剣姫と白兎の物語 (兎魂)
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ゼウスファミリア
1 幸せな時間は続かない


15年前のオラリオから始まる物語
幼いころのアイズそして未来へ
アイズとベルの関係は...?

アイズとベルの絆の物語です


ここは、迷宮都市オラリオから100キロほど北に位置する山のふもとの村。

晴天の青空の下、小高い丘の上にそびえる大樹の下で剣を振っているヒューマンの男性がいる。

男性から漂う空気はただものではない。気迫だけで、一般人なら気を失うことだろう。

 

男性は白銀に輝くロングソードを振り回し、日課である鍛錬を行っている。

 

静寂の中気合の入った声が聞こえた。

 

「せいっ!はぁっ!」

 

すさまじい速度で振られた長剣は落ちてくる木の葉をあっという間に粉々にする。

 

更に双剣に持ち替えて架空の敵に対してラッシュをかける。

腕の振りが全く見えない……

 

鍛錬の途中気配を感じて振り返りかえると、そこには愛してやまない家族の姿が見える。

 

「おとうさーん」

 

遠くから二つの影がゆっくりと近づいてくるのが見えた。

手を振っているのはヒューマンの親子だ。

ふたりとも金色の髪と金色の瞳をして整った容姿をしている。

 

ヒューマンの男性が鍛錬の手を止めて大粒の汗を拭きながら手を振りかえす。

 

「アイズ!」 

 

「アリア!」

 

アイズと呼ばれた子供が勢いよく走ってきてジャンプした。

 

「よっと」

 

そのままふわりと抱きかかえて肩車をするとアイズはきゃははと笑いながら父の白髪の髪をなでた。

 

「おとうさんの髪ふわふわで気持ちいいね」

 

自慢の娘が自分の髪をなでている。

 

(家の娘はなんてかわいいんだ……)

 

「あらあらアイズはいいわね、二人でいちゃいちゃしてうらやましいわ」

 

ぷぅ、とアリアが頬をふくらましてジト目で二人を見つめた。いつもは団員たちの前で凛々しい夫が、紅い瞳で我が子をみつめながらデレデレする姿は他の誰にも想像できないだろう。

 

「アイズ!お父さんは好きか?」

 

「うん!大好きだよ!」

 

毎回答えはわかっていることだが聞くたびに顔がにやけてくる。

アイズの笑顔だけで体力回復できるんじゃないだろうか...

 

「わたしは?」

 

むうっとアリアがジト目で見つめてくる。

 

「もちろん、愛しているさ」

 

照れなのか多少頬を赤く染めながらつづける。

 

「アイズもアリアも、何があっても俺が命をかけて守る。家族3人いつまでも仲良く暮らしていきたいからな...その為にも...やつを倒さなければならない」

 

最後は神妙な顔つきをしていたがすぐに笑顔になり我が子をなでる。

 

「あら、3人じゃないわよ?」

 

アリアがお腹をさすりながら夫を見つめる。

 

「子供できたの」

 

ドヤ顔である。

 

「えええー!!!」

 

突然の妻の宣言にダグラス衝撃揺を受けたがすぐに笑顔になりアイズを高く抱きあげる。

 

「アイズ!弟か妹ができたぞ!」

 

ああ…なんて幸せなんだろう。たまには休暇をとって家族で出かけるのも悪くないとしみじみ思うのであった。

他の団員達もこの村で十分休息をとっていることだろう。遠征の疲れを少しでも癒してもらわないとな。

明日はアイズとアリアを連れて森にでも出かけようか...

そんなことを考えながら親子三人仲良く手をつないで貸家へと向かった。

 

 

その夜

 

あたりは静寂に包まれ虫の声が聞こえる穏やかな夜だ。

 

「アイズは寝たか?」

 

編み物をしているアリアに話しかける。

 

「ええ。あなたと久しぶりに遊んで、この子も疲れたんじゃないかしら」

 

アイズの頭をなでながらアリアが答えた。

すうすうと寝息をたてるアイズはまるで天使のようだ。

などど内心思っているとアリアが神妙な顔をして訪ねてきた。

 

「次の遠征はいつになるの?」

 

元冒険者であるアリアは鋭い視線で夫をみつめる。

 

「この前の遠征でも大陸の王者(ベヒーモス)を倒したばかりじゃない...

みんなあんなに大けがして死人がでなかっただけでも奇跡みたいなものよ。

あなただってスキルの反動で本調子じゃないんだから...」

 

【アリアの夫ダグラス・クラネルのスキルの一つ】

 

自己犠牲(カバーリング)

 

同じ恩恵をもつ範囲内にいる仲間のダメージと疲労を肩代わりする

 

 

 

ダグラスは前回の遠征で、このスキルで死にかけた仲間達のダメージを全てを自分に移し替えるという

荒技をみせている。エリクサーを飲んでも全回復はしていないのだ。

 

「このぐらい死にはしないさ」

 

はははっと笑うダグラス。

 

 

「あなたは強い。でも戦いにおいて絶対なんてない。もしあなたになにかあったらと考えるだけで私は...」

アリアの頬を涙がつたう。

 

ダグラスは真剣な顔をして答える。

 

「アリア...俺はまだまだ強くならなきゃいけない。アリアやアイズそしてファミリアの仲間たちを守る為にもな。

最近、黒龍の動きが活発になってきていると聞く。どうにもいやな予感がしてな」

 

ランプの明かりの下ダグラスは愛剣である長剣と双剣の手入れをしながら語る。

布で刀身を磨くとまるで息をしているかのように刀身が輝いた。

 

「黒龍を倒すのは俺の...いや俺たちの悲願だ。アリアもわかっているだろ?」

 

剣を置き、心配そうな顔のアリアを抱きしめる。

 

「アリア。次の遠征が終わればしばらくは落ち着くはずだ。もう少しだけ協力してくれないか」

 

ダグラスの紅い瞳がアリアの金色の瞳を見つめた。

 

 

「そんなこといわれたらダメなんて言えないわ。でも無事にかえってき...」

 

「うっっ」

 

突然アリアが頭をかかえてがたがたと震えだした。

その尋常ではない様子に心配になり、抱きかかえようとした瞬間冷や汗が流れる。

 

(なんだ、この禍々しい気配は)

 

全身の血の気が引くような感覚...階層主と対峙した時の何倍も嫌な感じだ。

すぐに防具と愛剣を装備する。

 

ドゴォーン!

 

ものすごい衝撃とともに轟音が響き渡る。

 

「た、たすけてくれー!」「なんなんだ、あの怪物達は」「空からくる!みんな逃げろー!」

 

家の外から住人の叫び声や悲鳴が聞こえてくる。

 

ドタドタドタ 

 

誰かが大急ぎで走ってきた。

 

「団長ー! 黒龍です! 黒龍が眷属を引き連れて現れました」

 

汗まみれの団員が息を切らせながら黒龍襲来を告げる。

 

(黒龍が...なぜこんな村に...いや、考えてもしょうがない)

 

「この村にいる全団員に号令をかけよ! これより黒龍を撃退、村の住人の避難誘導を行う」

 

「ハ!」

 

団員は敬礼をして、外に大急ぎで走って行った。

 

 

「あなた...」

まだ顔色がすぐれないアリアが心配そうな声をかける。

 

 

「聖なる光よ、その力を持って魔を退ける盾となれ」

 

 聖なる守護盾(ホーリーウォール)

 

短文詠唱をしてアリアとアイズに守護魔法をかける

 

「心配するな! 俺はオラリオ最強 ゼウスファミリア団長だ 護りし者(ザ・ナイト)の2つ名は伊達じゃない」

 

「アリアはすぐにアイズを連れて町の外に逃げるんだ」

 

アリアを抱きしめて声をかける。

 

「愛してる。アイズを頼むぞ」

 

「あなた...どうか無事に帰ってきて!」

 

目を潤ませてアリアは叫ぶ

 

「ああ、約束だ!」

 

そう言って、急いで外にかけていくのであった。

この会話が最後の会話になるとも知らずに....

 

 




なかなか話を書くのは難しいなーとか思いました。頭の中でなら情景を思い描いて楽しむことはできるんですがいざ文章にすると厳しいですね「汗」

よろしければコメントいただけるとうれしいです<m(__)m>


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2 黒龍来襲 生と死 

家から一歩出るとそこに広がる光景は悲惨なものだった。
数時間前まであんなにきれいだった山々は燃え、川は干上がり血の匂いと悲鳴にあふれていた。

ほんの数分でここまでの被害が...

「チッ」

いつも温厚な男が苛立ちをみせていた。すぐに部隊に連絡を取り対応しなくてはこのままではまずい、多くの犠牲者がでてしまう……








各部隊の長は副官に指示を与え、一度団長であるダグラスのところに集結した。

 

部隊長達は皆、ゼウスファミリア結成当時からの仲間で、気心が知れた頼りになる仲間達である。

 

「このままではこの村の人々は全滅してしまう。お前たち部隊長は俺とともに黒龍の撃退に向かってくれ」

 

「「ハ!」」

 

全員が掛け声と共に敬礼をした。

しかし皆の表情は険しい...黒龍は死を司ると言われ、眼にした者は死に絶えると伝えられている。伝承では多くの英雄達が黒龍の前に倒れているのだ。

皆わかっているのだろう、自分達の命をかけたとしても黒龍を撃退できるかわからないことを。

それでもっ!

 

「「「「我らの命、団長に預けます」」」」

 

(俺は本当にいい仲間をもった。この仲間達の為なら俺も命をかけられる)

 

ダグラスは思わず涙がでそうになるのをこらえた。

しかし...ズキッッ ダグラスの体は悲鳴をあげる。スキルの反動は強く、全快時が100だとすれば60~70ほどの力しか出せない。黒龍相手に全力で戦えないのが悔やまれる。

 

(くっなんのこれしき...)

 

一人の団員が青い顔をしてダグラスに声をかけた。

 

「団長!アリアは...アリアはどうするんですか?」

 

3年前、アイズが生まれるまで一緒に冒険していた仲間を一人の団員が心配そうな顔をして訪ねてくる

 

「アリアもブランクはあるかもしれないがレベル6の冒険者だ。腕も鈍ってはいないだろう。それにアイズとともに町の外に逃げるように言っておいたから問題はないはずだ」

 

団員は安心した顔をみせた。

 

「そうですか。よかった...でもアイズもこんなことになって怯えていなければいいけど」

 

アイズはゼウスファミリアの皆にとてもかわいがられていたので、心配しているものも多いのだろう。

 

「アイズは俺とアリアの娘だぞ!絶対に大丈夫さ」

 

内心心配ではあるがぐっとこらえる。

 

(ああ...アイズ 今すぐ抱きしめてもふもふしてやりたい...)

 

「団長?」

 

団員が若干引き気味に声をかける

 

「ゲフン、ゲフン、さあ俺たちも行くぞ」

 

無理やり咳払いをして気を引き締めなおす。どこまでも親バカな団長である。

 

 

 

「誰かいるか!」

 

団長の呼びかけに団員が一人駆け寄ってくる。

 

「今すぐオラリオへ向かい、ゼウス様とミアに黒龍来襲を伝えるのだ。それとロキファミリア、フレイヤファミリア、他にも主だったファミリアに応援を依頼せよ」

 

「ハッ!」

 

命じられた団員は何の躊躇いもなく走っていった。みんな団長のことを信頼しているからこその判断である。

 

 

村の様子は時間が経つにつれ、どんどん悪くなっていく。それも無理はない。ゼウスファミリアの団員全員を合わせても約200人。

だが村の住人は1000人以上いるのだ。

中には老人も子供も病人もいる為避難に時間がかかっている。それに加えて黒龍の眷属共も、レベル3 レベル4程度のモンスターが何体もいるのだ。やはり頭をつぶさない限り状況はよくならないだろう...

 

「キャーー!」

 

遠くから悲鳴が聞こえる。

 

「くそーっっ!よくも母さんを...」

 

子供が泣きながら叫んでいる声が聞こえてくる。

 

「どうした?大丈夫か?」

 

「うっっ」

 

目をつぶりたくなる光景がそこにはあった。

一匹のワイバーンがウェアウルフの家族に襲い掛かっていた。

カギ爪で背中をえぐられ、血を流して倒れた母親らしき人と子供の前に立ち魔物の攻撃から子供を守る父親がいる。

 

ダグラスが抜刀して一気に距離をつめる。距離はおよそ100メートル。

 

(間に合うか...)

 

一気に間合いを詰めて切りかかろうとするが、距離がありすぎて間に合わない。魔物が一瞬早く子供に攻撃を加える。

 

「危ない!!」

 

ドスッ子供をかばった父親の胸に大きな穴が開き、血だまりができる。致命傷だ。

 

「と…とうさん...」

 

「誰かエリクサーを早く!」

 

しかしエリクサーで傷は癒せても失った血液までは戻らない。それに左胸、心臓を貫かれている…

子供は父親にすがりついて泣いている。

 

「ぐ...ごふ...ベート、我が息子よ。強く...誰よりも強くなりなさい…ぼ...冒険者のみなさん、息子を..息子をお願いしま...す」

 

父親の手から力が抜けていくのがわかる。無念だっただろう。こんな小さな子を残して。

ダグラスが狼人の少年に声をかけた。

 

「ここにいては危険だ、辛いだろうが今は逃げなければ」

 

肩に手をかけようとすると手をはたかれた。

 

「俺に触るな!こいつら絶対ぶっ殺して、父さんと母さんの仇をとってやる」

 

ナイフを構えて魔物の群れに突進しようと駆け出そうとする。

 

「今は時間がない...すまない」

 

ドッ

 

手刀が少年の首筋にきまりゆっくりと少年は倒れ気を失った。

 

「誰か町の外まで連れて行ってやってくれ」

 

「ハッ」

 

団員が敬礼して少年を連れて町の外に向けて走って行った。

 

団員達の表情は険しい。村中でこんなことが起きているのだ。

 

(先を急がねば)

 

ダグラス達は迫りくる魔物を切り裂き、殴りつけ、魔法で迎撃しながら黒龍の元まで走った。

村の広場までやってくると上空から黒龍が漆黒の翼を羽ばたかせて降りてくる。

 

「グオォオオオ!」

 

黒龍が咆哮を上げながらこちらを向き、すさまじい殺気を漂わせている。

 

 

(こいつ...大陸の王者(ベヒーモス)海の王者(りヴァイアサン)より強い...)

 

団員達は黒龍を見た瞬間、凍りついたように時をとめた。俺たちはここで死ぬことになるかもしれない。

皆がそう考える中、団長の声が響く。

 

「全員戦闘態勢に入れ!!」

 

「「「「!!ハッ!」」」」

 

そうだ、俺たちには団長がいる。団長に命を捧げると誓ったじゃないか。こんなところでビビッてどうする。

いつもどおり全力で相手を倒すことのみ考えよう

団員たちの目にはもう怯えも焦りもない。ただ信じた人についていく、それだけである。

 

 




なかなか臨場感が伝えにくいと感じでしまいます。
読んでくださっている皆さん脳内でうまく再生してみてください。

ここで幼いころのベートが登場します。
彼の性格この時に若干ねじ曲がってしまったのかもしれません...妄想ですが

頭の中では話できているのでちょくちょく更新したいと思います!<m(__)m>


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3 風よ 

物語はダグラスが黒龍撃退の為家を出て行ったところまで遡る。

(嫌な予感がするわ)

夫が出て行った扉を見つめながら息を吐く

(いえ、今はあの人を信じてアイズと逃げないと)

「アイズ、アイズ起きなさい!」

あれだけ大きな音がなったのにもかかわらず熟睡中のアイズ
布団にくるまりながらよだれをたらしている。





「んー...ねむいー」

 

目をこすりながらアイズが起きたがまだ眠いようでふらふらしている。

 

「おとうさんは?」

 

寝ぼけながらアイズがアリアに問いかける。まだ幼いアイズには今の切迫した状況がわからない。

アリアは表情を引き締めて真剣な眼差しでアイズを見つめた。

 

「アイズ、よく聞きなさい。今すぐにお母さんと一緒にオラリオまで逃げるのよ」

 

アイズは状況がよくわからず母親の緊張が伝わってか泣き出してしまう。

 

「おとうさんもいっしょがいいー」

 

泣きながら父親を探すアイズ。それも無理はない、アイズはまだ3歳なのだ。昼間と違う雰囲気で混乱しているのだろう。

 

(まずは落ち着かせないと...でも時間があまりないわね。今は武器も護身用のナイフくらいしかない)

 

冒険者をやめて3年。休暇でこの静かな村まで来ていたのだからそれも仕方のないことだ。

アイズをどうにか着替えさせ頭をなでながら話しかける。

 

「お父さんはね、お母さんとアイズを怖いお化けから守るために戦いに行ったの。だからアイズはお母さんと一緒にお父さんの邪魔にならないように、村の外までいかなきゃいけないの」

 

アイズは首をかしげ何か考えているようだ...

 

「おとうさん、こわいおばけたいじしたらかえってくるよね?」

 

アイズは震えながら、泣きそうな顔をしてアリアに尋ねた。

もしかしたらアイズは何か感じているのかもしれない。

アリアはアイズを抱きしめながらこう答えた。

 

「お父さんは私の...アイズの英雄でしょ?お父さんを信じてあげましょう」

 

それを聞いたアイズは少し悩んだ後いつものようにニパッと笑って

 

「うん!」

 

元気よく返事をするのであった。

 

(この子だけは守らないと...)

 

アリアは心に誓う。

 

「じゃあいくわよ!アイズ!」

 

アイズの手を引き扉を開けた瞬間...上空から火の玉が飛んでくる。

黒龍の眷属が放ったファイヤーボールだ。

ゴウゴウと燃え盛る火の玉が眼前へと迫る

 

[目覚めよ(テンペスト)(エアリアル)]

 

 

アリアが短文詠唱を唱えた瞬間周囲に風が生まれアイズとアリアを守るようにして全身を覆う。

 

ホーリーウォールとエアリアルまさに鉄壁の守りである。

 

「アイズ!お母さんがいいっていうまでここを動いては駄目よ?」

 

アイズはコクコクう頷いた。アイズがうなずいたのを確認してアリアが動く、その動きはまさに神速の風。

 

風の精霊(シルフ)と呼ばれるだけのことはある。

 

レベル4程度の敵をまるでバターを切るように切り裂いていく。

周囲全ての敵をなぎ倒してアイズのもとに帰ってくる。

 

「さあ、行きましょう!」

 

にこっとアイズに笑いかけるアリア。

 

「おかあさんつよーい!!」

 

ぴょんぴょん跳ねながらアイズが瞳をキラキラさせている。

 

「わたしもあかあさんみたいにつよくなりたい」

 

「どうして?」

 

アリアがアイズに尋ねる。

 

「つよくなってわたしがおかあさんとおとうさんをまもってあげるの!!」

 

(...この子は本当に優しい子ね...あの人にそっくりだわ)

 

アリアはアイズの頭をなでてこう言う

 

「オラリオに着いたらお父さんに相談してみよっか」

 

(あの人のことだから多分反対するんだろうなー)

 

娘を溺愛している夫がそう簡単に許すわけないと苦笑するのであった。

 

 

 

迫りくる敵を倒しながら村の外に走り、村の門がみえる位置まで来たその時...

 

ゾクッッ

 

アリアの背筋に冷たい汗が流れる。周囲は燃えるように熱いのに全身が冷や汗で冷め切ってしまっている。

 

「そこにいるのは誰!?」

 

アリアが叫んだ。

 

建物の影からフードを被った人物がでてくる。

 

「私の気配に気が付くとは、さすがは精霊アリア...といったところか」

 

 

(女性の声?何者? 精霊アリア...なぜそのことを..しかもこの人相当強い...)

 

アイズが服の裾をキュっとにぎってくる。

 

ちらっとアイズを見た瞬間 

 

「私の前でよそ見をするとはいい度胸だ」

 

瞬間的にアイズをかばうアリアだかドガッと背中に衝撃が走った。

 

「なるほど。まず邪魔なガキから始末してやろう」

 

(まずいわね..今の一撃、エアリアルとホーリーウォールがなかったら死んでいたわ。このままではアイズが危険...こうなったら)

 

「アイズ!! 今すぐそこの門から出て南に向かって走りなさい」

 

アイズはぶんぶん首をふって全くいうことをきく気配がない。

 

「アイズ!」

 

パンッと乾いた音がなる。

 

頬をおさえて固まるアイズ。

 

「お願いアイズ。いうことをきいて。必ず迎えにいくから...」

 

アリアも目に涙をためながらアイズを見つめる。

 

「おかあさん...ぜったいだよ?やくそくだよ?」

 

「ええ...約束よ」

 

 

(風よ...私の中の風よ...どうかこの子を守って)

 

アリアの体から淡い光を帯びた白い魔力がアイズの中に入っていく。

 

(あったかい...おかあさんといるみたい)

 

アイズはアリアの頭をなでる。

 

「さあ行きなさい!」

 

アイズは門へ向かって走り門の手前で一度振り返り叫んだ。

 

「おかあさん!がんばれー」

 

小さな背中が門の外へと消えていく。

 

「ガキがそんなに大事なのかい?理解できないね」

 

嘲笑うかのように女が吐き捨てた。

 

アリアはきっぱりと答える。

 

「守るべきがものがあるから人は強くなれるのよ」

 

ナイフを構える

 

「理解できないね、死にな...精霊アリア」

 

アリアの美しい顔が怒りで歪んだ。

 

「その名で私を呼ぶなぁぁぁー!」

 

アリアが激昂する

「私はゼウスファミリア、アリア・ヴァレンシュタインよ」

 

 

ガキィィン!武器が交錯する.....

 

 




なかなか話がすすまない<m(__)m>

読んでくださっている皆さんありがとうございます<m(__)m><m(__)m>

アイズがエアリアルを使えるのはこんな理由ではないか...なんて考えてみました。

次回は決戦黒龍で書こうと思っています。

コメントを頂けると作者の執筆ペースがあがります笑


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4 激闘

眼前の黒龍

思いもよらないことが起こる...


ゼウスファミリアと対峙する黒龍。

重い空気が全身を包んでいく。

団員達は息を呑んだまま硬直していた。戦闘態勢にはいっているにもかかわらず、誰も動けないのだ。全身が金縛りにあったように動きが鈍くなる。

武器を握る手には汗がにじみ、吐く息は荒いものになっていく。そんな中団長であるダグラスが先陣をきって飛びかかろうとした瞬間、思いもよらないことが起こった。

 

「主ら何者だ?」

 

低音で重厚感のある声が直接脳内に響いてくる。

 

「な、なんだこれは...黒龍の声?嘘だろ」

モンスターが人間の言葉が話せるという事実に驚愕を覚える。

 

「主らから感じる力は先ほどまで相手をしていた雑魚どもとはあきらかに違う。あの忌々しい神々に近い力を感じる。反吐がでるわ。我らの同胞を地下に閉じ込めてのうのうと暮らしおって。貴様らには絶望を与えてくれる」

 

(先ほどまで相手をしていた...?)

 

黒龍の圧倒的な存在感に目を奪われていたせいで回りを見れていなかった団員達だが、周囲をよくみると蹂躙されたであろうおびただしい血痕や引きちぎられた肉片、武器が散乱している。この村にはゼウスファミリアの団員しか戦える者はいない...

 

ギリッ

 

誰ともわからず歯ぎしりが聞こえた。仲間があきらかに格上であろうこの化け物に挑んでいたんだ。仲間の戦いぶりを想像して涙を浮かべた。

 

「そういえばあの雑魚ども面白いことを喚いていたな。団長達がくるまで死守しろだの、団長さえくれば必ず倒せるだの、なかなか泣ける話じゃないか。奴らは暇つぶしにじわじわなぶり殺しにしてやったわ」

 

黒龍は嗤った。仲間の死を嗤った。こいつだけは絶対に倒す。

 

「てめえぇええええ!!」

 

筋骨隆々のドワーフの戦士が頭に血をのぼらせてバトルアックスを背負い、叫びながら黒龍に向かって突進していく。黒龍の周りにいるワイバーンをなぎ倒し、黒龍の体にバトルアックスをたたきつけた。

ガギン 

 

鈍い音が響く。黒龍の鱗には傷一つつかずに体制だけが崩されてしまう。黒龍はその巨体からは考えられないスピードで腕を降り、ドワーフの戦士に叩きつけた。

 

ドゴッ

 

「ぐぅぅううう」

 

アダマンタイト製の鎧をへこませながら吹き飛ばされ、民家に叩きつけられた。苦痛の表情を浮かべるが、すぐにハイポーションを飲み戦線に復帰する。この戦士の耐久力はゼウスファミリアでもトップクラスだ。

 

「あいつの鱗は硬すぎる...生半可な攻撃だと今みたいに反撃されることになるな」

 

ドワーフの戦士は己の耐久力が高いことを自覚している。故に先陣として相手の力量を図る意味でも今の突進は無駄ではない。全員で突っ込んだ場合、防御力が低い者は今の一撃で致命傷になりかねない。個々の役割を理解し、それを最大限生かすことができる。これがゼウスファミリアがオラリオ最強と言われる由縁である。

 

ダグラスが今の攻防をみて指示をだした。

 

「前衛!黒龍の攻撃を死守、やつの鱗は硬すぎる。魔法で弱らせるぞ!中衛は周りの眷属の殲滅とアシストに回れ!」

 

「「「ハ!」」」

 

隊列を変更させ魔法での攻撃に切り替える。通常攻撃でダメージを与えにくいのなら魔法で体の内部を攻撃しようという考えだ。ゼウスファミリアの精鋭である3人の魔法使いが詠唱を始める。

 

「古より伝わる浄化の炎よ...」

 

「裁きのとき来たれり、帰れ!虚無の彼方!...」

 

「聖なる剣よ、我に仇名す敵を討て...」

 

詠唱を確認した黒龍は自ら魔法使いを殲滅しようと襲い掛かってくる。

黒龍の口の奥に紅い炎が見える。

 

「ブレスが来るぞ! 盾かまえ!」

 

ダグラスは指示と同時に詠唱を行う。

 

「聖なる光よ その力をもって魔を退ける盾となれ」

 

聖なる守護盾(ホーリーウォール)

 

仲間の体を包むように光の膜が生じる。

 

盾を構えた数人が3人の魔法使いの前に立ち、その体を支えるように他の仲間が並ぶ。

黒龍の口から咆哮とともに炎が放たれる

 

影炎火球(シャドーフレア)

 

放たれた火球は黒龍の黒いオーラを纏い黒い炎となってダグラスたちを包み込む。

まさに灼熱。盾は徐々に溶けはじめ、支えている腕は焼かれていく。

 

「ぐぅううぅぅ!」

 

「なめんなぁぁぁぁー!」

 

激痛に顔をゆがめながら必死に炎に耐える。焼き尽くされた盾の代わりに自分の体を盾にして仲間の為に耐え続ける。

ぶすぶすと煙をあげながら必死に耐えたところで詠唱が完成するろ

 

3人のエルフの魔同士が唱えるろ

 

「来たれ 古代の炎(ヘルプロミネンス)

全てを焼き尽くす業火が黒龍の体を包み込む。

 

「消え去れ 破滅の重力(グラビティープレス)

黒龍の真上と真下に魔方陣が広がり、すさまじい重力で圧縮される。

 

「突き刺せ 聖なる剣(シャインセイバー)

遥か上空から数十本の光の剣が黒龍に降り注ぐ。

 

三人の魔法が黒龍に炸裂する。周辺にいた眷属たちは今の魔法で殲滅することに成功した。

黒龍の体は地面にめり込み、ぶすぶすと煙を上げ、鋭い剣に突き刺されている。

 

「やったか?」

 

黒龍の生死を確認しようとした瞬間

 

【ドクン】 

 

な なんだ? 一瞬黒龍の体が痙攣したように見えたが...

 

【ドクンドクン】

 

(まだ生きている 今のうちに止めを)

 

ダグラスが剣を握りしめ黒龍の首をたたき切ろうとした瞬間

 

「ぐおぉおおおお!」

 

咆哮をあげながら黒龍が上空へと飛び立つ。

突風とともに血をまき散らしながら翼を羽ばたかせて旋回する。

 

 

「我が遊んでやっているとも知らずに調子に乗りおって...この屑どもが...我の力をみて絶望し、そして貴様らの仲間ともども死ぬがいい」

 

黒龍の右目に魔方陣が浮かびあがり、全身を包んでいた黒い霧のような魔力が一点に集中していくのがわかる。 

 

(やばいやばいやばいやばい!)

 

ダグラスの頭の中で警告音が鳴り響いている。黒龍が何をしようとしているのかはわからないが

絶対に阻止しなくてはならない。

 

「黒龍に次の攻撃をさせてはならない。なんでもいい、奴を止めるんだ!誰か俺に槍を貸してくれ」

 

団員たちが空中にいる黒龍に向かって弓矢や魔法で攻撃をしかける。しかし距離が離れすぎていてダメージがうまくはいらない。

ダグラスが渾身の力を込めて槍を投げる。空気を切り裂いて黒龍の右目に向かって一直線に飛んでいくが、槍は寸前のところで黒龍が前足でかばい、右目を潰すことができなかった。

 

「終わりだ... 喰らえ 呪いの魔瞳(イービルアイ)

 

黒龍の右目から放たれた魔力がゼウスファミリアの仲間を襲う。

黒い霧のような魔力が背中に染み込んでいく。

 

(な、なんだこれは、力が抜けていく...?)

 

黒龍が上空からおりてきて嗤う。

「この技はお前たちのようなファミリアだのとかいう神の眷属という忌々しい者どもをを皆殺しにすることを目的に考えた技だ。技の効果は強制的なレベルダウン。お前たちがいくら強かろうと、いくら連携がとれていようとこの技の前では無意味。この技の面白いところは今この場でこの技を受けていなくても同じ神に恩恵を受けているかぎりその効果は伝染する。この村にいるものなら全てこの影響を受けるだろう。

今頃この村にいるお前の仲間はレベルダウンのおかげで我が眷属によって殺されているはずだ。さてお前たちも絶望とともに死ぬがいい」

 

黒龍が大きく息を吸い込んだ。喉の奥には紫色の霧のようなものが見える。しかしレベルダウンというイレギュラーにさすがのゼウスファミリアの団員達も動揺が隠し切れないようで対応が遅れてしまう。

 

呪毒の息(ポイズンブレス)

 

黒龍の口から吐かれた息は猛毒の霧となってあたりに立ち込める。あわてて解毒にしようと団員たちはポーションを飲む。

 

「グッガハ...」

 

(解毒のポーションが効かない?そんな...)

 

団員たちは血を吐きながら茫然となる

黒龍のブレスの毒は【呪毒】。普通のポーションでは回復は見込めないのだ。

 

≪余談であるが呪毒のポーションは万能者ペルセウスによって10年後に作成される≫

 

ダグラスは考えていた。

(解毒ができないのならもはやこれまで...さらばだ、愛しき我が妻アリア、そして我が子アイズ。そしてまだ見ぬ我が子よ。私の命に代えてもこいつはここで...)

 

仲間を見渡すと全員がうなずく。

未来の為自分に残された最後の力を使い立ち向かっていく...

 

 




黒龍とのバトル描写もっとうまく書きたい...勉強します。<m(__)m>
読んでいただいている皆様ありがとうございます。

黒龍のレベルダウン攻撃がなければゼウスファミリアなら倒せてたのでは?という妄想のもとこのネタ考えていました。

次回でゼウスファミリアの話は完となる予定です。

PS アリアさんも戦闘中ですが今の状態で互角なのでレベルダウンの効果で悲しいことになるかもしれません...


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5 激闘2 そして終焉

己の命を捨てる覚悟がどれほど力を生むか

黒龍よしかとその目でみよ...


皆がそれぞれ命を捨てる覚悟をし、オラリオや故郷の家族や友を想う...

 

ドワーフの戦士

 

(ミア...おまえとの約束、守れそうにない...遠征が終わったら冒険者のみんながくつろげる酒場を作りたいなんていってたっけな...誘われた時はうれしかったんだぜ..次の遠征が終わったら考えるなんて約束しないで、あの時返事くらいしといてやればよかったかもな...お前の料理が懐かしいぜ)

 

ヒューマンの戦士

 

(里に残してきた妻と子に謝らなければいけないな...子供の名前は命にしようって話してたよな。一度この村に寄らず里に帰っていれば...いや考えまい。こいつをこのままにしていたら、いつかは俺の里も被害にあっていたかもしれない...)

 

時間にして数秒だが皆愛する者のことを考え、そして決意を新たにしていく。

 

「団長ー! 我々が時間を稼ぎます。溜めてください」

 

団員たちがダグラスに声をかける。

 

団員が言っているのはダグラス・クラネルのスキル 限界突破(リミットブレイク)のことである

最大5分間のチャージをすることで己の限界を超えて力が発揮できるという、まさに英雄にふさわしいスキルである。

ただこのスキルの効果として溜めている間は行動ができないという欠点がある。故に誰かが黒龍相手に時間を稼がなければならないのだ。

 

ギリッ

 

ダグラスが唇を噛み血が流れる。ダグラスにとって仲間たちは家族なのだ。そして自分が護りたいものたちなのだ。

自分の力のなさが憎い。 

 

「5分だ...時間を稼いでくれ!」

 

(すまない...みんな...)

 

団長から命令が下される。

 

その場にいる全員が敬礼をする。「「「ハッ我らの命を賭してその5分稼がせていただきます」」」

 

「団長!いままで楽しかったぜ!じゃあな」

 

そんな言葉をかけながら、ドワーフの戦士が黒龍に向かってかけていく。

「来いやーーーこのトカゲ野郎!」

 

黒龍を挑発して自分へ攻撃させる。

黒龍は爪を振るいドワーフの戦士を貫こうとする。

 

 

ドスッ

 

ドワーフの戦士はよけようとせずその攻撃に身をさらす。致命傷であるはずの攻撃をよけずに喰らった戦士に対して黒龍は嗤う。

 

「クハハハ、ついに諦めたか遊びがいのないやつらよ...」

 

ガシッ

 

ドワーフの戦士が血を吐きながらも爪をものすごい力で押さえつける。

 

「俺たちを甘く見るな...今だ!やれー」

 

「なに!?なんだこの力は...」

 

レベルダウンしているをしてるとは思えない力に黒龍は目を見開く。

 

ヒューマンの戦士が黒龍の足元まで走り詠唱を完成させる。 神武闘征 フツノミタマ

 

全魔力を使用した重力の結界が現れ、黒龍を自分共々押しつぶす。

 

「一緒に味わってもらいますよ...この命続く限りなぁ!」

 

「ぐああああ! 小癪な真似を。こんな結界、すぐに破ってくれる」

 

あきらかに焦っている様子の黒龍。頭に血をのぼらせ正常な思考ではないようだ。

 

「今だ!畳み掛けろーー!」

 

槍を構えたエルフの竜騎士と、自分の背丈より大きく巨大な刃を持つ鎌を担ぐ暗黒騎士のエルフが逝く。

 

「団長!あなたと共に戦えたこと我らの誇りです...さらばです」

 

重力の結界に閉じ込められている黒龍に向かい、槍をしならせ大きくジャンプする。黒龍の真上まで来たところで空中を蹴り、一気に槍を突き出す。

 

「受けよ。 我が槍  グングニル」

 

槍の穂先が紅く染まり目にもとまらぬ速さで槍が繰り出される。まさに自分の防御を捨てた一撃必殺の技である。

 

「我が命を吸え」

 

暗黒騎士が己の武器に自分の命を吸わせて攻撃する 大鎌を振りかぶり黒龍に向かいたたきつける。

 

「暗黒 デスシックル」

 

漆黒のオーラを纏った一撃が黒龍に放たれる。

 

「ぐぉぉぉっ! なめるなぁぁぁ!!」

 

自分の周囲を薙ぎ払い、団員たちの命を断っていく。

 

「団長、あなたの為に死ねるなら本望です」

 

3人のエルフの魔導師が逝く。

 

魔力を限界まで高めて黒龍に向かってかけていく。どんどん膨れる魔力を制御する気はない...。

「「「くらえ」」」

 

魔力暴発 (イグニスファトゥス)

 

黒龍の周りの結界内全てを巻き込み、巨大な火柱が上がる。

もくもくと煙があがり、視界が悪い。

瞬間 煙を突き破り黒龍がダグラスを飲み込もうと大きな口をあけ迫ってくる。

アマゾネスの女性が団長を庇い目の前で飲み込まれる。

飲み込まれる瞬間ダグラスに向かって言葉をかけた。

 

「アリアがいる手前言えなかったけど団長のこと大好きだったんだぜ...じゃあな...」

 

黒龍の体内で詠唱をする。

 

「あたしだってお前なんかにただではやられないよ!地獄を味わいな! 大爆発(スーパーノヴァ)

 

黒龍の体内で大爆発が起こる。いくら表面を硬い鱗が覆っていようと体内なら関係ない。黒龍は悶絶しながらのたうちまわる。

 

(...5分経過)

 

 

ダグラスの体からゴォーンゴォーン、とチャージ完了を告げるグランドベルの音が響き渡る。

体から真紅のオーラを立ち上らせるダグラスは、全身で怒りと悲しみを表しているようだ。

 

(皆...お前たちの死は無駄にしないからな...)

 

ダグラスの全身の筋肉は盛り上がり愛剣を持つ手にも力が入る。

仲間の敵だ喰らえ。そう言い放つとダグラスは目にもとまらぬ速さで跳躍し、黒龍の右目に剣を突き刺す。

 

封印の剣(ルーンセイバー)

 

ただの傷では回復してしまう...かといってレベルダウンのせいでこの硬い鱗をでたたき切るまではいかないと判断して、己の愛剣とともに右目を永遠に封印した。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ」

 

黒龍が咆哮を上げる。黒龍の目に剣が飲み込まれていき、封印のあかしとして文様が浮かび上がる。

 

「貴様 よくも我の目を...我の目を、許さん」

 

黒龍は激しい怒りの波動を体中から発しながら迫ってくる。

ダグラスは最後の力を振り絞って黒龍を倒さんと立ち向かう。

 

「おとうさん」

 

(アイズの声? そんなばかな)

ここにいるはずのない愛娘の声に振り返る

 

そこには額から血を流したアイズがいた...

 

 

「おかあさんがたいへんなの…たすけて」

 

娘の悲痛な叫びが聞こえる。

 

 

 

 

 

 

アリア視点

 

ガキィィン!武器が交差する。

 

 アリアの一族は神が下界に降臨するよりも昔、

精霊を助けた際に加護というなの血を受けている。そのおかげで代々精霊に近い能力が発現されている。アリアの場合は風の精霊の力を行使することができる。しかし、薄れていく精霊の血の中でアリアだけが精霊とほぼ変わらないくらいの力を得てしまっていた。

その為、子供を望めない体だった。しかし、ゼウスファミリアに入り恩恵を受けることにより血が薄れ愛する夫であるダグラスとの間に

子供をもうけることができたのである。一度はその血に絶望し精霊というものを嫌悪した。故に精霊アリアと呼ばれることに大きな抵抗があるのだ。

 

目覚めよ (エアリアル)

 

体に暴風を纏わせアリアがナイフを振るう。 フェイントを入れながら相手を切りつけていく。

 

「チッ」

 

(こいつ 強いな...)

 

フードをかぶった人物が舌打ちをする。

 

(だが面白い)

 

にやりと笑い拳を突き出す。

 

ガキィィン!

 

甲高い音をあげて武器が交錯する。

風圧によってフードがめくれあがり顔があらわになる。燃えるように赤い髪をした女だ。美しい容姿に引き締まった肉体をしている。

しかし女から漂う空気は邪悪な精霊という言葉が一番しっくりくる。

 

「楽しいなぁ アリアよ。 いつまでもおまえとこうして戦っていたい」

 

赤髪の女が心底楽しそうに嗤う。

 

「私はあなたなんかと戦っていたくないわ。そもそもあなたの目的はなに?」

 

激しい攻防の中競り合いになりながらアイズが尋ねる。

 

「私を倒せたら教えてやろう。 まあ無理な話だがな」

 

地面に足形が残るくらいに踏み込んでアリアに向けて拳を突き出す。

瞬間、 アリアの姿が消える。 目の前にいたはずのアリアが瞬時に後方に回り込む。

 

「じゃあ全力であなたを倒すわ」

 

(エアリアル)

(エアリアル)

(エアリアル)

(エアリアル)最大出力!

 

 

赤髪の女の周囲に3つの竜巻が起こり相手の動きを止める。魔力を最大限に練りこみ

体に神速の風を纏いナイフには暴風を纏わせながら女を切り裂く。

 

「ぐぅぅ!」

 

女の体からは大量の血液がボタボタと流れ、足元に血だまりを作る。

(こいつ、ここまで強いとは)

 

「あなたの負けね。 その傷ではもう戦えないわ。さああなたの目的を教えてちょうだい」

 

「くっくっく、 あっはっはっ!やるじゃないかアリア」

 

赤髪の女が口から血を吐きながら、大きな声で嗤う。

 

「だが、 甘いな」

 

女は懐から魔石をとり出すとそれを口に含み、噛み砕いていく。大量の魔石を飲み込むと女の体が再生していく。

 

(魔石を取り込んだ?まさかこいつの正体は...)

 

「頭のいいあんたなら今ので気が付いただろうが まあ私に傷を負わせたご褒美に教えてやろう。

私は怪人と呼ばれる存在さ。ここには黒龍を迎えに来た。 あいつの力があればオラリオを崩壊させてバベルを破壊できる。

そうすれば我々の目的を達成できるからね」

 

アリアの頬に冷たい汗が流れる。

 

「あら そんなことまで話していいのかしら?」

 

「死人に話したところで問題はないだろ」

 

そう言うと今まで以上の速さでアリアに向かって突進する。拳を振り上げアリアに向けて突き出す。

 

ガギィィン!

 

(さっきより重い..受けきれない)

 

アリアの風の暴風を突破して殴りつける。今まで以上に重い攻撃を受け、近くの民家の壁に叩きつけられその場に倒れる。

 

ゴホッ ゴホッ

 

血を吐きながらよろよろと立ちあがる。お腹をさすり(ごめんね)と心の中でお腹の子供に謝る。

 

(やはりこいつは魔物の強化種と同じで魔石を食べることにより力を増すのね...でも勝負はこれからよ)

 

アリアの構えが変わる。予備のナイフを装備し二刀流にし体を半身に構える。

 

 

最大出力

 

体に纏わせていた全ての風を己の武器にまとわせていく。これが私の最大の技。 ナイフはぎりぎりと音を立てながら高速振動している

切れ味は先ほどまでとは桁違いだろう。

 

(傷が回復してしまうなら、一撃で粉々にするくらいの破壊力で倒すしかない)

 

「いいだろう 受けて立つ!」

 

両者が駆け出しぶつかる瞬間。

 

(ドクン)

 

アリアの背中に黒い霧のような魔力が吸い込まれていく。

 

(!!風の力が...)

 

急激に風の力が弱まり、相手の拳と衝突した瞬間にナイフは粉々に砕け散り、衝撃が胸を打ち抜く。

ゆっくりとその場に崩れるアリア。

 

(チッ、 黒龍のやつ使いやがったな...せっかくのゲームもこれで終わりか)

 

 

「おかあさん!!」

 

母親が心配になり、様子を見に来てしまったアイズ。アリアの前に立ち両手を広げる。

 

「おかあさんをいじめるなーーー!!」

 

目に涙を溜めながら、精一杯大きな声で叫ぶ。

 

「フン」

 

赤髪の女が鼻で笑いアイズに近づいていく。がくがく震えているアイズを平手で殴りつける。

アイズは額が衝撃で切れ、赤い血がツゥーと流れる。

 

「おまえの母親に免じて、ここで殺すのは止めておいてやる」

 

そう言い残すとフードをかぶり直し村の中心へ向けて走りさっていった。

 

しばらく茫然としていたアイズだがふと我に返り、母親にすがりつく。

額の汗を自分の服でぬぐい頬をさする。

 

「おかあさん!おかあさん!」

 

アイズが呼びかけるがアリアは苦悶の表情を浮かべるだけで起きる気配がない。

幸いアイズにはアリアがかけたエアリアルの効果が持続しておりなんとかアリアを引きずって安全だと思われる場所まで移動させる。

 

「おかあさん!おとうさんつれてかえってくるからまっててね!」

 

そういうと村の中心へ向かって走り出した。

 

周辺の魔物はゼウスファミリアとの戦いで倒され灰となって消えている。同じく団員達も倒れ血だまりを作っている。

アイズは何とか恐怖をこらえ母親の為に頼りになる父親の元までかけていくのであった。

 

 

 

 

 

時間は戻ってダグラスと黒龍が対峙している場面にアイズが到着したところ。

 

「アイズ!なぜここにいる? アリアはどうした!」

 

余裕がないダグラスは自分の娘に怒鳴ってしまう。だが今はそんな場合ではない。

 

「おかあさんこわいおんなのひととたたかってそれで...それで」

 

アイズが泣き出してしまう。

 

「くちからちをいっぱいはいておきてくれないの...」

 

ダグラスに嫌な汗が流れる。

 

(くそ...アリアに何があった...どうすれば...)

 

黒龍の声が響く。

 

「その娘はお前の娘か?ちょうどいい狙いはお前だ」

 

黒龍が詠唱を始める。

 

「無限の闇よ 闇よ 闇よ...」 詠唱は続く。

 

「アイズこっちに来なさい!」

 

スキルの反動で思ったように動けないダグラスはアイズを自分の近くに来るように手招きする。

てててっとアイズが泣きながら走ってきて足にしがみつく。

 

黒龍の詠唱は続く。

 

(まずいな...超長文詠唱か...俺が耐えきれなければアイズが... 命に代えても護ってみせる)

 

アイズが不安そうな顔を向けてダグラスを見る。ダグラスはアイズの頭を撫でてうなずく。

アイズを背中に庇い両手を広げる。

 

黒龍の詠唱が完成する。

 

「全てを破壊せよ 天地破壊(ビックバン)

 

大量の魔力がこめられているであろう魔法が炸裂する。

黒龍から放たれた拳程の魔力の塊。速度は遅いがものすごい魔力が渦巻いているのがわかる

今までの経験で培われた勘でこの魔法の規模を測る。

 

(このまま爆発させてしまったらその反動でアイズは間違いなく死ぬ...それならば)

 

瞬間...その球体をダグラスが己の体で抱え込む。

そして大爆発が起こる。己の全魔力を使い爆発の衝撃がアイズに届かないように抑え込む。

しかし、ダグラスに残されている力は少ない。鎧ははじけ飛び肉が焼けていく。衝撃が体内を蹂躙していく。

 

「グッ...ガフ」

 

口から血が溢れる。(護る...絶対に護る...)

 

衝撃はいまだ続いており徐々に体が後方へ押しやられていく。

 

 

「くっああああああああああ!」

 

ダグラスが咆哮する。あまりの痛みに意識を失いそうになる。

 

「目覚めよ エアリアル」

 

ダグラスの耳にアリアの声が聞こえる。

 

気絶から覚めたアリアは村の中心部からエアリアルの魔力を感じ取り全てを察して瀕死の体で後を追ってきたのだ。

ダグラスの背中を支えるようにしてアリアが立つ。

 

アリアの風が二人を包む。

 

ダグラスは背中にアリアを感じ気力を振り絞る。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ダグラスが力を振り絞る...ようやく魔法の威力が消えたが、同時に背中から重みがゆっくりとなくなっていく。

 

「愛しているわ...あなた....ずっと..いっしょに.....」

 

ダグラスが振り返りアリアを抱き留める。

 

「アリア...アリアーーーーーーー!!」

 

(護れなかった...俺の愛する家族を...)

 

ダグラスの頬を涙が伝う。

 

黒龍は驚愕の眼差しでダグラスを見つめる。

 

(馬鹿な...大陸をも割る威力の魔法を...)

 

クッ

 

呪いの槍(イービルスピア)

 

黒龍が自分の鱗を引きはがし槍状にして投げつける。

 

ドスッ

 

ダグラスに突き刺さる。

 

ダグラスは何事もなかったかのようにアリアを抱きかかえ自分の後ろにゆっくりとおろす。

(よかったアイズは...気絶しているだけか...)

 

呪いの槍(イービルスピア)

呪いの槍(イービルスピア)

 

黒龍が槍を投げつけてくる。

 

ダグラスは己の体に突き刺さる槍をものともせずただじっと黒龍を睨みつける。

 

「なぜ倒れん...!」

 

何本刺さったかわからないがダグラスは何本槍が刺さっても決して倒れない。

その赤い瞳はずっと黒龍を睨み続けている。

 

黒龍は生まれて初めて恐怖した。自分より遥かに劣る筈の存在に...本来死んでもおかしくないダメージを与えられながらも立ち続ける姿に...

 

「黒龍よ。それまでにしておけ、我々の計画を忘れたか」

 

先ほどアリアと戦っていた赤髪の女が黒龍を止める。

 

「レヴィス貴様、この我に命令するなど何様のつもりだ」

黒龍は激昂して言葉を返す。

 

赤髪の女は無表情に答える。

「我々にはオラリオを滅ぼすという計画がある。それを忘れるな。確認したが後一刻程で援軍が到着するはずだ。お前もその疲弊した体ではただではすむまい」

 

「クッわかった今は退こう...しばらく傷を癒さねばなるまい。まさかここまで消耗するとは...15年...いやそれ以上体を休めねばならぬか...貴様、覚えておれ!貴様の大事な家族は、すべてこの我が消してくれる」

 

黒龍はそういうと体を変身させ、人間ほどの大きさになりフードをかぶる。

 

「退くぞ...」

 

そういうと黒龍は影の中へ消えていった。

 

レヴィスと呼ばれた女はなおも立ち続けているダグラスに向かって

 

「見事だ」

 

そう言い残して黒龍と同じく影の中へ消えていった。

 

約一刻後。

 

壊れた家屋や石垣などが道をふさぐ中伝令としてオラリオに帰っていた団員と神ゼウスが他の団より一足早くダグラスの元に到着した。

そこに広がる光景に神ゼウスまでもが絶句する。

大きな血だまりの中に立ち尽くすダグラスと、その背後に倒れるアリアとアイズ。

 

「団長ー! アリアさん、アイズ!」

 

団員とともにゼウスも駆け寄る。 

 

「ダグラス、何があった...」

 

ゼウスが問いかけると同時にダグラスの足から力が抜け、その場に倒れそうになるのを抱きかかえる。

 

「ゼウス...すまない。ファミリアの団員は...全滅だ」

 

ダグラスが辛そうに答える。

 

エリクサーを使用したが血を流しすぎて手遅れになっていた。

 

「アリアさん..アリアさんしっかりしてください」

 

「アリアさんが...そんな...」

 

戦いで傷ついたであろう美しい顔は砂と泥にまみれ死闘の様子がうかがえる。

 

「うーん」

 

アイズが目をさまし現状を把握できていないようでひどく怯えている。

 

「ゼウス...アイズと話をさせてくれないか...」

 

怯えるアイズが父親の顔を見て泣き出す。

 

「おとうさーん」

 

ダグラスが優しくアイズの頭を撫でる。

 

「すまない、アイズ...おとうさんはお前の英雄にはなれないようだ...愛しているぞアイズ。」

 

ダグラスは指に魔力を溜め、アイズの頭を突いてアイズを気絶させた。

(これで、ある程度のことは忘れてくれるはずだ。あの子にこれ以上かなしい思いをさせてはいけない...これでよかったんだ。)

 

気絶したアイズを団員が抱きかかえる。

 

「ゼウス。アリア..のお腹に..俺の子供が..いるのが..わかるか?」

 

ダグラスが血を吐きながら尋ねる。

 

神には魂をみる力がある。ゼウスがアリアのお腹を見ると、よわよわしいが魂がみえる。

 

ゼウスが黙ってうなずく。

 

「そうか...ゼウス俺の子供をなんとか...助けて...やれないだろうか」

 

ゼウスは即答する。

 

「儂にまかせておけい」

 

いつものように優しい笑顔でダグラスに微笑む。

 

「そうか...俺の子供たちを..たの..む..」

 

ゆっくりと瞼を閉じ手から力が抜けていく。

英雄ダグラス・クラネルの生涯が終わった瞬間である。

 

ゼウスはこの場にいる眷属の団員に問いかける。

 

「ゼウスファミリアは今日で解散じゃ...それでもよいかのう?」

 

団員はうなずく。

己の主神が何をするつもりなのかわかっているのであろう。

 

「その前に出てきたらどうじゃ?」

 

建物の影から3人の人影が出てくる。

 

ロキファミリア団長、フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ガレス・ランドロックの三人だ。

 

「神ゼウス、申し訳ない。隠れてみているつもりではなかったんだけど」

 

「私からも非礼を詫びよう」

 

「タイミングがちと悪かったのう。すまぬ」

 

三人が謝罪をする。

 

ゼウスがしばらくの間熟考したのち口を開いた。

 

「代わりと言ってはなんだが、少々頼まれてくれんか?」

 

代表のフィンが答える。

「なんでしょうか?」

 

「この子の面倒をみてやってはくれぬか?」

気絶している少女を抱える。

 

団員が引き止める。

「ゼウス様!?それはしかし...」

 

団員だけに聞こえる声でゼウスが話す

 

「儂らはファミリアを解散する身。もし万が一また黒龍が現れたらダグラス達によって受けた恨みを晴らしにくるかもしれん。その時に儂らには護ってやれる力はない...しかしロキファミリアなら、いやロキならばこの子を護ってくれるはずじゃ。あいつとは昔からの仲じゃからのう」

 

ガハハとゼウスが軽く笑う。

 

フィン達に向かって言う。

 

「訳あって儂らにはこの子を育てていくことができぬ...もう一度問う。代わりに面倒を見てやってくれぬか」

 

目の前で先ほどまでの状況を見ていた三人は了承した。

 

「わかりました。この子は僕達が責任を持って育てます。そして今日この場で見聞きしたことは口外しないことを誓います」

 

三人が膝をつき、ゼウスに頭を下げる。

 

「頭を下げるのは儂らの方じゃわい。その子の名前はアイズ...アイズヴァレンシュタインじゃ。よろしく頼む。」

 

「我々だけで先行偵察にきてしまっているので一度陣営まで引き返します。まだ危険があるかもしれませんので、ゼウス様もお早くお戻りください」

 

そういうと三人は陣営に向かってかけていった。

 

「さて、それじゃあ儂らも済ませるかの。」

 

ゼウスは神の力を発動させた。神の力でアリアのお腹の中の魂を取り出すと器を探した。 すると(俺の体を使ってくれ...)ダグラスがゼウスに言ったような気がした。ゼウスは熟考のうえダグラスの体を器にすることにした。ダグラスの体が淡く光り、魂と混ざり合っていく。光が一層激しくなった瞬間ゼウスの腕の中に赤ん坊がいた。

 

「この子の名前を決めねばならんのう...そうだベル...お前の名前はベルじゃ」

 

ゼウスがベルを高く持ち上げた瞬間ベルは大きな泣き声をあげた...

 

 

 

 

数日後オラリオに衝撃が走る。世界三大クエストの黒龍の来襲と最強と謳われたゼウスファミリアの崩壊。英雄ダグラス・クラネルの死亡...世界が変わるほど大きな出来事だった。あるものは自分たちがのし上がる好機だとほくそ笑み、ある者はゼウスファミリアの崩壊に大いに悲しんだ。暫定的にロキファミリアとフレイヤファミリアが先頭に立ちオラリオを導いていくことになる...

ギルドの主神、ウラノスよりゼウスの神の力の行使に対する罰則が言い渡される。

こうしてゼウスファミリアは恩恵はそのままに、実質解散しギルドより神の力を使用した罰として、今後恩恵を刻む行為を禁止され、オラリオを離れるのであった。

 

黒龍が壊した村を、残ってくれた元眷属と一緒に復興し、小さな村を作りそこで隠居生活を送ることとなる...

 

 

 

 

{IMG18363}

 

 




今回は少々話が長くなってしまいました<m(__)m>
内容もっとうまく書ければいいんですが場面を想像すると書いてるだけで泣けてきます泣
話を見返していて微妙な部分は随時直していきますのでよろしくお願いいたします。

次回よりベルとアイズの幼少期の話に移ります...

読んでいただいている皆様に感謝です<m(__)m>
これからもよろしくお願いいたします。


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幼少期
6 ベル クラネル


ゼウスファミリアの事実上解散後 

数年の月日が流れた。


黒龍の襲来から数年。破壊された村は元通りとはいかないまでも復興され、多くの村人が戻ってきていた。皆で協力して木々を植え、畑を作り、野菜を栽培する。森に出かけて兎や鹿を狩っくるような生活をしていた。

 

一人の少年がテクテクと歩いている。真っ白な髪の毛をして紅い瞳をしているヒューマンの少年だ。その兎のような愛らしい外見で村の皆からはとてもかわいがられている。今は畑仕事をしている祖父の元へお弁当を届ける最中だ。

 

「おーい、ベル!」

 

少年が歩いていると畑仕事をしている男性が声をかけてきた。小麦色に日焼けをしてニッと笑うと健康的で真っ白な歯が見える。

 

「これからじいちゃんとこ行くんだろ?これもってけ!」

 

そういうと赤くみずみずしいトマトを2つ投げてくる。

 

「ありがとうおじさん!」

 

にぱっとすばらしくいい笑顔でお礼をいいトマトをキャッチする。手をふりながら別れを告げ、しばらく歩くとベルの家の畑がが見えてきた。畑にはクワで地面を耕している祖父の姿がある。

 

「おじいちゃーん」

 

ベルが大きな声で声をかけながら手をふるとそんな孫の声に気が付き手を振りかえす。祖父は老人とは思えないほど若々しく体も筋肉で引き締まっている。ニカっと笑う様はまるで少年のような笑顔だ。

 

「ベル!弁当持ってきてくれたのか。ありがとうな!こっち来て一緒に食べよう」

 

ガハハッと豪快に笑い大きな木の下まで行き腰を下ろす。時折吹く風が汗をかいた体に心地いい。

 

「途中でおじさんにトマトもらったから一緒に食べよおじいちゃん!」

 

そういうとガブリっとトマトを丸かじりする。口の周りはトマトの汁でべたべただ。

 

「これこれベルや、そんなにあわてなくても誰もとりゃせんわい」

 

そういうと首にかけていたタオルでベルの口を拭った。

 

一通りお弁当を食べると畑仕事を再開する。孫と二人で汗水垂らして畑を耕し夕日が沈むころに二人手をつなぎながら家へと帰るのであった。

 

夕ご飯を食べた後、椅子に腰かけパイプをくわえている祖父の元にベルがやってくる。

 

「おじいちゃん!いつものお話聞かせて!」

 

「ベルはこのお話大好きじゃな。じゃあ話してやるからおいで」

 

ぽんぽんと自分の膝をたたきベルを自分の膝の上に乗せた。

 

「だってかっこいいんだもん!」

 

ベルはキラキラした瞳で祖父を見上げる。

 

そうかそうかと祖父は笑いながら話を始める。ベルが大好きなお話は黒龍と勇敢に戦った英雄達の物語である...

物語を話終える頃には大抵ベルは寝ているが今日は珍しく起きていて祖父に尋ねる。

 

「おじいちゃん、このお話に出てくるダグラス クラネルって人白い髪に紅い瞳なんて僕にそっくりだね?」

 

ベルがそんなことを訪ねてくる。

 

「そうじゃなあ...もしかしたらベルはこの英雄の生まれ変わりかもしれぬな!」

 

意味深な笑みを浮かべて祖父は笑う。

 

ベルはパアッと瞳を輝かせて答えた。

 

「僕もダグラス クラネルって人みたいに皆を護れる英雄になりたい!あれ...そういえば僕の名前ってベルだけなの?家名は?」

唐突にベルが疑問を投げかけてくる

 

(ふむ...どうしたものかのー...家名か。そういえば名前しか決めとらんかったわ)

今更になってそんな初歩的なことを思い出す。ゼウスは大いに焦る。

 

「ベルの家名はヴァレンシュタ・・・いやクラネルじゃ」

 

(咄嗟にアリアの性をいうところじゃった。危ない危ない。もしベルがオラリオに行ったときにアリアの性を名乗っているのがわかったら目をつけられる可能性があるからのー)

 

アリアの性は精霊の加護を得た一族として神の間で有名な為下手に使うと何の後ろ盾もないものは危険なのである。

 

ゼウスが冷や汗を流しているとベルがさらに問いかける

 

「クラネルってあのお話に出てくる英雄と僕の家名いっしょなんだ!」

 

またも焦るゼウス

 

「あーーうーー...まあそんな偶然もあるものじゃて」

 

半ば強引に話をうちきった。

 

(儂としたことが...まあよいか純真なベルなら素直に喜ぶだけじゃろ)

 

ゼウスの思惑通りベルはただ英雄と同じ家名だというのを喜ぶだけでそれ以上の追及はしてくることはなかった。

 

 

時は流れる。

 

 

ベルの幼かった顔は中性的ではあるが凛々しくなった。しかし同年代のヒューマンに比べるとやや身長が低いのが本人も気にしている点ではある。

 

今日は祖父と一緒に山に狩りに行くところだ。

山歩き用のブーツに履き替え背中には弓、腰にはナイフ。まだ弓もナイフもうまく扱えないがとりあえず形からということで着替えている。目的地への道中でゼウスがベルににやにやした顔をしながら話しかける。

 

「ベルや。そろそろお前も彼女の一人や二人欲しいとは思わんのか?儂の若いころは何人もの女子をはべらせたもんじゃ」

 

ベルは祖父からことあるごとに男ならハーレムを目指すべきと教育を受けている。

 

「僕には無理だよおじいちゃん...何回も言ってるけどまともに女の子と話したこともないんだもん」

 

いつものように笑いながらたわいない話をしていく。

 

(でもいつかはオラリオにいって冒険者になってハーレムじゃなくていいけど女の子と仲良くなってみたい...)

 

そんなことを想いながら山道を歩く。

 

祖父が急に真剣な顔をしてベルに話しかける

 

「ベルや...山の様子がいつもと違うとは思わんか?」

 

「んーそういえばやけに静かな気がするけど...」

 

祖父にいわれるまで気にしていなかったがいつもなら小鳥の声や動物の鳴き声がするのに今日はやけに静かだなと思う。

そんなことを考えていると遠くから雄叫びが聞こえる

 

「ぎゃぉぉーー」

 

遠くからばさばさと鳥が飛び立つ音が聞こえる。明らかに何かに怯えているようだ。

次第に近くなってくる音。バキバキっと枝を折りながら巨大な生物がこちらに向かってくる。

 

巨大な体に大きな前足。鋭い牙を持つ魔物 古代龍(アルケオダイノス)

本来オラリオのダンジョンで30階層より下に出現する魔物である。しかし稀に地上でも生息するが30階層にいるものよりは遥かにレベルは下がる。

 

「おじいちゃん逃げよう!こいつは僕達じゃ倒せないよ」

 

ベルがあわてて逃げ出す準備をする。しかし祖父はなんらあわてることなく笑いながら武器を構える。

 

「今夜はステーキじゃな!」

 

そんなこといってる場合じゃないと祖父の手を取り走り出した。

すると前方から複数の方からもアルケオダイノスが現れる。

 

(こいつらは集団で狩りをするのか...どうすれば)

 

「ぬんりゃぁぁぁぁ」

 

祖父がアルケオダイノスの前足を持ち上げ投げ飛ばす。飛ばした先にいた他の数匹を巻き込んでアルケオダイノスをまとめて倒した。

 

「お..おじいちゃん...こんなに強かったの!?」

 

次々と倒していく祖父の姿をみて驚愕するベル。

 

しかし...「ぬおお..お..お」

 

祖父が唐突に腰を押さえてうずくまる。年甲斐もなく暴れたせいで腰を痛めてしまったようだ。

 

「おじいちゃん大丈夫!?」

 

油汗を浮かべて悶えている祖父をみてベルは決心する。

 

(僕がおじいちゃんを護る)

 

ベルがナイフを構え群れに突っ込んでいく。相手は狩りのプロともいっていい。状況は絶望的である。

 

「ベル..儂に構わず逃げるんじゃ」

 

「おじいちゃんを置いていけるわけないよ」

 

ベルはなんとか攻撃をかわしているが次第に追い込まれてしまう。ベルが爪をかわした瞬間を狙いすまして体当たりを受けてしまう。

 

「ぐぅ」

 

ベルは体当たりで吹き飛ばされ木に頭を強かにぶつけて気を失ってしまう。

 

「ベル!」

 

祖父が這いずってベルの元までにじり寄る。

 

「ベル!ベル!しっかりするんじゃ」

 

意識の戻らないベル。全知全能と呼ばれた祖父もこの状況に絶望しかけた瞬間...

 

ベルがゆらりと立ち上がった。

 

「ベル!?」

 

ベルは返事をせずに無言でナイフを構える。あきらかに先ほどまでとは雰囲気も気迫も段違いである

 

(この構えはダグラスの?まさかそんなことは...)

 

ベルがまだ動けると分かったアルケオダイノス達は一瞬怯むものの獲物を逃がすまいと突進してくる。

突進してくる力を利用してすれ違いざまにナイフを一閃。

自分の力はほとんど使わず一匹を仕留めてみせた。

 

(ベルの身体能力が上がったわけではないのか。しかし明らかに敵との駆け引きや技がベルとは思えない熟練者のそれじゃ)

 

祖父がそんなことを考えている間にベルは次々と攻撃していき最初に仕留めた一匹以外は足の指を攻撃したりと動きを封じるだけに留めて最小限の動きで相手を抑えていた。アルケオダイノス達も馬鹿ではない。自分たちより強いものをいつまでも襲ったりはせずに逃げていった。

 

しばらくナイフを構えていたベルであったが危険が去ったのがわかると ガクっと足の力が抜けその場にしゃがみ込んでしまった。

「ベル?大丈夫か!?」

 

「あれ!?おじいちゃん?」

 

周りをきょろきょろして状況を確認する。周りに敵がいないことを確認してベルが顔を輝かせる。

 

「おじいちゃんが追い払ってくれたの!?さすがおじいちゃん!でも腰は大丈夫なの?」

 

(記憶がないようじゃな...一体どうゆうことじゃ...まあ今は話を合わせておくかの)

 

「ガハハハ 儂にかかればこんなもんじゃよ!」

 

ベルに向かって親指を立てる。

 

「おじいちゃんはすごいや....でも僕...」

 

自分の力のなさに落ち込むベルだが頭をふって立ち上がる。

 

「おじいちゃん動ける?」

 

祖父は立ち上がろうと思ったが腰の痛みによって座り込む。

その様子をみてベルは祖父を背中に背負って山を下りていく。

ベルの力では背負ってもすぐに疲れてしまい何度も休憩をしながら家に帰った。

 

家まで帰る途中祖父はベルに珍しく真剣な様子で話しかける。

 

「ベルや...儂の腰が治ったら連れて行きたい場所があるんじゃが一緒にきてくれないかの?」

 

祖父の真剣な様子に最初戸惑うベルであったが「うん」っと返事をして歩をすすめるのであった。

 

祖父の腰も数日で治りベルを連れて村のはずれにある祠にやってきた。

一見普通の祠だが隠し扉のようになっていて奥に進めるようになっていた。

 

祖父の後についておっかなびっくり洞窟にはいっていくベル。薄暗い洞窟ではあるがきれいに掃除がされているようで蜘蛛の巣ひとつない

 

「おじいちゃんどこまで行くの?」

 

「もうすぐじゃよ」

 

ランプの明かりを頼りについていくと広い空間にでた。

祖父がその空間のところどころにあるランプに火を灯す。

 

ボウっとそこにあるものが照らし出される。

 

「これはなに?」

 

「これはお墓じゃよ...」

 

多くの文字が刻まれた石版が現れた。ただし神聖文字(ヒエログリフ)で書いてあるためベルには読むことができない。

石版の前には花束が飾られ白銀に輝く双剣が置かれている。

 

「ここには儂の家族が眠っているんじゃ。一度ベルにも見せておきたくての」

 

いつもは豪胆な祖父が悲しそうな顔をしているのをベルは初めてみた。

祖父が石版に向かって頭を下げる。ベルも祖父にならって頭を下げる。

 

(この場所なんだか胸が苦しくなる)

 

ベルは自分でも気が付かない間に涙を流していた。頬を伝う涙の意味をベルは知らない。

 

ベル頭の中に声が響いた気がした。

 

(ベル、俺は家族を...仲間を...愛する者達を護れなかった。お前には大きな可能性がある。俺なんかよりずっと立派に...そして強くなる可能性が...決めるのはお前自身だ。ただできることなら俺の無念を...いや、なんでもない。ではな愛しい息子よ...いつでも俺はおまえのそばにいる)

 

(まって!あ...あの...僕...も強くなりたい...護られているだけじゃなく僕が皆を護れるように...)

 

「ベル!ベル大丈夫か?」

 

ぼーっとしていたベルを心配して祖父が声をかける。

 

(今誰かと話していたような...頭になにか霧がかかっているようで思い出せない)

 

しかしベルの中にはある強い想いが生まれていた。

 

「おじいちゃん!僕オラリオに行きたい」

 

 

 

 

更に数日後

 

「ごめんねおじいちゃん無理なお願いして」

 

ベルが申し訳なさそうな顔をする。

しかし祖父がニカっと白い歯をみせて笑い

 

「孫がハーレムを作りたいっていうものを止めるやつがどこおる。いい子がいたら儂にも紹介してくれ!」

 

「そんなんじゃないよおじいちゃん...」

 

ベルも祖父も笑いあう。そしてベルが祖父に抱き着く。祖父はベルを受け止めるとその頭を優しくなでた。

 

「ベルよ...おまえは儂の自慢の孫じゃ。いつでも儂はここにいる。そしていつでも儂はおまえの味方じゃ!」

 

ベルは目にいっぱい涙を溜めてうなずいた。

 

「それじゃあ行ってくるねおじいちゃん!」

 

手を振って歩き出す。

 

「ベルや!これをもっていきなさい」

 

ベルが振り向くと祖父が白銀に輝く双剣と首飾りをベルに手渡す

 

「この剣ってあの祠にあったやつでしょ?大事な物なんじゃ...」

 

「お守りじゃ...これがお前を護ってくれるように念をかけておいた」

 

ベルはまた泣きそうになるのをこらえ、そして腰にベルトを巻き邪魔にならないように双剣を収納する。

 

「それじゃあ 本当にこれで行ってくるね!」

 

次第に遠ざかっていく背中を見つめるゼウス。

 

 

最後の英雄(ラストヒーロー)

が最初の一歩を踏み出した瞬間である......

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回はベル君の旅立ちの回ということで書いてみました。

次回はアイズについて

その次はオラリオにてって感じで更新したいと思います。

皆様今後ともよろしくお願いいたします。<m(__)m>


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7 アイズ ヴァレンシュタイン

アイズを陣営まで連れ帰ったロキファミリア幹部の3人

村の復興支援の支持を出しいったん報告の為気絶しているアイズを抱えてオラリオの黄昏の館まで帰還する




黄昏の館

迷宮都市オラリオにあるロキを主神としたロキファミリアのホームである。

オラリオにある建造物の中でもひときわ目を引くその建築模様は主神であるロキの趣味そのもので

[どうせ造るなら目立つ方がいいやろ]と敷地内に高い塔のような建物を多く作りその建物をつなぐように通路が作られている。部屋数が多すぎて慣れていないものが一度建物に入ると出られなくなることから蜘蛛の巣のようだとファミリアの新人たちに嘆かれている。

...しかし万が一敵に攻められるということも考えられており子供を護る為にはこの迷路のような造りは最適である。ロキの眷属を愛する気持ちが強すぎてこのような形になったといっても過言ではない。

 

「ロキ、入るけどいいかい?」

 

主神であるロキの部屋に入る前にフィンがノックをする

 

「フィン!?もう帰ってきたんかいな!はよ入ってきいや」

 

フィン達は黒龍に襲われているであろうゼウスファミリアの救援要請に従い出陣していったのだ。こんなに早く帰ってくることなどありえないと考えたロキは突然の帰宅に心臓が飛び出るほど驚いていた。

 

フィン、ガレス、そして未だに意識が戻らないアイズを抱えたリヴェリアがロキの部屋えと

入出する。

 

「お帰りみんな。よう無事に帰ってk...リヴェリア誰やその美少女は!?」

 

「ロキ。まず報告をしたいんだがいいかい?」

 

眉間を手でおさえながらフィンは大きなため息をついた。

 

はぁはぁいいながらアイズに手を出そうとするロキをリヴェリアが杖で一定の距離に入らないように防いでいる。

 

....「という訳さ」

 

フィンは自分たちが見たことを簡潔に話した。

 

「なるほどなー。この子はあのアリアの子供かいな...難儀なことになったな」

 

ロキは今度は優しく眠っているアイズの頭を撫でる。

 

「しかしあのスケベ爺の子供たちが負けるとは黒龍はどんなやっちゃ...あいつらはオラリオ最強やで。ウチの子供らかてあいつらんとこにケチつけられんのに。ただこれからオラリオも少々荒れるで。ゼウスがいなくなったんじゃ秩序が乱れるかもしれん。今後のことは神会で話し合わないけんと思うが多分ウチらんとことフレイヤんとこが引っ張らないけんくなるなー」

 

ロキは珍しく寂しそうな顔をしていた。ゼウスは飲み仲間だったようでよく自分とこの子供たちの自慢合戦をしていたほどだ。

 

アイズ(こども)を頼むか...あいつがウチに頼みごとをするときはいたって真面目なときやからな)

 

「よし、この子はウチらのファミリアで面倒をみよか!こんな美少女他のとこのやつになんかやれんわ」

 

ロキは寂しさを振り払うようにして幹部の三人に告げる

 

「がははは 儂らが鍛えてやれば問題なしじゃわい」

 

「そのことはアイズが目を覚ました後考えようかガレス」

 

「しばらくは私がつきっきりで面倒を見よう」

 

「さすがママや」

 

「誰がママだ、誰が」

 

いつものなごやかな雰囲気になる4人....するとアイズがリヴェリアの腕の中で目を覚ます。

うすく目を開きまだ視点の定まらない目をこするアイズ。意識ははっきりしてきたようだが様子がおかしい...

突然がたがた震えだし表情の無い顔で虚空を見つめる。恐怖 絶望 憤怒 さまざまな感情がアイズの中に渦巻いていて感情の制御ができていないようだ。

そんな痛ましい姿をみた四人はなんとかこの子を幸せにしてあげなくてはと心に誓う。そしてアイズの秘密はなにがあっても口外しないと改めて誓い合うのであった。

 

アイズが落ち着くまで数時間がかかった。 落ち着いたアイズに話を聞いてみたものの要領を得ない。アイズにはほとんど記憶がなく断片的にしか思い出せないようだ。その話を聞いていた皆は顔を曇らせる。こんな幼い子が心に大きな傷をの残してしまっているという事実が悲しくてしょうがない。

 

「ロキ、アイズには家族が必要だと私は思う。アイズの了承を得てからだがアイズに恩恵を刻もう。心身共に強くなればもしかしたら記憶も戻ってくるかもしれない」

 

(本当はアイズがつぶやいた強くなりたいという言葉を聞いたからなのだがな...私にはこのまま記憶が戻らない方が幸せなのかもしれないと思うのだが、しかしアイズには両親の成したことを知る権利もあるしうーむ)

 

リヴェリアが一人で百面相しているとアイズが不思議そうに見上げてそして少しだが笑った。

 

「「「!アイズが笑った!...」」」 (聞くなら今しかない)

 

「アイズ!私たちと家族にならないか?これからは私たちがお前とずっと一緒にいよう」

 

アイズは黙ってうなずいた。

 

「よっしゃ!じゃあアイズウチが主神のロキやこれからよろしく頼むで!」

 

「僕が団長のフィンだよ。アイズ僕たちはこれから家族だ。遠慮なく僕を頼ってくれ」

 

「ガハハハ儂がガレスだ。儂がお前の盾になろう」

 

「そして私がリヴェリアだ。母だと思ってくれるとうれしいんだがな」

 

「ろき ふぃん がれす りヴぇりあ よろしく...おねがいします」

 

こくんとうなずくアイズをロキが抱きしめる。すーはーすーはー匂いを嗅ぎだしたあたりでリヴェリアのデコピンがロキに炸裂する。

悶えるロキをほっておいてリヴェリアがアイズに問いかける

 

「これからアイズにロキが恩恵を刻む。まあ刻むといっても痛くないから安心しなさい。では上着を脱いでくれるか?」

アイズが上着を脱ぎ始めたのであわててフィンとガレスは部屋を出て行った。そしてデコの痛みから立ち直ったロキがアイズに恩恵を刻む。

「ほないくでー...これで完了や。このピエロのエンブレムはウチが考えたんやで!かっこいいやろ!」

 

「.....うん」

 

微妙な間にロキが肩を落とす。

 

「さてアイズたんのステータスは....ッッッ!」

ロキは驚愕した。スキルが発現しているのだ。まだなんの冒険もしていないものがスキルを得ることは稀である。しかも魔法まで発現しているなんて普通はありえないがまあ、あのアリアと英雄ダグラスの子供ならと納得する

 

(やっぱみせなあかんよなーしゃあない)

 

「これがアイズのステータスや」

 

長年冒険者をしているリヴェリアも驚愕する内容だ。

 

魔法

 

(エアリアル)

 

目覚めよ(テンペスト) (エアリアル)

・風の力を己の体に付与することにより身体能力向上

・風を体に纏い攻撃力上昇 防御力上昇

 

(この魔法はアリアの魔法と同じやな。精霊の血ってのはウチらが思っている以上に強力やな)

 

(しかしこのスキルは...)

 

心の炎(ハートフレイム)

 

・心の奥底からの願いによりその激しさは増し効果は向上する 負の感情なら黒い炎 正の感情なら白い炎

・黒い炎は心を壊す

・白い炎は心を癒す

・この炎は心の中に灯る

 

「アイズ、今アイズの心の中にある炎はどんな感じや?」

 

「...黒い炎が燃えてる...ロキどうすればいい?」

 

「んーどうしたもんかいな...アイズはウチらにしてほしいことはないん?多分アイズのしたいことするのが一番心にええと思うで」

 

アイズは黙って考え込んだ後少し恥ずかしそうに答えた。

 

「皆で...一緒に寝たい」

 

「皆でって皆か!?フィンとかガレスも!?」

 

(フィンとかガレスは置いといて...うへへ これでアイズたん抱きしめ放題やで)

 

「さすがにそれは私は嫌なんだが...う」

 

アイズが目に涙を浮かべて上目づかいでリヴェリアを見上げる。心なしかプルプル震えている。

 

(うーーーーーーん...まあしょうがない一日だと約束すればよいか毎日なんてさすがにたまらない)

 

「しょうがない 一日だけだぞ?アイズ。ロキ!アイズの隣は私が寝る。お前はガレスの隣にでも行くがいい。それと我々の部屋でも狭いからロキの部屋でよいか?」

 

「うん...リヴェリアありがと」

 

「いややーーーうちもアイズたんのとなりで寝るーーおっさんの隣はいややアイズにはなんもせんから隣で寝かせてえな。

部屋はウチの部屋でいいで!ウチのベットじゃ狭いから布団用意しとくさかい」

 

(アイズには手はださんがリヴェリアには...うへへ)

 

「私に何かしたら全力のデコピンをくらわすから覚悟しておけよ」

 

高レベルの冒険者の本気のデコピンは肉体的にはほとんど人間と変わらないロキにとってへたをしたら致命傷になりかねないロキは乾いた笑いをあげしょうがないと諦めるのであった。

 

その夜

 

「本当に僕たちも一緒に寝るのかい?」

 

「儂もか!?まずいじゃろ」

 

さすがにフィンとガレスは抵抗する。しかしリヴェリアの時と同じでアイズの上目づかいで二人とも撃沈した。

 

寝る順序はリヴェリア アイズ ロキ フィン ガレス という順序になった。

妥当なところということで決まったようだ。

心なしかアイズは嬉しそうにしている。まだまだ心に傷はあるのだろうがこのまま幸せになってほしいと思う幹部達であった。

 

「ほな電気消すで?ええか?」

 

アイズがこくんとうなずく。

 

 

「ロキ、もう一度いうが何かしたら...わかっているな?」

 

「わかっとるわかっとる ウチかてそこまで空気の読めへんことせんわ。アイズおやすみーー」

 

「おやすみ..ろき りヴぇりあ ふぃん がれす」

 

部屋が暗くなるとアイズは寝息をたてはじめた。よほど疲れていたのだろう。すぅすぅと寝息をたてているがその瞳から涙の滴がこぼれる。

 

「おかあさん...おとうさん...いかないで...」

 

この子の闇は深い。リヴェリアはそっとアイズを抱きしめて頭を撫でる。アイズは心なしか表情が和らいでそのまま朝まで起きることはなかった。

 

ロキはアイズとリヴェリアに手をだすか真剣に悩んだが吹っ飛ばされる恐怖に負け結局フィンを抱き枕にして寝るのであった。フィンはアイズを起こしてはなるまいと朝までひたすら耐えた...そして二度と一緒に寝ないと心に誓った...

 

 

翌朝

 

アイズが起きる前に今後のアイズの教育方針について話し合う。まず大前提にアイズの気持ちが大事ということ。アイズの存在はアイズがレベル2になるまでは隠すということを決めた。

 

「まずは座学から行うことを私は勧める。戦闘訓練はその後でもいいだろう」

 

「ふむ。僕もそう思うけどアイズはどうしたい?」

 

フィンが顎に手を当てて考えながらアイズに問いかける。

 

「たたかうの...こわい...」

アイズは武器を見るだけでもぶるぶる震え恐怖を感じているようだった。ロキと幹部の面々はうなずき本人が戦いに恐怖を抱いているのならこのままでもいいと判断し本人の意志を尊重した。

 

それから数年の間は何事もなくアイズの精神状態もよくなりつつあるが未だに戦闘に関しては恐怖があり戦うことができないでいた。しかしアイズが7歳になった時に事件は起きた。ロキファミリアは到達階層を更新する為遠征に入っていた。しかし遠征中の事故によりリヴェリアが生死の境を彷徨う大けがをすることになる。 エリクサーを使用してある為死ぬことはないが3日間意識を失っていた。その間アイズはフィンやガレスが止めるのを聞かず一睡もせずにリヴェリアの看病をしていた。

 

「ここは...私は生きているのか...」

 

リヴェリアが目をさまし自分の生死をまず確認する。手足は動くのか、耳は聞こえるのかとひとつひとつ確認し問題がないことを確認し安堵した。

 

「リヴェリア!このまま...目を覚まさないんじゃないかって...すごく心配した」

 

アイズはベットに横たわるリヴェリアに抱き着いて大粒の涙を流した。そんなアイズをリヴェリアが優しく撫でる。

 

アイズの記憶のかけらが蘇る。血だまりを作り横たわる父と母。護られてばかりで何もできなかった自分。そして強くなりたいという思い。 横たわる両親とリヴェリアの姿がかぶって見えた。

 

「私...強くなるから...だからどこにも行かないで」

アイズの中に黒い炎が燃え盛る。昔となんら変わっていない自分が憎くてたまらないのだ。

 

「アイズ...すまない。私もおまえの為にももっと強くなろう。だから自分だけで背負わなくてもいいんだ」

 

リヴェリアとアイズは涙を流しながらしばらくの間抱き合っていた。

 

更に数日の時が経過しリヴェリアの体調も全回復した。

 

黄昏の館中庭

 

そこにはロキを筆頭にフィン ガレス リヴェリアがいる。

 

「アイズ...本気なんだね?」

 

アイズはこくっとうなずく。アイズにもう恐怖はない。恐怖を何もできない自分に対する怒りが凌駕したのだ。

 

「じゃあこの剣を使ってみて、アイズの身長に合わせてあるから。まずは僕と模擬訓練を行う、僕はこの木の剣で応戦するからアイズは僕を倒すつもりでかかってくるんだ。僕に一撃でもいれることができたら今日の訓練は終了だ。」

 

フィンは今のアイズでは到底不可能な難題をぶつけてその覚悟を試すことにした。アイズは剣を振りかぶりフィンに向かって突っ込んでいく。フィンは軽々と攻撃をよけアイズに一撃を入れる。

 

「痛ッッ」

 

アイズはあまりの痛みに膝をついてしまう。

 

「立て!アイズ。それとも君の強くなりたいという気持ちはそんなものなのかい?」

 

アイズはその言葉を聞き膝に力を入れ立ち上がり剣を構える。

 

「ああああーーーー」

 

叫びながらフィンに何度も攻撃をしかける。その度に木剣で叩かれ吹き飛ばされ何度も気絶する。

 

「痛みに負けてはいけない。そして視界は広く!どうやったら僕に勝てるか死に物狂いで考えるんだ!」

 

あまりに苛烈な指導にフィン以外の3人は何度も止めようとしたが団長を信じて全てを任せることにした。

 

「今この場で血を流す分だけダンジョンでは血を流さなくなる」

 

訓練は朝から日が落ちるま行われた。結局その日は当然ながら一撃入れることはできなかった。しかし、アイズは一度も挫けることなく訓練を行った。

 

「よくがんばったね!アイズ。君の覚悟は本物のようだ」

 

気絶するように眠ったアイズを抱えて黄昏の館の中に入っていくのだった。

 

その日からアイズの訓練は続いた。毎日毎日訓練をし傷だらけになりながらも己を鍛えていった。辛くても苦しくてもただ強くなりたいという思いを胸に剣を振った。

 

フィンはうまく飴と鞭を使い分け頑張ったご褒美として武器を買ってあげたり防具を買ってあげたりして訓練を行った。

 

ダンジョンに潜るようになるとパーティーも組まずに朝から晩まで戦うアイズにリヴェリアが逆鱗をお落とし夜中まで説教をしたことも何回もあった。夜中には自分の防具を磨きながら少しづつ強くなっていく自分に喜びを感じた。

 

そうして10か月の月日がたつ頃アイズは一人で10階層まで潜れるようになっていた。他の冒険者と比べて遥かに早い成長速度に神であるロキも大いに驚いた。そしてついに訓練開始から1年後アイズはレアモンスターであるインファントドラゴンを単身で倒すという偉業をなしとげランクアップする。ランクアップの日数を大幅に更新したことにより一躍有名となった

 

「アイズたんランクアップおめでとうな!よう頑張ったなぁ」

 

「アイズには特別厳しく指導したつもりだったけどよくついてきたね。おめでとう」

 

「ガハハハ儂も負けてられんなぁ。今度は儂とパーティを組んでもっと下までいってみるか」

 

「私はおまえを誇りに思うよアイズ。よく頑張ったな」

 

みんなからお祝いの言葉をかけてもらい頬を赤く染めながらアイズが照れる。

 

「ん...みんなありがとう...でもまだまだ私は強くなりたい」

 

「その向上心は認めるけど今日ぐらいはゆっくりお祝いしようかアイズ」

 

「そやでーーー今日は盛大にお祝いするんや!みんなよんでアイズのランクアップを祝うで!」

 

そして夜

 

オラリオのメインストリートに豊穣の女主人という店がある。この店は料理の腕もよくなにより店員が皆かわいい為

ロキのお気に入りの店になっている。普段は冒険者が多く集まる店だが、今夜はロキファミリアの貸切である。まずは幹部たちが座り次に準幹部達が座る。後の席は奪い合いだ。普段はあまり話しかけられない相手でも飲み会の席ならば話しかけるチャンスがある為リヴェリアの席やフィンの席の周りはファンの皆で埋め尽くされる。

アイズはリヴェリアの隣にちょこんと座り心なしかワクワクしているようだ。

 

「じゃあみんな杯を持ったなー!いくでーーーーアイズたんランクアップおめでとーーーー!カンパーイ!」

 

うおおーーーとファミリアの仲間達が杯をぶつけあいそれぞれがアイズに祝福の言葉をかける。

アイズは恥ずかしさからなのかリヴェリアの影に隠れて頬をそめながらもじもじしている。

 

「こら、アイズ。みんなおまえの為に祝ってくれているのだから少しは話でもしてくるといい」

 

「リヴェリア...だって恥ずかしい...」

 

リヴェリアが溜息をついているとそんな様子を見ていたロキが果実酒を持ってやってきた。

 

「アイズたーーん今日はお祝いや!これ飲んでみ?」

 

そういうと果実酒を手渡してくる。アルコールはほとんど入っていないジュースのような者だが少しでも緊張がほぐれればというロキなりに気を使ったのだ。

そんな気遣いがわかったリヴェリアも普段ならアイズに酒などまだ早いと怒るところだが今回は何も言わなかった。...後にロキもリヴェリアも後悔することになる...

 

「これ...甘くておいしい」

 

アイズがくぴくぴ飲んでいることに気をよくしたロキが次々にもってくる。アイズは最初はくぴくぴ飲んでいたが次第にごくごく飲むようになりいつの間にか大量のアルコールを摂取してしまう。頬を赤くしてふらふらしだすアイズ...

 

「アイズ!?大丈夫か!?飲みすぎたようだn...」

 

「リヴェリアーーー!」

 

突然アイズがリヴェリアに抱き着きどことはいわないがもみもみしはじめた。周りもその光景にうおおおーとテンションが上がっている。当のリヴェリアは突然のアイズの豹変ぶりにおろおろしており無理やり引きはがしていいものかと悩む。

アイズはひとしきり堪能すると別の団員に抱き着き今の行為を繰り返す。まさに酒乱...

 

(ア、アイズたんが壊れた...しかしうらやましい...ウチも酔ったふりすればできるんとちゃうか)

 

などど怪しげなことを考えていると今度はロキにアイズが抱き着いてきた。

 

「ロキーーーあれ?ない...」

 

ぐは...ロキに痛恨の一撃ロキは倒れ...

 

むうっと頬を膨らませそのまま力いっぱい抱きしめ始めた。いくら外見は美少女でもレベル2の冒険者であるアイズの力で全力で抱きしめられたら体はほぼ人間と変わらないロキはたまったものじゃない。

 

「ぎゃあああーでるぅっ中身でるからはなしてえなーーー」

 

次第に青くなりつつあるロキに笑ってみていた団員達もさすがにやばいと感じなんとかアイズを引きはがす。

アイズはそのまま糸が切れたように寝てしまうのであった。

 

この飲み会以降ロキから正式に通達があった。

 

【アイズたんに酒をのませることを禁止する...】

 

団員たちは乾いた笑いをしながらこの通達を了承した。アイズはこの夜の記憶を一切なくしていたので飲ませたロキが悪いという結論になった。

 

 

それから数年

アイズは【剣姫】という二つ名をもらい目覚ましい活躍をみせる。他の者なら10年以上かかるところを数年でレベル5という偉業をなしとげるのであった。

 

 

 




読んでいただいている皆さんありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします
<m(__)m>

今回はアイズ編ということで書いてみました。あくまでも創作なので原作と違うところも多くありますがうまくまとめられるように頑張ります。

次回はオラリオにてベル君とアイズが出会うかもです...


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オラリオ到着
8 豊穣の女主人


住み慣れた村を出て数日

ついにベルは迷宮都市オラリオに到着する


迷宮都市オラリオ。そこには多くの冒険者が集まりダンジョン攻略やその冒険者相手の商売が盛んな町である。

多くの人間が集まるということは善人ばかりではなくもちろん悪人も多く存在する。 ましては自分に不釣り合いな装備を持っている田舎から来たであろう少年をほっておく悪人はいない...

 

(ここがオラリオかぁーー大きい門だなーー)

 

ベルが入り口である門を見上げて感想をもらす。警備の兵士にオラリオにきた目的を聞かれ大きな声で元気いっぱいに答えるベル。

 

「冒険者になる為です!」

 

兵士はベルの元気のよさに若干めんくらいながらも敬礼をし門を通してくれる。

 

もの珍しそうにきょろきょろまわりを見渡しながらメインストリートを歩くベル。

 

(すごいなーー僕がいた村より何倍もおおきいや!)

 

そんな事を考えながら歩いていると冒険者風の男2人が声をかけてくる。見るからにあやしい雰囲気だがベルは純粋すぎて人を疑うことを知らない。

 

「君オラリオは初めてかい?よかったら俺たちが町を案内してあげるけどどうする?」

 

(このガキ見るからに田舎者のくせにヘファイストスのロゴ入りの武器もってやがる...様子をみて奪ってやるか)

 

「本当ですか!?ありがとうございます!今日きたばかりで何もわからなくて困っていたんです。あの、冒険者になるにはどうしたらいいでしょうか?」

 

「ああ、それならまずはあの一番高い建物バベルっていうんだけどあそこにいけばいいよ」

 

「ありがとうございま...ぐっっ」

 

ベルがお礼を言おうとした瞬間男のけりが腹に炸裂しもう一人の男に双剣を奪われてしまう。笑いながら逃げる男たちを必死で追いかけようとするベル。

 

「ごほっ 返せそれはおじいちゃんにもらった大切なものなんだ...」

 

「ばーーか おまえなんかがこんな武器もっててもしょうがねえだろ。俺たちが有効活用してやるよ」

 

男たちが下種な笑いを浮かべながら走り去ろうとするが...

 

「ぐぁ」 「いてぇ」

 

どこからともなくコインが飛んできて男達二人に当たり双剣を落としてしまう。

 

「痛えな、なにしやがる。どこのどいつだ」

 

コインをぶつけてきたであろう人物に詰め寄ろうとする男達

 

「吠えるな」

 

そこに立っていたのは峰麗しいエルフの女性とヒューマンの女性だ。ヒューマンの女性がベルに近づいてきて介抱してくれる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「だっっっ大丈夫です。あああありがとうございます」

 

ベルは内心なさけないと思いつつも目の前の美少女に話しかけられて顔を真っ赤にしてドギマギしてしまう。

 

「ぐああ」

 

男たちが悲鳴をあげる

 

「失せなさい。これ以上私を怒らせない方がいい。私はいつもやりすぎてしまう」

 

エルフの女性からすさまじい殺気が放たれる。

 

「ちっおぼえてろおおおー」

 

男たちはボロボロになりながら逃げて行った。エルフの女性は双剣を拾い上げるとベルの元にやってくる。

 

(この双剣は...かなりの業物...なんでこんな少年が...)

 

「これはあなたのものですよね?」

 

「ああああありがとうございます!おじいちゃんにもらった大事な剣なんです」

 

そういうとベルはエルフの女性の手を取った。

 

「いえ、お気になさらず」

 

瞬間ヒューマンの女性は驚愕した。

 

(リューが手を握られたのに...普通に接している...)

 

(なぜだろう...この少年に手を握られたはずなのに怒りが湧いてこない。私の手を握ったのはこの少年以外に2人だけ...シルと私の親友のみなのに...)

 

「あのそろそろ手を放していただけると...」

 

エルフの女性がかすかに頬を染める

 

「ああすすすみません」

 

ベルはあわてて手をはなした。

 

「えと、自己紹介がまだでした。僕ベル クラネルと申します。冒険者になるためにオラリオに来ました。助けていただいて本当にありがとうございました」

 

「私はシル フローヴァです ベルさんとお呼びしても?」

 

こくこくベルがうなずく

 

「リュー リオンです。この町はああいった物騒な輩も多い気を付けた方がいいでしょう。クラネルさんはこれからどうするおつもりですか?」

 

「ええと...それがどうすればいいか全然わからなくて」

 

シルがそれを聞いて提案を出す。

 

「それじゃあとりあえずお店にきませんか?おいしい料理が自慢な店なんです。...ちょっとお高いですが」

 

ぺろっと舌をだしながらそういうシルがかわいすぎてベルはただうなずくだけで返事ができなかった。

 

「それでは行きましょうか。クラネルさん」

 

そういうと買い物袋を持ち直して歩き出す。

 

「あ...助けてもらったお礼ではないですが僕がもちますよ!」

 

「いえ私は大丈夫ですのでシルの荷物を持ってあげてください」

 

ベルはリューのいうとおりにシルの荷物を持って豊穣の女主人まで歩き出す。

 

「ここが私たちのお店です」

 

ベルが大きな店を見上げて若干ひきつった顔をする

 

(お金たりるかな...)

 

そんな様子をみたシルが大丈夫ですからと目でうったえてベルの手をとり店に入る。

 

「ただいま戻りました。ミア母さんはいますか?」

 

「やっと帰ってきたにゃ。二人ともおそいにゃ...にゃ!シルとリューが男連れてきたにゃ!」

 

「今日オラリオに来たばかりのようで何もわからないようなのでとりあえず連れてきちゃいました。白くて兎みたいでかわいいでしょ!」

 

シルは満面の笑みでそう答える

 

「すみませんクラネルさん。騒がしくて...」

 

「いえいえいえお気になさらず。それにしても大きなお店ですねーー」

 

そんな話をしていると奥からミア母さんと呼ばれた大柄な女性がでてきた。

 

「うるさいねぇ。何を騒いでいr..団長!」

 

ベルの姿をみた瞬間ミアはベルにかけよりその肩をつかむ

 

「イタッ」

 

ミアの体は小柄なベルよりはるかに大きく力も強かった。何かに興奮しているようで周りがみえていない

そんないつもとは違う姿に周りの店員は動揺している。

 

「ミア母さん。クラネルさんが痛がっています。放してあげてください」

 

ミアの腕に手をおいて諭すように話しかける。ミアは落ち着いたようでベルの肩から手をはなした。

 

「ベルさんミア母さんとお知り合いなんですか?」

 

「いえ...僕の住んでいた村はここから大分離れていますし村から離れたのは今回が初めてなので...」

 

ベルは首を横にふって答えた。

 

(このぼうず一瞬団長と見間違えちまったけどよくよくみたら全然違うね。髪の色と目の色がそっくりなだけでひ弱そうだしねぇ...しかし今クラネルといっていたようだけど...詳しく話を聞いた方がよさそうだね)

 

「すまないねぼうす。ちょっと知り合いににていたもんでつい興奮しちまったよ。で?このぼうずはどうしたんだい?」

 

ミアはシルとリューに問いかけた。

二人は先ほどあった出来事を簡潔に説明した。

 

「なるほどねぇ。その剣ってのは?」

 

これです。とベルがミアに差し出した。ミアはその剣を見た瞬間目を見開いた。

 

(これは団長が愛用していた剣...神聖文字(ヒエログリフ)も刻まれているし間違いない。なぜこの剣をこんなぼうずが...)

 

「たしかに業物だね。あんたには不釣り合いに見える。これはどこで手に入れたんだい?というかそろそろ自己紹介ぐらいしな!」

 

ベルはミアの態度に圧倒されていて自己紹介を忘れていた。

 

「ししし失礼しました。ベル クラネルといいます。ここから北に100キロほどいったところの小さな村から来ました。この剣は冒険者になる為に村を出るときにおじいちゃんにお守りにといただきました」

 

ミアは一瞬神妙な顔をした。

 

(北に100キロ...あそこは団長たちが...。仲間たちが散った場所だ。そしてクラネルという家名...そしてこの双剣...なるほどね。そしておじいちゃんか)

 

「ぼうずのおじいいちゃんってのはどんな人物だったんだい?」

 

「おじいちゃんはええっと...すごく簡単にいうと豪快でちょっと女の人が好きというか...」

 

(やはりゼウスだ...まあなんとなく理解したよ)

 

「そうかい。とりあえずこれからどうするか決まるまでこの店で働く気はないかい?」

 

「「「ミア母さん(ちゃん!?)」」」

 

「ちょうど1週間後くらいにロキファミリアがうちの店を予約しているからその日までまてば私からロキ様にベルのこと頼んでみるよ。どうせ冒険者になるならどこかのファミリアに入らないといけないんだし。まあぼうずがロキ様の目に留まれらなかったらそのままこの店にいてまた他の主神を探せばいいさ」

 

(たしかゼウスとロキ様は旧知の間柄だったはず。あたしが気が付いたんだからロキ様ならすぐにこの子がどういう人物かわかるだろう)

 

 

「ロキファミリアってあのロキファミリアですか!?オラリオの最強派閥のひとつじゃないですか!僕なんて無理ですよ...全然弱いですし...」

 

ベルは一瞬テンションが上がったものの自分に自信のないベルはすぐに落ち込んでしまう。

 

「ぼうず。あたしからみるとおまえは才能がある、それに弱いことは悪いことじゃない。悪いのは弱いままでいることさ」

 

ミアはベルの背中をバシッとたたいて笑う。周りにいた店員たちもミアの気持ちを理解したのか口をはさむことはしなかった。

 

「ベルさん!もしダメでも私が懇意にしている神様がいらっしゃるのでその方に話してみますよ!」

 

ベルは皆の気遣いがうれしくて涙ぐみながらありがとうございますと一礼した。

 

「ミアさん!よろしくお願いします!」

 

「それじゃあまずは掃除の仕方からだ。あんたの部屋は今倉庫になっている部屋があるからそこからだ。リュー手伝ってやりな」

 

「ではクラネルさん。私についてきてください。ご案内します」

 

ベルさん私もっっっとシルがついていこうとしたがミアに遮られた。

 

「シルはこっちの掃除だ。あんまりあの子にちょっかいかけるんじゃないよ!」

 

シルはぺろっと舌をだしてパタパタ走って掃除に向かった。

 

 

こうしてベルがオラリオに来て一日目が終了する

 

 




読んでくださっている皆様ありがとうございます。

話が長くなりそうだったんで一度ここできりました。

次回はロキファミリアのみなさんとご対面します。

そしてちょっと前々から書きたかった内容があるので楽しみにしていてください。

ベートさんがきっとかわいそうなことになります。

萌える展開は次回に持ち越しです<m(__)m>


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9 ロキファミリアとの出会い

豊穣の女主人での生活...夜


豊穣の女主人の二階の一室。昨日までは倉庫として使われていたがベルとリューの努力によりなんとか人が寝れるようにはなった。

 

「クラネルさん。それでは今日からこの部屋をお使いください。この階には他の従業員もいますので何かあればお声がけください」

 

そういうと部屋から出ていこうとする。

 

「待ってください!あの...どうして僕なんかにここまでしてくれるんですが?」

 

「私たち従業員も今日のミア母さんの様子には少なからず驚いています。ですが...クラネルさんがミア母さんのお知り合いにそっくりのようでほっておけなかったといっていました。それにあなたからはとても純粋な気を感じます。全く穢れがない気です。私も少しでもあなたに邪な気を感じれば反対しましたがあなたは信頼に足る人物だと判断しました」

 

リューは表情を和らげてベルの手をとって続ける。

 

「私たちエルフは他の種族と違い他人との肌の接触を著しく拒みます。私も例外ではなくむしろ他のエルフ以上に触られることに対して嫌悪感がありました。しかしなぜかあなたに最初に手を触れられたときに心が安らいだ。私の故郷にある大樹を見上げているような感覚でした。むしろあなたがどんな人物なのかとても興味があります」

 

リューは多少頬を染める。

ベルも顔を真っ赤にしてありがとうございますと頭を下げた。リューがベルの部屋から出ていきベッドに横になる。

 

(今日オラリオに来たばかりなのにもうこんな美人な人達と知り合いになれたよおじいちゃん。僕頑張るからね!)

 

そんな事を考えながら眠りに着いた。

 

早朝

 

(小声)「ベルさーん朝ですよー」

 

シルが一切の物音を立てずにベルの部屋に入ってきた。カギは不用心にもかかっていなかった。

シルがベルの顔を覗き込み笑顔になる。まだあどけない顔ながら整った顔立ちはかわいくもあり凛々しくもありついついいたずらしたくなるシルであった。ベルの顔をつつこうとした瞬間

 

遠慮がちにノックが聞こえた。

 

「クラネルさん朝ですよ...シル。今日はやけに早いですね」

 

ベットに片足をかけていたのを瞬時に戻してリューに気が付かれないように溜息をつく。

 

「昨日ベルさんとあまり話せなかったから早めに来たの、リューこそやけにベルさんを気にかけているけど...」

 

シルの背後に般若が見える...顔は笑顔なのに...

