切り取られた方の傷口も焼く。

 

「主催者たちも退避したみたいだし、これで僕はお暇させてもらうかな」

『・・・なぜ、こんなことができた?』

「そうだね。・・・修正力の力とでも言っておくよ」

 

 それだけ言うと蒼奇は〝神出鬼没〟を使って吸血鬼の城へと転移した。

 転移した先は大広間の入り口付近だった。大広間にいた人々はは突然現れた蒼奇に驚いて警戒するが、そんなことは気にすることなく平然と尋ねる。

 

「・・・指揮してる人物はだれ?」

「・・・サ、サラ様、だと、思います・・・」

「そっか。ありがとう」

 

 近くにいた人に今回の中心人物を聞くとすぐに気配を探り当てて、そこに向かう。

 

「ここ、だね。失礼するよー」

「・・・貴様は、誰だ・・・?」

「んー?・・・〝青き魔王〟、〝恐怖〟、〝絶望〟。有名どころはこんなもん?追加で館野蒼奇かな」

「・・・っ!貴方がそうだったのか・・・。それで、何の用だろうか?」

「これ、そっちで処分しといて」

 

 三頭龍の腕を投げ渡す。

 

「なッ!?こ、これは・・・!?」

「今の僕じゃ片腕をもぎ取るのが限界だったよ。それにこの状態も長く続かないし、解けたらたぶんもう戦えない。だから、少しでも希望を見せたかった」

「・・・そうか」

「ってなことを言ってみる」

「はっ・・・?」

「まあ、それはあげるからどうにかしてよ。僕はもう限界だ」

「・・・感謝する」

「いいよ別に。じゃあ失礼するよ」

 

 次はレティシアとかジャックあたりにでも会いに行くかと考えながら、気配を頼りにふらふらと城の中を歩き回る。そうして再び大広間に辿り着きレティシアやジャックの姿を見つけると駆け寄る。

 

「やあ。大丈夫そうだね」

「「「・・・ッ!?」」」

「そんな警戒しないでよ。姿も気配もだいぶ違うけど、一応蒼奇さんだから」

「・・・主殿?その姿は・・・?」

「僕の昔の魔王としての姿、かな?まあそんなことはどうでもいいよ。僕の時間稼ぎはうまくいったんだね」

「・・・?ああ!あんとき通り過ぎたんは君やったんか!」

「そっ。それで十六夜や鵬魔王は?」

「とりあえずどちらも無事だ。主殿に関しては生きているのが奇跡なぐらいだが」

「そっか。・・・ところで車椅子とかってある?」

「・・・?なぜですか?」

「・・・うん。それはね~・・・いや、見せた方が早いかね」

 

 そういって蒼奇は体内の青鬼を減らしていき、元の姿へと戻していく。

 そして、

 

 

 パキンッ!

 

 

 という軽い音が二つ響き、その直後に蒼奇が前方に倒れる。

 

「ッ!?主殿!?」

「いや、平気平気。とはいえ足以外はだけどね」

「足?・・・ッ!?」

 

 蒼奇の足を確認した三人は目を見開いた。なぜなら、蒼奇の足は二本とも膝上あたりまで陶器のように砕け、粉々になっていたのだから。

 

「それで車椅子はあるかな?」

「す、すぐにお持ちしますヨッ!!」

 

 ジャックが迅速に行動して車椅子を取りに行く。

 

「これは一体・・・?」

「もうすでに僕はたとえさっきの姿でも戦える状態じゃなかったんだ。体が限界だからね。それでも無理して戦おうとすると完全に体が砕けてしまうんだ。僕はもう戦力としては数えることはしないでほしいかな」

「そう、か。主殿なら戦力として申し分なかったのだがな・・・」

「仕方ないよ。造られた不完全な命で一万年ぐらい生きられたのなら十分だよ。だからこそ、今回のゲームはみんなでぜひとも勝ってほしい」

「ああ。僕らに任せとき」

「うむ。主殿は十分やるべきことをした。ゆっくり休んでくれ」

「うん。そうさせてもらうよ」

「お待たせしましたよ!」

 

 そこへジャックが車椅子を持ってきた。

 

「ありがとう」

「乗せましょうか?」

「いや。そこらへんは魔術で何とかできるから」

 

 そういって自身の体を浮かせて車椅子へ座る。

 

「さて、これからどうするんだい?」

「まだ飛鳥や黒ウサギが「それなら平気。教え子たちに行かせてるから」・・・そうか。ならば問題ないだろう」

「うん。もし会議をするようならぜひとも呼んでほしいな。こんなんでも少しぐらい役に立ちたいんでね」

「ああ。わかった」

「ありがとう。じゃあ僕は魔術で重傷者を治療して回るからよろしく」

 

 蒼奇はその場を離れて、まずは火龍のいる中庭へと向かっていく。

 

「・・・一体、彼は何者なんや?」

「さてな。主殿は謎の多い人だ。何かを話すときも嘘を入り混ぜて決して真実を言おうとはしない。ただ、」

「・・・ただ、なんや」

「・・・いや、何でもない。気にするな」

「・・・気になるやないか。さっさと言いや」

「何でもないと言っている。さあ、主殿についてはこれで終わりだ」

 

 そう区切って足早にその場を去っていくレティシア。それを訳も分からず見つめる蛟劉とジャックがそこにはいた。

 

(・・・ただ、とてつもなく恐ろしい人物だ。だが、同時に身内には心底優しい人物ということも分かっている。だからといって、こんなことはほとんどの者には言うまでもない事実だからな・・・)

 

 その後も先ほどの言葉の続きを話そうとはしなかった。結局彼女が言おうとしていたことは本人が心のうちに留めたままになった。

 

 

 

 

 

 そして、数時間後。

 蒼奇は舞台会場といった方が正しいような会議室へと呼ばれていた。

 

「何でここなんだい?」

「わからない。だがここで間違いないはずだ」

「そっか。それならいいけど」

 

 レティシアと白雪姫とともに入り口付近に陣取り話していた。

 

「あっ。飛鳥だ」

 

 蒼奇は飛鳥を見つけるとひらひらと手を振って彼女に自分たちの存在を知らせる。

 

「レティシア!蒼奇君!あなたたちも来ていたの!?でも、車椅子・・・?」

「もちろん。ここに〝ノーネーム〟の子供たちも避難してるみたいだからね」

「ああ。リリたちと私で負傷者の介抱をしていたのだ。我らの中で前線で戦える者はレティシア殿と蒼奇殿だけだったからな」

「・・・戦ったの?〝煌焰の都〟を襲った魔王と」

「もちろん私だけではないがな。途中からは主殿に助けられたが」

「その結果がこの車椅子なんだけどね」

 

 蒼奇は自身の両足を指さす。その足は外からは見えないようにブランケットが掛けられていたが、近くで見ればその両足がないことは一目瞭然だった。

 

「その足・・・!?」

「うん。少し無理したら割れちゃってね。そのうえ今じゃまともに力を使うこともできないから今までみたいな戦闘は期待しないでほしいかな」

「大丈夫なの?」

「フフッ。痛みがあるわけじゃないし、動くのが少し面倒なだけだよ。それにこんなんでもまだ戦えるよ。もう君らには勝てないかもしれないけどね」

「そう・・・」

(それに僕にはもう正史通りかどうかもわからない・・・。でも、『世界』から思念がないって事はちゃんと修正できたってことだね)

 

 飛鳥はそれを聞くと暗い表情をしたが、すぐに切り替え元の表情に戻った。

 

「ジャックは少し休んでいる。蛟劉殿と鵬魔王・・・迦陵殿は、クロアに集められている」

「ゲッ!?あの変態ロリコン似非紳士が来てんのかよ」

「・・・ああ、そうだ。だが奴は頼りになる」

「いや、それでもさぁ・・・」

「ああ・・・」

「「変態なんだ(よねぇ)・・・」」

 

 蒼奇とレティシアの思いが一つになった瞬間だった。

 

「だから二人は気を付けてくれ」

「うん。ストライクゾーンを外れているとはいえ狙われないという保証は一切ないから」

「は?」

「え?」

 

 二人から一緒に忠告を受けて面食らう二人。この二人がそれほどまでに言わせる人物がいるということにも踊りを感じていた。

 

「しかし舞台会場で会議とはな。一体誰の提案だ」

「さあ?でも、会議が始まればわかることだと思うよ」

 

 ここには亜龍や鬼種、幻獣や獣人たちが多く集まっていた。しかし、蒼奇の目から見てもほとんどが実力が足りてないように思えた。せいぜいシンならば多少なりとも渡り合えるだろうかと考えていると、小さな悪魔が横切っていく。

 

「ラプ子・・・!」

(・・・ラプラスの小悪魔?活動可能だったんだ)

 

 ラプラスの小悪魔を見て最初に思ったことはそれだった。

 休眠中の〝階層支配者〟の登場で会議室がざわめき立つ。そんな中、背丈ほどのマイクを取り出したラプ子はマイクチェックを行った。

 

「テス・・・テス・・・はい。皆様、ごきげんよう。長らく不在だった〝ラプラスの悪魔〟の—――」

 

 ラプ子の話を聞きながらも彼女の登場を疑問に思い考え込む。

 

(ラプ子、アジ=ダカーハ、サポート・・・前の二百年前もそうだったっけ。という事は今回も同じ方法を・・・?)

 

 隣で話を聞いているレティシアの顔色を窺うと彼女もその答えに行き着いたようで顔色が変わっていた。

 

(・・・ああ。これは当たりだね。また多くの犠牲を出すか・・・。僕にはもう力がない。他の人を助けることすら難しいだろうなぁ・・・。まっ、これが正史通りなら文句も何もないけど)

 

 そして蒼奇は結論を出して華麗にラプ子の話を右から左へと聞き流した。

 




次は明日です。


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休憩&悪戯

「・・・それで、作戦には参加しなくてよかったのかしら?」

「それはペストも同じでしょ」

「いいのよ、私は。ここでマスターを守る役目なんだから」

「・・・あっそ」

 

 蒼奇の病室として宛がわられた部屋に二人はいた。蒼奇はベッドに上体を起こした状態で。ペストはベッドの横にある椅子に腰かけて。

 

「・・・ん?」

「・・・?どうかした?」

「いや、なんでもない(ジンを守れ、ねぇ・・・。『世界』も面倒なことを・・・)」

 

 『世界』から正史を乱さないための命令が出される。そんなことは知らないペストは蒼奇の挙動を不思議に思ったが、すぐに自分の作業に戻った。

 

「・・・はい、斑梨剥けたわよ」

「あっ、ありがとう」

 

 蒼奇は差し出された斑梨を口にしながらどう対処するかを考え始める。

 

「ちなみに隠し味にペスト菌を振りかけたわ」

「ブホッ!?」

 

 その一言を聞いた蒼奇は口の中のものを盛大に噴き出した。

 

「ゲホッ!エホッ!えっ!?ちょ、おまッ!?」

「冗談よ。二割ほど」

「残り八割は何だ。何があるんだよ」

「なによ。ただの冗談よ、冗談」

「いや、今の僕にはマジで耐性ないから死活問題なんだけど・・・」

「あら?そうなの」

「そのいいこと聞いたみたいな顔をやめろ。僕、マスター。君、召喚獣。主従関係。OK?」

「・・・?そうね」

「いや、当たり前でしょ?みたいな顔をされても・・・。今のやり取りにその関係にあるはずの主従の意がなかった気がするんだけど?」

「気のせいよ」

「いや、で」

「気のせいよ」

「だから」

「気のせいよ」

「・・・」

「気のせいよ」

「まだ何も言ってないですけどぉ!?」

「気のせいよ」

「・・・ハイ、ソウデスネ」

 

 これ以上は無駄だと判断した蒼奇は黙々と斑梨を食べる。そしてジンの方へと自身の一人を送り感覚共有を行いながら対処しようと結論を出した。

 

「あ、それは本当にペスト菌をかけたわ」

「ブハッ!?」

「本当よ」

「そこは冗談って言ってほしかったなぁ!!?それに今日はなんか辛辣じゃないかい!?」

「エリクサー用意してるから平気よ。それと辛辣なのは気のせいよ」

 

 自身が呼び出したはずの召喚獣にからかわれながらも。

 

 

 

 

 

 場所は変わり煌焰の都・近隣の樹海。そこに青鬼である蒼奇、〝個群奮闘〟により無限にいる一人を派遣させていた。

 

「・・・あれ?見知った顔がいる」

「・・・ッ!?お、お前ッ!?」

「やあやあ!いじめられっ子の遊興屋君じゃ~ん!元気~?」

「お前の顔を見るまではな!!」

「いやだなぁ。一緒に酒やら紅茶やら毒やらを飲んだ仲じゃないか」

「お前に悪戯されてた記憶しかないんだがなぁ!?」

「そだっけ?」

「少なくとも俺はそうだ!!」

 

 突然乱入してきた蒼奇と遊興屋のやり取りに呆然とするその他一同。

 

「・・・青き魔王」

「なんだい、殿下君」

「お前、このクソとはどういう関係だ?」

「話すほどでもないくらいクソみたいな関係だよ!」

「・・・そうか」

「おい、お前ら人のことをクソクソ連呼してんじゃねぇよ」

 

 そんな遊興屋の言葉を無視してガシッ!と強く握手を交わす二人。

 

「お前とは仲良くできそうだ」

「同感だね。そうだ!友好の証ついでにあのクソに悪戯した時の動画が山ほどあるんだけどいるかい?」

「マジかよくれ!!」

「ちょっと待て!?んなもんいつ録画してやがった!?」

「やだなぁ~。毎回撮ってたに決まってるじゃないか!と、いうわけでこれに全部入ってるから」

「よこせクソガキ!!」

「誰がやるか!!」

 

 蒼奇がビデオカメラを殿下に渡すと子供みたいに追いかけあう殿下と遊興屋。だが、二人の実力を考えればとても恐ろしい光景だろう。

 

「クソッ・・・。で、テメェは何の用だ?ただ俺をからかいに来たわけじゃねえだろ」

「あ、七割ぐらいはそれが目的」

「・・・やっぱお前嫌いだわ」

「うん。知ってるし僕もそうなるようにしてたからね」

「さっさと三割話せ。お前が口開くたびに俺が貶される」

「うん。君に警告しに来たんだよ」

「警告だぁ?」

 

 蒼奇に言葉を聞いて怪訝な顔をする遊興屋。

 

「そこのジン君と守護者に手を出したら、さすがに僕のおもty、玩具でも容赦しないよ」

「今の言い直す必要あったか!?」

「あったあった。超あった。天気予報で雨が降るを槍が降るって言い間違えたくらいの違いがあったから」

「絶対ぇなかっただろ!?」

「うん。ぶっちゃけなかった。想定通りのツッコミありがとう」

「殺す!今殺す!!すぐ殺す!!!」

「ハイハイ、お疲れお疲れ。それとも、いいのかなぁ?君の恥ずかしい動画を箱庭全土に放映しちゃうよ?」

「ぐっ・・・」

「いいなそれ!すぐにやろうぜ!!」

「クソガキ黙れ!!」

「それで?わかったのかい?」

「・・・ああ。いいぜ」

「えっ!?マジで放映していいの!?そうと決まれば殿下君、すぐに準備だ!!」

「ああ!!」

「そっちじゃねぇよ!?そこのガキに手を出さねぇ方だ!!」

「「ちっ・・・!」」

「『ちっ』、じゃねええええぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!」

「ああはいはい。わかったよ。僕の用事はこれで終わりだから帰らせてもらうよ」

「さっさと消えろ!」

「じゃあ殿下君。機会があったらこのクソについていろいろ話してあげるよ。それじゃあ、ばいびー」

「死ね!!もう来んな!!」

 

 遊興屋をとことんからかってその場から消える蒼奇。そのやり取りをただただ呆然と見ていたリンとジン、里桜の三人。

 

「せ、先生があそこまで翻弄されるなんて・・・何者なの・・・?」

「え、えっと、元・魔王の〝ノーネーム〟の人です・・・箱庭でも古参だと自分で言ってた、はずです・・・」

「そ、そうなんだ・・・」

 

 そんな感想をこぼす二人がいた。

 

「クソ・・・。とんだ邪魔が入ったな。まあ、だが俺はそこの奴の安全を保障せざるを得なくなったわけだ。・・・それで?やるのか?」

「・・・ああ、やってやるよ。すごい報酬ももらったしな。この分くらいはあいつに恩を返す。そして〝人類最終試練〟・・・〝アジ=ダカーハ〟は俺が倒す」

 

 殿下はそう言い放った。

 

 

 

 

 

 蒼奇からもらったビデオカメラの動画をじっくり鑑賞しながら。

 

 

 

 

 

「ほう・・・飲み物に悪戯か。紅茶に大量の塩や唐辛子、クエン酸。挙句には水銀まで。酒にはアルコールを強くしたりする薬を入れて酔いつぶれたら顔に落書きか・・・。やはりアイツとは仲良くなれそうだ」

「おいクソガキ。それをよこせ。すぐに壊す」

「だが断る」

「オーケーオーケー。テメェがそういうなら戦争だクソガきぃッ!?」

 

 突如遊興屋の頭に金盥が降ってきて直撃した。

 

「クソッ!一体何だってんだ!?」

 

 遊興屋は自身に当たったたらいを見る。するとたらいには張り紙がしてあり、

 

『ちなみにそこにいる誰かに間接的に直接的に関係なしに手を出そうとしたら今みたいにたらいが降ってきます!だから手を出さないでね?それと、まんまと引っ掛かってくれたね!僕は嬉しくて嬉しくて笑いと涙が止まらないよ!。゚(゚ノ∀`゚)゚。アヒャヒャ』

 

「・・・ふざっけんなああぁぁぁ!!このクソ鬼がああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 樹海に一人の男の叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

「フッ、フフッ」

「・・・突然笑いだして気持ち悪いのだけれど?」

「・・・ねえ。僕って、()()()()なんだよね?」

「そうだけれど?」

「あ、いや、うん。わかってるならいいけど・・・。まあ笑いだしたのは、少しある人物をからかってきたからだよ」

「・・・ああ、分体だったかしら。それで遠くの方に指示を出して話し合ってきたのね」

「うん。・・・それと、ちょっと言わせてもらってもいいかな?」

「・・・?何かしら?」

「そろそろその手に握っているエリクサーをよこせ!もうかなり辛いんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れてたわ」

「いいから早く頂戴!?」

 

 蒼奇がエリクサーを奪おうとしてペストがそれを阻止する。二人はそんなやり取りをしばらく続けていた。

 そしてゲーム攻略の作戦が予期せず始まり、一人の少年の一撃により終幕するまで静かに見ていた。

 

 

 




次も明日。


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軍神の進路相談です!
疾走&温泉


 〝人類最終試練〟の魔王アジーダカーハとの死闘から三か月。蒼奇とペストとネロは〝風浪の鉱山〟を観光していた。当然車椅子は悪環境でもスムーズに進めるように改造してある。

 

「本当に手を出さなかったのね・・・」

「今の僕に戦闘能力は大してない(嘘)って何度も言ってるでしょ。そんな僕が手を出しても邪魔なだけだよ(大嘘)」

 

 事実、蒼奇は魔術だけでもそこそこ強い。それこそ全力のペスト相手に圧勝できる程度には。そんな蒼奇が参加しなかったのはもちろん正史に干渉してしまわないようにするためだった。

 

「嘘吐きマスター」

「貧乳」

「・・・バケモノ」

「ぺったんこ」

「・・・・・・死にぞこない」

「まな板」

「死ねこのクソマスター!!」

「はいはい。女の子が飛び蹴りなんてしたらだめですよ~。それに貧乳はステータスで希少価値だと誰かが言ってたよ」

 

 ペストの蹴りを軽くいなしながら、車椅子で進んでいく。

 

「このッ!くッ!せいっ!・・・ああもう!一発くらい当たりなさいよ!!」

「いやだね。痛いし。それにさらに割れたらどうするのさ」

「そうなったら接着剤でくっつけてあげるから安心しなさい!!」

「安心できないよ!?これでも僕は一応生物なの!!」

 

 そんなことをしながら騒がしく観光していく。

 

「はあっ!はあっ!・・・ふぅー!・・・それにしても、本当に他の人たちのゲームを観戦しに行かなくてよかったの?」

「一応一人ずつ送ってるから僕はリアルタイムで観戦できるよ。とはいっても結果は見えてるけどね~」

「・・・そう」

「そうだよ。だからのんびり余生を楽しむことにしたんだ!」

 

 そうやってじっくり露店などを見て回っていたが、少し遠くの方から悲鳴が聞こえた。

 

「うわああああああああ暴れ牛だああああああッ!!!」

「「・・・」」

 

 ペストはその叫びを聞いて周囲と同じように唖然として黙ってしまったが、蒼奇の胸中には様々な感情が渦巻いていた。現に今も額に血管が浮かび上がっていた。

 

「ペスト、乗れ。もしくは掴まれ」

「えっ?」

「さっさとしろ。さもないとおいてくぞ」

「わ、わかったわ」

 

 蒼奇の声から彼が怒っていることを察したペストはおとなしく蒼奇の膝へと座った。

 

「よし。しっかり掴まってろよ。よし、全速前進DA☆」

「えっ、ちょっ―――!?」

 

 ギュンッ!という音を出しながら猛スピードで鉱山を駆けていく。

 そして再び悲鳴が上がる。

 

「うわああああああああ暴れ車椅子だああああああッ!!!」

「ちょっと待て!?誰だ今言ったやつ!?後でシバきに来るからそこでじっとして居やがれ!!」

 

 蒼奇は視界に一人の人物を捉えた。そこからはその男めがけて爆走していく。

 

 そして—――

 

「失礼ですがお名前は?それとも轢き逃げ犯とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

「名前?―――ああ、そうか。人間に降天すると名前も「ここで会ったが百年目ぇ!!死にさらせくださいやがれこのクソヤンキー!!」ヘブァッ!?」

「「あっ」」

 

 そのままの勢いで飛び上がり男の顔面をメキャッ!という音とともに轢く。

 

「て、てめ、なにを—――「オマケェ!!」オブァッ!?」

 

 完全には使い切れなかった勢いを利用して一回転して顎を打ち上げる。いわゆるサマーソルトだ。それを喰らった男は後ろへと倒れていく。

 

「ふぅ、スッキリした」

「目、目が回るうぅぅ・・・」

「『スッキリした』、じゃねぇよ・・・!!いきなり何しやがる!?」

「轢き逃げとサマーソルト。あと暴力。反省はしていない。そして後悔もしていない!むしろ清々しいね!!」

「うるせぇ!!」

 

 ワーワーギャーギャーと騒ぎ立てる男に対して耳を塞いで煩わしそうにする蒼奇。そんな光景を呆然としながら見つめるその他一同。

 

「ほら、僕にかまってないで自己紹介したら?僕自身今の君を何て呼べばいいか困ってるんだ。もちろんそのまんまはダメだ」

「・・・ちっ。あとで覚えてろよ・・・。それで、俺の名前だったな。あー、そうだな・・・決めた!俺の名前は御門―――そう、御門釈天だ!」

「―――な、」

 

 蒼奇を除く全員が唖然とする。その様子を不機嫌そうに見つめる蒼奇。そしていまだに目を回しているペスト。

 

「所属コミュニティは上層を繋ぐ〝忉利天〟。この度は〝護法十二天〟の使者として、〝精霊列車〟の開発に協力しにきてやったぜ!」

「あっ。こいつはお前らが想像してる存在で間違いないから。それとこいつ態度なんて気にしないから普通に接していいよ。僕なんてかなり蔑ろにしてるし」

「テメェは死ね」

「心配しなくてももうすぐ死ぬよ」

「くそ、ああいえばこう言ってきやがって。相変わらずいけ好かねぇ奴だな」

「逆に言わせてもらうけど、君が行動していい結果になったものを数えた方が早いぐらい面倒くさいことしてるよね?僕は君のそういうところが苦手、いや嫌いだ」

 

 そしてまた二人は言い争いを始める。

 

「おい、ネコミミ御チビ。蒼奇の言う通り、俺の想像通りならコイツはまさか・・・」

「・・・はい、間違いないっす」

 

 三者三様の表情をする一同。だが、大半はいい顔をしていない。当然だろう。この人物、釈天の評判を聞けば誰だってそんな顔をしたくなるものだ。

 鵬魔王曰く、〝動けばいらないことしかしない駄神〟。

 蛟魔王曰く、〝天界のヤンキー兄ちゃん〟。

 蒼奇曰く、〝無駄に力を伴ってる鬱陶しい奴〟。

 武神衆・〝護法十二天〟の長にして箱庭の都市を統べる一人。

 最強の軍神(笑)〝帝釈天〟その人である—――!!!

 

 

 

 

 

 その後は釈天が黒ウサギの代わりに審判を買って出たが、そのまま立たせるとまずいので緩衝材にリリを挟んでゲームが進行し、無事に終了した。

 蒼奇がじっとしていろと言った通行人は当然のように消えていたが。

 

 そして今は、

 

「よーしよしよしよしよし、頑張ったな!見かけより飲めるじゃねえか、ギリシャの若人!ほれ、仲居の娘たちも拍手拍手!」

「キャーすごーい♪」

「ギリシャの若人様すごーい♪」

「ギリシャの・・・ええと、名前はなんでしたっけ?」

「馬鹿ね。〝ペルセウス〟の若頭でルジーイ様よ」

「・・・うぇっぷ」

「ハァ・・・コイツといるとこうなるから嫌いなんだよ・・・」

 

 〝サウザンドアイズ〟の旅館銘湯〝少彦名の湯〟で温泉、酒、女のいる場所で接待していた。

 

「十六夜。突っ立ってないでこっちに来てくれ。さすがにこいつの相手はつかれる」

「ん?おお、来たか十六夜。さっさと来い。お前も飲むだろう?」

「お前らも楽しんでるか?」

「僕は見ての通り疲れてるよ。グリーは普通に酒を楽しんでるけど・・・」

「うむ。この御神酒という酒は悪くないぞ」

「だそうで・・・」

 

 十六夜は御門釈天に気づかれないようにグリーの隣に腰を下ろす。一言二言交わすと彼は盃を手にしてグリーによって注がれた酒を呷った。

 

「それで?随分と盛り上がっているみたいだけど、何のゲームをしていたんだ?」

「ああ。一升瓶一本を空けたら武勇伝一つ、っていう感じだよ」

「うむ。ルイオス殿は三本目で倒れたな」

「ちなみに太陽神との決闘と阿修羅族との戦争がすんだところだね」

「今は〝七大妖王〟の征伐についてだったな」

 

 そこで盃を傾けていた十六夜は苦い顔をした。

 

「・・・それはまた荒れそうな話題だな。蛟劉や迦陵ちゃんには聞かせられねえぞ。つかアイツらは御門釈天が誰なのか知ってんのかね」

「知っているはず「知っているだろうね。それどころかもう会ってきた後だと思うよ」なんだと?」

「ああ。そこの蟒蛇の言うとおりだ」

 

 そこで二人は視線を前に移した。するとそこには御門釈天が楽しそうに仁王立ちしていた。

 こんな中十六夜は警戒を解いていなかった。が、

 

「十六夜。警戒する必要はないよ。今のこいつは人間でお前でもどうにかできるレベルだ」

「ずいぶんひでえ評価だな、青鬼」

「うっせ。事実だろ。もう一回迦陵のところに行って殺されかけてみるか?それともお前の嫁にあることないことやまだバレてないことを吹き込んでやろうか?僕のおすすめは嫁にチクる方なんだけど」

「ごめんなさい許してくださいそれだけはマジでシャレにならないんで」

 

 『嫁』という言葉を引き合いに出された瞬間、御門釈天の態度が一変して弱気なものへとなった。

 

「わかればいいんだよ、わかれば」

「ちっ、覚えてろよ・・・(ボソッ」

「悪い、十六夜。ちょっと舎脂ちゃん呼んでくるから引き止めといて。縛ってでもいいから」

「まあ待て落ち着け早まるんじゃない俺が悪かったからやめてくださいマジでお願いします」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいい。話が進まないから僕に突っかかるなよ」

 

 それを見ていた十六夜は御門釈天こと帝釈天の格付けをかなり下げたのだった




次も明日です。


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宴会&考察

「そんじゃま、仕切り直しだ。聞きたいことがあるなら何でも聞いてくれ。出資者だからって遠慮なんていらねえ。なんせ一糸纏わぬ宴会だ。無礼講だ無礼講!」

「ああはいはい。そんなのはわかってるよ。とりあえず大聖の義兄弟たちに会ってきたならそれについて聞かせてよ」

 

 蒼奇が率先して釈天に質問をする。二人に話させるよりは自分が言った方が何かと楽だと考えたのだろう。

 

「あーそれな。まあ色々もめたが、〝精霊列車〟について承諾しているから懸念することはなんもねえよ」

「・・・へえ?その結果が迦陵ちゃんに殺されかけたってことか」

 

 グリーが視線で十六夜を諫めたが、釈天は特に気にした様子もなく続ける。

 

「まあな。やっぱ何年経っても変わってねえじゃねえか」

「そこだ。アンタほどの奴がどうして殺されかける?」

「今の俺は青鬼が言った通り、吹けば飛ぶ程度のもんだ。ちょいと無理して眷属を助けたもんだから霊格を使い果たしちまった。おかげでここに来るまで五回も殺されかけた」

「チッ!生き残ったか・・・」

「・・・もしかしてお前の差し金か?」

「そんなわけないじゃん。そこまで根回しするほど僕は暇じゃない」

「おい、それより眷属を助けたって・・・それまさか、」

「しかしそんなことはどうでもいいのだ」

 

 釈天は今回の戦いの加勢した者たち。女王と蛟魔王、鵬魔王、酒呑童子、牛魔王にそれ相応の褒美を与える予定だといった。

 しかも迦陵への報酬が義兄弟の魂を解放することだと言い放ち、その場がざわめいた。

 

「・・・ハッ。そりゃまた随分と太っ腹な処置だな。万が一のことを—――」

「考えてのことだろうね。むしろ今となっては考える必要すらないものだったと思うよ」

「ああ。当時の奴らの目的は斉天大聖を助けることだったからな。その目的も今は果たされた」

「まあ、誰かが暴れるようならこいつらがどうにでもするよ」

 

 箱庭に詳しい二人がそれぞれ説明する。

 そして十六夜と釈天はどんどん話をする。蒼奇はその間の話は興味がなく、お得意の聞き流しをしていた。

 

「―――おい、青鬼。お前はどう思う?」

「えっ?何が?」

「十六夜がなぜアジ=ダカーハを倒せたか、だ」

「・・・それについては後で話そう。もうすぐ夕食の時間だろうし、食後にでも、ね」

「・・・そうか」

「ごめん、誰か!そこの茹ってる子を連れてってあげて!」

 

 蒼奇がルイオスを指さしながら声をあげる。

 

「というわけで続きは後ほどだ。逆廻十六夜。お前もまだ聞きたいことがあるだろう?」

「ん?いいのか?」

「おう。今回は休暇だからな」

「休暇じゃなくても特にすること何ざないだろうに・・・。そら、さっさと上がろう」

「そうですな。この接待娘たちはどうするのです?」

「ばっか、連れてくに決まっ「舎脂」てないです。そんなことする勇気私にはありません、はい」

「冗談だよ。今回は大目に見るさ」

「あぁ・・・?珍しいな。お前がそんなことを言う何ざ・・・」

「同士を助けてくれたお礼ってことにしといてよ。それより十六夜にも褒美はあるんでしょ?彼が一番の立て役者なんだからさ」

「む、そうだったな。そのことを聞くのを忘れていた。他の奴らに与えてお前には与えないというのは不公平というものだ」

「それじゃ、僕は先に上がって待ってるよ。早めに決めてよねー」

「おう」

 

 そういって蒼奇は三人より一足先に湯殿から上がり、他の人らが来るのを待った。

 そして釈天は十六夜の要望を聞き入れグリーに相応しい翼を授けた。

 

「さて、褒美も授けた!あのクソ野郎も待っているだろうしさっさと上がるぞ」

「ちょっと待て」

「ん?どうした。まだ何かあるのか?ものによるが叶えてやらんでもない。今の願いでは到底足りんからな」

「いや、そういう話じゃねえ。ただ、あとで蒼奇のことについても聞かせてほしい。長い間一緒にいたが、あいつは自分のことを全く話さねえ」

「ふむ・・・」

 

 それを聞いた釈天は考え込むようなしぐさを見せるがすぐに返答した。

 

「いいぞ。アイツへの意趣返しとしていくらでも話してやる」

「そうか。悪いな」

「別にいいさ。アイツには色々と仕返ししてえことが山ほどッ!?」

 

 そこまで言った釈天の頭にどこぞの誰かさんと同じように金盥が落ちる。そこには、

 

『話すことについてはこれで許してあげるよ!ていうかこれすら避けられないなんて終わってるよね!m9(^Д^)プギャー』

「・・・今日という今日はマジで許さねえぞあの野郎!!」

 

 怒り心頭となった釈天は即座に風呂からあがって蒼奇のもとへ駆けた。

 その後に聞こえた悲鳴は誰かの仕掛けた罠に嵌まってしまった者の声だった。

 

 

 

 

 

 食後の酒に付き合えと釈天に言われた蒼奇はついていき〝ラプラスの小悪魔〟と御門釈天との小会議を行うことになってしまった。

 

「―――そういうわけだ。逆廻十六夜のいた時代に繋がる門を開く。アイツは既に〝第三永久機関〟の開発者に接触してる可能性がある。すぐに素性を洗ってくれ」

 

 釈天は膝の上で斑梨を食べるラプラスの小悪魔に告げる。蒼奇は畳の上に車椅子で上がるわけにもいかず、車椅子から降りて壁を背もたれにして釈天と向かい合っている。ただ斑梨を見る目はきびしいものだったが。

 そして二人で小難しい話がどんどん進んでいく。

 そんな状況で蒼奇は割り込むように一言告げる。

 

「なあ、僕はこの場に必要か?こんな老い先短い爺にそんな話を持ち出さないでくれよ」

「必要だ。お前は多くの世界を見てきた。だから十六夜のいた世界も見て—――」

「見てないよ」

「なに・・・?」

 

 その返答は釈天が予想していたものとは逆の答えだった。

 

「あの世界はかなり繊細だったんだ。ある転換期まではね。だけどそれまでもそれ以降も僕はあの世界に立ち入ることはしていない」

「・・・なんでだ?お前なら興味本位だけで立ち入りそうだが・・・」

「僕は修正力だよ?修正力は世界や歴史を正す力と同時に変える力も持っているといっても過言じゃないんだ。だからこそ、僕という異常な存在がいるだけで何かしらズレる可能性を考えたんだ。それこそ転換期が消失することすらあり得た」

「・・・わかった。だがお前の意見も聞きたい。だからとりあえずここにいろ」

 

 釈天にそう釘を刺されて仕方なくその場にとどまることにした蒼奇。

 

(ハァ・・・。僕がここにいてもラプ子の考えに及ぶわけないんだけどなぁ・・・)

 

 蒼奇は内心逃げ出せなかったことを心底残念がっていた。もちろんラプ子の考察に間違いなどないし、特に補足することもなかったため、まあ、いつものように聞き流した。

 

「―――キハハハハッ!!!なァるほどなァ!そういう「死ね」うおぉい!?何しやがる!?」

 

 突然現れたクロアに対して蒼奇は魔術で光球を飛ばす。

 

「悪い。手元が狂った。本当なら消し飛ばすはずだったんだけど・・・」

「・・・先にテメェを殺してやろうか?」

「なら僕は自分が死ぬより先にすべての世界から幼女を消し去ろう」

「テメェは鬼かよ!?」

「青()ですけど?」

「クソッ!?そうだった!?

