バトルロワイアル ~Dream and Phantasm~ (歩く激戦区)
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プロローグ

「夢」とは、一体どういうものであろうか。という問いは、古代から現代まで絶えず問われてきたものの一つである。深層心理学においても無意識の働きを意識的に把握するための技法として「夢分析」というものが存在し、また生理学や哲学に於いても様々な「夢」の定義が存在する。

 

夢という言葉の意味の一つとして「儚いもの」というものもある。これが生じたのは夢という現象そのものの私達が感じている性質からしてほとんど自明であろう。夢は一般に目覚めてしまうと文字通り「夢のように」消えてしまい、また夢の中も自らの意思の届かないものであるからだ。

 

しかし、反対に夢が何か具体的で明確な世界を形成するという考え方もある。古代ギリシャでは「夢は神託であり、その意味するものはそのままの形で現れるため解釈を必要としない」とアルテミドロスが言い、またネイティヴアメリカンの一部の部族には夢を霊的なお告げと捉え、朝起きると家族で見た夢の解釈をし合う習慣がある。このように夢は何か超自然的存在からのお告げであるといった考え方は世界中に見られるのである。これらは全て外界からの影響があって夢を見るというものだが、別の考え方として興味深いものには、これは古代人や未開人の間での考え方だったが、睡眠中に肉体から抜け出した魂が実際に体験した事柄が夢として現れるのだ、というものもある。

 

 

このように夢というものは、「現実から程遠いもの」と「現実そのもの」と2つの真逆の意味を併せ持つ矛盾を孕んだものであるのだ。

 

 

 

さて、古代人や未開人の間での一般的な認識である「睡眠中に肉体から抜け出した魂が実際に体験した事柄が夢として現れる」という夢の解釈に焦点を当ててみよう。

 

もしそうだとしたら、私達の生きているこの世界も実は只の夢に過ぎないのではないだろうか、という問いが生まれることは至極当然のことである。クトゥルフ神話---これは小説の為の架空の神話体系なのだが---に於いても、我々の世界は最高神であるアザトースの見る夢に過ぎないといった解釈も生まれている。

 

つまり我々は現実世界を生きていると思っているが、もしかすると決して覚めることのない夢を見ているのかもしれない。夢から覚めた瞬間、この世から去ってしまうのかもしれない。言葉を変えれば、夢から覚めるには死ななければならないのかもしれない。

 

 

 

本当のところはどうなのだろうか?

 

 

 

それは死ぬまでわからないのである。

 

 

 

 

 

 

 

【脇本町立脇本中学校3年2組】

旧担任 鴨山 彩子

 

新担任 燈導 刹也

 

 

 1番 男子 蒼杉 芳樹   

 2番 女子 浅見 響     

 3番 男子 天戸 清春

 4番 男子 安藤 隆史 

 5番 女子 英利 おたる

 6番 女子 遠望 怜悧 

 7番 男子 大蛇 龍牙 

 8番 男子 鏡 聊爾

 9番 女子 風見 楓夏

10番 男子 金田 金太郎

11番 女子 如月 珠莉 

12番 男子 岸間 浩平 

13番 男子 桐生 雅人

14番 女子 桐生 レイア 

15番 男子 久良明 藍作

16番 男子 栗原 アキト 

17番 男子 黒野 焔

18番 男子 黒城 雅也

19番 女子 坂本 京子   

20番 男子 佐川 吉鷹 

21番 女子 細波 涼音

22番 女子 篠田 このみ 

23番 女子 白崎 怜   

24番 男子 須田 拓哉

25番 女子 住井 麗奈 

26番 女子 弾間 梨緒奈 

27番 女子 茶々乃 ゆのみ

28番 女子 九十九坂 妖乃

29番 男子 徳河 瑠々家 

30番 女子 七光 やよい

31番 女子 初音 えりか 

32番 女子 葉山 まりあ 

33番 男子 春城 ショウ 

34番 男子 平本 響一  

35番 男子 星野 琢磨 

36番 男子 真壁 亮介

37番 男子 町田 擬古 

38番 男子 御影石 銀将 

39番 女子 深月 琥珀

40番 男子 山寺 呼人 

41番 女子 雪野 聖夜

42番 男子 夜桜 水鏡 

43番 女子 吉田 蛍

44番 男子 矢島 港 

45番 男子 山田 太郎

46番 女子 竜崎 星子

47番 女子 霊松院 鏡花

 

 

 



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プロローグ 生存:47人/47人
プロローグ


拙い文書ですが読んでいただけると幸いです。
暇があれば是非夢幻BRにも参加してみてください。


 夜の高速道路を6台のバスが走っている。各々の車内では中学生40人前後が思い思いの時間を過ごしていた。

 この日脇本町立脇本中学校3学年は毎年の恒例行事である勉強合宿のために県内の山地にある合宿所へ出発していた。合宿所で特にイベントがあるわけではないが、生徒達は修学旅行に出かける時のようにはしゃいでいた。

 

