一人を追って (ソックス)
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憧れて
顔知れず出会いと誓い


@@@警告@@@

オリジナルのポケダン小説です
本作の主人公はケロマツのアドルフ・エースもといアドルフ君です
トレーナーは出ず、ポケダンでオリジナルと来ています
プクリンなどの既存キャラの出番は殆どありません
本家ポケモン不思議のダンジョンシリーズでの設定がチラホラとみられるでしょうが、深いかかわりを持つ者は少ないです


 ここは水タイプのポケモンが住まう村であるウォーラルタウン。ここには少し有名なやんちゃな男の子がいました。

 その男の子、根は優しいが少し悪戯が好きでよく大人に怒られるケロマツであった。せっかちで行動を先走ったりするので大人達は手を焼いていた。

 その反面、同年代の子達とは仲良く遊び喧嘩こそすれども、すぐに仲直りのできる関係でした。そんな普通のやんちゃ少年でした。

 

 

 

「今日は皆用事あんのか……、仕方ねぇか。一人でも遊べる所はねぇかな……。このアドルフに良い場所無いかな~」

 

 アドルフ、そう名乗るケロマツは暇を持て余す。理由は彼が言った通り友達が揃いも揃って用事があるからと遊べないからだ。

 悪戯するにもパターンが決まってきておりマンネリ化してきていた。それに今は悪戯なんてする気も起きなかった。

 

 公園に行っても、誰とも遊べない。友達は忙しい。この2拍子ではアドルフは今日、おとなしく勉強でもするしかやることはない。

 そう考えると気分が萎える。苦手というほど嫌いではないがどうもつまらないのだ。一日に少しぐらいは遊んでいたいのだ。

 

「そう言えば、面白そうなところあるな……。ヘヘッ」

 

 だが、アドルフは何か思い浮かんだのか思い切り走りだす。その先はウォーラルタウンを抜けだす勢いで走り出す。

 抜けた先には、オレンの実などの木の実がよく生えているダンジョンが存在する。そのダンジョンは草タイプが多く存在し、子供が行っていいような場所ではない。

 

 だが、アドルフはこともあろうか友達と共に内緒でそのダンジョンに何回か潜り込んでいたのである。草タイプと出会おうが対処してきたのである。

 この話は大人たちが聞いたら顔面蒼白にする者もいれば逆に顔を真っ赤にして怒る者もいる。

 しかも、そのダンジョンは不思議のダンジョンという入るたびに地形ががらりと変わり、自我のないポケモンが襲ってくる危険地帯。探検隊や救助隊、大人ぐらいでしか入るのは許されていない。

 

 

「今日は俺一人で木の実取ってトンズラしちゃお!」

 アドルフは悪戯な笑みを浮かべてダンジョンへ向かう。一人で、その一言がさすように今までは友達と一緒に探検していた。それが今回は一人だけで挑戦することを意味する。

 アドルフはここ数回ダンジョンを突破して、自分ならできると考えていた。それは言うまでもなく過信である。危険な状態であり、これだけで大変なことを起こしかねない恐ろしいものである。

 

 

 そして、アドルフはそのダンジョンの前に立つ。ウォーラルタウンとは大きく変わり、木々が生い茂る豊かな林であった。

 木の実が生えやすい栄養豊富な土地である事が見て取れた。このダンジョンを突破すれば、別の町への近道となる。

 アドルフ隣町まで行く気はなく、木の実をいくらか取るだけである。深追いはしないという考えはキチンとある。

 

 しかし、それは浅はかであった―――。という風に思わされることとなる。

 

 

「無暗な戦いを避ければいいだろ。いざとなりゃあ……」

 

 アドルフはそう言ってとある青い球体を取り出す。それは不思議玉と呼ばれるもので、ダンジョンの攻略を楽にさせられる便利な代物。効果は物によって違う。

 アドルフが取り出したのは緊急脱出に使える”穴抜けの玉”というものである。この道具は今からはいるダンジョンでも度々落ちており、入手は容易であった。

 

「“穴抜けの玉”なら問題なく脱出できるだろ」

 

 アドルフはそう言って一人でダンジョンへ突っ込んでいった。草木が生い茂る、木の実の密林へ惑いを見せずに走る。

 緑豊かで周りの景色を楽しみながらも、木の実を着々と拾えていければいい。だが、不思議なダンジョンである以上何が起こるのかわかりはしない。

 観光コースのように素晴らしい場所であっても、それはダンジョンを突破できる実力を有する者が言う台詞である。アドルフは突破したことあるとはいえ、一人は初である。

 

 アドルフは走っていき、後ろの木々が自分の退路を塞いでいくのを理解する。ダンジョンが自分を逃がすまいと閉じ込めたその瞬間にダンジョンに入り切った。

 もうあとには戻れない、それは理解していても緊張感は皆無。アドルフはウキウキでダンジョンを突き進む。

 アドルフは小さめのポーチを持ち込んでおり、ある程度は木の実を入れられるようにしていた。一人分程度集まれば退散するつもりでいる。

 

 

「お、オレンの実~。体力をガッツリ回復できるしいいね。あっちはクラボの実」

 

 アドルフはダンジョンを気楽に進んでいく。木の実を着々と拾い集めていく。その姿はさながら農家のようである。畑もなく木の実が散在しているだけであるが。

 ポーチの中は順調に木の実で埋まっていく。順調すぎて怖くなるくらいに上手くいっていた。

 

 

「敵ともあまり遭遇しないし、ちょっとつまんねぇな。木の実は順調だけど……」

 

 ここに来てアドルフはダンジョンに入る前の様な退屈を覚える。本来の目的である木の実集めは好調でもう脱出してもいいが、スリルが足りない。ダンジョンに来て敵と言う敵も少ない。

 ここで少し悩む。残って少しだけ戦ってみるか、もう脱出して木の実を食べるか。この2択の内、どちらを取るかである。

 アドルフは立ち止まり思案する。どっちの方が楽しいのか、この点を重点に考える。安全をかなぐり捨ててしまっていた。

 

 

「……、よしっ!ちょっと強い奴に挑もうかな」

 

 考えた結果、出した答えは前者の戦いを選ぶ。彼の中で好奇心が合理性を上回り、先走る。

 少しだけとはいえ、不確定要素にスリルを求め挑戦する。果たしてそれは勇敢か、無謀か。

 

 アドルフは戦うと決めると走り出し、周りを見渡す。大抵の野生ならば勝てる自信はある。相手が草タイプであってもだ。

 もっと強いのと戦ってみたい、その一心で探しているとあるポケモンの寝息が聞こえてきた。その方向に目を向けると、堂々として眠りこけるポケモンの姿があった。

 赤い大きな花、否、ラフレシアを咲かせ周りを寄せ付けないほどの威圧感を感じた。このダンジョンで最も強いといわれる“ラフレシア”がそこにはいたのだ。

 

 相手は眠っている、これは良いハンデだ―――。

 

アドルフは完全に天狗鼻でラフレシアを見つめる。圧倒的に不利、本来なら挑む相手ではないのは分かっている。

しかし、何と言うことだろうか。痛い目を合わずに済んできたのが幸いだったのが、ここでは不幸と同等である。

 

アドルフは大きく息を吸い、エネルギーを溜める。相手は寝ており、他の敵は寄ってきていない。これが正にアドルフの感情に余裕というものを促進させる。

 

「“泡”!」

 

 水タイプが使う基本的な技の一つである“泡”を放つ。タイプが同じで威力もそこそこ上がる。だが、寝ている相手に向けての不意打ちへは最適解とは言えない。

 

 

 何故ならば……。

 

 

「……、ファ~ア」

 

 ラフレシアは泡に当たろうが呑気に起き上がり、起き上がる。軽くつつかれた、そんな反応をアドルフに見せつける。

 その反応に少年は固まる。考えればわかることでありながら、好奇心に捕まってしまった結果である。

 

 

「選択を間違えた……」

 

 どこからか。技を放つ時か、戦うと決めた時なのか。答えはそのどちらでもない。

 答えは最初から。ダンジョンに一人で勝手に入ったことである。初めから危ない橋に渡り、自身に僅かでも驕っていた最初からである。

 

 

「……、ムゥ~。キーッ!」

 

 ラフレシアはアドルフの姿を見て彼が自分の眠りを妨げた犯人であると断定する。問答無用に頭のラフレシアを勢いよく振る。それと同時に、黄色い粉が広範囲に分散する。

 主に草タイプ特有の粉による状態異常の技。色によってその効果は異なる。今回は黄色い粉である。その色の粉をアドルフは僅かに吸ってしまう。

 

 アドルフの身体は、徐々に動きが鈍くなる。この状態異常は麻痺である。基本電気タイプがよく使う状態異常でもあるが、麻痺は電気だけではない。

 草タイプはテクニカルにじわじわと相手を追い詰める戦法を得意とするものは多いのだ。草技を食らって大ダメージを受けるより、時には恐ろしい。

 

「う、動け……」

 

 無駄であった。どうしようもなく、相手の思う壺。これは一種の自業自得である。

 

「がああぁぁぁぁぁッ!」

 

 ラフレシアは吠え、ラフレシアから根を放出する。アドルフに荒々しく纏わりついてがっしりと固定する。逃げる力を奪うように力強く。

 アドルフは麻痺して、もがくことも儘ならない。そして、段々力が抜けていくのを感じる。それも急速で確実に。

 

 その正体は草タイプの技である“メガドレイン”というものだ。”吸い取る”という技の上位互換、メガと付きその先のギガも存在する。

 それも今の状況では大差を生まない。この一撃が致命傷となる。アドルフの体力は、泡でつけられた物なんかの数倍を超えて搾り取られる。

 

 

「あ……、ギ、がぁ……」

 

 呂律が回らない。一気に意識が遠のく。それをスローモーションでアドルフは体感する。このままでは死に直結する。

 絶望的である。自分を呪うには遅すぎた。そのまま、意識は静寂の彼方へ放り込まれる。

 

 その次には、吸われていく感覚がなくなり暖かさを感じる。先程の冷酷な締め付けではなく、優しくて温もりが確かにあった。

 

「……い……ぶ……?お……、……ろ!」

 

 静寂の彼方で、微かに聞こえる男の声がアドルフの耳に届く。敵意はなく、安心を抱けて意識を底へと落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い……ぶ……?お……、……ろ!」

 

 そして、再び同じ言葉が耳に入る。アドルフはゆっくりと目を開けた。そこには木材の屋根に、湿り気のある涼しい部屋だった。

 心地いい、まず感じたのはそれだった。しかし、それもすぐに終わることとなる。

 

 

「あんた、またダンジョンに行ったわね……。ホント、誰に似たのかしらね」

 

 目に映るのは、ゲッコウガというケロマツの進化形のポケモン。そのポケモンはアドルフに呆れ、ボソリと何かを呟く。

 口調からして女性であるこのゲッコウガは、アドルフの母である。心配と怒りと喜びの混じった顔で彼を見つめる。

 

 

「あんたね、いきなり現れた“知り合いの探検家”に救助してもらえなきゃ死んでいたわよ。自分が何をしたのか分かっているわね?」

 

 母は意識が回復するのを見るなり、声を荒げこそしないが顔は笑っていなかった。怒っているのは目に見えていた。

 アドルフはダンジョンの時の様な上機嫌ではなく、シュンと落ち込む。

今回は運がよくても次また同じようなことを起こしたら命が本当に散るかもしれない。それをしっかりと体験してしまった。

そして、母の言葉を恐る恐る待つことにした。

 

 

「あのねぇ、好奇心を持つのはいいけど少しは自制を効かせなさい。お前は私の自慢の息子よ、次は同じ失敗はしないように。私はご飯を作るわ」

 

 だが、母は注意を軽く言うだけでさっさと台所へ向かった。少しぐらい声を荒げてもおかしくないにも拘らず。

 アドルフは呆然として母を見つめる。夕飯を鼻歌交じりに作り始めており、手際よく行う。

 

「怒らないの……?」

 

 アドルフは思わず聞きたくなる。その姿はやんちゃな少年ではなく、母に対して純粋な気持ちで尋ねる。

 とんでもない事を引き起こし、大怪我してしまったのだ。自業自得、その言葉が何よりも相応しいのに責め立てることもなければ詰問もしない。

 

 

「貴方は、さっき言った通り私の自慢の息子。そして、探検隊だったお父さんによく似ているわ。私が怒りたいことはその傷が教えてくれるわよ。……よし、出来たわ~」

 

 母はそう言って、料理を完成させる。それを聞いてアドルフは目が点となり、自分の傷を見る。

 ズキズキとまだ痛み、苦しかった。母がその傷を負った理由は分かっているなら言わない、そう息子に言いたかったのかもと考える。

 

「さて、貴方が採った木の実全部で作ったシチューよ。召し上がれ~、ラッキーね」

「ん?俺の全部……?……ラッキー?」

 

 だが、母の言葉を聞いてアドルフは疑問を持つ。最後の言葉を聞いて、思い当たる節が段々と浮かんできた。

 その言葉は、ダンジョンで無くならなくてラッキーという意味ともとれる。しかし、アドルフの母はそういう事よりも思い当たることがあった。

 

 

「……、全部って言わなかった?」

「そうよ? どうしたの?」

 

 アドルフは確認するように尋ねる。彼自身には分かりきっているが、念のために聞いてみたのである。

 母はあっさりと暫定し、さも当然のように聞き返す。シチューを二つの皿、大小極端な物によそう。

 

 

「貴方には罰として木の実は無しね。全部私がいただくわ」

「おまっ! 食い意地張ってるんじゃねぇ! 体重増えんぞ!」

 

 母は呑気にシチューをよそい、罰と称して小さい皿に僅かなシチューを。自分には大きな皿で特盛のシチューを注ぐ。

 本当に木の実は抜かれてしまい、母の皿に集う。まろやかなシチューの中に集まる果実はアドルフの元へは何一つ口を通されなかった。

 

 

「いやぁ~、息子が採ってきてくれた木の実は美味いわぁ!」

 

結果として、アドルフはおなかが満腹にならず、目の前で木の実は平らげられた。それもゆっくりと焦らすように、である。

しっかりと、軽く罰は残していた母にしかめ面をする。おなかが鳴る音が聞こえて、母はクスクスと笑う。

 しかし、それよりもアドルフは思うところがあった。

 

「……なぁ、助けてくれた“知人”も亡くなった父さんも探検家だよな?」

 

 突然、母に先程のように試すように尋ねる。それを聞いた母は神妙な面持ちで自分の息子を見つめる。

 何を言いたいのか、それをハッキリと察することが出来た。

 

 

 

「今日さ、俺が馬鹿な真似をしてこんな大怪我しちまったけどさ……。それでも、この好奇心は止まらない。馬鹿で大馬鹿かもしれないけど、こんな目にあっても俺はダンジョンで冒険したい。未知を見てみたい。……だから、父さんと同じ、いや、それ以上の探検隊になりたいと思っているんだ……。ダメ……かな?」

 

 恐る恐るアドルフは母に自分の考えを述べる。普通なら怒られるような発言であるかもしれない。それをハッキリと母に告げる。

 母はそれを黙って聞いており、時折頷きながら真剣な表情でいた。これだけでは母がどう思うかという感触は掴めない。

 母はすべて聞き終わった後にしばらく黙って考え始める。その表情に葛藤が見られ、ダメなのかとアドルフは考える。

 

 

「……、本当にそう願うの?」

「うん」

 

 しばらく考えた末に、母はアドルフに確認する。本当に真意で言っているのか、それだけを母は知りたくなっていた。

 アドルフは即答して、頷く。母にしっかりと伝わるように言い切ったのである。

 

 

 

「なら、止めないわ。でも、あと5年は待ちなさい」

 

 母は条件付きながらもそれに了承の意を示す。反論は特にない。条件を付けただけで特に厳しいことを何一つ言わなかった。

 

「い、いいの!? あ、ありがとう!! ……いってぇ!」

 

 アドルフはそれを聞いて、顔を嬉しそうにする。ちょっと興奮したのか、傷に障り痛みが走る。

 それでも、これを喜ばずにはいられなかった。

 

「嬉しいのはわかるけど、今日はもう寝なさい。傷が開くわ。……おやすみなさい」

「うん!!」

 

 母は喜ぶ、アドルフを静止して寝るように伝える。母が言う頃にはとっくに11時を過ぎていたのだ。

 アドルフは無邪気な子供さながら嬉しそうに返答して、ウキウキしながらも布団に入っていった。あれで寝れるのやら、やれやれと母は笑う。

 

 

 

「父さんと同じじゃなく、それ以上の探検隊になるか……」

 

 母はアドルフに聞こえない声で呟き、消灯する。自分ももう寝るとしよう、そう思い寝床に行って眠りにつく。

 

 

 

 

 アドルフはこの日から、探検隊を目指す少年へ着々と変わったのである。

 




妙に展開が早く、殴り書きの様な文体となっております


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数年経て、旅立ち、リベンジ

 ここはデルトタウン。アドルフが住まう水タイプの集落のような場所。様々な水タイプがここで生活し、互いに助け合う。ここは本当の意味で水タイプの天国。水も綺麗で汚染されることはなく、豊富に存在する。

 そんな集落にアドルフの家が存在する。他の家と何ら変わらない構造をしており、一見普通の一家が住む。実際、アドルフと母の二人で苦労はあっても暮らしていけていた。

 アドルフが木の実を取りにダンジョンに行って、助けられてから数年、彼は勉学に戦闘術共にメキメキと力をつけていた。今はあの時のように阿呆な行動は殆どない。探検隊になるうえでの心構えはしっかりと身についていた。

 そして、家のドアがゆっくりと開きケロマツが外に姿を現す。午前5時の事である。姿を現したのは勿論アドルフである。それに続いてアドルフの母も外に出る。

 アドルフは家から少し出て、母がいる方向へ振り向く。荷物を置いて、周りに誰もいないことを確認する。

 

「母さん、行ってきます。俺は探検隊になるために"あのダンジョン"を越えて、ギルドに入門します」

 

 アドルフは母に対して、別れを告げる。晴れやかな姿であるが、どこか寂しげな表情であり、ほんの少し揺らぎがあった。

 母はそんなアドルフを見ながらクスクスと笑い、アドルフの元へ寄っていく。柔和な表情でアドルフの頭を撫でる。

 

「緊張してて銅像みたいに固いわよ。貴方はもっと肩の力を抜いて。ギルドだと緊張して岩石みたいになるじゃない」

 

 母はアドルフの頭を撫でながら緊張を彼女なりにほぐそうとしていた。優しく母ならではの包容力がアドルフを包み込む。

 実際にアドルフは緊張等と言った状態や感情からやんわりとほぐされていく。これが彼らなりのスキンシップ、親子の形である。

 

 

「今まで……、ありがとうございました」

「いってらっしゃい」

 

 アドルフは改めてお別れを告げる。それに母は笑顔で見送り、手を振る。よく見るようなお別れ、それでも彼らにとって大切な時間。

 ポーチをアドルフは背負って、振り向く。そのまま、目的のギルドに辿り着くために"あるダンジョン"へ向かう。彼の記憶には強くにじんでいるダンジョンである。

 

「"木の実林"……、あの時のダンジョンを越えることになるとはな」

 

 ダンジョンの名前をポツリと呟き、歩を進める。堂々とした佇まいでそのダンジョンに近づいていく。その様はこれから戦いに行く、そんな風にも感じられた。

 そして、"木の実林"と言うダンジョンはアドルフが木の実を取るために入ったダンジョンと同じである。あの時はラフレシアを刺激し起こしてしまい、痛い目を見たのだである。今はそんなことを起こさない、そうアドルフは誓っていた。

 確実に進んでいき、なるべく大事は起こさない。そんなスタイルで石橋をたたいて綿うようにダンジョンを突破するつもりである。

 

「丁度、あの時のリベンジになるな……。こりゃあ」

 

 アドルフは一人、リベンジを誓う。まだ探検隊になっていない自分にとってこの道はある意味試練だと考えていた。

 探検隊になる前の登竜門は"木の実林"。小さかった自分からどう変わったのか如実に結果が現れそうだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アドルフは"木の実林"の前に立つ。前と変わらず、緑豊かで木の実がよく生えていた。以前はその環境故に木の実を取っていた。

 改めてポーチの中身を確認して、準備を整える。これから挑むのは不思議のダンジョン、難易度が低かろうが立ちふさがる壁である。

 アドルフは過度に緊張せずに、ダンジョンへと歩みを進める。前のように軽はずみではなく、探検隊を目指す者として歩いていく。それは適度な緊張感を持つことでなせるようになっていた。

 

 ダンジョンでは様々なポケモンが歩いていた。ナゾノクサ、クサイハナ、パラス、チェリンボなどの草タイプ中心のポケモンたちである。アドルフは水タイプのケロマツ、相性が不利なので可能な限り戦闘を避けるのがベターである。

 今回は戦うにしても遠距離からの攻撃で相手に攻撃させないようなスタンスを取る。アドルフは前回は遠距離攻撃するだけであり、その先を全く考えていなかった。

 

 

「敵……、ナゾノクサか。戦うのもいいけど相手は草タイプか」

 

 アドルフはダンジョンを進んでいき、敵を見つける。既にわかっている通り草タイプが多いダンジョンでアドルフが戦い抜くのは簡単な話ではない。"冷凍ビーム"を覚えているなら話は別だが、そんな高級品をバジルは持ってなどいない。

 ナゾノクサはテクテクと歩いていき、アドルフの視界から去っていく。その後、背後から敵が来てないことを確認してアドルフは進む。このように地道に敵との戦闘を避けていき、無駄な消費を抑える。

 

「消費するときは出し惜しみなく……か。……うわっ」

 

 アドルフは一人それを呟いて銀の針を取り出す。ジャララッとたくさんの銀の針がバックの中で転がる。水タイプの技だけの遠距離攻撃では効果は薄い。相当レベルが高いのなら相性を無視でごり押しできるがアドルフはそこまで高くはない。

 アドルフは視線の先にいるポケモンに目をやる。目の前にいるのは茶色く四つのつぼみに赤い葉と涎を垂らしていた。そのポケモンは"クサイハナ"である。その種族名通り、臭いだけでアドルフは存在に気づいた。

 アドルフはクサイハナがいる道を見てみると先に進むのはそこしかなく、戦うしかなかった。銀の針はその為に取り出したものである。

 

「他には……」

 

 アドルフはダンジョンの部屋を見て他に何かないか探す。出来れば1対1の状況で切り抜けたい。相性不利で2対1ではたまったものではないのは言うまでもない。

 見渡すと冷や汗を掻いて一歩下がる。見たものは出来れば遭遇したくない敵だったのだ。

 

「ラフレシア……、こいつには簡単に勝てないな」

 

 見つけたのは前にアドルフに痛い目にあわせたポケモン、ラフレシアだ。相変わらずぐうぐう寝ており、ダンジョンでの序列は相変わらずのようであった。

 痺れ粉からのメガドレインは卒倒物である。その進化前であるクサイハナもアドルフからすれば大きい差ではないが。

 

 アドルフは銀の針を構えて、フォームよく投げる。先手必勝と言わんばかりに投げられた銀の針はまっすぐクサイハナに飛んでいく。クサイハナも気づいておらずキョロキョロとダンジョン内を進んでいた。

 

「~っ!!?」

 

 そして、銀の針はブスリとクサイハナに当たる。突然の痛みでクサイハナは仰天する。それが一瞬の動きを止めることなり、アドルフには何一つ気づくことは無かった。

 アドルフは"あわ"をクサイハナの顔面にぶつける。目潰しが目的であり、効果いまひとつであろうと使える戦術である。

 

「これで倒れてなっ!」

 

 アドルフはそう言って高速でクサイハナに接近する。その速度は普通に走る速度よりも早い"電光石火"であった。その速度によって体当たりより威力の強いものとなり、クサイハナにぶつかる。

 先程から訳も分からぬまま攻撃を立て続けに食らい続けたクサイハナは吹き飛ばされて、たまらず尻餅をつく。戦う気力が削がれたのか、そのまま動かず気絶する。アドルフの完璧な奇襲成功である。

 クサイハナが倒れた先を見ると、林の出口が見えてきてここでダンジョンは終わりだと告げられる。まだまだ遠いが出口は真っ直ぐと見えたのでアドルフは嬉しそうにそこに向かって走り出す。

 

 だが、このままこのダンジョンはアドルフを簡単に抜けださせはしなかった。クサイハナとラフレシアがいた部屋の真ん中あたりに来た時にそれは起こる。

 

 突然、真上から黄色い粉が降り注ぐ。それに見覚えのあったアドルフは咄嗟に粉の少ない右側へと避ける。先には粉が舞い散っており、薄い右側にしか行けなかった。

 アドルフが避けるのを見て、残念そうに見る者がいた。それは先程までぐっすりと寝ていたこのダンジョン一番のポケモン、ラフレシアである。運悪く目が覚めてしまったようである。

 アドルフは先に進むのではなく右側に避けたためか、背後は壁際となっていた。逃げ場を狭められており、ラフレシアの賢さが伺えた。アドルフの前には当然ラフレシアがいた。

 

「冗談よしてくれ……」

 

 アドルフはやれやれと言いたげにこの状況に苦悩する。出口が見えるところにまで進んできて、この様である。自分がドジを踏んだわけでなくとも運がついてないなんて笑えない話である。

 正しくアドルフが言った様に、冗談のような展開である。先程のクサイハナの進化先であり、別格のポケモンだ。しかも、不意打ちはもう効きそうにないと来ている。

 

 

 

「戦うしかないじゃないか!」

 

 叫ぶように言って、銀の針を数本ラフレシアに投げる。半分やけくそ気味に投げられた銀の針は、やけくそでありながら正確にラフレシアを狙っていた。

 ラフレシアはその名の通り、頭の上にでっかいラフレシアを咲かせ鈍重そうに見えても躱していく。距離があった為かラフレシアは数本の銀の針を全部とは言わないが避けていた。当たっても掠った程度で大したダメージは与えられずにいた。