「まあ理不尽だったというのは認めるよ。ごめんね」

「・・・・・・ちっ、そういうことなら今回は許してやる」

「アザーッス。やっぱ、ちょろいっすわー。さすがっすわー」

「コ、コイツッ・・・!」

「クロア!久しいなこの野郎、元気にしていたか!?」

「おっ?キハハハハ!そりゃコッチのセリフだぜ帝釈天!」

 

 そして盛り上がる変態コンビ。それを見てため息を吐く蒼奇。

 

「僕はこれで消えるよ。ラプ子の話に補足するところはなかったしね」

「あっ!おい待―――」

「待たない。もう眠いんでね」

 

 次の句を言わせる前に転移で逃げる蒼奇。

 

「あの野郎、逃げやがったな・・・」

「まあ、少しくらいは勘弁してあげてください。彼の体は限界が近いのですから、休む時間も増えてきているんです」

「・・・そうか。アイツと初めて会った時には殺せないと悟ったうえに寿命何ざで死ぬなんて予想してなかったんだがな・・・」

「まァなァ・・・。両足が消えた今でも死ぬなんて思えねェしなァ・・・。たとえ死んでも化けて出るとさえ思ってるからなァ」

 

 その場が少々しんみりしたとき、一枚の紙がポンッ!と音をたて現れる。

 

「あぁ・・・?」

『えっ?なに?体が弱ってると思った?残念でした!蒼奇さんの体はすこぶる絶好調だぜ!そっから消えたのはただ単に面倒だったからでい!今どんな気持ち?ねえ、どんな気持ち?NDK、NDK?』

「「「・・・」」」

「絶対、アイツに一泡吹かせてやる・・・!!」

「それなら手伝うぜェ・・・!!ここまで腹が立ったのはいつ振りだァ・・・!!」

 

 蒼奇のいたずらにものすごく腹を立てた人物が二名。そして蒼奇が生きているうちに意趣返しを心に決めた瞬間でもあった。




次も(ry


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参戦&乱戦

「始まったねえ」

「そうね」

 

 蒼奇とペストは静かに〝金剛の鉄火場〟の本選を見ていた。ゲーム盤内で。そう、参加者としてゲーム盤内で。

 

「それで、一体いつ参加してたのよ?」

「言ったはずだよ。『一人ずつ送っている』ってね」

「・・・参加しているとは言ってなかったはずだけれど?」

「うん。だって言ってないもん」

「それにどうやって本選に残ったのよ?参加者は六人のはずよ?」

「単純明快。僕のとった量が一位の人と全く同じ量だっただけだよ」

 

 そう。そのとき蒼奇は観戦と同時に参戦用の分体も送っており、秘密裏に参加していたのだ。そのうえ同着一位ということで本選にまで出場している。もちろん黒ウサギやリリ、釈天には話さないようにお願いしている。

 

「そう・・・。それとこの後ろのは何に使うのかしら?」

 

 そういってペストは蒼奇の車椅子の後ろについてる物体を見る。

 

「んー?ちょっとね。まあ誰かをからかうため、とだけ言っとく。本来なら本選も分体に任せようと思ってたんだけどいいネタが見つかったから」

「・・・性格悪いわね」

「ありがとう!」

「褒めてない」

 

 そんなことをのんびり話しているが、遠くの方で戦闘音が響いている。十六夜たちと飛鳥たち、それぞれの戦闘だろうと目星をつける蒼奇。

 

「うーん。このゲームってこんなに殺伐とするゲームじゃないんだけどなぁ・・・。見てるこっちとしては楽しいからいいけどね」

 

 そして音が近づいてきて、鍾乳洞がひときわ大きく揺れ動いた。

 

「「「ra・・・Ra、G、EEEEYAAAAaaaa!!!」」」

「おーおー。ド派手にやってるなー。この感じはアルゴールかな?じゃあ少し行ってくるよ」

「ええ。私はここで待ってるわ」

 

 その声を聴くと中心部に向かっていく。そこでは〝金剛鉄〟を悪魔化させたルイオスと十六夜が戦っていた。

 

「おー!ルイルイすごいねえー。以前より使いこなしてるじゃないか」

「乱入して来て早々お前までルイルイ言うな!!!」

 

 その叫びに反応してこちらにも牙と爪が向かってきた。

 

「おっと、藪蛇だったかな!」

 

 そういって蒼奇は車椅子のまま飛んだり跳ねたりして攻撃をかわしていく。

 

「ちょっと待て!?何で車椅子でそんなことができる!?」

「ほっ!よっ!あらよっと!それは傀儡術っていう便利な代物があってね!それを使って操ってるだけだよ!今じゃ元の足より扱いやすいかもね!」

 

 攻撃を避けながら丁寧に説明する。回避しながらも十六夜の横へと行く。

 

「ねえ、これってどういう状況?ルイルイはまだしもグリーまで敵ってのは?」

「グリーは釈天に翼を授けるように言って叶えさせたら逆切れされた!」

「なるほど!あとそこ危ないよ!」

 

 それだけ言って蒼奇は十六夜から離れる。

 

「あ?・・・ッ!グリー、テメェ!」

「GEEEEYAAAAaaaa!!!」

 

 空中に飛び上がっていた十六夜は躱すことができず真正面からグリーの突進を受けて岩盤に叩きつけられる。

 

「グリー!どうしたのその翼!」

『おお、耀か!丁度いいところに来た!この大戯けを矯正するから手を貸してくれ!』

「おっ!耀も参戦するのかな?」

 

 状況が理解できていない耀は疑問符を浮かべながら困ったような表情をする。

 

「何だよ、まだ怒ってんのか。いいじゃねえか、帝釈天から神格付きの翼を貰えたんだから。何の不満があるんだよ」

『誰がそんなことをしてくれと頼んだッ!!!』

「おうおう、盛り上がってまいりました!」

 

 十六夜とグリーが怒鳴りあっている場所より離れてルイオスと収まるまで待つことにした。

 

「春日部耀と館野蒼奇・・・だっけ?お前らも優勝候補から潰しに来たのか?」

「僕は単純に楽しそうなことをしてたから乱入しただけ!」

「わ、私はさっきの宣戦布告を果たしに—――」

『よし、よくわかった!お前とは全力でぶつからねばならんと思っていたところだ!覚悟はいいか十六夜ッ!!!』

「上等だ鷲獅子ッ!!!返り討ちにして焼き鳥にしてやるから覚悟しやがれ!」

 

 共に吠えながらヒートアップし続ける二人。それを見ていた耀は焦った。

 

「ちょ、ちょっと待って!私が先に宣戦布告したのに、何でみんな邪魔するの!?順番ぐらい守ってよ!」

「・・・はあ?」

「ぷっ・・・くくっ・・・」

 

 怪訝な声を上げるルイオスと笑いを堪える蒼奇。

 十六夜はその声でようやく耀に気が付いた。

 

「春日部か。・・・丁度いい。お前には話があった」

「っ、うん」

 

 耀は緊張した面持ちで十六夜の言葉を待つ。すぐそばに笑いを堪えてる蒼奇さえいなければなおよかったのだろうが・・・。

 

「春日部」

「な、何?」

「・・・ッ(プルプル」

 

 十六夜は穏やかな声音で話しかける。

 

「〝ノーネーム〟はお前に任せた。―――俺は少し、コミュニティを離れて旅に出る」

「―――――・・・」

「アッハハハハ!!も、もう無理!我慢できない!!アハハハハ!!!」

 

 耀、観客席、実況席、箱庭の貴族が驚く中、ゲラゲラと腹を抱えて笑う蒼奇。

 

『ほう。それはどういうことだ?』

「ヒー、ヒー・・・。はあ。面白かった。あーグリー。つまり十六夜は耀を推薦するってことだよ」

「そういうこった。大方の話は纏まってるみたいだしな。春日部が受け持つなら願ったり叶ったりだ。ちょっくら見聞を広げてくる」

「いいんじゃないか?お前が成るよりかはよっぽどマシだろうし」

 

 四人はそんな会話を繰り広げる。そこで耀は蒼奇以外の三人がおかしいと気が付いた。

 

「(・・・うん。そろそろからかうタイミングかな。ならセットし始めないと)」

 

 三人の会話を流しながら蒼奇は自身の背中。今回のために車椅子に取り付けた装置のセッティングを始める。

 

「・・・三人とも。私が壇上でスピーチしたとき、何してた?」

「スピーチ?」

『何のことだ?控え室には映像は来てなかったぞ』

「俺は釈天に会っていた。・・・もしかして、何かあったのか?」

「(セッティング完了!あとはタイミングだけだね~♪)」

 

 四人の会話を無視して自身の娯楽のために順調に準備を終わらせた蒼奇。

 

「―――く、ろ、「ナウです!(カチッ」―――えっ?」

『勝負だ、逆廻十六夜ッ!!!もし—――』

 

 耀が開幕の際に宣言したスピーチが洞穴内に大音量で流れ始めた。

 彼女は再び羞恥で顔を赤く染めてこの騒動の犯人を捜す。だが、必然的にすぐに見つかった。なぜなら、当の本人に隠すつもりがなかったからだ。

 

「ドッキリ大成功~♪」

「にゃああああああぁぁぁぁ!!!?」

 

 蒼奇の背中についている装置、スピーカーと手に持っているICプレーヤーを破壊しようと襲い掛かってくる。

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!!当たらないねえ、そんな大ぶりな攻撃はァ!!」

「このッ!このッ!!このおッ!!!おとなしくそれを渡せえ!!!」

 

 耀の攻撃は羞恥のためか大振りになっており今の蒼奇でも簡単に躱すことが簡単にできた。

 

「十六夜、パスッ!」

「あっ!?」

「おっと(カチッ」

 

 蒼奇は攻撃の隙を見て十六夜にICプレーヤーを投げ渡すが、彼は受け取った拍子に再生ボタンを押してしまった。

 

『勝負だ、逆廻十六夜ッ!!!もしこのギフトゲームで—――』

「もうやめてええええぇぇぇぇッッッ!!!」

「アッハハハハハハゲホッゲホッゲフッ、ヒーヒー!!!・・・ゴッフゥ!?」

「へぇ?お馬鹿顔ねえ。・・・言ってくれるじゃねえか」

 

 録音されているすべてを聞いた十六夜が不敵に笑った。だが、笑っていた蒼奇は笑いすぎて周りが見えなくなっていたために癇癪を起こした耀の強烈な一撃を腹にもらい悶絶した。

 

「うぐ、おぉぉ・・・腹がぁ・・・!」

「まあそういうことなら受けて立つが」

「それならそろそろ始めてもいいか?時間制限もあるんだし」

『うむ。要するにバトルロワイヤルということでいいのだな?』

「そうだね。みんなで十六夜をフルボッコワイヤルしよう。私もそろそろ彼の顔面を蹴り飛ばしたくなってきた」

「ハッ、上等だ!俺もお前らの言いがかりには流石にイラッと来てたところなんでな!テメエら全員纏めてかかってきやがれ!!!」

「ま、待って。もう少し痛みが引くまで・・・」

「「「『そっちの都合なんか知るか!!』」」」

「チクショウ!!テメエらなんか全員敵だぁッ!!」

 

 蒼奇の痛恨の訴えも即座に却下され全員がぶつかり合う。

 

 

 




以下略!


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正史&終幕

 春日部耀、ルイオス、グリーの三人は始めは共闘していたがすぐに崩れて現在は乱戦状態に陥っている。原因は自分勝手に暴れていること。そして、蒼奇だ。

 

「あれはコッチ。これはソッチ。んー、アッチかな?」

 

 蒼奇は魔術で攻撃を逸らして違う相手にぶつけるというクズみたいなことをしてそれぞれをいがみ合うように仕向けていた。しかも、それをバレないように仕組むのだから、なおさら質が悪い。

 

「ふんふふ~ん♪静観してるだけでいいってのは楽だねぇ。そう思わないかい?耀、グリー」

「『・・・ッ!?』」

「僕に不意打ちは通用しないよ。それに僕にかまけてたらメインディッシュの時にくたびれちゃうよ?」

 

 蒼奇は二人を見ることもなく魔術だけで牽制し続ける。そして、

 

「うん。というわけで僕は降りるね」

「『・・・はっ?』」

「もう十分楽しんだしね。んじゃ、ばいばーい♪頑張ってねー」

 

 そうして蒼奇の姿は消え失せた。残された二人は呆然と立ち尽くす。

 

「・・・十分楽しんだって・・・もしかして、蒼奇は私をからかいに来ただけ、とか?」

『さ、さてな・・・。しかし、アイツならばそれもあり得る、やもしれん・・・』

「・・・ごめん、グリー。八つ当たりする」

『なんという理不尽!?』

「文句は蒼奇に直接言って。私は悪くない。私の機嫌を悪くした蒼奇が悪い」

『なんという暴論!?』

 

 その後、グリーは耀のサンドバックにされた。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・。あー楽しかったー」

「・・・降りるって言っておきながら見える位置に留まるのね」

「そりゃあね。最後の最後に手をかけた教え子の大一番だからね。見ない理由はないよ」

 

 蒼奇はぎりぎり中心部の戦闘が見える位置に現れた。

 

「そういえば、ペストはどうするの?」

「・・・?どういう意味かしら?」

「僕が死んだあとっていう意味。僕が死んだら契約が破棄されるか消滅かの二択のはずだけど。ヴェーザーとラッテンは〝ノーネーム〟にも契約をされるようにしといたけど」

「私はマスターについていくわ」

「即答かい。・・・まあ好きにしなよ」

 

 

 

 

 

 そのまま蒼奇はゲームが終わるまで静かに見守っていた。まあ、何ともあっけない終わり方ではあったが、蒼奇は二人の成長を見ることができて満足そうな表情を浮かべていた。

 

「つ、次は私が勝つんだから・・・!じぇ、絶対に次は私が勝つんだから・・・!!!」

 

 耀がガチ泣きしながら十六夜に宣言した後、

 

「それと蒼奇ィ!!今回の恨みは絶対忘れない!!いつか仕返ししてやる!!!」

 

 と、怨嗟の詰まった声で言われた。

 まあ蒼奇自身は楽しみでもあったが、そんな機会が訪れるとは全く思わないが。

 そして、現在。

 

「・・・全然釣れないものだねぇ・・・」

「ああ、そうだな。存外、修正力なお前のせいかもな」

「それはないねぇ。まず魚の気配が全然しないし」

 

 十六夜とともに川の岸で釣りをしていた。

 

「そうかよ。・・・で?世間話をしに来たわけじゃねえんだろ?」

「んー、まあ、そうだね。ちょっと残念に思ってね。結局僕のゲームには挑戦してくれず仕舞いだったからね。今からでもやる気ない?」

「ねえよ」

「それは残念。それなら仕方ないから諦めるとしよう」

 

 口では残念とはいっているが表情には微塵も残念だと思っているようには見えなかった。

 

「受けるならお前が生き延びられたらだ」

「・・・それって挑戦する気ないじゃん」

「ばっかお前。長生きしろよっていう俺なりの皮肉だろうが」

「へーへーそりゃどうも」

 

 しかし、そんな会話をしてる間にも蒼奇の体は限界が来て、崩れていく。

 

「まあここに来たのは、看取ってくれる人がいないと寂しいからだね~」

「・・・そうかよ」

「あ、車椅子は僕が死んだら消えるようにしてるから気にしないでいいよ?」

「そこは別に気にしちゃいねえよ」

「そっか」

 

 蒼奇の体にはもう手足は完全になく、残された胴と頭にもひびや穴が空き始めていた。

 

「あっ!やっべ、服に何もしてなかったや・・・。あっとー・・・これでよし!まあなんか残ったら回収しといてよ」

「いや、わかったからさっさと死ねよ」

「そう?それならいいけど」

 

 その言葉を聞くと蒼奇は優しく笑って、一言。

 

「ありがとう。君らの活躍は楽しませてもらったし、これからも楽しみにしているよ」

 

 そういって、服と車椅子とともに完全に崩れ去った。

 

「・・・どういたしましてだ、このクソ野郎」

 

 十六夜のそんな言葉は誰の耳に届くわけでもなく消え失せた。

 

「・・・で。この川は釣れるんですか、十六夜さん」

 

 十六夜が動きを止めて意外そうに振り向くと、見知った顔が二つもあった。

 

「黒ウサギとグリーとは、意外な捜索班だな」

『何を言う。妥当なところだろう?黒ウサギ殿の耳と私の翼があれば、どのような土地であっても探索し放題だ』

「YES!〝ノーネーム〟探索犯の結成なのですよ!・・・あの、ところでそこの車椅子は、蒼奇さんのですか?」

「あ・・・?」

 

 十六夜が川の岸の方を再び見ると、先ほど崩れ去ったはずの車椅子が復元されていた。

 そして、

 

『ごっめーん!これ借りもんだったわー!どこにかはわかんないけど返しといてよ!あとギフトカードも返しといて!( `・∀・´)ノヨロシク』

「・・・ったく、最後の最後で締まらねえ奴だな」

「・・・十六夜さん・・・その、蒼奇さんは、死んでしまったのですか?」

「さあな。俺が知るかよ」

 

 そういいながら車椅子をギフトカードにしまい、仄かに暗い色をしたギフトカードを回収した。

 

「んじゃあ、行こうぜ。あの野郎が見つけたら文句の一つも言ってやりたいしな」

「・・・はい!」

 

 そうして三人はその場から離れていった。

 

 

 

 




同じ!
『問題児』編はあと一話だけあるよ!


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その後?

蒼奇くんの死後のお話し。


(・・・僕は体が崩壊して死んだ、はず。・・・だよな?でも、まだ意識があるのはどうしてだ・・・?死ぬ間際に失った手足の感覚もある。ここは死後の世界か?でも、魂のない僕は死んでもそういう場所に行くわけがないはず。だけどこの奇妙な現象は、なんだ・・・?)

 

 蒼奇は死んだ後に奇妙な現象にあっていた。意識はまだ暗い海の底でまどろんでいるような感覚ではっきりしない。しかし、次第に意識が浮き上がっていくような感覚がし始めた。

 そして、意識が覚醒する。

 

「・・・えっ、暗っ!?いや、暗いっていうより黒い!?なにこれ!?ここどこ!?」

 

 横になった状態で意識がはっきりした蒼奇は上体を起こして周囲を見回す。しかし、何も見えないが自分の体だけははっきりと見ることができる。体には手足があり、ひびすらなく完全に元通りとなっていた。

 

「えぇー・・・どゆことぉ・・・?」

 

 自身の体の変化とこの状況ではどうすることもできずに途方に暮れていると突然、黒い空間が輝き始めた。

 

「えっ!?うぎゃああああぁぁぁぁ!?目が、目があああ!?」

 

 急に発光した空間に黒い空間に目が慣れていた蒼奇は目を押さえてどこぞの大佐のような悲鳴を上げる。

 そして、光が収まり、目の痛みも引き目を開けると。

 

『『『『正史の修正成功おめでとう~!!!』』』』

 

 パンパンパンッ!とクラッカーのなる音が響いた。空間には多くの人影とテーブルに料理、飲み物が存在した。

 

「・・・ハッ?」

 

 蒼奇は訳が分からず呆然とする。そこに一人の人物が近寄って話しかける。

 

「いやーお疲れ様!まさか成功させるとは思って—――」

「吹っ飛べやッ!!このくそ『世界』!!!」

「あ~れ~~~!!?」

 

 蒼奇は話しかけてきた自身の創造主であるはずの『世界』を思い切り蹴とばし、星にした。

 

「ふぅ・・・。で、これってどういう―――「いきなり何するのさ!?」うわぁ!?びっくりしたぁ!?」

 

 この空間にいる者たちにこの状況がなんなのか尋ねようとしたとき、床の一部が下から押し上げられて先ほど星にしたはずの『世界』が出てきた。

 

「一応これでも君の創造主なんだよ!?」

「いや、その創造物を信じてない奴が何を言うか」

「だって、相手側の成長が目まぐるしいほどの速さだったから『あ、これ勝てねえわ』って思っちゃったんだもん」

「ショタが『もん』っていってもそれに萌える趣味はないんだが・・・」

「今はロリだよ!」

「なおさらだわ!?両性になんて興味はねえよ!?かわいいは正義とか言ってきたけどお前という存在+両性は無理だわ!!」

「ひ、ひどい・・・。オヨヨヨ・・・どうしてこんな子に育ってしまったんでしょう・・・」

「十中十お前の放任主義のせいだと思うがなあ!」

 

 蒼奇のその一言でとどめを刺された『世界』は落ち込み、orzの状態になったまま動かなくなった。

 

「それで、これは一体なんだい?日本神話の神が揃い踏みじゃないか」

 

 蒼奇の視線の先には伊邪那岐と伊邪那美がギャーギャーと喧嘩している様子や

 

「お祝いですよ。あなたが正史の修正に成功した、ね」

「・・・・・・それはどうも、天照様。成功と言えるものであったならよかったですけど」

「〝様〟は必要ありませんよ。私とあなたの仲じゃないですか!それに今日は無礼講です!そんな堅苦しいのはやめて楽しみましょう!」

 

 酒を片手に微笑みながら教えてくれる日本神話の神、天照大神。酒を飲んで頬を少し赤く染めたその表情は見る人を魅了しただろう。・・・・・・足元に数え切れない数の空き瓶が落ちていなければ・・・。

 

「うわぁー・・・」

「ほら、主役なんですからもっと中の方に行きましょう!」

「ってちょっと!?おい月夜見!お前の姉貴もうすでに酔ってんぞ!?」

「あっはははははは!!とりあえず頑張ってください!!」

「ふざっけんなこのもやし野郎!?あとで覚えてろよ!?」

 

 蒼奇は天照大神に引きずられるように宴会会場と化してる空間の真ん中まで連れられていき床に座らされる。そこへ一人の男性がやってくる。

 

「おぉー蒼奇!やっと来たか!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰だ?」

「おいおいやっと喋ったと思ったらそれかよ!?俺だよ俺!!」

 

 蒼奇は目の前の神に対して面識はないはずと考えたが気配を感じてようやく判断できた。

 

「ふ、副王ヨグ=ソトース!?姿が伝承と全然違えじゃねえか!?」

「そんな堅苦しい呼び名はやめろよ!それと伝承は所詮伝承だ!それに化身の姿ってのは一つじゃねえんだぜ?俺のこの姿は私用だ!そして今日は無礼講だ!!どんなに失礼なことも許されるさ!」

「えっ?なに!?ごめんちょっと待って頭が追い付かないんだけど!?ここって日本神話群だけじゃなくてクトゥルフ神話群もいんの!?」

「おうよ!ここにゃお前さんに協力した奴ら()は全員来てるぜ!」

「おっふ・・・」

「そんなことよりも飲め飲め!」

「うっす・・・」

 

 ヨグ=ソトースに勧められるままに酒を飲む蒼奇。少し酒を楽しみながら話していると突然ヨグ=ソトースが、思い出したかのように言った。

 

「おぉっ!そうだったそうだった!」

「・・・今度はなんだ?」

「アザの奴がお前に面と向かって会いてえと言ってたからな!ちょっと連れてくるから待ってろ!」

「えっ?あざ?・・・痣?・・・字?・・・まさか、あざ、とーす?・・・ちょ、ちょっと待って!?その相手と会うための心の準備がッ・・・ってもういない・・・」

 

 蒼奇が止める間もなくヨグ=ソトースはアザと呼んでいる存在を呼びに行ってしまった。

 すると背後で気配がした。

 

「えへへ~そうきさ~ん、のんれますか~?」

「天照!?って酒くさっ!?何この匂い、飲みすぎだろ!!?何本飲んだんだよコイツ!!」

 

 唖然としている蒼奇の背中に何かがよしかかってきたと思ったらすでに出来上がってしまっている天照だった。彼女からは常軌を逸した酒の匂いを漂わせて蒼奇へと絡んでくる。

 

「そこの嬢ちゃん百本ぐらい飲んでたぜー!!」

「おう!すげえいい飲みっぷりでなあ!!あんなに強い酒を水のように飲む奴ぁ初めてだぜ!!」

「嘘だろ!?しかも絡み上戸とか面倒くせえ!?」

 

 と、外野から天照の飲んだ本数やそれに対する称賛の声が沸いてくる。

 

「おいぃ保護者伊邪那岐ィ!!もしくは月夜見ィ!!回収しに来やがれぇ!?」

「やあぁ~離れたくな~い!」

「おーい兄ちゃん情けねえぞー!!」

「そうだー!そんな別嬪さん絡まれんなら本望だろう!?」

「いやならアンタら相手しろよ!?仮にもお前らの上司だろぉ!?」

「「「「・・・(スッ」」」」

「さっきまでの騒ぎようが嘘のように静まり返って目ぇ逸らしてんじゃねえー!?」

 

 周囲の日本の神に助けを求めるも空しくも失敗に終わる。仕方なく絡んでくる天照を片手間に相手をしてちびちびと酒を飲む。そのうち酒が完全に回りきったのか、天照は眠ってしまった。・・・蒼奇の膝を枕にして。

 

「・・・おmゴフゥッ!?」

 

 『重い』とつぶやこうとした瞬間に寝ているはずの天照から的確なボディブローをもらう蒼奇。

 

「Zzz・・・」

「ぐっおおぉ・・・!?本当に寝てんだよねぇ、この神はぁ・・・!?」

「おーい!待たせて悪いな!」

 

 蒼奇が痛みで苦しんでいると横の方から行く前より薄汚れているヨグ=ソトースの声が聞こえてきた。

 

「・・・なんで服装がぼろくなってんだ?」

「いや、ちょっとAMTに見つかってな」

「・・・AMT?」

(A)ザ様(M)守り(T)

「・・・えっ?なに?そんなのができる外見なの?」

「それについては見た方が早えよ。ほら」

「・・・面と向かって話すのは、初めて。私はアザトース。よろしく、蒼奇・・・」

「・・・・・・無口系幼女?」

「おう」

「・・・幼女じゃない。ロリ」

「いや、意味一緒だからな、それ」

「・・・・・・っ!?!??」

「えっ?なにその『今初めて知った』みたいな顔?」

 

 蒼奇から指摘されたことにこの世の終わりを聞かされたかのような驚きを返すアザトース。

 

「あー・・・こいつ、AMTの奴らに色々吹き込まれてるからなぁ・・・」

「・・・なるほどね。把握」

「・・・一緒に飲んでもいい?」

「いいよ。でもお酒h「ここにある」うん。わかった(くそ、逃げきれねえ・・・)」

 

 そのまま流れるままにヨグ=ソトースとアザトースの二人と酒を呷る。

 

「・・・でも、何で僕の足に座ってんの?」

「・・・?座り心地が、いいから・・?」

「いや、僕に聞かれても・・・」

「だめ・・・?」

「いえ、大丈夫です。だからAMTの皆さん、僕を包囲しないでください」

 

 アザトースが涙目で蒼奇のことを見上げると蒼奇自身がその行動で折られることはなかった。だが、周囲のAMTが許すはずがなかった。驚くほどの速度で蒼奇を包囲して圧力をかける。ただ一部日本神話の神が混ざっていたのは気にしないことにした。

 

「やあ、飲んでるかな?」

「んあ?ああ、月夜見と『世界』か」

「『世界』なんて呼び方やめてよー。今はちゃんと『セリカ』っていう名前があるんだからさー」

「あっそ。それはそうと月夜見。酔い潰れてるお前の姉貴を回収しろよ」

「はっはっは!やだね」

「くたばれ、悪趣味野郎」

「悪趣味だなんて酷いなあ・・・。僕はただ誰かが困ってるのを見るのが好きなだけなのに。これなら君も同類だろう」

「否定はしない」

 

 そういって二人で笑いあう。

 

「あっ、それとこの子。早々に潰れちゃったから回収しといたよ」

「ん?・・・ペスト?えっ、何でいんの?」

「それは「私がここに呼んだからだよ!」・・・彼女が言った通りです。他の召喚獣たちも呼ばれているようですよ」

「へー」

「それでそれで?何か言うことがあるんじゃないの?」

「ありがとな、セリカ」

「「「・・・(゚д゚)ポカーン」」」

 

 蒼奇が素直に感謝したことにヨグ=ソトースと月夜見とセリカは呆気にとられた。

 

「こ、この偽物め!?私の蒼奇をどこにやった!?」

「さーてどこだろうなー?お前の頭とか割ったら出てくるんじゃないか?どっかのギリシアの神みたいにさ。あとお前のじゃねえ」

 

 蒼奇はセリカにアイアンクローをする。もちろん全力で。

 

「ぎにゃああああぁぁぁぁ!!?こ、この容赦のない仕打ちは本物だあああぁぁぁぁ!!!」

「わかればいいさ、わかれば」

「それにしても、驚きましたね。貴方がまさかそんな素直にお礼を言うとは・・・」

 

 月夜見のそんな言葉に蒼奇は笑いながら言った。

 

「セリカには少なからず感謝はしている。短い命をかなり延ばしてくれたしな」

「おー!そうだそうだ!もっと私を敬いたま「お前は黙ってろ」ぷぎゅッ!?」

 

 蒼奇はセリカの顔を天照の胸に押し付ける。すると天照はそのままセリカを抱きしめた。

 

「えへへへ~♪」

「もがぁー!?」

「しばらくそのままでいろ」

 

 その光景を横目で見ていた月夜見は呆れながらもその輪に参加する。

 

「・・・・・・・・・さて、それでは私も混ぜてもらいましょうかね」

「おう!飲め飲め!」

「月夜見、お前綺麗に流したな。・・・まあいいか。んじゃ!徐々に潰れてって人数も減ってるけど・・・しゃあッ!改めて・・・テメエらー!!潰れるまで飲むぞー!!!」

『『『『『『おー!!!!』』』』』』

「よし!じゃあ日本神話名物裸踊りだッ!」

「ハハハッ!誰がテメエの裸見て喜ぶんだよ!」

「おっ?じゃあ俺が元の姿で踊—――」

「「「「「待て!?お前ヨグ=ソトースだろ!?ここの大半の奴らがSAN値直葬されるわ!!?」」」」」

 

 その後は蒼奇も羽目を外してどんちゃん騒ぎへと発展し残りが蒼奇とセリカ、そしてアザトースになるまで続いた。

 

「・・・そんで?そろそろ僕がどういう状況なのか教えてほしいね」

「あれっ?言ってなかったっけ?」

「聞いてませんねぇ・・・」

「わたしも気になる・・・」

 

 蒼奇が場の雰囲気に流されてさっきからずっと気になっていたことを聞けなかったが、落ち着いた今になってようやく聞くことができた。

 

「ふぉれはね「飲み込んでから話せよ。そんなベタなことしなくていいから」・・・ゴクン。グビグビ。モシャモシャ。ゴクン。グビ「いい加減にしろよ?」ごめんなさい」

 

 飲み込んでもいつまでも食べ続けるセリカを睨みやめさせる。

 

「うん。蒼奇がここにいるのは私が呼んだからだよ」

「んなのはわかってる。僕が聞きたいのはどういう理由だってことだよ」

「うん?親が子に会いたいと思っちゃダメなの?」

「・・・・・・ないないない。お前がそんなことを言うなんて絶対ないわー」

「君を生み出した時から思ってたけど私の扱い酷くない?」

「ヒドクナイヨー。ウン、ゼンゼンヒドクナイヨー」

「腹ッ立つなー!もう!!」

「で?そんだけなわけないでしょ?」

「まあ、そうなんだけどね。今のは半分だよで、もう半分が—――」

 

 セリカはそこで言葉を区切った。蒼奇が次に発せられる言葉を待っているとすぐに言い放たれた。

 

「私の仕事の手つd「断る」早くない?」

「誰がお前の仕事を手伝うかよ。今僕の脳内にある選択肢は消滅か隠居。これだけだ。働く?知らんなそんなものは」

「よろしい。ならば戦争だ」

「いいぜ、やってやんよ!アザ、審判頼んだ」

「・・・ん。・・・じゃあ、すたーと」

「「死ね、オラァ!!!」」

 

 お互いの望みを掴み取るために二人は何でもありの戦闘を始めてしまう。その際の余波で回りで寝ていた神は吹き飛ばされてどこかに消えてしまうものもいれば、ギリギリで起きて逃げる者もいた。その戦いはどちらも一歩も引かない接戦だったが、

 

『『『『『『『お前らよくもやってくれたな!!?』』』』』』』

「「ああん!?やんのか雑魚ども!!?」」

『『『『『『『誰が雑魚だ!?テメエら覚悟しろよ!!!』』』』』』』

 

 吹き飛ばされた神たちが怒り、参戦してきたために蒼奇とセリカvs神連合軍ということになった。だがまあこの戦いも長く続かずに多くが胃の中身をリバースし始めたことで終わりを迎えた。

 

「・・・なんか締まらないね」

「こんなもんだろ。それで、諦めてくれたか?」

「ぐっ・・・いいよいいよ!諦めるよ!どこにでも行っちゃいなよ!!」

「よっしゃ!レッツ隠居生か、うっぷ、おえっ、オロロロロッ・・・」

「ちょっ!?吐かないでよ!?って私も、オロロロロッ・・・」

 

 そんなこんなで蒼奇は何とか隠居生活の権利を勝ち取る?ことができた。その後は特に何事もなく訪れる人と話したり戦ったりとそれなりにペストと、なぜかいた一部召喚獣たちと一緒に生活を送った。

 

「とはいえ暇ね。これからこんなほのぼのした生活が永久に続くとなると」

「それを言うのはご法度ですぜい、ペストさん」

 




 これで「人外召喚士」の「問題児」編は終わりです!
 それと「ラストエンブリオ」の方ですが、なんだかこれが終わると暇になりそうなので一応少しずつ書いてみようと思ってます。投稿する際は「人外召喚士」の方に続きとして上げます。良ければですが、そちらの方も継続して読んでくださると作者としては大変うれしいです!
 たぶん一週間以内には『ラストエンブリオ』編を投稿すると思います!


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プロローグ~人外の介入~
人外の???の人生


ラストエンブリオ導入話です!
タイトルの「???」に入る言葉は後書きに書いてます。一応三文字。
それでは本編どうぞ!