 鴨山彩子の受け持っている3年2組はどういうわけか個性的な生徒が多かった。大抵どのクラスにも目立たない生徒というものはいるものだが、この3年2組には全くと言って良いほどいない。強いて言えば、非常に無口で担任の鴨山でさえも喋っているところを見たことが無い蒼杉芳樹(あおすぎよしき 1番 男子)や、常に眠そうにしていて顔色の悪い天戸清春(あまときよはる 3番 男子)くらいだ。他のクラスの先生からすればある意味では立派な目立つ生徒らしいが。

 目立つ生徒の例を挙げるとキリがなかった。陸上部の短距離走エースの風見楓夏(かざみふうか 9番 女子)や野球部のキャプテンである須田拓也(すだたくや 24番 男子)、マーチングバンド部部長の平本響一(ひらもときょういち 34番 男子)、剣道部部長の町田擬古(まちだぎこ 37番 男子)を代表とする各部活動のエース級や、岸間浩平(きしまこうへい 12番 男子)や黒野焔(くろのほのお 17番 男子)等の学年トップクラスの秀才、さらには生徒達の間ではアイドルグループの様に扱われている如月珠莉

(きさらぎじゅり 11番 女子)、坂本京子(さかもときょうこ 19番 女子)、雪野聖夜(ゆきのせいや 41番 女子)

 、吉田蛍(よしだほたる 43番 女子)達仲良し4人組ーーー誰が言い出したかは分からないが「ゆきほたきょんじゅ」という名前が付いているーーーや果ては大蛇龍牙(おろちりゅうが 7番 男子)のような生粋の不良までいる。

 彼女が最前列の座席から後ろを振り返れば、皆がそれぞれ思い思いの時間を過ごしているのがよく見える。

 例えば夜桜水鏡(よざくらすいきょう 42番 男子)は生徒達から「夜桜組」と呼ばれている、いつも一緒にいる6人組でバスの最後列に無理矢理詰めて仲良く喋っているし、雪野聖夜もまた同じように4人で仲良く喋っている。中には恋愛相談に長けており、生徒達の間で愛の伝道師と呼ばれている葉山まりあ(はやままりあ 32番 女子)に恋愛相談をしている者もいた。

 それとは対照的に、岸間浩平は参考書を開いて勉強しているし、鏡聊爾(かがみりょうじ 8番 男子)は愛読している古典文学の本を読んでいる。

 

 彼女はこの個性溢れる3年2組を心底愛しており、このクラスの担任となれたことを心の底から幸せに、そして誇りに思っていた。個性に溢れているが故にトラブルも少なくはなかったのだが、彼女はそれによって生じる仕事を嫌な顔一つせずに引き受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、だろうか。

 

 

 

 

 これから起こる惨劇を想像して、彼女の頬を一筋の水滴が伝っていくのは。

 

 しばらくして、添乗員からガスマスクが彼女と運転手に配られ、全員が装着し終わると運転手がバスのあるスイッチを押した。そうすると賑やかだった車内がだんだんと静まっていき、10分もすると車内は出発前の静寂を取り戻した。

 鴨山が後ろを振り向くと全員が例外無く眠っており、半ば廊下に倒れこんだような姿勢の生徒もいた。

 

 そして彼女達のクラスのバスは先行していたバスの進路を外れ、県内のとある港に向かっていった。

 そこには物々しく軍に警護されたフェリーが一隻停泊していた。既に乗船する準備は整っており、その船の姿は獲物を丸呑みにしようと口を広げている深海魚のようであった。

 バスが船に入ると船はこれから地獄と化すであろう、一つの島に向かって出航した。

 その時鴨山が見た海は、今まで見たどの海よりも深く、暗く、そしてとても静かだった。

 

 

 

【残り47人】




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プロローグ(2)

 夜中の11時頃、47人の生徒はバスではなく古びた教室にいた。全員に共通しているのは、机に突っ伏して寝ていることと、首に巻きついている、銀色の首輪だ。

 

~燈導 刹也~

 

「はぁ~、やっと終わりましたか……あの人たちいつも手際悪いんですよねぇ……」

 

 と、生徒達が眠っている部屋の隣にある、雑多な機械が並んだ部屋の中央に置かれているこじんまりしたソファーに腰掛けながらコーヒーを飲んでいた男は、トレードマークの銀の長髪ーーーといってもこの部屋にいる3人は全員銀髪だがーーーをかき上げながら愚痴を2人の同僚にこぼした。

 

「な~んでそんなせっかちなのよヒドゥー、そんなに早く始めたかったの?」

「ワハハハハ、そりゃしかたねぇだろう松柏よぉ!俺だって早く殺し合いを見たくてワクワクしてんだぞ!なぁ?ヒドゥーもだろ!?」

「貴方と一緒にしないでくださいよ……」

 

 ヒドゥーと呼ばれた男、燈導刹也は3人の中では立場は一番上だが、3人で長く一緒に仕事をしていることもありお互い気を使わずに話すことが出来る。プログラムの管理者側という殺伐とした世界に身を置いている彼らにとってお互いの存在は非常にありがたい仲間たちとなっていた。

