仮面ライダードラゴンナイトStrikerS (龍牙)
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プロローグ

「ぐわぁ!」

 

ゼイビアックス将軍との戦い後、ベンタラを守る騎士『仮面ライダー』の力…その中の一つ『仮面ライダードラゴンナイト』の力を先代である『アダム』より受け継いだ少年『<r辰輝:たつき> <r統夜:とうや>』は鮫をイメージさせる見た事も無い水色の仮面ライダーと戦っていた。

 

 

「なんだ…あの仮面ライダーは?」

 

 

サメ歯状の刃を持つ大刀を構えながら、倒れるドラゴンナイトに近づいていく水色の仮面ライダー。

 

その姿を見ながら、疑問に思う。過去の戦いの中で存在していたベンタラで作られたカードデッキは自分が変身したもう一つのライダー…イレギュラーである『仮面ライダーオニキス』を含めても合計で13しか存在しないはずであり、目の前の仮面ライダーの姿はその13人の仮面ライダー達の姿のどれにも当てはまらない。

 

 

「どうだい、トウヤ・タツキ。君達のカードデッキのデータを元に作り上げた完全新作の仮面ライダー『アビス』の力は?」

 

 

目の前の仮面ライダー…『アビス』から聞こえる声に驚きのあまり、仮面の奥で思わず目を見開いてしまう。

 

 

「その声…お前…まさか…」

 

 

「その通り、久しぶりだね」

 

 

「…生きていたのか…ゼイビアックス!!!」

 

 

「生きていたのさ。それと、今の私は、『仮面ライダーアビス』だよ」

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

ゼイビアックス…いや、アビスの言葉を聞きながらカードデッキから抜き出したカードをドラグバイザーに刺し込み、『ドラグセイバー』を召喚する。

 

 

「オレの前になんで現れたんだお前は…?」

 

 

「いや、単なる私の作り上げた新型の自慢と機能チェックだよ。君達への別れの挨拶も兼ねているがね。どうだい、このアビスの力は? ユーブロン等の作った物よりも遥かに高性能だろう?」

 

 

「ふざけるな!」

 

 

そう叫びながら、ドラグセイバーを持ってアビスに切り掛かるドラゴンナイトだが、アビスは掲げた大刀『アビスセイバー』でそれを受け止め、

 

 

「おおっと!」

 

 

「ぐはぁ!」

 

 

もう一本のアビスセイバーでドラゴンナイトの体を切りつけ、

 

 

「はは、危ない、危ない」

 

 

そう言いながら体制の崩れたドラゴンナイトの体を蹴り飛ばす。

 

 

「ぐっ…こいつ…」

 

 

「やれやれ、私の目的は君をベントする事では無いと言うのに」

 

 

アビスを睨み付けながら、ドラグセイバーを杖代わりに立ち上がるドラゴンナイトだが、首を振りながらアビスはそう告げる。そして、

 

 

 

『STRIKE VENT』

『STRIKE VENT』

 

 

 

奇しくも同時に響き渡る二つの電子音。アビスとドラゴンナイトの手に装着されるのは、サメと龍の頭を模した手甲だった。

 

 

ドラゴンナイトに装着されたのは龍の頭を模した手甲『ドラグクロー』

 

 

アビスに装着されたのはサメの頭を模した手甲『アビスクロー』

 

 

互いに手甲を装着した腕を振り上げ、

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「ふん!!!」

 

 

二人のライダーの装備した手甲からから放たれる炎と水流…『ドラグクローファイヤー』と『アビススマッシュ』の二人のライダーの相反する力を持つ技。

 

炎と水の激突が生み出す爆風が二人のライダーを襲い、同時に発生した水蒸気が視界を奪う。不覚にもドラゴンナイトは行動が一瞬遅れてしまった。

 

 

 

『ATTACK VENT』

 

 

 

「がぁ!」

 

 

電子音が響くと同時に、正面からの銃撃に曝され、続いて真横から何者かに切りつけられ、トドメとばかりに殴り飛ばされる。

 

 

「どうだい、彼等が私のアドベントビースト…『アビスマッシャー』と『アビスハンマー』だ」

 

 

水蒸気が晴れていき、視界が開けた時、何時の間にかアビスの左右にはサメ型のモンスター『アビスマッシャー』とシュモクザメ型のモンスター『アビスハンマー』が存在していた。恐らくは先ほどの攻撃は二体のモンスター達による物なのだろう。

 

 

「さて、落ち着いて話をしようじゃないか、トウヤ君?」

 

 

「お前なんかと話す事なんて無いな。」

 

 

そう言って『ATTACK VENT』のカードをカードデッキから抜き出し、それをドラグバイザーに装填しようとするが、

 

 

「やれやれ…過激だね、君は。まあ、聞きたまえ。私はこの世界から立ち去り、新天地へと旅立とうと思っているのだよ」

 

 

「なに?」

 

 

「悪くない話だろう。君達仮面ライダーに敗れ、こうしてアビスを初めとするカードデッキのコピーが完成した今となっても、流石に地球とベンタラで君達仮面ライダーと戦っても勝ち目が薄いと思った訳だよ」

 

 

アビスの言葉に疑問を覚えながらも、ドラゴンナイトは一言一句聞き逃さない様に耳を傾ける。それと同時にアビスの動きにも最大限の注意を払っている。

 

 

「…何を言っているんだ…お前?」

 

 

「まあ、行き成り言われても信じられないのも無理はないだろう。だが、これは事実だ。それに、君達にとってもいい話だろう? 敵である私が地球からも、ベンタラからも居なくなるのだからね」

 

 

「…どう言う意味だ? お前が地球からも、ベンタラからも居なくなるって言うのは」

 

 

「旅立つのだよ…君達仮面ライダーの居ない世界へと、俗に言う『異世界』へとね。君に会いに来たのは、お別れを言いに来たのだよ。さようなら、親愛なる仮面ライダードラゴンナイト! 二度と会う事も無いだろうから、ユーブロンや他のライダー達にもよろしく言っておいてくれたまえ」

 

 

「っ!?」

 

 

思わずアビスの言葉に言葉を失ってしまう。

 

その言葉を信じるのなら、ここでアビスを逃せば、かつて地球やベンタラで起こった事が別の世界にも起こってしまうと言う事になってしまうのだから。しかも…その世界には…

 

 

「仮面ライダーが居ない…お前達に対抗する術がない。そう言う事か?」

 

 

「その通り。そして、その世界に渡ってしまえば、仮面ライダーのデッキはこうして私が作り上げたコピーしか存在していない。その世界で悪のライダー軍団を作り上げ、この私が、その世界を支配するのだよ」

 

 

「そんな事を…オレが…オレ達がさせるとでも思ったか!!!」

 

 

「そうだろうね。だが、考えてみたまえ、君達には別の世界へ渡る方法は無い。つまりだ。君がどれだけ頑張っても、私と戦う事は出来ないと言うことだよ」

 

 

そう告げてアビスはドラゴンナイトへと背を向け、カードデッキから一枚のカードを取り出し、アビスバイザーへと装填する。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

アビスがカードをベントインするとアビスマッシャー、アビスハンマーの両モンスターが背中合わせに立ち、水の竜巻を作り出し全身を巨大な渦を巻く水の壁が隠した時、水が弾け、ドラゴンナイトのアドベントビースト『ドラグレッダー』よりも巨大なホオジロザメ型のモンスター『アビソドン』が出現した。

 

 

「な!? モンスター同士の合体!?」

 

 

「何も、驚く事は無いだろう? ストライクにも同じ事は出来たはずなのだからね」

 

 

そう言ってアビスは何かの作業を始めると、アビソドンは空中をまるで水中の様に泳ぎながら、ドラゴンナイトへと襲い掛かる。

 

 

「くっ!」

 

 

「では、トウヤくん、こちらの準備が終わるまでの間、そこで私のモンスターと遊んで居てくれたまえ」

 

 

アビスの言葉に答える様にアビソドンの顔の中央からアミーナイフ状のノコギリが出現し、接近戦形態であるノコギリザメを思わせる『ノコギリモード』へと変わり、ドラゴンナイトを切り裂かんと突撃する。

 

 

「ペット自慢の様に言ってんじゃねぇよ!!!」

 

 

ドラゴンナイトを切り裂かんと襲い掛かるアビソドンから逃げながらアビスへと向かって思わずそう叫ぶ。

 

 

「くそ! こっちは、お前と遊んでる時間は無いんだよ!」

 

 

 

『ATTACK VENT』

 

 

 

アビソドンへと反撃するべく、カードデッキからそのカードを抜き出し、ドラグバイザーへと装填する。

 

 

『グオォォォォォォォオ!!!』

 

 

鏡を門として出現したドラゴンナイトのアドベントビースト『ドラグレッダー』が咆哮を上げ、アビソドンへと炎を放つ。

 

 

『………!』

 

 

無防備にドラグレッダーの炎を浴びたアビソドンだが、ノコギリモードからホオジロモードへと戻り、ドラグレッダーへと向き直り目の部分を左右へと広げ、ハンマーヘッドを思わせる姿に変わると、そこからエネルギー弾を放つ。

 

 

『ガァ!』

 

 

ドラグレッダーは素早く体を動かしアビソドンの『ハンマーモード』が放つエネルギー弾を回避しながら、炎を放つがそれらはエネルギー弾で打ち落とされ、打ち落とされなかった炎の与えるダメージは決して大きな物にはなってはいない。

 

 

「食らえ!!!」

 

 

アビソドンの注意がドラグレッダーへと向かった瞬間を逃さず、ドラグクローから炎を放つ。

 

 

『っ!?』

 

 

ドラゴンナイトの攻撃を受けたアビソドンはドラゴンナイトの方へと顔を向け、エネルギー弾を放とうとするが、今度は別の方向からドラグレッダーからのブレスが直撃する。

 

二対一…巨大なアビソドンに対して数の上での優位を維持し、ドラグレッダーと連携しながら攻撃を仕掛けているが、有効打にはまだ届かず、アビソドンを倒す為には必殺の一撃となる『FINAL VENT』を使うしかない。だが、それを使った瞬間にアビソドンに大きな隙を見せてしまう事となる。

 

 

「どうする…。あの化け物モンスターとどう戦う…?」

 

 

決定打を与えられない事に焦りを募らせていくドラゴンナイトだが、

 

 

「うわ!」

 

 

『グルゥ♪』

 

 

突然、鏡の中からもう一体のドラゴン…ドラグレッダーに似た漆黒の体を持ったアドベントビースト…トウヤがオニキスのデッキを使っていた時のアドベントビースト『ドラグブラッカー』が姿を現した。

 

そして、その攻撃的な姿からは想像できない飼い主に懐く子犬の様な仕草でドラゴンナイトに甘え初める。

 

 

「ドラグブラッカー!? どうしてここに!?」

 

 

オニキスのデッキはドラゴンナイトの物を受け継いだ時にユーブロンに返したのだから、ドラグブラッカーの契約は彼の元に無いはずなのだ。

 

 

『ガァァァァァァァアア!!!』

 

 

ドラゴンナイトの言葉に答えず咆哮を上げながら、ドラグブラッカーはドラグレッダーと戦うアビソドンへと向かっていく。

 

ドラグレッダーに注意が向いている隙にドラグブラッカーはドラグセイバーを模した尾によってアビソドンの体を切り裂き、

 

 

『ガァァァァァァァア!!!』

 

 

漆黒の炎を叩きつける。

 

 

『グォ!?』

 

 

……………………近くに居たドラグレッダーも巻き込んで。

 

 

「…ホント…仲悪いよな…あいつら…」

 

 

心の中で溜息を付きながらも、ドラグブラッカーの出現は此方の優位になったのだ。ならばと、カードデッキからドラゴンナイトのカードデッキに刻まれている紋章と同じ絵が書かれた『FINAL VENT』のカードを抜き出す。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

ドラグレッダーが前線から離脱し、ドラゴンナイトの背後で円を書く様に動き、同時にドラゴンナイトも中国拳法の様な体勢を取り、空中へとジャンプし、それを追いかける様にドラグレッダーも飛ぶ、

 

 

「ハァァァァァァァァアア!」

 

 

空中に舞い上がったドラゴンナイトは空中で一回転の動作、そして、ドラグレッダーがドラゴンナイトの周囲を廻る。

 

 

「ハァァァァァァァァ!!!」

 

 

そして、ドラグレッダーが炎を放つと同時にドラゴンナイトは飛び蹴りを放つ、炎を纏ったドラゴンナイトが一直線に飛び蹴りの体制でアビソドンへと向う…それがドラゴンナイトの持つ<r必殺技:ファイナルベント>、

 

 

「ドラゴンライダーキック!!!」

 

 

炎を纏って放たれたドラゴンナイトの必殺の飛び蹴りがアビソドンへと直撃し、吹き飛ばす。その衝撃を受け、アビソドンはアビスマッシャーとアビスハンマーへと分離し、アビスの左右へと吹き飛ばされた。

 

 

「おお、まさか、アビソドンがやられるとはね」

 

<r真紅:ドラグレッダー>と<r漆黒:ドラグブラッカー>の二体の<r龍:ドラゴン>を従えながらドラゴンナイトはアビスと対峙する。だが、当のアビスはそんなドラゴンナイトを前に余裕の態度を崩さずに立っていた。

 

 

「次はお前の番だ…アビス」

 

 

「いいや、残念ながら時間切れだよ、トウヤ君」

 

 

アビスがそう宣言するとアビスの背後にオーロラの様な灰色の歪みが現れる。

 

 

「それでは、さよならだ!」

 

 

そう告げたアビスはアビスマッシャー、アビスハンマーと共に歪みの中へと飛びこん行く。

 

 

「待て!」

 

 

同時にドラゴンナイトもまたドラグレッダー、ドラグブラッカーと共にアビスを追って歪みの中へと飛び飛び込もうとする。

 

 

「ぐっ…」

 

 

だが、ドラゴンナイトが別の世界へと渡る事を拒絶するかの様に、アビスの飛び込んだ灰色の世界の歪みはドラゴンナイトを押し返そうと反発する。

 

 

「こ・・のぉ……」

 

それでも、ドラゴンナイトはその歪みの先へと向かって一歩ずつ歪みの中へと進んでいく。ドラゴンナイトと同様に、彼の従えるドラグレッダーも、ドラグブラッカーも…。

 

そして、完全にドラゴンナイトが歪みの中へと入った瞬間、先に歪みの中へと飛び込んだアビスの背中が見えた。

 

 

「待…て……「掛かったな」なに!?」

 

 

アビスはドラゴンナイトを振り返りあざ笑うように告げる。

 

 

「確かに、私は君達ベンタラの仮面ライダー達に負けた。それは認めよう。だが、君一人では私に勝てないと言う事を忘れたのか?」

 

 

「っ!?」

 

 

アビスの言葉に思わず絶句してしまう。

 

 

「君達との戦いの影響で、こうしてライダーの姿になっていなければ、私は満足に戦う事も出来ない。それも認めよう。だが…君一人で何が出来ると言うのかね?」

 

 

その言葉にドラゴンナイトはアビスが自分の目の前に現れた理由をイヤでも理解する。ゼイビアックスに勝てたのは13人の仮面ライダー全員が力を合わせた結果だ。逆に自分一人で戦えと言われて、勝ち目が有るかどうか…それは誰よりも彼自身が一番理解している。

 

 

「まさか…。」

 

 

「追ってきても来なくてもどっちでも良かったのだよ、私は。君が付いてきてくれれば、私は君へ復讐が出来る。来なければゆっくりと向こうの世界を侵略する事ができるのだからね」

 

 

ドラゴンナイトを襲う浮遊感…アビスの姿が目の前から真上へと遠ざかっていく。

 

 

「それでは、異世界でまた会おう、トウヤ・タツキ君」

 

 

そう言ってドラゴンナイトへと背を向けて立ち去っていく姿を目に焼き付けながら、ドラゴンナイトはアビスをただ見送る事しかできなかった。



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第一話『赤龍降り立つ』

-異界の地より邪悪なる将が降臨する。-

 

-邪悪なる将この世界に悪意と共に悪の円卓の騎士を選ぶ。-

 

-悪の騎士の力の前に魔道の力は砕かれ、世界は絶望が覆う。-

 

-だが、絶望を砕かんと希望もまた邪悪なる将と共に異界の地より降り立つ。-

 

-その希望はかつて邪悪なる将を打ち倒せし異界を守る円卓の騎士の一角、双龍を従えし赤き龍の騎士。-

 

―法の塔は騎士の力を求め、騎士はそれを拒絶する。―

 

―騎士と戦ってはいけない。切り札と騎士刃交える時、希望は絶望へと変わる。―

 

カリム・グラシアスの予言より抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…クソ、完全に嵌められたな…ゼイビアックスのヤツに…」

 

廃墟となったビルの中らしき場所で意識を取り戻した統夜は、自分の現状を確認するようにそう呟く。

 

ここがゼイビアックスの言っていた地球ともベンタラとも違う『異世界』なのだろう。仲間も協力者も居ない自分一人だけの戦いと言う現状に思わず溜息が出てしまう。

 

唯一の救いは“一人”では有るが、決して“孤独”では無い所位だろうか?

 

そんな事を考えながら、統夜は近くにある鏡面へと視線を向けると、そこにはドラグレッダーとドラグブラッカーの二体の龍の姿が有った。

 

「それはそうと…何でお前がオレの所に来たんだ?」

 

そう問い掛ける統夜に対してドラグブラッカーは鏡の中から顔を出してカードデッキを統夜へと差し出した。

 

「っ!? オニキスのカードデッキ、どうしてこれを…?」

 

ドラグブラッカーから差し出されたそれはドラゴンナイトを受け継ぐ前に託され、そして、正式に受け継いだ時にユーブロンへと返したはずの『仮面ライダーオニキス』のカードデッキだった。

 

「これって…ユーブロンからか?」

 

統夜の言葉にドラグブラッカーはその言葉を肯定する様に顔を上下に振る。

 

ユーブロンが何故再び自分にオニキスのデッキを届け様としたのかは疑問だが、今の状況では手札が増えるのはありがたい。登録されているDNA情報も元々自分が使っていた物なので自分が使う分には何の問題もない。

 

(…ドラゴンナイトとオニキス…カードデッキが二つ有っても、変身できるのはオレ一人だけどな…。それにしても…)

 

ふと、鏡の中に移る二体の龍へと視線を向けながら、カードデッキへと視線を向け。

 

(…ここにもベンタラみたいな鏡の向こうにパラレルワールドが有るのか?)

 

アドベントビーストの二体が鏡の中を移動している姿を見ていると、そう思わずにはいられない…と言うよりも、鏡の中の世界にこそ、ゼイビアックス…アビスが存在しているのだろう。

 

統夜がそんな事を考えていると何処からか耳鳴りの様な音が響く。鏡の中でもドラグレッダー達が警告する様に方向を上げている。…ゼイビアックスの配下のモンスターが動いているのだろう。

 

「来て早々か。…例え、オレ一人でも…お前は止めて見せる!!!」

 

そう叫びながら、黒地に金色の龍を象った紋章の刻まれたカードデッキを取り出し、鏡へと向けると、統夜の腰にベルト『Vバックル』が現れる。そして、

 

「KAMEN RIDER!」

 

そう叫び、カードデッキをバックル部分へとセットするとカードデッキが回転し、統夜の姿を赤い光が包み、その姿を真紅の仮面の龍騎士へと変える。

 

それこそが、ベンタラを守る13の仮面ライダーの一人…『仮面ライダードラゴンナイト』

 

「よし!」

 

そう叫びドラゴンナイトは鏡の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どこだ…? 何処に…居る?)

 

鏡の中、アドベントサイクルを走らせながら、ドラゴンナイトは周囲の様子に注意を払う。先ほど入った場所と同じく廃墟となったビルが立ち並ぶ景色が広がるそこに、三、四体の赤い異形の怪物が人を何処かに連れ去ろうとしているのが見えた。

 

「…まったく…右も左も分からない所に来て、懐かしい顔に会ったな…。…物凄く嬉しくないけどな。」

 

イモリを連想させる赤いモンスター。ゼイビアックスの配下の下級モンスター『レッド・ミニオン(日本名:ゲルニュート)』の姿を見据えながらそう告げ、アドベントサイクルから降りると、カードデッキから一枚のカードを抜き、カードデッキへと挿入する。

 

 

『SWORD VENT』

 

 

電子音と共に上空から降りてきた剣『ドラグセイバー』を手に取り、ドラゴンナイトはレッド・ミニオン達へと切り掛かる。

 

『ゲェ!』

 

一体を切り裂きそのまま蹴り飛ばす。続いて二体目へとドラグセイバーを振り下ろすが、人を連れ去ろうとしていた固体を守るように他のレッド・ミニオン達がドラゴンナイトの行く手を阻む。

 

「チッ!」

 

逃げられた…と言うよりも連れ去られた事に舌打ちしながら、自分に向かってきたレッド・ミニオンをドラグセイバーで切り裂き、もう一体を蹴り飛ばし、残った一体を殴り飛ばし、距離を取るとカードデッキから新たなカードを抜き出す。

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

ドラグセイバーを地面へと突き刺し、ドラグレッダーの頭部を模した手甲・ドラグクローを装着し、パンチモーションと共に出現したドラグレッダーと手甲から炎を放つ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

ドラゴンナイトが放ったドラグクロー・ファイヤーによって三体のレッド・ミニオンを吹き飛ばすと、耐久力を超えるダメージとなったのだろう、レッド・ミニオン達はそのまま消滅する。

 

(…やっぱり、しっかりと動き出していたか…ゼイビアックス)

 

ドラグセイバーを引き抜き、そう考えながらその場を立ち去ろうとした時、何かの気配を感じ取り、その場から飛び退くと、今まで立っていた地面を何かが削り取る。

 

「新種のモンスターか!?」

 

ドラゴンナイトの視線の先に居たのは、珍しい鬣が刃状になった黄色い四足歩行のライオン型のモンスター『ソードレオン』がドラゴンナイトを見据えながら威嚇するように咆哮した。

 

ソードレオンの姿を見据えながら、ドラグセイバーを握りなおすドラゴンナイトだが、今度は足元から通常の蠍の様な姿をした赤い蠍型のモンスター『ポイズンスコルピオ』が現れる。

 

「クッ! 次から次へと…。」

 

大きく後に跳びながら、ポイズンスコルピオから離れるとポイズンスコルピオの毒針の生えた尾が叩きつけられた地面が溶け出した。そんな物がまともに直撃したら、ドラゴンナイトの<r装甲:アーマー>でさえタダでは済まないだろう。

 

ドラゴンナイトがカードデッキからカードを抜き出し反撃に移ろうとした瞬間、ソードレオンとポイズンスコルピオはそれぞれバラバラにその場から離れていく。

 

「…新手のモンスターか…それにしても…」

 

戦闘が終わり気が抜けると全身を疲労が襲う。ゼイビアックスの変身したアビスと先ほどのレッド・ミニオン達との戦闘と考えてみれば連戦なのだから、時間的な感覚は無いが先ず一日は過ぎておらず、その疲労も仕方ない事だろう。

 

(…一度、さっきの場所に戻って休むか…)

 

休息を求める体を引きずりながらドラゴンナイトはその場を後にする。

 

それが、辰輝統夜…仮面ライダードラゴンナイトの異世界『ミッドチルダ』での始めての戦いであった。

 

だが、彼は気付いて居なかった。ドラゴンナイトの姿を確認す様に二人の人影がレッド・ミニオンやソードレオン、ポイズンスコルピオとの戦いを監視していた事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統夜がミッドチルダでの孤独な戦いを始めてから数日後…

 

機動六課…それは最近になって試験的に設立された『八神 はやて』の率いる新設の部隊である。

 

そこに会議室のモニターには刑務所の映像と思われる映像が映し出されていた。

 

その映像の中でサメをイメージさせる水色の鎧を纏った仮面の男と、その男が率いる人型のサメの様な二体のモンスター、そして、イモリをイメージさせるモンスター達が次々と看守を襲っていた。

 

その場にドラゴンナイト…統夜が居れば仮面の男の事をこう呼んでいただろう…『仮面ライダーアビス』と。

 

「…酷い…」

 

その光景に誰ともなくそんな呟きが零れる。

 

「魔法が…効かない?」

 

女性…『高町 なのは』からそんな呟きが零れる。

 

映像の中では、何人かの看守がストレージデバイスと言う杖を向け魔力弾を放つ。それはイモリをイメージさせるモンスター…レッド・ミニオン達には多少は効いている様だが、それでも、ドラゴンナイトの様に消滅させるまでは至っておらず、足止めが限界であり、それを率いるアビスやアビスマッシャー、アビスハンマーに至っては、それはまったく効いていない。

 

どれだけ抵抗しても足止めが限界ならば相手の数が減らない以上、次第に追い詰められるのは看守達の方だろう。バラバラに抵抗していた者達は背後から忍び寄ってきたレッド・ミニオンによって次々と鏡の中に引きずり込まれていく。

 

幸か不幸かある程度連携して抵抗していた者達には痺れを切らしたのか、二本の剣を持ったアビスによって切り殺される者、アビスマッシャー、アビスハンマーに食い殺される者も出てくる。…それが、不幸にも刑務所での数少ない犠牲者となったしまった。

 

そして、生きた看守達の姿が消えた刑務所の中でレッド・ミニオン達とアビスマッシャー、アビスハンマーを率いたアビスは次々と牢を破壊し、収監されている犯罪者達を解放していって行く。

 

「拘束されとった犯罪者達は全員解放されて、それ以外の人達はこの仮面の男と怪物達に殺されるか、何処かに連れ去られたちゅうわけや」

 

部隊長の八神はやてが全員に向かって重々しくそう告げる。最後にアビスがケースの様な物を渡している所が映し出された時、アビスハンマーの撃ちだした光弾によって映像を録画していた物が破壊されたのだろう、そこで映像は終わっていた。

 

「それだけやない。ここ最近、人が突然行方不明になるちゅう事件も発生してるんや。目の前で突然人が消えたって報告も出とる」

 

「それって、まさか…この映像の様に?」

 

「そうや、うちはこの怪物達と仮面の人が関係しとると思うとる。それと…」

 

新たに映し出される映像にはドラゴンナイトに似たデザインのバイク『ドラゴンサイクル』に乗ってレッド・ミニオン達と戦っているドラゴンナイトの静止画像が映し出された。

 

「また、仮面のヤツかよ?」

 

「でも、この人はさっきの映像の人と違って怪物と戦ってるみたいだけど」

 

新たに映し出された映像に対して少女『鉄槌の騎士ヴィータ』と『フェイト・T・ハラオウン』からそんな感想がこぼれる。

 

「そうや。襲撃犯とは違う赤い仮面の人は怪物達と敵対しとるようなんや。それに、怪物にさらわれそうになったって言うとる人達の中にはこの赤い仮面の人に助けてもらったって言うとる人も居るんや」

 

「この怪物の事、何か知ってるなら、赤い仮面の人からお話が聞ければいいんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻…別の場所

 

(ここに来てから数日…ゼイビアックスの手掛かりはゼロか)

 

街中を歩きながら統夜は空を見上げる。統夜の心の内に反して視界の先には快晴の青空が広がっていた。

 

ここ数日、ゼイビアックスの居場所を突き止めようと動いているのだが、完全に後手に回っている状況だ。

 

雑兵とも言えるレッド・ミニオン以外のモンスターとはこの世界に来た時に最初に出会った二体のモンスター以外には出会っていないのだが、人を連れ去ろうとするレッド・ミニオンとは鏡の中、現実世界と問わず何度が戦っている。

 

戦っているのは所詮は彼一人で有り、できる事にも限界はあり、ゼイビアックスの元へ連れ去られる人の数は減少させる事は出来ているが、ゼイビアックスの居場所を突き止める手掛かりさえ掴めていない。

 

(…それに…奴の言ってたカードデッキのコピーの行方に関しても気になるしな…)

 

自分達の扱っているカードデッキはDNA情報の登録によって別の人間が変身する事はできず、かつての地球侵略の際にもゼイビアックスは平行世界の上での同一人物…同じDNA情報を持つ人間を騙し、カードデッキを与えていた為に、幸いにも変身できる人間の中に悪人は…。

 

(…まあ、いい人も居たけど悪人も居たって事で…)

 

そう考えて考えを即座に切り止める。中にはしっかりと詐欺師とかも居たのだから、悪人が居ないなどとは口が裂けてもいえない。

 

(はぁ…レンさんもこんな気分だったのか?)

 

まったく別の世界で一人で戦うという感覚。それを考えて、かつての仲間の事を…自分が仲間になる前まで一人でゼイビアックスと戦っていたベンタラの戦士『仮面ライダーウイングナイト』こと『レン』の事を思い出し、自分が同じ立場に立った事で改めて心から尊敬する。

 

(しかし、この世界の事も色々と調べてみたけど…魔法なんて物が存在しているなんてな…)

 

地球とベンタラの二つの世界の事を知っている為に『異世界』と言う物はすんなりと受け入れられたが、やはり、『魔法』と言う物の存在だけはすんなりと受け入れられるかと聞かれれば、感嘆には受け入れられない。…実際存在をこの眼で見たとしても…。

 

(…100%ファンタジーな物じゃなくて、どちらかと言うと科学の延長みたいな物だしな。仮面ライダーも似たような物だし)

 

魔法と言う力を使う者…『魔導士』の存在を考えると地球よりも、ゼイビアックスの配下に対抗する為の戦力は僅か13人しか居ない地球とベンタラよりも大きいだろうとも思える。だが、それでも、ゼイビアックスがこの世界を侵略する道を選んだと言う事は…。

 

(…奴にとっての脅威度はオレ達仮面ライダーの方が上って事かよ? まあ、そんな事はどうでも良いか。問題は管理局だかなんだか知らないが、その組織に協力を求めるのは止めた方が良いか)

 

質量兵器と言う魔力を使わない誰にでも使える兵器の根絶を謡う、全ての次元世界を管理する正義の組織で、地球は97番目の管理外の世界らしいのだが…。

 

(ベンタラの事は知らないようだけど…絶対に第二のゼイビアックスになりそうな組織だよな…。ベンタラの事を知られたら、拙い事になりそうだ。大体…限られた者しか使えない武器を広めて、汎用性の強い武器を廃止する時点で……それを大量に持ってる自分達の支配体制を強める事が目的にしか思えないな…。連中にしたらオレ達の仮面ライダーの力も質量兵器なんだろうし)

 

調べれば調べるほど《『第二のゼイビアックスとなりそうな組織』=『ベンタラにとっての害悪』》と言う公式が浮かんで来そうな組織の存在に思わず溜息を付いてしまう。なにより…

 

(組織に大義は有っても“正義”はないよ。…大体…そんな組織の人間が一般市民に絡んでる時点でどうかと思うけどな…)

 

ポケットの中に入っている“一般市民に絡んでいる管理局員”を叩きのめして、生活費として巻き上げた財布を弄びながらこう思う。……『世も末だ』と。

 

統夜にとって“正義”とは『敵と言う一を犠牲にして十を救う事』…他の人間の正義は否定はしないが、それ故に組織の正義は否定する。人の数だけ存在するのならば、人が集まる組織において、一つの正義など存在しない。第一…『悪と言う名の正義』も存在しているのだから。故に組織が掲げる“絶対の正義”等存在しない。寧ろ、<r組織の正義:そんな物>を盲信している人間は所詮人形と変わらない。

 

だから、統夜は管理局との協力と言う考えを即座に切り捨てている。

 

 

なお、寝泊りする場所は最初の目を覚ました廃墟で済ましていた。

 

(…はぁ…。仮面ライダーとして“絶対”に関わらない様に気を付けながら、戦うとするか…)

 

某所でその管理局の一部隊が関わろうとしているとも知らず、心からそう誓う統夜で有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに刻まれるは新たな物語の序曲…多くの思惑が絡み合いながら、物語は最初の一ページを刻む。



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第二話『ドラゴンと少女達の出会い』

「…はぁ…流石にこう、毎食だと飽きるよな…」

 

適当に買ってきたファーストフードを食べながら溜息と共にそう呟く統夜。

 

食事は安い物で簡単に済ませているのだが、それが毎日続くといい加減飽きが来る。金銭面…『人権無し』と言い切って躊躇無く金を巻き上げる事ができる相手もそう出会えるものではないのだから。主に市民に絡んでいる管理局員とか。

 

間違いなく生活費を稼ぐ為の行動は犯罪行為なのだが、そこら辺は右も左も分からない上に戸籍も住居も何もない異世界で生活する事になって、一人でゼイビアックスと戦うことになった統夜としては、『悪人に人権無し』と言う事で仕方ないと即座に判断していた。

 

「…はぁ…やっぱり一人じゃ限界があるよな…。…今更ながら、尊敬するぜ…レンさん…」

 

思わずそう呟いてしまう。

 

統夜自身、流石に一人と二匹だけで出来る事は限界が有るのは理解している。だが、それでも信用できない相手(時空管理局)にベンタラやライダーの事を話すよりはマシと考えて、こうして一人で戦う事を選んだのだ。

 

 

 

キィィィィィィィイン…

 

 

 

 

ペットボトルの水を飲み干した時、モンスターの出現を告げる音が聞こえてくる。

 

「出たか。今日は何もないと思っていたけどな…」

 

溜息交じりでそう呟き、鏡へとカードデッキを向け様とした時、ドラグレッダーが顔を出して首を振る。

 

「…鏡の中に入るな? どう言う…っ!? そう言う事か!?」

 

頷くドラグレッダーの姿を見て、自分の考えが正しいと判断するとビルから飛び出すと近くに止めてあるバイクに飛び乗り、鏡へとカードデッキを向ける。

 

「KAMEN RIDER!」

 

統夜がドラゴンナイトに変身すると同時に彼の乗るバイクもその形をドラグサイクルへと姿を変える。

 

そして、ドラゴンナイトは近くの鏡へと飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後…

 

「モンスターが出たのはあのリニアの中か」

 

まだ遠くに位置するレールを走るリニアを眺めながらドラグサイクルの上でドラゴンナイトはそう呟く。

 

モンスターの出現しようとしているらしいこの場所まで、人目に触れない様に鏡の中を経由してドラグサイクルで走って来た訳なのだが、

 

「さて、どうやって入り込むかな…って、戦闘中!? 新手のモンスター…じゃないな…」

 

モンスターと言うよりも戦闘用の機械らしき物…ドラゴンナイトは知らない事だが、管理局では『ガジェット・ドローン』と呼ばれているそれと数名の管理局員らしき人影が戦っている姿を確認すると、姿を見られるのは拙いと思いリニアのレールから距離を取り、その様子を確認する。

 

向こうがモンスターの存在を知っているのか知らないのかは別にして、管理局の魔導士らしき人影はガジェットと戦っている事から、既に手遅れかまだ動いていないかどちらかなのだろう。

 

そう考え、先回りしスピードを落とすであろうカーブの近くで待機、戦闘のドサクサに紛れリニアの中に飛び込み、モンスターの活動する鏡の中で戦う事を決める。

 

管理局から逃げるのは鏡の中にさえ飛び込んでしまえば簡単な事だろう。そうなってしまえば、向こうには自分を追跡する術等ないのだから。

 

(…タイミングを合わせて…。失敗したら厄介な事になるしな…)

 

そう考えていた時、ドラグサイクルのハンドルを握りながらリニアに視線を向けていたドラゴンナイトの視線が驚愕に染まる。

 

「あれは、ディスパイダー!? …でも、前にレンさんが戦った奴とは色が違う…。…亜種って所か?」

 

色こそ違うがある意味思い出深い(主に『折れたぁー!?』とか)、見覚えのある巨大な蜘蛛型モンスター…蒼い『ディスパイダー』がリニアの先頭車両に飛びつき、リニアを脱線させていたのだ。

 

「久しぶりの大物か!? 迷っている暇はないか…急がないと被害は大きくなる」

 

舌打ちをしつつ、モンスターが出現している以上は迷っている暇はないと判断し、ドラグサイクルを走らせ、ドラゴンナイトは脱線したリニアへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、機動六課の戦闘メンバーはリニアに積まれているロストロギア『レリック』の回収の任務に当っていた。

 

ガジェットと名付けられた戦闘機械と戦いながらも無事リニアに乗り込む事が出来、そのまま行けば無事回収できるはずだった。

 

「やあ、可愛らしいお嬢さん方、私に何か用かな?」

 

レリックの入ったケースを片手にアビスセイバーの一本を開いた腕に持ちながらサメをイメージさせる水色の仮面と鎧を身に纏った男…ゼイビアックスの変身したライダー、『仮面ライダーアビス』は自分と対峙する二人の少女…『スバル・ナカジマ』と『ティアナ・ランスター』に対して穏やかな口調でそう告げる。

口調こそ確かに穏やかだが、纏っている空気はそんな態度とは正反対の物を感じさせる。

 

「そ、それを此方へ渡してください! それは…」

 

「危険な物なんだろう? そんな事は分かっているさ。しかし、困った事に私にはどうしても、これが必要でね。申し訳ないが君達に渡す訳には行かないのだよ」

 

そう言ってアビスが何かの合図をすると、リニアを震動が襲う。

 

「きゃあ!」

 

「な、なに!?」

 

「なに、代わりと言っては何だが、私からのプレゼントと言った所だよ。それでは、ごきげんよう」

 

そう言ってアビスは近くの鏡面に飛び込んでいく。

 

ティアナは慌ててアビスの消えた鏡面に触れてみるが、当然ながらアビスのようにその中に入れるわけも無い。

 

「どうなってるのよ?」

 

「ティ、ティア」

 

『ゲェ』

 

ディアナがスバルの言葉に振り向くと、二人の居る車両よりも後部に位置する車両からイモリをイメージさせる赤いモンスター、レッドミニオン達が二人の居る車両に姿を現す。

 

「この化け物って…刑務所を襲ったあの仮面の男が連れていた奴等…。くっ! この化け物!」

 

そう叫びながらティアナは自身の拳銃型のデバイス『クロスミラージュ』から魔力弾を放つが、

 

「ゲェ!?」

 

直撃したレッドミニオンの一体が吹き飛ばされ、後に居た仲間を巻き込んで倒れるが、当った場所を撫でながら立ち上がり、何事も無かったかのように立ち上がる。

 

「なっ!?」

 

「だったら、これは如何だ!?」

 

「ゲェッ!?」

 

スバルが近づき頭をぶん殴ると、先ほどと同じ様に仲間を巻き込んで後に倒れる。今度は下敷きにした仲間達から『重いから、早く退け』と言う様な仕草でどかそうとしているが、なかなか動く様子はない。だが、そんなレッドミニオン達を避けて別のレッドミニオン達が前に出る。

 

……………なお、数体のレッドミニオンは上に載っている仲間を退かして、下敷きにされた仲間を助けていたりもしている。

 

「全然効いてないよ~」

 

「こんな所じゃ、追い詰められるだけ…逃げるわよ!」

 

「う、うん!」

 

ティアナの言葉に従ってリニアの外に飛び出した瞬間、

 

『シャー…』

 

「「え?」」

 

ディスパイダーの吐く糸に捕獲されてしまう。

 

「くっ、アクセルシューター!」

 

上空から白い魔導士『高町 なのは』が二人を助けようとディスパイダーへと魔法を放つが、ディスパイダーは巨大な前方に有る足の内二本を振るいそれを防ぐが、何度かの直撃にディスパイダーの前足の一つが吹き飛ぶ。

 

「やった!」

 

「さすが、なのはさん!」

 

初めてモンスターにダメージを与えられた事に喜ぶが、ディスパイダー自身は怒りを覚えたように、機械的になりながらも人型になった蜘蛛と呼べる上半身がなのはを睨み付けると二人を捕獲したように粘着性の糸を放つ。

 

「なのさん!」

 

「きゃあ!」

 

何回かは避ける彼女だったが、避け切れなかった糸が腕に絡みつき、続いて他の糸が絡めとる。

 

「ひっ!」

 

捕獲した彼女を連れ去ろうとするレッドミニオン達にさえ『邪魔をするな』と言わんばかりの様子で攻撃を仕掛け、引きずり寄せる。

 

ディスパイダーに浮かんでいる意識は『怒り』…ゼイビアックス製のライダーと契約した上級のモンスターと比べて圧倒的に下級に位置する能力のモンスターだが…否、だからこそ、ライダーでもない人間に傷つけられた事に屈辱を感じているのだろう。

 

『…こいつは、生かしては置かない…殺す』と言う憎悪の感情。

 

「なのは! なのはを…放せ!!!」

 

『フェイト・T・ハラウオン』がディスパイダーへと切りかかるが、ディスパイダーは残った前足を振るい彼女を迎撃する。それと同時にその前足も折れる。

 

『シャー!!!』

 

再び浮かぶ感情『憎悪』…迎撃した彼女に粘着性の糸を吐き、そのまま地面へと貼り付けにする。

 

「(まさか…このまま私を食べ…)…やだ! やだ!」

 

『最初はこいつだ』とでもいう様な態度でディスパイダーは糸で捕獲したなのはを引きずり寄せる。なのはは思わず恐怖で眼を閉じる。

 

「なのはさん! フェイトさん!」

 

「やだ! 放しなさいよ!」

 

糸で捕獲されたままレッドミニオン達に捕獲されるスバルとティアナの二人。

 

 

このままなのはとフェイトの二人は己の体を傷つけられた事に怒るディスパイダーに食い殺され、スバルとティアナの二人はゼイビアックスの元へと連れ去られる事となる。

 

 

 

ドガァアア!!!