 ―――とある屋上。ゴールデンウィークに突入する少し前で多くの人は仕事に追われている雨が降る正午過ぎに、傘を差した一人の少年とも呼べる年代の男がいた。髪は首の中程まであり、前髪で目が隠れていて髪の隙間から辛うじて見える程度だ。

 

「………あー死にたい……」

 

 少年はなぜか自殺願望を口にしながら屋上にある柵の前で空を見上げる。

 少年の名前は深水(ふかみ) 碧生(あおい)

 その正体は、とある事情で人間に転生()()()()()館野蒼奇だ。その事情というのもセリカが関係しているのだが。

 

 

 

 

 

 それは、とある昼下がり。神や神話生物の住まう空間に男性と少女の姿があった。セリカによってこの世界に連れてこられた蒼奇と彼に隷属しているペストだ。

 そしてもう一人。その場にいる者がいた。それは蒼奇をこの世界にぶち込んだ張本人?である『世界の管理者』ことセリカだ。

 

「…はー、この紅茶、おいしいねー」

「そうだろうそうだろう。出口はあちらです」

「ナチュラルに帰そうとしないでくれる?」

 

 紅茶を飲んでいるセリカに対して出口を指さして帰れと言ってみせる蒼奇。

 

「だって、お前が来るとろくなことねえもん。いや来なくてもろくなことねえけど」

「酷いね!?そんな毎回毎回問題起こしてないよ!」

「でもそれなりの頻度で起こしてるよな?具体的には一日おきぐらいに」

「…はい」

 

 ジト目でいわれてなにも返せなくなるセリカ。

 

「それで、一応聞くが何の用だ?」

「それはね―――」

 

 そういってセリカはまた紅茶を一口飲む。

 そして、

 

「「…えっ?」」

 

 蒼奇とペストの足元の床が消えた。まるで落とし穴のようにぽっかりと穴が空いた。

 

「ってなにこれ!?ギフト使えねえし!!?」

「ちょっ!?どうにかしなさいよ!?」

「無理無理無理!?今の僕は超無力です!?」

「じゃあ初のちゃんとした人生楽しんでねえー!!」

「「いつか殺す!!」」

 

 二人はなすすべもなく落ちていく。セリカに対しての恨み口をはいて。

 

 

 

 

 

 ―――とある病院。

 

「オギャアアアアァァァァ!!(くたばれクソロリイイィィ!!)」

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

 

 生まれたと同時に自身を落としたロリに恨みを吐いて早十五年が経った。

 そんな彼の両親は大企業の社長だったが、それも彼が八つの時に亡くなっている。

 そんな風に彼が黄昏ていると、彼の後ろから碧生と同じぐらいの年齢の少女が姿を見せた。

 

「…()()。こんなところでサボってないで仕事をしてください。それに学校はどうしたんですか」

「…ありゃー、見つかっちゃった?随分と仕事熱心だねー天衣(あい)ちゃん」

「ちゃん付で呼ばないでください。いえ、呼んでも構いませんが、その場合は仕事をしてください」

 

 社長と呼ばれた碧生から天衣ちゃんと呼ばれた少女は表情を変えずに彼へと返答を返す。

 

「えっとー、彼は?彼。次期社長の」

「佐藤さんですか?今分担してあなたを探していたところですよ。私が一番最初に見つけたというだけで」

「ありゃりゃ、逃げ場がないね」

「…飛び降りないでくださいよ?」

 

 少女が碧生を睨む。当然だろう。彼には前科が山ほどある。()()()()という。この男は何度も自ら命を絶っているが、その度に()()()()生還している。

 毒を服用しても、高所から飛び降りようとも、身体を刺されても、必ず生還している。

 そんな人物だからこそ、この場所から飛び降りないように少女は釘を刺したのだ。

 

「いや、さすがに本社から飛び降りて問題起こすほど馬鹿じゃないよ」

「それなら、かまいませんが…」

「あ、そうだ。一つ聞いていい?」

「………なんでしょう?」

 

 少女は身構えた。

 なぜなら、この男がこういう聞き方をするときは大抵ろくでもない目に会っているからだ。

 

「どれくらい俺のことを探してたの?俺ってば朝からずーっとここにいたからさー。そんな騒ぎ知らないんだよねー」

「…」

 

 少女は答えなかった。それは自身の返答は彼を喜ばせてしまうものだと経験的に理解しているからだ。

 

「えっ?まさか俺がいないと気が付いてずっと探してたの?わーご苦労様だねー」

「……」

「いやー本当お疲れさまー。でも俺ずっとここにいたんだよね。ワーワーと騒いでる君らの頭上に」

「………」

「気付かなかったんだねー。あ、もしかして雨が降ってるから外にはいないとでも思った?」

「…………」

 

 少女はまだ口を開かない。だが、少しだけ体が震えているようにも見える。

 

「…ねえ、どんな気持ち?ねえねえ、今どんな気持ち?」

「……うわあああぁぁぁん!!」

 

 少年からの煽りに耐え切れなくなった少女は目に涙を浮かべ始め、最後には泣き始めてその場を走り去っていってしまった。

 

「…マジでメンタル弱すぎ。なあ、お前もそう思わないか。佐藤」

 

 少年が出入り口の方に声をかけると一人の二十代半ばほどの男性が姿を見せる。

 

「そうだな。だが、アンタがいじめすぎるのも問題じゃないのか?」

 

 男性、佐藤は姿を現すなり、彼の意見に同意する一方、批判する。

 その言葉を聞いた碧生は口を尖らせ、反論した。

 

「俺のは天衣ちゃんのメンタルを鍛えるためですー。この程度耐えきれないのはさすがにダメだとね、俺も思うんですよ、はい!」

「あーはいはい。お前の言い分はわかったよ。だが、あれでもまだ会社にも入っていない見習いだ。大目に見てやれよ。それにあいつ、お前のこと慕ってんだぞ」

「へいへい…。まったく、可愛いし優秀だからこそ、教育は早めがいいというのに。それで、今日の予定は?」

「おう。今日は外に行くようなもんは入ってない。デスクワークが大半だ。だが…」

「…えっ、なに?そこで切んないでよ、怖いから」

 

 碧生はお茶らけた感じで続きを促す。

 

「…爺さんが亡くなったらしい」

「………」

 

 その言葉を聞いた碧生は表情を暗くする。亡くなった男性には彼が両親を亡くした際に多少面倒を見てくれた上、大変気にかけてくれた人物だった。

 彼が家族に近い感情を抱いていた人が亡くなった。

 

「…葬儀はいつだ?」

「ゴールデンウィーク中にやるらしい。お前にもぜひ出席してほしいと」

「その日の予定は?」

「さっき全部空けてきた」

「悪いな。先方の方には「もうこっちから謝罪した。学校の方にも連絡は遅れたが今日は欠席とも伝えた」…ワーオ、超優秀」

 

 佐藤の手際の良さに驚く碧生。

 

「だから俺を社長秘書にした上に次期社長に決めたんだろ?」

「は?なわけねえじゃん」

「………は?」

「確かにお前は優秀だ。だがお前以上に優秀なやつなんざ山ほどいる。しかし、俺はお前を選んだ。その理由は、お前に()()がなかったからだ。お前ほど欲のない人間なんざ世界を探しても滅多にいねえ。だからこそ確実な信頼関係を築ける。そう判断したからだ」

「…………な、何か照れるな…」

「うわっキモッ」

「………すみません。一発殴ってもよろしいでしょうか社長殿?」

「百年後ならいいよ。さーて仕事仕事♪」

 

 そういって佐藤の横を通り過ぎようとするが、

 

「オラァッ!」

 

 佐藤が殴りかかってくるも、

 

「ヒョイっと」

 

 いとも簡単に避けられて素通りされてしまった。そして佐藤の拳は壁を思いっきり殴った。

 

「うぐああぁぁ…!!?」

「じゃあ、またあとでなーさ・と・う・くん♪」

「お、俺は、さふじだ…さとうじゃ、ねえぇ……!!」

 

 痛みに悶える佐藤を放置してさっさと自身の執務室へと向かった。

 そんなこんなで館野蒼奇は現在、名前は深水碧生と変わり、大企業の社長をやって大成功を収めている。

 

 

 

 

 

 そして葬式当日。碧生は喪服に身を包み出席し、男性の家族へあいさつした。

 

「…この度は大変お悔やみ申し上げます」

「…ああ、碧生君か。大きくなったね」

「はい。最近顔を見せることがかなわず、申し訳ありません」

「そんな言葉遣いしなくても、普通でいいよ。昔みたいにさ。誰も咎めないから」

「…それなら、そうさせてもらうよ。おじさん」

 

 男性の長男にそういわれて、言葉と表情を崩す。

 

「やっぱり、年齢のせい?」

「…そうだね」

「……失礼かもしれないけど、最後は苦しんでなかった?」

 

 少し心配そうな表情で問う。

 

「…いや、そんなことはなかったよ。とても、安らかに亡くなったよ」

「…そっか。ありがとう。それでは、またあとで」

「あっ、待ってくれ」

「はい?」

「君宛に遺書が、あるんだ」

「…俺に?」

「ああ」

 

 男性はそう言って立ち上がり近くに置いてあった鞄から一枚の封筒を出して渡してくる。

 

「中身は?」

「流石に見てないよ。父にも釘を刺されてたから」

「…じゃあ後で、一人の時に読ませてもらいます」

「ああ。そうしてくれ」

「それでは、あとで」

 

 碧生は封筒を懐にしまい、遺族のもとを一度立ち去る。そして、葬儀場の人気のない休憩スペースで遺書を開いた。

 

『碧生君。君は長い話は嫌いだろうから先に用件だけ書いておくよ。それで用件というのが、実は君に私が出資していた孤児院の出資を引き継いでもらえないかというものだ。ここに住所を記しておく。そして、その孤児院の名は―――』

 

 用件だけは先に書いておいてそれ以降は思い出話というか世間話というかなんとも感慨深い懐かしいものばかりだった。今まで会って話せなかった分を今ここで埋めようとするほどに書いてあった。

 

「それにしても、カナリアファミリーホーム、ねえ…」

 

 その名前を口に出して、少し考える。

 

「はてさて、偶然か必然か。はたまた俺に介入するなり好きにしろとでもセリカは言いたいのか…。いやアイツの場合は絶対巻き込まれろって言ってるな」

 

 碧生、元人外はそんなことをこぼした。

 

「まあ、乗ってやるさ。こんな人生なら穏やかに会社経営するよりはハチャメチャで殺伐としてた方がいい」

 

 それから少しして葬儀が始まり、火事場までは同行せずに軽く遺族に挨拶して葬儀場を後にした。

 

「―――というわけで佐藤、用事ができた」

『…いや、というわけって端折られてもわからないんだが?』

「なにッ!?画面上ならこれでどうにかなるんじゃないのか!?」

『画面上ってなんだよ?』

「いや、悪い。なんでもない。ただの戯言だ」

 

 多少メタい発言をしたが、すぐに訂正した。

 

「まあ、遺書をもらってな。それの関係だと言っておく」

『…わかった。遅くなんなよ』

「あいよ。お母さん」

『誰がお母さ(プッ』

 

 これ以上何か言われる前に電話を切る。

 

「さて、向かうか」

 

 遺書を確認して歩き始める。

 

「あ、こっちじゃねえ。逆だ」

 

 が、すぐに180度体を反転させた。

 

 

 

 

 

 ―――カナリアファミリーホーム・正面玄関。

 結局その後も道に迷い電車に間に合わなかったためにタクシーを使って近くまでやってきた。

 

「…ここ、だよな?」

 

 傘を差しながら建物を見上げる。

 

「…うん。すげー不安。でもまあ、尻込みしてても仕方ねえし、入るか」

 

 意を決して、ドアを開けて中へと入った。

 すると彼の眼には、ドタバタと慌ただしくしてる多くの少年少女の姿が目に入った。

 

「すまない。そこな少年」

「えっ?…アンタ誰だ?」

「ああ、出資の話で少し。ここの責任者と話がしたいんだが」

「…は?出資?」

「そうだ。それで、いるのか?」

「あ、ああ!ついてきてください」

 

 出資についてと聞くと少年はきょとんとしたが、碧生が声をかけるとすぐに責任者のもとへ案内してくれた。道中、動き回っていた子供たちを一旦追い払っていたが。

 

「あ、あの人です」

「そうか。ありがとう」

 

 案内された応接間には一人の男性と碧生が見知った少女がいた。

 

「あん?焰、そいつは誰だ?」

「げっ…な、何であなたが…?」

「あれ?彩鳥?…あちゃー、じゃあ先を越されちゃったか。…まあ、関係ないが。つか『げっ』ってなんだ、『げっ』って」

 

 まずったなーといって頭をかく碧生。しかしすぐに名刺を取り出し、男性、釈天に差し出した。

 

「改めて、ディープブルーコーポレーション現社長の深水碧生だ。ここにはある人の遺志を継いできた」

「ディープブルーの社長だ?なんでそんな大物がここに?」

「言っただろ。ある人の遺志だと。とりあえずこれが契約書だ。んでこっちが遺書。遺書の方は確認したいならしてくれ」

「ちょっと待って!私の方が先に―――」

「興味ない」

「「なっ…!?」」

 

 碧生が発した一言により焰と彩鳥は唖然とした。

 

 

「お前らがどういう話をして、どういう契約をしたかなんて、俺は微塵も興味はない。俺は、遺書に書かれてあったことを実行するだけだ。たとえその契約で彩鳥んとこの会社がかなりの利益を生み出すとしても関係ない。俺はそれに関与するつもりは一切ない。ただ金を出す。たとえそれを生活費や維持費、娯楽、教育費とかに使われたとしたってどうでもいい。心底どうでもいい。俺は俺の自己満足と俺が受けた恩を返すためだけにここに出資すると決めたんだ。…さて、長々と喋ったが、ここまで聞いて言いたいことはあるか、そこの二人」

 

 

「「…」」

「…本当に金を出すだけなんだな?」

「ああ。別に永久駆動ナノマシンなんていう代物、他者の技術を横取りするなんていう下衆なことはしない」

「…ッ!?…わかっていて、彼ならできるとわかっていてなお、興味がないんですか!?」

「ああ。…いや、彼が作った完成品は見てみたいと感じるが、所詮その程度だ。この行為は俺の自己満足だ。俺を知ってるならわかるだろ、彩鳥」

「……………ハァ。そうでしたね。貴方はそういう人でした。一度決めたら曲げずに、我を通す。なんでも自らの手で作り上げなければ意味がないと考えるんでしたね」

「そのとーり!よくわかってんじゃん♪」

 

 彩鳥の言葉に嬉しそうに笑う碧生。

 

「…ほら、書いたぞ」

「どうもー♪」

「あっおい!?御門のオッサン!?」

「いいんだよ。契約書には不自然な点はない。それどころか探すのが難しいレベルだ。なんなら見るか?」

「あ、ああ!」

 

 焰は釈天に促され、契約書を見る。それと後ろから覗くように彩鳥も見る。

 

「「…は?」」

 

 が、すぐに自身の目を疑った。

 契約書にはたった一文、

 

 

―――ディープブルーコーポレーションはカナリアファミリーホームが望んだ額の出資を可能な限り行う。―――

 

 

 とだけ書かれていたのだから。

 

「え?こんだけ?」

「だって、元から出資すんのは決めてたし、言っちゃえば様式美だからな、これ」

 

 そして悪戯が成功した子供のようにケラケラと笑った。

 

「んじゃまあ、これからよろしく焰君」

「ああ碧生さん」

「年下だからってさん付けなんざしなくていいさ。普通に呼んでくれ普通に」

「え、あ、ああ。わかった」

「よろしい♪んじゃ、今回はこれでお暇させてもらうかな?」

「ああ。じゃあな」

「おう。…っと、忘れてた。これ、連絡先。渡しておくよ。何かあったら連絡くれ」

 

 そういって碧生は紙を取り出して連絡先を書き込み焰に手渡す。

 

「それと彩鳥。次の練習、覚えておけよ?」

「ウッ…。さっきの事なら根に持たないでくださいよ…」

「………クハハッ!冗談だ!そのかわいい顔を困らせたいだけだ!」

「なっ…!?」

 

 羞恥と怒りで顔を赤く染める彩鳥。それを見て満足したのか、さっさと玄関から消えていく碧生。

 

「…なあ、彩鳥お嬢様は碧生とどんな関係なんだ?今の感じだと知り合いなんだろ?」

「…そう、ですね。幼馴染、という言葉が一番いいのかもしれませんね。小さいころから交流があったので」

「へえ」

「ちなみに、あの人なら永久駆動ナノマシンを作れるとも考えてました」

「は…?え、じゃあなんで俺に?」

「決まってますよ。さっきと同じで『興味ない』んです。彼は自由すぎるので…。それに『もし作るなら完成されたものを超えなきゃ気が済まない』とも」

「…あれ?ああ見えてかなりすごい奴?」

「まず十五歳で大企業のCEOってこと自体すごいんですよ。そのうえ彼の行動は突飛すぎて他の誰も予想できないので他企業がついていけてませんし。それに彼がCEOになったのは両親が亡くなってすぐなので…八歳の頃から経営して未だに企業が成長し続けているんですよ」

「うわ、マジかよ…」

 

 彩鳥は呆れた表情で答える。

 

「何者だよ、あの人…?」

「さあ?本人に聞いたらどうです?案外答えてくれるかもしれませんよ」

「やめとく」

 

 結局、碧生についてはわからず仕舞いで終わった。

 やはりこの世界でも元人外は人外なのかもしれない。




とりあえず導入話!
タイトルの「???」は「初めて」が入ります。
前世は「人外生」だったということで初めてのちゃんとした人生です。
というわけでやれるとこまで頑張ってみようと思っています!読んでくださっている読者の皆さん、これからもよろしくお願いします!
次も一週間以内に投稿できるように頑張ります!


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問題児の帰還
会社&拉致


 ―――ディープブルーコーポレーション社屋・最上階社長室。

 

「…佐藤。これで今日やるべきもんは終わりか?」

「ああ、終わりだ。…にしても相変わらず早えな。三日分の書類を三時間で全部処理するか、普通?」

 

 社長室では現在、社長である碧生と社長秘書で次期社長の佐藤が書類整理のためにそこにいた。

 

「まあ、普通は無理だな。なあ、俺」

「ああ、そうだな。俺」

「こんなことができなきゃ無理だろ、俺」

「「「………ややこしいな、これ」」」

 

 三人の碧生が全く同じことを言う。

 そこには複数の碧生が存在し、それぞれが書類の整理をしていたようだ。もちろんこの現象は〝青鬼〟の〝個群奮闘〟によるものだ。

 それは碧生はここに転生する際にセリカからいくつか特典を与えられていたからだ。

 その一つに〝青鬼〟の〝不滅〟を除く恩恵がある。

 そして、他にも―――

 

「マスター。客が来ているわよ」

「…ペストか。客ってのは?」

 

 ―――一部の召喚獣たち()α()がついてきている。

 その一人であるペストだが、現在は碧生の会社にいる。

 

「彩鳥よ」

「…嫌な予感しかしねえ…。とりあえずペスト、指輪になってくれ」

 

 碧生がそうペストに命じると彼女はそれに素直に従った。

 

「これで魔術で隠蔽して、さらにその上から擬態して、っと。よし完璧!佐藤。他の俺は置いていくから後は頼んだ」

「ああ。わかった」

「お、お前…自ら犠牲に………?」

「なんていう勇者なんだ………。俺たちはお前を尊敬するぜ!」

「お、そうか?何なら変わってやるが、俺ら?」

「「遠慮するぜ、俺」」

「だと思った。じゃ、逝ってくる」

「「逝ってらっしゃい」」

 

 そういって社長室を出て、エレベーターに乗り一階へと向かう。

 

「それにしても、何度見ても驚くな」

『………?何が?』

「お前の成長だ。肉体的な」

『………それは、私自身が一番驚いているわ。まさか肉体が年を重ねるなんて……』

 

 ペストはこの世界に来て、肉体年齢が成長しているのだ。以前は十二歳だったが、今は十六歳ほどにまで成長している。髪も少し長くなり、背も伸び、体もより女性的なものへ変化していた。そのため服も会社に合ったもの、以前のような黒いワンピースではなく、パンツタイプの女性用スーツを身に纏っていた。

 

「とりあえず素直に喜んでおけよ。セリカも俺の修正した正史とは多少違いがあるとも言っていたし」

 

 そう。碧生が転生したこの世界は蒼奇のいた世界とは似て異なる世界、とのことらしい。まだ何が違うのかは碧生も調べ切れていないが、何かしらの誤差があるのだろうとは考えている。だが、館野蒼奇が存在し、正史を修正したのは間違いないと調査でわかっていた。

 

「さて、もうすぐだからしばらく黙ってろよ?」

『ええ。それぐらいわかってるわ。でも、私の声は他の人には聞こえないんでしょ?』

「まあ、そうだが………俺が驚く」

『……気を付けるわ』

 

 一階が近づいてきてペストに喋らないように釘を刺す。

 そしてエレベーターを降り、エントランスを通過して前に停められている車にまっすぐ向かう。

 

「こんにちは、彩鳥。用はなんだ?」

「…とりあえず、乗ってください。少々行くところがあるのでその道中で話します」

「………?それって俺が行く必要は…まあいいや」

 

 何か言いたそうにしながらも渋々従って車に乗り込む碧生。

 

「で、話h(カチャッ)…カチャ?」

 

 碧生が今した音を疑問に思い、音のした場所、自身の手首を見た。………正確には見ようとした。

 

「……手錠、外してくれません?俺は釈天と違って罪を犯していないはずなんだが?」

「釈天さんも犯罪はしていませんよ。犯罪は。それと諸事情で貴方は目的地に着くまでそのままですよ」

「はいはい。じゃあこれ返すよ」

「………はい?」

 

 碧生の手にはたった今つけたはずの手錠が外されて彩鳥の方へ放り投げられた。

 

「………プリトゥ、手伝ってください!」

「はい」

「うわなにをするやめr」

 

 

 

 

 

 彩鳥は移動中、焰へと連絡を取っている。

 

「経理報告書が云々、というような妄言が………まさか、まだ完成していないのですか!?」

『………げ、』

「げ、ってげってなんですか!?今回データではなく、手書きにしたいから待ってほしいと言い出したのは先輩ではないですか………!?」

『南無三』

「神に頼んでも経理は動きませんッ!」

「モガーッ!!?」

『ん?今なんか「気のせいです。それより先輩を信じた私が馬鹿でした………!!先輩は今、在宅なのですね?」え?いやまあ、そうだけど』

「わかりました。もうすぐそちらに着きますので、それから今後についてお話ししましょう。―――ああ、そうでした。最近購入したという贅沢品についても、話を聞こうと思っていたところですので!ご覚悟ください!」

 

 そういって電話を切る彩鳥。

 

「まったく先輩は!」

「もがもー!?(これをほどけー!?)」

「うるさいッ!!」

「………(´・ω・`)」

 

 その後すぐに車が停車し、着いたことを知らせるがすぐに発進した。

 

「プリトゥ!追いつけますね!?」

「はい」

「もごもごー(安全運転でー)」

「「………………………」」

 

 諦めた表情で運転手であるプリトゥに通じないと思いながらも注意する碧生。

 そんな彼を可哀そうな目で見る加害者二人。

 

「口だけでも解放して差し上げてはどうでしょうか」

「……そうですね。これはさすがにやりすぎでしたね…」

 

 彩鳥はそういって碧生の口に貼ってあったテープを剥がす。

 

「どうも」

「いえ……。すみません、逃がさないためにもこうするのが手っ取り早かったので……」

 

 そうして申し訳なさそうにする彩鳥。

 

「いや、申し訳なさそうにするなら最初からしないでほしいんだけど……」

「うっ………」

「………!見えました!」

 

 それにより速度をあげた車は釈天の運転する車を追い上げて、遮るように割り込んだ。

 

「………荒いよ、お前さん」

「申し訳ありません」

 

 危ない運転に文句を言う碧生。現に今のだけで三回ほど頭をぶつけている。

 

「………どうも、彩鳥お嬢様。まだ一時間たってないですよ」

「今完成していない経理報告書が一時間後に完成しているとは思えません。何かしらの理由があると推測されます。………話していただけますね?」

 

 ビチビチビチビチッ!!

 

「スミマセン、彩鳥お嬢様。こっそり経費で購入した孤児院の備品をまだ計上していません。具体的に言うと、今の大型テレビとか」

 

 ビッチンビッチンビッチンッ!!

 

「………それで?」

「全ては(ビッチン)お茶の間の安らぎを求めたこの身の(ビチビチ)不徳。年少組に笑顔を、と思って魔がさしただけのこと。(バチン)此処はお嬢様の(ビチビチビチッビチビチッ!)ああもうさっきからうっせえなあ!?何の音だよこれ!?」

「へーるぷ!へーるぷ!へーるぷみー!つかマジでさっさとほどけよ!!」

「「「………は?」」」

 

 焰、鈴華、釈天の三人は音の方を確認すると車の向こう側で何かが一生懸命跳ねていた。その様子は陸に打ち上げられた魚が飛び跳ねているかのようだった。

 それはよく見ると自分たちのもう一人の出資者のようにも見えたが、その体はいつもと違い、簀巻きにされていた。

 

「…ああ、忘れていました。プリトゥ。解いてあげてください」

「はい」

「遅い!ずっと待ってたからな!?これでも一応社長!俺社長!!仕事を終わらせたと思ったら拉致されるってなんだ!?しかも簀巻きで!!」

「碧生さんは面倒だと言って逃げると思ったので」

「事情さえ話せば逃げねえよ!?」

「「「「「え………?」」」」」

 

 その場にいた全員が疑問の声を上げた。

 

「喧嘩売ってんだな?そうなんだな?言い値で買ってやるからさ、みじん切り、輪切り、ミンチ。好きなの選べよお前ら」

「選択肢が全て選択死な件について!?」

「知るか。それとだれがうまいこと言えと言った、鈴華」

「お、落ち着いてください。私が悪かったです…。事情も説明せずに強引に連れてきてしまって、申し訳ありません」

「………………………んー、まあいいか。そんで?焰はなんて言おうとしてたんだ?」

「あっ」

「げっ」

 

 碧生によって話を戻された焰は焦った声を、彩鳥は思い出したといったかのような声をそれぞれあげた。

 そこからなんやかんやあって焰は彩鳥と鈴華の買い物に付き合うことになった。

 

「よし、じゃあ俺はかえr「何を言ってるんですか、碧生さんも来るんですよ」…はい」

『ふふっ、残念ね。逃げられなくて』

(笑ってんじゃねえよ、ペスト………)

 

 碧生も逃げようとしたがあえなく捕まえられてしまった。仕方なく助手席へと乗り込む。

 

「あ、それと碧生さんも泊まりますので」

「「えっ」」

「はっ?」

「え、でも部屋空いてないよ!?」

「そこら辺のソファでも構いませんよ。碧生さんはどこでも寝られるので」

「いや、まあ、ソファか椅子、それと毛布があれば最高だな。寝場所がコンクリやアスファルト、ましてや火山や氷山とかじゃないだけマシだ」

「「「「「………」」」」」

 

 それを聞いた五人が黙る。そんな中碧生に彩鳥が聞いた。

 

「……経験あるんですか?」

「あるぞ?親がキチってたからな。確か………五歳の頃か?初の北極でのサバイバルは。その後はエベレストの無装備登頂とかやらされたか。………我ながら、よく生きてるな」

 

 碧生の発言で車の中に微妙な空気が車の中に満ちた。




・深水碧生
 主人公。館野蒼奇のの転生体。十七歳。周りには普通の人と認識させている。今のところ釈天にすらバレていない。秘書の佐藤のことをよく「さとう」と呼んでは怒らせている。

・佐藤亮(さふじりょう)
 碧生の秘書で次期社長。二十五歳。彼が高校時代に勧誘されて碧生についてきた。恩恵は所持していないが、彼のいる会社自体がおかしな存在なので奇妙な現象には慣れている。

・ペスト
 蒼奇、もとい碧生と契約した召喚獣。蒼奇と一緒に死んで生活していたが、セリカによって共に転生させられた。今は体が成長して十六歳ほど。

・西郷焰
 碧生の出資している孤児院の年長者でまとめ役。十五歳。よく碧生にからかわれる。

・彩里鈴華
 碧生の出資している孤児院の年長者。十五歳。こちらもよく碧生にからかわれる。

・久藤彩鳥
 碧生の幼馴染な仮面の騎士。十四歳。碧生と手合わせしているが、一般人相手に全力でやるわけにはいかないために手を抜いているが、それでも手も足も出ないほどにボコボコにされている。そしてからかわれる。

・御門釈天
 焰たちの孤児院の管理人で帝釈天。基本駄目男。事件を起こして面倒くさいことに発展させる天才。

・プリトゥ
 釈天に迷惑しているという点で碧生と仲がいい。現在は彩鳥の運転手。

 とりあえず今回出てきた人の紹介を。
 佐藤君の下の名前は今後出てくることはほぼないですので覚えなくても大丈夫です!

 次の投稿も一週間以内、だと思います!


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遭遇&再会

 ―――西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、深水碧生の四人が華乃国屋書店を回ってから軽く食事をし、最近リメイクが決まったという映画を見終わった頃。

 天候は、既に荒れ始めていた。

 日が暮れ、孤児院に帰るころには横薙ぎの雨風、隙間からの浸水、植木の枝葉がへし折れるなどの状況になっていた。

 そのため年少組には窓が割れても飛び散らないように工夫するように伝え、西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥の三人はそれを手伝うために奔走した。そう、三人は。

 四人目の深水碧生は夕食の準備をしながら片手間にやっていたため三人ほどは疲れてはいなかった。

 

「……とりあえず、お疲れさん」

「ほんと、散々なゴールデンウィーク初日だったな。近年稀にみる酷さだ」

「全くだよ!花壇も植木も滅茶苦茶で植え直し確定だし!非常食も全滅だ!」

「……。あのアロエは食用だったのですね、鈴華」

 

 彩鳥は空になったティーカップを持って席を立つ。それと同時に碧生のポケットが震える。

 

「ん?……あ、悪い。席を外すぞ。会社から電話だ。長くなるかもしれないからあんま気にしないでくれ」

 

 そういって碧生も席を立って二人から離れて電話に出る。

 

「……もしもし」

『ああ、俺だ』

「……詐欺師に知り合いはいないんだが?」

『ベタなこと言ってんじゃねえよ。こっちはスピーカーなんだよ。それより、いつもよりも忙しい食品部門と日用雑貨部門からの報告だ』

『…まず、私から』

 

 そういって声を出したのは食品部門・部門長のアザトースことアザ。

 ………そう。こいつ()が+αだ。召喚獣たちが碧生についてきたのはいいのだが、日本神群とクトゥルフ神群までついてきてしまったのだ。もちろん、この世界にはそこまで多くの神は降りてくることはできないと碧生は進言した。

 しかし、ものの見事強引なやり方でついてきた。

 その方法は、ディープブルーコーポレーションの社屋を()()()()()()()()()と繋げて確立させてしまうというものだった。現にそのやり方でついてくると望んだ神は全柱その社屋の中でならば自由に行動できるし力も使える。これを聞いた碧生は丸一日ほど現実から逃げ出したが。

 余談だが食品部門で働いている社員は全員がA(アザ様)M(見守り)T()に入隊している。というよりは入隊している者がその部門に行くようにしている。そうしないと彼らに報復されるからだ。

 

『…台風が通った場所の植物は全部感染…。…しばらくは支給という形で被災地域に与える予定…』

「ああ、それで構わない。元からこっちで作ってるから手間もほとんどかかってないし、利益は他部門でカバーできる範囲だ。そのままの方向で進めてくれ。で、恩を売れ」

『…わかった』

『では、次は私ですね』

 

 次に日用雑貨部門・副部門長の月夜見が出る。そのことに碧生は疑問に思った。

 

「…?月夜見、天照はどうした?」

 

 碧生は尋ねる。

 なぜ、部門長の天照ではなく副部門長の月夜見が出るのか、と。

 

『いえ、以前から調査を頼まれていた件の報告もありますので』

「……わかった。先に部門の報告を」

『はい。報告ですが、やはり防災用品がここ一週間で台風対策のため売れてますね。しかし生産が追いつく程度ですから対して問題はありません。ですが、それも少ししたら落ち着くとは思います』

「ああ、それはさすがにわかるさ」

『はい。ですが、開発部門の方々がまたオーバーテクノ「すぐに回収して俺の世界で破棄しろ」もう実行しました』

「よろしい。それで、調査の方は?」

『…それが、うまく隠されているのか、なかなか尻尾を掴むことができませんでした。現地に赴ければ捕まえるどころか消すこともできましょうが、申し訳ありません』

「………お前らでも現地に行かなきゃ厳しいか。…わかった。そっちは今度釈天かプリトゥあたりに正体バラして依頼という形で同行してもらって俺が調査する。お前らは普段の業務に専念してもらって構わない」

『『はい』』

「それと佐藤、お前も少しは休めよ?というか休め。ゴールデンウィークぐらいはな。社長命令で休暇に処すー」

『……クビか?』

「待て。なぜそうなる?」

『今までまともに休みなんざくれなかったからな』

「お前はだいぶ成長してるからな。それに実家にもしばらく帰ってないんじゃないか?休みをくれてやるから家族に顔ぐらい見せて来い」

『………感謝します、社長』

「おう。感謝しろ。まあ、最後に他部門はどうだ?」

『特には。平常通りだ。開発部門以外はな』

「………少し、まともな奴以外開発禁止にしとけ。道具と材料も取り上げとけ。いいな?」

『それも、もうしてある』

「よろしい。じゃあ、お前らしっかり休めよ」

 

 そして電話を切った。その次の瞬間、爆音が響いた。

 そのあとすぐに玄関の方が騒がしくなった。

 

「くそ、何考えてるんだ彩鳥お嬢様はッ!?」

「おい、何があった!」

「鈴華が学校に行って彩鳥が様子を見に飛び出した!!」

「……ハァ。俺も行く」

 

 そうして二人は彩鳥と鈴華のいる学校に向かった。

 

 

 

 

 

 ―――私立宝永大学附属学園正門前。

 足が水に搦め捕られ遅い焰を肩に担ぎここまでやってきた。

 

「どっちだ?それとも飛び越えるか?」

「やめい!裏門から入る。案内するから下ろせ」

 

 そういわれて碧生は焰を下ろす。

 

「こっちだ」

「おう」

 

 先導する焰の後ろをついていく碧生。そうして校舎の横にあるはずの飼育小屋のそばまできた。が、そのとき、獣が獲物を貪り喰うような音が聞こえた。

 その音を聞いた碧生は焰の肩を掴み、小声で話しかける。

 

(俺が先に行く。決して離れるな)

(………わかった。気をつけろよ)

 

 今度は碧生が前、焰が後ろという先ほどとは逆の位置関係になり、校舎を壁伝いに進み端まで来ると陰からその先を覗く。

 

(………焰。ここじゃあんな生物を育ててたのか?)

(は?)

 

 碧生からそう問われて焰も校舎の陰から覗くが、すぐに身を隠した。

 

(そんなわけねえだろ!?)

(だよな。つかお前、小声で叫ぶとか器用だな)

(いまはどうでもいいだろ、それ!)