 

「ミア母さんにクラネルさんの面倒をみてやってくれといわれたので...私一人では見切れないかもしれないのでシルも一緒にみていただけるとありがたいのですが」

 

「ありがとうリュー!」

 

シルがリューに抱き着く。するとベルが目を覚ました。

 

「んー...おはようございます。...ってえぇぇ!なぜお二人が僕の部屋に」

 

一気に眠気から覚醒したベルが驚いて声を上げる。起き抜けに目の前に美少女がいるという生活に慣れていないベル。そもそも女性に対して免疫がないに等しいのに朝からいきなりは心臓に悪い。昨日はなんとか頑張って話していたというのに...もっと慣れていかないと。そう心に誓った。

 

「あはは。ベルさんを二人で起こしに来たんですよ!このお店の朝は早いですから今日も一日頑張りましょう!」

 

髪はぼさぼさでまだ寝巻を着ているベルは大急ぎで着替えようとして上半身裸になる。

 

「キャッ!」

 

「あ...」

 

ベルは急いで着替えなくてはという気持ちが先走りすぎて部屋にまだシルとリューがいるのを忘れていた。

シルは顔を隠すふりをしながらベルの上半身に目線はロックオンだ。リューは目線を若干そらし見ないようにしている。

 

「それではクラネルさん。私とシルは部屋の外で待っていますので着替えたら外に出てきてください。洋服はそこのタンスにしまってある物を使用してください」

 

それでは、とリューが名残惜しそうにしているシルを引きずって部屋を出てった。ベルは頭を抱えてベッドの上でのたうちまわってからリューに言われたとおりに着替えるのであった。

 

「お待たせいたしました。こんな服着たことがないのでこれでいいでしょうか?」

 

ベルの服は黒のパンツにワイシャツ。それに赤と白のチェックのネクタイというスタイルだ。更にその上からエプロンというシュールな組み合わせだ。基本的にベルはホールには出ずにミアの手伝いでキッチンでの補助作業行う予定である。

 

「似合うじゃないですかベルさん!」

 

シルが満面の笑みで褒めてくれる。

 

「クラネルさんはもう少しかわいらしい格好の方が...いえ」

 

リューは小声で言った為ベルの耳には聞こえなかったが隣のシルにはばっちり聞こえていた。後でこれをネタにからかってやろうと思うシルである。にやりといやらしい笑みを浮かべた。

 

3人で階段を下りていくと他の定員達が店内の掃除をしているところでアーニャという名前の猫人(キャットピープル)とクロエという名前の猫人(キャットピープル)が箒で床のゴミを払っていた。

 

「おはようございます」

 

ベルが二人に声をかける。

 

「やっと起きて来たにゃ白髪頭。みゃーたちはもうお仕事してるのにゃ。先輩より先に起きてきて掃除をするのが後輩の常識にゃ」

 

アーニャがぷりぷり怒っている。

 

「アーニャ。クラネルさんは昨日オラリオに着いたばかりでとても疲れていたのでしょう。明日はきっと早起きしてくれるはずです」

 

すかさずリューがフォローを入れてくれる。リューさんには頭が上がらないなと内心肩を落とすベル。それを横目で見てにこにこしているシル。

 

「昨日からやけに新人を気にかけてるにゃ?リューまさか...新人のことが...」

 

クロエがかリューをからかう。リューは一瞬顔を赤くするがすぐにいつもの無表情に戻りミア母さんにあいさつしに行きましょうとベルとシルをつれて厨房に入っていく。

 

「「「おはようございます」」」

 

三人が挨拶をするとミアは仕込みの手を止めて笑いながらあいさつを返してくる。

 

「三人ともおはよう。ぼうず昨日はよく眠れたかい?」

 

「はい!眠れました。今日からよろしくお願いします!」

 

「よし!いい返事だ。ただし明日はもう少し早くおきな」

 

ミアの笑顔から一転般若の顔にベルの背中に冷たい汗が流れる。明日は絶対早く起きようと心に誓った。

 

「ベルは今日はあたしの手伝いだ。料理の心得はあるかい?」

 

ベルは家で祖父と一緒に夕ご飯を作っていたので野菜の皮むきから鶏の絞め方までお手の物だった。ただ魚介を扱う事がほとんどなかった為魚をさばくことは苦手だとミアに報告した

 

「なるほどね。じゃああたしがさばき方指導してやるから一週間で覚えてみせな。今は料理のできる男がもてるんだよ」

 

ミアが半分冗談でいった言葉をベルは信じうおーーやるぞーーと気合を入れて仕事にとりかかった。

やはり料理の経験がある為一度教えるとそこそこ上手くミアも機嫌をよくし自分の技術を教えていくのであった。他の従業員たちは隠れてその様子を見ていたがミアのひと睨みによりそれぞれが持ち場に戻る。

 

「今日も張り切っていこうかね!」

 

豊穣の女主人は多くの冒険者が集まる。お客さんが来てくれるのはいいが厨房やホールスタッフは地獄のような忙しさだ。店員達も臨機応変に動かなければならない。店内の案内。接客。調理。会計など様々な仕事がある。ベルもミアの手伝いに並行して店内に料理を運んだりと大忙しだ。パタパタ動く姿は店内にいるお客にも好評の様で眺めているだけで癒されると評判になった。ただしこのお店には女性店員しかいないと思っている冒険者がほとんどの為男装をしている女の子として噂になった。後に悲劇を生むことはまだ誰も知らない。

 

 

ベルが豊穣の女主人で働き始めて1週間がたとうとしていた。今日はロキファミリアが入店する日である。

 

「おまえたち。今日はロキファミリアが入店するよ。騒がしくなるだろうから気合いれな!」

 

「「「はい!」」」

 

全員が返事をする。ベルも初日に少し起きるのが遅くなってしまったのを巻き返そうと毎日誰よりも早く起きて店内の掃除をしていた。その甲斐あって店員たちともしっかりと打ち解けて緊張することもなく話せるようになった。

 

「ミア母さん!ロキ様はかわいい女の子が好きということで今日はちょっと趣向を変えてみようと思うんですがいかがでしょうか?」

 

シルが満面の笑みを受かべてミアに進言する。ミアは訝しそうな顔をしたもののとりあえず内容を聞いてみることにした。

 

「これです!」

 

シルが出したのは獣耳。獣しっぽ...いわゆるコスプレ衣装のようなものだった。

 

「どれかを選んでベルさんに着けてもらおうと思うんですがいかがでしょう?」

 

ミアは盛大な溜息をつく。

 

「とりあえずベルに聞いてみな。そんでまあ似合っているなら今日だけ許可しよう」

 

ちらりとベルの方をみるとよく意味がわかっておらず首をかしげている。

 

「ベルさん!絶対...絶ッッッッツ対似合うんで着替えてもらえませんか?」

 

「いや...でも...これ女性用の制服ですよね?さすがに恥ずかしいというか...」

 

「大丈夫です!問題ありません!私を信じてください!」

 

シルがベルの顔数センチの位置まで顔を寄せて力説する。他の店員たちに助けを求めようと見渡すがみんな一斉に顔をそらす。リューでさえも止めるべきだという気持ちと見てみたいという気持ちが半々でおろおろしている。結局シルの説得に負けて今日だけということで全てを任せることにした。

 

「ではさっそくですがどの動物にしましょうか!」

 

このテンションのシルを止めることはできない。ならば自分たちも楽しもうと店員達の意志は固まる。

猫、犬、豚、牛、山羊、狼。いろんな種類の動物のセットがある。

 

「クラネルさんなら兎がいいんじゃないでしょうか?」

 

なんだかんだいってリューも乗り気である。

 

「兎だとそのまますぎるかなって思って...以外にこれなんかいいかなと」

 

それは狼のセットだった。ベルの中性的な顔に狼の耳としっぽは上手くマッチしており他の動物より似合っているようだった。しかし...

 

「さあベルさん!服もこれに着替えてください!メイクは私が行うので安心してください!」

 

「!?こ...これは...」

 

シルが新たに出してきた服装は先ほどまでのロングスカートとは違い明らかに丈が短い...

 

「えっと...シルさん?」

 

「さあベルさん!男に二言はありませんよね?」

 

(は...はめられた...シルさんかわいい顔して悪女だ...)

 

ベルは肩を落としてうなずくしか選択肢がなかった。

 

1時間後

 

「完成しましたぁー!」

 

その場にいた全員。ミアでさえも言葉を失った。ミニスカートに絶対領域を演出する黒いニーハイ。首には紅いチョーカー。薄く化粧をした姿はまさに美少女そのもの。更に恥ずかしさからかもじもじしている仕草は凶悪だ。初めてこの姿をみたら誰も男だとは思うまい。

 

「にゃー白髪頭は本当に男かにゃ?」

 

アーニャとクロエがにゃふふっと含み笑いをしている。

 

「クラネルさん...大変似合っていますよ!」

 

リューも頬を赤く染めプルプルしている。

 

「ベルさん!素敵ですよ!」

 

シルはもう満面の笑みだ。自分のセンスに満足しているようだった。

 

ミアの方に目線を送ると無言で親指を立ててうなずかれる。

 

(おじいちゃん...オラリオは怖いところです...)

 

ベルは心の中で初めてオラリオに来たことを少し後悔した。

 

肩を落とすベルをみてさすがにかわいそうになったリューがフォローを入れる。

 

「クラネルさん。クラネルさんは基本的には調理場にいるのでそこまで目立たないと思いますよ!」

 

「リューさんお気遣いありがとうございます。ミアさん...ロキ様への紹介の件はお願いしますね?」

 

「ああ。そっちはまかせときな!」

 

ベルは今日を乗り切ればちゃんとした冒険者になれるかもしれないということだけを考えて耐えることを決意した。

 

 

ロキファミリアの皆様ご来店!

 

「「「「いらっしゃいませー!」」」」

 

オラリオ最強派閥の一翼であるロキファミリアの入店である。今日は貸切で遠征の無事帰還を祝してお祝いのようだ。参加している面々も第一級冒険者が勢ぞろいしている。中心の大きなテーブルにロキを筆頭に第一級冒険者の面々が座り後の席は早いもの準で座るというのが暗黙の了解になっている。

定員達は大忙しで酒を配り用意が完了する。

 

「みんな席ついたかー。それじゃ始めるでー!遠征お疲れさん!かんぱーーーい」

 

うおーーと全員が杯を上げて乾杯する。酒の消費がはやい。このままではベルがホールに参戦するのも近い。

 

アイズ ヴァレンシュタイン 第一級冒険者にてレベル5の強者である。彼女は以前お酒を飲んでやらかして以来飲むことを止められている。いつものようにハニーミルクを頼みくぴくぴ飲んでいる。一杯目を飲み終わりおかわりをしようと店員を呼び止める。

 

「すみません...これのおかわりを..!」

 

(このお店にこんな子いたっけ...白くてかわいい...なんだか懐かしい匂いがする)

 

「ハニーミルクですね?かしこまりました。少々お待ちください」

 

店員は忙しいようでぱたぱた走って行ってしまった。声をかけようかと思って手を伸ばしたがその手をおろしてしまう。

 

(いや...私の手は血で汚れている。あの純粋そうな子に触る資格なんてない...)

 

ずーんと黒いオーラをだしているアイズを見てアイズの母親代わりであるリヴェリアは苦笑する。後でうまくとりなして会話の機会くらい作ってやるかと一人考えていた。

 

そこそこ時間もたち店内状況はやや落ち着いてきていた。飲みすぎてつぶれているものも多々いるがまあ別に気にすることはないいつもの風景だ。ミアはそろそろロキにそれとなくベルのことを伝えるつもりでいた。

しかし、予想だにない事件が起こる。

 

 

ベート、ローガ レベル5にしてロキファミリア随一の俊足の持ち主で絶対的な実力主義者である。彼は馬鹿騒ぎしている仲間たちを横目に一人酒を飲んでいた。

 

「失礼いたします。こちらエールになります」

 

 

白い髪の(外見は)美少女がベートに酒を運ぶ。ぶすっとした態度の彼は定員のほうなど見ずに酒を受け取る。しかし...

 

(ん!?なんだこの匂いは...)

 

人狼(ウェアウルフ)であるベートは匂いに敏感である。彼は絶対的な実力主義者の為いくらかわいくても弱者には興味がない。しかし本能的にベルの潜在能力に気付いた。後ろ姿で顔はわからないがなかなかいい女だな。普段なら男と女の違いくらい分かるが今は潜在能力の方に意識がいって男の娘であることに気が付かなかった。彼は後に後悔する。

エールを一気飲みし杯を上げて店員を呼ぶ。

 

(今度は顔ぐらい拝んでやるか...!!!)

 

ズキューン ベートのハートは打ち抜かれた。

 

(な...か...かわいいじぇねえか...)

 

酒の勢いもある。よしっと立ち上がって白い髪の店員に近寄る。...

 

「おい!」

 

 

ベル視点

 

(い..忙しい。まるで台風だ。杯が開くペースが半端ではない。恥ずかしいけど僕もホールに出ないといけないかな...)

 

などとベルが考えているとちょうどヘルプの依頼がくる

 

「にゃーー白髪頭!ホール手伝うにゃ。1番テーブルと2番テーブル担当してにゃ」

 

ベルはうなずく。このやりとりもこの一週間で大分慣れた。まあこの衣装さえ気にしなければ大丈夫だろう。

 

 

「ハニーミルクですね?かしこまりました。少々お待ちください」

 

金髪の女性から注文を受ける。

 

(いい匂...というよりなにか懐かしい匂い...。でもすごい美人だなー。ロキファミリアに入ればこんな人とも知り合いになれるかも)

 

邪な考えを持つベル。しかし彼にも天罰...試練が降りかかる。

 

「失礼します。こちらエールになります」

 

(この人人狼(ウェアウルフ)...かな?一人だけ雰囲気違うしちょっと怖いかも...)

 

ベルが渡した杯を一瞬で空にした青年がまた注文をしてくる。内心びくびくしているベルであるが仕事は仕事なのでなんとか対応する。

 

 

 

 

 

 

「おい!」

 

びくっとするベル。

 

「あ..あのご注文は?」

 

(怖い...なぜかいろんな意味で怖い...泣きそうだ。)

 

(こいつ潤んだ目で見上げてきやがる。さては俺に気があるな?)

 

ベートの思考は正常ではない。普段ならもっとクールな彼だが酒とは怖いものでいつもの彼ではない。

 

周囲のロキファミリの団員達も何事かと自分たちに視線を向けている。先ほどの金髪の女性もこちらをみてなにやら考え込んでいるようだ。

 

「おまえ名前は?」

 

ベーとがじりじりと距離を詰めながら話しかけてくる、ベルはじりじりと後退しながらなんとか会話をする。

 

「ベルといいます」

 

「いい名前じゃねえか。俺はロキファミリアの ベート ローガだ」

 

「ベートさんですか。よろしくお願いします。あ...あのちょっと距離が...」

 

ついにベルは壁際まで追いやられてしまう。

 

すかさずベートは左手で壁に手をついてベルに顔を寄せる。

 

「ベル。おまえ俺の女にならないか?」

 

ざわ...ざわ...ざわ...

 

(あのベートが女の子を口説いている!?ウソだろ!?)

 

周囲の団員達もベートの行動を観察して驚愕している。しかしどうなるのかとワクワクしているようだ。中でも主神であるロキは満面の笑みだ。それも悪い笑顔である。

 

「しかし...ベートにもあんな趣味があったんやな」

 

神であるロキは魂がみえる。魂にも色があり種族や性別によってその魂の色に変化がある。よってロキから見れば男か女かなどすぐにでもわかるのだ。だがしかし、あえて何も言わずに黙って眺めている。

 

(しかし...あの魂の色はアイズの魂の色と似とるな...しかも一つの体に魂がダブって見えるやん。片方は消えそうなくらい弱弱しいけども。ホンマなにものなんや)

 

ロキはまた面白いことが起きそうだとワクワクしているようだ。

 

 

 

 

(このベートって人どんどん近くにくるんだけどどうしよう。一応お客様だし...)

 

壁際まで追い詰められて冷や汗をかくベル。あまりの緊張に呼吸は乱れ頬は上気する。

 

ドンっとベルの顔の横にベートの手がくる。

 

「ベル。おまえ俺の女にならないか?」

 

(!!!あれ!?これっておじいちゃんが昔いってた壁ドンってやつ!?でもこれって女の子に対してやるやつじゃ...俺の女になれ!?...どどどどうすれば。おじいちゃんたすけてーーーーー)

 

(ベルよ...強く生きるのじゃ...そんな声が聞こえた気がした)

 

 

アイズは考え込んでいた。あの子を助けた方がいいのかどうかを。

 

(あれは...嫌がってる...よね?助けた方がいいのかな...でも私なんかが行ったら怖がられちゃうかも...でも...)

 

一人であわあわしているアイズを見て団長であるフィンと副団長であるリヴェリア。ガレスは苦笑いをしている。この3人も本人が本気で嫌がっているのかが判断できずしばらくは傍観する姿勢だ。店員たちにいたってわきゃあきゃあいいながら眺めている。助けてくれそうな人は...いない。

 

 

 

「ベル...目つぶれよ」

 

ベートはベルの顎を片手でくいっと持ち上げ顔を近づける。どんどん距離が近くなる。キスまで残り3秒...

なぜかぎゅっと目をつぶるベル。

 

(ベルの思考は完全に停止した...)

 

 

 

 




読んでいただいている皆さんありがとうございます。

今回はロキファミリアとの出会いです。ベートさんに襲われているベルですが次回どうなってしまうのでしょうか...(ー_ー)!!

ちょくちょく読み返しているので微妙な文章は随時訂正していきます。

これからもよろしくお願いいたします。

追記
この物語では神ならだれでも魂が見える設定で書いております。フレイヤは他の神よりさらに鮮明に見えるという感じなのでご了承くださいm(_ _)m


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10 ロキファミリアとの出会い 2

ベル君のファーストキスはベートに奪われてしまうのか...


ざわざわしていた店内は静まり返り、誰かがごくっと唾を飲み込む音が聞こえる。

ベルは完全にそも場の空気に飲まれていた。初めての出来事が多すぎて彼の脳内はパニック状態になり思考は停止する。ロキファミリアの団員たちと豊穣の女主人の店員たちが見つめる中ベートは半ば強引にベルの唇を奪おうとする...

 

(だれか...だれかぁぁぁぁー)ベルが心の中で絶叫する

 

とその時。いたずら好きな女神が声をかけた。

 

「ベート!ええんか?」

 

ベートの動きが止まる。ロキは更に続けて問いかける。

 

「ベート...ホンマにええんか?おまえらがええならウチは止めへんけど」

 

一瞬ロキの方を振り返りうるせえといったあとベルの方に視線を戻すとそこにベルの姿はなかった。

 

 

 

 

(なぜだろう...あの子を見ているとなぜか心がもやもやする。この感覚はなんだろう。あの子を誰にも渡したくない...気がする)

 

他人にあまり興味がなく己の技や力を高めることしかしてこなかったアイズは自分の気持ちの変化についていけていなかった。

 

(もちろん仲間は大切だ。でもあの子は今日初めてあったはずなのにこんなにも心が乱される。

ベートさんに渡したくない。一瞬でも隙ができれば...)

 

そんなことを考えているとロキと目が合う。じっとロキの目を見つめるアイズ。そんなアイズの気持ちが通じたようでロキはベートに声をかけた。いくらベートとはいえ主神を完全に無視することはできない

 

ロキが隙を作った一瞬でアイズは一気に距離を詰めベルを抱き絞め元の席へと帰る。

 

「大丈夫ですか?」

 

ベルはアイズの胸に抱きしめられているため返事ができないでいるようだ。

 

(な...何がどうなっているんだろう。いきなり真っ暗になって何も見えない。なにか柔らかくてすごくいい匂いがする)

 

アイズは自分が抱きしめているから返事ができないとようやく気が付きベルを解放する。

ベルは今の自分の置かれている状況を今更ながら理解したようで顔を真っ赤にする。

 

「なっっすすすすみません」

 

なぜか全力で謝るベル。昔祖父に女の子になにかしてしまった場合有無を言わさず即座に謝った方がいいと教えられていた影響があるのだろう。ただしゼウスの場合は己の不貞行為のすえそれがばれた為あやまったというだけでただの自業自得である。

 

「どうしてあやまるの?」

 

アイズはベルが謝る意味がいまいちわからず首をかしげている。

 

「おいアイズ!なにしやがる!」

 

ベートはいいところでアイズにじゃまをされて怒り心頭だ。しかしここでロキがとうとう爆弾をおとす。

 

「いやーしかしベートもそんな趣味があったんやな?」

 

「あん?何がだよ?」

 

「その子男の子やで?」

 

「は???」

 

その場にいた豊穣の女主人の店員以外のすべての人が息をのんだ。

 

(((こんなかわいい子が男なわけないだろ...)))

 

全員満場一致で同じことを考えていた。しかしロキは神である。ロキの目に間違いはないのだ。

 

ぎぎぎっと壊れた機械のようにベートが振り向きベルに尋ねる。

 

「おいベル...おまえ...男なのか?」

 

「はい...男です」

 

いろんな意味でズーンとなるベート。

 

「ぶっひゃっひゃっひゃ」

 

さすがのロキも我慢の限界がきたようで大爆笑する。まわりの団員たちも大爆笑である。

 

「ガレス!酒をくれ」

 

ガレスが飲んでいるのはドワーフの酒の中でも特に強いといわれる龍殺し(ドラゴンスレイヤー)である

がははと大笑いしているガレスから酒瓶をひったくり一気飲みする

 

(ベートのやつ酒飲んで忘れる気や...またころあい見てこの話ふってやろ...)

 

ロキが悪魔の笑みを浮かべている。ベートはそのまま隅の席に座りテーブルに突っ伏した。

きりもいいということで今日はこれでお開きにしようと団長であるフィンが指示をだす。ただし幹部だけは残れとの指示であった。 

 

「いやーすまんかったな。ベルっていったか。ウチのベートが迷惑かけてもうて」

 

ベルはロキの言葉に恐縮して首をぶんぶんふって大丈夫ですと言っている。

 

「んで自分なにもんや?」

 

ロキの目が光る。冒険者を見定める神の目をしている。するとタイミングよくミアが厨房からでてきてベルがこの町にきた理由と今日ロキファミリアが来るまで店の手伝いをしていたことを明かす。

 

「そうなんか?んでウチのファミリアに入りたいん?というかなんでそんな服着てたん?」

 

ベルに問う。ベルはロキファミリアに入りたい旨を伝えるが服装については口ごもる。

 

「ロキ様はかわいい子がお好きなようなので私が着替えさせました!」

 

すかさずシルが満面の笑みでロキに進言した。

 

(なるほど...シルの趣味かいな...まあめちゃかわええけどな。ええ仕事しとるで)

 

ロキは皆に見えないようにシルに向かって親指を立てた。

 

「フィン。この子どないする?ウチはかわいいから入れてもいいで?」

 

(むしろ入ってほしいんやけどな...シルの目があるしそれは言えんな)

 

「ふむ。とりあえず一回着替えてから自己紹介してくれるかな?」

 

ベルは自分がまだ先ほどの服装から着替えていないことを思い出し焦って自分の部屋に戻って着替えてきた。

ミアに頼んでテーブルを借り、簡易的ではあるか面談できるスペースを作った。

フィンは手でベルに座るように促す。

 

「ではいいかな?」

 

ベルは緊張でうっすら汗をかいて顔を赤らめている。

 

「え...えと ベル クラネルといいます。1週間前までオラリオから北に100キロほど行った村でおじ..祖父と一緒に暮らしていました。ここには冒険者になる為に来ました」

 

幹部たちの顔色が変わる。

 

(ここから北に100キロ...あそこはたしかゼウスファミリアの...クラネル...か)

 

「ふむ。なぜ冒険者になろうとしたんだい?君は何を求めるんだい?君の覚悟を聞かせてくれ」

 

(なぜ...そういえばなぜ僕はここに来たんだろう。思い返してみると昔から英雄に憧れてはいた。そして自分が英雄になりたいとさえ思っていた。ただそれよりももっと別の感情があのお墓をみて出てきたんだと思う。あの喪失感。自分の無力感が嫌だった。強くなりたいと心のそこから思った。弱くて情けない自分を変えたいと思った。オラリオに行けば何かが変わると思った。...家族を護れる力がほしい)

 

一分ほどの沈黙。そこには今までの緊張している姿はなかった。自分の気持ちをぶつける勢いで話した、

 

「僕は(俺は)強くなりたい。誰にも負けないように。自分の家族を護れるように。(もう二度と失いたくない)誰よりも強くて優しい英雄になりたいんです」

 

ドンッと皆に衝撃が走った。この気迫は...本当にまだ恩恵も刻んでいない少年なのか?それになにか頭に直接声が流れてきたような...。

 

「なるほど。君の覚悟は本物のようだね。では明日黄昏の館まできてくれ。そこで最終試験を行う。」

 

(((最終試験!?そんなことフィンがいいだすなんて初めてだ...)))

 

「それじゃあ皆もいいかな?」

 

皆それぞれが団長であるフィンの意志に従う。

 

「ねえねえ えっとベルでいいかな?ベル あたし ティオナ ヒリュテっていうの。英雄になりたいってことは英雄録とか読むの?」

 

 

ティオナ ヒリュテ ロキファミリア所属 種族アマゾネス レベル5の冒険者だ。

 

英雄録が大好きなベルは同じ趣味をもつ仲間に出会えてうれしいようで自分の好きな英雄録について語る。

 

「僕は読むというよりおじいちゃんによくお話を聞かせてもらいました。一番好きなのはゼウスファミリアの物語です」

 

「んん?ゼウスファミリアの英雄録!?そんな本あるんだ!?わたし結構集めてるけどあるなんてしらなかったよ!今度聞かせてくれない?」

 

ベルはちょっと困った顔をして答えた。

 

「すみません。ええと、おじいちゃんにあまり話すなって内容を話すなっていわれてて」

 

「あーそうなんだ。ベルのおじいちゃんってゼウス様と知り合いだったのかもね」

 

えへへと笑うティオナ。何事か考えているフィン。

 

「そやベル!ちょっとその髪の毛触らせてくれへん?もふもふで気持ちよさそうなんやけど...」

 

ベルは首をかしげるが素直に答えた。

 

「髪ですか?別にいいですけどちょっと恥ずかしいというか...」

 

「そんなこと気にせんと!ぐふふ 近うよれ」

 

若干顔をひきつらせたベルがとことこロキの前までくる。ロキは満面の笑みでベルの頭を撫でる。

 

「この感触たまらんなーーいやーウチ的にはさっきの服のままでよかったんやで?」

 

ベルはぶんぶん首をふって否定する。さすがに男としてかっこいいとは言われたいがかわいいといわれるのは恥ずかしいのだ。若干涙目になるがそれを見てさらにロキのテンションは上がる...

 

「ん?アイズたんどうしたん?ああそやベル。まだ紹介してなかったな。ウチのアイズたんや。」

 

(さっきの人だ...ものすごい美人だなぁ..ロキファミリアって美人じゃないと入れないとか...?)

 

ベルがそんなことを考えているとアイズが自己紹介をした。

 

「アイズ ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします...」

 

(ア...アイズたん。その自己紹介めっちゃつまらんで...)

 

ロキがアイズの普通過ぎる自己紹介に頭を抱えた。

 

「んと…ベルって呼んでいい…かな?私のことはアイズって呼んで」

 

「はっはい!え...えとアイズ...さん」

 

ベルは恥ずかしそうにアイズの名前を呼ぶ

 

「ベル...私も髪に触ってもいい?」

 

「んん?アイズたん!?どっどうしたん...珍しいこともあるもんやな。アイズが他人に興味持つなんて」

 

アイズはちょっとだけむっとしてベルにもう一度尋ねる

 

「あの...ダメ...かな?」

 

「ええと...いいですけど...」

 

ベルは顔を真っ赤にしてもじもじする。

 

「ベル...ウチの時と態度違わへん?...」

 

明らかにロキの時よりアイズの時の方がベルが緊張していてロキはうなだれる。

 

もふもふ。アイズがベルの髪を撫でる...トクン...

 

アイズの記憶のかけらが蘇る...それは幸せだったときの記憶。それは家族との絆の記憶。

 

(おとうさんの髪もふもふで気持ちいいね...)

 

(アイズ!お父さんは好きか?)

 

(うん!大好きだよ!)

 

...アイズの金色の瞳から涙がこぼれる...

 

(そうか...思い出した。私の大切な記憶...お父さん。あの時すごく幸せだったのを覚えている)

 

「アイズたんどうしたんや!?ベル!なにしたん!?」

 

全員の瞳がベルとアイズを交互に見つめる。

 

「えええ!?アイズさん!?ぼぼぼ僕何か悪いことを...」

 

アイズは首を振って否定する。と同時におもむろにベルに抱き着いた。

 

(そうか...ベルってお父さんに似てるんだ。こうしているとすごく安心する。...私の中の炎...ただ強さを求める私は黒い炎に突き動かされて何万ものモンスターを倒してきた。誰にもこの黒い炎を止められない。心が壊れても強くなれればいいそう思っていた。でも...君に触れた...ただそれだけで私の心の炎は黒いおぞましい炎から白い炎に変わった。心が癒される...)

 

 

(アイズさんどうしたんだろう...というか恥ずかしすぎて死にそうだ...。でもこの胸の奥から湧き上がる感情はいったい...)

 

ベルは自分の胸の奥からの感情に身を任せて自然に目をつぶりアイズの髪を撫でていた。

その光景はとても自然で一枚の絵のようだった。まるで父親が子供をあやしているかのような...そんな幸せそうな二人に誰も何もいえなくなっていた。

 

((((アイズのあんな幸せそうな顔...見たことがない。この少年は本当に何者なんだ...))))

 

「リヴェリア...見えとるか?」

 

ロキはオラリオ一の魔導師であるリヴェリアに問いかける。

 

「ああ。アイズからあの少年に。あの少年からアイズに魔力が流れ込んでいる。なにか魔法を使っている気配は感じない。私も初めて見る光景だ」

 

「ウチも結構長いこと神やっとるけどこんな光景みたことないわ。ホンマになんやねん」

 

(まあ何かあったらステイタスの更新をすればわかるからええか...ってかいつまでくっついてんねん!)

 

「あー二人ともそろそろいいかな?」

 

あまりにも長い時間そうやっている為遂にフィンが二人に話しかける。

 

(僕だってこの空気を壊したくはないけどさすがにね...周りからの視線が痛いし)

 

ロキファミリアの団員たちはアイズが幸せそうな顔をしているのでまっていたが背後から豊穣の女主人の店員であるシルとリューがジト目でみていたのである。さすがのフィンもその視線にこれ以上耐えるのは堪えるようだ。

 

ベルとアイズはお互いハッとなりババッと離れた。二人ともみんなの前でなんてことをしてしまったんだと頭を抱えて悶える。

 

「全く何をやってるんだい。あたしは先に帰るから帰るときに戸締りだけしといてくれ」

 

そういうと閉店作業をしていたミアは帰って行った。

 

「さてそろそろウチらも...んー?ベル。首のそれなんなん?」

 

(ベルの首から微量な魔力が出とる。さっきのアイズとの魔力交換?をしてからか)

 

「これのことでしょうか?これは僕が村から出るときに祖父に双剣と一緒にもらったものです。何か文字が書いてあるようなんですが僕には読めなくて」

 

ベルは首から首飾りを外した。どれ私が読んでやろうとリヴェリアが受け取る。するとリヴェリアの眉間にわずかにしわがよる。

 

「すまない。たいていの言語なら解読できると自負していたんだがな。神聖文字(ヒエログリフ)]ではあると思うんだが、通常の文字の羅列とは異なっていて読むことができない。ロキこれが読めるか?」

 

ロキはリヴェリアから首飾りを受け取りその文字を眺める。ふーむと顎に手をあて考え込むロキ。いつものふざけた雰囲気は感じられない。

 

(この文字は...なるほどなーそういうことやったんか。やはりこの子は...)

 

「すまんなー。ウチにも読めんわ。多分やけど守護の言葉だと思うで」

 

笑いながらベルに首飾りを返すロキ。しかしフィンは見逃さなかった。ロキが一瞬だが動揺したのだ。

 

(僕の親指がうずいている。それに僕の勘が正しいとすれば...まあ後でロキを問いただそう)

 

フィンの親指がうずく時。それは何かが起こる前触れである。フィンの勘は神も驚くほどよく当たる。

 

「さあみんな。そろそろ僕たちも帰るとしようか。ベル明日昼12時に黄昏の館まできてくれるかい?」

 

「わかりました。明日の試験はよろしくお願いいたします」

 

ベルは深々と頭を下げた。

 

「明日は手加減しないつもりだからそのつもりで来てくれ」

 

フィンはニコツと笑うと片手を挙げてから店をでて行った。

 

他の団員達もフィンの後について店を出ていく中アイズがベルに歩み寄ってきた。

 

「あの...さっきはごめんね?いきなり...嫌だったよね?」

 

アイズが心底申し訳なさそうにベルに頭を下げる

 

「いやいやいや 全然嫌じゃないです...むしろうれしかっ...じゃなくてぇ...」

 

ベルはあわあわしながら取り乱している。そんなベルを見てクスッと笑ったアイズは明日はがんばってねという言葉を残して去って行った。

 

(まだ心臓がどきどきする。この気持ちはいったい...)

 

アイズは生まれて初めての感情が芽生えつつある...

 

ベルもまたドキドキする胸をなんとか落ち着けて店内の清掃を行う。

 

「ベルさん?ずいぶんとアイズ ヴァレンシュタインさんと仲が良いようで...?」

 

シルは笑顔だが黒いオーラが背後から立ち上っている。リューもそれとなく気にしているようで店内の清掃をしつつベルの方をちらちら見ている。

 

「いやいやいや今日僕初めてあったんですよ?ただ...」

 

「ただなんですか?」

 

「いえなんでもありません。店内の清掃してしまいましょう?シルさん」

 

そう話を打ち切り店内の清掃に戻った。シルは納得していない様子だったがしぶしぶ清掃に戻るのであった。

清掃も終わりシルとリューにお礼をいい自分の部屋に戻ったベル。

 

 

(今日は本当にいろんなことがあったなぁー。あんまり思い出したくない事もあったけど...

アイズ ヴァレンシュタインさんか。すごくかわいいけどなんだかすごく身近に感じた。不思議な人だったな。あの人をみてからもっとこのファミリアに入りたくなった。明日はどんな試験をするんだろう..がんばらなきゃ)

 

ベルは深い眠りに落ちて行った。...

 

 

美の女神フレイヤ 

 

オラリオにて最強を誇るロキファミリアと同等の力を持つファミリアの主神である。

フレイヤは神の中でもその容姿やスタイルは群を抜いていて下界の子供たちはフレイヤに触れられただけで魅了されてしまうという。フレイヤは自分の気に入った子供はたとえ他のファミリアに所属していても魅了して自分の眷属にしてしまうという悪い癖があった。その容姿で男神には人気があるが女神の中にはフレイヤを憎んでいるものも多い。過去フレイヤが魅了できなかった人物はただ一人だけである。

 

「オッタル...シルから連絡が入ったわ。面白そうな子がいるの。まだどこのファミリアにも所属していないし見に行きましょう」

 

オッタル

 

フレイヤファミリアの団長でありオラリオ唯一のレベル7であり都市最強の冒険者である。二つ名は猛者(おうじゃ)フレイヤに絶対の忠誠を誓っておりどんな任務でもフレイヤの名の元に遂行する

 

「はっ」

 

フレイヤのそばに控えていたオッタルは短く返事をし主の命に従うのであった。...

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




いつも読んでくださっているみなさんありがとうございます。

今回はベートさんが少々かわいそうなことになりました。次回からのいじられを想像すると涙がでます。

ベルとアイズがついに絡み始めました。お互いまだぎこちないですがこれからいい展開にもっていきます。

今挿絵の依頼もしているのでそのうちアップいたします。

次回 ロキファミリア入団試験 ご期待ください。


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11 黄昏の館にて 首飾りの秘密

豊穣の女主人から黄昏の館へ帰宅したフィン達。

フィン リヴェリア ガレス ゼウスファミリアの最後を知る三人はロキの部屋に集まった。


「さてロキ。話を聞かせてもらおうか」

 

フィンは先ほどのロキのわずかな動揺を見逃さなかった為追及することにした。

 

「なんや3人そろって。なんのことや?」

 

ロキはそっぽを向いて口笛を吹きながらとぼける。だが額の汗は隠しきれていない。

 

「ロキ。僕の目はごまかせないしそもそも僕達3人が来た時点でわかっているだろう?」

 

はぁと深いため息をついてロキが三人に話し始める

 

「まあ、来るのはわかっとったんやけどな。フィン。ベルのこと試す為に最終試験なんていったんやろ?」

 

ロキファミリアにそもそも入団試験という形式のものはない。しいて言えばロキのメガネにかないフィンの面接をクリアすることが試験になる。ただ今回は面接をした後に最終試験があるといって試験の合否を一時保留にしたのだ。

 

「そういうこと。彼の気迫はすさまじいものがあったしね。一応ロキに確認をとっておきたかったのさ。逸材には違いない。しかし何かあるのでは?とね。僕個人としてはアイズをあんなにも幸せそうな顔にしてくれた人物なら是非とも入ってほしい。しかし、団長としては簡単には判断できかねる状況だったんでね」

 

フィンのいうことももっともである。団長として団員の安全を確保することは最優先事項なのだ。不確定要素がある以上その場で即答することはできない。

 

「ロキはあの首飾りの言語が読めたのか?私には理解することができなかったんだが。あの文字の羅列は私がいままで読んだ文献では見たことがない...」

 

リヴェリアは解読ができずに悔しそうだった。少なくともロキファミリアの中ではリヴェリアの知識を上回るものはいない。故にベルの首飾りの文字を解読できるものはいないと思っていた。しかし...

 

「むふふ。ウチには読めるでーーー!というかオラリオにいる神の中でもウチにしか読めん!」

 

「ロキはそんに賢かったのか。普段のだらけている姿からは想像できんのう」

 

ガレスが大笑いしている。他の二人もクスっと笑みをこぼす。

 

「ウチ一応主神やねんけど...まあええわ。これから話すことは他言無用やで?」

 

3人はうなずく。

 

「あんな...実はあの文字はウチとゼウスが作ったものやねん...」

 

(((ゼウス!?....作ったってどういうことだ)))

 

(ある程度予想はしていたけどやはりゼウスとつながりがあったんだねベル...)

 

「昔ウチとゼウスは飲み仲間っていったやん?あのエロじじいと眷属(こども)のステイタスをどう隠すかって議論になってな。ただのロックだと開錠薬(ステイタスシーフ)でばれてまうやん。んで神聖文字(ヒエログリフ)を改良して上手くできんかと模索しててん。んでできたのがこの文字なんよ」

 

ロキは机の上の羊皮紙にスラスラと文字を書いていく。

 

(なるほど。先ほど見た文字と同じだな)

 

「んでこの文字を使って背中にステイタスを刻もうと思ったんやけエラーが出てしもてな。恩恵が正確に機能しないなんて子供達にとって害にしかならんし文字の改良は止めて素直にロックの強化を研究したんよ。んで今ウチの子にはその強化したロックがかかってるっちゅうわけや」

 

「なるほど。ロキの眷属(僕たち)への愛がよくわかったよ」

 

「な...なんやいきなり。照れるやん。まあウチは子供達の為ならなんでもしたる!」

 

神の中でも1、2を争う眷属大好きなロキは、フィンの先制攻撃により不意を突かれわずかに頬を染める。

 

「ありがとう。ロキ頼りにしてるよ」

 

3人はロキファミリアの古株なのでロキとの付き合いも長い。その信頼関係は他のファミリアとはレベルが違う。

 

「それでロキ。首飾りにはなんて書いてあったんじゃ?」

 

「まあそうせかすなやガレス。んじゃよく聞き」

 

以下首飾りに書かれていた内容

 

「儂の思惑通りロキのところに届いたようじゃな。ロキ久しぶりじゃのー。10年以上おまえと酒を飲んでおらん。寂しいものじゃ。まあそれはおいといて。本題じゃがこの首飾りはアリアの風の力に反応して魔力を放出するように造ってある。まあおまえ以外が見てもこの文字は読めないはずじゃからいいんじゃが。結論からいえばベルはダグラス クラネル アリア ヴァレンシュタインの子供...といいたいところではあるんじゃが正確にいえば微妙なところじゃ。黒龍のくそ馬鹿が儂の子供たちを襲った時。儂はダグラスとアリアの子供を救うために神の力(アルカナム)を使った。神の力でアリアのお腹から魂を抜き取りダグラスの体を器としてベルを創った。故にベルは二人の子供であって子供ではないのじゃ。儂は下界で命を創ったむくいなのか天に送還されずに恩恵が与えられなくなってしまった。お前はこの先この下界で一人でいろということかの...ベルは強く誰よりも強くなりたがっている。しかし儂にはベルに恩恵を与えやることができない。アイズを頼んだ手前無理を承知で頼む。ロキ、ベルにお前の恩恵を刻んでやってくれないだろうか。それがもし無理でも手助けをしてやってほしい。儂はこれから来るべき時の為力を溜めておく。この借りは必ず返す。どうか儂の大博打に付き合ってくれ。 親友 ロキへ ゼウス」

 

「あのエロじじいこんな時ばっかり親友とかぬかしよって」

 

ロキはゼウスと飲みながら語り合った事を思い出していた。自分の子供達の自慢話で盛り上がったこともあった。お互いにムキになって喧嘩した事も山のようにある。だがお互い信頼していたし尊敬していた。

 

「フィン。ウチはあいつの大博打ってやつにかけてみたいと思うねん。だが最終判断はおまえにまかせるで」

 

フィンは顎に手をおき何か考え混んでいる。他の2人も判断はフィンにまかせるつもりだ。

 

 

「ロキ。大博打っていうのはベルが英雄になるってことかな?」

 

((!?英雄...))

 

「ウチはそうだと思うで。ベルは英雄になる器だと思うねん。ただちょっとやさし過ぎるとこがあると思うけどな。ウチらの敵は...」

 

「ダンジョンの魔物たちだけじゃない。だろ?それに人型の魔物の存在も確認されている」

 

「そうや。ウチらを恨んでるファミリアもある。あの子に人間と戦うことができるかどうか」

 

ベルは多分魔物相手なら勇敢に戦うだろう。だがそれが同じ人間であったら、相手に意志があったらたたかえるかどうかわからない。意志があればだまし討ちや卑怯な手段も使ってくる。ベルには人間と戦う覚悟が必要だ。

 

「よし!ベルには言葉での覚悟をみせてもらった。明日僕はベルに行動で覚悟をみせてもらうことにする。それで僕がベルの覚悟を認めたら入団を認めよう」

 

全員がフィンの意見に従う。

 

フィンがベルに最初の試練を与える。

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回は話は短いですが黄昏の館でベルの正体が幹部達に伝わりました。

ベル君は最終試験を乗り切れるでしょうか。

そして次回はフレイヤさんがベルと接触するかもしれません。

今後ともよろしくお願いいたします。



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12 ロキファミリア入団試験

黄昏の館の中庭にてフィンによるベル クラネルの入団試験が行われる。


豊穣の女主人の一室

 

ベル・クラネルは黄昏の館へ向かう準備をしていた。祖父からもらった双剣を腰のベルトに差し込み狩猟用に使用していたナイフを携帯する。ブーツの紐をしっかりと結び頬をパンッとたたいて気合を入れる。

 

「よし!行くぞ!」

 

ドアをあけるとリューとシルが立っていた。

 

「あ!リューさん。シルさん。お借りしていた服はタンスにしまっておきました」

 

「クラネルさん。下でミア母さんがお待ちです。用意はできましたか?」

 

「はい!大丈夫です」

 

「それでは行きましょう!ベルさん」

 

シルはベルの手を引っ張って階段を下りていく。まだ女の子に触れられることになれていないベルは自分の手が汗ばんでいないかを気にしていた。

 

一階に降りるとミアとクロエ、アーニャが待っていた。

 

「にゃー。白髪頭きたにゃ」

 

「むふふ。シルが手つないでるにゃ。誰かさんへの当てつけかにゃー」

 

クロエとアーニャはいつもの調子でベルをからかう。

 

「ぼうず。準備はいいのかい?」

 

はいっとベルが元気よく返事をする。

 

「あたしからの餞別だ持っていきな」

 

そういうとミアは自分の作ったお酒をベルに渡した。

 

「無事に合格できたら開けて飲みな。ぼうずの好きな味にしてある」

 

一瞬断ろうかと思ったベルだがミアの気持ちをむげにはできないと受け取った。

 

「ベル。いいかい?冒険者になるならあたしの忠告をよく覚えときな。冒険者なんてかっこつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることに必死になればいい。最後まで2本の足で立ってたやつが勝ち組なのさ。

英雄になるって言葉あたしは信じているよ。それじゃあいってきな!」

 

(団長。あなたの息子は本当にいい子だよ)

 

ミアはベルの背中をバシッと叩いた。

 

(ミア母さんが僕のことをベルって呼んでくれた...絶対ロキファミリアに入っていつか必ず英雄になってみせます)

 

「いってきます!」

 

「ベルさーん。無理しないでくださいね。無事ファミリアにはいったらまたこのお店に来てください!」

 

ベルは一度振り返り大きく手をふってまた前を向いて黄昏の館に向けて走り出した。

 

 

黄昏の館 フィンの執務室

 

(まあこれだけ用意すれば足りるだろう)

 

フィンは机の引き出しをあけてリボンのついた鈴を鳴らす

リーン リーン ドドドドドドドド バタン 

 

「お待たせしましたぁー団長!お呼びでしょうか?」

 

すさまじい音とともにアマゾネスの女性がフィンの執務室へ入ってきた。

 

彼女はティオネ・ヒリュテ レベル5の冒険者にしてティオナ・ヒリュテの双子の姉である。ティオネは団長命でことあるごとにフィンの気を引こうと努力している。今フィンが鳴らした鈴もティオネがフィンに押しつけ...贈ったもので鳴った瞬間に駆けつけるというすご技である。

 

(この音色はどこまで届いているんだろう...まあ...いいか)

 

「ちょっとお使いを頼まれてくれないかい?この紙に書いてある物を用意してほしい。12時までに用意できるかい?」

 

「全身全霊でご用意いたします団長!ところでこんなにたくさんポーション何に使うんですか?」

 

金額にすると100万ヴァリス以上になる量と品質にティオネは驚いていた。しかもエリクサーまである。

 

「きっと必要になるさ」

 

意味深に笑うフィン

 

(ああ団長かっこいい...いつかあなたを振り向かせてみせます)

 

狙った相手は逃がさない。それがアマゾネスである。

 

 

12時10分前

 

ベルは黄昏の館までやってきた。

 

(やっぱりこの建物は目立つなー。それにしても大きな門だ。10分前だけどいいよね?)

 

門の前にはロキファミリアの団員たちが常に警備として交代で立っている。ベルは警備をしている団員に声をかけた。

 

「すみません。12時にフィンさんにここに来るように言われたベル・クラネルといいます」

 

ロキファミリアの団員は明らかに怪しげな表情をしている。

 

「貴様!我らの団長をフィンさんなどとなれなれしく呼ぶとはどういう了見だ。今日貴様のような軟弱そうなものが来ることは聞いておらん。即刻立ち去るがいい」

 

団員たちは今日ベルが来ることを聞かされていないようで不審人物としてベルを扱うつもりのようだ。

大手ファミリアでよくある現象だが主神であるロキの名を汚す可能性のある人物は幹部達の判断を仰がずにこのように門前払いをしてしまうという困った風習があった。幹部達や主神ロキもこの行動には頭を痛めており見つけ次第きつい説教を行うようにしている。

 

「ええ!?ああああの僕昨日12時にここにくるようにフィンさん...フィン・ディムナ団長に言われたんですが。本当です!」

 

(もしかして僕なにか聞き間違えてた?どどどうしよう...)

 

「なんやなんや。えらいさわがしいやないか」

 

「なにかあったのかい?」

 

ぎぎぎっと門が開けられる。

主神ロキと団長であるフィンが門を開けて外に出てきた。

 

「は!この少年が団長に呼ばれたなどと申しているので今追い払っているところであります」

 

警備の団員が敬礼して報告する。

 

「んん?ベルやないか。ちゃんと時間通りに来てえらいでー」

 

そういうとロキはベルの頭をなでる。うへへとにやけた顔をしている。

 

「すまなかったねベル。ウチの団員が失礼した。後でよく言い聞かせておくから許してほしい」

 

フィンは深々と頭を下げた。 団員は顔が青ざめを通り越して白くなっている。あわてて団員も頭を下げた。

 

「いやいやいや僕なんかに頭をさげないでください。しっかり説明できなかった僕が悪いんです」

 

あわててベルも頭を下げる...ゴッ

 

あわてて頭を下げたせいでフィンの頭に頭突きをしてしまう。

 

「いだーーーーっっフィンさん大丈夫ですか?」

 

涙目になって謝るベルだがフィンは涼しい顔をしている。これがレベル6の冒険者と恩恵を刻まれていない者との違いである。

 

「あっはっはっは本当に君はかわいいな。アイズが君を気に入る気持ちもわかるよ」

 

「ベル痛かったやろー?ウチが頭なでてやるからな」

 

「ロキ...君はベルに触りたいだけだよね?あんまりベルをいじるとアイズに嫌われるしリヴェリアに怒られるよ?」

 

ロキはしゅんと肩をおとししぶしぶベルの頭から手を放す。

 

「さてそろそろ行こうかベル。ついてきてくれ」

 

ベルは返事をしてフィンの後についていく。フィンがベルを案内したのは黄昏の館内にある訓練施設である。

黄昏の館のには二つの中庭があり一つは芝生がひかれ木々や花が植えられ観賞用や休憩スペースとして使用されている。もう一つは周りを強靭な石の壁に囲まれた訓練場だ。ここでは団員以外には見られてはいけないスキルや魔法を試す場所となっている。よってベルの最終試験にもっともふさわしい場所だといえる。ここならば誰にも情報は洩れない。

 

訓練施設には全幹部が集結していた。たった一人の入団希望者に対してこのように全員が集まるなど異例だ。

回廊から何事かと見下ろしている者も何人かいる。ベルはこの張りつめた雰囲気に今更ながら気が付く。

肌が粟立つ。全身を包む感覚に足が震える。ふと目をやるとアイズと目が合う。

 

アイズはベルを見ると大丈夫だよといってくれているようでニコッとほほえんでくれる。次第にベルは落ち着きを取りもどし周りを見れるようになった。まず最初に目に飛び込んできたのはすごい数の高そうなポーションである。パッと見ただけでも数十個はある。ベルの背中を冷や汗が流れる...

静まり返るなかフィンが声をあげる。

 

「全員注目!これよりベル クラネルの入団試験を行う! 入団条件を発表する...」

 

(((ゴクッ)))

 

その場にいる全員が息をのむ。ベル以外も初めての経験で緊張しているようだ。

 

「入団条件は...この僕と戦い一撃を入れるもしくは僕に負けを認めさせること。ベル。試験は君が諦めた時点で入団失格として終了とする!ここにポーションを用意した。いくらでも使ってくれて構わない。試験は君が諦めるまで何日でも続けて行う。以上だ。質問はあるかな?」

 

 

(((団長!?いくらなんでもその条件はあんまりでは...)))

 

団員たちはあまりに厳しい試験内容に驚愕する。この内容だと合格する可能性はほとんどない...むしろ0だといっても過言ではないだろう。

 

(これがロキファミリアの入団試験なんだ。相手はあの勇者(ブレイバー)...でも死にはしないよね...?)

 

「ベル。君の武器はそのナイフでいいのかな?僕はこれを使わてもらう」

 

フィンは昔アイズを鍛えていた時に使用していた木剣を持った。

 

(木の剣かそれなら...)

 

「ベル。君は木の剣だから死なないと思っているかもしれないけど...よくみていてくれよ?」

 

フィンがすさまじい速度で木剣を振る。その一連の動きはしなやかでそれでいて鋭い、まるで舞踊のようだ。

 

「はぁぁっ」

 

木剣を壁に叩きつける

 

ドゴォォッ

 

レベル6の力で叩きつけられた壁は大きく陥没した。団員たちは見慣れた光景だがベルの心に恐怖を与えるには十分だった。

 

(ベル。これぐらいで怯えるようじゃ英雄にはなれないぞ。乗り越えてみせるんだ)

 

「なぁ!?壁が陥没した!?あんな力でやられたら僕は...死ぬ」

 

(っていうか木の剣なのになんで壁の方が陥没してるんだろう)

 

「君はなぜこの木剣が折れないかと考えているね?これはエルフの里にある世界樹の幹から作ったものでね。ちょっとやそっとじゃ折れないんだよ」

 

(フィンさん僕の考えていることわかるのかな...怖い...)

 

「それじゃあいいかな?始めよう」

 

ビシッと空気が凍る。フィンが剣を構えると殺気がベルに向けて放たれる。

ベルは恐怖に負けまいとナイフを構えてフィンに突っ込んでいく。

 

「ああああーーー」

 

ナイフをがむしゃらに振り回す。フィンは冷静に太刀筋を見極め攻撃をかわし時折木剣でベルの足や腕を打ち据えていく。手足は赤く腫れあがり血がにじんでいく。痛みに耐えながらベルはナイフを振るう。

しかし人間を相手にしたことがないベルはフィンに対して振るうのに躊躇いがあった。

 

ベルはナイフを振りかぶりフィンに向かってナイフを叩きつける...寸前でピタッと止めた。

 

「ベル。なぜ止めたんだい?」

 

「フィンさんこそなぜよけなかったんですか?」

 

「君が止めるのがわかったからさ」

 

「僕は...」

 

「君は僕をなめているのかい?」

 

フィンは木剣でベルを薙ぎ払った。ボギッボギッと鈍い音がしてベルは吹き飛び壁に激突する。

 

「ガハッグッゴホゴホ」

 

(痛い痛い痛い痛い...体が千切れそうだ。このままじゃ...死ぬ)

 

「ベル!頑張って!」

 

 

 

 

仲間視点

 

「うわーあの殺気。団長結構本気じゃない!?」

 

ティオナがうっすら額に汗をかいて仲間に話しかける。

 

「団長は...何をお考えなのでしょうか...相手は恩恵も受けていない少年なのに」

 

双子の姉であるティオネは普段の団長とは違う様子に心配しているようだ。

 

古株であるリヴェリア。ガレスも手に汗をかきその様子を見守っている。

 

「ベルのやつなにやってやがる。ありゃ切る気がないな...」

 

ベートは彼にはめずらしくベルの心配をしているようだ。あの酒場での事件でベルの事を認めたのであろうか...

 

ベルがフィンに吹き飛ばされる。

 

(((ベルが...!)))

 

アイズは両手を握りしめて叫ぶ

 

「ベル!頑張って!」

 

 

 

ベル

 

(アイズ..さん。そうだ...僕は負けられない。僕は...)

 

ベルの胸の奥底からの気持ち...

 

(僕は...あなたを...)

 

「ぐああああーーー」

 

ベルは足をふんばり立ち上がる。

 

「ベル。これを」

 

アイズがベルにエリクサーを投げて渡す。

ベルは受け取ったエリクサーを一気飲みし全身を駆け巡る回復の衝撃に耐える。

 

(ベル。今度は言葉じゃなく行動で僕に君の覚悟を示してくれ。英雄の資質のほんのわずかな片鱗でもいい)

 

「ベル。君の覚悟はそんなものだったのかい?言葉だけではないことを僕に見せてくれ」

 

「フィンさん。まだまだ...これからです!」

 

ベルは自分の言葉を思い出していた。

 

(誰よりも強くて優しい英雄になりたい)

 

「行くぞ!」

 

ベルはもう一度フィンに向かってかけていく。右、左、フェイントをいれてもう一撃。

 

(んん?さきほどより技が洗練されている...だがまだまだ足りないね。)

 

「あまいよ。ベル」

 

先ほどと同様にベルを打ち据えていく。しかし、ベルは一歩も引かず痛みに耐えながら喰らいついていく。

ひたすら耐える、耐える、耐える。耐えながらベルはフィンの攻撃を見極めようとしていた。そして、フィンの動きを観察し、すさまじい速度で吸収していっていた。

 

(ベル。本当に君は...君とこうしていると僕も楽しくなってくるよ。不思議な感覚だ。それにしてもこんなにはやくこのレベルの動きについてきているとは。さすがあの二人の息子だね。そしてアイズの弟だ)

 

手加減をしているとはいえ今のフィンの攻撃はレベルにすると1の上位の者達と同じくらいの力で攻撃している。恩恵を受けずにこの攻撃をさばくのは普通の人間には不可能である。

 

 

 

 

ロキファミリアの団員が走ってロキのところまでやってきた。

 

「ロキ様。お客様がお見えになっているんですが...」

 

「んんーなんや。今忙しいねん。後にしてくれへん?」

 

いえ、それが...と団員が続けようとしたとき...

 

「あら、ロキ。私がせっかく来たのにそれはないんじゃないかしら?」

 

美の女神フレイヤ 猛者(おうじゃ)オッタルが中庭の入り口に立っていた。

 

「んな!?フレイヤぁ??おまえ何勝手に入ってきてんねん」

 

ロキファミリアの幹部たちはすさまじい殺気とともに臨戦態勢を取る。

 

「ちょいまちい。みんな落ち着けや。まずは話を聞いてからや」

 

ロキファミリの面々は武器を下げ、一歩下がる。

 

「んで?なんの用や」

 

「ちょっと気になる子がいてね...あなたに取られる前に見に来たの」

 

(こいつまさか、ベルに気がついとる。シルのやつ...)

 

ロキは唇を噛む。

 

(まあしゃあないか。まだベルはウチの恩恵は刻んどらん。条件は平等や...ただこいつの魅了はやっかいやなー)

 

そんな話をしていると最悪なタイミングでベルがフィンに吹き飛ばされロキとフレイヤのところにとんでくる。寸前でオッタルがかばいオッタルに支えられるベル。

 

「あら。こんなに傷だらけになってかわいそうに」

 

そういうとフレイヤはベルの頬に手を添える。

 

(しもた...ベルが...んん?)

 

「あ...あの...ありがとうございます。」

 

ベルは恥ずかしがってはいるが魅了されている様子はない。隣にいるオッタルは目を見開いていた。

 

(この子私の魅了が効かない...やはりこの魂は。美しい。ああ...この魂の輝きに久しぶりに会えたわ)

 

フレイヤは恋する乙女のように頬を染める。

 

(この子は私のものにするのは無理ね。むしろ私のものにしない方がこの子の魂は更に輝く。そして最後に天に上る魂を私が抱きしめてあげるわ...それまではおあずけね)

 

(こいつ何考えとるんや。嫌な笑みしとる)

 

「あなた。名前は?」

 

フレイヤが問う。

 

「ベル・クラネルです。あの あなたは?」

 

ベルが問う。

 

 

「フレイヤよ。これからもがんばってね...ベル」

 

(あなたは私が護るわ...永遠に...)

 

「行くわよ。オッタル」

 

「ハッ」

 

フレイヤが去ろうとする。

 

「なんや。もうええんかいな」

 

「ええ。もういろいろわかったから。じゃあねロキ。あの子を大切に扱いなさい。でないと...」

 

フレイヤは最後まで言わずに黄昏の館を出て行った。

 

「なんやねんあいつ。邪魔が入ったけど試験再開や!」

 

(とりあえずベルに魅了がきかなくてよかったな。まあ 考えるんは後や)

 

ロキの声にあわせてベルとフィンの打ち合いが再開される。

 

 

 

「フレイヤ様。よろしかったのですか?」

 

フレイヤはオッタルの問いには答えず意味深な言葉を言う。

 

「オッタル。希望より熱く絶望より深いものを知っているかしら」

 

「いえ。わかりません」

 

「それは愛よ...」

 

フレイヤ達は(ホーム)へ帰って行った。

 

 

 

フィンによるベルの入団試験は2日間続いた。そして遂に決着する。

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はベル君が頑張っております。

レベル6VS恩恵なし。普通に厳しいですよね。
フィンはベルの力と覚悟を試す為あえて厳しくしています。が実際に戦っていて非常に楽しそうにしています。

フレイヤさんはいろいろと怖いです...

10話に挿絵のサンプルを載せましたんで皆様ご覧ください。まだ、完成品ではありませんが今描いていただいている最中です。

次回 ロキファミリア入団です



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13 ロキファミリア入団試験2

フィンとの入団試験 傷つきながらも耐えるベル...


はぁはぁとベルが荒い息をつく。対するフィンは汗ひとつかかずに余裕の表情をしていた。

 

(そろそろ限界かな...さてどうするか...)

 

入団試験から2日がたちベルの疲労はピークに達していた。周囲には他の団員も集まり固唾をのんでその様子をうかがっている。100以上あったポーションももう残りわずかになっていた。

 

(くそ...僕はどうすれば...)

 

「ベル。もうあきらめたらどうだい?君はよくやったよ」

 

「僕は...まだ...まだやれます。絶対にあきらめない」

 

「全く君というやつは...何が君をそこまで駆り立てるんだい?」

 

「うわぁああーーー」

 

強引に切りかかりフィンに吹き飛ばされる。いくら相手の技術を覚えようとしても実力差は歴然である。頭を壁に強打しベルが倒れた。それでも額から血を流しながらベルは壁につかまりかろうじで立ち上がった。

 

「おいフィン!もう充分だろ?あいつはこんだけ根性見せたんだ。合格にしてやったっていいだろ」

 

ベートがフィンに進言する。

 

他の団員も今にも飛び出していきそうな雰囲気だ。しかしそんな団員たちにフィンは非情な命令をくだす

 

「今ベルに手を貸すことを禁ずる。これは団長命令だ。」

 

その圧倒的な圧力に他の団員たちは何もいえなくなる。だが団長のベルへの強い想いも同時に理解した。

後はベルを信じて待つだけだ。

 

(さあベル...頑張るんだ...あれは意識がないのか...)

 

ベルは思い出していた。過去の記憶。目は見えないがしっかりと耳で聞いていた。アイズの声を...

 

 

真っ暗な世界。だが暖かい物に包まれて守られていた。声が聞こえてくる...優しい声だ。僕のことを愛してくれているのが伝わってくる。でも…突然の衝撃があり声があまり聞こえなくなってしまった。苦しい...苦しい...苦しい...衝撃が僕にまで伝わってくる。しばらくして衝撃が収まり周りが静かになった。これはお父さんの声...なのかな?(すまない***お父さんはお前の英雄にはなれないようだ...愛しているぞ***)名前を言っているようだけど聞き取れない。女の子の泣き叫ぶ声が聞こえる。これは...もしかしてアイズさんの声...かな??絶望 恐怖 憤怒さまざまな感情が聞こえてくる。僕は心の中で叫んだ。

 

(僕が君を護る。僕が君の英雄になってあげるからもう泣かないで。約束するよ...)

 

暗かった世界が一気に明るくなった...

 

 

(そうか...僕が英雄になりたかった本当の理由は…)

 

「僕は...約束したんだ...」

 

「ん?意識が戻ったのかいベル?」

 

ベルは大きな声で叫んだ。

 

「僕が...護る。僕はアイズさんを護る...僕があなたの英雄になります。だからもう泣かないでください!」

 

(((!!)))

 

突然のベルの叫びに幹部達は驚いていた。今までアイズにこんなことをいった人物はいない。

昨日の酒場でも英雄になると言っていたがその時よりも遥かに気持ちがこもっている。

 

(ベルが...私の英雄になる...)

 

アイズは涙を浮かべてうなずいた。

まだあって間もないのにベルの事は心から信じられる。そう魂が理解しているかのようだった。

アイズは思い出していた。英雄だった父が私の英雄にはなれないと言っていたことを。私には英雄なんて現れないと思っていた。だから一人でも強くならなきゃいけないと思っていた。優しくしてくれた人はたくさんいたけど私の英雄になってくれるなんて言ってくれる人は一人もいなかった。

 

(ベル。一緒に強くなろう。私もあなたの英雄になりたい。私も護られてばかりじゃ嫌だから)

 

 

ベルの中で歯車がかみ合った気がした。ベルの想いに体が答えたというべきであろうか。

 

(ベル。抜け...俺を使え。その覚悟に免じて今この瞬間だけ力を貸そう。今のお前では一瞬が限界だろうからな)

 

ベルの頭に声が響くと同時にベルの双剣が燃えるように熱くなり白く発光する。おもむろに双剣を引き抜き双剣が導くように構える。この独特の構えはダグラスのものだ。

 

(剣に力が吸い取られる...多分一撃しかもたない。この一撃に今の僕の全てをかける!)

 

(この光はいったい...すさまじい力の波動を感じる)

 

フィンは目の前の光景に驚いていた。

 

「おいおいなんだありゃ?すげえ力じゃねえか。おいリヴェリアあれがなんだかわかるか?」

 

ベートがリヴェリアに尋ねる

 

「あの光は...魔力とも違う。よく見えないが何か神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれているようだ。あれが関係しているのだろう」

 

他の団員達も強い力に驚きながらも展開を見守っている。

 

ダンッと地面をけりフィンに突撃する。フィンはベルの力量を測るために防御する姿勢だ。左からくる一撃を受け流し右からくる一撃を木剣でガードした。フィンの力なら問題なく受け止められる筈だった。しかしベルの一撃は木剣をバターのように切り裂き一瞬油断したフィンの腕にほんの少しだけかすった。そのままベルは力つきフィンに突撃した体制のまま気絶する。

 

(君の覚悟を受け止めたよ。躊躇いの無いすばらしい一撃だった。)

 

「あの野郎フィンに一撃入れやがった。やるじゃねえか!」

 

ベートや他の団員も称賛の声をあげる。

 

「ベル。よく頑張ったね。おめでとう」

 

アイズも瞳に涙を浮かべて喜んでいる。

 

フィンからの合否の発表が言い渡された。

 

「満身創痍の中僕に一撃入れた。よってベル・クラネルはロキファミリア入団決定!」

 

うおーーーと訓練場を見ていた団員たちが声をあげる。試験場が歓喜の声で渦に包まれる。ベルを称える声が飛び交う中ベルは気絶したまま医務室へ運ばれる。

 

「正式発表はベルが目覚めてから行う。以上解散」

 

新人の熱い戦いを見た団員達はこうしてはいられないと触発されダンジョンに向かっていった。幹部達も同様に自分の武器の整備や点検を行うつもりだ。

 

「フィン。ベルの看病してあげたいんだけど...いい?」

 

壮絶な戦いを終えたベルをアイズが心配して看病しに行きたいと進言してきた。

というより自分の英雄になるといったベルに一刻も早く会いたかったのだ。

 

(ベル。あなたに今すぐ会いたい)

 

「いいだろう。ベルに付き添ってやってくれ」

 

「ありがとうフィン」

 

アイズは急いでベルのいる医務室に向かった。

 

トントン 扉をノックする音がする。

 

「ベル?」

 

ベルは安らかな顔でベットに寝ていた。スースーと寝息が聞こえる。リヴェリアがベルに回復魔法をかけ終わったところのようだ。

 

「アイズか。随分ベルの事が心配だったとみえる。まあアイズの英雄になるなんて告白したものなど今までいなかったからな」

 

リヴェリアはアイズを見てくすくす笑った。アイズは頬を膨らませてリヴェリアをポカポカ叩く。

 

「こらこらベルが起きてしまうぞ」

 

アイズはムッとしたまま黙り込んだ。

 

「では後を頼んでいいかな?ベルが起きるまで見ていてやってくれ。お前も二人でいたいだろう」

 

アイズは頬を染めて頷いた。

 

「じゃあまた後でな。...アイズ寝ているベルに手を出すなよ」

 

アイズは一瞬ドキッとしたが部屋を出ていくリヴェリアに返事はしなかった。

まだあどけなさが残る寝顔はかわいくついつい手を出したくなる。しかし、フィンと戦っていた姿はとても凛々しかった。寝ているベルの髪を撫でる。ふわふわな手触りはいつまでもこうしたくなる。

 

(ベル...かっこよかったよ。それにうれしかった。私の英雄...私だけの...)

 

アイズは自然ににやける自分に驚いていた。今まで感情の起伏が乏しかったアイズがここまで感情をさらけ出すことはなかった。ベルと出会った瞬間から様々な感情がアイズに芽生えていたのである。

ベルともっと話したい。ベルともっと一緒にいたい。ベルの事をもっと知りたい...ベル...

 

(ベルの顔をみているとドキドキしてくる...そういえばあの時ベートさんベルに顔近づけて何をしようとしていたんだろう。たしか...こんな風に...)

 

アイズは長い金髪を耳にかけてベルの顔に自分の顔を近づけていく。どんどん近づく二人の距離。アイズはベルのことで周りを見る余裕が一切なかった。実は扉が開かれロキがその様子をうかがっていたのだ。

 

 

(さて、ベルの様子でも見にいこかな。おっアイズたんおるやん、ベルの髪撫でて幸せそうやなー邪魔したらあかんし出直そかな...ちょっアイズたん!?え!?何するつもりなん!?まさかキス?キスするつもりなん??ええーどないすれば...いやまだ早いやろ!?いやまだとかじゃなくてもウチのアイズたんが...ああーーー)

 

ロキがアイズの行動に悶えていると肘が扉に当たりガタっと音が鳴った?

 

(!?)

 

ギギギッとアイズが扉の方に顔を向ける。アイズの顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。

 

「ロキ...見た?」

 

アイズがロキを涙目で睨む。ロキが黙って頷いた。

 

アイズは一瞬で体をおこし音をたてないようにレベル5の脚力存分に発揮し脱兎の如く走り去った。

 

(くはーーアイズたん萌えーー!!)

 

まあ後でフォローしておこう。とりあえずいまはベルの様子でも確認するかな。

ベルはちょうど目を覚ましたようで体を起こした。

 

(うわーーベル。惜しいことしたなーもうちょい早く起きてればおもろい事になったのに)

 

「ん...ここは....」

 

「ベル起きたかいな。試験よう頑張ったなーあれはちょいやりすぎやで...」

 

(フィンもあんなマジにやらなんでもいいのになぁ)

 

ベルの意識は徐々に覚醒し始める。

 

「そうだ!あ...あのロキ様。試験はどうだったんでしょうか!?」

 

ベルはロキの肩を掴みグラグラ揺する。

 

「ちょおお落ち着けやベル!無事合格したで。今日からベルはウチのファミリアの仲間や!」

 

それを聞いた瞬間

 

「やったぁぁぁーーー」

 

ベルは満面の笑みを浮かべる。そんなベルを優しい顔で見つめるロキ。

 

(ベルにはお礼を言わなあかんな。アイズをあんなに幸せそうにしてくれてありがとうなこれからもアイズを頼むで)

 

「それじゃあこれからベルに恩恵を刻むで?ええか?」

 

「はい!ですが恩恵ってどうやって刻むんでしょうか?」

 

「恩恵ってのはなベル。ウチの神血を使ってベルの背中にステイタスを刻むんや。刻むっていっても痛くないしすぐ終わるからそんな怯えた顔せんで安心してなー」

 

刻むという単語にプルプル震えるベルを見てロキは思う。

 

(ベルもかわええなーー。アイズたんとベル。最強コンビやな)

 

むふふっと不敵な笑みを浮かべるロキ。

 

「んじゃあベル。上脱いで背中こっち向けてや」

 

ロキは針で自分の指を刺しベルの背中に一滴血を落とす。すると滑稽な道化師のエンブレムがベルの背中に現れる。これがロキの眷属の証である。

 

(どれどれ...ベルのステイタスは...なんやこれ!なるほど。これがこの子の魔法とスキルか...)

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

祝お気に入り登録100突破!!

本当にありがとうございます。これからもがんばります。

アイズさんとベル君チューしちゃえばいいですよねーー

次回はベル君のスキルと魔法発表です

挿絵描いていただいたものが完成したので10話に乗せました! 感想ありましたら受け付けます。


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14 ベルのスキルと魔法

神ロキに恩恵を刻んでもらったベル。彼のスキルと魔法とは...


ロキはベルのスキルと魔法を見て目を細めた。

 

(ベル。お前の家族を想う気持ちが伝わってくるで...)

 

スキル

 

家族の絆(ファミリアボウンズ)

 

家族(ファミリア)との絆が深まるほど効果は向上。

 

家族(ファミリア)全体のステイタス+補正。

 

家族(ファミリア)の為己の限界を超える。

 

 

(これは...アイズの英雄になるって強い想が発現のきっかけか。アイズたん愛されとるなー。これが恋愛なのか家族愛なのかはウチにはわからんけどなー)

 

 

誓い(ルフテ)

 

・早熟する

 

・想いの丈で効果は向上

 

・想いが続く限り効果は持続する

 

(魔法はアイズの魔法と似とるな。体に雷を纏わせるっちゅうことはどの程度のもんかいな。んで同調か...もしかしたら...)

 

ロキは豊穣の女主人でベルとアイズの魔力交換のようなものを目にしていたのでピンときた。

 

(後でアイズのステータス更新して確認してみよか)

 

魔法

 

(ドゥンデル)

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

・雷の力を己の体に付与することにより身体能力向上

 

 

・雷を体に纏う。又は放出するv

 

同調(ユニゾン)することにより効果は倍増 

 

 

(さて、ベルにはこのスキルを伝えてもいいのか迷うとこやわ。【家族の絆】はまだいい。この己の限界を超えるってのが気になるけどそこまで害はないやろ。ただこの【誓い】はもしかしたら成長速度に関係しているスキルかもしれん。仮にそうだとしたらこんな激レアスキルを周りの神にまだ知られるわけにはいかんな。へたにちょっかい出されてもウチがなんとかすればいいけどダンジョン内で何かあった場合ウチにはどうすることもできん。とりあえずベルには【誓い】のことはまだ黙っとくか。魔法は実際使わんとわからんからな。リヴェリアにでも頼んで中庭で見てもらおか。さて、しばらくの間誰にベルの面倒をみてもらうかなー。んーあの調子だとアイズが見るっていいそうやけど以外にベートもベルの事気にしとるしな...)

 

勘のいいロキだがベルのスキル【家族の絆】の効果を過小評価していた。後に後悔することになる...

 

「あ...あのロキ様?どうかなさいましたか?」

 

あまりに長く考え込んでいるロキを不審に思いベルがおずおずと尋ねる。ロキはいったん考えることを止めてベルと正面から向き合った。

 

「いや、大丈夫や!ベルの方こそ大丈夫か?なんとなく具合悪そうやで?」

 

(具合がよくないというより生命力が弱まっているような...?フィンと戦っていた時。正確に言うとあの双剣を使った時爆発的に力が増した。もしかしたらそれに関係しているかもしれんな。なんや調べることだらけやな...)

 

双剣のことも調べなくてはならなくなったロキであるがベルの方が心配でなようでベルに双剣を使った時の事を聞いた。

 

「無我夢中だったんですが、頭に声が響いて...それで双剣を抜きました。そしたら体の力が一気に吸い取られる感じがしました」

 

ふむふむとロキがうなずく。

 

「なるほどな。ウチの神友にヘファイストスがおる。ヘファイストスのロゴが刻まれているようやし今度一緒にいこか」

 

神ヘファイストス

 

迷宮都市オラリオで武具を扱うファミリアは多々あるがヘファイストスファミリアはその中でもトップの位置にいるファミリアである。神ヘファイストスは己自身も神匠と呼ばれ、神界では様々な武具を造った。

しかしなぜか下界に降りてきてからは一度武器を造って以来今まで一度も自分で造ってはいないという噂である。

 

 

ベルはロキにお礼をいい紙に写してもらった自分のステイタスを確認した。

 

「ロキ様!僕スキルと魔法が発現してます!」

 

ベルは具合の悪さも吹き飛ぶような笑顔でロキの方に顔を向ける。そんなベルを見つめるロキは慈愛に満ちていた。ベルの境遇をしっているロキは自分の子供になったベルに精一杯の愛情を注ごうと心に誓う

 

「ロキ様。この家族の絆っていうスキルはどんな感じのスキルなんですか?」

 

「このスキルは多分やけどベルの家族を大切にしたい。何があっても家族を護りたい。っていう強い想いから発言したスキルだと思うで。効果やけどウチのファミリアの子らと仲良くなればなるほどベルとファミリアの仲間のステータスが上がるってやつやな。それがどの程度なのか。具体なものはわからんけど徐々に効果をみてくしかないな」

 

そうなんですかっとうなずくベル。いまいちわかっていない様子のベルにロキは苦笑する。

 

「この限界を超えるというのはなんでしょうか?」

 

「これは簡単やな!仲間のピンチにステータスが上がるってやつや。これもどの程度なのかは試さないとわからん。でも仲間の為に力が増すなんて英雄みたいやろ?」

 

ベルは英雄という言葉に目を輝かせる。

 

(ホントにベルはアイズの英雄になりたいんやなー...)

 

スキルの事を聞き満足したベルは次に魔法について尋ねた。

 

「ロキ様!僕昔から魔法に憧れてたんです!なのですごくうれしいです」

 

ベルにしっぽが生えていたらぶんぶん振っているんだろうなぁとロキは内心思う。

 

(さてここでもう一個爆弾おとしたろかな...ベルどんな反応するんやろ)

 

ロキはいつものいたずらする気満々な顔をした。

 

「ベル。いいこと教えたるわ。この魔法はなんと...アイズと同系統の魔法やで!多分やけど...」

 

ガタガタガタっドアの方で音がした。

 

「アイズたん...なにしとるんや...」

 

どうやらアイズは部屋に帰ったがロキがベルに恩恵を刻んでいるところで声をかけようかかけまいかしている時にベルに自分と同系統の魔法が発現したと聞き動揺したようだ。それを察したロキは...

 

(アイズたん萌えーーーー)

 

心の中で叫んだ。

 

 

 

 

アイズ視点

 

(どうしよう...ロキに変なところ見られて恥ずかしくて出てきたけどベルの様子みるっていったのに...よし。ベルのところに戻ろう)

 

アイズは羞恥のあまり走り去ってしまったが徐々に落ち着きを取戻しベルのいる医務室まで戻ってきた。

 

(あれ...ロキがまだいる。ああ、ベルに恩恵刻み終わったところ...かな。これでベルも同じ家族(ファミリア)だね。おめでとう...ベル)

 

そんなことを想いながら待っているとベルのステイタスをロキが説明していた。

 

(すごい...最初からスキルと魔法が発現しているなんて。あ...そういえば私も発現していたっけ...)

 

アイズは幼い頃...ロキファミリアにきた事をおぼろげながら思い出していた。すると

 

「ベル。いいこと教えたるわ。この魔法はなんと...アイズと同系統の魔法やで!多分やけど...」

 

(ええ!?私と同系統の魔法!?)

 

アイズは不意打ちをくらい扉に足をぶつけてしまった...

 

 

 

 

「あ...アイズさん!僕正式にロキファミリアの一員になれました!ええと...大丈夫ですか?」

 

(うぅー恥ずかしい...ベルにも変なところ見られちゃった...)

 

アイズは顔を真っ赤にしている。

 

「なんやアイズたん。そんなとこにいなくても入ってきたらいいやん。恥ずかしがらんでもいいに。むふふ...さっきだってベルに、むぐっ」

 

アイズが瞬時にロキの口をふさぐ。

 

小声

 

「ロキ。一つ貸しにするから...黙ってて」

 

小声

 

「別に寝ているベルに顔近づけて何かしようとしてた...なんていってもいいやん..痛い痛い」

 

アイズがロキの体を絞める。

 

小声

 

「わかったから放してや。全くアイズたんはかわええなー。ぐふふ、アイズたんに何してもらお...」

 

小声

 

「変なことしたら切ります」

 

アイズの声色に本気を感じロキは諦めた。

 

「さあ、アイズたんも来たしウチは部屋に戻るわ。ベルもまだ疲れてるみたいやし今日一日ゆっくりやすみや。これからの事は明日話そうや。魔法の事、スキルの事、まだまだ話したいことあると思うけど今日は我慢しいや。明日からスキルと魔法の効果確かめるさかい」

 

そういうとほななーと手をふって部屋を出て行った。

 

沈黙...二人きりになった瞬間会話がなくなってしまった。ベルはアイズの英雄になるなんて大それたことをいってしまった手前恥ずかしくてアイズの顔をまともにみれず。アイズもまた、ベルの寝ている間にいろいろしてしまった手前はずかしくてベルの顔を見れずにいた。

 

 

沈黙が二人を包む中なんとかベルがアイズに話しかける。

 

「あ、あのアイズさん。すみません。突然あんなこといってしまって。どうしても気持ちを抑えることができなくて...」

 

ベルは心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「いいの。ベル。私はうれしかったから。でも無理はしないでね。一緒に強くなろう」

 

 

「はい。アイズさん」

 

「ベルの面倒は私がみるから。安心してね」

 

アイズが照れくさそうに微笑み、そんなアイズを見てベルは顔を赤くする。

 

そのまま二人はお互いにお互いの事を聞きながらベルが眠るまで時間を過ごした。

 

 

 

 

「緊急幹部会を開くでぇー!今日の夜8時にウチの部屋まで集まるように幹部連中に伝えてや!」

 

執務室に入ってくるなり大声でフィンに話しかけるロキ。フィンは書類仕事をしている手を止めてロキを見つめた。

 

「随分と機嫌がよさそうだねロキ。そんなにベルのステイタスはすごかったのかい?僕の予想ではスキルくらい発現してるとふんでるんだけどね」

 

ロキは更に上機嫌になって続ける。

 

「そんなもんやないで...フィン。スキル2つ!それに魔法まで発現しとる。こんなにテンション上がるのも久しぶりや...まあそのスキルが問題ありなんやけどな」

 

(スキルに魔法まで。ベル...君は本当にすごいな。これからが楽しみだよ)

 

「なるほど。そのスキルについて僕たちに話があるってことかな?」

 

「その通りや。いやーしかしホンマにベルは強くなるで」

 

「わかるのかい?」

 

「ベルと手合せしたフィンが一番よくわかっているやろ?」

 

「まあね。だけど危うくもある。僕たちが支えていかないとね」

 

そやなとロキも同意しお互い頷いた。

 

(当面の問題としてそもそもベルはこのオラリオの町にあまり詳しくない。そのあたりも教育していかなければならないな。他にはダンジョンについての知識か。これはリヴェリアが教えると言い出すだろう。戦闘訓練はまあきっと...いや間違いなくアイズが自分でみるというだろう。遠征もあるしいろいろと考えなくてはならないな。ベルの入団試験を団員皆が見てくれたことによって周りの団員達もベルを認めただろう。何よりあんな気合の入った戦いをみたんだ。うずうずしてほとんどのものがダンジョンに行ったと思うし。中庭でベルの入団試験を行ったのは正解だったかな)

 

ベルを入団させることはほとんど決まっていた為、ベルが入団した後のことも考えて皆に認めてもらう為にわざと中庭で戦い、ベルの気合を見せたのだ。フィンもあそこまでベルが根性をみせるとは思っていなかったが皆にはいい刺激になったと思っていた。これで多少なりとも僕たちがベルを気遣っても誰も不満には思わないだろうと思っていた...

 

 

「アイズ様。我々はまだあの少年を認めてはいません。我らは...アイズ様親衛隊!」

 

 

 

 

神ヘファイストスの執務室

 

(!!この気配はまさか私の作品(こども)...私は下界に来てからあの双剣しか造っていない。あの子を扱える者などもうこの世にはいないだろう。下手にあの双剣を使ったら死んでしまう...この気配の出所は黄昏の館!ロキのところに急がなくちゃ)

 

ヘファイストスはファミリアの団長である椿・コルブランドの元へ向かい、椿を連れてロキファミリアの元へ向かった。

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

ベル君のスキル、と魔法を今回は書きました。プラスして双剣の謎も次回以降書いていきます。

相変わらずベル君とアイズさんは仲良しです。

13話に挿絵追加しました!

次回は 1.双剣の秘密  2 緊急会議 3まで行けるかわかりませんが魔法の使い方

こんな感じで書ければと思います。

これからもよろしくお願いいたします。

PS コメントにあった「」[]は見直しました<m(__)m>申し訳ありません<m(__)m>


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15 双剣の秘密

神ヘファイストスは昔を思い出していた。


武具を司る神ヘファイストス。彼女は下界に降りてきて初めて神の力を使用せず武器を造った。その双剣は最高の傑作であるとともに最悪な駄作となってしまった。

 

「できたわ!私の下界での初めての作品(子供)が。」

 

神ヘファイストスは自分の工房に数日こもっていた。自分のプライドをかけて神の力を使わずに剣を作成していたのだ。彼女は疲労が顔にでているものの満足しているようだった。彼女は燃えるような赤い髪、右目を覆い隠す眼帯。顔はすすで汚れていたが鍛冶の神とは思えないほど美しい容姿をしていた。彼女の手にあるのは白銀に輝く双剣。まるで剣自体が生きているように輝く。自分の初めての眷属である青年に自分の作品を見せた。

 

まさに至高の一品。究極の一品といえるだろう。ヘファイストスが持っている剣をみて団員が驚愕する。

 

「ヘファイストス様。この剣は...すさまじい力を感じます。」

 

彼は初代ヘファイストスファミリア団長である。もともと鍛冶職人であった彼はヘファイストスに惚れともに最高の武具をつくることに情熱を注いでいた。毎日毎日鉄を打ち武具に様々な能力をつけることに成功していた。

ファミリアの主神と眷属ではあるがお互いライバルのように切磋琢磨していた。

 

「でしょう!この剣の名前は...そうね...聖魔の双剣(ルシフェル)とでも命名しようかしら。今回はちょっと特殊な効果をつけたのよ!」

 

ヘファイストスは嬉々として語る。

 

聖魔の双剣

 

不壊属性(デュランダル)

 

・この武器は壊れない

 

吸魂(ヴァンパイア)

 

・この武器は使い手の力を吸い取ることにより能力を増す

 

意志(インテント)

 

・この武器は持ち主を選ぶ

 

 

「何があっても壊れず使い手の力を吸って能力を向上させる。そしてこの双剣が選んだ人物にしかまともに扱えない...なんてロマンじゃない?」

 

眷属の青年は溜息をつく。

 

「またそんな怪しげな効果をつけて...不死である神が使うのなら良いかも知れませんが私たち下界のものがこの威力の武器を扱えるでしょうか?」

 

造った手前試してみなければいけない。武器は使われて初めて武器になるのだ。誰にも扱うことができなければただの飾りとなってしまうことはよくわかっていた。

 

「お願いしてもいいかしら?」

 

神であるヘファイストスがダンジョンに潜ることはできない。故に誰かにこの双剣を試し切りしてもらわなければならなかった。

 

また深いため息をついて青年は双剣を手に取った。

 

「わかりましたよ。自分の剣の試し切りもありますし、そろそろドロップアイテムもなくなってきていますし何人か連れてとりあえず17階層の階層主 ゴライアスを倒してきます。それに私のレベルは5。万が一にも問題はありますまい。」

 

「じゃあお願いね?どの程度の効果がでたかまた教えてちょうだい。それによって調整するから。」

 

そういうと作ってあった鞘に双剣を収めた。

青年それを受け取り自分で作成した武器をそろえて仲間とともにダンジョンに潜っていった。

 

誰にもわからなかった。こんなことになるなんて。自分の全力を注ぎこんだ武器がどれほど強大な力をもっているかも。聖魔の双剣(ルシフェル)...選ばれなかった使い手が使用するとどうなってしまうのかも。

後悔した後悔した後悔した...自分で全力で武器を造るのを止め試作品も含めて自分の作品(こども)を封印した。そして眷属たちの指導に専念することを誓った。

 

 

17階層

 

「団長ー!もうやめてください。このままでは死んでしまいます。」

 

試し切りも途中まではなんの問題もなく進んでいた。そして最後に聖魔の双剣(ルシフェル)を試し切りしようとした。鞘から双剣を抜き放ち階層主ゴライアスを切るという明確な意思をもった瞬間...

 

(おまえではない...)

 

青年の頭の中に声が響いた。

 

(なんだこれは...力が...力が吸われる。)

 

白銀だった双剣はどす黒く染まり青年の手に吸い付くように手放せなくなる。

 

この双剣は純粋な魂の持ち主にしか扱えなかった。彼はヘファイストスを崇拝していたがその反面嫉妬もしていた。自分では手が届かないであろう領域。負の感情に支配される。

 

双剣が導くようにゴライアスに向けて叩きつける。自分がどんなに傷つこうが血が流れようが止まることはない。

 

(俺は一体...何をしているんだ...止まらない...制御ができな...い)

 

ゴライアスが倒れるまで己の限界を超えて力が吸われた。灰になって崩れ去るゴライアス、青年もまた双剣を握りしめたままその場に倒れた。

 

「団長!しっかりしてください...団長...」

 

生気のない顔。このままではまずい。

 

「すまないみんな。俺を地上までつれていって...くれ」

 

団員達は頷き双剣をしまおうとしたが手から離れないのでそのままにし担いで地上まで向かった。

 

バベル医務室

 

「何があったの!?」

 

神ヘファイストスが団員に連れられて医務室まで来ていた。

団長である青年は青い顔をして双剣を握りしめたままで寝ている。

 

「ヘファイストス様。この双剣は...危険です。私が使用してわかった限りのことをお伝え...します。」

 

「そんなこといいから今は休みなさい。」

 

(そんなまさか...魂が侵されている!?)

 

「自分の体のことくらいわかりますよ...時間がありません。聞いてください。」

 

(くっっ私のせいで)

 

ヘファイストスは今朝のやりとりを思い出して後悔していた。

 

「この剣は...おそらく邪な魂を持つものには使うことができません。私が使った瞬間このように黒く染まりました。この双剣自体が意志を持ち使用者の魂を判断...する。そして邪な魂なら使い手の魂を侵食し限界まで力を吸い取る...ようです。神であるあなたが持っていた時はあんなに美しく輝いていたというのに...。ヘファイストス様。そんなに...かなしい顔をしないでください。私はあなたを崇拝しておりました。あなたと切磋琢磨できることは心から楽しかった。同時にあなたにはおいつけないと絶望もした。あなたの途方もない技術に嫉妬した。そんな私が扱えるようなものではなかったようです...がはっっ」

 

青年が吐血し、真っ白なシーツが血で赤く染まる。

 

「あなたは...私たち鍛冶職人にとって憧れです。どうか気を落とさずに...これからも他の団員達を...導いてあげて...ください」

 

カランッと青年の手から双剣が落ちた。ヘファイストスがそれを拾い上げると双剣はまた白く輝きだした...

 

(私はもう...武具を造らない...)

 

 

年月が過ぎた

 

真っ白い髪をして紅い瞳の青年がヘファイストスを訪ねてきた。ヘファイストスの執務室に案内された彼は

武具の神と対面する。

 

ヘファイストスは目の前の青年を見て目を見開く。

 

(美しい魂...純粋で透き通っている。こんな美しい魂を見たのは初めてだわ...)

 

「神ヘファイストス。お初にお目にかかります。私はゼウスファミリア団長 ダグラス クラネルと申します。単刀直入にお願いがあります。私に武器を造ってほしい。」

 

「...私はもう武具を自分では打たないと決めているの。ウチのファミリアの団長を紹介するわ。それでいいかしら?」

 

ダグラスはその赤い目で真っ直ぐヘファイストスの目を見て答える。

 

「私はあなたに武器を打っていただきたい。」

 

そうはっきりと答えた。

 

トクン...心臓が鼓動する。

(私の神として...いえ、一人の鍛冶師としての勘が告げている。この男に武器を打ってみたい...でも...)

 

(ヘファイストス様...もういいではありませんか。あなたは十分苦しんだ。自分に素直になってください)

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

目を伏せて数分間の沈黙の後ヘファイストスは尋ねた。

 

「一つ質問をいいかしら?あなたはなんの為に私の武器を求めるの?」

 

「私の愛するものたちを護る為」

 

ダグラスはなんのためらいもなく答える。

 

(ゾクッとした...今までにないくらい気持ちが高揚している。もしかしたらあなたになら使えるかもしれない。あの忌まわしき双剣が...)

 

「あなたに見てもらいたい武器があるのだけれど...いいかしら?」

 

ヘファイストスは執務室にある本棚の本を一冊手に取った。ガコンッと音が鳴り隠し部屋への入り口が開く。そこはヘファイストスの工房。昔自分の最初の眷属とともに腕を振るった場所だった。

そこに飾られている双剣を手にとった。

 

「この双剣は私が下界に降りてきて初めて造ったものよ。私の全力をかけた作品...ただし訳ありのね。聞いてくれるかしら?」

 

ヘファイストスは自分の過去を語りだした。ダグラスは黙ってその話を聞いている。

 

「わかったかしら?ダグラス クラネル。あなたにこの双剣を扱う覚悟はある?」

 

双剣をダグラスの前に突出しヘファイストスは問う。

 

「貸してください」

 

そういうとダグラスは双剣を受け取り鞘から抜いた。瞬間、ドクンッドクンッドクンッ!

双剣から白く眩い光が放たれる。

 

(!!剣が認めた...なんて美しい光景...)

 

(お前を我が主と認めよう。)

 

ダグラスの頭に声が響く。

 

(これが神ヘファイストスが造った双剣か。手にしっくりくる。力が溢れてくるようだ)

 

「私の作品(こども)に気に入られたようね。剣を貸しなさい。あなたに合わせて私が打ち直す」

 

「いいのですか?もう武具は打たないのでは?」

 

「あなたを気に入ったの。理由はそれだけよ。3日後また来なさい」

 

(あの後悔の日々。私の武器が私の眷属(こども)を死に追いやってしまった。でも...あの双剣に認められる男が現れた。これ以上うれしいことはない...それに少しはあなたに報いることができるかしら)

 

死んでいった団員に思いをはせる。

 

3日後

 

「できたわ。持っていきなさい。あなたの手に合わせてあるから使い心地は私が保証するわ。ただし、この剣の能力をよく理解して使いなさい。使い方を間違えればあなたの身を滅ぼすわ。」

 

ダグラスは双剣を受け取った。

 

「ありがとうございます。そういえばお代は...」

 

「私の奢りよ。お金なんていらない。その双剣を使ってくれるだけで私は満足よ」

 

ヘファイストスの気持ちが伝わったのかそれ以上ダグラスが何か言うことはなかった。

 

 

それから数年。ダグラスはもう一本長剣をオーダーメイドで作り聖魔の双剣(ルシフェル)と共に使い世界三大クエストであるベヒーモス。リヴァイアサンを仲間とともに撃破した。

 

 

 

 

現在

 

(あのダグラスが負けたなんて信じられなかった。あの時私の造った双剣もなくなったと思ったけど...それがどうして黄昏の館に?)

 

黄昏の館までやってきたヘファイストスと椿。警備をしている団員に声をかけロキと対面する。

 

「なんやファイたんウチにくるなんて珍しいこともあるんやな。それに椿までおるやん。相変わらずええ胸しとるなー」

 

ぐへへと下品な笑みを浮かべて手をわきわきさせる。

 

「久しぶりじゃの、ロキ。儂の胸に興味があるようだがこんな邪魔な脂肪の塊いらんぞ?むしろ小さな者がうらやましい。」

 

カカッと笑う椿。

椿は豊満な胸にさらしを巻きハカマ姿なので少し動く度に胸が大きく揺れる。ロキはそんな椿の胸と自分の胸を見比べて涙目になる。

 

(うっうらやましくなんてないわ...)

 

自分から話題を振っておいてズーンと落ち込むロキ。哀れだ...

 

「そんなことよりロキ。あなたに聞きたい事があるんだけれどいいかしら?」

 

「んーなんや?」

 

真剣な様子のヘファイストスにロキも目を細める。

 

「あなたのところに双剣を扱う者はいるかしら?正確にいうと今日のお昼すぎに双剣を使った者がいるかという質問ね。」

 

(今日の昼過ぎ...ベルのことかいな。ちょうどいい今ベルはおらんけどどうせ聞くつもりやったしいいか)

 

「おるでー今日ウチのファミリアに入団したベルって子がファイたんのロゴが入った双剣使ってたわ。それがどうかしたん?」

 

ヘファイストスは目を見開く。

 

(やはりあの双剣が使われてしまった...)

 

「ロキその子は無事なの!?あの双剣はただの武器じゃないの。今すぐその子に合わせて!」

 

ロキの肩を掴みがくがく揺する。

 

「いだだだだ。ちょおいまちいや。ファイたん。理由聞かせてんか?」

 

ヘファイストスは双剣の秘密を包み隠さず話した。

 

「わかったでしょロキ。その子は今どこにいるの?手遅れになる前になんとかしないと。」

 

「まあまあまちいや。ファイたん。ベルなら多分問題ないで。英雄ダグラス クラネルがその双剣に認められたとき白く輝いたんやろ?ベルが双剣使った時も白く輝いてたんや。多分その吸魂(ヴァンパイア)の能力で力吸われただけや。ウチの神の目でみても問題なしや!ファイたんも一目見ればわかると思うで?」

 

ロキは含んだ言い方をする。

 

(うそ...ダグラス以外にあの双剣を使える者が現れるなんて...)

 

「ロキ。そのベルとやらに儂もあってみたいのじゃが?」

 

胸の前で腕を組み大きな胸を重そうに強調しながら椿が尋ねる。

手をわきわきさせるロキだがハッとなり

 

「すまんなぁ椿。ベルはまだ医務室なんよ。ああ、今はアイズたんがみとるから問題ないで。起きて落ち着いたら絶対合わせるから今日のところは諦めてくれん?ウチもちょっと考えることがあってな」

 

カカッ愉快そうに椿が笑う

 

「ロキファミリアの幹部の剣姫がわざわざ新人についておるのか。はてさてベルとはどんな人物なのか。会うのが楽しみじゃ」

 

「わかったわロキ。その子が無事ならあなたの方が落ち着いてからでいいわ。でも必ず連絡してね。突然お邪魔してごめんなさいね」

 

そういうとヘファイストスは椿を連れて帰って行った。

 

 

(ベル...ウチは運命(さだめ)なんてもんは信じとらんが仮にそんなもんがあるなら本当に英雄になる運命(さだめ)なのかもしれんな。それは過酷な道やと思うで。ウチも全力でサポートするからな...とりあえずは今日の幹部会で今後の方針まじめに考えるかな...)

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

祝お気に入り200にん突破!&一回ランキング11位になった!

ありがとうございますありがとうございます<m(__)m>

今回はベル君の双剣の秘密についてです。自分の中では双剣はこんな感じのイメージです!

次回は 1緊急幹部会議  2魔法

です(ー_ー)!!


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16  緊急会議

ベルがロキファミリアへ入団した夜


ロキのファミリアの会議室に幹部の面々が勢ぞろいしていた。

 

主神であるロキを筆頭に団長フィン。副団長リヴェリア、ガレス。ベート。ティオナ ティオネ姉妹...アイズはまだベルの部屋から帰って来ていない...

 

「さて皆に集まってもらったんはベルのことや。アイズが今いないのはちょうどええわ」

 

 

アイズがいないことを疑問に思っていた幹部達であったがロキのことだからまたなにかよからぬ事を考えているのだろうとスルーした...

 

「ロキ、はやく要件をいえ!」

 

ベートがいらいらしたした口調でロキに説明を促した。ベートはベルの熱い戦いを見た後気合を入れてダンジョンに潜ろうとしていた。装備の手入れをしポーションを数本買いバベルへと向かう途中でフィンのお願いで幹部達を集めていたティオネに捕まりそのまま引きずられてきたのだ。イライラは限界に達しそうだ...

 

「まあまあベート。一旦落ち着こうか。ロキ続きを」

 

ロキは皆を見渡してにんまりする。

 

「実はな...」

 

ごくりと皆の喉がなる。

 

「今日あの後ベルに恩恵を刻んだんやけどな...」

 

プチッッベートの眉間に青筋がたつ

 

「だから早く言えって言ってんだろ!」

 

「わあったわあった。落ち着きいやベート。そんなんじゃアイズたんとベルに嫌われるで?...んでベルやけどスキルが二つ。魔法が1つ発現しとる」

 

(((!!)))

 

「まじかよ...」

 

「すごーいベル!」

 

「どんなスキルなのロキ?」

 

「私はスキルもそうだがベルの魔法に興味があるな」

 

「がっはっはこれから楽しみじゃな」

 

幹部達はベルに興味深々なようだ。いままで恩恵を刻んだ段階で魔法やスキルを発現したものなどほとんどいない。ましてやスキルと魔法両方発現していたのはアイズ以来である。そしてフィンとの戦いで見せた気迫...皆が期待するのも無理はない。

 

「それでロキ。僕たちに何か相談があるんだろ?」

 

フィンが続きを促す。

 

「そやねん...スキルから説明するけどな。まずは一つ目のスキルは【家族の絆】っていうスキルや。」

 

家族(ファミリア)との絆が深まるほど効果は向上。

 

家族(ファミリア)全体のステイタス+補正。

 

家族(ファミリア)の為己の限界を超える。

 

皆がスキルの内容を聞いてうなずく。このタイプのスキルは比較的発現している者も多い。効果の程度はわからないがステイタスの+補正だろうと思っていた...最後の文章、己の限界を超える。このスキルはベルの非常に強い家族への想いが形になったものである。団員達はこの想いを侮っていた...

 

「まあこのスキルはウチもそこまで問題はないとふんどる」

 

唯一ベルと実際手合せをしたフィンだけが何かを考えているようであった。

 

 

「問題は次や。【誓い】っていうスキルや」

 

・早熟する

 

・想いの丈で効果は向上

 

・想いが続く限り効果は持続する

 

「早熟するって...なに?まさか成長速度に関係しているスキルじゃないわよね?

 

ティオネが驚愕の表情を浮かべている。他の皆も同様だ。仮にこれが成長速度に関係するスキルならば前代未聞のスキルになる。数多くの眷属に恩恵を刻んできたロキでさえ見たことがないスキル。超レアスキルといっても過言ではないだろう。

 

「なるほど。今のベルにこのスキルのことを伝えるのは危険かもしれないということだねロキ?」

 

「危険ってどういうことなのフィン?」

 

少々おバカなティオナはよくわかっていないようだ。姉のティオネがフィンの代わりに答える。

 

「ベルがこのスキルの事を知るとするでしょ?私たちは常に目立っているんだから何かあればすぐ他の冒険者や神の目に留まる。そんなことがあればベルにちょっかいかけてくる神も必ずいる。下界の子供は神に嘘がつけないことからこのスキルが露見する可能性が高いわよね?娯楽に飢えている神の誰かがロキが相手でも気にせず行動に移すことがあるかもしれない。だから危険ってことよ」

 

「ああーなるほどね!」

 

ティオナが大きくうなずく。

 

小声

「本当にこの子はわかっているのかしら...」

 

お姉さんは大変である。

 

「ふむ。ベルを手に入れたいと考える神はいるだろうな。すでに神フレイヤがベルに興味を持っているみたいだしな。あの時ベルが魅了されなくてよかった」

 

リヴェリアが安堵の溜息をつく。

 

「んん?いやあの時フレイヤはベルの事本気で魅了したで?ただベルにはフレイヤの強力な魅了が効かなかったんや。理由がわかるやつおるか?」

 

みんなフレイヤの強力な魅了の力を知っている。まだ恩恵を得ていない子供が魅了の力をはねのけるのはほぼ不可能なはずである。

 

「なんやみんなわからんのかいな...フィンとの試験の時ベルがゆってたやろ?スキルに発現するほど強い想い。アイズの英雄になるって想いが魂に刻まれているんやな。その想いがフレイヤの魅了をはねのけたんや。だからフレイヤは諦めて帰ったんやな。あいつ内心悔しかったやろなー」

 

いやらしい笑みを浮かべる。

 

「なるほどー!ベルはアイズが好きってことだね?他の誰かに護られるんじゃなくて自分が護りたいってことでしょ?」

 

ボフッとロキが吹き出す。フィンはにこにこ笑いガレスは大声で笑う。リヴェリアはわずかに頬を染めコホンっと咳払いをする。ベートは舌打ちをし何やら複雑な表情をしている。ティオネはフィンの事を盗み見て私も...と想いをはせた。

 

「ま...まあそれは...ベルの気持ちはおいおいわかるやろ...」

 

ロキもお気に入りのアイズのことで複雑なようだが気持ちを入れ替えて次の説明をする。

 

「後は魔法やな。これや!」

 

(ドゥンデル)

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

・雷の力を己の体に付与することにより身体能力向上

 

・雷を体に纏う、又は放出する

 

同調(ユニゾン)することにより効果は倍増 

 

 

「ウチが思うにこれはアイズの魔法と同系統の魔法だと思っとる。オラリオ一の魔導師であるリヴェリアはこれを見てどない?」

 

顎に手をあて考え込むリヴェリア。

 

「ふむ。多分ロキの言うとおりだな。まだ実際に見ない事には詳しいことはわからないが...しかしこの同調とは...ん?...そうか!!あの時の!」

 

何かを思い出したリヴェリアがロキを見ると目があった。

 

「そや。あの時のあの魔力交換のような現象がひっかかるやろ?後でアイズのステイタス更新して確認せないかんで」

 

「その時はアイズに聞いて私も同伴しよう」

 

二人で盛り上がっているが実際魔力交換をみていない他の団員達にはよくわかってはいないようだ。しかしベルの魔法をみたいと思っているので魔法を試す際には同伴することだろう。

 

「さて、これからのことやけど...フィンは何か案があるんやろ?」

 

「ああ。まずはベルの世話係を...」

 

バタンッ 会議室の扉が開かれアイズが部屋に入ってきた。

 

「ごめんフィン、みんな。遅くなった」

 

ぺこりとアイズが仲間に頭を下げる。

 

「いや大丈夫だよ。ちょうどいいタイミングだったねアイズ。これからベルの世話係...といってもまだオラリオに来て間もないベルを案内したり世話をするだけだけどその役割を決めるところだよ。......一応遅れた理由も聞いておこうかな?」

 

ええと...アイズが口ごもる。

 

 

 

数時間前まで遡る

 

ベルとたわいない会話をするアイズ。とても幸せそうだ。ベルの住んでいた村の事。ベルのおじいさんの事。

いろいろな話をした。最初は緊張していたベルもいつの間にか自然にアイズと会話ができるようになっていた。

 

(ベルのおじいさん...なつかしい気持ちになるのはなぜだろう...)

 

「いつかベルのおじいさんにも合ってみたい...かな」

 

アイズがためらいがちにベルに話しかける。

 

「アイズさん...今度時間があるときに一緒にあいさつしに行きましょう!」

 

その言葉を聞いて一瞬首をかしげたアイズだったがボンッと顔が赤くなる。

 

「え...えと...その...まだはやい...かな...もっとお互いをしらないと....ごにょごにょ」

 

今度はベルが首をかしげている。しばらく悩んだ後自分の言葉を思い出しベルが顔を真っ赤にする。

 

「あああアイズさん...あの...そういう意味じゃなくてあの...」

 

沈黙が二人を包む。

 

((きまずい...どうしよう...))

 

しばらく気まずい空気が流れていたが唐突にベルがあくびをする。

 

「ベル、疲れていると思うし寝ていいよ?明日は多分忙しくなると思うから」

 

「すみませんアイズさん。ちょっと疲れたみたいです。今日はありがとうございました」

 

「気にしないで。明日から一緒に頑張ろうね。おやすみ」

 

「おやすみなさいアイズさん」

 

すぐに寝息をたてはじめるベル。アイズはベルが寝たことを確認してもふもふしている髪をなでながら時間を過ごした。途中でティオナが会議の事を伝えに来たが時間があったのでそのままベルを撫で続けた。

次第に自分も眠くなりそのままベルのベットに頭を乗せ盛大に寝過ごした...

 

 

 

ええと...もじもじしているアイズをみかねてフィンが助け舟を出す。

 

「まあ今回はいいけど次からは遅れないでくれよ?」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ会議の続きといこうか。誰かベルの世話係をしてくれる人はいるかな?本来なら僕達幹部が新人の世話係をすることはないけど今回は状況が状況なだけに特別だ。それにベルのことはほとんどの団員が認めているはずだからね」

 

「じゃああたしがやっっむぐ」

 

ティオナが空気を読まずに立候補しようとしたのでティオネが後ろから羽交い絞めして止めた。

 

「ベルの面倒は私がみたい...いいかな?」

 

「しばらくはダンジョンに潜れなくなるけどそれでもいいかい?」

 

「問題ない。ベルの訓練もしなくちゃいけないし...いろいろと教えてあげたいの」

 

「いいだろう。ベルの事はアイズにまかせる。他の皆もそれでいいかな?」

 

他の幹部達も問題ないと頷く。

 

「まあ何かあっても僕たちは同じロキの眷属だ。皆もベルが困っていたら助けてやってほしい。それでは今日の会議はこれで終了とする。他になにかある人はいるかい?」

 

「ベルの魔法をベルが起き次第確認をしたい。アイズはベルが起きたら連絡してほしい」

 

「わかった。リヴェリア」

 

「他にないかな?...それでは会議は終了とする。解散」

 

団員達が会議室を出ていく。

 

「おいアイズ!」

 

アイズにベートが声をかける。

 

「その...なんだ...ベルの事しっかりみてやれよな」

 

一瞬きょとんとしたアイズだったが笑顔で答えた。

 

「ありがとうございますベートさん。ベルを心配してくれて」

 

「勘違いすんじゃねえ。同じファミリアになったんだ。無様な真似はしてほしくねえだけだ...じゃあな」

 

ベートはしっぽを振りながら出て行った。

 

その様子を見ていたロキたちは素直じゃないねえっと苦笑していた。

 

「あ...アイズたん。ちょっと確認したいことあるんやけどリヴェリアと一緒に後でウチの部屋に来てくれん?」

 

「ん...わかった。後でロキの部屋いくね」

 

そういうとアイズも会議室を出て行った。

 

「これから楽しくなりそうやな...」

 

ベルがロキファミリアに入団した一日目が終了する。

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

相変わらずベル君とアイズは元気です。

さて次回は魔法お披露目です。ご期待ください。

個別メッセージも何件かもらいましてありがとうございます<m(__)m>

これからもがんばります!