 

 仲間の1人で紅一点なのが松柏 栄美。銀髪と、赤と青のオッドアイが特徴だ。並外れた視力を持ち、そのおかげで銃の腕前は抜群、と言いたいのだが彼女はいつも弓を使っている。特殊加工した矢や特注の弓を使用しているため威力面では全く問題ないのだが、軍の規定に従えと上の人間がこの上なく煩く注意をしている。

 もう一人は北條 正之助。同じく銀髪でとても熱い性格をしている。絵に描いたような脳筋で怪力の持ち主だ。彼はいつも愛用の妖刀閻魔を振るっている。戦闘能力に関しては銃を使っている相手にも片手で勝てるほど申し分ないのだが、これまた上の人間の注意が非常に煩い。

 

 燈導が手に持っている書類の束の1枚目にはまたその旨が書いてある。彼は一応形だけは注意しているので問題はないが、上司の視察が来て罰則を受けることを少しだけ恐れていた。

 

「あのー、一応持ってくるだけでも良いんで銃を持ってきてくれません?」

「なーによ、また注意しろって?もう上も諦めが悪いわねー、私の「星の雫」のほうが下手な銃よりよっぽど強いのに」

「大体お前もいっつも愛剣の「ヴァルファーレ」しか使ってねえだろうが」

「僕はいつも予備のデザートイーグルを持ってきてますよ!」

 

 と、彼は懐からもう大分使われていないデザートイーグルを取り出した。手入れだけはきちんとしているので作動はするようだ。

 

「で、なんでそんな疲れてんの?」

 

 松柏がその理由を尋ねると、彼はその書類の束から問題の部分ーーー書類の半分以上がこれだーーーを差し出した。

 

「え、なになに……ってまたぁ?何度出来ないって言ったらわかるのかしら……」

「ん?なんだ?……おいおいおい、お前これ前も断ってなかったか?」

「だから嫌なんですよ……とっとと終わらせて帰りたい……」

 

 その書類の束に書かれていることを分かりやすくまとめると、「俺が賭けた生徒を優勝させるように仕向けろ」だ。

 プログラムは政府の上層部やその他の富豪の中では一種のギャンブルのようになっている。しかしそんな不正を行うと発覚した時に今度は担当官である自身の身が危なくなるので彼は毎回それらしい理由を付けて断っている。だが依頼してくる人数は一向に減らず、彼はその事に頭を抱えていた。

 

「先生、そろそろ始めていただけると……」

「ん、ああ分かりました、今行きます」

 

 プログラムを補佐する専守防衛軍の軍人達から呼ばれ、彼は書類の束から生徒のデータが書かれたページを抜き取って残りをまとめてゴミ箱に突っ込んでから、愛剣ヴァルファーレを腰に差して担当補佐官2人に加え兵士5人と一緒に隣の教室へ移動していった。

 

 




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ルール説明(1)

「えー、みなさんおはようございます。よく眠れましたか?」

 

 壊れかけの蛍光灯しか灯りの無い薄暗い教室に、それとは対照的に快活な若い男性の声が響いた。8×5+7×1の形に綺麗に並び揃えられた47の机に突っ伏して眠っていた生徒達はその声を皮切りに次々に起き出し、起きた生徒は一人の例外もなく混乱していた。

 

「はーい皆さん早く起きてくださーい。ロングホームルームが始まりまーす。寝てる人を起こしてあげてくださーい」

 

 再びの呼びかけでようやく生徒全員が目を覚まし、何が何だかわからない、といった顔で教壇に立っている男、燈導刹也を見つめている。

 

「はい号令をお願いします。では出席番号12番、岸間浩平君お願いします」

 

唐突に指名された眼鏡をかけた如何にも真面目といった風貌の男子生徒、岸間浩平はいきなりの事態に戸惑いながらも無難に挨拶を済ませた。周りの生徒達も何が何だかわからないといった表情を浮かべながら今まで飽きるほど繰り返してきた起立・礼・着席の動作を済ませた。

 

「皆さんは、今年度のプログラム対象クラスに選ばれました。これから皆さんには……ちょっと殺し合いをしてもらいます」

 

 生徒達は最初惚けた表情を燈導に向けていたが、その単語の意味を脳が理解した者から順に青ざめていった。

「プログラム、さらに略してPGが何かは分かりますよね?はい、え~と、霊松院さん!答えて下さい」

 

「……正式名称「戦闘実験第六十八番プログラム」。毎年全国の中学3年生50クラスを対象に行われる、陸軍が行う戦闘シミュレーションです。最後の1人になるまで殺しあって……い、生き残った1人だけが家に帰れます」

「素晴らしい!みんな分かったかぁ~?大事なことなのでもう一度言います。これから皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます。冗談なんかではありませんよ」

 

「嘘だろ…………?」

「プログラムって……あの……?」

 指名された女子生徒、霊松院鏡花(れいしょういんきょうか 46番)の説明によって今まで完全に思考が停止していた生徒も状況が呑み込めたらしく、皆の顔がだんだんと恐怖と絶望に染まっていく。中には今にも泣き出しそうな生徒もいた。

