機動新世紀ガンダムX アムロの遺産 (K-15)
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メビウスの宇宙編
第1話


地球に向かって加速するアクシズ。

その最中、νガンダムはメインスラスターを全開にしてコレを押し返さんと試みた。

だが無情にもアクシズは地球の重力に引かれており、大気の摩擦が景色を赤くする。

ガンダムのマニピュレーターに収まる赤い球体。

その中に居るのはネオ・ジオン総帥であるシャア・アズナブル。

 

「そうか……しかしこの暖かさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それをわかるんだよアムロ!!」

 

「わかってるよ!! だから世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ」

 

ガンダムのコクピットの中でアムロは叫んだ。

ニュータイプと呼ばれる存在になってしまった2人。

だがジオン・ダイクンが提唱したニュータイプ論とは程遠く、今になってもぶつかり合ったままだ。

 

「ふん、そう言う男にしてはクェスに冷たかったな。えぇ!!」

 

「俺はマシーンじゃない。クェスの父親代わりなど出来ない。だからか!? 貴様はクェスをマシーンとして扱って!!」

 

「そうか、クェスは父親を求めていたのか。それで、私はそれを迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな」

 

「貴様程の男が、なんて器量の小さい」

 

「ララァ・スンは私の母になってくれたかもしれない人間だ。そのララァを殺した貴様に言えた事か!!」

 

「お母さん……ララァが?」

 

νガンダムとサザビーのコクピットに組み込まれたサイコフレーム。

人の心の光を具現化するそれは、アクシズを包み込むと地球から押し返して行く。

人々は見る、その眩い輝きを。

 

///

 

地球連邦軍と宇宙革命軍との間に起こった戦争。

その終結は悲惨で、スペースコロニーが地球に落下し人類の殆どが死滅した。

第7次宇宙戦争と呼ばれる戦争が終わって15年。

人類は再び大地に足を付け、自らの力で歩き始めた。

アフターウォー15年、新たな歴史は動き始めたばかり。

満月が昇る荒れ果てた荒野。

アルプス級陸上戦艦フリーデンを母艦とするバルチャーが給水作業の為に巨大な水溜まりに止まって居た。

艦長であるジャミル・ニートは、レーダーでいつ狙われるかも知れぬ状況に警戒しながらも、束の間の安息を得る。

 

「ようやく逃げ切れたか。今回は少し無茶をした」

 

「それもそうですが……キャプテン、あのティファって少女は何者なのですか?」

 

「彼女はニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……」

 

フリーデンのオペレーターであるサラ・タイレルは神妙な面持ちでジャミルの表情を覗いた。

黒いサングラスを掛ける彼の表情はいつにも増してわからない。

他のクルーは給水作業、もしくは他の作業を進めており、2人しか居ないブリッジは静寂に包まれて居る。

そんな中、数キロ先で爆発音が観測された。

シートから立ち上がるジャミルは爆発が起きた場所を見る。

 

「何の音だ? 戦闘だとすれば早急に切り上げるぞ」

 

「了解、すぐに確認を」

 

「ここまで来て、また奪われる訳にはいかん」

 

ジャミルの失われたニュータイプとしての能力では感じ取る事は出来ない。

この先に居る人物。

宇宙世紀時代のニュータイプ。

ジャミルにより救出された少女、ティファ・アディールは個室の窓から外の月を眺めて居た。

 

「ア……アムロ……あの人の名前は……」

 

 

 

第1話 アムロ・レイ

 

 

 

「っ!? どうなった……アクシズは……」

 

コクピットの中で意識を覚醒させたアムロ。

全天周囲モニターに映る景色には、アクシズの姿は見当たらない。

それどころか有り得ないモノを体が感じ取る。

地球の重たい重力。

 

「ここは……地球なのか? シャアはどうした?」

 

アームレイカーに両手を添えるアムロはガンダムを動かす。

シャアのサザビーとの激闘、大気の摩擦により装甲はボロボロだが、頑丈に設計された機体はまだ動く。

ツインアイが光輝き、エンジンからエネルギーが供給される。

νガンダムは大地に立ち、アムロはその目で地球の光景を見た。

 

「荒野……オデッサかどこかか? それよりもアクシズは落ちて居ない。だが、ガンダムには大気圏を突破出来る性能はない。どう言う事だ? いや、考えるのは後だな。軍に合流するのが先だ」

 

疑問は尽きないが、アムロはガンダムを歩かせて連邦軍との合流を優先させた。

オートで機体を歩かせながら、コンソールパネルを叩き状況を把握しようと試みるが、その全てが上手くいかない。

 

「通信は……ダメか。正確な位置だけでもわかれば動きやすいんだが。クソッ、これもか」

 

ゆっくりと進むガンダム。

コクピットの中で可能な限りの事は施したが、現状が変わる事はなかった。

今は只、闇雲でも進む事くらいしか出来ない。

コクピットのハッチを開放させるアムロは、夜風に当たりながら月を見上げる。

 

「でも地球か……久しぶりだな。コロニーの調査に掛かりっきりだったからな。結局、シャアに良いようにされてしまった」

 

アムロをライバルだと認めた男、シャア・アズナブル。

1年戦争の時から続く因縁の戦いも、最後まで決着が着く事はなかった。

そして何より、シャアは最後まで呪縛から逃れられず苦しんだ。

ジオン・ズム・ダイクンの息子としても、少女ララァ・スンを失った悲しみも、カミーユ・ビダンを通して見たニュータイプとしての可能性も、全てはシャアにとって呪いにしかならない。

どれだけ時間が経とうとも、シャアは未来を見る事が出来なかった。

 

「だが、アクシズの落下は阻止したんだ。ネオ・ジオンもこれで動きにくくなる筈だ。連邦内部との癒着はどうしようもないが」

 

連邦内部の幹部が金欲しさに譲り渡した小惑星アクシズ。

そのせいで自分達の住む場所である地球か寒冷化させられようとした事に彼らは全く危機意識がない。

連邦軍の腐敗は今に始まった事ではないが、アムロはシャアのように力で事をなす考えはなかった。

 

「奴の考えもわかってるつもりだ。だがその為に大勢の人間が犠牲になるのは間違ってる。そこだろうな、俺とアイツの違いは。俺はアイツとの決着よりもアクシズを優先した。シャアはまだ囚われたままだ」

 

過去しか見ないシャアとは違い、アムロは現実を見て居る。

ニュータイプでなくとも自分の隣には誰かが居る、けれどもシャアは共感出来るニュータイプだけを求めた。

 

「馬鹿な男だよ……全く……レーダーに反応、モビルスーツか?」

 

警告音を鳴らすコンソールパネル。

急いでシートに戻るアムロは反応が何なのかを確認すると、データには登録されて居ない機体が前方で待ち構えて居た。

ハッチを閉鎖して、メインカメラからのリアル映像に切り替えて自分の目で確かめると、見えるのは見た事のない機体。

 

「ネオ・ジオンの機体か? だがギラ・ドーガとは違う。地上専用にチューニングされて居るのか?」

 

『そこの白いモビルスーツ!! 誰に許可されて俺達の縄張りに入った!! えぇ!!』

 

野蛮な男の声が拡声器で響き渡る。

ガンダムの前に仁王立ちする3機のモビルスーツ。

それぞれフォルムが独特で、パイロットに合わせて独自にチューニングされて居る。

1機は緑色、もう1機は青色、最後の1機は黒色。

アムロはガンダムの動きを止めると、不快感をあらわにしながら男の質問に応えた。

 

「縄張りだと? ふざけて居るのか」

 

『キサマ!! 俺達を誰だと思ってる。ここいらじゃ名の知れた――』

 

「違法居住者だな。モビルスーツをどこで手に入れたかは知らないが、そんな旧型で」

 

『俺の愛機を旧型だとっ!! 野郎ども、あの白い奴を潰せ!!』

 

メインスラスターを吹かしガンダムに迫る3機のモビルスーツ。

アムロもアームレイカーに手を添えると戦闘に意識を集中させる。

 

「話しても無駄なようだな」

 

アクシズでの戦闘でフィン・ファンネルは全て使い切った。

ビームライフルは破壊され、バズーカとシールドももうない。

予備のビームサーベルも手放してしまい、頭部バルカンしか射撃武器はなかった。

それでも幾つもの激戦と修羅場を潜り抜けて来たアムロにとって、旧型のモビルスーツ3機を相手にする事など造作も無い。

ペダルを踏み込みメインスラスターとバーニアを吹かし、地上をホバーリングするように滑りながら前進する。

 

「行ける!!」

 

腰部からマシンガンを手に取る緑の機体、チューニングされたジェニスはガンダムと真っ向から対峙する。

構えを取り銃口を相手に向けトリガーを引く。

だが、弾丸が発射された時にはもう、ガンダムは回避行動を取って居た。

一切武器を持たないガンダムに、気が付いた時には間合いを詰めらて居る。

 

『は、はやい!?』

 

「侮りすぎだ。そんな事では」

 

マニピュレーターを突き出し、ジェニスの頭部にあるエネルギーチューブを引っ掴む。

強引に機体を引き寄せ、相手の機体の装甲がギシギシと悲鳴を上げる。

 

『コイツ、何を!?』

 

「先に攻撃を仕掛けたのはそっちだ。爆発させずに動けなくすれば、地上の残党部隊の居所を掴める」

 

頭部のエネルギーチューブを掴んだまま、ジェニスを前方に突き出した。

チューブは耐え切れずに引きちぎられ、機体は為す術もないまま背部から地面に激突する。

激しく揺れるコクピット。

シートベルトも装着して居ないパイロットは中で体の至る所をぶつけ、すぐには操縦桿を握り直す事が出来ない。

 

「次は!!」

 

『白い奴、よくもボトスを!!』

 

「遅い!!」

 

仲間がやられた事で頭に血が上る。

青いジェニスはヒートホークを右手で振り上げ果敢にガンダムに攻めるが、連携も取らずに1体1での戦闘で勝てる相手ではない。

アムロはアームレイカーのボタンを押し込み頭部バルカンを相手に向けた。

大量に吐き出される薬莢。

90ミリの弾丸が頭部に集中して発射された。

潰されるモノアイ、引き裂かれる装甲。

満足に近づく事も出来ないまま青いジェニスの頭部は吹き飛ばされ、煙を上げて崩れ落ちる。

仲間が一瞬の内に倒され、残るパイロットはある事が頭の中を過った。

 

『白い機体……まさか!? 15年前に作られたって言うガンダムなのか? か、勝てない……うあぁぁぁ!!』

 

背を向けて逃げる黒いジェニス。

アムロは逃がすつもりはなくトリガーを押し込むが、頭部バルカンの弾は底を突きカタカタを音を鳴らすだけ。

 

「チィッ、使い過ぎたか。逃がすものか!!」

 

倒れる緑色のジェニスが装備するマシンガンを取るガンダム。

グリップを右手に握ると地面を蹴り、同時にメインスラスターの出力を上げてジャンプした。

相手との距離はまだ、そこまで離れて居ない。

青白い炎を噴射するバックパックに照準を合わせトリガーを引く。

マズルフラッシュと共に発射される弾丸は正確に狙った位置ヘ直撃し、爆発により姿勢を崩すジェニスはその場へ転げ落ちた。

 

「やったか。コクピットは無事な筈だ。うん、何だ?」

 

気配を感じた。

空中で姿勢制御したまま回避行動を取る。

ガンダムが居た場所に、数秒遅れてビームが飛んで来た。

攻撃された方向を見ながら機体を着地させるアムロは、新たな2機のモビルスーツを目にする。

 

「アレは……ガンダムタイプ」

 

「俺の攻撃を避けやがった。伊達にガンダムに乗ってる訳じゃねぇってか」

 

「まともな武器もナシに3機を撃墜。しかもコクピットは破壊してない。中々の芸当じゃないの」

 

赤い羽を持つガンダム。

そして左腕に巨大なガトリング砲を装備する緑のガンダム。

アムロの知識では見た事のない、νガンダムのデータにも載ってない新たなガンダムタイプ。

 

「これもデータにはない機体か。だが、ガンダムタイプともなればジオンでもない。どこの所属だ?」

 

考えるアムロだが答えがわかる筈もなく、それよりも先に相手が攻撃を仕掛けて来た。

 

「来るのか!?」

 

空を飛ぶガンダムが2丁のビームライフルを構えてトリガーを引く。

 

「ロアビィ、コイツの相手は俺がする!! お前は黙って見てろ!!」

 

「はいはい、ご自由に。でも、報酬は俺もキッチリ貰うからね」

 

「わかってるよ!!」

 

空を単独飛行出来る羽のあるガンダムは3次元的な動きが出来る事で、νガンダムより優位な立場にある。

安全な上空から連続してトリガーを引くガンダムは、一方的にアムロのガンダムを攻撃した。

 

「どうした、どうした!! やって来ねぇなら、バラバラにしてパーツにしてやんぞ!!」

 

「緑のガンダムは攻めて来ない。これなら」

 

メインスラスターとバーニアを駆使して動き回るνガンダム。

相手は連射性能の高いビームライフルでビームを撃ちまくるが、銃口を向けられた時には既に回避行動に移って居る。

発射されるビームは只の1発すら当たらず、それどころかかすりもしない。

 

「クソッ!! ちょこまかと、落ちろっつてんだよ!!」

 

「相手は1機なのよ? 何やってんの」

 

「うるせぇ!! こんな奴すぐに!!」

 

苛立ちはしながらも、射撃の腕に衰えはない。

それでも直撃させる事が出来ないのは、単純に技術と経験の差だった。

ビームは地面に直撃して砂煙を上げるだけで、無駄にエネルギーばかりが減って行く。

アムロは不利な状況でも相手の力量を見極めて、反撃出来る一瞬を狙う。

 

「腕は悪くないが、まだまだ若いな。落とさせて貰う」

 

「あんなボロボロの機体に……なんで!!」

 

「甘い!!」

 

マシンガンの銃口を向けた。

初めての攻撃にパイロットは目を見開き瞬時に回避に移るが、アムロはそこまで読んで居る。

避ける先、コンマ数秒早くトリガーを引きマシンガンが火を噴く。

発射された弾丸は避けた所のガンダムのマニピュレーターに直撃し、握って居た右手のビームライフルを落としてしまう。

 

「しまった!? こんな所で!!」

 

マニピュレーターは無事だが、数少ない武器を手放してしまった。

回収に行く事も出来ず、ビームライフルはνガンダムに奪われてしまう。

 

「ウィッツ、何やってんの!! 見ちゃ居られないよ!!」

 

「ロアビィ、邪魔するんじゃない!!」

 

緑のガンダムも戦闘に加わり、左腕のガトリング砲でνガンダムを狙う。

 

「チィッ、もう1機が来たか」

 

マシンガンを投げ捨て、奪い取ったビームライフルを握らせると、直ぐ様行動に移る。

向けられるガトリング砲の弾速は早い。

それでもメインスラスターの出力を上げて何とか避けはするが、推進剤も余裕がある訳ではなかった。

 

「長引くと不利だ。仕掛ける!!」

 

ビームライフルを向け、トリガーを引く。

発射されるビームを緑のガンダムは足の裏のローラーを稼働させて回避する。

重武装であるが故に機体重量も重く、ローラーで移動する事で脚部への負荷を軽減させ、尚且つ自立走行よりも高速で動く。

アムロは瞬時に照準を合わせるとトリガーを引いた。

 

「機体の性能に頼りすぎだ!!」

 

瞬間的に引かれるトリガー、発射されるビームは3発。

緑のガンダムが避ける先、構えて居たガトリング砲の装甲にビームがかすめた。

2発目は地面に直撃して砂煙を発生させると、3発目が右脚部に直撃する。

 

「ウソでしょ!? 射撃のセンスは抜群だな。コイツの装甲じゃなかったらヤバかった。でもね!!」

 

「浅かったか」

 

「こっちだってギャラを貰ってるんでね。たかが1機に!!」

 

ビームは直撃したが機体にそれほどダメージはない。

向かって来る相手にビームライフルと推進剤の残りを気にするアムロだが、突如として上空に眩い光が灯る。

それを合図にして、迫る2機のガンダムは動きを止めた。

 

「何だ、信号弾……」

 

「停戦信号? ウィッツ、撃つなよ」

 

「わかってるよ。クッ!! 仕留められねぇなんて」

 

事態を理解出来ないアムロはガンダムの動きを止めて事の成り行きを見守った。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦闘を見るクルー達は、白いモビルスーツの動きに目を奪われる。

まともな装備もない相手、見た目にも明らかに損傷して居る相手に2人は苦戦を強いられて居た。

ウィッツ・スーの搭乗するガンダムエアマスター。

空中からのビームによる攻撃は、そのどれもが見切られて居る。

戦いを見ていた通信オペレーターのトニヤ・マームは、思わず声を上げた。

 

「あぁ~、もぅ!! 何やってんのよ!! あれだけ撃ってるのに1発も当たってないじゃない!!」

 

オペレーターのサラも、この有様を見て口を尖らせた。

 

「高い報酬を払って居るんだから、これくらいはしてもらわないと。これだからフリーの人間は信用出来ません」

 

「あの動き……」

 

その中で唯一、艦長であるジャミルだけは、白いモビルスーツの動きに思い当たる節がある。

かつての自分と同じ、或いはそれ以上の。

 

「サラ、あの白い機体。もう少し拡大出来るか?」

 

「はい。すぐに」

 

慣れた手付きでスムーズにパネルを叩くサラ。

望遠カメラに切り替わり、モニターに映し出される映像が何倍にも拡大された。

白い装甲、ツインアイ。

この世界に生きる人間ならその殆どが知る伝説のモビルスーツ。

 

「ガンダム……」

 

「ですがデータにはありません。見た目だけなのでは?」

 

「いいや、奴はそうだ。それにあの動き、あの2人では勝てない。シンゴ、フリーデンを前進。停戦信号もだ」

 

「了解です。メインエンジン始動、フリーデン発進します」

 

操舵士のシンゴは艦長からの指示を受け、停止させて居たフリーデンを戦闘領域目指して前進させる。

同時に停戦を意味する信号弾も発射さた。

シートに座るジャミルは、自身に残った僅かな力を頼りに、モニターに映る白いモビルスーツをもう1度見る。

 

(あのガンダムに乗って居るパイロットが本当にニュータイプだとしたら……急がねば)

 

その頃、フリーデン内部には1人侵入者が紛れ込んで居た。

名はガロード・ラン。

高額な報酬を貰う事を条件に、フリーデンに囚われて居る少女、ティファ・アディールを救うべく侵入した。

戦後の世界を生き延びる為に、この手の事は慣れてしまって居る。

 

「へへ、警備が手薄で助かったぜ。問題はどこにこの子が居るかだけど……手当たり次第に行くしかねぇか」

 

足音を消して、影に隠れて、誰にも見つからずに通路を進む。

 

(捕まえられてるんだから、ロックの掛かってる部屋。ご丁寧にどの部屋も開けっ放しだ。これならわかりやすい!!)

 

進むガロードはティファが囚えられて居る部屋を探す。

その途中、欲に目が眩んだ彼はプレートに艦長室と書かれた部屋の前で足を止めた。

ニヤリと表情を変えると、懐からピッキングツールを取り出し鍵穴に差し込む。

 

(バルチャー、それも親玉の部屋なんだから、金目のモノがあるだろ。良し、開いた!!)

 

ものの数秒で解除したロック。

ドアノブを捻り、静かに開けるドアの隙間から中に滑りこむ。

真っ暗な部屋の中で、ガロードの培われて来た嗅覚が瞬時に金庫を見つけ出す。

 

「あったあった。後はコイツを解除しちまえば」

 

ダイヤル式の金庫。

経験と勘、そして自らの技術を頼りに素早くダイヤルを回すガロード。

それでも金庫が開くかどうかはやってみなければわからないし、時間との勝負だ。

ジリジリ音を鳴らして回されるダイヤル。

 

「よ~し、頼むぜぇ……キタッ!! ん、何だコレ?」

 

開かれた金庫にあったモノは1つの操縦桿。

それ以外には何も入って居ない。

 

「モビルスーツのコントロールユニット? まぁ、良いや。バラすなりすれば金になるだろ」

 

握ったコントロールユニットを懐に入れるガロードは、金庫の扉を閉じ素早く部屋から立ち去った。

本来の目的であるティファの救出。

再び影に隠れながら進むガロード。

すると、どこからかメロディーが聞こえて来る。

 

(音楽……鼻歌か?)

 

音を頼りに歩くガロード。

近づくにつれて聞こえて来る音が透き通って聞こえる。

可憐な少女の声。

 

(キレイな声……)

 

その歌が聞こえて来る部屋の前まで来たガロードは、無意識の内にドアを開けて居た。

部屋の中に居るのは、鼻歌を奏で月明かりに照らされる少女。

思わず見惚れるガロードはその場に立ち尽くしてしまう。

穏やかな雰囲気。

自分が何を目的にここまで来たのかも忘れて、少女をずっと眺めて居た。

すると、少女はゆっくりガロートに視線を向ける。

 

「アム……ロ?」

 

「えっ!? い……いやぁ、俺はアムロじゃなくてガロード。キミはティファ・アディールだよね? つまりそのぉ……」

 

突然話し掛けられ慌てふためくガロード。

頭が上手く回らず、口から言葉が出ない。

けれども、そうして居る間にもフリーデンが動き出してしまう。

艦内に多少ではあるが揺れと振動が伝わって来る。

 

「っと、こんな事してる場合じゃない。俺はガロード・ラン。キミを助けに来た」

 

「アナタを……待っていました」

 

「あのオッサンが教えてくれたのか? でも通信機があるなら俺じゃなくても……まぁ、細かい事は良いや。逃げるぞ」

 

「はい」

 

ガロードに手を引かれ、ティファは部屋から出た。




明日更新。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第2話

アムロの目の前に現れた白い陸戦艇。

警戒はしながらも、ビームライフルの銃口はまだ向けない。

2機のガンダムも戦闘を中止しており、相手の出方を待った。

 

「このガンダムの母艦か。だが今の時代、連邦軍で陸戦艇を使う所なんて聞いた事がないぞ」

 

理由はわからないが、地球に降下してから頭の中で疑問が尽きないアムロ。

そうして迷ってる間にも、相手側から外部音声で呼び掛けて来た。

 

『こちらはフリーデン。艦長のジャミル・ニートだ。そこの白いガンダムタイプのパイロット、応答願う』

 

「ロンド・ベル隊のアムロ・レイ大尉だ。2機のガンダムはそちらの所属で間違いないな?」

 

『そうだ。フリーのモビルスーツ乗りを雇って居る状態だがな』

 

(モビルスーツ乗り? どう言う意味だ?)

 

『こちらに攻撃の意思はない。出来れば話がしたい。その間に補給くらいはさせて貰う』

 

考えるが選択肢はなく、地球と宇宙の状況をいち早く知るには誘いに乗る他なかった。

 

「わかった。ハッチを開けてくれ」

 

『恩に着る』

 

開放されるハッチ、2機のガンダムも同じ所から内部へと入る。

アームレイカーに手を添えて機体を歩かせるアムロも同様に艦内へ足を踏み入れるが、その瞬間に何から頭の中を過った。

 

「なんだ!? この感覚……シャアでもない。カミーユなのか? いや、違う。プレッシャーのようなモノは感じない」

 

言いながらも内部に入り、ハンガーに機体を固定させた。

ハッチを開放させワイヤーで降下するアムロは、数年ぶりに地球の重力が掛かる地へ足をつける。

宇宙での活動に慣れて居たが、久しぶりの地球でも問題なく歩く事は出来た。

すぐ近くでは、さっきまで戦闘を行って居たガンダムのパイロットが2人、物珍しそうにアムロを見て居る。

 

「アイツが白い機体のパイロット? なんだジャミルと同じくらいじゃねぇか」

 

「それよりもさ、なんでノーマルスーツなんで着てるんだ? だってここ地球よ。普通そっちの方が先に来ると思うけどね」

 

「うるせぇ!! 悪かったな!!」

 

ウィッツとロアビーの会話を傍から聞いて居ると、スーツを来た女性がアムロの前に現れた。

 

「アナタがあの機体のパイロットですね。私はオペレーターのサラ・タイレルです。キャプテンの元へご案内します」

 

「頼む」

 

「ではこちらへ」

 

サラの案内に従い、アムロは艦内を進む。

彼女の背中を追いながら通路を歩いて行き、艦内の様子を観察した。

陸戦艇に乗った事のないアムロは、内部の構造を見るだけでも新鮮に感じる。

 

(だが、若いクルーが多いな。まるで昔の俺達みたいだ)

 

まだ少年だった頃の自分を思い出すアムロ。

連邦とジオンの戦争に巻き込まれ、ガンダムに乗って戦ったあの時の事を。

正規の連邦兵は殆ど居らず、民間人である自分達が生き残る為にホワイトベースを動かしジオンと戦った。

 

(もう13年も経つのか。それよりも、どうしてクルーは全員私服なんだ? 本当に連邦の管轄なのかも怪しくなって来たな)

 

疑いの目を向けながらも口を閉ざしてサラの後ろに付いて行く。

到着した先は陸戦艇のブリッジ。

扉を抜けた先には数名のクルーと黒いサングラスを掛ける男が立って居た。

 

(この男が艦長。やはり連邦ではないのか?)

 

「先程は一方的に攻撃してしまいすまなかった。私がこの艦のキャプテンをして居るジャミル・ニートだ」

 

「アムロ・レイ大尉です。よろしく」

 

言葉を交わす2人は互いに手を伸ばすと握手を交わした。

たった数秒触れただけ。

それでも2人は何かを感じるモノがあった。

 

「所で艦長。1つ聞きたいのだが、この艦はなんだ? ガンダムタイプを2機、それなりの部隊でなければ支給されない筈だ」

 

「この艦はフリーデン。修理と改修を繰り返して独自に改造したモノです。ガンダムに乗って居る彼らは、一時期雇って居るだけです。賞金を提示すれば、フリーの人間はすぐに寄って来る」

 

「そこだよ。ガンダムタイプは開発に時間と金が掛かる。それに企業も絡んでる。金さえあれば譲ってくれるような代物ではない」

 

「そこは私も知りかねます。金でやり取りをするモノ同士、深く探らないが暗黙のルール。彼らは腕の立つパイロット、くらいにしか」

 

「だったら開発元もわからないのか? 裏でアナハイムが開発したとも考えられるが」

 

「あの機体は15年前に連邦が開発したモノです。どこで見付けたのかはわかりませんが、整備されて今も使われて居ます」

 

「15年前!? キャプテン、冗談はよしてくれ。15年も前はガンダムどころか、モビルスーツだって開発されてない」

 

「うん? どう言う事ですか?」

 

(どうにも話が咬み合わない。どうなってる……)

 

「では、私からも1つ聞かせて下さい。アナタなら知って居る筈だ。ニュータイプの存在を」

 

ニュータイプ。

アフターウォー15年、かつて人の革新と呼ばれ、その力をもつ者を指す言葉。

アムロは苦笑しながら、その質問には応えた。

 

「あぁ、そうだな。俺の事をそう呼ぶ人間も居た。でも俺はそんな立派な存在じゃない。普通のパイロットさ」

 

「やはり……ニュータイプ……」

 

「成り損ないさ」

 

モビルスーツに乗って戦い戦果を上げる事で、アムロの事をニュータイプではないかと噂されるようになった。

ジャミルとアムロ。

2人が会話をする中で、トニヤは操舵士のシンゴにヒソヒソと話し掛けて居た。

 

「ねぇ、大尉って事はあの人軍人なの?」

 

「えぇ!? そうなんじゃないか」

 

「でも戦争が終わったのはもう昔の話じゃない。今もまだ階級付けて自分の事呼ぶなんて痛くない?」

 

「それに、宇宙でもないのにノーマルスーツ着てるしな」

 

「ねぇ~、だっさい」

 

2人が関係のない話をして居る時、モニターに表示される異変にサラは気付いた。

操作して居ないし、報告も受けて居ないハッチが開放されて中からバギーが走り去って行く。

 

「キャプテン、4番ハッチが開いてます!! あのバギーは」

 

「拡大しろ!!」

 

拡大される映像。

逃げるバギーのシートに座るのは見た事のない少年と、救出した筈のティファ・アディール。

 

「ティファ……すぐに追い掛けるぞ。フリーデン、全速前進」

 

ジャミルは話を切り上げ、フリーデンを動かし追い掛ける。

アムロはモニターに映ったティファを見て、心のなかで静かに思う。

 

(彼女がティファ・アディール……不思議な感覚だ)

 

///

 

バギーを走らせるガロードはティファを隣に乗せて、依頼主が待つ合流ポイントを目指した。

舗装されて居ない荒野でも、この車なら問題なく移動する事が出来る。

排気ガスと砂煙を撒き散らしながら、フリーデンとは反対方向に走った。

 

「上手く行った。後は引きちぎるだけだ。ティファ、しっかり捕まってろよ」

 

「はい」

 

静かに応えるティファ。

ゆっくりと後ろを振り返り、今まで自分が居たフリーデンの姿を視界に入れる。

けれども本当に見て居るのは、目に映るモノではない。

伝わって来る感覚を頼りに、彼女はもう1度名前を呼んだ。

 

「アム……ロ……」

 

「うん? 何か言った?」

 

「いいえ」

 

「すぐに着くからな。少し我慢してくれよ」

 

シフトレバーを握るガロードはギアを上げ、フルスロットルでバギーを加速させた。

荒野を抜け、細い林道を進んだ先。

予定した合流ポイントには、依頼を頼んで来た老紳士が立って居た。

ブレーキを踏みバギーを停止させるガロードは、エンジンは掛けたままシートから降りる。

 

「よぉ、オッサン。言われた通り助けて来たぜ」

 

「素晴らしい。時間もピッタリだ」

 

「高い報酬が掛かってるんでね。さぁ、ティファ。もう大丈夫だ。このオッサンと――」

 

老紳士の足元に用意されて居るのは幾つものアタッシュケース。

ガロードは報酬と引き換えにティファを引き渡そうとするが、少女の顔は恐怖に引きつって居た。

震えだす体、定まらない視点。

 

「あぁ……あっ……ああぁ……」

 

「ティファ?」

 

「さぁ、ガロード君。彼女をこちらへ」

 

「たす……け……て……」

 

震える声で、風にかき消されそうな程の小さな声で。

けれどもその一言を聞いたガロードは、自分が次にやるべき事を見出した。

バギーの運転席に飛び乗り、クラッチを踏み込んでギアを入れる。

アクセルを全開にして、目の前の老紳士を引き倒すつもりで突っ込んだ。

 

「なっ!?」

 

飛び退く老紳士。

ガロードは報酬に目もくれず、一目散にこの場から逃げ出した。

 

「ティファ、これで良かった?」

 

「ありが……とう……」

 

「ヨシ!! こっからまだド派手なドライブになるぜ!!」

 

逃げるガロード。

だが後方からは、意地でもティファを捕まえようとモビルスーツまで借りだして追手が迫る。

バックミラーに映る3機のモビルスーツ。

手には武器を手にしており、逃走は困難を極める。

 

「チッ!! モビルスーツまで出して来るのかよ」

 

「ガロード……あそこへ……」

 

ティファが指差す先。

そこに見えるのは、旧連邦軍のモビルスーツ工場跡。

辛うじてまだ、建造物としての形状は保って居るが、モビルスーツ工場としての面影はもうない。

至る所にゴミや瓦礫が散乱した状態。

 

「あそこに行けば良いのか?」

 

「はい……」

 

「わかった!!」

 

更にバギーを加速させる。

けれども追手は2人を逃がす筈もなく、モビルスーツが装備したライフルがバギーを狙う。

発射される弾丸。

1発でも当たれば車は大破、搭乗者も生き残れない。

それでもギリギリ外れるように放たれた1発は、バギーに当たる所がキズも付かない。

右へ左へ蛇行運転するバギーに照準を合わせてトリガーを引く。

だがそのどれも、寸前の所でかわされてしまう。

ハンドルを握るガロードの隣で、ティファが逃げる先をナビゲートして居た。

 

「次は右です。そのまま真っ直ぐに」

 

言われた通りにハンドルを切れば、弾丸はバギーと離れた所に着弾する。

ガロードはティファのナビゲートを信用しながら、モビルスーツ工場へ侵入した。

電気が通ってる筈もない古びた工場の中、ヘッドライトだけが視界を確保してくれる。

 

「なんとか着いた。でも、何で弾が来る位置がわかったんだ? まるでエスパーみたいだ」

 

「そのせいで私は狙われて居ます。ニュータイプの力……」

 

「ニュータイプ? ティファはそのニュータイプなのか? だからアイツラやバルチャーに狙われるのか?」

 

「ガロード……あれを……」

 

質問には応えないティファは、ある1点を指差した。

その方向にヘッドライトを向けると、見えて来るのは白い巨人。

 

「あれは……ガンダム……」

 

息を呑むガロード。

15年前に開発された伝説の機体。

思わず立ち上がると、鳥肌が立つのがわかる。

ティファもバギーから降りると、ゆっくりとガンダムに向かって歩いて行く。

だが、悠長にして居る時間はなかい。

外側からの攻撃で、工場の外壁は破壊された。

飛び散るコンクリート片、大量の砂煙。

その方向を鋭い視線で見るガロードは、バギーから飛び出し歩くティファの手を掴んで走った。

 

「あの機体に乗ろう。そうすれば勝てる!!」

 

仰向けに寝る白い機体。

ガロードはティファの体を抱えて、装甲の隙間を足場にしてコクピットへの登って行く。

その間にも、追手の3機が工場内へ侵入して来た。

 

『もう逃げられないぞ、ガロード君。彼女をこちらに渡すんだ。うん、アレは……』

 

量産機であるドートレスに乗る老紳士は、装備するライフルを突き付けて勧告した。

だが少年と少女はそれを無視して、内部に置かれて居たモビルスーツに乗り込む。

この男もまた、目の前の伝説の機体に目を見開いた。

 

『ガンダムだと!? どうしてこんな所に!!』

 

『動かれる前に破壊します!!』

 

味方のドートレスが銃口を向け、躊躇わずにトリガーを引く。

発射される弾丸は確実に白い装甲へ直撃し、ガンダムを激しく揺らす。

コクピットのガロードは敵からの攻撃に驚きながらも、全くダメージを受け付けてない装甲に目を見張った。

 

「全然壊れない。コイツの性能なら!! って、あれ? 操縦桿がない!!」

 

本来在るべき筈の、右手で操縦する為のレバーがぽっかりと失くなって居た。

これでは動かす事も出来ず、破壊されなくてもガンダムごと連れて行かれるだけだ。

尚も敵は攻撃を続けて来るが、いつまで経っても動かなくては相手もすぐに感づく。

焦るガロードだが、解決策は見つからない。

コンソールパネルを叩いても、ペダルを踏み込んでも、何をしてもガンダムは全く動かなかった。

 

「どうする? 折角のガンダムでもこれじゃ宝の持ち腐れだ。それにコクピットから出る事も出来ない」

 

「ガロード、コレを」

 

ティファはガロードの服に手を伸ばすと、フリーデンの金庫から盗んで来たコントロールユニットを取り出した。

それを見たガロードは笑みを浮かべて、コントロールユニットを受け取る。

 

「コイツで動かせるんだな、ティファ? 行くぜッ!!」

 

握るコントロールユニットを接続させる。

形はピッタリはまり込み、遂にガンダムのエンジンが機動した。

 

「動いた!? これなら!!」

 

ツインアイが輝き、ガンダムはゆっくりと動き出す。

攻撃を受け続けながらも、地面に足を付け上体を起き上がらせる。

 

「良いぞ、このまま。立て、立てよ~」

 

『ガンダムが動き始めた!?』

 

『怯むな、このまま撃ち続けろ!!』

 

「こんな奴らに負けてたまるか!! 立つんだ――」

 

 

 

第2話 立て!! ガンダム!!

 

 

 

動き出したガンダム。

量産機であるドートレスでは、もはや止める術はない。

 

「今まで散々追い掛け回してくれたな、今度はこっちの番だ!!」

 

『後退しろ、撤退だ。撤退するんだ!!』

 

「逃がすかよ!!」

 

工場内から逃げ出す3機のドートレス。

ガロードはバックパックにあるビームサーベルを引き抜き、逃げるドートレスに向かってジャンプした。

 

『う、ウワァァァッ!?』

 

「落ちろォォォッ!!」

 

ビームサーベルの刃が背後から迫る。

軽々と上を取るガンダムは腰部へビームサーベルを振り下ろし、ドートレスを真っ二つに両断した。

着地するガンダム、それに続いて斬られたドートレスが爆発を起こす。

 

「ビームサーベルが標準装備されてる。やっぱりガンダムってすげぇ!!」

 

『たった一撃で!? ガンダムが何だって言うんだ!!』

 

『止せ!! 勝てる相手ではない!!』

 

指揮を取る老紳士は逃げる事を優先するが、仲間を殺された事で逆上したもう1人のパイロット。

腰部のヒートサーベルを手に取り果敢にもガンダムへ突撃した。

 

「来るのか!? 至近距離でエンジンが爆発したらマズイ!!」

 

ヒートサーベルを片手に飛びかかるドートレス。

モビルスーツの爆発を避けようとするガロードはコクピットに狙いを定め、迫り来る敵機にビームサーベルを突き立てた。

 

『――――』

 

ビームサーベルの高熱はパイロットを髪の毛1本と残さない。

自分が死んだ事さえも気付かずに、ガンダムのビームサーベルはコクピットに突き刺さった。

パイロットが居なくなった事で力を失う機体。

ガロードは撃破した機体を捨て、逃げる最後の1機を目指して追い掛けた。

 

「逃がすもんか!!」

 

///

 

ティファを追い掛けるフリーデンは、戦闘による爆発をキャッチする。

レーダーですぐに方角と位置を確認し、クルーがそれぞれの仕事を進めた。

爆発が起こったのは旧連邦軍のモビルスーツ工場。

オペレーターのサラがこの事を伝える。

 

「キャプテン、場所がわかりました。西へ3キロの方角です」

 

「モビルスーツをいつでも出せるようにしておけ」

 

「はい。ですが、他の位置からもモビルスーツの反応が。恐らくさっきの爆発で嗅ぎ付けて来た可能性が」

 

「乱戦になれば救出するのが困難になる。急ぐしかない」

 

レーダーに反応するモビルスーツの数は時間が経過するごとに増えて行く。

モビルスーツ乗り達が自前の機体を頼りに、爆発元に向かって進んで行った。

僅かでもパーツを確保出来れば金に変える事が出来る。

自分の機体に使う事も出来る為、モビルスーツ乗り達はハイエナのように増えるばかり。

その様子を見守るアムロ。

 

「キャプテン、俺も出よう。モビルスーツで出た方が早い」

 

「良いのか?」

 

「乗りかかった船だ。ライフルだけ借りるぞ」

 

言うとアムロはブリッジを後にして、モビルスーツデッキに向かう。

歩いて来た通路を戻りデッキにまで来ると、既に2機のガンダムは出撃して居た。

広い空間でνガンダムだけがハンガーに固定されており、機体の足元にまで来るとハッチから伸びるワイヤーを手に取る。

コクピットにまで上昇しようとした時、背後から声が掛かった。

 

「アンタがこの機体のパイロットかい?」

 

「キミは?」

 

「俺はこの艦でメカニックをしてるキッドってんだ。時間がなかったけど、推進剤だけは補充したからな」

 

「キミのような子がモビルスーツのメカニック?」

 

「そうさ、なんたって天才だからね。それよりもライフルを使うんだろ? ジャミルから聞いてる。アレを使ってくれ」

 

キッドが言う先には、ビームライフルが1丁壁のアンカーに固定されて居る。

目でちらりと確認するアムロは、握ったワイヤーを巻き取らせた。

 

「わかった。助かる」

 

「おう、死ぬんじゃねぇぞ」

 

ハッチまで上昇するとコクピットシートに滑り込み、コンソールパネルを叩きエンジンを起動させる。

光るツインアイ。

ゆっくり歩き出すνガンダムは壁のビームライフルのマニピュレーターを伸ばす。

右手に武器を装備し、開放されたハッチから外に出る。

メインスラスターから青白い炎を噴射し機体をジャンプさせるアムロは、開放されたままのハッチから直接

外の景色を覗く。

冷たい夜風が、額に滲む汗を乾かす。

 

「本当にここは俺が知ってる地球なのか? 頭が混乱して居る。どうなって居るんだ?」

 

頭を抱えながらも、今は目の前の事態に集中する。

それでも不安は拭えないが。

ジャンプを繰り返しながら進むガンダム。

戦闘が行われて居るであろう場所まではまだ少し時間が掛かる。

その最中、月から一筋の光が降りて来た。

 

「レーザー光線? いや、違う……」




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第3話

ガロードのガンダムを起点として、周辺地域からモビルスーツが次々に現れる。

初めはティファの事を狙う3機のドートレスだけだったが、今やその数は10機を超えて居た。

更にはガンダムタイプともなれば、ハイエナ達の格好の的である。

幾ら性能が高くとも、四方八方を囲まれた状態で戦える程の技術をガロードは持ち合わせて居ない。

 

「一斉に集まって来やがった。頼むぜガンダム!!」

 

ペダルを踏み込み、リフレクターに隠れて居たメインスラスターから青白い炎を吹かす。

飛ぶガンダムは握るビームサーベルを敵に目掛けて振り下ろした。

装甲を容易く分断し、エンジンの爆発が大地を揺らす。

それでも次の時には四方から砲撃を浴びせられる。

 

「ぐああァァァッ!! クソッ、負けるもんか!!」

 

激しく揺れるコクピット。

歯を食い縛り、操縦桿を力の限り握り締める。

画面に映る敵を睨み付けるガロードは、兎に角前に出た。

作戦も何も考えず、機体の性能を頼りに突撃する。

 

「ウオオオォォォッ!!」

 

突き立てられるビームサーベルは敵機のコクピットを貫く。

だが、まだモビルスーツを2機倒したに過ぎず、ガンダムの前には20を超える機体が待ち構えて居る。

更なる攻撃と爆撃がガンダムを襲う。

 

「俺はまだ死なない!! 死んでたまるかぁぁぁ!!」

 

『ガンダムを倒せば一攫千金だ!! コクピットを狙え!!』

 

『腕1本でも大金だ!! ガンダムは俺達が倒す!!』

 

『パイロットを燻り出せ!!』

 

ガンダムに向けられる様々な思念、欲、憎悪。

ガロードはそれらに対して、生きる為に牙をむき出しにして立ち向かう。

ティファもその事に気付いており、静かに目を閉じると意識を集中させた。

そして開放されるガンダムの封印された力。

 

「ガロード……アナタに……力を……」

 

戦闘画面に突如として表示される『サテライトシステム』の文字。

苦戦するガロードは思わず目を見開いた。

 

「何だ!? こんな操作してねぇぞ!! サテライトキャノン? コレか!!」

 

接続させたコントロールユニットのガジェットを押し込む。

背部のリフレクターが展開され、背負って居たビーム砲を前面に向けグリップを掴む。

月から発射される照準用レーザーが、ガンダムの胸部に当てられる。

 

「4.03秒後にマイクロウェーブ!?」

 

「来ます」

 

月にあるマイクロウェーブ発振施設。

レーダードームから発射される膨大なエネルギーはガンダムに吸収され、リフレクターと身体各所に設置された青いエネルギーコンダクターが眩く光る。

 

「エネルギーチャージ完了。撃てる!! 行けぇぇぇ!!」

 

引かれるトリガー。

砲門からは、受信した膨大なエネルギーが一気に発射された。

余りのエネルギー量に周囲は閃光に包まれ、目の前に居たモビルスーツは光に飲み込まれる。

 

///

 

フリーデンのブリッジで戦況を見て居たジャミルはシートから立ち上がった。

月から発射されるマイクロウェーブ。

その光景は戦争が終結して15年経っても忘れる事はない。

 

「マイクロウェーブ!? ティファか!?」

 

ジャミルは瞬時に理解する。

そして自身の能力でティファへ必死に呼び掛けたが、苦しい思いをするだけで声は届かない。

 

「止めるんだティファ!! その兵器は……」

 

戦場へと向かうアムロもその光景を目にして居た。

 

「何だ、この感覚……プレッシャー……来る!!」

 

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開。

機体をジャンプさせ数秒後、目の前を閃光が通り過ぎる。

サテライトキャノンから発射されたエネルギーが、集まって来たモビルスーツの全てを飲み込んだ。

装甲は数秒として保たずネジ1本残らない。

木々を薙ぎ払い、大地を焼き、発射線上のモノ全てを消し去る。

けれどもサテライトキャノンのエネルギーも無尽蔵ではない。

数秒後にはエネルギーは尽き、その場には何も残って居なかった。

高熱を浴びせられて地面に風が触れると、溶けたガラスが固体化し始める。

先行して居たウィッツとロアビィも発射線上から離脱した先でこの光景を見ており、その先に居るモビルスーツの戦闘力に舌を巻いた。

 

「なんつー威力してんだよ。アレもガンダムなのか?」

 

「GX-9900、とんでもない機体を作ってくれたもんだ」

 

「もう1発撃たれたらマズイぜ」

 

「あぁ、同感だね。でも、向こうさんはそうでもないみたいだぜ」

 

視線を向けた先では、サテライトキャノンを構えるガンダムに迫るアムロの機体。

 

///

 

コクピットの中でガロードは唖然として口を開ける。

目の前で起きた光景が目に焼き付き、それで居ながら信じられないで居た。

ビームの照射が終わって数秒、ようやく口から空気を吸うと頭の中で思考を巡らせる。

 

「すげぇ……これがガンダムの力……でも、これで邪魔な奴らは居なくなった。行こう、ティファ」

 

隣に座る少女に呼び掛けるガロード。

けれども彼女の表情は見る見る内に青ざめて、小柄な体が震え始める。

焦点の定まらない瞳。

耐え切れなくなったティファはあらん限りの金切り声を上げた。

 

「ティファ!? どうしたんだ、ティファ!!」

 

ガロードの声は彼女に届かない。

サテライトキャノンにより破壊された無数のモビルスーツ。

当然、中にはパイロットが乗っており、破壊されたと同時にこの世から消える。

死ぬ間際の絶望、痛み、恐怖、生への執着。

それらの感情全てが塊となり、感覚の鋭いティファは感じ取ってしまう。

まだ幼い少女に、それら全てを受け止められるだけの精神力はない。

 

「ティファ!! しっかりしろ、ティファ!!」

 

呼び掛けても反応すら返せず、そして金切り声は止んだ。

ティファは気を失い、ガロードの腕の中に倒れるとまぶたを閉じて動かなくなってしまう。

 

「クソッ、どうしたって言うんだ。レーダーに反応、まだ敵が居るのか?」

 

反応がある先にメインカメラを向ける。

そこから来るのはビームライフルを握る白いモビルスーツ、νガンダムの姿。

サテライトキャノンに脅威を感じるウィッツとロアビィとは違い、アムロは2発目が来ない事を確信めいて居た。

 

「たった1機であれだけの威力……戦略級の戦闘力を持って居るのか。だが、第2射はない筈だ」

 

「ならもう1発!!」

 

ガロードは操縦桿のトリガーを押し込むが、砲門からビームは発射されない。

そして月も、現れる太陽と入れ替わる。

 

「1回のマイクロウェーブで1発しか撃てないのか? 月も沈む。他の武器は?」

 

コンソールパネルを叩くガロード。

画面に表示された指示に従い操縦桿を動かしてリフレクターと砲門を収納し、バックパックにマウントされたビームライフルを引き抜く。

向かって来る白いモビルスーツに銃口を向けて、試し撃ちするようにトリガーを引いた。

発射されるビームは狙った相手とは程遠い所へ着弾する。

 

「ビームライフル、こんなのまであるのか。これなら!!」

 

次はしっかりと狙い、本気で当てるつもりでトリガーを引いた。

だがアムロの動きは早い。

銃口を向けられた時にはもう、回避行動に移って居る。

2発3発とビームを発射しても装甲にかすりもしない。

 

「はやい!?」

 

「さっきまでのプレッシャーが消えた? 敵意が弱い。あの少女とは違う、子どもか?」

 

「このっ、このぉぉ!! 当たれってんだ!!」

 

「素人か?」

 

アムロはビームライフルを向けトリガーを引いた。

逃げようとするガロードだが、ビームは右脚部に着弾。

簡単に攻撃を当てられてしまう。

 

「ぐぅっ!? さっきまでの相手とは違う!!」

 

「悪いが逃がす訳にはいかない」

 

技量の差を痛感するガロード。

それでもティファを守る為に、当たらなくてもビームライフルのトリガーを引き続け、リフレクターからエネルギーを放出してνガンダムから距離を取る。

だが、νガンダムから鋭い攻撃が迫った。

アームレイカーを操作して、回避しながらビームを撃つ。

正確な射撃はガロードのガンダムが握るビームライフルを撃ち抜き、その衝撃にマニピュレーターから手放してしまう。

 

「ライフルが!? ぐああァァァッ!!」

 

右脚部へまた直撃。

姿勢を崩すガンダムは背部から倒れこむ。

激しく揺れるコクピットで歯を食いしばるガロード、ティファの体を支えながらペダルを踏み込んだ。

リフレクターからのエネルギー放出量が増大し、νガンダムに背を向け機体を浮遊させる。

 

「ここまでは着いて来れないだろ。一気に突き放してやる」

 

「甘い!!」

 

2機の距離は離れるが、アムロは構わずにビームライフルで狙撃する。

ガロードは当然回避するが、避けた先を先読みしてビームは放たれた。

1発がリフレクターをかすめる。

 

「ウソだろ!? これだけ離れてるのに」

 

「次で当てる」

 

アムロの宣言通り、リフレクターにビームが直撃する。

推力を失うガンダムは地面へと降下して行く。

メインスラスターを吹かすガロードは着地と同時にビームサーベルを引き抜き、迫るνガンダムに向き直った。

 

「データにはないけど、向こうもガンダムなのか?」

 

「あのパイロット、来るのか?」

 

「こっちだってガンダムだ!! 負けてたまるか!!」

 

逃げて居たガロードは一転、ビームサーベルを片手にνガンダムへ走った。

戦略も何も考えずにただ突き進むのみ。

そんな相手に冷静に対処するアムロ。

積み重ねて来た戦闘技術と場数は、気力だけで埋まるモノではない。

アームレイカーを素早く動かし、ビームを2射。

迫るガンダムの直前で地面に直撃すると土煙を発生させ、前方の視界を効かなくさせる。

更に見えなくなった事に動揺するガロードは、機体の動きを止めてしまった。

 

「煙幕のつもりか。どこから……」

 

「遅い!!」

 

「っ!?」

 

気が付いた時にはもう遅い。

土煙の中がら現れたνガンダムはマニピュレーターを伸ばして頭部を殴った。

鉄と鉄とがぶつかり合う。

重く鈍い音が響く。

殴られるガロードは必死に操縦桿を握り締めるしか出来ないが、アムロは一方的にマニピュレーターを叩き付ける。

2発、3発、4発目が入った時にメインカメラからの映像にノイズが走った。

そして股座に膝を叩き込み、ガロードのガンダムは再び地面に倒れ込む。

 

「ぐぅっ!! ここまでなのか……」

 

「動くな。投降しろ」

 

アムロはビームライフルの銃口をコクピットに密着させて、中のパイロットに呼び掛ける。

動きを停止したガンダムだが、すぐに返事は返って来ない。

 

「この至近距離でライフルを撃てばこの機体でも耐え切れまい。彼女はコクピットに置いたまま、パイロットだけ外に出ろ」

 

「わかった……」

 

考えるが、もう他に選択肢がなかった。

素直に従うガロードはティファをコクピットシートに置いてハッチを開放させる。

生身でνガンダムと対面するガロード。

その後方からは、ティファを連れ出したフリーデンが見える。

 

///

 

フリーデンに収容される4機のガンダム。

その中でもガロードのガンダムは損傷が激しかった。

脚部、スラスターにも使用出来るリフレクター。

機体は破壊せずに、けれども動けなくする為に、ピンポイントで攻撃が当てられて居る。

メカニックのキッドはその有様を見て苦言を呈した。

 

「あ~あ~、派手にやってくれちゃって。修理に時間が掛かるぞ」

 

「だが完全に破壊した訳ではない。なんとか頼む」

 

「でも、そうなるとアンタの機体は後回しになるぜ?」

 

「それで良い。ある程度は自分でやるさ」

 

「あいよ。んじゃ、さっさと仕事に取り掛かるか!!」

 

言うとキッドは部下を呼び出し段取りを説明し始める。

アムロはその場を後にして、病室へ担ぎ込まれたティファの元へ向かう。

通路の進むその途中、腕を後ろに回され両手首に手錠を掛けられたガンダムのパイロット、ガロード・ランとジャミル・ニートがそこに居た。

足早に近づくアムロはジャミルに呼びかけた。

 

「キャプテン、彼女の容態は?」

 

「2日は絶対安静だ。フリーデンは暫くここに留まる」

 

「そうか。それで、キミがガンダムのパイロットだな?」

 

視線を交わすアムロとガロード。

でもガロードは鋭い目付きで敵意をむき出しにする。

 

「キャプテン、彼と話しても良いか?」

 

「構わんが、いつ逃げ出すかもしれん。営倉の中になるが」

 

「それで良い。鍵はあるか?」

 

言われてジャミルは上着から鍵を取り出しアムロに手渡した。

受け取るアムロはガロードを引き連れてこの場から去って行く。

そしてジャミルは病室のティファの元へと向かう。

通路を歩いて暫くすると、鍵に付けられた番号札と同じ部屋番を見付けた。

アムロは扉を開け、ガロードを中に居れると自分も一緒に入る。

壁に備え付けられた電源を押し、部屋の中に明かりが付いた。

 

「俺はアムロ・レイ。キミの事は何と呼べば良い?」

 

「言いたくないね。どうしてテメェなんかに!!」

 

「わかった、言いたくないならそれで構わない。こっちは少々聞きたい事があるだけだ」

 

「素直に応えると思う?」

 

「キミが言わないなら彼女に聞く事になる」

 

「っ!! ティファの事か!?」

 

「嫌なら応えるんだ」

 

脅迫じみたやり方ではあるが、質問に応えさせるにアムロはこれを選んだ。

抵抗しようにも、満足に動けないガロードにはどうしようもなく、悔しい表情をあらわにして頷いた。

 

「良し。まずは1つ目だが、このフリーデンは地球連邦のモノなのか?」

 

「はぁ? 何馬鹿な事言ってんだよ。地球連邦なんてとっくの昔に失くなってるだろ」

 

「だったらこの艦はジャミル個人のモノなのか?」

 

「そんなの本人に聞けば良いだろ? だからバルチャーなんてやってんだろ」

 

「バルチャー……なんとなくだが理解した。もう1つ聞くが、何で地球連邦は失くなったんだ?」

 

「アンタも変な奴だな。今の地球に生きてる人間で、そんな事聞く奴なんて1人も居ないぜ?」

 

「頼む、何もわからないんだ」

 

アムロの様子を見て、ガロードは少しずつ警戒心を解いて行く。

自身も言った様に、このような事を聞いて来る人間など初めてだし、冗談で言って居る様には見えない。

肩に入れて居た力を少し緩め、備えられたベッドに腰掛けまた口を開く。

 

「15年前の戦争。まさかコレも知らないなんて言わないよな?」

 

「続けてくれ」

 

「俺もそんな細かな事まで知ってる訳じゃないけどさ。宇宙で戦争してた地球連邦と宇宙革命軍ってのが居てさ。革命軍は勝つ為にスペースコロニーを地球に落としたんだ」

 

(15年前の戦争、宇宙革命軍、また知らない単語か)

 

「んでもって、地球は穴ぼこだらけになって、とても人の住める状態じゃなくなった。人間も殆ど死んじまって……」

 

(15年も前にそんな戦争はない。宇宙革命軍もな。だが地球の状況は大まかにはわかった。どうやら俺が思ってる地球とは違うらしい。それでも節々に共通点があるのが気になるな)

 

宇宙世紀0093、地球連邦軍とネオ・ジオンとの2度目の戦争。

少なくともその時の地球圏の状況とはかけ離れて居る。

考えるアムロだが、これだけの情報で結論を導き出す事は出来ない。

 

「あんた、アムロってんだろ? 見た感じ大人なのに、どうして知らないんだ? 俺でも知ってるくらいだぜ」

 

「そうだな……7年……」

 

「7年?」

 

「地球連邦のパイロットとして戦ってた俺は、戦争が終わった後に怖くなったんだ」

 

「怖い?」

 

「あぁ、笑うかい? それから7年、俺はずっと外に出る事もなく幽閉されて居た」

 

「7年も……それで……」

 

(上手く誤魔化せたと思いたいが……兎も角、情報を集めるしかないか)

 

区切りを付けるアムロは鍵を取り出し、ガロードに掛けられた手錠のロックを外す。

もう1度向けられるガロードの視線は、初めて出会った時と変わって居た。

 

「良いのか?」

 

「この部屋からは出さないがな。大人しくして居れば、ジャミルも出してくれるだろ」

 

「なぁ、ティファは大丈夫なのか? あの子、凄く苦しんでたんだ」

 

「彼女なら大丈夫だ。感覚が敏感過ぎて、受け止め切れなかったんだろ。あのガンダムのビーム砲でキミは窮地を脱したつもりだったのだろ? だが同時に大勢の人間が死んだ」

 

「でもそれは!!」

 

「わかってるつもりだ、必死だったんだろ。俺も昔はそうだった。でも彼女はそれに耐える事が出来ない。だからさ」

 

「俺の……せいなのか……」

 

「悲観する事はない。キミはこの時代を生き延びて来たんだろ? だったら――」

 

 

 

第3話 キミは今、何を為す?

 

 

 

うつ向くガロードに、アムロはこれ以上何も言わない。

静かに部屋から出て扉を施錠すると、ジャミルが居るであろう医務室を目指して歩いた。

 

(あの時ガンダムに乗ってから13年も経っちまった。当時の俺と比べたら、まださっきの少年の方がたくましい。昔の俺だとあぁはなれないだろ。俺はこの先、どう生き延びる?)

 

長い通路を歩きながらアムロは考えた。

行く宛もない世界で、何を支えにして生きて行けば良いのか。

かつてのスペースノイドはその支えを自ら作った。

ジオン公国、光さえも届かぬ宇宙でスペースノイドが心の支えにしたモノ。

そしてジオン・ズム・ダイクンの提唱してニュータイプ論。

人と人とが誤解なくわかりあえる存在。

その答えは自身で見つけるしかない。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第4話

アルタネイティブ社に1人のモビルスーツ乗りが乗り込んで来た。

ガンダムヴァサーゴ。

赤い装甲に黒い翼。

終戦後、連邦軍がモビルスーツの開発技術をより高度なモノへ発展させた事を窺わせるこの機体。

パイロットの名はシャギア・フロスト。

アルタネイティブ社のラボで、彼はソファーに座りながら総責任者であるフォン・アルタネイティブと交渉を進めて居た。

 

「お前の目的は何だ?」

 

「ですから、何度も申し上げて居る通りです。私をここで雇って欲しいのです」

 

「貴様のような何処に居るともしれんモビルスーツ乗りを? 馬鹿馬鹿しい」

 

フォンは交渉を持ち掛けるシャギアを鼻で笑う。

物資も資源も限られてる今の時代、彼は地位を得る事で全てを手にして来た。

金も、食料も、資源も。

巨大企業の後ろ盾もある。

贅沢を尽くす彼の体は脂肪ででっぷりと膨れて居り、シャギアの事を見下すように見た。

 

「確かにモビルスーツを動かす技術は普通の奴よりも多少は出来るみたいだが、そんなモノなど探せばすぐに見つかる。貴様は――」

 

「数日前、ティファ・アディールと言う少女がこのラボから連れ去られたようで」

 

シャギアの言葉に息を呑む。

この事を知るのはファンと、奪還命令を下した数名の部下のみ。

額から汗を滲ませ、動揺を隠すべくメガネのレンズ越しにシャギアを睨んだ。

 

「どこから情報を入手した?」

 

「フフフッ、企業秘密です。雇って頂けるのならお教えしましょう」

 

「何が狙いだ? 金か?」

 

「彼女が連れ去られたのは1週間前。このラボに、バルチャーが襲撃を掛けて来た。急いで彼女を奪還すべく部隊を派遣するが、返り討ちにあい今に至る。なんでも相手は、旧連邦のモビルスーツであるガンダムが現れたとか」

 

「随分と詳しいようだな」

 

「この時代を生き延びるには、情報は幾らあっても困りません。それに、手間と時間を掛けて居ますので」

 

更に警戒心を強めるフォンは、デスクの引き出しに忍ばせた拳銃を手に取ろうと静かに視線を向ける。

シャギアに動きがない事を確認しながら、ゆっくりと手を伸ばす。

ソファーに座り足を組むシャギアはフォンに視線すら向けて居ない。

 

「そして、ティファ・アディールがこのラボで何をされて居たのかも知って居ます。彼女が持つ特殊な能力。15年前の戦争の時に居たとされるニュータイプなのだとしたら、その価値は大きいですね。このアルタネイティブ社を更に大きく出来る。ですがこんな事、無闇矢鱈と言える訳がありません。だから奪還部隊も最小限、最重要機密の彼女の存在を知られる訳にはいかない」

 

「凄いね、ここまでの情報を入手して居るとは。わかった、キミを――」

 

拳銃を取り出したフォンは素早くその銃口をシャギアに向けた。

トリガーに掛けられた指。

躊躇なく、力強く引き金を引こうとした瞬間。

響く銃声。

弾丸はソファーの皮を突き破る。

けれどもそこにシャギアの姿はもうない。

瞬時に駆けると銃を握る右手を捻り上げ、相手から武器を奪い取る。

 

「ぐぅっ!?」

 

「これで私の実力は把握出来たと思いますが? さて、如何です? 雇って頂けますか?」

 

(拒否すれば、その引き金を引くつもりか!? こんな小童にこのワシが!!)

 

突き付けられる銃口、フォンに選択肢はない。

黙って首を縦に振りシャギアの提案に賛同の意思を示す。

抵抗する気はもはや微塵も失くなってしまい、シャギアもそれを感じると銃をジャケットの中に入れる。

 

「ありがとうございます。必ずやティファ・アディールを取り戻して見せましょう。では手始めに、これからの動向を探る為にも占いでもしましょう」

 

言いながらソファーに戻り、再びジャケットに手を伸ばすと今度はタロットカードを取り出した。

両手の中でカードをシャッフルし、備えられたガラスのテーブルの上にカードを並べていく。

 

「カードなどで。そんな事をしとる場合なのかね?」

 

「既に向こうには私の弟を送り込んで居ます。上手く行けば、今頃は内部に潜り込んで居る筈です」

 

「弟だと?」

 

「えぇ、とても優秀なね。さて、占いの結果が出ました。これは……」

 

手に取ったカードは悪魔のカード。

じっと見つめるシャギアはニヤリと口元を歪めた。

 

「悪魔のカード……」

 

「ワシはカードの事などわからんが、悪魔とは穏やかじゃないな。良くない事が起こる前触れか?」

 

「いいえ、とんでもない。ここは動くべきです」

 

窓の外から差し込む太陽の光。

それは幾重にも屈折して悪魔のカードに反射する。

 

(オルバなら大丈夫だ。だが、奇妙なモノだ。これではまるで――)

 

 

 

第4話 白い悪魔

 

 

 

翌朝、艦長室で話をするのはジャミルと着替えを済ませたアムロ。

互いに向き合いながらシートに座る2人は、これからの事を話して居た。

 

「それで、どうしてあんな所に? あのモビルスーツの事も気になる」

 

「あぁ、全てを明確に応えられる訳ではないが、それでも良いか?」

 

「構わない。私も同じようなモノだ」

 

「そうか。戦争が終わってから、俺は連邦軍に幽閉されて居た。けれどもそこから逃げようともせず、7年もそこに居た。戦いが怖い、と言うよりも宇宙が怖かった。でも、そこからの記憶は酷く曖昧だ。どうしてあんな所にガンダムと居たのか、俺にもわからない」

 

「宇宙が……私はあの戦争が終わって、モビルスーツに乗るのが怖くなった。今でもコクピットに入れば、手が震える」

 

「不思議だな、どこか似たような所がある」

 

「全くだ」

 

微笑を交わす2人。

それでもまだ、アムロの心の中では混乱したままだ。

 

(自分でもまだ、本当の事がわかっちゃ居ないんだ。ここが何処なのかも、これから何をするのかも)

 

「それで、これからどうするつもりで? 行き先はあるのか?」

 

「ないよ。でもいつまでもここで厄介になる訳にもいかない。少しすれば、ガンダムと一緒に出て行くよ」

 

「だったら、ウチに雇われてくれないか?」

 

「フリーデンに?」

 

「そうだ。今までの戦闘でわかった。アナタの腕は相当なモノだ。それに、もしかしたらニュータイプかもしれない」

 

「やけに拘るな、ニュータイプに。前にも言ったが、俺はそんな立派なモノではない。ニュータイプの成り損ないの、ただの男だよ」

 

ニュータイプを否定するアムロ。

1年戦争の時、確かにララァ・スンとわかりあう事が出来た。

時の流れさえも自由に変えられると思ったが、いつまでも彼女の幻影に縛られる事をアムロは望まない。

けれども、シャアはニュータイプである彼女に執着した。

ニュータイプに囚われて周りが見えなくなったシャアが歩んだ歴史。

それは、彼に何も残さなかった。

 

「アムロ、私もかつてニュータイプと呼ばれた。あの戦場で戦い、そして引き金を引いた。ニュータイプは戦争の道具として扱われ、そして死んで行ったモノも多い。私はもう、あんな悲劇を繰り返したくはない。だが、あれだけ凄惨な戦いがあっても尚、ニュータイプを使う人間は居る。だから助けたい……かつての私のようになって欲しくない。だからティファを助けた」

 

「あの少女の事か。だがジャミル、こんな事をして居ても――」

 

爆音が響く、艦内が揺れる。

話を切り上げてシートから立ち上がる2人。

視線を合わせて意思の疎通をすると、部屋を出てブリッジに走る。

 

「状況は?」

 

ジャミルは艦長シートまで来ると、モニターを見て何が起こったのかをサラに聞く。

一緒に来たアムロも、モニターに表示された映像に視線を向けた。

見えるのは地上を高速で移動する黒いモビルアーマー。

コンソールパネルを叩きながら、オペレーターのサラは的確に状況を報告する。

 

「こちらへの攻撃ではありません。黒い機体がバルチャーに追われてます。どうしますか?」

 

「フリーデンはまだ動けん。ウィッツとロアビィをいつでも出撃出来るようにしろ」

 

「了解です」

 

指示に従い動くサラ。

7機ものモビルスーツが一方的に黒い機体を追い回す。

その状況を見るアムロは1歩前に出た。

 

「キャプテン、俺も出よう。敵の母艦も近い。数は多い方が良いだろ」

 

「だが、あのガンダムの修理はまだ出来てない」

 

「やりようはあるさ。またライフルだけ借りるぞ」

 

モビルスーツデッキに行こうとするアムロ。

けれどもジャミルは、その背中を呼び止めた。

 

「待て……これを使え」

 

差し出したのはガンダムに使用するコントロールユニット。

立ち止まるアムロはそれを受け取り、物珍しそうに凝視した。

 

「何だ、コレは?」

 

「GXのコントロールユニットだ。これがなければGXは起動せん」

 

「GXだと? あの白いガンダムか」

 

「アムロ、お前が乗ってくれ。GXに」

 

「俺が……」

 

一瞬、躊躇するアムロ。

けれどもそんな時間はなかった。

黒いモビルアーマーを追うバルチャーの機体、ジェニスがフリーデンの居場所をキャッチしてしまう。

3機のジェニスがフリーデンに迫る。

 

「わかった。俺が乗る」

 

「頼む」

 

コントロールユニットを握るアムロはブリッジを出てモビルスーツデッキへ走った。

けれどもその心中は複雑であり、心の奥に押し込んでハンガーのGXの前に立つ。

 

「アムロがGXに乗るのか?」

 

「キッド? あぁ、そうなった」

 

「まだ修理は完璧じゃないんだ。右足の駆動系はなんとかしたけど、スラスターの出力は充分じゃない」

 

「わかった。助かるよ」

 

「次は壊すんじゃねぇぞ」

 

「そのつもりだ。行って来る」

 

言われてアムロはハッチから伸びるアンカーを掴む。

上昇するアンカーは体をコクピットにまで運び、アムロはGXに乗り込んだ。

 

「全天周囲モニターじゃない。操縦桿もスティック式か。コントロールユニットは……ここか?」

 

コクピット内部の構造に疑問を浮かべながらも、ジャミルから受け取ったコントロールユニットを差し込む。

エンジンが起動しツインアイが光る。

シートベルトを装着して、両足を軽くペダルに乗せると、GXを動かす。

 

「起動したな。GX、出るぞ」

 

背部のリフレクターを少しだけ開けエネルギーを放出させ、GXはフリーデンのハッチから飛び出した。

地上をホバーリングのように移動しながら、操縦桿で感触を確かめる。

 

「操縦方法は殆ど変わらない。これなら行けるか?」

 

バックパックからビームライフルを取り、向かって来る3機のジェニスを視界に捉える。

射程距離からは少し離れて居るが、構わずにトリガーを引いた。

発射されたビームはジェニス頭部をかすめ、次の瞬間にはコクピットのすぐ横へ直撃する。

機体はまだ動くがコクピット内部にまでダメージは到達しており、パイロットは飛び散る機械部品で皮膚を突き破られ動けない。

操縦桿を手放し、機体はそのまま地面へと倒れ込む。

 

「時間は掛けられない。一気に叩く!!」

 

ペダルを踏み込むアムロ。

GXは更に加速し、残る2機へ距離を詰める。

 

『相手は1機だ!! 撃ち落とせ!!』

 

『パイルをやりやがったな!!』

 

「そんな腕では!!」

 

モビルスーツを動かせるだけで、パイロットは戦闘訓練を積んだ訳ではない。

15年前の戦争で地球の大陸が姿形を変え、ようやく人が大地を踏み締める事が出来るようになってからバルチャーは現れた。

モビルスーツは元々は軍の兵器であり、一般人は触れる事さえ出来ない代物。

けれども時代は変わり、バルチャーやフリーのモビルスーツ乗りは捨てられたモビルスーツを修理、改修して自分のモノとした。

そんな彼らの戦い方は、武器を使って喧嘩して居るに過ぎない。

アムロはビームライフルを向け牽制射撃するが、その1発はまたしてもコクピットに直撃する。

 

「こいつら、素人なのか?」

 

『よくも白いヤツ!!』

 

「ちぃ、遅すぎる!!」

 

果敢にもメインスラスターを全開にしてGXに迫るジェニス。

腰部からヒートホークを取り出し右腕を振り上げるが、胸部インテーク部のブレストバルカンが火を噴く。

4つの砲門、高速で発射される弾丸は緑の装甲をズタズタに引き裂く。

破壊される内部部品からは煙が上がり、胸部周辺には無数の穴が開く。

握り締めたヒートホークを振り下ろす事も出来ずに、3機目のジェニスは地面に倒れた。

 

「残りは……さっきのモビルアーマーは? まだ反応はある」

 

ペダルを踏み込むアムロはGXをジャンプさせる。

だが地上をホバーリングのように移動して居た時とは違い、空中では機体の速度が出ない。

完全に修理が出来てないリフレクターはパイロットの操作通りに反応しなかった。

 

「パワーがダウンしてるのか!? 自分で蒔いた種だが……間に合うか?」

 

レーダーが反応する方角、黒いモビルアーマーの位置を見るアムロ。

4機のジェニスから依然として逃げるばかりだが、旧反転すると巨大な2本のクローアームのに内蔵されたビーム砲から強力なビームを放つ。

追い掛けるジェニスの1機は回避する事が出来ず、直撃を受けると機体は爆発した。

 

「逃げながら1機倒したか。やるな」

 

機体を地上に着地させるアムロは再びホバーリングで黒いモビルアーマーの元へ向かう。

3機に減ったジェニスは目の前の獲物にしか視線を向けておらず、背後から近づくGXのビームライフルが1機を撃ち抜いた。

 

「そこの黒い機体、右に回り込め」

 

『わかった……』

 

アムロは呼び掛けると、モビルアーマーはその指示に従い動く。

GXに接近を許すジェニスが振り返った時には、白い機体はもう眼前に居る。

 

『うああぁぁぁっ!?』

 

銃口を胸部に密着させトリガーを引く。

灼熱のビームに焼かれて機体は背部から倒れる。

鋭い視線を向けるアムロは素早く操縦桿を動かし、ビームライフルをバックパックに戻しビームサーベルのグリップを掴む。

 

「あと1機!!」

 

『やってやる!! 白いモビルスーツがなんだ!!』

 

相手のジェニスもすかさずヒートホークを手に取り振り下ろすが、アムロの攻撃の方が1手早い。

ビームサーベルのグリップを横一閃。

斬る一瞬にビーム刃を発生。

ジェニスの右腕は肘から斬り落とされ、次の瞬間にはコクピットに突き立てられた。

頭部モノアイから光が消え、力を失うジェニスは前に倒れ込む。

肩の力を抜いたアムロはコンソールパネルを叩き、待機して居るフリーデンに通信を繋げた。

 

「どうにかなったな。こちらアムロ、フリーデン聞こえるか?」

 

『こちらフリーデン。モビルスーツ全機撃破、お見事です。敵艦も後退して居ます。無理に追う必要はありません』

 

「そのようだな。帰還する」

 

『わかりました』

 

オペレーターのサラとの通信を終え、すぐ近くに止まる黒いモビルアーマーを見る。

さっきまでの戦闘で、その黒いボディーに損傷などは見られない。

 

「黒い機体のパイロット。無事なようだな」

 

『えぇ、救援感謝します』

 

「敵も引いたようだ。今の内にここから離脱しろ」

 

『それが、推進剤が残りわずかで。操縦系統も故障して反応が悪いんです』

 

「そうなのか? すぐ近くに艦がある。艦長に聞くくらいはしてみる」

 

『助かります』

 

黒い機体のパイロットは密かに笑みを浮かべた。

推進剤が残り少ないのは本当の事だが、操縦系統の故障はカムフラージュする為に意図的に作ったモノ。

少し機体を配線を入れ替えればすぐに直す事が出来る。

 

(これで作戦は次のステップに移る。ニュータイプの少女、ティファ・アディール。けれども何だ? この不愉快な感覚は?)

 

「良し、許可が下りた。付いて来てくれ」

 

「ありがとうございます……」

 

フリーデンに向かうGXと黒い機体。

動かない艦の個室の窓から、ガロードはアムロが戦う風景を見て居た。

普通のパイロットとは一線を越える戦闘技術。

そのあまりの強さに舌を巻き、同時にその力の差が悔しかった。

 

「あれが……ガンダムの戦い……」

 

///

 

モビルスーツデッキに収容される2機の機体。

黒い機体のパイロットと顔を合わせるフリーデンのクルー。

その先頭には艦長であるジャミルが立って居た。

 

「アナタがこの艦の艦長ですか?」

 

「ジャミル・ニートだ。ケガもないようで何よりだ」

 

「オルバ・フロストと言います。助けて頂いで感謝します。ですが、今は持ち合わせが尽きていまして。何か手伝える事はありますか? 助けて頂いたお礼がしたいんです」

 

「お礼だと? だったらこの艦で働いてくれ。訳あって、今はこの場から動けない。さっきのように敵の襲撃が来れば防ぎきれるか怪しい。だからその間だけ、雇われてくれるか?」

 

「構いません。ありがとうございます」

 

オルバと握手を交わすジャミル。

その後ろで、サラは見定めるようにオルバの事を見て居た。

 

「戦力が増えるのは良い事だろうけど、本当に大丈夫なのかな……」

 

意味深に呟く彼女。

その意味を理解出来ないシンゴはストレートに聞き返す。

 

「どう言う意味ですか? 戦力が増えれば動きやすくなるでしょ」

 

「それはそうだけれど……人手が欲しいのもわかるけれど……このままで問題ないのかなって。あのオルバって人だけじゃなくて、アムロもそう」

 

「考え過ぎですよ。大丈夫ですって」

 

「だったら良いのだけれど」

 

GXのコクピットから降りたアムロも、コントロールユニットを片手にオルバの姿を見て居た。

見た目には普通の青年にしか見えないが、脳裏に微かな違和感が走る。

 

「オルバ・フロストか……なんだろうな」

 

不信感を抱きながらも、アムロはティファが眠って居る医務室に向かった。

扉を開けて中に入ると、そこに居たのはティファだけではない。

 

「キミは……」

 

「アムロ……」

 

彼女が眠るベッドの傍、小さな花瓶に花を生ける少年。

ガロードは見つかってしまった事に一瞬動揺するが、暴れて逃げ出すような素振りは見せなかった。

そんな彼を見て、アムロも諭すように話し掛ける。

 

 

「営倉から逃げ出したのか。でもどうしてここに居る? キミならモビルスーツを奪う事だって出来た筈だ」

 

「ティファが居る限り、俺は逃げない!! 聞いたんだ、ティファはニュータイプだって。でもそんなの、この子には何の関係もないんだ。ティファはそんな力、必要としてない。それなのにアンタ達が追い掛け回して!!」

 

「そうだな、キミの言う通りだ」

 

「え……」

 

自分の言葉を肯定された事にガロードは拍子抜けしてしまう。

アムロは優しく視線を向けながら、自らの経験を語る。

 

「ニュータイプの事をどう捉えるかは人それぞれだが、それに盲目してはいけない。何て言うかな……俺の知り合いがそうだった。そしてソイツもニュータイプだった筈だ」

 

「ニュータイプって一体何なんだよ?」

 

「人と人とが誤解なくわかりあえる存在、そう聞いた事がある。でも、ニュータイプでなくたってわかりあう事は出来る筈だ。その逆もあるがな」

 

「アムロもニュータイプなのか?」

 

「それはキミが判断してくれ。ニュータイプでもそうでなくても関係ない。そうだろ?」

 

「わかった!!」

 

「そうか。もうすぐ人が来る。見つかる前に戻った方が良い」

 

アムロにそう言われ、ガロードは眠るティファの表情をちらりと見て、病室を後にした。

けれども部屋の扉を潜る寸前、立ち止まりアムロを顔を見る。

 

「まだ名前言ってなかったよな? 俺はガロード。ガロード・ラン」

 

「ガロードか」

 

「また来るよ」

 

そう言い残して足早に去って行く。

扉の傍で立つアムロはガロードの背中を眺めながら、暫くすると医師のテクス・ファーゼンバーグがやって来た。

 

「どうした? こんな所で」

 

「いや、何でもないさ」

 

「彼女の容態が回復するにはもう少し掛かる。安静にしてやってくれ」

 

医務室に入るテクスは、ベッドの傍の花瓶に目が行きメガネの奥の瞳が少しだけ険しくなる。

 

「花なんて誰が置いたんだ。患者には良くない」

 

花瓶ごと持ち去ろうとするテクスだが、アムロはそれを静止した。

 

「待ってくれ。少しの間だけで良い」

 

「だがな……」

 

「頼むよ。今日だけで良い」

 

アムロの言葉に頷くテクス。

ティファ・アディールは未だに目を覚まさない。




活動報告にも書いたけれど、ガンダムUCと閃光のハサウェイとかもいつか書いてみたい。
あとはGレコをどう使うかだなぁ。
あと、なのはとガンダムとで執筆速度が全然違う。
こっちに慣れ過ぎてしまったかな。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第5話

翌朝、ティファの容態が急変した。

数日安静にして居れば意識は回復する筈が、強力な毒により生死の境をさまよって居る。

テックスはすぐに病状を調べるが、解毒剤もなくフリーデンの設備でも治療は出来ない。

駆け付けたジャミルとアムロは彼女の表情を覗くが、依然として目を覚ます様子はなかった。

 

「テクス、コレは……」

 

「あぁ、首筋に針で刺した様な穴がある。何の毒かまではわからんが、このままでは1週間と保たない」

 

「内部犯……だが、何の為に……」

 

考えるジャミルだが、時は一刻を争う。

誰がやったのかも重要だが、彼女をどう救うのかも見付けなければならない。

その隣でアムロもティファを見て居ると、微かにだが感じるモノがあった。

 

「あの男なのか?」

 

「わかるのか? アムロ」

 

「あぁ、だとすれば奴は動くぞ。ジャミル、俺はモビルスーツデッキに行く。ティファを治療出来る施設は近辺にないのか?」

 

「あるにはある。だが、危険な賭けになる。ティファを救出したアルタネイティブ社の研究ラボ。あそこなら治療出来る筈だ」

 

「良し、ならそこに行くしかない」

 

即決するアムロ。

それは相手の戦力、情報を知らないからでもある。

対照にその事を知って居るジャミルは二の足を踏んでしまう。

 

「だが警備は厳重だ。それに前とは違って制圧する必要がある。ガンダムがあるとは言え……」

 

「あれだけの戦闘力を持った機体だ。それに相手の殆どは量産機、4機掛かりなら行ける」

 

言うとアムロは病室の扉を開けた。

瞬間、違和感を感じ、通路に出た先には話を盗み聞きして居たガロードの姿。

 

「ガロード……」

 

「マジィ、クソッ!!」

 

他のクルーには見付からないように逃げ出そうとしたガロードだが、アムロは上着を掴み動きを止める。

そして近くまで引き寄せ、真剣な眼差しでガロードを見た。

 

「さっきまでの話は聞いてたな?」

 

「ティファが死んじまうかもしれないんだろ?」

 

「そうだ、時間がない。ガロード、ティファが居る限りフリーデンから逃げない、昨日そう言ったな?」

 

「あぁ、言ったさ!!」

 

「だったら――」

 

黒いジャケットのポケットに手を入れるアムロ。

取り出したのはGXのコントロールユニット。

 

 

 

第5話 GXにはお前が乗れ

 

 

 

コントロールユニットを受け取るガロード。

けれども以前のアムロの戦いを見ており、自身がGXに乗る事に戸惑いを覚えた。

 

「俺があの機体に……でも俺は……」

 

「俺には俺の機体がある。良いか、ガロード。ティファを守りたい気持ちが力になる筈だ。後は俺がフォローする」

 

「俺に出来るのか? アムロみたいに……」

 

「それは違うぞ。ガロードの感覚で動けば良い。そうすればガンダムが応えてくれる」

 

「ガンダムが応えてくれる?」

 

「そうだ」

 

言うとアムロはガロードの肩を叩き、モビルスーツデッキに向かって走った。

コントロールユニットを握り締めるガロードは、医務室の開かれた扉からちらりとティファを覗き、思考を切り替えて全力で走った。

モビルスーツデッキでは、各メカニックが作業を進めて居た。

オルバ・フロストも自らの機体の調整作業をしており、意図的に組み替えた回線を元に戻し推進剤の補充を済ませる。

 

「これで準備は整った。艦の進路もアルタネイティブに向かって居る。予定通り」

 

機体のコクピットに乗り込み、エンジンを起動させモノアイが赤く点灯する。

操縦桿を握り目を閉じると、兄であるシャギアに念波を飛ばす。

 

(予定通りだよ、兄さん。奴らはアルタネイティブのラボに向かって居る)

 

(流石だ、オルバ。後はティファ・アディールを連れて戻って来るんだ)

 

(この艦のメインエンジンを破壊してね。それに今なら他のガンダムも潰せる)

 

モビルスーツデッキにはメカニックだけでパイロットは居ない。

オルバはペダルを踏み込みコンソールパネルを叩き、この機体の真の姿を見せる。

 

「どう言う事だ!? 誰が動かしてる!!」

 

「とにかく逃げろ!! 踏み潰されるぞ!!」

 

「さぁ、ガンダムアシュタロン。目障りなガンダムを潰せ!!」

 

歩き出すアシュタロンはビームサーベルを引き抜き、まず初めに目の付いたガンダムエアマスターに向かう。

そして、握るビームサーベルをコクピットに突き立てようとした。

瞬間、もう1機のガンダムが起動する。

 

「こんのぉぉぉ!!」

 

「ナニィッ!?」

 

もう少しの所でオルバは妨害されてしまう。

マニピュレーターで頭部を殴られて姿勢を崩すアシュタロン。

揺れるコクピットで歯を食いしばりモニターに映る相手を見た。

そこに居るのはガロードの乗ったGX。

 

「お前がティファを!! ティファをあんな目に合わせやがって!!」

 

「GXだと!? フン、まぁ良い」

 

バックパックのアトミックシザースに内蔵されたビーム砲を、今度はハンガーに固定されたガンダムレオパルドに向けた。

トリガーに指を掛ける。

 

「っ!? この感覚は?」

 

「やらせるか!!」

 

アトミックシザースを掴み上げるνガンダム。

銃口をレオパルドから反らし、その隙を付いてGXが更にマニピュレーターを叩き込む。

 

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

 

一方的に殴られるアシュタロンは背部から壁面に激突する。

鳴り響く金属音。

激しい揺れ。

 

「やってくれたな、GX!!」

 

(どうしたオルバ?)