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17 ベルとアイズの魔法

アイズとリヴェリアはロキの部屋に来ていた


「おお、アイズたん。リヴェリアよう来たな!」

 

ロキが満面の笑みで二人を出迎えた。

「単刀直入に...アイズたん。ステイタス更新するで!」

 

アイズは首をかしげる。それもそのはず、アイズは先日の遠征の後にステイタスを更新したばかりである。経験を積まなければステイタスは上がらない。まだ更新してから何の経験も積んでいないアイズのステイタスを更新する意味はない。

 

「いいけど...なんで?」

 

「まあまあええから更新しよー」

 

アイズは若干不安になりながらも傍にリヴェリアがいることから何かしらの理由があるんだと思うことにした。

服を脱ぎ上半身裸になったままベットにうつ伏せになる。染み一つない美しい肌。均整のとれたすばらしい肉体である。

 

「おおっと...手がすべっっいだぁーー」

 

ロキがいやらしい笑みを浮かべてアイズの体を弄ろうと手を出したとき背後からリヴェリアの手刀が脳天に突き刺さる。ロキは目に涙を浮かべて頭を押さえてリヴェリアに抗議する。

 

「なにすんねんリヴェリアぁー。頭割れるとこやったやないか」

 

「お前がアイズに如何わしい事をしようとするからだ」

 

リヴェリアママは厳しいのである。

 

ぶーぶーいいながらロキが自分の手に針を刺しアイズのステイタスの更新を行う。

滑稽な顔をしたピエロのエンブレムが浮かび上がる。

 

「さてさてステイタスは...やっぱりウチの予想通りや。見てみいやリヴェリア」

 

(エアリアル)

 

目覚めよ(テンペスト) (エアリアル)

 

・風の力を己の体に付与することにより身体能力向上

 

・風を体に纏い攻撃力上昇 防御力上昇

 

同調(ユニゾン)することにより効果は倍増 

 

「同調というのが追加されているな。同調か...ただ同時に詠唱すればいいのか、それとも何か他に発動条件があるのかこれだけでは判断できないな」

 

「ロキ...何かあったの?」

 

ロキとリヴェリアの二人だけで話しているのを不審に思いアイズが声をかける。それにいつまでも上半身裸なのは恥ずかしいようだ...

 

「おお、アイズたん。これ見いや!」

 

そういうとアイズのステイタスを記した羊皮紙を手渡した。アイズは上から順にステイタスを確認していき特に変わっていないステイタスを眺めた。魔法のところまでいった段階でピタッと止まる。

 

「ロキ、同調ってなに?」

 

「驚いたやろ!アイズたん。実はな...アイズたんにいってなかったんやけど豊穣の女主人でアイズたんがベルに抱き着いたん覚えとる?その時な...」

 

アイズはベルに抱き着いたという単語を聞いた瞬間顔を赤くしてボフっと枕に顔を埋めて足をバタバタさせて悶えている。

 

 

「おーいアイズたん...聞いてやーーー」

 

アイズは羞恥のあまり涙目で上目使いでロキを見上げる。

 

(アイズたんその表情絶対男の前でしたらあかんやつや。か...かわいすぎるぅぅぅぅ!)

 

ロキは萌えーーー!と叫ぶのをなんとかこらえた。

 

リヴェリアはベルと出会ってからのアイズに今までにないくらいの変化が起きている事に驚きを隠せないでいた。ただ強さを求めるあまり自分の感情をころしていたアイズがこんなにも感情を表に出すなんて考えられない事だった。

 

(ベルには本当に感謝をしなければならないな。母親代わりとしてアイズを見てきたが...私達ではできなかったことをベルはほんの少しの時間でアイズを変えてくれた。ベル...お礼でというのも変な話だが最大限お前の力になろう...)

 

「大丈夫かいなアイズたん...んじゃあ説明の続きやけどあの時ベルからアイズたんに。アイズたんからベルに魔力が流れ込んでいたんや。それがこの魔法に反映しているみたいなんよ」

 

「ベルから私に...?」

 

「ああそうだ。アイズはこの同調という単語をみて何か思うことはないか?」

 

んーと考えているアイズであったがわからないようだ。

 

「ふむ。アイズでもわからないか...まあ明日ベルの魔法と一緒に確認してみよう。」

 

「ん...わかった。」

 

「んじゃあウチからの用事は以上や。明日はウチも魔法見に行くさかいよろしく頼むでぇ」

 

アイズとリヴェリアは頷いてロキの部屋を出て行った。

ロキは自分のベッドに身を投げて目を瞑る。

 

(ゼウスよ...ベルはさすがあの英雄達の子供やで。あの子の意志の強さは半端やない。だけどまだまだこれからや...あの子はウチが絶対守ったる。だから安心しいや...)

 

夜がふけていく...

 

 

翌日 ベルの部屋

 

コンコン...遠慮がちにベルの部屋の扉がノックされる。

 

「ベル...起きてる?」

 

現在の時刻AM5時ベルはまだ寝ている。顔色も良くただ寝ているだけのようだ。ロキファミリアの朝食は朝7時からなのでまだ大分はやい。なぜアイズがこんな早く来たかというと...

 

「うーん...むにゃむにゃ...」

 

このベルの寝顔をを見るためである。あどけない寝顔は見ているだけで心が癒されるようだ。

おもむろにアイズはベルの頬を指でつつく

 

「うーん...」

 

(ベル...かわいい...)

 

そうしてしばらくの間アイズはベルの寝顔を堪能した。

 

AM6時

 

「んん...」

 

「ベル、おはよう」

 

「んー...おはようございます。アイズさん...ってええ!?ななななんでアイズさんがここに!?」

 

がばっとベルが起き上がる。

 

 

「んと...ベルはまだ黄昏の館の中のこと知らないと思ったから...案内してあげようかなって...」

 

大声に多少驚いたアイズであったが特に気にすることなく会話を続ける。

 

「あ...ああそういうことだったんですか。すみません大きな声出してしまって」

 

ぺこりとベルはアイズに頭を下げる。

 

「ん...気にしないで。私が早く来たかっただけだから」

 

「あの...着替えるので少し後ろを向いていてもらえますか?」

 

アイズはわかったとうなづき後ろを向いた。かちゃかちゃしゅるしゅると着替えの音が聞こえる。

アイズはドキドキする胸を押さえ首をかしげている。

 

(ちょっと照れくさい...かな)

 

「お待たせしました。アイズさん」

 

「大丈夫...じゃあ行こっか」

 

部屋を二人で出て黄昏の館内を歩き回る。ロキの部屋。フィンやリヴェリアの執務室。武器や防具が置いてある倉庫。中庭。図書室。いろいろな場所を案内したもらったベル。たまにすれ違う団員達に挨拶を行う。ベルの元気のいいあいさつに団員達も表情をやわらかくし挨拶を返してくれる。ただ隣のアイズのベルを眺める優しい笑顔に皆驚愕する。

 

(((あの無表情なアイズが笑っている...)))

 

それほどまでにアイズは今まで感情を表に出してこなかったのだ。

 

「ベル。そろそろ食事の時間になるから行こうか」

 

アイズはベルの手をとって食堂に入って行った。食堂に入るとすでに大勢の団員達が席についておりそれぞれ談笑していた。アイズがベルの手を引いている姿を見ても最初は驚いていたが皆微笑ましく眺めていた。

しかし一部の数人が険しい表情で眺めている。アイズ親衛隊の面々だ。アイズ親衛隊隊長であるレフィーヤ ・ウィリディス レベル3の冒険者にてリヴェリアの愛弟子でありロキファミリアの準幹部を務めている猛者だ。基本的に準幹部はレベル4からであるがレフィーヤの場合魔力に特化しており魔法の威力のみだとリヴェリアに匹敵することもあり準幹部を努めているのだ。

そんな彼女であるが彼女は美しく強いアイズを心から崇拝していた。遠征で危ないところをアイズに何回も助けられたこともあり彼女はアイズの心を少しでも癒そうと何年も前から積極的に行動してきた。それでもほとんどアイズに変化は見られなかった。

 

(あの少年に感謝はしている...アイズさんのあんな笑顔今まで見たことない。でも悔しい...私だってアイズさんの力になりたいな...)

 

レフィーヤはベルを認めてはいるが複雑な心境のようだ...

 

アイズはベルと一緒にフィン達のいるテーブルに座った。

フィンはベルとアイズが来たことを確認して席を立って団員全員に向かってベルを紹介した。

 

「皆、朝食の前に紹介したい人物がいる。知っている者も多いかと思うが昨日僕の入団試験を突破して正式に僕達ロキファミリアの仲間になったベル・クラネルだ。皆これから同じファミリアの仲間として仲良くしてやってほしい。じゃあベル。一言いいかな」

 

ベルはフィンが話し始めた瞬間に瞬時にフィンの隣に立ち緊張からかプルプルしていた。

 

「はっっはい。ベル・クラネルといいます。まだわからないことだらけですしご迷惑をかけてしまうかもしれませんがこれからよろしくお願いいたします」

 

ぺこりと頭を下げた。

 

「よろしくなぁベル!」

 

「ベルかわいいぃー」

 

「一緒に頑張ろうぜ!」

 

団員達から多くの声が寄せられる。

 

「ではこれからベルにはパーティを組んでもらおうと思うんだが...」

 

ロキファミリアではレベル毎や攻略する階層毎に安全面を考慮して数人単位でパーティを組むシステムになっている。

 

「ベル俺のパーティ入れよ!」

 

「駄目よ!ベル!私らのパーティに入るよね!?」

 

「いや俺たちのパーティーに...」

 

レベル1 レベル2 レベル3の団員達も自分たちのパーティにベルを入れたい。ベルと一緒に冒険したいと考えていた。フィンとの熱い攻防をみたものはみんなベルに興味津々である。

 

皆が盛り上がっている中アイズがすっと立ち上がりベルの後ろまで行きおもむろにベルを後ろから抱きしめた。

 

(!?ああああアイズさん!?何を...背中に柔らかいものが...)

 

ベルは顔を真っ赤にして硬直している。

 

アイズはきっぱりと宣言した。

 

「ベルはしばらくの間私が面倒をみるって約束しているから...私がパーティーを組む」

 

(((な...なにぃーーー!?)))

 

幹部達はわかっていたことであるが他の団員達はレベル5であるアイズが直々にベルの面倒をみるなど想像もしていなかった。ただ アイズの一言で場の空気は完全に変わりベルを欲しがっていた面々もアイズに意見する気にはなれず諦めるのであった。

 

まだアイズのオラリオでの人気や実力を正確にわかっていないベルは今自分がどんな状況に置かれているかがよくわかっていないようだ。

 

(ぐぎぎ...ウチらもまだ一緒に鍛錬してもらったことないのに...くやしぃー)

 

アイズ親衛隊副隊長であるリリーアルトリア レベル2の冒険者だ。彼女の種族はアマゾネス 彼女はアマゾネスにしては珍しく男より女が好きという感性の持ち主である。そして強く美しいアイズに恋をしていた。故に彼女の心の中はベルに対する嫉妬の嵐が巻き起こっていた。彼女がベルを認める日は来るのであろうか...

 

ベルは朝食の間中他の団員達にいじられアイズとの関係を聞かれ照れたり慌てたり忙しかった...

 

朝食も終わりリヴェリアがロキとともにベルの元に来た。

 

「ベル、これからお前の魔法の確認を行いたいんだが予定は大丈夫か?」

 

「はい!アイズさんから聞いていたので大丈夫です。リヴェリアさん!僕魔法に憧れていたんですごく楽しみなんです!」

 

ベルはにぱぁと満面の笑みを浮かべる。

 

(うっっ...この笑顔は母性本能をくすぐるな...アイズの手前抱きしめたくなるのは堪えなくては)

 

リヴェリアはベルの頭に手を置いてわしゃわしゃ撫でてからついてこいとにやにやしているロキの腕を掴んで訓練所に歩いて行った。

 

アイズは意識してかしないでかわからないがベルの手をしっかり握ってその後を追いかけて行った。

訓練所まで行く最中に唐突にロキが声をあげる。

 

「そやベル!訓練するのにそんな服装じゃいかんやろ。この前ファイたんが自分とこの団員が造った試作防具何個か置いていったからそん中から好きなの選んでいいでー!」

 

「ええ!?いいんですか!?ファイたんってあのヘファイストス様ですよね...高いんじゃ...」

 

ベルもヘファイストスファミリア製の武器や防具が高額なのは知っている。遠慮するのも無理はない。

 

「大丈夫やでー!今回持ってきたんはまだまだ駆け出しの作品や。ファイたんところはどんどん防具や武器を造らせて眷属に機会を与えるようにしてるんや」

 

それでも遠慮しているベルであるが、家族の安全を守る為やからというロキの言葉に納得した。

 

倉庫内には様々な防具が置いてあった何かの皮で造られた防具、重厚なプレートメイル、籠手などもある。

その中でもベルは一番隅に置いてある防具が気になった。手に取ってみると何故かしっくりくる気がした。

 

「なんやベル...そのライトアーマーが気に入ったんか?んじゃあ装備してみようや!」

 

ベルが頷く。

 

(これは製作者のサインかな?えーと...兎鎧(ぴょんきち)...ヴェルフ・クロッゾ...)

 

防具の名前のセンスがベルには理解できなかった、ロキは名前を見て大爆笑している。

 

(名前はともかくとりあえず装備してみよう)

 

「ほう...似合っているじゃないかベル」

 

「うん...私もいいと思う」

 

「ウチもいいと思うで!兎鎧(ぴょんきち)ぶひゃひゃひゃ」

 

ロキはつぼに入ったらしくまだ笑っている。

 

(この防具軽いし動きやすいな...ヴェルフ・クロッゾかぁーどこかで会ってみたいな)

 

「その防具気に入ったんなら今度ウチと一緒にファイたんとこ行って会ってみよか!自分が気に入った防具作ってくれる人物は貴重やで」

 

「その時は私も一緒に行く」

 

アイズもベルの身を護る防具なので心配しているようだ。

 

「では防具も装備したし行こうか」

 

リヴェリアを先頭に再び訓練所に向かい歩き出した。

 

 

 

 

 

訓練所

 

「アイズ。まずはベルにおまえの魔法を見せてやれ。その方がいいだろう」

 

アイズは頷くと詠唱を行った。

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリアル)

 

アイズの周囲に風が生まれ美しい金髪が風になびく。

 

「すごい...これがアイズさんの魔法なんだ...英雄禄に出てくる風の精霊みたいにきれい」

 

ベルの素直な感想にアイズが恥ずかしそうに頬を染める。

 

「コホン...それではベル。詠唱はわかっているな?我々もついているから安心して唱えてみるといい」

 

「ベルの魔法どんなもんやろな」

 

ロキも興味津々だ。

 

ベルは一度深く深呼吸をして魔法を詠唱する。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

ベルの周囲に雷が生まれバチバチと音を立てて放電する。ベルの髪の毛も逆立ち気味になる。

 

(す...すごい。これが僕の魔法...全身の感覚が研ぎ澄まされているようだ)

 

「おお...すごいやんベル!」

 

「ふむ。やはりアイズと同系統の補助呪文のようだな」

 

小声

「ベル...かっこいい...」

 

「さて、問題はここからだ。同調(ユニゾン)について調べなくてはな」

 

リヴェリアは腕組みをして考え込む。同じ空間で魔法を使うということではないようだ。もしそうなら何かしらの変化が二人に見られるはずだがそんな様子はない。

 

「んー二人同時に詠唱するんとちゃう?」

 

ロキが提案する。他のメンバーもなるほどっと納得したようだ。

 

「じゃあ一回魔法を解除する...ベル大丈夫?」

 

「大丈夫ですアイズさん。思った通りにできるみたいです」

 

ベルはなんなく魔法を解除してみせた。初めて使った割にはうまく魔法を制御できているようだ。

 

「じゃあ同時に詠唱するけどいい?いくよ?」

 

「はい!」

 

「せーの【【目覚めよ(テンペスト)】】(エアリアル)(ドゥンデル)

 

特に二人の魔法に変化は見られない。うーんと皆悩み始める。

 

「んと...もしかしたら心を...気持ちを同調させるってことなのかも...」

 

「なるほど!心の同調ということか。やってみる価値はあるな」

 

気持ちの同調...お互いを想う気持ちということだろうか。とりあえず試にということでやってみた。

 

「ええと...僕はどうすれば...」

 

「ベルはえと...あの時いってくれたよね...?」

 

ベルは首をかしげる。

 

「あの時っていつのことですかアイズさん?」

 

アイズは照れてもじもじしながら言った。

 

「あの...私の英雄になるっていってくれたよね?」

 

ベルはボンっと赤面した。アイズの英雄になる...ベルの心の奥底からの想いである。

 

「はい...え...えと...僕はアイズさんの英雄になりたい...です」

 

あの恥ずかしいセリフをもう一度いうのはとんだ羞恥プレイである。

 

(ええーなんやねんこの空気...ウチまで恥ずかしくなってくるわ...)

 

(母親代わりとして私はこの状況をどうしたらいいのだ...アイズ...成長したな...)

 

「私もね...ベル...もっと強くなってベルの事を護りたいの。私も...ベルの英雄になりたい。一緒に強くなろ?」

 

「...はい!アイズさん!」

 

二人は手を重ね合わせた。

 

二人を静寂が包む。お互いの瞳を見つめ合い精神を集中させる。

 

「これは...くるぞロキ...何が起こるかわからないから私の後ろにいろ」

 

ロキも何かを感じ取ったようで素直にリヴェリアの後ろに隠れた。

 

「「【【目覚めよ(テンペスト)】】(エアリアル)(ドゥンデル)」」

 

 

ドォーンと衝撃が走る。ビシッバリバリバリッッッ

 

アイズとベルを中心に嵐が巻き起こり雷が訓練所の壁に何本ものヒビを入れる。

 

「ちょおおおーーいなんやねんこの魔法!!アイズとベルは大丈夫なん!?ってかリヴェリアの後ろにいなかったら下手したらウチ死んでるやん...危なー...」

 

 

「なるほど...アイズとベルの魔法が混ざり合いすさまじい威力になってるな。しかし発動しただけでこの威力か...全力の魔力を込めたらどんな威力になるやら」

 

リヴェリアは自身の杖で雷を捌いてロキを護りながら冷静に状況を分析していた。暴風が巻き起こっているがそこはレベル6の冒険者である。しっかりと踏ん張っている。ロキは必至の形相でリヴェリアのマントにしがみついている。

 

 

「すごい...私の魔法の威力より遥かに強い...でもこの魔法今の私でもうまく扱えないかも...」

 

アイズは自身の体をみてこの魔法の威力を大まかに理解する。

 

「あれ...私でも扱えないくらいの威力なのにベルは...」

 

目の前のベルに目を向けるとベルは俯いて動く気配がない...

 

「ベル...?大丈夫...?」

 

「....うう....」

 

ぶしゅっとベルの全身から血が吹き出し魔法が解除されその場に崩れ落ちた。

 

「ベル!?」

 

アイズも魔法を解除しベルに駆け寄る。

 

「ベル、ベル大丈夫!?リヴェリア...ベルが...」

 

「落ち着けアイズ。」

 

リヴェリアは回復魔法を使ってベルのケガを治療する。

 

「すまないベル...私が失念していた...ベルはまだレベル1。レベル5のアイズの魔力がお前に流れ込んだらこうなるのは必然だったな...」

 

考えても見てほしい。レベル1のベルという器を水の入った風船に例えよう。レベル5のアイズを水の入った25メートルプールに例える。風船の中にそのプールの水を入れたらもちろん風船は破裂する。

今回はアイズが無意識的に魔力を抑えた為この程度ですんでいた。

 

「ベルの傷は治った。今はマインドダウンで意識を失っているだけだ。この魔法はしばらくの間使用を禁止した方がいいな。少なくともベルがレベル2...いやレベル3になるまで待った方がいいだろう」

 

アイズはリヴェリアの言葉を聞きながら涙をながしてうなずいた。

 

「ごめん...ごめんねベル...リヴェリア、私ベルに償いをしたい...どうすればいい?」

 

「アイズ。お前が謝ることはない。この魔法の威力を侮っていた私の責任だ...本当にすまない。ただ償いをしたいとおまえが思うのならこれをしてやれ...お前のなら嫌がる男などいないだろう」

 

そういうとリヴェリアはアイズに耳打ちをした。

 

「そんなことで償いになるの?わかったやってみる。」

 

「ロキ、我々は席をはずそう。ベルの魔法のことは私からフィン達に伝えておこう。それにこの有様では訓練場の強化をしなければまずいということがわかった。そちらの手配も私がしておこう」

 

訓練場の壁は先ほどの魔法の威力でボロボロになっていた。

 

「そやなーすまんなベル。ウチも調子に乗ってたわ...ウチもなんかお詫び考えとくで」

 

 

そういうとロキとリヴェリアは訓練場を後にした。

 

アイズはリヴェリアにいわれたとおりベルの頭を自分の膝に乗せ膝枕する。

ベルはマインドダウンの影響で苦しそうな表情をしていたがアイズが膝枕をし髪をなでていると次第に表情が柔らかくなりすやすやと寝息をたてはじめた。

 

(よかった...ベルの顔色よくなってきた...。)

 

しばらくの間そのままベルの頭をゆったりと撫でながら時間を過ごした。

 

「うーん...」

 

ベルの目がうっすら開かれる。

 

(いい匂い...なつかしい匂いがする)

 

「お...お母さん...?」

 

「ごめんね、私はベルのお母さんじゃないよ?」

 

「!!あ...アイズさん!僕はいったい...う...」

 

まだマインドダウンの後遺症で頭がくらくらするようだ。

自分の置かれている状況に気が付いて動こうとしたがまだ動けないようだ。

 

「いいよベル...もう少し寝ていて?」

 

アイズも自分のしている行為が恥ずかしく思え頬を赤く染めるがそのまま膝枕を続けた。

 

「う...すみません。アイズさん。もう少しだけこのままでいいですか?」

 

アイズはこくんと頷きそのまま膝枕を続けた。

 

 

 

アイズ達の魔法を見ていたもの達がいた。ロキファミリアの幹部達だ。

 

「ベルとアイズすごいね!あんな威力の魔法実際に戦ったらどうなるんだろ?」

 

「けっっ、ベルを見ろよ?アイズの魔力に負けていやがる。今のままじゃ使えねえだろ」

 

小声

 

「ったく無理すんじゃねえよ...」

 

「ベートも素直じゃないねぇ全く...しかしベルがこのまま強くなったらきっと僕やアイズをも超える存在になるだろう」

 

ベートの声が聞こえていたフィンは苦笑していた。

 

「私たちも強くならなきゃね!」

 

ククリ刀を振り回しながらティオネが気合を入れる。

 

「ふむ。儂らもベルに抜かれないようにせねばな。誰か稽古をつけてやろう!」

 

やるーとティオナが嬉しそうに手を挙げる。

 

「久しぶりに僕も本気でやろうかな...ベート!相手をしてくれないか?」

 

「フィンが相手なら本気でつぶしにいくぜ?」

 

いいだろうっとフィンが答える。団長私もっとティオネも手を挙げる。

 

それでは準備をして後で集まろう...団員達は頷いてそれぞれ準備に向かった...

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 




読んでいただいている皆様いつもありがとうございます。

今回は多少長くなってしまいましたがロキファミリアのみんなにベルを紹介してユニゾン魔法を試しました。

このユニゾン魔法 ロキが命名しようと考えているようですがルビ付きで何にしようか検討中です 疾風迅雷とかいいかなと考えています。

次回は日常系かオラリオの案内かベルの訓練かそのあたりを描きたいと思います。

こんな場面のシーンのイラストが見たいって要望ありましたら検討します。


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18 ベル・クラネルの一日

魔法を確かめた日の午後


「アイズさん...すみませんでした...」

 

ベルがズーンと落ち込んでいる。あの魔法を使った後マインドダウンの影響でかなりの時間膝枕をしてもらっていた。

 

「ん...気にしないで」

 

心なしかアイズはツヤツヤしている。ベルを膝枕している間中ベルの体重を肌に感じてひたすら髪を撫でていたアイズの心はとても癒されていた。その反面ベルはアイズに膝枕してもらっている状況が恥ずかしくて申し訳なくて泣きそうになっていた。

 

「でもベルと私の合体魔法?すごい力だったよ...。リヴェリアからベルがランクアップするまで使用禁止っていわれるぐらい強力...みたい」

 

「そ...そうなんですか...僕あまりあの時の記憶がなくて...そういえばランクアップってどうすればできるんですか?」

 

ベルはアイズに尋ねる。

 

「ランクアップはね...ベル。簡単に言えば自分より強大な相手を撃破すること。つまり偉業といえるほどの事を成し遂げなければならないの。」

 

「偉業ですか...でも自分より強い相手って勝てるんですか??」

 

「自分より強い相手を倒すためにはパーティを組んだりするの。それに自分の実力より強い相手を倒すために技だったり相手との駆け引きが重要になるんだよ。そのことはこれから訓練しながら教えていくね。」

 

アイズは自分の経験からランクアップに必要な事をベルに伝えた。いつもより饒舌なのは気のせいだと思う...

 

「ちなみにアイズさんはどのくらいでランクアップしたんですか?」

 

 

「私の場合は...んと...実際にフィン達と訓練を始めてから1年...かな」

 

ベルは目を見開いた。

 

「ええ!?アイズさんでも1年かかったんですか!?...僕がランクアップするのなんていつになることやら...」

 

ベルはひどく落ち込んでいるようだ。

 

「んとね...ベル。私の予想だとベルは私なんかよりもっと早くランクアップすると思うの。ベルは本当に強くなると思うよ?私を信じて...?」

 

「アイズさん...。」

 

ベルはアイズの気持ちがうれしく落ち込んでいた気持ちも高揚してきた。

 

「そろそろ動けそう?」

 

ベルは立ち上がり動けることを確認する。

 

「大丈夫みたいです!!えと...これからどうしましょうか?」

 

「多分今日は訓練は無理だからロキのところ行ってヘァイストスファミリアに行こうか。」

 

ベルの双剣のこともありへファイストに会う予定だったのでロキの都合がよければこのまま向かうつもりだ。

ベル自身も自分の防具兎鎧(ぴょんきち)の製作者に会いたいと思っていたのでちょうど都合がよかった。

 

トントン、ノックの音がする。

 

「ロキ...いる?」

 

「おお!アイズたん!ベルに何かあったん!?」

 

アイズとベルがロキの部屋へ入る。

 

「ベル!体は大丈夫なんか!?どこか痛いとこないん!?」

 

ロキは本気でベルを心配しているようでふざけた態度は一切見せなかった。

 

「大丈夫ですロキ様。ご心配おかけしてすみません。もう大丈夫です!」

 

「そかぁーーよかったなぁベル。」

 

その言葉に安心したロキはベルの髪をわしゃわしゃと撫でまわす。

アイズも今回ばかりはロキの行為を止めなかった。ロキが慈愛に満ちた表情だったからだ。

ベルもそれを受け入れている。

ひとしきり撫でまわした後ベルを解放した。

 

「ふぅっっー堪能したわぁー」

 

ロキは満足そうだ。ベルは体力を吸い取られたようにげっそりやつれていた...

 

「んでウチになんか用があったんやないん?」

 

「ロキ。ベルが今日はもう訓練できなさそうだからヘファイストスファミリアに行こうかと思ってたの」

 

ベルもアイズの隣でコクコク頷いている。

 

「おお!そうなんか。そういえばファイたんにベルのこと紹介する予定やったわ。ちょうどええ、一緒に行こか!ああ...ベル。双剣忘れんといてなー」

 

ベルは大丈夫ですと背中を向けた。ベルの腰にはしっかりと双剣が携帯されている。ロキは満足そうに頷きアイズとベルが来る前に読んでいた書類を机にしまい、二人の手を握ってヘファイストスファミリアのホームに向かった。

 

 

 

神ヘファイストスのホーム

 

「いらっしゃいま...これはロキ様!ようこそおいでくださいました。」

 

「剣姫!?剣姫が来たぞぉー!」

 

「キャー!かっこいいぃぃー!」

 

周囲にいる他の客が声をあげる。ロキは片手を挙げて挨拶をしアイズはペコっと頭を軽く下げた。ベルはというと周囲をきょろきょろ見まわし改めて神ロキとアイズのすごさを知った。

 

「ロキ様って偉いんですね!それにアイズさんすごい人気ですね!」

 

ベルは素直に感想を述べる。

 

「むふふ。せやろ?ウチの事もっと褒めてええでぇー!」

 

ロキは機嫌をよくしてベルの頭を撫でる。

 

「ん...そんなことないよ...」

 

アイズは特に興味がないようだった。

 

ロキを先頭に通路を進んでいくとヘファイストスの執務室へと着いた。

 

「ファイたん...入るでぇ!」

 

ロキは中にいるであろうヘファイストスが返事をする前に扉を開けた。ヘファイストスは団員と話をしていたようで怪訝そうな顔を向ける。

 

赤い髪をして東方の者がよく好んで着る着物のような服を着た青年も機嫌が悪そうだ。

 

「ロキ、それに隣にいるのは剣姫ね。そしてその隣にいるのがもしかして...」

 

「そや。この子がファイたんの双剣使っとるベル・クラネルや!よく見てみい」

 

ロキが含んだ言い方をする。ヘファイストスはベルの魂を神の目で見た。

 

(美しい魂...こんな美しい魂をみたのはダグラス・クラネル以来ね...なるほど。この子なら使えるかもしれないわね、それにしてもなぜか魂がダブって見えるわね。面白い...)

 

ヘファイストスはロキの方を見てうなずいた。

 

「ベルと呼んでもいいかしら?」

 

ベルは緊張しているようで黙ったまま頷いた。

 

「ベル、この双剣の能力を聞いているかしら?この双剣は...」

 

ヘファイストスは自分の過去の過ちを含め双剣の事を話した。

 

「この話を聞いてもこの双剣を使う覚悟はあるかしら?」

 

「こここここの双剣あの英雄ダグラス・クラネルが使っていたものなんですか!?そんなものをおじいちゃんは何故...」

 

ベルは双剣の能力の事より英雄が使っていたということに興奮しているようだ。そしてそんな大事なものをなぜ祖父が持っているのか考えたがわからないようだった。

 

(お父さんの武器...)

 

アイズも複雑な表情をしている。

 

「もう一度聞くけどこの双剣を使う覚悟があるかしら?」

 

ベルは真剣な表情で考えた後ヘファイストスの瞳を見ながら答えた。

 

「覚悟なら...あります。先ほどのヘファイストス様の話によるとこの双剣は僕を選んでくれたということですよね?少し怖い気もしますし、まだ使いこなせる自信はありません。ですが僕も英雄ダグラス・クラネルのように強くなりたいんです。皆を護れるようになりたいんです」

 

ヘファイストスはベルを見てくすくす笑った。

 

「何を笑っているんですか?」

 

ベルは彼にしては珍しく怒った様子で声を荒げた。

 

「ごめんなさいベル。あなたを笑ったわけじゃないのよ...あなたが今言った言葉と同じようなことをダグラスも言っていたからおかしくなって...」

 

「ええ!?...そ...そうだったんですか。すみません。大きな声を出してしまって」

 

「いいのよ。私が悪かったから。ベル、あなた彼にそっくりよ?外見もそうだけどその心意気まで。きっとこの双剣を使いこなせるわ。ベルに合わせて打ち直すからしばらく時間をちょうだい。この剣の能力もできる限り調整してみるわ」

 

そういうとベルからヘファイストスは双剣を受けとった。双剣は白く光り輝く。

 

「ロキ、他に何か用事はある?ないなら私はこの剣の研究と打ち直しをしたいのだけど」

 

「そやそや。ファイたんのところにヴェルフ・クロッゾってやつおる?」

 

ロキがそういうと先ほどまでヘファイストスの隣にいて今は視線を向けないようにしていた青年がロキに向かって言い放った。

 

「俺は誰になんと言われようが誰が相手だろうがいくら金を積まれようが魔剣は打たない」

 

ロキはいきなり食って掛かってきた青年に対してキレそうになるがベルやアイズの手前我慢する。

 

「何を勘違いしているかわからんしウチは興味もない。おまえそもそも誰や?」

 

「俺はヴェルフ・クロッゾ。あんたは俺に魔剣を依頼しに来たんじゃないのか?」

 

青年もイライラした様子で答える。最近彼の元に魔剣を造ってくれという依頼が多く集められているようだ。

 

「ヴェルフっていったか?みたところレベル1みたいやけど...レベル1の鍛冶師に魔剣なんか打てる訳が...ん?...そういえばクロッゾって家名どこかで聞いたことがあるような気がすんねんけど...」

 

ピリピリした空気の中視線を外したヴェルフがベルの方を向いた...瞬間...

 

「も...もしかして...その防具は俺の兎鎧(ぴょんきち)じゃないか!?」

 

うおーーとベルの方にヴェルフが突進してベルの装備している防具を確認する。

 

「やっぱり兎鎧(ぴょんきち)だ!俺の防具を使ってくれてるのか!使い心地はどうだ!?耐久力は!?ああーーうまくお前の体に合ってないな...すぐ調整しよう!」

 

先ほどの雰囲気とは打って変わりヴェルフは自分の防具を使ってもらえてうれしいようで一方的に話を進める。

 

「ええと...あの...この防具に触った瞬間気になってですね...」

 

ベルはヴェルフの豹変ぶりに戸惑っている。

 

「こら、ヴェルフ。相手が困っているでしょう?自重しなさい!」

 

ヴェルフはハッとなりベルから一歩離れる。

 

「すまねえ...俺の武具が初めて使ってもらえてついつい興奮しちまった」

 

ヴェルフは素直に謝った。

 

「いえいえいいんですよ。気にしないでください。今日はこの防具の製作者であるクロッゾさんに僕が会いたくて来たんです。だからそのー...魔剣?がどうこうというのは違くてですね...」

 

ヴェルフはしまったという顏をした。完全に勘違いをしていたのだ。ただ異常なまでの魔剣に対しての反応はなんだったのだろうか...

 

「す...すみませんでしたぁ」

 

ヴェルフは腕組みをして先ほどのベルとのやり取りを眺めていたロキに対して深々と頭を下げた。

 

「いやウチはおもろい奴は好きやから気にせんでええ。それにベルもお前のこと気に入ったみたいやしな。魔剣がお前にとってなんなのかはわからん。やけどそれほど大事なことなんやろ?」

 

ヴェルフは無言で頷いた。後にヴェルフはベルに語ることになる。

 

「ヴェルフっていったか...ベルも少し二人で話したいようやしウチとアイズたんしばらく外にいるからゆっくり話していいで?」

 

アイズも先ほどのやり取りを見ていてロキと同じ思いだったらしく隣で頷いていた。

 

「なら私もしばらく外に出ているから二人でゆっくり話してみなさいな」

 

ヴェルフはありがとうございますと3人に頭を下げた。扉をあけ3人は退出した。

 

「さて...自己紹介からしっかりやろうぜ!俺の名前はヴェルフ・クロッゾ。ヘファイストスファミリアのレベル1の鍛冶師だ」

 

ヴェルフはそういって右手を差し出した。ベルはその手を握り自己紹介をする。

 

「ベル・クラネルです。ロキファミリア所属のレベル1の冒険者です!」

 

よろしくお願いしますっとベルは頭を下げた。

 

「なあベル!俺の防具のどこがよかったか教えてくれないか?冒険者に俺の防具使ってもらうの初めてなんだ!」

 

ヴェルフは爽やかな笑顔を浮かべてベルに尋ねる。

 

「えと...クロッゾさんの...」

 

ベルがクロッゾという家名を言うとヴェルフは顔をしかめた。

 

「ベル...そのクロッゾさんっての止めてくれないか?そういわれるの嫌いなんだ...」

 

「じゃあヴェルフさん?」

 

「さんづけか...まあ今はいいか...んでどこがよかった!?」

 

うーんと考えた後ベルは答えた。

 

「ヴェルフさんの防具をみた瞬間すごく惹かれて...それで装備してみたらとても軽いのに丈夫で動きやすくて僕にぴったりだと思ったんです」

 

ヴェルフはふんふんいいながらベルの意見を聞いている。

 

「うまく言えないんですが...なにか運命的なものを感じたんです」

 

ふむ...とヴェルフも腕を組んで考え込んでいる。

 

(ベルはいい目をしている、純粋に俺の防具が好きだという気持ちが伝わってくるぜ...こういうやつを俺は待っていたんだ...)

 

「なあベル。お前はロキファミリアだからウチの他の...俺よりもっとすごい職人が作った武具を使える状況にもある。今回ロキファミリアに試作品としてもっていったものの中で俺の防具が一番レベルが低いといっても過言ではない。その中で俺の防具を選んでくれたお前に俺も運命を感じたんだ」

 

ヴェルフの気迫のこもった言葉にベルはごくっと唾を飲み込む。

 

「俺はまだレベル1で鍛冶のアビリティもない職人だ...だがいずれ団長椿・コルブランドを超える武具を造る。そして最終的には神を...ヘファイストス様を超える職人になってみせる。だから...俺をお前の専属として雇ってくれないか?」

 

「あ...あの...ヴェルフさんはなぜ僕にそこまで...?僕はまだダンジョンにも潜ったことがない初心者なんですよ!?」

 

ベルはヴェルフが自分にそこまでいう理由がわからなかった。

 

「こういう職業やっているとな...ベル。使い手を見る目が大事になってくるんだ、自分が魂を込めて造った武器や防具を大事にしてくれるかどうかってさ...。俺は物心ついた時から親父やじいさんの手伝いをしながら武具を造ってきた。その経験が...俺の職人としての血が...魂が...お前を逃がすなっていっているのさ。お前はすげえ存在になるってな」

 

ヴェルフの言葉をきいてベルも己の決意を言葉にする。

 

「僕は...まだまだ弱いですがいずれは英雄と呼ばれる存在になりたいんです!仲間や家族を護れるような存在に...アイズ・ヴァレンシュタインを護れるような存在になりたいんです!」

 

お互い顔を見合わせ笑いあう。

 

「ベル...お前もでっかい夢もってんなー!いいぜそういうの!益々気に入ったぜ!それにしてもあの剣姫の英雄になるなんておまえ...もしかして剣姫に惚れてるのか?」

 

ベルはボフッと吹き出す。

 

「いえ...あの...そういうのじゃなくてですね...あのー...」

 

ベルは顔を真っ赤にして俯く。

 

「はっはっは。いいって!わかったよ!それでどうだ?ベル」

 

「ヴェルフさん、僕もヴェルフさんの神を超える武具を造るって言葉信じたいと思います!まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします!」

 

「おう!契約成立だ!これから俺とお前は対等で仲間だ!俺の事はヴェルフって呼び捨てにしてくれよ」

 

ベルは大きく頷いた。

 

「うん!よろしく...ヴェルフ!」

 

ガシッともう一度握手をした。

 

「ヴェルフ...ひとつ筆問してもいい?」

 

ヴェルフは首をかしげる。

 

「ん?なんだ?」

 

「魔剣ってヴェルフにとってなに?」

 

先ほどのロキとのやり取りをみていてヴェルフにとって魔剣というものがなんなのかベルは知りたかったのだ。

 

ヴェルフの表情が暗くなる。

 

「そうだな...ベル。もう少し俺の気持ちが落ち着いたら教える。...それでもいいか?」

 

ヴェルフがそれほどまでに話さない理由...よほどのことがあるのかもしれない。

 

「うん。わかったよヴェルフ!ヴェルフが話せるようになったら話してよ!」

 

ありがとう。助かる...そういってヴェルフはまた爽やかに笑った。

 

「さてと...当面の問題として俺の実力不足がなぁー俺の力量がベルの命にかかわってくるんだから早くランクアップして鍛冶のアビリティ手に入れないと...」

 

バターンッッドアがすごい勢いで開く。

 

「話は聞かせてもらったぞヴェル坊。手前がお前のランクアップ手伝ってやろう。無論拒否権はなしじゃ!」

 

 

 

 

時は少し遡る

 

扉をでたロキは扉を閉めた瞬間扉にピタッとくっつき中の会話を聞いていた。

 

「くふふ...なんやおもろい展開になりそうやなー」

 

アイズは首をかしげている。

 

「ロキ...?なにやってるの?」

 

にやにやしながらロキは答える。

 

「なんかあの二人ええ感じやん?最初はちょいむかついたけどなんやええ子やないか。なあファイたん?」

 

ロキはヘファイストスの方に視線を向ける。

彼女は額に手をあてて溜息をつきながら答える。

 

「あの子、すさまじい能力と才能をもっているのだけれど...なかなか複雑なのよ...」

 

ロキは何かを思い出したように手をポンっと叩く。

 

「思い出したでぇー!クロッゾの一族...たしかかつて魔剣を大量に造った一族やな」

 

「そうよ。クロッゾの一族...初代クロッゾはただの鍛冶師だった。ただ純粋に鍛冶をするのが好きな男だったらしいわ。ただある日、彼が湖のほとりでモンスターに襲われて大けがをした精霊を助けたの。ただ助ける時に彼も生死を彷徨う大けがをした。その時に精霊が彼に自分の血を飲ませて助けたみたいなの。それ以来精霊の血の恩恵からなのか彼は様々な能力をもつ強力な魔剣を打てるようになったの。ただ...」

 

ヘファイストスは悲しそうな顔をする。

 

「その鍛冶師は自分の力だけで鍛冶師として最高の武具を造ることが夢だったの。それが精霊の血の恩恵でもう夢が叶うことはなくなった。絶望したらしいわ。それ以来彼は鍛冶師を止めて暮らしたそうよ。でも...彼の子供が生まれてその子が鍛冶師になりたいといって剣を打ったの。その剣は強力な力を持った魔剣だった...それ以来代々クロッゾの一族には誰にでも強力な魔剣が打てるようになってしまったのよ」

 

(精霊の血...私にも流れている血...」

 

アイズは自分の手をギュッと握った。

 

「何代目のクロッゾかはわからないけど王国がその魔剣の力に目を付けたの。クロッゾの魔剣は一振りで海を燃やし、一振りで大地を割ったそうよ。王国はクロッゾの一族に貴族の地位を与えて定期的にクロッゾの魔剣を献上させた。金と地位に目が眩んだ一族の者たちは次々に造ったそうよ。王国は他の国を侵略する為にクロッゾの魔剣を何本も使い山を燃やし、大地を破壊し、湖を干上がらせた。エルフの森や精霊達が好んで住んでいた湖を破壊したことが精霊の王の逆鱗に触れたようなのよ。それ以来全てのクロッゾの魔剣は粉々に砕け散り王国も戦争に負けクロッゾの一族は貴族の地位をはく奪された...そして2度と魔剣を打てなくなった。一人を除いてね」

 

大体このような歴史だったと思う、とヘファイストスは語った。

 

「なるほどなぁーあの子、例外的に魔剣が打てるようになってしまった...ということやんな?」

 

ヘファイストスは頷く。

 

「ヴェルフはもしかしたら初代クロッゾと似ているのかもしれないわね...彼も職人気質な性格だから...他の団員達は彼の資質に嫉妬したり彼の態度が気に入らなくてなかなかパーティを組んで冒険ができないのよ...だからいまだにレベル1なの」

 

「難儀な話やな...」

 

そうこうしているとヘファイストスファミリアの団長である椿が前から歩いてきた。

 

「主神様、ヴェルフをしらんかの...おや、ロキに剣姫ではないか。というよりロキは扉に耳をつけてなにをやっておるんじゃ」

 

ヘファイストスが椿に説明中...

 

「あいわかった。ちょうど手前もヴェルフを鍛えてやろうかと探していたところでな、そろそろ鍛冶のアビリティを手に入れないとあやつ程の才能、もったいないからのぉ」

 

椿はそのまま無造作に扉を開けた。

 

 

「話は聞かせてもらったぞヴェル坊。手前がお前のランクアップ手伝ってやろう。無論拒否権はなしじゃ!」

 

 

 

時は戻る...

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

今回はベル君がヴェルフと会うシーンを書きました。

基本的に一回の更新で10000文字以下にして読みやすいようにしようと考えておりますので
一回この段階で更新いたします。

次回はこの話の続きとオラリオの町散策?アイズとデート?を書きたいと思います。



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19  ベル・クラネルの一日 2

椿が扉を豪快に開け部屋へと入ってきた。


ビクッッ突然の椿の来襲にベルとヴェルフは硬直した。

 

「ヴェル坊...何を呆けておる。手前がお主のランクアップに協力するといっておるのじゃ。そっちの白くてかわいいのがベル・クラネルじゃな?噂は聞いておるぞ!剣姫のこれじゃろ?」

 

椿は小指をたてる。ベルはなんのことかわからず首をかしげている。

 

「じゃから...剣姫の恋人なんじゃろ?」

 

((!?))

 

(ベ...ベルが私の恋人!?ええ...と...嫌じゃ...ないけど...まだ早い...かな)

 

(ええ!?ぼぼぼ僕がアイズさんの恋人!?いつのまにそんな事に...というか僕なんかじゃ...)

 

ベルがちらりとアイズを見ると目があいお互い顔を赤くして下を向いてしまう。

 

「なにをいっとるんや椿。二人ともウチのもんや!」

 

「いやロキのものではないでしょ!?」

 

いつもはクールなヘファイストスがつっこみを入れる。

 

 

椿はそんなみんなを見ながらカカッと笑う

 

「まあ冗談はさておいてじゃ、一応ヴェル坊の意見も聞いておこうかの」

 

ヴェルフもベルたちを眺めて笑っていたが椿の問いかけに神妙な顔つきになる。

 

「俺は...」

 

「ヴェル坊、お前が何を考えてるか手前にはわからん。じゃがお前の意地とベルの安全どちらが大事じゃ。よく考えろ」

 

「...」

 

(意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。)

 

ヴェルフは自身が敬愛するヘファイストスに言われた言葉を思い出していた。

ベルの方に目を向ける。ベルは黙ってヴェルフの方を見ていた。

 

「椿...俺を強くしてくれ...いや...してください」

 

ヴェルフはそういって頭を下げた。

 

「カカッ、素直じゃないかヴェル坊。手前がお主の鍛錬のメニューを考えてやるからまた明日にでも部屋へ来い」

 

ヴェルフは頷いた。

 

(ベルは俺にとって初めてできた仲間なんだ。意地なんか張ってる場合じゃねえよな...)

 

「ところでベル。おまえ主神様に武器を渡したのはいいがあの双剣だけ使う訳じゃないじゃろ?他にはどんな武器を扱うんじゃ?」

 

椿は改めてベルのつま先から頭の先まで眺めて背丈や腕の長さを目測した。

ベルは狩猟用に使用していたナイフを椿に手渡した。

 

「これか!?これじゃまともに訓練もできんじゃろ...ふむ...」

 

椿はその豊満な胸を強調するように腕を組む。

 

ロキがぐへへっと涎をたらしそうな勢いでその様子をみて手をワキワキさせる。

 

椿は何事か思いついたようでつかつかとベルの方に歩いていく。そしてなんの警戒もしていないベルを

その豊満な胸で抱きしめた。

 

(むぐぅ...い...息が...)

 

「んなぁ!?椿何してんねん!?そんなうらやま...けしからんことを...」

 

「な...」

 

アイズは茫然と目の前の様子を眺めている。椿に少しでも悪意があればアイズも動くことができたが無造作に行われたので動くことができなかった。

 

「ちょっと椿なにしてるの!?」

 

ヘファイストスも椿の突然の行動に戸惑っていた。

 

「...」

 

ヴェルフは口をあけたまま硬直している。

 

「いや中々に将来性のあるいい男だと思ったのでな、今のうちに唾をつけておこうかと思っての」

 

「ベルを返してください」

 

アイズが椿の言葉をきいて瞬時に椿からベルを回収し自分の胸で抱きしめた。

 

(むーむー) 

 

ベルが何か言っているが聞き取れない...

 

ベルはレベル5のアイズと椿に抱きしめられ今の状況を堪能するどころではないようだ。

 

(アイズたん焼きもちやいてるやん...アイズたん萌えーーーー!)

 

「カカッ剣姫も女子じゃの。詫びといってはなんだが手前の造った武器をベルにやろう。儂の工房にある物から好きな物を選ぶといい。選んだら手前がベルに合わせて打ち直してやろう。なあに時間はかからないから安心しろ」

 

(なるほどなぁ、椿のやつやるやん。ベルは普通にあげたら絶対断りそうやけどお詫びとして渡せば抵抗はあっても素直にもらうやろ。しかしベルに武器をあげる理由はいまいちわからんな...)

 

「ベル、折角の椿の好意や。もらったらええわ...アイズたーん。そろそろベル放してやりぃーぐったりしとるで。」

 

ベルは息ができなく窒息寸前だ...しかしアイズという美少女の胸に抱かれて気絶するなら本望かもしれない...

 

アイズはベルの状態に気が付き解放する。

 

「ご...ごめんねベル。大丈夫?」

 

「げほげほっっだ...大丈夫です」

 

「うむ。ベルも大丈夫みたいじゃな。それでは手前の工房に行こうかの」

 

椿はそういうと先頭にたち部屋を出て自分の工房に向かっていった。

 

小声

 

「椿、あんなこと言ってベルに武器あげたいなら普通に言えばいいのに。ベルが遠慮するからあんなことしたんでしょ?」

 

ヘファイストスが小声で椿に話しかける。

 

「主神様よ、半分正解で半分不正解じゃな。儂がみたところあやつは強くなるだろう、ヴェルフもベルのおかげでようやく変われそうじゃ、それのお礼も含めてというところじゃな...それに外見も好みじゃ!」

 

「椿ってベルみたいな子が好みなの?たしかにウチのファミリアにはいないタイプの子ね。」

 

ヘファイストスファミリアは鍛冶専門のファミリアなので皆男はたくましい体の者が多い。ベルのような子はとても貴重なのだ。

 

「うむ。かわいくていいじゃろ?」

 

「たしかにね。あの容姿で戦う時は凛々しいなんてことされたらベルのファンは多くなるでしょうね。ただその場合剣姫に喧嘩売ることになりそうね...」

 

剣姫の逆鱗にふれたらどうなることか...想像しただけでも恐ろしい...

 

現在ベルはアイズとロキに手を引っ張られよろよろついてきている。

 

「着いたぞ。ここが手前の工房じゃ!」

 

ヘファイストスファミリア内にある椿の工房、他の団員達の工房より一回り大きく壁にはいくつもの素材アイテムや武具が並べてある。深層域でしか発掘できないアダマンタインや現在発見されているモンスターの中で最強クラスのカドモスの爪もある。

 

「すごい...」

 

ベルは目を輝かせて工房の中を見て回っている。見たことのないような刀剣類や重厚そうなプレートメイルなどワクワクするようなものばかりだ。ベルはその中でも巨大なバトルアックスが目にとまった。

到底自身では扱うことができない代物だが見ただけで業物とわかるほど威圧感のようなものがでている。

 

「椿さんこれは...?」

 

「なんじゃベルはこれがいいのか?さすがにおまえさんには扱えないと思うんじゃが。じゃがすまんの。これはある人からの依頼での、特注で造っている最中の物なんじゃ。そこのプレートメイルもそうじゃ」

 

同じくかなり重そうだが業物だとわかる。

 

「こ...こんな重そうな物使える人がいるんですね。尊敬しちゃいますよ。僕なんかじゃ持つこともできないと思います...」

 

 

ベルのその言葉を聞いてアイズがバトルアックスをひょいと持ち上げビュンビュン振り回す。すさまじい速度で振り回されるバトルアックスはベルの目では認識できない速度になっている。

 

「ちょっアイズたん!そんなん当たったらウチら即死やで...」

 

「す...すごいですアイズさん!かっこいいです!」

 

ロキは顔をひきつらせているがベルは目をキラキラさせてアイズを見ている。

アイズはベルの声を聞いて照れつつ振り回すのを止めバトルアックスを棚に置いた。

 

(アイズさんあんなに腕細いのに持てるんだ。以外に軽いのかも...)

 

「僕も持ってみていいですか?...ん...あ...あれ...持ち上がらない...」

 

ベルはバトルアックスを持ち上げられる事ができずにプルプルしている。

 

「カカカ、まだレベル1のベルには無理じゃろ。頑張って努力することじゃな。」

 

ベルは自分の腕とアイズの腕を見比べている。

 

「ベル。んと...そんなに見られると...ちょっと恥ずかしい...」

 

アイズは頬を染めて腕を隠そうとしている。

 

(剣姫のこんな表情みたことないわね...ロキが何回かウチに連れてきたことがあるけどその時は人形のようだったのに...)

 

ヘファイストスは今までのイメージと現在のイメージが大きく違うことに驚いていた。

 

「ベル、冒険者を外見で判断したらあかんでぇー。フィンとかみてみい、オラリオの中でも間違いなくトップ10に入る実力者やで。あの姿から想像できんやろ。」

 

「た...たしかに。」

 

(僕も頑張らなきゃ...毎日腕立て伏せとかしよう...)

 

ベルがそんなことを考えている中ヴェルフは椿の武具の出来栄えに悔しさを感じていた。

 

(ちくしょう...やっぱり俺なんかより遥かにいい出来だぜ。置いてある素材も半端ねえもんばっかだ。くそ...負けねえぞ)

 

ヴェルフにもいい刺激になったようだ。

 

「さてベル。どれにするか決めたか?気にすることはない、ここにあるものは試作品じゃからな。値段はつかん」

 

(いやいや、椿が造ったもんならどんな武具でもかなりの値段になるやろ)

 

「で...でも本当にいいんですか?」

 

「手前がいいと言っておるだろう。それでも何かしたいというならお前がこれから強くなって儂の顧客になってくれてもいいぞ?」

 

「ええ!?こ...顧客ですか!?」

 

「なあ!?椿何言ってんだ。ベルは俺の顧客だ!」

 

「ほう?ヴェル坊。儂よりいい武具が造れるとでも?」

 

ヴェルフは険しい顔をする。

 

「今は造れない...だぁーっっ椿!明日にでもダンジョンに連れて行ってくれ」

 

「カカッッ了承した。冗談じゃからベルも気にするでない。それでどれにするのじゃ?」

 

「ええっとこれとかどうでしょうか?」

 

ベルが手にしていたのは細身の長剣だった。シンプルな造りだがベルは気に入ったようだ。

 

「ふむ、それがいいのか。それは中層用に造ったものだな。中層で発掘できる複数の鉱石と複数の素材アイテムを使用してある。それなら軽くミノタウロスの肉を切断できるくらいの破壊力と耐久性がある。」

 

「あの...ミノタウロスってあの英雄禄に出てくるミノタウロスですか!?」

 

ベルは昔祖父に聞いた英雄禄に出てくる牛の化け物を思い出していた。その化け物は怪力と鋼の肉体で英雄達と死闘を繰り広げていた。

 

「ベルがどのミノタウロスのこといってるかわからんが多分想像しているやつと同じだろう」

 

「ミノタウロスかぁ...中層って僕いけるんですか?」

 

「ベルはまだ駄目...中層はレベル2になって更に複数人のパーティーを組まないといけないの。私が一緒なら行くことはできるけどまだダンジョンに慣れていないベルはそれでも危険があるから」

 

「アイズたんの言う通りや、ダンジョンをあまく見たらあかん。どんなに強い奴でも少しの油断で死ぬこともある。それがダンジョンや!」

 

(ベルはまだその辺の考えがわかっとらんみたいやな、リヴェリアに教育してもらうか...)

 

「す...すみません。」

 

「謝らなくてもええ、ベルはまだダンジョンで実際にモンスターも見たことがないんやからな。まだまだこれからやこれから!」

 

「焦らなくていいよ...徐々に慣れて行こうね」

 

「はい!アイズさん!」

 

俯いていたベルだったがアイズの言葉で顔をあげて元気よく返事をする。

 

「手前はこれからベル用にこの剣を打ち直すからしばし待て、これならさほど時間はかからん、この部屋は熱くなるからしばらく先ほどの部屋で待っていてくれるか?」

 

ベル、アイズ、ロキは頷き先ほどの部屋へ戻って行った。

 

「ヴェル坊!儂のサポートをせい!」

 

ヴェルフは黙って頷き椿の作業をあますことなく見ていた。自分に足りないもの、自分にない物を見て覚えようとしているようだ。

 

そんな二人をヘファイストスは笑顔で眺めていた。

 

(人の作業を見ることなんてなかったヴェルフが素直に椿の手伝いをしている。ベルと出会ったことでヴェルフにもいい影響があったみたいね。私も気合を入れて双剣を打ち直すわ。)

 

数時間が経過した。

 

椿とヴェルフが部屋へと入ってきた。二人は汗だくであったがその顔は晴れやかだ。

 

 

「これが手前の造った長剣、名は白狼じゃ。持ちごたえはどうじゃ?」

 

ベルは椿から白狼を受け取り鞘から抜いて持ちごたえを確かめる。

 

「僕の手に吸い付くようです!本当に本当にもらっていいんですか?」

 

「カカッッ謙虚なのは悪いことではないが手前がいいといっているんじゃから素直にもらえい!」

 

小声

 

「ベル、あんまり断ると相手にも失礼になる場合があんねん。こういう場合は素直に受け取って今度金溜めて何か買えばええんや!」

 

ベルはなるほどっと頷き頭を下げて白狼を腰のベルトに収納した。

 

「ベル、防具に不具合があったらすぐに俺に行ってくれ!店のカウンターで俺の名前を出してくれればいい。」

 

「ありがとうヴェルフ!僕強くなるから!」

 

二人はがしっと握手をする。

 

(男と男の友情...ええもんやね!)

 

「んじゃそろそろ帰るか、行くでアイズたん、ベル」

 

わかりましたと頷き二人はロキに連れられ店を出る。

 

店を出る際にヘファイストスが見送りに来てくれていた。とことことベルがヘファイストスの元に歩いていき一つ質問をした。

 

「ヘファイストス様。ヘファイストス様は僕の双剣の他には武器はもう造らないんですか?僕...」

 

小声

 

「武具なら作っているわ、今は秘密だけどある人物から依頼を受けているの。私を心配してくれてありがとう」

 

ヘファイストスはベルが何をいいたかったか理解しお礼をいいベルの髪を撫でた。

 

「ベルこれから頑張ってね!」

 

「はい!」

 

ベルは待っている二人の元に走って行った。

 

 

「さて二人共、これからどないするん?」

 

「これからベルとオラリオの町を回ろうかと思っているの、ベルもそれでいい?」

 

ベルは隣でこくっと頷いた。

 

(ベルとって...二人で行きたいってことやんな...酒でも買うて帰えろ...)

 

「ん!それじゃ夕飯までには帰るんやで!」

 

「あ...あのロキ様?若干涙目になっているような...?」

 

ロキは目をごしごしこすりニカっと笑った。

 

「あくびしただけや、夕飯までそんなに時間ないで?早くいかんと」

 

わかりました。そういって二人は夕暮れの活気あるオラリオの町を歩いていく...」

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます<m(__)m>

今回は全快に続きヘファイストスファミリアでのお話でした。

ヴェルフはいつ魔剣打つようになるんですかねー(ー_ー

次回はベルとアイズがオラリオの町を見て回ります、そしてベルがお世話になっている皆にお礼がしたいようです...

感想ありがたいです。これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします<m(__)m>


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20 ベル・クラネルの一日 3

オラリオは夕日に照らされる...


夕暮れのオラリオはダンジョンから帰ってきた者や夕食の買い出しをしに来ている人で溢れている。

ある者は仲間と共に今日のダンジョンでの成果を語り合い,

ある者は今日はどこで夕ご飯を食べようかと相談している者達もいる。仲睦まじく手をつなぐ男女が寄り添いながら歩いている姿もみかける...

 

「ベル、どこに行こうか」

 

ヘファイストスファミリアの帰りにアイズはベルとオラリオの街を散策する予定だったが自分からどこかへ行きたいと今まで考えたことのないアイズは回復薬などが売っている店や武具関係の店しか知らなかった。

故に今はただ二人で街を歩いている状態だ。

 

(ベルのこと案内しようと思ったのに...私この街のこと詳しく知らない...どうしよう...ベルも私なんかと歩くの嫌だよね...)

 

アイズは自分が案内するはずがうまくいかず自己嫌悪におちいっている。潤んだ瞳でベルの方を見るとベルの紅い瞳と目があった。

 

 

この雑踏の中でもアイズの姿はよく目立つ。金色の美しい髪は夕日を浴びてキラキラと光り輝いていた。その姿はどこか幻想的な雰囲気をかもしだしていてすれ違う人全てが振り返るような美しさだ。

そんなアイズの視線を浴びたベルは一瞬で赤面する。

 

(やっぱりアイズさん...かわいいなぁ...)

 

普段は普通に話せるようになってきているベルだがふとした瞬間に見せるアイズの表情は今まで見てきたどの人よりもかわいく見える。そんなアイズがどこに行くか困っていることを察知したベルは答えた。

 

「えと...僕はアイズさんと歩いているだけでも楽しいです...」

 

自分で言っていながら恥ずかしさのあまり後半部分は声が小さくなってしまっていた。

 

ベルの言葉に照れつつアイズも答える。

 

「そう...私もベルとこうしているだけで楽しい...よ?」

 

お互い頬を赤く染め手が触れるか触れないかという距離で道を歩いている。

誰にもぶつからないのは上手く周囲の人がよけてくれているようだ。

 

ぐぅっっベルのお腹がなる。

 

「ベル、お腹すいてるの?」

 

アイズはくすっと笑いながら問いかけた。

 

「えと...はい...朝あまり食べれなくて...お昼も食べなかったのでちょっとお腹すきました」

 

アイズは何か思いついたようでベルの手を握り歩き始める。

 

「もう少し行ったところに私のお気に入りのお店があるの...すごく美味しいからベルも気に入ると思う」

 

「どんなお店なんですか?」

 

「じゃが丸くんだよ」

 

「じゃが丸くん...?」

 

そんなやりとりをしている間に目的の屋台の前に到着した。

 

「じゃが丸くんの小倉クリーム味2つとプレーン2つください...今日はいつもの店員さんいないんですか?」

 

この屋台の常連でもあるアイズはいつもここで立ち話...(店員側からの一方的な愚痴)を聞いておりそれが日課になっていた為、あまり他人に興味のなかったアイズもその店員のことは覚えていた。

 

「今日はまだ来ていないのよぉ...全く遅刻してくるなんて減給ものね...」

 

屋台のおばちゃんも困った表情を浮かべている。

 

そうですかっとアイズはお金を払いじゃが丸くんを受け取った。

 

「はい、ベルの分」

 

じゃが丸くんの包みを手渡される。

 

「あ...僕お金払いますよ?」

 

そういってあわてて財布からお金を出そうとするベルだったがアイズに止められる。

 

「んと...じゃが丸くん食べたかったのは私だから...いいよ?」

 

アイズの好意を無下にすることもできずおろおろしているベルに助け舟をだした。

 

「じゃあ...今度一緒に来た時にベルが買ってくれたらうれしい...かな」

 

「わかりましたアイズさん!今度は僕が絶対買いますね!」

 

二人とも意識はしていないが他人がこの会話を聞いたら普通にデートをしているカップルの会話のようである。歩きながらじゃが丸くんを頬張る

 

「じゃが丸くんって揚げたジャガイモなんですね...周りはパリパリしているのに中はホクホクですごくおいしいです!プレーンもおいしいですけど...僕この小倉クリーム味すごく気に入りました!」

 

「私も小倉クリーム味が一番好きなの...同じだね。ベル、口の周りについてるよ?」

 

口の周りをこするがうまく取れないようで口の横についたままになっている。

こっちっとアイズが口の横のじゃが丸くんを取りそのまま自分の口に入れた。

 

「あああアイズさん!?」

 

「あ...ごめんね?嫌だったよね?」

 

ベルは今にも火を噴きそうなくらい赤面している。周囲の男から嫉妬の視線が浴びせられる...

 

「全然嫌じゃないです!けど恥ずかし...うわっ」

 

アイズの突然の行動に動揺していたベルは前方から走ってくる子供とぶつかって転んでしまう。

 

「ご、ごめんよ?大丈夫だったかい?バイトに遅れそうで急いでいたから...」

 

ベルは子供に押し倒されている状態だ、背は小さいのに目の前にたゆんと揺れるものに目が奪われる。

 

「そんなに見つめられると照れちゃうじゃないか...おおっと時間がないんだった。そこの屋台で働いているから今度食べに来ておくれよー」

 

そう言い残して女の子はかけて行った。屋台の方からおばちゃんの怒る声が聞こえてくる。

 

「ヘスティアちゃん遅いじゃないかい!」

 

「ごめんよおばちゃん...寝過ごしてさぁ」

 

そんな声が聞こえる。

 

「ベル...大丈夫?」

 

立ち上がりじゃが丸くんの無事を確かめ頷く。

 

アイズはベルの視線が女の子の胸に注がれていた事に気が付いていた。

 

「ベルもやっぱり大きい方が...なんでもない」

 

アイズは自分の胸に手を当てて何事か考えているようだ。

 

「今の人がアイズさんがさっき言ってた人ですか?すごくかわい...」

 

(ベルよ...女子と二人でいるときに他の女子を褒めるものではないぞ...)

 

祖父が昔教えてくれた知識が脳裏に浮かんだベルはハッとなり咳払いをして愛想笑いを浮かべる。

 

そんなベルを不思議そうに眺めているアイズだが特に気にしなかったようでもぐもぐじゃが丸くんを食べ始めた。

 

それから二人は黄昏の館までの道のりでアイズの知っている回復薬が売っているお店などを見物しながら歩いていた。

 

現在二人がいるのは食料品を扱う市場のようなところだ。

 

「僕ここ知ってます!ミアさんと食材の買い出しに来てました!」

 

「ベルって料理作れるの?」

 

「僕村でも作ってましたしミアさんにいろいろ教えていただいて結構得意なんですよ?」

 

「そ...そうなんだ...」

 

アイズは家事全般をほとんどしたことがないので料理などもちろん自分で作ったことはない。

 

「昔僕のおじいちゃんがいってたんですが女の子の手料理は男のロマンらしいので僕もいつか女の子の手料理食べてみたいですね...」

 

(むむ...手料理...)

 

そんな話をしていると市場の人達に声をかけられる。

 

「おや、兎ちゃんじゃないか!今日も買い出しかい?今日はオラリオ大根がお勧めだぜ!」

 

ベルはこの市場の人達にその外見から兎ちゃんと親しみをこめて呼ばれていた。

 

「今日はミアさんは一緒じゃないのかい?」

 

「随分とかわいい子を連れているじゃ...まさか剣姫!?もしかして兎ちゃん...」

 

ベルは元気よく答えた。

 

「はい!僕ロキファミリアに入団決定しました。皆さんいろいろと心配してくださってありがとうございました」

 

市場の人達とはいろいろな情報交換(世間話)をしていた為どこかのファミリアに入るまで豊穣の女主人で働いているという話を皆知っている。そんなことがありベルの言葉を聞いて市場の人達は歓声をあげる。

 

「うおーーー俺たちの兎ちゃんがあのオラリオ最強派閥のロキファミリアにはいったってよ!」

 

「もう豊穣の女主人では見れないのか...残念だけどおめでとう!」

 

「お祝いだ!これ持ってきな!」

 

そういって大きな鯛という魚を手渡される。

 

「ええ!?いただけませんよ!?こんな高い魚...」

 

ベルはこの魚が高額なのを知っている為手をぶんぶんふって遠慮している。

 

「いや俺たちみんな兎ちゃんのファンなのさ...このぐらいさせてくれよ!本当におめでとう!」

 

他のお店の人達もいろいろな食材を渡してくれる。ベルの両手は野菜や果物、肉、魚でふさがっている。

 

「ロキファミリアでは誰が料理作るかわからないけど全部持って行ってくんな!」

 

ベルは困った表情をしていたが今度お金を溜めて何かお礼をしようと考えこの場は素直に受け取ることにした。

 

「皆さんありがとうございます。僕これからロキファミリアで頑張ります」

 

そういってぺこりと頭を下げた。ベルの表情は照れがあるもののとても凛々しく見えた。

 

そんなベルをアイズは優しい眼差しで見つめていた。

 

(ベル...明日から訓練始まるけど一緒に頑張ろうね)

 

今からどうやってベルを訓練しようか考えると自然に顏がにやけている自分がいることにアイズは気が付いていない...

 

「あっ!」

 

ベルが唐突に声をあげる。

 

「ちょっとだけ豊穣の女主人に寄ってもいいでしょうか?ミアさんに合格したら報告しろと言われているの忘れていました」

 

ベルは怒ったミアの顔を思い出しプルプルしている。

 

「うん...いいよ、帰り道だしちょっと寄って行こうか」

 

そのまま道を歩いていき豊穣の女主人に到着する。まだ開店前のようで店の前でアーニャが掃除をしている。

 

 

「ごめんにゃ、開店はまだにゃ...にゃ!白髪頭!」

 

アーニャは驚いた表情を浮かべる。

 

「アーニャさん、ミアさんはいますか?ご報告に来たんですが...」

 

「にゃ、ちょっと待つにゃ!ミア母ちゃん白髪頭が女の子連れて来たにゃ!」

 

「ちょっ...アーニャさん、そんな言い方しなくても普通に呼んでくださいよ!?」

 

ベルはアーニャの微妙な言い回しにあたふたしている。するとミアより先にシルとリューの二人が店から出てきて二人に声をかけた。

 

「ベルさんお待ちしてました!その様子だと無事入団できたようですね。おめでとうございます」

 

「クラネルさん、数日しかたっていませんが以前よりいい顔をしているように見えます。おめでとうございます」

 

シルはベルとアイズの距離が心なしか近いような気がして内心むっとするがベルが元気そうなので気にしないようにした。リューも同様に気にしている様子を一瞬みせたがいつもの表情にすぐに戻り淡々と会話している。

 

するとノシノシとミアが店から出て顔を出した。

 

「ベル、いい顔になってるじゃないか!その顔見るだけでわかるよ。ロキ様んとこに入れたんだね。おめでとう。私がやった酒は飲んだかい?...というかなんだいその大荷物は?」

 

ベルは先ほどの市場でのやりとりを説明した。

 

「ああ...なるほどね。今度行ったら私からもお礼をいっておくさ」

 

「ありがとうございます!すみません、僕まだ飲む機会がなくてお酒飲んでません」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

「いいさ、腐るもんじゃない。機会を見て飲んでくれればいいさ。ちょっと今手が離せなくてね、またこの店に食べに来ておくれ!」

 

ちょうど開店前の忙しい時間帯ということを忘れていたベルは慌てて頭を下げまた今度ゆっくり来ますといってシルやリューに見送られて店を後にした。

 

豊穣の女主人を後にして二人でテクテク歩く。

 

「そういえばロキファミリアの夕食は誰が作ってるんですか?」

 

「んと...同じファミリアの担当の人が持ち回りで作ってるの、自分たちで作れるスペースもあるから自分で料理することもできるよ」

 

ベルはふんふん頷いて時間の計算をしている。

 

「自分で食事が用意できるならこの食材痛んでしまうといけないので今日僕がお世話になっているみなさんに夕食を作りたいと思うんですがどうでしょう?」

 

「!ベルの料理なら皆喜ぶと思う...じゃあ急いで帰ろうか」

 

そういうと少し早足で二人は黄昏の館まで向かった。

 

 

 

黄昏の館

 

「アイズさん!僕これから食堂にいって夕食用意してきます!」

 

ベルは何やらウキウキしているのかテンションが高い...

 

「ん...わかった。じゃあ私はみんなに伝えておくね」

 

ベルはありがとうございますっと頭を下げて食堂まで食材を運んで行った。

 

(ベルの料理...楽しみ。私も料理勉強しないと...)

 

アイズは先ほどのベルの話をきいて手作りの料理を作ってあげようと考えており、密かに燃えていた。

戦うことより何倍も難しいと実感するのは少し先の話である...

 

 

ロキの部屋

 

コンコンっ扉をノックする音がする。

 

「だれや?入ってきてええでー」

 

アイズが部屋に入るとロキはなにやら資料に目を通しているところだったようだ。

 

「おお!アイズたんか!ベルとのデートはどやったん?」

 

にやにやしているロキの言葉にアイズは頬を染める。

 

「デートじゃない...ただ二人でオラリオの町を歩いただけ...」

 

(いやいやいや...それをデートっていうんやけどな...)

 

「そ...そか、まあ楽しめたんならええけど。アイズたん、たまにはウチともデートしてえな!」

 

「何もしないならいいけど...」

 

「...それは無理や!」

 

アイズは深い溜息をつく。

 

「そんな溜息つかなくてもええやん...まあええわ。んでどうしたん?」

 

アイズはベルとのやりとりをロキに伝えた。

 

「ぬおお!ベルの手料理!それは楽しみやなぁーー。わかった、ウチからフィン達に伝えとくでぇ!あ...それと忘れとったけど明日ベル連れてギルド行って冒険者登録してきてな!」

 

アイズは黙って頷いた。

 

(料理作るならもちろんエプロン姿やんな?よし!見に行こか!)

 

ロキはいやらしい笑みを浮かべている...

 

 

 

食堂

 

ベルは現在調理場に立っている。身に着けているのはフリルのついたエプロンだ。

なぜそんな恰好をしているかというと、今日の夕食担当の団員から料理をする時はこの服装で...という冗談を真に受けての事である。最初は多少抵抗のあったベルであるが調理をする内に気にならなくなり今では鼻歌交じりに調理している。そんな姿を食堂にいる団員達はほほえましく眺めている。

 

ざわざわ...食堂内が騒がしい...

 

「おいおい...ベルって本当に男だよな?かわいすぎじゃね?」

 

「鼻歌歌っちゃって...かわいいぃー!」

 

「ふむ...いい尻をしているな...」

 

なんだか危ない発言をしている者までいる。そこにフィン達にベルの料理の件を伝え終わったロキが脱兎の如く走ってきて声をあげる。

 

「こらぁーー皆ベルの邪魔になるやろ!おとなしく席についとれ!」

 

そういうとロキはベルが一番よく見える位置まで椅子を持っていき超至近距離で眺めている。

 

「いやいや明らかにロキの方が邪魔になんじゃ...」

 

「ああん?おまえら散々ベルの事見てたんやろ?ウチかてベルのかわいい姿見たいんや!」

 

(((これは何を言ってもだめだ...)))

 

この状態のロキに何をいっても無駄だと判断し他の団員達は席に戻った。

 

ベルは料理に夢中でロキや周囲の団員の様子に気が付いていない。

 

そうこうしている間に他の幹部達も集まってきた。

 

 

「ほう、ロキからベルが料理するからと言われて早めに来たつもりだったがもうこんなに集まっているのか。それにしても見事な手さばきだな」

 

「そうだね、なかなか見事な手際だ。いい匂いもしているし味に期待がもてるね!」

 

「ガハハハ、酒のつまみも作ってくれるとありがたいんじゃがな」

 

リヴェリア、フィン、ガレスの3人がやってきてベルの料理姿を見物してから席に移動する。

 

 

「あ!ベル本当に料理してる!」

 

「こらティオナ!ベルの邪魔しないの!」

 

「ベル...すごい」

 

ティオナ、ティオネ、アイズの3人もベルの様子を見てから席に着席する。

 

「そういえばベートはどうしたの?あいつまだ来てないよね?」

 

「ロキが見つからなかったって言ってたからダンジョンにでも潜ってるんじゃないかしら」

 

「ベート来なかったらあいつの分も食べちゃおうよ!」

 

うししっとティオナが笑っている。

ティオネは自分も愛する団長の為手料理を研究している最中なのでベルの料理がおいしければレシピを聞こうと考えていた。

アイズはベルの手際の良さを見て意外と簡単なのかも!...などと思っていた...

 

ロキもベルのエプロン姿を堪能したのか席について料理の完成を待っているようだ。

 

 

「お待たせいたしましたぁ!そこまで量はありませんし自信ないですがこれからお世話になる皆さんの為に一生懸命作ったのでよろしければ食べてみてください!」

 

ベルは他の団員が作った料理と共に自身が作った料理を並べた。

 

「うまそうやな...それではいただきまーーす!」

 

ロキの号令でロキファミリアの夕食が始まった...

 

 

 

 

ダンジョン中層のとあるルーム

 

バシィィン!

 

「ヴモォォォォ!」

 

獣が威嚇し合う声と鞭のような音が聞こえる。

 

「おらおらくせえ牛ども、この酒が欲しいならもっと殺しあえや」

 

フードを被った数人の男達が酒の瓶を掲げて眼下にひしめくミノタウルスに声を荒げる。

 

「誰もこのルームに近づけさせるんじゃねえぞ!」

 

その中のリーダーらしき男が大声を出す。

 

「問題ありません、数人こちらに近づいているようでしたので消しておきました、そして入り口は塞いでおいたので問題ありますまい。後は上の連中の動向ですが...」

 

そういってちらりと後ろを振り向く。

 

「大手ファミリアはまだ遠征には向かわないようです。そろそろ報酬をもらいたいんですがね...私たちのファミリアもかなりのリスクを負っているんでそれ相応の対価をいただかないと...」

 

フードをかぶった連中が大量の魔石が詰まった袋を投げてよこした。

 

中身を確認して笑う

 

「確かに受け取りました。次回はまた指定された日時に伺います、では...」

 

「おい...お帰りだ。抜け道を案内してやれ」

 

「ハッ」

 

そういって一人が先頭に立ち歩き始めた。

 

フードの男たちが笑う。

 

「地上のやつらでも多少は使える奴もいるようだな、この酒は実に調教に役立つ...魔石などいくらでもくれてやるさ、利用価値がある間だけだがな」

 

「そういえばレヴィス様は今どちらに?」

 

リーダー格の男は眉間に皺をよせながら答える。

 

「あいつは今階層主を相手に実験しているころだろうよ...逆にやられちまえばいいのさ」

 

「そうすればあなたが...ということですね」

 

「そうさ...くっくっくあっはっはっは」

 

フードの男達の下種な笑い声がダンジョンに響く...

 

「ここまでくれば地上はもうすぐだ」

 

そういうとフードの男は影に消えて行った。

 

「気配は消えたか...」

 

「団長、あんな不気味な連中信じていいんですかい?」

 

団員の一人が心配そうに声をかける。

 

「信じている訳がないだろう、絞り取るだけ搾り取って後はギルドにでも報告するさ、絶対他のファミリアにばれてはいけない。最新の注意を払え」

 

「わかりやした...」

 

(いざとなったら全てこいつになすりつければいい)

 

「くっくっくあっはっはっは...」

 

笑い声が響く...

 

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回はアイズとのプチデート?

そしてベルのクッキングでした!

次回続きです。

より読みやすい文章目指して頑張りますのでこれからもよろしくお願いいたします。


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21 ベル・クラネルの一日 ラスト

夕食は進む...


ロキファミリアの夕食の形式は料理が並べられているテーブルから各自が好きな物を好きなだけ取っていくというタイプの形式だ。現在テーブルの上にはベルの作った料理の他にもおいしそうな匂いを漂わせている料理が数多くある。

 

最初にベルの料理に手を付けたのはロキだ。

 

「うまそうやなー!これどんな料理なん?」

 

ロキが料理の匂いをふんふん嗅ぎながらベルに尋ねた。

 

「これは僕が住んでいた村に昔から伝わる料理なんですよ!滋養強壮?にいいとかで狩りに行く前によく食べていました」

 

「なるほどな!スタミナ料理っちゅうやつか!ありがたく食べさせてもらうでぇ」

 

そういってロキは自分の食事のトレイの上に山盛りに乗せて行った。

 

「あ...あのーロキ様...そんなに量多くないのでほどほどに...」

 

今のロキのような盛り方では量が全く足りないの事に今更ながら気が付きおろおろしている。

 

「ロキ...持っていきすぎだよ...ベル、君の料理はとてもおいしそうだ。君が遠征についてこられるようになるのを待っているよ」

 

「全くロキは...少しは皆の事も気遣って持っていけばいいものを...ベル、お前の料理ありがたくもらうぞ」

 

「これはうまそうじゃ!がははは、どこかのがさつ者に教えてやってくれい」

 

団長であるフィンやリヴェリア、ガレスといった最高幹部達に褒められ照れつつ顔がにやけるのを止められないベルである。三人共、皆の分も残そうと量を少なめに乗せて行ってくれた。

 

当然のことながら他の団員達は幹部達に遠慮して先に他の料理に手を付けている。

 

「わーおいしそうだね!やっぱりベートの分食べちゃおうか...」

 

「やるわねベル...私より確実に女子力高いわ...今度レシピ教えてね!」

 

ティオネ、ティオナの双子もおいしそうな料理にテンションが上がる。

 

「ミアさんにもいろいろと教わったのでちょっとだけ自信あります」

 

「ベル...すごいね...」

 

(ベルの料理絶対おいしいよね...私大丈夫かな...)

 

アイズは心なしかショックを受けているようにも見える。

 

「あ...すみません、一応ベートさんの分も用意してありますので席の方に運んで置きますね!」

 

そういってベートの分が入った器をトレイに乗せて席へ運んだ。

 

ベルも一通り配り終わりアイズが隣の席を空けておいてくれたのでそこに座り夕飯を食べ始める。

 

「うまいでぇーーー!ベル、ウチと結婚しよか!」

 

ゾワッッ

 

当然皆冗談だとはわかっているがほんの一瞬だけ動揺したものがいた。...もちろん...アイズである。

この動揺に気が付いた者はリヴェリアしかいなかった。

 

(アイズ...本当に変わったな。母親代わりとして寂しいようなうれしいような複雑な気分だ...)

 

物思いに耽りながらベルの料理を口に運ぶ。

 

(う...うまいな...)

 

「皆さんのお口にあったようでよかったです...ベートさんにも食べてもらいたかったんですが」

 

ちらりとベートが座るであろう席を見る。

 

「いいよあんな奴!あたし食べちゃおーーいたぁぁ」

 

「おい、馬鹿ゾネス!何やってやがる!」

 

自主トレーニングから帰ってきたベートがゲシッとティオナの背中を蹴りつける

 

「なによー。ベートが来るの遅いからいけないんでしょ」

 

「あんだと?」

 

「なによ?」

 

「あ...あのーせっかくの夕食ですし楽しく食べた方がいいかと...」

 

「ベルのいうとおりだ、喧嘩をするなら外でやれ」

 

 

ベートもティオナもリヴェリアとベルに言われてしぶしぶ喧嘩を止めることにした。

 

(しかしこの料理なつかしい匂いがするな...この匂いどこかで...)

 

「この料理作ったのだれだ?」

 

「あ...僕です!ベートさんのお口にあうかわかりませんが...」

 

目の前の湯気が立ち上る料理を一口頬張る。

 

ドクンッ...

 

ベートの頬を一滴の涙が伝っていく...

 

「ちょっ!ベート!?」

 

(思い出したぜ...この味は俺の村の...)

 

 

 

ベート回想

 

ベートの両親は村で一番の狩人だった。恩恵の力に頼らず自身の身体能力だけで狩りを行っていた。

もちろん個々での狩りも得意だがもっとも得意なのは集団での狩りだった。ベートの両親は集団での狩りを【和】と呼んでおり仲間を大切にすることをベートにもしっかりと教育していた。

 

「母さんこれなんて料理なの?すごくおいしいよ!」

 

ベートは母の手作りの料理にがっつく。

 

「この料理は昔からこの村に伝わる伝統料理なのよ!狩りに行く前には必ずこの料理を食べて元気を出すの。ベートも今日から一緒に狩りに行くからたくさん食べるのよ!」

 

今日はベートが初めて両親と仲間と共に森に狩りに行く日だ。狩りに出て成果をあげることが一人前の証なのでベートのやる気も高い。

 

「今日は絶対成果あげるんだ!」

 

「ベート。お前の身体能力は年の割に非常に高い、狩りも問題ないだろう。だが大事なのは【和】だ、それを忘れるんじゃないぞ!」

 

ベートは笑顔で頷く。

 

「一人はみんなの為に、みんなは一人の為にってことでしょ?」

 

「そうだ。常に周囲に気を配ることを忘れるな。仲間を大切にな!」

 

「うん!僕仲間を大事にするよ!」

 

...時は流れる...

 

黒龍来襲により破壊される村、いたるところから火の手があがり悲鳴が聞こえる。焦げ臭さや血の匂いで鼻がいかれそうだ...

 

「ベート!逃げるぞ!こいつらは我々では倒せない」

 

黒龍の眷属が村を焼いていく、ベートの家も焼かれ両親と共に町の外へ逃げる途中だ...

 

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう...なんでこんな奴らが村に」

 

「わからない...だが今この村にはオラリオで最強と謳われるゼウスファミリアの方々が来ている。その人たちならこいつらにも勝てるはずだ...」

 

「何言ってんだよ父さん、この村は俺たちの村だ!俺たちが村を護らないと!今も仲間が死んでいってる...」

 

ベートはそういってナイフを持ち上空から来る敵に飛びかかろうとする

 

「駄目!ベート!」

 

上空からレベル4相当のワイバーンがベート目がけてすさまじい速さで爪を振り下ろす。

 

「あ...」

 

ザシュッッ

 

ベートを庇った母親の背中を抉ぐる、致命傷だ...血が溢れ血だまりをつくる。

 

「ベート...逃げな...さい...」

 

母親の体から力が抜けていく...

 

「あ...ああ...あああああーーかあさんーー...よくもかあさんを...」

 

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ...)

 

ベートは自分が相手の力量を見誤ったせいで母親をことが死なせてしまったことによりパニックに陥っている

 

(俺のせいだ...俺が母さんを殺した...俺が弱いせいで母さんを殺したんだ...)

 

ベートは横たわる母の横に座り込み茫然としている。

 

ワイバーンは上空を旋回していたが獲物(ベート)目がけて再度襲い掛かる。

 

「ベート!立ちなさい!悲しむのは後だ!」

 

父親も辛いはずだがワイバーンをけん制する為に弓を放つ。さすが村一番の狩人であるベートの父、的確に相手の動きを先読みしベートに近づけないようにしている。しかし圧倒的なレベルの差がある相手になすすべはない。

 

(動きが速すぎる...このままでは...!)

 

「危ない!」

 

速度を上げたワイバーンの爪がベートに当たる瞬間自分の体を強引にねじ込む。

 

ドスッッ

 

「ぐっっう...ごほ...」

 

「と...父さん...」

 

(俺が弱いから...弱いから誰も護れない...弱さは罪...弱い奴は屑だ...俺も...屑だ...)

 

ワイバーンに向かってすごい速さで白髪の男が突っ込んでいき切り伏せる。

ベートを助けた白髪の男が声をかけてくる。

 

 

「ここにいては危険だ 辛いだろうが今は逃げなければ」

 

(うるせえ...)

 

「俺に触るな こいつら絶対ぶっ殺して父さんと母さんの敵をとってやる」

 

半ば自暴自棄になりナイフを構え走り出す...

 

「今は時間がない、すまない」

 

ドッ

 

ベートは声を出す暇もなく気絶した...目覚めたのはそれから数日たってからの事である。ベートはゼウスファミリアの救援に来ていたロキファミリアに保護されたいた。

 

黄昏の館医務室

 

ベートが目を覚ます。

 

「ここは...!俺の村は!」

 

起き上がりあたりを見渡すも今自分が置かれている状況がわからない...

そこへロキファミリアの幹部であるガレス・ランドロックが入ってきた。

 

「どうやら目を覚ましたようじゃな...具合はどうじゃ?」

 

「誰だおっさん...ここどこだ?俺の村は...村のみんなはどうなったんだ?」

 

(このぼうずには全て知る権利があるか...)

 

ガレスは悲痛な面持ちで後に起きた出来事を語った。村は壊滅、村人は最初の方で逃げた者達以外は全員死亡が確認されたということを話した。

 

「くそ...ちくしょう...」

 

「おい...ぼうずどこへ行く!?」

 

ベートは医務室を出ていく宛てもないまま走り出した。

 

(どこへ行こうというんじゃぼうず...)

 

数日後

 

ベートはこの数日間情報収集をしていた。自分の町の事、強くなる方法、そして誰がこのオラリオで強いのかを...

 

「おいおっさん!俺と戦え」

 

遠征の準備で町に出ていたロキファミリアの最高幹部であるガレス、そして団長フィン、副団長リヴェリア

唐突に勝負を挑まれて困惑する。

 

「こらぼうず、今までどこにいっておったんじゃ!帰ってくると思ったら帰ってこんし心配してたんだぞい」

 

「そんなことどうでもいい、おっさん強いんだってな?俺と戦ってくれよ」

 

ガレスは困った顔をしてフィンとリヴェリアを見る。

 

「きっと彼にもなにか理由があるんだろう...少しだけ付き合ってあげたらどうだい?」

 

「しょうがないのー素手で相手してやる...打ち込んで来るんじゃ」

 

「ぶっ殺す...がるるる。うらぁーーー」

 

ベートはがむしゃらに突っ込みガレスにナイフを叩きつける。

 

「ふん!」

 

ガレスは無造作にナイフを掴みそのまま地面に叩きつける。

 

「がはぁ、チッ...強いな...」

 

ベートは一瞬で相手との力の差を感じた。

 

「まだまだぁーー!」

 

それでもなお突進していく。

何回も何回も何回も...突進してはガレスに倒されるベート...

 

「もうあきらめたらどうじゃ?恩恵も刻んでおらんお前にはどうやっても勝てん...」

 

「俺は強く...なりてえんだ...俺が弱かったせいで母さんも...父さんも死んだんだ...生き残った俺が...俺が皆の仇を討つ。その為には自分の強さを証明しなきゃいけないんだ。俺は屑のままで...いたくないんだ...」

 

幹部三人は神妙な顔つきをしている。家族が...仲間が...死ぬ悲しさは自分たちもわかっているのだ。

 

「儂らと共に来い...お前を強くしてやる」

 

「誰がてめえらなんかの力なんか借りるか...」

 

「お主名前は?」

 

「ベート...ベート・ローガだ」

 

 

「ベートよ少し場所を移動するぞ...ついてこい」

 

ベートはよろよろとガレスの後についていった。

 

「ここならいいじゃろ」

 

ここは町のはずれにある広場、ここなら誰にも迷惑はかからない...

 

「儂の力を見せてやる...それでも儂に勝てると思うなら好きにするがいい。ただしお前が無理だと判断したのなら儂らと共に来い」

 

「...わかった...」

 

フィンとリヴェリアは万が一にも他に被害が出ないように構えている。

 

「ベートよ...構えておれ」

 

「ぬおおおおおぉぉぉぉ!」

 

ゴゴゴゴゴゴ...

 

ガレスの体がらすさまじい殺気が放たれ周辺にいた鳥は一斉に飛び立った。

 

「う...あ...くそ...」

 

ガレスの圧倒的な力の前にベートの体はすくんでしまい動こうにも動くことができない...

 

「ちくしょう...おっさん、あんた達といけば強くなれんだな?」

 

「そうじゃ、儂に勝ちたいなら...儂達と共にこい」

 

「俺はあんたに勝ちたいんじゃねえ、俺は俺に勝ちてえんだ...弱い...自分に...」

 

そういったままベートは気絶した。

ガレスは気絶したベートを抱え黄昏の館に帰り、後にロキがベートの恩恵を刻むことになる。

それから十数年...一日も休まずただ強さのみを求め体を鍛えてきたベートは若くしてレベル5、第一級冒険者となった。

 

父や母から教わった【和】の事も忘れただ己を鍛え弱者は屑という考えを持ったままで...

 

 

 

 

時は戻る

 

 

(チッ昔を思い出しちまったじゃねえか...【和】か懐かしいな。)

 

「ベート...【和】を大切にな」

 

父と母の声が聞こえた気がした。

 

(...わかったよ...)

 

 

がつがつがつがつ

 

ベートはベルの料理を一気に頬張る。

 

「ちょっとベート!一体どうしたってのよ!いきなり泣いたり食べたりわけわかんないわよ!」

 

「ええと...ベートさん?」

 

ベートは立ち上がりつかつかとベルの方に歩みよるとベルの頭に手を置いた。

 

「ありがとうよ...ベル。おまえのおかげで大切なことを思い出したぜ...何かあったら...俺がお前を護ってやる...」

 

最後の方は声が小さくよく聞こえなかったがベルは首をかしげながらもうなずいた。

 

ベートは一瞬満足そうな顔をしてそのまま食堂を後にした。

 

「なんなのよあいつーーー。ベルあいつになんて言われたの?」

 

ベルはにこっと笑い答えた。

 

「秘密です!」

 

ティオナがむむっと頬を膨らませる。

アイズはベートから放たれる気が柔らかくなっている事に気が付いた。

 

「ティオナ、ベートもベルの事を気に入っているということじゃよ。あ奴もこれまで以上に強くなるだろうな...昔が懐かしいわい、のう?」

 

そういってフィンとリヴェリアの方を振り向くと二人とも笑っていた。

 

ティオナはよくわからないといった顏をしていたがそのまま食事の続きをし始めた。

 

 

 

そのまま食事は進み団員達はそれぞれの時間を過ごしていた。

 

「ベル...明日からベルの訓練をするね、リヴェリアが訓練場の整備終わったって言ってたから明日朝5時にそこでいいかな?」

 

「はい!よろしくお願いいたします!訓練は何をするつもりですか?」

 

くすっとアイズは笑う

 

「秘密!明日のお楽しみ」

 

アイズの笑顔にドキドキしつつ頷く...

 

ベルとアイズの壮絶な訓練が始まる...

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はベートのお話でした。個人的にベート悪い奴だと思っていないのでこんな感じならいいなという思いです。

次回はアイズとの戦闘訓練。ギルドでの冒険者登録など書いていきたいと思います。

原作読み直すのと 自分の書いている作品と見返して文章頑張って修正したいと思います。

次回更新まで時間かかるかもしれませんがよろしくお願いします。

この部分こう書いたら?等の意見ありましたらどしどし連絡ください。

現在ベルのふたつな ベルの必殺技の名前 まだしっかり決まっていないアイズとのユニゾン魔法の名前 等検討中です。

またそちらも何かありましたら連絡ください。

それでは今後ともよろしくお願いいたします。  

あくまで想像の内容ですので原作は関係ありません<m(__)m>


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始まり
22 訓練開始


時刻は午前3時ロキファミリアの皆が寝静まる頃ベルは目を覚ました。


目を覚ましたベルは自分の部屋にある時計に目を向けた。

 

(まだこんな時間か...目も覚めちゃったしどうしようかな...)

 

時刻は午前3時、田舎育ちで朝の早いベルでもこの時間に起きることはない。しかし、アイズとの訓練を控えた今興奮して目が覚めてしまったようだ。

 

(んー...よし。着替えて先に訓練所に行ってこの前あまり試せなかった魔法を使ってみよう)

 

以前魔法を試した際、自分の魔法の効果を全て確認していなかった。というのもアイズとのユニゾン魔法を使用した反動でマインドダウンをおこし気絶していたからだ。どの程度の効果がありどのようなことができるかどうかベルは試してみたかったのだ。

 

(よし。準備はいいかな、皆まだ寝てるだろうしあまり音をたてないようにしなきゃ)

 

ベルは兎鎧(ぴょんきち)を装備し白狼を腰のベルトに収納し部屋を出た。

ドアを開けると当然のことながら辺りは静まり返っている。ところどころに魔石を使用したランプが設置されており通路を照らしている為問題なく訓練所まで行くことができるようだ。中庭を抜け訓練所へと入った。

先日のアイズとベルのユニゾン魔法で破壊された訓練所の外壁はリヴェリアの指示により建築専門のファミリアが完璧に修繕を施していた。外壁の魔法体制をあげるために深層域で入手できる魔鉱石を使用し強度アップにもぬかりはない。

 

(とりあえず一回魔法を発動してみよう)

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

ベルの体を雷の魔力がバチバチと音を立てて包む。

魔法に憧れていたベル、魔法を使うのは2回目だが顔がにやけてしまう。

 

(やっぱり身体能力アップなのかな...他になにかできることは...)

 

ベルは自分の意志で雷の魔力を操作できないか試してみることにした。体全体を覆っている魔力を足に集中しようと魔力を操作する。

 

(くっっただ魔力を操作するだけなのにすごく集中力がいるみたいだ...でも何とかできそう)

 

体全体を覆っていた雷の魔力が足に集中する。

 

(できた...このまま走ってみよう)

 

ビュンッッといままでとは比べ物にならない速度で移動することができた。しかし勢いがありすぎてブレーキに失敗してしまう。

 

 

ズシャァァァ

 

「いだぁぁぁぁっっ」

 

全力で動いたベルはそのまま派手に転倒してしまう。魔力一点に集中すると他の部分の魔力による防御力は落ちるようで防具のない掌を盛大にすりむいた。

 

ふーふー

 

涙目になりながら掌に息をふきかて考え込むベル

 

(んー魔力の調整が難しいけど一か所に集中すると威力が増すみたいだ)

 

その後も足に集中したり手に集中したり逆に広範囲に薄く広げたりと試行錯誤を続けた。

 

(こんなところかな。まだまだ考える余地はあるけど後はこれを実践にいかせるかどうかやってみなきゃ...うーん...昔おじいちゃんに聞いたお話に出てくる英雄達は掌から魔法をドーンって感じで放っていたけど僕にもできないかなー...)

 

祖父から聞いたイメージを実際に頭に思い浮かべ、右手の人差し指をたてて魔力を込めてみた。すると...小さいが雷の魔力の籠った球体が空中に現れた。

 

ベルは興奮してつい叫んでしまう。

 

「で...できたぁーーーー!」

 

「うおっっいきなり叫びやがって驚かせんな」

 

「え!?ベートさん!?こんな朝早くどうしたんですか?」

 

突然ベートが現れたことにより驚くベル。ベートは自己鍛錬でダンジョンに潜っており、熱が入り過ぎ今黄昏の館に帰ってきたところだ。そんな中訓練所にベルがいることを見つけ声をかけようとしたところのようだ。

 

「おまえこそこんな朝早くなにしてやがる。フィンに聞いたが今日からアイズと訓練なんだろ?」

 

「はい。そのことで緊張したせいか目が覚めてしまって、大分時間があったのでこの前できなかった魔法の確認をしてました」

 

そういうとベルは魔法を発動させてみせた。

 

ベートは少し考え込んでからベルに提案をした。

 

「どうせ試すなら相手がいた方がいいだろ。お前がどうしてもっていうなら俺が相手してやるが...」

 

「ええ!?僕はベートさんと訓練できるならうれしいですがベートさん寝てないんじゃ?」

 

「おまえ程度の相手するのに問題はねえ。それにアイズが来るまでだ。やるのかやらねえのかはっきりしろ」

 

ベートはそっぽを向きながら言った。しっぽだけがゆらゆらと揺れている。

 

「...ベートさん。よろしくお願いします」

 

ベルはぺこりと頭を下げた。

 

「ったくしょうがねえな。見てやるよ」

 

しっぽの動きが激しくなる...

 

ベートは腕組みをしつつベルに魔法を使ってできることを一つずつ試してみるように命令した。

ベルはベートが来る前に試したことをもう一度最初から繰り返し一つ一つベートに見てもらった。

 

「なるほどな。お前の魔法はアイズほどの威力はないがその分応用が大分効くみたいだな。だがまだまだ改善の余地がある。まずその足に魔力を集中しての移動だ。それを使って俺に攻撃をしかけてみろ」

 

ベルは頷き魔力を足に集中させ白狼を構えベートに突進した。

当然のことながらレベル差もありベートに攻撃が当たることはなく、全ての動きは見切られ避けられてしまう。避けると同時にベートはベルの正面に拳を突き出す。

 

ドガッ

 

「ぐっっ...」

 

ベートの拳がベルの腹にめり込みくぐもった声をあげる。

 

「おまえその動きの弱点がわかるか?」

 

ベルは魔法の維持に集中力を使っている為自分の動きを客観的に見ることができない。

 

ベルは首を横に振った。

 

「お前のその動きの弱点は今のところ2つある。まず魔法の維持に集中力を使いすぎて相手の動きを見れていねえ、まあそれはこれから練習していけばいい。もう一つは動きが直線的過ぎる、直線に進んでくるなら手を出しとくだけで勝手に当たるってことだ。動きが速くても来る場所がわかってんならなんの脅威にもならねえ」

 

ベートの的確な指摘にベルは落ち込んでしまう。それを見たベートはこう付け加える。

 

「俺のレベルは5だから簡単に避けられるだけだ。同じレベルなら今のままでも十分通用する威力はある、そんな落ち込んだ顔してんじゃねえ」

 

今までのベートならもっと痛烈な言い方をしたかもしれないが、フォローを入れるあたりベートも少しづつ変わろうとしているのかもしれない。

 

(直線的にならないようにフェイントとかも入れてみろってことだよね...上手くコントロールできるように練習しなきゃ。僕はもっと強くならなきゃいけない)

 

その後も何回もベートを相手に攻撃をしかけ今の自分でできることを確かめ鍛錬をした。

 

「はぁはぁはぁ」

 

荒い息をつくベルだがその表情は自分の力を試すのが楽しいという表情をしている。ベートもまたレベル1であるのに自分のアドバイスを理解し工夫しながら向かってくるベルに驚きと大きな期待を持つようになっていた。

 

「もうすぐでアイズが来る時間だから次が最後だ。さっき空中に魔力を維持していただろ?それを俺に向かって全力でぶつけてみろ。遠距離からの攻撃もできれば戦いの幅が広がる」

 

「わかりましたやってみます!」

 

ベルは魔力を集中させ空中に電気の魔力の球体を出現させる。その球体をベート目がけて投げつけた。

バチバチと音を立てながらベートに迫るが目の前まできたところですさまじい勢いの蹴りが球体を捕え別の方向へ弾き飛ばした。

 

「これじゃまだ実戦じゃつかえねえな、スピードも威力もまだまだだ。手数も少ねえ、上層では通用するかもしれねえがお前が更に上を目指すならもっと工夫してみろ」

 

そういってベートは疲労でその場にへたりこむベルに1本10万ヴァリスもするハイポーションを投げてよこした。

 

「あ...あのこれは?」

 

「今のままじゃこれからアイズと訓練するときに動けねえだろ。それ飲んで回復しとけ」

 

「あっありがとうございますベートさん」

 

そういって笑顔でベートにお礼をいった。

 

「勘違いするんじゃねえ、お前が疲れて訓練できなかったらアイズに何されるかわかったもんじゃねえからな」

 

そういうとベートはポケットに手をつっこみ訓練所を後にした。

 

ベルはベートを見送った後も指導してもらった事を思い出し、球体を出す時にかかる溜めの時間や戦闘の際にどう応用しようか考えながらアイズが来るまで頭をひねらせていた。

 

(僕とアイズさんのユニゾン魔法...二人の魔法の特徴が混ざるとしたら...魔力を打ち出すことも可能なのかな...)

 

ベルはアイズとの魔法の威力をまだ知らない...

 

アイズ視点

 

(明日からベルとの訓練...楽しみ...)

 

アイズは自室のベットに寝転がりながらベルとの訓練について考えていた。ベルの為にも心を鬼にして厳しく指導するつもりだ。

 

(私との訓練で流す汗と血の量だけベルのダンジョンでのケガをする可能性は低くなる...だよね、フィン)

 

アイズは自分がまだかけだしだった頃に団長であるフィンから指導を受けていた事を思い出していた。

 

(フィンや皆に厳しく訓練してもらったから私は今まで生きてこられている。...でも厳しくしてベルに嫌われたらどうしよう...)

 

アイズは枕を抱きしめベットの上を転がり目を瞑ればそこにはベルの笑顔が浮かぶ。

 

(まだあって数日なのに私毎日ベルの事を考えている...ベル...ベル・クラネル...そういえばベルの家名はお父さんと同じクラネル。クラネルって家名珍しくないのかな...お父さんに似ているベル。もしかしてベルはお父さんの生まれ変わり?...もしくわ私の弟だったり...そんなことある分けない...よね。ベルはベル。私たちロキファミリアの仲間で私の英雄になってくれると言ってくれた大切な人...絶対に死なせたくない)

 

アイズはベルを死なせない為にも厳しく訓練を行う事を改めて決意して眠りについた。

 

翌日

 

時刻は午前4時

 

アイズは目を覚まし、ベルとの訓練の為に準備を始める。顔を洗い美しい金色の髪を整える。ベルに眠そうな顔など見せられないようで今日は一段と用意に時間がかかっている。

愛用の鎧と剣を装備しリヴェリアとフィンから訓練をするならと渡されたポーションが詰まったバックを肩にかける。時間の確認をすると現在の時刻は午前4時30分。まだ時間があるのでベルを起こしに行こうと部屋へと足を運ぶ。

 

コンコン

遠慮がちにノックの音がする。

 

「ベル起きてる?」

 

扉を開けるとそこにはベルの姿はなくきれいに整えられたベットが置かれているだけだった。

 

(ベルがいない..)

 

ベルの寝顔を見ようと思っていたアイズは少しだけ残念そうだ。

 

(先に訓練所にいったのかな...私も早く行こう)

 

アイズは足早に訓練所へと向かった。

 

 

 

 




読んでいただいている皆様お久しぶりです。兎魂です。

修正していたデータが吹っ飛び心が折れておりました。文章もまだまだ上手くなっていませんがまた少しづつ勉強しながら書いていこうと思っております。

さて今回はベルとベートの訓練風景?でした。ベルの魔法は応用力がある...それだけです<m(__)m>少々強引かもしれませんがこんな魔法だったらいいなという感じで書きました。

次回はアイズとの訓練です。

これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします。


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23 アイズとの訓練

アイズはベルが待っているであろう訓練所まで歩みをすすめる


現在の時刻は4時45分。アイズはベルがいる訓練所に足を踏み入れた。

 

(ベル!やっぱり先に訓練所に来てたんだ)

 

アイズが訓練所の中に入ってすぐベルが入り口に背を向けて座っているのが見えた。

 

(??なにしてるんだろう...それに防具が傷だらけになってる...)

 

そっとアイズがベルに近づくと何やらぶつぶついいながら考え事をしているようで一向にアイズに気が付く気配がない。

 

(!ちょっとだけ...)

