城の中の吸血姫 (ノスタルジー)
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なるほど。この身は吸血鬼か。
城の中の少女


初めまして。ノスタルジーと申します。前書きって何書けばいいんでしょうかね。昨日の夜思いついたものなんで前書きまで考えてませんでした。

ユーザーページ?のほうで自己紹介とかすると思います。


 転生。または憑依。現状を端的に表せばどちらかになるだろう。50秒前に目が覚め、20秒前にこの体が自分のものではないと認識した。同時に自分のものだとも認識した。この女性というより少女というべき体を。自身の記憶ではこの体は日本人男性であるはずなのだ。しかし自分の意思で動くこの体の目を下におろせば胸元に赤いリボン、黒いドレス、小さな手足。声をあげれば高く美しい声。明らかに女。体の大きさからして少女。TS転生。またはTS憑依。20秒前、目が覚めてから30秒でこの判断を行った自身の冷静さを褒めてやりたい。もともと冷静で落ち着きのある人だとは言われていたし、そう自己評価もしていたが、こんな状況でも落ち着いていられるとは。

 しかし何故自分がこんな状況に陥っているのかが全く分からない。前の体はどうした。死んだのか。記憶にないが。普通に普通の健康体で普通に普通の生活をしていたはずだ。事故か。神なぞ信じてはいなかったが、こうなっては神がいるのではないかと思ってしまいそうだ。会っても見てもないが。

 

 まぁいい。今大事なことはここはどこで、この身はだれか。そしてこれからどうするか。この三つだろう。情報を集めることが先決。そう自身に言い聞かせ、前を見据える。斜め下に段差。続く赤い絨毯。前方。少し遠くに大きな扉。後ろにはステンドガラスと差し込む光。自身が座っている高級そうな椅子の背もたれ。左右を見れば壁といくつかの扉。

 城。城か。日本人がイメージするようなThe お城。西洋風。するとこの体は王女か姫なのか。どう違うのだったか。どちらにせよかなり高い身分のお嬢様か。この体は。となると世話をする人間がいると思うのだが。

「誰か。誰かいないか。」

 美しい声が響く。出来るだけ偉そうに声を発してみる。しかし何も反応がないと非常に虚しい。この城には誰もいないのだろうか。たしかに人の気配はしないが。

「動くか。」

 そう自分に対して言葉を発し、立ち上がる。目線が低い。身長は150と少しといったところか。中学生。それくらいの年齢だろうと推測し、歩きだす。立ち止まる。どうするか。扉がいくつかあるのだ。どこに行くべきか。この身は一つ。なら行ける場所も一つ。どこを目指すべきかと考える。情報を集めるなら人のいるところか、メディアがあるところ。しかしここには人がいるかわからない。すると後者。ここが城ということを考えれば書庫や書斎になるか。パソコンは、期待できそうにない。どう見ても現代に建てられたものではない。では書庫やら書斎はどこにあるのか。わからない。そもそも西洋の城など行ったこともないし、見たことさえない。どこになにがあるかなど知るわけがない。考えてわからないなら勘でいくしかないか。仕方ない。右の一番近い扉に向かい、開ける。

 

 廊下だった。それもそうかと一人ごちて、また考える。右か左か。右には下階への階段。左は廊下が続く。右。何となくそう感じ階段へ。下りる。階段を下りているとき先ほどの部屋から外を見ればよかった。と後悔。しかし今更戻るのは面倒なので後で戻ればいいじゃないか。と自分を説得。階段を下りると目の前には廊下。少し歩くと左に大きな扉。さっきの部屋の下か。そういえばあそこは玉座の間、とでもいうのだろうか。おそらくそうだと思うが。それも今はいいか。とりあえずあそこは玉座の間(暫定)。今はここだ。こんな巨大な扉の先にいったい何があるのか。まぁそんな疑問の答えは実際見れば分かるのだからと両手を扉に添え、押す。軽い。軽すぎる。こんな細腕でこんなにも楽に開くとは思わなかった。驚きながら扉の開いた先を、見る。

 

 書庫。図書館。どちらが正しいのか、どう違うのかは知らないが言葉の響きがいいので書庫にする。馬鹿みたいな量の本が、これまた馬鹿みたいな量の本棚に立っている。それはまだいい。量が多すぎる気もするが書庫なのだから本が大量にあってしかるべきだ。しかし。何だあれは。私の名前は魔法球というのが適切ですよという感じの、球は。

 何故薄く光って浮かんでいるのか。それも何個も。魔法。魔法ではないのか。いや魔法であってほしい。SFよりファンタジー派なのだ。柄にもなく興奮しているなとキャラ通り冷静に自信を分析し、球を見る。触ってみるか。大丈夫な気がする。感覚的にそう感じるし、まさか書庫に危険物はないだろうと理性も考える。

 

 一番低く浮かぶ球に、触れる。パソコンが立ち上がる時のような変な音がしてその丸い体に文字が浮かぶ。search。その下に長方形。この書庫の検索機能なのか。SFに近づいた気がする。何故だ。いやいや落ち着け。調べてみればいいではないか。その長方形に魔法といれて検索をかければわかることだ。本当に魔法のある世界なら何かしら出てくるだろう。そうだな。しかしどうやって。使い方がわからない。と頭の中で一人芝居。どうやって使うんだろうか、この球。もう一度触って見ても反応がない。ならば音声か。

「検索。魔法。」

 球からまた変な音がして、長方形の中に魔法と出る。成功。光のパターンが変わる。すると本棚に並ぶ本がいくつも光りだす。その一つの前に立ってみると、『魔法と精霊について』とあった。そして魔法と書かれた部分が赤く光っている。別の本を見る。『魔法の属性と特性』。これも魔法の部分が赤く光っている。おそらく検索の結果だろう。検索ワードの部分が赤く光るようだ。本そのものはただ光っている。心臓は速く動いている。

 

 ふと光っていないものを見れば『旧世界地理』。

 

 旧世界とは何だ。気になったので手に取り中を開く。世界地図があった。普通の。これまで見てきたものだと思う。ただ国がおかしい。たとえば中国がない。中国があるはずの場所には明とある。ヨーロッパも明らかに国がおかしい。知らない国があったり、あるはずの国がなかったりしている。古い。歴史に詳しいわけではないから具体的な年はわからないがおそらくこの地図は1500年前後のものだろう。だが今は。今は何年だ。地図からして少なくともここは完全なる異世界というわけではないようだ。パラレルワールドとかそういうものだろう。魔法のある。

 どうするか。何を調べるべきなのか。魔法があるとわかって上がったテンションを急降下。冷静に。冷静に考える。魔法か。時代か。この体か。この場所か。それとも「旧」世界か。いや、なんにせよ全て知るべきことだろう。ならば手当り次第に。そう決意し先ほどとは別の魔法球に、触れた。




はい。後書きって何書けばいいんでしょうかね。
次回に見送りでお願いします。


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魔法と少女

いやいやほんとにどうしよう。
この次くらいがそろそろ分岐点。

あ、ギャグセンスとかないですよ。
大阪人ですけど。


 魔法。とりあえず魔法について簡単にだが調べた。この世界に魔法があるということはもはや疑う余地はない。問題は使えるか。それは、まだ試していない。これで使えなければ肩すかしもいいところだ。そうなら恨む。と現在信じる信じないの中間点に存在する神に頭の中で言う。魔法から調べた理由は簡単。興味。それだけ。どうせ全て調べるなら一緒ではないか。なら最初は魔法がいい。というだけでしかない。だが魔法は、興味深かった。

 

 魔法世界、というのがあるらしい。魔法世界。つまりこの世界には旧世界と魔法世界の少なくとも二つの世界があるということだろう。ここがどちらかというのは現状では謎。ふと片方が旧世界ならもう片方は新世界ではないのかと思ったが、そんなものどちらでもいいか。どちらでも変わらない。そう。ここで重要なのは、自分が魔法を使えるのかという一点に、尽きるのだから。

 

 検索をかけてみた。魔法、初級。教科書のような本を捜索。巨大な書庫をわたり歩き、目当てのものをピックアップする。馬鹿みたいな大きさと量があるんだから転送魔法くらい実装しろ球。文句を言いながらも数分歩き、数冊の本を手に。『魔法大全~初級編~』『初級魔法』『初めての魔法 初級1』『初めての魔法 初級2』『子どものための初級魔法』。『初級攻撃魔法』。こんなところか。まだほかにもあったが、何も知識がない今は必要なさそうだった。魔法と検索した時は書庫がまぶしいくらいに光ったのだが。初級は少しピンポイントだったかとは思ったが他にいい言葉が思いつかなかった。仕方ない。

 集めた本から少し薄めの本を手に取る。『子どものための初級魔法』。最初の二つは分厚すぎる。専門書か。『初めての魔法』は2冊。読むのが面倒。初めは攻撃魔法でないほうがいい。早く魔法を使いたいのだ。これでいい。と言い聞かせ『子どものための初級魔法』を、開く。

 

 魔法を使うために必要なのは「魔力」と「術式」、それと「呪文」。あと初めに「始動キー」というものを考えるのが普通らしい。「始動キー」。「始動キー」という言葉は聞いた覚えがあるようなという程度だった。だが一番最初に書かれていた呪文。プラクテ・ビギ・ナル“火よ灯れ”。これは何となく覚えている。「ネギま」。旧世界。そして魔法世界。正直二つの世界の名前を見てから怪しんでいたが。

「ネギま」。そう「ネギま」だ。マンガは全部読んだはずだ。だが困ったことにネギまの話はそんなに覚えていない。

 2000年くらいに主人公ネギ、十歳くらい、が麻帆良学園に教師として行く。

 その600年前にエヴァンジェリンなんとかという金髪の少女が吸血鬼に。

 原作開始後は京都で鬼が出て、その後は時間操作能力者と戦う学園祭。

 その後は魔法世界に行って、戦って、ハッピーエンド。

 かなり大まかには覚えている。あとは主要登場人物数人の名前と顔、用語、イベントを数個。

 ふむ。こんなところか。まぁ深く記憶を探るのは後にして確認。この世界は「ネギま」の世界。そしてこの身は「ネギま」の世界の人物であり、自分はそれに転生だか憑依だかをした。何故か。

 

 現状認識。これからどうするかが少し考えやすくなったと言えるのか。微妙なところ。ここが100%「ネギま」の世界なのかはわからないし、自分の存在が原作に与える影響もわからない。そもそもそんなに覚えていないが。まぁいい。どうせ後で今の時代を調べないといけないのだ。今がいつかによって時間的猶予が変わる。まさか始まっているということはあるまい。あの地図もあったのだし。なら今は、目先の興味を。

 

 少し緊張する。本を地べたに置き、手を止める。杖がない。魔法には基本的に魔法発動体というものがいりますよとついさっき優しく教えてもらったのに。忘れていた。例外は例えば精霊に近い種族。彼らは魔法の運用に魔法発動体は不必要らしい。もちろん人間には必要だ。しっかりと確認などしていないがこの体は人間だろう。手も足も胴も人間と何も変わらない。前と比べて細く小さいが。どう見ても人間。これで顔が悪魔だったら驚きだ。いや自分を驚かせたら大したもんだ。最初の冷静さを見てみればいい。と自分でもよくわからない考えが浮かぶ。消す。さすがに混乱しているようだ。どうするか。探すか。ほかのことを先に調べるか。考える。しかしさっきまで完全にこの頭の中は魔法一色だったのだ。ならば、初志貫徹。

 

 今。魔法を使うのが目標。ならアイテムが必要。だが無い。なら探すか。この城をか。それは面倒だ。いつかは城を一回りするだろうがそれは今ではない。自分のなかでは。とりあえず一回唱えてみるか。淡い期待。別にこの身が人間でなくても構わない。人型なのだ。何か問題があったら変化の魔術でも覚えればいいではないか。使えるかしらんが。そうだ。やってみろ。人間だったら発動しないだけだ。城が吹き飛ぶわけではなかろう。よし。気合を入れて。手を斜め前に。人差し指を立てる。

「プラクテ・ビギ・ナル“火よ灯れ”」

 フランベか。冷静だ。頭より上に指を掲げていてよかった。しかし思ったより激しい火だった。いや何も起こらないという予想が本命だったのだが。対抗馬が勝利した。いや大穴か。

 

 魔法だ。魔法。己は魔法使いだ。口にすればこんなに頭が悪そうな言葉はない。しかし今ではそれは真実。魔法を使える人間は魔法使いだろう。必要十分だ。あぁ。人間ではないか。この身は。しかしそうすると何だ。人間のような見た目の種族。獣人か。尻尾も髪の毛以外の毛もないが。エルフか。そんな種族「ネギま」にいたか。まさか本当に悪魔か。どんな顔だ。悪魔とは。こんなに大きな書庫を持っているのだ。ダンダリアンだか何とかいう悪魔か。これも「ネギま」にいるのかは知らんが。吸血鬼か。「ネギま」に存在するし、可能性は高いか。

 しかし種族の判別などどうすればいいのか、わからない。とりあえず耳を触る。普通。猫耳でもなければ尖ってもいない。なら悪魔か吸血鬼なのか。いいのかそれは。自分はいいが。世間的に。世間は今のところ無いが。認識上は。悪魔か吸血鬼か、そのどちらでもないのか。どうするか。考える。吸血鬼か判断するには外に出てみるか。灰になってみる。自殺。いや「ネギま」では灰にならないのだったか。そもそも玉座の間で光に当たっていたな。そういえば。吸血鬼かどうかは保留。同じく悪魔もどうやって判断すればいいか。不明。ならせっかく書庫にいるのだ。何か本で調べてみるか。

 

 しかし何と検索すればいいか。まさかこの身の種族はと検索して答えが出てくるとは思えない。いやでもさっきも予想を裏切られたな。なら今回も。ありえるのか。うん。よし。タッチ。

「検索。この身の種族。」

 無音。まぁ予想通りか。そんなひと、いや、一体の生物に関する本などそうそうない。有ったら自伝とかか。この少女に。そんな馬鹿な。無い。予想通り。では次は可能性の高そうな吸血鬼にするとしようか。

 触れる。

「検索。吸血鬼。」

 有音。そんな言葉あるのか知らんが。本が光る。あまり明るくない。楽でいいかと喜び、本を取って回る。その内の一冊。『吸血鬼について』。シンプルなタイトル。わかりやすくていい。中を見る。じっくり読む。なるほど。

 

 この身は吸血鬼か。

 

 




目が痛し。起きて昼食べて一話書いて。休んで二話書いて。

明日は昼は遊ぶんだからね。昼は書かないんだからね。


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吸血鬼の少女

三話目。すごく頑張ってます。褒めます自分。




 『吸血鬼について』。わかりやすい本だ。好評価。しかしこの身は吸血鬼なのか。なるほど。人間のような外見。媒介なしで魔法が使える。巨大な扉を開ける腕力。納得の結果だ。だが驚いた。これほど書いてあることがピンポイントに合致するとは。まさに見てきたように正確。とはいえ吸血鬼か。吸血鬼。正しくは、「始祖の吸血鬼」というらしい。

 知らなかった。そんなものがあったのか。「ネギま」。いやおそらくなかったが。作中で出た吸血鬼はただ一体、エヴァンジェリン何とかだけだったはずだ。そして彼女は、「真祖の吸血鬼」。「始祖」なぞいなかったはず。なら「ネギま」ではないのか。もしかして。だが魔法世界と旧世界、火よ灯れという魔法は「ネギま」だったはずだとも記憶は言っている。となれば「ネギま」と何かの混合。そうなのか。しかし「始祖の吸血鬼」とやらが出てきた作品は知らない。となると、どういうことだ。知らないだけのか。いや。まぁいい。それも。今は保留。

 

 とりあえずこの本で得た情報。吸血鬼は三種類。眷属。真祖。そして始祖。強さ、魔力量、不死性。どれをとってもこの順に、どうなのかは考える必要などないだろう。

 眷属は吸血鬼に噛まれ、血を吸われ、吸血鬼化の魔法をかけられることで吸血鬼となった者。そもそも血を吸われることが吸血鬼化、いや眷属化とイコールではないらしい。必要条件。噛まれた者を眷属にするのは、最後のステップ。眷属化の魔法。吸血鬼は吸った血を媒介に術式を組み、それを相手にかけることで眷属とするそうだ。つまりやることは蚊だ。その凶悪版。

 次に真祖。真祖は魔法によって吸血鬼となった者。エヴァンジェリンは確か知り合いか誰かに魔法をかけられ、吸血鬼となったはず。この真祖の定義は「ネギま」通りだと思われる。眷属は知らんが。また、この真祖化の魔法はかなり不安定で不完全。かけられた人間が吸血鬼となるかは運次第。おかげで禁術指定。失敗したら死。かけられた側が。成功してもおそらく死。かけた側が。普通殺されるだろう。その場で。

 最後に始祖。これは人工に対する自然。自然に生まれた吸血鬼。真祖を養殖とするなら、始祖は天然。普通は天然のほうがうまいし強い。それだけ。始祖は一体しか存在せず、その一体が死ねば次が生まれる。始祖も死ぬのだ。始祖が人間やほかの生物に危険な目に合わされることは、まずありえないらしい。始祖が死ぬとすれば自殺。永遠を生きるはずの始祖もその永遠に耐えられないということなのか。暇に耐えられず自ら命を絶つと理解する。そもそも本物が存在しているから偽物を作ることができるという考え方もあるのだ。なら元々いたのか。「ネギま」に始祖。謎。

 

 そして何故この身が吸血鬼、それも始祖とわかったか。それはこの記述による。「始祖は代替わりの際、自らの所有物を引き継ぐ。私も先代の城を引き継ぎ、そこに魔法図書館を建てた。そしてこの図書館もいつか次の始祖に引き継がれるのであろう。」という記述。

 吸血鬼だった。作者。見てきたのか。実際。

 ほかにもこの身が始祖であるというのを裏付けるような記述があった。気付けば玉座に座っていたとか。まず間違いはないだろう。ピンポイント。始祖か。

 ふむ。それはそうと、三代目なのか。自分は。作者が何代目だとかは書いていなかった。自分が何代目かは謎。また、本を読む限りどうも作者も現代人の意識があったようだ。城のトイレが前世に比べて少し古いくらいだったのはこれが理由なのか。

 

 これでこの身が何者かという疑問はひとまず解決。この身は、始祖の吸血鬼。残る疑問はここはどこか、今がいつか。どんな世界かを正確に。あとは魔法を。もっと派手なやつ。よし。そうと決まればすぐに終わりそうなものから手を付ける。いつだ。今は。アバウトでもいい。再び魔法球に触れる。有音。

 

 情報の確認。今は大体1400年。地図を見たときの予想と百年違う。明のせいだ。歴史が長い。時代を知るために歴史が書かれた本を探した。だか1300年代後半までしか書かれていない本ばかりだった。今がはっきり何年だと明記している本などまずないだろう。本とはそういうものだ。情報が遅れる。普通は明記などできない。

 それはそうと時代と関係はないが重大なことに気が付いた。この書庫にある本、作者がほぼ全て同じ。またお前か。吸血鬼。尊敬。

 1400年くらい。原作までおそらく600年程。600年。どうすればいい。先ほどまでの余裕は何処。時間的余裕がとか言っていたはずだ。いやメインとなるストーリーには余裕だが。予想外。何も考えてなかった。どうする。もうすぐ真祖化だ。エヴァンジェリンの。どうする。無視か。介入か。いやそもそも本当に「ネギま」と認識していいのだろうか。この世界。先ほど保留した疑問が浮上する。結局どうなのか。記憶違いではないか。不明。なら仮定。ここが「ネギま」だとしたらどうか。介入するしないは別にして吸血鬼化まで時間はない。すぐにこの疑問に答えを出さねば。ループ。ならもし「ネギま」でないならどうか。現状認識と魔法の練習くらいしかやることがない。いや待て。そうか。なら行ってみればいい。イベント会場。おそらくヨーロッパだろう。場所は。行って何もなければ「ネギま」でない。吸血鬼化があれば「ネギま」。わかりやすい。好みだ。

 

 そのために必要なことを頭のなかで組み立てる。何が必要か。行くための手段と自己防衛の力。

 そう結論づけ、行動を、開始する。

 

 




あれ。なんだこの展開。始祖ってなんですか。
わかりません。

あとこの主人公名前なんですか。
わかりません。


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吸血鬼と吸血鬼

四話目。ノスタルジーが考えるこの主人公。名前はまだない。

大人で子ども。
思慮深い馬鹿。
石橋は築年数を確認。専用の装置で調べようとしたりはするが、結局走って渡る。


 ヨーロッパに向かう。決定。だがここはどこだ。ヨーロッパ。可能性はある。それならいいが。飛行機などないこの時代。ヨーロッパでなかったら。どうする。魔法世界なら。どうする。魔法か。飛行魔法。転移魔法。使えないが。だが原作では転移魔法をエヴァンジェリンが使っていたはず。影の扉だか闇の扉だかを。名前はいい。何でも。何にせよ真祖が使えるのだ。始祖が使えないという道理はない。記述が真実であるならこの身は真祖より優れた始祖。使えるさ。なら練習するか。今から。時間はあるのか。いや。待て。そもそも吸血鬼化に遭遇しなくても、真祖化したエヴァンジェリンに遭遇すればいいのではないのか。なら急がなくてもいいのか。保留。

 

 まぁここがどこかを確認する必要があるのだ。どちらにせよ。外に出るか。出来るだけ上に上がって外を見るか。ふむ。外は危険かもしれない。もしかしたら魔法世界かもしれないのだ。どんな生き物が城の周りにいるかわからない。生まれてこの方、そんな危険な場所に飛び込ませる体など持ってはいない。なら上に上がるのが適当。書庫、製作者が何と言おうとも、の入り口。身長の二倍は超えるであろう巨大な扉に、手を。押す。軽い。そうか。この身は、吸血鬼だったか。

 

 書庫を出て階段へ。上に。上に。階段が終わった。しかし目の前には冷たそうな螺旋階段。それ以外は右手に扉が一つ。ルーチンワークのように、開ける。簡素なベッドと机。何の部屋だ。使用人用といった感じがするが。置いておく。どうせ使わないだろう。お嬢様だ。螺旋階段を上る。カン、カン、カンと白く細い足の動きに合わせて音が鳴る。どうも塔のようなところのようだ。階段の終わり。フラットなスペースに着き、ガラス越しの景色を見る。

 目に入ったのは、樹。正確にはその幹。なるほど。

 

 世界樹。自然と頭がここが「ネギま」の世界である可能性を上げる。やはりここは「ネギま」か。疑問が確信へ向かって走る。しかし一歩前で、立ち止まる。まだ確定ではない。冷静に。謎が残る。「始祖」。これがただ世界に挟まっただけの存在か。それとも混合世界の結晶か。前者を。心の底から前者を所望す。後者は「ネギま」以外の不確定要素が多い。全くわからない未来より、少しでもわかる未来がいい。前者、そう望んで、見上げる。大きな樹が、小さな体を見下ろした。

 

 廊下を歩く。これだけ情報あればここは少なくとも「ネギま」ベースの世界であると判断してもいい。と思う。であれば、ここが日本の麻帆良である可能性は高い。となると、最後にその確認のため。証拠。いや証人の捜索。ならこれから考えるべきはどうやってヨーロッパに行くか。これだ。今ヨーロッパまでの飛行機などないだろう。なら魔法を学ぶしかない。ヨーロッパに行ってからのエヴァンジェリンの捜索、自衛。魔法はこの両方にも役立つだろう。書庫の扉の前で足を止める。

 体に電流。罠か。先代たちが仕掛けた。否。なら攻撃を受けた。いや違う。これは情報。本能の流す、血の流す。

 

 生まれた。その因子を持つもの。

 

 集中すれば遠くにその存在を本能的に感じる。捜索用の魔法を習得する手間が省けたと嬉しがる心を認識。確かに派手さなどないだろうなそんなものにはと論理的に分析。

 扉。開ける。体がおかしいことは、しかと認識していた。

 

 考える。真祖の吸血鬼の反応。始祖の能力か。書いておけ。先代(暫定)。名前は知っているが顔は知らない優秀なパイオニアを批判。会いに行く。いや。待て。そもそも会ってどうする。「ネギま」と思わしきこの世界。そしてこの時代に真祖の吸血鬼が生まれたのだ。エヴァンジェリンだろう。どう考えても。ならばこの体が感じる繋がりこそ、ここが「ネギま」であると裏付けるものになるのでは。と楽な道をちらと見る。行く必要があるのか。無いだろう。踏み出す一歩は怠惰。それに考えてもみろ。自分は始祖。向こうは真祖。いうなれば親と子。兄、いや姉か今は。何でもいい。姉と妹のようなものだ。この関係性は。なら向こうが来るべきではないか。挨拶に。そうだ。待つか。向こうがこちらの存在をわかるのかは知らんが。まぁそれまでゆっくり魔法を学ぼうか。向こうが来なかったら、しかたない。その時は、その時。深く沈みかけている意識の頭を押さえつけ、溺死させる。まぁその場合は、こちらから出向くとしようか。アーメン。

 

 そういえば。エヴァンジェリンは10歳くらいだったな。自分は、生後半日くらいか。姉。ふむ。エヴァンジェリンは自分がいつから生きているかなどわかるまい。300。いや。400にするか。




短いです。2500字前後を目安に書いていたんですが。
次こそは。

進展遅し。

名前未定。


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これからと吸血鬼

五話目。初めて感想いただきました。うれしい。

ノスタルジーの口調?が「城」の主人公に似ているのは異様です。間違えた。仕様です。
実は主人公がこれを書いてるという設定とかはありません。意味とかもありません。
もしうざかったら言ってください。笑。
こんな書き方しませんから(笑)

四話少し改定しました。一、二、三も投稿してから改定しましたが。数文字です。四話は比べて激しめ。話は一緒です。数文増えました。


 魔法の研究をしよう。頭の中で小さな私が大喜び。最初に読んだ本を、思い出す。『子どものための初級魔法』。地べたに置きっぱなしではないか。おいおいおい、誰だいったい。だらしのない人間もいるものだとはしゃぐ、吸血鬼。

 それによれば魔法とは術式を描き、呪文を唱え、魔力を発し、発動体を使って魔力を大気中の精霊に与え、与えた魔力をほとんど使わせ、その術式通りに魔法を表してもらうというのが基本らしい。術式はプログラム。呪文はその説明書。魔力はエネルギー。つまり魔法を速く撃つには簡単なプログラムを組むか、わかりやすい説明書を用意するかどちらかかという推測。おそらく難しいとされる魔法は必要魔力量が多いか、プログラムや説明書が難解なのだろう。もしや人間だけでなく、精霊も躓くから難しいとされるのか。

 魔法の定義がこれなら日本のお札などのアイテムに頼るものは魔法とは違うのか。例外か応用か。ふむ。保留。

 そうか。精霊に片足だか半身だかを突っ込んでいる吸血鬼が自らの体だけで魔法を放てるのはこの基本故ということか。理解。また精霊が与えた魔力を全て魔法の発動に使わないのは、ずばり賃金。魔法使いがもし瀕死でも。取っていくのだろう。鬼畜。

 

「始動キー」は必ずしも必要というわけではない。「始動キー」とは魔法の発動をより円滑に行うためのもの。精霊に対する呼びかけ。これから魔法を使いたいのでちゃんと反応してねという意味らしい。つまり「始動キー」=「私の呪文を聞けー」。ここで大事なのはタイミング。いつ魔力を与えるか。理論上、一番多く反応が返ってくるときに魔力を与えるのがいい。上級の魔法使いはこれを省略しても魔法を発動できるが、省略しないほうが魔法の効果が高い。省略すると精霊が魔力を取りこぼし、十全な魔法が発動しないから。ほんの少し弱くなる。下手をすれば失敗。速さを取るか威力を取るか。適切な判断が必要だ、と。

 

 いやはや。素晴らしい本だ。わかりやすい。

 ふむ。作者。予想通り。

 

 ふと。現状。落ち着く。魔法の学習をするという方針。しかし原作はどうするか。結局、考えていなかった。魔法の習得といつか来るであろう真祖との接触を待つ以外、何をすればいいのだ。いったい。

 よし。これまでに分かったこと。現状確認。1400年くらい。「ネギま」であろう世界の世界樹の目の前。城。始祖の吸血鬼。真祖は海の向こう。主要なことはこれくらいか。これだけか。いや。他にもあった。色々。本当か。いやいやあったではないか。ふざけるなと頭の中の天邪鬼に鉄槌。で、どうするか。

 吸血鬼のこの身。600年後に来るであろう原作本編。その時まで生きてはいるだろう。自殺しない限り。暇死。他殺されない限り。先代(暫定)によると、これはまずないのだったか。ならば。退屈は人を殺す、か。気を付ける。頭の中で誓う。

 正直、原作に関しては大した興味がない。子ども先生。だから何か。こちとら始祖の吸血鬼だ。世界に一体だ。レア。女子中学生。だから何か。この体もそれくらいだ。顔は知らんが。そういえばどうなのか。まぁいいか今は。しかし男が女になったのだったか。おかしい。女になったのにテンプレートな展開にならないのだが。もしや意識までか。男。男。男。死ね。忘れた。のちにわかるか。保留。

 

 そういえば戦争があるのだった。あったのは覚えている。いつ、何故起こったのだったか。不明。ネギが10歳と仮定。少なくとも原作10年前。原因。知らん。登場人物。紅き翼。読み方はアルハブラだったか。何でもいい。ネギの父親。でかいの。日本人剣士。重力優男。タバコスーツ。タカミチ。あとはいたか。知らん。他。あぁ、母親がいたな。姫。王女だったか。違いは知らんと先も。敵陣営。白髪。似たようなやつ×数人。ローブ。創造主。最後のやつはラスボスだったと思うが。そもそも名前は創造主であっていたか。まぁいい。何でも。関係、ない。

 

 ふむ。戦争か。しかしここは麻帆良だろうからこれも関係はない。あれは魔法世界だ。それより重要なことがあるぞと赤いランプと警告音。麻帆良なら、学園が建つはず。いつ。知らん。だがここに住み続けるならほぼ確実に、何か起こる。まず間違いない。どうする。移住するか。この城は。放置。正直、城はどうでもいい。だが書庫は惜しい。情報は大事だと自分で言ったではないかと説教。どうする。考える。ここにいて問題があるのか。立ち退き要求。そもそも吸血鬼は迫害対象だったか。ならブルドーザーで城ごとプチっとされるのか。何台要るのか。ここにいるとまずいのではないか。この身は最強(未確認)とはいえ、出来る限り戦いは避けたい。魔法は使いたいが、戦闘がしたいわけではないのだ。血など流したくはない。痛い思いはしたくない。自分が一番大事なのだ、私は。