 

 

 

 

はずは無かった。

 

スバル達を捕獲していたレッドミニオン達をドラグサイクルが跳ね飛ばす。

 

ドラゴンナイトは無言のままカードデッキから二枚のカードを抜き出し、それをドラグバイザーへと差し込む。

 

 

 

 

 

『SWORD VENT』『ATTACK VENT』

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

電子音が響き渡ると上空から舞い降りるドラグセイバーを手に取り、ドラグサイクルから降りて、レッドミニオン達へと切りかかる。

 

『ガァァァァァァァア!!!』

 

それと同時に現れた赤い龍、ドラゴンナイトのアドベントビースト、ドラグレッダーが咆哮を上げながら打ち出す火炎弾でディスパイダーを吹き飛ばす。

 

「「きゃあ!」」

 

そして、ディスパイダーに近づくとなのはを引き寄せていた糸を尾を使って切り裂くと、そのまま周囲にいるレッドミニオン達へと火炎弾を放つ。

 

「龍を召喚した?」

 

「って、ちょっと、今のって、なのはさん達も危なかったじゃないのよ!」

 

「…ちゃんと、ドラグレッダーには当てないように言って置いたぞ…」

 

ティアナの抗議の声にドラゴンナイトはレッドミニオン達を蹴り飛ばし、殴り飛ばし、切り裂きながらそう答える。

 

 

「そう言う問題じゃないでしょう!?」

 

「あれ?」

 

「どうしたのよ?」

 

「…うん…あの化け物達が居なくなってる…」

 

スバルの言葉が示すとおり、レッドミニオン達はドラゴンナイトやドラグレッダーの攻撃によって受けたダメージで消滅していた。

 

「さて…と。そう言えば…その姿の時は散々だったよな…。いい機会だ…あの時からオレがどれだけ成長できたか、試させて貰うぜ!!!」

 

レッドミニオン達を片付けるとドラゴンナイトはディスパイダーに向かって走っていく。

 

『シャー!!!』

 

慌てて逃げようとするディスパイダーだが、逃げ道となる方向には既にドラグレッダーが回り込んでいた。

 

『ガァァァァァァァァァ!!!』

 

「はあ!!!」

 

ディスパイダーの足元に近づき、残された足を一本ずつ切り裂いていく。…しかも、バランスを崩して倒れる様に。

 

右の足を切り裂かれた事で右に倒れた隙を逃さずドラグレッダーが残された左側の足を切り裂く。

 

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

 

素早くディスパイダーから距離を取り、ドラグレッダーの頭部を模した手甲・ドラグクローを装着し、パンチモーションと共に出現したドラグレッダーと手甲から炎を放つ。

 

必死に逃れようとするディスパイダーだが、身動きを取れない状態でドラゴンナイトの必殺技の一つ『ドラグクロー・ファイヤー』によって、爆散。

 

そのまま人型の上半身部分に二本の足を持った下半身が出来た『ディスパイダーR(リボーン)』となり、大地を転がりながら倒れる。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

ドラグレッダーがドラゴンナイトの背後で円を書く様に動き、同時にドラゴンナイトも中国拳法の様な体勢を取り、空中へとジャンプし、それを追いかける様にドラグレッダーも飛ぶ、

 

「ハァァァァァァァァアア!」

 

空中に舞い上がったドラゴンナイトは空中で一回転の動作、そして、ドラグレッダーがドラゴンナイトの周囲を廻る。

 

「ハァァァァァァァァ!!!」

 

そして、ドラグレッダーが炎を放つと同時にドラゴンナイトは飛び蹴りを放つ、炎を纏ったドラゴンナイトが一直線に飛び蹴りの体制でディスパイダーへと向う。

 

「ドラゴンライダーキック!!!」

 

ドラゴンライダーキックによって吹き飛ばされたディスパイダーから光の玉が現れ、ドラグレッダーはそれを捕食する。

 

「ふう…。」

 

軽く息を吐きながらドラグレッダーが鏡の中に帰っていくと、自分もここから立ち去ろうとドラグサイクルへと向かおうとした時、

 

「…どう言うつもりだ…?」

 

自分にデバイスを向けているなのはとフェイトの二人を視線の中に捕らえながらそう呟く。

 

「助けて頂いた事は感謝します。でも、ちょっと待ってもらえますか?」

 

「あの怪物の事とか、知っているなら話を聞かせてもらいたいんです」

 

それに舌打ちしながらどうすべきかと思っていると、ドラゴンナイトの体を光の輪が捕獲する。

 

「…これが感謝している人間のする事か…?」

 

「すみません。でも、一緒に来てもらいたいんです」

 

「(…見捨てとけば良かったかな…こいつら…)分かった…付いていってやるからこれを外せ」

 

溜息を付きながらそう答えるドラゴンナイトだった。

 

 

 

 

こうして、統夜にとってはひどく不本意ながら、管理局に関わる事となったのだった。

 

ドラゴンナイト『辰輝 統夜』の物語は機動六課へと移って行く。



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第三話『仮面ライダードラゴンナイト』

妙に空気が重い…。それの原因は完全武装…とは言わないがドラゴンナイトの姿でヘリの中で不機嫌オーラを纏っている統夜だろう。

 

あの時の向こうの対応も頭に来るものだったが、考えてみれば向こうの立場にしてみれば自分は、酷く不本意ながらゼイビアックスと同じ『正体不明の危険人物』で有る。

それと同時に何処まで知っているかは疑問だが、ゼイビアックスの配下に対抗できる戦力で有り、ゼイビアックスの事を知っている人間なのだから、何としてでも逃がす訳には行かなかったのだろう。

 

そんな事を考えつつ、苛立ちを押さえながら、ドラゴンナイトは機動六課へと向かう事になったのだ。

 

(…さて、どこまで話すべきかな…? 取り合えず、ベンタラの事は全面的に伏せて、ゼイビアックスの事は知っている事を《一から十まで》話すとして…)

 

それは確定している。ベンタラの事さえ伏せてしまえば、ゼイビアックスの事は自分が知っている限りの事を全部話してしまえばいい。

 

対ゼイビアックスの体勢を整えてもらえれば、それなりに自分も楽になる。…そして、それに関して何一つ知られた所で自分は困らないのだから。困るのは精々ゼイビアックスなのだし。

 

(問題は『カードデッキ』と『ライダー』…それから『ベンタラ』の事か…)

 

問題は『ベンタラ』の事と『仮面ライダー』の事である。

…内心、適当に『願いを叶えるために他のライダーを倒す為の戦いの参加選手』とでも言おうと思ったが、却下…内容的にドラゴンナイトの和訳した原作だし、第一ゼイビアックスとは繋がらない。…素直にゼイビアックス達と戦うための戦闘システムと言って置く事にする。ベンタラの事は全面的に伏せておけば大丈夫だろう。

 

(…オニキスのデッキも有る事だし、最悪武装解除を要求されたら、ドラゴンナイトのデッキだけ渡して、隙を突いてオニキスとドラグブラッカーを使ってドラゴンナイトのデッキを取り返して逃げ出すか…)

 

何度か周りにいるフォワード陣に話しかけられているのだが、何処まで話すかと言う事と脱走計画を立てていた<r統夜:ドラゴンナイト>は一切聞いちゃいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな妙に重い空気の中で、なのは達に案内されて『機動六課』の隊長室にドラゴンナイトは居た。

 

「私は機動六課部隊長の『八神 はやて』と申します。先ほどは隊員達を救ってもらってありがとうございます」

 

部隊長と名乗るショートカットの女性はそう言ってドラゴンナイトに頭を下げる。

 

「機動六課スターズ分隊隊長の高町なのはです。先ほどは危ない所をありがとうございました」

 

「同じくライトニング分隊のフェイト・T・ハラオウンです。先ほどはありがとうございました」

 

そう言ってここに連れてきた二人の女性、なのはとフェイトの二人も頭を下げる。

 

「貴方の出身世界と名前を教えて貰えませんか?」

 

「………………『仮面ライダードラゴンナイト』だ。出身世界…と言う概念は良く分からないが、一応、地球と言う事になるな」

 

妙にレンを意識した口調でそう名乗る。後者は嘘ではないし、前者にしても100%嘘ではない。ドラゴンナイトは“この姿”の名前であるのだから。

 

「ドラゴンナイトさんって言うんか、変わった名前やな…ってどう考えても偽名やないかい!」

 

「って、偽名とは失礼な、“この姿”の時はそう名乗ってるだけだ!」

 

ドラゴンナイトの言葉にはやてと名乗った女性から切れのいいツッコミが飛んでくると思わずそう反してしまう。そして、軽く息を吐くと、ドラゴンナイトの体が赤い光に包まれ、ドラゴンナイトへの変身を解除する。

 

その光景に驚いて身構える、その場に居る三人の女性達を他所に、変身を解いた統夜は会話の主導権を自分の方に持ってくる切欠になったかと思い笑みを浮かべながら、ドラゴンナイトのカードデッキを持ち、

 

「改めて、オレは辰輝「「「統夜くん!?」」」…へ?」

 

自分の名を名乗ろうとした統夜は突然自分の名前を<r初対面:・・・>の相手に、それも三人同時に呼ばれた事に思わず驚いてしまう。

 

「……お前達…どうしてオレの名前を知っている…?」

 

警戒を露にしながらドラゴンナイトのカードデッキを構えながら周囲を見廻す。鏡の向こうに逃げれそうな場所は人間の生活空間の中になら幾らでも存在しているのだ。

 

「ま、待って、ほら、私達、小学校三年生の時、聖祥大附属小学校で同じクラスだった」

 

「え?」

 

そう言われて考え込んでしまうが…はっきり言って思い出せない。…そもそも、日本ではそれほど親しくしていた相手など居なかったはずだし。

 

「………悪いが覚えてないな………。確かに、それくらいまでは日本に居たけど、こっちは転校先のアメリカでの生活の方が長くて刺激的だったんだ」

 

「えー、そんな」

 

「それは酷いよ、統夜くん、私達はちゃんと覚えてたのに!!!」

 

「せやで、こんな美少女三人の事を忘れるなんて、酷いで!!!」

 

「って、自分で美少女言うな! 大体、オレと同級生なら、もう19だろ…少女と……スミマセン、少女デス」

 

思わずそう言いそうになった時、目の前の三人からゼイビアックスも真っ青な殺気を感じ取り片言でそう言うしかなかった。

 

「それは良いとして…あの怪物や統夜くんの召喚した龍は何者なんや?」

 

「…さあな…訳の分からない化け物でいいんじゃないか?」

 

下手に相手に情報を渡しても良い物かと考え、はやての問いに統夜はそう惚ける。

 

「じゃあ、質問を変えようか?」

 

そう言ってモニターに刑務所を襲ったアビス達の映像を見せる。

 

「っ!? アビス…ゼイビアックスか?」

 

その表情に驚愕を貼り付け、思わず呟いてしまう。

 

「ふーん、やっぱり、この統夜くんが変身していたのと同じ姿をした人の事を知ってるんやな。出来れば、魔法が効かない理由も教えて欲しいんやけど」

 

はやては悪戯が成功した子供のようにニヤニヤと統夜を楽しそうに眺めている。

 

「あー…。…そっちが信じられるかどうかは別にして、これから話す事は“全部”真実だ」

 

そう溜息を付きつつ、主にモンスターとゼイビアックスについて話し始める。

 

エイリアン等と言われても直には信じられないだろうが、そもそも異世界とか魔法等と言う物を扱っているのだから、その辺は問題ないだろう。

 

先ずはモニターに写るレッドミニオンを指差し。

 

「先ず最初に言って置く。魔法が効かない理由については分からない。このモンスター達は地球侵略を企む悪のエイリアンの手先だった」

 

そう教えた後、物凄い音が聞こえ、はやて達の方を見てみると…何故かはやてが机に突っ伏していた。

 

「って、どう考えても、嘘やないかい!」

 

「あー…信じられないかもしれないが、これは嘘じゃない。何処から話すべきか迷うけど、話しておこう、ゼイビアックスとオレ達仮面ライダーの戦いを…」

 

そう言って一息入れると、

 

「全ての始まりは一年前…カリフォルニアのhigh schoolの学生だったオレが聞いた、妙な声…後で知った事だけど行方不明になった父さんの声に導かれて、このカードデッキとアドベントビースト、ドラグレッダーと契約した事に始まる」

 

そう、全ては一年前に始まった統夜の戦い。ゼイビアックスとの戦いは既にそれよりも前に始まっていたのだが、自分にとってはそれが始まりである。

 

それから語られる事は、父の声に導かれてカードデッキを手にした後、異世界『ベンタラ』の戦士、『仮面ライダーウイングナイト』・レンとの出会いと、ドラグレッダーとの契約。ベンタラを侵略したゼイビアックス将軍が次は地球侵略を狙っている事、それをベンタラの事を省いて話す。

 

奪われた他のライダーのカードデッキを地球人に渡し、様々な手段で騙し、ウイングナイトであるレンを倒そうとしていた事。

 

『インサイダー』、『トルク』、『トラスト』を初めとするゼイビアックスに利用され、統夜とレンの二人と戦った敵の仮面ライダー達。

 

その中にも仲間になってくれた者達も居た。

 

そして、騙されながらも説得に応じ共闘する事となりながらも、ゼイビアックスの忠実なる僕、敵のライダー『ストライク』のファイナルベントからウイングナイトを庇いベントされたスティング。

 

「…まあ、これから先にも色々と有って、本来の所持者達が復活した事で全員が揃ったオレ達仮面ライダーは見事ゼイビアックスを倒し、地球の平和を守ったのでした。と言うのが、オレ達の戦い……だったはずだ」

 

そう言いながら、統夜は次はアビスを指差す。

 

「ところが、倒したはずのゼイビアックスはこうして、生きていたと言う訳だ。オレ達のシステムをコピーして生み出した未知の仮面ライダー『アビス』として」

 

「それじゃあ、あの仮面の「アビスだ」アビスの正体は、そのゼイビアックスって言う統夜くん達が戦ったエイリアンになるの?」

 

「ああ。素顔は確認してないけど、あの声と話し方は間違いなく、ゼイビアックスだ」

 

フェイトの問いに画面の中に写るアビスを睨みつけながら、統夜はそう答える。

 

「でも、そのゼイビアックスってどうして犯罪者を脱獄させているのかな?」

 

続けて告げられるのはなのはの問い。…ゼイビアックスの一連の行動を見て、自分達のカードデッキのコピーを作り上げた事を考えれば…この世界に来る前に聞いた言葉が真実だとするならば。

 

「簡単な話だ。そもそも、一年前にオレも別の意味で疑問に思った話だ。カードデッキを渡された人間は詐欺師やハッカーは居たけど、その中には仲間になってくれた良い奴もいた」

 

思い出すのは、地球の『仮面ライダースティング』だった男、『クリス・ラミレス』の事。

 

「…態々面倒な事をしなくても、刑務所の犯罪者にカードデッキを渡せば、お手軽に作れるだろう…悪のライダー軍団が」

 

そう、態々刑務所を襲撃したのには、ライダーが魔導師相手に何処まで戦えるかと言うテストや、ミッドチルダの人間のDNAサンプルの入手で有ると同時に悪のライダー軍団の構成員の選別。

 

「そ、そんな…いくら犯罪者でもそんな相手に協力するはずなんて「そうかもしれないけどな。少なくても、オレは一人そのエイリアンに忠誠を誓っていた奴を知っているぞ」そんな…」

 

フェイトの言葉を遮るように告げられるのは、『仮面ライダーストライク』こと『JTC』の事。戦う理由…どんな目的でゼイビアックスに忠誠を誓っていたのかはベントされるまで疑問だった男だ。

 

「兎も角だ。奴等は鏡の中のもう一つの世界を拠点にしていて、カードデッキを持たない者以外はモンスターかライダーに連れられない限りは行く事ができない。気にし過ぎも良くないけど、鏡面の前に立つ時は十分注意した方がいい」

 

統夜のその言葉に身構えてしまう三人だが、特にフェイトは慌てて飛び出そうとまでしている。

 

「ああ、今は大丈夫だぞ。ドラグレッダーにこの建物を警備して貰っているから、レッドミニオン程度の雑兵じゃ、数が多くない限りは安全だし、他のモンスターや敵のライダーが来た場合は、最悪はオレを呼ぶだろう」

 

正しくはドラグレッダーだけでなく、ドラグブラッカーも警備に参加しているのだが、それは全面的に伏せている。

 

先ほどの戦いの話でスティングが倒れるまでしか話さなかったのは、先代のドラゴンナイトのアダムの事を話さない為であり、オニキスのデッキとドラグブラッカーの事をなのは達に伏せて置くためでもある。

 

さて、そんな統夜の言葉に見るからに安心した様にホッとしている三人を視界の中に捕らえつつ。

 

「で、ここからは管理局員とやらとしてのお前達に聞きたい」

 

「え、統夜くん、時空管理局の事知ってるの?」

 

「当たり前だろ、何日前にこっちに来たと思ってる? オレはゼイビアックスと一緒にこっちに来たんだ。…こっちの世界に来てから色々と調べたんだ。流石に右も左も分からない現状だと、金と情報は重要だろ? そんな事より、オレの扱いはどうなるんだ?」

 

表情に真剣な物を浮かべながら、統夜はそう問い掛ける。

 

「辰輝統夜さん、私達は管理局員として貴方を保護しなければいけません」

 

「…分かった。だけど、オレは直に保護される訳には行かない」

 

真剣な顔で話し始めるはやての言葉にそう答える。向こうの事情も理解しているし、それは当然の行動なのだろうが…

 

「管理局は人手不足や。まして、こっちからは手出し出来ん場所から人を誘拐するような相手には対抗できへん」

 

「それで…?」

 

「次元漂流者として保護して、その後のことは本局の人達と話し合ってどうするか決める事になると思うんだ。」

 

「だけど、それだと、ゼイビアックスの好き放題にされる…。この世界の人々は何時何処から襲い掛かってくる怪物達と悪のライダー達に怯えて暮らすか、何も知らず、ゼイビアックスに誘拐されるかの二択だ」

 

「うん。統夜君は奴等と戦う力を持ってる。だから…」

 

ふと、フェイトと視線が合う。

 

「管理局に入るか、カードデッキを渡すか、か?」

 

「せや、それが地球の技術で作られた物なら、詳しく解析させてもらえれば、管理局でも作れるはずや。そうすれば、管理局もゼイビアックスと戦えるはずや」

 

今まではやて達に見せる様に持っていたカードデッキを握り、ポケットの中に仕舞う。ベンタラの事を伏せていたが、同時にカードデッキの開発者についても暈して話していた。カードデッキの開発者である『アドベント・マスター』、エイリアンの科学者『ユーブロン』については一言も。

 

「断る。これはオレは借りているだけだ。そんな物を勝手に貸す訳には行かないし、しかも、何時返って来るかも分からない」

 

カードデッキを持ったまま強制送還された所で、DNA情報を登録されている為に奪われた所で、統夜とアダム以外はドラゴンナイトには変身できないから心配は無いだろう。

 

第一、自分は現在カードデッキを所有している人間の中で唯一の地球人であり、元々ベンタラを守る力であるカードデッキは言ってみれば、ベンタラやユーブロンに借りていると言う感覚なのだ。そんな物を簡単に貸せる訳が無い。

 

第一、

 

「管理局に入ったら自由にゼイビアックスの動きに事由に対応できないだろう。一々上司にでも、伺いを立ててから退治しに行くのか?」

 

相手が出現してから直に動いても助けられない例は多かったのだから、自由に動けなくなっては被害は倍増する可能性も大だろう。

 

「それに、オレは管理局と言う物を信用等していない。そんな相手にカードデッキを渡すわけには行かない。第一、ゼイビアックスと戦った後はどうする? 流石に折角手に入れたこんな力を捨てるなんて事は出来ないだろう? 今度は人にでも向けるのか?」

 

挑発の意を込めた嘲笑を浮かべながら、そう問う。

 

もっとも、ゼイビアックスは兎も角、管理局にエイリアンのテクノロジーで作られたカードデッキの複製品(コピー)を作れるかどうかは疑問だが。

 

「そ、そんな事、私達はしないよ!」

 

「『私達』ね。管理局全体だと、どうかな? まあ、それがそっちの判断だって言うなら、オレは逃げさせて貰う」

 

「「「え!?」」」

 

そう言って統夜が近くにある鏡面へと触れた瞬間、なのは達は驚愕の声を上げる。彼の言葉が正しいと証明しているように統夜の腕は深い水面に触れた様に鏡面の中に飲み込まれていた。

 

後は完全に飛び込んでしまい、鏡の中でドラゴンナイトに変身すれば鼻歌交じりに歩いていても逃げられる。

 

「ま、待て!」

 

「じゃ、じゃあ、私達を助けてくれへんか? 民間協力者として。」

 

「言った筈だろう、オレは管理局を「管理局は信用してないとは言ってたけど、私達を信用してないとは言ってへんやろ?」…。…………」

 

「だから、私達に力を貸して欲しいんや」

 

そう言って頭を下げるはやてを一瞥しながら統夜は、

 

「(…逃げようと思えばいつでも逃げられるし…。ここに居た方がゼイビアックスの情報も集まり易いか。第一、もう廃墟で毎日ファーストフードと言う食生活からも、抜けられる。)そうだな。管理局は信用できなくても、そっちは信用できそうだからな」

 

なのは達は統夜のその言葉に明るい表情を浮かべる。

 

「ただし、優先するのは飽く迄ゼイビアックスとその配下のライダー、モンスターと言った奴等への対応だ。それ以外でも協力できる限りは協力するけどな」

 

「ありがとうな、統夜くん。私達機動六課は統夜くんを歓迎します」

 

「ああ。」

 

そう答え、統夜ははやてから差し出された手を握り返す。多少彼の考えの中に打算は入ってはいるが…。

 

「あー…ところで、統夜くん、もう一つ聞いてええ?」

 

「あ、ああ;;;」

 

妙に黒い笑顔を浮かべながらはやては統夜へとそう問い掛ける。何故か心の中で危険と警鐘を鳴らしていた。

 

「実は丁度ゼイビアックスが関係してると思われる行方不明事件の後から、素行の悪い局員が何者かに襲われて金銭を取られてるちゅう事件が多発しとるんや」

 

「へ、へー…」

 

滝の様に冷汗を流しながら思わず眼を逸らしてしまう真犯人(統夜)。

 

「何か知っとるやろ、統夜くん?」

 

「…スミマセン…私(ワタクシ)ガヤリマシタ。」

 

プレッシャーに負けて自白した統夜くんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、その後、それについての事情聴取が終わった後、なのはとフェイトの二人は仕事が有るとの事で部屋を出て行く事となる。統夜は手続きが必要な書類が有るとの事で残る事になったのだが、

 

「あ、あの…統夜くん…私達の事、本当に忘れてたの?」

 

部屋を出て行く時、フェイトにそう呼び止められる。

 

「ん? ああ、まあ色々と有り過ぎてな。特に父さんが行方不明になった後は色々と有ったしな。それに、十年も前の事なんてそうそう覚えて無いだろ?」

 

「…そう…なんだ…」

 

そう言ってフェイトは立ち去っていく。統夜にはその声は何処か悲しげに聞こえた。



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第四話『悲しみの瞳』

この世界での住民登録の手続きと、相手に問題があった為に不問にされた強盗事件の事情聴取が終わった後、食堂に案内され遅めの夕食を食べた後、仮眠室に案内された統夜は天井を見上げながら考え込んでいた。

 

「記憶にないよな…やっぱり。」

 

一通り考えた後、そう呟く。

 

10年も前の忘れていた記憶の断片をひっくり返しても、精々が彼女達がクラスメイトで有ったという程度の記憶だけ。それも、顔を知っていると言う程度の関係だったのだから、統夜が『忘れていた』と言った時に浮かべたフェイトの悲しげな表情の理由には絶対に結びつかないだろう。

 

「ったく。…なんだって言うんだよ…。」

 

何も思い出せない苛立ちからそう呟き、さっさと寝てしまうことに決める統夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「ん~…久しぶりに廃墟の床以外の所で寝たから、よく眠れたな~。ああ、暫く衣・食・住に困らないで生活できる。」

 

目を覚ました統夜は伸びをしながら妙な感動を感じつつ、色と細部こそ違うが共に龍の顔を象った紋章の刻まれた二つのカードデッキ…ドラゴンナイトとオニキスのデッキをポケットの中から取り出し、それぞれ別の場所に仕舞い直す。

 

(…オニキスのデッキのことは暫く伏せといた方が良いな。)

 

彼女達を信じていない訳ではないが、それでも警戒しておいた方が良いだろうと言う判断の元での行動である。存在を知られない限り、オニキスのデッキの存在はいい手札(カード)になる。そんな作業を終えてふと時計を見るとそろそろ十時になろうとしていた。

 

(…寝すぎたな…結構疲れてたんだな…。)

 

時間を見てそんな感想を持ってしまう。思えば、ゼイビアックスの変身したアビスと戦ってからアビスを追ってこの世界に渡り、この世界に来てから連戦に次ぐ連戦だったのだから、そう思ってしまうのにも無理は無いだろう。

 

「統夜さ~ん、いい加減に起きてくださいです~!」

 

そこに扉が開いて“小さな”人形の様な女の子がいた。

 

「………。まだ、疲れてるのか、それとも、まだ寝てるのか? 妖精の幻覚が見えるなんて…。」

 

思わず直視しつつそんな事を呟いてしまう。

 

「むむぅ~! リインは幻覚でも妖精でもありません!!!」

 

この『リイン』と名乗った少女から話を聞くとこの少女は『リインフォースⅡ(ツヴァイ)』と言ってはやてのユニゾンデバイスで有り、中々起きてこない統夜をはやてに頼まれて呼びに来たようだ。

 

「…何でも有りだな、この世界。」

 

思わずそう呟いてしまう統夜だが、相手にしてみればその言葉はそのまま返したくなる事だろう。

 

さて、リインから詳しい話を聞くと何でも隊長室に来てほしい様であり、仮眠室を出ると部隊長室まで向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八神隊長、おはようございます。」

 

そう言って統夜は先日も案内された部隊長室に入る。

 

「もう、おはようって、時間やないで。それに、そんなにかしこまらんでもええで、統夜くん。」

 

「ああ。最近、戦い続きの上、野宿だったからな。」

 

そう言った後、苦笑を浮かべ、

 

「それと、オレは協力者とは言っても八神は上司だからな。まあ、気楽でいいなら、気楽にさせてもらうけどな。高町もおはよう。」

 

「うん、おはよう、統夜くん。私の事はなのはでいいのに。」

 

隊長室に居たなのはにも手を振りながらそうあいさつをかける統夜に彼女はそう言葉を返す。

 

「いや、名前で呼ぶほど親しくないだろう? それで昨日協力する事になったけど…改めて、確認させてもらう。オレは飽く迄ゼイビアックスを優先して行動させて貰って良いんだな?」

 

「うん。統夜くんにしか対応できない相手だから、私達からもお願いしたいの。」

 

「了解。で、そっちはオレの衣・食・住の確保とこっちでの生活の保障をしてくれる事。あとは、オレはゼイビアックス意外じゃ、高町達の任務に協力すれば良いんだな?」

 

「うん。任務の途中でもゼイビアックスの部下が動いている様やったら、そっちの方に回って貰ってもええ。ごめんな、統夜くんが戦っとるちゅうエイリアンの相手だけでも大変そうやのに。」

 

はやてから謝られるが、思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

「まあ、それは気にしなくてもいい、オレも助かるからな。まあ、食事と寝る場所を提供してくれる見返りって事でな。それで、協力って先ずは何をすればいいんだ?」

 

「うん。じゃあ、協力者として前線メンバーに挨拶してくれるかな。みんなも、昨日助けて貰ったお礼が言いたいと思うから。」

 

「OK。」

 

そして、四人は起動六課のロビーへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起動六課 ロビー

 

そこには先日ディスパイダーから助けたなのは率いるスターズ分隊に所属しているスバルとティアナの他に、ここに向かうヘリで一緒だったライトニング分隊に所属している赤髪の少年『エリオ・モンディアル』と桃色の髪の少女『キャロ・ル・ルシエ』と彼女の龍『フリード』、両隊の副隊長である『ヴィータ』と『シグナム』、そして、ライトニング分隊の隊長であるフェイトが揃って居た。

 

そこに、なのはとはやてに連れられて統夜が入ってくる。

 

「みんな、今日から私達の部隊に民間協力者として、機動六課で働くことになった辰輝統夜さんです。では、統夜さん、一言お願いします。」

 

そう言われて統夜ははやての隣に立つ。色んな意思のこもった視線が突き刺さる中、やはりフェイトだけはどこか悲しそうな視線で統夜を見つめていた。

 

「まあ、正式な局員って訳じゃないけど、今日から一緒に働く事になった辰輝統夜だ。まあ、何人かは昨日会っただろうけど、改めて、初めましてだな。そう言う訳でこれから、どうぞよろしくお願いします。」

 

そう言って頭を下げる。

 

「ありがとうございました。みんなはまだ知らないと思いますが、統夜さんは先日助けて頂いた赤い仮面の騎士です。戦闘では遊撃を担当してもらいます。コールサインは…。」

 

「…『ドラゴンナイト』で頼む。一番分かり易いしな。」

 

その時、統夜はまだ気付かなかった。はやての紹介で一部の人間の目が輝いたのを。

 

そんな形で統夜の自己紹介が終わると、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人が自己紹介をする。

 

「あたし、スバル・ナカジマって言います。統夜さん、よろしくお願いします! あの、昨日は助けて頂いてありがとうございました!」

 

「私はティアナ・ランスターです。助けていただき、ありがとうございます。」

 

「ああ。別に礼なんていいさ。オレはオレ達の不始末を片づけただけだしな。あと、オレは局員じゃないから、もっと気楽にしてくれて構わないぜ。」

 

スバルとティアナの言葉に苦笑を浮かべながらそう返す。実際、モンスターの事も、ゼイビアックスの事も完全に倒しきれなかった自分達の不始末なのだから。

 

「エリオ・モンディアルと言います。よろしくお願いします。」

 

「えっと、キャロ・ル・ルシエです。あ、この子はフリードリヒって言います。フリードって呼んであげてください。」

 

「きゅい。」

 

「ああ。よろしくな二人とも。」

 

年少組二人+一匹(ドラゴンを従えている為か何故かフリードには妙に懐かれた。)にそう挨拶する。

 

「あの、統夜さん。…貴方は私達がリニアで見た鮫の仮面の男と、何か関係があるんですか? あの赤い仮面の姿とも似ている感じでしたし。」

 

そうティアナから問いかけられる。

 

「…そうだな…。関係なら大いにあるさ。奴(アビス)はオレが…オレ達が完全に倒せなかった…敵なんだからな。」

 

そう答える。完全に倒せなかった敵であり、一年前から続く因縁の相手。それがゼイビアックス…アビスなのだ。

 

ゼイビアックスの事については彼女達には多くを話す気はない。下手にゼイビアックスの事を話しても余計な混乱を招く可能性もあるし、そもそも、なのは達にゼイビアックスについて自分の知っている事は全部話しているのだから、あとは彼女達の判断に任せてしまえばいい。

 

どうでも良い事だが、統夜としては対して気にもしていないが、以前はウイングナイトであるレンに対して向けていた敵意は再び現れた今となっては全体的に自分に降りかかっている様にも感じられる。

 

(…それにしても、オレと同じ歳で部隊率いていたり、こんな子供まで前線に出してたり…どこまで人材不足なんだよ…この組織は?)

 

ゼイビアックスについて考えている事をやめると、スバル達に挨拶しながら本気でそう思ってしまう。同時にベンタラの他のライダー達が聞いたらなんと思うかとも、本気で考えてしまうのだった。

 

実際、その年齢で戦う事を選んでいるのだから、その意思は肯定しても子供を戦わせるというのは、やはり間違っていると思えてくる。

 

だが、そんな事を言ってしまえば、学生と同時にゼイビアックスとの戦いを続けていた自分はどうなるのだ?とも思ってしまう。

 

(協力する事決めたの…少し早まったか?)

 

それはないとも考えながら、いつの間にかロビーからフェイトが立ち去っている事に気がついた。

 

「…なあ、高町…ハラウオンはどうかしたのか? 妙にオレを見る目が悲しそうなのが気になるんだけどな。」

 

「うん。それは私も気になってたんだけど。ただ…。」

 

「ただ?」

 

「フェイトちゃん、昨日、統夜くんに会ってから、泣いてたみたい。」

 

「へ?」

 

はっきり言って理由(いみ)が分からない。…彼女達とクラスメイトだったのは、小学三年の頃までで、フェイトとは一年にも満たない関わりでしか無い上に、四年の頃には母の仕事の都合でアメリカに渡ってしまい、一度も日本には戻っていない。一番付き合いの長いなのはにしても、精々が顔を知っていると言う程度の関係でしかないのだから。

 

そんな相手が自分が原因で泣いていたと言われても困惑するしかない。

 

「…嘘だろう…?」

 

「そんな嘘は言わないよ! ねえ、統夜くん、フェイトちゃんに何したの?」

 

「………。」

 

心外だとばかりに怒るなのはからの問いに暫く無言で考え込み。

 

「…特に何もしてないし、心当たりもないな。ただ、本当に自分達の事を忘れていたのかって聞かれたから、オレは忘れていたって答えただけだ。」

 

そう答えるしかなかった。

 

「ああ、統夜くん、ちょっとええ?」

 

「ああ。」

 

暫く考え込んでいると、今度ははやてに話しかけられる。

 

「実はな、統夜くんの実力が詳しく知りたいから、あとで模擬戦をしてもらいたいんやけど。」

 

「それなら、別にかまわない。ただ、ある程度、相手は強い方が有りがたいな。」

 

「なんでや?」

 

「アビスに魔法が効かなかった原因が分かるかも知れない。そう思っただけだ。」

 

原因さえ分かれば対処も可能だろう。もっとも、それがカードデッキ全体ではなく、ゼイビアックスが作り上げたコピーに限定されるのならば、原因ははっきりとは分からない事になるが、それなら最悪はゼイビアックスの配下の悪のライダーをベントしてでもコピーされたデッキを回収すれば良い事である。

 

(…なんとかして、ユーブロンに連絡を取れれば対策も執り易いんだろうけどな。)

 

そう考えながらなのは達へと視線を向けると、『無理だな』と心の中で結論付ける。ユーブロンやベンタラの事は時空管理局には伝えない方が良いと考えられる。下手をすれば態々第二のゼイビアックスになるかもしれない連中に自分達の弱点を教える様な物なのだから。

 

「そうなんだ。」

 

「じゃあ、相手は誰にお願いしようかな~?」

 

そんな事を考えながら、誰に統夜の模擬戦相手を頼むか話し合っているなのはとはやてを横目に見ていると、

 

 

キィィィィィィィィン!

 

 

モンスターの出現を告げる耳鳴りの様な音が聞こえてくる。

 

「っ!?」

 

ドラグレッダーとドラグブラッカーが護衛している現状で統夜にモンスターの出現が伝えられると言う事は間違いなく、相手は雑兵…レッドミニオンレベルではない相手と言う事になる。

 

「悪い、モンスターが出たみたいだ! ちょっと出てくる!」

 

「あっ! 統夜くん!」

 

ポケットの中からドラゴンナイトのカードデッキを取り出しながら、呼び止める声を無視して飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(場所は…この建物の中…態々オレの居る所に出てくるとなんてな…。)

 

モンスターの出現を告げる音を頼りに走っている訳だが、改めて考えてみるとさっさと変身するべきかとも今更ながら思う。

 

そんな事を考えながら走り回っていると、視界の中にフェイトの姿が映る。そして、彼女の近くの窓が水面に波紋が広がる様な現象が起こる。

 

「…統夜くん…酷いよ…。」

 

「ハラウオン、危ない!!!」

 

「え?」

 

統夜の叫び声に気が付いて彼の居る方へと振り向くが、それが悪かった。鏡面の中から現れた異形の腕…それが彼女を引きずり込んでいく。

 

助けを求める様に伸ばされた彼女の手を掴もうと統夜も手を伸ばすが、後一歩の所でその手は空を切る。

 

「今のは…。」

 

明らかに彼女を連れ去ったあの異形の腕はモンスターではなく、自分達ライダーの物だった。

 

「早速、新しいライダーのお出ましか…。そんな事より…。」

 

何故態々自分の居る場所でそんな行動を起こしたのか、何故戦闘力の高い彼女を狙ったのかは分からない。だが、考える事は何故ゼイビアックス側のライダーが彼女を狙ったかではなく、

 

また自分へと向けられた悲しげな瞳の意味…。

 

「…どうしてオレをそんな眼で見る…。」

 

そこまで気にするほど親しい相手でもないはずだった。だが、何度もあんな瞳を向けられている。何故と言う疑問と苛立ちを覚えながら、ドラゴンナイトのカードデッキを砕けんばかりの力を込めて握り締める。

 

今までも連れ去られた事は何度も有ったはず。だが…今回は特別に苛立ちを覚えてしまう。

 

「お前とオレに何が有るって言うんだよ!? いい加減、教えてもらうぞ!!! KAMEN RIDER!」

 

そう叫びながら、仮面ライダードラゴンナイトへと変身し、統夜は鏡の向こうの世界へと飛び込んでいく。



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第五話『仮面ライダーシェルクラブ』

仮面ライダードラゴンナイトに変身した統夜は鏡面に飛び込むと周囲を見廻すが、フェイトの姿も彼女をここに連れてきたライダーの姿も見え無い。

 

「くっ!(もう動いてたか、何処だ!?)」

 

そう考えながらドラゴンナイトは飛び込んだ場所から移動する。

 

機動六課の建物の中で変身して鏡に飛び込んだというのに、そこは明らかに別の場所へと繋がっていた。『やっぱり、『ベンタラ』に似ているな』等と言う感想を感じながら、振り向き様に裏拳を放つ。

 

『ゲェ!』

 

ドラゴンナイトの振り向き様に放った裏拳が叩きつけられたのは、背後から近づいていたレッドミニオンの顔面だった。

 

「舐めるなよ…お前等程度じゃ…オレの相手には程遠い!」

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

カードデッキから抜き出したカードをドラグバイザーに装填、ドラグセイバーを召喚し、そのままレッドミニオンへと斬撃を浴びせ蹴り飛ばす。そして、左右から迫ってきた二体をドラゴンナイトがバックステップで避けると、二体のモンスターはそのまま正面衝突し地面に倒れる。

 

「不意打ちってのは、もっと上手くやるんだな。」

 

しっかりと倒れたレッドミニオン達にトドメを刺しながらカードデッキから一枚のカードを抜き取り、ドラグバイザーにセットする。

 

 

 

『ATTACK VENT』

 

 

 

電子音と共に召喚されるアドベントビースト・ドラグレッダーを一瞥し、ドラグセイバーを持ちながら、

 

「ドラグレッダー、ハラオウンと敵のライダー(?)を探してくれ。」

 

ドラゴンナイトの指示に頷き、ドラグレッダーは飛び去っていく。

 

予断だが、『?』を着けたのは見えたのは飽く迄腕の部分だった為である。モンスターとは違う人のそれに近い腕なので、八割方ライダーで間違いはないのだろうが。

 

「足止めのつもりか…?」

 

ドラグレッダーを見送り、二重の意味で湧き上がる苛立ちを押さえながら、その言葉を正しいと肯定する様に次々と現れるレッドミニオン達を睨みつける。

 

「良いだろう…全員纏めて相手してやるよ、雑魚共!!!」

 

ドラグレッダーが居ない事でドラグクロー・ファイヤーやドラゴンライダーキックと言った大技は使えないが、どの道この先ではまだ未知のライダーが待っているのだ。大技を温存する気は有ってもこんな所で雑兵相手に使う気は無い。

 

ドラゴンナイトの仮面の奥でレッドミニオン達を睨みつけながらそんな事を考え、ドラゴンナイトはドラグセイバーを振るいレッドミニオン達と刃を交える。

 

「はぁ!!!」

 

ドラグセイバーだけでレッドミニオン達と戦いながらドラグレッダーが戻ってくるのを待つ。

 

下手に動き回るよりも飛行できるドラグレッダーが上空から探して貰った方が確実であると判断した結果であり、自分を足止めする様に現れたレッドミニオン達の相手もする必要が有るのだ。

 

背中から巨大な手裏剣の様な武器を取り出して切り掛かってくるレッドミニオンの武器をドラグセイバーで受け止め無防備になった腹部を蹴り飛ばしドラグセイバーで追撃を加え、体を回転する様に動かし左右から近づいてきたレッドミニオンを切り裂く。

 

「ちっ!」

 

後から近づいてくるレッドミニオンに肘討ちを放ち、ドラグセイバーによる追撃を加える。

 

そして、次のレッドミニオンへとドラグセイバーを振るおうとした時、上空から降り注ぐ炎がレッドミニオン達を吹き飛ばす。

 

「ドラグレッダー!?」

 

ドラゴンナイトは上空に存在する赤い龍『ドラグレッダー』を見上げ、その名を叫ぶ。ドラグレッダーが戻って来たと言う事は、

 

「ハラオウンは見つかったのか!?」

 

ドラゴンナイトの言葉に肯定の意思示すようにドラグレッダーは首を上下に振る。そして、ドラグレッダーの攻撃によってレッドミニオン達が一通り片付いた事を確認すると、増援が現れる前にドラグレッダーの背に飛び乗ろうとした時、

 

 

『やあ、元気そうだね、トウヤくん。』

 

 

聞きたくもない声が聞こえた。

 

「そっちから出てきてくれるなんて、ありがたいな…アビス…いや、ゼイビアックス!!!」

 

そう叫びながら、ドラグセイバーを声の聞こえた先に居る水色のサメをイメージさせる仮面ライダーアビスへと突きつける。

 

「やれやれ、随分と過激だね、トウヤくん。私は戦いに来たと言う訳ではないと言うのに。」

 

肩を竦めてそう告げるアビスに対して油断なくドラグセイバーを向けるドラゴンナイト、ドラグレッダーもまたアビスを威嚇する様に唸り声を上げている。

 

「態々、オレの近くで動いてくれて、オレに用なんじゃないのか?」

 

「いやいや、確かに君に用は有るが、まだ此方の準備が整っていなくてね。それに、あれは部下が勝手にやった事だ。私は君が時空管理局に協力すると言う話を聞いたのでね、丁度良い機会なんで、こうして話をしに来たと言う訳だよ。」

 

アビスの言葉を聞きながらカードデッキから何時でも大技を叩き込める様に『ファイナルベント』のカードを抜き取る。

 

「いやいや、先代と同じDNA情報を持っているだけの事はある、君も裏切るのだね、ベンタラの仲間(ライダー)達を。」

 

「っ!?」

 

そう言ってアビスはその場から姿を消していた。そんなアビスの姿を無言で見送りながら、ドラゴンナイトは改めて、ドラグレッダーに騎乗する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンナイトと戦っていた所とは少し離れた場所…

 

『GURAD VENT』

 

 

 

蟹をイメージさせる蒼いライダーが、甲羅を連想させる盾を構えてBJとデバイスを装着したフェイトの放つ魔法を防ぐ。

 

「くっ。」

 

フェイトと戦っている蒼いライダー…ベンタラに存在する仮面ライダーの一人『仮面ライダーインサイザー』に似たその仮面ライダーはインサイザー同様ゼイビアックス製のライダーの中でも特に秀でた防御力を持つ仮面ライダー、『仮面ライダーシェルクラブ』。

 

 

 

『STRIKE VENT』『ATTACK VENT』

 

 

 

余裕と言った様子でシェルクラブはデッキから取り出す二枚のカードを取り出し盾を構えていた左腕のバイザー『クラブバイザー』へと差し込む。それによって響き渡った電子音と共にシェルクラブの右腕に大型の鋏方の武器『シェルシザース』が装着される。

 

 

…………………どうでも良いのだが、鋏型のバイザーと鋏型の武器を両腕に装備したその姿は正に青い蟹。

 

 

「この!」

 