 

 二人が見たのは巨大な人影で、

 

『Gya………Gya………!!!』

 

 家畜を貪り喰う怪物だった。

 その姿は人間の三倍を超える頭身があり、強靭な上半身を最新の下半身が支えているような姿。

 それが()()見えた。

 

(…二体か。どうするかな)

 

 碧生が声に出さずに悩んでいると小屋の向こうから足音が聞こえた。

 

(…この音はっ………仕方ない、無理やり合わせるか)

 

 そう決めてセリカからもらったギフトの一つ〝恩恵貸借〟で日本神話の鍛冶の神・天目一箇神(あめのまひとつのかみ)が打った剣を二本を取り寄せる。

 このギフト、〝恩恵貸借〟は契約している者に対してギフトを貸したり借りたりすることができるものでそれにより()()()()をしている天目一箇神から剣を借りたのだ。

 剣が現れたのを確認すると校舎の陰から飛び出す。

 碧生は近い方を走ってきた人物、彩鳥も自身に近い方の怪物に斬りかかった。

 彼女は特に驚いた様子もなく冷静に碧生のことを確認したようだった。

 それぞれが打ち合い、機動力を奪うために足を斬る。

 しかし、彩鳥の方は十合もしないうちに吹き飛ばされた。

 

「ッ!?クソッ!!」

 

 吹き飛ばされるのを見た碧生は剣を消して、すぐに彼女を回収して焰のもとに飛び退く。

 

「焰ッ!校舎に入りたい!入り口はどこだ!?」

「こ、こっちだ!!」

「走れ!すぐ追って来るぞ!!?」

 

 碧生は彩鳥を横抱きにして焰についていく。

 

「な、なんで……二人が………!!!」

「傷が酷くなるから黙ってろ!!…いや、やっぱ黙んな!!?意識を保ってろ!焰ッ!この馬鹿を治療できそうな場所はあるか!?」

「研究室なら応急処置ができる!」

「じゃあそこに向かってくれ!こいつさっき注意したのに意識を飛ばした!!…ってマズイ!?持つの替われ!!」

「って、おい!?」

 

 何かを感じ取った碧生は焰の背中に彩鳥を預ける。そしてすぐに後ろを向き、

 

『『「GEEEYAAAAaaaa―――――!!!」』』

 

 ―――二体と一人の怪物が吠えた。碧生はその咆哮と少しの間拮抗したがすぐに押し返されて三人を衝撃が襲った。

 それにより校舎に亀裂が入り、窓ガラスが飛び散る。

 碧生はその衝撃によって吹き飛ばされた焰と彩鳥を空中で受け止めた。

 

「クソッ、無理だったか!でも少しは和らげられたはず!おい、走れるよな!?」

「あ、ああ!」

「とりあえず先行しろ!軽く露払いしながら追いかける!!」

「…ッ!…気をつけろよ!」

「俺より自分と彩鳥のことを心配しろ!」

 

 碧生は怪物の方を見ながら、声をかける。

 そして三人は近くの昇降口に駆け寄り、ガラスを割って鍵を開ける。

 校舎の中ほどまで進むと焰が立ち止まった。

 

「あっ!馬鹿、止まんな!!」

「えっ?」

 

 焦った碧生が焰と彩鳥を抱えて走り出す。

 次の瞬間、地震でも起こったような地響きが三人を襲った。

 

『GEEEYAAAAaaaa―――――!!!』

「ほら見たことか!アイツに常識なんてねえんだよ!!わかったら道案内するか自分で走れ!!」

「わ、悪い!?」

 

 咆哮を上げながら昇降口に突っ込んできた。その勢いで備品が砕けて飛び散る。

 怪物はこっちを確認すると校舎を削りながら向かってくる。

 

「なんか手はないか!?足止めできそうなもんは!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!今考え、あそこの緊急装置に!!」

「了解!もう少し我慢しろよ、彩鳥!」

 

 一跳びで災害用の緊急装置の前に着く三人。

 すると焰が装置を覆う防護カバーを外し、セキュリティコードを打ち込み、稼働用のレバーに手をかけた。

 

「頼む、動けッ………!!!」

 

 そういってレバーを下げる。

 

「安心しろ!無理でも全員死ぬだけだ!」

「縁起でもねえことを言うなよ!?」

 

 碧生は彩鳥を抱えながら言った。

 その後すぐにミノタウロスに背を向けて走り出した。

 足の怪我のせいで腕で這っていたミノタウロスだが、一直線の長い廊下に出た途端、首の付け根に巨大な鉄板が叩き込まれた。

 

『GYaッ!!?』

 

 突然の出来事に呻き声を上げるミノタウロス。教室に腕を突き刺せば、そこにも遮断壁が降りて食い込む。

 

「完璧に入った………!どうだ牛畜生!厚さ500mmの特殊遮断壁が首元に刺さったんだ、簡単には抜け出せないだろッ!」

「俺はこの学校の設備が怖いがなッ!?なにあれッ!?」

 

 焰は小さく拳を作って勝利宣言をする。それに対して学校にしては厳重すぎる設備に戦慄する。

 その後、防犯シャッターの隣にある、内側からしか開かない非常用出口を使って外に出る。その非常口も間もなく遮断壁によって閉ざされる。

 

「えぇー…?」

「………驚き、ました。我が校に、こんな機能があったなんて………」

「だろうな。宝永大の研究所じゃナノマシンと並行して特殊な微生物を研究してるんだけど、中には天然痘のような絶滅したはずのウイルスを極秘裏に持ち込んだりすることもあるらしい」

「バイオハザード対策かよ……。俺初めて学校が怖いと思ったわ。いやマジで。何で人災にさえも対応してんだよ…」

 

 完全に鉄の棺となった校舎を見て呆けた声を出す碧生。そして彩鳥を焰に受け渡す。

 

「…あー、まあこの際有効活用できたしいいとしよう。それで、どこに行くんだ?」

「第三学研だ。そこまで行けば応急処置ができる。そこから救急車を呼んで、話はそれから聞く。いいn「伏せろッ!!」…は?」

「クソッ!?姿が見えねえと思ったら待ち伏せとは、存外頭の回る野郎だ!!」

 

 そのとき空から二mを越す一つの影が三人を目掛けて降ってきた。その影は二本の斧槍を上段に構えたまま飛び込んできた。

 碧生は再び剣を二本取り寄せて頭上で交差させて攻撃に備えた。

 しかし、四つの刃が交錯する直前。

 大地が激しく揺れた。

 雷雲で、天空が呻りを上げた。

 西郷焰は視界を眩く満たす光に瞳をやられた。

 その光は天より零れ落ちて、厚さ500mmにも及ぶ特殊複合装甲で覆われた鉄の棺を、綿でも破るようにたやすく切り裂いて大地に突き刺さった。

 そして、校舎の方へと向けていた眼を不意に碧生の方へと向ける。

 そこには、

 

「グッ…」

「なっ!?お、おい!?」

 

 肩から胸にかけて斧槍が食い込んでいる碧生の姿があった。

 

「問題、ないッ…校舎の奴から目ェ離す、なッ!」

 

 そういって自身から斧槍を引き抜く碧生。当然のように、傷口からは夥しい量の血が噴き出す。しかし彼はそんなことは気にしないかのように抜いた人の身には余る斧槍を構える。

 

「俺はコッチを抑えるので精一杯だ!お前はそっちの奴が襲ってこないように祈ってろ!!」

 

 そういって、襲ってくる巨体の相手をする。できる限り焰と彩鳥から離れないように立ち回って。

 受けては弾き飛ばし、受けては押し飛ばす。そんなことを繰り返す。

 背後から大きな気配が迫っているのを感じながらもそっちまで相手するのはきびしい状況だった。

 その気配が焰たちに戦斧を振り上げて弾丸のような速度で走り出し、二人に振り下ろされようとした、次の瞬間。

 

 そして、その気配は一陣の風と共に現れた。

 

(………ハッ!遅ぇんだよ、この規格外が…!)

 

 碧生はその人物の登場により動きを止めた巨体の人物を睨みながら、心の中で罵倒しつつも、静かに感謝した。

 その人物は気配だけでも憤怒を携えているのが分かるほどで、言い放った。

 

「………テメェ。人の弟に何しやがる」

 




登場人物

・深水碧生
 主人公。今回は手加減。一般人の域を出ないような手加減。だってまだバレたくないもん。今回一番走った人。だが、最後にバッサリやられた。この日は根暗のせいで雨で濡れて前髪で張り付き視界が悪かった。←今回の敗因(嘘)。

・ペスト
 喋ってないだけでずっと碧生の指に嵌っている。今回一番楽をしている。

・西郷焰
 原作主人公。今回たくさん走って機転を利かせた。

・彩里鈴華
 最初以降出番がなかった女の子。次回は出番あるから勘弁してください。

・久藤彩鳥
 今回斬られた人。一番痛い思いをしている人物。生きているのが不思議。

・アザ(アザトース)
 クトゥルフ神話の神。外なる神。ロリ。幼女と言ったらすこし不機嫌になる。ただしロリはいいらしい。理由は語感だとか。
 現在はディープブルーで食品部門の部門長をしている。普通に優秀な子。

・月夜見(月夜見尊)
 日本神話の月の神。天照大神の弟。イケメン。性悪。
 現在はディープブルーで日用雑貨部門の副部門長をしている。他にも碧生に頼まれて奇怪な現象の調査を部下を使って情報収集したりもしている。

・佐藤亮
 ディープブルーの次期社長。現在は碧生の秘書。野心がない。それゆえに抜擢されて今のポジションに至る。

・ミノタウロス
 原作ミノタウロスさん。今回大暴れ。

・ミノタウロス(二体目)
 オリジナルミノタウロスさん。今回待ち伏せしてた賢い奴。他作品からの引用。わかる人にはわかる。

 こんなところ?
 次も一週間以内に上げる予定!


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治療&再来

 思いもよらない人物の登場により呆気にとられた西郷焰だが、それは一瞬のことだった。

 ミノタウロスとの間に飛び込んできた逆廻十六夜に、彼は怒声をぶつけた。

 

「お―――遅いッ!!!今まで何してやがったイザ兄ッ!!?」

「ハッ、三年ぶりの第一声がそれか!お前こそ何してるこんな場所で!!?」

「見りゃわかるだろッ!牛畜生に襲われてんだよッ!あと再会は五年ぶりだ、間違えるな馬鹿野郎!」

「あの、お二人さん?こっちは結構切羽詰まってるんで気の抜けるようなことを言わないでくれません?」

 

 碧生の相手している怪物も十六夜の登場で少し動きを止めたが、すぐに攻撃を再開した。

 それを危なげなくあしらう。

 

「オ、ラァッ!!」

 

 剣戟の隙を縫って足の腱を斬って吹き飛ばす碧生。

 そして、血を流しすぎたせいか眩暈がして膝をつく。

 

「俺がこの牛の相手をする!お前らはすぐに逃げろ!」

「逃げるけど、二人の応急処置が先だ!碧生はともかく彩鳥の容体が危ない!」

「おい、俺はともかくってどういうことだよ」

 

 焰の随分な物言いに突っ込む碧生だが、無視される。

 あん?と怪訝そうな声を上げて首だけ振り返る。

 

「………なるほど。聞こえたか、鈴華!」

「あいさ!」

 

 どこからともなく彩里鈴華の声が響く。

 それと同時に、その場から三人の姿が消える。

 

 そして、代わりに一人の姿が現れる。

 

「ん?…置いてかれたのか、お前?」

 

 その姿を見た十六夜が声をかける。

 現れた人物はたった今、鈴華によって連れられて行ったはずの一人、深水碧生だった。

 十六夜の問いかけに対して碧生はミノタウロスから視線を外さずに答えた。

 

「いや、俺は別の俺だ。とりあえず焰たちが消えたから、全力でアイツの相手をしようと思っただけだ」

「……おい、その言い回しは……お前まさか」

「その話はあとだ。今はこいつらを優先する。そっちは任せたぞ、十六夜」

 

 そういって自身が相手していた人に近い方のミノタウロスへと跳びかかっていった。

 

 

 

 

 

 西郷焰と久藤彩鳥、深水碧生は第三学部研究所の部屋の中心に来ていた。

 意識が朦朧としている彩鳥だが、先ほどの現象に驚嘆の声を上げた。

 

「空間移動………!まさか、これを鈴華が………?」

「無理に喋んな。傷が悪化するぞ」

「彩ちゃん、大丈夫!?」

「おい、お前も俺の心配はなしか?」

「って、碧生は彩ちゃんよりも酷いじゃん!?」

 

 彩里鈴華が三人の前に突然姿を現した。

 

「俺は平気だからとりあえず彩鳥を処置してくれ。俺よりも先に怪我をして、血を流しすぎている」

「ああ、わかってる!鈴華!針と消毒液、あと室長の机の下にある箱を取ってくれ!」

「了解!針と消毒液はコレ!?」

 

 碧生が彩鳥の治療を優先してやってほしいと二人に頼む。そこから彼は窓から離れて思考の海に潜る。

 

(焰を襲ったあれは、金牛宮だった。じゃあ、もう片方は?金牛宮は一体だけだ。これがセリカの言っていた正史との違い?向こうは『俺』が相手してるからこっちへは来れないだろうが、一体あいつは何だ?それにこっちにどうして星獣が、そのうえ関係なさそうな似た化け物まで箱庭から飛び出してこんなとこに?けど、片方は見覚えがあり過ぎるから多分俺の予想通りだろう。だが、なぜ―――)

 

 そのようにしばらく目を閉じて考えていると焰の声が聞こえた。

 

「………い。…おい!寝るなよ!?」

「…寝てねえよ。考え事してただけだ。そんで、彩鳥は?」

「一先ず大丈夫だ。次はお前だ。治療するからこっちに―――」

「アホ。こっちに来んのはお前らだ」

 

 そういって三人を引き寄せて自身の後ろに移動させる。

 直後、落雷が研究所の窓を貫いた。

 その光景を目の当たりにして驚いている焰。

 

「わ、悪い。助かった」

「別にいい。それと俺の治療はしなくていい。どうせ死ぬことはないし。それにもう治った」

「は………?」

「俺は自分の体質で寿命以外じゃ死なないんだよ。つか、あれはマズイな」

 

 服は赤く染まり破けているが傷らしきものは見えなくなっている碧生の視線の先には生き物のように蠢き、牛の形をした積乱雲を見つめていた。

 

「………なんてこった。あれじゃ本当に〝天の牡牛〟じゃねえか………!!!なんかねえのか、碧生!!」

「あったら呆然と見つめてないで行動してるさ。今も必死に考えてはいるがな」

「ですよねッ!」

 

 何か手はないかと二人して必死に考える。

 

「………先輩。手紙は届いていませんか?」

「は?」

 

 突然、彩鳥が声を上げた。

 

「手紙です。こんな時の………最後の脱出装置として貴方に届いているはずです………!」

「何でもいいから早くして。マジで怖い」

「黙れ」

「アッハイ」

 

 茶々を入れる碧生にきつい言葉で釘を刺す彩鳥。

 

「絶対に………絶対に届いているはずです。先輩は招かれるだけの功績を与っている。女王ならば、先輩がこんな異例で死ぬようなことを、許すはずがない。最終手段として、招待状を出しているはず………!!!」

「焰。心当たりは?」

「って言われても、」

「招待状だろ?手紙でもなんでも内容が分かればいいんじゃね?それがたとえ封書でもメール、レシートの裏でもでも何でもいい。記憶を探ってくれ。それによって助かる可能性があるっていうんだからな」

「………メール?」

 

 心当たりがあるのかその単語を口にする焰。

 そして、すぐに携帯を取り出して弄り始める。

 焰はようやく見つけたのか携帯を連打している。すると四人を包み込むような極光が周囲を満たした。

 

 

 

 

 

 ―――急転直下、四人の視界は急激に変化した。

 周囲は太陽の光によって明るくなり、大気が頬を擦っていく。当然だろう。ここは、上空4000m地点から自由落下しているのだから。

 そんな中、碧生はこの現象、そして光景を懐かしんでいた。

 

「(あー、懐かしい)」

『ええ、そうね』

「(………………)」

『………なによ』

「(すまん。お前のことすっかり忘れてたわ)」

『………』

「(今度なんか奢るから許して)」

 

 

 




・深水碧生
 本作主人公。十六夜にはバレたけどもうそろそろバラシてもいっかな?って思ってる適当な人。ちなみに現在は四人いる。

・西郷焰
 原作主人公。彩鳥の治療をした。なんでそんな治療ができるのかは知らない。科学者だからしょうがないね!

・逆廻十六夜
 『問題児』の方の主人公。かっこよくて強い人。規格外。

・久藤彩鳥
 怪我をして治療されてた方。女王からの手紙を焰に教えた。

・彩里鈴華
 空間移動で三人を移動させた子。治療に関しては道具を引き寄せて活躍した。羨ましい恩恵の持ち主。

・ペスト
 今までずっと空気だった人。マスターである碧生にすら忘れられる始末。


次回の投稿は少し遅れるかもしれません。
具体的には10月3日以降になると思われます。


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水神&残骸

一通り落ち着いたので更新再開します!


 碧生は自由落下していることに焦る二人を横目でぼんやりと眺める。

 なぜなら、この落下中ずっとペストに謝り、どうにか許してもらおうと努力しているからだ。

 それは焰と彩鳥と自身が川に着水してからも続いた。

 とはいえ、川に落下した二人を放っておけるわけもなく、ギフトを使う。そして水神である八岐大蛇から〝水神〟としての力を借り受けて水流をものともせずに、すぐ二人を掴んで陸へ向と飛び上がる。

 

「っと。大丈夫か、お前ら」

「……そ、の姿、は………?」

「後で説明してやる。だから、今は休んどけ。ここならまだ安全だ」

 

 碧生にそういわれた焰は安心したのかその意識を手放す―――

 

『私の………私のあたm「うっさい」ゴペッ!?』

 

 ―――ことにした。最後に聞こえた鈍く痛そうな音と水面に何かが叩き付けられるような音はきっと気のせいだろう、と焰はそう思った。思うことにした。

 

「あんな、クソ蛇。こちとら疲れてんだよ。だから休ませてほしいってのにお前の大声で二人が起きたらどうすんだ、ん?それがわかったなら静かにしろ。いいな。さもなきゃ蒲焼きにして食っちまうぞ」

『イ、イエスサー』

「よろしい」

「あ、あの………そろそろよろしいでございましょうか?」

「あ、どうぞ。それともう一人の連れがどこかに「わっ!?碧生が半魚人になってる!?………ハッ!?まさかこの蛇の呪いがッ!?」掛けられてねえから。今元に戻るから落ち着けよ、鈴華」

 

 今の碧生は水神としての力を借りているせいで、肌は青白くなりところどころに鱗模様が現れている。そして腕と足にヒレが生え、手足の指の間には水かきができるといった全体的に見る人が見れば半魚人というような姿になっていたのだ。

 そんな状態の彼を見た鈴華は騒ぎ立てるが、碧生が制して大人しくさせる。

 水神の力を借りたままだった彼はギフトを解いて元の姿に戻る。

 

「これで一安心か?」

「おぉー!何今の!?どうやったの!?」

「お前と同じような特異な力だ。詳細は省くが、俺はお前と違って複数個持ってんだよ。とりあえずそこの二人を運ばないといけない。そこな兎と蛇、手伝ってくれるよな?」

「YES!当然でございます!」

『なぜ私がそんn「手 伝 っ て く れ る よ な ?」サー!イエスサー!』

「ありがとなー」

「………明らかに脅したよね?」

「俺は手伝ってくれるかどうか聞いただけじゃないか!脅しただなんて人聞きの悪いこと言わないでくれたまえよ、鈴華君!ハッハッハッハッ!」

「………うわー」

 

 碧生のあからさまなごまかした態度に軽く引く鈴華。

 そしてそんな反応を気にした様子もなく上機嫌な碧生。

 そこに一人の少女が話しかけてくる。

 その少女の頭にはウサ耳が生えており、それを見た碧生は軽く驚くがすぐに表情を元に戻す。

 

「と、ところであの方は十六夜さんのお知り合いということでいいのですよね?」

「「………」」

 

 碧生は思い当たる節がないような顔で鈴華の方を見やる。対して鈴華は驚いたような困ったようななんとも表現し難い表情を作っていた。

 そんな様子に困ったような声で尋ねる黒うさぎ。

 

「あ、あの?」

「え、あ、うん!そうだよ!」

「ということらしい。とりあえずどこに行けばいいかわからないから案内を頼みたい。もしくは蛇に乗せてくれ」

『だからなぜ私が「乗 っ て も い い よ な ?」はい………』

「だそうだ。鈴華、二人を乗せるぞ」

「………うん」

 

 何やら納得のいかなそうな表情で焰と彩鳥のところに歩いていき、二人を白蛇の上に移動させた鈴華。

 そして一行は天を見上げて一路、巨大な大樹の下へと歩き始める。その道中で兎と蛇、黒ウサギと白雪姫に自己紹介を済ませた二人。

 だが、黒ウサギが碧生に質問をした。

 

「あの、どこかで会ったことはありませんでしょうか?」

「………いや、見憶えないな。俺はお前みたいなウサ耳ロリに会ったら一生忘れねえと思うし」

「そうでございますか…。碧生さんはなんとなく私の以前の同士に似ていたので、つい。というかウサ耳ロリって言わないでくださいませ!!」

「なあ、そんなことより火を起こしていいか?服を乾かしたい」

『私の体の上でなんてことをしようとしている!?』

 

 などと一悶着あったが。

 碧生は内心「やっべ、バレたか?」と、ものすごく焦っていたことは本人とペストの二人しか知らなかった。

 

 

 

 

 

 ―――宝永大学附属学園中等部校舎・残骸の上。

 一方、その頃の学校では。

 

「………マジかよ。此処まで他人に振り回されたこと、俺の人生になかったはずだぞ」

「そうか。それはそれでいい経験をしたじゃないか」

 

 瓦礫の上に腰かけて頭を抱える十六夜と大きめの瓦礫の上で寝転がる碧生。

 

「さて、どうするべきか。俺は残されたが、もう一人の方はうまい具合について行けたみたいだし、一先ずはよしとするか?そっちはどうすんだい?」

「いやマジでどうするんだよ、女王。お前の力でどうにかできねえのか、蒼奇?」

「今の俺は館野蒼奇じゃなくて深水碧生だ。………まあ、俺もどうにかしたいが、最近どうにも干渉しづらいんだ。具体的には二年ぐらい前から」

「そうかよ」

「とりあえず、もう一人来るからそいつも交えて話を進めよう」

「あん?誰が来るんだ?」

「会えばわかる」

 

 そのとき、ガラリ、と瓦礫を蹴りながら男の足音が近づいてきた。

 

「おいおい………〝天の牡牛〟が消えたと思ったらお前の仕業か。随分と派手にやったな、逆廻十六夜。誰がこの後処理をやると思ってるんだよお前は?」

「今回の処理はコッチでどうにかするさ。だから協力してくれや」

「………そうかよ。あんま期待すんなよ。稀代の魔術師」

「その名で呼ぶな。その二つ名は俺の黒歴史なんだから」

 

 煙草を咥えながら苦笑いを浮かべる御門釈天。

 来たのを確認すると上体を起こして話しかける。

 ただその人物から呼ばれた名前で心底嫌そうな顔を浮かべる碧生。

 一方、十六夜は予想外の人物が来たからか驚きの声を上げた。

 

「………驚天動地。いや、マジで驚いた。最強の軍神様が来ているなんて聞いてないぞ。今回はそれほどの事態なのか、帝釈天?」

「御門釈天だ。箱庭では冗談で済ませてやったけど、外界じゃもう間違えるな。他の奴らに気づかれるだろうが」

 

 苛立ちを込めた声で制する帝釈天。

 そんな様子を見た碧生が溜息をつきながら宥めるような声で話しかける。

 

「落ち着けよ。今回は俺が隠蔽してるからそこまででもねえよ。とりあえず後処理したいから移動してくれ」

「そうかい。で、肝心の状況だけど。アンタが動いてるなら俺まで外界に来る必要はなかったんじゃないか?」

「そいつらは別件だ。だからあまり出しゃばることはできねぇよ。さっきも言ってたように後処理ぐらいだ」

「そういうわけだ。だが、今回はその後処理が厄介でな。台風の被害より、ウイルスの方が厄介なことになってる」

「へえ?病害、やっぱり酷いのか?」

「それで済めば良かったんだけどな。今回のは植物にも感染する。そのせいで農作物が高騰間違いなしだ」

「地域によっては飢饉が始まって、そうなったら国際的な通貨問題にも発展するかもしれない」

 

 二人の発言に顔をしかめる十六夜。

 

「………洒落になってないぞそれ。大丈夫なのか?」

「一応、俺の方で対策は用意してある。あとはゲームクリアの方だ。こっちは人間だけでやる必要がある」

「うわあ、マジかよ」

「マジだ」

 

 悪条件が重なりすぎて一周回って笑ってしまう十六夜。

 

「怪牛どもを倒すのは俺らの仕事として、それ以外はどうするんだ?農耕の病害なんて専門外だぞ?」

「安心しろ。それなら焰が目途を立ててくれた」

 

 はっ?と素っ頓狂な声を上げる十六夜。そんな彼を見て物珍しそうな目をする碧生。

 

「焰が解決するって………ちょっと待て。お前、アイツに何をやらせてる?」

「それはまだ秘密だ。………それで、お前はどうする?今のままじゃ帰れないだろ?特に当てがないなら俺か碧生の会社に身を寄せとくか?」

「会社?何だよお前ら、会社の経営してんの?」

「こいつらの場合ただの暇つぶしだけどな。対して俺の場合は両親の遺産を引き継いだだけだ。一緒にすんな」

「………ちょっと待て。何で暇つぶしだとわかる。お前にそんなこと話した覚えはないぞ!?」

「………もしかして、まだ気づいてないのか?」

 

 はっ?と今度は釈天が素っ頓狂な声を上げた。

 

「俺こと深水碧生は館野蒼奇の転生体だぞ?」

「……………………………………………………」

「………この野郎、フリーズしやがったな」

「………はっ!?ちょっと待て!何で今まで隠してやがった!?つか、なんで俺らが気付けなかった!?」

「隠していたつもりはない。聞かれなかったから言わなかった。気付けなかったのは俺が念に念を重ねて隠蔽していたからだ。ほら、理に適ってるだろ?」

「理は理でも屁()屈だろうがッ!?それに隠蔽してんなら隠してるだろッ!?」

「………おお、確かに。まあ、その件も含めてゆっくり話そうぜ」

 

 その後も軽く雑談をしてカナリアファミリーホームで話し合いをすることに決まった。

 




登場人物紹介

・深水碧生
 正体は半魚人(嘘)。今回は八岐大蛇から〝水神〟としてのギフトを借り受けた。見た目がマーマンっぽくなる。会社に二人。箱庭に一人。十六夜たちのところに一人の計四人。

・西郷焰
 今回セリフが一個だけの主人公(ごめんなさい)。以降気を失っていた。

・久藤彩鳥
 最初から気を失っていてセリフすらなかった。

・彩里鈴華
 水神状態の碧生を見て半魚人と叫んだ。二人を助けてくれたのは感謝しているが、それ以外の行動は納得できていない。

・白雪姫
 頭に二度衝撃が走った人。背中に一部焦げ跡ができた。

・黒ウサギ(ロリ)
 碧生の正体に気づきかけたが、深くは踏み込めずに気づかなかった人。ツッコミ要員。

・逆廻十六夜
 振り回されるという貴重な経験をした人。碧生の正体が即座に分かった。碧生自身が隠そうとしていなかったのも原因。

・御門釈天
 碧生の正体に気づいていなかった人。衝撃のあまりフリーズした。

とりあえず今日からまた週一更新で再開していきます!
ということで、次は一週間以内です!


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購入&散策

 ―――〝アンダーウッドの大瀑布〟。

 貴賓室で目を覚ました焰は黒ウサギの案内によって様々な露店が開かれている市場で、彩鳥と鈴華の二人と合流した。

 

「お、焰だよ彩ちゃん!やっと来たみたいだぜ!」

「ええ。女性を二人も待たせるとは、仕方のない先輩です」

 

 林檎飴を両手に持ってはしゃぐ鈴華と、イチゴのオムレットを手に持つ彩鳥。

 一方の焰は目の前の光景に目を奪われたままだった。

 

「焰さん?どうしました?」

「あ、いや、どうしたもこうしたもないっていうか………世界規模でツッコミどころしかないっていうか、」

 

 目の前の光景を形容しようがなく困惑したように言葉を吐く焰。

 そんな焰に黒ウサギはウサ耳を揺らして笑いかけた。

 

「まあまあ。積もる話もありますし、まずはお昼にいたしませんか?」

「………そう、だな。いい店はあるか?それと、もう一人男がいたはずだけどそいつはどこにいる?」

「碧生さんですか?それならあちらに―――」

 

 黒ウサギが指さしている方向には串焼きを販売している露店で何やら交渉している碧生の姿があった。

 

「なあ、もう少し安くなんないか?」

「おいおい兄ちゃん、こっちはこれが限界だぜ。勘弁してくれよ」

「頼むよ。うまかったら追加で買ってここの宣伝も「屋台荒らしはおやめくださいませ!!」あだッ!?」

 

 スパァーン!と黒ウサギの伝家の宝刀(ハリセン)が彼の頭に叩き込まれた。

 叩かれた彼は頭を押さえながら黒ウサギに文句を言いたそうな目で見た。

 

「何すんだよ、黒ウサギ」

「それはこちらのセリフです、このお馬鹿さま!お店の方を困らせないでください!!」

「はあ………少し商売人として指導してやってただけだろうに、まったく…」

「えっ?」

 

 碧生の言葉に疑問の声を上げる黒ウサギ。

 

「おいおっさん。最低ラインはもう少し高くてもいい。客に買わせることと利益を両立させろ。利益が出なくてもいいなら構わんが。それと二本くれ。これ代金な」

「おう、ありがとよ。それにこっちも勉強になったさ。………って、これ金貨じゃねえか!?」

「とっとけよ。楽しませてもらった分と迷惑料だ。行くぞ、黒ウサギ。お前が来たってことは焰も来てんだろ?三人はどこだ?」

「え?あっ、こ、こちらです!」

 

 そういって店の人がお釣りを渡す暇もなく足早に去って行ってしまった。

 

「………お優しいのですね」

「お前ほどお人好しじゃねえよ。ほら、受け取れ」

 

 そういって買った二本のうち一つを黒ウサギに渡す。

 

「え?い、いいのでございますか?」

「そのつもりの二本だしな。おっ、あそこか」

 

 碧生は焰たちを見つけるとそっちの方へと向かっていった。黒ウサギも遅れないようにとついていく。

 そして、三人と合流した碧生たち。

 

「………何やってんだよ、お前」

「露店荒らしと屋台荒らし」

「馬鹿か!?」

「何を言う。店の人に必死に値切ってくる奴の対処法を指導してやったんだ。そのあとにちゃんと正規の価格で買った。そっちの二人が持ってるやつも俺の奢りなんだからな?」

「「うっ………」」

 

 そういって、鈴華と彩鳥が持つものをそれぞれ指さす。

 

「そ、そうなのか?」

「ああ。そのうえ正規の価格の上に迷惑料とかも上乗せしてるからそこそこ払ってる」

「「「………」」」

 

 三人がそんなのありえないといったような驚愕の表情を浮かべる。

 

「なんだその顔は?まあ、とりあえず昼にしたい。黒ウサギ、案内頼めるか?」

「YES!こちらですよ!」

 

 黒ウサギが先導し、その後ろを碧生がついて歩いていく。

 

「………あいつ、マジでなんなんだ?」

「「さ、さあ?」」

「おーい!早く来ないと措いてっちまうぞー!」

 

 その声で慌てて三人は先を行く二人を追いかけた。もちろん道中も四人は碧生に奢られてばかりいた。

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟の水上都市。〝六本傷〟のガーデンレストラン。

 西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、深水碧生の四人は黒ウサギの紹介で川沿いのレストランに招かれていた。焰の要望で〝精霊列車〟がよく見える場所を選んだようだ。テーブルには桜見鳥の姿焼き、ペリュドンのハムエッグ、巨大南瓜の冷製スープなど、見たことのない様々な料理が運ばれてきた。

 なのだが、焰たち(碧生は除く)は料理などそっちのけで〝精霊列車〟の発車を食い入るように見つめていた。

 

「おお………!」

「………(もぐもぐ」

 

 〝精霊列車〟が発車するたびに水飛沫を舞わせ、川沿いに大きな虹をかける。どこからともなく歓声が上がる中、碧生は黙々と運ばれてきた料理を食べていた。

 

「おお………!!!」

 

 綺羅と輝く景観のあまり、テラスの柵から身を乗り出してまで眺める二人。そんな二人をよそに追加で料理を注文する碧生。そのまま運ばれてきた料理に夢中になり周りの会話が耳に入らなくなってしまう。

 そして、

 

「ふ………ふざけるなッ!!!」

「うるさい」

 

 ガンッ!という音を立てて碧生の拳骨が大声を上げた焰の脳天に突き刺さった。

 

「ガッ!?」

「少しは落ち着け」

「だけどッ!!」

「落ち着けっていってんだよ。そんなに慌ててもここにいる限りどうしようもねえだろうがよ。それに何も心配する必要はない。孤児院の近くにゃ俺の会社もある。いざとなれば俺んとこの社員がどうにかする」

「それでも七年だぞ!?」

「………この程度のゲームに七年もかけるつもりか?そんなに孤児院が心配ならば、さっさとクリアして元の世界に帰ればいいだけだろうに」

「………はっ?」

 

 焰は素っ頓狂な声を上げる。それを見た碧生は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「ん?………ああ、まだ理解しきれてないか。悪い。今のは忘れてくれ」

「いや、忘れろって言われても………ってか、このゲームをクリアしろと!?」

「そこら辺のことも含めて、そこのウサギに説明してもらえ。その間、俺は腹ごなしに少し散策してくる」

「って、おい!?」

 

 そういって碧生はいくらかの金を置き、席を立つ。

 

「え、あの碧生さん!?………行っちゃい、ましたね」

 

 四人が碧生が去っていくのをただ呆然と見つめしばらく黙っていると、黒ウサギが声を出した。

 

「………あ、あの、みなさんに一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「「「…?」」」

「碧生さんは箱庭に来たことがあるのでしょうか?」

「いや、そういう話は聞いてないし、あいつのことだからまず話そうとすらしないと思うが………何でだ?」

「彼が箱庭に来てから使っている、この金貨。これは〝サウザンドアイズ〟発行の金貨なんです。このようなものを持ち合わせているのは箱庭出身者、もしくは来たことがある人物としか黒ウサギは思えないのですヨ。それに先ほどの焰さんとの会話でも妙に箱庭のことを知っているような言い回しでしたので…」

 

 そのようなことを言われた三人は疑問符を頭に浮かべるだけでその質問に答えることができなかった。

 結局そのあとは結論が出るわけもなく、現在の焰の問題を解決するための話に戻った。

 

 

 

 

 

 焰たちが今の状況をどうにかするために話している頃、碧生は店を出てその周辺を見て回っていた。

 

(完全に復興が完了している感じか…早いな)

『まあ、さすがに十七年も経てばそうでしょうね』

(箱庭じゃ、たった三年しか経過してないぞ、ペスト)

『………そういえばそうだったわね。あの世界で長く暮らすとどれがどの時間かわからなくなるわね…』

 

 そんなことを話しながら碧生はペストを召喚する。その行動に目を丸くして碧生を見るペスト。

 

「あら、いいのかしら?」

「別に構わない。お前のことは魔術で隠蔽してるから住民も特になにも思わないだろう。せいぜい可愛い娘がいる程度の認識で、誰もお前を元魔王とは認識できねえよ。顔見知りならば危ないが、そういう奴らもここの重役とさっきのレストラン付近にいる奴らだけだしな」

「………それじゃあ、お言葉に甘えてとことん付き合ってもらうわよ?」

「………財布と相談しながらでいいか?」

「むぅ………男ならそこはドーンと払うくらいの気概を見せなさいよ!」

「………へーへー。わかりましたよ。そんじゃま、最初にどっから行くんだ?」

 

 「そうね…あっちよ!」とペストが碧生の手を握って走り出す。されるがままに手を引かれていくが、少し困り顔の碧生。

 そんな光景を周りの人は温かい視線(大人の方々のもの)と、時折混じる嫉妬と憎悪の入り乱れた視線(モテない男たちのもの)があった。

 そして、散々振り回され一応満喫した後、四人と合流するとなぜか明日、白雪姫とゲームするという既視感のあることになっていて、今度は碧生が理解できなかった。

 その後、三人は碧生に怪物にやられた傷はどうしたとかあの半魚人のような姿はなんだったかとかいろいろ問い質され、一通り説明をした。

 




・深水碧生
 主人公。露店と屋台の店主と店員をいじめていた(指導)。今回の代金は全部彼持ち。ペストに相当奢らされて財布が寂しい。一番損をしている。現在は会社に二人、箱庭に一人、十六夜たちのところに一人。ちなみに本体は会社にいる片割れ。