 

(もう少しの所で邪魔された。ガンダムの破壊は無理だ。でもティファ・アディールは狙える)

 

(ラボの部隊を率いて私もヴァサーゴで出る。ティファ・アディールだけでも連れて来るんだ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

念波で言葉を交わすオルバは操縦桿を握り直し、機体の姿勢を維持させてアトミックシザースを動かす。

けれどもビーム砲の銃口は相手に向けるのではなく、すぐ傍の壁に目掛けてトリガーを引いた。

ビームはフリーデンの外壁を吹き飛ばし、脱出出来るだけの大穴を開ける。

 

「これなら」

 

メインスラスターを吹かし素早く脱出するアシュタロン。

外へ出たオルバは、目標であるティファが眠る病室の壁をアトミックシザースで突く。

壁には容易く穴が開き、そこからマニピュレーターを伸ばしベッドごとティファを持ち出した。

ガロードのGXも急いで外に出るがその時にはもう遅い。

 

「フフフッさようならだ、GX」

 

「逃がすか!!」

 

ビームライフルを引き抜き銃口を向ける。

けれどもトリガーを引く前に、アムロがそれを静止した。

 

「撃つんじゃない。あの子に当たるぞ」

 

「そんな!? だったらどうしたら」

 

「奴が行く先はわかってる。俺達も追うぞ」

 

アムロはνガンダムに予備に保管されて居たビームライフルを持たせて、ガロードと共にアシュタロンの姿を追う。

行く先にあるモノは、ティファが囚えられて居たアルタネイティブ社の研究施設。

コンソールパネルに手を伸ばし、ブリッジのジャミルに通信を繋げる。

 

「ジャミル、こうなったらやるしかない。敵の増援も居る。あの2機のガンダムも出すんだ」

 

『わかった。こちらからも援護はする。だがアムロ、2人だけで先行し過ぎだ』

 

「危なくなったら引くくらいするさ」

 

νガンダムとGXはフリーデンを置いてアシュタロンの先にあるラボを目指す。

けれども待ち構えるのは、シャギア率いるガンダムヴァサーゴとドートレス部隊。

その数は20を超えて居る。

大部隊を相手にガロードは思わず目を見開く。

 

「なんて数なんだ。今はサテライトキャノンも使えないって言うのに!!」

 

「焦る必要はない、後方には味方も居る。目的は彼女を助ける事と、この施設の制圧だ。敷地内での戦闘は極力避けるんだ」

 

「んな事言ったって」

 

「言っただろ、サポートはする。今は目の前の敵に集中するんだ」

 

言うとアムロはまだ距離のある敵機に銃口を向けた。

射程距離からは外れており、今の位置で撃った所で当たる訳がない。

それでもアムロはトリガーを引いた。

敵が避ける先を予測して、向けられるプレッシャーにビームを放つ。

 

(こんな距離から!?)

 

驚くガロードはビームが向かう先を見た。

長距離狙撃は目標地点に到達するまでにビームのエネルギーが少しずつ放散して行く。

νガンダムが撃つビームも、狙った相手に届く頃には威力が減少して居る。

でもアムロは構わずにもう2回トリガーを引いた。

回避行動を移るドートレス。

初弾は地面へ当たり砂煙が舞い上がる。

だが移動する先を知ってるかのように、2発のビームはドートレスに直撃した。

頭部を吹き飛ばし右脚部にダメージを受けて機体は倒れ込む。

 

「来るぞ、ガロード」

 

「っ!?」

 

ドートレスの部隊が2人の目前にまで迫る。

ビームライフルを向けるガロードは照準を合わせ、とにかく敵を倒そうとトリガーを引いた。

GXから発射されるビーム。

それは一撃で敵機を破壊できるだけの威力がある。

だが幾ら強力でも当てられなければ意味はなく、回避行動に移るドートレスはコレを避けた。

 

(攻撃されれば普通避けるよな。だったら、何でアムロは当てられるんだ?)

 

アムロが乗っていた時と今とでは明らかにGXの戦闘能力が違う。

その力の差に劣等感を抱きながら、ガロードは戦っていた。

更にビームライフルのトリガーを引き、銃口から発射されるビームは3発目にしてようやくドートレスの胴体を貫く。

そうしてる間にも、隣のνガンダムは3機目を落とす。

 

「ライフルのエネルギーを使い過ぎだ。ここからの敵は無視するぞ」

 

「そんな事できるのかよ?」

 

「フリーデンから援護射撃も来る。俺の後ろに続けば良い」

 

言うとアムロは敵陣のド真ん中を突っ切るべく、メインスラスターの出力を上げる。

敵部隊から向けられる弾丸の雨。

νガンダムは各部スラスターとアポジモーターを駆使して軽快に動く。

ビームライフルで牽制しながら、被弾する事なく第1陣を突破する。

 

『早い!? アレがガンダムなのか?』

 

『背中がガラ空きだ。後ろから撃ち込め!!』

 

振り返るドートレスはGXとνガンダムに銃口を向ける。

以前として多い敵の数に、ガロードはどうしても後ろを気にしてしまう。

 

「敵が来る!? ガンダムでも耐え切れないぞ!!」

 

「ガロード、振り向くな!!」

 

次の瞬間、無数の爆撃がドートレスを襲う。

飛来するミサイルと砲撃、無数の弾丸。

背後からの攻撃にドートレス部隊は為す術がなく、機体は瞬く間に爆散。

後方から追い付いて来たフリーデンとガンダムレオパルドによる砲撃が、敵部隊を総崩れにする。

 

「フリーデンが来てくれた!!」

 

「あぁ、ラボに突入する。来れるな?」

 

「行くぜ!!」

 

GXとνガンダムはメインスラスターを全開にして一気に飛んだ。

防衛網を突破し、アルタネイティブ社はもう目と鼻の先。

けれどもまだ、2人の進む先を妨げる存在が居る。

高出力の赤黒いビームが大地を焼く。

 

「プレッシャー!? 来るのか?」

 

「ぐっ!!」

 

散開するGXとνガンダム。

現れたのは、その名前のように悪魔のようなフォルムをした機体。

シャギア・フロストが搭乗するガンダムヴァサーゴ。

 

「月もないままに現れるか、GX」

 

「あの見た目……アイツもガンダム……」

 

「伝説のガンダムタイプが2機。だが1人は素人か」

 

「もう少しって所で!! 邪魔だぁ!!」

 

ビームサーベルを引き抜き、ガロードはペダルを踏み込みGXを動かす。

余裕の態度を崩さないシャギアも機体にビームサーベルを握らせる。

だがアムロはマニピュレーターをGXの肩に触れさせると、接触回線でガロードを呼び止めた。

 

「待て、奴は俺が止める。ガロードは早く彼女を」

 

「アムロ、でも……」

 

「悩んでいられる程時間はない。動け」

 

前を見据えるガロードは、アムロの言う事に従いヴァサーゴを無視してラボを目指す。

シャギアもGXを追い掛けようとはせず、残るνガンダムと対峙する。

 

(オルバ、ティファ・アディールはどうなった?)

 

(今、ラボに到着した所だよ)

 

(そうか。GXがそっちに向かった。パイロットは素人だ。コクピットだけを潰せ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

「さて、もう1機のガンダム。貴様はここで退場して貰う」

 

ビームサーベルを構えるヴァサーゴはνガンダムと相まみえる。

 

///

 

ティファを連れてラボに戻ったオルバ。

アシュタロンを建物屋上に位置させ、ベッドを抱えるマニピュレーターをコンクリートの床に置く。

オルバが戻った事を知ったフォンと数人の研究者は、急いで屋上に駆け付けた。

 

「ティファ・アディールを連れ戻したのか?」

 

「アナタがこのラボの責任者ですね? 兄から聞いてるとは思いますが、私が弟のオルバ・フロストです」

 

「良くやってくれた。さぁ、彼女をこちらに」

 

「えぇ、ですがその前に」

 

空いたマニピュレーターを差し出すオルバ。

全てを言われなくとも、フォンは嫌悪感をむき出しにしながら要求に従った。

アタッシュケースを片手に持ち、差し出されたマニピュレーターの上に置く。

 

「念の為にケースを開けて頂けますか?」

 

「疑り深い奴だ。これで満足か?」

 

言われてケースを開けるフォン。

中には大量の紙幣が詰め込まれており、ティファを奪還した際の報酬がこれだ。

確認を済ませるとベッドを床に降ろし、アタッシュケースをコクピットへ運ぶ。

ハッチを開放してアタッシュケースをコクピットに入れるオルバ。

 

「彼女にはAPMを投与してます。すぐに処置を施して下さい。私は追って来るバルチャーの後始末に向かいます」

 

(後始末か……そうだな。後始末は付けなくてはならん)

 

メインスラスターを吹かしラボを後にするアシュタロン。

研究員はすぐにティファの眠るベッドを移動させ、フォンは1人格納庫へと足を運ぶ。

操縦桿を握るオルバは、念波で受け取ったGXの存在をレーダーで見た。

 

「兄さんの言った通り、モビルスーツが1機向かって来てる。あの時の白い機体、GX……借りは返させて貰うよ」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射し加速するアシュタロン。

空中を飛びラボから離れて行く先で、因縁の相手が向かって来る。

 

「さっきはやってくれたね、GX」

 

「黒いガンダム!? ティファを返せ!!」

 

「残念だけどソレは出来ない。こう言う時、なんて言えば良いんだっけ? 返して欲しければ僕を倒してごらん?」

 

「舐めるなよ、こっちだってガンダムだ!!」

 

ビームライフルを向けトリガーを引く。

アシュタロンに目掛けてビームを発射するガロードだが、オルバは鼻で笑いならが簡単にコレを避ける。

アトミックシザースを前方に向け、次はアシュタロンが攻撃を始めた。

2本のビームがGXを襲う。

 

「くっ!! 相手の方が手数が多い」

 

「フフフッ、どうしたのさGX? さっきまでの威勢が失くなったようだけど?」

 

回避に専念しながら、隙を見てトリガーを引く。

だが技量に明確な差がある。

アシュタロンは余裕を持ってビームを回避し、更にGXへ攻め込む。

ビーム攻撃をしながら回り込み、相手との距離を詰める。

旋回するガロードはなんとかして攻撃を避けつつ、視界に敵を収めようとした。

それでも動きが単調になり、オルバはソレを見逃さない。

ペダルを踏み込み機体を加速させて一気に詰め寄り、マニピュレーターにビームサーベルを握らす。

 

「ビームサーベルだって!? シールド!!」

 

GXが握るライフルの装甲が展開される。

グリップ部が可動して銃口が下に向くと、ビームライフルは小型のシールドへと早変わりした。

繰り出される灼熱のエネルギー刃。

ガロードはシールドで攻撃を防ぐが、同時に機体の動きも一瞬であるが固定させてしまう。

ビームサーベルがシールドの装甲を焦がすその時、アトミックシザースがGXの両腕を挟み込んだ。

 

「しまった!?」

 

「兄さんの言ってた通り、パイロットは素人同然か。機体はそのまま、キミには死んで貰うよ」

 

アトミックシザースは両腕を掴みあげGXの動きを封じながら、マニピュレーターが握るビームサーベルがコクピットに狙いを定める。

なんとか脱出しようと操縦桿を前に後ろに押し倒すガロード。

けれども機体はビクともせず、GXはアシュタロンの拘束から逃れる事はない。

 

「こんな所で死んでたまるかァァァッ!!」

 

コントロールユニットのギミックを押し込み、サテライトキャノンを展開させるガロード。

太陽がまだ登ってる時間帯、月のマイクロウェーブ送信施設からエネルギーを受け取る事はできない。

それでもその砲身は、ビームサーベルが突き刺される寸前でアシュタロンの頭部に叩き付けられた。

 

「コイツ!?」

 

「退けェェェ!!」

 

トリガーを引き込みブレストバルカンから弾丸を発射させる。

強固な装甲を誇るガンダムだが、至近距離から無数に浴びせられる弾丸は当たり方によっては致命傷にも成り兼ねない。

アシュタロンの黒い装甲を削り取る。

ガロードはペダルを踏み込み、相手が反撃に転じるよりも前に右脚部で更に蹴った。

ぶつかり合う装甲はコクピットを激しく揺らす。

アトミックシザースは耐え切れずにGXの両腕を手放してしまう。

 

「ぐぅ!? やってくれたな!! ん、なんだ?」

 

「この反応、モビルアーマーなのか? 来る!!」

 

2機の居る所へ巨大な光の弾が発射される。

直撃を避けるべく散開する2人が見たモノは、アルタネイティブ社に現れた巨大なモビルアーマー。

4本の巨大な足で自立する緑のモビルアーマーはまるで砲台。

長距離荷粒子光弾砲を搭載する機体のコクピットには、ラボの責任者であるフォンが搭乗していた。

 

「撃て!! 撃ち続けろ!! 邪魔者共は全て排除しろ!!」

 

広いコクピットスペースに搭乗する他の乗組員に号令を飛ばす。

フォンの用意したモビルアーマー、グランディーネは荷粒子光弾を立て続けに発射する。

オルバは回避行動を取りながら、シャギアに念波を飛ばす。

 

(兄さん!! あの男、モビルアーマーを!!)

 

(ティファ・アディールを渡すタイミングを間違えたな。私のミスだ)

 

(どうするの? バルチャー共も相手にするとなると骨が折れるよ)

 

(ここは無理をする場面ではない。引き上げるぞ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

モビルアーマー形態に変形するアシュタロンは加速し、GXを置いてヴァサーゴが居る地点へ向かう。

 

「待て、逃げるな!!」

 

ガロードはアシュタロンの姿を追い掛けようとするが、グランディーネの砲撃がGXを襲う。

 

「クッ!! サテライトキャノンも撃てない。だったら突っ込む!!」

 

砲身を収納し、リフレクターからエネルギーを放出してラボに飛ぶGX。

一方で、アムロのνガンダムとシャギアのヴァサーゴとの戦闘も終わりを迎える。

ヴァサーゴは被弾こそしてないが、完璧に整備された状態でνガンダムにたったの一撃すら与えられない。

互いに射撃戦を繰り返す中で、シャギアは苛立ちを感じる。

 

「碌な武器もない相手に……エネルギーを消耗し過ぎた」

 

「腕は良いが、一本調子だ。そんな事では!!」

 

「これ以上はやらせん!!」

 

ヴァサーゴの両腕を伸ばし、死角からクローユニットのビームを発射する。

だがファンネルのように射角に自由度はなく、銃口から向けられる殺意を感じ取りアムロは攻撃を掻い潜りながらビームライフルを向けた。

 

(機動力は良いが、どうやったって腕が邪魔になる。それに前がガラ空きだ)

 

「コイツ、逃げる先を狙っている!?」

 

「そこだ!!」

 

回避しながら相手の先を読み攻撃。

ニュータイプ同士の戦いともなればそれらの繰り返しである。

先を読むが故に傍から見れば見当違いの所に撃ってるようにも見えるが、アムロは今までの戦いでこれらの経験を積み重ねて来た。

それは普通の戦闘でも優位に働き、機体が万全ではない状態でもヴァサーゴと互角に戦う事ができる。

トリガーを引き発射されるビーム。

見てから反応するシャギアは操縦桿を動かし、スラスターを駆使して機体に急制動を掛ける。

ビームは停止するヴァサーゴの右肩をかすめた。

 

「この機体の弱点を見付けたのか?」

 

「落とさせて貰う」

 

「させるか!!」

 

腹部が上下に展開し、備えられたメガ粒子砲が現れる。

チャージされたエネルギーを拡散ビームとして発射し、目の前のνガンダムに発射した。

赤黒いビームは無数の雨となり敵に襲い掛かる。

けれども視線の先にはもうνガンダムは居ない。

地面に直撃するビームが土煙を上げ視界を悪くする中、メインスラスターから青白い炎を噴射してνガンダムはジャンプした。

発射線上を遮るモノは何もない。

コクピットに狙いを定めビームライフルのトリガーを引く。

懐はガラ空き、防ぐにも両腕を収納せねばならずそんな余裕はない。

眼前に迫るビームの一撃。

 

(兄さん!!)

 

ヴァサーゴを守る黒い機体。

寸前の所でアシュタロンはアトミックシザースでビームを防いだ。

同時に2門のビーム砲を向けて空中のνガンダムに攻撃を開始する。

 

「兄さん、無事だね?」

 

「オルバ、助かった。離脱するぞ」

 

合流した2人は着地するνガンダムに攻撃を続けながら距離を離す。

アムロも無理に戦おうとはせずに2機から離れて行く。

 

「合流された、モビルアーマーもある。ガロード」

 

ガロードの居るラボへ向かうアムロ。

シャギアとオルバはその様子を確認し、この戦闘領域から離脱を始める。

逃げる最中、シャギアはチラリとνガンダムの姿を視界に収めた。

その瞳に漂うのは怒りと憎悪。

 

「白い奴……2度と忘れん」




スパロボUXのルナマリアがマジチャーミング。
次回でグランディーネと決着です。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第6話

ラボに突入するガロード。

待ち構えるのは、4本の足で巨体を支えるグランディーネの姿。

その佇まいと大きく開く砲門に、ガロードは思わず鳥肌が立つ。

 

「コイツが……敵……」

 

「ふん、1機でのこのこと来おったか。対空防御」

 

「来るのか!?」

 

グランディーネに設置された4門の対空ビーム砲がGXを狙う。

無数に発射されるビームの弾が視界一杯に広がり、ガロードはビームライフルをシールドに切り替えて回避行動を取る。

リフレクターのエネルギー放出量を上げ機動力でどうにか攻撃を振り切るが、ここまで来て攻撃に転じる事ができない。

 

「上からじゃダメだ。下から潜り込む」

 

「やらせると思うか?」

 

機体の高度を下げて巨大な足の間へ潜り込もうとするガロード。

正面の、それも地面を移動して来る相手に、4門ある対空ビーム砲は正面の2門しか使えない。

ビームの数が減り、ガロードはシールドを再びライフルに切り替えて相手に銃口を向けた。

 

「足が失くなったら立てないだろ。崩れろ!!」

 

発射されたビームはグランディーネの脚部の1つに直撃する。

けれども、分厚い装甲で作られたその足は一撃では破壊できない。

更に、足裏部に設置されたホバーユニットを駆使して移動を始める。

 

「なんとしても奴を潰せ!! 先にはまだバルチャーも居るんだぞ!!」

 

「コイツ、動けるのか!? でもな!!」

 

ペダルを踏み込みGXを加速させる。

グランディーネの動きはモビルスーツの機動力に到底追い付けるモノではない。

回り込んで脚部を攻撃しようとするが、旋回するグランディーネはそうはさせまいとGXを正面に捉える。

対空ビームで弾幕を張りながら敵を寄せ付けない。

 

「思ったよりも機敏に動きやがる。アムロは、避けながら攻撃できてた。俺にだって!!」

 

攻撃を掻い潜りながらビームライフルのトリガーを引く。

発射されたビームは脚部に直撃するが、機体はまだ崩れ落ちない。

グランディーネに乗るフォンは、少しずつではあるが蓄積されるダメージに焦りを感じる。

 

「荷粒子光弾砲を撃て!! 奴を吹き飛ばすんだ!!」

 

「しかし、この距離で撃てば機体にもダメージが――」

 

「ここを突破されれば全てが無意味になる。やるんだ!!」

 

怒号を飛ばすフォンに操縦士は従う。

大きく開く砲門から、高エネルギーのビームを発射した。

 

「っ!!」

 

息を呑むガロード。

反射的にペダルを踏み、機体をジャンプさせてコレを回避する。

しかし飛び上がった事で、4門の対空ビームが一斉にGXを狙う。

 

「しまった!?」

 

「今だ!! もう1度荷光弾砲をぶち込め!!」

 

「やられっかよ!!」

 

ビームの雨を避けながらトリガーを引く。

対空ビーム砲の1つに直撃し爆発が起こる。

 

「もう1発撃ち込めば!!」

 

ガロードは攻撃に集中し過ぎていた。

そのせいで荷粒子光弾砲の存在を一瞬ではあるが頭から離してしまい、次の瞬間には発射されてしまう。

気付いた時には、目の前に強力なビームが迫る。

 

「やられる!?」

 

///

 

ガロードの元に急ぐアムロ。

モビルスーツの操縦もまだまだ甘い、更には初めてのモビルアーマーとの戦闘。

その様子を見て、アムロは脳裏に嫌な予感をピリピリと感じる。

 

「無茶をし過ぎだ。そんな事ではやられるぞ? 間に合ってくれよ」

 

機体を加速させる。

ビームの雨の中で懸命に戦うガロードに追い付こうとするが、瞬間、強い敵意を感じた。

感じた一瞬で既に回避行動に移っており、数秒後にはグランディーネの荷粒子光弾砲が飛んで来る。

幸いにも狙われたのはGXでνガンダムの方角に飛んで来る事はなかったが、アムロは敏感過ぎる自身の反応に苛立ちと焦りを感じた。

 

「なまじ戦いに慣れ過ぎた。こんな事では……」

 

それが原因で同じ艦のパイロットであるケーラ・スゥを死なせてしまった。

しかし、感傷に浸る時間はない。

GXはまだグランディーネと戦っており、感じる敵意は更に強くなる。

メインスラスターから青白い炎を噴射して機体をジャンプさせ、アムロは叫んだ。

 

「下がれ、ガロード!!」

 

アムロのνガンダムがGXの後方から飛んで来る。

タックルするようにして機体を押し出し荷粒子光弾砲からギリギリの所で離れさせた。

しかし、νガンダムにはもう回避するだけの時間はない。

ペダルを踏み込みメインスラスターを全開にするが、荷粒子光弾砲はνガンダムの右脚部を飲み込む。

 

「足をやられたか。だがこの位置なら狙える!!」

 

「ガンダムがもう1機!?」

 

瞬時に狙いを定めるアムロはトリガーを引く。

グランディーネの前面にある巨大な砲門にビームは吸い込まれるように直撃し、装甲の内側から大きく爆発が起こる。

しかし、グランディーネはまだ崩れない。

ダメージを受けたνガンダムは四つん這いのように地面へ着地する。

ガロードは自身を助けてくれたアムロに視線を向けた。

 

「アムロ!?」

 

「前を見ろ!! 敵はまだ生きてる!!」

 

「くっ!! 突っ込むしかない!! うらぁぁぁっ!!」

 

ビームライフルをバックパックにマウントさせ、ビームサーベルを引き抜き一気に距離を詰める。

反撃を一切気にせず、両手で握るビームサーベルを大きく振り上げた。

モビルアーマーでは逃げる事もできず、ビームサーベルはグランディーネの頭部部分を焼き斬る。

緑色の分厚い装甲が飴のように溶け、ガロードはダメ押しに今度はビームサーベルを突き刺した。

コクピットは完全に破壊され、グランディーネは炎に包まれる。

 

「やったか?」

 

崩壊するモビルアーマーから距離を取るガロードは、不時着したνガンダムの傍に立つ。

 

 

「やった!! やったぞ、アムロ!!」

 

「いいや、敵の増援だ」

 

望遠カメラに切り替えて視線を向ける先、アルタネイティブ社に向かって一直線に進んで来るモビルスーツ部隊。

フリーデンと合流できれば倒す事はできるかもしれないが、被弾、損傷は免れない。

それ以上に、ティファを助ける事ができない。

 

「クソッ!! あいつらを相手にしてたらティファが」

 

「ガロード、ビーム砲を使うんだ。月が出た」

 

「え……」

 

太陽は沈み、月が登り始める。

暗くなり始める周囲の風景。

コントロールユニットを握るガロードはガジェットを指で押し込む。

背部のリフレクターが展開され、砲身をマニピュレーターで支える。

数秒後には月からマイクロウェーブが送信され、GXに莫大なエネルギーが供給された。

背中のリフレクターの放熱パイプが淡く光る。

 

「まだ敵の位置が遠すぎる。もっと引き付けないと」

 

照準を睨むようにして合わせる。

しかしそこに、フリーデンから通信が割り込んで来た。

声の主は、艦長であるジャミル。

 

『いいや、今撃つんだ』

 

「ジャミル!? でも、ここからだと」

 

『指示は私が出す。それに合わせるんだ』

 

聞こえて来るジャミルの声に疑いを持つガロード。

けれども彼女を安全に助けるにはこの提案に乗るしかなかった。

 

「わかった……」

 

ガロードは一切感じ取る事はできないが、ジャミルは苦痛を伴いながらではあるがそれができる。

敵意の源、それを撃ち抜く。

 

『経緯7度、緯度15度、そこに……ぐぅっ!?』

 

「ジャミル!?」

 

『カウントを始める、5秒後だ!!』

 

呻き声を上げるジャミルだが、痛みや苦しみは無視した。

ガロードにもその意思は伝わり、今はサテライトキャノンを命中させる事だけに意識を集中させる。

敵群の姿はまだ豆粒のように小さい。

 

『5……4……3……2……1……』

 

「あたれェェェッ!!」

 

引き金は引かれた。

サテライトキャノンから、高出力ビームが発射される。

全てを焼き尽くすエネルギーは一瞬の間に目標地点にまで飛び、瞬きをすると巨大な爆発が起こった。

地鳴りが響き、爆風が吹き荒れる。

ガロードは閃光の先を覗く。

 

「敵は……どうなった?」

 

『成功だ。レーダーに反応はない』

 

「やったぜ、ジャミル!! これでティファを助けに行ける!!」

 

『そうだな、フリーデンもすぐに合流させる』

 

言うとジャミルとの通信は切断された。

操縦桿を動かすガロードは砲身を収納しリフレクターを折り畳み、傍のνガンダムに向き直る。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

 

「あぁ、ガンダムに無理をさせ過ぎた。戦闘はもう無理だ」

 

「だったら――」

 

「俺の事は後で良い。フリーデンも来る。ガロードはティファの所に行くんだ」

 

アムロに諭されて、ガロードはアルタネイティブ社に視線を移す。

もはや基地としての戦闘能力は残っておらず、ガロードは内部へと突入した。

 

///

 

フリーデンに制圧されたアルタネイティブ社。

そこに囚われていたティファも救出、今はテクスに治療されている。

ブリッジではモビルスーツ乗りのウィッツとロアビィ、アムロとガロード、3人のクルーがジャミルを見つめていた。

オペレーターのサラは、ジャミルがここまでティファに拘る理由がわからない。

 

「説明して頂けますか、キャプテン。あのティファ・アディールと言う少女の事を。何故、ここまでして彼女に固執するのですか? 私達はキャプテンを信用するからこそ、今まで一緒に行動して来ました。ですが今回の件、わからない事が多すぎます」

 

「まさかその歳であの娘の事を好きだ、なんて言うのはナシよ」

 

茶化すロアビィにサラは突き刺さるような視線を向ける。

緊張感の漂うブリッジ。

 

「そうだな……言うべき時が来たのかもしれん」

 

艦長シートに座りながら、ジャミルは重たい口を開ける。

それでも、サングラスの奥にある表情は伺えない。

 

「15年前、私は連邦の兵士として戦った。モビルスーツのパイロット……あのGXに乗って」

 

そのセリフを聞いてガロードは驚きを隠せない。

 

「GXだって!? だから金庫にコントロールユニットなんて置いてあったのか!!」

 

「今のは聞かなかった事にしてやる。そうだ、私はGXに乗っていた。そしてあの悲劇を引き起こしたのも私なのだ。15年前の戦争、革命軍は硬直状態を打破する為に無数のスペースコロニーを地球に落とす作戦に出た。連邦もこれに対抗し、秘密裏に開発した決戦モビルスーツ、ガンダムを投入した。私はGXに乗ってあの戦場に居たのだ」

 

「でもコロニーは地球に落ちた。そのせいで大勢の人間が死んだ……」

 

「そうだ。私は止める事が出来なかった。ガロード、GXにはサテライトキャノン以外にもう1つ、フラッシュシステムが組み込まれている」

 

「フラッシュシステム?」

 

「それがガンダムが決戦兵器と呼ばれる由縁だ。GXには専用の無人モビルスーツが用意された。パイロットの精神波で無人モビルスーツを操作する。その為の装置がフラッシュシステムであり、それを動かす事が出来るのがニュータイプだ」

 

「ニュータイプ……ティファの持ってる力……」

 

自らが犯した過ちの過去を語るジャミル。

全員が戦争の真実を聞く中で、アムロだけは違った感情を抱いて居た。

話を聞く表情が次第に険しくなる。

 

「私のようなニュータイプは戦争の道具として使われ、多くのモノは戦死した」

 

「キャプテンはニュータイプの力を今も使えるのですか?」

 

「いいや、もう満足に使う事はできない。使おうとすれば痛みと苦痛を伴う。コクピットに入る事すらできないのが現状だ」

 

「でもジャミルは!! 俺とアムロ、ティファを助ける為にその力を使った!! だからサテライトキャノンを命中させて敵を倒す事ができた!! 俺……知らなかったんだ。今の今まで、アンタがそんな人だったなんて。自分がニュータイプだったから、ティファをそこまでして助けようとした」

 

「ティファだけではない。私のようなニュータイプは他にも居る。もし見付ける事ができたのなら、どんな事があっても守り抜く。これが、私が彼女に固執する理由だ」

 

言い終わるジャミルに、アムロは不快感をあらわにしながら1歩前に出た。

 

「ジャミル――」

 

 

第6話 エゴだよ、それは

 

 

 

「アムロ?」

 

アムロのこの言葉に、ガロードは納得できないで居た。

 

「そうやってニュータイプと呼ばれる人間を助けて、過去の罪を消すつもりか? そんな事をしてもどうにもならない。人の罪なんてモノは消えない」

 

「私にはあの惨劇を引き起こした責任がある。あの時、恐怖に耐え切れずサテライトキャノンを発射してしまった。私の弱さが招いた結果なのだ」

 

「だとしてもだ。その罪を1人で背負うつもりか? ジャミル、そんな事はできないし、する必要もない。生き残った人間はそんな事をされなくても生きて行ける」

 

「アムロ、お前もニュータイプならわかる筈だ。あの時の戦争を。歪んだ価値観に支配され、戦争に勝つにはニュータイプが必要だった。それが道義に反する事であっても、戦争を終わらせるにはそれしかなかった」

 

「ニュータイプが何なのか、俺にはわからない。だがな、その力だけでどうにかなる程、世界は単純ではない。ニュータイプはそんな便利な存在ではないんだ。ジャミル、今のままでは死人に魂を引っ張られるぞ」

 

鈍い音が響く。

握りこぶしを作るジャミルは肘掛けに思わず叩き付けた。

歯を食いしばり、苦しく辛い記憶に顔を歪めながらも、アムロの言葉を心に受け止める。

全員の視線を浴びながら、それでも言葉を続けた。

 

「私は……間違ってるとでも言うのか?」

 

「どうだろうな? 俺だってその1人かもしれない。だが過去は消えないし、人の罪が消える事もない。それでも、人間は頼まれなくても生きて行ける。今のガロード達がそうだ」

 

2人の間に割り込めるモノなど居ない。

アムロに言われた事で自分の考えを客観的に見る事ができたジャミルだが、そう簡単に拭い去れるモノでもなかった。

 

///

 

翌日、契約を終えたウィッツとロアビィはそれぞれの機体に乗ってフリーデンから出て行く。

この腐敗した世界を生き残る。

その目的を同じくするが、各々が行く道は違う。

次に出会う時は敵か、味方か。

もしくはもう、出会う事はないかもしれない。

朝になり、ガロードは医務室のティファの所へ行った。

アルタネイティブ社の施設により治療は滞り無く行われ、今は起き上がって動く事もできる。

それでも1週間は安静にするように指示され、ベッドの上からガロードと顔を合わせて居た。

 

「もう少ししたらフリーデンも出港するってよ。ウィッツとロアビィも居ないから、これからは俺がGXに乗る」

 

「アムロは?」

 

「アムロは盗んだドートレスを調整してる。俺のせいでガンダムを壊しちまった……」

 

「あの人なら大丈夫です」

 

「まぁ、そうだよな。悔しいけど、この前の戦闘で良くわかった。アムロは強い。モビルスーツに乗ってる経験が違うんだろうな」

 

「でも、アナタにはアナタのできる事があります」

 

「そうは言ってもよ。ティファにはわかるか? アムロの事が?」

 

言われて彼女は静かに頭を横に振った。

 

「ガロードは……」

 

「俺? 俺がどうしたんだ?」

 

「私は、アナタの事が知りたい」

 

ガロードは思わず顔がニヤけてしまう。

口元が緩んでしまうのをどうにか隠しながら、当時を思い出して彼女に語り掛ける。

 

「えぇ~と、俺の事と言っても何を言って良いか。あの戦争があってから家族も友達も死んじまった。ようやく日の当たる所に出てからは、1人で荒仕事をしてその日の食い物を食べるので精一杯だった。俺なんてこんなもんだよ。何か特別な事があった訳じゃない。今日を生きてるのも、運かもしれない」

 

「それでも、今は私の傍に居てくれてる」

 

「あぁ、そうだな」

 

ガロードの手はティファに触れるか触れないかまで近づいた。

その頃、モビルスーツデッキでは着々と作業が進んでいる。

損傷したνガンダムは修理の目処が立たず、ワイヤーで固定されデッキの隅に置かれていた。

アムロはキッドと共に、回収したドートレスのチューニングとメンテナンスを行っている。

 

「アムロ、このキャノン砲外して良いんだな?」

 

「頼む。追加で武器を付ける必要もない」

 

「でも変だよなぁ。普通のパイロットなら武器とか火力を上げるモンなのに」

 

「装備を増やせば重量が重くなる。この機体にそこまでのポテンシャルはない」

 

「重量を落として運動性能を上げるんだろ? でも、どこまで行っても量産機だからな。GXやガンダムには及ばないぞ」

 

「わかってるさ。やれるだけで良い」

 

パイロットであるアムロの注文を受けて、ドートレスのチューニングが進められて行く。

アルタネイティブ社はグランディーネを用意できるだけあってモビルスーツの設備も揃っており、弾薬や予備のパーツも充分に補充できた。

その中から拝借したのがアムロのドートレス。

メインスラスターの出力を向上させ、関節部の反応を良くする。

武器も標準的なビームライフルとビームサーベル、左腕にシールドを装備させた。

 

「シールドの裏にミサイル?」

 

「あぁ、電気信号で発射できるようにする」

 

「でもさ、防御する為のシールドにそんなの付けて大丈夫なのか?」

 

「ガンダムもそうだが、今はビーム兵器が標準装備されている。実体シールドではそこまで使えない。それなら少しでも手数を増やすほうが生き延びられる」

 

「そう言うモノなのか。わかったよ、試してみる」

 

見た目にそこまで変化はないが、アムロ用にセッティングされた機体ができあがって行く。

そうしてまた、フリーデンも次の目的地へ向かって発進する。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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サン・アンジェロ編
第7話


ペダルを踏み込むガロードはGXを飛ばす。

背部リフレクターからエネルギーを放出して加速するGXは、逃げるバルチャーのモビルスーツにビームライフルを向けた。

 

「当たれ!!」

 

引かれるトリガー。

ビームは右脚部に直撃し、オクトエイプは姿勢を維持できずに倒れ込む。

更にそこへビームを撃ち込み、エンジンに直撃してオクトエイプは爆散した。

 

「よっしゃ!! GXの使い方にも慣れて来た」

 

目の前の敵を倒した事で肩の力を抜くガロード。

ふと視線を移す先では、アムロが乗るドートレスが最後の1機と戦っていた。

右手にはビームサーベルを握らせ、もう片方の手にはビームライフル。

横一閃。

相手に斬り付ける瞬間にだけグリップからビームを発生。

赤のオクトエイプはマシンガンを握る右腕を切断され、それが地面に落ちるよりも早くにビームライフルの銃口をコクピットに密着させられる。

中のパイロットは声を上げる暇もなく、灼熱のビームがコクピット部を破壊し機体は力を失い倒れ込む。

 

「これで最後だな。ガロード、そっちはどうなった?」

 

「ガンダムの性能ならこれくらい余裕だぜ」

 

「そうか。敵のモビルスーツを鹵獲した。何かパーツに使えるだろ」

 

「運ぶのを手伝えば良いんだろ?」

 

「そうだ。フリーデンに戻るぞ」

 

ドートレスに合流するGXは、さっきアムロが倒したオクトエイプの片腕を持ち上げた。

アムロも同様にもう片腕を持ち上げて、レーダーに反応するフリーデンに帰還する。

けれどもその影で2人が戦闘を行う様子を遠くから観察する女が1人。

名をエニル・エルと言う。

赤い短髪を風になびかせながら、双眼鏡を覗く彼女が見るのはGXの姿。

危険な仕事をこなす彼女は、ガンダムにどれだけの価値があるのかがわかっている。

 

「フフフッ、掘り出し物が見つかったね。ガンダムか――」

 

 

 

第7話 私が手に入れる

 

 

 

唇の赤いルージュを思わず舌で舐める。

フリーデンへ帰還した2機はそのまま整備に入る。

メカニックチーフであるキッドの指示の元、推進剤と弾薬の補給を最優先にして作業を進め、他のクルーは回収したオクトエイプの状態を確認した。

GXのコクピットから出るガロードは、体を休める事もせず一目散にある場所を目指す。

治療の終えたティファに与えられた個室。

その扉の前に立つガロードは緊張した様子で手汗を拭い、小窓からこっそり中を覗いた。

見えるのはベッドに腰掛けるティファと、彼女の隣に座るジャミルの姿。

 

(ジャミル? 何してんだ?)

 

「体の調子は戻ったようだな。だが、心の方はどうなんだ?」

 

「ざわざわする感覚……死んで行く人の最後の言葉……」

 

「ティファのニュータイプとしての能力が感じ過ぎているんだ。辛いとは思うが耐えるしかない。私にもわかる」

 

ティファはギュッと白いシーツを握る。

人が死ぬ時に放つ最後の光。

ジャミルやティファにはソレを感じ取る事ができるが、ガロードには何も感じられない。

 

(ティファ……俺に何ができる……)

 

「無理はするな。また何かあればテクスの所に行くんだ」

 

「はい……」

 

「それと、ニュータイプの存在を感じる事があればキャンパスに書いてくれ。言葉だけでは説明できない、イメージのようなモノで構わない」

 

「わかりました」

 

言い終わるジャミルは立ち上がり、扉の所にまで歩いて来る。

急いで通路脇に隠れるガロードは部屋から出て行くジャミルの背中をジッと睨んだ。

反対方向に進むジャミルはその足でブリッジに向かい、周囲に誰も居ない事を確認したガロードは今度こそティファの部屋に入る。

音が立たないように扉を閉じ、彼女の元に歩み寄った。

 

「ごめん。今の話、聞いてたんだ」

 

「そうなの?」

 

「うん……アイツにやられた薬が抜けて、体も元に戻ったって聞いてさ。それで来たんだ。なぁ、ティファ……」

 

何も言わずにティファはガロードの事を見る。

彼女が何を考え、何を思ってるのかはわからない。

それでも懸命に悩むガロードは、1つの答えを提示した。

 

「俺と一緒に来ないか? ここに居たら、また苦しむ事になる。ティファはこんな戦艦なんかに居たらダメだよ。大丈夫!! 金は俺がなんとかする。そうだ!! ガンダムを売ろう!! 上手くやれば何億って額が入って来る。そしたらさ――」

 

ガロードが差し出す手。

けれどもティファがその手を受け取る事はなかった。

すぐには答えを出せずに迷う彼女に、ガロードの手も次第に引かれて行く。

 

「ごめん……俺、行くよ」

 

「あっ……」

 

咄嗟に立ち上がり引き止めようとするも、ガロードは背中を向けて走って出て行く。

大きな音を立てて閉じられる扉。

ティファはゆっくりベッドの上に戻り、また白いシーツを握り締めた。

ブリッジでは艦長シートに座るジャミルがスクリーンに映る映像を見ていた。

以前の戦闘から10分程度しか経過してないにも関わらず、フリーデンを標的としてバルチャーのモビルスーツが集まっている。

その数は10を超え、立て続けの起こる戦闘にサラは眉間にシワを寄せた。

 

「こんな連続して襲って来るなんて。キャプテン、もしかしてまた、彼女が狙われているのでは?」

 

「いや、見た所は野良の集団だろ。ニュータイプの情報は、そんな誰でも持ってるモノではない。それに掴んだとしても、普通の人間なら信じない」

 

「だとすれば、狙われてるのはGX?」

 

「そうかもしれん。近頃は派手に動きすぎたか。ガンダムの情報が出回れば、これだけのバルチャーが集まるのも頷ける。連戦にはなるが、アムロとガロードをすぐに出撃させてくれ」

 

「了解です」

 

指示を受けて、サラはパネルをタッチし館内放送を繋げる。

設置されたマイクに声を吹き掛けた。

 

「アムロ、ガロード、聞こえて? またバルチャーのモビルスーツが接近してます。至急、GXとドートレスで出撃を」

 

艦内に響き渡る放送。

ブリッジで同じくオペレートをしているトニヤは、不意に振り返りポツリと声を零す。

 

「ガロード、大丈夫かな?」

 

「どうしてです? GXの操縦にも、最近は慣れてきているようですが」

 

「でも、慣れ始めた頃が1番危ないって言うじゃん。任せ過ぎるのもどうなの?」

 

「GXには充分な性能があります。それに、危なくなったら逃げる事くらい、あの子でもできるでしょ。ですよね、キャプテン?」

 

「ガロードはもう、フリーデンの貴重な戦力だ。何かあれば私が責任を取る」

 

責任を取る、その言葉の意味は重い。

けれどもこれ以上話をしている余裕はなく、敵からの砲撃が艦内を揺らす。

モビルスーツデッキでは準備の出来た2人がモビルスーツに乗り込み、開放されたハッチから出撃する所だ。

アムロはコンソールパネルを叩きガロードに通信を繋げる。

 

「俺が先行する。5秒後に出るんだ」

 

「さっき倒したばっかだって言うのによ」

 

「そればかりは敵に言うしかないな。俺はフリーデンの右舷から来る敵を叩く」

 

「俺は左だな。さっさと終わらせてやる!!」

 

「急ぎ過ぎるなよ」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射して、アムロのドートレスは出撃した。

モニターから見えるのは、機種もモディーカラーも武器もバラバラなモビルスーツ群。

ビームライフルを構え、トリガーを引く。

 

「数は多いが……そこ!!」

 

正確に撃ち抜かれるコクピット。

一撃で相手を戦闘不能にするアムロは瞬時に状況を見極めて次の敵を狙う。

ビームライフルを構えながら、ドートレスを走らせる。

敵から放たれる無数の弾丸。

シールドを使わずとも走り続ける事で弾を避け、その間にも照準を定める。

発射されるビーム。

GXなどのビームライフルと比べれば威力は落ちるが、量産機の装甲を撃ち抜くくらいならできる。

 

「機体の反応が鈍い。俺の方が合わせるしかないか」

 

「本当にアレがドートレスなのかよ!?」

 

「少し武器の性能が良いからってな!!」

 

同タイプのドートレスが構えるシールドにビームが直撃。

一撃で使い物にならなくなり、衝撃に一瞬動きが止まる。

次の瞬間には胸部にまたもビームが直撃し、機体は仰向けに倒れた。

アムロの戦闘能力に恐れるモノも居れば、仲間がやられた事に激昂するモノも居る。

 

「やりやがったな!! テメェなんざ!!」

 

「単調な攻撃だ。そんな事では!!」

 

腰部からヒートホークを抜くジェニスはメインスラスターを全開にしてドートレスに正面から突っ込む。

機体を通して気迫だけは伺えるが、動きの読みやすい相手にアムロが苦戦する事もない。

敵が近づくよりも早くにトリガーを引く。

左脚部を撃ち抜き姿勢を崩し、次に振り上げた右腕を破壊した。

 

「こ、コイツは――」

 

最後の1発はコクピットに座るパイロットを消し去る。

瞬く間に3機を撃破するアムロはフリーデンへの被害を抑えるべく前に出た。

 

「これだけの数、どこかに指令塔が居る筈だ。ガロード、聞こえてるな?」

 

「1機だけ見た目の違う奴が居る。アイツだ!!」

 

「GXの性能を過信し過ぎるなよ。サテライトキャノンも条件が揃わなければ撃てない。無理はするな」

 

「わかってる!!」

 

ガロードの乗るGXはそのモビルスーツに目掛けて加速する。

脚部にホバーリングユニットを装備した青いドートレス。

ビームライフルの銃口を向けてトリガーを引くが、敵は後方に大きくジャンプすると直撃を避けた。

 

「コイツ!!」

 

「フフッ、その程度か。ガンダム!!」

 

「やってやる!! わかってるけど、やるしかないんだ!!」

 

青いドートレスへ更にトリガーを引く。

何発も発射されるビーム攻撃を、ホバーリング移動する事で簡単に避けて行くドートレス。

地面には直撃により無数の穴と砂煙が飛ぶ。

コクピットに座るエニル・エルは、ガロードの戦闘能力に思わず笑みが溢れた。

 

「アタシの見立て通り、パイロットは素人同然か。オイ、お前ら!! 作戦通り、アタシがガンダムを引き寄せる。戦艦ともう1機を近付けさせるなよ」

 

ビームサーベルを抜くエニルは、GXを正面に捉えながら後ろへと距離を取る。

ガロードは照準を合わせてトリガーを引くが、素早い動きにビームはかすりもしない。

 

「さぁ、付いて来な」

 

「逃がすかよぉ!!」

 

ビームライフルをバックパックにマウントさせ、マニピュレーターがビームサーベルのグリップを掴む。

ペダルを踏み込みリフレクターからエネルギーを放出するGXは、逃げるドートレスを追い掛ける。

GXの機動力はチューニングされたドートレスに数秒で追い付く。

 

「落ちろ!!」

 

「流石、ガンダムって所か。でもね、スラスターを全開にする事くらい、馬鹿でもできるんだよ!!」

 

GXが振り下ろしたビームサーベルを、エニルは事もなく受け止めた。

ビームとビームが交わり、閃光が両者を照らす。

 

(わからない、わからない!! 俺はどうしたら良いんだ!!)

 

「遅いよ!!」

 

迫り来る斬撃。

ガロードはギリギリの所で反応して返す刀で受け止める。

それでも、パイロットの技量に差があるせいでこちらから攻撃を仕掛ける事ができない。

必死に操縦桿を動かすガロードの目には、目の前のドートレスにアムロの面影を重ねる。

 

「俺は勝てないのか? コイツに!!」

 

「だからさ、アタシが上手に使ってやるよ!!」

 

「うるさい!!」

 

ブレストバルカンを発射して装甲を狙うが、ドートレスは地面を蹴るとまたも後方に距離を離してしまう。

そしてそのままGXに背中を向けホバーリング移動で走る。

 

「逃がすもんか!!」

 

「良い子だ、付いて来な」

 

リフレクターからエネルギーを放出するGX。

再び逃げようとするエニルの機体を追い掛けるが、そのせいでフリーデンから距離が離れすぎてしまう。

その様子はブリッジでも確認でき、ジャミルはシートに座りながら肘掛けの受話器を手に取った。

 

「ガロード、前に出過ぎだ。アムロと合わせろ」

 

「でもコイツに逃げられたら、また数を増やして襲って来る。そうしたらまた、ティファが苦しむ。そんなのもう嫌なんだ!!」

 

「やめろ、ガロード!! 罠の可能性だってある。それに――」

 

話の途中にも関わらず、ガロードは通信を一方的に切った。

そして逃げるドートレスを追い掛ける。

エニルは腰部にマウントさせたマシンガンを手に取り、機体を反転させGXにトリガーを引く。

脚部のホバーリングユニットのお陰で、背を向けながらでも高速で移動できる。

 

「っ!?」

 

「ホラホラ、どうした? その程度かい?」

 

「クソッ!? アムロなら……アムロならどうする?」

 

考えながらもビームサーベルを収め、バックパックからビームライフルを引き抜く。

地上を縦横無尽に動き回る相手に向かって照準を合わせようとするが、そう簡単には行かない。

相手が動く先に向かって憶測でトリガーを引くが、ビームはドートレスの位置から何メートルも離れている。

 

「何だい、その攻撃は?」

 

「逃げられる前に当てる!! 無理でもなんでもやるしかないんだ!!」

 

「フフフッ、やってみな」

 

再び引かれるトリガー。

発射されるビームは動かなくても見当違いの所へ飛んで行く。

エニルはそのままマシンガンでジワジワとGXにダメージを与える。

強固に作られた装甲だが、無敵ではない。

回避行動を取るが左肩に数発当たり、振動がコクピットに伝わる。

 

「クソ、クソッ!! 逃げるな!!」

 

「恨むなら自分の腕の無さを恨みな!!」

 

「当たれッ!!」

 

「無駄だよ!!」

 

動きながらも無数に発射される弾丸。

遂には避けきれずGXの白い装甲に直撃してしまう。

それでも性能に物を言わせ強引に突き進むガロードは操縦桿を強く握る。

何度目かに発射されたビーム。

それは動き回るドートレスの握るマシンガンに当たった。

 

「チッ、アイツ……まぁ、良い。こっちの思惑通り誘いに乗って来た。後は……」

 

投げ捨てられるマシンガン。

エニルは機体の向きを変え、目的地に向かって加速する。

砂煙を上げながら、ビルの残骸が立ち並ぶ旧市街地へ入って行く。

その後姿を見失わないように、ガロードもペダルを踏み込んだ。

反撃をする様子もないドートレスは見る見る内に近づいて行き、マニピュレーターにビームサーベルを握らせたガロードは一気に詰め寄る。

そして右腕を大きく振り上げて、目の前のドートレスに斬り掛かった。

 

「うおおおォォォッ!!」

 

「掛かった!!」

 

無数のビルに挟まれたアスファルトの通路。

青いドートレスが通過し、その数秒後にGXが来た瞬間にビームのバリアーが発動した。

ビルに設置された6つの発生装置はGXの機体反応を察知し、ビームの網が機体の動きを完全に封じる。

もう少しの所にまで迫ったガロードだったが、どれだけ操縦桿を押しても機体は身動きを取れない。

 

「機体が動かない!? どうなってんだ!!」

 

「ビームの出力を上げな!! ただし、パイロットは殺すんじゃないよ!!」

 

待機して居た班がエニルの指示に従い発生装置の出力を上げた。

高出力になるビームは機体だけでなく、搭乗するパイロットにもダメージを与える。

高圧電流が体を流れ、ガロードは痛みに声を上げた。

 

「うあ゛あ゛あ゛ァァァッ!?」

 

暗くなる視界。

耐え切れないガロードはそのまま気を失ってしまい、GXは完全に動きを止めてしまう。

様子を見るエニルは作戦が上手く行った事にほくそ笑んだ。

 

「これでガンダムはアタシのモノ。ザコット、ガンダムは捕獲した。このまま引き上げる。追手を近付けさせるなよ」

 

「流石はエニルだ。だが向こうのパイロットがなかなかやり手だ。増援をこっちにも向かわせろ」

 

「たかが1機に、わかったよ。アタシはガンダムを連れて先に行くからね。合流ポイントで落ち合う」

 

「わかった」

 

ビームバリアーの発生が停止し、装甲の焼かれたGXは力なく倒れ込む。

 

///

 

フリーデンではアムロのドートレスが合流するが、バルチャーは更にモビルスーツを展開させてGXの追跡を許さない。

歴戦の兵士であるアムロであっても、たった1人ではどうする事もできなかった。

 

「ジャミル、離脱するぞ。これ以上は無理だ」

 

「アムロ……わかった。シンゴ、フリーデンを後退させてくれ。左舷に弾幕を集中」

 

増え続ける敵の数に撤退を決意するジャミル。

だがその瞳では、捕獲されて行くGXの姿を最後まで見ていた。

距離を離すフリーデンに敵も深追いをしようとはせず、安全圏まで離れたのを確認してからアムロも現領域から離脱を始める。

 

「フリーデンは行ったな。良し」

 

「ただのドートレスに、ここまでされて要られるか!!」

 

「まだ来るのか?」

 

向かって来る3機のジェニス。

マシンガンの銃口を向けて手当たり次第に撃ちまくる。

けれどもそんな攻撃に当たる筈もなく、シールドを構えながらビームライフルで撃つ。

横並びに位置する3機のジェニス。

左に位置する機体のコクピット部にビームは命中し、ジェニスは崩れ落ちる。

 

「やったなぁ!! 俺が前に出る。援護しろ!!」

 

ヒートホークを構える1機が前に出る。

アムロは少しずつ後退しながらも、シールドを相手の足元に向けた。

 

「ここまでだな。撤退に時間が掛かり過ぎる」

 

シールド裏に設置された4発のミサイルが一斉に発射された。

高速で接近するミサイルは地面へと激突し、爆発が煙幕となり視界を遮る。

前衛のジェニスは思わず足を止めてしまうが、その一瞬が命取りになった。

煙のせいで前が見えない状態で、アムロのドートレスが放つビームが腹部を貫く。

戦闘不能になる機体はエンジンが爆発を起こし更に巨大な爆発が生まれる。

けれどもアムロの攻撃はそれだけでは終わらず、後衛のジェニスにも銃口を向けた。

爆発が起こる前の位置をイメージに焼き付けて、敵意を感じ取りながらトリガーを引く。

 

「こんな所から!? うわっ!!」

 

装備したマシンガンが撃ち抜かれ爆発で右腕が吹き飛ぶ。

間髪を入れず頭部もビームで撃たれてしまい、黒煙を上げながら仰向けに倒れてしまう。

アムロはメインスラスターを全開にして、フリーデンに追い付くべく機体を加速させた。

背を向けるドートレス目掛けて遠くから弾丸が飛翔するが、装甲にはただの1発も当たらない。

数秒後には追手を振り切り離脱に成功する。

 

「上手く逃げられたな。だがGXを囚えられた。ジャミル、どうするつもりだ?」

 

狭いコクピットで呟く声は誰の耳にも届かない。




アニメとは違う展開で進めて行きます。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第8話

フリーデンに帰還するアムロ。

ドートレスの整備はキッドに任せ、皆が揃うブリッジへ向かう。

ガロードが乗るGXが奪われた事で戦闘力は著しく下がり、なんとしても取り戻す必要がある。

シートに座るジャミルはこれからの事に付いて話す。

 

「これは私のミスだ。ガロードを引き止める事ができなかった」

 

「それはわかるが……どうする、キャプテン? ドートレス1機であれだけの数を相手にするのは俺でも無理だぞ」

 

「わかっている。サラ、バルチャーサインを出してくれ。ロアビィを呼ぶ」

 

「ロアビィだけですか? エアマスターのウィッツは?」

 

「1人で良い。そこまで資金に余裕がない」

 

「了解です。すぐに呼び出します」

 

「頼む」

 

サラは指示に従ってパネルを叩き、フリーデンから照明弾を打ち出す。

今後の方針は取り敢えず決定したが、アムロにはまだジャミルに聞く事がある。

 

「奴らをどう攻略する? ガンダムを合わせても2機、相手の練度を見ても絶対とは言い切れない」

 

「いいや、3機だ。私が出る。キッドには鹵獲したドートレスのメンテを頼んである」

 

「行けるのか!? コクピットの恐怖心はどうした?」

 

「治ってない。考えただけでも体が震えて来る。だが、フリーデンの艦長は私だ。責任は私が取る」

 

そう宣言するジャミルに反論できるモノは居なかった。

 

///

 

「ッハ!! 負けたのか……ここはどこだ?」

 

埃臭いベッドの上で目を覚ますガロード。

周囲を見渡すと、ベッドと同じように埃まみれの木製の壁。

物置部屋のように狭い部屋の中で眠らされて居た。

警戒しながら眠っていたベッドから立ち上がり外に出ようとするが、それよりも早くに扉が開かれる。

入って来たのは目付きの鋭い赤い髪の女。

 

「おや? 起きたのかい?」

 

「お前……俺達を襲ったバルチャーだな?」

 

「そうだよ。アタシはエニル・エル。アンタのガンダムと戦ったドートレスのパイロットさ」

 

「どうして俺を殺さない? 逃げ出してガンダムを奪い返すぞ」

 

「ふふふっ、そう警戒するな。それよりも名前は何て言うんだい?」

 

「なまえ?」

 

「言っただろ、アタシはエニル・エル。アンタの名前さ」

 

攻撃して来る様子はない。

それでもガロードはいつでも反撃できるように気構えながら、鋭い視線でエニルを睨み付ける。

 

「ガロード・ラン」

 

「ガロードか……覚えたよ」

 

「なんのつもりだ? ガンダムは手に入れたんだから、俺なんて殺す筈だろ」

 

「だから、そう警戒するな。アンタ、見どころがあるからさ。どうだい、手を組まないか?」

 

「お前と手を組む?」

 

「アタシは今、ザコットって奴と組んでるんだけどさ。コイツが金の払いが悪くてね。ガンダムだってアタシのお陰で捕獲できたのに、分前はアイツの方が多いと来たもんだ」

 

そこまで言ってエニルは笑い声を上げた。

以前として警戒するガロードだが、彼女は流暢に話し続ける。

 

「アハハッ、悪かったよ。アンタを倒したりして。こっから逃げたいだろ? グズグズしてるとザコットに見つかる。付いて来て」

 

「信用できない。誰がお前なんかに」

 

「そうかい、そう言うなら……」

 

目を細めるエニルはゆっくりガロードに詰め寄る。

元々の身長と、履いたブーツのヒールで上から見下ろすような態勢の2人。

ガロードはジャケットの内ポケットに手を伸ばし、隠した薄いナイフを握る。

殺意をみなぎらせ、相手の急所にいつでも攻撃できるようにして、そのタイミングを窺う。

緊張が走り、静寂な空気が空間を支配する。

埃が舞い上がる音さえも聞こえるくらい集中するガロード。

高鳴る鼓動が闘争本能と生存本能を掻き立てる。

けれども対照的に、コケティッシュに笑みを浮かべるエニルは唇を合わせた。

薄く口紅がガロードにも付着する。

艶めかしく、エニルは耳元に囁いた。

 

 

 

第8話 ファーストキス

 

 

予想もしない突然の事に目を見開くガロードは動揺して後ろに後ずさるが、ベッドに躓きそのままシーツの上に尻もちを付いてしまう。

完全に戦意も喪失してしまい、目の前の女を見る事しかできない。

 

「フフフッ、冗談だよ」

 

「冗談だって?」

 

「それよりも、さっさとここを出る。ガンダムはガロードが、アタシはドートレスで出る」

 

「出るって言っても……作戦とかあるのか?」

 

「当然だろ? 連行するフリをしてガンダムの所にまで連れて行く。そのままコクピットに入って、後は合図を送るまで待機。簡単だろ?」

 

「あぁ、確かにな。でも、もう1つだけ聞きたい事がある。どうして仲間を裏切るような事をするんだ?」

 

「仲間だって? お笑い種だね。アタシは金で雇われてるだけだ。他の連中も一緒さ。報酬が貰えるから協力してるに過ぎない。相手だってそう考えてる。そんな奴を相手に、義理を立てる必要なんてない。ガロードだって同じだろ?」

 

「俺は……」

 

「ガンダムが捕まった後、あの白い戦艦もそそくさと逃げて行ったよ。そりゃそうさ。戦力で劣る状況で無理して突っ込んだりなんてしない。あの艦はガロードを諦めたんだ」

 

反論できないガロード。

アムロと共にフリーデンのクルーとして雇われ、ようやく1ヶ月経った所。

充分に信頼関係を構築できているとは言えず、相手の立場になって考えれば見捨てられた事にも納得できた。

ガンダムを捨ててでも、生き残る事を優先させる。

戦後のこの世界を生き残るガロードには、それを納得できてしまっていた。

 

「そう……なのか……」

 

思い返すのはティファの事。

それでも最後の会話はスレ違いを引き起こしただけ。

簡単に諦める事はできないが戻る事もできない状況で、生き延びる為にエニルの策に乗る事とした。

 

「そうだよ。でもそいつらが悪い訳じゃない。言ってる意味はわかるだろ?」

 

「あぁ……そうだな……」

 

「それなら行くよ。手を後ろに回して。手錠を掛ける」

 

「本気なのか?」

 

「あぁ、本気だよ。安心しろ、手錠は壊れてる」

 

言いながらエニルはガロードの手首に手錠を掛けた。

手錠は見た目だけで少し力を入れれば簡単に外す事ができる。

ガロードは埃臭い部屋から出るとエニルの作戦通りに動いた。

 

「それより、ここはどこなんだ?」

 

「町から少し離れた所でキャンプしてる。ここを脱出したら町の整備工の所で合流だ」

 

「信じて良いんだな?」

 

「任せな」

 

外はもう夜。

周囲に悟られないように小声で話しながら進むガロード。

そのすぐ後ろには銃を握るエニル。

キャンプしてるこの場所で、フリーデンを襲ったバルチャーは酒を飲み、肉を頬張り、大いに盛り上がっている。

ガンダムをほぼ無傷で捕えた事で大金が手に入るとなれば、男達は1日中騒ぎ立てた。

その中には、リーダーであるザコット・ダットネルの姿もある。

ビンに入ってる酒をラッパ飲みする彼は2人に気が付くと陽気な顔をして近づいて来た。

 

「どうしたエニル? お前もさっさと飲めよ」

 

「最後に一仕事あってね。それが終われば行くさ」

 

「一仕事? そこのガキか?」

 

「あぁ、町まで連れてって血を売るのさ」

 

「血なんてどうするんだ?」

 

「今の時代、買い手が付けばなんでも売れる。肉でも内臓でもね。文字通り、血の1滴まで絞りとる」

 

「フュ~!! とんでもねぇ女だぜ」

 

「生きる為なら何だってするさ」

 

エニルは銃口で背中を軽く押しガロードを歩かせる。

アルコールで酔っ払うザコットはこれ以上気にする事もなく、他のメンバーも2人を気に掛ける事はなかった。

そのままキャンプの隅に寝かされたガンダムの所にまで来る。

 

「な? 上手く行った。後はさっき言った通りだ。合流地点で落ち合おう」

 

「エニルはどうするんだ?」

 

「ドートレスを隠してある。それと、最後の仕上げだ。先に行ってな」

 

手首に掛けられた手錠を外すガロードは白い装甲の隙間を足場にしてコクピットまで駆け上がる。

ハッチを開放させ、乗り込む寸前に振り返った。

その先ではもうエニルは居らず、自身の機体に向かって走る。

 

「撃って来る感じじゃないな。だったら、今は信用するよ。エニル」

 

コクピットシートに座りハッチを閉じる。

コントロールユニットは装着されたままで、操縦桿を握るガロードはエンジンを起動させた。

電力が供給され頭部ツインアイが光る。

ゆっくりと関節を折り曲げて動き出すガンダム。

地に足を付け、巨大な機体が大地に立つ。

 

「装甲は所々焼かれてるけど、内部は大丈夫みたいだな。これなら!!」

 

リフレクターからエネルギーを放出させて、GXは合流地点に向かって飛び立つ。

けれどもそれに気が付かない筈がなく、ザコット達バルチャーは飛んで行ってしまうGXを見上げた。

 

「ガンダムが逃げ出した? まさか、エニルなのか!? 全員モビルスーツに乗り込め!! なんとしてもガンダムを取り戻す!!」

 

「そうはいかないよ!!」

 

キャンプ地に飛び込んで来たのはカスタマイズされたエニルの青いドートレス。

マシンガンを装備する機体は、その銃口をザコットへ向けた。

 

「エニルか!?」

 

「ザコット、アンタとの契約もここまでだ。ガンダムも、あの坊やも、アタシは全て手に入れる」

 

「お前!! ここまで一緒にやって来た恩も忘れて!!」

 

「アンタが勝手に思い込んでただけさ。安心しな、貯えてる金はアタシが有効に使ってやるよ」

 

「キサマァァァッ!!」

 

躊躇なくエニルはトリガーを引いた。

発射される弾丸は人間の体など容易に吹き飛ばす。

消炎と血の匂い。

夜の闇の中でマズルフラッシュが走り、逃げる人間の怒号が響き渡る。

それでも何とかしてモビルスーツにまでたどり着く人も居るが、次の瞬間には爆発の炎に包まれた。

 

「モビルスーツには爆弾を仕掛けた。もう無駄だよ!!」

 

エニルが仕込んだ時限爆弾が次々に着火する。

辺り一面炎に包まれ、バルチャー達にはもう逃げる手段もないし立ち向かう事もできない。

わずか数分でキャンプ地は完全に崩壊し、この場に生き残ったのはエニルだけ。

 

「終わった。合流地点に行くとするか」

 

ホバーリング移動するドートレスは先にガロードが向かった地点に移動を始めた。

 

///

 

月が沈み、太陽が昇る。

町の整備工場まで到着したガロードは、そこで働く整備士に会いに行く。

店内には今までに整備したモビルスーツの写真が幾つも飾られていた。

 

「ようこそ、モビルスーツの整備かい? そうじゃなくても車、バイク、自転車でも良いよ?」

 

「オッサン、モビルスーツの修理頼まれてくれる?」

 

「お安いご用さ。機体は何なんだ?」

 

「見て驚くなよ? 外に置いてある」

 

「随分な自信じゃないか」

 

そう言いながら店主と一緒に外に出るガロード。

見上げた先には片膝を付いているGXの姿。

その白い装甲はビームバリアーのダメージのせいで所々焼け焦げてしまっている。

 

「これは!? ガンダムじゃないか!!」

 

「ヘヘッ、そうだよ。整備、頼まれてくれる?」

 

「どうしてお前のような子どもが!? 金さえあれば手に入るようなモンじゃないぞ!!」

 

「それは企業秘密ってやつ」

 

「はぁ~、良いけどよ。コイツを整備するとなるとそれなりの金は貰うぜ? なんたってガンダムなんだからよ。電子パーツ1つでも売れば大金になる。この装甲も、ルナチタニウムなんて高値でしか取引されてない。金はちゃんとあるんだろうな?」

 

「かね? 金……金かぁ……」

 

今のガロードにそこまでの所持金はない。

最初は初めて見るガンダムに興奮していた店主だが、次第に目つきが変わってくる。

エニルに言われてここまで来たが、それ以上の事は彼女に聞かないとわからない。

どうしたものかと考えていると、地面が揺れる音が聞こえた。

振り返る先には、エニル用にカスタマイズされたドートレス。

 

「エニル!! ようやく来たのか!!」

 

「悪い、少し遅れた」

 

コクピットから出て来た彼女が持つのは銀色のアタッシュケース。

ワイヤーを片手に地上まで降りると、ガロードと店主の所にまで歩いて来る。

そして無造作にアタッシュケースを投げ捨て、中から何かを取り出した。

彼女が握るのは金色に光る金属の塊。

 

「き、きんかいぃぃ!?」

 

「そうさ、コイツの隠し場所を探すのに手間取ってね。オイ、おやじ。3本もあれば充分だろ?」

 

「え……えぇ!! それは勿論!!」

 

目の前で光る金塊に目が眩む。

店主はエニルから金塊を受け取り思わず生唾を飲み込む。

それでもまだ金塊はアタッシュケースの中に大量に詰め込まれており、数年の間は金には困らない。

ケースの口を閉じるエニルは話を区切り、合流したガロードの所へ向かった。

 

「それじゃ、町に行くとするかい」

 

「あ……あぁ、わかった。でも何をするんだ?」

 

「腹が減ったら動けないだろ? 何でも良いから食べる。安心しな、金はたんまりある」

 

2人は町の中に繰り出す。

戦争の傷跡も修復され、治安も良くなりつつある。

バルチャーの姿も見当たらず、今のこの町は平和と言える状況だ。

人も盛んに出入りしており、エニルはその中で1つの店舗に目を付ける。

外に並べられた白いイスとテーブル。

 

「ここで良いだろ。そこで待ってな。店で何か買って来る」

 

「あ……あぁ、頼む」

 

ガロードを置いて店の中に入って行くエニル。

彼女の後ろ姿を見ながら、イスに座るガロードは深く息を吐いた。

 

「ここまで来たは良いけど、俺はどうすれば良いんだ……ティファ……」

 

1人で考えていても答えは出ない。

外から聞こえて来る大勢の人の声も耳に入らず、これから先どうするかで頭が一杯だ。

じっとイスに座り続けて数分、不意に誰かが話し掛けて来る。

 

「失礼、相席しても良いかな?」

 

「場所なら他にもあるだろ? なんだって――」

 

視線を向けた先、そこに居たのは忘れもしないあの男。

 

「オルバ!? お前!!」

 

「おっと、静かに。周りの人の迷惑になる」

 

「よくもそんな事が言えたな。お前のせいで、ティファは死にかけたんだぞ!!」

 

「でも死んでない。まぁ、そう怒らないで。今日はキミと話がしたくてね。ちょっとお茶でもどう?」

 

「素直に従うと思うのか?」

 

「殺し合いをした人間とお茶は飲めないかい? 残念だ、今日は兄さんも来てるのに」

 

「兄さん?」

 

ガロードの肩に誰かが触れた。

反射的に振り向いた先にはもう1人の男が。

 

「初めまして、ガロード・ラン。私の名前はシャギア・フロスト。オルバの兄であり、ガンダムヴァサーゴに乗っている」

 

「シャギア? ガンダムヴァサーゴ?」

 

「アルタネイティブ社のラボで戦っただろ? 忘れたとは言わせない」

 

「アムロと戦った赤いガンダムか?」

 

「アムロ? そうか、あの白いガンダムのパイロットか……私達はね、今まで誰にも負けた事がないんだ」

 

「へぇ~、それで? 自分は格上だとでも?」

 

挑発するように話すガロード。

けれども2人は意にも返さず、対面のイスに腰を下ろした。

自信の現れか、不敵な笑みを浮かべるフロスト兄弟。

 

「ここでキミを殺すのは簡単だ。でもそれではモビルスーツで負けたと言う汚点を残す事になる。だからだ、キミにはこれからもGXに乗って戦って貰う。アムロと言うパイロットもだ」

 

「残念だけどそれはできないね。アムロのガンダムは損傷してもう使えない。俺ももう、フリーデンには帰らない」

 

「それは困ったね、兄さん」

 

「お前達フリーデンのガンダムパイロットは私達兄弟が始末する。それが、私達の望みなのでね」

 

「そんな事、俺に関係ないだろ」

 

そこまで言うと、オルバがテーブル越しにガロードの瞳をジッと覗き込んで来た。

鋭い視線からは殺気や凄味がヒシヒシと伝わる。

 

「いいや、ある。このまま負けたままでは、僕達の美学が許さない。だからキミにも、アムロにも、フリーデンでガンダムに乗り戦って貰う」

 

「勝手な事を言うな!! 大体、俺が憎いならここで殺せば良いだろ!!」

 

「言わなかったかな? ガンダムに乗るキミを倒すからこそ意味があるんだ」

 

「あんまり俺を……舐めるなよ?」

 

ジャケット裏に手を伸ばし薄型ナイフを手に取る。

首筋目掛けて一瞬の内に手を伸ばすが、オルバはそれを完全に見切っていた

切っ先が首筋に届くよりも早くに手首を掴み上げ、同時にシャギアは懐から拳銃を抜き額へ銃口を突き付ける。

ガロードの背中に嫌な汗が流れた。

 

「っ!?」

 

「あまり僕達を舐めないで欲しいね」

 

「さっきも言ったが、ここでキミを殺すつもりはない。そしてアムロと言うパイロットにも伝えるんだ。ガンダムを倒すのは私達兄弟だと」

 

ナイフを取り上げるシャギアはそう言い残し、イスから立ち上がるとオルバと共にこの場から立ち去ろうとする。

不意に立ち上がるガロードは立ち去ろうとする2人に向かって叫んだ。

 

「待て!! なんで直接ここに来た!! こんな事しなくても言う方法なんて他に幾らでもある」

 

「それを聞いてどうする? まぁ良い、何を気にしてるかは知らんが教えてやろう。直接顔を合わせて言うからこそ意味がある。これでキミも私も相手の事を覚えた。次に戦場で合えば確実なる憎悪を向けられる」

 

「憎悪だって?」

 

「私達が求める戦争を実現させる為にはガンダムが必要なのだよ。それも敵としてね」

 

「戦争……」

 

「さて、これで用は済んだ。次に戦場で会える日を心待ちにしてるよ。ガロード・ラン」

 

「僕達以外の相手に負けるんじゃないよ」

 

去って行く2人の姿は次第に遠ざかる。

立ち尽くすガロードは彼らの姿を視界に焼き付けた。

そうしてる間に注文を終えたエニルがいつの間にか戻って来ており、声を掛けられてようやく気が付く。

 

「ガロード……おい、ガロード!!」

 

「ハッ!!」

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「エニル……俺……」

 

「ここは治安も良い、暫くはゆっくりできる。夜には部屋を探すぞ」

 

「俺……やっぱり行くよ!! 直接会って確かめたいんだ!! ティファの事も、みんなの事も!!」

 

ガロードの言葉を聞いてエニルの目付きが変わった。

銃を取り出しトリガーに指を掛け、狙いをガロードに合わせる。

 

「アンタをここまで助けてあげた事、まさか忘れたなんて言うんじゃないよね?」

 

「わかってる!! でも、俺の事を仲間だって思うなら行かせて来れ!!」

 

「黙れッ!! アタシは――」

 

激昂するエニルにガロードはイスを投げ付けた。

響き渡る銃声。

弾丸は明後日の方向に飛んで行き、姿勢を崩すエニルは地面に倒れてしまう。

その隙を見て走りだすガロード。

 

「ガロードッ!! アンタはアタシの!!」

 

急いで立ち上がるエニルは銃口を向けてトリガーを引き続ける。

けれども弾はかすりもせず、ガロードの姿は射程圏外へ離れて行く。

イライラが収まらないエニルはそれでもトリガーを引き続け、銃声だけが虚しく響く。

 

「あの子……許さない!!」




投稿が遅くなってしまいすみません。
艦これのイベントをやってたのですが、そのせいで時間を使い過ぎてしまいました。
他にもやりたい事が一杯あるのに全然できておらず、この現状はだめだと思いデータを消しました。
次からはペースを早めていきます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第9話

出港するフリーデンは逃げたバルチャーの後を追う。

ブリッジのシートに座るジャミルはモニターに映るキャンプ地をジッと見ていた。

 

「爆破された後か……何者かに襲われた、もしくは仲間割れか」

 

「それよりキャプテン、良いんですか? アイツまで入れて?」

 

そう言うトニヤが指差すのは、以前に雇った事があるウィッツの姿。

そして彼の隣にはバルチャーサインで呼び出したロアビィも居る。

ウィッツは自身の事をアイツ呼ばわりするトニヤに不機嫌な視線を向けた。

 

「こっちにも事情があるんだよ!! 良いじゃねぇか、戦力が増えるんだからよ!!」

 