実際、シェルクラブの攻撃は一位直撃する事はないが、逆にシェルクラブに対してフェイトの攻撃は当っているのだが、シェルクラブの装甲に阻まれて、それらはダメージになっていない。

 

シェルクラブの大振りなシェルシザースでの攻撃を避けて、シェルクラブの後に回り込みサイズの形の魔力刃を展開させたバルディッシュを振るう。

 

だが、

 

「がはっ!」

 

シェルクラブの背後…丁度フェイトが回りこんだ先に現れたシェルクラブと契約関係にある四つの腕を持った大型の蟹型モンスター『スティンガークラブ』が横凪に振った鋏が叩きつけられ、そのまま地面を転がる様に倒れる。

 

「くっ!」

 

「オラァ!!!」

 

何とか立ち上がるが、その隙を逃さずシェルクラブはフェイトにシェルシザースを叩きつける。

 

再び地面を転がりながら倒れ、その衝撃でバルディッシュを手放してしまう。

 

「いいなぁ、コイツの力は、高ランクの魔導士が…手も足も出ないなんてな。」

 

これ以上は邪魔だとでも言う様な態度で甲羅を模した盾『シェルディフェンダー』を投げ捨てて倒れているフェイトに近づいていく。

 

そんなシェルクラブの行く手を阻み、『止めろ』とでも言う様にアドベントモンスター・スティンガークラブが前に立つ。

 

「殺さなきゃ良いんだろ、この執務官様には恨みが有るんだよ。ちゃんと、生かして連れてけば良いんだろう?」

 

シェルクラブの言葉を聞きスティンガークラブは道を開ける。

 

「ゲホ…。」

 

倒れるフェイトの首を掴んで持ち上げると腹部を殴りつけ、手を話した後に蹴り飛ばす。

 

「どうした? あの時みたいに偉そうな事言ってみろよ!?」

 

倒れる彼女の背中を踏みつけスタンピングを加えようとした時、

 

『ッ!?』

 

スティンガークラブに何かがぶつかり、

 

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

 

そんな電子音が響き渡る。

 

「な……がぁ!?」

 

それと同時に龍の頭を模した手甲がシェルクラブの顔面に叩きつけられる。

 

「ドラグレッダー!」

 

ドラゴンナイトがシェルクラブを殴り飛ばすと素早くドラグレッダーへと指示を出し、ドラゴンナイトとフェイトが攻撃に巻き込まれない位置まで飛んだ所でドラグレッダーの火球が直撃する。

 

「ぐあ!」

 

続けて放たれる火球は契約者を助けに入ったスティンガークラブに阻まれる。

 

「ハラオウン、悪い…遅く「………で…んでよ…。」え?」

 

倒れるフェイトに声を掛けると悲しげな瞳で小声で何かを告げられる。

 

「…前みたいに名前で呼んでよ…トウヤくん。」

 

「…分かった…。あいつを倒したら直に医務室に連れて行って遣るから…少し休んでろ…“フェイト”。」

 

「……うん……。」

 

彼女の名前を呼びながら安心させる様に彼女の髪を撫で、立ち上がると目の前のライダー・シェルクラブを睨みつける。

 

「テメェ…邪魔すんじゃ、がぁ!」

 

叫びながらドラゴンナイトへと向かって来るシェルクラブにパンチモーションと共にドラグクローから炎を打ち出す。

 

「……焦らなくても、ベントしてやるから黙ってろ、青蟹(インサイザーモドキ)……。…後で聞かせてもらうぞ…何でオレをそんな眼で見るのかを…。」

 

怒りに満ちた声で前者の言葉をシェルクラブへと言い放ち、正反対の優しげな言葉で倒れるフェイトへと声を掛ける。

 

ドラゴンナイトのその言葉を合図にドラグレッダーがスティンガークラブへと攻撃を仕掛ける。

 

スペック上では全ライダーの中で最弱と呼ばれているインサイザー(日本名『シザース』)だが、実はそれほど弱くはない。カードこそ少ない物のその防御力は高く、日本版の龍騎ではウイングナイト(日本名『ナイト』)とのファイナルベントの打ち合いで勝ち、TVSPでは一度はストライク(日本名『王蛇』)を倒したと取れる描写がされている。

 

ドラグクローを投げ捨て、スティンガークラブへと投げ付けた後に地面に刺さったであろうドラグセイバーを抜き、無言のままシェルクラブへと切り掛かる。

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

シェルシザースで斬り付けようとしたシェルクラブの一撃をしゃがむ事で避け、その肩を蹴り付け軽々と吹き飛ばす。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

無様に地面を転がるシェルクラブが立ち上がる瞬間、頭からドラグセイバーを振り下ろす。生身の人間であったなら文字通り真っ二つになっていたであろう一撃が、

 

「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

シェルクラブの顔面を切り裂く。

 

あまりの激痛にのた打ち回るシェルクラブの頭をサッカーボールの様に蹴り飛ばし、そのままスティンガークラブの方へと飛ばす。

 

「ひっ…ヒィ…。」

 

無言のまま抜き取るのは『ファイナルベント』のカード。それをドラグバイザーへと装填する。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

「ハァァァァァァァァアア!」

 

空中に舞い上がり一回転の動作と共に右足をターゲットへと向ける。そして、ドラグレッダーがドラゴンナイトの周囲を廻る。

 

「ハァァァァァァァァ!!!」

 

そして、ドラグレッダーが炎を放つと同時にドラゴンナイトは飛び蹴りを放つ、ドラグレッダーの炎を纏ったドラゴンナイトが一直線に飛び蹴りの体制でシェルクラブとスティンガークラブへと向う。

 

「ドラゴンライダーキック!!!」

 

「っ…!!!」

 

ドラゴンライダーキックの直撃を受け、声にならない悲鳴を上げてのた打ち回るシェルクラブとその余波で吹き飛ばされるスティンガークラブ。だが、それで終わりではない。

 

「な、なんだよ…これ…?」

 

規定ダメージを受けたシェルクラブの全身が粒子化していく。そんなシェルクラブの言葉を無視して背中を向けてドラゴンナイトは倒れているフェイトへと近づいていく。

 

「ま、待てよ…お前…オレに…何をしたんだよ?」

 

「ベントした。それだけだ。…お前とゼイビアックスの関係は知らないがな…精々飼い主に助けてもらうまで後悔でもするんだな…アドベント空間で。」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

振り向き様にドラグセイバーを投げ付けるとそれは粒子化しているシェルクラブの左腕へと深々と突き刺さる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」

 

最後まで痛みに苦しみながら、消えていくシェルクラブ。最後に『カラン』と言う乾いた音を立ててシェルクラブのカードデッキが地面へと落ち、ドラグセイバーが突き刺さる。そんなシェルクラブに興味を向けず、倒れているフェイトへと近づく。

 

意識は失っている様でシェルクラブに痛めつけられた怪我は有るが、命に別状はないのだろう、呼吸は有る。

 

「ごめんな…オレがもっと早く駆けつけていれば…。」

 

意識を失っているフェイトをお姫様抱っこの体制で抱え上げ、急いで戻ろうとした時、『パチパチ』と言う拍手の音が響く。

 

「お見事。試作品(プロトタイプ)とは言え、インサイザーと同スペックのシェルクラブをこうも簡単に倒すとはね。」

 

アビス…ゼイビアックスが拍手と共に何時の間にかシェルクラブの存在していた場所に立っていた。そして、シェルクラブの蒼いカードデッキを拾い上げ、ドラゴンナイトへと視線を移す。

 

「…お前の相手をしている時間はない…。」

 

「寂しいねぇ。君達の最終目標は私ではないのかな? もしかして、今なら私を倒せるかもしれないよ、君一人でもね。」

 

「………黙れ………。」

 

「私を倒すと言う、ライダーの使命よりも彼女を優先するとは…やはり君は彼と“アダム”と同じだ。」

 

「…黙れといっている…。」

 

「君は何れ彼女達に味方し…他のライダー達を“裏切る”。」

 

「黙れ!!!」

 

叫び声と共にカードデッキから抜き出した一枚のカードを突きつけ、そう叫び声を上げる。

 

「黙れと言っただろう…ゼイビアックス。それがお望みなら、その仮面叩き壊して、醜悪な面(ツラ)、引きずり出して、もっとマシな顔に整形してやろうか?」

 

「おお、怖い、怖い。流石にまだ君と戦う気は無いよ。」

 

先ほどと同様に姿を消すアビス。そんなアビスを一瞥しながら、ドラゴンナイト…統夜はその場を立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、その殻はもうダメの様だな。」

 

先ほどまでドラゴンナイトとシェルクラブが戦っていた場所から離れた場所にアビスのアドベントビーストの二体に運ばれた、ドラゴンライダーキックの余波でボロボロになったスティンガークラブを一瞥しつつ、アビスはそう呟く。

 

スティンガークラブは巨大な蟹の様な体は大量の円形の機械となってバラバラに崩れていく。

 

 

 

「いいデータが取れた。この世界の技術で作られた玩具だが、対魔導士戦には中々有効な様だな。」

 

アビスがスティンガークラブを構成していた円形状の機械『ガジェット・ドローン』の一つを蹴り飛ばし、そう呟くと、ガジェットの残骸の中から無傷の貝と蟹を混ぜ合わせたような姿の機械的なモンスター…『仮面ライダーシェルクラブ』のアドベントビースト、ヤドカリ型モンスターであるスティンガークラブの“本体”が現れる。それと同時にシェルクラブのカードデッキのエンブレムも蟹を模した物から巻貝を模した物へと変わっていく。

 

「AMF、これだけの数が揃えばライダー自身の防御力と合わせて高ランクの魔導士とやらの攻撃もほぼ無力化できるか。だが、まだまだ改良の余地は有るな。」

 

それ以上は興味なさげにアビスは振り返る。

 

「ふむ、他のライダーにAMFの改良型を装備させて、ドラゴンナイトとその協力者にぶつけてみるか。あんな小悪党ではなく、それなりの戦士を。良い戦闘データが取れるだろう。」

 

そう呟くアビスの掌の中には以前奪ったレリックが存在していた。

 

「ふふふ…。楽しみだよ、ドラゴンナイト。君を倒す為の最強のライダーが完成する日が。」



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第六話『悲しみの真相と模擬戦の開幕』

「この辺だよな…」

 

ドラゴンナイトへの変身を解いた統夜はフェイトを抱き抱えながら、最初に飛び込んだ場所に戻って来ていた。

 

「まったく、下手な所から戻ると変な所に出る所までベンタラに似てるな」

 

以前にはベンタラから元の世界に戻った瞬間、適当な所から戻った時には運悪く壁にぶつかると言う間抜けなオチまで付いた事も有ったりする。

 

流石にこんな状態のフェイトを抱えたまま機動六課の建物の外に出るのは避けたいと思いながら近場の鏡面へと視線を向ける。その鏡面に映し出される光景は間違いなく、機動六課の建物の中の景色が見える。

 

「あまり、人目に付かない方が良いかな?」

 

早めに戻りたい所だが、鏡面から出てくる所を誰かに見られて下手に説明して時間を取られたくは無い。抱えていたフェイトへと視線を落としながら、そう呟く。ベンタラと言った部分は聞かれていない様だ。

 

あのライダー自体にフェイトを殺す意思はなく、甚振っていた為に助ける事が間に合ったのだから、その点では幸運と言っていいだろう。

 

「ん…。…あっ…統夜くん!」

 

「ん? 目を覚ましたのか、フェイト」

 

「う、うん。また、助けてくれて、ありがとう」

 

「ああ、気にするな。オレも雑魚(レッドミニオン)相手に足止めされてなきゃ、もっと早く助けられた」

 

今まで意識を失っていたフェイトが目を覚まして顔を赤くして統夜の名前を呼ぶと、統夜もそんな彼女に視線を落としながら、安堵した表情を浮かべる。

 

「あの…青い蟹みたいな仮面の人は」

 

「あの<r青蟹:インサイザーモドキ>はオレがベントした。幸いにも、向こうのデッキにもベントの機能が有ったみたいだな」

 

「ベント?」

 

聞きなれない言葉をフェイトが聞き返す。つい自然と『ベント』と言うライダー達の専門用語が出てしまった。統夜は『しまった』と言う表情を浮かべ、溜息を付くと、『ベント』と言う現象について説明する。

 

「ベントって言うのはオレ達仮面ライダーにある一種の“最終安全装置”だ。致死量のダメージを受けた場合、ライダーの変身者の安全を確保する為に“アドベント空間”と言う手出しできない第三の別の空間に転送される」

 

最後に小声で『だから、比較的安全に殺し合いが出来る』と付け加えておく。もっとも、殺し合いに安全も何もないのだが。

 

だが、統夜としてはアドベント空間から救出する方法の無かった頃は、ベントも死と大して変わらない事実として捉えていた頃に比べれば相手をベントする事に躊躇が無くなったと思ってしまう。

 

…無事救出する方法があると知ってからは、はっきり言って『我ながら考え方変わったな』等とも考えてしまっている程である。

 

そしてもう一つ、ゼイビアックスに利用されている、彼曰く『悪のライダー軍団』の構成員達には精々アドベント空間の中で<r御主人様:ゼイビアックス>に出して貰うまで反省してもらおう等と物凄く過激な事を考えていたりもする。

 

「まあ、分かり易く言えば…変身して居る時は簡単には死なないとでも思ってくれればいい。」

 

どう考えても、ぶっちゃけ過ぎだろう。幾らなんでも場合によっては死ぬし、流石に殺傷設定で白い魔王の全力全壊な砲撃を食らえばベントされる前に死ぬだろう。

 

「それじゃあ、あの青い仮面の人は何時戻ってこられるの?」

 

「…そりゃ、ゼイビアックスの都合だろうな…。まあ、アドベント空間からの救出手段を持っているのもこっちじゃ奴だけだろうし。カードデッキも回収してたしな」

 

「そう…なんだ」

 

それは完全に予想だがゼイビアックスの行動から考えて、アドベント空間からの何らかの救助手段が有るのには間違いないだろう。そう答えた後、フェイトの返事を聞き流しながら出入りできそうな鏡面へと視線を向ける。

 

「(人気もないし…あの辺が良いか)無駄話はこの辺にしておいて、さっさと戻るとするか。直に医務室に連れて行ってやるから、もう少し我慢してくれ」

 

「う、うん」

 

「あー…それと…後で良いから、教えてもらえるか?」

 

他にももう一つだけ教えておく必要が有るのだが、先ずはこれから聞くべきだろうと判断したのだ。

 

「え? なにを」

 

「…高町から聞いた…オレが何かしたなら謝るから言ってくれ…。…オレに有ってから泣いてたそうだけど、十年前のオレが何かしたのか?」

 

「え? ち、違うよ!」

 

統夜の言葉をフェイトは慌てて否定する。そう、彼女が伝えたい事は、

 

「? まあ、あとで教えて貰えれば良い。」

 

彼女の態度を疑問に重いながら鏡面を潜って機動六課の建物の中に戻ろうとした時だった。

 

「あ、あの、私」

 

フェイトから告げられる、“想い”は、

 

「統夜くんの事が好きです!」

 

十年前に告げられずに終わった、想い。

 

「…Why…?」

 

思わず六課の建物の中に戻った時、そう言ってフリーズしてしまう統夜だった。

 

 

 

 

 

さて、暫くフリーズしていた統夜だったが、再起動したのは、統夜を探していたなのはとばったりと会った時だった。

 

「にゃぁぁぁぁぁ!!! 何が有ったの、フェイトちゃん、統夜くん!?」

 

「あー…後で話すから、フェイトを医務室に連れて行ってくれ…」

 

その際の会話より抜粋。

 

 

 

 

 

医務室

 

「えーと、シャマル先生でしたっけ…フェイトは大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ、傷は多いみたいだけど、深い物は無いし痕も残らないわ。でも、念のため、今日一日は安静にしていてね」

 

この医務室の主(何故かこの言葉が想像された)『湖の騎士シャマル』からの返事に表情にこそ出していないが微かに安堵を浮かべる。

 

「良かった~。でも、フェイトちゃんが手も足も出なかったなんて…」

 

「せやな。それに、ゼイビアックスの手下がこんな所にまで入り込むんやなんて、統夜くん、何か対策とかはないん? 何か有るんやったら、教えて欲しいんやけど」

 

シャマルの診断に心から安心すると言う様子のなのはと、自分達の本拠地の中にまでゼイビアックスの手下が入り込んでいると言う事実を目の当たりにして改めて危機に対する対策を考えるはやて。

 

「そうだな、対策って訳じゃないけど…フェイトなら、敵のモンスターの動きや、向こうでの戦いを見る事が出来ると思うぞ」

 

「「「「え?」」」」

 

統夜の意外過ぎる言葉にその場に居た全員が声を揃えて言った。

 

「で、でも、私、今まで何も見えなかったのに!?」

 

「そ、そうだよ、何でフェイトちゃんだけ」

 

「ああ、検査が終わってから教えておこうと思ったけど…なあ」

 

そう言った後窓まで歩くと統夜はそれを指先で二、三回程つつき。

 

「モンスターは直接接触した人間にしか見えない。そう言った意味じゃ、あの時、あの蜘蛛に襲われた高町やナカジマ達にも見えるはずなんだけどな…」

 

フェイトはシェルクラブに攫われた時にその存在には気づいていない様だった。それから考えると、

 

「まあ、鏡の中に居るモンスターが見える様になった知り合いには、向こうまで連れ去られた人しか居ないからな…比較対象が少なすぎるけど…」

 

その身近な比較対象は、以前のゼイビアックスとの戦いの協力者のジャーナリスト『マヤ・ヤング』…彼女はモンスターに襲われた事でベンタラの存在を認識できるようになった訳だが、ベンタラに連れ去られても居た。

 

そして、医務室の中に適当な鏡面を見つけると、それを指差し、

 

「鏡の中に何か見えるか? 部屋の風景や自分達の鏡像以外に」

 

「なにも見えないけど」

 

「何も見えへんよ」

 

「それって…統夜くんの龍?」

 

統夜の問いに同じ答えを返すなのはとはやての二人に対して、フェイトにだけには鏡を通して向こう側に居る彼のアドベントビースト、ドラグレッダーの姿が見えている様だ。

 

「はい、フェイトだけ正解。まあ、モンスターを見つけたら、急いでオレに教えてくれ。今の所対処できるのはオレだけだからな」

 

「う、うん」

 

統夜の言葉に頷きながら答えるフェイト。

 

「ふーん」

 

そんな二人を見ながら何故かニヤニヤと笑っているはやて。

 

「なんだよ、八神?」

 

「いや~、なんか、フェイトちゃんだけ名前で呼んでいるのは何でかなって思ってなぁ~」

 

ニヤニヤと笑いながらそう聞いてくるはやて。何故か狸の耳と尻尾が生えている様に見えて、『チビ狸』と言うフレーズが浮かんで来る。

 

「……………………………………。頼まれたからそう呼んでるだけだ」

 

思わず先ほどの告白を思い出して顔を赤くしながら、統夜は目を逸らしつつそう答える。…別に嘘など言ってないのだが。

 

「ふ~ん、うちらが頼んでも、呼んでくれへんのに、フェイトちゃんが頼んだら、呼んでくれとるちゅうわけか~」

 

「…お前達も名前で呼んで欲しいなら呼んでやるぞ…。それより、なにかオレに用なんじゃないのか?」

 

「うん、統夜くんの模擬戦の相手が決まったから探してたんだけど、大丈夫なの?」

 

シェルクラブとの一戦とその前のレッドミニオン退治で、すでに統夜は一戦している訳なのだが。

 

「ああ、問題ない。少し疲れてる程度だ」

 

「うん、それじゃあ、付いてきてくれるかな、案内するから」

 

「ああ。じゃあな、フェイト。……返事は直には無理だけど、必ずする」

 

「う、うん」

 

統夜の言葉に顔を赤くするフェイトにそう言ってなのはに案内され、統夜は医務室を出て行った。

 

フェイトからの告白…それが嫌なわけが無い。だが、宿敵(ゼイビアックス)から告げられた呪いの様な言葉が統夜の心に、深く突き刺さる。

 

 

『いやいや、先代と同じDNA情報を持っているだけの事はある、君も裏切るのだね、ベンタラの<r仲間:ライダー>達を。』

『君は何れ彼女達に味方し…他のライダー達を“裏切る”。』

 

 

 

フェイトの想いを受け入れる事はベンタラの仲間達を裏切る切欠になってしまうのでは? そう考えると悩むしかない。受け入れてはいけないのではと思い悩む。

 

 

 

海に浮かぶ廃墟…なのは監修の機動六課自慢の空間シミュレーターに佇みながら統夜は、ピンク色の髪をポニーテイルにした炎をイメージさせる様な甲冑姿の美人の女性、『烈火の将シグナム』と対峙していた。

 

統夜は、悩みはあるが、今は目の前の相手にのみ心を向けようと決める。

 

「えーと、シグナムさんでしたっけ? なんで、そんなにも楽しそうなんでしょうか?」

 

「ふふ…実はリニアの映像を見てから、お前とは一度戦ってみたかったんだ」

 

楽しそうに笑いながらそう答えるシグナム。

 

「悪いが、全力で行かせて貰うぞ」

 

「まあ、美人からのお誘いなら喜んで受けさせて貰いますよ」

 

彼女のようなタイプを相手に戦う前に下手な迷いを持ち込む事は失礼に当ると思い、心の中に有る迷いを切り捨て、シグナムから放たれる殺気を涼しい顔で受け流しながらカードデッキを取り出す。

 

そもそも殺気と言っても、彼女の向けてくる殺気はかつてのゼイビアックスの側近、JTCが変身した地球の『仮面ライダーストライク』が向けてくる“狂気”と共にぶつけられる殺気に比べれば、余程心地よい代物である。

 

「な!? 美人だなどと、わ、私のような…」

 

「いや、十分すぎるほど、美人だと思いますけどね、オレは。それじゃ、行くとしますか。KAMEN RIDER!」

 

その言葉に顔を真っ赤にしながら反応するシグナムに苦笑を浮かべながら、統夜はドラゴンナイトへと変身する。

 

そして、ドラゴンナイトがドラグバイザーにソードベントのカードを装填し、ドラグセイバーを召喚する事で臨戦態勢が整うと、互いに武器を構え、

 

「行くぞ、異界の騎士。」

 

「ああ。受けてたとう、この世界の騎士。…でいいのかな、この場合?」

 

“烈火”と“烈火”、奇しくもこの一戦を受けるのは“同じ称号”を持った二人の騎士。

 

「ヴォルケンリッターが烈火の将シグナム…」

 

「二代目仮面ライダードラゴンナイト、辰輝統夜…」

 

「「参る!!!」」

 

 

 

 

重なる叫び、

 

 

 

 

烈火(シグナム)烈火(ドラゴンナイト)の決闘が始まりを告げた。



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第七話『烈火VS烈火』

「「「うわぁぁあ…カッコいい」」」

 

模擬戦の様子を観戦していたエリオとキャロの年少組+スバルは統夜のドラゴンナイトへの変身を見て目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」

 

先ずは両者叫び声を上げてのぶつかり合い。ドラゴンナイトのドラグセイバーとシグナムのデバイス『レヴァンティン』がぶつかり合う。

 

(…くっ…重い…。それに、剣の技術じゃオレの方が不利だな…)

 

統夜はその一瞬のぶつかり合いでそう判断する。

 

そもそも、レイピア型のカードリーダーを主力武器としたウイングナイトやセイレーンと言ったライダーとは違い、ドラゴンナイトは使用頻度こそ高いが剣での戦いが主体と言う訳ではない。

 

「どうした、その程度か?」

 

「冗談、これからが本番!」

 

そう叫び、ドラゴンナイトはドラグセイバーを斜めに構え、シグナムとの鍔迫り合いを止めて横に走る。

 

(さてと…どうする、何処までライダーの能力を見せるか…?)

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

そんな事を考えながら、此方へと向かってくるシグナムの姿を一瞥し、ベルトに有るデッキから一枚のカードを引き抜き、それをドラグバイザーに装填する。

 

 

『GUARD VENT』

 

 

近くの鏡面から現れたドラグレッダーの腹部を模した盾『ドラグシールド』を両肩に装着した時、シグナムは下段から切り上げる。

 

「そんな物も呼び出せるのか?」

 

「そう言う事!」

 

シグナムの剣を素早く空いた手で持ったドラグシールドで受け止めながら、ドラグセイバーを振る。

 

「ふっ!」

 

「くっ!」

 

今度はシグナムがそれを避け、逆に反撃の形でレヴァンティンを振るわれるがドラグシールドでそれを防ぐ。

 

何回かそんな攻防を繰り返した後、ドラゴンナイトはシグナムが距離を取った瞬間を逃さず、彼女へと向けてドラグシールドを投げる。

 

「はぁ!」

 

それを切り払った瞬間、ドラグシールドの影から近づいたドラゴンナイトの振るうドラグセイバーが舞う様な流れで切り付けられる。

 

「なに!?」

 

「くっ…。おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」

 

それに反応して受け止め、レヴァンティンに力を込めてドラゴンナイトを押し返す。片手で振るうドラグセイバーと両腕で持ったレヴァンティン…。ドラグセイバーを弾かれる事で生じる不利を素早く判断すると、地面を蹴り、シグナムの剣を受け流しながら跳び、距離を取る。

 

(…ドラグレッダーはまだ温存…ガードとソードのカードはもう使ったし、後は三枚…サバイブとファイナルベントは除外して、ストライクベントだけか)

 

手持ちのカードと使用可能なストライクベントのカードの破壊力を考えながら、シグナムへと視線を向ける。一応、彼女の甲冑はBJと言う魔力で構成された防護服らしいのだが、それでも流石にモンスターを一撃で倒す事の出来るカードを使うのは戸惑われる。

 

(どっちにしても、アタックベントとストライクベント…この二枚だけで戦うしかないか…。ファイナルベントは…余程の事が無い限り、ダメだな)

 

思わずドラゴンナイトにも他のライダーの様に特殊系のカードを入れて欲しいとも思ったが考え直す。

ドラゴンナイトの能力を考えれば、特殊系のカードは使いこなせなければドラゴンナイトの能力を殺す結果は生んでも、プラスにはならないであろう事は直に理解できる。

 

(無い物ねだりは止めだ。今ある手札で出来る事を考えるだけだ!)

 

ドラゴンナイトはそんな事を考えながら、互いに振るう剣を回避しながら反撃を加える。そして、何回かそれを繰り返した後、偶然にも攻撃のタイミングが重なった瞬間、再び鍔迫り合いを行う。

 

「驚いたな…これで、僅か一年程度とは…面白い」

 

「お褒め頂き光栄だね。それと…オレは戦いを楽しいと思った経験は一度も無いな」

 

ドラゴンナイト…統夜は過去の戦いを楽しいと思った事は一度も無い。

 

ゼイビアックスから地球の人々を守る為の戦い、敗北した者には死と変わらないベントと言う未来しか待っていないライダー同士の戦い。とても、それを楽しい等と思った事は無い。そんな殺し合いを心から楽しんでいた狂戦士…JTCの変身した仮面ライダーストライクと出会ってからは特にだ。

 

「それは残念だ」

 

「そうですか!」

 

鍔迫り合いを行いながら、シグナムの腹を狙って廻し蹴りを放つが、ドラゴンナイトの動きに気が付いた彼女はその場から離脱、回避した。

 

「せーの!」

 

そして、シグナムが離れた瞬間を逃さずドラグセイバーを投げ付ける。

 

「自分から武器を捨てるとは! 『STRIKE VENT』なに!?」

 

ドラグセイバーを弾いた瞬間、鏡面から召喚されるドラグレッダーの頭を模した手甲・ドラグクロー。

 

シグナムの懐に飛び込み、右手に装着したドラグクローでパンチを連打する。

 

「そんな武器まで有るとは。だが、その武器では…。な!?」

 

ドラグセイバーを捨てそれよりも間合いの短いドラグクローを装備したドラゴンナイトから距離を取ったシグナムの顔に驚愕の色が浮かぶ。

 

彼女の判断は間違っている。寧ろドラゴンナイトの武装ではドラグクローが実は一番射程は広く、破壊力が高いのだから。

 

ドラゴンナイトが振り被ったドラグクローの龍の口に炎が集まり、

 

「避けろよ…。はぁ!!!」

 

パンチアクションと共にドラグクローから炎が撃ち出される。

 

「なんだと!?」

 

ドラゴンナイトの放った火炎弾が足元に着弾し煙を巻き上げ互いの視界を奪う。一瞬だけ先ほど投げたドラグセイバーの位置を確認すると、土煙の向こうに居るであろうシグナムへと意識を向けながらドラグセイバーを拾う。そして、ドラゴンナイトがドラグセイバーを回収した瞬間、何かにより土煙が切り裂かれる。

 

「そんなのも有りか、便利だな、ホント!?」

 

土煙を切り裂いた蛇腹剣となったレヴァンティンを振るうシグナムを視界に納めながら思わず叫んでしまう。

 

「ふっ、それはこっちの台詞だ。お前は、武器を呼び出せる上、龍まで召喚できるじゃないか。ふふふ…本当に楽しいぞ」

 

再度振るわれる蛇腹剣状のレヴァンティン。ドラゴンナイトは回収したドラグセイバーを盾にしてそれを受け止めるが、盾にしていたドラグセイバーを手放してしまい、そのまま蛇腹剣によってドラゴンナイトの胸部のアーマーが削られる。

 

少しでもそのダメージを最小限にする為に、後に跳び近くにある廃墟の中に飛び込んでしまう。

 

「ぐっ!!!」

 

防御してからの反撃が目的だったのだが、廃墟に飛び込んでしまった瞬間、ドラグクローを手放してしまった為に<r反撃:それ>はダメになった。

 

(あとは…ドラグレッダーを呼び出すか…ファイナルベントしかないけど…。どうする?)

 

「そろそろ、決着を付ける! この一撃で!!! レヴァンティン!!!」

 

残された手札をどう切るか、ドラゴンナイトがそんな事を考えていると、シグナムの叫びと共にレヴァンティンから薬莢が飛び出し、刀身を炎が纏う。

 

「うわぁ…直撃したらベントされないか…? 大体、大技過ぎないか…それ?」

 

どう考えても必殺技な一撃を放とうとしているシグナムに対して思わず突っ込みを入れてしまう。

 

「(…どうする…。手段としてはファイナルベントくらいしか思いつかないけど、危険すぎるから、あまり使いたくない…。だったら、避けるか…いや、今からじゃ間に合わない。……ファイナルベント以上に使いたくないけど……)仕方ない…」

 

結論を付け、カードデッキから<r切り札:ジョーカー>を抜き出し、ドラゴンナイトは“変わる”。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 紫電…」

 

 

『SWORD VENT』

 

 

「マグマ…。」

 

模擬戦の開始と同じ電子音と共に響くのは<rドラゴンナイト:統夜>の声。

 

「一閃!!!」

「セイバー!!!」

 

シグナムの放った紫電一閃と、廃墟の中から放たれた炎の十字斬『マグマセイバー』が激突しあい。

 

「な、なんだと!?」

 

紫電一閃とマグマセイバー、二つの技のぶつかり合いによって爆発の近くに居たシグナムが吹き飛ばされる。そして、地面に叩きつけられたシグナムの目の前には…“ドラゴンナイトと同じ龍の意匠を持った赤い仮面ライダー”の持つ銃剣らしき武器が突きつけられる。

 

「オレの勝ちだな」

 

「統夜…なのか?」

 

そう、強化形態である『サバイブ』へと変身した『仮面ライダードラゴンナイト・サバイブモード』のドラグバイザーツバイの変形した剣『ドラグブレード』を突きつけながら統夜はそう宣言する。

 

「その姿は…一体?」

 

「…ああ、これは、ドラゴンナイトの強化形態の『サバイブ』だ。流石に<r大技:ファイナルベント>だと殺傷力が高すぎるんでな。非殺傷設定なんて便利な物はオレには無いし、少し奥の手を切らせて貰った。はぁ…これを出すつもりは無かったのに…」

 

サバイブのカードで強化変身するサバイブモードの能力は通常時のドラゴンナイトに比べて能力は格段に上昇する。各カードの能力に至ってもシュートベントによるメテオバレットやソードベントによるマグマセイバー等の大技が使える等、元々高いドラゴンナイトの攻撃力を更に強化された結果となった。

 

唯一の不安点としては強力すぎる故に完全に使いこなしていないと言う点であるが、そもそも、サバイブモード自体の使用頻度も少ないのだ。

 

そう言ってドラゴンナイトサバイブはドラグブレードを元の銃に戻すと腰へと収め、ベルトからカードデッキを外し変身を解いて、手を差し出す。

 

「…あれ、よく考えれば…そうなると、オレの負けか…?」

 

元々サバイブのカードは使う気は無かったのだが、危険性が高いファイナルベントよりもサバイブモードでのマグマセイバーによる相殺を狙った訳であるが、隠しておく予定だった奥の手を早々に一つ使ってしまった結果である。

 

「…待て…お前は本気を出していなかったのか?」

 

統夜の手を掴んで立ち上がりながら、シグナムは統夜へとそう問い掛ける。

 

「いや、本気は出してたけど…枷は有った上に一対一の戦いにドラグレッダー呼ぶのもどうかと思ったんで最後まで呼ばなかったけどな…」

 

「………ふ…ふふふふふ…」

 

「あ、あのー…シグナムさん…でしたっけ…どうしたんですか?」

 

後ずさりしながら、笑い始めるシグナムから距離を取る。が、すぐに『ガシ』ッと音が響くほどの勢いで肩を掴まれる。

 

「あ、あのー…」

 

「辰輝統夜、次は最初からさっきの姿で勝負して貰うぞ!!!」

 

「いや、強敵相手の強化フォームを最初からって「強敵だと!? 益々戦ってみたくなった。」…や、薮蛇!?」

 

目を輝かせて笑みを浮かべるシグナムに全力で引き気味の統夜である。思わずJTCに付け狙われていた頃のドリューはこんな気持ちだったのかと思って、今更ながら少しは助けてやっても良かったかな?等とほんの少し思ってしまう。本当に少しだけだが。

 

まあ、もっとも…………今の統夜の方が色んな意味で何百倍もマシで有るだろうが…。

 

結局、次は最初からサバイブモードでの模擬戦を約束された統夜くんでした。

 

(…バ、バトルマニアかこの人…)

 

そう思わずには居られない統夜だった。

 

 

さて、こうして無事模擬戦も終了し、なのは達の元に戻った時、

 

「ほんま、統夜くんって何者なん?」

 

「第一声がそれですか、八神部隊長。」

 

行き成りはやてに言われた言葉に思わずそう答えてしまう。

 

「…何者かと聞かれたら…ただの一年の死闘の経験がある受験生ですけど」

 

「でも、統夜くんの戦い振りを見てたら、たった一年だけの経験なんて思えないよ」

 

なのはの言葉に笑みを浮かべ、

 

「そりゃ、必死だったからな。敵は何時何処から出てくるか分からない上、こっちの戦力は最初は僅か二人なのに対して敵のモンスターは大群、しかも、オレ達が負けたら地球人類の危機なんだ。強くなるのに必死にもなるさ」

 

そう言って、ドラゴンナイトのデッキを手にしてドラグレッダーと契約した時の頃を思い出す。

 

師であり戦友であるベンタラの戦士『仮面ライダーウイングナイト』…『レン』に実戦形式で鍛えられたり、ドラゴンナイトのカードの種類と効果を把握すると言う宿題を出されたり等々、今考えてみると苦労した記憶がある。

 

………軽い口調で言っているが、何気に統夜はサラッと危険な事を言ってくれている。事実、統夜達が過去のゼイビアックスとの戦いの何処かで万が一負けていたら、地球の人々は今頃ゼイビアックスの星に連れ去られていた所である。

しかも、口に出して居ないがゼイビアックスとの戦いの中で統夜は一度ベントされているのだから…。

 

「…どうした…?」

 

顔を青くしている医務室に居るフェイトを除いたなのは達隊長陣を見ながら聞く。

 

「い、いや…今更ながら、統夜くん達が頑張ってくれへんかったら…」

 

「とんでも無い事になってたって思ったら…」

 

「ああ。僅かにでも遅れたら今頃…全人類がゼイビアックスの星に連れ去られてたな。ゼイビアックスもオレ達13人全員の力を合わせてやっと勝てた相手なんだよな」

 

「あはは…今度お父さん達に連絡しようかな」

 

今更ながら、当時の戦いの壮絶さを思い出しながら、語る統夜に妙に空気が重くなる。

 

そんな人類の危機が現在進行形でミッドチルダで進行していると考えると顔色は悪くなる一方である。偶然にも聞いてしまったフォワード陣の顔色は特に悪い。

 

しかも、統夜にしてみればライダー達全員の力を合わせて勝てた相手に対して、今はドラゴンナイト一人だけで戦わなくてはいけないのだから。

 

(…何とかしてユーブロンに連絡を付けないとな…。ゼイビアックスの言葉通りオレ一人じゃ奴には勝てない。何とか、レンさん達に救援を頼もうにも、オレは下手にここを離れられないし…)

 

確実に、そして安全に連絡しようと思えば地球に戻るしかない。だが、アドベントビーストだけでゼイビアックスの動きを完全に押さえられる訳がない。そう考えながら横目でなのは達へと視線を向ける。

 

(高町達にはベンタラやユーブロンの事は伝えられない、オレが行方不明になっている事で何かに気が付いてくれれば良いんだけどな…。流石にゼイビアックスが生きてる事には簡単には気づけないだろうし)

 

個人でミッドチルダから地球へは連絡は取れず、なのは達に話を通すしかないが、そうなると下手をしたらユーブロンやベンタラの事も話さなくてはならないだろう。

ゼイビアックスと戦う為にベンタラの中間達に救援を頼む為にも何とかして連絡を取る方法を考えなければならない。

 

「ところで、統夜くん。フェイトちゃんが攫われた時、何があったんや、ちょっと前までとは様子が違う様やけど」

 

その妙に重い空気を払拭する様にはやては口を開く。

 

「へ?」

 

はやての言葉にフェイトを助けてこっちの世界に戻った時にされた告白を思い出してしまう。

 

「あ、私もそう思ってたんだけど、何が有ったの?」

 

「…ナ…何ニモ無イゾ…タダ助ケタダケデスヨ…」

 

明らかに動揺しながら顔を赤くして明後日の方向へと視線を向ける。どうも、精神的な面で弱い統夜である。…恋愛に対する免疫が無いだけかもしれないが…。

 

(…ハァ…。フェイトには、なんて返事をするべきかな…)

 

なのは達の追求を受けながらそんな事を考える統夜で有った。

 

「それにしても…統夜くん、まだあんな力を隠してたんやな~。他にも何か隠しとるんやないんか?」

 

「いや、ドラゴンナイトの力は一応サバイブで打ち止めだぞ」

 

そう、《ドラゴンナイトの力》にはサバイブモード以上の物は無い。もう一つ隠し持っているオニキスのデッキの存在については言っていないだけで嘘は言っていない。

 

「ホントに? 他に何か有るなら、教えて欲しいんだけど?」

 

「ホントだ」

 

なのはの問いに笑みを浮かべながらそう答えるのだった。

 

 

 

 

???…

 

「さて、仮面ライダーブレード」

 

「はい」

 

アビスの呼び声に答えるように、ウイングナイトに似た印象を持ちながら施されている意匠は『蝙蝠』のウイングナイトに対して『鳥と炎』、色は『青』と言った物とは違う『赤と金』、腰にはカードリーダーらしい日本刀の様な武器を持った鳳凰をイメージさせるライダー『仮面ライダーブレード』が片膝を付き、アビスの前に現れる。

 

「そろそろ、君にもドラゴンナイトと戦って貰おうと思っている。だが、くれぐれもベントだけはしない様に気を付けてくれたまえ」

 

「分かりました。奴は将軍の宿敵の一人…簡単に倒れられては面白くないでしょう」

 

「その通りだ。折角彼が私の招待に応じてくれたのだから、十分に楽しまなければね。それに、ドラゴンナイトと君の第一ラウンドは飽く迄おまけだ。本来はこれを“彼等”に届ける為の護衛だと言う事を忘れないでくれたまえ、ブレード君」

 

そう言って二つのカードデッキを見せるアビス。

 

「心得ております」

 

頭を下げるブレードに頷くとフェイトを抱き抱えている統夜の映像が映し出される。

 

「人は守るべき物が出来れば弱くなる。弱点が生まれる。そして、幸福の先に有る絶望は最も深い。君に味合わせて上げよう…最高の…絶望をね」

 

そこに響き渡るのはゼイビアックスの高笑いだけ…ブレードは将に使える従者の如く頭を下げていた。



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第八話『返事と新しい始まり』

シグナムとの模擬戦から数日が過ぎた頃

「…あの腐れ異星人…」

「にゃはは…統夜くん、落ち着いて…」

食堂でダークオーラを纏っている統夜に苦笑しながらそう告げるなのは。昨日一日、一時間に一度7時から19時までと言う一種の嫌がらせに近いレベルでモンスターが…それもレッドミニオン級が散発的に出没してくれていたのだ。

雑兵相手なのだから楽勝なのは良い。だが、明らかに敵の動きは統夜に対しての嫌がらせか、何か別の目的の為のカモフラージュとしか思えないのだ。

その前には、はやてにフェイトを攫ったライダーについての報告書を纏める様に頼まれ、なのはにフォワード陣の訓練を頼まれた。曰く『そんなに強いんだから、教えないと勿体無い』そうである。

「大体なぁ、オレが訓練なんて手伝って良かったのか?」

「だって統夜君はたった一年でそんなに強くなったから、統夜君に教えてもらえば、絶対、あの子達の為になるって思ったから」

なのはが基礎を重点的に教えているのに対して、統夜がやっているのは実戦形式の応用を磨かせているのに近い。擬似的に自分が強くなった過程を再現しているのだ。

 

統夜の場合、殆ど実戦の中で磨かれた一種の我流の戦い方であり、レンとの訓練も実戦形式であった以上、彼に出来るのは相手のレベルに合わせて手加減しながらの実戦形式の訓練しか無い訳であり、ドラグレッダーまで召喚しての実戦訓練となった訳である。

流石に加減が分からなくて初日にやり過ぎた時は散々『やり過ぎだ』と、なのは達に怒られた。なお、その時のフォワード陣のコメントは『死ぬかと思った』だそうだ。

元々、行き成り応用から入って基礎を我流で身に着けたと言って良い統夜だから、それは仕方ないと言えば仕方ない。

そして、色々と考えた結果、その反省を含めて、翌日からは個人の戦闘能力の上昇を目的として、一対一、または二対一での実戦形式の訓練に切り替えた。アドバイスできるのは戦闘で見えた弱点や問題点を指摘したりと言う形でしかなく、後は戦いの中で強くなれとしか言えないのだ。だから、自分に出来る事は精々、壁になること程度である。

頼んだなのはには、『個人の能力の上昇によるチームの能力の上昇を』と言う考えと言ったが、統夜としてははっきり言ってチームワークは専門外なのだ。

アドバイスにしても、素手での格闘が得意なスバルは自分と戦い方が似ている為に教え易いのだが、他のフォワード達には他のライダーの例を挙げてアドバイスする程度しか出来ない。

「まあ、オレは給料と居・食・住の確保してくれている分くらいは働くから、何でも言ってくれ」

そう言って、なのはとの会話を切り止める。

「ねえ、統夜くん、フェイトちゃんになんて返事するの?」

「っ!? ………その事を聞くな………」

何気に昨日はやてにフェイトに告白された事を知られ、なのは達にも知られてしまっている。その表情は楽しそうにニヤニヤとしている。

昼食を終えた統夜は廊下の壁に背中を預ける。

はやてに提出する様に言われたライダーについての報告書については、頭に血が上っていたせいか、殆ど瞬殺と言うペースで倒したせいか、シェルクラブについて思い浮かべる部分は少ない。寧ろ、ライダーやモンスターとの戦いになれた自分の報告よりは、敗北したフェイトの報告の方が彼女達は参考にはなるだろう。

だから、自分の視点…ベンタラのライダーである『仮面ライダーインサイザー』の姿や能力が似ていた事から出来る推測を交えてのライダーとの戦闘の際の注意点を挙げて、主にアドベントビーストの存在等の対ライダーを仮定した戦闘に役立ちそうな内容を挙げておいた。

なお、最重要点として挙げた対モンスター戦術としては、『向こうの世界に引きずり込まれたら、完全に引きずり込まれる前に誰かに連絡を入れて、深追いせずにオレが行くまで待て』と書いておいた。

乱暴な言い方だが、生身の人間が鏡面世界(ベンタラとも違うので便宜上こう呼ぶ)から元の世界に戻るにはモンスターかライダーの力を借りるしかないのだから、探し回る手間は少ない方が良い。

そんな報告書を一時間毎に現れるレッドミニオン達を倒しながら、纏め上げる羽目になった。

(…思った以上に書きすぎたかな…?)