 

アイズはベルの背後にしゃがみ人差し指でベルの頬を後ろからつついた。

 

「ひゃうっっ」

 

ベルが妙な声を発しながらビクッと飛び上がった。

 

「あああアイズさん!?」

 

アイズはベルの反応が面白かったのか後ろを向いて笑うのを堪えている。肩がぷるぷると震えているのがわかる。

 

そのまましばらくの間ぷるぷるしているアイズだが次第に落ち着きを取り戻した。

 

「ごめんね?ベル。そんなに驚くと思ってなかったの」

 

「いっいえ...大丈夫です。」

 

ベルは恥ずかしい反応をアイズに見られたことで内心落ち込んだがアイズの笑顔を見て気持ちをもちなおした。

 

「ベルは何をやっていたの?」

 

「今日アイズさんとの訓練の事を考えていたら早く起きてしまって、時間があったので先日できなかった魔法の確認をしていました」

 

アイズがベルの服装を確認すると明らかに誰かと戦闘を行った形跡がある。アイズの視線を察したベルが答えた。

 

「ええと...ちょうどベートさんが訓練所にいらっしゃいまして、それで少し訓練の相手をしていただきました」

 

アイズはベートが完全な実力主義者なのをよく知っている。そのベートがまだレベル1のベルの相手をしたということをきいて驚いていた。それと同時にベルの訓練の最初の相手を取られてすこしだけ焼きもちをやいてむっとした。

 

(ベルの最初の相手は私がしたかったのに...)

 

「ええと、アイズさん?あの...僕何か変なこといいましたでしょうか?」

 

「ううん。大丈夫だよ。じゃあ準備はできてると思うから訓練を始めようか」

 

「はい!よろしくお願いします!それで僕は何をすれば...」

 

アイズは剣の柄に手を伸ばし剣を抜くとそれを訓練所の端に立てかけて鞘を構えた。

 

「この前、ベルがフィンと戦っている姿を見て思ったの。ベルは型や技を教えるより実戦の中で覚えていくことができるみたい。だから...戦おう」

 

瞬間アイズをつつむ空気が変わった。片手剣と同等の長さの鞘をただ構えているだけでとんでもない威圧感だ。ベルは咄嗟に白狼に手を伸ばし構えをとった。

 

「うん...それでいいよ。私との戦闘の中でいろんなことを感じていろんなことを試してみて」

 

「あ...あの...もし僕の剣が当たったらアイズさんがケガを...」

 

ベルの言葉が終わる前にその言葉を遮るようにアイズが答えた。

 

「それはないから大丈夫」

 

ベルの懸念をその一言で受け止めるアイズにベルは喉をごくっとならした。

 

アイズはただ鞘を構えて立っているだけ、ただその圧力に負け自分から動き出すことができない。しかしふっとその圧力が消える。

 

「んと...ベルには絶対に死んでほしくないからすごく厳しく指導しようと思ってるの...

だけどその...あの...き、嫌いにならないでね?」

 

今までの圧力が嘘のように消えもじもじしているアイズ。

 

ロキではないがその姿を見た者はこういうだろう...

 

(アイズたん萌えーーーーー!)

 

 

「大丈夫です!僕がアイズさんを嫌いになることなんて絶対にありません!だから厳しくお願いします」

 

そういってベルは頭を下げた。

 

「ベル、ありがとう。じゃあ厳しくいくから」

 

そういってアイズは鞘を構えなおした。

 

先ほどもベルは感じたが普段のアイズと剣を持つアイズとでは雰囲気が大違いである。穏やかな雰囲気は当然のことながらなく彼女はレベル5、オラリオ一の剣士 【剣姫】アイズヴァレンシュタインなのだと再認識した。

 

白狼の握る手にじわりと汗をかきながらもアイズと相対する。

 

(どうやって攻めても自分が打ちのめされる未来しか見えない...それでもっっ!)

 

ベルは自分に活を入れアイズに向かって突進した。

 

「はぁぁぁ!」

 

右手の白狼をアイズに叩きつけようとした瞬間、目の前からアイズの姿が掻き消え、同時に脇腹に激痛が走る。

 

「ぁぁぁっ」

 

ベルは声にならない声をあげ石の地面に片膝をついた。

 

今回アイズがしたことといえば単純だ。ただ振り下ろされた一撃を普通によけ、ベルの横を通り過ぎると同時にがら空きの脇腹を鞘で一閃しただけである。これが仮に刃物ならば、ベルの上半身と下半身は分断されていたであろう。

 

「ベル、立って」

 

アイズは無慈悲な声をかける。

 

ベルは脇腹の激痛に屈しそうになりながらもなんとか立ち上がった。

 

「うん。ベルはすごいね。今の一撃普通の人間なら絶対に立てないぐらいに強く打ったけどベルは立てた、無意識かもしれないけど私の一撃が当たる瞬間体を捻って完璧に決まるのをさけてる」

 

ベルはアイズの声は聞こえてはいるが痛みでそれどころではない。

 

 

(っっものすごく痛い...泣きそうだ...それにアイズさんすごく速い。何とか動きを見切らないと...)

 

「今度はこっちから行くね」

 

そういうとアイズはベルに向かって剣を振るった。先ほどよりもは遅い攻撃でベルが全力で防御または回避すればよけられるという絶妙な手加減具合だ。

 

ギンッギインっ

 

ベル痛みに耐えつつも必死にアイズの攻撃をいなしている。

 

「死角は作らずに、視野は広く」

 

アイズは自分が幼い時にフィンに言われたとおりにベルにも同じように声をかける。それから数十分という間ベルは全力でアイズの攻撃を防ぎ続けた。

 

(フィンとの戦いで得たものをしっかりと今回も使っているね。ベルはホントにすごい...これならもう少し早くしても大丈夫かな)

 

アイズは更に打ち込むスピードを上げる

 

ベルは全身から汗が吹き出し呼吸が荒くなっていた。

 

(くっ早すぎる...それにもう体力も...受け流しきれない)

 

ギンッギンッッドゴォォ

 

ベルはアイズの攻撃を受け流しきれずに攻撃を受けてしまい壁に叩きつけられた。

 

「あっっベル!」

 

(いけない、強く打ち込み過ぎた...)

 

ベルは完全に気を失っていた。アイズはベルにかけよるとポーチからハイポーションを取り出すとベルに振りかけた。傷がみるみる回復していくことからかなり良質なポーションだとわかる。

 

しばらくするとベルは意識を取り戻した。

 

「んっここは...暖かくて気持ちいい...]

 

[大丈夫?」

 

(真上からアイズさんの心配する声が聞こえる...真上?)

 

目を開けるとアイズが自分の顔を見下ろしていた。つまり...膝枕されていた...

 

「あああアイズさん!すすすすみません。僕気絶して...」

 

アイズは首を横に振り心底申し訳なさそうに謝った。

 

「んと、ごめんね?ベルが気絶したのは私がミスしたせい。ベルがすごく頑張って防御してたからもう少しいけるかと思って早くしすぎたの」

 

そういってアイズはベルの髪を撫でた。頬が熱を帯びるのを感じる。

 

「ちょっと休憩しようか」

 

ベルは起き上がりアイズに連れられて訓練所の端に置かれていた椅子に腰を下ろした。

 

(アイズさん強いとは思っていたけどこれほどまでに差があるなんて。さっきまでのだって全然本気じゃない...僕なんかがアイズさんの英雄になるだなんて立場じゃない...)

 

圧倒的な力の差を感じてひどく落ち込み自暴自棄になりかけてしまう。

 

ベルはふとアイズに質問をしてみた。

 

「アイズさんはどうやってそこまで強くなったんですか?」

 

アイズは少し悩んだようだったが答えた。

 

「私はまだまだ弱い...私には何をおいても倒したい相手がいるの」

 

「倒したい相手...ですか」

 

アイズはベルの目を見て頷いた。

 

「私は幼い頃の記憶が断片的にしかない。リヴェリアには極度の恐怖やストレスから記憶障害をおこしている可能性があるっていわれたの。それでも今でも夢に出てくるのが赤髪の女性と黒い龍。その悪夢は今でも忘れることができないの]

 

「アイズさん...」

 

「私も最初の頃は戦うのが怖くて怖くて剣を持つこともできなかった。だけどいつまでも護られているだけじゃ嫌で、仲間の為に何もできない自分が嫌で、それで強くなろうと思ったの」

 

(アイズさん僕とあまり年齢が変わらないのにレベル5になったんだよね。きっと僕には想像もつかないような努力をしてきたんだ...)

 

「ロキファミリアの仲間が死ぬことは少ないけどダンジョンに絶対なんてない。まだレベルが低かったころは私自身何回も死にかけた。私を護る為に大けがをした仲間もいる。だから必死で強くなろうとした」

 

アイズは自身の膝に頭をあて下を向いている。その肩はわずかに震えているように見えた。

 

(僕はなんて...なんて情けないんだ。誓いを思い出せ、アイズさんを護れる英雄になるって約束しただろ。こんなところで止まってなんかいられない、いつの日かアイズさんが剣を振らなくてもいいように僕が強くなる)

 

パンッ

 

ベルが自分の頬を両手で叩いた。

 

「アイズさん!訓練の続きをお願いします!もっと厳しくしてください。どんなに辛くても耐えてみせますだって僕は...僕はアイズさんの英雄になる男ですから!」

 

ぼふっとアイズの顔が赤くなる。

 

「ありがとうベル嬉しいよ」

 

二人は立ち上がると先ほどまで行っていた訓練を再開した。

 

ガキンッギン

 

二人の打ち合う音が聞こえる。

 

(なんだろう背中が熱い...いや今は目の前に集中しなきゃ)

 

ドガッ

 

強烈な蹴りがベルの腹に決まる。

 

ぐぅっげほげほげほ

 

「はぁはぁ...まだまだぁーー!!」

 

二人は訓練を続ける...

 

 

 

訓練所を見下ろせる屋根の上

 

アイズとベルの訓練を見学している人影がある。一人はリヴェリア、もう一人はロキである。

 

「リヴェリア!今のベルのセリフ聞いたかいな!かっこええええ!アイズたんの反応もかわええ!ぐふふ二人ともウチのもんやーー!」

 

「お前は...他にみる場所があるだろうに」

 

「ん?なんや?」

 

「ベルの背中を見てみろ」

 

リヴェリアが訓練をしているベルの背中を指差した。

 

「あれは...ベルの背中のステイタスが発光しているん!?」

 

「ああ、そのようだな」

 

「こんなこと今までみたことないで。よし!今日の夜ステイタス更新しようと思っとったけど飯終わったらベル捕まえて更新してみよか」

 

(しかしアイズの訓練は少し激しすぎるような...あとでまたポーションを買い足しておこう)

 

「リヴェリアも心配症やなー。アイズかてちゃんと手加減しとるから大丈夫やて。いざとなれば自分が止めるつもりで訓練みてたんやろ?」

 

「人の心を読むんじゃない、心配するのは当然だろう」

 

(いやいや思いっきり顔に心配してますって書いてあるんやけどな)

 

「ママは大変やなー」

 

「誰がママだ誰が...]

 

[うひゃひゃひゃひゃ。さあそろそろ朝食や!ウチらも行こか」

 

「...うむ」

 

 

 

ダンジョン中層

 

「ヴモオオオオオ!」

 

獣の声がダンジョンに木霊する。

 

「こいつはいい個体だな...他のやつらより一回りでけえ。こいつに決めたぞ」

 

フードの男が酒を取り出す。

 

「おらっこれを飲め」

 

そういってミノタウロスに本物の神酒(ソーマ)を飲ませた。

 

「ヴモ!ヴモオオオオ!」

 

「おら、もっと飲みてえなら他の奴をぶっ殺してきな」

 

この空間には十数頭の選りすぐりのミノタウロスが戦っている。全てのミノタウロスをこの個体が倒したとき調教(テイム)は完了する...

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回はアイズとベルの訓練風景でした。

次回はギルドでの冒険者登録と訓練パート2です。

これからもよろしくお願いいたします<m(__)m>


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24 アイズとの訓練後

訓練もひと段落し朝食を食べる前に体の汚れを落とそうとお風呂に向かった。


「ベル。訓練すごく頑張ったね!」

 

全身ボロボロで精根尽き果てそうなベルにアイズが声をかけた。

 

「だ、大丈夫です。このぐらいなんてことないです...」

 

ベルはアイズに手を引かれながらよろよろと後をついて行っている。今にも寝てしまいたいところだが永遠の眠りにつきそうで怖い...

 

「朝食までまだもう少しだけ時間あるから体の汚れ落としていかないと...」

 

そういって連れてこられたのはロキファミリア自慢の大浴場だ。

当然のことながら男女別である。はず...

 

大浴場の前まで来たところでティオネ、ティオナ姉妹に遭遇したベルとアイズ。

 

「あれぇー二人もこれからお風呂?」

 

ティオナが元気よく声をかけてきた。

 

「ん、今までベルと訓練してたから」

 

「ベル、ボロボロじゃない...アイズどんな訓練したのよ...]

 

ティオネがかわいそうなものを見るような目でベルを見ている。

 

「アイズさんとずっと戦ってました...]

 

「いいなー!アイズと組手なんてあたしだってあんまりやったことないのに!私とも今度やろうよ」

 

「ん、いいけど今はベルの訓練に集中したいからまた今度」

 

「じゃあベル!私とも組手しよ!」

 

そういって満面の笑みでベルに話かけるティオナだったがアイズがベルを後ろから抱きしめ首を横に振る

 

「ベルは私と訓練するからダメ」

 

ぷぅーと頬を膨らませるティオナを横目にティオネは優しい笑みを浮かべている。

 

(あのアイズがここまで誰かに執着するなんて...それにいい笑顔するようになったわね)

 

ベルは抱き着かれているが疲れすぎてされるがままである。

 

「ま、ベルとの訓練の話は置いといてお風呂入っちゃおうよ!ご飯に間に合わないよ!」

 

アイズはベルを解放してそのまま手を引いて大浴場に入ろうとしている。

 

「ちょっっアイズさん!?僕は向こうの男湯に入りますから!」

 

入る寸前でベルが覚醒しそのまま連行されていくのを防いだ。

 

「今日の朝は男湯お湯沸かしてないんだぁー!シャワーだけじゃ疲れとれないよ?」

 

ティオナもアイズと一緒にベルの手を引っ張り連行しようとしている。

 

 

「いえいえいえいえ...僕シャワーだけで大丈夫ですから!」

 

ベルもさすがにそのまま一緒に入るなどといえる度胸はない。

 

「ベルも一緒に入ろうよ!」

 

「そうね、私たちは気にしないわ!」

 

アマゾネスという種族は肌をみられることに関してあまり気にしないようだ。かわいいベルなら問題ないという謎の理論である。

 

「じゃあいこっか」

 

アイズもベルなら問題ないと言わんばかりの態度である。

 

アイズやティオナの力で手を握られてはベルに逃げるすべはない。

 

「ちょっっだれかぁーー」

 

このままでは男としての尊厳が散ってしまう...

 

 

「おい!ぎゃあぎゃあ何やってやがる」

 

救世主ベートが降臨した。

 

「べートさん!」

 

「そっちは男湯じゃねえだろ、ベル、男湯はこっちだ」

 

そういってベル達に近づきベルの襟首を掴んで引っ張っていこうとした。

 

「ちょっとベート!ベルは私たちと入るんだから邪魔しないでよ!」

 

ティオナが更にベルを捕獲する。

 

「バカゾネスが、普通に考えりゃわかんだろ。それにどうみたって嫌がってんだろ」

 

「ベル、私たちと入るの嫌...?」

 

アイズが悲しそうな顔でベルを見る。

 

「ええと...嫌なわけないんですが...さすがにまずいかと...」

 

おろおろしながら辺りを見渡している。

 

「ベルもこういってんだから手放しやがれ」

 

「だめだよー!ベート、ベルと一緒に入って何かするつもりなんでしょ?」

 

にやにやしながらティオナがベートに詰め寄る。

 

「私覚えてるんだから、豊穣の女主人でベートがベルにしたこと!」

 

「はぁ?何言ってやがる。そもそも俺は途中から記憶ねえんだよ」

 

しばらくぎゃあぎゃあ騒いでいるとやっかいな人物が現れる。

 

「なんやなんや朝っぱらから元気やなー」

 

大きなあくびをしながらロキが通路の向こうから歩いてきた。

 

「あ!ロキ!」

 

「誰かこの状況説明してんかー?」

 

ティオネが今までの流れをロキに伝えた。内容を理解したロキがにやぁと悪い笑顔をつくる。

 

つかつかとベルの方に向かうと一度ベートの方を見てからベルの後ろの壁に手をつきベートの声マネをしながらこう言った。

 

「ベル。俺の女にならないか?」

 

自分でいいながらロキはボフっと吹き出した。

 

ベルは何かを思い出したようでプルプルと震えだし、ティオネ、ティオナ姉妹はベートを指差し大爆笑している。

 

アイズはかわいそうなものを見る目でベートを眺めた。

 

「....、....」

 

ベートは何かを思い出したようで青い顔をしてぶつぶつ言い始めた。いつもの強気な姿勢は見る影もない。

 

「こらこら、ベートとベルをいじめるのもそれぐらいにしてあげてくれ」

 

騒ぎを聞きつけたフィンが仲裁にはいる。

 

「団長ーー!これから皆でお風呂入るんですが是非団長もご一緒に!」

 

ティオネが団長の手をガシッと掴み口説きにかかる。

 

「残念だけど遠慮しておくよ」

 

そういうと無防備なベートの首筋に超高速の手刀を叩きこんだ。

 

完全に油断しているところにレベル6であるフィンの手刀を喰らいベートはその場に崩れ落ちた。

 

「じゃあベルはゆっくり男湯で汗を流すといい。他のみんなも朝食に遅れないようにね。これは団長命令だから」

 

にっこり笑うとベートを担いで食堂に向かった。願わくばベートの記憶がまた消えていることを祈ろう...

 

しぶしぶであるが団長命令にしたがい皆それぞれ汗を流し朝食に向かった...

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はプチおまけです。 

お気に入り登録者も増えてきましたし、評価していくれている方々もいます、本当にありがとうございます<m(__)m>

これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします!


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25 朝食での一息

汗を流し食堂へと向かう


お風呂で汗を流した後アイズ達はベルと合流し食堂へと向かった。

 

「間に合ったねー!」

 

肩にタオルをかけ濡れた髪から水滴をしたたらせ半分下着のような恰好でティオナが皆に笑いかける。

体型は一部貧相だがまごうことなき美少女であるティオナの無邪気な笑顔は反則級のかわいさだ。

 

余談ではあるがロキファミリアの幹部達の人気はオラリオでは非常に高い、それぞれにファンクラブができているほどだ。ティオナはアマゾネスにしては貧相な体つきをしているが、愛らしく無邪気な笑顔と巨大な武器を振り回すギャップが人気の秘訣でもある。

 

「は...はい...そうですね」

 

ベルはどこに視線を向けていいか分からず俯きながら返事をした。

当然のことながら女性に対してあまり耐性のないベルは真っ赤な顔をしている。

この数日間で多少は耐性が付いてきてはいるがまだまだ先は長い...

 

「ちょっとティオナ!もう少しちゃんとした格好をしなさい!第一級冒険者としての自覚を...」

 

怒ろうとした瞬間脱兎のごとく駆け出し逃げる妹をティオネは溜息をつきながら見送った。

 

 

食堂に入ると黄昏の館にいるほぼ全ての団員がそろっていた。フィンの隣でベートが机に突っ伏しているのを横目にベルはアイズとティオネと共に開いている席に着席した。

 

「それじゃあ皆、食事を始めよう。いただきます」

 

今日はフィンの掛け声で一斉に食事が始められる。

ちなみに本日の朝食のメインはオラリオ産の卵を使ったオムレツである。ふわふわのオムレツに特性ソースをかけて食べる。ロキファミリアの今日の料理担当はレフィーヤだ。彼女は料理の腕前には少々自信があり遠征時ではよくアイズ達とともに食事をとっている。

 

「アイズさん!今日の朝食はどうですか?」

 

アイズの隣までやってきたレフィーヤが笑顔で話しかけつつ隣のベルをけん制している。

同じ料理が得意という点で張り合っているのであろうか...

 

「ん、おいしいよ」

 

「よかったですー!アイズさんに喜んでいただけてうれしいです」

 

「ええと...この方は?」

 

ピクっと長い耳が反応する。

 

「私はレフィーヤ・ウィリディス。レベル3です、あなたの試験は拝見していました。これからは同じファミリアとしてよろしくお願いいたします。ただし...自分の立場をもう少し理解してください。オラリオでもトップレベルのアイズさんに直接指導を受けているということがどれほどのことなのか」

 

小声

「私だってほとんど見てもらったことないのにうらやましすぎです...」

 

「はい!よろしくお願いします。やっぱり僕アイズさんに指導受けない方がいいんでしょうか...」

 

しょんぼりと肩を落とし少し涙目になりながらレフィーヤを見上げる。ベルの紅い瞳がレフィーヤの瞳と重なった。

 

(う...少し言い方がきつかったでしょうか...それにベルは私より年下だということですし。アイズさんのことは置いといてもう少しお姉さんらしくしてあげた方がいいですかね...それにベルに優しくしておいた方がアイズさんとの仲もよくなるかもしれないですし)

 

「いえ、アイズさんが直々に指導するといっている以上ベルにはそれだけ期待しているということです。それと私はベルよりお姉さんなので何か困ったことがあれば頼ってもいいんですよ?」

 

レフィーヤの言葉を聞きベルが笑顔で答えた。

 

「ありがとうございます!ええと...レフィーヤお姉ちゃん?」

 

ぞくぞく...レフィーヤに衝撃が走った。

 

(お姉ちゃん...わ...悪くない響きですね。アイズさんの事を除けば外見は中性的でかわいらしいですしそう呼ばれても...でも私はアイズさんの親衛隊長として...ハ!)

 

頬に手をあててわたわたしているレフィーヤをベルの隣でアイズとティオネが微妙な顔で見ている...

 

「レフィーヤ...喜んでる?」

 

「そそそそそんなことありませんよアイズさん!ベル!いくら年上といってもなれなれしいですよ!普通に呼んでください!」

 

真っ赤な顔をしたレフィーヤが手をばたばた振りながら否定した。

 

「そ...そうですよね...ごめんなさい。僕物心ついた時から家族はおじいちゃんしかいなくて...兄弟がいたらな、なんて思っていたので...」

 

感情の急降下と急上昇を繰り返すベル。周囲の空気も湿っぽくなってしまった。以外にさびしがりやな面もあるベルは家族というものに飢えているのかもしれない...

 

「なになにー?ベルお姉さんが欲しいの?じゃああたしがなってあげるー!私もベルみたいな弟だったら大歓迎だよー!」

 

湿った空気をどこからか話を聞きつけたティオナがぶち壊してくれた。座っているベルを後ろから抱き絞め髪をもふもふと撫でまわすと、ベルの表情は照れながらもぱぁぁと明るくなった。

 

「あら、ティオナの弟なら私の弟でもあるわね。私の事も姉だと思ってくれていいのよ?」

 

(...そんなこといわれると私がすごい悪者みたいじゃないですかぁー...)

 

「ありがとうございます!ティオナお姉ちゃん!ティオネお姉ちゃん!」

 

ぞくぞくぞく...二人の体に衝撃が走る。

 

((わ...悪くない...むしろベルに呼ばれると気持ちいいかも...))

 

ベルに姉呼ばわれされたことが新鮮で普段は落ち着いた雰囲気のティオネも機嫌を良くし、もふもふもふとベルの頭を撫でまわす。アイズも頭を撫でるのに加わりわいわい騒いでいると騒ぎを聞きつけロキとフィンが様子を見に来た。

 

「なんやなんや、面白そうな話しとるやん。ならウチらもベルの家族やんな、フィンがお父さん、リヴェリアがお母さん、ガレスがおじいちゃんやんな。んでベートがお兄ちゃんや!アイズたんわ...」

 

にやりと悪い笑みを浮かべながらアイズの方に視線を向けると他の皆もアイズに視線を集中させた。アイズは俯いて何か言っている。

 

「私は...ベルの...ごにょごにょ」

 

「ん?なんや?アイズたん聞こえへんでぇー」

 

ロキはにやにやが止まらない。

 

「んと...ベルは私の英雄になってくれるっていったから私はベルの...ごにょごにょ」

 

(くぅーーーー、アイズたんかわいすぎるでぇ!ベルもアイズたんもウチの嫁や!)

 

「ロキ、その辺にしておかないと嫌われるからね?」

 

こほんっとフィンが咳払いをしてベルと向き合った。

 

「いいかいベル。ここにいる皆は同じロキの眷属で家族だ。だから君はこのオラリオでも一人じゃないよ」

 

団長であるフィンの言葉に食堂いた他の団員達も皆頷いた。アイズ親衛隊の面々もアイズのことを除けばベルを悪く思っている訳ではない。先ほどのアイズとのやり取りを悔しそうに見ながらも団長の言葉には頷いていた。

 

「皆さん...本当にありがとうございます。僕は幸せ者です、オラリオに来てこんなにたくさんの仲間(かぞく)ができるなんて思ってもいませんでした。まだまだ弱い僕ですがもっともっと強くなって皆さんを護れるようになりたいです!」

 

ベルも決意を新たに訓練を行う予定だ。そうこうしているうちに朝食も終わり数人を残して食堂から退室していった。

 

「ベル!ステイタスの更新するでー!本来なら毎日やった方がええんやけどウチのファミリアは人数多いさかい順番でやってるんよ。ほな服脱いでそこの椅子に座ってなー」

 

現在この場にいるのはロキを含めた数人の幹部達だ。本来ならステイタス更新に他のメンバーが立ち会うことはまずないがベルの初めてのステイタス更新ということでスキルの関係もあり立ち会うことにしていた。皆ベルのステイタスを楽しみにしている。

 

「えと、皆さん見ているんですか?ちょっと恥ずかしいというか...」

 

「むふふ、ベルはかわええなーそんな恥ずかしがらんとはよ脱いでやー」

 

皆に見られているのを気にしながらではあるがもそもそと上着を脱ぎ上半身裸になった。真っ白な雪のようにきれいな肌をしている。

 

「んーこの間も思ったんやけどベルはきれいな肌しとるなー...ぐふふ」

 

ロキがいやらしい手つきでベルの背中を撫でまわしている。しかし...背後からの割と本気の殺気を感じしぶしぶステイタス更新を開始した。指先に針を刺し自らの血でベルの背中にステイタスを刻んでいく。

 

(な...なんやこのステイタスは...こないな上昇値今までみたことあらへん。いくらレベル1やからってなー...これがベルの誓い(ルフテ)の効果かいな。今朝の発光もこれに関係しとるな)

 

目を見開いたまま固まるロキだがなんとか気を取り直して紙にステイタスを書き写していく。

 

「ベル、これが今のベルのステイタスや!」

 

そういってベルに紙を手渡した。上から順にステイタスを確認している様子だがいまいち反応がない。それもそのはず、ベルは他人のステイタスを見たことがない為この上昇が正常か異常なのかが判断できないからだ。ベルの持っている紙を覗き込んだ面々が先ほどのロキと同様に絶句した。通常どんなに過酷な訓練をしたとしても上昇値はたかがしれている、ましてベルはアイズと共にオラリオの町を回ったことやユニゾン魔法を試したこと。今朝方ベートとアイズと訓練をした経験しか積んでいないのだ。それなのに全ステイタスが平均100ほど上昇している、仮にこの調子で上がり続けたなら一か月もしないうちにレベル1でもトップクラスのステイタスになるだろう。しかし、ステイタスは上昇すればするほどその数値は上がりにくくなるのが一般的である。はたしてベルのステイタスはどのようになっていくのか...

 

「あのー皆さんどうしたんですか?僕のステイタスって何か変なんでしょうか?」

 

その場にいた全員が無言で考え込んでいるという状況にいたたまれなくなりベルが不安の表情を浮かべていた。幹部達はステイタスとベルの顔を交互に見て戸惑いの表情をうかべている。それもそのはずここにいるのは最低でもレベル5である。ロキに何回もステイタスを更新してもらっている中でこれほど上昇した経験はない。まさにイレギュラーが目の前で起こっていた。

 

「皆君のステイタスの伸びが大きくて驚いていただけさ。その伸びの分、ベルがどれだけ真剣に強くなろうとしているかがよくわかるよ、そうだよね皆!」

 

他の幹部達、特にティオナあたりがベルのスキルのことを話してしまいそうだった為フィンが皆に問いかける形で話をした。ベルのスキル誓い(ルフテ)は今回のステイタス更新をみて改めてまだベルに伝えるべきではないと判断した。

 

「今ベルは成長期なんや、今日の朝みたいにアイズたんと特訓してればどんどん成長できるで!」

 

「はい!頑張りますロキ様!アイズさんこれからも一緒に特訓していただけるでしょうか?」

 

「...うん!一緒にがんばろう」

 

(あのステイタスの上がり方は...本当に私たちに追いつく日も近いかもしれない。でも急激に上がり過ぎてベルの体は大丈夫なのかな...)

 

アイズは困惑した表情をしていたがベルの笑顔の前に考えるのを止めた。

 

「これからベルはアイズたんとギルドやんな、しっかり説明聞いてくるんやで!」

 

「ベルとアイズはギルドに行くのか、私も少々ギルドに用事があるから同行しよう」

 

「リヴェリアとその二人が並んでたらホンマもんの家族に見えるから止めた方がええと思うでぇー」

 

ロキが爆笑している。リヴェリアはロキを人睨みすると真剣な顔でベルに尋ねた。

 

 

「ベル、私のような者は女として見れないか?」

 

神が嫉妬するほどの美しさを持つリヴェリアである。そんなリヴェリアに至近距離で見つめられて固まるベルは必至で祖父がいっていた言葉を思い出していた。

 

(ベルよ、年齢などをきにしている女性に対しては直球で伝えるのが一番じゃ。凝った言い方など不要、自分の思っていることを素直に言えばよい!)

 

(お...おじいちゃん...)

 

「ええと...リヴェリアさんはすごく美人で...すごくいい匂いがして...大好きです!!」

 

「「なっっ...」」

 

「ひゅーベルいうねぇー!」

 

まさかのベルの発言にりヴェリアとアイズが固まる。エルフの王族という立場におり、このオラリオの地でも上位に位置するリヴェリアに面と向かって大好きなどと言える度胸があるものなどいない。故に人生で初めての告白を受けたわけだ。わずかに頬を高揚させて固まるリヴェリアにベルが追撃する。

 

「お母さんみたいで!」

 

(ああ...ベル...そないにあげてからおとさんでもええやん...)

 

周囲になんともいえない雰囲気が漂う中以外にもリヴェリアは平気な顏をしており満足しているようだ。

 

(好き...か。久しぶりにいい気分にさせてもらった。私はアイズとベルの母役で十分幸せだからな)

 

「さあ、この話はお終いだ。アイズ、ベル、ギルドへ行くぞ。帰りに私が何か買ってやろう」

 

(それじゃホンマにお母さんやん。まあなんか幸せそうやしええか)

 

「ほな、とリあえず解散しよか。気を付けていくんやでー」

 

3人は仲良く並んでギルドへと向かった。

 

 

黄昏の館玄関ホール

 

「あ、レフィーヤ...]

 

玄関ホールにはレフィーヤを含め数人の団員達が談笑をしていた。

 

「二人ともちょっと待っててもらえる?」

 

アイズがレフィーヤ達に近づくと明らかに色めき立つ、その場にいたのはアイズ親衛隊の面々だったからだ。

 

「レフィーヤ!ちょっとお願いがあるんだけど...」

 

「なんでしょうか!私にできることなら何でもいってください!」

 

「んと...今日の夜私に料理を教えてほしい」

 

(アイズさんが料理!?)

 

「い...いいですけど突然どうしたんですか?」

 

アイズはちらりとベルの方をみて小声で答えた。

 

「ベルが、女の子の手料理は男のロマンって言ってて...食べてみたいみたいだったから私が作ってあげようかなって。今日の訓練もすごく頑張ってたから...」

 

「あー...そーなんですかー...」

 

(アイズさんの手料理を食べれるなんて...でも考え方によってはアイズさんと一緒に料理ができるなんてそんな幸せなことはない...ここは素直に受けておいた方がいいですね)

 

「あ!この子達も一緒に料理をしてもよろしいですか?」

 

「ん、いいよ。一緒に作ろう」

 

親衛隊メンバーから歓声が上がる。

 

(親衛隊長として私だけ楽しむ訳にはいけませんしね)

 

「「「アイズさm...アイズさん!よろしくお願いします」」」

 

「ん、よろしく。じゃあまた夜にね」

 

そういうと小走りで二人のところまで戻っていった。

 

「アイズさん何かあったんですか?」

 

「ん、秘密」

 

ベルは首をかしげたがそのままアイズに手をひかれ黄昏の館を後にした。

 

「隊長ーーーー!ありがとうございます!ベル・クラネルは相変わらずですが今回はこんな機会をくれたあいつに感謝しましょう」

 

副隊長であるリリー・アルトレアが満面な笑みで答える。

 

「それにしてもあいつはアイズさんとどんな訓練をしているんでしょうか...うらやましい...」

 

「今日の午後も訓練する予定のようなので皆で見学しに行きましょうか」

 

「「「はい!」」」

 

 

親衛隊達はアイズとベルの地獄の訓練を目にすることとなる...

 

 

 




読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はほのぼの会ですかねー

ベル君は年上に対しての魅了効果があるかもしれません。


これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします<m(__)m>


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26 冒険者登録

黄昏の館からギルドまでの道のりを3人仲良く歩いていく


(うー視線が気になる...)

 

黄昏の館を出発してから今現在に至るまで、老若男女問わずほぼ全ての人が3人が通り過ぎた後振り返っている。オラリオ一の魔導師【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン 【豊穣の女主人の男の娘】ベル・クラネル...

若干一名かわいそうな呼び名がされているがこの三名が並ぶと男からも女からも視線が集まる。二人が有名なのはもちろんのことであるが意外にも豊穣の女主人で働いていたからなのかベルもなかなかの人気が出ている。一部の神からは危ない目つきで自分のファミリアに勧誘されていた。特に【太陽神】アポロンからはしつこく勧誘を受けていたがその度にミアが庇ってくれていた。ロキファミリアに入った今ならいくら神とはいえどそうそう手を出せはしない。

 

アイズとリヴェリアはいつものことなので平然と歩いているが周囲の視線になれていないベルは恥ずかしそうだ。

 

「ベル、男なら下を向かず堂々と前を向いて歩くものだぞ?いつの日かおまえが英雄と呼ばれる存在になった時そんなことでは恰好がつかんぞ?」

 

穏やかな笑みを浮かべるリヴェリアにドキドキしながらもなんとか姿勢を正して前を向いて歩き出す。隣のアイズも満足そうだ。

 

そうこうしている内にギルドに到着した。3人でギルドの受付に並ぶ、順番が回ってくると一人のハーフエルフの女性が対応してくれた。

 

「これはリヴェリア様、ヴァレンシュタイン氏、ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

端正な顔立ちをしてメガネをかけている女性が丁寧に対応してくれている。

 

「久しいな、エイナ。今日はロキファミリアの期待の新人を連れて来た、冒険者登録を頼む。ダンジョンの知識等は私が直々に仕込んでやるつもりだから安心してくれ。ベル、エイナは私の親友の娘だから安心していいぞ」

 

(...一人の新人にロキファミリアの幹部が二人も!?それにリヴェリア様が直々に指導するなんて...この少年は一体...)

 

「ほら、ベル。お前も自己紹介くらいしないか!」

 

二人のやり取りを茫然と眺めていたベルがハッとなり自己紹介をした。

 

「ベル・クラネルです。ロキファミリア所属です、よろしくお願いいたします!」

 

ベルは元気いっぱいである。エイナはニコリと笑い自己紹介した。

 

「ギルド所属、エイナ・チュールです。これから私がクラネルさんの担当になりますのでよろしくお願いいたします」

 

(クラネルという家名...たしかギルドの資料で見た記憶が...)

 

過去の記憶を思い起こすエイナだが難しい顔をしているとリヴェリアと目があい頷かれた。無言の圧力を受け今は考えることを止めた。

 

「それではクラネルさん、これより手続きを行いますので少々お待ちください」

 

エイナが手元の資料を確認しギルドの印を押すことによってベルの冒険者登録が完了した。

 

「それでは本来ならこれから講習があるんですがクラネルさんはリヴェリア様の講習を受けていただければ問題ありません。むしろ私より厳しいと思いますので頑張ってくださいね!」

 

こくこくとベルは頷いている。

 

「二人とも、少々私はエイナに用事があるから向こうのソファのところにいてくれないか?」

 

ベルとアイズは頷いて二人で歩いて行った。その様子を横目に小声で話し始める。

 

「エイナ、最近何か変わったことはないか?特にソーマファミリアに関してだ。私の気のせいならいいのだが何やら妙な動きをしていると報告が入っているのだ」

 

「そう...ですね。あまり大きな声ではいえないんですが...最近妙に羽振りがいいという噂を聞いています。あ、今もちょうどあそこで魔石を換金していますよ」

 

換金所ではソーマファミリアの団員が袋に入った大量の魔石を交換しているところである、換金が終了し袋に詰まったヴァリスが手渡される。

 

「230万ヴァリスになります」

 

ギルド職員が事務的に対応している。

 

「ぐっへっへっへ、本当にぼろ儲けですぜ。こんなに楽に金が手に入るならアーデの奴はもう用済みだな」

 

獣人の男性が大声で下品な笑い声をしている。

 

「おいカヌゥ!あまり大きな声を出すな。さっさとホームに帰るぞ、団長である私がわざわざ来ていることを忘れるな」

 

「わかってまさぁ、荷物はお持ちしますぜ」

 

そのまま二人はギルドを後にした。

 

「たしかに妙だな...ソーマファミリアは団長でもレベル2だったはずだが。それにしても先ほどの魔石を見る限り明らかに良質な物が含まれていたな。あれは深層に近いところでしか手に入らない物だが...自分たちで探索したものではないと考えると神酒(ソーマ)を誰かに魔石と交換で売ったと考えるのが妥当だろう...」

 

(だが何故わざわざ魔石で支払う必要がある?...自分では魔石を交換できない?そんな奴がいるのか?...いや考えすぎか。ふーむ...念の為ロキに相談しておくか...)

 

「ふむ、エイナまた何かあったら私に連絡をくれ。なに、お前の立場も私はわかっているつもりだ。公に公表できることだけでよい、では頼んだぞ。二人とも時間を取らせたな、我々もホームに帰ろう」

 

ベルの冒険者登録も無事に終わり、多少気になることはできたが黄昏の館まで帰ることにした。

 

「二人とも腹は減っていないか?黄昏の館まで帰る前にどこかで食べて行くとしよう」

 

気が付けば少々お昼には早いがいい時間帯になっていた。午後も訓練を控えている二人の為にリヴェリア母さんは何か御馳走してくれるようだ。

 

「んと...ここからならじゃが丸くんの屋台が近い」

 

「じゃが丸くん...アイズが以前大量に買ってきた物だな。あまりあればかり食べるのも良くないが...ベルは食べたい物はあるか?」

 

「僕もじゃが丸くんがいいです!」

 

先日アイズと一緒に食べたときにベルも気に入ったようでアイズに賛成した。

 

「そうか...二人共食べたいというのであれば私も異論はない。アイズ、案内してくれ」

 

「ん、わかった」

 

アイズは左手にリヴェリア、右手にベルの手を握りじゃが丸くんの屋台に向かった。

 

「いらっしゃいませー!お客様何になさいますか?」

 

ツインテールの少女、神ヘスティアが元気いっぱいに接客している。

 

(あ...いつもの店員さん)

 

(あ...この間の人だ)

 

(なぜ神がこんな露店で...?)

 

「おおっと、いつも来てくれてありがとぅ!この間の少年も一緒だねぇ。おばちゃんには内緒でおまけしてあげるからどんどん買って行っておくれよー!...そういえば自己紹介したことなかったねぇ。ぼくはヘスティアっていうんだ。これでも一応神なんだぜ!」

 

胸をたゆんたゆん揺らしながら腰に両手を当てて自慢気だ。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインです」

 

「ベル・クラネルです」

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴだ」

 

三人とも簡単に自己紹介をした。

 

「どこかで聞いたことのある名前の気もするけど...きっと気のせいだね!君たちはどこかのファミリアに入っているのかい?入っていないなら僕のファミリアに入らないかい?君たちのような子供達なら大歓迎だぜ!」

 

「申し訳ないが我々三人とも既にファミリアに属しているのでその提案に乗る訳にはいかない」

 

「そうなのかい...いや、いいんだ。僕もよそ様の子供に手を出すようなことはしたくないからね!気にしないでおくれ」

 

「そういっていただけるとありがたい、その代わりといってはなんだがじゃが丸くんとやらを買っていこう。二人ともどうするんだ?」

 

「「小倉クリーム、クリーム増量あんこ益々で!!」

 

「な...なんだその呪文は...」

 

ベルとアイズの息の合った返答に面食らいながらもリヴェリアも同じ物を注文した。

 

 

その後三人仲良くじゃが丸くんを食べながら黄昏の館まで帰ったのであった...

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はエイナさんが登場しました...がリヴェリア様がいるので出番はあまりないかと思います。

ソーマファミリアが出てきてますねー彼らの動きにも要注目です。

次回かその次くらいにまた挿絵が入りますのでご期待ください!今回はほのぼの系です



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27 訓練と親衛隊

じゃが丸くんを食べつつ黄昏の館に向かう3人


(ふむ...じゃが丸くんか...なかなかだな)

 

リヴェリアは二人に感化されて歩きながらじゃが丸くんを食べていた。本来なら買い食いなど...と思うリヴェリアであるが二人の幸せそうにじゃが丸くんを頬張る姿に陥落した。

 

「二人ともこれからまた訓練だろう、己を鍛えることはいいことだがあまり無理なことはしないようにな。それとベル、夕食後に私がみっちりと座学をしてやるから覚悟しておけ」

 

「わかりました!よろしくお願いします」

 

黄昏の館の前でリヴェリアと別れたベルとアイズはそのまま訓練所へと向かった。別れ際にリヴェリアから手渡されたポーチの中にはポーションがぎっしりと詰まっている。これならば即死しないかぎりは問題なく回復することができるだろう。アイズの実力は疑っていないが万が一ということもある為リヴェリアままに抜かりはない。

 

訓練所の中には既に数組のパーティがおり、各々が連携の確認やレベルの低い者に技術指導を行っていた。その中には今朝話していたアイズ親衛隊達の姿も見える。アイズとベルが訓練所に入ってきたことを確認した彼女達は声をかけようとしたまま固まった...

 

「それじゃあベル。まずは朝の続きをしようか、構えて」

 

アイズは長剣を抜き鞘を構えた。朝と同様にアイズからはすさまじいプレッシャーを感じる。その場で訓練していた者は一瞬で体が固まってしまった。圧倒的強者による威圧はレベルが低い冒険者にとって脅威になる、恐怖によって体が固まってしまい自分の意志ではすぐに動くことができないのだ。現在この場で動くことができたのはレベル3のレフィーヤ、そしてレベル1であるはずのベルである。親衛隊の面々が固まる中新人のベルが剣を構えアイズと対面しているという状況は本来ならありえない。ベルが動けるのは誓い(ルフテ)の効果でもあるが、強くなりたい...皆を、アイズを護れるほど強くなりたい...その気持ちが震える体を支えているのだ。この場にいる他の団員達とは比較にならないほど強い想いでアイズと向き合っている。

 

「まずは防御から」

 

アイズは剣を構えるベルに瞬時に近寄ると無造作に鞘での攻撃を仕掛けた。ベルの構えには隙がないように見えるがレベル5のアイズから見るとまだまだ脇があまい...

 

ギンッギンッ

 

正面からくる鞘を剣先で逸らし、衝撃を受け流す。しかし力の差がある為完璧には受け流せず体制が崩れてしまう。その隙を逃さずアイズが急所を狙って突きを繰り出した。

 

「くうっっ」

 

この体制から突きを受け流すのは不可能だと判断し右手で握る白狼に左手を添えて剣の腹で受け止めた。

手加減しているとはいえアイズの突きである、一瞬耐えたものの吹き飛ばされ壁に激突した。

なんとか体を捻り頭を打つのを回避したものの背中を強打し、肺の中の空気が全部出てしまったような感覚に襲われる。

 

「ごふっげほげほげほ」

 

近くで見ていたレフィーヤと親衛隊がその様子をみて慌ててベルに駆け寄ろうとする。

 

「手を出さないで」

 

アイズの無慈悲な声が訓練所に響く。この程度のケガでは休憩どころかポーションすら飲ませてはもらえない。己の限界を超えてこそ強くなれる、アイズも昔から今のベルのように自分の限界を常に超えようと激しい訓練を積んできた。だからこそこの年齢で第一級鵜冒険者として活躍できているのである。

 

「ベル、立って!」

 

ベルはよろけながらではあるが立ち上がり剣を構えた。まだまだ訓練はここからである...

 

(...うちらはベルを甘く見ていた...どうせアイズさんと普段みたいな甘々な感じで訓練していると思ってた...こいつ本当に死ぬ気で強くなろうとしてるんだ...)

 

ギンッギイインッ

 

「うおぉぉぉ!」

 

防御の訓練が終わり次は攻撃の訓練に入っている。普段の中性的でかわいらしい顔はなく凛々しく男の顔をしている。アイズに向かって突進しフェイントを交えながら剣を振るう。攻撃を受け流されても体勢を崩されることなく、己の全てを出して戦っているように見える。

 

「副隊長ー!拙者なんかキュンキュンするでござる。男にこんな感じになったの初めてでござるーー!」

 

美しく長い黒髪を一つにまとめ東方の者が使用することが多い刀という敵を切り裂くことに特化した武器と、甲冑のような物を装備している少女がベルを見て頬を染めている。

 

彼女の名前は【霧時雨 刹那】ヒューマンの少女である。レベルは1だがステイタスは上位に当たるとされている。ロキがかわいいからという理由で幼少の頃から洗脳した結果このような口調になってしまった残念な子である。しかし、周囲の男神には凛々しくも愛らしい容姿とこの口調で人気になっている...

 

「刹那...ウチらはアイズ様親衛隊なんだからベルになんかきゅんきゅんするんじゃない!ルナを見てみな!」

 

帽子を深くかぶりベルとアイズを凝視しているのがハーフエルフの【ルナ・ルウ】である。

薄い緑色の髪をして長いローブと魔導師の杖を携帯している魔術師特化型の団員だ。右目の眼帯は本人いわく己の力を封印しているらしい...レベルは刹那と同様にレベル1の上位に位置しており若手の有望株筆頭である。

 

「副団長ー!ルナはいつものやつでござる..完全に自分の世界に入ってるでござるよー」

 

よくみると凝視はしているがぶつぶつとひたすら何か言っている。正直ちょっと怖い...

 

(アイズさん攻めの私受け...いやむしろ私攻めのアイズさん受けというのも捨てがたい。あの新人のベルも結構かわいい顔してるからベートさん攻めのベル受けとかいいかも、いやフィンさんとベルとの絡みも...ぶつぶつぶつ)

 

ルナの特性...妄想癖&BL好き

 

そんなルナを見つめリリーとレフィーヤ、刹那は溜息をついた。このトランス状態の時の集中力はすさまじいものがあり話しかけても無駄だということはわかっている。これさえなければすでにレベル2にはなっているはずであり三人はエルフにもいろんなタイプがいるんだと再認識した。

親衛隊達がそんな話をしている間にも訓練は進みベルが魔法を唱えた。

 

目覚めよ(テンペスト) (ドゥンデル)

 

 

雷の魔力がベルを覆い身体能力を大幅にアップさせる。今朝ベートに言われたことを頭にいれ自分から仕掛けてみるつもりのようだ。

 

(まさか魔法まで発現しているなんて...)

 

親衛隊が唖然とする中ベルは一度アイズから距離をとり魔力を集中させ手の平の上に雷の魔力の球体を浮かべる。アイズに向かって魔力の塊を投げると同時に足に魔力を集中させ一気に間合いを詰めた。アイズは目の前の雷の球体を弾き飛ばそうとして鞘を当てた瞬間に閃光がはしり一瞬視界を奪われた。その一瞬を見逃さず魔力で強化された脚力でアイズの背後へと周り剣を振るった...

 

(いける...!!)

 

「ベル...甘いよ」

 

アイズの感知能力はベルの比ではない。ベルが背後に回った事に気が付いた瞬間左足を軸に回転し回し蹴りを放った。いけると油断したベルの顎にアイズの強烈な蹴りが当たりそのままゆっくりと後方に倒れる、今回は当たり所も悪く完全に気絶してしまったようだ。

 

 

ベルとアイズの訓練は基本的に全力で護り、全力で攻め、気絶までがワンセットである。気絶したベルの手当も手慣れたものでポーションをかけた後は傷の状態を確認し、目覚めるまで膝枕をして待つのが流れである。当然のことながら目覚めたベルは毎回顔を赤くし申し訳なさそうに謝っている。

アイズが以前より一段とつやつやしているのも気のせいではないかもしれない...

 

「...悔しいですが今この光景をみて私は何も言えません、というよりあんな幸せそうな顔をしているアイズさんの邪魔をすることはできません...私たちも訓練に戻りましょうか」

 

親衛隊長であるレフィーヤもこの空気を壊してアイズに話しかけるようなことはできないようだ。他の面々もベルの気迫ある戦いぶりをみて熱意を感じ取ったようで、今日の夜の料理教室を楽しみにしてこの場は目を瞑ることにした。

 

もしかしたらベルは明日にでも自分たちを追い抜くかもしれないという不安からこれまで以上に訓練を頑張るようだ。訓練所にいた他の団員達も負けていられないと先ほどより大きな声をだし訓練を行っていた...

 

それから夕食までの数時間の間先ほどの流れを数十セット繰り返し本日のベルの戦闘訓練は終了した。

 

「ベル、今日もよく頑張ったね。最後の方の動きすごくよくなってた」

 

訓練所からの帰り道に今日の反省会を二人ですることに決めていた。ベルは疲労でへとへとではあるが訓練にたしかな手ごたえを感じている。

 

(ベルの成長速度は私の想像を超えている...普通なら今日の訓練だってあそこまで耐えられない...と思う。どうして...どうしてこんなにはやく強くなっていけるんだろう...)

 

 

アイズは自身がレベル1だった頃を思い返していた。レベル2になるまでには1年かかったアイズだがベルは自分より遥かにはやくレベル2になると改めて確信した。

 

もちろん今回も大浴場へ向かったが当然のことながら別々である、今朝と同様にアイズに誘われたベルは自分が男だと認識されていないんじゃないかと本気で心配になってきた...

 

夕食も終わりベルはリヴェリアと共に図書室へ、アイズはレフィーヤ達と共に食堂に残った...

 

 

 




読んでくださっている皆さんいつもありがとうございます<m(__)m>

今回は親衛隊の紹介とベルの訓練でした。少々長くなりそうだったので今回は短めにしましたが短めに書くのと長めに書くのとどっちがいいですかねー。悩みます...

次回は座学とアイズの料理挑戦、アイズの手料理実食までいけるかなーなんて思ってます。
次回又はその次くらいに挿絵入れる予定です!


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28 リヴェリアの座学とアイズの料理

ベルは夕食後リヴェリアと共に図書室へと向かった。


黄昏の館、最奥にある大きな扉を開けるとそこはロキやリヴェリアが収集した本がずらりと並んでいる。ここの図書室は常に鍵がかけられており管理はリヴェリアが行っている。

 

図書室の中にはベルでは読むことができない言語で書かれている物や古く年代を感じさせる物が多くある。

今回リヴェリアが使用するのはロキファミリアの団員達が今まで実際にダンジョンに潜り検証した結果を元に自作した教本である。

 

中には各階層の地図や出現するモンスターの特徴、レアな鉱石が発掘された場所など情報がびっしりと記載されている。この情報量をヴァリスに例えるなら計り知れない金額になることだろう...

 

教本は上層、中層、深層と分かれており今回は上層用の教本を使用する。ベルの理解力を見つつ知識を叩きこんでいくつもりのようだ。

 

魔石を使用したランプの明かりをつけベルを椅子に座らせた。凝った意匠が施された椅子は年代を感じさせる、ギシッと音をたててベルは席に着いた。リヴェリアもベルの対面に座ると教本を開いてダンジョンで生き残る術を教えていく。

 

「ベルよ、まず大前提だが文字の読み書きはできるか?」

 

この世界では文字の読み書きができない者もいる。オラリオのような大都市では文字の読み書きができる者が多いが郊外に住んでいる者の中には読み書きができない者がいるのが現状だ。

 

「大丈夫です。一通りの知識教養はおじいちゃんに習いました!神聖文字(ヒエログリフ)は読めませんが...]

 

「うむ。いい祖父を持ったな、神聖文字(ヒエログリフ)は読めればそれだけ知識が広がるが今はいいだろう。我々が遠征に行くまでにこの上層用の教本全て覚えてもらうとする。来週にはアイズとダンジョンに入ってもらうことになるからそれまでに基本的な知識はあった方がいいな。知識と実際に経験したこと、この二つがあれば緊急事態(イレギュラー)さえ起こらなければ問題はないだろう」

 

ベルは厚い教本を目にして冷や汗が止まらない...

 

「よ...よろしくお願いします...」

 

「まあ、そう気を張ることはない。では教本の一ページ目を開いてくれ、まずベルはダンジョンがオラリオのどこにあるか知っているか?」

 

ベルは即座に答える。

 

「バベルの地下です!ウラノス様が祈祷を行うことで現在のダンジョンを維持しているとおじいちゃんがいっていました」

 

リヴェリアはうんうんと頷きながらベルの話を聞いている、本当に息子の勉強をみている母親のようだ。

 

「よろしい、いいぞベル!では次はダンジョンの地図を見せてやろう」

 

リヴェリアは教本に折りたたんで入れてある年季の入った地図を机の上に広げた。この地図一枚書くのには膨大な時間と労力をようする。ちなみにダンジョンでは地下に降りれば降りるほどモンスターは強くなり一つの階層も広く複雑になっていく。

 

「これが地図!!...これだけ見てもよくわからないです...すみません...」

 

ベルはまだダンジョンに潜ったことがないのでいまいちピンとこないようだ、次のページに書いてあるモンスターの方が興味があるようでリヴェリアが苦笑している。

 

「地形を覚えるということは非常に重要になってくるのだぞ?ダンジョン内では様々なことが起きる。突如大量のモンスターが出現するモンスターパーティーなどが代表的だな。そのような不測の事態が起こった時に現在の自分の位置や逃げるルートが頭に入っていれば対処しやすいからな」

 

ベルは教本を見ていたが顔をあげリヴェリアを見つめながら尋ねた。

 

「リヴェリアさんもダンジョンでそういうことが起こったことがあるんですか?」

 

「私ももう大分長い間冒険者をやっているからな...何回もあるさ。実際に今生きていられるのが不思議なくらいな体験も何度もしている」

 

無言で聞いているベルだがその表情は険しい...

 

「あの先ほど言っていた遠征って...」

 

「ロキファミリアは探索系のファミリアだ。そして現在目指しているのは未到達領域の59階層、我々がまだ誰も足を踏み入れていない未知の階層だ。正直な話犠牲者が出る可能性も0ではない」

 

ベルの顔が更に険しくなる。

 

「あ...あの...遠征はレベルいくつから参加できるんでしょうか?」

 

リヴェリアはベルが何をいいたいかわかり頭を撫でた。

 

「遠征に参加できるのはサポーターとしての参加でも最低レベル2の上位以上だ。ベルよ、お前はこの先必ず強くなる。ロキファミリア副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴが太鼓判を押そう。しかし焦って無理をすれば必ず危険が伴う、今は自分にできることを精一杯やることだ...だがお前の気持ちはうれしく思うぞ」

 

「はい...僕今は頑張って勉強します!」

 

ベルは無理やり笑顔を作って返事をした。

 

(それでも...遠征へ向かう皆さんに何かできることはないのかな...)

 

「よし!その調子だ。私もビシビシ指導してやるから覚悟しておけよ!それでは次のページだ」

 

その後深夜になるまでリヴェリアから指導を受け日付が変わる頃ベルは就寝した...

 

(誰よりもはやく...アイズさんや皆さんに追いつきたい...)

 

 

 

 

時は遡り夕食後のアイズ

 

「「レフィーヤとアイズのお料理教室ーー!」」ドンドンドンパフパフパフー!

 

エプロンを着けたアイズとレフィーヤがキッチンでポーズを決めていた。

 

「...レフィーヤ、これでいい?」

 

アイズが右手にお玉を持ち困惑した表情でレフィーヤを見つめている。

レフィーヤ以下3名はあまりのかわいさに鼻を押さえている。

 

(危ない危ない...鼻血がでそうになるなんてなんて破壊力...まさか本当にやっていただけるなんて)

 

今回はレフィーヤを先生としてアイズ、リリー、刹那、ルナが指導を受けるようだ。無論全員エプロンを装備している。

 

「アイズさんは何か作りたい物はありますか?それを踏まえて食材を選びたいと思うんですが...リリー達も何か作りたい物があればいってください」

 

「んと...私はお弁当を作ってあげたい...なんて考えてる。訓練の合間にでも食べられるから」

 

「ウチもそれでいいっす!」

 

「拙者おにぎりなら得意でござる!」

 

「...私を満たせるのは煉獄の業火で焼かれた哀れな野菜たちだけ...」

 

「...アイズさんとリリーはお弁当、刹那はおにぎり、ルナは...えーと野菜炒めでいいですね?じゃあみんなでお弁当を作ってその中におにぎりと野菜炒めを含めましょうか。他のメニューは作りやすいものを私が選定しますね!」

 

とりあえず今回レフィーヤはおにぎり、野菜炒め、からあげ、卵焼き、タコサンウインナーを入れることした。まず最初に野菜炒めをつくろうと食材を用意した。

 

「それではこれから調理を開始します。ではまずこのキャベツの千切りからしたいと思いますがアイズさん千切りはわかりますか?」

 

アイズは少し首をかしげたがハッ!となり首を縦に振った。

 

「ではアイズさんお願いしてもいいですか?」

 

「ん、わかった」

 

(千切り...千切り...これでいいよね)

 

千連撃(サウザンドスラッシュ)

 

ザシュザシュザシュ

 

アイズは庖丁を持つとすさまじい速度でキャベツを切り刻んだ。近くで見ている4人はアイズの腕の振りが少しも見えない...茫然と眺めること十数秒、目の前にあったキャベツとまな板は一ミリのずれもなくおそらく千等分されていた...

 

(あれ...調理の時ってこんなザシュっとか音しましたっけ...普通トントントンとかでは...)

 

ドヤァっと庖丁を持ったアイズが4人の方に振り返った。その顔をみてもしかしたら千切りってこういうことなのかな...と思いそうになったがそんなことはない、こんなにも薄く切れているキャベツなんてめったに見れるものではないが...

 

「あ...あのーアイズさん、大変申し訳ないんですが千切りってこういう風にやるんです」

 

心底申し訳なさそうにレフィーヤが庖丁を持ちトントントンっとキャベツを千切りにした。アイズは茫然とレフィーヤの調理を見ていたが、すごく気まずそうな顔をしている。親衛隊の面々は珍しいアイズの表情に興奮気味だ。

 

その後も...

 

「あーアイズさん!唐揚げ焦げてます!」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

唐揚げを盛大に焦がし...

 

「アイズさん!卵の殻が入ってます...」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

卵を上手く割れず握り潰し...

 

「アイズさん、タコサンの足が...」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

タコサンウインナーの足を切断した...

 

(料理って難しい...階層主倒す方が簡単かもしれない)

 

アイズは改めて料理の難しさとベルがいかに料理の技術力が高いかを認識した。

 

(アイズさん、ごめんなさい。私の教え方が悪いばかりに...)

 

レフィーヤは先ほどの惨状を目にし責任を感じていた。何か簡単な料理はないかと必死に考えている。

 

(あの後おにぎりも作ってもらいましたが力加減が上手くいきませんでしたしどうしたらいいでしょうか...)

 

そこに親衛隊から提案があった。先ほどから3人固まって何やら相談しているのはわかっていたが何かいい案があるのであろうか。

 

「僭越ながら、私たちも考えたんですがサンドイッチではどうでしょうか?」

 

「なるほど!いい案ですね!サンドイッチなら簡単ですし中身をジャムにすればほとんど調理は必要ありませんから!」

 

少し離れてところで体育座りをしてレフィーヤ達をチラチラ見ていたアイズを呼びに行き手順を説明した。

 

「アイズさん!これなら簡単に作れますしおいしく食べられます!まず先日ティオナさんが18階層から大量に採取してきた果実があるんですがこれをすり潰して味を調えてジャムを作ります」

 

アイズが一つ一つ慎重に果実をすり潰し砂糖などで味を調えていく。

 

「味見してみてください!」

 

自分で作ったジャムをスプーンですくい口に入れる。

 

「!甘くておいしい!」

 

先ほどの沈んだ顔とは一転し笑顔になるアイズ。

 

「それでですね、この食パンというパンにそのジャムを均一になるように塗りまして、半分に切って完成です!」

 

「こう...かな。できた!」

 

「「「完成ーー!!」」」

 

固唾をのんで見守っていたりりー、刹那、ルナが歓声をあげた。先ほどの惨状を見ていたので調理といえるかわからないほど簡単な工程だったがそれでも無事できてよかったと思っている。

 

「ではさっそく皆で食べてみましょうか!」

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

頑張って作ったものは普段食べている者よりおいしく感じるものでみんな満足そうである。親衛隊の面々はもしベルにあったらアイズの初めての料理を食べたのは自分たちだと自慢してやろうと思ったがむなしくなりそうなので止めることにした。

 

「皆ありがとう!明日お昼にまた作って午後の訓練の合間にベルを誘ってみる!」

 

こうしてレフィーヤのお料理教室は終了した。ベルはどんな反応をするのであろうか...

 

 

 

バベルにあるギルド職員専用資料室

 

「んーたしかこの辺りにで見たことがあるはずなんだけどなー」

 

ギルド職員であるエイナはある家名について調べていた。ロキファミリアの新人ベル・クラネルの家名だ。

 

「ダグラス・クラネル、ゼウスファミリア団長であり剣神と呼ばれるほどの剣の使い手、当時オラリオ最強と謳われていた。ある村で黒龍、後の隻眼の龍の襲来を受けゼウスファミリアは壊滅。ダグラス・クラネルもこの時死亡したとされているがしかしなぜか遺体はなかったとされている...うーんこの資料じゃないかな、何かもっと昔に見た記憶が...」

 

更に資料を探していると古い資料の棚にいきついた。

 

「これはまだ神達が下界に来る前の...神の恩恵というものがなく精霊達が人間と共にモンスター達と戦っていた記録...これだ!思い出した!」

 

その中にたしかにクラネルという家名が書かれていた。精霊の血を体に宿した一族ヴァレンシュタイン、その一族を守護する一族の男子だけがクラネルという家名を受け継ぐことができると。ヴァレンシュタインの家名はこのオラリオでも有名だがいつのまにかこのクラネルという家名は忘れ去られていたようだ。この話はウラノス以外に知る者はいない、神ゼウスですら知らない真実であった...

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます<m(__)m>

今回はベルの座学とアイズの料理教室でした。

ちょっとだけエイナさんも登場しましたね(ー_ー)!!

次回はアイズとベルの魔法の名前が決まったのでロキから発表します

挿絵も入りますのでお楽しみに!


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29 ベルにご褒美

翌日、ベルはリヴェリアの座学で深夜まで勉強していたにも関わらず朝4時から訓練に勤しんでいた


「ふっふっふっ!」

 

短い呼吸音とともにベルが架空の相手と戦っている。想定はもちろんアイズだ、ここ数日のアイズの動きを思い出しそれをどうすれば上回ることができるかを必死で考えながらトレーニングを行っていた。

 

(...こんなんじゃだめだ)

 

やはり想像の力だけでは限界がある、アイズと同レベルでベルの指導をできる者などいない...はず。

 

「おいベル!なんでまた朝っぱらからこんなとこにいやがる」

 

訓練所の入り口付近からツカツカとベートがベルの元へとやってくる。その表情はイライラしているようでもあり弟を心配する兄のようにも見えた。

 

大粒の汗をしたたらせ白狼を握りしめるベルはビクッと肩を震わせ振り返った。

 

「あ!おはようございます!」

 

白狼を腰の鞘に戻しぺこりとベートに挨拶をした。

 

「挨拶なんかいらねぇ、質問に答えろ」

 

腕組みをしてベルを見つめるベートに対しベルが困ったような表情を浮かべている。

 

「ええと...実は昨日リヴェリアさんから遠征のことを聞きまして...それで皆さんが命の危険がある場所に挑戦するのに僕は何をやっているんだろう...と。僕の実力ではついていくことさえできない、それがなんだがすごくなさけなくて...こうして一人で特訓していました」

 

ベートはベルの言葉に今度はなにやら考え込んでいるようだ。

 

(ベルの強くなりてえって気持ちはわかる、こいつの言葉に嘘はねえ。だが何故だ、アイズの英雄になりたいってのもそうだ。何がこいつをここまで...)

 

「なあ、おまえは一体何者なんだ?」

 

そんな問いかけをしてみたくなる、しかしベル本人から自分の事を話すならともかく自分からそのことにはふれてはいけない気がした。

 

「まだ誰にもいってないんですが夢をみるんです...目を覚ますとほとんど忘れてしまうんですが、夢の中の僕にはたくさんの仲間がいました。仲間というか本当に家族のような人たちです。その中にはアイズさんに似た人もいました。ですが空から黒い何かが迫ってきて僕の目の前で皆が殺されてしました。そのことだけが忘れられなくて、すごく怖くて...」

 

ズキンッ

 

痛みとともにベートの脳内には幼い日のトラウマがよみがえるが、そのトラウマを払拭する為にもベートは死に物狂いで力を求めた。故に今のレベルと第一級冒険者としての自分がいる。今のベルを見ると過去の自分を見ているような気がした。

 

「お前にはまだ遠征は無理だ。それは変わらねえ、だが仲間が心配ならお前の代わりに俺があいつらの面倒を見てやる。お前は俺の代わりに地上に残ったやつらの面倒をみろ」

 

ベルの真正面に立ちその真紅の瞳をみつめる。

 

(...今まで気が付かなかったがこの瞳に俺は見覚えがある...)

 

「...ありがとうございます、お兄ちゃん!僕もっとがんばります!」

 

ぶわっとベートのしっぽが逆立ち今思い出しかけていたことがどこかに吹っ飛んで行った。

 

「ああ?おまえ今なんて?」

 

ベルは首をかしげながら繰り返した。

 

「僕もっとがんばります!」

 

「いやその前だ」

 

「お兄ちゃん?」

 

照れなのか怒りなのかわずかにベートの頬が赤くなりプルプル震えだす。

 

「ベル、おまえ誰に何を吹き込まれた?」

 

「ええと...ロキ様が僕たちは家族だからベートさんはお兄ちゃんだとおっしゃていたので」

 

「...ロキの野郎...後で絞める」

 

「ええと...駄目でしたでしょうか?」

 

キューンと捨てられた子犬のような表情でベートを見上げるがベートはそっぽを向いてベルの方を見ようとはしない。

 

(こいつなんて顔でみやがる...チッ...俺がお兄ちゃんってがらかよ)

 

はぁっっと深いためいきベルに背を向けて言った。

 

「どうしても呼びてえなら兄貴にしろ、それと二人でいるときだけだ。今日はもう時間がねえが強くなりてえなら明日も今日と同じ時間にここに来い。アイズが来るまでは俺が相手をしてやる、一人で訓練するよりはいいだろ」

 

そういうと手をあげてしっぽを振りながら訓練所へ出て行った。

 

「ありがとうございます!兄貴!」

 

遠ざかる背中に向けてベルは頭を下げお礼をいった。一瞬ビクッとベートが固まったようにみえたのは気のせいだと思う...

 

(兄貴か...悪くねえな...)

 

ロキファミリアの皆と良好な関係を築けているようだ。ベルはそのままアイズが来るまで自主練を続けた...

 

「おはようベル。今日もはやいね」

 

アイズはいつもの青い装備を見に纏いベルの元へと歩いてくる。こころなしか少し眠そうなのは気のせいだろうか。

 

「おはようございますアイズさん!...あの、目の下にクマができてますが大丈夫ですか?」

 

アイズは昨夜レフィーヤ達と別れた後もベルのお弁当の試作をしておりほとんど寝ていない。

 

(うぅ...ベルに気が付かれちゃった...)

 

アイズは起きてから鏡で自分の顔をみてなんとかクマをどうにかできないか試行錯誤したが消すのは不可能だった。ベルに気が付かれないようにと思っていたが簡単にばれてしまい内心恥ずかしくて泣きそうだ。

仮に気がついても見て見ぬふりをした方がよかったがそこで指摘してしまうのがベルだ。ベルが乙女心を理解できる日はまだまだ遠い...

 

「んと...昨日ちょっと眠れなくて...その...あまり見ないでくれるとうれしい...かな」

 

アイズは恥ずかしさのあまり顔を手で覆いもじもじしている。

 

「あ、すすすすみません。失礼しましたぁー!」

 

(しまったぁ...ああいう場合は指摘してはならぬっておじいちゃんに教わったのに...)

 

ベルは土下座する勢いで頭を下げた。

 

「ん、別に気にしないで。じゃあ今日もがんばろうか!今日は朝食までの時間は魔法を使いながらの訓練をしていこう。ベートさんと訓練しているみたいだけどそこでの訓練を私で試してみて」

 

(ベルの訓練は私だけでみたかったけど...ベートさんも加わってくれるならその分別の技術も身につくしベルの力になるなら...我慢我慢...)

 

全てはベルの為!

 

 

ベルはベートとの訓練を思い出し全力でアイズに向かっていった。剣術、体術、魔法、その全てを駆使する、圧倒的強者に対してやることはいつでもシンプルである。それは自分の全力を出すこと、当然アイズにはどんな攻撃も効かないが全力を出すことでみえてくることもある。アイズからは明確なアドバイスはないが攻撃しているベルは自分が強くなっていくことを実感していた。

 

訓練も順調にすすみ今は休憩のようだ。ポーションをアイズから受け取り一気に飲み干す、疲れた体をポーションが癒してくれる感覚にも大分慣れてきた。

 

「おー、アイズもベルもお疲れさん!朝からよう頑張ってえらいで」

 

訓練所の扉からロキが休憩中のベルとアイズに歩み寄りベルの白い髪を撫でた。

 

「あ!おはようございますロキ様」

 

「おはよう、ロキ」

 

アイズはロキが訓練を覗いていることなど気がついてはいるがそれには触れない。

 

「ウチこの間からずっと考えたんやけど...」

 

「何を考えていたんですか?」

 

「アイズとベルの合体(ユニゾン)魔法の名前や!いやー結構悩んだんやで?それが決まったんや!」

 

ベルの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。アイズは以前ロキに技名を言うと威力が上がるといわれていたのでロキの言葉を待った。

 

「ええと...ロキ様技名とは?」

 

「むふふ、ベルは知らんのも無理ないんやけど...自分の必殺技ってあるやん?そういう技使うときに技名いうと威力が上がるんや!」

 

「そうなんですか!?アイズさんも必殺技とかあるんですか?」

 

アイズはベルの視線に少し照れながらも頷いた。

 

「んと...私の技名もロキが考えてくれたの、でもここでは見せられない...かな」

 

アイズの必殺技は最大級の風を纏った神速の突きなのでこの場で使うと黄昏の館が吹き飛ぶ可能性が高い

 

ベルが残念そうな表情をしていたので付け加えた。

 

「一緒にダンジョンに行ったときに見せてあげる」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

二人の世界に入りつつあるので一つ咳払いをしてロキが自信に視線を集めた。

 

「コホン、ええか?二人とも...いちゃつくんやったらなー...ウチも仲間に入れてや!...まあそれは置いといて、技名やけど【風雷双翼(リブラウィング)】っていうんはどうや?意味は風がアイズたん、雷がベル。んでアイズとベルの二人がそろって初めてできる技やから双翼や!片方の翼だけやと飛べんからな、この技で二人はもっと高く飛べるようになるはずやで」

 

「かっこいいです!魔法発動させてからこの技名言えばいいんですか?」

 

「そやでー!まだリヴェリアの許可ないから使えんけどな、アイズたんはウチのつけた名前どや?」

 

「ベルがいいならいい」

 

「そ、そか」

 

(アイズたん...ベルの方ばっかみんとウチの方もみてやーーー...)

 

アイズはベルの喜ぶ顔を見ていてロキの方を一切みていなかった。ロキが嘆くのも無理はない...

 

(僕も自分の技にいろいろと名前つけてみよう...)

 

祖父の影響を受けているベルはどんな名前をつけるだろうか...痛い名前ならきっとロキがそれとなく訂正するはずだ。

 

ロキとの話の後、訓練を再開し朝食まで全力で訓練を行った。

 

(明日はダンジョンで実際にモンスターを倒す訓練をしよう、今のベルなら何も問題はないはず)

 

アイズはベルの実力を加味して、予定よりはやくダンジョンに潜る予定だ。無論上層にアイズより強い敵はいないので少し物足りなく感じるかもしれないが複数の敵と対峙した時や地形を利用した戦闘の経験を積ませることは非常に重要である。

 

朝食後

 

「ベル、これからお昼ご飯までの間訓練頑張ったらご褒美をあげる」

 

(ご褒美になるかわからないけど...お弁当作ったっていうのも恥ずかしいし...)

 

ご褒美という言葉に釣られベルはアイズの苛烈な訓練にひたすら耐えた。ベルの現在のステイタスは訓練を始めてから驚異の上昇を続けておりロキファミリアのレベル1の中でも上位に達しそうな勢いだ。戦闘の技術に関しては圧倒的に高いといえる。

 

昼食はほどほどにと言われたベルは素直に頷きアイズからのご褒美をわくわくして待っていた。

中庭にいてという言葉を聞いてからかれこれ2時間ほどたつ...さすがのベルもこの放置プレイには耐えられなくなってきていた。

 

(アイズさん...僕はいつまで待てばいいんでしょうか...お昼あまり食べなかったからお腹が...)

 

ぐぅぅとなるお腹を押さえ中庭の大きな木の下で空を見上げる。雲一つない晴天だ。ちなみに中庭は天候が悪い日には天井が閉まるようになっており雨が入らないよう工夫されている。

 

「ベル!またせてごめん」

 

急いで中庭に入ってきたアイズは背中に両手を回し何か持っているようだ。

寝転んでいた状態から瞬時に起き上がりベルは立ち上がった。

 

「アイズさん!いえいえいえいえ、全然大丈夫です気にしないでください!」

 

「ありがとうベル。んと...あのね...これを作ったんだけど...」

 

おずおずと両手を前に出すとそこには長方形の箱が乗っていた。アイズの顔は今までにみたことないほど赤面し心なしか震えている。

 

その様子を茫然と眺めていたベルだがハッとなり同じく赤面した。

 

「あああ...あの、もしかしてこれは...」

 

「うん。お弁当...ベルが女の子の手料理はロマンっていってたから...私なんかので喜んでくれるかわからないけど...」

 

がしっとベルがアイズの両手を掴んだ。もちろんお弁当は落とさないように細心の注意を払っているが...

 

「そんなことありません!僕はアイズさんにもらえるのが一番嬉しいです!」

 

「ベル...」

 

「アイズさん...」

 

手を握り合いお互い目を見つめ合う二人...今までになく非常にいい雰囲気であるが...

 

ぐぅぅぅ

 

「「......」」

 

(あ゛あ゛ーーーー僕の馬鹿ぁーーー)

 

このいいタイミングでベルのお腹がなった...現実は非情である。しかし目の前のアイズは顔を赤くするベルを見てやさしく微笑んでいた。この人の笑顔を護りたい...

 

「それじゃあお弁当食べようか、この木の下でいいよね」

 

「はい!」

 

二人は木陰に腰を下ろした。アイズから手渡されたお弁当をどきどきしながら開けるとそこには不恰好ではあるがアイズが一生懸命作ったであろうサンドイッチが入っていた。ちらりとアイズを確認してから口に運んだ。

 

「それでは...いただきます!もぐもぐもぐ...ぐぅ...おい...しーですアイズさん!」

 

(あまーーーーっっこれは...きつい)

 

人は誰にでも苦手な物がある。ベルは基本的に甘い物が苦手であるが、以前食べたじゃが丸くんの小倉クリーム味やミア母さんが作る物は問題ない。しかし今回はアイズが使用した果実はダンジョン18階層で採取できる非常に甘味の強い果実で更に甘い方がおいしいという料理初心者にありがちな理由で砂糖が大量に使用されているようだ。一口食べる毎にベルの胃に大ダメージを与えていく、しかしアイズが見ている前で苦しい顔を見せるわけにはいかない。ここは気合で乗り切るしかない...

 

「よかった...ベルに喜んでもらえて」

 

アイズはバクバクとサンドイッチを食べるベルをみて幸せそうだ。

 

(レフィーヤに教えてもらったのを参考にしてアレンジしてみてよかった...かな)

 

「あの...僕ばかりいただいてもいけませんしアイズさんも一緒に食べませんか?」

 

(アイズさんすみません、僕はもう...)

 

「うん、私も少し食べようかな」

 

アイズもサンドイッチを口にした。

 

(しまったぁ...アイズさんがこれを食べたら味に気がついて...あれ?)

 

アイズはおいしそうにサンドイッチを食べていた。

 

(この甘さに耐えられるなんて...アイズさんはやっぱりすごい...)

 

お弁当も無事食べ終わりゆるやかな時間が二人の間に流れていた、日差しは強いが木陰にいるので気にならない、そして涼やかな風がほてった体に心地いい。

 

中庭を何気なく眺めていると隣でアイズが小さくあくびをしていた。

 

「ベル、昼寝の訓練をしよう」

 

「...アイズさん眠いんですか?」

 

「訓練だよ、冒険者はいつでもどこでも寝れるようにしておかないといけないから」

 

そういうと木にうつかって一瞬で寝息をたてはじめた。

 

(すごい...これが第一級冒険者の実力...)

 

ベルも隣で気にうつかってなんとか寝ようとするも眠れない、隣で美少女が寝ているという場面で寝れるほどタフではないようだ。

 

「ううーん...」

 

アイズが寝返りをうとうとしたひょうしにベルの方へと倒れてくる。

 

「!?アイズさん!?」

 

アイズはベルの太ももに頭をのせ完全に熟睡している。

 

(っっっっっぼ...僕はどうすれば...)

 

自分は動けない、アイズも起こせない、ベルは必死で煩悩を振り払い思考を止めた。

 

ベルがなんとか眠りについたころ中庭にヒリュテ姉妹が現れた。

 

「ティオネ見て!アイズとベルが寝てるよ!」

 

「あらあら、仲良さそうに寝てるわね。ティオナくれぐれもちょっかいは...ばかティオナ戻りなさい!」

 

現在ベルの左ふとももはアイズが占拠している、そこへ音もなく瞬時に移動したティオナが右の太ももに頭をのせ昼寝をし始めた。

 

ティオネは妹を力ずくでどかすことも大声で起こすこともできずイライラした様子だったが、これ以上ティオナが二人の邪魔をしないようにという体で妹の隣に座り眠ることにした。

 

 

数十分後

 

「こいつらこんなところでなにやってやがる...」

 

ベートが中庭を通りかかると4人が仲良く木陰で眠る姿を発見した。そのあまりにも無防備な姿に思わずため息が出る。

 

(チッ...この馬鹿二人は風邪とは無縁だがアイズとベルはアマゾネスほどタフじゃねえからな)

 

ぶつぶつ文句をいいながらではあるがどこからか毛布を持ってきてベルとアイズにかけた。一応ティオネとティオナにも毛布を投げつけておいたので後で文句を言われることもないだろう。

 

(...念の為だ...)

 

ベートはベルたちとは反対側に回り木に寄りかかり目を閉じた。口は悪いがベートも中々に心配性である。

 

 

更に数十分後

 

「見てみなよ、リヴェリア、ガレス」

 

会議の為移動中だったロキファミリア最高幹部の3人が中庭に目を向ける。そこには仲良く寝ている5人が見えた。

 

「がっはっはっは、若い者はいいのう」

 

「あれはどういう状況だ...まあこの場にロキがいなくてよかったな」

 

ここにロキがいれば間違いなく自分からあの5人の中に突っ込んでいく事が容易に想像できる、更に返り討ちにあうことも想像できる...

 

「若い世代が着実に育ってきているね、仲がいいことはすばらしいことだよ。ベルを中心に上手くまとまっているのかもしれないね」

 

この幸せな時間が永遠に続きますように...

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




読んでくださっている皆様ありがとうございます。

更新遅くなってしまい申し訳ありません<m(__)m>

次回はダンジョンに潜りますあとはヴェルフが出てくるかもしれません。

これからもよろしくお願いします!


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30 ダンジョンへ

皆でお昼寝をして元気は満タンだ。


昼寝の時間はロキが襲来したことにより終了した。黙って一緒に寝ればいいものを大声で萌えーと叫びながら飛びかかったせいで危険を察知したレベル5の面々に撃退された。

後に両頬に手形をつけてリヴェリアに泣きついているロキが発見されたが更に話を聞いたリヴェリアにデコピンをされたのはいうまでもない...

 

翌日 フィンの執務室

 

フィンの執務室にはロキ、フィン、リヴェリアがおり書類に目を通していた。そこへ完全武装をしたベルとアイズが入室した。余談ではあるがアイズとの訓練が激しすぎてベルの防具兎鎧(ぴょんきち)は既に3代目である...

 

「フィン、今いい?」

 

書類に目を通していたフィンが顔をあげ二人の様子を確認して微笑んだ。

 

「その様子を見るとこれからダンジョンに行くようだね。アイズもいることだし問題はないだろう」

 

「そやなー今のベルのステイタスなら全く問題ないな、後はモンスターと対峙する経験だけや」

 

二人の様子をみていたリヴェリアは一度部屋を出ると様々な種類のポーションが詰まったポーチを持ってきた。

ベルは耐異常のアビリティがない為、毒や麻痺といった異常に対抗することができない。アイズはそのことを失念していた為、体力やケガを治療する為の物しか用意していなかったのだ。そのことを見ただけで察知したリヴェリアはさすがといえるだろう。

 

「アイズ、上層といえど油断するなよ。何が起こるか分からないのがダンジョンだ。ベルは私の座学をよく理解してくれている、後は適切に無理をしながら実践を積んで来い」

 

そういうと二人の頭を撫でた。二人は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった...

 

ダンジョンに行くという報告をしにきた二人だが全て先読みされてしまった為、行ってきますという言葉だけのこしてバベルへと向かうことにした。

 

バベル

 

バベルにはこれからダンジョンへ潜る冒険者で溢れている。様々なファミリアの団員達がソロであったりパーティーを組み挑むようだ。その中でもアイズの姿はひときわ目立つ、数少ない第一級冒険者でありその容姿は非常に美しい...しかしアイズ...ロキファミリアに対して嫉妬する者もいることを忘れてはいけない。無論アイズが直接狙われる可能性もあるが、他の団員...ベルが狙われる可能性もあるのだ。

 

ベルと共に担当者であるエイナの元まで行きこれからダンジョンに潜ることを報告する。

 

「これはクラネルさん、ヴァレンシュタイン氏、ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

エイナは先日調べた件のことは保留としいつもの微笑を浮かべながら応対していた。

 

「ええと、これからアイズさんと一緒に初めてダンジョンに行ってきます!」

 

ベルの元気な声と笑顔で他のギルド職員も思わず頬が緩む。

 

「リヴェリア様からご指導を受けていると思いますが、決して無茶な冒険はしないようにしてくださいね!」

 

「大丈夫、ベルの実力なら上層は問題ないと思う...ただもしも...ベルに手を出そうとする冒険者がいたらロキファミリアが、私が許さない...」

 

どこからか二人に向けられた視線、それは決して友好的なものではなかった。視線には気が付くことができても誰からかまでは感知できないほど一瞬であったがアイズとしては見過ごせないものだった。自分一人なら問題ないがベルが一人の時に手を出されたらと考えただけで心の炎が黒く暗くなりそうだった。故にギルドにいる全ての者に対して警告したのだ。ベルに手を出せばロキファミリアが、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが相手になると。

 

その場にいる全ての者を凍らせるような声音だった...

 

「アイズさん?」

 

ベルの紅い瞳を見つめると心が安らぐ...今すぐにでも抱きしめてもふもふしたい気持ちを無理やり抑えてベルの手を握った。

 

「大丈夫だよ、それじゃあ行こうか」

 

はりつめた空気はアイズが気を緩めると同時になくなり普段通りの賑わうギルドに戻っていた。妙な視線も今は何も感じない...

 

ダンジョン一階層

 

「ここがダンジョン...!」

 

(あれ?...僕この場所を覚えているような気が...)

 

「ベル?どうかした?」

 

茫然と立ちすくむベルを心配してアイズが声をかけてくる。

 

「いえ、なんでもありません!大丈夫です!」

 

(僕今日が初めてダンジョンに来たはずなのにこの感覚はなんなんだろう...)

 

「じゃあ行こうか、探索をしながら上層に出現するモンスターと戦っていこう。最初の内は今のベルの実力から考えて少し物足りないかもしれないけど、厄介なモンスターもいるから私と一緒にいる間に上層に出現するモンスター全種類と戦って慣れておいて」

 

アイズの話が終わると同時にゴブリンが出現した、数匹がこちらの様子をうかがっているのがわかる。

 

「ギィィ」

 

「ギャッギャ」

 

何やら話し合いが終わったようでこちらに向かって走りだした。

 

「...遅い...?」

 

アイズの方に目をやると微笑しながら無言で頷かれた為、その反応を確認した瞬間に走り出した。地面をけりゴブリンに接近するとすれ違いざまに一閃...その動作一つで目の前の2匹を瞬殺した。

後方に残っていたもう2匹が腕を振り上げ襲ってくるがその動作一つ一つが非常に遅く感じる。最小限の動作で攻撃をよけると回し蹴りを放ち2匹とも壁に叩きつけた、魔石を残しゴブリンは灰となって消えた...

 

ベルの感覚は正しい、ここ数日の間アイズやベートといった第一級冒険者に指導を受けていた為感覚が鋭くなっているのだ。そもそもアイズ達より強い存在など上層にはいない...

 

「ベル、モンスターを倒したら魔石は必ず拾っておいて」

 

「はい!リヴェリアさんから教わりました。モンスターが魔石を食べてしまう場合があるんですよね?」

 

ベルが実技だけでなく座学もまじめに取り組んでいることがわかりアイズは嬉しそうだ。

 

「よく勉強しているね、モンスターが魔石を食べるとその味を覚えて他の魔物を襲いだすの。そうすることで強化種という存在になる。強化種はそのモンスターより遥かに強い能力を持っていて昔多くの犠牲が出たことがあるみたい。たしかその時はフレイヤファミリアが討伐したはずだけど...」

 

「そうなんですか...取り残しがないようにちゃんと拾っておきます!」

 

今現在倒したゴブリンの魔石をバックパックに収納した。

 

「今日はこの調子で12階層まで行こうか、10階層を超えると大型のモンスターも出てくるから気を付けてね。魔石は後でギルドで換金できるから」

 

この後順調に階層を進み、ウォールシャドウやキラーアント、オークなどを撃退しつつ仲間と連携して動くことをベルは学んで行った。基本的にはアイズがその他大勢を担当しなるべくベルと敵が一体一で戦えるようにうまく調整を行っていた。きちんと適切に無理をして初めてのダンジョン探索は無事に終了することができた。

 

(黄昏の館に帰ったら私がいない間のパーティーは誰がいいか考えないと...今のところ候補はあの三人かな。そうしたらそのパーティーでも連携の訓練もしないと...)

 

二人はギルドで報告をした後じゃが丸君を買って仲良く食べながら黄昏の館に帰還した。

 

 

黄昏の館 フィンの執務室

 

「ところでリヴェリア、よくアイズとベルの訓練を覗いているようだけどベルを見て何か思うことはないかい?」

 

資料に目を通していたリヴェリアが固まった...

 

(気配は消していたつもりだったのだが...)

 

「そうだな、実際に私が相手をしている訳ではないからなんともいえないが。強いて言えば技術が身につくのが速すぎるような...あれではまるで...」

 

「ベルの肉体が技術を思い出しているかのようだ...じゃないかい?」

 

実際にベルと手合せをしたことのあるフィンもリヴェリアと同じ感覚を感じていた。

 

「もしかしたらやけど...あの手紙にダグラス・クラネルの体を器にしたって書いてあったやん?ダグラス・クラネルの肉体、要は何百、何千、何万という戦闘経験を体が覚えているのかもしれんなー。それにベルのスキルの力も関係しとるやろ。誓い(ルフテ)か...すさまじい力やな。それだけベルの想いが強いっちゅうことやけど...この調子やと皆に追いつくんもそんなに遠い未来やないで」

 

三人が顔を見合わせ頷いた。まだ年若いベルがこのまま真っ直ぐ進んで行けるように全力でサポートすることを改めて誓った。

 

 

訓練所

 

「おらぁーー!」

 

どごぉぉぉん

 

「がーはっはっは、いい動きじゃがまだまだ甘いわい!」

 

がきぃぃぃん

 

現在訓練所は貸切中である、正確にいえば危険すぎてレベルの低い団員達がいたらとばっちりで死にかねないからだ...この場にいるのはガレスを始めベート、ティオネ、ティオナだ。ガレスが中心になって定期的に第一級冒険者の腕前を見るのが恒例になっている。

 

「ベートのやつ最近やたら張り切ってるよね?今日だってここであんなにやったら訓練所の修繕費すごいかかっちゃうよ」

 

「あんたはいつも全力でやるせいで毎回壁とか床とかボロボロになってるじゃない...」

 

前回訓練所をボロボロにしたせいでリヴェリアに怒られるティオナの顔が脳裏に浮かんだ...

 

以前までのべートなら一人でダンジョンに潜り鍛錬を行うことが多かったがベルが来てからというものなんだかんだ文句を言いながらも数人でパーティーを組むことがあるようだ。今回ガレスが相手をしているがその様子から見ても本気で取り組んでいることがよくわかる。

 

「次は2対2じゃ、ティオナとベート。ティオネと儂じゃ!」

 

「おい馬鹿ゾネス、足引っ張んじゃねえぞ!」

 

「そっちこそ足引っ張らないでよね、ボッチ狼!」

 

ぎゃーぎゃー言い合っておりチームプレーは期待できそうにない...ようにみえる。

 

「あの二人大丈夫かしら...」

 

 

今回は防具の一部にマークをつけその部分を攻撃されたら負けというルールである。単純に殴り合いや切り合いになるとこの訓練所では狭すぎる為、こうしたルールを決めてトレーニングを行っている。

実力が拮抗したもの達が戦う場合重要になってくるのがチームワークである。故に圧倒的にベート、ティオナペアが不利だと思われた...しかし!

 

「なっ!ベートがティオナの補佐役をしている!?」

 

先陣をきって攻めるティオナを上手くサポートして、ティオナの長所を最大限に生かしていた。細かな動きをベートが担当することによってティオナが自由に動けるようになる。仲間を信用していないとこのような動きはできない。

 

ガレスは長年の経験から瞬時に対応することができたが、ティオネはほんのわずかだが動揺してしまいその一瞬の隙をつかれマークに攻撃を受けてしまった。今回はベート、ティオナチームの勝利である。

 

「いえーい!」

 

ティオナがハイタッチをしようとして固まった。

 

「あ...そういえば今日組んでるのベートじゃん...でもなんかすごく動きやすかったんだけど」

 

「てめえの動きは馬鹿で単純だがらな、俺が本気になれば動き合わせるのなんかわけねえんだよ」

 

ぎゃーぎゃー

 

「さっきまであんなにいい感じに戦ってたのに...それにしてもベートがあんな動きするなんて想定外だったわ」

 

「ふむ、ベート。最近やけに気合が入っていたようじゃが何かあったのか?」

 

ベートは汗をぬぐいながらぶっきらぼうに答えた。

 

「ベルの野郎があんだけ気合いれてんだ、俺たちが気合入れないわけにはいかねえだろ」

 

ベートのしっぽがゆらゆらと揺れている...

 

「ツンデレ狼」

 

ぼそっとティオナ呟いた。

 

「うるせえぞこのド貧相女が!」

 

ティオナが自身の胸をみて涙ぐんだ...

 

「ベルとアイズにいいつけてやるーー」

 

ぎゃーぎゃー

 

「がっはっはっは、全くお前さんたち大分ベルに感化されてきとるのお」

 

「そうね、ベルのあのひたむきさな姿勢を見ていると私も頑張らなきゃって思うわ」

 

ロキファミリアでベルの存在がとても大きくなっていく...

 

 

 




読んでいただいている皆さんありがとうございます。

ベル君はどんどんロキファミリアになくてはならない存在になっていきますね。

ちなみにエイナさんは原作ではベル君と呼んでいますがこの世界では二人の距離感が違うのでクラネルさんと呼んでいます。

その内活動報告でアンケートやりますのでそちらもよろしくお願いいたします<m(__)m>


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31遠征までの時間

黄昏の館の門をくぐる



ダダダダダッと黄昏の館の中から門に向けて誰かが走ってくる。

 

「アイズー!ベル!聞いてよーー!」

 

「まてコラ馬鹿ゾネス!」

 

ティオナとベートが追いかけっこ?をしているようだ。

 

 

「ん、ただいまっ...む」

 

「ただいま帰りましっっわぷっ」

 

レベル5の脚力を十分に発揮した体当たり...もとい激しい抱擁...やはり体当たりのような突進を二人に向けて放った。ベルに直接ぶつかると骨が折れかねないのでアイズが上手く衝撃を吸収しつつベルを護った...ティオナは二人に抱き着いたままベートにド貧相呼ばわりされたことをチクっている。

 

「ベル!ベルは胸の大きさなんか気にしないよね!?」

 

ベルはティオナが至近距離まで顔を寄せてくるので赤面している...

 

「ええ!?ええと...たしかおじいちゃんは...」

 

(ベルよ...巨乳もいいが貧乳もまたいい...一番大切なのは感度じゃ!」

 

「おじいちゃんが大事なのは感度だっていってました!」

 

「「!?」」

 

ベートとティオナが固った...アイズは首をかしげている。ベルも意味は分かっていないようで固まってしまった二人を不思議そうな顔をして見ていた。

 

(ベルってこんなに大胆だったの!?やばー不意打ちされて顏赤くなってないかな...あたし感度はティオネよりいいと思うんだけど...)

 

(おいおい...ベルの爺さんは孫になんてこと教えてやがる...あの面見る限り意味分かってねえし。せめて意味まで教えとけよ...そうだ!)

 

「おいベル、それロキにもいってやれ。あいつ泣いて喜ぶぜ」

 

ベートはロキの姿を想像して腹を抱えて爆笑している、ティオナはまだ成長する可能性もあるが不変である神のロキは体型が変わることはない...今更ながら理解したアイズも顔を赤くしていた。ベル一人がよくわからず頭の上に?マークが浮かんでいる。今日の座学の時にリヴェリアに質問してみようとベルは思った。

 

余談ではあるが夜にリヴェリアに相談したところ、ベルにふざけたことを教えた奴を私が説教するとお怒りだったようだ...

 

ロキファミリアは今日も平穏である...

 

黄昏の館談話室

 

暖炉の火がパチパチと音を立てて燃え魔石で作られたランプの光が談話室を照らしている。団員達も各々の時間を過ごしていおり談笑する者や読書をする者など様々だ。

 

「レフィーヤ、ちょっといい?」

 

アイズ親衛隊達と今後の活動について話していたレフィーヤにアイズが声をかけた。

 

「ひゃい!あああアイズさん!?なんの御用でしょうか?」

 

驚いてソファから転げ落ちそうになりながらレフィーヤがアイズに聞き返した。

 

「んと...私達は後少しで遠征に行っちゃうでしょ?だから私がいない間この前の3人にベルとパーティーを組んでもらえないかお願いに来たの」

 

レフィーヤが自身の後ろを振り返るとリリー、刹那、ルナが歓喜に打ち震えていた。まさか憧れであるアイズに頼みごとをされるなんて...しかしアイズの代わりにベルとパーティーを組むという重要性を3人は気が付いていない...

 

「ウチら...我々なんかでよろしいんですか?」

 

りりーが3人を代表してアイズに確認をとった、他の2人も嬉しくはあるがプレッシャーも多くあることに今更ながら気が付いたのだ。アイズがこれだけ目をかけているベルに何かあったらと考えるだけで吐きそうだ...

 

「大丈夫だと思う、皆の訓練の様子は見ていたから。上手く連携がとれているね、だからベルを加えた4人での連携も見てみたいの。もちろん相手は私がするけど...いいかな?」

 

「「「アイズさんに直々に指導していただける!?」」」

 

 

3人は知っていると思うがベルと訓練をしている時のアイズは鬼だ...ベルと同じように他の3人に対して訓練を行おうとしているのなら3人は地獄をみることになるだろう。

 

「じゃあ今から用意して訓練所に行こうか。ベルはこれから私が呼んでくるから」

 

「「「はい!よろしくお願いします!」」」

 

 

訓練所

 

訓練所には完全武装した面々が集まり準備体操をしていた。しかし皆の顔は険しい、これから行われるのはアイズ・ヴァレンシュタインの訓練なのだ。下手をすれば大けがではすまない...そんな中ベルはアイズに手を引かれ訓練所へとやってきた。

 

(...あいつまたアイズさんとイチャイチャして...うらやましい)

 

ベルへの対抗心を燃やし気合を入れるリリー、刹那はアイズのことは敬愛しているが最近はベルの事も気になっているようだ。先日のベルの訓練風景をみてからというものベルのファンになりつつある、同時に新たにファンクラブを設立するかどうかをレフィーヤに相談するつもりだ。

 

ルナはというとケガもしていないのになぜか体中に包帯を巻いている...こうしていないと右目の封印がとけてしまうらしい...付き合いの長いりりーと刹那は知っているが本来のこの子は非常に恥ずかしがり屋で自分に自信をつけたいとロキに相談したところこのようになった...戦闘はそこそこ上手く立ち回るが本来の力を出し切れていないようにもみえる...

 

「アイズさんにお聞きしましたが、アイズさんのいない間僕とパーティーを組んでいただけるようでありがとうございます。僕皆さんの足手まといにならないように頑張ります」

 

そういってベルはぺこりと頭を下げた。

 

ちなみにであるがベルのステイタスは現在の時点でロキファミリアのレベル1の中で5本の指に入る。技術力のみでみたらリリーよりも確実に上だ。ベルが他の3人に劣っているとすれば多人数での戦闘経験と実際にモンスターと戦った数くらいなものだ。それだけベルは毎日死ぬ気で訓練を行っている。

 

「ウチはリリー・アルトレアだ。ベル、後でウチと戦ってくれ。そうしたらもっとお前のことがわかると思う。ウチはアマゾネスだから...戦った方が理解しあえるはずだ」

 

実際にベルの訓練は目にしたことはあるがやはりアマゾネスの血が騒ぐのか、ベルを認めるには戦う事が一番の近道だとわかっていた。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

頭を下げるベル。

 

「拙者は刹那と呼んでほしいでござる、拙者の方こそベルの技術には驚くばかりで...これから一緒に頑張るでござる」

 

「僕の方こそ...ええと、刹那さんの居合の技はすごく勉強になります。よろしくお願いします」

 

差し出した右手をギュッと握られたことにより赤面するあたり女の子らしい一面がみてとれる。

 

「我が名はルナ.ルウ。どこか我と同じ匂いを感じる貴様に我が真名を呼ぶことを許そう。...すまぬが我に触れることは許可できぬ。小声...恥ずかしいから...」

 

「え!?すみません最後の方よく聞こえませんでしたが...ルナさんよろしくお願いします!」

 

名前を呼ばれた瞬間顔を覆い隠すように手を広げてポーズをとった。よく見ると口角があがっているので喜んでいるようだ。

 

「自己紹介はすんだかな?じゃあまずはベルには見学してもらって3人の連携をみようか。レフィーヤは3人を見て連携のアドバイスをしてあげて。ルナはレフィーヤと同じタイプだからしっかりみてね」

 

「「「わかりました!よろしくお願いします」」」

 

アイズは闘気をベルと対峙する時よりかなりおさえて構えた。先ほどの3人の様子を見てベルと同じでは無理と判断したのだ。それでも3人はガチガチに緊張しているようにみえる...

 

パンっとリリーが自身の頬を叩いて指示を出した。

 

「ルナは後方で魔法の詠唱、刹那は居合用意。前衛はウチが務める、皆全力で行くぞ!」

 

「「はい」」

 

アイズは自身からは攻めず様子を見ている、まずはリリーが大剣を構え突っ込んできた。この感じはティオナと似たタイプのようだ。

 

(まずはウチの全力でアイズさんにぶつかってみる)

 

鞘を構えるアイズに対して両手で大剣を握り、思い切り振りかぶり叩きつけた。瞬間...リリーの脳内に浮かんだものは巨大な鋼だった。この華奢な体のどこからこんな力が出るのか不思議でしょうがない。

 

アイズは無造作に剣を振りリリーを追い込んでいく、一撃一撃が重く衝撃を受け流しきれないリリーの体にダメージが蓄積していく。だがこれでいい、リリーの目的は自分の身を挺して時間を稼ぐことなのだ。

 

(今だ!)

 

リリーは大剣を振りかぶり地面に叩きつけた、細かな石つぶてがアイズに襲い掛かる。その隙をみて力を溜めていた刹那がリリーの背後から現れ居合切りを仕掛けた。更に追撃となるルナの詠唱が完了する...

 

ルナの得意とする魔法はこのオラリオの地でも非常にレアな光属性の魔法だ。

余談ではあるがルナは黒い、や暗黒の、といった詠唱がよかったようだが詠唱は代えられないとしり落ち込んだ過去がある...

 

「集いし光、輝きの渦よ、立ち塞がりし者を打ち砕く力となれ!」

 

 

渾身の居合切りをなんなく躱されたがその勢いをころさずアイズの脇をすり抜ける刹那、その背中を鞘で一閃しようとした瞬間ルナの詠唱が完成した。

 

 

光弾乱舞(ルミナリオン)

 

アイズの周囲を光粒が覆い身体めがけて一斉に降り注いだ。一瞬驚いたような表情を作ったアイズだがしっかりと魔法を見極めて自身へ向かってくる光粒をすさまじい剣速でかき消した。

 

(うん、隙の少ない上手い連携だね)

 

リリー達は自分たちの必勝パターンを完全に打破され隙が生まれた。アイズは追撃する為にまず壁役であるリリーを倒しにかかる。大剣を構える時間は与えない、鞘が吸い込まれるようにリリーの体目がけて振るわれた。

 

ギィィン

 

「「「ベル!?」」」

 

アイズの鞘が体を捕える前にベルが白狼を滑らせるように鞘に当て衝撃を横に受け流した。

 

「うん、ベルなら来ると思ったよ。いい動きだね」

 

固まる3人を横目にアイズが微笑む。

 

「ありがとうございます、アイズさんが魔法を破った瞬間危ないと判断したので参戦しました」

 

硬直していた3人がベルの元に集まった。

 

「正直助かった。今の一撃当たっていたら立てなかったと思う。...ベルにはこのパーティーの中衛を務めてほしい、ウチは壁役だから...ベルはその敏捷を生かして臨機応変に動いてほしい」

 

「すごい速さでござる、ベルは拙者たちの中で一番敏捷が高いでござるな。それにしてもよくあの一撃を受け流せるでござるな...」

 

(かっこいい...)

 

「...ベルよ、我と魂の契約を結び我のものにならないか?」

 

アイズは最後の一言が気になったようでベルを後ろから抱きしめてさりげなくあげないアピールをしている。

 

その後隊列を組み直し訓練を続けた。ルナはレフィーヤと同様に魔法剣士になるべきか、又はこのまま魔術師特化で行くかべきか悩んでおり、最低限時自己防衛ができるように近接戦闘訓練を行った。リリーとベルは戦う予定をしていたがアイズとの訓練でお互いボロボロになり延期になったが

今回の訓練を通じて仲間としての意識は強くなったようだ。

 

それからアイズ達が遠征に向かう間毎日のように訓練は続けられた...

 

ある日の夕方

 

訓練が終了したベルはシャワーを浴びた後アイズと別れ夕暮れのオラリオの町に来ていた。アイズは一緒に行きたがっていたようだがフィンに呼ばれ渋々一緒に行くことを断念していた...

 

「えーと後はあれを買っていけばいいかな、ミア母さんに前にレシピも聞いたし上手く作れるといいけど...」

 

ベルは紙袋いっぱいにハーブや薬草を買っていた。ベルのアビリティに調合はないが簡単な調合方法を豊穣の女主人店主ミアから伝授されていた。これで遠征に行く仲間にちょっとしたプレゼントをするようだ。

 

「後はアイズさんに何か...ん?」

 

考え事をしながら歩いているといつの間にか路地裏へと侵入していた。薄暗くなりつつある街の中で一つの露店がベルの目に留まる。

 

(こんなところに露店があるなんて...)

 

不思議に思いながらも吸い込まれるようにその露店に近づいてみると珍しいアイテムが置いてあるようだ。露店にはベルには読むことができなかったが神聖文字(ヒエログリフ)で【ヴィナディース】と書かれていた。どうやらこの露店の名前のようだ。

 

「いらっしゃいませベルさん!」

 

ベルが露店に置いてある品物に夢中になっていると声をかけられた。ハッとなり顔をあげると見知った顔がそこにはあった。

 

「ええ!?シルさん!?何故こんなところに?」

 

「今日はミア母さんにお休みをいただいていまして...少々懇意にしている神様に頼まれまてお店番をしていたところなんですよ!そういえばベルさん、最近豊穣の女主人に顔を出してくれないから私寂しかったんですよ?」

 

シルがベルの手をぎゅっと握りながら顔を近づけてくる...ベルは真っ赤な顔をしながら謝った。

 

「すすすみません...最近ちょっと訓練が忙しくて」

 

小声

 

「そんなに剣姫が大事なんですかぁ...妬けちゃいますね」

 

シルは一瞬だけ目を伏せたが気を取り直して接客を始めた。

 

「それでは気を取り直して何をお求めでしょうか?この露店では珍しいアイテムを取り揃えていますよ!」

 

ベルは改めて露店を見渡すと明らかに禍々しいオーラを出している物からすごく高そうな首飾り(アミュレット)など様々なものがある。おそらく神秘のアビリティで作られた物もあるだろう。

 

「えと、僕遠征に行くアイズさんに何かお守りのような物をプレゼントしたいんですが...」

 

営業スマイルのシルの眉が一瞬だけピクつく...少し怖い...

 

「そうですね...ちなみにですがご予算はいくらほどでしょうか?」

 

ベルが少し困った顔をしている...

シルはそんなベルの微表情を読み取り一つのアイテムを取り出した。

 

「これはいかがでしょうか?」

 

シルが差し出したのは拳程の大きさの首飾りでかわいらしい兎が描かれていた。

 

「これは幸運の首飾り(ラビットシンボル)です、ちょうど30万ヴァリスです」

 

30万ヴァリスという言葉を聞いてベルの頬にツーと汗が流れる...