「呼んでもないのに来るのも困り様よ。それにこっちの懐事情もあるからね。アンタのお陰で私の報酬にしわ寄せが来たらタダじゃ置かないからね!!」

 

「安心しろ、俺が来たからにはそんじょそこらのバルチャーなんざ楽勝だ。むしろ報酬を増やしてやる」

 

「そんな事言って。そこまで言うならアムロに勝ってみなさいよ?」

 

「うっ……ん~」

 

ウィッツの言葉が詰まる。

まだ初めて戦った時の記憶は鮮明に残っており、圧倒的優位な状況から追い込まれた事は忘れようもない。

助け舟を出そうとアムロは2人の間に割って入る。

 

「話はそこまでだ。GXがここにないとなると、どこかへ持って行かれたんだろ。襲撃の痕からみてもそこまで時間は経ってない。ウィッツ、フリーデンに先行してガンダムで索敵するんだ。敵部隊の規模がわかれば攻め込みやすくなる」

 

「お……オウッ!! エアマスターで出るぞ!!」

 

言うとウィッツはブリッジから走り出しモビルスーツデッキの自身の機体へ向かう。

ことの成り行きを見守っていたロアビィはニヒルに笑う。

 

「人を煽てるのがお上手で」

 

「茶化すなよ。だがレーダー外の探索は必要だ。早くガロードを見付ける」

 

「GXじゃなくてあのボウズが先なのか?」

 

「機体だけあってもパイロットが居なければ意味がないだろ? それに、ガロードはもう俺達の仲間だ」

 

「へぇ、そう言う風に言う」

 

「不服か? ティファの為でもある」

 

「ティファの? なるほど、ボーイフレンドは居て欲しいか」

 

「そう言う事だ。キャプテン、状況は?」

 

シートに座るジャミルの隣へ移動するアムロはスクリーンに映る映像を読み取る。

破壊されたキャンプ地から少し離れた場所に町があり、そこに居る可能性も捨て切れない。

探索域を広げて情報を集めてからでないと、自分達と同じようにガンダムを探すバルチャーと出くわす事もある。

 

「GXの手掛かりすら掴めん。こうなると迂闊に動けなくなる」

 

「だがゆっくりしていられる時間もない。探索は長くて3日だ。それ以上は――」

 

アムロの言葉を遮るように、外から爆発の音が聞こえる。

スクリーンに表示される情報にも変化が現れ、町から5キロ地点が爆発現であり更に見慣れた形式番号も浮かび上がる。

前回フリーデンに襲撃を仕掛けて来たドートレスの1機と、ガロードのGX-9900。

 

「ガロードなのか? このタイミングで」

 

「ウィッツを向かわせろ。確認でき次第、私もモビルスーツで出る」

 

「艦の防御はどうする? 俺とロアビィでも行けるが、その間は艦長がいない」

 

「そうだな……サラ、頼めるか?」

 

ジャミルに指示を受ける彼女だが、オペレーターから一時的とは言え艦長など到底請け負えるモノではなかった。

 

「私ですか!? そんな……艦長だなんて……」

 

「ジャミル、ここは俺達に任せた方が良い。帰る場所が失くなっては元も子もない。俺はロアビィと――」

 

艦長としてフリーデンに残るように言うアムロ。

不慣れなサラに任せて襲撃を受けて艦が破損すれば取り返しが付かない。

長である自分が責任を取るべきだと考えるジャミルだが、無理だと判断して作戦を変えようとしたその時。

 

「だったらアタシがやる!!」

 

一斉に視線が集中する。

その先に居るのは、意気揚々と右手を上げるオペレーターのトニヤだった。

 

///

 

走るガロードはGXを預けた整備工場に向かう。

もう後ろから銃声は聞こえて来ない。

振り返ってもエニルの姿は見る事ができず、一抹の寂しさを覚える。

それでも今は止まる事などできず、到着した工場に駆け込むガロードは店主に向かって叫んだ。

 

「オヤジ!! ガンダムは?」

 

「ん、お客さん気が早いよ。ちょっと前に預かったばかりだろ?」

 

「整備はもう良い。ガンダム持ってくからな!!」

 

「えぇッ!? でも、まだ何にも手付けてないよ?」

 

「それでも良い!! GX、出すぞ!!」

 

「お、おい!!」

 

ガロードは仰向けに寝かせられたGXに近づき、白い装甲の隙間を足場にしてよじ登る。

ハッチを開放してコクピットシートに座り、慣れた手付きでコンソールパネルを叩いた。

接続されたままのGコンを握り、ガンダムのエンジンに火を入れる。

 

「俺はもう1度だけ確かめたいだけなんだ。直接会って確かめたい!! だから!!」

 

頭部ツインアイが輝く。

エンジンから動力を得たGXは地面に足を付けゆっくりと動き始める。

立ち上がるGXは焼け焦げだ装甲のまま歩き出した。

 

「座標位置は……ここか。レーダーに反応なし、どこに居るかはわかんないけど、取り敢えず最後の場所に行くしかないか」

 

「おいボウズ、金塊――」

 

外から聞こえて来る店主の声も聞かずに、ガロードはペダルを踏み込んだ。

メインスラスターから青白い炎が噴射されGXはアスファルトを蹴る。

強力な風圧が店主に襲い掛かり、同時に推進力でGXは飛び立った。

 

「ごめん、ティファ。エニルと一緒に居てわかったよ。俺、焦り過ぎてた。だから今度はちゃんと、ちゃんと話したいんだ。みんなともそうだ。だから――」

 

整備工場を飛び出してまだ数分、GXに狙いを定めて攻撃を仕掛けて来た。

反応するガロードは操縦桿を倒してコレを避ける。

地面に直撃する弾丸は衝撃と爆発を生み、爆音が周囲に轟く。

 

「どこから来た?」

 

「逃がさないって言ってんだよ!!」

 

「エニルかッ!? 待て、エニル!!」

 

「うるさい!!」

 

ガロードの声も聞かずにエニルは操縦桿のトリガーを引く。

ホバーユニットを装備した青いドートレスは高速で接近しながら、GXに弾丸を浴びせる。

ビームライフルをシールドに変形させ攻撃を防ぐガロードは、それでも懸命に彼女へ呼び掛けた。

 

「エニル、俺はまだなんにも知らないんだ。お前の事を」

 

「だからどうした!! そんなモノの為にアタシを裏切ったのか!!」

 

「違う、違うんだよエニル!! そんな一方的な言葉じゃ伝わらないんだ!! 俺もお前も焦り過ぎてただけだ!!」

 

「焦るだって? このアタシが? 黙れッ!!」

 

「このッ!? わからずやァァァッ!!」

 

シールドで防ぎながらブレストバルカンで牽制。

ドートレスを一旦は退けさせ態勢を立て直し、リフレクターからエネルギーを放出して移動する。

ビームライフルを向けるガロードは照準を合わせてトリガーを引くが、ドートレスの動きは早く簡単に避けられた。

 

「やっぱり早い、でも……」

 

一連の出来事でガロードの考えは以前とは変わっている。

エニルの操縦技術は高く、同じタイプの機体に乗っていた事でアムロの姿が重なって見えていた。

けれども今は違う。

相手の動きを良く視れば、その違いは随所に現れる。

回避行動のタイミング、攻撃の精度、何よりも反応速度が違う。

 

「アムロとは違う!!」

 

「沈めぇぇぇッ!!」

 

エニルのドートレスが握る銃口がGXを捕らえる。

だがマシンガンのトリガーが引かれるよりも早く、上空からのビームがドートレスを襲う。

ペダルを踏み操縦桿を動かすエニルは反射的に攻撃して来る方向を見た。

 

「なんだ? 新手のガンダムか!!」

 

「こちらウィッツ、GXを見付けたぜ。ガロード、生きてるな?」

 

両手に握るビームライフルでドートレスを狙うウィッツは、通信でGXに呼び掛けた。

コクピットでその声を聞くガロードは、去った筈の男がここに来た事に驚きを隠せない。

 

「ウィッツなのか!? どうしてこんな所に?」

 

「俺にも事情ってモンがある。取り敢えず下がってろ、報酬の分はキッチリ働く」

 

「待ってくれ!! あの機体のパイロットは――」

 

呼び止めるよりも早く、エアマスターのビームライフルのトリガーが引かれた。

けれどもビームは当たらない。

ホバーリングユニットを装備したドートレスは砂煙を上げてエアマスターからの攻撃を避ける。

 

「チッ!! すばしっこい奴だな!!」

 

「ガンダムが2機……さすがに不利か」

 

「落ちろって言ってんだよ!!」

 

2丁のビームライフルのトリガーを引き続けるウィッツ。

連射されるビームを掻い潜るエニルだが、ガンダムと量産機の性能差は歴然としており、そういつまでも続けられない。

マシンガンを上空のエアマスターに向けてトリガーを引くが、高速で空を移動する相手に弾は明後日の方向へ飛ぶ。

様子を見ていたガロードだったが、ビームライフルをマウントしビームサーベルを引き抜くと2人の戦闘に割って入った。

 

「うおおおぁぁぁッ!!」

 

「おまえ!? 何やってる、引っ込んでろ!!」

 

「エニルは俺が止める!! 俺がやらないとダメなんだ!!」

 

加速するGXに気付くエニルもマシンガンを腰部にマウントさせてビームサーベルを引き抜き、横一閃すると同時に閃光が走る。

 

「今からでも遅くない、アタシと一緒に来い!!」

 

「エニル、もうこんな事はやめるんだ!! こんな事をしても、俺はお前とは一緒にならない!!」

 

「だったら死ねェェェ!!」

 

「違うだろッ!!」

 

振り下ろすビームサーベルが再び交わる。

 

「15年だぞ!! あの戦争が終わってももまだ、コロニーの放射能で死ぬ奴がいる!! 生き残ってしまったアタシには誰も居ないんだ!!」

 

「だからって……」

 

「ガロードにだってわかるだろ? 1人は寂しいモノだって」

 

「わかるけど……寂しさを埋める場所が帰る所じゃダメなんだ!! 俺はそんなエニルの傍には居られない!!」

 

ガロードがティファにやろうとした事と、エニルがガロードにしようとした事は同じだ。

相手の気持ちも確かめずに行動を起こそうとした。

けれども違いがあるとすれば、ガロードはその事にもう気が付いている。

エニルは自らの心の穴を相手で補おうとするが、ガロードはそれを拒む。

 

「うるさい!! 何も知らないくせに、偉そうに言うな!!」

 

「確かに俺は何も知らない。だから――」

 

「アタシから離れてく奴なんか、もう必要ない!!」

 

ガロードの言葉は届かず、エニルはビームサーベルを振り下ろした。

反応するガロードは斬撃を受け止めドートレスを押し返す。

機体剛性もパワーもGXの方が上であり、感情的になっているエニルは操作にミスが出て姿勢を崩してしまう。

 

「まだ!! まだ行ける!!」

 

「遅い!!」

 

隙を突くガロードはドートレスの頭部に右腕を伸ばした。

センサーを増設した特徴的な頭部はビームサーベルの切っ先に貫かれる。

コクピットのモニターは一瞬の内にブラックアウトするが、素早くコンソールパネルを叩くエニルはサブカメラに切り替えた。

どうにか視界が回復した時には既にGXが目前に迫る。

 

「うおおおぁぁぁッ!!」

 

「コイツ!? ぐあああァァァッ!!」

 

タックルを仕掛けるGXは強固な装甲を力任せにぶつけた。

鈍重な金属音が響き青い装甲がへこむ。

追撃を緩めないガロードはマニピュレーターで更に胸部を殴る。

 

「爆発させずに動けなくしてやれば」

 

響く金属音。

コクピットに伝わる振動。

歯を食い縛るエニルは鋭い眼光でGXを睨む。

体を保持しながら力強く両手で操縦桿を握り締め反撃のチャンスを窺うが、ガロードの動きの方が早い。

背後に回り込んだGXはドートレスの脚部を蹴り飛ばし、機体は為す術もなく地面に倒れた。

 

「これで少しは動けないだろ。強引なやり方だったけどこうするしか……」

 

動きを止めたドートレスに歩み寄るGX。

うつ伏せに倒れる機体からは幾つもの箇所からジリジリと煙が上がる。

これ以上戦闘を行うのはもう無理だ。

倒れた機体を抱きかかえようとGXはマニピュレーターを伸ばすが、寸前の所でドートレスは息を吹き返す。

 

「エニル、まだ戦うのか?」

 

「うるさい!! 死んでしまえ!!」

 

「エニル!!」

 

ガロードの声は届かない。

立ち上がるドートレスはまだ動く腕を振り上げ、ビームサーベルを振り下ろそうとする。

眼前に迫る切っ先。

瞬間、ビームの閃光が走る。

 

「ぐぅっ!? 腕をやられた。どこから来る?」

 

「あの機体、アムロか?」

 

レーダーに映る反応、ビームライフルを構えるドートレスが2機の元にまで迫る。

流石のエニルもこの状況で楯突こうとは思わない。

 

「奥にはもう1機のガンダム、3対1か。推進剤はまだあるんだ、振り切る!」

 

「待て、エニル!! 俺達が戦う必要なんてない!!」

 

「ガロード、アタシは必ずアンタを殺す。必ずだ!!」

 

捨て台詞を吐くエニルはメインスラスターとホバーリングユニットの出力を全開にしてこの場から立ち去る。

砂煙を上げて移動する青い機体に、合流したドートレスはビームライフルの銃口を向けた。

 

「待て、アムロ!! 撃つな!!」

 

「っ!!」

 

寸前の所で人差し指の力を弱める。

そうした間に逃げるドートレスの姿はどんどん遠く、小さくなって行く。

 

「無事だったな、ガロード。だがな、私の名前はアムロではない」

 

「ジャミル!? なんで? モビルスーツには乗れないんじゃ!?」

 

「前の戦闘でお前が負けたのは私のミスでもある。フリーデンの艦長として、責任を取る必要はあるだろ」

 

「だから出撃したのか? 俺の為に……」

 

「そうだな……帰るぞ、ガロード」

 

「あぁ、わかった!!」

 

帰還するジャミルとガロード。

ウィッツのエアマスターもその後ろから続く。

一方で、フリーデンのブリッジはてんやわんやとなっていた。

艦長シートに座るトニヤは肘置きに設置された受話器に向かって叫び声を上げる。

 

「えぇ!? 洗濯機の水が出ない? そんなのアタシに言わないでよ!! 自分で直しなさい、艦長命令!!」

 

「ところで艦長代理、進路はどうします?」

 

「そんなの想像しなさい!!」

 

「無茶苦茶だ!!」

 

シンゴに対しても声を荒げるトニヤ。

彼女では艦長としての役割を到底真っ当できてるとは言えず、フリーデンのクルーは各々の考えで動くしかなかった。

戦闘にまで発展しなかった事でロアビィとアムロは帰還しており、ロアビィは以前に割り当てられた部屋に向かう。

アムロはメカニックのキッドとガロードが乗るGXに付いて話していた。

 

「GXの強化プランを考えてみたんだけど、アムロから見てどう思う?」

 

「そうだな、サテライトキャノンは強力だが条件が限られる。そうなればGXは標準的な武装をしてるだけだ。状況に合わせて柔軟にレスポンスを発揮できる性能があれば、ガロードも戦いやすくなるだろ」

 

「だよな!! これまでにいろんなパーツを集めてたんだ。GXの強化パーツにドォーンと使ってやる!! 腕が鳴るぜ!!」

 

「GXディバイダーか。ビームマシンガンに、プロペラントタンクで稼働時間を増やす。良いじゃないか」

 

「アムロのアイディアを参考にして、シールドにブースターと武器を内蔵したんだ。加速にも使えて、内蔵されたハモニカ砲はモビルアーマーだって破壊できる威力がある!!」

 

「わかったよ。外したサテライトキャノンは、またいつでも使えるようにしておいてくれ。ジャミルとガロードには俺から言っておく。無理はし過ぎるなよ」

 

「おうよ!!」

 

走り去るキッドを微笑ましく見守るアムロ。

そうしているとジャミルのドートレスとガロードのGXもフリーデンに帰還した。

ハンガーに固定される機体。

コクピットから出て来るジャミルは外から見ても疲弊してるようだ。

 

「久しぶりのモビルスーツはどうだった?」

 

「最悪の……気分だよ。思い出したくもない事が……嫌でも頭の中に蘇って来る」

 

「少しはその気持ちもわかるつもりだ。それより、辛いとは思うが早く代わってやった方が良い。振り回される他の連中の為にもな」

 

ジャミルの傍に立つアムロは放送で響き渡るトニヤの声に耳を傾けた。

それはとても指示と呼べるモノではなく、ブリッジも他のクルーも彼女の無理難題に付き合わされている。

 

『そんな事アタシに言わないでよ!! あぁ、もうッ!!』

 

「どうやらそのようだな」

 

「肩を貸そうか?」

 

「いいや、1人で行ける。今日は助かった」

 

「責任を感じて、それを償うのは確かにやるべき事だ。でも、もう少し俺達も信用して貰いたいな」

 

「そうだな。次からはそうするよ」

 

額に汗を滲ませ辛い表情を浮かべるジャミルはゆっくりと歩きブリッジに向かった。

その頃、フリーデンに戻ったガロードは一目散にティファの元に走る。

言いたい事があった、確かめたい事があった、謝りたい事があった。

彼女の部屋の前まで来ると足を止め、息を整えながら扉をノックする。

数秒が経過し、中から小さな声で返事が返って来るのを確認してガロードは部屋の中に入った。

見るとティファはキャンパスにパステルで絵を書いている。

 

「あのさ……話があるんだ。この前の事なんだけど、いきなりあんな無理な事言ってゴメン!! 俺、ちょっと焦っててさ。ティファの事も考えずにあんな事言っっちまって」

 

「いいえ、私も返事を返す事ができませんでした。そのせいでガロードに辛い思いをさせてしまった」

 

「そんな事ないよ。俺さ、少しの間だけどフリーデンを離れてわかった事があるんだ。仲間ってのは、同じ方向を向いて歩いてくれる人達なんだって。だから目指す場所が同じでも、やり方や考え方が違ったら離れて行っちまう。俺、ずっと1人だったからそんな事もわからないようになってた」

 

「ガロード……アナタは優しい人。だからあの人の事も受け入れてあげて」

 

「あの人……ち、違うんだよ!? アレは向こうからいきなり!!」

 

「え? ジャミルの事……」

 

深読みしてしまったガロードは慌てふためいてしまう。

そんな彼の行動の意味がわからないティファはキョトンとしてしまうが、何とか場を見繕うとするガロードはキャンパスに書かれている絵を見た。

黒単色しか使われてないが、その絵は正確に風景の一部を模写している。

 

「それ!! その絵さ!! なんの絵なんだ?」

 

「この絵……この場所に私と同じ人が居ます」

 

「同じって、ニュータイプって事か?」

 

「はい……感じます」

 

雪と山脈に囲まれた土地。

ガロード達の次なる目的地はここになる。

ティファは書いた絵を見ながら、小さな口でボソリと呟いた。

 

 

 

第9話 フォートセバーン

 

 

 




アムロの活躍が少なくて申し訳ありません。
次回からはアムロの戦闘シーンももっと入れていきます。
ご意見、ご感想お待ちしております。


気が付けばGレコを題材とした作品が増えている!?
これは自分もうかうかしてられませんね!!


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フォートセバーン編
第10話


凍て付く空気がどこまでも広がる。

高い城壁に囲まれた街で、市長であるノモア・ロングは壇上でマイクを片手に市民へ演説をおこなう。

 

「フォートセバーン市民の諸君、私は市長としてこの平和が永遠に続く事を約束したい。戦後の荒廃した世界に蔓るモビルスーツ乗りやバルチャー共が、例えどのような卑劣な手段を使って来ようとも、我々には大いなる力がある!! それは、我がフォートセバーン自衛部隊のリーダー。ニュータイプ、カリス・ノーティラスその人である」

 

ノモアの紹介により壇上に上がるのはまだ10代の少年だ。

市民達の拍手で包まれる舞台。

金髪に青い瞳。

その視線には強い意思が感じられる。

 

「かつて人類が宇宙で生活するようになった頃、人々の間にそれまでの人が持っていなかった新しい力を持つモノ達が現れました。高い判断力と認識力を持った彼らは、やがて全ての人類が変革すべき姿だとされ、ニュータイプと呼ばれるようになりました。しかし、15年前の戦争でニュータイプの力は戦いに利用され、その結果、人類は滅亡寸前の危機に晒されました。ニュータイプ達もまた、その殆どが死に絶えたと言われてます。けれども、私は彼らと同じ力を持って生まれて来ました。私は戦後の時代に産まれた新しいニュータイプなのです。私はこの力を平和の為に使います。それが、あの戦争で犠牲となって死んで行った同胞達の贖罪になると信じます」

 

「諸君、聞いての通りだ。カリス・ノーティラスが居る限り、平和な市民生活は永遠に続くのだ」

 

「新たな秩序と平和を作る。それこそが――」

 

 

 

第10話 ニュータイプ

 

 

 

ティファが書いた絵、その場所はフォートセバーン。

北米大陸北方に位置するこの都市は雪と山脈に覆われた大地に囲まれている。

白い雪の上を移動するフリーデンが向かうのは、ジャミルが求めるニュータイプが居る可能性があるからだ。

ブリッジのサラとトニヤは周囲の状況を確認しながらジャミルに報告した。

 

「艦は予定通りに進んでいます。2日後には目的地に到着します」

 

「そうか。慣れない降雪地帯だがミスのないようにな」

 

「心得てます」

 

「でもさぁ、ティファの絵すっごい上手だったよね。お陰で目的地もすぐにわかったし、画像と見比べても殆ど差がなかった。で、そこに居るニュータイプを見付けて……どうするの?」

 

素っ頓狂な声を上げるトニヤだが、ブリッジに居る他のクルーもジャミルの目的を正確に理解してる訳ではない。

以前にアムロと意見が対立したジャミル。

けれども本来の目的は変えずに、ティファの絵を頼りにここまで来た。

 

「状況次第、と言わざるを得ない。前回のアルタネイティブ社のようにニュータイプの力を利用しようと考える奴も居る。保護すべき対象だった場合、ティファと同様にフリーデンの乗組員になって貰う。だが、敵になるようなら戦う事もある」

 

「ちょっとキャプテン、洒落になりませんよぉ~」

 

「そこが1番の懸念だ。万が一、ニュータイプと戦う事になれば苦戦は避けられない」

 

ニュータイプの能力の1つに相手の思考を先読みする事ができる。

そうなれば普通のパイロットの技量で勝つ事は難しい。

けれども今のフリーデンにはジャミルでもティファでもない、ニュータイプよ呼ばれる存在がもう1人居る。

サラは彼について聞いてみた。

 

「ですが今までの戦闘を見ても、アムロの操縦技術は相当なモノです。モビルスーツには乗れない素人の私にもそれはわかります。キャプテンは以前に彼の事をニュータイプだと言ってましたが……」

 

「ニュータイプに限らず特殊能力を持った人間は居る。ニュータイプ能力を見極める方法の1つに、ガンダムに搭載されたシステムを起動できる事にある。それがサテライトシステムとフラッシュシステムだ」

 

「サテライトシステムはわかりますが、フラッシュシステムとは?」

 

「ニュータイプ能力者の脳波を介してビットモビルスーツを操るシステムだ。もっとも今はビットモビルスーツがどこにあるかわからん。15年前の泥沼で殆どが破壊された筈だ」

 

「そうですか。それで、アムロはシステムを使用する事ができるのですか?」

 

「GXに搭乗した時に試して貰った事がある。結果は失敗だ。フラッシュシステムも、サテライトシステムも全く反応がない。彼は卓越した操縦技術を持ってはいるが、ニュータイプではなかった」

 

「そうですか。そんな事が」

 

「あ~ぁ~、ニュータイプなら戦いももっと楽になると思ったのに」

 

確かにシステムは起動しなかった。

けれどもジャミルには、まだアムロに感じるモノがある。

時を同じくして、モビルスーツデッキではGXを改良する為のパーツが着々と組み立てられていた。

しかし機体を寒冷地仕様にする事を優先して進めており、GX本体にはまだ手を付けられてない。

収容するモビルスーツの数が増えた事で仕事も増えたキッドは、GXの改修に本格的に着手できない事をもどかしく感じる。

 

「お前ら!! チンタラしてたらレンチでぶん殴るぞ!! いつ戦闘になるかもわからないんだ。敵が来る前に機体の調整を仕上げないと、俺達だってやられるかもしれないんだぞ。気合入れて行け!!」

 

作業するクルーの返事が響き渡る。

檄を飛ばす事で作業時間にも遅れを出さずに機体調整を仕上げさせるが、どうやっても改修に着手できるのは明日になってしまう。

 

「サテライトキャノンを取っ払う事で戦略級としての機能は失くなるけど、代わりに対モビルスーツ用に仕える武器も増やしたんだ。後はガンダム坊やが使いこなせるかどうかだが……」

 

「俺の事がなんだって?」

 

気が付くとモビルスーツデッキにはガロードが降りて来ていた。

ガロードは必死に作業するクルーの姿を見て、その光景に感服する。

 

「いや、スゲェな。雪の中でも動かせるように調整してるのか」

 

「当たり前だ。もしかしたら戦闘になるかもしれないんだ。そうなった時に満足に戦えずにパイロットが死んだんじゃ後味が悪いだろ?」

 

「気に入らないからって俺の機体だけ手を抜くなよ」

 

「馬鹿言うな。お前の為にGXの強化パーツだって作ってるんだ」

 

「GXの強化パーツ?」

 

「お前にフリーデンを守って貰いたいんだよ!! わかったら降雪戦のシミュレーターでもやってろ!!」

 

「わ、わかったよ!!」

 

スパナを振り上げるキッドに責め立てられ走るガロードはGXの元へ走った。

作業中ではあるが予備電力でコクピットのコンピューターを起動させる事はできるし、機体を動かす心配のないシミュレーターなら作業の邪魔にもならない。

シートに飛び乗り、接続されたままのコントロールユニットと操縦桿を握るガロードは、もしもの時に備えた降雪戦のシミュレーターで訓練をする。

その様子を眺めるキッドは今になって、さっき言ったセリフを恥ずかしく感じ始めた。

 

「柄にもねぇ事言うもんじゃねぇな。さぁて、お仕事お仕事!!」

 

GXだけでなく、エアマスターとレオパルド、アムロのドートレスも寒冷地仕様の調整が進められて行く。

フリーデンが目的地に向かう中、アムロはティファの部屋に居た。

思えば、アムロは彼女とまともに会話をした事が未だにない。

 

「あれから体の方は大丈夫みたいだな。少しはフリーデンにも慣れたかい?」

 

「はい。でも、あのざわざわした感覚は嫌です」

 

「俺達が戦う以上、死者が出るのは避けられない。キミの敏感過ぎる才能が死んだモノの声を感じてるんだ。全てを無視しろとは言わない。だが受け流す術を身に付けなければ、ティファも死人の魂に引きずり込まれるぞ」

 

「わかっています。アムロは……」

 

「俺かい?」

 

「アムロは……怖くないのですか? 時々夢に見ます。ララァ・スンと言う女性の事を」

 

「ララァか……」

 

アムロは遠くを眺めながらぼそりと呟いた。

1年戦争時、偶然にもシャアと同時に出会った少女。

そして再び再会できた時は宇宙の戦場だった。

ニュータイプとして覚醒しつつあるアムロとララァは互いに意思を感じ取り、そして殺し合いを初めてしまう。

アムロの高すぎる戦闘能力が原因なのか、彼女の迂闊さが招いた事なのか、今となってはもうわからない。

シャアとの激闘の最中、アムロは意図せず彼女を殺してしまう。

その瞬間、2人は時を見た。

 

「昔は怖かったさ。そのせいで引き篭もりみたいな事もした。だが現実を否定した所でどうにもならない。俺は過去ではなく今を生きてるんだから、その為にできる事をするだけだ」

 

「でも彼女の心は、永遠に時の中を彷徨う」

 

「ララァは良くも悪くも少女だったんだ。俺はそんな彼女を失った事で、あの時に青年になれたのかもしれない」

 

「青年……ですか?」

 

「何かを失う事で前に進めるのだとしたら、俺にとって彼女がそうだったのだろ。だがアイツにとっては違ったみたいだ」

 

「シャアは純粋な人なのですか?」

 

「まさか、俺はヤツを肯定などしない。他人を受け入れ、理解しようともしないような男だ」

 

アムロの言葉を聞くティファは、会った事もないシャアやララァの事がわかってしまう。

それが幸か不幸かまだわからない。

ティファが今1番に考えるのはガロードの事とフォートセバーンに居るであろうニュータイプの事だ。

 

「どうしてそんな事を聞く?」

 

「予知夢を見ました。このままではガロードは負けます」

 

「相手がニュータイプだからか?」

 

「そうかもしれません。ガロードにはもう、傷付いて欲しくない……」

 

「それは違うぞ、ティファ」

 

不安気に言う彼女にアムロは諭すように語り掛ける。

年長者だからと言って年下の、それも少女に教えられる事などたかが知れてるが、それでもアムロはできる事を言葉で伝えた。

 

「キミの感情を俺が肩代わりしてガロードに伝える事なんてできない。そこには必ず誤解が生まれる。そんな事はティファの思う所でもない筈だ。年上の戯言として今は聞いてくれれば良い。大人になれば言葉を交わして意思を伝えるのを面倒に感じるヤツもいる」

 

「言葉を……交わす……」

 

「どこまで行こうとも人間だって生命体だ。コミュニケーションができなければ他人と行動を共にする事も無理だし、触れ合う事でより深く相手を感じられる」

 

「ガロードとそれができる? ニュータイプだからではなく、私が私として」

 

「そうだな」

 

今までに会話したアムロの言葉の一端を理解するティファ。

けれども2人の会話も束の間、艦内に警告音が響き渡る。

瞬時に反応するアムロは戦闘が始まると予想して、ブリッジではなくモビルスーツデッキに向かおうと足を動かした。

 

「それとさっきの話だが、戦闘になれば状況は目まぐるしく変わる。俺もガロードだけを見てる訳にもいかない。後はアイツのセンスに任せるしかない」

 

言うとアムロは部屋から走り去って行く。

残されたティファはガロードの無事を信じて待つ事しかできない。

戦闘態勢に入るフリーデン。

ブリッジでは接近して来る敵機をレーダーとカメラで確認した。

 

「敵機16機を確認、早い!? このままでは砲撃の射程距離をすぐに抜かれてしまいます!!」

 

「ガンダム発進だ!! 正面にはアムロを付けろ」

 

ジャミルの指示を受けてモビルスーツデッキからガンダムが発進する。

ウィッツとロアビィは左右に別れ、ガロードとアムロはフリーデンの正面に出た。

降雪戦ではあるが、キッド達メカニックのお陰で機体は問題なくスムーズに動く。

パイロットでは年長者であるアムロは通信を繋げる。

 

「良し、ウィッツとロアビィはそのまま左右からの敵機を押さえるんだ。俺とガロードで正面を叩く」

 

「ジャミルなら兎も角、なんでアムロに指示されなきゃならねぇんだ?」

 

「別に良いじゃないの。動きとしては間違ってない」

 

「でもよ!!」

 

「報酬の分はキッチリ仕事しないとね。そら、敵さんのお出ましだ!!」

 

ウィッツの疑問も晴れぬまま、雪の奥から敵は現れる。

地上戦専用機として新たに開発、生産されたその機体はスノーボード状のオプションパーツで雪上を素早く駆け抜けた。

ジェニスにも似た敵機『ジュラッグ』はマシンガンを構え、フリーデンを囲みこむようにして攻撃して来る。

 

「雪だろうと何だろうと、空を飛べるエアマスターの敵じゃねぇ!!」

 

両手にビームライフルを構えるエアマスターは迫り来る敵軍に目掛けてトリガーを引く。

雪上を如何に高速で移動できようとも、頭上を取るエアマスターは有利な立場にある。

弾丸の雨を掻い潜りながら敵機にビームを直撃させた。

 

「オラオラッ!! もっと来てみろ!!」

 

有利な状況を確保したまま、ビームライフルによる攻撃を続ける。

また1機、頭部を撃ち抜くと同時にダメ押しでコクピットにもビームを直撃させた。

ロアビィのレオパルドも地上を脚部ローラーで高速移動しながら、左腕のインナーアームガトリングで敵機を蜂の巣にする。

全身に施された武装からは絶え間なく薬莢が吐き出され、敵部隊の侵攻を許さない。

 

「悪いけど、こっから先はノーチャンスだ。近づくなら叩き潰す!!」

 

銃口が火を噴く。

2機、3機と弾丸が装甲を貫き、ミサイルが機体を吹き飛ばす。

敵機からもマシンガンの反撃を受けるが脚部ローラーを駆使して避けるレオパルド。

更に、固い装甲はこの程度の攻撃は簡単に弾き返す。

 

「イイ感じに仕上がってる。ソラソラッ!!」

 

雪上でも関係ないとロアビィはトリガーを引き続ける。

前方に位置したアムロとガロードも迫り来る敵軍を迎え撃つ。

GXで初めての雪上戦にまだ不安を覚えるガロード。

 

「早速敵のお出ましかよ。シミュレーターもまだ全部終わってないって言うのによ」

 

「心配するな、俺もだ。雪に足を取られないようにホバーリングで移動しろ。出力は合わせてある筈だ」

 

「ホバーリング? こうか」

 

リフレクターからエネルギーを放出するGXは地上を滑るようにして移動を開始し、ジュラッグに照準を合わせてトリガーを引く。

だがビームは無情にも機体が通り過ぎた後の雪へ直撃し、衝撃と水蒸気が広がる。

 

「早い!? 雪の上なのに!!」

 

「慌てるな、ガロード。相手の動きを見て柔軟に対処するんだ」

 

「そんな事言っても!!」

 

「お前のセンスならできる。もういつミノフスキー粒子が散布されてもおかしくない。後はお肌の触れ合い回線で伝える」

 

「と……みの……何だって?」

 

言うとアムロのドートレスもメインスラスターから青白い炎を噴射して前に出る。

装備しているのはいつもと変わらず標準的なビームライフルとビームサーベル、左腕にミサイル付きのシールドをマウントしただけだ。

銃口を向けるアムロは相手が旋回する瞬間を狙う。

 

「モビルスーツ程の重量が動けば減速は避けられない。それも重力のある雪上だ。そこッ!!」

 

アムロの狙いは正確だ。

狙い通りに、ボードに乗った機体が旋回するその時にビームライフルのトリガーを引く。

直線での移動は早いが機体本来の運動性能は発揮できない。

ビームは機体の胴体を貫く。

 

「ふたつ!!」

 

瞬時にターゲットを切り替えるとまたトリガーを引いた。

初めてのモビルスーツが相手でも基本的な部分は変わらない。

卓越した技能と先読みで次はコクピットを撃ち抜く。

倒れる機体は白い雪の中に埋もれて姿が見えなくなる。

けれども敵の数はまだ多い。

3機の編隊がドートレスの正面から迫るが、アムロは冷静に状況を読み取りシールド裏のミサイルを発射する。

4発あるミサイルは一直線に敵へ向かうが、装備したマシンガンがコレを撃ち落とす。

直撃する手前で弾丸に貫かれるミサイルは爆発を起こし炎が視界を遮る。

それでも1発だけ残ったミサイルは地面へと激突し爆発を起こす。

 

「しまっ!?」

 

「貰ったぞ」

 

1機のジュラッグが爆発により姿勢を崩し浮き上がってしまう。

その隙を逃すアムロではない。

ビームはボードを貫通して胴体に直撃する。

機能不全に陥るジュラッグは着地もままならず地面ヘ落ちた。

高速で接近して来る残りの編隊。

1機は前衛に回り、もう1機は後方からマシンガンのトリガーを引く。

ペダルを踏み込むアムロはホバーリングで攻撃を回避しつつ、ビームサーベルを構えて突っ込んで来る敵機も見る。

 

「流石に早いな。だが当ててみせる」

 

「ガンダムタイプでもない相手に2機が落とされた!? ここから先は通さん!!」

 

「ここでは俺達の機体の方が有利な筈だろ!!」

 

後方の機体がスラスターを吹かし加速、同時に雪上からジャンプして上方からドートレスを狙う。

だが空中にジャンプしたその瞬間、機体は重力に引かれ物理法則に支配される。

地上用に開発された機体が空中で自由に動ける筈もなかった。

 

「迂闊過ぎる!!」

 

相手の攻撃が届くよりも早く、ビームはコクピット部に直撃した。

けれども立て続けにもう1機がビームサーベルを握り迫る。

 

「沈めェェェッ!!」

 

「やられるか!!」

 

ビームサーベルで袈裟斬り。

切っ先は装甲を捕らえる事はなく空を斬る。

アムロのドートレスは攻撃を回避する為に前方目掛けジャンプ、脚部は相手モビルスーツの頭部を踏みつけた。

重たい重量がのしかかり首の関節から配線のスパークが上がる。

 

「な、何をした!? メインカメラ!?」

 

砂嵐の走るモニター。

数秒ではあるが視界が効かなくなるジュラッグは動きが散漫になってしまう。

次の瞬間には背後からビームライフルで撃ち抜かれ、機体は力を失い雪上に転げ落ちる。

 

「機体を過信し過ぎればこうもなる。前方からまだもう1機来るのか? 早いぞ」

 

ジュラッグとは違う新たな機体がアムロ達の前に迫りつつある。

エネルギー残量を確認してペダルを踏み込もうとするが、GXのガロードから通信が入った。

 

「アムロ、こっちも2機倒した」

 

「通信だと? ミノフスキー粒子は撒かれてないのか? ガロード、もう1機来るぞ」

 

「えっ!? だったら俺が前に出る!!」

 

「待て、迂闊に前に出れば――」

 

「アムロにばっか頼ってられない、俺にだって!!」

 

アムロの静止も聞かずガロードはGXで前に出た。

急いで追い掛けようとするも、まだフリーデンを囲む敵は居る。

持ち場を離れる訳にもいかず、ガロードの先行を許してしまった。

 

「今のガロードでいけるか? それにしても、ミノフスキー粒子が撒かれない事が気になる。ジャミルは何をしてる」

 

感じていた違和感が心の中で膨れ上がる。

けれどもアムロがその事に気が付く事はまだなかった。

 

///

 

ティファはフリーデンのブリッジに走る。

口から大きく息を吸って、減速する事もままならないまま扉を押し開けた。

そこに居るクルーは突然現れた彼女に驚きを隠せない。

 

「ティファ!? どうしてこんな所に来てんの?」

 

「今は戦闘中です。危険だから部屋に戻って」

 

「あの子、あんな風な事もするのか」

 

トニヤとサラは彼女がブリッジに居る事を止めさせようとする中で、シンゴだけは聞こえないくらい小さな声で呟いた。

でも彼女はその言葉を聞き入れず、シートに座るジャミルの元へ駆け寄る。

 

「お願い、ガロードを呼び戻して!!」

 

「ガロードを?」

 

「はい、あの人が来ます」

 

「あの人……ニュータイプが敵になるか」

 

ブリッジに緊張が走る。

想定した中で最悪の状況に対面しジャミルの目付きが変わった。

 

「機体の性能差だけで覆せる程ニュータイプは甘くない。アムロはどうした?」

 

「他の機体が邪魔になってすぐには動けません。今離れられるとフリーデンの防御が手薄になります」

 

「ガロード1人でいけるか……」




Gレコをどう使えば良いのか未だに思い付かない。
活動報告でコメントしてくれたようにISしかないのか……
でもUC×閃ハサもやりたいからなぁ、悩みモノです。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第11話

GXで先行するガロードは接近するモビルスーツを目視する。

白い装甲、オプションパーツがなくとも飛行できるモビルスーツ。

それは15年前の戦争でも使われた機体『ベルティゴ』。

コクピットに搭乗するのは、フォートセバーン自警隊隊長であるカリス・ノーティラス。

 

「アイツが本命か? これ以上フリーデンはやらせない!!」

 

「バルチャーめ、フォートセバーンに土足で踏み入れるなどと。だがそれよりも、僕以外のニュータイプが来ている。この感覚……サイキックインプレッション?」

 

脳に伝わる感覚、自らと同じニュータイプ能力が近くに居る事を直感で理解する。

けれども今は目前に迫るバルチャーとガンダムの相手をする方が先だ。

 

「まぁ良い、いずれわかる事。前から来るのはガンダムタイプか? 15年前に製造された機体」

 

「行くぜ!!」

 

「このパイロットは……違う……」

 

ビームサーベルを引き抜くGXは加速を掛け握る右腕を振り下ろす。

対するベルティゴもマニピュレーターにグリップを握り互いのビームが交わる。

激しい閃光が両者を照らす。

 

「まだまだァァァ!!」

 

袈裟斬り、袈裟斬り、横一閃。

だがベルティゴは全てを簡単に防いでしまう。

その機体の動きにガロードは舌を巻く。

 

「コイツ、強いぞ。けど!!」

 

(わかる……感じる……近くに居る。パイロットか、それともあの戦艦か?)

 

戦闘を行いながらもニュータイプの存在を感じ取るカリス。

GXは再び接近戦を仕掛けようとするが、機体に搭載されたビットがそれを許さない。

後方から細いビームが襲い掛かり白い装甲にダメージを与える。

 

「どこから来た!? モビルスーツの反応はないのに!! 俺の知らない武器か?」

 

(あのパイロットでは僕には勝てない。さぁ、来ているなら僕の存在を感じ取ってみろ!!)

 

(――めて。やめて!!)

 

(女の声……名前はティファ、ティファ・アディール!!)

 

「このォォォッ!!」

 

ビームサーベルで斬り掛かるGXだが、ベルティゴはスラスターを吹かし簡単に避けてしまう。

切っ先は雪に触れ、一瞬の内に水分が蒸発して視界が白い闇に覆われる。

ベルティゴが見えなくなったと思った時には、次は横からビームが襲う。

 

「ぐぅっ!! 次は横だと!? この野郎!!」

 

トリガーを引くガロードはインテーク真下のブレストバルカンで一斉に銃弾を浴びせる。

けれどもその方向にモビルスーツの反応はないし、発射される弾丸も空に消えるだけ。

次の瞬間にはまた背後からビームが直撃した。

 

「グッ!! 今度はまた後ろか。なんだ!?」

 

空中に浮遊する物体がわずかに見えた。

漏斗形のソレは小型のバーニアも組み込まれており、重力のある地上でも自由に飛び回れる。

ガロードに見つかったのを感じ取ったかのように次の時には移動を開始した。

ベルティゴの前面に展開するソレは一斉に銃口をGXに向ける。

 

「今まで死角から攻撃して来たのはあの武器か」

 

(ティファ・アディール、GXのパイロットでは僕には勝てない。僕と一緒に来るんだ。そうすればこのガンダムも艦も見逃すと約束しよう)

 

(そんな……でも……)

 

(キミは選ばれた人間だ。こんな所に居てはいけない。わかるだろう? さぁ、僕と一緒に来るんだ)

 

「うおおおぉぉぉッ!!」

 

闇雲にビームサーベルを振りながらガロードのGXは一気に詰め寄ろうとする。

けれどもそんな攻撃ではたったの1基でさえも落とす事はできない。

 

(そんな事ではベルティゴのビットは落とせません。さぁ、ティファ・アディール!! 賢い選択をするんだ。でないとガンダムのパイロットは死ぬ事になる。キミにならわかるだろ? ニュータイプの力を持ったキミになら)

 

ビットはGXを360度取り囲むと一斉にビームの雨を浴びせる。

避ける事も防ぐ事もできず、ガンダムの強固な装甲でも耐え切る事はできない。

激しい揺れと衝撃がコクピットのパイロットに襲い掛かる。

それでもガロードは必死に操縦桿を握り締めブレストバルカンを放つ。

 

「ぐぅっ!! 全方位からの攻撃!?」

 

弾は1発とて当たらない。

動く事もままならない状況に流石のガロードの思考にも『死』が過る。

 

「ガンダムの装甲も……保たない。こんな所で……こんな事で……」

 

(このまま攻撃を続ければガンダムは破壊されます。はたして何秒保つ? 1分は保たない。30秒……いや20もあれば落とせる。悩んでいる時間はありませんよ? さぁ、ティファ!!)

 

「ガロード!!」

 

飛来するビームが飛び回るビットを1基撃ち落とす。

突然の攻撃にカリスは動揺を隠せない。

 

「なんだ!? 来るか、プレッシャー!!」

 

「ファンネル搭載機か、やりようはある筈だ」

 

現れたのはアムロの乗ったドートレス。

構えるビームライフルだけで次々にビットを撃ち落とす。

 

「どうして!? 普通のパイロットがどうして僕の動きを読める!! このザラザラとした感覚、けれどもニュータイプではない。どう言う事だ!!」

 

「ここは一気に押し返す!! ガロード、聞こえているな?」

 

「アムロ……」

 

「撤退だ、フリーデンに戻る」

 

「でも、まだ目の前には敵が居るんだぞ?」

 

「周りの状況も良く見ろ。敵の増援も来ている、撤退だ」

 

「っ!? わかった……」

 

ビットの包囲網から抜け出すGXはリフレクターからエネルギーを放出して一目散に後退する。

アムロのドートレスは右手にビームサーベルを握りベルティゴに目掛けて横一閃。

鍔迫り合いになった瞬間ビームの出力を下げ、次の時には更に袈裟斬り。

袖口から伸びる内蔵型ビームライフルを切断し、目線だけを向けて追い打ちに振り払う。

ビームとビームが交わり激しい閃光が飛ぶ。

 

「この僕が……古い人類に負けるだと!?」

 

「機体が俺の反応に付いて来ない。ここまでか」

 

「こんなモノ、僕は認めない!! 逃がすモノか!!」

 

「ビットが来る?」

 

GXを狙いから外し戻って来るビットがドートレスを狙う。

メインスラスターを全開にして撤退を始めるアムロは操縦桿を動かし機体を反転、左腕のシールドでビットが放つビームを防いだ。

発生する煙幕、ダメージは通ってないが変形したシールドは辛うじて形状を保ってる。

雪上にシールドを捨てるアムロはビームライフルのトリガーを引き、牽制しながら距離を離す。

しかし性能の差は大きく、全力で逃げるドートレスをベルティゴは簡単に追い詰める。

腕のビームライフルとビットで攻撃を仕掛けるが、後退したと思ったGXが再び駆け付けた。

 

「アムロ、大丈夫か?」

 

「ガロードなら下がれ!!」

 

「そうは言っても、この鬱陶しいのはどうするんだよ?」

 

「知恵を使えばどうとでもなる!!」

 

そう言うアムロはビームサーベルをビットに向かって回転させながら投げ飛ばす。

高速で回るビームサーベルは空中で円を描き、ソレに銃口を向けてトリガーを引いた。

 

「カミーユのやり方で!!」

 

サーベルとライフルのビームが干渉し、エネルギーの粒子が拡散する。

拡散したビームの威力は低いがビットを破壊するくらいには充分だ。

一斉に破壊されるビット。

ビームライフルで牽制しながら合流するドートレスとGXはメインスラスターを全開にして一気に離脱する。

ベルティゴは更に加速を掛けて後を追おうとするが、捨てられたシールドに残されたミサイルが時限式に爆発した。

装甲にダメージはないが舞い上がる雪に視界は見えなくなり、操縦桿を握る手の力を弱めるとカリスは追跡を止める。

 

「チッ、機雷が仕掛けてあった。あの感覚……彼もニュータイプなのか?」

 

撤退するGXとドートレスはマニピュレーターを装甲に触れさせて回線を繋ぎ、降雪地帯を背景にして話をした。

 

「ガロード、機体はまだ保つな?」

 

「関節とかが酷くやられたけど、なんとかな。あの機体、初めて見るタイプだった。あの武器も何なんだ?」

 

「ビットだな。サイコミュでコントロールして攻撃して来る。やり方さえわかれば対応の仕方もある。あの機体のパイロットがティファの言っていたニュータイプかもな」

 

「ニュータイプ……あれが……」

 

「どちらにしても今のフリーデンの戦力では奴らに勝てない。正面から正攻法で行く事もできなくなった。フリーデンに戻って機体を修理したらジャミルと方針を決めないとな」

 

悔しさを滲ませるガロードだが、これ以上はどうにもできない事を理解して操縦桿を強く握るしかできない。

同様に撤退を初めているフリーデンに2機は帰還する。

 

///

 

他の3機とは違いGXの損傷は激しかった。

ルナチタニウム合金の性能でもビットによる全包囲攻撃を受けては無理もない。

ビームのエネルギーにより焼けただれる機体を見上げるキッドは、GXの改修作業を急ピッチで進める事を決めた。

 

「さて、パーツは完成したんだ。本格的に取り組むとしますか!! ロココ、クレーンの準備だ!! 背中のリフレクターとキャノン砲を取り外すぞ」

 

「ウッス。そう言えばチーフ、改修したGXの名前どうするんですか?」

 

「GXの名前?」

 

「デラックスエックスとかどうですか?」

 

「嫌だよ、そんなダセェの。そうだな、コイツの名前は――」

 

 

第11話 GXディバイダー

 

 

 

「残ったヤツは他の機体のメンテを進めろ。チンタラしてる余裕はないぞ!!」

 

キッドの激励に応え一斉に声を上げるメカニッククルー。

活気づくモビルスーツデッキとは対照的に、ブリッジは重たい空気に包まれている。

ニュータイプが敵として現れガロードのGXは手も足も出せずに負けた。

 

「ジャミル、ニュータイプってあんなに強いのか? 何もできなかった。本当になにも……」

 

「あの機体は宇宙革命軍が開発したニュータイプ専用機だ。名称はベルティゴ、パイロットの精神波でビットを操る事であらゆる方位から攻撃を仕掛けて来る。確かにガロードが言うように相手は強い。だが全く対処ができない訳ではない。対ニュータイプに備えて当時はモビルスーツの武器も開発されたし、シミュレーターだってある」

 

「でも、そうまでしないとニュータイプには勝てないって事か」

 

ガロードだけではない、ウィッツもロアビィも他のクルーもベルティゴの戦闘力は目の当たりにしている。

ガンダムの性能だけではベルティゴに勝つ事はできない。

一方的に負けた事に落胆するガロードだが、アムロだけは違っていた。

 

「ガロード、俺が言った事を忘れたのか?」

 

「えっ……」

 

「いつも言ってる筈だ。周囲の状況を良く見ろと。あのモビルスーツ、ベルティゴのビットは確かに脅威になるかもしれない。だがそれさえ封じてしまえば、後は標準的な装備しか持たない。そうすれば付け入る隙を見い出せる」

 

「特別な能力なんてなくたって、知恵があれば乗り越えられる!!」

 

「そうだ」

 

この時、ジャミルはサングラスの奥からアムロを見ていた。

それはニュータイプが相手でも変わらぬ戦闘力。

15年前の当時、地球連邦軍に所属していたジャミルはGXに乗って数多の敵と戦った。

ニュータイプと戦闘した事は何度もある。

若いジャミルが敵に勝つ事ができたのはGXの性能だけではない。

卓越したニュータイプとしての能力。

それらが合わさる事でジャミルは15年前の戦争で生き残る事ができた。

 

(あの戦争からニュータイプもニュータイプ専用機も表舞台から姿を消した。15年……そう、15年だ。ニュータイプと言う言葉さえもが消えかけている今、只の量産機であそこまで対応できてしまうアムロの操縦技術。だが、当時でアムロ・レイと言う名前のパイロットは知られていない。あれだけの技術を持ちながら……)

 

彼の瞳は誰にも見る事ができない。

そんなジャミルにオペレーターのサラは慎重に声を掛ける。

 

「あの……キャプテン?」

 

「うん……どうした?」

 

「いえ、それでこれからの方針は? ティファの言う通りニュータイプは居ましたが、どのように接触を図りますか? 今回の件でフォートセバーン側にはバルチャーと認識されています。正面からは無理かと」

 

「そうだな。フォートセバーンの警戒網がここまで広いとは私も予想できなかった。ただ街を防衛する為に出て来た可能性もある。それを確かめる為にも単身で内部に入り込んで調べる必要がある。その間フリーデンはこの場で待機だ」

 

「そう言えばティファはどうしたの? ニュータイプの事はニュータイプのティファに聞いた方が良いんじゃない?」

 

モニターから振り返りながら言うトニヤ。

戦闘が終わってもブリッジにティファが来る事はなかった。

 

「ティファは今、医務室でテクスに診て貰っている」

 

「どうして? もう病気は治ったんでしょ?」

 

「体調が悪いらしい。さっきの戦闘が関係してる可能性もあるがはっきりした事はまだわからん」

 

「そっか、じゃあ自分達で調べるしかないか」

 

「あぁ、やるなら早い方が良い。夜になれば気温はマイナスを超えるだろう。ガロード」

 

「えっ!? 俺が行くのぉ?」

 

ガロードに偵察任務の白羽の矢が立つ。

その事に驚くがジャミルは発言を撤回したりなどしない。

 

「こう言う仕事はお前が1番慣れているだろ? それとも他のヤツに任せるか?」

 

「わかったよ、行くよ!! ティファの事ちゃんと見といてくれよ。あとジープ借りるからな」

 

言うとガロードはブリッジから走り去って行く。

少年の背中を見ながら、アムロはジャミルに向き直った。

 

「良いのか、ガロードに行かせて?」

 

「やる気のある内に行かせた方が結果も付いて来るだろう。それに、シミュレーターを少しやったくらいでニュータイプの対策などできない。また落ち込むくらいなら体を動かした方が良い」

 

「そうだろうが……」

 

「ガロードなら行ける筈だ。アイツは元々はモビルスーツ乗りではなかったからな」

 

「柔軟性とセンスは認めている」

 

「だったらアイツが戻るのを待つだけだ。モビルスーツの整備もある」

 

ブリッジから出たガロードはジープに乗り雪上を走る。

分厚い手袋にゴーグル、防寒着だけはきちんと着込んで、凍て付く空気を遮りフォートセバーンを目指す。

 

(フリーデンで接近した地点は超えた。防衛部隊は出て来ない。よぉし、中には簡単に入れそうだ)

 

シフトを上げアクセルを踏む。

マフラーから排気ガスを吐き出すジープは加速し、フォートセバーンを守るように設置された城壁にまで辿り着く。

巨大な城壁の入り口にはライフルを構えた2人の兵士。

1人はライフルを構え、もう1人はジープに近づいて来ると業務的に口を動かす。

 

「いかがなさいました? ここへはどの様な要件で?」

 

「相棒が腹ペコでさ。ちょうど良いから俺も腹ごしらえしようかなって」

 

「17時を過ぎたらここの門は閉まる。出るならそれまでには出ろよ」

 

「あいよ、サンキューね」

 

何事もなく門を通過したガロードはフォートセバーンの敷地内に足を踏み入れる。

ジープを駐車して中に入れば、そこは戦争の傷跡など微塵もない街だった。

人々は外を自由に出歩き、水と食料、衣食住に不自由なく暮らしている。

 

「すげぇ、ここってこんな風になってるのか……」

 

城壁に囲まれた外からでは検討も付かない、充実した街並みにガロードは息を呑む。

それでもいつまでもそうしてる訳にはいかず、ジャミルに託された任務を遂行すべく街の調査に入った。

 

///

 

「フリーデンが近くに来てるみたいだよ、兄さん」

 

「そうだな。ティファ・アディール、そしてアムロ・レイの存在も気にはなる。だが今はフォートセバーンのニュータイプを確かめるのが先だ」

 

フロスト兄弟はフォートセバーンに潜入していた。

それはガロードと同じ、ニュータイプの存在を確かめる為。

けれどもその先に目指すモノは違う。

 

「ベルティゴを相手にGXは太刀打ちできなかった。僕達の宿命のライバルなんだから、こんな事で負けて貰っては困るのだけど」

 

「大丈夫だ、オルバ。ガロード・ランは必ず私達の元にまで来る」

 

「どうして?」

 

「長年の経験だ。さて、では行くとしよう」

 

「わかった。ニュータイプもそうだけど、ここの市長も気になるね」

 

白い闇の中に消えて行くフロスト兄弟。

その頃ガロードは新聞紙を片手に街を歩いていた。

 

「う~ん、あの機体に乗ってるのがニュータイプだってのはわかってるんだけどなぁ。それだけでどうやって調べろって言うんだよ。名前だけはわかったけどさ」

 

数時間に渡って調べ回ってもわかった事はほんのわずか。

ベルティゴに搭乗するニュータイプの名前はカリス・ノーティラス。

フォートセバーンの自警団隊長。

その力でフォートセバーンを襲うバルチャーを返り討ちにし街の治安を守っている。

前回の戦闘でフリーデンを退けた事も握る新聞記事に掲載されていた。

 

「自警団隊長か……」

 

鋭い視線に切り替わる。

周囲を見渡すガロードは酒場から出て来た男に目を付け、ゆっくりと彼の元へ歩いて行く。

アルコールで頬が赤く染まる男の傍まで近づくと、ガロードはわざと相手の肩にぶつかった。

 

「うん? オイ、ガキ!! なにぶつかってんだ?」

 

「そんな怒る事ないだろ。何か盗まれた訳でもないし」

 

「盗む? まさかお前!?」

 

自身のズボンのポケットを弄る男。

そのどこを探っても入れていた筈の財布が見当たらない。

盗まれたと悟った男は額に青筋を立てて激昂する。

 

「このぉクソガキィィィ!!」

 

(食い付いて来た!! 後は……)

 

胸倉を掴み上げる男は今にもガロードに殴り掛かる勢いだ。

その様子は瞬く間に周囲へ知れ渡り野次馬が集まる次第。

神経を尖らせ集まって来る人間を見分けるガロードはその中で自警団が駆け付けて来たのを見付けた。

それはガロードと同じくらいの少年。

 

「こんな所で何をしている!! 事と次第によっては牢屋に入れますよ」

 

「俺の財布を盗んだんですよ、このガキが!!」

 

「財布を盗む? 本当ですか?」

 

自警団の少年は次にガロードへ視線を向けるがそんな事は既に対処済みだ。

何ともない様子で考えていたセリフを口にする。

 

「俺は何も盗んでないよ。このオッサン酔っ払ってるから勘違いしてるだけじゃないの?」

 

「そうですね。本当に持ってないかもう1度確認して頂けますか? それでも見つからなければアナタのボディーチェックをします。よろしいか?」

 

「全然良いぜ、俺は」

 

言われて男も少し冷静さを取り戻し、自身の体をチェックする。

するとすぐに、弄っていた手の平に服とは違う感触に気が付いた。

着ていたジャケットのポケットからは盗まれたと思っていた財布がある。

 

「あ……あぁ~、盗まれてなかったよ。ほら、この通り」

 

「だから言っただろ。俺だから良かったけど、血の気の多いヤツなら殴り合いになってたぞ」

 

「そ、そうだな。疑ったりして悪かった」

 

頭を下げて謝罪する男はこの場から立ち去って行く。

残るのはガロードと自警団の少年だけ。

 

(さて、狙い通りにいったは良いけど、こっからが本番だ。うまい事情報を引き出せると良いけど)

 

獲物を捕らえるように、ガロードは少年の表情を覗く。




感想で「いっき見しました!!」と言うのをたまに見ます。
読んで頂けるのは嬉しいのですが、こう言うパターンが多いのは何故だろう?
少し気になります。
早く完結させてUC閃ハサを書きたい。
設定だけなら他にも一杯蓄えてるのですがね、なかなか着手できないのが現状。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第12話

ガロードと自警団の少年は共に近くの飲食店に入った。

木造建築の店には暖炉が設置されており、火のぬくもりが冷たい肌を温める。

イスに座りテーブルの上に置かれたメニュー表を開けると、今日の昼食に何を食べようかと視線を動かした。

 

「でも本当に良いのか? 奢って貰っても?」

 

「えぇ、構いませんよ。ご迷惑をお掛けしたお詫びです。好きなものを好きなだけ頼んで結構です」

 

「ラッキー!! だったらタンドリーチキンと――」

 

メニュー表から食べたい料理を手当たり次第に選び出すガロード。

テーブルに来る店員にソレを伝えて暫くすると、作りたての料理が運ばれて来る。

人の目も気にせずに手を動かしガツガツと肉を頬張るガロードに対し、金髪の少年はティーカップを片手に紅茶を飲む。

 

「そう言えば、ガロードさんはどの様な要件でこのフォートセバーンに?」

 

「あぁ、車がガス欠でさ。たまたまここが近かったんだ」

 

「そうですか。つい数時間前にバルチャーの襲撃がありましてね。何事もないようで良かったです」

 

「へぇ、バルチャーね。アンタ、自警団に入ってるんだろ? モビルスーツに乗ったりしてるの?」

 

「人手が足りない時には」

 

簡単に情報を引き出せるような相手ではない。

肉を頬張りながら相手の顔色をうかがうガロードだが、易々と隙を見せてはくれない。

 

「って事はアンタもモビルスーツに乗れるんだ。気になるんだけどさ、こんな雪の中でどうやって機体を動かすんだ?」

 

「僕はモビルスーツの技術にそこまで精通してる訳ではありませんので。それに軍事情報は機密事項ですので、申し訳ありませんが御教えする事はできないのですよ」

 

「そうなのか。でも拾った新聞で見たぜ。ベルティゴって言う強いモビルスーツが居るんだろ?」

 

「ふふっ、よく御存じで。ですがあの機体が出撃するのはごく稀です」

 

「なんで? 強いんだろ?」

 

「さぁ、僕にはなんとも」

 

「そうか……あのさ、なんでアンタは自警団に入ったんだ?」

 

「力があるモノがすべき義務と考えたからです。戦争が終結して幾年が経過した程度では地球の環境は回復しなかった。それでも人間は自らの足で大地を踏みしめ、再び立ち上がる事ができた。もうこんな事は繰り返させてはならない。市民達の平和と安静を守る。そう唱える市長の言葉に共感したからこそ、僕は自警団に入りました」

 

少年の言葉を聞いてガロードは確信した。

この地域に自分達は居てはいけないと。

バルチャーである事もそうだが、またどこからかティファを狙って襲い来るモノも居るかもしれない。

そうなればここに無用な争いを生んでしまう。

 

「凄いな、アンタ」

 

「そんな事はありません。ガロードさんも戦後から今日まで生き残って来ました。あの地獄のような環境の中から。人間にはそれだけの力があります」

 

「力があるモノがすべき義務……か。ごちそうさん」

 

「もう料理は宜しいので?」

 

「あぁ、もう腹は膨れたよ。ここは時間になったら出入り口の門が閉まるんだろ? 俺はもう行くよ」

 

「わかりました。折角いらしてくださったのに大した事もできずに」

 

「いや、メシを奢ってくれただけでも充分だ。ここって良い街だな。俺なんてつい最近まで寝る場所にも困ってたのに、ここならそんな心配もないもんな」

 

「フォートセバーンが復旧して、まだ何年も経ってません。だから僕達のような自警団も必要になって来ます」

 

「そうだな。じゃあ俺、行くよ。また機会があったら会おうぜ」

 

「えぇ、お待ちしております」

 

言うとガロードはイスから立ち上がり少年に別れを告げる。

少年もティーカップをテーブルへ戻し、2人は互いに手を差し伸べ握手を交わす。

手から伝わる熱。

 

「じゃあな」

 

「えぇ、またどこかで」

 

離れるガロードは乗って来たジープに向かって急いで走る。

笑みを浮かべながら走る彼とは対照的に、金髪の少年は笑みは不敵だ。

遠ざかる背中を見ながら、聞こえないくらいの小さな声で囁く。

 

「正確にはすぐ後、ですけどね」

 

通信機を取り出す少年はボタンを押し本部へと連絡を繋げる。

数秒もすると通信は繋がり相手に指示を伝えた。

 

「もう少ししたら外にジープが出て行く。バレないように後をつけるんだ。あと、モビルスーツ部隊をいつでも出撃できるように。僕のベルティゴも準備を」

 

『了解です、隊長』

 

「彼がニュータイプ、ティファ・アディールの場所を知っている。彼女がこちらに付けば、フォートセバーンの守りはより強固なモノとなる」

 

彼の思惑など知る余地もなく、ガロードはジープのエンジンを吹かしフリーデンへと戻って行く。

 

///

 

フリーデンの医務室でティファは目を覚ます。

以前の戦闘が終わってから気分が悪くなり、テクスに診てもらってからベッドで眠っていた。

 

「目が覚めたかい? 気分はどうだ?」

 

「もう大丈夫です。ガロードは?」

 

「アイツならフォートセバーンに偵察だ。正面から行く事はできなくなったからな」

 

「そう……ですか……」

 

「気になるのか、ガロードの事?」

 

「私は……」

 

口を開きかけた時、フリーデンの艦内が激しく揺れる。

デスクを支えにしてなんとか体を支えるテクスは、揺れが収まるとすぐに受話器を手に取りブリッジに繋げた。

 

「ジャミル、何が起こった?」

 

『フォートセバーンの防衛部隊だ、また戦闘になる。テクス、ティファを頼む』

 

「わかった。そっちも任せたぞ」

 

端的に言葉を交わし受話器を置く。

振り返るテクスはティファの様子を見るが、彼女は立ち上がって部屋から出て行こうとしていた。

急いで駆け寄り肩を掴むテクス。

 

「どこに行くつもりだ!? またもうすぐ戦闘が始まる。この部屋から出るんじゃない」

 

「ガロードに……伝えないと……」

 

「ガロードに?」

 

「またあの人が来ます。ガロードでは……」

 

「負けると言いたいのか? アイツなら大丈夫だ。アムロにウィッツ、ロアビィも居る。ジャミルだってサポートしてるんだ。死ぬような事なんてない」

 

「でも……」

 

「ガロードだって経験を積んで強くなってる。アイツの事を心配に思うのもわかるが、信じてみるのも良いんじゃないか?」

 

立ち止まるティファは静かに頷いたが、その瞳にはまだ不安が残る。

ブリッジで状況を見るジャミルは直ぐ様モビルスーツを発進させ命令を飛ばす。

 

「主砲、左翼の頭を狙え。15秒後にモビルスーツ全機発進!!」

 

「了解です。ですがキャプテン、GXの改修がまだ終わってないと」

 

「ベルティゴの相手はアムロにさせる。それまでは何とか持ち堪えるしかない。フリーデン、微速前進!!」

 

指示に従い舵を取るシンゴ。

モビルスーツデッキからはエアマスター、レオパルド、ドートレスが順に発進する。

けれどもガロードのGXだけは、形は出来上がってるが出撃する事ができない。

デッキに来たガロードは作業をするキッドに声を上げた。

 

「なんで出られないんだよ!! パワーアップしてもこれじゃ意味ないだろ!!」

 

「後はシステム関係だけで終わるよ!! もう少しだけ待ってろ!!」

 

「フォートセバーンに行くのは止めようって思った矢先にコレかよ!! アイツまで出てないだろうな?」

 

GXが動くようになるまでまだ時間が掛かる。

そうしてる間にも、出撃した3機はフリーデンを守るべく展開し弾幕を張った。

エアマスターが左舷、レオパルドは右舷に位置して迫るモビルスーツを撃ち落とす。

 

「また向こうから来やがった。ガロードのヤツが連れて来たんじゃないだろうな!!」

 

「そうだとしても文句言ってる暇なんてないでしょ。来るぞ!!」

 

スノーボードに乗るジュラッグが雪上を高速で移動しながらこちらに迫る。

向けられる銃口にビームライフルとミサイルで弾幕を張る2機。

その中でアムロのドートレスは以前に戦闘したベルティゴの反応をキャッチする。

 

「この前のヤツか、GXはまだ出られない。ウィッツとロアビィはこのままフリーデンの防衛だ。俺はビット持ちを押さえる」

 

メインスラスターから青白い炎を噴射してジャンプするドートレス。

弾幕を掻い潜りながら目指す先は、部隊の指揮官でもあるベルティゴの所。

 

「見えた、そこだな!!」

 

「あの時と同じパイロットと見た。プレッシャー……来る!!」

 

ビームライフルのトリガーを引くドートレス。

発射されるビームだが、ベルティゴはスラスターを駆使してコレを避けた。

雪上に直撃するビームは水蒸気と巻き上げて視界を悪くする。

それでも2人には関係なく、ビットを前面に展開するベルティゴはドートレスに狙いを付けた。

 

「そんな機体で!! 行け、ビット達!!」

 

「やりようはある!!」

 

一斉に発射されるビットからのビーム。

回避行動に移るが全てを避け切る事はできずに、シールドで受け止め更にライフルのトリガーを引く。

メインスラスターで加速するベルティゴ。

攻撃を回避して腕のビーム砲を向け、同時にビットで左右から挟み込む。

 

「性能では負けるか」

 

「沈むが良いッ!!」

 

「このくらい!!」

 

シールドを構え前方に加速。

ビットの攻撃は振り切り本体からの攻撃はシールドで防ぐがそう何度も耐えられるモノではない。

それでも接近するアムロは銃口をベルティゴに向けるが相手の動きも早かった。

マニピュレーターにビームサーベルを握り横一閃、ライフルのトリガーを引くのとは同時。

ビームとビームがぶつかり激しい閃光。

アムロはビームライフルを捨てビームサーベルに手を伸ばし、ベルティゴは更に袈裟斬り。

耐久力の落ちたシールドで防ぐも斜めに切断されてしまう。

 

「シールドが保たない。だが近づく事はできた」

 

「勝てると思っているのか? 古き人類が!!」

 

「舐めるなッ!!」

 

互いに振るビームサーベルが交わる。

激しい閃光を浴びながら、ベルティゴはビットでドートレスを狙う。

 

「チィッ!! 機体は保つ!!」

 

「逃しません!!」

 

ペダルを踏み込むアムロはメインスラスターを全開にして機体を飛び上がらせる。

ビットの攻撃を避け、着地と同時に足を踏み出しビームサーベルで袈裟斬り。

ベルティゴも握ったビームサーベルでコレを受け止めた。

同時に飛ばしているビットでドートレスを追い詰める。

 

「地上戦ではこうも動きにくい!! 機体の反応も鈍いぞ!!」

 

発射されるビームにアムロは回避を余儀なくされる。

スラスターを駆使してビットからの細かなビームを避け、コンソールパネルを素早く叩きビームサーベルの出力を変えた。

威力を下げてでもリーチを長くし、ビームサーベルは10メートルにまで伸びる。

そして機体が腕を振るとビットを切断した。

横一閃、縦に、斜めに。

ベルティゴにまで切っ先が届く事はないが、着実に発射されるビットの数を1つ1つ減らす事で動きやすい状況を作り出す。

 

「ビットを切っただと!? そんな事ができるパイロットなのか?」

 

「サーベルに無理をさせるしかない。どこまで行ける?」

 

本来では使用しない出力なせいでビームサーベルのグリップは悲鳴を上げる。

機体の性能を限界まで引き出してもベルティゴに一撃を与えられない。

迫るビットへ更に横一閃。

斬り裂かれ爆発の炎を上げるが、機体が握るビームサーベルは簡単に限界を迎えた。

耐え切れなくなったグリップはマニピュレーターの中で爆発しドートレスの右手を持っていく。

 

「こんな所で!!」

 

「その隙は逃しません!! 確実に仕留める!!」

 

両腕からビームを放つ。

一直線に相手の胴体に向かうビームだが、アムロは卓越した技術と反応速度で機体を大きくジャンプする。

致命傷は免れたが、それでも左足のつま先が撃ち抜かれてしまった。

 

「外した!? なんで!!」

 

「狙われていた」

 

「そんな機体では。行け、ビット達!!」

 

損傷した脚部で雪上に上手く着地する事はできない。

片膝を付きながら着地するアムロはペダルを踏んでメインスラスターで出力を出す。

だが、目の前には銃口を向けるビットが迫る。

 

「新しい機体反応!? 来るのか?」

 

「アムロォォォッ!!」

 

別方向からビームが飛来する。

空中でドートレスに狙いを定めていたビットは瞬時に撃ち落とされ、2人は新たに現れた機体に視線を向けた。

 

「GXが来たか?」

 

「アムロ、まだやられてないな? コイツの相手は俺がやる!!」

 

「いけるんだな?」

 

「おうよッ!!」

 

改修されたGXディバイダーがそこに居る。

ビームマシンガンを装備するGXがドートレスを狙うビットを撃ち落とした。

ペダルを踏み込むガロードはバックパックとシールドからバーニアを吹かし一気に加速する。

 

「あの機体、フォルムは変わっているが……GXか!!」

 

「あの時の借りは返すからな!!」

 

「武装が少し変わった程度で!! ビットよ!!」

 

数は減らされたがそれでもまだビットは残っている。

武器も失い満身創痍のドートレスは後にして、向かって来るGXに敵意を向けた。

パイロットの脳波に従いビットはGXを襲う。

 

「普通のパイロットの貴様に何ができる!!」

 

「頭と体を使えばどうにでもなる!! ウラァァァッ!!」

 

ビームマシンガンのトリガーを引くがビームが命中する事はない。

それを見てガロードはすぐに腰部へマウントさせ、シールドもバックパックと合わせる。

両手にはビームサーベルを握らせて、ガロードは機体をベルティゴに向けた。

高速で回転させるマニピュレーター。

残像を発生させるビームサーベルはバリアのようになり、GXはそのまま目の前のベルティゴに突っ込む。

 

「もうその攻撃にはやられないぞ!!」

 

「ふざけてるのか!!」

 

「やってみなきゃわからない!!」

 

GXを囲むように展開するビット。

全方位から向けられる攻撃に、回転するビームサーベルはコレを弾き飛ばす。

同時にまとわり付くビットも破壊して、ベルティゴに距離を詰める。

 

「あの武器さえ失くなれば!!」

 

「古き人類にこの僕が!? この僕が負ける筈がない!!」

 

両手に握るビームサーベルを振り下ろす。

ベルティゴは右手に握るビームサーベルでコレを受け止め、左手にもビームサーベルを握らせる。

コクピットに向けられる殺意。

 

「来るか!!」

 

ビームサーベルを手放し後退するガロードはベルティゴの突きを回避、背中のシールドとビームマシンガンを装備して更にまた加速。

ベルティゴは右腕を振り下ろすが寸前の所でシールドで動きを止める。

 

「ディバイダ―を使って加速!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

加速のGがパイロットを襲う。

もつれながらも上空に飛び上がる2機。

密着した状態でも攻撃手段はまだ残っており、左手のビームサーベルで再び斬り掛かろうとするベルティゴ。

しかし優勢に立つガロードの方が動きが早い。

ビームマシンガンの銃口を左腕に向けてトリガーを引いた。

腕は1発で吹き飛ばされる。

 

「このッ!! 邪魔だ!!」

 

「行ける!!」

 

残る腕のビームサーベルで振り払う。

だがガロードは機体の姿勢を下げる攻撃を避けると、ビームマシンガンの銃口をベルティゴのコクピットに密着させた。

瞬間、時が止まったような感覚に包まれる。

フリーデンの医務室のティファは思わず声を上げた。

 

「ガロード、だめぇぇぇ!!」

 

彼女の声は無情にも室内に響き渡るだけ。

コクピットシートに座るガロードは息を呑むと同時に反射的にトリガーを引いてしまう。

 

「ッ!!」

 

(そうか……GXのパイロットはあの時の。ドートレスのパイロットとティファ・アディールに執着するあまりこんな事にも気が付かないとは。機体の性能差もあったと思いたいが、ニュータイプの僕が負けるなんて。いいえ、違いますね。彼は僕よりも強い。確か名前は……名前は……)

 

コクピットがビームに焼かれる瞬間、銃口と密着した装甲から接触回線で声が聞こえた。

そしてその声をガロードは聞いてしまう。

 

 

 

第12話 ガロード

 

 

 

「カリスなのか?」

 

思った時にはもう遅い。

ビームはコクピットを貫き、機体は今にも爆発する所だ。

ベルティゴを蹴り飛ばすGXはその場から離脱し、炎に包まれる白い機体を視界に入れる。

唖然とするガロードは目の前の光を見ているしかできない。

 

「今……確かに聞こえたぞ。カリスの声が」

 

地上に着地するGXは1点を見つめたまま動かない。

そこに合流したドートレスはマニピュレーターを肩に触れさせる。

 

「ガロード、よくやった。敵の部隊も撤退を初めている。フリーデンに帰還するぞ」

 

「アムロ……でも俺……」

 

「まだ全て終わった訳ではない。油断してるとお前も撃たれるぞ」

 

「あぁ……わかった」

 

「よし、それで良い」

 

フリーデンに戻るGXとドートレス。

その最中でアムロも確かに感じるモノがあった。

 

///

 

フォートセバーンの市長室。

市長であるノモア・ロングはカリス・ノーティラスが戦死したと報告を受け、額に青筋を立てて激昂した。

 

「アイツは一体何をやっているんだ!! 人工ニュータイプとして強化するのにどれだけの金と時間が掛かったか!! これでは、15年前の復讐はどうなる!! パトゥーリアの復活が!!」

 

周囲のモノを蹴り、投げ飛ばし、兎に角手当たり次第に感情をぶつける。

彼の荒れようを見て、部屋には近づくモノさえ居ない。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!! クソッ!! クソくそぉぉぉ!!」

 

「なにやらお困りのようで?」

 

ふと、誰かの声が聞こえる。

頭に登った血を少しだけ冷まして視線を向けると、いつのまにか1人の男が部屋に入っていた。

 

「誰だお前はッ!! 入室を許可した覚えはない!!」

 

「それはそうです、許可されてませんので。初めまして市長、私の名はシャギア・フロストと申します」

 

「シャギア・フロストだと?」

 

「ノモア・ロング、けれどもそれは仮初の名。本当のアナタは15年前、宇宙革命軍に所属していたドーラット博士」

 

「何故ソレを!?」

 

「私はバルチャーをやってまして。情報収集は得意なのです」

 

「そんなモノが理由になるか!! お前は――」

 

言葉を遮るように、シャギアは懐に手を伸ばし銃を抜いた。

 

「っ!?」

 

「お話はここまでです。本来の目的はニュータイプであるカリス・ノーティラスの確保でしだが状況が変わりましてね。個人的にアナタの存在を我々は許しておく訳にはいかないのです」

 

「我々だと?」

 

「紹介します。弟のオルバです」

 

ノモアが振り返った先、ガラスの窓の外に居たのは黒い装甲を纏うモビルスーツ。

 

「も、モビルスーツだと!? これは――」

 

次の瞬間、室内に銃声が響く。

力なくカーペットに倒れ込むノモア市長、その後頭部からはどす黒い血が溢れ出す。

 

『終わったみたいだね、兄さん』

 

「あぁ、もうフォートセバーンに居る理由もなくなった。行くぞオルバ」

 

『了解』

 

///

 

フリーデンのモビルスーツデッキに戻る各機。

戦闘が終わったガロードは一目散にティファの元へ走った。

通路を駆け抜け、行き着く暇もなく医務室へ飛び込む。

 

「ティファ!!」

 

中へ入るとテクスに診てもらいながらベッドに座る彼女が居た。

 

「ティファ、大丈夫なんだな? 俺……」

 

「何も言わないで。あの人の痛みも、ガロードの痛みも伝わってる」

 

「ティファ……」

 

傍にテクスが居る事も忘れて2人は抱き合った。

互いに肌をふれあい、体温を感じ取る。




カリスの最後はアニメとは変更しました。
読む人がどう受け取るのか少し不安ではありますが。
今更ですが今までに自分が書いてきたクロスオーバー作品は転生物に含まれるのかな?
でも他シリーズ同士を絡ませようとするとこう言う方法しか思い付かない。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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ローレライの海編
第13話


ティファが感じ取ったニュータイプ、カリス・ノーティラスはガロードとの激闘の末に戦死した。

彼が消える瞬間ガロードはその声を確かに聞いたし、ティファもその思念を感じ取ってしまう。

ガロードは寸前まで意気投合してた相手を殺してしまった罪悪感を感じ、ティファはカリスが死ぬ寸前の精神状態をダイレクトに受け止めてしまった。

けれども他人にはそんな事を知る余地はなく、互いに互いを支えあい自立するしか方法はない。

ティファはガロードの体温を、温もりを感じる事で魂を引きずり込まれる事はなかった。

この件を受けて、ジャミルはフォートセバーンを離れて次なる目的地を目指す。

だがバルチャーは彼らの心情など考慮せず、牙をむき出しにして襲い掛かる。

 

「このォォォッ!!」

 

ビームマシンガンのトリガーを引くガロードは敵モビルスーツの頭部を撃ち抜き、姿勢を維持できなくなり機体は仰向けに倒れ込んだ。

ガロードは操縦桿を素早く動かし、左手のディバイダーを展開し次の相手に向ける。

背を向けて逃げる敵でも容赦なくトリガーを引く。

 

「ディバイダーの射程距離なら……行けッ!!」

 

ハモニカ砲からビームブレイドを形成して射出。

高威力のビームは逃げる機体の背部に直撃し、そのまま上半身と下半身とを分断し巨大な爆発が怒る。

フリーデンに襲い掛かって来たバルチャー達は撤退を始め、レーダーに反応するモビルスーツの数も減っていた。

 

「これ以上深追いする必要はないな。アムロは?」

 

位置を確認して見た先では、フライトユニットを装備したアムロのドートレスが同じタイプの敵機のランドセルを撃ち抜いていた。

空中で推進力を失った機体は為す術もなく重力に引かれて地上に激突する。

ビームライフルに撃ち抜かれたダメージと衝撃で機体は爆発し、確認したアムロも空中で機体の動きを止め攻撃を中断した。

 

「ドートレスにこんな装備があるとはな。大気圏内用のバックパックか、悪くない」

 

「アムロ、新装備の調子はどうなんだ?」

 

「問題はない。前の戦闘で機体に無理をさせすぎたからな。次に何かあればドートレスは限界だ。引き上げるぞ、ガロード」

 

背部フライトユニットの主翼を広げるドートレスはGXと共にフリーデンに向かう。

その最中、コクピットに座るガロードはあの時の感触が頭の中で離れないでいた。

 

(体を動かしてる間は忘れる事ができるけれど……俺よりもティファの方が心配だ。たぶん、ニュータイプの能力のせいで……)

 

フォートセバーンのカリス・ノーティラスの事はすぐに忘れる事などできない。

けれどもいつまでも精神を沈めてる訳にもいかず、ガロードは前を向いて歩くしティファも自分の力で立ち上がっている。

 

「日が沈む、もうすぐ夜か」

 

何気なく見上げた空の先、ガロードは思わず目を見開いた。

辛うじて見える月から照射される一筋の光。

 

「マイクロウェーブ!? 俺以外にGXを使うヤツがいるのか?」

 

「プレッシャーの類は感じられない。どうやらサテライトキャノンは使わないみたいだが……ガロード、急いで戻るぞ」

 

「わかった!!」

 

モビルスーツのレーダーではマイクロウェーブの受信位置までは特定できない。

フリーデンに帰還してからでないと正確な場所を掴む事は無理だ。

月から一筋の光が降りる時、ティファは夢の中で別のモノを感じていた。

 

///

 

(白鳥? 違う、ララァ・スン?)