万が一自分達と敵対した時にも役に立ってしまう情報にならない様に気を付けてはいたが、ゼイビアックス製とは言えライダーと戦う為の方法と言う時点で、教えるのは自分達と戦う上での注意点となる。

(…それにしても…頼まれて鍛えてはいるけど、やっぱり、子供を戦わせるのは気が引けるよな…。こっちの世界は就労年齢は低いらしいけど、どう考えても、人手不足の管理局が魔法の才能が有る子供を戦わせる為にしか思えないんだよな)

地球で育った自分だからそう考えるのだろうかと、そう思わずには居られない統夜であった。だが、別の世界の法を正しいとも間違っているとも言える立場ではないのだからと、考えを切り上げる。

(…ゼイビアックス…奴は何を考えているんだ…? あの<r青蟹:インサイザーモドキ>にしても、勝手に行動させているみたいだし…。う…)

あの時の事を思い出し思わず顔が赤くなる。

レッドミニオン達の散発的な動きがなくても、昨日は遂にフェイトに告白された事をはやてに知られ、散々からかわれたのだから、精神的な面で疲労は大きい。

……統夜の本音としては出て来てくれる敵は『もう少し強い方が余計な事を考えずに済む』そうである。

敵は何処まで行っても結局は戦いなれた雑兵…稀に強い固体も存在するが、それもワンランク上の雑兵として『ホワイトミニオン(日本名:シアゴースト)』が存在する最下級の敵…所詮は悩む余裕が多々有る相手なのだ…。

(…なんて返事するかな…)

思い出すのは以前フェイトを助けた後にされた“告白”の事。10年も思われ続けて告白された事については嫌な訳がない。流石に何で自分の事を好きになったのかは気になる所だが、それ以上に、ゼイビアックスに告げられた言葉が原因で彼女への返事に悩んでしまう。

「はぁ…」

昼食を終えて食堂を出てから天井を眺めながら統夜は溜息をつく。

先日の告白の一件以来どうしても、フェイトとは顔を合わせ難い。どう答えて良いのかと言うのも有るが、それ以上に答えを出すのを躊躇わせているのは、ゼイビアックスから放たれた呪詛の様なあの言葉。

「っと、八神の所に報告書を提出しに行くか…」

妙な方向に考えが進んでいくのを感じて、統夜は自分に言い聞かせる様に呟く。特に何時までとは言われてなかったが、なるべく早くと言われていたので、完成次第提出しようとは思っていたのだが…。伝えるべき情報の取捨選択等をしていたら、今日まで掛かってしまった訳である。

そんな訳で、部隊長室に足を運ぶ。

「失礼します」

「失礼するなら帰ってや~」

妙なボケをされてしまうが全面的にそれを無視して昨日完成した報告書を提出する。

「前に戦ったゼイビアックス側のライダーについての報告だけど、オレの視点で良かったのか?」

「うん。一応、フェイトちゃんにも話を聞いたんやけど、かなり厄介な相手みたいやな」

「…いや、初めて未知の敵だからってのも有るんだろうけどな…。それに、オレの予想だけど、アイツはまだライダーの力を使いこなしていない…力に振り回されている印象があった」

「どうしてそう思ったのか教えて貰ってもええ?」

「…『ファイナルベント』…ライダーのカードの中で最も破壊力の高いカードだ。必殺技って言い換えても良いかな? こっちが使ったって言うのに、向こうは使う様子がなかった。ファイナルベントに対抗する手段は、回避か、防御系のカードで防げるか、同じファイナルベントでの相殺しかない」

回避されてダメージを与えられないと言う点からもファイナルベントは避けられない状況を作ってから使うのがセオリーで、以前統夜がトラストのファイナルベントからスティングを庇った様に防御する事が上げられる。最後のファイナルベント同士のぶつけ合いは賭けに近い。最悪は相殺ではなく相打ちか弱い方が負ける。

「それじゃあ、次に出てくる相手はもっと強くなっとるちゅー事になるん?」

「そうなるだろうな。まあ、それでもオレは一年間も奴等と戦って来たんだ、そう簡単に負けは無いだろうけどな」

嬉しくは無いが、統夜は過去一年間のゼイビアックスとの戦いで対モンスター・対ライダー戦の経験は積んでいる事と、サバイブモードと言う最強の切り札が有る以上どれだけ強くても、仮面ライダーになったばかりの相手にそう簡単に負けはしないとは確信できる。

「それにしても…折角、怪物事件や行方不明事件の真相が分かってもこれじゃあ報告できへんな」

「は、はやてちゃん、元気出してくださいですぅ~」

「そうだろうな」

思いっきり机に突っ伏しているはやてと、彼女を励ますリインⅡと、はやての言葉に同意する統夜。

はやての言葉も最もだろう、『犯人は<r異星人:エイリアン>とその手下のモンスターです』等と報告した所で返って来る反応は、『ふざけるな!!!』と怒鳴られるか、色々と心配されて医者を紹介されるか、病院に連れて行かれるかだろう。

「統夜くんの<rカードデッキ:それ>を見せてもエイリアンの存在を証明する証拠にはならへんしな」

「まあ、それを上手く説明するのも、<r機動六課:ここ>の<r最高責任者:トップ>の八神の仕事だろ? せめて、ゼイビアックスを指名手配とかにする事は…」

「ああ、それならもうなっとる。はぁ…どうしてこんなSFな事件になっとるんやろ?」

「オレからしてみれば、次元世界の概念その物がSFにしか思えないけどな」

思わずそう言いたくなる二人だった。

流石にゼイビアックスは刑務所を襲撃した張本人なのだ。名前も素顔も不明な為に監視カメラに写っていた仮面ライダーアビスの姿で指名手配になっている訳だが、統夜達の知るゼイビアックスの顔ではどっちにしても素顔とは思われないだろう。

もっとも、統夜ならエイリアンの存在を証明したければ、ユーブロンに会わせると言う選択肢も有るのだが、そんな事はしたくない。

「一応、この事や統夜くんの事は他言無用ちゅう事で信頼できる人達には話しておくつもりやけど」

「ゼイビアックスの事は兎も角、オレの事は勘弁してくれ…って言う訳には行かないんだろう?」

「せや、統夜君の事も考えると、ゼイビアックスの事も統夜君から後見人の人達に直接説明して貰った方がええと思ったんや。それに、ゼイビアックスの事を考えると、地上の人にも信頼できる人には話し説いた方がええと思っとる訳なんやけど…」

「…後見人については何も言う気は無いけどな…その地上の人って言うのは、信用できるか?」

「それについては私が保障するで。それに、私の言葉が信用できないんやったら、スバルに聞いてみればええよ」

「…スバルちゃんに…か? 何でだ?」

「私が話そうと思っている人は陸士108部隊の部隊長で、私もお世話になった人で、スバルのお父さんの『ゲンヤ・ナカジマ』三等陸佐や」

「なるほど」

はやての言葉に納得する。はやてが世話になった相手な上に自分の部下の父親…信頼する要素は有ると判断して良いだろう。

「まあ、それに関しては全面的に八神に任せる」

「任せとき、もう誰も悲しませない為にも…ゼイビアックスの勝手にはさせへん」

返されるはやての言葉を聞きながら、部隊長室を出て行こうとすると、

「ところで、統夜くん、何で名前で呼んでくれへんの?」

「……またそれを持ち出したか……」

「せやで、頼んどるのに、統夜くん全然名前で呼んでくれへんやん! フェイトちゃんとフォワードの子達やシグナム達は名前で呼んどるのに」

付け加えておくと、年下のスバル達フォワード陣を名前で呼ぶのはそっちの方が気安いからで、シグナム達の場合は『はやての身内=苗字は同じ?=苗字だと分かり辛いから』と言う理由である。

「…だから、前にも言ったはずだ…「じゃあ、お願いだから、名前で呼んでくれへん?」…“はやて”。これで良いんだろう?」

「うんうん。それでええよ、統夜くん」

満足気に頷くはやてに溜息をつきつつ、部隊長室を出て行こうとした時、

「ところで、統夜くん…フェイトちゃんにはちゃんと返事はしたんか?」

「……………Why……………?」

そう言われてそのまま停止してしまう。

「な、なんで…そんな事を聞く?」

「その様子はまだのようやな。なんで、返事をしてへんのや?」

なんでと問われると幻聴の様に聞こえてくるのは、呪詛の様に響く、

『仲間達を裏切る』

ゼイビアックスから言い放たれた言葉…。だから、彼女の告白を受け入れて良いのか思い悩む。

「…少なくても…彼女が好きだと言ったのは、十年前のオレだろう? 今のオレ向かって言われた言葉じゃない…」

だから、言ってしまうのは心にも無い拒絶の言葉…。

「うーん…それは違うと思うんやけどなぁ…。それに、今のって嘘やろ?」

「どうしてそう思うんだ?」

「うーん、なんとなくやけど、統夜くんだったら、そう思っとるんやったら、もっと早く直接言うと思っただけやで」

「…………。話がそれだけならこれで失礼させて貰う…」

「あっ、統夜くん。一つだけ言わせて貰ってもええ?」

「…なんだよ?」

「うーん、あんまり返事を先延ばしするのもどうかと思った訳やから…」

「「あっ」」

「フェイトちゃんを呼んどいたんで、しっかりと返事せなあかんよ」

はやてに嵌められたのか…思いっきり部隊長室に入ってきたフェイトとばったりと会ってしまった統夜だった。

「あ…あの…統夜…」

「あー…なんだ、フェイト?」

「あの時の返事…聞きたいな」

そう告げられるフェイトの言葉に一度息を吐き。

「…十年だろ…人が変わるには十分すぎる時間だ…」

「……うん……」

「だから、こう言うのも酷いかもしれないけどな…“十年前”のオレじゃなくて、“今のオレ”が好きだと言えるなら、もう一度告白してくれ」

そんな返事しか言えない自分がイヤになる。それは結局の所単なる問題の先送りでしかない。だが、同時に昔の自分とは違うと言うのも間違いない。

彼女の想いを受け入れる事がベンタラの<r仲間:ライダー>達を裏切る事にのならそれもイヤだ。どんな形にしろ彼女の思いを裏切るのも嫌だ。だから、今の自分に出来る選択は…先送りでしかない。

「…………。うん。私は今の統夜の事も絶対に好きになるから!」

「ああ。だから、先ずは今は友達からだな」

「うん」

そう言って笑いあう二人。統夜から差し出された手を握り返すフェイト。さて、この統夜の選択は如何なる未来を与えるのは、何者にも分からない事であるが…。

物語は新たな未来へと繋がる。

部隊長室

「あっ、フェイトちゃんと統夜くんの事、クロノ君にも教えてあげへんとあかんな~」

狸の耳と尻尾を幻視させる空気を纏いながら楽しげに「ふっふっふっ」と笑うはやてであった。



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第九話『毒蠍』

???

無数の血痕を残す研究所のような建物の中で仮面ライダーブレードは辛うじて生きているが、今も血を流している両腕や両足などを切られた研究員らしき白衣を着た人間達を一瞥し、

「連れて行け」

レッドミニオン達と自身のアドベントビーストのガルドストーム、ガルドミラージュの二体へと指示を出す。

「やれやれ、ブレード君、彼等は貴重なサンプルでも有り大事な労働力だ。必要以上に破損させられては困るな。あれでは、すぐに死んでしまうのではないかね?」

「…申し訳ありません、将軍。ですが、お忘れですか? 私との契約を」

「覚えているとも、殺したい人間を殺しても良いと言うのが君との契約だったね、ブレード君? なるほど、確かに君は契約を守っているか。いやいや、すまなかったね」

「いえ。此方こそ申し訳ありません。以後あれらが労働力として機能する程度に留めて置きます」

「しかし、この世界の人間達も正義のお題目で、随分と酷い事をする物だね。流石の私でも、目を背けたくなるよ。そして、同時に感心してしまうね…ベンタラのライダー達や統夜君は敵ながら素晴らしい人間だったと」

「まったくです。では、最後にテストを兼ねて少々派手な花火を上げるので」

「そうか。では、私も手伝おうじゃないか。この力を試してみたかったのでね」

ブレードの取り出すカードを見ると、嬉々としてアビスもまた一枚のカードを取り出す。十数分後、二人の仮面ライダーの手によって研究施設が一つ、跡形もなく消滅したのだった。

 

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統夜SIDE

「実はな、聖王教会からの依頼でな、明日からあるロストロギアを回収しにいかなあかんのよ」

隊長室で統夜ははやてからそんな話を聞いていた。まあ、それがこの機動六課の役割に当てはまるのだったら行くしかないだろう。

「そんなに危険な代物なのか?」

「う~ん、危険性はないみたいやけど…まあ、ロストロギアやし、ウチに廻ってきたって言う所やね…」

そこまで言った後、はやては申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「どうしたんだ?」

「う~ん、フェイトちゃんと統夜君には申し訳ないんやけど、私となのはちゃん、フェイトちゃんにシグナムにヴィータと、シャマルとフォワードのみんなで行ってもらう予定なんや」

はやての言葉の意味に気が付き、統夜はその言葉の中にある一つの危険性に気が付いた。

「ん? オレが居ないと、モンスターやゼイビアックスのライダー達には対応…出来たとしても、鏡面世界に連れて行かれたら、助けられないんじゃないのか?」

「ああ、それなら心配はないはずや」

「…What…?」

訳の分からないままそんな声を出してしまった。

「出張先は私らの出身世界…第97管理外世界…地球の海鳴市なんや…」

嬉しさ半分、申し訳なさ半分と言った表情で告げるはやてだが、それを告げられた統夜は納得の行った様子で頷いている。

確かにゼイビアックスの活動している場所は、現在は統夜の居るミッドチルダに限定されている為に他の世界ならば安全だろう。

なにより、その場所が地球ならば…他の国であっても、ベンタラの統夜を除く十一人の仮面ライダー達の存在がある為、寧ろ『インサイザーに次ぐ弱さ』と言う嫌な自負の有る統夜しか居ないミッドチルダよりも、全員が統夜よりも長い間戦いを潜り抜けてきた歴戦の戦士達である彼等が居る世界なら、ゼイビアックスの配下のモンスターや、なったばかりの犯罪者程度が変身するライダー等敵ではない。少なくとも現状ではゼイビアックス自身が直接動かない限りは安全だろう。

特に自分と同じくサバイブのカードを持つウイングナイトことレンや、最強の称号を持つラスならば、最弱と言われているインサイザーレベルのシェルクラブ程度の<r敵:ライダー>なら五、六人位は敵ではないだろう。

「いや、仕方ないだろうな。オレはこっちでゼイビアックスや、奴のばら撒いたカードデッキを持った敵のライダー達の動きに対応しなきゃならないしな」

「ごめんな、統夜くんの家族も心配しているはずやのに。それに十年ぶりの里帰りの機会やろ?」

「里帰りについては別に気にしなくても良いさ。十年も前の思い出なんてそうそう覚えてないしな。まあ…父さんや母さんに…レンさん達に連絡を入れられないのだけは心苦しいな…」

「連絡先を教えてくれれば、伝言くらいは伝えてもええよ」

「そうだな。日本からだと国際電話になるけど、大丈夫か?」

「うん、その辺は現地協力者に頼んでみるで。じゃあ、伝言する相手が決まったら、あとでフェイトちゃんに伝えてあげてや~」

物凄く楽しそうな笑顔でそう言ってくれました。

「…なんでそこでフェイトの名前が出てくる…?」

「え~、フェイトちゃん、統夜くんの恋人候補やん。だったら、ご両親と話してみたいはずやで」

「…おいおい…」

思わずはやての言葉に呆れてしまう。…恋人候補と言う段階で両親に挨拶も何もないだろうと、内心突っ込みを入れてしまうが…。

(…まあ、フェイトならマヤさんへの伝言を頼むのにも丁度良いか…)

正確には以前の戦いの協力者であるマヤを通じてのベンタラの仲間(ライダー)達への伝言になるのだが、それはベンタラの事を出さない事と最低限に留める必要が有る。

(…ベンタラの事を話せれば楽なんだけどな…)

そう思わずには居られない。フェイトの事は信用しているが組織の人間である事は変らない為に隠しておくべき事は隠しておくに越した事はない。少なくとも、自分と組織のどっちを優先してくれるのかハッキリするまでは…。

(…まあ、それがハッキリすれば、ベンタラの事を話すか話さないかは決まるんだけどな)

「ところでその『レンさん』って言う人が統夜くんの師匠みたいな人やな」

「ああ。オレと初めて出会ったライダー…オレと同じ『<r騎士:ナイト>』の名前を持つライダー…『仮面ライダーウイングナイト』だ。…オレは向こうじゃ行方不明って事になっているだろうし…レンさんにも連絡できたらしておいた方がいいか…」

「ふーん、それでその人には何て伝えらればええんや?」

「…正しくはレンさんにじゃなくてマヤさんって人に頼む。伝える事は簡単だ、オレは無事で元気にしているって言う事と……『ゼイビアックスは生きている』……だ」

簡潔であり、最重要な要件である。

間接的にとは言え、向こうでは行方不明と思われているであろう統夜からのベンタラを守る仮面ライダー達にとって倒さなければならない敵であるゼイビアックスの生存の報告なのだから、ユーブロンや他のライダー達もそれを知った上で行動してくれるだろう。

上手く行けば、時間は掛かるだろうがベンタラから救援を送って貰えるかもしれない。自分の弱さと一人で出来る事の限界を理解している統夜としては、自分一人しか戦えないこのままの状況では時間は掛かるだろうが負けるのは自分の方だと言う事は良く分かっている。

「…所で、八神隊長達が出張している間、オレはオレでゼイビアックス対策に勝手に動いても良いのか?」

「その事なんやけどな、私らの出張中ゼイビアックス対策の為に統夜君には他の部隊に出向いて欲しいんやけど」

「…それは、別に構わないけど…オレの出張先は前に聞いた話に出てきた『信用できる相手』の部隊か?」

「そうや、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐にはお世話になっとるし、信用できる相手やから、手伝ってきて欲しいんや。お願いできる?」

「分かった。ゼイビアックス対策なら喜んで協力させて貰う」

「ありがとな。もう向こうには話はつけてきたんや。後は統夜君から返事を貰うだけやったんや。統夜君は向こうの部隊の場所を知らないから、迎えに来てもらう様に頼んどいたで」

「…悪い…」

辰輝統夜…少しは地理にも慣れて来たが、流石にまだ一人で遠出できるほどは慣れてはいない。そう言って待ち合わせ場所を教えてもらう。

…まあ、一人で戦っていた頃はバイク(当然、違法駐車の物を黙って借りた物)を使って走り回ってもいたが…完全に此方では無免許運転の上に盗難の罪が重なりそうなので黙っておく。

付け加えておくと、なのは達と再会した時に使って見せたドラグサイクルについてはドラゴンナイトの能力と思われている様子だ。(黙って)借りたバイクは現場に放置された。

内心、最近では『バイクの事も何とかしないと戦力が不安だよな』等とも考えている。

「それで、案内してくれる相手は誰なんだ?」

写真が有れば分かり易いなと思いながらも、迎えに来てくれる相手の事を知って置こうと尋ねる。

「相手は108部隊の隊員で『ギンガ・ナカジマ』、スバルのお姉ちゃんや」

「…ああ、そう言えばスバルちゃんからお姉さんが居るって聞いた事が有ったような…」

はやての話を聞いて、以前スバルと話していた時に聞いた話の中でそんな話題が出たと言う事を思い出す。

「ギンガは髪を長くしたスバルを想像すればすぐ分かる。歳は私らより年下の17歳で結構な美少女や、見とれるんやないで~」

「髪を長くしたスバルちゃんね…。なるほど」

はやての言葉を聞いて頭の中で迎えに来てくれる相手の『ギンガ・ナカジマ』の顔を思い浮かべていると、

「浮気はあかんよ~」

「がぁっ!」

はやてから不意打ち気味に言われた言葉に思わずずっこけてしまう統夜君でした。

「ちょっと待て! 何でそこで浮気とか言う話になるんだ!?」

「え~…フェイトちゃんと…」

「…まだフェイトとは正式に恋人になった訳じゃないし、返事は保留って形になっただけだ…」

楽しそうにニヤニヤと笑いながら聞いてくるはやてを横目で睨みながら、そんな返事を返す。……何故か地球に帰ってからも知人一同からこの事でからかわれる絵が想像できてしまう統夜だった。

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さて、翌日…地球へと出張に出た機動六課のメンバー達を見送ると、統夜は待ち合わせ場所まで向かった。

「あの、貴方が辰輝統夜さんですか?」

「ああ、君が迎えの…ギンガ・ナカジマさん?」

はやてから伝えられた待ち合わせ場所で待っていると、青い長い髪の女性にそう話しかけられる。

(確かに、スバルちゃんに似ているな。…それにしても…)

そのまま本人か確認するように軽く会話を交わして彼女の所属している部隊へと向かう事になったが、何処か彼女の態度に硬い物がある事に気が付いた。

(…警戒されてる…のか)

『無理も無いだろう』と思いながら心の中で溜息を吐く。どれだけ話が伝わっているかは疑問だが、表面的な情報だけでも統夜は『指名手配犯であるアビスと同じライダーの力を持っている者』なのだから、警戒されるのも無理はないだろう。

向こうにしてみれば…『統夜がゼイビアックスの仲間では無い』と言う確証はないのだから、素直に信用してくれた機動六課の面々にしても、統夜がなのは達の知り合いだったと言う事や、直接的に二度も助けられたと言う事も有るだろう。

実際、過去のゼイビアックスとの戦いの中でも、味方の振りをして近づいてきた相手…地球の『仮面ライダートルク』、『ドリュー・ランシング』が居たのだから…。

もっとも、最後は見事にゼイビアックスから切り捨てられ、統夜達にも信用されず、哀れにも刺客として送られた仮面ライダーストライクにベントされたが、それも当然だろう。それは自業自得で有り今も一切同情していない。

…原典の龍騎の『仮面ライダーゾルダ』には色々な面で負けている男だった…。

<r閑話休題:それはさておき>

「…オレの事が信用できない…か?」

「っ!? ………はい、正直………」

道を歩きながら統夜はギンガへとそう話しかける。ギンガにしてみても、統夜は指名手配中の犯罪者と同じ力を持っている次元漂流者、<r有名人:エース>達の知り合いだとしても、それは統夜がフェイトへと言った言葉の様に人が変わるには十分過ぎる程前の事…初対面の相手に信用してもらえる材料が無いのは統夜自身が一番自覚している。

「まあ、オレもすぐに信用してもらえるなんて思ってないからな」

それは自分も経験していた事だ。今になると申し訳なさでいっぱいだが、一度でもレンを信じずにドリューを信じてしまった事は今でも反省している。

今の統夜の立場は以前のレンに近いのだし。

そんな事を考えていると、モンスターの接近を告げている耳鳴りの様な音が聞こえてくる。

「ところで…」

「なんですか?」

「悪いけど、少しだけ寄り道していく…鏡の無い所で待っててくれ」

「え、何が…」

「あれを見ろ!」

二人の前方を歩いている女性の横にある鏡の中から異形の腕が伸び、その女性を鏡の中に引きずり込んでいく。

「今のは!?」

それは一瞬の出来事だったので、他の通行人達の目には認識されていない様子で、何事も無かったように過ごしていた。恐らく、ギンガも統夜に言われなかったら、気が付く事はなかっただろう。

「あれが行方不明事件の真相だ。そして…<r異星人:ゼイビアックス>の侵略行為の一環だ」

「あれが…」

それだけ告げると統夜は女性が飲み込まれた場所へとカードデッキを向ける。

「KAMEN RIDER!」

その叫び声と共に現れたベルトのバックル部分にカードデッキをセット、回転しながら赤い光が統夜を包み、統夜は仮面ライダードラゴンナイトへと変身し、水面の様に波打つ鏡の中に飛び込んでいく。

「あっ、待って下さい!」

鏡の中に飛び込んだドラゴンナイトをギンガが追いかけようとするが、当然ながらそこは触れても硬い感触があるだけでモンスターやドラゴンナイトが居る戦場へと行ける訳が無かった。

<<page>>

『<rSWORD:ソード> <rVENT:ベント>』

「はぁ!!!」

鏡の中に飛び込むと同時にドラゴンナイトはドラグバイザーへとカードを装填し、ドラグセイバーを召喚し、レッドミニオンの一体を切り裂き、蹴り飛ばす。

「ゲェ!」

真横の壁から飛び掛ってくるレッドミニオンをバックステップで避けてそのままドラグセイバーを振り下ろす。

「こいつ等だけじゃない…」

女性を誘拐したモンスターの腕を見たのは一瞬だけだったが、レッドミニオンの物とは違った。目の前に居る二体のレッドミニオン以外にモンスターは存在している事になる。

存在しているであろうモンスターの出現に注意を払っていると、後からシマウマをイメージさせるモンスター『ゼブラスカル ブロンズ』が襲い掛かる。

「くっ! こいつは!?」

寸前でそれに気が付いたドラゴンナイトはゼブラスカル<rB:ブロンズ>の振り下ろした両腕にある角状の武器を避ける。その姿は過去に戦った相手に似ている事から恐らくは同種であろう事は直に理解できる。だから、その能力も…大体は理解している。

「はぁ!!!」

ゼブラスカルBへと振り下ろしたドラグセイバーを両腕の武器で受け止める。押し切ろうと力を込めた瞬間、ゼブラスカルBの胴体がバネのように伸びてドラゴンナイトの力を受け流す。

そして、そのまま伸びきったバネが戻る様に力を増してゼブラスカルはドラゴンナイトを押し返す。

「うわぁ!!!」

ゼブラスカルBの力によって吹き飛ばされたドラゴンナイトはそのままドラグセイバーを弾かれ、後に有ったビルの壁とへ叩きつけられて地面を転がる。

(…こいつ…やっぱり)

そんなドラゴンナイトへと追撃をかけるゼブラスカルBの頭へとカウンターの形で右ストレートを打ち込むが、今度は首が伸びて頭へと打ち込まれたドラゴンナイトのパンチの衝撃を受け流す。

(…前に戦った奴と同じ能力か…)

首が戻ると同時に振り下ろした両腕の武器を横に避けるとカードデッキからカードを引き抜き、

「!!!」

叫び声と共に繰り出されるゼブラスカルBの攻撃を避けながら、ドラグバイザーへと装填する。

『<rSTRIKE:ストライク> <rVENT:ベント>』

「はぁ!!!」

ゼブラスカルBの攻撃を避けながら電子音と共に上空からか現れたドラグクローを装着し、ゼブラスカルBへと殴りかかる。

ドラゴンナイトの打撃は全て体の各部位を繋ぐ筋肉をバネの様に伸ばすゼブラスカルBにはそれほど大きなダメージにはなっていない。

だが、ドラゴンナイトは仮面の奥で笑みを浮かべながら、ゼブラスカルBの胸を蹴る。当然、ゼブラスカルBはそれも体の筋肉を伸ばす事によって無力化する。

「伸びた所に追撃を受けたらどう防ぐんだ!?」

ゼブラスカルBの胸部を蹴った時の衝撃を利用して後ろに跳ぶドラググローを装備した腕を売り上げると、<r龍:ドラグレッダー>の頭を模した<r手甲:ドラグクロー>の龍の<r顎:アギト>に火球が出現する。

「ハァァァァァァァァァァァアアアア!!! タァ!!!」

「!!!!????」

ドラググローから打ち出された炎は体の筋肉が伸びきったゼブラスカルBを飲み込む。全身をドラゴンナイトが打ち出した炎に飲み込まれたゼブラスカルBは悲鳴を上げながら爆散する。

「ふぅ…」

ゼブラスカルBを倒した事で周囲に他のモンスターの姿が無い事を確認するとそのまま現実世界へと帰る為に先ほど入ってきた鏡面へと近づいていく。

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現実世界…そこではドラゴンナイトの飛び込んでいった鏡面を見つめているギンガの姿があった。

自分達では手出しできない場所から人を攫う異星人の手下の怪物達。その存在を知った彼女が考えているのは…己の無力さなのだろうか…。

だが、残念ながら彼女には鏡の中で行われている戦いを見ることすら出来ない。それが可能なのは、ライダーである統夜と一度連れ去られ統夜に助けられたフェイトだけだろう…。

…だから、彼女は気付かない…。

鏡の中から狙う影に。

鏡の中からすぐ近くに立つギンガへとゆっくりと手を伸ばす毒々しい赤い甲冑の仮面の騎士をイメージさせる人影。

だが、赤い影は直に伸ばした手を戻しその場から逃げ出していく。その理由は、

「悪い、待たせたか? 少し寄り道しすぎたけど…時間は大丈夫か?」

「い、いえ、事情が事情ですから、理由を話せば大丈夫です」

鏡の中から戻ってきた統夜の言葉にそんな言葉を返すギンガ、目の前の現実に付いて行けないと言う様子は見える物の、彼女の態度からは何処か警戒心が緩んでいる様に感じられる。

「それなら安心だな…でも、少しは急いだ方が良さそうだな」

「そうですね」

「ああ、それと…もう少し気楽に話してくれて良いぜ」

「え、ええ、辰輝さん」

「統夜で良い、スバルちゃんのお姉さん」

「ふふっ、ギンガで良いわ、統夜さん」

ヒラヒラと手を振りながら先を歩いていく統夜に対して小さく笑いながらギンガはそう答えた。

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鏡の中…統夜が見たら『仮面ライダースティング』に似た面影があると思うであろう毒々しい赤色の仮面の騎士がそんな二人の姿を見ていた。

だが、その仮面ライダーはスティングと違いある種の昆虫をイメージさせる装甲と、頭から伸びる弁髪状のパーツはその昆虫の最大の特徴を模していた。

暫く二人の姿を監視していたライダーは自身の傍らに現れた三本の尾を持つ…初めてミッドチルダに来たトウヤを襲ったモンスター…己のアドベントビースト『ポイズンスコルピオ』を引きつれその場を立ち去っていく。

その仮面ライダーの名はゼイビアックスの生み出した第四のライダー、『仮面ライダーポイズン』。ポイズンスコルピオと契約した毒蠍のライダー。

それが…統夜が戦うゼイビアックス製の次なるライダーの名。



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第十話『蠢く悪意』

??? SIDE

「なるほど、彼がこちらで身を寄せている奴らが地球へ向かった事で、ドラゴンナイトは今ポイズンの活動エリアの中に入ったと言う訳か?」

「はい、その通りです、将軍」

統夜の変身する二つのライダーのアドベントビースト、ドラグレッダーとドラグブラッカーに気付かれない範囲で統夜の動きを監視させていた自身のアドベントビーストの一体、『ガルドサンダー』からの情報をブレードはアビスの姿のゼイビアックスへと報告する。

「ふむ、トウヤ君が他のライダーと戦う前に君や“彼”とぶつけておきたかったのだが、これでは後々のサプライズが薄くなってしまうな。」

「…将軍御自身の変身されるアビス以外は態とベンタラのライダー達のデザインを残したそうですが…それが理由ですか?」

「その通り! トウヤ君の驚く顔が楽しみだったのだがね。まあ、ヤドカリ君の時はリアクションが薄くて面白くなかったが…ブレード君、君を見た時の反応はさぞ面白い事だろう」

「はあ…。ドラゴンナイトだけでなく、妙に『仮面ライダーウイングナイト』の戦闘データや口調まで確認させていらっしゃるのは…それが理由ですか?」

「その通りだ。最初の戦いは無理して倒す必要は無い。ウイングナイトのモノマネでもして精々遊んであげたまえ」

「ハッ! …ところで、ポイズンへの命令は出さなくとも宜しいのでしょうか?」

「ああ、それは別に構わん。ポイズンは中々優秀だが、トウヤ君がポイズン程度のライダーに負ける様なら、彼にもう興味はない。仮にも……彼は私がベンタラのライダー達に敗れる最大の要因となった男なのだからね」

アビスの仮面の奥…憎しみを込めた口調で言い放つ。そして、アビスが何処からか取り出したのは一つの『カードデッキ』。

「彼に与える予定のこのデッキ、君のブレードのデッキ、そして私のアビスのデッキ。この三つのデッキのライダー。確実にドラゴンナイトを倒せるのは…それだけだよ。今のところはね」

そう言ってそのデッキを仕舞うと『良い事を思い付いた』と言う様に手を叩く。

「そうだな。彼だけに伝える心算だったが…この際だ。いやいや、私とした事が彼だけを贔屓してしまう所だったね。ブレード君、他のライダー達に伝えて来てくれたまえ」

そこまで言った後、アビスの仮面の奥でその表情を邪悪に歪めながら宣言する。

「…『仮面ライダードラゴンナイト、トウヤ・タツキを倒し、彼の持つカードデッキを持って来た者には、この私が何でも望む物を与える』とね。ブレード君、当然その権利は君にもある」

「ハッ!」

アビスから告げられた言葉に一礼し、ブレードはその場を立ち去っていく。鳳凰の侍は鮫の仮面と騎士甲冑に正体を隠した悪魔からの言葉を、己と敗者を除く残された悪の円卓の座を埋める騎士達に伝える為に。

それと同時にその場の暗闇に浮かび上がるのはアビス、ブレード、シェルクラブの物を含んだ『11』のゼイビアックス製のライダーの<r紋章:エンブレム>がドラゴンナイトの<r物:エンブレム>を囲む様に現れ、その数の合計はドラゴンナイトを含み全部で『12』となる。

始まるのは悪魔の主催した一つの戦いの宴。…その宴の主賓たる標的は<r龍騎士:ドラゴンナイト>。

SIDE OUT

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「初めまして、八神部隊長から紹介が有ったと思いますが、仮面ライダードラゴンナイト、『辰輝 統夜』です」

「オレは『ゲンヤ・ナカジマ』だ。お前さんの事は子タヌキから聞いてるぜ」

「…タヌキ…プッ」

話の流れから考えて『タヌキ』とははやての事と直に理解して思わず笑ってしまう。妙にぴったりなイメージに。

「…例の怪物共による誘拐事件…あれの犯人の事や、それに唯一お前だけが対抗できるって事もな」

「はい、私も此方に向かう途中でそれを確認しました」

ゲンヤの言葉に続いてギンガも肯定してくれる。

「まあ、こっちじゃオレ一人ですけど、地球には他にオレよりも頼りになる人達が11人は居ますけどね。それで…八神隊長に要請してまでオレをここに呼んだと言う事は」

「ああ、情けない話だがな。実は最近、この近辺で怪物共の誘拐事件が多発してるんだ。内の部隊の連中に被害は無いが、近隣の住人に被害が多くてな…」

(…ゼイビアックスがここを中心に活動してるって事か…? いや…寧ろ…)

ゲンヤの言葉に統夜は過去の地球での戦いの状況と照らし合わせていく。

(…ゼイビアックス自身じゃなくて、あいつの配下のライダーの方か…)

ゼイビアックスが態々一箇所を集中的に狙う理由も限られている。『統夜を呼び寄せる』と言う点だが、向こうにしてみればこれには何一つ利益が無い。統夜の居場所は『機動六課』とはっきりしているのだから、<r青蟹:インサイザーモドキ>の時の様に向こうから勝手に出向いてくれば良いだけだ。

そこから考えると、ゼイビアックスが直接モンスター達の指揮を執っていると考えるよりも、配下のライダーが何か自分の目的の為にモンスター達を使っていると考える方が納得できる。

「それで、専門家としての意見はどうだ?」

「…断言するのは早いですけど、『ゼイビアックスの意図』や『モンスターの本能』と言うよりも、『人間の悪意』に満ちた行動って感じがしますね」

ゲンヤの問いにそう結論付ける。

「…人間の悪意…ですか?」

「ああ、ゼイビアックス側のライダー…人間がモンスターを使って動かしているって所だな」

「なるほど、そうなると被害を抑える為にはそいつを捕まえるしかないって訳か」

「…まあ、鏡の向こう側の世界で人を攫っていても仮面で素顔が見えないんですから、こっちの法で裁くのは難しいでしょうね。…別の犯罪でも犯してない限りは、ね」

誰にも認知できない世界で正体を仮面ライダーの仮面とスーツに包み隠して異星人の手下として人間を誘拐している。…とてもではないが、そんな物は管理局の法の中でもはっきり言って想定外…裁く事ができない犯罪だろう。

「だから、最後の手段として…オレが『ベント』してカードデッキを此方で回収するしかないでしょう」

「「…『ベント』…?」」

統夜の言葉にある専門用語に対してゲンヤとギンガの二人が問い掛ける。

「ベントと言うのはライダーの持っている最終安全装置、規定ダメージを超えた装着者を護る為に安全な空間に閉じ込めるシステムです。ゼイビアックス製の物にもそれが着いている事は確認しているので、危険と言う事は無いですけど…」

そこまで言い切り、表情が暗くなる。

「…簡単な話が、オレが向こうの世界でライダーとして相手を…『殺す』と言う意味です。ですが、事件が解決すれば、地球の仲間に連絡して救出する事も出来ると思うので…死ぬ訳ではないんですが」

言葉が沈む。要するに、統夜が提案する最後の手段は、規定ダメージを与えてカードデッキを奪い、ゼイビアックスが<r装着者:ライダー>を見捨てる様な環境を用意すると言う訳だ。

「…あまり取りたくない方法だな」

「ええ、ですから、なるべくなら犯人からカードデッキだけを奪って回収する事がベストですけど…」

そうなったら相手もカードデッキを奪い返そうと行動するかもしれないが、それならそれで捕まえる口実になる。

「…どっちにしてもオレ達はお前さんに頼るしかないって訳か…本当に情けない話だな…」

搾り出すように言ったゲンヤの悔しげな言葉が響いた。

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さて、陸士108部隊に出向いた翌日からドラグレッダーが鏡の中で動いているのだが、結果は…

「多い!!!」

その一言に尽きるだろう。鏡の中ではレッドミニオン達が頻繁に動いているらしい。『サバイブ』で一層したくなる程の数こそ出てきていないが、それでも叫びたくなるほどの量がいる。…指揮官ユニットとしてか、レッドミニオンの中に時々妙に強い奴も混ざっているし。

必殺技であるドラゴンライダーキックを放ち、指揮官と思われる妙に強い奴も纏めてレッドミニオン達を浮き飛ばすと、ドラゴンナイトは鏡の中から帰還する。

「あ、あの…お疲れ様です」

「…気にしなくていい…まだ少ない方だから…」

鏡の中から帰還した統夜にギンガが労いの言葉をかける。こうして、モンスターの出現を確認しては道案内を頼んだギンガと一緒にモンスター退治を繰り返している訳だが、連戦が続いている。

だが、何時かのゼイビアックスからの一時間おきの嫌がらせの一件の時に比べればそれは遥かに楽だ。まだ、戦っているのは三回連続程度なんだし。だが、明らかに誰かの意図を感じる回数であることは理解できる。

「…オレの推測は当りかもな…」

「じゃあ、こんなに誘拐事件が頻発しているのも」

「…ゼイビアックスかライダー…。そのどちらか、もしかしたら、両方の意図だろうな」

意図的にレッドミニオン達は陸士108部隊の近くで事件を引き起こしている。それは間違いなく、モンスターの意思だけでは無いだろう。

「…ライダーの…人間だとすれば…ゲンヤさんの部隊の誰かに恨みがある奴って所だろうけどな…」

仮にも平和を守っている組織の人間が、怪物が人を誘拐していると聞いて動かない訳には行かないだろう。モンスター達を利用して目的の人間をおびき寄せてから、ライダーの力を使って復讐する。…以前のフェイトの時と同じだ。

「…そう…ですか…」

「まあ、恨まれない人間なんて居ないだろ? 特にこんな仕事をしている以上は」

少なくとも捕まえた犯罪者からは恨みを買っているだろう。だが、そう考えると今度はモンスターを使っておびき寄せようとしている事が分からない。

恨みがあるならシェルクラブが機動六課の隊社内でフェイトを襲った様に直接襲えば良い。周りに被害を出す事によって苦しめていると考えてもいいが…それは薄い気がする。

キィィイン…

思考を働かせながら休憩中の統夜の耳に聞こえてくる本日四度目のモンスターの出現を告げる音…

「またか…」

「またですか?」

「ああ、急ぐぞ!」

「はい!」

…既に三件ともモンスターは倒せているが、二人が駆けつけた現場では襲われた人は全員手遅れに…モンスターに連れ去られている。出現するモンスターや敵の配下のライダーに対応できるのが、統夜一人と言う時点で出来る事にはこうして限界がある。

…もっとも、肝心のカードデッキを作れる技術を持っている者が時空管理局…いや、ミッドチルダに存在しない時点で統夜の持っているカードデッキを元にした所で…いや、黄言い換えるべきだろうか…“例え作れたとしてもアドベントビーストが欠けたブランク体にしか変身できないライダーではモンスター相手には無力だ”と。始めて変身した統夜が良い例だ。