 

(ちょうど今の僕の全財産...何故シルさんが...いやいやいや考えまい)

 

この首飾りが気に入ったということもあるがシルさんからの圧力で断るという選択肢がなかった。

現在手持ちがなかった為証文を書きシルに手渡し首飾りを受け取った。

 

後日シルにしっかりと支払った...

 

「ベルさん、たまにはお店に顔を出してくださいね!私もリューもお待ちしておりますので」

 

「はい!また寄らせていただきます。それよりシルさん、こんな場所でお一人で危ないんじゃ...」

 

人気のない薄暗い場所に女の子を一人にさせるわけにはいかない。

 

「それは大丈夫です。私ももう帰りますし、懇意にしている神様のファミリアの方がどこかで護衛してくれているはずです。私に何かしたらその方が来て相手の首が飛びますから」

 

笑顔でものすごく怖い事を言うシル。なんでも豊穣の女主人のアーニャのお兄さんのようですごく強いようだ...

 

「あ、ベルさんなら手を出しても危害を加えることはないと思いますよ?...試してみますか?」

 

どことなく普段より妖艶な雰囲気のシルだが万が一首を飛ばされたら...なにより優しいベルの事だ。女の子に強引に何かするなんてことはありえない。

 

「冗談ですよ、それではベルさん。またのご来店をお待ちしております」

 

シルがぺこりと頭を下げた。ベルも頭を下げ、小箱に入れてもらった首飾りを抱え黄昏の館へと帰還した。

 

 

遠征前日の深夜

 

ベルは自室で先日購入したハーブと薬草を乾燥させたものをすり鉢ですり潰していた。

 

ゴリゴリゴリ

 

(明日の朝までに作らないと...)

 

コンコン

 

ベルが集中して作業をしていると控えめなノックの音が聞こえた。

 

「はい!ええと、どちら様でしょうか?」

 

ベルが扉を開けると目の前にパジャマ姿のアイズが立っている。

 

繰り返すが時刻は深夜...

 

「ベル...入っていいかな?」

 

...二人の時間が始まる...

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回遠征に出発まで書こうかと思ったんですが、長くなりそうなので一度区切りました<m(__)m>

アイズさんとベルのむふふな展開は...ないと思われます笑

活動報告にアンケート設置してありますので時間がありましたらアドバイスお願いします<m(__)m>

これからもよろしくお願いいたします。


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32 遠征前夜

二人だけの時間


「いい匂い......」

 

アイズはベルの部屋に入ると森林の中を歩いているような感覚を感じた。

部屋いっぱいに広がる薬草とハーブの匂い......この匂いに包まれて寝れたら幸せだろう。

 

「狭い部屋ですがお好きな場所に座ってください」

 

アイズはきょろきょろとあたりを見渡しベルのベットに腰かけた。

 

(あ、アイズさんそこに座るんだ......)

 

「ええと、明日からアイズさんたちは遠征ですよね?こんな時間にどうしたんですか?」

 

深夜にパジャマ姿のアイズが尋ねてくるという状況に驚きつつもなんとか平静を保ち先ほどまで座っていた椅子に腰かけた。

 

 

「んと......それよりベルは今何をやっていたの?すごくいい匂いがするけど」

 

ベルの前にある机の上に視線を向けた。そこには乾燥させた薬草やハーブが置かれ、すり鉢で粉末状にしているところのようだった。

 

「僕ですか?僕は明日からの遠征で少しでも皆さんの役に立てばと思いまして、ミアさんから教えていただいた薬草茶を調合してました。体の疲労を取るとともに微量ですが魔力の回復にも役立つと聞いたので。昔ミアさんがいたファミリアでよく飲まれていたそうです。詳しいことはあまり話してはくれなかったんですが......」

 

じーっと机の上を凝視しているアイズ......アイズの金色の瞳が飲んでみたいと無言で語っている気がした。

 

「......アイズさん飲んでみますか?」

 

ハッとなり視線をベルに戻すと照れくさそうに頷いた。ベルはそんなアイズの仕草に悶えそうになるのをなんとか堪え平静を保った。

 

「今お湯を沸かすので少しだけ待ってください、寝る前に飲むとぐっすり眠れると思いますよ」

 

アイズに背を向け魔石を使用した簡易的なポットでお湯を沸かし始めた。ちなみにこのお茶はミアが昔独自に開発した物でお湯を注ぐだけでいいという優れものだ。ダンジョンでお茶を入れる際時間をかけなくて済むようにという配慮がされている。いくら安全地帯で休憩しているからといってもダンジョンでは何が起こるか分からないのでそこまで時間をかけて作ることは喜ばれない。

 

アイズはベルの背中を見ながらこの穏やかな時間を満喫していた。最近は訓練に明け暮れていたせいでベルと二人で落ち着いて話をする機会はなかった。強くなる為に特訓も必要だがこのように穏やかな時間を過ごすことももちろん必要だ。何より最近はロキファミリア内外でのベルの人気が急上昇している。ヴェルフに兎鎧(ピョンキチ)を修理してもらいに何回も通ったこともありヘファイストスファミリアの団員に顏を覚えられ街でよく声をかけられている。

 

また、豊穣の女主人で働いていた事もあり冒険者や神の中にもベルに目をつけている者達がいる。ロキファミリアでもベルの鍛錬をみて心を動かせれている者達が多くいる。ティオナをはじめ口では文句を言いつつもレフィーヤもベルを認めている、あの3人組も同様だ。老若男女に好かれるのはベルのいいところではあるがアイズとしてはベルと2人でいる時間が減ることを危惧している。

 

(初めて会った時は豊穣の女主人だったね......あれからそこまで時間がたってないのにもう随分長くベルと過ごしている気がする。戦い以外でこんなに心が満たされるなんて思わなかった......)

 

 

人は新しい発見や経験がなく日常がマンネリ化してくると、日々の新鮮味がなくなり時間が早く経過するような感覚に陥ることがある。アイズはベルと出会う前は戦いの事以外は一切考えてこなかった。ただひたすら自分の悲願を達成する為の力を求めた......繰り返される鍛錬の日々はいつしかアイズの日常を単調なものにしていた。しかし、ベルという存在に出会い環境は一変する。

 

傍にいるだけで幸せな気持ちになる、一緒に訓練をし、一緒に買い物に出かけ、一緒に食事をとる。常に一緒にいないと不安になるぐらいの密度で過ごしてきた。これはもはや本当に家族と呼んでもいいのではないだろうか。

 

そんなことを思いながらアイズはテキパキとお茶の用意をしているベルを眺める。

 

(このまま時が止まれば......)

 

アイズの脳裏にそんな言葉が浮かぶが明日からの遠征の事を考えるとそんなことはいってられない。これからしばらく会えなくなるのでベル分を補給しなければならない......

 

「お待たせしました、熱いので注意してくださいね!」

 

少し緊張しているのか、かちゃかちゃとソーサーの上のカップがなっている。ベルから湯気が出ているカップを受け取り息を吹きかけ、中のお茶を口に含んだ。口の中いっぱいに広がる薬草とハーブの香り......

 

「おいしい!」

 

(あれ......私この味知ってる気がする)

 

満面の笑みを浮かべるアイスにベルはほっと胸をなでおろした。煎じた薬草は独特の苦みもある為アイズの口に合うか心配だったようだ。

 

その後しばらくの間二人でお茶を飲みながらゆったりした時間を堪能した。

 

「そういえばアイズさん何か用事があったんじゃ?」

 

二人でいる時間が心地よくすっかり本題を忘れていた、半分はベルと落ち着いて話したいという目的だったので達成してはいるが。

 

「んと......明日から遠征が始まるんだけどベルには私の悲願を聞いておいてほしくて」

 

アイズの秘密を知っているのはロキファミリアでも最高幹部の3人とロキだけである。

アイズの強さの根源ともいえる悲願を知っている者はこの4人だけなのだ。

 

ごくっ

 

アイズの神妙な雰囲気を察しベルの喉がなった。

 

「昔、私の目の前でお父さんとお母さんが殺されたの......私を、仲間を守る為に戦って。その時の記憶は実をいうとほとんどないんだけど、今でも覚えているのは黒い龍と赤髪の女性。そして血の海......」

 

ベルも神妙な顔つきで聞いている......がしかし、なんとなくだがその場面がベルの夢に出てくるシーンと一致しているような気がしていた。

 

「私の悲願はあの黒い龍と赤髪の女性をたおし両親の仇を討つこと......だった。今もその気持ちは変わらない、けど、ロキファミリアの皆と出会って大切な人たちが増えて護られているだけの自分が嫌で。誰も傷ついてほしくなくて黒い感情の赴くまま強さを求めた」

 

(僕の根底にある感情、仲間を護りたい、アイズさんを護りたい、もしかして僕とアイズさんはどこか似ているのかもしれない)

 

「私の手は血で穢れている、ベルが思ってくれているほど私はっっ!」

 

ベットに座るアイズの手をベルが握りしめた。片膝をつき、左手を胸にあて、まるで騎士の誓のような格好だ。

 

「アイズさんの手は穢れてなんていません!僕......強くなりますから。必ず強くなりますから。アイズさんの隣にたって僕も皆を護れるくらいに」

 

「ベルっ......」

 

「僕アイズさんが大好きですから!」

 

「えっっ」

 

ボフっとアイズの顔が赤面した。手を握られたままあわあわと挙動不審になっている。

 

「わ、わた、私も......」

 

「そしてロキファミリアの皆さんが大好きです。」

 

(ああ、そういう意味なんだ。あれ......私少しがっかりしてる?)

 

アイズはちょっとだけ......いやかなり残念そうな顔をしている。そんなアイズに気付かずベルは続けた。

 

「フィンさんやリヴェリアさん。ベートさんや皆が。僕は物心ついた時からおじいちゃんしかいませんでしたし、このファミリアの皆さんが本当の家族のようで。レベル1なんかの僕がいうのもおこがましいことですが、命をかけても護りたいんです」

 

ベルも夢で見ている、自分の愛すべき仲間や家族が死んでいく様子を。想いの強さは人一倍だ。

 

アイズはベルの気持ちが痛いほどわかった。昔の私と一緒だ。

 

「強くなろう、私とベルとならきっと皆を護れる」

 

「はい!」

 

しばらく見つめ合ったまま沈黙が続いたがいたたまれなくなったベルが声をあげた。

 

「あの、お茶のおかわりはいかがですか?僕水持ってきます!」

 

ベルはポットを持って部屋を出て行き、残されたアイズはひとりになった瞬間に睡魔に襲われた。ベルの匂いがするベットにそのまま寝転がるとすぐに寝息をたてはじめた。

 

「アイズさんお待たせしまっっ!」

 

(な......アイズさん寝てる!?どどどどうしよう)

 

アイズにそっと近づき声をかけても反応がない。完全に寝てしまっているようだ。

 

(ベルよチャンスじゃ!その娘もいまかいまかと待ちわびておるはずじゃ)

 

(おじいちゃん!?)

 

(いくのじゃベルよ、接吻じゃ!)

 

(おじいちゃん何をいって......)

 

顔を近づけてみると吸い込まれそうになったので必死で顔をあげ椅子に腰かけた。

 

祖父の圧力に屈しそうになるが精神力で何とか乗り切った。寝ているアイズを起こそうとしても起きず、女子棟にあるアイズの部屋に運べるわけでもなく、添い寝できるわけもなく......ベルの徹夜が決まった。

 

ベルは朝まで薬草茶を調合することにし、アイズの方をみると欲望に負けそうになるのでひたすら机に向かい朝を待った......

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




読んでくださっている皆様ありがとうございます。
そして投稿遅くなりましてすみません。

今回はベルとアイズのシーンでした。

なかなか遠征まで行かず......<m(__)m>

次回出発します。


これからもよろしくおねがいします<m(__)m>

今回のイラストは「にゃうあ」さん作ですm(_ _)m

PS
ミア母さんのふたつ名考えてくださった皆様ありがとうございました。ダイレクトメッセージ十数件いただきまして感謝です<m(__)m>そのうちでてきますのでお楽しみに!


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33 遠征出発

(耐えた......僕は耐えたんだ......)


朝日が昇る中ベルは一人打ち震えていた。一晩中アイズが近くで眠る中欲望に負けずに一心不乱に調合に明け暮れた。そうでもしていないといくらベルといえど欲望に負けていたかもしれない......寝返りをうつ音や寝息が聞こえる、常人ではとても耐えられないだろう。

 

(アイズさんは......まだ寝てるな。今日は遠征に行く皆さんの朝食を作らないと。ベートさんにも頼まれたし頑張ろう。でもアイズさんどうしよう......)

 

アイズを自分のベッドに寝かしたまま部屋を出るわけにもいかず困り果てるベル、すると限りなく控えめなノックの音が聞こえた......

 

 

 

 

大きなあくびをしながら朝早くロキは男子棟のベルの部屋へと向かっていた。遠征に行く前にベルのステイタスを確認したいというリヴェリアママからの依頼である。

 

(ウチもひとのこといえんけど皆過保護やなーまあベルを気にする気持ちはわかるで。初心でかわええし、起こすのは寝顔堪能してからでもええやろ......役得や)

 

ぐふふっと悪い笑みを浮かべながらベルの部屋にたどり着いたロキはベルを起こさないようにノックをした......

 

 

 

ベルが扉を開けると驚いた表情のロキが立っていた。

 

「ロキ様!?おはようございます、こんな朝早くからどうしたんですか?」

 

同じくベルも驚きを隠せないようで慌てた様子だ。扉をあけた状態でお互い顔を見合わせ立ち止まる。

 

「おお!?ベル、おはようさん。ようこんな朝早くから起きてたなー、リヴェリアから頼まれてベルのステイタスの更新にきたんよ」

 

寝顔を眺めるつもりがまさかの展開に多少動揺気味のロキ。

 

「ええ!?わざわざロキ様が僕の部屋まで来なくても呼んでいただければ僕が伺いましたのに」

 

主神であるロキがわざわざ新人である自分のところに来るというサプライズに動揺するベル。しかし、ロキは普段からふらふらと団員達の部屋を尋ねているので別段特別というわけではない。

 

「気にせんでええでーウチが勝手に来ただけやから。じゃあステイタス更新するで!部屋入れてやー!」

 

「あ、はい!どう......ぞ!?」

 

(ま......まずい、今はアイズさんが。どうにかして別の部屋に)

 

「ろ、ロキ様。すみません、今ちょっと部屋が汚くてですね、ロキ様を部屋に入れるわけには......」

 

ベルの表情を見るに何かある、そう感じたロキはにやぁっといやらしい笑みを浮かべた。

 

「ええからええから、ベルも男の子やもんな!何を隠しててもウチは気にせんよ?」

 

(むふふふふ、ベルは何を隠してるんやろなー。年頃の男の子やもんな、何かウチに見せられへんような本とかあっても面白いやん。何がってもおかしないで......子供の成長を見守るんも親の務めやもんな!)

 

ぐいぐいと扉の隙間を広げようとするロキ、それを阻止しようとするベルだが主神であるロキを無理やりどかすわけにもいかず部屋の中が見えるくらい扉が開いてしまう。

 

瞬間ピタっとロキの動きが止まった。

 

(んん!?今ベルのベッドに誰かおらんかったか!?ちょっっさすがにウチも想定外やで)

 

ベルはだらだらと冷や汗をかきはじめる。

 

「あああああの......こここれはですね......」

 

「んー......うん、ウチは何も見なかったでぇー」

 

(ウチのベルがまさか女の子部屋に連れ込むなんて......いやいやいや、女の子とは断定できん。男友達かもしれんしな。うん、きっとそうや。ベルの部屋で遊んでたんやな)

 

ベルとロキを包む何とも言えない雰囲気。ただあまりにも大声でしゃべっていた為熟睡していたベッドにいる人物が起きてしまったようだ。部屋の中からごそごそと音がする。

 

(まずい、声をだされたらっっ)

 

「んん、ベル......どこ......?」

 

アイズの寝ぼけたような声が聞こえる、いつもの天然ではあるが凛々しいアイズではなく甘えたようなかわいらしい声だ。

 

 

ビクっとベルの身体が震えた。恐る恐るロキの方に目を向けると最高に悪い笑顔で尋ねられた。

 

「ベル、もしかして中におるのアイズたん?」

 

「......はい」

 

ぷるぷると震えるベルを横に移動させガチャっとドアを開けた。そこにいたのは美しい金色の髪を朝日によってキラキラと輝かせ、若干はだけたパジャマ姿のアイズだった。

 

「萌えーーーーー!へぶぅ」

 

叫びながら飛びかかったロキはアイズの裏拳によって吹き飛ばされた......

 

ベルの部屋で三人でお茶を飲みながら一息つく。

 

「なんや、そういうことかいな。二人で話している最中にアイズが寝てしまったと」

 

コクコクと二人が頷いた。

 

「アイズたん、いくらベルでも男の子の部屋でそんな隙みせたらあかんで?」

 

アイズはお茶の入ったコップを両手で持ちながら首をかしげた。

 

「なぜ?」

 

「......アイズたんはホンマに天使やな。なあベル?」

 

昨晩自分の欲望に負けそうになったベルの顔は青くなったり赤くなったり忙しそうだ。

 

「まあとにかく、ステイタス更新するで。アイズたんも遠征行く前に確認しときたいやろ」

 

さすがのベルも最初の頃とは変わり、ステイタス更新にも慣れてきていた。ロキのセクハラまがいの手つきもうまくいなし更新を終えた。

 

毎回の事だがベルの成長速度は異常だ。この短期間で全てのステイタスがAを超えている、現時点で敏捷と魔力はSに到達していた。通常、ステイタスはどれだけ努力をしたとしてもほとんどの者がどこかで必ず壁にぶつかる。ステイタスがAに到達するものなどほとんどいない。しかしベルのステイタスの伸び方を見る限り限界が見えない、ランクアップも近いだろう。

 

「相変わらずすさまじい伸びやなー頑張ってる証拠やで」

 

そういってロキはベルの頭をなでた。アイズもベルのステイタスは何回も一緒に確認しているが驚くばかりだ。

 

「ベルは毎日私と訓練してるから、最初と比べるとかけひきとかもすごくうまくなってきたよ」

 

ベルは照れながら頭をかいている。

 

「さてアイズたん。そろそろ用意しなくてええんか?それにウチだからよかったんやけどアイズたんがベルの部屋に一泊したなんてしれたら多方面でえらい騒ぎになるで、今はまだ誰にもばれないようにせなあかんで?」

 

アイズのファン、ベルのファン、アイズとベル共通のファン、他ファミリアにいるファン、他の神々、お祭り騒ぎになる可能性大だ......

 

「わかった、また遠征から帰ってきたら二人でお茶でも飲もうね、ベル」

 

「はい!僕もアイズさんが帰ってくる頃にはもっと強くなれるように訓練します。では僕も朝食作りにいきますね」

 

(え......ウチは?)

 

「ほなまた後でなーー......」

 

去っていくロキの後ろ姿はすごく悲しそうだった......

 

 

食堂

 

すでに何人かの団員達は朝食を食べるため食堂に集まっている。ベルを含めた数人が朝食を作っている真っ最中だ。団員全員分作ることは容易ではないが慣れとはおそろしく手際よく調理を進めていた。

 

「さて、後は唐揚げをあげよう。ティオナさんが朝からがっつり食べたいって言ってたし」

 

ベルは前日から漬け込んでいた鶏肉を取り出し油で揚げはじめた。

 

ジューーっパチパチパチ

 

揚げたての唐揚げの香ばしい匂いが食堂に包まれる。

 

だだだだだっ

 

「ベルおはよーーー!からあげ食べていい?」

 

ティオナが食堂のドアを開けるとベルのところに走ってきて背中に抱きつきベルの手元を覗き込んだ。

 

「わふっティオナさん!?今揚げてる最中で危ないですよ!皆さんの分もあるのであまり食べないでくださいね?」

 

「はーい!」

 

ジュー

 

ひょいパク

 

むしゃむしゃ

 

 

ジュー

 

ひょいパク

 

むしゃむしゃ

 

数分間同じことが繰り返された......

 

「あのーティオナさん......おいしいですか?」

 

「うん!」

 

ニカっと白い歯を見せて満面の笑みのティオナ、こんな笑顔を見せられてはもう食べないでとはいいにくい。

 

ゴスッ

 

にぶい音ともにティオナの頭にティオネの拳が振り下ろされた。

 

「いたぁ、何すんのよティオネ!?」

 

腕組みをして仁王立ちをしている姉に対してティオナが抗議した。

 

「団長たちの分まで食べたら怒るわよ?私だってまだ食べてないのに」

 

頬を膨らませてぶうぶう文句をいうティオナ。

 

「ベルにちゃんと食べていいか聞いたもーん!」

 

「ベルのひきつった顔を見なさい。あきらかに困ってるでしょ!」

 

「いえいえいえいえ、おいしそうに食べていただいて僕は嬉しいですよ」

 

ベルは若干ひきつった笑顔のまま答えた。うれしいことは事実だが皆の分まで残りがあるか心配だ。

 

「ベル、あんまりこのバカを甘やかさないでね」

 

ふふっと笑みをこぼしつつティオネはティオナの頭を鷲掴みにするとずるずると席まで連れて行った。

 

みしみしと音が鳴っていたのは気のせいではないかもしれない......

 

命の危険が高い遠征前でもロキファミリアでの朝食はいつも通りだ。皆談笑しながら食事をすすめる。ちなみにベートはベルの料理を気付かれないようにおかわりをしていた。普段ぶっきらぼうなベートではあるが彼の感情はしっぽにでやすい事を皆は知っている。ベルの料理を食べた後のベートのしっぽは普段より5割増しほど元気よく振れていた......

 

 

食事もすみ遠征に行く団員達はバベル前の広場へと集まっていた。ロキファミリアのエンブレムが描かれた旗が風ではためくなか最高幹部である3人が皆の前へと進んだ。

 

シンっと静まり返る中団長であるフィンの声が響く。

 

「これよりダンジョン探索に向かう、僕らが目指すのは未到達領域59階層だ!上層での混乱を避けるため2班に分かれて行く、1班は僕、2班はガレスが指揮をとれ。合流は18階層だ。皆、ダンジョンでは少しのミスが命取りになる。気を引き締めて行動してくれ!」

 

「「はい」」

 

団長の言葉に皆が返事をした。遠征についていけないレベル1、レベル2の団員達は皆の出発を見送りに来ていた。ベルもその中の一人だ。

 

「おいベル!」

 

ベートがしっぽを揺らしながらベルの元へとやってくる。

 

「約束忘れてねえだろうな?」

 

「大丈夫です、ベートさんがいない時は僕がオラリオに残った仲間を護ります!」

 

「よし!こっちの連中はまかせろ、それとこれを貸してやる」

 

そういってベルに向かって投げたのはベートの物よりは遥かに性能としては劣るが魔法効果を吸収する能力を備えたブーツだった。

 

「ベートさんこれは......?」

 

「俺との訓練の時の反省いかして毎日反復練習してたろ?それのまあ......なんていうか......褒美みたいなもんだ。これを使えば今よりは魔力を足に溜めやすくなる、そうすりゃ意識を向けすぎなくて済むだろ。それにそれは俺が昔使ってたやつで俺はもう使わねえ。さっきは貸すっていったが気に入ったらそのままおまえにやる」

 

ベルの足とベートの足ではサイズが全く違う、それなのにベル足のサイズにぴったりということは......不器用なベートなりの気遣いだったのかもしれない。

 

「ありがとうございますベートさん!大切に使わせていただきます!ベートさんもダンジョン気を付けてください」

 

いいたいことだけいって去っていくベートの後ろ姿にベルはお礼をいった。その言葉を聞いたベートは片手を一度あげてダンジョンへと向かっていった。

 

ガレス、フィン、リヴェリアには立場がある為ベル一人の為に来ることはなかったが黄昏の館で会った時にみんなを頼むと声をかけてもらっていた。リヴェリアからはポーションの入ったリュックをもらい決して無理しすぎるなと念をおされた。

 

他の団員達からも声をかけられ頭を撫でられふらふらしながらもベルはアイズを探していた。

 

「アイズさん!」

 

「ベル!よかった、ダンジョンに入る前にベルに会っておきたかったの」

 

「僕もアイズさんを探してまして......これを受け取ってもらえないでしょうか?」

 

そういってベルが取り出したのは先日アイズにプレゼントする為に全財産をはたいて購入した幸運の首飾り(ラビットシンボル)を手渡した。

 

「私に?かわいい......ありがとうベル、大切にするね」

 

「でもごめん、私ベルに何も用意してない......」

 

「いえいえいえ気にしないでください!それよりつけてみてください!」

 

ベルから手渡された首飾りを身に着けようとするがうまくつけられない......

 

「ベル、私にこれをつけてくれる......かな?」

 

自分で上手くつけられす恥ずかしそうに赤面してもじもじするアイズ......

 

「わ、わかりました」

 

アイズの後ろに回り美しい髪をかきあげアイズに首飾りを着けた。

 

「あっっ」

 

アイズが妙な声をあげた。

 

「すすすすみません、手が首に当たってしまって」

 

「大丈夫だよ、少しくすぐったかっただけだから」

 

時間が止まればいい......このままベルと二人でいられたら楽しいだろうな......

 

「じゃあ、私行くね、ベルも気を付けて」

 

「アイズさんも気を付けてください」

 

そういって別れようとした瞬間、ズキンっっ

アイズの心にどうしようもないくらいの不安がよぎった。今ここでベルと別れたら......もう二度と会えないような、そんな感覚に襲われる。

 

(なに、この感覚......)

 

ズキンズキンズキン

 

アイズの中の何かが警告を発しているのだろうか。

 

アイズが一向に歩き出そうとしない事にベルは首をかしげる。

 

「どうしたのアイズ?顏真っ青だよ!?」

 

アイズが来ないことに気が付いたティオナとティオネが迎えに来た。

 

「ティオナ......わからないけど、ベルと離れちゃいけない気がして......」

 

普段と違うアイズを心配そうに見つめる二人、

 

「ベルと離れるのが心配なの?じゃあ私がいいおまじない教えてあげる!」

 

ひょいひょいと手をふってベルを近くにこさせベルの髪をかきあげた。

 

ちゅ

 

「なななななにを!?」

 

「あら、懐かしいわね。子供の頃よくやったわよねー、再開を誓うキスね」

 

「ほら、ベルも私の額にして!」

 

「え、で......でも」

 

「いいから!」

 

圧倒的圧力に屈してぎゅっと目を瞑ってティオナの額にキスをした。満足そうなティオナ。

 

(あ......れ、意外にドキドキする)

 

自分でしたのにもかかわらず赤面するティオナ、ふるふると頭をふってアイズをうながした。

 

「さ!アイズも!」

 

アイズがベルの正面に立った。

 

ぷるぷるぷるぷる

 

「ああああの、アイズさん!?」

 

ガシっとベルの肩を折れるくらい掴み額に口を近づけていく。

 

ちゅっ

 

ぼふっベルとアイズが赤面する。

 

「さ!ベルも!」

 

顔を赤くしながら目を瞑って待つアイズ、心臓は張り裂けんほどに鼓動していた。

 

どきどきどき

 

ベルが意を決してアイズの額に口を近づけて......

 

「お前たちいつまでも何をやっている!?」

 

瞬間ばっっと二人は離れた。辺りを見渡すと他の団員は大方ダンジョンへ潜り辺りは静かになっていた。いつまでたってもこない3人をリヴェリアが様子を見に来たようだ。

 

「「「ごめんなさい」」」

 

怒り心頭のリヴェリアを目に脱兎の如く駆け出す3人。

 

「じゃあベル行ってくるね!」

 

「皆さんお気をつけて」

 

アイズの不安が消えたわけじゃない、それでもティオナのおかげで心の安定は保たれたベルからのキスは遠征から帰ってきた時に......

 

 

 




読んでいただいている皆様ありがとうございます。

やっと遠征に出発することができました。

アイズ遠征とベルの冒険の2つを書いていきたいと思います。

オリジナルの設定も入ってきますのでお楽しみください<m(__)m>


これからもよろしくお願いいたします。


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34 アイズ遠征編1 

アイズは不安が残る気持ちを抑えて遠征へと向かった。


ダンジョン18階層までは極力無駄な戦闘は避けて行軍が行われる。ダンジョン内での補給は非常に困難だ。階層を下りるごとに一階層ごとの面積は広くなり、モンスターも強くなる。回復アイテムや食料にも限りがある為遠征に向かう際は無駄を省いていかなければならない。余裕があればレベルが低い冒険者に経験を積ませる為に指揮を任せたり戦闘をさせるが今回は深層域59階層を目指している為そんな余裕はない。

 

今回の隊列ではサポーターを務める者達を内側にしてレベル3以上の冒険者を隊列の各所に配置し戦闘は可能な限り時間をかけずに済ませていた。

 

ザシュッッ

 

フィン達と共に先頭を歩くアイズが眼前に現れたミノタウロスを一太刀で切り伏せた。

上層では圧倒的なレベル差によりよほどのことがない限りモンスター達は襲ってこないが中層はそうはいかない。レベル差はあるものの出現頻度が圧倒的に違う為必ず戦闘は起こってしまう。また、サポーターの中にはレベル2の者も多くいる為ミノタウロスの攻撃が当たれば致命傷になりかねない。故に先手必勝、見つけ次第速やかに排除する事がアイズ達の仕事である。

 

(駄目だ、こんな気持ちで戦っていたら、もやもやするけど今は遠征にしっかり集中しないと......)

 

目の前に現れるミノタウロスやヘルハウンドを薙ぎ払いながら先へと進む。表情には出さないがイラついている様子のアイズを見てフィンが溜息をついた。

 

「リヴェリア、アイズは何かあったのかい?」

 

「ベルと離れるのが寂しいのではないか?」

 

二人は顔を見合わせ苦笑した。

 

「この遠征が無事終わったらベルを連れて少し深くまで潜ってみようか。そうすれば今のステイタスから考えてレベルの上昇も夢ではないだろう。アイズがレベル2なるのにかかった期間を考えれば異常といえるスピードだけれど......ステイタスは嘘をつかないからね。僕もベルの成長スピードを少し甘くみていたよ」

 

「団長自らベルに指導するのか?それでは周りの者には贔屓しているように映るのではないか?」

 

「ベルだけに、というわけではないさ。最近皆訓練に気合が入っているからね、僕達が交代で一緒にダンジョンに潜って指導する機会を作っていこうと思っていてね。そうすればもう少し僕達と他の団員達との距離も近くなると思うんだ」

 

ああっとリヴェリアは納得した様子だ。第一級冒険者に直接指導をお願いするなど恐れ多くてできない......そう思っている者がほとんどだ。気軽にとは言わないがもう少し距離が近くなってもいいと思っていた。

 

ベルという存在がこのファミリアにとっていい方向に向かうきっかけになったことは間違いない。アイズは表情が豊かになったしベートも仲間という事を意識するようになった。他の団員達も仲間意識が飛躍的に向上しているのだ。

 

(ダグラス......ベルはあなたとよく似ている。その心根も......)

 

フィンは今は亡き友人に想いをはせた......

 

 

「フィン、もうすぐ17階層。ゴライアスはどうする?」

 

一通り周囲のモンスターを薙ぎ払ったアイズがフィンの元に剣を鞘に収納しながら歩いてきた。

 

「ゴライアスは僕を含めたレベル4以上の者で戦う、リヴェリアは精神力を温存しておいてほしい。君の魔法が必ず必要になるからね」

 

「わかった。従おう」

 

 

 

17階層手前のルーム

 

「フィン、なにかおかしい......様子を見てくる」

 

本来ならゴライアスの気配がするはずが今はそれがない。ゴライアスを討伐できるほどのファミリアがロキファミリアの遠征があることを知らないはずがない。先行してアイズが17階層へと足を踏み入れた。

 

(ゴライアスがいない......誰かが倒したような跡もない。これは一体......とりあえずフィンに連絡を)

 

 

アイズは皆の元に戻り状況を説明した。

 

「ふむ、あの巨体がどこかに隠せるとも思えない。どこかのファミリアが倒したと考えるのが妥当だが。戦いの形跡がないのはおかしいな。皆注意して進軍してくれ、18階層でガレス達と合流しよう」

 

(今回の遠征、何かあるかもしれない。僕も心してかからないと)

 

 

18階層 小休憩

 

フィン達は先ほどのゴライアスがいなかった件について他の幹部と共にガレス達と話し合っていた。

 

「ふむ、簡単に考えればゴライアスを難なく倒せる者がいたと、それだけだと儂は思うんじゃが。そう簡単な話ではないかもしれんの。ここ数週間の間にゴライアスを倒せるレベルのファミリアが遠征を行ったという報告もはいっておらんし」

 

大手ファミリアには様々な情報網がある。他のファミリアの動向や団員のレベルなどを把握しておくことも幹部達には必要なことなのだ。

 

「以前アポロンファミリアがゴライアスを倒したという報告もあるが、それにしてもかなりの人数を必要としたはずだ。それだけの大人数がダンジョンに向かえばいやでも目に付く。今回はゴライアスが復活してからどの程度立っているのかはわからないが全く犠牲も出さず階層も荒れていないとなると......」

 

腕を組みながらリヴェリアも複雑な表情を受けべている。

 

「まあ悩んでもしょうがないね。今回の遠征は今まで異常に注意して進もう」

 

「「はい」」

 

幹部達が堂々としていれば他の団員達も安心することができる。いつまでも不安を抱いているだけではいけない。何かあってもすぐに行動を起こせるように気持ちを入れなおした。

 

「皆さんお茶が入りましたよー。これを飲んで落ち着いてください」

 

簡易コップにお茶を入れたレフィーヤ達が団員達にお茶を配っていた。

 

「アイズさん!どうぞ!熱いので気を付けてくださいね!」

 

「!ありがとう......この匂いは......」

 

レフィーヤからコップを受け取ったアイズは息を吹きかけて口に含んだ。

 

(やっぱりベルが調合していたお茶だ。心が温まる......会いたい......な」

 

「ふむ、これは......いったい誰がもってきたんだ?微量だが精神力が回復しているのがわかる」

 

オラリオ一の魔導師であるリヴェリアはたしかに自分の精神力が回復していることに気が付いた。

 

「ベルが遠征に行く皆の為にって作っていた。豊穣の女主人のミアさんに作り方を教えてもらったみたい」

 

「なるほど。ミアなら知っていても不思議ではないな。それよりアイズ、そんなこといつ聞いたんだ?」

 

ビクッとアイズの肩が反応した。

 

「え、えと......き、昨日の夜に......」

 

「えー?アイズ昨日12時くらいまで私とティオネと話してたよね!?それからベルの部屋に行ったの?」

 

お茶を飲み終えたティオナがアイズを背中から抱きしめる。ニシシっと笑いながらアイズの頬を指でつついた。

 

「う......あう」

 

お茶のコップを両手で握りしめ俯きながら顔を真っ赤にさせている。

 

「アイズ、それは本当か?いくらベルといえど男の部屋に深夜にいくなどと......ぶつぶつ」

 

アイズの親代わりであるリヴェリアは複雑そうだ。いくら冒険者としての生活が長くなっているといえど、エルフの王族であるリヴェリアは貞操概念についても非常に固い。いまだにキスひとつしたことがないのだ。

 

「アイズはベルの部屋で何をしてたのかなぁー?」

 

遠征中だというのに心底楽しそうなティオナ。その横には話には入って来ていないが興味深々なティオネがフィンの横をキープしていた。

 

「えと......普通にお茶を飲んで」

 

「飲んで?」

 

「寝ただけ......」

 

「「!?」」

 

ざわっ会話を聞いていた周囲の団員達もアイズの衝撃発言にざわつきはじめた。

 

深夜、ベルの部屋、寝た。この単語のみきくと非常に危険な気がするのは気のせいではない......

 

(寝た......だと?)

 

「え.....ベルの部屋でってこと?」

 

「そう」

 

(あ、そういえばロキにいうなって言われてたけど。どうしよう......)

 

「ええと......ただベルのベッドで寝ただけだから」

 

((!?))

 

アイズは発言する毎にどんどん勘違いが広がっていることに気が付いていない。

 

「ふむ、皆混乱しそうだから一度整理しようか。アイズは昨日深夜ベルの部屋に行ってベルと話をした。その後アイズはベルのベットで寝た。ここまではあってるかい?」

 

フィンは苦笑しながら確認を続けた。

 

「うん」

 

「その時ベルは何をしていたんだい?」

 

「ベルは朝までずっとお茶の調合をしていたみたい」

 

((あーなるほど......ベル、よく耐えたな......))

 

欲望に打ち勝ったベルは本人が知らないところで多くの団員達からの評価が上がった事を知らない......

 

「なるほど、しかしベルは随分頑張ったようだね。遠征に行く全員分となるとかなりの量が必要なはずだけど、それにいい味だ。ベルはいいお嫁さんになりそうだね」

 

フィンはお茶を飲みながら優しく微笑んだ。

 

ぶふぅっっ

 

なぜか嫁という単語を聞いた瞬間ベートが吹き出した。彼の脳内で何を想像したかはわからないが壁に頭を打ち付けている姿をみると多少は何を想像したかがわかる......しばらくするといつもの表情に戻ってお茶の入ったカップに口をつけていた。

 

((ベート......))

 

最近のベートは以前の彼とは違いよくわからない行動が目立つ。しかし、それのおかげで周囲の団員達と仲良くなっているので良しとしている......

 

 

18階層のクリスタルから光が消え夜が訪れる。

 

18階層で荷物の最終点検や隊列の確認をし、翌日、クリスタルに光が戻ったら一気に50階層を目指すのが今回の予定だ。クエストでカドモスの泉に寄ることも忘れてはいけない。深層域へと遠征できる機会は限られている為クエストを行う事が多い。ちなみにカドモスとは現在確認されている階層主以外のモンスターの中で最強であり、以前の遠征時にティオナは致命傷を受けている......それだけ強力なモンスターなのだ。

 

見張り以外の団員が寝静まる中アイズは一人黄昏ていた。膝に顔を埋めベルとの別れ際を思い出していた。

 

(あの時の気持ちは一体なんだったんだろう。どうしてもこの不安な気持ちが消えない。ベルからキスしてもらえなかったし......)

 

「ベル、今頃何してるんだろう......」

 

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

長くなりそうなので今回はこの辺で区切りをつけました。次回はベルのお話です、こんな感じに交互に場面を書いていこうかと思います。

原作とは異なっているのでそのあたりはご了承ください<m(__)m>

次回更新は早いと思いますのでお楽しみに!

お気に入り登録やメッセージ、感想、評価等ありがとうございます!これからもがんばります!


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35 白兎

ベルはアイズの背中が見えなくなるまでバベルの前から動かなかった。


(アイズさん、さっきちょっと変だったな。どうしたんだろう)

 

先ほどのアイズの表情は鬼気迫るものだった。無論キスうんぬんの前の表情である。

ベルの脳内ではティオナの額にキスした、されたことよりもアイズのあの表情が離れなかった。

 

「ベル!」

 

ベルが後ろを振り返るとベルの今のパーティーの仲間である3人が立っていた。3人も遠征に行く皆の為に見送りに来ていたようだ。

 

「あ!皆さんおはようございます!」

 

「あんたさっきアイズさんたちと......いや、何もいうまい......」

 

先ほどのベルとティオナやアイズとのやり取りを見ていたのでいろいろ言いたいことはあったがリリーは口をつぐんだ。

 

「あの、何か?」

 

「拙者にも再開のち、誓いを......」

 

「ベル、我と契りを交わすなら接吻を許すことを考え......な、なくもない......」

 

ベルと再開の誓をする姿を妄想して二人は頬を染めた。

 

「あんた達......恥ずかしがるならいうのやめなよ......」

 

 

ベルは3人の行動がよくわからず首をかしげていた。

 

「そういえば今日の予定を聞いていなかったんですが今日はどうしますか?」

 

いつもは黄昏の館の前に集合してダンジョンに潜っている時間だったが今日は見送りがあったので何の用意もせずバベルの前にいる。

 

「今日は今から武器や防具のを見に行くのとアイテムの補充かな。ベルも一緒に行くかい?」

 

「僕も一緒に行っていいなら行きたいです!そういえば皆さん武器や防具はどこで買っているんですか?」

 

ベルの装備は貰ったもの以外はほとんどがヴェルフにオーダーメイドで作ってもらっていた。

 

「我らはバベルのヘファイストスファミリアが作っているところで購入している。まだ我に見合う装備を献上する輩は現れぬのでな」

 

「ルナ......そろそろベルの前でも普通にしゃべってもいいんじゃないかい?」

 

「!まだ......恥ずかしいから、ごにょごにょ」

 

先は長そうだねっとリリーは溜息をついた。

 

「あのー皆さん、決まった鍛冶師の方がいないのでしたら僕の友達のところにいってみませんか?最近鍛冶のアビリティも手に入れてすごくいい装備を作ってくれるんですよ!」

 

ベルは自分の事のように......そして嬉しそうに相棒であるヴェルフの話をした。

 

「ベル、おまえもう専属の鍛冶師がいるのか。それならウチらも見に行ってみるか」

 

いいよな?とリリーは他の2人に視線を向けると二人はなんの躊躇いもなく頷いた。

 

「それではご案内します!ヘファイストスファミリアから少し離れてはいるんですがついてきてください!」

 

 

この4人でのパーティーも大分慣れて会話も自然にできるようになってきた。連携も以前より練度が増し、ロキファミリアのレベル1、レベル2混成パーティーの中では上位に食い込むことだろう。ただ、お互いにまだまだ隠している力があるのではっと周囲からは言われている。

 

リリーにしてみてもいつもは大剣を使用しているが格闘の技もかなりの実力だという噂もある。刹那は東方の出身で侍に憧れる前は隠密行動を主とする部族に属していたらしい。ルナは言わずもがな、自ら五感の一つである視覚を眼帯で隠しているし魔力に秀でた一族であるエルフの中でも貴族に分類される種族の出身だ。皆何かしらの理由があり、今の戦闘スタイルをとっている為理由は深く追求できないがベルはいつか話してくれるのではと思っている。

 

テクテクと歩くこと十数分、ヴェルフにあてがわれた工房が見えてきた。

 

「ここが僕の友人のヴェルフの工房です!」

 

(((......ここが?)))

 

そこはお世辞にもきれいとはいいがたい場所だった。周囲は草が生えているし壁が一部壊れていたりと女性である3人にとっては警戒しかない。

 

 

「ヴェルフー!いるー?」

 

工房の扉をベルがノックした。中から男の声が聞こえる。

 

「おお!ベルか!この前頼まれた籠手ができてるぞ。入れ入れ!」

 

ベルは後方で固まっている3人に手招きをしてヴェルフの工房へと足を踏み入れた。

 

「ベルよく来た......な。誰だそいつら?」

 

ヴェルフはベルの方に目を向けると見知らぬ女性が3人も入ってくる状況に驚いていた。

 

「ヴェルフ!今日は今僕がパーティーを組んでもらってるロキファミリアの皆さんを連れて来たんだ!」

 

そういうとベルは3人を紹介した。

 

「ベルの仲間か、よろしくな。俺はヴェルフ。ベルの専属の鍛冶師として契約をしている。レベルは2で鍛冶のアビリティも持ってる」

 

「ヴェルフすごいよね、あっという間にレベル2になっちゃうんだもん!」

 

ヴェルフはベルと契約をした日から団長である椿からの拷問のような訓練を受けていた。共にダンジョンへ籠りモンスターを倒し続けた結果、無事にレベル2になり鍛冶のアビリティーをゲットしたというわけだ。

 

「俺はレベル1でくすぶっていた時期が長かったからな。それに一人でダンジョンに潜って死ぬような経験は何回もしていたしな。それより今はおまえがどんどん装備を摩耗させるから鍛冶の腕がメキメキ上がってるよ」

 

苦笑しながらもヴェルフは楽しそうだった。装備をみればどれだけベルが訓練を頑張っているか分かるからだ。ベルが頑張れば頑張るほどヴェルフもそれに対抗していい装備を作る。相乗効果は絶大だ。

 

「それより3人共、ここの工房にある武具で何か使いたい物があれば言ってくれ。調整してやる、ベルも籠手を着けてみてくれ。お前の手には合わせてあるが違和感があったら調整する」

 

「大丈夫だよ、いつもみたいにばっちりだよ!」

 

「まあお前の為の防具何個作ったかわからねえからな。兎鎧(ぴょんきち)ももう何代目か......」

 

あははっと乾いた笑い声をあげるベル。

 

「この大剣なんだが、使ってみても?」

 

リリーが立てかけてあった大剣を手にして重さの確認をしていた。

 

(この工房の外見からは想像もできないくらいいい武器が揃ってるな。ならば何故こんな場所に......?)

 

「ああいいぜ、そうだな。俺の依頼を聞いてくれるなら一人一個武器でも防具でも持って行っていいぜ!」

 

「ホントでござるか?拙者この防具が使ってみたいでござる!拙者が使用しているこのような刀はここには無いようでござるから」

 

「ああーそういう武器はまだ造ったことないな。悪い。どちらかといえばそれは椿が得意にしているからな。俺でよければ今回依頼する内容に材料追加していいなら作ってやるが?」

 

皆の方を振り返ると問題ないと頷かれた。ベルの装備を作っているということは何階層まで潜れるかわかっているということだからだ。この後消耗品を買って準備してからいけばいい。

 

「我はこの漆黒のマントがいい。我の体から溢れるオーラを消すにはちょうどいい」

 

「??あ、ああ。それが気に入ったのならサイズの調整するから待っててくれ」

 

(面白い言い回しをするやつだな......)

 

その後、4人の装備の調整を行った。多少の調整だけで装備はすぐに使えるようだ。

 

「じゃあこの紙に書いてある物を持ってきてくれ、全部上層で手に入れられる筈だ」

 

「わかったよヴェルフ!行ってくるね!」

 

「ああ、そうだベル!お前剣姫はいいのか?タイプは違うがそんなかわいい子ばかり連れて怒られないのか?」

 

「ええ!?たしかに皆さんかわいいですが......というよりアイズさんに紹介してもらったから怒られないと思うけど」

 

「そうなのか?だってお前剣姫がっっ」

 

ベルはヴェルフの口に手をあてそれ以上はしゃべらせなかった。ただそのやり取りは後方の3人には見られていない。なぜなら、純粋に何の企みもなく相手を褒めるベルのかわいいという言葉に照れてそれどころではなかったのだ。

 

(べ、別にベルにかわいいなんて言われたってウチはうれしくないし......)

 

(ベルにかわいいっていってもらえたでござる!)

 

(......恥ずかしい......)

 

 

(天然のジゴロってのはいろんな意味で怖いな......その内後ろから刺されないか心配だ。背中を護る防具ももう少し考えるか)

 

 

ヴェルフの工房を後にした4人は行きつけの青の薬舗へ行きポーション類を購入した後装備を整えダンジョンへと向かった。

 

 

「皆用意はいいか?まずは12階層まで下りて依頼にある物を採取する」

 

リーダーであるリリーが皆に指示をだした。

 

「上の方にある物は採取していかないんですか?」

 

「ベル、上で採取した物を持って12階層に降りるより先に降りて登りながら採取した方が効率がいいだろ」

 

「さすがリリーさん!」

 

「ふん、行くよ!隊列は前衛ウチ、中衛刹那、次にルナ、最後尾をベルが担当してくれ」

 

 

「「「はい」」」

 

各自各々の役割を忘れてはいけない。それは上層でも、中層でも、深層でも変わらない。ルナのような近接戦闘は苦手だが魔法が強力な団員は極力周囲の団員が壁となり魔法を発動させる時間を稼がなければならない。魔法使いはそんな自分を護ってくれる皆を救うのが仕事だ。

 

12階層

 

「ここまでは問題なく進んでこれたねっと!全員戦闘体制!」

 

12階層は霧で見通しが悪くモンスターの接近を許すことが多いが、レベル2の感覚器官は少しの足音や息遣いを見逃さない。

 

「オーク3匹!インプ5匹。各自戦闘に移れ!」

 

リリーは地面を蹴りオークの群れに飛びかかって行った。先ほどヴェルフのところでもらった大剣がオークの巨体に食い込む。

 

ザシュッ

 

ズズーンッッオークの巨体が地面へと倒れた。3体とも......

 

ルナを護衛する刹那は見ていた。圧倒的なスピードで周囲を取り囲もうとしたインプを蹴散らしオークに止めを刺さないまでも足の筋を切り付け無力化したことを。以前にも増してスピードが上がっている、それに迷いもない。

 

いつ詠唱したか分からないがベルは雷の魔力を帯びていた。ベートに貰った靴の効果もあるが飛躍的に上昇したスピードはこの魔法の力だろう。

 

「ベル、おまえ今のどうやったんだ?」

 

リリーがオークに止めを刺し、ドロップアイテムを回収しながらベルに話しかけた。

 

「実はですね、前からずっと練習してきた技がありまして。それが上手くできるようになったので実戦で使用してみました。技自体はベートさんのお墨付きですしロキ様に名前も付けていただきました!」

 

実際に毎朝血のにじむような鍛錬をしてようやく自分のものにできた技術である。誰よりもはやく仲間の元へ行き護れるように。ベルが速さにこだわる理由はそれが一番大きいだろう。速さだけでいいものではないがベルのステイタスと技術なら上層の敵ならば問題はない。

 

「今の戦闘拙者たち何もやってないでござるー......ベルはもうちょっと仲間を頼ってもいいでござる」

 

「同意」

 

出番のなかった刹那とルナは不機嫌そうだ。ベルの気持ちはパーティを組んでいてわかっているが、異常なほどに仲間が傷つくことを恐れているように見える......

 

「す、すみません」

 

ベルは申し訳なさそうにぺこりと頭をさげた。

 

「もちろん信用はしているんですが......ごめんなさい」

 

「わかってるでござる。ただひとつ言えるのはいつかいったことがあるかもしれないでござるが、ベルが拙者たちを護りたいと思ってくれてるのと同じく、拙者たちもベルを護りたいんでござる。それが仲間でござる」

 

 

ニパっとベルの方を向いて笑う刹那の笑顔にベルはドキッとした。

 

「全く、ウチのセリフ全部言われちまったね。つまりはそういうことだ。ウチらは仲間だ。今の刹那の言葉忘れるんじゃないよ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

しばらく12階層11階層で素材を集めたのちバックパックの限界が近づいたため更に上に戻ることにした。

 

 

 

ダンジョン8階層

 

「ひっっ」

 

小柄な小人族(パルゥム)の少女が冒険者から暴力を振るわれていた。

 

「てめえ、このくそパルゥムが。そんなに死にてえのか」

 

「あうっ」

 

少女は男に腹を蹴られて床を転がった。

 

(りりが.....りりが何をしたっていうんですか)

 

「盗みを働いてることはもうわかってんだよ、くく、ここはダンジョンだ。死んでもモンスターに殺されたと思うはずだ」

 

剣を振りかぶった男が少女に危害を振るう瞬間

 

「旦那ぁ、いけませんな。他ファミリアへの暴力行為は」

 

「てめえはカヌゥ、なにしやがる」

 

カヌゥと呼ばれた獣人の男はどうやらこの少女の仲間のようだ。それにしても先ほどから背中に何かを背負ってる。

 

「ひっっ」

 

少女がカヌゥの背中にキラーアントの首が背負われていることに気が付いた。

 

ぎちぎちぎち

キィーキィーと嫌な音を立てている。

 

キラーアントは巨大な蟻のような姿をしておりレベルの低い冒険者にとっては強敵である、その固い殻は刃を通しにくくもっとも厄介なのは......

 

「てめえ、なんてもんもってやがる。そんなことしたら......」

 

「ええっ早く逃げた方がいいですぜ」

 

にやりとカヌゥは嗤った。

 

 

キラーアントの最大の特徴は瀕死になると大量の仲間を呼び集めるということだ。カヌゥがどこから持ってきたかはわからないがすでに辺りには大量のキラーアントの群れが集まり始めていた。

 

「ちっくそがぁーーーー」

 

剣を鞘にしまいまだキラーアントが集まっていない場所から男は逃げ出した。

 

「あぁ、そっちには罠を仕掛けさせてもらいやした......」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ......」

 

遠くの方から先ほどの男の絶叫が聞こえた。

 

「あ、ありがとうございます。カヌゥさっっ」

 

「アーデ!助けてほしいだろ?ならさっさとだしな。お前が数多くの冒険者から盗みは働いて溜めこんでるのはわかってるんだ。こいつらに食い殺されるなんて嫌だろ?」

 

絶望した彼女は助かる為に一つのカギを取り出した。

 

「ノームの貸金庫の鍵です、盗んだ物は宝石にして溜めてありまっっ」

 

ぶちっと少女の首にかかっていたカギを奪い取るとカヌゥは立ち上がった。

 

「え?カヌゥさん?」

 

「ご苦労だったなぁアーデ。哀れなサポーター。最後に冒険者の俺たちのことを助けてくれ。それにデカい客を捕まえてな、おまえはもう用済みなんだ」

 

影に隠れていた他数人がカヌゥの周囲のキラーアントを薙ぎ払った。

ガシッと少女を掴むと離れた場所へと投げつけた。

 

「カハッ」

 

背中から叩きつけられた少女は息ができずにもがき苦しんでいる。

絶望に打ちひしがれる少女をその場に残して男たちは嗤いながらその場を去って行った。

 

(何が冒険者ですか......もう少しで、あと少しでソーマファミリアから抜ける為の、自由になる為のお金が集まったのに)

 

少女は両親が死んで以来、このソーマファミリアという地獄の中で生きてきた。弱い者は蔑まれ毎日暴力を受けた。その内に毎月お金を要求されるようになった。だから生きるために盗んだ。大嫌いな冒険者たちを騙して盗んだ。生きるために......

 

(りりの人生はなんだったんでしょうか......誰もりりに優しくしてはくれなかった。誰も信用できなかった。自分の力で自由を勝ち取らなければならなかった。でも、もう終わり、りりはここで死ぬ。きっと次目を開けたら幸せな人生がまってるはず、そう、きっと。昔読んだおとぎ話のように優しい王子様が助けてくれる......)

 

大量のキラーアントに囲まれた少女は涙を流しながら目を閉じた......

 

 

 

 

 

「あのー、リリーさん。何かおかしくないですか?」

 

「何が?」

 

「いつもならこの階層もっとキラーアントがいると思うんですが」

 

「そういえば全然出てこないね。後はキラーアントの殻が必要なのに、しょうがない、ちょっと遠回りになるけどこの階層の端にルームがあったろう、そこまで行くよ!」

 

ヴェルフに頼まれた依頼の為、キラーアントを探し始めたロキファミリアの面々。ルームに向かうにつれ妙な気配が漂ってきた。

 

「皆さん気が付きましたか?」

 

「この奥から大量のモンスターの気配がするでござる......」

 

「リリーさん、ちょっと僕先行して偵察に行ってきます!」

 

この中で一番敏捷性が高いのはおそらくベルだ。それにパーティーのリーダーが外れるのは好ましくない。

 

「わかった。何かあったらすぐに知らせに戻ってくれ」

 

ベルは頷くと一人ルームまで急いだ。ルームに近づくにつれ濃くなる気配、ベルは神経を集中させ気配を探った。

 

ルームについた時に目にしたのは覆い尽くすほど集まった大量のキラーアント。そして壁際には冒険者とみられる一人の少女が見えた。ベルには少女の助けてという声が聞こえた気がした......

 

瞬間ベルは魔法を唱えていた。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

 

雷の魔力に覆われたベルはキラーアントの大軍へと突っ込み少女の前へと躍り出た。

 

 

「大丈夫ですか?これを飲んで!」

 

ベルはレッグホルスターに入れていたポーションを少女に飲ませた。

 

「王子様......」

 

そういった後少女は気絶した。

 

(一体そうしてこんな状況に。いや、考えている時間はない)

 

 

 

(ドゥンデル)最大出力!

 

魔力を最大限にした状態で足へと魔力を溜めた。

 

【電光石火】

 

ベートにもらった靴のおかげもあるが意識を集中しなくても魔力を溜めた状態で動けるようにまでベルの技術は向上していた。速力の大幅な上昇、単純に早いというだけでキラーアントはベルに触れることさえできないでいた。数で勝るキラーアント達にもう一撃、

 

【ライトニングボルト】

 

ベルの手に集められた魔力はベルの声と同時にモンスターの群れへと放たれた。この魔法も以前からずっとベートと共に練習してきた物だ。実戦で使うのは今回が初めてだったがうまくいったようだ。

 

「ベル、無事か!?」

 

帰ってこないベルを心配して仲間達が迎えに来たころには大量にいたキラーアントたちはほぼ全て倒されていた。残ったのは大量の魔石とドロップアイテムの山だ。

 

「......ベル、説教は覚悟しておけよ?事情はその子みれば大体分かったけど一人で無茶しやがって」

 

ゴスッとリリーの鉄拳がベルの頭に振りおろされた。

 

「す、すみません。緊急事態だったのでっ」

 

ゴスッまたもや重い一撃がベルの頭におろされる。

 

「団長から聞いてると思うけど、基本ダンジョンでは他のファミリアには不干渉だ」

 

「わかっています。それでも僕は、目の前で失われようとしている命を見捨てることができません。すみません......」

 

「わかってるさ、おまえがそういうやつだってことはな。全く、心配かけさせやがって」

 

(これはウチらがもっと強くならないとな、それにしてもこの数は......ベルはまだウチらに本気は見せていないってことかい。自主練増やそう......)

 

「まあいい、とりあえずこの話は後だウチとルナはこの魔石とドロップアイテム拾ってくから刹那とその子を地上に送ってやりな」

 

「わかりました、刹那さんすみません」

 

「いいでござるよ!その子のケガももう回復しているはずでござるからとりあえず地上まで急ぐでござる」

 

ベルと刹那は一足先に地上へと帰還した。

 

「それにしてもこの子は装備もなくなんであんなところにいたんでござるか......」

 

「ですよね、考えたくはありませんがもしかしたら仲間に裏切られて殺されるところだったのかもしれません......そうなればこの子はもう死んだいると認識されているはずなので、楽観的ではありますがもうああいうことはないのでは......と思います。とりあえずどうしましょうか。ロキ様に相談してもいいんですが、他ファミリアの問題という問題もありますし......」

 

 

「ええーじゃがまる君はいかがですかぁー!じゃがまる君はいかがですかー!おや?ベル君じゃないかい。どうしたんだい、女の子を抱えたまま」

 

「!ヘスティア様!いいところに!」

 

「ど、どうしたんだい?顔が近いよ......照れちゃうじゃないか」

 

「すすすすみません。とりあえず説明させてもらえますか?」

 

説明中

 

「なるほど、事情は理解した。僕のホームならしばらく誰にも見つかららないはずさ!それに僕には眷属がいないからね。ファミリア間の問題にはならないさ。保護しているだけだからね!」

 

「ありがとうございます!ヘスティア様!」

 

「じゃあ君たち、ついておいで!僕のホームに!」

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回は少々長くなってしましました。

......リリは助けたかったんです。それだけです<m(__)m>

次回はアイズ編2を書きたいと思いますのでお楽しみに!


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36 アイズ遠征2 

遠征は続く


18階層で休息をとりそこから一気に50階層を目指したロキファミリアの団員達。現在彼らは49階層大荒野(モイトラ)で大多数の魔物を前に奮闘していた。この階層で出現する魔物は中層域に出現するミノタウロスの上位種のような魔物で、非常に好戦的なうえすさまじい数の群れを作り襲い掛かってくるという厄介な相手だ。

 

「前衛!盾構え!」

 

フィンが敵の数と勢いを瞬時に計算し前衛に指示を出した。荒野を埋め尽くすほどの群れをなんの策もなしに相手をしていてはいくらロキファミリアといえど損害は計り知れない。

このような場合にもっとも頼りになるのが都市最強の魔導師リヴェリア・リヨス・アールヴの広範囲殲滅魔法だ。魔法の詠唱が終わるまで前衛は命をとして時間を稼がなければならない。

 

迫りくる魔物の群れは咆哮をあげ、大地を蹴り、黒い塊となって盾を構える団員達に向かって体当たりをした。鋭い角が盾に当たり火花が散る、足が地面にめり込むほどの衝撃が走り死という恐怖が脳裏に浮かんだ。しかし、皆が恐怖に負けそうになる中後方に下がったリヴェリアの美しく透き通るような詠唱が団員達の耳に届いた。

 

「間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅......」

 

リヴェリアの詠唱と共に魔方陣が展開され強大な魔力が練こめられていく。死の恐怖を感じていた団員達もリヴェリアの詠唱を聞き恐怖を振り払い盾を押し返した。

 

ガギィィン

 

鈍い音と共に魔物を弾き返した。

 

「踏ん張れーーー!時間を稼ぐぞーーー!」

 

誰が発した声かはわからないがその声に呼応してオウ!という声と共に皆気合を入れ直した。

 

「ティオナ、ティオネ、左側に回れ!」

 

「はい!」「りょーかい!」

 

全体を見渡し、相手の圧力が高い場所には幹部達が行き敵の足止めと数を減らしにかかる。敵の数はロキファミリアの数倍、実力や技術で勝っていても数の圧力に屈する場合もある。前衛の一部でも瓦解してしまえばそこから数の力で食い破られてしまうだろう。

 

「うりゃりゃりゃりゃーーー!」

 

ティオナが専用武器大双刃(ウルガ)を力任せに振り回し一瞬の内に周囲の敵を切り裂き薙ぎ払っていく。彼女の台風のような攻撃は皆の勇気を奮い立たせた。

 

「ティオナ!前に出過ぎるんじゃないわよ!」

 

敵の的になりやすい妹を絶妙なタイミングで投げナイフを投げ助け、彼女が自身の力を120%発揮できるようにサポートをしつつ自身もククリ刀を使い敵を薙いで行く。ティオネは冷静でいる間は指揮と戦闘、サポートを行えるいわゆる万能型だ。

 

「グォォォォォォ!」

 

他の魔物よりひとわき大きな個体の魔物が天然武器(ネイチャーウエポン)を振るい盾を粉砕しつつ前衛の一部を突破した。壁を越えて迫る魔物が狙うのは杖を構えていたレフィーヤだ。魔導師の彼女がこのレベルの攻撃をまともに受けてしまえば致命傷になりかねない。

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

レフィーヤの眼前に迫る天然武器をベートが蹴り飛ばしアイズが敵を切り裂いた。

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

「すみません、私......」

 

「てめぇいつまでも座ってんじゃねえ。んなことだとあいつに抜かれちまうぜ」

 

ベートがさすあいつとはもちろんベルの事である。助けられたことにより一瞬落ち込んだレフィーヤであったがベートの言葉を聞いて頭をふり杖を構えなおした。

 

「それでいい、てめえにはてめえにしかできねえことがある。それを忘れるな」

 

「はい!」

 

(......私が伝えようとしたこと全部ベートさんに言われちゃったな......)

 

「フィン!適当に蹴散らしてくるがいいか?」

 

フィンはちらりと後ろを振り返りリヴェリアの詠唱の様子を確認した。

 

(もう少しかかるかな)

 

「いいだろう、アイズとベートは機動力を生かして時間を稼いでくれ。くれぐれも無理はしないでくれよ」

 

「おう」

 

「わかった」

 

「アイズ、突出しすぎないでくれよ?」

 

「大丈夫、私の剣で皆を護る」

 

二人は前衛の様子を確認し行動に移った。二人はそのスピードを生かし戦場全体を駆け詠唱が完成するまでの間時間を稼いだ。

 

「開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虚なる争乱が全てを包み込む、至れ。紅蓮の炎、無慈悲な猛火......」

 

リヴェリアの詠唱は続く、団員達もなんとか戦線を保っている。

 

「おら、てめえら気合入れやがれ!死にたくなかったら全力で押し返せ!」

 

疲労が浮かぶ団員達に対してベートが声をかけた。迫りくる敵を持ち前のスピードで薙ぎ払いながらも団員達に気を使っているようにみえる。口は悪いが両親から学んだ【和】を大切にしているのがわかる。

 

前衛職の粘りと幹部達の働きもありリヴェリアの詠唱が完成した。

 

「汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣。我が名はアールヴ」

 

リヴェリアの詠唱が完成すると同時に周囲に魔方陣が展開し紅蓮の炎が敵全体を包み込んだ。敵は断末魔の悲鳴をあげる暇もなく一瞬の内に灰となり皆から歓声が挙げられた。

 

「負傷者の手当てを急げ!これより50階層に進軍し陣地を敷き休息をとる」

 

団長の指示のもと手早く治療を終わらせ皆は50階層に足を踏み入れた。それぞれがテントの用意や食事の用意へと移る。

 

「アイズ、どうした?」

 

陣地を見下ろす形になっている崖の上でアイズが一人膝を抱えぼんやりとしているのを心配したリヴェリアが声をかけた。

 

「リヴェリア......ベルの事を考えてた」

 

(!ここまで堂々といえるようになったのか......)

 

「そ、そうか。ベルも今頃地上で頑張ってるだろう。それよりアイズ、明日からの打ち合わせもある。そろそろ戻ってこい」

 

「リヴェリア、リヴェリアは運命って信じる?」

 

「運命?いや、どうだろうな。考えたこともなかったな」

 

「私はリヴェリアや皆と......ベルと出会えたのは運命じゃないかって、そう思うの。皆と出会わなければ私はきっとずっと前に死んでた。そしてベルと出会わなかったらきっと私は......私の心はいつか壊れていたと思う」

 

アイズは自分のスキル心の炎(ハートフレイム)の事を言っているようだ。ロキファミリアの仲間達と共に過ごしたことでアイズの心の炎は穏やかになった。しかし、根底には黒い炎がずっと燻り続けていた。それはアイズが一番良くわかっているし、母親代わりのリヴェリアも気が付いていたことだ。

 

フッっとリヴェリアは優しい笑みを浮かべ昔のようにアイズの頭を撫でた。

 

「そうだな、私もお前たちと会えたことは嬉しく思う。故郷を出てオラリオに来て......フィンやガレスと共にロキの眷属になったこと、そしてお前たちと会えたこと。それは運命なのかも知れないな。ただ、運命というのは自分でいくらでも変えられるはずだ、これから先に何が待っているか私にはわからない、悲惨な運命が待っているのかもしれない、私は運命だから仕方ないと諦めたりしない。もし悲惨な運命が待っていても私の魔法で焼き尽くしてやるさ!」

 

アイズはコクっと頷いた。

 

「私も、そんな運命がきたら私の剣で切り裂いてみせる!」

 

二人は顔を見合わせ笑いあった。これから先どんな悲惨な運命が待っていてもロキファミリアの皆ならそんな運命すら倒してしまうのだろう......

 

 

 




読んでくださっている皆様ありがとうございます。

今回は少し短いですがこの辺で<m(__)m>次回はベル君のお話です。

次回更新は来週中にはできると思いますのでお楽しみに!

感想や評価等ありがとうございます<m(__)m>


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37 白兎2

少女を抱えてヘスティアのホームへ


バベルから歩くことしばらく、ヘスティアの住む住居が見えてきた。

 

「さあ、ここが僕のホームさ!」

 

神ヘスティアに案内されたのは古い教会であった。中に入るとところどころにバケツが置いてある。

 

「あのーヘスティア様、これは?」

 

「ああこれかい?最近雨漏りがひどくてね、その内屋根を直そうかと思ってるんだよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

教会の前の花壇も荒れているようで、どこかせつない気持ちになってくる......

 

「さあ、入っておくれ!!あ!!5分、5分でいいから少し待っていてくれないかい!?」

 

 

3人の前でヘスティアが私室の扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは散らかった洋服や下着だった......酒瓶も置いてあるところをみると昨日は誰かと飲んでいたのかもしれない。

 

「ベル、神様といえど同じ女子として拙者何か悲しくなってきたでござる......」

 

「あはは、僕は何も見てません......」

 

およそ5分後、汗をかいたヘスティアが扉を開けて手招きをした。

 

「はぁはぁはぁ.....ご、ごめんよ。もう大丈夫だから入っておくれ」

 

先ほど見た洋服の山は一体どこへいったのか、部屋はきれいになっていた。中央には大きなベッドが置いてあり、かわいらしい抱き枕やぬいぐるみのようなものが置かれている。

 

「じゃあ、そこのベットに寝かせてあげてくれよ!」

 

ベルは抱きかかえていた少女をゆっくりとベットに寝かせた。規則正しく呼吸をしており問題はなさそうだ。

 

「ふむ、大分汚れてしまっているね。ベル君!君はお湯を沸かしてきてくれないかい?君は、刹那君だったね?君は僕と一緒にこの子の体を拭いてあげようじゃないか」

 

その後ベルはお湯を沸かしに行き、ヘスティアと刹那は少女の体をきれいに拭いてあげた。ヘスティアの服では身体の一部の大きさが違い過ぎて着れない為、近くの小人族(パルゥム)専用の服屋で代わりの服を買ってきて着替えさせた。

 

「これで良し!さて一息つこうか。ああ、食べ物ならじゃが丸君が大量にあるから心配しないでおくれよ!」

 

 

「「......ありがとうございます」」

 

部屋の中にはあげた芋の匂いが充満している、香ばしい香りだ......

 

「あの、ヘスティア様、今回のお礼と言ってはなんですが僕が屋根の修理をしてもいいでしょうか?僕、手先の器用な友人がいるので聞いてみますが」

 

「拙者は外の花壇辺りをきれいにしたいのでござるがいいでござるか?」

 

ヘスティアは目を輝かせてふるふると震えている。

 

「君たち......なんていいこ達なんだ、君たちの主神がうらやましいよ」

 

がしっと二人を抱きしめしみじみと感慨にひたった。

 

もにゅんっと柔らかい感触が......

 

(こ、これは......)

 

(大きいでござる......)

 

 

「刹那さん、花を選ぶならこのファミリアに行ってみてください。僕がよくハーブを買うところなんですがすごくいい雰囲気のお店ですよ」

 

「わかったでござる!」

 

「じゃあ僕はこの子をみているよ、二人ともよろしく頼むよ!」

 

二人はそれぞれ目的の場所へ向かった。ベルが向かったのはもちろん......

 

「ヴェルフー!ただいまー!」

 

ギイィィと扉を開けるとヴェルフが工房の掃除をしているところだった。いつもより大分きれいになっている。

 

「おお、ベルか。良く帰ったな、他の3人はどうした?」

 

「皆無事なんだけど、ダンジョンでいろいろあって今別行動中なんだ。ヴェルフもここの掃除なんで珍しいね」

 

「ああ、さっきまでヘファイストス様が来ていてな。掃除をしろとうるさくてな」

 

「そうなんだ、もう帰られたの?」

 

「ああ、ベルとすれ違いでさっき出て行った。これから神友のところに行くみたいでな、なんでもほっとけない神友なんだそうだ。ベルは俺の依頼は済んだのか?」

 

ベルは先ほどまでの経緯をヴェルフに話した。

 

「なるほどな。いい神様もいるもんだなぁ......いいぜ!お前らの装備も材料がなきゃ作れないし。それにベルの頼みだしな!」

 

「ありがとうヴェルフ!今度またダンジョンで珍しいドロップアイテム拾ったら持ってくるね!」

 

「ははは、そんなもん気にすんな。俺はお前には感謝してるんだ、さ、行こうぜ!」

 

ベルとヴェルフは修繕に必要な材料を持って教会に向かった。

 

教会に着くと刹那が花壇の手入れをしている姿が見えた。枯れた花を抜いて、肥料を撒いて花を植えている。

 

 

「ベル、おかえりでござる。やっぱりベルの言ってたのはヴェルフのことだったんでござるな」

 

「よう、刹那。ベルに聞いたがなんかいろいろと大変みたいだな?」

 

「拙者たちなら大丈夫でござる!」

 

汗で額に張り付いた髪を耳にかけながら刹那が元気よく答えた。花壇の手入れもほとんどすみ、美しい花々が咲き乱れていた。色とりどりの花の中で微笑む刹那はとてもかわいらしい。

 

「そういえばさっきヘファイストス様が来たでござる」

 

「ヘファイストス様が言っていた神友ってヘスティア様なのかな?」

 

そんな話をしながら3人で教会の中へと足を踏み入れた。

教会の中は依然として掃除があまりされていないがヘファイストスがぶつぶついいながらも髪を縛り箒を片手に掃除をしていた。

 

「私も甘すぎるのかしら......でもあの子ほっておいたらそれはそれで心配だし......でも、あの女の子を診るヘスティアの目はさすがって感じだったわね、ぶつぶつぶつ......」

 

「ヘファイストス様!」

 

ベルの声に反応したヘファイストスが顔をあげこちらをみた。

 

「あら、ベル久しぶりじゃない!あなたの双剣なかなか手ごわい相手よ、もう少し待っててほしいの。それと、ヴェルフと仲良くしてくれて嬉しいわ、隣のかわいい子はベルの彼女かしら?」

 

 

「ええ!?いえいえいえ刹那さんは今パーティーを組ませていただいている仲間です!」

 

(仲間......でござるよねー......)

 

ベルの隣で複雑そうな顔をしている刹那を見てヘファイストスは優しく微笑んだ。

 

「ベルも隅に置けないわねえ、さてこれからどうしましょうか」

 

4人はこれからの予定を相談することにした。

 

「僭越ながら拙者屋根の修繕はできそうにないでござる。なので教会内の清掃をやりたいでござるが」

 

「そうねーじゃあ、刹那ちゃん?にこの中お願いして3人で屋根先にやっちゃいましょうか。それから中の掃除に移りましょう」

 

鍛冶の神が......ヘファイストスが屋根の修繕をする。費用の請求をしたらいったいいくらかかるのやら......

 

実際に修繕をしたことがあるベルに加えて鍛冶の専門家であり手先の非常に器用な2人が加わり作業は短時間で終了した。クオリティはいうまでもない......

 

「ふう、こんなところかしらね。ベルもヴェルフもお疲れ様、私の神友の為にありがとう」

 

「いえいえいえ、僕もヘスティア様にお願いをしてしまいましたからそのお礼がしたかっただけですので」

 

 

「ベルの頼みだからな。そういえばそのヘスティア様は今何してるんだ?」

 

「そういえば部屋から出てきてないわね。私が様子を見てくるから二人は中の掃除をお願い」

 

刹那と合流した3人は部屋の掃除を完了させヘスティアの私室へと足を踏み入れた。

 

そこにはベットで熟睡中のヘスティアと少女、そのベットの前に仁王立ちしているヘファイストスがいた。

 

「皆お疲れ様、とりあえずこのバカをそろそろ起こすわよ」

 

......しばらくの間正座でヘファイストスに説教されるヘスティア......

 

「あ、ありがとう君たち!おかげでこの教会も見違えたよ!」

 

そういいながら怒られて半泣きのヘスティアは頭を下げた。横で腕組みをしているヘファイストスは無言で頷いている。

 

「うーんっっここは......」

 

少女が目を覚ました。

 

「お、気が付いたみたいだね、体は大丈夫かい?」

 

ベッドの上で多少混乱している少女に対してヘスティアは優しく問いかけた。

 

「ひっっ」

 

少女は怯えた表情を浮かべるがそんな少女をヘスティアはやさしく抱きしめ落ち着くまで頭を撫でてあげていた。しばらくしてどうにか少女の震えも止まり話せる状態になった。

 

 

「それじゃあ自己紹介から、僕はヘスティア!ダンジョンでケガをしている君を彼らが見つけてここまで連れて来たのさ!」

 

ヘスティアはベルと刹那を紹介した。二人はぺこりと頭を下げたがダンジョンでの事を彼女に話した方がいいのかと戸惑っている。

 

少女はベルを見た瞬間赤面した。

 

「あなた様は......それよりもリリは一体誰なんでしょうか?何も、何も思い出せない......」

 

「「え!」」

 

「まさかこの子記憶が?」

 

「ちょ、ちょっと待ってておくれ、ミアハを呼んでくる」

 

ヘスティアがミアハと呼ぶのは彼女の神友で青の薬湯の店主である神だ、この店はベルたちパーティーもよく利用しており顔見知りだ。

 

しばらくしてミアハが教会に到着しあいさつもそこそこに少女の診察が行われた。

詳しく話を聞いてみると彼女はリリという名前以外全ての記憶をなくしているようだ。唯一おぼろげながら覚えているのは白髪で紅い瞳をした少年に助けられたという事だけだった。

 

「ふむ、ベルよちょっとこちらへ」

 

ミアハがベルを手招きしヘスティアの私室を出た。

 

「ベルよ、詳しく状況を教えてくれぬか?」

 

ベルはダンジョンでの出来事をミアハに詳しく話した。ミアハは真剣にベルの話に耳を傾ける。

 

「なるほど、他の者も呼んでくれぬか?」

 

少女一人を部屋に残すのもという判断で刹那は少女の傍にいてもらい他のメンバーは教会の方へと集まった。

 

「ベルから聞いた話を踏まえて彼女の症状を見る限り、恐らくではあるが圧倒的な死の恐怖によって記憶障害を起こしていると診られる」

 

「そんな......」

 

少女がどこのファミリアに所属してどんな理由であのような状態になったかはわからないが、たった一人で装備も禄にないままキラーアントの集団に囲まれるという状態は想像を絶する恐怖だっただろう......

 

「何があったかあの子に話すべきかしら......」

 

全員が黙り込み沈黙する......

 

「皆、この件は僕にまかせてくれないかい?」

 

たゆんっと大きな胸を揺らしながらヘスティアが名乗りを上げた。

 

「今あの子は傷ついてる、少しでも傍にいたいと思うんだ。それに僕には眷属がいないからね!、別に一人でここに住んでいて寂しいわけじゃないから勘違いしないでおくれよ!」

 

「「ヘスティア様......」」

 

ヘスティアは本当にいい神だと心底思った。この子を助けることに現状メリットはない、むしろデメリットの方が多い。ファミリア間のいざこざに巻き込まれる可能性も高いだろう。オラリオで最強派閥のロキファミリアならなんとかできる問題なのかもしれないがヘスティアのように眷属のいない神には厳しい、それでもこの子の傍にいてあげたいと......そんな彼女の意志を尊重することにした。

 

「わかったわ、ヘスティア。でも何かあったらすぐに連絡を寄越しなさい。ギルドにも説明しなければならないけど、今それをすれば騒ぎになりかねない。そうなればあの子を殺そうとした連中に生きているということが知られてしまうかもしれないわね」

 

「ありがとう皆。僕はしばらくはあの子の心のケアに努めるよ」

 

話もまとまったので先ほどいたヘスティアの部屋に戻った。

 

「リリ君でいいかな?しばらくの間この教会で僕と生活を送ってもらいたいんだけどそれでもいいかい?」

 

ベットの上で上半身だけ起こしている少女の前まで進みヘスティアが右手を差し出した。

 

(暖かい......リリはこんな気持ち初めて感じるのかもしれません。不思議と怖くない......」

 

「ヘスティア様のお邪魔にならないのであれば......よろしくお願いします」

 

少女はヘスティアの手をぎゅっと握った。

 

「うんうん!僕の事を家族と思って頼っておくれよ!」

 

そのまま右手を引き寄せムギュっと少女を自分の胸に埋めた、その表情は慈愛に満ちている。

 

「それじゃあ話もまとまったことだし、私たちは帰りましょうか。あなたたちもそろそろ帰らないと心配する人たちがいるでしょう?」

 

ベルたちはすっかり忘れていたがリリーとルナと別れてから結構な時間が立っている。なんの連絡もなく今頃心配して、否怒っている頃だろう。

 

「やばいでござる、絶対二人とも怒ってるでござるーー!」

 

「すみません、それでは僕達もこの辺で戻りますね、ヘスティア様僕に手伝えることがあればなんでもおっしゃってくださいね」

 

扉をあけ部屋を出るところで少女がベルに声をかけた。

 

「あの!あなた様のお名前は?」

 

「あ、自己紹介をしていませんでした、すみません。僕の名前はベル・クラネルです」

 

「拙者は刹那でござる」

 

少女は布団で顔を半分ほど隠しながらおずおずとベルに話しかけた。

 

「ベ、ベル様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

(拙者は無視でござるか......!?)

 

「へ?様ですか?別にいいですが......恥ずかしいというかなんというか......」

 

ベルは頬を染めながら頭をかいている。

 

「ではベル様とお呼びしますね!ベル様助けていただいてありがとうございました」

 

「いえいえ気にしないでください」

 

ほほえむベルはリリにとって王子様にみえていることだろう。悲惨な運命にあった少女は救われたのだ......

 

「そういえばベル君、君はどこのファミリアに所属しているんだい?」

 

(この子ベルがどこのファミリアに所属しているのか知らなかったのね......」

 

「僕ですか?僕のファミリアは......」

 

「ベル!何をしてるでござる!早くしないと本当に怒られるでござるよー!」

 

「すすすすみませんヘスティア様、これで僕行きますね!また来ますー!」

 

返事をしないままベルはあわてて刹那と共に外へとかけて行った。

 

「ベルの奴、俺を置いていきやがって......しょうがない、俺も帰るか」

 

ヴェルフは相棒に忘れられてしょんぼりと肩を落とし工具などを担いで外へ出た。

 

「ヴェルフ、荷物もあるから私も付き合うわ。その代りお茶でもだしてちょうだい」

 

にこっと微笑むヘファイストスにヴェルフの心臓は高鳴った。

 

(ベル、感謝するぜ!)

 

 

 




読んでくださっている皆様いつもありがとうございます。

少々体調をくずしておりましたぁぁ<m(__)m>更新遅くなりまして申し訳ない<m(__)m>

アイズ達と違いオラリオは平和です。

リリルカさんは悲しく辛いソウマファミリアでのことは忘れて、ヘスティアの元で幸せになってほしいです、それだけです。



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38 異常事態

ロキファミリアの団員達は未到達領域59階層を目指す前にカドモスの泉でクエストを行う


「リヴェリア、僕達がクエストに行っている間皆を頼むよ?」

 

「任せておけ」

 

今回クエストに向かうメンバーは2組に分かれており片方はフィンを筆頭にガレス、ベート、レベル4のラウルを含めた4人。もう一方はアイズを筆頭にティオネ、ティオナ、レフィーヤの4人だ。

 

「皆、この階層は迷路のように入り組んでいるのは知っているな?地図をよく確認しておくんだ。僕たちは西側、アイズ達は東側の泉に向かってくれ。ティオネ、君が指揮をとるんだ!」

 

「はい!団長!おまかせください!」

 

ティオネは鼻息荒くフィンと共に地図を眺めながらルートを頭に叩き込んでいる。冷静なら......冷静ならティオネは指揮に向いているのだ。一度切れると血の海になるまで興奮が収まることはない場合が多いのがたまに傷だが......

 

「それじゃあカドモスの泉水を手に入れたらここに戻って来よう。皆気を付けて」

 

2組に分かれて迷路に突入した面々、50階層以降には強力なモンスターも多いがこのメンバーなら問題なくこのクエストを達成できるだろう。

 

「アイズ!ティオナ!前衛をお願い。レフィーヤは魔法詠唱」

 

「「はい、了解」」

 

壁から次々と生まれるモンスターをなぎ倒しながら前へと進む4人、連携も問題なくスムーズに進んで行く。

 

「レフィーヤ、随分動きがいいじゃない!」

 

気負いもなく自分の役割を理解して動くレフィーヤをティオネが褒めた。

 

「負けてられませんから!」

 

ふんっと鼻息荒くレフィーヤが杖を構える。ベートに叱咤されたことも影響してかやる気に満ち溢れていた。リヴェリアのような並行詠唱はできずとも仲間を信頼することで詠唱を完成させていた。

 

「あたし達だって負けてないからね!ね、アイズ!」

 

「うん、私ももっと強くなる」

 

4人とも顔を見合わせ笑いあう。そこには冒険者としての顔だけではない女の子らしい笑顔があった。

 

「さあ、もうすぐカドモスの住みかよ。集中して!」

 

カドモスが根城にしているルームの前までやってきた4人。中の気配を探りつつ戦闘態勢をとる、が、そんな中スっとアイズが立ち上がった。

 

「おかしい、中からカドモスの気配がしない......」

 

「そうね......なんの音もしないなんて......それにひどい匂い」

 

4人が中に入るとそこにはカドモスの死骸と共に溶けた木々が散乱していた。

 

「なんなのこれー?臭いしカドモス死んでるし......誰がこいつ倒したの?」

 

鼻を摘み心底嫌そうに顔をしかめるティオナ、カドモスと戦いたかったのか機嫌が悪そうだ。

 

「この階層にこれるパーティーなんてほとんどいないわよ、それに見てみなさい。ドロップアイテムがそのままよ?」

 

ティオネが摘みあげたのは売れば数百万ヴァリスにもなるカドモスの被膜であった。魔石はないようだがこの高価なドロップアイテムを置いていく馬鹿な冒険者はいない。

 

「.....じゃあ誰が?」

 

「ティオネ!」

 

アイズの声にティオネが頷いた。

 

「泉水を回収、すぐにこの場を脱出。可能な限り急いで!嫌な予感がするわ。すぐに団長達と合流しましょう」

 

泉水を回収後急いで元の場所まで戻る4人。

 

「うあ゛あ゛あ゛ーーーー」

 

遠くからすさまじい絶叫が聞こえる。決してモンスターの声ではない、この声はラウルのものだ。

 

「!この先!」

 

通路を曲がるとフィン、ベート、ラウルを担いだガレスが巨大な芋虫型のモンスターに追われて全速力で入り口へと向かっていた。妙な色の斑点といい巨大な体を蠢かしている姿は見ていて気分のいいものではない。

 

「はぁぁぁぁぁー!」

 

「よせ!ティオナ!」

 

静止するフィンの声を聴かず、追いかけてくる芋虫に対してティオナが突っ込み自慢のウルガを叩きつけた。ブシュッッという音と共に体液が周囲に飛び散り周囲から煙が上がる、更にアダマンタイト製のウルガからも白い煙が上がり武器が溶け始めていた。

 

「ああーーー!あたしのウルガが......」

 

 

専用武器(オーダーメイド)のウルガ、数千万ヴェリスが一瞬にして溶けて消えた......芋虫の攻撃は強力な酸による攻撃、更にはその酸による武器破壊を備えた厄介な相手だ......

 

「全員撤退!奥のルームまで走れ、奴の身体に武器による攻撃は駄目だ。レフィーヤ!君の魔法で奴らを仕留めるんだ!」

 

「はい!」

 

レフィーヤの瞳には怯えはない。この遠征で彼女も随分と成長したようだ。       

 

通路をルームまでひた走る......ダンジョンは狡猾だ。異常事態に巻き込まれた冒険者たちを簡単に逃がすほど甘くはない。

 

ビキリッッビキビキビキビキビキッ

 

「いかん、怪物の宴(モンスターパーティー)じゃ」

 

ガレスは殿を走りながら大声で叫んだ。後方から芋虫が迫る中、左右の壁から怪物の群が出現する。

 

「敵は進軍の邪魔にならないものは気にするな。攻撃も弾くだけでいい、ルームまで走れ!」

 

「チッめんどくせえな......」

 

攻撃をしつつレフィーヤを護りながら走るベート。なんだかんだいって一番レベルの低いレフィーヤを気遣っている。

 

「着いたぞ、全員戦闘態勢!アイズ!」

 

アイズはフィンに自身の剣を渡しナイフを構えた。アイズの魔法【エアリエル】なら通常の武器でもこのモンスターに対して攻撃ができる。風を纏ったアイズには腐食液は届かない、ただのナイフもアイズの風を纏えば切れ味は通常の武器とは比較にならないほど上がる。

 

アイズのデスペレートは不壊属性、決して壊れることのない特殊武器......この武器なら腐食液による武器破壊も回避できるだろう。

 

 

ルームへと足を踏み入れたフィン達、レフィーヤを後方に下がらせ詠唱の準備をさせた。

 

「ティオネ。君はラウルと下がり治療、その後はレフィーヤの護衛に着いてくれ」

 

「はい!」

 

「僕とアイズ以外は他のモンスターを相手にしてくれ。足止めするだけでいい、時間を稼げ」

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

アイズは全身に風をまとい芋虫に突撃していく、腐食液を口から放出しアイズに攻撃を仕掛ける芋虫だがアイズの風の前には無力だ。腐食液を弾きながら芋虫を粉砕していく。ベート達も芋虫の相手はせず他の魔物を倒していった。51階層の魔物が大群でいるとはいえアイズ達レベル5、レベル6が相手では数がいくら多くても簡単には倒せない。こうして時間を稼いでいる間にレフィーヤが魔法を発動するのが作戦だ。

 

レフィーヤが杖を構え詠唱を始めると魔方陣が浮かび魔力が込められた旋律が紡がれていく。

 

【誇り高き戦士よ 森の射手隊よ 押し寄せる略奪者を前に弓を取れ 同胞の声に応え 矢を番(つが)えよ 帯びよ炎 森の灯火(ともしび) 撃ち放て 妖精の火矢 雨の如く降りそそぎ 蛮族どもを焼き払え】

 

「皆さん行きます!」

 

「皆下がれ!」

 

魔物の相手をしていた皆がレフィーヤの元へと集まった。それを確認したレフィーヤが魔法を発動させた。

 

【ヒュゼレイド・フェラーリカ】

 

レフィーヤの魔法は大量の火矢を広範囲に降り注がせるものだ。その火力は詠唱の時間はかかるものの深層域の魔物でも一撃で粉砕する威力を持つ。

 

「相変わらずすげえ威力だな、これで並行詠唱さえできりゃあいいんだがよ」

 

魔石ごと消し炭になった魔物の群を眺めながらベートが呟いた。現在オラリオで今のような高出力な広範囲殲滅魔法を並行詠唱できるのは【九魔姫】の二つ名を神から与えられたリヴェリア・リヨス・アールヴを含めごくわずかだ。

 

(......ベートさんの言うことはもっともだ。今のままじゃ全然足りない......)

 

「やったね!レフィーヤ!やっぱりレフィーヤの魔法はすごいよ!」

 

「ティオナさん......」

 

「並行詠唱のことは今はまだ気にしなくていいわ、私達は今あなたに救われたのよ?」

 

「助けてくれてありがとう、レフィーヤ!」

 

複雑な表情のレフィーヤをアイズ達が慰めた。

 

「皆さん.....ありがとうございます。でも、もっともっと私強くなります!」

 

(負けたくない、皆さんに。必ず追いつきますから......)

 

「......皆、すぐ50階層まで戻るぞ」

 

顎に手を当てて険しい顔で何かを考えていたフィンが皆に命令した。

 

「団長!どうしたんですか!?」

 

「さっきの芋虫たちの進行方向は?」

 

「たしか......!」

 

「リヴェリア達が危ない!急ぐぞ!」

 

フィン達は全速力で50階層に向かっていった。

 

 

 

一方そのころリヴェリア達

 

「なんなのだ、奴らは......」

 

安全地帯の50階層で新種の魔物が大量発生という異常事態にリヴェリア達の対応は後手後手になっていた。見張りがサボっていたわけではない。唐突に地面から湧きだし51階層へ繋がる洞窟からも大軍が押し寄せてきたのだ。陣地から団員達が出てきたときにはすでに目の前まで敵が接近していた。真っ先に芋虫と対峙した団員が自身の武器を芋虫へと叩きつけるとブシュっという音と共に体液がまき散らされた。無論、武器は溶け体中に液体を浴びてしまった。

 

「ああ゛あ゛っっーーー!」

 

絶叫と共に白い煙をあげながら倒れこむ団員。かけつけたリヴェリアが治療しつつその様子から指示を出した。

 

「近距離からの攻撃は駄目だ。こいつらの体は強力な酸の詰まった袋だと思え。前衛は何でもいい、盾になりそうな物を全てもってこい!後衛は遠距離から攻撃をしろ!」

 

後衛は魔法の詠唱を行いつつ弓や魔剣による攻撃で芋虫を攻撃していた。本来ならばリヴェリアの広範囲殲滅魔法を使用したいところだがこの緊迫した状態では長文詠唱をしている間がない。

 

(数が多すぎる......)

 

地面を埋め尽くす芋虫の大群はロキファミリアの団員達に甚大な被害を与えていた。盾は酸で溶かされ前衛は崩壊寸前。弓の矢も残り少なくなってきた。魔剣に関しては使用限度を超えすでに破壊してしまっていた。仮にこの場にヴェルフの造ったクロッゾの魔剣があれば戦況を変えられていたかもしれないが通常の魔剣にこの数の敵を殲滅させるだけの力はない.....

 

「皆耐えろ!もうすぐフィンやアイズ達が戻ってくるはずだ!」

 

圧倒的な敵の数、大半の武器を失った団員達の戦意は大幅に落ちていた。皆の脳裏に死という単語が浮かび始めたとき......

 

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

暴風に身を包んだアイズとアイズの風で強化したベートが敵をなぎ倒しながらリヴェリア達の前へと現れた。

 

 

 

少し時間は遡り......

 

芋虫の追撃を受けながらも50階層の入り口に到着したフィン達は絶句した。大量の芋虫の大軍がキャンプへと押し寄せ所々から煙が上がり悲鳴が聞こえていた。

 

「先に行く、アイズ寄越せ!」

 

「風よ」

 

アイズから風の魔力をもらい自身のフロスヴィルトに吸収し速度を上昇させたベートとアイズが先行してキャンプ地へと急いだ。他のメンバーはケガを負ったラウルとレベル3のレフィーヤがいる為無理はできない。また、相手はあの芋虫の為まともに攻撃できる手段が限られている。

 

リヴェリア達キャンプ防衛組からはアイズ達が帰還したことにより歓声が上がった。落ち込んでいた指揮も一気に上がり気合の入った声があがる。

 

「来てくれたか、アイズ、ベート」

 

「大丈夫?リヴェリア、今助けるから」

 

「ふん、てめえらがくたばったら寝覚めが悪いからな。あの芋虫どもの足止めはしてやる。さっさと体制立て直しやがれ!」

 

アイズ達が前衛を助けることで負傷した者達にも十分な回復アイテムを使うことができた。しかし......

 

地下から噴水のように酸をまき散らしながら芋虫の大軍が襲い掛かり、前衛の上空に大量の酸が巻き散らかされた。この量が前衛の団員達に降り注げば盾もろとも頭から酸をかぶることになる......

 

「!」

 

アイズがそのことに気が付き応援に駆け付けるがアイズの現在いる位置からでは遠すぎた。ここで......

 

「ガルルァァァー!!」

 

ベートが雄叫びと共に酸に飛び込み風を纏ったフロスヴィルトで酸を弾き飛ばした。しかし、あまりに多い酸に全てを吹き飛ばすことができず前衛を務めていたアキと呼ばれる猫人の団員の上へと降りかかる。

 

「チッ」

 

酸を吹き飛ばし着地した瞬間に舌打ちと共にベートが酸と猫人との間に体を滑り込ませた。

 

「ぐぅっっ」

 

ベートの背中に燃えるような痛みが走った。防具は溶けベートの背中を酸が焼いていく......

 

「ベートさん!?しっかりしてください!」

 

アキの絶叫が周囲に響いた、片膝をついたベートの背中の皮膚は焼け爛れている......

 

「ベートさん!大丈夫ですか!?どうして私なんかを......」

 

傷ついた背中のままベートは立ち上がり、足のホルスターにストックしてあるポーションで回復を行う。

 

「てめえら助けるのに理由なんかいらねえだろ、それより前を向け」

 

幹部であるベートにケガをさせたことで俯く猫人を叱り前を向かせた。

 

「は、はい!」

 

アキに背を向けたまま戦闘に戻るベートの背中はいつもより大きく見えた......

 

 

幹部達の活躍もありどうにか体制を整えたリヴェリア達は魔術師部隊の一斉攻撃によって芋虫の軍勢を全て撃破することに成功した。ベートが背中に火傷を負ったりティオネがキレて素手で芋虫を引きちぎり火傷するなどトラブルがあったものの死傷者もなく全員が生き残ることができた。今回の異常事態の規模を考えれば死傷者がでてもおかしくない状態であったが損害は武具とアイテムのみという最低限の被害で済むことができたのは上出来だ。

 

「大いに不本意だがこれより地上への帰還行動に移る、各自準備をしてくれ」

 

本来なら59階層を目指す遠征であったがほとんどの武器が壊れ、多くの回復系のアイテムを失った今59階層を目指すことは自殺に等しい。よって、全員が無事に地上へと帰還することを優先した。

 

 

 

ダンジョン18階層安全地帯

 

いつまた異常事態が起こるかわからない深層域からかなりの強行軍で18階層まで上がってきたロキファミリアの団員達。今日はこの階層でキャンプを行う予定だ。中層といえど見張りに余念はない。

 

夕食後ベル特製のお茶を焚火の周りに座り飲みながら休憩をとった。

 

「あの!ベートさん!50階ではありがとうございました。地上へ戻ったらご指導をしていただけないでしょうか?」

 

猫人のアキはラウルの同期でレベルは4だが50階層でベートに助けられて以来よくベートに話しかけている様子を見かける。

 

「ああ?ベルの訓練がないときにな」

 

「ありがとうございます!失礼します!」

 

頬を染めながらぺこりとお辞儀をするとその場を去って行った。

 

「ベート、アキに聞いたわよ?身を挺して助けたそうじゃない?」

 

「ほう?やるではないか」

 

遠慮をしてかこの焚火の周囲には幹部達しかいない、その幹部達から視線を向けられるとベートは嫌そうな顔をした。

 

「ベルとの約束だからな」

 

「約束ってベルとなに約束したの?」

 

ティオナがベルのお茶をがぶ飲みしながらベートに尋ねた。

 

「......」

 

「無視すんなぁぁぁーー!」

 

ずずっとベートがお茶を口に含みゆっくりとそれを飲み込む。胃に染み渡るうまさだ。

 

「でもベートさんベルのことすごく気にかけてますよね?」

 

アイズも今までのベートの事はよく知っている。異常ともいえるほどの実力主義者であり皆とこうして話をするなんてことはめったになかった。

 

「やっぱりあの噂本当なんじゃ......」

 

「ティオネ、どんな噂なんだい?」

 

ティオネとティオナは顔を見合わせブフッと吹き出しじゃれ合いながらなんとか声を絞り出した。

 

「実はですね団長、今一部の女子の団員達の中でベートはホモなんじゃ?って噂がですね......」

 

フィンは、ぁぁっとかわいそうな子をみるような顔でベートの顔をみた。

 

グフ、ゴホゴホゴホ、ゲハァ......グフッ......ッッ

 

飲んでいたお茶が入ってはいけないところに入ったようで悶えている。

 

「ふざけんな!んなわけねえだろ!ゴホッゴホッッ、とりあえずその噂広めた奴ぶっ殺す」

 

がるるるっと威嚇するベートだったが...諦めたのかベートは溜息をしてベルとのやり取りを話した。

 

 

「リヴェリア、お前ベルと遠征の話しただろ?」

 

「ああ、したな。それがどうかしたのか?」

 

「あいつ遠征に着いて行きたい、そんな雰囲気じゃなかったか?」

 

(そういえば、あの時のベルは少しおかしかったな......)

 

リヴェリアは無言で頷いた。

 

「ベルはおかしな野郎だ。いきなりアイズの英雄になりてえだのぬかしたりな。ただあいつは仲間を失う事を異常に恐れているように見える。あいつはレベル1だぞ?それなのにあいつの守りたい奴の中にはアイズや俺たち皆が入ってんだ。だから俺が遠征にいけないあいつの代わりにお前の守りたい奴らを護るから、お前は地上に残った仲間を護れって約束をしたんだよ」

 

パチパチと音を立てる焚火を枝で突きながらぶっきらぼうにベートが語る。

 

「ベート、お前はなぜそこまで肩入れする?私達にとってお前の態度が軟化するのはいいことだが、どうにも理由がわからないな」

 

「俺は......以前あいつと同じ目をした人間(ヒューマン)に助けられたことがある。そいつとベルが似てるのに気が付いたのは少したった後だったがな」

 

「「「!!!」」」

 

何人かがベートの発言に反応を見せた。

 

「いつだったか、ベルの野郎が話してくれて事があるんだがよ。夢を見るんだと」

 

「それはどんな、夢ですか?」

 

ドクンドクンとアイズの心臓が激しく鼓動する。

 

「自分の愛する家族、仲間が空から舞い降りた黒い何かに蹂躙される絶望の夢......ベルの夢に関係しているわわからねえが俺にはその光景に見覚えがある。俺の故郷はあの村だ」

 

ベートのいうあの村とは十数年前、ゼウスファミリアが死闘を繰り広げ黒龍によって一度滅ぼされた村のことだ。アイズの運命が変わった村でもある。

 

「俺もそこでてめえの弱さと絶望を味わった、俺は黒龍の姿は見なかったが黒龍の眷属共はいやってほど見たからな。その光景がベルが見た夢と似てる気がしてな、だがベルの年齢的にそれはありえねえ。あいつはその時生まれてねえんだからよ、だから別のただの悪夢なだけかもしれねえがな」

 

「......ッ」

 

アイズが何か言おうとしているようだがアイズの過去は複雑だ。仲間といえど口外することはロキに止められている為、この場で口にすることはできない。

 

「後で調べたが俺の命を救ったのはその容姿から英雄ダグラス・クラネルだということがわかった。黒龍の目を潰して息絶えたということも知った。ベルと同じクラネルという家名、そしてあの目、柄じゃねえが何か感じるものがあってよ、フィンとの気合の入った戦いもみたし少し見てやろうかと最初は思っただけだった」

 

沈黙する最高幹部の3人とアイズ、最高幹部の3人だけがベートのロキファミリアに入団した経緯を知っている為、感慨深いものがある。アイズは初めてベルを目にした時の事を思いだしていた。

 

「......あいつは間違いなく、早死にする」

 

「な!?」

 

「何言ってんのベート!?」

 

「てめえらもわかってんだろ?今のままじゃあいつは早死にするってよ。あいつはレベルにしては強い、それにありえないほどの強い精神力をもってやがる。ただ、あいつにその時が来たらあいつは自分を犠牲にしてでも仲間を護ろうとするだろう......リヴェリアもそれがわかってるからあいつに上層では必要にねえぐらい回復薬渡したんだろうが。仲間を何よりも思いやるあいつが気に入った、死なせたくねえと思った。だからあいつを鍛えてやってんだ」

 

「そうか、それがおまえがベルを気に入る理由なのだな?成長したではないか」

 

リヴェリアが優しい笑みを浮かべた。ガレスも最初に自分に挑んできた若者がここまで成長したかと腕組みをして目を瞑った。

 

「......ベート、それに皆。帰ったら話がある」

 

フィンはリヴェリアとガレスに目配せを行いきりだした。ベルの生い立ち、アイズの生い立ちを話す時が来たのかもしれない......

 

 

 

 

 

「アイズさん、ごめんなさい......僕は......」

 




いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

今回最初の方はソードオラトリアの原作とほぼ一緒で話を広げることができず申し訳ない<m(__)m>割愛<m(__)m>

今回のメインはベートさんでした、フィンは遠征から帰ったら全て話すのでしょうか、話してしまったらアイズとベルの関係は!?......

次回はベル君サイドです。彼の身に起ころうとしていることとは......

活動報告更新しましたm(_ _)m


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39 運命の日

二人は冷や汗を流しながらひた走る......


全力で走って黄昏の館まで帰還したベルと刹那。門の前に誰か立っているのが遠くからでもわかった。

 

「あれは......刹那さん、用意はいいですか?」

 

冷や汗を流している刹那はひきつった笑顔でベルの問いかけにうなずいた。

 

二人は走った勢いのままザザーっと仁王立ちしている二人の前に滑り込み東方の国で使用されるといわれる謝罪の最上級の技を繰り出した。

 

「「すみませんでしたぁぁーー!!」」

 

土下座をする二人を見下ろしながら般若の形相のリリー、ため息を吐きながらも安心したような表情のルナ、二人はいったいどれだけ長い間二人のことを待っていのであろうか......

 

「顔あげな」

 

二人が顔を上げると頭上に愛ある拳が振り下ろされた。

 

ゴツッゴツッ

 

「とりあえずこれで許してやろう。全く......何時間待ったとおもってんだい、二人いるんだからどっちかが連絡にくるぐらいできただろう」

 

「「ご、ごめんなさいーー」」

 

涙目になりながら二人は謝罪を繰り返した。

 

「まあいい、後でどうなったかちゃんと教えなよ。とりあえず中に入ってシャワーでも浴びてきな」

 

ダンジョンから直接ヘスティアのホームへ行き、更に花壇の手入れや屋根の修理、たった今スライディング土下座したことにより二人は埃だらけだ。

 

「待ちわびたぞ、ベルが倒したキラーアントのドロップアイテムと魔石はヴェルフに渡す分以外はすでに換金しておいた。後で皆で分けるとしよう」

 

「ありがとうございますルナさん!」

 

「うむ」

 

腕組みをしつつルナは頷いた。

 

黄昏の館の中へと入りシャワーで埃を落とした二人は先ほどあったことを二人に全て話した。

 

「ファミリア間の問題もあるから一応ロキ様に報告しておいたほうがいい。この時間なら部屋にいると思うからこれから報告に行こうか」

 

ロキファミリアに直接喧嘩を売る勇気のある者はほとんどいないが、何か問題が起こる前に報告するのが無難だろう。子供思いのロキのことだ、仮に何か問題が起きてもうまく立ち回るだろうが。

 

 

黄昏の館ロキの私室

 

「ロキ様、今よろしいでしょか?」

 

扉の外からの声にロキが反応し資料を読む手を止めて返事をした。

 

「ええよー、入ってきー」

 

「失礼します」

 

ベル達のパーティ4人がロキの私室へと入室した。

 

「おお、リリー達やんどうしたん?何かあったんか?」

 

4人は顔を見合わせ当事者であるベルが一連の騒動をロキへと報告した。

 

「ん、皆お疲れさんだったなぁ。基本ファミリア間の問題は不干渉やけど皆の行動に間違いはないで、その子がどこのファミリアか気になるところはあるけどとりあえずええわ。それと皆今日の夜は空いてるんか?」

 

「僕は自主練以外は特に用事はありませんが」

 

「ウチ...私たちも特に予定はありません」

 

それを聞いたロキはニパっと笑った。

 

「ベルと刹那が世話になった神に借りを作るんもあれやし、今日の夜皆で豊穣の女主人でも行って礼でもしよか。もちろんウチのおごりや!それでええか?」

 

「僕たちのことでもありますしロキ様にお金を出していただくのは......」

 

「何ゆっとるんや、子供が世話になった者に対して親が礼をするのは当然のことや。気にせんでええ」

 

 

ロキの気持ちに心が温かくなる4人

 

「「「「ありがとうございますロキ様」」」」

 

四人は頭を下げた。

 

「堅苦しいなぁーそもそも様なんてつけなくてええんやでー?何かつけたいならそやなー......ロキちゃまとかロキたまとか......