 

 ラフレシアは反撃にまた黄色い粉を頭のラフレシアから噴射する。アドルフは背後を壁にしたせいか、逃げ場を失い粉を吸ってしまう。咄嗟にバックに手を伸ばして"二つの道具"を取り出す。

 アドルフはこれに覚えがあり、段々と痺れてきた。"痺れ粉"という技の名前通りの効能がアドルフの動きを制限していく。少なくとも技は封じられることとなる。

 このままではいつかの様になぶり殺しにされてしまうのがオチであるが、今回のアドルフはキチンと対策を取って来ていた。それが先程取り出した道具である。痺れた手を必死に動かし、それを"2つとも"口に放り込む。

 ラフレシアは既に前と同じく、"メガドレイン"の為に触手を出していた。痺れた相手の体力をこの技で吸い取って自分はしぶとく居座り続ける。これがこのダンジョンでラフレシアが最強と呼ばれる所以であった。

 

 アドルフはその一つを触手が近づく前に飲み込む。その間に触手は目前にまで迫っており、縛りつこうとしていた。アドルフが飲み込んだ物の効能がそれに比例するかのように効き始める。時間の勝負であった。

 そんな西部劇のガンマンが繰り広げる早打ちの様な、刹那の瞬間は当事者にとっては永く感じて、一刻一刻が見離せないものとなる。その早打ち勝負を制したのは……。

 

 

「うおらぁ!」

 

 

 アドルフであった―――。

 

 

 触手を潜り抜けてアドルフはダンジョンの木に飛び掛かり枝につかまる。枝がアドルフに捕まれたことで曲がっていき、限界まで曲がる直前にアドルフは木の幹を蹴った。

 蹴った力で"電光石火"を発動させて、ラフレシアと一気に距離を詰める。ラフレシアは触手を伸ばしていたため、反応が鈍くアドルフから見れば的のようであった。

 

 流れに身を任せてラフレシアへと突撃する。体重差が圧倒的でも、気が緩み切った相手への速度を上げた体当たりはバランスを崩す分には申し分なかった。

 先程のクサイハナと同じく、尻餅をついたラフレシアは頭の重さ故か、すぐには立ち上がれなかった。立ち上がるのにかかる時間は5秒と少し長い。

 

 そんな隙を与えまいと、アドルフは歯で挟んでいた物を噛んで飲み込む。先程の麻痺を回復させたのは"クラボの実"である。それともう一つ、さっき口に放り投げたものがある。それが今噛んだ物である。

 それを噛んだアドルフは身の重心を少し後ろに向ける。その後に弾性力を持ったバネのように勢いよく前に重心をかけて口を開ける。その口の中からは圧縮された高エネルギーが放たれる。熱を帯びて危険なものだと悟るのに光ほど時間はいらなかった。

 

 爆発するような高エネルギーはラフレシアに当たり、爆散する。間近で放ったため、アドルフも少し後ろに吹き飛び着地する。一方のラフレシアは緩んだすきをつかれて酷い有様だった。

 煙が晴れていき、ラフレシアが倒れているかを確認するために目を細める。期待通り、ラフレシアはだらりとクサイハナと同じく気絶していた。少しばかり焦げ臭く、クサイハナよりも酷かった。

 

「よし、倒れたか……。"爆裂の種"は強力だな、やっぱ」

 アドルフはラフレシアが倒れたのを見て安心しきった表情になる。そして、使ったアイテムの名前をこぼし、周りを見渡す。これ以上の新手は御免であった。特に追加のラフレシアはまずいことこの上ない。

 先程、アドルフが言った"爆裂の種"は、飲み込んで体内で実を圧縮された高エネルギーの塊に変えて吐き出すアイテムである。欠点は口の中が異様に乾き、酷いときは熱くなることである。一応投げて爆破も可能だが、それをするのは他の道具でも自分の技でもできるのだ。

 

 段々、新手が迫ってきているのに気づくとアドルフは走り出す。このまま逃げ切り、このダンジョンからずらかるつもりでいた。消費も少なく戦いを続けられるが、相性を考えるとこのまま逃げ切りたいのであった。

 全速力で駆けていき、出口との距離をグングン詰めていった。段々と大きくなっていく出口を見てアドルフは少しばかり高揚していた。

 前には出来なかったがラフレシアを倒し、尚且つ一人で突破できた。アドルフにとってそれは小さく大きい進歩であった。

 

 

 

 

 

 そして、彼の者は林を抜けて町が見える丘へと出る。目的地が見えてきたところで歩みはゆっくりとなり、感慨深く見渡す。そして、こう呟くのであった―――。

 

 

「待ってろよ……、"ウォーベックギルド"!」

 



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些細な出会いとウォーベックギルド

お久しぶりです
魔導兄妹はまだです


 ダンジョンを抜けて、アドルフは道を歩む。その道は先程のダンジョンとは違って厳しくなく、軽やかにステップまで出来そうな勢いで駆ける。生い茂ていた林とは違い、のどかな道のりは先程の気苦労を少し忘れさせる。

 これはいわゆる達成感だろうか、アドルフはそう思いながら目的地に向かう。ダンジョンから出て見えるぐらいの距離なだけでまだ遠いが確実に迫っているのを実感できていた。

 ジョギング程度の速さで進んでいき、少しずつ視界の目的地は大きくなっていく。アドルフが走る道は整備されているのか草が生えておらず平坦な土の表面であった。その道は曲がったりしていながらも目的地へと伸びていた。

 

 アドルフが向かう所は"デルトタウン"という町である。そこにある"ウォーベックギルド"に入門するつもりでいた。その理由は如何にも単純な理由であった。

 

「父さんが入ったギルド……、長年続く歴史のあるギルド……か」

 

 アドルフが言った様に父も入門したギルドであるからだ。そのギルドは今でも続いておりその勢力を拡大している。彼にとってそのギルドは自分が知らぬ父親と同じ目線で立てるかもしれない場所なのだ。おまけに一番近いギルドでもある。

 そんな彼にとって意味深いギルドはデルトタウンの中心にあるという。彼はひとまずデルトタウンに入るところから目指していた。中にはある程度のお金も入っており、暮らしやすくなっており口座を作る予定などたくさんあるのだ。

 

 そして、デルトタウンに近づく途中で重量感のある音がアドルフの耳に届く。ドスッドスッと少し柔らかい物を叩きつけているような音も続けて聞こえてきた。

 アドルフは気になって周りをキョロキョロと見渡す。周りには木々が生え、整備された普通の道がある。だが、斜め右前に古びた建物が目に映る。明らかにあれだけ浮いた存在となっている。

 近くなので小走り気味に近づいていき、その建物の前に立つ。ギルドの前に変わった建物があるということをアドルフは知らなかった。昔からある好奇心がちょっとばかし出てきて、アドルフは窓がないかを確認する。

 

「なんかの道場か……?」

 

 アドルフはその建物が道場だと思い、窓を探す。その考えは間違ってないのか、先程の音は大きくなり、誰かの声も聞こえる。知る人ぞ知る道場という可能性もアドルフの頭の中で浮上する。

 色々回ってみて、一つ窓を見つけたので息を潜める。そろりとなるべく顔の面積を小さく片目にはっきり映る様にくっつく。覗きという悪趣味な行動であるが、彼は気にも留めずにその行動を行っていた。

 

「すげ……、あれはかなり鍛えられてんな」

 

 アドルフはそこで見た光景に感心する。自分が思っていたよりも凄い、アドルフの顔はそう書かれているようにマヌケ面を晒していた。

 見た光景とは青と黒の色のポケモンが耳の近くにある黒い4本の房を立てて、集中していた。近くには柔道着を着て完全に体色が青く老いているポケモンだった。

 アドルフが感心したのはこれだけを見ただけでは無く、そのポケモンの次の行動に驚いたからだ。

 

「ハァッ!」

 

 道場の中にいたポケモンは集中していた時から一転して、激しく揺れる波のように豪快に動き出す。そのポケモンはまずサンドバックに向かい、かなりの速度で連続のパンチを繰り出す。ボクシングのジャブのように早く鋭いパンチは先程の重量感ある音と似ていた。

 続いて蹴りは凄まじくサンドバックが大きくへこんでいた。かなり鍛えられている格闘タイプのポケモンだとアドルフは感じ取る。戦ってみたらとんでもない事になりそうだと不図思う。

 アドルフは面白いものが見られたと満足げに思ってデルトタウンへの道に戻る。今回はデルトタウンに辿り着くのが先で、今の行動は完全に余所見そのものである。無い遅れを取り戻そうと再びジョギング気味に走り出す。

 

 

「では、師匠。俺はこれで」

「うむ、お疲れ」

 

 

 不意に例の道場から声が聞こえてきた。それにアドルフは気づき、チラリと後ろを見る。既にある程度道場からアドルフは距離を離しており、そのポケモンを遠目で見てよく見えずにいた。

 例のポケモンはアドルフと同じようにジョギング気味に走り出す。スタートダッシュも勢いよく、アドルフとの距離を少しだけ縮める。先程激しそうなトレーニングしていたとは思えないほどの身のこなしであった。

 

「ちょっと、そこの青いポケモン!待ってくれ!」

 

 例のポケモンは走りながらアドルフに聞こえるように呼び止める。アドルフは覗き見がばれたかと焦ったが、怒っている様子はなくジョギングを止める。

 アドルフが止まったのを見て例のポケモンはアドルフの元に走る。喋りながら走っていたのに息は全く切れておらず、余裕の表情だった。かなりのスタミナを持ち合わせているようであった。

 

「俺に何か?」

「いや、君はさっき俺のトレーニングを見ていたよね」

 

 アドルフは白を切る様に剽軽な受け答えで応じる。それに対して彼はバッサリと覗き見の事を話し出す。

 完全にばれていたのがわかってアドルフはどうしたものかと考えながら、彼を見る。目を合わせづらく、ここから逃げ出したくなるような感じだった。

 

「よく見つけられたね、道場は結構見つかりにくい筈なんだ」

 

 だが、彼は別に攻めることなく捉えようによっては褒めているようにも取れる発言をかます。内容は些か不思議な話ではあるが、アドルフは取り敢えずホッと胸をなでおろす。

 アドルフは取り敢えず、自己紹介からしようと一瞬言うことを考える。何故ならば、彼が向かう先は方向的にデルトタウン、つまり目的地は同じになるので互いにお世話になるかもしれない。軽く印象よく持たれるぐらいなものはないかと思案する。

 

「俺はケロマツのアドルフ・エース、"木の実の林"の先にあるウォーラルタウンから来たんだ」

「ウォーラルタウン……、それに"木の実林"か。つまり一人でダンジョンを越えてきたのか?相性不利で?」

「そうだよ」

 

 アドルフは相手に自分の種族と名前を紹介する。どこから来たのかをキチンと答え、彼は気になったようで頷いていた。

 その為か、彼は話を聞いていてアドルフが一人でダンジョンを越えてきたということを理解する。意外に思ったのか興味津々であった。アドルフは淡泊に相槌をうつ。

 

「じゃあ、君はウォーベックギルドへ入門しに来たの? ポーチや何やらがダンジョン攻略向けだし……、大分戦えるんだな。そうだ、俺も名乗らないと……」

 

 彼は質問した後に、アドルフの事情を察したのか尋ねるように言葉に出す。アドルフが身に着けているものからキチンと判断しているところからそれなりの観察力があるなとアドルフは思った。

 

「俺はリオルのスティービー・クーガン。さっきの道場で鍛錬を積んでいる。デルトタウンで色々とバイトしながらの生活さ」

 

 彼、リオルのスティービーは漸く自身の名を名乗る。それに続いて自身の今の状況を軽く伝える。妙に生々しい内容であるが、軽い自己紹介程度ならこんなものかと割り切る。

 アドルフはスティービーの名前を聞いて、すてぃーびー、すてぃーびーと小さく口にして反芻する。相手の名前を覚えるのが苦手なのかこのような事をアドルフは反射的に行う。

 

「……スティービー・クーガンだな。俺はお前の予想通りウォーベックギルドに入門するためにダンジョンを一人で越えてきた。スティービーはデルトタウンで暮らしているのか? だったら途中まで一緒に行こうぜ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。まだ時間はあるしな」

 

 アドルフは軽く誘って、スティービーはそれを了承する。ギルド入門の事も踏まえながら、アドルフなりにコミュニケーションを図る。

 気のせいかスティービーの言葉遣いに段々素が出てきたのか丁寧さは薄く感じられた。これからよく出会いそう、アドルフは彼にそんな感じがしていたのである。

 

 アドルフとスティービーが一緒にデルトタウンに向かうとなると、自然とスティービーが前に立つ。彼は元から住んでいるので当然の事である。

 アドルフはスティービーの後ろ姿を見て、彼の鍛錬の跡を悟る。彼はチラリと傷があり、目立つものではないがこんなものがつくのは相当キツイ修行をしている証拠である。それだけに先程アドルフが見た修行姿には納得がいった。

 次第と進んでいるうちに、デルトタウンへと近づききっており、ついには目の前に到着する。門のようにそびえる入口は、扉があるわけではないが特別何か境目がある様に感じられる。極度の緊張だろうか、ここに来てアドルフの心臓の脈動は激しかった。

 

「ギルドはここから真っ直ぐ突っ切ったところにある。俺は用があるからここでお別れだ。アドルフ、お前の健闘を祈る」

 

 そんなアドルフをよそに、いやわかったからこそであるのか淡々とギルドの場所を告げる。スティービーの声はアドルフをハッとさせ、自然と顔をスティービーに向ける。

 スティービーは微笑んで手を差し出す。健闘を祈ると言った彼の口からそれが何をしようとしているのかを理解し、手を差し出す。

 

「……、ありがとう。俺はギルドを出て立派な探検隊になってやるさ。それと、聞いてみたいことがあるんだ」

 

 ギュッと二人の手は握り合う。互いに健闘を祈っての握手である。短い時間だが、スティービーもそれなりにアドルフが気に入った証拠でもある。

 アドルフはお礼を述べて、彼に宣言するように言いのける。その後、彼は本題にと言わんばかりに質問をしようと最後の言葉を彼に放つ。

 その言葉が気になってか、スティービーは先に向かう足を止めて話を聞きいる。何かあるのか聞くだけ聞くつもりでいた。

 

 

 

「スティービー・クーガン、お前俺と一緒に探検隊にならねえか?」

 

 

 

 アドルフが聞くことは至極単純であった。それは勧誘、つまりアドルフも彼に期待を寄せていたのである。トレーニングを見ただけで彼の実力が高いものだと思ったのである。

 一方、スティービーは面食らったような顔をしてアドルフを見る。町の案内をいつか頼むとか家を教えてとか、そのような物かと思っていたのである。不思議と仲良くなれたが、これは流石に引いてしまうスティービーであった。

 

 

「悪い、せっかくの誘いだけど断らせていただく。ありがとう誘ってくれて」

「そっかー……、いきなり頼んでごめんな」

 

 アドルフの勧誘もスティービーはあっさりと断る。流石に出会ったばかりではダメだとアドルフは思い、素直に引き下がる。

 アドルフは惜しく思いながらも手を振ってその場でサヨナラと言ってギルドへ急ぐ。スティービーもサヨナラと言って自分の用事を済ませに走る。

 二人は互いに違う道を行くが、どこかでその道が交わるかもしれない。それが遅いのか、思ったより早くなるのかは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 アドルフは慣れないデルトタウンをキョロキョロと見渡しながらギルドへ向かう。あまり大きな建物ではないが、ギルドは真っ直ぐ一直線上の視界に入っていた。周りには店が多く、ギルドの近くに建っているあたりギルドの規模の大きさを感じられた。

 飲食店、探検道具売りでお馴染のカクレオン商店、銀行などもこの一帯に揃っており、一般の方も多く賑わっていた。このデルトタウンの中心にギルドが位置するのもうなずける光景であった。

 

「今後はここらの店を利用することになるから、覚えとかないと」

 

 アドルフはギルド入門後にはここにお世話になることを感じてか、そんなことを言う。特にカクレオン商店に目を向ける。アドルフは"木の実林"でやったように道具の使用が多く、最も重要な店になるのは間違いなさそうだ。

 そして、ある程度進んでいくとギルドが目の前というほどまでに歩みを進めていた。目的のギルドが目の前となり、アドルフは自然と汗を流して少し緊張する。

 先程はスティービーによってほぐされたが、実際に目の前にしてしまうと彼がいても緊張しそうだと感じる。だが、アドルフは緊張より興奮というか好奇心が強いのかがちがちな動きにはならずギルドの門をくぐる。

 

 ギルドの敷地に入るととても静かで人気がない。近くに時計があるので見てみると11時とギルドにいる探検隊は殆ど出ている時間であった。今入ると静かにギルドの中を見学できそうだし、手続きもスマートに行われそうである。

 アドルフはいよいよ意を決してギルドの中へ入っていく。ドアはスライド式でゆっくりと開いていく。開いてみると中はある程度整理されていて綺麗であり、清潔感漂う空間であった。流石大手といったところであろう。

 一度戸を開くといよいよ好奇心が爆発したのか歩きが早くなり、どんどん奥へ進んでいく。見た限りでは食堂、図書館など一般の方も利用しそうな施設があった。

 

「思ったより内装は綺麗で普通だな……。後はどうやって入門の話をつけるかだけど」

 

 アドルフは率直に感想を述べる。思ったより、は失礼な発言かもしれないがアドルフはギルドの内装には今のところ満足げにしていた。

 そして、ここから入門するためにはどうしたものかと考える。その場で立ち止まりうんうんと捻っても仕方ないのだが、誰も今のところ見ないのでどうしようもない。今日はそもそも休みだったりするのだろうか、と疑問に思うが自分が入れているためその線はないと考える。

 

「まぁ、ここらは一般にも開放しているからのお。綺麗にしとかねばな。入門はあそこから地下に入れるぞい」

「そうなんですか。初めてきたので知りませんでした。地下室があるんですね」

「ガハハハハハッ!汚いがのお!」

「へぇ~、……」

 

 突然誰かがアドルフの言ったことに応えるように言葉を発し、アドルフもそれに反応する。素直に入門の為に必要な事を教えてもらい、お礼も述べてアドルフは地下についても触れる。謎の声は豪快に笑い、地価の様子をさりげなく答える。

 そして、アドルフは聞いて反応を示した後に沈黙する。自分は何と話をしているのか、不意にそんなことを思い浮かべる。さり気なく入ってきているが、いきなり会話が始まっているのだ。

 

「貴方は……?」

 

 アドルフはその謎の声の主の目を見て質問する。そのポケモンはとても背が高く、アドルフが見上げなくては顔が見えないほど大きかった。

 青い肌に所々小さなとげがきらりと光っていた。他には腹の辺りは赤く、腕についているブレードがついており、手に当たる場所に爪があった。傷だらけで歴戦の戦士かと思わせるような風貌であった。

 

「わしはこのギルドのマスターをしておるガブリアスのアーロン・ウォーベックじゃ。見ての通りバリバリの爺じゃ!」

「うぇっ!?」

「おおそうじゃ、これに名前と実家の住所に年齢とかいっぱい書いてくれい」

 

 そのポケモンはアドルフが入ろうとしているギルドのマスター、アーロン・ウォーベックでありアドルフは度肝を抜かれる。不意な登場にびっくりして緊張がマックスに急激に上昇する。

 あともう少しで白目をむきそうになるアドルフをよそに、呑気に書類をアドルフの手元に置く。アドルフが緊張している様子を楽しんでいるかのようであったが、そんなことなどアドルフには一切情報として入ってこなかった。

 

「それを書いたら早速やってもらいたいことがある……。重要なミッションじゃ」

「わわっ!ち、ちょっ……、ミ、ミッション?」

 

 完全にアドルフを放置気味にして話をアーロンは進めていく。今度は慌てふためくアドルフがミッションという言葉に着目する。

 一体全体何があるのか、そんなことを思いながらアドルフはペンを取り書類が書きやすいところへ移動する。食堂の机がスッカラカンなのでそこを使い、丁寧に足形文字を書いていく。ミッションというものが気になってこそいるが、それは書いてからやるように言われたため一先ずスルーすることにした。

 

「そんなものポッポと書けるじゃろう。だから書きながら聞いてほしい。やることはじゃな……」

 

 アドルフが書き始めたのを見て、アーロンは話をどんどん進めていく。アドルフはスラスラと書類を書き進めながら、それを聞き逃さないようにさりげなくメモを取り出す。聞き逃したら大変なことになりそうだからだ。

 そして、次の言葉は例の重要なミッションであり、アドルフは驚愕することになる。あまりにも予想外で予想通りだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、地下の掃除を手伝ってくれないかのお」

 

 ミッションというには大袈裟なのであった―――。

 




リオルのスティービー・クーガン
アドルフと大体歳は同じであります
リオルって可愛いですよね!
イヌ科のポケモンの中では個人的にトップです
WOWOW吠えて主人に寄り添うリオルさんはたまらん

まぁ、そんなキャラではない

ギルドマスター、アーロンさんです
ガブリアスのお爺さん


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ギルドメンバーと掃除

今回はメンバーが出てくるだけ
遅くなってまでやる内容なのか些か不安である


「はい、わかりました。ハハッ……」

 

 アドルフは少しばかり苦笑いしていた。それも無理はなく、いきなり何をやらせるのかと思いきや掃除である。大事な事ではあるが、正直拍子抜けでもあった。

 だが、いきなりの飛び入り参加でも中を早いうちに見回れる上に、先輩となるポケモン達と話すいい機会でもある。アドルフには断る理由が無く、軽く了承する。

 アドルフの返事を聞いてアーロンはにこやかな笑顔で、近くにある梯子に歩いていった。ギルドの施設が便利なのに対していきなり、階段ではなく梯子となりここから見るものは違うものだとアドルフは確信する。その梯子は下に下ろされており、地下へと続いていた。

 

「ついてくるのじゃ、まずはどこを掃除してもらうのか言っておかねばのぉ」

 

 アーロンが梯子を降りた後にアドルフにはっきりと聞こえるほど大きな声で呼びかける。今のところ元気なお爺さんと言った彼にアドルフは何とも思わず、梯子に向かう。

 アドルフが梯子を見て、うぉっと思わず声を上げる。梯子から下はでかなり深くまで掘られていた。よく倒れないものだと感心しながらもゆっくりと降りていく。

 梯子はガブリアスのアーロンが軽々と降りられるだけあって、丈夫でいきなり壊れそうなこともなかった。どこかの部分が壊れそう等ということは無かった。段々アドルフが降りるスピードも早くなっていく。慣れたころには地面に足がついていた。

 

「ここが、あのウォーベックギルドの中か……」

 

 アドルフが見た光景は凄まじかった。せわしなく動く少数のポケモン達がせっせと掃除しているのだ。中々、忙しそうである。

ある者はマスクをして箒を丁寧に掃き、またある者は集められたごみを分別しゴミ袋に種類を分けて入れていたりしていた。他には家具類などを軽々と運び、今まで押しつぶしてきたところを掃除させるものがいて、役割分担がなされていた。

 ギルドのポケモン達が手際よく作業しているのを見て、アドルフは呆気にとられる。どの流れも無駄が少なく、掃除の進みは早い。これでも人手が足りないのだろうか、とアドルフはゾッとするかのような感覚に襲われる。

 

「さぁ、今から君には雑巾がけをして欲しい。うちには水タイプがいなくてのお……、炎タイプの子にやらせてはいたが君が入門するつもりならこれをやってはくれまいか?」

「勿論です、どこからどこまでやればよろしいですか?」

「このフロア全部、3周じゃ」

「ぜ、全部!? や……、やります!」

 

 アーロンは気楽に話しながらアドルフにやってもらいたいことを淡々と述べる。それを初めは即答で答えたアドルフはどこまでやるのかを尋ねる。ここまでは軽い気持ちである。

 しかし、アーロンはその即答に切り返すかの様にこのフロア全部と答える。それを聞いてアドルフは驚愕を顔に表すが、焦りながらも承諾する。

 引き受けることになったが、その広さを見てげんなりする。あまりそういう表情は見せたくないのだが、今回は流石にどうしようもない。それも3周である。

 

「お~い、カイルや。今回の雑巾はやらなくていいぞ……、新入りが入ることになった」

 

 アドルフが気圧されるのに対して、アーロンはお構いなしに話を進めていく。カイルと呼ばれたポケモンはアーロンの台詞を聞いてからせっせとこちらに向かってきた。先程ゴミの分別をしていたポケモンである。

 呼ばれてきたポケモンはチラチラとアドルフを見ながらアーロンの次の言葉を待っていた。こんな時に新人が来るのがびっくりだったのだろう。

 

「長老! ケロマツの彼がやるのですか?」

「そうじゃ」

「休んでいいとも?」

「いいとも! ……10分間じゃ」

「やったー!」

 

 ガイルと呼ばれたポケモンはアドルフの種族名を出して、再度アーロンに確認する。アドルフはうんうんと頷くように首を縦に振りながら暫定する。

 ダメ押しと言わんばかりに、今度はダイレクトな表現で休みを再確認する。それを何とも思わず、アーロンは頷く。一拍子置いて時間制限を設けるが、それでも嬉しそうにガイルははしゃぐ。

 

「と言うわけで10分後に戻ってくるよ。キチンと手伝うからそれまで頑張って! 自己紹介はその時にしよう!」

「えっ、ちょっ!」

 

 ガイルはアドルフを見て大きな声で元気よく話を進める。アドルフが話しかける隙など与えず、マシンガントークで打ち抜いていき、どこかへと走り去る。アドルフは呆れた表情でそれを見ることになる。