 

夢で見るのは海を飛ぶ1羽の白鳥。

大きな翼を広げて空を飛ぶ姿は美しく、しかしまた別のビジョンも見えてくる。

それはアムロの思念につられてやって来た10代の少女。

 

(フフフッ、アナタがティファなのね。ティファ・アディール)

 

(アナタはアムロと一緒ではないの?)

 

(アムロは私から離れて行ってしまった。それが成長と言うモノかもしれないけれど。意識が永遠に続くのは拷問かもしれない)

 

(でもシャアはそうではなかった。アムロも言ってた。何かを失う事で少年から成長できたって。その何かがアナタ)

 

(シャアは純粋過ぎたの。私に心の居所を求めていた、そして私も彼を受け入れた。そんな私が手元から離れて、シャアの心から迷いが消える事はもう失くなってしまった)

 

(だからアムロとシャアは戦ったの? そんなの……虚しい……)

 

(アナタは優しいのね。だったら、彼女の声も聞こえるでしょ?)

 

(彼女の声? ルチル・リリアント……)

 

(シャアだけじゃない。ここにもまだ、迷いを捨て切れない人が居る。ティファならわかるでしょ? 急いであげた方が良い)

 

意味深な言葉だけを残して白鳥の幻影は消えていく。

思わず手を伸ばすが空を掴むだけで、もうララァの姿は見えないし夢からも覚めていた。

 

「迷いを捨て切れない……ルチル・リリアント……」

 

自室のベッドから起き上がるティファはゆっくり言葉を呟く。

数刻が経過して、意を決すると部屋からブリッジを目指して歩いた。

フリーデンのブリッジでは、ジャミルとサラが次に向かう場所を検討している。

 

「ティファの言う事が事実なのだとすれば、フォートセバーンのニュータイプはガロードが撃ってしまったか」

 

「ですがそれは向こうも同じです。ガロードがベルティゴを倒せなければやられてたのはこちらでした。ティファもどうなっていたか」

 

「わかっている、敵対するなら倒すしかない。だがな、私にも迷う事はある。アムロの言う通り、ニュータイプを助けた所で私の罪は消えない。私はそうする事で安息を求めてるだけだ」

 

「人間はそこまで強くなれませんよ。キャプテンがそうであるように、アムロにだって弱い所はある筈です」

 

「いや、違うんだ。そうではない。頭ではわかってるんだ。だが心の底から納得できてない。私は過去に引きずられて今を見れてない。心は15年前から……」

 

苦い顔をするジャミルにサラはこれ以上声を掛ける事ができない。

暗く重たい空気が場を支配する中でブリッジの扉が開かれた。

中へ入って来たのは額に薄っすら汗を浮かべるティファの姿。

足早にジャミルの元へ進むと彼の手を取った。

 

「ジャミル、次の場所へ向かって」

 

「次の場所、何が見えたんだ?」

 

「あの人が居る場所。ローレライの海」

 

「ローレライの海だと!?」

 

「はい、早くしないとあの人が……」

 

ティファの意味深な言葉にサラは理解が及ばない。

それでもジャミルだけは体を強張らせ誰にも聞こえないように呟いた。

 

「ルチル……」

 

///

 

15年前の大戦末期、地球連邦軍が極秘裏に進めていた作戦『オペレーション・L』

しかしその作戦は地球へのコロニー落とし決行により実現される事はなく、開発されたシステムは海の底へと沈んでいった。

15年前の遺物が今、オルバの目の前にある。

 

「ビットモビルスーツの回収が目的だったのに、こんなモノまで拾うなんて。中身はなんだ?」

 

「開けてみない事にはわかりませんね。どうしますか?」

 

「ビットモビルスーツのサルベージ地点に落ちてたんだ。何か意味があるかもしれない。帰還しながら、それが間に合わないなら基地で調べるしかないな」

 

「わかりました。では、そのように」

 

オルバは現在、海で活動するバルチャーであるオルクが所有する潜水艦の中に居た。

目的は格納庫に回収された幾つものモビルスーツ。

細部は異なるが、それはGXをモデルとして作られている。

標準装備であるビームライフルとビームサーベル、背部にはサテライトキャノンも装備されていた。

 

(兄さん、ビットモビルスーツは全機回収したよ。でもそれとは別に気になるモノを見付けたんだ)

 

(Lシステムと表記されたコンテナか。こちらでも調べてみる)

 

(わかったよ、兄さん。僕の方でもできる事はやってみるよ)

 

(最優先事項はビットモビルスーツの回収だ。無理はするな)

 

(了解)

 

兄であるシャギアとコンタクトを取るオルバ。

言われたように本来の目的であるビットモビルスーツの回収作業を終えて、艦長に進路を言いに行こうとした時、艦内に警告音が響き渡る。

 

「なんの音だ!? あの艦長は何をしている!!」

 

「近くに陸バルチャーが現れたみたいで。しかもガンダムタイプのモビルスーツを持ってるって言うんで艦長はそれを」

 

「ガンダムタイプ? だとすればフリーデンか、このタイミングで。艦長に伝えろ、敵はアシュタロンで追い返す。その間に離脱しろ」

 

「でもガンダムタイプですよ? 腕1本でも大金になる。こんなチャンスを見逃すだなんて」

 

「チィッ!! 俗物共が」

 

悪態をつきながらもオルバは自らの機体であるアシュタロンに向かう。

ハッチを開放してコクピットシートに座り、エンジンを起動させて操縦桿を両手で握り締める。

 

「もう少しと言う所で欲に目が眩む!! これでビットモビルスーツが回収できなくなったら、兄さんに合わせる顔がない!! オルバ・フロスト、アシュタロンで出るぞ!!」

 

潜水艦から出撃するガンダムアシュタロンは海中へと発進した。

元々は水中用のモビルスーツではない為、水の抵抗により機動力と運動性能が著しく低下してしまう。

それでもモビルアーマー形態に変形する事で通常のモビルスーツよりは動きが早くなる。

 

「レーダーはキャッチした。この反応はやはりフリーデンか。だったら正面に位置するこのモビルスーツ、武装が変わってるがGXだな!!」

 

ペダルを踏み込み加速するアシュタロン。

モノアイを不気味に輝かせ、前方から迫るGXに照準を定める。

 

///

 

フリーデンから出撃するモビルスーツ隊。

エアマスターとドートレスは空中に位置し、GXはバズーカを装備して海中へと出た。

モビルスーツデッキに待機するレオパルドのロアビィは通信越しに軽口を叩く。

 

「たったの3機で本当にやれるの? ウィッツ、操縦ミスで海に引きずり込まれるなよ」

 

「うるせぇ、誰がそんなミスやるかよ!!」

 

「まぁ、何かあっても最後にフリーデンは守ってやるよ」

 

「水中用の調整が間に合わなかっただけだろ。潮風でパーツが錆びつかないように大人しく待ってろ」

 

言い合う2人の間にアムロの声が割り込む。

 

「無駄話は終わりだ。敵の反応が近づいている。ガロードは先行してモビルスーツを叩け。俺達はここでフリーデンを防衛する」

 

「雪の次は海かよ。バズーカも初めてだし」

 

「ガロードのセンスならやれる筈だ」

 

「そうやって煽てても……まぁ、なるようになるか」

 

言われてガロードはGXを先行させて迫る敵モビルスーツを視認する。

太陽の光が届かない海中でレーダーを頼りにバズーカを構えた。

 

「なんだ!? 水中用のモビルスーツってどうなってんだ!?」

 

「やっぱりガンダムタイプだぜ。俺達の独壇場に出て来るなんてよ、ボーナスは頂きだ!!」

 

「こんな気持ち悪ぃ機体にやられっかよ!!」

 

旧連邦軍が開発した水陸両用モビルスーツであるドーシード。

ドートレスから発展させたこの機体は背部に大型スクリューを背負い、肩部には魚雷、更には腕が伸縮自在に伸び縮みする。

発射されたバズーカの砲弾にドーシードはスクリューを使い加速して意図も容易く回避した。

そして肩部からの魚雷をGXに向けて一斉に発射する。

 

「野郎ッ!! 海の中で動けるか?」

 

ペダルを踏み込んで加速するが、地上の時と比べて当然機体の反応が鈍い。

背部からアブクを発生させて動くGXだが、それだけでは間に合わず魚雷が目前に迫る。

 

「そんな!? ディバイダー!!」

 

咄嗟に左手のディバイダーを構えて大型スラスターで加速。

寸前の所で魚雷は足元を通り過ぎて海底へと直撃。

だが安心する暇などなく、次の時には相手の両腕のアームがGXの両脚部を掴んでいた。

 

「しまったッ!?」

 

「フンッ、地上のモビルスーツにはない装備だ。こっちへ引き寄せられる」

 

「何だって? だったら!!」

 

ブレストバルカンで伸びるドーシードの腕にトリガーを引く。

だがこれくらいの攻撃では水陸両用モビルスーツの分厚い装甲は貫けない。

 

「攻撃が通らない!?」

 

「おっと、これ以上イイ気になるなよ? ドーシードに捕まったらもう逃げられない!!」

 

伸びる腕はそのままに背部のスクリューの出力を最大にして一気に加速する。

水の抵抗と加速によるGがコクピットのパイロットにまで襲い掛かって来た。

GXに乗るガロードは必死に操縦桿を握るだけで精一杯。

 

「グゥッ!! 地上で戦うのとこんなに違うのか。何もできないで」

 

「ガンダムタイプがこの程度なんてな。おい、リック聞こえるな?」

 

『OKだ、こっちでも確認できてる。あと20秒もあれば合流できる。そうしたら次はガンダムの腕を固定するんだろ? そうなれば相手は何もできない』

 

別方向から迫るもう1機のドーシード。

ガロードは激しいGに耐えながらもモニターを視界に入れ、ディバイダーとメインスラスターの出力を全開にした。

引きずり回されてただけの状態から自らの意思で一気に詰め寄る。

 

「コイツ!? 逃げられないからって自分から」

 

「こうなったら、やられる前にやるしかない!!」

 

ディバイダーに使用されたスラスターは本来モビルアーマーに使われてた部品。

水の抵抗を物ともせず敵モビルスーツに肉薄する。

相手が攻撃するよりも早く、展開されたディバイダーは強力なビームを発射した。

 

「ビームだと――」

 

GXの動きを封じてたドーシードは至近距離からのビームに装甲を焼かれる。

パイロットはビームにより消し飛ばされ、機体も至る所から海水が流れ込み海の底へと沈んで行く。

 

「至近距離からならディバイダーも使える。もう1機?」

 

「やってくれたなガンダム!!」

 

「バズーカの弾はまだある!!」

 

トリガーを引くガロード。

相手も魚雷を発射すると互いに弾頭が直撃し巨大な爆発が起こる。

それを合図にバズーカを手放しバックパックからビームサーベルを引き抜いてまた加速。

視界が悪い中をディバイダーを構えながら敵機へ肉薄し、ビームサーベルのグリップを胸部へ密着させた。

海中で出力は低下するが装甲を貫ける。

 

「ビームサーベルも使いようってね。まだ来るのか?」

 

もう1機のドーシードが海底へと沈む。

それでもガロードには休む暇などなく、レーダーの反応を見ると接近して来る機体は因縁のあるオルバのガンダムアシュタロン。

モビルアーマー形態で加速しながらGXに迫る。

 

「捕えたぞ、GX!!」

 

「オルバなのか!? なんでこんな所に!!」

 

「邪魔をするな!!」

 

巨大なアトミックシザースを突き出しながら接近するアシュタロンはGXに体当たりを掛ける。

ペダルを踏み込むが間に合わずGXに衝撃が伝わり、姿勢を崩した瞬間を狙って両腕を掴みあげた。

 

「これなら動けまい」

 

「悪いけど、今のGXにはこう言う事もできるんだ!!」

 

ディバイダーのスラスターの出力を全開にする。

大量のアブクが発生して一瞬の内に視界が効かなくなると同時に2機は海上に向かって浮上した。

 

「これは!? シールドにスラスターが付いてるだと!!」

 

「メインスラスターの出力もあれば行ける筈だろ!!」

 

2機はもつれたまま海から飛び出した。

オルバはアトミックシザースのビーム砲のトリガーに指を掛けるが、それよりも早くにGXは右脚部でアシュタロンを蹴り上げる。

激しい衝撃がコクピットに伝わりアトミックシザースもGXを手放してしまう。

 

「ぐぅっ!? やってくれたな!!」

 

「いつもそっちの思い通りになると思うなよ!!」

 

「フンッ、装備が多少変わった程度で!!」

 

互いにビームサーベルを引き抜くと大きく振り下ろした。

2つのビームが交じり合い激しい閃光を生む。

瞬間、またしてもアトミックシザースが動いた。

GXの左腕は強力なアームで掴み取る。

 

「これでそのシールドは使えまい!!」

 

「だから何だって言うんだ!! もう1発蹴っ飛ばせば!!」

 

「いいや、僕が狙ってるのはキミじゃない!!」

 

もう片方のアトミックシザースが向く先、そこには海上を進むフリーデンが居る。

 

「しまった!? 間に合うのか?」

 

「もう遅い!!」

 

向けられる銃口から強力がビームが発射される。

 

///

 

戦闘が始まってしまい、ティファはブリッジに残るしかなかった。

揺れる艦内でジャミルの座るシートに手を伸ばしなんとか体を支える。

他のクルーは目まぐるしく変わる戦況に対応してる中、ティファは頭の中に語りかけてくる声に呼び掛けていた。

 

(アナタは……誰なの? アナタがララァ・スンの言ってた人?)

 

(私の声が届くと言う事は、アナタもニュータイプ。ティファ……ティファ・アディール)

 

(ルチル・リリアント、 どこに居るの?)

 

(ルチル・リリアントと呼ばれた人間はもう居ない。私はもう、意識だけの存在でしかない)

 

(意識だけの存在……)

 

(Lシステムに組み込まれてしまった私にできる事は限られてる。今の状態では何の力にもなれない)

 

(だったら……私の体を貸します。だからお願いします、ジャミルを導いてあげて)

 

(ジャミル、懐かしい名前……)

 

ティファの意識が遠のいて行く。

目を閉じて深く呼吸をすると同時にもう1人の意識、ルチル・リリアントが彼女の体に乗り移る。

そして再びまぶたを開けた時、ティファはルチル・リリアントとなった。

ゆっくり視線を傾けた先には成長した彼の姿が映る。

 

 

「ジャミルなの?」

 

「ッ!! ティファ!? いや……」

 

失われたニュータイプとしての能力ではない、ジャミルの心がルチルの存在を感じ取る。

けれども戦闘はまだ続いており、サラの声に再びモニターを睨む。

 

「ガロードが敵のガンダムタイプと交戦中です!!」

 

「アムロを向かわせろ。フリーデンの防御はウィッツにやらせるんだ!!」

 

「高熱源体接近!! 間に合いません、キャプテン!!」

 

アシュタロンから発射されたビームがフリーデンに迫る。

回避しようにも艦艇では間に合わず直撃は免れない。

その時、ルチルはティファの体を使ってジャミルの手に触れた。

 

「私が何とかする。見てて」

 

静かにまぶたを閉じる。

意識を集中させてティファのニュータイプ能力、そして彼女自身の能力を呼び覚ます。

2人の力に反応して、モビルスーツデッキにワイヤーで固定されていたアムロのνガンダムにも反応が見られた。

機体のコクピット部分から淡い光が溢れ出す。

デッキに居たキッドは偶然にもその光景を目の当たりにする。

 

「なんだ!? ガンダムから光が出てるのか?」

 

光はνガンダムから出るとティファとルチルに導かれてフリーデンの前面に膜を張る。

直撃するかに思われたビームは光にぶつかると相殺されてしまう。

アシュタロンのコクピットから見るオルバは見た事のない現象に目を見開く。

 

「ビームが弾き返されただと!? 何の光だ!! こうなったらGXだけでも」

 

「やらせるか!!」

 

合流したアムロのドートレスは上方からアシュタロンの頭部を蹴り上げる。

姿勢を崩しアトミックシザースもGXから手放してしまい、衝撃に歯を食い縛りながらもオルバは距離を取った。

 

「その機体、アムロ・レイか!!」

 

「ここで押し返さなければ戦況が傾く」

 

アムロは素早くビームライフルを向けてトリガーを引く。

スラスターを吹かし回避するアシュタロンもビーム砲を向けてドートレスを狙う。

ペダルを踏みメインスラスターから青白い炎を噴射させて機体を動かすアムロだが、パイロットの反応に機体が追い付いてなかった。

咄嗟にシールドを構えてビームの一撃を受け止める。

 

「チィッ!! シールドの性能はまだ生きている!!」

 

シールド裏のミサイルを発射させる。

4発の小型ミサイルは真っ直ぐにアシュタロンに向かうが、装甲に直撃する前にビームに貫かれ爆発が起こった。

それを起点にアムロはビームライフルを腰部へマウントさせ、ビームサーベルを握り距離を詰める。

爆発の黒煙を通り抜け右腕を振り下ろす。

 

「フンッ、甘いよ」

 

オルバは右手のビームサーベルで横一閃するとドートレスのビームサーベルとぶつかり合う。

激しい閃光が両者を照らしながらもアトミックシザースで攻撃を仕掛ける。

 

「キッド、反応が鈍いぞ!!」

 

瞬時に動くアムロはシールドを構えながら距離を離した。

だが目の前の巨大なアームに構えていたシールドを持っていかれてしまう。

 

「アムロ・レイ、逃がすものか!!」

 

「なんだ!? 何の光だ?」

 

フリーデンから溢れ出る淡い光はこの領域全てを包み込む。

光に触れた機体は敵味方を問わず、パイロットの操縦を受け付けなくなってしまう。

 

「動け!! 動けアシュタロン!!」

 

「GXが動かなくなった!? この光のせいなのか?」

 

困惑する戦場の中でアムロだけは唯一知っている、この光が何なのかを。

 

「この光――」

 

 

 

第13話 サイコフレームの光

 

 

 




更新が遅れて申し訳ありません。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第14話

戦場に広がった謎の光。

それはモビルスーツ等の動きを封じ込み、パイロット達は混乱を隠せない。

けれども光はいつまでも続かず、次第に輝きは失われていく。

アムロのドートレスは辛うじて動けるようになり、目の前のアシュタロンから距離を取りGXの腕を掴んだ。

 

「どう言う事だ? サイコフレームの光だと言うのか?」

 

「逃げるのか? 目の前にはアイツが居るんだぞ!! 今なら――」

 

「フリーデンの状況も危ない。帰る場所が無くなるぞ」

 

GXを引き連れてドートレスはフリーデンに帰還する。

光は完全に見えなくなり、オルバのアシュタロンもこれ以上深追いはしない。

 

「チィッ、もう少しでアムロ・レイを仕留められたのに。それにしてもさっきの光……回収したLシステムか……」

 

ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射して加速するアシュタロン。

コンソールパネルを叩きビットモビルスーツを回収した潜水艦へ通信を繋げた。

 

「こちらはオルバ。艦長、聞こえているのなら今すぐ撤退を」

 

『ガンダムを手に入れられるかもしれんのに……わかった』

 

「懸命な判断です。戦力を立て直せばバルチャー共がまた追って来る筈です。こちらもソレに備えましょう」

 

撤退する中、オルバはシャギアに念波を送る。

後方で待機する彼にも、今回起きた状況はオルバを通して感じていた。

 

(兄さん、この光はLシステムの?)

 

(その可能性が高いな。こちらでも僅かではあるが調べが付いた。旧連邦が開発したニュータイプ能力の増幅システムらしい)

 

(だからって、機体の制御を奪うだなんて)

 

(幸いにもシステムはこちらの手にある。アイムザット統括官もこの件に付いて興味を示している。ビットモビルスーツと共にこちらへ回収するんだ)

 

(わかったよ、兄さん)

 

///

 

モビルスーツを回収したフリーデン。

パイロット達は全員ブリッジに集まり今回の事をウィッツはジャミルに問う。

しかし、それらの質問に答えるのはシートに座る彼ではなかった。

 

「アンタに聞いた所でわかるとは思えないが、あの光は何だ? 機体が光に触れた瞬間、操縦が全く効かなくなった。それに、光はフリーデンから出てるようにも見えたぞ?」

 

「ローレライの幽霊って聞いた事ない? 今回の現象もゴーストの仕業だったり」

 

「ロアビィ、冗談言ってる場合か。もしも動けなくなったのが俺達だけだったら相手に一方的にやられるんだぞ」

 

「あら? 流石にこのヤバさは気が付いたか」

 

「冗談に付き合ってる暇はねぇよ。オイ、ジャミル。アンタなら何か知ってるんじゃないのか?」

 

言葉には出さなくとも全員が思う疑問。

視線がジャミルに集中するが、1歩前に出たのは彼ではなく隣に立つティファだった。

 

「この事は私が説明します。良い、ジャミル?」

 

「ティファ? いや、違うか。ルチルなのか?」

 

「えぇ、15年ぶりにまた会えた……」

 

状況に付いて行けないクルーとパイロット達。

ティファの事をルチルと呼ぶジャミルにガロードは思わず声を上げてしまう。

 

「何言ってるんだよ、ジャミル。そのサングラスを取って良く見てみろ。どこにルチルなんて人が居るんだよ」

 

「そうだな、みんなには説明する必要がある。今のティファはティファではない」

 

「はぁ? 何だって?」

 

「ルチルは15年前、連邦に居た時に私の上官だ。だが戦争の最中、彼女は突如として消えてしまった。その彼女が今、ティファの体を拠り所としてここに居る」

 

「そんな事を……信じろって言うのか? って事は、ティファは今どうなってるんだ?」

 

ガロードの疑問は最もだった。

15年の月日が経過して、ニュータイプと言う言葉さえもが消えつつある。

そんな彼らにニュータイプの事を説明しても理解はできないし、増してこのような自体を簡単に飲み込む事はできない。

それでもティファは、ティファの体を借りるルチルはガロードに納得して貰おうと口を開く。

 

「この体の持ち主である彼女なら大丈夫。言ってみれば今は二重人格になったようなモノ。私がこの体から離れた瞬間、彼女の意識も元に戻ります」

 

「だったら何で、アンタはティファの体に乗り移ったんだ?」

 

「事前に彼女と話はしました。彼女も了承してくれた上で、私は今ここに居ます。私も昔、ジャミルと同じニュータイプと呼ばれ、その身を革命軍との戦いに費やしました」

 

「ニュータイプだって?」

 

「えぇ、そうです。ニュータイプは当時、戦争に使用される兵器として利用されていました。その為のガンダムとフラッシュシステム。ですが私はフラッシュシステムではなく、また別の兵器に投入されました。それがLシステム」

 

「そのシステムがさっきの光の原因か?」

 

「先程の光を説明するには順を追う必要があります。15年前、私はLシステムに組み込まれました」

 

「組み込まれた!? それって……」

 

「私の体はニュータイプと言う生体部品としてシステムと一体化しました。それは同時に人間ではなくなったと言う事でもあります。しかしLシステムが導入するよりも早くに戦争は終結しました」

 

「地球へのコロニー落とし……」

 

「はい。コロニーは地球へと落とされ、私の体ごとLシステムは海の底へ沈みました。彼らが回収したのは、私の入ったLシステムとビットモビルスーツです」

 

「それってヤバイんじゃないのか、ジャミル。俺、未だにニュータイプの事もあんまり良くわかってないし、こんなゴーストみたいな事なんて全然理解できないけど、ルチルさんを助けないといけない事くらいはわかる。そのLシステムってのにその人は組み込まれてて、オルバはそれを握ってる。行こうぜ、ジャミル!! ルチルさんを助けに!!」

 

ガロードが向ける眼差しに、ジャミルはシートから立ち上がる。

複雑な心境が心の中で渦巻く。

そんなジャミルにアムロはそっと近寄った。

 

「ガロードに気合いを入れられたな。ジャミル、GXに乗るんだ」

 

「だが、良いのか? それでも慣れてない海上戦だ、みんなを危険に晒す事になる」

 

「今更だな、その為に俺達パイロットが居るんだろ? それに、いずれまた戦うかもしれない相手だ。システムを自由に使われれば厄介になる。その前に叩く」

 

「やってくれるのか?」

 

「サポートくらいはするさ」

 

アムロの言葉を受けてジャミルは意思を固めた。

立ち上がるジャミルは無言のままガロードの元まで行くと右手を差し出す。

サングラス越しではあるが交わる視線。

何も言わなくても意思は伝わり、ガロードは上着のポケットからGXのコントロールユニットを取り出した。

 

「GXにはジャミルが乗ってくれ」

 

「わかった。ありがとう」

 

「ヘヘッ、15年もブランクがあるんだ。間違ってやられるなよ?」

 

「当然だ、私は元々GXのパイロットだからな。ガロードに遅れは取らん」

 

「じゃ、ブリッジで見させて貰うよ。それでルチル……さん?」

 

「はい、あの光はLシステムとガンダムに搭載されている装置を利用しました。私はもはや意識だけの存在。

ティファのニュータイプとしての能力を合わせてもLシステムを起動させる事はできません。ですのでアムロのガンダムに搭載された装置を使わせて貰いました」

 

「俺のガンダム?」

 

ルチルの言葉に思わず振り向く。

アムロのガンダムはオルタネイティブ社で戦闘した際に損傷し、それ以来モビルスーツデッキの隅でワイヤーで固定されたままだ。

νガンダムはそれから一切手を付けられておらず、それもありキッドでさえもガンダムの構造は把握できてない。

 

「ティファ……いや、ルチルさん? どう言う意味なんだ?」

 

「アナタのモビルスーツ、ガンダムに組み込まれた装置を使用しました。そうでないとLシステムを起動させるだけの力がもう私には残ってません」

 

「ガンダムに組み込まれた装置、サイコフレームの事か? だがアレは俺にだって知らない事なんだぞ?」

 

「私も理解できている訳ではありません。感性……感覚を信じて動いただけです」

 

(だったら、あの後アクシズはどうなったんだ? サイコミュで敵の反応を受信して動きやすくする為のモノではないのか?)

 

「ごめんなさい、私にも全てを説明する事はできません」

 

「いや、謝る必要はないよ。だが気になる事が多すぎてね。サイコフレームの共振……」

 

「あのモビルスーツはアナタの力になってくれる筈です。私はそう思います」

 

「Lシステムだとか、フラッシュシステムだとか、νガンダムだって所詮は人間が作った装置に過ぎない。最後は使う人間次第。ガンダムなんてなくても俺はこの先を生きていくしかないんだ」

 

「そう……」

 

ポツリと呟くルチル。

ジャミルはモニターに目を移し進路を決めるとクルーに向かって叫ぶ。

 

「フリーデン、全速前進だ!!」

 

///

 

ビットモビルスーツを回収した潜水艦へ帰還したオルバのアシュタロン。

だがフリーデンが追い掛けて来る中で悠長に時間を使う暇はない。

機体の推進剤の補充だけメカニックに任せてシャギアに念波を飛ばす。

 

(兄さん、フリーデンが追って来るよ)

 

(こちらでも位置は確認できている。部隊が合流するのに時間は掛からない。だが、やれる事はやるべきだ。ヴァサーゴのメガソニックでフリーデンを狙撃する。オルバは位置を伝えてくれ)

 

(了解、兄さん)

 

コクピットシートに座るオルバはコンソールパネルを叩きハッチを閉鎖する。

推進剤も満タンに補充され戦闘準備は整った。

 

「フリーデン、次こそ沈めてあげるよ。オルバ・フロスト、アシュタロンで出るぞ」

 

『こっちはどう動けば良い?』

 

「このまま全速力で真っ直ぐ進むんだ。そうすれば味方と合流できる。だがそれまでにフリーデンに追い付かれんとも限らない。動けるモビルスーツは全機出せ」

 

『了解だ』

 

「さて、向こうはどう動く?」

 

出撃するガンダムアシュタロン。

メインスラスターを吹かして加速すると海底から外へ一気に飛び出す。

黒い装甲の隙間から溢れ出る海水、輝くツインアイは前方から迫るフリーデンを捕えた。

 

「付かず離れず、と言った所か。GXとドートレスが出て来た。エアマスターはフリーデンの防衛か」

 

空中を飛ぶアシュタロン。

それに続き水中用モビルスーツもフリーデンを狙う。

一方でフリーデン側もアシュタロンの存在を捕らえていた。

ドートレスに乗るアムロはGXに通信を繋ぎ、戦闘前に最後の意思疎通を行う。

 

「本当に行けるんだな、ジャミル?」

 

「あぁ、今は恐怖を押し込めるしかない。エアマスター、レオパルドはフリーデンの護衛だ。私とアムロで目標を回収する。行くぞ!!」

 

アムロのドートレスは空を飛び、GXはディバイダーを前方に構えスラスターを吹かし海上をホバーリングして進む。

前回もモビルスーツには乗ったが本格的な戦闘は行ってない。

15年ぶりとなる戦いに操縦桿を何度も握り直し、モニターに映る敵を睨み付ける。

 

「敵のモビルスーツが展開された。突入の援護を頼む」

 

「了解。水中用のモビルスーツとは言えやりようはある」

 

海面に辛うじて映る黒い影は5つ。

シールドを構えるドートレスは海中にミサイルを発射した。

炎を噴射しながら一直線に進むミサイルは海中を進み、こちらへ迫るドーシートに迫る。

だが水中でも機敏に動けるように改良されている機体。

スクリューの出力を上げて難なく攻撃を回避する。

 

「フンッ、ドーシートの性能を舐めるなよ。海の中に引きずり込んでやる!!」

 

ミサイル攻撃のお陰で海中に居ながらも相手の位置はおおよそ掴めた。

ドーシートは両腕を伸ばすと手だけを海面に突き出し、上空のドートレスにミサイルを打ち込もうとする。

だがそのくらいの動きは既に読まれていた。

手を海上に突き出した瞬間、ビームライフルの鋭い一撃が腕を貫く。

 

「なっ!? なに!!」

 

「攻撃されたと言って、こうも簡単に動けば隙になる!!」

 

相手が攻撃するよりも早く、アムロのドートレスはトリガーを引いた。

ビームは簡単にドーシートの腕を貫き、装填されていたミサイルや魚雷が同時に誘爆する。

ドーシートは右腕が吹き飛び、損傷箇所から海水が雪崩れ込む。

浮上する事すらままならず、機体は海底へと沈んで行く。

 

「まだ4機居る」

 

「いいや、こちらでも1機撃破した」

 

GXはディバイダーを構え海面に高出力のビームを発射する。

ビームが海面に触れた瞬間、水が蒸発して真っ白な水蒸気が巻き上がり衝撃が海を揺らす。

威力は減少しながらも海中を進み、ドーシートの胴体に風穴を開けた。

 

「残りは2人に任せる。アムロ、突入するぞ!!」

 

「正面からはアシュタロンが来るか。この機体でどこまで行ける?」

 

Lシステムを持つ潜水艦に追い付くべく前進する2機。

だがそれを妨害するアシュタロンに、アムロはビームライフルを構えてトリガーを引いた。

発射されるビーム。

牽制に1発、そして避ける先を予測しての2連射。

狙いは正確だが、アシュタロンの高い機体性能の前にビームはかすめもしない。

 

「今度こそ仕留めてみせる、アムロ・レイ!!」

 

「簡単にやられると思うな!!」

 

アトミックシザースのビーム砲を向けるアシュタロンはドートレスに狙いを定めてビームを放つ。

敵意を感じ取るアムロ。

匠に操縦桿とペダルを操作して相手に攻撃よりも先に機体を動かし、避けながらビームライフルの銃口を向ける。

 

「チッ、これ以上は機体が付いて来ない」

 

続け様にビームを3連射。

だがアムロの反応に量産機のドートレスでは動きが追い付かず、ビーム攻撃も単調になってしまう。

簡単に攻撃を避けるオルバ。

メインスラスターで機体を加速させ、ドートレスとの距離を一気に詰めて接近戦に持ち込もうとするが、その間にGXが割って入った。

 

「これ以上はやらせん!!」

 

「邪魔だよッ!!」

 

ディバイダーでビームを受けるGXは右手のビームマシンガンでアシュタロンを撃つ。

1発の威力は低いが命中する確率はぐんと上がる。

連続して発射されるビームにオルバは攻撃態勢に移る事ができなくなった。

 

「連携して攻撃するつもりか? フフッ、でもね!!」

 

「何だ、手応えがない?」

 

「ジャミル、プレッシャーが来るぞ!!」

 

アシュタロンよりされに後方、高出力の巨大なビームが2人を襲う。

瞬時に反応するアムロとそれに続くジャミルは間一髪ビームの範囲外に回避した。

だがビームの射程距離はまた遥か先はで続いている。

ジャミルは思わず後方に振り向くが、その時にはもう遅い。

 

「しまった、フリーデンが!?」

 

ブリッジのシンゴは機首を右へ向けて全速力で加速させる。

それでも自身のすぐ目の前を高熱のビームが横切って行く。

 

「ま、間に合うのか!? うああッ!!」

 

「第3ブロックに被弾、火災発生。エンジンにも損傷アリ、出力が低下してます」

 

「次に来たら避けられないぞ!!」

 

激しく揺れる艦艇、恐怖を感じながらもシンゴは決して舵を手放さないし、サラは冷静に状況を分析する。

最後まで何があっても絶対に諦めない。

彼らが戦後の世界でバルチャーとして生きて来た事で培った精神。

レーダーに反応するのは迫り来る巨大空母。

そして空母の甲板上には両腕を伸ばし機体を固定させるガンダムヴァサーゴの姿。

腹部のメガソニック砲が展開され、背部の黒い翼も合わさり禍々しさが増幅している。

 

「もう少しの所で避けたか。だがダメージは通った、次は外さん。オルバ、メガソニックのエネルギーチャージは完了している」

 

(わかったよ、兄さん。照準を左へ15度)

 

オルバと連携を取る事で長距離からのメガソニック砲のビームをフリーデンに狙う事ができる。

腹部の巨大な砲身が再びフリーデンに向けられ、同時に巨大空母から搭載されたモビルスーツ部隊が一斉に出撃を始めた。

フライトユニットを装備したドートレスがカタパルトに脚部を固定し、メインスラスターから青白い炎を噴射し加速すると大空に飛び立つ。

その様子はアムロとジャミルの位置からでも確認できた。

 

「敵の増援、数が多いぞ。前にもヤツが居る!!」

 

アムロはビームライフルのトリガーを引きアシュタロンに目掛けて撃つ。

だがアレほど敵意をむき出しにしていたオルバが今や味方と合流する事に重きを置いている。

もはや必要以上に戦闘を行おうとはしない。

 

「数に物を言わせるつもりか? だがそれ以上に!! ジャミル、このままでは逃げられる」

 

「わかっている、だがこの数では!!」

 

上空から迫るドートレスの大部隊。

ビームマシンガンの銃口を向けてトリガーを引くが、1機2機撃破した程度では数は減らない。

そこへ追い打ちを掛けるように、ヴァサーゴのメガソニック砲のビームが再び迫る。

 

「ッ!? ガロードのやり方を使う!!」

 

息を呑むジャミル。

ビームマシンガンとディバイダーを背部へマウントさせ、バックパックからビームサーベルを引き抜き両手に握る。

そして両手を高速回転させてビームの一撃を受け止めた。

高速回転するビームサーベルは相手から来るビームを斬り裂きながら、激しい閃光を生みながらも攻撃を相殺する。

初めて見る光景にオルバは唖然とした。

 

「ビームサーベルによるバリアだと!? だが、動けない状況で後続部隊はどうするのかな?」

 

「クッ!! 打つ手が無い!!」

 

表情を歪ませるジャミル。

このままではLシステムを回収した潜水艦に追い付く事はできない。

万事休すと思われたその時、失われたと思っていたニュータイプの感応波がルチルの声を拾った。

 

(ジャミル、この状況でLシステムは使えない。フラッシュシステムを使いましょう)

 

「フラッシュシステム!?」

 

(えぇ、彼らはビットモビルスーツも一緒に回収してる。この状況を打開するにはそれしかない)

 

「だが、私にはもう……」

 

(大丈夫、自分を信じて)

 

意識を集中するジャミル。

だが激しい頭痛を耳鳴りがするだけで、かつて自らが操っていた能力は発動しない。

 

「だ、ダメなのか? ニュータイプの能力……私は……」

 

(まだ諦めるには早い。もう1度思い出して、あの時の事を。私と1つになるの!!)

 

ルチルからの呼び掛けに再度、フラッシュシステムの起動を試すジャミル。

思い出すのは15年前の自分、そしてルチルの事。

まぶたを閉じ、深く呼吸を繰り返す。

全ての神経を1つに集中させ、フラッシュシステムを起動させる為にニュータイプとしての能力を発動させた。

 

「ルチル……今行く!!」

 

脳波が駆け巡る。

それは時間も距離も関係なく、長きに渡って水底に沈んでいたビットモビルスーツ達を呼び覚ました。

潜水艦の格納庫に収容されていた8機のビットモビルスーツ。

頭部モニターから赤い輝きが発生しエンジンを起動させる。

全身にエネルギーを供給し、ゆっくりと、そして確実に、ジャミルの意思に従いビットモビルスーツが動き出す。

8機は腰部のビームライフルを手に取り、艦内を手当たり次第に攻撃し始めた。

内部からの攻撃に潜水艦はあっという間に沈んで行く。

 

「ど、どう言う事だ!? 中から爆発だと?」

 

「回収したビットモビルスーツが動き出したんだ!!」

 

「ば、馬鹿な!! こんな話は聞いてないぞ!!」

 

「も、もう保ちま――」

 

激しく揺れる艦内で艦長とクルーは必死に体を支えようとしがみつく。

だが次の瞬間に潜水艦は爆発の炎に飲み込まれた。

メインスラスターを吹かし海中から急速浮上するビットモビルスーツ。

現れた8機のビットモビルスーツにオルバは驚きを隠せなかった。

 

「Gビットが動いた!? ティファ・アディール? いいや、ジャミル・ニートか? だが、ヤツは能力を使えない筈だ!!」

 

(オルバ、ここは引け)

 

「でも、兄さん!!」

 

(見ればわかる、ビットモビルスーツのその性能を。だが今は命を投げ売るステージではない。アイムザット統括官には私から報告する。ここは引くんだ)

 

「ッ!! わかったよ、兄さん」

 

フリーデンとガンダム部隊をもう少しの所まで追い詰めながらも逃げの選択肢を取らなければならない事にオルバは表情を歪ませる。

それでもシャギアの助言を無視する事などできず、ペダルを踏み込みアシュタロンを戦闘領域から後退させた。

一方で、海中から現れたビットモビルスーツはGXを中心にして円形に位置する。

アムロはその光景をモニター越しに目に焼き付けた。

 

「これが言っていたフラッシュシステムか? だとしたらこのモビルスーツが……」

 

「私の意思に反応してくれた……ならば!!」

 

ビットモビルスーツが一斉に展開する。

迫り来るドートレス部隊へビームライフルの銃口を向けて攻撃を開始した。

ガンダムとほぼ同等の性能。

そしてニュータイプの能力を駆使して動かされる機体の戦闘力は数だけでは計り知れない。

わずか8機ではあるが、それだけで戦略級のパワーがある。

 

「やれる……やれるぞ!!」

 

次々に撃破されるドートレス。

ビームで撃ち抜かれ、サーベルで斬り裂かれ。

只の量産機、パイロットも普通の人間にビットモビルスーツへキズ1つ与える事はできない。

また1機と撃破され、部隊は遂に後退を始めた。

ジャミルも深追いしようとはせず、ビットモビルスーツはその場に留まる。

 

「終わったか。だがアレだけの部隊、旧連邦の生き残りが集結しているのか?」

 

「ひとまず危機は脱したようだな。だがジャミル、この機体はどうするつもりだ?」

 

「ビットモビルスーツがあれば、それだけで精鋭部隊に匹敵する。戦力としては申し分ない。だが……」

 

1機のビットモビルスーツが静かにGXの向かいに動く。

そのマニピュレーターにはカプセル型の装置に入れられたかつての上官、ルチル・リリアントが眠っていた。

 

「ルチル……」

 

(もう良いの。今の私は生きてるとは言えない、15年前にルチル・リリアントは死んだ)

 

「だがキミは目の前に居る!! 手を伸ばせば届きそうな所に!!」

 

(その体はもはや抜け殻。今のアナタにならわかるでしょ? 私はもう、この世界に居てはいけないの。今日起きた事は奇跡だと思って忘れて頂戴)

 

「忘れるだなんて……」

 

(過去ではなく今を生きて。今のジャミルにはそれを支えてくれる人も居るでしょ? だから前を向いて生きて)

 

ルチルの言葉を受け取ってジャミルは歯を食いしばる。

彼女は15年前のLシステムの実験で既に体も精神もボロボロの状態にされてしまった。

そしてシステムが起動した今、彼女の精神をシステムから切り離す事は不可能。

どうする事もできない現実が目の前にあり、ジャミルは操縦桿を強く握り締めた。

 

「あぁ……わかった……」

 

(ありがとう……)

 

ビームマシンガンの銃口を突き付けて、ジャミルはトリガーを引いた。

 

///

 

戦闘が終わったフリーデンでは損傷した箇所の応急修理が行われていた。

ヴァサーゴのメガソニック砲の威力は強力で、ちゃんとした設備のある所でないと完璧には直す事はできない。

ガロードとジャミルはデッキの上で落ちる夕陽を眺めていた。

 

「ルチルさん、幸せだったのかな? ニュータイプの能力があったせいでこんな目にあって」

 

「もはや誰にもわからない。それを悲しむ事は人間として正常だが、悲しみで立ち止まる事をしてはいけない。今回の件で、何か吹っ切れたよ」

 

「でもさ、ジャミル。せめてビットモビルスーツの1機くらい残しても良かったんじゃないか? 乗らなくてもパーツくらいには」

 

「今日起きた事は、言ってみれば奇跡なんだ。奇跡はもう起きないよ。それにアムロも言っていただろ――」

 

 

 

第14話 こんなモノがなくても、人は生きていける

 

 

 

ジャミルの言葉にガロードは静かに頷いた。

ガロードも同じ、カリスを撃ってしまった悲しみに立ち止まる事などできない。

これから先もこの世界で生きていくしかなかった。

夕陽は沈み、空には月が昇る。




前話は誤字が多くてすみません。
もう少しでDXの登場です!!
ご意見、ご感想お待ちしております。


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ゾンダーエプタ―編
第15話


 損傷したフリーデンは修理の為に港へと寄る。ヴァサーゴのメガソニック砲を受けたダメージは大きく、艦内の設備だけで直す事は不可能だ。センズアイランドに立ち寄るフリーデン一向。

 オペレーターのトニヤ・マームはドル箱を両手に抱え、仕事を他のクルーに任せてセンズアイランドに入港する。

 

「海も近いし、風が気持ち良い。たまには息抜きもしないとね~。換金、お願いします」

 

 入港所のすぐ隣にある換金所へドル箱を持って行き、窓口の女性にそれを渡した。女性は手際良く箱に詰められた紙幣や硬貨を集計していき、数え終わると金庫から新たに紙幣を取り出してトニヤに手渡す。

 

「集計が終わりました。こちらになります」

 

「これがここの紙幣なの?」

 

「そうです。また別の紙幣には換金できませんので注意して下さい」

 

「ふぅん、わかった。さて、それじゃあ行くとしますか!」

 

 受け取った紙幣を財布に入れるトニヤは意気揚々とセンズアイランドの街に足を踏み入れた。長い仕事の疲れを癒やすように、蓄積されたストレスを開放させていく。服を買い、化粧品を買い、お菓子を買い。見る見る内に減っていく財布の中身。気が付けば日も傾き、昼食を取るのも忘れて買い物をしていたせいで空腹感が襲う。

 

「あぁ、そろそろご飯食べるかな。買った荷物は全部送ってくれるって言うから楽ちんよねぇ。邪魔になるモノもないし。さて、どこで食べようかな? ん~、良しッ! 最初に目に付いた店にしよ! さて、どこにあるかなぁ?」

 

 周囲を見渡すトニヤ、もうすぐ夜ともなれば仕事を終えて店による人間も増えてくる。そうなる前に店に入りたい所だが、土地勘のない彼女ではすぐに見付けられない。手当たり次第に歩きまわり、見付けたのは木造建築の年季の入った店だ。既に店内には客が多く入り込んでおり、大勢の声が壁越しに聞こえて来る。

 

「ここかぁ。ま、別の店探すの面倒だし、最初に宣言した通りにいきますか。すいませ~ん」

 

 扉を開けて店内に入れば、中は大勢の人でごった返していた。やはり選択を間違えたかと後悔していると、奥から銀のトレーを持ったウェイトレスがやって来る。

 

「お待たせしました、いらっしゃいませ!」

 

「あの、今って空席ありますか?」

 

「ちょうど混む時間帯ですからね。相席で良いならすぐに準備できますが?」

 

「なら相席で良いからお願いできる?」

 

「かしこまりました。少しお待ち下さい」

 

 言うとウェイトレスはまたどこかへ行ってしまう。入り口に残されたトニヤは待つ事しかできず、ガヤガヤと活気付く店内を呆然と見るしかできない。

 

(フリーデンの修理も1日あれば終わるみたいだし、そうしたらまた仕事かぁ。死ぬかもしれないこんな事をやってるから普通に稼ぐよりかは良いけれど、使う暇がないのが難点よ。こう言う時でもないと無駄になっちゃうし使い切らないと。今頃サラやティファはどうしてるのかな? ティファも少しは馴染んできたし、後はガロードと――)

 

「お客様、お待たせしました! 準備ができましたのでご案内します」

 

「あ、はいはい。お願いね」

 

「こちらです」

 

 案内してくれる彼女の背中に続いて歩くトニヤ。決して狭くはない店内だが、人が多くもなれば体を反らして縫うように進まなければ通れない。何人かの肩や手に触れながらもテーブル席に到着すると、言われたようにそこには1人の客が居た。

 

「こちらですね。注文が決まったらまた呼んで下さい」

 

「わかった、ありがとね~」

 

 椅子に座るトニヤを見てまたどこかへ行ってしまう。トニヤは正面に座る女性に視線を向け、様子を探りながら声を掛けてみた。

 

「私、この店に来るの初めてなの。オススメとかある?」

 

「アタシもここに来るのは初めてだから何とも。でも、子羊のソテーは美味しかったけれど」

 

「じゃあ私もそれにしようかな。ワインも奮発しよ」

 

「随分と気前が良い、何か良い事でもあった?」

 

「何にもないからこう言う時に使っとかないと」

 

「なるほどね、納得できた」

 

 右手を上げてアイコンタクトを送るトニヤ、それを受け取って数秒もすると先程のウェイトレスが笑顔でテーブルにやって来た。

 

「注文ですか?」

 

「え~とね、子羊のソーテ、ロブスターのボイル、それからクリームパスタ。あとこのワインも頂戴、グラスは2つで」

 

「かしこまりました。すぐに作らせますので」

 

 また去って行くウェイトレス、メニュー表を閉じるトニヤに目の前の女性は複雑な心境だ。

 

「気前良くするのはアナタの勝手だけれど、アタシにまで奢らなくても」

 

「良いの、お酒は1人で飲むよりも誰かと飲んだ方が美味しいし楽しいでしょ? そう言えばまだ名前言ってなかったっけ? 私はトニヤ・マーム、アナタは?」

 

 赤毛のショート、流れるような目と長いまつ毛。唇に塗られた真っ赤なリップ。女はテーブルの下で足を組むとこう答えた。

 

「アタシ? アタシはエニル・エル」

 

///

 

 港に止まるフリーデンの中で、ティファはキャンパスに絵を書いていた。今までは風景や景色を書いていたが、彼女が書いているのは人物画。中年を過ぎた体付きのよい男の顔。

 ティファが黙々と絵を仕上げる隣ではガロードは窓から見える月を眺めている。

 

「あの時に見たのは間違いなくマイクロウェーブの照準レーザーだった。俺以外にもGXに乗ってるヤツが居るって事だ。サテライトキャノンを使えるもう1機のGX……クソッ、マニュアルなんてもうないから同時に受信した場合どうなるかわからない! ジャミルだってそこまでは知らないって言うしよ。サテライトキャノン、敵に使われるとこんなにも脅威なのか」

 

 自分が使ってる内はわからないGXの性能。戦略兵器としても使えるモビルスーツ、サテライトキャノンの威力は脅威と呼ぶ他なく、ようやくガロードはその危険性を認識した。

 

「とにかく、使われる前に勝負を決めるしかないな。今はディバイダーだってある、1体1なら負けない筈だ。なぁ、ティファ。相手の機体の位置とかわからないモノなのかな? ティファ?」

 

 返事をしないティファに振り向くガロード。ティファは完成した絵を何も言わずじっと眺めている。キャンパスに書かれた男の絵。

 

「その人、誰なんだ?」

 

「わかりません。でも、もうすぐこの人が来ます。敵として」

 

「敵だって!?」

 

「はい、もうすぐに。ガロード、私にはこんな事しかできない。アムロやジャミルのように戦う事も、誰かの役に立つ事もできない」

 

「そんな事ない。俺は……俺はティファが傍に居てくれればそれで」

 

「え……」

 

「あ、いや!? そんな無理して動く必要なんてないって。みんなだってそう言うと思う。そうだ、そろそろメシ食べようぜ。食堂に行こう」

 

 慌てながらも誤魔化すガロードにティファの反応は薄い。どこか悲しげな彼女はうつむき加減にキャンパスを手に取り、部屋の隅に置かれているキャンパスに並べる。けれどもそこで動きを止めて、暫くは動こうとしない。

 

「どうしたんだ?」

 

「いいえ、すぐに行きます」

 

 そう言うティファはガロードの元へ行くと自分の部屋を後にする。部屋を出て扉を閉めるその瞬間、またも視線を部屋の隅のキャンパスに向けた。

 いくつも書かれている絵の中でガロードが知ってるのは極わずか。その中には流れるような瞳を持つ、赤髪の女の絵もあった。

 

 

 

第15話 エニル

 

 

 

「うん? 何か言った?」

 

「何でもない……」

 

 ガロードが気が付かないように、ティファは唇に手を伸ばした。

 

///

 

料理を食べ、酒を煽る。トニヤとエニルは深夜遅くなっても店の中に居た。大勢居た客も殆どが出て行き、店員も片付けの準備を始めており店ももうすぐ閉まる。

 女2人で話に花を咲かせながら、トニヤはグラスの赤ワインを喉に流し込んだ。

 

「ッハァ! それじゃあ、その年下の男には逃げられたんだ?」

 

「えぇ、キスまでしたのに。情けない男だったのかな?」

 

「いやいや、子どもだからわからなかったんじゃない? にしてもアンタ、年下が好きだなんて」

 

「柄じゃない? 自分でもそうかも知れないって感じる事はあるけれど、その時は何かを感じたの」

 

「あッ! わかる! 一目惚れってヤツ、なんかこう、体にビビビッって。でもねぇ、恋愛って勘違いじゃない。アレだけ好きだった筈なのに別れた途端になんにも思わない。今だってそう。私なんて元カレの為に今更何かをしたくないもん、アイツの為に深爪するのだって嫌!」

 

「愛情が憎しみに変わるって言うの? ソイツの顔を見たら殺したくなっちゃう」

 

「そこまでいかなくても顔を見るだけでストレスが溜まっちゃって。別れた瞬間に全部を忘れたいって感じ」

 

「アタシはねトニヤ、今でもその男を探してるの。そして見付けたら殺す、たったそれだけの為にここまで旅をした。でも時々思うの、それでアタシは幸せになれるのかって。他にも方法はあるんじゃないかって」

 

 グラスを片手に持つエニルは中に入る赤ワインをクルクルと回しながらアルコールに酔いしれる。トニヤも完全に出来上がっており、尚且つ出会って間もないエニルの事を信用し過ぎていた。だからふと、口からある言葉が溢れてしまう。

 

「幸せなんて人それぞれ。私は今この瞬間、エニルと居る今が幸せだけどなぁ。私もね、フリーデンって言う艦に入って暫く経つけどさ、そこに新しくガロードって子が――」

 

「ガロード!? 今ガロードって言ったのか!」

 

「え……えぇ、言ったけれど」

 

「運命ってモノを信じたくなったよ! アタシが向かうべき道が見えた!」

 

「ちょっと何言って……」

 

「ガロード・ラン! 今度こそ殺す!」

 

 勢い良く立ち上がるエニルはその場から駆け出した。呆然とするトニヤは何もする事ができずに立ち去る彼女の姿を見るしかない。

 それから数秒、頬が赤く染まり、酔いの回った思考でもようやく気が付いた。

 

「もしかして、エニルを振った年下の男って……ガロードの事なの!?」

 

 店を飛び出すエニルは自らの機体を隠してある格納庫を目指す。あの時の戦闘で損傷したドートレスは手放し、今はモビルアーマーへ乗り換えていた。

 夜の街のアスファルトを全力で走り、風の冷たさなど感じない程に体が火照る。格納庫の鉄の扉を勢い良く開け、目の前にあるのは小型のモビルアーマー。

 青い装甲、空力を考え凹凸は殆どない。背部の大型バーニア、背中にはビーム砲を背負い頭部にはモノアイ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、フフッ! 行くよ、エスペランサ!」

 

 ハッチを開放しコクピットのシートに飛び乗るエニル。コンソールパネルを叩きエンジンを起動させるとモノアイが不気味に光る。両手で操縦桿を握り締め、全力でペダルを踏みしめた。

 大型スラスターから青白い炎が噴射して、エスペランサは格納庫から飛び出す。

 

「トニヤが言ってた艦、フリーデンとか言ったな。港の方角、そこにアイツが居る!」

 

 高速で空を飛ぶエスペランサはフリーデンが停泊する港を目指す。するとすぐにレーダーに反応がありモニターにも姿が映し出された。機体の機首ごとフリーデンに向けてビーム砲の照準を合わせる。

 

「あぶり出してやる! 出て来いGX!」

 

 トリガーを引き発射されるビーム。だがフリーデンには直撃せず、海水に直撃して大きな水柱が上がる。

 

///

 

 艦内に警告音が響き渡る。ベッドで寝ていたクルーも飛び起き、ジャミルも艦長室からブリッジに急いで駆け付けた。

 

「何事だ? こんな所に襲撃だと?」

 

「モビルアーマーが1機、データにはない機体です。ですが攻撃は最初の1発だけです。どう言う事でしょう?」

 

「わからん、相手からの通信は?」

 

「待って下さい……回線開きます」

 

 コンソールパネルを操作するサラはモニターに敵機体から送られる通信を繋げた。映るのは若い女、エニル・エルの姿。

 

『本当なら一撃で沈める事だってできたんだ。さっさとGXを出しな!』

 

「目的は何だ? 奪うだけならこんな事をする必要はない筈だ」

 

『うるさい! GXを……ガロード・ランを出せ!』

 

「ガロードだと?」

 

『そうさ、アタシはアイツを――』

 

 ビームライフルの発射音が轟く。エニルが視線を向けた先ではデッキから発進したGXがビームマシンガンを構えていた。

 

「俺を探してここまで来たんだろ、エニル・エル! 勝負したいって言うなら相手になってやる!」

 

『そうこなくっちゃねッ!』

 

 メインスラスターを吹かして加速するGXはフリーデンから距離を取りながらビームマシンガンの銃口を向ける。同様に加速して移動するエスペランサにガロードは躊躇なくトリガーを引いた。だがその高い機動力にビームの攻撃は追い付かず、海面に直撃して水しぶきが上がるばかり。

 

「普通のモビルスーツより早い!? 先読みして攻撃しても当てられない。エネルギーが無駄になるだけだ」

 

「ほらほら、さっきまでの元気はどうした?」

 

 急速旋回するエスペランサはビーム砲をGXへと向けた。発射されるビームに左手のディバイダーで防ぐが、高出力のビームにわずかながら姿勢が崩れる。

 

「クッ! 小型でもモビルアーマーか、ジェネレーターの出力が違う」

 

「アタシの動きを見てるのか? だったら立ち直る前に落とす!」

 

 加速するエスペランサはGXの傍を通り過ぎ、再び急旋回してビーム砲を砲身を向けた。トリガーに指を掛け照準をコクピットに合わせるエニルは、心の中に溜まる憎悪をむき出しにして叫ぶ。

 

「死ねェッ、ガロードッ!」

 

「来るッ!」

 

 迫るエスペランサは今まさにビームを発射しようとしていた。だが、海中からもう1機のモビルスーツが現れエスペランサに組み付く。それはアムロのドートレスだ。

 

「何だ、コイツは!?」

 

「左腕の関節がやられたか? ガロード、ディバイダーで撃て!」

 

「アムロ!? でも……」

 

「早くしろ、スラスターもいつまで保つかわからん!」

 

 しがみつきながらメインスラスターを全開にしてエスペランサーの動きを防ごうとする。だがガタの来ているドートレスでモビルアーマーをいつまでも押さえ付けられる程のパワーはない。

 ディバイダーを構えるGXはシールドを展開し、ハモニカ砲の銃口からエネルギーをチャージしてビームブレイドを発射した。

 

「出力は調整した、上手くいってくれよ。イッケェェェッ!」

 

 ビームブレイドはドートレスの右腕を切断し、エスペランサのボディに直撃した。切断面から黒煙を上げるドートレスは海中へと沈んでいき、エスペランサもスラスターの制御が聞かずにまっすぐ飛ぶ事ができなくなる。

 

「アムロ!? エニル、まだ来るのか?」

 

「ガロード、お前はアタシのッ!」

 

「ッ!」

 

 それでも尚向かって来るエニルのエスペランサにガロードはビームマシンガンの銃口を向けた。瞬間、あの時の感覚が鮮明に蘇る。頭で考えるよりも体が動く方が早い。操縦桿を繊細に動かし、ビームマシンガンの銃口を照準に収めたエスペランサからわずかにズラす。

 発射されるビームは装甲をかすめるだけ。

 次に発射したビームはスラスターを破壊し、脚のないエスペランサは完全に動きを封じられてしまう。

 

「動け! 動け! クソッ、目の前にはガンダムが……ガロードが居るって言うのに!」

 

「エニル、その機体はもう死に体だ。おとなしく投降しろ」

 

「クソッ、クソッ、クソォォォッ!」

 

 コクピットからの叫び声だけが夜の海へ無情に響き渡る。エニルのエスペランサとアムロのドートレスはフリーデンに回収、収容され、束の間の安息が再び戻って来た。

 トニヤはその頃になってようやくフリーデンに駆け付ける。

 

///

 

 センズアイランドでガロード達が戦闘を繰り広げる中、旧地球連邦は着々と態勢を整えつつあった。戦争が集結すると同時に解体、消滅していった地球連邦。だがソレもかつての統率を取り戻しつつあり、政府再建委員会なるモノも立ち上げられている。委員会に所属するアイムザット・カートラルは50や60を超える老人達が占める組織の中では32歳と最も若い。

 

 「旧連邦……いいや、新地球連邦軍が設立する日も近い。新たなガンダムも完成間近だ。あとは象徴となるニュータイプさえ確保できれば、組織の力はより強固なモノとなる。その事は充分にわかってる筈だが?」

 

 広い司令室でアイムザットは振り返る。彼の前に居るのは連邦軍の制服に身を包んだフロスト兄弟だ。アイムザットの問い掛けにシャギアは答える。

 

「それは存じ上げております。ですが相手もガンダムを所持しています。それに全力で逃げる相手を捕らえると言うのも簡単ではありません」

 

「お前達にも事情があるのはわかっている。だがそれと同じようにこちらにも事情がある。人材も予算も時間も無限にある訳ではない。限られた制限の中で任務を遂行する、それが軍人だろ?」

 

「仰る通りで」

 

「前回の作戦でもLシステムどころかビットモビルスーツさえも回収できなかった。こちらの損害も無視はできない。そこでだ、今回の任務では新しく人材を用意した。これが資料だ」

 

「失礼します」

 

 アイムザットは握る紙の束をシャギアに手渡す。受け取るシャギアは記載されている文字を読み取りながらオルバに念波を送った。

 

(名前はカトック・アルザミール。士官学校は出てない、現場からの叩き上げと言うヤツだな。この男、どう思う?)

 

(モビルスーツ戦は僕達でやれば良い。この男には偽装してフリーデンに潜り込ませる。初めてあの艦に潜入した時の事はまだ覚えてるからね。彼もその仕事の方がやりやすいだろう。ブリッジの占拠に失敗すれば白兵戦でもなんでもやるだろ。内部にダメージが通ればこちらも動きやすい)

 

(なるほど、長所は伸ばすか。良いだろ、オルバの意見に従おう)

 

「シャギア、もう失敗は許されん。これからの作戦には委員会の監視も付き纏う。カテゴリーFのお前達など使えなくなれば用済みだ。その事を忘れるな」

 

「肝に銘じておきます。アイムザット統括官」

 

 敬礼をする2人は司令室から出て行く。その彼らに怒りと憎悪が膨らみつつある事にアイムザットはまだ気が付かない。

 人工島ゾンダーエプタ―、ここでは誰にも知られない内に秘密裏の作戦が進みつつある。15年前に開発されたニュータイプ専用機、ガンダムXがここにもあった。

 頭部と左腕が破壊された状態で横たわるガンダムは内臓コンピューターがケーブルに繋がれて外に伸びており、その先にもまたガンダムがそそり立つ。

 新たに開発されたガンダムの背中には放熱用のリフレクターと、ガンダムの特徴であるサテライトキャノンを2門背負っている。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第16話

 ガロードが見た月から照射されるマイクロウェーブ、フリーデンは1週間と時間は掛かったがようやくその地点と思われる海域に到着する。しかし海域は広く、1日2日で見つかるような範囲ではなく、地図もデータも15年前のモノであり、コロニー落としにより大陸が変形した今は殆ど当てにならない。情報はガロードとアムロが見た1度切りで手掛かりは少なすぎる。

 艦長シートに座るジャミルはモニターに映る地図データを目にするが、簡単に見つかるモノではなかった。

 

「時間は掛かるが虱潰しに捜索するしかないな。ティファもマイクロウェーブの件に付いては何も感じていない」

 

「ではもう少し調査海域を広げます。ティファの事を便利に使いたくありませんから、できればこちらで見付けたいですね」

 

「そうだな。だが前回の戦闘に現れた部隊、気になるな」

 

「海のバルチャー、オルクではないのですか?」

 

「あの戦力はオルクのモノではない。それに統率の取れた動き、軍が作られている?」

 

 サラの疑問に答えるジャミルだが、本人も確信を持ってる訳ではなかった。それでも虎視眈々と進みつつある計画にジャミルは経験から嫌な予感を感じている。

 その頃トニヤは牢屋に閉じ込められたエニルと会っていた。怒り狂うエニルをガロードがどうにかするのは無理だと考え、トニヤが率先して面倒を見ている。

 以前のガロードとの戦闘に敗れ意気消沈していた彼女だが、数日も経てばちゃんと食事も取るようになりトニヤとも話すようになった。

 

「もう落ち着いてる見たいで安心した」

 

「流石に毎日あんな事してたら疲れるよ。今は大丈夫、今はね。でもあの子はアタシの視界に映さないで。見た瞬間にまたプッツンするかもしれない」

 

「わかってる。今日の分の朝食はもう食べたんだ」

 

「えぇ、美味しかった。モビルスーツ乗りやってた頃は食事も時々しか食べられなかったから。1日3食だなんて贅沢に感じちゃう」

 

「喜んで貰えるなら良かった。ねぇ、これからの事なんだけど」

 

 彼女の様子を確認してから、トニヤは本題を切り出す。その事はエニルにも薄々わかっていた事だし考えてもいた事であり、最悪の場合はいつでも死ぬ覚悟もできていた。

 生唾を飲み込み、重たい口をゆっくりと開く。

 

「アタシは……」

 

「エニル……もし良かったらなんだけど、ここで私と一緒に働かない?」

 

「え……」

 

 突然の申し出に口を開けたままのエニルだが、対するトニヤは至って真剣だ。

 

「パイロットなら新しく戦力にもなるし、そうでなくとも人手は多い方が良いから。もしもアナタが良ければ、だけど」

 

「まさかね、こんな事を言われるだなんて。アタシはてっきり殺されるか、良くて海へ流されるものだと」

 

「そんな事する訳ないじゃない」

 

「こう言う仕事が長いと疑り深くもなるよ。トニヤ、アナタには感謝してる。でもその提案を受ける事はできない」

 

「どうして?」

 

「アタシはアイツの事を許せる気がしないんだ。どうしても……たったそれだけの事でも……それだけは無理かもしれない」

 

 最後に呟く彼女の表情は悲しみに満ちていた。それを感じ取るトニヤもそれ以上は何も言えなくなってしまう。

 牢屋から踵を返し、自分の仕事をする為にブリッジに向かった。

 

///

 

 モビルスーツデッキのハンガーに固定されたドートレスを見上げるアムロ。前回の戦闘でGXのディバイダーがドートレスごとエスペランサーを撃ち抜き、そのせいで機体は致命的なダメージを受けてしまった。それでも度重なる戦闘とアムロの反応速度により機体の限界は近かったし、そうでもしなければパイロットを殺さずにエスペランサを鹵獲するのは厳しい。

 レンチを片手にキッドはアムロと今後の方針に付いて相談する。

 

「随分派手にやっちまったけどどうする? 腕の換えなんてないぜ」

 

「あぁ、これ以上この機体を使うのは無理だろ。ここまで良く保った方だ」

 

「でもそうするとアムロが乗る機体が失くなる。初めに乗ってたガンダムだって何にも手を付けれてない。埃が被って来たくらいだ。他に予備の機体もないし」

 

「そればかりはどうしようもない。またどこかのタイミングで調達するしかないか。キッド、俺の機体の事は後回しで良い。残りのメンテナンスは頼んだぞ」

 

「任しとけ! 俺はプロのメカニックだぜ」

 

 サムズアップするキッド、パイロットのアムロだが今はやれる事はなくジャミル達の居るブリッジへ向かった。

 航海が始まって暫く経過するが未だに情報は掴めてない。ブリッジにまで来るアムロはシートに座るジャミルの隣に来ると、スクリーンに映る景色に目をやった。

 青く広い海が水平線まで続くだけで他には何も見えない。

 

「キャプテン、ガロード達の報告はまだか?」

 

「まだ何の報告もない」

 

「だろうな、手掛かりが少なすぎる。ガロードとウィッツが戻るまではこちらも地道にやるしかないが、相手に見つかる可能性もある。そうなったら」

 

「隠れる場所もないからな。あったとしてもサテライトキャノンで撃ち抜かれる。悠長にはしていられない」

 

「水柱が見えるぞ? 煙もだ」

 

 視線を鋭くするアムロはモニターの1点を見つめる。辛うじて見えるのは海面から上がる水柱と漁船から上がる黒煙だ。

 パネルを操作するサラはカメラをズームさせて状況を確実に視認する。

 

「船がモビルスーツに追われてます。煙は損傷してるせいです。救難信号も発進されてますがどうしますか?」

 

「無視する訳にもいかんだろ。偵察に生かせているガロードとウィッツにも伝えるんだ。フリーデン、微速前進」

 

「了解」

 

 加速するフリーデンは襲われている漁船に向かって進む。少しずつ近づくにつれてモニターに映る漁船は大きくなり、そして被害状況も見えてくる。側面に銃弾を1発受けてはいるが沈没する程ではない。

 水陸両用モビルスーツのドーシートは漁船を破壊する訳でもなく、武器をチラつかせおちょくっていた。

 それでもレーダーとモニターでフリーデンの存在を視認すると一目散にその海域から逃げ出していく。

 

「敵機、距離を離します。他にレーダー反応なし。只のオルクでしょうか?」

 

「そうかもしれん。回線を繋げてくれ、相手の艦長と話をする」

 

 言われてパネルを操作するサラはすぐに損傷した漁船の乗組員とコンタクトを取る。相手側の損小度合いは軽微だったお陰で通信はスムーズに繋がった。モニターには『SOUND ONLY』と表示され、肘掛けの受話器を手に取るジャミルは交信を試みる。

 

「こちらはフリーデン、私は艦長のジャミル・ニートだ。こちらは敵対するつもりはない。応答願う」

 

『あ゛あ゛――す――回線繋がったか? いやぁ、助かったぜぇ。オルクの野郎が遊び半分で撃ってきてよ。船に穴は開くしホント、死ぬかと思ったぜ』

 

「モビルスーツは引き上げたようだが危険な事には変わりない。良かったら簡単な修理くらいならこちらでできるがどうでしょう?」

 

『そいつはありがてぇ。でも俺達そんなに金は持ち合わせてねぇよ。あるのは魚だけだ』

 

「魚?」

 

『おうよ、俺達は漁師だからな。まぁ、そんな話は良いか。船を近寄らせるから後は頼んだぜ』

 

「了解した。こちらからモビルスーツを出してそれで運ぶ」

 

 了承を得るとジャミルは受話器を元の場所に戻し、モニターに表示された文字も消えて海の風景に変わる。

 隣に立つアムロは視線をレーダーに向け、フリーデンから最も近い機体反応を確認した。

 

「ここからだとガロードのGXが1番近い。呼び戻せるか?」

 

「既に連絡した。数分もアレば戻って来る」

 

「仕事が早いな、だったら俺は休憩を貰うぞ。食堂に行ってくる」

 

「わかった。だがいつもより早いな?」

 

「やる事もなくて暇なのさ」

 

 アムロがフリーデンに来て、もう数ヶ月が経過していた。ここでの生活にも慣れて、自分がやるべき役割も理解している。モビルスーツのパイロットとしてフリーデンを守る為に戦い、その背中を見て経験の浅いガロードも次第に成長して来た。ウィッツとロアビィも仲間に加わり、GXもキッドの手により改修され今のフリーデンの戦力は他のバルチャーと比べて申し分ない程に充実している。

 通路を歩くアムロは言ったように食堂を目指して歩く。今までの戦闘でνガンダムもドートレスも破損させてしまい使える機体がないが、パイロットとしての仕事はなくてもまだまだやれる事はある。

 

(暫くは海上戦が続くかもな。機体のセッティングと調整、キッドの手伝いをするか。その間にジャミルと方針を固める必要もある。俺のモビルスーツも欲しい所だ)

 

 GXに乗るガロードは探索を中断すると、進路を反転させてフリーデンに帰艦する。ディバイダーを背部、ビームマシンガンを腰部にマウントさせてペダルを踏み込む。メインスラスターとディバイダーに備えられた大型スラスターが集中する事で機体の機動性は更に上る。

 青白い炎を噴射して加速するGXは一気に海上を進む。

 

「出たばっかりなのに戻って来いだなんて、人使いが荒いぜ。結局まだマイクロウェーブを受信したGXも見つかってないってのに」

 

 愚痴を零しながらも操縦桿を握るガロード。次第にモニターにはフリーデンが見えるようになり、その近くでは黒煙を上げる船が浮いていた。

 

「アレだな、さっさと回収しよっと」

 

 右足からペダルを離して減速するGX。浮上しながらもゆっくりと近寄りマニピュレーターを伸ばし、両手を使って船底を持ち上げる。

 

「オッサン、大丈夫か?」

 

「あぁ、助かったぜ。よろしく頼むよ、兄ちゃん」

 

 甲板に出る乗組員達は船を持ち上げるGXを見上げていた。その中に居る1人の男、ガロードはメインカメラが映すその男の事をじっと見る。

 40半ばのその男はシルバーの髪の毛、体付きも良く鋭い眼光を持っていた。白い帽子を被っている事からこの船の船長であると伺える。

 

「オイ、兄ちゃん? 動きが止まってんぞ」

 

「あぁ、悪い。すぐに運ぶ」

 

 船をなるべく揺らさないようにGXを動かすガロードはフリーデンに帰艦する。開放されたハッチからモビルスーツデッキに滑り込み、脚部を着地させて片膝を着く。繊細に操縦桿を動かしてマニピュレーターの漁船を同じくモビルスーツデッキの床に下ろしてあげた。

 軽く船体が揺れるが降ろされたのを確認すると乗組員はデッキに上がって来る。人数は4人、その中の船長である男はGXに向かって手を上げて大声で話す。

 

「ありがとうよ、兄ちゃん。もう1つ悪いんだけどよ、デッキから降ろしてくれるか?」

 

「本当に悪いんだけどそれはできない」

 

「ナニ、どう言う事だ?」

 

 船長が言うよりも早くGXのビームマシンガンの銃口が4人を狙う。突然の事に背中から冷たい汗が流れる。

 

「お、オイ! 無茶苦茶だぜ、兄ちゃんよぉ。ここの艦長さんは敵対しないって言ってたぜ。それは嘘だったのか?」

 

「アンタが敵じゃないならこんな事はしないよ。でもオッサン達は敵なんだろ? 艦の中で暴れられたら面倒だしな」

 

「オイオイ、何を証拠に敵だなんて決め付ける? 俺達は只の漁師だぜ」

 

「だったら船の中には魚しか入ってないよな? 今から軽く調べる、それが終わるまではデッキで大人しくしてろ」

 

 ガロードが言うと銃を携帯したアムロとロアビィがリフトを使って漁船のデッキに降りる。セーフティを解除した銃を突き付けながらアムロは船長と接触した。

 

「アナタがこの船の船長だな。俺はフリーデンのアムロ・レイだ。さっき言った通り、船中を調べさせて貰う」

 

「本気かい? あぁ、わかった。やれ、やってくれ。そうすれば気が済むんだろ?」

 

「助かる。ロアビィ、頼めるか?」

 

「了解、こっちとしては只の船乗りだと嬉しいんだけどね」

 

 軽口を叩きながらもロアビィは船内へと入って行く。使い古された船からは潮と魚のニオイがこびり付いている。悪臭を我慢しながらも進んだ先にはライフルや弾薬が大量に置かれていた。そして魚を貯蔵する冷凍庫には大量の爆薬が詰め込まれている。

 その物々しさにロアビィは口笛を吹く。

 

「ヒュ~、コイツは凄いねぇ。冷凍グレネードか、どうやって3枚に卸せば良い? 試しにやってくんない?」

 

「ッ!? どうして気が付いた?」

 

「運が悪かった、としか言い様がないね。ホラホラ、両手を上げて両膝を床に」

 

(これがニュータイプの能力か。俺とした事が侮っていたようだ。だが、全く対策してない訳ではない。この程度の窮地など何度も潜り抜けて来た。舐めるなよ)

 

 ロアビィに銃を突き付けられて、4人はデッキで言われたように両手を上げる。膝も床に付ける事で完全に隙を晒す。彼らの後ろに回り込むアムロは腕に手錠を掛けようとする。

 

「武器を持って侵入して来た以上、それ相応の扱いはさせて貰う」

 

「あぁ、そうだな。そりゃそうだ。だがよ兄ちゃん、こう言う事する人間はそれ相応の覚悟ってモンを持ってる。覚えておけ!」

 

 瞬間、男はズボンのポケットに手を伸ばし隠してあったフラッシュグレネードを叩き付ける。耐え難い光がアムロを襲い、視界は白い闇に覆われてしまう。その隙を狙って4人は立ち上がりデッキの上から駈け出した。

 

「しまった!? 逃げるつもりか?」

 

「任務は遂行させて貰う」

 

 逃げ出す4人の乗組員だが、待機していたロアビィはそうはさせまいと銃を構えトリガーを引いた。銃声が響き渡る。発射される弾丸、逃げ出す男の1人を捕らえ更に銃声が響く。

 ロアビィの狙いは正確で後頭部を撃ち抜かれた2人の男は線が切れた人形のように倒れ込んだ。

 

「クソッ、2人逃がした! アムロ、生きてる?」

 

「あぁ、何ともない。助かった。侵入者を追うぞ」

 

「了解、白兵戦か……」

 

 逃げる2人は船内からライフルを持ち出すとフリーデンのモビルスーツデッキに飛び降りた。2メートルはある高さだが着地と同時に前転する事で衝撃を逃がす。

 

「隊長、ションとネクタが殺られました」

 

「わかっている。だが振り向いてる時間なんてない。やる事はわかってるな?」

 

「ニュータイプの少女を捕まえる、ブリッジで合流しましょう」

 

「抜かるなよ」

 

 通路に向かって走る2人は確立を上げる為に別れて行動した。部下の男はライフルを構え下へと進む。けれども居住スペースがあるだけで目的の人物は見当たらない。

 

「どうする? 追手か来る前に隊長と合流できるか? いいや、進むしかない!」

 

 任務を遂行を優先して男は更に走る。そうして走った先、辿り着いた先に居たのは牢屋に閉じ込められた赤毛の女だ。銃口を向ける男だが事前に知らされた人物とは別人。

 

「チッ、あの女はどこだ? やはり隊長が向かった先か」

 

「アンタ、フリーデンの人間じゃない。侵入者?」

 

「なんだ? 関係ない人間は黙ってろ。それとも撃ち殺されたいか?」

 

 赤毛の女、エニル・エルは両手をオーバーに上げると無抵抗の意思を示す。

 