 

「いいですか~?では始める前に「ふざけないでよ!!」

 

 突如立ち上がり金切声をあげた女子生徒がいた。初音えりか(はつねえりか 出席番号30番)だ。

 

「殺し合いなんてできるわけないじゃない!第一貴方たち誰なの!?」

 

 燈導はこれはすっかり忘れていたといった表情を見せ、まるで初音の金切り声など無かったかのように黒板に名前を書きながら自己紹介を始めた。

 

「申し遅れました。このPGの担当官兼3年2組の新担任の燈導刹也です。そして隣にいる2人が

 

「松柏栄美(しょうはくえみ)です」

「北條正之助(ほくじょうまさのすけ)だ」

 

 です。この2人はPGの進行の手伝いをしてくれます。そして後ろにいる軍服を着た5人は、専守防衛軍のみなさんです。右から坂持金発君、田原大樹君、近藤拓也君、野村隆君、加藤勝君です。そして出来るわけない、と言っていましたが、出来なくてもやってください。どうしても嫌なら殺されてください。以上。初音さん席に着いてください。あと発言は挙手してからお願いします」

話し終わると同時に燈導はおもむろに右手を上げた。初音はまだ何か言いたそうにしていたが、燈導が右手を上げたと同時に専守防衛軍の兵達によってこちらに向けられた5つの銃口を目にし震えながら席に着いた。銃口が初音に向けられた瞬間教室の至る所から押し殺したような悲鳴が聞こえた。

 

「みんなも発言は挙手してからしようなー。次私語した奴は悪いけど先生殺すからなー」

「殺す」という普段なら冗談としてしか受け取れない単語が5つの銃口がこちらを向いていたこの状況では酷く現実味を帯び、生徒達の耳に深くこびりついた。




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ルール説明(2)

「では、PGのルール説明…の前に皆さんにはちょっと意志表明をしてもらいまーす。机の中に紙と鉛筆が入っているので取り出してくださーい」

 

 燈導が指示すると、生徒は慌てたように壊れかけの机から何も書かれていないA4サイズの紙と既に削られていた鉛筆を取り出した。

 

「PGに参加する決意が出来た人は今からその紙に『私達は殺し合いをする』『やらなきゃやられる』と3回ずつ書いてください。あ、出席番号と名前を忘れず書けよー。はい、書けた人は2つに折ってすぐ前に回してください」

 

 その言葉を聞くや否や何人かの生徒がスラスラと鉛筆を動かし始めていた。

 

「おーい早く書いて前に遅れー。遅い奴は殺すぞー。一番前の奴は揃えて教壇に持ってこーい」

 

 燈導が再び忠告した。ポカンとした表情を浮かべていたり理不尽な状況に怒りを露わにしていた生徒達も先ほど初音に向けられた4つの銃口を思い出し、慌てて紙に鉛筆を走らせていた。

 そして最前列の6人の生徒(蒼杉芳樹 ・風見楓夏 ・黒野焔 ・住井麗奈 すみいれいな 出席番号25番・春城 ショウ はるしろ しょう 出席番号33番・雪野聖夜)がの殆どが怯えた表情を見せながら近づきプリントを渡し、逃げるように自分の席に戻った。それを確認した燈導はプリントを一枚一枚眺め始めた。

 

 初めは感心したように眺めていた燈導だが、とある生徒のプリントで手が止まった。顔を上げた燈導の表情はは怒りと面倒臭さをごちゃ混ぜにした様だった。

 

「出席番号39番深月琥珀(みづきこはく)さん、前に来てください」

 

 名前を呼ばれた女子生徒は覚悟していた、といった顔で一歩一歩を踏みしめながら教壇へと向かった。教室に僅かな騒めきが生まれたが、兵士達が銃をガチャリと鳴らすとそれもすぐに消えていった。

 

「貴女は何故白紙で提出したのですか?」

「わ、私は殺し合いなんてしません!」

 

 燈導が名前しか書かれていないプリントを見せながら問うと、深月は軽く息を吸った後燈導に言い放った。燈導は大きくため息を着くと、足がガクガクと震えている深月へ投げやりとも失望とも取れる口調でこう言った。

 

「ふーんそうですか。ではその意志をクラスの皆にも伝えてあげてください」

 

 燈導は深月に教壇へ立つよう促した。深月もそれに応じ、教壇へ立つとクラスメート達へ演説をするようにはっきりと話し始めた。他のクラスメート達は我を忘れたように深月に視線を向けている。

 

「私は、殺し合いなんてしません。このプログラムには参加出来ません」

 

 その言葉に至る所から女子生徒の泣き声が聞こえる。燈導や他の担当官はやれやれ、といった表情を浮かべている。

 

「深月さんの意志は分かりました。では席に戻ってください」

 