 そんなアドルフを後にして梯子を登っていく。それも慣れた手つきで恐ろしく速いものだった。かなり鍛えられている、今日出会ったリオルのスティービーと同じくかなり強いことはうかがえる。口調は優しそうではある。

 

「じゃあ、始めますか……」

 

 アドルフは先輩を一人見た後に雑巾を手にして、自身の技で濡らす。近くにバケツがあった為、そこで雑巾を絞り余計な水分を切る。雑巾の用意はすぐに出来上がる。

 そして、このフロアの端っこに立つ。端から端へと順に雑巾がけを地道にやっていくつもりでいた。雑巾を床につけて足をクラウチングスタートでもするかのようにして力をためる。

 そのまま、ペース配分を考えてそれなりの速度で雑巾がけを始める。遅すぎず早すぎず、3周もするように言われたのでペース配分を考えなくてはすぐにばててしまう。それでは話にならないのでキチンと考えて雑巾がけをする。ただ機械的にこなすだけではない。

 

「頑張るんじゃぞ~」

 

 アーロンは間の抜けた声でアドルフを応援する。自分はゆっくりと座りその様子を見ていた。眠そうな目つきをしているが、しっかりとアドルフを見ており目を離さなかった。

 アドルフはそれを見た後は雑巾がけに集中して、アーロンを見ないようにする。チラチラと見ていてもダラダラと雑巾がけするだけである。

 雑巾がけをしていくので、自然と腰辺りが痛くなるが態々やらせたのも色々と見るためなのかもしれないと考えていた。実際にアーロンはアドルフを吟味するかのように見ていた。見ないようにしているが、気になるものはやはり気になる。

 

「10分間で何周できるか……」

 

 アドルフは時間を確認せずにそう呟く。しかし、10分間でどこまで雑巾がけを終わらせられるかなんて、悠長な話ではない。10分間などたかが知れており、1周すら困難である。

 その上、アドルフはペース配分を考えて全力の速度ではない。それが作業の遅さに拍車をかけることになる。

 

 

そして、10分後———。

 

 

アドルフはペースを変えずに雑巾がけを続けているが、1周にすらたどり着けずにいた。正確にはあと少しであるが、目標の3周には程遠い。それでもアドルフはペースを乱さずに冷静にしていた。

そして、梯子の辺りから音が聞こえてきた。アーロンの様にデカいポケモンではなく、それなりのサイズのポケモンが来たものであった。

 

「いや~、ごめんね。僕達が手伝うよ。あと少しで1周だし、キリのいいところまでやって止めて」

 

 呑気そうな声が聞こえて、アドルフはその方向を見る。やはり梯子の方から聞こえてきて、先程のガイル以外にも4匹そこにいた。掃き掃除や、もの運びをしていたポケモンもいた。

 一目でそれがこのギルドにいるポケモン達であると理解する。思ったより数が少なすぎるが、あれほどの施設を維持できているのでさぞ優秀なメンバーであるだろうと思った。

 

「僕はマグマラシのガイル・カーティス。この中だと一番の新入り、よろしくね!」

 

 まずは先程呼ばれたガイルが名乗る。種族はマグマラシで、先程アーロンが言った雑巾がけをやらされていた炎タイプのポケモンであると察した。彼と特定できたのは他のメンバーには炎タイプがいないと分かったからだ。

 そして、メンバー紹介は続いていく。ガイルが他のメンバーの後ろに回り、残りから一人前に出る。次に紹介するのはそのポケモンであった。

 

「私はミミロルのローナ・ハート。この中だと唯一の雌ね。みんなむさ苦しいわよ」

 

 そのポケモンはミミロルのローナ・ハートと名乗る。自分が唯一の雌だと言い張り、残りのオスのポケモン達に毒づくように一言加える。途端にブーイングが起こり、ローナはそれをシレっと無視する。

 彼女の性格は少し、強情というか我が強いとかそう言う類であるとアドルフは考え、気をつけようと密かに心に誓う。

 

「このアマァッ……! 後で覚悟しやがれッ! 俺はルチャブルのヘンリー・バーカーだ。さっき荷物運んでいたから肩こるなぁ……」

「ブハッ……! 肩がこるとかボケ爺かよ。俺はこいつと違ってエリートだからな!」

「エリートって……、ププッ! エリート(笑)だろ」

「なんだとぉ!? このサンダリオ・カストロ様に向かって! あぁんっ!?」

 

 ローナの毒吐きに切れたのはルチャブルのヘンリーというポケモンである。それに突っかかる様にサンダリオと名乗るポケモンが馬鹿にするように笑う。実際に馬鹿にしているのか言葉も荒い。

 そして、自身の事をエリートと自称するがお返しの様にヘンリーに馬鹿にされる。勿論キレてガンを飛ばす。先程僅かに感じたような気がする気品はいずこへと消える。

 

「……、サンダリオの種族はエレブーだ。俺はキリキザンのジェミー・アントニオ。」

 

 その様子をサラリと流すようにジェミーと名乗るキリキザンが補足する。彼がサンダリオの種族を言った後、二人は臨戦ポーズを取ってせっかく掃除した場所で乱闘しそうな雰囲気となっていた。

 これはいいのだろうか、とアドルフは呆れる様にそれを見るがジェミーを含め他のポケモンは一切彼らを気にしない。日常光景であるようだ。

 

「揃ったし、全員で雑巾がけやって早く終わらせるかのお。ほれ、お前さんも自己紹介しなさい」

 

 アーロンは全員が自己紹介を済ませたところで、雑巾を5つ持つ。丁度全員分あり、作業の効率がよくなりそうである。

 そして、最後にこれから入る新人であるアドルフの自己紹介の番が回ってくる。雑巾を畳んで並んでいる先輩たちに視線を向ける。

 

「俺はアドルフ・エースです。ウォーラルタウンから来ました、これからよろしくお願いします!」

 

 アドルフは名前、出身を述べて一礼する。とても簡素だが、一番分かり易い自己紹介ともいえる。これから嫌でも付き合う相手である。

 そして、先輩たちは驚いたかのような表情でアドルフを見る。理由としてはアドルフのいうウォーラルタウンだと”木の実林”を越えなくてはいけない。一人ならかなり大変ではないかと思っているのである。

 

「まさか一人なのか? 親や知り合いとかの手伝いはなしか?」

「はい」

 

 そして、さっきまで喧騒気味だったサンダリオが驚きを露わにした表情で尋ねる。ダンジョンをどうやって突破したのかを確認したのである。

 アドルフは特に気にもせず一人で来たことを暫定する。そこまで驚くことなのかとアドルフは思っていたが、素人と思われる新入りが一人でダンジョンを突破してきたのである。しかも、苦手な草タイプが多いので難易度は高いのだ。そう考えると少しぐらいは驚く理由になっていた。

 

「しかし、はやいな~。10分で1周したのか……。僕も負けてられないね!」

 

 ガイルはいつの間にか雑巾を濡らして絞っており、アドルフの隣で雑巾がけの用意をする。彼がこの5人の中で一番の新参で、一番雰囲気が快いものだった。

 ガイルがそうしているのを見ると、他の皆も雑巾を手に取り、列に並ぶ。腕にとげがつくポケモンは距離を離しておき、怪我がないようにする。

 そして、ガイルに続くようになった結果全員の準備が出来上がる。ギルドメンバーの行動は小さな心から繋がっているようで、まとまるとかなり大きな力である。

 

「よし! 自己紹介は済んだ! 全員いるし雑巾レースじゃ! 一番には今日のおかわりを限界までやらせよう!」

 

 そして、アーロンはそれを見て皆に火をつけるためにか大声張り上げて食べ物で釣ろうとする。やることは雑巾レース、ノリが学校のそれと同じである。

 これを聞いてみんなの目つきが変わる。自己紹介時にはまだクールなジェミーも静かに燃えていた。サンダリオとヘンリーはうおぉっ!と声を上げて意気込んでいた。

 

「おか……わりッ!」

「限界まで自由!」

 

 目を光らせる様に良い表情をしていたのは残りのローナとガイルである。他の3人とは違って明らかにキャラが変わっている。

 そして、アドルフはそうこう考えているうちにある事を思うようになる。とても無粋な気もするのに声に出していた。

 

「……俺も10分待ってそれからやってもよかったんじゃあ……」

 

 アドルフの思った通り、待った方が楽である。結局そのまま、無駄に思いながら雑巾レースは始まるのであった。

 




遅くなったこと申し訳ありません


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示される目標

お久しぶりです
色々ありましておくれました。
約2か月ぶりになるのでしょうか、かなり時間が経ってしまいました


 掃除が終わったウォーベックギルドでは地下室に全員が並んでいた。先程自己紹介も終えてそれぞれが思い思いにアドルフの事を話す。

 それぞれ個性あふれるメンツではあるが、皆アドルフに対して一定の優しさを見せていた。それだけでこのギルドの雰囲気がよくわかるようになった。

 

「さて、今日からアドルフ・エースがわしらのウォーベックギルドに所属することになった。皆仲よくのぉ……、アドルフ君も分からん事があったら話を聞くんじゃぞ」

 

 アーロンはアドルフを撫でる様に爪の面を頭の上に置く。優しく壮大な心を感じたのか、あるいは単純に嬉しいのかアドルフは笑ってアーロンを見つめる。

 撫でてもらった後、アドルフは早速名前を知ったばかりの先輩たちの元へ向かう。初めに一番アドルフに近いガイルは気前よくアドルフを迎える。他の先輩たちはその光景を微笑ましく見つめるだけであった。

 

「ねぇ、皆で歓迎会でもしませんか? これからあるものを追うことになる仲間になるんですしね」

 

 ガイルはアドルフが来たのを見て、思い出したかのように言葉を言い放つ。それは歓迎会と陽気なものであった。それを聞いた瞬間、お代わり雑巾レースを勝ち抜いたローナが耳を激しく動かし歓喜の極みであった。他のメンバーの反応はよく、もうやるのは決定的であった。

 アーロンはみんなの反応を見てニコッと笑い、梯子を登る。その行為は暫定とみなされたのか弟子たちの歓声は大きくなる。何をするのか分かっているようであった。

 そして、アーロンが離れたのを見てルチャブルのヘンリーはアドルフの前に立つ。そして、神妙な面持ちでアドルフの肩に手を置く。

 

「よぉ、アドルフ! 今からお前に大事な事を聞くぜ? それはだな……、お前は酒が飲めるか?」

「ああ……、そういや酒飲めるか聞いておかねえといけねえな。こいつのアルハラが恐ろしいし」

「ああんっ!?」

 

 ヘンリーが真剣な顔をしてアドルフに聞いたのは酒が飲めるかどうかの確認。お前はいける口か?、つまりはそう言うものだと受け取っていいものだった。お酒の確認はアルハラ等を避ける意味合いも含めて大事である。

 サンダリオも黄色い腹を叩きながらそれに同調する。先程と同じく喧嘩腰でボソリと呟く。それも嘲笑気味で相手を逆なでするようなものであった。ヘンリーは、それは聞き捨てならぬと言わんばかりにガンを飛ばす。先程といい、この二人はいつもこんな感じなのだろうとアドルフは改めて悟る。

 そして、サンダリオが手に雷の力を込めた瞬間にヘンリーが飛び掛かる。その間は一瞬であり、アドルフは呆気にとられる。見えないわけではないにしろ、早業で喧嘩が始まっていた。

 

「これで勝ったら今日のお前の飯の半分は俺のもんだ!」

「ヘッ、てめえにそれは出来ねえぜ!」

 

 二人は互いに技を繰り出して接近戦での攻防を繰り広げる。お互いにそこまで本気ではないのか途中からアドルフにも何をしているのかわかるくらいレベルを下げて戦いをしていた。周りをキチンと考えているようだが、それでも迷惑行為である。

 その様子を無表情で見ていたのはキリキザンのジェニーである。彼は腕を組んで二人の戦いを鋭利な瞳がきっちりと捉えていた。そして、二人に歩み寄り喧嘩の仲裁に入ろうとする。それも歩きで特に筋肉に力を入れるそぶりはなかった。

 

「うぉっ!?」

「あふっ!?」

 

 アドルフがそこまで認識した直後、二人は派手に吹き飛ぶ。お互いの技が同時に当たった、とかそんな風には見えずアドルフは驚愕する。

 アドルフが見ていたのはただ、ジェニーが二人のけんかの仲裁の為に歩いて近づいていた姿だけである。二人に何らかの攻撃をする動きなど全く”見えなかった”のである。

 

「お前ら、喧嘩するならダンジョンにでも行ってろ。今はアーロンさんが奴を呼んでいるはずだからおとなしく待て」

「そーよ! あんたらはそこでじゃんけんでもしてなさいよ」

「お前もだ、ローナ。ハァ……」

 

 ジェニーが身体に生える刃をちらつかせてヘンリ―とサンダリオを睨む。それを見ただけで二人は怯み、互いに手を引く。強引に止められ消化不良ではあるが、ジェニーに睨まれてからはそれっきりであった。再び対立する素振りすら見せなかった。

 ローナが調子よく毒づくのにもジェニーは目を光らせた後に、アドルフ以外には見えないところでため息をつく。色々と苦労しているのが一目でわかる瞬間であった。

 

「え~と、ジェニーさん。奴って何ですか?」

「ああ、料理屋だ。 お祝い用のメニューを急遽頼むはずだ」

 

 アドルフはそんなジェニーに彼自身が言ったアーロンが呼ぶ者の正体について尋ねる。今日はお祝いをすると言ってにこやかな顔で了承と見られる表情をしてから、梯子を登ってその奴を呼びに行ったのである。先程のギルドメンバーの紹介とは別に関係者が最低でももう一人はいるということになる。

 それにジェニーは淡々と答える。切り替えも早く、ギルドメンバーの中で一番しっかりとしているとアドルフにとっていい印象がつく。ヘンリーとサンダリオには喧嘩ばかりでそろそろ呆れてきたころであった。

 

「さっきの雑巾がけで僕が勝ったしたくさん食えるぞぉ~! 何が出るかな、ケーキ?ステーキ?シチュー?……、くぅ~! たまんないッ!」

「私が言えた口じゃないけどあんた食べることばっかりじゃない。このカビゴンもどき」

 

 一方でガイルとローナはこんな感じである。ガイルのこの様子を見ると、アドルフは自分が食べたかったのではと少し邪な考えをめぐらす。だが、ガイルは今のところ優しく気前のいい先輩なのでそんなことはなさそうである。

 ローナは相変わらず毒づくばかりであるが、今回はどちらかというと呆れと言った感情である。基本的に一言余計なだけでまともな部類なのかもしれないとアドルフは考え直す。

 

 

 

「やれやれ、すぐに騒がしくなりおって……。掃除したばかりじゃろうが、今日は軽く歓迎会を開くのは決定じゃ。ほれ、挨拶せい」

「あ、はいっ! セリーナ・ウォーベック……です」

 

 アーロンがそこに戻って来て別の誰かを連れて来た。その様子はこの光景に慣れているのか呆れ気味である。アドルフが新しく加入するから尚の事気にしているのであった。

 また、連れてこられたのはギルドメンバーと比べて押しが弱いタイプの女性がやってくる。種族は青い鱗に白の縦模様、所々に水晶の様に綺麗な宝石がついている蛇の様なポケモン、ハクリューであった。

 

「私はこのギルドでご飯を作ったり、依頼の受付を行っています。これからたくさんお世話になるのでよろしくお願いします」

 

 セリーナはアドルフに対して自分の仕事を告げて、軽く自己紹介を行う。その役目は言わば受付嬢であり料理長でもある。特に前者は嫌が応でも付き合いは多くなるものである。

 アドルフはそれを聞いて頭を下げる様によろしくお願いします、と言ってにこやかに微笑む。他のギルドのメンバーとも一味違う。サポート側のメンバーというのも大きいものである。

 

「私は今から料理を作ってきますので、先輩方に依頼の受け方、他の施設の説明をしてもらってください。では、私はこれで失礼しますね」

 

 最後に受付に関する台詞を残して、梯子を登っていった。自分の仕事に対しても余念は無く、無駄はない。性格がこの中で一番よさそうだとアドルフは感じる。

 セリーナが去った後、ガイルがアドルフに近寄る。肩をちょんちょんと叩いてある方向へ指さす。セリーヌのいう説明はガイルが行うことになったようであった。

 

「依頼はね、あそこにある受付カウンターで自身の実力にあった依頼のリストを確認して好きなものを選択するんだ。選んだものをセリーヌさんに伝えてハンコを押してもらえば晴れて依頼を受けることが出来るよ。他にも依頼にも救助依頼、お尋ね者討伐、護衛依頼等多種多様だよ」

「カウンターで依頼を選択してから許可を貰って初めて受けられるという訳か」

「そうだね、仕組みについては問題ないね。明日実際にやってみようか」

「はぁ……。では、その時はよろしくお願いします」

 

 ガイルと受付について軽く説明を受けて、依頼の種類なども交えて簡素ながらも説明を貰う。アドルフがある程度理解を示すとガイルは嬉しそうな顔をして、さりげなく実践を明日に延ばす。実際に今日、依頼は受けられないので仕方はないことではあるが。

 アドルフはそろそろあきらめたかのようにため息交じりに承諾する。どういうギルドなのか正直なんて言葉をつけずとも不安になってくる。評判はともかく何か抜けているのではないかと感じざるを得ない。

 

「明日はきっとこの近辺で簡単なダンジョンの”じめじめ岩場”というダンジョンの依頼になるかな。あそこにはよく一般の方も来るしね。落とし物探し、保護と簡単な依頼で探検のノウハウをつけることになると思う。君は既に素人の域を超えているだろうけど、どこまで能力があるか僕達は知らない。まだまだ足りない基礎はしっかりと積んで欲しい。これから一緒に探検する機会が必ず来るからね」

「え、あ、はいっ!!」

 

 そして、ガイルは急に明日の詳細を伝える。行くと思われるダンジョンの名前に予測される依頼の種類まで伝えられついさっきの曖昧な説明とは違い具体的である。アドルフが一人でダンジョンを越えてきたことを踏まえても、特に褒めたたえるのではなく少し厳しめである。

 意外な台詞にアドルフは気圧されて、返事がしどろもどろになる。さっき、目の前のガイルの能力を疑ってしまったが、些か早計すぎると反省することになる。

 

 そして、ガイルの説明が終えた後梯子に向かう。その後アドルフを手招きするように手を曲げる。短い腕でちょいちょいする姿は可愛らしく威厳というものはない。

 アドルフはそれを見てまだまだ説明するところがあるのかと思い、黙ってついていく。梯子は相変わらずがっしりとしていて途中で崩れそうなんて思わなかった。アーロンが気軽に昇り降りしているのでそのぐらいの強度がないと困るレベルであるのが強い。

 

「上は地下と違って綺麗なのは一般客へ失礼のないように出来ている。弟子入りしたら今の地下室の与えられた部屋で寝てもらう。その部屋は後で教えるから、まずは探検隊の為の施設に案内する。明日早速依頼を受けさせるから、予習としてね」

「え~と、カクレオン商店や銀行、技連結、鑑定なんかですよね」

「そう、よく調べているね。今からその施設へ案内するからしっかりと覚える様に」

「はいっ!!」

 

 ガイルはアドルフにこれから大事になることについてお祝いの時間までに無駄なく説明をするつもりのようで筋道がしっかりとしてきた。ギルドの外に出て回れ右して手招きする。

 アドルフがそれを理解するのは難しくなく、後を遅れて追いかける。手持ちの金を計算しながら、道具を買い足すかを主に考える。アドルフは道具をよく使うスタイルなのでここは大事である。

 ガイルはアドルフが追いかけているのを見て、急に走る様に先導する。まるで試すかのようにその行動に移されアドルフも慌てて追いかける。ガイルは探検隊として鍛えられたスタミナが効いているのか息切れは少ない。アドルフも負けじと追いつこうとする速度でスタミナを保っていた。

 先程から意外と厳しい一面を見せるガイルはアドルフが自分のスピードについてきているのを見て素直に驚く。普通ならば鍛えていないポケモンに負けるほどやわではないと自負できる。それでもアドルフはしっかりとついてきており自分を見失うようなことはない。

 

 羨ましいなぁ、なんて思いながらせっせと走る。進化すればゲッコウガという素早い種族になる。その前兆は既に現れている。ある程度の土台が出来上がっているので、どれだけ基礎工事を足すのか、それとも発展させるのか悩ましい力である。

 そして、かなりの速さで走っていたためかあっという間に目的地にたどり着く。そこには様々なポケモンが行き交って活気あふれる街そのものであった。ギルドが中心に存在してもこのデルトタウンの本当の中心はここだと言わんばかりである。

 

「着いたよ、ここがデルトタウンの商店街。ここに施設がまとまっている。探検隊の施設は密集しているから大体一か所に行くことになると思う」

「かなり賑わっている……、ここがデルトタウンで最も栄えているスポットなのか。すげぇ……」

 

 ガイルはアドルフについた場所の説明を交えて、その説明にあった一か所に向かう。さり気なく財布を取り出しており、何かを買う気満々であった。

 アドルフは自分が住んでいたウォーラルとは違う栄えた街を見て驚くようにワクワクしていた。デルトタウンの経済を回す場所がこんなにもポケモンが行き交い、賑わっているのである。ただならぬ威圧感すら感じるほどである。

 

 そして、ガイルと共に歩いていって商店、銀行、倉庫、技連結、鑑定など様々な店に顔を出す。どの店の店主も商売に力を注いでおり、例え分野が違っても他には負けまいと感じさせるほど熱心であった。特に顕著なのはカクレオン商店のカクレオンである。救助隊、探検隊が多く存在する町ではまずいてもいいというカクレオンはどこも商売上手であるようだ。

 そして、探検隊として主な店を回った後今度は香ばしい香りのする店へとガイルに連れられる。アドルフはまだ用事は済んでいないのかと疑問に思いながらもその店へと入る。店に入る時、ドアに取り付けられた鈴がリリリンと音を鳴らしてアドルフ達を歓迎する。

 店の内部は木の実の匂いが充満し、静かながらも時々ポケモン達の笑い声が聞こえてきた。内装は木の机に、木を基礎にしたふかふかのソファが机を挟むように数多く並んでいた。

 

「ここは……、カフェ?」

 

 アドルフはその店の内部を見てその店がカフェであると理解する。木の実を使ったジュースやコーヒーに紅茶、店によって様々なメニューが存在するカフェである。さっきの賑やかな街並みとは違っておとなしく落ち着く場所である。

 ガイルはアドルフが驚いている間にちゃっかり席を取っており、手招きすらしていた。先程とは違い、会った時の様ににこやかな表情でいた。完全にオフモードのガイルであった。

 

「まぁ、座りなよ。ちょっとだけここで話しながら寛ごうよ。一番安いジュースを驕るからさ」

 

 ガイルは笑ってアドルフを席に座る様に促す。柔和な表情からさり気なく一番安いジュースを驕ると言ったワードが出てきたが、気にすることなくアドルフは言われるがままにした。少し気が引けるが、アドルフは驕ってもらえるならそうしてもらおうと甘えることにする。

 気前よく驕るまで言って嬉しそうにアドルフを見ているガイルはアドルフが座るのを見る。それと同時にメニュー表を開いて、一番安いジュースを探す。そして目ぼしいものを見つけたのか、近くにあったベルを二回たたく。それがなってから数秒後、ふわふわとした毛を持ったモココが注文確認に来た。

 

「ご注文はお決まりになられたでしょうか?」

「モモンジュース二つでお願いします」

「かしこまりました。モモンジュース二つでよろしいですね」

 

 ガイルがメニューを伝えて、モココは丁寧に確認までしてガイルが頷く。それからモココはガイルを何回もチラ見しながら注文をメモした紙を持っていく。少し気になる動作であったが、アドルフはそれまでにしてガイルに視線を向ける。

 そして、アドルフはメニュー表をちらりと見ると注文したモモンジュースは98ポケと三桁をギリギリ切っているものであった。案外高いものである。

 

「さて、お祝いまで時間あるし、ギルドの話をしようか。ウォーベックギルドの目標を、ね」

「……目標、ですか……? 個人じゃなくてギルド自体のですか?」

 

 ガイルは私的な話ではなく何やら重要な話をするのか再びまじめな顔つきになる。オンオフが激しいものだとアドルフに思わせているのは内緒である。

 アドルフは思わぬ言葉に、ワンテンポ遅れた返事をする。個人でなくウォーベックギルドという組織の目標なんていきなり告げられることになった。これは新入りに言っていいことなのか些か不安なものである。

 

「ギルドは探検隊らしく、あるお宝を追っているんだ。それも噂だけで実際には存在しないと言い捨てられるのが関の山なお宝さ」

「存在しないと言い捨てられる程の?」

 

 ガイルは前振りに大袈裟な事を言ってアドルフを惹きつける。仰々しくとかそんな感じではないが、アドルフを釣るにはお釣りが来るものであった。アドルフは素直に尋ねてくるからだ。

 案外素直だとガイルは見抜いたのか、次の言葉を思考する。何かもっと引き込めるようなガツンとパンチのある文を、である。そして、数秒間を置いて考える、が頭の中は純白に近いほどまっさらになっていく。

 

「え~と、……」

「お宝……?」

 

 アドルフは次の台詞が思い浮かべないガイルを見ながら待つ。かっこつけでやっているのがバレバレなのか少しジト目で見つめる。思い浮かばないなら言わない方がいいのに、と若干毒づくように思う。

 そして、さらに数秒経った後諦めきったガイルはアドルフを見て何かを言おうおする。何か言おうとするガイルを見てアドルフは注目する。

 