 

「「「「いえ、それはちょっと......」」」」

 

「まあ、ええか...じゃあウチもこの書類片づけるわ、ベルはミア母ちゃんとこいって7時に席予約しといてや。んで刹那はその世話になった神さんとこ行ってその件を伝えておいてや。リリーとルナはそやなーウチの護衛を頼んで一緒に行こか。こんな感じでどや?」

 

「わかりました。では私とルナは6時30分にお迎えにあがります」

 

「では僕はこれから豊穣の女主人に行ってお待ちしています」

 

「拙者は教会に迎えにいってくるでござる、その後ヘファイストス様とヴェルフにも声をかけてみるでござる」

 

 

「よっしゃ、決まったな!んじゃ各自解散!」

 

4人は頭を下げて部屋を後にした。

 

(ん、そういえば神さんの名前聞くの忘れてたなぁ。そんなお人よしな神だれやろ......教会か......)

 

 

豊穣の女主人

 

「こんにちわーミアさんいますか?」

 

豊穣の女主人の扉をあけ夜の営業の準備をしていた店員に声をかけた。

 

「ミア母さんなら下ごしらえ中だけどあんたは?」

 

「僕は...」

 

「ベルさーん!来てくれたんですか!?」

 

店の奥で掃除をしていたシルが一直線にベルの元へと駆け寄って手を握った。

 

「ルノア、そういえばあなたはクラネルさんがここで働いていた時別件でいませんでしたね。一時的にではありましたが彼はここで働いていたんですよ」

 

ルノアと呼ばれた人間(ヒューマン)の少女の肩にリューが手を置いた。

 

「ニャーいいところに来たにゃ!」

 

「ニャッ掃除と下ごしらえ手伝うにゃ!」

 

クロエとアーニャも掃除をする手を止めてベルの頭をぽんぽんたたいた。

 

「え!?知らないのあたしだけ!?しかもリューまでそんな顔するなんて......」

 

他の男にみせる無表情とは違い僅かだが優しい顔をしているのがわかる。

 

「うるさいねー、夜の仕事まで時間もないんだからさっさと仕事しな!」

 

店内の騒がしさからミアが仕込みの手を止めて奥から出てきた。

 

「おやベルじゃないか、今日は一人でどうしたんだい?」

 

「今日の夜ロキ様達と数人でここで食事をとるので場所の確保をしておいてほしいとのことで来ました。えと、忙しいようでしたら時間まで僕お手伝いしましょうか?」

 

かわいい店員たちに囲まれ挙動不審なベルが助けを求めるような瞳でミアをみる。

 

「ベル、人に好かれるのも才能の一つさね、じゃあ仕込みを手伝っとくれ。ロキ様のとこでどれだけレベルをあげたかみせてみな」

 

無論レベルとは戦闘ではなく料理のだ。黄昏の館でもよくベルは料理をしている。大食漢が多いロキファミリアの厨房で培った経験は豊穣の女主人の厨房でも発揮できるだろう。

 

「え!?ミア母さんがこの子を厨房に!?ベルっていったかしら。あんたは一体何者なの!?」

 

豊穣の女主人では基本的に下ごしらえも料理もミアに腕を認められた店員のみが調理をしていた。その厨房にただの少年をいれるとは思えない......

 

「ええと僕はロキファミリアの新人で......」

 

「そういうことじゃなくて!」

 

「いいんだよ、ルノア。あたしがこの子を気に入ったんだ。腕もいいしね」

 

さ。仕事に戻るよ、そういったミアはベルを引っ張って厨房へと入っていった。

 

まだ頭に疑問符を浮かべているルノアであったがとりあえず仕事に戻った。

 

ここの職員は皆何かしらの事情を抱えている。ルノアの警戒はもっともなのかもしれないが一番警戒心の高いリューの態度を見て様子を見ることにした。

 

夜の営業までの時間でルノアの不安は解消することになる、皆のベルに対しての表情、態度。そして最初ベルに対して警戒したルノアに対してもベルはほかの店員と変わらず接し何より紳士で優しかった。一言でいうなら純粋、そしてベルの笑顔は不思議と心が癒されるような感覚がした。

 

 

「ベルー!そっちお願い!」

 

「はい!ルノアさん!」

 

その様子を見ていた他の店員は思わず笑みを浮かべた。

 

「あれがベルさんのすごいところだよね、リュー」

 

「そうですね、最初の警戒心が数時間でウソのようです。ここの店員は並みの警戒心ではない。その警戒を解くのは容易のことではないはずですから」

 

「誰にでも優しさを運ぶ風、全てを包み込む人柄......か」

 

様子を眺めていたミアがボソっとそんなことを呟いていた。

 

 

しばらくして開店の時間になりダンジョンから帰った冒険者などで店内はにぎわってきていた。

 

ギィっと扉をあけツインテールの少女とポニーテールの少女、そしてフードを深く被った少女も同時に入店した。

 

「ここかい?ベル君との待ち合わせの店は!」

 

「ヘスティア様、りりもいるのであまり目立つ行為は......」

 

「りりなら大丈夫です。よく覚えていませんがこのように身を隠すのはなれているような気がします。それにせっかくのベル様のお誘い、逃すわけにはいきません」

 

記憶をなくして目が覚めたばかりなのでゆっくり休んでいるのが正解だろう、そこはベルたちも配慮すべきところだったかもしれないが、仮にりりの姿を知っているものがいても神ロキと食事をしているところを見た後にわざわざ狙う馬鹿なやつもいないだろう。ロキもこれ以上その子が被害にあわないように無言の圧力をかけるつもりで今回の食事会を提案したのかもしれない。

 

「いらっしゃいませ、ヘスティア様お持ちしておりました。こちらへどうぞ...リリ大丈夫?」

 

「リリは大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」

 

ちなみにヴェルフとヘファイストスは二人仲良く食事をする予定のようで今回の宴会は欠席だ。

 

ベルは豊穣の女主人で働いていた時の制服で3人を出迎えて席へと案内した。今回は店の中央のテーブルではなくあまり目立たないが入口や店内のほかのテーブルからロキが座る席がよく見える絶妙な位置を予約してあった。

 

「ベル君かっこいいじゃないか!」

 

「ベル様......」

 

「......いいでござる!」

 

なるべくりりを周囲から見えにくい位置に座らせ神様達は隣通しのほうが話しやすいかと思い、隣通しに座ってもらうことにした。

 

「それではロキ様達ももうすぐいらっしゃると思いますのでもうしばらくお待ちください。僕もロキ様が来られましたらこちらの席に参りますので」

 

では、といい一礼をして厨房の方へと戻っていった。

 

「刹那君、君たちのファミリアはなんて羨ましいんだ......!そういえばまだ君たちのファミリアの名前を聞いていなかったね。君たちの主神は誰なんだい?」

 

「拙者たちの主神様は...」

 

「「「いらっしゃいませー!!」」」

 

「これはロキ様、ようこそおいでくださいました」

 

近くにいたシルがロキの相手をしているようだ。

 

「げっっあれはロキじゃないか......」

 

「ええと......もしかしてヘスティア様、ロキ様と仲が悪いんですか?」

 

「うーん、あまり会いたくない神の一人ではあるかな」

 

そんな話をしているときょろきょろと店内を見渡していたロキとヘスティアの目がバチッとあった。

 

「おお!?ドチビやんけ!久しぶりやんか。相変わらず無駄にでかい乳しおって......ん?」

 

込み合っている店内の中をするするとすり抜けヘスティアと同じテーブルに気まずそうに座る刹那と目があった。

 

「刹那、まさか世話になったんはこのドチビか?」

 

刹那は無言で頷いた。

 

「おやおや、ロキじゃないか。相変わらずかわいそうな胸をしているね。まあ今は君にかまってられないんだ。今日はこの刹那君の主神と食事をする予定でね」

 

ポンッと刹那の肩に手を置いたヘスティア。

 

ピキッ

 

「あ、あのヘスティア様」

 

おろおろと刹那はロキの後ろに控えているリリーとルナに視線を投げかける。

 

そんななかムキーッとロキがヘスティアの頬をつまみ叫んだ。

 

「刹那もベルもウチの子供やーーーー!!」

 

「な、なんだってぇー!?それは本当なのかい?刹那君?」

 

「ほ、本当でござる......」

 

ヘスティアもロキに負けじとロキの頬をつまみながらもみあいをしている。

 

「あ!ロキ様!」

 

店の奥にいたベルがロキの来店を知り奥から手を拭きながら予約席のほうへとやってきた。ベルの声に反応して瞬時に争うのをやめる二人......

 

「お待ちしておりました。ロキ様、こちらの方が今回お世話になりましたヘスティア様です。ヘスティア様、僕の所属しているファミリアの主神様のロキ様です」

 

「おおベル、その恰好似合ってるで!ああ、ドチ...ゲフンゲフン、ヘスティア。今回は[ウチの]ベルと刹那が世話になったようやなーありがとなー」

 

後半はかなり棒読みである......

 

「いやいやベル君や刹那君みたいないい子たちがまさか君のファミリアだなんて思わなかったよー。ベル君たちにはすごくよくしてもらったよ!」

 

うぬぬぬぬ

 

ぐぬぬぬぬ

 

軽い嫌味の応酬で徐々にヒートアップする二人。ベルたちが見ているのにもかかわらずドチビ、やロキのコンプレックスを刺激する類の言葉の応酬へ。次第につかみ合いに発展してしまう。

 

「あのーもしかしてお二人は仲が悪いのでは......?」

 

ベルがとても悲しそうな、捨てられた子犬のような瞳で二人を見ていた。

 

「そ、そんなわけないやん!ウチら天界にいるころからの神友やで、な!ヘスティア!」

 

「う、うんそうだよ!僕とロキは超仲良しさ!」

 

そういうと肩を組んでにっこりほほ笑む二人......

 

小声

 

「ドチビ、一時休戦や。ベルのあんな顔見たらウチ耐えられんわ」

 

「ロキ、僕も同じ意見だよ。とりあえず今日は仲良く飲もうじゃないか」

 

ぼそぼそと二人で話すロキとヘスティア。ちなみにリリは常にベルの事をロックオンだ......

 

「よかったです。お二人が仲が悪かったらどうしようかと思いました」

 

二人が落ち着いたところで軽く自己紹介をし食事会が始まった。

 

「ほな、一回仕切り直すとしよか。ええかー!」

 

皆それぞれの席についたところで料理とグラスが配られた。

 

「では、ロキ様お願いします」

 

「ほな、ウチから一言。今回はウチの子供たちが世話になったそうやな、まあ、あれや。一応親として礼は言っとかないけんからな。おおきにな。んで、リリルカっていったか?記憶喪失らしいやん?どこのファミリアに所属してたかわわからへんけど、とりあえずヘスティアのところにいるならそれでもええわ。ただ、自分がどこのファミリアに所属してたか知りたくなったらウチのところにくればええ。じゃあ堅苦しいのはこのへんで終わりや、皆グラスもったかー!?いくでー、カンパーイ!!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

カチーンとグラスを鳴らし杯に注がれていたお酒やジュースを飲み干す。

 

ちなみにロキとヘスティアはエール。リリとルナはジュース、ベルはミア特性カクテル。刹那とリリーは火酒を飲んでいた。

 

しばらく雑談をしつつ盛り上がる宴会。

 

 

「なんやぁーベル。エールは飲まんのかぁー?」

 

ヘスティアと飲み比べをしているロキはすでにかなり酔っぱらっている。何杯も一気飲みをすれば無理もないが。

 

「僕あまりお酒に強くないようで......ミアさんに度数の少ないカクテルを作ってもらってます」

 

「そうなんかぁそういえばアイズたんも酒に弱かったなぁ。酒が弱いのは血筋なんかなぁ......」

 

そういった瞬間ロキは我に返った。ベルが気づいていなければいいが......

 

「ええと......アイズさんも?血筋ってなんですか?」

 

ベルも多少酔っているとはいえ聞き逃せない単語に思わずロキに聞き返した。

 

「あー......あれや。ベルとアイズたんって似た雰囲気のとこあるやん?だからもしかしたら同じような体質なのかもしれんなってことや」

 

「あ!そういうことなんですね!」

 

ふむふむと顎にてを当てて納得している様子のベル。対照的にロキは自身の失言に内心冷や汗をかいていた。今のベルにはまだ伝えるにははやい。それがロキと幹部たちの共通認識だった。

 

「そうそう、ベル君!そういえば君はどんな子が好きなんだい?君はなかなかの色男だからね。もてるんじゃないかい?」

 

ヘスティアのその発言にピクッと豊穣の女主人にいる数人が反応した。

 

「そそそそんな、僕がモテるなんてそんなことありませんよ。皆さんにはよくしてもらってますがロキファミリアには僕なんかより強くてかっこいい人達がたくさんいますし......」

 

お酒のせいなのか、それともこの手の話は苦手なのか。ベルは顔を真っ赤にしている。

 

「ベル君!君は勘違いをしているぜ!君の優しさわ周りの人の心を温かくしてくれる。それにふととした瞬間に見せる凛々しさは反則級だぜ!」

 

うむうむと頷く者数人......

 

「それに相手がいないのなら僕ならいつでも大歓迎だぜ!いつでもこの胸に飛び込んでおいで!」

 

そういうと両手を広げてウインクをした。

 

口をパクパクさせ硬直しているベル......

 

「ドチ...ヘスティア。その辺にしときいや。ベルが困ってるやろ。それになぁ、ベルに手を出したらアイズたんが黙ってないで」

 

「ん?やっぱりアイズ君とベル君はそういう関係なのかい?まあオラリオには妻が一人でないといけないなんて決まりごとはないからね!特に問題はないさ!」

 

そう、オラリオにはそんな法律はない。本人達が納得しているのならば何も問題はないのだ......

 

数刻後、皆仲良く酒をのみ宴会は終了した。ベルはヘスティアとリリを教会まで送り酔いつぶれたロキはリリーが背中におぶって黄昏の館まで帰還した......

 

それから数日間自主練をしつつ他の三人とダンジョンに潜りクエストをこなしつつ訓練をした。そして運命の日はやってきた......

 

 

「さあ、今日もダンジョンに行くよ。皆準備はいいかい?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「行くでござる!」

 

「うむ、我も準備はよいぞ!」

 

武器の手入れは万全、回復薬も人数分しっかりと用意してダンジョンへと向かう4人。隊列を組んで下へ下へと向かう。

 

しばらくして......

 

「皆さん、ダンジョンがすごく静かな気がしませんか?というよりモンスターがあまり出てこないような?口ではうまく説明できないんですが何かすごく嫌な感じがするというかもやもやするというか......」

 

今現在の階層は9階層、

 

 

本来ならもっとモンスターが出現してもおかしくはないはずだがそれがいつもよりかなり頻度が少ない。ベルはあの悪夢が脳裏によぎり背筋に嫌な汗をかいていた。

 

「少しこの階層を調べてみよう。この階層には何か所か広いルームがある。端から回ってみよう」

 

「わかりました、リリーさん」

 

他の二人も異存はないと頷き改めて隊列を組んだ4人は現在地から一番近くにあるルームに足を踏み入れた。このルームの入口は二つ、鋭い岩が多くあり身を隠す場所がたくさんある。一番奥まで行ったところで入口から何かが近づいてくる気配がした。

 

「リリーさん!」

 

「わかってる、皆気配を消して隠れるんだ」

 

ぎちぎちぎち、キシシ......

 

一匹のキラーアントがルームの中に侵入してきた。単独のようだが何かを探しているようにも見える。

 

「なんだ、キラーアントじゃないか。すぐに片づけよう」

 

リリーが大剣を手に立ち上がった。

 

「...!何か様子がおかしいです!待ってください!」

 

ベルの静止が一歩遅れキラーアントに気が付かれてしまう。

 

 

瞬間

 

ギィーーーーーキィキィ!!

 

突然キラーアントがけたたましい鳴き声をあげた。

 

 

「ウソだ、ありえない!あれはあいつらが瀕死の時の仲間を呼び集める時の叫びじゃないか!!」

 

更にどこか遠くのほうからヴモォーーという鳴き声が響いてきた。

 

(今の鳴き声は!?いや、この階層にやつがいるなんてそんなはずがあるもんか......)

 

「今獣の雄叫びのような声が聞こえませんでしたか!?」

 

「いや......それよりまずは目の前のあいつを!」

 

「今すぐに奴の息の根を止なければ、我らには退路がないぞ!」

 

ルームの奥にいたため入口からキラーアントの大量が押し寄せれば逃げ場はない......

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

「ライトニングボルト!」

 

ベルの魔法による速攻、鳴きつづけていたキラーアントの頭を吹き飛ばし一瞬のうちに敵を片づけた。

 

しかし、

 

 

ザザザザザザ、ガサガサガサ

 

入口から大量のキラーアントがルームに侵入し地面を埋め尽くした。様子を見ているのかすぐに襲ってくる様子はない。

 

「まさか、さっきの奴は斥候!?」

 

「の、ようでござるな。それにこのキラーアントを見るでござる!」

 

あきらかに通常の個体とは異なる、異形......皆に緊張がはしる。

 

「まさかこいつら強化種か!?」

 

リリーが驚愕の声をあげた。1匹2匹ならまだわかる。しかしこの大群全てが強化種なんてあるはずがない異常事態だ。誰かが意図的に育てたなら話は別だが......

 

キィキィ!

 

ギィー!

 

様子を見ていたキラーアントの群れが一斉に4人に向かって襲いかかってきた。通常の個体より鋭利で長い顎でこちらを切り裂くつもりだ。

 

「ルナさん!下がってください!」

 

後衛職のルナにはこのキラーアント達の圧力には耐えられない、ベルが雷で強化した白狼で目の前の一匹を切り裂いた。

 

ザシュッ

 

(倒せたけど,いつもの手ごたえじゃない......)

 

ハァ!

 

刹那も間接部分を狙い刀で切りつけた、ベルの時と同様に切り裂けはするがいつもなら一撃で絶命させることができたはずなのに切りつけたキラーアントは怯みはするもののまだまだ死にそうもない。

 

「いつもより黒くて大きくて硬いでござる、手が痺れるでござるー」

 

「「......そうですね」」

 

その発言はちょっと...

 

チッ

 

このパーティー唯一のレベル2であるリリーの力をもってしてもこの大群を捌ききることができない。大剣の剣脊でまとめて吹き飛ばすことはできても次から次えと襲いかかってくる敵にじりじりと押されてしまっている。

 

「ルナさん危ない!」

 

キラーアントが他のキラーアントの背に乗りジャンプをしてベルたちの背後にいたルナに襲いかかった。

 

並行詠唱のできないルナはその場を動くことができないでいる。眼前にキラーアントが迫る。

 

うぐっっ

 

「ごほっっ...ルナさん大丈夫です...か?」

 

「ベル!お前我を庇って...傷が深い、早くこれを!」

 

ルナが襲われる直前に体を滑り込ませたベルは回避することができず胸を貫かれた。

傷口から大量の血液が流れ出て地面を赤く染める。

 

「リリー、刹那少しだけ前衛をお願い!」

 

「なるべく早く頼むよ!こっちもそう長くもたない......」

 

前衛の二人も必死の形相で敵の攻撃を防いでいるがかなり厳しいようだ。

 

「だい...じょうぶ...です。急所は...はずれて」

 

ルナはバックパックからポーションを取り出してベルの傷口に振りかけた。痛みが痺れに変わり、そして徐々にその痺れもなくなり傷口も完全に塞がった。

 

「ベル、あなたは本当に......バカなんだから。でも、ありがとう。もう少しだけ私を守ってくれる?」

 

「はい!僕が、僕たちが守ります!何度でも!」

 

ルナはベルの言葉にやさしい笑みを浮かべた。

 

キャラづくりをしていない素の状態のルナ。素の状態を見せるのは最大級の信頼の証でもあった。口だけではない、自らの体を盾にして自分を守ってくれたベルを、そしてロキファミリア入団当初からいつも一緒にいてくれたリリーと刹那を.....

 

「必ず守ってみせる!」

 

ルナは自身の眼帯を右手で引きちぎると同時に左手で杖を構え詠唱を始めた。

 

【天上に輝き空をあまねく照らすものよ、永久に陰らぬ至上の光よ

 

 我は願う、暗き世界に祝福を、

 我は願う、闇を消し去る輝きを、

 我は誓う、我と汝の力をもちて全ての陰りを打ち払う

 

 輝く空の欠片よ此処へ

 光のささぬこの場所へ

 

 天空より降り注ぎ全ての悪しき者に清浄なる光を】

 

 

 

「ルナさんのあの瞳は!?」

 

ルナの眼帯の下には燃えるような赤紫色の瞳が。同時に眼帯をとった瞬間にルナに魔力が漲るのが感じとれた。

 

「あれは...義眼さ」

 

「義眼ってなんですか?」

 

「作られた眼ってことだ。あれはディアンケヒトファミリアとペルセウスの合同作品なのさ」

 

ルナの一族はエルフの中でも魔力に秀でた種族だったが純血至上主義の一族でもあった。しかしルナの母親は人間と恋に落ちルナが生まれた。ハーフエルフとして生まれたルナと母親は追放、人間であった父親の面影がある片目はその時に潰された。オラリオまで逃げてきたところをロキに助けられたことがルナの入団した経緯だった。

 

当初は人間不信だったルナもロキファミリアの温かさと同じような境遇だったリリーと刹那のおかげでここまで精神的に回復することができたのだ。素の自分は本当に信用した人にのみ見せ、普段はあのキャラを演じでいることが多い。以外にあのキャラも今ではノリノリな部分もあるのだが......

 

ルナの魔力が詠唱に練りこまれ魔法陣が展開されていた。美しい光がルナから放たれはじめる。キラーアント達も脅威を感じとったのか、攻めることをせずジリジリと後退していった。

 

「皆、下がって!」

 

ルナの声に3人はルナの傍まで後退した。それを目で確認するとルナは杖を振り下ろしす。

 

破邪の光槍(ホーリーレイ)

 

キラーアントの大群の上空に巨大な魔法陣が展開されそこから光の槍が降り注いだ。

逃げまとう余裕もなく超高速の光の槍は強化種であるキラーアントの硬い殻を軽々貫通し全ての敵を殲滅することに成功した。

 

うおーーーっとルナの元に皆が駆け寄った。

 

「すっすごい威力です!あれだけいたキラーアント達が一瞬で!!」

 

「ルナ、よく頑張ったね」

 

「さすがでござる!ルナ、その眼帯をとったってことはもういいんでござるな?」

 

はぁはぁと荒い息をつくルナだがその表情は満足そうな顔をしている。

 

「うん、もう大丈夫。え......!!皆逃げっっ」

 

ヴモォォォォォーーーーー!!

 

ルナの魔法により俟った砂埃が静まると、そこには牛人が槍を構えていた。

 

牛人、ミノタウロスの大咆哮を受け瞬時に振り向いた3人のすぐ横をミノタウロスが放った槍が知覚速度を遥かに超えた勢いで通り過ぎ、ズドンという音とともに4人の背後の壁を槍が貫通しかなり奥深くまで突き刺さっていった。

 

......あぁ...ごふ....

 

 

「え...そんな...ルナさーーーーん!!」

 

ベルの絶叫がダンジョンに響いた......

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。そしてお久しぶりです。
更新大分おそくなりまして申し訳ありません<m(__)m>

前半は宴会、後半はいよいよこの時がやってまいりました。

前半ではりりとリリーが同じような名前で少々わかりにくいかもしれません汗

ルナさんの魔法がさく裂しましてね。ただ......

この作品には私、兎魂独自の設定がありますのでその辺はご了承ください<m(__)m>


今回も挿絵はにゃうあさんに書いていただきました。お気に入りの一枚です。

次回は早めに更新します&遂にミノさんとバトルです

これからもよろしくお願いいたします!



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40 僕は幸せでした1

おそらく魔法をみて脅威を感じとったのだろう。他の3人ではなく真っ先にルナが狙われた...


牛人(ミノタウロス)に強襲されルナは深手を負ってしまった。

 

「ルナさん!しっかりしてください!」

 

血を流すルナを見てベルはガタガタと震えていた。あきらかにいつもとは様子が違うベル。一種の過呼吸のような状態に陥ってしまっている。治療は刹那が的確に行っているものの血を流しすぎている為すぐにでも本格的な治療をしなければならない。

 

「なんでこいつが上層にいるんだよ!!通常よりはるかにでかい...」

 

このパーティで唯一中層で対峙したことのあるリリーが驚愕の声を挙げた。

 

それもそのはず、通常の個体より一回り以上大きな体、赤黒い肌。何より冒険者の装備をはぎ取ったのか、鎧のようなものを装備し大剣を持っていた。腰には何が入っているかわからないが袋のような物をぶら下げている。先ほどの槍の扱いといい装備といい完全に異常事態(イレギュラー)な存在だ。

 

「刹那!ベル!ウチが時間を稼ぐ、ルナを連れて逃げろ!」

 

恐怖......このままこいつと戦ったら死ぬ。そんな映像が脳内に鮮明にうつった。ここで皆を逃がすには自分が時間を稼ぐしかない。瞬時に判断したリリーは絶叫ともとれるような声をあげ残りの2人に声をかけた。

 

ただ一人、そんな切迫している状況の中ベルだけがその場を動けずにいた。

 

「そんな...僕は...また...守れない......」

 

いままでもそうだったがベルは仲間の死というものに囚われているように見える。ケガをすることは日常茶飯事だがそれは死ぬようなものではない。ただ今回のルナの傷は命にかかわる致命傷だ。ベルの脳裏にあの悪夢がよみがえっていた。

 

「ベル!」

 

ルナの治療を終えた刹那がパンッとベルの頬を強く叩いた。頬を抑えているベルの右手は血で濡れていた。

 

「ベルはルナを護ったんでござる!その手を見るでござる!拙者には何も見えなかったでござるがその様子からみるに、ベルは無意識に右手を振り上げた。それがなかったらルナはきっと胸の中心を貫かれて即死していたでござる、それに今ベルがいなきゃみんなここで死ぬしかないでござる!だからベル......皆を助けて!」

 

呆然と刹那の話を聞いていたベルが自分の手にポーションをふりかけ治療をするとバシンと頬を両手で叩いた。

 

(ここで僕が折れたら......また大切な人たちを護れない)

 

「刹那さん......すみません。もう大丈夫です!」

 

悪夢を振り払うように頭を振り、ルナを刹那にまかせベルは白狼を構え立ち上がった。

 

「ベル!ここはウチにまかせて皆を連れて逃げろ!」

 

「...リリーさん、あいつを見てください」

 

こちらの様子を伺う牛人(ミノタウロス)の口角がにぃぃっと上がり笑みのようなものを浮かべた。その様子に全身に鳥肌がたつ......

こちらに背を向けたかと思うと持っていた大剣を入口の天井付近に叩きつけた。天井が崩れ通路を岩が塞いでいく。

 

「あいつまさか!」

 

大剣を担いで牛人(ミノタウロス)の元へ走るリリー。

 

「罠です!リリーさん!」

 

背後から大剣を叩きつけるリリーだが待っていたかのように振り向きざまに降られた一撃をなんとか大剣で受けるもその衝撃によって壁まで吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされたリリーに駆け寄っている間に牛人(ミノタウロス)はもう一つの入り口まで行き先ほどと同様に天井を崩した。

 

退路は断たれた......

 

ベルに支えられ立ち上がるリリー

 

「ちくしょぅ...なんなんだあいつ」

 

「リリー!覚悟を決めるしかないようでござるな。逃げ道はない、援軍なんか期待できない。まさに背水の陣でござる」

 

ルナの治療を終え背後のくぼみに寝かせると刹那が鞘に納めていた刀を抜きながら2人の元へと歩み寄った。

 

「...奴の魔石は胸の中心だ。そこを突くしかウチらに勝機はない。あいつの皮膚は熱や冷気に強く断ちにくい、普通に攻撃してもベルや刹那の攻撃じゃ奴に致命傷を与えられない。それにレベル2のウチでも力負けしたんだ。あいつのステイタスはおそらくレベル3...強化種だ」

 

口では強気な言葉を発している刹那とリリーだがその手は震えていた。

そんな二人の手をやさしく握りしめたベル。

 

「僕がおとりになります、僕の魔法を使えばリリーさんより俊敏に動けます。それに...僕たちはあんな奴よりもっと強い人たちと訓練してきたじゃないですか。本気のアイズさんやベートさんに比べたらかわいいもんですよ」

 

ベルだって怖いはずだ。訓練はあくまで訓練、本気の殺意をまじかに感じ恐怖したが務めて明るく二人にほほ笑んだ。

 

「そう...でござるな!」

 

「たしかに、あいつよりよっぽど怖い!」

 

恐怖によって固まった体と心が多少なりとも軽くなった。

 

「刹那、あれを持ってきてるか?」

 

「持ってきてるでござる」

 

「ウチとベルが時間を稼ぐ、隙を見て奴の動きを封じてくれ!」

 

東方の侍に憧れる刹那にとっては不要な技術、忍びの技だ。

刹那は一度小手を外し、手袋を改めて装備した。

 

ふぅーっと深く息を吐き集中する刹那。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

ベルが魔法を発動し魔力を足に集中し始める。

 

「僕が先に...」

 

走り出そうとするベルの前に手を広げ静止するリリー。

 

「ベル!おまえの耐久じゃ一撃もらっただけで危険だ。魔法と速度で攪乱しつつ援護してくれ...頼む」

 

「...わかりました。リリーさん、気を付けてください!」

 

「行くぞ!訓練を思い出せ!必ず全員生きて地上へ!」

 

「「はい!」」

 

ヴモォオオオオオー!!

 

こちらの準備を待っていたかのように大きな咆哮をあげた。

 

「ライトニングボルト」

 

ベルの魔法で牽制しつつリリーが大剣を大きく振りかぶり振り下ろした。

牛人(ミノタウロス)は片手で大剣を持ち難なく受け止めるともう一方の手でリリーを掴んだ。その剛腕をもってリリーの体をへし折ろうと力を入れる瞬間にベルが白狼で指、それも爪の間に白狼をねじ込んだ。

 

ヴモッォ!!

 

肉に刃が食い込みボタボタと血が流れる、いくら強いといっても指先を攻撃されてはたまらない。リリーの体を離し怒りをあらわにした。神経が集中している指先は古来より拷問にも使用されるほど痛いのだ。

 

「ベル、おまえよくあんな精密剣技を...まあ、その、なんだ...た、助かった。ありがとう」

 

にこっとリリーにほほ笑むと更に加速して追撃を加えた。狙いは敵の機動力を奪う為の足、そしてできれば目を潰すことが望ましい。自分よりも弱者につけられたことにより激高したかと思われた相手だが、こちらの動きを読み大剣を逆の手に持ち帰るとすさまじいスピードでベルの首めがけて薙ぎ払いを仕掛けてきた。

 

(早い!)

 

咄嗟に白狼で受け流しを試みる。

 

(重い!!受け流しきれない...)

 

衝撃を全て受け流すことはできず鈍い痛みがベルの全身を襲う、なんとかリリーの攻撃に合わせ後ろに跳び体制を立て直すことには成功した。

 

(一瞬でも油断したら一撃で殺られる...でも攻撃は単調だ。振り回してくるだけなら対応できるはず)

 

この化け物に人間のように意志がしっかりあるのかどうかはわからない。怒りにまかせて攻撃をしてくる敵は単調な攻撃をすることが多い、故にレベルの低い冒険者でも人数が勝っていれば隙を突くことも可能になる。

 

一人が気を引いている間にもう一人が攻撃を加えていく。致命傷にはならなくても徐々に削ることは可能だ。足にダメージを蓄積させれば動きも鈍くなりいきなり距離を詰められることも激減する。無論こちらが致命傷を受けないことが大前提での作戦ではあるが。

 

例えば、ベルの魔法を敵の正面に当てるなどして敵の視覚を妨害してからの攻撃である。これは日頃からの訓練の中で培った連携の錬度がものをいう。絶対に1対1の状況にならないように細心の注意を払いつつ攻撃を仕掛ける2人。

 

ベルとリリーが奮闘する中二人の影に隠れながら少しづつ刹那は仕掛けを進めていた。

徐々に動きが鈍くなっていっていることに牛人(ミノタウロス)は気が付いていない。

 

「今でござる!」

 

「ライトニングボルト」

 

ベルの魔法が動きの鈍くなった牛人(ミノタウロス)の顔面にさく裂し、一時的にではあるが敵の視力を完全に奪った。

 

「縛法」

 

ヴモォッ!?

 

ビシッと敵の動きが完全に止まった。目を凝らすと銀色に光る糸のようなものが何重にも牛人(ミノタウロス)の体に巻きついていた。

 

「刹那さんこれは!?」

 

「拙者の奥の手でござる、あれはミスリルを織り込んだ糸でござる。見えにくいようにすごく細く加工して何重にも巻きつけなくちゃいけないでござるがレベル3ぐらいまでなら動きを少しの間なら封じることができるでござる」

 

「あいつの力なら直に動けるようになる。ここで決めなきゃ終わりだ。全力で叩き込むぞ!」

 

ベルの白狼が、刹那の刀が敵の上部の鎧を破壊する。狙うは一点のみ、胸の中心の魔石だ。

 

しゅーと大きく息を吐きリリーが大剣を握り直し距離をとった。筋肉が盛り上がり力を溜めていることがよくわかる。

 

はぁぁぁぁ!!

 

足がめり込むほど強く地面をけり一直線に牛人(ミノタウロス)の胸めがけて突進した。

 

ヴ、ヴモォォォォォーーー!!

 

リリーの全力の一撃が胸を捉え壁にめり込むほど相手を吹き飛ばした。崩れた岩がガラガラと牛人(ミノタウロス)の上に降り注ぎ砂埃で姿は見えないが相当なダメージを与えた感触があった。

 

「やったでござるー!!」

 

「まだだ、奴の灰になった姿を見るまでは油断するな!」

 

もうもうと埃が立ち込め、辺りが静まり返る中音が聞こえた。

 

ガリッ......

 

「な、なんの音でござるか!?」

 

ガリッガリッボリボリボリ......

 

 

 

 




読んでくださっている皆様いつもありがとうございます。

そしてあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

今回は牛さんが登場いたしました。こちらが4人なので牛さんも原作より強い設定になっております。

糸を武器にするというのちょっとやってみたかったので忍びの技として少しだけ登場させました。ペルセウスとかヘファイストスファミリアの人なら作れるはず......

次回更新までまたしばらくお待ちください<m(__)m>


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41 僕は幸せでした2

洞窟のなか耳障りな音が響く...


ガリガリという音が聞こえる中、3人は動けずにいた。砂煙の中から先ほどとは比べほどにならない殺気が放たれ追撃することを許さなかったのだ。

 

瓦礫を押しのけ現れた牛人(ミノタウロス)は腰の袋から魔石を取り出し噛み砕いていた。噛み砕く度にその巨体から蒸気のようなものが立ち上っており威圧感が増していく。

 

我に返ったベルが遠距離から魔法による先制攻撃を仕掛けた。

 

「ライトニングボルト!ライトニングボルトォォ!!」

 

ベルが牛人(ミノタウロス)に向けて魔法を放った。魔石を食べ終えた奴は腕を前に差し出すとベルの魔法を片手で受け止めた。その手にはやけどひとつない...

 

「なんなんだよ...こいつ」

 

リリーは手にしていた大剣を地面に落としがくりと膝をついた。刹那も同様に奥の手であるミスリルの糸を完全に断ち切られたことにより恐怖で愕然としていた。

 

ベルは二人に一瞬視線を向けると単身敵に向かっていった。

 

作戦などない、3人の力を合わせた攻撃でも勝てない相手......それでも二人の前に立っていたかったのだ。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

ベルは一人強者である牛人(ミノタウロス)に立ち向かった。白狼を構え勇敢にも敵に向かって突進していく、牛人(ミノタウロス)は圧倒的優位になったことを自覚しているようでベルの攻撃を軽くいなし必死の形相で攻めている様子を見て先ほどと同じように笑みのようなものを作っている。

 

(硬い...)

 

先ほどまでは傷を負わすことができていたのに今はいくら攻撃しても大したダメージを与えられていない。硬質化した皮膚が全ての攻撃を防いでいた。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

魔法で強化した速力で目の前に振り下ろされた大剣をかわし背後に回った。そのまま脇腹に切りかかるがガシッと腕を掴まれそのまま力任せに地面に叩きつけられた。

 

腕で頭をガードするが圧倒的な力の前になすすべもなく地面を転がった。

 

「ああ゛っっ」

 

ヴモォォォォォ!!

 

勝利の雄叫びなのか、大剣を高々と突き上げ大咆哮を挙げた。大剣を肩に担ぎなおすとゆっくりとした足取りでリリーと刹那の方へと歩みを進めた。

 

「「うっっあうっっ」」

 

二人は死の恐怖と殺意の前ででがたがたと震え立ち上がることができない

 

「っっまだだ!!」

 

動きがいつもより鈍い...おそらくすでにベルは相当なダメージを負っているはずだ、血が大量に流れ視力もほとんどないだろう、それでも尚牛人(ミノタウロス)と対峙した。その様子に優位な立場である牛人(ミノタウロス)は初めて一歩退いた。

 

「ベル...おまえ怖くないのか......死ぬんだぞ......」

 

ベルの背中に声をかける、そう刹那とリリーが見ているのは常に背中だった。どんなピンチの時でも必ずベルが皆の前に立っている......

 

 

「......怖いです。でも、僕はあきらめ...ません。皆さんと生きて地上へ...かえ......ごふっっ」

 

内臓までかなり損傷しているのだろう、片膝をつきベルが吐血する。

 

牛人(ミノタウロス)は先ほど自分が退いた理由がわからなかったが本能的に危険を察知したのだろう。ベルが吐血した瞬間に大地を強く蹴り渾身の一撃をベルに放った。

 

ドゴォッッ

 

壁まで吹き飛ばされたベル、それでも這いずりながらも3人の前に立とうとしていた。

 

刹那とリリーは立ち上がった、ベルのこんな姿をみて立たなければもう仲間とは呼べない。

 

「ベル、もし拙者がこいつを倒せたら......一日でいいでござるから拙者と二人で出かけてほしいでござる...約束でござるよ...」

 

刹那は重い甲冑を脱ぎサラシ一枚となった。重い防具は必要ない、一撃でも食らえば致命傷。それなら防御を捨てて特攻するしかもはや方法はない。

 

「ベル、お前はいい男だ。男相手にこんな気持ちになったのは初めてだ......最初はアイズさんといちゃいちゃしやがって気に食わなかったけどな。今は...その...す...結構気に入ってるぜ!」

 

ベルに手持ちのポーションを振り掛けたあと2人は覚悟を決めた。

 

「「あたしたちは偉大な神ロキ様の眷属!仲間......惚れた男の為に死ねるなら本望!

刺し違えてでも...お前を倒す!!」」

 

「ダメです...二人とも...くそっっ動けぇぇぇぇ!!」

 

 

ベルの目の前では二人の少女が牛人(ミノタウロス)と激闘を繰り広げていた。

 

紙一重で敵の攻撃をよけながら刀を振るう刹那、自身の力の限りを尽くし大剣を振るうリリー。二人の気迫に牛人(ミノタウロス)は怯み攻めあぐねていた。

 

しかし......一瞬でも気を抜けば死ぬ、そんな極限状態をいつまでも続けることはできない、次第に攻め込まれることが多くなっていった。

 

ビキッ

 

「刀にひびが!!」

 

鋼鉄の皮膚に刀が負け刀身の中ほどから折れてしまう。

 

「リリー!!」

 

ぶしゅっと刹那の手から血が滴る...

 

刹那は折れた刀を握り先ほどリリーが大剣で突いた場所と同じ場所に突き立てた。僅かに刺さる刃...

 

「後を、お願い......ごめん...ベル」

 

全身全霊で突き刺した刹那にできた隙を見逃すはずもなく牛人(ミノタウロス)の拳が腹部に突き刺ささる。

 

ズンッと衝撃が刹那の体を突き抜け膝から崩れ落ち沈黙した......

 

「刹那ぁぁぁ!!お前の思いは無駄にしないから、くらえ!」

 

ギリッと握った拳を牛人(ミノタウロス)の胸の刃に叩きつけた。ブシュッと先ほどよりも深く突き刺さる刃。だが......魔石までは届かない......

 

(これでもだめなのかよ......)

 

牛人(ミノタウロス)の大きな手ががしっとリリーの頭を掴みぎりぎりと力を込めていく。

 

「あ゛あ゛あ゛...まだ...だ」

 

頭を握り潰されそうな中リリーは最後の力を振り絞り指を目の中にねじ込んだ。

 

ヴモォォォォォ!!

 

「ざまあ...みやがれ」

 

片目を潰された怒りから咆哮をあげリリーを地面に叩きつけ足を振り上げた。

そのまま踏み砕くつもりだ...

 

(立て...立てよ...ここで立ち上がらなくていつ立ち上がるっていうんだ!訓練したんだ、あの夢のようにならないように...今度こそ仲間を護れるようにって...)

 

自分の無力さにベルの目から涙が溢れる......

 

(何を捨てればいい、僕の何を捨てればあいつに勝てる...先の事はいい。今、あいつに勝てるなら...僕はどうなってもいい!)

 

瞬間、ベルは光に包まれた...

 

 

 




皆様お久しぶりです。そして読んでくださりありがとうございます<m(__)m>

展開を考え込んでいたら書くのが非常に遅くなってしましました...申し訳ありません<m(__)m>

次こそは早くかけるように頑張ります。

はたしてこの牛人にベルたちは勝てるのでしょうか...


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42 僕は幸せでした3

※今回はオリジナル要素、オリジナル設定が多くありますのでご了承ください。



白いく美しい光...


光に包まれたベルは真っ白な世界にいた。目の前にあるのはただ一面の白、方向感覚がない世界の中、ベルは先ほどまで体を走っていた痛みを感じないことに気が付いた。

 

(ここはいったい...早く皆のところに戻らないと)

 

突然のことなのに不思議と落ち着いている自分がいた。

ベルが振り返ると遠くに何かあるのが見える、距離感がいまいちつかめない空間だがその何かに向かってベルは駆け出した。

 

近づくにつれその何かの輪郭がはっきりとわかりだした。

 

(あれは...門?)

 

ベルの眼前に現れたのは見上げるほど大きな門、そしてその前に立つ一人の青年だった。門には神聖文字(ヒエログリフ)がびっしりとかかれ一番上には大きな(ベル)が描かれている。

 

一方青年は白い髪に真紅の瞳をしており白銀の鎧を身にまとっていた。長いマフラーがとても印象的だ。

 

「え...あなたは...僕?」

 

怖い感じはしない、むしろ青年を見た瞬間に心拍数があがり全身に謎の高揚感が駆け巡っていた。

 

ベルが動けずにいると青年はベルの事を愛おしそうに見つめると優しくほほ笑んだ。

 

「私の名はダグラス、ダグラス・クラネルだ」

 

「へ?え?ええ!?あ、あの英雄ダグラス・クラネル、さんですか?」

 

(この声...僕には聞き覚えが...)

 

あまりの衝撃にドモリながら名前を繰り返した。

 

「英雄...か...俺にはもうそう呼ばれる資格などないがな...」

 

寂しそうに、そして辛そうに呟いた言葉は酷く重く感じた...

 

「あの...そうだ!僕仲間のところに帰らないといけないんです。早く帰らないと仲間が!」

 

ダグラスはベルの肩にポンッと手を乗せると真剣な眼差しで言葉をかけた。

 

「ベル、今の君が戻ったとして彼女達を救うことはできるのか?」

 

「!...それでも、僕は...」

 

「君だけなら逃げれるかもしれない、彼女たちを見捨てさえすれば。君には誓ったことがあるのだろう?」

 

「...アイズさんの英雄になる...」

 

...ベルにもわかっている、このまま帰ったとしてもあのミノタウロスを倒せないことを。

 

「...僕の家族なんです、ロキファミリアの皆さんは。僕の事を家族と呼んでくれたんです。家族を見捨てて逃げるようなことがあれば、僕は皆さんに合わす顔がありません。ましてやそんな男が!アイズさんの英雄になりたいだなんて口にできません!」

 

「死ぬぞ?」

 

「それでも僕は行きます」

 

ベルの決意にダグラスはうなずいた。

 

「ベル、おまえに魔法の言葉を教えよう。スキルを発動させるのに必要な言葉だ」

 

「スキル?僕のスキルは...」

 

家族の絆(ファミリアボウンズ)、それは俺のスキルだお前にとっては呪いのようなものなのかもしれない」

 

そう、ベルのスキルは【誓】そしてベルの中のもう一つの魂、ダグラスクラネルのスキルが家族の絆だったのだ。故に今までそれらしい効果が表れていなかった。

 

「英雄...護りし者などと言われた俺が、最後の最後に家族同然だった仲間も、自分の愛した女さえも守れなかった。その時思ったんだ、今のベルのように自分の命一つでみんなを救えるのなら...と。死ぬ瞬間まで自分の力のなさを呪った。その後悔の念、絶望がこのスキルを目覚めさせた」

 

「あの...何をいって?」

 

「もう時間がない、お前は...後悔するな」

 

ダグラスはベルに近づくと優しくそして力強く抱きしめた。

 

家族の絆(ファミリアボウンズ)限界突破(リミットブレイク)開放(アンテ)この言葉を唱えればお前は生命力を代償に自分の限界を超えた力を得ることができるはずだ」

 

「生命力?」

 

「そうだ、体力がなくなれば体は動けなくなる、精神力がなくなればマインドダウンを起こすだろう。そして、生命力が枯渇すれば必ず死ぬことになる...すまない、ベル。お前にもアイズにも俺は何もしてやれなかった、せめて、この体に残された魂の欠片に蓄積されている経験値(エクセリア)をお前に託そう」

 

経験値とは、人が神に近づく為の物。肉体は器に過ぎない、経験値は神の血によって背を通して魂に刻まれる...

 

(やっぱり僕ダグラスさんの声を知ってる気がする...あの...穏やかな暗闇の中で...)

 

「とお...さん...?」

 

ベルの呟きが聞こえたかはわからない、しかしダグラスは涙を流した。

 

「...また会おう...その時は...」

 

スゥっとダグラスの体が薄くなりベルの中に消えていった。

 

(体が軽い...)

 

ベルは門の前まで行くと手を門に押し当て先ほど教えてもらった言葉を唱えた。

家族の絆(ファミリアボウンズ)限界突破(リミットブレイク)開放(アンテ)

 

ガコォォンという音と振動と共にベルの身長より少し高いところから亀裂が入り門が開いた。

 

「行ってきます,どんなことがあっても必ず護って見せます」

 

そういうとベルは光が放たれた扉の中へと進んでいった。

 

 

ヴモォーーーー!!

 

 

リリーに目を抉られた牛人(ミノタウロス)はリリーに向けてその大きな足を振り下ろそうと片足を上げた。

 

瞬間、ドクンッッ!ベルの体が白い光に包まれダンジョンに衝撃が走った。ビリビリとまるでダンジョン自体が泣いているかのような振動が起こる。

 

先ほどまで死にかけていたベルの豹変ぶりに牛人(ミノタウロス)はリリーに振り下ろそうとしていた足を止めベルの方へと向き直った。

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

白い光に包まれているベルが静かに、それでいて力強い声で魔法の詠唱を行った。

通常薄暗い地下にいる牛人(ミノタウロス)の目にはベルの輝きは眩しく一瞬視線を外した。ベルは強化された速力で接近すると右の拳に魔力を溜め油断している牛人(ミノタウロス)の顔を殴り飛ばした。

 

ドゴォッッ

 

左側の牙を拳で叩き折りそのまま壁際まで吹き飛ばした。口からボタボタと血を流しながらも足に力を込め、地面を踏みしめて恨みがましそうな顔を向ける。

 

牛人(ミノタウロス)の視線の先にはリリーと刹那を抱えてルナのいる場所まで連れて行き手早く治療を済ませているベルがいた。

 

「ベ...ル...?」

 

リリーがうっすらと目をあけてベルを見つめた。ベルが優しくほほ笑むとリリーはそのまま気を失った。一瞬りリーの体が白い光に包まれたのは見間違いだったかもしれない...

 

自分の事を無視された牛人(ミノタウロス)はリリーが使っていた大剣を担ぐと大地を蹴りベルたちの元まで突進を仕掛けてきた。

 

「ライトニングボルト!」

 

振り向きざまに放ったベルの雷は先ほどまでとは威力が段違いで片手で受け止めようとしていた牛人(ミノタウロス)は野生の勘ともいえる判断で瞬時に回避を行った。大剣を振りその反動を利用して体を捻り直撃は避けたものの、太い腕にかすりその強固な皮膚を焼いた。

 

ヴモォォ...

 

自分の腕を確認し電流が流れたことによる痺れ具合を確認すると一歩退いた。先ほどまで突撃すれさえすればどうにかなると思っていた牛人(ミノタウロス)はベルから脅威を感じとり作戦を変えた。

 

大剣で先端の鋭い岩を大量に切り裂くとベル目がけて全力で投げつけた。岩が雨のようにベル目がけて放たれる、ベルは仲間に当たらないように自分に注意をひきつけつつ紙一重で岩を避けていた。お互い距離をとっての戦いでは相手に大きなダメージを与えることはできない、ベルの魔法も耐久の非常に優れた相手では近距離からでないと致命傷を与えることができずにいた。更にベルには時間がない、仲間の様子から血が足りていないのは明らかですぐにでも地上へ連れて行く必要がある...

 

(時間がない...狙いはひとつ。なんとかあの場所に攻撃を当てられれば...)

 

力と耐久は牛人(ミノタウロス)が、速力と技術と魔法による攻撃はベルの方が勝っているように思える。しかし、ベルの体は器の限界を超える力の使用により着実にダメージが蓄積されていた。

 

距離をとってにらみ合うベルと牛人(ミノタウロス)ジリジリと間合いを測りつつにらみ合う。

 

 

ふぅーと大きな息を吐いたベルが覚悟を決めた。

 

(ドゥンデル)最大出力! 【電光石火】

 

足に魔力を集中させ突撃を仕掛けた、牛人(ミノタウロス)の突き出した左拳がベルの頬をかすめるがそのまま背後に回り込み脇腹に一閃。鋼のような肉を白狼でなんとか裂いた。ここからは近接戦、牛人(ミノタウロス)の大きな体に絡みつくように白狼を振るった。

 

だぁぁぁぁああーーーー!!

 

白狼を両手で握りしめ先ほどからダメージを与えていた左腕に突き刺した。

 

ヴモォォォォー!!

 

突き刺した部分を思い切り引き裂き大きなダメージを与えることに成功する。

 

痛みで体を大きく仰け反らせ咆哮をあげる牛人(ミノタウロス)だが、右腕で大剣を振りかぶりベルに叩きつけた。弾き飛ばされながらも体制を整える。

 

ビキッ

 

おそらくどこかの骨が折れたようだ。体に鈍い痛みが走る...手負いの牛人(ミノタウロス)は大剣を捨てケガをしていない右手を地面につき体を大きくたわませた。この体制は牛人(ミノタウロス)が最後の手段として用いる最終攻撃態勢だ。全身の筋肉が膨張し蒸気のようなものが上がる。

 

(ドゥンデル)最大出力!!ベルは迎撃態勢をとった。

 

「僕はお前を...倒す!!」

 

ベルの口からは血がこぼれた、生命力の限界は近い...

 

ヴモォーーーーー!!

 

「ッッだぁぁぁぁ!!」

 

突撃し巨大で鋭い角でベルを一突きにするつもりの牛人(ミノタウロス)、ベルは限界まで引き付けると体を後ろに倒した。ベルの頭上を角が通り過ぎる、地面に両手をつけ全身のバネを使い牛人(ミノタウロス)の巨体を上に蹴り上げた。

 

全身全霊の攻撃をかわせれ、空中で身動きのできない牛人(ミノタウロス)

 

「皆の戦いは無駄にはしない!!」

 

胸にに食い込んだ刹那の刃の上に拳を突き当てた。体を覆う雷の魔力が拳へと集まっていく...

 

「最大...最大...ッッ最大出力!!」

 

電光(ケラウノス)!!

 

ベルの拳から放たれた極大な雷は刃を伝い牛人(ミノタウロス)の胸を貫き魔石を粉砕した。雷はダンジョンの天井を砕き昇って行った...

 

「はぁ..はぁ...はぁ...ぐぅッッ」

 

灰になった牛人(ミノタウロス)を確認するとベルの体から白い光が徐々に消えていった。瞬間...

 

「~~~~~~~~ッッッ!!」

 

ベルの全身を激痛が走り声にならない悲鳴を上げベルはその場に崩れ落ちた...

 

 

【ダンジョン18階層】

 

50階層からの強行軍での疲労も回復し2班に分かれて地上まで帰還することにしたフィン達、17階層への入り口で隊列を組んでいるとダンジョンの揺れを数人が感じ取った。

 

「アイズ、今何か揺れなかっ...!?どうしたのアイズ!?顔真っ青だよ!?」

 

両腕を抱え込み無言で何かを考えているアイズ...

 

「フィン!」

 

フィンも同じく顎に手を当て何事か考えていた。

 

(親指が...)

 

「ガレス、ラウル、アキ、全員を率いて正規ルートで地上へ」

 

「「団長!?」」

 

「親指の疼きが止まらない...何かある」

 

ざわざわと動揺がはしるが幹部たちの表情を見て姿勢を正した。

 

「地上に着いたらバベルの前で待機、皆疲れているところすまない、もう少し頑張ってくれ」

 

「フィン...先に行く」

 

アイズが先陣をきって17階層へ向けて走り出した。

 

「おい!待てよアイズ!!俺も行く」

 

アイズ、ベート、リヴェリア、ティオネ、ティオナ、レフィーヤそして殿にフィンという隊列で上層へと進む一向。

 

上層に上がるにつれ違和感が強くなる...

 

「おいおいなんだぁこりゃ...」

 

上層に向かう途中冒険者と思われる死体が点々と散らばっていた。いったいいくつのパーティが...

 

「おかしいな...いくら中層だからといってここまでひどい状況はあまりない...異常事態か」

 

「フィン、早く上層へ」

 

「ああ、急ごう」

 

ダンジョン12階層

 

「血の跡がここまで...」

 

「ああ、ひでぇ匂いだ」

 

ベートは顔をしかめた。

 

中層から何者かが冒険者を殺しながら上層に向かっている、上層には下級冒険者たちが、ロキファミリアの地上に残してきたメンバーも多くが探索をしているはずだ。

 

「血がまだ乾いていない、近いぞ」

 

リヴェリアの表情も険しい...

 

ダンジョン10階層

 

!!

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

何かに気が付いたアイズが魔法を発動させ全速力で上層に向けて走り出した。

 

!!

 

「全員急げぇぇ!!ベル達の匂いだ!!」

 

ベートが叫びながらアイズの跡を全速力で追いかける...

 

中層に行ける冒険者を倒すことのできる魔物、そんな奴に出くわせば勝ち目はない。

全員血の気が引いた顔をして先を急いだ。

 

 

 

【ダンジョン9階層ルーム】

 

「っぐ...はぁ...はぁ...はぁ...」

 

(体中がバラバラになりそうだ...)

 

器の限界を超えた力を使用したベルの体は酷い激痛と倦怠感に襲われていた。

 

「ああ゛あ゛ぁーーー!!」

 

ベルは渾身の力を込め立ち上がると一歩、また一歩と仲間と元へと近づいて行った。

手持ちの回復薬はもうない...更に限界突破の反動で着実に体が死へと向かっているのが感じられる。

 

気絶している仲間の元へと近づき呼吸の確認をした。

 

「よかった...まだ皆息がある。待っててください、絶対地上に...!」

 

ドゴォォォン!!

 

牛人(ミノタウロス)に塞がれたはずの入り口が何者かによって破壊され通路が空いた。

 

パチパチパチパチ

 

フードを深く被った十数人が拍手をしながらルームの中へと入ってくる。

 

「あなたたちは...」

 

頬をつぅーと汗が流れた。ベルの感覚が警告を発している...

 

謎の集団の中で仮面をつけ片手に瓶のような物をもっている男がベルに声をかけた。

 

「地上の奴らの中で俺が育てた牛達を倒せる奴がいるとはな。さっきまでのやつらとは一味違うようだ」

 

瀕死のベル達を半円状に囲むようにしてフードを被った者達がゆっくりと近づいていく。

 

「いい素材になりそうだ」

 

「後ろに女もいるじゃねえか、こいつはラッキーだな」

 

下品な笑い声をあげながら数人の男たちがベルの後ろにいる3人に近づこうとする。

 

「僕の仲間に...触るなぁ!」

 

ベルが痛みで満足に動けない体を無理やり立たせ3人の前で手を広げた。

 

「こいつまだ動けるのかよ」

 

おもむろに近づいた仮面の男がベルを蹴り飛ばした。

 

ぐうっ

 

地面を転がり他のフードの男の前まで転がるベル。フードの男がベルの顔をよく見た瞬間...

 

「だ、旦那方!。こいつロキファミリアの新人でさぁ。こいつらに手を出しちゃいけねえ」

 

「おまえカヌゥとか言ったな。どういうことだ?」

 

ソーマファミリアの二人も今回また酒を渡しにきておりこの場につて来ていた。どこともしらないファミリアならともかく、都市最大派閥であるロキファミリアに手を出したとあらば自分たちがどんな目に合うか目に見えていた。

 

「神ロキは自分の眷属を傷つける者を決してゆるさないんでさ、あの化け物どもを本気で怒らせちゃいけねえ」

 

がたがたと震えるカヌゥに対して男は笑いながら魔剣を渡した。

 

「地上のやつらにこの俺が負けるわけがねえ、ここで俺に殺されるか今あいつを痛めつけるか選べ」

 

瓶の中身をがぶがぶ飲みながら笑った。

 

「このまま俺たちが地上を攻め落としてやる、そうすれば彼女も喜ぶだろう。レヴィス達が驚く顔が目に浮かぶぜ」

 

(こいつ壊れてやがる...この人数でオラリオを滅ぼせるわけねえのに...)

 

神酒(ソーマ)を飲みすぎた仮面の男は少しづつ魔力の虜となり冷静さを失って快楽を求めるように浴びるように酒を飲んでいた。

 

 

「ロキファミリアは遠征中だ。少なくとも後一週間は帰ってこないはず。ここでこいつを殺すなり素材にするなりすればばれない、やれカヌゥ」

 

団長からの指示もありカヌゥが魔剣を振り下ろした。ベルはなんとか直撃を避けるものの足を焼かれた。その様子を見て他のフードの連中は笑っている...

 

ゴホッ

 

ベルは血を吐きながらも地面に手をつき立ち上がった。

 

(この気配...下から上がってくる...)

 

はぁはぁはぁ...

 

(きっともう一度あれを使ったら僕は...死ぬ。でも、僕に今できることはアイズさん達がくるまで時間を稼ぐこと)

 

満身創痍の中決断する時がきた。

 

(僕が...皆の盾になる!!アイズさん...ごめんなさい。約束を守れそうにありません...)

 

ふぅーと大きく息を吐き前を向いた。

 

家族の絆(ファミリアボウンズ)限界突破(リミットブレイク)開放(アンテ)

 

先ほどよりよわよわしいが白い光がベルを包んむ。

 

 

目覚めよ(テンペスト)(ドゥンデル)

 

「ライトニングボルト!」

 

3人を担いでいこうとするフードの男たちに向けて雷を放った。

 

「僕の仲間に触るなって言ってるだろぉお!!」

 

ぐあっ

 

雷の直撃を受けて怯んだ隙に体当たりをし3人の前から弾き飛ばした。

 

「電光石火!」

 

白狼を握りしめ仲間を護りながら速度を生かした攻撃を行い相手をけん制する。

 

「このガキ...いきなり能力が上がりやがった。速い!」

 

急激な変化に動揺するフードの男たち、その中で仮面の男が指示を出した。

 

「てめえら馬鹿か?そいつが速いなら動かねえ奴らを狙えばいいだろうが。撃て!」

 

複数人が同時にリリー達を狙い攻撃を仕掛ける。矢をつがえ放つもの、短文詠唱からの魔法による攻撃、それを防ぐためにベルは足を止めて防御に専念しなくてはいけなくなる。こちらから攻撃を仕掛けようにも多勢に無勢、次から次えとくる攻撃になすすべはない。

 

「いい酒のつまみになる、俺が飲み終わるまで遊んでやれ」

 

包囲から一歩退き瓶の中の液体を喉に流し込む。

 

(しかし、あのガキ嫌な目をしやがる...まあそんなことはどうでもいいか)

 

短文詠唱からベルの足に向けて炎の弾丸が放たれる。

 

炎弾(フレイムブリッド)

 

複数の弾丸がベルの足に着弾する。限界突破の力も弱まり、攻撃を受け続けた。もうベルに自らが避ける力はない、ただひたすら自身の後ろに攻撃がいかないように自らの体を盾としていた。

 

「このガキ,これだけの攻撃を攻撃を受けてなんで倒れねえんだ」

 

ポタポタと血を滴らせるベルは幽鬼のように立ち続けた。もう目もほとんど見えていないだろう...それでも決して倒れない、決して折れない、そして諦めない...ベルの命は誓いのスキルでかろうじで繋がっていた...

 

 

パリンッッ

 

仮面の男が瓶を地面に叩きつけた。

 

「さあ、ガキをいたぶるのもそろそろ終いだ。そいつは俺がこの手で殺す、そこまで損傷したら素材としても使えねえだろ」

 

長剣を抜くとベルの首筋にぴたりと当てた。

 

「言い残すことはねえか?」

 

ベルは血まみれの中かすかに笑みを浮かべた。

 

「...まに...あった...」

 

「あ?」

 

ギンッ ドゴォッッッ

 

ベルの首に充てられていた長剣が叩き折られ仮面の男は壁に吹き飛ばされた。

 

「てめえら...俺の弟になにしてやがる!!」

 

ブワっと毛を逆立たせ指をボキボキと鳴らしながら怒りの表情を浮かべる狼人の青年

 

男の剣を叩き折り崩れ落ちるベルの体を支えるのは金髪の美しい少女だった...

 

 

 

 

 

ダンジョン9階層

 

(近い...戦闘音が聞こえるのはこの先のルーム...ベル、無事でいて)

 

「アイズ、ひでえ血の匂いだ...急げ!」

 

ロキファミリアの中でも抜群の速力を持つ二人がまず最初にベル達のいるルームへと足を踏み入れた。

 

((!!))

 

中には血まみれで複数人から攻撃を受けているベルの姿があった。一瞬で間合いを詰めると仮面の男の長剣をアイズが叩き折りベートが全力で蹴り飛ばした...

 

 

 

「リヴェリアーー!!」

 

ベルを抱えたアイズが悲鳴のような声を挙げた。

 

「わかっている、レフィーヤついてこい!」

 

リヴェリアとレフィーヤはベル達の治療へと向かう。混乱しているフードの男たちはベートが蹴り飛ばし道を作った。

 

「....全員潰す」 スキル【狂人化】怒りの限界を超えると発動、大幅に力のステイタスを向上させるが耐久が減少する。目の前の敵と認識した者を消すまで止まらない。

 

状況をみたティオナがゆらりと体を揺らすと一気に敵に詰め寄り素手で頭を鷲掴みにした。グシャっという音とともに潰れた相手を踏みつける...バキン、何かが割れたような音がして人間だった者が灰になり消えた。

 

「....全員ぶっ殺...」

 

「ティオネ!奴らを捕えろ!」

 

「!!はい」

 

同じくキレそうになるティオネをフィンが止めた。アイズ達の姿を確認した瞬間逃げだした者が2人いた。彼らはフィン達が何者かしっている可能性が高いということだ。ロキファミリアの幹部が来た時点で逃げないということはよっぽど腕に覚えがあるか知らないかの2択になる。

 

ティオネはナイフを取り出すと走っていく二人に投げつけた。ギャッという悲鳴があがり二人共地面に倒れ込む。

 

「動くな、おとなしくしろ」

 

殺気を含んだ冷たい声は男二人をちじみ上がらせた。悲鳴を上げる二人を無視しフィンから渡されたミスリルを織り込んだ縄でで両手足を縛り落ちていた槍に結び付け地中深く突き刺した。これで簡単に逃げることはできない。

 

「ひぃぃぃ勘弁してくだせえ、脅されてt...」

 

「黙れ!」

 

ティオネの怒気を含んだ声をきき更に命乞いをする二人。

 

「助けてくれ、知っている情報なら全て...」

 

「黙れっていってんだろぉぉぉ!その耳は飾りか、じゃあいらねえよなぁ?」

 

ブチィ

 

二人の片耳を引きちぎったティオネ。

 

「ひぎぃぃぃぃ」

 

悲鳴が洞窟内に木霊する...

 

「次しゃべったらもう片方の耳を引きちぎる。それが嫌なら黙ってろ」

 

二人の心を完全に折った後ティオネはリヴェリア達の護衛へと向かった。

 

 

「ひどい...」

 

ベルの容体を見たレフィーヤは口に手を当て涙を流した。

 

「レフィーヤ、泣くのは全てが終わってからにしろ。おまえは後ろの3人を頼む。おそらくその3人はポーションで治療はされているはずだ」

 

周囲に落ちているポーションの数を見るからに、かなりの重傷を負ったとみられるが丁寧に治療されていることがわかった。

 

「ベル、すぐリヴェリアが治療してくれるから。絶対大丈夫だからね」

 

「アイ...さん。リヴェリ...さん。僕より皆を...」

 

「大丈夫だ。後ろの3人はレフィーヤが診てくれている」

 

アイズとリヴェリアはベルの壊れかけた鎧を脱がし治療を行おうとしていた。

 

(この傷は...なぜこの状況で立っていられたんだ...いや...死んでもおかしくないほど傷が深い...間に合え)

 

ベルの様子をみたリヴェリアの美しい顔に青筋が浮かんだ。

 

「ベル、よく頑張ったね。絶対、絶対治るから...リヴェリア!早く!」

 

「わかっている」

 

リヴェリアが回復魔法をベルにかけた...

 

 

 

先ほどベートに吹き飛ばされた仮面の男が崩れた岩をどかしながら出てくる。

 

「おいてめえら何やってやがる!さっさとそんなやつら殺せぇ!チッ...しょうがねえ、使うか。食人花(ヴィオラス)

 

仮面の男が手を挙げると地面から植物のような物が噴き出す。一本一本がうねうねと動き先端の蕾のような部分がバカァっと開いた。

 

ブシャーーーー!!

 

涎をだらだらと垂らし鋭い歯が生えた口を大きく開けた。

 

「!ティオネ、こいつらは魔力に惹かれている。リヴェリア達を護れ」

 

「はい!」

 

フィンとティオネはいきなり出現した花のような化け物に対応していた。50階層で自分たちの武器をほとんどなくした一行はスペアの武器、または素手で戦闘を行なっている。

 

「うざってえぇんだよー!」

 

大きな口で食いついてくる化け物をティオネは両手で口を掴むと腕力のみで左右に引きちぎる。おそらくこの花の化け物のレベルは3ほどだ...ただ数が多い。

ルームが混戦になるなかリヴェリアの声が響いた。

 

「そんなバカなことがあるか!!なぜ回復しないっっ、レフィーヤ!」

 

「エルフ・リング」

 

レフィーヤはエルフ・リングを使用しベルに治癒の魔法を唱えた。...しかし、ベルの傷口は塞がることはなく血も止まる気配はない。ポーションをかけても同様だ。

 

回復魔法とは、魔力で対象者の生命力に働きかけ体を治療するというもの、再生魔法ではない、仮に再生魔法なら血液も再生するはずだ。少なくともリヴェリアの魔法は前者である。ポーションやエリクサーも回復アイテムであり再生アイテムではない。ベルの生命力はほぼ枯渇しておりもはや打つ手はなかった...

 

「っっく...」

 

「リヴェリア様!」

 

「まずは止血をしなければ。このままでは地上に着く前にベルは...」

 

リヴェリアは自身のローブを切り裂くとベルの傷口に当て止血を始める。噛みしめる口からは血が流れていた。

 

「うそ...うそ...うそ!ベル!しっかりして!」

 

ベルはアイズの方へと手を伸ばした。

 

「アイズ...さん」

 

アイズはベルの手を両手でしっかり握った。

 

「私はここだよ!」

 

「ごめ...なさい。もう、目が...」

 

「僕...」

 

「ベルしゃべっちゃダメ!傷口が!」

 

「アイズ!ベルの言葉を一言一句聞き漏らすな!」

 

手当をしているリヴェリアの目から涙が溢れつぅーと頬を伝って流れた。

 

「!ベルは死なない!だってベルは私の!...えい...ゆう...」

 

「僕は、オラリオに来てよかった...たくさんの出会いがあって...僕の事を家族と呼んでくれる人たちがいて...僕は幸せでした...今度は仲間を護ることができました。僕はロキファミリアの皆さんが大好きです...アイズさんが...大好き...でした......」

 

「いや...いやだぁーーーーー!!」

 

アイズの悲痛な叫び声がダンジョン内に木霊した...

 

 

 

 

 




読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

いろいろ考えていたら大分時間がたってしましいました<m(__)m>

今回は剣姫と白兎の物語独自の設定や状況が多くあります。回復魔法のところとか、器の限界を超えるとか...  ご了承ください<m(__)m><m(__)m>

次回タイトルのみお伝えします、 次回タイトルは逆鱗です。

更新予定は...お待ちください<m(__)m>


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43 逆鱗

こんなことって...


(そんな...また、私は見ていることしかできないの...)

 

目の前で死に向かっているベルを救うことができない絶望...

 

(そうだ...あの時も私は...ただ見ていることしかできなかった...私はあの時から何も変わっていない)

 

リヴェリアとレフィーヤの必死の治療は続いているが、ベルの意識は深い闇の底へ底へと沈んでいく。

 

「ベル...」

 

アイズは自身の手を見た、触れていた部分は血で濡れている。

 

「ベルの血が...血?!!」

 

アイズははっとし顔をあげた。

 

アイズの脳裏に浮かんだのはある言葉だった。ベルとヘファイストスファミリアに行った時の...

 

「初代クロッゾは精霊の血を受けて瀕死の重傷から回復した」

 

(そうだ、たしかにあの時そう言っていた!)

 

「リヴェリア!短剣を貸して!」

 

「アイズ、そんなものどうするつもりだ!?」

 

アイズはリヴェリアから短剣を受け取ると自分の手のひらを切りつけた。アイズの手の平から血が溢れる。

 

「リヴェリア、私には精霊の血が混ざってる。私の血を使えばベルは治るかもしれない」

 

「アイズさんに精霊の血が!?」

 

レフィーヤは目を白黒させているが切り替えてベルの手当を続けていた。

 

アイズはベルに自身の血を少しづつ飲ませた。しかしまだ変化は見られない...

 

(お願い...お母さん...どうか、どうかベルを...)

 

アイズの涙がベルの頬にポタポタと降りかかる。

 

ベルに変化はみられ...

 

「ベルーーー!!てめえは...てめえはアイズの英雄になるんだろうがぁー!こんなところでくたばってんじゃねぇ!」

 

熱い言葉だ、仮面の男にけりをいれつつベートが洞窟内に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。ベルの中、暗い闇にひとかけらの光が灯る...

 

(英雄...そうだ僕は...あの時誓った)

 

敵と戦う仲間達がいる。

 

(仲間...そうだ僕は...仲間を護りたかった)

 

アイズの泣く声が聞こえる...

 

(涙...そうだ僕は...アイズさんにもう泣いてほしくなくて)

 

【英雄になると誓ったんだ】

 

ベルのスキル(ルフテ)

 

体が死んでいく感覚の中スキルの力により細い糸でベルの命は繋がっていた。ベルの誓が弱まればその力も弱く糸も細く弱弱しくなる。しかし、ベートの声が、アイズの涙がベルの心に働きかけた。アイズの精霊の血は母親であるアリアより薄く治癒する力はないはずだった。ただベルは同じ両親をもつ家族、ベルの中に眠る精霊の恩恵とアイズの血が反応しベルの生命力をわずかだが回復させることに成功した。

 

光るベルの体を見るとベルの白髪に僅かに金色の髪が混じっていく...

 

「リヴェリア!」

 

リヴェリアはアイズの方を向くとうなずいた。

 

「レフィーヤ!ここで全魔力を込めろ、今しかチャンスはないぞ!」

 

「はい!」

 

リヴェリアとレフィーヤの回復魔法が僅かに復活した生命力に反応し体の傷を塞いでいく...

 

「よし!っっよし!これで止血はできるぞ!」

 

ベルの状態を確認したアイズは立ち上がった。

 

「リヴェリア...ベルをお願い、私...もう自分を抑えられそうになイ」

 

すっと剣を抜くとリヴェリア達に背を向けた。

 

「二人とも下がって、後は私がやル」

 

「ああ?何をいっ...!!」

 

「......!!」

 

ベートとティオナがアイズの方を見て固まった。尋常ではない殺気がアイズから放たれている。その怒りはベートの怒りを鎮め、ティオナの狂人化を解くほどだった。

 

「お、おお」

 

「わ、わかった」

 

二人は冷や汗が流れるのを感じた。

 

「お、おいバカゾネス。アイズのあんな顔みたことあるか?」

 

「...ない。アイズが本気で怒ってるところなんて今まで一度もみたことないよ」

 

食人花を一掃したフィン達もアイズの様子を見て大きく息を吐いた。

 

「彼らは触れてしまったんだ。剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの【逆鱗】に...」

 

あまりの迫力におされたベートとティオナはベル達の元へと下がった。ベート達が引いた瞬間を狙い大量の食人花(ヴィオラス)が突っ込んでくる。

 

アイズは目を伏せて静かに詠唱した。

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

アイズが風を纏うがいつもとは違う...

 

「黒い...風?」

 

アイズを包むのは黒い風、アイズのスキル心の炎(ハートフレイム)が具現化するほどの負の感情、相手に絶望を与える黒い風だった。しかし、アイズの黒い炎は心を壊してしまう...

 

アイズの一振りで食人花は跡形もなく消し飛んだ。

 

「な...なんだと...?」

 

仮面の男が後ずさりしつつ更に食人花を呼び寄せる。

 

「いくら抵抗してもかまわなイ、いくら逃げてもかまわなイ。私の大切な人を傷つけた罪は重イ...キエテ」

 

「やれ!その女を殺せ!食人花(ヴィオラス)!」

 

黒い風を纏うアイズは暴風を巻き起こしながら全てを薙ぎ払った。

 

「うあ゛あ゛ぁぁーーー!」

 

「まずいぞ、誰かアイズを止めろ!このままではアイズの心が先に壊れてしまう!」

 

アイズを中心として暴風が巻き起こり周囲に誰も近づくことができない。

 

「おいおい、これじゃ近づけねえぞ!」

 

「アイズー!」

 

「アイズ!しっかりしなさい!」

 

アイズに仲間の声は届かない...黒い風に包まれただ荒れ狂う人形のようだ。

 

その時...

 

「うっ...」

 

「ベル!意識が戻ったのか!?」

 

ベルの意識が戻ると同時にロキファミリアの団員達を光が包み体の中に光が吸収されていった。

 

「これは...ベルのスキルか」

 

家族の絆は仲間のステイタスを引き上げることができ、ベルとの絆が強いものほど効果は大きく上がる。周囲を見渡すとやはりアイズが一番多くの光を纏っている。黒い風に包まれたアイズの動きが止まった...

 

(あたた...かい...光...ベ...ル)

 

すっ...とアイズから力が抜け黒い靄のようなものが浄化されていく、動きの止まったアイズめがけて食人花が襲いかかるがフィンの投げた槍の一撃で壁に縫い付けられ動きを止めた。

 

仮面の男はやっと酒の魔力が抜けてきたのか、ロキファミリアとの戦力差が大きすぎることに気づき一度撤退を決意した。

 

食人花(ヴィオラス)喰え!」

 

一瞬でできた隙を狙い仮面の男は再度食人花を呼び出すとベル達に向けて大量に向かわせているうちに、ひとわき大きな個体の食人花に自分の食わせるとダンジョンに穴をあけ潜って逃げて行った。

 

「あの野郎!」

 

「ベート!追うな!この状況ではとても追い付けない。今はベル達を地上へ!」

 

穴に潜っていった仮面の男を追うつもりでいたベートだったが、フィンの指示で踏みとどまった。

 

「アイズ、大丈夫か?」

 

「う...ん。大丈夫」

 

「ベルの止血も終わった、リリーと刹那とルナを連れて地上へ急ぐぞ」

 

重傷を負った4人を抱え全速力で地上へと向かう...

 

ソーマファミリアの二人はミスリルの縄で縛られたままティオネに強制的に引きづられていった。

 

 

バベル

 

フィン達と別れたガレス達は順調に正規ルートを進み地上へと帰還した。

 

「ロキファミリア!?もう遠征から帰還したのか!?」

 

バベル内がざわざわするがロキファミリアのピリピリした雰囲気を感じ取り静まり返った。

 

「ここは狭い、バベルの外で待機するとしよう」

 

「皆、団長たちが帰ってくるまでバベルの外でまつっす!」

 

バベルの外へ出ると遠くからロキがはしって来るのが見える。

 

「おーい!おかえりぃーー!」

 

務めて普段通りにふるまっているが全速力で走ってぜぇぜぇと息を切らせている。

 

「なんじゃロキ、そんなに息を切らせて。珍しいこともあるもんじゃな」

 

「んーなんちゅうか...嫌な予感がしてな。今日あたり帰ってくる気がしたんよ。んでアイズたん達はどこにおるん?」

 

18階層でのダンジョンの振動とそれを感じ取った幹部たちが探索に向かったことをロキに伝えた。

 

「んーそやなー...ラウル!エリクサー買ってきてくれんか?最上級のやつや!ウチが支払うから証文だけもらってきてやー」

 

「え!?エリクサーっすか?いいっすけど...」

 

「今日ウチの子供達の中でダンジョンに行ってるのはリリー達のパーティーや、今頃上層を探索中やと思う」

 

(((!!!)))

 

「ガレスさん!俺たちもいますぐ上層を探索しましょう!」

 

団員の一人がガレスに進言した。皆も上層まできている間に死亡しているパーティーを見てきている。

 

「フィンからは待機せよとの命令じゃ、それに上層程度ならあやつらの感覚器官をもってすればすぐに見つけられるじゃろ。わしらは帰ってきた時に備えて準備をしておくことじゃな」

 

「「「はい!」」」

 

「じゃあ自分ダッシュでエリクサー買ってくるっす!」

 

「ウチは中入ってまっとるわ、他になにか情報ないかさぐりいれとく」

 

......

 

 

十数分後...

 

ダダダダダダッッッ

 

「どいてくれ!通してくれ!」

 

ベル達を抱えたアイズ達がダンジョンから帰還する。周囲にいたギルド職員や冒険者ががその様子を見て軽く悲鳴をあげた。

 

抱きかかえているベル達は全員血まみれ、殺気立っている様子を見ると何かあったのだろう...

 

「ベル!それに皆も!なにがあったん!?」

 

「ロキ、我らはディアン・ケヒトの治療院へ急ぐ。詳細はフィンに聞いてくれ!」

 

「雑務その他はウチにまかせえ!いくらかかっても構わん!頼んだで!」

 

4人を抱えた皆がバベルの外へと走り去った。

 

外へ出ると整然と整列するロキファミリアの仲間たち。ベル達の姿を確認すると全員から殺気が放たれた。

 

「何かあったようじゃな。中にフィン達がいるはずじゃ」

 

ガレス達が中へと入るとバベル内は尋常ではない雰囲気になっていた...

 

リヴェリア達に遅れてフィンとティオネが男二人を連れてバベルへと入る。

 

「フィン!そいつらは!?いったいなにがあったんや?」

 

ミスリルで縛られている二人はゆっくりと近づくロキにひぃぃと悲鳴を上げている。

 

フィンが先ほどおこった内容をすばやく伝えた。

 

「なるほどなぁ...なあおまえら...」

 

ビキッとロキの額に血管が浮き上がる...

 

「誰の子供に手だしたんかわかっとるんか?」

 

ロキの怒りによって神威が僅かに解放された。

 

バリンバリンバリン!!

 

開放と同時にギルド内にある魔石灯が一斉に割れる。

 

「なぁ、聞いてるんか?...戦争や...お前らには死ぬより辛いことがこの世の中にはぎょうさんあるっちゅうことを教えたる」

 

神威を開放するロキの肩に手を置く者がいる。

 

「なんやぁフレイヤ。今のウチに冗談は通じないで?」

 

後ろを振り向くことなくロキは答えた。

 

「そんなことしないわ」

 

フレイヤは傍にオッタルを控えさせたまま縛られている二人に向けて言った。

 

「あなたたち...あの子の光はまだまだこれから強くなる。こんなところであの子の光りを断つことになったら...ただじゃおかないわ」

 

二人は泡を吹いて気絶した...

 

「この件に関して私たちは全面的にロキに協力するわ」

 

なにかあったら言ってちょうだい、とオッタルを従え戻っていった。

 

ちっと舌打ちをするとロキは立ち上がった。

 

「神会を開く。オラリオにまだ闇派閥との関わりがあるやつらがおるかもしれん。フィン!面倒事は全てウチが引き受ける。ベルを頼むで、とりあえずそいつらはギルドの牢へ幽閉しとこか」

 

ギルド職員の手によって連れて行かれる二人...

 

 

「「「団長!!我々はいつでも行けます!!」」」

 

団員達が声を挙げる。

 

「フィン、相手はどこの馬鹿じゃ。儂が消し飛ばしてくれる!」

 

「まずはベル達のケガの治療だ。今治療院へ向かっている、何かあれば追って連絡があるだろう。ひとまずは皆黄昏の館へ帰還しよう」

 

治療院

 

ディアン・ケヒトファミリアのアミッドが4人の治療にあたっていた。

リリー、刹那、ルナは最上級のエリクサーを使用し輸血を行い容体も安定してきたが...

 

「この少年は...彼になにがあったのですか?おそろしく衰弱しています。私の回復魔法でも回復しない...これ以上手を打ちようが...!そういえば十数年前、ゼウスファミリアがまだ健在のころ特殊な回復薬の調合に成功したという噂を聞いたことがあります。生命力を回復させることができるとか...その時の情報を誰か知っていればすぐにでも調合が始められるのですが...」

 

「そんな...」

 

「オラリオ中探してその情報探ればいいだけだろうが!どこかしらで材料調達はしているはずだ、当時の事を覚えている奴もいるかもしれねえ。泣き言いう前に動くぞ!アイズとレフィーヤは何が起こるかわからねえ、ここにいろ」

 

一人考え込むリヴェリアはベルの髪をひと撫ですると立ち上がった。

 

「私は見当がある、先にそちらに行かせてもらう」

 

ベートとティオナは情報共有の為一度黄昏の館へと向かう。

 

 

 

豊穣の女主人

 

「いらっしゃいませぇー、これはリヴェリア様ようこそ...あの何かあったんでしょうか?」

 

シルがリヴェリアの表情から何かあったことを悟り表情を変える。

 

「シルか、ミアはいるか!?大至急確認したいことがある。このままではベルが死ぬ」

 

(((!!!)))

 

豊穣の女主人の皆が反応をしめした。

 

「少々お待ちください!すぐ呼んできます!」

 

......

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

今回は早めに書くことができました<m(__)m>

感想、評価ありがとうございます。この調子でお気に入り2000人
評価人数70人目指して頑張ります!


次回タイトル 【豊穣の女主人出陣】です

次回もできる限りはやめにかけるようにがんばります<m(__)m>


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44 豊穣の女主人出陣

今回も原作の設定変更が多く含まれますのでご了承ください。



まだ夕食には早い時間帯...店内には従業員しかおらずミアも厨房で仕込みをしている状態だ。

 

ベルと仲良く仕事をしていたリュー、アーニャ、クロエ、ルノアも入口までやってきて冷静沈着なリヴェリアが取り乱している様子を見て、緊張感が高まる。

 

「どうしたんだいリヴェリア!」

 

厨房の奥から手を拭きながらミアとシルが入口へとやってきた...

 

「ダンジョン9階層でベル達が闇派閥に襲われた。我々がたどりついたときには瀕死の状態でアミッドの回復魔法でもエリクサーでもまともに回復すらしない状況だ。ミアならこの症状を回復させる手段を知っていないか?」

 

腕組をして目をつぶって聞いていたミアが口を開いた。

 

「生命力の枯渇...おそらくそれだろう。ちょっと待ってな」

 

店の奥に行く前に従業員たちに声をかけた。

 

「今日は店は休みだ、仕込みの材料はまかないでみんなで食べちまいな」

 

((((お店を休む!?!?))))

 

従業員が休むことはあってもこの店を休みにするなどということは今までに一度もなかった。それほどの状態なのだと店員たちは理解した...

 

「あの...リヴェリア様。闇派閥は全滅したのではなかったのでしょうか?」

 

エプロンの裾をぎゅっと握りながら伏し目がちにリューが尋ねた。

 

リュー・リオンは正義のファミリア、アストレアファミリアの一人だった。

 

ゼウスファミリアがいなくなったオラリオは暗黒時代に突入し、都市は荒んでいた...

そんな中立ち上がったのがロキファミリア、フレイヤファミリア、ガネーシャファミリア、そしてアストレアファミリアだった。都市の治安回復に尽力する彼らに闇派閥は襲いかかった。中でもアストレアファミリアはダンジョン内に誘い込まれ敵の罠にかかってしまった。団員全てが第2級冒険者であるアストレアファミリアの奮闘により罠を退け敵を粉砕したかにみえたが闇派閥の団員複数人の命を代償にする呪い(カーズ)をかけられリュー以外の団員は永久石化の呪いにかけられてしまった...

 

死んでいない...しかしこの石化を直すことはどんな治癒術師にも、万能者(ペルセウス)にもできない。それを知ったリューの目には復讐という名の黒い炎が灯った。 

 

それからのリューは激情にかられるまま闇派閥を、それに組した者達全てに復讐をし闇派閥は滅んだとそう思っていた...しかし...闇派閥は全滅していなかった、ある者は都市の影に潜み、またある者はダンジョンに潜み機会をうかがっていたのだ...

 

「リュー・リオン、我が同胞よ。お前の戦いで闇派閥はほぼ全て殲滅した。しかし光があるところに影ができるように、闇派閥も決してなくなりはしないのだ...」

 

リヴェリアは続けた...

 

「ただ...奴らは決して怒らせてはいけない神を...ファミリアを怒らせた」

 

リヴェリアの美しい顔が僅かに歪む...

 

「ベルは仲間を護るため、己自身を盾に敵の攻撃を受け続けていたようだ...拷問のような攻撃を...っっ決して許さん!!」

 

あのリヴェリアが感情を抑えきれていない...

 

奥の方からミアが帰ってきた。その手には一冊の本が握られている。

 

「リヴェリア!治療院へ行くよ!この本に治療薬の調合方法が書いてある。あたしのとこの団長も同じ症状になったことがあるからねきっとベルにも効くはずさ。ただ調合難易度はAの更に上のSだ。覚悟しな」

 

その本はクレタの本と神聖文字(ヒエログリフ)で書かれていた...

 

「あたしが帰ってきたら店を開ける。それまでの間休暇だ。店の戸締りをしといてくれ後は好きにしていていい」

 

そう言い残しミアはリヴェリアと共に治療院へと急いだ...

 

店内に取り残された皆はお互いの顔を見合わせ無言でうなずき自室へと向かった。

 

治療院の扉を開けベルの寝ている部屋に足早に向かう2人。扉を開けるとベルの手を握り祈る二人の少女がいた。

 

目が腫れている...泣いていたのかもしれない...

 

「ミア...さん?どうしてここに?」

 

ひどく弱弱しい声でアイズは尋ねる。

 

「アイズ、そんなしょぼくれた顔してるんじゃないよ。そんな顔じゃベルに笑われちまうよ。さあ、二人とも顔洗ってきな」

 

リヴェリアとミアの顔をみて少しだけ落ち着いたアイズとレフィーヤは一度部屋を出ていき代わりに二人が入室した。

 

ミアはベルの顔を見るなり持っていた本のとあるページを開いた。何回も開いたであろうそのページは他のページより皺があり汚れている...

 

「これだ、この生命の秘薬(ライフポーション)ならベルの失われている生命力を回復させることができるはずさ」

 

「この素材は...すぐにロキとフィンに連絡しよう。一番時間がかかるのは37階層、ウダイオスを超えた先にある生命の泉の花か。すぐに遠征隊を組む」

 

ガタッガタッ

 

「アイズさん!?どこに行くんですか!?」

 

扉の外からレフィーヤの声が聞こえる。

 

「レフィーヤ!どうした!?」

 

「すみません、今の話が聞こえて、そしたらアイズさんがすごい勢いで外へ...」

 

「あの馬鹿娘め、一人で深層域まで行くつもりか!っっまずはフィンに知らせなくては、ミア!ここを少しの間頼む。レフィーヤ!一度黄昏の館まで戻るぞ!」

 

「しょうがないねえ、ベルはあたしにまかせな。その本をなくすんじゃないよ!」

 

黄昏の館

 

「フィン!ベルを直す方法が見つかったかもしれない、これを見てくれ!」

 

黄昏の館内には遠征から帰ってきたばかりだというのに殺気立つもの、焦りと不安な顔をするもの、書庫に籠り回復させる方法を探るものと混沌とした状態のようだ。

 

「これは...」

 

「ミアの...ゼウスファミリアの遺産だ。すでにアイズは深層域へと向かった。我々もすぐに動かなければ」

 

フィンが材料を一読し少しの間考えた後皆を大広間へと集めた。

 

「すでに皆しっていると思うが、現在ベルは生死の境にいる。今からベルを助けるためにある薬を精製したい。事態は一刻を争う、もうベルに残された時間は少ないだろう...各パーティに分かれてすぐに動いてくれ!」

 

「「任せてください!」」

 

「「ベルは家族です!絶対に助けるぞ!!」」

 

「「遠征疲れなんて関係ねえ、皆行くぞ!」」

 

各パーティのレベルごとに合わせた素材を振り分け素材入手に急いだ。

 

大広間に残ったのは幹部達、殺気だっているベートやティオナをなだめつつ高難易度の素材を振り分ける。

 

「おい!アイズはどうした!?」

 

腕組みをしたベートが周囲を見渡す。

 

「アイズはすでにダンジョンに向かった...」

 

「一人で深層域だと!?すぐに...」

 

ベートが走り出そうとするのをフィンが止める。

 

「まて!ベート!お前にはこれを頼む」

 

「世界樹の滴...だと?」

 

世界樹の滴とはエルフの里にある世界樹から採取できる高度な回復アイテムを精製する為に必要な素材である。オラリオでの流通量は極めて少なく今現在オラリオに在庫はない。故にここから一番近いエルフの里まで採取しにいかなくてはならない。

 

「ああ?んなもん俺がいかなくてもいいだろうが!」

 

「違いますッ!ベートさん!問題は距離なんです!」

 

ここから一番近いエルフの里でもオラリオから数百キロあり馬車を使ってもかなりの日数がかかる距離だ。

 

「チッしょうがねえ、俺が行く」

 

地図で場所の確認をし、大広間を後にしようとする。

 

「時間は限られている。間に合うかい?」

 

「誰に言ってやがる!間に合わせるに決まってんだろ!」

 

出て行こうとするベートをレフィーヤが止めた。

 

「待ってください!私も行きます!」

 

エルフの里は基本的に多種族との交流を望まない為狼人のベートが行くだけでは世界樹の滴がもらえないのだ。

 

「チッしょうがねえ、乗れ!」

 

ベートはレフィーヤに背を向けしゃがんだ。

 

「はい!...ってええ!?あの、背中にですか?」

 

ボフっとレフィーヤの顔が赤くなる。

 

「てめえが俺の足についてこれるわけねえだろ、時間がねえ。速く乗れ!」

 

おずおずとベートの背に乗る...

 

ベートが片腕を後ろへと回し浅く乗っていたレフィーヤを背負いなおした。

 

「ひゃんっっ!!」

 

(お...おしりに...)

 

「あ?なんだ?」

 

「いえ、何でもありません」

 

(恥ずかしい...けど、我慢我慢...)

 

用意されていたポーションをレッグホルスターに差し込みベートは扉へと向かう。

 

「おい、リヴェリア!アイズを頼むぞ!てめえらも急げよ!!」

 

 

そういうと最初からトップギア、全速力でオラリオの外へと向かっていった。この速さを維持できるのであれば馬などより遥かに早くエルフの里へとたどり着くであろう。

 

「んにゃああああぁぁぁぁぁぁ...」

 

あまりの速さにおかしな悲鳴をあげながら離れていくレフィーヤ...少しかわいそうだ...

 

ティオナ、ティオネ、ガレス共に高難易度の素材採集が命じられ各自部屋を出て行った。

 

「リヴェリア!君はアイズを追うんだ!いけるか?」

 

「無論だ、一度治療院に向かってからすぐに後を追う」

 

フィンは黙ってうなずいた。

 

「本来、このオラリオを離れる場合ギルドの承認が必要だからね。僕はロキとそちらの処理をしてから素材収集に向かおう」

 

 

 

治療院

 

扉をノックしようとしたリヴェリアだが中から話声が聞こえノックしようとした手を下げた。

 

治療院ではギルドで雑務を終えたロキがベルの元にいたミアと話をしているようだ。

 

「ミア母ちゃん、ええんか?もう引退した身やろ...」

 

「ロキ様、あたしはねぇ。後悔してるのさ。団長達が死んだあの時あたしがあの場にいれば何とかなったかもしれない...なんてことはいうつもりはないけどね。少なくとも仲間と共に死ねた...生きながらえちまったあたしはあの二人の子供、アイズを見守ることにしたのさ。知らない間に面倒事をかかえた子たちが集まってきちまったけどね。まあそれもいいもんさ...」

 

ベルの頭をなでながらミアは続けた。

 

「この子もあの二人の子供なんじゃないかい?最初にこの子を見たとき団長の気配を感じた。あたしが見間違えるわけないからね」

 

ロキはなんともいえない表情で無言のままでいる。

 

「あの二人の子供をみすみす死なせることはできないさね。この緊迫した状態だ、あたしもアイズを追うよ。リヴェリア、それでいいかい?」

 

二人に気を遣い気配を消していたリヴェリアが二人の前に現れる。

 

「さすがミアだな、私の気配に気が付いていたか」

 

「とりあえず時間もない、あたしの店まで来ておくれ」

 

ミアは立ち上がると出口へと歩いていく。

 

「ミア母ちゃん、でかい借りができた。この礼はウチの名に誓って必ず...」

 

ミアは顔を振った。

 

「礼なんかいらないさ。すでにあの子たちの面倒を見てもらってるんだ。あたしの方が借りを返す番さ」

 

「ミア母ちゃん...おおきにな」

 

「それじゃああたしの店に行くよ!」

 

治療院を出るとその巨体からは想像もつかないほどの速さでミアは店へと向かった。レベルの低い冒険者ならその姿を視界にいれることすらかなわないだろう...

 

豊穣の女主人はクローズという看板が掛けられ中は薄暗くなっていた。いつものこの時間なら冒険者たちで店はにぎわい店員たちは忙しく働いているはずだが今日はとても静かだ。

 

ぎぃと扉を開けると中には5人の影が...

 

「ミア母さん、準備は整っています。ここにいる者達以外は店の警備にあたります」

 

完全武装している者が3人

 

【疾風】リュー・リオン

 

【黒拳】ルノア・ファウスト

 

【黒猫】クロエ・ロロ

 

暗黒時代を生き延びた強者たちだ。それぞれがレベル4、修羅場を何回も潜り抜けてきた猛者だ。

 

貴族に扮している者が2人

 

【戦車の片割れ】アーニャ・フローメル

 

シル・フローヴァ

 

どこからどう見てもダンジョンに行く恰好ではないが何か考えがあっての事だろう...

 

「あんたたち、何をしているんだい?あたしは休暇を与えたはずだよ?」

 

腕組みをして5人を睨みつけるミア。

 

「私たちも共に行きます」

 

「たまには体動かさないと鈍るってもんです」

 

「にゃー、代金はベルの体で払ってもらうにゃ」

 

一人怪しい発言があるが大恩あるミアを一人でいかせない、一時期とはいえ一緒に働いて気に入っているベルが死に直面しているという状況にいてもたってもいられなかったのだ...

 

ミアはふぅーっと大きなため息をついた。

 

「まあ休暇をどう過ごそうがあんたたちの勝手だ。バイト代はでないよ!」

 

「で、あんたたちはそんな恰好してどこへ行こうってんだい?」

 

ふわりとスカートの裾を摘みシルが会釈した。

 

「エルドラド・リゾート、娯楽施設の最大賭博場に目当ての品があります。ミア母さん」

 

「にゃーカジノに行くなんて初めてニャ!みゃーの腕でちょちょいと景品とって来るにゃ!」

 

ミアは額に手を当てた。

 

「アルテミシアの葉かい?」

 

「さすがミア母さん、世界に数枚しかないといわれる素材です。めったなことでは手に入らないみたいですけどカジノのオーナーがお金をかけて1枚だけ入荷したみたいなんです」

 

「あんたたち2人で大丈夫なのかい?」

 

「大丈夫です!私が懇意にしている神様が何かあれば動いてくれるようなので」

 

ミアはまた盛大にため息を吐いた...

 

「あたしは用意してくるから3人は店の外でまってな、シル、アーニャ、あんたたちも無理はするんじゃないよ!」

 

そういうとのっしのっしと店の奥へと姿を消した。しばらくすると馬車が到着しシルとアーニャは娯楽施設へと向かった。

 

「ところでミア母さんはどこのファミリアだったの?リュー何か知ってる?」

 

ルノアが隣にいるリューに声をかけた。

 

「いえ、私もどこのファミリアに所属していたかは知りません...ただ、少なくともレベル5の上位以上なのはわかります。私が一歩も反応できない相手ですから」

 

その言葉にクロエが首をかしげた。

 

「にゃ?そんなに強いならもっと有名になってるはずにゃ」

 

3人とも腕に自信があり、オラリオの情勢を調べたことがあるので顔がリストに載っていれば知っているはずだった。

 

「まあお前たちが知らないのも無理はない、ミアも大分まるくなったからな...それに死亡扱いされている」

 

「死亡扱い...リヴェリア様それはどういう事でしょうか?」

 

外でそんな話をしていると店の中からギシッギシッと近づいてくる音が聞こえる。扉に近づくにつれ圧迫感のようなものが迫る。

 

ビリッッ全身を危険信号が駆け巡ってた。

 

扉を開けて出てきたのは顔まで覆い隠す全身黒のフルプレートの戦士だった。肩に担いでいるのは身の丈ほどあるバトルアックス...

 

リヴェリア以外の3人は一瞬にして背後に飛びのいた。全身から噴き出す冷や汗が自身と相手との大きな戦力差を表している。

 

「嘘...ゼウスファミリアは全滅したはずです...」

 

「あたしも賞金稼ぎだったから知ってるよ...というか知らないはずない」

 

「にゃ...死神(タナトス)だにゃ...」

 

クロエが尻尾をプルプルさせて震えている。

 

「死神とはえらく物騒な名前ではないか」

 

「みゃーの見た古い暗殺の依頼書...そこに書かれていたSSクラスの難易度の暗殺対象にゃ。SSクラスなんて何十人束になっても不可能、何人もの暗殺者を返り討ちにしたって話にゃ。だからファミリアの皆から死神とか鬼神とか呼ばれてたにゃ」

 

かつて最強と呼ばれたファミリア、存在するだけで犯罪抑止力になるとまで呼ばれた英雄たち。その中の一人がゼウスファミリアのNo2 ミア・グランド 二つ名は【黒の執行者】万物全てを両断する力を持っていると恐れられていた人物だ。ギルドの公式記録ではゼウスファミリア全滅時に戦死したことになっている。

 

「この鎧を身に纏うのも十数年ぶりかね...なんだいあんたたち、さっさと行くよ」

 

「「「はっはい!」」」

 

びしっと姿勢を正す3人にミアは苦笑した。

 

「あたしは過去の亡霊さ、仲間の死んだ知らせを受けたときあたしは一度死んだんだ...心を折られた、復讐する気すら起きないくらい粉々に...今はこの店の主人であんたたちバカ娘共の親代わりさ...ただ今一度,アイズとベルを助けるためにあの頃の自分に戻ろうかね」

 

バサッと鎧と同じ黒いマントを翻しバベルへと向かう、その背中には彼女の誇りでもあるゼウスファミリアのエンブレムが刻まれていた...

 

 

 




呼んでくださっている皆様、いつもありがとうございます。

評価お気に入り登録もありがとうございます。大変うれしく思います<m(__)m>

今回出陣シーンの挿絵を絵師さんにお願いしようとしていましたが、少々都合がつかなくなり挿絵がなくなりました。また後日アップしようと思いますのでお待ちください<m(__)m>

ミア母さんの設定、アストレアファミリアの設定変えております。当然原作を知った上での変更ですのでご了承ください<m(__)m>

はたして アイズとベルの運命は...

次回タイトル 階層主です。  更新までお待ちください<m(__)m>


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45 階層主

今回もオリジナル展開、オリジナル設定等ありますのでご了承ください。原作はもちろん知っていますが、全てを同じにしても他の人がかいている内容とかぶりますのでその辺はご了承ください<m(__)m>


オラリオの壁を越えてエルフの森までひた走るベート。背中に乗っている...もといしがみついているレフィーヤの顔色は悪い...自分では体感したことのないスピードの中軽く酔っていた...

 

(うぅ...)

 

ヒューヒュー...

 

ベートは荒い息をついている、無理もない、全速力で何時間も休憩なしで走ることは常人には不可能だろう、いくら高レベルの狼人であるベートでも限界はある。

 

「ベートさん、一度休みましょう!まだ先は長いです、一度補給を...」

 

額から汗を流しながらベートがとぎれとぎれに話す。

 

「後、数時間は、平気だ、俺を、誰だと思って、やがる!」

 

「でも!」

 

「ベルは、もっときつい目に、あったはずだ、こんなところで、へばってなんて、いられねえ。あいつは、死なせねえ!」

 

汗を腕で拭い夜風をきりひた走る、スピードを緩めることはない...

 

「舌、噛むぞ。もう、しゃべるな」

 

ベートはひたすらに走り続けた...

 

 

【バベル前】

 

「ミア母さん、このままバベルへと入るんですか?」

 

今現在いるメンバーはいろんな意味で目立ちすぎる...オラリオの暗黒時代に名を挙げた者達、英雄と呼ばれた豪傑、そしてオラリオ最強の魔導師のリヴェリアである。ダンジョン内でなら様々なルートがある為なんとでもなるがバベルの入り口はそうもいかない。他の冒険者、ギルドの職員、顔がばれてしまえば面倒なことになるはずだ...

 

「ああ、それなら問題ないよ。昔万能者(ペルセウス)に兜を作ってもらったことがあってね」

 

そういうと兜を3つ手渡した。

 

「リヴェリア、あんたはそのままでも問題ないだろう」

 

「ああ、私はこのまま行こう、ミア、おまえはどうするんだ?」

 

「今、ギルド内に強い気配はないからね、気が付かないだろう...あたしは先に一階層に行って待っているよ」

 

ミアはそういった瞬間4人の前から姿を消した...地面にはくっきりと足形が付いている。すさまじい速度でバベル内へと突入していった。

 

呆然としている3人だがリューガ口を開いた。

 

「リヴェリア様、ミア母さんのレベルは...」

 

「少なくともレベル6以上だろう、私も真正面から本気のミアと対峙したことはないがあの威圧感は異常だ。当時のギルドの情報では黒の執行者の情報は基本的に非公開になっていたのでな」

 

「...みゃー達必要かにゃ...?」

 

圧倒的な力の差にクロエは乾いた笑いを浮かべながらつぶやいた。

 

「うん...必要ないかもしれない」

 

腕組みをして呆然と見送るのはルノアだ。

 

「ルノア、クロエ、ダンジョンでは何が起こるかわかりません。どんなに強い冒険者でも足をすくわれることはある。私たちは全力でサポートするだけです」

 

「その通りだ、それにしてもお前たちも動いてくれるとは...感謝する」

 

バベルの中へと向かう途中、兜で見えない3人に向かい礼をいうリヴェリア。

 

「我々が好きで行くと決めたことです、気になさらないでください」

 

「にゃーギブ&テイク。報酬はきっちりもらうにゃ。みゃーはベルに甲斐甲斐しくお世話してもらうのにゃ」

 

「それいいわね!あたしもそれにしようかな」

 

真面目なリューに対して二人は相手がリヴェリアであってもマイペースだ。だてに豊穣の女主人でミアの元で働いているわけではない...

 

「あまり無茶な要求をしてアイズに怒られないようにしてくれ」

 

フッと笑うと気を取り直してバベル内へと入っていった...

 

バベルからダンジョンに入り一階層へと降りる。ギルド職員にも他の派閥の冒険者にも気が付かれてはいない...

 

「遅かったじゃないか、さあまずここから一気に18階層まで行くよ。遅れずについてきな!」

 

ミアは先頭に立ち最短距離で18階層まで向かった。レベル4の3人もミアのスピードに遅れずについていく。本気で走れば追い付けない...ミアはぎりぎり追い付いて来られる速さで走っていた。

 

「に゛ゃーミア母ちゃんあんな重そうな物持ってるのに半端ないにゃ、スパルタだにゃ!」

 

「クロエ、我慢しなさい」

 

「久しぶりにまともに動ける機会だと思ったけどきつい...」

 

ぶちぶち言いながらも必死にくらいついて行っている。ベルを助けたい気持ちは皆同じだ。

 

一方先頭を走るミアはほとんど戦闘を行っていない。現在は中層なのでモンスターの出現率は上層の比ではないはずだが突発的に生まれてきたモンスター以外近寄ってこない

そのモンスターも壁から出ようとした瞬間に瞬殺されていた。

 

先ほどミノタウロスが数十メートル前方の壁を壊して出現したがミアを見た瞬間ヴ!ヴモォォォ...と泣きながら逃げて行った...

 

「中層ってのはこんなに暇だったかい?久しぶりすぎて忘れちまったよ」

 

中層では勘を取り戻すどころか戦闘する機会さえほとんどない...これがミアのレベルだ。力の差が極端にありすぎモンスターがミアから逃げていた。

 

リヴェリアもその様子には苦笑するしかなかった。

 

【17階層嘆きの大壁】

 

「止まりな!」

 

ミアが手を広げ4人を止まらせた。

 

「妙だねぇ、この下の階層からゴライアスのような気配を感じる。いつから18階層に出るようになったんだい?」

 

リヴェリアも同様に気配を感じ取ったようで顔色が変わる。

 

「異常事態...こうも重なるものなのか...」

 

 

【ミアやリヴェリア達が18階層にたどりつく少し前】

 

ダンジョン18階層迷宮の楽園(アンダーリゾート)

 

ダンジョンにある安全階層のひとつ、水晶と大自然に満たされた世界でその面積はオラリオの半分にも及ぶ。天井は一面クリスタルで覆われ時間経過とともにその光は明るく、そして暗くなり昼夜がわかりやすい階層だ。

 

この階層にはレベル3のボールスという冒険者がトップにたつリヴィラの町があり数多くの冒険者が駐屯している。ダンジョン内ということもあり物価はかなり高めだ.