・西郷焰
 原作主人公。碧生に対する不信感が積もっていくだけだったが今回である程度解消された。それでもかなり残っているが。

・彩里鈴華
 林檎飴を持っていた少女。もちろん前述の通り碧生の奢り。多少なりとも罪悪感を感じている。

・久藤彩鳥
 イチゴのオムレットを持っていた少女。こちらも奢り。借りを作ったことを後悔している。

・黒ウサギ
 貴重なツッコミ要員兼弄られ要員。武器はハリセン。つおい。

・ペスト
 今回一番得をしている人。特になし。もう少ししたら出番来るから待って。

えー、次も一週間以内に投稿予定です。


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連絡&集結

 一方の十六夜たちは翌日の朝、孤児院の近くにあるフランス料理店〝ドン=ブルーノ〟に足を運んでいた。腹ごしらえをしたいという釈天の強い要望と、孤児院と関係のあるこの店の人を一度見てみたいという希望で店に寄ったのだが、十六夜は苦い顔で店の暖簾を睨みつけている。

 

「………。本当にここに入るのか?開店時間前だぞ?」

「大丈夫大丈夫。ドンとマダムは心が広いからな」

「お前の大丈夫ほど不安になるものはないと思うが………。まあ、ここまで来たからには諦めろよ、十六夜」

「つか、何でお前はここに来たがったんだよ。接点ねえだろ」

「社員の中でうまいと評判なんだよ。だから一度来てみたかったんだが、仕事で時間が作れなくてな。というわけで、顔見知りの方からどうぞ♪」

 

 碧生はにこやかに笑いながら先に入るように二人に促す。

 そして釈天は喜々として、十六夜は苦い顔のまま入店した。そんな対照的な二人の様子を楽しみながら後に続く。

 店のカウンターには新聞を広げた厳つい白髪の料理人が一人、煙草を吹かして座っていた。

 

「………なんて日だ。久しぶりに顔を見せたと思ったら、悪童が二人になって帰ってきやがった。礼儀知らずと恩知らずに食わせる飯はねえぞ」

「だってよ、十六夜」

「うるせえな。半分はテメェだろ。ま、恩知らずなのは自覚してるとして。久しぶりだな、ドン=ブルーノ。煙草はそろそろやめた方がいいんじゃねえか?」

「フン、余計なお世話だ。それより後ろのガキは誰だ?」

 

 そういわれ、二人の後ろから出て、挨拶する碧生。

 

「初めまして、ドン=ブルーノさん。俺は二人の……悪友?みたいなもんです。此処には二人についてきただけです。それと社員がここの料理を勧められたっていうのもありますが」

「…ああ、あいつらか。で、何を食うんだ?何時ものパンプキンキッシュでいいのか?」

 

 碧生の社員に心当たりがあるのか何やら納得しつつ、肩を回しながら立ち上がった彼は、面倒くさそうにしながらもしっかりと注文を取る。

 

「ああ。むしろそれがいい。ドンの作るパンプキンキッシュはフランスで一番だからな」

「あっ、じゃあそれ五つで!」

「……フン、図々しい奴だ」

 

 鼻を鳴らして文句を言いながらも厨房に入っていくドン=ブルーノ。

 

「五つ?誰か来んのかよ?」

「まあ、うちの秘書ともう一人ね。役に立つとは思うよ」

「そうかよ。そんで、釈天は随分と仲がいいじゃねえか。訳ありか?」

 

 十六夜が釈天にそう尋ねると、そこで携帯の着信音が鳴る。

 

「あ、悪い。俺だ。ちょっと失礼する」

 

 そういって碧生が一旦店の外へと出る。

 携帯の画面には「佐藤」の文字が表示されていた。

 

「なんだ佐藤」

『いや、一応報告をな。俺はそっちに行けなくなったことと仕事の方は一段落がついた。今は実家に帰る準備中だ』

「そうか。わかった。あとはこっちで何とかしておく。しっかり休んで来い。ついでに幼馴染の子と楽しんで来い。それとそろそろ結婚までこぎつけろ」

『はあっ!?何でお前がそれを知っ「じゃあな」ちょっ、待t』

 

 そこまで言って電話を切る。するとそこに二人の女性が近づいてくる。

 

「ん?碧生?なぜここに?」

「ああ、プリトゥか。釈天に呼ばれたか?」

「ああ。中にいるか?」

「いるぞ」

「そうか。すまない」

 

 碧生が正直に答えると彼女は中へと消えていく。そしてもう一人の女性が碧生に声をかける。

 

「あ、あの、社長…。私は何で呼ばれたんでしょうか?」

「今はオフなんだ。社長と呼ぶ必要も敬語もいらないぞ、天衣(あい)。お前もスイッチ切り替わってないだろうしな」

「え…は、はい。わかりました、碧生さん」

「……まあ、いいだろう。今回は、ちょっと力を借りたくてな」

「……私のですか?それとも、」

「両方だ。お前じゃないと無理だ。お前が、適任なんだ。………手伝ってくれるか?」

「………はあ。わかりました。貴方の頼みですし、手伝います」

「ありがとう。今度なんか奢る」

 

 そして二人も店の中に入ろうとする。

 

「あ、そうだ。天衣」

「………はい?なんですか?」

「その私服、似合ってるぞ」

 

 不意にそんなことを言われた天衣は顔を真っ赤に染める。

 

「なっ!?きゅ、急に何を!!?」

「さてな。さっさと入るぞ」

 

 そんな彼女の様子を見て悪戯が成功し、カラカラと笑って店の中に入る碧生と、うるさく騒ぎ立てながら後に続く天衣。それと入れ替わりで携帯を片手に店を出ていく釈天。

 

「あん?お前もかよ」

「ああ、上杉からな」

 

 二人はすれ違う際に一言だけ言う。

 

「ん?戻ったか」

「……なぜ、碧生が関わるんだ?」

「あー、説明しなきゃいけないのか…」

 

 そういって、プリトゥに向き直り、

 

「改めて、〝青鬼〟こと館野蒼奇の転生体、深水碧生だ」

「……………………………」

「………おい、固まったぞ」

「うーん?そんなに衝撃的か、これ?」

「俺が知るか」

「ごもっともで」

「で、そっちは誰だ?」

 

 十六夜は天衣を指さして聞いてくる。

 

「彼女は三神(みかみ)天衣(あい)。俺のとこの社員研修中の従兄妹だ。彼女の力は強力だから手伝ってもらうことにした。他にも何人か候補がいたが、今回は彼女が適任だと判断した」

「………よくもまあそんな奴らが集まるもんだな」

 

 なぜか十六夜が感心している中、ドン=ブルーノが、パンプキンキッシュを五つ持ってきた。

 

「お待ちどう」

「あっ来た」

「おい、プリトゥ。正気に戻れ」

「ハッ!?す、すまない…。少しトラウマが、な…」

「………お前、何したんだよ」

「さてね、冷めないうちにさっさと食おうぜ」

 

 そういってキッシュを一つ頬張る碧生。ついでと言わんばかりに五個目、釈天の分を四等分する。

 

「………おお!これは確かに世界一といってもいいな!」

 

 そういった碧生は食べるのに集中し始める。

 十六夜とドン=ブルーノが会話して、彼が厨房に戻って少しあと、釈天が戻ってくると五つあったキッシュがほぼないことに愕然とした。

 

「お、おいちょっと待て!俺のキッシュは!?」

「美味かった」

「ご馳走様。大変美味でしたよ社長」

「気の利かない男に食わせるには勿体無いくらいにはな」

「ご、ごめんなさい…。皆さんが食べていたので、つい、食べてしまいました…」

 

 満足そうにしている深水碧生と、ヤハハと笑っている逆廻十六夜、クスクスと笑いを噛み殺すプリトゥ=マータ、本当に申し訳なさそうにする三神天衣がそこにいた。

 それを見た釈天は一頻り憤慨する。が、

 

「ひぅ………!」

 

 彼の怒声に驚き、小さく悲鳴を上げながらその目に涙を浮かべる天衣。

 

「「「あー泣かせたー」」」

「えっ!?俺のせい!?」

「「「女の子を泣かせるなんて男としてどうなのよ」」」

「ぐっ………」

 

 天衣が泣いてしまったことをしばらく三人に責められていた。もちろん碧生は自分のことを棚に上げて責めていた。

 




・深水碧生
 主人公。三人にパンプキンキッシュを一個も残さずに食べるように勧めた主犯。

・逆廻十六夜
 『問題児』の主人公。規格外。いろいろおかしい。四つに分けられたパンプキンキッシュを食べるよう勧められる以前にすでに手を出していた。

・プリトゥ
 プリトゥヴィ=マータ。釈天のところの社員。パンプキンキッシュを碧生に勧められてから食べた。

・三神天衣(みかみ あい)
 碧生のところの会社で社員研修中の従兄妹。仕事と私生活を完全に分けていてそれぞれで性格が違う。仕事ではまじめで凛々しく。私生活では若干臆病で小動物っぽい。パンプキンキッシュを勧められても最後まで渋っていた。が碧生によって無理やり食べさせられた。

・御門釈天
 帝釈天。パンプキンキッシュを奪われた人。結局は青鬼に振り回される。

・ドン=ブルーノ
 ドン=ブルーノの店主。私が密かにまた出番が来ないかなって望んでる一人。この人のキャラは好き。できれば次はマダムとセットで出てくれることを希望。

次話も一週間以内!(遅れる可能性有り)


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急襲&激怒

別作品が書きたくなったり、今作のいろいろな部分を改稿したくなったりと悶々としている作者の猫屋敷でございます。
ただの雑談ですので気にしないでくださって結構です。

では本編どうぞ!


 ―――〝アンダーウッドの舞台区画〟観客席。

 そこに碧生と指輪状態のペストがそこにいた。二人は精霊列車の出入り口付近を見つめていた。

 

「………頑張ってもらいたい、とか以前に無事に終わるかどうかだな、こりゃ」

『………そうね。どうするの?来ないように妨害するかしら?』

「………放置だ。前世の影響もあってか正史を捻じ曲げたくないと感じてる。変に介入して正史を壊すのは怖い。下手したら消される。その二つが怖い」

『………わかったわ』

「でもまあすでに大分ぶっ壊れてそうだけどな!」

『おい』

 

 突然雲行きが怪しくなってきた空を見上げ、周りに聞こえない程度の声量で呟く。

 多くの人が参加者の方を見ている中、たった一人だけ空を見ていた彼を不思議に思ったのか一人の男性が彼に声をかける。

 

「なあ、お前さん」

「ん?なんだおっさん」

「いやな、アンタだけスタート地点じゃなくて空を見上げてたからな。どうかしたのかと思ってな」

「ああ、ちょっとな。雲行きが怪しくなってきたから降り始めないうちにゲームが終わったらいいと考えていただけだ」

「そうかい?………ああ、それと」

「なんだ?」

「お前さんは参加者の兄ちゃんたちと一緒にいたはずだが、参加しなくていいのかと思ってな」

「………このゲームはあいつらが決めたもんだからな。それに水を差すようなことしたら悪いと思ったんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。それに、今日が初舞台なんだ。そんならなおさらお邪魔だろ?」

「………ハハハッ!違えねぇやっ!!」

 

 碧生の言い分に納得したのか、男性は焰たちの方に視線を向けている。

 

「………さて。あわよくば、もう一体の方も来てくれることを願おう」

 

 静かに祈るように呟く。

 それから少しして、

 

「それでは〝ヒッポカンプの水上騎手〟―――スタートなのです!」

 

 ドオオォン!!!と、銅鑼が大きな音を立てる。同時に響く開催の汽笛。それぞれが同時にスタートする。

 

「………まあ、今は観戦するとしようか。楽しまなきゃ損だ」

『そうね、そうしましょう。今から心配しても仕方ないわ。もし、なにか起きたときは―――』

 

 

「『全力で楽しむ』」

 

 

 そういって二人は微笑み、焰たち三人と白雪姫の方を見た。

 それからは静かに碧生とペストはゲームを観戦していた。焰の設計した馬車と彩鳥の技術、鈴華の能力のおかげで水神である白雪姫を相手に三人は優位に立ちまわっていた。

 彼女が姿を隠して攻撃し始めるまでは。

 

「まあ、そうなるわな」

『あの蛇はそこまで馬鹿じゃないわ。最初の方は相手の観察をして、鈴華のギフトを見抜いて対処したようね。まあ、油断もあったようだけれど……』

「お前は白雪とは仲良かったもんな」

『ハァッ!?どこがよ!?あの米派と私のどこが仲良いってのよ!?』

「そういうとこだ。俺は嫌いなやつとそこまで延々と議論するなんてできない。つまり一緒にいることができ、且つそういう風に話して喧嘩できる時点で相当仲がいいと思うが?」

『………フンッ!もう知らないッ!!』

「ハハハッ、素直じゃねえの………でもまあ、そこがお前の可愛いとこなんだがな」

 

 ツンデレ気味なペストに笑う碧生。そのあとに唐突に可愛いと言われた彼女は指輪のままだが、碧生に羞恥の感情が伝わってきた。

 そんなことを話している間にもゲームは進行し、焰たちは工業区画に突入した。

 そして、空を覆っている暗雲も、始めより色濃く、重くなっていた。

 それから少ししてのことだった。

 巨大な稲妻が〝アンダーウッド〟を襲ったのは。

 激しい雷鳴が鳴り響き、風が吹き荒れる。

 碧生を含め焰たち四人は大樹を見上げると、巨大な牛頭が視界を過ぎった。

 

「あークソッ。いいとこだったってのに」

『言ってる場合かしら?マスターと違って三人は普通の人間でしょ?』

「死なない限りはどうにでもなる。それよりも、俺が相手すべき奴も来たな」

 

 稲妻を帯びた大戦斧が三人の乗る水上馬車に投げつけられるのを横目に、大樹の外へと目を向ける。二本の斧槍を持つ巨躯の人影に向けて。

 

 

 

 

 

 逆廻十六夜、御門釈天、プリトゥ=マータ、深水碧生、三神天衣の五人は〝ドン=ブルーノ〟の店を出ると、

 

「それで、これからどうするんだ釈天。仏様の〝忉利天〟でも使わせてくれるのか?」

「いや、今回はもっと最寄りで済ませよう。四人とも乗りな」

「さすがにその車に四人はきびしいだろう。仕方ないから俺はあとから行くぞ」

「ん?来れるのか?」

「ああ、行ける。それにさっきメールでちょっと呼び出し食らってな」

 

 釈天がキッシュを食べている間に碧生は社員から一通のメールを受け取っていた。

 その内容は、『開発部がまたやらかした』だった。そのために後処理のために碧生も呼び出されたのだ。

 

「そういうわけだから先に行っててくれ」

「……お、おう。ま、またあとでな」

 

 メールの内容が碧生を怒らせるのに十分すぎるものだったのか、彼から発せられる凄まじい怒気に押されながらも三人が乗り込んだことを確認して車を発進させた。

 

「………さて、あの三馬鹿は今度は何を作りだしやがったッ!?」

 

 そんなことを叫びながらディープブルー本社に転移する。

 

「あっ!社長!お待ちしてました!」

「あの三馬鹿は今度は何をやらかした!?道具を取り上げたうえ出禁だったんじゃないのか!?」

「そのはずですが、どこからか侵入してッ!」

「クソッ。それで何があった!?」

「変なスライムです!」

「……………………………はっ?スライム?なんでまた?」

「また何かに影響されたようで、女性の服だけを溶かすスライムです!」

「……………(ブチッ)」

「(あっ、三馬鹿死んだわ)」

 

 何かが切れる音が碧生からして、その音を聞いた社員は三馬鹿に対してザマァみろと心の中で呟いた。

 碧生は無言のまま開発部の扉を開けた。

 

「おいコラァッ!!ミナカァッ!タカァッ!ムスビィッ!この変態共ォッ!!まァたやらかしやがったなァッ!!!何度思い知れば理解しやがるッ!!!!!!」

 

 中に入ると同時にスライムを大火力の炎で一瞬で灰にしながら元凶の三人、いや三柱をロックオンする。

 既に周りには避難したのか、三柱以外の人影はなかった。

 彼の存在に気づいた三柱は驚いた。

 

「なっ!?予想よりも三十分早いだと!?」

「クソッ!?なんてこった!!俺らへの対応力が上がってきてやがる!!?」

「こうなったらどうしようもねえッ!!徹底抗戦だ!!」

「「おう!!」」

 

 三柱、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)高御産巣日神(タカミムスビノカミ)神産巣日神(カミムスビノカミ)はそれぞれ碧生に対して攻撃の姿勢をとった。

 が、

 

「オラァッ!!」

「あべしッ!?」

「うわらばッ!?」

「ひでぶッ!?」

 

 どこぞの世紀末のやられキャラのような叫び声を上げながら地に沈む三柱。

 物作り専門でインドアな彼らでは戦闘大好きでアウトドアな碧生に敵うはずもなかった。

 別天津神(ことあまつかみ)造化の三神(ぞうかのさんじん)として名高い三柱だが、物作りは出来ても戦闘はからっきしだった。

 碧生に一発ずつ殴られた三柱は目の前で正座していた。

 

「さあ、言い分を聞こうかぁ!?」

「「「ノリで作った。反省も後悔もしていない」」」

「よーし!ギルティ!!こいつらをしばらく拘束して閉じ込めとけ!!」

『『『イー!』』』

「「「うわなにをするやめr」」」

 

 どこからともなくAMTが現れて三柱を連行していった。

 AMTは今回三柱の行いはアザトースの害になると思ったのか、既に被害が出たかしたのだろう。そのため快く協力してくれているようだ。

 

「ったく。懲りない奴らだ」

 

 碧生がそんなことを言っていると、服の裾をギュッと掴まれた。それに気づいた碧生はそちらに顔を向けると、

 

「………(ふるふる)」

「……………………………はい?」

 

 アザが震えながら碧生のことを見上げていた。

 AMTが協力してくれたのはこれが原因だろうと碧生は瞬時に考えた。

 

「………怖かった(ふるふる)」

「そ、そうか…(俺はお前の真の姿の方が怖いとは言えない……言ったら絶対AMTに狩られる……)」

 

 碧生は内心そんなことを思っていた。

 現に二人の周りはAMTが包囲していた。

 

「それなら、しばらくは誰かと一緒にいるといい。それなら安心だろう」

 

 彼がそう言った瞬間、周囲にいたAMTが、

 

『『『イーイーイーッ!イーイーイーッ!!(あいこでしょッ!あいこでしょッ!!)』』』

「………(こいつらいつまでショ○カーみたいにイーイー言ってんだろ…?いっそのこと開発部の人間に変身ベルトでも作らせてみようか………?)」

 

 ジャンケンを始めた。おそらく誰がアザの面倒を見るかのものだろう。

 しばらく黒尽くめの集団のジャンケンは決着がつかずに続いたが、ようやく一人の人物が勝ち残り二人のそばに来る。その一人以外は絶望に打ち拉がれて両手と両膝を床につけて暗い雰囲気を醸し出していた。

 

「イーッ!」

「ほら、アザ。こいつがしばらく一緒にいてくれるってさ」

「………や、碧生がいい」

「………orz」

「あちゃー………」

 

 アザは碧生の後ろに隠れながらそんな言葉を発した。

 彼女に、自身の崇拝している人物に拒否され、その言葉が思いっきり心に刺さったようで最後の一人も絶望に、いや他の奴らよりもさらに深い絶望に包まれていた。

 それを見かねた周りのAMTがフォローに回っていた。

 

「………あー、結局、俺はどうすればいいんだ?」

「………(ギュッ)」

 

 碧生はそんな光景をどうすればよいかわかりかねていた。

 そんな中一人がそばに来て、言った。

 

「イーッ……(アザトース様をお願いします……)」

「………………………うん。なに言ってるか全然わかんないけど、とりあえずこっちで面倒見るわ」

 

 それを聞いたAMTは満足して例の一人のフォローに向かった。

 その様子を見届けた碧生はアザを抱き上げて、開発室を出た。

 

「あの、大丈夫でしたか?」

「ああ。だが、なぜこんな大事になっている?アザはともかくとして、月夜見や天照、伊邪那岐もヨグもいたはずだろう。それに俺だって社長室にいたはずだ」

「はじめはみなさん迎撃していたのですが、決定打にかけたり、女性ということもあって戦線を離脱してしまい…その………。社長は『どうせ俺がどうにかする。それなら俺たちは書類整理と事後処理に徹しよう』と………」

「いや、わかった。ひとまずはいい。それよりも被害は?」

「開発室にいた女性数名が被害にあいました。他にも迎撃した天照様を含む女神数柱が被害に…」

「………神すらも相手どれるもんを作り出してんじゃねえよ、あの馬鹿ども…。わかった。その被害者には特別手当を出しとくように」

「はい。もちろんです。………それで、あの三馬鹿はどうしますか?」

「継続してしばらくは開発室には出禁だ。期間は延長。そのうえで個人的な開発も禁止しろ。あいつらが開発を行うときは俺がそう指示したときだけだ。それに二十四時間体制で監視を」

「わかりました。そのように全社員に通達しておきます」

「助かる。俺はアザを連れて社内をふらつく。一応社長室にも俺がいるはずだし、なんかあればそっちを頼れ」

「………他にも用事があるのでは?」

「ああ。それはそうだが、アザが離れないから仕方ない。そっちの用事はもう一人呼び出して向かわせるさ」

 

 そういってスライムを焼き尽くした後の灰を綺麗に消し去る。

 

「………これでいいか。それじゃあ他の後処理は頼んだ」

「はい。ご苦労様です、社長」

 

 そしてすぐに碧生は自身をもう一人呼び出して十六夜たちの下に転移させた。

 自分はアザトースの相手に徹することができるように。

 下手に離れて癇癪でも起こされたらたまったものではないのだから。




・深水碧生
 主人公。箱庭では特に何もせず観客席でボーッとしていた。会社の方の二人は書類整理。最後の一人は三馬鹿の捕縛後アザのお守。増えた一人は十六夜たちと合流する模様。

・ペスト
 碧生の召喚獣。姿を見せず声だけの存在、それがペスト(嘘)。だが、外から見れば碧生は一人でブツブツ喋っているように見える←危険。

・逆廻十六夜
 問題児。特になし。

・御門釈天
 運転手。同上。

・プリトゥ
 特になし。マジで書くことがない………さて、どうしようか?

・三神天衣
 碧生の会社の研修社員。従兄妹。仕事モードの時は会社の異常性はへっちゃらだが、私事に切り替わると対応できずに混乱して気絶する。

・一般社員
 逸般社員。まあ、こんな異常な会社で働いてる時点で普通なわけがないよね!なお佐藤君は(ry

・スライム
 神工生命体。ネロではない。ピンク色。三馬鹿が作り出した。数名の女性と数柱の女神が被害にあった模様。サービスシーン?知りません。脳内補完でお願いします。

・AMTの皆さん
 アザトース信者(ロリコン)。大半がクトゥルフの名状しがたき存在だが、一部人間の社員(逸般)も加入している。

・アザトース
 ロリ。なお、幼女ではない(本人談)。総帥。言葉では言い表せないほどの何か。だが可愛い。余談だがファンクラブの加入者が後を絶えないらしい。


・天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)
 開発部三馬鹿のリーダー的存在。この作品では男。しょっちゅう勝手に変なものを作っては碧生に見つかって怒鳴られている。だが、指示されて作り出すものは想像以上の出来で必ず作り出し、そのうえで趣旨から大きく外れない。ただ開発の方向性とかで他の二柱ともめる。ロボットを作るならばドリル派。

・高御産巣日神(タカミムスビノカミ)
 開発部三馬鹿の脱獄担当。この作品では男。同上。ロケットパンチ派

・神産巣日神(カミムスビノカミ)
 開発部三馬鹿の潜入担当。この作品では男。同上。複数合体派。


 次は一週間以内に上げられれば良い方。
 それと前書きの宣言(?)通り、今作の前半部分を一人称から三人称へと改稿し、後半の方が思いつき突っ走ってますので前半部分の矛盾部分を改善していきたいと思います。
 その関係で投稿が遅れたらごめんなさいm(_ _)m。


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救助&防衛

10月29日に『紹介&説明』の改稿が完了しました。


 ―――〝アンダーウッド〟工業区画・第二製鉄場。

 異変をいち早く察した碧生は焰たちの近くに転移する。

 

『どうするのかしら?』

「焰たちを囮に誘き出す。俺らの相手は星獣と正体が一緒だからか思考もまとめて存在ごとゲームに組み込まれてる。そのせいか、おかげと言えばいいのか、参加者の焰を狙うようにされてる」

『……彼はやっぱりマスターと()()()()()()アステリオスなの?』

「そうだ。とはいえ、箱庭とは関係のない別物だがな」

 

 今回焰たちを襲った怪牛のうち、一体は碧生が蒼奇だったころの召喚獣だ。なぜ契約が切れて理性を失っているのかは彼も把握できていない。

 こんな風に身を潜めて話してる間にも住人たちはミノタウロスにバリスタを打ち込んでいく。このような非常事態にすぐに行動して実行できるのはさすがと言えるだろう。

 

「あークソ。こんなことになるんだったらアイツに契約書物を預けなきゃよかったか?もっと別の奴に頼みゃよかった」

『そんなこと言ってる場合?ほら来てるわよ』

 

 ミノタウロスが攻撃されている間に蒼奇のミノタウロスが二本の斧槍で一部のバリスタに攻撃を仕掛けようとしていた。

 それを確認した碧生はミノタウロスの正面に転移して、

 

「召喚、【青鬼の巨腕(ブルーベリー・アームズ)】」

 

 青鬼の腕を部分召喚する。すると何もないところから青い大きな腕が生えて怪牛を殴り飛ばした。そしてその場にいた一人に話しかける。

 

「おい、平気か?」

「あ、ああ!」

「ならさっき攻撃していたほうだけを警戒してろ。今の奴は俺が抑える」

 

 返事も聞かずにすぐに飛んで行った方向へと転移する。

 しかし、そこには姿は見えなかった。

 

「………チッ、逃げたか」

『そうみたいね。思ったより厄介ね。彼の〝霊体化〟は。敵わないと思ったらすぐに消えたようよ』

「それについては手がないわけじゃない。のんびりやろう。それよりもう一体が気になる。一応出ておいてくれ」

『………?姿を晒していいのかしら?』

「フード付きのコートがあるだろ。それ身に着けた状態で来い」

『わかったわ』

 

 碧生はペストに出て来てもらう。そして顔が見えないことを確認すると魔術を重ね掛けして存在を隠蔽する。これで派手なことをしない限りは他者に認識されることはないだろう。

 

「行くぞ」

「ええ」

 

 短いやり取りをしてもう一体のミノタウロスの方へと転移した。

 

「なッ!?どこから出てきたんですか!?」

「ん?……ああ、彩鳥か。………まあ、気にしなさんなって。今はあれだ」

 

 そういって向かってくるミノタウロスを指さす。

 

「………後でしっかり説明してもらいますよ!」

「黙秘権を行使しまーす」

 

 そうしてふざけている中、遥か上空で雷鳴を轟かせる雷雲が渦を巻き始め、大樹の枝葉が散るほどの雨風が吹き始めた。

 

「これは………いけない!ポロロ様、今すぐ水上都市に避難勧告を出してください!!」

「それならもう出してる!洪水が起こらないように防波堤の「そんなもん無駄だ。んな危険なことするよりも避難を優先させろ。さもなきゃ大勢が死ぬぞ」なに?」

「俺もできる限り対処はするが、しきれない可能性もある。わかったらさっさとするんだな」

 

 碧生はそう伝えると雷雲を睨み付ける。ミノタウロスも同じように雷雲を睨み付けると郊外へと姿を消した。

 

「ペスト。頼む」

「わかったわ」

「えっ?ぺ、ペストさん?」

「最初の半分だけやれ。それ以降は住人の避難をやれ。いいな?」

「任されたわ」

 

 端的にやり取りを終わらせた二人は二手に分かれてこれから起こることへの準備を始める。

 

「召喚、【青鬼の巨腕】」

 

 青鬼の腕を二十対、計四十本を召喚して周辺に配置する。

 それから目を閉じ、感覚を集中させて攻撃に備える。

 その感覚は〝アンダーウッド〟全域を網羅していた。

 研ぎ澄まされた感覚からは極僅かな必要のあるもの、そして圧倒的に大量の必要のない情報が流入してくる。

 人々の焦り、混乱、恐怖。その逆の勇気、使命感、正義感。息遣いや動作。一人一人がどこへ向かっているか、歩幅、速度なども手に取るようにわかってしまう。

 そこから必要な情報、怪牛による攻撃の情報だけを汲み取り、予測する。

 

 そして、

 

「―――――ッ!!」

 

 降り注ぐ落雷に対して、腕を即座に転移させて水上都市に落ちないように遮る。一つで防ぎきれない場合はさらに一つ二つと腕を追加する。

 その結果、初めの二十四の落雷の内、十四の落雷を三十数本の腕で防ぎ切る。

 残った腕は住人を助けるために駆け巡らせる。

 足りなければさらに呼び出して助けるために忙しなく動かした。

 大河に吞まれれば掬い上げ、稲妻に狙われれば腕が身を挺して庇い、倒壊した家屋に押し潰されようとしているならばその者の盾となった。

 自身の脳の処理能力を超えようとも腕を増やし続け、操作した。

 

「………さすがにずっとは厳しいな。避難が完了したら気を見計らって下がらないとな」

『マスター』

 

 ぼんやりとそんなことを考えているとペストから念話が来た。

 

「どうした?弱音か?」

『違うわよ!住人の避難がまだまだかかりそうってことを言いたいのよ』

「………はぁ。了解。何とか持ちこたえてみせようか。そっちは全然平気か?」

『ええ。問題ないわ。なさ過ぎて避難誘導を手伝っているくらいよ』

「わかった。腕の数を何とか増やしてみよう。だからそっちは片手間で落雷の対処を。住人の避難と救助を優先してくれ」

『わかったわ』

 

 碧生は念話が切れると軽く伸びをしてから腕をさらに追加で二十対呼び出す。

 

「さあて、正念場だ。男の意地を見せてやろうじゃねえか!」

 

 そう意気込んだ。

 そのあとすぐにその決意が挫けるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ、多過ぎ。無理無理無理無理ッ!」

「嘘ッだろ!?変則的すぎるだろ!?腕を躱してんじゃねえよ!!落雷ならまっすぐ落ちろよ!!?」

「一時間以上経ってるけど避難まだァ!?」

『あと二、三時間ってところかしら?』

「長すぎィ!!」

「何も考えられねえよぉ!!」

「まだぁ!?」

『それ五分前も言ってたわよ?』

「長いよぉ!!」

「ちょっ!?今頭の中でなんかがブチッって、ブチッて言ったんだが!?」

『大丈夫よ。マスターは死なないから』

「いやそれでも目や鼻や耳から血が止まんねえよ!!?」

『あら?弱音かしら?』

「……………………………………………(ブチッ)上等だテメェ!!そこまで言うならやってやろうじゃねえかァッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、碧生が奮闘すること三時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター。もういいわよ』

「……………………………………………」

『へんじがない。ただのしかばねのようだ』

「生き、てる………。頭がショートしそうだけどな………。いや、多分ところどころショートしてる………現在鋭意修復中………。安全地帯までの回収を求む……………」

 

 避難が完了したとペストから念話が届くころには地面と仲良くしていた。

 だが、その顔は微かにだったが、確かに笑みが浮かんでいるように見えた。




・深水碧生
 魔術師(召喚魔術師)。青鬼(マッチョ)の腕を召喚して落雷をすべて受け止め切った。代償としては脳が焼き切れただけで済んだ。………死なないよ?