「“神器”って言ったらわかる?」

「えッ!? “神器”って古代にそれを手にしたものが争いを止めたという伝説の物ですか!?」

「そう、その“神器”だよ。アーロンさんが長年探しているんだ。僕達はそのお手伝いの為に依頼を解決しながらやっているんだ。不定期的に遠征にも行くこともある。君も今からその遠征を目標にしてもらえればな、と思ってさ」

「遠……征……」

 

 ガイルが口にした“神器”はアドルフにとって驚愕のものであった。言ってしまえばオーパーツ、今の技術では再現できない英知の結晶そのものである。確かに存在しないと言われるにふさわしいものである。

 だが、ガイルが言った次の言葉を聞くと真意を理解する。それは“遠征”というワードから来る。ギルドメンバーと共にその目的のお宝を目指して探検するものである。そのメンバーに入ることを目指せ、というガイルからの目標の提示であった。

 

「はいっ! 頑張りますっ!」

「おお……、デカいねぇ。でも、良い心意気だ」

 

 アドルフはやる気が急に満ちたのかカフェにそぐわぬ大声で気合いづく。その声を聞いて他の客が一斉にアドルフを見つめて注目の的になる。ガイルは少し困った様な表情をするが、それでも嬉しそうに頷く。

 そして、もう出来上がったのかモモンジュースを乗せた皿を持ってさっきのモココが現れる。苦笑いでアドルフを見ており、そこでアドルフは状況を理解して恥ずかしくなる。

 

「それじゃあ、良いこと聞けたしこうするか」

 

 ガイルは届いたモモンジュースを両手で持ってアドルフの前に突き出して微笑む。それが何を意味するのかは言うまでもなくアドルフもそれに倣う。

 コップとコップが軽くこつんと音を立ててぶつかる。中のジュースがこぼれない程度におとなしく、優しいものであった。

 

「「乾杯」」

 

 二人が仲良く乾杯してから、ギルドの話から個人的な話にまで多岐に渡るおしゃべりが始まる。そして、カフェもさっきのアドルフの事など忘れて入って来た時の様にそれぞれの風流に花を咲かせる。

 

 

 

 その後のギルドのお祝い会とは違い、ここではゆったりと先輩のガイルと満足いくまで話すことが出来たのであった。

 




マグマラシのガイルさん回
この子が恐らく一番アドルフと関わる先輩となります
丁度一番若手というのも合わさって、彼とは交流深くなるである
彼自身、びっしりとするときはするが普段は陽気な子

マグマラシってすごくかわいいよね

また、今回は”神器”なる用語も出てきました


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宴会と初仕事

お久しぶりです
長々と更新してなくて申し訳ないのですがまだダラダラしてます
次はちゃんと探検します


 アドルフとガイルがカフェで軽くくつろいだ後、二人はギルドに戻っていた。それを境にアドルフが入ったことによるパーティーが始まった。全員がグラスを持って、乾杯する。ここまでは普通の宴会であった。

 しかし、ある2匹に酒が入った途端アドルフは困った状況に置かれることになる。その2匹とはルチャブルのヘンリーとエレブーのサンダリオであった。

 

 

 

 

「オメエさん……、本当に筋がいいねぇ。ウィックッ!」

「ホント、最近の新入りってなんれぇ、さいじょからうめぇんだりょうな~」

「わかる、ウィックッ! ……ガイルの時も俺らびっくり、ウィック! ……しちまったなぁ」

「あ、ありがとうございます……。大丈夫ですか?」

 

 アドルフの事が二人ともかなり気になっていたのか酒を飲んで酔いが回り始めるとアドルフに絡みつくように話しかける。一度相手すると嫌なイメージがつくような光景である。二人は別段悪気が無い分質が悪い。

 ヘンリーはしゃっくりを時々するだけであった。それに対してサンダリオは段々呂律が自然に回らなくなっていた。どちらもかなり酒に弱そうなことがアドルフでも理解できた。不思議な事にアドルフに酒はいけるかと聞いてきた二人である。アドルフに酒を進めるようなアルハラは奇跡的に起こっていない。

 アドルフはここまでくると二人の酔っ払い珍獣の事が心配になるほどであった。酒臭いのを我慢しながら接待のように丁寧に振る舞っていた。

 

「何よアイツら、私の事は何にも言わないの!? ガイルなんかよりいけるのに~!」

「まぁまぁ、落ち着こうよ。ヘンリーさんとサンダリオさんはアドルフ君が気になっていたようだしさ」

 

 ローナが酔っ払い珍獣2匹の発言を聞いてイライラしていた。理由は話に自分の名前が挙がっていないからだ。ローナはガイルと近い時期にギルドに入門したため新入り同然だったのにだ。ガイルだけ持ち上げられてイライラしていた。因みに口元からは酒の匂いがプンプンしていた。

 そうとも知らずにガイルはローナを宥めようとする。火に油を注ぐだけなのかローナの怒りの火花が混じった視線を浴びせられる。カフェでアドルフと話していた時の様な威圧感は初めから存在しないかのように消え失せていた。

 

 そして残ったアーロン、ジェニー、セリーナはたしなむ程度にお酒を楽しんでいた。その中で、酔っ払い珍獣をそろそろ止めようとジェニーがゆっくりと歩を進める。ローナはガイルに任せてアドルフを困らせている問題児を仕留めにかかった。

 アーロンはそれを見て笑いながら他の料理に手を出す。手先が汚くなっているのをセリーナはムッとして見ていた。少し不快感を覚えているかのような、そんな感覚であった。思わずアーロンは手を止める。それからキチンと手拭きで洗ったりしながら清潔を保つように注意する。

 

 

「ほら、ローナ。ジェニーさんが動いたよ。またやられたくないなら大人しくしときなよ。もぉ~……、やめてくれないかな」

「触らせろ―! その愛くるしさが羨ましいんじゃー! モッフモフ!」

 

 ジェニーが動いたのを見てローナを必死に止め始めるガイルであった。既にローナはさっきの怒りとは違い、ガイルに抱き着いていた。顔を横に振りながらガイルの毛を堪能していた。

 ガイルは当然嫌がり、必死に引きはがそうとする。こうなるとテコでも動かないのか、ローナは一向に手を離さない。それどころか力がどんどん入れられていく。いろんな意味でガイルにローナが嫉妬していることの表れであった。

 

 そんなローナは相手にせず、アドルフに絡んでいるヘンリーとサンダリオだけを見据えていた。お灸をすえるのは決まっているのか腕の動きが妙に忙しなかった。それを見るだけでガイルは恐ろしい気持ちになり、ローナを引きはがそうと苦戦する。

 ヘンリーとサンダリオは気づかない。二人に気づかれないようにと気配を殺してジェニーはついにすぐ近くにまで来ていた。それにアドルフが気づいたが、もう既にジェニーの腕は動いていた。

 

 アドルフがそれに気づいた瞬間、ジェニーの腕は視界から消えていた――。

 

「あだっ!?」

「イテエッ!」

 

「え?」

 

 アドルフは何がどういうことなのかわからず硬直する。ジェニーは酔っ払いに攻撃しようとする瞬間はアドルフも辛うじて見ていた。だが、いざ攻撃に移った瞬間アドルフの視界を置き去りにするかのようにジェニーの腕が消えていたのだ。

 消えていた、それはアドルフにはそう見えただけで実際にはキチンとした攻撃である。その証拠にジェニーの腕が消えたのを認識した瞬間に、二人は軽く吹っ飛んでいた。

 

「お前らな、ほどほどにしておけ。ここから先は全部水だ」

「「はい……」」

 

 吹き飛ばされた二人は酔いが冴えてきたのか素直に従う。その後、アドルフにお詫びを入れてグラスに水を灌ぐ。しかし、その様子すら危なっかしい為アドルフが逐一面倒を見ることになった。

 アーロンはその様子を見て微笑む。早くもアドルフが慣れてきそうだと感じらような気がしたからだ。悪い意味でも、良い意味でも。

 

「お尋ね者の依頼ってある程度してから受けられるんですか?」

「そりゃそうよ。未熟な子にやらせる訳ないじゃない」

 

「ふ~、しばらくは楽しめそうじゃな。“神器”の手がかりはまだまだ見つからぬがのう」

 

 アーロンは一人そう呟いてこの光景を見ていた。気がつけば皆アドルフに集まっていろいろ話し始めていた。主にアドルフが探検隊としての質問をみんなで答えるという形になっていた。

 先程まで文句垂れていたローナでさえしっかりとアドルフを見て対応している。根は優しく全員がアドルフを歓迎していた。これから深く関わりを持つ仲間として受け入れる準備はすでに整い始めた。

 

「さて、明日にはいきなり軽い依頼をやらせるかのう。座学より実戦でいかせたいものじゃ。丁度いい感じの依頼が届いておるわい」

 

 アーロンはそう言ってみんなが話しているのを他所にアドルフにやらせる依頼書をじっくりと眺めていた。指定ダンジョンの奥底ではあるが、難しすぎない為に一人でダンジョンを越えてきたアドルフには大した問題ではない。

 実際にどうなるかを改めて確認する意味でもこの依頼は丁度いい、そんな風に考えながらアーロンは依頼書を受付カウンターに戻す。

セリーナは既に理解しているのか何も言わずにパーティーを楽しもうとアドルフ達の輪に入っていった。

 

 

 

 

 

そして、パーティーが終わった次の日。アドルフの探検隊としての生活が幕を開けた。皆が寝て起きて、朝に掃除した広場に集められる。人数が少ない為、一列に並んでアーロンがメンバーの前に立つ。

今から行われるのはいわば朝礼のようなものであった。ギルドによって異なるもので厳格なところもあれば緩いところ、手短に終わらせるところなどさまざまである。このウォーベックギルドでは手短に終わらせる所である。

 

 

 

「皆、おはよう」

 

「「「「「「「おはようございます」」」」」」」

 

 アーロンが挨拶をして、全員が頭を下げて挨拶をする。アドルフは昨日の時点で聞かされており、サラリとその場に馴染んでいった。とはいえ、まだ挨拶だけである。

 数秒して全員が頭を上げてアーロンを見つめる。今日の指示や注意事をいつもこの時に伝えて解散するのがこのギルドではルールとなっていた。

 

「今日はジェニーが高難易度の依頼を受けることになっている。ガイルはアドルフ君に依頼の受ける流れを実際にやらせるのじゃ。他の者はいつも通りに依頼を受けるように、では解散」

 

 アーロンは今日の状況を説明して、皆の頭に叩き込む。キリキザンのジェニーは高難易度依頼、ガイルはアドルフに指導、これぐらいが今日の変わった点である。

 こんな風に挨拶とアーロンからの短い話でウォーベックギルドの朝は始まる。そこからは各自、目的のために行動あるのみである。比較的自由なギルドであった。

 

「アドルフ君、昨日言った通り説明するからね」

「はい! 今行きます」

 

 解散してからガイルはアドルフを呼んで昨日の続きを始める。実際に依頼を承諾して、外の施設で準備をして探検に向かう。この流れを実際に体感させるためである。アドルフはハッキリと大きな声で返事してガイルについていく。

 行く先は勿論セリーナが待つ依頼受付カウンターである。そこでは既にセリーナが準備して待っていた。他の先輩たちは既に依頼を見てどれにしようかと吟味しているところである。

 

「アドルフ君、君は今から依頼を受ける流れを実際に通してやってもらいます。良いですね?」

「はい」

 

 ガイルは昨日のパーティーのオフモードとは違い、昨日見せたようにきっちりと切り替えてアドルフに説明をしようとする。アドルフはそれを見てすっかり理解したのか、特に滞りなく聞く姿勢を見せる。

 ガイルはそれを見て一言、よろしい、と言って掲示板の前に行った。それにアドルフもついていく。掲示板には依頼書がびっしりと乗せられており、ギルドのポケモン以外にもそれを眺めるものがいた。

 

「今の君のランクではEとDを受けるのが限界です。初めてだし、Eランクで様子見させてもらおうと思う。そこの依頼書を取ってね」

 

 ガイルはアドルフに受けられる依頼の難易度に念押ししながら、ある依頼書を指さす。それからアドルフは指示に従って指定の依頼書を取り出す。上にEという文字が掛かれていて、最低ランクのEランクという証拠が乗っていた。

 アドルフはそれをガイルに渡す。その後、ガイルは依頼書に目を通して良しと呟くとセリーナの受付に戻る。行ったり来たりと忙しいがアドルフは文句を垂れずに黙ってついて行った。

 セリーナはガイルが持っている依頼書を見てサッとひったくる。それから数秒して尻尾でハンコを持ってガンッと大きな音を立てて押す。しばらく押さえつけられた後、ハンコは依頼書から離されて赤いインクがしっかりと付いていた。

 

「はい、私がこんな風にハンコを押すからそれで依頼の受付は完了になるわ。ね、簡単でしょ? という訳で道具の準備に行ってらっしゃい」

 

 セリーナがハンコを押した後にアドルフはガイルとは一緒にならずに一人で買い物に向かおうとする。既に案内は済んでいるので一人で行けるのもあって、道具は一人で選ぶのみである。依頼書をバッグにしまってさっさと走り出した。

 ガイルはそんなアドルフを見て、心配になり後からこっそりついていこうと歩きながらそれを追う。実力を実際に見たわけではないのでそのような判断は至極当然である。なまじ中途半端な知識が一番危険なのだ。下手な先入観にとらわれがちになる。それがアドルフにはないかと心配なのだ。

 実際にガイルはアドルフにばれないようについていくと、カクレオン商店で品物を吟味するように見つめるアドルフがすでにいた。足は速い方なのか、早く辿り着いており、早くも爆裂の種や睡眠の枝、縛り玉などを買っていた。どれも便利な道具である。道具に関する知識はキチンと持っているのをガイルは認識しホッとする。最も、ホッとするぐらいなら初めからついていくべきであるが。

 

 そして、アドルフは木の枝とオレンの実を複数個買ったことで買い物を終了し依頼の為に指定のダンジョンに向かう支度をする。そこでもう一度依頼書を取り出して詳しく読み始める。事前に書いてある情報を叩きこもうとする勤勉さがうかがえる行動であった。

 ガイルはその行動の節々に感心しながらアドルフを遠目から見つめる。頑張る後輩が出来たものだと嬉しく思いながらも、期待と対抗心が湧くように大きくなる。これから不定期に行われる遠征なんかで一緒に探検することになったら楽しみである。

 

「そう言えば、アドルフ君の受けた依頼は”じめじめ岩場”の奥で落とし物探しだったな。依頼者はメラルバの……、え~と」

 

 ガイルはそこで今回のアドルフの初仕事がどんなものかを思い出そうと口にして振り返る。依頼を選ぶときにちらりと見てある程度は把握していた。ダンジョンと内容、依頼者の種族までと一瞬でそれらをあっさりと覚えていた。

 だが、種族までは出ても名前までは出てこなかった。流石に把握しきれなかったものでう~んと頭を捻る。しかし覚えていないものは覚えていない。テストで肝心な時に度忘れをしてしまうようなあれにも近い。こうなると思い出せない人は思い出せないものだ。ガイルは思い出せない部類である。

 そして、アドルフがある程度依頼書を読み終えてダンジョンに向かい始める。ここまで来れば一々見張ることはあるまいとガイルは判断してゆっくりと自分の仕事をしようと戻る。

 

 ここでアドルフは地図を広げてダンジョンに真っ直ぐ向かう途中、白い毛玉の塊のようなものを見つける。それはかなりの大きさでアドルフと同じかそれ以上の大きさであった。赤い枝のようなものも伸びており、さながら太陽のようであった。

 だが、アドルフが近づくとその毛玉はくるっと振り返る。その拍子にアドルフと毛玉がぶつかり、暖かくふわっとした感覚がした。それに気づいた毛玉があ、と声を上げてアドルフを見る。

 

「ご、ごめんなさい! ぼ、僕、依頼を出してまちて、どんな人が来るかなあって気になっちゃって。その、それで……もちかしてお兄さんが?」

 

 その毛玉は幼げな声でアドルフに謝罪しながらオドオドし始める。臆病なのか内気なのか、所々に緊張が現れており言葉がカミカミだった。アドルフはその毛玉をメラルバという種族であると認識して、どういう状況下を察することが出来た。

 依頼を出したメラルバ、これだけであるが目の前にいる子がアドルフの依頼主であることはほぼ間違いないであろうことだった。そして、依頼内容と合わせてアドルフは笑顔で対応する。

 

「うん、そうだよ。お母さんが作ったスカーフがあそこにあるんだね。いくら友達との遊びとはいえダンジョンに踏み込んじゃだめだよ。怪我はしてないようでよかった」

 

 アドルフはそのメラルバに優しく注意して言い聞かせる。その内容は奇しくも自分が過去にやったことと同じである。ブーメランみたいに跳ね返ってきそうな痛い話である。

 簡単に言えば、このメラルバは友達と”じめじめ岩場”に遊びに行ってそこの奥地でスカーフをなくしてしまったがためにこの依頼を出したということである。それも母親が作ったスカーフとこの子にとって大切であろうものである。アドルフは下積みのものにしては初めから重要度の高い依頼となった。

 

「うん、だからお母さんのスカーフを取って来て下さい! 僕はポール・ドクリルです。あれがないと僕……、僕……」

 

 ポールと名乗ったメラルバは泣きそうな顔をしながらアドルフに必死に頼み込み始める。それを見てアドルフは焦りだして、ポールの頭の上に手を乗せる。毛玉の上であるが、その上で優しく手を動かす。そして、大丈夫と一言言ってポールが落ち着くように宥める。

 それでポールは少しずつだが落ち着いてきており、それを見たアドルフが安心したような顔つきになる。温かい毛玉を撫でたおかげかアドルフの掌は水タイプにしてはあったかい。いや、熱かった。

 また、アドルフはバッグからこっそりとチーゴの実を取り出して撫でた手に塗りたくる。ポールは全く気付いておらずただただありがとうと告げていた。

 

「……行ってらっしゃい」

 

 ポールはそうボソリと呟いて町の方へ向かう。それをアドルフは微笑みながら見つめて、チーゴの実を塗りたくる。ある程度塗るのを終えるとポールを撫でた手をちらりと見つめる。小さなもので済んでおり、アドルフはホッとする。そして、一言呟くのであった。

 

「“炎の身体”か……、道具だけでなく特性についても考えなきゃいけないな」

 

 何とも締まらない形で初依頼は幕を開けたのであった―――。

 




色々と癖のあるメンバー
キャラが多いと会話が多い
当たり前の様な気がしますが、これをあまり多過ぎず地の文で表現できるようになりてぇなぁ


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初めての依頼

お久しぶりですね
魔導兄弟は年末に更新しましたが、こっちは完全になかったままになってしまいました。
だいぶ遅くなりましたが、本編です


 アドルフはもう目的の場所に向かうために地図を見ながら進んでいたが、そんな“ながら”行為を止めて、地図を仕舞っていた。それは当然目的の場所、“じめじめ岩場”に到達するからだ。もはや地図を見るまでもない。それぐらいにまで近づいていたのだ。そもそも“ながら”行為はやるものではない。

 近づくたびに周りの湿度が高くなっているのを感じた。彼の住むウォーラルタウンは水タイプが多く住む為、生活環境的に必然と湿度が高く水タイプとしても過ごしやすい気候であった。同時にガイルの様な炎タイプには最悪のダンジョンということも意味する。

 岩場、という言葉がつく通り周りは岩山のようになっておりパッと見では岩タイプが多そうでもある。だが、その岩の間を水が流れており非常に涼しい環境でもある。これは水タイプが住んでいるということを必然的に表していた。さしずめ、岩水地面のポケモンが住んでいると考えられる。

 

「今のところ快適な探検が出来そうだな」

 

 アドルフはそう呑気に呟く。彼の言う通りアドルフからすればやり易いことこの上ない。水タイプにとっての天国であり、恐らくは水タイプに弱い岩地面も出現し得るといえるからだ。だが、このような環境では呼び水や貯水など水タイプの技を吸収する特性を持つポケモンがいることも考える必要があるため、必ずしも快適ではない。

 それを踏まえてもやりやすい環境であるのに変わりないので快適という言葉を口にしたのである。結論から言えばアドルフには自信があるのだ。楽々とは言えないが、ポールと話して緊張がほぐれた感じがするからであろう。

今のアドルフに過度な緊張はない。ギルドでは冷静に対応していたが実際は内心ドキドキの連続である。今回は特に初仕事というのもあって、それが酷くアドルフを押し込んでいた。だが、ポールが泣きながら頼み込んできたのを見てやらねばという使命感を感じて今ここにいるのである。あの時の様に慢心はしないと心に誓って。

 

ここでバッグの中身を確認する。爆裂の種、睡眠の枝、縛り玉等の探検隊のみならず救助隊や調査団までもご用達のアイテム群を見て使いやすいように整理していく。厳密に言えばすぐに取り出せるようにという事である。いざというときにガサゴソとしていては話にならない。それでは大ダメージはおろか依頼失敗を招くことさえある。最悪の事態も考えられうるが、どのようになる前にマヌケなミスはなくしておきたいのだ。

そして、自分が使いやすいようにごそごそと置き換えながらいろいろなパターンを探る。もし、本当に呼び水や貯水のポケモンが来たらどうするか。アドルフでは精々電光石火で押し切るだけである。それならば、睡眠の枝や縛り玉などで動きを封じる他ない。岩地面は基本的にあわで対処可能であるため、深くは考えない。強いて言うなら距離を取ることである。それにより、あわという遠距離技を活かしやすくなるのだから尚の事深く考えることはない。

 

「さて、行くか」

 

 アドルフは一人、そう呟いてダンジョンの入口へ向かう。そこから先は不思議のダンジョンであり入る度に地形が変わるという迷惑ぶりである。ダンジョンに入りきれば基本的に別の世界である。それぐらい不思議な地形である。現在もそのメカニズムは解明に至っていない。

それ故に危険度も高く、初めて出現するダンジョンではまず腕利きの探検隊が派遣されるのだ。お宝を見つけるだけでなくダンジョン調査も行うこともある。もっとも最近は調査団の方がその役目を追うことが多い。

アドルフは何気なく足を歩ませてダンジョンの入口に身体を通す。身体全体が入り口を過ぎた途端、不思議な違和感がアドルフを襲う。不思議のダンジョンに入った証拠である。また、ここから先は摩訶不思議の冒険の始まりというゴングでもある。

 

ダンジョンに入ったアドルフは先ず、周りを見渡す。敵がいないかの確認もあるが、別の理由もある。キョロキョロと見渡すと、特に敵ポケモンが見られないがあるものは見つけられた。それを確認したアドルフは安心してそのものに近づいて拾う。

それはひんやりとして先がとがっており、投げつけるものである鉄のとげであった。今回は使えそうだと早速バッグの中にいれる。遠距離への攻撃手段として色々と優秀だからだ。技のタイプに関係なくダメージを与えられるというのは今のアドルフにとって心強いものである。

特に他のアイテムも見つからなかったので、敵に不意を突かれない程度にゆっくりと進んでいく。ダンジョンの通路で不用意に走ることはその道を歩む者にとって厳禁行為である。何故ならば走り続けていると前方の通路から来る敵の攻撃のいい的になりかねないのだ。故に早すぎず遅すぎず、石橋を叩いて渡る様に丁寧に攻略するのが定石であった。

ダンジョンの部屋から通路へアドルフは渡っていく。幅は基本的に2匹分という狭さなので挟まれでもしたら抜けられないことはなくとも、恐ろしいことこの上ないのだ。単純な2対1なんかではなくまだ伏兵もいたら鬱陶しいことこの上ない。

 

 そして、通路を進んでいくと前方に岩の塊がゴロゴロと転がる様に目の前を過ぎていった。チラッと見ただけで確信を持てないが、アドルフはそれをゴローンだと考える。イシツブテの進化形で、それよりも圧倒的に強いのは確かだがタイプは岩地面と水にとんでもない倍率の威力を叩きだされてしまうタイプでもある。それでもマグニチュードや自爆など恐るべき技は存在する。遠距離からのあわで何もさせずに処理するのが最適解だ。

 アドルフは相性がよくても注意すべき点を考えて行動パターンをまとめていく。草タイプに対して苦い思い出の多いアドルフは油断こそ最大の敵だと考えていた。その為か今の様な相手も注意すべき点を踏まえて対処するように心がけていた。これが初依頼でやることとは言えないだろう。そのようになっていくには多少は経験が要るのだ。

 

「っ!! “あわ”」

 

 アドルフが進路を進んでいるのに、そのゴローンは気づいたようでぎろりとアドルフを睨み付ける。アドルフはその瞬間に大きく息を吸っていた。そして、深呼吸のようにゆっくりとあわを吐き出す。速度は大したものではないが、一手早くアドルフはゴローンの先を行く。脳からの命令で動く通常の動きとは違って、脳にワンクッション置くことのない反射の如く素早く正確に行われる。

 ゴローンは何かをしようとしていたのか腕を振り上げていたのだが、あわが既にゴローンに辿り着いておりパチパチパチと破裂し敢え無く撃沈する。アドルフが先手を取ったことで何もさせることなくゴローンは倒れて、ダンジョンは静まり返る。最初に出会った敵が割と強い部類であるため、アドルフはホッとして先を急ぐ。

 通路を抜けてもまた部屋が出てきて、岩タイプや水タイプが襲ってくるだけである。数が纏まっているわけでもなく、一体一体へと対処できており、特に苦戦はない。強いて言うなら水タイプ相手にあわが効果なしだという事ぐらいだ。

 

そして、ダンジョン名の如くじめじめとしたダンジョンはアドルフが最初に予想した通りの展開で進められていた。今のところ違うのは呼び水や貯水と言った水技を無効化してくる敵の登場はない。相変わらず岩タイプや水タイプが来る程度だ。

 

「こいつは……、カブトか」

 