「牢屋に閉じ込められてる人間を撃つ事ないでしょ?」

 

「だったら黙ってろ。次に何か喋ったら撃ち殺す」

 

 言うと男は背を向けて更に奥へ向かって進もうとする。エニルは鋭い視線で慎重に男の姿を睨むと、ベッドに隠してあった銃を引き抜きトリガーを引いた。

 頭から赤黒い血を流して男は力なく倒れ、空薬莢が音と立てて落ちる。

 

「なんか、ヤバイ感じ?」

 

 もう1人の男は上を目指して走った。途中で妨害に来るフリーデンのクルーは容赦なくライフルで撃つ。銃撃戦の轟音が艦内に響き渡り、火薬と血の匂いが溢れてくる。

 

「状況は厄介だが、こんな所で足止めを食うつもりはない。あの女……ティファ・アディールさえ捕まえれば」

 

「居たぞ、コッチだ!」

 

「チィッ! 急ぐか!」

 

 ライフルの銃声は尚も響く。銃撃戦の中を男は姿勢を低くしながら走る。傷付くのを恐れず、恐怖は既に克服した。フリーデンのクルー数人は血を流して倒れている。

 15年以上前の戦争時からの叩き上げである彼にとって白兵戦の経験は誰よりも長い。戦場のニオイを嗅ぎ分け、与えられた任務を遂行する。進んだ先にある1つの部屋、彼はライフルのトリガーを引きドアノブを壊し、そして間髪入れずドアを蹴破った。

 

「へへ、長年の経験ってモンは役に立つな。死にたくなかったら手を上げろ。そうすれば悪いようにはしねぇよ」

 

 ライフルの前に立つのは1人の少女、ニュータイプのティファ・アディール。けれども彼女は命乞いする所か動揺すらもせず、目の前の男に向かって1歩前に出る。

 

「アナタが来るのはわかっていました」

 

「ほぅ、だったらどうしてここに居る? わかってたのなら逃げるなりなんなりすれば良いだろ?」

 

「アナタは優しい人だから。心から伝わって来ます」

 

「優しい人……か。死んだ女房の口癖だ。でもな嬢ちゃん、俺だって後には引けねぇんだ。人質にはなって貰うぜ」

 

「アナタの名前は?」

 

「良いよ、言ってやるよ。俺はカトック・アルザミールだ。わかったら付いて来い」

 

 男の指示にティファは素直に従った。背中にライフルを突き付けられながら、男の人質としてゆっくりと進む。そんな状況でもティファはカトックに話し掛ける。

 

「アナタは心の時間が止まってる。15年前からずっと」

 

「ニュータイプってのは心まで覗けるのかい? だとすれば、それはやり過ぎだな。土足で心の中に踏み込まれるのは誰だって不愉快だ」

 

「このまま続けていてもアナタは何も変われない。変わろうとしない」

 

「良い事を教えてやる。嬢ちゃん、人生は何事も経験だ。俺もこの世に生まれてもう40年が過ぎた。だから人間ってモンを少しは理解してる。その経験が人格を形成するし、考えを身に付けさせる。俺はな、学がねぇから軍人なんて職を選んだがそれもまた1つの経験だ。25年、長かった。でもな、そのお陰でわかる!」

 

 カトックは殺気をみなぎらせ素早く後ろに振り返った。そこに居たのはナイフを構えるガロードの姿。鋭利な先端を首筋目掛けて突き刺すが、カトックは皮膚に刃が届くよりも早くライフルを盾にした。鉄で作られたライフルにナイフは僅かなキズを付ける事しかできない。

 

「クッ!? バレてたか」

 

「甘いぜ、兄ちゃんッ!」

 

 ナイフを弾き飛ばし、そのままガロードの側頭部を殴り付ける。衝撃に体は吹き飛ばされ、皮膚は裂けて血が流れ出した。間髪入れずライフルを構えトリガーに指を掛けるが、ティファは前に飛び出すと倒れるガロードに覆い被さる。

 

「止めて!」

 

「ティ……ティファ、逃げるんだ」

 

「フフッ、その程度で俺を殺そうなんざ甘いぜ兄ちゃん。だが安心しろ、そこの女の子は殺さねぇよ。それが任務だからな」

 

「どうだか、そんな事言う奴なんて数え切れないくらい見て来た。それに敵のアンタを信じろって言うのか? 嘘を言ってない保証がどこにある?」

 

「嘘、嘘か。そうだよな、信じれる筈もないか。俺はなぁボウズ、こう見えてタバコは吸わないんだ。酒だって仲間内で集まった時だけ、娘の誕生日にはちゃんと休暇を取ったもんだ。でもそんな俺でも1つだけ悪い部分があるんだ。どこだかわかるか?」

 

「さぁね、知らないよ」

 

「俺は嘘つきだって事さ。何回言われたか数えるのも嫌になるくらい言われた。アンタはどうしようもない嘘つきだって」

 

 

 

第16話 死んだ女房の口癖だ

 

 

 

 痛みに耐えるガロードはティファに支えられながら立ち上がる。その間もカトックが構える銃口はガロードを狙う。

 

「さて、ブリッジまで案内して貰うぞ。この艦の進路を変更してゾンダーエプタ―に向え」

 

「ゾンダーエプタ―だって?」

 

「そうだ、そこに到着したら殺してやるよボウズ。まぁ、今すぐ死にたいなら反抗しても良いがな。」

 

「クッ! わかったよ」

 

 すぐ傍にティファが居る状態で歯向かう事はできない。ガロードとティファはカトックに言われたようにブリッジに向かって歩き出した。




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第17話

 ブリッジにまで来たカトックはティファを人質にする事でその場を占拠する事に成功する。それはフリーデンを配下にして自由に動かせると言う事。

 艦長シートに座りながら左腕にはティファの小柄な体を抱えて右手にはライフルのトリガーを握る。

 サラ、トニヤ、シンゴはカトックの指示通りにフリーデンを動かすしかなく、ジャミルとガロードもティファを前にしては抵抗する事ができない。

 シートの上でふんぞり返るカトックは意気揚々としながらもブリッジの空気は一触即発でピリピリとしている。

 

「座り心地も良いじゃねぇか。快適な船旅になりそうだ」

 

「ゾンダーエプタ―、その島に何がある? 我々を連れて行く事に何の意味がある?」

 

「そんなのはお偉いさんに聞いてくれ。俺は命令されてやってるに過ぎない。ニュータイプの少女を捕まえる。その次はこの艦の奪取だ」

 

「お前はニュータイプの事を知ってるのか?」

 

「あぁ、知ってるぜぇ。ニュータイプの事だけでなくアンタの事もな」

 

「私の?」

 

「嬢ちゃんから聞いた、アンタの名前はジャミル・ニート。まさかよ、こんな所で出会えるだなんて思ってもみなかったよ。15年前、旧連邦でガンダムに乗ってたパイロット。そして、あの悲劇を起こした張本人」

 

 あの悲劇、地球へのコロニー落としへの引き金を引いたのは他でもないジャミルだった。目の前に迫る敵の大群、奪取された幾つものコロニー。

 当時でも高性能のガンダムとビットモビルスーツを10代にして任せられ数々の戦果を上げたジャミルだが、1人の少年に任せるには余りにも荷が重い。そして耐え切れず、ジャミルはサテライトキャノンのトリガーを引いてしまった。

 けれどもカトックの言う悲劇はそれではない。

 

「地球へのコロニー落とし……今更言い訳をするつもりはない。アレは自分の若さが招いた過ちだ」

 

「ほぅ、だったら知ってるか? あのコロニーは宇宙革命軍が連邦から奪取したコロニーだ。アンタは守るべき仲間を、領土を、国民を撃ったんだ。その事は自覚してるのか?」

 

「それもわかっている。私は――」

 

「お前は何人の人間を殺して来たのかわかっているのかッ! 敵だけじゃない、味方も、仲間も、家族も。その全てが殺された! たった1発の……お前の引き金が地球を地獄へと変えた! それに、あのコロニーには娘と女房が居たんだ! お前が殺した、お前のせいで死んだんだッ!」

 

 カトックの怒号が飛ぶ。眉間にシワを寄せ、殺意をみなぎらせジャミルの事を睨む。

 今にも人質にしているティファの事を撃ち殺す勢いだが、ギリギリの所でそれは守られている。カトックの殺意を、憎悪を、決して消えない悲しみを感じ、ティファは怯えるのではなく彼を理解しようと試みた。

 けれどもガロードはカトックの言い分に同調する事などできない。

 

「それでオッサンはまだこんな事を続けてるのかよ?」

 

「ナニィ?」

 

「15年前のコロニー落としのせいで、俺はずっと死ぬ思いをして来た。怖かったよ、今でも思い出せば恐怖が蘇って来そうだ。家族も友達も、名前も知らない隣の人も、地獄みたいな環境のせいでみんな死んで行った。でもな、悲しいからって、怖いからって、その場で立ち止まる事なんてできないんだ! 俺はな、オッサンとは違う!」

 

「知った風な口を聞くなッ! 只の小僧が!」

 

「うるさい! 俺はお前とは違う! 絶望に立ち止まってるお前とは違う!」

 

「黙れッ!」

 

 激昂したカトックは右手のライフルをガロードへ向けるとそのままトリガーを引いた。

 

 

 

第17話 かつて、戦争があった

 

 

 

 増えすぎた人工を宇宙に移民して幾年もの時間が経過した。宇宙に浮かぶ人類の新たな居住地、スペースコロニー。人工的に作られたその地で人々は子を産み、育て、そして死んでいった。

 この時代、既に国家と言う概念はなく地球連邦と言う1つの組織としてまとめられている。地球連邦はスペースコロニーを管理、運営し、地球をより良く住みやすい環境にしようと働いていた。

 けれどもそれも順風満帆とはいかない。あるスペースコロニーが独立を訴え、地球連邦と戦争を始めたからだ。彼らは自らを宇宙革命軍と名乗り、地球連邦軍と長きに渡る戦争を繰り広げる。

 地球連邦軍に所属するカトック・アルザミールは、束の間の休暇を我が家で味わっていた。

 

「アンタ、またどっかで無駄遣いしたろ?」

 

「無駄じゃねぇよ、必要だったんだ」

 

「へぇ、詳しく説明して貰おうじゃない。どうせくだらない理由なんでしょ」

 

 その歳で30歳になるカトックはようやく買えた一戸建てリビングのソファーに座るカトックは妻であるノーラに問い詰められていた。

 ノーラは肩まで伸びる茶色の髪の毛をリボンで1つにまとめて、黄色のエプロンを身に付け目を吊り上げてカトックを睨む。

 けれどもカトックも慣れたモノで、口喧しい彼女に笑みを浮かべてあしらおうとする。

 

「ノーラ、男ってのは建前で生きてるんだ。俺だって部下を持つくらいには役職は上がってるんだぜ? 男の威厳ってモノを見せないとならない」

 

「だから朝まで店でどんちゃん騒ぎか。それはまだ良いよ、生活費まで使い込むなんて大層な理由だね」

 

「だから、あの時は必要だったんだ」

 

「良く言うよ」

 

 呆れるノーラは口から大きく息を吐くとテーブルのリモコンを手に取りテレビに向けて電源を入れた。モニターに映る映像には男のアナウンサーが原稿を読み上げている。

 

『地球連邦軍の部隊は宇宙革命軍の侵攻作戦の迎撃に成功しました。これによりコロニー間の治安維持にも――』

 

「この戦争も随分と長いね。もうすぐ1年か」

 

「いいや、敵軍はもう疲弊してる。もうそんなに長くはない」

 

「とは言っても安心はできないだろ? アンタも死ぬんじゃないよ」

 

「おぉ、心配してくれるのか?」

 

「アンタが死んだら誰がこの家のローン払うんだよ? あの子だってもうすぐ小学校に入るんだ。稼ぎ頭が居なくなると困るよ」

 

「たはぁ! 手厳しい事で」

 

 長く続いた地球連邦軍と宇宙革命軍との戦争も終わりが見え始めていた。宇宙を拠点とする宇宙革命軍だが、物資の枯渇が目に見え始め近頃は連戦連敗を繰り返している。領土も奪われ、これ以上の戦争の継続は困難だ。ここまま戦って地球連邦に勝つ事はできない。

 それでも駒として扱われる兵士はいつ死んでもおかしくなく、カトックは前線で白兵戦の指揮を取る立場。もっとも危険が付き纏い、ノーラが心配するのも無理はなかった。

 

「明日にはまた出るんだろ? 頼んだよ」

 

「おう、任されて。お前も家の事は頼んだぞ」

 

「カトック……」

 

 2人は自然と抱き合うと互いの体温を直に感じる。伝わる鼓動、束の間ではあるが心が安らいだ。

 この18時間後に、、宇宙革命軍はコロニー内部に毒ガスを散布して地球連邦軍のスペースコロニーを奪取する。

 

///

 

 目の前に迫る敵の大群、カトックはノーマルスーツを身に纏い味方の艦の中で状況を見守るしかなかった。待機室では戦闘に備えて部下の1人もモニターで戦況を覗いている。

 

「どうなると思います? アイツラ、コロニーまで担いで来ましたよ。本気で地球に落とすつもりか?」

 

「まさか、脅しだよ。逆に考えれば、いよいよここまでしないといけないくらい宇宙革命軍は弱ってる。この戦争ももうすぐで終わる」

 

「それは……そうかもしれませんが……」

 

「数えただけでもコロニーはどれだけある? あれだけの数を地球に落とせば、もはや戦争をしてる意味が失くなる。帰る場所が失くなっちまうんだからな。相手だってそこまで馬鹿じゃねぇよ」

 

 楽観視するカトックだが、地球連邦軍上層部はそうではなかった。彼らは目の前に迫るスペースコロニーが自軍のモノであると確認が取れている。そして追い込まれつつある宇宙革命軍の立場。

 今は緊張状態を保ちつつあるが何かの拍子に本当に落とすとも限らない。それに落とした所でそのスペースコロニーは地球連邦軍のモノ、彼らに痛みは伴わない。

 この状況を打破する為に、地球連邦軍は決戦兵器ガンダムを用意した。そのパイロットはニュータイプと呼ばれ、数々の戦果を上げて若干15歳にしてエースパイロットである。

 その彼の名はジャミル・ニート。

 

「まさか……相手は本気なのか? こんなモノが落とされたら!?」

 

『ジャミル、聞こえているな? フラッシュシステムの許可が下りた。Gビットを起動させ、サテライトキャノンで相手を威嚇しろ。威力は相手だって充分知っている。下手に動く事はできなくなる』

 

「り、了解!」

 

 目を閉じて集中するジャミルは精神波を飛ばし、艦のモビルスーツデッキで待機させてあるビットモビルスーツを起動させる。一斉に動き出すビットモビルスーツ。

 脚部をカタパルトに固定させて順次発進する機体。それらはジャミルの操縦するガンダムへ集結し、いつでも攻撃できるように編隊を組む。

 

「遮蔽物ナシ、サテライトキャノン展開。マイクロウェーブ照射」

 

 操縦桿のガジェットを親指で押し込みセーフティーを解除する。月のマイクロウェーブ送信装置がガンダムからの反応をキャッチして、サテライトキャノンを照射するのに必要なエネルギーを送り込む。

 ガンダムの胸部に送り込まれるマイクロウェーブ、瞬時に充填されるエネルギー。リフレクターを展開し砲身を構えるガンダムは、迫り来るコロニー群に照準を合わせる。 それに同調し、ビットモビルスーツもエネルギーを充填するとリフレクターを展開、サテライトキャノンを構えた。

 

「エネルギー充填完了。でも……来るのか?」

 

 いつでも発射できるようトリガーに指を掛けるジャミル、けれども発射の許可は降りてない。両軍とも威嚇をしてる状態。サテライトキャノンを一斉射撃されればどうなるかは容易いし、地球にコロニーが落とされればどうなるのかも皆が想像できる。

 けれどもジャミルには、他の人間とは違うモノが見えていた。

 この戦場に漂う殺意、そして恐怖。

 

(本気なのか? 本気で地球にコロニーを落とすのか? もしそうなら、阻止防衛ラインはもうすぐそこだ。これだけのGビットとガンダムでも1発では全てを破壊できない。再充填の時間を考えればここで撃たないと……)

 

 ニュータイプのジャミルは戦場に渦巻く人々の感情を感じていた。それは敵だけてはなく味方も、そして毒ガスにより殺された民間人の残留思念。

 体が震える、汗が出る、息が荒くなる。

 恐怖も悲しみも全てがごちゃ混ぜにされて、耐え切れなくなったジャミルは引き金を引いてしまった。

 充填されたエネルギーを機体を通じてサテライトキャノンから発射される。それもビットモビルスーツも同時にだ。全てを破壊するとてつもないエネルギーの矢がスペースコロニーに目掛けて撃たれる。

 その光景をカトックは艦内のモニターで見ていた。

 

「撃ったのか、サテライトキャノンを!?」

 

 発射されるビームはコロニーを次々に撃ち抜き、破壊していく。バラバラに壊れていくコロニー。けれどもその一撃は宇宙革命軍にとって後には引けない一撃。このまま後退したのでは大打撃を受けただけ。もはや後退すると言う選択肢はなかった。

 ガンダムからの一撃を受けて宇宙革命軍は遂に攻撃を開始する。全部隊が攻撃に打って出て、残りのスペースコロニーの推進剤も点火させ地球に目掛けて落とす。

 

「遂にやりやがった……。おい、ここから動くぞ」

 

「動いてどうするんですか!? モビルスーツが攻めて来たら俺達なんて……」

 

「動かなかったら無駄死にするだけだ。死にたくなかったら兎に角――」

 

 ビームの1発が乗っていた艦に直撃する。大きく艦体が揺れると同時に直撃した箇所から空気が漏れ、2人は踏ん張る事もできずに外に投げ出された。

 

「うおおおぉぉぉッ!」

 

「た、隊長!?」

 

「エアーで姿勢制御だ! 宇宙で溺れたら死ぬぞ!」

 

 腰部のエアー噴射装置に手を伸ばすカトックは衝撃に振り回されれる体をなんとか制御して溺れるのは避ける。部下である男も振り回される体を何とかしようと腰に手を伸ばすが、次の瞬間にはビームに飲み込まれた。髪の毛1本とてこの世に残らず、男の存在は消え去る。そして損傷した艦も爆発を始め、クルーが逃げる時間もなく原型が崩れていった。

 

「チィッ! 俺だけ生き残っちまった。どこかで味方と合流を」

 

 生き残る為に周囲を見渡し体を動かす。だがそこで、ヘルメット越しにカトックが見たのは地球へと進むスペースコロニー。そして不幸にも気が付いてしまった。

 

「こいつぁ……連邦のコロニーじゃねぇか!? あいつらまさか……まさか!?」

 

 カトックか住む17番地コロニー、それは連邦の管轄下にある。コロニーの外壁に大きくペイントされた文字、カトックは地球に落とされようとしているコロニーがソレだと気が付いてしまう。

 そしてコロニーの先にはサテライトキャノンを発射するガンダムとビットモビルスーツの姿。

 

「止めろ、撃つなぁぁぁッ!」

 

 カトックの叫びは誰にも届く事はない。彼の前でコロニーは次々と撃ち落されていく。あふれ出る感情、思い起こすのは娘と妻。

 彼の心は宇宙の闇に蝕まれるように、怒りと悲しみにまた大声で叫んだ。

 

「うおおおぉぉぉぁぁぁッ!」

 

 ///

 

 泥沼と化す戦場、もはや勝ち負けなどと言う概念はなくなっていた。生き残る為の目の前の敵を倒す。そうする事でしかこの地獄からは生還する事はできない。

 ガンダムに搭乗するジャミルも目の前に現れる敵と戦っていた。相手は今までにも何度となく戦って来た相手、ニュータイプのランスロー・ダーウェル。

 

「この感覚はランスローか!?」

 

「見つけたぞ、ジャミル・ニート! 今日こそ貴様と決着を付ける!」

 

「新型だからって!」

 

 ランスローの機体は見た事もない新型だ。脚部が付いておらず、下半身が紡錘形のような特異な形状をしており、そこに設置された大型バーニアで高い機動力を駆使しながら指先に内蔵されたビーム砲を主武装として戦う。

 互いに相手の動きを先読みしてビームを放つ。ジェネレーターと直結されたランスローの機体は威力が高く、左腕にビームの1本が刺さると爆発して持って行った。

 

「ランスロー!」

 

「ジャミル!」

 

 更にトリガーを引くランスローは姿勢を崩すガンダムに追い込みを掛ける。両手のビーム砲で一斉にビームを放つも、敵意を感じ取るジャミルは操縦桿を巧みに動かして攻撃を回避しようとした。

 それでも、相手は何度も戦って来た宿敵。ビームの1発はガンダムの頭部に直撃したが、ジャミルもビームライフルのトリガーを引いていた。発射されるビームはランスローの機体胸部に直撃し、エンジンの爆発が機体を飲み込んでいく。

 だが頭部だけが独立して動きバーニアで加速するとギリギリの所で爆発から脱出した。

 

「ジャミル! クッ、これ以上は戦えんか」

 

 ランスローは頭部だけになった機体で味方と合流すべく戦域から離れていく。一方、ジャミルのガンダムは頭部を破壊されて宇宙空間を彷徨っていた。

 

「サブカメラも……ダメか。ランスローのプレッシャーは感じられない、味方はどうなった?」

 

 コンソールパネルを叩きハッチを開放させるジャミルはシートから立ち上がるとコクピットから出た。

 そして彼の目に映るモノは、宇宙に漂う味方のモビルスーツでもなければ爆散する艦隊でもない。地球へと落下する無数のスペースコロニー。

 

「あぁ……あああぁぁぁ!? 地球が……燃えてる……」

 

 紅蓮の炎に包まれる蒼い水の星。大陸は形を変え、本来ならある筈もないクレーターが無数に作られる。

 人々は逃げる事もできず鉄塊に押し潰され、灼熱の業火に骨まで燃やされ、荒れ狂う海の波に飲み込まれていった。

 そして漂う残留思念。

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!」

 

///

 

 無数のスペースコロニーが落下し、地球の環境は劇的に変化した。黒い雲は日光を完全に遮断して、下がる気温は気候を冬へと変える。1日中吹雪が襲い、何とか生き残る事ができた人間も寒さに凍え死ぬ。

 あの戦争が終結して7年の月日が経過してもそれは変わらない。

 シェルターも破壊されて、命からがら防空壕に逃げ込んだガロード・ランはそこで年月を共にするしかなかった。

 両親も死に、友人達ともバラバラになりどうなったかわからない。けれども生き残ってる可能性は限りなく低いだろう。

 

「食べるモノも少なくなって来た。外にもなかなか出られないし、大人も居ない……」

 

 防空壕に逃げ込んで来た人間の数も日に日に減っている。寒さで凍え死ぬモノ、食糧難に餓死するモノ。

 それでも自ら命を絶つなどと言う選択肢は選べない。幼い少年はこのような状況でも生きる事を選択した。その為にできる事をやるだけ。

 

「ガロード、どうかしたの?」

 

「おばちゃん……何でもない。食べられるパンも減って来たなって」

 

「そうだね、水も食料も切り詰めながら生活してもコレが精一杯。日の光もいつになったら見れるやら」

 

「俺、やっぱり外で探して来る。このまま餓死するなんて嫌だからな!」

 

「止めなさい、外に出るなんて」

 

「でも!」

 

 外に出ようとするガロードを引き留める老人。彼女は懐に手を伸ばすと何かを取り出した。手に握るのはわずかばかりの干し肉と豆。

 

「コレをお食べ」

 

「え……良いの?」

 

「少ないけれどね。でももし、もしも吹雪が止んで日の光が見えるようになったら、その豆を地面に撒いてくれないか?」

 

「豆を?」

 

「この荒れ果てた地面でも、もしかしたら花を咲かすかもしれない。それを見てみたい」

 

「わかった。でもおばちゃん、もしもなんて言うなよ。いつになるかわからないけど一緒に見よう!」

 

「あぁ、そうだね……」

 

 無邪気なガロードの笑顔に癒される老人は冷たい地面へとゆっくり座る。渡された干し肉をガロードは口の中で噛み締め、数日ぶりに食料を口にした。量が少なかった事もあり食べ終わるのに時間は掛からない。

 

「肉なんて久しぶりだ! おばちゃん、ありがと。うまかった! おばちゃん?」

 

 ガロードの声にさっきまで返事をしていた老人はピクリとも動かない。目を閉じて、静かに眠るだけ。つい数分前まで会話をしていた人が死んだ。それも突然に。

 彼にも、誰にもどうする事もできなかった。この過酷な環境で彼女はガロードに看取られる。氷のように冷たい体はもう動かない。

 

「おばちゃん……おばちゃん! うぅっ……うあああぁぁぁッ!」

 

///

 

ライフルの弾丸はパネルに直撃するだけでガロードの体には当たらなかった。そして3人は確かに見た。それぞれの過去を。

 

「何だったんだ……今のは?」

 

 カトックは思わず声にすると人質にしているティファを見た。

 

「この嬢ちゃんの仕業か?」

 

 ティファのニュータイプ能力を通じて互いの過去を覗いた。けれどもそれだけで、相手の事を理解できる程人間は簡単ではない。

 

「オッサン、あんたは……」

 

「何が言いたい? ボウズにどうこう言われる程俺は落ちぶれちゃいない!」

 

「違う、俺は!」

 

「黙れ! お前、自分の立場をわかってるのか? お前らはこのまま本部に引き渡す。それが俺の任務だ。おっと、言ってればお迎えが来たみたいだぜ」

 

 そう言うカトックが向く先から数隻の艦隊がやって来た。モビルスーツも多く所持しており、抵抗した所で勝ち目はない。今はカトックの指示に従って動くしかなかった。

 

「さて、なら来て貰おうか。ゾンダーエプターに。それから艦長、アンタはアソコで出会う事になる」

 

「出会う?」

 

「そうだ、15年前の悪夢にな」




たぶん次でこの章も終わりです。
ご意見、ご感想お待ちしております。


あと、感想はどんなモノを書かれてもちゃんと返事をしますが規約違反はしないようにして下さい。僕は良いのですが運営の人は困るので。
後になって感想が削除されてても書いた人が嫌な気分になるのではないかと。


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第18話

 ゾンダーエプタ―へと到着するフリーデン。全方位からモビルスーツに銃口を向けられて、抵抗したその瞬間一斉攻撃で沈められる。艦内のクルーも武装解除を余儀なくされ、ガロード達は人工島ゾンダーエプタ―に足を踏み入れた。

 港に着けば武装した兵士が大勢出迎えてくれる。クルー達は両手を上げて彼らの指示に従い動くしかなかった。ブリッジのジャミルも無抵抗のままにカトックと共に港へ降り、乗組員全員が一箇所に集められる。

 その中でアムロは人の隙間を縫いながら合流したジャミルの隣へと行く。

 

「すまない、何もできなかった」

 

「無理もない。こちらもティファを人質に取られどうにもできなかった。相手の思惑通りに動かされた」

 

「だがコイツラの目的はティファだけか? どうして俺達まで連れて来る」

 

「他にもあるガンダムが目的とも取れるが……。それにあの男が言っていた事も気になる」

 

「あの男?」

 

「15年前の亡霊、どう言う意味だ?」

 

 サングラス越しにカトックを睨むジャミルだが相手は意にも変えざすニンマリと笑みを浮かべるだけ。

 ティファがそのまま連れて行かれるのを指を咥えて見てるしかできない。

 ジャミルもアムロも、そしてガロードも。

 彼女の背中が遠く手の届かない所にまで行ってしまう。次第に小さくなっていくその姿をガロードは目に焼き付けた。

 

(ティファ、必ず助ける。それまで待っててくれ)

 

 ガロードの心がティファに伝わったかどうかはわからないが、彼女は最後にちらりと後ろに振り返る。その瞳から伝わる感情は恐怖よりも悲しみが伝わった。

 けれどもそれも一瞬、カトックに急かされティファは彼らの見えない所に行ってしまう。それと入れ違いにフリーデンのクルー達が集まる所へ2人の男がやって来た。1人は全員が知るあの男。

 

「久しぶりだね、ガロード・ラン。ゾンダーエプタ―にようこそ」

 

「お前……オルバ!」

 

「また会えて嬉しいよ」

 

「よくそんな事が言えるもんだな」

 

「まぁ、そんなに怒らないで。今日は兄さんも居るんだ。それとジャミル・ニート、アナタもこちらへ来て貰う」

 

 黒い制服とブーツを身に纏うオルバ、そしてその隣には兄であるシャギア・フロストが居た。圧倒的優位な立場に居る事もあるが、彼らは前回ガロードと接触した時のように余裕の表情を浮かべている。

 言われたジャミルは前に出るとオルバに銃を突き付けられ、そのままティファが向かう先へと連れ出されてしまう。

 残るシャギアはガロードを見下ろすと久しぶりの再開に口を開く。

 

「ここまで生き残ってるようで何よりだ。ガロード、君は私達兄弟の宿敵なのだから」

 

「お前らが勝手に決めただけだろ! それより、こんな所で今度は何を企んでるんだ?」

 

「ペラペラとここで喋ると思うか? 私はね、君にもそうだがもう1人のパイロットにも興味があるんだ。オルタネイティブ社で戦ったもう1機のガンダム。そのパイロットだ。名前は前に教えてくれたね? たしか……アムロ・レイ」

 

 シャギアの鋭い視線が、プレッシャーがアムロに突き刺さる。だがアムロも長い戦争を潜り抜けて来た歴戦のパイロット、このくらいで動じたりはしない。プレッシャーを跳ね除け、現れたシャギアの元へ向き直る。

 

「俺に用があるのか?」

 

「あるとも。私はモビルスーツ戦で今までに負けた事がない。だが貴様の白いガンダム、私はあのガンダムに初めて負けた」

 

「たったそれだけの事で?」

 

「貴様にはわからずとも私達には意味がある。フフッ、その時が来るのを楽しみに待っている」

 

 不敵な笑みを浮かべるシャギアとオルバは言いたい事だけを言うとその場から立ち去ってしまう。短い会話の中でアムロはシャギアから伝わって来るドス黒い感覚を感じる。

 

「あの男がシャギア・フロストか……」

 

 フリーデンも、モビルスーツも、武器も、ティファさえも奪われアムロ達に抵抗する術は残されてない。

 今はまだ。

 

///

 

 カトックはティファを人質としてアイムザットが待つ部屋にまで連行している。鉄製の壁や天井に囲まれた通路を歩きながら、ティファはちらりとカトックを見る。

 

「安心しろ、殺しはしねぇよ。まぁ、そうは言ってもお嬢ちゃんくらいの年頃の子にそんな事言っても無理か。俺だって銃を突き付けるつもりなんて本当はねぇ。でもこれが仕事なモンでね」

 

「アナタは……」

 

「あん?」

 

「アナタは前に進まなければダメになる。ガロードも言ってた。絶望に立ち止まっていてはいけないって」

 

「ふふふッ……」

 

 ティファの言葉に思わず笑みをこぼす。心のどこかでは気が付いていた。けれどもそれを踏み越えて行ける程カトックも強くはない。

 歩みを止める事で何とか精神を維持できていた。そうする事でしか家族が死んだ悲しみを癒やす事ができない。

 いや、正確には癒やしていたのではなかった。ガロードの言う通り只立ち止まっていただけ。

 

「それはニュータイプだからわかったのか?」

 

「あの時……微かだけれどアナタの心を見てしまいました。ガロードとジャミルも同じ」

 

「そうか……15年前の戦争のせいで苦しんだのは俺だけじゃないってか? そんな事頭ではわかってる。でもな、簡単に整理できる程人間の心ってのは便利じゃねぇ。心の底、俺の中の芯の部分が、あの戦争を忘れられないんだ。今でも家族の夢を見る」

 

「忘れる必要はありません。でも乗り越える必要はあります。みんな今を必死に生きてる。だからアナタも生きて下さい。死に場所を求めて生きるなんて悲しすぎます」

 

「かもしれないな。だが、俺には無理だよ」

 

 カトックに背中から銃を突き付けられながら進むティファはある1室に招かれる。その部屋は広く、内装もきらびやかだ。床には赤い絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られている。目の前に映るのはテーブルに彩色の施された食器と温かい料理。

 その先に居るのはゾンダーエプタ―の司令官、アイムザット・カートラル。

 

「キミがニュータイプのティファ・アディールか、良く来た。カトック、お前の経歴から見れば今回の作戦成功は称賛に値する」

 

「お褒めに預かり光栄です、大佐」

 

 上官を目の前にしてもカトックの態度はいつもと変わらずニヤニヤと笑みを浮かべてふてぶてしい。

 アイムザットはそんな彼に不快感を覚えながらも、ようやく手に入れる事ができたニュータイプに心躍らせた。

 彼が思い描く計画を実行に移すにはどうしてもニュータイプと呼ばれる存在が必要不可欠。

 

「まぁ良い、これで準備は整った。新連邦と渡り合えるだけの戦力、新たなガンダム、そして象徴であるニュータイプ。この力があればブラッドマン卿も迂闊にては出せない。私の立場も確約されたも同然だ」

 

「ほぅ、クーデターでも起こす気ですか?」

 

「違うな、新連邦と対立した所でさほどメリットはない。戦えば戦力は疲弊する、そうなれば地球圏の統治にも時間が掛かる。私は今の地位を更に上げられればそれで良い」

 

「その為にこんな手の込んだ事を?」

 

「必ず成功させる必要がある。でなければ私の存在は軍に消されるだろう。失敗は許されない」

 

「へぇ、ようやく地球にも人が住めるようになったと言うのに、アンタが目指すのは軍での立場か。こりゃ傑作だ」

 

 嫌味を込めて言うカトックにアイムザットは鋭い視線を向けるだけ。その頃になってようやく、ジャミルを連れたオルバも部屋にやって来た。

 

「アイムザット総括官、ジャミル・ニートを連行しました」

 

「ご苦労、下がれ。カトック、お前もだ」

 

「へいへい」

 

 頭を垂れるオルバは部屋から立ち去り、カトックも背を向けると出口に向かって歩き出そうとした。瞬間、ティファの表情を覗く。彼女のその表情は強張ってるようにも見える。

 

(生きる為にもがき抗う、俺がいつもして来た事だ。ニュータイプってのは未来が見えると聞いた事があるが、あの娘もそうなのか? 初めて出会った時にそう言ってたが、だとすればこれから先の事も知ってるのか?)

 

「どうしたカトック、早くしろ」

 

「いやね、こう言う話を知ってますか? ある貧乏人が金持ちの貴族にこう言った。金のある奴は苦労も知らなくて羨ましい、ってね。そしたらその貴族はなんて言ったと思います? お前なんかに金持ちの気持ちがわかってたまるか! ってね」

 

「何が言いたい?」

 

「いいえ、別に。では失礼しますよ」

 

 ようやくカトックも部屋から出て行き、残るのはアイムザットとジャミルとティファだけ。話を聞いたティファはすぐには意味が理解できずにいたが、用意された椅子に座るジャミルは解説するかのように言う。

 

「力があるモノとそれを利用しようとするモノ、どちらも同じ愚かさを秘めている」

 

「ほぅ、同じ愚かさか。私も、そしてキミも」

 

「今更自分がしてしまった事を言い訳するつもりはない。それよりも、新政府はまたニュータイプを利用しようとしてるのか?」

 

「当然だ。だがそれよりも前に私が使わさせて貰うがな」

 

「あれ程の戦争を引き起こしておきながら……あの惨劇を目の当たりにしてもまだそんな事を考えるのか?」

 

「そうだ。だがキミは違うようだな。だからニュータイプの保護を考えた。しかしだ、私とキミは根ざしてるモノは同じだ」

 

「どう言う事だ?」

 

「私もキミと同じ、あの戦争を肌で感じた。そしてあの時代を生きたモノはニュータイプの呪縛から逃れる事はできない。ならば利用するしかあるまい」

 

「それが……今までティファを狙っていた理由か?」

 

「そうだ、だが呪縛はそれだけではない。キミもだ、ジャミル・ニート」

 

「私もだと?」

 

 突然の事に驚くジャミル、アイムザットは用意されたフォークとナイフを手に取り鶏肉のソテーに手を付ける。ひと口大に切られた肉を口に運び、咀嚼する度に溢れる肉汁を味わう。

 彼が食べ終えるまでジャミルもティファも何も言えない。その事をわかっていながら、さも気付かないかのように振る舞うアイムザット。

 

「どうした、料理が冷めるぞ?」

 

「私も呪縛に囚われているとはどう言う事だ?」

 

「お前達バルチャーは名を馳せているがいつも食事にあり付ける訳でもあるまい。自慢ではないがそこらのよりも良い食材を使わせている。遠慮するな」

 

 轟音が響く、ジャミルが握り拳をテーブルに叩き付けたからだ。珍しくもジャミルは感情をあらわにして激怒している。その様子にティファは思わず目を見開くも、アイムザットは至って冷静だ。

 

「どうした? 何を怒っている? いや、焦っていると言った方が正しいか」

 

「くっ! 15年前の亡霊、呪縛とは何だ?」

 

「フフフッ、良いだろう。キミには知る権利がある。私はね、極秘裏に新型のガンダムを開発していた。サテライトシステムを搭載した新しいガンダム。だがシステムを起動させる為にはニュータイプが必要だ。その辺りはキミの方が詳しいだろう?」

 

「あぁ、そうだ。ティファはその為の?」

 

「いいや、違う。いつ捕まえられるかわからんニュータイプを待って機体の完成を先延ばしにする事はできん。そこでだ、我々はフラッシュシステムのロックを解くべくあるモノを探した」

 

「あるモノだと?」

 

「そうだ、貴様が15年前に乗っていた機体。ガンダムだ」

 

 サテライトシステムを起動させるにはニュータイプが必要不可欠。だが軍には、ニュータイプは未だに確保できておらず、彼らがニュータイプを手に入れたい理由の1つがそれだった。その中で見付けたのがティファ・アディール。

 けれどもそれまで開発をストップさせる訳にもいかず、アイムザットはあるモノを見つけ出す。それこそが、15年前にジャミルが乗っていた機体。

 最終決戦で左腕と頭部を破壊されてしまっていたが、サテライトシステムに影響はない。

 

「ガンダムだと!?」

 

「15年前、キミが使っていた機体が。それなら初期動作の為にニュータイプを用意する必要はない。システムをごっそり載せ替えたのさ。我々が開発した新しいガンダムに」

 

「そうか、15年前の亡霊とはそう言う事か」

 

「わかって貰えたかな?」

 

「そして新しいガンダムを開発したのか? あの時の過ちを繰り返すつもりか?」

 

「私はそこまで愚かではない」

 

「どの口でそんな事を言う」

 

 ジャミルに何を言われた所でアイムザットは意にも返さない。圧倒的優位な立場から来る自信と、これから成し遂げるべき作戦を前にしての高揚感。手に入れた力と目前にある地位が、彼を強気にさせる。

 

「私は過ちを繰り返したりなどしない。地球連邦の再建、そして地球圏と宇宙の統治。その為の象徴としてニュータイプを使う。そして力の象徴は新たなるガンダムだ。その名は――」

 

 

 

第18話 ガンダムダブルエックス

 

 

 

 フリーデンのクルーは一箇所に収容されていた。今は危害を加えてないが、用が失くなれば抹殺するつもりでいる。それを考えれば数カ所に別けるよりまとめておいた方が処理し易いからだ。

 ガロード達が居る場所は部屋と言うより格納庫と言った方が正しい。鉄の壁に囲まれ外へ繋がる窓の1つもない。空調装置から空気だけは送られて来るので窒息の心配はなかったが、いつまでもここに居る訳にもいかなかった。

 エアーダクトから格納庫の外を偵察に行ったガロードは、ゾンダーエプタ―の全貌を調査しに行く。そして脱出する為の経路と必要な武器、そしてフリーデンと自分達のモビルスーツの場所を掴んだ。紙に簡単な地図を書きながらガロードは皆に説明する。

 

「フリーデンとモビルスーツは別々の所に置かれてる。だから俺とロアビィ、アムロはモビルスーツデッキに。他のクルーはフリーデンに向かった方が良い」

 

「ガロードもなかなかやるなぁ」

 

 珍しく褒めるロアビィに笑みを浮かべる。

 

「でもアムロのガンダムは見当たらなかった。多分フリーデンの中だと思う。どうする?」

 

「どの道νガンダムは使えない。この基地にある機体を使うしかないな」

 

「だったらモビルスーツデッキに幾つか機体があった。見た事のない機体もあったから多分新型だと思う」

 

「ならそれを拝借するか」

 

 νガンダムもフリーデンのハンガーに固定されたまま。ドートレスも以前の戦いで損傷して戦闘できるだけの状態ではない。

 ガロードからの情報を聞いてサラ達も行動に移るべく準備を始めた。徐ろに髪の毛へ手を伸ばすと小さなスイッチを取り出す。

 

「何だそれ?」

 

「発信機になってるの。これで外のウィッツに信号を送って奇襲を掛けて貰う。そうしたらこちらも動きやすくなるでしょ?」

 

「そんなの隠してたのか!?」

 

「どんな時でも用意は周到にね。この格納庫を出て180秒、ウィッツのエアマスターが奇襲を掛ける」

 

「良し、それならさっさと――」

 

 行動に移ろうとしたガロードだが、クルー達に交じる1人の女を目にしてしまう。思わず言葉を途切れさせ彼女へと視線を向けた。そこに居るのは因縁浅からぬ相手、エニル・エル。

 

「エニル……」

 

「ガロードッ!」

 

 殺気の漲る視線、エニルは怒りをあらわにしてガロードの元にまでやって来る。その様子に思わず後ずさりしてしまうガロードだったが、彼女は何も手出ししない。

 

「今だけは見逃してやるよ」

 

「え……」

 

「流石にこんな状況でドンパチするつもりはないよ。下手したらここで殺されるかもしれないんだ。この島を脱出するまでは協力するよ」

 

「エニル……わかった!」

 

 目的を共有したガロードとエニル、フリーデンのクルーは脱出に向けて動き出す。クルーはフリーデンへ、パイロットはモビルスーツデッキに向かい自分の機体を取り戻しに行く。

 閉じ込められた格納庫の出入り口のロックを解除して皆が走りだす。

 

「モビルスーツデッキはこっちだ!」

 

「じゃあ、後で合流しましょう。キャプテンとティファの事もお願いね」

 

「了解!」

 

 クルーとパイロットで進路を別れ、ガロード達はモビルスーツ確保の為に急ぐ。けれども不自然な程に、途中の通路などで兵士を1人も目にしない。その御蔭で妨害なく目的地に向かう事ができるが、心の中に不安が募る。

 

「どう思う? どうして人っ子一人居ないんだ?」

 

「わからないけど進むしかないでしょ。どちらにしても時間になったらウィッツは仕掛けて来る」

 

「そうだ。引き返す事はできない。進むぞ」

 

 3人はとにかく進むしかなかった。そして向かった先、ガロードが偵察で見付けたモビルスーツデッキにまで来ると、その空間にあったのは自分達のモビルスーツ。

 ガンダムX、レオパルドがご丁寧にハンガーに固定されている。けれども彼らの行く手を遮るかのように、ライフルを構えたカトックの姿もあった。

 

「オッサン!? 邪魔する気か!」

 

「ボウズ、俺はまだオッサンて言われる歳じゃねぇ。それにな、カトックって名前があるんだ」

 

「何しにココに来た?」

 

「気持ちはわかるがそう邪険にするな。手伝いに来たんだ」

 

「手伝いだって? どう言う風の吹き回しだよ?」

 

 ガロード達の目の前に現れたカトックは武器を手にしてるにも関わらず攻撃して来る素振りを見せない。

 だが、自分達の艦を乗っ取りティファを人質として奪い去った相手を簡単に信用する事もできなかった。

 

「ボウズ、お前言ったよな? 絶望に立ち止まるなって。ボウズに言われてるようじゃ世話ないって思ってよ。だから今だけは手伝ってやる」

 

「本気なのか?」

 

「本気だよ。それよりも急ぐぞ。嬢ちゃんもジャミル・ニートも、もうここには居ない。アイムザットの野郎、今頃船で島から離れてる所だ」

 

「離れる? この基地を放棄したのか?」

 

「だから急ぐぞ。ボウズはモビルスーツに乗り込め!」

 

 カトックに言われてガロードはハンガーのGXに向かって走る。ロアビィもレオパルドへと乗り込み、アムロはデッキに置かれている青いモビルスーツに目を付けた。

 青い装甲、ビームライフル。空中でも自在に動けるように設置された背部スラスター。ドートレスをベースとして新たに開発された機体、バリエントのハッチを開放させてコクピットのシートに座る。

 

「操縦系はドートレスと同じか。武器もビームライフルとサーベル。ガロード、GXは問題ないな?」

 

「キッドがメンテしたままだ。快調に動くぜ」

 

「ロアビィも行けるな?」

 

「OKよ。それじゃ、反撃開始と行きますか!」

 

 意気込むロアビィは操縦桿を握り締め、ガンダムレオパルドのツインアイが輝く。ガロードのGXもエンジンを起動させて固定されたハンガーから1歩踏み出す。

 アムロも初めて乗る機体のエンジンを起動させてペダルを踏み込もうとするが、脳裏に敵からの殺意が流れて来た。

 

「これは……動けガロード! ロアビィ!」

 

「え……」

 

「何だって言うんだ!?」

 

 鋼鉄製の壁が高熱により溶かされ、高出力のビームがモビルスーツデッキ内部に襲い掛かって来た。突然の事に逃げる暇さえなく、GXは左脚部を持って行かれてしまう。

 

「ぐあああッ!」

 

「ガロード! チッ、こっちにもかよ!」

 

 高出力のビームは照射されたまま、ロアビィの機体にも襲い来る。強固な筈の壁を飲み込みながら、一方的にレオパルドに迫って行く。狭いデッキでは避けるスペースもなく、太いビームは右腕を飲み込んだ。

 

「グゥゥッ!」

 

 アムロはバリエントにビームライフルを握らせて、ビームを照射して来る相手の敵意を感じ取り狙撃した。

 

「そこだな!」

 

 正確に発射される1発のビームは溶かされた壁から外に向かって飛んで行く。その先に居る敵、シャギアのガンダムヴァサーゴはメガソニック砲の照射を止めると回避行動に移った。

 特徴的な腹部のビーム砲を格納し背部の黒い翼を広げて飛び立つと、夜の闇にツインアイが不気味に輝く。

 

「仕留めきれなかったか。そしてあの正確な攻撃、機体は違うがアムロ・レイだな」

 

「手応えがない? この感覚はあの男か」

 

「貴様と決着を付けるのはまだ先だ。だがアイムザットの動きを邪魔されれば私達の計画にも支障が出る」

 

「ウィッツの奇襲はどうした? と言う事は、状況は不利か」

 

「オルバ、そちらはどうなっている?」

 

 時間になってもエアマスターの奇襲攻撃は開始されてない。寸前の所でウィッツはオルバのガンダムアシュタロンに行く手を阻まれていた。

 両手に握るビームライフルでアシュタロンに照準を定めるが右往左往で避けられてしまう。けれども相手は余裕を見せ付けるだけで積極的に攻撃を仕掛けても来ない。

 

「クソッ! 時間稼ぎのつもりか!」

 

「悪いけど行かせられないよ」

 

「ゲテモノが!」

 

「ティファ・アディールはこちらの手中にある。フリーデンも、ましてやモビルスーツもなければこちらに追い付けまい。これで新連邦が動き出す」

 

 オルバに翻弄されてウィッツはゾンダーエプタ―に上陸できない。アムロはその状況を想像して当初の予定を変更して独自に動く事を考える。攻撃を受けたモビルスーツデッキを見渡し2人の機体の損小具合を見てみた。

 

「ガロードのGXは動けそうにないか。レオパルドはどうだ?」

 

「片腕だけだからなんとかね。でもこっちは空飛べないよ。こりゃキツイな」

 

「ならこのままフリーデンに合流しろ。ガロードもだ。この新型のスラスター出力なら空中機動もできる筈だ」

 

 アムロに言われたからではない、ガロードはGXのコクピットから出ると急いでモビルスーツデッキに降りた。左右に首を振って視野を広げ、グチャグチャになったデッキで彼の事を探す。

 

「カトック……カトック、どこに行った!」

 

「聞こえてるよ」

 

「カトック!?」

 

 声がした方向に振り向く。鉄とガレキの山の中からホコリまみれになってカトックは這い出て来た。

 

「カトック、無事か?」

 

「ボウズに心配される程……柔にできちゃいねぇよ。で、どうする?」

 

「距離を離される前に中へ乗り込むしかない。さっきの攻撃でGXもやられた。アムロに全部を任せる事もできない。難しいけどこうするしか」

 

「へへ、なら決まりだ。気合入れろよ!」

 

「わかってる!」

 

 強い決意の眼差しを向けるガロードにカトックも心打たれる。

 様子を見ていたアムロも機体を近付かせ片膝を着くと左のマニピュレーターを地面に伸ばす。2人は互いに頷きマニピュレーターの上に乗り体が飛ばないように支える。

 

「聞こえているな、ガロード。時間に余裕はない、中に侵入したら各自の判断で動け。俺はモビルスーツの足止めをする」

 

「わかった。ティファとジャミルは俺が何とかする」

 

「おい、兄ちゃん。俺が途中で振り落とされても一切気にするな。ボウズが乗り込めさえすればそれで良い」

 

「了解だ。出るぞ!」

 

 メインスラスターから青白い炎を噴射するバリエントは大空に飛び立つ。




遅れて申し訳ありません。意外に長引いてしまい次回に持ち越しとなってしまいました。
アニメとは少し違う展開、ガロードはティファを取り戻す事ができるのか?
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第19話

 アムロが操縦するバリエントは空へ飛び立つ。モビルスーツデッキを出てゾンダーエプタ―上空に来ると、目の前には進行を邪魔せんとシャギアのガンダムヴァサーゴが立ち塞がる。

 

「フフフッ、待っていたぞ。アムロ・レイ!」

 

「あの時の男か!?」

 

「ガンダムを使わぬ貴様に勝ち目など!」

 

「このくらいッ!」

 

両手のクロービーム砲を向けるヴァサーゴは容赦なく攻撃を仕掛ける。対するアムロは初めて乗る機体ではあるが、相手の殺気を感じ取り攻撃を先読みする事で被弾を避けた。

 操縦系統はドートレスと同じなお陰で動かす分には問題はない。けれども幾らアムロと言えども機体の限界性能を瞬時に引き出す事はできない。それにマニピュレーターにはガロードとカトックが居る。ガンダムタイプと正面から戦って勝てるだけの性能も持ってない。

 

「お前に構ってられる暇はない。振り落とされるなよ、ガロード」

 

「行かせてはやれないな。私との勝負を拒むか」

 

「この機体でも逃げるくらいならできる筈だ」

 

 回避行動を取りつつ腰部にマウントされたビームライフルを引き抜き相手に照準を定める。トリガーを引いて発射されるビームはヴァサーゴに迫るも、シャギアの技量と機体性能を前に簡単に避けられてしまう。

 互いに射撃戦を繰り広げながらも機体にダメージは通らず、アムロは時間が経過していく事に焦りを感じ始める。けれどもそれはシャギアも同じだった。

 新型とは言え量産機のバリエントにジワジワと押し返されて行く。

 

「機体性能も、状況的に見ても不利な相手にこうも苦戦させられるとは。アムロ・レイ、やはり貴様を生かして通す訳にはいかなくなった!」

 

 焦るシャギアは腹部のメガソニック砲を展開しバリエントを一気に攻め落とそうとするが、攻め方を変えたこの瞬間をアムロは見逃さない。

 

「落とさせて貰う!」

 

「ビーム砲を使うか。その変形が隙になる!」

 

 ペダルを踏み込むアムロはメインスラスターの出力を上げて正面からヴァサーゴに肉薄した。その予想外の行動にシャギアは思わず息を呑み、メガソニック砲の出力を下げてしまう。

 

「しまった!?」

 

 バリエントは握るビームライフルの銃口を展開するメガソニック砲に突き刺した。そのままトリガーを引くが、衝撃にビームライフルが耐えきれずコクピットからの反応を受け付けない。

 

「ライフルがイカれたか。サーベルで!」

 

「こんな所で……こんな所で負ける訳には!」

 

 幸いにもエネルギー放出による機体の誘爆は発生しなかった。それでもダメージは大きく、体勢を立て直すよりも早くにアムロの機体は背後へ回り込んでいる。

 ビームサーベルを引き抜き、背後の特徴的な黒い主翼を切断しメインスラスターを破壊した。空中機動が困難になるヴァサーゴは、そのまま重力に引かれて海へ落下する。

 

「ぐぉぉぉォォォッ!」

 

 その光景を確認するアムロは直ぐ様、ゾンダーエプタ―から逃げる船を目指して動く。

 

「これならすぐには追い付いて来れない。ガロード、無事だな」

 

「な、何とか。カトックも大丈夫だ」

 

「船までの距離は離れてない。このまま取り付くぞ」

 

 レーダーに反応する大型船の数は1隻だけ、見付けるのは容易くモニターにもその影が映る。一方で空中で戦闘を行っているエアマスターとアシュタロンの決着も付こうとしていた。

 

「このゲテモノガンダムが! 落ちやがれ!」

 

「悪いけど、時間稼ぎは終わりだよ。君の相手をしている暇は失くなった」

 

 両手のビームライフルで懸命に敵機を撃ち抜こうとトリガーを引き続けるウィッツだが、オルバの操縦技術の方が1枚上手だ。

 アシュタロンは腰部からボーガン状のビームライフルを取り出し瞬時に狙いを定める。発射されるビームはエアマスターの右脚部に直撃すると空中での姿勢を崩した。

 

「野郎ッ! 逃がすか!」

 

「逃げる訳じゃない。それと、ビームスピア―はこう言う使い方もできる」

 

 ボーガン状のビームライフの形状が変化し、弦の役割をしていた部分を前方を向くと槍に変わる。ビームサーベルに持ち帰る事なく接近戦に使える武器に変わるとエアマスターの背後を取った。

 

「不味い!?」

 

「落ちるのは君だよ!」

 

 両手に握るビームスピアーで大きく袈裟斬り。背部にある主翼が一振りで切断され、装甲も斬り刻まれてしまう。ダメージを受けたエアマスターはそのまま海へと落ちる。

 

「レーダーの反応が消えた訳じゃない。機体はまだ生きてる。けれども今はそんな事は後だ!」

 

 ペダルを踏み込むオルバはアシュタロンを加速させてこの場から離脱する。目指す場所はアムロに落とされたヴァサーゴの居る所。兄のシャギアをいち早く救出しようとオルバは兎に角急いだ。

 先を急ぎながらも、ツインシンクロニティでシャギアとの交信を図る。

 

(兄さん、兄さん大丈夫!)

 

(オルバよ……)

 

(兄さん!?)

 

(ヴァサーゴは損傷したが体は何ともない。だがこのままだと脱出する事は困難だ。ここまで来てくれるか?)

 

(わかったよ、兄さん。でも、このままだと奴らはアイムザットに追い付くよ?)

 

(構わんよ、アイムザットでは奴らに勝てない。我々は独自に動くぞ)

 

(アイムザットは切り捨てるんだね)

 

(何もしなくても後始末は奴らがやってくれるさ。それにしてもアムロ・レイ……)

 

(奴は必ず倒す、僕達の計画を遂行する為にも)

 

///

 

 大型船でゾンダーエプタ―から離れていくアイムザットはブリッジのシートに腰を落ち着けていた。彼が上層部に悟られる事なく準備を進めていた計画をようやく実行できる。その事に思わず口元がニヤけた。

 

(フフフッ、計画は完璧だ。これで私の地位は確約されたも同然。そうなればこんな地球にいつまでも居続ける理由も失くなる)

 

「レーダーにモビルスーツの反応アリ。味方のバリエントです」

 

 通信兵からの報告に耳を傾ける。報告にあるようにレーダーとモニターには大型船に近づいてくる味方のバリエントの姿。けれどもどこか様子がおかしい。

 

「カメラを拡大しろ。島の方角から来てるだと?」

 

「了解、拡大します」

 

 ズームアップされる映像、それを睨むようにして見るアイムザットはすぐに気が付いた。マニピュレーターに2人の人間が乗って居る事に。そしてその2人を彼は見た事がある。

 

「アレは……フリーデンの乗組員とカトックだと!? あの2人、攻撃を失敗したか」

 

「アイムザット総括官、如何なさいますか?」

 

「モビルスーツを発進させろ、相手はたかが1機だ。絶対にこの船に近寄らせるな!」

 

「了解! モビルスーツ発進準備」

 

 シートに座りながら指示を出すアイムザットだが、このタイミングになって裏切ったカトックの事が少し気がかりだった。

 

(あんな成り上がりの兵士が1人寝返った所でどうとでもなる。だが……まぁ良い。少しばかり時間が無駄になるだけだ。私の計画に狂いはない)

 

 バリエントに搭乗するアムロは目指していた目標をいよいよ捉えた。だが取り付くよりも早くに、内部からモビルスーツが出撃して来る。

 確認出来るのはドートレスにフライトユニットを装備したタイプと今アムロが乗っているバリエントと同じモノ。

 

「これだけの数だと骨が折れるな。取り付くのが先決か」

 

 モビルスーツの大部隊を前にしながらも、歴戦の兵士であるアムロは至って冷静だ。2人が乗るマニピュレーターを保護しながら、メインスラスターから青白い炎を噴射して船に接近する。

 

「行けるか? いや、やるしかないか!」

 

 迫り来るビームの雨、向けられる殺意。機体を加速させてその全てを回避し、更に迫るはビームサーベルを抜く敵部隊。

 普通なら反撃するのは容易いが今はそうしてられる状況ではない。操縦桿を巧みに操り、振り下ろされる切っ先を避け続ける。

 右へ、左へ、また右へ。

 どれだけ攻撃を重ねてもバリエントの装甲に触れる事はない。

 

「こ、コイツ早いぞ!? 本当に同じ機体なのか!?」

 

「何をやっている! 撃て! 撃ちまくれッ!」

 

「抜けられた!」

 

 敵陣の中を糸を縫うようにして抜けるアムロ。その先にある大型船の甲板に取り付くと2人が乗るマニピュレーターをそっと降ろした。

 

「サンキュー、アムロ!」

 

「ジャミルとティファの事は頼んだぞ。俺はモビルスーツの相手で手一杯だ」

 

「わかってるって! 死ぬなよ!」

 

 船上に降りたガロードは中に向かって一目散に走り出す。カトックもそれに続き甲板に降りチラリと後ろに振り返ってアムロのバリエントを視界に入れた。けれどもそれも数秒だけ。

 目付きを鋭くしてガロードの後に続いた。

 操縦桿を握り直すアムロはモニターに映る敵部隊と対峙すべく神経を過敏にさせる。

 

「この機体でやれるだけの事をやるしかない。急げよ、ガロード」

 

 迫るドートレスはビームライフルの銃口を向けてバリエントに攻撃を仕掛けて来る。瞬時に反応、考えるよりも早く手足が動く。

 ビームサーベルを握るアムロの機体はビーム攻撃をすり抜けるようにして近距離にまで詰めると腕を振り上げた。切っ先はドートレスの肘から先を切断し、体勢が崩れた隙を狙い相手のビームライフルを奪った。

 

「こ、コイツ!?」

 

「機体性能はバルチャーと比べれば良いかもしれないが!」

 

 右腕のミサイルを発射しコクピットに直撃させる。奪い取ったビームライフルを装備してバリエントは加速した。

 

///

 

 船内に侵入したガロードとカトックは兎に角一目散に走った。囚われたティファとジャミルを助ける為に。

 

「ってもどこに居るんだ? このままじゃすぐに敵が来る」

 

「お前、もしかして嬢ちゃんを先に助けようだなんて考えてるのか?」

 

「その為にここまで来たんだろ?」

 

「違うな、狙うならガンダムの方だ」

 

「どうして?」

 

「あのアイムザットが完成したばかりのガンダムを置いてく訳がねぇ。新型はこの船の中だ。ガンダムを奪取できればこの不利な状況も覆せる。そうすれば助け出せる可能性も上がるってもんだ」

 

「そうかも知れないけどよ」

 

「このだだっ広い船の中を当てもなく探し回る気か? でもモビルスーツなら置き場所は決まってる。そっちの方がずっと楽だろ? それに設計図があるガンダムはまた作れるが人間はそうはいかねぇ」

 

「そうだな、そっちの方がまだ楽か」

 

「そう言う事だ」

 

 目的を定めたガロートはカトックの意見に従い大型船のモビルスーツデッキを目指す。大きく広い船内ではあるがモビルスーツデッキの場所など大方決まっている。鉄骨と鉄板で固められた通路を全速力で突き進む。

 

「あそこだ!」

「ご丁寧に入り口が開いてやがる。って事は……」

 

 開けられてままのデッキへの入り口、不信に思いながらも2人は中へと足を踏み入れた。広い空間の中に幾つも置かれているコンテナ。そしてその1番奥で佇むのは1機のモビルスーツ。

 白を基調としたデザイン、胸部にあるマイクロウェーブ受信装置。背中には2門のサテライトキャノンを背負っており折り畳まれたリフレクターは羽のようでもある。

 新しく開発されたガンダムを目の前にガロードは思わず息を呑む。

 

「これが……新しいガンダム……」

 

『その名もガンダムダブルエックスだ』

 

「ッ!?」

 

 男の声が響き渡る。外部音声に切り替えた声がモビルスーツから聞こえて来たのだ。新たなガンダム、ガンダムダブルエックスはツインアイに輝きを灯しゆっくりと1歩を踏み締めた。

 鉄板で作られた床に歩くだけでも重厚な金属音が響き船体が微かに揺れる。ガロードは蛇に睨まれた蛙のように、すぐにこの場を動く事ができない。

 

『まさかな、よもやここまで乗り込んで来るとは。つまりあの兄弟は失敗したと言う事か。そしてカトック、拾ってやった恩を忘れたか? 私の邪魔をしに来るなどと』

 

「アイムザット総括官自らがガンダムに乗りますか」

 

『他の奴など信用できんからな。この機体は私の計画を遂行する為の要だ。しかしカトック、もはや貴様に裁判は必要ない。私がこの場で処刑してやる』

 

「お忘れですか? 俺は嘘付きなんです。死んだ女房にも良く言われた」

 

『そうか。ならば貴様も天国に送ってやる。もっとも、人を殺す兵士である貴様が行ければの話だがな!』

 

「動け、ガロード!」

 

「ッ!?」

 

 カトックが叫ぶと同時、アイムザットが搭乗するガンダムは頭部バルカンから弾丸を発射した。激しいマズルフラッシュ、轟音、大量に吐き出される空薬莢は鉄の床へ撒き散る。

 並べられたコンテナの隙間に隠れる2人は何とか弾を避けるが状況は明らかに不利だ。

 

「こんなコンテナ、いつまでも保たない。何とかしてコクピットに乗り込まないと」

 

「ヘッ、考える事は一緒って訳か。わかったぜ、ボウズ。俺が囮になる」

 

「その間に俺がガンダムに取り付く。簡単でわかりやすい」

 

「よぉし、頼んだぜ!」

 

 作戦と言えるものではない、それでも綿密に計画を練る時間もない。ガロードは姿が見付からないように影に隠れて移動し、カトックはまともな武器もなしにガンダムの前に飛び出した。

 

『カトック、そこか!』

 

「ほぉ、威勢の良い事で」

 

 発射される弾丸、受ければ一撃で人間の体など吹き飛ぶ。できる事と言えば当たらないよう全力で走るだけ。右にあるコンテナから左へ、また右へ。

 アイムザットの方も船を沈めてしまわないように、使える武器はバルカンくらいしかない。ちょこまかと動き回る相手に次第にストレスが溜まる。

 

『えぇい! 鬱陶しい!』

 

「ハハハッ、総括官はモビルスーツの操縦が下手なようで」

 

『ほざくな!』

 

 頭に血が上るアイムザットは周囲が良く見えてない。指揮官として連邦軍で長く所属していた彼に、モビルスーツに乗ってるとは言え戦場で戦って来たカトックとガロードを相手にして簡単には勝たせて貰えない。

 カトックは懐から小榴弾を取り出し力一杯投げ付けた。

 

「景気付けだ! 行け、ボウズ!」

 

 投げられた小榴弾をバルカンの弾が撃ち抜き爆発が起こる。炎により視界が悪くなり、アイムザットは思わず機体の動きを止めてしまう。ガロードはそのチャンスを逃さない。

 

「うおおおォォォッ!」

 

 見付けたロープを背後から機体目掛けて投げると装甲の凹凸に引っ掛かり、ガロードは一気によじ登る。

 装甲の隙間や凹凸を足場にすれば普通よりも早く登れるが、数秒もすればガンダムはまた動き出してしまう。

 

『小賢しい真似を!』

 

「おっと!? 頼むから暴れるなよ」

 

 着々とガロードが背後から迫りつつある事にアイムザットはまだ気が付かない。操縦桿を握り締めてバルカンのトリガーを無闇矢鱈と引き続ける。

 

「戦いは素人だな。このくらいなら訓練の方がキツイぜ」

 

『まだほざくか!』

 

 コンテナを壁にして右へ左へ行き来するカトックだが、突如として船体が大きく揺れる。外からの攻撃が大型船に直撃したのだ。

 瞬間、悲鳴と血しぶきが飛散した。

 

「ぐぉぉぉォォォッ!」

 

 倒れ込むカトックの表情は苦痛に歪む。外からの攻撃はデッキまで到達するとカトックの右足を持っていった。

 両手で足を押さえるも溢れ出る血は止まらない。体に受けた致命傷に脳は痛覚をカットし、それでも次第に力は出なくなり視界は霞んで来る。

 

『フハハハハッ! 情けない最後だな、カトック! それでは這いずり回る事しかできまい。今すぐ踏み潰してやる』

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 ゆっくり距離を詰めて来るガンダム、船の揺れはもう収まって居る。肩まで登って来たガロードはそこから彼の姿を見てしまう。

 

「カトック!」

 

『この声は!? 貴様、いつの間に!』

 

「ッ!?」

 

『もう1人の小僧が。良いのか? コイツを殺すぞ』

 

 もうまぶたを開けるのも難しくなって来た。朦朧とする意識の中で、それでもガロードの姿ははっきりと見える。もはや逃げる事も生き残る事もできないと悟ったカトック。

 

「待ってろ、カトック! すぐに行く!」

 

『ふざけているのかッ!』

 

 ガンダムのマニピュレーターがガロードの元にまで伸ばされるが姿勢を低くして装甲の隙間に逃れた。そしてまたマニピュレーターの隙間から這い出るとコクピットハッチの所にまで進みパネルを叩く。

 

『あの小僧何をした? 操作が効かない、ハッチが!?」

 

 ハッチが開放され内部のコクピットブロックが上昇する間はパイロットの操作を受け付けない。懐に手を伸ばし銃を手に取ろうとするが、それよりも早く目の前にガロードが現れた。

 轟く銃声、吹き出る血、力を失った肉体が地上へと落ちる。落ちた体は鈍い音を響かせるともう動かない。

 

「やったか? カトック!」

 

 ガロードはコクピット付近のワイヤーを取り出し急いで地上へと降りる。そして血まみれになって動かなくなってしまったカトックの元へ走った。抱き上げた体から伝わる体温は下がっている。

 

「カトック! 何やってんだよ、こんな所で!」

 

「へ……へへへ、ざまぁねぇな。死ぬならせめて……映画みたいに格好良く逝きたかったぜ……」

 

「待ってろ! すぐに助ける!」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺はここで死ぬ」

 

「カトック……」

 

「あの男と……嬢ちゃんを助けるんだろ? 俺の事なんてほったらかして早く行け。新しいガンダムで」

 

「でも!」

 

「お前が言ったセリフだぜ。絶望に……立ち止まるな。俺はもう……ここまでだ……」

 

「ッ!? カトック……」

 

 静かにまぶたを閉じたカトックはもう動かない。息絶える寸前まで叩いていた軽口ももう聞く事はなくなってしまう。ゆっくり彼の体を床に寝かせ、最後に表情を眼に焼き付かせ背を向けた。ガロードは一切振り向く事なく、眼前に佇む新しいガンダムのコクピットに乗り込む。

 操縦桿を握り締め、力強い目で前を向く。

 

「ガンダムダブルエックス! 行くぜッ!」

 

 ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射する。床を蹴るダブルエックスは飛び上がり、天井のシェルターを突き破り外へ出た。

 大型船から出撃したモビルスーツ部隊はアムロのバリエントと未だに戦闘を繰り広げている。

 

「アムロ!」

 

「ガロードなのか? 行けるな?」

 

「後は俺がやる!」

 

 サイドスカートからビームサーベルを引き抜き、加速するガンダムはドートレスに向かって腕を振り下ろす。一振りで機体は切断され爆発の炎に包まれる。

 

「まだまだぁッ!」

 

 怒涛の勢いでガロードは攻め立てる。それはカトックが死んだ事の悲しみなのか、怒りなのか。それとも生きる事の執着心か、それはわからない。

 ガロードは目の前に立ち塞がる敵機を真っ二つに両断していく。ガンダムの性能によるモノもあるが、パイロットとしても成長したガロードに連邦軍の兵士は対応できない。

 瞬く間に2機、3機とビームサーベルで撃破していき、最後の1機もビームサーベルの切っ先をコクピットに突き立てる。

 

「こいつで終わりだァァァッ!」

 

 切っ先はパイロットごとコクピットを完全に溶かし、機能不全になった事を確認すると海へ投げ捨てる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、終わった……」

 

「いいや、まだだ」

 

 アムロが見つめる先、そこには連邦軍の増援部隊が迫りつつ合った。数え切れない程のモビルスーツと艦艇。普通に考えればたったの2機で太刀打ちできる相手ではない。

 それでも今は、ガロードが乗る新型のガンダムがある。

 

「サテライトキャノンを使う!」

 

 右の操縦桿、コントロールユニットのガジェットを親指で押し込みサテライトシステムを起動させる。月のマイクロウェーブ送信機がガンダムからの信号を受信し、マイクロウェーブにエネルギーの載せて送信した。胸部の受信機でエネルギーを充填し、背部にある2門のサテライトキャノンを前方へ展開しリフレクターを広げる。戦闘画面に映る敵軍を中心に収め、トリガーに指を掛けた。

 

「ガロード、撃つのか?」

 

(絶望に立ち止まるな。俺はジャミルともカトックとも違う、俺は俺だ。だからこの引き金は俺の意思で引く。もう15年前の悲劇は繰り返さない)

 

 

 

第19話 過ちは繰り返さない!