・ペスト
 召喚獣。住人の避難誘導を行いつつ救助もしていた。ぐう有能。

・久藤彩鳥
 特に出番がなかった。うん、なかった。今回の主な登場人物は上記二人だね。

・黒ウサギ
 今回出番がほとんどなかったみんなのストッパー、黒ウサギ。セリフも少なかった。

・ポロロ
 黒ウサギよりもさらにセリフの少なかったポロロ君。ごめんね、出しづらいんだ、ホント。

・アステリオス
 ミノタウロス。元ネタもしくはモデルはFateのアステリオス。二本の斧槍を武器として所持。なお、英霊ではなく生きてます。………生身で生きてます。その説明はいずれ本編で。


 えー、次話は一週間前後を予定してます。
 あと、ラストエンブリオ二巻まで投稿した時点で原作最新刊が出ていなかった場合、一旦本編の更新を停止します。単純に原作不足です。ごめんなさい。
 その代わりとは言って何ですが、番外編を投稿しようかと。
 まあ、内容についてはいくつかあるんですが詳細は活動報告の方にアンケートを作っておきますので、良ければご意見ください。



 追い付く前に原作が出てたら没か同時投稿ですね………。


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頭痛&風呂

「あー………なんとか治せたけど、それでもまだ頭いてぇ………。酷使し過ぎたかなぁ………」

 

 頭を押さえながら大樹の中を歩く碧生。

 彼はつい先ほど破裂した脳の血管の修復が完了したのだ。だがそれでも未だに痛みが消えずにその体はふらついている。

 そこへ住人の避難誘導を終えたペストが合流する。

 

「お疲れ様。マスター」

「ペストもお疲れー………。指輪に戻っといてー………」

 

 彼女は指輪の状態に戻って碧生の中指に嵌まる。

 

「いやーお疲れ様だぜ。青鬼の旦那」

「んあー?あーポロロかー………。まあバレてるよなー」

「おう。それにしてもいつ戻ってきたんだ?それに死んだと聞いていたが」

「死んだよ。完璧にな。だが、こっちだってまさか転生させられるとは思っちゃいねえよ」

「………なんか事情がありそうだな」

「おうよ。詳しくは聞かないでくれ。思い出したくもねぇ。それでわざわざ労いに来たわけじゃねえだろ。どこに行こうとしてたんだ?」

「ちょっと西郷焰に話を聞きにな。青鬼もついてくるか?」

「それならお願いするよ。それと深水碧生だから、今はそっちで呼んでくれ」

「そりゃ失礼した。んじゃこっちだ。病室のどれかにいるはずだからな。あ、それと」

 

 ポロロは前に向けていた体をこちらに向けて、

 

「アンタのおかげで多くの住人が助かった。ありがとう」

 

 あれ?それって最初に言うことじゃね?という言葉は空気を読んで飲み込む碧生。

 それだけ告げて再び先導するポロロ。碧生は頭を押さえながらもそれに追従する。

 いくつかの病室を回り声をかけた。そして病室の一室に入って声を上げる。

 

「失礼。この中に西郷焰はいるか?」

「…?此処にいるぞ」

 

 焰が顔を出す。ポロロは即座に真剣な顔で彼を見た。

 

「そうか。ならすぐに来てくれ。今回のゲームについて話を聞きたい」

「分かった。彩鳥は鈴華を見ていてくれ。もう安定しているから、目を覚ましたら汗でも流してこい。お前も濡れたままじゃ不味いだろ?碧生も頼んだ」

「は、はい」

「了解。目を覚ますまでは一緒にいよう」

 

 そして、焰はポロロについていき、病室を出ていった。

 

「「………」」

 

 そして、二人になった碧生と彩鳥―――周りには他にも怪我人や鈴華もいるが―――はしばらく見つめあう。

 

「館野蒼奇、なんですよね?」

「正しくは前世は、だな。ペスト、出て来い」

「はーい」

 

 そういってペストを出す。

 

「貴方も私と同じように転生していたんですね」

「お前とは全く違う方法と理由でだがな。仮面の騎士」

「………そ、それはやめてください。さすがに恥ずかしいので………。で、ですがなぜ貴方がペストと?彼女はジン=ラッセルと一緒にいるのでは?」

「「………………ん?」」

 

 碧生とペストが首をかしげ、顔を見合わせる。

 

「いや。俺とペストはずっと………んー、ああ、いや。そういうことか」

「ちょっとマスター。どういうことよ?」

「これがズレだろうよ」

「………ああ、そういうこと」

「ちょっと?二人で納得していないで説明を—――」

 

 彩鳥がそこまで言いかけて病室にポロロが慌てて駆け込んでくる。

 

「おい!青、じゃない!深水碧生!ちょっと来い!」

「……ということで、詳しくはペストから聞いてくれ」

「さっさとしろ!」

 

 そういって碧生が説明をペストに丸投げして病室を駆け足で出ていく。そこにはポロロと焰がいた。

 

「どうしたんだよ、ポロロに焰」

「女王が焰と共にご指名だ。すぐに身支度を整えろ」

「………ああ。なるほど。ならまずは風呂か?」

「案内する!」

「場所を教えろ。跳ぶから」

「……ああ、わかった。浴場は貴賓室の近くだ」

 

 それを聞いた瞬間に三人は大浴場の前にいた。

 

「………は?」

「ほら。呆けてねえでさっさと動け。時間は少ないぞ」

 

 突然目の前の景色が変わったことに驚く焰。いや、以前から似た感覚は知っていた。鈴華の物体転移でだ。

 しかし、転移を碧生が行ったことに驚いたのだ。

 だが、それも二人に急かされて考える暇はなかった。

 

 

 

 

 

 ―――〝アンダーウッド〟葉翠の間・大浴場。

目を覚ました鈴華は、脇腹の傷が綺麗に治っていたことを知って驚きを隠せずにいた。

 

「うっそ………絶対に死んだと思ってたよ、私。恩恵って凄いんだね!」

「え、ええ………ですが鈴華。本当になんともないのですか?」

「いやあ、本当に元気元気!ちょっと血が足りないかと思ったけど、それもすぐ治っちゃった!」

 

 不安そうに問いかける彩鳥に対し、両腕を振って健康を誇示する鈴華。

 

「そう。それならよかったわ」

 

 そこでようやく声をかけるペスト。彼女の存在に気づいた鈴華はまた驚く。

 彩鳥はペストのことをどう説明しようかと迷いながらも説明しようとする。

 

「あっ、彼女は、その―――」

「えっ、あれ?あなたは碧生の秘書の………何でここにいるの?」

 

 言葉に詰まりながらも説明しようとしたが、途中で言葉を発した鈴華によって遮られた。

 そして、その彼女の言葉に驚きを隠せないようだった。

 

「………知っているのですか、鈴華」

「えっ。う、うん。碧生と一緒にいるのをたまに見かけるぐらいだけど………」

「そうね。そんな時もあったかしら。まあ、その話はお風呂にでも浸かりながらゆっくりしましょう。さっきの避難誘導で汗をかいてしまって気持ち悪いのよ」

 

 そう促され三人は大樹の大浴場へと足を運んだ。

 大樹を刳り貫き作られたつなぎ目の存在しない大浴場。

 そんな不思議な大浴場に向かっていた彩里鈴華と久藤彩鳥とペスト、そして黒ウサギと案内人のシャロロ=ガンダックは、示し合わせたように脱衣場で鉢合わせした。

 

「おお!黒ウサと………ネコミミさん?」

「にゃはは、シャロロ=ガンダックっすよ異邦人さん。さっきはミノタウロスに立ち向かってくれてありがとうございました。私らだけじゃどうにもならなかったところです」

 

 ネコミミを伏せて頭も下げるシャロロ。そしてすぐに上げたかと思うとペストの方に視線を向ける

 

「………それと、そっちの方もありがとうございました」

「………私は、当然のことをしたまでよ。それにマスターからの命令もあったことだしね。それでも街に多大な被害を出してしまったし………」

「いえいえ、住民を助けていただいただけでも十分っすよ!あなた方のおかげで負傷者こそ多くいましたが奇跡的に死者はいませんでしたし!」

「………そういってもらえるとこっちも報われるわ、シャロロ」

 

 必死にお礼を言う彼女に表情を柔らかくするペスト。

 その後、服を脱ぎながら談笑に花を咲かせる。

 途中、彩鳥がシャロロに襲われる事態が発生したが、大浴場を楽しんでいた。

 

「あの………ペストさん、でございますよね?」

 

 五人が湯殿に浸かっていると黒ウサギがペストへと話しかける。

 

「ええ、そうよ。体は少し成長しているけれど、私はまぎれもなくペストよ」

「そ、そうですよね………。ですがなぜここに?ペストさんはジン坊ちゃんと一緒にいるのでは?」

「………そうね。………どういえばいいのかしら………」

 

 ペストは少し目を閉じて考え始める。しかしそうしていたのはごく短い時間で、すぐに目を開き話し始めた。

 

「まず結論から言うと、現在箱庭にはペストが二人いるはずよ」

「「「えっ?」」」

 

 それを聞いた三人が素っ頓狂な声を上げる。鈴華はペストのことを知らないので、あまり話を飲み込めていない。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!それって一体———」

「それをこれから説明するのよ。質問なら終わった後にしてほしいわ。こっちもどう話せばいいのかわからないのだから………」

 

 困惑している四人に対して、困ったような表情で答えるペスト。

 そういわれた四人は一先ずは疑問を飲み込み、彼女の言葉に耳を傾け始めた。

 

「………少しややこしい言い回しになるかもしれないけれど、そこらへんは勘弁してほしいわ。さっき現在箱庭には二人、ペストと呼ばれる存在がいるといったわね。そして今、ジンが従えているペストがある意味では本物なのでしょうね」

「「「「………?」」」」

 

 四人の頭に疑問符が浮かぶが先ほどの前置きがあってか質問するものはだれ一人いなかった。

 

「いま此処に居る私は、館野蒼奇の()()()()()()()()()()()ペストよ。もちろん人格や記憶も完璧に再現されているわ」

「「………っ!?」」

「………」

「………?」

 

 館野蒼奇を知っているシャロロと黒ウサギの二人は驚き、息をのむ。彩鳥は納得がいったという風に目を閉じていた。だが、一方でかの人外、館野蒼奇という存在を知らない鈴華は首をかしげていた。

 ペストは、たった今そのように話を()()()()()。その方が納得させられると思ったからだ。

 なにせあの規格外な人外だ。それならばやりかねないし不可能ではないはずだ、と知っている人なら大抵の者は納得してしまうだろう。

 ならば、そういうことにしてしまおうと考えて他者にもそう信じてもらうことにした。

 

「ただ、こういう風に体が成長したりと差異はあるけれどね。………さて、一先ずはここで話を切りましょうか。質問はあるかしら?」

「………蒼奇さんは生きているのでございますか?」

 

 黒ウサギが震える声で尋ねてきた。

 

「いえ、死んだわ。一度は完璧にね」

「………」

「でも、あなたもそろそろ察しがついているんでしょう、黒ウサギ?」

「………やっぱり、碧生さんが蒼奇さんなんでございますか?ですがあの人は黒ウサギとは会ったことがないと―――」

「あら、事実よ?」

「えっ?」

「私だってあなたみたいなロリウサギは知らないもの。私が知っているのはスタイルの良い黒ウサギであって、そんなに色々なところが小さいロリウサギではないもの」

「屁理屈でございますよッ!?ていうかロリウサギって何でございますかッ!?」

「でも、マスターもおそらく同じ思考よ?頭の中ではきっとそう呼んでいると思うわ」

 

 ギャーギャーとうるさくペストに詰め寄る黒ウサギ。詰め寄られながらもクスクスと笑いながら受け流しているペスト。そんな二人を面白そうに傍から眺める三人がそこにはいた。

 その後五人は大浴場をゆっくりと満喫したのだった。

 ただ一人、騒いでいた黒ウサギは逆上せかけたところを救い上げられていたが。




・深水碧生
 頭の中身がパンクした。迎撃終了直後は顔が血だらけだったが、鬱陶しくてすぐに魔術で水を生み出して洗い流した。前世が館野蒼奇であることをカミングアウト。ついでに女王からお呼ばれした。

・ペスト
 住人の避難を手伝い奇跡的に死者数を0人にした功労者。若干マスターである碧生に似はじめてきた。そのうえポーカーフェイスや嘘はお手の物。質が悪い。バレへんバレへん。

・ポロロ
 偉くて賢い猫人。信頼できる人物。

・西郷焰
 女王からのお呼び出しを受けた人。

・久藤彩鳥
 仮面の騎士。生まれ変わって前世の恥ずかしさを知った人。これからはそれをネタに揶揄わられるでしょうね!

・彩里鈴華
 大怪我をしたけどどうにかなった人。結構やばかったみたいだけどよくわからない。

・シャロロ=ガンダック
 猫妻。碧生とペストに超感謝。それよりも果たして夫は一体誰なんでしょうねぇ?

・黒ウサギ
 ロリになったことをネタに揶揄わられるウサ耳ロリ。そして逆上せかける。仕方ないよね!変化しすぎなんだからッ!


 次話は一週間以内に。
 活動報告でアンケート実施中です。


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女王&原因

 外の嵐は静まる気配がなく、いまだに轟々と風が吹きすさんでいた。こんな中でも怪牛が仕掛けてこないのはこの大樹を守る絶対的な実力者が存在しているからだ。

 水上都市の地下水脈にある隠し通路を焰と碧生は歩く。

 

「なあ、こっちで合ってるんだよな?」

「ああ。間違ってない。まあ、まだ少し歩くが」

 

 この洞穴をまっすぐ進めば、断崖絶壁に流れる大瀑布の裏側に到達するという。その脇にある扉を開けば、其処が謁見の間という話だ。

 だがそれでもこれほど長々と続く道を歩き続けていると、本当にこの道で合っているのか不安になってきた焰は隣にいる碧生に合っているのかを尋ねていた。

 二人はそれから一〇分ほど歩いてようやく辿り着いた。

 

「………」

「………三分オーバー、か。もう夕日は赤くなり始めてるな」

 

 苦言を口にしながら扉に手をかける。ポロロや碧生たちが時間のない中で急いで準備をしたが、女王との待ち合わせの時間には間に合わなかった。

「生きて帰りたかったら逆らうな」と言っていたが、元の世界に戻れないならここまで来た意味がない。とはいえそれと一緒に「まあ深水碧生がいれば大丈夫だろう」とも言われたが、焰にはその言葉の真意はわからなかった。

 焰は豪奢な扉に手をかける。薄暗い中で際立って光るその扉を開いた途端、二人の視界は太陽の光に包まれた。

 

「………は、」

 

 焰は眩しい光を浴びて目を疑う。その理由は洞穴の扉は〝アンダーウッド〟とは全く違う場所に繫がっていたからだ。一方の碧生はというと、その変化に戸惑うこともなく扉を潜り抜け中へと進んでいく。

 焰も彼に続いて中へと進む。

 燦々とした太陽。その光を当てられ、焰は天を見上げる。

 その場所は白亜の城の中庭。

 四方には春夏秋冬の花々が綺麗に分け隔てられた花壇。中央に繋がる大理石の石畳は踏み荒らすのが勿体無いと思うほど美しく磨き上げられていた。

 しかし、碧生はまるで気にした様子もなくその綺麗な石畳をずかずかと踏みつけて中央へと向かって進んでいく。

 逆に焰はこの光景に警戒心を顕にしてなかなか進めずにいた。そんな彼を見かねたのか、碧生は足を止めて首だけ振り向かせて声をかける。

 

「おい、さっさと来い。別に取って食われるわけでもねえんだし、安心して入って来いよ」

「あ、ああ………」

 

 そのように言われ、恐怖に駆られながらも慎重に一歩、大理石の石畳に足を踏み入れる。すると碧生が歩いた時には何の変化もなかった花壇の花弁の色が一変した。

 碧生は焰が部屋に足を踏み入れたのを確認すると中庭の中心。ヴェールに包まれた場所の手前まで進んでいき、立ち止まる。そして花弁の色の変化に驚き足を止めてしまっていた焰も少し遅れてヴェールの手前まで辿り着く。

 焰は碧生の顔を窺うように見つめるが、彼の目は早くしろと急かすような目で焰のことを見ていた。彼は心底、焰の手伝いをする気がない様子だった。

 それを悟った焰は意を決してヴェールを勢いよく捲りあげた。

 すると扉が開いた。

 木彫りの扉の先には暖かな暖炉と寝室用のベッド。そして客人を招く為のティーセットを用意した円形のテーブル。

 焰は驚き後ろを振り向いて今しがた入ってきたドアを確認しているが、碧生は気にせずベッドへと腰かける。その二つの目はまっすぐ焰を見つめていた。

 さあ次はどうする、と。

 碧生は内心この状況を楽しんでいた。焰が無事に女王と謁見できるのか、自分ではどうにもならないと判断し頼ってくるのか、それとも失敗して彷徨い続けるか、女王が飽きるまでやらされるのか、など。

 彼は表にこそ出さないが、焰の行動を見て、楽しんでいる。

 そうやって観察している間にも焰は思考を張り巡らせている。最初のころは碧生に頼ろうかとも考えたが、彼の様子を見て手を貸してくれそうもなかったので、早々にその考えは頭の中から排除された。

 彼は少しの間、目の前にある二つの扉を睨み付けるように見ていたが、突然部屋を見まわし始めた。そして近くにあった古時計に視線を移す。しばらくその時計を観察してたが、何かに気づき時計に近づいていった。

 焰のそんな様子を少し感嘆しながら見ていた碧生。ここの仕掛けに気づけるかどうかが気がかりだったが、ここまでくればどうにかなりそうだと。

 そんな碧生の内心を読み取ったかのように古時計の長針を一分、また一分と戻していき、計三分を戻し十二時の位置に合わせる。

 そして、

 

「———いらっしゃい、西郷焰、深水碧生」

 

 

 

 

 

 声が響いた。その声が聞こえたのは、焰も予想していなかった―――

 

「ええいッ!毎度毎度俺の背後に現れて抱き着くんじゃないッ!」

 

 ———碧生の後ろからだった。

 

「えー。減るもんじゃないしいいじゃない」

「そんなんだからお前の相手は面倒なんだッ!!」

 

 碧生の背後に突如として現れる人の気配。

 焰はそちらの方に勢いよく振り返る。おそらくあの女性が女王でいいのだろうと本能的に理解させられた。

 しかし、その行動はとても女王と呼ばれるには似つかわしくない行動だった。

 だが、そのような姿を見ても焰は硬直したまま動けずにいた。

 そんな彼の様子に気が付いた女王と騒いでいた碧生は溜息をつきながらも声をかける。

 

()()()()()()()()()

「いやそのセリフは大丈夫じゃないやつだからッ!?………って、あれ?」

 

 焰は碧生のセリフに対してツッコミを入れるが、入れてから自身の身体が硬直から脱し、鼓動もだんだんと治まりを見せて始めていたことに気が付いた。

 何が起きたのか理解が追い付いていない焰に対して碧生が説明する。

 

「ちょっと魔術で精神を弄くった。それで女王とも普通に話せるだろうよ」

「あ、ああ………悪い」

「別にいい。つかクイーン。さっさと離れて席に座ってくれ」

「……………………………………………………………………………………まあいいわ」

「今の間はなんだ。今の間は」

 

 碧生と女王の軽口をたたいている光景を信じられないといった様子で眺める焰。

 碧生の文句を聞き流して悠々とテーブルの席に着く女王。それとほぼ同時に碧生の顔面めがけてグレープ色の何かが高速で飛来した。

 

「ヘブッ!?」

「ちょッ!?碧生!?」

 

 その物体は勢いのまま碧生の顔面に直撃した。碧生はその勢いに負けて背中からベッドに倒れこむ。

 碧生はもがきながらも顔面に張り付いた紫色の物体を引きはがしつつ体を起こして膝の上にその物体を置くと落ち着いた優しい声色で話しかけ始める。

 

「おー!久しぶりだな、ネロ!」

「………ッ!!」

 

 ピョンピョンと膝の上で嬉しそうに跳ねるスライムのネロ。そんな様子を見て頬を緩める碧生。そして再び理解が追い付かない焰。

 

「もしかして、クイーンが見つけて保護していてくれたのか?」

「いえ。その子は影の世界でこれと一緒に彷徨っていたところをスカハサが保護したのよ。だからお礼は彼女に言いなさい」

「あー、影の中にぶち込んだままだったからな。………で『これ』って?」

「この本よ」

 

 そういって女王はテーブルの上に一冊の古びた本を置く。それを見た碧生は目を見開く。

 

「………〝契約書本〟もか?それは………ありがとうと言うべきなんだろうが………」

「………?何かあったかしら?」

「いや、まあ………」

 

 それが回収されていることが原因で今回のゲームをややこしくなっているんだが、とはとても言えずに碧生は言葉を濁しつつも女王から本を受け取る。そして、すぐにネロを膝に乗せたまま本を開きパラパラとページを捲り始める。

 そして、本の中身に没頭し始める………前に焰が呆然と突っ立っているのに気が付き声をかける。

 

「あっ、焰も突っ立ってないで早く座ったらどうだ?」

「そうね。同席を許可するから座ったらどう?」

「え?あ、ああ」

 

 そう二人に促されてようやく席に座る焰。

 

「しばらくは二人で話しててくれ。俺は至急確認しないといけないことができた」

 

 そう伝えると契約書本の中身を確認し始めた。召喚獣としての契約を結んでいたはずのミノタウロスことアステリオスが契約の切れた状態で、しかも魔獣としての本能を剝き出しにして現れているのだ。他の召喚獣も契約が切れてどこかに行ってしまっているのではないかと考えたのだ。

 焰と女王が談笑している間にそれらを確認してしまおうと思い立ち、それらを確認するためにページの欠損や白紙となっている部分を探し始める。




・深水碧生
 前世では女王を揶揄う側だったが、今世では揶揄われることも増えている。手元に召喚魔術を簡略化した〝契約書本〟が戻ってきてようやく召喚士(仮)から召喚士に戻った。前世じゃ〝盟友召喚〟があったために出番がなかった。

・西郷焰
 おっかなびっくり進んでいく。警戒しているのは主に女王の悪評とポロロの脅しのせいだと私は思う。

・クイーン・ハロウィン
 女王。彩鳥の前世、フェイスレスのときの主。箱庭三大問題児の一角。蒼奇(碧生)と仲がいい。前世でも今世でも一緒にお茶をする程度には交流がある。


 次も一週間以内か後に投稿予定!
 テストとレポートに忙しい日々の中頑張ります!
 それと次で原作一巻は終了です!
 ついでに活動報告でアンケート実施中です!
 今のところ返信も来てないので二巻までが終了してプロットが出来上がるまでは改稿作業にでも専念しようかとも考えてます。


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願望&娯楽

 どうも。インフルに倒れた作者の猫屋敷の召使いです………。
 熱があるからまさかと思って病院行ったらA型ですねって言われましたよ………。

 皆さんも病気に、特にこの時期はインフルも流行ってますから気を付けてください。
 それでは本編です。




 のどがつらいよぉ………。


 焰と女王が談話している最中、碧生はネロを膝に乗せたまま本の中の召喚獣たちを確認していく。

 そして、彼の予想通りアステリオス以外にも何体もの召喚獣が契約が切れて解放されているのを確認した。

 そのことを理解すると頭を抱える。深水碧生の、もとい館野蒼奇が契約していた召喚獣たちはいずれも強力無比で厄介なギフトや強力な生物特性を持っているものばかりだからだ。

 その理由は蒼奇が任されていた世界は他に類を見ないほどにブッ壊れていたからだろう。あの世界はすべてから見放されて荒れに荒れていた。それこそ歴史の転換期(パラダイム・シフト)()()()()()()()()()()()()()

 本来あるべき時期に殺されるはずがない英雄が殺される。

 倒されるべき怪物が殺されるべき英雄に殺されないほどに強力になっている。

 

 本来ならばそこで行われるはずの調()()が行われなかった。

 

 殺される因果になっていない英雄にその場では死なないような恩恵が与えられる。

 強力になりすぎた怪物を倒す英雄に打倒できるだけの恩恵が与えられる。

 

 そのように行われるはずの修正が彼の任された世界では起きなかった。

 だが、だからこそ彼が、館野蒼奇が修正力として必要だった。

 

 

 そんな狂った世界に。

 

 

 抑止力として。

 

 修正力として。

 

 剥奪者として。

 

 協力者として。

 

 彼が本来渡されるべき恩恵として、過剰な恩恵を受けたものを打倒するものとして動くことでその世界の歴史を正していた。

 

 その結果、多くの危険な怪物たちが彼の召喚獣として使役された。

 

 だが、いま。

 

 その多くの怪物たちの一部が解放されてしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てなわけで帰ってもいいか?」

「突然何を言い出すのかしらね、この馬鹿は?」

 

 急に焰と女王の話に乱入してきては、帰りたいと馬鹿げたことを言い出す碧生。

 その理由は単純に解放されている召喚獣を確認すると常人ならば冷や汗を通り越して失神レベルに危険な生物たちが解き放たれており、碧生ですら「あれ?これってヤバくね?」と考えてしまうほどのものだった。

 

「いや、正直俺がこの場に必要かどうかを考えたら『あれ、これいる意味なくね?』って思っちゃってな」

「あら?私が久しぶりにあなたとお茶をしたいと思っただけじゃダメなのかしら?」

「ダメじゃない。だが、今この場に俺がいるのは不適当だろう。それならお前と焰の二人っきりにした方がよろしいかと」

「………ハァ。じゃあ、話に参加しなくてもいいからここに居なさい。一応あなたにも話があるのだから………」

 

 それなら仕方ないと再び契約書本を開き読み始める碧生。

 その様子を見て溜め息を吐きながらも焰に向き直る女王。

 

「ハァ………。それでどこまで話したんだったかしら?」

「病害や飢餓の治療薬を作った人物は、世界を救うと同等の功績を得るんじゃないかってところだが………」

「ああ、そうだったわね。それに関しては肯定するわ。でも誤解しないで。これは本物の伝説じゃない。伝承が近代化しているだけ。過去の物を最新の霊格で表現してるの。問題の根幹はそこじゃないわ」

 

 彼女の言葉に首を傾げ、疑問符を浮かべる焰。

 

「伝承の近代化?どういうこと?」

「………その説明をする前に他の客が来たわ」

 

 スッと女王は指で横一文字に空を切る。すると焰の携帯電話から着信音が鳴り始めた。

 ピピピ、と簡素な音を鳴らす携帯電話を手に取る。

 そんな様子を碧生は特に何もせずに黙って観察していた。

 焰は怪訝そうにしながらも律儀に電話に出る。

 その電話の声は感覚の鋭い碧生は簡単に聞き取ることができた。

 

『………よう。久しぶりだな、焰』

 

 

 

 

 

 ―――葛飾区、柴又帝釈天・本堂。

 十六夜たち三人は迅速かつ無音で境内に忍び込んだ。

 三人は、だ。

 残る一人、三神天衣はというとさすがに忍び込むのは、と倫理観が邪魔したので車で留守番をしていた。

 その車の中に碧生は転移してきた。

 

「わっ………ッ!?」

 

 突然自分の横に現れた碧生に驚き、小さく悲鳴を上げる天衣。

 碧生はすぐにそれに気づき、謝る。

 

「あっ、ごめん。気配が分かれてたからどうしたのかと思ってな。留守番か?」

「は、はい………」

「三人は中に………忍び込んだのか」

 

 車窓から外を見えた警備員の姿と感じた気配から正面から堂々と入ったわけではないとすぐに察した。それと同時に彼女が残った訳も。

 

「それじゃあ、俺も行くとするか。天衣はここで留守番な」

「はい………わかりました………」

 

 申し訳なさそうな声で小さく答える。

 気にするなと優しい声で言うと本堂の中へ、三人の気配がする場所へ転移した。

 

「っと。………どんな状況?」

 

 碧生がそこで見たのは釈天が携帯を片手に持ってどこかに連絡している姿が一番最初に目についた。

 

「女王に連絡中ってところだ」

「おっと、そういうことなら俺は車で待たせてもらおう」

 

 そういってすぐに踵を返そうとする。

 だがしかし、

 

「まあ待てよ」

 

 あおいは にげられなかった!

 十六夜に肩を砕けそうなほど強く掴まれて引き止められてしまう。

 

「いやー、女王のそばにも俺がいるからさ、さすがにまずいんだわ。女王にバレた際の体裁とか面倒ごととか色々と。話があるなら箱庭にいる方の俺に聞いてくれや」

「………ほう。ということは女王のそばに焰もいるんだな」

「………だから、俺は君のような勘のいいガキは嫌いなんだよ」

「ネタをぶっこんで来てんじゃねえよ。てかその返しをするってことはいるんだな?」

「………本人に聞いてくれ」

 

 それだけ言って今度こそ姿が掻き消える。

 

「チッ、あの野郎逃げやがったな………」

「おい、十六夜。女王に繋がったが「焰もいるんだろ?わかってるからさっさとよこせ」………あ、ああ」

 

 十六夜は釈天から引っ手繰るように携帯電話を奪い取ると耳に当て何時の調子で挨拶した。

 

 

 

 

 

 ブツン。

 そんな音が焰の持つ携帯電話から聞こえた。

 

「………おい。なんで切ってんだよ」

「いや、ちょっと反射的に………」

「………」

 

 碧生から何とも言えない目で見られ、バツが悪そうに視線を逸らしている。彼の膝の上にいるネロからも似たような視線を向けられているような気がしてさらにバツが悪くなる焰。

 そうしていると再び焰の携帯電話が鳴り響いた。

 焰は複雑な表情を浮かべながらも電話に出る。

 

「………久しぶり、イザ兄」

 

 そう応答し始めて、雑談をする。本当に気にすることのないようなどうでもいい話を。

 やれ彩鳥に人生買収されるとか。

 やれ御門釈天とかいう穀潰しがどうとか。

 やれ十六夜の異世界探索が羨ましいとか。

 ………おそらくだが彼の憤りは最後の一つに集約されているのだろう。

 そして、二人の雑談がようやく一段落したところで女王が声をかける。

 

「焰。十六夜。主題に入るから、全員の声が入るようにして」

「ん?ああ、分かった」

 

 焰が携帯電話を操作してハンズフリーにする。

 女王は少し不思議そうにする。彼女はこのような文明の利器には疎いのだろう。小首を傾げてから十六夜に問いかける。

 

「………十六夜。聞こえる?」

『ああ、聞こえるぜ女王。三日ぶりだな。コッチは異世界でも感度良好だ』

「そう。よかった。今から事の始まりを話すから、よく聞いてね」

 

 抑揚のない声で淡々と告げる。

 そして、彼女は姿勢を変えて足を組む。

 

「先ず、二人の、いえ三人の誤解を解くわね。今回の一件は、そもそも箱庭は無関係だったのよ」

「どういうことだ?」

「………ちょっと待て。クイーン。それは、つまり………」

 

 女王の言葉に十六夜と焰の二人は問い返す。だが碧生は理解したのか、信じられないといった表情をしている。

 

「そう。碧生。あなたの考えている通りだと思うわ」

「………碧生。結局、どういうことなんだ?」

「………悪い。俺も正直、飲み込めきれてない。クソッ。俺の世界以外でこんな馬鹿げたことが起きるなんて冗談もほどほどにしてほしい」

 

 碧生は大きく息を吐いて、説明を始める。

 

「………今回、箱庭は関わってない。ということは、だ。この事象は元から起こる予定、いや必然的なものだったということだ。病害、飢饉、そして謎の赤道を越える台風。これら全部が確定したものだったんだよ」

『………は、』

「はあ!!?」

 

 十六夜は唖然とし、焰は意味が分からず素っ頓狂な声を上げた。

 碧生はそれを見聞きし、当然の反応だと心の中で溜息をつきながら考えていた。 

 

「いや、でも、有りえないだろ!」

「そう。ありえない。だが、そんな言葉を使う事象は度々人間によって覆されてきた。今の文明だって昔から見れば絶対にあり得ないと声を荒げる人が大勢いるだろうな。そんな文明を作り上げるに至った発明と技術は人の手によって作り上げられてきたっていうのに。今回もそういうことだろうよ」

『………おい。それってつまり、今回の台風は完全に人為的な物だと言ってるのか?』

「さてな。だが、不可能じゃない。そうだろ。焰。お前はもう、考え付いてるはずだ」

 

 それだけ言って立ち上がり、出口へと向かう。

 

「って、おい!?どこに行くんだよ!?」

「一人になれる場所。これ以上此処にいると笑っちまいそうだ」

「……………………………は?」

 

 碧生のその物言いに唖然とする焰。そして慌てて声を荒げて問い詰める。

 

「こんな事態になってんのに楽しんでんのかお前!?馬鹿かッ!?」

「馬鹿で上等。これほど愉快なことはねえだろ。だってよぉ、過去に止まった歯車が再び動き出そうとしてるんだぜ?最高に面白い展開じゃねぇかよ」

「あ、碧生………?何を、言って………?」

「………ハァ………つーまーりー俺が言いたいのは、溜めに溜めた他人の計画を完膚なきまでに、壊して、潰して、覆して、悔しそうに歪む黒幕の表情を偉そうに上から見下して、嘲笑って、侮蔑して、盛大に馬鹿にしてやりたい。そのために会社に連絡を入れて対策を増やして強化する。その間に疑問は消化しておけ。それでもわからなかったならちゃんと教えてやる」

 

 そういって再び出口へ向かい始める。

 ドアノブに手をかけたとき、思い出したように声を出す。

 

「あ、それとクイーン」

「………?何かしら?」

 

 首だけを女王に向けて話しかける。

 

「昔と同じように、俺はお前を止めるようなことはしない。好きにしろ」

「………そう。わかった」

 

 それだけ言って今度こそ部屋から出ていく碧生。そのまましばらく歩き続ける。

 そして、道に人が見え始めたとき。

 

「………顔が笑ってるわよ。何かいいことでもあったの?」

「………ペストか。ほら、ネロをやるよ」

 

 碧生はペストに見るとすぐにネロを渡す。ネロも特に嫌がる様子もなくペストの腕の中に納まった。

 

「それといいことはあったよ。最高に面白そうなものが、ね。笑いが抑えられないほどのものだ。楽しみでしょうがないよ」

 

 碧生の顔はペストが今まで見たことがないほどに緩んでいて、歪んでいた。碧生自身もこれほどまでに気分が高揚しているのは何百、何千年ぶりだろうと思い出そうと記憶を漁るほどだった。

 

 

 その顔には愉快、快感、歓喜などの感情が入り乱れていた。

 

 

 しかし、何故か彼の顔を見た者は、不思議と得体の知れない、それこそ〝魔王〟と直面した時のような身の毛のよだつ恐怖や不気味な寒気を感じていた………。

 

 

 




・深水碧生
 狂った世界の管理人。〝契約書本〟を見て焦り始めた。でも、正直被害がなければ放置でもいっかなとか考えてる自由人。

・ネロ
 碧生の膝の上にずっといた。

・クイーン・ハロウィン
 お茶をしたい(本音)、話がある(建前)な人。

・西郷焰
 十六夜からの電話を反射的に切った。でも、きっと彼は悪くない。

・三神天衣
 車で留守番。さすがに不法侵入は彼女の良心が咎めた。

・逆廻十六夜
 勘がいい。

・御門釈天
 電話係。以上。

・プリトゥ
 喋ってないけど傍にいた。

・ペスト
 最後に出てきたのは特に意味はない。しいて言えばネロを渡すだけ為に出してみた。


 というわけで『ラストエンブリオ』一巻はこれで終わり、次話から二巻の内容に入っていきます。
 次話も一週間前後を目安に体調と相談しながら頑張ります。
 アンケート実施中です。


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再臨のアヴァターラ
復興&支援


 いま、碧生は雲一つない快晴の空を見上げていた。

 十六夜たちと共に行動していた彼は現在、高速フェリーに乗りながら海の上を移動している真っ最中だったのだ。

 勿論ただ十六夜たちについてきたわけではなく、超大型台風〝天の牡牛〟による被害を再確認するためでもあった。やはり傷跡は大きく、しばらくは〝ディープブルーコーポレーション〟の支援なしでは厳しい生活を送ることになっていただろう。

 現在もディープブルー社の社員と現地住民による復興作業が続いていた。ギフトによる作業ができればもっと手早く済ませられるのだろうが、一般人の手前そんなことができるわけもなく。手作業や重機による復興支援に徹していた。

 本来ならゴールデンウィーク中は休みであった社員達には申し訳ないが、混乱を収束し事態を収めるために頑張ってもらうことにした。無論、復興が完了すれば休暇を与えるつもりだと碧生は言っていたが。

 一先ず一行はドン=ブルーノから聞いた貸船業を営んでいる友人を訪ねて、クレタ島へ向かう足を手に入れていた。

 碧生の会社から貸し出してもよかったが、復興に使うことや地元で通貨を循環させたいということもあり、現地調達にしてもらったのだ。話し合いで碧生の転移で送ってもらうという案も出たが、不法入国やら人目の関係上普通に行くことにしてもらった。

 そして、現在。十六夜が外界から訪れた経緯を改めて聞いていたプリトゥと碧生は彼の話を聞いて、一人は瞳を大きく瞬かせて驚き、もう一人はめんどくさそうに空を見上げていた。

 

「じゃあ、何か?お前がミノタウロスのゲームに参加していたら、突然ゲームを中断させられたと?」

「そういうこと。元々、太陽の主権戦争を有利に進める為に主権を集めていたんだけどな。どうやらゲームの主催者側とどっかの馬鹿から横槍を入れられたらしい」

「ちょっと待て。確かにもう一体のミノタウロスは俺の召喚獣だが、ほぼ暴走状態で同一存在だからって理由だけでゲームに組み込まれただけだ。俺は一切手を出してないからな?」

 

 そうかよ、と不機嫌そうに腕を組む十六夜。

 太陽の主権戦争。二十四の太陽主権を奪い合う箱庭世界のギフトゲーム。

 以前、館野蒼奇が魔王として遊んでいたときにも行われた。

 だが、蒼奇はそのゲームには参戦しなかった。理由としては、主権なんて持ったら動きづらくなる。この一点だろう。それだけの理由で面白そうなゲームを流したのだ。

 しかし、今回はいやでも巻き込まれることになることを薄々感づいている碧生だった。

 

「激しくなってるのはやっぱり白夜叉が主権の半分以上を手放したからか?」

「ん?そうなのか?」

「ああ。白夜叉がルール制作の主導権を握るためにな。聞いてないか?」

「いや、初耳だ。………しかし、そうか。前回の優勝者である白夜叉が主権を手放したのならかなりの数が在野に下ったことになるな」

「そりゃ激化もするよなー………………………………………はぁ、しっちゃかめっちゃかに引っ掻き回しに行けばよかったかな」

「「おいやめろ」」

 

 ボソッと呟いた不穏なセリフを二人は聞き逃さずに止めるように伝える。

 冗談だ冗談、と真顔で止めに来る二人を見ながら、くつくつと笑いながら言う。

 それを聞いた二人はどこか安心したような顔を浮かべて話を元に戻す。

 

「だがそうなると、益々以てお前には早く箱庭に帰ってもらわないと困るな」

「ごもっとも。太陽の主権なんざこっちで使われたりでもしたら堪ったもんじゃねえ」

「ああ。それに派遣先には言い訳してあるものの、これ以上の有給は御免だ」

「………有給扱いだったのか」

「有給?頼れる社長はどうした?」

「今、プリトゥは〝エヴリシングカンパニー〟の雇われだ。申請はそっちの方だろうよ」

「そうだ。ご令嬢の付き人兼ボディーガードだからな。ちなみに、彩鳥お嬢様はゴールデンウィークの間、私と共に碧生のところへ遊びに来ていることになっている。………ああ、そういえば社長が碧生君によろしくと言っていたぞ」