…現時点でカードデッキを…仮面ライダーや準じる者を誕生させる事ができるのは、僅か二人だけ、開発者であるユーブロン自身とコピーとは言え作り出したゼイビアックスだけだ。

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「キャー!」

「助けてくれ!!!」

モンスターの出現を聞いて二人が駆けつけたのは公園だった。鏡…光を反射して鏡像を作り出す場所から現れるレッドミニオン達が公園に居る悲鳴を上げて逃げ惑う人達を自分達の世界に連れ去ろうとしている。

幸いなのは、ベンタラから地球に現れた時のように姿が見えないと言う事が無い点位だろう。逃げ出す人が出てくれるお蔭で被害は多少は軽減されている。

「させるか!」

統夜は子供を連れ去ろうとしていたレッドミニオンを殴り飛ばす。丁度背後にあった鏡面にぶつかり、そのまま鏡の向こう側へと追い返される。

「…悪いけどな…少しくらいは…オレもレンさんに鍛えられてるんでね!」

今の状況では変身する暇は無いと判断し、統夜は他の人達が逃げてくれるまでは素手で戦う事に決める。後ろにいた先ほど助けた子供はその子の親と思われる大人が連れて行ってくれたので心配は無いだろう。

ギンガもバリアジャケットの姿で戦っているのが視界の端に映る。レッドミニオン達に対する対処方法は伝えてある。魔法が効かない為に接近戦に限定されるだろうが、彼女の戦い方なら問題ないと判断できる。

『幸い』と言っては不謹慎だが、レッドミニオンの九割は格闘経験がある物なら素手でも倒せる程度の敵。魔法に対する耐性があるとは言え機動六課のメンバーの中なら、統夜の(身を持って)知っている範囲では模擬戦で戦ったシグナムなら十分に勝てるレベル、スバルなら今はまだ鍛える必要ありだが成長次第ではレッドミリオン程度には十分に戦えるレベル、スバルよりも格闘技術の力量が上と予想できるギンガなら、十分戦えると言った所だろう。

「これがこの世界の現実か…。」

レッドミニオン達と戦いながら統夜はそう呟く。一人で出来ることには限界がある。それは統夜もよく理解している。己の実力を理解しているから、自分が居れば全てを護れる等と自惚れても居ない。だからこそ、悔しさを隠せないのだ。

統夜以外のライダー達はゼイビアックスが選んだ己の欲望のままにゼイビアックスに協力する者達。所詮は統夜には自分の手が届く小さい範囲でしか護れない。

「…だからってなぁ…!!!」

レッドミニオン達を殴り飛ばして、

「オレの手が届く範囲だけでも…お前達の好きにはさせない!!!」

統夜が叫びながら蹴り飛ばしたレッドミニオンが粒子化して消えていく。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「ッ!?」

悲鳴が聞こえた方向を振り向くと丁度鏡の中から伸びた糸に巻きつかれている人の姿が見える。その状況に舌打ちし、その人の体を後に引く。暫くの力比べだが、先に糸が限界を迎えたお蔭で助ける事に成功する。

「気をつけろ、相手は雑兵(レッドミニオン)だけじゃない! 鏡面には絶対に近づくな!」

「ここは私に任せて、統夜さんはそっちに向かってください!」

ギンガに向かって注意を促すとそう言葉を返される。幸い先ほどの人を逃がした事で、これ以上の被害は出そうも無い。それを感じたのか、レッドミニオン達の中にも退却する固体も出始めている。幸いにも残っているのはあと数体だけ。

「………分かった。無茶だけはするな!」

「はい!」

ギンガへとそう言葉をかけて鏡面へと近づき、取り出したカードデッキを鏡面(それ)へと向ける。そして、

「KAMEN RIDER!」

己へと力を与える言霊を叫び、その姿を仮面ライダードラゴンナイトへと変え、鏡面世界へと飛び込む。

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『SWORD VENT』

モンスター達の存在している世界に飛び込むと同時にドラグセイバーを取り出し、目の前に居る蜘蛛を人型にした様な姿の緑色のモンスター『ソロスパイダー』へと切りかかる。

「はぁ!」

「ッ!」

振り下ろしたドラグセイバーの斬撃を避けるソロスパイダーをドラゴンナイトのドラグセイバーの剣戟が追う。

「…こいつ、始めて見るモンスターだな」

過去に戦ったものとは同一でない始めて見るソロスパイダーに対してそう呟く。今まで戦ったモンスターはライダーの契約モンスターを除いて全て過去に戦った経験のあるモンスター達だった。だが、そんな事は関係ない。

「始めて見る相手でも…倒すだけだ!!!」

ドラゴンナイトはソロスパイダーの吐く糸を避けながら舞う様にドラグセイバーで切りつける。

(…始めて見る奴だけど…こいつ、それほど強くない…。行ける)

そんな事を思いながら、ドラグセイバーの斬撃を受けて地面を転がるソロスパイダーに大して追い討ちをかけるべく、新たなカードをドラグバイザーに装填(セット)する。

『STRIKE VENT』

上空から召喚されるドラグクローを装着し、ドラグクローを装着した腕を振りかぶると、ドラグクローの龍の顎に炎が集う。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ…!!!」

背後に現れたドラグレッダーと共にパンチモーションに合わせて撃ち出された<r炎:ドラグクロー・ファイヤー>が立ち上がったソロスパイダーに襲い掛かりその体を粉砕する。

「ふぅ…。」

爆炎を上げて吹き飛んだソロスパイダーを一瞥しつつ、ドラゴンナイトは周囲に注意を払うが他のモンスター達が現れる様子は無い。それを確認して一息吐くと、警戒を解く。

(…モンスターの動きがライダーの指示だったら、居ても可笑しくないと思ったけど…ハズレだったって訳か…)

ライダーの出現を警戒して、『ファイナルベント』を温存していたのだが、その心配はなかった様子だ。ライダーが何かの目的で集めていたモンスターが勝手に動いたと言う可能性も有る。だが…今回の事は統夜には一つだけ考えなかった…否、“考えたくなかった可能性”がある。

簡単な話だ…。

それは、自分が考えられる最悪の可能性…。

「…ゲンヤさんの部隊の中に…敵のライダーが…ゼイビアックス側の人間が居る」

先日、自分を紹介した時に自分の存在を知って…統夜達を単独行動させる為…敵のライダーが“狙っている人物から遠ざける為”だとすれば…。相手の狙いは、

「拙い!」

そう叫び、<r統夜:ドラゴンナイト>は先ほど飛び込んで来た鏡面へと向かって走る。<r切り札:ファイナルベント>を使わなかったとは言え、ソロスパイダーと戦うのに時間を取られた。…正に状況は最悪…。

「無事で居てくれ…」

考えられる可能性…そこから敵の狙いは…<r統夜:ドラゴンナイト>からも、部隊からも遠ざけた…。

「ギンガ!!!」

『ギンガ・ナカジマ』だと言う事に気が付いた。

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「ふう。」

ギンガが相手をしていたレッドミニオンの中の最後の一体が鏡の中に逃げ出していく。それを知って、彼女は安堵の息を吐く。

後は鏡の無い所で統夜の帰還を待つだけだが…。

『ATTACK VENT』

遠くから彼女の様子を伺う紫の影と突然響く電子音。

「キャア!」

足元が崩れ中から現れた二つの鋏がギンガの両腕を拘束する。ギンガの足元から現れた蠍型のモンスター『ポイズンスコルピオ』は『動くな』と言う様子で首筋に毒針を突きつける。

「くっ。」

崩れる足場に両腕はモンスターに拘束、そして、動くなと言う様子で突きつけられた毒針。完全に捕らわれる形となったギンガに紫の人影が近づいていき、

「ッ!?」

首筋に手刀を振り下ろし彼女の意識を刈り取る。

「……統夜…さん……」

最後に自分の意識を奪った相手…『仮面ライダーポイズン』の姿をその目にしながら、統夜の名前を呼びながら、ギンガは意識を失った。

「…やっと手に入れた…」

仮面の奥で表情を歪ませながら、意識を失ったギンガの髪を撫でながらポイズンはアドベントビースト、ポイズンスコルピオへと指示を出す。

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「…遅かったか…」

統夜がそこに戻った時には、足元の崩れた跡を除いて誰かが居た形跡はなかった。だが、それがアドベントビーストかモンスターによる物だと言う事は容易く推測できる。

「ドラグレッダー、頼む!」

鏡の中から頭を出して頷くドラグレッダーの返事を見て統夜も近くに有った鍵の着いたバイクに乗ってカードデッキを構えて鏡の中に飛び込む。

希望的な観測かもしれないが、急げばまだ間に合うと考えながら、敵に攫われた『手を伸ばすべき場所』に居る相手を助けると決意し、ドラゴンナイトはドラグサイクルを<r疾走:はし>らせる。



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第十一話『仮面ライダーポイズン』

???SIDE

 

 

「と言うのが、将軍からのお言葉だ」

ブレードの言葉を聞いているポイズンは満足気に頷き、

「なら、ぼくがあいつを倒せば、彼女をぼくの物にしても…」

「ライダーのデッキを渡された際に将軍と交わした契約にも反しないな…」

ブレードとポイズンはポイズンスコルピオに両腕を拘束された状態で気を失っているギンガへと視線を向けてそう告げる。

「将軍との契約はモンスターを使い、時にはお前自身が人間を攫う事。その女を将軍の元に届けない事は契約に触れる。だが…ドラゴンナイトの関係者である事と、今回のお言葉を総合すれば…」

ブレードは仮面の奥で表情を浮かべながら、ポイズンにドラゴンナイトと戦う意思を植え付ける言葉を告げる。

「…その女を使ってドラゴンナイトを誘き寄せて倒せば…“この世界でその女とお前が暮らす事も出来るだろうな”…」

「クックックッ…ドラゴンナイトを…。あいつを倒せば良いのか…? そんなのは簡単な事だ。この力さえあれば…」

“与えられた力に溺れている”と言う言葉が似合うポイズン…ブレードからのポイズンの評価もそんな物だ。同時にゼイビアックスの言葉が正しかった事を改めて理解した。

確かにポイズンはシェルクラブよりもゼイビアックスから与えられたライダーの力を使いこなしていた。それでも、ゼイビアックスは“ポイズン程度の力ではドラゴンナイトには勝てない”と言っていた。確かに、ドラゴンナイトは他のベンタラのライダー達に比べれば弱い方だろう。

だが、それ以上にゼイビアックスが選んだライダー達は決定的にドラゴンナイトに劣っている。ウイングナイトと共にゼイビアックスの軍勢を相手に一年間の死闘を切り抜けてきたドラゴンナイトの持つ経験は、ライダーになったばかりのゼイビアックス製ライダー達には、決して埋められない大き過ぎる差なのだ。

唯一の例外はゼイビアックスの言葉どおり、ゼイビアックス自身の使っている『アビス』と『ブレード』、そして、このデッキを渡す対象に選ばれた者が変身したライダーだけだろう。ブレードにしてみても勝てる可能性があるだけで勝てるとは断言できない。ならば、捨て駒を利用してドラゴンナイトの実力を知れば良いだろう。ポイズンはその為の捨て駒にも丁度いい。

そんな事を考えながらブレードはポイズンを一瞥する。ポイズンは気を失っているギンガを逃がさない様に拘束していく。

(…精々頑張ってもらおう…オレが<r奴:ドラゴンナイト>を倒す為に)

そんな事を考え、ブレードは自身のアドベントビーストの一体、『ガルドミラージュ』にポイズンの監視の指示を出し、心の中でそう嘲笑いながらその場を後にする。

SIDE OUT

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統夜SIDE

鏡面世界、統夜はドラゴンナイトの姿でドラグサイクルを走らせている。

ドラグレッダーと手分けしてギンガと、彼女を連れ去った<r相手:ライダー>を探し回っているのだが、広い世界の中で人2人とモンスター1匹を探すのは至難の業だろう。

下手をすればゼイビアックスの本拠地を探した方が余程効率的だ。

「何処にいる…?」

中々相手が見つからない事への苛立ちを覚えながら、一度現実の世界へと帰還しようとした時、

「やあ、親愛なるドラゴンナイト、元気だったかね?」

「チッ!」

仮面の奥で『この忙しい時に』と不快な表情を浮かべて声の聞こえた方向へと視線を向けると、そこにはアビスの姿が有った。

「こっちじゃお尋ね者だって言うのに…よく平然と出てこれるな」

「ハッハハ、心配してくれてありがとう。だが、心配は要らないよ、少なくとも…この世界では君以外には私の脅威は存在しない。それに、こうして時々外を歩かなければ健康に悪いからね」

アビスはドラゴンナイトの言葉に笑いながら答える。例え指名手配されていたとしても、素顔はアビスの仮面の奥に隠されている上に、素顔を曝したとしてもそれがゼイビアックス自身の物では無いと言う事はゼイビアックスの正体と共に知っている。

そして、この世界でゼイビアックスの軍勢を相手に最大限に戦えるのはドラゴンナイトただ一人なのは間違いない。だが、ゼイビアックスにとって現時点でドラゴンナイト一人が『脅威』と言えるかどうかは疑問だ。

カードデッキからソードベントのカードを抜き取り、ドラグバイザーに装填しようとした時、

「相変わらず血の気が多いね。私はまだ君と戦う気は無いと言うのに」

「…お前になくてもオレには有るんだよ」

「それもそうだ。だが、今日は君に良い事を伝えに来た。…この世界の君以外のライダー達は君を優先的に狙うようになってくれるだろう」

「? どう言う意味だ?」

「私の企画したイベントだよ。君を倒せば倒した者の願いを、私がどんな願いでも叶えようとね」

『SWORD VENT』

アビスの言葉を聞きながらドラグバイザーにカードを装填、ドラグセイバーを召喚してアビスに向ける。

「随分と気前が良い話だな。…どうせ叶える気は無いんだろう?」

「それは願いによるね。世界が欲しい程度の願いなら、私の計画が完了した後に、このミッドチルダをプレゼントしても良い」

以前、地球の『仮面ライダートルク』こと『ドリュー・ランシング』にも同じ様な事を言っていたらしい事を…ストライクに狙われて助けを求めに来た時にドリューから聞いている。

少なくともゼイビアックスにとっては地球もミッドチルダも、人間に用が有るだけで世界には何の興味が無い様子だった。必要が無くなった人の居ない無人の世界など…不必要なのだろう。だがそれは、

「随分な詐欺だな。…自分一人しか居ない無人の世界なんて…貰っても困るだけだろうが」

ゼイビアックスが約束を守ったとしても、自分以外に人間の存在しない世界を押し付けられる事となるだけだ。

「ハッハッハッ…。私は世界を欲しいとは言われても、人間が欲しいとは言われて無いからね。契約違反は別に何も無いだろう」

笑いながら答えるアビスの言葉に対して不快感を覚えながらドラグセイバーを突きつけていると、ドラゴンナイトを囲む様にレッドミニオン達が現われる。

「それでは、さようならだ。存分に私の企画したパーティーを楽しんでくれたまえ」

「チッ!」

 

襲い掛かってくるアビスの置き土産のレッドミニオン達にドラグセイバーを振るい、一通り片付けると、今度こそ現実世界へと帰還する。

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「そう言う訳です。今回の動きから考えて…ゼイビアックスではなく…ゼイビアックスの配下のライダーの一人が動いていると推測できます。……すみません、オレがついていながら…」

『いや、お前さんが気にする事じゃねえ…』

ドラグレッダーに向こうでの捜索を任せて、ギンガが攫われた事をゲンヤへの通信で話す。通信機越しに聞こえてくる声からは明らかに悔しさを含ませた響きがある。

「…それと、最悪の知らせがもう一つ…。まだ推測の段階を出ていませんけど、敵の動き…」

一連の敵の動きからの推測でしかないのだが、それでも可能性の一つとして上げられた最悪の推測を告げる。

『ッ!? うちの部隊の中に<r異星人:エイリアン>の手下になった奴が居るのか…?』

重なってしまう悪い連絡…告げる統夜としても心苦しい物が有るが、通信機越しから聞こえてくる声からは怒りの感情が感じられる。

「可能性の一つです。オレの考え過ぎで、全ては単なる偶然かも知れません…」

そう、全ては単なる偶然だと考える事も出来る。先日のモンスターとの戦闘で自分(ドラゴンナイト)の存在に気付かれただけなのかもしれない。

だが、

「念の為に数十分前の隊員の所在の確認をお願いします。……ゼイビアックスがライダーに選ぶ基準は何も『犯罪者』じゃ有りません…『利用できる人間』です…」

単純な話だ。ゼイビアックスが悪のライダー軍団に犯罪者を選んだのは力を手にする目的が有り、利用し易いからだ。絶対安全な潜伏場所、強力な武器の提供。その代償は自分の命令に従って人を安全な鏡の中から攫う事、自らの欲望に従って人間を裏切る事、それだけだ。

 

だが、強力な武器…ライダーの力を利用して何かをしたい、何かを欲しいと望んでいる人間に…他の人間を裏切る事を条件に力を望む者にデッキを渡す。

それだけで良い、カードデッキを渡す際に痛くも無い顔を曝した所でゼイビアックス自身にはリスクは無いのだから。

ゲンヤからの返事を聞き、ギンガを助ける事を改めて頼まれ、通信を切ると再び捜索の為に動き出そうとした時、鏡面にドラグレッダーが呼んでいるのが目に入る。

それに気が付き、鏡の中に飛び込むと、ドラグレッダーが『着いて来い』と言う仕草を統夜に見せている。

先ほどまで乗っていた(黙って)借りてきたバイクに乗ってドラグレッダーの後を追う。

 

暫くバイクを走らせると何処かの建物の中に意識を奪われた状態で拘束されているギンガの姿が視界の中に入った。

「ギンガ!? …罠って訳かよ…」

モンスターが態々こんな事をするはずが無い。それを考えれば、それには何らかの人為的な意志、悪意的な物が感じられる。

罠を警戒しながら一歩ずつ近づくと、足元の違和感に気が付き大きく真上に跳び、ドラグレッダーに捕まり、崩れた床に足を取られずに済む。

「やっぱりな」

足元に視線を落とすと崩れた床の中に蠍型のモンスター、ポイズンスコルピオの姿を見る。

同時に隠れていたのだろう、何体かのレッドミニオン達が現われる。

崩れた床から離れた所までドラグレッダーに運んでもらうと、ドラグレッダーから降り、カードデッキを取り出す。

「それで…アドベントビーストに任せて高みの見物か?」

『気付いていましたか?』

そんな言葉と共に拘束されていたギンガの後から一人の男が姿を現す。管理局の制服を着ている事から、統夜の推測は大体当っていたのだろう。

「こう見えても、司令官や先輩達に鍛えられてるんでね」

…はっきり言ってレッドミニオン程度なら素手で戦えるレベルです。

予断だが、それでも、レンには手加減されては居る物のなんとか戦えているレベル。

付け加えると、ライダー達の指揮官であり、カードデッキの開発者であるユーブロンには手加減されても手も足も出ていなかったりする。

「…お前、確か…」

現われたポイズンスコルピオやレッドミニオン達を従えている局員らしき男の顔を見て表情を変える。…確かに見覚えがある。先日、自分の事を紹介された時に居た。

「ゲンヤさんの部下の…」

「私は『ソロ』と言います。クスクス…あなたさえ倒せば、彼女はぼくの物になる」

『ソロ』と名乗った局員は狂気に近い笑みを浮かべながら蠍をイメージさせる紋章が描かれたカードデッキを取り出して、統夜へと向ける。

「早速、あいつの企画したバトルパーティーに強制参加か!?」

同時にカードデッキを構えながら、互いに力を与える言葉を叫ぶ。

「「KAMEN RIDER!」」

カードデッキをVバックルに装填し、統夜とソロは同時にライダーに変身する。

統夜が仮面ライダードラゴンナイトに変身するように、ソロもまたスティングのイメージが感じ取れる姿に所々の紫のアーマーが蠍をイメージさせ、左手には蠍の尾のような形をしたカードリーダー『ポイズンバイザー』を装備した仮面ライダー『仮面ライダーポイズン』へと変身する。

『SWORD VENT』

同時に響き渡る電子音が互いの武器、ドラゴンナイトとポイズンはドラグセイバーとレイピア状の武器『ポイズンレイピア』を召喚する。

そして、床に開いた穴の中からポイズンスコルピオが飛び出しポイズンの隣に立つと、ポイズンはレッドミニオン達に指示を出す。

「やれ!」

「ッ!?」



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第十二話『狂愛』

「はっ!!!」

 

ドラグセイバーを振るい襲い掛かってくる雑兵(レッドミニオン)達を切り裂き、ポイズンとの距離を詰める。

「しっ!!!」

そんなドラゴンナイトを迎撃する為、ポイズンはレイピア型の武器『ポイズンレイピア』による突きを放つ。

「こいつ、流石はライダーって言った所かよ?」

「当然だよ。ぼくは君の力を知っているから、君を倒す為に戦場を整えたんだ」

「チッ! そう言う事か!?」

そう叫びながら、バックステップで後ろに下がると、ドラゴンナイトの居た場所をポイズンスコルピオの腕の鋏が凪ぐ。

戦場は狭い上に、ポイズン達に常にギンガを背にされている為に外した時の事を考えて下手に『ストライクベント』等の攻撃力の高いカードを使う事ができない。

事実上、ドラゴンナイトはドラグレッダーの援護も使えず、ライダーとモンスターを相手にドラグセイバーだけで戦うしかない。

「随分と酷い扱いだな、好きな相手にする事じゃないんじゃないのか!?」

「ふふふっ…ぼくと彼女の最初の共同作業さ…彼女と僕で力を合わせて君を倒す…。最高だろう?」

『仮面ライダースティング』…地球とベンタラ、その二つ世界での変身者が常に仲間だったライダーに似ているだけにポイズンの言葉や態度、行動…それを見れば見るほど苛立ちを覚えずには居られない。言動を見るだけで、いや、目の前の相手がスティングに似ていること事態が、大事な仲間の一人を侮辱されている気分だ。

(…こんな奴に…こんな奴に、スティングに似たライダーのデッキを渡しやがって…)

カードデッキを渡した張本人(ゼイビアックス)に対して怒りを覚えていると、無意識のうちにドラグセイバーを握る手に必要以上の力が篭る。

「さあ、早くぼくに勝利を!!!」

「誰が!!!」

ポイズンの突きを、ドラグセイバーを使い的確に防いでいるが、スピードではポイズンの方に分がある為にドラゴンナイトは簡単に反撃に転じる事はできない。

「っ!?」

レイピアでの突きを防いでいると足元に違和感を覚え真上に跳び、ドラグレッダーに掴まると、先ほどまでドラゴンナイトが立っていた足元が崩れ中からポイズンスコルピオがその姿を現す。

「惜しい惜しい。攻撃には使えなくても、そんな風に使う事は出来るんだね。中々優秀だね、君のペットは」

「お前の甲殻類よりは優秀だぜ…オレの相棒は」

ポイズンの言葉にそう返しながら、ドラゴンナイトはポイズンの言動に違和感を覚える。簡単だ…戦場と状況はドラゴンナイトを封印するのには最適だが、攻撃範囲の広いギンガを巻き込むカードを使わずに圧倒できる<r手札:カード>の存在に気付いていない様子が見える。

サバイブモードのパワーでなら、必要以上にカードを使わずに勝つ事も可能だ。最低でも建物の外に放り出す事は出来るだろう。

だが、ポイズンはサバイブのカードに対する警戒が一切感じられない。警戒していても発動を封じるのは簡単ではないのだから、使われる前に決着を着ける事を選択しているのだと考える事も出来る。

だが、それでも…『サバイブモード』と言う基礎能力だけでポイズンの戦場の絶対的優位を覆すカードに対する警戒心がポイズンからは一切感じられないのだ。

(もしかして、『サバイブ』の事を知らない…のか?)

だとすれば、偽スティング…ポイズンの行動は説明がつく。…自分の情報をミッドチルダに来て以降からの情報でしか知らない為に、ミッドチルダに来てから一度しか使っていない最強の一手であるサバイブの存在を知らない。だからこその、ライダーとしての経験値の差を戦場の優位で覆したと言う程度の事から生まれる余裕。

(どっちにしても…切り札を下手に使う訳には行かない。それにな…)

「フッフッフッ…待って居てね、ギンガ…。もう直ぐあいつを…」

「仲間(スティング)に似た顔で…そんな、狂った愛情を吐くんじゃねぇ!!!」

こんな奴にサバイブの力を使うことだけはしたくない。ドラゴンナイトの力…統夜自身の力だけで殴り飛ばす事を決意し、ドラグレッダーの背を足場に飛び降りる。

ポイズンはポイズンレイピアでドラゴンナイトを迎え撃つべく突きを放とうとするが、ドラゴンナイトはその前に空中でポイズンの腕を狙ってドラグセイバーを投げ付ける。

「くっ!」

「喰らえ!!!」

ドラグセイバーがぶつかった事で武器を手放したポイズンの顔をドラゴンナイトの拳が殴り飛ばす。そして、地面に落ちたドラグセイバーを拾い上げ、ポイズンスコルピオの振り下ろした毒針を避け、体を切りつけるが、

「っ!? (硬い!? 流石は甲殻類って所か!?)」

ドラグセイバーが簡単に弾かれる。ポイズンスコルピオの体を包む甲殻はドラゴンナイトのドラグセイバーの直撃にも耐えてしまったのだ。

『SWORD VENT』

「やってくれたね」

再び響く電子音に続いて響くポイズンの言葉に慌てて後に避けると、レイピアでは無く長剣型の武器『スコルピオセイバー』を持ったポイズンの斬撃が襲い掛かってくる。

ポイズンに対して攻撃こそ当てたもののまだ状況の不利だけは変わっていない。

どうやって状況を変えるべきかと考えながら、ドラグレッダーへと指示を出す。ドラゴンナイトの勝利条件はポイズンを倒す事ではない。

振り下ろされたスコルピオセイバーをドラグセイバーで受け止める。

「油断していたよ…彼に言われていた事を忘れていた、君の方がぼくよりも圧倒的に“格上”だってね」

「そんな大事な事を忘れているなんて…バカだろ、お前」

「でもね、認められないんだよ…管理局で何年も戦っていたぼくが…たった一年戦っていただけのド素人の君よりも格下って言われたことがね!!!」

「ガハッ!!!」

鍔迫り合いの最中にドラゴンナイトはポイズンに腹に蹴りを打ち込まれ、後に吹き飛ばされる。

『GURAD VENT』

吹き飛ばされながら、ドラグバイザーに次のカードを装填し、ドラグシールドを装備して横から襲い掛かってくるポイズンスコルピオの毒針を受け止めるが、

「危なかった」

突き刺さった毒針が防いだドラグシールドを容易く溶かし貫いた事を直視し、ドラグシールドを捨てて横に転がりながら避けると、思わずそう呟いてしまう。

ポイズンスコルピオの追撃を防ぐ為に使ったドラグシールドを簡単に溶かした事から、ポイズンスコルピオの毒針の持つ毒はストライクのアドベントビースト『ベノスネーカー』並かそれ以上の猛毒である事が理解できる。

「今度こそ、トドメだ」

MIST(ミスト) VENT(ベント)

ポイズンバイザーにカードが装填されると、初めて聞く電子音と共にポイズンの長剣・スコルピオセイバーに毒々しい紫の色の霧が集まっていく。

「死になよ!!!」

ポイズンの振り下ろした毒々しい霧を纏ったスコルピオセイバーがドラゴンナイトに向かって振り下ろされる。

「ッ!?」

ポイズンの剣の纏っている紫の霧に対してドラゴンナイトの直感が危険を訴え、その直感に従って横に跳んで避ける。

ドラゴンナイトが避ける度にポイズンの剣が周囲の障害物を何の抵抗も無く切り裂いていく。イヤ、それは切り裂くと言うよりも溶解させていると行った方が正しいだろう。

「毒の霧…しかも、その蠍型モンスターの毒か…」

「そう言う事。こうして触れたとしてもぼくやぼくの武器は溶かされる事は無くても…それ以外の物ならこうなる。そして、それが人間に直接触れたとたら…即死して骨も残らないだろうね」

そう言いながらポイズンは刀身の霧に触れながらクスクスと楽しそうに笑う。

それは毒と炎の違いが有ったとしても、ドラゴンナイトのサバイブモードの使う技の一つ『マグマセイバー』と同質の技、名付けるならば猛毒の斬撃『ポイズンセイバー』と言った所だろう。

(厄介なカードだな、おい…。あんな物下手にドラグセイバーで防いだら、ドラグセイバーと一緒に溶かされる)

流石はゼイビアック製、所持しているカードの持つ凶悪さがユーブロン製の物とは違い過ぎると言った所だろうか。

そう考えると思わず納得してしまう。

相手の武器は毒の霧を纏っている事でほぼ防御不能の武器となった。武器の面でもこれで優位に立たれてしまったと言う事になる。だが、ポイズンは重要な事を忘れている。…ドラゴンナイト…統夜との間にある差は…。

「…所で良いのか…?」

他のライダーとの戦闘経験の差は、奇しくも(ポイズン)に指示を出しているゼイビアックスが原因で高められ、それが埋め様の無い絶対的な差として自身の前に立ち塞がっていると言う事に。

「俺の相手ばっかりしていて」

仮面の奥で嘲笑を浮かべながらポイズンへと向かってそう告げる。

「何を…まさか!?」

ドラゴンナイトの言葉に周囲を見回すが、ドラゴンナイトのアドベントビースト・ドラグレッダーの姿が無かった。そして、最後に真後ろを振り向くと、

「何だと!? ガァッ!!!」

拘束されているギンガの真後ろに回りこんでいたドラグレッダーの姿があった。そして、ドラゴンナイトのキックがポイズンの真後ろから打ち込まれる。

その間にポイズンと自分の立ち位置を入れ替える様にドラグレッダーと合流する。

「こ…この…」

「オレにばっかり気を取られすぎだぜ」

仮面の奥は憎悪に染まっているのだろう。悔しげにドラゴンナイトを睨みつけるポイズンに対して、ドラゴンナイトはそう言い放つ。それと同時にドラグレッダーが体を起用に動かしてギンガの拘束を壊し彼女を解放する。

「っう…キャア!」

丁度開放された時、その影響でギンガは意識を取り戻す。そのまま倒れそうになる瞬間、ドラゴンナイトに支えられる。

「大丈夫か?」

「と、統夜さん? は、はい! ここは!?」

「鏡の向こう側…侵略者(ゼイビアックス)の支配している世界だ」

状況が完全に理解していないギンガに<r統夜:ドラゴンナイト>は簡潔に説明する。

「えっと…私…あの時…」

「向こうが言うには、あいつ等に捕まってこっちに攫われた様だ」

そう言ってドラゴンナイトはポイズンとポイズンスコルピオを指差しながら説明すると、ポイズン達に向き直る。

「………れろ…」

ポイズンは俯かせながら呟き、勢い良く顔を上げると、

「オレのギンガから離れろ!」

「そ、その声は…ソロ?」

「…あー…同じ部隊の所属みたいだけど…知り合い?」

「えっと…私の同期です」

「そうだ。訓練校に居た時から彼女をずっと見てきた…。だから、君に振り向いて貰う為に必死に努力してきたんだ。父さんに頼んで同じ部隊に配属してもらったのも、君の事も調べたのに…」

完全に呆れた視線でポイズンを眺めながらギンガへと視線を向けてみると、物凄く嫌なのだろう、顔を青くして震えている。

説明してもらうと、ポイズンの変身者であるソロはギンガの同期で、管理局の幹部に親を持つらしい。

…努力する理由は歪んではいるが、親の七光りだけではなく本人も努力も有った様子だ。もっとも…本人(ギンガ)は気付かれていなかった様子だが、そんな風に付き纏われていたと知ったら近づきたくも無いだろう。

「君に振り向いて貰うために必死に努力してきた。あいつはそいつを倒せばぼくと君が此処で幸せで暮せるようにしてくれるんだ。だから、ぼくと一緒にそいつを倒そう」

「バカな事、言わないで! そんな事、する訳無いでしょう!!!」

ポイズンの言葉をそう言って切り捨てる。

「お前の自分勝手な気持ちを押し付けるなよ。大体、自分の行動を考えてみろ…少なくとも、そんな異常な愛情を受け入れてくれる相手が居ると思うかよ?」

ギンガを守る様に前に立ちながらドラゴンナイトは告げる。

「なんだよ…お前なんか“人間じゃない”くせに…。」

「っ!?」

ポイズンの言葉にギンガの表情が固まる。

「お前も、お前の妹も…人間じゃないくせに!!! “戦闘機人”なんて言う機械仕掛けの人形の癖に! オレ以外の誰がお前を愛してくれる、オレに「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」…ガァ!!!」

ポイズンが言葉を言い切る前にドラグクローを装着したドラゴンナイトのパンチが叩きつけられ、零距離からのドラグクローファイヤーがポイズンに叩きつけられる。

当然ながら、その衝撃はドラゴンナイト自身にもダメージとなって現われるが、

「ふざけるなよ…。お前に誰かを愛する資格なんて無い! どうして、一度でも好きになった相手を!!! そんな風に侮辱できる!!!」

「ガァ!!! ガハァ!!!」

それに構わずにドラゴンナイトの拳が何度もポイズンへと叩きつけられる。

「何で、お前はそんな人形を助けるんだよ!? お前は知らないだろうがな、戦闘機人って言う作られた兵器なんだよ!」

「…ギンガは人形じゃない。大体な…生まれがどうであれ…“そんな物”がどうした?」

「うっ…」

「どんな生まれでも、彼女は…一人の女の子だ!!! 人形なんかじゃ…ない!!!」

『FINAL VENT』

「ハァァァァァア!!!」

怒りに任せる様にカードを引き抜き、ドラグバイザーに装填、電子音が響き渡ると同時にドラグレッダーと共に上空へと跳び、そのまま打ち出されたドラグレッダーの炎と共にポイズンへと一直線に飛び蹴りを放つ。

「う…うわぁぁぁぁぁあ!!!」

毒の霧を纏った剣でドラゴンナイトを迎撃しようとするが、毒の霧はドラゴンナイトを害する前に炎に焼き尽くされ、そのままドラゴンナイトのファイナルベント・ドラゴンライダーキックがポイズンを打ち抜く。

「が…ガハァ…。そ、ん、なぁ…」

爆発に吹き飛ばされながら地面を転がり…手に入らなかった求めた人へと手を伸ばしていく。

「…ギン、ガ…」

そして、その姿は粒子化し…存在していた事を示している様に乾いた音を立てて地面に落ちたポイズンのデッキを残し、消え去った。

「あの…ソロは、どうなったんですか?」

「ベントされた。死んじゃ居ないさ。っ!?」

ゆっくりとカードデッキを拾い上げようとした瞬間、素早く動く何かがデッキを回収しようとした。

「あれは!?」

「あれも、モンスターなんですか?」

「ああ。それも、オレの前のドラゴンナイトがアックスと一緒に戦った奴だ。」

悔しげに地団太を踏む鳳凰型のモンスター『ガルドミラージュ』を一瞥しながらそう告げる。ガルドミラージュの手の中には『ポイズンスコルピオ』の契約のカードが存在していた。肝心のデッキの本体は…。

「契約は解除しておきたかったから、助かったな」

蠍をイメージさせる紋章が消えた無地のカードデッキはドラゴンナイトの手の中に存在していた。

『仕方ない』と言う様にドラゴンナイトを睨みつけ、ガルドミラージュは契約のカードだけを持ってその場を去っていく。

「行ったか」

流石にゼイビアックスの配下のモンスター達の仲でも比較的強い部類に入るらしい、最終決戦近くまで生き残っていたモンスターを相手に連戦は勘弁して欲しいと思っていた統夜(ドラゴンナイト)としては、助かったと言うべきだろう。

息を吐きながらカードデッキを外して変身を解除する。

「あの、統夜さん…。ありがとうございました」

「気にしなくても良い。オレの役目なんでな。それと…今回の事で君はこっち側の世界の事を見る事が出来る様になったはずだけど…」

頭を下げるギンガにそう説明していると、彼女の表情が暗い事に気が付く。

「統夜さん…私は「ストップ。」え?」

「生まれ方がどうであれ、そんな事は関係ない、君は君だろ? オレの知っている君は…『ギンガ・ナカジマ』って言う女の子だ。悲しんで、喜べる…一人の人間だろ?」

統夜は微笑を浮かべながらそう告げる。生まれはどうで有れ、そんな物は関係ない。同じ星の生まれでも…異星人でも、ゼイビアックスの様な悪人も居れば、ユーブロンの様な信頼に足る人物も居る。

目の前に居るのは…統夜にしてみれば一人の女の子だ。

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「そう言う訳で…ゼイビアックス側の仮面ライダーのデッキは回収できました。これで行方不明事件は解決…とまでは行かないとしても、収束していくはずです」

「そうか、あいつがな。お前さんには辛い事をさせちまったようだな、すまなかった」

「いえ。慣れてますから…。慣れたくなかった…ですけどね」

思い出すのはスピアーをベントした時の事。あの時の感覚は…死んで居なかったとしても…忘れられる訳が無い。

「すまなかった」

統夜の言葉を聞き、ゲンヤは再び深々と頭を下げる。

「それと、娘を…ギンガを助けてくれて、ありがとう」

「いえ。それと、契約こそ切れてますけど、これが奴等のカードデッキです。そちらの方で…」

「いや、オレ達が持っていたとしても取り返そうとする奴等から守りきれるかどうかは分からねぇ。だったら、お前さんの方で預かっていて貰えるか?」

ゲンヤにポイズンのカードデッキを渡そうとするが、ゲンヤはそう言って受け取る事を拒否する。

「分かりました。このデッキはオレが責任を持って管理しています」

そう言って統夜はカードデッキを預かる。

<<page>>

そして、時は過ぎ、六課の面々が地球から戻ってくる日、統夜の108部隊への出張の最終日…

「あの、統夜さん」

「ギンガ…ちゃん?」

統夜の見送りに着ていたギンガと出会う。

「あの、スバルの事をよろしくお願いします」

「分かってる。オレは末席とは言え、仮面ライダーだからな」

「はい」

手を振りながら立ち去っていく統夜の背中を見送りながら、

(…また、会えますよね…。統夜さん)

立ち去っていく統夜の背中をギンガは顔を紅潮させながら見つめる。

こうして統夜の物語の一つは幕を閉じる。彼女との出会いは彼に何を与えるのか…それはまだ分からない。

彼の物語は次のステージへとつづく。



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番外編『ドラゴンナイト・ビギンズ前編』

これは本編でのティアナ撃墜前の話です…。
なお、番外編は主に統夜の視点でのドラゴンナイトのストーリーを記していきます。

今回の話はキットではなく統夜が彼の立場になったドラゴンナイトの第一話を文章化した物ですので、内容についてはあまり期待はしないで下さい。


「私は凡人だから……こんな風に特訓して私は頑張って力をつけなきゃいけないんです! 私は…統夜さんみたいに天才じゃないんです!?」

 

通常の訓練や勤務が終わった後も訓練する等、明らかにオーバーワークをしていたティアナに注意をしていた統夜はそう怒鳴られ、

 

 

「Why? 天才…オレが…? クックックッ…あははははっ!」

 

 

思わず笑ってしまう。

 

 

「何が可笑しいんですか!?」

 

 

「いや…悪かった。まさか、オレの事を天才だなんて言われるとは思わなくてな…」

 

 

「天才じゃないですか、たった一年でシグナム副隊長みたいな騎士に勝てて「あれはサバイブって言う切り札を使ったからだ」…でも…」

 

 

「大体…オレはライダーの中じゃ間違いなく弱い部類に位置すると思うしな。第一…オレがカードデッキを手にした時なんて…かなり、情けなかったんだぞ。特にオレが始めてモンスターと戦った時なんて、お前の初陣よりも酷かったぞ」

 

 

「本当なんですか?」

 

 

疑いの目を向けてくるティアナに対して溜息をつきながら、統夜は、

 

 

「はぁ…いいだろう…話してやろう。お前が天才って誤解しているオレの初陣って奴をな」

 

 

話すしかないだろう。自分が始めて戦った時の話をすれば、少しは彼女の中の劣等感も納まるのではと思いながら、自分の隠しておきたいちょっと恥ずかしい過去を話す事を決意した時。

 

 

 

「ふーん、それは私にも興味あるなぁ~」

 

 

 

第三者の声が聞こえてきて、統夜が後を振り向くと、そこにははやての姿があった。

 

 

「…はやて…聞いてたのか? 何時から、そこに?」

 

 

「統夜くんの笑い声が聞こえた辺りからやな。それで、統夜くんが初めてドラゴンナイトになった時の話ってのは私も興味あるやけどな」

 

 

「…過去は振り返らない主義でな…」

 

 

「ふ~ん。ところで統夜くん…フェイトちゃんも統夜くんの話し、聞きたい見たいようやで」

 

 

「うぐぅ…」

 

 

その後、元々ティアナには話す予定だった事と、フェイトにお願いされた事により、食堂に集められた機動六課のメンバーの前で統夜は初めてトラゴンナイトになった日の事を話す事となったのである。

 

 

「子供はもう寝る時間じゃないのか…?」

 

 

「え、でも…ぼくも統夜さんの話には興味が有って…」

 

 

二人の年少組を代表して、エリオからはそう言葉を返される始末である。気のせいかスバルも含めて目を輝かせているので、話すしかないのだろう。

 

 

「はぁ…フェイト…ははやてに興味が有るって聞いたけど…なのはもか…」

 

 

「私も統夜の話は聞いてみたくて」

 

 

「うん、私も統夜くんの出会いのお話、聞いてみたいな」

 

 

隊長陣も聞きたいようである。逃げ道は完全に塞がれた。何故この人数の前で暴露話をしなければならないのだろうかと思わずには居られない。一度溜息をつくとゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

当然、ベンタラの事を伏せてでは有るが。

 

 

さあ、語ろう…仮面ライダードラゴンナイトの誕生の物語を…。

 

 

ぶっちゃけ、ドラゴンナイト本編の一話二話と変わらないと言う突っ込みは無い方向で…。

 

 

一年前、アメリカ…

 

 

―統夜、家に帰るんだ。ドラゴンを探せ。契約のカードを思い出せ―

 

 

「ん?」

 

 

ハイスクールからの帰り道、統夜はそんな声を耳にして、立ち止まって周囲を見回すがそこには自分に話しかけたと思われる人間は誰も居ない。

 

 

「あれ? 気のせいか…?」

 

 

気のせいかと思ってその場を歩いていく。…誰にも気付かれず、統夜を追いかける様に建物の窓に映し出される鏡面を赤い龍が泳いでいった。

 

 