 深月は教壇からゆっくりと自分の席ーーー廊下から2列目、後ろから2番目の席ーーーに戻っていった。あたりからは女子生徒の深月の名を呼ぶ泣き声がやすすり泣きの音が聞こえる。生徒は一人の例外もなく深月の一挙一動に注目していた。

 

 

 

「貴女の意志は分かりました。では殺し合いを免除してあげましょう」

 

 

 という燈導の声が聞こえ何かが風を切る音がしたかと思うと、次の瞬間には深月琥珀の首から剣が生えていた。

 深月は何が起こったか分からない、という顔のまま首から血を吹き出しながら廊下側の隣の席の女子生徒---先ほど金切り声を上げた初音ーーーの方にゆっくりと倒れていった。

 

「ヒュー、ヒドゥーの奴やるじゃん。ヴァルファーレをああいう使い方する発想は無かったわ」

「世界中探しても剣をあんな風に正確に投げれる人はヒドゥーしかいないでしょうね…ってあの人いつあんな技術身につけたの?」

 

 

 教室中に生徒達の悲鳴と怒号が飛び交う中、担当補佐官の2人は世間話でもするかのように燈導の技術を賞賛していた。

 当の本人は特に興味を向けるわけでもなく、専守防衛軍にヴァルファーレの回収を命じて何事も無かったのかのように教壇へと戻った。

 

 

 

 

・ 規約違反により 深月 琥珀 が 管理人に抹殺された

 

【残り46人】

 




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ルール説明(3)

「きゃあああああああ!!琥珀ううううう!!!!」

「嘘でしょ!?お願い目を開けて琥珀!!」

「あああああああああ!!!!!深月いいいい!!!!!」

「あのクソ野郎絶対許さない!!!!」

 

 

「いやー成功してよかったです。あれ練習してたんですよね」

「ヒドゥー……あんた生徒を実験台にしたわけね」

「なかなか実践できる機会無いですからね。ラッキーでしたよ」

「おいおいヒドゥー、今度その技教えてくれよ」

「妖刀閻魔なんて投げられる代物じゃ無いでしょ……大人しく銃使いなよ……」

 

担当官3人は何事も無かったかのように和やかに談笑している。その間も生徒達の悲鳴や怒号は止むことは無かった。

 

「にしてもそろそろ静まってくれませんかね……専守防衛軍の皆さんお願いします」

 

燈導から指示を受けた5人は、各々の愛用している銃を抜き、蛍光灯に当たらないよう若干の注意を払いながら天井に向けて乱射し始めた。生徒達の声と放置されている深月琥珀の遺体から発せられている血の臭いで満たされていた教室に5種類の銃声が混じり、数十秒後には銃声と血の臭いが残っていた。そして遂に血の臭いだけとなり、何人かの生徒はその臭いに顔を顰めた。中には軽く嘔吐した者もいる。

 

教室から音が完全に消え去ったことを確認した燈導はにこやかに頷き、プログラムの説明を再度始めた。

 

「ではこれからプログラムのルールを説明します。ですがここからは、ちょっと別の人にバトンタッチします。もう入ってきていいですよ、先生」

 

燈導が教室の扉の外に声をかけ、1人の人物が震えながら教室へと入ってきた。入ってきた人物を見て生徒達は先ほどの惨状があったにもかわらず驚きの声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鴨山……先生……?」

 

 

何故なら、入ってきた人物がこのクラスの担任()()()鴨山だったからだ。

 

「プログラムのルール説明はこのクラスの元担任の鴨山先生にお願いしています。先生の最後の授業だからみんなよく聞けよー」

 

燈導は生徒達の怒りの表情を満足そうに眺めた後、鴨山の方を向いてこう言った。

 

「では、最後の授業楽しんでくださいね。あ、説明が不十分だった時の補足はちゃんとするから安心してくださいね」

 

鴨山は今にも泣き出しそうな声で返事をし、教壇に立ってプログラムのルール説明を始めた。

 

「……プログラムに基本的に反則はありません。ただしプログラムを破壊するような行動は禁止です……そのような行為が発覚した場合……みんなに付けられてる首輪が、ば、爆発します……」

「あ、おーいそこ首輪はあんま弄らない方がいいぞー。無理に外そうとしても爆発するからなー。」

 

先ほどから首輪をなんとか外そうとしていた数人の生徒は、燈導の言葉を聞いて慌てて首輪から手を離した。

 

「うんうんよろしい。ちなみにその首輪は完全防水、耐ショック性で絶対に外れません。首輪は君たちの……なんだっけ、心臓だったか脳波だったか忘れたけどその動きをPG本部に送って、誰が生きててどこにいるかとかそういった情報を送ってくれます。ちなみに建物の中とか穴掘って隠れても電波は届きまーす。」

「24時間誰も死者がいなかった場合は時間切れとなり……全員の……首輪が爆発します……。この場合優勝者無しとなります……」

 

鴨山の説明に一部の生徒は絶望した表情を見せた。きっと誰も殺さなければ大丈夫と思っていたのだろう。

鴨山はその生徒達を見てさらに泣きそうになりながらも説明を続けた。その様子を見ている担当官達8人は満足そうな表情を浮かべている。

 