 その中でも珍しかったのはカブトというポケモンである。茶色い甲殻に覆われ虫タイプみたいな多足類のポケモン、タイプは岩と水と珍しい組み合わせである。電光石火は逆にこちらがダメージを受けそうで、あわは有効打ではなく地味に困る相手であった。

 それでもアドルフは焦ることなく、拾った鉄のとげを構える。技のタイプに関係なくダメージを蓄積させることが出来るこのアイテムをアドルフは気に入っていた。このような相手に技の力を節約も兼ねて攻撃できるという安心感は巨大ではないが矮小なものでもない。

 アドルフはゴローンと同様に先手を取ることに重点を置き、鉄の棘をなげる。あわよりも速度が早い分カブトからすれば困ることこの上ない弾幕である。怒りを露わにしながらも一直線にアドルフへと駆けていく。多少の鉄の棘など構うものかと言わんばかりに猛牛の如く押し寄せる。自我がハッキリとしないダンジョンのポケモンの行動はダンジョンのレベル次第でより単調になったり、複雑になったりする。このカブトは前者でアドルフに一発かますことを精々考えている程度だ。複雑になればアイテムを使ってきたりするのだからこれは大したものじゃない。

 そして、カブトは鉄の棘の薄い弾幕を潜り抜けてアドルフの目の前へと迫る。そうなると勝ち誇ったみたいにギィィィッと吠える。案外かわいい声だななどとアドルフは呑気に考える。特に焦ることはなかった。それどころかクスリと笑ってすらいる。

 

「ここまでお疲れさん。これでも喰らいな!」

 

 アドルフは近づいて来たカブトを嘲笑うように労うと、カリッと口の中で何かをかみ砕く。そして、口を大きく開けてラフレシアを倒した時と同様に高エネルギーがカブトめがけて飛びだす。お馴染の爆裂の種である。

 まんまと惹きつけられたカブトは爆発に飲まれる。勝ち誇っていたカブトはあっさりと吹き飛ばされてしまい、プスプスと灰のように焼きあがっていた。ピクピクと動いているがとても戦える状態ではない。アドルフは早々にその場を離れていく。

 

 その後も敵は見かけても早々に鉄の棘などのアイテムを駆使して攻略していく。まるで台本通りのガッチガッチな探検である。大きく冒険することや賭けに出るようなことはなく、堅実そのものである。アドルフはやんちゃでせっかちであるが、幼い頃の経験がある事でこのようなスタイルになっていた。だが、それでもアドルフという男の根本は変わることなど無い。

 冷静に対処していき、敵を真正面から突き抜けていく。これがアドルフにとって一種の快感を味あわせていた。それ故に昔はラフレシアの痺れ粉に痛い目に遭わされたことを彼は重々承知している。ただ無心に楽しむだけでなく、引き際を見極め、攻めるときは大胆になるということをこの探検隊としての初仕事から極めていく所存である。強力な武器や得意技があっても、経験や勘、知識などがそれを最大限に生かすのだ。ただ振るうだけでは、越えられない壁が現れるか小さな島の大将で終わるかの二択に終着しがちである。井の中の蛙、そんな諺通りに痛感することになるのだ。

 

 そしてそれは、敗北感というものに限りなく酷似している―――。

 

「うぉおっ!?」

 

 アドルフは急に前方から来る物が、顔面にベチョリと直撃する。通路に行こうとした瞬間の事である。いつも通りに手際よく敵の確認をする最中に襲われてしまったのだ。いきなりの事でアドルフは4歩分ぐらい後ろに飛ばされる。その威力にアドルフは警戒心が一気に高まり、その技が来たと思われる方向へ目を向けた。

 通路の先は暗くよく見えずにいた。それが奇襲の要因であるとアドルフは考えて目を凝らすが、ちょっとしてからそれに疑問を持つ。自分が見えないならなぜ相手はそう見えるのか、である。そういう種族だからか、このダンジョンを理解しきっているからか、色々と考えるがあまりしっくりと来ない。どうにもこうにも、相手の姿を見て見ないと推測すら成り立たない。

 特性やタイプにばかり気にしていたせいかこの手の敵にまんまと一杯食わされたのだ。相手はただ振るうだけの者ではない。本能と言った研ぎ澄まされた感性を持つ強敵である。いわばこのダンジョンの主と言ったところか、恵まれぬ対面なのは間違いない。アドルフの手は自然と道具箱に伸びていた。

相手が強敵であるほどアイテムの使い方は重要性を増す。かといって、頼りきりではボロが出やすい。道具を使うにも自分の実力が重要なファクターであるのは確かなのだ。いくら余裕があっても不意打ちで大打撃を食らった今、油断は即死に繋がることを意味する。

そしてアドルフは先ずあいさつ代わりに鉄の棘を投げつける。敵は通路にいる為ほぼ直線状に存在することになるため、探りを入れるには十分な手だと考えたからだ。相手のタイプが不明であるというのもあっての選択である。

 

「ギギギ……」

 

 鉄の棘に気づいて怒りを露わにした声がアドルフに響く。様子からして避けられてもおかしくなく、いよいよ腹を括るべきだと気を引き締める。まともな言葉を発することなくこちらを襲ったところを見ると知性はこのダンジョンではそれなりにあっても自我を保てていない証拠である。ダンジョンで眠っているような類の強力なポケモンと同じであろう。今回は珍しく起きていたようである。

 ダンジョンから見て岩、水、地面のどれかは必ず入っている。それとも水辺に住めるこれら以外のタイプかもしれない。あわを放てるようにアドルフはただじっと待つ。そして、重たい体を引きずる様に例のポケモンが通路側から姿を現す。

 

「カブトプス……、こんなにレベルの高い奴がこのダンジョンにいたんだな」

 

 アドルフは出てきたポケモンの種族を見て緊張が走る。大きな鎌をきらりと煌めかせ、カブトと同じく茶色い甲殻に覆われても2足歩行となっており、より戦闘向きなフォルムになっている。その分高さも大きくなっており、アドルフが完全に見上げる形となる。身長差は約1mといったところだ。

 しかも、こんな最低ランクの依頼で遭遇するような敵ではない。真正面でやって解消できるような相手でないことは確かだ。負ける気はしないが、辛いといったところである。アドルフはゴングを鳴らすかのようにあわを試しにカブトプスに放つ。

 カブトプスはアドルフのあわをみるやいなや勢いよく自慢のカマを振り下ろす。あわはカマの攻撃によりパァンと風船みたいに割れる。あわの液体が飛び散り、それがアドルフに無意味であるということを告げていた。カブトプスは大きく振るった鎌によって一瞬だけ動きが止まる。それほどの大振りにより、技なしであわは容易く破かれたのである。

 アドルフは自分の置かれた状況を理解し、それでも尚真正面から電光石火で駆けていく。一見愚策ともいえるこの行為だが、アドルフは何も考えていないわけではなかった。技の名前は電光石火であるが、全速力で走っているわけではない。ブレーキを考えての速度でキープしているのだ。

それに対して当然カブトプスはカマを大きく振るい、アドルフの首を刈り取ろうとする。知性があるとはいえ素晴らしいものではない、所詮は奥地に潜むような大ボスではないのだ。行動はいたって単純、相手を仕留めるためにすぐさま実行するだけだ。力いっぱい振るわれたカマは次の事など考えられていない。

そこでアドルフは低空飛行するかのように電光石火のままタックルする。カマをギリギリ掠めるようなデッドラインをさも当然のように潜り抜けたのだ。カブトプスは大振りしすぎたカマにより案の定一瞬の隙を生んでしまう。そのインターバルの間にアドルフはカブトプスの足にタックルをかましていた。約1mぐらいの身長差がこれらを可能にしていた。

カブトプスはどうしてもアドルフを見下ろすほかなくカマを斜め下に振り下ろすほかない。その為、分かりきったコースへ攻撃が来るのだから対処法は練り易い。見事カブトプスは足を崩されにわかにぐらつく。それを見たアドルフは手に力を込めて、バランスを崩したカブトプスの背中に狙いをつけた。

アドルフの手には水色の球形エネルギーが形成されていた。冷たくてあわよりも高密度なエネルギーの塊となっている。それを全力で投げつける。弾道は狙い通り背中に向かっていた。

 

「これでこけてやがれ。“水の波動”! よし……、あだっ!?」

 

 アドルフは技を放った後、こてっと転げる。無茶な動きをしたためか身体を打ち付けたが、高さはほぼ無いようなもので少し痛いぐらいだ。肝心のカブトプスは水の波動が無防備な背中に直撃して随分と痛そうにしていた。

 その様子を見たアドルフはホッとして立ち上がり、カブトプスが現れた通路を進んでいく。置いていかれたカブトプスはそれからしばらくして立ち上がっていたが、アドルフがとっくに去っていたために追うことは出来なかったのはまた別の話。キョロキョロと反対方向へ向かったようである。

 

 

 

 アドルフがカブトプスを突破した後、すぐに奥地へとたどり着く。そこは完全な行き止まりではあるが、天井に僅かな穴が開いているようで一段と明るかった。水は穏やかに流れ、癒しの音がアドルフの耳に届く。また、天井の岩からぽたぽたとしずくが水面に落ち水面が騒がしくなる。落ち着きのある良い空間だとアドルフはボソリと呟く。

 他にも何かないかと気になって辺りを見渡すと、一つこの光景に合わないものがころりと落ちていた。ふわりと暖かそうなスカーフである。それを見てアドルフはハッとして今回の目的を思い出す。

 急いでそのスカーフの元に走っていき、拾い上げる。念のために細かくチェックしてそれが目的のものであるかを確かめる。そして、一番に『ポール・ドクリル』という刺繍が成されたのが目に映った。

 

「これがポール君のスカーフか。ということは……、これで依頼達成か! よっしゃぁ!」

 

 アドルフは依頼が達成できたのだと確信するとガッツポーズして喜びをあらわにする。誰もいない為アドルフの喜びの声が縦横無尽に広がるだけだが、そんなことなどアドルフは気づきもしていない。初依頼達成の喜びにただ浸るだけなのであった。

 喜んだあとは、バックに丁重にしまって自分のバッジを取り出す。依頼が達成した今ここにとどまる意味はない為、帰るだけとなる。

 

「そういや、転送されるけどどうなるんだろうな……。まぁ、物は試しか! ポチッとな」

 

 アドルフはふと疑問に思ったことを口ずさむが、すぐさま切り替えて帰還の為に押すボタンを躊躇いなく押す。依頼達成と言う高揚感はアドルフを迷わせることはなかった。

 勿論、アドルフにとって思わぬ悲劇はすぐに起きることとなる。調子に乗った結果、アドルフはちょっとばかり後悔することとなる。

 

 ワープとは本来エスパータイプやそれに近いタイプのポケモンが使いこなせる代物であり、水タイプのアドルフにはまず自力では使えない。探検隊及び救助隊等のバッジにはとある問題がその点に存在した。つまり、慣れない技を使うようなこの行為、時には酔ってしまうポケモンが少なからず存在するのである。

 最近はその問題を解決しつつあるが、件数を0に出来てない上にアドルフは新米である。それはつまり――――――。

 

 

「うおぉえッ!」

 

 吐き気などを催す強烈な酔いを誘発させるのであった――――――。

 




今回はアドルフの初依頼回です
ちょびちょびした地の文と台詞の繰り返しでどこかくどい様な気もします

このシリーズは毎回どうでもいいオチを乱発してしまいます


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初めての依頼を終えて

お久しぶりです


 ウォーベックギルド、1階———。

 

「ありがとうごじゃいまちた!」

 

 ポールがアドルフにお礼を言う声が微かに響く。まだ上手く喋れないほど幼いメラルバはカエルのお兄ちゃんに心底感謝していた。その思いがこの一言に強く込められていた。余計な言葉など入れず、ハッキリとした声でありがとう、そう言われるのは今では少ない様な気がする。

 初めての依頼は色々とアドルフを苦悩させたが、この一言でそれらの疲れは吹き飛んだ感じだ。明日だってまたこういう依頼を受けるが、初めてであるこの瞬間はアドルフにとって貴重で鮮明に脳裏へと焼き付く。

存在だけを知る父は同じ時どう思っていたのだろうか、そんな事をアドルフはふと思う。自分と同じで喜びに浸っていたり、クールに振る舞っていたりするかもしれない。自分と父は知らず知らずのうちに同じ道をたどっているのかもしれない。そんな“かもしれない”が先行してイメージだけが出来上がる。だが、父を知らぬアドルフにとってはそんな“かもしれない”が今のところ数少ない父とのつながりである。

 

「もうダンジョンにはいかないようにな」

「はいでし! さようなら!」

 

 アドルフがポールに優しく注意すると、元気の良く心地いい返事が返ってくる。自然と微笑み、ポールが去っていくのを笑顔で見送る。晴れ晴れとし切ったからか自分が探検隊としての大きく前進した気がした。言っていることは完全に自分の事を棚に上げているのはここだけの話。

 そんな風景をコッソリとギルドの先輩達は見つめる。新しく入ったアドルフが朗らかに笑っているのを見て微笑ましく思っているのだ。新人のその姿を見て、ベテランの探検家達は闘志をひしひしと燃え上がらせる。環境の変化はその者にとってマイナスになる事もあればプラスもある。先輩たちはプラスの方だ。ローナの様に軽口をたたく者もいるが、嫉妬などといった醜いものはない。

 

 

「お、いたいた。名前は確か……、アドルフだっけ? 飯がもうそろそろだからこっちに来いよ」

 

 ポールを見送ったアドルフを見てさっきまで覗いていた先輩、サンダリオが声をかける。タイミングを見計らって登場した彼は名前があやふやなのか合ってこそはいてもどこかぎこちない。そんな彼がアドルフに告げたのは飯の時間である。時刻は既に午後7時に差し掛かろうとしている。丁度いい時間帯になろうとしていたのだ。

 アドルフはサンダリオを見て歓迎会の時の彼がちらつくが、顔に出すまいと“分かりました”とだけ言ってついて行く。サンダリオは鼻歌交じりに案内を始めるがアドルフは何だか嫌そうだった。あの時は気にしないでおこうと心にしまうが、どうにもそれは出来そうにない。

 

「しっかし初めてにしてはよくやったな。俺の時なんか失敗しちまってよぉ……」

「は、はぁ……。」

 

 そんなアドルフを困らせるように、急にサンダリオは鼻歌調から辛気なムードで話し始める。アルハラ時や初対面の様なハツラツとした彼は超特急で姿を消し始めたのだ。こればかりは顔を隠せないのかとうとうアドルフは顔を引きつらせる。

 ガイルの様な気前の良さや誠実さをチラつかせた先輩はいいが、他はよくわからないのだ。アルハラのサンダリオとヘンリー、唯一のメスできつそうなローナ、沈黙が怖く強いであろうジェニー、といった悪い印象がある。まだまともに関わった先輩はガイルだけというのが大きいが、第一印象は時間を増すごとに悪くなっていきそうだった。

 

「まだちっせえエレキッドの時によぉ……、舐めてかかった俺は身の丈に合わない依頼を勝手に受けて飛び出しちまったんだ。当然無残にもそこらの野生にコテンパンにされちまったんだ」

 

 そして、サンダリオは自分の話を始める。さっき気前よく飯に呼んだ人の台詞ではない。ここまでくれば止まることはなさそうだと諦めてアドルフは聞きに徹する。話を振られたら困るのだ。ある程度聞かねばならない。

 

「それでよ、俺は悔しくてな……。泣いちまったんだ依頼者の前でさ。情けないことにその時は依頼者に励まされたのよ。先輩のジェニーに怒られちまってな。いきなりやめてやろうかと考えだしたんだ」

「初依頼でですか……?」

「ああ、でもジェニーにこうも言われたんだ」

「と言うと?」

「無事でよかった、ってな」

 

 サンダリオは辛気臭いが優しい声色でアドルフに諭すように話す。アドルフは聞いてみて少し気になったのかちょっとした疑問を投げかける。初依頼、という重要な物を失敗すれば悲しかったり悔しかったりするのは当然だろう。成功したアドルフと失敗したサンダリオ、それぞれの視点で話は進む。

 アドルフが聞くのを見てサンダリオは思い出したのか優しい父の様な顔で言葉を発す。それは彼の安否を気遣ったジェニーの台詞である。悲しむ者に叱りつける彼は酷なものだが、彼がはっきりと覚えているほど優しいものだったのだろう。思い出した彼がどこか懐かしそうにうわの空でいたからだ。

 

「怒られるわ大怪我してしまうわで酷い目にあったけど、あの人は俺の安否を気遣っていたんだ。聞けば、折角の休みを自ら放り出して俺を探しに出たらしい。そんで、俺が気絶していたところを助けたみたいなんだ」

「優しいんですね、ジェニーさんって」

「ああ、そう思うだろ? 案の定、お前の事も心配してたんだ」

 

 サンダリオは話を続ける。ジェニーが休みを返上してまで助けてくれたことを感慨深く話す。アドルフは話を聞くうちに先程のイメージは払しょくされていた。優しいサンダリオを見て先程の自分が思い込みが過ぎるとも思い出していた。

 アドルフが自然と溶け込み、サンダリオが言いたいことを言ったためか嬉しそうにする。それと同時にジェニーがアドルフを心配していたことを話す。あまりいい印象を抱いていなかったアドルフに対して、これは重要な事であった。

 

「あの人は見た感じクールだけどよぉ、誰よりも優しくて強い先輩なんだ。だから長老はあの人を信頼し、右腕として傍に置いている。リーダーの器があるんだろうな」

 

 サンダリオがジェニーの事を慕っていることが段々とアドルフに伝わる。そうなったのは言われたその言葉だけでなく、彼の背中を見ての物だと。まだ何も味わっていないアドルフも、この話を聞くだけですんなりとイメージが変わっていく。変わり身が早い、掌返しなどと言うが、サンダリオの語り様はアドルフを自然とそうさせていた。

 そして、さり気無くジェニーがアーロンの右腕であるという事が告げられる。酔っぱらった時の制裁は目にも見えず、加減がなされた完璧な攻撃だった。強い、そんなイメージだけだったが本人と触れ合う前にいいことを聞けたと思うのであった。

 

「何だか好き勝手言っているようだな。サンダリオ、ベラベラしゃべるなら後にしろ。みんな待っているぞ」

「お、ジェニー。すまないな」

 

 噂をすれば影が差す、というべきなのかご本人が声をかけてくる。それも食堂の前である。待っていたといわんばかりに二人を見ていた。仏頂面で感情に乏しい顔だが、言葉ははっきりと二人に伝わる。

 それに対してサンダリオは親しげに呼び捨てでジェニーの名を口にする。慕っているといっても、普段の関係は思っていたよりもフランクでどこか暖かいものだった。先輩としても慕っているが、それ以上に仲間という意識が彼らの中にあるのだ。それをアドルフは築いていくことになる。

 

「そうだ、アドルフ……」

「何でしょうか?」

 

 そして、ジェニーは思い出したかのようにアドルフに声をかける。そして、アドルフに手が届くぐらいまで近づき、見下ろす。これだけだと怖いが、どこか落ち着いた雰囲気でさり気無い優しさが見られた。

 アドルフは無垢に尋ねる。サンダリオの話を聞いていたのか、アドルフの頭の上に手をポンと軽く置く。そして、嬉しそうに微笑む。

 

「無事でよかった……、本当に」

 

 聞けた台詞は、サンダリオが聞いた物と同じ。初依頼で大げさな気もするが、アドルフが目指すは探検隊。ダンジョンに飛び込み、調査や探検を行う危険極まりない仕事なのだ。新人が、緩いとはいえダンジョンに飛び込むなんて本来は危険極まりないのだ。

 ジェニーは優しくアドルフの頭をなでる。キリキザンである自分の手が刺々しいこともあってかだいぶソフトで軽いなで方だった。だが、不思議とアドルフは気持ちいいものだと感じてしまう。ジェニーは慣れた手つきでアドルフを撫でており、その様は正しく父の様な優しさだ。

 

「さ、行こうぜ。皆腹空いてるしな」

 

 サンダリオはジェニーが粗方撫でているのを見てちょっとしたら本題へと戻した。どこか顔はニヤついていて、今にも吹き出しそうになるほど堪えていた。本題に戻しこそしても、本人はまだ見ていたかったようである。理由としては面白いから、これに尽きる。

 サンダリオは本題に戻した後にそそくさと食堂に入り込む。それに続いてジェニーも入り、アドルフも遅れてついて行く。入っていくにつれて食欲をそそらせる木の実の香ばしいにおいがじんわりと鼻の中に入っていく。

 アドルフが部屋に入るとそこには今にも飛びつきそうな先輩たちが獣の様に待っていた。セリーナがウキウキ顔でそれらを見ていて、完全にアドルフ待ちとなっていた。それを理解したアドルフは慌てて空いている席に座る。皆を待たせていたのだから無理はない。

 

「さぁ! 飯だっ! いっただきまぁ~すッ!」

「しゃぁッ!」

 

「えぇ……」

 

 アドルフが座ったのを見て待ちきれなくなっていたヘンリーが我先にとご飯へと手を伸ばす。それが合図となったのか皆が一斉にご飯へと手を伸ばす。その中には盗賊の様に下品な者もいれば、優雅に食べる(ジェニーのみ)者もいた。セリーナとアーロンは何事もなかったかのように普通に食べ始める。

 それに対してアドルフは一言でいえばドン引きである。やっぱりなんだかんだ言ってアドルフは全然このギルドのノリに慣れてなどいない。一週間も経ってないのでどうもこうも言えないが、今の時点では最悪だ。仕方ないので、自分に配られた食事を口へと運ぶ。

 用意された品はモモンカレーである。柔らくとても糖度の高いモモンの実は細かく砕かれ、フルーティーだがカレーのとろみと合わさりとても食べやすい。甘すぎずあくまでも隠し味程度の存在感を発揮させており、無駄がない。一口食べたアドルフはピンと来て、スプーンが自然と早く動く。無意識だった、それからは狂ったかのようにカレーをほおばり続けるアドルフが食卓に君臨していたのだった。

 

「みな食べながらでいいから、話を聞け。近頃、今年の木の実収穫祭の時期が近くなっておる。そのことで今回も依頼が来たのじゃ」

 

そんな中、アーロンは思い出したかのように突然と話を切り出す。その話は近いうちに行われる木の実収穫祭というものについてである。それもこのギルドに依頼が持ち込まれたようである。地域の祭りのためにこのギルドが駆り出されたというところである。地域とのつながりが深いこのギルドならではである。

 そして、全員がバカ騒ぎをやめてアーロンに注目する。こういうところはしっかりとしており、流石はベテランと言うべきものであった。それにアーロンが今年の、などと言ったため毎年の出来事でみんな慣れているのだ。

 

「今回は誰が鐘を鳴らすのか今決めるのですか?」

「あそこは不思議のダンジョンになっちまっているから俺らが行くしかねぇもんな。今回は俺以外なのか?」

「前回はヘンリーだったから、ヘンリー以外ね。誰になるかしら?」

 

 ガイル、ヘンリー、ローナがそれぞれ一気に情報を吐き散らかす。鐘を鳴らす、あそこは不思議のダンジョン、前回はヘンリーがやった……。などと言った事を纏めると去年はヘンリーがある不思議のダンジョンに行き鐘を鳴らしたという事になる。確かに鐘を鳴らすだけなら探検隊の誰かにやってもらう方がいい。何故ならばダンジョンは危険だからだ。アドルフ自身もやってしまったこともあるため、よくわかっている。

 しかも、そのダンジョンは収穫祭の為に鳴らす鐘が存在することから近場なのは間違いない。今思えば、この付近は木の実が多い。木の実を主としたカフェ、木の実を基にした料理、木の実が多いダンジョンと言った木の実の要素が多い地域だ。ポケモンの生活には欠かせないものではあるが、収穫祭の存在もあればいよいよこの地域の特色に木の実が存在することは間違いない。

 

「今回もローナとセリーナは屋台をやってもらおうと思ってる。して、肝心の鐘ならしじゃが……わしはアドルフに行ってもらおうかと思うてる。タイプや実力的に申し分はなかろう」

 

 そして、アーロンは依頼の内容を話し始める。屋台もやるとなれば本格的に参戦するどころか、ギルドそのものが基幹である。だが、驚くべきは次の言葉である。それはアドルフに祭りの大役である鐘鳴らしをさせようというのだ。これにはアドルフも驚きを隠せない。

 当然のことながら全員が静まり返る。入って間もない新人にそんな大役をやらせるなんて人選ミスならぬポケ選ミスもいいところだ。何よりもアドルフはダンジョン一つ跨いでいるぐらいの近場出身とは言え、祭りを知らないのだ。

 アドルフはどうしたものかと困惑する。アーロンは出来ると思ってこの仕事をやらせているのか、自分をいびりたいのかわからないのだ。アーロンに限って後者はないだろうが、よからぬ想像をしてしまう。

 そう思っているアドルフにヘンリーが近づいてくる。去年やった者から何かいう事があるのか、このタイミングだとそう思えてならない。ヘンリーはアドルフの近くに立つとニカッと笑って頭をポンポンと叩く。

 

「やったな! このギルドだけじゃなくて地域でもいきなり大役じゃねぇか! 頑張れよ!」

 

 ヘンリーが言ったのは称賛交じりの応援。とてもアルハラしてた先輩には見えない優しさがそこにはあった。不安に思っていたアドルフを見ての言葉であった。

 周りを見れば皆口を揃えて“頑張れ”、“気をつけろよ”、“しっかりと準備しなさいよ”などとそれぞれ違った言葉でアドルフを推してくれていた。アーロンの意見に反対はないようである。

 

「まぁ、アドルフには手伝いがおっての。スティービーと言うリオルなんじゃが、今回の鳴らしに同行することになっておる。地元の者じゃからアドルフに教えられるしの」

 