何時もと変わらない日々、ハイスクールに通って母の居ない家に帰る。それだけの毎日の終わりが近づいている事をこの時の統夜は気付かなかった。

 

 

「ただいま。って、言ってもどうせ居ないよな」

 

 

鍵を開けて家の中に入るとそう言って、鞄を机に置いた時、指先に当る違和感に気が付く。それは、今朝には無かったはずの黒いケースの様な物。

 

 

「…カード…デッキ…?」

 

 

そう呟きながら統夜はカードデッキの中から一番上に有った『SEAL』と書かれたカードを取り出す。

 

 

「アドベントカード?」

 

 

なんだろうとかと思って裏面も見てみるとそこに書かれていた文字を読む。『何かのゲームに使うカードなのか?』と考えるが、そんな物を買った覚えも無ければ、拾った覚えも無い。思わず窓に鍵は掛かっているのかと思って調べてみるが窓の鍵は閉まっていた。

 

 

―統夜、ドラゴンを探せ。―

 

 

「っ!? 誰だ!?」

 

 

突然聞こえた声に慌てて振り返るが、誰の姿も無い。

 

 

「誰か居るのか!?」

 

 

家の中だけではなく家の外に居るのかと思って外まで探してみるが、誰も居なかった。何だったのだろうかと思って首を傾げた時、ふと、家の近くのビルの鏡張りになっている部分が目に入る。

 

 

「ん?」

 

 

ふと、ビルの鏡面が目に入ると、ビルの鏡面はまるで水面の様に揺れていたのだ。

 

 

「おい…なんだよ?」

 

 

思わず一歩ずつ後ずさると、慌てて飛び出したので握ったままになっていたカードデッキが光を放っていることに気付く。そちらへと視線を向け、再びビルへと視線を向けると、ビルの鏡面が石を投げ入れた水面のように波紋が広がり、その中から赤い龍が現れる。

 

 

「うわ!?」

 

 

鏡面から飛び出した龍は一直線に統夜へと向かっていく。思わず腕で顔を覆ってしまう統夜だが、そんな統夜を守るようにカードデッキを中心に光の壁が現れる。

 

 

「うわぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

龍と光の壁がぶつかった衝撃で統夜と龍は互いに弾き飛ばされる。

 

 

「はぁ…はぁ……なんだったんだ?」

 

 

そして、次に襲い掛かるのは耳鳴りの様な音、

 

 

「あっ…あっ…っ!?」

 

 

頭が割れる様な思いで苦しみながら、慌てて耳を塞ぐがそれでも音は統夜の頭に響き続ける。

 

 

「あっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

耳を押さえたまま崩れ落ちる統夜。暫くして音が止むと君が悪くなり戸締りをして家を飛び出して行く。

 

 

「うぁ…」

 

 

そして、外に出た瞬間、再び聞こえてくる音に頭を押さえる。それだけではない、偶然視線を向けた先のビルの鏡面には、機械的な外見を持った巨大な茶色の蜘蛛『ディスパイダー』が鏡面の中に映し出され、男性を襲って鏡の中に引きずり込んでいく。

 

 

「なんだよ…あれ…ちょっと!? 今、人が…」

 

 

慌てて呼び止めようとするが、他にも何人か通行人は居るが、誰もそれに気が付いた様子はなかった。鏡の中に引きずり込まれた男性も巨大な蜘蛛の化け物の存在にも。

 

 

どう言う事なのかと言う疑問を抱きながら別の場所へと視線を向けると、一人の女性が歩いていく。そして、歩き去った場所のショーウィンドに三体…人型をしたイモリの様な怪物『レッドミニオン』が映る。

 

 

統夜がそちらへと近づきながら目を凝らしてみていると、鏡の中から三体のレッドミニオン達が飛び出して女性の後を付けていく。

 

 

女性の歩く先にある捨てられたテレビの画面にもレッドミニオンが映し出され、その中から這い出す。

 

 

そして、レッドミニオン達はゆっくりと女性の背後から近づいて行く。

 

 

「おい!!!」

 

 

「私?」

 

 

「あっちに行け!」

 

 

統夜は自分と女性の間に居る二体のレッドミニオンを見ながらレッドミニオン達に向かって叫ぶ。

 

 

「貴方…誰と話してるの?」

 

 

化け物が目の前に存在しているにも関わらず女性は疑問を浮かべながら、統夜へと問い掛ける。

 

 

「いいから、早く逃げろ!」

 

 

「ええ…そうするわ」

 

 

疑問が尽きない様子で統夜の言葉に答える女性。そして、二体のレッドミニオン達は統夜へと襲い掛かる。

 

 

「おい! 早く逃げろ!!!」

 

 

「ちょっと、どう言う事?」

 

 

レッドミニオン達の攻撃を避けながら、その間を潜り抜け、統夜は女性の手を引きながら、その場から走って逃げ出す。

 

 

角を曲がった先に現れるのは新たなレッドミニオン、引き返そうとするが後ろからは二人を追いかけてきた先ほどの二体が追いついてきた。

 

 

「くっ!」

 

 

「キャア!」

 

 

慌てて女性を突き飛ばし三体のレッドミニオン達に襲いかかられる統夜だが、二体の攻撃を避けた所で、三体目の蹴りを腹に受けてしまう。

 

 

「ゲホ…」

 

 

咳き込みながら、次の攻撃を避けて1体を殴り飛ばした所で別の固体に背中を蹴られる。慌てて其方の方を向いた所で、振るわれた腕を避けて蹴るが反撃とばかりに蹴り返される。統夜はレッドミニオン達相手に三対一と言う状況で格闘を続けている中、先ほどの女性はそんな統夜の姿に戸惑いながら後ずさる。

 

 

後ずさりながら、後ろに立っていた四体目のレッドミニオンにぶつかって振り向くが、まるで『何も居ないように』不思議そうな顔でレッドミニオンの顔を眺めている。

 

 

「キャア!」

 

 

首を傾げながら振り向いた所でレッドミニオンに肩を捕まれる。そして、暫く三体のレッドミニオン達と格闘を続けていた統夜が投げ飛ばされ、背中から廃材に叩き避けられる。

 

 

「グ…アァ……」

 

 

「キャァァァァァァァァァァァア!!!」

 

 

痛みに耐えながら悲鳴の聞こえた方向に顔を向けると、そこには先ほどの女性が鏡の中に引きずり込まれようとしていた。

 

 

「キャァァァァァァア……!」

 

 

そして、何も無かったかの様に女性と怪物の姿は消えうせていた。

 

 

「…助け…られなかったのか?」

 

 

統夜が悔しげに拳をアスファルトの地面に叩きつけると、突然、レッドミニオンが鏡の中から何者かに追い出されたように飛び出して地面を転がる。

 

 

続いて先ほどの女性を抱き抱えてサングラスをかけた男が鏡の中から出てきた。男は女性を下ろすと統夜を襲っていた三体のレッドミニオン達を睨みつけ、ゆっくりと歩いていく。

 

 

男は的確にレッドミニオン達の攻撃を避けながら時にパンチを打ち込み、時に強く蹴り飛ばしていく。そして、男に倒されたレッドミニオン達は消え去っていく。

 

 

「ありがとう、助かった!」

 

 

「オレにデッキを渡すんだ」

 

 

礼を言って近づく統夜に男はそう告げる。

 

 

「カードデッキを寄越せ!!!」

 

 

「放せよ! なんだよ…あんた!?」

 

 

女性がカメラを取り出して二人を撮影している事にも気付かず、財布を落としたのにも気付かず、統夜は男から離れ、その場から逃げ出していく。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

慌ててあの場から…正確にはレッドミニオン達を倒したサングラスの男から逃げ出した統夜が街を歩いていると再び音が聞こえる。

 

 

周囲を見回しながらポケットの中からカードデッキを取り出すと、カードデッキから青白い光が放たれる。

 

 

「カードデッキが? っ!?」

 

 

後から何かが動く音を感じて慌てて振り返るとそこには…正確にはガラス張りになったショーウィンドの中に統夜の身長よりも巨大な蜘蛛の怪物・ディスパイダーが真後ろに存在していたのだ。

 

 

「う…うわぁ!」

 

 

統夜を連れ去ろうと振るわれる爪を避けた時、近くに停めてあった車に背中を預ける形となってしまったと思った瞬間、プールにでも飛び込んだ様に何の抵抗も無く、その中へと飲み込まれてしまった。

 

 

「ったく」

 

 

そんな統夜に対して先ほどの男が呆れた様に呟く。

 

 

 

 

 

 

「え…おい!?」

 

 

銀色の空間を流される様に何処かへと運ばれている感覚を覚えながら戸惑っている統夜の体を青い光が包み、銀色の装甲と青いスーツの『ブランク体』へと変身させる。

 

 

先ほどの街とは違う場所に停めてあった車から飛び出して鏡の中の世界『ベンタラ』に飛び出し、地面を転がるブランク体の統夜に反応し、ディスパイダーがその巨体を彼へと向ける。

 

 

「え? なんだよ…これは!? ここは!?」

 

 

腕には手甲型のカードリーダー『ライドバイザー』を装備したブランク体の姿の自分に戸惑いながら周囲を見回していた統夜の視界の中にディスパイダーの姿が映る。

 

 

「う…うわぁぁあ!!!」

 

 

先ほどのレッドミニオンとは迫力が違う怪物であるディスパイダーの姿に恐怖を感じて、慌てて逃げ出す統夜。

 

 

 

 

 

 

地球…

 

 

先ほどの場所で男は統夜の物と似た…いや、唯一の違いは蝙蝠を思わせる金のエンブレムが刻まれた所であろう、それを取り出して鏡面へと向ける。

 

 

そして、男の腰にベルト『Vバックル』が現れ、

 

 

「KAMEN RIDER!」

 

 

バックル部分にそれを刺し込み銀の装甲とダークブルーのスーツの騎士『仮面ライダーウイングナイト』へと変身し、鏡の中に飛び込む。

 

 

 

 

 

 

ベンタラ…

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

統夜はディスパイダーから必死に逃げている。時折後を振り返りながら、背後から迫ってくる死の気配から逃れようと足掻いていると、ディスパイダーは壁を這いながら統夜の前へと回り込む。

 

 

慌てて後に逃げようとした統夜を前足の一本で殴り飛ばし、近くにあった一番上の看板へとぶつける。そのまま下に有る看板にぶつかりながら、統夜の体は地面へと落ちる。

 

 

立ち上がろうとする統夜へと近づこうとするディスパイダーをウイングナイトを乗せたアドヘントサイクルが跳ね飛ばす。

 

 

「今度は、なんだ!?」

 

 

そして、アドベントサイクルが停車するとその中から蝙蝠の意匠を持ったダークブルーの騎士ウイングナイトが現れ、ディスパイダーと対峙する。

 

 

「誰なんだ?」

 

 

ウイングナイトの上空を彼のアドベントビースト『ダークウイング』が飛翔し、ウイングナイトはディスパイダーに注意を向けながら、統夜へと振り向き、

 

 

「オレにデッキを渡さないからだ」

 

 

そう告げる。

 

 

「あんたは、もしかして、さっきの…」

 

 

その声には聞き覚えがあった。目の前の仮面の男は化け物ではなく人間だという事実が統夜に微かな安堵を与えていた。

 

 

ウイングナイトはダークバイザーの鍔の部分を展開させ、ベルトに装着されたカードデッキから一枚のカードを抜き出し、それを装填する。

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

電子音が響くと共にウイングナイトはダークバイザーを腰へと収め、上空から現れた槍『ウイングランサー』をキャッチして、

 

 

「下がってろ」

 

 

ディスパイダーへと立ち向かう。

 

 

「はっ!」

 

 

ディスパイダーの振るう足をウイングランサーで弾き、足で防がれるが確実にディスパイダーへと斬撃を浴びせていく。

 

 

「ああやって戦うのか?」

 

 

自分のベルトにもカードデッキが有る事に気が付くと、なんとなく一枚のカードを抜き出す。それに反応するようにライドバイザーの上部がスライドし、カードを差し込む部分が現れる。

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

そこにカードを収めると自動的にライドバイザーの展開した部分が元に戻り、電子音が響き渡ると同時に上空から一振りの剣『ライドソード』が振ってきて地面に突き刺さる。

 

 

呆然と思わず上空を見上げるがそこには何も無い。

 

 

「何処から降ってきたんだ?」

 

 

統夜が戸惑っていると、ウイングナイトがディスパイダーの足の一つに弾き飛ばされ、そのまま距離を取った。

 

 

統夜はそれを見て意を決すると地面に刺さっているライドソードを抜く。

 

 

「(間違いない…本物だ!)う…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 

両手でそれを握りながら統夜はディスパイダーへと向かっていく

 

 

「おい、待て!」

 

 

ウイングナイトの静止の声を背中に受けながらディスパイダーの振り上げた足と、統夜の振り下ろしたライドソードがぶつかり合う…

 

 

ガキン!

 

 

「折れたぁ!?」

 

 

…事もなく簡単に折れた。それはもう、人間がお菓子でも割るように簡単に。

 

 

『アホか?』とでも言いたげに前足でウイングナイトの方へと殴り飛ばすディスパイダーと、

 

 

「邪魔をするな!」

 

 

ウイングランサーの石突の部分で横へと殴り飛ばすウイングナイト。統夜はそのまま近くの壁へと叩きつけられる。

 

 

そして、ウイングナイトは新たに蝙蝠の絵が書かれたカードを取り出し、ダークバイザーへと装填する。

 

 

 

『ATTACK VENT』

 

 

 

電子音と共に上空から飛来するウイングナイトのアドベントビースト『ダークウイング』。ダークウイングはそのまま高速の体当たりをディスパイダーへと放つ。

 

 

そして、トドメを刺さんとウイングナイトはカードデッキに有るものと同じエンブレムの描かれたカードを抜き出し、ダークバイザーへと装填する。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

「はぁ!」

 

 

響き渡る電子音はモンスターに最後を告げる宣告とも言える音。ウイングランサーを構えて走り出すウイングナイトの背中からダークウイングが現れ、背中に装着されマントとなる。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

そして、ディスパイダーの前で空高く跳躍し、マントがウイングナイトの全身を包み込み、真上から回転しながらディスパイダーへと突き刺さる。それが、ウイングナイトの必殺技『飛翔斬』。

 

 

ファイナルベント・飛翔斬の直撃を受けたディスパイダーはそのまま爆散する。

 

 

「やった…。」

 

 

呆然と呟きながらも、統夜は立ち去ろうとするウイングナイトに近づいていく。

 

 

「ちょっと待ってくれ、ここは何処なんだ!? それに、あんたは一体!?」

 

 

「説明している暇はない。ここを出るぞ」

 

 

「ここ? ここって…?」

 

 

「危ない!」

 

 

疑問に答えるよりも早く、ウイングナイトは統夜を突き飛ばし、自身も離れる。今まで二人が立っていた場所(ややウイングナイト寄り)に火炎弾が打ち込まれたのだ。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

「あのドラゴンか」

 

 

そう言って向けたウイングナイトの視線の先には黒い爆煙で遮られながらも、その存在感を偉観なく発揮する一匹の赤い龍が存在していた。

 

 

―統夜、ドラゴンを恐れるな―

 

 

「またか? 誰なんだよ!?」

 

 

上空で威嚇する様に咆哮を上げる龍。ウイングナイトと統夜は急いでその場から走り出す。

 

 

「ここを出るぞ!」

 

 

逃げる二人へと向かって上空で龍…ドラグレッダーは咆哮を上げながら、二人へと火炎弾を放ち、(主にウイングナイトの)近くに停めてあった車を炎に包み破壊する。

 

 

「なんでオレを追ってくるんだ!?」

 

 

(気のせいかウイングナイト側に集中した)火炎弾による爆撃を受けながらそう叫ばずに入られない。

 

 

「早く!」

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

これが、統夜と彼のアドヘントビースト『ドラグレッダー』と彼の師で有り戦友である異世界『ベンタラ』の騎士『レン』こと『仮面ライダーウイングナイト』との始めての出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

現在…機動六課

 

 

「これがオレのライダーの力との出会いだ。そして、オレはこの後、ドラグレッダーと契約して、ドラゴンナイトになって、戦う事を決意したわけだ」

 

 

一通り話し終えると、統夜は全員を見回す。

 

 

「その騎士はレンと言うのか…戦ってみたいな」

 

 

「…はぁ…この戦闘狂バトルマニアが」

 

 

目を輝かせてレンと一度戦ってみたいと言うシグナムとそんな彼女に呆れた様に呟く外見だけなら年少組なスターズ分隊副隊長のヴィータ。

 

 

「ちょっと、酷いかな…そのレンって人」

 

 

「口下手なだけだ。フェイトも一度会って見れば分かるけど、いい人だぜ、レンさんは。それにあの時はオレを助けようとしていた訳だし、無謀な行動で危険に晒しただけだ。酷い言い方されても仕方ないさ」

 

 

話の中のレンを咎めるように呟くフェイトの言葉に対して統夜はレンに対するフォローを入れる。

 

 

「統夜くんにもそんな頃があったんやなぁー」

 

 

「でも…それって…」

 

 

「「ドラゴンナイトになった時の話やないやん(じゃないと思います)」」

 

 

はやてとティアナの二人にはそう突っ込みを入れられる統夜。

 

 

「うぐぅ…」

 

 

「それに、私も統夜さんとレッダーさんがどうやって契約したのか気になります」

 

 

キャロにそう言われるが、ドラマチックな事など何一つ無い。

 

 

「じゃあ、話してくれるかな? その時の話」

 

 

「お願いします、統夜さん!」

 

 

ニコニコとした笑顔でお願いするなのはと期待する瞳で統夜を見上げるスバル。助けを求める様にフェイトの方へと視線を向けるが…。

 

 

「私からもお願いできるかな、統夜?」

 

 

逃げ道は塞がれた。最近、フェイトに頼まれるとイヤとは言えない自分に自覚しつつ溜息をつく…。

 

 

「はぁ…仕方ない…」

 

 

そして、統夜は語り始める。ドラゴンとの契約に繋がるドラゴンナイト誕生の物語の後半部分を…。

 



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番外編『ドラゴンナイト・ビギンズ後編』

注意)
番外編は主に統夜の視点でのドラゴンナイトのストーリーを記していきます。

今回の話はキットではなく統夜が彼の立場になったドラゴンナイトの第二話を文章化した物ですので、内容についてはあまり期待はしないで下さい。



 

統夜にとっての始まりの日…仮面ライダーの力とレンとの出会いは語った。残されたのは、ドラゴンとの契約の日の事である。

 

「今から話すのが、オレのドラグレッダーとの契約…ドラゴンナイトの力を得た時の話だ」

 

 

 

 

 

 

 

ベンタラ…

 

 

ドラグレッダーの火炎弾に吹き飛ばされる統夜の変身したブランク体とウイングナイト。地面を転がる統夜に対して、ウイングナイトは地面を転がりながら立ち上がる。

 

 

「うわぁ!」

 

 

「…危なかったな。行くぞ!」

 

 

後ろにドラグレッダーの姿がない事を確認すると、ウイングナイトは統夜にそう声をかけて何処かに向かって走り出す。

 

 

「何処に?」

 

 

「窓を通って帰るんだ」

 

 

「窓を通る? 通れるのかよ?」

 

 

「物が移る物なら何でも。そこで見てろ」

 

 

そう言ってウイングナイトは近くに有る建物の窓に近づいていくと、吸い込まれる様にウイングナイトの姿は窓の中に消えていった。

 

 

「…凄い…」

 

 

目の前の光景に呆然としていると、後から何かの咆哮が聞こえてくる。後ろを振り返るとそこにはドラグレッダーの姿があった。

 

 

「ヤバイ…早く逃げないと!」

 

 

統夜が慌ててその場から逃げ出すとドラグレッダーの火炎弾がウイングナイトの飛び込んで行った窓を破壊する。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ」

 

 

時折振り返りながら逃げている統夜を後からドラグレッダーが追いかけていく。

 

 

「窓、窓は何処だ!? じゃなきゃ、何でも良いから、ものが映るものは?」

 

 

そう言って周りを見回していると黒い車の車体に薄らと風景が映し出されている事に気が付いた。そして、ドラグレッダーの咆哮が近づいてくる事に気が付くと、統夜は意を決して車へと向かって走り出す。

 

 

「くそ、一か八かだ!?」

 

 

そう叫んで車のボディーへと飛び込んでいく統夜の居た場所をドラグレッダーの体が通り過ぎていった。周囲を見回すドラグレッダーだが、そこに既に統夜の姿はなく、車の車体にドラグレッダーの視線が向けられた。

 

 

そして、ディスパイダーが倒された場所ではライダーとは違う不気味な異形の人影が手を翳すと、黒い粒子が集まり一体の化け物を作り出していく。それはウイングナイトが倒したはずのディスパイダーだ。

 

 

しかも、再生しただけでなく、ディスパイダーは頭の部分に人間の様に二本の腕を持った上半身を着けて蜘蛛のような下半身を持った姿、『ディスパイダーRリボーン』として再生したのだ。

 

 

それを確認すると、異形の影は消えて行った。

 

 

 

 

 

地球…

 

 

奇しくもディスパイダーに襲われた時に入ってしまった場所から飛び出すと、統夜は周囲を見回して、自分が飛び出してきたと思われる黒い車へと向き直る。

 

 

「あー…態と逃げたって思われたかな?」

 

 

統夜の近くにはウイングナイトの…レンの姿は無かった。

 

 

 

 

 

別の場所…

 

 

窓からゆっくりと出てくるとレンは周囲を見回すとそこに統夜の姿が無い事に気が付き、

 

 

「何処だ、あいつ?」

 

 

そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

現在、機動六課

 

 

「と言う訳で、オレは無事元の世界に戻れたって言う訳だ」

 

 

「え、その時に契約したんじゃないんですか?」

 

 

キャロからの質問に乾いた笑いを浮かべると、

 

 

「あー…あの時は逃げるのに必死だったし、契約の方法も必要性も知らなかったからな…」

 

 

今になって思い出すと、ドラグレッダーからの統夜へと向かってきた攻撃は全て余波だった気がする。ドラグレッダーが一刻も早く統夜と契約する為に動いていたと考えれば頷ける事だ。

 

 

「今と比べると全然想像できへんな…」

 

 

「ドラグレッダーと契約前と契約後を一緒にするな。重ねて言うなら、ライダー自身の能力は雲泥の差なんだ」

 

 

そんな事を言ってくれるはやてを横目で睨みつけながら告げる。

 

 

「ねえ、それで統夜はどうやって仮面ライダーになったの?」

 

 

「そうだな…」

 

 

フェイトから続きを促されて話の続きに入る。あの後、統夜は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去、地球、統夜の自宅…

 

 

無事戻って来れた事で緊張の糸が切れた統夜は毛布をかけてソファーで横になっていた。眠くなるほど疲れているのに、全然眠れない。目を閉じて思い出されるのは、カードデッキを手にする事になった時に聞こえてきた謎の声から始まった、一日の中で体験した人知を超えた出来事。

 

 

『統夜、ドラゴンを探せ』『契約のカードだ』

 

 

目を閉じて思い出す度に頭の中に響く謎の声…。

 

 

『統夜…』

 

 

そして、頭の中に一つの映像が浮かぶ。咆哮を上げながらブランク体の統夜へと向かって来るドラグレッダー。ブランク体の統夜の中にドラグレッダーが吸い込まれていく瞬間、統夜は龍の意匠を持った真紅の騎士へと変わっていく。

 

 

そんな映像が頭の中に浮かんだ瞬間、眠るのを諦めて起き上がると時間は既に夕方だった。

 

 

そして、テーブルの上に無造作に放置していたカードデッキが目に入りその中の一枚のカードを引き抜く。

 

 

「…契約のカードか…」

 

 

絵柄が何も無く、『CONTRACT』と書かれたそのカードに視線を向けて、統夜はそう呟く。恐らくはあの声の言っていた契約のカードとはこのカードの事だろうと当りをつけていた。

 

 

「このカードが契約のカードだとして…オレは何をすれば良いんだ?」

 

 

頭に手を当てて謎の声の言う『契約のカード』らしき物を眺めながら呟く統夜だった。

 

 

 

 

 

翌日…

 

 

統夜はバイクを走らせている。彼と併走する様に鏡の向こう…ベンタラをドラグレッダーが飛翔していた。

 

 

ふと、バックミラーに別のバイクの姿が見える。ヘルメットで顔は隠れているが、それは先日であった相手…レンだ。

 

 

「またあいつか?」

 

 

統夜がスピードを上げるとレンは追跡すべく己もバイクのスピードを上げて統夜を追いかける。人気の無い路地裏に入り、左右に蛇行しながら、時に積まれているダンボール箱を倒しながら、チェイスを続けている。

 

 

「っ!? うわぁ!!!」

 

 

暫く逃げていると、前にダンボール箱を運んでいる男が通りかかり、統夜は慌ててブレーキを押す。

 

 

「うわぁ…とっとっとっ!!!」

 

 

「あ、危なかった! ごめん!」

 

 

「気をつけろ!」

 

 

バイクを止めて謝罪している間にレンのバイクが統夜の隣に停車する。そして、そのまま統夜のバイクのキーを抜き取り、そのまま走り去っていく。

 

 

「おい、何するんだよ!!!」

 

 

統夜の抗議の言葉も無視してスピードを落として走り去っていく。…着いて来いと言うことなのだろう。だが…

 

 

「…押してくしか無いよな…はぁ…」

 

 

レンが走り去っていった方にバイクを押しながら歩く事になった統夜だった。

 

 

それから数分後…レンがバイクを止めて待っている場所に着くと、

 

 

「何のつもりだ、キーを返せ!」

 

 

「カードデッキは何処だ?」

 

 

統夜に近づきレンはそう問う。

 

 

「…あれで別の世界に行けるんだろう?」

 

 

答えが返って来る事は期待していないかったが、レンの反応を見るとその考えは間違っていないだろう。ならば、次の質問は…。

 

 

「契約のカードって、何のこと?」

 

 

「っ!? 誰からその事を聞いた!?」

 

 

自分以上にカードデッキやあのドラゴンの事を知っていると考えた統夜が聞くと、彼の言葉に答えずにレンは統夜に詰め寄っていく。

 

 

「あのドラゴンは?」

 

 

「ドラゴンには関わるな!」

 

 

「どうして?」

 

 

「あのドラゴンと契約を結べば…ベントされるぞ」

 

 

「ベント? 何のことだよ?」

 

 

まだベントと言う言葉の意味も、カードデッキの事も知らなかった当時の統夜にはレンの言葉の意味は何一つ理解できなかった。

 

 

そんな言葉を交わす二人の耳に耳鳴りの様な音が響く。

 

 

「この音は?」

 

 

「入り口が開いた」

 

 

統夜の問いにレンは簡潔に答える。

 

 

「誰かの身に危険が。来い!」

 

 

そう言ってレンは統夜の襟首を掴んで統夜を『入り口の開いた』場所に連れて行く。

 

 

 

 

 

別の場所では男性が自分の身に迫る危険も知らずに修理の作業をしていた。

 

 

男性の近くの鏡面に映し出されるディスパイダーRの姿。男性はそれに気付かず…否、知らずに作業を続けていた。

 

 

そして、鏡面から糸が伸び男性の腕に巻きつく。

 

 

「? なんだこりゃ?」

 

 

疑問に思って糸が伸びている先に視線を向けると、今度は全身を糸が巻きついた。

 

 

「助けてくれぇー!!! 誰かァー!!!」

 

 

その場所に丁度レンと統夜が辿り着いた時、男性の助けを求める声が聞こえてその場所に近づいていく。

 

 

必死に引きずり込まれない様に抵抗しているが、引きずり込まれるのは時間の問題だろうと思われた時、統夜とレンが男性の腕を掴んで、逆の方向に引っ張る。

 

 

綱引きの様な状態となり、糸が切れた事で統夜達は後に跳ばされ、襲われた男性はそのまま体を壁に打って気絶してしまう。その光景を鏡面の向こうで眺めながら、ディスパイダーRは残念そうにその場を立ち去っていった。

 

 

「この人を頼む」

 

 

レンは統夜へとそう告げてディスパイダーRの居た鏡面へと近づき、ウイングナイトのカードデッキを取り出し、

 

 

「そこを動くなよ」

 

 

と、統夜へと釘を刺しカードデッキを鏡面へと向け、

 

 

「KAMEN RIDER!」

 

 

統夜の目の前で仮面ライダーウイングナイトへと変身し、そのまま鏡面へと飛び込んで行った。

 

 

遠目でだが、ウイングナイトの入っていった鏡面からウイングナイトの姿が見える。

 

 

 

 

 

アドベントサイクルより降りたウイングナイトはダークバイザーを持ってディスパイダーRへと切り掛かるが、それをディスパイダーRは人の様な上半身の両腕を武器に受け止める。何度目かの格闘の末に武器を取り出そうと距離を取った瞬間、蜘蛛の足の一本が横凪に振るわれる。

 

 

「ハァ!」

 

 

右からのそれを避けて左から向かってきた物を受け止めた後、続けて右からの攻撃を蹴り飛ばし、受け止めていた足にダークバイザーの一閃を見舞う。

 

 

 

 

 

 

その戦いに魅入りながら、統夜はウイングナイトの飛び込んで行った鏡面へと…ウイングナイトとディスパイダーRの戦う姿の映し出されている鏡面へと近づいていく。

 

 

そして、カードデッキへと手を伸ばし暫くそれに視線を向けていると、意を決してカードで月を鏡面へと向け、

 

 

「KAMEN RIDER!」

 

 

レンのやった様に叫ぶのだが、

 

 

「あれ?」

 

 

幾ら待っても何の反応も起きなかった。

 

 

「言い方が拙かったのか? …カメンライダー」

 

 

そう思ってもう一度鏡へと向けて言って見るが、やっぱり無反応だった。

 

 

「…仮面ライダー…」

 

 

やはり、三度目もダメだった。

 

 

 

『そうじゃない、統夜』

 

 

 

そう言って統夜の後から誰かが近づいてくる。見覚えの有る男性だが、それが誰なのかは思い出せない。

 

 

「アンタは?」

 

 

『オレはなんて言った、統夜?』

 

 

意識が戻ると周囲には統夜と気絶しているディスパイダーRに襲われた男性以外の姿は無く、あの声の主と思われる男の姿は無かった。

 

 

統夜はカードデッキから契約のカードを抜き取り、

 

 

「契約のカード。…ドラゴンを…」

 

 

そう呟く統夜の耳に遠くから小さく何かの鳴き声が聞こえてくる。そちらへと向かっていくと、ビルの鏡面の中に波紋が広がり、そこでドラグレッダーが円を書く様に泳いでいた。

 

 

「お前は…? これは…そう言うことか!?」

 

 

ドラグレッダーの姿、そして、何も描かれて居なかった契約のカードにまるで鏡の様に、ドラグレッダーの姿が映し出されている事でそのカードの使い方を理解し、契約のカードをドラグレッダーへと向ける。

 

 

「正直…何が何だか良く分からないけどな…。あんな化け物の好きにさせるってのは、気に入らないんだよ…! お前がオレに力を貸してくれるって言うなら…喜んで契約でも、何でも、してやる!!!」

 

 

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

ベンタラから鏡を通してウイングナイトはドラグレッダーと契約しようとしている統夜の姿を見た。

 

 

「よせぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 

慌てて統夜を止めに入ろうとするウイングナイトだが、それによって出来た隙を突かれディスパイダーRに捕獲される。

 

 

 

 

 

「だから…オレに力を貸せ!!!」

 

 

統夜のその言葉を待っていたと言う様子でドラグレッダーは統夜へと向かって、彼へと飛び込んでいく。統夜の体の中にドラグレッダーが吸い込まれて行く様な感覚が襲い、統夜は周囲を鏡で覆われた空間に閉じ込められる感覚を覚えた。

 

 

意識の中でドラグレッダーが統夜の体を包み込み、彼の姿をブランク体へと変身させる。そして、次の瞬間、無地のカードデッキにドラゴンの頭をイメージされた金のエンブレムが刻まれる。

 

 

簡略化されたデザインの手甲型のカードリーダーも龍の意匠を持った物…真紅の『龍召機甲ドラグバイザー』へと形を変える。

 

 

頭の仮面に龍をイメージさせるデザインの模様が刻まれ、地味な黒のスーツが赤く、鉛色のアーマーが銀色へと染まる。

 

 

全身から感じさせられる力は今までの比ではない。体の中で炎が燃え上がる様な熱を感じ、体の奥底から湧き上る力は己自身に強力な力を与えられたと実感させる。

 

 

その姿はあの時のイメージの中で見た物と同じ姿。

 

 

そう、これが『仮面ライダードラゴンナイト』の誕生の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こうして、オレはドラゴンナイトになって、長く続くゼイビアックスから地球を守る戦いに参加する事になった訳だ」

 

 

そこまで話すと『パンパン』と手を叩いて『話はここまで』と言うような態度で話しを切り止めて食堂から出て行こうとするが…。

 

 

「ちょっと待ちい!!! どう考えても、これからって所やろ!!!」

 

 

思いっきりはやてに止められた。

 

 

「いや、変身した所まではちゃんと話しただろ?」

 

 

「でも、これからが本当の初陣ですよね?」

 

 

「う…」

 

 

そう、ティアナの言うとおり、統夜のドラゴンナイトとしての本当の初陣はこれからなのだ。

 

 

「ただ、敵を倒しだけで、あんまり楽しい話しじゃないと思うんだけどな…」

 

 

「そんな事ないよ」

 

 

そう言って逃げ場を作ろうとしたが、フェイトに塞がれてしまう。仕方ないと思いながら、話の続き…ディスパイダーRとの戦いの記憶を話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁー!!!」

 

 

ディスパイダーRと戦っていたウイングナイトがそのままビルから落下させられる。

 

素早くウイングナイトのアドベントビーストのダークウイングが翼となり、空を飛ばせた事で地面に叩きつけられるのは避けられたが、ディスパイダーRは戦場となっていたビルの壁を歩きながら、ウイングナイトを追撃する。

 

 

「くっ!」

 

 

ディスパイダーRの射出した糸がロープのようになり、ウイングナイトの体に巻きつき、翼を封じて、ウイングナイトから飛行能力を奪い地面へと落下させる。

 

 

「うぁ!」

 

 

ウイングナイトが地面に落下すると、壁からディスパイダーRはウイングナイトの正面に回りこみ、トドメを刺さんとニードルガンの様に針を打ち出す。

 

 

そして、それがウイングナイトに当りそうに成った瞬間、ウイングナイトとディスパイダーRの間に乱入した赤い影がそれを叩き落す。

 

 

龍の意匠を持ったドラゴンを従える真紅の騎士…『仮面ライダードラゴンナイト』…『辰輝 統夜』だ。

 

 

「アドベントカードを使え!」

 

 

後から身動きを封じられたウイングナイトの言葉が響く、

 

 

「これか?」

 

 

ドラグバイザーをスライドさせ、カードデッキから剣の絵が書かれたカードを取り出す。最初に変身した時の物とは絵が全く別物だった。それをドラグバイザーに装填、元の位置に戻すと電子音が鳴り響く。

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

ドラグレッダーの咆哮と共に上空から降ってくる一振りの剣『ドラグセイバー』を受け止め、ディスパイダーRを見据えながら、

 

 

「はぁ!!!」

 

 

気合を込めた叫び声手と共にディスパイダーRに向かっていく。

 

 

ドラゴンナイトを迎え撃とうとディスパイダーRは無数の針を打ち出すが、ドラゴンナイトはそれをドラグセイバーで、蹴りで、叩き落しながら相手との距離を詰め、

 

 

「はっ!」

 

 

ジャンプと共にディスパイダーの下半身を足場にして、上半身に斬撃を浴びせる。

 

 

『!?』

 

 

「たぁ! はぁ!」

 

 

何度目かの斬撃を受けたディスパイダーからの反撃を受け、ディスパイダーRの下半身から振り落とされると、今度はカードデッキからドラゴンナイトのエンブレムと同じ物が書かれたカードを取り出し、ドラグバイザーにセットする。

 

 

 

『FINAL VENT』

 

 

 

ドラグレッダーがドラゴンナイトの背後で円を書く様に動き、同時にドラゴンナイトも中国拳法の様な体勢を取り、空中へとジャンプし、それを追いかける様にドラグレッダーも飛ぶ、

 

 

ドラグレッダーと共に空高く飛翔し、それが最大まで跳んだ所で一回転の動作、右足をディスパイダーRに向けた所で、ドラグレッダーもディスパイダーRへと頭を向ける。

 

 

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!」

 

 

ドラグレッダーの炎と共に打ち出されたドラゴンナイトの必殺のキック…『ドラゴンライダーキック』を受けたディスパイダーRはそのまま粉々に爆散した。

 

 

「はぁ…はぁ…。やった…」

 

 

主の勝利を祝福する様にドラゴンナイトの周囲をドラグレッダーが飛び回り、咆哮を上げる。すると、ディスパイダーRが存在していた場所に燃える炎の中から光の球の様な物が現れる。それに向かってドラグレッダーが向かっていくと、光はドラグレッダーに飲み込まれ、完全に消えていった。

 

 

「人の忠告を聞かない奴だな」

 

 

その光景を眺めていたドラゴンナイトにそう言いながらウイングナイトが近づいてくる。

 

 

「忠告を聞かなかったのは、謝るけど、助けたのに酷いな」

 

 

「ドラゴンに関わるなと言ったはずだ」

 

 

ドラゴンナイトへと言い放つウイングナイト。その言葉からは何処か怒りの感情が伺える。

 

 

「でも…オレは…」

 

 

関わらないと言う事を選択できなかった。モンスターに襲われる人を助けたい、そう思った時、勝手に体が動いてしまったのだ。

 

 

「これでお前は『仮面ライダードラゴンナイト』だ。満足か?」

 

 

苛立ちを押さえた様な口調でドラゴンナイトへと言い放ち、ウイングナイトは背を向けて去って行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…以上。これが、オレのドラゴンナイトとしての初陣だ」

 

 

「「「わぁー」」」

 

 

スバル、エリオ、キャロの三人がドラゴンナイトの最初の戦いの話を目を輝かせながら聞き入っていた。

 

 

統夜自身は特に気にせずに話を進めていたが、統夜がレンの助けに入った時には大いに盛り上がりを見せていた。

 

 

「今になって考えてみれば…レンさんのアドバイスが無かったり、契約したのがドラグレッダーじゃなかったら、負けていただろうけどな…」

 

 

簡単に勝利できた様に見えるが、実はかなりギリギリの勝利だったとも考えられる。この当時はまだドラグレッダーと契約した事で得られたドラゴンナイトの能力と、レンのアドバイスのお蔭で勝利できたような物だ。

 

 

「でも…そのレンって人、やっぱり酷いと思うの! 助けてもらったのに、お礼も言わないなんて!」

 

 

「あー…オレが契約しようなんて考えなければ、敵からの攻撃なんて受けなかっただろうし、オレが忠告を聞かなくて危なくなった様な物だからな…」

 

 

レンの態度に怒るなのはを宥めつつ、そうフォローする。実際、自分の勝手な行動のせいで危険に晒されたのだから、あの時の事は文句を言われても礼を言われる立場ではなかった。

 

 

「…でも、初めての実戦でそこまで戦えるなんて…」

 

 

「そうでもないさ。実際、あの時のオレは何も分かって無かった。レンさんが何を考えていたのかもな。…それを知ったのは、直後だ。そこでオレは出会った…ゼイビアックスに利用されて敵に廻った…新しい仮面ライダーに」

 

 

「新しい仮面ライダーって、もしかして…?」

 

 

統夜の言葉に反応したフェイトの顔色が少しだけ悪くなる。彼女が鏡面世界のモンスターの動きを認識できる様になった切欠を、以前ゼイビアックス側のライダーに襲われた時の事を思い出してしまったのだろう。

 

 

「あー…フェイトの考えている通り、フェイトを襲った青蟹のベースなったと思われるライダー…『仮面ライダーインサイザー』だ。ついでだ。関係ないけど、もう少しだけ話しておくか…」

 

 

そんなフェイトを安心させるように髪を撫でながら統夜は溜息をつきながら最後に補足するように話を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも」

 

 

自宅の前まで着くとそこには一人の女性が待っていた。

 

 

「ああ、これ落し物」

 

 

差し出されたのは、統夜の財布。どこかで落としたとは思っていたが…。その女性に警戒心を向けながら財布を受け取ると無言のまま家の中に入ろうとする。

 

 

「待って」

 

 

そんな統夜を女性は追いかけながら、

 

 

「あいつ等は何? バイクの男は誰? 何故私のカメラを壊したの?」

 

 

そう問い掛ける。

 

 

「質問攻めだな」

 

 

素っ気無くそう答えることで返した。実際、この時の統夜には分からない事の方が多く女性の質問には答えられなかった。

 

 

「調べてるの。教えて、私は捕まるまであいつ等の姿が見えなかった。あなたには最初から見えてたんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と同じだ」

 

 

「そう、見える様になった経緯はフェイトと同じ、彼女がオレ達の戦いの協力者になってくれた人で、新人ジャーナリストの『マヤ・ヤング』さんだ」

 

 

瞳に触れながらそう呟くフェイトに統夜がそう説明する。

 

 

「でも、不思議だよね…なんで、私達は攫われてもいないのに、最初から見えるのかな?」

 

 

「せやな。お蔭で現れた後は警戒できてええんやけど」

 

 

そう、ミッドチルダに現れるモンスター達は何故か鏡面世界から出ると視認出来る様になる。幸いと言ってしまえばそれまでだが…確かに気になる点だが。

 

 

「特殊な方法で世界を移動した事による弊害…。世界そのものが接触した事で認識できるようになったか…。まあ、深く考えてもしょうがない話だな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終的にマヤに問い詰められた結果、統夜が折れた事でカードデッキの事を話す事となる。

 

 

「同じ世界がもう一つ有る? 鏡の中に?」

 

 

「物を移すもの全般らしい」

 

 

そう言ってお茶を出すと統夜もソファーに座る。

 

 

「その世界に入ろうとすると滅茶苦茶早いジェット機に乗った様になる」

 

 

「ありがとう。あの私のカメラを壊してくれた人はしょっちゅう飛んでる訳ね。この搭乗券で」

 

 

そう言って統夜から渡されたカードデッキを返して言った。

 

 

「私は『ハイパーシークレットニュース』ってサイトで謎を追っているの。見せた方が早いわね、コンピューターは有る?」

 

 

「無い」

 

 

「一緒に来て」

 

 

統夜が簡潔に答えるとマヤはそう言って立ち上がり、二人は統夜の自宅を出て行く。

 

 

「あなたにサイトを見せるわね、確かその角を曲がった所に…」

 

 

キィーン

 

 

その音が響いた瞬間、統夜はマヤを止める。

 