「これから……皆さんには……皆さんの持ってきた……荷物を返すと同時に……1人1つデイパックを……渡します……その中には……水とカロリーメイト、地図、懐中電灯、島の地図、武器……が入っています……武器はランダムになっていて、銃などもあれば鍋のフタなどもあります……」

「これは公平を期するためだからなー。良いものが当たった人はラッキーだと思って頑張っていっぱい殺せよー」

 

「そして重要なのが……毎日0時から6時間ごとに放送される禁止エリアです……1日に4回、4つずつ放送するので……地図と照らし合わせて放送されたエリアから……指示された時間までに逃げて……ください……でないと首輪が爆発……してしまいます……。以上で……ルール説明を……終わります……」

「放送の時に死んだ人の名前も読み上げるからなー。はい、鴨山先生ありがとうございました。では霊松院さん、号令をお願いします」

 

生徒達が挨拶を済ませて着席すると同時に、鴨山は気を失って倒れてしまった。燈導は2人の兵士に運ぶよう指示し、生徒達に向かって話し始めた。

 

「最後のロングホームルームは如何でしたか?ではそろそろ皆さんには出発してもらいます」

 

殆どの生徒にとって人生最後の、そして最悪のロングホームルームが終わり、遂に本格的な地獄が始まろうとした。




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『現実』の幕開け

「皆さんのことは家族にはもう伝わっていると思います。ちなみにですが、ここは幻想島というリゾート地です。今は住人には出ていって貰っているので思う存分戦ってくださいね。では何か質問のある人はいますか?」

 

  燈導が生徒達に問いかけると、1人のポニーテールの女子生徒がおもむろに手を挙げた。九十九坂妖乃(つくもざかあやの 28番 女子)だ。

  燈導はほう、と呟き、生徒の情報が書かれた書類を見ながら言葉を続けた。

 

「はい。えーっと、九十九坂さん。起立してください。何が聞きたいのですか?何でも答えますよ」

「ん?」

  呟いたのは徳河瑠々家(とくかわるるいえ 29番 男子)だ。

 

「プログラム中に殺人や傷害といった犯罪以外の罪状で罪に問われるとかそういったオチは無いですよね?例えば放火とか」

「ほぉ~、良い質問だねぇ。安心してください!ゲーム中は何をやっても罪に問われることはありません!遠慮無く暴れてください!」

 

  九十九坂はわかりました、とだけ言い席についた。周りの生徒はそんな九十九坂を若干の軽蔑と恐怖が混じった目で見ていた。

 

  そして鴨山を運んでいった兵士2人が生徒達全員の勉強合宿用に持ってきた荷物と47個のデイパックと共に部屋に戻ってきた。燈導はチラリと腕時計を見て、慌てた口調で言った。

 

「あらら、もう時間が無い。それではこれから皆さんに出発してもらいますが、この封筒の中に番号が書いた紙があります。その番号に該当する出席番号の人から荷物とデイパックを取って出発してもらいます。そしたらその後は2分毎にその人の次の出席番号の人から出発してもらいます。全員が出発して20分後にこの分校があるエリアは禁止エリアになるから早く遠くに離れろよー」

 

  そして燈導は懐から封筒を取り出した。慌てていたせいか、封筒を取り出すのと一緒にデザートイーグルも出てきて床に落としてしまった。床に落ちてガチャリと音がしたと同時に近くの生徒から僅かに悲鳴が聞こえた。

  燈導はさらに慌ててデザートイーグルを拾って懐にしまい直すと、封筒を乱暴にちぎって中の紙に書かれている番号を確認した。

 

「……出席番号18番!出発です!えーっと、黒城雅也君からですね」

 

  名前を呼ばれた強面の男子生徒、黒城雅也(こくじょうまさや 18番 男子)は真っ直ぐ荷物を運んできた兵士の元へ歩み寄ると、無言で荷物とデイパックを受け取り、クラスメイトの方を振り返りもせずに廊下へ出ていった。

ゆっくりとした足音がだんだん遠ざかっていき、ついに聞こえなくなった。

 

  そして2分後、坂本京子が燈導から指示されて泣きながら教室を後にした。さらに2分後には佐川吉鷹(さがわよしたか 20番 男子)がかけている眼鏡を外して残ったクラスメイトを瞬きしながら数十秒眺めた後、燈導に急かされて教室を出た。

 

  こうして遂に、どんな夢よりも、どんな幻影よりも恐ろしい『現実』は幕を開けたのだった。

 

 

 

・ 00時00分  脇本町立脇本中学校3年2組正式プログラム開始。

・ 00時00分  黒城 雅也 (3年2組 18番) が プログラムに参加。

・ 00時02分  坂本 京子 (3年2組 19番) が プログラムに参加。

・ 00時06分  佐川 吉鷹 (3年2組 20番) が プログラムに参加。




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1日目  生存:46人/47人
1日目(1)