 先輩たちがアドルフに不安を和らげようと言葉をかけている最中、アーロンは淡々と話を進める。アドルフだけではなく手伝いがいるという事、しかもそれがアドルフがつい先日出会ったスティービーだという事を話す。

 これにはアドルフだけでなく全員がキョトンとする。探検隊であるアドルフだけで行くことになるかと思いきや、まさかの一般のポケモンの手伝いがあるのだ。

 

「スティービーって、スティービー・クーガンですか? あいつと組んで例のダンジョンを突破して鐘を鳴らせばいいんですか?」

「なんじゃ、知っておったか。ほほ……、そうかそうか」

 

 アドルフがスティービーの事を知っていたため、確認の為に尋ねる。簡単に言えば強いであろうスティービーとタッグを組んでダンジョンに挑み、祭りのメインをやるという事なのだから。

 アーロンはアドルフがスティービーを知っていることに目を丸くさせながら興味深いと言わんばかりの様子であった。何故知っているのかは、アーロンは敢えて聞かずにそのままにしようと決める。理由は面白そうだから、ただそれだけ。

 

「他の者は各自祭りの設備をやってもらう。テント立てたりする力仕事がメインじゃ。明日、打ち合わせするからの。……これで話は終わりじゃ。早く食って寝るんじゃ」

 

 最後にアーロンは締めくくりとして、残りの者の役割を説明して話を終わらせる。言い終えたら飛びつくかの様に飯を食らう。セリーナがじっと睨んでいるためか段々ときれいになっていく。

 先輩たちはそれを境に、またおしゃべりを交えながら自分たちのペースで夕飯を食べ始める。アドルフは仕事の内容を反芻しながら、ゆっくりと木の実を咀嚼していた。頭の中ではその仕事の事でいっぱいになっていた。

 何よりも、アドルフは楽しみになったのだ。理由としては言うまでもなくスティービーがまさかの理由で自分と一緒に探検するからだ。彼とは組んでみたいという気持ちが初対面で湧き上がっていた為、それがぶり返してきたのだ。前は断られたが、奇妙な縁か機会が来たのである。これを逃してはならないという直感がアドルフの中を走る。

 

「よっしゃあ! やってやるッ! ……あっ」

 

 つい、アドルフは大声で決意表明を放ってしまう。すぐに声に出ていることに気づいてかポカーンとしており、段々恥ずかしさで青い顔が赤くなっていった。すぐにハハハなどと乾いた笑いでごまかす。

 

「その意気だよアドルフ君! さぁ、イケイケ!」

 

 それからは先輩たちが釣られるように笑い、一気にアドルフに押し寄せる。特にガイルの一言を契機に先輩たちはアドルフを囲う。ガイルがバクバクとおびただしい量の食事を頬張りながらどうでもいい話をぺちゃくちゃと話し出す。ワイワイガヤガヤと騒がしく、先程まで優雅だったジェニーですらその輪の中に入っていた。

 今回は酒が入っていない為、アドルフを困らせることなくそれぞれが思い思いにアドルフに色んなことを話す。探検隊としての話だけでなく個人的な話までより取り見取りでいつの間にかアドルフも笑いながら食事を楽しんでいた。

 

 その様子を遠目でアーロンは微笑ましそうに見つめる。ようやくアドルフが先輩たちと打ち解けていった事を確認できて、ギルドの長としてホッとしているのだ。いつの間にやらセリーナまで輪に加わったので、食事のスタイルは乱雑なものに逆戻りで自然体であった。

 

「まさか、あやつが弟子を同行させるだけでなくアドルフを指定したのはこういう事かの。直接会ったのかは知らんが、少なくとも弟子の方は面識があるみたいだし……、間違いはないようじゃ」

 

 みんながアドルフに集中しているからか油断してボソリと独り言を漏らす。あやつ、そういった存在が弟子、つまりはスティービーをアドルフと同行させることを指定するだなんて本人は思いもしなかったのだ。話してみればアドルフがスティービーを知っていると言うのだ。もしかしたらスティービーの希望なのではないだろうか、などと勘ぐってしまいそうだった。

 しかし、例えそうであったとしても悪いことをするわけでも無いであろうことから心配はしていない。寧ろ、不思議で仕方がないのだ。

 

「ジェイクよ……。お主は何を考えておる」

 

 アーロンは一人、小声であやつの名前を呟き飯を食らう。考えても仕方ないが、どうしても気になってしまうのであった。

 




次は短めになります。
今回は、次に進む前の余韻の様なものです。


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書類、収穫祭のお手伝いさん

 書類が多い……、なんとかならないか。ジェニーはそんな風に思いながらため息をつく。

 

 収穫祭の大まかな役割を発表した翌日、それぞれの生活を再開する。それはアドルフも同様で、掲示板を見ながらどれにしようか考えていた。お尋ね者は許されてない上に、E,Dぐらいのランクしか受けれない為、実際の選択肢は3択である。

 アドルフはどうしたものかと考えながら依頼書を見つめる。3件中落し物が2件、残り1件は救助である。救助の方は初依頼と同じダンジョンであるため攻略しやすく、内容の緊急性を考えるとこちらを優先した方がよさげであった。

 

「今日はこの救助依頼に向かいます。セリーナさんよろしくお願いします」

「ふむ、同じダンジョンね。ちょうどよく別種の依頼か。……無茶はしないようにね」

 

 アドルフが提出した依頼書にセリーナが目を通して黙読する。落し物を拾うのではなく救助と言う大切な依頼を任せるのに個人的には気が引けていても申し分ないと思い、ハンコを押す。出来るだけ多くの経験を積ませる方針で切り盛りされるギルドではこのような事は不思議ではない。

 アドルフが大怪我もなく突破できた事から、実力は十分だと判断したがそれでもセリーナは心配であった。他の先輩は既に出来るだろうと思っているのか気前よく行ってらっしゃいと言っており、温度差は激しい。

 

「セリーナさん、アドルフなら大丈夫ですよ。アーロンさんがいきなり大役をやらせるほどなんだからさ」

「あ、ジェニーさん。そんなものでしょうか? お父さんの見る目は良いかもしれないけど確実ではないわ」

 

 心配性なセリーナに対して、昨日まで心配していたジェニーが大丈夫だと言い切る。ジェニーのその様子を見ても納得がいってないようだった。父がいきなりこのギルドの大役を任せるのも、セリーナは不安でしかない。

 父の見る目を信用していても、昨日今日入ったばかりの子をもう自分で選ばせるなんて流石に無理があるのだ。アドルフが才能のあるものだとしても、早い事この上ない。

 

「心配するのもわかるが、今から行く程度の物なら何も考えなくてもいい。俺は寧ろ案内のスティービーって奴が気になるぐらいだ」

 

 ジェニーはアドルフの心配はいらぬと再三告げた後、スティービーの名前を出す。スティービーはアドルフが出会ったリオルである事をジェニーはまだ知らない。気になる理由はダンジョンへの案内を任されるほどだという事である。

 近場の大したことのないダンジョンであれば大人が頑張ればなんとかなるものだ。しかし、収穫祭で出向くダンジョンは元々アーロンのギルドが全てを引き受けなければならないほどの危険度なのだ。期待の新人アドルフはまだしも地元のリオルを同伴させるなど普通はおかしな話である。

 

「まぁ、そこまで言うのならこれ以上は言いません。でも、私やっぱり思うんです。収穫祭の時のあのダンジョンはちょっと……、あの子はまだ幼いケロマツでまだまだどころか始まったばかりの卵じゃないですか。それも一度依頼を成功させたからとすぐに任せるなんてお父さんもどうかしてるし、ジェニーさんも甘すぎです。だいたい、貴方が行けばいいじゃないですか。一番やってないんだし、一番腕はいいんだからさ。それも……」

「あのな……、流石に過保護だぞ。久しぶりに子供が入ってきたからって気にしすぎだよ。ガイルがヒノアラシだったころじゃあるまいしさ。それに話聞いてたか? スティービーっていうリオルが気になるって話」

 

 セリーナはジェニーの言い分にしぶしぶと納得するが、今度は収穫祭の大役を任せるのは早すぎだとグチグチ文句を垂れ流す。マシンガンのように放たれる言葉の数々は止まることを知らず、まだぶっ放されそうであったため、呆れながら止める。

 そして、ジェニーは話題をスティービーへと戻す。彼は知らない為、どういうことか聞きたいところであった。今、目の前に長老の娘がいるので何か知っていることはないか確認するのである。正直、彼は期待していない。

 

「うーん……、そう言えば聞いたことありますね」

「お、珍しい。知ってたか」

「まるで知らないだろうと思ってたみたいな口ぶりですね。ちょっと待ってくださいねー」

 

 しかし、セリーナが何か意味ありげに頭を使いだす。覚えがありそうな口ぶりであった。それにジェニーは軽く驚く。聞いては見るものだと思わされる。

 セリーナはジェニーが明らかにバカにしているのに気づいてふくれっ面で反論する。そして、いったん整理するために考えをまとめる。どうも覚えがあるとセリーナは感じているため必死になって思い出そうとする。その為、一言入れて待ってもらう事にした。

 

 ジェニーは考えだすセリーナを見て期待できそうだったので待つことにし、自分の仕事をこなすことを考え出す。その仕事は山積みとなった書類である。探検隊の協会、依頼人からのお礼の手紙、これから掲示する依頼、お尋ね者の手配書更新等様々である。大半はセリーナの仕事であるが、一部彼が受け持っている。何故ならばこのギルドは地域と密接すること多く、収穫祭の鐘を鳴らすだけでなく上の広間を一般に公開していたりと、入門者以外と接する仕事がどうしても必要であるため、セリーナにその役が任されている。その為副リーダーであるジェニーには書類仕事が回ってくるのである。

 近くの台と椅子を取り寄せ、ペンと眼鏡など道具をまとめる。そして、眼鏡をかけて書類に目を通す。協会からのお知らせは真っ先に把握しておきたい物であった。他の書類は纏めて作業する算段である。お知らせに対して粗方把握した後、何も書いていない紙にメモを書いていく。内容は最近現れている盗賊が強敵だと言ったことぐらいで、注意喚起であった。見たところ手配書にはまだ乗せれないぐらい情報がないらしい。

 うーんと頭の中の情報をひねり出そうとするセリーナに対してジェニーは黙々と書類作業を続ける。本来の役目はセリーナがやるのであろうが、ジェニーがそつなくこなしてしまうので楽ではある。セリーナが考え込む間に協会の知らせはある程度終わらせてしまい、手配書の更新へとジェニーは取り掛かっていた。

 

「スティービー・クーガン……。覚えがあるのですが中々思い出せません。過去にスカウトでもしたのでしょうか? お父さんの知り合いからかな……え、でもルカリオの知り合いなんていたかしら? うーん……」

 

 考え込むと中々止まらずこうである。こうなるとほぼ仕事はジェニーにまかせっきりである。本当は考え込むよりも仕事をするのが普通だが、ジェニーは長くなりそうだと考えさせるだけさせて仕事を終わらせようと勝手に始めてしまっている。いつもの光景みたいに慣れきった光景なのである。いつか仕事をジェニーが取ってしまいそうな勢いになりつつあり、ギルドはこれを危惧しているとか。

 もう粗方皆が出かけた後、ギルドはセリーナ、ジェニーとアーロンのみとなった。静かな空間の中ジェニーのペンを走らせる音だけがむなしく響く。アーロンはジェニーが整理した書類に目を通してハンコを押している。仕事してないのはセリーナだけである。

 

「あ! スティービーってあのダゲキの道場のところのお弟子さんだ! 中々強いからスカウトしたことある子だ!」

「なんじゃ、忘れとったのか。わしに聞けば教えてやったのに」

「あ……」

 

 セリーナは突然、スティービーの事を思い出して大きな声でジェニーに教える。ギルドに一度スカウトしたことがあるというものだ。スカウトするほどの優秀なリオルであったが、現在このギルドに所属していないことからそれには失敗している。そのリオルが今回アドルフと収穫祭の為にダンジョンに向かうことになっているのだ。益々奇怪である。

 しかし、アーロンは飄々としておりスティービーの事を把握していた。初めからアーロンに聞いていればよかったとジェニーが思ったのは言うまでもない。。

 

「そのリオルはジェイクというダゲキに師事しちょる筋のいい奴での。前にヘッドハンティングしようとしたが、ジェイクに止められたわい。 腕っぷしは間違いなくこのギルドでもトップを狙えるじゃろうなぁ。むぅ……」

「でも、今回は向こうからアプローチがあったというわけですか」

「そうじゃ」

 

 アーロンがスティービーのスカウトを行い、それを師匠に止められたということを簡潔に言った。それも腕っぷしだとトップを狙える逸材だと言い切っていた。その様子は惜しい事をしたと言いたげで、その後もぶつぶつと何か言っていた。

 それを聞いたジェニーは今回の経緯の推測を二人に言った。それを聞いてアーロンも軽い返事で頷く。そして、こうなると気になることはもう一つジェニーには浮上していた。

 今になってギルド入門を拒否したリオルが、歳が近いであろうアドルフと組んでギルドの業務を果たすというのはちょっと出来すぎな気がするからだ。こう考えると向こう側がアドルフを知ってアプローチをかけた可能性があるのだ。悪い事ではないが。

 

「あとのぉ、向こうからアドルフ君を指名したから今回の収穫祭の役目が回ったんじゃ。いや~今年は誰にするか迷ってたから丁度良かったわい」

「お父さん……」

 

 あっさりとアーロンはジェニーが考えていたことをそっくりそのまま言い放つ。そして、言いぐさからお気楽に了承したと容易に推測できた。セリーナはこれが悪い癖だと心の中で呟き、呆れた顔で父を見つめる。その視線は少し冷ややかだった。

 ジェニーはセリーナとは違い、多くの事を経験させることに賛成であるため、セリーナほど今回の選定に不満はない。寧ろ、優良なポケモンから誘いが来るとなれば儲けものである。あわよくばその優秀なリオルをこのギルドに引き入れるキッカケになったらいいのだから。

 

「セリーナ、今回はわしの方針に従ってほしい。実際に実力を推しはかるためにも必要なんじゃ」

「むぅ……、わかったわよ」

 

 アドルフがセリーナを一言で説得し、セリーナがむくれながら引き下がる形となった。そして、二人はお互いの仕事に戻る。書類仕事が下手な二人が戻っても仕事は進まないので、結局はジェニーのお仕事に回される。

 

 再び、ジェニーはため息をつき、仕事に集中するのであった。

 

 




超お久しぶりです
仕事が忙しく中々更新できずにいる状況ですがめげずに、何より無理せずにのんびりやっていきます
ただ、皆さんに話を覚えてもらいづらいネックがあるため、月一いけたらなあ


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激突!アドルフ対スティービー

遅くなりました。
仕事をしつつゲームしてたりすると中々書けないねぇ


 セリーヌ達が収穫祭の件で話し合ってから数時間後、アドルフは無事に依頼を終えて帰還した。前回と同様に吐き気を催し、トイレに駆け込む羽目になったが、この後は報酬を依頼者から直接受け取る時間がある。それまでには何とかしてこの容体をなんとかせねばと、アドルフは思っていた。

 嘔吐した後に、酸っぱい口の中に水を含ませる。うがいして洗い流すことで口の中を整え、少しでも気分をよくするためだ。うがいをし終えた後は、依頼者が待っているロビーに向かった。

 

「このたびはご迷惑をおかけしました。あなたの助けがなければ、今頃どうなっていたか……」

「いえいえ、ご無事で何よりです。ダンジョンで受けた傷を癒すためにも今日はどうかゆっくりとお休みください」

 

 アドルフに深々と頭を下げお礼を述べる依頼者に対し、彼なりの丁寧な対応ではあるが内心舞い上がっているアドルフの会話がロビーに響く。依頼者はどうやら、前にアドルフが倒したカブトプスに襲われ、大怪我負ったらしく今回の救助依頼に至ったという。事態の深刻さから依頼者のアドルフに対する感謝の気持ちは強く、素直な感謝がアドルフに突き刺さっていた。それがこそばゆく、同時に嬉しかった。依頼者はお礼を言った後、ゆっくりとギルドから去っていった。アドルフはそれを見送りながら収穫祭当日はどうなるかを考えていた。

 この地域は聞くところによると木の実が豊富に採れるそうだ。ガイルが連れていった店も木の実ジュースのメニューが豊富だった。あの時は甘い果実であるモモンを使ったジュースだった。その時の味を思い出しながら、収穫祭の楽しみを膨らませていった。

 

「アドルフ、話がある。 マスターのところへ来い。」

 

 楽しみに耽っていると、ジェニーから呼び出しをくらった。マスター即ちウォーベックから話があるのだと悟り、アドルフは駆け足で部屋へと向かう。この時期ならば、用件は大体収穫祭のことになると予想をつけ、どんな話が来るか楽しみにしていた。

 

「失礼します。」

「入れ。」

 

 マスターの部屋の前に立ち、軽くノックする。それに気づいたウォーベックは入室を促す。軽いやり取りの後、ドアを開いてアドルフはメモを片手に入室した。

 入った後、辺りを見渡して見ると思わぬお客様に気づき、アドルフは仰天する。まさかここで出会うことになるとは思ってもみなかった人物がいたのだ。同時に、なぜなのかと考える。

 

「よっ! 数日ぶりだな。スティービー・クーガンだ。この爺さんに呼ばれて来たんだ。」

「じ……、ウォーベックさんに? それはどういうことだ?」

 

 思わぬ人物、スティービーは改めて名を名乗る。ウォーベックを指さしながら快活な顔でニカッとしていた。爺さん呼びに指さしと、ギルドマスターに対する態度としては中々いただけないが、ウォーベックも微笑んでおり良好な関係がうかがえた。

 アドルフは爺さん呼びに釣られて、自分も言いそうになるがなんとか堪えて理由を問いただす。

 

「明日の収穫祭の為にのぉ。簡単に言えばお手伝いじゃ。」

「お手伝い? スティービーがですか?」

「らしいぜ」

 

 ウォーベックが端的に説明をし、二人を見つめる。その目はさながら狙いすました狩人のようであった。何を狙ているかはアドルフには皆目見当がつかないが。

 アドルフは素っ頓狂とした顔でウォーベックに聞き返しながら、スティービーを見る。スティービーはフフンと言いたそうな顔で頷く。なんだその顔は。

 今回は外部からの手伝いを入れるというあまり起こらないであろう対応にアドルフは首をかしげるが、まさか先日出会ったスティービーにその話が回っていて驚きを禁じ得ない。だが、アドルフは仲間に誘い断られたポケモンと一緒に探検できるのはなんだかんだ言って楽しみになってきていた。

 今日の仕事も終わり、残りは晩飯まではフリーなのだ。報告書といった書類は既に済ませており、もう今日は食べて寝るだけなのだ。故に時間は空いている。

 時間が空いているならば、スティービーにこの後の予定があるかどうかを聞いた方がいい。理由は言うまでもなく収穫祭の鐘鳴らしの準備だ。ポケはそこそこ貯まっている。

 

「じゃあ、準備しようぜ。道具の買いこみしないとな」

「喜んで」

 

 渡りに船とはこの事か。スティービーの方から買い物を誘ってきた。これに乗らない手はないので、アドルフは即答で了承する。向こうから来たならやりやすい上、今後が円滑に進みそうだ。

 ウォーベックが二人の会話を聞いて、微笑みながら言って来いと呟く。それを聞いて二人は一目散にギルドから出て買い出しに向かう。オレンの実や癒しの種等を買い込んで万全を喫するために。

 

「商店はまだまだ閉店しないしさぁ、いっちょ腕試しといかねえか?」

「腕試し?」

 

カクレオン商店に向かう途中、スティービーはアドルフを呼び止める。まるで思いついたかのような唐突さだ。その時の表情はとても楽しそうで、無邪気で、この前の依頼を出したメラルバのポークの様な純粋子供そのものだ。

 アドルフは思わぬ話を持ちかけられ驚くが、興味を抱かずにはいられなかった。初めてスティービーと出会った時は彼が道場で訓練している時だ。ダゲキの爺さんに稽古をつけてもらっていた光景を覗き見したあの時だが、見た瞬間に思ったことは二人は相当な強さだという事だ。

 アドルフも新米探検家ながら、腕には自信がある。それでも、スティービーの様に師匠がいて鍛えられたわけでも、純粋に戦の腕を磨いてきたわけではない。腕っぷし以外にも多少の学問も嗜んできたし、本も読んできた。スティービーとはベクトルが違うのだ。

 だが、一緒に行動する上に戦いも多くなる今回の冒険の為にもお互いの腕を確かめ合うのは悪くない話だ。そう思うと、アドルフは拳を握りして闘争心をたぎらせてしまう。

 

「やる気満々だな。ここはポケモンが全然通らねえし、ここで始めるか?」

 

 アドルフが自然と闘争心を剥き出しにしているのを感じたのか、軽くステップを踏み眼つきが鋭くなる。訓練の時に見せたような真剣さがそこには見られた。

 スティービーが準備を始めた段階で、アドルフに緊張が走り、かばんを邪魔にならないであろう場所に投げ込む。スティービーが望むのが道具なしのタイマンだと感じ取ったようである。

 

「始めようぜ……、俺の実力を見せてやらあ」

 

 アドルフもスイッチが入り構える。戦闘態勢を整え、いつでも始められるシチュエーションになっていった。態勢は少し前かがみに右手は大きく開いていつでも遠距離技を打てるようにするものだった。

 対するスティービーは軽やかなステップを踏み、両の拳を胸の前あたりで構えていた。左手の方が若干前に、右足が若干後ろのボクサースタイルに似た構えだ。

 

 買い物に向かうはずが腕試しと言う名の試合をする子の光景は不可解だが、この2匹にとって今後を左右する重要な瞬間であった。私闘を通じ、得るものが2匹にとってとても大きなことだからだ。

 

 戦いの火蓋は先に構えたスティービーから仕掛けることによって降ろされた。スティービーが構えるのを見て待ちきれなくなり、足が出てしまったのだ。アドルフは怯まず、スティービーを見つめる。

 

「近づかせるかよ! “水の波動”」

 

先に技を放ったのはアドルフだった。スティービーが明らかに接近戦を仕掛けてきたのを見て、予定通り遠距離技で攻め立てる戦法を仕掛けたのだ。それも単発で放つのではなく、打てるようになったら即座に打ち込み、スティービーから見れば水球が間隔をあけて襲ってきているようになっていた。

 スティービーはダッシュの勢いをなるべく落とさないようにしつつもしっかりとフットワークを活かしながら連続の水球を避けていく。ジグザグに動いているが、着実にアドルフの元へとたどり着きそうな勢いであった。

 

「やぁっ! “発頸”」

「うわっと! あぶなっ!」

 

 密着しそうなほど近づいたスティービーは反撃に掌底を繰り出す。勢いよく踏み込み腰から拳へと体重移動が為され、見た目よりも危険な威力を纏った拳だった。

 ある程度近づいた段階でアドルフは攻撃をやめ、スティービーの動きを観察していた。そのため、背中後ろにそらして回避する。先程までアドルフの上半身があったところはスティービーの掌底が空を切る。

 掌底を避けた後は素早く身体を元の位置に戻し、その勢いでスティービーに頭突きをかます。頭突きを食らって勢いよく攻撃していた奴は片足を浮かせてよろけ、態勢を思いっきり崩す。それは明らかな攻め時だった。

 

「“電光石火”」

 

 遠距離技による戦法で接近戦を避けていたアドルフは、スピードを上げて突撃をかます。更にぶつかって、態勢を立て直す暇を与えず攻め切る算段だ。

 それを理解したのかスティービーも浮いた足を思い切り地面に叩きつけ、踏ん張りを聞かそうと奮闘する。接近戦で負けるわけにはいくまいと彼なりのプライドが激しく燃え上がっているのである。

 

「でんこうせっ……グハッ!」

「おせぇ! この勝負貰った! “水の波動”ぉ!」

 

 スティービーも同じ技で切り返そうとするが、先に仕掛けたアドルフには勝てず、高速の体当たりを諸に食らってしまう。この試合で初のクリーンヒットはアドルフがつかみ取った。

 このまま有利に進めようと、アドルフは体当たりを決めた後バックステップし追撃の域劇を力いっぱい放った。この一撃で決めるつもりの追撃だった。それぐらい熱のこもった攻撃だった。

 対するはよろけから立ち直るも、よけきれないと判断すると、両手を×字にして顔を覆うようにクロスガードしていた。受けきることで、力いっぱい放たれた一撃の後の隙を逃すまいと狙いをすましたのである。

 そして、水球はアドルフに直撃しその衝撃でアドルフは後ろに押される。勢いよく水球がぶつかる衝撃だけでなく、顔にぶつかることでスティービーは目に水が入らぬよう目を閉じざるを得なかった。反射的に行われるその行為は致し方ないものだ。

 

 しかし、スティービーは技を受けた後勢いよく踏み込み、アドルフ元へ一直線に飛び込んだ。目をつむったまま、迷うことなくアドルフの元へと“電光石火”で接近していた。

 

「やばっ!」

 

 アドルフはスティービーが恐ろしい勢いで踏み込むのを見て回避しようと足に力を込める。横にステップしてこの突貫をかわそうとした。

 スティービーが迫り切る前に左へステップでき、ひとまず回避できたと安堵する。スティービーは未だに目をつむったまま、手で拭うよりも攻撃して決め切ることに手を使うことにしていたようである。

 

「無駄だっ! お前の波動は俺に居場所を教えてくれているぞ!」

 

 スティービーはなんと飛び込む途中で強引に踏み込んで突撃の角度を変えたのだ。それも正確にアドルフがいる先に見事に変えていたのである。

 彼の種族はリオル。未発達ながらも波動を感じ取り自身の危機を感じ取る能力を持つポケモンである。彼は普段から波動の扱いも鍛えており、ルカリオほどではないにしろ波動による探知を可能としていた。今回の様に目がつぶれていても近くの敵を把握することなど造作もないのである。

 

「“起死回生”っ!」

 

 

 

 そして、連続攻撃による蓄積されたダメージを一撃でお返しする一手をアドルフにお見舞いしてやったのだ。

 



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突入!鐘鳴りの高台!!