 

「ボールスさん!あれはなんだったんですかね?」

 

リヴィラの町で買い取り所を営んでいるボールスの元に彼の部下と思われる男が一人。

ボールスは大量に入った魔石をひとつひとつ鑑定しているところのようだ。

 

「あん?何がだ?」

 

表情ひとつ変えないボールスは興味がなさそうに適当に相槌をうっていた。

 

「いえ、ロキファミリアって遠征終わったばっかりじゃないですか?それなのに剣姫がものすごい速さで下層に向かうのを見た奴がいるんです!」

 

「ロキファミリアの化け物共を俺たちと同じ基準で考えるだけ無駄だぞ」

 

そんな話をしている中...

 

【17階層と18階層の中間にある異質な空間】

 

その空間にいるのは階層主であるゴライアスと赤髪の女、レヴィスだった。

 

「強化もここまでのようだな...さあ暴れてこい!」

 

 

ゴライアスは太い植物のような物で体の動きを封じられておりただひたすらに強化だけされていた。芋虫のようなモンスターと植物のようなモンスターの魔石を抜き取りゴライアスの口の中に詰め込んでいく...詰め込む度に悲鳴にも似た声と共に体から蒸気のようなものが上がっていた。最後に体内に宝玉と呼ばれる透明な球体の中に核のようなモンスターが入っている者を埋め込まれる。瞬間、

 

オオオオォォォーーー!!

 

絶叫をあげて体を縛っていた植物を力ずくで引きちぎり見境なく暴れは始めた。

 

「ふむ、理性がもたんか...失敗だな...」

 

ゴライアスはその大きな拳を振り上げると地面に叩きつけた。

 

ドゴォォォォン!!

 

轟音と共に18階層、迷宮の楽園へとゴライアスが落下する...

 

天井のクリスタルを破壊しズドンッと地面へと着地した。

 

だだだだだっっ

 

遠くから人の足音が聞こえる、ずいぶんと急いでいるようだ。

 

「ボールスさん!!ゴライアスが、ゴライアスが現れました!!」

 

「馬鹿かてめぇは、ここは18階層だぞ。寝ぼけてんじゃねえ」

 

焦ったように続ける男

 

「さっきの音聞こえなかったんですか!?急に天井からゴライアスが落ちてきたんです!」

 

んなわけあるか!とボールスが外を見るとゴライアスの巨体が木々を無作為になぎ倒しながら町の方へとやってきている。まだ遠くてゴライアスの変化には気が付いていない...

 

「チッ異常事態か。てめえら最近交通も滞ってたしあいつをかたずけるぞ!この町の冒険者全員に強制参加を伝えろ!従わねえやつはブラックリストに追加すると脅しをかけておけ!」

 

「はい!」

 

ボールス自身もこの階層で討伐したことはなくても17階層のゴライアスを討伐したことならある、今回も問題ないと思っていた...通常のレベル4相当のゴライアスならば...

 

町の外に出て迎撃体制の冒険者達...意気揚々と戦いに向かおうとしている、しかし...

 

木々をなぎ倒しながら姿を完全に見せたゴライアスの体を見て動きが止まる...

【異形】...体の色は紫がかった黒色をしており下半身からは触手のような物が何本も生え蛇のようにうねっていた。極めつけは目だ、黒い瞳は色あせ白目だけになった瞳には赤い血管が浮き出ており不気味の一言だった...

 

周囲から悲鳴のようなものが聞こえる...

 

「なんだぁありゃあ...ゴライアスじゃねえのか?気持ちわりい...」

 

おびえる皆に対してボールスが大声で叫んだ。

 

「野郎共!武器もった奴はあいつの足止めだ!魔法使える奴は後方で詠唱開始しろ!根性みせやがれぇ!!」

 

気味の悪いゴライアスに戸惑った皆に喝を入れ先陣を切って斧を担ぎ突っ込んでいった。それにつられるように他の面々も突撃していく。

 

ドゴォ!

 

最初に突っ込んだボールスが触手の一撃を受け後方へと吹き飛ばされる...斧が砕け散ったおかげでなんとか一命を取り留めた。

 

(こいつは...やべえぇ...強化種か?)

 

この中で一番強いボールスが吹き飛ばされたことにより動揺するも数の力でゴライアスへと抵抗を試みる。

 

最前線にいた数人が触手にはじき飛ばされ上空に舞う...

 

「うぁあぁぁ!、助けてくれぇぇ!」

 

空中に浮かぶ獲物に対してゴライアスは大きく口を開けた。

 

ブシュ!ボリボリボリ....

 

「あいつ...喰いやがった...だめだ皆逃げろぉ!」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げ出す冒険者達、もともと指揮系統も整っていいない烏合の集団だ。作戦もなにもあったものじゃない。上層へと逃げようとするが巨大な岩で入口は塞がれている。レヴィスが置いたものだろう、この階層から冒険者を逃がさないつもりのようだ。

 

悲鳴と怒号の中、眼前へと近づいたところで魔法の詠唱が終わる。

 

多数の冒険者がゴライアス目がけて魔法を放った。

 

火風水土雷氷の魔法...体を炎で焼かれ風で切り裂かれ水の刃で貫かれる。地面からは鋭い岩が突き出し頭上へと雷を落とされ鋭い氷で突き刺された。

 

キャアァァァァ!!

 

耳を貫くような悲鳴を上げながらゴライアスが巨体を揺らした。

 

が...倒れない。そればかりか煙を挙げながらどんどん傷口が塞がっていく。

 

「ボールスさん!」

 

今の魔法の攻撃で倒れない相手を倒すすべはない、そう悟ったボールスは大声で指示をだした。

 

「撤退だぁ!上層へ急げ!」

 

「上層への階段が大岩で塞がれています!あの大きさは簡単には破壊できません」

 

最初に上層へと一目散に逃げた者たちがボールスの元へとやってきた。その顔は青ざめている。

 

「チッ、なんでそんなもんが...町の高台に倉庫があるだろう、そこに鉱物採取の時に使う爆薬が大量にある。管理をしているのは俺だ。それでその大岩をぶっ壊すぞ!」

 

生き残った冒険者を引き連れ高台へと走る。しかし、傷が癒えたゴライアスがその巨体を揺らしながらゆっくりと後を追いかけてきていた。大きな口から咆哮を放ち周囲を破壊しながらだ...

 

ボールス達が高台へとついた時にはすでに後方数十メートル地点には迫っていた。鍵の束を部下に渡し自身は大盾を構えた。遠くから大きな破壊音が聞こえる、何かが爆発したような音だ。この階層に生き残っている誰かが大岩でも壊そうとしているのかもしれない...

 

そうこうしている間に倉庫の扉が開きボールスの部下が中へと入り火薬を持ち出そうとしていた。

 

「...無理だ、もう間に合わねえ...」

 

眼前に迫るゴライアスがその大きな拳を振り上げる。

 

「あああぁぁぁーーもう無理だぁーーーー!!」

 

全員が盾を構えるボールスの背後に固まり抱き合っていた...

 

「俺様もここまでか...」

 

ボールスも諦めの表情を浮かべ目をつぶった。

 

ドンッッ!!

 

ブワッと衝撃波のようなものが広がった。いつまでたっても来ない衝撃にうっすら目をあけるとそこには黒い鎧に紋章の刻まれたマントを羽織る人物が片腕でゴライアスの拳を止めていた...

 

 

【時は少しさかのぼり】

 

「なんだいこれは?通路が塞がれてるじゃないか」

 

18階層への入り口は何か大きなもので塞がれている。

 

「ミア母さん、ここはあたしが」

 

「やってみな!」

 

ルノアが拳を握りしめ腰を落とす。そのまま体重移動し足を踏みしめ拳を突き出した。

 

ドンッッ

 

入口を塞いでいた物を粉々に粉砕しガッツポーズをとるルノア。

 

「相変わらずの馬鹿力だにゃー脳筋」

 

「うるさいよ、この陰湿猫」

 

「わちゃわちゃするんじゃないよ。アイズもここを通っているはずさ、まずは情報収集だよ。あたしは先にいくからあんたたちもついてきな」

 

「3人とも準備はいいか?我々も向かうとしよう」

 

音のする方向へと5人は急いだ。

 

(ゴライアスってのはあんな気色の悪い奴だったかい...?誰かの手が加わっているような気がするね)

 

ゴライアスが男たちに拳を振り上げたところでその間に体を滑り込ませると片腕を前に突き出した。ズンッという衝撃がはしるが顔色一つ変えない...

 

オオオォォ!!

 

ゴライアスは自分の腕がなくなっていることに今更ながら気が付き悲鳴を上げながら後方へと倒れ込んだ。ミアが攻撃を止めた後担いでいたバトルアックスで手首から下を切り落としていたのだ。相手が切られたことを認識することがでない速さだった...

 

「あんたたち!状況を説明しな!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

ミアの怒声にその場にいた全員が姿勢を正し、ゴライアスの突然の襲来を簡潔に伝えた。

 

「なるほどねぇ...」

 

「お前たちアイズを...剣姫をみなかったか?」

 

ミアに続いたリヴェリアがボールスに尋ねた。

 

「リヴェリア・リヨス・アールヴ!?ロキファミリアか!助かったぜ!あー剣姫のことだったか...」

 

ロキファミリアが来たことで余裕になったのかにやにやし始めるボールス。その首にバトルアックスが付きつけられた。

 

「はやくしゃべりな、じゃないとその首を叩き落とす」

 

ひぃぃぃ...

 

「す、すんません。剣姫なら下の階層に向かいました」

 

ミアはまたバトルアックスを担ぎ直しゴライアスの方へと視線を向けた。

 

「3人とも少しだけそいつの相手をしておくれ!」

 

「「「はい!」」」

 

「リヴェリア、あたしがやる。手を出すんじゃないよ!」

 

「わかった、見物させてもらおう」

 

リュー、ルノア、クロエはゴライアスへと向かっていく。

 

「にゃーまずみゃーから行くにゃ」

 

クロエは両手に長く鋭い針を構えた。触手の攻撃をかいくぐりゴライアスの関節部分に針を打ち込んでいく。ゴライアスの硬い皮膚を貫通させるのはミスリルの針だ。関節部に差し込まれた針は回復を阻害、そして腕の振りを阻害した。暗殺術に長けたクロエの必殺だ。この方法なら毒が効かない敵でも動きを止めることができる。

 

「相変わらず厄介な技ですねクロエ」

 

リューは両手に長剣を構えた。舞うように長剣を振るうとゴライアスの触手を全て断ち切っていく。かつてはアイズと常に比較されていたリューだ。今もその技は衰えていない。

 

「あんたの方がよっぽど怖いよ、まったく...」

 

リューの断ち切った触手の隙をつきゴライアスの足元まで行くと無造作に殴りつけた。

ゴッという鈍い音がする。

 

「こいつ硬い...仕方ないなぁ」

 

ルノアの強力な抜き手、皮膚を裂きゴライアスの足の健を抉り取った...

 

その場にいた冒険者は唖然とその様子を眺めていた。あの戦い方に見覚えのある者もいたかもしれないがリヴェリアが共にいる為、ロキファミリアの戦力だと勝手に納得していた。

 

「お、おい...黒い鎧の旦那。あんたのそのマントの...」

 

ボールスはミアのマント、そこにあるエンブレムに気が付いた。

 

「あんた、そのエンブレムはいけねえ、そのエンブレムはゼウスファミリアの...!!まさか...黒の執行者...いやそんなはずはねえ。あの人達は皆死んじまったんだ...」

 

バトルアックスを担ぎ直しゴライアスへと向かっていくミア。

 

「あんたたち、ここで見たことを他言したら...殺す」

 

ミアから放たれた殺気に皆無言で頷くことしかできなかった。

 

3人の攻撃でゴライアスは傷を負っているが決定打にはかけている。再生能力が非常に高く傷を負ってもすぐに回復してしまっていた。

 

「あんたたち、下がってな」

 

ミアはゆっくりとした足取りでゴライアスへと向かっている。その背後からは陽炎のようなものが立ち上がっていた。ミアが右の手のひらを切り血をバトルアックスに吸わせると刃が赤黒く染まっていく...

 

ゴライアスは咆哮をあげながら拳を振り下ろした。ミアはその腕に乗ると上空へとジャンプした。

 

「久しぶりに本気を出してみようかねえ...」

 

バトルアックスを大きく振りかぶる...

 

崩壊の戦斧(カタストロフ)

 

ズドォォォォン!!!メキッビキビキビキボゴォ!!

 

ミアがゴライアスの頭上へと振り下ろした一撃は頭上から魔石まで一気に裂くと18階層の地面を文字通り下の階層まで叩き割った。

 

「ふむ、やっぱり皆がいないといまいちだねぇ」

 

階層を下まで砕いた一撃でさえも納得がいっていない様子だ...

 

「あのゴライアスを一撃でか、さすがに言葉がないな」

 

「ドン引きにゃ」

 

「ドン引きですね」

 

「ドン引きだわ」

 

ミアの一撃でゴライアスは魔石と宝玉を一刀両断され灰になっていた。それ以上に階層を両断したことにひいていた。ヒビを入れる、砕くというレベルではなかった...文字通り両断だ。

 

「さあ、あんたたち。ちょうどよく穴も開いた。ここから下へ行くよ」

 

そういうとミアは穴へと飛び込んでいった。他の4人も同様に穴へと飛び込みアイズを追った...

 

「本物だ...生きて、生きていたんだ...」

 

ボールスががくりと膝をついた。

 

「ボールスさん、あの化け者はロキファミリアじゃないんですか?」

 

「いたんだよ、十数年前に...今のロキファミリア、フレイヤファミリアより強い、英雄達が...」

 

全員に伝えろ、今見たことを忘れねえと命はねえぞ...

 

ベルを助ける為の戦いは続く...

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます<m(__)m>

評価も目標の70を超えました、お気に入りも1800人を超えました!皆様のおかげですありがとうございます!これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします。

ゴライアス...強化してもミア母さんに瞬殺されました...赤髪の女、レヴィスはこの光景をみてどう思ったでしょうか...

次回タイトル グランドカジノ

更新までお待ちください。

PS

評価していただいた方、メッセージをくださった方、感想を書いていただいた方には必ず返信していますが、もし返信していない方いたらすみません<m(__)m>



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46 グランドカジノ

歓楽街に向かう馬車の中

「アーニャ、この前のお店でのこと覚えてる?」

「いつのことにゃ?」

「娘を失った両親の話」

「ああ、あの時のことかにゃ。ひどい話もあったもんにゃ...」

「うん、調べてもらったらね。多分これから行くところに囚われているみたいなの」

「なるほどにゃ、ミッションは2つってことにゃ!何かあったらみゃーにまかせるにゃ!」

「うん!ありがとう、アーニャ!」

いざグランドカジノへ...


「うふふ...さあ、もう一勝負行きましょうか。テッドさん?」

 

妖艶な笑みを浮かべるシルは向かいに座る男だけに聞こえる小さな声で話しかけた。

ビップルームにいるギャラリーが見守る中二人の戦いは始まっていた...

 

 

豊穣の女主人を出て歓楽街へと向かったシルとアーニャ。グランドカジノの前まで行くと二人は馬車を降りた。

シルはシンプルだが体のラインがよくわかる紫を主とした美しいドレスを着ている。

アーニャは金色の細工を施したドレスを着ており二人ともどこからどうみても貴族にしかみえない。アーニャはしゃべらなければ、であるが...

 

シルの親しくしている神様のファミリアに用意してもらった金色に輝くパスを豪華な扉の前にいる係の者に見せると深々と礼をし扉が開けられた。

 

「にゃー!さっそく勝負するにゃ!みゃーの腕前をみせてやるにゃー!!」

 

「アーニャ!アーニャは私の傍に...」

 

シルの声が届く前にすでにアーニャはルーレットの卓の前に陣取っていた。鼻息荒くボールが回るのをみている。

 

シルは苦笑しながらゆっくりとアーニャの元へと歩いて行った。

 

(お金に興味はないけれど...ベルさんを助けるにはあの葉を手に入れないと。例の件もあるし...まずはこのカジノのオーナーを引っ張り出さないと)

 

シルがそんなことを考えている中アーニャはすでに3連敗していた。

 

「にゃ゛ーなんで勝てないにゃーー!!」

 

ムキになって大金を失っていくアーニャ。次は黒に今持っている全てのチップをかけるつもりのようだ。ルーレットのディーラーがアーニャが黒にかけたのを見てボールを投げ入れた。オラリオのカジノでのルールはディーラーがボールを投げ入れてからでも一定の時間がたつまではベットの変更が可能である。

 

シルはアーニャのチップを動かし赤に全額を投入する。

 

「にゃ!何するにゃ!」

 

「大丈夫、私に任せて」

 

にっこりほほ笑むシルにアーニャは顔が引きつる。

 

(シルのこの顔は...本気にゃ...)

 

ボールは赤に止まり2倍のチップがアーニャの手元の戻された。アーニャはひきつった笑顔のまま無言で席を立つとシルと入れ替わった。

 

「アーニャは私に触れていてくれるだけでいいから」

 

そう囁くとシルはルーレットに集中した。

 

アーニャ・フローメルのスキル

 

【招き猫の幸運】

 

触れている者に幸運をもたらすことができる

 

アーニャのスキルとシルの眼力により倍、倍、倍と赤か黒かの2択を確実に当てていく。

 

(自分の思ったところにボールを入れている...)

 

シルはディーラーの腕前を見極めていた。自分たちの今のチップは当初の64倍ほど。軍資金がそれほど多くなかったことを踏まえても一般のオラリオの労働者の1年分ほどのチップを手にしていた。

 

用意されるチップは多くすでに大勢のギャラリーができるほどになっている。周囲は大いに盛り上がりこの少女がどこまでかけるのかを期待し楽しんでいるようだ。基本的にこのグランドカジノは貴族や有力なファミリアなどの社交場にもなっている為新顔のシルとアーニャは普通なら多少の警戒はされるはずだが、すでに情報操作はできていた。このギャラリーには多くのサクラが仕込まれている、シルの幅広い伝手でそれを可能にしていた。

 

ルーレットのディーラーの頬につぅーと冷や汗が流れた...

 

「では次は全てのチップを黒に」

 

周囲からはうおぉぉ!と歓声が上がる。しかしその時ほんのわずかだがディーラーの表情が緩んだのをシルは見逃さなかった。

 

シルはチップを動かせるぎりぎりの時間に全てのチップを0に一点賭けに変更した。

 

(!!??)

 

ディーラーの表情は一転。絶望の表情に変わった。カラコロとボールが転がり落ちた場所は赤でも黒でもなく緑の0だった、配当は36倍、一気に見たこともないほどの大金を手に入れた。

 

周囲からの大歓声、その歓声をかき分けでっぷりとした腹の趣味の悪い指輪を付けたドワーフの男とその護衛らしき男二人が拍手をしながらやってきた。

 

 

「いやーはっはっは、これはすばらしい。その美しさと強運私もあやかりたいものですな」

 

シルとアーニャの前に男が立つ。

 

「あなたは?」

 

「これは失礼しましたな、私はテリー・セルバンティス。このカジノを経営しております」

 

薄く笑みを浮かべるシル。

 

「わたくしもお会いできて光栄ですわ、テッド...テリー・セルバンティスさん」

 

スカートの裾をつまみシルは礼をかえした。先制攻撃も忘れてはいない。

 

(この女...今なんといいかけた?まさか...)

 

「今日ここにきた目的はは二つありますの」

 

ちなみにアーニャはシルの言葉使いと表情の変わりようにやっぱりシルが最強だと改めて思っていた。

 

(...やっぱりシルは魔女にゃ...)

 

「一つはアルテミシアの葉」

 

「おやおや、あの葉を求めているのですが、あれは高度な回復アイテムと認識していますがどなたか助けたい人でもいらっしゃるのですかな?」

 

その問いには答えずにシルは続ける...

 

「もう一つ、人を探しておりますの」

 

「ほう?探し人ですか、それとこのカジノが何か関係があると?」

 

更に続ける

 

「私の知人から聞いた話なのですが...知人は悪漢達の誘いに乗ってしまい賭博に手を染めて財産を奪われた挙句、大切な一人娘をさらわれてしまいました。もちろん、賭博に応じた知人が愚かだったのは明白。しかし、私はこんな話を聞きました」

 

シルの話を聞くテリーと名乗る男の頬がぴくつく...

 

「大勢の麗しい娘を懐に囲う一人の男の話を...その男は...」

 

(この女...)

 

テリーはシルの言葉を遮るように大声で話し出した。

 

「なるほど、事情はわかりました。アルテミシアの葉は世界でも数枚しかない貴重なアイテムですが私との賭けに勝てたらお譲りいたしましょう。本来はこのカジノの繁栄の為、飾っておくだけのつもりでしたがいいでしょう。このままではこのカジノにある全ての金貨をもっていかれてしまいそうですしなぁわっはっは...」

 

周囲にはここの経営者としての気前のいいところを見せておきたいテリー...

 

「もう一つの件につきましてはそれが本当のことなら嘆かわしいことですな。私もその娘達を探すことに尽力いたしましょう。私に勝てたらですが...」

 

シルはにっこりと笑った。

 

「わたくしが負けた場合は、如何様にでも」

 

(俺の秘密を知る者を生かしてはおけんが、この女達程度なら軟禁状態にでもして楽しめばいい。何かあっても俺にはこの二人がいる)

 

背後に控える二人にテリーが目くばせすると2人は無言でうなずいた。

 

「いいでしょう!それではここでは何かと不便ですし、高額な賭けとなりますのであちらのビップルームでの賭けといたしましょう」

 

(あの扉の向こうは俺の庭、誰にも邪魔はさせん)

 

他に仲間がいる可能性があった為、テリーは二人をビップルームへと案内した。シルも

今回お願いしたサクラ達に目くばせをし後は自由に、と合図をした。

 

扉をくぐるとそこは先ほどまでのカジノエリアとは異質な空間になっていた。そこでバカラやポーカーといった賭けをしているのは貴族達の中でも更に特別な会員たちなのだろう。先ほどまでは豪華という単語があう場所だったが、この場所はサロンのように落ち着いた場所だった。そこで働くスタッフは男性以外は皆美しいドレスを身に纏いにこやかに仕事をしていた。

 

「かわいそうに...」

 

そんな言葉が自然とシルの口から発せられた。にこやかに見える表情だが心は泣いているように感じられたからだ...

 

アーニャも同様に何かを感じ取ったようでピリッと僅かに空気が変わった。

 

シルとアーニャはビップルームの中央にあるテーブルへと案内された、スタッフがグラスを持ってやってくる。アーニャが受け取ると顔をしかめた。

 

「シル、飲んじゃダメにゃ。何か入ってるにゃ」

 

コクっとシルはうなずきグラスもらって飲むふりだけしテーブルへと置いた。

 

グラスに入っているのは僅かだが中毒性、依存性がある薬。少量だが継続して飲むことでその効果は発揮される。簡単に言えばこの場所へと来たくなるように誘導する薬ということだ。

 

対面に座ったテリーはにやにやと笑いながら様子を眺めている。美姫に囲まれ、美酒美食に囲まれ、大金に囲まれる...さながら一国の王、独裁者のように自分の立場に酔いしれている。

 

「それではゲームを始めましょう、シンプルにトランプを使ったゲームといたしましょうか」

 

カジノでの戦いはここからが本番だ...

 

 

 




読んでいただいている皆様ありがとうございます。

そしてお久しぶりです。大分更新が遅くなりまして申し訳ありません<m(__)m>

体の方も復活しましてこれからまた更新していきますのでよろしくお願いいたします。

今回はカジノでの一コマでした、次の話でカジノは完結します。

その次はアイズさんのお話になる予定です。

次回はあの神様も登場する予定なので皆様更新までまたしばらくお待ちください!


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47 グランドカジノ2

失うものは自分の全て...


「そうですな、それではこのトランプを使ってゲームをいたしましょう」

 

そういうと男性のディーラーがテリーの後ろからトランプを一組もってくる。

 

「一つのゲームですと公平に欠けるかもしれません。よってこのトランプを使用したゲームを3回行い先に2勝した方の勝ちといたしましょう」

 

シルはアーニャと顔を見合わせ頷いた。

 

「では先にお好きなゲームを決めていただきましょうか。レディーファーストということで」

 

シルは悩んだ末一回目の勝負はHighLowを行うことにした。完全な運任せのゲームなら招き猫の幸運のスキルの後押しで有利のはず。

 

「ではシンプルにHighLowを希望いたします」

 

このゲームはディーラーが引いたカードより自分のカードが高い数字なのか低い数字のなのかを当てるとうい単純明快なゲームだ。そこに技術は不要、単純に運が勝負の分かれ道になる。それならば招き猫の幸運のスキルが発動しているシルの方が有利といえよう。そこにシルの眼力が加わるのなら鬼に金棒だ。ディーラーの表情、瞳の動きを読み切る。

 

「いいでしょう。では先に3回勝利した方が勝ちとしましょう。両方勝利の場合は引き分けといたしましょう」

 

テリーが指をパチンと鳴らすと先ほどトランプを持ってきたデイーラーが恭しく礼をして卓についた。

 

ちなみに今回はAが一番弱くKが一番強い、ジョーカーは抜きだ。

 

ディーラーはトランプの束をシャッフルするとテリーとシルに一枚ずつ配った。そしてディーラーが最初に引いたカードはハートの7だ。数字的には大きくもなく小さくもなく難しい数字だ。

 

「テリーさん」

 

テリーの背後に控えている護衛の男がテリーに声をかける。

 

「くくっっ...このゲームはいい。普通に勝負するとしよう」

 

ぼそぼそと会話する相手に違和感がつのる。そもそもこの会場は相手の独壇場...強欲なテリーが真剣勝負をするとは思えないが...

 

シルは迷いなく選択した。

 

「Highにかけさせていただきます」

 

カードをめくるとスペードのQ問題なくシルは言い当てた。

 

シルはにっこりとほほ笑むとテリーの瞳を観察した。目があった瞬間テリーは心の奥まで覗かれるような感覚に陥る。

 

(...なんだこの悪寒は...この俺が気圧されているだと...)

 

「さ,さすがですな。なんの迷いもない。私はとんだ怪物を相手にしているようですな」

 

(この俺がこんな小娘なんかに気圧されてたまるものか。ここにはビップ達も多くいるんだ)

 

シルは扇子で口元を隠すとクスリと笑った。その余裕の笑みが更にテリーを熱くさせる。しかし、今は仕掛けを実行することはできない。

 

(まあいい...本番はここからだ)

 

「私はLowだ」

 

テリーは自分のカードを確認する、カードはハートのJ。これでシルが1勝先に得ることになる。

 

「まだまだこれからですぞ、次の勝負と行きましょう」

 

眉間に皺をよせつつ務めて冷静に次のカードをディーラーに要求した。

 

「うふふ...あなたの考えていることが手によるようにわかります...」

 

シルはぼそっと呟いた。それからシルは問題なく3連勝テリーはイカサマをしていないとはいえぼろぼろに負けたことにより大分イライラしている様子だ。

 

「これで3勝。このゲームは私の勝ちですね...テリーさん」

 

ビキっとテリーの額に青筋がたつ。 

 

「今日は幸運の女神様が私にほほ笑んでくれているようです」

 

拳を握りしめ、なんとか冷静さを保とうとするテリー。

 

「そうですな、ですが次のゲームはそうはいきませんぞ」

 

パチンと指を鳴らすと別のディーラーが新しいトランプを持ってくる。先ほどのトランプとは違い金色の装飾が施され豪華なつくりだ。

 

「ここからが本番です。次は私の番ですな。では2対2で行うmemoryでいかがでしょうか?遥か東の国では真剣衰弱というようですが」

 

そういうとディーラーがテーブルの上にトランプを並べ始める。

 

「真剣衰弱?なんにゃ?シル知ってるにゃ?」

 

「うん、お店のお客さんに教えてもらったことはあるけど...」

 

ぼそぼそと二人で話しているとテリーからルール説明があった。

 

「お二人ともよろしいですかな?それでは簡単にルール説明をさせていただきます。ここに52枚のカードがあります。このカードを2枚引いて同じ数字が揃えばその2枚は自分のものとなります。更に揃った場合もう一度カードを引くことができます。最終的に相手チームより多くカードを持っていた方の勝ちです。どうです?シンプルでしょう」

 

にやにやと先ほどまでのイライラした表情から一転、すでに勝利を確信しているような表情なのが気になる。

 

「にゃーそれならみゃーにもできるにゃ」

 

アーニャはやる気満々だがアーニャのギャンブルの弱さには定評がある...

 

「それでは、そちらの猫人のお嬢さんはこちらへ」

 

そういうとアーニャは卓の東側へと移動する。

 

現在の位置は卓の北側がテリー、南にシル、西にテリーの背後に控えていた男、東にアーニャという並びである。この時点でアーニャの招き猫の幸運の効果はきれた。

 

「アーニャ、ちゃんと自分のカード覚えててね」

 

「大丈夫にゃシル!みゃーに任せるにゃ!」

 

少し前にルーレットでぼろぼろに負けた記憶がシルにはよみがえる...

 

「私がなんとかしないと...」

 

順番は全員でダイスを振り一番大きな目がでた人から時計回りでカードを引くことになった。

 

 

全員がダイスを振る...

 

「ニャー!みゃーが一番ニャー!」

 

順番はアーニャ、シル、護衛の男、テリーという順番になった。真剣衰弱では一番最初に引いた者が有利とは限らない。最初に52枚のトランプの中からペアを作る可能性は低い、何順かしてカードの位置を記憶してやっとペアができ始めるのが普通だ。

 

「にゃっ!にゃっ!...にゃーー...」

 

アーニャが最初に引いたカードはハートのAとスペードの3、ペアはできずにふてくされながら元の位置に戻した。

 

次はシルの番だ。先ほどのテリー達の様子を見るにおそらくなんらかのイカサマをしている可能性は高かった。しかし、この場ですぐにそれを看破することは至難の業だ。カードの配置なのか、それとも特殊な加工でもしてあるのか、ディーラーの動き、相手の動きに神経を張り巡らせていた。

 

「では、私はこれで...」

 

シルの引いたカードはクローバーのKとハートの7ペアにはならなかった。

 

(1順目はしかたない、勝負は2順目から...!)

 

男たちは笑った。自分たちの勝利を確信したかのように...この勝負は始まった瞬間にほぼ敗北が決定していたのだ。今回使用した豪華なトランプ、このトランプには細工がしてあった...通常のシンプルなトランプなら傷や色合いの微妙な変化があれば違和感も出てしまうがこのカードはそれは趣味悪くゴテゴテと装飾が施されその違和感を消していた。作った本人でなければこの違いには気が付けないだろう

 

テリーの仲間の男がカードを引くが揃わない。

 

「それでは次は私の番ですな...」

 

一枚、また一枚とカードをめくるテリー。

 

「おやおや...どうやら幸運の女神様は気の多い神のようですな。はっはっは」

 

テリーの手元にはペアの山ができる。

 

「に゛ーうそにゃ!イカサマだにゃ!」

 

ガタッと椅子から立ち上がりテリーに対して文句を言うアーニャ。それを心底嬉しそうにテリーは眺めた。

 

「あなたたちのような人は稀にいるんですよ。己の欲なのか、正義感からなのかはわかりませんがね。私はそんな人たちの絶望する顔を見るのが楽しくてしょうがない...ここは俺の庭だ。俺が王なのだ!」

 

(こいつ...殺ってもいいかにゃ...?)

 

アーニャの目つきが変わると空気がピリッと張りつめた。テリーの護衛二人が自然と自分の武器に手をかける。

 

「アーニャ!」

 

シルはそっとアーニャの手を握った。

 

「ごめんね...少しだけ我慢して...」

 

言葉の意味が分からず首をかしげるアーニャ。シルの言葉はすぐわかることになる...

 

「それでは次のゲームに移りましょう。このゲームに勝利した方が勝者となります。お二人とも覚悟はよろしいですかな?もうすぐあなた方には自由がなくなる」

 

シルは自分のイヤリングをひと撫ですると次のゲームの提案をした。

 

「最後のゲームは一対一でポーカーはいかがでしょうか?」

 

にやりとテリーは笑い腕を組みながら大きくうなずいた。

 

(俺に負けはない...この勝負がついたらこの二人をどうしてやろう...うまそうだ、今から下半身が熱くなる)

 

今にも涎を垂らしそうな醜悪な顔をするテリー。見ているだけで鳥肌がたつ...

 

「いいでしょう。それではチップを用意いたしますのでそのチップがなくなったら者が敗者ということで」

 

テリーが指を鳴らすとガラガラと箱に入った豪華なチップが運ばれてくる。このチップは一枚100万ヴァリスだ。それが100枚ほどある...

 

ふぅーとシルは一度大きく息を吐くと目の前にいるテリーをまっすぐ見つめた。

 

「あなたがこのカジノの経営者としてイカサマをせずに勝負してくるなら...よかったのに...」

 

「なにを馬鹿な...」

 

コツッコツッコツッ...

 

「ここを通してくれるかしら?」

 

ビップルームの扉の前に誰かいる...

 

「この先はビップエリアで...あぁぁぁぁ...」

 

扉の前にいた男たちは腰から砕けるようにしてその場に座り込んだ。トロンとした表情で涎をたらしている。

 

「オッタル」

 

「ハッ!」

 

ずずずずっと扉が開かれる。そこにはこのオラリオでロキファミリアと同等の力を持ちレベル7、猪人の冒険者【猛者】 オッタルを従えた神フレイヤが立っていた。

 

ドレスコードのフレイヤは立っているだけで周囲を魅了していた、心を奪われるとはこのことなのだろう。扉を開けた瞬間、その姿を見たものはフレイヤの虜となる...

 

「あら、シル。久しぶりね」

 

フレイヤはにっこりとほほ笑む。

 

「これはフレイヤ様、こんな場所でお会いできるなんて...」

 

シルもにっこりとほほ笑んだ。

 

その様子を見て固まっていたテリーがダラダラと汗を流す...

 

(この女っ神フレイヤとつながりがあるのか!?俺はなんてことを....)

 

護衛の男たちもオッタルを見て戦意喪失、微動だにしない。

 

「面白いことをしているようね。私も見物させてもらおうかしら...」

 

ディーラー、そして相手のテリーのことを見つめるフレイヤ。

 

「あなたがテリー・セルバンティス?」

 

「そ...そうです」

 

魅了より恐怖が勝っているのだろう、がたがたと震えている。

 

「そう...この勝負でシルに勝てたなら私は何も言わないわ」

 

そういうともう一度フレイヤはディーラーを見つめた。ディーラーはフレイヤの方を見た瞬間へぁぁという妙な声を出してその場にへたり込んだ。

 

「あら、ディーラーがいなくなってしまったようね...オッタル!」

 

「ハッ!お任せを」

 

燕尾服に身を包んだオッタルが新しいトランプの束を要求し、それを受け取るとその大きな体からは想像できないほど可憐にシャッフルした。手や腕の動きがかけらも見えない。敬愛するフレイヤの命とあればどんな要求でも満たす。それがオッタルだ。

 

シルの隣でガタガタと震えるアーニャの頭を撫で落ち着かせもう少しだけ我慢してねと再度囁いた。

 

「ジョッキで一番強い酒持って来るにゃ!」

 

女性が持ってきた竜殺しという酒をがぶがぶ一気飲みをしシルの隣でシルの肩に頭をのせ沈黙するアーニャ...

 

「それでは勝負と行きましょう...心の準備はよろしいですか?テリーさん?」

 

ギリッと歯ぎしりとともに勝てばいいんだ...そうなんども呟いて正面のシルを見つめた。

 

「いいでしょう...」

 

すっすっと二人にカードが配られる...シルは自分の手札を見て10枚ベットした。テリーは一度3枚交換するとにやりと笑い更に追加で3枚レイズする。

シルはにこやかな笑みを浮かべながら更にレイズを重ねた。テリーの手札はフルハウス...通常なら強い手だ。勝負してもなんら問題はない。ただこの勝負にかかっているのは自分の全てだ、今までのようにイカサマもできない...したところでオッタルの目をごまかすことはできないだろう...今まで悪行を重ねて甘い汁を吸い自分を王などと勘違いしていたずる賢いだけの男がこの大勝負で冷静でいられるわけもない。

 

賭け金が30枚までいったところでテリーはこの勝負を降りた。

 

手札が公開される。

 

シルの手札 ワンペアすらできていない

 

テリーの手札 フルハウス

 

「うふふ...さあ、もう一度勝負といきましょうか。テッドさん?」

 

小さな小さな声、対面に座るテリーにだけ聞こえるような声でシルは笑った。

テリーは自身の顔を両手で血がでるほどひっかきよくわからない声をあげている。

 

「ぐうぅぅぅっっ...アルテミシアの葉は差し上げます。なのでここで引き分けに...」

 

テリーが話し終わる前に大きくはないが透き通るように響くシルの声。

 

「ルールではチップがなくなるまでということでしたので続けましょう?」

 

いきなりガンッと卓に頭をぶつけ涙ながらに懇願し始めるテリー。

 

「すみませんでしたぁぁ...もう勘弁してくださいぁぁぁぃぃぃ...」

 

「...2回目のゲーム。イカサマを認めますか?」

 

あくまでも表情は変えずににこやかにシルがテリーを問い詰める。

 

「ばいぃぃぃ...しましたぁぁぁ...ゆるしてくださいぁぁぃぃ」

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔を何度も何度も卓に叩きつけ懇願するテリーをビップルームにいた招待客もドン引きしながらみていた...

 

「そうですか...では続けましょう」

 

シルがそういうとオッタルはトランプをシャッフルし5枚カードを配った。

 

クスっ

 

豪華な椅子に座ってワインを飲みつつその様子を眺めていたフレイヤは笑みをこぼした。

 

「シルは相変わらずね...怖いわ」

 

醜いテリーは見るに堪えないがシルの容赦のなさは見ていて気持ちのいいものだ。

 

シルは配られたカードをみてまた笑う...

 

「私に勝ちさえすれば全て丸く収まるのでは?テリーさん、でしたっけ?あなたには私に勝つしか未来はありません」

 

内心なんとかあやまってどうにかしようと表面上だけの謝罪をしていたテリーはわなわなと震え項垂れた。冷や汗の量も尋常ではない。

 

「ぐぅぅ...2枚交換だ...」

 

カードを確認するとテリーは5枚ベットした。

 

「私、人を見ることが好きなんです...たくさんの人がいるとたくさんの発見があって目を輝かせてしまう...それで人間観察ということを続けているうちになんとなくわかるようになったんです」

 

シルはにこにこしながら続ける。

 

「その人が今何を思っているのか...本当か嘘か、怒っているのか悲しんでいるのか...瞳はいろいろなことを教えてくれる。私はその人の瞳を見ると魂が見える気がするんです。先日も真紅の瞳の中にすごく美しい魂が見えるような人に会いました...とても純粋で真っ白で...」

 

席を立ちゆっくりとテリーの方へと足を進める。

 

「初恋かもしれません...その人の特別になってみたいと初めて思いました...でもその人には大切な人がいる...恋って難しいですよね...」

 

くすくすと笑いながら徐々に近づいていくシル。そしてテリーを見下ろした...

 

「ここで働いている美しい女性たち...彼女たちの目は絶望の光で満ちています。そして助けを求めています。彼女達にも大切な人たちがいるはず、そして彼女たちを大切に思っている人たちもいるはず...そんな彼女達の事を苦しめているあなたの事は...」

 

テリーまで近づくとぐいっとネクタイを掴んだ。

 

「絶対に許しはしない...」

 

氷のように冷たい目でテリーを見つめた。数秒見つめあった後すっと元の笑顔に戻りゆっくりと元の位置へ...

 

それからは早かった、テリーにはすでに相手と駆け引きするような気力は残されておらずシルは相手の全てのチップを手に入れた。

 

「これで私の勝ちですね。約束は守っていただきましょう」

 

「くっそぉぉ!こいつだけでも!」

 

テリーの後ろに控えていた護衛の二人が最後のあがきにシルを切りつけようとしたところを一人はオッタルによって腕を握りつぶされもう一人は起きたアーニャのけりが下あごにヒットし沈黙した。

 

パン!

 

シルが手を叩き大きな音がした。周囲がシンッと静まり返る。

 

「これで皆さんは自由です。それと今回の件に関わった皆様方、覚悟しておいてください」

 

シルの言葉にワーッと女性たちが声をあげシル達の元へとやってきてお礼を言っている。しかし今この場にいなく幽閉されている女性もいるようだった。

 

「シル、いいわ後は私に任せなさい。オッタル!」

 

「ハッ!情報操作、ガネーシャファミリアへの連絡は抜かりなく」

 

フレイヤは薄くほほ笑むと満足したように部屋を出る。部屋の外で待機してい4人の小人族と共にカジノを後にした。

 

  

「アーニャ、目的は果たしたしベルさんのところにいこ!」

 

そういうとアルテミシア葉の入った小箱を抱えアーニャの手をひいた。

 

「に゛ゃー頭痛いにゃ、ふらふらするにゃ。あの人が来るなら先に言ってほしかったにゃ」

 

シルはアーニャの前で手を合わせペロっと舌を出した。

 

「ごめんね、イカサマの可能性は最初から予想していたし、私だけでも勝てたとは思うけど...部屋の女性達みてたらムッとしちゃって...」

 

アーニャもそれには同感のようでうなずく。

 

「それに、フレイヤ様もベルさんの事気にかけてたみたいだったから...」

 

ついでにテリーもといテッドの悪行も潰せたことだしミッションは大成功だ。

 

カジノの外に待機していた馬車に乗りこみ二人は歓楽街を後にした...

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回はカジノ編最後ということで年内に投稿できてよかったです。

フレイヤさんが参戦したことにより本編とは違い戦闘はほぼおこらず戦意喪失という感じにまとめました。まあ原作と同じ流れすぎるとつまらないですし...<m(__)m>

これで年内最後の投稿となります、皆さん来年も良い年でありますように...

次回はアイズ決戦です。

イラストも入る予定ですのでお楽しみに<m(__)m>


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48 ウダイオス

ベルを直すため生命の泉の花を採取する...


豊穣の女主人のミアさんまで来てくれたんですね...」

 

治療院の洗面台で顔を洗い少しだけ落ち着きを取り戻したアイズとレフィーヤはベルの部屋へと歩いていく。

 

「うん...ミアさんは私がロキファミリアに入って少ししてから訪ねてきたの。なんでかわわからないけどその時ギュッと抱きしめてくれたことを今でも覚えてる...」

 

ベルの寝ている部屋の前まで行くとリヴェリアとミアが話をしているのが聞こえる。

 

「これだ、この生命の秘薬(ライフポーション)ならベルの失われている生命力を回復させることができるはずさ」

 

「この素材は...すぐにロキとフィンに連絡しよう。一番時間がかかるのは37階層、ウダイオスを超えた先にある生命の泉の花か。すぐに遠征隊を組む」

 

 

「ウダイオスを超えた先...生命の泉の花...」

 

アイズは部屋に入ろうとしていた足を止め何事か考えていた。

 

「アイズさん?」

 

ぶつぶつと何か言っているアイズにレフィーヤが話しかけた瞬間アイズは外へ向かって走り出した。

 

「アイズさん!?どこに行くんですか!?」

 

アイズは治療院を飛び出し装備一式のみで回復アイテムも食料も持たずにバベルへと向かった。

 

(ベル...待ってて...必ず助けるから)

 

風を纏ったアイズはなびく髪も相まって金色の風となって迷宮へと突入した。現れる魔物達も風を纏うアイズに触れるだけで細切れになっていく...

 

ダンジョン18階層

 

「すみません、これを...」

 

「剣姫!?ああ、これにサインを」

 

店員はロキファミリアが遠征を終えたことを知っていた為たった一人でわざわざ物価の高いこの階層の店に買い物に来たアイズに驚いていたようだが証文と引き換えに商品を手渡した。

 

アイズは受け取ったマジックポーションを飲み干すと再度風を纏い下の階層に走り抜けて行った。...

 

レベル5のアイズでも魔法を発動して全速力でこの深い深い迷宮をおりるのは不可能だ。ましてや戦闘をしつつ、である。

 

迷宮は下の階層へ行くほど広くそして魔物との遭遇も多い、アイズはベルと出会う前はよくソロで迷宮へと潜り戦いに明け暮れていたが深層域へ行く際は下準備を怠ってはいなかった。携帯食料や回復薬といったアイテムも持ち万全の状態で挑んでいた。しかし今回はそうもいっていられない。遠征の時のようにレベルの異なる大人数で深層へ向かう場合はかなりの日数を必要とする、アイズ一人といっても往復で数日はかかるだろう。ベルの容体がいつ急変するかわからないこの切迫する状況でアイズは焦っていた。

 

一人でダンジョンに潜るにしても、回復アイテムの類は持って行った方が体力も精神力も回復させながら潜ることができるので遥かに効率はいいはずだ。37階層を超えて目当ての物を採取できたとしても次はまたのぼらなくてはならない...アイズの体力はもつのだろうか...

 

はぁはぁはぁ...

 

精神力の限界が近づき一度魔法を解除してその場にしゃがみ込むアイズ。精神力が完全に切れてしまうとマインドダウンを起こしてしまう為気を付けなければならない。無造作に剣で壁を切り裂きモンスターが生まれるのを阻害して目をつむる。

 

心臓がバクバクなり滝のような汗が流れる...目をつむるアイズの脳裏には苦しそうに顔をゆがめるベルの顔が浮かんだ...

 

パチッと目を開けると唇をかみしめ立ち上がるアイズ。休憩もほとんどせずにまた下層を目指す,,,

 

どれくらいの時間が時間がたったのか...ついにアイズは37階層にたどりつく。

 

37階層白宮殿(ホワイトパレス) ここには奴がいる...

 

白濁に染まった壁面、五層もの大円壁とその間を繋ぐ無数の通路...そのどれもが上部より広く大きくその範囲領域はオラリオにも匹敵する...名もなき魂が彷徨いどこからともなく聞こえる悲鳴のような声は嘆きと呼ばれこの階層で死んでいった者達の魂が迷宮に囚われ嘆いていると冒険者たちの間では噂されている。この階層で死んだ者は奴の配下となり永遠の牢獄に閉じ込められてしまうと...

 

荘厳...鬼門...故にこの深層域への到達を成し遂げた冒険者はこの階層を白宮殿(ホワイトパレス)と呼ぶ...

 

「やっぱり...来た...」

 

ガコンッ ズズズズズズッッ

 

巨大な壁がせり上がり亀裂が走っていく...

 

ダンジョンは狡猾だ...まるで意志があるかのように冒険者を追い詰める。前回の遠征でいなかったはずの奴が今姿を現す...

 

オオオォォォォオオオ!!

 

レベル6 迷宮の孤王(モンスターレックス) 白宮殿の黒き骸王

 

階層主 【ウダイオス】

 

咆哮と共に現れたその姿はまるで死神のようだった。黒い上半身を次の階層の入り口の前に門番のように配置し、骨盤から下をこの広間の全域に広げどこからでも自在にして無限に漆黒の剣山を射出することができる厄介な相手だ。

 

こいつを倒さない限り次の階層へは行けない...

 

こいつを倒さない限りベルは死ぬ...

 

こいつを倒すしかないんだ...

 

こいつを絶対に倒す!

 

アイズの今のコンディションは最悪だ。体力、精神力の低下。睡眠不足による集中力の欠如...本来万全の状態でも倒すことの困難な相手を今ここで乗り越えなくてはならない...それに...

 

相手はウダイオス一人ではない、

 

レベル4 スパルトイ

 

ウダイオスと同じく骸骨でできた戦士だ。

 

王の意のままに生まれ続ける無数の雑兵、本来ならば30人以上ものパーティーで分散されるはずの猛攻がアイズ一人に向けられた。

 

「くっっ...」

 

大量に迫りくるスパルトイにウダイオスの強烈な貫通力をほこる逆杭(バイル)が風の防御を貫通してアイズに傷をつける。

 

(エアリエル)最大出力!

 

アイズは最大級の風を纏いスパルトイを吹き飛ばしながらウダイオスへと攻撃を仕掛ける。

 

ガギンッッ

 

「硬い...」

 

アイズの細剣はウダイオスの強固な骨に阻まれ魔石へ届かない...ウダイオスの魔石は強固な胸骨に囲まれ目には見えているはずなのにもかかわらず攻撃が当てにくいのだ。複数人であれば隙をつくことも可能だが一人ではそれもできない...

 

「退いて!」

 

風を使った高速移動からウダイオスの頭上へと細剣を叩きつける。頭に叩きつけたはずの攻撃はウダイオスの巨体からは想像つかない反応速度で避けられたかに見えたがアイズの攻撃はウダイオスの肩に命中した。

 

「吹き荒れろ!!」

 

嵐のように吹き荒れるアイズの攻撃でウダイオスの右肩の骨を砕いた。

 

グォォーーオオオ!

 

骨でできているとはいえ相手もモンスターだ、痛みで絶叫をあげる。

 

「いける!!」

 

アイズがとどめを刺そうとウダイオスに接近するがウダイオスを護るようにぞろぞろとスパルトイが這い出てくる...

 

大量のスパルトイがアイズの攻撃を止めている間先ほどまでの白いスパルトイとは違う黒いスパルトイが這い出てウダイオスの左腕に集まると巨大な剣へと姿を変える...

 

「なに...あれ...」

 

アイズ全身の細胞が危険信号を発し逃げろと叫んでいた...

 

(エアリエル)最大出力!

 

全力で後方へと下がるアイズに向かい巨大な黒い剣を構えたウダイオスは咆哮と共にその剣を振り下ろした。

 

オォォォォォオオ!!

 

轟音とすさまじい衝撃がアイズを襲う、壁際まで吹き飛ばされたアイズは全身の痛みに歯を食いしばりがくがくと震える膝に力を込め立ち上がる。

 

はぁはぁはぁ...

 

痛みをこらえてアイズは剣を握る...

 

「私の...」

 

アイズの体から黒い風が巻き起こる...黒い風を纏うアイズの攻撃力は通常の風を纏う

状態より遥かに高い。しかし、その分リスクも大きい...

 

「私の邪魔をしないで!!」

 

スパルトイの攻撃を受けながら強引にウダイオスに攻撃を仕掛ける、自分が傷つくことなど関係ないとでもいうような捨て身の攻撃だ。アイズの攻撃は確実にウダイオスへとダメージを当てえていた。しかし...

 

ビキッッ

 

アイズの体がウダイオスより先に悲鳴をあげる。大量のスパルトイの攻撃の他、(エアリエル)の連続行使による反動の痛みで数秒体が固まってしまう...

 

ウダイオスがその隙を見逃すわけもなく大剣を高々と構えアイズに向けて振り下ろした。衝撃波だけで先ほどのダメージなのだ。直接当たれば死は免れない。

 

大剣がアイズの眼前に迫る中何とか(エアリエル)を発動し細剣で防ぐも直撃を受け地面に叩きつけられる。瞬間パキンッッと乾いた音が鳴った...

 

左腕を振り上げグォォォォォーッッという勝利の雄叫びをあげるウダイオス。

 

王に同族はなく 王に慈悲もなし

 

征服せず    君臨せず

 

蹂躙し    粉砕し

 

一切合切等しく死を与えん...

 

恐れ畏みたまえ

 

王はいませり  王はいませり

 

凶王はここにいませり...

 

 

白宮殿の亡霊の声が響いた...

 

 

 

(寒い...怖いよ...)

 

黒い霧の中、アイズの目の前に一人で震える少女がいる...

 

血だまりに立ちすくむ少女は泣いている...

 

アイズは泣いている少女に近づいた。

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

金色の髪の少女は答えた。

 

「みんな...しんじゃった...」

 

少女が答えると周囲の霧が晴れる...周囲には大勢の死体が...

 

「わたしなにもできなかったの...おとうさんやおかあさんがたたかってるのに...」

 

金色の瞳から大粒の涙を流している。

 

「わたしにちからがなかったから...みんなしんじゃったんだ...わたしがよわいから...」

 

アイズはその子にどんな言葉をかけていいかわからず立ちすくむ。

 

「わたしにはおとうさんみたいなえいゆうはこないんだ、わたしなんて...わたしなんて...」

 

その女の子は落ちていたナイフで自分を傷つけ始めてしまう...

 

「わたしなんてしんじゃえばいいんだ」

 

「ダメッッ!」

 

アイズがその少女を止めようとした瞬間、一匹の真っ白な兎が少女の前に現れる。

 

「わあ...かわいい...」

 

カランっとナイフをその場に落とし血で染まった手を兎に差し出した。

 

鼻をひくひくさせた兎はぴょんぴょんと少女の周囲を回り少女の差し出した手にすりすりとすりよると血で染まった少女の手が癒えていく。

 

「だいじょうぶ、ぼくがきみのえいゆうになってあげる」

 

頭の中にかわいらしい声が響いた...

 

「わあ...ありがとう、うさぎさん」

 

少女はその白い兎を抱きかかえるとアイズの方に向きにこっと笑った。

 

「おねえちゃんもなかないで」

 

(え...)

 

アイズは無意識のうちに涙を流していた。

 

「わたしもまけない、うさぎさんといっしょにがんばる」

 

とことことアイズの方に歩いてきた少女はそのままアイズに抱きつくようなかたちですぅっと消えて行った...

 

「まけないで、おねえちゃん」

 

アイズは涙をぬぐい前を向いた。

 

「うん...私もがんばってみる」

 

パチッとアイズの目が開かれる。

 

一瞬の出来事だったのか、あれは夢だったのかそれはわからない。剣を握りしめて立ち上がったアイズの足元にはベルが遠征の前にくれた幸運の首飾り(ラビットシンボル)が落ちており中心に亀裂が入ると粉々に砕けて消えてしまった。

 

「また...私はベルに助けられたんだね...」

 

これで私は何回ベルに救われたのだろうか...アイズはそんなことを考えていた。私を抱きしめてくれた...私の英雄になってくれるといってくれた...私の醜い炎を浄化してくれた...

 

一緒に訓練をして

 

一緒にご飯を食べて

 

一緒に買い物をして...

 

そんな日常が幸せ...やっぱり私は...ベルが好きなんだ...

 

目覚めよ(テンペスト)(エアリエル)

 

アイズは静かに詠唱した。アイズを包み込むのは白い風、全身に力が漲るのを感じる。

 

ベルを助けなくてはいけない、それは変わっていないが先ほどより落ち着いている自分がいる。

 

「まずはあなたを超える」

 

ビシッと細剣をウダイオスに向けた...

 

 

 

 

 

 

ダンジョン深層域をひた走る一行

 

はぁはぁ

 

ぜぃぜぃ

 

......

 

 

「なんだい、もうばてたのかい?しょうがないねぇ少し休憩するよ」

 

岩場に腰をおろし滝のように流れる汗をぬぐう。

 

「まじかにゃ、ミア母ちゃんどんだけ体力あるにゃ」

 

「まあわかったてたけどね、改めてレベルの違いを感じるよ」

 

「私たちが足を引っ張ってしまっていることが非常に心苦しいですね...」

 

簡易鍋で何かドリンクのような物を作っているミアが3人に飲み物を渡しながら頭をポンポンと叩いた。

 

「何言ってんだい、あんたたちが荷物のほとんど持っててくれるおかげであたしは楽ができてんだよ。それにこのペースでよくもっている方さ」

 

「このペースは私でも厳しい、アイズとベルの為に動いてくれて本当に感謝している。ロキファミリアを代表して礼をいう」

 

リヴェリアもタオルで汗をぬぐう。ふぅっと息を吐きながら首筋を拭く姿はなんとなく艶めかしい...

 

「それにしてもアイズはどんなペースで下層に向かっているのやら...ところどころミアのおかげでショートカットはしているがまだ追い付く気配はないな」

 

今現在5人はモンスターの灰を頼りに下の階層へと向かっている。新しくできた灰を追っているがまだ追い付かないようだ。

 

「まあこのペースなら直に追い付くなり採集が終わったアイズに会うなりするはずさ。アイズも最短ルートを通っているはずだからね」

 

鍋の片づけを行い再度下層を目指してひた走る....

 

33階層...

 

「...リヴェリア、前回の遠征でウダイオスのやつは倒したのかい?」

 

何かを感じ取ったミアがリヴェリアに尋ねる。

 

「いや...遠征の時にウダイオスは倒していない。というより白宮殿にやつはいなかった。警戒はしていたが帰りにも遭遇はしなかったな」

 

「そうかい、...リヴェリア37階層まで先に行く。3人を連れて後から来てくれるかい?」

 

ミアの様子に何かを感じ取ったリヴェリアはうなずいた。

 

「じゃあ37階層で落ち合うよ、あんたたちも警戒しながらついておいで」

 

そういうとバトルアックスを軽々と担ぎ下の階層へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

37階層白宮殿(ホワイトパレス)

 

アイズとウダイオスの戦闘は熾烈を極めていた。お互いに一歩も譲らない...

アイズもレベルが上の相手に対して確実にダメージを与えている。

 

白い風を纏ったアイズは岸壁に足をつき最大級の風を纏った。

 

(エアリエル)限界出力!!

 

「リル・ラファーガ!!」

 

白い風を纏ったアイズは限界まで力を振り絞り一本の矢の如くウダイオスめがけて突撃した。ウダイオスも黒い大剣を振りかぶり全力で叩きつける。

 

力が拮抗し空中でぶつかり合い周囲にいたスパルトイは全て吹き飛ばされ灰となった。

 

「この胸の思いを力に変えて...うあぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

一瞬、黒い風と白い風二つの風が混ざり合い爆発的な威力となりウダイオスの大剣を破壊しながら魔石を貫いた。

 

「黒い炎も、白い炎も私の心...両方が私なんだ...」

 

誰でも心に負の感情を抱えている...それを拒絶することはきっと誰にもできないししなくてもいいのかもしれない。負の感情は決して悪いことだけではないのだろう...

それを受け入れることで白い炎もより強くなるということだ...

 

灰となったウダイオスを確認し足を引きづりながら前へ...

 

「ごめん、ベル。少しだけ...ほんの少しだけ休むね。すぐに行くから...」

 

そのままマインドダウンで前のめりに地面へと倒れ込んだ...

 

 

「...ウダイオスを倒したか」

 

赤髪の女レヴィスがつかつかとアイズに近づく。

 

ぐいっとアイズの髪を持ち上げ顔を改めて確認するレヴィス...

 

「やはりこの風はおまえか...アリア。生きていたとは驚きだ」

 

アイズを持ち上げブンッと投げると地面に手を突き刺した。

 

ずるりと禍々しい大剣を引き抜く...

 

「まあお前とあの時の決着をつけたいところだが我々の計画の邪魔になる不穏分子は排除させてもらおう」

 

ダンっと踏み切るとアイズめがけて大剣を振り下ろす。

 

ガギンッッにぶい音と共に腹部に強烈な痛みを受けレヴィスは背後へと飛んだ。

 

「あたしの兜を割るとは言い腕してるじゃないか。で...あんたは誰だい?」

 

ギロッとすさまじい殺気を放つミアは背にアイズをかばうとレヴィスをにらみつけた。

 

(この私が気圧されているだと...)

 

「まあしゃべらなくてもいいさね、あんたの体に聞こうじゃないか」

 

無言で殴りつけてくるレヴィスの拳をミアはがっしりと掴んだ。

 

「ッッッなんて力だ。腕が...チッ」

 

ぶちっという音と共に自身の右腕を引きちぎりミアに向かって火炎石を投げつけた。

腕に仕込まれていた火炎花のオイルに引火し爆発が起きる。

 

バトルアックスのひと払いで黒煙を吹き飛ばすがすでにレヴィスの姿はなかった...

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




読んでいただいた皆様ありがとうございます。

更新が大分遅れてしまい申し訳ありません<m(__)m>

今回はアイズvsウダイオスとちょこっとだけミア母さんvsレヴィスでした。

感想評価、お気に入り登録、メッセージくれた皆様ありがとうございます。おかげさまでお気に入りも順調に増えております。作者のテンションもあがっております。感謝感謝です<m(__)m>

今回は月島キリカさんという方にイラスト描いていただきました。かっこいいイラストありがとうございます。まだ先になりますが最上級に萌えるイラストも描いてもらいましたので(兎魂の主観です)また見てください<m(__)m>

次回 ベル君治療回最後になると思います

これからもよろしくお願いいたします<m(__)m>


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49 ベルの為に1

素材を持ち寄り調合へ


【シルとアーニャ】

 

グランドカジノで目的の物を入手したシルとアーニャはいち早くベルが寝ているディアンケヒトファミリアの治療院へと到着した。

 

治療院の中で団員達の報告を待つロキの元へシル達が到着しベルの寝ている部屋へと通される。

 

部屋に置かれている大きなベッドの上には苦しそうに顔をゆがめるベルが寝ていた。その腕には針が刺さっておりその針からエリクサーの入った袋が繋がれ少しずつ常に回復できるように配慮されていた。

 

「ロキ様、ベルさんの容体は......」

 

シルがその痛ましい姿に口元を覆いながらロキに問いかけた。

 

「見ての通りや、容体は悪化する一方やな。今はなんとかエリクサーで保っとる、やけどこのままじゃ後数日もつかどうか......いざとなったらウチが......」

 

ギリっとロキは歯を食いしばった、ベルへの気持ちとベルをこの状態にした闇派閥、それに組した者達への怒りでロキはすでに我慢の限界がきている。この件が片付き次第盛大に制裁を行うつもりだ。

 

「にゃー......白髪頭苦しそうにゃ......」

 

普段テンションの高い能天気なアーニャの耳と尻尾もへんにゃりと垂れ下がっていた。

 

「ロキ様、私にまかせてください」

 

「シル、なにするつもりや?」

 

シルは小箱からアルテミシアの葉を取り出し口に含んだ。

 

「にゃ?せっかくとってきたのにシルが食べちゃったにゃ!」

 

口に含んだままベルの元へとゆっくりとした足取りで近づく。

 

(ベルさーん、失礼しますねー?)

 

んぅーーちゅうーッッッ......

 

 

ぼうっと額に魔法陣が浮かび上がりベルの体に淡い光が吸収されていく、ビクンとベルの体が一瞬跳ね上がり少し穏やかな表情になる。

 

「シル今のは......大丈夫なんか?......ってか口にキスするかと思ったやん。こっちまでドキドキしたわ!」

 

ハンカチで口を拭うと朱に染まった頬で満面の笑みを浮かべたシルは振り返った。

 

「役得ですね!。これでもうしばらくは大丈夫ですよ!」

 

唇に指をそわせ頬を染めるシルはなんともいえない妖艶な魅力を放つ、吸い込まれそうなオーラを放っていたがしばらくするといつもの様子に戻った......

 

「シル!今のはいったいなんにゃ!?」

 

「秘密!誰にも言っちゃだめよ?」

 

ペロっと舌をだしながら指をアーニャの鼻先にちょんと触れさせた。

 

(やっぱりシルが一番おっかないにゃ-......)

 

アーニャは乾いた笑みを浮かべながら冷や汗を流した......

 

「シル、すまんなぁ......何か礼を」

 

「それではベルさんの初めてをもらってもいいですか?報酬ならそれで充分です!」

 

「いや-......それはあかんやろ!?本人寝とるし、ウチがかってにOKだしたりしたらアイズたんや皆にウチがぼこぼこにされてまう......それはベルが元気になってから本人と交渉してやー」

 

「初めてってなんにゃ?にゃ?」

 

よくわかっていないアーニャをよそに二人は笑いあった後シルとアーニャは治療院を後にした。

 

治療院を出た直後ふらつくシルをアーニャが支えた。

 

「ごめんねアーニャ、私少し疲れちゃったみたい......」

 

「にゃ!大丈夫かにゃ!?すぐ店まで運ぶにゃ!」

 

二人は役目を終え豊穣の女主人へと帰っていった......

 

 

 

【ロキファミリアの仲間達】

 

オラリオの町中を駆け回り素材の確保に奔走するロキファミリアの団員達。

 

「このリストの素材を売ってくれ!」

 

「調合できるやつはいないのか!」

 

「誰かこれを先に持って行ってくれ、俺は他の店をあたる」

 

各々がベルの為に奔走する姿は鬼気迫るものがある。皆がダンジョンから血だらけで抱えられて治療院へ急ぐ姿を目撃している。ソーマファミリアがかかわっているらしいこともすでに耳にしていた。本来ならすぐにでもぶちのめしに行きたいところだが今はベルの治療が先決ということもあり我慢している者がほとんどだ。

 

入手した素材は治療院へと集められ高難易度の調合が行える限られた者たちで必死の作業が行われていた。次から次へと来る素材、調合の難易度、疲労はたまる一方だ......

 

コンコン

 

治療院の扉がノックされる

 

「ここかい?ベル・クラネルの為に治療薬を作っているのは」

 

帽子をかぶりひょうひょうとした態度の神が一人の女性と共に部屋へと入る。

 

「ロキ、恩を売りに来たよ!」

 

そんなことをいう神に向かって連れの女性がバシっと頭を叩く......

 

「ヘルメス様、またあなたはそんなことをいって......神ロキ、申し訳ありません。後できつくいっておきますのでお許しを」

 

ヘルメスファミリアの団長でもあるアスフィがヘルメスの頭をがしっと掴み一緒に頭を下げた。

 

「気にせんでええで、今は調合ができる人材がほしかったところや。報酬の件は言い値でええ」

 

「冗談さぁ。僕と君の仲じゃないか!それに旅のついでにあの人に会ってきてね。孫をよろしくと頼まれたのさ」

 

被っていた帽子を片手で持ち胸に当てると軽くお辞儀をするヘルメス。

 

「気色悪......また知らない間に旅にいっとったんか。ってかウチとおまえにそんな仲はないわ!それよりあのエロじじいは元気にやっとったか?」

 

「......まあその話は後日また話そうか、今日のところはうちのアスフィが頑張ってくれるからさ!」

 

 

ヘルメスの様子に少しひっかかるものを感じたロキだが今問いただしてもこの男が素直に話すわけはないと判断し放置することにした。

 

 

「すまんなぁじゃあ調合の方まかせるで」

 

「お任せください、神ロキ。誰か私に調合のリストを」

 

治療院にいた調合師からリストを受け取ると一瞬目を見開きクイっと眼鏡をあげると指示を出した。

 

「難易度の高い素材は私に任せてください。寸分の狂いも許されない作業です。間違いなく調合難易度はSを超えるでしょう」

 

アスフィーの一言で他の調合師も気合を入れ直し作業を再開した。

 

【ベート・レフィーヤ】

 

風をきりひたすら走るベート達はようやく目的地であるレフィーヤの故郷へとたどり着いた。

 

ベートが足を止めると全身から汗が噴き出す、そのまま大の字に草むらに倒れ込んだ。

体が燃えるように熱い......全身を襲う疲労と長時間走り続けたことによる痛みに顔をしかめながらベートは世界樹を見上げた。

 

世界樹と名のつく大樹は世界各地にあるがこの集落の世界樹はひときわ大きく、別の世界に入り込んだような気分にさせられる。

 

「ユグドラシル、この世界樹はそう呼ばれています。神々が下界に降りてくる遥か昔、英雄達と共に戦った精霊が住むと里には伝えられています。世界樹の滴はその精霊が世界を憂いで流す涙なのだと......」

 

ベートの背から降りていたレフィーヤが世界樹を眺めるベートに対して説明をするが......

 

「そんなもんどうでもいい!速く目当ての物とってこい!」

 

「は、はいーーー!」

 

パタパタと村の入り口に走るレフィーヤ。その姿を見送りベートは目を閉じた......

 

穏やかな時間が流れるエルフの里、外界との接触を極力拒み森と共に生きることを望むエルフ達が多く住んでいる、レフィーヤは村の長がいるであろう世界樹の根元にある祭壇へと走った。

 

祭壇は上質な木材で作られ意匠が施されており年代を感じさせる。祭壇の両脇には常に警備の者が立ち、世界樹を外敵から守っている。迷宮内ほど強くないにしろ外の世界にもモンスターは存在する。世界樹に害をなす可能性があるものは排除するのが彼らの使命だ。

 

「長老様!」

 

祭壇には長老の他に里の上役が何人か集まっている。

 

「レ、レフィーヤ!久しぶりだのう.....すまんが今は少し......」

 

「イイヨォ、コノコナラダイジョウブ。ナニカヨウガアルミタイダシネ」

 

長老たちの影に隠れて小さな女の子がいる。透き通るような肌、薄緑色の髪と目をした不思議な子供だ。

 

「あの......その子はいったい?」

 

「こら、レフィーヤ!この方は......」

 

トコトコとレフィーヤに子供が近づく。

 

「ヒサシブリダネ。ワタシノコトワスレチャッタ?昔はよく遊んであげたのに」

 

レフィーヤの前まで来るといきなり大人の姿になった子供。同時に気配が変わった。

 

「え......まさかこの感じは、精霊!?」

 

世界樹、ユグドラシルに住む精霊。正確に言えば思念体のようなものだと長老たちは言う。里の長達しかしらない極秘事項だ。気配を変え気まぐれに現れては里を見て回るのが趣味のようだ。

 

「私の肉体は今はこの樹の一部のようなもの、過去の戦で無理をしすぎたからね。天界の神々がくるまではこの世界は混沌としていたの......」

 

じっとレフィーヤの瞳を覗き込むようにして眺める精霊、魂の底まで見透かせれるような感覚に襲われる。

 

「なるほど、クラネルの一族の子を救いたいということね。それにヴァレンシュタインの一族も一緒なのかしら。懐かしいわぁ......一緒に戦った仲だもの。血を分けたというべきかしら」

 

本物の精霊を前にして固まるレフィーヤ、そんな姿をおかしそうに精霊は眺めている。普段から神たちと接してはいるが神威を開放していない神たちは一言でいえば変人、変態が多い。おそらくこの目の前にいる精霊は精霊たちの中でも上位の存在。大精霊と呼ばれる存在だ。

 

「あ......あの、その」

 

あたふたと取り乱すレフィーヤに優しい笑顔を向けると頭を撫でた。

 

「世界樹の滴が必要なのでしょう?それとお友達も呼んだからそろそろ来るころね」

 

「貴様何者だ!?」

 

祭壇の入り口に向かい弓を向ける。殺気だった様子にレフィーヤが振り返るとそこにはベートがただずんでいた。

 

「ベートさん!?どうしてここへ!?」

 

「あ?呼ばれたからだよ。さっきの声はあんただろ?」

 

ベートは精霊の方に視線を向けた。

 

「貴様、精霊様に向かってなんという口のきき方を!」

 

殺気立つ皆を精霊は手をあげて抑えた。

 

ベートは里のエルフ達の殺気をものともせず精霊に話しかけた。

 

「世界樹の滴をくれ」

 

「世界樹の滴はとても希少なもの。この里で使用する分ですら最近では取れなくなっている。外部の物にくれてやる分はない」

 

長老と一緒にいたエルフの女性が無表情に答える。

 

「ここにいるやつら全員ぶちのめせば手に入るだろ?」

 

世界でも数少ないレベル5、ベートが今本気でここの里を滅ぼすつもりで戦えば問題なく皆殺しにできるだけの実力差があるだろう。

 

「強大な力を持つものによる無慈悲な攻撃、ベート・ローガよ。お主は自分がされたことと同じことをこの里にするつもりなのか?」

 

ビキッとベートの動きが止まった。ベートの脳裏には過去のトラウマが鮮明によみがえる。

 

「てめぇ......」

 

「おまえの心の闇は深い、家族を、仲間を目の前で失った深い絶望、力のなかった自分への怒り......弱い者、力のない者への苛立ちはすなわち自分への苛立ちなのだろう」

 

歯を食いしばりうつむくベートを心配そうに眺めるレフィーヤ。ベートの過去を知る者はロキファミリアでも数少ない。

 

「おまえはなんの為にここに来た?誰の為にここに来たのだ。世界樹の滴は無理やり奪うことは絶対にできぬ」

 

ぎりっと歯を食いしばったベートは大きく息を息を吐き出した。そしてベートの次の行動にレフィーヤは自分の目を疑った......

 

ベートは膝をおり頭を下げたのだ。

 

「助けてやりてえ奴がいる......そいつは仲間を救う為に自分の命をかけた。死なせたくねえ大事な俺の家族だ。頼む、世界樹の滴を譲ってくれ」

 

ボウっと世界樹が淡く光だしベートの目の前に世界樹の滴が一滴落ちる。

 

「はやく持って帰っておやり。おまえの大事な家族とやらに。あの黒龍を古代の時代仕留めきれなかった我々にも責がある。これはその詫びだ、受け取れ」

 

世界樹の滴をしまう隙をつきぐいっと顔を近づけ唇を合わせた。

 

「......は?」

 

「ジャアマタネーバイバイ」

 

石化したように固まった皆をおいて子供の姿に戻ると世界樹の幹をすごい速度で昇って姿をけした。

 

真っ先に回復したベートが自身の口を服の袖でグイッと拭きもう用はないというかのようにレフィーヤを引っ張り里の外へ走った。

 

「こっこら待て!」

 

追いかけようとする皆を長老が止めた。

 

「待ちなさい、あの者は精霊様に認められたのを皆も見たであろう。世界樹の滴が落ちたのがその証拠。我々も少しずつでも歩み寄る努力をしなければいけない時代になったようじゃ、ほっほっほ」

 

長老はやさしくほほ笑んだ。

 

里の外

 

「あ、あのわたし見たこと聞いたこと誰にも言わないので!」

 

「......乗れ。オラリオに戻るぞ」

 

背を向けたベートに乗るレフィーヤ。

 

「あの......いえなんでもありません」

 

(ベルの為に頭をさげたベートさん、すごくかっこよかったです)

 

そんなことを考えていたレフィーヤだがまたいきなりトップスピードで走り出すベートに悲鳴を上げる。

 

「初速だけもっとゆっくりぃぃぃぃぃーーー!!」

 

全速力でオラリオへと二人は帰還した......

 

【アイズ達】

 

アイズがマインドダウンで気を失っている間にミアが生命の泉から採取した花を持ち地上へと向かっていた。階層主を倒す為大分無理をしたアイズはリヴェリアママの背におぶさっていた。

 

「リヴェリア、私もう歩けるよ?」

 

「さんざん無理をして心配をかけたバカ娘は黙ってもうしばらく私の背にいろ!」

 

背にアイズの体温を感じながら子供の頃のようにアイズを背負うリヴェリアは本当にお母さんのようだった。

 

「あの......ミアさん達もありがとうございます」

 

ミア達の方を振り返りお礼をいうアイズ。

 

「あたしがかってにやったことさ。気にしないでおくれ。それにベルはうちの元従業員だからね、死なせるわけにはいかないさね」

 

バトルアックスをかつぎ豪快に笑う姿を見てアイズは思う。

 

「あの......ミアさん、昔、私が小さい頃に......」

 

「ベルが元気になったら二人で店においで。そこで昔話でもしてあげることにするよ。ま、事前にロキ様達の許可をちゃんともらってからだけどね」

 

アイズも思い出したはずだ。ミアがどこのファミリアに所属しどんな人物であるのかということを、アイズは黙ってうなずきそっと自分の目をぬぐった......

 

「にゃーそれにしてもきつい遠征だったにゃ、リューは報酬は何にするにゃ?」

 

殿を走るリュー、ルノア、クロエの声がダンジョン内に響く。

 

「私はクラネルさんが元気になればそれで充分です。ほしい物もありませんし」

 

「ホントにないのかにゃ?」

 

「......そうですね、しいてあげるならクラネルさんと一緒に働く時間は心地よいものでしたので。また少しの間働けたら嬉しく思います」

 

にやにやとその様子を眺めるルノアとクロエ。その視線に気が付きリューはそっぽを向いた。

 

「あなたたちの報酬は高難易度です、今ヴァレンシュタイン氏に許可をとっておいた方がいいのではないですか?」

 

「私に?私にできることならいいよ?」

 

アイズが振り返り3人の言葉に耳を傾けた。

 

「「元気になったらベルを(少年を)一日貸してほしい!!」」

 

「ダメ」

 

即答......二人の報酬交渉は続く......

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

更新大分遅れました申し訳ありません<m(__)m>

おかげさまで評価、お気に入りどんどん増えておりますありがとうございます<m(__)m>

次回ベル君の為に続きです。更新をお待ちください。 

活動報告書いたのでよければコメントお願いします<m(__)m>

PS
ダンメモ始めました、兎魂という名前いたらよろしくです笑
ID 1408628807


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50 ベルの為に2

オラリオではロキファミリアの団員が重傷を負ったという情報がとびかう


ダンジョンから出た際ギルドにいた大勢にみられていたこともあり噂が広がるのも早い。

 

【ロキファミリアの冒険者がダンジョンから血まみれで運び出された、その内の一人は最近冒険者になったばかりの白髪の新人だ、今は治療院にいるらしい】

 

その情報の信憑性を上げるかのようにオラリオ中の市場や商人の元へロキファミリアの団員達が向かっている姿が目撃されている。

 

その噂を聞きつけて治療院へ向かう者達がいる。大量の野菜を持った神デメテルやベルがよく買い物をしていた市場の住人達も多くの食材を持って治療院へとやってきていた。ベルに会うことはかなわなかったがロキに礼を言われ、ベルが元気になったら一緒に礼に行くことを約束し皆帰っていった。

 

「頼むベルに一目合わせてくれ」

 

そう地面に膝をつき頭を下げる男が一人。隣には困った顔をした神ヘファイストスもいる。

 

「そやかてなぁ......ファイたん。今はベルは絶対安静なんや、うちのファミリアの子も限られた子たちにしか合わせてないんや。すまんなぁ。自分の気持ちはありがたいんやけど、ベルの事を考えてくれるんやったら今はそっとしておいてほしいんや」

 

地面に頭をつけながら歯を食いしばるヴェルフ。

 

「それならあいつの装備を見せてくれ、それをみればどんな状況だったか多少はわかる」

 

このまま何があっても引きそうにない決意の籠った瞳にロキはため息をつきながら了承した。それにヴェルフとベルの関係も知っている......

 

「まあ、それぐらいならええわ。誰か、ベルの装備を一式持ってきてくれんか?そやかてほとんど原型をとどめてないで?」

 

団員がベルのぼろぼろになった防具をヴェルフへと渡した、ヴェルフはそれを一つ一つ手に取り細部まで確認する。

 

ベルの防具を手に取りながらヘファイストスへと質問を投げかけた、

 

「俺の防具じゃなく、仮に椿が作った防具ならベルはここまでのダメージを受けることはなかった、そうですよね?」

 

腕を組み目を瞑るヘファイストスは頷いた。そして一言......

 

「どんな状況だったのかも、相手の強さもわからないけれど......あなたのあの剣があれば状況は変わっていたかもしれない可能性はあるわ」

 

「......俺の剣......」

 

ガツンッッ

 

地面に額を叩きつけた後すっと立ち上がりヴェルフはロキに背を向けた。

 

「ロキ様、ベルは必ず元気になりますよね?」

 

叩きつけた額からは血が流れ足元にポタポタと垂れ落ちる。両手の拳を握り締め震える後姿をロキは目を細めながら見た......

 

「あったりまえや!ウチの子供らが動いているんやで?」

 

にっと笑いロキは答えた。

 

「あいつが元気になったら俺のところにも顔を出すようにいってもらえないでしょうか?」

 

「ええで、その決意の籠った魂の輝き......くぅーっっ久しぶりにええもん見れたでぇ。お互いええ子供をもったなぁ、な!ファイたん?」

 

「ふふ......そうね」

 

顔を腕でこすり背を向けたまま去っていくヴェルフとその背中をポンと叩き共に行く二人の姿を見送った後ロキは治療院へと戻った。

 

ロキが戻るとアスフィが額の汗をぬぐいながら現段階までの調合が問題なくできたことを告げる。残りは高難易度の素材を収集しに行った者達の帰還を待つのみだ。時間から考えてもうそろそろ帰ってきてもいいころだろう。

 

疲労回復の為にアミッドから支給されたポーションを調合を行っていた皆で飲み干し、幹部達の帰りを待った......

 

ロキが調合をしてくれている皆に声をかけて回っている中、治療院の奥の方からバタバタと一人の団員がロキの元へとやってくる。

 

「ロキ!、リリーが目を覚ましました。すぐに来てください!」

 

「ん!今行くで!」

 

治療院の中の一室、リリー、ルナ、刹那の3人の元へと走った。

 

3人は重傷を負ったもののリヴェリアからもらったポーションをベルがけがをしてそう時間が立たないうちに使用したこともあり全快まではいかないものの意識を取り戻していた。しかしながら失った血液が多く本調子まではまだまだといったところだ。

 

「ベル!刹那!ルナ!皆どこにいる!?無事なのか!ここはどこだ!」

 

起きたばかりでまだ混乱している様子のリリー。扉の外にまでリリーの声が聞こえてくる。

 

「リリー、もう大丈夫やで。ここは治療院や。隣をみてみい、刹那とルナもいるやろ?ベルもまだ無事や」

 

はぁはぁと過呼吸のような荒い息をつくリリーの頭をポンポンと叩き落ち着かせる。

 

「ロキ様ぁ......」

 

普段ほとんど見せたことのないリリーのよわよわしい声。ロキを見て安心したのかリリーの目からは涙が溢れた。

 

落ち着いたリリーはここにはいないベルの事をロキに尋ねた。

 

「ロキ様、ベルも無事なんですよね!?誰が助けてくれたんですか?あのミノタウロス

を倒せるとなると......」

 

情報になかったミノタウロスという新たな情報にロキの目が見開かれる。

 

「ミノタウロス?いやウチがフィン達から聞いたんは闇派閥に襲われてるとこを遠征から帰還途中のアイズたん達が助けたことだけやけど詳しく話してくれるか?まだ体調悪かったら元気になってからでええで?」

 

「大丈夫です。説明させてください」

 

リリーはダンジョン内が通常と異なって静かすぎたことに違和感があったこと。強化されたキラーアントの大群。剣と鎧を装備したミノタウロスの出現。皆で戦っても勝てなかったこと。最後に光り輝くベルがミノタウロスと対峙していたことを話した。

 

「レベル1のベルがあの化け物を倒すなんて無理です!きっと誰かが助けてくれたんです」

 

「いや......ウチが聞いたのは闇派閥に襲われているベル達を助けたところからや。せやからミノタウロスはおそらくベルが単身で倒したことになる。リリー達がダメージを与えていたことを踏まえてもかなりの代償を払ったんやろうな......」

 

「ベルは今どこにいるんですか!?」

 

ベットから起き上がろうとした瞬間ふらつくリリー。その顔は真っ青だ......

そんなリリーを抱きとめベットに寝かしロキは優しく頭を撫でた。

 

「ベルは今別室で寝とる。大丈夫や、今ウチの子ども達皆がベルを助ける為に動いとる。だからベルは絶対に助かるんや!」

 

ひとしきり頭を撫でた後そっと涙を指で拭くとロキは立ち上がった。

 

「じゃあそろそろフィン達も帰ってくる頃や、別の子を来させるから安心して寝てるんやで?ええか?」

 

頷くリリーにロキは笑顔で答え部屋を後にした。

 

ロキがアスフィ達の元へ戻るとちょうど幹部達も目当ての素材を入手して戻ってきていた。

 

「フィン、皆おかえりぃ!後はベート達とアイズたん達やな。調合してる子らももうちょっと頑張ってな!頼んだで!」

 

はい!という声と共に新しい素材の調合に取りかかった。

 

「ロキ、ソーマファミリアの件についての報告だよ。主神であるソーマはファミリアのホームの自室から一歩も出ずに我関せずといった感じのようだ。ただ、何人かの団員達が団長達がギルドに連行されたことと僕達の家族に手を出したことを聞きつけてオラリオを出て北東に進んだ山のふもとにあるの神酒の製造場所に立てこもっているらしい」

 

ソーマファミリアの団員達、もとい幹部達は神酒の劣化版製造の為の工場を生産過程の秘匿を理由にオラリオの外に砦のような工場を建設していた。外壁はかなりの硬度を持つ鉱石が使用され扉には魔法で破壊されることが難しくなるようにミスリルでつくられていた。そこに立てこもられては普通の人間には手が出せないだろう......

 

「ソーマファミリアのホームはガネーシャファミリアが団員達が外へ出るのを規制している。追い詰められた団員達がへたに動けないようにね。それに彼らはレベルの低い冒険者たちを奴隷のように扱っていたようでね。何人かは保護されている。工場の方に関してだけど神フレイヤの命で数人派遣されているようだ。追ってロキファミリアからも

ラウルとアキを筆頭に何人か人員を向かわせる。まだ工場の方には手を出さないようにはいってあるけどね。ベルの容体が回復して神会からの許可が下り次第合法的につぶさせてもらおう。僕も含め家族を傷つけられたことでかなり頭にきている者が多いからね」

 

団長という立場もあり冷静に対処してはいるがフィンの背後に炎が燃え盛っているようにみえる。ティオネ、ティオナ、ガレス共に今はベルの容体の事もあり我慢しているだけという状態だ。むしろソーマファミリア程度なら単身で乗り込んでも問題はないが......力で解決するのは簡単だ、しかし今回は闇派閥との接触の情報も引き出したい。相手の心をボキボキにおる必要がある。今は誰も逃がさないということに重点を置くことにした。

 

「ん、報告ありがとな。神会の方は今準備しとる。他に闇派閥とつながりのあるファミリアがおらんか探りいれる予定や。そこはまかせとき、それとソーマファミリアの件もな.

とりあえずソーマの顔思いっきりぶんなぐりたい気分やで」

 

その表情を見る限り間違いなく神会でなにかするだろう.....そう皆が思った......

 

「ねえロキ、ベルのところにいてもいい?」

 

「ん、そろそろ交代の時間や。いってくれるか?」

 

「うん!」

 

エリクサーの入った瓶を数本持ちティオナはずんずんとベルのいる治療院の奥へと歩いていく。時間もある程度経過しておりシルのおかげで一時的にではあるが回復したベルではあるが根本的な解決にはなっていないようで時間がたつにつれ容体は悪くなる。今はラウルやアキと同じレベル4のアリシアがベルの病室で待機していた。

 

 

「エジル・リンナルトゥルヴェイラル・ユグド・ソヴァルナ・ガルリーヴェル......」

 

部屋の扉を開けると木でできた十字架を握り締め目を瞑り祈る女性がそこにいた。

 

「アリシア!」

 

ティオナが扉をあけると驚いた様子で顔を向けるアリシアがいた。

 

「今の言葉って、エルフ語?祈りの言葉だよね?」

 

「ええそうですよ、よく知っていますね。エルフに伝わる祈りの言葉です。この十字架も私の故郷の森の聖なる木から作られているのですよ。世界樹の精霊ユグド様に祈りをささげていました」

 

「やっぱり!、昔呼んだ英雄譚にその言葉が出てきて覚えてたんだ!精霊と英雄たちが力を合わせて黒い霧の怪物と戦うお話......そんなことよりベルの様子は!?」

 

「見ての通りです......もう時間がありません。もって後2日かと......なんどもなんども血を吐いて......今はエリクサーとアミッドが作ってくれた血液補助剤でぎりぎり保っているところです」

 

血を含んだタオルがベッド脇に積まれている。定期的に交換しているようだがとても痛々しい。

 

「私も遠征時には負傷者の手当てをして慣れているつもりでしたが、ここまで自分の無力さを感じたのは初めてですよ。こんなに汗もかいて......」

 

アリシアは白いハンカチを取り出しベルの額の汗を拭いた。

 

「服もびしょびしょじゃん、あたしも手伝うから着替えさせちゃおうか!布団も変えちゃおう」

 

ベルの体をゆっくりと動かしシーツ、布団を変え着替えをさせる。着替えと行ってもベルは装備の下のアンダーシャツもぼろぼろの状態だったため下着に治療院にあった白い入院着のような物を着ていた。帯をほどき上半身からタオルで拭いていく。

 

「んー、よしっと。これで大丈夫だね」

 

汗も拭き終わり着替えをさせて一息つく。

 

「では私はタオルやシーツを洗濯してきます。後をお願いしますね」

 

「わかった、アリシアはそれが終わったら少し休んで。今度はあたしがみてるから」

 

「はい......でも、何もしてあげられないって辛いことですね」

 

「そんなことない、きっとベルにあたしたちの声も気持ちも届いてるはずだよ」

 

ベルの心が折れないように声をかけるのも大事なことである。

 

アリシアが出て行ってからしばらくして......

 

「おらぁーベル!まだ死んでねえだろうな!」

 

部屋の外から声が聞こえる。エルフの里から超特急でオラリオへと帰り、世界樹の滴をロキに渡すとその足でベルの元へと二人はやってきた。

 

「ベートさん!?そんな大声ださないでください!」

 

帰ってくる時間を考える限りおそらくベートは一度の休憩もせずに走り続けていたことになる。

 

バタンと扉をあけ放ち汗だくのベートと申し訳なさそうにしているレフィーヤの二人が入室する。

 

「ちょっとベート!ベルが寝てるんだからそんな大声ださないでよ!」

 

「あの、テイオナさん。少しだけ時間をいただけませんか?ベートさんベルの事ずっと心配していて......」

 

文句をいうティオナをレフィーヤがなだめ、ベートはそれを無視しベルの隣へと歩みを進める。

 

「ベル!聞こえてんだろ?てめえの為にわざわざエルフの里まで行ってきてやったんだ感謝しやがれ。あの頭の固い連中に頼んでわざわざもらってきてやった」

 

どかっと椅子にすわりベルの頭をわしわしとなでる。

 

里までずっと走った、帰りも休まず走ってやった、俺が本気をだせば余裕だ。そんな感じの話を寝ているベルに話している。

 

「ベート......あんた泣いてんの?」

 

ティオナがベートの僅かな声の震えに気が付き顔を覗き込んだ。

 

「うるせぇ」

 

片腕でティオナを振り払いぐいっと顔をぬぐった。

 

「いいか、ベル。よく聞け。てめえが死んだらアイズもその後を追って死ぬかもしれねえ。俺も助けられなかった責任をとってその場で腹掻っ捌いて死んでやる。お前が死んだらお前の守りたいっていった人間も死ぬことになる。家族を死なせたくねえなら絶対に...生きろ!」

 

そういうと立ち上がり部屋の外へと向かう。

 

「俺は部屋の外にいる。何かあったらすぐ呼べ。もし闇派閥が何かしてきたら俺が全員ぶっ殺す」

 

ベートは部屋の外に出ると壁に寄りかかり目を瞑った......

 

 




お久しぶりです、兎魂です。

ちゃんと生存はしておりました<m(__)m>

いろいろと書き方を考えていたらなかなかうまくかけず、更新が大分遅れてしまいました。

後はリアルが忙しかったと言い訳をさせてください<m(__)m>

久しぶりに更新したので上手くかけているかは不安がありますが読んでみてください!

またイラストも自分で書こうと思って現在修行中ですが小説の更新もボチボチしたいのでまた依託すると思います。

次回はアイズさんが帰ってきます。そして調合完成まで書きます。できればゴールデンウィーク明けくらいまでには更新したい......

また、現在コロナウイルスがはやっております。皆さんも体には気を付けてください<m(__)m>引きこもって小説を読みましょう!

PS ダンメモは毎日やっておりました。 現在レムファミリアに所属しております。対戦したことがある方、是非コメントよろしくです!フレンドになりましょう!笑


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51 ベルの為に3

限られた時間の中皆が最善をつくす


ダンジョン37階層からアイズ達は地上へ向かう。

 

ちなみに報酬の交渉は決着がついていない......

 

一日レンタル!と交渉を進めるルノアとクロエに対し頬を膨らませ拒否するアイズ......アイズがある程度回復するまでの間交渉は続いたがリヴェリアから今回の件で豊穣の女主人の面々、ミアを筆頭にシル、アーニャ、クロエ、ルノア、リュー、そして他の従業員に大きな借りがあると諭され前向きに検討、地上へ帰ってベルが完治してから本人を交えての再交渉ということで落ち着いた。

 

ベルを交えての交渉ということを勝ち取った時点でルノアとクロエは勝利を確信していた。いくらアイズが拒否しようと交渉対象はあくまでもベルだ。あのベルが恩を受けた相手に何もしないという選択肢はないだろう......

 

「さあそろそろいいだろう、あんたたちはこれを飲みな」

 

交渉をしている間ミアは簡易の鍋を取り出し何かをぐつぐつと煮込んでいた。皆そのことに触れてはいなかったが酷い匂いがしている。

 

「本当にそれ飲むのにゃ?」

 

「いや......絶対に無理......」

 

「ルノア、クロエ、我慢しなさい。我々のレベルでは他の3人に迷惑をかけてしまいます」

 

高レベルであるリヴェリア達の進軍ペースに合わせる為3人はミア特性の薬を飲むことになった。帰りに飲む理由は一つ、行きで飲んだ場合後後いろいろと問題が発生するからだ。

 

器に入れられた薬はぶくぶくと泡立ち異臭を発している......

 

「早く飲みな!あたしがせっかく調合してやった激走薬を無駄にするつもりかい?安心しな、飲んでも後で...なだけで死にはしないよ」

 

器を差し出しながらにやりとミアは笑う。

 

「今なんていったにゃ!?肝心なとこが聞こえなかったにゃ!余計怖いにゃ゛ー!!」

 

「リューあんた顔色悪いけど大丈夫?」

 

「いえ......先ほどはああいいましたが。実は私もこの匂いの物を体内に取り込むことを体が拒否しているので......」

 

額にふつふつと嫌な汗をかきながらリューは何かを耐えるように口に手を当てる。

 

はぁーと深くため息をつきルノアが手を挙げた。

 

「じゃああたしが一番槍を務めさせてもらうよ!」

 

ルノア逝きます!ぐいっと器の中の液体を喉に流し込んだ。

 

「ぐあぁぁぁぁ@;、・@★★★」

 

よくわからない声をあげながらゴロゴロと地面を転げまわるルノア。それを見て他の二人はがたがたと震えている......

 

しばらく悶えた後ゆらりと立ち上がるとクロエの背後に回りがしっと両腕をロックした。

 

「ぜはぁーぜはぁ......ふふ、クロエ。次はあんただよ......」

 

「だ、大丈夫にゃ。みゃーには耐異常のアビリティがあるにゃ!」

 

「ああ、クロエ。あたしの薬は毒じゃないからね。そんなものは関係ないよ!」

 

びしっと親指をたてるミア.....

 

「......いやに゛ゃーーーーーーぁぁぁ助けてにゃーーーーぁぁぁごふぉ」

 

両腕をロックされミアに強引に薬を口に流しこまれるクロエは泣いている.....

ビクンビクンとしばらく痙攣した後ゆらりと立ち上がった。

 

「ふふ......」

 

「くくく......」

 

「「さあ、次はリューの番だよ、にゃ」」

 

リュー・リオン、レベル4の上位の実力者。長い冒険者歴の中でこれほどの恐怖を覚えたことはない......無理やり飲ませられるか、自分で飲むかの選択を迫られたが涙目になりながら自分で飲む方を選択した。必死になって目に涙を溜めながら薬を飲む......こんな姿は2度と拝めないだろう。

 

ミアの作った薬の効果はすさまじくある程度加減しているとはいえ他の3人に後れをとることなく必死についていく。追い付いてこれないようならもう一杯という言葉を聞き死に物狂いで走っているともいう.....

 

(((絶対に報酬の上乗せをベルに希望しよう)))

 

3人は目を合わせうなずいた。

 

一方アイズは血液を失い過ぎたこともありまだリヴェリアの背におぶられたままだ。

 

「こうしていると昔を思い出すな......ずいぶん重くなったものだ」

 

アイズはロキファミリアに入った当初、両親を失ったトラウマから夜中に声をころして泣いていることが多かった。そんな時は必ずリヴェリアがアイズを背に乗せ落ち着いて眠りにつくまで一緒にいた。その頃を思い出し走りながらも軽く笑みを浮かべる......

 

「私......太った?」

 

「いや......立派になったということだ。私に心配をかけるところは相変わらずだがな」

 

「リヴェリア、あんたも随分ととしよりくさいことを言うようになったねぇ。あんたがレベル1の頃が懐かしいよ。あの頃は今よりも気難しいお堅いエルフって感じだったけどね」

 

そもそもミア母ちゃんは歳いくつにゃ!とクロエがいいかけたがミアのひとにらみで口をつぐんだ。

 

(余計なことは考えないようにするにゃ......ぶっ飛ばされるにゃ)

 

そもそもレベルの高い者ほど魂が肉体(器)に影響を及ぼし若さを保てるようになる。なので見た目と実際の年齢に違いがある場合が多い。種族によっても寿命がちがうのでそのあたりも考えると年齢とは何かわからなくなる。

 

そのまま10階層ほど上がったところでアイズもまともに動けるようになりさらに先を急いだ。6人で18階層まで走り抜けさすがにリュー、クロエ、ルノアの三人が限界を迎えミアが3人の面倒を見る為残りリヴェリアとアイズは素材を届ける為に地上を目指した。

 

ぜぇぜぇと荒い息をつく3人に対してミアは涼しい顔をしている。

 

「ミア母さん、ひとつ質問をしてもいいでしょうか?」

 

「ん?なんだい?」

 

「ミア母さんのレベルは......いえ。今のオラリオ最強である猛者と戦ったらどちらが勝ちますか?」

 

ミアは大笑いしてこう答えた。あたしがあのひよっこに負けると思うのかい、と......

 

これが英雄と呼ばれた鬼神のレベルだ.

 

 

18階層でミア達と別れたアイズとリヴェリアは全速力で地上を目指した。

 

「アイズ、体はもういいのか?」

 

中層に出現するミノタウルスやヘルハウンドをなぎ倒しながら走るアイズに向かって声をかけた。

 

「大丈夫、ありがとう。リヴェリア」

 

「いやお前を助けるのは当たり前だ。気にするな」

 

アイズは首を振った。

 

「違うよ、私の心の炎の事を心配してくれてたよね?」

 

これまでの道中、万が一にもベルを心配するあまり心の炎が黒く燃え盛らないように努めて明るい話題を振っていたことはアイズにもわかっていた。ミアも同様だ。

 

「私少しだけどわかった気がするの。負の感情に反発するだけじゃいけないんだって。黒い炎も白い炎も私の気持ち。どちらも私なんだって」

 

「そうか......では更に速度をあげよう。私たちの大事な家族が待っている」

 

うん!笑顔で答えたアイズはリヴェリアと共に先を急いだ。

 

中層、上層とまたたくまに駆け抜けギルドを風のように走り抜けベルの待つ治療院へと到着した。

 

治療院に集まる団員達が声をあげる!

 

「「「「二人が帰ってきたぞ!」」」」

 

「リヴェリア!アイズたん!おかえりぃ。とりあえず話は後や。急いで調合をすすめな」

 

ロキの顔に焦りの色が見て取れる。

 

「ロキ!ベルは!?」

 

「二人ともすぐに来てや、調合してる皆、これで最後や。大至急調合を頼むわ!」

 

「後は世界樹の滴と生命の泉の花を調合して今まで作成した物に合わせるだけです。調合の比率はかなりシビアな物ですが必ず成功させます」

 

アイズとリヴェリアは他の団員達やフィン、ガレス、ティオネと軽く挨拶をかわしベルのいる部屋へと進んだ。

 

部屋の前にはベートが壁に背を預けて立っている。アイズ達が来たことを確認するとくいっと指で扉を指した。

 

「「ベル!!」」

 

無事.....ではない。生命力の枯渇により艶とハリのあるきれいな肌は老人のように皺が刻まれている。

 

「ッッ大丈夫。大丈夫だから。もうすぐ薬もできる」

 

「ああ。ティオナ。お前も少し休んで来い」

 

「うん......」

 

ティオナも元気がない。どんどん生気がなくなっていくのを目の当たりにしていた彼女は一番つらい思いをしていた。手を握っている相手がどんどん萎れていく、自分は何もできない。いくらいつも天真爛漫なティオナであっても精神的にかなりきているはずだ。

 

ドゴンッッ

 

ティオナが部屋を出てからしばらくして遠くで大きな破壊音が聞こえた。

 

(ベルをあんな姿にしたやつ......絶対殺す)

 

拳を握りしめ体から蒸気を立ち上らせている。

 

「ティオナ!」

 

「......何?ティオネ?」

 

「ここにいる皆、あんたと同じ気持ちよ」

 

ティオネの後ろ、治療院の前には旗を掲げ一糸乱れることなく整列するロキファミリアの面々。各々が素材を集め終わった後、黄昏の館で待機という命令に従っていたが、一人、また一人と治療院へと来て今では全員が並んでいる。誰一人としてその場を離れようとはしない。

 

「......うん!私も並ぶ!」

 

そういってティオネは最前列の姉の隣に並んだ。

 

アスフィーは治療院の中で薬の精製を急いでいた。

 

生命の泉の花一枚一枚からエキスを抽出しスポイトでほんのわずかづつ世界樹の滴に垂らす。調合書に書いてある通りなら僅かに色が変わるようだ。世界樹の滴は薄い緑色をしている、その緑色がほんのわずかに濃くなる瞬間がある。そのタイミングを逃すと調合は失敗する......

 

アスフィーは精神を集中させそのほんのわずかな違いを見定め調合を行う。

 

「.....今!」

 

色が変わった瞬間を見極め調合の完了した液体と今まで皆で調合していた粉末を混ぜ合わせる。二つが混ぜ合わさった瞬間に目を瞑るほど青く光り輝き液体はスライム状に固まった。

 

「できました!すぐにこれを飲ませてください!......えーと、っっ!」

 

アスフィーがぱらぱらと調合書をめくりばさっと本を取り落した。

 

「この薬は精霊の血を引く者が飲ませなくてはならない......前回はアリア・ヴァレンシュタインがダグラス・クラネルに飲ませたと......」

 

「それなら大丈夫や!アスフィおおきにな!」

 

困惑するアスフィーからスライム状になった薬を受け取ると走ってベルの治療室へと走る。

 

「アイズたん!これをベルに飲ませるんや!アイズたんが飲ませんと効果がでないらしいんや!」

 

ベルの元でリヴェリアと共に手を握っていたアイズはロキから薬を受け取るとベルに飲ませようとした。しかし、すでにベルは自身の力で飲み込むことができないほど衰弱していた。更に液体状ではなくスライム状の為口を開けて流し込もうにも流れ込まない......

 

「ベル!飲んで!お願い!、お願いだよぉ......」

 

「ベル!おまえはまだ死ぬわけにはいかないだろう!おまえは英雄になるんだろう!くっっなんとかして体内に取り込ませなければ」

 

こうなったら無理やりにでも口の中にねじ入れる.....リヴェリアがアイズにそう言おうとした瞬間、アイズははっとなり口にスライム状の薬を含んでもぐもぐと口を動かした。

 

「アイズたん!?」

 

「お、おいアイズ!?おまえ何を!?」

 

ロキとリヴェリアは唐突なアイズの行動をスローモーションのように眺めていた......

 

アイズはベルの頬に手を添え少し顎をあげるとそのまま唇を合わせた。アイズの口でスライムを砕きそれをベルの口の中へと流し込む。少しもこぼさないように舌を使いベルの口内にに薬が残ってしまわないように喉の奥まで流し込んだ。

 

ゴクッッ

 

ベルの体内に薬が取り込まれた瞬間に部屋の中全てを照らすほどの光と共に魔法陣が現れその文様がベルの体に巻きついていく。必死に唇を合わせ続けるアイズの体も同様に魔法陣の文様が巻き付いていた。

 

時間にしておそらく1分ほどだろうか......次第に光が体に吸収されていきベルの体に生気が満ちていくのが感じられる。皺が刻まれた肌は前以上につやつやと張りを持ち青白かった頬に朱がさす......

 

ふぅふぅという息遣いだけが聞こえるその様子をロキとリヴェリアはしばらく呆然と眺めていたが、はっと我に返りアイズの肩をたたいた。

 

「お、おいアイズ?」

 

「アイズたん、そろそろ離してやらんとベルが別の意味で死んでまうで!いやー衝撃映像やったわ。大丈夫やうちら3人の秘密にしといたるから」

 

ロキの神の目には見えていた。体内から溢れでそうになるほどの生命力の増大。体のすみずみまでそれが行き渡り魂が更に光り輝くのを......

 

アイズが唇をはなすとほぼ同時にベルがうっすらと目をあける。

 

「ア、アイズ、さん?僕、生きて......?」

 

「ベルーーーーーーーー!!よかったぁ......」

 

アイズがベルに抱きつき声をあげて泣いている、リヴェリアはふぅーっっと大きく息を吐きだし椅子に腰かけた。

 

ベルは状況が理解できずきょろきょろと周囲を見渡して首をかしげている......ほのかに唇に残る感触に更に混乱する。

 

「うおっしゃーー!!ベルよう耐えたなぁ!さすがウチの子やわ。おっしゃ、ウチ外にいる皆に報告してくるわ!」

 

ロキも涙をぬぐいながらベルの頭をわしゃわしゃとなで勢いよく治療院の外へ走り出した!扉の外にいたベートも中の声を聞くとともにずるずると壁に背をつけたまま座り込み天井を見上げた......

 

バタバタバタバタ、

 

治療院があわただしくなり団員達にも緊張がはしる。中に入ろうかと思っていたところで治療院の扉が開かれた。ロキが神妙な顔つきのまま整列する団員達の目の前まで歩いていきニパっと笑い大きく手で丸を作った。

 

瞬間

 

「「「「うぉーーーーーーーーー!!!」」」」

 

旗を掲げ雄叫びをあげ手を叩きあい涙する......何人かはロキの静止もきかず治療院の中へと突入していった

 

【ベル・クラネル復活!!】

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます<m(__)m>

なんとか更新できました。よかったです。

今のこの世界的な問題のなか私にできることなんてほぼありません。こうして読んでくださっている皆さんの為に続きを書くことくらいしかできませんが楽しんでいただけたらと思います。

私自身経済的にはダメージを受けていますが頑張ります!