 

 

 

 ツインサテライトキャノンの砲門が輝くと大出力のエネルギーが発射された。それはまるで彗星のように夜空を照らす。

 エネルギーは向かって来る増援部隊に直撃するとその全てを飲み込み、ネジ1本とてこの世に残さない。

 一瞬の輝きの後、目の前の敵は消滅した。




更新が遅れて申し訳ありません。
次の話からはアニメのストーリーを辿りつつ自分なりに構築して一気に圧縮します。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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ニュータイプ研究所編
第20話


 戦闘は終わった。

 ツインサテライトキャノンの一撃により合流を図ろうとした新連邦軍の部隊は消滅し、ゾンダーエプタから脱出しようとした大型船はガロード達により占拠される。

 ティファとジャミルも傷ひとつなく無事に救出され皆はフリーデンへと帰った。けれどもその中に、エニル・エルの姿は見当たらない。

 人知れず、彼女の姿はどこかへと消えて行く。

 

(ごめんなさい、トニヤ。でもアタシは、やっぱりここには居られない。本当にごめん……)

 

 エニルの声は誰にも届く事はないが、一緒に居た僅かな時間だけは記憶の中に留まり続ける。今と言う短い時間ではあるが。

 時を同じくして、フィクス・ブラッドマンは新連邦を樹立。同時に地球圏の統一を開始した。前回の戦争が終わって15年。既に60歳を超えたブラッドマンではあるが、その胸に宿す野望はまだ潰えていない。

 大歓声の中で壇上に立つ彼は、新たな時代が到来する事を声高らかに宣言する。

 

「忌まわしき戦いから15年の月日が流れた。だがようやく、今日と言う日は訪れた。混沌の時代は幕を閉じ、我々が進むべき道の先にあるのは輝かしき未来である。だが、世界はまだ1つに統一された訳ではない。故に、私はこの場で宣言する。新たなる地球連邦、今この瞬間から新連邦政府の樹立を宣言する! そして誓おう、我々は過ちを繰り返さない。過去に死んで行った同胞達の為にも、我々は成し遂げなければ成らぬ! 世界の統一を! 真の平和を!」

 

 盛大な拍手が壇上にまで響き渡る。ブラッドマンの宣言を持って、遂に新連邦は誕生した。そして同時に、圧倒的な戦力を持って地球圏の統一を開始する。

 それは新たなる激動の時代の到来でもあった。

 ようやく回復した地球環境、各地に出来上がった小国はブラッドマンの樹立宣言に反発する。そこには当然衝突が発生し、新連邦は力で持って相手を屈服させた。

 取り分け激戦となったのが南アジア地域、その戦火の中にはフリーデンの姿が。

 ガロードは再開したティファと一緒に甲板に上がると景色を眺めながら胸の内を話した。

 

「ケガもしてないみたいで良かったよ。何かあったらどうしようって心配でしょうがなかった」

 

「私の事は大丈夫。でも、ガロードは?」

 

「おれ? 俺なら何ともない。ピンピンしてるよ」

 

 そう答えるガロードだが、ティファは静かに首を横へ振る。彼女が向ける視線、その瞳は何もかもを見透かすかのように見えた。

 

「カリスも、カトックも、いいえ。もしかしたら他の人だって死んでしまうかもしれない。私は、ガロードの心の事が心配」

 

「ティファ……心配すんな! 確かにカリスやカトックは死んだよ。その事が悲しくない訳じゃない。でも俺は立ち止まる訳にはいかないんだ。只の強がりかな?」

 

「そんな事はないと思う。でも……」

 

「でも?」

 

「初めて会った頃と比べてガロードは変わった」

 

「そうかな? あんまり自覚なかったけど」

 

 ティファは以前、アムロに言われた言葉を思い出していた。その時は理解する事ができなかったが、今のガロードを昔と比べれば嫌でもわかる。

 少年は青年へと成長しつつあった。

 

(何かを失う事で前に進めるのだとしたら、俺にとって彼女がそうだったのだろ)

 

「ガロードにとってはあの2人が……」

 

「ティファ?」

 

「私は……」

 

 1歩先に進むガロードは青年となり、それに遅れてしまうティファは苦悩した。けれどもこれを解決するには彼女も前に進むしかない。

 悩める少女にガロードは何もする事ができなかった。2人の間を時間とそよ風だけが過ぎて行く。

 

///

 

 フリーデンのブリッジではジャミルとアムロがこれからの事を話し合っていた。このまま進んだ先にはエスタルドと呼ばれる小国がある。

 新連邦の地球侵攻作戦、そのターゲットにフリーデンも含まれている。ガンダムダブルエックスを奪取し、ニュータイプも保持し、ツインサテライトキャノンの一撃で新連邦の部隊を一掃した。

 ブラッドマンが唱える地球圏統一を前にすればフリーデンは目の上のたんこぶ。

 

「いよいよ新連邦が動き出したか。このままでは私達も自由には動きにくくなるな」

 

「それもそうだが次はどこへ向かうつもりだ? まさか真正面から奴らと戦うだなんて言わないよな?」

 

「いずれはその時も来るかもしれんが、モビルスーツの修復も終わってない今は避けて通るしかない。新連邦の動きは確かに気になるが、私達が次に目指すべき場所は別にある。ニュータイプ研究所だ」

 

「ニュータイプ研究所?」

 

「私とティファはニュータイプ研究所に連れて行かれる予定だった。どんな施設かはわからないが、確かめる必要はある」

 

「ジャミル……まだニュータイプに囚われているのか?」

 

 ニュータイプと呼ばれる能力、言葉、存在の呪縛からジャミルはまだ逃れる事はできない。ガロードやティファ、アムロとの出会いからその考え方は薄れつつあったが、それでも15年前に負った心の傷は拭い去る事ができなかった。

 

「情けないと笑うか?」

 

「俺だって彼女の呪縛から逃れるのに7年も掛かってしまった。そんな事はしないよ」

 

「そうか……」

 

(だがな、ジャミル。このままだとお前はシャアのようにならないとも限らない。過去ばかり見た所で何も変わらない。)

 

 アムロは同じニュータイプと呼ばれたシャアの事を心のどこかで信頼していたのか。かつて反地球連邦政府のティターンズと共に戦った時はそのように感じる事もあった。

 カミーユのように新たな世代が時代を築き、その為にシャアもダカールで自らの心情をさらけ出したが、それでも未来に待っていたのはすぐには変わらない民衆と時代。

 ニュータイプとして覚醒したカミーユでさえも組織と民衆の荒波の前では何にもならず、結果として地球連邦政府は更に増長するだけとなった。

 そしてハマーンはミネバ・ザビを傀儡にしてネオ・ジオンを語り、シャアは人類に対して本気で嫌気が差したのかもしれない。

 

「もうすぐエスタルド領に入るな。モビルスーツの修理にも時間が掛かる。暫くは停泊か?」

 

「そうできるならな。サラ、回線を繋げられるか?」

 

「キャプテン、それが向こうから既に」

 

「どう言う事だ?」

 

 コンソールパネルを操作するサラは先にエスタルド側から送られて来た通信を繋げるとモニターに映像が映し出される。

 見えるのは、まだ歳幾ばくもない青年の姿。

 

『ぼ……私はエスタルド人民共和国の国家首席を務めるウィリス・アラミスと申します。そちらの艦長とお話がしたい』

 

「私が艦長のジャミル・ニートだ。それで要件は?」

 

『そちらの事情は少なからず伺っております。何でも新連邦の基地の1つを破壊し新型のガンダムを奪ったとか。その事で折り入ってお願いがありまして。是非とも、私達の国であるエスタルドの防衛を手伝って頂けませんか?』

 

 青年の訴えを聞いたジャミルは眉を潜め、ちらりと隣に立つアムロに視線を向けた。アムロも同様に首を傾げるだけ。

 

「承知だとは思いますが私達はバルチャーです」

 

『存じております』

 

「それに、私達にとっても新連邦は厄介な存在です。ですがエスタルドの防衛に参加するともなれば事は政治です。事と次第によっては内政干渉にもなり兼ねませんが?」

 

『重々承知しております。ですが、現在の我が軍事力では敵軍を退けるどころが防衛も困難な状況。無茶な事を頼んでいるのはわかってます。それでもどうか力を貸して頂きたい』

 

 背もたれに体重を預けるジャミルは1度肩の力を抜いた。新連邦の地球侵攻作戦をこのまま野放しに傍観すれば地球圏が統一されるのも時間の問題。

 だが不用意に攻撃を仕掛ければ更に狙われる事に繋がる。そうなれば今よりももっと行動が取りづらくなってしまう。

 それを聞いていたアムロも腕を組む。

 

「どうする? 時間を急ぐか? だがそうなると補給できないのが辛いな」

 

「取り敢えずエスタルド領に入る。詳しい事は私が直接会って話す。みんなにもそう伝えてくれ」

 

「わかった。だったら俺はモビルスーツデッキに行く。バリエントの調整がまだ終わってないからな。他のガンダムの改修も急がせる」

 

「頼む」

 

 そう言うアムロは背を向けてブリッジから立ち去って行く。ジャミルもシンゴに指示を出してエスタルド領内にフリーデンを停泊させ、彼らと話し合うべく王国場内へと1人で向かった。

 エスタルドは戦後に独立した小国である。かつての戦争を生き残った数万人の人間によりようやく持ち直す事ができた本当に小さな国。

 それが今、新連邦の地球圏統一作戦により存続の危機に立たされ、同様の周辺国と同盟を結び反旗を翻していた。

 だが戦力の差は歴然であり、新連邦は日増しに領土を拡大している。そこでエスタルドはガンダムを所有するフリーデンに共同戦線を依頼した。

 赤い絨毯が敷き詰められた広い部屋に通されたジャミルは先程の通信で見た青年、国家主席を務めるウィリス・アラミスと対面する。

 彼の両隣には2人の男が立っていた。

 

「ご足労頂きありがとうございます。私がウィリス・アラミスです」

 

「フリーデンの艦長、ジャミル・ニートです」

 

 互いに右手を伸ばすを2人は握手を交わした。

 

(華奢な腕だな、緊張のせいか瞬きも多い。この青年が国家主席か。周囲の人間に担ぎ上げられたのか、止むに止まれぬ事情があるのか……)

 

「どうぞ座って下さい。ここに居る間はゆっくりくつろいで頂ければ」

 

「いえ、こちらにもやる事がありますのであまりゆっくりはできません」

 

「そ、そうですか」

 

 ジャミルの言葉に少し弱気になるウィリス。瞬間、彼の様子を見て隣に立つ男が声を荒げた。

 

「成りませぬぞ、ウィリス様! 交渉の初手に置いて相手に隙を晒すなどと!」

 

「ご、ごめん! え、えぇっとジャミルさん。こちらに協力して頂けるのなら、その間のフリーデンとモビルスーツの面倒はこちらで見させて頂く。必要なら少額ではありますが金も用意します」

 

「確かに、現状のフリーデンは新型のガンダムが1機ある以外は疲弊してます。そちらで修理と補給をしてくれるのなら、私共もエスタルド側の提案を考えさせて頂きます」

 

「本当ですか!?」

 

「ですが何度も言うように私達はバルチャーです。その事を忘れないで下さい。私は1度、艦に戻ってこの事をクルーと相談します」

 

「わかりました。ではフリーデンはこちらの工場に誘導させて頂きます。停泊中は他の乗組員の人達も国内を自由に動いて貰って結構です」

 

「感謝します」

 

 再び右手を伸ばして握手する2人。けれどもジャミルやウィリスが考えるよりも新連邦の動きは早かった。

 

///

 

 シャギアのガンダムヴァサーゴはゾンダーエプタ―でのアムロとの戦闘により致命的なダメージを負ってしまい今は使えない。

 弟であるオルバのガンダムアシュタロンと共に修理、強化を行っていた。フリーデンの戦力が増強される一方で彼らも独自に計画を進めている。

 薄暗い部屋の中、兄弟の目の前には4人の男が居た。

 

「私はシャギア・フロストだ。キミ達に来て貰ったのは他でもない。ゾンダーエプタ―で奪取された新型のガンダム。ガンダムダブルエックスを撃破して貰う。その為にわざわざニュータイプ研究所から候補生であるキミ達を呼んだ。ダブルエックスを撃破できたモノには2階級特進を約束しよう」

 

「その為にこちらも新型のモビルスーツを4機用意した。作戦の決行は今日の夜。それまでに準備を整えて欲しい」

 

 2人の言う事に4人は黙って頷くだけ。

 オルバは兄であるシャギアに念波を送ると目の前の候補生達に悟られぬようにしてこれからの計画に付いて話し合う。

 

(彼らでダブルエックスに勝てるかな? 一応、宿命のライバルなんだけど)

 

(ガロード・ランならやってくれるさ。そして邪魔者は居なくなる。我々のガンダムの改修が終われば、いよいよ動き出す日も近い)

 

 

 

第20話 世界に死の嵐が吹く

 

 

 

(フフフッ、そうだね兄さん。日増しに高まる僕達の憎悪。この事にブラッドマンは気が付いてない)

 

(所詮は奴もオールドタイプ。全てが終わった時に奴はこの世に居ない)

 

(その時が楽しみだね)

 

 4人はそれぞれに用意された新型モビルスーツのコクピットへと進んで行く。そしてフロスト兄弟もエスタルドに侵攻を開始した。

 

///

 

 雲1つない夜空で満月が眩しい程に光り輝く。フリーデンがエスタルドに入国したその日の夜、新連邦は早くもこの地域への攻撃を開始した。

 上空の爆撃機から落とされる大量のミサイルは街を一瞬で炎に包み、モビルスーツから放たれる攻撃は爆音と轟音を轟かせる。

 民間人の避難も満足に進まぬ内に、エスタルドは大きな打撃を与えられてしまう。

 急いでフリーデンへと戻ったジャミルはブリッジのシートでその惨劇を目の当たりにする。

 

「宣戦布告もなしにいきなり攻撃か。シンゴ、エンジンを起動させていつでも動けるようにしろ」

 

「了解!」

 

「サラ、ガンダムはどうなってる?」

 

「ダブルエックスとバリエントしか出撃できません。GXはまだ未調整で動ける状態ではないそうです。キャプテン、脱出するのではなく助けるのですか?」

 

「一宿一飯の恩義は尽くす。ガロードとアムロを発進させろ。我々は民間人の誘導、可能なら救護だ」

 

 ジャミルに一声でフリーデンのクルーは動き出し、モビルスーツデッキからもアムロのバリエントが出撃する。

 ガロードもダブルエックスのコクピットに入りコントロールユニットを接続させて機体のエンジンを起動させた。

 

「よっしゃッ! ガンダムダブルエックス、行く――」

 

『ちょっと待てガンダム坊や!』

 

「へぇ!?」

 

 カメラを向けると声の先に居たのは拡声器に向かって大きく口を開くキッドの姿。出撃ギリギリの所で踏み止まり、キッドに向かってガロードも外部音声で話し掛けた。

 

「何だよ突然! もう攻撃は始まってるんだぞ!」

 

『その機体でも使える武器を用意したんだ。取り敢えず持てるだけ持ってけ!」

 

「武器って……」

 

 モビルスーツデッキの壁に立て掛けられた装備品。ダブルエックスは標準装備でバスターライフルとハイパービームソード、ディフェンスプレートを持っているがそれらとは違う武器があった。

 ビームジャベリン、ツインビームソード発生機、G-ハンマー、ロケットランチャーガン、ロングレンジビームライフル。

 見た事もない武器の数にガロードは思わず圧巻する。

 

「いつのまにこんなの用意したんだよ!?」

 

『ここの整備の連中に貰ったんだ。これで少しは戦いやすいだろ?』

 

「サンキューな!」

 

 マニピュレーターを伸ばすガロードはビームジャベリンとG-ハンマーを腰部にマウントさせ、ロケットランチャーガンを空いた左手に握らせる。

 完全装備になったダブルエックスは開放されたハッチからいよいよ出撃した。

 

「これで完璧! ガンダムダブルエックス、行っちゃうぜ!」

 

 ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射して加速するダブルエックスはフリーデンから出撃した。

 だが目の前に広がる光景は既に悲惨で街は炎で燃え、建造物も手当たり次第に破壊されてしまっている。

 そして道端やガレキの隙間には逃げ遅れた市民の体。

 コクピットの中でガロードはコンソールパネルを操作するとアムロに繋げた。

 

「こんな街中だとサテライトキャノンは使えない。でもどうすれば良い?」

 

「持久戦は無理だ、正面から戦わずに各個撃破しろ。相手の動きが早すぎる。撤退までの時間を稼ぐんだ」

 

「撤退……」

 

 アムロの一言にどうしようもない現実を叩き付けられる。フリーデンの残りのガンダムは修理がまだ終わっておらず出撃する事はできない。

 エスタルドの防衛部隊も懸命に戦ってはいるが、新連邦が開発した新型モビルスーツのバリエント。更にはドートレスのフライトタイプを数だけは用意しているせいで、性能面でも数の面でも圧倒的に負けていた。

 それはガロードとアムロの2人でどうにかできる問題ではなく撤退をしなければ被害が拡大する一方。

 生唾を飲み込むガロードは両手で操縦桿を力強く握る。

 

「お前ら……お前らッ! また戦争を繰り返すつもりか!」

 

 ビームライフルを構えて突撃するダブルエックスはトリガーを引き続けビームを撃ちまくる。迫る敵軍のモビルスーツを2機3機と撃ち落としながら確実に数を減らすが、倒した傍から増援が現れ勝ち筋が見えてこない。

 

「グッ!? どれだけの数が居るんだ?」

 

「ガロード、突っ込み過ぎだ!」

 

「でも……新型の反応!?」

 

「4機来るぞ。離れろ!」

 

 迫るミサイルとビーム攻撃に散開する2機。ガロードとアムロは視界に新たに現れた敵を収めた。骨の様に細く白いモビルスーツ。大量のマイクロミサイルを両肩に背負った黄色い機体に見るからに固く思い鈍重な機体。そしてビームライフルとビームサーベルと標準的な装備をした黒い機体。

 

「何だ、この機体は?」

 

「どちらにしても撤退の邪魔になる。俺達で相手をするしかない。ガロード、合わせろ」

 

「了解!」

 

 アムロを先頭にして4機の新型に戦いを挑もうとするが、その中の黒い機体がバリエントに目を付けると前に出て来た。

 装備するビームライフルを向けてトリガーを引くが敵意に反応するアムロはビームを簡単に避ける。

 

「何だ?」

 

「この反応速度、コイツはニュータイプなのか?」

 

「俺の事を見ているのか?」

 

「私の能力の覚醒の為にも、貴様には人柱になって貰う!」

 

 ビームライフルのトリガーを引き更にバリエントに向かって攻撃するが、アムロは操縦桿を匠に操作して回避行動に移る。そうなれば敵が攻撃をした時には機体は既に別の場所へと動いていた。

 アムロの培った経験と先読みを前にビーム攻撃はかすりもしない。

 だが機体性能の差は大きく、敵機を引き剥がそうとメインスラスターを全開にしても簡単に追い付かれてしまう。

 

「クッ、引き剥がせない」

 

「逃がす訳がなかろう! 貴様はこのラスヴェートの生贄だ! そして私は真に覚醒する!」 

 

「ガロードは先に行け!」

 

 互いにビームサーベルを引き抜き鍔迫り合い、眩い閃光が両者を照らす。その様子を見ていたガロードだが、あまりに早い2人の動きに援護できないでいた。

 

「わかった。負けるなよ、アムロ」

 

 ダブルエックスはバリエントを置いて残り3機のモビルスーツの相手をするべく先行した。しかし、新型3機は見た事もない機体、戦闘能力も全くの未知数であり戦い方もわからない。

 

「でもやるしかない! やってやる!」

 

 骨の様に細く白いモビルスーツ、コルレルは右手にビームナイフ1本しか装備してないが、それでも従来のモビルスーツからは想像もできない素早い動きと運動性能でガロードを翻弄する。

 接近戦はコルレルが担当し、中距離からはマイクロミサイルを両肩に装備するブリトヴァがダブルエックスを狙う。

 そして超重量級のモビルスーツ、ガブルは2機の盾代わりに動くと同時にダブルエックスを壁際へと追いやる。そのサイズはもはやモビルアーマーと呼べる程で、固い装甲は何ぴとたりとも攻撃を通さない。だがぞのせいで何1つとして武器を装備してなかった。

 地上に着地するダブルエックスはコルレルを狙うがその動きに翻弄されてトリガーを引けない。

 

「何だこの機体? バッタか何かみたいにピョンピョン跳ね回りやがって」

 

「ガンダムを倒せば2階級特進……かッ! 白い悪魔と呼ばれた俺の敵じゃない」

 

「来るッ!?」

 

 ビームナイフを握るコルレルはダブルエックスに向かってジャンプした。その瞬発力とスピードにトリガーを引く時間さえない。ビームナイフの切っ先はダブルエックスの胴体を捕らえるが、ルナチタニウム合金の高い防御力を前にダメージは小さかった。

 

「フフフッ、何もできないまま斬り刻んでやるよ!」

 

「ビームライフルは無理だ。バルカンで!」

 

 頭部バルカン、肩部マシンキャノン、胸部インテーク下に2門装備された三砲身ガトリング式大口径機関砲ブレストランチャー。

 一斉射撃で面攻撃する事でコルレルを仕留めようとするが上空からマイクロミサイルの雨。

 

「クッ!? 後ろの奴か。動きを止めたらダメだ」

 

「動きが散漫だぞ、ガンダムッ!」

 

 ビームナイフの攻撃がダブルエックスを襲う。辛うじてシールドで防いだガロードだが、動きを止めた瞬間にまたマイクロミサイルの応酬が来る。

 

「まずはアイツをやるしかない! そこだッ!」

 

 ビームライフルの銃口を向けるガロードはマイクロミサイルを持つブリトヴァに向かってトリガーを引く。ビームは一直線に敵機に向かうが、分厚い装甲がそれを許さない。

 超重量級モビルスーツ、ガブルがダブルエックスから放たれたビームを容易く防いだ。

 

「コイツ、ビームが効かない。だったらコイツで!」

 

 左手に握るロケットランチャーガンを向けるガロードはすぐさまトリガーを引いた。小型化された武器ではあるが威力は折り紙付きである。

 発射された弾頭はガブルの装甲に直撃した。

 激しい衝撃と炎、舞い上がる煙が視界を一時的に効かなくする。数秒後、煙の先にはキズ1つないガブルが立っていた。

 

「ロケットランチャーの直撃でもダメか。だったら!」

 

 握った武器を投げ捨て、腰部のG-ハンマを手に取る。グリップの先にチェーンが伸び、更にその先にはトゲの付いた鉄球。原始的な武器ではあるが並のモビルスーツなら一撃で装甲をグシャグシャに破壊されてしまう。

 左腕を大きく振り上げ鉄球を敵機に目掛けて振り下ろす。

 

「なっ!?」

 

「そんな武器が何だって言うんだ! このガブルには何ともないぜぇッ!」

 

「チッ! ならコレでどうだ!」

 

 マニピュレーターと呼べる代物かどうかすら怪しいガブルの手、巨大な2本のアームによって鉄球は簡単に受け止められてしまう。

 効果がないの見たガロードはG-ハンマーも手放し、コントロールユニットのガジェットを押し込んだ。月のマイクロウェーブ送信機に信号が伝わり、ダブルエックスも砲身とリフレクターを展開しようとする。

 だが、ツインサテライトキャノンの発射を見逃してくれるような相手ではない。

 

「そんなチャージに時間の掛かる武器、撃たせるものかよ!」

 

「白い奴が来るか。良し!」

 

 迫るコルレルにツインサテライトキャノンを展開する暇はない。繰り出される斬撃にメインスラスターを吹かし機体を飛び上がらせると攻撃を回避する。

 ダブルエックスを追い詰めるべく、ブリトヴァとガブルも前に出た。

 

「もう逃げる事はできないッ! ここで死ねェェェッ!」

 

「いいや、狙い通り! マイクロウェーブ、来るッ!」

 

 月からマイクロウェーブは既に発射されている。だがその先に居るのはダブルエックスではない。初めに砲身とリフレクターを展開した位置に居るのは動きの遅いガブル。

 大容量のエネルギーを乗せてマイクロウェーブの眩いばかりの輝きはガブルに触れた。

 

「サテライトキャノンのマイクロウェーブ!? な、内部から壊れる!?」

 

 ガブルに膨大なエネルギーを受け止める事はできない。エンジンなどの装甲内部の部品が破壊され、ガブルは内側から爆散した。

 機体の爆発に留まらずマイクロウェーブのエネルギーも地上にぶつかる事で巨大な爆発と衝撃が伝わる。

 ダブルエックスとブリトヴァは脚部を踏ん張り衝撃に耐える事がコルレルはそれができない。そのあまりに軽すぎる機体重量と細すぎる手足とボディーは衝撃波に吹き飛ばされる。

 コルレルは背部から建物にぶつかりフレームが歪む。

 俊敏だった動きも今は見る影もなく、ぐったりと倒れるコルレルにガロードは追い打ちを掛ける。

 

「作戦が上手くいった。もう1機!」

 

「操作を受け付けない!? 電気系統か? 何が壊れた?」

 

「落ちろッ!」

 

 トリガーを引くガロード。発射されたビームはコルレルの胸部を1発で貫き、パイロットは髪の毛1本とて残る事なく焼き尽くされた。同時にコルレルの動きも完全に停止する。

 

「あと1機、逃がすか」

 

「クッ、こんなチープな作戦に2機が破壊されただと!?」

 

「ライフルのエネルギーが少ない。ビームジャベリンを使う」

 

 腰部からビームジャベリンを引き抜くダブルエックス、対してブリトヴァは味方が2機もやられた事で戦況が不利になったと判断し、逃げるようにしてダブルエックスから離れて行く。

 当然それを逃がすガロードではなく、ペダルを踏み込み機体を加速させて投擲のようにビームジャベリンを投げた。

 

「こう言う使い方だってできるんだ! 届けぇぇぇ!」

 

「うあ゛あ゛あ゛ァァァッ!」

 

 切っ先はブリトヴァの背部に突き刺さ黒煙を上げ、メインスラスターの出力も低下する。ガロードは次にサイドスカートからハイパービームソードを引き抜くと高度を下げるブリトヴァに向かって更に投擲。

ハイパービームソードの切っ先はブリトヴァの胴体部分に突き刺さり、損傷により出力が低下する機体は何もできずに地上へと落下した。

 完全に機能不全に陥り、もはや戦闘継続はできない。それを確認したガロードは1人で戦うアムロに合流しようと機体を動かす。

 一方でアムロとラスヴェートとの戦闘も終わろうとしていた。

 機体の性能差はあるがパイロットの技量がそれをカバーする。

 

「ガロード、そっちはやったか」

 

「クッ、たかが1機も落とせんとは。ここは引くしかない。貴様の事は忘れんぞ、バリエントのパイロット!」

 

 逃げるラスヴェートにアムロはこれ以上深追いはしない。新型4機を退けた事で新連邦の部隊にも乱れが発生し、大部隊も後退を始めた。

 アムロは合流したガロードのガンダムにマニピュレーターを触れさせ接触回線を繋げる。

 

「新型のガンダムとは言え、初めての相手によくやった。フリーデンに帰艦するぞ」

 

「なぁ、アムロ。俺、ここまでしかできなかったのかな? このままだとまた新連邦は攻めて来る」

 

「1人の人間にできる事なんてたかがしれてる。それでも今の自分にできる精一杯をやるしかないんだ。新連邦がどんな動きを見せるのかはわからないが、俺達もずっとここに居る訳にはいかない。あとはこの国の問題だ」

 

「そうか……」

 

「帰艦する」

 

 エスタルドの街から離れる2機。燃え盛る建物とそこから上がる黒煙はいつ消えるとも知れず、夜空の月光を真っ黒に隠している。




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第21話

 新連邦の動きは想定以上に早かった。エスタルド軍は敵の圧倒的戦力を前に降伏を余儀なくされ、エスタルドは新連邦の配下に落ちた。

 辛うじて追撃を免れたフリーデンはエスタルド領を後にし、本来の目的であるニュータイプ研究所を目指す。

 そんな中でガロードは新しいガンダムダブルエックスを使いこなせるようにシミュレーター訓練と機体のセッティングに没頭していた。コクピットシートに座り操縦桿を握るガロードが戦うデータ上の相手はアムロが搭乗するバリエント。

 右手の操縦桿を押し込みトリガーを引くと画面上のバリエントの右肩にビームがかすめる。

 

「違う、やっぱデータはアムロの動きを真似してるだけだ。この程度の攻撃、アムロなら簡単に避けられる。本物のアムロならこんなもんじゃない!」

 

 現実と空想の違いにストレスを感じながらも、それでもデータとは言えバリエントは強かった。メインスラスターで加速しながらビームライフルのトリガーを引く。

 

「くっ!? 攻撃を避けながら先読みして撃つ!」

 

 左腕のディフェンスプレートでビームを受けながら機体を動かし銃口を向ける。バリエントはまだ動きを見せてない。

 

「まただ、やっぱりデータは動きが遅い。アムロなら、本物のアムロならライフルを向けた瞬間に動く」

 

 ダブルエックスが放つビームにバリエントは空中で姿勢制御しながらまたも避けると同時に振り返りトリガーを引く。ガロードも同様にビームライフルのトリガーを引くと互いのビームがぶつかり合う。

 激しい閃光に視界が真っ白になるが、ガロードは怯む事なくサイドスカートからハイパービームソードを引き抜き一気に加速。右腕を振り下ろす。

 

「でも……悔しいけど射撃戦じゃ勝てない!」

 

 ビームの刃は左肘を切断するが、バリエントはダブルエックスの胸部を殴り付け、更に右脚部を伸ばすとハイパービームソードを握るマニピュレーターを蹴った。ダブルエックスは耐え切れずビームライフルを手放す。

 

「このッ!」

 

 操縦桿を思い切り押し倒す。右腕を突き出すダブルエックスのマニピュレーターをバリエントは左手で受け止めるが、最新鋭のガンダムタイプと新型とは言え量産機のバリエントでは元のパワーが段違いだ。

 腕のフレームがメキメキと悲鳴を上げ、状況を打開せんと今度は股関節に右膝を叩き込む。シュミレーターなので振動などは伝わって来ないが、データとは言え最後まで足掻き続ける姿勢にガロードは舌を巻く。

 

「しつこいんだよッ!」

 

 もう片方のマニピュレータ―をバリエントの頭部へ伸ばすと、頭部と胴体を繋ぐ首に向かって挿し込んだ。何本もあるケーブルを引きちぎりメインカメラを機能させなくさせる。そしてバルカンとマシンキャノン、ブレストランチャーで至近距離でバリエントに撃ちまくる。

 連続して発射される弾丸は青い装甲を次々に貫き、破壊し、ズタボロに引き裂く。

 バリエントは反撃もできぬまま再起不能にされ、同時にシミュレーターもそこで終了した。

 額からどっと汗が吹き出しシートに体重を預けるガロードは未だに追い付けないアムロの技量にため息をつく。

 

「シミュレーターでも10回やって3回しか勝てない。クソッ……」

 

『どうだ? まだやるか?』

 

「キッド、やっぱシミュレーターじゃ完璧とは言えない。それにアムロのバリエントの動きも違うんだ』

 

『データ上の数値に狂いはねぇ。それにそんな偉そうな事言うくらいなら8、9回は余裕で勝ってみろ』

 

「ぐっ、そりゃそうなんだけどさ」

 

『こっちもエアマスターとレオパルドの最終調整に忙しいんだ。やらないなら体を休めとけ。ガロードに合わせたダブルエックスのセッティングも進めるからよ』

 

「わかった。すまねぇ……」

 

 日々訓練に勤しむガロードは少しずつ、でも確実に以前よりも強くなっている。けれどもソレに反してティファと会う時間が減っていく。

 人としても青年に成長したガロードだが彼女の気持ちに気が付けなかった。

 ティファはモビルスーツデッキの入り口の影からガロードを見つめるだけで姿を見せようとはしない。

 言葉を伝えない彼女の思いがガロードに伝わる事もなかった。

 

「ガロード……」

 

(彼の所に行かないの?)

 

 頭の中に響くように声が聞こえる。アムロの記憶の中で出会った少女、ララァ・スンはティファの気持ちをわかっていながらそう言った。

 

「私が行くと邪魔になるから」

 

(ふふふっ、今までにもニュータイプの能力は使って来たのでしょう?)

 

「ガロードにはそう言う事、やりたくない」

 

(自分の本心を打ち明けるのは辛い事?)

 

「良くわからない……でも、胸が苦しい」

 

(アムロはもう私と会いたがらない、それはあの人が成長したから。私は成長も退化もする事なく永遠にこの宇宙を彷徨うの。でもアナタは違う)

 

 ララァに言われて足を1歩前に進めようとするが恐怖心にそれは叶わない。同じ空間で日々を過ごして来たティファとガロードは最近になってようやくお互いを知る事ができた。

 けれども知ってしまったが故にそれ以上踏み込もうとは思わない。少し前は少年だったガロードは可憐なティファに恋い焦がれ常に彼女を見ていたが、成長するに連れて自分を取り巻く環境の変化に順応してゆき、フリーデンに所属するモビルスーツパイロットとして技術を積み重ねていく。

 そうなれば常にティファばかりを見てる訳にもいかない。1つしか見えてなかった視野が広がったからだ。

 だがその思いが消えた訳ではない。

 しかし言葉を発さないガロードの気持ちをティファが知る事はできず、思いを打ち明けないティファが苦しみから開放される事もなかった。

 そのままゆっくりモビルスーツデッキを後にするティファは当てもなくフリーデンの通路を歩き続けた。

 

「あれ、ティファ? 何してんの、こんな所で?」

 

「トニヤさん?」

 

「珍しくブルーになっちゃって。何か嫌な事でもあった? あッ! サラに何か言われたんでしょ! アイツはマジメ過ぎる所があるから。」

 

「いいえ、違います」

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

「私は……」

 

 通路で出会ったトニヤにうつむき加減に口を開けようとするティファ。けれども出て来た言葉はガロードの事ではなく、いつの間にかフリーデンから出て行ったエニル・エルの事。

 

「トニヤさんは寂しくないですか? 突然、エニルさんが居なくなって」

 

「寂しい……寂しいかぁ。寂しくないって言ったら嘘になる。短い時間だったけど意気投合したからね。でもいつまでも引きずって居られる程子どもじゃなくなったのかなぁ。こんな仕事してるからいつ死んでもおかしくないからね。マイナスの感情は抑え込まないと生死に繋がる。そうやっていつの間にか慣れちゃった」

 

「慣れ……ですか」

 

「そうかもね、上手く言葉にできないけれど。でもねティファ、ブルーな理由はそれじゃないでしょ? 全部吐き出しちゃった方がスッキリする事もあるよ。まぁ、そうとは限らないのが難しい所だけど」

 

「トニヤさん……」

 

「ここは男が多いから愚痴を吐き出すのも苦労するのよ。それにサラはマジメ過ぎるしさぁ。ティファが相手になってくれると嬉しいんだけどさ。ま、気分になったらまたアタシの所に来なさい。いつでも相談に乗ってあげる」

 

 言うて笑顔を向けるトニヤはティファを置いて業務に戻って行ってしまう。残されたティファはジレンマの中から結論を導き出すしかない。

 

///

 

 ニュータイプ研究所、そこは新連邦が建設したニュータイプの研究機関である。サテライトシステムとフラッシュシステムを起動させる事のできるニュータイプはたった1人でも強力な戦力となり、新連邦は新たなニュータイプを欲している。

 その中で候補生として訓練を受けていたパイロット3人が以前起こったエスタルドでの戦闘でダブルエックスに敗れてしまった。

 シャギアは残る1人であるアベル・バウアーにもう1度フリーデン襲撃の任務を任せる。

 

「ラスヴェートの修理は完了した。今回はニュータイプ研究所の協力でビットモビルスーツも用意した」

 

「それはありがたいが、私は覚醒値5%だぞ? 今までの訓練でもフラッシュシステムの起動には成功してない」

 

「ニュータイプへの覚醒は死の恐怖が引き金になると聞いた。フリーデンに対し今回は1人で行って貰う」

 

「援護の艦隊もなしでか?」

 

「現在、私の機体は改修作業を進めている。それが間に合えば駆け付ける。アベル中尉はニュータイプ研究所で金が掛かってる。撤退も視野に入れて構わない。だが、もしもコレでニュータイプに覚醒しフラッシュシステムの起動に成功すれば中尉はガンダムを倒せる」

 

「私がガンダムを? フフフッ、ラスヴェートで出る!」

 

 意気揚々とコクピットに乗り込むアベルは操縦桿を握り締め機体のエンジンに火を入れ、頭部ツインアイが不気味に輝く。

 シャギアはその様子を見ながら、弟のオルバに声を飛ばす。

 

(オルバよ、そちらの準備はどうだ?)

 

(問題ないよ、兄さん。機体の改修は完了、予定通りそっちに向かうよ)

 

(そうか。ならば後は邪魔な存在を消すだけだ)

 

(僕達の計画を実行させる日も近いね)

 

///

 

 進路を進むフリーデンのブリッジ、ジャミルはいつもの様にシートの上に座るだけだったが他のクルーは不安を隠せない。何故ならここは新連邦の領地内、ニュータイプ研究所がそこにある。

 一見すると赤い岩肌の巨大な一枚岩がそびえ立つだけだがその内部には巨大な施設が建設されていた。

 舵を取るシンゴはいつ敵が襲って来るのか不安で仕方がない。

 

「元とは言え連邦の施設だったんでしょ? すぐ後ろからは新連邦の部隊が来てるかもしれないのに。艦長、本当に良いんですか?」

 

「皆に無理を言ってるのは重々承知している。だが私はどうしてもここに行く必要がある。ニュータイプ研究所に。ゾンダーエプタ―に居た時、奴らは私達をここに連れて来るつもりだった。きっと何かある筈だ」

 

「そうかもしれませんけど……」

 

「頼む。サラ、通信を送って来れ」

 

 指示を受けて何も言わずにサラはコンソールパネルを叩いた。フリーデンから送られる通信は確かにニュータイプ研究所にまで届き、数秒後ブリッジのモニターには女性の顔が映し出される。

 眼鏡を掛けるその女性は白衣を纏い少しやつれているようにも見えた。

 

『私はニュータイプ研究所所長のカロン・ラットです。フリーデン、と言う事は艦長のジャミル・ニートが居る筈でしょ?』

 

「私がそうだ。知っているのか?」

 

『ニュータイプの研究者なら知らない人は居ません。15年前の戦争で連邦軍が開発したガンダムのパイロット。若干15歳の少年にしてサテライトシステムとフレッシュシステムを起動させたニュータイプ。それは連邦軍にとって大きな戦力』

 

「15年も前だと言うのに良く知っているな」

 

『えぇ、もちろん。それで、何の用があってここまで?』

 

「初めに言っておく。我々は無益な戦いをするつもりはない。ただ知りたいだけだ。ニュータイプが何なのかを」

 

(アナタには無益でもコッチにはあるのにねぇ。情報によればティファ・アディールもあの艦に居る。狙わない手はない)

 

 カロンと名乗った女は腹の中で計画を企てるがジャミルがその事に気が付く事はできなかった。ニュータイプの能力が使えないからではない。ジャミルはどこかで焦っていた。

 ニュータイプの真実、自分自身の真実に。

 

『わかりました。私もアナタには興味があります。こんな通信ではなく直接会う事は可能ですか?』

 

「こちらとしてもその方がありがたい」

 

『入口のシェルターを開放します。艦はそこから入って下さい』

 

「いいや、行くのは私1人で充分だ」

 

『用心深いのか、バルチャーの習性なのか……。では5分後に向かえのヘリを行かせます』

 

「了解した」

 

 意思の疎通が終わると通信は切られモニターに映るカロンも消えてしまう。サラは振り返るとジャミルに向かって口を開く。

 

「本当に大丈夫なのですか? 相手の罠が仕掛けられてる可能性も」

 

「私の心配ならいい。それよりも外から攻撃を受けた場合の自衛は任せる。私の事は構わずに行動しろ。良いな?」

 

「了解……しました」

 

 言葉では言われたが不安を払拭できるモノではなく、サラを含め他のクルーもニュータイプ研究所に乗り込む事に対して気持ちが落ち着かない。

 けれども事態は確実に動いていき、向かえのヘリは時間通りに来た。1人ヘリに乗り込むジャミルはいよいよニュータイプ研究所に乗り込む。

 そこで待っているのは通信で言葉をかわしたカロンの姿。

 

「ようこそ、ニュータイプ研究所へ。歓迎します、ジャミル・ニート」

 

「いいや、こちらこそ」

 

「立ち話も何ですから奥へ」

 

 言われてジャミルはカロンの後に続き研究所の奥へと進む。

 歩きながら施設内を見て行くと隔離された部屋の中には大量の機材が設置されている。外で暮らす人間は薬1つ手にするのも難しい状況にも関わらず、ここでは全室空調で温度管理され室内は清潔に保たれていた。

 食事も薬も機材もここになら全て揃っている。だがそれらはニュータイプ能力を解明する為だけに用意されたモノ。

 カロンは進んだ先にある扉を開けると中へと入り、床に敷かれた赤い絨毯の上を進んで行く。部屋の中央に置かれたソファーとテーブル。

 

「ではここの椅子にお掛け下さい。お茶でも用意させましょうか?」

 

「いいや、結構だ。私は話をしに来ただけだ」

 

「そうですか」

 

 ジャミルとカロンは対面しながらソファーに座ると早速本題に入った。

 

「単刀直入に聞かせて貰う。この研究所は一体何をしている?」

 

「ふふふっ、名前の通り。ここはニュータイプを研究する為の施設。新連邦は新たなニュータイプを求めてる。その為にニュータイプの素質がある人間を集め、ここで研究、願わくば覚醒させる事を目的に活動している」

 

「連邦はまだそんな事をしているのか。いいや、それだけではない。ニュータイプの事を研究していながらアナタにはわからないのか?」

 

「何の事? 当事者であるアナタの方が良く知っているでしょ? ニュータイプの戦場での力は絶大よ」

 

「良くわかっているから否定している。ニュータイプは戦争の道具ではない」

 

「センチメンタルなの? 例えオールドタイプだろうとニュータイプだろうと、その能力は有益に使うべきだと思うのだけど」

 

「それは詭弁だ。かつて連邦はニュータイプを人の理想と掲げた。だがその結果が今の地球だ。ニュータイプと呼ばれた私の仲間も多くが戦場で死んでいった。こんな事の為にニュータイプが存在するのか?」

 

「それは違う。ニュータイプこそ人類が繰り返して来た戦争によって生まれた新しい人類。だからこそニュータイプは未来を創る事ができる。生き残る為にね」

 

「戦争がニュータイプを生んだだと? なるほどな、だからここにはニュータイプが居ないのか」

 

「なんですって?」

 

 カロンの眉がピクリと動く。威圧感がピリピリとした空気を生むがジャミルは構わずに話した。

 

「私もかつてニュータイプと呼ばれた。そして時の流れを見た。人の革新があってこそ未来は創られるのだ」

 

「ふふっ、大した理想です事。でも今と言う時代、かつての戦争を経験した人間にその言葉は届かない」

 

「そうかもしれないな。だから私は未来の若者に託すさ。これからの時代を築くのは老人ではない」

 

「はぁ、アナタは話のわかる人だと思ってたけど残念ね」

 

 見かけは落胆した様に見せるカロンは立ち上がりジャミルを残して部屋から出て行く。

 

///

 

 ジャミルがニュータイプ研究所に行っている間、フリーデンは状況を見守り待機しているしかなかった。

 その瞬間を見計らったかのように上空には1隻の輸送機。

 アベル・バウアーが搭乗するラズヴェートがたったの1機で発進した。

 

「ここを生き残る事ができれば私は覚醒する! その為の試練として立ち塞がってみろ! 乗り越えてみせる。来い、バリエントのパイロット、そして新たなガンダムよ!」

 

 ラズヴェートの機体反応をすぐに察知するフリーデン、ブリッジでは艦長の代理を任せられたサラが声を張り上げ指示を飛ばす。

 

「このモビルスーツの反応はエスタルドで見たのと同じ!? モビルスーツは順次発進して下さい」

 

 モビルスーツデッキでは準備が完了しているダブルエックスとバリエントにパイロットが乗り込む。ウィッツとロアビィは未だに完成しない自分の機体に歯痒さを感じキッドに詰めたてる。

 

「オイ、まだ俺のエアマスターは直らないのかよ! 見かけはもうできてるじゃなぇか!」

 

「俺のレオパルドもね。ちょっとくらいなら腕でカバーする」

 

「こっちだって全力でやってるよ! でもダメなモンはダメだ! まだ電気系統の配線やシステムの調整が全くできてないんだ。今操縦桿を握っても指1本動かねぇ」

 

 ゾンダーエプタ―での戦闘で損傷したエアマスターとレオパルド、その改修作業も目前に迫っていた。損傷した装甲だけでなく武装に至るまで大改造を行ったせいもあり普通よりも時間が掛かってしまっている。

 エアマスターバースト、レオパルドデストロイ、その完成も近いが今は戦えない。

自分の機体に搭乗するガロードとアムロはフリーデンから出撃し、迫るラズヴェートの迎撃に向かう。

 

「どうして1機だけなんだ?」

 

「兎も角今はフリーデンの防御に専念しるんだ。ジャミルも居ないんだ」

 

「了解!」

 

 メインスラスターから青白い炎を噴射するダブルエックスは上昇するとラズヴェートと向かい合う。互いにビームライフルを向け中距離からビームの射撃戦。

 次々に発射されるビームは装甲にかすめる事もなく、両者は回避行動を取りながらトリガーを引く。

 

「敵は標準的な武器しか持ってない。これなら!」

 

「来いガンダム! 私の踏み台となれ!」

 

「誰が踏み台になんかなるかよッ!」

 

 素早く操縦桿を動かすガロード。ダブルエックスはその反応に充分に答え機敏に動き、高い性能でラズヴェートの攻撃を簡単に避ける。

 そして回避行動を取りながら相手に向かってトリガーを引く。だが今回はアムロのバリエントも味方に付いている。

 アムロの正確無比なビームライフルの射撃がラスヴェートを襲う。

 

「あの時の機体か。だが1機で来たのは気になるな」

 

「その動き、エスタルドで戦った時と同じパイロットと見た! 貴様も私が覚醒する為の糧となれ!」

 

「そんな事では!」

 

 ニュータイプ専用機として開発されたラスヴェート。その性能はガンダムにも引けを取らない。それでも2対1と言う不利な状況。機体とパイロットの技量の差は大きく、徐々に追い詰められる。

 交差するビームの雨、攻撃は確実にアベルを追い込む。

 

「ぐぅッ!? 流石は新型のガンダム、簡単にはやられんか」

 

「何なんだコイツ? 死にに来たのか?」

 

 一切引く事もなく攻め続けるアベルにガロードは恐怖さえ覚える。それでも冷静にビームライフルの銃口を向け、発射したビームはコクピットを捕えた。

 

「そこだァァァッ!」

 

「ッ!?」

 

 時が止まる、死の恐怖が全身を駆け巡り何も考えられない。体中の毛が逆立ち冷たい汗が背中を伝う。だがこの瞬間だけは全てが止まっていた。

 音も、光も、時間さえも。

 それに反応してラズヴェートのフラッシュシステムが起動した。ツインアイが赤く輝き、上空の輸送機に搭載された7機のビットモビルスーツが一斉に起動する。

 意思を持ったかのように動く無人のビットモビルスーツはメインスラスターから青白い炎を噴射すると輸送機から発進した。

 アベルには感覚的にビットモビルスーツが起動した事がわかり、同時に操縦桿を匠に動かすと左手からビームサーベルを抜き、ダブルエックスから放たれるビームを寸前の所で防いだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!? この感覚……間違いない、フラッシュシステムが起動した! 私にはわかる! フハハハハッ、遂に覚醒したぞ!」

 

「クソッ、もう少しの所で防がれた。うん、何だ?」

 

「上から増援が来る。動けガロード」

 

 散開するダブルエックスとバリエント。その眼前に現れたのはさっきまで戦っていた機体と全く同じモノ。けれども漂うプレッシャーは今までのモノとは違う。

 

「何だ、この感覚は? パイロットの敵意か?」

 

「今更増援かよ。でも数が増えただけで勝てると思うな!」

 

「止めろ、迂闊に前へ出るな!」

 

 アムロが静止するよりも早くにペダルを踏み込むガロードが8機のラズヴェートを相手にするべく前に出た。

 ビームライフルの銃口を向けトリガーを引きビームを放つ。

 

「遅い! 遅すぎる!」

 

「なっ!? コイツ!」

 

 ダブルエックスの攻撃を避けるラズヴェートは一斉に武器を構えて攻め立てる。四方からのビーム攻撃、ビームサーベルでの接近戦。

 それらの攻撃は互いに干渉する事もなく、完璧なタイミングでダブルエックスに襲い掛かる。

 

「ぐぅっ!?」

 

 ビームの直撃がコクピットを激しく揺らす。ルナチタニウム合金の強固な装甲は1撃くらいで破壊される事はないが、それでも確実にダメージを蓄積していく。

 右から、左から、ビームサーベルの斬撃が襲う。上からも下からもビームの追撃。

 ペダルを踏み込み機体を加速させても避けた先から攻撃が迫る。ディフェンスプレートで何とかして攻撃を防ぐが、絶え間ない攻撃に機体も心身も疲労していく。

 すかさずアムロのバリエントが間に割って入りダブルエックスを何とか援護した。

 

「機体の性能を引き出せ。これだけの数、バリエントでどこまで保つ?」

 

「アムロ……」

 

「1機づつ確実に仕留める」

 

 トリガーを引くアムロのバリエントはラズヴェートを狙う。次々に発射されるビームにアベルは回避行動を取るが、逃げる先を狙うアムロの攻撃に思わず舌を巻く。

 

「ナニィ!?」

 

「この動き……相手もニュータイプか? だが、妙だな」

 

「私の動きに付いて来る。これで確信が行った! 貴様もやはりニュータイプ!」

 

「敵意が来る」

 

 ビームを避けながら攻撃をするアムロ。その動きはまるで先に起こる事を知ってるかのように攻撃が当たる気配が見えない。

 

「何故だ? 私もニュータイプの筈だ。それを……」

 

「見える! 落ちろ!」

 

 ビームがラズヴェートの右腕を撃ち抜く。衝撃に動きがわずかに止まった瞬間、更に右脚部とコクピットを撃ち抜いた。けれども他のラズヴェートがバリエントに襲い掛かる。

 右手にビームサーベルを握り振り下ろす。激しい閃光が発生するとバリエントもビームサーベルを引き抜きコレを防いだ。

 

「チィ、数が多い。反応が遅い!」

 

 右脚部を伸ばし目の前の敵を蹴り飛ばす。衝撃と鈍重な音が響き渡り、姿勢を崩した所へ銃口を向けトリガーを引いた。

 一撃でコクピットが撃ち抜かれ、2機目のラズヴェートが黒煙を上げながら地上へと落下して行く。

 瞬く間に2機のモビルスーツを倒したアムロの動きを間近で見たガロードは、思わず声を漏らさずには居られなかった。

 

「これが……ニュータイプの戦い……」

 

///

 

 アムロとガロードが戦う最中、フリーデンは動く事ができないで居た。ジャミルがまだ戻って来ない事もあるが、密集した戦闘に援護射撃もできない。

 ブリッジではその様子を見守る事しかできなかった。

 そんな中、ティファはモビルスーツデッキへと走っている。地上へ直撃するビーム攻撃が時々艦内を揺らすが、壁に手を付きながらでもティファは急いでソコに向かう。

 

「はぁ、はぁ、もう少し……」

 

 よろけながらもモビルスーツデッキまで到着したティファが見るのはワイヤーで固定されたνガンダム。

 補給も整備もされてない機体には埃も被っている。

 

「ん……」

 

 生唾を飲み込むティファは意を決して歩を進めると横たわるνガンダムの所にまで足を運ぶ。そして見上げる白い巨人。

 思い出すのはアムロとララァに言われた言葉。

 

(何かを失う事で前に進めるのだとしたら、俺にとって彼女がそうだったのだろ)

 

(アムロはもう私と会いたがらない、それはあの人が成長したから)

 

「そんなの……嫌!」

 

 装甲の隙間に足を掛けてよじ登るティファ。非力な彼女の筋力では補助もなしにモビルスーツのコクピットに乗り込むのは難しい。そのせいで時間が掛かった事もあり、ティファを見付けたキッドが急いで駆け付けて来た。

 

「ティファ、何やってんだ! 落ちたら危ないぞ!」

 

「行く必要があるの。ガロードを助けないと」

 

「行くって……モビルスーツの操縦なんてできないだろ! それにこの機体はもう満足に戦闘なんてできない!」

 

「コクピットに入れれば良いの。お願い!」

 

 今までになく必死なティファの姿にキッドも思わずたじろぐ。そうしてる間にも脚部装甲によじ登ったティファはコクピットに向かって歩いて行ってしまう。

 

「あ゛あぁッ! わかったよ、座るだけだからな!」

 

 ティファに追い付くべくキッドも急いでνガンダムによじ登って行く。ティファは開放されたままのハッチからコクピット内部に入り込みシートの上に座った。

 

「これがガンダム……」

 

「ティファ、さっきも言ったけど座るだけだからな。コイツは戦えない」

 

「私もルチルさんみたいにサイコフレームを使えれば」

 

 ハッチから覗き込むキッドは約束を破って動かさないかどうかを心配して見ていた。けれどもティファがした事は胸元で両手を握り祈るようなポーズを取るだけ。

 不信に思ったキッドだたがこれ以上は何も言えない。そしてコクピットフレームに使用されたサイコフレームがティファの声に答えようと淡い光を放出する。

 

(お願い、ガロードに私の声を届けて)

 

 淡い緑色の光はνガンダムから溢れ出す。

 彼女の願いは光の粒子に乗ってガロードの所にまで届こうとしていたが、その声は彼だけでなく他の人間にも伝わっていた。

 

「この感覚、ティファか!?」

 

 能力を失ったジャミルにもティファの声が聞こえた。そしてそれはガロードも同じ。操縦桿を握り締め必死に戦いながらも、突然聞こえた声に動きを止めてしまう。

 

「何だ!? さっきの声、ティファなのか?」

 

 ニュータイプへと覚醒したアベルにもまた、その声は届いてしまう。

 

「声が聞こえただと!? 奴以外にもニュータイプが居るのか?」

 

 突然の事に戦場に居る人間の誰もが驚いた。動きを止め、フリーデンから溢れ出てくる光に目を奪われてしまう。

 けれどもアムロだけは、明確な意思を持って叫んだ。

 

「止めろティファ!」

 

 

 

第21話 ニュータイプはそんな便利じゃない!

 

 

 




活動報告へのコメントありがとうございます。
取り敢えずサブタイトルはそのままに章を追加して見ました。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第22話

 フリーデンから溢れ出るサイコフレームの光。それは人々の考えや声を無造作に広い、そして広げていく。

 ガロードに届けるべく願った彼女の思いは、敵であるアベルにも届いていた。ニュータイプへと覚醒したアベルはその能力を頼りに、フリーデンに居るティファの存在を認識する。

 

(私の邪魔をするつもりか! 消えろッ!)

 

「ッ!? なに?」

 

(ティファ・アディール……そうか、ティファ・アディールか! 邪魔などさせん! 覚醒した私の力でガンダムを倒す、ニュータイプを倒すんだ! 貴様に邪魔などさせるものかァァァッ!)

 

 向けられる敵意、圧倒的な憎悪。

 普段ならそれらの感情の逆流をシャットアウトする術を身に着けたティファだが、今回だけはそうはいかなかった。サイコフレームにより増長された感情が否応無しにティファの心の中に流れ込んで来る。

 手が震える。汗が滲む。まだ幼い少女の精神力はグチャグチャに踏み躙られ恐怖が襲う。

 

「あぁ……あ……あ……あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァァッ!」

 

「ティファ!? どうしたんだ、オイ!」

 

「来ないで! 嫌ァァァッ!」

 

 キッドの呼び掛けにも反応できず、向けられる敵意に震える事しかできない。必死の思いで両手で耳を塞いでも、精神に呼び掛けてくる相手の声はティファを追い詰める。

 状況が理解できないキッドは彼女の体をさすってみるが、その程度でどうにかなる筈もない。頭を抱えるキッドだがどうにもならず、医務室のテクスを呼ぶべくνガンダムのコクピットから離れる。

 

「すぐにテクス呼んで来るから、ここから動くんじゃないぞ!」

 

 全力で走って行くキッドだが、コクピットから離れて数秒後にはティファは意識を手放してしまう。力なく動きを止めたティファはシートの上で眠ってしまった。

 

///

 

 ニュータイプ研究所、そこの職員であるニコラ・ファファス。彼にはもう1つ、別の顔があった。それは宇宙革命軍のスパイである。

 彼は突如として聞こえた少女の声に興奮を隠せない。

 

(声が聞こえた気がした。あれはナンバー992で間違いない。だがもう1人は? ティファ・アディールと言ったか? ふふふっ、私は付いてる! この施設に潜入した甲斐があった。ティファ・アディール、アルタネイティブ社も狙っていたニュータイプの少女。それが今はフリーデンに居る! 我が宇宙革命軍の発展の為にも、彼女を宇宙に連れて行く必要がある)

 

 不敵な笑みを浮かべるニコラは研究所内の通路をコツコツと革靴の音を鳴らしながら進んで行く。その先に居る部屋で待つのはフリーデンから来たジャミル・ニート。

 ドアノブを掴み勢い良く開けるニコラは慌てた様子で状況を説明した。

 

「ミスタージャミル、大変です。状況が変わりました。この施設の近辺で戦闘がおこなわれています」

 

「戦闘だと?」

 

「はい。ここにはモビルスーツは愚か防衛設備もありません。私がヘリで艦まで送り届けます。すぐに準備を」

 

(戦闘……と言う事はガロードとアムロも出撃しているな。さっき聞こえたティファの声も気になる。ここは戻るしかないか)

 

 数秒考えるジャミルだが、ドアを開けたまま待つニコラをサングラス越しに見た。今は迷っていられる時間は残されてない。

 

「わかった、ヘリに案内して来れ。すぐにでもここから出たい」

 

「わかりました。では、私に付いて来て下さい。格納庫です」

 

 先導するニコラの後に続くジャミル。2人はヘリコプターに乗り込むと人知れずニュータイプ研究所を後にした。

 それと入れ替わりで2機のモビルスーツが研究所内に潜入する。悪魔の名を宿す2機のガンダム、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクとガンダムアシュタロン・ハーミットクラブ。

 以前の戦闘で損傷した箇所の修復だけでなく機体性能の向上、強化を施した新しい機体。

 ガンダムヴァサーゴは外見にそこまでの変化はないが、内蔵されているジェネレーターの出力強化、 背部ラジエーターユニットの改良による冷却効率の向上によりメガソニック砲が更に強力に進化した。

 ガンダムアシュタロンは背部バックパックユニットを装備、空力特性、装甲強度等が大幅に強化され、特徴的なアトミックシザースはギガンティックシザースへと変更。機体本体と並ぶ程巨大なアームへと改良された。

 2機は研究所内へ侵入すると、中央区にそびえ立つ最も高いビルを視界に入れる。

 

「オルバよ、ここから始める。私達の時代を」

 

「僕達を認めない世界を滅ぼす。その為の第1歩だね」

 

「カロン所長、聞こえるか?」

 

 通信で呼び掛けるシャギア、反応はすぐに返って来た。

 モニターには彼らにとって憎悪すら覚える忌々しい存在が映し出される。

 

『どうしたの? モビルスーツでこんな所にまで来て』

 

「アナタとお会いするのもコレが最後だ」

 

『どう言う意味?』

 

「私達兄弟には力があった。普通の人間にはない力だ。だがそれを、お前達科学者や上層部の人間は切り捨てた。フラッシュシステムが使えないと言うただそれだけの理由で」

 

「その日から僕達は誓ったよ。こんな世界は認めない、全てを破壊する。そして次の時代は僕達が創る。新連邦でも革命軍でもニュータイプでもない、僕達だ!」

 

「貴様には死んで貰う」

 

 トリガーを引くシャギアはメガソニック砲を展開させる。胸部装甲が展開され巨大の砲身があらわとなった。改修前とは違いビーム発生装置は3基に増設され、背部の黒い翼が広げられるその姿は悪魔と呼ぶに相応しい。

 ツインアイが不気味に輝くとエネルギーがチャージされる。

 

『なっ!? 馬鹿な事は止めなさい! こんな事をして――』

 

「もうアナタと話をする事はない。さようならだ」

 

 瞬間、光が広がる。

 莫大なエネルギーが放出されビルは瞬きをする暇もなく飲み込まれた。逃げる時間などなく、カロンは髪の毛1本とてこの世に残さず消えてしまう。

 

「フフフッ、作戦完了だ」

 

「いよいよ次のステージに行く時が来たね」

 

「我々も行くとするかな――」

 

 

 

第22話 宇宙へ

 

 

 

///

 

 戦場で戦うガロードは一瞬聞こえたティファの声に動揺してしまう。コンソールパネルに手を伸ばすと一緒に戦うアムロに向かって聞いてみる。

 

「なぁ、ティファの声が聞こえた気がしたんだ」

 

「そうかもしれないが! 敵はまだ目の前に居るんだぞ!」

 

 ラズヴェートはまだ6機も存在している。ビームサーベルでチャンバラを繰り広げるアムロのバリエントは斬り上げると相手の右腕を切断し、機体の姿勢が崩れた瞬間を狙いコクピットに切っ先を突き立てた。

 だがコクピット内部は無人。ビームサーベルにより内部機器が破壊されたビットモビルスーツはフラッシュシステムの受信が出来なくなり、動きを止めて重力に引かれて行く。

 

「それにこの光、ガンダムのサイコフレームか?」

 

「一瞬だけ聞こえた気がしたんだ。一瞬だけ、ティファの声が」

 

「今は目の前の敵に集中しろ。簡単に倒せる相手じゃない。それに……」

 

 ダブルエックスとバリエントに向かって敵意を向けるラズヴェート。匠に操縦桿を操作しながらもアムロはティファの気配を感じていた。それはサイコフレームにより増長された意識によるモノなのかはわからないが、今はもう彼女の声は聞こえない。

 

(相手の敵意に当てられたか。ティファの息遣いが感じられない。兎に角、今はフリーデンを守りながら戦うしかない。だがどれだ? 残り5機も相手をするのは骨が折れる)

 

 アムロは相手の動きを注意深く観察するが、モニター越しに見るラズヴェートの動きは全く同じ。フラッシュスステムにより動かされるビットモビルスーツはパイロットの意識と同調しており、見ただけでは本体がどれなのかを見極められない。

 だが1つだけ、敵がどれかわかる方法がある。ビームサーベルを戻し腰部のビームライフルを握らせて、銃口を向けるとトリガーを引く。

 けれども発射されたビームは明後日の方向に飛んで行くと雲の中に消える。次のビームも次の攻撃も、ラズヴェートからは遠く離れた所へ飛んで行く。

 

「うん? バリエントのパイロットは何をした? 操縦系統の故障か? まぁ良い、このまま仕留める!」

 

 5機のラズヴェートがアムロのバリエントを狙って再び動き出す。だがアムロはその瞬間を狙っていた。

 

(一か八かだったが上手くいった。敵意をむき出しにし過ぎたな。そのせいで他の4機よりもパイロットが乗った機体の方が動き出すのが遅い。奴が居るのは……)

 

 アベルはアムロとガンダムを倒す事に躍起になっていた。そのせいで無意識下でビットモビルスーツに攻撃命令を出してしまっている。

 脳からの命令に体はわずかながらタイムラグが発生してしまう。5機の中で最も動き出すのが遅かった機体。それこそがアベルの搭乗する本体。

 

「ガロード、敵の本体がわかった。援護しろ」

 

「そんなのわかったのか?」

 

「残りの邪魔な奴を頼む。本体は仕留めて見せる」

 

「そうは言ってもよ!?」

 

 一斉に向かって来るラズヴェートの4機目、本体に狙いを向けるアムロはビームライフルのトリガーを連続して引く。

 発射されるビームに反応して回避行動に移るが、先読みして放たれるビームは避けた先にも発射されている。黒い装甲にビームがかすめ小さな火花が飛ぶ。

 

「アイツめ!? 安い演技に乗せられたとでも言うのか? 私の事が見えている!?」

 

「ライフルの残弾が少ない!」

 

「負けてなるモノか! 私はニュータイプだぞッ!」

 

 対面するアベルもビームライフルを向けてトリガーを引く。互いに中距離による射撃戦。メインスラスターの加速で機体を動かし、両者ともにビームを直撃させる事はできない。

 それでもアムロはジリジリと相手との距離を詰める。

 

「機体性能ではバリエントに勝っている。それでも相手を捕えられないと言う事は、私のパイロットとしての技術が劣っているのか?」

 

「これ以上の持久戦は不利だ。一気に押し通す!」

 

「やらせるモノかよッ!」

 

 ラズヴェートのビームライフルにビームが当たる。貯蔵されたエネルギーが誘爆するよりも早くにビームライフルを手放し、ビームサーベルを引き抜くと自ら前に出た。

 アムロもビームライフルのエネルギー量がわずかなのを見るとマニピュレーターから手放し、ビームサーベルを引き抜きぶつかり合う。

 ビームとビームが交わり激しい閃光が照らす。

 

「このくらいッ!」

 

 操縦桿を押し込むアムロはバリエントの左手で相手の頭部を殴り付ける。

 

「ぐぅッ!?」

 

「うぉぉぉッ!」

 

 更にもう1発、鈍重な音が響く。追撃で更にもう1発。

 

「舐めるなァァァッ!」

 

「遅いッ!」

 

 耐えかねたアベルは激怒しビームサーベルを振り被るが、アムロはそれよりも早くにバリエントを動かすとラズヴェートの背後に回り込み背部を蹴った。

 完全に姿勢を崩すラズヴェート、その隙を逃すアムロではない。

 腕のミサイルランチャーを一斉に放つ。シールドも何もないラズヴェートは両腕でコレを防ぐが、爆発に両腕が吹き飛ばされてしまう。

 目の前の視界が開けた時、ビームサーベルの切っ先がコクピットに向けられていた。

 

「ニュータイプに覚醒したこの私が……」

 

 モニター一杯に広がるビームサーベルの光。コクピットを貫かれたラズヴェートは力を失い重力に引かれて地面へと落下する。

 同時にフラッシュシステムの機能も停止してビットモビルスーツ達も動きを止めた。

 

「やったか?」

 

「アムロ、ビットモビルスーツの動きも止まったぞ」

 

「どうやら上手くいったみたいだな。フリーデンが気になる。すぐに戻るぞ」

 

「了解!」

 

 アベルとの戦闘を終えた2人はメインスラスターから青白い炎を噴射させ機体をフリーデンの方向へ向ける。

 

///

 

 ジャミルとニコラが乗るヘリコプターは戦闘領域を遠回りに迂回するとフリーデンへと着陸する。モビルスーツデッキに足を付けたジャミルの元に、帰って来た事に気が付いたキッドがすぐに駆け寄って来た。

 

「ジャミル、帰って来たのか!? ティファが大変なんだよ!」

 

「何だと?」

 

「今はテクスが診てくれてる。アムロのガンダムの傍だ」

 

 キッドに連れられて付いて行くジャミル。けれどもその背後からもう1人の男が影に隠れて後を付けていた。足音を消し、気配を薄くさせる。

 キッドとジャミルはνガンダムの傍にまで来ると、ティファの様態を診るテクスに声を掛けた。

 

「テクス、ジャミルが帰って来たぞ!」

 

「何があった? ティファは無事なのか?」

 

 冷たい鉄の床の上に寝かされているティファ、その表情は普通に寝ているようにも見えるが額には微かに汗が流れていた。

 

「あぁ、ジャミル。帰って来たか」

 

「どうしたんだ? さっきティファの声が聞こえた事と関係が?」

 

「お前は聞こえたのか? 私には何も。キッドが言うにはアムロのガンダムの中で急に叫びだしたらしい」

 

「アムロのガンダム……」

 

 寝かされたままのνガンダムを見るジャミル。今回と似た現象は以前にも起きた。ローレライの海でLシステムに組み込まれたルチルを救い出した時。

 

「サイコフレームと言ったか? それが原因で相手の敵意を敏感に受け止め過ぎた。断定はできないが暫くすれば意識は戻る筈だ」

 

「本当か? それなら医務室のベッドにまで運ぶぞ手伝ってくれ」

 

 甲高い破裂音。空気が凍ってしまったように静まり返る。

 うめき声を上げるジャミルは力なく床に倒れ込んだ。背中には1つの穴が開き真っ赤な血が青い制服を濡らす。

 振り向いた先には銃を握るニコラの姿。

 

「そこから動かないで貰おう。その少女がティファ・アディール。彼女を渡して貰う」

 

「ジャミル!? 誰だ!」

 

「私の事など今は関係ないでしょう? それよりも彼女をこちらに」

 

 ティファを要求するニコラ。キッドは作業服のポケットに入れたスパナを取ろうと手を伸ばすが、それよりも早くに再び銃声が響く。

 弾丸は足元に着弾し明後日の方向に飛んで行くと背中に冷たい汗が流れる。

 

「動くなと言った。必要のない手間は掛けさせないで欲しい。さぁ、彼女を」

 

「キッド!? わかった、だからクルーに手を出すな」

 

「そう、それで良い」

 

 テクスは眠ったティファを抱えると銃を構えるニコラの左腕に渡す。彼女を片腕に抱える彼はそのまま銃を突き付けながら、後ろ足に乗って来たヘリコプターへ戻って行く。

 武器を持たれ、更にティファを人質に取られた状況で迂闊に動く事はできない。テクスもキッドも、少しずつ遠ざかって行くニコラを睨み付けるしかできなかった。

 そしてヘリコプター内に乗り込むとドアをスライドさせて閉じ、アイドリング状態のエンジンの回転が上がる。

爆音を上げながら高速回転するプロペラは機体を浮遊させ、開放されたままのフリーデンのハッチから外へと飛んで行こうとした。

 その時を見計らって、物陰に隠れていたロアビィが飛び出すと銃を突き付けトリガーを引く。弾丸はヘリコプターのボディーに着弾するが、たったの1発ではどうにもならない。

 ティファを乗せたヘリコプターは無情にも逃げられてしまう。

 

「取り敢えずこれで良し」

 

「ロアビィか、悪いが手伝ってくれ。ジャミルが撃たれた」

 

「影で見てたからわかってる。出血が酷いな、急いだ方が良い」

 

 撃たれてうずくまるジャミルをテクスとロアビィは肩を担いで持ち上げる。致命傷ではないので命に別状はないが決して楽観視はできない。

 

「ぐぅッ、すまない。油断していた」

 

「喋るな、キズに響く。すぐに手術すれば回復も早い。それまでは大人しくしてろ」

 

「あぁ……頼む……」

 

 2人でジャミルを担ぎながら、ロアビィはポケットから小型端末を取り出した。そしてソレをキッドに渡す。

 

「ほらよ、メカニックチーフ」

 

「何だ?」

 

「発振器の受信機。見失わないように艦を移動させてくれ」

 

「そうか! あの時に撃ったのって只の弾じゃなくて発振器だったのか!」

 

「そう言う事。後は頼むぜ」

 

 医務室に向かって運ばれて行くジャミル。

 時を同じくして、戦闘を終えたガロードとアムロの機体がフリーデンにようやく帰艦した。モビルスーツをハンガーに固定させるガロードは、艦内の物々しさに驚きを隠せない。

 

「どう言う事だよ? 何があったんだ、キッド」

 

「ガンダム坊や……」

 

「床に血も付いてる。一体何があったって聞いてるんだ!」

 

「ジャミルが撃たれた。ニュータイプ研究所の奴ら、土壇場で攻撃して来やがった。でも安心しろ、ケガは大した事ない筈だ。今テクスとロアビィがここから運び出した所だ」

 

「ふぅ、なぁんだ。じゃあ取り敢えずは大丈夫なんだな」

 

「でもそれだけじゃない……」

 

 キッドの表情は暗くなり口も重たくなる。その事に気が付かないガロードではないが、その事を聞くのを躊躇してしまう。

 だが現実は変わらない。

 合流したアムロがうつ向くキッドに問う。

 

「ティファの感覚がない。拐われたのか?」

 

「アムロ……うん」

 

「そうか。俺達が戦ってる間に」

 

「ティファが……拐われた……どうして!? ティファを守る為に強くなろうとした! 新型のガンダムだってあった! なのにこれじゃあ、何の意味もないじゃないか!」 

 

 叫ぶガロードの声は無情にもモビルスーツデッキに響くだけ。

 でもキッドにはティファに繋がる唯一の手掛かりを握っている。

 

「でも絶望するにはまだ早い。逃げてったヘリに発振器を付けた。これで早い所追い付くしかない」

 

「だったら俺がガンダムで先に行く!」

 

「止めろ、ガロード。機体の整備が先だ」

 

「でもよ!」

 

 焦るガロードを静止させるアムロ。

 急いで動いても状況は良くならないし、戦闘で消耗したまま行動してはいざと言う時に何もできなくなる。

 

「気持ちはわかるが今はやれる事をやってからだ。ブリッジへは俺が行く。キッドはモビルスーツの整備だ。ガロードは体を休ませろ。連戦になる事だってある」

 

「クッ! わかった」

 

 悔しさを滲ませながら、ガロードは自室へ向かって歩いて行く。

 

(ティファ、俺が絶対に助ける! 絶対にもう1度、もう1度ティファと会う!)




更新が遅れてしまい申し訳ありません。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第23話

 フリーデンのブリッジに立つアムロはモニターに表示される座標と発振器との位置を交互に見て照らし合わせる。

 

「ティファの位置は確認できたが、あんな所に一体何がある? 研究施設とも思えんが」

 

「このまま正面から向かっても大丈夫でしょうか?」

 

 コンソールパネルを叩きながら振り返るサラはアムロに問い掛ける。ジャミルが負傷してケガの治療をしている今、艦長シートの隣に立つアムロがフリーデンの指揮を取っていた。

 

「こちらには今まともに戦える戦力がガロードのガンダムだけだ。できれば合流される前にティファを奪還したいが、無理なら後退してガンダム2機の調整を待つしかない。だが何だ? 嫌な予感がする」

 

「それは長年の経験からですか?」

 

「そうかもしれないが……」

 

「シャトルだ……」

 

 声が聞こえ振り返った先に居たのは脂汗を滲ませながらもブリッジにやって来たジャミルの姿。テクスの右肩を担がれながら、いつもの艦長シートへと座らされる。

 

「ジャミル、無理はするな」

 

「そうも言ってられん。ティファが向かった先にはシャトルがある。宇宙へ連れ出すつもりだ」

 

「宇宙へ?」

 

「宇宙革命軍。あの男がニュータイプ研究所の人間でないとするのならソレしか考えられない。宇宙の動きは詳しくないが、宇宙革命軍はまだ存在していたか」

 

「だとすると間に合わないぞ」

 

 ジャミルの言う事は的中した。望遠カメラが映し出す映像をクルーは見る事しかできない。スペースシャトルのブースターが点火されると炎と大量の煙を噴射しながら重力に逆らって飛び立つ。

 見る見る内に高度を上げていくシャトルは数秒後には雲の上へと消えていった。

 

「どうするジャミル? フリーデンでは宇宙へは行けない。それにマスドライバーすらもな」

 

「まだ可能性はある。サラ、通信を繋いでくれ」

 

「わかりました。どちらに?」

 

「エスタルドだ。頼れる場所があるとすればそこだ」

 

 以前、フリーデンはエスタルドに立ち寄った事がある。そして小国であるエスタルドに侵攻して来る新連邦を撃退しようとしたが、数で勝る相手にそれは叶わなかった。

 エスタルドは無条件降伏し、今は新連邦の領地となっている。

 サラはパネルを叩きながらジャミルに振り返り質問を投げ掛けた。

 

「ですがキャプテン。エスタルドに何があるのですか? それに今は新連邦の領地です。手助けしてくれるとはとても……」

 

「私も確信があっての事ではない。だが可能性はある。今はそれに掛けるしかない」

 

 ジャミルの本意はエスタルドとの交信ができればわかる事。フリーデンの艦長である彼を信用するサラは口を閉ざし作業に集中した。

 数秒後、通信が繋がりモニターには映像が流れる。そこに映っているのはエスタルドの国家元首を務める青年、ウィリス・アラミス。

 

『お久しぶりです、皆さん。緊急回線が繋がったので何事かと思いましたがフリーデンの人達でしたか』

 

「無礼は承知しています。ですがこちらも手段を選べる状況ではなかったもので」

 

『何かあったのですか?』

 

「私の情報が正しければ、先代の国家元首はシャトルを製造してた筈です。まだどこかにあるのではないかと」

 

『シャトル? 宇宙へ行くつもりなのですか!?』

 

 驚くウィリス、地球に住む人間からすれば今の宇宙は未知の秘境のような場所だ。戦争が終わり殆どのコロニーが地球に落下し、生きるのに必死な人々は宇宙の事を気にする余裕などない。

 そして環境が回復しつつある今、宇宙との交信は全くなされておらず情報は全く収拾されていなかった。

 同時に資源がまだまだ不足する中で新しくシャトルを作る余裕などある筈もなく、それを作れるだけの技術者も不足している。

 

「どうしても行く必要があるのです。どうか力を貸して頂きたい!」

 

『戦前に父から話は聞いた事があります。シャトルの建造計画も確かに存在しました。ですがすぐに使える状況なのかどうかは私にもわかりません』

 

「あるのですか? シャトルが?」

 

『エスタルドから南へ40キロ程進んだ先に地下シェルターがあります。バルチャーにも見つかってない筈です。そちらに』

 

「ウィリス元首、感謝する」

 

『いえ、以前に助けて頂いだお礼です。このくらいなら亡くなった父も許してくれると思います。地下シェルターは足取りを掴まれないように破壊して下さい。では、ご武運を』

 

 モニター越しに敬礼するウィリスとジャミル。ティファを取り戻す為、フリーデンの次なる進路は決まった。

 

「シンゴ、フリーデン全速前進だ」

 

「了解です、キャプテン!」

 

///

 

 ザイデル・ラッソ、スペースコロニー・クラウド9を拠点とする宇宙革命軍の指導者。御年55歳を迎える彼はシワも増えてきたし皮もたれ始めて来た。それでも若い時に徴兵され鍛え上げられたお陰で体格はまだガッシリとしている。

 15年前の戦争時から宇宙革命軍の総統として人々を束ねており、今も尚地球連邦を排除する為に活動を続けていた。

 本拠地であるクラウド9の執務室のデスクで待つ彼の所へニコラはティファと共に向かう。

 シャトルから降ろされたティファは初めて見るコロニーの景色を目に焼き付ける。

 

「これがコロニー……これが宇宙……」

 

 密閉された空間に充填される空気、浄化装置により綺麗にされた水。太陽光を制御する巨大なミラー。

 地球環境を宇宙でも再現したスペースコロニーではあるが地球とは全ての事が違う。居住区が大半を占めるコロニーの中で野菜は全て水耕栽培。食肉はまた別のコロニーから送られてくる。

 全てが人工的に管理されたこの空間はある意味ではとても綺麗なのかもしれないが、果たしてそれがあるべき姿なのかは疑問だ。

 

「我々スペースノイドにとってコロニーこそが家であり母なる大地でもある。15年前の戦争で地球は悲惨な状態に変わり果てたがスペースコロニーは違う。見たまえ、この空間の一片たりとも汚染させられた場所などない。戦後も我々はここで生活し、高い技術力の進歩、発展を繰り返して来た。それが、今君が見てる景色だ」

 

「これが大地……」

 

「重力から解き放たれ、宇宙空間で生活するようになった人類は自らの能力を発展させた。その人類を皆はニュータイプと呼んだ。私はニュータイプこそが新しい時代を築くと信じている。君の意見を聞かせて貰いたいな」

 

「私は……」

 

 ニュータイプの概念。それは時代や人それぞれの解釈によっても変わってくる。新連邦は戦力としてのニュータイプを求め、宇宙革命軍は象徴としてのニュータイプを求めていた。

 そしてニコラは混沌とした時代を切り開く希望としてニュータイプを見ている。

 けれどもティファはそのどれでもない。新連邦が求める戦力としての力は持ってない、象徴とされる程のイメージを大衆に発信もしていない。まだ10代の少女を希望として祭り上げるには余りにも荷が重いが、今と言う時代にニュータイプは何かしらの役割を背負わされる。

 だがティファはフリーデンで過ごした短い時間の中で少しずつわかり始めていた。自分が何なのかを、ニュータイプが何なのかを。

 思い出すのは最後にアムロに言われた言葉。

 

(止めろティファ! ニュータイプはそんな便利じゃない!)

 

(ジャミルもルチルさんも15年前の戦争に利用された。アムロもそうなの? でもララァ・スンは違った。私にできる事は……)

 

 少女にできる事は限られている。その限られた選択肢の中でティファが選んだのは前に進む事。後ろに下がる事でも過去にしがみ付く事でも誰かに頼る事でもない。

 

「ニュータイプはそんな便利な存在ではありません」

 

「ほぅ、便利な存在ですか。私達はニュータイプをそのように扱っていると?」

 

「ニュータイプに力や希望を求めても何も変わらない。それにたった1人でできる事なんて限られてます。ニュータイプだけで世界を変革させるだなんて無理なんです」

 

「だが宇宙革命軍はその為に存在する。君は我々の大義を否定するつもりか?」

 

「その一方的な感情が、ニュータイプを大衆に飲み込ませるんです。そうなればもうニュータイプなんて関係ないのでは?」

 

「そんな事はない! 彼らの能力があれば、力があれば人類は変わる!」

 

 大声で叫び反論するニコラ。その様子をティファは物静かに見守るだけ。

 思いの丈をぶつける彼は感情的になりすぎているのを自覚し、まずは呼吸を整え制服の乱れを正す。

 ゆっくりと深呼吸して平常心を保ち暫く歩くと、サイデル・ラッソの待つ執務室の前まで来た。

 

「ここでザイデル総統がお待ちだ。大丈夫だとは思うがくれぐれも失礼のないように」

 

「わかっています」

 

「宜しい、では」

 

 ドアノブを捻り木製のドアを開ける。絨毯の敷かれた床、その先のデスクで待っているのが宇宙革命軍の指導者であるザイデル・ラッソ。

 その鋭い眼光は真っ先にティファを睨んだ。

 

「ニコラ・ファファスであります。総統閣下、ご報告させて頂きましたニュータイプと思われる少女を連れてまいりました」

 

「ご苦労だ、ニコラ。データは見させて貰った。何でも彼女は地球生まれだとか?」

 

「そうです。ですが能力は確かなモノがあります。彼女が民衆に支持されれば宇宙革命軍の指揮も跳ね上がる事でしょう。そうすれば新連邦と戦う力にもなります」

 

「ふむ、そうか。だがなニコラ、その少女は我々には必要ない」

 

「なっ!?」

 

 ザイデルの一言に目を見開き驚愕するニコラ。だが彼が説明を求めるよりも早くにザイデルは再び口を開いた。

 

「ニュータイプこそが宇宙の革新であり新たな人類になる存在、宇宙革命軍のプロパガンダだ」

 

「そうです。私が知る限り、地球生まれのニュータイプでここまでの能力を開花させたのは彼女だけです。それなのにどうして?」

 

「だからだよ。わからんか? 地球生まれのニュータイプなど私は認めん! もう1度言うぞ。ニュータイプとはこの宇宙が人間を変革させて初めて成立する。高度の認識力と洞察力、宇宙で生きる事で初めて露呈される人の本質。私は君の事をニュータイプではなく突然変異と考えている」

 

「お言葉ですが総統閣下。ニュータイプ主義が唱える人の革新がこれ程までに具現化されたのを私は見た事がありません」

 

「だからこそ、私はこの少女を認める訳にはいかんのだ!」

 

 声を荒らげるザイデルは怒りに体を震わせる。ニコラにどれだけ説明されようとも、ティファがどれだけの能力を持っていようとも、彼がニュータイプとしてティファを見る事は決してない。

 

「我々スペースノイドが信じるニュータイプこそが真のニュータイプ! どれだけの能力があろうとも我々が認めぬ限りニュータイプではない! そして宇宙革命軍総統の私こそ、ニュータイプを正しく定義するモノなのだ!」

 

 ザイデルの言葉をティファはしっかりと受け止めた。そして心の中で考える。今までの自分の人生、様々な人々とニュータイプと呼ばれる人達との出会いを得て、自らが思う信念。

 

(ジャミルとルチルさん。アムロとシャア、そしてララァ・スン。私の周りに居るニュータイプと呼ばれた人達はみんな戦争に身を投じて来た。でもニュータイプは戦うだけの存在じゃない。私がそうであるように、みんなの1人の人間として必死に生きてる)

 

 ティファの声に答えたのか、ララァの残留思念が脳裏に感じ取れる。ティファの頭の中に流れ込んで来るのは、まだ若かりし頃の2人の決闘。

 無重力空間でノーマルスーツを装着する2人は互いに剣を握り白兵戦を繰り広げた。刃と刃がぶつかり合い甲高い音が響く。

 

(わかるか? ここに誘い込んだ訳を?)

 

(ニュータイプでも体を使う事は普通の人間と同じと思ったからだ!)

 

(体を使う技はニュータイプと言えども訓練をしなければな!)

 

(そんな理屈!)

 

 何度となく混じり合う刃。その間、戦いながらも2人は言葉を交え続ける。連邦軍とジオン軍のエースとして戦って来た2人が、今や原始的な武器を用いて最後の戦いを繰り広げていた。

 

(今、ララァが言った。ニュータイプは殺し合いをする道具ではないと)

 

(今と言う時ではニュータイプも殺し合いの道具にしか使えん。ララァは死にゆく運命だったのだ)

 

(貴様だってニュータイプだろうに!)

 

 会話は平行線を辿る。結局2人はこの戦いに決着が付いてもわかり合う事はなかった。それはニュータイプと世間から持てはやされても只の人間でしかないと言う証明なのかもしれない。

 だからティファはザイデルの事を普通の人間として見た。そして微かに感じるは妬みと憎悪。眉1つ動かさないティファはまっすぐ彼を見つめると口を開いた。

 

「アナタの中に確かな何かを感じます。それはとてつもない力を秘めた存在。アナタの……いいえ、アナタ達の中には確かにそれが存在している。私もいずれソレに触れる……全ての源……ニュータイプの真実……」

 

「こ、この小娘……私の心の中を覗いているのか?」

 

「ドーム?」

 

 ザイデルの意識の間から見えた一筋の光。ティファが呟くと同時に視界の景色が一片した。真っ暗な宇宙空間の中から光り輝く蝶の大群。

 初めて見る光景に圧倒されながらも、蝶が現れる奥から何かが見える。

 

(これは何? 誰かが居るの?)

 

 光る蝶とは違う、またもう1つの輝く物体。球体のソレはティファの前に現れた。

 

(D.O.M.E.? アナタがD.O.M.E.なの? でもどうして私を?)