連載開始して2年以上たったってマジ!?


 アドルフとスティービーのバトルは結論から言うとスティービーの勝利である。決定打である最後の一撃は自身の体力が少ないほど威力が増す“起死回生”だ。アドルフが順調にダメージを重ねても逆転される一撃は理不尽なものだが、勝負時を見逃さなかったスティービーのファインプレーとも言える。

 結局買い物はふらふらしながら、オレンの実や癒しの種などを購入し、少しだけ自分達に使った。お互いの実力はハッキリとわかったのだ。後は収穫祭を成功させるのみである。二匹は拳と拳を突き合わせて微笑む。

 

「なぁ、やっぱりさ俺と一緒に探検隊やらねぇか?」

 

 収穫祭の成功を誓い合った矢先、アドルフは前回同様スティービーを探検隊の道へと誘う。実力の高い仲間はアドルフとしては魅力的だった。今回の勝負はアドルフの気持ちを一層強くさせた。

 スティービーはそれを聞いて驚いた表情をしていた。まだ自分を誘うのかと。しかし、彼の気持ちは前とは違っていた。何となく断ろうという気にはならないほどに。

 

「……答えは収穫祭の時に言うぜ。いいだろ?」

「充分さ」

 

 少し考え込んで答えを言う機会を先に延ばした。これからちょうどいい事にアドルフと探検するのだから、その時次第でいくらでも考えようがあるから安易にイエスとは言わなかった。どうせなら楽しく冒険したいからだ。

 アドルフはスティービーの様子を見て満足げに頷いた。手応えは十分あったと見てもいい。父がやっていた探検隊と言う仕事に興味を持ち、学んで夢が膨らんでいった少年には仲間との冒険もその夢の一つとして強く刻まれている。

 

「それじゃあ、明日“鐘鳴りの高台”に現地集合だな」

 

 アドルフは、今日はお開きと言わんばかりに話を切りだす。経緯がどうであれ、今日は依頼の後に激闘を繰り広げたのだから明日の為にしっかりと英気を養わなくてはならないからだ。ダンジョン名を確認するかの様に告げ、ギルドへと帰っていく。スティービーも頷いて帰路につく。

 

 

 そして、翌日収穫祭の時は来た。

 

 

 町中は屋台にあふれ、活気づいている。木の実ジュース、木の実のお菓子、木の実の特売などエトセトラ……、殆ど木の実ではあるが、だからこそ収穫祭という名なのである。鐘は昔からこの町では一年の豊穣を記念して鳴らすものである。しかし、ダンジョンの出現により一般のポケモンでは厳しい状態が続いた。そこでウォーベックギルドが名乗りを上げ、この近辺で台頭していった歴史がある。

 故に、この仕事は町とギルドをつなぐ大仕事である。優秀なギルドとなり、外部からの依頼も増えてきてはいるが、これだけは外せないアイデンティティーだ。あくまでもデルトタウンと共に生きる。

 

「さて、わかっているかもしれないけどこのダンジョンは岩・地面の2タイプが主流だ。鋼もチラホラいるらしいし、正に俺たちにうってつけのダンジョンだ」

「ああ、俺が前者2タイプでスティービーが鋼をやってくれりゃあいい」

「俺、格闘だから岩もいけるが……その分お前が多く倒すってことか?」

「当然。昨日負けて悔しいもん」

「そいつは頼もしいねえ」

 

 スティービーがおさらいするかの様にダンジョンの説明をする。目的の高台に着くには洞窟を抜けなくてはならない。その洞窟は当然ダンジョンであり、中に出てくるのが岩・地面・鋼と二匹にとってはカモの様な相性だ。

 アドルフはスティービーに鋼を一任させるかのような発言をする。スティービーがそれを聞いてニヤッとして挑発のような返しをする。アドルフは昨日の敗北もあってスティービーへの対抗心が芽生えたのか、多く倒してみせると豪語する。

 ダンジョンのレベルは低くもないが高くもない。初心者にとっては大きな壁かもしれないが、アドルフとスティービーなら問題はない。それなりの戦闘力と相性のよさもあって特に危険視はされなかった。ウォーベックからすれば丁度いいのだ。

 

 二人は小競り合いでもしているような気分でダンジョンへと入っていく。入った途端、ダンジョン特有の異様な雰囲気が二人の肌を撫でる。広がるのは岩、岩、鉱石、岩といかにもと言いたげな光景だった。

 そして、ダンジョンに入って早々まんまるとした岩に両腕が生えているポケモン、イシツブテが勢いよく突貫してくる。よくある“体当たり”だ。

 それに反応したのは、先程岩地面を全部やってやると豪語したアドルフだった。正確に言えばスティービーは仁王立ちしてアドルフに任せきった。あそこまで言い切ったのだから最初は自分でやれと言いたいのだろう。

 アドルフはお得意の“水の波動”を素早く形成し、ボールを投げる要領でイシツブテにぶつける。水タイプの技はイシツブテにとっては致命傷そのものになりうるもので、当たってしまえば為す術もない。項垂れるように前のめりで倒れた。

 

「おーおー、幸先いいじゃん。この調子で倒しちまってくれよ」

「おう、お前の出番はないから気楽にやっとけ」

「ぷ……、言ったな?任せるぜ」

 

 スティービーはアドルフが景気よく敵を撃破したのを見て煽てる。さながら大舞台でのスタンディングオベーションを大げさにしたかのように拍手も加えて、完全に煽っていた。

 アドルフもどこか誇らしげに両手を腰に当てて威張るかの様に返答する。調子に乗った子供のようなその態度はスティービーを軽く吹かせる。まるで、遊び盛りの子供のようなやり取りをする二匹は短い間で確実に仲良くなっていた。

 そして、ここから散歩をするかのように二匹は歩き出した。警戒は怠らないが、二匹は余裕で突破できると進んでいくうちに確信していった。

 

 結局、その後も大した敵は現れなかった。情報通り、岩地面鋼といったタイプぐらいしか現れず、進化したポケモンがまず見られなかった。

 だが、しばらくすると白が中心のポケモンを多く見かけるようになった。こちらに襲ってくることなく警戒心を剥き出しにしているため、不自然極まりない。

 

「お、ありゃあココドラか。格闘にはうってつけのタイプだな」

 

 進んでいくうちに見かけたのは白い鋼鉄の鎧で覆われたポケモン、ココドラだった。鋼・岩タイプで格闘には滅法弱い相性ではあるが、高い防御力を誇っているポケモンでもある。しかもコドラ、ボスゴドラと進化を2段階残すポケモンでもあるため、ダンジョンで見かけたらこれら2匹の存在を疑わなくてはならない。

 アドルフは気軽に話し出すが、今までの静けさが嵐の前だからこそではないかという考えがよぎる。ダンジョンにはボスとも呼べる存在が潜む可能性が存在する。”木の実林”に鎮座していたラフレシア同様、ボスとして進化先がいるのは不思議ではない。

 

しかし、ある意味その予想は裏切られる。

 

「……なんかこいつら俺らよりも別の何かに警戒してないか?襲ってこないのも余裕が無いからじゃないのか?」

「言われてみれば……攻撃する気配がないのはおかしいもんな」

 

 スティービーが先に異変を察知したのか、今までの余裕が消え警戒心を露わにしながらアドルフに警告を促すように話しかける。アドルフもそれを聞いてこの光景の異常さに気づく。すぐにわかりそうなものを余裕すぎるがゆえに見逃していたのだ。

 そうなれば今からやるべきは敵に悟られぬよう隠密行動に徹するのみ。ダンジョンで一種族が集団でどこかへ避難する光景など以上にも程がある。これが意味するのはダンジョンの適正レベルをゆうに超えた敵が出現したという証拠なのだから。

 

「……。幸い、洞窟だから岩も多いし隠れながら進むぞ……」

「だな。正直言って挑みたいけど……」

「おい」

 

 アドルフは冷静に辺りを見渡して岩が多い事から、隠れながら進むことを提案した。見えない強敵を警戒するが故の行動としては王道を征くものである。

 スティービーはしぶしぶと言った感じで了承する。その後に漏らす本音はアドルフを呆れさせる。戦闘好きとしての一面が強いのがよくわかるやり取りだった。

 会話の後、壁沿いを通りながら岩に隠れる。お互いに周りを見張って大丈夫なら次の岩に移る。この一連の行動を繰り返すことで時間はかかるが確実に進むようにした。鐘を鳴らすまでの時間はだいぶ余裕があるため、もしもの事がないように行動する。

 

「うぉ、こりゃあ……」

 

 進んでいくうちに、見つけたのはココドラより一回り大きくその面影を感じられるポケモン、ココドラの進化先であるコドラが倒れていた。全身傷だらけではあるが、今までのポケモンとは感じられる雰囲気が違うためこいつがここのボスだったと確信した。

 ここに倒されたボスがいるのなら、現在この場所はそのボスより強いやつがいると考えるのは自然な事である。それを探すために背中合わせにして目を行き来させる。

 そして、それらしきポケモンを発見した。不運にも奴はアドルフ達を先に見つけていたのか、すでに技を放とうとしている最中だった。

 

「うおぉっ!?いきなりロックブラストか!?」

「まだ来るぞ!」

 

 気づいた時には既に遅く、技は勢いよく放たれる。アドルフはそれを寸前のところで躱す。運よく躱せても技は止まない。ロックブラストは最大5回の連続攻撃であり、一発躱したぐらいでは躱したのうちに入らない。

 それをスティービーは指摘するかの様に叫ぶ。彼は既に戦闘の準備を整えており、まずは迫りくる巨岩を見据えていた。残りは4発、一発でも当たれば一溜りもないだろう。巨岩は勢いを衰えさせることなく2匹に迫る。

 

「こりゃあ、こいつを倒さないと鐘は鳴らせそうにないな。手伝ってくれるか、スティービーっ!!」

「勿論!」

 

 アドルフは残りも避けていき、ダンジョンに入った時のような緩い雰囲気は捨て去っていた。もう既に難易度は跳ね上がっているのだ。スティービーに手伝いを求めるのに何のためらいを持たなかった。

 スティービーも似たようなことを感じていたのかあっさりと了承した。紙一重で巨岩を躱して電光石火で突貫をかます。

 それを前進が岩に覆われたポケモン、ゴローニャは迎え撃つべく力をためる。今度は岩が浮き出てそれがとがったものへと成型されていく。

 

そして、ある程度尖り切った後岩を勢いよく放つ。威力が高い分、命中率が低い大技ストーンエッジが戦いを加速させていくのであった。

 



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攻略!岩石の化身!

「くそがっ! あんなのを相手にしていたらキリないぜ」

「だが、奴は岩地面タイプ。俺の水技が最も刺さる相手だ」

 

 2匹はゴローニャのストーンエッジを躱しながらぼやく。思わぬ敵を前にスティービーは嫌気がさしていた。それでも、その目は真剣に目の前の敵を見据えている。どうやって突破するかを考えているのだ。

 アドルフは岩塊を避けつつもバッグに手をつけて打開策を練り上げていく。彼自身が言うように正攻法でアドルフの水技主体でせめても勝機は十分ある。ましてやスティービーの格闘技主体でも構わないのだ。

 しばらくしてアドルフはバッグをあさってもいい策が思いつかなかったのか、水の波動を投げ打つ。ゴローニャは水の塊が接近しているのを確認すると攻撃を中断し、バックステップする。完全にアドルフを警戒した動きだった。

 

「おいっ!! 完全にお前がマークされているぞ!!」

「スティービーには強力な岩技で牽制して近づけさせないし、かなり知略的だな。クソッタレ」

 

 一連のやり取りを見て2匹はどうしたものかと頭を捻る。ゴローニャのストーンエッジは中々威力が高いのか避けた岩塊は地中に深く刺さり、洞窟中の岩は粉砕されていた。いくら半減されるとはいっても致命傷は避けられない。

 アドルフの水技も攻撃を中断してまで避けることから慎重さも相当なものである。明らかに今までとは一線を画す存在であり、レベルも2匹より数段上なのが伺える。幸いなのはどちらもタイプ一致で弱点が突けることだ。

 そして、ゴローニャは丸まってアドルフに狙いをつける。この体勢はとある技を使うときによくみられる構え。特定の体形のポケモンが行うものだ。体をボールのように転がし、勢いよくアドルフに迫る。

 

「げげっ!? これは俺一匹じゃ受けられねえな!」

「おいっ、アドルフっ! 直線じゃ勝ち目はないぞ!!」

 

 アドルフはゴローニャが繰り出す“転がる”を見て全力で走り出す。しかし、相手は球体状な体を生かし転がっている。勢いよく動き出したためかアドルフが走るより転がるスピードの方が早かった。

 それどころか転がるたびに威力・速度は加速度的に上昇する。真っ直ぐ逃げるだけでは却って状況を悪化させる。逃げるにしたって工夫がいる。

 走りながらアドルフはゴローニャを観察する。スティービーの言う通りこのままではペシャンコだ。急カーブや岩から岩へとジャンプを繰り返すが、ゴローニャは壁にぶつかった反動を活かし方向変換してきた。ハッキリ言って厄介極まりない。

 

「……確かにこのままだったらな。だけど言い返せば軌道は単純で読みやすいってことさ。やつの前方を見なよ」

「やつの前方? ……なるほどなぁ。」

 

 アドルフはそれでも焦らなかった。スティービーにしてやったりと言わんばかりの顔をかますぐらいには余裕綽々としていた。追われながらもとある場所を指し示す。

 スティービーはアドルフが指さした地点を見つめる。そこには一粒の種が落ちていた。よく探検隊が使う一品がそこには転がっていたのだ。それが何かを理解したスティービーは納得し、技をいつでも放てるように構える。

 そして、転がり続けるゴローニャは器用に避けて走行するのがかなわないためか種を踏みつける。堅い外郭で潰された種は即座に破裂し、その衝撃をゴローニャに浴びせる。

 

「……!?」

 

 ゴローニャは突然の衝撃により転がりを中断せざるを得なかった。しかし、衝撃の強さはあの重い体を少し中に浮かすことが出来るくらいである。顔や手足を丸めたせいか、受け身をとることなど出来ずに轟音を立てて洞窟の地面に落下する。

 それと同時にバシャッとひんやりとしたエネルギーがゴローニャに突撃する。体にぶつかり水がはじけ飛ぶ。染み渡り岩石に覆われた者にとって非常に厳しい一撃だった。

 

「“水の波動” お前が転がりを止めた時点でただの的だぜ。そして……、これで少しは大人しくなるか?」

「あばよ。この大岩男」

 

 アドルフはゴローニャを見据え、技をぶち当てた後スティービーを見つめる。もうすでに彼は高速で彼に接近を始めていた。

 地面に落下して手足が覚束ないゴローニャに接近を終えたスティービーは技を放てるように構える。すでにスティービーの射程距離に入っているのだ。

 スティービーは掌底をぶち当て、自分の何倍もの体重を誇るゴローニャを吹っ飛ばす。勿論これだけでゴローニャは倒れたりはしない。とどめは別に存在している。

 

「……!?」

 

 そのとどめがなんであるのかに気づいたゴローニャは驚愕の表情を見せる。理性を失っても危機というものへの察知能力は決して低くはなかった。むしろ高いほどだ。しかし今回はすでに手遅れだ。

 

「お前が落ちるところには既に俺が爆裂の種を蒔いていた。芸のない手段だけど、お前が踏みつぶしたらそこにある8個ほどの種は誘爆する!」

 

 アドルフはそう言うと勝利を確信し、ダンジョンの出口すなわち鐘がある方向へと歩き出した。スティービーもそれに続いてアドルフを追う。

 一方で吹っ飛ばされ着地先にある爆裂の種を踏んづけたゴローニャは爆発に巻き込まれる。凄まじい轟音とともに洞窟内は揺れる。

 

「―――――――っ!!??」

 

 声にならない悲鳴が爆音に紛れダンジョン内を反響していた。まるでアドルフの勝利を称えるかのように―。

 

 

 

「さてと、強敵も倒したし鐘がそろそろ見えてくるな」

「お前案外やらしいな。逃げるふりをして罠を仕掛けるなんてよ」

 

 ダンジョンを抜けた二匹は辺りを見渡しながら鐘を探す。今回の目的は所定の時間に収穫祭を告げる金を鳴らすことである。現在、お天道様は少し沈んでいる。もう少しで夕暮れ時である。

 二匹は雑談を交わしながら先ほどの戦いを振り返る。最初こそ慌てていたが、二匹は見事勝利して見せた。既に戦闘スキルは一級品である。

 

「……、なぁ。鐘を鳴らすときに答えを聞く約束だったよな?」

 

 アドルフはスティービーに対して尋ねる。それはダンジョンに入る前に交わした約束。一緒に探検隊のチームを組まないかという誘いである。

 初めて会ったときは断られたが、戦ってもう一度誘った際には断らずに返事を保留したのである。答えると約束したときは収穫祭の時、つまり鐘を鳴らす今はその直前なのである。

 

「……俺はよぉ、初めて会って誘われたのに断っちまった。でもな、やっぱり気になっちまってよ。一日中考えたんだ。本当に良かったのか?ってな」

 

 スティービーはアドルフから返答を求められて自分の胸中を打ち明け始めた。誘われたあの日から断ったことを後悔していたのか少しばかり考え込んだらしい。

 今から一週間ほど前の話なので、それほど時が経ったわけではないがスティービーにとって長い一週間だった。

 

「そんな時師匠がウォーベックのジジイの手伝いの話を持って来てさ。それを聞いたときチャンスだって思ったんだ。あのダンジョンはレベルが高くないし、新米のお前に回ってくるかもしれなかったしな」

「そしたら案の定、俺に仕事が回ってきたわけだ。多分お前の師匠とウォーベックさんが仕組んだのだろうが……」

 

 スティービーは彼の師匠が話を持ち込んできたことを明かす。その師匠は一緒にトレーニングしていた高齢のダゲキのことであるとアドルフは察した。

 どうやらギルドの行事に干渉できるほどウォーベックとスティービーの師匠は根深いものがありそうだとアドルフは思い至る。故に彼の発言からは“仕組んだ”という表現となった。

 

「じゃあ、今見えてきた鐘を思いっきり鳴らしてくれ。俺と組む気ならな」

「景気づけか?面白いからいいけどよ」

 

 そこでアドルフは返答を所定の時間に鐘を鳴らすように求めた。まだスティービーはOKとは一言も言ってないが、趣旨を理解しているのかやる気満々であった。

 二匹は見えてきた鐘の方向へと走りだす。やがて鐘の手前に来るとスティービーは鳴らす準備を進める。アドルフは日が沈みかけているかを確認しタイミングを計る。

 

「よっしゃあ!盛大に鳴らすぜ!チームプロテインの結成祝いじゃあ!」

「え?ちょっ、おま」

 

答えの鐘を鳴らす直前、スティービーは何を考えていたのか即興で作ったかのようなチーム名を口にする。アドルフにとってそれは明確に彼の口からチーム結成を承諾してくれたということである。

しかし、問題は口にしたチーム名である。思わずアドルフは耳を疑った。聞き間違えがなければふざけた名前でしかないからだ。たまらずアドルフは静止を呼びかけるが……。

 

「どりゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!??」

 

 スティービーは勢いよく鐘を叩きつけ壮大な音をかき鳴らす。それも……、鐘が“ぶっ壊れる”ほどの威力で。大きな叫びが悲痛な驚愕に変わりつつ、収穫祭を告げる鐘は鳴らされた。

 

 しかし、鐘のほうは祭りの始まりではなく寿命の終わりを告げられたのであった……。

 




Twitterにばかり生息してますが、生存報告です。


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修羅場

GOTCHA!!
楽しいPVだったぜ!!
あのイーブイ可愛すぎません!?
ピカチュウはあの表情を崩しませんが、行動から男の子への愛情がわかるし神PVだわ~!!!


「……で、鐘を壊しちゃった訳か」

「「ごめんなさい」」

 

 鐘を鳴らし、無事に収穫祭を始められたのはいいが肝心の鐘を壊してしまったのである。当然、帰ってからは気まずい雰囲気が二匹を襲う。

 まさかあの一回だけで壊れるなんて思ってもみなかった。チーム結成の祝砲代わりがとんだ厄災を招くものである

 

「あの鐘古かったからなあ……、仕方ないか。鐘のことは気にせずウチの屋台を手伝え」

「あ、ありがとうございます!」

「やったぜ!じゃあ祭りを楽しもうか!」

「「おい」」

 

 ジェニーは頭を唸らせながら、仕方なしと軽く許した。アドルフは寛大な処置に大いに喜び、スティービーは浮かれ気分だ。ついつい手伝いをサボろうと口にしてしまうが2匹が白い目で見ているがスティービーは気にしない。

 

「ところで、屋台は今どうなってるんです?ウチのギルドは木の実のグリルですよね?今からだと集客ぐらいですかね?始まってるんですし」

「確かガイルというマグマラシが主役張ってたな」

「そうだ。あと、スティービーはウチに入る気なら先輩ぐらいつけような」

「あだっ!」

 

 アドルフがこれから入る作業の確認を始める。といっても具体的な作業はハッキリとしない。スティービーは作業をしている先輩の名前を口にし怠そうにしている。意外とサボり魔の気が見え隠れしていた。

 ジェニーはアドルフの話に肯定し、その後にスティービーを小突く。さりげなく2匹が目に追えない速度によるお仕置きである。レベル差が垣間見える瞬間である。

 

「ほれ、わかったら早速動く!タイムイズマネーっ!!」

 

 ジェニーは粗方を言い終えたつもりなのか、手を叩き仕事に向かうよう催促する。その瞳にはポケのマークが浮かび上がりそうなほど金に執着した目だ。副ギルド長としても今回の祭りは成功させたいが故の顔なのか。

 実際にはアドルフ達が壊した鐘の弁償代がかさむからなのは彼らは知らない。

 

「じゃあ、行こうぜ。お前にとっては初仕事だぜ」

「まさかまだギルドに入ってもないのに初仕事が営業回りになるなんて……」

 

 アドルフは次に指定された仕事完遂を目指し、走り出す。冗談交じりに初仕事とスティービーをからかうが、当の彼自身は思わぬデビューに参るのであった。

 

 

 

 

 そして、2匹はガイル達がやっている屋台へたどり着きその光景に愕然とする。

 

「あっ!アドルフ君にスティービー君じゃないか!早く手伝って!」

「そうよ!こっちは死に物狂いでポケ稼ぎよ!資本主義に染まれ染まれ!」

 

 ガイルとローナが並んでアドルフ達を呼ぶ。木の実の汁まみれの顔で。ハッキリ言って汚い。ローナに至っては言動が汚い。

 そのせいなのか客足は悪いの一言に尽きる。誰が好きこのんで汚い屋台の飯を食いたいと思うだろうか。毎年こうなのだとしたらハッキリ言って屋台など二度とやらない方がいいと進言するレベルだ。

 

「せ、先輩……。いくらなんでも顔ぐらい拭きましょうよ。それじゃあ初見さんバイバイです」

「アハハ、ふざけてる場合じゃないもんね。暇なもんだからつい」

「自覚はあったのか」

 

 アドルフは苦笑いしながら先輩達に顔の汚れを指摘する。ジェニーから任された以上、半端なことは許されない。

 しかし、ガイルは顔を拭いてから少しも困る素振りはない。あまつさえ、ふざけていることに自覚があった模様である。これにはスティービーもツッコミを入れてしまう。

 

「よし!坊ちゃんどもは宣伝に行け!このプラカードを持って町中を歩き回ってこい!!ふんどりゃぁ!」

「はい!わかりました!!え~と、なになに……ぶっ!!……これを持って町中ですか?」

 

 ローナは男どものやり取りが一段落したのを見計らって何やらデカデカと宣伝文句が書かれたプラカードを地面に突き刺す。今ので砂が舞い、商品に入ったらどうするつもりだったのかと問いただしたくなる。

 アドルフは先輩の指示に答えようと元気よく返事し、例のプラカードに目を通す。その内容を見てあからさまに吹いていた。返事の良さなど一瞬で吹っ飛ぶほどだ。

 笑ってしまったのはプラカードに描かれているあるポケモンである。デフォルメで口を大きく開けた間抜け面はクスリと来るものがある。おまけに目の焦点が合ってない。

 

「なんか文句ある?」

「あります。いっぱいあります。宣伝文句の『安い!美味い!木の実グリル!今なら50ポケ!!赤字だよ~ひぇ~ん』って言うのはわかるんです。ひぇ~んって言ってるこのポケモンは誰です?」

「誰って長老よ」

「あんた自分のところのマスターのことどう思ってんだ!?」

「自称永遠のボーイだね」

「「うわっ」」

 

 プラカードに描かれているポケモンもといウォーベックのことを好き勝手言うやり取りが気づけば繰り広げられていた。まだまだ新米のアドルフにはついていけないが、先輩達は楽しそうに笑っている。

 褒められたものではないがギルドの雰囲気を垣間見た瞬間である。定員にも行ってない少数メンバーではあるがとても距離感の近い関係性なのが窺える。単になめられているとも言えるけども。

 

「仕方ない……、これで町中を歩くか……」

「正気かアドルフ!?」

 

 アドルフはため息をつきながらプラカードを持つ。その一連の動作はとても重い。嫌々なのが丸わかりだ。先輩からの指令なので下手に逆らうわけにも行かない。文句は通用しそうにないのだ。諦めるほかない。