 

「なに? 統夜くん?」

 

 

「聞こえたのか?」

 

 

「ええ、はっきり。何の音?」

 

 

統夜の問いにそう答えるマヤ。統夜は苦笑を浮かべて近くの鏡面へと視線を向けた。

 

 

「多分、こっちへの招かれざる客だ」

 

 

そう言って近くにある窓に近づいていくと、途中でマヤを止める。

 

 

「少し下がっていた方がいい」

 

 

「何をするの?」

 

 

統夜はマヤの問いにカードデッキを取り出す事で答える。

 

 

「KAMEN RIDER!」

 

 

その叫びと共に統夜の体を赤い光が包み込み、彼をドラゴンナイトへと変身させる。

 

 

「じゃあ」

 

 

マヤへとそう言い残し、ドラゴンナイトは窓の中に飛び込んで行った。

 

 

 

 

 

ベンタラ…

 

 

二体のレッドミニオンが一人の女性を何処かへ連れて行こうとしていた。そして、指揮官らしき茶色の蟹も一緒に歩いている。

 

 

「彼女を放せ!」

 

 

茶色の蟹がドラゴンナイトの声に反応して振り返り、レッドミニオン達に『ここはオレに任せて先に行け』と言う様な仕草で指示を出す。

 

 

そして、レッドミニオン達を追い掛けようとするドラゴンナイトに蟹が襲い掛かる。

 

 

蟹の攻撃を避けながら蟹の頭を踏んで相手の後ろに回りこむと、デッキからカードを抜き出し、ドラグバイザーに装填、

 

 

 

『SWORD VENT』

 

 

 

ドラグセイバーを召喚して、蟹へと切りかかる。蟹のモンスターの体は想像以上に硬く、ドラグセイバーの斬撃でも傷一つ付けられなかった。

 

 

「くそっ!!!」

 

 

蟹の体にキックを打ち込んでも、ダメージを受けた様子も無く、尚もドラゴンナイトに向かっていく。

 

 

振り下ろした鋏を避けて背中から切りつけるが、寧ろ背中の甲羅への攻撃は今まで以上にダメージを受けた様子も無い。

 

 

「なに!? ぐわぁ!!!」

 

 

横凪に振られる鋏に受けて、両腕で捕獲されそのまま投げ飛ばされ、ドラゴンナイトは柱に叩きつけられ、床を転がる。

 

 

「ぐ…あっ…」

 

 

ぼやける視界の中で統夜はアドヘントサイクルの存在を見た。

 

 

「来てくれたのか?」

 

 

それに乗っているのがウイングナイトと考えてそう呟くドラゴンナイトだが、ドラゴンナイトの隣を走っていくアドベントサイクルに乗っているのは、ウイングナイトではなく蟹と同じ茶色の仮面ライダー。

 

 

「な? あれは…?」

 

 

蟹のモンスターの前に止まりそこから降りてくるのは、蟹を思わせる茶色の装甲に蟹の鋏を思わせる鋏型のカードリーダーと、蟹の紋章が刻まれたカードデッキ。

 

 

「別の仮面ライダー? 丁度良い、二人で一緒に。うわぁ!」

 

 

立ち上がるドラゴンナイトを蟹のライダーはパンチを打ち込む。

 

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 

ドラゴンナイトの静止の言葉も無視して尚も殴りかかる蟹のライダー。ドラゴンナイトも反撃を試みるが、それらは簡単に受け止められ、カウンターを加えられる。

 

 

「ぐぁ…」

 

 

壁際に追い詰められ鋏を使った突きが放たれた時、ドラグセイバーを盾に受け止め、

 

 

「オレは辰輝統夜だ。あんたは?」

 

 

「黙って戦え」

 

 

そう言って問答無用に仕掛けられる蟹のライダーの攻撃、更には蟹のモンスターも協力してドラゴンナイトに襲いかかる。

 

 

「待ってくれ…モンスターと…仲間なのか?」

 

 

ドラゴンナイトの言葉を無視して、蟹のライダー『仮面ライダーインサイザー』とそのアドベントビースト『ボルキャンサー』はドラゴンナイトへと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、最初の戦いの後に起こった、ライダー同士の戦いの一部だ」

 

 

「…地球にもゼイビアックスの手下になった人達が居たんやな」

 

 

悲しげに響くはやての声。ゼイビアックスと言うエイリアンに協力する人間がそんなに多く存在していると言うのはあまり考えたくもない事実なのだろう。

 

 

「ああ。オレとレンさん…それとレンさんの恋人のケイスさん以外の人達はゼイビアックスに操られて、騙されていた」

 

 

そこまで言った後、統夜は苦笑を浮かべてしまう。…以前、ゼイビアックスは人間は愚かだと言っていた。確かに、自分達の見方になってくれたのはゼイビアックスがカードデッキを渡した人間の中では僅か一人、仮面ライダースティングのクリス一人だけだったのだから。

 

 

「そう言う訳で昔話はこの辺でな」

 

 

『パンパン』と話を切り止めて今度こそ終わりにする。

 

 

「なんだよ、その蟹のライダーと戦った時の事は話さないのかよ?」

 

 

「さあ、話は飽く迄オレの初陣の話し出し、機会が有ったら、また次の時に話してやるよ」

 

 

ヴィータの言葉にそう言って話を切り止めて、統夜は食堂を出て行こうとすると、一度立ち止まり、ティアナへと向き直り、

 

 

「お前はオレとは違う、急いで強くなるしかなかったオレと違って、お前の周りには仲間が沢山いるんだ。無理して急いで強くなる必要は無い。そんな強さには…その内に、歪みが出る」

 

 

「…………」

 

 

「…分かるだろう…。オレが強いとしたら、それは多くの仲間が居る強さを得られなかったからだ。お前が欲しいのは孤独と引き換えの強さか…それとも、仲間と共に有る為の強さか…? 自分が欲しい強さをもう一度良く考えてみろ」

 

 

「…はい…」

 

 

そう言って統夜は改めて部屋から出て行った。

 

 

 

 

「統夜」

 

 

外を散歩していた統夜の背中にフェイトの声が投げかけられる。

 

 

「…どうした?」

 

 

「…統夜…マヤさんって人は「タダの協力者で、知り合い。それ以上の関係は無いから安心しろ」うん」

 

 

実際、マヤ・ヤングには協力者で有り仲間で有ると言う感覚しかないし、恋愛感情を持つ理由も無い。

 

 

「…ねえ…統夜…。統夜はインサイザーってライダーと戦って…」

 

 

「…レンさんに助けられた…。初めて他のライダーをベントしたのは仮面ライダースピアーだな」

 

 

「そう…なんだ。統夜は辛くなかった…誰にも知られずに戦い続けて」

 

 

「辛くなかったなんて言ったら嘘になるな。辛かった…誰からも理解されずに…ゼイビアックスやモンスターだけじゃなくて、時には人も敵になったんだからな」

 

 

戦いの辛さ以上に『孤独』と言う敵が統夜達には最大の敵。それでも、地球ではレンと言う頼りになる仲間も存在していたが、ミッドチルダでは本当に意味で…孤独…。

 

 

「大丈夫。私達が…私が居るから。私は統夜の味方だから」

 

 

そんな事を考えているとフェイトの手が統夜の手を握り微笑んでそう告げる。そう、今も統夜は孤独じゃない。

 

 

「そうだな、ありがとう」

 

 

支えてくれる仲間はちゃんと居る。

 

 

(…レンさん…助けが要らないなんて思い上がったことは言わないけど…オレは戦っていける。…仲間はちゃんとここに居るからな)

 

 

心の中、月を見上げながらそう告げるのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十三話『ホテル・アグスタ』

出張任務が終わった後、統夜はフェイトに頼んでいたレン達への連絡の返事を聞いていた。

 

「そうか」

 

 

統夜がドラグブラッカーやドラグレッダーと共に行方不明になった後、レンやユーブロンと言ったライダー達が探してくれていたと言う話だ。こうして、間接的にと言う形だが統夜の無事は伝えられた。

 

 

そして、同時に宿敵ゼイビアックスの生存と言う凶報もレン達には伝えられた。

 

フェイトが何処まで管理外世界の人間であるレン達に時空管理局の事を話したかは分からないが、地球かベンタラの何処かに自分とゼイビアックスがこの世界に移動した際の痕跡は残っているはずだ。

 

ユーブロンなら必ず其処から独自にミッドチルダに移動する方法を見つけ出してくれるだろう。

 

それに、向こうは『時間は掛かるが必ず救援を送る』と言っていたそうだ。もっとも信頼できる仲間達の言葉、それが嬉しくない訳が無い、心強くない訳が無い。

 

 

「それで、統夜は…」

 

 

「ああ、ゼイビアックス製のライダーの一人を倒した。今頃はアドベント空間で休んでいるだろうな」

 

 

「そう…なんだ…」

 

 

そう言って、統夜はポケットの中から未契約状態のポイズンの物だったカードデッキを取り出してみせる。

 

 

統夜の言葉を聞いたフェイトの表情は何処か暗い物があった。無理も無いだろう、次元世界の平和を守っている筈の自分達の組織の中にゼイビアックスの手先になる様な人間が居たのだから。

 

 

なお、回収したカードデッキの所在について、はやてに相談したが、彼女の判断はゲンヤと同様に統夜に所持していてもらうと言う事で結論付けられた。

 

 

鏡面を利用して何処にでも現われるモンスター達を大量に従えているゼイビアックスが相手なのだから、下手に管理局の方でカードデッキを管理・解析していても守りきるのは不可能としかいえないだろう。

 

 

ならば、対抗できる人間である統夜の手の中に有った方が何倍も安全だろう。少なくとも、これで仮面ライダーポイズンは現れることは無い。ゼイビアックス製のライダー達の人数が11人に減った事になる。

 

 

「ねぇ、その人は何時こっちに戻ってこれるのかな?」

 

 

「奴等がこれを奪い返した時にもう一度『ポイズン』として“利用”される時だろうな」

 

 

そう、以前戦ったシェルクラブのカードデッキを回収した時と同様だ。倒した後にカードデッキを回収しておかなければ、何度でも敵のライダーは蘇る。敵の敗北のリスクは正体が知られる程度でしかない。

 

 

「あ~…事件が解決したら、向こうのライダー達はユーブロンに頼んでアドベント空間から出して貰うから、その時に罪を償わせれば良い」

 

 

「うん。事件が解決すれば、その人達も戻って来られるんだよね」

 

 

「ああ。それまでは精々アドベント空間で自分達がした事を反省していればいい」

 

 

統夜はフェイトを安心させる様にそう告げる。

 

 

「ねえ、統夜は…辛くないの?」

 

 

「…辛い、か…。最初の頃はそうだったな。…最初にライダーを…スピアーをベントした時は確かに辛かったけどな…」

 

 

そう言った後、思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

「助け出す方法が有るから、結構楽に考えてるな、最近は…」

 

 

同時にそれはゼイビアックスを永遠にアドベント空間に封印できる事にも繋がる。

 

アドベント空間はユーブロン以外には救い出す方法は持たない以上、アビスに変身したゼイビアックスを倒せば、それで全ては終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、機動六課の地球での任務と、統夜のポイズン戦から数日が過ぎた後、新しい任務について隊長陣とミーティングする。

 

 

ホテルで行われる骨董品のオークションにロストロギアが出るので、それを狙ってガジェット…リニアの時になのは達が戦っていた機械やモンスターが出るかも知れないので、警護する任務だとか…。

 

 

統夜としては、『そんな危険な物をオークションに出すな』と言いたい所だが、しっかりと安全が確認された物なので問題は無いらしい。…流石に持ち主が居た物はちゃんと返しているだろうと考えているので、その辺の追求はしなかった。持ち主が居た物を売りさばいたのなら…本気でこのまま協力して良いのか疑問に思う所だ。

 

 

そもそも、オークション自体を中止してしまえば良いのかとも思ったのだが、それは規模の大きいオークションらしく、それなりにお偉いさんも来るらしいので中止には出来ないそうだ。

 

 

「それにしても、大変だな」

 

 

現地での警護の配置を一瞥しながら改めてそう呟く。

 

 

「どうしたんや、急に」

 

 

「いや、配置だけど…」

 

 

シグナムとヴィータ、六課の数名が現地での警護を明日の夜から開始、会場の警護として一般客に紛れ込むのも兼ねて、なのは、フェイト、はやてに加えて、統夜も会場警護と言う事になった。

 

 

統夜は主にゼイビアックスのモンスターに対する警護なのだが、

 

 

「いや、こんな狭い所に高町達を配置するのは…そのお偉いさんの要望だろうからな」

 

 

「えっと、どうしてそう思うの?」

 

 

「高町も、フェイトも、戦い方は広い所の方が有利だろう? 八神の戦い方は知らないけどな…」

 

 

訓練の内容を思い出しながら、そう告げていく。砲撃型のトルクや、高機動型のウイングナイトを狭い場所で戦わせるのには理由があるだろう。

 

 

特に同じ接近戦型でもスピードを活かした戦い方のフェイトの場合は広い場所で戦った方が良いだろう。なのはの砲撃に至っては…どう考えても、護衛する側の攻撃でホテルが崩れかねないだろう。

 

 

「あはは…;」

 

 

「統夜君って、指揮官とかにも向いてるんや無い?」

 

 

「いや、ユーブロンの指揮とかを見てたら、そう思っただけなんだけどな」

 

 

「ユーブロンさんって、統夜の持ってるカードデッキを作った科学者なんだよね?」

 

 

「ああ。オレ達ライダーのリーダーであり、カードデッキの開発者でもある、天才科学者、アドベントマスター・ユーブロンだ」

 

 

何処か誇らしげにその名を告げる。天才科学者であり、一流の戦士であり、指揮官でもある人格者。…考えてみれば、はっきり言って完璧人間と言えるだろう。

 

 

「凄いんだね、ユーブロンさんって」

 

 

「世の中にはそんな凄い人も居るんやな」

 

 

「居るんだね、そう言う人も…」

 

 

「ああ、居るんだよな。そんな凄い人も…しかも、身近に」

 

 

改めてユーブロンの事を思い出す統夜と、初めて話を聞いた三人娘。揃って同じ感想を持ってしまう。…『ユーブロンって凄い』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんなやり取りが有ってから、任務当日…任務の場所となるホテル・アグスタへと向かうヘリの中ではやてが今回の任務についてフォワード陣に説明を始めていた。

 

 

「と言うのが今回の私達の任務や、みんな頼むで」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「それじゃあ、次は私からちょっとお話ね」

 

 

フェイトがそう言うとモニターの画面に紫の髪に金色の目をした男と、もう一人アビスの写真が映し出された。

 

 

「今、このレリックを狙っているのは二人、一人はこの次元犯罪者なんだけど、この前のガジェットの残骸から名前入りのプレートが出てきたんだ」

 

 

「半ば、挑発だな…態々自分の名前を書いてるなんて、自分が犯人ですって教えている様な物だろ」

 

 

「うん、私達に自分が犯人だって言っているみたい。このレリックに関わる事件の二人の容疑者の一人がこの人、違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者『ジェイル・スカリエッティ』と言う男が出てきたんだ。こっちの調査は主に私が進めてるんだけど、皆も一応覚えておいてね」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

フォワードの四人から返事が響くと今度は統夜が前に出される。もう一人のゼイビアックスについての説明をして欲しいと言う事なのだろう。

 

 

「それから、こっちの私達の協力者の統夜が戦っているゼイビアックスもこのレリックを狙っているから、こっちについては専門家の統夜に説明して貰うから」

 

 

「専門家って言われるとちょっと恥ずかしい気分だけどな。少なくとも、ゼイビアックスがどうして狙っているかは分からないけど」

 

 

フェイトに促されたゼイビアックスについての説明のお浚いを終えると、リインがモニターの前に出て、画面がアビスとスカリエッティの物から、ホテルの様な場所に切り替わる。

 

 

「シャマル先生、その四つの箱はいったい何ですか?」

 

 

一通り説明が終わると、ふとエリオがシャマルの座っている近くに四つも箱が有るのに気が付いて質問する。

 

 

「ああ、これ? 隊長達と統夜君のお仕事儀よ♪」

 

 

シャマルはエリオの問いに笑いながら答える。

 

 

「いや、オレは別に着替えなくてもドラゴンナイトに変身して鏡の向こうから警護していれば…。」

 

 

「「「「ダメだよ(やで)(よ)(なの)!」」」」

 

 

「は、はい。」

 

 

全てを言い切る前に隊長陣+シャマルの四人に『ガシッ』と肩を掴まれて言われると、反論できずに頷くしかできなかった。

 

 

そんな事をしている間にヘリは目的地である『ホテル・アグスタ』に到着する。

 

 

 

 

 

 

 

(仕事着って、やっぱりこれか…。こう動きにくいのは苦手なんだよな。変身すれば問題ないだろうけど)

 

 

ホテルに着いてシャマルから着替える様に言われて渡された服に着替えると、しっかりとしたスーツ姿だ。

 

生身でもレッドミニオンと戦える様に鍛えてから、どうも動き易い…戦い易い服装を好む傾向にある統夜としては戦い難いスーツ姿は苦手なのだが、しっかりとスーツを着こなしている。

 

 

確認する様に内ポケットの中に手を伸ばすと、ドラゴンナイトのデッキとオニキスのデッキの感触が有る。

 

 

オークションに来る人達は正装なので、それに紛れての警備と言う事で統夜もまたこの服装だ。その立ち振る舞いはそんな場所でも浮くことは無い程度には出来ているだろうと言うのは、本人の弁だ。

 

 

「統夜君、お待たせや~」

 

 

「いや、オレもそんなに待って…」

 

 

統夜が壁に背を預けて待っていると、はやての声が聞こえて来る。

 

統夜はそちらの方に視線を向けて思わず固まってしまう、其処にはドレスを着て綺麗に着飾ったなのは、はやて、フェイトの三人の姿があった。

 

 

「どや、感想は?」

 

 

「フェイトちゃん、綺麗でしょ?」

 

 

なのはとはやての二人がフェイトを統夜に見せ付ける様に前に出す。

 

 

「あ、ああ…綺麗だ」

 

 

「あ…あう…。…ありがとう…統夜」

 

 

真っ赤にした顔を俯かせながら、正直な意見を答えるとフェイトも顔を赤くして俯く。

 

 

「ほんなら、はよ受付にいこか」

 

 

「そうだな」

 

 

受付に行こうと歩き出した時、フェイトがバランスを崩して倒れそうになり、それを統夜が受け止める。

 

 

「あっ」

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「…うん」

 

 

(…幸い、周りに敵は居ないか…。このまま無事に過ぎてくれれば良いんだけどな…)

 

 

何故か何時もよりも強くそう思う。

 

 

「こう言う場では、男性は女性をエスコートせなあかんのやで、統夜君」

 

 

「…男一人のこの状況で言うか?」

 

 

フェイトを立たせるとからかう様な響きで告げられるはやての言葉を横目で睨むことで返す。

 

 

「少なくても、統夜君とフェイトちゃんって両親に紹介した仲やないんか?」

 

 

「あれは伝言頼んだだけだろう。大体、紹介って言っても電話越しだろが」

 

 

「結局、フェイトちゃんへの告白も保留にしてるみたいやし」

 

 

「ちょ、ちょっと、どうして知ってるの!?」

 

 

思わず以前に告白された時の一件を思い出して顔を赤くしてしまう統夜と、慌てるフェイト、それを苦笑を浮かべながら落ち着かせているなのはの姿。

 

 

(…こんな時間も…悪くないよな)

 

 

十年ぶりの僅かな時間だけの知り合い達…過ごした時間もベンタラや地球の仲間達とは比べ物にならない程に短い。だけど…統夜は、

 

 

(…もう少しだけ、こんな時間を過ごしていたいな…)

 

 

そんな時間を、良いと思っている自分が居る事を無自覚の中で…感じ取っていた。

 

 

 

だが、この場で行われるのは、悪魔に使える二人の騎士との出会い。

 

 

 

 

 

平和な時間は過ぎ去り、直にライダー同士の決闘の場へと変わるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっ…。見つけたぞ。行け、仮面ライダーブレード!」

 

 

「ハッ!」

 

 

仮面ライダーブレードはアビスの言葉にそう言って姿を消す。

 

 

アビスの視線の先に映っているのは…ローブのようなものを羽織っている男性と紫色の髪の少女と言う親子の様にも見える取り合わせの二人だった。

 

 

「強力なライダーに優れた一流の戦士と言える装着者。彼ならドラゴンナイトを倒せるだろう。これが私の手の中にある限りは」

 

 

そう言って一つのトランクをレッドミニオン達に運ばせると、そのトランクを開き、その中の物を持ち出し、アビスはそれを握り締めながら運ばせていたレッドミニオン達へと向けると、レッドミニオン達は白いヤゴのような姿のモンスター『ホワイトミニオン』へとその姿を変える。

 

 

「フッフッフッ…先ずは成功と言った所かな?」

 

 

新たに誕生させた三体のホワイトミニオンの中の一体が崩れ落ちるように倒れると背中が我、その中から青い体色のモンスター『ブルーミニオン』が姿を現し、何対かのブルーミニオンは更に脱皮する事で蜻蛉型のモンスター『レイドラグーン』へと姿を変え、ホワイトミニオン達を従えてアビスの眼前から立ち去っていく。

 

 

「中々他にも利用価値があるじゃないか…このレリックとか言う物も…。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話『ドラゴンナイツ』

ホテルから僅かに放れた森の中、アビスの見ていたモニターに映っていたローブの様な物を纏っている大柄の男性と、薄い紫の髪の少女の姿があった。

 

その二人の前に通信用のモニターが現れる。

 

 

『ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア』

 

 

通信に映った人物は機動六課が追っている犯人の『ジェイル・スカリエッティ』。

 

 

「ごきげんんよう」

 

 

「何の用だ?」

 

 

ルーテシアと呼ばれた少女が挨拶を返して、ゼストと呼ばれた男が素っ気無く要件を求める。それが二人のスカリエッティに対する感情の温度差を物語っていた。

 

 

『冷たいねえ。近くで状況を見ているんだろ? あのホテルにレリックは無さそうだが、実験材料として興味深い骨董が一つ有ってね。少し協力してくれないか? 君達なら実に造作も無い事の筈なんだが…』

 

 

「断る。レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めた筈だ」

 

 

スカリエッティの言葉をゼストと呼ばれた男は即答で断る。直も言葉を続けようとした瞬間、彼等の元に近づいてくる足音に気が付き、そちらの方へと視線を向けると、

 

 

「お前は?」

 

 

『最近、現われているモンスター達と…仮面の戦士か?』

 

 

自身のアドベントビースト三体を従えたブレードがその姿を現す。そして、ブレードの前に、丁度ゼスト達とブレード達の間に通信用のモニターが現れる。

 

 

『やあ、始めまして。ミスター・ジェイルとミスター・ゼスト、それから、そちらのお嬢さんはミス・ルーテシアで良かったかな?』

 

 

そのモニターに映った顔は統夜達が知っている人間に化けたゼイビアックスの顔の一つだった。

 

 

「貴様、何者だ?」

 

 

『これは失礼、自己紹介が遅れてしまって申し訳ない。私はゼイビアックス将軍。彼は私の忠実な部下…仮面ライダーブレードだ』

 

 

自分達の名前を知っているゼイビアックスに対して警戒を露にするゼストと呼ばれた男だが、ゼイビアックスは自身の名を名乗る。

 

 

『ゼイビアックス? 確か、管理局では異世界から来た宇宙人エイリアンと言う事になっていたね』

 

 

『おお、これはこれは、かの有名なジェイル・スカリエッティ博士に知っていて頂けるとは光栄だね。君の作った玩具は中々面白くてね…私のライダー達の追加装備として使わせて貰っているよ』

 

 

『やれやれ、大した物ではないとは言え勝手に使われるのは良い気分がしないね』

 

 

『ハッハッハッ…これは失礼。何れそちらにお礼に伺おう。ところで、ミスター・ゼスト、ミス・ルーテシア、君達に一つお願いがあるのだが』

 

 

「断る」

 

 

スカリエッティとの会話を終えると、ゼストと呼ばれた男に話を振るが、要件も聞かずに断られる。

 

 

『酷いな、君達に対するプレゼントと報酬も用意していると言うのに…』

 

 

「断ると…それは!?」

 

 

通信の映像の中に映し出されるゼイビアックスの持っている宝石を見て、

 

 

『そう、君達の欲しがっている『レリック』だ。此方でも幾つか回収して、中々使えるエネルギー源として活用させてもらっているんだが…聞けば、君達もこれを欲しがっているそうじゃないか?』

 

 

「…何が望みだ?」

 

 

『おお、要件を聞いてくれる気になったんだね。用意した甲斐が有ったよ。なに、簡単な仕事だ』

 

 

ゼイビアックスの言葉に合わせてブレードがゼストにそれを投げ渡す。

 

 

「これは?」

 

 

『それがプレゼントの仕事道具だ。ブレード君やトウヤ・タツキ君が使っている仮面ライダーに変身する為のアイテムだ』

 

 

『ほう!』

 

 

ゼストへと渡された無地のカードデッキをスカリエッティが興味深げに眺める。

 

 

『ユーブロンと言う我々を裏切った天才科学者が開発した仮面ライダー。手元に有るのは全て私が作り出した物はコピーだが、私なりの改良を加えてある。変身する者の能力次第ならオリジナルのライダー達にも勝てるだろうね。其処にいるブレード君の様にね』

 

 

ゼイビアックスの言葉にブレードに対して警戒を露にするが、ブレードは直も武器も構えず立っている。

 

 

『使い方は簡単、それを持って鏡面に触れれば我々の活動する世界、君達仮面ライダーの戦場は居る事が出来る。但し、気を付けてくれたまえ、そのチケットは何人連れて入っても良くて期間は無期限に有効だが、再発行は出来ないからね』

 

 

そう言ってゼイビアックスは愉快そうに笑いながら、仕事の内容を告げる。

 

 

『仕事は簡単だ。別に他の者とは違って君に侵略者である私に協力しろ等とは言わないよ。どうせ協力などしてくれないだろうからね』

 

 

笑いながらそう告げると、ゼイビアックスはゼストへの要求を口にする。

 

 

『実は、君に手に入れてもらいたい物が有るんだ』

 

 

「手に入れたい物だと?」

 

 

『そう! 私の宿敵…仮面ライダードラゴンナイト、トウヤ・タツキ君の持つカードデッキだ!』

 

 

「付け加えるなら、向こうもタダでカードデッキを渡す訳が無い。ベントして奪い取れと言う事だ」

 

 

ゼイビアックスの言葉に補足する様に初めてブレードが初めて口を開く。

 

 

『ベントとは、ライダーにある最終安全装置だ。一定のダメージを受けると使用者の生命の安全の為にカードデッキを残してアドベント空間と言う場所に転送されるのだよ。だから、相手を殺してしまう心配は無い』

 

 

そう言ってゼストの持つカードデッキを指差す。

 

 

『まあ、私も君に直に決断してくれとは言わないよ、ミスター・ゼスト。今回は其処に居るブレード君とトウヤ君が戦うから二人の戦いを見て決断してもらいたい』

 

 

「…………」

 

 

ブレードはゼイビアックスの言葉に応え無言で一礼する。

 

 

『トウヤ・タツキ君のカードデッキを私の持つレリックと交換しよう。自信が無いのなら止めて貰っても構わない。他の人間に声を掛けるだけなのだからね。ああ、そのカードデッキは君の返答に関わらず持っていて貰って構わない、プレゼントを返せと言うほど私は心が狭くないからね。だが、このレリックは私が使わせてもらおう』

 

 

『ほう、レリックを何に使う心算なのか是非教えてもらいたいね』

 

 

『色々だよ、ミスター・スカリエッティ。一つは…こう言う事だ』

 

 

そう言ってモニターに映る映像がゼイビアックスからレッドミニオンに変わり、レリックのエネルギーを受けたレッドミニオンがホワイトミニオンに、ホワイトミニオンがブルーミニオンに脱皮する瞬間が映し出される。

 

 

まだ最下層のレッドミニオンが多い雑兵だけとは言え、無数にモンスター達の存在するその光景に思わず絶句してしまう。

 

 

『それでは、吉報を待っているよ。それでは、ミスター・スカリエッティ、その内にそちらに伺おう』

 

 

ゼイビアックスの言葉が終わりモニターが消えるとガルドサンダー達を引き連れてブレードは、

 

 

「そちらが動く時にあわせてオレもドラゴンナイトと戦う。将軍に協力するのなら、見に来れば良い。お前が倒す相手の力を知る意味でもな」

 

 

それだけ言い残し、その場から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレードとゼスト達が接触した頃、外ではフォワード達やシグナム達ヴォルケンリッターとガジェットとの戦闘が始まった。そして、それに合わせる様にホテルの中では出現したモンスター達によって、オークションの会場ではモンスターの出現によって悲鳴が上がっていた。

 

 

「ふっ!!!」

 

 

バリアジャケットの姿でレッドミニオン達と応戦しながら避難誘導するなのは達を助けながら、統夜はレッドミニオンの一体を殴り飛ばし、ある者は蹴り飛ばし、一体一体仕留めていっている。だが、最下級の雑兵レッドミニオン達とは言え、流石に変身もせずに統夜一人で全員を相手にするのは辛い物がある。

 

 

「統夜、これって」

 

 

「ガジェットだけじゃない、ゼイビアックスも此処を狙ってきたって訳だ」

 

 

以前のギンガの時の事を思い出すと、迂闊に鏡の中に飛び込んでモンスターと戦う事は出来ない。

 

 

付け加えるなら、今は彼女達の魔力による攻撃は中々決定打を与えられていない。そんな状態では余計に統夜が此処から離れる訳には行かないだろう。

 

 

(チッ! 仕方ないか…)

 

 

統夜は近くに有る鏡面を確認すると、ドラゴンナイトのカードデッキから一枚のカードを抜き出し、

 

 

「来てくれ、相棒ドラグレッダー!!!」

 

 

鏡面からドラグレッダーが現われる様に指示を出し、レッドミリオン達の相手を任せる。

 

 

「統夜君、その子を呼び出しちゃ…」

 

 

「炎は吐かない様に注意してる。フェイト!」

 

 

そう言ってドラグレッダーの契約のカードをドラゴンナイトのデッキに戻すと、それをフェイトに投げ渡す。

 

 

「これって、統夜の!」

 

 

「それを持って居ればドラグレッダーは指示に従う。此処はオレに任せて会場の人達を避難させろ!」

 

 

「で、でも、それじやあ統夜君は武器も無いのに、どうするんや!?」

 

 

はやての言葉に統夜は彼女達に視線を向けずに、レッドミニオン達に向けて構えを取りながら、

 

 

「こいつら程度なら…素手で十分だ! ハッ! 良いから行け、オレが心配なら、避難させて外を片付けて早く戻ってきてくれ!」

 

 

回し蹴りでレッドミニオンを倒して告げると、早く行く様に促す。

 

 

「う、うん!」

 

 

「直に戻ってくるから、統夜も気を着けて!」

 

 

「無茶したらあかんで、統夜君!」

 

 

そう言ってドラグレッダーを護衛につけたなのは達を見送ると、ポケットの中からオニキスのデッキを取り出し…レッドミニオン達に向かって笑みを浮かべる。

 

 

「さて…フェイト達にはああ言ったけど、オニキスになるのも久しぶりだな…」

 

 

正面に向けたカードデッキから光が奔り、Vバックルが出現する。

 

 

「行くぜ…KAMEN RIDER!」

 

 

黒い光が統夜を包み、その姿をもう一つのドラゴンナイト。最も新しい13番目の仮面ライダー、漆黒のドラゴンを従えし闇の龍騎士、『仮面ライダーオニキス』へと変える。

 

 

ドラグセイバーを召喚してレッドミニオン達の中に切りかかると、的確に攻撃の際には相手を鏡面へとぶつけられる様に仕掛ける。

 

 

会場に現われていたレッドミニオン達を消滅、または鏡の向こうへと追い返した事を確認するとオニキスはそのまま鏡の向こう側の世界へと飛び込んでいく。

 

 

 

 

 

「ここは…?」

 

 

パーティー会場から飛び込んだ先に有ったのは地下駐車場の様な場所だった。

 

 

そして、オニキスを囲むようにホワイトミニオン達とブルーミニオンが現われる。

 

 

「!? こいつ等まで!?」

 

 

レッドミニオンの上位種のモンスター達の存在を確認して思わずそう叫んでしまう。だが、ある意味ではそれにも無理は無いだろう。

 

 

だが、オニキスを囲む様に現われたモンスター達は攻撃を仕掛けずに遠くからオニキスを監察しているだけに見えた。

 

 

(こいつ等、どう言う心算だ?)

 

 

そんな事を考えていると何処からか足音が聞こえてくる。それに気が付いてオニキスがそちらへと視線を向けると、ホワイトミニオン達の囲みが其処だけ開き、その中から一人の仮面ライダーが現われる。

 

 

「なっ!?」

 

 

赤と金…何処かドラゴンナイトをイメージさせる色を持ち、鳳凰と侍をイメージさせる意匠だが、その姿は…見間違える訳が無い。

 

 

「…ウイングナイト…レン…さん?」

 

 

そんな筈が無いと言うのに思わずそう呟いてしまう。日本刀型の武器を背中の鞘から抜き取り、

 

 

「なるほどな、トウヤ、お前はドラゴンナイトじゃなくてオニキスに変身したのか?」

 

 

「…名前くらい名乗ったらどうだ…ゼイビアックスのライダー」

 

 

その態度はポイズンよりはマシだが、ウイングナイト…統夜と初めて出会ったベンタラの戦士であり、最後まで共に戦い続けた仲間、誇り高きベンタラの戦士と同じ姿をした者がゼイビアックスに従っていると言う事実は必要以上に彼を苛立たせてしまう。

 

 

「それはすまなかったな。オレは『仮面ライダーブレード』。将軍の忠実なる僕だ」

 

 

「…その姿で…その言葉を吐くな!!!」

 

 

苛立ちを含んだ叫び声と共にオニキスはブレードへと切りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルの外…

 

 

(証明するんだ!)

 

 

ホテルの中にモンスター達が出現した事の報告を受けて焦りを見せた様子でガジェットの群と戦っていたフォワード陣と副隊長陣の中、ティアナは魔法陣を展開する。

 

 

(特別な才能や、凄い魔力や、特別な武器が無くたって…。)

 

 

彼女のデバイス『クロスミラージュ』がカートリッジをロードする度にティアナの周りには大量の魔力弾が出現する。

 

 

「私は……ランスターの弾丸は、ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって!」

 

 

『無茶だ』と言う警告の声に『撃てます!』と返し、クロスミラージュも同意する。ティアナはクロスミラージュを構え、

 

 

「クロスファイヤー…シューット!!!」

 

 

彼女は一斉に魔力弾を放ち次々とガジェットを打ち抜いていく。

 

 

だが、偶然にもその中の一つの斜線軸にガジェットに突き飛ばされたスバルが入ってしまう。

 

 

それに気付いた時には既に時は既に遅かった。

 

 

彼女が声を上げるよりも早く、それはスバルに直撃するはずだった。

 

 

 

だが、

 

 

 

「だ、誰…?」

 

 

周囲のガジェットを破壊し、スバルを庇った影は…

 

 

「統夜さんに似てるけど…。」

 

 

ドラゴンナイトと同じ姿をした緑、青、紫の三人の騎士、その中の一人、青いドラゴンナイトが盾を構えてスバルを庇っていたのだ。

 

 

三人の騎士達は頷き会い、それぞれがガジェットと戦いながら鏡面世界へと消えて行った。

 

 

「バカ野郎!!!」

 

 

三色の騎士達の存在に呆然としていたスバルとティアナだったが、駆けつけたヴィータの叱責で正気に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十五話『黒龍VS鳳凰』

オニキスはドラグセイバーを、ブレードは日本刀型のカードリーダー『ガルドバイザー』を抜き、互いに相手を牽制する様にゆっくりと距離を詰めていく。

 

ドラクセイバーを握るオニキスの手に自然と力が篭るのは仕方が無い事だろう。その姿形がウイングナイトに似ているだけに、そんな相手がゼイビアックスの忠実な部下になっていると言う状況が余計にオニキス…統夜を苛立たせる。

 

 

「ハァ!」

 

 

「フッ!」

 

 

オニキスの振り下ろすドラグセイバーをブレードがガルドバイザーで受け止め、鍔迫り合いと言う状況なるが、

 

 

「甘いぞ!」

 

 

「ガッ!!!」

 

 

力任せに切り結んでいたオニキスの腹にそれを受け止めていたブレードがキックを打ち込み、オニキスを吹き飛ばす形で距離を取ると、ブレードはカードデッキから新たなカードを抜き取り、ガルドバイザーに装填する。

 

 

 

SHOOT(シュート) VENT(ベント)

 

 

 

「ッ!? こいつらは!?」

 

 

電子音と共にブレードのアドベントビーストである三体の鳳凰型モンスター、ガルドサンダー、ガルドストーム、ガルドミラージュが同時に召喚され、オニキスへと向かって一斉に羽根手裏剣を放つ。

 

 

「くっ!」

 

 

 

GUARD(ガード) VENT(ベント)

 

 

 

それに対して両手にオニキスはドラグシールドを構えガルドサンダー達の羽根手裏剣の一斉射撃を防ぐが、

 

 

 

ACCEL(アクセル) VENT(ベント)

 

 

 

次に電子音が響いた瞬間、ブレードの姿が掻き消えオニキスの体が弾き飛ばされる。

 

 

「っ!? …高速移動かよ…。そこだ!?」

 

 

追撃を行おうとしたブレードに対してオニキスは相手の動きを理解し、振り返りながらドラグセイバーを構え追撃で放たれたブレードの斬撃を受け止める。

 

 

「なんだと!?」

 

 

「悪いけどなぁ、お前は、ユーブロンやレンさんに比べれば…弱い!」

 

 

高速での攻撃を受け止められた事に驚愕するブレードに対してオニキスは事も無げにそう言い返す。

 

今まではブレードの姿形に捕らわれて冷静さを欠いていたが、戦い続けている間にオニキスは冷静さを取り戻し始めていた。

 

だからこそ…表面(・・)だけウイングナイトを真似ているだけのブレードの動きも読みやすい。

 

 

所詮は真似…本物のレンの…ウイングナイトの背中を見てきた統夜に対しては一時的に冷静さを失わせる程度の嫌がらせレベルを出ることは無い。

 

 

「どう言う。「アクセルベントのカードはユーブロンが使うカードだ。」ッ!?」

 

 

ドラグセイバーを握る力を緩め、態と弾かせるとそのまま相手の懐に入り込み、ブレードの仮面にパンチを打ち込む。

 

 

「ガッ!!!」

 

 

「オレは今まで()()に鍛えられてきたって思ってる?」

 

 

ブレードの体が弾かれた瞬間、オニキスは弾かれたドラグセイバーを回収してブラックドラグバイザーを開き、カードを装填する。

 

 

「トウヤ・タツキ!!!」

 

 

「ブレードって言ったか、レンさんの演技マネが崩れてるぜ!」

 

 

「遊びウイングナイトごっこは終わりだ!!!」

 

 

「それは良かった!!!」

 

 

 

STRIKE(ストライク) VENT(ベント)

STRIKE(ストライク) VENT(ベント)

 

 

 

二枚のカードが装填され、同じ電子音が響くとブレードの元に斧ガルドアックスと圏ガルドチャクラムを召喚される。

 

 

「ハッ!!!」

 

 

チャクラムをオニキスに向けて投げ付け、それを追う形でガルドアックスを構えたブレードがオニキスへと向かう。

 

 

装備していたドラグシールドを投げつけてチャクラムを打ち落とし、その影に隠れる様にして近づいたブレードの打ち下ろすガルドアックスを後に跳ぶ事で避ける。

 

 

 

SWING(スウィング) VENT(ベント)

 

 

 

次いで響いた電子音と共に現われた鞭ガルドウィップをブレードが振ると、掠った部分の装甲が削られる。

 

 

「ッチ!(やっぱり、ユーブロン製と違って凶悪だな)」

 

 

今までの相手が弱い部類に入るシェルクラブ、特殊能力に特化したポイズンと戦って来て、直接的な戦闘能力に特化したライダーと戦うのはこれが初めてだが、改めてゼイビアックス製ライダーの攻撃用のカードの持つ攻撃力はやはりユーブロン製に比べて高くなっている事が理解できた。

 

 

「これで終わりだ…ベントさせて貰うぞ、トウヤ・タツキ!!!」

 

 

 

FINAL(ファイナル) VENT(ベント)

 

 

 

響き渡るのはライダーの必殺の一撃を発動させるカードの電子音、それに合わせて出現したガルドサンダーの全身が炎に包まれ火の鳥となる。

 

 

ブレードがゆっくりとガルドバイザーの刃に指を這わせ、ガルドサンダーの火炎弾が打ち出されているオニキスへと向かっていく。

 

 

 

FINAL(ファイナル) VENT(ベント)

 

 

 

ブレードのファイナルベントが完全に発動する前にブラックドラグバイザーがスライドし、予め装填されていたカードを発動させるとオニキスの背後に彼のアドベントビースト・ドラグブラッカーが召喚され、ガルドサンダーの火炎弾から守る様に彼を包む漆黒の炎に包まれながらゆっくり空中に浮んでいく。

 

 

そして、ドラグブラッカーを背中に背負いながら飛び蹴りの体勢を取るとブレードに向かってオニキスのファイナルベント『ドラゴンライダーキック』が打ち出される。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

 

 

ぶつかり合うのはブレードのファイナルベント『フェニックスブレイク』とオニキスのドラゴンライダーキック。二人のライダー達はそのまま必殺技同士の激突によって巻き起こった衝撃と共に弾かれる。

 

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」」

 

 

地面に叩きつけられる二人のライダー。運良く互いにベントに繋がるほどのダメージには至っていなかったが、それでも二人のライダーが受けたダメージは大きい。

 

 

何より、ゼイビアックス側のブレードと違い、オニキスは他にも周りを囲んでいる雑兵達の相手をしなければならない。

 

 

「貴様…よくも、よくも、よくもぉ!!!」

 

 

立ち上がりながら憎悪を込めてオニキスを睨みつけるそんな叫びを上げ、ブレードが新たなカードを抜き出した瞬間、金色の炎が出現した瞬間…

 

 

「ッ!? 分かりました…将軍」

 

 

何時の間にか現われたアビスマッシャーの放った水流がブレードの手から『使うな』とでも警告する様に“そのカード”を弾いた事でブレードは冷静さを取り戻す。

 

 

そして、ブレードは弾かれたカードを拾い上げ、奥歯を噛み締め、オニキスを睨み付けながら、

 

 

「トウヤァ…トウヤ・タツキィィイ!!! 貴様は、貴様だけは、必ずだ! 必ずオレが殺す!!!」

 

 

そう宣言し、ブレードは己のアドベントビースト達を引き連れてその場から立ち去っていく。

 

 

「ハァ…ハァ…。(それにしても…さっきの感覚は…)」

 

 

オニキスはブレードの後姿を眺めながら妙な違和感を覚える。その違和感の正体には至らないが、ブレードの存在は妙な不気味さを覚えてしまう。そして、ブレード達の姿が消えると取り囲んでいたモンスター達が一斉にオニキスへと襲い掛かって来た。

 

 

「ッ!?」

 

 

流石にライダーとの戦いに続いての連戦は勘弁して欲しかったが、素早くドラグセイバーを振るいながら、ホワイトミニオン達とブルーミニオン達を一箇所に集め、カードデッキから抜き取ったカードをブラックドラグバイザーに装填し、

 

 

 

STRIKE(ストライク) VENT(ベント)

 

 

 

ドラグクローを召喚し、背後にアドベントビースト・ドラグブラッカーを出現させる。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

 

ドラグクローの模したドラグブラッカーの口に炎が集まると同時にドラグブラッカーの口にも炎が集まっていく、

 

 

「はぁ!!!」

 

 

打ち出された二つの炎、『ドラグクローファイヤー』がモンスター達を飲み込み爆散、消滅させた。

 

 

「ったく、ライダーと戦った後の連戦は勘弁して欲しいな…」

 

 

息を整えながら周辺に他のモンスターが居ない事を確認するとオニキスは外の様子を見て来るべきかとも思案する。

 

 

(…止めて置くか…。下手にオニキスの事を知られない方が良さそうだからな…)

 

 

今の所、統夜は協力者として自由に動ける立場では有るが将来的にはどうなるかは分からない。将来的に行動に制限を付けられる危険も無い訳ではない。それを考えると、オニキスのデッキの存在は隠しておくに越した事は無い。オニキスの存在を隠して置けばドラゴンナイトで動けないとしても、オニキスとして自由に行動出来る様にだ。

 

 

…もっとも、六課以外の場所で戦えと言われたら、迷わず逃げさせて貰う心算だが…。

 

 

…鏡面を通じて他の世界に移動できる以上、統夜が本気で逃げようと思えば捕まえる事は不可能に近いだろう。

 

 

そう決めると、オニキスは飛び込んだ鏡面を探してそこに飛び込んで、現実世界へと帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、ミスター…いや、騎士ゼストと呼んだ方が良いかな? そのシステムは気に入ってくれたかな?」

 

 

鏡の向こう側の世界、ブレードとオニキスが戦った場所の近くでブランク体に変身したゼストとアビスが対峙していた。

 

 

「貴様は、ゼイビアックスか?」

 

 

「今はアビスと呼んで貰いたいね。どうだい、心は決まったかな?」

 

 

「………」

 

 

ゼストはゼイビアックスの言葉に無言で返す。

 

 

「おっと、その姿はブランク体と言うんだが、ライダーとして最も能力が発揮できない姿だ。本来の力を持ったライダーである私と戦った所で今のままでは万に一つの勝ち目も無いよ」

 

 

嘲笑うような響きを持って説明するとアビスは言葉を続ける。

 

 

「まあ、私は構わないよ、君がどんな選択をしようがね。それは君にプレゼントした物だからね」

 

 

そう言ってアビスはカブトムシのようなモンスターを呼び出す。それに対してゼストは警戒するが、現われたモンスターはそれに反応することは無い。

 

 

「契約のカードを出したまえ、そのシステムを今から“完成”させよう」

 

 

その言葉に従い一枚のカードを取り出すと、そのカードにモンスターと同じ絵柄が現われ、ゼストの変身したライダーの装甲がカブトムシを模した青紫色に染まった物に変わり、カードデッキにカブトムシを象った紋章が浮かび上がる。

 

 

仮面ライダートラストに似たカブトムシを重装甲の青紫のアーマーを纏い、手の中には槍型のカードリーダー。それは新たなゼイビアックス製の仮面ライダーが誕生した瞬間だった。

 

 

「これも君に預けておこう」

 

 

そう言って投げ渡されるのはポイズンの契約のカード。

 

 

「『ボルトビートル』、ポイズンスコルピオと契約したライダー。名付けるべき名前は君に任せるよ、騎士ゼスト」

 

 

そう言ってアビスはライダーとなったゼストの前から立ち去っていく。

 

 

そして、アビスは立ち去りながら、仮面に包まれた顔からは真意は掴めないが何処からか紋章の刻まれていない紫色のカードデッキを取り出し、それを一瞥する。

 

 

(…やはり強力な手駒はブレード君以外にも一つでも多い方が良いか。ユーブロンやベンタラのライダー達の目を盗むのは難しいが、彼を呼ぶのにはそれだけの手間を掛ける価値は有る)

 

 

そう考えるゼイビアックスの脳裏にはかつての戦いで己の配下として最後まで統夜とレンを苦しめた男…JTCの顔が浮んでいた。手元に残っているのはストライクをベースとした未契約のカードデッキ、それは運命の様に感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

統夜がブレードに対して妙な感覚を覚えながらも一応の勝利を得た後、ホテルに戻ると幸いにもホテルの中には他にモンスターも出現せず、遅れはしたが危険は無くなった為会場こそ変更になったがオークションは開催された。

 

 

統夜は壁に背中を預けながらドラグレッダーとドラグブラッカーの二体にゼイビアックスの配下のモンスターの動きを警戒させていたが…。

 

 

(…動きは無い、出現した連中は全部居なくなったか…。…妙だな…)

 

 

フェイトに預けたドラゴンナイトのデッキを返してもらう時に詳しい話しを聞いたが、観客達を避難させたがそれ以降モンスター達は現われ無かったと言う話だ。

 

 

(最初から狙いはオレだったって訳か…?)