 

 輝く球体、D.O.M.E.は言葉を発さない。それでも頭の中に流れて来る情報でティファにはわかった。

 

(私が望んだから……いいえ、私の望みは他にあります。地球も宇宙もニュータイプもオールドタイプも関係ない。生きとし生けるモノが懸命に生きられる世界。このままだと新連邦と宇宙革命軍は戦争を起こすでしょう。そうなれば、また悲しみだけが広がって行く)

 

 ティファの思いに応えてD.O.M.E.はより一層強く光る。頭の中に流れ込んで来るビジョン。見えて来たモノは月のマイクロウェーブ送信施設。

 

(月? 月に行けば何かが変わるのですか? ニュータイプの真実……)

 

 わずか一瞬の出来事だった。それを最後にD.O.M.E.からの声は届かなくなりティファの意識も現実へと引き戻された。

 目を見開いた先に居るのは額に青筋を立てているザイデルの姿。拳をワナワナと震わせながら怒気の孕んだ目で睨み付ける。

 

「D.O.M.E.だと! 私の心を覗くなど愚劣なッ! 貴様は能力の使い方を何もわかっていない。だからこそ私は、貴様の事をニュータイプなどと決して認めん! 認めてなるモノかッ! 宇宙革命軍の総統たる私こそがニュータイプの定義を決定付けられる。そして人類は革新し、選ばれしスペースノイドが世界を牛耳るのだ! その為の未来を実現させる為に、貴様は邪魔な存在だ! 今は生かしておく。だがこれ以上私を怒らせるなら小娘と言えども容赦はせん! 宇宙の藻屑にするぞ!」

 

「アナタに認められなくても私は自分の意思で生きます。ニュータイプも何も関係ありません。アナタ達に利用されるつもりもありませんし、ここで死ぬつもりもありません。例えアナタの言う未来が訪れたとしても――」

 

 

 

第23話 私は頼まれなくても生き抜いてみせます

 

 

 

 

 

 宇宙、15年の時を得て再び戦乱の火蓋が切って落とされようとしていた。

 地球での領土を拡大する新連邦は戦力を整えていよいよ宇宙へと進出し、その動きをキャッチした宇宙革命軍も迎撃態勢を整えている。

  両者が本格的に動き出せは時代は再び戦争時代に突入するのは火を見るより明らか。当然、ソレを良しとしない者達は居た。

 宇宙革命軍の軍備増強の為にコロニーを追われた人々は独自に組織を作り出し、反政府組織サテリコンと名乗り宇宙革命軍と対峙している。

 だが戦力の差は歴然としており、小競り合いが続くばかりで打撃を与えたとは言い難い。放棄された小惑星を拠点とし、敵軍の流れを見る司令官のロイザーはこの状況に危惧する。

 

「遂に宇宙革命軍が本格的に動き出す時が来たか。地球からは新連邦、このままでは……」

 

「司令、ご報告したい事が」

 

「うん、どうした?」

 

「新連邦とは違う反応が1機確認できました。恐らくシャトルかと」

 

「シャトル? 新連邦とは違うのか?」

 

 司令室でロイザーはモニターに表示される反応を見るべく通信兵の居る所にまで体を進める。無重力空間で床を軽く蹴ると体は自然と宙に浮き、通信兵の隣にまで移動した。

 

「距離が近いな。目的はなんだ? 何処へ行くつもりだ?」

 

「どうしますか? 偵察機でも出しますか?」

 

「そうだな。パーラを呼べ。Gファルコンの出撃準備だ」

 

「了解です」

 

 通信兵に呼び出されてパーラと呼ばれた少女はノーマルスーツを身に纏いモビルスーツデッキへと向かった。

 少女の名前はパーラ・シス。反政府組織サテリコンに所属する最年少の兵士だ。勝ち気で男勝りな彼女は

黒い髪の毛も短く切っている。

 ノーマルスーツを装着したパーラはヘルメットを被ると右手にワイヤーガンを握るとモビルスーツデッキにやって来た。

 

「宇宙革命軍が何かしようって時に所属不明機の偵察だって? 呑気してる場合なのかねぇ」

 

 ワイヤーガンをGファルコンに向けたパーラはトリガーを引くと先端にマグネットの付いたワイヤーが射出された。マグネットが赤い装甲に接地するとワイヤーが巻き取られパーラの体が機体の元まで引っ張られる。

 自機の元にまで来るパーラはハッチを開放させるとコクピットシートへと乗り込んだ。

 Gファルコン、赤い装甲をした戦闘機タイプのモビルアーマー。パーラの専用機としてサテリコンでは扱われている。

 コンソールパネルを叩きエンジンを起動させ、操縦桿を握り前方を見据えるパーラはフットペダルに足を掛けヘルメットのマイクに向かって叫んだ。

 

「パーラ・シス、Gファルコンで出るよ!」

 

 右足でペダルを全開に踏み込むとメインスラスターから青白い炎が噴射し機体が加速する。小惑星から飛び出したGファルコンは旋回して機首の向きを変えると所属不明のシャトルの元に向かって飛んだ。




いつもの事ながら更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
次回から宇宙戦です。結末もアニメとは変えていきますのでお楽しみに。


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クラウド9編
第24話


 フリーデンの乗組員はシャトルへと乗り換え宇宙へとやって来た。地球の重力から開放された宇宙で、ジャミルとアムロ以外のクルーは初めての無重力を体験する。

 ガロードも初めて体験する無重力に前へ進む事すら苦戦していた。

 

「うあああァァァッ!? ウィッツ、どいてくれ!」

 

「無理言うな、お前がどけ!」

 

「ぶつかる~!?」

 

 モビルスーツを固定させたハンガーを漂う2人は真正面からぶつかり合い、そのまま慣性に流されて今度は後方に動いて行く。

 その様子を見ていたキッドは声を荒らげずにはいられない。

 

「お前らッ! 只でさえ狭いデッキで遊ぶなァァァ!」

 

「んな事言ったって」

 

「宇宙まで来たは良いが全員無重力なんて初めてなんだぞ」

 

「だったら壁にでも捕まりながら動け! 強引に詰め込んだせいでスペースに余裕なんてないんだ。邪魔するくらいなら別の所に行け!」

 

 2人は怒られながらも自分の体を思うように動かす事ができず、物資やら何やらにぶつかってはまた反対方向へと飛んで行く。

 まるで無限に続くビリヤードのように反射を繰り返すかに思われたガロードとウィッツだが、やっとの思いでデッキの入り口へ辿り着いたガロードは手すりにしがみ付き慣性を打ち消す。

 

「ふぅ、ようやく止まった。ぶつかりまくって体中が痛ぇ。取り敢えずブリッジに行くか」

 

 エアロックを解除して扉を開けると通路に出る。壁に取り付けられたアームを手に取り握りしめると握力に反応し、レールに沿ってアームが動き出す。

 無重力で浮き上がる体は簡単にアームの動きに引っ張られて行く。

 

「よっと、到着! 歩くのにもコツがいるんだよな。踵を床に押し付けるように……押し付けるように」

 

 声に出しながら意識して歩かないと力の使い方をミスして天井にまで浮き上がってしまう。ノーマルスーツを着用していれば靴底にマグネットが入っており浮き上がる事もないが、いつもの服装のままのガロードは無重力空間に慣れるしかない。

 ゆっくりとゆっくりと進みブリッジの前にまで来ると壁のパネルを操作しエアロックを解除。あまり大きくないシャトルのブリッジでは操縦桿を握るシンゴとその隣に立つジャミル。

 

「ガロードか、どうした?」

 

「いや、外はどうなってんのかなぁって」

 

「新連邦と宇宙革命軍が動き出した。開戦するのに時間は掛からないだろ」

 

「また戦争になるのか……」

 

「今となっては止められない。それに私達が最優先でやるべきはティファの居所を掴み救出する事だ。他の事を考えてる余裕はない」

 

「わかってる」

 

 宇宙に集結しつつある新連邦の大部隊。そしてその先には宇宙革命軍が待ち構えている。シャトルの進行ルートからはズレた場所に集まりつつある両軍の存在に取り敢えず胸を撫で下ろすガロードだが、ふとレーダーを見ると高速で迫る反応が2機。

 

「このスピード、モビルスーツじゃないのか? こっちに来るぞ」

 

「シンゴ、進路はそのままだ。カメラを拡大させれば少しは様子が見える」

 

 自らコンソールパネルを操作するジャミル。モニターに映し出される景色が拡大されていき、太陽の逆光に照らされるモビルスーツのシルエットが見えてきた。

 それは今までに何度か戦ってきた因縁のある相手。それを見てガロードは目を見開く。

 

「ガンダムヴァサーゴとガンダムアシュタロン! クソ、こんな所にまで追い掛けて来るのかよ。ジャミル、俺がダブルエックスで出る!」

 

「待て、ガロード!」

 

 ジャミルの静止も聞かずブリッジから飛び出すガロードだったが、扉を1歩外に出た瞬間に無重力に足を取られてしまい体が天井に浮き上がり一回転した。

 

「うああァァッ!?」

 

「何をやっている!」

 

 ジャミルは慣れた様子で床を蹴って移動すると回転するガロードの腕を掴み引き寄せる。再び床に足を付けたガロードは大きく息を付く。

 

「ふぅ、悪ぃジャミル。助かった」

 

「焦りすぎるな。そうでなくてもお前は宇宙に慣れてないんだ。兎に角この場を切り抜ける事を優先しろ。無理に相手と戦うな。地球に居た時と違って修理も補給もできない事を忘れるな」

 

「了解!」

 

「相手は2機だ、アムロも出させる。ウィッツとロアビィは艦の防衛、もしもの場合は私がGXで行く。状況が変われば随時報告する。忘れるな、初めての宇宙だと」

 

「何回も言われなくても大丈夫だよ。ジャミルは艦を頼んだぜ!」

 

 ジャミルはブリッジへと戻り、壁のアームを握るガロードはダブルエックスの元へと向かう。デッキへモビルスーツを強引に詰め込んだ状態で人の出入りも頻繁になれば怒号も当然飛び交っている。

 コンテナや整備クルー達を避けながらなんとか自分の機体の元へ向かうガロードだが、不意に背後から肩を掴まれた。

 驚きながらも振り返る先に居たのは白いノーマルスーツを着用したアムロだ。

 

「アムロ?」

 

「ノーマルスーツも着ないで窒息死したいのか?」

 

「ノーマルスーツ? そうか!」

 

「コレも持つんだ。宇宙では必要になる」

 

 言うとアムロはワイヤーガンをガロードに手渡す。初めて見る装置に思わずマジマジと見てしまう。けれども使い方を説明しないままアムロはワイヤーガンを自分の機体に向けるとトリガーを引いた。発射されたワイヤーの先端が装甲に引っ付くと巻取りが始まり体が引っ張られて行く。

 

「あんな感じで使うのか。良し!」

 

 ガロードもノーマルスーツを着用すべくワイヤーガンを壁に向けてトリガーを引いだ。

 

///

 

 モビルアーマー形態に変形したアシュタロンに搭乗するヴァサーゴ。コクピットシートに座るのフロスト兄弟は目前に迫るシャトルをモニターに映すとほくそ笑む。

 

「追い付いたよ、兄さん。あのシャトルにフリーデンの連中が乗っている」

 

「改良したアシュタロンの機動性、中々の物だな。射程距離まであとどの位だ?」

 

「2機で加速すればもっと近付けるよ。エネルギーチャージ完了、いつでも撃てるよ」

 

「良し。サテライトランチャー、スタンバイ」

 

 ヴァサーゴとアシュタロンはメインスラスターを全開にして一気に加速する。2機が合わさる事で機体重量は重くなるが、モビルアーマーの出力は大きく、更にヴァサーゴのメインスラスターの出力とを通常よりも早く動く事が可能だ。

 そしてアシュタロンに新たに搭載された新兵器、サテライトランチャーが展開される。機体の全長程はある砲身がモビルアーマー形態のアシュタロンから展開され、ヴァサーゴはマニピュレーターでトリガーを握ると照準をシャトルに合わせた。

 

「宇宙の塵となれGX」

 

 コクピットでシャギアが右手に握る操縦桿を握り締めトリガーを指に掛けようとしたその瞬間。

 

「ッ!? 緊急回避!」

 

「敵の艦隊か?」

 

 強力なビーム攻撃が2機に向かって飛来する。

 即座にサテライトランチャーの使用を中断するとヴァサーゴはメインスラスターを吹かして離脱し、アシュタロンも変形を解除しビームを回避した。

 すぐさま攻撃を仕掛けて来た方向を見る2人は接近して来るモビルスーツの存在を確認する。

 

「たった1機だと!?」

 

「形式番号NRX-016ラスヴェート、奴ら奪ったな!」

 

「だとするとパイロットはアムロ・レイか」

 

「兄さんはシャトルを。僕はアイツを抑える」

 

 オルバはペダルを踏み込み機体を加速させラスヴェートの元に向かって飛んだ。

 一方のアムロもコクピットの中からアシュタロンが向かって来るのを確認している。

 

「新型だが良い反応をする。これもキッドのお陰か」

 

 地上からシャトルに移る際にキッドが修理したモノだ。本体のラスヴェートはコクピット部分だけしか破壊されていない。

 残りのビットモビルスーツからパーツを回収して修復するのに時間は掛からなかった。それでもシャトルの容量には限りがあり余分なパーツを積み込む事はできない。

 そのせいで消耗部品と少ない武器しか積み込んでないので現在のラスヴェートの装備はビームライフルとビームサーベル、左腕にシールドしかない。

 それでもアムロの高い操縦技術があれば敵と充分に渡り合える。

 白いパイロットスーツ越しに操縦桿を握り締めるアムロはビームライフルを構えながらアシュタロンと対峙した。

 

「その機体、フォルムは少し変わっているがアシュタロンのオルバ・フロストか」

 

「宇宙戦でもそれだけ動ける。間違いない、貴様はアムロ・レイだな!」

 

「地上から俺達を追って来たか」

 

「パワーアップしたアシュタロンの攻撃、受け止められるか!」

 

 ギガンティックシザースを広げ右手にはビームスピアを装備、銃口を向けて一気にトリガーを連射する。

 放たれるビームが目に映るよりも早く、アムロは敵意を感じ取り操縦桿を動かす。今までの量産機とは違いワンオフ機であるラズヴェートはパイロットの反応に付いて来る。

 スラスター制御とAMBACでビームを回避し左手でビームサーベルを手に取った。瞬時に射程距離にまで迫り袈裟斬り。

 

「甘いよッ!」

 

「遅いッ!」

 

 オルバも匠に機体を制御しビームサーベルでコレを受け止める。同時にギガンティックシザースのビーム砲をラスヴェートに向けるがアムロの動きも早い。

 右手のビームライフルからビームが発射されアシュタロンの左のギガンティックシザースを根本から撃ち抜く。だがギガンティックシザースはもう1つある。

 巨大なアームが本体を狙い鋭く突く。

 

「機体の反応は俺に付いて来る!」

 

 すかさず左手のビームサーベルを引きシールドで攻撃を受け止めた。そして脚部を伸ばし相手の装甲を蹴りつけて距離を離し、ビームライフルを向けてビームを発射するがアシュタロンはコレを避けた。

 生死を分けるギリギリの所で生還したオルバだったが心情は穏やかでない。

 

「パワーアップしたアシュタロンの3段攻撃をこうも簡単に避けるなんて!」

 

 

 

第24話 悪魔かアイツはッ!

 

 

 

「まだ来る? 新連邦の艦隊も近い。派手には動けない」

 

「逃がすものか!」

 

 怒るオルバは果敢に攻める。距離を詰めながらビームランスのトリガーを引きラズヴェートを狙い撃つ。

 向けられる銃口に反応するアムロは機体を動かし装甲にビームはかすりもしない。

 

「ガロードとも距離を離せない。チィッ!」

 

 互いにビームライフルを向けての中距離戦。アシュタロン・ハーミットクラブは両腕と更にギガンティックシザースがある。片方は破壊したが、それでも接近戦をわざわざ挑む必要はない。

 そして宇宙に出た事でアムロのニュータイプとしての反応が上昇している。無限と言える程に広い宇宙空間で適応する為に進化したとも言われているニュータイプ。

 アムロの高い反応速度にオルバは付いて行く事ができない。攻撃は完全に見切られ差は開く一方だ。

 

「どう言う事だ! まさかアイツもニュータイプだとでも言うのか? でなければ説明が付かない!」

 

「機体を改良したか、相手の動きも早い。が!」

 

「何だって言うんだッ!」

 

 ビームを連射しながら距離を詰めるラスヴェートにオルバは攻撃を何とか回避するので精一杯。機体性能ではアシュタロンに分があるお陰で一方的に負けはしないが、それでも防戦一方の状況。

 せめてもと牽制でビームを放つがそんな攻撃に当たるアムロではない。

 

「うおおおッ!」

 

 腕を突き出すラスヴェートはアシュタロンの頭部を殴り付ける。衝撃はコクピットにまで伝わりすぐに反撃できない。そのまま2回、3回と殴り続け、加速して背後に回り込む。

 

「貰った!」

 

「やられる!?」

 

 ビームライフルを突き付けたアムロは即座にトリガーを引いた。発射されたビームは確実にアシュタロンの背部へ直撃したが装甲を貫くまではいかない。

 亀の甲羅のように固く分厚い背部装甲がビームの一撃を防ぎきりパイロットを守った。

 

「クッ! こうも損傷しては。ごめん、兄さん」

 

「引き際はわきまえているか。ジャミルとガロードはどうしている?」

 

 撤退するアシュタロンをアムロは追い掛けようとはしない。モビルアーマーに変形したアシュタロンの加速性能にラスヴェートでは到底敵わないのもあるが、シャトルとその防衛に当たるガロード達の様子も気になった。

 機体を方向転換させて、距離が離れてしまったシャトルに向かってメインスラスターを全開にして飛ぶ。

 その頃、ダブルエックスに搭乗するガロードは初めての宇宙での戦闘に困惑していた。

 

「地球とは全然違う! 上も下も見ないとダメなのか。スラスター制御だけじゃ推進剤が無駄に減る。機体の反応が敏感過ぎて!」

 

「どうしたガロード? なんなら前衛変わってやっても良いんだぜ?」

 

「うるせぇ、ウィッツ! そっちだって宇宙は初めてだろ!」

 

「そうだけどよ、久しぶりに乗るエアマスターの性能も試してみたいんだよ」

 

 以前の戦闘で損傷していたエアマスターも今では完全に修復されている。その際にキッドの提案で元々の状態ではなく予てから計画していた武装強化プランを実行した。

 機首下部に載せられた大口径ビーム砲。両翼にはブースターを増設し更に前部には2連装ビーム砲を装備。

 カラーリングも白と青を基調としたモノに変更されている。

 改修されたのはレオパルドもそうだ。インナーアームガトリングは実弾からビームへと変更され両腕に装備されている。

 ジェネレーター出力を向上される事で実弾武装をビーム兵器へと大幅に変更できた。バルカンもビーム砲へと変わり、両肩にはショルダーランチャー。

 元々は緑だったカラーリングも赤に塗り替えられた。

 

「遊んでる場合じゃないでしょ。宇宙に慣れてないのはみんな一緒だろ? 作戦通りに行くぞ。俺とウィッツでシャトルの防衛、ガロードは前でゲテモノの相手だ」

 

「わかったよ」

 

 右足でペダルを踏むガロードはダブルエックスを加速させる。レーダー上ではシャトルとの距離が離れて行くがガロードの感覚では中々距離が変わらない。

 地球とは違い360度どこまでも見渡せる宇宙空間では距離を図る目安となる物体がどこにもないから、実際には距離が離れていても自覚するのに時間が掛かってしまう。

 レーダーに反応するシャギアのヴァサーゴ・チェストブレイク。気が付いた時には射程距離内にまで近づいていた。

 

「もうこんな所にまで!?」

 

「ダブルエックスを奪い取ったか。だがそんな動きで私に勝てるか?」

 

「来るか?」

 

 宇宙戦に不慣れなガロードの方が動きが鈍い。先に動くシャギアのヴァサーゴは両腕を伸ばしクロービーム砲を向ける。

 いつもの感覚で操縦桿を操作するガロードだが機体の反応は地上での時と違う。メインスラスターから青白い炎を噴射するダブルエックスは発射されるビームを回避するが、機体は必要以上に大きく動きグルグルと無意味に回転してしまう。

 

「ぐぅッ! 姿勢制御……スラスター、AMBAC」

 

 目が回るのを必死に耐えながら何とか回転を殺して姿勢を戻した時には目の前からヴァサーゴの姿は消えている。すぐにレーダーに目を向けて敵の位置を確認するが、その時にはもう背後に迫っていた。

 

「折角のガンダムの名が泣くぞ、ガロード・ラン!」

 

「お前なんかに負けてられない! 俺はティファを助けるんだ!」

 

 ストライククローを伸ばし鋭い爪が白い装甲に突き立てられるがギリギリの所でディフェンスプレートが間に合う。それでも激しい衝撃はコクピットを揺らし、ダブルエックスは姿勢を安定させる事ができず後方に流されながらまたグルグルと回転してしまった。

 なまじ地上での戦闘に慣れてしまったせいで宇宙での動き方をすぐには習得できない。

 

「無重力の感覚がこんなにも難しいだなんて知らなかった。でも、そんな事言ってられない!」

 

「流石はガンダムか。一撃で仕留めるしかない!」

 

「やってやる! お前なんかに負けられない!」

 

 ヴァサーゴは腰部にマニピュレーターを伸ばすとビームサーベルを引き抜き一気に加速。距離を詰めると同時に大きく振り下ろす。

 ダブルエックスもサイドスカートからハイパービームソードを引き抜きコレを防いだ。激しい閃光が両者を照らす。

 

「この野郎ッ!」

 

 接近を許してしまうガロードだが頭部バルカンとマシンキャノン、ブレストランチャーを一斉に発射する。銃声が鳴り響き無数の弾丸が赤い装甲に直撃するが改良されているヴァサーゴ・チェストブレイクはそのくらいではびくともしない。

 

「無駄だ」

 

 左脇から伸びるストライククローに反応できないガロード。爪は装甲に直撃し機体は吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぁぁぁあああッ!」

 

「弱すぎるぞ、ガンダム!」

 

「クッ、でも少しわかったぜ」

 

 ストライククローから発射されるビーム。ガロードは機体の姿勢を急いで元に戻し加速しながらビームライフルの銃口を向けた。

 反撃に打って出るが宇宙での戦闘はシャギアの方が上手である。

 

「そんな直線的な動きで何ができる?」

 

 ビームサーベルを腰部に戻すとまた別の武器を手に取る。2丁の小型ビーム砲を連結させてダブルエックスに照準を合わせた。合計で8門ある小型ビーム砲から一斉にビームが発射され、直線的に動いているガロードのダブルエックスは回避する事ができない。

 

「そんな武器まであるのかよ?」

 

「シールドと装甲に阻まれるのはさっきのでわかっている。メガソニック砲で仕留める!」

 

「何とかしないと。何とか……」

 

 シャギアの予測通りビームはディフェンスプレートに阻まれ強固な装甲に目立ったダメージはない。それでもビーム攻撃により機体はまたも流されてしまう。

 その隙を突くシャギアはヴァサーゴの腹部装甲を展開させトリプルメガソニック砲のエネルギーをチャージ。

 

「間に合えぇぇぇッ」

 

「間に合うものかッ!」

 

 右手に握る操縦桿のガジェットを押し込むガロード。両腕と両足、背部のリフレクターが展開されツインサテライトキャノンがヴァサーゴに向けられる。だが月からマイクロウェーブが受信されるよりも早くトリプルメガソニック砲がら強力なビームが発射された。

 ガロードはマイクロウェーブが受信されてないのを承知でサテライトキャノンのトリガーを引く。本来ならマイクロウェーブのエネルギーを使用して発射されるサテライトキャノン、それを強引に機体に搭載されているジェネレーターで代用した。

 発射されるビームは本来の威力と比べれば格段に弱くなっているが、向かって来るビームを防ぎ時間を稼ぐくらいならできる。

 ビームとビームがぶつかり合い再び激しい閃光が走った。あまりの眩しさにパイロット2人は思わず目を閉じる。

 

「くっ、小賢しい真似を」

 

「今しかチャンスはない!」

 

 トリプルメガソニック砲を辛うじて回避するダブルエックス。だが本来の使用用途とは違う強引な使い方をしたせいでジェネレーターは悲鳴を上げビーム兵器が安定して使えない。

そんな状態になってもガロードは全力でペダルを踏み込み機体を加速させた。ヴァサーゴの位置まで追い迫ると左腕のディフェンスプレートを突き出しトリプルメガソニック砲の砲身に突き刺す。

 

「こいつ!?」

 

「うぉぉぉおおおッ!」

 

「やらせるか!」

 

 密着した状態ではビームサーベルを手に取る時間すらない。右腕のストライククローを伸ばしダブルエックスを叩くがガロードはそれに反応した。

 スラスター制御とAMBACでストライククローを避けると伸びる関節を両手で掴み股関節に蹴りを叩き込む。

 激しい振動がパイロットに襲い掛かり右腕が引きちぎられてしまう。

 

「ぐっ!? ガンダムめ!」

 

(ごめん、兄さん)

 

「オルバ!? 後方からはアムロ・レイも来ているか。革命軍の動きも早い。ここは引く」

 

「どうにかなった……」

 

 撤退するヴァサーゴにガロードは胸を撫で下ろす。初めての宇宙戦は明らかにガロードの方が負けていた。それでも相手を退ける事ができたのは咄嗟の機転と、短い時間ではあるが無重力空間での動きに慣れて来たのもある。

 撤退するのを追い掛けようとはせず、合流して来るアムロの機体に接触した。

 

「機体の状態が酷いな。ガロード、無事か?」

 

「俺は何ともないけどダブルエックスはボロボロだ。宇宙がこんなに難しいなんて……」

 

「機体は修理すればどうにでもなる。それよりも急ぐぞ。別の機体が接近してる」

 

「別の機体?」

 

 視線を向けた先、メインスラスターから噴射される炎が小さく輝いて見える。メインカメラで姿を捉えると見えて来たのは戦闘機タイプのモビルアーマー。

 更には別方向から宇宙革命軍のモビルスーツ部隊までも迫っている。

 警戒を強めるアムロはその時、脳裏に敵の存在を感じ取った。

 

「この感覚……シャアじゃない。カミーユとも違う。誰だ?」

 

 アムロが感じ取ったのと同じように、敵のパイロットもアムロの事を感じている。




只でも遅いのに諸事情により更に遅れております。申し訳ありません。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第25話

「確認できるシャトルは1機だけだが、見えているのはガンダムタイプか?」

 

「ランスロー大佐、新連邦の動きも早いです。それに反乱分子のモビルアーマーも」

 

「わかっている。これはあくまで偵察だ。深入りはするなよ」

 

「了解」

 

 宇宙革命軍からも動きがあった。本拠地であるクラウド9から出撃したモビルスーツ部隊はジャミル達のシャトルを目指して動き出す。だが地球からは新連邦の大部隊が迫っている事もあり時間は掛けられない。

 教育大隊の教官を務めるランスロー・ダーウェルが先頭を取る。

 新連邦とは違い宇宙革命軍はスペースコロニー内で着々と戦力を増強していたが、それでも疲弊した軍を立て直すには時間が必要だ。

 その過程で数を用意するのではなく従来の機体よりも高性能な機体を開発するに至る。ビームコーティングを施した分厚い装甲はビームライフルの直撃にも耐え、装甲により増えた重量を突き動かすだけのメインスラスターの出力強化。

 ズングリとした丸い見た目とは裏腹にその動きは俊敏だ。

 宇宙革命軍の本拠地であるクラウド9から名前を取り、この機体は『クラウダ』と名付けられた。

 そのクラウダに搭乗し、ランスローは2機のガンダムタイプが防衛するシャトルの元へ飛ぶ。

 

「射程圏内に入った。威嚇射撃で沈むなよ」

 

 トリガーを引くランスロー。発射されるビームを探知してシャトル側も動きを見せる。ブリッジに立つジャミルはシンゴに指示を飛ばす。

 

「また敵が来るか? シンゴ、急速旋回」

 

「了解です!」

 

 スラスターを噴射して加速するシャトルはビームを回避し、防衛に当たるウィッツとロアビィも攻撃を開始する。

 

「敵さんが来やがったな!」

 

「アムロとガロードにばっかり任せてられないからね。新しくなったレオパルドデストロイの性能、見せて貰おうじゃないの!」

 

「エアマスターバーストも行くぜ!」

 

 ペダルを踏み込むウィッツは一気に機体を加速させて前に出る。両手に握るバスターライフルを構えて迫るクラウダ目掛けて連続でトリガーを引く。

 出力の上昇したビームが無数に発射されクラウダを襲うが、先頭を進むランスロー機はAMBACとスラスター制御を匠に使い簡単に避けてしまう。

 彼方へと消えて行くビーム。

 ランスローは長年の経験からたったこれだけの攻撃でも相手の力量を計る事ができた。

 

「エアマスターを改良した機体か。だがパイロットが若いな。後続は私に続け」

 

「クソッ! コイツ!」

 

「悪いが仕留めさせて貰う」

 

 ランスロー機の後ろから続く2機も悠々とエアマスターの攻撃を避けて行く。ウィッツは改修されたばかりの機体にまだ慣れていない事と初めての宇宙での戦闘に不慣れな事もあるが、自分と相手との力量差からある事を直感的に感じ取った。

 

「この感覚……アムロじゃあるまいし!」

 

「私に出会ったのが運の尽きだ」

 

「鬱陶しいんだよッ!」

 

 続けてバスターライフルのトリガーを引く。けれどもランスローはトリガーが引かれるよりもコンマ数秒早くメインスラスターのペダルを踏み込んでいた。

 上昇する機体はビーム攻撃を回避し、3機はシャトルを四方から挟み込むようにして散開する。

 

「抜けられた!? ロアビィ!」

 

「わかってる!」

 

 ツインビームシリンダーを両腕に構えるレオパルドは先行するランスローにビームの雨を浴びせる。

 改良されたレオパルドの攻撃力と制圧力は凄まじく、歴戦の兵士であるランスローでも全てを避け切る事ができない。

 圧倒的な範囲攻撃を前にスラスターで回避行動を取るが、何発かはビームが装甲に直撃してしまう。

 

「チィッ、厄介な機体に仕上げてある。だがシャトルはがら空きだ」

 

「直撃の筈でしょ!? どうなってんの?」

 

「こう言う時は下から攻めるのがセオリーなのでな」

 

 回り込むランスローはレオパルドの攻撃を振り切りシャトルの下面を照準に収める。ビームライフルを抱えて撃ち抜こうとするが、寸前の所でエアマスターが間に合う。

 

「エアマスターの機動力を舐めんじゃねぇぞ!」

 

「それなりに腕はあるようだな。だが……」

 

 バスターライフルの連続攻撃に身を捩りながら回避するクラウダ。度重なる連続攻撃にも関わらず装甲にビームはかすりもしない。

 一時はシャトルへの攻撃を妨害されてしまうが、モビルスーツはもう2機ある。別方向から攻めるクラウダにロアビィのレオパルドだけでは対処できない。

 両腕のツインビームシリンダーから雨のように発射されるビームも分厚い装甲に阻まれてしまう。

 

「チッ、ビーム主体に改良して貰ったって言うのによ! 鬱陶しい奴!」

 

 フロスト兄弟との戦闘でガロードとアムロの距離が離れてしまっている。2人も合流すべく急いでいるがそれでもまだ時間が掛かってしまう。

 3方向からの襲撃にウィッツとロアビィだけでは限界がある。だがあくまでも偵察任務で動いているランスローは避けるばかりで攻撃をする素振りすら見せない。

 

「こんなモノか、大体わかった。撤退するぞ。相手のガンダムタイプの性能とパイロットの技量は計れた。この事を総統に報告する必要がある」

 

「了解しました」

 

「離脱します」

 

 背を向ける3機はエアマスターとレオパルドの猛攻を潜り抜けて、クラウド9へ帰投すべくメインスラスターを噴射させる。

 だがそれを妨害せんと2機とは別の方角から強力なビームが飛来した。

 散開する3機、すぐさまレーダーと目視で確認するランスローはその相手を知っている。

 

「Gファルコンが来たか? 予定よりもこちらの動きが遅れたか」

 

「どうしますか、大佐?」

 

「お前達は帰投を優先するんだ。活路は私が開く」

 

 ビームライフルを構えるランスロー機はモビルアーマーのGファルコンに狙いを定めてトリガーを引く。

 発射されるビーム。だがクラウダよりも更に機動力の高いGファルコンは少し加速するだけで簡単に振り切ってしまう。

 パイロットであるパーラ・シスはコクピットの中から戦況を分析していた。

 

「コッチは革命軍のモビルスーツだけど、アッチはなんだぁ? でもデータで見た気がする。確かガンダムって言う……」

 

「反乱分子が邪魔をするか」

 

「敵の敵は味方って思いたいけどね。そんじゃ、逃げる機体を撃ち落とすとするよ!」

 

「やらせんよ!」

 

 操縦桿を倒すパーラは旋回し、背を向けるクラウダに機首を向ける。左右翼端のエンジンポッドに直結し大出力の出る拡散ビーム砲の照準を合わせ、両手で握り締める操縦桿のトリガーを引く。

 高出力ビームは瞬時にクラウダを襲うと装甲をかすめた。

 背後からの攻撃に思わず機体を振り向かせてしまうパイロット。パーラはそれを狙っていた。

 

「アンタらは逃さない!」

 

 青白い炎を噴射しクラウダを追い抜くGファルコン。そして再び旋回して機首を敵機に向けると、コンテナ前部の小型赤外線ホーミングミサイルを一斉に放つ。

 迫るミサイル群にクラウダの1機が捉えられる。小型ミサイルが装甲に直撃し機体が爆発の炎に包まれた。

 だが分厚い装甲は強固で撃破するまでは至らない。各部の装甲が幾つか剥がれ落ちたが機体はまだまだ動く。

 

「まだ動くかよ!? もう一発喰らわしてやる!」

 

 青白い炎を噴射して加速するGファルコンはトドメを刺すべく拡散ビーム砲で敵機の胸部を狙う。照準を合わせ操縦桿のトリガーに指を掛けるが、パーラがビームを撃ち込むよりも早く別方向からの攻撃がクラウダを貫いた。

 

「え……」

 

「誰かは知らねぇが助けられたままじゃ格好付かないからな! 援護くらいはさせて貰うぜ!」

 

 ウィッツのエアマスターが前に出るともう1機のクラウダに攻撃を仕掛ける。機動力で翻弄しビームによる鋭い攻撃。

 直撃するビーム、その程度ではびくともしないクラウダだが、立て続けにレオパルドからの攻撃も迫る。

 左肩アーマーに装着された11連ミサイルポッドから一斉にミサイルが発射された。

 パイロットはエアマスターの攻撃に気を取られ背後からの攻撃に対処できない。ミサイルの爆発が再びクラウダを炎に包み込む。そして間髪入れずエアマスターとレオパルドによる連続攻撃が敵機を挟み込んだ。

 

「どうだ? これだけ撃ち込めば」

 

「残るは1機、仕留めるよ!」

 

 レーダー反応から敵機の存在が消える。2人は残るクラウダ、ランスローが搭乗する機体に視線を移すが、既にエアマスターとレオパルドの射程距離範囲から離れてしまっていた。

 

「只の偵察で、2機のクラウダが撃破されるなどと。流石はガンダムタイプと言う事か」

 

 操縦桿を握り締めるランスローはペダルを踏み込み機体を加速させると瞬間、脳裏にプレッシャーが走った。

 

「何だ、この感覚は?」

 

 高出力のビームが1発、クラウダに迫る。何かを感じ取るランスローは考えるよりも早く体が動いていた。

 寸前の所でビームの射線上から回避しAMBACで機体ごと振り向く。

 メインカメラが映し出すのは新たに現れた2機のモビルスーツ。見た事のないガンダムタイプと全身が黒いモビルスーツ。

 

「このザラザラとした感覚……あの黒い機体か!」

 

「相手のパイロットは手慣れているな。ガロードはこのままシャトルに戻れ。ウィッツ、あのモビルアーマーは?」

 

「敵の敵は味方って言うだろ?」

 

「そうか……ジャミル、聞こえているな? モビルアーマーは任せる。俺は逃げるもう1機を追う」

 

『深追いはするなよ』

 

「わかっているが、敵の本体にこちらの動きを掴まれるかもしれないんだぞ」

 

 先行するアムロはビームライフルを構えながらクラウダへ攻めに行く。ビームライフルの射程距離外の相手でも、パイロットの敵意を感じ取りある程度照準を合わせる事ができる。

 飛来するビーム。だが簡単に当たるランスローではない。

 

「さっきまでのパイロットと違う。この感覚……ジャミルではない。ルチルと言う女でもない。誰だ?」

 

「シャアの感覚に似ている? どう言う事だ?」

 

「ニュータイプとでも言うのか!」

 

「来るのか?」

 

 機体を反転させるランスローもビームライフルを構えさせアムロの乗るラスヴェートに狙いを定める。

 両者は相手の敵意を感じ取り攻撃される前に回避行動を取った。ビームは明後日の方向に飛んで行き、ビームライフルの射程圏内で猛攻を繰り広げる。

 

「このパイロットの力、本気を出すしかない!」

 

「ここでやられる訳にはいかない!」

 

「沈んで貰う!」

 

 殺気を漲らせるランスローの猛攻、連続して放たれるビーム攻撃に対しアムロは操縦桿を匠に動かして最小限の動きでこれを避ける。そして同時に敵に向かって銃口を突き付けてトリガーを引く。

 だがどれだけ攻撃を続けても、どちらの機体もキズ1つすら付かない。中距離で射撃戦を続けていても決着が付かない事はこの時点で2人とも理解した。

 

「だったら……」

 

 左腕にマウントされたシールドを捨てるアムロはランスローよりも早く動きを見せた。メインスラスターの出力で機体を加速させて距離を詰めようとする。

 動きを見るランスローも次の動きに移るのは早い。ビームライフルを腰部へマウントさせて右手にビームサーベルを握らせ接近戦を挑もうとする。加速するクラウダーは一直線にラスヴェートに向かって進む。

 

「何だ? 目眩ましか!? クッ!」

 

 攻撃を仕掛ける寸前、ラスヴェートが捨てたシールドに目が行く。瞬間、ビームの閃光がほとばしる。

 シールド裏に設置されたビームキャノンが自動的に発射された。同時にアムロのラスヴェートからもビームが飛ぶ。

 操縦桿とペダルを操作して何とかビームキャノンの直撃は免れるが、左脚部にはビームライフルから放たれたビームが直撃してしまう。

 

「直撃の筈だ、ビームコーティング。それでもやりようはある!」

 

「この私に攻撃を当てるだと!? やったな、アムロ・レイ!」

 

「俺達の動きを知られる訳にはいかない。逃がすものか」

 

「チィッ!」

 

 互いにビームサーベルを引き抜き袈裟斬り。激しい閃光が両者を照らすがそれも一瞬。間合いを開けてランスローはラスヴェートのコクピット目掛けて切っ先を突き立てる。

 

「うおおおッ!」

 

「コイツ!」

 

 姿勢をかがませるラスヴェート。ビームの刃は頭上を通り過ぎ、ラスヴェートはビームサーベルを握る右腕を振り上げた。

 クラウダの右肘から先が分断され宙に浮く。

 

「やられたと言うのか?」

 

「ここまでだな、ランスロー!」

 

「クッ、撤退だ」

 

 背を向けるクラウダは同時に背部からビームカッターを展開させる。巨大なビームが翼のように生えラスヴェートに襲い掛かるが、ビームサーベルで受け止めるアムロは何とかコレを防いだ。

 だがランスローが搭乗するクラウダーは遙か先へ逃げられてしまう。

 コクピットの中でランスローは徐々に小さくなっていく背後のラスヴェートをカメラで見ながらボソリと呟く。

 

「只の偵察で2機が破壊され私の機体も損傷したなどと! アムロと言ったのか。私は……」

 

 逃げるランスローを追い掛けて来るモノはもういない。

 

///

 

 戦闘が終わりシャトルに帰艦するフリーデンのパイロット達。初めての宇宙戦にアムロ以外のパイロットは慣れておらず整備班は急ピッチで機体の整備を進めている。

 パイロットも同様で、疲弊した体と精神を休ませる為に自室や食堂に移っていた。

 そんな中でブリッジに居るのは艦長であるジャミルと操縦クルー、白いパイロットスーツを装着したままのアムロ。そしてGファルコンのパイロットであるパーラ・シス。

 

「それで、アンタ達はそのティファって子を助ける為に新連邦を追って宇宙にまで来たっての?」

 

「そう言う事になる。だがパイロットが宇宙に慣れてなくてな」

 

「どうりで。でも黒い機体は良い動きをしてたじゃないか。革命軍のエースを退けるだなんてさ」

 

「アムロの事か? 彼は15年前の戦争を経験している。だから他の3人と動きが違う」

 

 そう説明するジャミルにアムロは視線を反らすだけで何も言わない。ジャミル達と行動をともにするようになり暫く経ち、アムロは自分の置かれた環境が少しずつわかってきた。

 それでもハッキリ断定できるモノではないし、誰かに相談できるようなモノでもない。

 

「へぇ、だからか。なぁ、艦長。それならアタシ達の所に来ないか? 補給する目処だってないんだろ? それに目的だって似通ってる」

 

「そうだな。君が所属するサテリコンの拠点まで案内できるか?」

 

「もちろん! こっちは補給物資を提供して、アンタ達は戦力を投入する。持ちつ持たれつって関係ね。この位置からなら数時間もあれば着くと思うよ。サテリコンの拠点は昔の資源小惑星を改良したモノなんだ。近くまで行けば肉眼で見えるよ」

 

「シンゴ、微速前進だ」

 

「了解です、キャプテン」

 

 舵を握るシンゴはジャミルの指示に従いシャトルを目的地であるサテリコンに向けて動かす。艦長シートに座るジャミルは流れる景色の星を見ながら、15年と言う月日を噛み締めていた。

 

(またこの場所に戻って来るとはな。もう戻る事などないと思っていたが。この場所は辛い思い出が多すぎる……ルチルもまだ、どこかで見ているのか?)

 

 一方のパーラはジャミルとの会話が終わると直ぐ側に立つアムロの元へ向かう。軽く床を蹴って宙に浮くとそのままゆっくりアムロの所に着いた。

 

「アンタが黒い機体のパイロットなんだろ? アムロ・レイ」

 

「君は無重力空間に慣れているんだな」

 

「アタシは生まれてからずっと宇宙に居たからさ。逆に地球の重力がどんな感覚なのかわからないんだ。それよりも、アンタの戦いはずっと見てたよ。あんな動きをする奴初めて見たぜ。もしかして話に聞いたニュータイプってアムロの事か?」

 

「まさか、俺はニュータイプなんかじゃないよ。ただ他の人間よりも慣れてしまっているだけさ」

 

「ふ~ん、そう言うものなんだ。前の戦争も結構長かったって聞いたからな」

 

 連邦とジオンとが繰り広げた1年戦争が始まり8ヶ月が経過した頃、連邦がV作戦と銘打ち開発したモビルスーツ。RX-78-2ガンダム、アムロは偶然にもガンダムに乗り戦いへと巻き込まれて行く。

 それから13年、シャアが引き起こした第2次ネオ・ジオン紛争に至るまで現役でモビルスーツのパイロットをしているモノは少ない。

 経験値だけで見てもアムロのパイロットとしての技量は相当なモノだ。

 

「君はレジスタンスとして活動しているのだろ? 宇宙革命軍の動きはどうなんだ?」

 

「こっちの戦力はアイツラと比べたら微々たるモノだからさ。色々やってるけど思った程の成果はでてないよ。でも最近はやけに大人しいと言うか」

 

「大人しい? 何かあるのか?」

 

「調べてはいるみたいなんだけど、情報は上がってないな」

 

「何か仕掛けるつもりかもしれない。ジャミル、どう思う?」

 

「新連邦との戦いに備えているのかもしれん。だが相手は宇宙革命軍だ。15年前のコロニー落とし、そうでなくても過剰な攻撃を仕掛ける可能性がある」

 

「けれども状況は15年前と違う。今の俺達が優先するのはティファの救出だ。新連邦と革命軍の間に割り込む必要はない」

 

「そうだな。兎に角、今は彼女を助け出す事だ。これからの事はサテリコンの拠点に到着してからだ。モビルスーツの補給もある」

 

 シャトルはゆっくりと小惑星に向かって進み続ける。

 だがジャミルやアムロの考えよりも早く、宇宙革命軍は動きを見せていた。来るべき決戦に備えて、新連邦に大打撃を与えるべく開発した戦略兵器。

 それはスペースノイドの居住地でもあるスペースコロニーを兵器として使用できるように改良されたモノ。モビルスーツやモビルアーマーはおろか複数の戦艦でさえも一撃で葬り去るその兵器はコロニーレーザーと呼ばれた。

 宇宙革命軍総統であるザイデルは戦艦のブリッジで艦長シートにどっしりと腰を下ろし、エネルギーチャージと照準合わせ作業が完了するのを待っていた。

 

「エネルギーチャージ、30%まで完了!」

 

「発射可能になり次第すぐに発射しろ。以前の戦争のように持久戦などやらせはせん。この一撃で地球を焼き払い、新連邦に打撃を与える。15年前の決着を着ける時が来たのだ!」

 

 ブリッジのスクリーンに映し出されるコロニーレーザーを眺めるザイデルは打倒新連邦を成し遂げるべく、虎の子である兵器を目の前にして力強く口を開く。

 

 

 

第25話 時は満ちた

 

 

 




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第26話

 サテリコンが拠点として構えている資源小惑星、ジャミル達一向はパーラの案内の元シャトルでここに到着した。使い古された小惑星にはあちこちにガタが来ている。

 汚れやキズ所どころか空気漏れや錆びた鉄骨の修復が追い付かずそのままになっている所も多くあり、サテリコンの組織力が反映されている様だ。

 まず優先されたのが先の戦闘により消耗したモビルスーツの整備。特にダブルエックスのジェネレーターは深刻で、ツインサテライトキャノンのエネルギーを強引に賄ったせいで通常使用にも影響が出ている。

 次にエアマスターとレオパルド、ラスヴェートの推進剤や弾薬の補給。GXも宇宙空間でいつでも戦闘できるように準備をしておく必要がある。

 サテリコンのクルーと強力して作業に当たるキッド達メカニックマン。

 一方でパイロットのガロードは水分補給をしようと食堂に足を運んだ。

 

「水1つ飲むだけでも地球とは違うんだな」

 

 機械のボタンを押し込むと排出口からチューブに入れられた水が出てくる。ガロードはチューブを手に取り口へ運ぶと中の水を吸い出した。

 コップに注がれた水とは違いひと口で飲める量は少なく、数秒は吸い続け体内に水分を浸透させる。

 そして口を離すとチューブから漏れた小さな水滴が1つ2つと宙に浮く。

 

「下手くそだな」

 

「え? お前は……」

 

 ガロードの所にやって来たのは私服に着替えたパーラ。無重力空間で体を動かすのも慣れたモノで、ふわりと通路から飛び出すと踵を押し付けるようにして床に足を付ける。

 

「お前もガンダムのパイロットなんだろ? アタシはパーラ・シス。Gファルコンの専属パイロットさ」

 

「俺はガロード。ガロード・ラン。Gファルコンってあのモビルアーマーか?」

 

「そうさ。15年前の戦時中に開発された機体。なんでもあんたらのガンダムとドッキングして運用する事を前提にしてたみたいだ。今ごろメカニックが必死で作業してるよ」

 

「へぇ、俺は生き残る事に必死でガンダムにそんな機能があるだなんて知りもしなかった」

 

「だろうな、だって15年前だぜ? アタシもまだまだ子供だったし、生き残った人間だって少なかったんだ。当時の連邦軍の兵士でもないと知らないよ」

 

 フランクに話し掛けてくるパーラにガロードは緊張感を解いて話をしていた。慣れない宇宙に何をするにしても神経を使わなければならないが、この瞬間だけはそんな事を忘れられる。

 

「ジャミル、そんな事教えてくれなかったな」

 

「ジャミルってサングラスを掛けた奴か? あのシャトルの艦長の」

 

「そうさ。15年前はGXのパイロットだったんだ。今はバルチャーの親玉、人手が足りない時は時々モビルスーツにも乗るけどな」

 

「にしても、良くガンダムを4機も揃えたな! これだけの機体があれば革命軍も新連邦もぶっ飛ばせる!」

 

 右の拳を左手に打ち付けるパーラは起死回生する為の戦力が手元に揃った事にこれからの戦闘に意欲を示す。けれどもガロードの心境はそれとは少し違った。

 

「パーラ、新連邦や宇宙革命軍が許せないのはわかるよ。でも俺が優先すべきなのは他にあるんだ」

 

「他に優先する事?」

 

「俺は革命軍に拐われたティファって子を助けたいだけなんだ。アイツラが何を企んでるかも気になるけど、やっとの思いで宇宙まで来たんだ。ティファを助けられなかったらここまで来た意味がなくなっちまう」

 

 ガロードの言葉を聞いてパーラは目を丸くする。自分と年齢がほとんど変わらない目の前の少年は、ティファと言う少女の為だけにはるばる宇宙までやって来た。

 その話を聞いただけでガロードが本気なのだと理解できる。根本にある戦う理由は違うが、思う気持ちがガロードの方が誰よりも強い。

 

「そうか、ティファ……ティファか……」

 

 ぼそりと呟いたパーラはガロードの首に自分の腕を回した。彼女なりの敬愛の印を示してみると、驚いたガロードは思わずチューブを強く握り締めてしまう。

 飲み口からまた水が排出され、大きな水の玉が宙に浮く。

 

「任しとけって、ガロード! そのティファって子、必ず見付けて助けてやるからよ!」

 

「あ……あぁ」

 

「今からアタシ達はチームだ! ガロードはまだ宇宙に慣れてないだろ? アタシが教えてやるよ」

 

 言うとパーラは1人で何処かへ行ってしまう。慌てて床を蹴るガロードはパーラの背中を追う。

 

「おい、どこ行くんだよ?」

 

「特訓だよ。実際にモビルスーツに触って宇宙空間に慣れるんだ」

 

「シミュレーターじゃダメなのか?」

 

「それじゃ感覚掴むのに時間が掛かる。体に受けるGや慣性を体で覚えるんだよ。ガンダムは整備中だから、ここで余ってる機体を使う。付いて来な!」

 

 食堂から移動する2人はモビルスーツデッキを目指す。

 一方収容されたシャトルのブリッジにはパッセンジャーボーディングブリッジが設置され、そこからジャミルとアムロが降りて来る。

 その先ではサテリコンの司令官であるロイザーが待っていた。

 

「ようこそ、サテリコンへ。私がここの指揮をしているロイザーだ」

 

「キャプテンのジャミル・ニートです。隣はモビルスーツパイロットのアムロ・レイ」

 

「良く来てくれた。私はキミ達の事を歓迎するよ」

 

「こちらこそ、モビルスーツの補給と整備をしてもらって助かります。我々は地球で活動するバルチャーなので、宇宙に当てがなくてね」

 

「モビルスーツの事はこちらに任せて下さい。それよりもこれからの事を話したい。付いて来て頂けるか?」

 

 頷くジャミルとアムロの反応を見てロイザーは歩を進める。向かう先には長い通路があり、更にその先にあるミーティングルームに辿り着く。

 中では巨大モニターに両軍の陣形が映し出されている。

 

「現在の我々はとても非力だ。今の革命軍と新連邦に渡り合えるだけの戦力などとてもない。更に奴らはコロニーレーザーまで用意して来た」

 

「コロニーレーザー? まだそんなモノを作るのか、革命軍は」

 

「照準はどうなっている? 狙われたらどうしようもないぞ?」

 

 アムロの問い掛けにロイザーは深く頷く。

 

「今は地球から上がって来た新連邦の部隊に向いている。だが、その先には地球がある。第1射が我々に向けられる事はないが、ようやく回復して来た地球にコロニーレーザーを撃ち込むなどと言う無法を見過ごす訳にもいかんだろ」

 

「そうかもしれないが、戦力の差は歴然としているんだぞ? サテライトキャノンを使うにしても、一斉砲撃を受ければひとたまりもない」

 

「サテライトキャノン!? 15年前のGXもあるのか?」

 

「あぁ、2機な。だが撃った後が問題だ。それに、ティファを助け出すまでサテライトキャノンは使えない」

 

 戦略級の威力を持つダブルエックスとGXのサテライトキャノンを使えば、長距離射撃でコロニーレーザーを一撃で破壊する事が可能だ。

 けれども何処に囚われているのかわからないティファを救い出す前に使えば巻き込まれる事も充分に考えられる。そうなれば宇宙まで来た意味が失くなってしまう。

 

「ティファ? 女の名前?」

 

「そうだ、俺達はティファを助ける為に宇宙まで来た。その前にサテライトキャノンを使うと言うのなら、アイツはガンダムに乗らないだろう」

 

「だったらどうする? そのティファの居所は掴めているのか?」

 

「そうだと楽に動けるんだがな。ジャミルはどう考える?」

 

 アムロに言われてジャミルは精神を集中してみる。15年前、ニュータイプとしてモビルスーツに乗り戦場を駆け巡っていた頃なら、ティファの声が聞こえたかもしれない。

 ルチル・リリアントとの再開、νガンダムのコクピットブロックから溢れ出す虹色の光を見た時に一瞬ではあるが感じ取れた。

 だがどれだけ試しても今はもう感じられない。

 自分の頭でこれからの事を考えるしか進むべき道は見付からないとわかっていた。

 

「敵艦に潜入して情報を得るか。だがリスクが伴う上に時間が掛かる。どうにか自分から居場所を発信できれば……」

 

「俺達が宇宙に来た事を知らせれば、ティファは動くかもしれない。こちらの情報を彼女に伝えられれば」

 

「だったらガロードにやらせるしかないだろ」

 

「だな。サテライトキャノンのマイクロウェーブで牽制すれば少しは動きやすくなるだろ。後は俺の方で援護する。ロイザー司令、コロニーレーザー攻撃は2日後だ」

 

「それだけの時間でできるのだな?」

 

「間に合わせる」

 

「わかった、こちらも物資は支援する。本体への攻撃はキミ達の協力なくしては成功しない。頼むぞ」

 

///

 

 宇宙革命軍の艦艇内でニコラは悩んでいた。地球からティファを連れて来たは良いが総統であるザイデルは彼女の事を認めようとはしなかったからだ。

 ザイデルもニュータイプと言う言葉に囚われた人間。そんな彼に幾ら説明した所で、凝り固まった思想を変える事などできない。そしてニコラもまた、ニュータイプに囚われた人間の1人である。

 

「どうしてもザイデル総統は彼女をニュータイプに認定するつもりはないらしい。あくまでも革命軍の象徴としてしか使うつもりがない。ティファの能力は他のどの人間よりも高い水準なのに」

 

 室内で呟くニコラ、けれどもそこに居るのは彼だけではない。かつてニュータイプと呼ばれた人間、ランスロー・ダーウェルも居る。

 

「これ以上考えても無駄だ。ザイデル総統はティファを絶対に認めない。長年飼い慣らされて来たからわかる」

 

「ですが大佐、このままでは苦労してここまでやった意味が失くなります。彼女もどう扱われるか……」

 

「だとすればやる事は1つしかない」

 

「1つ?」

 

「ティファを開放する。このままここに居続けた所で彼女の為にもこちらの為にもならない。ニコラ、貴様の報告にあった地球のバルチャーもわざわざ近くに来てるのを確認できている。彼らにティファを返す」

 

「ですが大佐!? そんな事をしてもしもバレたら、最悪の場合極刑です! 本気ですか!」

 

「そんな事は承知している。だがな、このまま立ち止まっていても事態は進展しない。それに彼女も、このまま黙って待ち続けるような娘でもないだろ。君の言うニュータイプの能力が本物なら、この艦がら脱出する手段くらい企てる」

 

「そうかもしれませんが……」

 

「あの戦争が終わってから15年も時が経ってしまった。その間、飼い慣らされるだけで何もしてこなかった私に何をする権利がある? ニコラ、私はこう考えている――」

 

 

 

 

第26話 未来を作るのは今を生きる若者だ

 

 

 

 

 行動に移る2人、ニコラは脱出用のシャトルの準備の為にドックへ向かい、ランスローはティファの居る部屋へと向かった。道中で他のクルーと数回すれ違うが怪しまれる事などなく、ティファが幽閉されている場所へと辿り着く。

 壁に設置されたパネルを叩きエアロックを解除するランスローはそのまま部屋の中へ入って行った。

 

「ティファ・アディール、居るな?」

 

「アナタは……」

 

「君は地球から来たのだろ? だったらここに居るべきではない。勝手な事を言っているのは承知している。シャトルの準備を進めているからソレに乗るんだ」

 

「助けて頂けるのは感謝します。ですがこの事、革命軍の総統は知らないですね。もしも知られたら……」

 

「わかっているさ。だが私は、君達が作り出す未来を信じたくなった。それと、少し前にアムロ・レイと戦った」

 

「アムロと?」

 

「君の仲間達が宇宙に来ている。帰る場所があるのは素敵な事だ。ティファ、君はこんな所に居てはいけない」

 

 意思を持った目線を向けるティファは力強く頷いた。ランスローはそれを確認し、先導しながら部屋を出る。ティファはその後ろから付いて行き、幽閉された部屋から脱出した。

 事前に警備配置を調べておいたランスローは人通りの少なく安全なルートに沿って進み、ニコラが待つシャトルを目指す。

 不意にランスローの制服を背中から引っ張るティファは彼を立ち止まらさせた。

 

「待って、誰か居る」

 

「良くわかるな」

 

 急いで壁の影に隠れる2人は通路の曲がり角の更に奥に意識を集中させた。ライトの光が照らす人影とかすかな話し声。

 

「このまま本当に戦争になるのか? コロニーレーザーまで準備してさ」

 

「敵はもう目の前なんだぞ。今更止めた所でこっちが死ぬだけだ。コロニーレーザーが正常に動けばこっちが圧倒的に有利なんだ。そう心配する必要もない」

 

「そう言うものかもしれないが……」

 

「ビビってたら死ぬだけだぞ? 今の内にやれる事をやっておけ。俺は飯食って来る。お前は?」

 

「俺も行くよ。白兵戦になったりしないだろうな?」

 

「知るか」

 

 会話を続ける2人は更に奥の通路へと歩いて行ってしまう。声が遠ざかるのを聞いてランスローは壁の影から出て再び進み始める。

 

「ティファ、それが君のニュータイプ能力か。こんな事が15年前にできていたのか、私は」

 

「急ぎましょう」

 

「そうだな」

 

 急かされるランスローはティファの右腕を掴み通路を進んで行く。その間、ティファは何を言う事もなく、しばらくしてシャトルの用意されたドックへと辿り着いた。

 

「ここから先、誰にも見られずにシャトルまで行くのは無理だ。パイロットスーツがある。ヘルメットのバイザーを下げてしまえばわかりにくい」

 

 言われてすぐ脇にある部屋に入る2人、壁に丈掛けられた白いノーマルスーツを手に取るランスローはそれを手渡した。けれども部屋を出て行こうとしないランスローに、ティファはしばらく無言で見つめる。

 

「どうした? あぁ、そうか。気が利かなかった。1人でもできるな?」

 

「大丈夫です」

 

「外で監視はしておく」

 

 扉が閉じ1人にされるティファ、受け取ったパイロットスーツを一旦は床に下ろすと来ていたピンク色のワンピースに手を掛けた。

 本来ノーマルスーツは服の上からでも装着できるが、ワンピースのままで着る事は流石にできない。

 裸になるティファ、肌寒さを感じながらも足をスーツにねじ込みそのまま全身に装着させた。最後にファスナーを首の位置にまで上げるとフルフェイスのヘルメットを被る。

 右耳の位置にあるスイッチを弄ると顔面のバイザーが降りるが、違和感を感じてすぐに元へ戻す。

 白いパイロットスーツを装着してゆっくり歩き出し、脱ぎ捨てたワンピースを空のロッカーに入れてから入り口の扉を開けてランスローと合流する。

 

「終わったな? 酸素が供給されてないぞ」

 

「すみません、慣れてなくて」

 

「気にするな。接続はちゃんとされている。背中のバックパックが酸素、後は右胸にある青いボタンを押せば良い。赤いのはヒーターだ」

 

 言われた通りに青と赤のボタンを押し込むとヘルメット内に酸素が供給され、じわじわと暖められるスーツがティファの肌に触れる。

 ヘルメットのバイザーを下ろせば、外からちょっと見たくらいではティファだと気付かれない。

 

「声を出さなければバレる事はない。何かあれば私が対処する。安心してくれて良い。では、行くぞ」

 

 頷くティファ、2人はドックのシャトルを目指して床を蹴った。居住区画とは違いドックともなれば疑似重力も作用していない。宙に浮くようにしてシャトルに接近する2人。

 けれども作業中にメカニックも多く、その内の1人がランスローの存在に気が付き、作業を中断して近づいて来た。

 

「ランスロー大佐、如何なされました?」

 

「先に中へ入るんだ。後から行く」

 

 耳元で囁き、ランスローは近づいて来るクルーの対応、ティファはシャトルの内部へと行く。

 

「ランスロー大佐?」

 

「何でもない、只の偵察任務だ」

 

「でしたらモビルスーツで……」

 

「新連邦の大部隊は目の前なんだぞ。モビルスーツで出た事が知られれば、開戦の切っ掛けにも成りかねん」

 

「し、失礼しました。メカニックの目線でしか見えてませんでした」

 

「相手の数を確認するだけだ、そう時間は掛からない。上には報告してある」

 

「了解です、お気をつけて」

 

 敬礼するメカニッククルーを後にして、ランスローも準備されたシャトルの内部へと進む。通路を進みブリッジへ行くと、準備を進めていたニコラとティファが居る。

 

「大佐、ここまでは順調です」

 

「ご苦労。後はオートで動くようにしてくれ」

 

「既に完了しております」

 

「そうか。ティファ、ここに来てくれ」

 

 ランスローはティファを呼び寄せ、運転席へ座らせるとシートベルトを装着させた。

 

「私達にできるのはここまでだ。一緒に付いて行く事はできない。わかるな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「元はと言えば君を地球から連れ出したのは我々だと言うのに、偉そうかな?」

 

「いいえ、宇宙に出ないと見えないモノもあります。世界が広がるのを感じられました」

 

「そうか。ジャミルに会ったら伝えて欲しい事がある。最後の勝負は私の方が勝っていた、と」

 

 15年前の戦争時、ジャミルとランスローは幾度となく激戦を繰り広げた。互いにニュータイプとして軍に使われる立場、生き残る為に敵を倒すしかなかった時代。

 当時は最新鋭のモビルスーツに乗り、無数のスペースコロニーが地球に落ちても尚、2人は戦った。

 最後の戦い、ジャミルのGXは左腕と頭部を破壊されると機能不全に陥り、そのまま地球へと降り、ランスローも機体を失い脱出装置で逃げるので精一杯。

 最後の勝負でも雌雄を決する事はできなかった。

 

「わかりました。ですが、そう遠くない未来で2人は出会うと思います。そうしたら、ご自分の言葉で伝えてください」

 

「フフッ、良くも言う。話はここまでだ。健闘を祈る」

 

「はい、短い間でしたが、ありがとうございました」

 

 お辞儀をするティファの姿を網膜に深く焼き付けて、2人はブリッジを後にした。ランスローはシャトルから出て行く姿が見られないようにデッキに置いてあるコンテナを目指して通路を進む。

 

「大佐、これで何か変わるのでしょうか?」

 

「どう変わるのかまではわからない。だが、動かなければ何も変わる事はない。私も動く時が来たかな」

 

「それは新連邦の……」

 

「開戦の時が近い。奴らが動くぞ」

 

 神妙な面持ちに変わるランスローを見て、ニコラも背中に冷たい汗が流れ息を呑む。地球と宇宙、2つの勢力が再び戦争を始めようとしている現実。

 この事態をたかが1人や2人の人間でどうにかできる筈もない。

 デッキに辿り着く2人は物資を運び込む為の巨大なコンテナの中へ入ると、扉を閉じ船外に排出させた。

 

///

 

 パイロットスーツを装着したガロードは、モビルスーツデッキでキッドとパーラに向かって嘆いていた。

 そこにあるのはGファルコンとドッキングしたダブルエックス。

 

「本当にこんなので行けるんだろうな?」

 

「大丈夫だって。マニュアルにもちゃんと記載されてたし、データだって組み込まれてた。これなら今までよりも早い速度で動き回れる」

 

「でも俺、モビルスーツを普通に動かすのがやっとなんだぞ? その上モビルアーマーなんて……」

 

「それも心配するなって。ドッキング状態の時は操縦系統が切り替わるようになってる。操縦はパーラに任せれば良い。後は近づいたら手当たり次第にライフルを撃て」」

 

 ダブルエックスの腰部にはビームライフルではなく、特殊な弾が装填されたライフルがマウントされていた。

 

「俺が即席で作ったスピーカーポッドだ。これで敵の艦内に声を響かせられる」

 

「使い方はライフルと一緒なんだな? 良し!」

 

「でも予備はないからな。弾も今装填されてるマガジン分しかない。無駄にはするなよ」

 

 キッドに説明を受けてガロードはダブルエックスのコクピットに向かい、パーラはGファルコンのコクピットに入った。ハッチを閉鎖し、エンジンを機動させ操縦桿を握り締める。

 

「良いか、ガロード。説明されたように操縦はアタシがやる。でも接近したらライフルを使う必要がある」

 

「そのタイミングになったら俺がやれば良いんだろ?」

 

「そうだ。でも敵軍のど真ん中に突っ込むんだ。気合い入れろよ!」

 

「わかってる!」

 

「ヨッシャッ! パーラ・シス、Gファルコンで出る!」

 

 ペダルを踏み込むパーラはメインスラスターを全開にして、ダブルエックスとドッキングしたGファルコンはカタパルトから飛び出す。

 加速するGファルコンは旋回し、戦闘準備を進める宇宙革命軍の部隊に向かって真っ直ぐに突き進んだ。




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第27話

 敵軍に向かって進み続けるGファルコン。モニターで視認できるようになる距離まで詰める頃になると、メインブースター付近に装着されているプロペタントタンクを放棄した。

 

「もう少しの距離まで来た。見えてるな、ガロード?」

 

「やる事はわかってる。一撃離脱で行く!」

 

「行くぜ、相棒ッ!」

 

 メインスラスターの出力を全開、一気に加速するGファルコンは宇宙革命軍の艦隊の中に突っ込んで行く。見渡す限りの艦艇。いつでも開戦できるように弾薬やエネルギーは充填されている。

 更には視界に収まりきらない程に巨大な宇宙革命軍の最終兵器、コロニーレーザーが目と鼻の先にあった。

 

「こんな中を1機で突っ切るなんて正気の沙汰じゃねぇぞ! そこまでしてティファって子を助けたいのか?」

 

「そうだ! 絶対に助け出さないとダメなんだ! 俺は……俺はティファの事が好きなんだッ!」

 

「とんでもねぇ馬鹿を相棒にしちまったぜッ! でも気に入ったッ!」

 

 敵陣のど真ん中、モビルアーマー形態から変形を解除したダブルエックス。それでも背部にはGファルコンのブースターユニットをドッキングした状態。ダブルエックス本体の機動力と合わせれば、その機動力は他の追随を許さない。

 ガロードはマニピュレーターにライフルを取らせると同時に操縦桿のガジェットを押し込んだ。

 月からマイクロウェーブが送信され、サテライトキャノンを警戒する艦隊は攻撃に打って出る事ができない。

 元からサテライトキャノンを撃つつもりなどなく、道を開ける為だけのブラフ。

 だが宇宙革命軍側からしたら無視できるモノではない。総統であるザイデルは全軍に退避するよう怒号を飛ばす。

 

「マイクロウェーブ!? 発射線上に居る全艦隊は退避しろ! コロニーレーザーへ撃たせるな!」

 

「エンジン出力上昇。主砲、副砲、一斉射撃」

 

 ザイデルの指示を復唱する副館長、それに伴い各艦艇も一斉にダブルエックスへ照準を合わせる。同時にサテライトキャノンの発射線上に位置する艦艇は全速力で退避した。

 その様子を見てパーラは唖然とする。

 

「面白いくらいに艦艇が離れてく……これなら行けるぞ、ガロード」

 

「待て、モビルスーツが1機だけ近づいて来る。コイツは……」

 

 レーダーに映る敵反応。他とは違い、このモビルスーツは逃げる事なく一直線にダブルエックスの方向に向かって来る。

 それは以前、アムロが戦った機体と同じ。パイロットはニュータイプと呼ばれた男、ランスロー・ダーウェル。

 

「前の戦闘では後方に居たガンダムタイプ。だがマイクロウェーブを受信する所を見るとGXの改良型か」

 

「お前の相手なんてしてられるか!」

 

「そうもいかんのでな、こちらも!」

 

 ビームライフルで牽制するランスロー。それでも発射されるビームの着弾点は正確無比。鋭いビームはダブルエックスの装甲スレスレを通過して行くだけでダメージは与えない。

 ドッキングしたGファルコンの出力を活かして機動力で撹乱しようとするが、それよりも早く接近するクラウダーはビームライフルの銃口を胸部装甲に密着させた。

 

「しまっ!?」

 

「ティファ・アディールを知っているな?」

 

「ティファだって?」

 

「助けに来たのだとすればYG―111宙域に向かえ。彼女はシャトルに乗っている」

 

「本当だろうな?」

 

 敵であるランスローの言葉を素直に信じる事などできない。そんな事は言葉を発したランスロー自身も承知の上で、ビームライフルの銃口を離すとダブルエックスの頭部を狙う。

 

「コイツッ!?」

 

「行くのなら急げ、誤魔化すくらいはやってやる」

 

 引かれるトリガー、発射されるビームを避けるガロードはその攻撃に殺気が漂ってない事がわかる。

 

「殺そうと思えば殺せた。それなのに次の攻撃は動きが読みやすい。ティファ、本当にそこに居るのか?」

 

「どうする、ガロード? 敵のモビルスーツ隊が来るぞ。囲まれたらいくら何でも無傷は無理だぞ」

 

「アイツの言葉を信じる! パーラ、頼む!」

 

「了解!」

 

 戦闘機形態に変形するダブルエックスは何もせぬまま現宙域から離脱する。

 それを逃さんと艦艇や出撃したモビルスーツはビーム攻撃による報復をぶつけるが、Gファルコンは最大出力で振り切って行く。

 数秒もすれば宇宙革命軍の艦隊は豆粒のように小さくなった。

 無数の星々の中に輝く一筋の光。レーダーで索敵するガロードは単独で飛行する1機のシャトルを確認した。

 

「見えた! あのシャトルにティファが」

 

「なぁ、やっぱり罠って事もあるんじゃないか? 近づいたらドカン! なんてならないだろな?」

 

「でもティファが居る可能性があるなら行くしかないだろ。ドッキングを解除しても良い」

 

 

 言われてもパーラは機体を分離させず、シャトルの方向に目掛けて機首を傾けペダルを踏み込む。戦闘用に開発されたGファルコンの加速からすれば、慣性飛行に入っているシャトルに追い付くのは容易。

 逆噴射を掛けて減速し、並列になるとモビルスーツ形態に戻りマニピュレーターでシャトルのボディーを掴み横並びになる。

 ハッチを開放するパーラはシャトルに目掛けてワイヤーガンを向けるが、チラリとガロードを見るとその手には何もない。

 急いでヘルメットの通信機を繋げる。

 

「おい、そのまま飛び付く気か! 吹っ飛ばされるぞ!」

 

「吹っ飛ぶ?」

 

「ここが宇宙って事を理解しろ! 体感以上にスピードが出てる。ワイヤーガンがあるだろ」

 

「これか?」

 

 腰部のワイヤーガンを手に取るガロードも同様に銃口をシャトルに向けた。発射される吸盤はボディーに吸い付き、2人の体もワイヤーの巻取りに合わせて動く。

 先に取り付くパーラは慣れた手付きでパネルを触りシャトル側のハッチを開放させた。

 

「入るぞ。エアロックを掛けて空気が充満するまでヘルメットは外すな」

 

「わかったよ」

 

 シャトル内を進むパーラに続くガロード。やがてヘルメットを外しブリッジにまで来る2人、手を伸ばしパネルに触ろうとするよりも早く、開放されたハッチから1人の少女が流れて来た。

 その体を受け止めるガロード。ふわりと体が浮き上がり後ろへと流れてしまう。目の前に居るのは夢にまで見た少女。

 

「ティファ……」

 

「ガロード……会いたかった……」

 

「俺だってそうさ。だからこうしてここまで来たんだ。何も変な事されてないか?」

 

「私は大丈夫。革命軍のランスロー大佐に助けて頂きました」

 

「良かった……本当に……」

 

「私もです。こうしてまた会えるなんて……」

 

「ごほんッ! アタシもここに居るって事忘れるなよ?」

 

 見つめ合う2人の雰囲気に水を差すように、パーラは咳き込んでみせると注意を引き寄せる。そして今更になって状況を飲み込む2人は頬を赤らめてあたふたして見せた。

 

「あ、あぁ! ちゃんとわかってるよ!」

 

「どうだか、良い雰囲気になっちゃってもう」

 

「だからわかってるって言ってんだろ! それより敵の追撃を振り切ってサテリコンに戻るぞ」

 

「そうだな。その子、ティファって言うんだろ? アタシはパーラ・シス。よろしく!」

 

 満面の笑みを浮かべるパーラは右手を差し出し、ティファも落ち着いた様子で自分の右手を伸ばしパイロットスーツ越しに肌を触れ合わせる。

 

「ティファ・アディールです」

 

「ガロードが気に掛けてるからどんな子だと思ってたけど結構可愛いじゃん!」

 

「そ、そんな! 私は……」

 

「アハハハッ、冗談はこの辺にしてさっさと行くとするか。アタシのGファルコンに乗れ。こんなシャトルよりも断然早いぞ」

 

「助けに来て頂いた事は感謝してます。ですが私は行くべき所があります」

 

「行くべき所?」

 

 強い意思を持った瞳。見つめるティファの迫力にパーラは思わず押されてしまう。

 

「月へ行きます」

 

「月だって!? どうしてそんな所に!」

 

「マイクロウェーブ送信施設。そこの地下にD.O.M.E.があります。ガロード、お願いできますか?」

 

「そりゃあ……でも教えてくれよ。どうして月に行く必要があるんだ? D.O.M.E.ってなんだよ?」

 

「それは――」

 

 口を開いた瞬間、ブリッジの窓から火球が見えた。急いで確認に向かった3人が見た物は新連邦と宇宙革命軍による艦隊戦。

 

「いよいよおっぱじめやがった。また戦争が始まったのか……」

 

「違う、まだ威嚇しあってるだけだ。革命軍には必殺のコロニーレーザーがあるかなら。幾ら新連邦でもアレを撃たせる訳にはいかない。何か策がある」

 

「兎に角、1度ジャミル達の所に戻ろう。話をしてからでないと決められない」

 

「わかった。急ぐぞ」

 

 頷くガロードとティファはシャトルから移動を始める。開戦までのタイムリミットは近い。

 

///

 

 小惑星基地に帰艦したガンダムダブルエックスとGファルコン。パイロットである2人とティファは休息を取る事もせず、司令室に居るであろうジャミル達の元に向かう。

 先頭を行くパーラは無重力の中を軽快に進んで行き、2人も少し遅れながらその後に続く。ようやく司令室の前に到着するパーラは気構えだけすると、壁に備え付けられたパネルを触りベルを鳴らす。

 

「良いか? 取り敢えず最初はアタシが言ってみる。ティファを助けたからは終わり、なんて事は許されないからな」

 

「わかった、お前に任せる」

 

 ティファが頷くのも確認したパーラは司令室の扉を開けて足を踏み入れる。鉄の壁に囲まれた司令室の中にはロイザーとジャミル、そしてアムロが居た。

 

「失礼します。パーラ・シス、只今帰艦しました」

 

「ご苦労。まさかとは思うがその少女が言っていた……」

 

「そうです。ティファ・アディールの救出に成功しました」

 

「良くやった。これでコロニーレーザーへの攻撃に集中できる。こちらの戦力も限られているからな。ガンダムが複数機あるとは言え過信などできない。まずはコロニーレーザー、その後は革命軍と新連邦の戦力を拮抗させ我々は漁夫の利を狙う」

 

「それは理解してます。ですがその前に行くべき所が」

 

「行くべき所? 何処に?」

 

「月のマイクロウェーブ送信施設。そこに何かがある」

 

「月だと? おい、冗談をやってる暇は――」

 

 自らの生死だけでなくサテリコンの仲間、引いてはスペースノイドと地球の命運さえも掛かっている戦い。戦いがまさに始まろうとしている時に、理由もなく月まで行っている暇などある筈もなかった。

 けれども今の状況を理解していても行く必要がある。それを伝える為にティファは1人前に出る。

 

「15年前の戦争、そして今目の前にある戦い。これらにはニュータイプと呼ばれる存在が関わっています」

 

「それは知っている。革命軍のプロパガンダだろ? だがソレとコレとでは――」

 

「月に行けば全ての理由がわかります。かつてニュータイプと呼ばれた人、D.O.M.E.がそこに居る」

 

「何だソレは? だから私が言っているのは――」

 

 話の腰を折るように、司令室に警報が鳴り響く。瞬時に警戒するロイザーはデスクの受話器を手に取り状況把握に務める。

 

「どうした? 予測よりも早いぞ」

 

『そ、それが!? 革命軍のコロニーレーザーが攻撃されました』

 

「攻撃だと? そんな指示は出してない。新連邦か!』

 

『向こうにも長距離ビーム砲があります。この基地が狙われる可能性も考えられます』

 

「そんな事はわかっている。それで、コロニーレーザーは完全に破壊されたのか?」

 

『いいえ、一部分だけです。ですがすぐに発射されない所を見ると、コロニーレーザーを制御する為の艦艇が狙われたと推測』

 

「ここに来て新連邦にも新兵器か……」

 

 ロイザーの話に聞き耳を立てていたガロードはある事に気が付く。フロスト兄弟の改良された2機のガンダム。

 

「あいつらのガンダムだ。向こうもこっちと同じようにパワーアップしてた。GXと同じようにサテライトキャノンを発射できる」

 

 サテライトキャノンの威力を良く理解しているジャミルは戦慄した。コロニーレーザーが一時的とは言え使えなくなった今、次に狙われ

 コロニーレーザーの次に脅威となる存在。

 

「ここが狙われる! ロイザー司令、急いで全員を脱出させる必要がある」

 

「次の標的は我々だと!?」

 

「GXとは違いマイクロウェーブの受信が出来ないので次の照射までに時間が掛かります。その間に脱出を」

 

「だが次はどうする? 月へ行くしかないのか……」

 

「脱出経路としては打倒かと。それに、新連邦がマイクロウェーブの掌握に出る事も考えられます」

 

「やるしかない……全クルーに通達させる。君達も準備を急いでくれ」

 

「了解です。アムロ、モビルスーツで出られるな?」

 

「あぁ、わかっている。ガロード、パーラ、行くぞ」

 

 ジャミルの指示で動くアムロは2人を連れて司令室から出て行く。遂に決戦が始まろうとしていた。

 

///

 

 アシュタロンとドッキングしたヴァサーゴ。新装備であるサテライトランチャーのグリップを握りながら、サテリコンの小惑星基地の動向を探っている。

 

「これでコロニーレーザーは使えない。後はガンダムを燻り出すだけだ」

 

「いよいよやるんだね、兄さん――」

 

 

 

第27話 僕達が求めた戦争を

 

 

 

「そうだ。新連邦の無能共を排除し、ニュータイプを信仰している革命軍も潰す。そうでなければ私達兄弟の悲願は達成できない」

 

「行こう、兄さん。アムロ・レイが来た」

 

 小惑星基地から次々と発信する艦艇。その中に見える2機のモビルスーツはGファルコンとドッキングしたダブルエックスとラスヴェート。

 2人は因縁の相手を見付けると新連邦の部隊から単独で行動する。

 改修されたアシュタロンのメインスラスター出力とヴァサーゴのスラスターとを同時に使い、モビルアーマー並の機動力で一直線に進む。

 

「フフフッ、アムロ・レイなら私達の動きにも気が付いているな。奴を潰すッ!」

 

「今までの雪辱を果たさせて貰う!」

 

 フロスト兄弟が予感するように、アムロは接近する敵影をキャッチしている。ラスヴェートのコクピットの中でコンソールパネルを叩くアムロは、メインカメラでズームして敵の姿を視認した。

 

「あのシルエットはオルバ・フロストの機体。ガロードは艦隊の護衛だ」

 

『アムロだけで行けるのか?』

 

「無理はしないさ」

 

 接近して来る2機にアムロも単独で動く。ビームライフルを構えてメインスラスターで加速する。

 

「接近されれば艦隊の邪魔になる。それに新連邦と革命軍だって戦いを初めているんだぞ」

 

「ニュータイプである貴様を生かしておく訳にはいかんのでな!」

 

「僕達はニュータイプを倒す事で次のステージに行く!」

 

 分離する2機は迫るラスヴェートを待ち構える。ヴァサーゴは両腕を伸ばし、アシュタロンはギガンティックシザースでビーム砲撃。

 

「来るか……」

 

 ラズヴェートはシールドを構えながら回避行動に移る。オルバは1度経験したが、宇宙に出たアムロの操縦技術は卓越しており、普通にビームを撃ち続けたくらいでは当たる気配すら見えない。

 

「お前達の目的は革命軍を撃つ事ではないのか?」

 

「そうだとも。だが新連邦も潰す。そして貴様もだ!」

 