「………全然よろしくされてねえんだけど。むしろ迷惑気味だ。つか普通に有給が羨ましい。俺にもくれ。たまった仕事はきちんとやるから有給寄こせ」

「仮にも社長がそんなこと言うものではないと思うぞ?」

 

 プリトゥの話を聞いて一人愚痴る碧生。彼もたまには一人に戻って仕事を忘れてのんびり休みたいようだ。

 十六夜は彼女の話を聞いて尋ねる。

 

「〝エヴリシングカンパニー〟にそこまでの伝手があるなら、船もそっちの経路で借りればよかったのに」

「その際に彩鳥が行方知れずだと知れたらめんどくさい。基本プリトゥの責任問題になるだろうが、俺のところに遊びに来ていると知られているならこっちにも飛び火して〝エヴリシングカンパニー〟と〝ディープブルー社〟の関係が悪くなりかねん。だから、そっちの伝手は諦めてもらった。とはいえ、プリトゥも似たような考えだったが」

「そういうことだ。ここは大人しくドン=ブルーノの人脈にすがろうじゃないか」

 

 碧生が諦めたような表情と声で説明すると、プリトゥも大人びた笑みを浮かべてそれに同意する。

 

「ま、いいけど。何はともあれ持つべきものは異郷の友ってことか。駄目元でドンの人脈に頼ってみたが、今回は大当たりだった。おかげでクレタ島まで泳がずに済む」

「同感だよ。波に揺れる程度なら好ましいが、基本的に海は苦手だ」

「へえ?これは意外な弱点だな。じゃあ船が見つからなければ、地天様はどうやって海を渡るつもりだったんだ?」

 

 軽薄な笑みを浮かべて意地悪そうに聞く十六夜。

 碧生はそれを見て、十六夜の悪い癖が出たな、と溜め息交じりで息を吐く。

 対して、問われたプリトゥは困ることもなく告げた。

 

「どうやってと言われても………そんなの、海を埋め立てて渡ればいいじゃないか」

「………。ほう?」

 

 十六夜が感心したような声を吐き出す。その様子を見た碧生は溜息を吐く。

 

「感心してんじゃねえよ、そこの問題児。プリトゥ。お前も丁度良さげなもんを吟味し始めるな。しかもお前が指さしてんの聖地指定のアトス山だ。もし実行するようなら全力で止めにかかるぞ。そん時は殺されても文句言うなよ」

「碧生の言うとおりだ、野蛮人ども。何でもかんでも箱庭基準で考えるんじゃねえ。外界で正教会を敵に回してもいいことはねえぞ」

 

 碧生に同調するように呆れながら言い捨てた釈天。そんな彼の手には国際経済新聞と携帯電話があり、被害状況を交互に見ていた。

 紙面にはまだ伏せられているが、病原菌の影響が表立ってきている。麦や玉蜀黍に感染することはごく一部にしか知られてはいないが、人の口に戸は立てられない。すでにヨーロッパでは小麦粉の高騰の兆しを見せ始めている。釈天が渋い顔で紙面を睨んでいるのを見た碧生も内容を察したのか眉をひそめた。十六夜も気になったのか彼の後ろから紙面を読んで顔を顰めた。

 十六夜は一面のトップ記事を指でなぞる。

 

「フランスで小麦粉急騰、三五%増………?うわ、酷いなコレ。大丈夫なのか?フランス人ってパンを食べてないと死んじまうイメージなんだが」

「偏見もいいとこだな………。だが、間違ってない。フランスは農業大国で食料自給率も一二〇%を超え、『ヨーロッパのパン籠』とまで言われるほどだからな。まあ、今は俺の会社が高騰対策として感染しないように特殊加工した小麦を市場に流してその程度で済んでんだ。それがなければもっと高騰してただろう。こっちはまだまだ備蓄があるから一週間もすれば十%増程度まで落ち込むさ。とはいえ焰にはさっさと帰ってきてもらってどうにかしてもらいたいが………」

 

 淡々と自身の会社が行っている対策について語る深水碧生。

 台風〝天の牡牛〟は実に世界の半分を通過して東京に現れた。その傷痕は目に見えるもの以上の弊害を残している。保存している穀物の何割が蝕まれているかは把握されていない。農耕地帯に病原菌が残留するという事実を把握している農家は少数だろう。今はまだ裏から〝ディープブルーコーポレーション〟と国際連合食糧農業機関が連携して市場操作で安定しているが、それもいつまで持つかは〝ディープブルーコーポレーション〟の備蓄次第と()()()()()()()。しかし、当の社長である碧生は全く心配した様子もなく平然としていた。その理由はちょっとしたからくりが存在し、備蓄、食料が尽きることはないと断言できるからであろう。

 

「よくそんなに貯めこんでたな。そんなことしてれば隠してても気づかれそうなもんだが」

「そこはまあ、あれだ。企業秘密ってことで」

「おいおい、少しくらい教えてくれてもいいんじゃねえか?」

「そうだな。是非とも教えてもらいたいものだな」

 

 三人にそう迫られてめんどくさそうな顔をしながら、話しても真似できねえしいいか、と渋々当たり障りのないとこだけ話す。

 

「俺が所持して管理を任されている別世界で作って、別世界で加工して、別世界で備蓄してる。ちなみに七つの世界のうち四つがそんな感じだ」

「「「………は?」」」

「どうだ、さすがに誰にも真似できない画期的な方法だろう?」

「「「……………………」」」

 

 さすがの三人も碧生の言葉に訳が分からないといった様子で開いた口が塞がらなかった。その表情に満足したように笑って、船の中へ向かおうとする。

 

「じゃ、目的地も近くなってきたから俺は船酔いでダウンしてる天衣の様子を見てくる」

 

 唖然としたままの三人をおいてさっさと船の中へと消えていく碧生。

 

「………転生しても何も変わらねえな、アイツ」

「ああ。変わったのは精々名前と口調ぐらいだな。たまに以前の口調に戻るときもあるが」

「そうだな。誰にも考え付かず、できないことを突拍子もなくやる。一切変わってないな」

 

 残された三人がそんなことを言っていたのは碧生の耳には届かなかった。

 

 

 その後、降りる際に碧生を焰たちの勝敗についての賭けに誘った三人だったが、彼が向こうには俺もいるんだがと言うと十六夜が大いに焦り始めたのを物珍しそうに眺める釈天と碧生がいた。

 余談だが、碧生はそのうえで自分が手を貸さなかったとしても焰たちが勝つと断言し、百ドル札を十枚を手に参戦してきたため、十六夜がさらに焦りを見せ始めるのだった。

 




・深水碧生
 被害状況と復興の視察。一応社長だからね。なんでも行う。それが〝ディープブルーコーポレーション〟です。

・逆廻十六夜
 賭けで焦り始める。プリトゥが千ドル、碧生が千ドル、釈天も千ドル(おそらく)。負けた時の額がすごいよね、これ。倍率知らんけど。あのプリトゥの押しがあるし1.1倍くらいなのかな………?

・プリトゥヴィ=マータ
 焰を持ち上げる女神様。財布から千ドルが出てくることから相当稼いでる。

・御門釈天
 総取りかと思ったらそうではなかった借金神。個人的に借金のトータルを知りたい。

・三神天衣
 船酔いでダウンして出番がなかった。ごめんね。


 次話も一週間後を目途に投稿します。


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調理&対面

 ———大樹と大瀑布の水上都市〝アンダーウッド〟。

 轟々と吹き荒ぶ風が、大樹の幹に打ち付けている。

 水上都市の清流は大嵐によって濁流に変わり、街の居住区を飲み込み始めている。近隣に平野しかない土地であるこの大樹の街〝アンダーウッド〟では建築物の構造が台風の被害に耐えられるようにできていない。

 もちろん増水対策の防波堤は設置されているが、防備らしいものはそれだけしかなく、建築物と言えば煉瓦造りの建物なのだ。

 今この場所には、大嵐の根源―――〝天の牡牛〟が留まっている。この状況が続けば水上都市が更なる大打撃を受けるのは必然だろう。

 そんな中、碧生は大樹の中腹に仮設された避難所にいた。

 なぜそこにいるのかというと、

 

「飯が出来たぞ。持ってって配膳、配ってくれ。足りなければ追加で作るが、足りそうか?」

「………どうでしょう。とりあえず持って行って様子を見てみます」

「じゃあ、一応温めれば食べれそうなものを作っておく」

「わざわざありがとうございます」

「かまわない。こういう場合は助け合わないとな」

 

 建前を伝えて避難者に料理を持って行かせる。そんな彼の本音としてはただの暇つぶしなのだが。

 

「………なんで私は料理をしているのかしら?」

「俺についてきた結果だろうが。文句言わずにきびきび働け」

 

 そしてそれから少しして料理を作り終えた頃。

 

「おーい!碧生ー!」

 

 碧生を呼ぶ焰の声が聞こえた。

 碧生が声のした方向へと顔を向けると西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、ポロロ、シャロロの五人がこちらに向かってきているのが見える。

 

「準備はできたのか?」

「ああ。………まあ少しだけわからないところもあるが………」

 

 そういって、不安そうな顔をする焰。

 それを見た碧生は特に反応することもなく答える。

 

「それに関しては移動中に聞かせてくれ。力になれるかもしれないしな」

 

 そして、地下工房にある精霊列車の車庫へと足を向ける。

 その道中で碧生は焰から今回のゲームの解答を聞く。

 ミノタウロスは天然痘の患者で迷宮に隔離され、後天的に怪物になったこと。それが今回の解答であると。

 それと同時に彼が不可解な点も。

 

「一体目のミノタウロスの正体はこんなところだと思う。だけど、二体目についてがどう考えればいいのかわからない」

「………あー、そいつのことか。お前が分からなかったのは」

「わかるのか!?」

「そいつに関しては、あのアステリオスについては俺の不手際というか不始末というか………」

「………?あいつもアステリオス?どういうことだよ?」

 

 碧生はバツが悪そうに頬をかきながら説明を始める。

 

「俺が魔術師だってのは話したよな?」

「………?………ああ。現代の魔術師の中でも最高峰レベルとかいうナルシストじみた話ならな」

「ナルシストではなく事実なんだが………。まあ、そこらへんは置いとこう。それでだな、俺は召喚魔術師だ。生物・無生物と契約して召喚獣として使役するものを得意としている。それで、二体目のミノタウロス、もといアステリオスは俺が召喚獣として使役していた奴が暴走しているうえにミノタウロスだからな。存在が同一とされてゲームに巻き込まれて理性を失わされて組み込まれたんだ」

「………って、お前のせいかよッ!?」

 

 焰が胸ぐらを掴む勢いで碧生に詰め寄る。

 

「失敬な。俺は何もしてない。なぜかは知らないが契約が勝手に切れて解放されたんだ。俺のせいにするな」

「じゃあ、どうすんだよ!?あんな怪物、二体も相手取れねえよぞ!?」

「んなことさせねえよ。俺の方は俺がどうにかするから、自分の方に集中してくれればいい」

 

 そして、その次に紡がれた言葉に誰もが自身の耳を疑った。

 

 

 

「誰も英雄テセウスさえもが()()()()()()怪物を相手取れるとは思っちゃいねえよ」

「「「「「!!?」」」」」

 

 

 一番最初にその言葉を飲み込めたのは彩鳥だった。気が付けば、すぐに碧生に詰め寄っていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!英雄テセウスが殺せなかったっていうのはどういうことですか!?本来なら怪物が強くなりすぎたのなら倒すべく英雄に恩恵が与えられるはずではッ!?」

「ああ、そうだ。普通はな。だが、与えられなかった。なぜなら俺の世界は狂っていたからだ。俺の世界の怪物ミノタウロスはその世界の、その時代の誰にも倒すことが不可能なまでの怪物へと昇り詰めてしまったんだよ。そんなのを倒すためにテセウスに強力な恩恵を与えたのならば、その後すべての歴史が影響が出始め、その時代が狂い始めると判断されて与えられなかったんだ」

「………そ、そんなことが、あり得るんですか………?」

 

 彩鳥は震える声でさらに尋ねる。

 

「俺んとこの狂った世界では有り得た。だが、まだこの事象が〝歴史の転換期(パラダイム・シフト)〟じゃなかったからこの程度で済んでるんだ。俺としてはこの判断を素直に喜んだもんだ」

「………?なんでだ?」

 

 そこでようやく焰も理解できたのか、質問する。

 碧生は薄く笑いながら答えた。

 

「〝歴史の転換期〟だったならば、片方が強くなりすぎれば、もう片方に恩恵が与えられる。釣り合いを取るためにも時代を正しく修正しようとするためにもな。だが、その恩恵が強すぎて釣り合いが取れなければ、今度は相手側に恩恵が与えられる。だがこれがまた釣り合いが取れずに今度はもう一度はじめに恩恵を与えた奴に恩恵が与えられる。そしてまた釣り合いが取れずにもう一方に恩恵が与えられる。そんなことが続いて決戦の時までいたちごっこだ」

 

 そういって、過去を思い返しているのか楽しそうな、されど哀しそうな表情を浮かべた後、ケラケラ笑いながらこう言った。

 

「さて、加減なく、際限なく、強くなりすぎた英雄ども。そのうえ戦闘中にも恩恵を与えられ続けてさらに化け物じみてく二人、またはその二つの勢力がぶつかり合ったら………果たして世界は、どうなっちまうんだろうな?」

 

 それを聞いた五人はその光景を思い浮かべてしまったのか、一様に青い顔になった。

 

「まあ、結果だけ言うなら介入しなければ最低でも地球が壊れるレベルだった、とだけ。と、いうわけでそんな世界で抑止力兼修正力として生きていた俺にもう一体の方は任せろよ」

「「「「「………」」」」」

 

 すごい勢いで首を縦に振る五人。その様子を見た碧生は満足そうに笑う。

 そして、一行は足早に精霊列車へと向かうのだった。

 そんな中、碧生は途中で少し立ち止まり、北の方を向く。

 

「………」

「おーい!碧生!早く来い!!」

「………悪いッ!今行くッ!」

 

 しかし、すぐに焰に呼ばれて小走りで急ぐ碧生。

 

「(向こうの気配は保険も掛けてあるから問題はないだろう………)」

 

 碧生は心の中で少し心配したが、すぐに大丈夫だと判断した。

 

 

 

 

 

 

 ―————七人が精霊列車の車庫へと向かった少し後、大樹より北の廃墟。

 そこには、少年の姿へと変貌した怪牛と少年と少女。

 そして、フード付きの黒い上着を羽織った長髪の青年がいた。

 周りにもいくつか気配があるが、そのどれもが姿を現してはいなかった。

 三人は青年と対峙し、警戒していた。

 しかし青年はそんなことは気にもせず、三人に対して目を閉じて笑いかけていた。

 少しの間、その空間は静寂に包まれたが、そんな空気を破ったのは青年だった。

 彼は目を開いて、話しかける。

 

「アハハッ。元気そうで何よりだよ。ジン=ラッセル。ペスト」

「………………あなたも、元気そうですね。まさか生きていたとは思いもよりませんでしたよ。()()さん」

 

 そんな二人の前に現れた彼の目は、笑ってはおらず、冷たく突き刺すような視線が彼らに向けられていた。

 




・深水碧生
 ちょっとした復興支援と説明会。特に何もしていない。

・ペスト
 復興支援、もとい暇つぶしに付き合わされた。

・西郷焰
 碧生の不始末の被害者その1

・彩里鈴華
 被害者その2

・久藤彩鳥
 被害者その3

・ポロロ
 心の中では相変わらずだなと感じていた〝六本傷〟リーダー。

・シャロロ
 生まれ変わっても変わらないと図らずも十六夜たちと同じ感想を抱いてしまった。

・館野蒼奇
 言わずもがな碧生の前世。今回は正体がバレたくない、かつこれなら顔を知っているだろうからと〝擬態〟を用いて前世の姿に戻った碧生の別個体。

・ジン=ラッセル
 元〝ノーネーム〟リーダー。しかし現在は脱退している。

・ペスト(ロリ)
 碧生の下にいるペストとは別個体。ジン=ラッセルに隷属している。


 次話も一週間後です!


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警戒&列車

 時間は少し遡り、ジン=ラッセルとペストが北の廃墟を訪れた時。

 怪牛が四肢を戦慄かせて、前のめりに崩れていた頃。

 そんな時、嵐の中に一人の青年、深水碧生が前世の姿、館野蒼奇へと【擬態】を使って戻り、空に立っていた。雨に打たれていたが、不思議なことにその服にも髪にも肌にも濡れるどころか水滴一つ付着してはいなかった。

 

「………うん。やっぱりたった十七年しか生を共にしていない体より一万年ほど生きてきたこの姿の方が気分的に馴染むね。………それにしても、懐かしい気配だ。十七年ぶりか。僕のペストは姿も性質も大分変質してしまったせいで気配とかが変わっちゃったからね」

 

 懐かしい気配を二つ感じて、嬉しそうにする蒼奇。そんな彼の視線は、激しい雨で隠れてしまっている廃墟にまっすぐ向けられていた。

 その廃墟にミノタウロスがいるのも、二つの人影が入っていくのもすべて、彼ははっきりと感じ取っていた。

 そして、

 

「………頃合いかな?………よし!張り切ってこうか!」

 

 彼の姿は嵐の中から掻き消えた。

 そんな彼が向かった場所を知るものは本人と、彼が転移した先に者たちだけだろう。

 

 

 

 

 

 そして、ジン=ラッセルとペスト、館野蒼奇が対峙している時に戻る。

 ジンのそばにいるペストは突然蒼奇が現れ、その目を見た時からいつでもマスターであるジンを守れるように、もしくは蒼奇を攻撃できるように警戒し続けている。周りにいる他の気配たちもいつでも動けるように構えているようだった。

 だが、その誰もが彼に勝つことは無理だ、できないと明確な実力差を感じていた。

 もちろん、そんなことを気にするわけもない蒼奇はジンに話しかける。

 

「いやはや。まさか君が現れるとは思ってなかったよ」

「………僕も、まさかあなたが生きてて、僕の目の前に出てくるとは思ってもいませんでしたよ」

「そうかい?元仲間なんだから予想くらいはしててもよかったんじゃないかな。ほら、感動の再会みたいな感じでさ!」

「………相変わらずあなたの行動は読み辛いですね。今も昔も何をしでかすかわかりませんが」

「アハハッ!それは一応誉め言葉として受け取っとくよ!でもこれに関しては僕はそうしないといけない理由があったから、自然とそういう風になっただけだよ!」

 

 しばらく世間話のような会話が続く。しかし、周囲の空気は剣呑だったが。

 

「とはいえ、僕は君に手を出すつもりはほとんどない」

「………ほとんどですか」

「そう。ほとんど。残りは僕が今からしようと思っている質問に対する回答次第かな」

「………どうぞ」

 

 ジンは質問を促す。それを聞いた蒼奇は笑みを浮かべる。今度はしっかり目も笑っている。

 

「今回のゲームを邪魔する気なのかい?」

「………大丈夫です。そのつもりは全くありません」

「………そう。それならいいよ」

 

 それを聞ければ満足だったのか、踵を返して廃墟から出ていこうとする蒼奇。

 しかし、そこで思い出したように振り向いて声をかける。

 

「そうだった。これから精霊列車を使ってゲームを攻略し始めるみたいだよ。もしかしたらここら辺を通過するかもしれないから気を付けなよ。ポヤポヤと眺めてると轢かれちゃうからね。どうせ君のことだ。せっかくの試運転を見るつもりだろう?」

「そうなんですか?それならじっくり見られるかもしれませんね」

 

 ジンは喜色の表情と微笑を軽く浮かべて返答する。それを見た蒼奇も少し笑みを深くする。

 そして、蒼奇はそれから、と言ってから付け加える。

 

「少しぐらいなら、ちょっかいをかけてくるぐらいなら許容するよ。僕はそれを今の友人たちの踏み台にするからさ」

 

 そういって、お互いに笑う。

 

「それじゃ、そういうことで。またいつか!」

 

 今度こそ、彼の姿が掻き消える。

 どこかに転移したとかではなく、その存在そのものが消えた。

 それもそのはずだ。生み出した張本人、深水碧生が分身を消したのだから。

 だが、そんなことだとはその場にいる誰もが分からなかった。彼のことを知っているものは転移したと、知らないものは突然姿が消えたようにしか見えなかっただろう。

 そのことは、その場にいる全員が勘違いしていた。

 

 

 

 

 

 ———超巨大精霊列車〝サン=サウザンド〟号・第一車掌室。

 豪快な試運転はその派手な見掛けに違わぬ衝撃を車内に与えていた。

 家屋を飲み込むほどに巨大な水飛沫を上げての出発だ。忙しなく走り回る獣人の車掌たちは衝撃と相次ぐトラブルで右往左往している。

 その中でも一際騒がしい、長靴を履いた三毛猫がいた。

 車掌の一人で怪猫の類だと思われる。二叉に分かれた尻尾に二本足で歩きまわるその姿はまさに怪猫そのものであった。

 その姿を見て、ただ一人だけ懐かしむように微笑む碧生がいた。

 精霊駆動機関の炉心の中にいる小さな群体精霊たちに関西弁の檄を飛ばしつつ、三毛猫車掌は二本足で飛び跳ねながら声を上げる。

 

「あかんあかん、速度出し過ぎやでチビすけ共!こんなに速度出しとったら霊脈に入られへんやろ!速度落とせ落とせ!」

「おとさなーい!」

「おとせなーい!」

「おとしたらつかまるー!!!」

「おいしいものもらってしじされてるから、なおさらおとせなーい!!!」

「おいしいもん!?しじ、指示ッ!?い、一体誰からやッ!?」

 

 ウッキャー♪―――と轟々と燃え盛る炉心から顔を出し、三毛猫の言葉を無視してはしゃぎ始める、赤いマントの炎の群体精霊たち。

 彼女たちが言った最後の言葉に疑問しか浮かばなかった三毛猫はさらに慌てる。

 もちろん彼女たちに賄賂を渡したのは言うまでもなく碧生である。当の本人は明後日の方向を向いて誤魔化しているが、焰とペストにはバレバレでジト目で睨まれていた。

 そして、石炭の山から顔を覗かした地精―――二叉のとんがり帽子をかぶった精霊が、窓の外を指さし叫びながらネタばらしをする。

 

「牛!空から牛きてる!メルルたち、逃げる!速度落とせない!あとそこのお兄さんの魔力おいしい!!」

「ええい、詳しく説明されんでもわかっとるわい!でもありがとな二番目!それとそこの兄ちゃんは邪魔せんといてぇなぁッ!?」

「ほらメルル。もっと魔力やるから頑張るんだぞ」

「わーい♪」

「兄ちゃんッ!?」

 

 言うたそばからッ!!という三毛猫の叫びを無視してワイワイと騒ぐ精霊たちと碧生。

 

「あーもう!………けど参ったな。この速度のままじゃ、霊脈の超加速ができんやないか。延々と大河と地表付近を奔ることに………」

「いいや、それでいい!ガンガン飛ばせ三毛猫!青鬼の旦那も精霊たちの補助をしてやってくれ!」

 

 右往左往している機関室に、ポロロの声が響いた。それを聞いて多くの人物が一瞬だが動きを止めて声の主を見る。

 三毛猫はその人物が誰かを認識すると慌てて敬礼する。

 

「せやけど二代目!このままやと牛畜生に襲われます!〝サン=サウザンド〟号が破壊されるようなことになったらどないするんです!?」

 

 焦りながらも端的に状況を伝える三毛猫車掌。そしてその後ろで精霊たちとワイワイと騒いでいる碧生。そんな精霊たちと戯れ続けている彼から問題ないという声が上がる。

 その声を聞いた焰は不思議に思って質問する。

 

「なんでだ?さすがにこのままだと不味くないか?」

「この車両は見た感じ半分とまではいかずともそこそこの量の〝金剛鉄〟が使われている。さっきぐらいのの衝撃じゃ傷はついても破損と呼べるほどのものは出来ないだろうよ。それに壊れても俺ならすぐに直せる」

「………よくわかったな。青鬼」

「他の印象が強くて忘れてるかもしれないが、一応は魔術師だからな。魔術的にも価値のある代物だし、精霊が原動力として使われているなら車両を確認しないわけにもいかない。ほら、わかったらそこの石炭ぶち込んで速度を上げさせろ」

「お、おうさッ!」

 

 碧生が精霊たちに魔力をあげながら説明し、指示を出す。その言葉に納得したのか三毛猫は勢いよく石炭を動力炉に放り込む。

 動力炉の精霊たちは投げ込まれた石炭に齧りつき、そのついでに魔力も取り込んで即座に燃焼させて勢いを上げていく。

 焰はその様子を興味深そうに眺めながらも、我慢できずに問う。

 

「ポロロ。まさかとは思うが、この巨大列車は蒸気機関なのか?」

 

 そうすると前後から同時に否定の声が上がる。一つはポロロ。もう一つは碧生から。

 

「んなわけあるかよ。ここはファンタジーの集合世界、〝箱庭〟だぜ?そんな効率の悪いものは採用しない」

「そうだな。これの動力は各動力部に別途の群体精霊の巣を作って、相互互換させることで動力に変換してるんだよ」

「………。は?え、じゃあ何か?燃焼で得たエネルギーは他の精霊とやらを通して、シェアしてるってこと?つまり燃焼エネルギーの転換率一〇〇%?」

「さあ?そこらへんは俺よりも青鬼の旦那の方が詳しそうだが」

「俺かよ。まあ、いいが………。転換率は一〇〇ではないな。だが、ほぼそれに近いレベルで変換できてるはずだ」

「………お前がさっきからあげてるそれのおかげか?」

 

 そういって焰は先ほどから指先から光る球体を生み出してずっと精霊たちにあげている碧生の手を指さす。

 

「いや、これは転換率には関係ない。魔力は例えとしては酸素や燃焼促進剤のようなものだと考えればいい。これのおかげでエネルギーの生産率は上がっても転換率が上がるわけじゃない。基本的には彼女たちの転換率のままだ」

「わたしたちのちからー!」

「ほめろー!」

「うやまえー!」

「そしてまりょくをよこせー!」

「ほらよ。くれてやるからもっと頑張れよ」

「「「「わーい♪」」」」

 

 碧生が追加で魔力を与えるとすぐに取り込んで嬉々として石炭を次々と燃焼させていく。それに気づいた三毛猫は急いで石炭を焼べる。

 

「………」

 

 そんな様子を、正しくは動力炉の中にいる精霊たちを見ていた。

 その視線に気づいた碧生は釘を刺す。

 

「………そこの科学者バカ。後で別の奴らに体毛とかのサンプルをもらってきてやるから解剖しようとするなよ」

「………そんなことは考えてないさ。だけどもらえるならもらっておく」

「それを俺の目を見て言ってくれたのなら信じるとしよう」

 

 あからさまに目と顔を背けながら答える焰。そのことに碧生は疑わしい視線と言葉をぶつける。そして解剖と聞いた精霊たちが焰に対して怯える姿勢を見せていた。

 

「まあ、話を戻そう」

 

 碧生が怯える精霊たちを宥めながら話を進める。

 

「安全圏まで逃げたらどうするんだ、ポロロ」

「〝アンダーウッド〟から引き離しさえすれば、速度を落として霊脈の流れに乗り超加速をすることができる。作戦は時間を作ってからゆっくり立てればいい」

「そうか。………まあ、今はそんなもんか」

 

 碧生とポロロの二人の会話を聞いた焰は顔を顰めた。そのことに気づいた碧生が声をかける。

 

「向こうのことは心配すんなよ。お前と鈴華の二人は十六夜が誤魔化したし、彩鳥の方も俺の会社の奴らが誤魔化してくれてる。それにそんなにさっさと帰りたいなら焦ったら終わりだ。視野も狭くなって見えるもんも見えなくなる。お前が今のところ心配することはなにもねえよ。もしそんな問題が浮上してきたら俺がお前に伝えるさ」

 

 碧生がそんなことを焰に言い聞かせる。その声は人を落ち着かせるような優しく頭にすっと入ってくる声色だった。

 そして、その声を聞いた焰は息を一つ吐き、心を落ち着かせた。

 

「それでも心配ならクイーンに頼んでもう一回向こうと繋げてもらえば良い」

「女王に?でも列車内だぞ?」

「いや会えるぞ。この精霊列車には貴賓室を兼ねた謁見の間がある。そこに行けばいい」

 

 ポロロがそう言う。それを聞いた焰は驚いて目を見開いた。

 

「にしても、青鬼の旦那はよくわかったな。ここにそういう場所があるって」

「まあな。クイーンも一応〝アンダーウッド〟の関係者だ。それに箱庭屈指の実力者を無下に扱うと怖いしな。一族郎党皆殺しとかコミュニティ壊滅とかな。それとそろそろ青鬼と呼ぶのをやめろ」

「笑えない冗談を言わないでくれよ、碧生。いや、マジで。てか、それを言うなら旦那だって箱庭屈指の実力者じゃないか。それと謁見の間があるのは一応女王に所有権があるからだ」

 

 ケラケラと笑う碧生に対して顔を青くし頬を引くつかせながら答えるポロロ。

 

「それにこれが太陽の主権戦争の予選扱いなら、どちらにせよもう一度話を聞いておいた方がいい。本選のギフトゲームは、従来の物と少しルールが違う」

「へえ」

「そうなのか?」

「そうなんだよ。今回から〝主催者〟と〝参加者〟に加えて新たにもう一枠———」

「しゅ、しゅうげきー!しゅうげきー!」

「しゅうげききますー!」

「落雷注意!みんな、摑まって!」

 

 会話の最中、幼い声と溌剌とした声の二つが列車の中に響いた。

 直後に轟く雷鳴。輝く雷光。天空より真っ直ぐ落ちてきたその稲妻は精霊列車を打ち据える。獲物を決して逃さぬ蠢きながら積乱雲が迫る。

 意志を持ち、渦を巻いて蠢く大嵐は、その姿は一匹の偶蹄類に変えていく。

 〝天の牡牛〟は稲妻を発しながら、天を揺るがす程の雄たけびを上げた。

 

『GEEEEYAAAAaaaaa—————!!!』

 

 蹄で天を搔き疾走する巨大な獣。その姿は目視できる範囲ではどれ程の巨体を誇るのか正確に測ることさえ難しい。

 稲妻を鋭い角に変え、高密度の積乱雲を総身にし、今まさに天を落とす勢いで迫る。

 碧生はその光景を見ながら召喚獣のアースと同じぐらいかな、などと考えながら突っ立っていた。もちろん普通に立っているように見えるが衝撃には備えている。

 

「っ………!」

「おっと。気を付けろよ」

 

 雷雨と風を受け激しく揺れる精霊列車の車内。焰は耐えきれずに倒れそうになったところを碧生によって腕を掴まれて支えられる。

 しかし、雨風で大河は氾濫し稲妻で大地は削られるものの、精霊列車はその軌道を外れる様子がない。激しく車体は揺れているが、それだけだ。

 碧生は焰を支えながら自身が乗車している精霊列車の出来に感心していた。そして、この列車を魔改造したい欲求に駆られたが、その考えはすぐに頭の中から消去した。

 その間も精霊列車は正常に走り続ける。不可視のレールが敷かれているのではないかと錯覚するほどに規則正しい軌道で走る。

 焰もこの安定性には驚いたのか、瞳を瞬かせる。

 

「す………凄いな。ちょっと聞いたことが無いぐらい豪快な雷鳴の雨だったぞ」

「ふふん。このぐらいで驚かれちゃ困るな。まだまだ本当の力はこんなもんじゃないぞ。霊脈の中にさえ入ってしまえばこちらのもんだ。あとはミノタウロスの迷宮まで一直線って寸法よ」

 

 ポロロは精霊列車の性能を誇る。………碧生の腕にしがみつきながら。

 

「この列車を誇る前に俺から離れろ。つか、摑まれって言われて真っ先に俺の腕を鷲摑むたぁどういうこったよ?」

「青鬼の旦那に摑まるのが一番安全そうだったからに決まってんだろ?事実、旦那はたたらを踏むどころかまるで床と張り付いてるみたいに一歩も動いてないわけだし」

「………さっさと離れてくれ。男に抱きつかれる趣味はないんだ」

「俺だって男に抱きつく趣味はないね」

 

 〝青鬼〟と呼ばれることをもう直そうともせず諦めた表情でポロロに離れるように促す。

 ………機関室にしては珍しい女性の車掌たちが何やら三人を見て興奮しているのを視界に入れないようにしながら。

 揺れ続ける車内で何とかバランスを取りながら一番近い手摺に向かう。そして、何とか手摺に辿り着くと思い出したように告げる。

 

「ほら、今のうちに女王に会いに行け。物好きなあの人のことだ。今頃は無断で貴賓室か謁見の間を占拠してる頃だろうよ」

「わかった。何から何まですまない。お礼はきっと何かの形で」

「いいってことよ。十六夜の旦那と青鬼の旦那には山ほど借りがあるからな。その身内なら俺たちの身内みたいなもんさ。気軽に構えておいてくれ」

「だがまあ、どうせどっかの馬鹿のせいですぐに借金塗れになるからお礼とか言ってる暇ないと思うけどな」

 

 その言葉を聞いた焰の頭の中に一人の穀潰しの顔が浮かんだ。

 

「………あり得そうなことを言うなよ。碧生」

「………焰はこの時、まさかあんなことになるとは夢にも思っていなかったのだった………」

「変なことをナレーション風に付け加えんなよッ!!?それがフラグだったらどうすんだよッ!?」

「安心しろ。あいつなら俺の予想通りの動きをしてくれるはずだ。今までもそうだったからな。アイツの行動を俺は九割の確率で当てて来ている」

「安心できねえよッ!?」

「ほら、叫んでないでさっさと女王のとこ行くぞ」

「なあ、嘘だよな?嘘だって言ってくれよッ!?」

 

 ひらひらと手を振り、焰を見送るポロロを尻目に焰で遊びながら機関室を後にする碧生と焰。

 焰を揶揄うことができて満足そうにしながら、手摺も使わずに揺れ続いている車内とは思えないほどに安定した足取りで別車両に向かう碧生。そのあとを手摺を使い何とか離れないでついていけている焰が追う。

 この時、この場所で別の脅威が迫っていることに気が付いていたのは碧生だけだった。

 

 

 




・館野蒼奇
 かかってくるなら来いよ、相手してやるからと悠然と構えて相手を瞬殺するスタイル。

・ジン=ラッセル
 平常心を保ちつつも、背中には冷や汗ダラダラだった。

・ペスト
 ステンバーイ…ステンバーイ…。
 ゴッ!…はしなかった。

・深水碧生
 魔力を精霊にあげ続ける簡単なお仕事。それと床に足が張り付いてる疑惑を一瞬持たれた。

・西郷焰
 精霊たちが気になる科学者脳。

・三毛猫
 車掌。碧生に振り回された今回の被害者。

・群体精霊一同
 餌付けされた精霊たち。

・メルル
 ネタバラし要因。

・ポロロ
 碧生に対する信頼度MAX。

・機関室の女性車掌たち
 遅すぎたんだ、腐ってやがる………。


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用事&破壊

 西郷焰と深水碧生は群体精霊の一匹、地精のメルルに連れられて貴賓室の前まで来た。

 手の平サイズしかないこの小さな精霊を頭に乗せながら魔力を与えている様子を横目で見つめる焰。

 メルルの様子は非常にうれしそうに笑っており、碧生はその様子を見て微笑んでいる。

 

「ここ!女王の部屋、ここ!」

「ありがとな。案内はここまででいいから、お前は機関室に帰っていいぞ」

「わかったー!あすかの家族によろしくー!」

「おう。メルルも仕事頑張れよー」

「うんー!」

 