 いまのところ。この城を持つメリットは住居としての家。書庫。だけ。これなら学園が出来るまでか、学園関係の人間が現れるまで書庫の本を全て読破すればいいのでは。そして去る。完璧。自身の聡明さに驚きを隠せない、吸血鬼。

 

 意気揚々。順風満帆。

 魔法の知識も少しだが得た。これからの方針も決まった。魔法の知識を深めるのもいいが、この城の中をまだ巡っていなかったことに気づく。もしかしたらこの書庫より重要で、有用なものがあるかもしれない。それによってはここを手放すかどうかも変わるのでは。聡明な自分にも間違いがあったか。いやそもそもここにきてから間違いだらけかと、振り返る。消す。過去に縛られない少女。本を下に置き、立ち上がり、歩き出す。扉。何も、思わなかった。

 

 廊下を歩く。目に入った扉は、全て開ける。色々な部屋。その中に一つ。その今だ色のわからない目を引いた部屋。執務室というべきか。学校の校長室のような部屋という感想。味のある木製の机。

その上。本と。

 手紙。




オリ設定。いやオリ解釈ですか。いやいや。やってしまった。

次の六話まで話は思いついてます。
七話からはまた未定に。

あらすじをちゃんとしたものに変えたい。
適当すぎる。あれは。

名前。いやいっそのこと名前なしとか。そういう小説ありますし、ね。
タイトル「吸血鬼。名前はまだない。これからもない」。
いけるか。


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そうだな。お前は吸血鬼だ。
彼と吸血鬼


六話目。fateが出るかは次に持越し。
どんどん引き延ばします。

そういえばいつの間にかお気に入りが100件を超えていました。恐縮です。

今回、次回は今度こそ「彼」のお話です。
前はどっかで嘘つきました。
すいません。


 手紙。誰から、誰への。神から、私へのか。机に向かう。その足取りは廊下を歩く時より、重い。

 

 『君へ。』

 そう書かれただけの白い手紙。そっと本を、手に取る。深い緑色のカバーに幾何学模様と読めない文字。タイトルがない。何の本かはわからない。開けてみるか。開けた瞬間光って本の中に、とか。ないか。手紙と本のワンセット。どちらを先に調べるべきか。「君へ」、とあるのだ。私か、「君」は。不明。よし。手紙だ。自身の勘を信じ、本を置き、手紙を手に。「君へ」の文字は、黒いインクで書かれていた。

 

 『この手紙を読んでいる君はおそらく吸血鬼だ。突然にすまないね。しかし事実だと思うよ。君は、始祖の吸血鬼という何と言うべきか、格好よく言って始まりの吸血鬼といったところかな。そんな存在なんだ。けど何故そんなことがわかるのかと君は疑問を抱いているかもしれない。簡単に説明すれば、この城には私特製の結界を、手紙には封印をかけてあるんだ。ともに始祖以外をブロックするようなものさ。世界樹の魔力を使った結界は私自身が考えうる最も強固な、とっておきの結界だ。この手紙の封印も。そうやすやすと解かれたりしないという自負がある。吸血鬼としてのプライドもね。ならば、この手紙を読んでる君は始祖の吸血鬼というわけだ。そして気付いたと思うけど、私も吸血鬼なんだ。それも君と同じ始祖。かれこれ1000年は生きているよ。信じられないかい。まぁ今信じられなくても10年もすれば君も年を取らないことに気付くだろうけど。

 

 さて、まず君はこの城の玉座で目が覚めた。正解だろう。そしてその体に「成っていた」。これも正解。前世の記憶がある。正解。力が強いことや不思議な力を使えることには気付いているかな。これはさすがに私にもわからないね。試してみてくれ。一度この手紙を置いて、片手を上に掲げて、こう言うんだ。プラクテ・ビギ・ナル“火よ灯れ”。焦っているかな。ごめんよ。けど、大事なことなんだよ。君のためにも。それは魔法。おそらく前世では見たことがなかったんじゃないかな。マンガやアニメ以外ではね。また君は疑問を持ったかな。

 

 いや、少し遠回しだね。ごめんよ。やっぱりはっきり言うことにする。ずばり今まで私が書いたことは、全て私も経験したことなんだ。こんな手紙を読むこともね。私は私の先代が書いた手紙をここで読んだ。君は目覚めた後どうしたのかな。私はパニックになって、城を走りまわったんだけど。今思うと恥ずかしいな。ともあれ、そうしているときにこの部屋とこの手紙を見つけたんだ。本はなかったよ。それは私のオリジナルさ。ちゃんと後でその本についても話すから、少し待ってほしい。

 

 端的に言って、私と君は同じ意味の分からない、不思議な経験をしているんだ。そして私は始祖だった。なら君もそうだろうということさ。結界や封印とあわせて、完璧な理論だろう。理解してくれたかい。納得もできているかな。君は始祖の吸血鬼として生まれ変わったんだ。何故自分がと思うだろうね。実際、私もそう思った。これも同じだね。先輩として、後輩である君に答えを教えてあげたいところなんだけど、すまない。こればかりは私にもわからないんだ。

 

 お詫びと言っては何だが、私の知る限りの始祖の情報等について、この手紙とともにあった本に書き記してある。後で確認して欲しい。そしてこの城についてだが、ここは私の先代が建てたものでね。彼女は君にとっては先々代にあたる始祖だ。始祖は代替わりの際に所有物を引き継ぐんだよ。だからこの城はもう君のものだ。よかったね。けれど、先々代がこの城をくれたのなら、お前は何をくれるんだと君は思っているのかな。落ち着きたまえ。吸血鬼というは優雅であらねば、格好悪いよ。

 

 もちろん私からのプレゼントもある。その本だけじゃない。私から君には、図書館をあげよう。この城の玉座の間の下にある。元々はなかったんだが、改造して私が作ったんだ。あそこには私の書いた子どもたちがたくさんいる。大切にしてやってほしい。頼むよ後輩。

 

 私がこの手紙を書いたのは先代の真似事さ。伝統というやつかな。私はまだ二代目だけどね。私は初代のくれた手紙に救われた。あのままでは発狂して死んでしまいそうだったんだんだ。いや、そう簡単には死なないんだけどね。私たち始祖は。死ぬとしたら自殺ぐらいさ。初代は自殺した。退屈だから死ぬんだと。変わり者だったんだろうね、彼女。君も気をつけるんだよ。

 

 で、一応ここからが本題なんだ。何だろうかと戦々恐々なのかい。ダメダメ。もっと優雅に。大丈夫さ。そんなたいそうなものじゃないよ。安心するといい。まぁ自伝のようなものかな。君は気になっていないかい。

 

 私が何故死んだのか。』

 

 一枚目。黒いインクで書かれた文。

 二枚目。黒いインクで書かれた文。

 比べる。どちらの黒が濃いのだろうか。




「彼」は主人公じゃないですよ。
主人公は彼女です。

また短めです。


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過去と彼

七話目です。
本当はもっと長かったんですけど。分けて投稿することにしました。


また嘘つきました。
すみません。



 『自殺だよ。先々代と同じだ。安心するといい。私たち始祖を殺せるような存在なんてまずいないから。ただ、始祖は決して無敵ではないよ。始祖は力が強くて、治癒力が高くて、体が丈夫で、魔力が多いというだけのちっぽけな存在なんだから。これが1000年を生きた始祖の自己評価なんだと思うと面白いね。先々代がどう思っていたか、そしてこれから君がどう思うかはわからないけど。まぁ確かに始祖は強いよ。そもそもの身体スペックだけでもそこいらの魔法使いを圧倒出来る。魔力を使えばドラゴンだって拳で倒せるし、本気で戦えば一人で国だって落とせる。

 話が脱線してしまった。まぁ始祖に関しては本で調べてみてくれ。私の知るすべてを記してある。それで、私についての話だったね。自伝と言ったかな、さっきは。あれは格好つけただけで、正確には私の恥ずかしい黒歴史といったところだけど。ともかく聴いてくれ。先輩が自分語りをしようというんだ。後輩は黙って聞くものだろう。

 

 君もそうだったとは思うけど、目が覚めたら玉座にいてね。そこはどう見ても城だった。けど「私」が城にいるはずなんてない。「私」は普通の日本人のおじさんだよ。城にいて、ましてや玉座に座ってるなんてありえない。もし城にいるとしたら、ヨーロッパに来た日本人観光客としてしかない。普通驚いてパニックになるよね。誰かいませんか、Help meなんて言いながら、城を走りまわったんだ。身体スペックが高すぎて、コントロールが効かず壁にぶつかりまくっていたけど。笑うところだよ、ここは。で、そのまま城中を何周もして目に入る扉という扉をすべて開けてまわったんだ。人を探していたんだけど、誰もいなかった。何周もしているうちにだんだん落ち着いてきてね。それで気づいたんだけど、金髪なんだよね、私。前髪とか見えちゃってさ。もちろん「私」は金髪ではないよ。さっきも言ったけど、日本人の普通のおじさんなんだから、「私」は。黒髪だ。

 またパニックになって、次は鏡を探したんだ。一階の東側奥に風呂場があってね。そこの脱衣所で鏡を見つけた。鏡を見たら金髪のすっごいイケメンの外人が映っていたんだ。誰だこれって感じだった。けど、さすがに気づくよね。これが「私」だって。で、また走った。そしたらこの部屋と手紙を見つけたんだ。手紙があったらもちろん読むよね。君もこうやって読んでいるし。私が見つけた手紙にはこう書いてあった。「お前は吸血鬼だ。私と同じ始祖。私はこれから死ぬ。もはやこの世界は私にとって退屈だ。しかしお前にとっては違うだろう。生きてみろ、この世界で。なに、嫌だったら死ねばいいだけだろう。そうは思わんか。後輩よ」。1000年経った今でも覚えているけど、苛烈だよね、彼女。それで読み終わったら手紙が燃えるっていうサプライズ付き。絶対いらないよね。

 手紙のインパクトが強かったからか、なぜか落ち着いてね。そのあとは城をゆっくり探索した。そしたら大きな書庫があったからそこに入って、手当たり次第に本を読み漁った。それで魔法のこととか色々知ることができたんだ。さて、ここで一つクイズだ。情報を得た私が次に行ったことはなんでしょうか。

 答えは「外に出て、野生動物たちと戦闘」でした。何がしたかったのかといえば、身体スペックの確認だ。見たことのない動物がいっぱいで怖かったけど、今思えば向こうも怖がっていたようなんだよね。けど吸血鬼が突然襲い掛かってくるんだから当然かな。戦って、本を読んで、戦って、本を読んでっていう生活を3年くらい続けたんだ。何故魔法を学ばなかったかと言えば、彼女の影響さ。彼女は強力な魔法を使えるくせに、インファイターだったそうでね。書庫には彼女についての本もあって、そこに書いてあった。で、彼女に感化されて、私もって感じかな。

 とはいっても、もちろん魔法の勉強も始めたよ。あんまりうまくいかなかったけどね。後でわかったんだけど、私たち始祖のような強大すぎる魔力をもっていると下級魔法が使いづらいようなんだ。でも最初は普通簡単なのから練習するじゃない。だから上達は遅かった。

 戦闘と読書に魔法の勉強をルーチンとして加えて5年くらい経った頃に、ふと思ったんだ。強くなって、魔法を使えるようになって、どうするんだって。まずいと思った。この疑問は私を殺すって。だから私は生き甲斐を見つけるために旅に出ることにした。

 旅は楽しかったよ。見たことのないものがたくさんで。目に映るすべてが輝いて見えた。600年くらいは旅をしていた。人との交流もあった。私が吸血鬼だっていうのは隠していたけど、仲良くなった人には打ち明けるようにしていたんだ。前世については誰にも言わなかったけどね。私が吸血鬼だと知った時の反応は様々だった。逃げる人もいれば、気にしないと笑う人もいた。変わったところでは、自分も吸血鬼にしてくれなんて言う人もいたよ。してあげたけど。

 けれど、徐々にその輝きもくすんでいった。考えてもみてほしい。モノクロテレビが生まれた時の感動だけで、モノクロがカラーになった時の感動だけで、いったい何年生きていられるか。生きるのがどんどん楽しくなくなってきていた。だから何か新しいことを始めようとした。それでいったん城に帰って、今まで知ったことを本にしようと思ったんだ。本は好きだったしね。

 で、城に戻ってみたら知らない人たちが住んでいた。驚いたよ。けど、考えたら当然だった。そりゃそうだよね。だって城を出た頃の私は魔法がほとんど使えなかったから結界は張ってなかったし、この城には鍵なんてなかったんだから。つまり私は戸締りをしないまま600年家を放置していた。馬鹿だよね。

 住んでいたのは亜人の集団だった。話を聞くところによれば、彼らは故郷を他の種族、主に人間だけど、に追い出されたものたちの集まりとのことだった。100年ほど前にここに着いた彼らは城を見つけ、藁にもすがる思いで尋ねた。けど誰もいなかったし、行くところもなかったからということだったそうなんだ。私としては別段何も思わなかった。だから彼らにこういった。「ここは私の家だ。だから君たちを客人として招こう。だが私は吸血鬼なんだ。君たちは、吸血鬼とともに暮らせるかい」って。自分でもこれはどうかと思ったけど、彼らはそれでもこのまま住まわせてくれと言ってきた。私が吸血鬼ということに恐れを抱いていたのは見て分かった。けれど、ここを離れれば本当に行くところがなかったから仕方なくといった雰囲気だったな。

 そうして私と亜人達の共同生活が始まった。』

 

 二枚目。

 三枚目を見る。赤が見えた気がした。




次で。

あと感想、評価をまたいただきました。
ありがとうございます。


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彼女と彼

八話目。どうしてこうなった。

活動報告でも書きましたが。
fate出します。

まだですけどね。


 『最初の頃、彼らとの生活はあまりうまくいかなかった。予想はつくとは思うけど、私が吸血鬼だからという理由だった。吸血鬼は魔法世界で最強種の一角として名を馳せている。数はかなり少ない、といよりほぼいないね。吸血鬼は私たち始祖、真祖、眷属の三種類いるんだ。けど始祖は同時期には一体しか存在せず、真祖も私の知る限りではいない。眷属は私が眷属化させた一体のみだ。吸血鬼は人間だけじゃなくて亜人からも恐れられているからね。生まれてもすぐに排除される。君も気をつけるんだよ。吸血鬼が目の敵にされる理由は、血を吸うからとか強すぎるからだけではないんだ。多くの人にとってはそもそも「吸血鬼」という種族自体がダメなんだけど、これは今は置いておこうか。

 ともかく共同生活は困難を極めた。こちらが近づけばみんな逃げるし、話しかけてもほとんど答えてくれない。まぁそんな対応には旅で慣れていたから辛くはなかったよ。けれど、彼らのなかでも私と関わってくれる子がいた。その子は長寿を種族特性とした亜人でね。名をイリアといった。彼女は姉と共に故郷の村から追い出され、ここで暮らしていた。両親は村に住んでいる時に病気で亡くなっていたそうだ。彼らのなかではイリアはまだ恵まれた存在と言えた。家族を殺され、命からがら一人で逃げてきたという者もいたから。彼女の種族特性が長寿だったのが追放ですんだ大きな理由だろう。

 亜人は基本的に人間より高い能力とそれぞれの種族に合わせた種族特性というものを持っているんだ。種族特性というのは長寿や読心、獣化といったようなもの。吸血鬼の種族特性は不老不死、吸血になるのかな。ともかく、この種族特性というのが亜人が迫害を受けた最も大きな理由だ。自分たちより強くてその上に固有スキルまで持っている亜人は、人間にとっては恐怖を煽る存在だったんだね。それだけじゃなくて、亜人の中には血が薬になる種族や角が最高級の杖の材料になる種族なんかもいる。彼らは特に人間たちから狙われた。もともとは魔法世界は亜人しかいなかったそうなんだけど、どんどん人間が増えてきて、その数が逆転した場所も現れ始めた。特にそういうところは迫害がひどくね。城はそういう場所に近かったから、自然と彼らは城に集まった。

 それでイリアのことだったか。イリアは毎日のように私に話しかけてきてくれた。彼女がまだ幼かったというのが私を怖がらなかった理由だろう。その証拠に彼女の姉は、私を恐れていた。私は城にいる間、執筆を続けていた。イリアは遊んでくれとそれをよく邪魔しに来たものだ。

 イリアはその愛らしさから皆に愛されていた。だから、心配した人たちが私と関わるのはあまりよくないと何度も言っていたようだ。けど彼女はそれを聞かなかった。彼女はいつも私についてまわってね。そんな姿が可愛くて、私もついつい甘やかしてしまったよ。魔法が使いたいと言われれば、魔法を教え、かわいいペットが欲しいと言われれば、おこじょ妖精を捕まえてきて。

 私の城での生活は、彼女と共にあった。彼女は長寿だから歳をとるのが遅かった。彼女の種族は寿命が300年くらいで、当時の彼女は10歳くらい。まだまだ子供だった。変化もあった。どんどん年を経ていく毎に少しずつ、他のみんなとも関わるようになった。彼女が苦心してくれて。50年ほどして彼女が成人を迎えるころには、私も皆に受け入れられつつあった。

 ある時、彼女は私に言った。「ねぇ、カイロス。私も吸血鬼にしてくれない?」と。私は何故と彼女に聞いた。彼女は答えた。「あなたが好きだから、あなたを愛しているから。私もあなたと永遠を生きたい」と。私は迷った。私も彼女を愛していた。だからこそ彼女を吸血鬼にしていいのか分からなかった。不老不死なんて、吸血鬼なんてそんなにいいものじゃないと私は知っていたから。彼女と彼とは違うんだと自分に言い聞かせて、私は彼女の願いを断った。

 それからまた50年くらい経ったある日のことだ。あの日から何事もなかったかのように私と彼女は過ごしていた。皆も代替わりをして、彼らの子どもたちが元気に暮らしていた。すると急に体に電流が走ったような感じがした。何故かは本能で理解した。吸血鬼が生まれた。そして、場所は城のすぐ近くの森の中。私は急いでその場所へ向かった。

 そこには血だらけのイリアがいた。彼女の綺麗な金髪もその小さな体も、そして目の色までも赤くした彼女が。森の中で一人、佇んでいた。

 

 彼女は吸血鬼になっていた。もちろん私は彼女を吸血鬼になどしていないし、彼女に真祖化の魔法も教えていない。真祖化に関する本は封印をかけてあるから、彼女には読むことなんてできない。つまり誰かが彼女を吸血鬼にしたということだった。彼を疑ったが、彼ではない。彼の居場所はある程度だが把握しているし、そもそもそんな人物ではない。

すぐに疑問の答えなどでないと思った私は、いまだ茫然と立っている彼女に声をかけた。「カイロス。私、吸血鬼になったよ。あなたと同じだね」。彼女が私に言った言葉。その言葉は、無理やり私の耳に入ってきた。私は彼女にまた聞いた。何故と。彼女は答えた。「あなたが好きだから、あなたを愛しているから。私もあなたと永遠を生きたい」。

 私は何も言えなかった。』

 




私も自分で何がしたいかわかりません。

イリアはあのイリヤとは関係ないです。
名前も拝借したわけではないです。
偶々です。
本当です。


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最期と彼

九話目。今までで一番短いですが。
キリがいいところで。章区切り。

今回で手紙が終わりです。

感想、お気に入り、評価等ありがとうございます。
思ったよりも高く評価されたので、期待にそぐわないよう、これからの展開など考えました。
その結果。

やらかす気しかしません。


 『私と彼女は城を出た。いくらましになったとはいえ、吸血鬼に対する皆の目は良くはなかった。自分から吸血鬼になることを望んだ彼女が、そのまま城に居続けるのは難しいと私は考えた。だから二人で城を出た。彼女は何も言わなかった。

 二人旅。もはや一人では楽しめないものが、彼女と一緒なら楽しく思えた。城からほとんど出たことがなかった彼女。どこに行くにも、何をするにも、彼女の眼は輝いていた。そんな彼女を私は見ていた。疑問はあった。誰が彼女を吸血鬼にしたのか。けれど、それを彼女に聞いても、彼女は答えてくれなかった。

 ある時、彼女の記憶を覗いてみた。罪悪感はあったが、仕方ないと心の中で自分に言い聞かせた。だが始祖の私をもってしても、見ることは叶わなかった。術者本人のかけた強力な封印に加えて、真祖の魔力障壁を精神面に関して特化させる特殊な強化魔法が彼女にはかかっていた。二つを複雑に組み合わせて、彼女の記憶は守られていた。術式を見るに、私も知らないような古い魔法のようだった。私は諦めず、その魔法を解くために研究を始めた。しかし情報が少なく、研究はうまくいかなかった。アーティファクトや魔法薬、悪魔契約など様々なものを試してみたが、結果は惨敗だった。

 彼女との旅はそう長くは続かなかった。城を離れ、数十年したころに城に張っていた結界が解かれたことを感じた。城には魔力供給用の魔力のこもった宝石を大量に置いてきていた。300年は持つだろう計算だったし、彼らのなかには始祖の張った結界を解けるような人物なんていなかった。嫌な予感がした私はそれを彼女に話し、共に城に帰った。

 城の周りに張っていた結界は文字通り、跡形もなく消えていた。まるで私が最初の旅から帰ってきたときのようで、張り忘れたのかと疑ってしまうほどに何の痕跡もなかった。ただ、あの時とは違うことは城には誰もいなかったということだけだった。

 城はもぬけの殻だった。私と彼女は城を探索したが、誰もいなかった。そこで私たちは外の探索もすることにした。森に向かい、二手に分かれて人を探した。だが、私は誰も見つけられなかった。そして彼女さえも。

 彼女の存在は消えていた。吸血鬼のつながりも、旅の中で交わした契約のつながりも、何も彼女の存在を私には知らせてくれなかった。皆や彼女が、私が私の永遠に耐えられず見た幻でないと教えてくれたのは、懐にあった金色の、彼女が描かれたカードだけだった。

だが、彼女の姿以外そこにはいなかった。

 

 そのまま数年が経ったが、誰も戻ってこなかった。この数年がこの世界に生を受けてから最も色あせていた。そんな時、初代の手紙を思い出した。「嫌なら死ねばいいだけだろう。そうは思わんか。後輩」。そう思った。

 だから、私は死ぬことにした。

 

 城を旧世界、日本の麻帆良に移し、世界樹の魔力を使って城を結界で囲った。そしてこの手紙を書いた。すべては私の次、後輩のため。私は彼女のようになるために、しかし彼女のようにならないために。

 何もできなかった私。最期は吸血鬼らしく孤独に、そして最期くらいは格好よく。』

 

 手紙は燃えず、手の中に残った。手紙を丁寧に折りたたみ、本を手にした。そのまま部屋を出て、城の中を巡る。開けたまま放置されていた扉の先に目を向けつつ、歩く。一階、東側奥。鏡を見つけ、前に立つ。小さな体。綺麗な金髪。赤い目だけが、不自然に浮いていた。

 そうだな。お前は吸血鬼だ。

 

 書庫に向かい、その扉を開ける。地べたに座り込み、すぐに緑色のカバーの本を読み進める。始祖や真祖、精神魔法、古代魔法、真祖化を解く研究についてが書いてあった。読んだ後、また本を手にし、玉座の間へ向かう。

 玉座の間に着くと、そこには大きな椅子があった。私と彼が目覚めた場所。

 私はそこに座って、目を閉じた。

 




1500字くらいしかないです。
短いです。すみません。

調子に乗って書いたんですが。
二代目って要るんですかね。これから。
わかりません。


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確かに。私は吸血鬼だ。
真祖と吸血鬼


十話目。もう十ですか。文字数が少ないのであっと言う間。

久しぶりに書くと、主人公の口調がわからなく。
ヤバイ。

あと誰だ。こいつ。


 手紙を読んでから数十年。私は、その時間のほとんどを魔法の勉強に使っていた。先代の話から、中級魔法をメインに学んだ。どうも始祖は一度に発する魔力が多いため、消費魔力が少ない初級魔法が暴発してしまいやすいようだ。だから中級魔法から学んだ。しかし、始祖である私は魔法に対して優れた才能を持っていた。中級魔法でも少しの練習で容易に使える。まさに天才。本を次々読破。魔法を次々吸収。だが書庫にある魔法関係の本は量が多すぎて、読み切るには何年かかるか。不明。そして、確実に読み終えた本の数を増やしている私は、ここに彼女が近づくのを、感じた。

 城の外に出る。結界の存在を知覚。その境界。終わる一歩手前に、立った。目線の先。私より小さな体、私と似たような金髪、私と同じ赤い目をした、しかしその全てをボロボロした少女がそこにいた。

「あなたは、私と同じですか?」

 少女は泣きそうな声で私に問いかけた。問われた私は少女に問いかける。

 「君はどう思う。」

 少女は一呼吸おいて。問いに答えた。

 「私と同じ、吸血鬼だと思います。」

 同意見。私はあの本にあった魔法を発動し、結界を緩める。

 「ここは私の家だ。だから君を客人として招こう。私は吸血鬼だ。君は、吸血鬼とともに暮らせるかい。」

 「私も吸血鬼です。あなたは吸血鬼と一緒に暮らしてくれますか?」

 彼女の姿を見て、断ることはできなかった。

 私たちは、ともに暮らすことにした。私は、この世界で生きることにした。

 

 城には多くの部屋がある。彼女の住む部屋をともに決めた。部屋は簡素なベッドと机がある部屋。といっても住める部屋は全てそんなものだが。そこで二人で話をした。

 「あの、お名前を聞いてもいいですか?」

 「え。」

 「え?」

 困った。名前。名前を考えてなかった。どうする。名前がないとでも言うか。それか記憶喪失。いやおかしいだろう。どう考えても。どうする。唸れ、前世の記憶。良い名前があったろう。何でもいい。それっぽい名前。

 「あ、アイリス。」

 「アイリスさん、ですか。私はエヴァンジェリン・A・K・マクダヴェルと言います。」

 知ってる。

 「えっと。私、20年くらい前、目が覚めたら吸血鬼にされてて。それで、色々あって。吸血鬼になってからなんだか不思議な感じがしていたので、その感覚を頼りにここに来たんです。ごめんなさい。言いにくいことかもしれませんが、アイリスさんも誰かに吸血鬼にされたんですか?」

 なるほど。彼女は私も真祖だと思っているのか。これは彼女にはわからないのか。それとも自分とは違う、何か変な感覚でもあるのか。だがそれが何かは分かっていないだけなのか。ふむ。まぁ、隠すことでもあるまい。

 「いや。私は生まれた時から吸血鬼だ。始祖というらしい。君は真祖。始祖の方が上等だ。あぁ。ちなみに私はかれこれ、400年は生きている。」

 「始祖…ですか。そんな存在が。ならあの、アイリスさんは吸血鬼、いえ、真祖を人間に戻す方法を知りませんか!?」

 真祖を人間に戻す方法。あの本に書かれていたことの一つ。未完だが。真祖化の魔法はこれ以上ないくらい複雑な魔法らしい。先代も研究したが、真祖化の魔法は習得できなかったそうだ。それを解くものは言わずもがな。そして無視か。いや。構わないが。

 「真祖を人間に戻す方法か。すまないが、知らないな。」

 「そう…ですか。」

 彼女のテンションが目に見えて下がる。

 話題転換。

 「風呂。風呂に入ってくるといい。そんな余裕もなかったのではないか。」

 「あっすみません。私やっぱり臭いますか?お風呂とか全然入れなくて。ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」

 「一階の東側の奥に風呂場がある。ゆっくりするといい。私は待っている。」

 「はい、ありがとうございます。」

 そう言って彼女はゆっくりと部屋を出た。一人。考える。どうするか。彼女という存在は原作には必要だと思う。なら彼女は原作に送り出すべきなのか。ここは麻帆良。去ることを前提として過ごしてきた。だが、先代が城を移動させたということは私にもおそらく出来る。城とともに麻帆良を去ることも可能。私は麻帆良を去れば原作には関わらないで済む気がする。だが。彼女は。彼女はどうか。よくある修正力などというものはないのか。先代の話からは分からない。彼女が原作から逃れられないなら、ともにいては巻き込まれる。なら。

 

 いや。やめる。彼女を見た時、それは頭のなかにはなかった。なら、それでいい。もし原作に関わることになったら、降りかかる火の粉は払おう。今、私にはその力がある。それに、あとの時間でもっと盤石にすればいいではないか。そう自分に言い聞かせ、エヴァンジェリンの帰りを待った。

エヴァンジェリンが帰ってきた後、私は書庫に彼女を案内した。書庫の大きさに彼女は驚いていた。自由に使っていいと彼女に言い残し、その日を終えた。

 

 ある日。書庫。

 「あの、アイリスさん。真祖化についてなんですけど、真祖化についての本ってここにはないんですか?」

 「真祖化に関する本か。数冊あったと思うが。なかったか。」

 「いえ、あるにはあるんですけど。」

 そう言って、エヴァンジェリンは数冊の本を私の前に置いた。

 「真祖化の術式について詳しく書かれているものがなくて。」

 真祖化の術式。そういえば。ここには一冊もなかったか。真祖化に関しての本がここに無いのは不思議だが。先代が手紙とともに残した本には少し書いてあったな。そう思い、本の山からそれを取り出す。

 「これ。少しだが書いてある。」

 「ありがとうございます。」

 それぞれ、また目線を下に。日常。

 

 また、ある日。

 「アイリスさん。魔法を教えてくれませんか?」

 「魔法か。使えるのではなかったのか。」

 「少しは使えるんですけど、基本的なものばかりで。」

 「ふむ。まぁ構わない。外に出ようか。」

 日々の練習で私も下級魔法を扱えるようにはなっていた。さすが天才。コツさえ覚えれば簡単だった。初心者エヴァンジェリンは下級魔法と中級魔法を数個使えるようだった。真祖の魔力量ではきちんとやりさえすれば暴発はしないということか。

 そして、エヴァンジェリンに魔法のレクチャーをしている時。気づく。自身を鍛え、彼女を鍛えたところで、二人だ。戦力が少ない。これから、何があるかわからない。ならそれ相応の力を持つ必要がある。私たちは、吸血鬼。個々の力では最強。しかし、数が少ない。無敵ではないと先代も言っていた。ならもっと戦力を持ったほうが。いいのでは。どうするか。考える。原作ではエヴァンジェリンは従者を持っていた。しかし。強かったかと聞かれれば。