 

 

今回のモンスターの動きは明らかに統夜を誘い出す為に動いていた様にも受け取れる。それを総合して考えると………ブレードと言う仮面ライダーと自分を戦わせる事が目的だったと推測できる。

 

 

(…まったく…今回はオレが原因で襲撃されたって訳かよ…)

 

 

はっきり言って統夜には、自分がゼイビアックスから恨まれていると言う自覚は幾らでも有る。

 

 

(…それにドラゴンナイトに似たライダーか…。オレは外に出なかったし…それが三人も…)

 

 

だが、それよりも気になるのは…外で行われていたガジェットとの戦闘の結果の報告の時に聞いた…ドラゴンナイトに似た三人のライダー達の事だ。

 

 

向こうからの接触を待つ必要は有るが、それでも下手な判断を下せない相手だ。…ゼイビアックス製のライダー達がベンタラのライダー達をモデルとしている以上、敵だとしても不思議は無いが…ドラゴンナイトタイプばかりをそれ程量産するとは考え辛い。

 

 

 

「では、ここで品物の鑑定と解説を行って下さいます、若き考古学者をご紹介したいと思います」

 

 

 

統夜が一人今回の一件の事を考えていると、司会の紹介と共にステージにメガネをかけた好青年と言う印象を与える男が現われる。それと同時にドラグレッダーが反応を示した。

 

 

ドラグレッダー達の反応は敵意ではなく、どちらかと言うと仲間が近づいている事を教えている感覚。

 

 

 

「ミッドチルダ考古学会の学士であり、かの無限書庫の司書長、『ユーノ・スクライア』先生です!」

 

 

 

司会の紹介を聞きながら、ドラグレッダー達の反応を気にして周囲に視線を向けると統夜は微かに数体のモンスターの影を見た。

 

 

(…ユーブロンが言ってた援軍なのか…?)

 

 

流石に全体の1/12程度の戦力にはなっているとは思っている自分が居ない状況で、ゼイビアックスが生きているとは言え、地球とベンタラを守る為の戦いが続いている他のライダー達を直にミッドチルダに送ってくるとは考えられない。

 

 

だとすれば、先ほど見たドラグレッダー達が敵意を向けていないモンスターは自分も知らない新型のライダーシステムに対応したアドベントビーストと考えられる。

 

 

そんな事を考えながら、心の中で溜息を吐きながら天井を見上げる。悩む事は有ったが、何時の間にか考えるのは自分の役割では無くなっていた。

 

 

(…まあ、暫くはこのまま現状維持しかないか。それにしても…)

 

 

ふと、思い出すのは外の様子を聞いた時の未確認の新しいライダー達が現われた時に起きてしまったティアナの誤射の事。

 

 

(一度話くらいはしておいてやるか…)

 

 

彼女から感じられた焦りの感情…統夜自身もそれを抱いた経験がある。当然だろう…彼の前に居た、師であり戦友でもあるレンは何年もライダーとしての訓練を受けた戦士…普通の学生だった統夜が簡単に追いつける相手ではない。

 

だからこそ、レンにライダーとして一人前と認められた時は心から嬉しかった。

 

……本人曰く、『まだまだ未熟者のインサイザーに次ぐ弱さのライダー』らしいが。

 

 

それに、隊長陣が居ない場合、フォワード陣の中核となるのがティアナだ。疲労や焦りはエースを凡百に貶める。特に指揮官の役割を担う人間の場合のそれは下手をすれば最悪の事態…全滅に繋がる危険を孕んでいる。

 

 

統夜自身も鍛えられる際にはユーブロンから休む事の重要性を何度も注意されていたので、休める時はしっかりと休む事にしているから理解しているが、一度夜中に彼女が自主トレをしている所を見た時…それは一目でオーバーワークだと分かった。

 

 

(って、こう言うケアは隊長の仕事か…)

 

 

どう考えても、それをするべきなのは上司でも有り教官でもあるなのはだ。自分がそれをするのは問題が有ると考えて一度話すだけに留めて置こうと考える。責任を全部押し付けるともいえるが。

 

………………………後にこの判断を悔やむ事になるのだが、今の統夜がそれを知る事は無かった。

 

 

そう結論付け先ほど戦ったブレードの最後に使おうとしたカードの事へと思考を向けようとした時、

 

 

「ッ?」

 

 

何処からか視線が向けられている事を感じ取り、視線の主の居るであろう方向へと注意を向けようとした時、

 

 

「………」

 

 

何処か不満げな表情で統夜を見ているフェイトさんの姿が目に映りました。考えてみれば、オークションが始まってからずっとこうしているのだから…。

 

 

「あー…フェイト…」

 

 

「エスコート、してくれるよね、統夜?」

 

 

「…分かりました、お嬢さん」

 

 

今まで放っておいたのが不満だったのだろう。不満げな表情が消えて嬉しそうなものが浮ぶ。

 

 

(…考える事は多いけど、まあ今はこの瞬間を楽しもうか…)

 

 

フェイトの手を取りながら、こうしている時間も悪くないと思う統夜だった。

 

 

 

 

 

 



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第十六話『心の壁と心の溝』

六課の隊社の屋上、そこで一人でも出来る基礎的な訓練を行った後、ドラゴンナイトのデッキを手に取りながら統夜は目を閉じて横になっていた。

 

「…やっぱり勝てないか…」

 

 

目を開けると空を見上げたままそう呟く。体を動かした後の休息を兼ねてイメージトレーニングをしていた所だ。その相手に選んだのは過去に戦った“地球”の仮面ライダーストライク、JTC…本名『ジェームズ・トレードモア』。冷静沈着かつ狡猾で有りながら残忍かつ好戦的な男。

 

はっきり言ってベンタラのストライク、『プライス』とは正反対の人物像だ。似ているのは実力くらい(外見も似ているが、地球とベンタラの関係を考えると当然と言えるのであえてノーメント)だろうか?

 

 

ゼイビアックスからカードデッキを渡された地球のライダー達の中ではゼイビアックスの最も忠実な部下だった男。その実力は地球で選ばれたライダー達の中でも間違いなく最強と言って良いだろう。

 

実際、仮面ライダーラスの力を借りてモンスターを強化したとは言え、レンもウイングナイトのサバイブモードを使って勝利ベントできた相手だ。統夜もイメージの中では兎も角現実では二度と戦いたくないと心から思っている相手でもある。

 

 

だからこそ、強力な敵としてイメージトレーニングの中で戦う相手としては最適なのだがイメージの上でさえ何度戦っても勝ちが無い。…もっとも切り札であるサバイブモードを使えば話は別になるが。

 

 

「…今のままじゃ力が足りないって言うのにな…」

 

 

ゼイビアックス製のライダー達はシステムとしては強力だが、ライダーとしてはまだ素人だ。今の所誰を相手にしたとしても負ける気はしない。だが、13人の仮面ライダー全員の力を合わせて勝つ事が出来たゼイビアックス自身を相手に、今は自分一人で戦わなければならないのだ。

 

今の自分では勝ち目は無いと不安に思わずには居られない。

 

 

「それにしても…」

 

 

ふと、屋上から下を見下ろすとティアナが一人早朝から自主トレを行っていた。

 

 

「…ちゃんと休んでるのか、あいつ…?」

 

 

最近のティアナの様子を見ているとどう見てもオーバーワークとしか思えない。

 

 

(そんな事位、流石に本人も自覚してるだろうから、オレが言うべきじゃないんだろうけどな)

 

 

『自己責任』と切り捨てる気は無いが、そう言う事の注意を促すのは飽く迄『上司であるなのは達の仕事』と『部外者である自分がするべき事では無い』と判断する。

 

 

まあ、その判断が間違っていたと理解するのはもう少し後の事なのだが…今はまだ関係の無い話になる。

 

 

そんな事を考えながら、ポケットの中にあるオニキスのカードデッキを取り出し真上に持ち上げドラゴンナイトの物とは違う黒い龍の顔を象った紋章を眺める。

 

 

(…オニキスのデッキ…役に立ってくれたな)

 

 

オニキスのデッキが有った事でホテル・アグスタの一件ではドラグレッダーを避難する観客達の護衛に着ける為にドラゴンナイトのフェイト達に貸した時にブレードと戦う事ができた。

 

 

(…今更だけど…オニキスのデッキには助けられてるな)

 

 

思えば、オニキスと言うライダーと出会ったのは戦いの日々の中で見た悪夢が始まりだった。

 

…その悪夢もベンタラの先輩ライダー達からは誰もが見た麻疹の様な物とあっさりと言われてしまったが…。

 

それは兎も角、そんな訳で第一印象こそ悪いがドラゴンナイトのデッキとドラグレッダーに比べれば付き合いこそ短いがオニキスのデッキとドラグブラッカーには愛着がある。どちらを手にするのかと問われて選んだのはドラゴンナイトのデッキだが。

 

 

「っと、そう言えば朝一番で八神に呼ばれてたんだっけ」

 

 

そう呟いて立ち上がるとふと近くの鏡面が視界の中に入る。そこにいる一体のレッドミニオンと目が合った。ドラグレッダーとドラグブラッカーに一体だけ追い詰められている様子だが…。

 

 

「………………」

 

 

それを見ると無言のまま鏡面に近づき、目が有った事で硬直していたレッドミニオンを殴り飛ばしてそのまま鏡の中に入ると、

 

 

「KAMEN RIDER」

 

 

「~ッ!?」

 

 

妙に平坦な声でドラゴンナイトに変身してレッドミニオンの悲鳴が響く中、武器も使わずにレッドミニオンを叩きのめして出てくるのだった。

 

 

「…まったく、こんな朝早くから出てくるなよな…」

 

 

そう言い残して何事も無かったかのように屋上を後にする。

 

 

……一言だけ言える事は…哀れなレッドミニオンも居たものだった……。運悪く統夜に見つからなければもっと楽に倒して貰えたのは決して間違いではないだろう。

 

 

(…それにしても、ドラグレッダー達の目を盗んで現われる雑兵レッドミニオンが出るのも珍しいな)

 

 

ふと、そんな事を疑問に思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「統夜君、聞きたい事があるんやけど…」

 

 

さて、既に日課になっているレッドミニオン退治を終えて部隊長室に通された後の第一声がそれだった。

 

 

「聞きたい事?」

 

 

「今統夜君が持っとる前に手に入れたカードデッキは統夜君には使えない。それでええんやな?」

 

 

「ああ、DNA登録はゼイビアックス製の方にも有った様だしな。」

 

 

「それじゃあ、ホテルの時の統夜君ってカードデッキが無かったのに、会場に現われたモンスターをどうやって倒したのか聞きたいんやけど」

 

 

「どうやって? そんな事聞かれてもな…普通に素手で倒したとしか言えないけどな…」

 

 

オニキスのデッキを使用した事を隠している以上聞かれる事は予想していたのでそう一言だけ簡潔に答えた。

 

 

「と、統夜君…それって…何処からツッコンで良いのか分からないんやけど…」

 

 

「あー…レッドミニオン達なら鍛えてれば素手で勝てるからな。」

 

 

元々持っていたのか、ミッドチルダで誕生した際に得たのか、理由は分からないがゼイビアックス配下のモンスター達は共通して魔力に対する耐性を持っているから、下手に魔力を使った砲撃等をするよりもその辺に落ちている角材や石・鉄パイプ等で直接殴った方が効率的なほどらしい。

 

 

まあ、ガジェットとは違ってレッドミニオン達はAMFを持たない分、戦い易い相手なのだろうが。

 

 

「その辺は経験と鍛え方だな。他の先輩達だったらもっと早く片付けただろうし」

 

 

「結局はそこに行き着くんやな」

 

 

「それ以外に何が有るんだよ? 最初から強くて何でも出来る奴なんて何処にも居ないだろ。……………多分」

 

 

そう言っているもののある種の完璧超人を知っている以上、言ってて自信が無いと自覚してしまうが。

 

 

「単にオレがあいつらと戦い慣れてたし、弱点を知っていた…それだけだ」

 

 

「…………」

 

 

そう結論付けた統夜の顔をはやてはじっと眺めていた。

 

 

「なあ、統夜君」

 

 

「なんだ?」

 

 

「まだ何か私達に隠し事してへん?」

 

 

「っ!? 別に隠し事はしてないぞ…」

 

 

確信を突かれたはやての言葉に対して思いっきり動揺してしまったが、直に同様を隠してそう言葉を返す。

 

 

「話がそれだけなら…」

 

 

「最後にもう一つ聞いてええ?」

 

 

「それは…部隊長として協力者に対しての質問か?」

 

 

「元クラスメイトに対する個人的な質問や」

 

 

「…………」

 

 

出て行こうとした統夜を呼び止めてそんな会話を交わす。聞きたいのは飽く迄組織の人間では無く、はやて個人での質問。はやての言葉に対して沈黙で返す統夜のそれを肯定と取ったのか、言葉を続ける。

 

 

「統夜君って…………私達の事、信用してへんやろ?」

 

 

「…さあ…。ただ…オレは“信用”と“信頼”、“友達”と“仲間”は別物と捉えてるけどな…。」

 

 

そう言って肯定とも否定とも取れる返答を返す。事実、統夜は信頼はしていても信用はしていない…等と言ってしまうと語弊が有るが、それでも…彼女達の人間性は信用していても、今の所組織の人間としては悪い意味で信用している。

 

 

だからこそ、ベンタラの事やユーブロンの事などの地球とベンタラ、そして仲間であるライダーとその協力者にとって不利益になりそうな事を必要がない限りは絶対に話さない。オニキスのデッキの存在を告げずに隠し持っているのもその証拠だ。

 

 

今は敵対していないだけで第二のゼイビアックスとなりえる可能性がある“時空管理局と言う組織に所属している”時点で統夜達の間には、どうしようもない決定的な壁と溝がある。統夜自身は地球とベンタラを守るベンタラの騎士の一人として行動している、だからこそ“時空管理局の局員”であるはやて達との間に出来てしまっている溝だ。

 

 

比較的心を許しているフェイトとの間にさえ壁は存在している。統夜自身相手に気付かれないように気を付けているが、何時かは気付かれるだろう。…統夜としてはその時までに全てを打ち明けて良いのか判断できるだろうと考えているが。

 

 

「…うちらは仲間のはずや、仲間ならもっと腹を割って話せるはずや…」

 

 

「言っただろ、友達や味方と仲間は別物だ。それに…仲間であっても手札を隠す必要は有るだろう?」

 

 

結局の所…自分達はまだ“友達”や“味方”では合っても“仲間”にはなっていない。直接ではないにしろ、言外にそう言われた気がしたはやては無言のまま手を振って部隊長室を出て行く統夜の背中を見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

??? SIDE

 

 

鏡面世界の廃墟のビルの一室…

 

 

「…許さない…」

 

 

純白の装甲を持った獅子を思わせる重装甲の仮面ライダーが壁に腕を叩きつける。

 

 

「…許さない……許さない…」

 

 

何かに対する憎しみをぶつける様に、壊れたテープレコーダーの様に、狂った様に白い仮面ライダーはその言葉を呟き続けていく。

 

 

「…許さない許さない許さない…」

 

 

皹が広がっていた壁が完全に砕け散った事で白い仮面ライダーは別の壁に同じ事を呟きながらその拳を叩きつける。

 

 

暫くそれが続くと言葉が変わり、

 

 

「…自分の感情を勝手にオレに押し付ける連中も…」

 

 

取り出した何枚もの写真を憎悪を込めて切り裂きながら、

 

 

「…オレ達を煽って置きながら放り出したこいつも!!!」

 

 

新たに取り出した老人の写されている写真を憎しみをぶつける様に拳を叩きつけながら、

 

 

「…オレから奪っておきながら幸せそうに生きてるこの似非人エセビト共も!!!」

 

 

新たに取り出した四枚の写真…はやての家族であるヴォルケンリッターの面々の写真に対して呪いでもかける様に拳を叩きつけ、

 

 

 

FINAL(ファイナル) VENT(ベント)

 

 

 

白いカードデッキに刻まれている物と同じ金色のライオンの顔を象った紋章の刻まれたカードを大剣型のカードリーダーへと装填し、契約モンスターである『ソードレオン』を召喚し廃ビル毎憎しみをぶつけていた写真を跡形も無く粉砕する。

 

 

それは己の体さえも破壊する程の憎悪を抑える為の一つの儀式…。自分を裏切った者達と、復讐するべき相手への憎しみを少しでも発散させる為の…。

 

 

「殺すコロスコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル!!!」

 

 

「…気は済んだか?」

 

 

白い仮面ライダーの後ろからブレードの姿が現われると白い仮面ライダーはブレードへと向き直る。

 

 

「はぁ…はぁ…。ブレードさん。はい、少しは気分が落ち着きました」

 

 

先ほどまでの狂った様な姿からは想像できない態度で白い仮面ライダーはブレードへと言葉を返す。

 

 

「将軍からのメッセージだが…お前の望みは過程で叶えられる…。数人の人間の殺傷許可だったな?」

 

 

「はい。オレにこの力をくれた将軍には申し訳ないんですけどね。こいつらだけはコロサナイト…」

 

 

狂気に染まった声でそう告げる白い仮面ライダーの狂気を涼風の様に受け流しながらブレードは。

 

 

「気にするな。将軍は寛大な御方だ。許可を取っている以上殺した所で契約違反にはならないだろう。それに…お前の気持ちはオレにも理解できる」

 

 

「はい」

 

 

「…だが、気をつけろ、将軍の宿敵がお前の復讐対象の部隊に居る」

 

 

「オリジナルの仮面ライダーの一人、ドラゴンナイトですか?」

 

 

「ああ」

 

 

「関係ない…オレは…こいつを…オレの両親と…妹の命でのうのうと生きてるこいつを殺す!!! 命もいらない…」

 

 

残された破片に一枚の写真毎拳を叩きつける。『楽には殺さない』と言う様な意思表示の様に、何度もそうした様にホロボロになった写真…白い仮面ライダーにとって最も憎い相手の写真…。ただ憎しみを発散させる為の道具にしてきたそれに写されていたのは…。

 

 

「この女を…『八神 はやて』を殺せれば…なんだって良い。悪魔にだって魂を売ってやる」

 

 

機動六課の部隊長『八神はやて』だった。

 

 

「…一つ違うな…将軍は悪魔じゃない…」

 

 

「そうでしたね、ブレードさん。オレ達にとって…将軍は…神に等しい」

 

 

ブレードの言葉に狂気に近い笑みを仮面に隠しながら…ライオンをイメージさせる仮面ライダーアックスに似た印象を持った白い仮面ライダー、『仮面ライダーレオン』はそう告げる。

 

 

 

 

 

 



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第十七話『復讐の狂獅子』

「こ、これって…」

 

『ああ。本来なら君達の部隊には関係ない仕事なんだが…この事件は君達に無関係とは言えないんだ…』

 

 

「そうやな…。」

 

 

先日の一件以来、はやてと統夜の間には良くない空気が漂っているはずなのだが、彼女の身内であるヴォルケンリッター以外にはその事実は気付かれずにいた。

 

 

元々統夜は機動六課…いや、時空管理局に関わる人間との間に溝があった。単純な話だ…元クラスメイト程度の関係と割り切っている統夜にしてみれば、必要以上に関わっていないのは今まで道理だ。

 

衣食住の世話になっている以上は頼まれれば仕事はするし、フォワードのメンバーの訓練も見ているし(仮面ライダー達の中では新人なのでそれほど目立っていなかったが、面倒見は良い方)、ゼイビアックスの配下のモンスターが出れば戦いに行く。…元々はやてとの接触は部隊の中では何気に一番低かったのだし、元々あった溝が表面化した事を除けば今までと何も変わっていない。

 

 

食堂等で接触する機会も有るかと思えば、何気に統夜の食事時間は決まっていない。……主に原因はモンスター関係で、だ。モンスターを片付けてから食事にする事も有れば、モンスターの出現に備えて早めに食事にする事もある。

 

 

故に他のメンバーの前で会う事が無ければ統夜とはやての間に流れる空気も感じる事は無い。

 

 

そんな空気が漂う中で起こった事件……それは……レリック所かロストロギアも関係していない……『殺人事件』だった。

 

本来なら、機動六課には関係ない事件だが、被害者達のある共通点から、今回は機動六課ここに廻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって…」

 

 

「酷い…」

 

 

「…オレ達だけって言うのは正解だな」

 

 

「そうだね…これはあの子達にはちょっと見せられないかな…」

 

 

部隊長室でその事件の現場の映像を見せられたなのは、フェイト、統夜の三人はそんな感想を零す。三人が三人とも顔色が悪い。獣にでも襲われて力任せに引き千切られた人の屍が散乱しているそれは確実に肉が食べれなくなる事だろう。

 

 

「せやな…暫くお肉は食べれそうに無いで…」

 

 

「それで…この部隊とは関係ない事件なんじゃないのか?」

 

 

「…それなんやけど…。被害者達の現場の共通点、統夜君なら分かるやろ?」

 

 

「…なるほど、オレの専門って訳か…」

 

 

そう言って映像の一部を指差すとそこには『鏡面』が存在していた。全ての現場に共通しているのは『鏡面』…。鏡面など無い方が珍しいと言えるかも知れないが、それでも、鏡面と言うキーワードから考えられることは一つ。それも、今までの様に誘拐するのではなく相手を殺す事だけを目的としているそれは…モンスターやゼイビアックスの指示では無く…。

 

 

「ゼイビアックス側の…仮面ライダーが犯人って訳か…」

 

 

感情を持って行動する『仮面ライダー』と言う事になる。

 

 

統夜の出したその結論に集まっていた全員が無言のまま頷く。

 

 

地球とベンタラの二つの世界を守る為の力…ゼイビアックスの手によって作られた複製品とは言え、こんな事に使われるのは統夜には耐えられない事だ。

 

 

「それで、何でこの部隊に廻ってきたんだ? ロストロギアとかを探して確保するのが専門なんだろ?」

 

 

もっとも、事件の内容がゼイビアックスに関係しているから廻ってきたと言う可能性も考えられるが、明らかにはやてとスターズ、ライトニングの副隊長達の表情から読み取れる感情はそれだけではない…。何より、管理局の上の人間がどれだけ統夜の事を知っているのかも疑問なのだから、その考えは却下する。

 

 

「…異星人(ゼイビアックス)絡みと言う以外に理由でも有るのか?」

 

 

「う、うん…。知っている相手なんや…この人達は…」

 

 

「知り合い? だったら余計に…」

 

 

「すまない、辰輝。その事はあまり聞かないでいてくれるとありがたい」

 

 

「…そう言うなら、追求はしないけどな…」

 

 

知り合いで有るのなら、余計に捜査から外すだろうと考えて聞こうとする。だが、シグナムからそう頼まれる。ふと、なのはとフェイトの顔が視界に入るが、間違いなく二人共はやて達と被害者がどう言う関係なのか理解したと言う表情を浮かべている。

 

 

「すまない」

 

 

その事に多少の疎外感を感じてしまうが、隠し事をしているのはお互い様だ。

 

 

「それで…被害者の共通点…それだけは教えてもらえるんだろう?」

 

 

ゼイビアックス側のライダーの動きを阻止するにしても、相手の狙い程度は知っておいたほうが良いと思っての判断だが…。

 

 

「…この事件の被害者の人達は…ある事件の被害者の関係者なんや…」

 

 

「被害者の…関係者?」

 

 

そうなるとその事件の犯人が一番怪しいと思うべきなのだが、流石にそんな簡単な結論に至らない訳が無いだろうと考えて追求するのを止める。

 

 

「一体何の…「『闇の書』、ミッドチルダじゃ有名な事件なんだよ…」…そうか」

 

 

フェイトからそう説明してもらう。それ以上は言いたくないと言う意思が表情に浮んでいる。

 

 

そう言うと統夜は適当な鏡面へと向かって歩き出す。

 

 

「統夜くん、何処に…」

 

 

「モンスター退治…オレはその事件の事を知らないし、何時も通りの仕事をするだけだ」

 

 

そう言って手を振りながら統夜は鏡の向こう側の世界へと立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡の向こう側の世界…住人の姿も無く、地球とベンタラの関係に似たその世界の名を統夜は知らない。

 

 

この世界に誰かが居たのか、最初から住人の存在していない無人の世界なのかは分からない。ミッドチルダの平行世界と思われるこの世界の住人達がどうなったのかも……統夜には分からない事だ。

 

 

「それで…居るんだろう、オレ達に何の用だ?」

 

 

統夜の言葉に答える様に物陰から黄色い装甲の鎧を纏った仮面ライダーアックスに似た獅子をイメージさせる仮面ライダー、仮面ライダーレオンが現れる。

 

 

「気付いてたのか?」

 

 

「気が付いたのは、ついさっきだけどな…その様子から、前から居たんだろ?」

 

 

そう言い放つとドラゴンナイトのカードデッキを取り出し、

 

 

「KAMEN RIDER!」

 

 

ドラゴンナイトへと変身すると、

 

 

 

SWORD(ソード) VENT(ベント)

 

 

 

慣れた手つきでドラグセイバーを召喚する。

 

 

(…特徴的に契約モンスターはライオン型でアックスに似ていると考えるとパワータイプのライダー。…そうなると…こいつが)「一つだけ教えてもらおうか…最近有った殺人事件…その犯人はお前だな?」

 

 

確信こそ無いが直感的にそう判断する。

 

 

「ああ…オレが殺した…それがどうかしたのか?」

 

 

「ああ、そうかよ!!!」

 

 

そう叫びドラゴンナイトはドラグセイバーを振るってレオンに切りかかる。振り下ろされたドラゴンナイトの剣をレオンは大剣型のカードリーダー『レオンバイザー』で受け止める。

 

 

「何で殺した…? ゼイビアックスだってこんな事は「あいつ等は…」っ!?」

 

 

レオンバイザーを振るいドラゴンナイトを弾くとレオンはカードデッキから取り出したカードを新たなカードを抜き出し、レオンバイザーに装填する。

 

 

 

STRIKE(ストライク)SWORD(ソード) VENT(ベント)

 

 

 

聞き慣れない電子音が響くとレオンの両腕に巨大な剣の付いた手甲『ソードクロー』が召喚される。

 

 

「あいつ等は自分達の感情をオレに押し付けた!!! それだけじゃない…オレの邪魔をした…だから殺してやったんだよ…」

 

 

狂気に満ちた声が響くと重厚な装甲を身に纏った姿からは想像できない俊敏な動きで前方へ展開された右手の手甲のブレードを叩きつける。

 

 

「こいつ!?」

 

 

大きくレオンから距離を取る為に後ろに跳ぶと先ほどまでドラゴンナイトの居た空間を展開された左腕のブレードが凪ぐ。

 

 

「それだけじゃない。オレの邪魔をしたのは…オレの気持ちが分かるはずの同類だけじゃない…管理局と言う組織も…。あの人殺しの似非人(エセビト)共と犯罪者の親玉は…今じゃエリート様だ…」

 

 

ドラゴンナイトに対して告げているのか本人が自身に言い聞かせているのか分からないが、これだけは分かる。

 

 

「だけどな…将軍は言ってくれた…。『その憎しみを我慢することが無い。存分に復讐すれば良い』ってな!!! その為の力もくれた!!! だから、将軍の敵であるお前も殺す…ドラゴンナイト!!!」

 

 

「オレにはお前を殺す気は無い…だけどな…。仲間(ハントさん)と似た姿でそれ以上命を奪わせる訳には行かないんだよ…。お前は…ここでベントさせて貰う!!!」

 

 

互いに決意を込めて叫んだ瞬間、

 

 

 

ATTACK(アタック) VENT(ベント)

 

 

新たな電子音が響き、ドラゴンナイトが慌てて後ろに跳ぶとその瞬間、現われたガルドサンダーの放った火炎弾が先ほどまでドラゴンナイトの立っていた場所に直撃した。

 

 

「っ!? 今のは!?」

 

 

「久しぶりだな…トウヤ・タツキ」

 

 

「お前は…仮面ライダーブレード!?」

 

 

ガルドサンダーを引き連れて現われる第三者…仮面ライダーブレードが日本刀型のカードリーダー・ガルドバイザーを持って現われる。

 

 

「ブレードさん」

 

 

「レオン…将軍の宿敵の一人を此処で確実に始末するぞ」

 

 

「はい」

 

 

(…二対一か…これは、ちょっと拙いか?)

 

 

ドラゴンナイトと対峙しながらガルドバイザーを構えるブレードとソードクローを構えるレオン。一対一なら負けないだろうが二対一となると救援の期待できない此方では完全に不利だろう。

 

 

「はっ!」

 

 

「っ!?」

 

 

「オラ!!!」

 

 

「ぐっ!!!」

 

 

切りかかって来るブレードの一閃を避けるとその隙を突いたレオンの一撃に弾き飛ばされる。そして、体勢が崩れた瞬間を逃さずにブレードがドラゴンナイトを斬る。

 

 

ブレードに続いて襲い掛かるレオンのソードクローをドラグセイバーを盾代わりにして受け止めるが防いだ事で出来た隙を逃さずに放たれたブレードの蹴りがドラゴンナイトを吹き飛ばす。

 

 

「こ、こいつら…」

 

 

「良い言葉だな…一人一人の力じゃ及ばなくても…」

 

 

「力を合わせれば勝てるって言うのは」

 

 

そして、優位に立っていたはずのライダー達が距離を取った事の意味を直に理解するが、それは既に遅すぎた。

 

 

「悪役が言う事か?」

 

 

「力を合わせるのはヒーローの専売特許じゃ無いって事だ」

 

 

立ち上がりながらサバイブのカードを取り出すが、今からサバイブ化してもカードを使う間もなくファイナルベントの直撃を受けるのは間違いない。ガードベントでの防御やファイナルベントでの相殺も二人での連携した必殺技(ファイナルベント)までは完全には防ぎきれない。サバイブ化した後の防御力に賭けると言う分の悪い賭けでしかない状況だ。

 

 

「さあ…これで終わりだ」

 

 

「死ねよ」

 

 

確実に此処でドラゴンナイトをベントするつもりなのだろう、二人のライダーが互いに取り出すのは同じ『ファイナルベント』のカード。

 

 

ドラゴンナイトへとトドメが刺されようとした瞬間、

 

 

 

ATTACK(アタック) VENT(ベント)

 

 

 

新たな電子音が響いた瞬間、現われた影が二人のライダーの手からファイナルベントのカードを弾く。

 

 

「なに!?」

 

 

「ブレードさん…こいつらは!?」

 

 

「アドベントビースト?」

 

 

新たにドラゴンナイトを助ける様に現われた二体のモンスター-出現の仕方から考えてアドベントビーストだろう-に対してドラゴンナイト、ブレード、レオンの三人が疑問の声を上げる。

 

 

追い詰められたドラゴンナイトを助けるように現われたのは、二体の馬型のモンスター。

 

 

一体は額に角を持った一角獣馬(ユニコーン)型のモンスター。

一体は翼を持った天馬(ペガサス)型のモンスター。

 

 

 

「悪いけど、彼を此処でベントさせる訳には行かないんだ。」

 

 

 

そして、そのモンスターを呼び出してだろう者がドラゴンナイト側に立って戦場へと降り立つ。

 

 

「な!? その姿は…。」

 

 

「ウイングナイト…。」

 

 

ドラゴンナイトもブレードも現われたライダーの姿にウイングナイトを重ねてしまう。ウイングナイトのそれとは違う鮮やかな翡翠の様な翠色と銀色。蝙蝠のウイングナイトに対してユニコーンとペガサスをイメージさせる意匠を持っている。

 

 

「…将軍の作ったコピーの中でウイングナイトをベースにしたのは……オレだけのはずだ。」

 

 

「お前は一体…?」

 

 

「ぼくはフォーラ…『仮面ライダーフォーラ』。ドラゴンナイト、説明は後だ。今はこの場を切り抜けるのが先だよ」

 

 

フォーラと名乗ったライダーはカードリーダーらしきユニコーンの頭を象った槍を持ってブレードとレオンに対峙する。

 

 

「…レオン、一度退くぞ」

 

 

「…でも!!!」

 

 

「…ここでドラゴンナイトを始末できないのは痛いが、新たな仮面ライダーの存在を将軍に報告する必要がある。それに、“時間稼ぎ”は出来ただろう?」

 

 

「…くっ…くそ!!!」

 

 

「やれ!」

 

 

ガルドミラージュとガルドストームの巻き起こす風がレオンとブレードの姿を隠すと、二人のライダーはそのまま姿を消す。

 

 

「逃げられたか。ドラゴンナイト、相手は一人じゃない…地球とベンタラ、二つの世界の仮面ライダーアックスがそうだった様に…」

 

 

「っ!?」

 

 

フォーラの言葉に地球とベンタラのアックスの事を思い出す。アックスはスピアーに変身する弟を相棒としていた事を。

 

 

「時間稼ぎ…まさか…」

 

 

「うん、君が考えている通りだ。敵はあの二人の仮面ライダーだけじゃない」

 

 

「それで…お前は一体何者なんだ」

 

 

「ぼくは、ユーブロンの知り合いだよ。それに…」

 

 

そう言ってフォーラが変身を解くと、

 

 

「お前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

フォーラとの会合を終えた統夜が機動六課の隊社に戻ると、

 

 

「あっ、統夜、丁度良かった、一緒に来て!」

 

 

慌てた様子のフェイトに連れられて部隊長室に連れて行かれる。

 

 

「おっ、統夜も来たのか?」

 

 

「…モンスター退治して帰ってきて直に連れてこられたけど…何のようなんだ?」

 

 

「お前の専門で間違いないからな」

 

 

隊長室に連れて行かれるとヴィータにそう声をかけられる。

 

 

「実は…統夜君が出て行ってから暫くしてクロノ君…この部隊の後見人の一人でうちらの友達の『クロノ・ハラオウン』って言う人から連絡があったんや」

 

 

その場に居る全員の表情が明らかに暗い。

 

 

「ハラオウン?」

 

 

「うん、私のお兄ちゃんなんだ」

 

 

「紹介してあげたいけど、今はそれ所じゃ無いの!」

 

 

聞かされた名前に対して疑問の声を上げると、フェイトとなのはの二人からそう告げられる。

 

 

「それ所じゃ無い…って、例の事件の被害者がまた出たのか?」

 

 

「…これを幸いちゅうと拙いかもしれへんけど、誘拐されただけで済んだ様や」

 

 

「それで…その誘拐された人間と言うのが…」

 

 

そう言って映し出されるのは一人の老人の写真。

 

 

「この人は『ギル・グレアム』。引退した元時空管理局の提督で……私の後見人になってくれた人や」

 

 

「…付け加えるなら…『闇の書』と言う事件の関係者か」

 

 

統夜の言葉にはやては戸惑いながらも頷く事で答える。

 

 

「オレはさっきまで敵のライダーと戦っていた」

 

 

「っ!? 統夜くん、大丈夫だったの!?」

 

 

「ああ。しかも付け加えるなら…この事件の犯人の片割れらしい。自分が犯人だって自白までしてくれた」

 

 

そう言って仮面ライダーレオンと戦った事をブレードとフォーラの事を伏せて話す。フォーラの事については今はまだ黙っている様に本人から頼まれているので、ブレードも現われた事も伏せて話した。

 

 

「モンスターに襲われていないその事件の関係者の中に…仮面ライダーレオンは居る。あいつは自分もその事件の関係者だって言っていた」

 

 

「じゃあ、グレアムの爺ちゃんが攫われたのは…」

 

 

「被害者の会の代表だった事から、か」

 

 

統夜の言葉にその事実に行き着くが…。何故今までの人間と違って殺されなかったのかと言う疑問が沸いてくる。

 

 

「それで統夜君、その…レオンちゅう仮面ライダーは他に何か言ってへんかった?」

 

 

「…確か」

 

 

レオンの言っていた言葉を思い出しながら、次の言葉を紡ぐ。

 

 

-あの人殺しの似非人(エセビト)共と犯罪者の親玉は…今じゃエリート様だ…-

 

 

「そう言っていたけどな」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、タダでさえ顔色の悪くなっていたはやてが倒れる。

 

 

「はやて!」

 

 

「主はやて!」

 

 

「はやて!」

 

 

「はやてちゃん!」

 

 

慌ててその体を支えるのはシグナムとヴィータの二人、フェイトとなのはの二人も慌てて倒れた彼女に駆け寄る。

 

 

「八神! …知り合いが被害にあった…それだけじゃないだろう?」

 

 

そう、その姿から連想できるのはまるでレオンの言葉が何も知らなかった統夜の口を通じて、はやてへと突き刺さった様に感じられる。

 

 

「『闇の書』と言う事件…それに関係しているのか?」

 

 

「統夜君…はやてちゃんだけじゃないよ。立場は違うけど私達全員がその事件の最後に関わってたの」

 

 

統夜の言葉に答えたのは、はやてでは無くなのはだった。

 

 

「立場が違う…? まさか…レオンの言っていたのは…」

 

 

なのはの言葉からその先の言葉を確信を持って言える。

 

 

「…八神の事なのか?」

 

 

知られたくなかったと言う表情を浮かべるはやての表情がそれが正しいと物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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