  プログラム開始から約24分経ち、また1人プログラムへと参加した生徒がいた。七光やよい(ななひかりやよい 30番 女子)だ。

  彼女は全ての窓に鉄板が貼られた暗い廊下を駆け足で通り抜けながら、殆ど麻痺した頭をなんとか動かしながらこれからのことを考えていた。

  誰かと一緒に居なければ……誰がいいか……

  彼女がまず候補に挙げたのはいつも一緒にいる「夜桜組」と呼ばれているグループだった。このプログラムに参加している夜桜組のメンバーは夜桜水鏡、霊松院鏡花、真壁亮介(まかべりょうすけ 36番 男子)、栗原アキト(くりはらあきと 16番 男子)、平本響一、それに七光を加えた6人だ。それにゆきほたきょんじゅの4人や葉山まりあ、かなりおっとりした性格の女子生徒である住井麗奈と篠田このみ(しのだこのみ 22番 女子)を代表とする絶対に殺人を犯しそうにない生徒が頭に浮かんだ。

  そして同時に絶対に出くわすべきでない生徒も頭に浮かんだ。大蛇龍牙は言わずもがな、最初に教室を出発した、強面で非常に目つきが鋭くそれを更に強調している右目付近の一本の切り傷が特徴で、陰で105人は人を殺してそうとも言われている黒城雅也や、ゲームに乗る素振りを見せた九十九坂妖乃、それに最も恐ろしいのが、彼はどんな人かとこのクラス全員に問うと47人中46人が頭のおかしい人と答えるであろう、生粋の狂人であるとの評判を持つ男子生徒の徳河瑠々家だ。

  あいつらにだけは会うまいと考えながら遂に分校を飛び出し、彼女は近くの林の中へ身を隠して荷物の確認を始めた。

  配られたデイパックの中にはカロリーメイトと水の入った1Lペットボトルがそれぞれ2つずつと、地図、クラスの名簿、コンパス、時計、懐中電灯、それと1本の果物ナイフが入っていた。

  これが……武器?

  彼女は何度も料理のために刃物を扱ったことはあるが、今自分が握っているそれはありふれた果物ナイフとは違った威圧感を放っているようだった。デイパックから取り出してまじまじと眺めた後、慌ててそれをデイパックにしまい直した後、考え直したようにそれを何時でも素早く取り出せるように制服のポケットの中へ忍ばせた。先ほど挙げた危険人物以外にもいつどこで誰が襲いかかってくるか分からないのだ。用心するに越したことはない。

 次に彼女は地図と懐中電灯を取り出し明かりをつけて読み始めた。それによると今自分がいるエリアはD-6らしく、南の方角へと向かえばH-5にある商店街へと到着できることがわかった。彼女は誰かと合流した後に建物が多くあるだろうそこで一旦身を隠すことに決め、地図を一旦しまい代わりにクラス名簿を取り出した。運の良いことに4分後に葉山まりあ、10分後に平本響一が分校から出発することを発見した。そろそろ出発する初音えりかの存在が気掛かりだが平本の出発までに危険人物はいない。その2人のどちらかに声をかけて同行を願おうと考え、息を殺して隠れ始めた。

 

 ほんの数十秒後に初音えりかが分校から分校の中から外へと出てきた。彼女はやはり非常に錯乱している様子だが、こちらの様子には未だ気づいていないようだった。

 

 不意に初音がこちらの方を向いて叫び声を上げた。

 

 

 気付かれた?上手く茂みに隠れてるのに?

 

 

 

 しかし彼女はすぐに初音の様子がおかしいことに気がついた。初音のの視線は彼女の隠れている茂みではなく、少し上の方を向いていたのだ。いや、上というよりは後ろの方だった。

不意に彼女は何かの気配を僅かに感じ、すぐさま振り向いた。

それが、彼女の最期だった。

 

  首を斧の一振りで撥ねられた彼女が最期に見たもの、それは斧を振りかぶった徳河の満面の笑みだった。徳河は彼女が林の茂みに身を隠した直後からずっと後ろへ立っていたのだ。いつ彼女が振り返り、そして驚きどのように恐怖に顔を歪め、どのように絶望するかを見るために……

 

  首と胴体が分断された七光が最期に知覚したのは自らの胴体から血が噴き出る音と、未だ止まない初音の叫び声であった。

 

 

・ 00時06分  細波 静音 (3年2組 21番) が プログラムに参加。

 

・ 00時08分  篠田 このみ (3年2組 22番) が プログラムに参加。

 

・ 00時10分  白崎 玲 (3年2組 23番) が プログラムに参加。

 

・ 00時12分  須田 拓也 (3年2組 24番) が プログラムに参加。

 

・ 00時14分  住井 麗奈 (3年2組 25番) が プログラムに参加。

 

・ 00時16分  弾間 梨緒奈(3年2組 26番) が プログラムに参加。

 

・ 00時18分  茶々乃 ゆのみ (3年2組 27番) が プログラムに参加。

 

・ 00時20分  九十九坂 妖乃 (3年2組 28番) が プログラムに参加。

 