 ふむ。強い仲間が欲しい。そう結論付け、眉間にしわを寄せてうんうん唸る小さな影に、声を掛けた。

 




エヴァンジェリンです。
原作のような感じではありません。
仕様です。

いいですか。
わかりません。


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仲間と吸血鬼

十一話目。
たくさん感想をいただきました。ありがとうございます。

十話目のクオリティは私自身あまり納得していません。
エヴァンジェリンの登場とか会話とか特に。

そろそろ。
正直話にはいらないでしょうけど。
趣味ですね。完全。


 「え?仲間ですか?急にどうしたんですか?」

 答えは疑問調で返ってきた。確かに。魔法の練習をしている時に、「強い仲間が欲しい。どうすればいいと思う。」と言われれば。彼女は普通だ。おかしいのは私。しかし。どうするか。考える。原作知識について、彼女に言うべきなのか。彼女はそれを知ったらどう思うのだろうか。先代は言わなかったと言っていた。私はどうすればいい。あなたは漫画の世界の住人なんですよと言われて、人はどう思うか。誰が分かるのだそんなこと。知らん。保留。とりあえず、舌を回せ。

 「私たちは吸血鬼だ。君もそれで辛い思いをしてきたのではないのか。私たちは力がなければ排斥される存在。だから、だ。」

 「なるほど。だから仲間を見つけて協力しようということですか。いい考えだと思います!けど、私たちの他に吸血鬼っているのでしょうか?」

 他の吸血鬼。確かに。吸血鬼が、仲間が欲しいと言ったのだ。その仲間は吸血鬼だろう。彼女は普通だ。間違いない。しかし、他にいるのか、吸血鬼。目の前の彼女以外に本能の反応はないが。だが、そもそも仲間が吸血鬼である必要はないだろう。

 「いや。他に吸血鬼がいるかどうかは分からない。だが、吸血鬼でなくてもいい。強くて、私たちに協力をしてくれれば。」

 「強くて、吸血鬼に対して好意的な存在ということですね。え~と。強いというのは置いておいて、吸血鬼に好意的な方っているのでしょうか?それに私たちは不老不死ですよね?ということは……」

 なるほど。仲間には強い、吸血鬼に好意的、だけでなく、不老不死も求められるのではと。天才か。こいつ。そして、いないな。普通。

 「あの、えっと、仲間をつくるという案自体は素晴らしいと思います。」

 さらにこの気配り。いい拾い物をしたか。

 「とりあえず、強いというのを置いておけば、魔法生命体を創って鍛えるという案もありますし。 吸血鬼に好意的というのを置いておけば、眷属化して隷属化も。それに不老不死でなくとも入れ替えを繰り返せばいいと思います。最後のは少し面倒でしょうから、他の二つが手っ取り早いと私は思いますけど、私としては、眷属化はあまり気のりがしません……」

 さらにこの発想。素晴らしい拾い物をしたか。

 

 ふむ。確かに強くて、協力関係が築け、不老不死という奴を探すのは難しい。ならエヴァンジェリンの出した妥協案を採用すべきか。いや。待て。そういえば、先代の眷属がいたのでは。そいつはどうだ。反応がないし、死んだのか。くそ。不明。保留、か。

 どうする。考える。私も眷属化は気が進まない。入れ替えは面倒だ。面倒は嫌いなのだ、私は。なら、強さを犠牲にして魔法生命体か。仕方ない。

 「魔法生命体をつくろうか。出来の良いものを鍛えて強くするか。」

 私がそう言うと、彼女は笑って、はいと答えた。何がそんなに嬉しいのだろうか。

 

 魔法の練習を中断し、二人で書庫に行く。書庫には魔法生命体に関する本が少ないが、あった。私たちはそれぞれ一体づつ、個人で創ることにした。いざ作業を始めようとした時に重要なことに気付く。

 悪魔だ。悪魔を召喚するというのはどうか。悪魔なら強くて不老不死という存在はいるだろう。協力関係に関しては契約の内容次第。いける。さすが天才。と自画自賛し、『魔法生命体―ゴーレム―』の本を持った少女に、声を、掛けた。

 

 「悪魔ですか?なるほど。確かに悪魔なら最初の条件に合致する者もいるかもしれませんね。ただ、問題はどうやって呼び出すかということでしょうか。」

 どうやって呼び出すか、か。何の話だ。単に呼べばいいだけだろう。

 「えっと、悪魔と言ってもたくさんいるので、特定の悪魔を召喚するにはその悪魔に対応する魔法陣を用意しないといけません。それの書き方を知らないとどうやっても悪魔を呼び出すことは不可能ってあの緑の本に書いてありましたけど……」

 そういえば。あったな。先代の研究内容の一つだったか。どんな悪魔がどんな力を持っているかなども少し書いてあったが、先代と私たちでは悪魔の用途が違う。それらは使えそうにない。しかし、聞いてもいないのに答えるとは。私はいったいどんな顔をしていたのか。

 「あと契約内容の問題もありますね。もし強くて、不老不死の悪魔を見つけて、運よくその魔法陣も知ったとしても、その悪魔が契約にのってこなければ意味がないですし。」

 賢い。賢いな。エヴァンジェリン。一人で闇の強化魔法とやらを作り上げた才能はだてではない。

 

 ふむ。しかし、どうするか。考える。悪魔は保留か。やはり魔法生命体、か。あの本には他に何が書いてあったか。アーティファクトやら悪魔やら、他は、降霊術か。

 

 「降霊術はどうだ。あの本に伝説の再現などと大それた名前であったろう。」

 私の言葉にエヴァンジェリンは赤い目を見開き、

 「降霊術!確かに悪魔召喚よりは現実味があります!」

 と言った。まぁ私は始祖だからな。真祖より上だ。

 「降霊術となると誰を呼び出すかを決めないといけませんね。強い霊を呼び出すとなると神話や伝説を読めばいいかと。あとは、降霊の媒介を見つけることですか。」

 エヴァンジェリンは興奮した様子で本を検索し始めた。えらくノリノリだ。子どもか。

 

 降霊術は過去に生きた生命の霊を現世に降ろすという魔法。先代はそれを応用し、目的を果たそうとしていたようだ。その為にかなりの力を持つ伝説級の霊を呼び出したこともあるらしいが、結局は失敗。しかし、私が求めるのは戦力としての霊。伝説級の力を持つ霊ならば、降霊さえ出来れば、さぞ役に立つに違いない。問題はどいつを呼び出すか。という思考で頭の中を満杯にし、魔法球に、触れた。

 




そろそろです。

戦争とかどうしようかな。

アンケートへのご協力感謝します。
ありがとうございました。


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二人の吸血鬼

ノスタルジーです。
アンケートへのご協力ありがとうございます。
こんなに多くのレスポンスがあったことに大変驚いています。
振り回してすみません。駄作者。

結局。2が圧倒的に多かったので2となりました。
期待されていた方はすみません。
それで、これからの大まかな展開については皆様の予想通りだと思います。

十二話目。

夜。それまでに返ってきた回答からおそらくこうなるだろうという予測に基づき。
すでに結果が出る前に書いていました。
何だそれは。ふざけんな。本当にすみません。

もうアンケートはする予定ないです。
私としてはしたいんですが。
しません。

アンケートと設定のページについて。
見て、勘違いされる方がいては困るので適当に修正しときます。


 その日から研究を始めた。魔法の練習をしながらも、1年ほどかけて書庫にある降霊術や伝説、歴史に関くる本を読み漁った。

 降霊術と悪魔召喚との違いは、契約の重要性。悪魔召喚は召喚した悪魔に魔力を供給し、契約する。契約の内容は様々。願いを叶える対価に生贄を月々五人や処女の生き血などを要求される可能性も。あるのか。不明。ともかく、その契約を順守しなければ、悪魔は召喚者に従わない。対して降霊術。言ってしまえば、降霊術は降霊をするだけ。その降霊された霊がどんな行動を起こすのかは霊次第。一種のギャンブル。契約を結ぶかどうかも本人たち次第。魔法で無理やり縛ることも可能だが、そんな不安定な関係性でこれからやっていくのは。不安。それに確固たる自我を持つ伝説級の霊を縛る力量は、現在ない。したがって、降霊する霊の選択に、二人で頭を悩ませていた。

 「アイリスさん……結局のところ強くて、吸血鬼に好意的な霊って、いったい誰なんでしょうか?」

 知らん。というか私が知りたい。それに、懸念材料もある。

 「下手な霊を呼び出せば、その場で戦いになることもあるかもしれん。」

 「もし、その場合……勝てますか?私は自信ないですけど……」

 伝説級の霊と戦う。無理。エヴァンジェリンも私も生まれてから20年と少し。エヴァンジェリンはここに来るまで逃走一択。私は引きこも、ではなく研究一択。戦闘経験がない。勝てるか。勝てない。

 「エヴァンジェリン。」

 「はい」

 「私には好きな言葉があるのだ。聴いてくれるか。」

 「はい」

 「保留、だ。」

 保留。先送りとも言う。

 エヴァンジェリンはこちらを見た後、黙って魔法生命体に関する本を読み始めた。

 何だ。その眼は。

 

 どうもエヴァンジェリンの私に対する尊敬度が低い。気がする。どういうことだ。日々下がっている。気がする。どういうことだ。振り返る。ふむ。最初の出会いは、どうだったか。始祖としての威厳に溢れていたはずだ。あの時点で失敗していたら。先代のせい。私は悪くない。それからは、真祖化について知らなかったことか。確かにそれは尊敬できまい。しかし、仕方がないだろう。私は本来、君より年下だ。エヴァンジェリン。言わないが。他は、日常生活面か。普段の生活。書庫に引きこ、ではなく研究のために缶詰。怒られる。食事を忘れる。怒られる。風呂に入らない。怒られる。掃除しない。怒られる。ふむ。何を作ろうか。本を探す。

 

 エヴァンジェリンは人形を選択したようだった。人形。確かに命令に忠実、凡庸性にも優れる。無難な選択だ。魔法生命体といえば、ゴーレムをはじめとする「人形」を誰もが思いつく。エヴァンジェリンの趣味にもぴったりだ。趣味のせいか、彼女の部屋は実にファンシー。いつの間に改造した。家主に許可を取れ。いや、まぁいい。私はどうするのかが重要だ。今は。

 魔法生命体。大きく分ければ「人形」、「インテリジェンスアイテム」、「その他」になるか。「人形」はゴーレムやキリングドール、ホムンクルスなどといった存在。魔力供給さえ行えば稼働し続ける。作るのが難しいが、強いだろう。「インテリジェンスアイテム」は意思をある程度持つ剣や鎧、魔道書といった道具。使うときに魔力を供給すれば性能が発揮される。もちろん常に動かし続けてもいい。利点は作りやすく、魔力消費量が少ないということ。だが、そもそもこちらは自立、単独行動を前提としていないものも多い。そして、どちらにも属さないものもある。例えば「ミミック」。どう使うのかしらんが。必要なのか、あれは。

 ならやはり「人形」か。無難に。「人形」。どうせ作るのなら出来る限り性能を上げたい。そういえばちょうどエヴァンジェリンが城が広くて掃除が大変だとぼやいていた。手伝いが欲しいとも言っていたな。人型の万能なやつにするか。戦闘要員兼手伝い。原作にもいた気がするが。一人より、二人。

 それか、エヴァンジェリンの「人形」にあわせたインテリジェントウェポンという案もあるか。どちらにするか。迷いどころ。時間だけはあるのだから、最終的に両方作るというのも出来るか。なら始めは人形にしようか。とりあえず。家事手伝い。

 

 端的に言おう。無理だった。材料、知識、技術。全て、足りない。エヴァンジェリンも壁に頭を打ったようだ。当然。始祖より優れた真祖など、存在しない。

 しかし、どうするか。書庫がある。知識は何とかなるだろう。問題はあとの二つ。材料と技術。こんな城の中で製作のため材料など易々と手に入るわけがない。それに「人形」など作ったことはない。技術面は時間の問題としても、材料か。旧世界では手に入らないものが多い。なら、行く必要があるか。魔法世界。

 

 「どうやって行くんですか?」

 何を言っているのだ。この始祖は。という顔。

 「だから、魔法世界へどうやって行くんですか?」

 何を言っているのだ。この真祖は。という顔。

 「はぁ」

 おい。

 「魔法世界までの転移魔法なんて私たちは使えません。となると世界に数カ所あるワープゲートを利用しなければ、魔法世界には行けません。でも私たちは吸血鬼なんですよ?人間でもほとんど使わせてもらえないのに、吸血鬼がどうぞどうぞと言ってもらえるとでも?」

 思っていらっしゃるのですか、始祖様か。なるほど。相も変わらず頭が回る。

 やっぱり私がしっかりしなきゃという声を、吸血鬼の優れた聴覚が捉えた。

 

 エヴァンジェリンとともに魔法の研究と習得。100年ほど経った。一つ言えること。二人とも魔法バカだった。一日中魔法漬けの日々。そして、私も彼女も魔法に関しては天才。と言っていい。100年もあれば、出来ないことの方が少なくなった。特に私。だが、真祖化についての研究は全く進んでいない。彼女は手が空いたら調べているようだったが。まだ未練があるのか。単なる興味か。不明。

 

 エヴァンジェリンは闇と氷の属性を得意としている。私は闇と水と風。闇は吸血鬼なら皆が使えるのか。そしてやはりというか、属性には得意不得意があるらしい。

 吸血鬼にデフォルト装備されているらしい「闇」、そして対極の「光」は他の属性に比べ安定性に欠ける。術者の感情や時間帯にさえ影響を受けるらしい。だが、オールマイティ。「火」は文字通り火力。つまり殲滅力。しかし、防御性能に難あり。それもそうか。「水」は幻覚や治癒が得意。パワーはない。小細工でカバー。「風」は万能。特にスピードは利点。欠点は「水」と同じくパワー不足。「雷」は「火」に次ぐ殲滅力と「風」に勝るスピードを持つ。だが、特化しすぎとも言える。「土」は攻撃、防御共に得意。大ざっぱなことしかできない。「氷」は少し特殊。凍らせるというメインウェポンが利点でもあり、欠点でもある。他にもいくつか属性はあるが、それらは亜人達がオリジナルで使うようなもので、普通は適性がないらしい。

 私の問題はパワー不足だ。間違いない。いや。それも過去の話だったか。今やそんなものは児戯に等しい。吸血鬼としての身体スペックと天才的な魔法の才を持った私に敵う奴など、そうそういるまい。と自画自賛。そして先代が使っていたと思しき、転移魔法(長距離用)を見つけ、それを、習得。自画自賛。

 

 「行こうか。魔法世界へ。」

 「うん。けど、ほんとに大丈夫?」

 「大丈夫だ。私の魔法の才は知っているだろう。」

 「それはそうなんだけど……」

 歯切れが悪い。幼女。そして、タメ口。一回話し合う必要があるな。

 「ジャングルの中とか海の中とかに飛ばさないでよ?」

 心外だ。

 「安心しろ。エヴァンジェリン。私を信じろ。」

 「はぁ」

 おい。

 「とりあえず、目的は魔法生命体の製作の材料を手に入れるってことでいいの?」

 「そうだな。」

 他にすることは特にない。しいて言えば、魔法世界に行くこと自体が目的。興奮する。いや。もう一つあったか。まぁ。それは今は置いておこう。

 「行こうか。」

 「うん」

 そして二つの小さな影は、巨大な魔法陣が発した光に、消えた。

 




方向転換は無理やりですが。
ご容赦ください。


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眷属と吸血鬼

十三話目。

明日から忙しいので、この更新ペースは維持できなくなります。


 迷子。遭難。彼女は、どちらになるのか。100年以上生きてはいるが、見た目が子どもだから。迷子か。遭難は山のイメージが強い。まぁ、どちらでもいい。とりあえず。迷子だ。エヴァンジェリン。断じて。私ではない。

 転移魔法は一人用だった。先代は長い間、一人で旅をしていたと言っていた。おそらく二人の時は、世界の移動はしなかったのだろう。だから。と自分を納得させる。だが、どうしてくれる。一人用の魔法を始祖の魔力にものを言わせて、無理やり二人で使った。そのおかげで、迷子だ。エヴァンジェリンが。何処かに飛ばされたか。地面の中とかでなかったらいいが。全く。手間のかかる真祖だ。と憤慨。

 しかし、特に問題はない。なぜならば、吸血鬼としてのつながりが私たちにはあるからだ。さすがに地面に埋まっているかはわからんが。まぁ、あの時と同じように放っておけば、向こうからやってくるに違いない。私は始祖。お前は真祖。

 

 魔法世界に来てから数か月。特にこれと言って問題は起こらなかった。顔を隠し、魔法生命体の製作に必要な材料を着実に集めていた。各地をウロウロしているからか。まだ。現れない、真祖。近づいては来ているが。

 そして、今。問題が目の前にある。というか。いる。誰だ、こいつ。

 

 「あなたが、今代の始祖、ですね?」

 ローブだ。ローブが話している。私に。どう答えるべきか。考える。Yesと答えれば、捕まるか。戦闘開始か。何にせよ、ろくな事にはならない。気がする。なら。

 「始祖ですか。いったい何のことやら。私は見た通り、幼気なただの少女ですが。」

 とぼける。ローブのなかで口が笑っている。気がする。何だ、こいつ。しかし、私が優しい吸血鬼でよかったな。もう一人の金髪幼女なら。いや。まぁいい。

 「そう警戒しなくても。別にとって食おうというわけではありませんから。私はただ、彼の後輩を見に来ただけです」

 彼の後輩。彼。彼とは、先代のことか。

 「ふふ。では質問を変えましょう。カイロス、という名に心当たりはありませんか?幼気なお嬢さん」

 確定。彼=先代。しかし、こいつの目的は何だ。そもそも誰だ。私が始祖だとわかったのはそういう魔法でもあるのか。あっても不思議ではないが。ふむ。埒が明かない。少し、乗ってみるか。

 「カイロスという名。聞き覚えがありますね。いったい誰だったか。忘れました。まぁ、もし知っていたとしても、名前も知らない見知らぬローブに教えることなどありはしませんが。」

 「おや。これは手厳しい。可愛らしい顔に似合わず」

 笑うローブ。死ね。

 「ふふ。確かにあなたの言うことは正しいでしょう。では、自己紹介を。私はアルビレオ・イマ。始祖の吸血鬼、カイロスに吸血鬼にされた吸血鬼です」

 フードの中から端正な顔立ちの青年が現れる。何処かで見たことがある気がしないでもない。忘れた。保留。ともかく、先代とつながりのある吸血鬼。おそらく、あの眷属。それが急に目の前に。

 「よろしくお願いします」

 どうする。どうすればいい。

 「お嬢さん」

 助けてくれ。エヴァンジェリン。

 

 「それで」

 細い目が私を、射抜く。

 「あなたが、今代の始祖、ですね?」

 同じ質問。こいつは確信している。逃れられない。なら。こちらも聞きたいことを聞こうか。

 「そうだ。しかし、何故わかった。」

 「私が吸血鬼だから、という至極単純な理由ですよ」

 「お前が吸血鬼であると私には感じられないが。」

 「吸血鬼はお互いの存在がわかるという能力のことですか?」

 そう。

 「あれは完璧ではありません」

 「完璧ではない、とは。」

 「吸血鬼が三種類いることは知っていますか?」

 頷く私。笑う青年。

 「始祖は他の吸血鬼からは簡単に見つけることが出来ます。強力な分、目立ちますからね。そして、始祖からみて、存在を感知できるのは真祖か自らの眷属のみ。私はあなたの眷属ではないので」

 わからなかった、と。なるほど。理解。

 「で。私に何か用か。」

 ぶっきらぼうに、そう言う。アルビレオ・イマは胡散臭い笑顔をキープしたまま、答える。死ね。

 「先ほど言った通りです。彼の後輩を見に来ただけですよ。本当は遠くから見るだけの予定だったのですが、あなたがあまりにも可愛らしいので、つい」

 もう少し年下がよかったですが、と付け加えた変態。死ね。いや、落ち着け。先代の眷属。生きる情報源だ。

 「お前は吸血鬼に関して詳しいのか。」

 少し驚いた表情。初めて。

 「そうですね……あなたよりは詳しいかと」

 うざい。死ね。

 「なら、聞きたいことがある。」

 「対価を」

 何だ、急に。対価だと。何もないぞ。金。ない。知識。こいつのほうがあるらしい。私が持っているもの。城か本。先代たちの遺産。まだ必要だ。こいつにくれてやるものなど、ない。どうする。力づく。いけるか。

 物騒なことを考えているとアルビレオ、もとい変態が手を差し出してきた。何だ。薬。

 「年齢詐称薬です。これを飲んで着替えてもらえますか?」

 ふむ。とりあえず。

 「死ね。」

 

 「始祖とは何だ。」

 私が知りたかったこと。

 「始祖とは、ですか……正直なところ私にも分かりません。ですが、カイロスから聞いた話と私が調べた情報から推察するに、始祖は自然に発生するものなのか、疑わしいですね」

 「つまり。誰かが私たちを。」

 作ったと。と続けようとしたが、変態が首を振った。

 「自然と人工の中間とでも言いましょうか。とは言っても、明言できませんが……」

 あくまで推測にすぎませんよ。と言う変態。

 「なら、真祖化については。」

 エヴァンジェリン。

 「真祖化についての情報も少ないですね。真祖化の魔法は少なくとも1000年以上前に作られ、習得するのも行使するのも最上級の難しさです。使ってもまず成功しないということぐらいでしょうか。私が知っているのは」

 始祖はともかく。真祖化について目新しい情報は特にない。大して使えんな。この変態。

 「カイロスの前の始祖についての情報は。」

 「カイロスが彼女と呼んでいた方ですね。私も興味があって調べているのですが、彼女に関する情報はほぼありません。」

 本当に。使えん。変態。

 「ですが」

 「何だ。」

 「魔法世界の古い伝説をご存じですか?」

 「伝説か。生憎、この間こちらに来たばかりだ。そういうのには疎い。」

 「では、少しお話を。魔法世界の文明の始まりを作ったと言われるウェスペルタティア王国の初代王女、アマテルとそのパートナー。彼らは最期、美しい悪魔と壮絶な戦いをし、敗北。結果、殺されたと言われています。そして、この悪魔に関してなのですが、場所によっては亜人や吸血鬼という伝説が語り継がれているところもあるのです。どの伝説にも共通する点は、彼らを殺害したのは金髪で赤目の美しい少女、ということですね」

 金髪、赤目、美しい少女。おそらくそのアマテルとパートナーとやらはかなりの力を持っていたのだろう。伝説に残るくらいの人物。しかし、その少女は一人で打ち勝ったと。

 「なるほど。お前はその悪魔が、彼女だと睨んでいると。」

 「いえ。その可能性もある、という程度ですよ」

 笑う、変態。ともかく、その伝説自体の信憑性を脇におけば。その悪魔が彼女だという可能性はあるのか。先代の言う通り、彼女に関する本は書庫に一冊だけあった。ペラペラの本で書かれていることは彼女の容姿や性格についてほんの少しだけ。その情報からでは判断できない。私が考え込んでいると、変態が言う。

 「質問はおしまいですか?」

 ふむ。

 「そうだな。特にはない。」

 「では、対価のほう、よろしくお願いしますね」

 「あぁ。分かっている。」

 頼んだ。エヴァンジェリン。お前の帰りを待っている。

 



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人形と吸血鬼

十四話目。

これから更新は少し遅くなる程度です。
一日に二話とかは不可能です。
一話なら日によっては。

原作が始まらない。


 変態と会ってから二週間ほど経った。その間、変態は時々、私のところにやってきた。だが、私に会いに来たわけではなかった。よかった。

 そして、ある日。

 「アイリスさん!!いや、もうアイリス!!」

 高めの大きな声。私を呼ぶ。振り返るとそこには金髪の可愛らしい少女、もとい幼女がいた。エヴァンジェリン。やっとか。しかし、待て。どういうことだ。

 「ほう。彼女が」

 隣にいた変態が感嘆の声。うざい。死ね。

 まぁいい。

 「妹だ。」

 「そうだ!妹だ!って、いつから私があなたの妹になった!?」

 「これはこれは……話に聞く通り、非常に愛らしい妹さんですね」

 乗ってきた変態。

 「そうだろう。自慢の妹だ。」

 「だから妹になった覚えはない!!」

 はしゃぐ妹。

 「こら、妹よ。客人の前だ。そんな大声を出して、はしたない。あまり姉に恥をかかせるな。」

 「だから!!……はぁ。もうやだ、この人」

 おい。そして何を疲れ切っているのか。

 「妹よ。」

 「…何?」

 まぁいい。私は寛大なのだ。

 「材料は集まったか。」

 「え?」

 きょとん。なるほど。この顔をそう表現するのか。勉強になった。

 「だから材料だ。まさか忘れたわけではあるまい。この旅の目的だ。」

 「……あ」

 あ。あ、とは。集まった。なのか。

 「あなたを探していたんでしょうが!!この数か月間ずっと!けど近づいたと思ったら遠ざかるし、目立ってはいけないから派手な移動はできないし!!材料を見つける暇なんてなかったのに!!」

 騒いだ後、俯く妹。ふむ。こういう時、妹には何と声を掛けてやるべきなのか。しかし、近づいたら遠ざかるとは。詩人だな。詩なぞ忘れたが。

 「妹よ。」

 「……何?」

 荒んでいるな。

 「さっさと集めてこい。私は集めた。」

 「死ね」

 吸血鬼ジョークか。妹よ。

 

 「そろそろいいですか?」

 いたな。変態。

 「わかっている。」

 言って、エヴァンジェリンの方に向き直る。

 「……そういえば、この人は誰?客人とかさっき言っていたけど」

 「妹よ。」

 「……何?姉様」

 諦めたか。

 「これを着ろ。」

 「死ね」

 氷が飛んできた。危ない。

 

 「私はアルビレオ・イマと申します。始祖の眷属です。アイリスとは二週間ほど前に会いまして、今では二人で色々と話をし合う友人、といったところでしょうか」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダヴェル。真祖」

 態度が悪い。どこで教育を間違えたか。と振り返る。昔はもっと純粋で物腰の柔らかい幼女だったはずだが。

 「へ、ではなくアルビレオは吸血鬼について詳しい。お前が知りたがっていた真祖化についての情報も持っているようだ。」

 「真祖化…」

 嘘だが。というか、まだ未練があるのか。もう100年以上前の話だ。

 「まだ人間に戻りたいのか。」

 私がそう言うと、困ったような表情でこちらを見るエヴァンジェリン。

 「今はほとんど思っていないかな。けど真祖化の魔法は自分の人生を変えたもの。純粋に興味があるし、知っておきたい」

 なるほど。まぁこちらとしてもお前に人間に戻られたら困るが。

 「アルビレオ。」

 「はい」

 相変わらずの薄笑いで、こちらの呼びかけに答える変態。

 「対価は約束通り。エヴァンジェリンが払う。もう一度、お前の知る真祖化の魔法について話してくれるか。」

 「いいでしょう。ではこれを着てください」

 そう言って先ほど私が出したものとは違うものを出す。どこから出した。今。

 「え?」

 「真祖化の情報について、私が知る限りの情報を教える。その対価はあなたがこれを着ることです、エヴァンジェリン」

 「え?」

 「真祖化について知りたいのだろう。その対価は着替えるだけ。安い買い物だ。」

 よかったな。と言って、辺りを闇で覆い、エヴァンジェリンに服を投げつける。

 「え?」

 

 結果から言えば。変態が真祖化について話した後。戦闘になった。エヴァンジェリンVS私。変態は逃げた。後で殺す。と心に誓う。

 エヴァンジェリンは少し強くなっていたが、私には及ばない。当然。始祖より優れた真祖など存在しない。同じく、姉より優れた妹も存在しない。

 そして、エヴァンジェリンを怒らせたお詫びとして、材料探しに付き合うこととなった。まぁいい。それくらい。付き合ってやろうではないか。

 二人で、歩き出す。

 

 エヴァンジェリンの「人形」の材料の捜索。意外と手早く終わった。いや。終わりそうだった。問題は。あるパーツだけが手に入らなかったということ。「人形」の心臓、核と呼ばれるパーツ。魔力を貯蔵できるという特性を持つ宝石。希少価値が高く、市場にほとんど出回らない。これには1ヶ月ほど時間を費やしたが、結局。見つからず。核がなければ、エヴァンジェリンの作ろうとしているキリングドールは作れない。ちなみに私のは関係ない。

 そこで、私たちはいったん城に戻ることにした。私の「人形」をまず作り、そいつに捜索を任せようという魂胆。楽だ。

 魔法陣を描き、あらかじめ城に描いておいたものと繋げる。

 転移。今度は失敗しなかった。

 

 「よかった」

 開口一番。エヴァンジェリンが言う。失礼。

 「改良していたからな。」

 一度失敗したことを繰り返すほど愚かではない。私は。

 「その魔法の才能だけは認める」

 だけ、とは何だ。拾ってやった恩を忘れたか。愚妹。

 「はぁ。それで?何を作る?」

 「ホムンクルス。」

 

 ホムンクルス。人造生命の代名詞のような存在。人間に近くしようとすればするほど、難易度が上がる。私が作ろうとしているのは、最上級。つまり、ほぼ人間。ホムンクルスを生み出す技術自体は禁術一歩手前。人工生命はお嫌いらしい。魔法世界。

 ホムンクルスはベースとなる存在が必要で、そこに機能を付けたり、いらない部分を取り除いたりできるらしい。プラモデルか。と思った私は悪くない。

 まず、ベースとなる存在の細胞が大量に必要。体半分くらい。ふざけるな。だが、私は始祖。腕を10本ほどくれてやった。最強種がベースだ。感謝しろ。二度としない。

 魔女が使うような魔法の鍋に入れ、材料を投入。ここで入れるものによってスペックが大きく変化するらしい。一番影響があるのはベースだが。基本の材料以外に、私は魔法世界で狩った生物の死骸をいくつか入れた。どいつも強力なやつばかりだった。感謝しろ。二度としない。

 魔力を注ぎながら、火にかけ、混ぜる。一月と少しの間。最後にホムンクルス製造の魔法を唱え、完成。私にすれば非常に簡単だった。

 出来上がったものが私の欲するものとはかけ離れた存在でなければ。よかったのだが。

 

 「私がお前の親だ。アイリス。ほら、言ってみろ。」

 無言。無音。

 「お前の名は、考えてなかった。許せ。」

 無言。無音。

 「お前に指令を言い渡す。心して聞け。」

 無言。無音。

 「魔力を貯蔵する特性を持つ宝石。魔法世界に行って、手に入れてこい。出来る限り早くだ。」

 ふむ。助けてくれ。妹様。

 