 ぴょん!と碧生の頭から飛び降りたメルルはトッタカトッタカと可愛らしい足音を立てて去っていく。焰は「あすか」という名前に疑問符を浮かべていたが、碧生は気にした様子もなく扉を見つめていた。

 そしていざノックをしようと碧生が右手を上げた時、隣の車両から彩鳥が走ってこちらに向かってきた。

 

「………先輩と碧生?また女王に呼び出されたのですか?」

「用事があるのは焰だけだ。俺はただの付き添い。そっちも女王に用事か」

「ええ。そんな感じです」

 

 彩鳥は極めて自然な仕草でそれを口にする。焰ももう感づいているのか驚くことはなかった。碧生に関しては言うまでもないだろう。

 

「そうか。並の相手じゃないってことは知ってるんだよな?」

「ええ。それはもう先輩以上に」

「マジかよ」

「談笑の途中だが、そろそろいいか?」

 

 碧生が右手を上げた状態で二人に尋ねる。それに対して二人は頷くことで返答する。

 それを見た碧生はコンコンコンと三回ノックする。

 それを見た焰がノックの回数に気づいた。もし自分がやっていたら回数を間違えていたかもしれない、と。

 ノックから少しして中から声がした。

 

「どうぞ。入室を許可します」

 

 女王の声が響く。

 それを聞いた碧生は徐に()()を上げた。

 それに気づいた二人が何をするのかと理解できなかった。そしてこれからやろうとしていることに、はっと気づき止めようとしたときには、すでに遅かった。

 バンッ!という強烈な破裂音を響かせてドアが()()()()()

 原因は言うまでもなく碧生だ。彼は上げた右足でドアを蹴り破ったのだ。

 そして、蹴り飛ばされたドアの一部があろうことか女王と使用人の女性の顔面に直撃している。

 それを認識した焰と彩鳥は顔色が青を通り越して土気色になっていた。原因の碧生はうまく当てられたことを喜んでいた。

 

「てなわけで俺はこれから出かけるからゆっくり話せよ」

「「待てい!!/待ちなさい!!」」

 

 惨状をそのままにして立ち去ろうとする碧生を二人は必死に止める。こんなことを仕出かしておいてやった張本人が消えるのか、と。

 

「いやいやいやッ!何してんのお前ッ!?ドアを蹴り破った挙句なに命中させてんのッ!?馬鹿なのかッ!?」

「親父がドアは蹴り破るもんだと言っていた。だから俺は悪くない」

「いーや悪いね!!今回に関しては十中十お前が悪いね!!!!」

「そうですッ!!女王にあんなことしてただで済むと思ってるんですかッ!!?」

「YES!」

「「もう黙ってろ!!」」

 

 二人が詰め寄っても碧生は動じた様子も悪いと思っている様子もなく答えた。

 そんな風に三人が言い争っていると部屋の中から声をかけられる。

 

「三人とも、入りなさい」

「「はいッ!?」」

「………うーす」

 

 焰と彩鳥は声をかけられたことで背筋を伸ばし恐る恐る部屋へと入っていく。碧生は渋々といった様子で部屋へと入る。

 部屋の中には顔を赤くし、血が垂れているのか鼻をハンカチで抑えている女王と同じように顔を赤くし鼻をハンカチで抑えている使用人の女性、スカハサ。

 

「貴方は相変わらずですね、蒼奇さん」

「………さて、これでドアを蹴破られたのは何度目だったかしら?」

「さあ?五二回、いや三か?」

「五五回目よ」

「おっ、ゾロ目だ。ラッキー」

「マジで何やってんのお前ッ!?」

 

 予想以上の回数を行っていたことに焰は驚く。彩鳥も絶句している。

 

「いいんだよ。ちゃんと後日謝罪もしてるし対価も払ってる」

「………じゃあ、なんでやってるんだ?」

「「遊び」」

 

 碧生と共に女王が答える。

 

「俺はドアを蹴破る。そのたびに女王に俺への命令権が与えられる」

「基本的にはそういうゲームを恒久的に行っているだけと考えてもらって構わないわ」

「………なんでやってるんだ?」

 

 もう一度同じ質問を繰り返す焰。

 

「俺は女王から与えられる命令に面白いものが多いから」

「私は碧生に命令できるから」

「「WIN-WINだろ?/でしょう?」」

「いや、女王がドアの分だけ損してるんじゃ………」

「「細かいことは気にするな/気にしない」」

 

 二人は笑いながら言う。ただし女王は鼻血が出ているせいで締まらないが………。

 

「それに命令って言っても簡単なものが大半だ。お菓子を作ったりお茶の相手をしたり。あとはデートってのも数回あったか?」

「そうね。そんなのもあったわね」

「………いまだに蒼奇さんが作るお菓子の味を超えることができないのは悔しいですが………」

「あはは。まだ頑張ってるんだ?」

「ええ。それはもう。今も超えようと必死ですよ」

 

 女王と碧生は二人でクスクスと笑っている。対してスカハサは少し落ち込んだような表情を見せる。そんな三人の様子をビクビクと怯えながら眺める焰と彩鳥。

 

「とはいえ、命令は後日にしてくれ。俺はこれから出かけるからな」

「あら、そうなの?」

「ああ。じゃあ、二人を頼んだ」

「ええ。行ってらっしゃい」

「ドアはいつも通り直しておいたぞ」

 

 そうして直したドアから部屋を出ていく碧生。その場に残された二人はどうすればいいのかわからず立ち尽くしていた。

 

「さて。二人は何の用かしら?」

 

 ようやく鼻血が止まったが、いまだに少し鼻が赤い女王にそう話しかけられてさらに固まってしまう二人がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 碧生はスーツから動きやすい服へと着替え、フード付きの黒い上着を羽織る。彼の一張羅で戦闘服だ。

 

「さて、ペスト」

「なにかしら?」

 

 碧生はペストを呼び出して命令する。

 

「ここは任せた。でも手は貸し過ぎずほどほど、もし誰かが死にそうだったなら頑張ってくれ」

「わかったわ。でも、そんな心配は必要ないと思うけれどね。それにマスターはどこに行くのかしら?」

「もちろん、アステリオスとの決着をつけに行くんだよ」

 

 そういって、姿を消す碧生。

 そして、そのすぐ後に前世の特訓を含め、何度目かの怪物と人外の二体による衝突が幕を開けた。




・深水碧生
 ドアを蹴破るゲーム。対価として命令権一回を女王へ与える。それだけのゲーム。

・西郷焰
 彩鳥と二人貴賓室に残されたが、その後何事もなく話が済んで安堵している。今回の碧生の被害者その一。

・メルル
 碧生と焰を貴賓室に案内してくれた地精。

・久藤彩鳥
 女王相手にさすがに何か仕出かすことはないだろうと油断していた。今回の碧生の被害者その二。

・クイーン・ハロウィン
 不運にも碧生によって粉砕されたドアの破片が顔面に直撃した。

・スカハサ
 不運にも(ry
 碧生が作るお菓子の味に嫉妬している。

・ペスト
 出る予定はなかった。


 次話も一週間後の予定!


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上陸&注意

 今日から三日、連続投稿!
 なぜ三日か?それでとりあえず二巻が終わるから!
 では本編どうぞ!


 クレタ島は台風二十四号の直撃を受けたため、一般人は立ち入り禁止となり、半ば無人となっていた。復旧作業を行っているそうだが、それは真実を隠すための方便だろう。

 いや、一部は事実なのかもしれない。実際に、碧生のところの社員が復旧という名目で調査に来ていた。もちろんその人員たちは一般人では決してない。それにクレタ島の調査は非公表なだけで政府公認の正式な調査隊だ。だが、彼らも調査という調査もしていない。すでに原因もわかっていて、対処法もあるのだ。では何のために彼らがいるのかといえば、人を近づけないためだ。

 ただ、一応は復旧という名目である以上、最低限と言っても過言ではない程度の整備はされていた。折れた木を脇によけてあったり、食材などは腐るものは回収してあったりと人が過ごしやすいようにはしてあった。

 ()人は通りやすいように整備された道を歩いていく。足りない一人の天衣だ。彼女は服装的に適さなかったので船に待機してもらっているようだ。だが、碧生はそれでもいいと言って、本人も納得していた。彼女には彼女なりの役割があるようだ。

 

「出入り禁止の病魔の島ってことか。予想通り、クレタ島はウイルスだらけになってるみたいだな。碧生の会社の人間しかいない」

「どういうことだ?」

「以前、ミノタウロスと戦ったという話はもうしただろ?その時は迷宮と一体化した怪物で知性がない雰囲気だったんだけど、再会したときは僅かだが知性があるように見えた。―――それで気がついたのさ。もしかしたら何かの理由で、ミノタウロスが人間に戻りかけているんじゃないかってな」

 

 ボロボロの道をひたすら進んでいく四人。

 釈天は何故か虫に集られながら、詳しい理由を問う。

 

「なるほど。それがどうしてクレタ島のパンデミックに繋がる?」

「ミノタウロスの伝承の読み解き方を変えてみた結果、かな。ミノタウロスが後天的怪物である場合、その後天性には何か理由があるだ」

「へえ。後天的にねえ。俺のミノタウロスは先天性だったが、アイツは後天性だったのか」

 

 碧生は感心したような声を出しながら寄ってくる虫を釈天の方へとバレないように魔術で誘導する。

 碧生の前世、蒼奇が管理していた世界のアステリオスはどれも先天性で、その内の一体が英雄テセウスによって倒されそうもなくなり、仕方なく回収した存在であった。

 プリトゥは群がる虫に「そんなところに入ってはダメだぞ」と語りかけて諫め、納得したように頷く。

 

「そうか。そういえば聞いたことがあるな。ケルト神群の魔王バロールなどがその代表例になるのだろうか?」

「黒死病で他民族を支配したって奴か。あれも病魔による後天的な神性だな」

 

 まだ整備ができていなかったのか通行の邪魔をしている折れた樹を蹴り飛ばした十六夜は、こんなこともあろうかと用意していた虫よけスプレーを軽くだけ噴射し、釈天に投げて寄越す。

 碧生のせいもあり、大量の虫に集られていた釈天はその施しに感謝しつつ、虫よけスプレーを大量に噴射して言葉を続ける。

 

「あーつまりあれか?病原である二頭の怪牛が召喚されたのは、この地に関係があると考えているわけだな?」

「ああ。もしくはイラク南部とも考えたが、碧生が既に手を回していたみたいだ。箱庭の神様が外界に干渉するには、何かしらの自身と縁がある場所を使わないと駄目なんだろ?候補としてはその二つが有力だったが、そこの人外のおかげで手間が省けた、なッ!」

 

 二本目と三本目の樹を蹴り飛ばす。

 彼なりに気を遣って道の脇に蹴り除けているのだが、聊か衝撃が強すぎたらしい。嵐の中で細々と巣を守っていた蜂たちは怒り狂い、一斉に釈天へ襲い掛かった。

 慌ててヤシの葉で応戦し始めようとした釈天を碧生が抑え、魔術によって蜂たちを鎮静化させて帰るように促した。そんな碧生をありえないといった目で見る三人。

 

「………なんだよ?」

「い、いや………珍しいと思っただけだ」

「単純にこれから戦闘になる可能性が高いからお前には頑張ってもらわないといけないと思ってな。それに勝手に生物殺されて生態系に影響与えられても困るんだよ」

「………戦闘だ?」

 

 十六夜が怪訝な顔して碧生に問う。

 

「ああ。ここに出てくる前に天衣の千里眼でクノッソス宮殿を見てもらったんだが、お前の相棒さんがケガさせられてたからな」

「………へえ?」

 

 十六夜の顔には少しの苛立ちが窺えた。それに気づいた碧生が言葉をつなげる。

 

「別にすぐに命に関わるほどの物でもねえし、一日もありゃあ俺の会社で完治可能なレベルだ。心配するようなことはねえよ。それよりほら見えてきたぞ」

 

 そういった直後に、地中海の空に旋風が巻き起こった。巨大な鳥の影が地上に映し出されて高速で過ぎ去る。

 プリトゥは敵かと身構えたが、十六夜と釈天と碧生の三人は違った。

 十六夜は心配そうに見つめ、釈天は驚いたように天を仰ぎ、碧生は懐かしそうに目を少し細めている。徐々に近づいてきた巨大な影を迎えた釈天は納得がいった様に声を上げた。

 

「お前は………何時かのグリフォンか!いやはや、随分と懐かしいな!」

『お久しぶりです、釈天殿。ご健勝で何より』

 

 旋風を巻き起こして下降してきたのは、彼らの知己でもある、鷲の上半身と獅子の下半身を持つ幻獣〝鷲獅子〟だった。大気を踏みしめるように奔るという鷲獅子は階段を下るかのように足を前後させて舞い降り、恭しく頭を垂れる。

 そこに碧生がゆったりとした歩調で近づき、話しかける。

 

「はいはい。そんなことよりもさっさと怪我を見せやがれ、グリー」

『むっ?そちらは蒼奇殿か?生きておられたか』

 

 グリーは匂いで分かったのか気配で分かったのかは定かではないが碧生のことが蒼奇だとわかったようだった。

 そんな言葉に苦笑交じりで転生してから何度目かわからない説明をする。

 

「お生憎、一度死んで転生させられたよ。それより怪我はどんな感じだ?」

 

 碧生は近づき、後ろ足を覗く。見てみるに骨が砕けているようだった。

 

「こりゃ酷いな。それに残留してる気配………相当厄介な相手みたいだな」

『はい。箱庭の出入り口と思われる場所を玉座の間にて確認したのですが………その先で思わぬ敵と遭遇し、今に至ります。お気を付けください。かなりの手練れ揃いでした』

「だろうな。十六夜、釈天。お前らも気を付けろ。特に釈天、お前は誰を相手にしても勝てる見込みはねえから時間稼ぎに徹しろ。そうすりゃ、俺か黒ウサギあたりが駆けつけられるだろ」

「………そんなにか?」

「ああ。十六夜ですら危ねえかもな」

 

 碧生はグリーの患部に応急手当を施しつつ笑いながら言う。

 

「それなら私もついていった方がいいか?」

 

 プリトゥが言う。それを碧生は手で制す。

 

「死ぬことはないだろうし、向こうには俺もいる。それにこっちで何かが起こらないとも限らない。だから箱庭には十六夜と釈天の二人で行ってくれ」

「わかった」

「それじゃあ、お前らが行ったら、グリーを俺の会社に転移させて治療させる。それでいいな?」

「ああ。頼んだ」

『すまない。恩に着る』

「昔のよしみだ。気にするな」

 

 改めて頭を垂れるグリー。それを険しい顔で見ていた十六夜は大股でグリーに近づき、短く告げる。

 

「………悪い、グリー。飛行機なんかに頼らず、もう少し早く来るべきだった」

『馬鹿を言うな。独断で先走った私の判断だ。お前に非はないだろう?』

「だけどお前のおかげで奇襲は免れ、力量も測れた。それだけで十分な戦果だ。———安心して寝てな。万倍返しで殴り飛ばしてきてやる」

 

 ヤハハと十六夜が笑うと、グリーもニヤリと笑って返した。

 重傷を負ってもこのように笑える男に過剰な心配は不要だ。今はただ、この受けた傷の借りを返すことだけを考えるべきだろう。

 

「じゃあ、ここでプリトゥとはお別れだな。碧生とは向こうで会えるかもしれないが。悪いけどこいつは任せた。女王にクレーム付けたらすぐに迎えに来る」

「そうしてくれ。………二人とも油断するなよ」

 

 プリトゥと碧生に見送られて十六夜と釈天の二人はクノッソス宮殿の奥にある玉座の間に足を向ける。

 

「さて、それじゃ転移するぞ」

『すまない。それについてなのだが、ここで治療できないだろうか?ここでアイツの帰りを待ちたいのだ』

「………はあ。まあいいか。少し待て。こっちに回復系の恩恵を所持してるやつが来てたはずだからそいつを呼び出す」

 

 そういって懐からスマホを取り出し電話を掛けると、二・三言葉を交わして電話をしまう。

 

「五分で来れるそうだ」

『感謝する』

「別にいいって言ってるだろうに………」

「………さっき、二人ですら厳しいかもしれないと言っていたが相手は一体誰なんだ?」

 

 そこにプリトゥが質問する。

 

「気配が間違ってなければ、一人は牛魔王だな」

「………なに?間違いないのか?」

「ああ。これはほぼ確実。アイツには会ったこともあるし気配も覚えてるしな。ただ自信がないのはもう一人の方だ」

「………それは?」

「釈天の親族。まあ気配の感じから多分一親等、多分息子だろう」

「………ッ!アルジュナが!?」

「おそらく。ソイツには会ったことはないが、釈天と気配が似ていたからな。こっちもほぼ確定だ」

『………二人は大丈夫なのか?』

「まあ、問題ねえさ。少なくとも十六夜の方は死ぬことはないと断言できる。釈天も時間稼ぎに徹しなくても傷だらけ程度で済むんじゃないか?」

『………そうか』

 

 そこに一人の女性の声が響く。どうやら碧生が先ほど連絡をした回復系の恩恵所持者だろう。

 

「社長!お待たせしました!」

「かまわない。それよりこいつの治療を」

「はい!」

 

 女性は元気よく返事をすると、グリーの後ろ足に近寄り施術を始める。

 

『………驚かないのだな』

 

 その女性の反応を見ていたグリーが呟く。突然自身のような幻獣を見ても一歩も引かずに、それどころかすぐに行動に移れるところに逆に驚かされたのだろう。

 そんなグリーの呟きが聞こえたのか、女性が笑いながら言葉を返した。

 

「あはは。あなたのような幻獣程度で驚いていたら社長の下でなんて働けませんよ」

『「………………………………」』

「二人してそんな目をしてどうした?」

 

 グリーとプリトゥは一体会社で何をして、何をさせているんだと睨むが、碧生は動じた様子もなく飄々とした態度であった。




・深水碧生(館野蒼奇)
 今回は釈天にちょっと優しい人外主人公。ただし今回だけ。

・逆廻十六夜
 原作より蹴る木の本数が少なかった。ディープブルーコーポレーションの作業のおかげ。

・御門釈天(帝釈天)
 蜂と戦わずに済んだ神様。ただしそれ以外に碧生から押し付けられた虫がいる。

・プリトゥ(プリトゥヴィ=マータ)
 虫になりt、ゲフンゲフン。
 原作通り居残り。

・グリー
 幻獣グリフォン。そのうえ十六夜の相棒。足を負傷し、現在治療中。

・桐生翠(きりゅう みどり)
 ディープブルー社の女性社員。
 復興作業という名目でクレタ島に来ていたディープブルーコーポレーション(ディープブルー社)の女性社員。
 天然の治療系の恩恵の持ち主。ケガや病気すらも治療できるせいでいいように使われていたところを碧生にスカウト(保護)され、現在は彼の会社で働いている。
 所属部門は医療部門。今回は被災地の復興ということで作業員の衛生管理チームの一員としてクレタ島へきていた。


 次回は明日!年末だからね!


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衝突&報復

連続投稿二日目!


 ———白亜の迷宮。

 

 そこでは激しい衝突が起きていた。

 

 その衝突は二体によって起こされていた。

 

 一方は理性なき怪物。

 

 もう一方は常識なき人外。

 

 怪物は人外を屠るために全力で。

 

 人外は戦闘を楽しむために加減して。

 

 二体は対等の力でぶつかり合っていた。

 

 しかし、それでも人外が押されている。

 

 その微かな差は各々の技量とリーチの差だろう。

 

 理性がないとは思えないほどの綺麗な斧槍捌き。

 

 三メートル近い巨体ゆえの腕とその手に持つ二本の斧槍自体の長さを利用した攻撃。

 

 そのせいで人外は近づけずにいた。いや、近づけはする。

 

 ただ、その度にあの巨体から生み出される強烈な蹴りを喰らうことになるだけだ。

 

 勿論恩恵を使えば一発で解決することだが、彼にその気はなかった。

 

 なぜなら、それではとんだ興醒めだからだ。

 

 力を拮抗させ、自身よりも大きく力強い物の相手をする。

 

 それは彼にとってはこれ以上ない喜びだろう。

 

 この戦闘は少しの間なら誰にも邪魔されることはない。少なくとも十数分ぐらいは大丈夫だろう。

 

 ………………そう、思っていた。

 

 怪物と人外が距離を取り、今一度衝突しようと駆け出し、二体がぶつかる寸前。

 

 怪物の背中に()()()()()()()()が直撃するまでは。

 

 それらの直撃を受けた怪物は駆けていた勢いをなくし失速、前のめりになる。

 

 あまりの出来事で人外の方も止まることができず、勢いのままに突っ込んでいってしまった。

 

 その意図せずしてできた隙へ人外の強烈な一撃が与えられる。

 

 思いもよらなかった。人外も、怪物も。

 

 人外の一撃を喰らった怪物はそのまま意識をなくして、倒れる寸前でその姿を消した。

 

 人外は、理解した。怪物は打倒されたと判断され、自身の契約書本に戻ったのだと。

 

 その瞬間、人外は昂っていた興奮が急速に冷めていくのが自身でもわかった。

 

 代わりに別の感情、怒りが沸々と湧いてくる。

 

 ただ一つ、『邪魔をされた』。これだけの理由で人外は怒り狂った。

 

 すぐに邪魔をした者たちの下へと向かう。

 

 人外として。

 

 暴力として。

 

 理不尽として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―—————絶望を見せるために――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮のゴール地点。そこは今、静寂に包まれていた。少し前までは戦闘音や落雷が鳴り響いていたはずなのに。まあその理由は果てしなく単純だ。

 自分たちよりも強大な存在が目の前に現れたのなら一時中断せざるを得ない。ただそれだけだろう。

 

 

 それゆえに十六夜と釈天と〝アヴァターラ〟の面々は困惑していた。

 目の前に突然現れた黒い靄のようなナニカ。

 困惑していた者たちのなかでこの正体を知っているものはさらに困惑していた。

 こいつはこんなつまらない場で全力を、それに怒りを撒き散らすようなことをするような奴ではないと()()()()()からだ。

 だが、現に今ここで誰もが身を竦ませるほどに怒りを、恐怖を、絶望を振りまいていた。

 それは、ここに居るべきではない、逃げ出さなければいけないと、その場にいるものに思わせるには十分すぎる代物だった。

 その存在が何をしにここに来たのかが、誰にも分らなかった。

 いや、考える余裕すらも彼らにはなかっただろう。

 そして、静寂を破ったのはこの状況を生み出した張本人だった。

 

『まずは、棍棒………』

「なッ………!?」

 

 目にも止まらぬ速さで牛魔王の下へ移動すると、彼が反応できないほどの速度で彼の頭を掴み、

 

『………』

「ガッッッ!!!?」

 

 地面へと叩き付ける。

 全力で行われたそれは牛魔王の頭が半分ほど埋まり、地面が割れるほどのものだった。

 しかし、黒い靄はそこへさらに追い打ちをかける。

 

「ッッッ!!!?」

 

 牛魔王は悲鳴や呻き声すらも上げられなかった。

 今、彼の頭には彼自身の棍棒が叩き付けられたのだ。

 それによりさらに彼の頭は埋まり、迷宮の地面がさらにひび割れる。

 

『………次は、稲妻の矢………』

「ッ!」

 

 アルジュナの方を向いてそう呟く黒い靄。

 アルジュナはその言葉が聞こえたのか弓を構え矢を射るが、そんなものはあの存在の前では無駄で無意味な行為だった。

 

『………』

「グッ………!!!?」

 

 気づいた時には黒い靄によって首を掴まれ、持ち上げられていた。

 どうにかその腕から逃れようともがいているが、ビクともしない。

 

「…………ッ!!!!?!?」

 

 そして、また気づいた時には、背中に衝撃が走り、呼吸が一瞬止まっていた。

 彼は首を掴まれたまま背中から叩き付けられたのだ。

 その力で彼の体はバウンドすることなくすべての力を彼の体が受け止めていた。

 その衝撃は内部にも伝わり、しばらくの間は激痛により体を動かすことは出来そうになかった。

 

『………最後は、落雷………』

「………来るなら来いよ。俺じゃお前に何も出来ねえからな………」

 

 釈天は潔くその理不尽な暴力を受けることにしたようだった。

 その言葉を聞いた黒い靄は彼の腹部を全力で殴りつけた。

 当然のごとく、勢いを逃がすために後方に飛ぶなどの行動を行う暇などなく、その衝撃をすべてその身に受ける。

 痛みに悶えながらも片膝をつく程度で収まったことに不思議に思う釈天。

 もしかしたら加減をしてくれたのかもしれない。安堵の息を吐く。

 だが、甘かった。

 

『………』

「ゴッ!!?!?」

 

 二度目の衝撃。今度は顎だった。蹴り上げられた。

 脳が揺さぶられて、意識が混濁する。

 しかし、それ以上に激痛が意識を手放すのを許してはくれなかった。

 そして釈天は自然に落ちた。

 追い打ちはそれで終わりだったようだ。

 そして、唯一立っている十六夜の下へ歩み寄る。

 それに警戒し、身構える十六夜。

 

『できる限り痛くはしない。あと、すまない』

「……………………………は?」

 

 黒い靄は徐に十六夜の腕を掴む。そして、その腕を振りかぶる。

 

『行ってこい』

「テ、テメッ!?このクソ野郎がああああああッッッ!!!!!??」

 

 全力で投げた。着地は知らん。彼なら自分どうにかするだろう。

 そして、今度こそ黒い靄はその場から存在を消した。

 あとに残されたのは瀕死の三人のみであった。

 そこへ釈天の救援に来た黒ウサギが見たのは何とか立ち上がってはいるが、膝が生まれたての小鹿のようにがくがくと震わせながら釈天とアルジュナの二人が対峙している姿であった。

 牛魔王の姿は既にそこにはなく、あるのは血痕と割れた地面のみであった。

 残る問題は焰たちが相手している怪牛だけであった。

 

 




・深水碧生(館野蒼奇)
 ただの八つ当たり。ついやってしまった。以上。

・アステリオス
 不運にも背中に実力者三名の攻撃(うち一つは棍棒)が当たってしまい、結果的には敗れた。

・逆廻十六夜
 唯一の生き残り。だが投げられる。
 戦闘に割り込まれたタイミングは牛魔王に投げられる直前。
 よって結果も原作も、ほぼ変わらない。

・御門釈天
 釈天は二度やられる。

・牛魔王(平天大聖)
 自身の武器によって殴られ敗北。

・アルジュナ
 背中から着地。……………骨は砕けてないよ?

・クールマ(世界王)
 理不尽野郎が来る前に消えた(逃亡)。

・黒ウサギ
 生まれたての小鹿のごとく膝を笑わせていた主神と敵対者を発見、その後にフリーズ。
 そして特に何もなくアルジュナは帰っていくのを目撃。


 次話は明日!


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帰還&仕事

連続投稿三日目!そして今年最後の投稿!


 ゲームをクリアして元の世界のクレタ島に飛ばされたアステリオスを新しく加えた焰たち一行。

 

「やっと帰ってこれた………」

 

 焰が声に疲労を含ませながら言う。

 それを聞いた碧生が彼の肩に手をのせて笑いながら声をかけた。

 

「お疲れさん。初ゲームにしてはかなり良かったんじゃねえの?」

「そりゃどうも………。つか、お前は終わるまでどこで何をしてたんだよ………」

「色々だ、色々。それとお前らは俺の会社じゃどうにも出来ねえから、〝エブリシングカンパニー〟の方を頼ってくれ」

「そりゃまたなんでだよ?」

「………一応お前が契約してるのは彩鳥だぜ?それなのに他所の、それもライバル会社が対応したら外聞悪いにもほどがある。だがまあ、ライバルに恩を売ってもいいとは思ってるが、それはそれでつまらないからな。でもまあ、迎えが来るまでにソイツを休ませるところが必要だろう」

 

 そこで碧生は懐から携帯電話を取り出して連絡を取る。

 二、三言葉を交わし電話を切ると、再び焰たちに向き直る。

 

「今、ここに来てる社員に連絡してここに来てもらうように言った。あとはそいつの案内に従ってついていけば休める場所に連れてってもらえるだろう。というわけで彩鳥。あとは頼んだぞ」

「え?は、はい………。その、碧生はどうするつもりですか?」

「どうするって、普通に帰るぜ?そんじゃな」

 

 そういってその場から姿を消す。

 

「………そうでした。あの人は転移が使えるんでしたっけ………」

「………………そういやアイツって結局何者なんだ?箱庭にも随分と詳しいし、女王とも仲良さげだったけど」

 

 焰が彩鳥に尋ねる。

 彼女は答えてもいいかどうかを考えるが、どうせあの人のことだから話してしまっても何も言ってこないだろうと考え、口を開いた。

 

「………あの人は、前世は箱庭の最古の魔王の一体でした。呼称としては〝恐怖〟、〝絶望〟、〝青き魔王〟、最後に〝願いを叶える魔王〟。箱庭で最も恐れられた魔王でありながら、最も被害の少なく、平和的な魔王、と聞いています。ですが、後半の二つは魔王という呼称ができてからのものですね」

「………前半三つは魔王として相応しいと思うけど、最後のは一体どうしてそう呼ばれたんだ?」

「………実際に見たわけではないので何とも言えませんが、彼のゲームはまず初めに挑戦者からその者が望む願いを聞き、それに見合った試練を提示する。挑戦者はそこで一度その試練を受けるか受けないかを問われ、拒否権が与えられたそうです。そして、受けなかった者は何もなく無傷で帰される。反対に受けた者はその試練に挑んだとされています。そして見事その試練をクリアした者は初めに言った願いを叶えてくれたといわれているんです」

「………マジかよ」

「それって本当に叶えてくれたの?」

「そう聞いています。多くはいなかったようですが、幾人かの証言が記録として残されていると聞いています」

「………碧生って神か何かなの?」

「……………………………ど、どうでしょうか?」

 

 そこで三人の頭に金盥が降ってきてガンッ!という音を立てて直撃する。

 不意に頭に衝撃と激痛が走り頭を押さえて蹲る。

 そこへ一枚の紙がひらひらと三人の目の前に降ってきた。

 それにはこう書かれていた。

 

『神なわけがあるか。あんな変態だらけの連中に含むな、アホ』

 

 ………明らかに先ほどの会話を聞いていたとしか思えない内容だった。

 それを見た焰たちはさらに疲労感が増した。

 その後、碧生が呼んだ人物が来て彼らはその人物に案内され、休憩しながら〝エヴリシングカンパニー〟へと連絡を取り、迎えを待った。

 

 

 

 

 

 同じく飛ばされた逆廻十六夜は、怒りで全身を戦慄かせながら小さく叫ぶ。

 

「なんで………精霊列車は箱庭に帰ったのに………俺だけ外界に飛ばされてんだよッ!!!おかしいだろド腐れ女王ッ!!!何の嫌がらせだこれはッ!!!そしてお前もだ蒼奇ッ!!!」

「俺のは八つ当たりに近い何かだ。意味はない。しいて言えば俺の憂さ晴らし」

「ふざっけんなッ!!!」

 

 ………と、辺り構わず吼える十六夜。彼も自棄になっているのだろう。

 そこで、グリーの治療を行っていた女性が声を上げる。

 

「治療は終わりました。ただ少しの間は動かしづらいかもしれませんが………」

『いや、治してもらえただけでも十分だ。感謝する』

「いえいえ。それでは社長。私はこれで」

「ああ。特別手当を出しておく。それともう暫くしたら撤収するかもしれない。その旨を他の奴らにも伝えておいてくれ」

「わかりました。帰ったらみんなに何か奢ってくださいね?」

「………………………………………………………金を下ろしておくよ。店を見繕っておいてくれ」

「ホントですかッ!?こうしちゃいられませんね!早く皆に伝えなきゃッ!!」

 

 目にも止まらぬ速さでその場から走り去っていく女性。

 それを呆れたような目で見つめる碧生。女性の姿が見えなくなると今後のことを話し合っている十六夜たちに向き直って話す。

 

「というわけで、俺はもう帰らないといけない。後のことはお前らでどうにかしてくれ」

「ああ。わかった」

「それと十六夜。賭けは俺たちの勝ちだ。ちゃんと金を用意しとけよ」

「はっ………?」

「じゃあな」

 

 それだけ言うと、碧生は空気に溶けるようにその姿を消した。転移したわけではない。この個体はもう必要ないと自分で判断し、存在を消したのだ。これでもう残る個体は社長室に残っている本体を含めた二人と焰たちと行動を共にしていた個体のみとなった。

 

 

 

 

 

 焰たちと別れた碧生は途中で天衣を回収して〝ディープブルーコーポレーション〟へと帰ってきた。

 

「天衣、悪いな。せっかく来てもらったのにほとんど出番無くて」

「い、いえ、なんだかんだ皆さんに付き合うのが楽しかったので大丈夫です………」

「そうか?なんなら今度何か埋め合わせするが………」

「なら今度買い物に付き合ってください!」

 

 『埋め合わせ』という単語を聞いた途端にすごい勢いと剣幕で碧生に詰め寄る天衣。

 それを見た周りの社員は「あっ、社長やらかしたな」と内心考え、二人の方を見ない方にしている。

 詰め寄られている碧生本人も「あっマズイやつだ、これ」と冷や汗をかいている。

 

「………お手柔らかにお願いします………」

「はい!無理はさせません!!」

 

 本当かよ?

 周りにいた全員の心が一致した瞬間だった。

 その後、天衣と別れた碧生は月夜見に呼ばれたため、彼の下に向かっていた。

 

「月夜見、来たぞ」

「社長。奴らを見つけました」

 

 それを聞いた碧生の眉間に少ししわができる。

 そして、若干の怒りを隠すことなく尋ねた。

 

「………場所は?」

「ロシアです。詳しい場所はこちらの資料を」

「………わかった。俺一人で行ってくる。もし何かあれば社長室の個体が分かるはずだ」

「了解しました。お気をつけて」

 

 そして姿を消す碧生。

 

 

 

 

 

 その後、ロシアに存在したとある施設とそこにいた研究者十数名の命がこの世から消え失せた。

 だが、その代わりに、そこに収容されていた被検体の少年少女ら五名の命がある一人の人外の手によって救い上げられ、保護することに成功した。

 

 




・深水碧生(館野蒼奇)
 転移で帰る。これは常識。

・西郷焰
 (碧生による)疲労感しかない。一たらい。

・彩里鈴華
 (碧生への)疑問しかない。二たらい。

・久藤彩鳥
 (碧生の存在に)不安しかない。三たらい。

・逆廻十六夜
 理不尽に対してキレる。それと賭けの賞金を要求される。

・グリー
 傷は翠のおかげで完治。

・御門釈天(帝釈天)
 問題児と幻獣を雇う穀潰し社長。

・プリトゥ(プリトゥヴィ=マータ)
 一応その場にいた。

・桐生翠
 社長に飯(奢り)を強請る。おそらく居酒屋か焼肉をチョイスするだろう。

・三神天衣
 女性の買い物は長い。だが、この子はその数十倍長い。ゆえに碧生に合掌。南無。

・月夜見
 日本神話の月の神。碧生の部下。雑貨部門の副部門長のほかに諜報活動もしている。

・ディープブルー社の社員一同
 社長に合掌。南無。

・とある施設の研究者たち
 外道。もうこの世にはいない。

・五名の少年少女
 被検体。これからディープブルー社でカウンセリングとリハビリを受ける。


 これで二巻終了です。
 とりあえずアンケートの方に要望もないので、改稿作業に入ります。
 それとアンケートにつきましても常時受け付け中です。


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