「僕達はニュータイプと言う存在のせいで自己を否定された。フラッシュシステムを使えないと言う、ただそれだけの理由で!」

 

「カテゴリーFなどと不名誉な烙印を押された私達の気持ちがわかるか? だから私達はニュータイプを盲信する人間を消し去ると決めた!」

 

「そんな理屈で!」

 

 ビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。何発も発射されるビームに2機も回避行動に移るが、アムロの動きは既に先を行っている。

 ヴァサーゴに向かって加速し距離を詰めた時には左のマニピュレーターにビームサーベルを握っていた。

 コクピットを一撃で仕留める鋭い一閃。だが寸前でシャギアも反応し、ビームが混じり合い閃光が走る。

 

「ニュータイプを消し去る! それしか私達の悲願は達成できない! 自分たちよりも劣る人種に見下される屈辱、お前にはわかるまい」

 

「これが人間と言う物だろうが、艦隊を潰させる訳にはいかない!」

 

「アムロッ!」

 

 ラスヴェートを押し返すヴァサーゴ。だがアムロは操縦桿を巧みに動かし機体の姿勢は崩さず、ビームライフルのトリガーを引き左肩へ直撃させた。ガンダムの強固な装甲のお陰で致命的なダメージには至らないが、ヴァサーゴは後方に流れて行く。

 

「兄さん!? お前がァァァッ!」

 

「プレッシャー!」

 

 激昂したオルバが迫る。アシュタロンは2本のギガンティックシザースを大きく広げ、ラズヴェートを襲う。瞬時にビームライフルを向けるアムロだが、トリガーを引くよりも早くギガンティックシザースに奪われた。だが左手にはまだビームサーベルを握っている。

 

「アムロ・レイ、貴様は僕がッ!」

 

「やられる訳にはいかない。そしてその傲慢も!」

 

「うるさい! ニュータイプの存在さえなくなれば!」

 

「そんな事で!」

 

 伸びるビームサーベルの切っ先を斬り上げ、振り下ろし、ギガンティックシザースを分断する。そしてアムロはそのまま握るビームサーベルを投げ飛ばす。高速で回転するビーム部分が残像を生み、アシュタロンはビームサーベルを右腕で弾き飛ばすが、同時に関節近くから切断されてしまう。

 

「グゥッ! こんな事が……」

 

「オルバ、1度引くぞ。チャンスはまだある」

 

「悔しいけど今はその時ではない、か。計画は遂行しなければならない」

 

「そうだ。アムロ・レイ、次こそは必ず……」

 

 

 損傷する2機はすぐに撤退を始めるが、アムロは遠ざかって行く機体を追い掛けようとはしない。それよりも優先するべき事がある。

 

「新連邦と革命軍との戦闘が始まった……ジャミル達と合流して月へ行く」

 

 アムロも機体を反転させて、アシュタロンに投げ捨てられたビームライフルだけ回収するとジャミル達と合流すべく機体を飛ばす。

 




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第28話

 小惑星基地を放棄したサテリコン、ロイザー司令が指揮する艦隊はティファが言ったように月のマイクロウェーブ送信施設を目指していた。ジャミルも司令の図らいで艦艇を1隻譲渡して貰い、他の艦隊と共に月を目指している。

 ブリッジではフリーデンのクルー達が少しずつではあるが慣れてきた無重力と戦いながら艦を制御し、ジャミルはキャプテンとして艦長シートに座りながら状況を確認していた。

 

「サラ、後続部隊はどうなっている?」

 

「用意されていた艦艇は全て出港、撃墜された艦もありません。ですがキャプテン、新連邦と宇宙革命軍との戦闘、このままで良いのですか?」

 

「良い訳ではない。だがこちらの戦力で両軍を相手にする事はできない。敵の攻撃でコロニーレーザーが使えなくなっている今、マイクロウェーブ送信施設を奪われる事は避けねばならない。それに、ティファが言っていたD.O.M.E.と呼ばれている存在も気になる」

 

「D.O.M.E.ですか?」

 

「ティファが言うには、そこにたどり着けばニュータイプが何なのかがわかる。と、言っていた」

 

「またニュータイプですか」

 

「思えば15年前の戦争以前から人はニュータイプと言う言葉に囚われているのに、その真意を知る者は居なかった。私はそれが知りたい」

 

 

 新連邦と宇宙革命軍との戦闘が激しさを増す中で、サテリコンの部隊とジャミル達は目前にまで迫って来た月を見る。スクリーン一杯に映し出される月を見てトニヤは口を開く。

 

「これを地球から見上げてただなんて。随分遠くまで来ちゃったなぁ」

 

「ですがそれがキャプテンの意向でもあります。それにここまで来なければティファを助ける事もできなかった。そうでしょ?」

 

「そうね。この戦いが終わったら高いシャンパンでも開けましょ!」

 

「良いですね、でも全てが終わった後です。キャプテン、後方から2機のガンダムタイプ接近」

 

「あいつら、まだ来るか……ウィッツとロアビィを出撃させろ。我々はこのまま直進だ」

 

「了解しました。ウィッツ、ロアビィ、聞こえますか? 出撃した後、接近するガンタムタイプを迎撃」

 

 数秒前までの和気あいあいとした空気は一瞬で吹っ飛ぶ。ピリピリとした空気が艦内全域に走り、パイロットである2人もパイロットスーツを着用して機体のコクピットに滑り込むと、戦闘の空気を肌で感じる。

 

「これで2回目の宇宙戦か。それに相手はゲテモノガンダムと来た」

 

「俺達の機体だってパワーアップしてるんだし、何とかなるでしょ。それに向こうにまでサテライトキャノンを使われたらたまんないね」

 

「いつも通り行くぞ。俺が前衛、お前が後方援護だ。エアマスター、出るぞ!」

 

「ハイハイ、わかってますって。レオパルドも出るよ!」

 

 ジャミルの艦艇から出撃する2機、すぐにレーダーで位置を確認して敵機を視界に収めようとする。接近して来るヴァサーゴとアシュタロンは、先程のアムロとの戦闘の影響で少しダメージを追っていた。

 だがそれでもサテリコンの艦隊から出撃するモビルスーツを造作もなく撃破して行く。

 当然と言えば当然。寄せ集めの戦力でしかないサテリコンのモビルスーツはドートレスなどの量産機を少ない資源で改良した物に過ぎない。改良された2機のガンダムを前にしては性能差は歴然。

 放たれるビームは装甲を一撃で貫き、ビームサーベルの鋭い一閃が機体を分断する。

 

「倒すのは簡単だけど雑魚が多過ぎる。兄さん」

 

「わかっている、オルバ。発射線上から離れるんだ」

 

 ヴァサーゴは腹部を割り胸部装甲を展開させトリプルメガソニック砲をあらわにさせる。背部にある扇状の翼を展開させ放熱と機体冷却の準備をすると、高いジェネレーター出力から生み出される強力なビームが発射されようとしていた。

 けれども本来なら戦艦さえも飲み込むビームは複数のモビルスーツを相手に向ける為に拡散して発射される。

 

「私達の邪魔をするのなら消えて貰う」

 

 拡散して発射されたビームが次々とサテリコンのモビルスーツ達を襲う。元々が高出力のビーム、拡散しても威力は充分ありドートレスを撃つ落として行く。

 障害が失くなれば2人が目指す先は1つ、ジャミル達に追い付くべく月を目指すが、エアマスターとレオパルトが立ち塞がる。

 

「こっから先は行かせねぇ!」

 

「退散して貰いましょ」

 

 レオパルドから放たれる大量の弾丸による面攻撃、回避行動を取るフロスト兄弟が行く先で待ち構えるエアマスターからの正確な射撃。

 オルバとシャギアは機体を減速させて後方に下がる事で攻撃を回避する。けれどもその隙を見て2機は更に距離を詰めて来る。

 今までの量産機とは違いガンダムタイプが相手ともなれば容易に倒す事はできない。

 

「オルバ、メガソニック砲をもう1度使う」

 

「わかったよ、兄さん。エアマスターは僕が仕留める」

 

 腹部を開口するヴァサーゴは再び拡散ビームを発射、エアマスターとレオパルドは瞬時に回避に移る。だが同時にアシュタロンはモビルアーマー形態に変形し、一瞬の隙を突きギガンティックシザースの巨大な爪でエアマスターの両腕を掴み上げた。

 

「しまった!?」

 

「悪いけど、ここまでだよ。両腕は破壊させて貰う。次はコクピットだ」

 

「舐めてんじゃねぇぞッ!」

 

 メインスラスターの出力を全開にするエアマスター。キッドの改修により元の状態よりも更に出力が向上しているスラスターは機体を加速させ、逃げるのではなく真正面に向かって突き進んだ。

 眼前のアシュタロンの股関節部に目掛けてエアマスターは加速を利用して膝をぶち当てる。

 

「コイツ!?」

 

「俺の機体だってパワーアップしてるんだぜ?」

 

「傲慢が綻びを生むと言うのか!? でもこんな事で!」

 

 衝撃によりエアマスターを手放すアシュタロン。距離を離す2機は互いにビーム攻撃で相手を仕留めようとするが、熟練したパイロット同士ではそう簡単に決着は付かない。

 撃っては避け、撃っては避け。

 時間が無駄になる事にオルバは焦る。

 

「時間稼ぎのつもりか?」

 

「お前らをマイクロウェーブに近付かせる訳にはいかないんだよ!」

 

「フンッ、そう言う事か。だったら」

 

 モビルアーマー形態に変形するアシュタロンはエアマスターを無視して強引に月へ進路を取る。当然をそれを逃さんとエアマスターも追い掛けると同時にビームを発射して何とか止めようとした。

 だがアシュタロンの速度は早く、強化された装甲もビームを防ぎ切る。

 

「ヤロウ、逃がすか!」

 

 変形するエアマスターはアシュタロンを後ろから追い掛ける。

 一方でロアビィもヴァサーゴに苦戦を強いられていた。レオパルドも射撃武装しか持たないピーキーな機体。射程距離外から一気に距離を詰めるとビームサーベルを引き抜く。

 

「対モビルスーツはこちらが有利。落ちろ!」

 

「接近戦だからってね!」

 

 互いのビームがぶつかり合う。咄嗟にビームナイフを引き抜いたレオパルドはヴァサーゴの攻撃を受け止めた。

 だがそれでも接近戦で不利な事には変わりない。このまま続けていては負けてしまうのはロアビィもわかっていたが、その時が来るのは早かった。

 

「沈んで貰う」

 

「なっ!?」

 

 再び振り下ろされるビームサーベル。激しい閃光が走りながらもビームナイフで受け止めたレオパルドだが、ヴァサーゴのもう片方の腕が伸びている。

 クロービーム砲から放たれるビームがレオパルドの赤い装甲に直撃した。

 

「しまった、こんな所で!」

 

「お前を殺すのは後回しだ。今は時間が惜しい」

 

(兄さん、乗って)

 

(来たか、オルバよ)

 

 モビルアーマー形態のアシュタロンと合流するヴァサーゴは、直撃を受けて宙に浮くレオパルドを置いて先を急ぐ。

 

「悪いウィッツ、抜かれた」

 

「大丈夫だ、こっちに任せろ」

 

 月へと向かう2機に向かってモビルアーマー形態からビーム攻撃をするエアマスターだが、その攻撃は1度だって当たってはくれない。それどころか伸びた両腕のストライククローから逃げながらにして正確な射撃が飛んで来る。

 ビームの1発がエアマスターの主翼に当ってしまう。

 

「クッ!? パワーがダウンしただと?」

 

「これで付いて来れまい。急ぐぞ、オルバ」

 

「了解、兄さん」

 

 スラスターが損傷してしまいエアマスターでも2機の加速に追い付く事ができなくなる。アシュタロンに乗るヴァサーゴは月へと進路を取り、先行するジャミル達の艦隊を視野に入れた。

 

「マイクロウェーブを守るつもりでいるのだろうが、それだけでこの戦争は勝てはしない。サテライトランチャーは我々の作戦を成功させるピースの1つに過ぎん」

 

「もっとも、あいつらは目の前の事しか見えてないだろうけどね。さぁ、アムロが来るか? それともガロード・ラン?」

 

 ヴァサーゴとアシュタロンの機動力は高く、艦艇へ見る見る内に迫って来る。レーダー、そしてスクリーンに映し出される映像を見て操舵手のシンゴはジャミルに振り返る。

 

「加速すれば敵の接近を遅らせる事ができますが帰りの推進剤に余力が失くなります。キャプテン、どうしますか?」

 

「速度はそのまま、近付かれれば残ったモビルスーツを出す。必要となれば私もGXで出撃する。ここまで来てマイクロウェーブを奪われる訳にはいかん」

 

「了解です」

 

 ジャミルから伝えられる指示を聞くとサラも振り返った。この状況、サテリコンの戦力も減りつつある今、元の作戦を遂行できるかどうかも疑問だ。

 

「ですがキャプテンまで出撃すればこの艦の守備が薄くなります。それにたった2機で先行して来た理由も、マイクロウェーブ以外にあるのかもしれません」

 

「だが奪われればこちらに勝利はない。兎に角前に進むんだ。月に辿り着くまでにガンダムを撃破する」

 

 新連邦と宇宙革命軍との戦争。コロニーレーザーが一時的に使えなくなっているお陰で戦力は拮抗しているが、それも長くは続かない。コロニーレーザーが修復されれば革命軍が、長期戦になれば地球から次々と物資を送り込んで来る新連邦の方が有利になる。

 フロスト兄弟の狙うマイクロウェーブ送信施設を死守し、ティファの言うD.O.M.E.に接触できれば、サテリコン側にも攻撃のチャンスが巡って来るかもしれない。

 その為にGXの武装もディバイダーからサテライトキャノンへと換装してある。

 サングラス越しに月を見るジャミル。けれどもそこに、ノーマルスーツを着用したティファが現れた。

 

「ティファ……ブリッジは危険だ。部屋に--」

 

「ジャミルも一緒に来て下さい。一緒にD.O.M.E.の所へ」

 

「私も? だが……」

 

「アムロも一緒です。私だけじゃない。ガロードにもアムロにも、ジャミルにも一緒に見て欲しい。ニュータイプが何なのかを」

 

「だが敵が近くまで来ている。サテリコンの艦隊やこの艦を潰させる訳にはいかん」

 

「大丈夫です。もう少しで来ます」

 

「もう少し?」

 

 ティファの言葉通り、ソレは突如として現れた。月のマイクロウェーブ送信施設の格納庫。そこには無人で動く大量のビットモビルスーツ。

 頭部のバイザーが光るとエンジンに火が入り、シェルターが開放されてビットモビルスーツ達が一斉に動き出す。メインスラスターから青白い炎を噴射して飛び上がる機体達は、まるでジャミル達を迎え入れるかの如く隊列を組む。

 

「アレはビットモビルスーツ!? どうして月に?」

 

「彼が呼んでいます」

 

「彼? 行くしかないか……」

 

 ジャミルはビットモビルスーツの誘導に従い艦の進路を指示する。後方から続くサテリコンの艦隊も突然現れたビットモビルスーツに驚きはするも攻撃は仕掛けない。誘導に従い月への着陸態勢に入る。

 だが、フロスト兄弟のガンダムだけは違った。敵意をむき出しにする彼らに対し、ビットモビルスーツはビームライフルを手に取り銃口を向ける。

 

「兄さん、こいつらは……」

 

「防衛装置か何かか。障害となるなら撃破するまで」

 

「わかったよ」

 

 アシュタロンから離れるヴァサーゴは迫るビットモビルスーツに両腕のストライククローを伸ばす。アシュタロンもモビルスーツ形態へと変形し、ビームサーベルを引き抜いて加速した。

 ブリッジからその様子を見るジャミルはティファを見る。

 

「時間稼ぎには充分な筈だ。行こう」

 

「はい……」

 

「サラ、艦は任せる」

 

 ジャミルとティファはブリッジから移動し、頼まれたサラも何も言わずに仕事へ取り掛かる。モビルスーツデッキに移動する2人はそれぞれの場所へ向かう。

 ティファはガロードとパーラの待つダブルエックスの所へ。ジャミルはかつて自らが搭乗したGXの元へ。

 手を差し出すガロードはティファの腕を取り体を支える。

 

「行こう、ティファ。月に」

 

「えぇ、みんなも一緒。D.O.M.E.が待ってます」

 

「そこに行けばニュータイプが何なのかがわかるんだな?」

 

「その為にジャミルとアムロも来て貰います。ニュータイプ、私が何者なのかを知りたい」

 

 ニュータイプの能力に翻弄されて危険に晒されて来たティファ。それは一重にニュータイプの能力が卓越していたから。けれども彼女は自分自身の事でありながらニュータイプについて無知だ。でもそれはティファだけではなかった。ジャミルもアムロも、もしかすると誰1人として真意を理解してる者は居ないのかもしれない。

 だから確かめに行く。月へ降り立つのはその為の1歩に過ぎない。

 

「そんじゃ行くぜ、2人共。ドッキングしたらひとっ飛びだ」

 

「頼む、パーラ」

 

 パーラはGファルコンに乗り込み、ガロードとティファもダブルエックスのコクピットに入った。既にジャミルはGXに搭乗し、アムロもラスヴェートのコクピットに入る。

 コンソールパネルを操作してハッチを閉鎖させ、GXに通信を繋げた。

 

「俺まで行く必要があるのか?」

 

「ニュータイプの真相がわかるかもしれないんだ。アムロにも来て貰いたい」

 

「結局……俺も囚われているのかもな。アイツのように」

 

 操縦桿を握り締めるアムロは機体を操作し、脚部をカタパルトに固定させる。

 ダブルエックス、GX、ラスヴェートの3機は月のマイクロウェーブ送信施設に向かって出撃した。

 

 

 

第28話 アムロ、行きます!

 

 

 

 出撃したダブルエックスはすぐにパーラのGファルコンとドッキング。GXとラスヴェートもマニピュレーターを伸ばしGファルコンの装甲を掴み、3機で固まりながら送信施設に飛んだ。その間もビットモビルスーツが警護を兼ねて機体を誘導し、3機は迷う事なくシェルターの内部へ侵入し入り口を見付ける。

 

「ここなのか、ティファ?」

 

「はい、恐らく」

 

『ガロード、機体はアタシが見ておく。2人は先に行け』

 

「パーラ、頼んだ」

 

『あいよッ!』

 

 ヘルメットのバイザーを下ろすガロードとティファはハッチを開放させて外へ出た。ダブルエックスのすぐ隣へと着地したGXとラスヴェートも同様に、開放されたハッチからパイロットが降りて来る。

 ジャミルとアムロに合流するガロード。全員が無言、互いに視線を合わせるだけで意思を疎通し頷くと、ガロード達はいよいよD.O.M.E.が待つ内部に足を踏み入れた。




もっと早く完結させるつもりでしたが、いつものように時間が掛かってしまっております。
次回作の構成には既に取り掛かっておりますので、この作品が終わるまでもうしばらくお待ち下さい。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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D.O.M.E.編
第29話


「私の心を感じて下さい。私はここに居ます、D.O.M.E.」

 

 まぶたを閉じるティファは静かに呼び掛ける。一切の光が届かない暗闇の中で、ガロード達もその様子を見守るしかない。

 施設内の一室、どこまでも広がる空間の中で4人はD.O.M.E.に導かれてようやくここまで辿り着いた。

 ニュータイプの真実を知る為に。

 

「私達に教えて下さい。ニュータイプの意味を……」

 

 静かに、とても静かに時が流れる。周囲の流れから自分達だけが切り離されたように、この空間だけが独自の時間の流れに存在し、時間を支配していた。

 星々の光は幾千年の時を流れ行き、そしてティファとガロード達は対面する。

 闇の奥底から現れるのは無数に光る蝶の群れ。小さな羽ばたき音が耳に届き、群れが自分達の所を過ぎて行くのを待つ。

 

「来ました……」

 

 ティファの言葉に3人は身構える。更に奥から現れたのは光り輝く球体。初めて見る現象にガロードは素っ頓狂な声を出す。

 

「これが……D.O.M.E.だって?」

 

『良く来たね、ティファ・アディール。君はガロード・ラン』

 

「俺を知ってるのか!?」

 

『君だけじゃない、彼らもそうだ。ジャミル・ニート、そしてアムロ・レイ』

 

「アンタは一体何なんだ? 機械か何かか? それとも人間……」

 

『私はD.O.M.E.と呼ばれている。だがそうなる以前、人々は私をこう呼んだ」

 

 

 

第29話 ファーストニュータイプ

 

 

 

『肉体を失っても尚、その概念は存在し続けている。それが私だ。ティファ、君は私に何を求める?』

 

 光の球体は浮遊するようにしてゆっくりとティファの両手の中へ移動していく。D.O.M.E.を抱えるようにして見つめるティファは力強い意思で口を開けた。

 

「ニュータイプがきっかけとなり今までにも沢山戦争が起こりました。今もそうです。その原因となるニュータイプが何なのかを私は知りたい。そして私自身が何者なのかを」

 

『戦争か……よくも飽きずに続けるものだ。ニュータイプを神として崇める者。その力だけを利用しようとする者。かつて力を持っていた者。そして人間として受け入れる者。人それぞれが、ニュータイプと言う言葉を捕えている。だがそれが、また戦争の引き金になってしまった。でも仕方のない事なのかもしれない。僕らはニュータイプと言う幻想で繋がった世代だからね」

 

 幻想、人間が作り出した偽り。ファーストニュータイプであるD.O.M.E.はそう答える。それを聞いたジャミルは1歩踏み出し、15年前から今日に至るまでに自らが経験した事を問い掛けた。

 

「ニュータイプが幻だと言うのか? だが私は確かに時を見た。いつか時間さえも支配できるような……」

 

『それはあくまでも君の能力だ。ニュータイプの能力ではない』

 

「私はその力こそが人の革新であるニュータイプなのだと思って来た。違うのか?」

 

『ニュータイプの存在を信じる者からすればそう思いたくなるのもわかるけれど、残念ながらそうではない。人を超えた力と人の革新とは全くの別物なんだ。アムロ・レイ、君の方が良く知っているのではないか?』

 

 ティファの両手に収まるD.O.M.E.はアムロに問い掛けた。

 ジャミルと同様に、アムロも少年だった頃に時を見た事がある。

 後に1年戦争と呼ばれるようになる戦いの最中、ララァ・スンと確かに心を交わした。

 

「全ての人類がニュータイプにでもなれば世界は変わるかもしれない。だがそんな奇跡を信じているようでは人は前に進めない。俺の事をニュータイプと呼ぶ人間も居たが、だからって何ができた訳でもない。結局は1人の人間さ」

 

『フフフッ、大人になったね。ララァ・スンの呪縛に囚われていても君は成長できた。それで良いんだ』

 

「だがシャアは囚われたままだ。そうなってしまった一端は俺にもある」

 

『相手の事を思いやる気持ちが、わかり合う為の第1歩だ。けれども人間はそんなに便利じゃない。大人になった君にならわかるだろ? アムロ、真実を伝えよう』

 

「真実?」

 

『君も薄々感づいてる筈だ。この世界と君が居た世界とは似て非なるモノ。別世界と言っても良い』

 

「そうか、そうだろうな……」

 

 D.O.M.E.から告げられる真実にアムロは別段動揺はしなかった。ただ静かにまぶたを閉じて俯くだけ。

 

『けれども君は、何も知らないこの世界の中で生き延びる事ができた。人間にはそれだけの力がある。特別な事ではない。戻りたいかい?』

 

「できる事ならな。でもここにだって帰る場所はある」

 

『そうか。ならこれ以上言う事はない』

 

 会話が途切れ、ガロードはアムロに向き直った。

 

「アムロ、初めて俺に会った時に言ったよな。ニュータイプでもそうでなくても関係ない。俺が判断しろって。俺、その言葉は忘れない」

 

「そうだな。それができれば人はどんな事だって乗り越えられるさ」

 

「うん……」

 

 静かに、とても静かに時間が流れていく。ニュータイプは幻想、それが全てだった。

 

『アムロだけじゃない。生きとし生けるモノ全てが成長すべく前に進んでいる。どの様な方向であろうと、生き続ける限り前に進むんだ。また戦争が起きようとも、人は前に進んでいる。今も、そしてこれからも。それはニュータイプと言う言葉に囚われなくてもできる。私はそう信じている。そうだろ、ガロード?』

 

「できるよ。これからもティファと一緒に居る事にニュータイプかどうかなんて関係ない。未来を作るのは自分自身の力だ」

 

『そこまでわかっているのなら、もう残す言葉はない。ティファ、これが最後だ。ニュータイプと言う言葉を捨てるんだ。そうすれば君は真に自由になれる。みんなもそうだ。ニュータイプと言う言葉を捨て、新しい時代を作って欲しい……』

 

 光が消えて行く。輝きを失うD.O.M.E.は闇の中へと消えてしまった。ついさっきまで見ていたモノは幻覚か、幻か。薄暗く広い空間に4人は只呆然と立っているだけ。

 ニュータイプが失くなった世界で、ガロードは力強く前に出た。

 

「行こう! まだ戦いは終わってない!」

 

///

 

施設内部から爆発が起こる。鉄製の扉を吹き飛ばすフロスト兄弟はマイクロウェーブを送信する為のコントロールルームへ足を踏み入れた。

 防衛装置でもあるビットモビルスーツは全て破壊し、悠々と内部に潜入する2人が目指すのはガロード達が行く先とは違う。

 マイクロウェーブの送信先をヴァサーゴにも設定する事で、サテライトランチャーを使う為のエネルギーチャージを大幅に短縮できる。それはGXのサテライトキャノンを使えるのと同義。

 コンピューターのキーを叩くオルバは設定が完了させて振り返る。

 

「これでマイクロウェーブを僕達も使う事ができる」

 

「ならば次のステージに行くとしよう。まずは邪魔な革命軍共を潰す」

 

「わかったよ、兄さん」

 

 フロスト兄弟以外はガロード達しか居ないこの施設で、内部の音は静かなモノだ。

 コントロールルームから出る2人は外に向かい、待機させてあるヴァサーゴとアシュタロンのコクピットに乗り込む。

 操縦桿を握る2人は機体を動かし、スラスターを吹かして月から離陸する。モビルアーマー形態に変形するアシュタロンとドッキングするヴァサーゴ、メインスラスターから青白い炎を噴射して一気に加速した。

 サテライトキャノンと同じく長距離からの高出力ビームにより敵軍を一掃できるように開発されているサテライトランチャー。アシュタロンの内部から展開されるとヴァサーゴはエネルギーケーブルを接続しそのトリガーを握る。

 

「マイクロウェーブ照射」

 

 月の送信装置から照準用レーザーが発射され、ヴァサーゴのバックパックに吸い込まれていく。内部から設定を切り替えた事でこの2機は完全にサテライトランチャーを使用する事が可能になった。

 数秒後には高出力エネルギーがマイクロウェーブに乗せて送信される。ヴァサーゴは背部の黒い翼を展開し放熱と機体冷却を進めながら、宇宙革命軍の指令塔を狙う。

 

「エネルギーチャージ完了。いつでも行けるよ」

 

「ニュータイプを神として崇めるなどと、思い上がりも甚だしい。宇宙の塵となれ!」

 

 トリガーを引くシャギア。それと同時にサテライトランチャーから高出力のエネルギーが発射された。周囲を一瞬の内に光へ変えるエネルギーは一直線に宇宙革命軍の艦隊へと迫る。

 艦艇で現場の指揮を取る総統のザイデルは、通信兵から伝えられる状況に思わず立ち上がった。

 

「高エネルギー反応接近」

 

「サテライトキャノンだと言うのか!? 全速前進で回避しろ!」

 

「来ます!」

 

「こんな事で私は……」

 

 檄を飛ばすが既に間に合う距離ではない。最後に見えた閃光は彼の肉と骨、髪の毛1本とて残さずこの世から消し去る。

 サテライトランチャーの一撃により宇宙革命軍の指揮は大きく乱れた。総統であるザイデルの戦死、戦力である艦隊の4割近くが破壊され戦闘継続は困難。モビルスーツ部隊も撤退を初め、新連邦の勝利が見えて来る。

 

「成功だね、兄さん。なら次は……」

 

「コロニーレーザーへ向かうぞ」

 

2人の目的はこの戦争に勝つ事ではない。次なる目的の為に、ヴァサーゴとアシュタロンは宇宙革命軍の用意したコロニーレーザーに向かって飛び立つ。

 ようやくその頃になって、ガロード達もモビルスーツに乗り込み戦線に復帰した。目の前に広がる光景にガロードは何が起きたのかを察する。

 

「あいつら、サテライトキャノンを使ったな!」

 

「ビットモビルスーツも破壊されてる。ガロード、どうするつもりだ?」

 

「2発目を撃たせる訳にはいかない。パーラ、追い付けるか?」

 

「行けるけどよ」

 

 Gファルコンとドッキングするダブルエックスはジャミルやアムロを置いて単独で先行する。宇宙革命軍の戦力は確実に減少しているが、それでも新連邦の部隊は残っているし、敵対するモビルスーツの絶対数もまだまだ多い。

 それでもガロードは構わず前に出た。

 数秒遅れでジャミルのGXとアムロのラズヴェートもマイクロウェーブ送信施設から発進するが、Gファルコンとドッキングするダブルエックスに追い付く事はできない。

 

「引き返せガロード、前に出過ぎだ!」

 

「でもこのままだと、またサテライトキャノンが撃たれる。絶対に止めないと」

 

「だが1人では!」

 

 通信で呼び掛けるがガロードとの距離は見る見る内に離れていくばかり。メインスラスターの出力を上げて少しでも早く合流しようとペダルを踏み込む。すると、撤退を始める宇宙革命軍の機体から通信が割り込んできた。

 聞こえるのは15年前のかつてのライバル。

 

「そのGXに乗っているのはジャミル・ニートだな?」

 

「この声……ランスローなのか?」

 

「まさかこんな所で再会を果たすとはな。先行するガンダムタイプは私に任せろ。援護くらいはしてやる」

 

「頼む!」

 

 ランスローに任せたジャミル。バックパックからビームライフルを引き抜き、迫る新連邦のモビルスーツ目掛けてトリガーを引く。

 発射されるビームにドートレス部隊は回避行動を取った。

 

「ガロードの事も気になるが、サテリコンの艦隊も攻撃される訳にはいかん!」

 

 混戦する戦場。拮抗が打ち破られた事で3陣営の戦力が入り乱れる。その中で確実に新連邦の部隊が他の陣営を制圧しつつあった。

 ドートレスの宇宙部隊を相手取るジャミル、正確に発射されたビームは敵機の頭部と胴体を撃ち抜く。

 だが1機や2機を破壊した所で新連邦の猛攻は止まらない。背を向ける宇宙革命軍のモビルスーツは無慈悲に撃破され、サテリコンの艦艇も1隻沈められてしまう。

 

「新連邦め、艦隊を壊滅させるつもりか? これ以上死者を出す事がどう言う事かわかれッ!」

 

 15年前のような、人類が死滅するかもしれない戦争を繰り返させる訳にはいかない。操縦桿を匠に操るジャミルのGXはビームライフルのトリガーを引く。

 敵機の腕を撃ち、コクピットを撃ち抜き、次々と戦闘不能にする。

 

「あのモビルスーツ、ガンダムとか言う……」

 

「GXは新連邦のモノだろ! 敵の手に渡るなどと!」

 

「来るか……」

 

 新連邦のパイロットは目の前に現れたGXを相手に奮闘するが、並のパイロットが勝てるような相手ではない。

 それはニュータイプとしてではなく、ジャミルのパイロットとしての資質が高い故。

 ビームライフルをシールド形態にさせ左手に握らせ、右手でビームサーベルを引き抜くとリフレクターを展開して加速。

 3機居るドートレスはビームライフルでGXを寄せ付けまいとトリガーを引くが、AMBACとスラスター制御で回避するGXの装甲に攻撃が当たる事はない。

 接近するGXはビームサーベルを振り下ろしドートレスの右腕を切断。すかさず腹部を蹴り飛ばし自機との距離を離させる。

 

「やられるものか!」

 

 更に接近するドートレスもビームサーベルを抜きGXへ振り被る。ジャミルもビームサーベルで横一閃。ビームの刃が交わり閃光を生む。が、ジャミルの動きは早い。

 相手が体勢を整えるよりも前に一旦距離を離し次の手を打つ。振り下ろす切っ先はドートレスの両膝を斬った。

 

「あと1機!」

 

「こいつ……ニュータイプ!?」

 

 GXの戦闘力に舌を巻き、ビームで牽制しながら後退しようとする敵機。ジャミルはそれを逃さんとペダルを踏み機体を加速させるが、別方向からのビーム攻撃が2発。

 ライフルを握るマニピュレーター、次に頭部が撃ち抜かれる。振り返った先に居るのはビームライフルを握る黒い機体。

 

「アムロか、助かる」

 

 GXに近寄るラスヴェートはマニピュレーターを肩部に接触させて通信回線を開く。

 

「逃げる事を考えないと戻れなくなるぞ。この戦力差、状況は新連邦に傾いている。ガロードは何をしている?」

 

「敵のサテライトキャノンを止めに行った」

 

「オルバ・フロストか……」

 

「私はサテリコンの艦隊の護衛に回る。アムロは?」

 

「いいや、敵の動きが早いぞ」

 

 レーダーと目視で確認するアムロ、コロニーレーザーに取り付くヴァサーゴとそれを守るアシュタロンがダブルエックスと対峙する。

 コクピットの脇にティファを乗せるガロードは操縦桿を握りながらも彼女の事を心配した。

 

「ティファ、怖くないか?」

 

「大丈夫、ガロードとみんなが居るから」

 

「こっから先は戦闘だ。しっかり掴まれよ!」

 

「はい!」

 

 メインスラスターを吹かして加速するダブルエックスは正面からアシュタロンを迎え撃つ。

 

「オルバ、ここで終わらせる!」

 

「その機体、ガロード・ラン!」

 

 赤外線ホーミングミサイルを一斉射撃、アシュタロンもギガンティックシザースのビーム砲と頭部バルカンでこれを撃ち落とし、両者の間に爆発と煙が遮る。

 先に動いたのはアシュタロン。

 

「遅いよ!」

 

「爪が来る!?」

 

 残る1本のギガンティックシザースがダブルエックスを襲うが、反射的にシールドを構えるガロードは鋭い切っ先を何とか防ぐ。

 だが強靭なハサミにシールドが奪われると容易く破壊されてしまう。

 すかさずサイドスカートのハイパービームソードを引き抜き袈裟斬り。ギガンティックシザースのアームを切断した。

 

「これ以上の人殺しなんてさせてたまるか!」

 

「人殺し? 間違っているぞ。僕達がするのは戦争だ!」

 

 アシュタロンもビームサーベルを引き抜き互いの切っ先が交わる。激しい閃光が両者を照らす。

 

「ニュータイプを盲信する宇宙革命軍も、それを道具としてしか見ようとしない新連邦も、僕達兄弟にとって目障りな存在だ!」

 

「新連邦? 味方じゃないのか?」

 

「フフフッ、その方が動きやすかったに過ぎない。今から奴らに鉄槌を下す!」

 

 ダブルエックスを蹴り上げるアシュタロンは距離を離し、単独でコロニーレーザーに取り付いたヴァサーゴの行方を見る。ガロードもその方向を見ると、コロニーレーザーはひとりでに発射角度を変えていた。

 取り付いたヴァサーゴがケーブルを伸ばしコンピューターと接続させると、その向きを新連邦の艦隊へ向ける。

 

「アイツ、撃つきか!? でもチャージが?」

 

「見るが良い、ガロード! そしてニュータイプよ! これが虐げられた僕達兄弟の恨みだッ!」

 

 月のマイクロウェーブ送信施設が動く。照準をヴァサーゴへ向けると数秒後には高エネルギーのマイクロウェーブを機体目掛けて発射した。

 背部の翼を広げるヴァサーゴはマイクロウェーブを受信すると、その全エネルギーをコロニーレーザーに回す。

 通常なら太陽光をエネルギーに変換するのを待たなければならないが、これならサテライトキャノン程に早くはないが数秒でチャージが完了する。

 そしてコクピットでトリガーを握るシャギアは1人ほくそ笑む。

 

「ジャミル・ニートはサテライトキャノンのトリガーを引いて絶望した。だが私は違う。この一撃で世界が変わった瞬間、私は歓喜する!」

 

 ゆっくりではあるが角度を変えるコロニーレーザー。それでも広範囲に発射されるビームは艦隊を飲み込むだろう。

新連邦の総司令官であるブラッドマンは向けられる銃口に恐怖した。

 

「どうしてコロニーレーザーが動いている! シャギアとオルバは何をしている!」

 

「反応をキャッチ、コロニーレーザーに取り付いています」

 

「奴ら、撃つ気か……」

 

 味方に付いた新連邦に艦隊に目掛けて、シャギアは躊躇なくトリガーを引く。

 エネルギーが充填された巨大なコロニーから光が溢れた。

 

「ガロード……」

 

「ティファ、こいつは……」

 

「これは憎しみの光……悲しみだけが広がって……」

 

「クッ! アイツを止める!」

 

 アシュタロンを無視して加速するダブルエックスは、コロニーレーザーへ進路を向ける。マイクロウェーブによるエネルギーチャージが可能になったコロニーレーザー。次を撃たせる訳にはいかない。

 だがオルバもガロードを見逃す筈もなかった。進路を遮るように前へ立ち塞がる。

 

「行かせる訳がないだろ!」

 

「邪魔だ、どけぇぇぇッ!」

 

 ハイパービームソードを振り下ろすダブルエックス。攻撃を受け止めるアシュタロンはそれを押し返し更に斬り付ける。ビームの刃が交わり、激しい火花と閃光が走り、何度となく繰り返される攻防にダブルエックスは前進も後退もできない。

 

「お前らのせいで、これ以上人を殺されたたまるかァァァッ!」

 

「それこそが僕らの望んだ未来だ! ニュータイプを生んだ世代を消し去らなければ、僕達の乾きは癒やされない!」

 

「オルバ、お前もD.O.M.E.に触れれば……」

 

「そんな必要は……ない!」

 

 ビームサーベルが交わる。こうしている間にもコロニーレーザーは発射角度を変えて次なる一撃を放とうとしており、一刻の猶予もない。

 焦るガロードに、相棒であるパーラは通信越しに提案した。

 

『ドッキングを解くぞ、こいつはアタシが何とかする。その間にサテライトキャノンをぶち込め!』

 

「パーラ、頼む!」

 

 コンソールパネルに手を伸ばしGファルコンとのドッキングを解除しようとするが、寸前の所で別の通信が割り込んでくる。

 そして別方向からのビームライフルがオルバのアシュタロンを襲った。

 

「クッ!? アムロ・レイは追い付いていない筈だ。誰が来た!」

 

「これ以上、好き勝手にやらせる訳にはいかんのでな!」

 

 指揮官用にチューニングされたクラウダが2機の戦いに乱入する。その機体は、ガロードにティファの場所を教えてくれた機体と同じだ。

 

「ガロード、あの人は味方です」

 

「俺にティファの場所を教えてくれた機体と同じ。パイロットもか」

 

『聞こえているな? このガンダムタイプは私が受け持つ。君はコロニーレーザーを止めに行け!」

 

「頼む!」

 

 ランスローはこの場を請負い、ガロードはシャギアを止めるべく先行する。

 

(兄さん、ガンダムがそっちに行ったよ)

 

(サテライトキャノンを使われれば厄介だ。ランチャーを使う。合流できるか?)

 

(わかったよ)

 

 モビルアーマー形態に変形しダブルエックスを追い掛けようとするが、そうはさせまいとランスローのクラウダーが立ち塞がる。

 

「行かせないと言った!」

 

「僕達の邪魔はさせない。計画はこれから最終段階に入るんだ。邪魔をする奴は全員消えろ!」




鉄血のオルフェンズが最終回を向かえてしまいました。
ネットを見ると賛否両論いろいろあるようですが……。
いずれは鉄血を題材にした作品も作ってみたいものです。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第30話

 先行するガロードのダブルエックスはコロニーレーザーにエネルギー供給を続けるヴァサーゴの元へと向かう。だが立ち塞がるは新連邦のドートレス部隊。

 コロニーレーザーの一撃で艦隊は大打撃を受けたが、まだ動ける部隊は首謀反であるフロスト兄弟を討ち取らんと行動に出る。

 それでもダブルエックスも新連邦からすれば敵に変わりない。無数のドートレスがビームライフルの銃口を向けてダブルエックスに立ち塞がる。

 

「クッ! 邪魔すんじゃねぇ! またコロニーレーザーが使われる前に!」

 

「ガロード、あの人の憎しみが……」

 

「シャギアか?」

 

「この世界を消し去る、それ程の憎悪を秘めています」

 

「ティファ、もう過ちは繰り返しちゃいけない。絶対に止める!」

 

「はい!」

 

 ペダルを踏み込むガロードはメインスラスターを最大出力にして戦場を突っ切る。Gファルコンの推進力も合わさりそのスピードは他を寄せ付けない。

 

「パーラ、支援は頼む!」

 

「任された!」

 

 加速しながらビームライフルのトリガーを引き続けるダブルエックス。更にGファルコンも拡散ビーム砲を撃ち続け、迫るドートレスに攻撃を叩き込む。

 轟くビーム音、連続して発射されるビームは次々にドートレスのボティーを撃ち抜いていく。

 

「手加減なんてしてやんねぇからな! やれる事はなんだってやってやる!」

 

 散り散りになる手足、細かなネジやビス。ダブルエックスが通過した後には力を失くして宙に浮くドートレス。

 ガロードの猛攻を前に量産機では相手にならず、戦闘不能になる機体の数々。立ち塞がる敵を撃ち落とし、目前に迫るコロニーレーザー。

 そして因縁の相手であるシャギア・フロスト。

 

「うおおおォォォッ!」

 

「来たか、ガンダム!」

 

 向けるビームライフルの銃口、クロービーム砲の銃口とがピッタリ重なる。発射されるビームはぶつかり合い、激しい閃光が両者を照らす。

 ちらりとコンソールパネルに視線を移すガロード。ここに来るまでにビームライフルのエネルギーを使い過ぎており、さっきの1発が最後だった。

 操縦桿を引き躊躇なくビームライフルを投げ捨て、サイドスカートからハイパービームソードを引き抜く。メインスラスターの出力を上げてヴァサーゴに接近すると右腕を振り下ろした。

 だが、シャギアも操縦桿を瞬時に動かしてビームサーベルを引き抜きこれに応戦する。高エネルギーのビーム刃が交わり閃光が走った。

 

「もうこれ以上やらせるもんか! これ以上、過ちを繰り返しちゃダメなんだ!」

 

「この一撃こそが我々が望む世界を創る第1歩だ! そしてガロード・ラン! 貴様とガンダムを討ち取る事が私の悲願だ!」

 

「お前のせいで、何人の人間が死んだと思ってるんだ!」

 

「それは貴様とて同じだ。生き延びる為に屍を築いてきた。そのガンダムの力で! だが、私の野望を成就させる為には、まだ屍は足りん!」

 

 ダブルエックスを押し返す。腹部の装甲を展開するヴァサーゴはトリプルメガソニック砲を展開し、ダブルエックス目掛けて拡散ビームを発射した。

 しかし、ガロードの反応も早い。

 

「くっ!? サーベル!」

 

 空いたマニピュレーターでもう1本のハイパービームソードを引き抜き両腕を前方に構える。ハイパービームソードの出力を上げて長く伸ばし、握るマニピュレーターを高速回転させて機体前面にビームの膜を形成させた。

 無数に迫るビームの雨はビームの膜に防がれる。

 すぐさま体勢を立て直すガロードはペダルを踏み込み再びヴァサーゴへ突っ込む。

 

「シャギア、お前だけは止める!」

 

「もはや手遅れだ! ステージは最終段階を超えた。ニュータイプ諸共、ニュータイプを信じるバカ共をこの世から消し去る!」

 

「させるかァァァッ!」

 

 握るビームサーベルで袈裟斬り。ヴァサーゴのビームサーベルと再びぶつかり合う。

 

「初めて戦った時と比べて成長はしているようだな。宇宙空間での戦闘も少しは慣れたか。だがな……」

 

「僕達に勝つのは無理だよ」

 

 背後からオルバのアシュタロンが迫る。シャギアの声を受け取り、ランスローの妨害を振り切ってここまで追いついて来た。

 ドッキングするGファルコンを蹴りつける事で体勢を崩させ、衝撃がパイロットを襲う。

 

「ぐぅッ!? オルバまで来たのか?」

 

「兄さんの邪魔はさせない。ガロード・ラン、君との決着もここで付けさせて貰う!」

 

「2対1だと不利だ。新連邦も来る!」

 

「ガンダム、沈めッ!」

 

 合流したアシュタロンだが、機体の特徴でもあり主力武器でもあるギガンティックシザースは破壊されてもうない。残っているのはビームサーベルとマシンキャノンのみ。

 けれどもダブルエックスの武装ももう少ない。接近して連携攻撃をされればいつまで持ち堪えられるかもわからないし、状況が増々不利になるだけ。

 Gファルコンに残る赤外線ホーミングミサイルを全弾発射した。

 

「これなら……」

 

「甘いよ!」

 

 マシンキャノンから弾丸を発射するアシュタロンはホーミングミサイルを撃ち落とす。爆発するミサイルが他のミサイルの誘爆を生み、更にビームサーベルで残るミサイルを斬り落とした。

 

「でも煙幕くらいにはなる!」

 

「だから甘いって言ってるんだ!」

 

 煙を利用してアシュタロンの懐に飛び込もうとするが、ヴァサーゴの腕から伸びるストライククローが背部の装甲を殴る。

 

「グッ!?」

 

「我々のツインシンクロニティがあれば……」

 

「ガンダムを倒せる!」

 

 更にアシュタロンが腹部装甲を蹴りつける。連続する打撃にコクピットは激しく揺れてガロード達を襲う。

 

「キャアアアッ!」

 

「グッ!? ティファ、大丈夫か?」

 

「え……えぇ……」

 

『少しはこっちの心配もしろよな! それよりも機体が流されてるぞ! 姿勢制御!』

 

「まだ増援が!?」

 

 パーラの声に反応してペダルを踏みスラスターで崩れる姿勢を正す。アシュタロンから繰り出された攻撃の衝撃によりダブルエックスは距離を離されてしまった。

 そしてそれを見て新連邦のドートレス部隊が一気にダブルエックスへ迫る。

 

「不味い、コロニーレーザーが!? お前ら、15年前の悲劇が繰り返されても良いのかァァァッ!」

 

 両手にハイパービームソードを握るダブルエックスは接近するドートレス部隊を一度に相手する。確認できるだけでも7機。

 それでもガロードは一切怯まない、引く事はない。

 発射されるビームを潜り抜けて、ドートレスのコクピットにビームサーベルの切っ先を突き立てる。

 

「フフフッ! これでトドメだ、ガロード・ラン!」

 

「サテライトランチャー、展開!」

 

 ガロードが新連邦の相手をしている間にアシュタロンはモビルアーマーに変形、サテライトランチャーを展開しヴァサーゴがドッキングした。

 狙う先は懸命に戦い、抗い続けるガロードのダブルエックス。

 

「マイクロウェーブ照射!」

 

 月の送信システムから高エネルギーを乗せたマイクロウェーブがヴァサーゴ目掛けて発射される。その光景は他のパイロットからも見えており、ダブルエックスを取り巻くドートレス部隊も蜘蛛の子を散らすように離れていった。

 ガロードは横一閃してドートレスの1機を胴体から分断させ、エネルギーを充填するヴァサーゴとアシュタロンに向き直る。

 

「アイツラ、まだ!? もうこれ以上、過ちは繰り返させない!」

 

 右手に握る操縦桿のガジェットを押し込むガロード。

 マイクロウェーブ送信施設ではマニュアル制御でヴァサーゴにも送信できるようにされているが、優先されるのは正式な手順でサテライトシステムを登録した機体だ。

 ヴァサーゴへの照射は中断され、送信システムはダブルエックスに照準を変更しエネルギーを照射する。

 2本の砲門を前方へ向け、背面と両手足のリフレクタを展開させた。

 

「ば、馬鹿な!? 送信システムは掌握した筈だぞ!」

 

「どうするの、兄さん!?」

 

「ダブルエックスを撃つ!」

 

「でもチャージが……」

 

「構わん!」

 

 シャギアは対面するダブルエックス目掛けてサテライトランチャーのトリガーを引いた。

 エネルギーの充填は充分ではないが、サテライトランチャーの砲門から高エネルギーのビームが発射される。

 同時にガロードも操縦桿のトリガーを引く。

 

「させるかァァァッ!」

 

 リフレクターがまばゆく光り、ツインサテライトキャノンも発射される。ぶつかり合う強力なエネルギーは周囲の景色を白く染めた。

 

「ぐあああァァァッ!?」

 

 光りの渦に飲み込まるダブルエックスとヴァサーゴ。伝わる衝撃にパイロットも身動きが取れなくなってしまう。

 そして数刻経過した。

 どうにか意識を取り戻すガロード、隣に座るティファに手を差し出し体を揺らす。

 

「ティファ……ティファ!」

 

「ガ……ガロード?」

 

「悪い、もう少しだけ我慢してくれ。ツインサテライトキャノンはもう使えない。パーラ、Gファルコンは動けるか?」

 

『いって~、すんげー衝撃。こっちは何とか大丈夫だ。機体もな。でも推進剤だってもう残り少ない。でも補給してる暇なんてないだろ?』

 

「あぁ、シャギアとオルバのガンダムもまだ動ける。それにコロニーレーザーも。絶対に止めないと。地球に攻撃なんてさせない」

 

 ツインサテライトキャノンとサテライトランチャーのぶつかり合い。相殺される互いのエネルギーだが、機体が無事で済む筈もなかった。

 ツインサテライトキャノンの砲門は破壊され、リフレクターもボロボロ。ボディーは頑丈な装甲のお陰で致命傷を負ってはいないが、節々からガタが出始めている。

 操縦桿を動かした時の反応が鈍い。

 

「行くぞ、パーラ!」

 

『了解!』

 

 加速するダブルエックスは未だ健在のヴァサーゴとアシュタロンに迫る。モビルアーマー形態のアシュタロンの装甲は分厚く、エネルギーの余波を受けてもダメージが少ない。

 

「兄さん、もうサテライトランチャーは使えない。パージ」

 

「だが最終ステージはもう進んでいる。アイツラがどれだけ足掻いた所で結果は変わらん」

 

「ダブルエックスが来る!」

 

 モビルスーツ形態に戻るアシュタロンとヴァサーゴはダブルエックスを迎え撃つべくビームサーベルを手に取った。迫る敵に対して、オルバが先行する。

 

「僕が前に出る。こっちにはまだメガソニックも残っている」

 

「オルバ!」

 

「ガロード! 今日こそお前を!」

 

 ビームサーベルを振り上げるアシュタロン。だがダブルエックスはサイドスカートのハイパービームソードを抜こうとしない。

 コンソールパネルを叩くガロードはGファルコンとのドッキングを解除し、背部に背負う大型のBパーツをそのまま加速させた。

 急速に接近して来るBパーツにオルバは反応できない。

 

「こいつは!? ぐあああッ!」

 

「お前の相手は後だ。シャギア!」

 

 加速するBパーツと共に流されて行くアシュタロン。ようやく1対1の状況に持ち込んだ所でガロードのダブルエックスも再びハイパービームソードを抜いた。

 

「うおおおォォォッ!」

 

「サテライトキャノンはもう使えないようだな」

 

 互いのビームサーベルで鍔迫り合い。激しい閃光が両者を照らす。

 

「フフフフッ」

 

「何がおかしい!」

 

「もはや手遅れだ。もう貴様らに我々の計画を止める事はできない!」

 

「何だって?」

 

「15年前の再来だ! そしてニュータイプの存在をこの世から消し去る!」

 

 ちらりと視線を脇に反らす。そこで見た物は、地球に向かって進み始めるコロニーレーザーの存在。

 

「コロニーレーザーが動いてる!?」

 

「レーザー砲の一撃を地球に撃ち込めれば簡単な物を、お前達が邪魔になるのは想定している」

 

「でも、10年以上使われてないコロニーのエンジンが生きてるなんて……マイクロウェーブか!?」

 

「そうだ。マイクロウェーブはレーザー砲を使う為だけのエネルギーではない。核パルスエンジンを起動させる為でもある。そして世界は私達が望む方向へと向かう!」

 

 ダブルエックスを押し返すヴァサーゴは伸びるストライククローで更に機体を殴り付ける。だが姿勢を崩しながらも腕を掴み上げるダブルエックスはハイパービームソードでそれを切断した。

 左腕を失うヴァサーゴだが、パイロットの闘志は失われていない。

 だがそれはガロードも同じ。再び過ちを繰り返させない為。

 

「お前らの思い通りになんてさせない! それにな、ニュータイプを恨むお前が1番ニュータイプに囚われてる」

 

「この私が? あり得ん!」

 

「ニュータイプが居なくても俺達は前に進める。進み続ける! お前もニュータイプを捨てるんだ!」

 

「その為の戦争だ!」

 

 ガロードとシャギアが激戦を繰り広げる中、オルバは揺れるコクピットの中で操縦桿を何とか押し倒す。

 GファルコンのBパーツにより流されてしまったアシュタロン。何とかそれを退けるとヴァサーゴと合流すべくメインスラスターを全開にした。

 

「ダブルエックスめ、小賢しいマネを。新連邦もコロニーレーザーの動きにか気付いたか。これで少しは動きやすくなる」

 

 一直線に突き進むアシュタロン、けれども進路を妨害する敵影が1機。全身が黒い装甲とビームライフルなどの標準的な装備をしたラズヴェートが目の前から迫る。

 

「アムロ・レイ! そうだ、お前も僕達兄弟の前から消えなくてはならない」

 

「こいつらの目的はコロニーを落とす事だったか。兎に角今は取り付くのが先だ」

 

「行かせるものか!」

 

 ビームサーベル1本でアムロのラズヴェートに挑むオルバ。敵意を感じ取るアムロは操縦桿のトリガーを連続で引く。連射されるビームに反応するオルバは操縦桿とペダルを匠に操作して攻撃を回避するが、いつまでも続けられる物でもない。

 

「クッ!? 近づく事もできないのか?」

 

「ライフルのエネルギー切れ? 戦闘が長引き過ぎた。キッド、聞こえるな? νガンダムを用意しろ」

 

『アムロのガンダム? でもあんな機体で何を?』

 

「爆弾くらいにはなる。ポイントYG-111が1番近い。そこに流せ」

 

『了解、ここまで来て死ぬんじゃねぇぞ!』

 

 ビームライフルを投げ捨てるラズヴェートは右手にビームサーベルのグリップを握り、左腕のシールドを向けるとビームキャノンを発射した。

 回避行動を取るオルバだが、ビームが脚部をかすめる。

 

「コロニーの動きが思ったよりも早い。急ぐぞ」

 

「アムロ・レイ、逃げるつもりか!」

 

 撹乱だけするアムロはオルバを後回しにしてコロニーレーザーに取り付くべくメインスラスターを全開にする。

 

「ガロードは何をしている? ジャミル、サテライトキャノンを使うしかない。間に合わなくなるぞ」

 

 コンソールパネルを叩くとジャミルのGXに通信を繋げるアムロ。だが混沌とする戦場の中で自由に動けるパイロットなどもう居ない。既に統率が崩れた新連邦と宇宙革命軍。サテリコンの部隊を守る為にも前線に突入するのは難しい。

 

『わかっている。ウィッツとロアビィに防衛は任せる。だが間に合うか……』

 

「こうも敵味方が入り乱れれば作戦もあったもんじゃない。まずはガロードと合流する」

 

 まるで背中に目が付いてるかのように、アムロはオルバの追撃を避けながらガロードのダブルエックスの元へ向かう。同時に自身が設計した機体であるνガンダムも受け取るべく急いだ。

 

///

 

 片腕を失うヴァサーゴ。だがダブルエックスの装備もハイパービームソードのみ。

 

「こんな所で私は!? 私はガンダムに!」

 

「シャギア、もう終わりだッ!」

 

「メガソニックはまだ生きている! オルバの援護もあれば!」

 

 腹部装甲を展開し拡散ビームを発射するが、ダブルエックスはビームサーベルを握るマニピュレーターを高速回転させて攻撃を弾き飛ばす。

 防ぎ切ると同時にサーベルを投げ飛ばし、残像を生むビーム刃が回転しながら右腕さえも切断した。

 

「終われない。ここまで来て私は!」

 

「うおおおォォォッ!」

 

 操縦桿のトリガーを引くガロードはブレストランチャー、マシンキャノン、頭部バルカンを展開するトリプルメガソニック砲に目掛けて一点集中で撃ちまくる。

 装甲を完全に撃ち抜く事はできないが、それでも強力な弾丸はトリプルメガソニック砲を破壊して内部から炎が上がった。

 

「これで最後だッ!」

 

「終わる……私が終わる? 何もできず……世界に飲まれるのか?」

 

 ビームサーベルを構えるヴァサーゴだが既に遅く、ダブルエックスのハイパービームソードは機体を胴体から分断した。

 エネルギーの供給を絶たれ動かなくなったヴァサーゴ。

 切断された装甲、ケーブルの類から飛び散る火花に機体のエンジンは今にも爆発してしまう。

 

「勝ったぞ、シャギア」

 

「オルバ……済まない。私は……約束を果たせなかった。私達兄弟を見下したバカ共を抹殺する事ができなかった。オルバ――」

 

 

 

第30話 私のたった1人の弟

 

 

 




時間が掛かって申し訳ありません。久々の更新です。
次回でいよいよ最終話、長かったこの作品も完結です。
次回更新をお待ち下さい。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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最終話

 モビルアーマー形態に変形するアシュタロンは懸命にアムロの後ろを追い掛ける。だがその頃にもなると、アムロはキッドに伝えた受け取りポイントに到着した。無造作に漂流するνガンダム。

 

「来たか、奴も居るな」

 

「アイツは何をするつもりだ? ボロボロの機体で」

 

 変形を解くアシュタロンはビームサーベルを片手にラズヴェートに迫る。振り下ろす切っ先、交わるビーム刃。

 鍔迫り合いは激しい閃光を生む。肉薄する両者、オルバはトリガーを引きマシンキャノンを撃ちまくった。残弾はもう気にしない。目の前の相手を倒さなくては自らの願いが成就する事もなかった。

 けれどもアムロはオルバの殺意を察知し膝でアシュタロンの股関節を蹴り上げる。

 

「ぐぅッ!? やったな、アムロ・レイ!」

 

「遅いッ!」

 

 一瞬の隙を逃さないアムロは操縦桿を押し倒しビームサーベルを胸部に突き立てる。本来ならこれでアシュタロンは機能不全になる筈だった。

 けれどもアムロの攻撃に反応するオルバは操縦桿を動かしビームサーベルで攻撃を防ぐ。

 

「動きが変わった? 反応が早い」

 

「兄さん? 兄さんなの? 聞こえるよ、兄さんの声が!」

 

「来るのか!?」

 

 攻めに転じるオルバはビームサーベルを振り下ろす。シールドを構えるアムロだが、ビームの出力を防ぎきれず数秒で切断されてしまう。

 

「この強さは何だ? 本当にオルバ・フロストなのか?」

 

「今ならわかるよ。アイツの動きが手に取るようにわかる! 僕と兄さんが力を合わせればできない事なんてないんだ! さぁ、ニュータイプを倒そう!」

 

「手強い!」

 

 互いに袈裟斬り、ビーム刃が交わり閃光と火花が飛び散る。

 アムロはアシュタロンを蹴りつけ距離を離すが、そんなのは一時の時間稼ぎ。アムロを逃すまいとオルバはメインスラスターのペダルを踏み込む。

 

「逃がさないと言った!」

 

「ロアビィ、任せられるか?」

 

「任されて!」

 

 サテリコンの艦隊防衛から離れたロアビィのレオパルドがアムロに加勢する。全身に武装された機体から放たれるミサイルとビームの雨。

 オルバの相手を任せるアムロはνガンダムを抱えてこの領域から急いで離脱する。

 

「アムロは行ったか? さぁて、ゲテモノガンダム! 自慢のハサミはどうした!」

 

「お前ごときが僕達兄弟の邪魔をするのか? 消えろよッ!」

 

 攻撃の雨の中を潜り抜けるアシュタロンはビームサーベル1本でレオパルドに挑む。スラスター制御とAMBACで機体を匠に操作しレオパルドに詰め寄る。

 

「正気かよ、コイツ!? 何でそんな動きができるんだ?」

 

「僕達はニュータイプを超える存在! お前なんて弱いんだよ!」

 

「冗談! 舐めてんじゃないよッ!」

 

 ツインビームシリンダーから絶え間なく放たれるビーム。並のパイロットならば被弾は避けられないが、オルバは針に糸を通すように攻撃を掻い潜りレオパルドに肉薄した。

 

「これなら!」

 

「武器ならまだあるんだよね」

 

 両肩アーマーに左右2基づつの計4門装備されたショルダーランチャーがアシュタロンを狙う。だが今のオルバの反応速度はニュータイプをも凌駕する。

 ビームサーベルで横一閃、ロアビィがトリガーを引くよりも早くに武装を破壊。更に右腕を振り下ろすと左肩を切断した。

 

「ぐぅっ!? やってくれるな!」

 

「雑魚は消えろッ!」

 

 振り払う腕で残るツインビームシリンダーも切断されてしまうが、レオパルドは瞬時にビームナイフを引き抜き前方に突き出す。

 完璧に隙を付いた筈だった。だが、それでさえもオルバは見切る。機体上半身を反らして攻撃を回避し、そのままレオパルドの胸部装甲を蹴り飛ばす。

 為す術もなく、レオパルドは明後日の方向に流されて行く。

 

「邪魔は消えたな。決着を付けるぞ、アムロ・レイ!」

 

 モビルアーマー形態に変形するアシュタロンアムロが向かう先、地球に目掛けて降下するコロニーレーザーへ飛ぶ。

 一方で時間を稼いだアムロはνガンダムと共にコロニーレーザーに取り付こうとしていた。

 

「新連邦も事の重大性を理解したか? ガロード、どこに居る?」

 

 コンソールパネルを操作してダブルエックスに通信を飛ばす。ガロードは漂流しているビームライフルを片手にコロニーレーザーを無闇に攻撃するしかできなかった。

 

「アムロか? このままじゃコロニーが……」

 

「わかっている。だが核ノズルを止めない事には」

 

「どうやって? ビームを撃ったくらいじゃ」

 

「ガンダムを使う。付いて来い、他のモビルスーツに邪魔されると不味い。それにジャミルも居る」

 

「サテライトキャノンか!? 了解!」

 

 νガンダムを抱えるラズヴェートはコロニーレーザーの推進力である核ノズルに急行する。ガロードもアムロを援護すべく合流ポイントに向かった。

 フロスト兄弟が計画した地球攻撃。第1段でコロニーレーザーによるエネルギー照射を地球に向けるつもりだったがそれは叶わず、第2段に15年前の戦争を彷彿とさせるコロニー落としを決行。

 そうする事で今居る人間を滅しニュータイプの概念を世界から消滅させるのが最終目標だ。

 だが、コロニー落としを成功などさせまいとガロードは必死にもがく。

 そして各陣営とも総司令官が戦死した事で崩れていた統率が少しずつ回復し、現実に起きている事を直視する。

 

「コロニーが地球に向かっている?」

 

「総統閣下はどうされたのだ? 新連邦の作戦は成功したのか?」

 

 こう言う状況にもなれば敵のモビルスーツの動きも遅くなる。一気に突き抜けるダブルエックスは早急にアムロのラズヴェートに接触した。

 

「追い付いた。でも今からで間に合うのか?」

 

「何もできないよりはマシだ。ライフルを借りるぞ」

 

 コロニーレーザーに設置された核ノズルに目掛けてνガンダムを流すアムロ。武器も無ければ各部が損傷したモビルスーツの使い道ともなればこれくらいしか残っていない。

 ガンダムのエンジンに狙いを定めるアムロだが、後方から彼を狙う敵が追いかけて来る。

 

「アムロ・レイ! お前はここで倒すッ!」

 

「邪気が来るか。今は構っていられない!」

 

 一旦ガンダムから照準を切り替えアシュタロンに向けると素早くトリガーを3回。発射されるビームに反応するオルバはアムロの攻撃をスラスター制御で安々と避ける。

 

「見えると言った! もうお前なんて敵じゃない!」

 

「アムロの邪魔はさせない!」

 

 サイドスカートからハイパービームソードを引き抜くダブルエックスはアシュタロンと対峙する。振り下ろすハイパービームソードを受けるアシュタロン。装備も失い各部にガタが見え始めた状態だが、その動きは機体がフル装備の時よりも強い。

 

「ガロード……そうか、お前もまだだったよ。ダブルエックス諸共宇宙に消えろ!」

 

「させるもんか! もうこれ以上、戦争なんてやらせるもんか!」

 

「だったら僕達を倒してみろ!」

 

 ダブルエックスを押し返すアシュタロンはすかさず袈裟斬り。操縦桿を動かすガロードはビーム刃を何とか受け止めるが、オルバの攻撃は終わらない。追い打ちに更にビームサーベルを振り下ろす。横一閃、袈裟斬り。

 戦いの中でようやく宇宙戦闘にも慣れてきたガロードだが、飛躍的に上昇したオルバの反応速度に付いて行くのは至難の業。

 防ぎきれずに左肩の装甲が斬られてしまう。

 

「ぐっ!? コイツ、本当にオルバなのか? 動きも反応も全然違う」

 

「兄さん、完璧だ! ガンダムも、ニュータイプも僕達の手で倒す! そして僕達が望む世界でやり直すんだ!」

 

「そんな事じゃ変わらない! 何も変わらない! 誰だってみんな今を必死にもがいてる。ニュータイプが消えた所でお前の望むようにはならない!」

 

「黙れよッ!」

 

「だから俺もッ!」

 

 ビームサーベルがぶつかり合い閃光が走る。同時に後方から巨大な爆発の光が広がる。

 

「アムロがやったのか? コロニーの動きはどうなった? 何だ? 何の光……」

 

「核ノズルを止めたか? だがもう遅い! コロニーレーザーは地球の引力に引かれて落ちる!」

 

「それでもまだ終わってない! 終われない!」

 

「無駄だよ!」

 

 νガンダムに組み込まれたサイコフレームが最後の輝きを放つ。緑色の粒子は戦闘領域全体に広がっていく。

 だがオルバに光を感じ取る余裕などない。ダブルエックスを殴り付けるアシュタロン。コクピットが激しく揺れる。歯を食いしばり握る操縦桿に力を込めるガロード、その彼にしがみ付くティファも戦闘の衝撃に耐えながら声を出す。

 

「ガロード、サテライトキャノンは使えませんがマイクロウェーブなら使えます」

 

「マイクロウェーブ……そうか! ティファの言う事、試してみる価値はある! その為には!」

 

 右足でペダルを踏み込むガロードはメインスラスターを全開にして未だに地球への進路を取るコロニーレーザー、その前方に目掛けて飛ぶ。

 またも自身を無視してコロニーを優先する姿勢にオルバは怒る。

 

「お前もか、ガロード・ラン! 僕はニュータイプをも超えた存在、ガンダムを超える存在だ! その僕から逃げるのか!」

 

「また地球がダメになるかもしれないんだ。お前の相手なんかしてる暇はない!」

 

「言ったな!」

 

 追い掛けるアシュタロン、だが別方向からビームが飛来し回避行動を余儀なくされる。視線を向けた先ではビームライフルを構えるラズヴェート。

 

「どうするつもりだガロード? コロニーの落下は始まっているんだぞ?」

 

「ダブルエックスとマイクロウェーブならどうにかできるかもしれない。このままだとGXのサテライトキャノンでも破壊しきれない」

 

「だが脱出できなくなるぞ?」

 

「パーラのGファルコンに乗り込めば逃げられる。マイクロウェーブのエネルギー量なら、コロニーの進路を少し反らすくらいできるかもしれない」

 

「だったら急ぐぞ。ジャミルも発射体勢に入っている。援護は俺がする」

 

 GXのサテライトキャノンの破壊力でも一撃ではコロニーレーザーを破壊しきれない。後方からいつでも撃てるようにジャミルも準備を進めているが、完全に破壊できなければサテライトキャノンのエネルギーと爆風の余波でコロニーは加速してしまう。そうなれば地球落下を阻止するのは不可能。

 

「地球が本当にすぐ目の前だ……」

 

「この接触が本当に最後だ。引力に引っ張られれば終わりだぞ」

 

 コロニーレーザーの下では青く光る水の星。15年の月日を得てようやく回復してきた地上が再び危機にさらされている。

 もはや新連邦も宇宙革命軍も邪魔をするモノはいない。追手はオルバのアシュタロンのみ。

 コロニー後部に取り付くダブルエックスはそのまま直進し、一旦立ち止まるアムロはビームライフルの銃口をアシュタロンに向けた。

 

「アムロ・レイが来るか? 無駄だよ!」

 

「奴の反応速度に付いて行けるか……」

 

 トリガーを引きビームが発射される。攻撃を回避するアシュタロンは距離を詰めて袈裟斬り。

 スラスターで姿勢を制御するラズヴェートだがビームライフルは切断されてしまう。すぐさま投げ捨てビームサーベルを引き抜くと横一閃。ビーム刃が交わる。

 

「沈めよォォォッ!」

 

「ガロード、後は頼むぞ。できるだけの事はやってやる」

 

 押し返すラズヴェートは腕を振り上げて袈裟斬り。だが今のオルバの反応速度はアムロでさえ凌駕する。互いにビームサーベルを振り合い斬り付け、メインスラスターとAMBACで機体を制御し移動しながら攻撃。

 両者共に一歩も譲らない。アムロの背中には地球がある。オルバの眼前には目指した野望が広がる。

 タイムリミットが迫る中、ジャミルは後方でGXのサテライトキャノンを展開してコロニーレーザーを照準に収めていた。

 右手に握る操縦桿のガジェットを押し込めばマイクロウェーブをいつでも受信できる。だがまだ撃てない。

 ウィッツのエアマスターはサテリコンの艦隊が安全圏にまで到達したのを確認し、ロアビィのレオパルドを回収するとジャミルのGXと合流した。

 

「何でサテライトキャノンを撃たねぇんだよ! コロニーは地球までもう目の前なんだぞ!」

 

「わかっている! だがガロード達が脱出するまで待ってやるしかないだろう」

 

「クッ!? 急げよガロード!」

 

 コロニーレーザー前方部に取り付くダブルエックス。まるでコロニーを押し返すかのように両腕を突き出して動きを止める。もう推進剤の残量も枯渇寸前。それでも目標地点にまで到達できた。

 

「良し、最後の仕事だ。頼むぜ、ガンダム。マイクロウェーブ、来いッ!」

 

 操縦桿のガジェットを押し込み、月の送信施設からマイクロウェーブが送り込まれる。もはやツインサテライトキャノンも、放熱用のリフレクターすらも失くなったダブルエックス。本来の使い方ではないが、エネルギーを必要充分に供給されてもまだマイクロウェーブを受け続ける。

 

「後はこのまま……パーラ、そっちに乗り移る」

 

「1人乗り用なんだけどな。しゃあねぇから我慢してやるさ。早くこっちに来い!」

 

「行こう、ティファ」

 

「はい!」

 

 パイロットスーツのヘルメットのバイザーを下ろす2人は機体を乗り捨てて、ドッキングしたGファルコンのAパーツに乗り移る。パーラの言うように狭いコクピットの中に何とか収まる2人。窮屈を強いられながらもパーラは操縦桿を両手で握りペダルを踏み込んだ。

 

「良し、乗ったな? ならさっさと離脱するぞ! 地球の引力に引っ張られる」

 

「頼む!」

 

「しっかり捕まっとけよ!」

 

 小型のGファルコンAパーツはダブルエックスから分離すると一目散にコロニーレーザーから離れて行く。

 アムロもオルバと戦闘を行いながらもGファルコンが離脱して行くのをレーダーで確認する。

 

「ガロード達は上手くやったな?」

 

「とどめを刺す! お前達とも、ニュータイプとの因縁もここで終わりだ!」

 

「そうやってお前はニュータイプに囚われ続けるのか? 哀れだな……」

 

「黙れ! お前に何がわかる! お前に!」

 

「そうやって他の道を切り開けなかったからこうにまでなった。シャギア・フロストに依存して――」

 

「そうしなければ生き延びられなかった! 僕達は能力がありながら認められなかった。それを――」

 

「現実を見れてないんだな。だから偏屈した考えにもなる。もうシャギア・フロストは死んだ。これ以上何をする?」

 

「死んだ? 兄さんが……嘘を付くなッ!」

 

 激昂するオルバは操縦桿を力の限り押し倒しビームサーベルを押し付ける。攻撃を受け止めるアムロだが、コロニーレーザーを破壊する為の時間の猶予は残されてない。

 

「力が一時的に強まった? クッ!?」

 

「僕達兄弟はいつも一緒だったんだ。だから間違える筈がない、兄さんの声は僕に届いてる。僕に届いて……兄さん?」

 

「動きが止まった!?」

 

 ビームサーベルでアシュタロンの右腕を斬り上げるラズヴェート。アシュタロンはスラスターに異常がないにも関わらず完全に動きを止めてしまった。

 

「兄さん……兄さん、どこに居るの? 返事をしてよ! 兄さんが居なかったら意味がないじゃないか!」

 

「時間がない。離脱する」

 

 ビームサーベルを投げと回転するビーム刃はアシュタロンの両脚部を切断した。全ての武装を使い切ったアムロは残る推進剤を使い切ってでもコロニーから離れる。

 

「保ってくれよ!」

 

 マイクロウェーブを受信し続けるダブルエックスも遂に限界が訪れる。充填されるエネルギーは放出される事なく、限界を超えた瞬間に装甲は溶解を初めた。膨れ上がるエネルギー。

 瞬間、巨大な閃光が生まれる。

 光は瞬く間に周囲の物質を破壊していき、コロニーの進路をわずかながら反らす事に成功した。

 その様子はジャミルも確認しており、操縦桿のガジェットを押し込んだ。

 

「コロニーの進路が反れた!?」

 

「ガロード達の離脱も確認した行けるぜ、ジャミル!」

 

「良し、サテライトキャノン発射だ!」

 

 マイクロウェーブを受信するGXはサテライトキャノンの照準をコロニーレーザーに合わせる。再び握る引き金は過ちを繰り返す為のモノではない。

 一面に広がる閃光。コロニーレーザーと共にオルバのアシュタロンも光の中に飲み込まれて行く。

 

「僕は……何の為に――」

 

 GXから放たれるエネルギーは正確にコロニーレーザーを貫き、破壊はではいかずとも大きな損害を与え同時に爆発の余波が加速となり地球からの進路から完全に離れて行く。

 この瞬間、宇宙での脅威は消え去った。

 時にアフター・ウォー15年、戦争による脅威は回避されたがこの先を決めるのはこれからの人間だ。今を生きる若者達は何を求め、何を見出すのか。

 けれども未来で何が起きようとも、彼らは決して諦めないだろう。

 

///

 

 新連邦と宇宙革命軍との小競り合いは未だに続いている。前総統の戦死により統率の崩れた軍ではあるが、互いに持ち直すと共に再びそれぞれの道を歩み出す。

 それでも行く先は今までとは違う。後に和平交渉を結び休戦協定が交わされ、地球と宇宙は平和の為の1歩を進んだ。

 青年へと成長したガロードは夜の荒野で空を見上げた。傍で燃える焚き火と月明かりだけが唯一の明かり。

 

「みんなどうしてるのかな? あの時、月まで行っただなんて今じゃ夢みたいだ」

 

 見上げる月はどこまでも遠く、そして今も変わらずに夜空を照らしている。

 焚き火の奥に構えたテントからやって来るのは、出会って以来共に行動を共にして来た少女。ティファは串に刺された肉を火の傍に置くとガロードの隣に座る。

 

「何を見ていたの?」

 

「いいや、月を眺めてただけさ。みんなどうしてるかなって。別れてから暫らく経ったよな」

 

「わからないけれど、いつかまた会える」

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「永遠の別れだなんて悲しいから。せめて希望を持たないと。みんなもそう思いながら生きてると思う」

 

「そうか……そうだな。ウィッツとロアビィはまだモビルスーツ乗りやってるのかな? ジャミルは新連邦のお偉いさんになったみたいだから会いにくそうだ。そう言えば……アムロはどこ行っちまったんだろ? 戦争が終わってから会ってないや」

 

「アムロともきっとどこかで会える」

 

「そうだな、そう思わないと」

 

(あれからララァ・スンの声も聞こえない。それはアムロが居なくなったから、それとも私がニュータイプを捨てたから……)

 

 アムロもまた夜の道を歩いていた。ひび割れてボロボロになったアスファルトの上をただひたすらに歩き続ける。

 何時間歩いただろうか、どこまでも広がる荒れ果てた大地と夜空以外のモノがようやく視界に写った。

 

「店がある……なにかありつければ良いが……」

 

 明かりの灯る店の扉を開けるアムロ。カウンターのある店内で客は1人しか居らず、白髪の店主が食器を水洗いする音が聞こえる。

 カウンターに座る只1人の客はまだ10代の少女だ。アムロは少女から2つ隣のカウンター席に座ると店主に声を掛ける。

 

「取り敢えず飲み物をくれるか? 何でも良い」

 

「はいよ。でも珍しい事もあるもんだ、こんな時間に2人だなんて」

 

「そうだろうな。済まない、車も何もなくてな」

 

「ほぅ、若いのに苦労してるな。あいよ、ビール」

 

 カウンターにコースターを置く店主はグラスに入ったビールを渡す。アムロもソレを見るとグラスを口元に運んで一気に喉奥に流し込む。

 

「久しぶりの水分だ、生き返る」

 

「こんな辺鄙な土地で何をやってるんだい? 宇宙ではまた小競り合いが起こってるらしいが」

 

「別に何をやりたい訳でもないが、今を生きるのに必死なだけかもな」

 

「自分にもそんな頃があったかな。時が過ぎれば忘れてしまうもんか」

 

「時間か……店主、料金だ」

 

 言うとアムロは懐から金を取り出しカウンターの上に置いた。

 

「もう良いのか?」

 

「あぁ、遠いが街に向かう。それに……」

 

「それにどうした? そこまで急ぐ必要があるのか?」

 

「今日は月が綺麗だ」




 以上で完結になります。最後までご愛読してくださった皆様、ありがとうございます。
 完結させるのに1年以上も掛かってしまいすみません。他にもいろいろとやりたい事があるせいでどうしても遅くなってしまいました。
 当分の間は新しい長編小説を書くつもりはありません。ですが構成は練っています。

1 鉄血のオルフェンズ×Gのレコンギスタ
 これが次回作に1番濃厚です。相も変わらずガンダムを題材としたものですが。

2 ガンダムUC×閃光のハサウェイ
 これも考えると面白いのですが構築が中々に難しい。でも楽しいんだよなぁ。ですが閃ハ
サがマイナーなので読む人がわかるのかどうかも問題になってきます。

3 インフィニット・ストラトス×Gのレコンギスタ
 Gレコを題材として何か作れないかなと考えた結果、インフィニット・ストラトスに白羽の矢が立ちました。これを考えてる時は鉄血も1期の途中でしたので、ソレ以外となるとこれ以外に思いつきませんでした。

4 ガンダムSEED×ガンダムΖΖ
 SEEDの世界にハマーン・カーンが行くと言う設定。ですがこれはまだまだ構築が全く出来ておりません。

 次に新作を投稿するとしても半年くらいは休憩したい所。上記の4つの内のどれかを考えております。
 もしもご意見などがありましたら感想ではなくメッセージでお願いします。返事は返させて頂きますので。

 あとがきも長くなってしまいましたが最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。
 ご意見、ご感想お待ちしております。


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