 「はぁ」

 ため息が多いな。幸せが逃げる。気をつけろ。と私が説教をすると、こちらを変な目で見て、何事もなかったかのようにホムンクルスに目を向ける。妹。

 「喋れないのか?」

 無言。無音。

 「失敗したんじゃないか?」

 そんな馬鹿な。この私が失敗とは。面白いことを言う。しかし、妹の予想。仕方がない。念のため、確認してやろう。と考え。観察。目が合う。見つめ合う。するとこちらに覚束ない足取りで近づいてくる。ホムンクルス。

 そして

 「あいりす……」

 見たか。愚妹。と言葉にはせず、見る。

 何だ。その眼は。

 

 アリス。そう名付けた。エヴァンジェリンにはまた変な目で見られた。何故だ。アリスの容姿はエヴァンジェリンと同じくらいの身長に、金髪。眠そうというか覇気がない整った顔。少し暗めの青い目。それはいい。

 問題はほとんど話さない、動かないということだ。話さない分に関してはまだいい。しかし、動かないのは、困る。非常に困る。自分の興味があるらしいものを見つけると、観察。近づき、また観察。繰り返す。何がいけなかったのか。いや。そもそもホムンクルスというのがこういうものという考え方もあるか。本には書いていなかったが。教育すればもっとまともになる可能性もあるか。よし。

 「妹よ。」

 「姉よ。魔法世界に行って、宝石を探してこい」

 断る。

 

 結局。エヴァンジェリンは魔法世界に行った。一人で。アリスの教育を自分がしようと思っていたようだったが。宝石の捜索と同時には出来ないと判断し、そちらを優先したようだ。今。城には、二人。ふむ。

 「アリス。」

 こちらを見る。自分の名前は認識しているのか。

 「魔法を教えてやろう。来い。」

 お前には働いてもらわねば。雑務が出来ないのなら。戦え。私の代わりに。

 ゆっくりと後をついてくる。アリス。




誰だ。アリスって。


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妹と吸血鬼

十五話目。

お気に入りが450を超えていました。
恐縮です。

アリスはオリキャラです。
クロスではありません。
モデルは、特にないです。
何処かにいそうなキャラです。


 アリスの教育。まず、辞書と百科事典を読ませた。言葉や物を知っているのか、不明だったため。アリスは黙々と読んでいた。読んでいるだけで、理解をしているのか。謎。そして、その後は魔法の練習。ベースが私だからか。アリスにも魔法の才はあった。ホムンクルスはベースと材料で出来が決まる。アリスは私の魔法適性のある属性以外にも「火」を使えた。おそらく。火竜の内臓をぶち込んだ結果。使えるのが多いに越したことはない。さすが私。

 本を読ませ、魔法を教える。手早くするために、魔法世界で手に入れた「別荘」にアリスをぶち込む。目標はエヴァンジェリンクラスの戦闘力。家事は諦めた。現在、エヴァンジェリンが出て行ってから数ヶ月。アリスの教育は順調。しかし。問題も浮上してきた。

 アリスが起きない。言葉通り。一度寝たら、なかなか起きない。睡眠魔。ヤマネをいれた覚えはないが。放っておくと半日以上は確実に寝る。通常で14時間睡眠。何故だ。やはり失敗作なのか。こいつは。魔法に関しては失敗作ではなさそうなのだが。他。ふむ。アリスに期待しているのは戦闘。なら。生活面での問題はいいか。特に害があるわけでもなし。エヴァンジェリンもいることだ。と自分に言い聞かせ、本を読み始める。アリスは寝ている。日常。

 

 半月前。エヴァンジェリンは「人形」の核となる宝石を探しに行った。帰ってこない。まだか。遅い。と姉がお使いにでた妹の帰りを心配。いい姉だ。そんな姉の来ているドレスを、くいくい、と引っ張る、末妹。

 見つめ合う。

 「どうした。」

 見つめ合う。

 「何かあったか。」

 無言。我慢。すると、アリスが手を差し出してきた。何だ。と思い、見てみる。宝石。

 なろほど。考える。何故これがここにある。アリスは魔法世界の転移は自分では不可。私は行かせていない。城のゲートも使わせていない。では、旧世界でとってきたのか。まさか。アリスは城から出ていない。はず。なら。何か。城にあったと。もとからか。そんな馬鹿な。まぁいい。この愚妹2号に聞けば分かる。答えろ。

 「アリス。どこでこれを。」

 見つめ合う。

 「どこにあった。」

 私が聞くと、ゆっくりとアリスが動きだす。小さな影に、ついて行く。

 一階。廊下を歩き、書庫の近くの部屋。確か、物置。家具やら武器やらが置いていた。そこに、箱。なるほど。この箱。何と言うんだったか。この特徴的な形。確か。

 「ほうせきばこ」

 そうだな。妹よ。というか。覚えていたのか。指令。

 

 人形の大きさと宝石の大きさは比例する。エヴァンジェリンが作ろうとしているものは小さめのもの。宝石もそこまで大きいものは不必要。ここにある宝石はそれよりは小さいが、大量。何個も使えば作れるだろう。核。

 しかし。さすがは私の作ったホムンクルスだ。今は昼寝をしているが。いざ、という時にはしっかり働く。プロのよう。それはそうと、どうするか。問題。エヴァンジェリンと連絡が取れない。電話などない。メールもない。仮契約をしようと、城に帰ってきたとき、話が持ち上がったが。流れた。何故、私が従者なのだ。憤慨。その点、アリスは黙って従者になった。利口な奴だ。

 どうするか。アリスに迎えに行かせるか。本当に。気は確かか。私。と自問自答。無理だ。仕方ない。私が出向くとしようか。面倒だが。仕方ない。

 

 「アリス」

 起こす。叩き起こす。

 小首を傾げ、こちらを見る。

 「私は魔法世界に行ってくる。お前は留守番をしていろ。」

 小さく頷く。

 「万が一。誰か来たら。」

 無いだろうが。どうするか。来るとしたら、変態か。

 「殺せ。」

 小さく頷く。よし。

 「では行ってくる。」

 アリスの部屋を出、魔法陣に向かう。

 転移。

 

 魔法世界に着く。エヴァンジェリンも私がここに来たことに気付いているだろう。さっさと合流して、帰ろう。転移魔法を繰り返し、愚妹のもとに向かう。

 一週間。エヴァンジェリンとはすぐに合流できた。向こうもこちらに向かってきていたからだろう。そして、開口一番。

 「どうした?」

 「それが、お使いに出た妹を迎えにきた姉に対する態度か。妹よ。」

 「どうされたのですか?お・ね・え・さ・ま?」

 丁寧になっただけ。言葉が。まぁいい。

 「宝石が見つかった。帰るぞ。」

 「え?」

 整った顔が台無し。

 「ど、どうして!?そんな!?ど、どこで?どこで見つけた!?」

 台無し。

 「私がこれだけ探しても見つからなかったんだ!言え!!今度は何をした!?」

 どういう意味だ。しかも、さらに口が悪くなっていないか。あと放せ。

 「城にあった。」

 「は?」

 「城にあった。」

 おそらく、先代が結界に使ったと言っていたもの。今は世界樹に魔力を供給させている。その前のもの。忘れていた。

 「帰るぞ。」

 「……何故だ。何故いつも。くそ」

 転移。こいつも教育する必要があるか。

 

 城に着くと、違和感。城は森に囲まれているためか。いつも静か。自然の音しか聞こえない。しかし、爆音。連続。悲鳴。何だ。何をしている。あのバカは。

 「何だ?アリスに何をさせているんだ?」

 何も。留守番を命じただけ。

 「留守番だ。」

 「……どう考えてもおかしいだろう」

 「ふむ。仕方ない。見に行くか。」

 「はぁ……やはり私が教育係をすべきだったか」

 城の外。音の鳴る方へ。向かう、二人。吸血鬼。

 

 なるほど。戦闘。アリスVS見知らぬ誰か×複数。誰だ。

 「おい!あいつらは誰だ!?」

 「知らん。」

 はしゃぐ妹。遊園地に初めて来た幼女か。というか、私に聞くな。魔法使いだろう、どう見ても。魔法を使っているのだ。

 「アリス。」

 「なに」

 少し早くなった、返事。いいことだ。

 「誰だ。そいつら。」

 「?おきゃくさん?」

 何故、戦闘。

 「何をしている。」

 「ころしてる」

 「あぁ。なるほど。」

 そんな命令も出したか。相手が変態であるという想定のもとだったのだが。まさか、他の人間が来るとは。

 「なるほど。ではないわー!!このバカがー!!早く何とかしろ!!」

 騒がしい。何とか。とは。いったい、何をする必要があるのか。まぁ、あいつらが誰なのか知る必要はあるか。

 「アリス。命令変更。殺害ではなく、捕縛しろ。」

 「わかった」

 「そういう意味じゃない!!止めろといったんだ!!」

 「いいから。お前も行って来い。」

 うるさい愚妹を魔法の飛び交う戦場に飛ばす。何か聞こえた気がしたが。気のせいだ。

 

 ここは「ネギま」の世界。結局、始祖については不明。始祖がもとからいたのかどうか、不明。不明のまま置いておくとして。現状。ここは麻帆良、城、世界樹の下。そして、忘れていた、厄介事。学園が建つ。こいつらはそれの視察団らしい。メガロ何とかという組織だか国だかの。妹たちが捕縛した奴らが話した。困った。視察団ということは、軍ではないのだ。なら敵ではない。と思う。どうするか。考え込んでいると、声。

 「貴様らは何だ!?こんなことをしてどうなるか分かっているのか!?」

 どうなるか、か。ふむ。

 「どうなるのだ。」

 「決まっている!すでにSOSを送っている!救援部隊がもうすぐ来る!最高峰の魔法使いの中隊だ!諦めて私たちを解放しろ!!」

 親切な奴だ。教えてくれるとは。

 「はぁ。で、どうするんだ?」

 エヴァンジェリンが疲れた声で、尋ねる。どうするか。考える。戦闘をしてもこちらに得はない。逃げるか。城の転移はまだ出来ない。もっと先だと思っていたから、習得していない。本だけ持って行く。城は必要なら後で回収するか。それがいいか。と考えていると。

 「貴様らは人間ではないな!それに普通の亜人にしては強力すぎる!悪魔か吸血鬼だろう!!」

 騒がしい。

 「ほう。よくわかったな。私たちは悪魔だ。」

 嘘だが。しかし、捕まっても情報収集とは、仕事熱心な男だ。

 

 「うそ。きゅうけつき」

 小さな声。ふむ。やはり失敗作だったか。

 



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城と吸血鬼

十六話目。

最近ギャグ風味。
何故だ。シリアス路線だったのに。

あと活動報告、全然書いていない。
もういいか。

この土、日は更新不可です。多分。
月はわかりません。



 「貴様ら!吸血鬼か!!」

 三分の二は。三分の一はホムンクルスだ。教えてはやらんが。

 「まぁ、ばれてしまってはしょうがない。確かに。私たちは吸血鬼だ。よくわかったな。」

 「うん。よくわかった」

 「……それはボケているのか?」

 アリス。お前は反省しろ。

 「くっ……吸血鬼」

 「こんな悪の代名詞に捕まるとは……」

 お前らもうるさい。私は静寂が好きなのだ。しかも、悪の代名詞とは。初対面の人間、ではなく吸血鬼に向かって。失礼な奴らだ。

 「悪の代名詞とは何だ?吸血鬼のことをそう言っているのだろう?」

 横にいたエヴァンジェリンが尋ねる。

 「ふん。そんなことも知らんとは、さすが人の皮を被った化け物どもだ!」

 「吸血鬼の伝説は、魔法世界に多々あるが、それらは全て吸血鬼の悪事についてのものばかり!!」

 「我ら正義を掲げる魔法使いにとっては吸血鬼は排除すべき悪!!」

 セリフ合わせでもしていたのか。いいテンポで話す、魔法使いども。そして、また吸血鬼の伝説か。あの変態、情報を隠したか。意図的か偶然か。どちらにせよ。死ね。まぁいい。変態のことは後。保留。吸血鬼の伝説。先代か先々代か、それとも他の吸血鬼か。

 「伝説では吸血鬼はどんな容姿だ。」

 「な」

 何故、絶句。早く答えろ。

 「伝説では吸血鬼はどんな容姿だ。と聞いている。」

 「…多くは美女。ローブを着た男や子どもという説もあるが」

 戸惑いながらも答える。しかし。情報が多い。変態が話したのは、少女だったか。少女に美女に男に子ども。いや、待て。ローブを着た男は変態のことか。もしかして。あいつがそんなへまをやらかすとは思えんが。しかも、伝説。伝説。あり得ん。死ね。

 「どんな悪事を働いたんだ?」

 エヴァンジェリンもこの話題に興味があるらしい。

 「偉大な魔法使いたちを殺し、村や町を滅ぼし、森を焼野原にし、悪行の限りを尽くした!」

 と。言われているだけだろう。所詮伝説。事実か不明。

 「で、悪か」

 エヴァンジェリンも鼻で笑う。馬鹿にしているな。しかも、馬鹿だと思っているな。まぁ確かに、おめでたい。

 「そうだ!!」

 ふむ。そろそろこいつらの相手も面倒になってきた。というより。うざい。もういいか。

 「アリス。」

 寝るな。小首を傾げ、こちらに半開きの目を向ける。

 「ここで見張りをしていろ。応援とやらが来たら、こいつらを人質にとって時間稼ぎをしておけ。向こうが攻撃してきたら、戦闘。」

 わかったか。

 「…うん」

 少し間があったが。大丈夫か。本当に。いや、大丈夫じゃないだろう。だが、仕方ない。こいつを連れて行っても使えない。まだ見張りの方がまし。と自分を無理に説得。援軍の到着が遅れるのを願う。心から。よし。

 「エヴァンジェリン。」

 「ん?どうした?」

 「荷物をまとめろ。城を出る。」

 「は?……いや、ちょっと待て!!城を出るだと!?出てどうするんだ!?」

 ふむ。どうするか。

 「旅でもするか。」

 「おいー!今思いついただろう!!適当すぎるわーーー!!」

 

  本や物置にあった荷物を別荘に詰め込む。書庫の検索魔法は便利だったので魔法球ごと入れたかったが。魔法球は書庫から出せなかった。諦めた。時間もない。仕方ない。まだ増援は来てはいないが、来てからでは遅い。アリスはあまり期待できない。私は戦いたくない。面倒が起る前に逃げるに限る。

 「はぁ」

 さっきからため息ばかりの次女。何だ。

 「どうした。妹よ。」

 「何でもないわ!いいからさっさと手を動かせ!!さっきから私しか動いてないではないか!!」

 うるさい愚妹だ。仕方ない。そこまで言うなら働いてやろう。と口にするとまた怒り出す、エヴァンジェリン。

 

 目ぼしいものを魔法球に入れた後。先代の結界をエヴァンジェリンと二人で強化。結界の外で待つアリスを迎えに行く。城と森の間、少し開けた場所。捕縛魔法で捕まった惨めな魔法使いどもと一人立っている眠そうな、少女。

 「アリス。何かあったか。」

 小さな頭を横に振る。

 「そうか。では行くぞ。」

 「?うん」

 どこに行くのか、という顔をしている。無表情に変化はないため、おそらくだが。

 「待て!貴様ら!!どこに行く!!」

 「魔法世界に逃げる。ではな。」

 「ではな」

 「おい!待て!!」

 うるさい。誰が待つのか。三人で歩き始める。声が後ろから聞こえる。吸血鬼の聴覚が煩わしいと思ったのは、初めてだ。

 

 「で?」

 で。城の後方に回った時。そんな言葉が聞こえた。

 「これから本当に魔法世界に行くのか?」

 まさか。

 「旧世界を回る。」

 「そんなことだろうとは思っていたが……呼吸するように嘘を吐くな」

 これが私だ。そんなことより、旧世界といってもどこに行くか。そう考えていると。

 「…特に行くところがないなら京都に行きたいのだが」

 エヴァンジェリンがリクエスト。趣味全開。京都か。京都。もうほとんど忘れた原作。そこに京都が出てくることは覚えているが。今行っても大丈夫か。何かなかったか。ふむ。全くわからん。エヴァンジェリンに原作について話してはいないし、どこかにメモでもしておけばよかったか。と後悔。まぁいい。私は今と未来に生きる。戦力的に危険はそうそうないだろう。アリスが不安要素だが。単純戦闘担当しかない。後はエヴァンジェリンがなんとかするだろう。よし。結論。

 「いいだろう。京都に行くか。」

 「本当か!?」

 嬉しそうな、幼女。そう言われると。

 「いや。嘘だ。」

 「貴様はいい加減にしろーー!!」

 貴様、だと。もうダメだ。この、愚妹。

 

 金髪の少女だか幼女だかが三人で歩いていれば、それは目立つこと間違いない。ましてやここは日本。今は戦国か江戸くらい。そんな時代にはあり得ない光景。しかし。魔法を使えばそれも当たり前になる。認識を狂わせる。不自然を自然に。

 始祖と真祖と人形。向かうは、京都。

 



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新たに。今は生活期だ。
京と吸血鬼


十七話目。更新。

原作はまだか。
わかりません。

久々に見るとお気に入りが500件を超えていました。
驚愕。恐縮です。


 京の街。三人で足を踏み入れようとした。しかし、結界が張ってあることに気づく。結界。今まで主に学んできたものとは違う。ギリシャ語やラテン語で呪文を唱え、魔法陣を描くような魔法、とは違う。東洋魔法、陰陽術によるもの。書庫にも関連する本があった。そこから得た知識を使ったか、頭の中で警告。これはかなり高位の結界。侵入者排除用ではなく、侵入者探知用。どうするか。考える。気づかれず中に入ることはおそらくは、可能。しかし、最悪、入った瞬間に囲まれる。そして、戦闘。それは困る。ふむ。京都に来たのは愚妹の趣味。絶対に行かなければならないわけではない。なら、いいか。よし。撤退。

 結論を出し、それを口にするまでの一瞬。結界に興味を持ったか。観察の後。触れる馬鹿。

 

 「何者か!?」

 囲まれる。迅速な対応。刀や呪符を持った人間や鬼に囲まれる。迅速すぎる。何故だ。もっとゆっくり来い。と愚痴。

 「おい。どうするんだ?」

 私が聞きたいが。

 「聞こえへんかったんか!?お前らが何者やって聞いてんのや!答えろ!!」

 警戒されている。何か感じるところでもあるのか。ふむ。

 「旅人だ。」

 間違ってはいない。

 「嘘をつけ!結界は強力な魔のものであると示した!ただの旅人ではあるまい!!」

リーダーらしき人間が言う。魔のもの。魔のものか。吸血鬼のことか。結界に触れた馬鹿はキメラのようなもの。その中のどれに反応したか。不明。だが、こいつらの迅速な行動の理由はこれか。ふむ。吸血鬼は魔法世界では悪。

 「私たちは吸血鬼だ。」

 しかし。旧世界、しかもこの時代の人間なら。

 「…吸血鬼?何やそれ?」

 だろうな。

 「吸血鬼という種族だ。もともと住んでた土地を人ではないからという理由で人間に追い出された。それで姉妹三人、行くあてもなく旅をしている。」

 魔のものというのは、こいつらにとってイコール悪ではあるまい。その証拠が仲間の鬼や鴉。それに、それ以外にも人間ではないものがいるようだ。

 「父と母と兄様は殺され、そのショックで幼い妹はこんなにもふさぎ込んでしまった…」

 「……」

 エヴァンジェリンは私の考えに気付いたか。心なしか、アリスまでも演技しているように見える。気のせいか。この馬鹿にそんな真似が出来るとは思えんが。ただ立っているだけだろう。

 こいつらが私たちにどれほどの危険を認識しているかが重要。力がある「だけ」の幼気な人外娘三人だと判を押されればいいが。危険人物だと認定されれば。戦闘だろう。戦力確認。こちらは始祖に真祖にホムンクルス。むこうは陰陽師らしき人間が七人、剣士が六人、人外が三体。加えて、ここはアウェー。援軍も視野に入れる。私たちは実戦経験があまりない。魔法世界で少しだけ。経験不足。むこうはどう見てもプロだ。勝てるか。分からない。危険。やはり撤退が望ましい。なら魔法で目をくらまし、転移か。それを二人に念話で伝え、了承の意を得る。そして、むこうの出方を窺っていると。

 

 「……京の街は我ら呪術協会と神鳴流が守護する土地」

 沈黙の後。話し出す。仲間内か本拠地にいるであろう上の人間と念話でもしていたと推測。呪術協会と神鳴流。聴き覚えがあるような気。

 「魔のものは人を脅かすものであることが多いのだ」

 「っつても俺らは魔のものは全て滅する~とか思ってるわけやあらへん。けど嬢ちゃんらはかなりの力を持ってるようやしな。警戒したのも当然やろ?」

 「まぁ事情が事情のようやし、人や街に危害を加えないと約束してくれるんやったら、協会預かりっちゅうことで、多少は面倒みたってもかまへん」

 よく言えば保護。悪く言えば監視。だが、戦闘よりはまし。陰陽術にも興味がある。ふむ。罠の可能性もあるが。ちらとエヴァンジェリンの方を見る。頷く。そうか。

 「いいのか。」

 「この通り、魔のものは仲間にもいる。今更子供が三人増えたところで変わらん」

 「助かる。感謝する。」

 京都。これが吉と出るか。凶と出るか。いくら始祖とはいえ、未来視は出来ない。

 

 本拠地。少なくとも歓迎ムードではない。様子見、といった風。数人の爺が腰を下ろしている広間に通される。爺どもと十分な距離をとって。三人、座る。周りには護衛らしき人間がちらほら。部屋の外にもいる。

 話。上層部らしき爺と。出来る限り、薄幸美少女をアピール。エヴァンジェリンの演技力に脱帽。アリスのポーカーフェイスに感謝。自身の頭を褒め称え、終了。その間際、大事な話があると一人残る。未来への布石。

 結果。滞在許可を勝ち取る。代わりに退魔や魔法の研究に力を貸すことに。自身の有用性をアピールしすぎたか。不覚。西洋魔法の存在は呪術協会も掴んではいるが、情報が少ないらしい。彼らは敵対するやもしれん西洋魔法についての情報が欲しい。そして私たちはそれをある程度持っている。組織体制などは知らんが。魔法の知識はある。それを役立てろということらしい。ふむ。まぁいい。信頼を勝ち取れば、陰陽術についてもより学べるはず。退魔に関しては人外として期待といった感じか。まぁそれは残りの二人に任せる。最善だったかは不明。しかし、少なくとも善ではあったと。自身の行動を、評価。

 

 「この部屋と両隣の二部屋は自由に使ってくださってかまいません。何かあれば、私たちに。では」

 そう言って、案内役の若い巫女が去る。少しの間の後。エヴァンジェリンが口を開く。

 「これでよかったのか?」

 「悪くはなかったと思うが。」

 「まぁ確かにな。魔法の情報を与えたところで私たちに不利益があるわけでもないし。ほとんどデメリットなく衣食住が確保できたのは僥倖か…ここは京都だしな。散策にはホームがあると役に立つ」

 最後のは必要か。まぁいい。

 「魔法については面倒だが、私がやろう。退魔についてはお前たちに任せる。」

 「あぁわかっ…は?いや待て!」

 「危険もあるが。これも経験。獅子は自身の子を谷に突き落とすという。許せ。妹よ。」

 「待てと言ってるだろうが!!」

 「かわいい子には旅をさせろとも言う。許せ。妹よ。」

 「い・や・だ!何故私が退魔になど参加しなければならん!!」

 「わがままを言って姉をあまり困らせるな。そういう契約の下、私たちはここに置いてもらうのだ。さきの話を聞いてなかったのか。」

 「そういう意味ではないわ!!契約については分かっている!退魔に参加するのが何故私なのかと聞いているんだ!!」

 「お前だけではない。アリスもだ。」

 「?」

 お前は分かっていないな。

 「はぁ……では、質問を変えるが。あなたは参加しないのですか?お・ね・え・さ・ま?」

 甘い。甘いな。愚妹。

 「すでに長達の了承は取った。魔法関係は私。退魔はお前たちと決まっている。」

 「なっ!?いつの…あの時か!!一人で残ったときに話を付けたのか!?」

 「私は力は強力だが、体が弱いため戦闘は出来ない。おそらく力に体が圧迫されているのだろうと両親は言っていた。すまないが私は魔法の研究にだけ力を貸すことにしたい。その代り。妹たちが退魔に参加し、素晴らしい戦果を挙げることを約束しよう。」

 「リピートせんでいいわ!!」

 戦闘をする必要はなくなった。とはいっても、戦闘経験は大事。訓練は重ねておこう。と心に留める。妹には負けたくはない。プライド。

 




呪術協会とか神鳴流とかいつからあったのか。

あと京都弁がわかりません。
大阪弁を京風アレンジ。


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京の吸血鬼

十八話目。更新が予定より遅くなったのには理由が。

PCからハーメルンに繋げない。
タブレット(wifi)からも。
IPアドレスがブロックされてるのか。
携帯で書くのが面倒でした。



 百年も経てば。変わる。街並みも、人も。私たちも。弐百年を超えれば言わずもがな。

「アイリス殿はどう思われますか?」

 一人の爺が尋ねる。その声と共に周りの人間がこちらに、注目。

「ふむ。現状。むこうの方は強大なバックがいる。こちらにはいない。ならあまり刺激すべきではないと思うが。」

「アイリス殿は譲歩されると」

「私は日和見だ。お前たちも知っているだろう。」

「お戯れを」

 少しの笑いが部屋に飛ぶ。

「顧問もこう言ってはる。やはりそっちを選ぶべきちゃうか?」

「アイリス殿には申し訳ないですが、私は反対です。一度譲歩してはそこから付け込まれる可能性もある」

「確かにそうだな。しかし完全に突っぱねることも難しい」

「麻帆良に学園、というより支部が建つのはもう決定事項やろ?向こうが仲ようしてんかって言ってんねんからそれでええんちゃうんか?」

「そんな甘い話ではありまへん。うちらとむこうさんは完全に考え方の違う組織。なら安易に歩み寄るのは危険です。それに顧問も言ってはった通り、力関係で負けてるというのも問題でしょう」

「譲歩しても突っぱねても力で押されておしまいというのもあり得る」

 沈黙。

「はぁ…面倒なことになったな」

「ほんまや!黙って向こうに引っこんどきゃええのに!」

「……今日はひとまずこれまでにしよう。明日また同じ時間に集合。各々考えをまとめてくるように」

 会議の終わりを告げる長の声。それを耳に入れた後。すぐに立ち上がり、襖に向かう。自動ドアのように勝手に開く。部屋を出る。

和風な部屋に似合わない、美しい金髪を結い上げた少女が去った部屋。さらに数人が続いて出る。そして、そこには数人の男女が残っていた。

「顧問は何を考えてるか分かりまへんなぁ。相変わらず」

少し笑いを堪えた風に一人の女が言う。

「あの方は昔から変わらんだろう」

それに釣られたかのように笑いを含んだ低い声。

「儂らが子どもの時からあの調子だ。いつも淡々とした口調と無表情だな」

彼らのなかで一番老いた様子の男が話す。

「…それうちの爺さんも同じこと言っとたで?」

一番若いであろう男が呟く。

「まぁ何にせよ。あの方たちが私たちに協力してくださるのは心強いことこの上ない」

「確かに。今の陰陽術やら神鳴流やらは顧問たちが改良したものやからな。あん人らがおらんかったら俺らは今の数段は下やで」

「魔法の知識もある。仮想敵の情報が事前に危険なく手に入ったというのは大きい」

「問題のある人らであるのは間違いないけどなぁ」

「それで苦労しているのは主にエヴァンジェリン殿だろう。あの方は残り二人に比べて随分まともだ」

「末妹も無口、無表情やからなぁ。三人ともかわええけど」

「…そういや俺子どもん時、アリス様に焼かれかけたわ」

「あぁ。儂はエヴァンジェリン殿に凍らされかけたことがあったな」

「…結局あん人もまともちゃうやん」

自室に戻る。昔と比べて豪華になった部屋。入ると、金色二つ。妹二人。

「戻ったか。どうだった?」

「とりあえずは、保留だ。」

「何だ。お前の後回し根性が根付いているな」

口の端を上げて、話すエヴァンジェリン。

「お前はどう思う。」

「私か?」

アリスに聞くはずがない。当たり前。

「まぁそうだな…東が融和を望んでいるのは確かだろう。西は東に比べて小規模であることに間違いはないが、むこうとしては戦いたくはないだろうな。西は実戦派が多いし、今は学園を建てようという大事な時期だ。かといって突っぱねて全く関係を持たんというのは無理だろう。例え今は出来てもこれからはな。ここは多少の譲歩は必要とはいえ、融和を受け入れるべきじゃないか?」

それに融和を受け入れたからといって大きく何かが変わるというわけでもないだろう。と付け加え、エヴァンジェリンは口を閉じた。

麻帆良に魔法世界の魔法使いが拠点を置きたがっている。これは前々からわかっていた。現状。その計画が実際に動き、麻帆良一帯の土地を奴らが買収。学園都市を作る準備が整い始めている。その準備の一環として、呪術協会に向こうから使者が来た。そして、言った。「日本にはお前らが昔からいると聞いたから挨拶しに来た。これからよろしく。仲良くしてね」。要約。仲良くするか。しないか。その判断で呪術協会は揺れている。

協会が恐れるのは向こうの力。麻帆良のバックは魔法世界の二大国の一つ。組織VS国。この構図。かといって懐柔されるのもお断り。ならば少しくらいは仲良くするが、距離は置いておこう。というのが主流。私たち顧問も主流派。事なかれ主義。

顧問というのは私たちが百年ほど前から言われ始めた役職名。魔法の研究だけではなく、陰陽術の改良にまで手を出していたらこう呼ばれ始めた。エヴァンジェリンが神鳴流に稽古をつけているというのもあるだろう。上層部の連中を子どもの頃から面倒見ていたのも。顧問。今ではなかなかの発言権を持つ。

京都に足を踏み入れ、結局。京都にずっといた。時には旧世界を旅行。しかし、あくまで拠点は京都。人に必要とされている。住めば都。その中で街や人の移り変わりを見た。自身が不老不死であることを強く、認識。周りとの差異がそれを強制。城にいた頃はそこまで実感がなかった。他の二人も不老不死だから。三人しかいない城だったから。