 対してスティービーはまだ反対の意思を示す。彼自身は一応まだ正式加入はしていない。ただ同行しただけである。しかし、アドルフとチーム“プロテイン”を結成すると誓った以上今だけ逃げ出すのも気が引ける。こちらも逃げられなかった。

 

「……チーム名はまだ決めてないからな」

「ナ、ナンノコトカナー。シ、シラナイナー」

「お?やっぱりチーム組むんだ。思ったよりあっさり行くんだね」

「ウチのギルドでチーム組むやつはいなかったわね~。アドルフ、あんたのお父さんが誰かと組んでいたらしいけど、因果かしらね」

 

 アドルフはスティービーがセンスのないチーム名を浮かべているのを悟り、釘を刺すように言葉を放つ。視線は冷ややかで冷酷そのものだった。スティービーはギクリとしたのかどうも口調がおかしかった。

 先輩達はチームを組む意思があるのを見て先ほどとは一変して優しそうな笑みを浮かべる。純粋に探検隊の仲間が育っていく様を楽しんでいた。

 

「さーて、チーム結成するみたいだし……お客さんを呼んできたら飯を奢っちゃうよ~!! 僕の財布はやばいからとなりのローナさんがね」

「あ? おい、そこの糞鼠。表出ろや……。撲殺してやんよ!!」

 

 ガイルはそんな2匹の門出を祝おうと飯を奢ろうと提案する。直後にローナへニヤニヤしながら押しつけようとするあたり完全に茶化すネタにしか使われていない。

 ローナは堪忍袋の緒が切れたのか、とても女性が見せていい表情ではなくなっていた。口調も不良じみてまるで知性が感じられない。

 そして、言葉通り2匹は店番を抜け出して技を繰り出す。ガイルはジャンプしてから回転、炎を纏い体当たりしていた。対するローナは自慢の大きな耳をぶんぶん振り回し野獣のような眼光で睨み付けていた。

 

「……さっさと宣伝してくるか」

「だな。おっあのポケモンは確か……。早速お客さんが見えたな」

 

 喧嘩が始まった頃には2匹はそしらぬ顔をしてその場を後にする。もうなんだかどうでもいいやと考えてしまっていた。

 アドルフの方は近くに知っているポケモンを見かけて我先にと駆けつける。1匹でも多く声をかけて客足を稼ぐほかない。数打てば当たるのだ。

 

「こんばんわ。新しくウォーベックギルドに入ったアドルフです! 収穫祭で木の実グリルを販売してます。安くておいしいですよ~。本職の方に見てもらいたいな~なんて」

 

 アドルフは先ほどまでの冷めた感じは遠くに投げ捨てたのか営業スマイルのような笑顔で相手に近づき声をかける。スティービーは若干引き気味で見ていた。

 そして、相手のポケモンは声をかけられてぷいと振り向くとアドルフに見覚えがあるのか優しそうな笑みを浮かべる。そのポケモンはピンクの体色にモコモコな毛を纏っていた。モコモコな通り、モココである。

 

「あ、ガイルさんと一緒にいたケロマツ君ね。やっぱり新入りだったのね~。今年もグリルを売ってるみたいね。いただいちゃおうかしら。案内してもらおうか……し…………」

「ど、どうなさいましたか?」

「げっ!?お前よりにもよってそいつに声をかけたのか!? エレカの姉さんから離れるんだ!! 逃げるぞ!!」

 

 陽気に会話を交わすのもつかの間である。話している内にガイルとローナの様子が目に入り状況が一変する。喧嘩を終えて近くに転がって談笑する2匹を見たのである。

 スティービーは事情を知っているのか、モココの名前であるエレカを口にしアドルフを強引に引きずり始める。その様子は完全におびえたそれである。

 

「アノオンナ……、ワタシノガイルサンカラ……」

 

 エレカは身体中から放電させながらローナを見つめていた。視線がやばい!絶対にやばい。

 

「ハナレナサイ~~~!!!!」

 

 

 結局、ギルドは売り上げを何一つ出せなかった。予算を無駄にしてしまい、経営難になったのは言うまでもない。

 



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家族
第14話 家族の問題


あらすじ

地域で行われる収穫祭の開始を告げる鐘を鳴らす任務を受けたアドルフはスティービーと共にダンジョンに向かう
見事達成したのだが、チーム名プロテインの結成を宣言すると共に鐘をぶっ壊したのであった


「いや~、ウォーベックさん!!今年の収穫祭のご協力感謝します!農園長に変わってお礼を申し上げます!!」

「いいんじゃ、こっちも鐘をぶっ壊してしもうたからのう。来年が心配なくらいじゃ」

「「申し訳ありません」」

 

 収穫祭が終わった翌日、農園長の代理であると言ってご挨拶に来たポケモンとウォーベックとの会話にチーム“プロテイン”は立ち会っていた。そのポケモンは四足歩行で耳と尻尾が葉のようになっており基本的な体色はクリーム色であった。種族はリーフィア、収穫祭では何かと頑張っていたようである。

 なお、“プロテイン”の2匹は申し訳なさそうに萎縮していた。あれからスティービーも加入しチームを結成したのだが、初陣はまさかの謝罪である。因みにチーム名に関して言うとアドルフは血涙を流した。

 

「お兄ちゃん……、もう親方が呼んでるよ」

「ん? もうそんなに経ったのか。わかった、すぐに行く。では、というわけでして失礼させていただきます」

「うむ、ご苦労さま。アイビー君、弟さんと仲良くな」

「ハハッ、問題ありませんよ。こんなにもかわいい弟なんですから」

「ちょっ……、むぅ……。バイバイ……」

 

 そんな異様な雰囲気を醸し出す会話に割って入ったのは発言からして彼の弟と思われる茶色い毛並みを基調としたイーブイだった。幼いイーブイはアドルフ達よりも体型が小さく上目遣いで兄のリーフィアを見つめていた。

 兄は途端に柔和な表情になり会話を切り上げる。アドルフには上司に呼ばれたからというより弟に呼ばれたから帰ろうとしているかのように見えていた。最後に言った台詞の最中も頭を擦り付けながら優しく撫でながらである。溺愛という表現が近いほどだ。幼いイーブイはちょっぴり嫌そうにしていた。

 

「兄弟か……、いいなぁ」

「ん?急にどうした?」

「……ランドルフか」

 

 アドルフはそんな兄弟の風景に憧れを抱いた眼差しを向ける。その表情はとても儚げで、いつもの慇懃な少年ではなく年相応の顔つきをしていた。スティービーはつい何事かと尋ねる。

 その様子をウォーベックは悲しそうに見つめていた。心情を察しているのについ彼の父の名前を呟いてしまっていた。

 

「父さんは顔さえわからない。俺が最初に生まれてその次の弟や妹が生まれる前にいなくなっちまった」

「……すまん。嫌な事を思い出させたな」

「いいんだよ、俺が勝手に思っちまったことだしな。辛気くさいのは無しで、仕事にしようぜ。自分たちの尻拭いをしなきゃいけないだろ?」

「……そうじゃな。お前達は依頼もこなしつつダンジョンを越えた奥地の鉱石を取ってくるのじゃ。その鉱石が新しい鐘の材料となる」

 

 非常に気まずい雰囲気になりながらもすぐに仕事に戻ろうと3匹はしゃべり出す。内容は壊してしまった鐘の材料厚めを兼ねた依頼の説明である。2匹は真剣に聞いていた。

 依頼の内容を書面で確認し、自分たちのバックをチェックする。前は爆裂の種を大量に消費してしまったので買い足すかどうかを検討しなければならないからだ。

 バックの中身は前回の爆裂の種以外はそこまで消費してなかったのかギッシリしていて重い。これなら買い足す必要性は薄いと判断し、アドルフは依頼へ直行しようとする。

 

「おーい、置いていくなよ。今回の依頼で向かうダンジョンは鉱石が取れるって言っても越えた先の奥地だけだ。敵は電気タイプが多い。準備は丁寧にすべきだ」

「……すまない。すっかり失念していた。俺からすれば苦手もいいところだ」

 

 スティービーは焦るようにダンジョンへ向かうアドルフを宥めるように止める。2匹とも冷静に考えられるためか、どちらかが崩れだしていたら止められる。そんな関係性を徐々に築きあげていた。

 アドルフもスティービーの指摘を聞いて落ち着いたのか足取りは軽い。考えを改めて商店へと向かう。それを言われずともスティービーは買い物のつもりでついていった。

 

 

 

 長いはしごを登り、地下から地上へと出る。そのまま門をくぐって外へ出る。

 ギルドから出て、商店街へと向かう方へ視線を向ける。その先には、先ほど見かけたイーブイがちょこんと寂しそうに居座っていた。

 

「ん?あの子はさっきの……」

「アイビーの弟さんだな」

 

 アドルフ達はその様子を見て、少し気になっていた。あまり刺激しないように自然体を心がけて彼に接近する。

 イーブイの彼は足音でアドルフ達に気づいたのか、キョトンとした顔で見ている。

 

「あ、えーと“プロテイン”の……」

「プ……、あぁ……。アドルフだ」

「プロテインのスティービーだ。君は?」

「僕はサルビア……よろしくね。探検家のお兄ちゃん」

 

 イーブイは気まずそうにチーム名を絞り出すが、名前が浮かばず黙りこんでしまう。アドルフはチーム名に釣られて一瞬、嫌そうな顔を浮かべてしまうが我慢して名乗った。その後に誰よりも冷静にスティービーが話すというなんとも言えない状況へとはまり込んでいった。

 イーブイ、もといサルビアはやはりどこか物憂げで寂しそうにしていた。今度はつい先ほどまでいたリーフィアのアイビーがいない。

 

「……そういえばお兄ちゃん達はおかいものなの? こっちにいったら商店があるよね?」

「あぁ、俺たちは今から足りないものを購入して探検に望むつもりだよ」

「だったらこれあげる……いらないから」

 

 サルビアはアドルフ達が買い物をしようとしているのに気づいたのか、やや喰い気味に訪ねる。アドルフはそれを肯定し、サルビアに目線を合わせるようにしゃがみ込む。

 それを聞いてサルビアは自分が持つカバンから数個ほど木の実を差し出す。内容はオレンの実が3つ、クラボの実が2つであった。

 そのラインナップを見て2匹は驚いたと言わんばかりであった。偶々なのだが今から挑むのは電気タイプの多いダンジョン。相性不利なアドルフにとってオレンの実を大量に入手できるのは嬉しいし、麻痺対策は非常に大事である。

 

「ありがとう。すごく助かるよ」

「う、うん……どういたしまして」

 

 アドルフはそんなサルビアの厚意を真っ直ぐ受け止め、木の実を受け取りつつ幼子の頭を撫でる。純粋な感謝の気持ちの表れはサルビアの心を溶かしかけていた。ついさっきはしょぼくれた男の子が褒められて嬉しそうにしていた。

 スティービーはその光景をニマニマしながら見ていた。その内心はアドルフの方も機嫌が良さそうに見えたのでホッとしていた。

 

「あ、サルビアくん!探したわよ!」

 

 ここで不意に声がかけられる。女性の声で、優しそうな声色だった。タタッと足音が迫ってきており、その女性がすぐにここに来るだろう事はわかった。

 アドルフ達は保護者が来たのかと安堵し、サルビアによかったねと声をかけようとするが肝心の彼は様子がおかしかった。毛を逆立て、しょぼくれたり可愛らしく喜んでいた男の子はどこかに消えてしまったかのような状態だった。

 

(……怯え? いや、それにしては攻撃的だ。嫌っている?)

 

 アドルフはその様子を見てキッとした表情でその女性へ向ける。もしかしたら、大変な事になってしまっているのかもしれないのだ。スティービーもそれに続く。

 

「カーネさん……、僕はすぐ帰るから先にいけよ」

「い、一緒にかえ……」

「あっちいけ!!」

 

 サルビアは怒りをあらわにし、カーネと呼ばれるエーフィに一方的に怒鳴りつける。その様子にアドルフ達も思わず畏怖の念を抱く。それはもう恐ろしい剣幕だった。

 カーネは出会ってそうそう強烈な拒否を浴びせられて、相当傷ついたのかトボトボと下を向いて別の方向へ向かう。その後ろ姿は先ほどの懸念など無駄だと心に刻むには十分なほど痛々しく見ていられなかった。

 

「家族の問題だからお兄ちゃん達は何も言わないで……。じゃあね」

 

 サルビアはアドルフ達が感じたであろう気持ちを察したのか、釘を刺すように言葉を発する。その表情はとても冷ややかで可愛らしい少年の姿などみじんも感じられなかった。

 家族の問題、などという言葉が出たからには迂闊に手出しするのははばかられいつもは行動的な2匹も気後れする。サルビアが足早に去って行くのを止められなかった。

 

「なんか今日は湿っぽい話が多いな。アドルフ、大丈夫か?」

「問題ない。俺たちはあまりしゃしゃり出ちゃいけない。探検家の修行の身なんだ。それに……、ああいった問題に対して俺は何もわからないよ……」

 

 プロテインの2匹は少なからず、あの光景を見た以上黙ってはいられないが完全な部外者に出来ることなどない。ただそれを悔しく思うほかなかった―――。

 




あらすじ書いててなんだこれ?ってなったヤバイ


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掛け合い、悩み、また掛け合い

お久しぶりです


「ひゃぁ~ビリビリする。静電気が酷い……」

「水タイプのお前には厳しいもんな」

 

 アドルフ達はダンジョン入り口でぼやいていた。回復道具をみっちり仕込み準備を整えても、いざ入るときはどうしても億劫になる。タイプ相性を考えたら仕方ないのだが、鐘を壊した責任は自分達で取るしかない。

 ギルドに入る前は草タイプ中心のダンジョンを単独で突破したが、あれはレベル差があるからこそ出来る荒技である。今のアドルフとスティービーはルーキーとしては強い。ただそれだけである。

 

「まあ、いつまでも嫌がっても仕方ない。なるべく戦闘を避けていこう。……毛があったら逆立ちそうだ」

「冗談言えるくらい余裕があるなら大丈夫だな」

 

 アドルフが仕切り直ししようと声をだすが、やっぱり静電気が嫌なのは隠せなかった。スティービーの体表にある微細な毛がチリチリしているのが気になって仕方ない。

 そんなアドルフの気もしらずスティービーは平気そうであった。気づいていても彼ならば気にしない。わかりきっていたことだとアドルフは割り切るしかないのだ。

 

 そして、雑談を終えた後2匹はダンジョンへ侵入する。入った先で目にしたのは電磁波の影響か浮遊する岩のような物体、ところどころ小さな放電が起こる壁など水タイプが入っていい場所ではなかった。アドルフは死んだ魚のような目でそれを見つめていた。

 対してスティービーは興味深そうにそれらを見つめる。正式にチームを君での探検としては初なので、最初から見てて面白いダンジョンにいけて嬉しそうだった。あまりにもアドルフとの落差がひどいのはご愛敬である。

 

 ビリビリ……。

 

「むっ!?右に飛べスティービー!!」

 

 だが、まったりする間は一瞬で終わりを告げる。アドルフは明らかに大きな放電音を聞いて敵を察知する。すぐにスティービーに知らせ回避行動を取り始める。

 アドルフの声を聞いてすぐに緊急回避で右側に前のめりで飛んだスティービーは、地面に手をついて前転し体制を立て直してから辺りを見渡す。攻撃が飛んできた方向を見る余裕がなかったのでキョロキョロと周りをみるしかない。

 

「くそっ!上手いこと逃げられたな」

 

 しかし、時すでに遅し。敵は本能的に反撃を恐れたのかすぐに姿を隠す。追撃を行わずにヒット&アウェイする辺り慎重な性格が窺える。ダンジョンポケモンといえども当然ながら性格は存在する。

 アドルフは敵が逃げたのを見て、まずはスティービーと合流しようと動き出す。彼から見て今の状況は非常にまずい。

 

「ビビビビ!」

「合流はさせないってか?だったらこれでも食らえ!」

 

 その合流を遮ろうと電気を纏って野生のポケモンが突撃してくる。両端に磁石が腕のようについているポケモン、コイルが“スパーク”によるタックルだった。磁気の強いダンジョンでは多く見られるポケモンである。

 アドルフはすぐさま合流を諦め、バックステップしながら“水の波動”を放つ。スティービーは一歩下がって力を溜め始める。ひるんだ隙に倒そうという算段である。

 コイルに水球がぶつかり、自身の電気と大量の水で感電した水に飲まれる。これにはたまらず突撃を中止せざるを得なかった。周りに感電した水が飛び散り、スティービーは冷静に水滴を避けながらチャンスを窺う。

 

「ビビ……、ガガ……」

「お疲れさん」

 

 もがいて疲れ果てたコイルがその場で滞空するだけとなり、スティービーはすさまじい運動量を掌に込めて強く揺さぶる。冗談交じりに労いの言葉をかけられながらコイルは地に落下する。

 まず一体を倒したところで2匹は合流し、背中合わせになって現状を確認する。アドルフはあまりに光景に冷や汗をかいていた。スティービーは余裕綽々としており、寧ろ今の惨状を楽しんですらいた。

 

「おいおいおい!いきなりこれはやばいって!」

「そうか?電気タイプが多いな。どれどれ、ひーふーみー……3匹以上だからたくさんだな!」

「こんな時にボケるな!7匹だ!全部お前に押しつけるぞ!!」

 

 一瞬の間で電気タイプ7匹に囲まれ、アドルフは焦りを見せる。おちゃらけるスティービーに檄を飛ばしながらも道具箱に手をかける。決して相手から目をそらすことなく片腕でバッグを漁り、いいアイテムがないか考え始める。

 スティービーはアドルフがアイテムを探っているのを確認すると囲んでいる電気タイプに視線を配る。アドルフは一撃でも致命的になる以上、スティービーが近接だけでも受け持ってあげなくてはきびしい。

 電気タイプはラクライが3匹、ルクシオが1匹、コイルが2匹、レアコイルが1匹であった。前者2種がアドルフに狙いを定めており、コイル族は揃ってスティービーを恨めしそうに睨んでいた。相手は自分の獲物を明確にさせており、チャンスを今か今かと待ち構えていた。

 

「……来ないならこっちから行かせてもらう!」

 

 火蓋を切ったのはアドルフだった。手始めに技のエネルギー節約を兼ねて“いしのつぶて”をルクシオめがけて投げ込んだ。サイドスローで投げられ低空飛行な軌道で足を狙っていた。四つ足走行の脚力から削ごうという狙いで投げられ焦っていてもしっかりと戦略が考え込まれていた。

 対して、いしのつぶてを投げかけられたルクシオは一直線に駆け出し、口を大きく開けタイミングよく顔を上から振り下ろし足に当たりそうになっていた石ころをキャッチする。直後に適当な場所へ吐き出し、先ほどのコイル同様“スパーク”で突撃していった。それにラクライ達も続いてバラバラにスパークで迫っていった。

 

「マジか!?ヒットアンドアウェイ戦法といい、賢いなこいつら!」

「かなりまずいな……1匹でも多く止め、うおぉっ!?」

 

 アドルフはまさかの方法で対処されたのを見て右側にダッシュし、逃げ込む。しかし4匹は当然ながらカーブしてアドルフを追いかける。完全にアドルフにのみ狙いを定めておりスティービーはコイル達に任せているようである。

 スティービーはアドルフを追う4匹を足止めしようとするが、それをさせまいとコイル達から電撃が放たれる。それにより再び分断されることになる。タイプ相性では不利でも遠距離でスティービーには何もさせないような立ち回りだった。近距離主体のスティービーにとって非常に苦しい展開であった。

 

「いい感じの戦力配分してるぜこいつら……。なんとかなりそうか!?」

「なんとかしてみせるさ。お前こそ深追いするなよ!!」

 

 スティービーは遠く離れていくアドルフに聞こえるように大声で安否を問う。自分が多く相手すべきだと思った矢先に、アドルフが真っ先にピンチでは立つ瀬がない。そんな心配をよそにアドルフは余裕こそないが冷静であり勝利を見据えていた。

 自身の心配が杞憂だったとわかったスティービーは自分の敵であるコイル達を睨み付ける。単眼ながらも怒りはハッキリしているらしく、あからさまにスティービーは恨まれていた。最初のコイルにとどめをさしたのはスティービーなので目をつけられたのである。

 

 2匹のコイルが10万ボルトを放ち、スティービーに牽制をかける。レアコイルは様子見で動かず、スティービーの一挙一足を見逃すまいと息巻いていた。

 しかし、スティービーは前に走り出す。牽制に付き合ってダラダラと戦ってしまうと追われ続けるアドルフが不利になっていくだけである。ならば前進して短期決着こそがベストと判断する。

 スティービーが前進して2匹の電撃をくぐり抜けるのを見てレアコイルは様子見をやめて自身の前に銀色のエネルギーを形成していく。鋼タイプの特殊技では高水準の威力を誇る“ラスターカノン”であった。

 

「打たせるわけねえだろ!同士討ちだオラァッ!」

 

 大技が放たれるモーションを見てスティービーが取った行動は思い切りの良さが出ていた。近づいたことで手の届く距離にいる1匹のコイルの磁石をつかんで自身を中心に回り始め、砲丸投げの要領でレアコイルにぶつける。技のチャージで回避行動が出来なかったレアコイルは半端なエネルギーの塊を味方の衝突により目の前で暴発させ、一緒にダメージを負う。

 しかし、残りの1匹は一連の隙にスティービーの後ろへ回り込む。すでに10万ボルトを放っており、回避は困難である。技を打たせる前に攻めきろうと動いても、数が多いと隙を見せてしまう。同士討ちで2匹対処できても3匹目はどうしてもフリーになってしまうのだ。

 

「ビッ!?」

 

 しかし、スティービーは投げ終わってすぐに左側へステップしており電撃はむなしくも空を切ってしまう。この行動をするにしても先読みが必要不可欠。咄嗟にしては早すぎるものである。

 着地したスティービーは顔をチラリと後ろに向けて、ギラリとした視線で残りの獲物を見据える。思わず鋼の身体のコイルに冷や汗が流れる。

 

「“発勁”」

 

 クルリと身体の向きを変え、距離を詰めていく。射程距離に達すると掌底を顔面に当てられ、凄まじい運動量がコイルを伝っていった。身体全体に染み渡るように広がり、ゆっくりとダメージを負うような感覚を負わされる。

 しかし、実際は掌底がヒットした瞬間に勢いよく吹っ飛び、洞窟の壁に激突していた。激突前に気絶していたようで呻き声すらスティービーには聞こえなかった。

 

「さてと……」

 

 1匹を確実に仕留めたのを確認すると先ほど同士討ちさせたレアコイル達へと視線を移す。深く考えるまでもなく距離を詰め、流れ作業をしているかのように同じ事を繰り返す。

 終わってみればタイプ相性が味方して一撃で沈めてしまうあっけない幕引きとなった。後はアドルフに合流し残りを蹴散らしていくだけである。完全に読み勝ったことで余裕も充分だ。

 早速アドルフを助けに向かおうとするが、その行く先が土煙にまみれていた。アイテムを積極的に使おうとしていた彼が何をしたのかおおよその見当がつき、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 走って行ってみればラクライ達がポツポツとばらけて倒れているのが見られ、アドルフが順調に倒しているのは明らかだった。タイプ相性が不利でも効率よく対処出来ているのを見て、思わず感心するほどである。

 

「……家族か」

 

 進んでいけば、倒れたルクシオの近くでポツンとアドルフが座っていた。戦いの後の余韻で、ダンジョンに行く前の出来事について思いを巡らせており、スッとしない気分なのは容易に読み取れた。

 出かける前に一悶着あったサルビアとカーネの事を思い出さずにはいられなかったようである。貰ったクラボの実をかじって回復も同時に行っていた。

 

 

「……大丈夫か?」

「あっ、スティービー……。変だよな。辛気くさいのは無しだって言っておいて、どうしてもあの子がチラついちゃうんだ」

「確かにあんなに揉めてるとな……」

 

 スティービーがアドルフの危うげな様子を見て心配になって声をかける。アドルフは少し乾いた笑みで大丈夫と言うがどこか上の空である。今日あったばかりでもあんなに悲しそうにしていたらいい気分ではない。

 しかし、サルビアが言うように家族の問題だから下手に手を出すのはよくないことである。出来ることがあるとすればまた会えたときに優しく、分け隔てなく接してあげることぐらいであろう。

 

「とはいえあまり気にしすぎても仕方ないぜ。他の家庭の事情だ。俺達に出来るのは日々修行に励むことだ」

「それもそうだな。俺達は頑張って精進あるのみだ!」

 

スティービーはその事をちゃんと理解して、アドルフを諭す。ここはダンジョン、余計な不安で手痛い目に遭うのだ。チームを組むのであればそういったものを取り除くのも相方の役目である。

 アドルフもその一言で気持ちを切り替え、今すべきことを見据える。そもそも自分達が公共の鐘をぶち壊してここにいるのだから他人の心配をしている場合ではない。

 

「……とか言っていたら次のお客さんだ。スティービー、いけるか?」

「フッ、ぬかせ。お前はビビって隠れてもいいのだぞ」

「捻くれたこといえるぐらい余裕なら1匹で蹴散らしてくれ。ほらこれ使え」

「おうとも」

 

 2匹が意気込んだところにダンジョンの潜むポケモンがすでにロックオンしており、今にも襲いかかりそうになっていた。真っ先に気づいたアドルフはスティービーに声をかけ、バッグに手をかける。

 スティービーは大したダメージを負ってないからか余裕が有り余っている。挑発して焚きつけるようなことを言うが、アドルフは軽く流して雑にアイテムを投げ渡す。

 

「さっさと終わらせてしまうぞ!」

「お前が壊した鐘の修理のために~」

「それを言うな!!」

 



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