・ 00時22分  徳河 瑠々家 (3年2組 29番) が プログラムに参加。

 

・ 00時24分  七光 やよい (3年2組 30番) が プログラムに参加。

 

・ 00時26分  初音 えりか (3年2組 31番) が プログラムに参加。

 

・ 00時26分  七光 やよい 徳河 瑠々家 によって 斧 で 斬殺 された。 

 

【残り45人】



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1日目(2)

 初音えりかは錯乱していた。

 

 彼女は幼い頃にテレビでプログラム優勝者の狂気に溢れた顔を観て底知れぬ恐怖を覚え、更に小学4年生にプログラムというものの存在を教わってから今までずっとプログラムに対して人並み以上の恐怖を覚えながら過ごしてきた。たまにテレビでプログラム優勝者の放送があったときはその晩は全く眠れないほどだった。

 

 そして運悪く恐れていたプログラムへと参加させられ、彼女の精神は最悪な状態だった。燈導に銃を向けられたことである程度冷静さを取り戻してはいたものの、首から剣を生やした深月がまたも運の悪いことにこちらに向かって倒れてきたことによってもう殆ど冷静な判断は出来なくなっていた。彼女は自分の出発する番が来ると兵士からデイパックと荷物をひったくり、走って分校を出て行った。真っ暗な廊下で転んで膝から血が流れていたがそれを気にする様子もなく無我夢中で走った。

 

 

 なんで?なんで私がプログラムに?なんで?なんで?

 

 

 走っている間彼女の頭の中ではこの言葉がぐるぐると回っていた。まだ殆ど現実を受け入れられていなかったのだ。永遠に続くかとも思えた廊下を抜け、それでも彼女は走る勢いを緩めなかった。兎に角ここから遠くへと離れなければならないという強迫観念に襲われていたのだ。

 

 そして彼女の3つ目の不運は、つい2分前に七光やよいが逃げ込んだ林の茂みと同じ方向へ逃げたことだった。

 

 茂みの向こう側に月明かりに照らされた徳河の満面の笑みと、明かりを反射して鈍く輝く斧の刃をを見つけ、またも悲鳴をあげた。喉の奥から鉄の味が感じられたが悲鳴をあげるのは止めなかった。いや、止められなかったのだ。プログラムに感じている言いようのない恐怖と同じかそれ以上の恐怖を感じ、遂に狂気に陥った彼女はもうただ悲鳴をあげることしか出来なかった。

 

 徳河は満面の笑みを浮かべたまま茂みに向かって斧を一閃した。茂みから血飛沫が上がり何かがどさりと落ちる音がした後、彼女はやっと現実に気が付いた。これは夢でも幻影でも無い。最も恐ろしく、最も救いようの無い、現実なんだ。

 

 七光を殺害した徳河がゆっくりとこちらに近づいてきた時には、彼女はもう悲鳴をあげるのを止めていた。その代わりに死んだ目をして地面に座り込み、小刻みに震えていた。そんな初音を徳河はつまらなさそうに見下ろし、棒読みで挑発したが、初音はただ震えるだけだった。

「武器取り出せよ。あくしろよ」

 そんな彼女に徳河はまたも挑発とも取れる言葉をかけた。彼女はその言葉にハッとし、慌ててデイパックの中を引っ掻き回し始めた。中にあったものは燈導が言っていた水と食料や地図とコンパス、クラスの名簿、時計、懐中電灯、その他に見つかったのは一本の歯ブラシだった。

 

 

 

 武器はどこ?武器は?早く出てきてよ。早く出てきてくれないとあいつに殺される。どこ?どこ!?武器!?どこにあるの!?どこ!?武器!?

 

 

 

 またも現実を受け入れられなくなっている彼女が歯ブラシを握り締めたままいつまでたってもデイパック中を荒らしている姿を満足そうに眺めた徳河だが、しばらく経つとだんだんと張り付いていた笑顔が歪んできた。そして遂に徳河は七光の血がまだべっとりと付いている斧を振り上げた。

「パパパッと殺って、終わりっ!」

 そう呟くと、徳河はまたも何の躊躇いもなく斧を彼女の頭部に振り下ろした。初音の頭部は真夏の砂浜に置かれたスイカが棒で叩き割られるようにバックリと割れた。さらに彼は何度も斧を振り下ろし、初音の頭だったものはグチャグチャになってもう誰だったかが判別できないほどになっていた。近くにあったデイパックと初音の荷物も血塗れになっていて使い物にならなくなってしまっていた。

 辺りは教室より濃い血の臭いに溢れていた。2人の返り血を浴びた彼と2人の血を吸った斧は、月の光に照らされて妖しい雰囲気を纏っていた。

 

 そして彼は満足そうに頷いた後、七光のデイパックから食料と水を取り出してこの場を去っていった。

 

 

 

 

・00時28分  葉山 まりあ (3年2組 32番) が プログラムに参加。

 

・00時29分  初音 えりか 徳河 瑠々家 によって 斧 で 斬殺 された。 

 

 

【残り45人】



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