自身は不老不死。周りの人間は死ぬ。それに対して、何も感じなかった。と思う。死んでいった奴らに、特別の愛着や執着がなかった。と思う。だが、もしそんな存在がいたら。そんな存在が生まれたら。未来のことはわからない。その時。私はどうなるのか。どうするのか。

いつも私の隣には。金色二つ。

神鳴流道場。そこには数十人の剣士が腰を下ろし、道場の中心を皆が注視していた。金髪の少女と黒髪の青年。耳に響く金属音を鳴らしながら、体を動かす二人。青年は必死の形相で端正な顔を歪め、少女は涼しい顔。

「―――岩斬剣!!」

青年が放つ、鋭い煌めき。一閃。

「ふっ」

小さく笑って持っていた小太刀でその剣を受け止める少女。

「瞬動の入りが遅い。技の出もだ」

そう言って素早く剣士の懐に入り込み、鳩尾に小さな拳を、刺す。その鈍痛に顔をゆがめ、体勢を前方に傾けた剣士。その体の移動を利用して、少女は剣士を地面に密着させた。

「それまで!!」

床に転がった剣士のうめき声をかき消すように、女の高く大きい声が道場に響く。

「要修行だ」

少女は下に向けて、厳しい声を発する。そして、今日は終わりだと言い残し、道場を出る。その小さな背中には大音量の感謝の言葉が覆いかぶさった。しかし。少女は何事もなかったかのように、歩を進めた。

「報告!敵対組織の残党が協会の支部に攻撃を開始!!」

はっきりとした大きな声。目上の人間が集まる部屋に入り、状況報告をする青年。その姿と声を部屋にいた全員が確認。

「来たか。こちらと相手の戦力は?」

その中の一人が青年に尋ねる。

「はっ!攻撃を受けた第十五支部には陰陽師五名、神鳴流二名、非戦闘員六名!適性戦力は現在確認中ですが、少なくとも支部の戦力では耐えきれない数です!!」

「第十五支部は小さいとこやな。わざわざそこを狙ってきたということはそんな大層な戦力ではないとは思うけど」

「生け捕りにして人質にでもするつもりか?」

「可能性は高いなぁ」

「十年前の奴らやろ?確かそん時、俺は前線出とったけど、大したことなかったわ。人質作戦はあり得るやろなぁ」

非常事態にも関わらず、安穏とした態度。それを見た連絡係の青年は驚き、堪らず声を上げる。

「あなた方は何故そうも落ち着いていられるのですか!?まさか彼らを見捨てる御つもりですか!?」

上の人間に対して声を張り上げた青年。しかし、彼らは動じず。諭すように一人が言葉を発す。

「落ち着けや。お前が入ってきて連絡遣したときに顧問んとこが動いてはる」

それに続けて、声。

「そういうこと。もううちらが出る幕はあらへん」

「今頃戦闘始まってんちゃうか?」

そして青年は意外なその答えに、言葉を止める。あなた方と呼ばれた者たちも満足した様子で、口を閉じた。その時。

「やり過ぎだけは止めて欲しいなぁ…アリスはん」

座っていた女の小さな声が部屋に響いた。

部屋には金色の少女も、黙って座っていた。

京都上空。第十五支部と呼ばれる小さな建物の上。小さな影が飛んでいた。

「ケケケ。ヒサシブリノセントウダナ」

「うん」

美しい白い羽を背中に生やし、腕の中に人形を抱く少女。火と煙が少女のその赤い目の中に映っている。

「ヨシ。オロセ。アト、ヤケ」

「うん」

腕の中の人形が言葉を発していることに眉を少しも動かさず、少女は胸の前で組んでいた腕を広げ、人形を地面に落下させる。そして、その口を開く。

「紅き焔―重複―八―」

少女の目の前に巨大な火球。それが八の数に分かれ、少女の眼下を焼く。炎が建物の周りを燃やす。そして、その炎に黒い影が数人飲み込まれる。

「ケケケ」

その光景を楽しそうに眺め、地面に降りた人形は炎から逃れた影に襲い掛かる。鋭いナイフで自身の倍以上の大きさの影を斬る。その上からは次々と赤が降り注ぐ。その光景に人形は。

「ヤベェ。ヤリスギダ。アノバカ」

笑いを止め、独り言つ。

 

「またやらかしおって!!この馬鹿がー!!」

容姿の可愛らしさに似合わぬ怒鳴り声。声の主、エヴァンジェリンの前には正座をするアリス。無表情に反省の色など見えない。

「チャチャゼロ!この馬鹿がやりすぎないように目を光らせておけと言っただろうが!!」

エヴァンジェリンの怒号。対し珍しく謝罪の言葉を口にするキリングドール、チャチャゼロ。正座のまま船を漕ぎ始めるアリス。アリスに成長は全く見られない。いや。戦闘面では成長していると言えるが。それ以外は、無能。色々詰め込みすぎたのが原因。決してベースは悪くない。と確信している私に、物言いたげなエヴァンジェリン。何だ。愚妹。

敵対組織の残党狩りを命じられたアリス。エヴァンジェリンはその為のサポートに回り、戦闘による被害の拡大を防ぐ。はずだったが。アリスが火の魔法を馬鹿の一つ覚えのように撃ちまくり、支部の周りは全焼。ご丁寧に支部は残したが。エヴァンジェリンの手が回らず、被害重度。説教。ちなみにアリスにサポート役は出来ない。やはり。

「寝るなー!!」

もう諦めろ。エヴァンジェリン。

京での日常。

 




PCで繋がるようになってくれ。
やりにくい。


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東西と吸血鬼

十九話目。
更新スピードくらいしか取り柄がないのに。最近徐々に落ちてる。

あの人の話。
陰謀とか謀略とか。無理です。
原作に書いといてください

前話に最後加筆しました。
少し。見なくても全く問題ないです。

感想とか返信返せていませんが。すみません。
読ませては頂いています。よろしければ、どしどし頂けたらと。




 麻帆良学園の創設。それから四十年と少しのある日。アイリス様はいらっしゃいますか。という女の声。部屋の外。

 「何だ。」

 「上層部の皆様に召集がかかっております」

 召集。何かあったか。融和の反対派の一派が反乱でも起こしたか。それとも東との軋轢が生まれ始めたか。ふむ。

 襖を開け、部屋の外に出る。いつもの会議室に向かう。若い巫女が後ろに付く。

木の廊下を渡り、目的の部屋の前。ついてきた巫女が一声上げて、襖を開ける。先には四十年前とは変わった上層部の面子。並ぶ高級そうな座布団。誰も座っていない一つに腰を下ろす。

 長の声。

 

 「反対や!!」

 若い男が音量の大きな言葉を発す。

 「うちも反対ですなぁ」

 「俺もだ」

 次々と不満を含んだ声が耳に入る。

 「長の息子を麻帆良に留学させるやなんて何を考えてはるんや!?」

 協会の長。その息子、次男。近右衛門。現在十二歳。彼を麻帆良に留学させると長が言い出した。それに対して反対多数、様子見少数。賛成皆無。

 「東との融和策の一環らしい。魔法交流、文化交流を活発にするための交換留学だ」

 「と向こうが言ってきたというわけか。体のいい人質ではないのか?」

 「別に東との融和には反対せぇへんけど、今回はやりすぎちゃうか?」

 「これに対して長は賛成ということか?」

 矢継ぎ早に質問が飛ぶ。長は黙って座っているだけ。そうすると、失礼しますという声がし、襖が開く。そこから一人の少年が入ってくる。

 「今回の融和策に乗ったのは僕です」

 少年が言う。

 「…坊ちゃん。それはどういうことですか?」

 突然の参加者に驚いた様子の面々だったが。すぐに落ち着きを取り戻し、言葉を発す。

 「今回の融和策を言い出したのは東側。皆さんご存知の通り、東はこちらとのパイプを手に入れたがっているようす」

 「あぁ。しかし向こうの目的が変わらない以上、一定の距離を保つという結論に至ったはず。今回の話はそれに反するだろう」

 「はい。ですが、いつまでもそのままではいられないでしょう?」

 

 それは確か。消極的融和を掲げる西。積極的融和を掲げる東。東の方が力関係で上であることは明白。なら。いずれは力に流されるという可能性は少なからずある。それを承知で打ち出した消極的融和。もしもの時のために打開策を用意近しておくべきではある。近右衛門の考えはそういうことか。

 「つまり坊ちゃんは今後のためにこちらも手札を増やしておこうと?」

 「はい。その通りです」

 にっこりと。少年らしい笑顔を見せる近右衛門。

 「だがそのための案が坊ちゃんの留学とは…如何なものか」

 渋い顔を見せた男。近右衛門はそれを見た後、こちらをちらと見る。何だ。

 「失礼ながら申し上げますが…顧問殿から得られる魔法の情報は有益ですが、いささか古い部分もあるかと」

 そう近右衛門が言うと。皆が何とも言えない顔をして、こちらを盗み見る。

 「顧問殿に四百年ほどお力添えをしていただいていますのは、京の人間として感謝の言葉ありません。ですが、今日の西洋魔法、および魔法社会の情報を得るにはやはり実際に足を運ぶべきではないでしょうか?」

 沈黙。

 

 顧問という役職は特殊だ。偉さが分からない。私にも。誰にも。皆は私たちに敬語を使う。協会の長であっても。それは年上に対するものか、権力に対するものか。ここにいる誰もがよくわかっていない。その上。保有する戦力は化け物が三体。一体、というか私は戦力にはなれないという設定もあるが。

 協会で陰陽術を学べば長女に優しく教えられ、神鳴流に席を置いた者は次女にいたぶられ、前線に出ると三女に火葬される。という言葉が裏では囁かれている。確かこんな感じだった。はず。

 

 「確かに。近右衛門の言うことは正しい。」

 私が気を使ってそう言うと。面々は少し安心した様子を見せた。感謝しろ。

 「しかし。今回は交換留学なのだろう。なら何者かがこちらに来るのではないのか。」

 それは困る。どうも魔法世界で吸血鬼として指名手配されているらしい。城を脱出した時から。全く姿を見せないために今や忘れられているらしいが。それが無くとも。吸血鬼ということが東に露見すれば面倒が起る。間違いない。それは困る。

 「顧問の皆様の正体が東にばれては拙いというのは承知しています。それは西にとって多大な損害を生む。それにこちらの情報を渡すのも避けたい。ですから僕が行くことにしたのです」

ふむ。長の子とは組織において重要人物。そんな人物をこちらが出すのであれば。向こうもそれに見合った人間を出さねばならない。どういう魂胆が向こうにあるにしろ。それは嫌だろう。しかし。こちらの身分が高いために断ることも難しい。

 「僕が行くとなると、東もそれ相応の人物を出さないといけません。それに対して東は渋るでしょう。そこから交換留学ではなく、留学という形をねじ込みます。僕が西洋魔法や社会に対して興味を持っているということをすでにアピールしておきました。こちらとのパイプを持ちたい東にとっては」

 良い話。人質になるような人材は出さなくていい。一方的に最高級の人質が手に入り、そいつは人質としてだけではなく、パイプとしても有用。上手い話だが欠点もある。

 「しかし坊ちゃん。坊ちゃんが東に行くというのは危険もあります。さっき誰かが言いましたが、坊ちゃんを人質として利用される可能性がかなり高いのでは?」

 「それは否めません。ですので、その為に情報を流します」

 「……情報とは?」

 「僕と兄、次期長は長子である兄にちがいない。東洋魔法の才は兄の方が優れている。さらに僕は西洋魔法に興味を持つ、一種の裏切り者。そんな裏切り者だから西にとって有害と判定されれば、切り捨てられる可能性大。そうなれば人質としての価値はもはやない」

 なるほど。人質として利用されないようにするための予防線か。人質として使えなければパイプとして使うしかない。兄がいる限りないだろうが、返して次期長になれば儲けもの。ならなくても長の弟。上のポストに就く可能性はある。

 「そして、もし本当に僕が西にとって有害な存在になったら切り捨ててください」

 少年の決意。

 「……坊ちゃん。それは――」

 「僕は西を東に対して有利にするために向こうに行きます。それなのに逆になれば本末転倒でしょう」

 組織の一員としての覚悟。

 沈黙。

 

 「甘い話には裏がある。向こうがこの話は甘すぎると判断して乗ってこない場合もあるが。」

 そう口にすると。近右衛門はこちらを見て、微笑む。

 「はい。その場合もあるでしょう。そのために向こうにも対価を支払ってもらいます」

条件を付けることで少しでもハードルを上げ、甘さをごまかす。ということか。

 「金か?」

 「いえ。教育です」

 「は?教育やて?」

 「はい。教育です」

 「えーっと?どういうことや?」

 「東での僕の教育に関わる全てにおいて、最高峰のものを用意しろという条件を付けます」

 「条件を付けるというのは確かにいい案だと思いますが…何故教育なんです?」

 「あくまで僕らの目的は情報収集です。東の情報を向こうから垂れ流してくれるのが教育です。まぁどうせ自分たちに都合の言いことしか話してくれないでしょうから、裏のことは自分で調査する必要はありますが…それは別問題ですので置いておきます。そして教育というのはこの一例でもありますが、大事なことはこちらの意見を通すことです。例えば護衛などの人数や人材に関して無理を通しましょう。他にも細かい注文を重ねて甘さを上から徐々に塗りつぶします」

 「大きなことは要求しない代わりに小さなことをいくつも要求すると?」

 「はい」

 「確かに誤魔化しにはなるやろうなぁ…」

 沈黙。

 

 少年の考えたプラン。西を強くするための策。

 「これが僕の案です」

 

 「では、みなさん。賛否を問うていいでしょうか?」

 静かで力強い少年の声が、部屋に響いた。

 




そういえば。PCからアクセスできるように。
サーバーのほうが問題あったのか。
わかりません。
まぁいいか。


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閑話 一 少女と青年

閑話です。思い付きです。
二話か三話で終わりだと思います。
話としてはあってもなくても。

閑話が今までで最も長い。
どういうことだ。






 少年が京都を発つ約200年前。

 金属音が響く、道場の中。

 「どうした?その程度か?青山」

 金髪の少女が、膝をつき息を荒げた青年に問う。

 青山。その名は京都を代々守護する退魔の剣術、神鳴流の長の名。

 苦い顔をして少女を見る青年――青山と呼ばれた青年は「青山」の長子。神鳴流の次期長。最強の名。

 しかし。その「青山」の子でありながら青年は、弱かった。

 

 「はぁ…」

 少女に散々しごかれた青年は、その後一人道場の近くの森の中にいた。

 青年の心にあるのは、何故自分は「青山」なのにこれほど弱いのかという疑問。本当は青年はその答えを知っているが。ただそれを考える。

 青年は「青山」でない神鳴流の同年代の門下生や二つ下の弟にさえ劣っている。鍛錬を怠っているわけではない。彼らに比べて青年は劣っているということを認識しているからこそ、愚直に剣を振るった。才能がないなら、努力あるのみ。と自分に言い聞かせ、剣を手に取った。しかしその覚悟と努力が報われることがない。その日が来ない。

 「ダメなのか…」

 神鳴流の長であり現在最強の剣士である父にも、その父だけでなく歴代神鳴流を鍛え続けている少女にも問うた。返ってくる答えは、同じ。結局、才能がない。それだけ。

 

 「才能か…」

 生まれ持ったもの。青年にはない。ない自分は強くなれないのか。努力を重ねても意味がないのか。頭の中でその考えが巡る度に、青年は潰れてしまいそうになる。

 「……」

 強さを渇望しているわけではない。父の剣に憧れる。少女の強さに目を奪われる。そこに自分も。という夢はある。「青山」の名に恥じない剣士に。という目標も。しかし。最も少年が望んでいるのは、京の人間として京の役に立つということ。あくまでそれを。そのための手段として、「青山」の血が剣術を勧めた。だが、このままではそれは叶わないと分かっている。青年には何もできない。次期長は弟がなるだろう。それに対して思うことは、そちらの方がいい、とだけ。

 

 剣の才能がない。それならば他はどうか。と考えた頃もあった。しかし青年にはやはり才能がなかった。格闘術、陰陽術。剣術以下の才能。戦う者としての才能がない。かといって頭脳としての明晰さもない。青年は、また剣を持たざるを得なかった。

 

 「エヴァンジェリン殿」

 道場の脇にある和室で茶を飲む少女に、一人の男が声をかける。

 「お前か…何だ?またあいつのことか?」

 「はい。倅はやはり…」

 言葉を濁す男を見て、少女は小さな口の端を上げる。

 「わざわざ私の口から言わずとも、見ていたならわかるだろう?それともその年でもう耄碌したか?」

 自身よりはるか年下であろう容姿の少女にそう言われても、男は反論できない。

 「やはり剣を置かせるべきでしょうか…?」

 「ふん。剣を置かせてもあいつに何が出来る?」

 男は何も言えなかった。

 「姉様も言っていたが陰陽術の才能もないのだろう?それに文官としても使えまい。女をあてがって子どもでも産ませるか?」

 幼い容姿に似合わない言葉が少女から出る。男も同じ考えは頭にあった。少なくとも「青山」の血は絶えない。次男が子どもを儲けるとは限らない。保険として。だが、幼いころから自身の才能の無さに苦しんでいた息子に対して、そのことは言えなかった。

 

 剣が空を斬る。息を乱し、青年は剣を振るう。

 才能がなくても強くなる方法。剣を振りながら模索する。自分が血のにじむような努力をし続けても意味がないことは分かっている。努力では才能に勝てない。それにもし努力して強くなれても、その成果が出る頃には自分は爺になっているだろう。と考えたところで、気づく。

 努力をし続ける。その為には時間がいる。あと10年、20年と努力を重ねても大した存在にはなれない。40年、50年でもきっと同じ。だが、100年、200年の努力なら。400年、500年と剣を振るえば、才能に勝てるのではないか。努力は才能に勝るのでないか。そこまですれば自分でも強くなれるのではないか。

 数百年を生きる。それどころか不老不死。その存在を京の人間なら誰もが知っていた。

 

 青年はある人物を訪ねた。自身だけではなく、神鳴流全体が師と仰ぐ少女と同じ、美しい金髪。整った容姿。赤い目。

 「アイリス様」

 「何だ。」

 突然の来訪にも全く動じる様子もなく、視線だけを遣す少女。赤い目が少年を射抜く。青年はこの少女が苦手だった。言葉数が少なく、無表情。何を考えているか分からない。少女の機嫌がいいのか悪いのかすら、青年には判断出来なかった。

 「願い事があるのです。聞いていただけないでしょうか?」

 「何だ。」

 人によっては無礼と切り捨てられそうな青年の言葉。少女はただただ答える。

 「……私をあなた方と同じ、吸血鬼にしてはいただけませんか?」

 青年の言葉に初めて反応を示した少女。視線だけではなく、青年に顔を向けた。自身より数歳幼い容貌にも関わらず、少年は自身が恐れを抱いたような気がした。

 「何故だ。」

 少女の疑問。

 「私は京の役に立ちたい。しかし、あらゆることに才能がない。人間であるこの身には努力を重ねるための時間もない。吸血鬼という存在が不老不死であるというのは私も存じています。不老不死となり剣を振るい続ければ、この矮小な身でもいつかは京の力として数えられるのではないかと」

 青年の答えに、少女は青年を見たまま黙る。青年はその沈黙と視線に耐えられず、目線を下に向ける。

 「お前には無理だ。」

 少女の口から発せられた言葉に、青年は思う。やはり、と。この少女たちと同じ存在になる才能さえ自分にはないのだろうと。どこまでくだらない存在なのかと。

 「そう…ですか…」

 すぐさま言葉にできたのは五文字。

 「…お時間を割いていただき、ありがとうございました。失礼します」

 そう言い残し、青年は赤い目から逃れた。早く逃れたかった。

 

 青年は一人。森に戻った。その手に愛刀を持って。

 才能がない。努力の意味もない。時間もない。青年の執着は、ほんの少しの力。剣術でも陰陽術でも何でもいい。

 力。力。力。

 心に現れる漠然とした力への渇望に、青年は乗っ取られそうになる。が立ち止り、目を閉じて、気を落ち着かせる。無心に。

 そうすると落ち着いた心に森のどこからか音が聞こえた。息の音。誰かが息を潜めているわけではない様子。隠す気のない音が聞こえる。青年はその音のする方向になんとなしに近づいてみる。

 

 少し開けた場所。その一角。背から生える美しい白い羽を枕と布団にし、寝息を立てる幼い姿。意外な光景。青年は驚き、足元から音を鳴らしてしまった。その小さな音に反応して、眠る少女がゆっくりと目を開けた。

 

 深く青い目。それ以外の容姿は似ていても、姉二人とは違う。その深さに吸い込まれ、ぼうと立ち尽くす青年を少女は見つめる。

 どれくらい時間が経ったか。青年にはそれは分からなかったし、少女もおそらく知らないであろう。青年は自身が少女の顔をまざまざと見つめていたことに気づく。

 「っつ!?も、もうしわけありません!!」

 思わず出たのは謝罪の言葉。

 

 それに対し少女は首を少し傾げるだけで、何も言わない。

 青年はこの少女と会話というものをしたことがない。というよりこの少女と会話をする人間をほとんど見たことがない。巫女達は三姉妹の中でこの少女を特別可愛がっているが、青年は彼女に関して評価が定まらないでいた。

 

 三姉妹の中で一番尊敬できるのは?と聞かれれば、間違いなく次女の名が挙がる。これは青年の答えであるというだけでなく、京の総意だと青年は思っている。彼女は優しい。甘さはなく、優しさがある。彼女に対しては好意的な評価を誰もがするだろう。しかし残りの二人に関しては誰もが答えに貧する。

 何故か。よくわからないから。という一点に尽きる。長女は決して内心を悟らせないし、三女は何も考えていないのではないかと思わせる。関わりも薄く、協会の人間と上層部以外は長女とはまず話さない。青年は剣術を諦めかけ、陰陽術に手を出した時に、父に紹介され教えを乞うたから関係を持った。しかし他の人間ならそうはいくまい。部屋からほとんど出てこないし、たまにふらっと京を離れ、皆を混乱させる。凄いことは知っているが、それ以外はよくわからないお方。というのが一般的な意見だろう。

 三女に関しては長女以上に謎が多すぎる。基本は部屋で寝ているが、姉からの命があると動きだし、戦闘に向かう。というのが青年の知る少女の行動の全てだった。それ以外にしていることは知らないし、聞いたこともない。彼女と共に前線に行った者から物騒な体験談を聞くだけだ。だからこそ青年はその謎の少女が森の中で寝ているという予想外の光景を見て、驚いてしまった。

 

 少女は青年を見つめ、止まったまま。

 青年の謝罪に対して、相変わらず首をかしげる以外の反応を示さない。青年はどうすればいいかわからず、立ち尽くすばかり。しかし。青年は自分にとってこの少女は目上の人間であるはず、との考えから体の硬直を解き、気を遣って少女に話を振る。

 「午睡ですか?アリス様」

 その問いに小さな頭を小さく縦に振る少女。青年はまともな反応が返ってきたことに内心喜び、調子に乗ってさらに質問を投げかける。

 

 「その白い羽は吸血鬼特有のものでしょうか?」

 白い羽は禁忌の羽。烏族ではそう言われているが、少女は烏族ではない。姉二人が吸血鬼であるなら、この少女も同じであろうという推察を持って、青年はその羽が吸血鬼の能力によるものであるという結論をだした。

 その青年の質問に対し、今度は頭を横に振った少女。その行動の意味するところは、否定。羽は吸血鬼の能力によるものではないということ。

 「ならば魔法でしょうか?」

 否定。

 「…もしやアリス様は烏族だったのですか?」

 否定。

「えっと…」

 では何故羽が生えているのか。自分の知らない、そういう種族なのだろうか。三姉妹であってもこの少女だけは吸血鬼でないということだろうか。と思考していると。

 「ぺがさす」

 「…は?」

 「ぺがさす」

 ぺがさすというのは何だ。種族名だろうか。その名は京では聞いたことがないな。青年は「ぺがさす」という言葉をあとで調べてみよう、と考えて、気づく。会話が止まった。

 青年は自身がどちらかと言えば口下手な人間であると思っている。他人と話をするときは基本的に聞き役だ。他人と会話するのが特別苦手というわけでもなく、あまり自分から話をしないというだけ。だからこの自分より数十倍の歳月を生きているにも関わらず、会話の能力の欠如した少女と相対して、何の話をするのがよいのかが分からなかった。

 しかし。無言のまま立ち尽くすよりは何か話す方がいい。という考えが青年の頭にはあったため、頑張って口を動かした。

 

 「……美しい羽ですね」

 褒め言葉。青年は少女の持つ白い羽を確かに美しいと思っていたし、褒められて気を悪くすることはないであろうという打算もあった。

 その言葉を耳に入れた少女はゆっくりと立ち上がり、青年に近づく。相変わらず。無表情。青年は少女の行動に戦々恐々としていた。羽の事は少女にとって触れてはいけない話題だったのだろうか。烏族と同じく、少女にとっても白い羽は褒められたものではないのだろうか。後悔が青年の頭を支配する。

 少女は青年の暗い心の内になど興味がない、とでも言うような軽い足取りで青年の目の前に来る。少女は青年の顔をまたじっと見つめ、青年の着物の袖を小さく引っ張った。青年には少女のその行動が自身を呼んでいる風に思えた。

 

 「何処かに行くのですか?」

 小さな首肯。

 「私はついて行けばいいのですか?」

 小さな首肯。

 わかりました、と青年が言うと少女は青年を引っ張る力をほんの少しだけ強めた。青年が少女に向かって体をわずかに移動させると少女は歩きだした。その先は先ほどまで少女が眠っていた場所。青年が立っていたところから数十歩。

 少女は足を止め、振り返る。また青年の顔をその青い目で見つめる。青年はその目が意味することを何故か分かったような気がした。

 

 青年の腕の中には少女が眠っていた。

 青年も眠った。

 



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閑話 二 剣と青年

閑話です。前の投稿からずいぶん時間が経ってしまいました。

閑話は次で終わりです。

今日の夜にはもう一つ投稿できるか。
わかりません。本編かも。閑話かも。

章区切りがすごく適当になってます。
今度直しとかないと。


 青年が目を覚ますと少女はいまだ眠っていた。日が傾いていた。青年は迷った。少女を起こすべきか。だが、少女があまりにも気持ちよさそうに眠っていたためその決断が出来なかった。青年の目には金の髪と白の羽が映った。青年はそのまま待つことにした。

 

 少しすると少女が目を覚ました。気を抜くとまた寝てしまいそうな様子だった。青い目を擦り、可愛らしく小さなあくびをして、少女は青年の顔を見た。

 「よく眠れましたか?」

 自分でも驚くような優しい声。少女はそんな声を聴き、小さく頷いた。その後。のそのそと立ち上がる。青年もそれを見て、立ちあがった。少女はまた青年の着物の袖をつまんで、歩き出した。青年もそれに続いた。

 

 その日から。少女は青年を昼寝の共によく連れ出すようになった。青年が朝稽古を終え、昼食を食べた後、部屋に戻る途中。少女はよく現れた。そして袖をつまみ、青年を森へと引っ張っていった。青年はこの無口な少女が何故自分をこんなに気に入ったのかが分からなかった。少女の世話役の巫女達もその行動に驚いていた。森に着くと少女は青年を座らせ、その上に乗って眠ったり、腕枕をさせて眠ったりと青年を具合のいい寝具だと思っているかのような扱いをした。

 しかし、青年は不満を言うことなく、少女に付き従った。少女の年齢が青年のはるか上でも、それを感じさせない少女の行動に青年は妹か娘が出来たような気がしていた。

 

 ある日。青年はいつものように少女に連れられ、森へ向かった。そして何事もなく森に着いた。だがいつもなら森に着いた時点で少女は昼寝の準備を始めるはずなのに、その日に関しては少女はそうしなかった。青年は不思議に思い、少女に声をかけた。

 「どうかされましたか?」

 青年が聞いても少女は答えない。それもいつものことだった。青年は自身で答えを出そうとして、少女を見る。そうすると。少女の目が青年の腰に佩かれた剣に向いていることに気付いた。青年は少女が剣を使うという話は聞いたことがなかった。それに青年は剣をいつも持ち歩いていた。今日に限ったことではなかった。それなのに少女が急に剣に興味を持ったことが不思議だった。しかし。この少女のことだから自分が剣を持っていることにたった今気づいたということもあり得るな。と青年は心の中で笑いながら、少女に佩いていた愛刀を差し出した。

 

 「これですか?」

 差し出された剣を見ても。少女は何も言わない。青年は何か違ったのだろうかという疑問を持った。その答えを青年が黙って探していると少女は袖から手を放し、歩き出した。青年はその行動が、ここで待っていろという意味だと理解した。青年の歩幅なら数歩。少女は自身の数十歩分の距離を取って、青年のほうに振り返った。少女は青年の顔を青い目で見つめた。

 

 「えっと…」

 困惑。青年の心にはそれしかなかった。この数日間で少女の行動はだいたい把握できるようになったと自負していたが。現在の状況を理解できなかった。青年がそんな様子を見せても少女は青年の顔を見つめたまま、立っているだけ。

 少女は何かを待っている。と気づいた青年は考えた。間違いなくそのヒントは刀と距離。少女が受け取らず、青年の手に残ったままの刀。そして少女が自ら作った短い距離を見て、青年は理解した。

鞘から刀を抜く。その独特の音と風の音だけが辺りにはあった。その金属の煌めきを見ても、少女は相変わらず。青年は刀を持ち、棒立ちのまま動かない少女に斬りかかった。

 だが青年の刀は、少女の目の前で不自然に止まった。刀と少女とを隔てるものは少女の展開する魔法障壁。その堅牢さは自身のどんな業をもってしても破ることは出来ないと青年は理解した。しかし。青年は剣を再び振るった。

 

 結局。青年は少女を動かすことさえできず。体力の限界がきた。すると少女は青年に近づき、袖を引っ張る。青年は苦笑いをして、いつもの通りついて行く。いつもの場所で青年と少女は眠った。

青年の目には、少女の白い布団が見えた。

 

 次の日。朝稽古に向かい、少女の姉にしごかれ、息も絶え絶えに自室へと帰り、体を休める。その後、昼食をとるため食堂に向かう。そして部屋に戻る途中で少女に捕まり、森へ随伴する。青年はこの日もこのルーチンを行った。

 森に着くと、少女は青年から離れて青年の顔を見つめる。青年は黙って剣を手に取る。新たな仕事を青年は得たようだった。そして。その日も青年の剣は何も斬れなかった。白に包まれて、青年は眠った。