今回のお話の中で・・・のシーンをもっと詳しくという感想が来そうなきがしますが、生々しい書き方をしますとこのお話を読んでいる皆さんの年齢層・・・・・・はわかりませんがまずいきがするのでこのぐらいの表現に留めておきます。兎魂が暴走する危険性もありますのでご了承ください。

次回もぼちぼち書いていきますのでまた読んでいただいたらと思います。

PS 私の目標は何年かかるかわかりませんがこの剣姫と白兎の物語を漫画版に書き直して自分で読むことです!笑


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52 白兎のお礼

ベルの意識が戻り治療院に歓声があがった


自分は死んだとばかり思っていたベルは目の前の状況に混乱していた。

ぐりぐりとベルの胸に頭を押し当て泣くアイズの頭を優しく撫でてはいるものの自分の置かれている状況がわからなかった。

 

「ベルよく頑張ったな。お前は闇派閥から仲間を護り抜いた。そして死の淵から我々の元に返ってきた......本当に......本当によくやったな」

 

リヴェリアは目を赤くしたままベルに向けてほほ笑んだ。ベルは闇派閥という言葉にはっとした。

 

「僕......そうだ!他の皆さんは無事ですか!?あの後どうなったんですか!?」

 

「他の連中なら全員無事で別の部屋だ。お前たちを襲っていた闇派閥は全員ぶっとばした。一人逃がしちまったがまあ確保したやつらから情報は聞く。お前が仲間を護ったんだ、その.....なんだ......よくやったな」

 

部屋の中の声を聞き、いてもたってもいられなくなったのか、ベートが扉をあけ部屋の中へと入る。尻尾をぱたぱたと動かし、頭をかきながら少し視線をそらした。

 

「ベートさん!そうですか、よかった......。でもアイズさんや皆さんがこなかったら今頃僕は.....]

 

もし予定通り遠征が行われていたら、もし異変に気が付かなかったら、もしベルがほんの少しでも諦めていたら、今この場で皆が笑い合うことはなかっただろう。

 

「馬鹿野郎!ベル!おまえが折れずに戦ったからこそ俺たちは間に合ったんだ、おまえの心が負けてたら全員死んでたんだ。お前はよくやった!」

 

そういうとベートはベルの前に拳を突き出し彼にしては珍しくわずかに笑った。

 

「俺も約束通りお前の代わりに家族を護ってきてやったぜ」

 

「......はい!」

 

コツンッ

 

拳を合わせ笑いあう。

 

「ベルー!!」

 

だだだだだだっっ

 

扉を壊さんばかりにやってくるのはもちろんティオナだ。ベートを吹き飛ばしアイズが半分独占しているベルの胸へと飛び込む。

 

「よかったぁ、もう体痛いところない?」

 

自分もといわんばかりにぐりぐりと頭をおしつける。そんなティオナの頭も優しくなでながらベルはもう大丈夫ですとほほ笑んだ。

 

「痛ってえなこのバカゾネスが!でけえ声出してんじゃねえよ!」

 

油断していたところにティオナの突進をくらったベートは頭を壁に強打して本気で痛そうだ。頭をさすりながら文句を言う......

 

「なによ、あたし知ってるんだから。ベルが死にそうになってるとき泣いてたくせにーー!」

 

ほぅ......とその場にいたリヴェリアがありえないという顔でベートを凝視する......その視線を感じてか顔を赤くしながらプルプルと震えた。

 

「てってめえ。なに言ってやがる」

 

ベルの胸から頭をはなし振り向いてベートに向かって文句をいったティオナの頬を片手で鷲掴みにする。

 

「いったぁ、このぉ!」

 

頬を鷲掴みにされながらベートのピンとたった耳を握りしめぎゃぎゃー騒ぐ二人の頭上に拳がふりおとされる。

 

ぐぉぉぉぉ......

 

「うるさい!テンションがあがる気持ちはわかるけど少し静かにしなさい!」

 

狭い室内にさらにティオネ、フィン、ガレスが入室し暑苦しいことこの上ない。

 

「ベル、よく頑張ったね。ロキから状況の報告は受けている。推定レベル3のミノタウロスの撃破。闇派閥から仲間を守り抜いた事は神々も認める偉業だ。詳しいことは後日君の方からまた報告してほしい。今はゆっくり休んでくれ」

 

差し出されたフィンの手を照れくさそうに握る。

 

「儂も聞いた時は耳を疑ったわい、4人いたとしてもレベル3のミノタウロスに勝つのは至難。リリーの報告では最終的にはほぼ単身で向かい合ったことになる......アイズといいベルといい無茶をするわい」

 

レベル1がレベル3を単身で撃破できる可能性はおそらく3%未満だろう。その場の状況、スキル、魔法、弱点である魔石の部位によって前後するだろうがおそらくそのぐらいだろう。勝てたのは奇跡といっても過言ではない。どうやってベルがミノタウロスを倒したのかは気になるところだったがが後日改めて確認することとした。

 

遅れてやってきたアミッドにベルの体を検査してもらいとりあえず今日一日様子を見て入院し、問題がなければ明日退院ということになった。おそらくリリー達も同じく明日退院になるだろう。フィン、ガレス、リヴェリアはベルの無事も確認したからとリリー達のいる部屋によってから外で騒いでいる他の団員達を連れて黄昏の館へと帰るといい部屋を出て行った。

 

「そういうことだ。今日は俺がここに泊まるからお前らは帰れ」

 

腕組みをしながらさも当然だとばかりにいうベートのその言葉にアイズとティオナの動きがぴたりと止まった。

 

「んと、べーとさん。ここは私にまかせてください。ベートさんはエルフの里まで行って疲れてると思うので」

 

ベル、もう少し横に......そういいながら毛布をめくりごそごそとその中へと入っていこうとする。

 

「ちょっっアイズさん!!同じベットで寝るんですか!?さすがにそれはまずいかと......くっっくすぐったいですよ」

 

「んと、ベル分を補給しなきゃいけないから?それに私さっきベルに......」

 

頬を染めまたぐりぐりとベルの胸に頭をあてる。

 

「いやいやいや、なんですかベル分って......」

 

ベル分とは癒し成分、ベルの近くにいないと補給できないのが難点だが補給することによる効果は絶大である......ちなみに中毒性があるので適度の補給が望ましい......過剰に摂取すると魅了状態になるという報告も......

 

「あたしもここに泊まるけどベート一緒に寝るつもりなの?ベートのすけべー!」

 

真顔でやれやれといった感じでふぅーと大きなため息を吐くベート。

 

「安心しろ、お前に欲情するなんてことは天地がひっくりかえってもねえよ」

 

あたしだってまだ成長期だもんと胸をおさえベーっと舌を出し挑発する。

 

「ベートさん、女性にそういうことをいうのは......その......」

 

ベートはベルの方を向きまた大きなため息をついた。

 

「わかった、ベルにめんじて言い直してやる。俺は絶壁趣味じゃねえ!」

 

その言葉を引き金につかみかかりバタバタと暴れる二人の頭上にまたもや鉄拳が......先ほどより鈍い音から察するに相当痛いだろう。

ぐぁぁぁぁと頭を押さえうずくまる二人はボキボキと骨を鳴らすティオネを見上げるがその般若のような顔を見て視線をそらした。

 

「うるせえぇ次騒いだら外に投げ飛ばす......私はアミッドのところに行ってくるからそれまで待ってなさい。リリー達にも一応今日も護衛をつける予定なんだから、大部屋半分に仕切ってそこでみんなで寝ればいいでしょ。交代で外の見張りするからそのつもりで」

 

扉をあけ外に出て行こうとするティオネにベートが声をかけた。

 

「わあったよ、俺が外を見張る。まあこれだけ第一級冒険者がいるところに来る馬鹿なやつはいねえだろうがな」

 

ベルに治ったら飯を作れと言い残し窓から外に出て治療院の屋根の上にのぼった。

夜目のきく狼人であるベートが外を見張るのが適任との判断で寝ずの番をするつもりのようだ。

 

「あの,僕もう体大丈夫なんで別の部屋にぃいひゃい、いひゃいですティオネさん!」

 

ぐにっとベルの頬を引っ張り顔を近づける。

 

「さんざん心配かけたんだから今日はおとなしく私たちのいうことを聞きなさい!」

 

世話のかかる弟ねと笑い、引っ張った頬を優しくなでるとティオネは部屋を出て行った。しばらくすると部屋の用意ができたとティオネとアミッドが戻ってきて別の部屋へと通された。

 

ティオネは他の3人を迎えに行くといい部屋の前で別れ足早にリリー達の元へ。

 

大勢の患者が一度に来たとき用にこの治療院にも大部屋がある。ベッドを繋げて人数分用意してひとまず腰かけた。

 

「ベル、動いて大丈夫?」

 

「はい!大丈夫です。むしろ前より体が軽いような気がするんですが」

 

ベルの体の変化は見た目でわかることといえば白い髪の中にわずかに金色の髪が混じっていることぐらいだろうか......

 

コンコン、控えめのノックの後ティオネと共に回復したリリー、刹那、ルナの3人が大部屋へと入る。

 

「「「ベル!」」」

 

3人が部屋に入るなり元気な様子のベルを発見し駆け寄ろうとするが隣のアイズをみて青ざめた。アイズに遠征前言われたベルの事をお願いね、という言葉を思いだしているのだろう。

 

「「「あ、あのアイズさん、すみませんでした、アイズさんにベルの事を頼まれていたのにこんなことになってしまって......」」」

 

頭をさげ謝罪する3人に向かいアイズはゆっくりと近づいていった。

 

なんていわれるんだろう......3人は体を硬直させ僅かに震える。

 

「3人のことは聞いてるよ......リリー、刹那、ルナ。よく頑張ったね」

 

アイズは3人の頭を一人づつゆっくりと撫でた。

 

「で、でもウチらの力が足りなくて......ベルが......」

 

今回は異常事態だ。上層でミノタウロスと遭遇するなどということは普通ならありえない。そんな中皆が生き残る為全力で行動したから生きられたのだ。もし4人のうち誰かが死んでしまったとしても誰もせめることはできない、それくらい厳しい戦いだった......

 

「私にも経験がある。自分の力不足で家族が傷つくのはすごくつらいこと。だから強くなればいい。うまくいえなけど、私はそうやって生きてきたから」

 

アイズはぽろぽろと涙を流す3人を抱きしめた。

 

「皆さん無事でよかったです。皆さんだってキラーアントやミノタウロスを倒すために命がけで戦ってくれたじゃないですか。僕も僕にできることをしただけです......それに僕は家族を守る為なら......」

 

「だめよ、死んでもいいなんて考えは。残された家族がどれほど辛いかわかるでしょう。強くなって敵を倒して仲間も護ってみせなさい!あなたは英雄になるんんでしょ!」

 

「そうだよベル!3人ももっと強くなろ!フィンがいってたけどこれからあたしたちももっと皆とダンジョンに潜ったり訓練したりするからこれからも誰も死なないように家族皆で強くなろ!」

 

ロキファミリア、第一級冒険者が多く在籍するオラリオ最強派閥の一つ。

年齢、性別、レベルも関係なく皆が志高く家族をもっとも大事にするファミリア。

これからもこのファミリアは未到達領域を目指して冒険していくだろう......

 

「アイズさん!僕明日からまた訓練したいんですがまた相手をしていただけますか?」

 

にぱっと笑うベルに対してアイズ困った顔をしながら答えた。

 

「ダメ、リヴェリアの許可が出るまでベルは訓練禁止っていわれてる。リヴェリアからベルの予定渡されてるから読むね?」

 

リヴェリアママの予定表

 

・4人は2週間は訓練禁止、以後随時体調確認を行い問題なしと判断してから訓練再開

 

・その間今回世話になった人たちに報酬の支払い、お礼

 

・一か月後にあるオラリオでのお祭りに参加

 

「他にもいろいろと書いてあるけどとりあえずはこんなところ、かな」

 

今回の件で多方面に借りを作ったためそれの清算をしなければならない。特に厄介なことを要求してきそうなのはフレイヤだろう。カジノでの件、それにロキファミリア混乱の仲他のファミリアへの牽制、ソーマファミリアの工場の件など多くの借りができてしまった。その辺はロキ含め幹部達と共に対応することになるだろう......

 

 




読んでくださってる皆様ありがとうございます。

次回から今回の件でお世話になった皆にお礼をしに行く予定です。

そして一か月後に控えているお祭り、そこで必ず一回はイラスト入ります。
なぜならすでに用意してあるので。いままでのイラストの中で一番気に入っているイラストです!まだ先ですが楽しみにしていてください。もえーと叫ぶこと間違いなしです(ー_ー)!!

さあ、フレイヤ様はベル君にどんな要求をするのでしょうか......次回もお楽しみに

ダンメモですが今は豊穣の主人というファミリアにお世話になっています<m(__)m>


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53 白兎のお礼2

団員達もお疲れのようです。


黄昏の館

 

「皆お疲れさん!よう頑張ってくれたなぁ。今日はいくらでも騒いでええで!」

 

黄昏の館の門の前、子供達一人一人を自分で迎え入れる為一足先に帰ったロキが大きく手を広げながら皆を待っていた。

 

門を通る際には抱きしめ、手を叩き、頭を撫で、皆が笑顔で黄昏の館へと入る。

 

「とりあえずウチが何か飲み物でも持ってくるから皆談話室で待っててくれるか?」

 

ロキにそういわれ談話室に集まった団員達だったが......

 

ガラガラと飲み物の大量に乗ったカートを押しながらロキが談話室に入るとそこに広がっていたのは......

 

「フィン、皆疲れてたんやな......ほんまにお疲れさん」

 

壁によりかかり目を閉じる者、椅子に座り目を瞑る者、ソファにダイブしていびきをかいている者......全員熟睡しているようだった。

 

「ロキ、ガレス、リヴェリア、皆に毛布を掛けるのを手伝ってくれるかい?」

 

皆のその様子を眺めていたフィン達は眠っている団員達一人一人に優しく毛布をかけこのファミリアの団員達を改めて誇りに思った。

 

「明日にはベル達も僕たちの家に帰って来るし夜は盛大に宴でも開こうか。豊穣の女主人を予約して......」

 

そう提案しようとしたフィンの言葉をリヴェリアが遮った。

 

「フィン、明日はおそらくまだ無理だと思うぞ、ミアはおそらくまだ18階層にいるだろう。他の3人にかなり無理のある進軍をさせてしまったからな。すぐにはまともに動けないはずだ」

 

そういうことならと、盛大な宴はミア達が無事に帰還してからということになり明日一日は皆に完全な休暇を取るようにと指示をだすことにした。

 

 

「そやなー......それなら一番厄介なフレイヤの報酬を先に払ってまうか。もちろんベルの体調が一番大事やけど、ぶっちゃけ今のベルはウチの目から見て以前にもまして生命力が漲っとる。それもほとばしるほどにやな、あの調子なら問題ないはずやで」

 

「そうじゃろうな、儂らから見ても今にも動きたくてたまらない感じが伝わってきたわい」

 

ガレスはいつのまにか手にしているグラスに並々と注がれたエールを一気飲みすると大声で笑った。

 

「まあウチの予想がただしければそのうち......」

 

ロキ達がそんな話をしているとバタバタと足音をたてて一人の団員が談話室へと足を踏み入れた。

 

「おお、疲れてるのに門番ご苦労さん。客人やろ?」

 

にやりと笑うロキの言葉を聞いて団員は驚いた顔をして答えた。

 

「はい、神フレイヤがお一人でお見えです。報酬の件で話があると」

 

「まったくあいつも抜け目がないやつやなぁ。さてどんな要求をされることやら......」

 

「ロキ、僕も同伴しようか?」

 

フィンの問いかけにロキは首をふった。

 

「あいつがわざわざ一人できたっちゅうことはウチと二人で交渉ってことや。まあどこかに護衛としてはきてるやろうけどな。あいつかてウチらに喧嘩売るようなことはせんはずやから安心しとき。まあ報酬の内容次第では血をみることになるかもしれんけどなぁ......」

 

そんな楽しそうな顔をしないでくれと嘆くフィンに冗談やっと笑いながらロキはフレイヤが待つ門前へと急いだ。

 

 

「ベルは問題なく治ったようね、ロキ」

 

門前にいたフレイヤを庭へと通し交渉を始める。といっても今回はフレイヤに大きな借りがある為よほどの要求をしてこない限り全ての条件を飲むつもりだ。

 

「どこかでみてたんか?あそこにはウチの子たちがいるから強い気配があればすぐ気が付くはずやけど」

 

フレイヤはくすくすと笑いながらロキも知ってるでしょ?と意味深な言葉をなげかける。

 

ため息をついたロキはフレイヤにどんな要求でもできる限り対応する旨を伝えた。

 

「私の要求はこれだけよ」

 

そういうとフレイヤは指を3本たてた。

 

「まず一つ目、明日の夜バベルのお店にベルを招待するわ。一緒に食事でもと思って......もちろんフロアは丸ごと貸切にしてあるわ」

 

その言葉をきいてロキは答える。

 

「ベルの体調が問題なければやで?ウチも同伴するけどええか?それとフロア前にはウチの子供達も何人かきてもらう」

 

「ええ、もちろんいいわ。私も何人か呼ぶつもりでいるの。ベルも喜んでくれるはずよ」

 

ニコリという笑み、ベルも喜んでくれるという言葉に少しひっかかるものがあるもののその件は了承した。

 

「じゃあ二つ目ね。ベルの二つ名の候補をいくつか考えてきているのだけど。どうかしら?」そういうとフレイヤはロキにスクロールを手渡した

 

元来ロキファミリアの団員達の二つ名はよほどのことがないかぎりロキが考えた名前を付けていた。その権利を譲れということだ。

 

「......ベルがランクアップするとは限らんで?ってかこの【女神の白兎】とか【純白の天使】とかなんやねん」

 

むすっとした顔をするロキの目が一つの名前のところで止まる。それは次の神会でロキが発表するつもりだった名前だ。

 

「フレイヤ、おまえどこまで知ってるん?......まあこの二つ名ならええわベルも喜ぶはずやからな。先におまえにいわれたんはくやしいがウチも同じ名前を考えとった」

 

にこにこしているフレイヤの顔にそうだと思った、っとかいてあるようで腹立たしい......

 

「さあ、私にも情報提供者はたくさんいるし、それにある程度は推測できるもの」

 

「3つ目はなんや?」

 

不機嫌そうなロキは先を促した。

 

「そうねぇ、それはベルに直接お願いしようかしら?」

 

ピクッとロキが反応を示す。

 

「ベルの体とかぬかすんやったらゆるさんで?」

 

「大丈夫よ。間違いなくあなたも喜ぶはずだから」

 

そういってフレイヤはロキに背を向けた。

 

「じゃあ明日、ベルに問題がなければ19時にバベルで待っているわ。それと神会は3日後に開催よ」

 

そう言い残しロキの返事も聞かずにフレイヤは背を向け黄昏の館を去っていった。

 

「ウチも喜ぶってなんやねん......まあ大丈夫やと思うけど明日ベルが帰ってきたらこの話せなあかんな」

 

ため息をつきながらロキは黄昏の館の中へ。

 

次の日

 

一足先に返ってきたベートからもうすぐベル達が帰ってくると報告を受け急いでまだ熟睡している団員達をおこした。

 

黄昏の門前に集まり今か今かとベル達が帰ってくるのを皆が待ちわびている。

 

「帰ってきたぞーー!!」

 

門の上から見ていた団員の一人が声をあげる。

治療院にいた皆は黄昏の館の前に大事な家族達がいることを目にして走り出した。

 

「「「ただいま帰りました!」」」

 

今回の9階層で戦ったメンバー、リリー、刹那、ルナ、ベルが皆の前に並んで頭を下げた。

 

「皆さん、僕の為にいろいろとご迷惑をおかけして......」

 

そういって頭をまた深々とさげるベルをベートが後ろから抱き上げ皆の方へひょいっと投げた。集まっていた団員達に抱き留められ気にするなと、助かって本当によかったと泣きながら言われベルの目にも涙が溢れた。

 

「僕、すごく幸せです。今日のこと絶対忘れません......そうだ!僕皆さんにお礼がしたいので僕にできることならなんでもいってください!」

 

涙を拭いて笑顔で答えるベル。

「「「なんでも......?言質はとったぜ、わよ!!」」」

 

男も女も関係なくベルを担いで黄昏の館の中へと帰っていった。

 

「ベルが......連れていかれちゃった......」

 

ぼそっとつぶやくアイズだがその顔には柔らかな笑みを浮かべている。

 

「アイズたん、皆もおかえりぃ!!......んーなんや皆えらい顔がつやつやしとらん?」

 

ベルと同じ部屋で一晩過ごした皆の顔を一人一人まじまじと見てロキが首をかしげた。

 

「ま......まさか!」

 

べしっとロキの頭をティオネがはたきロキが想像しているようなことはないと、自分の操は団長の物だからと大声で断言した。

 

「んと、皆でベル分を摂取したから......かな?」

 

「アイズさん、その言い方だとまたロキに誤解されます......」

 

昨晩あったことを思い出してか、わずかに頬を染めながらレフィーヤはうつむいた。

 

「たしかに抱き心地はよかってですね隊長!」

 

「ふわふわで、できれば抱きながら寝たかったでござる!」

 

「定期的に摂取することで我は......私はおかしくなりそう......」

 

皆の照れたような様子に興味深々なロキはにやにやしながら問いただした。

 

昨晩の様子

 

部屋に並べられたベットを全てつなげ皆でその上に輪になって座っている。

無論、ベルの僕は部屋の隅で寝ますという言葉は却下だ。

 

「皆元気になってよかったね!」

 

にっと笑いながらティオナはベルを含めた4人を順番に抱きしめた。その力強さに体の骨がミシミシとなる......

 

「うん、間に合って本当によかった......9階層で何があったか聞いてもいい?」

 

リリー達は自分たちの知る限りの情報を答えた。強化されたキラーアントをルナの魔法で一掃したこと。その後に出てきたミノタウロス......そしてベルが戦った闇派閥のこと......

 

途中途中でいかにベルがかっこよかったかを頬を染めながら力説する3人に照れながらベルは頬をかいた。リリー達が覚えていることはミノタウロスにダメージを与えたところまで、その後どうやってベルがミノタウロスを倒したのかという話になった。

 

「ええとですね,それは僕のスキルに関わることなんですが......」

 

ベルはちらりとアイズの方を向いて少し考えた後答えた。

 

「すみません、少しロキ様に聞かなければならないことがあるので今はスキルの力としかいえません」

 

正座をしてペコリと頭を下げるベルをアイズが後ろから抱きしめ頭をもふもふと撫でた。

 

「うん、大丈夫。ベルが話せるようになったらでいいよ」

 

ベルの衰弱ぶりを見ていたアイズ、ティオネ、ティオナはスキルの代償がベルのあの状態ならロキに相談するということも納得だ。ましてやリリー達がいる場で生命力を代償にした限界突破を使ったなどといえばまた落ち込んでしまうことは分かっている......

 

「あ!でも最後は刹那さんたちが刺した刀に僕の魔法で電撃を流して魔石を砕きましたよ!それにルナさんがいなかったら大量の強化されたキラーアントに苦戦しましたし皆の勝利です!」

 

「「「ベル!!」」」

 

ベルの笑顔に癒される......

アイズに抱きかかえられているベルを次は私の番っとティオナが交代しなぜか順番にハグする流れができていた。ベルの頭に顎を乗せ目を閉じると森林浴をしているような気分になる。

 

「そういえばベルもこれでレベル2になるわね、刹那とルナももう少しでレベル2だったはずだからおそらくあがるわ。リリーはランクアップしたばかりだからさすがにしないでしょうけど、それでもステータスはかなりあがるでしょうね」

 

ティオナから順番が回ってきたティオネがベルを自分の前に座らせ頭を撫でながながらそんなことをいう。ベルはといえばもう抵抗しても無駄だと悟りいろいろと意識してしまわないように自分を律している......男ならばこの状況を楽しむのじゃ!と祖父の言葉が聞こえてきそうだがベルにはまだまだ経験が足りない......

 

「もうレベル2ですか......おそらくこのオラリオでも前例のない最速でのレベル2ですね、ベル、これで遠征にも参加できるかもしれませんよ?」

 

レフィーヤは最初少し遠慮したもののティオナに手をベルの頭の上に乗せられるとその感触がよかったのかその後しばらくの間もふもふと撫でていた。

 

「そういえばベルの髪に少し金色の髪が混ざっていますね。これはどういうことでしょうか?」

 

今度はリリーがベルをハグしているがふとそんな質問をした。

ベルの髪の色が変わったのは精霊の血をひくアイズの血を飲ませたからだ......このことを知っているのはアイズ、リヴェリア、レフィーヤしかいない。

 

「んと......」

 

困った表情のアイズをみかねてティオネがフォローする。

 

「それもベルのスキルに関係しているかもしれないわね、それに髪色が変わっても手触りも変わってないし問題ないわ!」

 

グっと皆に親指を立てる。

 

「たしかにそうでござるな。ベルの髪は相変わらずもふもふでござる」

 

順番が回ってきた刹那がもふもふと頭をなでる。さすがに抱きしめることは照れてできないようだ。

 

「そうだ!僕皆さんにお礼がしたいので僕にできることがあればなんでもいってください!」

 

リヴェリアママからの宿題でもある報酬の支払い、ベルは何が報酬になるかわからなかった為自分にできることならなんでもするつもりだった。

 

「「「「「なんでも......」」」」」

 

一瞬時が止まったかのようにシーンと静まりかえる......

 

順番がまわってきたルナがおそるおそるベルの髪に触れる。ジワジワと体の芯から何か癒されていくような気分になる。個人差はあるものの皆がこのような感覚になるのはやはりベルには何かあるのかもしれない。

 

「ベルはきっと私達とパーティーを組むことはもうほとんどないと思うから......今度一緒に魔法の訓練をしてほしい。私もレフィーヤ隊長やリヴェリア様のようにベルや皆を助けられる魔法使いになりたいから」

 

おそらく今回レベル2へと上がるベル。そして強さという面で考えるとこれからは更に上のレベルの団員達とパーティを組むことになるだろう。ルナが素の自分の言葉で小さな声ではあったがお願いした。自分の趣味のことをお願いしないあたりしっかりと考えているようだ。

 

「そんなことでいいんですか?もちろんいいですよ!」

 

ルナがおずおずと差し出した手をぎゅっとにぎりベルは了承した。今のルナの精一杯のお願い、きっとルナの魔法がいつか皆を助けることになるだろう......

 

「じゃあ私は料理でも教えてもらおうかしら。団長もベルの料理おいしいっていってたわ。その味を伝授してほしいの!」

 

ティオネのお願いももちろん問題なく了承した。ミア母さん直伝の料理を教えます!とベルも張り切っている。他の4人は慎重にお願いを考えているようで神妙な顔つきをしていた......

 

その後も4人のお願いは決まらなかったがいつでも大丈夫ですとベルがいったことでその場で考えることは止め、眠くなるまで遠征の話やベルの為に素材を取りに行ったことなどを話し夜も深まったところで眠りについた......

 

現在に戻る

 

「なるほどなぁウチもその場にいたかったでぇ!えらい楽しそうなことやっとったんやなぁ」

 

にやにやといやらしく笑うロキを放置し他の皆はワイワイと騒がしい黄昏の館へと入った。その日の昼間は黄昏の館で皆のお願いを聞いたり、9階層での出来事を話したり、遠征での話を聞いたりと忙しく過ごしていた。ロキの目からみても疲れている様子は一切見せずむしろ溢れ出る生命力のおかげで動きたくてたまらないのを抑えているようだった。

 

「ベル、別に今日じゃなくてもよかったんやで?皆の夕飯まできっちり作って疲れたやろ?」

 

「大丈夫です。皆に今日の夜の話をしたらフレイヤ様が相手ならなるべくはやく報酬を払った方がいいとおっしゃっていたので。それにロキ様もアイズさん達もいますし」

 

ビシっと正装をしたベルとロキがバベルの前へと到着する。その後ろには武装したアイズ、ベート、ティオナの3人もいる。この3人はフレイヤへの報酬でバベルへと行くことを話した際真っ先に護衛をかって出た3人だ。これ以上高レベルの冒険者を連れて行くこは止めているが、もし何かあったらすぐ動けるようにフィン達も待機はしている。

 

フィン曰く

【おそらく問題はないが準備は怠らないようにということだ】

 

バベルの高級レストラン前に護衛の3人は待機して大きな扉を開けて入室する。

 

バタンと扉が閉まると更に奥の部屋の扉があきオッタルが姿を現した。

 

「......えっと!!??」

 

「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ」

 

オッタルの姿を見たベルは思考停止し、ロキは大爆笑していた。

 

「フレイヤ様がお待ちだ」

 

二人の様子を気にすることなく淡々としゃべり奥へと案内した。

オッタルはウエルカム!ベルクラネル【ハート】という文字とかわいくデフォルメされたベルの顔が大きく描かれた服を着ていた。

 

「あの......」

 

「ベル・クラネル。頼む、何もいわないでくれ」

 

「......はい」

 

ロキが涙を流しながら笑っている隣で僅かに肩を震わせているオッタルをなんともいえない表情でみているベル。これが混沌というものか......

 

「ここだ」

 

短くそういうとベルとロキは奥の部屋へと通された。

 

オラリオの夜景が美しく見える豪華な部屋に胸が強調された白いドレスを着ているフレイヤが待っていた。普通の人間ならその姿を見ただけで心まで魅了されてしまうだろう。

 

「フレイヤ様、この度は......」

 

フレイヤはベルの言葉が終わる前に立ち上がってベルの唇に指を当ててその先の言葉を遮った。

 

「私がしたくてしたことよ、気にしないでいいわ」

 

その割に報酬要求したやんけ!という言葉を飲み込みながらロキは席についた。

同じくベルも座るように指示され席に着く。

 

「どうだったかしら?オラリオでも腕利きの仕立て屋に服を作ってもらってオッタルに着てもらったの」

 

「いやあの服をあんな筋肉ムキムキのオッタルが着とったらホラーやで。なあベル?」

 

「ええと......」

 

正直怖かったですとは口がさけても言えない。

 

「そう、かわいいと思うのだけれど」

 

悲しそうな顔をするフレイヤにいたたまれなくなりベルは口にしてしまった。

 

「そうだ!今回の事でフレイヤ様にいろいろとしていただいたようで僕お礼をしたいんですが」

 

にっとわずかにフレイヤが笑う。

 

「お礼なんていいのよ、でも、そうね......それじゃあひとつお願いを聞いてくれるかしら?」

 

「僕にできることなら......」

 

なんでもっという前にロキがベルの口をふさいだ。神の前で、さらに言えばフレイヤの前でなんでもするなんていうことは言ってはいけない......

 

「私を楽しませてちょうだい」

 

ロキがピクリと反応する。

 

「フレイヤ?」

 

「大丈夫よ、いったでしょ?あなたも楽しめるはずだと」

 

不審げな顔のロキをよそに話を進めた。

 

 

「楽しませる?ですか。ええと何をしたら......」

 

「じゃあまずは服からね」

 

パンパンとフレイヤが手を叩くと扉の奥からシルが姿を現した。

 

「シルさん!?どうしてここに!?」

 

「ベルさん!元気になったみたいでよかったです。フレイヤ様とは昔から懇意にさせてもらってるんですよ」

 

シルは立ち上がったベルの手をぎゅっと握ると笑顔で笑った。

 

「さあ、隣の部屋に着替えを用意してます。行きましょう!」

 

まだ混乱するベルをなかば無理やり連れて奥の部屋へと入っていった。

 

扉の向こうからわずかにベルの声が聞こえる。

 

「ええ!?またこれを着るんですか!?」

 

「大丈夫ですよ、メイクもしっかりしますから安心してください!」

 

「いやいやいや、そういうことでは......それに前回よりも丈が短いような」

 

「フレイヤ様もきっと楽しみに待ってますよ?」

 

その言葉に撃沈したベルはおとなしくシルに全てをまかせた......

 

ロキとフレイヤが無言で酒を飲むこと十数分後、ガチャっと扉を開けて出てきたベルをみてフレイヤは満面の笑みを、ロキは鼻血を出しそうなほど興奮した......

 

「あ、あの...少し丈が短いんですが......」

 

恥ずかしがりスカートの丈を気にする仕草がフレイヤとロキのハートを打ち抜いた

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




読んでくださっている皆様いつもありがとうございます。

今回は挿絵を入れたかったので少し長くなってしましました<m(__)m>

またお気に入りや評価もたくさんしていただきありがとうございます。

感想の返信でも書きましたがいろいろと兎魂と語り方がもしいましたらお気軽にメッセージください。返信は順番になるので遅くなるかもしれませんが<m(__)m>

少々仕事がいそがしくまとまって書く時間があまりなく遅くなりましたが無事更新できました。また読んでいただければうれしいです<m(__)m>

挿し絵は月島キリカさんに書いていただきました❗

これからもよろしくお願いいたします。


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54 白兎のお礼3

ベル君は女の子です


扉から出たベルは恥ずかしさのあまりか、頬を染め涙ぐみながらなんとかスカートの裾を下げようとしている。ふとした瞬間に下着が見えてしまいそうでなんとも心もとない......

 

この部屋からみる景色は絶景だ、部屋の大きな窓から外を見下ろすと町の明かりが宝石のように光り輝いている。この部屋を予約することができるのは神たちの中でも数人だ。しかし、今!目の前にはそのすばらしい景色さえ霞むほど美しく初々しく思わず抱きしめたくなるような存在がいる。

 

「ベル、こっ...こっちにいらっしゃい」

 

ガタッと少し大きな音を出して席を立ち薄紫の扇子で口元を隠しながらベルに向けて手招きした。

 

美の神フレイヤの動揺......鏡でみる姿と実際にこの目で見る姿ではやはり違う。おずおずと近づくベルからふわりとよい香りがする......

 

「ベル、あなたはいい匂いがするわねぇまるで森林浴をしているようだわぁ。......薄緑色の光、加護なのか、それとも精霊の血なのかしらねぇ」

 

最後の方は自分に言い聞かせせているような聞き取れないほどの声だった。

 

「ええと......」

 

フレイヤの目の前まで行くと直立するようにとの指示を受けた。スカートを手でおさえながらではあるが。その様子をみたフレイヤはベルの体をつま先から頭のてっぺんまでゆっくりとベルの周りを歩きながら見つめる。ロキもフレイヤと同様にグラスに注がれた酒を一口で飲み干すと至近距離で見つめた。

 

「この耳と尻尾がええんよなぁ......そういえば耳はええけど尻尾はどうしてるん?」

 

「ロ、ロキ様!」

 

ロキはベルの背後にするりと回り込むとベルの尻を撫でる......

ロキのセクハラのスキルは常人をはるかに超える域に達している、ベルの視界から瞬時に消え相手が本気で嫌がるぎりぎりを狙ったセクハラ.....すごい力だ。熟練度はレベル6を超えるだろう......

 

「黄昏の館に帰ったらリヴェリアさんに相談します......」

 

ぼそっと呟いたベルの一言を聞きロキは冷や汗を流しながらパッと両手を上にあげて降参した。リヴェリアママの折檻はロキでも嫌らしい、団員の一部にはご褒美と感じる者もいるようだが......

 

「でも、そうねぇ。その尻尾はどうやって着けているのかしら」

 

ロキのように直接触るようなことはしないが見つめられ続けるというのはそれだけで今のベルにとっては恥ずかしさで死にそうだった。

 

ほぅとため息をつくフレイヤの熱い視線にベルは身震いする。なんというかねっとりとした粘液の中にいるような......蛇が餌を前に舌を出している様子が頭に浮かぶ。

 

「さあ、そろそろ食事にしましょうか。今日は一応その為に呼んだのだから」

 

先ほどと同じように手を叩くと前菜がテーブルへと運ばれる。

 

「あの、僕そろそろ着替えても...」

 

「ダメよ」

 

「ダメやな」

 

「......はい」

 

せっかく正装をしたものの結局着替えたままの恰好で食事を口にする。ベルの苦手を知ってか知らずかはわからないがアルコールは控えめで程よく体が温まるように配慮されている。しばらく談笑しながら食事を取り、和やかな雰囲気の中最後のデザートを口に運んだ。実際コースの内容はかなり考えこまれていて体の回復に効果のある特殊な食材がふんだんに使用されており順を追って摂取することで体を癒す物まであった。

 

「ベル、口にあったかしら」

 

「はいすごくおいしかったです。なんだか体の調子もいい気がします!」

 

それはよかったとフレイヤはほほ笑んだ。そういえばお金はっというベルをフレイヤが止める。

 

「今日は私が招待したのだから気にしないでちょうだい。もちろんロキもよ......ベル、まだ私を楽しませてというお願いは有効かしら」

 

その言葉にビクっと体を硬直させる。無理もない、ベルは女装趣味があるわけではない、ただ女装姿が似合いすぎて、初々しくて、反応がかわいいだけなのだから。

 

「だ、大丈夫です。次は何をすれば......」

 

「これで最後よ、食後に軽く運動はいかが?」

 

フレイヤが手を叩くとオッタルが現れる。扉の向こうに待機していたのか、先ほどの服装のままだ。あまり見ていたくない......

 

「なんやぁオッタルと戦えとでもいうんかぁ?」

 

食事中にいい酒だと何度も進められロキは現在ほとんど使い物にならない。

 

「そのとおりよ!といってもオッタルにはベルにケガをさせることは禁止だと厳命しているから安心してちょうだい」

 

まさか、現在のオラリオ最強である猛者に組み手をしてもらえるもらえるなんて......でもベルはここには正装をしてきているので運動ができる状態ではない。

それに今はリヴェリアママから訓練を止められている。

 

「あの、フレイヤ様。今日僕動くのに適した服装ではないんですが」

 

ベルの言葉をにこにこして聞いているフレイヤは話を続けた。

 

「ベルには勝てたらこれをあげるわ」

 

フレイヤは一冊の本を机の上に置いた

 

英雄譚が好きなベルはその本を見て心を躍らせた。ところどころ破損しているようではあるが古めかしい表紙には英雄アルゴノゥトという文字が書いてある。これは最近都市外の古代遺跡からヘルメスファミリアが発見した手記で複製されたものでもない。古代の時代から保存されている唯一の本ということだ。

 

ほぁぁぁと感動で声にならないベルは目を輝かせその本を眺めている。

 

「読んでみたい?じゃあオッタルに勝つことね。制限時間は3分よ。勝利条件は......そうね、ベルのスカートの中が私に見えたらベルの負けよ」

 

「......はい?ちょっと待ってください!え!?この恰好で動くんですか!?ここで!?それにスカートの中身って」

 

フレイヤは続ける。

 

「ベルが勝利したらこの本を、ベルが負けたらその恰好のまま黄昏の館へ帰ってもらいます。もちろん歩いてよ!」

 

フレイヤが心底楽しそうにベルに向かって片目をつぶった。それと同時にオッタルが動き出す。

 

「ベル・クラネル。......諦めろ。フレイヤ様は今酔っておられる」

 

「それじゃあ、用意スタート!オッタル、お願いね」

 

パン!と手を打つと更にお酒の入ったグラスを口へと運ぶ。隣のロキもケガさせんようにやるんやったらええわ!などといって助けにならない。

 

立ち上がったベルにゆっくりと近づいてくるオッタル。しかも服装がベルの顔がプリントアウトした物だ。レベル差云々は関係なく恐怖を感じる。

 

「ひっっ!!」

 

ゆっくり手を伸ばすオッタルだがベルがいつものように動こうとするとひらひらとスカートがめくれてしまいどうにもうまく動くことができない......その様子を楽しそうにお酒を飲みながら眺めるオラリオ最強派閥の神たち。

 

(ロキ様は......ダメだ。自分でなんとかしないと、相手を観察するんだ)

 

恐怖に打ち勝ちじっと観察する......

オッタルにはいろいろと制約が課せられているらしいことがわかる。

 

1、ゆっくりとしか歩いてこない

 

2、片手しかつかわない

 

3、ベルにケガをさせるようなことはしない

 

おおまかにこの3種類だろうか。自分が激しく動けないことを加味してゆっくり動いてもフロアの隅に追いやられない限り逃げ切れるはず。

 

逃げること2分30秒このままいけば問題なく逃げ切れそうだ、フロアをぐるりとまわり今は最初にいたテーブルまで帰ってきている。

 

「オッタル!」

 

「はっ!」

 

まだベルとの距離はかなりあるはずだったがいきなりベルには反応することができない速さで片腕を振り上げた。

 

ブォォォ!!

 

ものすごい上昇気流がまきおこりロキとフレイヤの前でスカートがめくれ上がる。

 

「!!ッッシル!これはどういうことなの!?なぜベルは私が用意した下着を履いていないの!」

 

部屋の隅で完全に気配を断ってペルセウス作の奇跡の道具【カメラ】なるものでベルの写真をこっそり撮っていたシルを呼んだ。

 

「ベルさんにさすがに勘弁してくださいと涙目で懇願されたので。あの姿でそんな顔をさらたら私は断れません!」

 

神フレイヤに気圧されず自分の意見を貫くシル。かっこいいと思うがすっと先ほど撮ったであろう写真を渡していたことは気にしてはいけない.....

 

「なるほどなぁそうやって尻尾をつけとるんやなぁ」

 

尻尾取り付け専用にシルが開発したベルトをどさくさにまぎれてスカートを持ち上げしげしげと眺めるロキ。プルプルと震えるベルは後で必ずリヴェリアママに相談することを心に決めた。

 

「残念だったわねぇベル。でも頑張ったご褒美にもう少しレベルがあがったら読ませてあげるわ。でもその時は一人で私の部屋に来なさいね。でもこの手記はおそらくSクラスの極秘文書よ」

 

またパンッとフレイヤは手を叩いた。

 

「さあ、目の保養もできたし随分楽しませてもらったわ。それじゃあ今日は解散としましょうか」

 

それとロキ!そういうとフレイヤはロキに金で作成された会員カードを手渡した。

 

会員No000と書いてある。

 

「なんやぁ......!?こんなもんいつのまに作ったんや」

 

「神会でこの話をしようかと思っているの。他の神達にこの子に手出しさせないわ」

 

神フレイヤ、神ロキがトップに君臨する白兎を見守る会がこの時結成された。ロキファミリア団員は無条件で加入可能、その他は面接をクリアした者のみ加入可能だ。

 

入会特典はベル・クラネル隠し撮り......ベルの写真だ。今日のベルの姿はプレミアになるだろう......

 

酔って歩けないと駄々をこねるロキを抱きかかえフレイヤとの強制的なかけに負けたので着替えもせずに入口の扉を開ける。

 

「ベル!おかえぃ......!!」

 

「ベル、この服豊穣の女主人のだよね!似合い過ぎだよぉ!!

 

「ベっっベルおまえ......がはぁ」

 

吐血はしていないがベルの姿を見た瞬間ブワッとしっぽが膨れ上がった。ガンガン壁に頭を打ち付けているベートをよそにアイズとティオナはロキを弾き飛ばし無言でベルを抱きしめた。

 

「アイズさん、ティオナさん、ベートさん......僕、ロキ様達に辱めを受けました......」

 

「「「あ?」」」

 

ずずずずと黒い気配と共にすさまじい殺気がロキに向けて放たれる。

 

「ちょっっちょいまちいぃ3人共!ベルもなんとかいってやぁ」

 

ベっとロキに向かって舌を出す。ベルにしては珍しくロキに少しばかり反抗した。が、しかしその顔を見ていた他の3人にも癒しと萌えという大ダメージを与えた。

 

アイズは両腕を抱きしめはぁはぁと荒い息を吐きながらぶるぶると震えている、何かを必死に耐えているようだ。

 

ティオナにも会心の一撃が入り、地面に倒れ込みダンダンと地面を拳で叩いている。ミシッメキッという音とともに地面に亀裂が入る。

 

よろよろとふらついたベートは吐血した......

 

「あの、僕これからこの服装で黄昏の館まで帰らないと行けないんですが。一緒にきてもら」

 

「「「まかせて、まかせろ!!!」」」

 

ベルの言葉を遮り返事をするとベルを囲うように立ちロキをゲシッと足蹴にすると4人仲良く黄昏の館まで帰還した。

 

帰還途中ベートが先頭を歩き周囲を威嚇してベルの方へ視線が極力いかないように対応してくれている。

 

「これ、お前を抱きかかえて屋根の上走った方がよくないか?」

 

ベートがそんなことをいう、たしかにもっともだと思う。

 

「ベートさんは......少しにやけているのがちょっと......」

 

アイズの言葉にベートは自分の顔をごしごしとこすりまた眉間に皺を寄せながら前を向く。

 

「すみません、フレイヤ様との約束で歩いて帰らないといけないので」

 

律儀に約束を守り黄昏の館まで帰ったベル達であったが、着替える前に他の団員達に見つかり大騒ぎになったことはいうまでもない......

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます<m(__)m>

今回はそこそこ早めに更新できたかなと、本来であれば週1か2週に1回くらいはあげたいんですが......そうしないと話が進んで行かないので兎魂も困ります笑

遂にお気に入りが後500人くらいで3000まで行きます。私のような素人の作品をたくさんの人に読んでもらえてすごくうれしく思います。もっとうまくかけるように精進いたします。

評価の方も現在106人の方がしてくれています。本当にありがとうございます。

お気に入り3000人

評価150人くらいをまた目標にして頑張って更新していきたいと思いますのでまた楽しんで読んでいただけたら幸いです<m(__)m>

後数話はお礼&制裁でその後くらいから話をお祭りの方へと進めたいと思います。


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55 白兎のお礼4

黄昏の館の入り口でベルの姿をみた団員達は大騒ぎ。



「お前たち、何を騒いでいる!」

 

ベルの姿を見た団員達が玄関ホールで盛大な騒ぎをしているのを聞きつけ階段の上からコツコツと足音をさせリヴェリアが降りてくる。

 

「休暇といっても読書をしたり瞑想をしたり自己を高めることを......!!」

 

バサっと手に持っていた本をリヴェリアは床の上に落とした。団員達が静まり返る中ズンズンとベルに向かって歩いていく。団員達もその迫力に左右に分かれ道を作った。護衛としてついて行った3人はベルの両わきに控えている。

 

「ベル、何があった?」

 

がしっと両肩を掴み真剣な表情でベルを問い詰める。これはどちらの意味なのだろうか......ベルが女装趣味に目覚めてしまったのではないかという心配なのか、はたまた誰かに無理やり着させられたのではないかという心配か......しかし似合っているな......などと考えているのかもしれない。

 

「ロキ様達に......」

 

スカートの裾をぎゅっと握り恥ずかしさのあまりか俯く。だがそこで言葉を止めない方がよかったと後にロキの姿を見てベルは少し反省をした。

 

「わかった。ベルは着替えてゆっくりと休むがいい。後は私が引き受けよう。誰か私の仕置き用の杖を持って来てくれ」

 

リヴェリアの凄味のある声を聴き一人の団員が走って一本の杖をリヴェリアに手渡す。

年代を感じさせるこの杖は昔から仕置き用としてリヴェリアが使っているものだ。8割はロキが仕置きされているのだが......

 

黄昏の館の扉の内側に立つとリヴェリアはドンッ!と杖を床に突き仁王立ちした。

 

ふぅぅぅーーっっと深い息とともにリヴェリアの目つきが鋭くなる......

 

ちなみになぜ内側かというと外でこの体制でまっている時にロキが帰ってきたためしがないからだ。威圧を放つ立ち姿は見たものをちじみ上がらせること間違いなしだ。

 

しばらくするとよたよたと千鳥足で黄昏の館に向かってくるいつもの姿が見えてくる。酒を飲んで、おいしいものを食べて、かわいいベルを見て、さぞかしいい気分なのだろう......扉をあけて入った瞬間仁王立ちのリヴェリアを見るまでは。

 

「ロキ、今日は言い訳を聞いてやるわけにはいかない。後ろを向け」

 

ぎぎぎぎっと壊れて錆びついた機械のように後ろを向いた瞬間、

 

「ぎにゃぁぁぁぁっぁぁっぁ!!......」

 

黄昏の館に盛大な叫び声が聞こえたのは言うまでもない......しかも複数回......

 

翌朝朝食で尻を抑えながら入ってくるロキを冷ややかな視線が射抜いた......

 

 

食事も終わりベルは今日も皆にお礼をしてまわる予定だ。

一日で終わらない予定が多いがベルの訓練が再開されるまでには全て完了させることができるだろう。

 

食事を終え各々が食器を片づけ一息ついている。フィンに指名された何人かはアキやラウルと交代する為都市外の工場へと向かった。まだ神会の許可が出てない為潰すことはできないが時間の問題だ。隠し通路等ないかどうか付近の捜索も抜かりない

 

「......今日の予定は......」

 

ベルはそんなことをいいながら手帳を開いて予定とにらめっこをしている。

 

皆のお願いを手帳にまとめるまではよかったが一日かかる予定があったりと順番に悩む。

 

「ベル、今日の予定はどうするの?」

 

私服姿のアイズがベルに声をかけた。髪を後ろで一つ縛り、いわゆるポニーテールにして今日は私と一緒にっという気配が周囲にビンビン伝わっている。

 

「ええと......お昼はティオネさんに料理を教えてその後刹那さんと買い物をして、ルナさんと魔法の練習の予定をたてて......夜はロキ様にステイタスの更新をしてもらう予定です」

 

アイズは自分の名前がでてこないことに膝から崩れ落ちそうになる......

 

「アイズさんとは少しゆっくり二人だけで話がしたいことがあるので......」

 

ベルの言葉を聞いたアイズはピクッと反応し頬を染める。

 

「!うん......うん!!じゃあ一番最後でいい!でも午前中は空いてるの?」

 

「午前中は食材の買い出しがてら市場の人達にお礼をしにいこうかと思ったます。ヴェルフのところに行こうとしたんですが今工房に籠って何かをずっと作っているようなので少し時間をおいてから行こうかと思っています。ヴェルフは集中している時声かけても全然反応してくれなくて......でも槌を振る姿はすごくかっこいいんですよ!」

 

にこにこと笑う姿をアイズは目を細めて眺めていた。もし万が一にもベルが死んでいたらアイズやベート、ティオナは間違いなく神会を無視して今回の件に関わった者を皆殺しにしていただろう。もちろん大罪である神殺しもだ......

 

「なんだ、お前市場に行くのか。じゃあ俺が付きやってやる」

 

背後からやってきたベートがポンっとベルの頭に手を乗せた。

 

何か言おうとしたアイズだったがベートの真剣な顔に押し黙る......

 

「少しベルに聞きてえこともあるしな、ってことで行くぞ」

 

そのまま立ち上がったベルと肩を組むとニッと軽く笑った。

 

「おまえは女と出かけることは多いがたまには男どおし出かけんのも悪くねえだろ!」

 

「!!はい!!」

 

アイズに手を振って黄昏の館を後にした。

 

オラリオの町をベートと二人で歩くのは新鮮だ。朝市で賑わう市場に行き顔なじみの皆に挨拶をする。

 

「お、兎ちゃんじゃねえか。もう体はいいのかい?」

 

ベルが市場に来たことを知った皆はわらわらとベルとベートの周囲を取り囲む。

 

「大丈夫です、皆さん先日はありがとうございました。皆さんや家族のみんなのおかげでなんとか命をつなぐことができました」

 

「いやいや俺たちは、心配してただけで何にもしてやれなかったからなぁ......」

 

肩をおとす市場の人たちにベルは答える。

 

「そんなことありません、僕の事を思ってくれたり、祈ってくれるだけで僕は力をもらえますから。本当にありがとうございました」

 

ぺこぺこと頭を下げて回るベルを腕を組みながら眺めているベート。

 

「兎ちゃん、この人は......」

 

ベルの後ろで控えているベートの方を全員が見つめた。

 

「僕のおにいちゃんです!」

 

振り向いてにぱっと笑うベルの顔をみて顔に手を当て何かを我慢した後でベートが皆に声をかけた。

 

「......弟が世話になった。こいつが買う分は俺が支払うから昼までに食材を黄昏の館まで届けてくれないか?」

 

何かいいたそうなベルの頭に手を置き買い物用のメモを市場の人に渡した。

 

「代金はこれで足りるか?」

 

そういうと懐からじゃらりとヴァリス金貨の詰まった袋を取り出し手渡した。

袋の中身をおそるおそる覗いた市場の住人達は目を見開く、昼までに届けてもらう運賃や礼金も含まれているようだ。

 

「これからもこいつが世話になる、よろしく頼む」

 

ぶっきらぼうにそうつげるとベルの肩をトンっと叩き市場を後にした。

ベルもペコッとお辞儀をするとたたたっと走ってベートの後をついて行く。

 

「あれがロキファミリアの凶狼......噂とは随分と違うようだ」

 

ベルと仲良く歩くベートの後姿を市場の人たちはほほえましく眺めていた......

 

「ここに寄るぞ」

 

ベートの後に続き路地を何回も曲がり一つの店に辿り着く。隠れ家のようないでたちで【一匹狼亭】という看板がかけられている。

 

「俺だ、いつもの席を、それと人払いを頼む」

 

カウンターにいた獣人の主人がグラスを拭く手を止め表の看板をかけ替えた。

ベートと主人の様子を見る限りかなりの常連のようだ。

 

店の奥の方の席に座ると注文する前に店の主人がドリンクと軽くつまめる物を持って来てくれ自身はベートに向けて手をあげると店の二階へと上がっていった。

 

「ここは俺のお気に入りの店だ。ロキファミリアの他の連中もこの場所は知らねえ。それとあの看板は特殊でな、反転させると多少の認識阻害の効果があるから便利なんだ」

 

ドリンクを飲みながらそんな話をする。少しの間たわいない話をしつつ時間をつぶしたところでベートの表情がスッと真剣なものに変わる。

 

「ベル、少しお前に聞きたいことがあるんだがいいか?答えれない、答えたくなかったらそれ以上は聞かねえから安心してくれ」

 

真剣な表情のベートにベル居住まいを正した......

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回すこし短めですが書いてみたので読んでいただけるとうれしいです。

お気に入り、評価も増えているようです皆様のおかげです、ありがとうごじます。兎魂にやる気が注入されます<m(__)m>

次回もなるべくはやめにあげられるように頑張ります<m(__)m>

PS
少し考えたことがあり、いつも読んでくださっている皆様へお礼もかねてプレゼントを送りたいなと......本来なら呼んでくださっている皆へと思うのですが、さすがに厳しいので数人限定ですが、私の考えているベル君の二つ名と同じ二つ名を考えてくれた方に兎魂クオリティで申し訳ないですがその人の為に短編小説を書こうかと思います。もちろん今書いているこの話が優先なので時間はかかりますが......
またそのうち詳細を活動報告に書きますので見てみてください。またはメッセージ、ツイッターへDMでもかまいませんので何か聞きたいことなどありましたら連絡ください<m(__)m>




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56 白兎のお礼5

二人は杯をかたむける。


トンっと持っていたカップを机に置くとベートはレフィーヤと共に出会った世界樹の精霊の話をした。

 

「ベートさん本物の精霊に会えたんですか!?その姿を見ることができる人は世界中でもほとんどいないということをおじいちゃんに聞いたことがあります。精霊と共に戦った英雄達もいたという話ですが......」

 

「ああ、そこで世界樹の滴をもらったんだ。ただそこでそいつが気になることを言ったんだ」

 

「気になること.....ですか」

 

ベルは首をかしげた。

 

「クラネルの一族とヴァレンシュタインの一族に精霊たちの血を分けた。精霊はそんなようなことを言っていた。その言葉をきいてお前は何か思うことはあるか?」

 

ベルは少し考えた後これまでであった人の中で自分に対して世界樹とつながりのあるような内容をいわれたことがあることに気が付いた。

 

「そういえば豊穣の女主人のリューさんに大樹を見上げているような感覚になる、とかフレイヤ様に森林浴をしているような気分になるみたいなことは言われたことがあります。後はいい匂いがするとか癒されるとか?」

 

自分で言っていてよくわからなくなってきたがそもそもベルは自分の両親が誰なのか

確証がない。もしかしたらという思いはあるがまだ自分の中でもやもやしている状態だ。

 

「まだ、誰にもいってないことがあります。そもそもあれはもしかしたら夢だったのかも、僕の妄想が形になっただけなのかもしれないですけど......」

 

ベートはじっとベルの方を向き黙ってベルの話を聞いてくれている。

 

「僕がミノタウロスと戦った時に使ったスキルがあります。そのスキルは家族の絆です。あるキーワードを唱えることで生命力を代償に器の限界を突破する技だと教わりました」

 

「生命力!!??体力、精神力じゃなくて生命力か。それがおまえのあの姿ならそんな技2度と使うなといいてえところだがな。それと、教わりましたってのはどういうことだ?」

 

あの真っ白い空間での出来事、夢の中の出来事のように徐々に記憶から薄れていることもあるがただいえることはあの場所で英雄とあったことだ。

 

ゼウスファミリアの英雄、ダグラス・クラネル。会話したことは覚えている、でも内容はもうほとんど思い出せない。スキル発動に必要なキーワード、そして代償が生命力ということ。そしてひどくなつかしい感じがしたということぐらいしかもう思い出せない。

 

そんなことをポツポツと語るベル。ベートは腕組みをし目をつぶったまましばらくの間無言でいたがベートは自分も一度だけダグラス・クラネルと会ったことがあるということを話し出した。

 

「俺はガキの頃一度だけあの英雄に助けられたことがある」

 

ベルは驚いた顔をしたがベートの話の続きを待った。ベートの表情は当時の事を思い出してか辛そうだ......

 

隻眼の竜の襲来、両親が目の前で死んだこと。自分の弱さを呪ったこと......

 

「俺は強く、誰よりも強くなりたかった。両親の教えを忘れるくらいに強さに執着したんだ。それがあるスキルを生んじまった」

 

トントンっとベートは自分の胸を叩いた。

 

「俺の中に獣が住んでんだ、そいつを使ったことが遠征の時に一度だけあるがその時は仲間を、家族を皆殺しにしそうになった。フィンやガレスに止めてもらえなかったら俺はとんでもねえことをしていたな」

 

その時は遠征で初めて49階層 大荒野へと足を踏み入れた時だったとベートは語る。

 

事前にその階層での知識は得ていたはずだった、だか大量の敵、リヴェリアの詠唱が間に合う前に壁役の崩壊、仲間の負傷、一か八かの賭けだったが仲間を護る為に俺は獣になったと。

 

「実戦で使ったのはその時が初めてでな、自我を失うほどの狂化と強化だとは俺もロキも他の奴らも思わなかった。自分以外のその階層にいる奴らを皆殺しにしそうになった。洒落にならねえだろ」

 

それもあってか他の団員達と距離を置いたりソロでダンジョンに潜るようにしてたんだがな、そういうとふっとベートはベルの方を向いて笑った。

 

「どっかの誰かさんのおかげで俺は両親の教えを思い出せたんだ、......感謝してる」

 

「ベートさん.....」

 

「まあ、お前に精霊の血が流れていようが誰の子供だろうが関係なく俺たちロキ・ファミリアの家族だ。そこは心配すんな。それとスキルの話はロキと話すのと幹部達にも相談はした方がいい。生命力ってだけで危険な感じしかしない。それにおまえの性格上多用する可能性があるからな」

 

今日の夜ステイタスの更新するならその時に手があいてる幹部は集合だな、とつぶやいたベートはカップの中身をグイッと飲み干した。

 

「僕、もっと強くなってもしベートさんが暴走したら僕が止めます!!」

 

鼻息荒く立ち上がったベルの額をビシッ弾くとベートは笑った。

 

「そういうことは訓練で俺から一本でもとってからいいやがれ!」

 

ガタッと立ち上がったベートは机に金貨を数枚置くとベルを連れて黄昏の館へと帰還した。

 

黄昏の館へと着くと大量の食材が届いており食堂へと運ばれていた。最近では食材は調理担当になった団員達がロキ、幹部達、団員達の順番に食べたい物を聞き献立を作成している。そうした献立を作成した後対応する店へと注文を出し納入されるという流れだ。故に今日の調理担当の団員の頭には?マークが浮かんでいる。

 

「すみません、その食材多分僕が原因です」

 

ベルが今日の調理の担当の団員に頭を下げさ先ほどベートと一緒に商店街に行った話をした。

 

とりあえず保管できるものは保管しそれ以外の食材に関して鮮度が悪くならないうちに優先的に使用することにした。

 

「あら、もう来ていたの」

 

ティオネがエプロン姿で食堂へとやってきた。

 

「あ!ティオネさん。先ほどまでベートさんと食材の買い出しに行っていたので収納ついでに早めに支度をしていました」

 

それじゃ団長に食べてもらう料理を作りましょ!と鼻息荒く調理場に立つティオネ。何を作る気なのかはわからないがいきなり包丁を握り締めると振りかぶってダン!!とまな板の上にある巨大な肉の塊に叩きつけた。

 

「ちょおっっ!!ティオネさん何を!?」

 

「何ってこれから肉じゃがを作るのよ。ベルにレシピを教えてもらおうかと思ったけれで少し自分でも調べてきたわ!意中の男性には肉じゃがをって週刊オラトリア【女性誌】を読んだの。ベルは私の調理が間違ってたら指摘して頂戴」

 

そういうと再度包丁を振りかぶりダンダンとぶつ切りにしていく。

 

「待ってください!危ないです!!」

 

はしっ!と後ろからしがみつくようにしてティオネを止めるとベルは冷や汗を流した。ティオネの調理中に誰も近寄ってこないのはつまりはこういうことなのだろう......

 

そもそもレシピはどこにあるんですか?という質問に対してとりあえず肉と野菜をこの黒い水【極東の調味料醤油】で煮込めばいいんでしょ?レシピ通りに作ったら私の味じゃなくてレシピ作った人の味になるじゃない!とある意味正解のような言葉を聞きなるほどっとおもうところはあるものの、まずはレシピ通りの物を作ってそこから味見をして材料などでレシピに差をつけてはとなんとか納得してもらった。

 

えーととりあえず包丁の持ち方からですが......とベルはひとつひとつ丁寧に作業を教えていく。普段の遠征中では誰が料理を作っていたんだろうと心配になる......

 

隣のティオネからの圧力に耐えながら、まな板の前に立ちグイッと袖をまくると丁寧な手つきでトントントンっと材料を切っていく。ひらひらリズムよく動くエプロンはかわいらしく調理場を覗き込んでいる他の女性冒険者に女子力とはなんなのかを教えているようだ。

 

細かい手順、多い工程にイラつきそうになるティオネには団長の「おいしいよ!ティオネ!」という笑顔を想像してくださいと何度も何度も根気よく説得を試みた。

 

しばらく時間が立ち不格好ではあるが愛情たっぷりの料理ができあがる。最終的にはティオネ一人でなんとか完成までこぎつけることができた。額に汗をかきながら頑張るティオネの気持ちはきっと団長にも届くだろう。大げさに巻いた指先の包帯はこの際見なかったことにしようとベルは思った......そもそもレベル上位の人には通常の刃物は通らないという噂を聞いたことがあるがレベルが上がると体にそのような変化もでるのであろう......

 

調理場を貸してもらったお礼に豊穣の女主人で作ったことのあるまかないをそこにいた人達にふるまいベルは一度自室へ行き刹那との買い物に向かった。刹那のお願いはミノタウロスとの戦いで失った武具の買い物だった。本来ならばデートの誘いをしたかったようなのだが、自分の実力不足を痛感していた刹那はベルから一本とったらデートの約束を取り付けると心に誓っていた。

 

「ベル、ヴェルフは今忙しいんでござるよね?」

 

「そうみたいです。僕も用事があったんですが少し時間を置いてから会いに行こうかと思ってます」

 

ならバベルにある武具を扱う店に行こうとベルと並んで向かう。今日は折れてしまった刀を新調するつもりのようだ。

 

「刹那さんの刀ってかっこいいですよね」

 

男なら憧れるような感じですねと刹那に笑いかける。たしかに刀、日本刀という言葉を聞くと浪漫を感じる。僕は刀はうまく扱えないので、と続ける。

 

「ベルも刀使ってみるでござるか?刀はどちらかといえば切り裂く為の武器でござるが」

 

刀は扱うのに専門の訓練が必要になりそうなので、正しく切らないと刃こぼれすると聞いたことがありますからとベルが答えた。そういえばっとベルは自分の武器である白狼を手に取る。

 

「刃こぼれしてるでござるな、あのミノタウロスと戦ったせいでござるか」

 

「この白狼は椿さんにもらったものなんですよ」

 

刹那は目を見開いた。

 

「まさかヘファイストスファミリアの団長の椿さんでござるか!?あの御仁は拙者が使う刀を打たせたら世界一といわれてる刀を扱う物達にとって神のような存在でござる。いつかはあの御仁が打った刀を使ってみたいというのが拙者の夢でもあるんでござるよ」

 

この白狼ただでもらってしまったんですが......

ぼそっと呟いた言葉を刹那は聞き逃さなかった。

 

「ただでござるか!?」

 

「ええ、なんでも試作品だからあげるみたいな感じでくれました」

 

「ベルはまだあまり自分で武器とか選んだことないんでござるな」

 

通常では自分でいろいろな武器を使って選んで自分の好みの職人を見つけることが普通だ。

 

「ヘファイストスファミリアの団長の作品値段みてみればわかるでござるよ......」

 

そんな会話をしながらバベルの中へ......

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

そして大分更新が遅くなり申し訳ない<m(__)m>

長くなりそうなのでいったんここで区切ります。次回から続きルナと魔法について、ステイタス更新、アイズとガチデート 神会で修羅場、工場をぶっつぶせ! こんな感じですすめていきますのでお待ちください!

ちなみに私のこの話の書き方なんですが

・脳内執筆
・ざっと本文かく
・読み返してにくづけ
・読み返してにくづけ
みたいな感じでかいております。

そして前回お話したプレゼントしたいって話ですが
ベル君のふたつ名を正確に当てた方に小説を書こうと思います。もちろんかなり順番待ちになってしましますが。ちなみに二つ名のヒントは小説の中に結構出てますのでさがしてみてください。

もしくわ週一でこの話更新してくれみたいなことでも大丈夫です。できるかどうかは要相談ですが笑
いろいろなメッセージなどもいただいておりますが全部返信はしますので気軽にどうぞ!


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57 白兎のお礼6

バベルの2階へと二人は上がる


バベルの中へと入ると階層ごとに様々な商品が並べられている。武器防具などはもちろんながら回復薬、階層内で休憩する為に使用するテントや携帯食料なども売っていた。値段は少し割高に思えるが一つの場所でいろいろなものが購入できるというのは強みなのかもしれない。

 

まあ上層は神達が住まう住居や一般的には入れない施設なども多くあるのだが......

 

「ここでござる」

 

刹那がベルを連れて行ったのはヘファイストスファミリアの経営する新人職人たちの作品を売る為に作られた部屋だ。刹那やリリーはヴェルフと出会う前はよくこの店に来ていた。一見乱雑に置かれている武具も品質のいい掘り出し物に出会えるからだ。それに様々な種類の武具を見るのは単純に楽しいと感じる。

 

ベルもヴェルフの工房、椿の工房でも見たことがないような種類の武具を見て目を輝かせている。

 

「僕あまり他の道具使ったことないのでいろいろな攻撃手段があるのっていいですよね!」

 

ナイフや剣の類の近距離武器、槍や棒のような中距離武器、弓や投げナイフなどの長距離武器。相手の種類や距離によって攻撃手段を変えるというのもひとつの方法だ。ベルも戦闘の最中に剣を手放してしまうような状況に陥った時どのようにして戦うかということは考えなくてはならないかもしれない。

 

しかし、アイズのような剣一本に特化した方が強くなる場合も多い。多くの武具を使えるのと100%使いこなせるのとでは大きな違いがあるからだ。器用貧乏になってしまう可能性も大いにある。強大な相手と戦うならば何かに特化していたほうがいいこともあるだろう......

 

その後店内を二人で見て回りながら刹那が使う刀を探した。店といってもどちらかとえば店員のいる倉庫のような作りで決まった置き場所がないことから二人で宝探しをしているような感覚になる。いろいろな形、長さ、もち具合、ためしに軽く振ったりしながら刀を選んだ。

 

最終的に刹那が選んだのは店の奥の奥、ほこりにまみれた箱に入っていた黒塗りの刀を選んだ。製作者の名は掠れていて読めないが柄の部分にこの刀の名が刻まれていた。

 

【黒霞】

 

軽くしなやかで刹那の手によくなじんだ。店員に聞いてもかなり古い品のようで店員が柄に刻まれている名前で製作者を確認していたがすでに亡くなっているようだった。

 

この店のシステムとしては購入した代金は店と製作者で分けられる為今回のような場合はその都合上かなり安く購入することができる。

 

「ベルのおかげでいい刀が手に入ったでござる!まだリヴェリア様の許可がでないから訓練はできないでござるが......」

 

「そうですね、僕も体を動かしたいんですが怒られそうで......リヴェリア様の許可がでたらまた皆で訓練しましょう!」

 

少し間を開けた後刹那は笑顔でうなずいた。なんとなく感じる自分とベルとの違い、ベルは優しいからきっと自分たちに合わせて訓練をしてくれるだろう......でもあの時みたいに足を引っ張ってはいけない。きっとベル一人だけだったらミノタウロスからも逃げることができた。拙者達を護ったせいで、拙者達が弱かったからベルは死にかけた。それは分かっている、だからもっと強くなろう、今度は隣で最後まで戦えるように......

 

買い物も終わり二人で黄昏の館へと帰還する。玄関ホールで刹那と別れベルは談話室へ。今はベルが元気になったことで皆抑えが効いているが少し前まで全員がすさまじい殺気を放っていて休息どころではなかった。それにいったんおさえているだけで号令さえあればすぐにでも出陣できるように皆ダンジョンへはいかずにこの都市にとどまっている。武器の点検はもちろんながら訓練所は前にもまして大盛況になっている。ラウルを筆頭に低レベル冒険者への実技訓練が行われていた。フィン達も現在は闇派閥関連で手が空かないがそれが済み次第順番で訓練にあたる予定だ。通常の訓練より遥かに密度がこく激しいことになることは想像できるが。

 

故に談話室でも瞑想をしたり魔導書を読んだり盤上で知略勝負をしているものが多い。

 

ベルは談話室に常においてある魔石ポットから【ベル】と書いてあるコップに特性ハーブを入れてからお湯を注ぐ。湯気と同時にふわぁっと談話室にいい香りが漂う。

瞬間、ベルの元へ自分のコップを持って殺到する団員達。

 

「えーと皆さんも飲みますか?」

 

「「「飲む!!」」」

 

「あの、ここに僕が作ったハーブ置いておきますのでいつでも飲んでいただけら......」

 

「ベルが作った方がうまい気がするから頼むわ!」

 

「お願いね!」

 

 

にこやかにいわれベルも笑顔で答える。

 

「またハーブ作らなきゃいけないですね、皆さんちゃんと並んでくださいね!」

 

にこっと笑いながら温かいハーブ茶を手渡される。思わず懐からヴァリス金貨を取り出そうとして止めた団員もいた。無意識に貢いでしまいたくなるのはしょうがないかもしれない......ベルの笑顔はプライスレス!

 

最後にベルの元にやってきたのはアリシアだ。

 

「ベル、元気になってよかったですね」

 

これもユグド様のお導きかもしれません、とぎゅっと十字架を握りしめ目を瞑った。

 

「アリシアさんもお茶をどうぞ」

 

差し出されたお茶とベルの手をぎゅっと握った。知っているとは思うがエルフは手だろうが他の場所だろうが家族であれ接触を好まない。

 

「やはりベルには他者を癒す不思議な力があるような気がします。外傷ではなく心の傷を、どんな治癒魔法も外傷しか癒すことができません。ですがあなたは違います、我々のように都市最大派閥の一角になると戦う機会というのはとても多い。相手も魔物だけとは限りません。むしろ人間の方が凶悪な悪意を持って向かってきます。疲弊するのは心も同じ......」

 

「あなたとの出会いに感謝を」

 

そういって手を合わせ目を閉じた......

その後談話室にいたメンバーで遊びもかねてボード形式の軍略ゲームで新興を深めた。

 

夕方

 

フィンの執務室で資料に目を通しているリヴェリアに図書室のカギを借りに行く。

 

トントン

 

「入っていいよ、ベル」

 

フィンの声が聞こえガチャっとドアを開ける。

 

「元気そうだね、皆にお礼をしに回って疲れたろう。たまにはゆっくりと休むのも大事なことだよ」

 

資料を見て難しい顔をしていたフィンだが顔をあげてにこっと笑った。

 

「ありがとうございます。今日はベートさんと買い出しに行ってティオネさんと料理を作って刹那さんと買い物に行って談話室でアリシアさん達と遊んでこれからルナさんと魔法の勉強をしようと思ってます」

 

フィンとリヴェリアは顔を見合わせ苦笑した。

 

「そういえばお昼過ぎにティオネが料理を持って来てくれたよ。あれはベルが一緒に作ってくれたんだね。とてもおいしかったよ」

 

いつもの男料理より......といいかけたフィンが笑ってごまかしたのはきのせいではない。そしてフィンにほめられたティオネが暴走したことも想像できる。団長お疲れ様です......

 

「ベルよ。随分とハードな予定のようだな。ここにきた目的はこれか?」

 

リヴェリアはそういうと懐から図書室のカギを取り出した。

 

「はい!リヴェリアさんがここにいると聞いてきました」

 

ちゃりっとベルの手にカギを乗せるとビシッと人差し指を顔の前に突きつけた。

 

「夕食までだ、いいな?」

 

元気いっぱい返事をするとルナの待つであろう図書室へ。

 

「お待たせしましたルナさん!リヴェリア様にカギを借りてきましたよ!」

 

長いローブを着て扉を背に立っていたルナはこちらを振り向いた。

 

「あ、ルナさんまた眼帯してるんですね」

 

ルナは自分の眼帯を照れくさそうに触った。

 

「もともと我の封印の為にしているもの。外している方がめずらしいのだ」

 

ふんっという感じで腕を組みベルを見つめるがしばらくそのままでいると恥ずかしいのかプルプル震えだした。

 

「僕はこの前みたいに普通に話すルナさんもいいですけど、今のルナさんもいいと思いますよ」

 

頬を赤く染めるとベルからカギを受け取りルナは中へ。

 

図書室の魔導書を一緒に読みながら並行詠唱についての話をした。

 

「魔法を詠唱しながら動くことは火薬を運びながら火の海を渡るようなものみたいですね」

 

ベルが魔導書を読みながら要約している。

 

「ベルはどうやって魔法を使いながら動いているの?」

 

ルナが素直にベルに質問をぶつける。雷の魔力を身に纏い放出したり自身の身体能力をあげたりとベルの魔法の使い方には非常に興味がある。

 

「僕の魔法は割と応用がきくようですが、最初は全然うまくいきませんでしたけど、魔法を発動した状態でゆっくり動くことから初めて徐々に早く動けるように毎日訓練しました。後はこんな感じで電気を球体にして宙に浮かせた状態にしてそのまま保ってみるとかいろいろと自分にできることを試していたらうまくできるようになりましたよ」

 

ベルは椅子に座った状態で小さな電気の球体をピンと伸ばした指先の上に発生させた。

 

「後はそれを空中でまわしてみたり、数を増やしてみたり......」

 

現在ベルの周囲にくるくると小さな球体がいくつも飛んでいる。

 

ルナはその様子を唖然と見ていた。通常の魔法とは異なる使い方、あまりの応用性に言葉がでない。

 

「ルナさんの魔法も相手にぶつける前に魔力の調整をして大きさを変えたり数を増やしたりできるかもしれませんよ?」

 

「確かに、我はただ漠然と魔力を練り上げて詠唱をしているだけであった。それが当たり前だと認識していた。次の訓練時にそのことを意識しながらやってみよう」

 

自分の魔法への固定概念を崩す発想ができるのは才能だと思う。自分に何ができるのかをひたすら考え訓練で、実戦で試した結果でもあるといえるだろう......

 

そんなことをしているとトントンっとノックの音が。

 

「ベル、ルナ、そろそろ夕食の時間だ」

 

誰かが二人を呼びに来てくれたようだ。

 

部屋に備え付けてある時計を見るとかなり時間がたっていた。ほとんど二人で魔導書を読んでいるだけになってしまったがルナはよかったのだろうか。

 

「あの、ルナさんもう夕飯の時間になってしまったんですが......」

 

「いや、ベルは我の魔法への固定概念を崩してくれた。感謝する」

 

......小さな声でありがとうという声が聞こえた。

 

魔導書を元の場所にしまい、魔石ランプを消して図書室のカギをかけ外へ。

 

まだ並んで歩くことはできないけど私もいつかきっとベルと共に戦えるように、そう思いながらルナはベルと一緒に食堂へ向かった。

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

今回は時間がとれたので更新はやくすることができました、よかったです。

感想もいただけてとてもうれしく思います。

次回はベルのステイタス更新とアイズとのデートまで書きたいなと。

その次に神会&工場破壊ぐらいのイメージです。

次回更新はまだ未定ですがなるべくはやくかけるようにしますのでまた読んでみてください!


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58 ベルとアイズ

夕飯を皆で仲良く食べた。


「ベル!それじゃあステイタス更新するで!それと無事ルナと刹那はレベル2にアップや。リリーもステイタスかなり上昇しとったわ。これでもう何人か集まれば中層でも探索ができるようになるで」

 

夕食後に食器の片づけをしているベルの尻を空いている手でさりげなく撫でながらロキは指で丸を作った。

 

「ロッロキ様!!」

 

尻を撫でるのは神の間ではやっているスキンシップの方法やと真顔で言われる。

 

「いやいやベル、尻を撫でるんは子供とのスキンシップなんや。皆冗談で怒っているふりしてるだけなんやで?」

 

「え、でもこの間もロキ様リヴェリア様にぼこぼこにされていたような......」

 

それはリヴェリアの愛情表現なんや、それにいい感じに強く叩きすぎないように調整してるんやで、意外と気持ちいいんや!などとそれから5分ほどベルの反論をうまくかわしつつスキンシップ、もっと仲良くなる方法ということを説明する。理性ではわかっていてもだんだんと自分の方が間違っているのではと思うほどロキの言葉には妙な説得力がある......

 

「そういえば僕がもっと小さいころ、おじいちゃんに遠くの町の酒場に連れて行ってもらったことがあります。僕は果実を絞った飲み物を飲んでいたんですが、おじいちゃんは女性の方と楽しそうにお酒を飲んでいました。その時おじいちゃんが今のロキ様のようにお尻を触っていてとてもうれしそうにわらっていました!」

 

「そ,そうなんや......ちなみになんてお店やったん?」

 

ベルは少し考えた後ポンと手をうった。

 

「たしか兎さんのおしり亭という名前できらきらした看板だったような気がします!」

 

(あんのエロじじい、ベルをどんな店に連れていってんねん......)

 

「面白い名前のお店ですよね、この町にも似たような店があるみたいで僕も一緒に行かないかって誘われました」

 

「!だ、誰がベルを誘ったんや!!」

 

「ラウルさん達です。すごく酔っているみたいでしたが、その時は僕アイズさん達と訓練する予定があったので断ったんですが。今度一緒に行ってみるつもりです!」

 

おそらくベルがそんな店に行ったと知れたら誘った人物は細切れにされることだろう。

今のベルなら店でもモテモテになる可能性は高いがファミリアの皆がそんなことはゆるさない......ロキ自身はそういう展開も見てみたい気もするが後が怖すぎる。

 

「まあ、そういう世界を経験するのも勉強にはなるかもしれんが、行くならリヴェリアに相談してからにした方がええで!そうそう、尻を触るのは仲良くなる為の儀式みたいなもんや。ベルもためしに誰かにやってみぃ。ほれちょうどその辺にいるラウルとかに」

 

ロキは遠くに他の団員と偵察任務を交代して帰ってきたラウルを確認して指をさした。

 

今よりもっと仲良くなる為に必要なことなんやっ、と再度言われトトトっとラウルの方へ。

 

ベルがラウルの方へ歩いていくのを確認して声を押し殺して笑いを堪えるロキ。口に手を当てその後の展開を見守る。

 

「ベル、これからステイタス更新ですか?それならベルもこれでランクアップですね」

 

アリシア達とご飯を食べていたレフィーヤがベルを見つけ声をかける、ちゃんと休んでいますか?ご飯はちゃんと食べましたか?などと姉のような対応だ。

 

「大丈夫です!レフィーヤさんも何か決まったら遠慮なくいってください!」

 

「......お姉ちゃん呼びでも構いませんが......」

 

ぼそぼそとそんなことを呟くレフィーヤ。

 

「あ!そうだレフィーヤさん!少し後ろを振り向いてもらえませんか?」

 

レフィーヤは首をかしげながらも純粋なベルにいわれなんの疑いもなく後ろを振り向いた。

 

それをみたロキが遠くから「ちょっ!待っ!!」と声をかけようとするがすでに遅い。

 

なでなで......

 

「へうっっ!?!?」

 

顔を赤くしたレフィーヤがお尻を抑えながら飛び上がった。

 

「ベッベッベル!?あなたはいったい何を!?」

 

振り向いたレフィーヤは満面の笑みのベルをみて固まる。

 

「ロキ様に皆ともっと仲良くなれる方法だと教わりました!これから他の皆さんにもしてこようかと......」

 

「ロキィィ!ベルになんてこと教えてるんですか!」

 

レフィーヤの怒りの形相をみてベルにウチの部屋で待ってるでぇと言い残し走っていこうとした.......が

 

ドンッ

 

目の前の部屋の入り口から入ってきた人物にぶつかる。

 

「ロキ、またお前は何か騒いでいるのか」

 

部屋の中を見渡して何かを察するリヴェリア。そのまま逃げようとするロキを引きづりながらレフィーヤとベルの元へ。

 

二人とも、何があったか詳しく教えてくれるか?そういわれ素直に全てを話すベルとレフィーヤ、途中ロキのラウルの尻触らせてその後にネタばらしするつもりだったんや!

という言葉を一蹴し続きをうなずきながら聞いていた。

 

「ベルよ、ロキに変なことを言われて少しでも疑問に思うことがあればまず私に相談するといい。それとレフィーヤにもきちんと謝ることだな」

 

ベルはハッとなりレフィーヤの前で土下座した。

 

「す、すみませんでしたぁぁぁ」

 

「ベ、ベル。頭をあげてください!気にしなくていいですよ。悪いのはロキですから」

 

ベルの頭を撫で、立ち上がらせる。

 

「さて、ロキ。私の仕置きが気持ちいいらしいな?」

 

ギロリと鋭い視線がロキを貫くとダラダラとロキの額に汗が流れた。

 

そういえば新しい武器を試そうかと試作品を作ってもらっていてな。実際使ってみたが中々破壊力もあって一考の余地があると判断した。まあ中距離武器の一種だが......

 

仕置き用の杖も大分ガタがきていたから仕置き用にも一つ作ってもらったんだ。もちろん死ぬようなことはない。腰のあたりにベルトで固定されていた物をしゅるりと外すと

ビシッと腕を振るった。

 

スパンッ!!

 

床に叩きつけられた物からものすごくいい音がなる......

 

そう,新しい仕置き用の【鞭】だ。対モンスター用にはミスリルなどが使われるが仕置き用には鞣した皮が使われておりすごく痛いと思うが死ぬことはないだろう......

 

「ちょっ、待ってやぁリヴェリア!鞭って拷問に使われるぐらい痛いんやで!ウチの尻の皮なんかあっという間にぼろぼろやで!......じゃあ鞭でええからこれつけてくれ!」

 

そうすれば脳内で変換できるからとリヴェリアに妙な仮面のような物を手渡す。

 

無言でそれを見つめるリヴェリア......

 

「なるほど、では対モンスター用のミスリルの鞭を使わせてもらおう。私が全力でお前の尻に打ってやる」

 

すみません、なんでもありません。と全力で頭を下げた。

 

「まあおまえの仕置きは後だ。これからベルのステイタス更新だろう?私も行こう。他の皆も待っている、行くぞ」

 

ロキを引きづるリヴェリアの後ろをベルとレフィーヤはついていく。ロキの部屋の前まで行くとちょうど他の幹部達も集まったところのようだ。

 

「やあ、ベル、いよいよステイタス更新だね。僕も今から楽しみだよ」

 

「若者の成長速度には目を見張るものがあるわい」

 

「んと、ベルはすごく頑張っているから。それに......」

 

「これで訓練を更に厳しくしても問題ねえな」

 

「私もそろそろベルと組み手をしてみたいわね」

 

「あたしもあたしも!集団戦闘もやらなきゃね!」

 

「皆さんわざわざありがとうございます。でもランクアップっていつもこんなに人が集まるんですか?」

 

ベルよ。前にアイズに聞いたことがあると思うが現在のオラリオでの最速ランクアップはアイズの一年だ。それを考えるだけで今回の偉業がよくわかると思う。我々もお前に期待しているのだ。とリヴェリア。

 

引きずってきたロキを開放し皆でロキの部屋の中へ。

 

ベルはいつものように椅子に座り上半身裸になる。皆が凝視する中脱ぐのはいつまでたっても慣れない。恥ずかしがって服を脱ぐ様は他の皆の方が照れてしまい視線を逸らすほどだ。

 

ロキも皆が圧力をかけている為セクハラをせずにしぶしぶ自分の指先をナイフで軽く切り血でステイタス更新を始めた。

 

ベルの背中が発行し新たなステイタスが表示される、ロキは目を見開いた。

 

......

 

......

 

......

 

無言で目を見開いたままステイタスを確認しているロキの様子に皆に緊張がはしる。

いつものおふざけが一切ない様子、ピリピリした様子が皆に伝わる。

 

「ありえん......」

 

ぼそっとロキは呟いた。

 

「いや......こんなことあり得るんか......」

 

自問自答している様子に皆の緊張はさらに上がる。

 

ベルは何もいわないロキの様子に緊張を隠せないでいる。そんなベルの肩をがしっと掴みまっすぐに目を見つめる。

 

「ベル、ウチに何か相談したいことは?」

 

ええと......

 

ベルはスキルの事、そしてあの真っ白の空間の中で覚えている限りのことをロキに話した。他の団員達も驚いてはいるものの今は静観している。アイズも今は何も言わないでいる。

 

「扉はどうやって開いた?」

 

ロキがそんなことをベルに聞く。僕の身長ぐらいのところに亀裂が入って......無理やり突き破ったという表現が一番正しいような気がしたベルはそのように話した。

 

......

 

......

 

「確認せなあかん。皆訓練所まで、屋根を閉めて人払いを。リヴェリアは念のため大きめの結界張ってや。レフィーヤは保管してある生命の秘薬念のため持って来てや」

 

ベルの生命力を回復させた生命の秘薬は予備で何本か確保していた。神秘のスキルで作成してもらった瓶に保管している。

 

ロキの異常な焦りを感じおふざけ一切なしで訓練所まで。

 

訓練所にはさきほどロキの部屋にいた人のみ。誰もちかづけないように人払いも完全に行った。

 

「ベル、確認したいことがあんねん。一度その話に出てきた限界突破を使ってみてほしい」

 

「ちょっベルにあれを使わせる気なの!?」

 

当然そのような反応になるが、リスクを完全に知らず使ってしまう方がはるかに危険だ。生命力だけならすぐに回復できるように秘薬が近くにある。

 

「体調は今は大丈夫やな?」

 

「は、はい。大丈夫だと思います」

 

「せやったらウチが止めって言ったらすぐに発動解除できるか?」

 

「多分大丈夫だと思います」

 

皆がベルを囲うように立つ。ロキはベルの正面に立ち腕を組みじっとベルの魂をも見通すぐらい集中した。

 

「ではいきます。【家族の絆限界突破解放】」

 

ベルから闇を全て照らすほどの光が......

 

「止めぇぇぇぇ!!!」

 

その場にいる全員が一瞬固まるほどの大声がロキから発せられた。

 

ベルもその大声に驚き瞬時に解除した。ほんのわずかな時間だった為ベルの体には異常はない。

 

「んだよ、ロキ。んなでけえ声出しやがって」

 

「すごく.....きれいな光だった......でももしかしたらこの光は......」

 

アイズの顔は青ざめ、額にふつふつと冷や汗が浮かぶ。

 

「ベル!こんな技2度とつかったらアカン!!ウチが封印するで?ええか!?」

 

ベルの肩をがしっっと痛いくらいに掴んだ。アイズも後ろからベルの方に手を置く。

 

「ロキ、すまないがしっかり説明してくれ。今の光はなんだ?」

 

はぁはぁと息をつくロキは絞り出すような声で今の光の説明をした。

 

「今の光はベルの生命力、生きる力......そのものや。つまり、ベルは己の器の限界を突き破る為に寿命を削ったんや。どのぐらい長い間使ってたかはわからん、それでも何時間なのか、何日なのか何か月なのか......何年なのか......確実にベルの寿命は削られたことになる。神の血の力を使わずに扉を強制的にぶち破ったんやこれをみてみい!」

 

そういうと先ほどのステイタス更新で紙に移し替えた物を皆に見せた。

 

......絶句

 

「ええか?ベル2度と使おうとも思ったらいけん。わかったか?」

 

......

 

「ロキ様、僕の質問にわかる範囲で答えてもらってもいいですか?」

 

ロキ様は僕について何か知っていることがありますか?

 

その言葉にロキは黙ってうなずいた。

 

「教えてください。お願いします」

 

ロキはフィン達と目くばせをして大きく息を吐いた。

 

「ベル、アイズ、二人ともこれから話すことはショックを受けることかもしれない、知らなくても問題ない。知っても僕達との関係が何か変わることもない。でも君たち二人の関係は......いや......それも変わらないと思う」

 

「「私も、僕も大丈夫です」」

 

「他のみんなもええか?他言無用やで」

 

他の皆も同様にうなずいた。

 

十数年前この都市最強のファミリアがいた。それはゼウスファミリア。そのファミリアの団長である英雄ダグラス・クラネル。そしてその妻、アリア・ヴァレンシュタイン。そしてその二人の子供がアイズや。ゼウスファミリアは世界3大クエストの最後の一つ隻眼の竜に強襲されここから100キロほど北に行った村で全滅した。

 

「俺の故郷の村だ。たしかにあの時は世界3大クエストの陸の王者を潰した帰りに休憩的な目的で一時的にいたんだったな」

 

「そや、武器防具、回復アイテム等かなり消耗していたはずやな。それで隻眼の竜の突然の強襲にあったんや。内通者がいたのかどうかもわからん、本来はそのまま南下してこの都市をつぶしに来ようとしていたのかもしれん。理由はわからんがその場でアイズの両親達は......」

 

ロキはアイズの方を見る。

 

「大丈夫、ロキ。私もちゃんと向き合わなきゃいけないってわかってる」

 

アイズは先を促した。

 

「隻眼の竜に討たれた。どんな戦いだったかはわからん、けど隻眼の竜にも深手を与えたのは事実や、その後援軍の要請を受けてウチのファミリアからもフィン達が援軍に向かったんや」

 

フィン、ガレス、リヴェリア共にうなずいた。

 

「ワシらが現地に着いた時には戦いはすでに終わっていた。村についた火もほとんど消えていた。そこでワシらは生き残った幼いアイズを連れ帰った」

 

村を散会して生存者を探したが粉々になった石像のような物が散らばっていたりとひどい状況だったとガレスは語る

 

「神ゼウスはこの世界における秩序、ルール違反をそこで犯したんや。アリア・ヴァレンシュタインのお腹の中には一つの魂が宿っていた」

 

......あ。

 

「私,そうだ......あの日お父さんが私に弟か妹ができたって......!」

 

「そや、本来なら消えてなくなっていく魂をダグラスの肉体を器にして再構築。人を神の力で転生させた。大罪や」

 

「僕は......アイズさんの兄弟として生まれるはずだった魂」

 

じゃあ僕のおじいちゃんはやっぱり神ゼウスが力を失った姿......僕の本当の両親はそもそも存在していない......

 

ベルは私の兄弟になるはずだった魂......

 

僕は...

 

私の家族は......

 

「「ロキ様、ロキ、ごめん、すみません、少し外に」」

 

二人は顔を見合わせた。

 

「アイズさん、少し外を歩きませんか?」

 

「うん......行こうか」

 

「風よ」

 

二人は訓練所の天井を開け夜の街へ。

 

「少し二人だけにしてあげよう」

 

フィンの言葉に他の皆はうなずいた。

 

しばらくの間二人は無言で夜の街を歩いた。お互いになんて声をかけていいのかわからない。当てもなくトボトボと町を歩く。

 

いつの間にかどこかしらない路地裏へと入っていた。

なぜかわからない、薄暗い路地裏で一言も発しないまま二人の頬を涙が伝った......

 

まだ声はでない、心が混乱していて動く気にもならない。そんな中コツコツという足音が聞こえて二人は瞬時に振り向いた。

 

「おやおや、どうしたんだい?こんなところで何かあったのかい?......いやいや今はいわなくていい。君たちの顔をみればわかるよ。今日はリリ君もいない。おいで僕のホームへ」

 

神ヘスティアは二人の子供達へ手を差し伸べた......

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

皆さんの応援で寝ると続きを書くを天秤にかけたときに書く方へ傾いたので早く書くことができました笑

今のところベル君のふたつ名一名様が当ててくれました。いろいろと絡んでほしいキャラクターがいるようなので話の中でうまくイベントを作って絡む展開を作ります!ちなみに今回のラウルもそうです。

私としても書いていて面白いので問題ありません。

他の方もどしどしメッセージください。

次回は続きです。また更新までお待ちください<m(__)m>



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59ヘスティアのお話

炉の神様


悲しみなのか、不安なのか、それとも怒りなのか......二人の中に渦巻く感情はどういったものなのか。それは二人にもわからずただ混乱していた......暗がりで無言で手を繋いでいるとそこに一筋の光が手を差し伸べる。

 

「おいで、僕のホームに」

 

一瞬本当に光がさしたかのような錯覚を二人は起こす。涙が頬を伝うのをためらわず手をとった。

 

神ヘスティアに手を引かれ人目をさけるようにして教会へ。以前ベルや刹那ヴェルフ、神ヘファイストスがメンテナンスしたため以前の状態よりは大分きれいになっている。しかし、ヘスティアのいる廃教会にはどうやら魔石で作ったライトというものはないらしい。ランプに火を灯しぼうっと周囲を照らした。

 

「ちょっと待ってておくれ」

 

二人を教会の奥にあるヘスティアの私室へと案内し用意した椅子に座らせる。ふわりとあたたかい毛布を二人に手渡すのも忘れていない。他の部屋から椅子を持ってきたようで今椅子は全部で4つだ。丸いテーブルを囲うよう二人は座った。 もう一つは後である人が座る予定とのことだ。

 

奥からトレイの上に東方で使われている湯呑というものを4つ乗せて魔石ポットに何やら香ばしい香りのするお茶を入れたヘスティアがやってくる。

 

「まあ二人とも、まずはこれでも飲んで心と体を温めておくれ」

 

二人の前に置かれた湯呑に魔石ポットの中身が注がれる。香る匂い......じゃが丸君の香りだ。僕の作ったじゃが丸茶さ!と親指をたてるヘスティアに二人は少し笑顔になった。

 

「うんうん、二人はその笑顔の方がいい僕は天界でもこの地上でも子供たちの味方でいたいからね」

 

二人の顔を見て満足そうに腕組みをするとうんうんとうなずいた。

 

「それで君たちはなんであんなところにいたんだい?」

 

もちろん僕は無理に聞こうとは思わない、でも君たちの魂が揺らいでいるのが僕には見えるんだ。ヘスティアはそういうと慈愛に満ちた目で二人を見た。

 

二人は口を開こうとするが今の自分たちの感情をどう表せばいいかわからない......

 

「ふむふむ、君たちの魂の揺らぎが今の君たちの感情を僕に教えてくれているようだよ」

 

ベルは唯一の肉親だと思っていた祖父が神ゼウスで、自分の命は思い人であるアイズの弟になるはずだった魂を神の力でアイズの父親の肉体を器にして再構築された存在。

祖父は僕を愛してくれていたのだろうか......それとも......そしてアイズに対する気持ちは本当に自分だけのものであるのか。度々内から溢れる感情は自身のものなのか。考えれば考えるほどズブズブと沼に沈んでいくようだ。

 

アイズも最初に感じた懐かしい感じは......私の英雄となるといってくれたベルの気持ちは.....一緒にここまで歩いてきたのに気持ちの整理もつかず、ベルになんて声をかけたらいいかもわからず心には渦がまいていた。

 

深く暗い水の底に沈んでいってしまいそうな二人にヘスティアは声をかける。

 

「それじゃあ僕が少しだけ君たちにお話をしてあげよう。昔々の話さ!」

 

にっと笑いこのことは内緒だぜっと釘をさす。

 

「ベル君、アイズ君、君たちにとって、いや今の時代を生きる君たちにとって英雄とは一言でなんだい?」

 

少しだけ悩んだ後「希望の光」と二人は言った。

 

「うん、僕達神がこの世界に降りてきてからの英雄とは皆の希望の光になるような存在だと僕も思う」

 

うんうんヘスティアは頷いた。

 

「ただ、古代の時代の英雄とは今の時代の英雄とは大きくかけ離れているといえるんだ。僕達神がくる前の時代での英雄とは【犠牲】または【人柱】のようなものだったんだ」

 

もちろん希望の光という側面もあったけどね、と静かに付け足した。

 

神達がくる前の時代、大穴から溢れる怪物たち、その怪物たちに対抗して多くの血が流れた。その中で少しでも力のある者、戦いで成果をあげたものは英雄扱いされた。最初はよかったかもしれない、でも、英雄といえど人間だ。ケガもするし病気にもなる。

今の時代のように満足に効く薬もない、腕のいい鍛冶師はいたかもしれないけどそれでも神の恩恵を受けて作った武器、それに素材の差は埋めることはできない。

 

戦う理由はそれぞれあったはずだ。

 

戦いで己の力の証明をしたい者

 

愛する家族や恋人を護るために戦う者

 

生きるために戦う者

 

英雄と呼ばれた子供達は戦った、戦って戦って戦った......そして散っていった。

 

戦わない者、戦えない者は英雄にすがった。英雄ならできると、そして負ければ英雄なのにと責められ死ぬまで戦わされた。負けた英雄の家族は後ろ指をさされ都市や村から消えて行った、いつか平和な時がくると信じて戦い続けていたんだと思う。憎しみの心は自分の中に深く深く閉じ込めて。

 

もう戦いたくない、でも戦わなければ家族が......あの始まりの英雄といわれた男でさえ最後には無残な死をとげ黒い霧に飲まれたんだ。

 

「僕達神はその時何をしてたのかって?そう、僕達も下界の子供たちの為にすぐにでもその状況をなんとかしようとしていたのさ。でも僕達もその時いろいろと厄介なことになっていてね」

 

ずずっと湯呑の中身を飲み干すとヘスティアは言った。

 

「下界へ降り子供達を救うというゼウス派の神々と下界に手を出し子供たちの負の感情を煽りその様子をながめるクロノス派の神々による大きな戦争があったのさ」

 

神々の世界の話を詳しくするのは禁忌にふれる行為だからあまり多くは語れないけどね......

 

ヘスティアの話は続く......

 




お久しぶりです、皆さんこんばんは、こんにちは。
いつも読んでくださりありがとうございます。メッセージなどもいただきうれしい限りです。ちゃんと生存していますのでご安心ください。

今回はすこし短いですがお話を進めました。
ちなみにこの物語は当然フィクションで出てくる神々の実際の神話などと異なる部分があるのはご了承ください。

私、もともと読むのが好きな人間なので神話とか詳しく読み始めたらおそらく更新が年単位で遅れるきがするので<m(__)m>

次回はヘスティア様のお話の続きです。別件で挿絵の方も進める予定ですのでご期待ください。

ps表紙とかつくりたいなとか思ってます


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60 アイズとベル

ゼウスは子供たちの為に戦った。


夜の教会にランプの明かり、ぼうっと優しい光が3人を包み込み心穏やかに話ができるようだ。ヘスティアはロキとも他の神達ともどこか違い母に抱きしめられているような安心感がある。

ヘスティアは机の上のじゃが丸茶をゆっくりと口へ運び、コクッと飲み込んだ後続きを話し始めた。

 

「僕達の世界の話、天界の話をすることはこの世界に僕達が来たときに決めた制約に反するからね、詳しくは話すことはできないけれど....ゼウス率いるゼウス軍は下界の子供たちの為に自身の完全消滅かけて戦ったんだ。その中でも一番苛烈な戦いだったのが怪物テュポーンとの戦いだね。下界との境の門を強引に破壊して下界に降りようとする奴を七日七晩の戦いの末に最後は神の雷(ケラウノス)によって奴をほぼ消滅させることに成功したのさ。その時に扉の一部は破壊されてしまったようだけど」

 

二人は息をのんでヘスティアの話に耳を傾けた。

 

「ただ......その後辺りから下界の様子も少しおかしくてね。ある王国に変化が起きたようだけどまあその話は置いておこうかな」

 

こほんっと咳払いをひとつ。

 

「ベル君、君と、ゼウス、いやおじいさんと暮らしてきた時間は本物さ。自分たちで作った制約を破ってまで君を助けたんだ。それによく思い出してごらん、おじいさんと過ごした日々を」

 

ベルが幼い頃からいつも一緒にいてくれた祖父。

 

「......僕はおじいちゃんの膝の上が好きでした。一緒に畑仕事をした後撫でてくれる大きな手が好きでした。夜何かわからない恐怖に押しつぶされそうな時いつも抱きしめてくれたおじいちゃんが僕は大好きです......」

 

ベルがオラリオに来るという選択をしていなけらば今でも祖父と一緒に過ごしていたかもしれない。だが祖父には英雄に憧れる孫が自分の元を離れるという選択肢をとることはわかっていたはずだ......

 

祖父、ゼウスはベルのことを心から愛していた。大切にしていた......

 

「それにね、ベル君。家族の形というのは様々なんだよ。世界には...天界に住んでいた僕達ですら自分の家族といることが必ずしも幸せかどうかはわからない。実の両親を殺してしまう子供、実の子供を殺してしまう両親、悲しいことだけどそんな家族はごまんといるんだ」

 

ヘスティアは悲しそうに目を伏せた。神といえど全てを救うことはできない......

それでもっっとヘスティアは目の前にいるベルとアイズを見つめて言葉を続けた。

下界の子供たちは自分で変われる力があると信じて。

 

「今の君にはたくさんの家族がいるだろう?」

 

(ロキファミリアの皆、豊穣の女主人の皆......オラリオで出会った優しい人たち)

 

「そう...ですね。僕の為にたくさん動いてくれた、たくさん泣いてくれた大切な家族がいます。他の誰でもない僕として接してくれる人たちです」

 

うんうんとヘスティアは頷いた。

 

「アイズ君、君の悩みは簡単さ。ここでベル君への気持ちをはっきりと口にだせばそれで完結さ!君の気持ちは、いや、君たちの気持ちは君たちの物さ。きっかけはあったのかもしれない...それでも君たちが共に過ごした時間は君たちのものだからね!」

 

ささっと手を振って二人を立たせるヘスティア、その勢いに負け二人はたったまま向かい合った。

 

「あ、あの...んと....えと......」

 

「ええと......」

 

静寂が辺りを包み込む。ただシチュエーションは完ぺきといっていいだろう。夜の教会、ランプの明かり......今なら顔が赤くなるのもごまかせる。視線を彷徨わせる二人だがふとした瞬間にバチッと目があった。

 

先に動いたのはベルだった。アイズの手をぎゅっとにぎりまっすぐにその金色の瞳を見つめる。緊張のあまり手に汗をかいていないかなどきにしている場合ではない。

 

「僕はアイズさんが好きです。最初に豊穣の女主人で一目見たときからあなたに目を奪われていました。ロキファミリアで一緒の時を過ごして、アイズさんの弱さにも触れて、心のそこから守りたいと思ってます」

 

アイズは真剣なベルがかっこよくて、その言葉がうれしくて目に涙を浮かべた。

 

「んと...わ、私もベルが好き。ベルと一緒にいると心がぽかぽかするの。私の生きてきた中で感じたことがない感情をたくさんくれた。ベルは私の英雄だよ」

 

アイズはそういうとベルの首に腕を回し抱きついた。

ドクンドクンとお互いの鼓動が聞こえる中、どのくらい抱き合っていたのだろうか...

 

ジーっという視線を感じ二人で視線の方を向くと満面な笑みを浮かべるヘスティアが。

 

「これで二人の気持ちはもう大丈夫かな。アイズ君が正妻ということで決まりのようだね。ベル君に思いを寄せる子たちは多いから後はアイズ君が他の子達がベル君を愛するのを許容できるか、ベル君が皆の思いにこたえるのかどうかだね。もちろん僕の気持ちもね。時間はたくさんあるからね、真剣によく考えてみておくれ」

 

バチーンとヘスティアにウインクをされる二人は顔を赤くしヘスティアの言葉に頷いた。その後、ベルとアイズはヘスティアにお礼をいい、手を繋いで黄昏の館へ。

 

なんとなく気恥ずかしさもあり屋根の上を歩く二人、夜風が火照った二人の顔を撫でた。

 

「もうええんか?」

 

黄昏の館まで戻ると先ほどのメンバーが扉の前で待っていた。かなりの時間がたっていたにも関わらず皆は怒らずに二人を迎え入れる。

 

「もう大丈夫、「もう大丈夫です」」

 

んっっと手を広げるロキに二人は抱きついた。

 

「「ただいま!」」

 

「おかえりぃウチの大事な子供達」

 

ぎゅっと二人をロキは抱きしめた。それだけでロキの気持ちが伝わってくるようだ。

 

3人はひとしきり抱き合うとベルとアイズは他の皆と黄昏の館の中へ。

 

「ロキ、どこにいくんだい?」

 

館にはいる皆を最後まで見送っていたロキにフィンが声をかけた。

 

「ちょいと野暮用をすませてくるから気にせんでええでぇ」

 

そういうとロキはフィンに手を振りあの場所へ。

 

ガンガンっと扉を叩く音が聞こえる。中からの返事を待たずに中へ。

 

「席は用意しておいたぜロキ」

 

来ると思ってたよと仲の人物は続ける。先ほどまで3人で話し込んでいた最後の席にロキが座りガンッと机の上に酒の瓶を置いた。ちなみにかなり高級な酒だ。

 

「一度しかいわんからよく聞いとき、ヘスティア。二人の事感謝するで」

 

にやりと笑い一言。

 

「今日は寝かせないぜ、ロキ」

 

氷の入ったグラスに酒を注ぐとカチンっと合わせた......

 

 

【次の日】

 

オラリオのほぼ全てのファミリアの神を強制的に招集した神会がバベルの会議室で開かれた。普段ふざけた会議が多い神会だか今日は違う。オラリオ最大派閥であるロキ、フレイヤ両名の名においての強制招集、会議室に入った瞬間のビリビリした空気が他の神達を無言で自分の席へと座らせた......

 

 




いつも読んでくださっている皆様、お久しぶりです。そして更新ができなくごめんさない<m(__)m>

少々私事でいろいろありまして、かけない状況が続いておりました。リハビリもかねてこれからもボチボチ書いていこうと思いますのでまたお時間ある時に読んでいただけたら幸いです。

それからかけていない間いろいろと心配して連絡をくれた方々心からお礼申し上げます<m(__)m>

次回更新はまだ未定ですが次は神会です。


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