 

 数日後。青年が朝稽古に向かう道の途中。木の上に鳥の巣を見つけた。母鳥が雛鳥に餌をやっているのを青年は見た。何故か、自分と少女のようだ。と青年は思った。そして鳥たちと同じように、自分たちの関係も今だけのものであるのだろうか。と考えると青年の心にはうっすらと寂しさが現れた。だがそれは仕方のないことだ。と青年は理解していた。

 青年は、速足で道場へと歩を進めた。

 

 その日。夜。少女に出撃命令があった。敵対組織の残党の処理。青年はそれを聞きつけ、自分も出たいと父に直談判した。少女と共に出る前線部隊への志願。前線部隊。青年の力量では務まらないことは青年も分かっていた。

 しかし、青年はいつしかあの儚げな少女が戦地で戦うことを嫌っていた。情が移ったという単純な理由。少女が京で五本の指に入る強者と知っていても、自身では傷一つもつけることができない魔法使いと分かっていても、青年の心はそう思った。

 「前線に行くことは許可出来ん」

 当然の答えだった。青年は父の口からその答えが出ることなど知っていた。

 「しかし、補助部隊になら加えることは出来る」

 「え?」

 補助部隊は基本的に結界を張ったり、負傷者を治癒したりするのが仕事。青年は陰陽術が使えないため補助部隊に入ったとしても何も出来ない。もちろん。そんなことは父も承知だった。何も出来ない青年を部隊に加える。どういう意図があるのか青年のは分からなかったが。

 「あ、ありがとうございます!!」

 自身の希望が少しだけ叶ったことに喜んだ。

 

 その夜。京の街。少女が出るということは少女の姉も出るということだった。補助部隊が結界を張り、その中で前線部隊は戦闘を行う。結界内の人間は避難させる。後は結界を維持し、もし負傷者が出れば治療といういつもの手筈。青年は結界外の家屋の屋根に上り、結界内の様子を見た。

少女が白い羽で舞う。炎を散らし、敵を焦がす。月の光に照らされて輝く白と赤。それは青年の目にこれ以上なく美しく映った。それが人を殺すという暗さを孕むものであるとうことは青年には関係のない話だった。

 青年が憧れる場所に、少女は立っていた。

 青年は憧れを捨てることが出来なかった。

 

 次の日から。青年は稽古により力を入れるようになった。朝の稽古。森の中の稽古。それだけでは足りないと自覚している青年は、考えた。力をつけたい。それは叶わない。では。自身が弱いなら強い者を部下にしたり、強力な武具を持つのはどうか。それだって立派な力だ。本意とは少し違うが、仕方ないと、目を瞑った。

 

 京の人間が「部下」という言葉を聞けば、人と式神、どちらの意味にも聞こえるだろう。「部下」を欲した青年もそうだった。しかし。青年に強力な式神は使役出来ない。なら人しかないが、人徳も伝手もない。最弱の「青山」につく奇特な者などいない。だから青年は武具を探すことにした。そこで青年は知識を得ようと書庫に向かった。

 青年が書庫を捜索すると、一冊の本を見つけた。「意思を持つ武具―インテリジェンスウェポン―」というタイトルの本。西洋語が書いてあるということは顧問たちのうちの誰かが持ってきたものであろうと青年は推察し、興味を持ち、本を開いた。

それによると。インテリジェンスウェポンというのは魔力と付随された仮想人格によって強化された武器ということだった。仮想人格は霊や悪魔、自作など様々な方法があり、インテリジェンスウェポン自体は比較的簡単に作れるというので、青年はこれを採用しようかと考え始めた。しかし。青年が作ったとしても強力なものなど出来るはずもない。誰かに依頼するのが良いのは明らかだった。

 

 そして次の日。青年はある人物を訪ねた。

 「インテリジェンスウェポンだと。」

 「はい」

 青年の判断は決して間違いではなかった。京の人間なら青年でなくとも同じ人物を訪ねることは間違いなかった。

 「ふむ。断る。面倒だ。」

 一蹴。青年の願いは三秒で拒否された。だが、実は青年はこの人物に全く期待をしていなかった。この少女を自分の思い通りに動かすことなど自分には出来ないと青年は思っていたからだ。予想通りの返答を聞き、本命の人物のところに行こうと青年が席を立とうとした時。

 「作るのは面倒だ。だからくれてやる。」

 予想外の言葉を聞いた。

 「は?」

 「二度言わせるな。面倒だ。」

 「も、申し訳ありません」

 「武器庫に私が前に作ったものがある。最奥の部屋だ。封印がかかっている。エヴァンジェリンかアリスを連れていけ。」

 青年はトントン拍子に進む話に戸惑ったが、口を挟み、少女のマイペースを崩して機嫌を損ねるのは拙いと判断。

 「はい。ありがとうございます」

 とりあえず。肯定と礼を口にした。

 「期待はするな。不良品だ。」

 「不良品ですか?」

 「アリスのために作ったものだ。使用者の性格に応じて仮想人格を構築する術式を組んだのだが。どうにもうまくいかなかった。」

 意外。青年はこの少女が魔法に関してうまくいかなかったという話を聞いたのは初めてだった。そしてその話を聞き、青年は疑問を持った。

 「なぜそのままに?」

 改良を重ねればいいのでは。自分と違ってこの少女にはずば抜けた才能がある。

 「その必要がなくなったからだ。」

 「必要ですか?」

 アリスのため作られた武器。

 「アリスには剣の才能が全くなかった。お前以下だ。」

 至極単純な理由だった。

 

 武器庫。青年は青い目の少女について来てもらっていた。その最奥。扉には魔法による封印がかけられている。青年はそこに何があるか噂でしか聞いたことがなかった。魔力を帯びた名刀、呪われた妖刀、禁術のみが書かれた書など伝説級のものばかりがあるという噂。三姉妹による封印がかかっているため、彼女たち以外誰にも開けることが出来ないし、彼女たちも入らないので「開かずの扉」などとありきたりな名で呼ばれていた扉。その扉を開け、二人は先に進んだ。

 




書庫は城の書庫とは無関係です。

本編の文体より閑話の文体のほうが長く書けるようです。


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閑話 三 願いと青年

閑話です。遅くなりましたが最終話。

お気に入り登録が900件を超えていました。
感謝感激です。
これからもよろしくお願いします。

あとSAOの二次創作を書きました。
浮気です。よければどうぞ。

更新ペースは週にそれぞれ1、1以上が目標です。


 青年はもらった剣を持って一人、部屋にいた。

 剣というより刀という方が適切な武器。彼女がここが京であることを考慮したと思わせる。未完成であるがゆえに銘はない。意思ある剣だと聞いているが特に何の反応も示さない刀。青年は未完成の意味を思い出し、肩を落とした。

 

 その夜。

 神鳴流の長が殺された。

 

 長の部屋。足をつける畳も目に入る壁も赤く染まっていた。部屋の真ん中には長の死体と彼が使っていた布団。

 長の妻は取り乱し、弟は泣き叫び、青年は父の変わり果てた姿に思考を停止させた。

 

 「犯人の目星は?」

 上層部たちが集まり、重苦しい会議を始めた。

 「さっぱりやなぁ」

 「傷を見るに刀でやられたことは間違いないですね」

 「青山は術者ではないから障壁もなかった……寝ている人間に刀を突き立てるだけなら子どもでも可能だ」

 「……言いたかないですけど、ここは部屋に結界張って寝るほど殺伐としたとこやおまへんし、誰でも殺せるんやないですか?……内部の人間なら」

 沈黙。ここ関西呪術協会本山には結界が張ってあり、敵は入ることができない。ならば内部の人間が。という結論が出るのは至極当然のことだった。

 「……調査を続けよう。皆、身の安全には気を配るように」

 

 青年は母と弟と共に母の部屋にいた。

 母と弟は元気をなくしていた。青年は自身がしっかりしなくてはと自分を鼓舞し、懸命に平静を保った。

 「母上、お茶です」

 「……ありがとう。けど今はいいわ」

 「……そうですか。お前は?」

 「僕もいいです……すみません。兄上」

 「いや、いいんだ」

 

 二人に席を外す旨を告げ、青年は部屋を出た。とは言ってもどこにも行かず、部屋の前の廊下に腰を下ろした。

 「何故なんだ」

 疑問。何故父は殺されたのか。誰が父を殺したのか。父は剣を持つ者としては優しい性格で恨まれることなどない。父の人格が問題でないなら神鳴流の長だからという理由だろうか。もしくは青山の血を疎む者か。もしそうなら自分も母も弟も危ない。弟は自分よりも強いが、自分は兄なのだ。

 信頼できる護衛が来るまでは二人の傍を離れない方がいい。と思った青年は立ち上がり、部屋に戻った。

 

 その後。上層部の面々やその家族に護衛がついた。青年の護衛は神鳴流のベテラン剣士二人と古参の術者が一人だった。術者は青年の部屋に入り、結界を展開。剣士は部屋の二つ出入り口を体で塞いだ。

 「これで大丈夫です。私がいると落ち着かないかもしれませんが、有事ですので」

 「いえ、分かっています。ありがとうございます」

 青年には気になることがあった。

 「他の方に護衛は?母と弟には……」

 「ご安心を。もちろん、協会、神鳴流の腕利きがついています」

 「そうですか……」

 分かってはいたことだが、他人の口から聞くと随分と落ち着くことだ。と青年は思った。

 「……もうお休みになられますか?」

 「ええ。今日は疲れました」

 「そうですか。お休みなさいませ」

 その言葉を聞いて、青年は眠った。

 

 青年はしばらくすると目を覚ました。それを見た術者の男が青年に声を掛けた。

 「もう起きられたのですか?」

 青年はゆっくりと顔を男の方に動かし、答えた。

 「ええ。何だか目が覚めてしまって」

 そう言って、立ち上がる。

 「何かお飲物でも?お茶ならばここでもご用意できますが」

 「ありがとうございます。すみませんが、いただけますか?」

 「かしこまりました」

 術者の男は青年に背を向け、手を動かし始めた。

 

 青年は刀を手に取り、その背に襲い掛かった。

 

 「なっ!?」

 青年が刀を振り上げた瞬間。術者の男は懐の護符を手にし、防御魔法で自身を守る―はずだった。 青年の刀が男の展開した壁を斬り、そのまま男の体まで真っ二つに斬り裂いた。

 血しぶきが上がり、部屋の結界が解ける。異変を感じ、部屋の両側の襖の向こうにいた二人の剣士が入ってくる。襖が破られる。それと同時に青年は刀を振り抜き、剣士の一人に斬りかかった。護衛対象からの急な攻撃に剣士は反応が遅れ、その刃を身に受けた。

 「若!?何を!?」

 部屋の反対側から入ってきた剣士が声を上げる。

 青年はそちらへ向き直り、薄く笑って、斬りかかった。

 

 悲鳴と怒声が響く本山。

 その原因は最弱の青年だった。

 「あははははははは!!」

 神鳴流の剣士たち。自分が勝てなかった者たち。青年は斬った。

 ―お前は強い。証明して見せろ―

 青年の頭に声が響く。

 その声に突き動かされ、青年は斬った。

 

 「何だ!?」

 協会の長の部屋。中で一人の老人が声を張り上げた。

 「戦闘だな……」

 金色の少女が静かに答えた。

 「なっ!?確かですか!?」

 少女と共に護衛についていた術者が大きな声で尋ねる。

 「ああ。どうするか……」

 「待ってください!!エヴァンジェリン様には長の護衛の任が!!出撃されては困ります!!」

 「ふん。そんなことは分かっている。だが相手はかなりの手練れのようだ……このままではかなりの被害が出るぞ?」

 「ぐっ……しかし……」

 「チッ。アリスもチャチャゼロも他の奴の護衛で動けんし、こうなったら……」

出てもらうか。という言葉が続きそうになったが。

 「お待ちを」

 少女の言葉を遮り、長が言葉を発した。

 「何だ?」

 「エヴァンジェリン殿に賊の対処をお願いしたい」

 「お、長!?何を!?」

 「戦っているのは皆、京の仲間だ。私だけエヴァンジェリン殿に守られて安全にいるのは私の誇りが許さんわ」

 「ほう……あの泣き虫坊主がそんなことを言うようになるとはな」

 笑いを堪えきれない様子で立ち上がり、外に向かって歩く少女。

 「ふん。すぐに終わるさ。何せ私は世界で二番目に強いからな」

 

 「岩斬剣!!」

 「どうされたのですか!?若!?」

 二人の剣士が戦っている。

 「俺は強くなるんだ!俺は強い!」

 二人の内の一人、最弱の青年は剣を振るい続ける。

「っ!?」

 もう一人の剣士が苦しい顔で剣を受ける。剣士は困惑していた。剣士は自分は神鳴流の中でも上位に位置する剣士であると自負している。対する青年は、言い方は悪いが、下の下。斬り合えば一瞬で片が付く、はずの二人。だが。

 「はぁ!!」

 「ぐっ……」

 剣士は押されていた。青年の技量がとてつもなく上がっている。このままではまずいと判断した剣士だが、突破口が見つからず剣を受け続けることしかできない。すると。

 「まさかお前とはな」

 幼さの中に一種の厳かさを含んだ声が二人の耳に入った。

 そして。剣士の影から金髪の少女が急に現れ、青年を蹴り飛ばした。

 

 「下がって治療しろ」

 「……若は、どうしたのでしょうか?」

 「知らん」

 剣士はきっぱりとそう言い放った少女にそれ以上声を掛けるのを止め、撤退した。

 「エヴァンジェリン様」

 いつもなら起き上がることの出来ない少女の攻撃。しかし。今日に限っては青年は立ち上がった。

 「お前……何かに憑かれたか?」

 「どうなのでしょうか?自分ではよくわかりません」

 「チッ。やっかいだ…な……その刀は―」

 「はい。アイリス様にいただきました」

 「何?まさか……いや、確かに使えなかったはずだ」

 「何の話です?ああ、いえ。何でも構いません。あなたを斬れば俺はもっと強くなる」

 それだけです。そう言って青年は少女に斬りかかった。

 

 甲高い金属音が鳴り響く。少女の小太刀と青年の刀がそれを奏でる。

 「―――岩斬剣!!」

 「ふん」

 青年の一撃を少女は涼しい顔で受け止める。

 「くそっ!!」

 そう吐き捨てながらも青年は目の前の少女を斬らんと剣を振るう。

 「甘い」

 青年の隙を突き、少女の蹴りが再び青年の腹に突き刺さった。

 「がっ!!」

 小柄な少女の攻撃を受けたとは思えない速度で後方へ吹っ飛ぶ青年。

 「多少強くはなっているが、その程度だ。神鳴流をかなり殺ったようだが、そんなもので私を斬るだとかほざきよって」

 端正な顔を歪めて、言う少女。

 「な、何故……斬れない?」

 ―斬れる。斬れるさ。お前なら。自身を持て。斬れ―

 心が揺らいだ青年の頭に声が響きわたる。それをきっかけとして青年はまた動き出した。

 「はぁーーーー!!」

 「相変わらず懲りない奴だ……とっととその刀を渡せ」

 「断る!!」

 「チッ!なら力ずくで奪うまでだ!!」

 

 「ケケケ。オレモマゼロヨゴシュジン」

 両者が再び激突しようとした時。人の声ではない声が聞こえた。

 「チャチャゼロ、お前護衛はどうした?それに―」

 「アリス様……」

 キリングドールのチャチャゼロ。そして少女たちの妹分アリス。

 「ケケケ。ジジイガコロシテコイダトヨ」

 「ふん。どいつもこいつも考えることは一緒か。……アリスのところもか?」

 主従が会話している間。青年と青い目の少女は黙って見つめ合っていた。主従はそれを見て、念話で作戦を組み立てる。アリスが裏切った時の為に。

 アリスが青年を可愛がっていたことは京の皆が知っていること。100年を超える付き合いのエヴァンジェリンにもこの状況でアリスがどう動くか。全く分からなかった。

 

 「アリス様」

 青い目の少女は何も答えず、青年を見つめる。

 「アリス」

 赤い目の少女が呼びかけても反応がない。

 「わたしがやる」

 しばらくして青い目の少女から出た言葉はそれだった。

 そう言った後も少女は突っ立たまま。動かない。それを見た青年は笑って刀を構え、少女に向かって 走り出す。

 「ふっ!!」

 青年が振り下ろした剣は少女に、また届かなかった。

 

 「はは……また私の負けですね」

 衣服を所々焦がし、傷だらけの体を地面に置いた青年が言う。

 「ですが、今日はあなたを動かしました」

 笑って言う。

 「……すみません」

 少女は答えず、青年の顔を見下ろしていた。

 「殺してください」

 笑顔のまま青年は少女に懇願した。

 「私は死ぬべきです。死で償うしかない。あの刀は使用者の欲望や願望を肥大化させる人格を作るようです……私のそれはひどく醜かった」

 「……それを持った初日はそいつがお前の寝ている間に精神を覗いて、人格を形成したんだろう」

 「……そして父を殺したのですね」

 「そうだな。お前が殺した」

 「……今日のことは覚えてますが、その時のことは全く覚えていません。ほんとにダメですね、私は」

 「何だ?今気づいたのか?」

 「いえ。知っていましたよ。十数年も前から」

 「……アリスに持たせたときは何も反応がなかった。だから私たちは理論上完成していたそれを不良品だと判断し、倉庫にしまったんだが……」

 「止めて下さい。あなたが気に病む必要などありません。これは私の弱さが招いたこと。私の罪です」

 「……そうか」

 そう言って、赤い目の少女は青い目の少女を一瞥し、従者を連れてその場を離れた。

 

 「アリス様。殺してください。私はあなたに殺してほしい」

 「……わかった」

 少女は青年に近づき、手を振り上げる。

 「ああ。最期に二つだけ。あなたの白い羽が大好きでした」

 「そう」

 「あと、願いは抱きましたか?」

 「うん。けどもう叶わない」

 「それは、うれしいです」

 

 その後。刀は意思を奪われ、再び封印された。

 刀の銘は―ひな―と名付けられた。

 




感想、疑問、指摘、批評、評価等なんでもお待ちしております。


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弟子と吸血鬼

二十話目。閑話最終話はまた今度。
引っ張ります。すみません。

色々問題がありますが。
とりあえず。どうぞ。


 ある日。協会の長の部屋。私とエヴァンジェリンはそこに呼び出された。

 「わざわざご足労いただき申し訳ありません」

 そこには眼鏡をかけた男が座して待っていた。用意されていた座布団の上に腰を下ろす。

 「何のようだ。」

 近衛詠春。馬鹿の集まり「紅き翼」の中でまともなメンバーだと思われている馬鹿。他の馬鹿よりはマシなのは認めるが。

 「少しご相談が……」

 近衛の家に婿養子に入るために魔法世界で武者修行など馬鹿しかしない。

 「娘のことか。」

 そして。親馬鹿。

 「はは……お見通しですか」

 苦笑い。

 「お前のことは子どもの頃から知っているんだ。お前がいくつの時までおねしょをしていたかも、お見通しだが?」

 エヴァンジェリンがニヤニヤと笑って言う。さすが我が妹。いいぞ。

 「……お二人には敵いませんね」

 そういうと姿勢を正し、私たちの方を見据える。

 「娘の木乃香のことなのですが……こちらの世界に身を置かせるべきか迷っています。ご存知の通り、木乃香は妻の木乃葉をも上回る魔力をもって生まれました。類まれない魔力量と近衛の血筋。この二つが娘を裏の世界との縁となることは間違いないでしょう。しかしそれでも、お二人の前で恥ずかしいことですが、英雄などと呼ばれたこの身からすれば、娘には表の世界で平和に生きて欲しいのです…」

 近衛木乃香。陰陽術の名門である近衛家の長女。歴代トップクラスの魔力量をもって生まれてきた娘。才ある次期当主として期待されているが。親はそうでもないらしい。

 「この件についてお二人のお考えを拝聴できればと…」

 ふん。と小さく鼻を鳴らすエヴァンジェリン。だいたい何を言うか予想がつく。同意見。

 「そうだな。あの愛らしい娘は戦いと無縁の世界で生きるのがいいだろう……などと言うと思ったか?ん?」

 しかし。年を重ねる毎に性格が悪くなっている気がするが。何がいけなかったのか。

 「自分で答えが出ているくせに私たちの手を煩わせるな。馬鹿が」

 放任しすぎたのだろうか。もう少し直々に面倒を見るべきだったのか。

 「あいつは何時か確実に魔法と関わることになる。お前も言っただろう?縁があると。日本古来の魔法を学んでおいて縁の重要性が分からないとでもほざくつもりか?」

 いや。待て。エヴァンジェリンは一度置いておいて。アリスは。ふむ。忘れよう。エヴァンジェリンはおそらく京で自由にさせ過ぎたのだろう。京の街が悪影響だったに違いない。

 「……アイリス殿はどう思われますか?」

 「そうだな。私は悪くない。」

 「は?」

 「……何の話だ?」

 「エヴァンジェリンの教育についてだ。私は悪くない。」

 「それはどういう意味だー!!」

 

 間。

 「コホン。…アイリス殿はどう思われますか?」

 「エヴァンジェリンと同意見だ。私から言わせてもらうことがあるとすれば。もし本気で娘と裏を切り離せると考えていたなら。私はお前の東洋魔法の師として恥ずかしい。愚妹だけでなく愚弟子を持ってしまった汚点を背負って永遠を生きることが出来るか。不安だ。」

 「そう…ですか…」

 無視か。

 「先も言ったが、お前も無理だと承知の上だろう?お望みの最後の後押しはしてやったんだ。さっさと諦めろ。愚弟子」

 「…師弟関係は関係ないと思いますが。わかりました。では」

 まぁ。仕方ない。一応私たちは客人だ。長直々の依頼。愚弟子の頼み。

 「アイリス殿。娘に魔法を教えてやってはもらえませんか?」

 聞いてやらんこともない。

 

 「こんにちはー初めましてーこのかですー」

 舌足らずな京都弁。

 「アイリスだ。お前とは前に一度会っているんだが。」

 「きれいなひとやねーお人形さんみたいやねー」

 詠春と話だす小娘。聞け。まぁいい。赤子の頃だ。覚えてはいまい。

 「詠春。」

 「はい?」

 「魔法についての話はしたか。」

 「いえ。まだです」

 なんだと。では私がするのか。それは面倒だ。仕方ない。エヴァンジェリンに任せるか。

 「彼女なら今は出かけていますが」

 「何。」

 「アリス君とチャチャゼロ君を連れて街に」

 しまった。逃げられたか。

 「なーなーおとうはん。面白いことってなんやのー?」

 詠春の袖を引き、何が楽しいのかしらんが笑う幼女。落ち着け。

 「木乃香。こちらの方はアイリスさんという凄い魔法使いなんだ。今日から木乃香に魔法を教えてくださるんだぞ」

 何だその説明は。そして何だそのキラキラとした目は。こっちを見るな。

 「これを見ろ。」

 そう言って手を差し出す。

 「え?何もないえ?」

 反応が返ってきたのを確認し、手を握る。そして。開く。

 「あぁー!?すごい!飴が出てきたー!」

 所詮幼女。ちょろい。何だその目は。詠春。

 

 詠春は出来る限り陰陽術をメインに教えてほしいと言ってきた。当然だろう。西の長の子だ。しかし、自衛に役立ちそうな西洋魔法も積極的に習得させてほしいとも言ってきた。親馬鹿。

 ある日。

 「いいか。木乃香」

 「はい。おししょーはん」

 「この札を持て。」

 「はい。おししょーはん」

 「火よ、と唱えて魔力を流せ。」

 「はい。おししょーはん。火よ!」

 沈黙。何も起こらない。魔法の才はあるはず。だが。札を使った初級術が使えないだと。何故だ。

 「あのーおししょーはん」

 「何だ。」

 今お前の教育について考えている。黙っていろ。

 「魔力ってなんやの?」

 

 またある日。

 「字が書けない奴は陰陽術は使えん。字の練習をしろ。」

 「えー」

 不満を口にする木乃香。

 「少しくらいは書けるだろう。」

 「ひらがなだけなー漢字は小学校に入ってからやって言われたえ?」

 木乃香。五歳。

 

 「あの娘の教育はどうだ?はかどっているか?」

 自室。エヴァンジェリンがアリスとチャチャゼロを連れてやって来た。アリスは睡眠。チャチャゼロは晩酌。帰れ。

 「そこそこといったところだ。」

 「ほう?そこそこ、か」

 意味深な口調。まぁいい。

 「お前の方にも新たに弟子が出来たと聞いたが。」

 詠春が言っていた。烏族の娘。禁忌の白い羽の少女。

 「あぁ。そうだ。まぁ弟子といっても剣を見たこともないようなガキだ。まだ何も出来ん」

 「白い烏族だと聞いたが。」

 「ふん。悲劇のヒロインのような面をしていたよ。髪を黒に染めて、赤い目をカラーコンタクトで隠してな」

 悲劇のヒロインか。里で迫害を受けていたと聞いたが。悲劇か。

 「面倒そうなやつだな。」

 「……否定はせんな」

 そう言った後。チャチャゼロの飲んでいた酒を横取りするエヴァンジェリン。それからはアリスの寝息と酒を注ぐときの水音だけが部屋にあった。

 




問題一。時間が飛ぶ。
どうしようかと思ったのですが。いったん飛ばします。
飛ばした時間をどれだけ細かく書くかは未定。

問題二。原作時間軸がおかしい。
詠春と木乃香、刹那関係の原作時間軸が不明な部分が多く、適当。

問題三。本編短い。閑話の半分。


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これから。始まる原作期か。
依頼と吸血鬼


二十一話目。かなり短いです。

時間軸が飛んだことについてですが。
後に拾います。すみません。いったん飛ばしています。

次回は閑話最終話を。
今週中に。
本編も上げるかもしれません。


 「こ、このちゃん待ってーな!」

 「せっちゃん!はよせな置いてくえー!」

 「はぁ…アリス。ついて行け」

 「うん」

 平和。幼女の笑い声が耳に入る。

 「…何だ?」

 「いや。なに。エヴァンジェリンのお姉さんっぷりを見ていただけだ。」

 「ぐっ…」

 「面倒などと言って結局は面倒を見るな。お前は。いつものことだが。」

 「ケケケ。ゴシュジンハアメーカラナ」

 「うるさいわー!だいたい木乃香の修行も私がほとんど見ているのはどういうことだ!?お前が頼まれたんだろうが!!」

 「二人は一緒にしたほうがいいという私の英断だ。」

 「その答えにお前が師の役目を果たさない理由がどこにある!?」

 「二人の面倒を同時に見ればお前もついてくる。女三人寄れば姦しい。というだろう。何年生きている。知らないのか。愚妹。」

 「……めんどくさくなったという理由を忘れるな。愚姉」

 「ケケケ。コレモイツモノコトダナ」

 

 桜咲刹那。白い禁忌の烏族。烏族では白は禁忌。白く生まれた少女は迫害を受け、里を出た。そこを神鳴流の一人が拾った。今では木乃香の「お友達」兼「護衛」。

 この一年と少しで明るくなった。拾われた当初は死にかけ。肉体も精神も。話によると。経緯を聞いたエヴァンジェリンが自分の弟子にすると急に言い出したらしい。何を思ったか。聞きはしないが。

 その半年後。神鳴流に入ることを志願。何か役に立たないと捨てられる。とでも思ったのだろう。見かねたエヴァンジェリンが「役目」を与えた。それが木乃香の「お友達」兼「護衛」。二人の出会い。このきっかけはよくはないと思うが。あの頃の刹那の様子を考えると。仕方なかった。エヴァンジェリンの判断は間違いではなかっただろう。

 楽しそうに、庭を走り回る。幼女二人。

 

 「ん?」

 何だ。食事には早いが。

 「失礼します。お二人を長がお呼びです」

 「またあいつか…何かある度に私たちを呼びつけおって」

 「ケケケ。アイツハヘタレダカラナ。マタナンカマヨッテンダロ」

 「今度は何だ。」

 「知らん。大方あの二人のことだろうよ。まぁいい。行けばわかる。チャチャゼロ、あの三人を見ておけ」

 「シカタネェナ」

 三人か。間違ってはいない。

 

 「で?」

 開口一番。相手は長。そして一応私たちは客人なのだが。もう今更だが。

 「実は先ほど、お義父さんから連絡を頂きまして」

 「ほう…近右衛門からか」

 近衛近右衛門。関東魔法協会理事であり麻帆良学園理事長。何故西の人間である近右衛門が東の重要ポストにいるのか。一に奴が優秀な人間だからという理由。二に持ち上げられたからという政治的な理由。政治的。東の目的。何のために西とのつながりを持とうとしているのか。いまだ不明。少し情報は入ってきているが。決定打に欠けるのが現状。

 麻帆良へ留学した後。一度京に帰ってきた近右衛門はまた東へ関わった。あれよあれよという間に出世。今では随分と偉くなった。一種のスパイだが。麻帆良には情があるようできちんと仕事はしているが。

 

 「それで?あいつは何だって?」

 「ええ。木乃香は元気にしてるかという旨の内容でした」

 「……それだけか?」

 「はい」

 「……ほう?」

 似合わない低い声で話すエヴァンジェリン。

 「エヴァンジェリン。近右衛門が自分の様子を聞いてこなかったからといって不機嫌になるな。」

 「違うわー!私が言いたいのはそんなことで態々呼び出したのかということだ!!」

 そう言って、詠春を睨みつけるエヴァンジェリン。

 「ええと…今日お二人に来ていただいたのは木乃香と刹那君についてです」

 予想通りだ。予想通り過ぎてつまらん。木乃葉も何故こんなつまらん男と結婚したのか。理解に苦しむ。

 「二人の様子はどうかと思いまして」

 笑ってそう言う眼鏡。やはり。それだけか。

 「…それだけか?」

 一致。

 「ええ」

 イラッ。という擬音が隣から聞こえた気がする。気のせいか。

 「詠春…」

 いや。これは気のせいではないな。だが。私は知らん。

 「な、なんでしょうか?」

 引き攣った顔で答える眼鏡。あの顔を以前見たな。いつだったか。ああ。昔、詠春がへっぽこだった頃。エヴァンジェリンとの特訓でよくあんな顔をしていたか。懐かしい。

 「ふふふ……本来なら道場に来い、と言いたいところだが…今のお前と本気で戦えば道場は壊滅するだろう…だから久しぶりにお前を別荘に招待してやる。喜べ」

 「ええと…何故戦うことになっているのでしょうか?」

 冷や汗。600年程生きているが。滝のような冷や汗など見たことがなかった。貴重。

 「ああ…アリスも連れて行こうか?ここ最近ガキどもの面倒ばかりで暴れたりないようだからな。ちょうどいいだろう」

in別荘。vsエヴァンジェリン&アリス。ノーサンキュー。どうせチャチャゼロもついてくる。

 「ま、待ってください!」

 「遠慮するな」

 「え!?ちょっと!!待ってくだ…」

 眼鏡越しの目と私の目が合う。うむ。行って来い。

 「ちょ…」

 「アリス!!チャチャゼロ!!来い!!」

 ふむ。ガキどもの面倒でも見てやるか。

 

 次の日。

 「行ってくるえー!!」

 「行ってまいります!このちゃん待ってー!!」

 ガキどもを小学校に送り出し、自室に戻る。

 詠春は療養中。あと二日は動けまい。やりすぎだ。長の仕事が滞る。私には関係ないことだが。

 

 「で?」

 「二人の様子はどうでしょう?」

 聞き飽きた。こりない眼鏡だ。ただ高級羊羹を用意したことは評価。エヴァンジェリンも話を聞くことにしたようだ。ちょろい幼女。

 「いままでと変わらん。木乃香には陰陽術の基礎を教えている。西洋魔法についてはまだ何も。刹那も基礎訓練だ。あいつら自身を取り巻く環境についてはほとんど教えていない。まだガキ過ぎて分からんだろうしな」

 「なるほど」

 「…本当にそれを聞くために呼んだのか?」

 「いえ…」

 「何だ。もったいぶるな。とっとと話せ」

 嫌そうな顔で話すエヴァンジェリン。

 「依頼を受けていただきたいのです」

 神妙な顔で話す詠春。

 「内容は?」

 

 「石化魔法の解呪です」

 




短さは話数でカバー。



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少年と吸血鬼

二十二話目。遅くなりました。

章の区切りをはやくやらねば。




 「石化だと?」

 詠春の依頼。石化魔法の解呪。

 「京の者…ではないな?そんな話は入ってきていない」

 「ええ。…少し前、ナギの生まれ育った村の人々が悪魔に襲われました」

 ナギの村。英雄の故郷。

 「死者も出ましたが、それ以上に多いのは石化された者たちです」

 「ふん…英雄様も大変だな?お前も気をつけろよ?詠春」

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを顔に貼り付けるエヴァジェリン。

 「…ええ。わかっています」

 詠春以外のメンバーは全員行方知れず。私たちはそのメンバー全員とは会ってはいないが。居場所がわかっている詠春は狙われる可能性が高い。

 「それで。誰が襲ったんだ。」

 「……確証はないですが…MM元老院の差し金の可能性が高いとのことです」

 MM元老院。紅き翼はそちら側の人間ではなかったか。

 「アリカ姫を奪還したことがそれほど気に入らなかったか、もしくはナギと姫の子が原因でしょう」

 アリカか。ネギか。

 「おそらくアリカの方はないだろう。それならお前も襲撃されるはずだ」

 確かに。アリカが原因ならナギの村だけが襲われた理由としては弱い。アリカの奪還は紅き翼が行ったこと。詠春に対し何のアクションも起こさないのは不自然だ。

 「それで?坊やはどうなったんだ?」

 「…村で助かったのはネギ君と従姉、彼の友人の三名のみです。今はメルディアナに身を寄せています」

 「なんだ。助かったのか?」

 なら何故襲われたんだ。

 「悲劇の英雄の子としての広告を掲げるためか復讐心に囚われた坊やに優しく声を掛けて手駒にでもするつもりじゃないか?」

 つまらなさそうだな。まぁ会ったこともない子供に興味はないということだろう。血筋など見ない。こいつは個人を見ている。そして。不幸も見ない。

 「メルディアナ魔法学校の校長はお義父さんの学生時代の友人だそうで、二人はネギ君をメガロの手から離れさせる案を練っているそうです」

 ネギ。原作主人公。何が起きてもいいように力はつけた。駒も得た。バックも得た。あまり関わりたくはないが。メリットがあるならそれでもいい。

 

 「ふむ。」

 石化の解呪か。時間も手間もかからないだろうが。気になるのは。

 「MMに目をつけられるかもな」

 それだ。一応私たちは指名手配犯。折角500年ほど姿を隠して忘れられたのだ。復活させたくはない。

 「正直なところ…西としてのバックアップはできません」

 これは詠春個人の依頼。

 「この件に関して西はあなた方を守ることはできません」

 当然だ。西が東の英雄とその子に関わる必要などない。

 「ですが、私は友人の子を悲劇の主人公にしたくない」

 悲劇の主人公か。

 「対価を用意しました」

 対価。

 「始祖についての情報、です」

 

 

 

 「ふむ。」

 「なかなかの数だな」

 ここは地下。大量の石像。私たち三人の目の前に。

 「……確かにかなり高位の術だな。並みの術者なら解けんだろう」

 思ったより多い。面倒だな。

 「アリス。使え。」

 「うん。わかった」

 一人。石像の群れに近づく小さな影。

 「アデアット」

 おもむろにカードを取り出す。アリスがそう言うとその手に数個のカプセルが出てきた。さまざまな模様のカプセル。アリスが一つを口に。

 「ん」

 変化。アリスの額には角。

 「始める」

 アリスの声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 息を切らせて、少年は走っていた。その背後からは静止の声が上がっているにも関わらず、全く聞こえていないかのような様子で。ただただ走っていた。

 少年が目指すのは、故郷の村の村人たちのもと。数か月前に石化魔法を受けて石になってしまった者たちのところ。

 彼らが置かれている場所。ある建物の地下。その建物と少年の距離が近づくにつれて、少年の耳には歓声が大きくなって入ってきた。

 「みんな!!」

 少年も喜び、足をさらに速めた。するとその建物から三人の少女が出てくるのが見えた。

 「あれは…!!」

 数週間前に友人となったタカミチから聞いていた。石化魔法を解呪しにすごい魔法使いが来ると。彼女たちが来ればもう大丈夫だと。その「彼女たち」というのは彼女たちがそうだ、と少年は考えた。

 「あの!!」

 少年は建物から離れようとしていた少女たちに向かって声を張り上げた。

 その声はしっかりと聞こえたようで、少女たちは振り返り、いまだ遠くを走る少年の姿を見やった。

 

 数秒後。少年は息も絶え絶えに、少女たちの目の前までたどり着いた。

 呼吸を落ち着かせ、顔を上げた少年は目を引かれた。少女たちの中で、一番年上であろう少女。綺麗だともかわいいとも言える整った顔。美しい煌びやかな長い金髪。ルビーのような輝く紅い瞳。浮世離れした雰囲気を持った少女だった。

 「えっと……あの…」

 言おう言おうと思っていたことが口から出ず、少年は言葉に詰まる。

 「ちょ……と!ネギ!あん…たねぇ…待て…言って」

 「ハァ…ハァ…ハァ…」

 気づけば、背後には幼馴染と姉の姿。

 その日常のような光景を見て、心を落ち着かせた少年は再び口を開いた。

 「今日はみんなを助けてくださってありがとうございました!!」

 感謝。少年の言葉を聞き、ハッとしたように少年の背後にいた二人が声を上げた。

 「え?嘘?もし…かしてこの子たちが?」

 「すごい…魔法使い?」

 その声は疑問。彼女たちの中では、メルディアナの校長さえお手上げだった石化魔法を解くことのできる魔法使いがこんな少女のわけがなかった。

 「ほう?なんだお前たち?私たちに喧嘩を売ってるのか?」

 気の強そうな少女がプレッシャーをかける。

 「ひっ!!」

 「いえ!あの!すみません!そういうわけでは…」

 少女にとっては軽くでも、その圧力に幼い少女はおびえる。

 「やめろ。エヴァンジェリン。大人気のない。」

 「ぬ」

 淡々と少女を窘める。少年は綺麗な声だなと思った。

 「あの…あなた方がみんなを救ってくださったんでしょうか?」

 少年の姉が尋ねた。

 「まぁそういうことになる。」

 「さ、先ほどは失礼しました!私たちはまだ若輩の身で魔法に関してはまだ疎く…」

 「構わん。」

 言葉を続けようとするのを億劫そうに切り捨てる。

 「…本日は本当にありがとうございました。ほら、アーニャも」

 「あ…さっきはごめんなさい。あと今日はありがとう」

 「本当にありがとうございました!!」

 少年も感謝の言葉を重ねる。そして、少年は感謝以外にも彼女たちに言いたいことがあった。

 「あの!僕!将来はみなさんのような立派な魔法使いになりたいんです!!」

 少年の夢。父のような、少女たちのような魔法使いになること。

 「ふん…立派な魔法使いね」

 つまらなそうに、一人が呟いた。一人は先ほどからずっと黙ったまま。そして―

 「そうか。なら頑張れ。」

 「は、はい!!」

 

 「ネギ。」

 「はい」

 「これは貸しだ。」 

 「え?」 

 「いつか必ず返せ。」

 「いつか……はい。わかりました!」

 「ではな。」

 「はい!今日は本当にありがとうございました!!」

 

 少年は離れていく三つの金色をずっと見ていた。

 




ネギまのここら辺の時期って謎が多いですよね。


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情報と吸血鬼

二十三話目。
最近更新ペースが遅いです。それくらいしか取り柄がないのに。すみません。

展開の速さはいつものことで。


 「対価をよこせ。」

 「ははは…さっそくですか…」

 京に着くと同時。詠春を尋ねた。

 「依頼は完遂した。」

 ならば。対価をもらうのは当然のこと。

 「…やったのはアリスだがな」

 うるさいぞ。エヴァンジェリン。

 「…始祖について、ですね」

 「ああ。」

 始祖についての情報はほとんどない。先代の持っていた情報のみだ。魔法世界に行きにくい私たちは情報を集めることが困難。この世界に情報はまずないだろう。

 「実は……お二人に謝らなければいけないことがあります」

 「何だ。」

 神妙な面持ちで話す詠春。何だ。まさかとは思うが。嘘だったとでも言うつもりか。それは。殺すか。いくら温厚な私でも考えないこともない。

 「始祖についての情報を、私は持っていません」

 ふむ。

 「私は、とは。」

 誰かが持っているということか。

 「ええ。アルが」

 死ね。変態。

 

 

 「村人を助けるのは紅き翼や近衛右門らの総意だった、ということか?」

 紅き翼、近衛右門ら。ナギに縁のあった者たち。

 「はい…そして、あなた方に動いていただくための札が―」

「―始祖についての情報か…」

 いいように使いよって。まぁいい。対価さえ払えば許してやろう。

 「その情報はアルが話すということになっています。というより、アル以外は知りません」

 始祖は造られた存在かもしれない。と昔は言っていたことを思い出す。この600年で何か情報を手に入れたということか。あの変態はたしかに有能だ。魔法世界で何かを知ったということもありうる。600年前に情報を意図的に隠していたという可能性もあるが。

 「……つまり、情報を得たければ、奴に会えと?」

 嫌悪感あふれる声でそう言うエヴァンジェリン。

 「そうなります」

 「……さて、神鳴流に稽古でも付けにいくか…」

 おい。

 「待て。」

 「あべ!!」

 顔面から地面へ倒れこむエヴァンジェリン。なるほど。歩き出そうとするときに背後から両足を同時に掴むと、人はそうなるのか。

 「何をするかー!!」

 「妹よ。お使いを頼みたいのだが。」

 「断る!!」

 「駄賃をやろう。」

 「いらん!!」

 わがままな愚妹だ。仕方ない。

 「エヴァンジェリン。」

 「…何だ」

 「共に行かなければ情報は教えん。」

 ならば。道連れだ。

 

 

 

 自室。

 「…本当に行くのか?」

 「私とて行きたくはない。」

 誰が好んであの変態に会いたいと思うのか。それに。

 「麻帆良だぞ?西洋魔法使いのホームだ。わかっているのか?」

 麻帆良。吸血鬼は魔法世界では目の敵にされている。何故かは昔変態が言っていたな。大魔法使いを殺したとかいう信憑性の薄い伝説のせいだったか。もし私たちの正体が発覚すれば、面倒な事態になること間違いない。だが。

 「始祖について知りたくはないのか。」

 「それは…確かに私も興味はある」

 始祖について。これは単純な興味だ。この600年、それを知らなくても全く問題はなかった。だが、知りたい。ただ、知りたい。

 「…奴がこちらに来ればいいじゃないか」

 変態は現在、麻帆良から動けないらしい。

 「仕方ない。創造主とかいうのの封印に忙しいのだろう。」

 創造主。原作のラスボスか。どんな奴だったか。全く覚えてないが。いや、そもそも書いてあったか。いや、待て。そもそも原作のラスボスが何故封印されているのか。ネギと戦うのだろう。なら封印が解かれるのか。大丈夫か、麻帆良。いや、おそらく大丈夫だ。原作開始はおそらくあと数年後。麻帆良が壊滅したりすることはあるまい。原作開始までに麻帆良から撤退し、ブラジルにでも移住しよう。100年ほど。よし。

 そう英断を下した私の耳にエヴァンジェリンのつぶやきが入ってきた。

 「ふん……手間をかけさせよって…」

 確かに手間だ。

 「まんまと嵌められたな。」

 詠春に。どうせ変態の悪知恵だろうが。

 「…少し楽しそうだな」

 「誰がだ。」

 「お前がだ」

 「なに。」

 楽しそうだと。私が、か。

 「何だ?自分ではわかってなかったのか?」

 「ふむ。そうだな。何かに期待しているのかもしれんな。」

 「期待、ね…」

 「まぁ何でもいい。詠春に近衛右門に話をつけるように言っておけ。」

 トップが隠蔽に加担してくれれば、非常に動きやすくなる。

 「はぁ?何で私が……」

 ぶつぶつ言いながら部屋を去っていくエヴァンジェリン。

 そういえばアリスは、どこへ行ったのか。ガキ共の面倒でも見ているのか。まぁいい。

 一人、残った部屋。

 「ふむ。麻帆良、始祖、創造主か。」

 ああ。確かに。楽しみにはしているようだ。

 

 

 「結界だな。」

 目の前には巨大な結界。起点は世界樹のようだ。

 「話に聞いていた通りだな」

 近衛右門の報告通り。手をかざして、結界を解析する。

 「侵入者感知のものはフリーズしてある。」

 手筈通り。

 「魔の者の減衰もだ。」

 これも手筈通り。

 「くくく…トップ自らが吸血鬼を招き入れるとは」

 愉快そうに笑うエヴァンジェリン。

 「では行くぞ。」

 麻帆良に足を踏み入れた。

 

 

 「ようこそ麻帆良へ。アイリス殿、エヴァンジェリン殿、アリス殿。お久しぶりですな」

 麻帆良学園の学園長室。認識疎外の魔法をかけ、堂々と侵入した私たちを迎えたのは爺。

「ああ。久しいな、近衛右門。お前を見ると時間の恐ろしさを実感する。」

 昔は端正な顔立ちをしていたんだが。ただの爺だな。そして、変な頭だな。

 「ふぉふぉふぉ。老いはともかく、この頭はあなたの実験のせいですぞ?」

 そう言って斜め後ろに長く伸びた頭を摩る近衛右門。

 「そうだったか。覚えていない。」

 「ふぉふぉふぉ。相変わらずのご様子で、安心しましたな」

 「吸血鬼だからな。」

 「…世間話はいいが、本題を忘れるなよ」

 「ふむ。アルビレオはどうした。」

 姿が見えんが。

 「彼は図書館島の地下にいます。普段はそこから出で来れないのでのぉ」

 「封印か。」

 「ええ…」

 「図書館島とやらに行くか。」

 聞けば超巨大図書館らしい。知的好奇心がくすぐられる。

「ではこれを」

 近衛右門が差し出したのは三枚のカード。

 「何だ。」

 「図書館島の地下へ行くための通行証です」

 「ふむ。」

 通行証か。少し物々しいな。

 「ふぉふぉふぉ。地下には魔法図書があるのですよ。ですので一般人が入れないようにということで…あと、図書館島の本は自由に読んでいただいても構いません」

 「ほう。」

 魔法図書が読み放題か。

 「では行くか。」

 近衛右門に用はない。とっとと変態に会わねば。

 「お待ちくだされ」

 踵を返し、部屋を出ようとする私たちに後ろから声がかかった。

 「何だ。」

 「ネギ君らを救ってくださったこと、感謝します」

 「組織のトップが軽々しく頭を下げるものではない。」

 「ふぉふぉふぉ。これは個人的なものですので」

 「ふむ。そうか。」

 

 ドアを開け、部屋から出る。

 「どうも面倒な弟子が多くなったな。」

 「誰のせいだ…」

 「さぁな。」

 知らん。

 




ぬらりひょんの敬語ってどんなのだろうか。

原作にありましたかね。

わかりません。



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謎の吸血鬼

二十三話目。

最近の話は最初の雰囲気が完全に失われているような気がしています。
これはいかん、ということで。
寄せていきましょう。

5/5 追加部分あり


 「ほう」

 エヴァンジェリンが感嘆の溜息を漏らす。ふむ。確かに私たちインテリにとってはすばらしい光景だ。本、本、本。本の山。本とそれを収める本棚が大量に置いてある。城の書庫も壮観だったが。ここはそれ以上だ。

 だが。これからあの変態に会いに行くと思えば気がめいる。それを始祖への知識欲で払拭し、本と本棚のアーチを進んだ。

 

 「ようこそ。アイリス、エヴァンジェリン、アリス」

 気持ちの悪い笑みを浮かべて現れた変態。大理石のような白い石で造られたバルコニーのような場所。あたりには本と滝。何故滝がこんなところにあるのか。滝というのは自然界か金持ちの道楽でしか存在しないはずだが。まぁいい。

 「始祖についての情報をよこせ。」

 さっさと手に入れて撤退する。

 「そのためには条件があります」

 「何。」

 話が違う。依頼は完遂した。にもかかわらず情報を渡さんとは。温厚な私でも我慢の限界だ。こいつは殺そう。と思ったが、こいつには重要な役目があったのを思い出す。ラスボスの封印と情報源。なら。仕方ない。半殺しだな。

 「これを着てください」

 

 

 「えっと…始祖についての情報でしたね」

 変態を三人でボコると、大人しくなった。最初からその態度で来い。

 「始祖と創造主は何かしらの関係がある可能性が高いです」

 細い目を開き、しっかりとした口調で言い切る変態。ふむ。関係、か。

 「根拠は。」

 何故その結論が出たのか。

 「創造主が吸血鬼であったからというのが一つ目の理由でしょうか」

 創造主が吸血鬼だと。創造主は魔法世界を創ったとされる人物らしいと聞いている。もし本当なら奴は数千年を生きていることになる。

 「種類は。」

 始祖か真祖か眷属か。始祖以外なら創造主を吸血鬼にした第三者の存在も浮かび上がる。

 「不明です」

 「何。」

 「不明です」

 不明。この変態。散々もったいをつけて、わかりませんだと。

 「創造主は精神を他者に憑依させ、数千年を生きてきたようです。ですので、吸血鬼としての力はほとんど失われています。三つのうちのどれかを判断することは不可能でした」

 「待て。なら。そもそも何故創造主が吸血鬼だと。」

 わかるのか。昔こいつが言っていたことを思い出す。始祖は他の吸血鬼からわかる。創造主が吸血鬼とわかるなら始祖ではないのか。まさか。初代か。

 「それはありません」

 心の声を読むな。

 「おそらく吸血鬼なら創造主に会った瞬間にわかるでしょう。奴が吸血鬼だと。強力な力を持っていながら隠す気もなかったようですし。それに…歪なのです」

 歪。

 「乗っ取った体は吸血鬼ではない。しかし…何と言うべきか…臭うのです。魂が、とでも言うのが適切なのでしょうか…」

 魂が吸血鬼か。創造主が精神体であるのだから意味不明な話でもない。しかし。アルビレオは自分の答えに自信はあっても、論理的な説明がつかないようだ。本能、か。

 

 「しかし、創造主とやらが吸血鬼であったとしても、それが始祖との関係を表すというのはどういうことだ?」

 黙って話を聞いていたエヴァンジェリンが口を開いた。確かに、こいつの言うことはもっともだ。始祖を創ったという話と創造主の種族は関係がないように思えるが。

 「それは二つ目の理由に関係します」

 「二つ目?」

 「ええ…我々紅き翼が“完全なる世界”の本拠地に攻め込んだとき、見てしまったのです…」

 何を。心臓が早鐘を打つ。神妙なアルビレオの様子を見て、それがただ事ではなかったことはわかる。

 「とある真祖の遺体を」

 

 

 

 

 

 「真祖の遺体…だと?」

 「はい…そこは研究室のような場所でした。棺のような箱の中に少女の遺体が入っていたのです。気になった私は魔法で少女を探査しました。すると少女が真祖であることが判明したのです」

 「…創造主が真祖を殺し、研究していたと?」

 「おそらくは…」

 真祖の死体。少女。そう聞いて私が出した少女の正体についての答えは。

 「イリアか。」

 「知っているのですか?」

 「誰なんだそいつは!?」

 「先代の。」

 何だ。

 「恋人、か。」

 「カイロスの…しかし、待ってください。カイロスは真祖化の魔法を使えたのですか?それに、もし使えたとしてもあの魔法はどう考えても恋人に使うようなものではありません」

 「真祖化の魔法は先代は使えなかったと聞いている。」

私はそもそも研究していない。よって、どれくらい難しいのかは知らん。

 「なら真祖化の魔法をかけたのは誰なんだ?」

 ふむ。

「可能性があるのは創造主だろう。」

 自分で創って自分で殺したことになるが。

 「第三者の可能性がないわけではありません」

 「確かにな。」

 情報が少ない。先代の話では、イリアは急に真祖となって現れたらしい。誰が真祖にしたのかは不明。精神には強力なプロテクトがかかっていた。これくらいか。

 「研究資料のようなものはなかったのか。」

 研究室なら山のようにあるはずだが。

 「それが…調べようと思った矢先に襲撃を受け、戦闘が始まってしまいまして…そのせいで資料は全て失われましたが…ある資料のタイトルだけは見ることができました」

 「どんなタイトルだったんだ?」

 一拍置いて。アルビレオは質問に答えた。

「…人工始祖の創造、です」

 

 

 

 

 

 「人工始祖か。」

 人工の反対は天然。

 「つまり、創造主は始祖を創りだそうとしていたと。」

 「おそらくは」

 真祖を使って人工的に始祖を生み出そうとしたわけか。改造か研究材料かはわからんがイリアの体を利用しようとしていたのだろう。

 「…ふん。気分が悪い。私は外に出る。話が終わったら連絡しろ」

 そう言ってエヴァンジェリンは部屋を出て行った。

 「アリス。お前もついて行け。」

 「分かった」

 続いてアリスも部屋を出た。

 「ふふふ…」

 何だ。気持ちの悪い。

 「優しいのですね?妹は可愛いですか?」

 「何をふざけたことを。さっさと話しを続けるぞ」

 「ふふふ…そうしましょうか」

 

 

 「で。人工始祖は成功していなかったのか。」

 「おそらく成功例はないでしょうね。あったとすれば我々、他の吸血鬼がわかるでしょうし…もし完成していたとしても、わからない程度の力しかなければそれは失敗作でしょう」

 「イリアの遺体はどこに。」

 「それも研究資料と共にどこかへ…」

 「そうか。」

 大切な情報源だったのだが。

「私が新たに得た情報はこれくらいでしょうか…」

 始祖について知りたければ、創造主に関して調べれば何かわかるかもしれない。気は進まんが。

 「そういえば。お前は創造主を封印しているのだったな」

 そのせいで麻帆良から出られないとか。

「ええ。最後の戦いでナギに憑依した創造主をナギごと世界樹の下に封じ込めています」

 「えらく簡単に言うのだな。」

 そう言うとアルビレオは立ち上がり、こちらに背を向けて、言い放った。

 「簡単ではないですよ。気を抜けば、友を生贄にした自分自身を殺したくなります」

 その背中を見送り、私は黙って、部屋を後にした。

 

 

 図書館を歩く。膨大な数の本に囲まれ。エヴァンジェリンらは、外か。わかる。

あいつはイリアをどう思ったのだろうか。気分が悪い、などと言っていたが。真祖になりたがったイリアを頭のおかしい奴だと思うのか。愛の力だな、など言って称えるのか。いや。それは想像もつかんな。

 まぁいい。これからどうするか。考える。600年生きてきたが。正直。これ以上やることがない。あるにはあるがどうもできん。と言うべきか。始祖について知りたいが。手がかりがない。自分の体を弄ろうとは思わない。絶対。アルビレオからの情報は得たが、結局は何もわからない。

 「先代か初代がいれば何か違ったのか。」

 偉大なる先達。偉大だろう、多分。あの言葉を思い出す。嫌なら死ねばいいだけ、か。

外に続く扉を開けた。太陽の光が体に降り注ぐ。目の前には妹たち。

 そういえば、この世界が嫌だと思ったことはなかった。

 「終わったか?」

 「ああ。」

 「これからどうするんだ?」

 「ふむ。では帰るか。」

 「京都?」

 「いや。家にだ。」

 




アリスという名前が好きです。
何故か。


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麻帆良の吸血鬼

二十四話目。

これを投稿し初めてから、はや二か月。
春休みの暇つぶしに書き始めたのに。
まさかこんなにお気に入り登録されるとは。
驚きです。感謝です。



前話に続きを書きました。
見ていらっしゃらない方がいれば、そちらを先に見ていただくようお願いします。
5/5。




 約五年後。

 

 「こんなとこおったんか~お師匠はん、掃除終わったえ?」

 城の庭。昔はなかった白いテーブル、白い椅子。そこに座り優雅に紅茶を飲む少女。つまり、私だ。その優雅なひと時を邪魔したのは我が弟子、近衛木乃香。こいつには城の掃除を命じてあったが。えらく速い。茶々丸を使ったか。

 「そうか。」

 「はよ、今日の修行始めるで~」

 その言葉は教わる立場の人間の言葉ではない。と言いたい。どうも私の弟子は師に対する敬意が足りないようだ。と静かに憤慨。一番足りないのは、もちろん愚妹。まぁいい。今はこいつだ。ふむ。

 「今日は模擬戦だ。」

 自分の師の力をしっかり見せておく必要があるようだ。

 「模擬戦?それまたお師匠はんは見てるだけやろ?」

 「今日は私が出てやろう。」

 「へ?何言うてんの?お師匠はん、吸血鬼のくせに日浴びてるから頭おかしなったんちゃう?」

 「刹那とエヴァンジェリンと詠春を呼んで来い。一度お前の教育についてじっくり話し合う必要がある。」

 「せっちゃんとエヴァはんは別荘の中やえ?お父はんは京都。集合はかけられへんな~」

 「あいつらは別荘か。ちょうどいい。私たちも向かうぞ。」

 「え?ええの?話し合いは?」

 「今日は肉体言語だ。」

 

 

 

 爆音。派手にやっている。派手好きは駄目だ。スマートさが足りん。愚妹。

 「くっ!?―――雷鳴剣!!」

 「ふっ、雷鳴剣」

 刹那と同じ技。わざわざ同じ技を選択するとは。性格の悪さが窺える。昔の純粋さなど、もはや欠片もない。

 「ぐぅぅぅ…」

 「もっと気を込めろ!何のための半妖だ!」

 魔の血が濃ければ濃いほど、潜在魔力や気の量は増える。人間は魔力量という点では大したものではない。ただそれを扱うのがうまいというだけ。半妖である刹那は比較的扱える気の量は多い。人間並みの器用さもある。恵まれた存在。

 「ぐっ――あぁ!?」

 しかし。鍔迫り合いに負け、吹き飛ぶ刹那。音を立てて地面を転がっていく。

 「せっちゃん!」

 木乃香が刹那に近づき、治癒魔法をかける。なかなか出が速くなった。治療相手が半妖ということを考えても。治癒速度は上々。

 「このちゃん…ありがとう」

 「ええんよ、せっちゃん」

 素晴らしき主従愛だな。私も刹那のような従者が欲しかった。そういえば、アリスはどこへ行ったのか。私の従者は。付き従え。

 「アリスならタカミチのところだ」

 「何。」

 「あいつはどうも出来の悪い奴がお気に入りのようだな…お姉さんぶりたいんじゃないか?」

 そんな年頃か。知らんが。幾つだ、あいつ。婆だ。

 「で?何しに来たんだ?」

 「今日は模擬戦をする。」

 「また二対一か…?」

 嫌そうな顔。

 「安心しろ。今日は私が出る。」

 「は?」

 「木乃香。エヴァンジェリンの耳が悪いようだ。年かもしれん。診てやってくれ。」

 「エヴァはんもお師匠はんも自分の年考えてーな」

 おい。何故私もなのか。あと。私はエヴァンジェリンより年下だ。言わんが。

 「…やっぱり私に出させろ」

 顔が怖いぞ。愚妹。

 「落ち着け。」

 「なぁ!?いつの間に護符を!結界か!?こら!!解け!!」

 「私が出ると言った。お前は下がっていろ。」

 「わかったから解け!!子供かお前は!?」

 「その結界の外部からの攻撃に対する防御力は皆無。だからそのままでいろ。」

 「因果関係がおかしいぞ!?」

 

 

 ギャーギャー喚く愚妹を置いて、二人の元へ向かう。

 「お師匠はん、ほんまに模擬戦やるんえ?」

 治療を終えた木乃香が尋ねてくる。

 「当然だ。」

 「え?え?こ、このちゃん…アイリスさんが相手なん?」

 不安げな刹那。何をそんなに恐れているのか。私とエヴァンジェリンなら私の方がいいだろう。

 「そうやえ?」

 「け、けど…アイリスさんって体弱いから戦ったら死ぬって聞いたで…?」

 忘れていた。その設定。

 「刹那。」

 「は、はい!」

 「喜べ。エヴァンジェリンが稽古をつけてくれるらしい。」

 

 

 

 まさか自分の設定を忘れているとは。不覚。エヴァンジェリンも忘れていたようだが。

 えらく気合いが入ってるいるな。エヴァンジェリン。木乃香ばかり狙っている。後衛を狙うのも立派な戦術。そういうことにしておいてやろう。という姉の優しさ。

 「そろそろか。」

 ネギがもうすぐ何とか魔法学校を卒業するらしい。来るだろう、ここに。

 その時は、ナギへの対価を払わねばなるまい。

 




短いですが、やっと原作1巻のスタートができそうなところで切ります。


主人公戦闘させようかと思いましたが、引っ張ります。


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ようやく。始まった原作期だ。
主人公と吸血鬼


二十五話目。

感想でもご指摘を受けましたが、テンプレ展開になる予定はありません。
とは言ってもネギまの二次創作は星の数ほどあるので、全く新しいのを期待されても困りますが。
出来る限り面白いものを書けるよう頑張ります。


 「ふぉふぉふぉ。よく来たね、ネギ君。儂が麻帆良学園学園長の近衛近衛右門じゃ」

 「は、はい!初めまして!ネギ・スプリングフィールドです!!よろし……あ、あなた方は!?」

 ネギが来た。学園長室に集まった私たち。ネギは大きな目を目いっぱい見開いている。馬鹿面。

 「久しぶりだな。」

 「え、えっと!あ、あの!お会いしたかったです!!」

 私は別に会いたくなかったが。言わないのが大人だ。

 「何よ、あんたアイリスちゃんたちとも知り合いだったの?」

 ネギの隣に立つ神楽坂明日菜。アスナ姫。ウェス何とか王国の王女。ナギの言う「鍵」の可能性。タカミチの希望によって魔法とは無縁の生活を送っている。だが、皆それは叶わないと知っている。

 「はい!えっと…昔助けていただいたことがあって」

 「ふ~ん」

 魔法無力化体質だったか。魔法や気が効かない能力。アリカと同じ。ネギのパートナーになれば、奇しくもナギらと同じか。まぁ。そんなことはどうでもいい。私には関係のないこと。大事なのはこいつが「鍵」かどうかだ。

 「けど何で麻帆良にいらっしゃるんですか?」

 「ふぉふぉふぉ。今、アイリス殿らは麻帆良に住んでいらっしゃるからの」

 「そ、そうなんですか!?」

 何の感情か。憧れと期待と言ったところか。それにつられたか、こちらをチラッと見るタカミチ。言いたいことはわかるが。知らん。

 「私たちはもう行く。」

 「ふぉ?そうですかの」

 「え!?も、もうですか!?」

 ここで特にすることもない。私と話したい奴もいるようだしな。

 

 「ではな。」

 そう言って部屋を出た。ついて来たのは妹たちと茶々丸。そして、タカミチ。

 「…ネギ君の師になっては頂けませんか?」

 「くどい。」

 そんなことをしても意味がない。

 「対価は払います」

 対価。対価か。私が今求めるのは始祖の情報のみ。

 「お前に払えるのか。」

 「くっ」

 無理だろう、タカミチ。お前がアルビレオやナギ以上の調査力を持っているはずがない。木乃香とは状況が違うのだ。

 「ナギさんはあなたにネギ君を託したのではないのですか!?」

 えらく噛みついてくるタカミチ。そんなにネギが大事か。

 「託されてなどいない。」

 私がナギに頼まれたのはネギを育てることでも守ることでもない。そんなにネギを強くしたいならアルビレオかラカンにでも頼め。

 「アスナを私に渡すならネギを鍛えてやっても構わんが。」

 「なっ!?」

 「くくく…まるで悪役だな」

 うるさいぞ、エヴァンジェリン。アスナが欲しいのは真実。手段を選んでいるだけ真っ当。

 「あいつも木乃香と同じだ。遠ざけても無駄。わかっているくせに足掻くな。」

 ナギ、詠春、タカミチ。親というのは面白い。それぞれ考え方が違う。ナギは子を信頼し、それゆえに誰にも託さない。詠春は子を心配し、私に預けた。タカミチは、こいつ自身が子供。

 「それでも…」

 ネギが来たということはアスナもこちら側に来るだろう。タカミチが、紅き翼の面々が何と言おうと、アスナは引き入れる。手段を選んでいるだけ、真っ当。

 

 「話は終わりだ。ネギの師は他の人間に頼め。」

 タカミチを放って、城に戻るため足を進める。学園の廊下。がやがやとした喧噪。注目されるのも仕方ないが。鬱陶しい。

 「どうだったネ?ネギ坊主ハ」

 そんななか。私たちに話しかけてきたのは超鈴音。数年前に城を訪ねてきた未来人。こいつのことはぼんやりと覚えている。時間操作能力者。

 「ふん…見ていたくせに聞くな」

 不機嫌そうに言うエヴァンジェリン。事実。超は学園長室をご自慢の機械で覗いていた。

 「それはそうだガ、あなた方の感想を聞きたいネ」

 「ただのガキだろう」

 「英雄の息子に手厳しいネ。アイリスはどうカ?」

 感想か。

 「特にはない。」

 「こっちも相変わらずネ…どうせアリスに聞いても答えは返ってこないだろうシ、面白みのない人たちネ」

 余計なお世話だ。そんなことより。

 「準備は進んでるのか。」

 超が城を訪ねて来た時。超が話した計画。

 「フフフ…もちろんヨ!楽しみにしておくネ、アイリス!」

 楽しみか。確かに楽しみだ。その時は。始祖の情報。聞かせてもらおうか、超。

 

 ホームルームがどうこうと言って超は教室に戻っていった。廊下を歩きながら考える。超の持つ情報。どんなものかはわからない。もしかすると嘘の可能性もある。だが、その対価は「動かないこと」。超の作戦決行の時に何もしないこと。それだけで情報が手に入るなら安い買い物。それに超がダメでも、本命がある。

 ナギが言った「鍵」。おそらくアスナだろう。というより魔法無力化能力か。ネギに関わることで魔法に関わる。確か原作ではそうだったはず。そして、あいつらは魔法世界に行く。その時。「鍵」として使わせてもらおうか。紅き翼の顔を立てて強引な手段は取らない。姫を攫う悪い吸血鬼はキャラではない。600年も生きてきたのだ。一年くらいどうということもない。

 

 「あの坊やの師は誰がするんだろうな?」

 「アルビレオだろう。」

 ラカンは魔法世界から出てこれない。タカミチは呪文詠唱ができない。近衛右門はない。あいつはネギを鍛えるつもりなどない。友人の子を預かったという程度の認識だろう。一応心配はしているだろうが、それ以上の干渉はしない。本国からの要請を適当にこなすだけだろうな。

 「くくく…吸血鬼が英雄の子の師とはな…それにアルの正体を本国の連中が聞けば、卒倒するな」

 英雄、紅き翼のメンバーの一人であるアルビレオが吸血鬼だと知っているのは私たちと紅き翼の仲間と近衛右門のみ。

 愉快そうに笑うエヴァンジェリン。本来ネギの師の役はお前に配役されていたこと。いや、まて。確かにネギとアスナは魔法世界に行く。エヴァンジェリンが師ならば。だが。アルビレオが師になったとして、あいつらは魔法世界に行くのか。

 「どうした?人の顔をじっと見て」

 師をさせるべきか。

 「いや。気にするな。」

 ネギは誰が師であろうと魔法世界には行くだろう。どうせその時は私も行かなければならないのだ。面倒だが、何かあれば私が動けばいいか。と思い、言うのをやめた。

 「ふん…ならいいが」

 何にせよ。私のために働け、ネギ。

 



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麻帆良の主人公

二十六話目。

少し遅くなったのは原作を読み返していました。
二話同時に投稿したので、それで。


「…うぅん」

 麻帆良女子中学の寮。そのとある一室。艶めかしい声を上げて、寝返りをうつのは神楽坂明日菜。発育のいい身体をパジャマが捲れ上がった部分から、ちらと晒している。彼女の日常。一人の部屋。

「…お姉ちゃん」

 昨日からそこに入り込んだ異物。ネギという名の少年。明日菜の身体に抱きつき、夢心地。

「…う…ん?」

寝ているとはいえ、何かが体に当たってくる感触に気付き、明日菜は目を覚ました。一瞬。状況を理解するのに使い、その後。息を大きく吸い込む。

「な…なにしてんのよー!!このクソガキがー!!」

 

タカミチからネギを預かるように言われた明日菜。嫌がってはいたが、敬愛する相手から頼まれては断れない。渋々ながらも受け入れ、昨日から二人、共同生活。

「機嫌直してくださいよー明日菜さんー」

部屋の真ん中に置かれた小さな丸いテーブル。二人は互いに向き合って座っている。ネギの顔は明日菜の方を向いている。だが、明日菜はつんと横を向いたまま。悪い空気。

テーブルの上には白いご飯と飲み物だけが置かれている。おかずはない。もう少しで届けられるからだ。

 そして。明日菜の露骨な態度に少しばかり泣きそうになる少年。自身の過ちが起こした結果とはいえ、ここまで無視されるとつらいものがある。

 

そんな時。

「さっきすごい声したけど、なんかあったんかー?」

 部屋に入ってきたのはやんわりとした京都弁が特徴的な黒髪の少女―近衛木乃香。明日菜の部屋の隣に幼馴染と住む彼女は先ほどの明日菜の怒鳴り声を聞いて、様子を見に来たようだ。聞こえた瞬間に来なかったのは、彼女らしいと言えよう。その手に朝食のおかずを持って、ニコニコと笑いながら二人の元へやって来る。

「木乃香!聞いてよーこいつ、いつの間にか私の布団に潜り込んで来たんだけど」

 木乃香の姿を目に収めた瞬間。花の咲くような可愛らしい笑顔を見せたと思いきや、話し始めると共にネギを睨みつける明日菜。そのキツイ視線を受け、ネギはさらに委縮する。木乃香は明日菜の愚痴を聞きながらも、持ってきたおかずをテーブルの上に並べる。純和風。

「まぁまぁ…ネギ君も外国から来たばっかで寂しかってんなー?」

何処からか動物の威嚇のような声を出す明日菜を慣れた様子で宥める木乃香。そして、ネギの頭を撫でる。二人の子供の面倒を見る母親を連想させる姿。

「今日は許したりーな。ほら、それに明日菜、もう新聞配達の時間やえ?はよ食べて行かんと」

「え?!ヤバ!!もうそんな時間?!」

 食卓に並んだ朝食を口の中に搔き込み、「ふぉひぞうさま!う…行ってきます!」と言い残し、部屋を急いで出て行く明日菜。彼女は自身の学費を賄うために朝の新聞配達のバイトをしている苦学生。今日も明日も仕事。

「いってらっしゃーい」

 木乃香は袖を振り、明日菜を見送った。ネギは忙しない明日菜の行動に目を丸くしている。

「じゃあネギ君が食べ終わったら、片付けしよかー」

優しい笑顔でそう言う木乃香にネギは好印象を抱く。同時。相対的に明日菜の株が下がる。朝。木乃香は忙しい明日菜のために毎日朝食のおかずを作り届けている。朝早くに起き、一人剣の鍛錬に向かう幼馴染のため、自身も早起きして朝食の準備をしている彼女。そのついでに隣人で友人の明日菜の面倒も見ているというわけだ。

 

「ネギ君も頑張らんとねー」

「は、はい!!」

 『麻帆良学園で教師をすること』。それがネギの卒業課題。父のような、彼女のような立派な魔法使いになるため、その心を燃え上がらせるネギ。だが、彼の中では気になっていることがあった。

 

「あの方は何て言うお名前なんでしょうか?」

「ふぉ?真ん中の彼女かの?彼女はアイリス殿じゃ」

「アイリスさん…えっと…ここの生徒の方でしょうか?」

「いや、生徒ではないのぉ」

「じゃあ教師の方ですか?」

「いや、教師でもないのぉ」

「え?じゃ、じゃあ…?」

「……ふぉふぉふぉ」

 

 彼女は一体何者か。どうも麻帆良に住んでいるらしいが、五年前から容姿に変化がない。大体の年齢を予測すれば、今は二十歳くらいのはずだが、全く変わっていない。学園長も言葉を濁すばかり。名前以外は何も教えてくれなかった。

「はぁ…会いたいなぁ」

「え?誰にや?故郷の家族かえ?」

 台所に立ち、洗物をしながらネギの独り言を耳ざとく聞いていた木乃香。

「い、いえ!まだ二日目ですからホームシックにはなっていません」

「そうなん?じゃあ誰や?」

「えっと…アイリスさんという方なんですけど、木乃香さんご存知ですか?」

 ピクッ。木乃香の形のいい眉がほんの少し動いた。台所に立っている木乃香の顔はネギからは見えず、たとえ見えていたとしてもネギでは気づかないほどの小さな反応。

「知らんなー麻帆良の人なんか?」

「はい。そうらしいんですけど…」

「麻帆良は広いからなー人を探すのも一苦労やで?」

「ははは…そうですね」

 ネギの笑い声を聞き、木乃香は蛇口をキュッとひねった。水が止まり、備え付けていたタオルで手を拭く。

「じゃあウチは部屋に戻るさかい、なんかあったら来てくれてええよ。右隣の部屋やから」

「はい!ありがとうございました」

「じゃあまた学校でなー頑張ってや、ネギ先生」

「は、はい!」

 誰もが見惚れるしまうほどの少し大人びた笑顔を見せ、木乃香は部屋を後にした。

 

「ネギ君かーどうするつもりやねやろなー」

パタン。木乃香は部屋のドアが閉じた音を背中で感じながら、早朝の静かな寮のなかで小さく呟いた。

 

 

 

 昨日。

麻帆良女子中学二年A組。生徒数は二十九人。担任はタカミチ・T・高畑。

「おはよー」

「はよー」

「ねぇねぇ、今日から教育実習生が来るらしいよ」

「え?そうなの?美形だったらいいなー」

「肉まんいらないカ?」

「おっ!いいね!一つ頂こう!!」

ガヤガヤとすでに登校してきた生徒たちが騒いでいる。その中には明日菜や木乃香の姿もある。今日はネギの着任の日。教育実習生として教壇に立つことになっている。ドアには黒板消しトラップが仕掛けられ、水の張ったバケツ、吸盤付きの矢が準備されていた。そのいたずらの首謀者たちは先生の登場を今か今かと待ち構えている様子。

 

 始業を示すチャイムと同時にドアが開いた。ガラッという教室独特の音を立て、廊下から入ってきたのは一人の幼い少年―ネギ・スプリングフィールド。頭上から落下してくる物体Aの存在を感知した彼は、魔法障壁を展開。物体Aを止める。傍から見れば、彼の頭上で黒板消しが浮いているように見えるのだろう。生徒たちの中には「ん?」と違和感を覚えた者がいるようだ。

「あっ!」

魔法の隠匿を瞬時に思い出したネギは障壁を解除し、物体Aが頭にもたらす衝撃を甘んじて受け止めようとした。しかし。彼の予想した衝撃などなく、真っ白なチョークの粉が彼の赤毛のてっぺんを白く染める。予想外の出来事。動揺したネギは足をもつれさせ、前に一歩進んだ。何故か地面から五センチのところに張られていた紐を引っ張り、バケツを頭の上に降下させる。同時に背後から飛んできた矢の的になる。

「パーフェクト!!」

 首謀者の一人、小学生のような幼い風貌の鳴滝風香が喜びの声を上げる。クラスのあちこちからは笑い声が聞こえ、少しするとそれが驚きの声に変わる。

「「「「えーーー!?子供ーーー!?」」」」

 反応を強く示したのはクラスの半分と少しだろうか。残りはそれぞれさまざまな目を向け、黙っている。

「えっと…ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「せっちゃん、どう思う?」

「そうやね…未熟としか言いようがないんちゃうかな」

 麻帆良にあるスーパー。そこから女子中までの道の途中を、二人の制服を着た少女が歩いていた。京言葉を扱う二人、近衛木乃香と桜咲刹那である。主従関係でもあり、友人関係でもある二人はネギの歓迎会で出すためのジュースや菓子を買い出しに行っていた。

「厳しいなぁ、せっちゃんは」

「え、え?じゃあこのちゃんはどう思うん?」

「う~ん…もっと頑張りましょう?」

「…一緒ちゃうん?それ」

 世界トップクラスの魔法使いたちの教えを受けている彼女たちはネギの実力を推しはかった様子。厳しい評価をつけているが、それも仕方のないことだろう。ネギは天才少年とはいえ、魔法学校で緩々と育ってきただけの温室育ち。

対して、彼女たちは「自分ができるからといって人も出来るのが当然だと思っている長女」と「優しいながらも、ストレス発散代わりにやっていませんかと聞きたくなる次女」、「意外と面倒を見てくれるけれど、教える才というものがない三女」といったキャラの濃い面々にほぼ毎日鍛えられている。稽古の中で剣士の刹那はそれこそ死にかけたことだってある。幼馴染や姉と楽しく生きてきたネギとは違う。

 

「お師匠はんらはネギ君の手伝いしろーって言うてはったけど」

「手伝いって何すればええんやろか?」

「さぁ?」

 彼女たちが師匠の三姉妹、というより長女から命じられたのは、「情報の隠匿」と「ネギの手伝い」である。ネギに居場所がばれるのは非常に面倒だという長女の考えから、知人に情報規制をかけるだけではなく、彼女らの家である「城」には強力な認識疎外の結界が張ってある。それが理由で「城」の周りの森は迷いの森として七不思議のひとつに数えられているのだが、そんなことを気にする人間はあの「城」にはいない。

 木乃香たちには師の、いや長女の考えることはわからない。自分たちにどうして欲しいのか、見当もつかない。ある日麻帆良に呼び出され、あれよあれよという間に麻帆良学園に通うことになっていた。長女曰く、「準備だ。いや、布石か。」ということだが、何のための布石なのか全くわからない。

「う~ん…よーわからんけど、なんか起こるんかな?」

「英雄の子やしね。トラブルには巻き込まれそう」

「そんなん言ったらウチも英雄の子やで?」

「だ、大丈夫や!このちゃんはウチが守るさかい…」

「きゃー!せっちゃん、かっこええー!!」

「こ、このちゃん!はよ帰らんともう時間やで」

「あ、ほんまや!せっちゃん!急ご!!」

「うん!」

 二人の少女は楽しげに、夕日の光を浴びて友たちの元へ走っていった。

 

 

 

 その一時間前。

「あ…っと…ま、前…」

 麻帆良学園。広大な敷地のその中。大量の本を抱え、重みと視界が遮られたことでフラフラと覚束ない足取りで歩く少女がいた。彼女は宮崎のどか。ネギが受け持ったクラスにいる目立たない少女。極度の人見知りである彼女は一人、誰の助けも借りず、図書館に本を運んでいる最中だった。

「う~ん…」

 近くにはネギの姿も見える。学級名簿を片手に困ったような唸り声上げ、小さい歩幅で歩いている。視線を上げれば、彼から階段の上にいるのどかを視認することは可能なのだが、ネギは集中している様子で気づかない。

「あ…う…ん」

 足取りだけでなく、積み上げた本までがグラグラと不安定に揺れ、それと共に彼女の焦りを含んだ小さな声が漏れる。

「え?……あれは、出席番号27番の宮崎のどかさん?」

 その声が聞こえたのか、ネギはのどかを見た。「どこかで見たことある子だな」と思ったネギは彼女の顔と学級名簿と見比べる。するとその答えが出た。

「あんなにたくさん本を持って……」

 誰が見ても危ない。教師としてこの麻帆良に赴任した身としてはここで手を貸すべきだろう。そう思ったネギがのどかに声をかけようとした、その時。

「え…あ、あ!」

 階段が見えず、段差を踏み外したのどか。

―――落ちる

 ネギものどかも瞬間的に感じた。

「くっ!」

 ネギは魔法を用いた。肉体強化の魔法。子供のネギでも少女の身を受け止められるくらいの強化なら可能。だが。それはしっかりとした準備があっての話だ。

 ネギのレベルでは、のどかの落下スピードに合わせて魔法を発動し、走り、受け止めることはできない。幼馴染と従姉と解放された人々と幸せに生きてきたネギにその技量は、ない。

 

―――ダメだ!!間に合わない!!

 ネギは自分でもわかったのだろう。だがその足を、手を止めることはしなかった。今のネギに出せる限りの全力で、魔法と筋肉を行使。それでも、間に合わない。とネギの頭の理性的な部分が警告を発する。

彼にはその一瞬がスローに見えていた。のどかの背中が地面に叩き付けられる一瞬を待つように、スローに。大量の本が紙吹雪のように舞う。ネギにはそれが目を瞑り、宙に浮かぶのどかを美しく飾っているようにも見えた。

しかし。そんな光景に割って入ってきたのは、ネギ自身ではなく、いつか見た金色の――あの金だった。

 

「え?」

 空から地面に向かって、重力に逆らうことができず落ちていたのどかが消えた。バサバサ。スローに見えていた光景が急に動き出す。本が落下。音を立てる。その音の中にも、ネギの見る視界の中にも、のどかの姿はない。消えた。消えた。

「み、宮崎さん!?」

 堪らず。ネギは声を張り上げる。焦る。キョロキョロとまわりを見渡してみても、散らばった本が地面に寝転がっているだけ。あとは日常の何気ない光景。

すると。そのネギの頭上から何かが飛来した。本ではない。そのページの切れ端でもない。白い――羽根。

 綺麗。と場にそぐわない感想を抱いてしまった。何かに曳かれるように。ネギが顔を上げる。

宮崎のどか。舞い落ちる羽根。その持ち主。あの日見た金。

「君は――」

 白い羽を背中から生やし、眠たげな眼でネギを見下ろす。空には、アリスがいた。

 

 

 

「な、な、な、な…」

 ぼうっとアリスの姿を見上げるネギ。じっとネギの姿を見下げるアリス。その静寂に割って入った声。壊れたレコーダーのように同じ音を繰り返す。発信源は神楽坂明日菜。彼女の口。

「え!?あ、明日菜さん!?」

 その声に気付いたネギが焦った声を上げる。致し方のないことだろう。ネギの中では、明日菜は「一般人」だ。そして。背中に羽が生えた少女の姿は「一般」ではない。

明日菜は空に浮かぶアリスを指さして、信じられないものを見たという顔。この光景は死ぬまで忘れないだろう。

 ど、どうしよう。とネギの頭の中で考えが廻る。

――記憶を消すか?いや自分の技量では消す部分を選択できない。誤魔化す?なんて言えばいいのか。今も羽が音を立てて少女を宙に固定しているのに。どうすればいい?――

 うまい考えが思いつかない。幼いネギの頭ではいい案が出てこない。グルグルと思考する頭を精一杯回して、この場を何とか切り抜けようと焦る。

 そして数秒後。思いついた案は、「彼女に記憶を消してもらえばいい」という他人任せなものだった。

 

 

「あ、あの!僕、記憶を消す魔法をまだうまく使えなくて…代わりにお願いしてもいいですかー!?」

 空に聞こえるように大声で。魔法の秘匿をするなら、そんなことを大声で言うのもおかしいのだが。気づいていない。アリスはそれを聞くとゆっくりと地面に降り立ち、抱えていたのどかを地面に寝かせた。いつの間にか眠りの魔法がかかっていた彼女はあと一時間ほどは何が周りで起こっても起きないだろう。

「ちょ、ちょっと!ネギ!!あんたどういうことよ!!」

「わ、わわわわ!」

 やっと故障から治った明日菜が詰めかける。その形相に恐れるネギ。助けを求めてアリスを見ても、彼女は小首を傾げて「何か問題が?」という風。

「き、記憶を!明日菜さんの記憶を!!」

 消して消して。鬼から逃れようと頼む込むネギ。だがアリスは全く動じない。

「ネーーーギーーー!!」

「速く!速く!お願いしますー!!」

 迫る明日菜。焦るネギ。黙るアリス。三者三様。

最初にそれを打ち破ったのは、以外にもアリスだった。

 

「え?」

逃げた。空を飛んでいくアリスの優雅な姿はネギの目にはそう映った。

 

 

 

 




主人公が悪役のようだ。


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目的と吸血鬼

二七話目。


「ご苦労。」

 城。アリスが帰ってきた。羽を生やしている。アーティファクトは使っていないようだ。今。ここにいるのは私だけ。いや。こいつが帰ってきたから二人か。エヴァンジェリンとチャチャ姉妹は近衛右門のところ。囲碁でもしているのだろう。お気楽な奴らだ。

「どうだった。」

「…神楽坂明日菜に魔法を認識させた」

「そうか。」

 アリスに命じたこと。明日菜に魔法を教えること。明日菜にはどうしてもこちら側に来てもらわねばならない。紅き翼の顔は立ててやってはいる。タカミチがどうにも目を光らせているようだが。どうせ何れはネギと関わらせるつもりなのだ。いいだろう。と勝手に納得する。

「他には誰かいたか?」

「タカミチ」

 容認したか。どんな状況だったかは知らんが。

 攻撃魔法をはじめとした攻性のある行動は禁止。許可したのは補助魔法とアリスの能力のみ。羽が生えているということは見せたのか。本来はネギが勝手に明日菜を引き込むはず。だが。私たちの存在がどう転ぶかはわからない。だからアリスにこの命を出した。ネギが明日菜を引きこむなら放置。その様子が見えないなら介入しろと。

「あと宮崎のどか」

「ほう。」

 一般人もいたか。2-Aの人間。魔法に関わりのない奴らなら認識疎外の魔法を解除する魔法をかけるようにも言いつけていた。早めに仲間を増やすといい。喜べ、ネギ。

「木乃香と刹那も用意した。後はお前次第だ。」

 早く。早く、動いてくれ。ネギ。

 

 

パチン。パチン。

 高級そうな木に白黒の石が打ちつけられる。四角い木の碁盤を挟んでいるのは老人と少女。傍から見れば、仲睦まじい祖父と孫にも見えないことはない。だが、煌びやかな金髪の少女は誰が見ても不機嫌な様子で、老人はその様子は視界に入れないように努力し、黙々と碁石を盤の上に運んでいた。

「っち」

 イライラ。少女―エヴァンジェリンからそんな擬音が聞こえる。傍に控えるチャチャ姉妹もそんな主の様子を見て、「何も起こりませんように」と祈っていた。

 

すると。

「おい!近衛右門!!貴様ァ手を抜いているだろう!!」

「ふぉ!?」

 接待プレイがバレた。何とか少女の機嫌を直してもらおうと気を揉んでいた近衛右門だったが、どうも仇になったようだ。茶々丸の用意していた超高級茶も無意味になってしまった。出したときはほんの少しばかり機嫌がよくなったのだが。

さらに怒りのボルテージを上げ、近衛右門を睨みつけるエヴァンジェリン。

 「儂…死ぬかも」と死期を悟った近衛右門。彼、というより京都出身のものは幾つになっても三姉妹に頭が上がらない。特に長女、次女は幼いころから鍛えてもらった恩と畏怖の念があり、逆らえないのだ。

「マスター、何をそんなにイライラしていらっしゃるのですか?」

 近衛右門を助けたのは、人ではなく、ロボット。というより現在、学園長室には人間は近衛右門しかいないが。

「…イライラなどしていない」

嘘付け。老人、ロボット、人形の思考が一致した。エヴァンジェリンは気を落ち着かせようとお茶を口にする。

「アイリス様に構っていただけないのが気に入らないのですか?」

「ぶふぅーー!!」

 エヴァンジェリンが口に含んだ茶を勢いよく吹き出した。正面に座る近衛右門は大惨事。

「な、なにを言うかーー!!わ、私があの馬鹿姉など気にしているわけはないだろうが!!」

「アイリス様はマスターのことを可愛がっていらっしゃると思いますが?」

「な、なに!?」

「例えばこれを」

 そう言って茶々丸は部屋のカーテンを閉め、電気を消した。部屋は真っ暗。一瞬の間の後。光が生じた。

『あ、アイリスさん!今日も魔法を教えてください!!』

「ぎゃーー!!な、ななな……何だこれは!?」

部屋の壁に映ったのは幼い少女の姿。現在のエヴァンジェリンと容姿はそっくりだが、雰囲気が全く違う。たとえるなら陽だまりのような可愛らしい笑顔を浮かべている。言うまでもなく昔のエヴァンジェリンである。城に来て、アイリスと過ごすうちに傷が癒えてきた頃だろう。まだ姉に夢を見ていた頃。もうまもなくすれば、今のエヴァンジェリンを次第に形成し始める。

「昔のマスターの姿です」

「そんなことはわかっている!!何故お前がこんなものを持っているのだ!?」

「マスター……本当におわかりにならないのですか?」

「わかるわ!!あの馬鹿姉の仕業だろう!!」

 昔。アイリスが魔法で取っていた映像。超に渡して茶々丸の中にインストールさせておいたものだ。何故そんなことをしたのかは、不明。

「ケケケ。ゴシュジンモカワイイトキガアッタンダナ」

「ふふ、ふぉ…」

 小馬鹿にするように言うチャチャゼロ。笑いを堪える近衛右門。

「消せー!今すぐ消せー!!」

 

 

 五分後。明かりがともり、普段の学園長室に戻った。近衛右門はいつもの席に座り、客人の三人は高級ソファーに身を預けていた。エヴァンジェリンも落ち着いた様子で茶を啜っている。

「あいつが…姉さまが何を考えているのかがわからない」

 口から湯呑を外したエヴァンジェリンはポツリと呟いた。六百年の付き合いがあるとはいえ、彼女にとってもアイリスの考えていることはわからない。全て気まぐれで行動しているわけでもなく、彼女なりの思考とその結論に基づき行動しているのだろう。それでもわからない。

「昔からそうだった。だが、麻帆良に来てからそれが顕著だ」

 大体の予想はつく。始祖。彼女の興味の対象。前から自分の興味のあることには熱心だった。興味のないことは無視。その姉が六百年前から興味を持ち続けているのが、始祖。姉はその起源を見つけたいようだ。始祖とは何か。そんな哲学的な問いを自分に投げかけ、その答えを探している。

 エヴァンジェリンも真祖について調べていた時期があった。しかし。それは人間に戻る方法を探すための手段としてだったし、今では人間に戻りたいとは全く思っていない。話を聞く限り、生まれたときから姉は始祖だったそうだ。詳しいことは何も聞かされてはいないが、始祖という存在そのものに疑念を抱いている。

 何かを知っているらしいアルビレオに尋ねたこともあった。その時のアルビレオはいつもの軽薄な感じではなく、しっかりと真面目にエヴァンジェリンの問いに答えてくれたが彼も「アイリスは始祖について知りたがっている」ということは理解していても、それ以上の情報は知らなかった。もちろん始祖とは何かという問いにも正確な答えを用意できない。

「始祖について調べているのはいい。自分の起源に興味があってもおかしくはない。だが、姉さまは何か隠しているのだ。六百年前から」

 何故話してくれないのかはわからない。ただ単に秘密主義だから、と言われても不思議ではない。だが。姉や起源云々というよりも――

「何かある気がするんだ……始祖には」

 その秘密は――世界を大きく揺るがすほどの。

 



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